セブルス・スネイプはやり直す (どろどろ)
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第一章
憂い朝


 

 ――セブルス・スネイプは死んだ。

 

 生涯を通して愛し通した、リリーと同じ瞳を持つ少年。ハリー・ポッターに看取られながら。

 

 彼は決して善人では無かった。しかし一概に悪人と断ずることも出来ない人間だった。

 愛のみが、彼の生きる理由。

 強いて言うなら、一途すぎるだけなのだ。

 

 リリーと会えない。

 触れられない。

 この想いが届くことは、決してありえない。

 だが彼女の忘れ形見に幾度となく彼女の姿を投影していた。そして犬猿の仲であったジェームズ・ポッターの面影も。

 

(――結局、私は……最後まで……)

 

 冷たくなってゆく自分の身体。

 感覚を忘れ、熱が急激に冷めていくのを感じていた。

 しかしそれと反比例して、目頭に淡い温もりもこみ上げてくる。

 

(私は――彼女に、恩を返すことも……償うことも……)

 

 完全に肉体の制御が聞かない。  

 全てが乾く。全てが死んでゆく。

 薄れ行く意識の中、残酷に溢れた一粒の涙が、誰にも知られることなく地に落ちた。

 

(だがそれは……ある意味、救い、だったのかも、しれない、な……)

 

 ――……。

 ………。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 そして、セブルスにありえない感覚が襲った。

 瞳が動く。そして――身体も……。

 

 突然上体を起こして周囲を見渡すセブルス。

 

「何が……起こって……ッ!?」

 

 ――セブルス・スネイプは目を覚ました。

 

 だが確実に、『闇の帝王』の飼い蛇の牙によって体の節々を噛み切られ、絶命した感覚すら鮮明に記憶している。

 それが目を覚ましたというのだ。

 

 セブルスは、もしかすると誰かに救われたのか――と、ありえないことを考えたが即座に否定する。

 あの状態では回復も治療も不可能なのだ。

 となると、これはどういう現象だ……?

 

「助かった、のか……」

 

 ――また無様に私だけ。

 

 どうやらセブルスがいるのは、そう裕福でない民家の一室のようで、ボロの布切れを毛布として扱っているベッドの上にいた。

 ヒビの入ったまま放置された窓。ホコリまみれの部屋。使い古されたランプ。

 

「この場所、どこかで見覚えが……ッ!」

 

 途端に頭痛を覚え、セブルスは咄嗟に頭を抑えた。

 それとほぼ同時だっただろうか。

 ノックも無しに、部屋のドアをガタンッ!と開いた男は、そのままずかずかとセブルスに近づく。

 

「セブルス! いつまで寝てるんだ! そろそろ出る時間だろう!!」

 

 その男はセブルスを知っている。いや、それよりもむしろ、もっと親しいような喋り口調だった。

 セブルスは男の姿を見て、声を聞いて、瞬時にこの男が誰かを理解した。そして同時に、驚愕も。

 

「……父上、なのか?」

「はぁ? 何言ってるんだお前は」

 

 そこにいた人間は、セブルスの父親その人だったのだ。

 しかもかなり若い。年齢は30〜40といったところだろう。

 

 何故、どうして。

 理由はともかく、この不可思議な現象によって、セブルスは一体どんな状況に置かれているのか。

 なんとなく察してしまったが、確かめるため、恐る恐る自分の体を見やると。

 

「……何だこれは!?」

 

 完全に子供の姿だった。

 容貌までは把握できない。

 夢中になって、セブルスは父親を突き飛ばして部屋を飛び出す。

 

「お、おい! ……あいつ、変なもんでも食ったか?」 

 

 父親が何やら言っていたが、セブルスは止まらない。

 建物の構造は分かっていた。何故ならここはかつてのセブルス・スネイプが住んでいた建造物。

 そう、スネイプ家だったのだ。

 

 洗面所に辿り着いたセブルスは、自分の姿を移した鏡を殴りつける。

 

「……酷い顔だな」

 

 青ざめた不気味な表情。

 間違いなく、戻っている。

 おそらく歳は十代に届いているかいないか、そんなところだ。

 

「血色が悪い。まるで亡霊だ」

 

 亡霊。

 まさに自分を比喩するのにピッタリではないか。

 

「――そうだ」

 

 セブルスの脳裏に過る、学生時代の数々の光景。故郷での、あの彼女の横顔。

 そう、リリーは。

 

「リリーは……。これが夢なら覚めないでくれ」

 

 すぐにでも家を飛び出そうと考えたセブルスだが、身体は動かなかった。

 いや、動くことを自ら否定したのだ。

 自分が彼女に合う資格など無い。

 

 ポッター家を愚かにも破滅に導いたのは他でもない。セブルス自身なのだから。

 

「おお~い、セブルスいい加減にしろ。早く着替えろってんだ」

 

 父親の声がする。セブルスの部屋からこちらに近づいてきているようだ。

 そして父が洗面所に顔を出すと、セブルスは不意な疑問を投げかけた。

 

「着替える?」

「ああ? 寝ぼけてんじゃねえ。今日からホグワーツだろう」

 

 となれば、キングス・クロス駅。

 9と4分の3番線、ホグワーツ特急だ。

 これからホグワーツ。

 

(若かりし頃の夢……いや、走馬灯にしては感覚が覚めすぎている)

 

 セブルスは状況把握が得意だ。更に頭も回る。

 現在の状況から考えて――そう、理論的な思考は無駄。原因の追求よりも現状の把握を優先するべきだ。

 幼い時の記憶を呼び起こす。

 まだ暖かかった、あの時の記憶を――

 

(初めての駅となると……確かリリーと待ち合わせをしていたな)

 

 リリーがそこにいるのかいないのか。

 夢だろうがなんだろうが、セブルスにとってリリーが人生の基準だった。

 

「ああ、分かった」

「……?」

 

 口調も雰囲気も一変したセブルスを不審に思い、首をかしげながらも父はその部屋を去って行った。

 どういうわけか知らないが。

 

「――“戻った”と解釈するべきか」

 

 そしてここから、セブルス・スネイプ第二の人生が始まろうとしていた。

 

 




皆さんが疑問に思うであろう事に答えます。

■スネイプ先生の会得していた魔法はどうなりましたか?
・当然、知識も記憶もそのままなのですから、魔法だって使えます。数十年かけて研鑽してきた魔法の技術と知識が、少年スネイプくんの身体に宿っている訳です。つまりどチートである。


■なぜ過去に戻ってきたのですか?
・別に深い理由は考えてません。あまり深く追求しないように。


■どのくらい強いですか?
・ぶっちゃけホグワーツでは、マクゴナガルとダンブルドアくらいしか彼に歯が立ちません。一対一なら教師陣を余裕で圧倒します。


■スネイプの一人称は一般的に吾輩じゃないんですか?
・和訳だと「私」と「吾輩」もどっちも同じ意味です。



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蛇と獅子たち

 

 

「送りはここまででいい」

 

 9と4分の3番線を前に、セブルスは父親にそう言い放った。

 

「父上は多忙な身だ。この先の案内はいらない」

 

 そうは言うものの、胸を張れる多忙では無い。 

 セブルスの家柄は良くなく、実家は近所でも有名な位の貧乏だった。近辺の住民からは差別が激しく、蔑まれながら生きてきたのは当時のセブルス・スネイプ少年にとっては苦痛以外の何でも無かっただろう。

 

 だから生活だって窮屈なのだ。父も母も寝る間を惜しんで働いている。

 しかし労力に見合った報いを受けたことはいままでで数回程度だ。息子がホグワーツで寮生活になるなら、少しは実家の生活も楽になるだろう。

 尤もそれまで夫婦関係が続いているほど、セブルスの両親は良い関係では無かったが。

 

「……へッ、そうかよ」

 

 吐き捨てるように告げた父の目は、セブルスに対する侮蔑の念が含まれていた。

 まあ、セブルスから父に対する軽蔑はより強い物だったが。

 

 さながら「とっとと消えろ、清々するぜ」と言わんばかりの父の態度を前に、セブルスは今一度実感する。

 

(……望み通り消えてやろう、立場上“こう”しているが、もはや貴様を父とは思っていない)

 

 セブルスの記憶の隅に追いやられていた両親の記憶――確か自分がデスイーターの道を歩み始めてから両親とは絶縁状態だったが、風の噂で母が父に殺されたと聞いていた。

 もはや感慨など残していない。この男よりも今は彼女の事だ。

 

「行ってくる」

 

 中身の籠っていない言葉を残して、セブルスは歩み始める。

 二度目の生徒としてのホグワーツ生活だが、セブルスがもしも心を躍らせるとしたら、やはりその事に対してでは無い。

 

 9と4分の3番線に入る。特別な柱の中を抜け、目の前にはこれからホグワーツで一緒になるであろう生徒の面々が。

 ここまで来れば、もうすでにローブに着替えている者も複数見られる。

 もうここは他界から隔絶された魔法界の一部なのだから。

 

 

「セブ」

 

 

 セブルスはもしも夢なのなら、死後の幻覚だとするならば、永遠にこの夢に酔いしれたいと思った。

 柔らかい赤毛に宝石のような緑玉色の瞳。容姿に関しては驚くほどに綺麗な顔つきであり、幼げな立ち振る舞いは無性に庇護欲を駆り立てられるものだ。

 

 彼女の名はリリー・エバンズ。

 セブルスが生涯愛し、想い続けた少女である。

 

「……リリー」

 

 いっぱいに引きずっている荷物を放置し、脱力したように、しかし瞳に淡い光を宿し、セブルスはたちすくんだ。

 間違いなく幼き日のリリーだ。

 その上どういう訳かこの世界は、この体験は、この存在は現実の物で確かにそこに実在していた。

 亡くなったはずの彼女が。

 

「リ、リリー……」

「……セブ? え、どうしたの?」

 

 こみあげてくる涙はどうにかこらえた。絶対に泣くつもりはなかった。涙はもう枯れるほど出し尽くしたのだから。

 しかし一歩、また一歩と何かに誘われるように前に進む。

 ほとんど無意識だった。

 

 リリーの頬にセブルスの手がのび、指がほのかに触れた。

 そうすると手のひら全体でリリーの頬を覆って行く。

 

「リリー……君なのか……」

 

 何が起こったのか理解できず、リリーは数秒に近い時間硬直していた。

 だがセブルスがいきなり頬に触れたと自覚すると、顔をゆっくりと赤くしていき、さらには瞳の終点を失った。

 

「ふぇっ!? セ、セブ? セブルス!?」

「まさか、本当に……」

 

 間の抜けた声をあげたリリーに構わず、セブルスはそのままリリーの身体を優しく包み込んだ。

 セブルス・スネイプは確かにリリーを愛してはいたが、数十年もその感情が不動なものであったのは恋愛感情を通り越していたからだ。

 

 そう、もはや親心に近い純然たる無償の愛。

 彼女を自分のものにしたい、そんな独占欲あふれる一般的な愛情ではなく彼女の幸せのみを一心に想う、正真正銘の純愛。 

 リリーが生きているのだ。

 

 しかもリリー・ポッターではない。

 リリー・エバンズが生きている。

 

 それだけでもはやセブルスの涙腺は崩壊寸前である。

 だがそこだけは意地でも守り抜いた。涙は完全に押し殺す。

 

「セブルス……そんな急に」

 

 愛称を忘れ本名で呼んでしまうほどリリーは動転してしまっていた。

 突然抱きしめられ、しかも苦痛を感じる寸前まで力を込められて、鼓動の音すら共有していると錯覚するほど密着しているのだ。

 

(……今更リリーに許しを請うつもりはない。彼女が私をどう思おうと、それでも私は――)

 

 ――だが今だけは……。

 

「もう少し、このままでいさせてはくれないか。……リリー」

 

 セブルスは自覚していなかっただろうが、リリーは分かっていた。

 すこし鼻の詰まったような声。つまりは涙声だったのだ。何かとてつもない感情を隠しているかのような。

 そんなセブルスを拒むリリーではない。

 

 リリー・エバンズはそのまま、無言でセブルス・スネイプを抱きしめ返した。

 

 沸騰しそうになる感覚に耐えながら。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 セブルスのせいだが二人は危うく汽車に乗り遅れる所だった。入学初日に送れるのは冗談抜きでマズい。

 そのため汽車の中のコンパートメントは見る限りほとんど満席だった。

 二人は相席を頼める知り合いもおらず、どこかあいている所はないかと汽車内を徘徊していた。

 

「いきなり驚いたわよ、セブ」

「……すまない、寝ぼけていた」

 

 当にこれが夢の類いでないと気づいていたセブルスだが、こんなに行動的になったのはやはり、ため込んでいた感情の一端があふれ出てしまったからだろう。

 現実ならリリーを前に醜態をさらすようなことは絶対にしない。

 

 はっきり言って先ほどのやりとりは確実にセブルスの黒歴史として刻まれた。もはやトラウマである。その話をされるだけで身の毛がよだつ。

 

「どこにも空席はないみたいね」

「私が誰かに相席を申しでよう」

「……“私”?」

 

 リリーがセブルスの一人称に違和感を持ったのも当然といえるだろう。 

 普段はもっと普通のしゃべり方だ。

 

「“僕”じゃなくて?」

「……」

 

 ――この時はまだ、そう名乗っていたか。

 

 セブルスは撤回し、自分を“僕”と称することにした。

 屈辱だが、よくよく考えれば前世までのセブルスを知るものは誰一人としていない。セブルスがこの世界の人間を一方的に把握しているのだ。

 

「まだ寝ぼけているようだな、僕は」

 

 言い直し、二人を受け入れてくれそうなコンパートメントを探す。

 

 ――そういえば、この後か。

 ――忌々しい“奴”との馴れ初めは。

 

 セブルスはこれから起こる出来事を回避しようだなんて思わない。それに記憶だって曖昧だ。そうそう具体的に一人の人間を避けられるはずもなかった。

 よって“彼”に声をかけられるのも運命だったとしか称しようがない。

 

「お二人さん、お二人さん。空いてる席をお探しかい?」

 

 その声はわずかな活気に満ちており、いかにも自信家が発した声音だ。

 

 声の主はジェームズ・ポッター。

 癖の強い黒髪で、くすんだ赤みのある茶色い瞳が強く二人を見据えてくる。血色の悪いセブルスとは違い、綺麗な肌に綺麗なローブである。やはり高貴な家の子供はその雰囲気も相応なものなのだ。

 ジェームズは初対面のセブルスに少し違和感のある視線を送ったが――おそらくセブルスの容姿を不気味に思ったのだろうが――にっこりとこちらに笑いかけてきた。

 

「あら、もしかして相席させてもらえるのかしら」

「当然さ。これからは同じ学友になるんだからね」

 

 ジェームズのいたコンパートメントは四人用。したがって。もう一人先客がいた。

 ジェームズの正面を陣取るように座っているのが、セブルスより遙かに顔立ちの整った黒髪の美少年――シリウス・ブラックだ。

 

 さらりとコンパートメントの中に入ってくリリーに続き、セブルスも席に失礼する。できればこの二人とは相席したくないのだが。

 

「僕はジェームズ・ポッター」

「俺はシリウス・ブラックだ。よろしくな」

「ええよろしく。私はリリー・エバンズよ」

「……セブルス・スネイプだ」

 

 四人の自己紹介の内、セブルスのものだけ異様に威圧感があったのは平常運転のセブルスだからだ。

 普通にシリウスとジェームズは嫌いだし、普段の口調もこのようなものである。

 

「リリーとセブルスか。二人はマグル育ち? それとも純血かい?」

 

 ジェームズが振った話題にセブルスがぴくんと反応する。

 ジェームズはマグルも魔法族も差別しない。あまり“そういうこと”を気にせず、気さくにこういった話題も続けることができた。

 

「確か、セブは……半純血だったわよね?」

「ああ。父がマグルで、母が魔女だ。僕はあまり血に頓着はないがな」

 

 確かに魔法族を重宝すべきだ、という純血主義思想をセブルスは理解しているが、今となっては所詮『どうでもいいこと』に成り下がってしまっている。

 対してリリーは魔法族の血を受け継いでいない。

 

「私はマグル生まれのマグル育ち! 家族の中で初めての魔女なのよ!」

「へえ、なら僕たちとも気が合いそうだ。今度マグルの世界の話を聞かせてよ」

 

 言いながら、ジェームズが髪をくしゃくしゃと手櫛で梳かした。リリーは心底楽しそうに「もちろん!」と紡ぐ――その隣で、セブルスが冷め切った表情をしているのに気付かないまま。

 

「俺たちとは正反対だな。俺とジェームズは純血の家出身なんだ。だけど魔法族の純血主義にはうんざりしててな。純血じゃないってことは、君たちもそうなんだろ?」

「うーん、私はその『純血主義』ってのに詳しくなくて……」

「僕は純血主義を掲げる人間の気持ちも分からなくはないけどな」

 

 場の空気を乱そうが、セブルスは構わず続けた。

 

「魔法族を尊重するという意味でなら、構わないと思っている。マグルを受け入れるか受け入れないかは個人の自由だ。『純血主義』とは社会全体の動きの事ではない。個人の価値観を指すものだろう」

 

 純血主義を否定も肯定もしない、新しいセブルスの意見だった。 

 現にセブルスはマグルを疎ましく思うことは全くなく、純血も半純血もマグルも等しく興味が無いのだ。

 興味というか、セブルスの価値基準は魔法の練度や知識の深さなのだろう。真に賢しい者であるなら、何者であろうとセブルスは正当に批評する。ただ評価しないだけで。

 

「ふぅん、そういう考えか。でも君はマグルを許容してるんだろう? リリーと一緒にいる所をみると」

「言ったはずだ。僕は血筋に頓着が無い」

 

 セブルスの物言いは、どこか人を見下している部分があって、ジェームズもシリウスもそこが少し気にいらなかった。

 リリーからすれば慣れたものだ。悪気があるわけで無く、しゃべり方が癖になっていると言ってもいい。

 

「……そういえば寮の組み分け、どうなるんだろうな」

「ああ、確かに気になるね。四つの寮。でも僕は騎士道あふれるグリフィンドール一択さ!」

「奇遇だなジェームズ、俺もグリフィンドール志望だ」

 

 勇敢なグリフィンドール。

 知的なレイブンクロー。

 平等なハッフルパフ。

 狡猾なスリザリン。

 

 結局のところ、どこも適材適所というやつだ。

 この寮決めはむしろ魔法使いや魔女の人格が、どれに偏ったものかに依存する。更に性格の形成ににも大きく関わってくる事だろう。

 

「……リリー。四つの寮の中だと一番はスリザリンだ」

 

 シリウスとジェームズの作り出した空気を、一気に絶対零度まで持ってくる一言だった。

 セブルスは組み分け帽子のことを知っているので自分の意見を包み隠すつもりは無い。影響を与えようと言葉で揺さぶっても、最終的にはセブルスでもリリーでも無く帽子が決めるのだから。

 

「おいおいセブルス、冗談だろ? 闇の魔法使いの出身は全員がスリザリンなんだぜ!?」

「“全員が”ではなく“大半が”だ。『ブラック』、憶測で語るな。それは先入観というものだ。スリザリン生が魔法使いとして一際優れているという事実から来る先入観――あぁもちろん、闇の魔術師が確実に優れていると言っている訳では無いが……」

 

 セブルスはファーストネームで気軽に呼んできてくれたシリウスに対し、『ブラック』とファミリーネームだった。

 この程度のことで気にかけるシリウスではないが、今の空気から悟ってしまう。セブルスは自分を見下していると。

 

「はははっ! 本気かい!?」

「何がだ、ポッター」

「スリザリンになるくらいなら! 退学になった方がましだろう!? 愚かだな君は!!」

 

 直接的な言い方は避けてきたセブルスに対し、とうとうジェームズは相手を蔑むような言葉を投げつける。

 リリーはかなりはっきりした性格だ。場を和ませるなど頭に無く、セブルスを馬鹿にされた怒りからまず怒鳴りつける。

 

「ちょっと何よその言い方! 誰がどの寮にあこがれても関係無いじゃない! セブは愚かなんかじゃないわよ!」

「リリー、君は全く理解していないよ。スリザリンは最も邪悪な寮だ。きっと誰に聞いても同じ答えを返すだろう。セブルスがおかしいんだよ」

「俺もセブルスのその感覚は理解できないな」

 

 ジェームズがセブルスを否定しだしたことで、シリウスもそれに続く。

 スリザリンは悪だ。そんな固定概念や先入観は、別におかしい事ではない。実際に何人のスリザリン生が悪の道に走ったことか。

 

 悪の先導者は常にスリザリンだ。だからこの寮は他の寮から忌み嫌われている。

 

 言い争いになりそうになったところで手を挙げて静かにリリーを制したスネイプ。ジェームズたちの言葉は微動だにしない。仮にも精神は大人だ。しかもかなり卑屈な。

 

「どうやら君たちは学校よりも動物園の方がお似合いみたいだ。気をつけると良い。動物と勘違いされ、檻に閉じ込められないようにな。君たちの泣き声は僕たちに届くことが無いのだから」

 

 この場合セブルスもセブルスだった。

 むしろ卓越した比喩を用いた分、セブルスの方がたちが悪い。

 この三人。

 セブルスとジェームズが。

 セブルスとシリウスが。

 

 セブルスと、ジェームズとシリウスの二人が。

 

 犬猿の仲になるのにはそう時間を要することは無いだろう。

 

 どうやら運命は、分かっていても揺らぐつもりが無いらしい。

 

 

 汽車が止まる。目的地までたどり着いたようだ。

 新入生はここからボートでホグワーツまで移動するので汽車の時間は終わり。この嫌な雰囲気に終止符が打たれたのだった。

 

「どうやら到着したようだ。先に失礼する。……リリー、外で待っているよ」

 

 先に立ちあがってコンパートメントから出ようとするセブルス。

 その間際、廊下側に座っていたジェームズは確かに、意図的に、悪意を持ってセブルスに足を引っかけようとした。

 しかしそのような物理悪戯に後れをとるセブルスでは無かった。

 

「……ふん」

 

 極めて優れた開心術の達人であるセブルスは、ジェームズの浅はかな策略を見抜いていた。逆に出してきた足を踏みつけてやる。

 

「痛いっ!」

「君は甘いな」

 

 スネイプを害するのであればまず奇襲でもしなければ困難だろう。開心術とはそういうものだ。

 

 ジェームズに冷たい視線を送ったセブルスは静かに汽車から出た。

 

 




■スネイプから見たジェームズ
・傲慢で気にくわない。自分が人気者だと勘違いしているお調子者。上っ面だけが綺麗なだけの人間。おそらく親にさんざん甘やかされて育ったのだろう。


■スネイプから見たシリウス。
・誰彼構わず、自分“たち”の敵なら構わず牙を剥く。心の狭い人間であり、ポッターと同様に傲慢である。


■作者から見たスネイプ。
・愛には従順だし、かなり義理堅い人であることは知っているけど、やっぱり一言で済ませるなら「嫌な奴」であることに変わり無い。自分から誰かに歩みよろうと考えられない社会不適合者。無駄に正論なところが一番悪質。


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組み分けの謀略

 セブルス・スネイプは考えていた。この新しい世界ではどう生きれば良いのかと。

 

 学生時代のセブルスは差別され育ったこともあり、差別主義を胸の内に秘めながら『闇の魔術』に傾倒していた。確かにその事実はあり、リリーとの仲違いの原因もそれだ。

 今は大分丸くなっているとはいえ、心の根幹にはそれらがある。汽車での会話がいい証拠だ。

 

 といっても今でも完全に『闇の帝王』を崇拝しているか、と聞かれれば首をひねるだろう。横にも縦にも振ることができない。

 では『闇の魔術』に焦がれているか、と聞かれればどうか。答えは否だ。

 

 なぜならもうすでにセブルスは多くの闇の魔術を熟知しているのだから。今更“焦がれる”必要がどこにある。

 

 何度も思った。やり直せたらと。 

 何度も思った。戻りたいと。

 

 そして今、それがかなった。

 

 となれば簡単だ。

 

 もう『闇の魔術』を探求したりしない。リリーに見放されないよう。

 決して。誓ってだ。

 二度述べるがそもそも必要すらない。

 

 となれば今のリリーを堂々と愛するに足る、そんな人間になろうと、妥協しながらも誓えるのでは無いか。

 妥協しながらも、だ。

 

 ――未来は変わる。

 ――しかし。

 

 皮肉にも『名前を言ってはいけないあの人』――『闇の帝王』、そう、ヴォルデモートを倒したのは何だったか。

 闇の帝王は二度敗れた。

 リリーの愛とハリーに連なる勇気に打ち負かされたのだ。

 

 セブルスは世界を救う原因を摘んでまで、リリーを幸せにしたいのか。

 音速で肯定する。世界などどうでも良いと。

 

 しかし結果的にリリーとジェームズの子によって世界は救われる。強大な闇の手から。

 

 リリーを愛するに足る人物とは一体誰なのか。

 どんな人間像だ?

 

 ――決まっている。

 

 リリーの好みの男性――そんな事では無い。

 この世界はセブルスに課せられた業だ。

 

 何もしないまま、またハリーを影で見守る人生を送るか。

 全てを自分が背負い、自分の運命を変えようとあらがうか。

 全てはリリーとの関係を守るため。

 セブルスは自分に言い聞かせる。

 

 

 セブルスはハリーが行った偉業を全て自分で達成しなければ成らない。

 それがセブルスが“変わる”ことを許される代償。

 

 

 だから彼は死喰い人(デスイーター)として闇の帝王に忠誠は誓えない。

 なぜなら。

 

 

 ――闇の帝王はいずれセブルスが倒さねばならない敵なのだから。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 アルバス・ダンブルドアは珍しく焦っていた。

 歴戦の魔法使いであり、不動の地位に君臨し続ける紛うことのない最強の魔法使い。

 

 そのアルバス・ダンブルドアが焦っていた。

 

「ではトレローニー先生、例の予言について尋ねてもよろしいかね?」

 

 グレイシー・トレローニー。

 彼女はホグワーツにおいて『占い学』の教授であり、優秀な『予言者』でもある。

   

 この場にいるのはホグワーツ校長のアルバス・ダンブルドアに副校長のミネルバ・マクゴナガル、そしてトレローニーの3名のみ。

 『予言者』である彼女本人を除けば校長と副校長のみ、ということからこの『予言』の重要性が窺える。

 

「予言によれば……今年、このホグワーツに! 『例のあの人』にとって最悪となり得る人物が、学び舎の教え子として現れる!」

 

 興奮気味にトレローニーは予言の内容を伝えた。

 

「学び舎の教え子……生徒のことでしょうか?」

 

 マクゴナガルの解釈は正しい。

 かの有名な『闇の帝王』ですらこのホグワーツ出身の生徒であったという話なのだから。

 

「『闇の帝王』を倒す救世主の存在を示している、と申されるか?」

「それは私にも分かりません」

 

 トレローニーは『例のあの人』つまり『闇の帝王』に敵対する最大の存在が現れると言っているのだ。

 それが一概に善人とは一言も述べていない。

 

 この予言は捉え方によっては最悪の展開もあり得る。

 

「……『闇の帝王』を倒し世界を安寧に導くか! または……『闇の帝王』以上の巨悪の根源となる、さらなる闇の火種となるか!」

「なんと! それはまた大変なことじゃ!」

 

 『闇の帝王』はダンブルドアの教え子でもある。

 ダンブルドアが知っている学生時代の『闇の帝王』はいくらでも真っ当な道に導く機会があった。

 今回もそれと同じだ。

 

 環境によりこの『予言の子』は黒にも白にも成り得る。

 無視できない大きな存在なのだ。

 

「その生徒の将来は我々にかかっている。我々にはその『予言の子』をなんとしても探し出し、教え、導く義務があるのじゃ」

「……」

 

 ダンブルドアの言葉にマクゴナガルは難しい顔をする。荷が重いと感じたのだ。

 

「生徒の耳にこの予言を届かせぬためにも、くれぐれも今の話は内密に頼むぞ」

「はい……しかしその『予言の子』候補が今年の生徒全員であれば人数が多すぎます。探し出すのも骨かと」

「それでもやるしかないのじゃ。わしらがの」

 

 ダンブルドアには秘策があった。

 まず『予言の子』を見定めるため、ある程度の候補を絞るのだ。

 

 

「ではマクゴナガル先生、先生はわしと共に組み分け帽子の元へ――」

 

 

 ハリー・ポッターのいない世界での『予言の子』。

 通常はありえない人物の介入によって、物語は大きく動き始めていた。

 

 

 ◇◆◇

 

 

 それはセブルスにとって嫌というほどに見慣れた光景だった。

 夜空の景色に点々と広がる無数の星々の数々。ホグワーツの大広間の天井はそのような『景色』に見えるよう魔法が施されている。つまりは虚像だ。

 

 明るい蝋燭が大広間全体を囲み、優しい光に照らされる。

 大広間は全校生徒を収納するにも十分な空間だった。

 

「わぁ……!」

 

 セブルスの隣でリリーが感動の声をあげる。初々しい反応だ。これが普通だろう。

 

 今宵は宴。まずは在学中の上級生たちによって新入生を歓迎する校歌が披露された。が、セブルスが気づかない間に終わっていたらしい。セブルスは催し物に全く興味が湧かなかった。

 しかし今はリリーと共にいる。少しは反応を示した方が良いのだろうか。

 

「セブ、私、ホグワーツに来て良かったわ!」

「……そうか、しかし宴はまだ始まったばかりだ。その興奮はもう少し後まで取っておくといい」

 

 完全に教師としての視点からしゃべってしまっていた。セブルスにしては優しい言い方だ。

 さて、歌が終わると続いて宴の本命でもある『組み分け』が始まった。

 

 組み分けにはホグワーツ創始者の一人、ゴドリック・グリフィンドールが残したと言われる『組み分け帽子』を使う。

 組み分け帽子が生徒の本質を見抜き、最適な寮を選択する。一般にはどの寮も別々の優れた部分があり、合う合わないの特質も色濃く存在していた。

 

 アルファベット順に行われる組み分けでは、セブルスは比較的最後の方だ。

 順々に行われていき、セブルスの知った人間の番になった。

 

「ジェームズ・ポッター」

 

 副校長であるマクゴナガルに名を呼ばれ、ジェームズは前に出る。

 視線にさらされどこか得意げな様子だ。彼は目立つことが好きだった。

 

「ふむふむ……ほほう、なるほどこれは……」

 

 帽子はなぜかしばし悩んだ。悩む余地などどこにあるのだろうか、とセブルスは疑問に思うがおおかたスリザリンでも才能を開花させる可能性を秘めているのだろう。

 が、ジェームズの性格上――才能がどうであれ――寮は最初から決定している。

 

「グリフィンドール!!」

 

 グリフィンドールの席で拍手喝采が巻き起こる。こうして新入生を歓迎する雰囲気はホグワーツでは恒例のものだ。人数も帽子が各寮にちょうど良く行き渡るように調整しているのだろう。

 

「リリー・エバンズ」

「私ね。行ってくるわ」

「ああ」

 

 リリーは自分の番が来るとセブルスと挨拶を交わした。

 しかし運命は純然たる真実を貫き通そうとする。

 

「よろしい、では――グリフィンドール!!」

 

 あのジェームズと同じ、おそらくシリウスとも同じになるであろうグリフィンドールだ。

 リリーは自分に向けられた歓声に喜びを露わにするが、一瞬、苦しそうな瞳をセブルスに向けた。セブルスは前々から一緒にスリザリンへ行こうと誘ってきていたからだ。

 

 知っていたとはいえセブルスも気を落としていたところがある。

 辛い経験は何度経験しても辛い。

 このとき、セブルスは確かに苦痛を感じていたのだ。しかもこの後のグリフィンドールでのリリーのことを考えると胸が張り裂けそうだった。

 

「セブルス・スネイプ」

 

 悲しみに暮れる暇も無く、今度は自分の番が来た。

 大広間の視線が全てセブルスに注がれながら、組み分け帽子の元へ。

 椅子に座らされ、帽子を頭にかぶせられた。すこし重たい。重量感がそこそこなものだ。

 

「……う~む、これは……さてどうしたものか。――驚くほど愛に貪欲だ。屈強な勇気も兼ね備えている。その上強い意志を感じられた。才能もあるだろう。……ううむ難しい」

 

 少し、違った。  

 何と違ったかといえばセブルスが初めて組み分け帽子に品定めをされた時とだ。

 

(あの時は即座にスリザリンと決まったが……今はそれほど渇望していないからか……?)

 

 帽子の悩む時間はジェームズの倍を超えた。うなりながら、最終的には納得したように「よし」と声を上げる。

 念のため、セブルスは口を挟んでおくことにした。

 

「どんな結論に至ったか知らないが……」

「うん?」

「――スリザリンだ。それ以外は僕が認めない」

 

 このように、生徒は自分の希望を口に出すこともできる。組み分け帽子は生徒の希望も視野に入れ、組み分けを行うこともあるのだ。

 意外そうに組み分け帽子は頭――部位があるのか知らないが――を捻った。

 

「おや、君はスリザリンが良いのかね? しかしだ、君にスリザリンは“もう必要ない”と思うんだが」

「やはり違うところにしようとしていたか……。黙ってスリザリンにしろ。引き裂かれたくなければな」

「そうか、そこまで言うのなら――」

 

 

「――スリザリン!!」

 

 

 スリザリンからセブルスに歓迎の言葉がいくつも向けられた。セブルスとて嫌いではない。

 よくよく思い出すとセブルスだってスリザリンでは小数であれど友人を作っていた――全員が死喰い人(デスイーター)になったが。

 

 スリザリンの席に着くとちょうど隣の席だった五年生であるルシウス・マルフォイに背中をたたかれた。

 ルシウスは監督生に選ばれるほど優秀で、寮の中でもリーダー的存在といえる。

 

「スリザリンへようこそ。私は監督生のルシウス・マルフォイだ。これからよろしく頼む」

「……ええ、こちらこそ」

 

 後に死喰い人(デスイーター)となる人間の一人だ。今のセブルスには、“すること”があるため死喰い人(デスイーター)に成るつもりも、闇を過剰に崇拝するつもりも無い。

 普通のスリザリン生として、普通よりも勤勉で危険な生活を送るつもりだ。

 

「シリウス・ブラック」

 

 見ると今度はシリウスの番だ。

 シリウスはセブルスのすぐ後に組み分けが行われた。

 

 ブラック家は純血の魔法族の家柄。純血主義を掲げる者も多い。しかしシリウスはその純血主義を嫌っている。

 この辺の擦れ合いからか、セブルスと同じくらいの時間をかけて組み分け帽子は長考した。

 

「グリフィンドール!」

 

 悩んだ末の結論はやはりグリフィンドール。

 他にも何人か知った顔がいるが、シリウスの組み分けが終了するとセブルスはそれ以上の興味を失い視線を逸らした。

 

 

 ◇◆◇

 

 

「して、どうじゃったかな?」

 

 組み分けも宴も終わり、校長室でダンブルドアは組み分け帽子に訪ねる。

 

「わしの言った、他と比べ優れた才能を持つ者はおったかね?」

 

 ダンブルドアはまず才能の有無を『組み分け帽子』に調べさせることにした。組み分け帽子は寮を決めるに当たって選択を誤ることもあるが、才能については確実に見透かす。

 才能とはいわば魔法力のことだ。

 

「まずセブルス・スネイプにシリウス・ブラック。リリー・エバンズも中々優秀になりそうだ」

「ふむ、その言い方だと他にもおるようじゃが?」

 

 ダンブルドアの言う通り、他にも二人、組み分け帽子は才能を見せる者を見つけていた。

 

「リーマス・ルーピン。しかし彼は心に大きな“溝”を抱えているようだった」

 

 そして最後に、組み分け帽子は言葉を紡いだ。

 おそらく現段階では今あげた四人の生徒よりも見込みのある男子生徒。

 

 組み分け帽子から見て、四人が“優れた才能”を持つのなら。

 彼は“極めて優れた才能”を持つ。

 

「最後に――ジェームズ・ポッター。素質としては彼が一番なのかと思われる」

「ふむ、しかし……グリフィンドール四人と、スリザリンが一人か。随分偏ったのう」

 

 挙げられた生徒の中でセブルスは本来ならばグリフィンドールになるはずだった。彼の性質上、どう考えても騎士道が似合っていたからだ。

 しかし彼はそれを拒んだ。五人の中では、ある意味彼が一番特別なのかもしれない。

 

「偉大な魔法使いになるかどうかは本人次第。素養以上の成果を上げる者もいれば、存外落ちぶれる者も多い。一途に“才能”だけで『予言の子』は判別できなかった」

「分かっておる。あくまでも参考に、じゃ。帽子にも過ちがあることはよく分かっておるからのう」

 

 だから五人の中に『予言の子』がいるかどうかは分からない。

 もしかするともっと平凡な存在の中に混じっていたのかもしれない。帽子だって万能ではない。万物を理解する神でも何でもない。

 

「……」

 

 その後しばらく、帽子は重苦しく沈黙していた。

 

 




■予言の全文
『1971年、強大な闇の存在の最悪となりうる者が、イギリスの学び舎の教え子として現れる。より凶悪な闇の渦になり古き闇を飲み込むか、新しい時代の安寧を導く者になるか、全ては運命に委ねられるであろう。あらゆる道しるべにも、彼の者は傾く余地を持つだろう』



■トレローニーについて。
・グレイシー・トレローニーはシビル・トレローニーの母です(オリキャラになります)。しかし今後深く物語に介入することはありません。つまり覚える必要ナッシング。
 



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若気の至りでもほどほどに

 スリザリンにおいて、否、ホグワーツ全体において、セブルスは異質な存在だった。

 特に、魔法薬学においては。

 

 ホグワーツで教授を務めていた以上、下手な教師よりも知識のあるセブルス。しかし、ホグワーツ教員を見下すような態度を取ることはない。未だに同業者として認識しているところがあるからだ。

 

 ホグワーツではあらゆる分野において優秀な部分を披露した生徒のいる寮には、わずかながら得点が与えられる。四つの寮は自分の寮に多く得点を入れ、年の終わりにある順位を競うのだ。

 現在、セブルスが入学してきて一週間が経過していた。

 

 グリフィンドール、一九点。

 レイブンクロー、二一点。

 ハッフルパフ、一三点。

 スリザリン、二九点。

 

 このように、現在の段階でスリザリンが大きくリードしている。これはやはり、勉学におけるセブルスの成績、という貢献が大きい。

 

 セブルスは図書館で、魔法史で出された課題の研究をしていた。

 

「やあセブルス、今日も図書館かい?」

「……ルシウス」

 

 ルシウス・マルフォイ。

 教師からも信頼され、他の生徒の模範となるよう期待されている、正真正銘の優等生である。彼の本質がどうであれ、飛び抜けて優秀であることに変わりは無いのだ。

 セブルスの隣の席に腰掛けるルシウス。

 

「君はよく図書館にいると聞く。勉強熱心なのは構わないが、もうすこし羽を伸ばしてもいいのだよ?」

「僕は勉強熱心ではないです。ただ、外に出たくないだけで」

「というと?」

「……“嫌な奴”がいるのですよ」

 

 言わずもがな、ジェームズ・ポッターとシリウス・ブラックの事だ。

 入学早々対立したセブルスに対し、彼らは徒党を組んで対抗している。いや、“対抗”という言葉には語弊があるかもしれない。セブルスは自ら率先して彼らを損なおうとしたことはない。

 

 ルシウスは表情に疑問符を浮かべた。

 

「グリフィンドールの一年生です」

「ああ、なるほど彼らか」

 

 ルシウスは納得がいったようにクツクツ笑った。

 

「ふふ、君は根っからのスリザリンだな」

「褒めている、と受け取りましょう」

 

 言うとセブルスは本をパタンと閉じる。ルシウスとの会話はここで一度中断されようとしていた。

 

「では、僕はこれで」

「……ああ、そろそろ次の授業か」

 

 もうすこし君との会話を楽しみたかったな、とルシウスは笑った。

 セブルスはこのルシウスにいたく気に入られている。優秀、であることだけが要因では無い。セブルスが自分たちと同類だと判断したからだ。

 

 ルシウスは権力に従順な男である。この学校においても、自分の地位を固定するために努力してきた。そして、権力に従順な彼は、スリザリン生において必須科目でもある――セブルスほどでは無いにしても――『闇の魔術』に詳しかった。

 

 魔法界で権力を得るためには、屋敷しもべ妖精を多く所持する、純血を保つ、など様々な方法があるが、一番手っ取り早いのは死喰い人(デスイーター)になることである。

 ルシウスは、新入生でありながらも、一週間と待たずに『セブルス・スネイプは七年生よりも闇の魔術に詳しい』などという噂が立てられるセブルスを、好意的に見ていた。

 

 なんとしても、自分たちの仲間に引き入れなければ。

 

「セブルス、一つ尋ねたいんだが」

「……なんでしょうか」

 

 セブルスは交友関係が狭い。ルシウスにとっては好都合だった。彼に歩みよるのが容易になるからである。

 更に、セブルスもルシウスを好意的に見ていた。なぜなら、前世であってもセブルスとルシウスは学友だったから。そこには歪ながらも“信頼”が確立していた。

 

「君、闇の魔術に詳しいようだね」

「例の噂についてでしたら、大げさなものですよ」

「いや、そんな事はないと思うけどな。断言しよう、君は偉大になる素質がある。神に誓ってもいい」

 

 こう評価され、セブルスだって嫌な気はしない。

 しかし、本来ならば上下関係は逆のはず。 

 この一週間で、セブルスは変わっていた。学生の頃の自分と今の自分を重ね、中身も若かりし頃の自分に戻りつつあった。しかし、“闇には賛同しない”という確かな思いが揺らぐことは無かったが。

 

「……時間も押してる。続きは夕食の際に話そうか」

 

 ちゃっかりと食事を一緒にする約束をしたルシウスである。

 よくセブルスとルシウスたちは共にいるところが目撃されていた。

 

 危険な上級生たちとつるむセブルスは、いわば危険因子の卵。入学してからこんなにも早く、彼は異端児として多くの生徒に認識されていた。

 他の寮生からは偏見から嫌悪されることもある。

 

 だがセブルスはその集団にも一線引いているところがあるのを、多くの人間は知らない。『闇の魔術に詳しい』などという噂は、闇の魔術に対する防衛術の授業で教授ですら目を点にする能力を見せたことによるもの。噂に尾ひれがついて、今や学校中に広がった。

 

 そして、『スネイプは毎日図書館で闇の魔術の研究』をしているとの噂もあった。それっきり、多くの生徒は図書館を拒み、しかし真相をしる教員たちはまじめなセブルスの素行を純粋に評価していた。

 しかし、図書館によく通っているのは、『リリー・エバンズと共有できる貴重な居場所の一つ』であるということもある。

 

「ああ。ではルシウス、また夕食の時に」

「そうだな、心待ちにしているよ。君といると時間の経過が早いからね」

 

 

 ◇◆◇

 

  

 闇の魔術に対する防衛術では、生徒に対人戦闘訓練を行わない。そもそも教師によってこの授業だけは自由に行われる上、一年以上講師が続かないというジンクスまである。

 

 今回はスリザリンとグリフィンドールが共同で行う、闇の魔術に対する防衛術の授業。

 講師は、レイブンクローの寮監でもあるロッド・ビルロイスが担当する。

 

 セブルスとジェームズはすでに互いを敵視しており、この授業でも邪険なムードを醸し出していた。物静かに睨みつけるセブルスと、シリウスを含んだ数人単位でセブルスを見ながら、時折ひそひそ何か話して笑っているジェームズたち。

 

 リリーはそのことに気がついておらず、セブルスの姿に気がつき目が合うと、小さく手を振った。セブルスもそれに手を挙げて反応する。

 ジェームズが、その光景を見て楽しくなさそうな顔をしていた。

 

 ロッドの授業では、噛み付き妖精、ドクシーが用いられた。

 

 三つの籠の中でそれぞれ、黒い体毛に覆われたドクシーが金切り声を上げて暴れている。手と足は各四本あり、不気味な姿は悪魔の僕か何かを連想させた。

 

「いいですか? 噛み付き妖精ドクシーは、一度に最高で五〇〇の卵を産みます。更にその卵は数週間で孵化し、大変繁殖力のある、侮れない生物です」

 

 ドクシーの大きさは成人の拳の大きさほど。確かに侮れない。牙もそれなりに大きく、何人かの生徒はさすがに怯えた様子だ。

 

「ドクシーには毒性があります。死には至りませんが、噛まれた場合は解毒薬が必要です。生徒全員分用意してあるので安心してください」

 

 それを聞いて、ジェームズとシリウスが顔を歪めた。

 

「ねえシリウス、あれって噛まれることが前提ってことだよね?」

「ロッドの授業は毎回鬼畜だな」

 

 備えあれば憂いなし、と言うが、確かに生徒全員分の解毒薬は多すぎる。

 ドクシーは凶暴だ。攻撃には爪と牙があるが、手足が八本あるため爪は驚異的である。しかし一番危ないのは牙であり、微量の毒を含む。

 

 しかし、シリウスもジェームズも、心底この授業を嫌っているようには見えなかった。

 むしろ闘志を燃やしているようにも見える。

 

「退屈する授業よりはマシさ」

 

 ジェームズが不敵にそう言って見せた。

 

「さて、今回はこの凶暴なドクシーの動きを麻痺させてもらいます。人間相手にも強い効力を発揮する呪文です。一年生には早い気もしますが、私の授業ではそんな常識はかなぐり捨てます! しかし決して! 決して! 人に向けるものではないですからね!!」

 

 対象を麻痺させる呪文。セブルスはもちろん知っているが、別に一年生に早い、という事はないと感じた。

 基礎的な呪文はいくつか習っているし、そろそろ実用性のある呪文を一つくらい出してもいい頃だろう。

 

「対象を麻痺させる呪文。さあ! 誰か知っている人はいますか!!」

 

 誰も手を挙げようとはしない。教科書にも載っている呪文のはずだが、一つ一つの魔法は理論を組み込んで扱うため、予習の余裕など無かったのだろう。

 

「ふむ、……ジェームズ! 分かりますか?」

「……いえ、さすがに初めて聞きましたし……」

「ではセブルス! 君はどうです?」

 

 ジェームズとセブルスに個人的に聞いたところから、ロッドが二人を特別優秀な生徒として認識していることが窺える。

 しかしセブルスはジェームズとは違い、危険な人間とも関わり、他の生徒に冷たく対応することもあり、噂のこともあってか「嫌な奴」と生徒の間では有名だ。

 二人が対比されれば、生徒は全員がこぞって「ジェームズの方が優れている」と言うだろう。

 リリーを除いては。

 

 リリー・エバンズの考えは「成績だけ見れば二人の間に優劣などない」というものだ。

 しかし人間性のみを見れば、対立しているセブルスとジェームズだと彼女はセブルスに味方する。そうなれば、ジェームズの嫌なところがどうしても目に入ってきてしまうものだ。

 

 セブルスはロッドに問われた呪文に対し、包み隠さず知っていることを話した。

 目立ちたくない、がために自分の全力を隠す、などという思想はくそ食らえだ。

 

「『麻痺呪文』、または『失神呪文』とも言います」

「その通り! さあ、皆さんよく見ていて!」

 

 ロッドはセブルスを見事だ、と評価し、自分の杖を取り出した。

 その直後、いきなりドクシーの檻を一つ解放した。

 狂ったように外へ飛び出したドクシーは誰を狙うでも無く部屋中を飛び回る。

 生徒の中で、数人は悲鳴を上げた。

 

「大丈夫怖がらないで! ステューピファイ 麻痺せよ!」

 

 赤い閃光が放たれ、とたんにドクシーの動きが止まり、床に落ちる。すぐそばでドクシーの姿をみた女子生徒は飛び上がり、顔を真っ青にしていた。それだけドクシーの姿が不気味だったのだ。

 

「いいですか? ステューピファイです。しっかりと記憶し、忘れないように」

 

 ロッドは、得意げにドクシーを素手で拾い、籠の中に戻す。そして今度は残る二つの籠の上に手を置き、薄気味悪い笑みを浮かべた。

 

「これから二体のドクシーを部屋に解放します。興奮しているドクシーは人間に危害を加えにくいですが、よく動き回る。今の『麻痺呪文』でドクシーの動きを止めた生徒の寮には、大サービスで三点差し上げます! 二匹なので合計六点です!!」

 

 馬鹿な、とセブルスは思う。

 確かに競った方が生徒はやる気を出すだろうが、いくらなんでも授業を遊びとして認識しすぎている。

 確かにロッドの『麻痺呪文』の精度は強力で、いざとなったら彼がどうにでもできるとは思う。しかし、生徒を危険に晒し、あろうことか授業をこんなゲーム制に。

 

 他の教師でも賛否両論だろうが、セブルスは否定的な感情を持った。

 

(……生徒が同時に動き出すと難しいが、……まあいい。僕が終わらせてやろう)

 

 完全にセブルスの一人称は“僕”になっていた。心の中でも自分をそう呼んでいる。

 グリフィンドールの席では、やはりジェームズとシリウスを中心としたメンバーが一番やる気を出している。

 

「聞いたかよ! あの小っこいの仕留めた奴は寮のヒーローだぜ!」

「よし、俺たちで競争しようぜ!!」

「いいね。でも、もっと楽しくする方法があるよ?」

「なんだよジェームズ」

 

 ジェームズはあくどい顔をしていた。整った顔立ちをしているため、それでも絵になる容貌だ。

 

「ドクシーを仕留めた奴が三点なら……――ス二べルス(なきみそ)を仕留めた奴に百味ビーンズ全員分だ」

「「「その勝負乗った!!」」」

「麻痺させるだけなら、大事には至らないからね」

 

 ス二ベルスとはセブルスのあだ名である。グリフィンドールではそのあだ名が定着しており、侮蔑の意を込めてセブルスをそう呼んでいた。

 

「では……行きます、よっ!!」

 

 ドクシーが一斉に放たれた。

 部屋中にいる生徒が恐怖と動揺と野心を燃やす。

 ドクシーから逃げ回る男子生徒、机の下に隠れる女子生徒、更に『麻痺呪文』でドクシーを仕留めようとする者や、部屋中を走り回る者もいる。

 

 セブルスは冷静だった。

 

「どうしても、動転した生き物の動きは単調になりがちだ」

 

 すでに一匹のほうのドクシーの動きを把握しており、いつでも魔法を命中させられる状況にあった。

 しかしすぐにはしない。セブルスは周りの生徒を観察し、どのように対応するかも見ているのだ。

 

「きゃっ!?」

 

 知っている声だった。

 セブルスが血相を変えてそこを見ると、落ち着いたもう一方のドクシーがリリーの肩にのり、キイキイわめいている。まだ攻撃は加えられていないらしい。

 

「くっ、ステューピファイ 麻痺せよ!!」

 

 セブルスの呪文はピンポイントでドクシーを捉え、秒単位で吹き飛ばしリリーを救った。

 

「リリー! 怪我は……」

「す、すごいわセブ! 一発でドクシーを倒した!」

 

 どうやら本気で恐ろしくは感じていなかったようだ。リリーは気の強い少女である。驚いても、恐怖はしない。

 

「すばらしい! セブルスが一匹仕留めました!! スリザリンに三点加算!」

 

 部屋の節々から、セブルスに感心するような視線が――もちろんスリザリン生とリリーから限定であるが――送られた。

 グリフィンドールの生徒は妬ましそうにセブルスを見る。あからさまににらんでいる生徒もいた。

 

「もう一匹の方も仕留めてくるよ」

「私もセブに負けないわよ!」

 

 セブルスは再びドクシーの飛び回る場所へと移動し始めた。

 それをみたグリフィンドール生は血眼になってドクシーの動きを捉えようとする。グリフィンドールにとっては、スリザリンに六点の加点を許すのは屈辱以外の何でも無いのだ。

 

 そして、セブルスが杖を挙げると――。

 

 ドクシーとセブルスがちょうど重なる位置から、ジェームズが飛び出し、『麻痺呪文』を繰り出した。

 密かにセブルスを狙って。

 

「ステューピファイ 麻痺せよ!」

 

 ジェームズは考えていた。これならば、「スネイプがいきなり僕とドクシーの間に割って入ってきたんです」とでも言い訳ができる。

 そうなれば、セブルスはただの『マヌケ』になるのだから。

 

 しかし――鋭い眼光を飛ばし、セブルスは無言呪文で容易にねじ伏せた。

 

「な……」

 

 目を見開くジェームズ。確かに背中から狙ったのに。

 セブルスもやられて黙っている男では無い。もちろん子供相手にも容赦せず――セブルスだって外見は子供だ――杖をふるって応戦しようとするが、それを遮る男がもう一人。

 

「ステューピファイ 麻痺せよ!!」

 

 シリウス・ブラックだ。シリウスはドクシーも何も関係の無い位置から麻痺呪文を向け、確かにセブルスを狙った。 

 だがやはり無言呪文でそれもたたき落とされる。

 

 ジェームズの場合は、はっきり言えばセブルスも“危なかった”。もう少しで反応が遅れるところであった。

 が、シリウスのものは視界の中からの攻撃。そんなものを喰らったりしない。

 

 怒りがこみ上げてきたセブルスは、ドクシーを無言呪文を用いて秒速で戦闘不能にし、二人を強くにらみつけた。

 その場が――凍った。

 

「……今、わざとセブを狙ったでしょ!」

 

 リリーが叫ぶ。このままリリーの怒りが押し切るかと思われたが、ロッドの怒鳴り声はそれを容易にかき消した。

 

「シリウスッ!!」

 

 さすがのシリウスも大人の本気の怒気に気圧され、肩をふるわせた。

 

「わざと狙ったのか!? なぜそんなことをする!!」

「い、いや、これはその……」

 

 とてもではないが、遊びでセブルスを狙ったとはいえない空気だ。今のシリウスならば数秒前の自分を殺す勢いで制していただろう。

 言葉を紡ぐことが困難な状況になり、ロッドの怒りは更に勢いを上げた。

 

「どうなんだ!? 答えろシリウス!! セブルスを、意図して狙ったのか!?」

「――違います!」

 

 答えたのはシリウスではなく、ジェームズだった。

 

「……シリウスは悪くない。僕が言ったんです、スネイプを狙えって」

「――なんだと?」

「スリザリンに、これ以上点を取られたくなかったから……」

 

 さすがに「スネイプに恥をかかせるため」とは言わなかった。

 しかしスリザリンの加点を阻止したかったのは本当だし、あながち間違ってもいない。

 

「……ジェームズも、シリウスも、深く反省しなさい!」

 

 叱られている最中、ジェームズは『スニベルス狩り』に参加していた友人全員に、視線で訴えた。

 ――絶対に名乗り出たらダメだ、と。

 

「……しかしセブルス、君のあの無言呪文、授業ではまだやっていない分野だ。それにすごく高度な技術だった。よって、スリザリンには合計一〇点差し上げます」

 

 ロッドはセブルスの技術を評価し、さらに四点多く加点した。

 これによってスリザリンは三九点。ほかの寮と一気に差を広げた。

 しかしグリフィンドールはそうもいかない。

 

「グリフィンドールは五点減点します。二人分なので一〇点です」

「……え」

「そ、そんな」

 

 誰もが息をのんだ。

 冗談じゃない。現在グリフィンドールは一九点だ。一〇点も減点されたら、九点しか残らない。

 これを聞いて、『スニベルス狩り』をしていた生徒は名乗り出る気を失った。全員が名乗り出れば、前代未聞のマイナス点になりかねない。

 

「更に、二人には罰則を与えます。放課後、私の教室まで来るように」

 

 この度は、教員の目の前である、ということを考慮しなかったジェームズとシリウスが――というか主にシリウスが愚かだった。

 

 その翌日からしばらくの間、ジェームズとシリウスは他学年のグリフィンドール生に嫌悪された。 

 しかし一年生の間では二人を擁護する意見が強く、他学年と反比例して一年生の間では団結力が高まり、セブルスを批判する声が高まったという。

 もちろん、リリーを含む数人はその限りではない。

 

 




■セブルス
 リリーからの好感度が、5あがった!

 大事な友人『75点』
    ↓
 ちょっとかっこいい『80点』



■ジェームズ&シリウス
 リリーからの好感度が、36下がった!

 顔を見るだけで不快『7点』
     ↓
 知らない名前ですね『-29点』




■ロッド・ビルロイスについて。
・オリキャラです。レイブンクローの寮監で、闇の魔術に対する防衛術の教授。



 ……余談ですが、最後の文のセブルスを批判しなかった『リリーを含む数人』とは、リーマスやピーターのことです。
 そしてちなみに、作者はスネイプの次にリーマスが好きです。ジェームズやシリウスも魅力的なキャラですけどね! もちろんピーターも!


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それはまだ平穏な

生存報告も兼ねて。
1時間クオリティなので短めです。


 大きく見出しの書かれた新聞を見やり、ジェームズを筆頭とするグリフィンドール生の四人組は苦々しい表情を浮かべる。最も色濃く滲み出ているのはやはり恐怖に近い感情だった。

 

 ――【闇の帝王の活動激化! 魔法省の対応は!?】

 

 その詳細は、要約すると死喰い人(デスイーター)による殺傷事件が一ヶ月で百件を超えたとのことだ。しかも一人、マグルの内から死者が出ている。

 魔法界の住人は、マグルの世界と自分たちとを断絶した生活を送っており、その一線を越える事は暗黙の禁忌とされている。それを度外視する事件が多発している事から、闇の帝王の勢力拡大は火を見るより明らかだった。

 

「はぁ。どうして、こんな事をするんだろう、例のあの人は?」

 

 ジェームズの言葉へ真っ先に、四人組の内の一人――リーマス・ルーピンが応えた。

 

「やっぱり、自分が最も優れた闇の魔法使いだって事を皆に知らしめたいんじゃないかなぁ」

「や、やめようよそういう話は……。僕は知ってるよ! 闇の帝王は、その名を口にしただけでこっちの居場所を探り当てて、殺しに来るんだ!」

 

 肩をふるわせながら拙い言葉を紡いだのは、ピーター・ペティグリューだ。

 ジェームズはピーターの話を「少なくともホグワーツだったら大丈夫だよ」と一蹴し、親からの梟便で送られてきた一級品の腕時計を得意げに一瞥し、口元を歪める。

 

「それはそうと、そろそろリリーが起きてくる時間だ。彼女はいつも決まった時間に朝食を摂りに来る」

 

 ジェームズに合わせて、その場に居たシリウス、リーマス、ピーターは食堂ホールの入り口へと目を向ける。

 すると、言葉の通りに柔らかい赤毛をした少女――リリー・エバンズが姿を現した。どうやらジェームズたちへの関心は一際強いようで――もちろん悪い意味でだが――あえて目を合わせず、友人たちの後ろへ隠れるように歩を遅くした。

 

「……ふん、彼女の席は僕の隣だって決まってるんだ」

 

 そういったジェームズは、自分の隣の空いた椅子をトン、と叩き、鼻を鳴らした。

 一同はやれやれ、といった心境で、朝食を誘いに行ったジェームズの行方を見守っていたが、直後――

 

「やぁリリー。よければ僕らと一緒に食べ――」

 

 ――パァン! と乾いた音が響く。それなりに人の集まる食堂なので、その音はすぐに溶けるように消えたのだが、その光景を見ていた三人は同時に顔を押さえたくなった。

 リリーが問答無用でジェームズを叩くのも仕方の無い話だ。まだ一年生であり精神的に未成熟な事に加え、ジェームズたちがスリザリンとの合同授業で行ったセブルスへの仕打ち、そして寮の得点が大量に減点された事実も重なっているのだから。

 平たく言えば、ジェームズたちはリリーはおろかグリフィンドール生の大半から目の敵にされている。悪い噂はじきに沈静化するだろうが――それでも、リリーは燃えるように激昂する気持ちを抑えられなかった。

 

「私に話しかける前に、誰か謝るべき人がいるんじゃない?」

 

 それでもまだ言葉を交わす辺り、リリーは中々に慈悲深い。

 

「…寮の得点なら、すぐに取り返す。寮の皆には申し訳ないと思ってるよ。でもさ、そんなに怒らなくても……」

「私が言ってるのはセブの事よ! この最低男! 去勢した後に縄で縛って、火あぶりにしてからドラゴンの口の中に放り込んでやりたいわ!!」

「なッ!? 君はあのス二ベルスの肩を持つのか! 食事に誘ってあげてる、この僕を無視した上で!?」

「……、ッ。この…!!」

 

 再び手を振るおうとしたリリーを周囲の友人たちが抑える。

 冷たい視線でジェームズを睨み付けた後、リリーたちはいつもの定位置で食事を始めた。――いやまぁ、そもそもの話、食事席は各々に決まっていて、原則他の席は使用してはいけない決まりなのだ。当然と言えば当然だろう。軽く破られがちな申し訳程度の規則とはいえ、非常識なのはそれを破ろうとしたジェームズの方だった。

 

「……ふんっ、もう知るもんか!」

 

 そう吐き捨てて、ヒリヒリと痛む頬をさすりがら席へと戻るジェームズ。強がってはいるものの、例の如く玉砕して彼の心はもうボロボロだった。

 

 

 

 

 

 

 ――そして、ジェームズとリリーのやりとりを見てほくそ笑む少年が一人。

 

「ふ、無様だな、ジェームズ・ポッター……」

 

 セブルスは頬杖をつきつつ、楽しそうに目を細めた。

 一部始終を共に目撃したルシウスがセブルスの背後に近寄り、

 

「敵の内輪揉めは何にも勝る喜劇だな。見ていて実に愉快だ。君もそう思うだろう? スネイプ」

「……えぇ、特にあのジェームズですから」

 

 ルシウスの指す「敵」という言葉がグリフィンドール全体の事を言うなら、そこにリリーも入っている。それを悟ったセブルスはあまり肯定的な返事をする気分になれなかったが、社交辞令として応えた内容も的を射ているのも事実だ。

 

 これはとある日、平和な日常に亀裂が入るのを目前とした、ある朝の話――

 

 



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【第二章】セブルス・スネイプと悪性霊魂
彷徨いし蛇の主


真章突入。完全オリジナルエピソードです。


今更ながら、この作品(特にこの章)を読む上での注意点をいくつか。
作者は、このスネイプはほとんどオリ主みたいな感覚で書いてます。原作のスネイプほど寡黙じゃないかもしれません。
原作で言及されている事への矛盾が発生するのを避けるため、オリジナル設定を織り込みます。原作ハリポタで存在しない設定、敵が登場します。
ハリポタを基盤とした全く違う物語(とくにこの章)という認識で読んでいただけたら分かりやすいかもです。

それでは、どうぞ




 

 ――……待って――。

 

 その声は虚空に響く。空虚を掴もうと躍起になり、彼女は愛する人を抱きしめるための両腕を失ったことに気付く。

 何度も、何度も、何度も何度もナンドモ。

 

 ――一人、に、しな……で……!

 

 声にならない声は、いつだってあの日の情景に向けられていた。

 願った回数を数えるのをやめたのは、途方もない過去の話。

 捨てきれない希望を盲信し続け、自己を騙していたことは既に気が付いていた。

 

 愛おしい者を失い、守り続けてきた物を奪われ、せめてこれだけはと想い縋った物ですら残滓の欠片を残す事無く壊された。

 それでも彼は確かに、迎えに来ると言ったのだ。

 信じる事の何がいけなかったのだろうか。

 

 ――……リック、……ラ…ール……、あなた、たちは。

 

 そう言えば、と思い出す。

 彼らの名前はなんと言ったか。

 曖昧な憧憬はかつてのもの。自分は心の根底の部分で裏切られたのだと自覚をしていたのかもしれない。薄い想いはそれ故なのかもしれない。

 

 ともすれば、自分を迎えに来る者などいないのだ。

 

 ――嘘つき。

 ――嘘つき、嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき嘘つき……ッッ!!

 

 永久に崩れぬ輪廻の中で彼女の悲嘆は全てを循環する。

 抑圧され制限された空間故か、切断された外の世界と自分が織り成すこの世とが乖離している感覚。

 滞りのない悪意は決して漏れる事がない。

 故に、蓄積され続けた。

 自分から全てを奪った事。人として最後の夢すら打ち砕かれた事。

 彼女はそれらを決して許さない。

 

 ――もう、いい。

 ――なにがあっても私は、あなたたちを許すつもりがないのです。

 ――ので、のでのでので、ので、魔法使いが、嫌いなのかもしれない可能性が、あると思われる危険性がない事がありえない、筈であり。

 ――私は、許さない。

 

 果たしてそれは――一体なにを?

 矛盾する記憶。時間の概念すら適応されない檻の中で、彼女は無限に等しい時間、怨嗟を溜め続けた。

 ふとした瞬間に、思い出す。あの二人の嘘を孕んでいるとは思えない真摯な表情を。

 あぁ、どこで彼女は間違えたのか。どこで彼女は違えたのか。

 知る意味などどこにもない。それでも、無視し続けるにはあまりにその時間が長すぎた。

 

 彼女は――ただ、もう一人でいる事が嫌だった。

 だからこの想いは決して放棄しない。

 あの獅子と蛇への憎しみが消える事は、決してないのだ。彼女が一人であるかぎり。

 

 彼女の名前は、もう誰も知らない――。

 

 

◇◆◇

 

 

 霊魂には幾つかの行く末があるとされる。

 主なものとしては2つ。死後、輪廻の輪に還るか、ゴーストとなり自我を残したまま現世での悠久を得るか。

 実際の所、霊魂について判明していることは少ない。魔法の基礎理論を誰がどこで構築したのか未だ不明であるように、ゴーストの起源も暗く閉ざされている。ただ、人々はそれがそこにある事実のみを受け入れる。

 

 ――故に、神秘。

 

 マグルが移動するのに足を使うように、魔法使いは杖を振るう。 人間が実体を持つように、ゴーストは肉体を透過させる。

 魔法世界において重要なのは、異端か否かである。

 ゴーストは神秘、それ故異端。魔法の学舎であるホグワーツで発生するゴーストは、当然のように受け入れられる。

 

 そしてそのゴーストの内――たった一人。

 なんの変哲もない奇跡の産物――中性的な顔立ちの優男は、誰にも認知される事がなかった。

 

『……全く、不快だ』

 

 男は吹き抜け廊下の中心で苦い声を漏らす。

 生徒たちは誰も男に気付く事なく通り過ぎていく。男にとって不快の要因はそこではない――そもそも、男は自分から誰にも悟られぬ事を望んだのだから。

 ならば、何に不快感を示したのか――

 

『異物。汚れ。純血でない者が混じりすぎている――あぁ、だから私は今苛立ちを感じているのだ』

 

 辛辣な言葉を並べ、男はため息を一つ吐く。

『相応でない。マグルの血が混じる事を私がいつ許した……? なぜ、なぜこのような痴態に。そうだ、あいつだ、忌々しいあの蛮勇のせいだ。くそ、今思い出しても腹が立つ……おっと、いけない、こうしてはいられない』

 

 ゆらり、男の身体が揺れた。

 口だけを除いて静止していた肉体を震わせ、重い足取りで一歩、また一歩と歩みだす。その間複数人の生徒と身体を重ねるが、やはり誰一人反応を示す者はいない。

 

 ――そう、いつも通り。誰にも知られぬまま、この学校の中を徘徊して彼女を探す。

 そうして一日を終えて、また明日も同じ事を繰り返す。

 はず、だった――。

 

 

「――おい、そこのゴースト。邪魔だ」

 

 

 ゴーストに身体を通り抜けられると、生人は肉体を霊に犯される不快感を感じる。現状を鑑みると、確かに男が文句の一つでも言われるのはなるほど、正しい。

 

 だが、――おかしいと思う。

 

 何故なら、彼は本来誰にも認識される筈がないのだから。

 そこで男は自覚した。

 

『君……私が、見えるのか……?』

 

 そう言って男が見据えるのは少年。

 まだ一年生だろうか、少し癖を残した女性的な艶のある髪に、子供らしい童顔。しかし、その表情は年齢に不相応な重いもので、どこか――大人びて見える。

 魔法本を片手に、まるで他人に興味が無さそうな目。血色の悪い肌。――そこに、男は自らの過去を連想した。

 

「……あぁ、なるほど。君はそういうタイプか。ならばすまない、忘れてくれ。僕には君が見えていない」

 

 まるで触らぬ神に祟り無しとでも言うかのように、少年は男の横を素通りしていった。

 呆気にとられた男は、幽体になって初めて自分を視認した人間を逃すまいとする。

 

『待ちたまえ、少し君と話がしたくなった』

「……」

 

 一切の反応を見せず、少年はその歩みを止めようとしない。その様子を見て、流石に無視される事を予想していなかった男は動揺する。

 

『ほ、本当に少しだけだ。時間は取らせない』

「……はぁ、知った事か。話相手が欲しいなら他を当たれ」

『な――なんだその口の利き方は!? 私を誰だと心得ている!?』

 

 男は一変して憤慨する。

 怒りの形相を露わにし、可能な術を全て用いて少年の歩みを阻害する。だが、ゴーストが生者に干渉する事ができないのを知っているためか、少年は男ともう目も合わせようとしなくなった。

 その瞳は、もう自分と関わるな、面倒だ、と物語っている。

 

『……君がその気ならば、私にも考えがある』

「ほう、ゴースト風情が、僕に一体何を?」

 

 僅かながら興味を示した少年の隙を、男は逃さない。

 丁度廊下の角を曲がった瞬間、周囲の視線が一瞬だけ少年から外れた瞬間。

 

『君はこれ以上進めない、私と談笑しない限り』

「何? それは――」

 

 ――それはどういう事だ?

 

 少年が問いを口にするよりも先に、ホグワーツの校舎(・・・・・・・・)が動いた。

 無機質の壁が蠢く。異常な速さで扉を形成し、扉の隙間から数本の鎖が顔を覗かせる。

 ホグワーツは男の意思に呼応した。口で命じるより先に、男の望むがままの部屋を作り出した。 

 『必要の部屋』の構成は、ホグワーツに施された全ての魔法措置のどれよりも優先され、普通では有り得ない速度で現れる。

 

「……ッ!」

 

 少年――セブルス・スネイプが背後に迫る鎖に気が付いたとき、必要の部屋は開かれた。

 鎖で身体を縛られ、部屋の中に引き釣り込まれる。

 そして、そこでセブルスは巨大な脅威を目の当たりにした。

 

 

 ◇◆◇

 

 

(必要の部屋――いやそれよりもッ!?)

 

 必要の部屋の中は、冬のような寒気が立ちこめている。

 そこは実験室のような内観で、数え切れないほどの埃を被った蓋付きフラスコの中で宝石のような液体が輝いている。

 しかし、それら以前に目を奪われるものは――眼前に眠る蛇だろう。

 全長を優に50メートルを越え、静かに目を閉じ佇む巨大な蛇。その気になれば、ホグワーツの生徒全員を蹂躙できる怪物は、さも当然であるかのように眠っていた。

 

「これは、バジリスク、か……?」

『違う。教科書には乗っていない、正真正銘の幻獣だ。血を分かつ事が許されない神聖な存在でね、繁殖させてやる事も出来ずに、私の生前からここでずっと保護している』

 

 どこから現れたのか、セブルスのすぐ隣で男は悠々と佇んでいた。

 男がふと思い出したように腕を振るうと、セブルスに巻き付いていた鎖は霧になって消えていく。

 

(……このゴースト、一体何者だ?)

 

 ホグワーツにこのような大がかりな仕掛けを施せる人物となると、現校長のダンブルドアですら当てはまらない。いや、部屋自体は誰にでも容易できるのだろう。『必要の部屋』は、必要とする者の前に自然とあらわれる、それがホグワーツの仕組みだからだ。

 『消える鎖』、『巨大な蛇の幻獣』、そして死後もなお必要の部屋に関与できる意思力。

 まず大前提として、この男は死人だ。

 

 ――まさか……?

 

 至極まっとうな帰結に辿り付くセブルス。

 それを見透かしたように、男は言った。

 

『そう、私はサラザール・スリザリン。この学校の創始者たる四人の一角だ』

「……ッ」

 

 サラザールの事を、自分とそもそも格が違いすぎる人物だと認識したセブルスは全身を強ばらせる。

 神話の如く語り継がれる存在のゴーストなら、ホグワーツの仕組みを熟知しているだろう。ならば、必要の部屋として現れたのは、生前にサラザールが使用していた実験室か何かで間違いない。

 

『ふふ、驚いているな、混血の異端児よ。崇め称えろ、そして私を羨望する栄誉を許そう!』

「……そうだな、尊敬する魔法使いの一人ではある。だが、本当にサラザール・スリザリンがゴーストとなっているなら、どうしてそれが周知の事実となっていないのか疑問だ」

『それならば当然の事。私は普通の人間に見えないのだ。いや、普通じゃない人間にも見れない。誰からも認識されない……はずだった』

「はず? 現に僕はあなたが見えている」

『そう、そこがおかしいのだ。疑似的な死の経験でもしているなら理屈は通るが――いや通らないな。死者も生者も私を知る事ができない、神か悪魔でもない限り』

 

 腕を組み、サラザールは唸る。

 

『ううむ、まさか死人になった後に私の知りえない現象に出くわすとはな。……やはりわからん、君はいったい何なんだ? 少なくとも、今現在私の中で君は人間のカテゴライズから外れているのだが』

「自分で自分の事を知り尽くしているのはもはや人間ではない。僕は人間だ、だからその質問には答えられない」

『……なるほど、たしかに道理だ。しかしそれでも知りたい、私は君に興味を持った。だからしばらくの間――君の事を観察してみようと思う。拒絶はできないと、君自身よく理解しているね?』

「……」

 

 ――聞きたいことは山ほどあるが……。

 セブルスは声を飲み込む。こうして伝説級の魔法使いと接する事は、セブルスの探求欲を再度燻ることに他ならないが、生憎と何時までもここでこうやって話し込んでいる訳にもいかない。

 

「とりあえず、ここから出たいのだが」

『ああ、外の時間を気にしているのか? ならば気にすることは無い、ここは外の時間を百分の一に短縮している。厳密には、一秒につき0.99秒の時間の巻き戻しをしている』

「……それは……すごい、な」

 

 もはや自分の知る魔法の域を超えており、セブルスといえども驚きを隠せずにいた。

 敬愛していた闇の帝王への想いすら凌ぐ勢いで、好奇心で頭が埋め尽くされていく。

 

『ではそうだな、少し私の話し相手になってもらおうか。なにしろ、数百年間もホグワーツを彷徨っていたのだからね』

 

 セブルスは知らない。

 この男と自分が関わることが、本来ならばあり得なかった大災厄の引き金となってしまう事を。

 

「僕も、あなたの話には少し興味がある」

 

 それを聞き届けると、サラザールは妖艶な笑みを浮かべた。

 

 

 

 

 

 

  

 

 

 

 



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