マイクラの世界で (闇谷 紅)
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・初日

他者もすなるぷれい日記といふものをへっぽこぷれいやーの私もしてみんと……あ、闇谷です。

いやー、マインクラフト楽しいですね。

ごたごたが片づいて久々に遊んだらおおいに時間泥棒されてしまったので、ひょっとしたらプレイを文章に書き起こせば読み物になるし楽しく書き続けられるんじゃと思い、試験的に書き起こしてみました。

思いっきり試験的な企画ですが、需要があったらいいなぁ。

あ、書きかけの作品ももちろん忘れては居ませんよ?

ダイジョウブダイジョウブ、ブンショウニカキオコストイウカセヲツケテルカラ、アソビスギデフデガトマルナンテコトハナイハズナノデスヨー、タブン。

では、お話をはじめたいと思います。マイクラの世界にごー!



「え?」

 

 気が付けば、そこは斜面だった。木々が茂り、麓の方に見えるのは湿地。そして、やけに角張った世界。

 

「ビルダーズ、にしちゃ木がカクカクしてるなぁ」

 

 そっかぁ、じゃあマイクラかな、なんて言いながらあははと笑うととりあえずほっぺたをつねった。

 

「ベタって言うな! って、僕誰に言ってるんだか……」

 

 わかってる、それを含んで現実逃避だ。こう、気が付いたらゲームの中でしたよなお話は呼んだことも書いたこともあるが、我が身に起きるとか誰が思うだろうか。そう言う妄想なら、したことはあるけれども。

 

「じゃなくって、ここがあの『マインクラフト』の世界なら――」

 

 ぼーっとしているのは拙い。夜が来るとどこからともなく魔物が湧いてきて襲われる危険地帯、それが僕の知るマインクラフトの世界なのだから。

 

「難易度によっては魔物でないとも聞くけど、この世界に難易度設定があったとしても確認する術はお腹が減るかどうかと実際魔物が湧くかどうかくらいしかない訳で……」

 

 安全なのは前者だが、だったら難しく考える必要はない。魔物が湧く前提で動いていれば自ずと結果はわかるだろう。

 

「じゃ、とりあえずは木を殴ろうか」

 

 気がふれた訳ではない。このゲームの木は素手で破壊出来てアイテムに変えられるのだ。そして手に入れた原木を加工して板を作り、この板から作った作業台を使うことで、更に多くの道具が作れるようになる。

 

「普通なら手を怪我する、ん、だけど、な」

 

 奇妙な光景だった。木の幹にヒビが入り、徐々に広がって砕け、アイテムと化す。

 

「とりあえず、ここまではゲーム通りかぁ。じゃあ――」

 

 これも出来るはずと、原木を板にさらに作業台へ加工しようとすると、身体はすんなり動いた。流れるように残った板から何本かの木の棒を作りだし。

 

「ふぅ、まずは第一歩……で、つぎは『あれ』、かな」

 

 視線を向けたのは、右手。そびえ立つ大きな山の麓にある石の露出した面だ。

 

「石だー!」

 

 ゲームでも鉄器以上は僕にとって贅沢品だった。石器こそがわが愛用品。石があれば柄に使う木材は既に手元にある。

 

「出番だ、木のつるはし!」

 

 懐かしさからか謎のテンションで作ったばかりの木製つるはしを振り上げ、僕は石のブロックに襲いかかる。全ては石器生活の為。

 

「出来たぁ! さてっと……じゃあ、もう少し丸石を確保しておこうかな」

 

 つるはしで石を粉砕して手に入れた丸石を手にとんぼ帰り。木を殴った場所に設置していた作業台で石のつるはし、石のスコップ、石の斧、石の剣を作った僕はそのまま採石した場所に戻り。

 

「あ」

 

 置くに見えたのは黒いツブツブを含んだ灰色の地面。

 

「石炭だ! これでたいまつも作れる!」

 

 他にも用途はあるが、今はまだ頭上にある太陽もやがては沈む。夜に備えてたいまつを用意するのは当然だった。

 

「良かった良かった。木炭でも作れるけど木炭は作るのに時間と手間がかかるもんなぁ」

 

 嬉々として黒のツブツブに近寄ると、石のつるはしを振るい。

 

「よーし、それじゃ今の内にたいまつを作っておこう」

 

 再び作業台の所まで戻って12本のたいまつを作ったが、石炭は38個も残った。

 

「有限とはいえ、これだけあれば色々出来そうだ」

 

 鉄鉱石を見つけて来て竈で鉄を生成する時の燃料にしてもいいし、肉を焼く時の燃料にも出来る。

 

「まぁ、鉄鉱石は洞窟とか地面をある程度掘ったところとかにあるのが殆どなんだけど……便利な道具は鉄がないと作れないの多いしなぁ。水を汲むバケツとか、羊を殺さず羊毛を刈るハサミとか」

 

 今の段階ではどちらもないモノねだりでしかない。

 

「んー、とりあえずはこの山をもっと登ってみようか。高いところからなら周囲が見えるし、石炭を掘ったこの穴を仮の安全地帯にするにも周辺状況の確認は必須だし」

 

 ゲームだった頃、周辺確認を怠った為に酷い目にあったことが何度かある。例えば、こういう安全地帯を作ったつもりが、壁面の上方に洞窟がぽっかり口を開けていて、外に出た直後、上から降ってきた洞窟産モンスターに背後をとられた、とか。

 

「あれは嫌な思い出だった」

 

 その時降ってきたのは、匠という別称があるグリーンの自爆魔だった。プレイヤーキャラに近寄ってきて、周りを巻き込み自爆、周囲にあったモノを消失させるという凶悪極まりないモンスター。色が場所によっては保護色になるし、死角から近寄ってきて気が付いたら爆発の瞬間なんてことも結構ある心臓にも優しくない魔物だ。

 

「やっぱ、上は重点的に調査、対策しておかないと」

 

 僕は手持ちの資材を幾らか消費する覚悟で今居る山を登る決意をし。

 

「その前に……」

 

 樫の板で二代目の作業台を作ると石炭を掘った穴に設置、これを使ってここまでにつるはしで割った石のかけらで竈を作り、隣に設置。

 

「荷物入れはまだ後で良いか、つぎはドアを――」

 

 樫の板がまた減る事になったが、ドアが無くてはこの穴を安全地帯たらしめない。

 

「ふぅ、これで良し」

 

 たいまつを設置すると竈に使っても残っていた石でドアの接地面を残して穴の入り口を塞ぎ、ドアを付けて両脇にもたいまつを立てる。

 

「時間か道具の無い時のセーフティーエリアと言えば生け贄の台座かこの手の横穴は基本だよなぁ」

 

 ゲームの経験がこういう活かされ方をするとは思っても見なかった。

 

「さてと、出ぱーつ!」

 

 こうしてセーフティーエリアを設け、僕は登山を開始した。

 

「ここは、飛び越えられる、こっちは登るのに邪魔だから……壊してっと」

 

 途中、つるはしで登るのに邪魔な岩を砕きながらの登山だ。資材もたまってまさに一石二鳥。

 

「ん?」

 

 だが、手に入ったのは石だけではない。壊した石肌の向こうに一箇所石炭が纏まって埋まっている場所を見つけたのだ。

 

「採掘中に岩壁堀抜いて落っこちるってことはないよね」

 

 件の石炭の場所から外側へ回り込んでわざわざ確認しようとしているのは、随分上まで登ってきている自覚があるから。

 

「うん、眺めもいいや。これなら頂上に行けば……あ」

 

 もっと遠くまで見える、と続けようとした僕は湿地の一角に目をとめる。オレンジ色の塊が、点々と転がっていたのだ。

 

「カボチャだ。さい先が良いな」

 

 たいまつと組み合わせれば、水の中でも使えてたいまつより明るいランタンに。幾つかの食材と合わせればパイに、並べた特定のブロックにのせればゴーレムを作り出せるという素敵作物をまさかこんなに早く見つけられるなんて。

 

「じゃ、あそこに行く為にも資材を集めなきゃな」

 

 僕はつるはしを手に石炭が纏まって埋まっている場所に戻り。

 

「ふぅ、ちょっと寄り道になっちゃったけど……これは仕方ないよなぁ」

 

 これで石炭は53個になる。

 

「あ……雪だ」

 

 更に登った先、岩の上にうっすら積もった白く冷たいモノ。

 

「あそこのカボチャと合わせれば雪のゴーレムが作れたなぁ、たしか」

 

 雨や熱で溶けてしまうことを知らず、初めて作ったガーディアン的存在に大はしゃぎしつつも、翌朝姿形がなくなっていて愕然としたのももう懐かしい思い出だ。

 

「シャベルはあるけど、これの回収はまた後で良いかな……もう、日が暮れる」

 

 茜色に染まる空は美しいと思う。だが、ゲームでこの世界を知る僕にとっては焦りを覚える光景でもあった。

 

「戻ろう」

 

 作業台を27個置けば埋まってしまうちっぽけな空間。だが、幾つかのたいまつに照らされたそこだけが今の僕が作り出した唯一の安全地帯だ。

 

「明日は、牛か羊を狩らないとな」

 

 ゲーム通りなら動物を狩り肉を得るのはそれ程グロい光景ではないのだが、どこまでゲームの通りなのかなんて今の僕にはわからない以上、そっちに耐性のない僕としてはかなり気になるところで。

 

「牛の皮と羊の毛は確実に必要だからなぁ、得に羊毛」

 

 ゲームと違ってベッドが無くては寝られないなんてこともないかもしれないが、寝袋も毛布もなく、セーフティーエリアの床はつるはしで削っただけの石。これに横になって寝られるのは野宿上級者だけだと思う。

 

「そもそも、ここもう少し登れば雪が積もるような場所な訳だし……ん?」

 

 麓を見れば夕暮れの余韻が終わりかけ、闇に包まれようとしている湿地に巨大なスライムが飛び跳ねているのが見えた。時間切れだ。

 

「かんぜんにまものがわきだしてるじかんたいですね、ありがとうございました」

 

 外にも幾つかたいまつを設置しておいて良かったと思う。明るい場所に魔物は湧けない。だから、村や自分の拠点などは魔物が湧かないように内外問わず明るくする湧き潰しと言われる作業をするのが基本らしい。

 

「羊毛は早くて明日、カボチャも明日、食事も明日、か……」

 

 小さな安全地帯には、竈がある。

 

「肉さえ手に入れば、燃料は石炭がある。出来れば農業もしたいけど……」

 

 平原で草を刈った時、小麦の種が希に手に入る。だが、中腹で周囲を見回した時見つけた草原は湿地を抜けた先、この世界に迷い込んだばかりの僕にとってかなりの遠出だ。

 

「旅立つにしても必要なモノを確保しない事には、ね」

 

 纏まった食料、ある程度の道具、そして無難な量の資材。全部が揃ってから僕はここを旅立つこととなるのだろう。

 

「けど、夜になっちゃったら本当に暇だなぁ」

 

 出来ることと言えば、このセーフティーエリアを掘って広げつつ資材を手に入れることぐらいだ。

 

「ま、丸石はたくさんあっても困るもんじゃないし……」

 

 外に貫通しないように、あるかも知れない洞窟に繋がらないように気を配りつつ、つるはしを振るう僕。初日の夜はこうして更けて行くのだった。

 




まぁ、初日じゃこんなモノですよねー?

しっかし、軽い気持ちで書き始めましたが、こう、プレイ日記とか動画やマンガでやられてる方への尊敬が一段階上がった気がします。

プレイデータの検証本当に大変だわ。

強くて逃亡者の時も台詞調べるのに途中までは冒険の書新しく作ってデータとったりしてたけど……うん。





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・二日目

 

「資材を使い潰すのなんて簡単だ」

 

 ドアの窓から外に見える空が白み始め、やがて朝焼けで染まり、日が昇る。この時間が来るまでに僕は十九段の地下へ降りる階段を設置し、たいまつも二本に減っていた。部屋の角が不格好に内側に出っ張っているのは、うっかり天井を貫通して星空が見えてしまった時、埋め戻した名残。これを埋めた時は、上からモンスターが振ってこなくて良かったと心から安堵した。

 

「って、出発前から何やってんの、僕?!」

 

 つるはしは二本使い潰した気がする。かわりに沢山の丸石が手に入ったが、木材の在庫がやばい。

 

「とにかく、伐採にいかない……と」

 

 ドアを開け外に出た直後だった。最初に感じたのは冷たさ。

 

「ちょっ、あ」

 

 雨、しかもかなり雨足の強い雨が僕の身体を打ったのだ。服はすぐにずぶ濡れになり、慌てて中に引き返そうとする僕はたまたま見つけた。直立した人骨と腕を前に突き出した人影が、沼に浸かりながら飛び跳ねているのを。

 

「よりによって……」

 

 一部の魔物は日光の光に弱く、晒されているだけでダメージを受けて死ぬ。魔物の出現する時間の終わりであると同時に日光で夜の間に湧いた魔物が自滅していれば、行動に支障はないと踏んだのに、まさかの雨。

 

「箱に……チェストに資材がどれだけあるか確認する前は、日光に焼かれて逃げまどうスケルトンをドアの窓越しに確認してたって言うのに……」

 

 まさかの天候急変。

 

「魔物がうろつく中を強行突破するか引きこもって飢えと資材不足を我慢するかの二択とか……」

 

 いきなりきっつい二択を突きつけられたものだと思う。

 

「はぁ、やむをえない……ここは、多少危険でも」

 

 外に出よう。

 

「ええと……カボチャは諦めるしかない、か」

 

 ドアを開け、外に出るなり見回せば、まだ魔物が跳ねる沼は丁度カボチャの群生地の手前。しかも、人骨やら想定動く屍ことゾンビの他に大小のスライムまで元気に湿地をはね回っていたのだ。

 

「何故か羊もうろついてるけど、そこは敢えてスルーしよう」

 

 ゲームでは野生の動物を襲うのは捕食者である動物ぐらいだったのだから。

 

「まずは、あっちの水辺に面した湿地だな」

 

 樫の木が数本生えている上に豚と牛の姿が木々の間に見える。しかも魔物が居る様子はない。

 

「保護色の緑ぃ匠にだけは気をつけないといけないけど」

 

 森という程木々は茂っておらず、蔦が梢からぶら下がっているものの、視界はけっこう開けていて、許容範囲だった。

 

「木材と、ついでに土だ。部屋を地下に掘り下げれば手持ちの苗木を植樹して安全に木材を確保だって出来るはずだし」

 

 あくまでゲームでの常識通りなら、だが。防具一つ無い服だけで毎回危険を冒してきこりするよりは余程いい。

 

「うん、ゲームの時みたいな速度で木や作物が生長してくれればだけど、ね」

 

 孤独だと独り言も多くなるらしい。苦笑しながら山を下りた僕は沼地に生えた少ない草をダメもとで刈りつつ木に近寄っては斧を叩き付け、原木のブロックに変えて収納して行く。ついでに足下に生えたキノコも回収した。

 

「りんごも手にはいると良いんだけどなぁ」

 

 樫なのに、葉っぱの集まったブロックが壊れるか消滅すると何故かりんごが手に入る事があるのだ。りんごは黄金のインゴットと作業台で加工することで、特殊な効果を持つ金のりんごを作ることも出来るが、そのままでも食料になる。獣を屠って肉を手に入れるより、個人的にはこっちで最初の食料を手に入れたかった、が。

 

「やっぱり駄目か……ごめんよ」

 

 初めて作った石の剣、その刃を振るうのはもっと先のことだと思っていた。それに相手も自分を襲う魔物だと思っていたのに。

 

「何でだろう。必要だと思ってた皮だって手に入ったのに……あんまりうれしくないや」

 僕は牛肉と皮を手に入れた。その手を汚し。ゲームの仕様のまま、解体作業がいらず、ポンとアイテムが出たのは救いだった。だけど、木の枝という覆いがなくなったことで降り注ぐ雨は冷たく。幹を失い、まだ残っていった葉のブロックも時間差で消滅して行く。

 

「あ」

 

 ひとつのりんごを残して。

 

「なに、これ」

 

 僕は何の為に牛を殺したの。

 

「くそっ」

 

 苛立ち紛れに手にしていたもので無造作に草を切り散らす。

 

「えっ」

 

 出現したのは小麦の種でした。

 

「……なんだこれ」

 

 この世界は僕をからかっているのだろうか。

 

「はぁ」

 

 ため息を残して引き返し、僕は山を登る。せめて、手に入れた素材は無駄にしない為にもしまっておきたかったし、謎の脱力感を覚えたこともある。あと、作業台。原木加工は作業台無しでも出来るが、どうせ次の工程で作業台は必要になる。

 

「戻ってきたなぁ」

 

 ドアと雨の中でも健気に燃えるたいまつを目にし、僕は呟いた。

 

「埋め戻したところの外も補修しておくかな、ここまで戻ってきたんだし」

 

 部屋の中の一点だけ角が埋まってるのも微妙に気になるし。

 

「まぁ、A型だし……ああ言うのは気になっちゃうからなぁ」

 

 そして、作業が終われば次はカボチャか。戻る途中に魔物が跳ねていた沼をみると魔物は跡形もなく何処かへ消えていた。

 

「一定時間で消失するのかマイキャラとの距離が関係するんだったかどっちかだったと思うけど……」

 

 ゲームでの仕様前提はいつか痛い目を見そうでよろしくない気もするが、今のところ殆どがゲームの仕様通りな上、疑ってかかっていられる程今の僕には資材その他もろもろの面で余裕がないと言うこともある。

 

「資材と食料を集めてブランチマイニング、だったかな? とにかく地下に掘り進んで必要な資材を集めないと」

 

 とりあえず、石炭と木材、丸石に小麦の種は手に入れた。後は鉄鉱石があれば、鉄のインゴットを作り、そこから作成した鉄のバケツで水を汲んでセーフティーエリア内で農業をすることだって出来る。

 

「念のため、必要ないモノは置いていこう。ゲームみたいに死んでも復活出来るかはわからないけど」

 

 死ねば手持ちの道具をそこでバラ撒く仕様だった。死ぬ気はないが、苦労して集めたモノを失うのは忍びない。たいまつを幾つか作ると、りんごを囓って空腹を幾らか満たし。

 

「行こう」

 

 僕は雨がまだ降る中、外に出た。目的はカボチャ。ついでに出来れば木材をもう少し。こういう時、物欲は原動力になる。

 

「って、怖っ」

 

 ただ、一直線に進もうと見た足下が降りることは出来ても登るのは不可能そうな傾斜だったのは想定外で。

 

「くっ、大丈夫。見たところ土だし、登れない時はシャベルで崩して道を造れば……」

 

 かぶりを振ると、敢えてそこを下に降りた。

 

「思ったより下は開けてるんだなぁ」

 

 右手には問題の沼が見えたが、前方は湿地より幾らか地面が高く、何本もの木が茂って森に近い。

 

「あ、キノコ……まぁ、今回はスルーでもいいか。まずはカボチャを――」

 

 目指そうとして、足が止まる。

 

「う……し」

 

 そこにいたのは、牛の群れ。

 

「もう既に狩ってしまったんだ今更……」

 

 迷うことはないと言う声と、食料なら足りているという内の声。

 

「最優先はカボチャだ」

 

 僕は結局じっとこちらを見つめてくる牛を無視して前に立ち塞がる木に斧を入れ。

 

「五個、か。それよりも……」

 

 野生のカボチャを取り尽くすと、前方の木の奥をみた。

 

「洞窟、だなぁ」

 

 まぁ、反対側が見えてしまう短いトンネルをそう言ってしまっていいモノかは迷うところだが。

 

「こういうところでも鉄鉱石が手に入る可能性はあるけど、今回はパス、かな」

 

 まずはカボチャを持ち帰ることが優先だ。

 

「確か、あっちの斜面から降りて――」

 

 振り向き、そこまで言いかけて僕は言葉を失う。

 

「うっわぁ……」

 

 降りる時は気づかなかったが、そこにも洞窟の入り口があったのだ。

 

「魔物が出てくると拙い、迂回しよう」

 

 幸いにも帰る場所は山の中腹。斜面を上に登ればやがて辿り着く。

 

「……なんて思っていたことが僕にもありました」

 

 登った。ひたすらに。登れない時は、斜面の土をシャベルで削り取ってまで。

 

「そうしたら、雪が積もってるんですが」

 

 中腹どころか山頂近くまで登ってきてしまったらしい。

 

「おいおい、この状況で迷子とか」

 

 わかってる。同じ山なら、頂上を中心にぐるっと迂回すればあの安全な場所の上に出ることも。

 

「はぁ、湧き潰しのたいまつ設置しておいて、本当に良かった」

 

 目印って本当に重要だと思う。その甲斐もあって僕は何とかあのドアの前に戻ってくることが出来。

 

「問題はここからだよなぁ……てぇっ」

 

 雨では後どれだけで夕方になるかもわからない、と思っていたら雷まで鳴り始めた。

 

「これは、今日もベッドはお預け……だなぁ」

 

 これ以上の冒険は危険だ。

 

「肉を焼きながら下を掘り進めるか」

 

 作るのは、つるはしと梯子。

 

「作りかけのままだった地下に降りる階段の先にまずは小部屋を作って……そこからは梯子、かな」

 

 階段では斜め下に伸びる構造上、山の外壁を突き破って外で魔物と鉢合わせる危険性がある。

 

「こっちの方法も洞窟と繋がるってオチがありうるから危険が全くない訳じゃないんだけどね」

 

 僕は誰に解説しているのだろう。まぁ、いい。階段を下りきるとつるはしを振るい。

 

「つるはしは多めに作ったし大丈」

 

 大丈夫、とドヤ顔をしつつ砕いた石の向こうにあったのは、砂利。

 

「ちくしょーっ」

 

 モノを破壊するには適正があり。砂利はつるはしではなくスコップで破壊した方が早く破壊出来るブロックなのだ。僕が階段を上ってスコップを増産しに行ったのは言うまでもない。だが、戻ってからも問題は残されていた。

 

「……掘った結果が、石炭発見、と。しかし、上は砂利。石炭を掘ろうとしたら上から崩れてくる事請け合いだね、これは」

 

 砂利はゲームでは重力に従い落ちてくるブロックだった。逆に言うならこの手のブロック以外は下が壊されても宙に浮いていられる不思議ブロックと言うことでもあるのだが。

 

「やむを得ないな」

 

 裏技、と言う程ではないと思う。むしろプレイヤーならほぼ知っていると思われる知識。僕は石炭の下のブロックをつるはしで砕くと、そこにたいまつを設置した。砂利はたいまつの上に落ちるとブロックとして存在出来ずアイテムになって消える。真下でなければ落盤を気にせず採掘することが出来るのだ。

 

「まぁ、砂利も固まってることがあるから、結果的にこうなるんだけどね」

 

 誰に向けての解説か、呟きながら床一面にたいまつを並べ、石炭をつるはしで掘りとれば、上にあった砂利は全てたいまつの周りにアイテムの砂利として散らばる。

 

「うん、予期せぬ小部屋が出来ちゃったなぁ」

 

 この小部屋の使い道も考えないととぼやきつつたいまつの設置作業をしつつ梯子を登っていた僕は。

 

「うわっ、あぁぁぁぁぁあぁぁぁぁ」

 

 梯子を踏み外して一番下まで落ちたのだった。

 




 やめて! 高所から転落したら、高さに比例して大ダメージを受けちゃう!

 お願い、死なないで主人公! あんたが今ここで倒れたら、このお話はどうなっちゃうの? 資材はまだ残ってる。ここを耐えれば、三日目に突入出来るんだから!

 次回、「主人公死す」。発掘再稼働!


 ……うん、ちょっとパロってみたかっただけなんだ。

 次回、「三日目」

 掘り進んだ下には何があるんでしょうねぇ。耳を澄ますとカランコロン音が鳴ってた気がしますが。


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・三日目

 

「痛たた……石炭掘って出来た部屋のお陰で命拾いしたや」

 

 もし、無視して下に掘り進んでいたなら落下のダメージで今頃死んでいたんじゃないだろうか。

 

「うぐっ、うう、痛みで集中力が……」

 

 どうせゲームならこういうところもゲーム通りにして欲しかったと切に思う。

 

「仕方ない焼いてたお肉を食べよう」

 

 ゲームの仕様では満腹度が90%以上あれば傷は自然治癒した筈だが、一日目は断食した上、あちこち掘ったり木を切って、おまけにカボチャを取りに行ったりした分はりんご一個ではとても足りなかった。すっかりお腹の減っていた僕にとって、肉の焼けた匂いが我慢出来なかったというのもある。

 

「ご馳走さ……あれ?」

 

 ステーキ一枚で済ませるつもりが、気づけば二枚も食べてしまっていた。

 

「ああ、貴重な食料が……」

 

 これではまた肉を手に入れに行かなくてはならない。

 

「結局、こうなるのか」

 

 ドアを出るなり手にしていたつるはしを石の剣に持ち替えた。

 

「縦穴を掘っていて餓死は避けたいもんな……さてと」

 

 そこそこ見晴らしの良い中腹から周囲を見回すと、湿地でゾンビが日の光を受けて燃えていた。

 

「その左手の丘には(クリーパー)で、右手に続く湿地に小さなスライム、沼の脇にはでっかい蜘蛛、ですか」

 

 蜘蛛は明るいところでは中立キャラになる為、攻撃しなければ襲ってこない。

 

「一番小さなスライムぐらいはおそらく倒せるし、自滅したゾンビのドロップアイテムでも拾ってから、カボチャのあった方に行くかな?」

 

 最初に僕が手を汚した山の麓を挟んで反対側の湿地にはもう豚しかおらず、肉しか手に入らない豚を狩ると言う選択肢しかない。それなら牛か羊が狩りたかった。

 

「ベッドのない生活がこれ以上続くのはきついし……」

 

 牛から手に入る皮で作りたいものもあった。

 

「本、今はあってもゲーム的には全く無意味なんだけど……」

 

 話し相手も居ない生活の孤独に耐えるのに、僕は日記を欲した。この下手すれば誰にも知られず終わるかも知れないサバイバル生活も日記に残しておけば、後に訪れるかも知れない誰かに知って貰えるかも知れない。

 

「むろん、まだ死ぬつもりはサラサラ無いけ、どっ」

 

 やや急な斜面を落ちる様に降り、ようやくこちらに気づいたプチスライムを石の剣で両断。

 

「おたからは……無し、かぁ」

 

 正確には緑のイクラみたいなものを落として消滅したのだが、これはアイテムではない。経験値だ。

 

「って、いつの間にかゾンビも居ないし。こっちも収穫はゼロですか」

 

 捕らぬ狸の皮算用とはよく言ったモノだ。

 

「じゃあ、あとは予定通り……いた」

 

 次の獲物を探した僕が見つけたのは、木々の間を遠ざかる牛。

 

「たあっ!」

 

「ブモーッ」

 

 大きなダメージを狙い、飛び上がって一撃を見舞うも、会心の一撃とはならず。

 

「待てー!」

 

 悲鳴をあげて逃げ出す牛を追いかけながら空ぶった剣が草を斬り裂き、零れ出る麦の種。

 

「や、種はありがたいけど」

 

 農耕生活を送るには安全な水源が足りない。結局僕は狩猟民族と化して一頭目の牛を屠ると更に奥に進み。

 

「あ、羊……」

 

 見つけた二頭の羊に僕の心は揺れた。

 

「ごめん、そろそろ僕もベッドで寝たいんだっ!」

 

 疲れが取れる、眠れば朝までぐっすりという利点の他に、ゲームではスタート地点もしくは最後にベッドで寝た場所が死亡した時の復活場所となっていた。ゲームのように死んでも復活出来るかはわからないが、時間のわからない地下で死んで、真夜中にあの斜面に何も持たない状態で放り出されたら、湧いた魔物に襲われてエンドレス死に戻りをさせられることだって充分考えられる。

 

(なんて理由を付けてみたけど……)

 

 本当のところを言うなら、ベッドで眠りたいという欲求が一番高かった、だから。

 

「あと一頭……」

 

 羊二頭と追加で牛一頭を屠った僕が、ベッドを作るのに必要な三つ目の羊毛のため、三頭目の羊を探してしまうのは無理もないことだった。

 

「っ、いた」

 

 首を目ぐらせて白いモフモフを見つけたそこは、まだ足を踏み入れたことのない場所。カボチャのあった場所からも若干ずれている。ずれているが、ベッドだ。

 

「羊毛ーッ!」

 

 この時の僕ははっきり言ってかなり迂闊だった。

 

「羊も、っうわ」

 

 飛ぶように駆け、羊まで肉迫しようとした足下が急に途切れる。いや、途切れるところだった。

 

「あっぶな……渓谷、かぁ」

 

 落ちれば確実にお亡くなりになるような深さの長く続く亀裂。このゲームでは良くある特殊地形の一つで、鉱物資源が露出していることもあると言う意味では素敵な地形だが、ごく普通に続いていそうな地面が急に途切れているのだから凶悪極まりない落とし穴でもある。洞窟同様日の差し込まないところには魔物が湧くし、細い桟道のような人が一人通れるかどうかと言うような足場、ポツポツ点在する人が一人立てるかどうかと言った足場に魔物が湧いて、上から降ってくると言うことも多々あるデンジャラスゾーンを兼ねていて、個人的には嫌な思い出の方が多い。大地を大きく割ってる為、ダンジョンや地下水脈、溶岩流と繋がっていることも多いし。

 

「実入りは多いかも知れないけど、パスだな」

 

 湧く魔物の中には弓を持った人骨(スケルトン)が含まれる。渓谷の反対側の足場から弓で一方的に射抜かれたいなら話は別だけど、遠距離攻撃の手段がない今挑むのは危険すぎた。

 

「今は安全第一、羊を狩ったら引き返そう」

 

 つい今し方渓谷に落ちて死ぬところだったと言うのに、ここで欲を出せば絶対死亡フラグが立つ。

 

「こんな危険なところにいられるか。僕は拠点に戻ってベッドを――って、立てさすなぁ!」

 

 思わず一人ノリツッコミ。

 

「はぁ、話し相手が欲しい。……とは言え、今の僕じゃ野生動物を家畜にするのも無理だからなぁ」

 

 家畜にするどころか現在進行形で剣によって羊を惨殺してますが、なにか。

 

「最初の一頭の時にあれだけ悩んでおいて、これだもんな」

 

 肉の重みは命の重み。サバイバルしてるんだから、これぐらい出来なきゃいけていけないのだろうけど。

 

「人に、会いたいな。既に動く死体になってるのとか、やばげな薬投げてくるモンスター分類の魔女(アレ)じゃなくて ……」

 

 ゲームの仕様通りなら、この世界には村人が身を寄せ合って住んでいる村が存在する可能性がある。人に会いたいなら、まず、それを探すべきだろう。

 

「一部の特殊なゾンビは治療することで村人に戻せるのも知ってるけど、直す為の薬を作る道具の素材がね……」

 

 暗黒界と言われる超危険世界に渡った上で、特定のモンスターを倒さないと手に入らないモノを今の僕に手に入れろと言うのは無理ゲーすぐる。

 

「薬の素材も確か、蜘蛛の目玉、砂糖、茶色のキノコからつくる発酵した目玉と火薬とか未入手のモノの方が多いし」

 

 これにくわえてゾンビ治療には黄金のりんごが必要になる。どう考えても、まだ村人に戻せるゾンビを治療するより村を探しに行った方が早いだろう。

 

「それ以前に、あの村人ってとんでもない危険地帯に村を作るからなぁ」

 

 自分達を襲うゾンビが湧くダンジョンの側や真上、とか。ある時なんて建物が吹き抜けになったダンジョンの入り口に立っていて、村人がポトポトダンジョンの中に落っこちて落下ダメージを喰らってるのをみて、僕は頭を抱えたモノだ。

 

「あのゲームの時みたいな頭の悪い村の構築とかしてないと信じたいけど――」

 

 旅に出る準備が調ったら、僕は村を探しに行こうと思う。

 

「その為にも――」

 

 拠点に戻ってきた僕は早速ベッドを作って、部屋の中央に置いた。

 

「そして、手に入れた牛肉を竈にシュゥゥゥゥッ!」

 

 燃料は石炭を二個。

 

「羊の肉とは一緒に焼けないからなぁ」

 

 後は肉が焼けるまで、あの死にかけた場所(はしごのさき)を掘り進むだけだ。

 

「あ」

 

 そして掘り始めて暫し、僕は気づく。

 

「梯子使い切っちゃった」

 

 己の計画のなさを。

 

「大丈夫、まだ外は明るいはず」

 

 慌ててすぐ使わないモノをチェストにぶち込み、外に出る。

 

「うおおおっ、間に合えぇぇぇ」

 

 まずは近くの樫の木から。斧を叩き付け、木を切り、苗木とりんごを回収しながらひたすら木を切る。

 

「はぁ、はぁ、これで当面はって、やばっ」

 

 手にした原木の数を数えて顔を上げると空は夕暮れどころか、星が瞬き始めており。僕は慌てて引き返す。防具一切無しの状況でまともに戦えるのは昼のスライム(小)くらいだ。もちろん、複数いるならスライム(小)でもきつい。

 

「ちょっ、ここ高っ、こうなったら」

 

 途中、高低差で登れない場所にぶち当たりパニックになって出鱈目に丸石を置いて足場とする。完全な醜態だが、僕をじっと見つめていたのは近くにいた羊くらい。

 

「モンスターじゃないからセェェェェフ」

 

 恥ずかしがる暇なんてありゃしない。ここで死んだら元も子もないし、もっと恥ずかしい。

 

(伐採してたのは山のすぐ麓だ、間に合う、間に合う――)

 

 願った。近くから自爆魔のシューという音が聞こえないことを。遠くから矢が飛んでこないことを。拠点の周りは明るいんだから。あそこまで、あそこまで、辿り着けば。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ドア、だ」

 

 これで、やっと一息付ける。安全地帯まで辿り追記、崩れ落ちた僕は。

 

「さて、寝る前にもう少し掘っておくか」

 

 むくっと起きあがると、作業台で梯子を作って地下におりたのだった。

 

「いやー、まさかまた石炭の固まった場所に出くわすとはなぁ」

 

 その後、思ったより掘り進めなかったが、別の収穫はあり。満足感と疲労感を覚えた僕は上に登ってベッドに倒れ込むと、目を閉じた。

 

 




焦るとダメですよね、ほんと。

金鉱石掘ってて、マグマに落ちたあの時、もっと冷静さがあれば――。

何とか死亡フラグの魔の手から逃れた主人公。

渓谷に落ちかけた時は、ちょっと毛が逆立ちました。

次回、おそらく「四日目」

くっくっく、ベッドを手に入れて夜の描写量が減った闇谷に怖いモ「シュー」



ちゅどーん。




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・四日目?

 

「さー、今日も掘り進むぞー!」

 

 さわやかな目覚めだった。やっぱりベッドは良い。睡眠はよい。このまま惰眠を貪りたい気持ちを吹き飛ばす為、僕は声を上げて上体だけ起こした姿勢のまま、拳を突き上げる。

 

「えーと、確か採掘を始めるには適した深さがあったよなぁ」

 

 最初から持っていた自分の居る高さを教えてくれる地図を片手に梯子の場所まで居りながら、うんうん唸る。

 

「10だったっか、15だったか……んー中間をとってひとまずは13くらいで良いかな?」

 

 そんなことを考えていた時期が僕にもありました。。

 

「NOOOOOOぉ!」

 

 だが現実は思惑を裏切る。下に掘り進み、実際地図が13の高さを教えてくれたところで、僕は頭を抱えて叫んだ。

 

「何で鉄鉱石より先にレッドストーン鉱脈ぅ?!」

 

 鉄以上のグレードのつるはしでしか採掘出来ない鉱石との狙い澄ましたかのような出会いであった。

 

「お、落ち着こう。横に掘り進んで鉄鉱石を探せば良いんだ」

 

 ひとまず、触ると光る赤い鉱石の周囲を掘って小部屋を作り、ここをスタート地点と決めた。

 

「あ、上まで戻るのも面倒だし、この部屋に作業台とかも作っておいておこう」

 

 チェスト二つを合わせた大きな箱と、作業台、鉱石をインゴットにする為の竈。全部体積節約の為あしもとを掘ってはめ込み式にする。

 

「これでよーし。後はどっちの方角から掘るかだけど……鉱石の無い側の方が良いような気がする」

 

 レッドストーン鉱石が露出してるのは、梯子を正面に見て、左手の足下。

 

「四つ掘ってたいまつ立てて、四つ掘ってたいまつを~♪」

 

 謎の即興歌を作りつつ分岐二つ分まずは直線に掘ってみたところ。

 

「い、やっったぁぁぁ! 鉄だぁぁぁぁ!」

 

 やぁ、とばかりに顔を出した鉄鉱石に僕のテンションはぶっ壊れた。

 

「ああ、これで羊毛の為の無益な殺生や、危険な水辺に出向いて畑を作る必要ともおさらば……」

 

 ついでに言うなら、レッドストーンと鉄からコンパスが出来るので、迷子の可能性だって減る。

 

「が、落ち着け、落ち着け僕。掘ってみないことにはまだ埋蔵量が……」

 

 とりあえず、見えているのは前方と足下でブロックにして二つ分。これで終わりだとすれば、鉄のインゴット二個で作れる道具が一つ出来るだけだ。とは言え、黙って眺めていても始まらない。

 

「よし、掘ろう」

 

 僕はつるはしを手に近寄り。

 

「一つ、二つ、み……うわぁ」

 

 掘れば掘る程次々に顔を出す鉱石に思わず声を上げる。

 

「凄い大鉱脈だ」

 

 全て取り終えて数えれば鉱石は14個もあった。早速設置したばかりの竈に放り込んで、鉱石を掘って出来た小部屋を更に奥へと掘り進むと、次の分岐を掘る予定の場所に石炭が顔を出す。

 

「って、こっちの石炭鉱脈も……大きい」

 

 夢中で掘れば、鉄鉱石を掘って出来た部屋が更に大きくなり、隣の通路にくっついて一体化する。

 

「しかも、その通路を掘ったらまた石炭鉱脈とか。今度は小さ……って、嘘、また鉄鉱石出てきた」

 

 結果的に追加で手に入った鉱石は六つ。だが、充分すぎる量でもあった。早速燃料の石炭が残っていた竈に鉱石を放り込み。

 

「つるはし、バケツ、ハサミ……少し残ったけど、どうしよう?」

 

 防具を作るか、必要に駆られたときのためにとっておくか。

 

「うん、防具も良いけどひとまずしまっておこう。まだ竈に溶かしてる鉱石もあるし」

 

 鉱石を掘った場所も部屋としては歪すぎる。

 

「目印兼湧き潰し用のたいまつももう在庫がないし、量産して、さっきの部屋もちょっと整えないと。大きすぎる部屋を作るとスライムが湧くって言うから、場合によっては埋め戻しも考えて――」

 

 高低差を丸石で埋めて消し、通路のように蛇行して伸びたところも埋め。

 

「けど、ここってまだ延長してない手前の通路とくっつきそうなんだよなぁ」

 

 鉄鉱石と石炭の発見で浅く掘ったのみで手つかずだった通路が気になった僕はそちらの延長作業にかかる。

 

「あ、エメラルド」

 

 そこで足下に顔を出した緑色は、この世界ではお金のかわりになっている鉱石。

 

「交易に使うんだけど村人が居ないとただの綺麗な石なんだよなぁ」

 

 他にも使い道があったかも知れないが、確か僕は使ったことがなかったと思う。

 

「けど、本当に運がいいよなぁ。何もないと、いいけどぉ?!」

 

 ほくほく顔で引き続きつるはしを振っていた僕の一言はフラグだったのだろう。大きく崩れた岩の壁。飛び込んできたのは光と熱気。

 

「ちょ、溶岩っ」

 

 幸いにもこちらの通路の方が高く、流れ込んでくることは無かった、ただ。

 

「まさか……うわ」

 

 溶岩の手前、崩した壁の向こうに少しだけ有った足場に降りて左を見ると、続く横穴。

 

「さっそく、とか」

 

 洞窟との貫通。溶岩の側だったのは、かえって運が良かったのかもしれない。魔物の姿は目視出来なかったが、僕が通った壁の穴は放置出来ない。

 

「はぁ、全滅、かぁ」

 

 慌てて引き返し、壁の穴を埋めつつ、嘆息する。洞窟は、横棒の多いアルファベットの「F」の様に僕が掘った通路の縦棒と平行に走っていた。鉱物を求めて掘った横道は、延長すれば全てがあの洞窟と貫通するだろう。即ち、あれ以上掘り進めない。

「溶岩の池で行き止まりになっていたっぽいし、梯子の正面から真っ直ぐ掘り進めば、少なくともあっちとくっつくことにはならないとは思うけど」

 

 とりあえず、同じ高さで洞窟が走ってることが確定した以上、油断は禁物だ。禁物だと思ったのに。

 

「あ」

 

「う゛ぉー」

 

 引き返し、三つ分岐が作れる程梯子の正面を掘り進んだ僕は壁を掘り抜き。洞窟に繋がった穴から見える、変色した肌。形容しがたい悪臭。

 

「おじゃましました」

 

 ゾンビとニアミスした訳だが、こっちに気づかれず本当に良かったと思う。

 

「あちゃーこっちも駄目かぁ」

 

 丁度丁字路になる形で洞窟とぶつかったのでもう一つの洞窟と繋がっている可能性もあるが、これはひょっとしたら潮時と言うことか。

 

「元々この拠点と坑道は出発の準備用のものだもんね」

 

 防具と道具一式、資材に食料がある程度用意出来れば、ここを離れるのだって一つの選択だ。

 

「せっかくここまで掘ったんだし、ダイヤモンドとかも欲しかったけど、欲をかくのって典型的な失敗パターンだしなぁ」

 

 少なくともハサミとバケツ、鉄のつるはしは手に入った。

 

「名残惜しいけど、ゾンビの声がする場所での作業って精神的にもくるものあるし」

 

 そろそろ農業へ移行しよう。

 

「バケツよーし、シャベルよーし」

 

 第一目標は土と水の確保。砂とサトウキビが手に入れば、紙と砂糖が作成出来出来るようになるのでなおよし、ただ。

 

「あ、羊だ。ハサミもあるし、羊毛を刈っていこうかな」

 

 ドアを開けて外に出た僕は、山をこっちに向かって登ってくる羊を見つけてしまい、羊毛の誘惑に負けた。

 

 もっとも、このまではまだいい。

 

「ふぅ、二つ目のベッドにはまだ遠いけど……え?」

 

 羊の毛を刈り終え、それを見た瞬間、第一目標を忘れた。

 

「サトウキビーっ!」

 

 以前木を切った湿地の右手、大きな湖の対岸にそれを見つけた僕はためらいなく湖に飛び込み、泳ぐ。

 

(紙が有れば、前に手に入れた皮とで本が作れる。僕の僕の日記ーっ!)

 

 そう、ねんがんのにっきにまた一歩近づけるのだ。

 

「ふふ、ふふふ……やった、対にてに入れたぞ。サトウキビと栽培用の、砂」

 

 泳ぐついでに水も汲み、がっつりとは行かないまでも土もある程度シャベルで確保した。

 

「さーて、帰って拠点内農園を……あ、羊」

 

 結果的にもう一箇所寄り道してから僕は拠点に戻り。

 

「んー、寝室と農園が同じ部屋はちょっとなぁ」

 

 地下に作るかとも考えたけれど、上り下りが面倒と言うこともあり。

 

「隣に部屋を設けるかな」

 

 その後、つるはしを振るって小部屋を作ろうとした僕は壁を堀り抜いて空を見て埋め戻し、気を取り直して土を入れる為にあしもとを掘って石炭を見つけ。

 

「石炭はひとまずスルーしよう。とりあえずは麦とカボチャを撒いて……うーん、思ったより小ぢんまりとした規模になっちゃったなぁ」

 

 おそらく、壁を堀り抜いたことで自重したからだろう。結局、サトウキビ栽培用のスペースもまだ確保出来ていないし、カボチャの種も手元に余ってしまっている。

 

「これは水を汲んできてもう一部屋、かなぁ?」

 

 ドアから外を見るとかろうじて麓におり水を汲んでくるぐらいの時間は残されていそうな明るさだった。

 

「あ、水辺に羊がいた気がするし、場合によってはもう一回くらい毛も刈れるかも」

 

 旅をするならベッドの材料は幾つか持っていた方が良い。

 

「とっとっと、っとぉ」

 

 先日は降りるのも怖かった急な傾斜を滑り降り。

 

「メェ~」

 

「あ、もう毛が生えてる」

 

 あり得ない早さで復活してる羊の毛にゲーム仕様というファンタジーを感じつつ、僕は羊の毛を刈ると、水を汲む。

 

「さ、後は戻るだけ……って、あっちが西側か」

 

 滑り降りてきた場所は登れず、迂回して中腹への登山を始めた僕は沈み始めた太陽に今更ながら方角を知る。

 

「はぁ、ただいま~。割とギリギリだったぽいなぁ」

 

 綺麗な夕焼けに目を奪われている余裕もなく、再び拠点に戻った僕は地下に降りる階段の向こうにもう一部屋設け。

 

「ふぅ、サトウキビ栽培部屋も完成っと……あ、雨か」

 

 揺れるたいまつの明かりに照らされながら地面を叩く雨と遠くに見える夜の闇を見つめ、腹を満たす為持っていた牛のステーキを食べ始めるのだった。

 

 




ステーキを食べた後、主人公は寝た模様。

尚、地下での作業の間に次の日になってしまい、二日分になってる可能性があるので今回はサブタイトルに「?」つけておきました。

そして、以下が拠点1階の構造になります。

拠点1F(壁に設置したたいまつは非描写)

  扉
□□□□箱箱
□□□□□□ □麦麦
□□□竈作□ カ□□
□□火□□□ □ カ□
□□□□□□□□水カ□
□寝台□□□ カ路カ□
□□□□□□ □ □
   □□□ □灰麦
下への階段□
     □
   □カ□カ□
   □□火□□
    水 路
   □サササ□


作:作業台
火:たいまつ
カ:カボチャ
灰:石炭
サ:サトウキビ


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・五日目

あらかじめ前書きで書いておきますが、今回は短いです。

一日分を一話にしている為、一日の内容で文章量が変わるのです。

どうぞご理解ください。




 

「ふぁあ」

 

 あくびを噛み殺してベッドから起きた僕は、ドアから外に出てみた。

 

「あ、匠」

 

 左手の湿地に隣接した丘に見えるは緑の自爆魔が二匹。

 

「とりあえず、あっちには行かないとして、今日はどうしようなぁ」

 

 高い場所に登って周辺の地形を把握するか、それとも。

 

「とりあえず、山の山頂に登ってみよっか」

 

 何か発見が有れば、遠出してみるのも良いし、山頂にたいまつでも置いておけば、少し遠出した時の目印にもなるはずだ。

 

「んー、山の形を壊すのはちょっと申し訳なくも感じるけど」

 

 登れない場所は削って道を作る。以前石炭を掘った場所まではもうそんな必要もなかったが、更に上はそんなことも言ってられず。

 

「ふぅ、ようやく山頂だぁ。わぁ、良い眺め」

 

 これですぐに村が見つかってくれたらいいな、なんて考えつつ僕は辺りを見回し。

 

「まぁ早々都合良く人工ぶ……え゛っ」

 

 人工物なんて見つからないと思ったにも関わらず、視界に入ってきたのは、明らかに人の手が加わった何か。

 

「村? いや、あれは――」

 

 まだちょっと距離があるから自信がないが、僕の記憶が確かならそれは、砂漠の神殿。

 

「地下に爆破トラップ床つきの宝物庫があるんだっけ」

 

 知らずに色が違う床を怪しみつつも踏んで、爆発に巻き込まれたのはほろ苦い思い出だ。

 

「けど、あの時と違って中には魔物も居るかもしれないよね」

 

 探検した時は難易度を敵が出なくなるところまで下げていたのでモンスターとは出くわさなかったが、吹き抜けの二階や隠し部屋である宝物庫の有る部屋の左右にある通路など、明かりがないなら魔物が湧いていても不思議でない厄介な場所は多い。

 

「うーん、宝物は魅力的なんだけどなぁ、モノによっては」

 

 個人的に欲しいのは、道具や武器防具に特殊な効果をエンチャントする本。神殿で手にはいるかまでは覚えていないが。

 

「とりあえず、目印を設置して……あ」

 

 自分の背丈程の短い石柱を山頂に立て、上と四方にたいまつを飾ると手持ちのたいまつが尽きた。

 

「また作らないとなぁ……ん、あー、あの森っぽいところに出来た開けた場所、作業台が有るや。あそこがスタート地点か。あれ? あっちにも野生のカボチャがなってる……けど、一応まだ種も残ってるし」

 

 砂漠の神殿と同じぐらいかもう少し離れた場所には草原とサバンナも見えたが、これはこれでどちらに行くか迷う。

 

「……とか言っておいて結局こうなるんだよね」

 

 種はあってもカボチャは多くても困らないと僕はカボチャを採りに山を下り、ついでに木を二本伐採、中腹に戻る道すがら近くに残っていた石炭の露出した場所を掘って石炭を補充。最終的に拠点へと戻ってきた。

 

「えーと、まずたいまつの補充と……あ、サトウキビがちょっと伸びてる。刈り取って、空いてるところに植えとこ」

 

 ついでに山頂へたいまつを設置しに行った時に少しだけ回収しておいた雪をチェストに放り込み。

 

「あ、羊肉も焼いておこう……肉が腐らないのっていいよね、うん」

 

 ゾンビの死肉は例外だ。あれは最初から腐ってるし。

 

「さー、次は何を……あ」

 

 明るいからもう少し何か出来るんじゃないかと、ドアの外に出て太陽を探すと、今まさに西の山に太陽が着地しようとしているところで。

 

「時間切れ、かぁ」

 

 ロスタイムだと出かけて戻る前に日が沈み、窮地に陥る気はさらさらない。

 

「村とか溶岩の池みたいに自分から光を発してる場所は夜の方が見つけやすいんだけど、湧き潰ししてない山頂に今から行くのは危険だしなぁ」

 

 資材はあるから、夜が明けてから山頂に敵の侵入出来ない展望台を建設する事は不可能じゃない。

 

「もっとも、昼とはいえ周辺は一度見てるんだよね。……展望台作ってあれ以上の発見があるかどうか……」

 

 それなら、山頂から見た中で一番遠い高山に登ってそっちに展望台を作った方が新しい発見はある気がする。

 

「ただ、今日はもう日が沈むし、とりあえずこの拠点の改良、かな」

 

 出来れば内部で木材を育成する部屋が作りたい。

 

「んー、高さが要るから作るならやっぱ、階段を下りたここだよね」

 

 木が生長する分のマージンを考えると、寝室と同じ高さで作るのは拙かった。

 

「んー、一本目のスペースはだいたいこんな……あ、石炭」

 

 山の中をくりぬいたからか、嬉しい資材との出会いはこんな所にも転がっていて。

 

「うわー、思ったより高いわ。土を積んで足場作らなきゃ」

 

 けっこうリーチが有るはずのつるはしでも下の方の石炭にしか届かない状況に、僕は荷物を漁って苗木用に持ってきた土ブロックの残りを取り出し、石の上に積んだ。

 

「あー、壁面の上の方にもあるのか。こっちは壁に足場を掘って埋め戻しておけば良いかな。あ、苗木の育成用にたいまつも設置しとかないと」

 

 想定外の所で作業も増えてしまったが、収穫があると思うとそう苦にもならない。

 

「ふー、回収完了。さてと、今日はこのぐらいで……って、やばっ、空が白み始めてる」

 

 チラッと見えた屋内農園にカボチャが見えたが、気にしていたら寝はぐれる。

 

「おやすみなさーい」

 

 慌ててベッドに潜り込んだ僕はすぐに目を閉じた。

 

 




短めなのでまさかの連続投稿。

次回、五日目。


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・六日目

ああ、そうだ。

このプレイで使用してるシード値晒しておきますね。

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「さてと、カボチャの回収と……あーっ、麦が実ってる」

 

 麦の方は小麦が回収出来そうなのが三つ種をまいた内の一つだけだったが、農園の中のカボチャは複数。

 

「このカボチャはランタンにしよっと、それからこの農園ももうちょっと広くしたいよね……あっ」

 

 青空が何度か覗いたのは、きっと仕方ないと思う。

 

「んー、ここも拡張限界なのかな」

 

 やはり、巣立ちの時は近づいているのか。

 

「とりあえず、出城じゃなくて、移動用の中継拠点を作る場所の目星だけでも付けとこうかな……もしくは割と安全な海に船で漕ぎ出すとか」

 

 地図はあるし、ランタンを目印にしておけば、そう遠出しない限り迷う可能性は低い。

 

「よし、とりあえず、海まで行くルートの確認をしてこよう」

 

 中腹からも海は見えるが、本格的に船出をすることをここまで考えていなかったので、海辺に降りるルートは全く未確認だった。

 

「えーと、木材はあるから先に船を作っておいても良いよね」

 

 木材なら荷物を圧迫するので樫の板を64枚チェストにぶち込んでるくらいなのだ。

 

「よーし、船完成。さー、下見だ、あ?」

 

 外に出て、下を見た僕は言葉を失う。

 

「海、案外近いわ」

 

 最初に木を切り出した湿地の横、ドアを出てすぐ右の下の方に見えた湖だと思ったモノは海の一部だったらしい。

 

「これだと、湿地と海辺の間にランタンで灯台もどきを作るか、湾みたいに陸地に食い込んできてるこの水地の出口に灯台を建てるかの二択になるよね……」

 

 外海から見る場合を考えるなら、おそらく後者一択だ。

 

「問題は建設への所要時間、かぁ」

 

 後者なら、ここに戻ってくるまでがけっこうかかってしまう。往復すればそれだけ作業時間も削られるのだ。

 

「んー、行ってから考えるかなぁ。丸石結構あるし、最悪生け贄の祭壇作れば夜もしのげるし」

 

 案じるより産むが易し。急斜面を駆け下り、相変わらず海辺に居た二匹の羊から羊毛を頂いた僕はそのまま海にダイブする。

 

「うわっ、深っ」

 

 勢い余って少し潜ってしまったが海底は深かった。あとでっかいイカが泳いでいるのも見えた。

 

「ぷはっ、灯台は……あそこの……木の生えてる所かな」

 

 せっかくだから切り倒して材木にして幹の有った場所に石の柱を立てれば、消える前の葉っぱを足場に安全に降りられるだろう。蔦も生えてることだし。

 

「はぁ、はぁ、意外に遠かった」

 

 湾の一番広いところを縦断したのだから、呼吸が荒くなるのも仕方ないと思うが、こんなに泳いだのは、サトウキビを採りに行った時以来だ。

 

「……うん、よく考えたら泳がなくても船、と言うかボートあったよね」

 

 だから、木に斧を入れるまで作った船のことを忘れていたのは仕方ないと思うの。

 

「ちくせう、こうなったらこのまま海に出てやるっ! ボンボヤージュだーっ!」

 

 勢いとは魔物かも知れない。ボートを海に浮かべると、僕は地図を片手にまず陸地にそいながら左手側に梶を切り。

 

「早っ、凄っ、んー、やっぱり移動は船だなぁ」

 

 飛ぶように流れる風景。殆ど空白だった地図が時間を代償にしてどんどん埋まって行く。

 

「へぇ、ここも湾になってるんだ。あ、あっちには洞窟がある……けど、人工物は皆無、っと」

 

 時折陸の近くに浮いている睡蓮の葉や泳いでいるイカとの接触事故を避けつつ、僕は船を進ませ。

 

「あ」

 

 夢中で進んでいたツケは遅れてやって来た。

 

「太陽が、もうあんなとこまで……」

 

 夕暮れ、タイムリミットと言い換えることも出来る。

 

「今から陸地に戻って安全地帯を作るのは難しいよな」

 

 海の上なら海底神殿の付近以外に魔物は居らず、この場合、陸地を離れて船上で夜明けを待った方が安全であるとゲーム上の経験で僕は知っている。

 

「うーん、魔物に襲われにくいのを利用して夜通し船を走らせて地図を埋めるのも手なんだけど」

 

 障害物に気づきにくい夜は座礁や浮遊物との接触事故によって船を壊し、海に投げ出される危険性も増大する。

 

「くっ、悩ましい」

 

 暫しオレンジ色の光に染められつつ唸った僕は、結局夜の海を船で進むことにした。いや、引き返すと言った方が正しいか。まだ船で乗り入れ可能な水地は残っていたモノの、陸地の近い明らかな川で魔物の湧く夜の侵入は躊躇われたのだ。

 

「問題ない、問題ない」

 

 それでも念を入れ、陸地からは相応に離れて船を進めつつ、呪文のように繰り返す。

 

「問題……あ」

 

 そして、どれ程進んだことだろう。僕の視界に二点の明かりが見えた。

 

「あれは」

 

 一つは言わずと知れた石柱にカボチャランタンをのっけただけの灯台。そしてもう一つは。

 

「たいまつもあれだけ一箇所に集めると明るいなぁ」

 

 そう、山の頂上に設置した目印の明かりだった。

 

「戻って、来たんだ」

 

 まだ夜は明けず、魔物が跋扈する陸地にあがる事は能わなかったが、数日かけてよりよい住処に仕様と努力した場所がそこにはある。

 

「え? 中腹の湧き潰し?」

 

 海から見ると山を挟んで反対側の斜面ですが、何か。

 

「それはそれとして――」

 

 夜明けまでにはまだ時間がある。今日の航海で地図も右下の四分の一強が埋まったが、入り江を出て右側はまだ船を進めてない場所であり。

 

「海が埋まるだけでも今後の行動指針になるからなぁ」

 

 ただ朝を待つより、地図を埋めるべし。僕は入り江に向いていた船首を左手に向ける。

 

「行こう、新たな発見を探しに」

 

 むろん、安全第一出だが、僕はこの決断をすぐに後悔することになる。

 

「あ、エンダーマンだ。あいつとは目を合わせないようにしないと……って、げっ、魔女まで」

 

 真っ黒な細身ののっぽは普段ブロックを勝手に動かし一人遊びをしているが、目を合わせると敵対して襲いかかってくる瞬間移動能力を持った強敵。魔女は遠くから様々な効果を持つポーションを投げてくる厄介な敵。気づけば広い川のように左右に陸地のある地形に進んだ船は厄介なモンスターの居る陸地に挟まれた。

 

「ポーション投げの射程ってどれぐらいなんだろ」

 

 水に隔てられ直接攻撃は届かないが、間接攻撃なら当たったっておかしくはない。

 

「もう少し、距離を置いて……って、あ、これは」

 

 魔女の居る岸から離れつつ、一方でエンダーマンの居る側の岸とも接触しないようにしなくてはと振り向いた俺の目に飛び込んできたのは、四角い建造物と、ピラミッドの様なモノ。

 

「砂漠の神殿、ここだったんだ」

 

 思ったより水辺に近かったその建造物はこのまま船を寄せれば辿り着くのも容易だ。

 

「探索する気ゼロだったんだけどな」

 

 近くまで来てしまうと少し迷う。

 

「うん、今は保留で」

 

 一応、船はまだ先に進めるし、日が昇る兆しもまだない。帰るにしろ探索するにしろ、太陽が出るまで上陸は無理なのだ。

 

「もっとも、川幅が狭いからこの先に海が広がってるってのは期待薄だけどね」

 

 反対側は最後に入り江になっていて、僕はそこで引き返した。だから、海だと思ったら結局でっかい湖だったってオチは充分考えられて。

 

「あー」

 

 案の定だった。いや、正確には川らしきモノは続いては居た。だが、座礁必須の極細の川へと変わっており、船で進むのはまず無理だろう。

 

「はぁ、船上で月でも見るか」

 

 もしくは岸に居る魔物を眺めるか。

 

「おー、スケルトンが狼に追い回されてる」

 

 結局後者を選んだ僕の視界の中で、弓を持った人骨はたまらず水に飛び込み、狼が後を追って飛び込む。

 

「あっちゃー。水に浸かってると日光浴びても死ななくなるんだよなぁ、しかも飛び込んだ場所、何気に神殿の前だし」

 

 これでは、朝になっても神殿への上陸は難しい。

 

「狼に期待しようにも水の中じゃ思うように進めないみたいだし」

 

 嘆息しつつ、空を仰げば月はまだ真上にあり。

 

「早すぎるのも考え物かぁ。こっち来るって決めてから殆ど時間経過してないんだ……」

 

 こうなってはお月様見物くらいしかすることがない。

 

「しっかし、船の機動力を活かして村を探すって案もこれでおしまい、か」

 

 右下中心にかなり地図は埋まったが、左上は山頂から見た限り陸地であり、船は使えない。

 

「その陸地の向こうに海がある可能性までは否めないけど……ん? って、ちょ」

 

 のんびり考えていたら何時の間にやって来たのか船縁にふれそうな場所にスライムが浮かんでいて。

 

「何でスライムが泳げるんだーっ!」

 

 慌てて逃げ出した僕が以前木を切った湿地にたどり着くと、いつの間にか朝日が昇り始めていた。

 

 




次回、七日目ってもう一週間かぁ。



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・七日目

 

「ふぅ、懐かしの我が家だーっ」

 

 ここまで来たなら寄っていかない理由はない。僕は湿地を横切り、拠点へとたどり着いた。

 

「んー、地図の空白地帯は……うわぁ、みんな森林かぁ」

 

 森林には村があることがない上に木々が茂っている為に視界も不良。地図を埋めるという目的だけなら実入りの少ない冒険になると語る景色に少しげんなりとする。

 

「とは言っても、二枚目の地図を作るにはサトウキビが足りないし」

 

 他に出来そうなこともない。

 

「あの森の向こうに、有益な発見があると願って――」

 

 僕はりんごを囓り、再び旅に出る。

 

「太陽は真上よりまだ東側。いけるっ」

 

 山を駆け下り、出くわした羊の毛を刈り。左手に洞窟の入り口を見つけたがスルーして前へ。池を見かけバケツに水が残ってる事を確認してから、前へ。

 

「あ、助かった、丘がある」

 

 ひたすら真っ直ぐ進んでいても、視界の悪さに辟易したところで右手の方にあった丘は周辺の地形確認にはもってこいで。

 

「あ、ちっさい平原がある……けど、もの凄く無意味だ、これ」

 

 むしろ気になったのは正面と左手の山。

 

「まず正面の山に登ろう。あれだけ大きければ周囲を見渡せるはずっとぉ?!」

 

 そして、先に進もうとした僕の前方には地面がなかった。

 

「洞窟の入り口? よく見ればあちこちに」

 

「「メェ~」」

 

 虫食いのような地面の森に響くのは羊たちの声。しっかり羊毛を頂いてから僕は山の麓に辿り着き。

 

「うぐっ、勾配が急すぎる……しかも中腹に洞窟の入り口とか」

 

 魔物と鉢合わせしませんようにと願いつつ僕は右回りで迂回しつつ登り。

 

「足場がなければ継ぎ足して……うん、いける」

 

 階段状に山肌を削ってとった土のブロックを配置し、上へ上へ。

 

「やったぁ! ついに頂上だーっ!」

 

 山頂からの眺めは、格別だった。ただ。

 

「あ、やばっ」

 

 西の空は綺麗な茜色。

 

「これは、生け贄の祭壇しかないなぁ」

 

 棒状にブロックを積み上げ、その上にサラのように平たい足場を作ることで蜘蛛などの垂直の壁も登ってくる魔物からさえ身を守れるお手軽安全地帯、それが生け贄の祭壇だ。名前の由来はまるで自分が捧げモノにされてるようなビジュアルからだろう。ぶっちゃけ、正確なところは知らず、攻略サイトだったか攻略記事だったかの受け売りなのだが。

 

「トン、トン、トン、トトトト、トン、トン、トン、トト」

 

 ブロックを積む時、何故かリズムをとってしまうのは僕だけだろうか。

 

「出来たぁ! うわぁ……」

 

 祭壇が完成し、安全を確保した僕が顔を上げると、視界一杯に綺麗な夕暮れが広がり。

 

「んー、拠点じゃ味わえない贅沢だよね、こういうの」

 

 持ってきた焼き羊肉を頬ばりながら足下にたいまつを立てた。

 

「さーて、食事も終わったところでここからどうするか」

 

 道すがら羊毛を頂いてきたので、この祭壇を拡張してベッドを作れば朝までぐっすり寝ることが出来る。雪が積もるような山頂の更に上で、上半身に雲が届いたりする高さでもかまわないならば、だが。

 

「うーん、作業台作って、資材から道具を作りつつこの後どっちに進むかを決めておいた方が良いのかな」

 

 夜とは言え、足下に気をつけさえすれば、安全で眺めの良い場所なのだ。

 

「って、え?」

 

 そんな夜の世界を白いモノが横切った。

 

「あ、うわぁ……」

 

 空を仰げばキラキラとたいまつの明かりに輝く雪の結晶が僕を包む。

 

「綺麗だな……」

 

 代償として遠くは見づらくなったが、思わず見とれてしまう。

 

「んー、この状況じゃはっきり見えるのは北と更に東北東にある溶岩の池くらい、かぁ」

 

 双方を見に行くと直進から右斜め前に方向転換する必要があるが、地図の北東部分には未到達エリアがかなり広がっている。

 

「あっちを大まかに埋めて、帰りは船で戻ってくれば、この地図で描ききれる部分はだいたい見たか通った事になるし」

 

 目印に使うカボチャのランタンも個数はあまりない。ぐるっと一回りしたらあの屋内農園でカボチャを回収して作る必要だってある。

 

「じゃ、朝になったらバケツの水を使って滝を作って、流れに乗って下まで降りよっかな」

 

 台座を壊して降りるのは忍びないし、支柱にカボチャランタンを組み込んであるので、残しておけば目印くらいにはなるだろう。

 

「問題は、バケツの水が出したら凍ったってオチがつかないか、だ」

 

 以前、この手の緊急避難場所から降りようとした時、実際にあった話である。

 

「どっちにしても夜明け待ちだけどね」

 

 視界の端に緑の匠(クリーパー)がちょろちょろしてる夜の山頂に何も考えず降り立つつもりはない。

 

「雪でも投げてみるか。トゥ! へアーッ! あ、外れた」

 

 台座を作る時にシャベルで削った雪を使って作った雪玉は割と見当外れな場所に落ち。

 

「っぷ、視界が……」

 

 今度は台座の先端が灰色の雲に突っ込んで視界が更に悪くなる。

 

「だーっ! これじゃ、朝までどれぐらいかかるかもわからないじゃないか!」

 

 おまけに寒いし。

 

「……たいまつの火であたたまろう。ついでに資材の確認も。えーと、丸石があと296。樫の板が127枚、石炭が149、羊毛が26に鉄のインゴットが12個……あ」

 

 資材を数えていたら、空が白みを帯び、東の空が赤く染まり出す。

 

「もう、朝かぁ」

 

 結局徹夜をしてしまった。

 

「せめて次の日没は、ベッドのある場所で迎えたいな」

 

 羊毛はあるのだ。ささやかな願いと共に日付は翌日にうつるのだった。

 




書き貯めストック分。

やー、村は見つかりませんねー。

主人公の冒険は続きます。

次回、八日目。


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・八日目

 

「と、言う訳で急流下りのお時間です」

 

 水に落ちれば落下ダメージはゼロ、滝の流れに便乗することで安全に早く山を下りられると有って、僕は他の下山方法を全く考えなかった。

 

「やー、持つべきモノは水入りのバケツだよね」

 

 農業にも使える他、こういう時、高所から安全に降りる為の道具にだってなる。ただし、現実では通用しないのでよい子は真似をしないように。

 

「んー、匠が居座ってるのが気にかかるけど、ままよ。ってうぷっ、また雲ーっ」

 

 何故、敢行しようとすると邪魔が入るのか。視界を遮られ、急流下りの開始は遅延を余儀なくされ。

 

「はぁ、今度こそ。よし、水も凍らない」

 

 今度こそ機は訪れた。生憎の雪天だが、予定にこれ以上の変更は無し。

 

「ひゃっほーっ!」

 

 恐れるモノは何もない。

 

「あ、何処か水辺でバケツの水だけは補給しなきゃ」

 

 一つ為すべき事を思いつきはしたが、最初の溶岩までは祭壇から見た限り一直線。

 

「さて、急流下りはここまで、かな」

 

 途中、高低差で流れが右に曲がった為、僕は麓近くで流れからはずれ、地図を片手に森林地帯を突っ走る。

 

「池だ、水ぅ」

 

 途中で走りながら池にバケツを突っ込み、水を補充しながら。

 

「とりあえず水は回収……したけど、また洞窟多数ですか」

 

 走ってる僕からすると、地面の亀裂や穴はそれだけで危険な落とし穴だ。

 

「モー」

 

 魔物が襲いかからない牛だけはのんびり天井の崩れた洞窟が作り出した大地の亀裂の底を歩いているが、僕にはとても真似出来ない。

 

「んー、それはさておき、そろそろの筈だよね。あっ」

 

 僕がそれを見つけたのと目印を見つけたのは同時。

 

「カボチャだーっ!」

 

 ランタン材料の補充が出来る。僕は溶岩の池などそっちのけでカボチャへと突撃する。

 

「凄い、かなりの量がある」

 

 嬉々として斧でカボチャを収穫して行く。

 

「さてと、ここから東北東だったよね? よーし」

 

 何となく周辺が暗くなってきた気がして、僕は少し焦りつつ道を往く。

 

(雪が雨に変わっただけだからなー)

 

 太陽が見えないので正確な時間がわからず、焦りを募らせる。

 

「あ、ここにもカボチャ」

 

 まぁ、物欲の誘惑にはあっさり負けるのだが。

 

「ふぅ、回収完了……って、あれーおっかしーなぁ」

 

 距離的にはだいたいkの辺りだと目星を付けたところまで進んできたと思うのだが、二つ目の溶岩の池はなく。

 

「あ」

 

 地図を見て気づいた。

 

「真東に来ちゃってる……そっか、カボチャに釣られて……」

 

 ついでに言うなら、二つ目の溶岩溜まりは地図から北に見切れた位置になりそうで。

 

「はぁ、仕方ない」

 

 カボチャの近くに池を見つけた僕は池の中に入ると池底に丸石を置いた。

 

「池の中央なら、落ちても死なないはず」

 

 近くに高い山はあるが、登っている時間があるかはわからない。資材をかなり浪費することを覚悟で、僕は二つ目の祭壇を築き始めた。

 

「出来た……っと、まだ暗くならない、ってことは――」

 

 暗くなったというのは僕の勘違いだったのか。

 

「うわー、やんなくてもいい作業をーっ」

 

 大ポカだった。

 

「はぁ」

 

 思わず、ため息も出る。

 

「覆水盆に返らず……降りたら登ってこられないし、今日はここで今後の方針でも考えるかなぁ」

 

 これまでの誤算一つ目は、二つ目の溶岩溜まりが地図の外にあること。

 

「もう、あっちはスルーするとして、地図を見る限りだと、東に地図で表示出来るところまで行ききってから、当初の予定通りに船で帰ってくるルートが無難、か」

 

 呟きつつ作業台を作って支柱の一番上、床と一体化してる部分をつるはしで砕いて埋め込む。

 

「んー、カボチャは全部ランタンにして荷物枠の圧縮……って、持ち物どうこうまでゲーム仕様なんだな、考えてみると」

 

 そうでなければ資材の重みで今頃潰れているので、ありがたくはあるのだけれど。

 

「ほんとうにどうなってるんだろう、この世界」

 

 ここはゲームの中なのか、それとも。一人だからこそ、考えてしまう。

 

「やっぱり、人恋しいなぁ」

 

 ひとりは、さみしい。

 

「あー、たいまつも補充しないと。それから、つるはしも折れそうだから次のを作っ……て?」

 

 紛らわす為、延々と作業をしていた僕は、いつしか身体を濡らすモノが上から落ちてこなくなっていたことに気づいた。

 

「雨、止んでる……けど、太陽は……あ」

 

 空を仰ぎ、そのまま視線を西にスライドさせれば、そこに存在する茜色。

 

「あー、何だかんだで日没、かぁ」

 

 決めていたことだが、今晩はここで過ごすことになりそうだ。

 

「雨が止んだなら、足場を広げてベッドを置こうかな?」

 

 作るモノは作ってしまった。

 

「うん、そうしよう。羊毛はあるし」

 

 願わくは寝ぼけて池に落ちませんように。

 

「完成、おやすみなさーい」

 

 まだオレンジの残る西の空、ちょっと贅沢かなと思いつつ僕は目を閉じた。

 

 




短くて済みませぬ。

ポカで時間を無駄にしたのが拙かったですね。

特筆することも無かったので、中途半端な感じに。

次回、九日目。


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・九日目

 

「さー、今日こそは距離を稼ぐぞー!」

 

 祭壇を広げたせいで池に落ちられず墜落死ってオチを避ける為、祭壇からまた滝を作って僕は下に降りる。しかもそこが池なので水の補充は簡単だ。正面にも湖があることだし。

 

「あ、サトウキビ」

 

 地図からは外れるものの、湖畔にサトウキビを見つけた僕はフラフラっと寄り道し。

 

「うわぁ、微妙に登りかぁ。しかも森だし」

 

 木々に邪魔をされつつ何とか森林を抜ければ、お次は谷。

 

「洞窟の入り口も見えるし、地図から外れるけど北に迂回しよう」

 

 谷の先に見える雪の積もった山が次の目的地だ、もっとも。

 

「迂回したら中腹に洞窟の入り口があるとか」

 

 出来れば山に登って周囲を見回したいが、ここで魔物と出くわすと拙い。右手はけっこう急傾斜の谷なのだ。しかも洞窟の入り口つき。

 

「んー、迂回をこれ以上すると完全に地図から外れるし、やむを得ない」

 

 どうか魔物と遭遇しませんように。

 

「よし」

 

 フラグ臭くあるなと思いちょっと警戒したが、入り口の上に登って念のために直進。

 

「うん、反対側から登――」

 

 大事をとったつもりが、そこにはまた洞窟の入り口が。

 

「ちくしょーっ!」

 

 魔物は居なかったが慌てて引き返し、頂上に登るべくつるはしで岩肌を崩して足場を作る。

 

「あ」

 

 昨日壊れそうと評したつるはしが逝った。

 

「ありがとう、さようなら……」

 

 壊れた道具に感謝の気持ちを抱き。

 

「あ、石炭。うん、たいまつ作って減ってるし、補充ぐらいしても良いよね?」

 

 たぶんちょっと欲を出したのが拙かったのだろう。

 

「おっけー、さ、あとは登るだ、けぇ?」

 

 石の階段を絶壁に作り、回り込んで登った先に待ち受けていたのはぽっかり口を開けた洞窟。

 

「ちょ、何でーっ?!」

 

 慌てて引き返し、足下に石を積む。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、あ……」

 

 今度こそ辿り着いた山頂。そこから眺める景色にあったのは。

 

「海だ。あと、カボチャ」

 

 ただ、前回の船旅があるからこそ知っている。この海が拠点のちかくにあったあの水辺に繋がっている可能性は低いと。

 

「とりあえず、目印、次はバケツの水で降りてカボチャの回収かな」

 

 カボチャランタンはいいものだ。明るいし、通常のカボチャ同様にゴーレムの頭部パーツにも使える。

 

「ひゃっほー!」

 

 そして僕は山を流れ落ちる。

 

「あ」

 

何だか水の大半が洞窟の入り口の上に落ち、中に注ぎ込まれて行くのが見えたが、この状況ではどうしようもない。

 

「しーらない、っと」

 

 どうせ溺れる者が居たとしても魔物だ。

 

「それよりカボチャだ! カボ……って、遠っ」

 

 山頂から見た時はそんなに離れているように感じなかったと言うのに、地図で見ると山から明らかに東北へ地図を突き抜けた位置にその群生地はあり。

 

「はぁ、けっこうな寄り道になっちゃった。えーと、地図を見る限り、北東の端は海を渡った島のもう一つ先の島辺りかな」

 

 最も南の端がギリギリ引っかかるぐらいだが、手前の島には嫌な感じがする。

 

「感じというかこんもり盛り上がってていかにも洞窟有りそうだし、奥の島の方が視界開けてるからなんだけど」

 

 おそらく、今日の冒険はあの島で終わりになるだろう。気づけば、太陽がかなり陸地に近い。

 

「んー、ボートは回収めんどくさいし、泳ごう……」

 

 距離だってそんなにない。僕は海に飛び込むと、すぐに一つ目の島に上陸し。

 

「わ、予想通りか」

 

 右手に見えたのは、洞窟の入り口。当然ながらそのままスルーして先に進む。

 

「再びだーいぶっ!」

 

 僕は誰に言っているのか。焦りから来る現実逃避か。ともあれ、何事もなく目的地には着いた。誤算があったのは、別のこと。

 

「んー、地図によると……あ、島の先っぽが入ると思ったら、これ海から生えた木がギリギリはいるくらいだ」

 

 とは言え、もう日は暮れていて、時間はない。

 

「今日は木の上が寝床かな」

 

 樹上の葉を取り払って丸石を敷き詰め、たいまつを置けば、一晩過ごすだけの場所としては充分だ。

 

「ふー、ちょっと凝りすぎたかな」

 

 出来上がったのはランタンを二つ、たいまつを二本灯した石造りなオープンすぎる樹上の寝室。

 

「おやすみなさーい」

 

 あまり大声では下をうろついてる匠に気づかれる。誰に出もなく小声で言い、僕は目を閉じた。

 

 




くっ、戦闘も大きな発見もないとここまで短くなるのか……。

うーむ。

次回、十日目に続きます。



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・十日目

「さて、海辺でで日光大嫌い体操をしてる腐乱死体はスルーして、船出しよう」

 

 ボートは荷物から引っ張り出してきた。

 

 匠はこの木の側から離れているので、チャンスだった。

 

「いっくぞー!」

 

 まずは海にダイブ。

 

「ぷはっ」

 

 顔を出すと、近くの蓮の葉に登り船を浮かべて乗り込む。濡れてしまったが陸地に魔物が残っているのだから贅沢は言っていられない。

 

「よし、出航ーっ!」

 

 船に乗って漕ぐと景色が飛ぶように流れ出す。

 

「あー、これって半分以上が地図の外だなぁ……と、蓮の葉には注意しないと」

 

 地図を片手に明らかな脇見運転をしつつ、先に。

 

「地図に載る範囲にも水辺はあるけど、これってどう見ても入り江だよね……まぁ、いいか」

 

 付近の陸地の偵察にもなる僕はまず推定入り江に船首を向けると、点在する蓮の葉に気をつけながら船を進めた。

 

「すっごい、案の定……ん? けど、これって」

 

 入り江と言うより繋がった複数の島で海が切り取られているのに近いように見えた僕は、陸地を回り込んでみる。

 

「あ、キノコの生えた牛が居る……って言うか、あったなぁ、こういうキノコ地形」

 

 見えてきたのは割と珍しい地形と、その先に自身の推測の答え。

 

「ふぅん、やっぱ予想通りか……んー、ダイブ埋まってきたけど中央に未踏破残っちゃったなー」

 

 山の上から見る限り収穫のなさそうな森林地帯に見えたのだが、少し迷い。

 

「うん、スルーしよう。船を出したりしまったりとか面倒だし」

 

 まだ東南方面も残っている。

 

「船に乗ってるんだから、今の内に地図内の海は制覇しておくべきだよね」

 

 自分を納得させつつ、僕は南下し。

 

「えーっと、今見えてるのがこの南東にある雪に覆われた大陸……えっ?」

 

 当たり前なのにデジャヴを感じて地図をよく見る。そして。

 

「これは、ひょっとして、ひょっとする?」

 

 僕は顔をしかめながら地図を頼りに船を進めた。

 

「うあーっ、しまったぁぁぁ」

 

 やがて明るみに出た僕のミス。

 

「ここ、ギリギリ通れるじゃん! あー、やっぱ、湖じゃなくて繋がってたんだ」

 

 夜だから雪の積もった地面か何かとと見間違えたんだろう。半分以上を半月刀のような形の氷が塞ぐ形になっていたが、最初に船旅をした場所と繋がる場所を今更発見して僕は頭を抱えた。

 

「予定が大幅にずれた……」

 

 まぁ、東側へ赴くのに船で時間短縮出来ると考えれば吉報でもあるのだろうが。

 

「帰ろう」

 

 まだ今なら飛ばせば、日没までにギリギリ間に合う。目的地は、中腹のあの拠点。

 

「サトウキビも途中で確保したし、レッドストーンは鉱脈が手つかずで残ってる」

 

 二枚目の地図を作れば、東の海を更に先へ進んでも戻ってこられる。

 

「徹夜は拙いけど、地図の範囲に村はなさそうだもんな」

 

 だったら、二枚目の地図に突入するより他、ない。

 

「ゲームだと主人公の周囲一定範囲より遠くの世界は時間凍結されてるらしいけど」

 

 そこまでこの世界がゲームに忠実かどうかはわからない。それでも、危険な環境に置かれてるのなら、何とかしたいと思う。

 

(まぁ、一番は僕が人恋しいから何だけどさ)

 

 たかが一枚の地図に書ききれる範囲の冒険が空振りだったことぐらい何だ。

 

「諦めるには早すぎるよね」

 

 小さなスライムがぷかぷか浮く海を往きながらいつの間にか見えだした石柱とカボチャランタンの灯台に呟く。徐々に暗くなって行く景色の中、僕のボートは灯台の横を抜けて、入り江へと。

 

「あ、まだ毛が生えてないんだ」

 

 水辺を泳ぐ毛なしの羊を見て水に落ちたら仕方ないかと思ってから、気づく。

 

「……そんな、長い時間泳いでたら普通溺れるよなぁ。って、ことは……」

 

 やはり僕が離れたことで時間が止まっていたのか。

 

「少しだけ、気が楽になったかも」

 

 推測が事実なら、少なくとも僕が村を見つけられないからという理由で命を落とす村人はいないと言うことになる。

 

「だったら、後は資材を揃えて村を探すだけだよね」

 湧き潰し用のたいまつと、危険地帯を塞いだり塀を作る為の素材。木の柵なんかも揃えておくと良いかもしれない。

 

「よーし、やるぞ」

 

 考えつつも上陸し、足を動かしていたら拠点のドアは目と鼻の先で。

 

「ただいまーっ」

 

 僕はドアを開けると、そのまま屋内農園に向かう。

 

「あ、カボチャがなってる。麦も色づいてるし、サトウキビも伸びてる」

 

 嬉々として収穫し、作業箱で加工。増えるランタンと紙。

 

「次は……レッドストーンかな。鉄のつるはしは……あった。んー、エメラルドとかはどうしよう? エンチャント付きのつるはしで採掘した方がお得なんだけど、特殊効果付与するツテも品も無いんだよね」

 

 戻ってくるなら残しておいた方が良い気もする。

 

「けど、村が見つかったら、おそらくは――」

 

 少し考えて、僕は決断を下す。

 

「掘っちゃおう。帰って来ればいいやじゃ甘えになる」

 

 むしろ次の冒険で村を見つけてやるくらいの気概が無くて、どうして村を発見出来るというのか。

 

「今までありがとう」

 

 階段を、梯子を下りて採掘用の地下に赴き、感謝の気持ちを込めてつるはしを振るった。レッドストーンは思ったより多かった。

 

「ふぅ、出来た新しい地図だ……それと、本と……んー、三冊作るには紙が足りないし、レッドストーン、こんなに持ってても荷物になるかな」

 

 鉄と合わせてコンパスに圧縮するべきかもしれない。それなら旅先で紙を手に入れるだけで追加の地図も作れる。

 

「そうだよね、帰るつもりはないけど……ここにあったモノだから」

 

 余った分は置いて行こう。寝室に戻って作業台と格闘しつつ僕は物作りを始め

 

「道具も各一つあればいいや。こわれかけのモノはチェストにしまって新しいものを作り直して……あ」

 

 一通り準備を終えると、隣の部屋からカボチャがこっちを覗いていた。

「餞別、かな」

 

 収穫し、ありがとうと口にすると、ランタンを作りベッドに向かい。

 

「あれ?」

 

 途中でドアが視界に入り、気づく。既に外は明るくなっていた。

 

 




さようなら、最初の拠点

次回、十一日目


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・十一日目

 

「結局徹夜かぁ」

 

 時間の流れるのは思ったよりも早いらしい。

 

「とりあえず、ボートで地図の範囲の外に、かな」

 

 二枚目の地図がある今、東の海に赴く支障はない。

 

「行ってきます」

 

 ドアをくぐる時の挨拶に帰るつもりはないのにと苦笑。斜面を滑り落ちて、水辺で日光嫌だジャンプをしていたゾンビの頭を斧でかち割る。

 

「あー、腐肉かぁ。荷物一杯だから今回はパスで」

 

 沈んで行くそれにもったいなさを感じたのは、纏まった数が有ればエメラルドと交換してくれる職業の村人がこの世界には存在するから。

 

「ゾンビスポナーで湧いたゾンビから腐肉を集めたりもしたなぁ」

 

 難易度変更の出来たゲームだからこその思い出だが。

 

「ま、それはそれ」

 

 ボートを取り出すと、浮かべて乗って入り江の外にGO。

 

「ふーむ、この辺も見収めかもなぁ。南の砂漠とか上陸してないから、あっちの先に村とか有ったら僕ってただの馬鹿になりかねないけどさ」

 

 方針を変更する気にもなれなかったのは、船に勢いがつきすぎていたのと岸の上陸のし辛さが原因だと思う。

 

「乗り捨てにするんじゃなきゃ浅瀬がないとなぁ」

 

 アイテムに戻したボートが沈んでゆき、回収不能になってしまうのだ。慣れない頃はよく、ボートを水底に還したものだ。別にボートは海の底から産まれてきた訳じゃないけど。

 

「有言実行、東の海に向かってよーそろー」

 

 船は飛ぶように、それで居て浮かぶ蓮の葉は避けて進み。

 

「ここからだ、よーし二枚目の地図解禁っ!」

 

 一枚目の地図の範囲を抜けたところで新品の地図を開く。

 

「さてと、地図はあるから、思うままに突っ走ってみるかな」

 

 まずは未到達地帯を減らすこと。

 

「まずは右手に曲がって逆時計回りに……って、凄っ岩山に穴が空いて海が貫通してる」

 

 所謂トンネル地形だが、船が通れそうなタイプはけっこう珍しい気がする。

 

「せっかくあんなのがあるならくぐらない手はないよね」

 

 トンネルの脇の足場に匠とか湧いて降ってくる嬉しくないサプライズとかあったら嫌だが。

 

「ふぅ、無事通過っと。次は……んーあっちの入り江は殆ど凍ってる、のかな。だとすると東に行くしかないけど……うーん、チラホラカボチャがなってるような。けど、上陸はなぁ」

 

 更に東へ行けば、正面と右手には川の出口が見え、左手は陸地が水を遮り、草原が続いている。

 

「んー」

 

 ここまでと船旅に見切りを付け上陸するか、もしくは水辺沿いに引き返すか。難しい問題だった。

 

「ん? 正面の川、思ったより川幅がある……川を辿ってみよっか」

 

 悩みつつ慣性で船が進む内、僕はそれ以外の選択肢を思いつき東へ直進。

 

「ちょっ、危なっ」

 

 何度も岸に船を接触しかけ、後悔しつつも今更後戻りなんて出来ない。

 

「ふー、怖かったぁ。何度船が壊れるかと……」

 

 何とか切り抜け、進んだボートはやがてかなり広い空間へと出る。

 

「湖、かぁ。しかも中央に小さな島がある」

 

 見晴台兼、生け贄の祭壇を作るには丁度良い立地だった。山頂で作るのと比べて資材を食うことを覗けば、だが。

 

「ここから先は下手すれば上陸しか無いかも知れないし、高い場所から周りを見ておくのも良いよね」

 

 雨で時間がわかりにくいと言うのもある。前の失敗を繰り返す事になりそうな予感はあるが、なにぶん見知らぬ土地。周辺情報は欲しかった。

 

「よいしょー、こらしょー」

 

 そして始まる建築のお時間。当然柱にはランタンを組み込む。目印、重要。

 

「わぁ、ものの見事に周辺森林。あ、東には船で行けそっかな。あはは」

 

 上から見ると東側にもこれまで抜けてきたのと同じくらいは太い川があり、自分の見落としの酷さに苦笑する。どうしてこんな川を見落とした、自分。

 

「とか言ってる間に西の空が赤く燃えてるし……日没じゃん」

 

 これはもうこの展望台で夜を明かす他ない。

 

「えーと、羊毛はまだあるはず……ってあれ? レッドストーン? あー、置いてくるつもりが間違って持って来ちゃったのか」

 

 しかも荷物確認を続けるとバケツで水も汲み忘れている。

 

「だ、大丈夫。ブロックで二つ分の島だから……祭壇の方が広いし」

 

 本当に、何をやっているんだろう。

 

(はぁ……見える限り東にちょっと草原があって後は山岳と森。完全に村とは無縁の地形だなぁ)

 

 オレンジ色に染まる世界の中、見通しの暗さも相まってため息をつくと石柱の周りに丸石をくっつけて足場を作って行く。

 

「船旅でお腹もあまり減ってないし、今日はリンゴで良いかな」

 

 個数がないのに荷物を圧迫していることもある。リンゴを食べないと作った作業台も手に持てない。

 

「東の方にちょっと明るい場所が見える気もするけど、あそこは森林だから村の筈はないし、多分溶岩溜まりか何かかな。さて」

 

 リンゴを食べ終えた俺は作業台を作ると例によって床を掘ってはめ込む。後はベッドを作成し、設置すれば寝床は完成だ。雨は止まず降り続いているけど。

 

「責めて、屋根が欲しいよね。うん、贅沢だってわかってるけど」

 

 屋根を作れば、そっちにも湧き潰しが必要になる。

 

「寝よう……おやすみ」

 

 呟きは、多分雨音にかき消された。

 




あっかーん、ストックがいつの間にか0にと言うことで纏めて予約投稿1。

あ、公開は一日一話になっております、ご理解を。

次回、十二日目


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・十二日目「容疑者は『興味本位だったという供述をしており――』」

 

「んーっ、朝だー」

 

 スケルトンが燃え始め、ゾンビが木下で日光宿りするさわやかな朝。

 

「さてと、早速船旅再開! ……と言いたいところだけど」

 

 眼下に広がる湖の中、島の端にサトウキビを見つけたのだ。

 

「革一枚余らせておいても仕方ないし」

 

 刈り取って紙を作れば、コンパスと合わせて三枚目の地図を作ることも出来るかも知れない。

 

「近くをスライムが跳ねてるのが気がかりだけど……とりあえず、泳いであの島まで行こう」

 

 船旅はその後でいい。

 

「たーっ!」

 

 飛び降り、着水。どんな高さから落ちても下に水が有れば大丈夫というのはこの世界の不思議だが、それはそれ。

 

「ぷは、んー、泳ぐのは、体力、使うなぁ。と、スケルトンが生き残ってる。あっちの岸は迂回して……っと」

 

 そこそこの距離を泳ぎ切り。

 

「ふぅ、この島のサトウキビはこれで全部かな。やー、スライムはいつの間にか消えてるし、運が良いなぁ……あ」

 

 サトウキビを回収すると川の先岸辺にもサトウキビが生えており。ついでに羊も居た。

 

「ま、あそこまでなら泳ぐか」

 

 なんて方針を変えたのが拙かったんだと思う。

 

「気が付いたら草原まで泳いで辿り着いちゃいましたよ?」

 

 だって、サトウキビ点在してるんですもの。川に二分された草原の南側にもサトウキビが岸に生えた小さな池があるし。

 

「とりあえず、作業台作って工作しておくべきかな。革が本になれば纏められるし」

 

 急に視界が開けて、どっちに行こうと迷っていたこともあり、進む以外の選択肢は考えを纏めるという意味でも良い機会だった。

 

「本できたっと。あー、これなら地図もいけそうかな。よし、二枚作っちゃおう!」

 

 手は動かし作業を進め、チラッと見上げたのは東にある高山。

 

「ふーむ、これが終わったら、あれに登るか、もしくは船、はたまた陸路……」

 

 唸りつつ悩んだ結果、僕が選んだのは船旅の継続。

 

「荷物一つ分とるボートをここまで携帯してきてるしなぁ」

 

 壊れるまでは船旅で良いと思った。

 

「うわぁ……東側は陸に遮られちゃってるし、もう一方しかないかな」

 

 だから、進んだ先で一方の川が途切れて一端船から下りるという選択肢もあったが、僕は敢えて船旅の継続を選び。

 

「って、こっちはこれか……」

 

 船が引っかかって進めない程川幅が狭くなり、やむを得ず上陸。

 

「さてと、東に行くつもりが中央に向かう形になっちゃってるけど、それよりも……ね」

 

 今晩の宿をどうするかをそろそろ決めておかないと拙い。

 

「引き返そう」

 

 このままでは南からぐるっと回る計画が崩れると見た僕は岸を走り、先程上陸を断念した川の途切れ目を乗り越えて東に。

 

「うわぁ。ひっろい草原だぁ」

 

 中央にはさっき途切れた川の続きが流れ、山岳へと続く丘に見えるのは狼に羊が襲われる光景。

 

「自然って、厳しいね」

 

 出来たら助けたいと思ったが、距離が有りすぎる。羊が襲われていた場所に辿り着いた僕が見つけたのは、羊毛と一握りの肉だけだった。

 

「荷物を減らして良かったって思うべきか……」

 

 そっと肉と毛を回収し、近くの池でバケツに水を汲む。

 

「太陽は西の空、45度ってとこかな。悩ましい」

 

 広く、視界が開けているから進みたくもなる。だが、自分を過信すれば薄暗くなった世界の中で慌てて石柱を立てるハメになるだろう。

 

「眺めの良さと目印としての意味も欲しくて、台座けっこう高い場所に作ってるからなぁ」

 

 丸石の消費も激しくなる。

 

「うーむ」

 

 進むか、寝床を準備し始めるか。

 

「進もう。ここは血なまぐさすぎる」

 

 羊を牙にかけた狼がこちらを襲ってくることはないだろうが、何かの死んだばかりの場所で寝るのは嫌だった。

 

「川があるし進むなら船だな。進路は、北に……ん?」

 

 川が常に真っ直ぐなはずはない。船旅を再開させた僕は結果的に北東に進むことになり、その先に待っていたのは、海。

 

「もしくは広い湖だけど、たぶん海だ」

 

 これで、最悪海上で夜を明かすという選択肢も出てくる。

 

「進路は北、かな。地図出ちゃうには北の方手つかずだし」

 

 船は進む。広いから自然と速度は出て、地図はどんどん埋まって行く。

 

「あー、やっぱり湖って言うよりは海かな。この調子で――」

 

 北の端までいけたら良かったのに。北に進むとどんどん狭くなり、やがて見えてきたのは細い川の入り口が幾つか。

 

「またこのパターンかぁぁぁぁ!」

 

 もう、日も沈もうとしているのに細い川を遡ろうとすれば、まず岸の魔物に襲われる。

 

「しかも、ちまい島が幾つかあって、海の上も割と安全じゃなさそうなんですが?」

 

 蜘蛛の居る島、水辺でゾンビが跳ねる島。今のところ現れたモンスターはどっちもこちらには気づいていない。

 

「や、気づいてないからずっとセーフなんて訳でもないよね?」

 

 脳内ナレーションにツッコミを入れてみる。

 

「はぁ」

 

 孤独だ。動くものなら魔物が居るが、あれはフレンドリーに会話とかをしてくれる存在ではない。

 

「こうして冒険してると、定住の良さが身に染みるなぁ」

 

 夜に、時間切れに怯えることなく過ごせるのだから。

 

「あの拠点を拡張して――」

 

 農業で自給自足出来るようになれば、生活には困らなかったと思う。

 

「だけど、それじゃ駄目だ」

 

 カボチャは話しかけても答えてくれない。スノーゴーレムだったら資材でつくれたかもしれないけど。

 

「さよならなのだ……じゃなくて、場所によっては熱や雨で自壊しちゃうしなぁ」

 

 唯一の話し相手が出来ても数日待たず居なくなってしまったら。

 

「あ、エンダーマンだ」

 

 岸辺に黒い長身を見つけ、興味本位で何げに目を合わせてみる。

 

「あー」

 

 こちらを敵と認識したか近寄ろうとしたそれは表記不可能な悲鳴をあげてテレポートする。

 

「まぁ、そうなるよなぁ」

 

 エンダーマンは水を苦手とし、触れることでダメージを負う。自分から水に飛び込む形になったなら、悲鳴をあげダメージを受けてテレポートというのもまぁ無理はない。

 

「そして、また水に落ちるとか」

 

 シュールだった。だが、敵対したのはあちらなので謝らない。こっちはちょっと見ただけなのだ。

 

「と、岸に近寄りすぎてる、離れよう」

 

 スケルトンに射られることを危惧して僕は慌てて船を操り。

 

「あ」

 

 その岸へ狼にスケルトンが追い立てられてきたのを目にする。

 

「うーん」

 

 警戒しておいて良かったのだろうか。人骨の射手(スケルトン)はそのまま狼に屠られ、倒れ。

 

「あれって絶対こっちのこと気にしてる余裕無かったよなぁ」

 

 若干モヤモヤしつつも夜の明けぬ船上の僕には岸辺ウオッチングと地図の確認ぐらいしか出来なくて。

 

「あ」

 

 そのうちに夜は明ける。僕にこの世界の過酷さを幾つか見せつけて。

 

 




 エンダーマン、海の上から視線合わせると自分から海に突っ込んでくるんですね、初めて知りました。

 視線合わせず近寄ってバケツの水ぶっかけたことならありますが。




 次回、十三日目。

 あ、サブタイの追加部分は備忘録的なモノです。他の意味はありません。


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・十三日目「村に焦がれ――」

 

「さてと、朝になったし、あの細い川を遡ってみるかなぁ」

 

 細い川と言うだけで行き止まりに出くわす予感がするが、まだ日は昇ったばかり。岸辺に匠、木下にスケルトンなんかを見てしまうと、陸路を避けたくなるのはやむを得ない心情だと思う。

 

「で、結局途中で川が細くなって進めなくなる……と」

 

 予想されたオチに嘆息する未来もちょっと今更ではある。

 

「メェ」

 

「とりあえず、悲しみのあまり羊毛刈りぃっ!」

 

 通り魔的犯行で岸にいた羊の毛を刈り取るが、深い意味はない。

 

「まぁ、川が細くても上陸すれば先に行ける訳だし」

 

 ひとまずは更に上流を目指そう。

 

「うん、西側の陸地を登った先に海なんて見えなかった」

 

 北に進んだら川が不自然に途切れて地面に埋まった渓谷の端っことくっついていたけれど、こっちもスルーだ。生えた木によって寸断された川の先に僕は進むと、再び船を浮かべる。

 

「何だか行き止まりってオチも有りそうだったけど、そんなことなかった!」

 

 岸に船縁を擦りかけてヒヤヒヤしつつも川を踏破した僕は、湖か海か、広がる水面を前に叫んだ。

 

「んー、正面にも陸というか山っぽいの見えるし、湖かなぁ?」

 

 確証はないがぶっちゃけどうでも良い。

 

「村、むら、ムラ……」

 

 僕は村が見つけたいんだ。

 

「東側の広さからすると、ここはたぶん海」

 

 西には幅の広い川。

 

「地図を埋めるなら、西かな」

 

 旅は続く、だが、独りぼっちはやっぱりこたえるモノがある。

 

「ふふ、ふふふ……脳内友人とか相棒とか作っちゃおうかなぁ? 二重人格になったら寂しくないよね?」

 

 って、いけない狂気が精神を蝕み始めている気がする。

 

「落ち着こう。落ち着かなきゃ」

 

 また羊の毛でも刈ろうか、それとも。

 

「とりあえず、進もう」

 

 もうちょっと行ったら村があるかも知れないのだから。

 

「気のせいか日も低くなってきてる気だってするし……」

 

 進んで今晩夜を明かすところについて考えるべきだ。心の冷静な場所はそう言った。

 

「わぁ、中央は西にかけて海だったんだ」

 

 だが、ボートを進めて見えてきた景色に歓声を上げつつ思ってしまった。

 

「広い海の方が魔物も居なくて安全だし、地図埋めだって出来るんじゃないか」

 

 と。

 

「……いやー勢いって怖いよね」

 

 地図にして左上の四分の一程。あっさり埋まってここ数日間が馬鹿馬鹿しくなる程だった。

 

「逆説的に何もない海原で収穫ゼロだったって事でもあるんだけど」

 

 僕は一体誰に説明しているんだろう。

 

「けど、明かりなんてモノは全くないし……え?」

 

 海だからそりゃそうだよねと思っていた僕は海の先にかなりの明るい場所があるのを見つけた。

 

「溶岩、はない。あんな高さに有るはずがない」

 

 例外は山の表面から滝のように溶岩が流れ出てるケースだが、それらしき山は見えない。

 

「やった、とうとう村が――」

 

 歓喜に打ち震えながらオールを漕ぐ。

 

「ああ、ようやく人の居る場所……に?」

 

 どんどんと近づいてきて明らかになる詳細、はっきりと目で全貌を捉えた僕の手が止まる。木の上に石で作られた床とその上にあったランタン及びたいまつ。

 

「あ、あ、あ……」

 

 紛れもない、九日目に僕が作った寝床だった。

 

「ちくしょーっ!」

 

 拳が船縁を叩く。この寝床は地図の端にに来る場所にこしらえたモノだ。最初の地図と二枚目の地図の大半を踏破したと考えれば、次は三枚目。奇しくも今居る場所は、一枚目の右上の端であり、二枚目の左上の端に当たる場所でもある。ここから北に進路をとればすぐにでも地図外に出る。

 

「三枚目、かぁ」

 

 どのみちまだ夜だ。一応、少々危険が伴うものの前方の寝床に登ると言う選択肢もあるが。

 

「行こう。明かりなら夜の方が探しやすいし」

 

 こうして僕は北に進む決意を固め、新たな地図を広げた。

 

「さぁ、新天地へ」

 

 まず船は北へ。

 

「あ」

 

 初めて見る赤土の大地に彷徨うゾンビと緑ぃ匠。

 

「その先は森があって前方に高山、かぁ」

 

 まだ夜は明けない以上、上陸という選択肢はない。

 

「砂漠、森林、さば……あの明かりは溶岩溜まりかな?」

 

 北はやがて陸地に阻まれ、僕は東へ。

 

「お次は雪原地帯ですか……って、海が凍ってる! あ」

 

 氷に遮られ引き返さざるを得ない僕の目に染みる暁の赤。

 

「もう、夜明けか」

 

 十四日目がすぐそこまで来ていた。

 

 




短くて済みませぬ。

明かりが寝床だと気づいた時は本気で凹みました。

お願いだから早く、村見つかって。

主人公一人だと間がもたない。

次回、十四日目


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・十四日目「さよなら」

 

「って言っても、船旅は変わらないんだけどね」

 

 変わったことがあるとすれば進む方角ぐらいだ。氷と島に行く手を阻まれた僕は船で海を南下し。

 

「氷無茶苦茶鬱陶しい!」

 

 島と島との間をつなぐ氷に通せんぼされ、迂回、また迂回。行く手事態は広く速度も出るので、地図は恐ろしい早さで埋まっては行く、行くのだが。

 

「この辺りは中央に大きな雪原があって一部を除いて水に囲まれてる感じかぁ……けどっ、本当に人工物ないね」

 

 動く死体(アンデッド)モンスターと魔女、そして前に見つけた砂漠の神殿の存在が無ければ人型生物が存在するのかさえ疑うぐらいに人工物は皆無だった。

 

「行き止まり、到達っと」

 

 ここまででわかったのだが、中央の氷の地形を北西が開いた「C」字に水地は取り巻いているらしい。

 

「東と北東には陸地有り、北は開けてて……海かな、これも」

 

 船だから、恐ろしい早さで地図の空白が減ってゆき、同時にちょっとめんどくさくなる。地図を付けてなければ迷子は確定、逃せない作業だとはわかっているのだが、ただ気の行くままに船を走らせられたらどんなに良いだろうかと考えてしまう。

 

「前にゲームで村見つけた時も地図のことはきっぱり忘れてひたすらあちこち船で進んだ時だったからなぁ」

 

 最初の記憶は、見張り台をどこまで高く作れるかと遊んでいた時のことだったけれど。

 

「やっぱり、未踏覇の陸地が沢山に渡せる場所にまた生け贄の祭壇でも作るべきかな……」

 

 船旅も良いが、全くと言っていい程発見がないのだ。

 

「村でなくても、雪原地帯にあるって言うイグルーでも良いんだけど」

 

 村人と村人のゾンビが隠し部屋に監禁されているというマッドな実験室完備のそこでも村人と出逢えるという点では変わらない。

 

「地図は何だかんだで下半分の半分と右上と右下残してだいたい埋まったなぁ」

 

 だいたい七割と言ったところか。そして、やはり収穫はなかった。

 

「引き返そう。南も埋めなきゃ」

 

 もはやこの地図のエリアに見切りを付けていた僕だったが、やはりああも未到破地帯が残っているとどうにも気になる。

 

「うん、考え方を変えよう。二日で地図一枚分制覇出来たならそれは今までにない快……挙?」

 

 そこまで口にして気づく。もうすっかり暗くなっていることに。

 

「やばっ」

 

 ここ数日、船の上でウトウトしたぐらいでベッドで寝ていない。

 

「じょ、上陸して寝るところ作らな――」

 

 そして、焦ったのが拙かったのだろう。視界に入ったのはもう避けられないところまで近づいた分厚い氷。

 

「しま」

 

 しまったと言い終える時間もなかった。

 

「っぶ、冷たーっ」

 

 船は壊れ、僕は水が凍る温度の水中に投げ出された。

 

「り、陸っ」 

 

 広い陸では駄目だ。上陸したとたん魔物が歓迎してくれる。

 

「あ」

 

 そう言う意味でも視線の先にたまたま小さな島を見つけられたのは運が良かったのだと思う。

 

「はぁ、はぁ、はぁ、たいまつッ!」

 

 人が二人立つのがやっとの砂地にたいまつを突き刺し、丸石を積んで柱とする。いつものアレだ。

 

「うわぁ」

 

 何とかなったという安堵よりも別の感情のこもった声が口から出てしまったのは、けっこうな高さまで積み上げて作った石柱の先から眺めた景色の中に明かりらしきモノが皆無だったことだろう。

 

「そりゃ、このエリアは駄目だって思ってたけどさ」

 

 落胆したのは事実だ。

 

「これは地図四枚目確定かぁ」

 

 ベッドを置くための足場を作り始めながらポツリと呟き、たいまつを立ててはため息をつく。あと何回こう言った屋根のない高所にベッドを設ければいいのか。足場を組み終え、石柱の天辺をくりぬき、作業台をはめ込んで、それでベッドを作る。

 

「もう、手慣れて来ちゃったなぁ、この作業も」

 

 寝床を整えたら、出来ることは寝ることと、たいまつの明かりで地図を見ること、ベッドに腰掛けて空を見上げることぐらい。

 

「夜空、か」

 

 こうして空を見上げると家族で星を見に行ったことを思い出す。

 

「街は明るすぎて、こんな星空は見られない……けど」

 

 ホームシック、だろうか。不意に浮かぶ思い出が無性に懐かしくて、星空が滲む。

 

「……寝よう」

 

 たぶん起きていても気が滅入るだけだ。それに睡眠をしっかりとっておかなければ村探しが続けられない。

 

「地図も荷物を圧迫してきてるし、次の地図のエリアで二つ目の拠点を……」

 

 ベッドに横になって横になってもつい今後のことを考えてしまい。結局、眠りにつけたのはいつのことだったか。ただ、沈み行く意識の中で、願った。村が見つかりますようにと。

 




短くて済みませぬ。

さようなら、初代ボートよ。


次回、十五日目。

次書きかけで現在の所ストックが切れてます。

ああ、続きをプレイする時間が欲しい。



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・十五日目「おけはざま」

 

「ふぁぁぁっ。んー、寝足りない」

 

 眠ったのが遅かったのだからやむを得ないとは言え、流石にまたベッドに戻る訳にはいかない。

 

「てやっ」

 

 僕は意を決すと、祭壇から飛び降りた。

 

「んぅ、冷たっ」

 

 落ちた先が雪原に面した水辺なのだ。わかってはいたがことのほか冷たく、眠気が一気に飛ぶ。

 

「さーて、本日最初の作業は資材の浪費でございます」

 

 祭壇を立てた時、丸石が二個余ってしまったのだ。持てる持ち物に余裕のない今、これを放置は出来ない。浅瀬に丸石で足場を作り、板を使って作業台をくっつけると、たいまつも立てる。

 

「さてと、お次は二代目のボートを造らないと」

 

 残った地図の未到破地帯の何割かはおそらく海。ボートの作り方がわからなかったプレイヤー時代の初期、泳いで海を渡っていたこともあったが、自前の身体であれをやるつもりはない。

 

「よーし、二代目ボート作成完了! 名前でも付けるべきかな?」

 

 突飛な考えをしてしまったのは、寂しいからだろうか。

 

「うーん、出来れば沈まない船の方が良いよね……こう、不沈艦なんとかみたいな?」

 

 先代が不注意に依るものとは言え沈没だったので、縁起を担ぎたくなった僕は、二代目のボートにこう名付けた。

 

「不沈艦おけはざま号」

 

 と。何で平仮名で「おけはざま」なのかはわからない。最初は擬人化した艦隊のアレから引っ張ってこようかとも思ったが、いかにも痛い気がしてオリジナルの名前にしようとしたら今度は中二病全開の黒歴史が誕生しかけて没にし、最終的にそうなったのだ。

 

「行こう、おけはざま号」

 

 ただ、少なくとも愛着は出来た気がする。船は滑るように海を進み出し。

 

「あるぇ?」

 

 やがて見えてきた陸地に僕は顔をひきつらせる。南西は確かに海だったが、南には陸地が広がっていたのだ。この地図埋め、東の地図外に出て新しい地図を描き始めるという狙いも含んでいたのだが、僕の目論見は清々しい程木っ端微塵に打ち砕かれた。

 

「……迂回しよう」

 

 地図埋めも重要だが、陸路を行っては今日中に次の地図に突入出来なくなる。南に地図の外に出てしまっても構わず僕は迂回し続け。

 

「あ」

 

 航海の途中で発見したのは、やや大きな河口。

 

「うーん、地図を埋められるし、ボートで進めるなら」

 

 少し迷ってから僕は川へと突入する。

 

「うわぁ、広い……」

 

 入ってから感じたのは圧倒される広さ。幾つも中州があり、そこは何というか。

 

「これって、川って言うより湖じゃない?」

 

 少なくとも、川ではなかった。

 

「しかもこれ、中途半端なところで終わってるし」

 

 東に向かいたかった僕としてはかなり嫌な展開だった。

 

「と言うことは、これ、引き返すのかぁ」

 

 広い上に湖としては歪な形、おまけに島などで通行か可能な場所もあって、僕に言わせればそこはまさに迷路。

 

「あ、違うこっちじゃない」

 

 と何度引き返したことか。

 

「しかも何だかんだで日が随分傾いてるし……やむを得ない。二枚目の地図に戻ってでも東に抜けよう」

 

 最悪夜間航行も辞さない覚悟でオールを使い。

 

「やった、ようやくあの河口だ」

 

 既に河口ではない気もするが、何とか海までたどり着いた僕は、荷物を漁り、♯1と記載された二枚目の地図を取り出す。ちなみに一枚目は♯0だ。ちょっとややこしいが、それはそれ。

 

「さて、ここからどう行けば東に抜けられ――」

 

 地図を覗き込み、僕は固まった。陸路を使わず東に抜けられる道が無かったのだ。先日の南回りのぐるっと冒険ルートも一回ぐらい上陸した気がするし。

 

「日はとっくに暮れたなう」

 

 ボソッと漏らした。もちろん現実逃避だ。

 

「もう、上陸するにもタイムオーバーなんですけど」

 

 完全に魔物が湧く時間に突入し、周囲はくらい。

 

「どーすんの、これ?」

 

 僕は途方に暮れた。

 

「一応、陸地の短い場所を強行突破するって無謀な選択肢もあるけど」

 

 アイテムにしたおけはざま号を携帯する余裕が荷物スペースにない。

 

「上陸するならこの中央の湿地もどきになってるところが良いと思、うわっ」

 

 地図に気をとられていたら、何かとぶつかったらしくおけはざま号が揺れる。

 

「あちゃー、蓮の葉にぶつけたかぁ」

 

 沈む前に拾い上げたそれは水上に設置すると足場になる便利アイテムだ。

 

「操船は慣れてきたと思ってたんだけどな」

 

 地図に気をとられすぎたか。

 

「それはそれとして、どうしよう」

 

 戻ったりすれば大幅なタイムロスだが、上陸は危険が伴う。

 

「しかも、今の僕って防具装備してないんですよねー。鉄のインゴット? コンパス経由でみんな地図に変えましたが、何か?」

 

 次の拠点を構えるなら、最初にすべき事はきっと鉄の補充だろう。

 

「まぁ、現段階でどーこー論じても鬼が笑うだけのような気もするけど」

 

 まずはここを東に抜ける。

 

「んー……たまには冒険してみますか」

 

 荷物を圧迫する蓮の葉を適当な場所に置いて、魔物に感づかれないうちに手早く浅瀬でおけはざま号を回収。あとはダッシュだ。

 

「怖いのは遠距離攻撃系モンスターと一発が大きい匠くらいだけど」

 

 前方の湿地は木が茂っていて視界が悪い。

 

「やれるかな?」

 

 不安はある。だけど。

 

「久々の遠泳になるな」

 

 湿地の水辺をモタモタ進んでいてはモンスターに接近されかねないし、上陸時に大きな隙を晒す。だったら手前で降りて泳いで行くしかない。

 

「くっ人骨(スケルトン)か」

 

 北側の岸で船を回収しようとした僕は、木下に弓の先端を認め、慌てて梶を切る。

 

「こっちはこっちでスライムがいるけど……うん、向こうの岸よりマシだよなぁ」

 

 やるぞと声には出さず気合いを入れて水の中にダイブ。若干もたつくもおけはざま号を斧で叩いて泳ぎ出す。

 

「っ、またスライムか……」

 

 陸を警戒し水の中を泳いで進むと待っていたのは浮くスライム達との遭遇。

 

「けど、この程度の速度なら――」

 

 僕はスライムの横をすり抜けた。

 

「やった! ん?」

 

 直後に右手に見えるぼんやりとした明かり。

 

「この辺りにたいまつとかは設置していないはず。と言うことは……溶岩溜まりだろうな」

 

 わかっていても気になるものは気になり、上陸して足を向けたのは、結局の所ここまでモンスターから攻撃されていないからだろう。

 

「あー、やっぱり」

 

 モンスターと出くわさなかったのは、幸運だった。そして、おそらく光の元は溶岩だろうと踏んでいたから落胆もない。

 

「それよりも、なぁ」

 

 顔を上げれば前方にあったのは、海。

 

「流石にのんびり船を出してるのは危険だし、あの島まで泳ごう」

 

 資材は使うが、小さい島まで泳いでそこで湧き潰しをすれば船を出す余裕はあると思う。決断するやいなや僕は海に飛び込み。

 

「うん、今日はもうけっこう泳いでる気がするけど、仕方ないよね」

 

 無茶やらかしておいてアレだが、安全第一だ。時々息継ぎがてら島の位置を確認し、左手の大きな島は避けて右の小島へ。

 

「それでも家一軒分の広さはあったってのは想定外だなぁ」

 

 四方に立てるだけでは足りずたいまつをけっこう消費してしまった事に遠い目をする僕へ朝焼けが染みる。

 

「平地だったらもっと……て、朝?」

 

 こうして僕の十五日目は終了したのだった。

 




くっ、ストックが切れるのがこんなに早いとは。

次回、十六日目。


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・十六日目

 

「今日こそは、新しい地図エリアで拠点を作るッ」

 

 徹夜も生け贄の祭壇で眠るのも嫌になってきていた僕としては割と切実な思いを胸に。船を浮かべ、島を出る。

 

「進路は、北に」

 

 一応、真っ正面に向かえばすぐ地図の外だが予定していた次の探索地は北なのだ。朝令暮改は良くない。

 

「まぁ、これで北が空振りで東に村があるってあとでわかったら泣くけど……あ」

 

 フラグにならないだろうな、これ。

 

「ううん、ない。ネガティブ思考はよろしくない。北だ、北に行くんだ!」

 

 例えゾンビが燃えながら見送ってくれようとも、北上したら上陸する必要があってまたおけはざま号をアイテムに戻して泳ぎ、上陸する事になっても、その先にが湖になっててまた船で進めなさそうだとか、雷雨になって雷の落ちた場所が燃えてるとか、暗くなったからか前方の岸にゾンビが居るとかみんな関係ない。

 

「ふむ、湖の北半分が地図の外なのかな。そして、右手前方に見えますは雷の落ちた高山にございます、と」

 

 暗い上に、船で進めないというのが難点だった。上陸は、下手をすれば夜と同じぐらい危険だろう。激しい雨で視界が悪い上、水上と比べて陸では極端に機動力が落ちる。

 

「正面への上陸はゾンビが居るのも有るが、森林だからあり得ない。それならまだ右手の平原に進んでから山を登って周辺地形の確認をするべきだけど……ん?」

 

 何気に引っかかるモノを感じた僕は三枚目の地図を取り出す。

 

「あ゛、ここ三枚目の地図にも引っかかってるわ」

 

 地図の右下に湖の一部が描き込まれており。

 

「あ、トンネルがある」

 

 地図から顔を上げ、船で入れるトンネルに目を奪われたのが拙かった。

 

「え゛っ」

 

 次の瞬間がくんとボートが大きく揺れ、僕は海に投げ出された。

 

「ぷはっ、うぐっ、げほっげほっ……あ、あ、あ……おけはざまごぉぉぉぉう!」

 

 二隻目轟沈の瞬間だった。

 

「そんな……僕のせいだ」

 

 僕が脇見運転をしていたから。

 

「せめて」

 

 僕は湖に潜った。目をこらせば、底に転がった木材があり。

 

(せめて、あれだけでもっ)

 

 潜水した僕は木材を掴むと浮上する。

 

「ごめん、おけはざま号……」

 

 抱えた木材は荷物にしまう。もう、上陸するしかない。

 

「雨、まだ止まないね……」

 

 近くの岸に身体を持ち上げると、濡れた身体で、とぼとぼと僕は歩き出す。

 

「北に、北東に進もう」

 

 新しい地図を広げるために。

 

「こっちかな?」

 

 まるでぽっかり空いた心の隙間を埋めようとするかのようにとか表現すると人は笑うだろうか。見晴らしの良さも求めて、結局僕は気づけば山岳に足を向けていた。

 

「また収穫は無し、かぁ」

 

 雪の降り積もる山頂へ更に石柱を立てて上へ。

 

「そしていつもの生け贄の祭壇……」

 

 違うことは荷物の中にボートがないと言う一点だけ。

 

「今日は屋根も付けちゃおう」

 

 小さな贅沢だ。

 

「こんな天気じゃ朝になったら雪に埋まってしまっていそうだし……」

 

 暗さで時間もわからない。

 

「ただ一つ、わかるのは――」

 

 四枚目の地図の、南端、真ん中辺りにこの高い寝台があると言うことだけだ。

 

「新たな土地。結局、人工物は見あたらなかったけど」

 

 まだ、南の端だ。そして、拠点を作るという目的もある。

 

「だから、今日は寝なきゃね」

 

 明日からが、本番だ。石造りの屋根の下、作業台を作って床にはめ込み、設置したベッドは屋根の方が先に出来たから濡れても雪が積もってもおらず。

 

「お休み、おけはざま号」

 

 ベッドの下を意識したまま横たわると目を閉じる。その夜、僕はずっとうっかり作業台とベッドに使ってしまったおけはざま号の上で眠りについたのだった。

 




短くて済みませぬ。

しかし、名前を付けたらあっさり沈むなんて。フラグだったのでせうかね?

次回、十七日目。



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・十七日目「はじめての」

 

「もっと北に進もう」

 

 拠点はそちらに作ると決めていた。

 

「さー。今日も元気に行ってみよーっ!」

 

 バケツの水をひっくり返し、滝を作って山を下りる。下には細い谷川が流れていて、水の回収には困らない。

 

「よーし、着水っと。さーて、次はどっちに向か」

 

 それ以上、言葉を発すことは出来なかった。

 

「がっ」

 

 痛さなのか熱さなのか。強烈な衝撃に吹っ飛ばされるように浮いた僕の身体は川の前方の低い丘に叩き付けられ。

 

「うぐっ、スケルトン?」

 

 痛みに顔をしかめつつ、敵の姿を探して振り返る。上から流れ落ちる時に敵の姿は見えなかった。だからスケルトンによる矢での攻撃を真っ先に考えたのだ。

 

「あ」

 

 だが振り向いた先にあったのは、元々川だったクレーター。

 

「匠、ですか」

 

 どうやら自爆の端っこに巻き込まれたらしい。

 

「ひょっとしたら、これがモンスターに喰らった初ダメージ?」

 

 矢の傷とかよりはまだマシなのかも知れないが、ちょっと複雑だった。

 

「まぁ、とりあえず吹っ飛んだ土のブロックだけでも回収しておこう」

 

 使い道なんて考えていないが、足場くらいにはなる。

 

「はぁ、油断してたな」

 

 朝だから魔物が生き残っていても不思議はなかったのに。

 

「気を引き締めよう」

 

 僕は自戒すると行軍を再開する。狼の食べ残しをちゃっかり拾い。

 

「あっ」

 

 川を泳いで横断すると野生のカボチャを斧で収穫。持ち物が一杯で持ちきれないことに気づいて固まる。「「何か一時的にポイしないと……あ、さっきの土」

 

 投げ捨てて空いた手で作業台を作って持ち、流れる様に河原に設置。

 

「ランタン補充っと、これで土を拾えば元通り。お次は――」

 

 視線を転じて前方を見ると左手に広い草原、右手に山。

 

「登ってみよっか」

 

 ひょっとしたら、今度こそ何か見える気がして。

 

「……ですよねー」

 

 何も見えなかった僕は山頂に丸石を置いた。逃避ではない。

 

「んー、広さは適当でだいたいこんなモンっと」

 

 四隅を決め、支柱を立ててからドアの場所だけ残して丸石で囲み。

 

「高所の作業は手持ちの石階段で横から上にのぼれるようにすればいいかな」

 

 ゲームでだが、勝手知ったる何とやら。一番原始的な所謂トーフハウスと呼ばれる立方体の家なら僕にだって出来る。

 

「あ」

 

 うん、窓ガラスが有れば。

 

「あはは、まぁ、窓はあとでガラスを作ってから填めればいいかな?」

 

 苦笑しつつもランタンとたいまつでまず家の中を明るくする。まだ太陽は真上にさしかかったかどうかと言うところだが、時間の流れは油断すれば僕に牙を剥く。

 

「って、あーたいまつがもうないや。ここのところ作ってなかったもんなぁ」

 

 窓のない残念拠点とはいえ完成したのだから、次は家具の作成と道具の補充だろう。まず、床を掘る。

 

「作業台、ベッドにチェストにたいまつに~♪」

 

 謎の歌を歌いながら作ったモノを家の中に配置、はめ込んで行くだけの簡単な作業だ。

 

「かま……あ」

 

 そう、材料が有れば。

 

「あー、丸石は全部家に使っちゃったんだっけ」

 

 正確に言えば、足りなくて匠に吹っ飛ばされた土で屋根の角部分を代用してあったりするぐらいだ。

 

「掘りますか……」

 

 丸石ゼロは拙い。石器の替えが聞かなくなってしまう。

 

「その前に、必要ないモノはチェストにシュゥッゥゥッ!」

 

 地図は必要ないし、レッドストーンも生肉も必要ない。エメラルドと紙と本もだ。

 

「さて、整理が終わったところで作業開始ーッ! あ、まずは外の湧き潰ししないと」

 

 今朝のように出発しようとしたら匠が降ってきて自爆(リフォーム)とか洒落にならない。

 

「問題はこれから山肌削るからなぁ。二つくらいランタン置いておけば良いかな? ドアの左右にもたいまつは飾ってるし」

 

 家の建築で時間は結構使ってしまっている。

 

「んー、あ、カボチャがある。それじゃ、これを回収して西側の山肌を削ろう。最終的には下に降りる階段設置出来る感じで」

 

 ひとまず必要なのは、竈の材料と石のつるはしの頭に使う丸石ぐらいだ。ガッツリ64個とかなんて無くていい。

 

「夕方までに終われば及第点。あ、別に石炭とか出てきてくれても良いのよ」

 

 冗談めかして呟いてみるが、声に応えてくれる人なんて居なかった。

 

「はぁ……」

 

 結局日暮れまで作業は続き、丸石を回収した僕は家の中へと。

 

「んー、階段も設置したかったなぁ」

 

 だが、優先度は竈が先だ。作っておけばこういう作業の間に何かを加工出来るのだから。

 

「はぁ……お腹減ってきた。今日のご飯はジンギスカンかな」

 

 火の通った羊肉はラストだが、逆に言うなら肉一枚が荷物を一個分占拠していると言うことでもある。

 

「竈さえ完成すれば、羊生肉はけっこうあるし」

 

 作った竈の初作業はおそらくバーベキューだろう。

 

「ただいまー、からの竈完成ッ!」

 

 いくらテンションを上げても周囲に反応がないのは寂しいが、仕方ない。作った竈に羊生肉と石炭をぶち込んだあと、樫の木のドアに空いた窓から夕焼けを見る。

 

「今日ももう終わりかぁ」

 

 囓る焼き羊肉を晩餐に嘆息すると部屋の壁にたいまつを一つ追加する。

 

「うん、とりあえず今日出来ることはこれぐらい」

 

 床を掘り下げて地下室を作るのも良いかもしれないが、個人的にはその前にガラスの窓が欲しい。

 

「なんやかんやで疲れたもんなぁ……ん?」

 

 不意に気配を感じてドアに近寄ると、ドアのすぐ前にいたのは一匹の狼。だが、すぐに回れ右をする。

 

「……なんだったんだ?」

 

 こちらの視線に気づいたのか、それとも空腹になったのか。こちらに尾を向け去って行く後ろ姿を見送り、首を傾げつつ僕はベッドに横たわるのだった。

 




痛かった、今のは本当に痛かったぞーっ!(別のデータで弓矢を使って遠距離から匠に八つ当たりしつつ)

次回、十八日目。

あ、息抜きにクリエイティブで孤島に村を作ろうと孤島地形さがしてたら、三回目で村からスタートのシード値にぶち当たった。

こう、村探し続けてるのをあざ笑うかのようですよね。


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・十八日目

 

「よーし、朝だーっ!」

 

 ドアの外に魔物の影はない。だが、油断は禁物だ。

 

「こういうのが窓のない家の欠点だよなぁ」

 

 安全確認が出来ない以上、走って外に出て距離をとるしかない。出来たての拠点を爆破されるなんて真っ平だ。

 

「よーし、匠の影は無し、かぁ」

 

 外に出るだけなのにつくづく心臓に悪いと思う。念のために家の横の階段から屋根に登って魔物の姿がないことを確認すると、昨日石を切り出した場所に石の階段を設置する。

 

「ふぅ、次は河原に砂採りかな」

 

 砂を竈で熱することでガラスが作れるのだ。窓ガラスはこのガラスを作業台で加工して作る。

 

「出来れば農場も作りたいけどなぁ」

 

 羊肉がある今、食料はもう少し後で良い。

 

「砂、砂~♪ あれ? これは……掘り下げるしかないかな」

 

 ただ、河原に降りてみると砂地は意外と少なく。やむを得ずスコップで穴を掘った。もちろん、登れなくなるなんてアホな真似はやらかさない。

 

「ふぅ、64の35で……99個か。これだけあればガラスの材料は良いや」

 

 あとは湧き潰しの範囲を広げながら家に戻って焼き羊肉のかわりに竈へ砂をぶち込めばいい。

 

「んー、あとは工作、かなぁ? 柵を作って羊とか牛とかを飼育すれば、欲しい時に毛とかミルクが手にはいるし」

 

 この世界の牛乳は何と毒消しの効果があるらしいのだ。まぁ、毒自体は魔女の投げたポーション被るか、坑道って特殊な地形にのみ棲息する毒蜘蛛に噛まれた場合なるぐらいしか知らないし、滅多になったことも無かったのだけれど。

 

「柵を作るのと、地下室作り、かな?」

 

 室内農園をやるには家が狭すぎるし、家を建てたのは山の山頂。下に一階分掘ったところで農場やるには面積が足りなすぎるのだ。

 

「やっぱり、農場は外かな」

 

 地下室から直通で出られるようにして魔物除けの明かりと柵が有れば、問題はないと思う。

 

「あー、だったら麦の種も探してこないとなぁ……明るい内にすべきはまず麦、か」

 

 余裕が有れば伐採して苗木と材木を確保しておくのも良い。

 

「よし、さっき太陽が真上にあったから、急げばいけるな」

 

 再びドアを開け、階段とは別方向に山を駆け下り、向かった先は草原と森の境目。

 

「切った木の葉っぱから苗木が出るまでに時間があるし、先に木を切り倒して――」

 

 手にした斧はそのままに草を刈る。

 

「ヒャッハー!」

 

 完全に危ない人だが、旅の恥はかきすてというか辺りに人は居ない。

 

「孤独の唯一の利点、かな」

 

 たかをくくっていつか他人に見られるオチとか有りそうだけど。

 

「とか、考えてもおあいにく様。どーせ、村なんて見つかりませんよー。ふーんだ」

 

 うん、自分でやっておいて何だが、若干気持ち悪い。

 

「何だかんだで麦の種も十個集まったし一端戻ろう。葉っぱが消えるのはもう少しかかりそうだし」

 

 ついでに階段の下の方も明かりを付けたり整えて。

 

「あ、家の横手の階段の下も埋めておこう。上手くやれば内側の元壁だったところ削って地下室の入り口に転用出来るかも知れないし」

 

 ここは住みよい拠点にしておかないといけない。

 

「よし、おっけー。さーて、そろそろ苗木が落ちてないか見てくるかぁ」

 

 再び山の麓に降りると、そこにはアイテムが散らばっていて。

 

「苗木八本とリンゴ二個、まぁまぁかな。あ、日が随分と落ちてきてるなぁ」

 

 窓を作るなら急がないといけない。

 

「よし、けっこうガラスは出来てる。えーと、まずは作業台で窓ガラスを作って……」

 

 最初に壊す壁は西だ。太陽の位置を確認する必要がある。

 

「あー、もうすぐ夕焼けかな」

 

 時間との戦いだった。西には床の高さからの四ブロック分ある大窓を。北にはドアがあるので小窓を一つ。南にも大窓を作り始め。

 

「くっ、もうだいぶ暗くなってるや」

 

 夜の作業になりかねないと中断、とりあえずは縦長の窓一つと言うことになった。

 

「あとは明日かなぁ。次は――切り出した木材の加工。作るのは地下に降りるための梯子と農園か屋上用に使う柵、それに梯子と柵で大量に消費するであろう――」

 

 木の棒。

 

「出来た。あとは地下室堀りだけど、壁とか貫通したら大変だし、次の日で良いかな?」

 

 窓の外を見れば、完全に日は落ち、闇が周囲を支配していた。

 

「うん、そうしよう」

 

 お休みなさいと言い残して、ベッドに横になる。色々作って疲れたのだろう。意識はすぐに闇に溶けた。

 




短めなので前倒し投稿してみる。

いやー、プレイ反映で一日一話ルールだと特筆することが無い日はどうしても短くなってしまいますよね。

うーむ、どうしたものか。

次回、十九日目


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・十九日目「ピンクなおはなし」

 

「おはよー、掘るぞーっ!」

 

 今日は出かけず内装工事。

 

「さて、壁を……あ」

 

 最初にしたのは、邪魔になるたいまつの撤去と、計算ミスへの修正。

 

「このままじゃチェストの横が地下への入り口になっちゃうもんね」

 

 床も一段堀り、梯子を付けようとしてチェストを開けてしまうと言う謎動作をやらかした僕は外側に壁を張り出させ、窓を設ける。

 

「ついでにあっちの窓も大窓に拡張して……ん、こんなものかな?」

 

 建物が出来て行くのは、楽しい。

 

「まぁ、すぐに第二の設計ミスに気づいた訳だけど」

 

 張り出させた場所から下に掘るとなると自分の足下を掘ることになる。これは下に洞窟が有れば落下、渓谷なら落下死もしくは溶岩にドポンという自殺行為である。

 

「梯子の横も掘って両方を交互に掘って行くしかないかな。落下防止に横の方は一定間隔で足場を設けて」

 

 足場にはたいまつの明かりを設置した上で家の真下への通路も掘る。採石用でもあるし、場合によっては室内プチ農園を作るためでもある。

 

「まだ麦の種少ないもんなぁ。家の下なら上で作業したりしてる時でも麦が育つし」

 

 時間の有効利用という訳だ。

 

「掘って、埋めて、水注いで……よーし、原型完成」

 

 小部屋を作り、床を掘って水をほぼ中央に配す形で土を敷き、土を耕した簡素な作りだが目的は種の採取なのだから問題はない。

 

「強いて言うなら土が足りないことぐらいかな」

 

 今ならまだ採土に外へ出られる。

 

「土だーっ、土を確……ほ?」

 

 急いで飛び出した家の外、草原に見たこともない数の羊が作る群れを見て僕は固まった。

 

「は?」

 

 羊の群れはわかる。養殖ならこれより多くの数を飼育したこともあるが、これは野生だ。

 

「しかも、ピンクとか……」

 

 大きな豚かと思った。

 

「こんな毛色の羊なんて居たんだ」

 

 驚き、土をとるのも忘れて僕は立ちつくした。

 

「レア、なんだろうなぁ……二頭いるし、飼って繁殖させたいところだけど……」

 

 衝動的に毛を刈ってしまって、もはやどれがピンクの羊かわからず。

 

「引き連れるにも、羊が好む麦は今種を植えたばっか……そうだ、土」

 

 目的を思い出した僕はシャベルで草原の土をいくらか失敬すると、そのまま引き返した。

 

「はぁ」

 

 太陽がだいぶ低いところまで降りてきてしまっていたのだ。とても毛が再び生えるまで待っては居られなかった。保護用の柵を設置する時間もあったかどうか。

 

「もし、明日になってもあの草原に居たなら――」

 

 その時は、柵で保護して飼おう。

 

「いくら珍しいからって、拠点の整備を疎かにして良い理由にはならないし」

 

 まだやることも残っている。僕は家の戸口をくぐり。

 

「地下二階は麦、地下一階のカボチャ畑予定地が未着手だからなぁ」

 

 名残惜しむ様に窓の外、夕暮れに照らされた羊たちを一度だけ見てから、地下へと降りた。

 

「麦の方は床の穴に土をはめ込んで耕して種をまくだけ、簡単だよね」

 

 ブツブツ言いつつ手を動かせば、あっという間だった。

 

「問題は地下一階、かな」

 

 こちらは畑にする予定の部屋すら作っていない。まずつるはしで部屋を作るところから始める必要があった。

 

「あとスコップも居るよね。土混じってるし」

 

 言いつつ持ち替えたスコップは、先日の砂堀りで疲弊していたのか、あっさり折れた。

 

「ありがとう」

 

 いつものように壊れた道具に感謝の言葉を言ってから、作業に戻る。

 

「んー、急にカボチャがなって壁や天井にめり込まないように広めに作っておくべき、かな?」

 

 つるはしを振るいながら、広さを確認、たいまつを付け手を繰り返し。

 

「うーん、まだ狭く感じる。もう少し、広」

 

 石壁を粉砕した瞬間、夜空が見えた。

 

「……埋め戻そう」

 

 土で塞いで無かったことにするが、やはり充分な広さは望めないらしい。

 

「まぁ、カボチャの種も八つしかないし、4×2で種がまける部屋があればいっか」

 

 この畑はあくまで、一時的な種取り用のモノ。本格的な畑を作るのは屋外にだし、まだ先だ。

 

「ふぅ、今日はこれぐらいにしておこう」

 

 こうしてカボチャ畑も作り終えた僕は、作りたての地下プチ農園から出ると梯子を登り。

 

「あ、ピンクの羊、まだ居るや」

 

 窓の外を見て、呟く。どうやら毛が生えたらしく、ピンクの毛並みは月明かりに照らされ、群れの他の羊と共にそこにいた。

 

「明日だ、明日こそは……」

 

 保護してみせると決意を胸に、僕はベッドに潜り込むのだった。

 




いやー、1/600の確率で出現するらしいですね。

初見なのでびっくりしました。

次回、二十日目


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・二十日目

「おっはよー」

 

 誰に向かってるのか不明な挨拶もそこそこに僕は外に出た。

 

「羊、羊……って、羊増えてる?!」

 

 繁殖でもしたのか、最初二頭だったピンク羊は三頭に増え。

 

「うわぁい、せかいってふしぎがいっぱいだなぁ」

 

 もう日が昇ってるのに森の入り口をうろつく黒い長身の人(エンダーマン)。羊の向こうで草の影からチラチラ見える(クリーパー)。馬鹿でかい蜘蛛は中立化してるから良いとして。

 

「ピンクの羊、段差の側にいるし」

 

 柵で囲おうにも高低差が有ればそこから抜け出されてしまう。

 

「となると、まずは整地だよね」

 

 スコップを取り出し隆起した部分を削る。ついでに麦の種が手に張るかも知れないので二度美味しいという訳だ。

 

「ふぅ、完了。さってと、まずは近いピンク羊から……逃げるなよ~逃げるなよ~」

 

 この語りかけがフラグだったのか。

 

「よし、一頭目確保完りょ……って、あぁ?!」

 

 安堵の息をついたところで残りを探せば、別々に川の方へと去って行く後ろ姿が二つ。

 

「待ってぇぇぇ?!」

 

 慌てて追いかけるも、一頭は見失い。

 

「はぁはぁ、はぁ、セーフ」

 

 二頭目は川辺に降りる斜面で何とか確保。代償に斜面を一部削ってしまったがやむを得なかった。

 

「段差は柵の大敵だからなぁ」

 

 何にせよ、囲ったことで逃亡は防ぐことに成功し。

 

「問題はここから。柵越しにでも攻撃は届くから――」

 

 羊を襲う狼から守るには柵を二重にする必要がある。

 

「ただ、今回の柵は応急的な処置だから、二重の柵は本格的に飼う段階で、かな」

 

 小麦と繁殖に必要な頭数が揃えば一気に羊を増やすのは難しくない。

 

「小麦はそのうち畑で収穫出来るし」

 

 必要なのは木材か。

 

「よーし、伐採だーっ!」

 

 土のブロックが空に浮く世界だ。木を切ったから土壌がやわになって土砂崩れなんて現象は起きないだろう。

 

「羊の捕獲に時間を使っちゃったし、遠くに行けばまず間違いなく日没までに戻って来られないしなぁ。もうエンダーマンも居ないし……」

 

 最初に赴いたのは、草原の北にある森、の筈だった。

 

「あっ」

 

 目にしたのは手前の草原で羊に襲いかかる狼。

 

「くっ」

 

 距離からして、助けるのは、間に合わない。まぁ、襲われたのは囲いの外の白羊だったが、だからといって放置は出来なかった。

 

「羊の仇ッ」

 

「ギャン」

 

 肉を食って満足したのか、直前までの凶暴さを失った狼の背中に斧を振り下ろし。

 

「ガルル……」

 

 僕を敵と認識した狼が牙を剥きだして唸る。思えば、これが初めてのまともな戦闘かも知れない。

 

「あ、スライムと湿地で戦ったこともあったっ」

 

 それが動いたのは、僕が間違いに気づいた直後。

 

「ガアッ」

 

「痛ぅ」

 

 いつか匠の自爆に巻き込まれた時に比べれば大したことはなかったが、それでも痛いモノは痛い。

 

「よくもやったな!」

 

「ギャウッ」

 

 噛まれた場所を押さえてもう一度斧を叩き付けると、狼は動かなくなった。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……っ、やっぱり、まだ戦いは慣れないな」

 

「メェ~」

 

 遠くで気の抜ける様な鳴き声がした。

 

「何にせよこれで暫くは大丈夫、かな」

 

 森の方にももう一匹狼が居るのが目に入ったが、距離がある上、側に牛や豚がうろついていた。空腹になったなら、食べるモノが側にあるのにこちらに来るとは思えず、僕は二匹目の狼には構わず、森の入り口にさしかかり、木を切り始める。

 

「ふぅ、こんなものかな。お次は川岸っと」

 

 魔物も居らず、楽な作業だった。集めた木材を荷物に纏めると、念のために羊たちの柵を経由する形で河原に向かう。

 

「とりあえず、羊たちはかわりなさそうだし、木材を回収したら一端帰宅かな?」

 

 柵を作る必要があるし、羊たちを誘導するにも好物の小麦を手に入れておく必要があった。

 

「いつの間にか日も傾いてきてるし、無理は禁物だよね」

 

「メェ」

 

「っ」

 

 別に相づちをうった訳ではないと思う。それでも絶妙のタイミングで羊が鳴いてくれたのが嬉しくて。

 

「またね」

 

 柵の羊に声をかけると、僕は斜面を削って作った階段を上り始める。

 

「はぁ、アニメや漫画みたいに羊が人間なったらなぁ」

 

 オレンジ色に包まれながらの帰路。つい、ぼやいてしまう。

 

「明日で三週間。やばいな、こんなに孤独がきついなんて」

 

 人の形をした動くモノを見かけるには見かけたが、全てがこちらを襲ってくる魔物だけなのだ。今更だが、僕は話し相手に飢えていた。

 

「ただいま」

 

 帰宅を告げてもおかえりの言葉はなく。

 

「はぁ……まずは木材の加工をして――」

 

 地下に降りるのはそのあとだ。

 

「出来た。じゃあ、いよいよ畑か」

 

 ドキドキしつつ梯子を下り、うっかり階を間違えてカボチャ畑に行ってしまったが、それはさておき。

 

「あ、奥の所だけ小麦が収穫出来る」

 

 繁殖に使える程の量は無かったものの、誘引用の餌が用意出来たのは大きかった。

 

「せっかくだから畑も拡張しておこうかな」

 

 丁度羊の捕獲の時に草原で削った土と同時に手に入れた麦の種がある。僕は一列分畑を横に広げると、梯子を登って寝室に戻り。

 

「さてと、日も落ちたし、続きは明日で」

 

 お休みなさいとベッドに潜り込んだのだった。

 




着々と進む第二拠点の整備?

次回、二十一話


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・二十一日目「考える」

「さー、やるぞー!」

 

 今日は本格的な羊育成施設を作り始める日。

 

「あ、バケツに水がない」

 

 荷物を確認し、まずは水くみからと予定を変更したのは些細なこと。

 

「あ」

 

「シュー」

 

「てやーっ」

 

 うっかり山の麓にいた匠に見つかって、斧で殴り飛ばし。

 

「シュー」

 

「てやーっ」

 

 再び寄ってきたところを殴り飛ばすのを繰り返して倒し、火薬を手に入れたことも。

 

「んー柵を設置する前に草を刈ら」

 

「メ゛ェ?!」

 

「あ」

 

 草刈りの最中に寄ってきた羊を叩いちゃったのも些細なこと。

 

「うん、バケツの水除草法を使おう」

 

 事故を教訓に僕はバケツの水をひっくり返した。

 

「うわぁ、早い早い」

 

 広がる水はあっという間に草や花を押し流して行く。

 

「で、残ったのはアイテムだけ、と」

 

 回収を済ませば、次は整地だ。

 

「あ、土がない。ま、丸石でいっか」

 

 最初にピンクの羊を囲った場所を覆う様に柵を設置し、角は丸石のブロックを置いてからその上にカボチャのランタンを置く。本格的な湧き潰しはあとでするが、明るくしておけば山頂の家からでも夜中、飼育場の様子が見やすくなる。

 

「ふぅ、とりあえずほぼ一周囲めたなぁ。最後に残った場所にゲートを付けて……うん、次の工程に行こう」

 

 次は、作業台の作成。

 

「まさか伐採とかで使いすぎて斧を壊してたの間違えた所に柵を設置しちゃうまで気づかないとか……クリーパー倒した時に壊れたんだろうけど」

 

 年はとりたくないものですじゃ。

 

「はは、もうついでだし、竈とチェストも一緒に作って地面にはめ込んでおこう」

 

 わざわざ家に戻って足りない道具を作ってくる手間もこれで省ける。

 

「次は羊かな?」

 

 小麦をせっかく持っているのだ。近くの羊を囲いの中に誘い込んでおけば、家の小麦が増産された暁には繁殖させることだって出来るし、白い羊毛は数を集めればエメラルドと交換してくれる村人もいる。かなりのぼったくり物々交換だが。

 

「メェェ」

 

「ほらほらこっちこっち」

 

 そんな訳で羊の誘導を始めたが、割と大変だった。

 

「メェー」

 

「あっ、こら」

 

 一定より距離が空いてしまったのか離れて行く羊がいれば。

 

「モー」

 

「ちょっ」

 

 作ってるのは羊の飼育施設なのに寄ってくる牛が居て。

 

「はぁはぁはぁ……ようやく終わった。あとは……んー、寝るためにわざわざ家に戻ると時間のロスになるし、ここにも仮眠用の祭壇でも作ろうかな? 梯子を付けておけば上り下りも出来るだろうし」

 

 梯子なら、地下室を作るために確保していたモノがある。ベッドは地面にはめ込んだ作業台で作った。

 

「んー、場所はここで、高さはどうしよう……あ、お腹減ってきた」

 

 荷物を漁り、焼いた羊の肉を口にくわえると、僕は次に丸石を取り出し。

 

「んふぉ、ふぉひへほほー」

 

 肉をはむはむしたまま石を積み始める。ランタンを組み込むのは当然で、高さは決めずに作り始めたが雲に届く程高くする気はない。山頂に立つ家の屋上から周囲を見回しても発見は無かったのだ。

 

「とりあえず、これぐらいで良いかな。もう日も沈みそうだし」

 

 落ちたら大ダメージを受けるのは必至な高さの石柱の上、家まで戻るのも危険な程周囲は暗くなりつつある。

 

「ちょっと新鮮だなぁ」

 

 足下に広がる家の窓とは別の角度から見る草原の景色。もちろんただ眺めている訳ではなく、呟く間も手は動いて足場を作って行く。足場、そして柵とたいまつ、最後に中央へベッド。水で降りる時に使うから一面だけ柵は設けず、

 

「こうやってみるとけっこう魔物湧いてる……」

 

 大半は緑の匠だが、ゾンビの姿もチラホラあって。

 

「人は見かけないのにこうも頻繁に腐乱死体がうろついてるってのはミステリーだよね」

 

 白骨化してない人の死体だけは潤沢にあるという矛盾。

 

「致命的な伝染病で人口が激減したとかなら人が暮らした痕跡は残ってないとおかしいし」

 

 いや、確かにゲームでだが、洞窟の中なんかにはスポナーブロックの中央に置かれたモンスターハウスという魔物を召喚する罠とチェストがある部屋を見かけた。

 

「あっちは苔むしてるから、先人の遺構だったとしてもゾンビの元になった人が生前暮らしていた場所とは違うよな」

 

 だが、同様に大きな洞窟に潜ったりすると時々遭遇した廃坑は所々崩れたり蜘蛛の巣が張っているとは言え、レールやトロッコが残されていたりと先人達の生活に関わっていた施設だったとしてもおかしくない様に思える。

 

「んー、そう言えば何もない場所に井戸だけぽつーんと存在することはあるよなぁ……あ、そうか」

 

 ベッドの上で考えていた僕は丘の上をうろうろしている緑のモンスターを見てポンと手を叩く。

 

(クリーパー)が大量発生して、近辺の町や村を襲撃、建物を跡形もなく吹き飛ばし、巻き込まれた死体だけが残ったとしたら……」

 

 説明はつく。空に浮いた形の大地なんかもこの世界の特性を鑑みれば下の部分を匠に吹っ飛ばされた残りだったりするのだろう。

 

「植物とか作物はもの凄い早さで生長するし、吹っ飛ばされた場所もすぐ緑に覆われて……今の様な状態になった」

 

 これなら矛盾はない。明るいところに匠は発生出来ないという矛盾以外は。

 

「んー、科学が進んで明かりは電力で賄う様になったところに大規模停電が起きた……は、無理があるなぁ」

 

 世界各地が同時に停電というのも変だし、非常用の明かりを誰も用意してないとは思えない。

 

「理論的に原因を探すのが間違ってるのかな……まぁ、いいや今日はもう寝……あ」

 

 寝ようと思った僕が見つけたのは、柵の外に居るピンクの羊。

 

「見失った羊、戻ってきたんだ」

 

 出来れば保護したいところだが、羊の周囲にも数体のモンスターがうろついており。

 

「朝が勝負、かな」

 

 安全に降りられるかと生き残った魔物をどう処理するかが僕には求められるだろう。

 

「そうとわかれば夜更かしは禁物、明日に備えないと」

 

 僕はベッドに横になり、目を閉じた。

 




最近文字数減ってるので、ちょっとこの世界について考えさせてみたり。

次回、二十二日目


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・二十二日目「ナニコレ」

 

「おはよーございまーす」

 

 とりあえず、声をかける相手が居なくて寂しいので、太陽に挨拶してみる。

 

「さーて、下はどうなったかなぁ? えっ」

 

 下を見ると燃えてるゾンビが二、三体、匠は足下に三体他数体。

 

「ナニコレ」

 

 完全に殺りにきてませんかね、この布陣。

 

「お、落ち着こう。まだこっちには気づいてないし、飛び降り次第ダッシュすれば逃げられはするはず」

 

 ついでに言うなら匠は水に触れてる時は自爆出来なかった気もする。降りるのに使う水を流用すれば返り討ちに出来るかもしれないのだ。

 

「ふふ、くくく……オッケーこの挑戦、受けたっ」

 

 バケツをひっくり返し、降下地点を作る。朝方からクライマックスだがやむを得ない。

 

「いざっ! って、あ」

 

 飛び降りようとする直前僕は見た。ピンク羊だと思ったそれが豚であったのを。

 

「と、っと、たわぁっ! はぁ、危なかったぁ……けど、いきなり急いで降りる理由が消失した件」

 

 どうすればいいのだろう、、この形容しがたい心のモヤモヤは。

 

「んー、羊の誘導するにも匠は邪魔だけど、防具無しであの数は……いや、一度は覚悟した訳だしうむむ」

 

 僕に迷いが産まれたのは仕方ないと思う。数が数、全部の匠を爆破させずに切り抜けるのは、おそらく不可能だ。

 

「柵被害が出たらこれまでの苦労がなぁ」

 

 今居る寝台は飼育場所の真横にあり、一匹だけ保護したピンク羊の囲いは今居る寝台を挟んで飼育施設の反対側。寝台の柵は西側のみ設けていないので、柵を巻き込まないことを前提にすると必然的に逃げられる方向は西に限られる。

 

「うー、ええい、ままよ!」

 

 このままでは埒があかない。僕は意を決して飛び降り。

 

「うわーっ!」

 

 叫びながら一気に駆け出す。

 

「って、やっぱ追ってきますよねー」

 

 振り返ると「どこいくのー」とばかりについてくる緑ぃ生き物が二体ばかり。

 

「やられてたまるかぁぁぁっ」

 

 斜面を駆け下り、川に飛び込んで、泳ぐ。

 

「ぷはっ、はぁはぁ……中州があって、助かった……」

 

 目の前の砂地に上陸すると振り返り。

 

「逃げ切った、かな」

 

 恐る恐る振り返ると、そこに匠の姿はなく。

 

「ふぅ、問題はこれからどうするかだけど」

 

 戻ればまだ自爆魔はあの場所に居るだろう。

 

「んー、豚じゃなくてピンク羊だったら無理に戻っていたんだけど」

 

 死闘を演じて火薬を手に入れても今の僕には使い道がない。

 

「重火器とか作れるなら話は変わってくるんだけど」

 

 砲台を作る技術力は僕にはない。

 

「となると、草原を大回りに迂回して様子を見ながら、伐採作業ってところかなぁ」

 

 飼育場所の柵にかなり消費した木材を何処かで補充する必要がある。

 

「一本、二本、んー、こんな所かな……あ、やっぱりまだ居る」

 

 あくまで主目的は偵察。南側に移動し、こんもり盛り上がった小山というか小さな丘のような形状の地形に生える木を間引きしつつ、逃げてきた先を見れば、佇む緑の自爆野郎。

 

「川沿いに進んで南側に回ろうかな」

 

 当初の計画通りだ。途中で川辺に生えてたサトウキビを斧で回収したが、別に甘いモノが欲しかった訳じゃない。

 

「地下農園にサトウキビ畑も作らないといけないからね」

 

 しかし、僕は誰に向かって説明しているのだろう。

 

「さてと、問題はここから……祭壇から見た時、こっちにも居たん……居た」

 

 離れているから各個撃破出来る位置取りではある。

 

「むぅ……あ、バケツの水組み忘れてる」

 

 そして、まさかの敵前逃亡とは誰が思おうか。

 

「ふぅ、水確保。あれ?さっきのクリーパーどこに行っ」

 

「シュー」

 

「ちょっ」

 

 まぁ、その川辺で再会するとかも思ってなかった訳なんですけどね。

 

「せいやぁ!」

 

 反射的に斧を振れたのは幸いだった。

 

「あ」

 

 だが、(クリーパー)任務了解モード(じばくシークエンス)は解除されず、吹っ飛んだ先で生じる爆発。

 

「わぁ、クレーターが出来ちゃったぁ♪ アイテム、アイテム~♪」

 

 散らばる麦の種と土を回収し、口を閉じた僕は嘆息すると「なんかごめん」と謝った。誰に向けて謝ってるのかはわからないが、謝った。

 

「……柵とか全く関係ない場所だったのはせめてもの救いだけど」

 

 クリーパーはまだ数匹残っているはずで。

 

「考えてても仕方ない。何匹残ってるかだけでも確認しておこう」

 

 頭を振ると、恐る恐る飼育施設に近づき。

 

「あれ?」

 

 祭壇の根本に辿り着くとあれだけ居たクリーパーは一匹も残っていなかった。

 

「肩すかし……って言いたいところだけど、あいつ保護色だからなぁ……火薬とか使わないモノも手に入っちゃったし、一度家の方に戻ろう」

 

 これ以上クレーターが増えると、羊の誘導に支障をきたす。僕は柵の羊たちに背を向けると山を登り始め。

 

「ただいまー」

 

 何だか久しぶりな気がする第二拠点。

 

「まずは荷物をしまって、次は農園のチェックかな?」

 

 火薬他要らないモノを放り込むと僕はチェストを乗り越え地下に向かった。

 

「カボチャは三つ、麦は七束かぁ、順調順調」

 

 ほくほく顔で収穫を終えるも、ちょっとだけ遠い目をする。

 

「麦の種だけはここで取る意味ないくらい草原で回収しちゃったけどさ」

 

 ついでなので畑をもう二列程拡張してから梯子を登り。

 

「次は地下三階の作成かな」

 

 育てる作物が縦に長く成長するサトウキビと言うこともあって高さが居るのが難点だが、他の階と比べて部屋の高さを多くとれば良いだけのこと。

 

「よーし、だいたいこんなモノかな?」

 

 途中でつるはしが折れるアクシデントはあったが、作業は概ね上手く行き。

 

「上から水が滴ってるのがちょっと気になるけど、上も畑だからなぁ」

 

 部屋の天井を高くしたことで上の階の床が薄くなったこともある。

 

「そろそろ夜だし、今日はもう休もうかな」

 

 つるはしを折って新しいつるはしを作りに梯子を登り寝室に戻ると、窓の外い見えたのは真っ赤な夕焼けだった。時間経過を考えれば、日が沈んでいてもおかしくはない。

 

「あー」

 

 そして、寝室に戻れば案の定。

 

「明日は魔物、大量に残ってないと良いなぁ」

 

 今日のようなことがないように、ベッドに入った僕は祈りつつ眠りにつくのだった。

 




まぁ、拠点整備中だから当然なんだけどさ、いつ村の描写出来るのかしらん?

プレイデータのコピーを作ってそっちをピースフルで動かせば時間経過を考えずじっくり村を観察出来るってようやく思い至ったのに。

次回、二十三日目


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・二十三日目

「おっはよー」

 

 朝がきた。たいまつもランタンもあり、大きな窓まであることで、暗さとは無縁の家の中、開けた瞼に飛び込んでくる明るさに顔をしかめつつも、いつもの誰に向かってなのかわからない挨拶をしてベッドを降りる。

 

「お、今日はゾンビが燃えてるだけかぁ」

 

 口に出して見ると凄い状況だが、この世界ではごく当たり前の光景だ。

 

「腐肉落ちてるかも知れないし、見に行くだけ言ってみようかな。あ」

 

 独り言を言いつつドアを開け外に出て気づく。小麦は持ったっけ、と。

 

「ふー、危ない危ない」

 

 荷物を確認すると小麦はなく、チェストから取り出すべく家に戻る。

 

「ふぅ、今度こそ……あ」

 

 再びドアを開けて外に出ると、草原のど真ん中にいたのは、黒い長身。

 

「何処かで水に触ってテレポートでもしてきたのかな?」

 

 面倒だなあと思っていたが、この草原には寝台から降りるために作った滝もある。

 

「あ、居なくなった。日光も駄目なんだっけ?」

 

 何にせよ勝手にテレポートして去ってくれたのだから文句はない。

 

「さーてと、おたからおたから……うあっ」

 

 日光に焼かれたモンスター達の落とし物を捜して周囲を見回すと、家のある山の麓、北側の森で木下に佇む白骨を見つけて口元が引きつった。

 

「めんどくさいのが残ってるじゃないですか、やだー」

 

 気づかれませんようにと願いつつ山を下りる。燃えてたゾンビの片割れがそのスケルトンの弓の射程内で倒れるのを見ていたのだ。

 

「腐肉は落としてたけど、大丈夫かな」

 

 草の上に転がるアイテムとスケルトンを見て数秒迷い。

 

「……走ればいける」

 

 木陰から出ればスケルトンも身を焼かれるからあそこから出られない、逃げ切れると自分を納得させ走り出す。

 

「おっけー、気づかれてもいない」

 

 ラッキーだった。

 

「見たところ匠も居ないっぽいかな?」

 

 条件は揃った。

 

「じゃ、はじめよっか」

 

 一匹だけ斜面側で確保した羊を合流させる。

 

「……の前に実験、かな」

 

 気になっていたのだ、ピンクの羊と白の羊を交配させると子供の毛色がどうなるのかが。

 

「……うん、そう言えば二重の囲いでピンクの羊は保護してたんだっけ」

 

 飼育場での交配がめんどくさいことに気づいた僕は思い直してもう一頭をこちらに連れてくることにし。

 

「あ、水も補充しておかないと」

 

 先に川でバケツに水を汲むと、斧で柵を壊す。

 

「んー、この柵はどうしようかなぁ?」

 

「メェー」

 

 全部壊している暇はない。羊が逃げてしまうのもあるが、間違って斧が羊を傷つける危険性もあるのだ。

 

「ひとまずは君を新しいお家に招待しようか?」

 

「メェ」

 

「っ」

 

 ただ鳴いてるだけだとはわかっているというのに、何だろうこの感動は。

 

(もう村人なんてどうでも良いからこの子達を脳内擬人化させて……こう見えても僕は物書き志望、妄そ……想像を働かせる事ならお手のも……って、駄目だ駄目だ)

 

 一瞬、ふわもこのピンク毛皮の羊娘が脳裏に浮かび僕は頭を振った。

 

「メェー」」

 

「危ないところだったよ。まだ世界の何処かで僕を待ってる村人が居るかも知れないというのに‥…」

 

 とんでもない過ちを犯すところだった。

 

「だいたい羊なんて手名付けた狼や山猫と違って柵とかで閉じこめておかなきゃフラフラ彷徨って何処かに行っちゃう生き物だって言うのに」

 

「メェ」

 

 自分の愚かさに恥じ入る間も羊は鳴く。目は手にした小麦を見ていた。

 

「そうだね。新しいお家に行こう、そこで――」

 

 僕はピンクい羊をそのまま飼育施設に誘導して行くと、羊が囲いの内側に入ったのを確認してからゲートを閉じた。

 

「さて、それじゃご飯だよ」

 

「「メェェェ」」

 

 小麦を差し出せば、猛る羊たち。たぶん、これがゲームで言うところの求愛モードという奴なのだろう。

 

「けど、ほんとおてがるだよなー、このせかい」

 

 羊たちが一斉に始めた愛の営みから目を逸らし、僕は呟く。

 

「どうぶつたち の こづくり が げーむどおりだったか は あえて そうぞう に おまかせしたい と おもいます」

 

 僕は誰に向かって言っているのだろう。あ、ピンクと白の羊を掛け合わせた結果産まれてきたのは、白い羊でした。

 

「はぁ、ピンクを増やすにはピンクだけ隔離してセットにしなきゃ駄目かぁ」

 

 危うく牛まで入ってくるところだったぐらい小麦の誘引は強い。小麦でおびき寄せては無理だろう。

 

「タイミングを見計らって柵で分けるしかない、かぁ」

 

 斧で柵を壊す時に羊を傷つけかねないので細心の注意が居るのだが、是非もない。

 

「ま、それはそれとして……次はここの湧き潰し、かな?」

 

 カボチャランタンを複数設置すれば、先日の祭壇の上の様に降りるに降りられない状況にはならないだろう。

 

「終わったら、地下を掘り進んで鉄を集めて……って、そんな先のことはいいや。湧き潰し湧き潰し……」

 

 完全にモンスターが出現しない程明るくする必要はない。

 

「食料はまだあるし、カボチャのランタンも無限じゃないからなぁ」

 

 柵の周囲、モンスターをよく見かけたところに設置し。

 

「あ、おけはさま号の……南の祭壇が見えるや。そっか、川側の斜面からだとあの祭壇って見える位置にあったんだ」

 

 途中、遠くに見えるコの字型の人工物に驚きを覚えつつ、作業を続ける。

 

「じゃ、次は山の斜面だね」

 

 家に戻るついでに丁度良い。

 

「たっだいまー」

 

 家に戻るとランタンは残り十個まで目減りしていた。

 

「太陽は……まだ夕暮れにはなってないけど、んー、外で作業する程余裕はない、かなぁ?」

 

 外の明るさに屋外でしか出来ない作業をしておくべきなのではも思ったが、羊は保護したし、拠点内で動く分には拡張した畑の作物で食料は事足りてしまう。

 

「じゃあ、地下だよね」

 

 僕は作業台で道具を補充し、ベッドを乗り越えるとチェストに要らないモノを放り込んで下へと降りた。

 

「まずは作物の収穫をしないと。あ、カボチャがけっこう出来てる」

 

 ランタンをかなり使っていたのでこれはありがたく、続いて収穫したのは、麦。

 

「んー、麦はまぁ、実だけ収穫するカボチャと違って本隊を収穫しちゃうもんね。こんなモノかも」

 

 最後にサトウキビだが、高さと隣に水があることを要求するややめんどくさい育成条件の為、収穫量は微妙だった。

 

「まぁ、それでもゼロじゃないし」

 

 そもそも主目的は地下へ掘り進むことだ。

 

「梯子、隣、梯子、んーもう一つ掘ったらたいまつ置」

 

 たいまつを置こうと思いつつ、振り下ろしたつるはしが砕いた石は丸石になって落下した。

 

「え?」

 

 そう、真っ暗な闇の底に。

 

「ちょっ、洞窟?」

 

 思わず早いよと叫びそうになった。

 

(うあーっ、しかもこれ洞窟の天井堀り抜いたっぽいじゃん)

 

 たいまつを手に覗き込んでみたが、床は落ちたらダメージ受けるくらいには下の方であり。

 

「参ったなぁ」

 

 ぼやきつつひとまず丸石で蓋をする。

 

「洞窟を迂回させて掘るのも手だけど」

 

 山頂から真っ直ぐ下に掘り進んでいる所を真横に移動すれば下手すると斜面を破って外に出かねない。

 

「けど、諦めないなら、迂回しか方法はない訳で……」

 

 僕は蓋にした丸石の上にたいまつを置く。

 

「とりあえず、他の階と同じように小部屋を作ってみようかな」

 

 斜面側を背中にすればいきなり外と言うこともあるまい。僕は他の部屋に倣った小部屋を作ろうとつるはしを振るい。

 

「うん、知ってた」

 

 次々ぶち破る洞窟の天井。

 

「まぁ、収穫はあったけど」

 

 最初にぶち破ったのは、向かって正面、左、右からの通路が交差する丁字路のど真ん中だったらしい。落下してたら、三方向に伸びた通路のそれぞれから現れるかも知れない魔物を警戒する必要があった訳だ。

 

「右の通路は下に下っていて、部屋と接触したのは正面の天井。んー、逆に言うなら通路同士を遮ってる壁の部分なら通路には当たらない訳だけど」

 

 一つが下に続いてるならそっちとぶち当たる可能性はある。

 

「参ったなぁ……って、掘り始めてけっこう経つよね……ちょっと戻ってみよう」

 

 ひょっとしたら上はもう夜なのではないかと思い。梯子を登り。

 

「あー、やっぱり。それと、斜面のほぼ死角、めんどくさいところに匠が湧いてる……」

 

 窓の外の暗さに声を上げた僕は、増やしたランタンのお陰で見えた緑の奴に顔をしかめた。

 

「……とりあえず今日は寝ようか」

 

 ダンジョンに挑むか、迂回して掘るかはまだ決まらないけれど起きっぱなしでは判断力も低下する。それにうろ覚えだけれどモンスターの発生は夜だった様な気がして。

 

「おやすみ」

 

 結局この日はベッドに潜り込み目を閉じたのだった。

 

 




次回、二十四日目。


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・二十四日目

「おはよー。そっか、もう朝か」

 

 今日は地下に潜って決断を下さねばならない日。

 

「んー、そうだなぁ」

 

 迷ったあげく、僕は迂回を選んだ。へたれと言われても仕方ないが、ここは安全第一だ。

 

「天井堀抜いちゃった場所から横に逸れて……あ」

 

 目算を間違えもう一回天井をぶち破っちゃったのはご愛敬。

 

「今度こそ……うまく行きそうだ」

 

 掘るのは例によって壁沿いとその隣。暫くは順調に掘り進んでいたのだが。

 

「うわぁ……砂利の層ですか」

 

 重力に従い落下する砂利は落盤の危険もあるし、転落防止の足場に出来ないめんどくさい地形だ。

 

「こりゃ、足場は諦めるしかないなぁ。本命の深さでもないだろうし」

 

 ついでに言うならさっきのダンジョンにも深さが近い。上の方の様に小部屋を作ろうとしたらろくな結果を産まないだろう。

 

「ふぅ、ようやく砂利の層をぬけ……あ、石炭」

 

 ここで嬉しいサプライズ。たいまつの材料や竈の燃料で減りに減っていた石炭が補充出来るのはありがたく、僕は下に掘り進むのを一端止めて採掘することにした。

 

「わぁ、けっこう大きな塊だったぽいなぁ。あ、ここ砂利の上かぁ」

 

 採掘すれば砂利が崩れてくる構造を前に僕は手にしたつるはしをスコップに持ち替える。

 

「崩れてくるなら先に――掘るッ!」

 

 何も考えずに崩れた砂利の向こうに洞窟があったら上からモンスターが降ってくることだって考えられた。

 

「ふーっ、洞窟は取り越し苦労だったけど上は埋めておいた方が良いな」

 

 ついでに足場も設けて、たいまつも置いておこう。

 

「あとは、掘ったモノがたまってきたし、一端チェストに入れに行くかなぁ?」

 

 上に戻り、要らないモノを放り込んだついでにつるはしを作ると再び地下へ。

 

「けど、明るいうちから地下で作業なんて珍しいよね」

 

 窓の外の光景を思い出しつつ、呟きながら梯子を下りる。

 

「あ、地図忘れた」

 

 何故か自分の居る高さがわかる地図は地下採掘の必需品だ。

 

「あー、あったあった」

 

 結局また梯子を登ることになり寝室に戻った僕は地図を手に地下へ。

 

「お、また石炭の層だ」

 

 採掘、採掘、採掘。

 

「うん、その結果小部屋が出来ちゃうなんて些細なことだよね?」

 

 洞窟とはあれから一度も接触していない。

 

「さーて、あらかた石炭はとったから作業再開だーっ!」

 

 そんな作業にも意外な展開で結末は訪れる。

 

「あれ? もう梯子ないんだ……」

 

 一段とばしで設置しても梯子は機能するという裏技的節約術を知っていても登るのは自分の身体だからときちんと横着せず梯子を設置したからだろうか。荷物の中に梯子のストックがいつの間にかなくなっており。

 

「仕方ない。作りに戻ろう。あと、農園の方も確認しておこうかな」

 

 そろそろカボチャとかも実ってる頃だ。ちなみに僕はサトウキビの水路を使って収穫ついでに水浴びをしている。

 

「お風呂が有れば良いんだけど、この世界にそんなのないしなぁ」

 

 温かい液体となると溶岩だが、そんなモノに浸かったらこっちが死ぬ。

 

「溶岩と水を掛け合わせると石か黒曜石になっちゃってお湯にはならないし」

 

 こんな時、似て異なるビルダーズが羨ましくなる。

 

「……あ、水の下に竈を設置して燃料をくべればそれっぽい五右衛門風呂くらいなら出来るかも……けど、攻略的には無意味だしちゃんとしたお湯になるって保証もないんだよね」

 

 下手をすればとても入れない熱湯になるってオチも考えられる。

 

「まぁ、ゲーム通りなら普通に火の入った竈の上だって乗れはする筈なんだけど。ん、こんなモンで良いかな? 人に会わない上、死ぬか生きるかのサバイバル生活とは言え、数日に一度ぐらいは身体も洗っておかないとね。さてと、サトウキビもこれで全部回収っと」

 

 まだ試す気にはなれない。梯子を上った僕はブツブツ漏らしつつ地下サトウキビ畑で水浴びと収穫を済ませると、再び梯子に手をかけカボチャの地下農園に向かい

 

「あー、なってるなってる。これなら、ランタンの補充も出来るなー」

 

 洞窟をぶち抜きはしたが、作業はけっこう順調だったと思う。

 

「あ」

 

 上に戻って窓の外が真っ暗になってる事に気づくまでは、そう思っていた。

 

「あっちゃー、もうこんな時間なんだ……作業、台?」

 

 外の暗さに寝てしまおうか迷うが、側にある物を見て気づいた。

 

「随分下に掘ったし、あっちに作業台とか用意すればもっと時間を有効活用出来るんじゃ?」

 

 迂闊だった。寝るより先にすることが出来てしまった。

 

「戻ろう」

 

 出来れば、再びこちらに来た時に朝になっていません様に。密かに祈ると、僕はとんぼ返りする。

 

「よーし、作業台と竈と、後チェストも作っておこう。んー、全部置ける小部屋を作ろうか」

 

 ついでにベッドまで完備すれば上に登る必要もないんじゃないかと思ったが、時間の感覚が狂いそうなので断念。

 

「やっぱり時計が欲しいよなぁ。けど作るには黄金が必要だし、村人から買うにはまず村を見つけないといけないし」

 

 現状無い物ねだりであることはわかっている。だから、為うぃきをつくと梯子を登り始め。

 

「んー、ついでにカボチャを確認してから上に戻ろうか。あ、二個なってる」

 

 上に戻る途中で農園に寄ってカボチャを回収したがこれは念のため加工せずチェストに放り込む事にする。

 

「種が無いと困るしなぁ、これは保存用で中のカボチャと同じ場所に入れて……あ、日記」

 

 ちなみに今更かも知れないが、日記にしてる本は荷物になるのでチェストの中だ。記載は荷物整理のついでにしたり、先日の様に祭壇の上で寝る時などは、たいてい所持している樫の板に文字を彫っておいた覚え書きなんかを元にして後日日記に書き込んでいる。

 

「ふぅ、こんなとこかな。けど、地下の作業ってただ掘るだけで単調なことも多いから日記に書くことなくなっちゃ足りするんだよね」

 

 自分でもこれで良いのかと思ってしまう程文字数が少なくなることがあって、考えさせられる。

 

「まぁ、いいや。日記も付けたし、今日は寝よう。おやすみなさーい」

 

 明日もきっと地下で作業だ。疲れを持ち込まないためにもと僕はベッドに横になったのだった。

 




次回、二十五日目


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・二十五日目「『そいや』と言う単語に何故か悪魔城を思い出す」

「おっはよー」

 

 窓の外の明るさを見ると、外に出てみたくなる今日この頃。スケルトンやゾンビが焼かれていれば尚のことだ。

 

「ちょっとだけ」

 

 アイテム狙いの浅ましい気持ちで窓越しにスケルトンが倒れるのを見届け、外に出る。

 

「骨と矢ゲットー。弓はないけど」

 

 骨は狼を手名付けられるアイテムである他、加工することで植物の肥料にもなる。

 

「あ、狼が」

 

 他にも何かないかと見回せば、飼育所の外で柵に向かってジャンプを繰り返す害獣の姿。

 

「ガルル」

 

「セイヤーッ」

 

 僕は容赦なく斧を振り下ろし。

 

「ギャンッ」

 

「もいっちょ」

 

 更に追撃。羊に気をとられていたので始末は簡単だった。

 

「ふっ、正義は――って、危なっ」

 

 調子に乗っていたら飼育所の近くにジャンプで中へ飛び込めそうな場所があったので、スコップで急いで土を削る。

 

「はぁ、あの狼がアホで良かったぁ」

 

 同時にここを使って中に飛び込まれていたらと思うと寒気がする。

 

「まぁ、もう終わったことなんだけど……さてと、後は……あ、この辺りの地図、まだこれだけしか埋まってなかったんだ」

 

 何気なく持ってきていた地図を覗いてしまったのは、失敗だったかも知れない。

 

「うう、埋めたい……」

 

 火がつく僕の探求心。と言うか、不完全すぎる地図が放っておけなくて。

 

「行ってみよう」

 

 気が付けば僕は走り出していた。山の麓、にあった森の脇を抜け、北へ。川か湖か、広い水辺へ出会い、近くの木を切り倒し、作業台を作ると、砂に埋め込み、目印のたいまつを立てて、ボートを作成。

 

「久しぶりの船旅だ」

 

 北へ。うっかり蓮の葉に接触しつつも北へ。

 

「って、行き止まり……引き返そう」

 

 湖の北岸にたどり着き、Uターン。

 

「あ」

 

 北東に川の入り口を見つけ、そちらに。

 

「ちょ、狭い。しかも久々の操船だし、ちょっ」

 

 イカとぶつかり、船が壊れ水底に。

 

「ぷはっ、何でこんな狭い川にイカ二匹も居るのーっ?!」

 

 イカの数え方はハイだったか。

 

「って、そうじゃなくて、ここからどうしよう……船旅じゃないと移動距離はたかが知れてるし‥…んー」

 

 僕はまた迷った。だが、短い間のこと。

 

「とりあえず、最初の予定通り北に行ってみよう」

 

 出来れば高い山から周囲を眺めても見たいが、それは時間が許せば。

 

「……なんて思ってた時期が僕にもありました」

 

 地図で見えてなかった前方を見るとそこには山があり。

 

「登った! そして、絶望したッ!」

 

 人工物なんてありやしない。下の方を見たら一箇所渓谷が口を開けてましたが、何か。

 

「ま、まだだ。落ち着け。これだけでっかい山なんだ。太陽は真上だし、地図埋めがてら360度順に見て行けば新たな発見が――」

 

 ありませんでした。

 

「ちくしょーっ! 時間を無駄にしたっ」

 

 傾く太陽、ここからどっちに行くのか定まらない心。

 

「引き返しても、拠点に戻る前に日が暮れるだろうし……祭壇こしらえるにはまだ太陽は高いし。うー、あーっ」

 

 迷う、ハンパすぎて迷った。山が高いこともある。登ってきたところは石とかで足場を作ったり土を削らないと登れない急勾配だったし、山頂近くに洞窟がぽっかりと口を開けていたりもしたのだ。

 

「下手な所から降りて洞窟とか渓谷にシュゥゥゥゥッ! されたらなぁ」

 

 バケツの水はある。滑り降りること自体は難しくはないのだ。

 

「くっ」

 

 そして、こうしてる間にも時間は流れて行く。

 

「北西には海が見えた様な気がするけど」

 

 今から目指して船を作る時間はあるのか。たどり着けるのか。

 

「たどり着けても洋上徹夜コースだろうけれど……。それでも――」

 

 高所から発見が出来ないなら、海に出て足で稼いだ方が可能性はある。

 

「んー……」

 

 悩みに悩んだ、結果。

 

「祭壇だ」

 

 僕はいつもの祭壇を山頂に押っ立てる事に決めた。

 

「更に高くなった上、夜なら、遠くの明かりでも拾えるかも知れない」

 

 博打ではある。が、やや東に逸れたものの、半分以上直進してるので、夜が明けてから帰るという選択肢もここなら選べる。

 

「あれが良い」

 

 近づいたのは山頂に一本だけ生えた針葉樹。

 

「ブロックにして数個分とは言え節約出来そうだからね」

 

 土台は、それに決めた。

 

「君には悪いが、丁度良い場所に生えていたのが悪いのだよ」

 

 踏み台にさせて貰うと語りかけ、土や石を足場にして枝を更に上へ。やがて天辺に登り詰めてからが本番だ。

 

「はっ、そいやっ、ほっ、そいや」

 

 視界がどんどん高くなって行く。そして、太陽はどんどん落ちて行く。

 

「はっ、そいやっ、ほっ、そいや」

 

 そいや、そいや、そいや、そいや、そいや。

 

「はっ、そいやっ、ほっ、そいや」

 

 どっこい、そいや、そいや、そいや。

 

「ふっ、はっ、ふっ、そいやっ!」

 

 もう、勢いだった。夕暮れの中石柱を高く、更に高くする男、僕です。

 

「さーて、もう良いかな。そろそろ寝床を作ろう」

 

 手を止め、ポツリと呟くと、柱を高くする作業は足場を作る作業に。僕は見てしまったのだ、第二の絶望を。

 

「ふふ、ははは。また明かりがないんですけど」

 

 唯一確認出来た南西の端っこのモノは船を作った場所に立てた目印だろう。ちなみにもう一箇所明るい場所があったが、そちらは溶岩の滝であると明るい時に確認している。

 

「おまけに羊毛全部仕舞って来ちゃってるし、僕」

 

 ベッドの置ける広さをこしらえ、作業台を作ってから発覚する衝撃の事実ゥ。

 

「二つ目の拠点よりずっと高い」

 

 焼き羊肉を囓りながら、謎のテンションで巫山戯ないと、やっていけない僕がそこにいた。

 

「せめて、ここで船だけ作っちゃおう」

 

 明日は船旅だ。密かに心に誓い、僕は星を眺めた。

 

「ふーん、見込みがありそうなのは……あ」

 

 次に地図へ視線を落とし、よく確認して気づく。

 

「海だと思ってたのって、僕が船で通ってきた湖だ」

 

 まさかの大ポカだった。

 

「もう船作っちゃったのに……一応北東にも広そうな川はあるけど」

 

 これは帰れと言うことなのか。

 

「ふぅ、そう言えば北東ってあの溶岩の滝があった方角でもあるよなぁ……あ、川の側にカボチャもあるや。あれは回収した方が良いかなぁ?」

 

 時は流れて行く。時間を持て余し、眼下を見てブツブツ呟きながら僕は首を傾げ。

 

「あ」

 

 気づけば赤く染まる東の空、夜が明けようとしていた。

 




次回、二十六日目。


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・二十六日目

 

「ひゃっほー」

 

 眼下のゾンビが燃えつきるのを待って僕は飛び出した。

 

「って、ちょ」

 

 零れた水が滝となり、僕の落下速度を下げてくれるのはいい。ただ、緑の自爆魔が水の流れに寄ってきていたのだ。滝登りを始める匠、落ちて行く僕。

 

「こっちくんなー!」

 

 まさに空中戦だった。振るった斧で水中の匠を吹っ飛ばし山肌にぶつかって流れの変わった先で着地した匠はまたこちらに寄ってきて、流される僕の身体も必然的に匠の方へ。

 

「ええい、鬱陶しい!」

 

 もう一度振るった斧が全てを決めた。任務了解死ぬ程痛いぞモード(じばくシークエンスちゅう)に吹っ飛んだクリーパーは爆発四散し、僕は快哉を叫んだ。

 

「さて、お次はカボチャを……あ、ここ渓谷の入り口だったんだ」

 

 高所落下と隣り合わせな位置のカボチャを回収し、船を川に浮かべると溶岩の滝が眺められる湖を経由して更に先へ。

 

「バケツがあったら寄り道して溶岩の滝の元回収するのも良かったんだけどなぁ」

 

 流れる溶岩は触れた水を石や丸石にしてしまう事が出来る。岸の上の方から溶岩を流すことで水面を石にし、溶岩を回収出来た石の先端の上でバケツを開け、溶岩と触れた部分が石になったらバケツで溶岩を回収すると言うことを繰り返せば橋を造ることが出来る。

 

「水バケツと両方有れば無限に丸石を回収することも出来るから、後は木の苗と土、石の斧とつるはしに作業台が有れば半永久的に石器を使い回すことだって出来るし」

 

 高所から水と溶岩を流すことで足場を作って降りる何て事も出来る。

 

「後はダンジョンの入り口から中に流し込んで敵を焼き殺しても良いし、溶岩自体が発酵するから流れ込んだ先が明るくなって構造もわかったりするし」

 

 ただ、自分がひっかぶれば火がついてダメージを受けるし、溶岩のモトが水に触れてしまうと、黒に近い紫のダイヤのつるはしでしか壊せない黒曜石になってしまうため、扱いには注意が必要だが一つあれば出来ることは多い。

 

「やっぱ、バケツは最低でも二個は必要かぁ」

 

 そうなると鉄が必要になってくる訳で。

 

「洞窟の天井堀抜いちゃったのが痛いなぁ。あれがなかったら最初の拠点みたいにブランチして鉄ぐらいは回収出来てたのに。えっ、だったら何故あの家を出てきたのかって?」

 

 言われてみれば、その通りかも知れない。

 

「って、僕は誰と話してるのやら」

 

 本当に疲れてきたのだろうか。

 

「行けども行けども収穫無しだもんなぁ、はぁ……」

 

 人と話したい。美味しいモノが食べたい。柔らかなベッドとかに寝そべって惰眠を貪りたい。

 

「温泉でのんびりくつろぐってのもいいなぁ、それから……って、いけないいけない」

 

 操船中なのに何か別の意味でトリップするところだった。

 

「わかってたことではあったけどさ、色々飢えてるんだなぁ、僕」

 

 だからこそ、村を見つけたくて、僕は進む。大まかな地形は昨日高所から見てるからだいたい予想どおりであり。

 

「ただ、豪雨に遭うとか、そこで船を岸にぶつけて沈めるとかは予想外でしたけどね」

 

 けっこうな距離は稼いだと思うが、雨に悪くなる視界。岩山に船で通れるトンネルを見つけてそちらに進んだのが失敗だった。

 

「新造して間もないのに」

 

 本当にどうしてこうなった。気づけば、知らない草原に一人ぼっちである。

 

「泣きたい……けど、泣いてる場合じゃないし!」

 

 豪雨の時も夜同様に魔物が湧いた様な気がするのだけれど気のせいだったろうか。

 

「えーと、どうしよう、落ち着け、落ち着け。船はない、だから水辺には逃げられない。生け贄の祭壇は……作るのにちょっと時間帯が早すぎるし……強行突破で豪雨地帯を抜ける? けどどっちの方向に……」

 

 元々船旅で移動距離を稼ごうという行動方針だったのだから、船が沈んだ時点で当初の目的は果たせなくなった。

 

「かといって引き返そうにも船はない。いや、足を止めて作業台作って、新しく作れば良いのか? けど、水路は行き止まりっぽいしなぁ」

 

 となれば、問題は戻るか進むか。

 

「引き返そう」

 

 決断理由は、一つ。

 

「帰り道を探して地図を見たら、今居る場所がわからないとか……本当に参ったね、こりゃ」

 

 どうやら、地図の外に出てしまっていたらしい。

 

「落ち着け、落ち着け……って、さっきも言った様な……いや、それは良くて、山の上から見ておおよその地形はわかるんだ。なら、おおよその方角に真っ直ぐすすうわぁっ」

 

 そして、地図を見ながら走ったせいで湖に落ちる。

 

「っぷは、ちくしょがぼがぼがぼがぼ」

 

 僕は泳いだ。もちろん岸まで。もう自棄になってこのまま泳いでいってしまおうかとも考えかけたもののボートの方が早いのはわかりきっている。

 

「ふぅ、ようやく岸だ。で、家はあっちのほ……」

 

 ジャンプして段差を越えつつ水をまき散らし、びちゃっと着地して周囲の確認をした僕は見つけた。

 

「う……み?」

 

 海だった。

 

「あ、しかもここは地図の描写範囲内だ」

 

 かなり遠くまで続いている様に見える水辺。新たなボートを造らない理由はなかった。

 

「ひゃっほー」

 

 相変わらずの豪雨だが、ボートは滑る様に走る。モヤモヤした気分は吹き飛んでいた。

 

「けど、この東側、陸地が全くないどころか海底に妙な光の壁というか、ここから切り取ってますよみたいなの見える気がするんだよなぁ」

 

 気のせいかも知れない。ただ、ゲームでそう言うただ水しかない場所目掛けて突き進んだらボートが大破したことがあった。

 

「あれは『世界の果て』ってのだと思うんだけど、ひょっとしたらこれも……」

 

 同じモノなら接触した瞬間ボートが壊れて上陸出来るモノのない海原に投げ出されることになる。泳ぐことは可能だが、下手すれば体力を使いすぎて飢え死にと言うことも考えられるだろう。

 

「触れた瞬間元の世界になんて甘い展開は……ないよね」

 

 試すにしてはリスクが有りすぎる。やるならボートを二隻用意して、失敗を前提でもう一度来るべきだ。

 

「うん、今日の所は地図だけ埋めて戻ろう」

 

 推定世界の果てのためか、地図で言うところの東側は陸がなく、右手には島や陸地が普通に見えるものの今のところ進路を遮られることもない。

 

「時間に余裕が有れば南東の端っこも寄り道してみておきたいけど……」

 

 天気が豪雨となると残された時間を推測するのも難しい。

 

「最悪船上泊、と言うか徹夜かな?」

 

 これも無計画な冒険が原因、誰を責めるわけにもいかない。

 

「せめて収穫があります様に」

 

 祈りつつ僕はボートを海に走らせた。

 

「うん、確定だわ、これ」

 

 まるでならしたかの様に均一な海底、浅瀬も刃物で切った様に不自然に途切れ、何もかもが直線に終了している。

 

「だったら……拠点の近くに目印のランタンでも置いて、この果てを片方に見る様にしたら、ひょっとして地図なしでも迷うことなく進めたり?」

 

 突飛なアイデアかも知れないが、魅力的でもあった。地図は作るのにコンパスを必要とする。だが、コンパスは鉄がないと作れないのだ。

 

「もちろん、戻って家の地下で鉄を見つけて地図を作ってからチャレンジしても何の問題もないのだけど」

 

 ひとまずの問題があるとすれば。

 

「上陸出来るか、だよね。雨天でもわかるぐらい暗くなってきてるし」

 

 上陸して祭壇を築くか、ここまま船の上で夜を明かすか。

 

「羊毛無くてベッド作れないからなぁ。地図埋めつつ朝を待てば良いかぁ」

 

 僕は決断を下すと、来た道をボートで引き返す。世界の果てに気をとられ、地図に書いてない岸が北東の方にあったのだ。

 

「って、ここに湖があるや。んー、海にも繋がってる様に見えるし、行けるかなぁ?」

 

 空の色がオレンジ色を帯び始めた景色の中、僕はボートを減速させ、もう一度地図を確認する。

 

「あ、駄目だ。狭いから普通に入ろうとすると多分ぶつかる」

 

 だが、上陸すれば話は別だ。

 

「よいせっと」

 

 船を下りる、斧でアイテム化、岸を乗り越えボートを浮かべる、乗り込む、ただそれだけのこと。

 

「さーてと、時間的にはそろそろタイムオーバーだし、今日はこれぐらいかな?」

 

 湖は思ったより広かったが、狭くなった場所の先にまだ続いている様で、あり。

 

「このまま向かうなら危険が伴うよね。岸には普通に魔物うろついてるし、人骨とか蜘蛛とか」

 

 湖の広くなってる場所の中央に居るためか、モンスター達には気づかれていないが、近づけばおそらく話は別だ。

 

「結局北東の海岸はお預けかぁ」

 

 途中から陸路になると思うが、距離だけなら第二拠点の方がここから近い気がする。

 

「うん、確かめてみたら距離的にはだいたい同じぐらいだったなんてのは、天気が雨で地図が濡れてるのと雲に隠れて月明かりもささないからだよね?」

 

 そうだ、きっとそうに違いない。

 

「なら、朝が来れば……って、本当に雨、止まないなぁ」

 

 見上げれば顔を叩く雨は今だ止むこともなく。

 

「あれ?」

 

 言及した直後に止んだのは、僕に悪意でもあったのか。

 

「何故狙い澄ましたかのように……あ、月が」

 

 気づけば月も周囲を照らしていたが、その位置は低く。

 

「ってことは――」

 

 東の空を見れば朝焼けが始まっていた。

 

「わぁ……」

 

 この湖に入るのに乗り越えてきた岸を除けば、遮るモノの何もない水平線に暁はあった。

 

「綺麗だなぁ……匠とスケルトンがお邪魔だけど」

 

 人骨の方はすぐに燃え尽きる、と言いたいところだが飛び込んで燃焼を避ける水には事欠かない。たぶん生き残るだろう。

 

「つまり、退路も断たれてるわけで、これはほぼ一択かな」

 

 気まぐれな冒険の帰路も半分を過ぎていた。

 





次回、二十七日目。


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・二十七日目「ただいまの後」

 

「徹夜から始まる二十七日目でございます」

 

 何だろう、このテンション。

 

「って、ええ、ちょっ」

 

 だが、この日は出だしから微妙だった。こちらが気取られない程度に距離を置いていた人骨が泳ぎながら近づいてきたのだ。

 

「こっちくんなー!」

 

 それが正直な気持ちだったが、スケルトンは止まるまい。何故なら、後方を犬掻きで猛追する影があったから。

 

「そりゃ、人骨(スケルトン)からすれば岸にいた狼が自分に気づいて飛び込み、追いかけてきたら必然的に陸から遠ざかるコースは取るだろうけどさぁ」

 

 何もこっちに向かって泳いでこなくても良いと思う。

 

「前方の骨、後方は骨と匠……まったく」

 

 現在地が広い水辺で良かったと思う。

 

「日が昇り始めたのも助け、かな」

 

 スケルトンも狼も細かく言うなら居るのは右手前方。陸の魔物を警戒して湖の中央にいる僕には退路がある。

 

「ぶつかりませんようにっ」

 

 大きく梶を切り向かわせたのは左手の岸。ボートの機動力なら迂回しつつ加速すればすれ違うのは難しくない。

 

(岸にぶつからなきゃ、の話だけど)

 

 つまり、自分の操船技術次第。

 

「大丈夫、行けるっ」

 

 おけはざま号達の犠牲も、筋肉痛になってもおかしくないのになぁと首を傾げる程オールで漕いで腕を酷使した経験も無駄にはならない。

 

「やった、抜けた……ん、また開けた場所に……ここは湖かな? 大きな川の様にも……あ、島がある」

 

 周囲を観察する間も周囲はどんどん明るくなって行く。

 

「油断は禁物だけど、この分なら上陸も出来るかも……と言うか、ここ、川と繋がってないのか」

 

 浮く蓮の葉で動きづらくなり、上陸地点を探す内に見つけたのは河口を盛り上がった土に塞がれた形の川。

 

「この土がなかったら湖に合流出来てたのに。流れてきた土砂が堆積してダムになっちゃったとか? けど、こんな河口でってのも……むしろ地形的には崖崩れの方がありそうなんだけど」

 

 ブツブツ呟きつつ、ボートを下りると、斧を振るった。

 

「これでよーし。んー、拠点の南っ側にも川があったし、この川があの川に続いてるなら辿ってくだけだし、楽でいいよね」

 

 これで戻れる、そう思った僕を待っていたのは、川を辿りつつのマッピングの結果、辿った川が拠点の側を流れる川とは別の川という事実。

 

「さっきの、フラグでした?」

 

 問うたところで答える者はいない。湖では牛を見かけたが、川が別の川と気づいて逸れてから目にした動物はおらず。森を抜け、丘を登り。

 

「あ」

 

 開けた視界に飛び込んできたのは、カボチャランタンと一軒の家を乗っけた山の頂。

 

「我が家だ。帰ってきたんだ……」

 

 足下に流れる川は、今度こそ拠点南にある川だろう。

 

「戻ろう」

 

 戻って鉄を手に入れる。そして、再び地図を作らなくちゃ。僕は、丘を駆け下り、川を泳いで横断すると、河原を走り出す。

 

「ひゃっほーっ!」

 

 振り回すスコップで川岸に生えていたサトウキビを刈り取り。

 

「メェ~」

 

「たっだいまーっ!」

 

 柵の外にいた羊の毛をハサミで刈り取ってご挨拶。

 

「ふふ、帰ったらまず水浴びかなぁ? 何度も泳いだけど外じゃリラックスして身体を洗うなんて無理だったし」

 

 ついでに地下農園の収穫も済ませてしまおう。

 

「ただいま、ただいま、ただいまーっ!」

 

 危ない人みたいにただいまを連呼しながら階段を上るが、許して欲しい。こんな長い冒険にする予定はなかったのだ。

 

「ふぅ、魔物に襲われないこの安心感」

 

 ドアを開け、中に入って後ろ手にドアを閉めた僕は、ベッドに腰掛けると身体から力を抜いた。

 

「あー、このまま寝ちゃいたい」

 

 もちろん、本当に寝る気はない。やらなくてはいけないことが残っているのだから。

「まずはボートをチェストにシュゥゥゥッ!」

 

 サイズ差の不思議とかはもう気にしない。ついでにいらないモノもぽいぽい放り込むっぽい。

 

「さー、収穫収穫。んー、カボチャは控えめ。おおっ、麦は大豊作だ。んー、サトウキビは微妙。サトウキビだけなら川辺で辻収穫した分の方が多いなぁ……さて」

 

 とりあえず、収穫を済ませたところで僕は服を脱いだ。

 

「読者サービス……って、どの辺がサービスなんだろ」

 

 そもそも読者って何だ。ひょっとしてこの日記を読む人のことなのか。

 

「ううん、一人が寂しくての一人ボケ突っ込み、それ以上でもそれ以下でもないよね」

 

 やはり、孤独は人を狂わせる。

 

「早く村を見つけないとなぁ」

 

 お風呂にでも入る様に水路に浸かると△座りして壁を見つめる。

 

「はぁ」

 

 一人だけの生活は慣れない。だからこそ作業を進めて再び旅立つ準備をしないといけないのだけど。

 

「……そろそろ良いかな。収穫したモノをチェストに入れに行かないと」

 

 皮算用だけど、異なる種類の鉱石が出て持ち物が一杯になることだってあり得る。僕は水路を出るとしっかり水気を拭き取って、再び服に袖を通した。

 

「さー、掘るぞー」

 

 そして、作業を開始したのは、梯子を一応福士、更に地下へ降りた後のこと。まずたいまつを設置した足場から梯子を設置する場所を堀り、つるはしが届かなくなったら降りて次のたいまつを設置する足場を作るため隣の壁を掘る。

 

「そしてそのまま今居る場所より深く掘る。こうすれば最初に洞窟があってもすぐ足下を掘る訳じゃないから天井堀り抜いても落ちる事なく気づけるし」

 

 お次は足場の高さまで足下を掘ろう。そう思った僕はつるはしを振るい。

 

「えっ」

 

 たいまつを設置した高さに至る前に足下が消失する。

 

「ちょ、うぐっ、え?」

 

 足に感じる痛みのレベルに達した衝撃と暗闇。

 

(な、僕、どう……お、落ちた?)

 

 一瞬パニックに陥ったものの、幸いだったのは下がマグマで無かったことと、いきなり攻撃される程近くにモンスターが居なかったことだ。

 

「くっ」

 

 咄嗟の行動だった。掘った時にアイテム化したのであろう安山岩を足下に置き、飛ぶ。

 

「急が、ない、と」

 

 生け贄の祭壇を何度も作った経験が、生きた。

 

「っ、ふぅ……ビビッたぁ」

 

 経験は生きたが、生きた心地はしなかった。僕はこれ以上掘れなくなった石柱の天辺兼石床の上にへたり込み。

 

「けど、どうしよう。これでまた迂回するか掘る必要が出てきちゃった……うーん」

 

 少し堀り広げて小部屋を作り、近くの床を掘ってたいまつを突っ込んでみる。

 

「あ」

 

 視界に入ったのは大きな蜘蛛の足。

 

「これは迂回ルート確定だね」

 

 ランタンを置き、再び小部屋を拡張し中部屋に広げると、元の梯子の場所からはかなり離れた場所に穴を放る。

 

「……うん、瓢箪から駒、は違うな。棚からぼた餅だっけ?」

 

 少し掘って僕の手はあっさり止まることになる。掘った穴の壁から顔を出したのは、鉄鉱石。

 

「ふふ、あははまさかこんなタイミングで手にはいるなんて――」

 

 災い転じて福となす。僕は更につるはしを振るい。

 

「あっ」

 

「シュー」

 

 穴の底が抜け、闇の中からたいまつの明かりに照らし出される緑の匠。

 

「おうわぁっ」

 

 慌てて穴を塞いだ。採掘出来そうな鉄鉱石はまだあったが、そう言う問題でもない。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……今日はもう休もう」

 

 少しだが鉄鉱石も手に入った。寝る前に竈に入れておけばいくらかのインゴットは手に入るだろう。

 

「なんか、最後の最後で心臓に悪い一日だったなぁ」

 

 下手すれば死んでいてもおかしくなかった。そう言う意味では運が良いのか。僕は梯子を登ると、有言実行。竈に鉱石を入れてからベッドに横になるのだった。

 

「おやすみー」

 

 鉄の使い道も明日決めよう。久々の拠点のベッドは気持ちよく、僕は気づけば眠りに落ちていた。

 




次回、二十八日目。

またストックが切れたようです。プレイしないと連続更新ががが。


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・二十八日目

 

「おっはよー! えーと、確か昨日は……あ゛」

 

 目を覚まし、昨日を思い出して僕は顔をひきつらせた。

 

「洞窟に落ちたんだっけ……はぁ、よく命があったよなぁ」

 

 モンスターが側にいてもだが、下が渓谷だったら墜落死した可能性もあった。

 

「前の拠点が割と順調だったから気が緩んでたのかもしれない」

 

 反省すべき点である。ただ、そうなると作業再開は心情的にし辛くもあるのだが。

 

「ううん、ここで挫けて一人暮らしなんて無理だ」

 

 孤独に耐える方が辛い。

 

「村を見つけて、可愛い村娘ときゃっきゃうふふな生か……げふんげふん、安全管理がなってない村人さん達を救うためにも、鉄を手に入れて新たな地図を作らないと」

 

 うっかり言い間違えてしまったが、あくまで僕が村を探すのは世のため村人のため。

 

「そりゃ一人は寂しいからってのも理由の一つだけどさ……」

 

 少しぐらいの私情は許して欲しいと思う。そう、誰に向かってかわからないながらも弁解しつつ梯子を降り始め。

 

「一つ目はここで終点、かぁ。んー、迂回もちょっと面倒って言えば面倒なんだよね」

 

 足下で床になっている埋め戻した洞窟の天井に視線を落としながら次の梯子へ。

 

「そんなこんなでやって来ました最下層」

 

 説明口調も洞窟と岩一つ隔ててるだけだと思えば自然と声は潜められる。

 

「では、どうか魔物と対面とか有りません様に」

 

 空いた手で拝む形を作りながらもう一方の手でつるはしを持ち上げ。

 

「あ、鉄鉱石」

 

 慎重に梯子の下につるはしを振り下ろした僕が掘り当てたのは洞窟ではなく、次に梯子を貼り付ける面に露出した鉄鉱石。

 

「匠がちょっと怖いけど子供のゾンビ以外はブロックで二マス分ないと入ってこられない筈だし、洞窟と繋がってもすぐ塞いじゃえば……」

 

 大丈夫だと言い聞かせつつ鉄鉱石を回収すれば、ぽっかりと口を開けた空間があり。

 

「……なるほどなぁ、梯子の向こう側に空洞があったのかぁ」

 

 ある意味予想通りではある、ただ。

 

「ん? だったら、ここ下に掘る分には問題無いんじゃ?」

 

 鉄鉱石に釣られて梯子を設置してる壁の脇を掘ったから匠と鉢合わせしたのだ。なら、梯子を貼り付けてる壁面は洞窟から見れば壁の内側に当たる筈であり。

 

「試しに掘ってみよう。うまく行けば、ハンパな形でまた下に降りる場所を探さなくても良くなるし」

 

 一応、さっき手に入れたのと竈に入れたままの鉱石を合計すれば五つくらいはインゴットが出来ると思うが、出来れば鉄は多めに持っておきたい。

 

「んー、地図によると高さは27、まだ下かなぁ?」

 

 そこからは順調だった。洞窟と貫通することもなく、掘っては梯子とたいまつを付け、足場を残してしたへの繰り返し。

 

「やったぁ、鉄鉱石ゲットー」

 

 ついでに鉱石まで手にはいるという運のいい流れに自然と僕のつるはしを振る手にも力が入った。

 

「よーし、梯子はまだ残ってるし掘……えっ?」

 

 ただ、ちょっと夢中になりすぎたらしい。つるはしを振り下ろした先に見えたのは、鉄以外の輝き。

 

「ちょっ」

 

 思わず目を疑ったが、間違いなくそれは金色をしていた。

 

「金鉱石? あれってかなり深い場所じゃなきゃ出ないは……あ゛」

 

 慌てて地図を見るとたいまつの光に照らされたそれに表記されていた高さを示す数字は12。どう見ても目的としたぐらいのたかさです。

 

「あっぶな、気づかず岩盤まで行くとこだった……」

 

 だが、結果オーライと言ったところか。

 

「いよいよ採掘開始かぁ。っと、その前に――」

 

 採掘したモノを集積加工する小部屋が無くては手間がかかる。

 

「まずはこの鉱石の回収から……えーと、鉄のつるはしは……あったあった。ここまで来てつるはし無かったら泣きながら梯子を登るところだったけど……さーて掘りますか」

 

 こう、鉄のつるはしを使うことにもったいなさを覚えてしまうのは僕がケチなんだろうか。

 

「ふぅ、回収完了。四つかぁ、まぁこんなものかなぁ? で、お次は作業台を作って床に埋め込んで~♪」

 

 チェストと竈も作って埋め込み設置。

 

「あ、たいまつが殆どなくなってる。補充しておかないと」

 

 ここからは目印兼湧き潰しとしてたいまつが欠かせない。たっぷり八十本ほど作り終え。

 

「んー、右で良っか」

 

 少し唸った僕は梯子を正面に見て右の壁につるはしを振るう。

 

「ここが基点でー」

 

 ブロックで四つ掘り進んでたいまつを置き、右手と正面を掘って、まず右に。

 

「次の目印……っと、の前に鉄かぁ、さい先良いなぁ」

 

 一つ面横枝の収穫は鉄鉱石。

 

「正面は……って、分岐の前に鉄ですか」

 

 何という鉄鉱石フィーバーだろう。

 

「少なくともこれでコンパスが一個は出来るな」

 

 ほくほく顔で二本目の枝を掘り進めればそこそこ大きな石炭の層にぶち当たる。

 

「やったぁ! これで竈の燃料もゲット……あ、けど、流石にそろそろ時間が気になるかも」

 

 夢中で作業をしたのだ。登ってみたら夜でしたってオチであってもおかしくはない。

 

「そして案の定夜でした、と」

 

 梯子を登ってベッドの向こうにある窓を見れば、星空の下、たいまつやランタンに照らされた羊の飼育施設があり。

 

「コンパスは完成っと、これを使って地図を作って……うん、やっぱり二枚は出来た」

 

 これで次の冒険の準備は半分終了する。

 

「さてと、このまま寝ても良いんだけど……その前に」

 

 僕はくるりとベッドに背を向け、再び梯子に足をかけた。

 

「作物の確認をして、ついでに水も浴びてこよう」

 

 一人ぼっちの生活だが、衛生面の問題を疎かにして、悪臭を漂わせていては村を見つけた時、どんな目で見られるか、想像に難くない。

 

「やっぱり、ある程度の身だしなみは整えておかないとね。あ、カボチャはけっこうなってる」

 

 結果だけ先に言うなら、この日の収穫はそこそこだった。

 

「作物が一杯って事は、逆説的に畑の世話を疎かにしてたって事だから手放しでは喜べないんだけどね」

 

 苦笑しつつ、サトウキビ用の水路で水浴びすると、服の脇に置いた収穫物に目をやる。

 

「加工は今晩じゃなくていいかな。そこまでやってると夜が明けちゃいそうだし」

 

 明日、再びこの地を後にするなら睡眠はちゃんと取っておきたい。

 

「うん、そう思うなら言わなきゃ良かったかも」

 

 服を着て梯子を登った僕が遠い目をしながら呟いたのは、窓の外の星空が白み始めていたからで。

 

「けど、まだセーフだよね?」

 

 急いでベッドに潜り込むと、お休みなさいと言って僕は瞼を閉じた。 

 




次回、二十九日目


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・二十九日目?「あっ」

 

「ふあっ、ん……おはよう」

 

 瞼が重いのは睡眠時間が短かったからだろう。ベッドから抜け出し、僕はチェストに向かった。

 

「荷物を整理して……終わったら出発だ」

 

 地図は昨日作った。

 

「ボートと……小麦はパンに変えて……カボチャも持っていこ。ランタンは種に戻せないし、出先でカボチャが見つからないってこともあるだろうから」

 

 後は真っ白な地図が有ればいい。

 

「最初は西、かな」

 

 緑の匠から逃げて飛び込んだ川の向こう、大きな水辺を僕は目撃していた。進むなら、ボートを使ったほうが距離は稼げる。

 

「んー、良い天気……見たところ焼けてるのを含めてモンスターの影は無し、っと。荷物整理とかでちょっと時間をかけたからかな?」

 

 あるいは寝坊したか。

 

「どっちでもいいや。魔物がいないなら好都合」

 

 稼げる内に距離を稼いでおいた方が良い。

 

「ひゃっほー」

 

 僕は山を駆け下り、羊の飼育所の脇を抜け、川に飛び込む。

 

「ぷはっ、うん、あの時見た通り」

 

 中州の向こうに広がるのは、湖だろうか。まだ地図を埋めていない地域でもある。

 

「このまま西の水辺を進めば地図も一気に埋まって行く筈」

 

 そして最終的には北に進路を取り、次の地図に突入するつもりでいる。

 

「モンスターは見かけないし、さい先良さそうだよね。このまま一気に――」

 

 行きたかった僕を遮ったのは川の入り口をせき止める土砂。

 

「……一端上陸しろって言うんですね、わかります」

 

 さっきの発言はフラグだったか。

 

「で、そこそこ広い湖があって、また砂に仕切られてて、西側は海、かぁ」

 

 北にもそこそこの広さの湖があり、更に北には高山がそびえ立つ。

 

「一応、自分で言い出したことだし」

 

 どう考えても西の海の方が距離は稼げるが、地図を見る限り、広がる海は地図の外。北へ行くと決めたのに西隣に行く訳にはいかない。 

 

「さーて、登山開始だ」

 

 登山は登山で良いこともある。むき出しの石炭の塊と出くわすことがあるのだ。

 

「それに、高いところに登れば周囲が見渡せるもんね……って、言ってる側から」

 

 登る途中に石炭を見つけた僕は地図をつるはしに持ち替えて振るう。

 

「やー、収穫収穫。これでたいまつの材料にも余裕が出来たかな」

 

 ほくほく顔で中腹を跳ねながら進み、目についたのは向かって左手。

 

「こっちは森林かぁ。木が密集してるのが何とも、こっちに来てくれって言ってるよね」

 

 中腹と木々の天辺の高さが殆ど同じその森林は木々の上を普通に歩くことが出来そうだった。

 

「メェ~」

 

「くわえて羊が居るとなれば、もう、ね?」

 

 実はベッドの材料を忘れてきた僕としては山の中腹から木々の上に逃げて行く羊は追いかけざるを得なかったのだ。

 

「よーし、一つだけど羊毛ゲットー♪」

 

 再び毛が生えるまでこの場にいるつもりはないが、構わない。北へ進む内にまた羊と出逢えるだろう。この時は、そう思っていた。

 

「さー、このまま山を迂回する形で――」

 

 進もうと声を出そうとして、僕は凍り付く。

 

「ちょ」

 

 山の向こうに見えたのは明らかに木造の家。

 

「うわーい、砂漠でもないのに蜃気楼だ……じゃなくて!」

 

 村、その単語しか浮かんでこなかった。

 

「なに、これ?」

 

 こっちとしては地図を二枚も作ってるのだアテもなく彷徨うんじゃないかぐらいの気構えだったのに、第二拠点を出てそれ程経っていないところでまさかの村発見。

 

「って、ぼーっとしてる場合じゃない! 離れるか行くか決めないと!」

 

 自分の周りは時間が経過する。つまり、このまま日が落ちれば村人が魔物に襲われる可能性が出てくる。

 

(ここに辿り着くまでに時間は過ぎてる、今から村に手を入れて日暮れまでに間に合うか……)

 

 悩ましい問題だった。

 

「くっ」

 

 だが、多分答えは最初から決まっていたのだと思う。

 

「もう、一人は嫌だ……」

 

 ぐっと拳を握り締め、急いで持ち物を入れ替える。必要なのは、明かりと丸石。危険地形なら修正する必要があるし、魔物が出た場合に備え、湧き潰しだってしないと行けない。

 

「ええと、さっきの家は……あった、こっ」

 

「はぁん」

 

 この瞬間の事を僕はきっと忘れないと思う。

 

「ひ、人だぁぁ!」

 

 体型のわからない服を着ていたし、両手を反対の袖の中に突っ込んで居たりしたし、髪の毛って何だっけと一瞬思ったけど、明らかにそれは人だった。僕の中ではまず間違いなく。

 

「うぐっ、この感動にもっと浸っていたいけど」

 

「はぁん?」

 

 時間はない。

 

「お邪魔しますっ」

 

 まず始めるのは家々の内側の湧き潰し。暗くなれば危険を感じて内の中に引っ込む村人さん達だが、ゲームでは暗ければ家の中でもモンスターは出現した。

 

(セーフティーゾーンが無かったら大問題だ)

 

 大きな家にはランタンを。台所とテーブルと思わしきモノがある『肉屋』には二本のたいまつを。小部屋には一本のたいまつを置き、丸太で囲まれた畑は角と丸太が交わる部分にたいまつを設置して行く。

 

「出来ればランタンも均等に配したいけど……って、この家扉がない?! くっ、作業台か」

 

「はぁん」

 

 慌てて作業台を作成し、丸石で足場を設置しがてら扉の制作にかかる。

 

「よし、扉の設置完了……次は」

 

「はぁん」

 

 時間との勝負だった。たいまつを戸口脇にくっつけ、屋外の開けた場所にはランタンを。

 

「って、気が付いたら日が――」

 

 何時しか西の空がオレンジに染まり、どんどん暗くなる周囲。

 

「だってのに何で家の中に入ってくれないの?」

 

「「はぁん?」」

 

 首を傾げるのは、黒っぽい服と白い服の村人が合わせて二人。ゲームの通りなら、司書と鍛冶屋だろう。

 

「くっ」

 

 やむをえず、気休めでもと周囲にランタンを配置。

 

「はぁん!」

 

 そこでようやく夜が迫ってることに気が付いたのか、家に向かって駆け込んでくれたが。

 

「……取り残された」

 

 外はかなり暗く、ベッドをこしらえるには羊毛が足りない。

 

「ちくしょぉぉぉぉ!」

 

 まさか村の真ん中で祭壇を作ることになるとは思わなかった。僕はひたすら飛んでは丸石を足下に積み上げて石柱を作って行く。

 

「バケツもある、だからいざとなれば飛び降りられるけど」

 

 問題は、急いで湧き潰しをしたことだ。お世辞にも応急手当のレベルを超えていないし、明かり設置漏れの家がある可能性は否定出来ず。

 

「ああ、気になる……って!」

 

 視線を下に向けていた僕は見つけてしまった。黒い服の村人が何故か家の外にいるのを。

 

「っ」

 

 飛び降りようかと思った矢先にその村人は家に駆け込み。

 

「はぁ、ハラハラさせてくれるよ……んー、やっぱり湧き潰しがまだ不完全だなぁ」

 

 畑の側に匠が居るのを見て僕は嘆息する。

 

「けど、今の内に家の数だけでも――うげっ」

 

 数えておこうかなと思った僕は顔をしかめた。

 

「魔女が居る」

 

 近くの池に自分から落っこちてテレポートを繰り返す長身の黒いアホは目を合わせなければいいのでスルーするとして、遠距離攻撃の出来るモンスターは、脅威以外の何者でもなく。

 

「け、けどこの祭壇の上なら――」

 

 大丈夫と思った矢先の出来事だった。

 

「う゛お゛ー」

 

 腐敗して緑に変色した肌を持つ人影が戸口によって行くのを見てしまったのだ。

 

「っ、さっき匠が湧いてた場所かっ」

 

 あれでは好奇心旺盛な村人が屋外に出ればどうなることか。

 

「くっ」

 

 バケツをひっくり返し、滝を作って祭壇から流れ落ちる。ぬかるみの泥を跳ね散らかして進む先は、ただ一つ。

 

「こんのぉ」

 

「う゛ぼ」

 

 こんな事も有ろうかと荷物の中に突っ込んでおいた石の剣で助走の勢いも借りてゾンビを殴り飛ばす。

 

「お゛ー」

 

 当然、家のドアからゾンビの注意はこちらに移る、だが僕はこの時もう剣を振りかぶっていた。

 

「こっち、くんなぁぁぁ!」

 

 ノックバック、だ。ゲームの様に攻撃を決めれば相手を吹っ飛ばせるのは匠とやり合った時に再確認していた。なら、剣のリーチがある分、攻撃はこっちの方が先に届く。おそらくはグロいであろう動く腐乱死体の顔や身体をまともに見る度胸も勇気もなかったし、相手を攻撃の届く距離に入れるつもりもなかった。

 

「不意をついた上で、一体だけなら僕だって――」

 

 殴って吹っ飛ばし、寄ってきたところをまた殴り飛ばす。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……とりあえず、さっきの場所に湧き潰し……しておかないと」

 

 幸いにもランタンはまだ残っている。僕は倒したゾンビが落とした腐肉を拾うついでにランタンを設置し。

 

「これで少しは……」

 

「うぼあー」

 

「って、今度はあっちとか」

 

 湧き潰しが充分でなかったのだ、このオチは充分予測出来たことであり。

 

「これでどうだ!」

 

「ぼばっ」

 

 ほぼ先程の行動をなぞる様に殴り飛ばしては寄ってきたところを殴るを繰り返すと力尽きた動く腐乱死体はぶっ倒れ。

 

「ん? 今向こうでも……うわぁ、今度は匠とスケルトンですか……」

 

 矢を射駆けてくる人骨と特攻自爆野郎は村人を攻撃しない。どっちも放置しても村人に危害を加えてくることは無い訳だが。

 

「なんでこっちに向かってくるんですかね、人骨(スケルトン)って、あの馬鹿狼ぃ」

 

 理由はすぐに知れた。腹ぺこモードの攻撃色も露わに人骨を追いかける犬科の生き物がすぐ見えたのだから。

 

「モンスターがあちこちに湧いてなければついでに動物虐待アタックで葬ってやるのに」

 

 遠くに見える食べ残しの羊毛と羊肉を見て更に殺意を高めながらも、あの厄介な魔物のペアに近づくことは出来ず。

 

「仕方ない、今は出来ることをしなきゃ。一個でも多くランタンを」

 

「う゛ぁー」

 

「だぁぁぁっ、またゾンビぃーっ!」

 

 再び僕は村の中央を迂回する形で別の家の戸口まで猛ダッシュ。

 

「たぁぁぁっ!」

 

「う゛ぼばっ」

 

 やるせない思いを叩き付けると、腐汁とか考えたくないものをまき散らしながら奴は吹っ飛んだ。

 

「そして、もういっちょーっ!」

 

「う゛お゛」

 

 肉迫される前に追いすがって更に殴る。戸口で戦闘していて村人がひょっこりドアの外に出てきては巻き込んでしまう恐れもある。かといって遠くに飛ばしすぎれば魔物が湧く暗闇での戦闘なんて事になりかねない。

 

「くっ、まだまだーっ」

 

 殴っては吹っ飛ばして倒し、殴っては吹っ飛ばして倒し。たぶん六体くらいは殴殺したんじゃないだろうか。

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ゾンビはもう近くにいない、か。うん」

 

 家と村人が襲われると夢中だったが、流石にこのまま朝まで夜通し戦い続けられる気はしない。僕は近くにある家の中へ引っ込んだ。

 

「おじゃまします」

 

 と小さな声で呟いたのも、少々今更かも知れない。

 

(明かり設置の時は無断で押し入ったことに気づける余裕なんて無かったし)

 

 僕としてはあのテンパった状況でそこまで気を遣えと言われても対応出来たか怪しいと思う、それよりも。

 

「あっ」

 

 家の中には村人が居たのだ。当然と言えば、当然でもある。夜は明けず、まだモンスターが闊歩する時間帯なのだから。

 




次回、エピローグ。

このお話も村を発見するという一つめの目的に至ったので、次回で最終回とさせて頂きます。

村を発展させてゆくお話を書くとしたら、第二部か別のお話にする予定ですので、どうぞご理解ください。


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・エピローグ

 

「うわぁぁっ?!」

 

 いきなりガチャッと扉が開き、駆け込んでくる村人。

 

「って、外にいたの?!」

 

 こっちとしては外が危険だから家の中にいるというのに。まだ外だって暗く魔物が湧いている時間帯だ。こっちとしてはひたすら頭が痛くなる。

 

「仕方ない、外に出よう」

 

 この調子で外を村人がうろつく様では、外でゾンビに出くわした村人がそのまま屋内に魔物を連れて来かねない。

 

「それだけは避けないといけないもんね」

 

「う゛あー」

 

 覚悟を決めて外に出れば、正面にある家の外を壁沿いにぐるぐる回るゾンビと、食い散らかされた羊たちの残骸。

 

「くそっ、ゾンビめ」

 

 惨たらしい殺戮の犯人はさっきの狼だと思うが敢えてそこはスルーする。

 

「いくぞっ、たーっ!」

 

 僕の勇気が村を救うと信じて、石の剣を振り上げ動く腐乱死体へ挑む。

 

「これで、トドメだっ!」

 

「う゛おぼ」

 

 何度剣を振るったかはもう覚えていない。吹っ飛んだゾンビは動かなくなり。

 

「次は……って、厄介なところに」

 

 周囲を見回すと村の中央にある屋根の上に立つ人骨が沈みつつある月の光に照らし出されていた。

 

「ん? 沈みつつ? あ」

 

 訝しんだ次の瞬間でもあった、スケルトンが燃え上がったのは。

 

「夜明けだ……やった、勝ったんだ!」

 

 村を守り通した。僕が迂回した高山の中腹に緑のリフォーマーが二体ほど佇んでいたが、距離があるからそっちはスルーで良いとして。

 

「とりあえず、アイテム回しゅ……羊の供養をしてあげなきゃ」

 

 これでベッドが作れるのだから。

 

「あとは祭壇もどうにかしないとなぁ。スケルトンとか村人の通行妨げになってた滝の部分は確実に」

 

 やらなければ行けないことは山程ある。その中でも最初に取りかかったのは、この溢れ出た水の問題で。

 

「とりあえず、丸石で囲って噴水に……よし」

 

「はぁん」

 

 水浸しの地面を減らすため石で囲えば、嬉しそうに近づいてくる村人。

 

「あー、水浴びでもするの」

 

「はぁん、はぁがぼっ、がばっ」

 

「ちょ」

 

 水浴びでもするのかと背中を向こうとした瞬間、やつは滝を登り始めた。

 

「やばっ」

 

 そのまま祭壇の上から転落死というオチを連想した僕は慌てて村人を追いかけ、追い越す。

 

「間に合えっ」

 

 空手をバケツに持ち替え、滝の源泉を回収。

 

「ふぅ、危ないとこ……え?」

 

 残った水と一緒にゆっくり降りて行く村人を見て安堵の息をつこうとしたが、そこには何もなく。

 

「……き、きっと僕の勢いに押されて滝登りを止めてどっかに行ったんだよ!」

 

 きっとそうに違いない。うっかり滝から突き飛ばしてしまったとかそんなことはきっと無いのだ。

 

「あ」

 

 だから、残った水に飛び降りた直後、同じ紫の服を着た村人を見かけた僕が少しだけホッとしてしまったのは別の理由に違いない。

 

「ふぅ、とにかく……祭壇の水も撤去したし、次の作業にかかろう。えーと、この噴水は石を利用して新しい家でも作るかな? それと――」

 

 最優先でやるべきは、屋根の上の湧き潰し。上からゾンビや匠の降ってくる家なんて僕は住みたいとは思わない。ついでに魔女やスケルトンに湧かれれば一方的に攻撃を喰らうハメになる。

 

「土は手持ちにないし、丸石で登ろうかな。梯子は村人が登ってきて落下事故やらかしそうだし。その前にランタンも補充しなきゃだけど」

 

 村の外れに携帯していた作業台を置き、チェストを二個作って近くに置く。

 

「これで竈も有れば屋外作業スペースってとこかな」

 

 やるべき事も多いが、僕は充実していた。もう一人じゃないのだ。

 

「さーて、何から作ろっかなー?」

 

「はぁん」

 

 見上げた空は青く、太陽もまだ登りだしたばかりだった。

 




短くてすみません。

プレイ反映型のマイクラの世界で「村探索編」はこれにて終了。

一応、お話の設定の方も完結扱いとします。

続きをどうするかはまだ決めてませんが、村人に日本語話させるなら独自設定扱いになるでしょうし、別のお話として始めることになるかなぁ?

 ともあれ、ご愛読ありがとうございました。


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