魔法少女リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~ (黒龍)
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質問コーナー関連
質問コーナーリニューアル&2016年末特別編


なんで2016年のお話しを投稿? と疑問に思う方も多いと思います。

元々は、数年前にpixivに投稿した内容で、アンケートの結果から、質問コーナーをハーメルンに開設した事に伴い、こちらのお話しを本編側に投稿する事にしました。

時系列は、『本編31話後』に投稿されたものです。

質問コーナー側にも、質問コーナーと合わせて投稿しています。




銀八「――質問コーナーてさァ、ぶっちゃけなによ?」

 

 と椅子に座った銀八は、顎を指で掴みながらアンニュイな眼差しを向けてくる。

 

銀八「必要なのアレ? だってコメントやらメールから貰っても、はっきり言って作者が答えればよくね? なんで一学校の教師設定である俺が、一々アシスタント呼んで答えないといけないワケ?」

 

 銀八は腕を組んで、ぶつぶつ文句を言いだす。

 

銀八「つうかあんなもんに時間割く暇があんなら、本編をもうちょっと進めようとか、もっと面白くしようとは思わないわけ? 作者。ほんとなんなの? 質問コーナーばっかり意識注いでバカじゃねェの? 俺はな、思うワケよ。本編もまともに進められない奴が、読者から質問を答えるコーナーを更にリニューアルしようとか、ホントなに考えてんの? どうせお前のモチベーションなんてすぐに切れるからね? 言っとくけどすぐにどん底に落ちて今度は一年間空白を空けることうけおいだからね? だからこそ――」

 

 銀八はクワっと目を見開く。

 

銀八「もうウンザリなんだよ!! おめェの亀より遅い投稿スピードに付き合うのも!! だからこそ、俺に一生分の有給休暇を与えた後、作者が質問コーナー引き継ぐでファイナルアンサー!!」

 

 ビシッと銀八が指を突き付けると……。

 

新八「はいはい。あんたの有給は質問がある限り訪れませんから」

 

なのは「今回はリニューアル版質問コーナーの為の年末特別回なんですから頑張りましょう」

 

神楽「だからとっと質問に答えろ社会人」

 

フェイト「今回は私たちもアシスタントとして手伝うから」

 

 ドサッとハガキの束を教卓の上に置くなのは、新八、神楽、フェイト。四人が持って来たハガキには質問が書かれている。

 

銀八「なんなのこのブラックコーナァァァァァァァ!!」

 

質問コーナーリニューアル&特別編

 

 

銀八「なんなんだよこのハガキの量は!? なんでいつもは3,4くらいの質問が、なんでこんな大量なワケ!? こんなに質問寄せてくる読者いねェだろうが!!」

 

 銀八は、教卓に上にタワーのように積み重なったハガキの束に、指を突き付ける。

 

新八「しょうがないでしょ。今回はリニューアル版の解説も兼ねて作られた特別回なんですから。読者じゃない人たちから色々ハガキが寄せられているんですよ」

 

なのは「一度リニューアル版のコーナーは一体どのような感じなのか、読者の方々に見せる為に色んな人たちから『質問はないか?』って、作者さんが声をかけたそうなんです」

 

神楽「ついでに言うと、年末特別回の一つとしても兼ねてるから原作でもやったハガキネタも兼ねてるネ」

 

銀八「なんだそりゃッ!? まだ本編が全然進んでねェのに年末特別回とか作者は頭に蛆で湧いちまったのか!?」

 

新八「いや、いくらなんでもそれは言い過ぎでしょ……」

 

フェイト「リニューアル版に際し、質問コーナーのルールは『こちら』になります」

 

 フェイトは手に持った白いボードを見せる。そこには質問コーナーの規則事項が書かれていた。

 

 

質問コーナー新ルール

 

その1:質問、贈り物、キャラクターたちに伝えたいこと。なんでもOK。

ただし数は『三つ』まで。もし制限数が超えてしまった場合は最初の順番で答えます。

質問はメールとコメントどちらでもOKです。

 

その2:オリジナルキャラ、もしくは原作ありきのキャラクターを使用しての質問の場合は、誰が質問しているかを名言してから回答に入ります。匿名もOK。

原作ありきのキャラクターか、もしくオリジナルキャラクターのどちらか分からず間違える場合もあるので、そう言うことが心配な方はなんのキャラクターであるか明記してくれるとありがたいです。間違えた場合は訂正してくれればすぐに修正します。

 

その3:作者の知らないネタによる質問などの場合はある程度調べますが、コアな物になり過ぎる場合は答えることができない場合があります。

 

※追記事項

 

回答者の人数が多い場合や数の指定がなく『全員』と言った場合は回答者を五人以下にして答えます。

 

 

 

銀八「そんで……今回の特別コーナーを機に色々な奴から質問が寄せられてきたと?」

 

 教卓に肘をついて頬杖をつく銀八の質問に、新八は頷く。

 

新八「えぇ。それで、質問と一緒に作者からこんな手紙が……」

 

 新八から手紙を受け取った銀八。作者からの手紙にはこんな文面が……。

 

『声かけたら思った以上に質問届いちゃった。ゴメンね☆ p.s.ある程度答えてくれればいいので(笑)』

 

銀八「ふざけんなァァァァァッ!!(怒)」

 

 銀八は作者からの手紙をびりびりに破り捨てる。

 

新八「もう質問が寄せられた以上は答えていきましょう。銀さんだって銀八先生として、しっかりこのコーナーを盛り立ててください」

 

なのは「えッ!? 銀八先生と銀時さんて同一人物だったんですか!?」

 

銀八「そうだよ。これぶっちゃけ裏設定なんだけど、銀八先生はパラレルワールドの坂田銀時だったんです」

 

神楽・フェイト

「「な、なんだってぇーッ!?」」

 

新八「いや全然驚くことじゃないだろォーッ!! むしろ3年Z組持ってる読者からしてみれば周知の事実だったわ!!」

 

銀八「簡単に説明すれば、銀八先生はFateの英霊エミヤと衛宮士郎的なそんざい――」

 

新八「いやそっちの方が余計ややこしくなるだろうが!! さっきパラレルの人物だって説明だけでいいでしょうが!! つうかそろそろコーナー始めてください!! 話脱線し過ぎて一向に話が進みません!!」

 

銀八「はいはい、分かりました分かりました。そんじゃ、最初の一発目いってみるか」

 

 銀八が教卓に置かれた一番上のハガキを手に取る。

 

 

――ペンネーム『もっさん』からメッセージ一通――

 

 

なのは「えッ? メッセージ? メッセージってなんですか? 質問じゃないんですか?」

 

銀八「簡単に説明するとだ。これからは、一人の読者に送られてきた質問は『質問』として、もしくは質問ではない一言などは『メッセージ』、更には送られた物などの場合は『贈り物』と分別することになったそうだ」

 

フェイト「じゃあ、この最後に一通って言うのは?」

 

銀八「これは簡単言えば、送られてきた質問とメッセージの数だ。一応、贈り物も含めて制限は三つまでだが、三つとも質問だったりメッセージだったりする場合があるから、それを伝える為だな。ちなみに贈り物が二つ以上の場合は『贈り物二つあり』とかになる」

 

神楽「なるほど」

 

銀八「そんじゃ、続けていくぞ? つうか『もっさん』て誰だ? なんかどっか聞いたことあるな?」

 

 肩眉を上げながら、銀八はハガキの裏をめくり、文面に目を通す。

 

メッセージ

『この小説、わしの出番ある?』

 

新八「これ坂本さんですよきっと!!」

 

銀八「てめェは原作で活躍してんだからそれで我慢しろ!! つうかメッセージじゃなくてこれ質問だろうが!!」

 

 ビリリ! と『もっさん』のハガキならぬ坂本のハガキを破り捨てる銀八。

 

新八「次の質問は……」

 

 

――ペンネーム『陸奥』さんからメッセージが一通――

 

 

銀八「あん? 陸奥ってあの坂本の腰巾着の?」

 

新八「いや、腰巾着とか言ったら、あんた陸奥さんにシバかれますよ?」

 

なのは「にしても、『もっさん』さんと違って、ペンネームで本名を言ってますね」

 

神楽「これは簡単に言えば、キャラを使っての場合、『匿名のペンネーム』みたいな奴か、そのまま『キャラネーム』を使うかの例ってワケアルな」

 

フェイト「なるほど」

 

 新八は裏を捲って文面を見る。

 

メッセージ

『破ってもムダじゃき。後、出番よこせ』

 

銀八「お前もかいィィィィィ!! つうかどんだけ用意周到!?」

 

神楽「しかも快援隊の連中からもいっぱいハガキが寄せられてるネ」

 

 

――ペンネーム『快援隊部下A』さんからメッセージが三通――

 

 

メッセージ1

『坂本さんに出番をあげてください』

 

新八「あの……坂本さんなんか部下の人にまでメッセージ書かせてるんですけど……」

 

メッセージ2

『坂本さんは出番が欲しいです』

 

神楽「職権乱用もいいとこアルな……」

 

メッセージ3

『後もっと休暇と給料寄越せ坂本ォォォッ!! 死ね!!』

 

銀八「おぃぃぃぃぃッ!? 最後に怨嗟念が込められたメッセージが来たんだけど!? これ絶対最後のメッセージが本音だろ!?」

 

神楽「他の快援隊の連中のメッセージはどうするアルか?」

 

銀八「捨てとけ。どうせ坂本のバカが書かせた出演依頼だろ?」

 

新八「いや、なんかほとんどのメッセージが……」

 

 ここからはコーナーの形式ではなく、ダイジェストに快援隊の皆さんのメッセージをお見せします。

 

『死ね坂本ォ!!』

『仕事しろモジャモジャァァァァッ!!』

『給料上げろクソモジャ!!』

『懺悔しろクソ社長!!』

『ホント死ね!! 氏ねじゃなくて死ね!!』

『つうかこんなハガキ書かせんな!!』

 

新八「最初の投稿者のハガキ以外はほとんど怨嗟の念で塗り固められてます……」

 

銀八「うん。もうそれ全部シュレッダーにかけろ」

 

 呪いでも掛けられそうなくらい黒いオーラを放つハガキの束が、シュレッダーで分解されていく。

 

銀八「つうか坂本どんだけ出番欲しいんだよ。原作で活躍してんだからそれで我慢しろっての」

 

新八「まぁ、ちょっと前までopとedだけしか姿見せなかった人ですからね」

 

神楽「次いくネ」

 

 

――ペンネーム『とある攘夷志士。とある攘夷志士じゃない桂だ』さんから質問が一通――

 

 

銀八「じゃあ最初からペンネーム使うんじゃねェ!! あいつホント何考えてんだ!! 匿名の意味ねェだろうが!!」

 

 怒鳴る銀八に代わって、新八がハガキの裏を捲る。

 

質問

『いつまでスタンバれば大河の主役が桂小五郎になりますか?』

 

銀八「知るかァァァッ!! 大河に便乗しようとして出番を得ようとしてんじゃねェーッ!!」

 

 銀八はハガキを地面に叩きつける。

 

銀八「つうか作者は大河は基本的に見ないんだよ!! 三国無双は好きだけど!!」

 

新八「いや、三国無双どっから出てきた!?」

 

 するとなのはがおもむろにハガキの一枚を取って声を漏らす。

 

なのは「あッ……鬼兵隊って人たちから投稿が来てますよ」

 

銀八「おい嘘だろ!? まさかの敵キャラからもハガキ来てんの!?」

 

 破壊者高杉の手紙の内容は、

 

『質問です。幕府をぶっ潰す方法を教えてください』

 

 と言った文面が、赤文字でおどろおどろしく書かれていると銀八は想像してしまった。

 

新八「いや、ちょっと待ってください先生! 今の鬼兵隊の方々は、原作だと敵キャラポジじゃなくなっているはずですから、大丈夫なはずです!」

 

 

――ペンネーム『鬼兵隊 またと変態と音楽』さんから質問が一通――

 

 

質問

『やっぱ、この小説のボスキャラは鬼兵隊で決まりだよね?』

 

銀八「知るか!! 作者に聞け!! つうか高杉じゃなくて三バカ幹部かい!!」

 

 どうやら投稿者は鬼兵隊の幹部である、来島また子、河上万斉、武市変平太のようだ。

 

神楽「敵だろうがなんだろうが出番欲しいのは、皆一緒みたいアルな」

 

新八「まァ、出てないキャラいっぱいいますしね」

 

銀八「ヴォルケンリッターすら出てないのに、鬼兵隊が出てくるワケねェだろうが……」

 

 銀八は疲れたように頭に手を当てて、ため息を漏らす。

 

フェイト「そのヴォルケンリッターって人たちからもハガキが来てるよ」

 

銀八「はぁ!? あいつらまだ闇の書の中だろ? いくら特別編だからって自由にもほどがあんだろ……」

 

 今更だが、時空も時間も超越してしまったコーナーに銀八は呆れながら、ハガキを手に取る。

 

 

――ペンネーム『ヴォルケンリッター』さんから質問が一通――

 

 

質問

『マテリアルがヴォルケンリッターになると言うパターンはどうでしょうか?』

 

銀八「ってお前らかィィィィィ!?」

 

 どうやら質問はヴォルケンリッター四人ではなく、マテリアル三人からの投稿だったようである。

 

銀八「お前らはバトルオブエースとGODで我慢しろや!! つうか何ペンネーム『ヴォルケンリッター』にしてんだよ!? A.s乗っ取り計画でも企ててんの!?」

 

 銀八が怒鳴り散らす中、新八が新たなハガキを手に取る。

 

新八「あッ……先生。今度の投稿者は姉上みたいです」

 

 

――ペンネーム『お妙』さんからのメッセージが一通、贈り物あり――

 

 

メッセージ

『新ちゃんが普段お世話になっているなのはちゃんに、私の手料理を贈ります。丹精込めて作りましたので、どうぞ食べてください』

 

銀八・新八・神楽

「「「えッ……?」」」

 

 三人は『丹精込めて作りました』と言う一文を見て、顔面を蒼白にさせる。

 そして、なのはの手には、妙から送られた木製のお弁当箱が。

 

なのは「どんな料理が入っているんだろ?」

 

 なのはは笑顔で弁当箱の蓋を開ける。

 すると、中から黒くおぞましいオーラが立ち込め始め、なのははゆっくりとお弁当箱の蓋を元の位置に戻す。そして、笑顔のまま冷や汗を流しながら、なのはは銀八たちに顔を向ける。

 

なのは「…………あの……中にナニカが……」

 

銀八「よし! 贈り物の例題はこれで分かったな! とりあえず、この贈り物の処分はゴリラに任せるとしましょう!」

 

新八・神楽

「「意義なし!!」」

 

 この時、近藤(ゴリラ)は空に死兆星が見えたとか。

 銀八、新八、神楽は妙が〝丹精込めて〟作った手料理のことを忘れたいが為に、次のハガキを探し出す。

 すると神楽が、ある一枚を手に取る。

 

神楽「あッ! マダオからのハガキもあったネ!」

 

 

――ペンネーム『マダオ』さんから質問が一通、メッセージが一通、贈り物あり――

 

 

質問

『出番を犠牲にすれば良い仕事が見つかりますか?』

 

新八・なのは

「「せ、切実過ぎる!」」

 

 二人はあまりにも悲痛な質問に、悲しみを禁じえなかった。

 

メッセージ

『あ、やっぱり大丈夫です。もう決まったんで』

 

なのは「良かった……。ちゃんと仕事が見つかったんですね」

 

 なのはは安堵し、フェイトは贈り物の『写真』を手に取る。

 

フェイト「贈り物は写真みたいだね。きっと職場の写真じゃないかな」

 

 写真には『長谷川が脱いた草履を綺麗に揃え、屋上の端に立って儚げな笑みを浮かべている』一場面が映っていた。

 写真を見たなのはは顔を青くさせる。

 

なのは「ぜ、全然大丈夫じゃなィィィィ!?」

 

新八「『自殺を決めた』ってことかィィィィ!! ちょッ、これヤバいですよ!! 早く止めにいかないと!!」

 

銀八「いや、もう間に合わなくね?」

 

 質問と写真を送りつけた後なのだから、長谷川が今なお屋上の端に立っていることはないだろう。顛末がどうなったか分からないが。

 

神楽「ならマダオの質問とメッセージの回答は『天国に就職おめでとう』にしとくネ」

 

新八「おィィィィ!? 不謹慎にもほどがあるわ!!」

 

フェイト「なら前向きに『黄泉の国でも頑張ってください』と言う回答で」

 

なのは「フェイトちゃァァァァん!? どこが前向き!? むしろ後ろ向きもいいとこだよ!?」

 

銀八「つうかよォ、もういいだろ。質問、一言、贈り物と全部見せて読者もなんとなくリニューアル版の形式も分かってきただろ」

 

新八「いや、これで締めるにしても後味悪すぎるでしょ!? 自殺者のハガキが最後って!!」

 

銀八「わかったわかった。そんじゃ、次で最後な。次で最後にするぞ」

 

フェイト「あ、これならいいかも」

 

 フェイトは一枚のハガキを手に取る。

 

 

――ペンネーム『人類最古の英雄王』さんからメッセージが一通、贈り物あり――

 

 

銀八・新八

「「ちょっと待てェェェェェ!?」」

 

 大声を出した二人の声を聞いて、なのはと神楽とフェイトは耳を塞ぐ。

 

なのは「ふ、二人共どうしたんですか!?」

 

銀八「どうしたもこうしたもねェよ!! なんでFateの金ピカ慢心王からハガキが来てんだよ!? おかしいだろ!!」

 

新八「もうリリカルでも銀魂でもねェよ!! つうか作者は、この小説に関係ない別次元の連中にも質問を募ったの!?」

 

フェイト「とにかくメッセージを見てみよう」

 

メッセージ

『フハハハハッ! 雑種共! ついに(おれ)は生涯の伴侶となる者と婚姻を果たしたぞ!』

 

銀八「えッ? なに? あの金ぴかついに結婚したの? 一体誰と?」

 

神楽「送られてきたのは写真みたいアルな。これに結婚した相手が映ってるアル」

 

 神楽が見せた写真には、『タキシード着たギルガメッシュと、白いウェンデグドレスを着たかなり胸のデカい青セイバーことアルトリア・ペンドラゴンが、抱き合う姿』が映っていた。

 ただ、セイバーの顔写真の後ろに、薄っすらと別の人間の顔の輪郭が見える。

 

銀八「完全にただの合成写真じゃねェか!! なにこの荒い仕上がり!? 首から下完全に別人だぞ!! あのセイバーが巨乳の姉ちゃんのワケねェだろ!!」

 

新八「あの……その発言してたら、セイバーさんにエクスカリバーもらいますよ?」

 

神楽「しかも合成写真使った結婚報告をあちこちに送ったらしいアルな」

 

銀八「えッ? なんで分かるの?」

 

神楽「このハガキを見るアル」

 

 

――ペンネーム『赤セイバー』さんからメッセージが一通、贈り物あり――

 

 

メッセージ

『慢心王と結婚するなど、大食い貧乳である青も地に落ちたものだな。やはり時代は青ではなく赤! 平成ライダーだってスーパー戦隊だって基本的に赤が主人公なのだから、余がFateの代表的セイバーであることは必然としか言いようがない!!』

 

銀八「なるほど。確かに合成写真バラ撒いてんな、あの慢心王……」

 

なのは「あと贈り物は、赤セイバーさんが私たちの為に応援歌を録音したCDを――」

 

銀八「ジャイアンリサイタルは焼却処分しなさい」

 

フェイト「あッ、もしかしてこの人もFateの世界の住人かな」

 

 フェイトが一枚のはがきを手に取る。

 

 

――ペンネーム『青セイバー』さんからメッセージが三通――

 

 

メッセージ1

『金ぴか殺す!』

 

メッセージ2

『赤ぶっ殺す!』

 

メッセージ3

『他のセイバー皆殺しだ!!』

 

新八「おィィィィ!? 本家本元のセイバーさん殺意丸出しだよ!? しかもさり気に全セイバーキャラ抹殺宣言しちゃってるよ!!」

 

銀八「嘘結婚報告と赤の発言が相当気にくわなかったんだな。あの二人なら意気揚々とハガキも写真もばら撒きそうだし」

 

フェイト「あッ、桂って人がペンネームを変えてまたハガキを送ってきてる」

 

銀八「はァ? あのバカはまたハガキ送って来てんのか!? 一応三つは送って来ていいルールだけどよォ……」

 

 銀八がハガキを手に取る。

 

 

――ペンネーム『桂小五郎じゃない桂だ』さんから質問が一通――

 

 

銀八「おいコラァァァァァッ!! なに元になった偉人の名を騙ってんだあの電波バカ!! おめェと小五郎さんを一緒にするんじゃねェ!! 失礼にもほどがあんだろ!! つうか訂正するなら偽名使う意味ねェだろうが!!」

 

 とは言え、ペンネームは基本自由なので、銀八は仕方なくハガキの裏を捲る。

 

質問

『いつまでスタンバれば俺は桂小五郎として聖杯戦争に参加できますか?』

 

銀八「参加できるワケねェだろうがァァァァ!! お前は頭の天辺から足の先まで電波バカだろうが!!」

 

フェイト「あッ、先生。Fateの世界じゃない人からも手紙来てるよ」

 

 

――ペンネーム『スーパーストロング決闘者(デュエリスト)沢渡』さんから質問が一通――

 

 

銀八「今度は遊戯王かい!!」

 

 と銀八がツッコム中、質問をフェイトが見る。

 

質問

『ザァークになった遊矢は主人公失格だから、俺が主人公になって、タイトルを〝遊戯王ARC-V~沢渡伝説~〟に変えるのってどう?』

 

銀八「勝手に作ってろ!! つうかもうARC-V終わりだろうが!!」

 

新八「なんかだんだん別作品のキャラたちが目立ち始めて来ましたよ?」

 

なのは「今度は仮面ライダーの人からもハガキが……」

 

 

――ペンネーム『エグゼイド』さんからメッセージが一通――

 

 

メッセージ

『ノーコンテニューでクリアしてやるぜ!』

 

銀八「なにを!?」

 

フェイト「あ、今度は別のライダーさんだ」

 

 

――ペンネーム『宇宙キター!』さんから質問が一通――

 

 

銀八「今度はフォーゼかよ!」

 

質問

『エグゼイドってダサくね? アレ本当に主人公ライダーなの? 敵ライダーの方がカッコよくない?』

 

銀八「お前が言うな!! お前だけには絶対言われたくない!! つうかフォーゼってこんな感じだったっけ?」

 

新八「なんか、別の作品の方々からいっぱいハガキが来てますよ」

 

※ここからはダイジェストに投降者たちのハガキをどうぞ。

 

 

――ペンネーム『913』さんからメッセージが一通――

 

 

銀八「今度はカイザかよ!」

 

メッセージ

『フォーゼやエグゼイドがダサいのは全部乾巧って奴のせいなんだ』

 

フェイト「なんだって! それは本当なの?」

 

銀八「嘘に決まってんだろ!」

 

 

――ペンネーム『鳴滝』さんからメッセージが一通――

 

 

メッセージ

『おれのディケイドォォォォォ!! 貴様のせいで、平成二期のライダーはデザインが微妙なのばかりになってしまった!!』

 

銀八「余計なお世話だ!! あと失礼だ!! つうかディケイド関係ねェだろ!!」

 

 

――ペンネーム『エグゼイド』さんからメッセージが一通――

 

メッセージ

『俺がダサいとか言ったな? フォーゼ、ノーコンテニューでぶっ殺す!!』

 

――ペンネーム『フォーゼ』さんからメッセージが一通――

 

メッセージ

『いいぜ! タイマン張らせてもらうぜ!! ダサライダー決定戦だ!』

 

 

銀八「ハガキで会話すんな!! つうかなにこのチンピラライダー共!? つうかフォーゼに至ってはダサい自覚あるんじゃねェか!!」

 

 

――ペンネーム『仮面ライダーZURAじゃない桂だ』さんから質問が一通――

 

 

質問

『俺はいつまでスタンばってたら仮面ライダーになれ――』

 

銀八「知るかァァァァッ!! おめェは一生ウェイクアップフィーバー言ってろ!!」

 

 銀八は桂の手紙を破り捨てる。

 

 

――ペンネーム『黒龍』さんから質問が一通――

 

 

銀八「なんで作者まで質問してんだァァァァァァ!!」

 

質問

『新しい小説って言うか、にじファン時代に書いてた銀魂とリリカルなのはと仮面ライダークウガのコラボした上に、他作品から一部のキャラ出す小説をリメイクして復活させようと思ってるんですけど、どう思います?』

 

銀八「ふざけんなァァァッ!! これ以上この小説の投稿ペースを遅くさせるなんて俺が許さねェぞコラァァァァ!!」

 

 銀八はハガキをビリビリに破り捨てる。

 

 

――ペンネーム『独眼竜』さんからメッセージが一通――

 

 

銀八「お、今度はまともな投稿者じゃねェか。歴史上の偉人なんて――」

 

メッセージ

『Let's party!!』

 

銀八「ってBASARAかィィィィ!? つうかコイツは一体俺たちになにを伝えたいワケ!?」

 

 

――ペンネーム『絆』さんからの質問が三通――

 

 

質問1

『ワシってどうやったら人気投票1位になりますか?』

 

銀八「知らねェよ!! つうか今度はBASARAの家康かよ!!」

 

質問2

『戦国BSARA3の主人公ってワシだったのに、独眼竜が1位っておかしいですよね?』

 

質問3

『実は結局3作目の主人公はワシじゃなくて、独眼竜だったから4では主役から降板したんですか?』

 

新八「あの……BASARAの家康さんから、かなりネガティブな質問が寄せられてるんですけど……。4皇が発売したのに、まだ3のこと引きずってるんですけど……」

 

神楽「こっちは対照的に家康を励ます明るいハガキネ」

 

――ペンネーム『真田の忍』さんからメッセージが一通――

 

メッセージ

『徳川の大将は主人公ですぜ(笑)』

 

――ペンネーム『刑部』さんからメッセージが一通――

 

メッセージ

『ヒヒヒ……徳川の主人公(笑)は本当に愉快愉快(笑)』

 

――ペンネーム『天海』さんからメッセージが一通――

 

メッセージ

『主人公(笑)さん。BASARA4では主役から脇役降格おめでとうございます(笑)』

 

 

新八「どこが明るいメッセージィィ!? 全員もれなく家康さんこき下ろしてんでしょうが!! 励ましじゃなくて悪意しか感じねェよ!!」

 

銀八「つうかBASARAの佐助と天海と大谷じゃねェか!! ここにきてBASARA祭り!?」

 

フェイト「あ、ちゃんと銀魂勢からのハガキもあるよ」

 

銀八「あん? どうせヅラだろ?」

 

 

――ペンネーム『ソーゴ・ドS・オキタⅢ世』さんからメッセージが一通――

 

 

銀八「バカイザーつうか沖田じゃねェか!!」

 

メッセージ

『家康。八位でも良いじゃねェか。票数は四桁なんだぜ? もっと誇りに思いな』

 

銀八「……えッ? あのドS王子が人のこと気遣ってるぞ? 明日は槍でも降るか?」

 

フェイト「待って先生。p.s.って文字の後に一文が……」

 

 

『p.s.アイドルオタクの地味眼鏡と一緒の順位なんだから誇りに思いな(爆笑)』

 

新八「どういう意味だコラァァァァァ!!」

 

なのは「結局この人も家康さんをこき下ろしてるよ!!」

 

神楽「あ、風魔小太郎って奴からもハガキが来てるネ」

 

 

――ペンネーム『風魔小太郎』さんから質問が一通――

 

 

質問

『徳川家康殿が〝ソーゴ・ドS・オキタⅢ世〟と言う者から送れた文を見た途端、嬉しそうに涙を流しと思ったら、次は絶望一色の表情で吐血したのだが、なにか心当たりはないか?』

 

新八「おいコラ家康ゥゥゥ!! そんなに嫌だったんか!! 僕と同じ順位がそんなに嫌だったんか!!」

 

 怒りながら涙を流す新八をよそに、フェイトは新たなハガキを手に取る。

 

フェイト「ここに家康さんを励ます感じのハガキが一通あったよ」

 

 

――ペンネーム『凶王』さんからメッセージが一通――

 

 

銀八「いや、BASARAの三成じゃねェか!! あいつが家康励ますワケねェだろ!!」

 

メッセージ

『家康ゥゥゥゥ!! 死ぬのは構わぬが死ぬなら俺に斬首されてから死ねェェェェ!!』

 

フェイト「これが一部で流行っているヤンデレ……」

 

銀八「っじゃ、ねェだろォォォ!! 完全に殺意しか感じねェよ!! とりあえずツンなんて一つも感じねェよ!! こんなもんただのヤン殺だろうが!!」

 

神楽「先生。どうやら次のハガキもBASARAみたいネ」

 

 

――ペンネーム『真田幸村』さんからメッセージが一通、質問が一通――

 

 

メッセージ

『うぉぉやぉぁかぁたぁさまぁぁぁぁああああああああああああああああああッ!!』

 

銀八「あーつーくーるーしィィィィィィィィッ!!」

 

 ビリビリと銀八は真田幸村のメッセージのハガキを破り捨てる。

 

なのは「……えっと、質問の方は……」

 

 質問のハガキの方に少し長い文章が書かれていた。

 

質問

『いきなりの心の叫びを聞かせ申して、すみませぬ。そちらの作者殿からお声をいただき、各々方に我が親方様に対する熱い敬愛をどうしても伝えたかったが為に、筆を取った次第』

 

銀八「あいつって親方様絡みじゃなかったら、比較的思考はまともなんだよな……」

 

 銀八は呆れながら文章の続きを読む。

 

『つきまして、実は家康殿が〝妙な修行〟をする場面を偶然見かけもうして、あれは一体なんの修行なのか某には皆目見当がつかず、こうやってそちらに質問を送り申した』

 

新八「えッ? 修行?」

 

『何故か家康殿は見張り台の端に付き、〝儚げな表情で立っていた〟のござる』

 

銀八・新八・なのは

「「「えッ……?」」」

 

 文面の一文を見て、三人は徐々に顔を青くさせる。

 

『そして、家康殿はそのまま両手を広げて涙を流しながら、高き見張り台より〝身を投げ出し〟申した。某にもあの修行法はどんな目的と志を持って挑むものなのか、皆目見当もつかず、こうやって質問を送り申した。どんな修行法なのか、教えていただきませぬか?』

 

銀八「それ修行じゃなくてただの自殺ゥゥゥゥゥ!!」

 

新八「折れたァァァァ!! 家康さんの心がぽっきり折れたァァァァァ!!」

 

なのは「嘘ぉぉぉぉ!? これで自殺者二人目ぇぇぇぇ!?」

 

銀八「あいつそんなに人気投票の順位が酷かったことに落ち込んでたの!? そんなに主人公(笑)呼ばわり気にしてたの!? 新八と一緒の順位がそんなに嫌だったの!?」

 

新八「なんなんだよこの東照大権現!! アイドルオタクバカにすんのもいい加減にしろよ!!」

 

フェイト「あ、また『真田の忍』って人から、今度は質問のハガキが送られてる」

 

銀八「なにッ!? また佐助から?」

 

 

――ペンネーム『真田の忍』さんから質問が一通――

 

 

質問

『なんか、真田の大将が〝某も家康殿と同じ修行をしてみるでござる!〟とか意気込んでどっか行っちゃた後、何日も帰って来てないんだけど、なにか知らない?』

 

銀八・新八・なのは

「「「…………」」」

 

 コーナーに沈黙が訪れ、銀八と新八となのはは顔を青くさせる。

 

なのは「……幸村さん……死んじゃったんじゃ……」

 

新八「なのはちゃん!! 忘れよう!! このことは忘れよう!! 僕らじゃどうしようもなかったんだから!!」

 

銀八「と、とりあえず……BASARA関連は止めにして、別の作品のハガキを見てみようぜ」

 

 銀八はハガキの束からBASARA関係者以外の物を探し、一つのハガキを見つける。

 

 

――ペンネーム『赤馬零児』さんから質問――

 

 

銀八「お、ARC-Vの社長じゃん。コイツなんだかんだ良い人ポジだったしな、質問もまともだろ」

 

質問

『最近、ランサーズのメンバーである沢渡シンゴの姿を、ここ一週間見なくなってしまっている。さすがにお調子者の彼ではあるが、我らランサーズにとっては大事な戦力だ。居場所を知らないか?』

 

銀八・新八・なのは

「「「…………」」」

 

 また沈黙が訪れ、三人は青い顔をする。

 

新八「……し、知りませんよね?」

 

銀八「し、知らない知らない……皆目見当もつかねェよ」

 

なのは「ゆ、遊戯王は止めて別のハガキにしましょう」

 

 

――ペンネーム『激辛麻婆をこよなく愛する神父』さんから質問が一通――

 

 

銀八「……ふぇ、Fateの言峰綺礼じゃん。まァ、この際コイツでも――」

 

質問

『私が知らぬ間に英雄王――ギルガメッシュの姿を見なくなってしまったのだが、何か知らぬか?』

 

銀八・新八・なのは

「「「…………」」」

 

 三人の顔はまた青くなり、フェイトは次のハガキを手に取る。

 

 

――ペンネーム『キャス狐』さんからの質問が一通――

 

 

質問

『私はぶっちゃけどうでもいいんですが、ここ最近赤セイバーさんの姿を見なくなりました。ご主人様が心配なされているので、もし姿を見たらご一報お願いします』

 

銀八・新八・なのは

「「「…………」」」

 

 三人の顔は既に顔面蒼白の域にまで達してきている。

 

新八「……あのォ……いつの間にか自殺者3名と、消息者3名と言う、とんでもない事態に……発展してるんですけど……」

 

なのは「これって、やっぱり犯人は……」

 

銀八「き、気にすんなって! 自殺者も消息不明もよくあることだろ! 不幸な事故だよ! 事故!」

 

 とりあず重い空気を払拭させようと、銀八は新しいハガキを手に取る。

 

銀八「……おッ。ちょっと色々言われてるけど、Fateの良心たる士郎じゃねェか。きっと明るい質問が――」

 

質問

『なんか、セイバーが覇王龍ザァークとか言うドラゴン人間と一緒に〝金ぴかと赤をぶっ殺す!〟とか息巻いて、どっか行っちゃんだけど、なにか知りませんか?』

 

銀八・新八・なのは

「「「…………」」」

 

 もうこの質問で犯人が確定してしまった。

 

銀八「……やっぱ……主人公失格って言葉が気にくわなかったんだな……」

 

新八「も、もうこの話は止めましょう……」

 

なのは「も、もう……このコーナー、これでお開きにしませんか? 最後って言ってから、大分答えちゃいましたし」

 

銀八「そ、それもそうだな。これ以上やっても、犠牲者が増える一方だし」

 

新八「じゃあ、なんか明るそうなハガキで終わりにしましょうね。今度こそ」

 

 神楽がハガキの一枚を手に取る。

 

神楽「あ、『海馬コーポレーション』の奴からハガキが来てたネ」

 

銀八「あん? つうことは海馬社長か? まァ、性格はともかく豪快な奴だし、人気もあるし、最後の絞めにはもってこいか」

 

神楽「いや、社長じゃなくて社員みたいアル」

 

銀八「おもっくそモブキャラじゃねェか。まァ、いいや。性格もぶっ飛んでなさそうだし、比較的まともなハガキだろ。とっと読め」

 

 

――ペンネーム『KC社員マダオ』さんからのメッセージが一通、贈り物あり――

 

 

銀八「ってただの長谷川さんじゃねェか!! なんで自殺しようとしたおっさんが、ちゃっかり就職先まで手に入れてんの!?」

 

新八「と、とにかく読んでみましょう! 長谷川さんの顛末が分かるはずです!」

 

神楽「結構長い文章を送ってきてるアルな……」

 

メッセージ

『私は、海馬コーポレーションに努める一会社員、マダオです。実は私には、この会社に勤務する以前の記憶がありません。私が唯一覚えているのは、何故かビルから飛び降りた時に、恐ろしい姿をした黒く巨大な龍が発した光に包まれ、海馬コーポレーションビルの屋上へと倒れていた記憶だけでした』

 

銀八「覇王龍のせいでなんかエライ事態になっちゃってんだけど!? 長谷川さん大丈夫なの!? 元の世界に戻ってこれんの!?」

 

『ここの社長は優しいお人で、記憶を失った私を社員として雇ってくれるだけでは飽き足らず、〝窓際のダメなおっさん〟と言う言葉を略し、マダオと言う名を与えてくれました』

 

銀八「どこが優しいの!? 寧ろ意地悪もいいとこだぞ!!」

 

『記憶を失う前の私が、どんな職に就いていたのかは分かりませんが、ここの職場は中々にやりがいがあるようです。

仕事で小さなミスを一つでもすれば、次々と手裏剣のようによく刺さるカードを投げつけられ、常に社長の無理難題に近い要求こなす為に、24時間労働を強いられ、社長が社内を移動する時は、馬として彼を背中に乗せて移動していました』

 

銀八「ブラック企業も裸足で逃げだすレベル暗黒企業じゃねェか!! つうかほぼ奴隷だぞこれ!!」

 

『今の私にとって、水を得た魚も同然なくらい、この職場は合っていたらしく、満足感と同時に気持ちよさまで感じ始めています』

 

銀八「この人ただのドMなんですけど!」

 

『日々激務に追われる中、私には心に引っかかるモノを感じていました。それがきっと私の失った記憶――〝失われたマダオの記憶〟が原因なのだろうと、薄々私は感じていました』

 

銀八「失われたファラオの記憶みたく言わないでくれない? あんたの転落人生と、王様の過去を一緒くたにされたくないんだけど?」

 

『私は暇な時、どこかの住所の番号が書かれたハガキの切れ端を眺めます。これは私が記憶を失ってからも手に握り絞めていたもので、これがもしかしたら、私の記憶呼び覚ますヒントになるかもしれないと思っていました。だけど、ハガキを眺めるのが社長にバレると、強烈なアッパーカットを喰らうのは良い笑い話になるしょう(笑)』

 

銀八「全然笑えないんだけど……。寧ろ悲しくなるんだけど……(悲)」

 

『そんな激務と生傷が絶えない日々が続くある日、社長からこんな伝言を頼まれました』

 

神楽「……ここで文章が終わってるアル」

 

新八「えッ? じゃあ続きは? 僕、結構先が気になるんだけど?」

 

 するとフェイトが茶封筒を手に取り、中から紙の束を取り出す。

 

フェイト「マダオさんから原稿用紙の束が送られてきてる」

 

なのは「添え書きに、『ハガキの続きは、私が小説風にして原稿用紙に書きました。拙い文章ですが、読んでください』って書いてあります」

 

銀八「随分手間かけてんな……。どれどれ……」

 

※ここからは台本形式ではないのであしからず。

 

「マダオよ、よく聞け。今から貴様に指令を出す」

 

 私は社長――海馬瀬人様のオフィスで背筋を伸ばして立ち、彼からの指令を待つ。

 社長はデスクに肘を付き、顔の前で腕を組みながら、鋭い眼光で私に命令を下す。

 

「貴様も知っているだろうが。今現在、童実野(どみの)町では四人の妙なデュエリスト共が一大勢力を築き、勢力争いを繰り広げている。貴様にはその鎮圧の任を与える」

 

 社長の言う四人のデュエリスト。

 

 一人は赤き衣を纏った熱き男のデュエリスト――烈火の虎。

 

 一人は赤き衣を纏いながら豪華な装飾に耳を包んだ女性のデュエリスト――至高の芸術。

 

 一人は太陽なようにオーラを発すると言われる男のデュエリスト――絆の拳。

 

 一人は黄金の装飾に身を包んだ男のデュエリスト――金色の王。

 

 この四人は突如現れ、デュエリスト軍団を築くと共に、瞬く間に四大勢力として童実野で日々覇権を競っていると言う。

 無論、私は海馬コーポレーションに努めるとはいえ、所詮はただのサラリーマン。デュエル経験などない。

 恐れ多いが、私は首を横に振って答える。

 

「しかし社長。恐れ入りますが、私のような平社員では、あのような最強デュエリストたちには、とても太刀打ちできません」

「ふぅん。そんなことは百も承知だ」

 

 社長はニヤリと口元を吊り上げて、私に告げる。

 

「貴様はたしか、記憶を失った時にハガキの紙切れを持っていたそうではないか? そして今、町で台頭しているデュエリストたちのボス猿四人も、同じような紙切れを持っているようだ」

「ッ! ……つまりそれは……」

 

 私は社長の言葉に、内心で衝撃を受けながらも更に質問を投げかけようとすると、社長はオフィスチェアをクルリと回転させる。彼は、後ろの窓から見える眼下の街並みを眺めながら、口を開く。

 

「あのような無法者共など、俺の手にかかれば瞬殺であろうが、貴様のような無能を使って強豪デュエリスト共を無力化するのも、一興と思ったのでな」

 

 私は流行る気持ちを抑えながら、社長に頭を下げた後、すぐに四人のデュエリストたちの元へと向かった。

 情報によれば、彼らは今まさに四勢力最強のデュエリストを決める為、雌雄を決しようとしているらしい……。

 

 

 私が向かった先には、今まさに雌雄を決しようとする四大勢力の頭目たちが、部下たちを後ろに引き連れ、対峙している真っ最中であった。

 平社員である私がこのまま出しゃばっても倒され、ボロ雑巾にされるのがオチかもしれない。

 だが……。

 

「お主達との熱き戦もついに決着の時!」

 

 烈火の虎がデュエルディスクを構える。

 

「ここは戦場などではない。我が至高の芸術(デュエル)を飾るステージよ!」

 

 至高の芸術がデュエルディスクを構える。

 

「この長き不毛な戦いに雌雄を決し、お主達との絆を結んでみせる!」

 

 絆の拳がデュエルディスクを構える。

 

「ほざけ雑種共。所詮貴様らはただの余興に過ぎん。結果など、とうに見えている」

 

 金色の王がデュエルディスクを構える。

 四者は睨み合い、

 

「「「「デュエル!!」」」」

 

 カードをドローしながら一斉に敵に向かって駆け出す。

 その時、私は四大勢力がぶつかり合うであろう中心地へと仁王立ちし、私の姿に気づいた四人は咄嗟に足を止める。

 

 ――例え平社員にも、通したい意地はあるのだ。

 

「お主! 何者でござるか!」

「神聖なるデュエルに乱入するなど、言語道断だ! 乱入ペナルティを受けたいか!」

 

 烈火の虎と至高の芸術が、私に向かってカードを突き付け、凄まじい威圧感を放つが、私は腕を組んだまま臆することなく口を開く。

 

「くだらねェ争いはもうやめろ。お前たちも一人のデュエリストであるなら、同じカードゲームを楽しむ仲間のはずだ」

 

 すると、私の言葉に反応して、金色の王が怒りの表情を浮かべる。

 

「仲間だと? ふざけるな! こやつらのような下賤の者共と一緒にされるなど虫唾が走る!」

「確かにお主の言い分も分かる! だが、一度ぶつかり合わねば分かり合えぬ時もあるのだ!」

 

 絆の拳は私の言葉に賛同をみせるが、やはり納得はしてくれない。

 

「ならば、言い方を変えよう」

 

 そう言って私は、他人からはゴミと言われてもおかしくなかった、過去の記憶に繋がる紙片を四人に掲げて見せる。

 

「「そ、それは……!」」

 

 烈火の虎と絆の拳が驚きの声を上げ、至高の芸術と金色の王もまた、私が見せた紙を見て驚愕の表情を浮かべている。

 

「あんた達はデュエリストである前に……」

 

 私は紙片を見せつけながら、四人の驚く顔を見渡し、言葉を紡ぐ。

 

 ――そう。過去の我々もきっと性格も立場も性別でさへ、てんでばらばらで共通点などなかったはず。だが、もしこの四人も私と同じ紙片を持つと言うならば……。

 

「俺と同じく過去に共通する目的を行おうとした――〝同志〟であるはずだ」

 

 私がそう言った瞬間、四人はデュエリスディスクを構える腕とカードを持つ手を下ろし、ゆっくりと私の方まで歩いて行く。

 

「自分が誰であるのかも分からず……」

 

 最初に口を開いたのは、烈火の虎。

 

「住むところも食いぶちもないワシたちは生きる為……」

 

 次に口を開くのは絆の拳。

 

「たった一人で、我武者羅にこの町でデュエリストとして……」

 

 更に言葉を繋げるのは至高の芸術。

 

「頂点を目指して邁進(まいしん)していた……」

 

 最後に言葉を発するのは、金色の王。

 

 そして四人は、私の元まで歩くと、さらに言葉を紡ぐ。

 

「記憶に残っていたのは黒い龍が発した光……」

 

 烈火の虎が自身の胸倉を掴み、絞り出すように言葉を発する。

 

「謎の眩き光……」

 

 悲しそうな表情で至高の芸術が言葉を紡ぐ。

 

「そして残った物と言えば……」

 

 絆の拳が懐に手を入れ、

 

「――この〝ハガキの紙片〟だけ」

 

 金色の王が、ある紙片を懐から取り出すと同時に、残りの三人も紙片を取り出した。

 

「「「「この町に来た時から……」」」」

 

 四人が懐から取り出した紙片を前へ差し出すと、私は笑みを浮かべ、持っていた紙片を彼らへと差し出す。

 

 ――全員が持っていた紙片は、我々同様にてんでばらばらで、一つに合わさることはない……。

 

「「「「ずっと……一人だと思って生きてきた……」」」」

 

 気が付けば、私たち五人は抱き合い、涙を流し続けた。

 

 ――だが、確かに我々全員の気持ちを、一つへと繋げ合わせたのだ。

 

 そして散々涙を流した後、我々はすぐに次の行動に移る。

 

「り、リーダー! 決戦は!?」

 

 烈火の虎の部下の一人が、動揺しながら質問を自分たちの長へと投げかける。

 

「そんな下らんことをしている暇はなくなった」

 

 烈火の虎が答えると、今度は絆の拳の部下が質問を飛ばす。

 

「で、では……これから一体何を?」

「同志マダオ。彼こそが我々に新たな道を見出してくれた」

 

 絆の拳がデュエリスディスクを腕から外し、

 

「我々がやるべきこと、それは〝生きること〟」

 

 思考の芸術はスーツを着こなし、

 

「ましてや最強デュエリスト決定戦などではない」

 

 スーツを着た金色の王は、ある一枚の紙を取り出した。

 私は笑みを浮かべ、告げる。

 

「皆で――〝就職〟しよう」

 

 

――ペンネーム『KC社員一同』さんから贈り物あり――

 

 銀八が手に取った写真には、スーツ姿の長谷川泰三、真田幸村、赤セイバー、徳川家康、ギルガメッシュの五人が、肩を寄せ合いながら各々満足げな笑みを浮かべて立っており、写真にはデカい文字で、

 

『年末も休みなく働く、笑顔の絶えない職場です』

 

 と言うメッセージが添えられていた。

 ボッ、と銀八は贈られてきた写真にライターで火を付けて燃やし、窓の側に立って燃えカスを飛ばす。

 

「あ、先生。コレもお願いします」

 

 新八は銀八に一枚のハガキを渡す。

 

 

――ペンネーム『ヅラ・フェニックスじゃない桂だ』さんからメッセージが一通――

 

 

メッセージ

『赤き龍に乗って童実野(どみの)町へとスタンバってたら、途中で沢渡シンゴ殿と出会って、一緒にガンダムの世界に着きました』

 

銀八「カーッペ!」

 

 銀八は『ヅラ・フェニックスじゃない桂だ』さんのハガキに唾を吐きつけて、そのまま丸めて窓へと捨てる。

 

神楽「先生。締めはどうするアルか?」

 

銀八「リリカルなのはの主人公ズ、お願いします」

 

なのは・フェイト

「「これからもこのコーナーをよろしくお願いします」」

 

 二人はペコリと頭を下げる。




ちなみに、最新の質問コーナーはこっから更に変遷を辿って、形式がちょくちょく変わっていたりします。


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始まり編
第一話:行列に並ぶのは結構しんどい


ハーメルンでの投稿を始めました。
今のところは最新話に追いつくまでは数日中に次の話を投稿していく予定です。
ハーメルン版のタイトルに『魔法少女』が付く理由ですが、pixiv版ではタイトルの文字数に制限がありますので、なるべくタイトルの文字を減らすと言う理由からです。


 ――この広い空には、幾千の、幾万の人がいて……。

 

 海鳴市。異世界の者たちが集った場所。

 

 ――そして、それ以上にたくさんの出会いと、別れがあって……。

 

 港近くには、肩までかかった栗色の髪をなびかせる少女。

 

 ――これは、小さな事件と奇妙な出会いの話。

 

 海を見つめる少女の手には、赤い宝石が握られている。

 

 ――小学三年の春に出会った小さな、だけど大切な……わたし達の出会いのお話……。

 

 そして少女の隣に並び立つ、銀髪の侍が一人。

 

 

 侍の国――江戸。

 この国がそう呼ばれたのは今は昔。

 

 天からの来訪者たる宇宙人――『天人(あまんと)』。彼らによって半ば強引にこの国は、人とは異なる姿をした者たちが、往来を堂々と歩く国へと変わってしまっていた。

 天人が来るまでは、刀を腰に挿し大手を振っていた侍の姿も今は見る影もない。彼らは『廃刀令』により肩身の狭い思いをすることを強いられている。

 

 そんな侍の国に己が侍の道の元、自分の魂を貫き通す男が一人。

 

「たく、今回はシケた依頼だよな」

 

 男は頭を掻きながらぶつぶつ文句を言う。

 

「なんで俺が、アニメのDVD買いに行かされなきゃならねーんだよ。なんだよ、『万事屋殿。実は頼みごとがあるでゴザる! 拙者、今回は非情に困っておりまして、万事屋殿に頼みに来た次第! 実は魔法少女リリカルなのはのヒロインたるフェイトたんの限定フィギュアを買いたいでゴザるが、その時間と重なって劇場版魔法少女リリカルなのは限定版DVDの販売がありもうして! 拙者としては、両方ともどうしても手に入れたい所だが、無情にもこの体は一つのみ! そこで、万事屋殿には限定DVDを手に入れると言うミッションを行って欲しいのでゴザるッ!! もちろん謝礼は弾むゆえ!! よろしくお願いいたしたッ!!』とか……メンドクセー依頼しやがって。俺はあのマヨネーズニコチン野郎とは違う人種だってのによォ……」

 

 さきほど言った自分の魂を貫き通す男とは、このやる気の欠片がもない男――坂田銀時(さかたぎんとき)である。

 

 銀髪に、クリッとした天然パーマ。死んだ魚のような目、まぶたは気だるそうに半開き。いかにも不幸とかがよってきそうな顔つき。全体的にやる気や努力など、前向きな感情から掛け離れた感じのする人物。

 着ている服はいつも、黒い長ズボン、黒いTシャツの上から羽織った白い着物を半分だけはだけさせている。腰に挿した木刀の柄には『洞爺湖』と彫られた文字。

 

 こんなご時勢。仕事を選んでいられない彼は『万事屋』――いわゆるなんでも屋と言う稼業を営んでいる。ひょんなことから自分に付きまとっている愉快な従業員を二人と一匹抱え込みながら、こうやって日々の生活費とパチンコ台を稼いでいるのだ。

 

 ハァ~……、と銀時は、今回のターゲットたるDVDを忌々しげに見つめながら、ため息をつく。

 

「つーか、どんだけ並んでんだよ。どんだけみんな魔法少女好きなんだよ」

 

 銀時は大通りを歩きながらグチグチ文句を垂れつつ、このDVDを手に入れるまでのつらい記憶を思い出す。

 

 指定されたDVDショップに行ってみれば、信じられないほどの長蛇の列が出来ていた。もちろんこの列は『劇場版魔法少女リリカルなのは』の限定版DVDを買うための行列。

 

 前は、最新ゲーム機を買うためにあらゆる手を尽くしたものだ。列の最前列を取るために策を、と言うか姑息な手段を、だったが。とは言え、今回はDVDを買える順番だったので特になにもせずに、ただ淡々と自分の番が来るのを待っていた。

 だが、その待ち時間が長いこと長いこと……。

 

 正直足が棒になるとかそんなことより、こんなオタクどもが大好きな、しかも興味のないDVDを、地味に長時間立ちながら待たされるのが、すんごくつらかった――主に精神的に。

 時々、俺……なんでこんなことしてんだろ? と(うつ)になった銀時。

 

「まァ、なんとか依頼成功したんだし、結果オーライとするか」

 

 銀時はまたため息をついて、自分の家たる万事屋に向けて重い足取りで歩いていく。

 その時、

 

「おォッ! 銀の字ッ!」

 

 右耳から聞こえる突然の声。

 銀時は「ん?」と反応する。だが、彼にはこの声の主が誰だかすぐに察せる。なにせ、自分を『銀の字』など特定のあだ名で言う人物など、一人しかいない。

 銀の字と自分を呼んだ人物に、銀時は渋々顔を向ける。

 

「なんの用だよ、じーさん」

 

 銀時は、またメンドーなやつが来たなー、という気持ちを顔にありありと見せる。

 手を振りながら銀時に向かってくるのは、ゴーグルを掛け、黄色いツナギを着ている、白いヒゲをたくわえた老人――平賀源外(ひらがげんがい)だ。

 銀時に駆け寄った源外は、笑みを浮かべる。

 

「まあ、そんな嫌そうな顔をするな銀の字。実は、お前に見せたい物があってな」

「どうせロクな物じゃなさそうなんで、パスするわ」

 

 めんどくさいジジイをあしらい、さっさとわが家であり仕事の拠点でもある万事屋に向かおうとする銀時を、源外は手を掴んで引っ張る。

 

「待てーいッ! 今回マジで力作の傑作なんだぞッ!」

「ふざけんなッ! どうせお前の発明品なんてロクなもんじゃねーだろうがッ!! つうかなんだよ力作の傑作って! どっちかにしろよッ!! 力作の失敗作なのかッ!? 傑作の駄作なのかッ!?」

 

 必死に抵抗する銀時に、源外は声を張り上げる。

 

「結局どっちもダメじゃねぇかッ!! ホントの今回はスゲーんだってッ!! だからホイホイ付いてきていいんだよ」

「いーやーだッ!! つうかお前は青いツナギの、ウホッ!! イイ男、なんじゃないだろうなッ!? ジジイの皮被ったホモなんじゃないだろうなッ!?」

「いいのかい? そんなホイホイ付いてきちまって? ワシは侍だろうが銀髪だろうがほいほい実験しちまうジジイなんだぜ?」

「いや、テメェが連れてこうとしてんだろうが! つうか今すんごいマッドな発言しなかった!?」

 

 そのまま、嫌がる銀時を源外は自分の工場に連れていく。

 

 

 

 

「たく、マジ一体なんなんだよホント。俺はこれから依頼終わらせなきゃならねェってのに」

 

 頭を掻き、心底嫌そうにしながら後を付いていく銀時に、源外は「まァまァ。すぐ終わるから安心せい」と言う。

 もちろんこの後、誰得なBL的な展開などはありはしなかった。そもそも、ジジイに掘られるのも掘るのも真っ平ごめんこうむる。

 周りの機械(カラクリ)たちから漂う鉄や油の臭に銀時は顔をしかめ、隣を歩く源外は得意げな笑みを見せる。

 

「実はな、前から考えていた発明品をついに完成させたんじゃわいッ!!」

 

 訝しげに片眉を上げる銀時をよそに、源外は近くにあった布を剥ぎ取る。

 そして、布に隠れていた発明品とやらがその姿を現す。出て来たのは、胴体は円柱の巨大なガラス製の箱、箱の下は複雑そうな機械の台で、太い数種類のパイプがつながっている、謎の発明品。見た目的にはポッドと言った方がいいだろうか。そう言う感じの物が鎮座していた。

 

 銀時は発明品を見て、目をパチパチさせる。

 

「コレ、なに?」

 

 源外は含み笑みを浮かべる。

 

「ふふふ……これこそ、俺の大発明ッ! 『瞬間移動装置』じゃッ!」

 

 ババーン! と自分の発明品の名を告げ、源外はそのまま得意げに説明を始める。

 

「こいつはあのターミナルの原理を利用して作った、小さい単体を別の場所へ一瞬で移動させる物でな。これがあればどんな遠くの場所にも、一瞬で行きたい放題な代物よッ! どうだ? すごいだろ銀の字ッ!」

 

 源外の説明を聞いた銀時は、真顔で告げる。

 

「いや……瞬間移動装置って、スケダンとのコラボで出てきたよな?」

「えッ?」

 

 突然のカミングアウトに源外の表情が固まる。

 銀時は「いやだから」と言ってからもう一度告げる。

 

「その瞬間移動装置って発明品。スケダンとのコラボで、作ってなかったっけ? おたく」

「…………」

「…………」

 

 二人の間になんとも言えない沈黙が訪れ、え? なにこの空気? どうすんの? みたいな雰囲気に包まれる。

 だがやがて、

 

「ええいッ! とにかくこん中に入れッ!」

 

 源外はいきなり銀時に蹴りを浴びせながら、半ば強引に装置の中に入れようとする。

 

「ちょッ! おいッ! なにすんだテメーッ!」

 

 文句を言う銀時は強引に装置に入れられる。どことなくジジイがなにかを誤魔化そうとしているのは気のせいだろうか。

 とにもかくにも瞬間移動装置に銀時が入り(無理やり)、扉が閉まる。源外が近くにある操作盤を弄くりだす。

 

「そんじゃま、銀の字。ちょっくら瞬間移動してくれや」

「おィィィ!? なにお母さんが子供にお使い頼む的なノリでとんでもないこと言っちゃってんのクソジジイッ!! 出せェェェェェ!! 俺をこっから出しやがれェェェェェ!!」

 

 身の危険を感じ取った銀時は、自分を閉じ込めている透明な壁をガンガンで叩きだす。

 焦る銀時の姿を見て、源外は忠告する。

 

「あ、それ特性の強化ガラスだから、並みの攻撃じゃ壊れんぞ」

「意外に金かかってんなおい! つうか俺はこのまま分けのわかんねェとこに飛ばさられるの確定なのかッ!?」

 

 銀時は頭を抱えて焦りだす。

 なにせこの源外と言う男。確かに江戸随―の機械(からくり)技師と豪語するだけあって、作る物は感嘆の声を漏らすような発明品ばかりを次々と作ってきたのは事実。だが、そんな才能以上にこの爺さんは偏屈で、無駄な改造や意味不明な改造をもちょくちょくやったり、作ったはいいが何かしらの欠陥があったりなど、案外安心できなかったりするのだ。

 

 傑作っつうか、いつも出来んのは欠作(けっさく)じゃね? と時たま考えたりする銀時。

 

 今回だって、この瞬間移動装置が信用できる代物とは限らないことは、銀時もそれなりに予測している。

 そして案の定、ピーッ! ピーッ! という不快な音がけたたましく鳴り響く。

 

「ありゃ?」

 

 と、源外は肩眉を上げる。

 

「ちょッ!? なにこの不吉な音ッ!? 中も赤く点滅してんだけどッ!?」

 

 銀時は冷や汗を流し慌てる。

 なんらかの問題が発生したようで、けたたましく鳴る電信音とともにカプセルの内部が赤く点滅しだす。操作盤の前で首をかしげる源外をよそに、銀時の不安は余計に高まる。

 操作盤の画面に映る文字を見て、源外は表情を険しくさせる。

 

「むッ? おい銀の字ッ! どうやら装置は内部にある異物に反応しているらしい! お前何か妙な物持ってないか!」

「ハァ? 妙な物つたって、俺が持ってんのはポケットのチョコと、このDVD以外には――」

「それだ銀の字ッ!!」 

 

 銀時が先ほどやっとの思いで買ったDVDを懐から出すと、源外がDVDにビシッと指を向ける。

 

「装置はそのDVDに反応してやがるんだ!!」

「ええええええええええええええッ!?」

 

 まさかの原因に銀時は口をあんぐりと開けて驚く。

 

「なんで瞬間移動装置がDVDに反応するワケッ!? 意味不明にもほどがあんだろ!!」

 

 一体どう言う紆余曲折があって瞬間移動装置にDVDなんてありふれた物が反応するのか、銀時は理解に苦しむ。

 混乱する銀時に源外は指示を出す。

 

「とにかく、そいつを捨てろ銀の字!」

「じゃあこっから出せジジイッ!」

「あッ……すまん。安全のために、一度入ったら装置が一度停止するまで、扉は開かない設計だったわ」

 

 いやー参った参った、と言う風に頭を掻く源外に、

 

「ジジイィィィィィィィィッ!!」

 

 溢れんばかりの怒声を銀時は浴びせる。

 そうやってグダグダやっている間に、カプセルの内部が一気に光に包まれ、銀時は怒鳴り声を上げる。

 

「ジジイッ! このまま地獄に瞬間移動だったら末代までのろッ――!!」

 

 銀時の声は途中で消え、彼が居た場所に残ったのはアニメのDVDだけ。

 なんとも空虚になった光景をぼうぜんと見ていた源外は頭を掻きながらポツリと呟く。

 

「……マズイな、こりゃ。神楽たちにも伝えておいた方がいいかな?」

 

 

 場所は変わり、次元の海に浮かぶ城――時の庭園。

 

 太陽、雲、空など、なにもない次元の狭間に浮かぶ城。

 時の庭園にある『玉座の間』には、玉座に座った一人の女性と、彼女の前に緊張した面持ちで立っている金髪の少女が居た。

 胸元が見える際どい黒いドレスを着た黒髪の女性は、玉座に座りながら金髪の少女に指示を出している。白い質素な服の上に、黒いコートを羽織った少女は、なんども女性の言葉に返事をして頷く。

 

 話す女性と返事をする少女の間。そこがいきなり、眩いばかりの光が出現し、発光。

 

「「ッ!?」」

 

 突然の事態に驚いた二人は身構える。

 そして光が消えるとそこには、

 

「…………えッ?」

 

 銀髪に死んだ魚のような目をした侍――坂田銀時が呆けた顔であぐらをかいていた。




もし小説の書き方でご指摘や参考になるようなことがありましたら、気軽に教えてください。
上手く反映できるか分かりませんが、作品がより読み易くしたいと思っていますので。


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第二話:時の庭園

第二話です。

*少し文章を変えました。


 大江戸ドーム。

 

 そこでは、アイドルがステージの上で声を上げ、

 

「みんなァ~!! 私のコンサートに来てくれてありがとうきびウンコォォォォ!!」

「「「「「とうきびウンコォォォォォォ!!」」」」」

 

 その声に観客たちが声援で応える。

 江戸にある巨大ドーム──『大江戸ドーム』では、『ウンコ』という単語をステージの中心で叫ぶアイドルと、その追っ掛けたちでごった返していた。

 

 寺門通(てらかどつう)──ファンの間では通称お通ちゃんと呼ばれている。

 現在、売れ行き№1と言っても過言ではないアイドルお通が、歌とダンスを披露している真っ最中なのだ。

 お通は、その単語、アイドルの歌に歌詞として入れて大丈夫? と思えるようなフレーズを口にし、ドームの観客たちを盛り上げ、歌い続ける。そしてそんな彼女の歌を熱狂的に盛り上げるのは、アイドルオタクや純粋に彼女を応援するファンたちなどだ。

 

 傍から見れば、不思議なフレーズに反応して観客が異様なほど盛り上がっているというシュールな場面。だが、その場にいる者たちの熱量と勢いは最高潮と言っていい。

 異様な空気と雰囲気と存在感を放つ群衆。その一団の中でも、一番と言っても過言でもないほどの大音量の声援を放つ者が一人。

 

「うォォォォオオオオオオオオオオオッ!! お通ちゃァァァァアアアアアアアアアアアアアアアンッ!!」

 

 喉が張り裂けんばかりに声を上げるのは、眼鏡を掛け、『通』という文字が付いた青いハッピと鉢巻きを着た青年。彼は凄まじい形相で、現在進行形で意味不明な歌を歌うアイドルを応援していた。(おの)が親衛隊とともに、腹から声どころか血すら吐き出しそうな勢いでエールを届けようと声を出し続ける。

 

 この見た目ド直球のアイドルオタクの青年は志村新八(しむらしんぱち)。万事屋の従業員の一人にして、江戸一番のツッコミ使いと評される。

 普段は万事屋の仲間たちに地味だのなんだの言われているが、今の彼にはとてもそんな要素は見受けられない。むしろ、引くほどのインパクトを放っている。

 

「みんなァ~!! 今日も私の歌を聴いてくれて、ありがとうきびウンコォォォッ!!」

 

 お通は全ての歌を歌い終え、感謝の意を示す。とても感謝の意を示しているとは思えない語尾ではあるが。

 

「「「「「とうきびウンコォォォォォォッ!!」」」」」

 

 だが、この場に集まった観客(ファン)たちには彼女の語尾のトリッキーさは周知の事実であり、当然とばかりに返しの言葉を満足という気持ちを乗せて贈るのであった。

 

 

 

「いや~、今日もお通ちゃんのライブは最高でしたなァ」

 

 と満足げに感想を言うのは、新八と同じハッピを着た小太り気味の男。彼の言葉に「まったくだぜ」と呼応するのは金髪でリーゼントの出っ歯の男。

 

「今日もお通ちゃんのライブ最高だったな! 新ちゃん!」

 

 興奮気味に新八に声をかける出っ歯の彼は、新八の親友。あだ名は『タカチン』。

 

 声をかけられた新八という青年。彼の後ろに追従している数十人のオタクたち。彼らは『寺門通親衛隊(てらかどつうしんえいたい)』。一見名前から仰々しく思える一団ではあるものの、簡単に言うとファンクラブである。しかも硬派で引くほど熱狂的な。

 

 お通を第一に考え、日夜活動を続けるこのファンクラブ。

 彼らの先頭を歩く青年こそが一団のボス――志村新八なのだ。

 

 万事屋では地味と眼鏡しか印象がない新八。だが、一度寺門通親衛隊隊長という存在になれば、その姿は鬱陶しいほどに派手になる。なにより、お通を応援する時の彼の迫力はまさしく伝説の軍神武田信玄に引けを取らないほどだ。

 そんなライブ後で浮かれている彼らに、隊長である新八は厳しい声をかける。

 

「いいかお前らッ! ライブを聞き終えたからといってボケっとしているんじゃないぞッ!! 次のライブは十日後ッ!! それまで準備を怠るなッ!!」

「「「「「は、はいッ!!」」」」」

 

 凄まじい迫力で活を入れられる親衛隊。もしも親衛隊活動を怠る者あらば、鉄拳制裁もいとわないほど新八はこの親衛隊活動には精力的で厳しいのである。

 その厳しい規律は、カルト教団と揶揄されてもおかしくない域にまで達しているのだ。

 

「ん? おい、そういえば軍曹はどうした?」

 

 タカチンが、親衛隊の幹部たる軍曹の姿が近くに見えないことに気付き、訝しげに周りを見渡す。

 すると隊員の一人がある方向に指を向ける。

 

「軍曹ならあそこでニヤニヤしながらiPh〇ne弄ってます!」

 

 隊員の言葉を聞いてタカチンは声を荒げる。

 

「なにィ!? 軍曹のくせにiPh〇neだと!! つうかまた出会い系サイトとかで女子とメールしてんのか!?」

「いえ、なんか今度はリリなんとかというアニメに嵌ったそうで!」

「なッ!? また親衛隊隊規やぶりやがったのかアイツ!!」

 

 タカチンは隊員の言葉を聞いて余計に怒りに火が付く。

 過去に犯した隊規違反とは別のベクトルとはいえ、幹部である軍曹が鉄の掟を破ったことには変わりはない。

 無論、隊規違反を見過ごすことなどできないタカチン。隊規違反者である彼に文句の一つでも言ってやらないと気がすまなくなる。

 

「ふざけやがってッ! 俺がかつ──!」

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 突然の悲鳴に、なんだなんだと隊員たちは驚く。

 見れば、何者かが軍曹に鼻フックをキめていた。叫び声から鼻フックを決めた者に、隊員たちの視線が一斉に移る。

 

 そこには、凄まじい形相となり、鼻フックで軍曹の体を持ち上げる──新八(たいちょう)の姿があった。

 

「「「「「た、隊長ォォォオオオオオオオオオオオオッ!!」」」」」

 

 隊員たちは怒りの化身と化した新八を見て戦々恐々となる。

 

「軍曹ォォォッ!! 『寺門通親衛隊隊規二十一条』を言ってみろッ!!」

 

 世紀末覇王級の形相で睨み付ける新八に、軍曹は顔を青くさせながら必死に答える。

 

「いだだだだだッ!! たッ、『隊員は決してアニメ並びにマンガなどの二次元の物を愛することなかれ』であります!!」

 

 寺門通親衛隊隊規。

 それは、新八が寺門通を応援するために定めた、鉄の掟――。

 

「その通りだ! 軍曹ォ! 貴様は幹部でありながらこれを破った! よって──!」

 

 新八の目がカッと見開かれ、

 

「ハナフックデストロイヤーアルティメットバーストの刑に処するッ!!」

 

 凄まじい豪腕で軍曹をブン投げ、近くの大木に彼の顔面を激突させる。そして、軍曹のぶつかった木はあまりの衝撃に、ぶつかった部分からミシミシと折れてしまった。

 その光景を見て、隊員たちは顔を真っ青にさせる。

 新八は世紀末さながらの表情で言い放つ。

 

「軍曹ォ!! 貴様の持っているアニメは全てボッシュートだ!! 全て俺がTS〇TAYAにうっぱらってやるッ!!」

 

 

 

 約一時間後。

 

 軍曹は泣く泣く、持っているアニメのDVDとグッズの全てを新八に渡し、泣きながら帰っていった。

 DVDケースを渡された新八は、おもむろにパッケージを見た。そこには一人の少女が写っている。

 

 アニメ『魔法少女リリカルなのはStrikerS』の主人公である女性──高町なのは。

 

 新八はパッケージに写っているなのはを見て、まるで雷に打たれたかのような衝撃を受け、顔を赤面させる。

 大人ながらも可愛らしい童顔。白を基調とした魔法少女(?)の服装がとてもマッチしており、さらにその豊満な肢体も新八の目を釘つげにした。

 

(あ……アニメなんて……アニメなんて……!!)

 

 DVDケースを持つ新八の手が震える。

 

(くっ……! めちゃありがとうございましたァァァアアアアアアアアアアア!!)

 

 新八は頭を下げ、心の中でどこぞの誰かに全力でお礼を告げる。

 

 そんで、それからは軍曹から没収した『リリカルなのは』のDVDとグッズを売らずに家に持って帰った。無論、親衛隊隊規など完全に彼の頭からすっぽ抜けている。

 結局新八も、美少女に弱い男の子、ということである。

 

 *

 

 場所は変わり、時の庭園の一室。

 

「──いやね、俺も大人だから、ちょっとやそっとのことじゃ、怒らないよ?」

 

 源外の発明品により、どこぞのワケの分からない場所に飛ばされた銀髪の侍。

 銀時は顔を引くつかせながら、誰がいるわけでもないのにぶつぶつ文句を続ける。 

 

「でもね、これはないんじゃない? いや、勝手にヒトんちに不法侵入した俺に、非があると思うよ? でもさ──」

 

 銀時は一度言葉をためて、

 

「いくらなんでも監禁することないだろうがァァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 溢れんばかりに叫ぶ。

 彼はここの住人たちにより拘束、監禁されていた。

 

 

 

 そもそもどうしてこうなったのか。

 自分は源外のクソジジイの欠陥品のせいで、別の場所に飛ばされたのはわかる。しかも、いきなり現れた場所がホールのような広い場所。そこには、玉座に座るちょっと不健康そうというか薄幸そうな女が、目のやり場に困る際どいドレスを着ていた。そして彼女の前、っというか自身の前に立っていたのは、これまた変なコスプレした金髪が目立つ少女(ガキ)

 

 二人とも、突然現れた自分に面食らっているのはすぐにわかった。これは、今までの経験からして誤解が誤解を生み自分に損な事態になりかねん、とすぐに感じた銀時。

 すぐさま軽いあいさつの後に弁解して友好を結ぼうと努力した。努力したのだ。

 

 だが、際どいドレスを着た女の「フェイト、捕まえなさい」という言葉。次に、パツキンコスプレ幼女の「バルディッシュ」という掛け声。その後、自分の後頭部に感じた鈍い痛みにより、意識は暗転。

 目が覚めると、椅子に座らされ、手には頑丈な手錠をはめられ、身動きを封じられたていた。揚げ句、この部屋に監禁されていたのでさぁ大変。

 

 銀時は青筋を浮かべる。

 

「たく、なんなんだよあのコスプレ親子は! なんで毎度毎度長編になると俺はこんなメンドーな目に遭わなきゃならないだチクショーッ!!」

 

 いくら文句を嘆こうとこの状況が一変するワケではないが、銀時は文句を言わずにはいられない。毎度のことだと思うが、いつも自分は不幸な目に遭い過ぎてないか? と常日頃から思ってしまう。

 

 前、「なんで俺っていつもひどい目に遭うんだろうな?」と新八にさり気なく言ったら「日頃の行いが悪いからじゃないですか?」なんて返された。その時は、眼鏡の顔面にストレートをくれてやったものだ。

 

 散々文句をぶちまけたおかげか、銀時の頭は段々と冷えてきた。

 

「……ハァ~……暴れてもしょーがねーか」

 

 ダルそうな目で銀時はゆっくりと自分の周りを見る。

 今まで自分の状況に嘆いていたせいで気付かなかったが、ここは人を監禁するような場所というよりは、ただの寝室といった方が良いかもしれない。

 自分の前にある大理石の机。横には、ふかふかそうなベッド。周りには必要最低限の家具もあり、人を監禁する場所には似つかわしくない。

 まぁ、そもそもここが刑務所のような場所でないのなら、ただの寝室に押し込められたというのが自然か、と銀時は結論付ける。

 

 ──俺、どうなっちまうのかなー……。

 

 と、銀時は虚ろな目で天井を見上げる。

 

 別の場所に飛ばされたとはいえ、まだここがどこかも、ここの住人たちが何者なのかも分からずじまいだ。

 兎にも角にもまずは、ここの住人たちが自分に抱いているであろう誤解を解いた上でかぶき町に帰る算段を立てよう、と思っていると。

 

 コンコンと扉を叩く音。次に、少女の声が扉越しに聞こえてくる。

 

「あの、中に入ってもいいですか?」

「えッ? ……あ、あァ……どうぞ」

 

 心なしか遠慮がちな少女の声に、銀時もつい遠慮気味に応えてしまう。なんというか、監禁中の相手に対しての態度にしては少し変じゃね? と銀時はつい思ってしまった。

 

 ゆっくり扉が開くと、金髪の少女が顔を出す。

 金髪の長い髪をツインテールにしており、赤い瞳の可愛らしい女の子。いわゆる美少女というやつだろう──というかあの玉座の広間でコスプレしていた少女(ガキ)だ。今は普通の私服のようだが。

 

 金髪の少女の後ろにはオレンジ色の長い髪の女が立っている。

 出るとこは出ているグラビアアイドルにも劣らないどころか、それよりレベルが高いんじゃないか? と思う別嬪の美女だ。金髪の姉だろうか? なぜかチャックの開いた短パンに、胸の谷間が見える上着。なんというか、あの際どいドレスを着ていた黒髪女と同じような少し扇情的な格好だ。

 ただ、なぜか犬耳付けているコスプレ女なのが残念だな、と銀時は思った。

 

 二人を見てついでに考えたのだが、こんな美女や美少女を新八なんかが見たら一目惚れして発狂するんじゃね? などと本人が聞いたら世界も目指せるナックルが飛んできそうなことを想像しちゃう、万事屋の社長。

 銀時が二人をまじまじと観察していると、金髪の少女が口を開く。

 

「えっと、あなたについて知りたいので、いくつかあなたの身分について教えてくだいさい」

「え~っと……」

 

 銀時は眉間に皺を寄せて、どう答えるか思案顔。

 みたところ相手もそこまで話が通じない相手ではなさそうだ。最初はあんな登場だったし、ここは俺が人畜無害であることを証明しねェと、と意気込む銀時。ここは下手にすっとぼけるよりも、自分のことを正直に話して開放してもらい気持ちよく家に帰るのが理想的であろう、と銀髪の侍は考え付く。

 そう思うやいなや、銀時はちょっと不自然ではあるが柔和な笑みを浮かべ始める。

 

「いやー、すんません。俺もォ、ちょっとした事故に巻き込まれて、突然あなた方の住居に瞬間移動しっちゃったんですよ。いやほんと、まじすんません」

 

 金髪少女は「え?」と言って目をパチクリさせる。

 

「い、いえ。こちらこそいきなり襲いかかってすみません。……あの、頭の方は大丈夫ですか?」

 

 おずおずと尋ねる少女に銀時は作り笑顔のまま答える。

 

「あ、大丈夫ですー。これくらいぜーぜん平気なんで」

「あ、そうなんですか。…………良かった」

 

 金髪の少女は胸を撫でおろす。どうやら、彼女が思っていたよりも自分の態度が和やかなことに内心驚き、安堵しているのだろう。ただ、最後に言った言葉は声が小さすぎて銀時にはうまく聞き取れなかったが。

 銀時は内心でいやらしい笑みを浮かべる。

 

 ──フッ、やはりな。コイツァ随分おりこうなお子様じゃねーか。

 

 この殊勝さ。やはりかぶき町でサラブレッドのように育ったガキどもとは違う。あの町では早々見れないであろう、見た目以上に精神的な育ちの良さが窺い知れる。あの高慢ちきな大食い娘とはえらい違いだ。この謙虚さをあの(ガキ)にも見習わせたいものである。

 とりあえずメンドーごとを避けるためにこのまま殊勝な銀さんで行こうと天パは決め、

 

「まあ、俺の方こそ悪かったんで。とにかく俺を解放してくれません? お互いに誤解と勘違いが生じただけですし。いやほんと、事故とはいえおたくに瞬間移動したことは謝るんで」

 

 もう不自然なくらいワザとらしい作り笑顔を続ける。

 

 見たところ目の前の少女。少し表情に乏しいところはあるが、なかなかに優しそうな感じがする。

 銀時の直感(あてになるか分からない)が告げている。ここは誠意を見せ、少女に自分がどういう人間かアピールすることこそ、ここから五体満足に出て行くことにつながるはずだ、と。普段バカばかり起こすが、完全無欠のバカではない。横柄な態度は取らず、少女への好感度をゲットすることで、無事に帰ることができる──はずである。

 

 銀時の謝罪を聞いて、少女はほほ笑みを浮かべる。

 

「そうですか。それじゃ──」

 

 ──よし! いいぞいいぞ! 

 

 銀時は内心でガッツポーズを決める。

 ついになんの問題もなく厄介ごとから逃れられる。今までの経験が実る日がやって来たのである。

 どうだ! 先ほどまで自分に疑心的だった少女の態度がかなり和らいだではないか! これですぐに家に帰れる!

 

「ちょっと待った」

「へッ?」「えッ?」

 

 と思いきや、突如前に出る犬耳女の声。金髪と銀髪は同時に呆けた声を出す。

 先ほどまで少女の隣に立っていた犬耳を付けたオレンジ髪の女性。彼女は銀時の元まで近づき、鼻を近づけ、すんすんと臭いをかぎ始める。

 

「えッ? なに? なになに?」

「あ、アルフ? どうしたの? 急に匂いなんか嗅いで?」

 

 戸惑う銀時と、小首を傾げる金髪の少女。

 銀時の臭いを嗅いだアルフと呼ばれた犬耳女は、顔を後ろに引いて、怪訝そうな表情で肩眉を上げる。

 

「なんつうか、コイツは怪しさプンプンな臭いがするからさー。このひん曲がった頭みたく、コイツの雰囲気も性格もひん曲がってそうで、信用できない感じ」

 

 おおむね間違ってねェかもしれねェけど、さすがに失礼じゃね? しかも初対面なのに。あと怪しいからって臭い嗅ぐ必要ねェだろ、と内心ツッコミ入れる頭がひん曲がった男。

 

「そ、そうなの?」

 

 と、フェイトと呼ばれた少女は不安な表情を見せれば、アルフは自身の鼻を指さす。

 

「あたしは鼻が利くからね~。良いヤツと悪いヤツの区別だって臭いでガブっとお見通しさ」

 

 どこのなか〇ゆきえだよ、と銀時は内心ツッコミつつ、ジト目で言う。

 

「そもそも、怪しさ云々に鼻が良い悪い関係ねェだろ。つうか怪しさプンプンな臭いってなんだよ。どんな臭いだ」

 

 アルフは腕を組んで「う~ん……」と唸ってから、顎に手を当てて、

 

「ゲロ以下、みたいな?」

「誰がゲロ以下の臭いだ! どこのスピードワゴンだオメーは!!」

 

 反射的に怒鳴ってしまう銀時。

 すると、おもむろに近づくフェイト。彼女は鼻を銀時に近づけて、すんすんと臭いを嗅ぐ。そしてはっとなり、真剣な表情を犬耳女に向けた。

 

「……アルフ、ゲロ以下の臭いなんてしないよ。それと私、初めて男の人のにおいを嗅いだ」

「うん。あの犬耳、体臭のこと言ってたワケじゃねェから」

 

 と銀時はツッコミ入れつつ、つうか加齢臭のヤベーおっさんレベルだったら俺、メッチャ凹んでたぞ、と内心で語る。

 

 銀時はフェイトに対して、コイツ天然だな……、と内心で呆れる。

 失礼な犬耳女もだが、天然気味な金髪少女もメンドクサそうだ、と銀時は思いつつ、嫌な予感を覚え始めていた。

 

「そんじゃま、回りくどいのはなしにして、さっさと本題に入っちまうか」

 

 とアルフは言ってから、キリっと真剣な表情になり、そのまま銀時の顔に自分の顔を近づける。

 

「あんたさー、いったいどんな目的があってこの『時の庭園』にやってきたんだい? まさか、管理局の回しもんじゃないだろうねぇ? 正直に言わないとガブっといくよ?」

 

 ギラリと犬歯を見せながらドスのある声で尋問するアルフ。彼女としては、これで銀時を怯ませた後に情報を聞きだそうとしているのだろう。

 だが、目の前の犬耳女よりも、桁違いの迫力ある連中を見てきた銀時としてはまったく怖くない。

 迫力で怖がらせるくらいなら、オカマたちの楽園たるカマっ娘クラブのママをしている西郷くらいの迫力じゃなきゃたじろきすらしない。いや、あんな怪物も真っ青なモンスターどもに尋問されるのも真っ平ごめんだけどね。

 

 銀時としては、先ほど彼女たちの会話からさり気なく出てきた言葉の方が気になり、嫌な予感を覚えて頬を引き攣らせ、声を震わせながら質問する。

 

「あのォ……つかぬことをお伺いしますが……。さっき、〝地球に向かう〟とかなんとか言ってましたが、もしかしてここって……地球じゃないの?」

「ん? あぁ、そうだよ」

 

 アルフはさも当然とばかりに答える。

 

 ──地球どころか宇宙に飛ばされたァァァアアアアアアッ!! 

 

 銀時、心からのシャウト。江戸のどこかでなくても、せめて見知らぬ土地(地球圏内)の場所かと思いきや、まさかの大気圏突破である。別の惑星に飛ばされていたとは思わなかった。

 心の銀時は歯噛みしつつおっかない表情で、ここに送った犯人を恨む。

 

 ──あのジジィ……! 俺をいったいどこまでぶっ飛ばしやがったんだ!! 

 

 だが怒りと同時に銀時は冷静な思考で自身の状況を分析する。

 

 ──どうりでなんかおかしいと思ったぜ。俺はいつの間に別の惑星に飛ばされていたんだな。

 

 銀時は続けてフェイトとアルフに目を向ける。

 

 ──コイツらもこのどことも分からねェ惑星の住人ってことか。だからこの犬耳女もキャサリンみたいに犬耳を頭にくっ付けたあまん。

 

「ここは〝次元の狭間〟の海に浮かぶ城……だっけか?」

 

 思考の途中でアルフが言う。彼女は眉間に皺を寄せ、腕を組み小首を傾げながら説明を始める。

 

「んで、『時の庭園』て言うんだよ。つうかあんた、知らないでここに来たのかい?」

 

 怪訝そうな表情のアルフに銀時は答えを言う暇なんぞもうなくなった。

 

「えっと……。絵にするとだいたいこんな感じ、かな」

 

 とフェイトは絵を見せつつ説明する。

 

「今アルフが言ったように、この時の庭園は虚数空間という次元の狭間の海に浮かぶ城。次元世界というよりは拠点って言った方がいいかな?」

 

『時の庭園』という場所をA4位の大きさの紙に書かれた図で説明された。イメージ的には天空の城みたいな感じ。

 フェイトの簡略図を見て絶句する銀時は、

 

 ──天元突破どころか異次元突破したァァァァァァアアアアアアアアアアッ!! 

 

 内心またシャウト。

 まさか宇宙に飛び出すどころか、次元の壁をぶちやぶって異世界にやって来るなんて展開に──。

 

「──って、んなワケあるかァーッ!! どんな新展開だおい!! なんだその別アニメ設定!? 百歩譲って別の惑星ってのは信じても異世界だとか異次元の狭間に浮かぶ城だとかFFバリバリの設定を信じるわけねーだろ! 大人舐めんじゃねーぞ!!」

「ああん? こっちはせっかく説明してやってんのに逆ギレかい? とてもじゃないけど大人の態度とは思えないねぇ」

 

 腰に両手を置いてやれやれと首を横に振るアルフに対し、銀時は青筋を浮かべる。

 

「腹立つリアクションしやがるなァオイ! っていうか大人だってなァ、脳のキャパシティ超えるような現象に陥ったら誰だってこうなるんだよ! 誰でも柔軟な対応できると思わないでいただこうかッ!」

「セリフは情けないのになんで態度は無駄にデカいんだよ」

 

 アルフは少々呆れたのかため息をつく。

 

 最初に考えた、誠実な人物を見せて好感度上げよう、とかいう作戦なんぞもう銀時の頭には入っておらず、完全に素に戻って混乱していた。

 そして少し間を置いた後、ある仮説を銀時は思い付く。

 

「…………はは~ん? さてはテメーら、俺を担ごうって気だな? 実はこれはただのドッキリで、ここは異世界でもなんでもなくて、お前らはただの仕掛け人だな? うん。それしか考えられない。どうせぱっつぁんとか神楽とかババアとかがいろいろ共謀して俺を嵌めようとしてんだな? まったく冗談きついですよ仕掛け人さんよー。まー、俺にドッキリを仕掛けるならもう少しマシなネタを用意するべきだったな! アハハハハハハハハハハッ!!」

 

 勝手に決めつけて勝手に自己完結させて、しまいには狂ったように笑い始める銀時。

 情けないような、かわいそうな姿の大人を見て、フェイトとアルフは互いに顔を見合わせる。

 

 

 

「──この虚数空間に浮いている小さい島のような場所が、あたしらが住んでいる『時の庭園』だよ」

 

 と言うのはアルフ。

 

「…………」

 

 椅子に縛られたまま外に連れてこられた銀時は、外の景色を見て白目剥いて絶句している。

 なにせ目の前には、青空でも鉛色の曇り空でもないオーロラのような摩訶不思議な色の空、というか空間がどこまで広がっているのだから。

 

 銀時にとっては、まさに一発で犯人を逮捕できるような証拠を見せ付けられた気分だった。どう考えても自分の身内が用意できるような仕掛けの規模ではない。隣でアルフがなにか言っているが、まったく耳に入ってこない。

 

 ──誰か助けてください。

 

 銀時はとりあえず現実逃避したくなった。

 顔面蒼白になって白目剥く銀髪の様子を見ていたアルフは顎に手を当てる。

 

「なんか管理局の回しもんじゃなさそうだね。あたしら騙すための演技でもなさそうだし。そもそもそれほど巧みな演技できそうに見えないしさ」

 

 隣のフェイトはうんと頷く。

 

「たぶん次元漂流者で間違いないと思う。ちょっと間が抜けていそうな感じだし、事故かなにかでやって来たんじゃないかな?」

 

 なんか後ろで失礼な会話が聞こえるが、目の前の壮大な景色のせいで銀時の耳には声などまったくもって入ってこない。

 

「ちなみにあたしは狼の使い魔だからね。こうやって狼にだってなれるよ。すごいだろ!」

 

 と狼になる犬耳女。

 

「私は魔法が使えます」

 

 手から金色の光の玉を出す金髪幼女。

 

 ──誰か助けてください。

 

 あ、そうだ。瞬間移動習得して地球に帰ろう、と思った銀時であった。

 




今回の話からpixiv版で質問コーナーを募集し、次話から質問コーナーで質問をお答えしたいましたが、ハーメルン版では質問コーナーは抜いておくつもりです。
基本的には本編のみの投稿をするつもりでいます。
それとハーメルンでの感想が書きにくい場合はpixivでも大丈夫です。


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第三話:旅をする時は現地の情報はしっかり仕入れておくべき

ちょっとずつ修正入れて投稿です。それなりに期間が空かないようにしています。
ちなみに私の小説の文章の参考は3年Z組銀八先生です。


「それで? あの男の素性は分かったの?」

 

 時の庭園の主でありフェイトの母――プレシア・テスタロッサはフェイト・テスタロッサを玉座の間に呼ぶ。質問の内容は当然、自身の居住地である時の庭園に侵入した銀髪の男の情報だ。

 はい、とフェイトは頷きながら答え、ゆっくりと男の情報について記した紙を読み上げていく。

 

「名前は坂田銀時。地球と言う惑星の出身で、『えど』と言う名の国にある町の歌舞伎町で何でも屋――『万事屋』を自営業しているそうです。趣味は糖分摂取。将来の夢は『侍王になる』だそうです」

 

 フェイトの説明にプレシアは苛立ちを見せながら目を細める。

 

「……私がいつ、男の趣味や夢を知りたいの言ったのかしら?」

「す、すみません……」

 

 フェイトは少々威圧しただけで縮こまる。自分に対しておどおどした態度をしている娘の姿に対してイラつきを覚えずにはいられなかった。まぁ、このように自分に怯える風にしたのはそもそも自分のせいだが、プレシアにとってはなんら問題ない。

 

 ――期待してなかったとはいえ、尋問で得た情報はあまり役に立ちそうにないわね……。

 

 フェイトに任せずとも、プレシアは監視スフィアを使って気付かれることなく、こっそり銀髪の男の観察することができる。しかしあえてプレシアはフェイトに銀髪の男の尋問を任せた。

 いくら魔導師として優秀だからといっても、尋問の才能まであるわけではない。むしろ素直過ぎるこの娘なら、逆に相手に丸め込まれる可能性もある。しかも子供。

 だがしかし、プレシアはフェイトに男の尋問させた。それは、子供であるフェイトが相手なら銀髪の男の〝素〟を引き出すことに使えると判断したから。男も油断していろいろとボロを出すと踏んで。結果、それなりに男の性格を把握できた。

 プレシアとしては、フェイトとアルフに気付かれずに男を虚数空間に放り出しても問題はない。あの銀髪が管理局からの回し者でも、本当にただの時空漂流者としても、それらとはまったく関係な派閥からやって来た者でも。

 だが、処分をしなかったのは銀髪の男――坂田銀時が地球からの出身という部分。それが銀時を大きな利用価値がある男だと、プレシアに認識させたのである。

 

 プレシアが自分の全てを賭けた計画ため、これからフェイトを管理外世界に向かわせる。管理外世界――地球に舞い落ちるであろう『ロストロギア』を回収させるために。

 そして計画を遂行させるのに、地球出身の者が手の内にあるというのは実に都合がいい。地球のことを詳しく知らない自分やフェイトにとっては、地球出身である銀時は現地のガイド役として利用価値がある。

 

 だが、問題なのが銀時の言っていることが虚言だった場合だ。

 管理局、またはどこぞの組織の回し者であり、自分たちに取り入ろうとしている可能性も少なからずある。まぁ、あんな突拍子な怪しさ全開の登場をするような間抜けが、スパイとしてこの時の庭園に潜り込むとは考えにくい。

 なにより、先ほどから見ていたフェイトたちとの会話にもあまり知性を感じられない。こちらの考えを全て見越した演技をしているという考え方もある。が、いかんせんそういった怪しさもあまり感じ取れなかった。

 そもそも、自分がこれから行う計画を漏らすようなミスなどしていない。その上、この時の庭園の居場所すら誰にも分からないように徹底的な隠蔽を行っている。

 

 ――私の考え過ぎかしら? そもそも、ここ十数年間自分の情報を一切遮断してきたという前提条件を考えるのなら、あの男は本当に事故によって此処に偶然やって来た次元漂流者ってことになるわ。

 

 プレシアは顎を指で撫でる。彼女の前では不安そうにしているフェイトがいるが、今の彼女は自分の娘にはまったく意識を向けていない。

 

 ――計画の目前だからといって、少しナーバスになり過ぎていたようね。

 

 今のところは、銀時を地球出身のガイドとして使うということでいいだろう。調べたところ魔法は使えないことは分かっている。もしこちらの不利益となるならば、始末することは容易だ。

 ただ気になるのは、

 

 ――……地球に江戸や侍や天人(あまんと)なんて、いたのかしら?

 

 事前に調べた地球の情報と銀時から聞いた情報に食い違いがある。一致している情報もあるのだが、この食い違っている部分が腑に落ちない。

 

 ――やはり私たちを騙すために地球出身と偽っている? いや、それなら下調べはもっとちゃんとするはず……。

 

 自分たちも地球に詳しくないということから生まれた食い違いかもしれないが。

 考えをあらかたまとめたプレシアはフェイトに目を向ける。母からの目線を受けたフェイトは一瞬体を硬直させるが、プレシアは構わず口を開く。

 

「――フェイト、あの銀髪の男を私のところに連れてきなさい」

「は、はいッ……!」

 

 ――私も、一度会っておく必要があるわね。

 

 プレシアは立体パネルを空中に表示し、ある資料を表示する。

 

 

「この玉座の間で母さんがあなたを待ってます。私は扉の前で待っているから」

 

 フェイトの言葉に銀時は気のない返事で答える。

 

「へいへい」

 

 両手を後ろに回され、手首を四角い手枷のような物で封じられている銀時。彼は辟易とした様子で玉座の間に入っていく。

 

 にぶい足取りで進んでいくと、玉座の間に座った女性が一人。手には杖を持っており、少し顔色が悪そうな黒髪の女性だ。ドレスの胸元が開いているなど肌をあまり隠さない少し際どい服装ためか、彼女の豊満な部分がところかしこ見えてしまう。

 銀時は肩眉を上げ怪訝な表情で観察する。

 

 ――おいおい、なんだあのいい歳して魔女のコスプレしたの? まー、別嬪ではあるけど、ありゃちとイテーな。

 

 若く見えるがフェイトの母親であるから熟女であること間違いない。

 (ヅラ)の好みにクリーンヒットだし、もしあのバカと出会ったらラップしながら発狂するんじゃね? と頭の片隅で思った銀時。

 フェイトの母親なのであろう女性は銀時が玉座の間の中心まで歩いてくると、口を開く。

 

「あなたが坂田銀時ね? 待っていたわ」

「ああ。んで、あんたがあの金髪のガキの母ちゃんで間違いないんだろ?」

 

 さきほどフェイトの言葉通りなら、目の前で偉そうに玉座に鎮座しているコスプレ熟女ババアが金髪娘の母親。娘が金髪に対し母親が黒髪だとすると、父親が金髪だったか、または先祖返りか。あの歳ではありえないだろうが、染めているかのどれかだろう。

 

「…………」

 

 銀時の質問を受けたプレシアは玉座に座ったまま、黙り込んでいる。

 静寂が当たりをつつみ銀時は汗を流す。

 

 ――……え? なにこの空気? 俺、何か気に障ること言った? なんか顔が不服そうなんだけど?

 

 多少なのだが、プレシアの顔色から少し不満の色が感じられる。さすがに普段から捻くれ口調とはいえ、今の会話で彼女の機嫌が悪くなるはずは〝普通〟はないのだが。

 とりあえず、なんか目の前の女パッと見おっかなそうなので、下手なことは言わず相手のリアクションを待つことにした銀時。

 

「………………」

「………………」

 

 顎に手を当てて思案しているプレシア。

 

「………………」

「………………」

 

 今度は手をかざしてプレシアは透明なパネルを弄りだす。

 

「……あの、すんません。そろそろ何か言ってくれません?」

 

 銀時は一応コミュニケーション取ってみるが、

 

「…………………」

 

 プレシアは何も喋らずにコーヒーを音も立てずに啜りだす。その後も銀時は無言の相手に何回かコンタクト取ろうとする。

 

「……いや、俺何かした!? 何か気に障ること言った!?」

「…………………」

「いい加減にしろよテメー!! 人様呼んどいてだんまり決め込むとかどういう了見だコノヤロー!!」

「…………………」

「…………………」

「…………………」

「……あの……ホント何か喋って。なんか段々怖くなってきたんだけど……」

「…………………」

「ごめんさい!! マジすんませんでした!! 俺が何かしたのならマジ謝りますから!!」

「…………………」

 

 一向に喋らず、頬づえを付いて値踏みするように自分をジーっと見つめ続ける。

 

「こェェェェェェよ!?」

 

 さすがの銀時も青ざめる。

 

「なんなのこの人!? 何喋るわけでもなく、なんで俺ガン見してんの!? なに? 目からビーム出す練習をしてんの!?」

「…………………」

 

 さすがの銀時も根を上げて我慢の限界を訴えるが、結局目の前の女性は何を言うわけでもなくジーっと彼を見続けている。

 ついにコミュニケーションを取ることを諦めた銀時はボソリと一言、

 

「………………年増クソババア」

 

 

「悪いわね」

 

 と、プレシアがやっと喋る。

 

「私、一度考え出すと周りの声が聞こえなくなってしまうから」

「へ~…………」

 

 気のない返事の銀時。彼のクセ毛だらけ天然パーマは焦げ付き一回り大きく増量していた。

 

「とりあえず、早速本題に入るわ。あなた、地球出身だそうね?」

 

 プレシアの問いに「あァ」と銀時は頷き、玉座に座った女はニヤリと口元に笑みを浮かべる。

 

「それならあなたに単刀直入で頼みたいことがあるの」

「え? ちょっ? 江戸に帰してくれるんじゃないの?」

 

 銀時は怪訝な表情で眉間に皺を寄せる。まさかの瞬間移動先で、万事屋の仕事をしなければならない状況に陥りそうになっている前兆に、嫌な予感を覚えているのだ。

 帰るどころか、余計な事件に片足突っ込んでそのままどっぷりはまり込んだことが何度あっただろうか? まぁ、大半が自分から突っ込んだようなものだが。

 顔を引きつらせる銀時に対し、プレシアは彼の反応をあらかじめ予想しているかのような口ぶりで話し続ける。

 

「ええ。あなたを地球に帰すことは容易いわ。なにより、嫌がるあなたを手伝わせたところで、邪魔にしかならないことは火を見るより明らかなのも理解してる。だけど、あなたは金さへ払えばなんでもする万事屋と言ったわよね? なら――」

 

 上向きに開いたプレシアの手。その大きさに合わせた魔法陣が展開し、そこから宝石が姿を現す。大きさは野球ボールくらいであり、色はダイヤのような無色透明な輝きを放っている。ぶっちゃけ、ダイヤではないだろうか。

 

「こういうモノにはかなり興味があるんじゃないかしら?」

 

 プレシアは手のひらに浮かぶ宝石を見せ付けるようにしながら口元を怪しく吊り上げる。

 突然現れた宝石を見た銀時はその姿に釘付けだ。銀髪の反応を見てからプレシアは依頼内容を話す。

 

「私は〝仕事として〟あなたにフェイトとの仕事のサポートと地球の案内を依頼するわ。もちろん、危険を伴うことでもあるから、報酬はそれ相応のモノを用意するわよ?」

「……エ?」

 

 銀時は間の抜けた声を漏らしつつ震える指で、プレシアが出した宝石を指す。

 

「そのダイヤっぽいつうか……え? だいや? え? マジでダイヤ? ただのガラス玉じゃなくて?」

 

 ダイヤであろう宝石を見た瞬間、銀時の興奮はうなぎ上りだった。体中から変な汁が出てきそうなほどになり、心臓は太鼓の鉄人の鬼ランクのように早鳴りを始める。それほどまでに、ダイヤという宝石は万年金欠の彼にとっては魅力的だった。

 プレシアは頷く。

 

「もちろん、あなたの言うところのダイヤで間違いないと思うわ。どうやら、あなたの反応から見て、私たちとあなたたちの物価に対する価値観は近いようね」

「…………(ダラダラダラダラ!!)」

 

 銀時はダイヤを見て口から凄まじい量の涎を垂れ流す。

 

「あなたの返答次第では、これ以上の報酬を用意してもいいわよ?」

「なんでも命じてくださいプレシア様!!」

 

 銀時は片膝を付いて深々と頭を下げる。手がふさがっていなければ心臓に拳を当てていたところだろう。

 呆れかえるほどの変わり身の早さを見ても、プレシアは呆れるどころか、冷笑すら浮かばせる。

 

「物分りがよくて助かるわ。それじゃあ、仕事の内容を説明するわね。まず、フェイトが探しているのは――」

 

 だが銀時の脳内は、

 

 ――ちょっ、マジやべェよ。確か、ダイヤってあのちっこい指輪の上にちょこんとおまけみたいに付いてるヤツで何十万すんだろ? あんな手のひらサイズとか……おい、やべェッよ! 新八の本体(めがね)いくつ分だよ? 酢昆布娘の酢昆布いくつ分だよ? 俺のジャンプいくつ買えんだよ? もうやべェ通り越してヤベェよ!

 

 ウハウハ状態で、プレシアの話しよりもこれから手に入るであろうダイヤと言う名の金の塊で、一体どれだけの利益が自分に降りかかるか考えるので頭がいっぱいだった。お登勢(ばばあ)の家賃なんて一生分払える。毎日焼き肉、寿司のオンパレード。パチンコ打ち放題。

 とにかく、うはうはの未来が待っている。

 さすがに一生分のぜいたくは考え過ぎだが、銀時にとってはこれからの人生を一変させる千載一遇のチャンスが到来したと言っても過言ではない。

 

 この後、死ぬほど興奮したせいでプレシアの話を聞かず、彼女に同じ話を三回も言わせて、銀時は髪の毛引っこ抜かれそうになったりした。

 

 

 

 

 銀時が江戸から消えてから数日が経過。銀時のいる江戸では、既に異変に感ずいている者がちらほらいた。

 それはもちろん万事屋で銀時とともに長年(サザエさん方式で歳は取ってない)戦い、働いてきた新八と神楽が一番に気付いているのだ。何かが足りない、誰かがいないということに。そしてなにより、彼の姿を何日も見ていないという不安が彼らの中に広がりつつあった。

 

 万事屋のリビングでは、テーブル挟んで置かれたソファーに面と向かう形で座っている新八と神楽が、重々しい雰囲気を放つ。(こうべ)を垂れ、暗い顔をする二人にはあまり言葉を発する余裕は見受けられない。

 そんな長い沈黙が続く中、新八が口を開く。

 

「……銀さん、どこに行っちゃったんだろうね」

「銀ちゃん……」

 

 神楽も気のない声を漏らす。

 一体いつまで、銀時はいつもふんぞりかえっているボスたる者のソファーを開けておくのか。いつまであの憎ったらしい顔やセリフを聞かせないつもりなのか。

 

「今日も帰ってこないみたいだね……」

 

 新八が時計に目を向けると、時刻は既に夜の八時。夕食を食べるには少々遅い程度の時間だ。

 銀時が帰ってこなかった最初の日もせっかく作った夕食が無駄に――はならなかった。なにせ神楽がしっかり腹に無駄なく収めたのだから。

 

「このままだと、この――」

 

 新八はテーブルの上に大皿を乗せる。

 

「国産黒毛和牛が無駄になるね」

 

 大皿には綺麗な赤身の肉が乗っている。一枚一枚綺麗に並べられた肉は脂の少ない赤身のうまみをたっぶりと見せ付けていた。

 

「まったくアル。銀ちゃんが帰ってこないとこの――」

 

 神楽もテーブルの上に大皿を乗せる。

 

「高級ズワイガニが無駄になってしまうアル」

 

 大皿の上には大きなカニが五匹も乗っていた。その大きさはまさに立派の一言。たっぷりと身が入っているであろう足は太く、殻も良い光沢を放っている。

 

「今暑くなっている時期だし、こういうナマモノはすぐに悪くなっちゃうよね」

 

 新八は残念そうな顔をしてため息をつく。

 確かに、六月の半ばである今は気温がぐんぐん上昇している。今の暑い時期では生ものは腐りやすく、すぐに調理して食べるか、一度火を通さなければならないのは家事をよくする新八なら理解していることだ。

 

「銀さんを待ってたら、これすぐにダメになっちゃうよね」

 

 新八は体の良い言葉を並べているが、目の前にあるごちそうを食べたいのはまる分かりで口から涎がダラダラ。

 

「まったくアル。これは私のモノネ」

 

 神楽も視線はごちそうに釘付け。例えあのダメ天パがいてもこのすてきな品を渡したくはなく、自分が全て平らげたい。それを証明するかのように胃がぐうぐう。

 すると新八はワザとらしく言う。

 

「もうこれはアレだね! 仕方ないね! ほっといたらせっかく依頼した人から貰ったお肉もカニもダメになっちゃうしね!」

「これをダメにすることこそ、この品々に対して失礼アル! 全て私の胃に入れてしかるべきネ!」

 

 神楽もワザとらしく返す。

 だんだん彼らの本性が、目の前の獲物(ごちそう)を前にして剥き出しになっていく。ちなみにこのごちそうの出所は気前の良い依頼主からの贈り物である。

 やがて感極まった二人は、銀時抜きでたらふくうまい物を食べられることに歓喜する。

 

「「つうかあの銀時(バカ)がいなくてよかった~! いたら思うように食えないし~! ぶははははははははははははははははははははははははははははッ!!」」

 

 そして二人の食欲はついに爆発した!

 

「つうかあの天パのことなんて知ったこっちゃねェよ! レッツ鍋パーリーじゃァァァァアアアアアアアアッ!!」

 

 新八は箸を持って飛び上がる。

 

「カニも肉も全て私のもんじゃァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 神楽も目を血走らせて飛び上がる。

 獲物を前にして野獣のごとく群がる二匹の獣は肉を焼き、カニの足を引き千切り、邪魔する獣を排除する。

 眼鏡の獣がパンチをくらわされ、キックで腹を蹴られ、赤い獣が全てを平らげようとする。

 

「テメーはちょっと食卓マナーを守れェェェェェェェッ!!」

 

 新八が叫ぶ。

 

「つうか僕まだ一口も食べてないんだけど!!」

「うっさいネ! 銀ちゃんなき今こそ、この戦場(しょくたく)を制するのはこの私アル!! 雑魚はお呼びじゃねーんだヨ!!」

 

 神楽の言葉を聞いて新八は悔しがる。

 

「チクショー!! 抜かった! よくよく考えたら銀さんは神楽ちゃんと言う名のケダモノを押さえつけるのに必要な存在だったのか!!」

「テメェ乙女に向かってケダモノとはなんだコラーッ!!」

 

 新八の顔面に神楽のフルスイングした拳がクリーンヒット。「ゴハッ!!」と新八は壁まで吹き飛ばされる。力でも食欲でも夜兎である神楽にただの地球人たる新八が勝てる道理なし。

 ある意味、この食卓は新八、神楽、銀時の三人が織り成すデルタゾーンによって荒々しくもルールが敷かれた戦場になっていのかもしれない。

 新八と神楽による蹴って殴ってのどんちゃん騒ぎは夜遅くまで続いた。

 

 

 一方時の庭園では、

 

「あいつら、俺のこと心配してんのかねェ……」

 

 銀時の独り言を聞いたアルフは怪訝な表情を作る。

 

「あんた何天井向いて独り言喋ってんだい?」

「大丈夫?」

 

 フェイトに心配される銀時もまた、プレシアとの会話を終えて夕食を頂いていた。彼もまた、一段落を終え、江戸に置いてきた仲間たちのことを思い出していたのだ。

 ちなみに銀時の食べている料理は、

 

「まー、こんだけデカイ肉をたらふく食えんのはマジありがてェけどな~! あいつらいたらこうはいかねーよ! ぶはははははははははッ!!」

 

 分厚いステーキだった。

 

「「???」」

 

 アルフとフェイトは訝しげにドヤ顔したり高笑いしながら忙しく肉を口に頬張る銀時を見ていた。

 



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第四話:力試し

今回はプレシアさんと銀さんの開合と初戦闘の描写となります。


「んでよー……」

 

 と言って銀時は気だるげな眼で語りだす。

 

「俺んとこの駄眼鏡と酢昆布娘がホント使えねェ連中でよ~、モグモグ、マジアレはダメだわ、モグモグ、眼鏡はツッコミと視力を補う力と酢昆布娘はホント、もちゃもちゃ、アレ、なんだっけ? ごくごく。あ~、とにかくダメなんだわ、ガツガツ」

 

 テーブルマナーやら食事の礼儀作法など一切気にせず、目の前に料理を口に運びながら愚痴を垂れ流す銀時。おかげで唾を飛ばすかのごとく、パンくずやらおかずやらがテーブルの上に飛び散る。

 

「もぐもぐガツガツグチャグチャうっさいなーもぉ!!」

 

 アルフは「あーもう汚いなぁ!」と言いながらテーブルを拭きつつ銀時に苦言を呈す。

 

「あんた食べるか喋るかどっちかにしなよ! 机汚れるからさぁ!」

 

 アルフは濡れた台布巾で落ちた物を拭いては文句を口にする。

 行儀の悪い銀時の態度というよりも、口から出てくる食べカスにアルフは不快感をあらわにしているようだ。同じテーブルを囲んで食べている身としては、さすがに彼の口から出てくる物が机を汚す事が看過できないらしい。

 銀時は肉やら野菜やらパンを、忙しなく口に運びそのまま口を開いて、

 

「なに言ってんだコラ! お前らが俺の身の上話聞きたいって言ったからこーやって一つのテーブル囲んで話てやってんだろうが! 俺の口は二つもねーんだよ! 食いながら話さなきゃならねーだろうが!」

 

 勢いある声とともに食べカスが机にまた落ちる。その姿に自重もへったくれもなく、とにかく危機迫るかのように料理をガツガツ食す。

 机に落ちた食べカスを見てアルフは食ってかかる。

 

「だったら食うの止めればいいだろうが! もしくはもうちょっと落ち着いて食べてホント! つうかあんたの話どころどころあんたの周りの連中の愚痴が入ってあんま面白くな――!」

「うるせェェェェ! こんなごちそう目の前にして上品に食えっかァァァァァッ!!」

 

 口にモノを入れたまま銀時が怒鳴るので、食べカスがアルフの顔に向かって飛び散ってしまう。

 

「ぎゃあああああああああああッ!? ちょッ!? あんたッ! ホント洒落にならないくらいあたしの顔に食べカスかかったんだけど!!」

 

 先ほどまで口に入っていたモノが顔に直撃してアルフは悲鳴を上げる。汚いといった不快な感触は大きいようで、彼女は反射的に慌てて台布巾で顔を拭く。

 すると銀時が布巾を指さす。

 

「あ、お前それ机拭いたヤツじゃん。それで顔拭くのって、汚くね?」

 

 ブチッとアルフの頬に血管が浮かび、

 

「お前が言うかぁぁぁぁぁッ!!」

 

 アルフの渾身の力を込めた頭突きが銀時の脳天に炸裂。頭突きを食らった天パは「ごッ!?」と声を漏らし、額を抑えながら文句を言う。

 

「いッ、てェー!? てっめ! なにしやがんだ! いきなり人様に頭突きとは躾のなってねェイヌッコロだなおい!」

「い……痛いのはこっちだよ!」

 

 だが、銀時の頭は思っていた以上に硬いらしく、アルフは涙目になりながら額を擦りつつ怒鳴り声を上げる。

 

「あんたどんな頭してんだい!? 石頭にもほどがあるよ! つうかあたしは狼だ!」

 

 とはいえ銀時だって無事では済んでないのは当然で、尻餅付きながら頭を抑えて若干の涙目。その苦痛に耐える姿が彼の痛みの度合いを物語っている。

 すると、

 

「フフ……」

 

 傍から聞こえた小さな笑い声に銀時とアルフは同時に「あん?」と反射的に反応する。

 笑った人物に顔を向け、銀時はあからさまに不機嫌な表情を作る。

 

「……なにがそんなにおかしいんだクソガキ」

「フェイト?」

 

 不機嫌な銀時と違って、アルフはフェイトが笑った事が珍しいのか主の反応に対して意外そうな顔を浮かべる。

 二人の反応に気付いたフェイトはすぐさま笑うの止めて、顔を赤くしながら両手を顔の前で左右に振る。

 

「ご、ごめん! べ、別に今のを見て笑ったわけじゃなくて!」

 

 銀時とアルフの体裁を保つためにフェイトなりフォローしたつもりのようだが、銀時にとってはそんな子供なりのフォローなど一切通じない。

 

「お前あんま嘘上手くねェな。今の見て笑ってたの丸分かりじゃねェか」

「ちがっ……ご、ごめん」

 

 フェイトは再度、銀時の言葉を否定しようとしたが誤魔化しはあまり通じないと理解したのか、素直に頭を下げて謝る。ただ、指摘されシュンとするような反応が銀時にとってはあまり慣れたものではなく、むず痒い気持ちだ。

 落ち込んだフェイトを見たアルフが銀時に文句を言おうとする。

 

「ちょっとあんた――!」

「でもね!」

 

 フェイトが声を出したので、アルフは言葉を途中で止めたが、主は使い魔に気を使いだす。

 

「あっ……もしかしてアルフ、なにか言おうとしてた? なら、ごめんね。先に言って大丈夫だよ」

「あ、いいよいいよ! フェイトから先に言いなよ! あたしのことは気にしなくていいから!」

 

 アルフの言葉に対してフェイトは首を横に振る。

 

「ううん。アルフの話を区切っちゃったわたしが悪いんだし、アルフが先に言っていいよ」

「だからいいってさ。あたしの話なんて大したことないんだから。フェイトが先に言ったって別に問題ないよ」

「でも……」

 

 主は使い魔のことを気遣い、使い魔は主のことを気遣う。そんな譲り合う精神のためにどちらが先に譲り合うかで話が停滞している。銀魂なら喧嘩に勃発している流れでも、この二人だと喧嘩にすら発展しないようだ。だが、いつまでも同じ事を繰り返してはいられない。

 そういうワケで、

 

「じゃあ俺が」

 

 と銀時が手を上げる。

 

「おめーは黙ってろ!!」

 

 せっかく手を上げてまで話を進めようとしたのに、アルフに怒鳴られてシュンとしてしまう銀時。

 

「なんであんたが落ち込んてんだよ!? あんたそんなタマじゃないだろ! つうか気持ちワル!」

 

 ちょっと引くアルフに、銀時はすぐに平然とした顔で告げる。

 

「おいおい、自分でキン○マの話ししといて気持ち悪いはないだろ」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフはグイっと彼の襟首を持ち上げ、銀髪をギロリと睨み付ける。

 

「フェイトの前で下ネタ言うわ、人のことおちょくるわ、マジでいい加減にしないとカブッといくだけじゃ済まないよ」

 

 銀時は両手を出しながら言葉を返す。

 

「おいおい。お前人じゃなくて、犬だろ」

「あ、そうだね。よしわかった。ガブッといくね♪」

 

 笑顔になった後、アルフは銀時のくせっ毛だらけの頭を丸ごと吞み込みそうなほどの勢いで口を開き、脳天から噛み付こうとする。

 

「うおおおおお!?」 

 

 銀時は必死にアルフの口に両手を突っ込んで、噛まれないように上の歯と下の歯を押さえ込む。

 

「ちょっ!? 待てお前! ただの冗談だろうが! 本気で怒ることないだろ!」

「んふぁほほひふは! (んなことしるか)」

 

 アルフが口を開けたまま言い返した時だった。

 

「フフッ……」

 

 フェイトは先ほどのように二人の絡み合いが面白かったらしく、またしても小さい笑みを零してしまう。その声に反応してまた二人の視線が金髪の少女に向く。

 銀時は必死な形相で訴える。

 

「ちょっ!? 面白いのは分かるけど、分かるけども! とりあえずこの猛獣をなんとかしろ! テメェはコイツのご主人様だろうが!」

「あっ……う、うん。ごめん、銀時。アルフ、止めて」

 

 フェイトの言葉を聞いたアルフは視線を銀時に向けた後、少し逡巡して顔をゆっくりと引いた。

 まともに喋れるようになったアルフは、すぐにやれやれと言った具合に肩を落とす。

 

「たく、あんたのせいでまたフェイトに笑われちまったよ……」

 

 どうやら、主人に自分の痴態を晒した事があまり嬉しくないようだ。そんなアルフの肩に、銀時はポンと手を置く。

 

「そんなに落ち込むんじゃねーよワイフ」

「アルフだ」

「芸人なら笑われてナンボだろ?」

「あたしはいつ芸人になったんだい?」

 

 頬に血管を浮かべて銀時をジト目で見るアルフ。二人の会話を聞いたフェイトは慌てて「ち、ちがうの!」と両手を振る。

 

「わたしはホントに二人のことだけで笑ったんじゃないよ!」

「じゃー他に笑う要素でもあったのかよ?」

 

 訝し気に肩眉を上げる銀時に対して、フェイトは優し気な笑みを作る。

 

「この……〝食事〟が、私は楽しい」

「あん?」

 

 と銀時は眉を顰めた後、察したように顎を撫でる。

 

「あ~、なるほどな。まあ、銀さんの腕は料理の鉄人並みだからな。飯を楽しいと思うくらい美味いと感じるのも無理ねーな」

「味は普通なんだけど」

 

 銀時の「おい」と言う言葉をスルーしてフェイトは話を続ける。

 

「なんて言えばいいのかな? この〝過ごしている時間〟自体が楽しいって言うのかな?」

「あん?」

 

 遠回しな言い方に銀時は肩眉を上げ、金髪の少女はぽつりとぽつりと言葉を続ける。

 

「こうやって、お話をしながら食べたり、騒いだりするような、賑やかな食事はとっても久しぶり……だから、楽しくて……」

 

 最後の言葉を言う辺りでなにを思い出したのか、辛いことを我慢するかのようにスカートの裾を握りしめるフェイト。顔も俯き具合になり、先ほどの幸せそうな顔とは一変して表情に陰りが見え始める。

 フェイトの言葉や態度を見てアルフは何かを察したのか、両手をぶんぶん振って話題を逸らす。

 

「そ、それにしてもさ! 銀時って色々無茶苦茶だけど、あの鬼ババに比べたマシだよね!!」

「……う、うん。ごめん……」

 

 フェイトは余計にシュンと落ち込んでしまう。主の様子を見たアルフは、口をあんぐりと開けて「し、しまったー!!」といった顔。話題を変えて彼女を元気付けしようとしたらしいが、逆効果だったようだ。

 まぁ、あなたの母親はヤバイくらい非常識でアグレッシブです、なんて遠回しに言ったら落ち込みもするだろう。

 

 すかさずアルフは銀時に近づいて小声で話しかける。

 

「(ちょっ、ちょっと……!! あんたもフェイトを元気付けておくれよ……!!)」

「(ハァ? なんで俺が? オメーが勝手に地雷踏んで落ち込ませたんだろうが)」

 

 アルフは銀時の肩をガシっと掴み、彼の目をジッと見つめる。

 

「(お ね が い だ か ら)」

 

 アルフの必死な頼みに対して、銀時は「しかたねェなァ」と頭を掻きながら椅子にゆっくり座り込み、手の甲で顎を支えるといった考えるポーズを取る。そして、流し目をしながら語りだす。

 

「オメーの母ちゃんな。確かに最初はいきなり人に対して電撃を喰らわすは、あげくは物で人を釣るわ、マジで良い印象なんてなかったんだけどよ……」

 

 銀時の話を聞いてよりフェイトの落ち込み具合は深くなり、アルフは彼の話の出だしを聞いて「ちょっとなに言ってんだコイツ!?」と言いたげな表情になる。

 

「でもな、それだけじゃなかったんだぜ、オメーの母ちゃんは」

 

 心なしか優しい笑みと声を作る銀時の言葉を聞いて、フェイトはゆっくりと顔を上げた。

 銀時は、プレシアと交渉を終えた後の話を、フェイトに話し始める。

 

 *

 

 ――俺はあのば……オメーの母ちゃんとの話を終えた後、オメーの母ちゃんは俺の力を試したいとか言ってきてな。

 

 

「あなた、それなりに腕が立つとフェイトの報告で聞いたけど、それは本当?」

 

 プレシアの質問に銀時は、

 

「ん? まー、それなりの場数を木刀(こいつ)一本でいろいろと乗り切ってきたからな」

 

 腰のベルトに差した、柄に洞爺湖(とうやこ)と彫られた木刀をポンッと叩く。

 プレシアとのギブアンドテイクが成り立ったことで手錠を外してもらい、喧嘩の手段である木刀を返してもらった。

 顎に手を当てながらプレシアは銀時を観察する。

 

「宇宙人やその辺の不良程度なら軽く倒せるとか言ってたわね。戦い慣れしているなら案内役としてだけとは言わず、フェイトの戦闘の助手としても働いてもらえるかしら?」

「あァ。だが――」

 

 返事した銀時はキリッとした顔を作る。

 

「俺はレアだぜ」

「にわかに信じられないわね。宇宙人だとか、侍だとか。どちらも地球にはいないらしいのだけど」

「おーい。俺ボケてんのにそうやってシリアスモードで返されるとなんかこっちが恥ずかしくなってくんだけど?」

「まあ、そんな存在がいるかいないかなんて正直どうでもいいわ。用はあなたがどれだけ使えるかってことが重要。だから、私自身の目であなたの戦闘力を測らせてもらう」

「あん? なに、スカウターでも使うのか?」

「こっちに来なさい」

「少しは俺のボケに反応してくんね? 滑りまくる芸人みたいな気持ちになんだけど」

 

 いくら斜め右や左の言葉をふっかけてきても、会話や態度に一切の変化が見られないプレシアに対して、銀時はやれやれと肩をすくめる。

 とりあえず、彼女の言うことを聞かない理由もないので、言われたとおり前までやってくる銀時。

 

「んで、どうやって俺の戦闘力を測るんだ?」

 

 気だるげな目で話す銀時の言葉を無視して、プレシアは袖の下からあるモノを出した。それは、片目を覆うほどの四角いレンズがついた、片っぽだけがバイザーのようなモノ。パッと見は、

 

「――ってただのスカウターじゃねーかッ!!」

 

 スカウターそっくりの物品。それに銀時は思わず指をさしてツッコムと、プレシアは否定する。

 

「違うわ。これは私の作ったスキャンサーよ」

「すんげーパチモン臭がぷんぷんすんだけど!? つうかマジでスカウター出しやがったよコイツ!? そもそもそれで俺の戦闘力測れんのかよ!?」

「ええ。当初の設計では相手の筋力や魔力などを総合的に分析して大まかな戦闘力を測るものだったのけれど……」

 

 プレシアはスカウターもとい、スキャンサーを右目に装着してカチっとボタンを押し、銀時を測定し始める。スキャンサーから計測された数値を、プレシアが片目で読み上げていく。

 

「…………なるほど。……天パ力三万、恐れ入ったわ」

「は? なんだよ天パ力三万て?」

 

 怪訝そうな顔をする銀時にプレシアは答える。

 

「あなたの髪の毛の質を測ったのよ」

「髪の毛の質だァ!? なんで髪の毛の質を測ったんだよ! つうか戦闘力はどうしたんだよ!? 戦 闘 力!」

「実はこのスキャンサー、もともとは対象の戦闘力を測るものだったんだけど……なぜか相手の身体の特徴を測る物になってしまったのよ」

 

 スキャンサーを外しながら言うプレシアの言葉に、銀時は眉をピクピクと吊り上げる。

 

「じゃ、じゃー……さっきの天パ力三万て意味は?」

「髪の先から毛根まで捻くれているって意味よ。あなたの性格を現しているようね」

「ば、バカな!? 俺の髪はそこまで深刻な症状だったのか!!」

 

 ショックを受けた銀時は手と膝をついてうな垂れる。まさかそこまで自分の髪が捩れ曲がっていたとは思わなかった。ちょっと努力すればすぐにサラサラヘアーになるものとばっかり……と、銀時は時たま期待したいのだ。

 

「それじゃ、試験場に向かうわよ」

 

 スキャンサーを外して床にポイっと捨てたプレシアが言うと、彼女と銀時を囲む光の円が二人の足元を塗りつぶし、二人は徐々に光る床に沈んでいく。

 銀時がガバっと顔を上げる。

 

「つうかさっきのやりとりなんだったんだよ!? まったくの無駄じゃねーか!!」

「お近づきの印として、私なりにユーモアを効かせたつもりよ」

「いやお前ユーモアとか効かせるキャラじゃ――!!」

 

 銀時が言い終わる前に二人の体は光の床に完全に沈みこんだ。

 

 

 

 

 プレシア転移魔法により、二人はある部屋に瞬時に移動する。

 

「――ねーだろ!!」

 

 移動する直前で途切れた言葉を銀時が言い終わる頃には、二人の体は完全に地面から出ている状態になっている。

 

「……それじゃ、ここであなたの実力を試させてもらうわ」

 

 プレシアはある方向を指差す。

 

「あん?」

 

 銀時もつられて指した方向に顔を向ける。

 そこは警察の取調べ室の中を大きくしたような部屋。外から中の様子をうかがう窓以外は三方を壁で覆われ、中はそれなりに広い空間。

 嫌な予感を覚えた銀時は少し汗を流す。

 

「俺に……あそこでなにしろと?」

 

 初めて会った時の印象を考えて、ロクな事にならないのは銀時も薄々感ずいてきていた。

 冷や汗を流している銀時をプレシアは一瞥する。

 

「安心しなさい。ただの体力テストよ」

「あ、そうなの! 短距離走とかするあれね!」

 

 不安を拭えないながらも、プレシア同意しつつ進んで部屋に入ろうとはしない銀時。

 

「まーそんなものよ。だから、さっさと入りなさい?」

 

 そう言って杖を持つプレシアの手が動いたとこを見て、銀時は足早にドアを開けて室内に入っていく。なにかよからぬ事が起こるとしても、逆らって電撃食らわせられるよりは楽なことだと信じて。

 

「準備できたわね。それじゃ、始めるわよ」

 

 と言ってプレシアは軽く杖に力を入れる。

 

「おっしゃこいやァー! 短距離走だろうが長距離走だろうがベストタイム刻んでや――!!」

 

 ヤケクソ気味の銀時の前に、銅色の大きな鎧が出現。目の部分に当たる隙間から、赤い小さな光がキュピーンと輝く。

 人間と言うよりも人形のような生気を感じられない鎧が手に持っているのは、巨大な銅色の斧――それを大きく振りかぶる。

 

「…………え?」

 

 少しの間、銀時は自分よりも頭三つ分大きい西洋の鎧を見上げ、呆けた声を出す。これから鎧がしようとしている事を見て徐々に顔を青ざめさせている。

 なんの躊躇いもなく、銀時の頭上に斧が振り下ろされた。

 

「ぬォわァァァァァッ!!」

 

 銀時はとっさに避けた。彼が今さっき立って居た地面は無残にも砕け散っている。もし避けなかったら、彼の天然パーマごと頭が吹っ飛んでいただろう。

 ちぃ、逃がしたか! と言わんばかりの勢いで鎧の目がさらに赤く光り、銀髪の顔を追い、斧を振りかぶりながらまた銀時に襲いかかっていく。

 自分に向かってくる鎧を見た銀時も慌てて走って逃げ出す。

 

「おィィィっ!? これのどこが体力テストォ!? 巨人の星でもこんな命がけの走りこみしねーよ!!」

『あら、誰も走って体力を測るなんて言った覚えはないけど?』

 

 室内にプレシアの声が響く。どうやら、スピーカーのような物で自分の声を部屋の外からこちらに届けているのだろう。

 銀時は逃げながら必死な表情で文句を捲くし立てる。

 

「こんな命がけの体力テストなんて知らねー! 確かに、体力テストとかで体育の授業とかより気合入れていい成績残そうと死ぬ気で頑張っちゃう子いるけど、これマジで死ぬだろうが!!」

『安心なさい。もし細切れの挽肉になっても、虚数空間に生ゴミとして出してあげるから』

「セリフも顔も冷淡で安心できる要素が一部もねー!!」

『一つ言っておくけど、その傀儡(くぐつ)を倒しても平気よ。ただの動く人形。他人の命だとかを配慮する必要はないわ』

「俺の命の配慮は!?」

『ちなみに、それを倒さない限りそこから出られないと思いなさい』

「ハァー!?」

 

 銀時はまさかの無慈悲な条件に口をあんぐりと開けてしまう。

 どこまで鬼だというのか、あの女は。自分の血を全部鬼の血と交換してそうなほどの鬼畜っぷりである。

 

 退路を立たれた銀時は急ブレーキを掛け、床を滑りながら左足を軸に体を横に回転。そして既に抜刀していた腰のベルトの木刀。それを彼は槍を投擲(とうてき)するかのように鎧の胸に向かって一直線に、投げた。

 突然の銀時の反撃に反応できなかった鎧の胸には木刀が突き刺さる。

 木刀が突き刺さった事で動きを止めた鎧に向かって、銀時は駆け出し、途中で大きくジャンプする。空中でキレイに体を前転させ、鎧に刺さった木刀の柄に向けてキックを繰り出した。

 

「ホワタァ!!」

 

 銀時は木刀ごと鎧の体の中を潜り、背中を突き破る。

 木刀は壁に突き刺さり、銀時は柄を蹴って地面に着地する――と同時に鎧は後ろ向きに倒れた。そして壁に刺さった木刀を抜き去り、肩に掛けた銀時は、プレシアに顔を向ける。

 

「どうだこんにゃろ! これで俺の実力がわかっ――!」

『じゅあ次よ』

 

 とプレシアが冷たく言い放つ。

 すると今度は、両手が槍となり背中に羽の生えた空飛ぶ鎧が二体同時に出現。もちろん先ほどと同じ傀儡だろう。

 いきなり現れた二体は銀時に襲いかかる。だが、急な展開にもめげずに銀時は前転。傀儡が向けて来た二本の槍を避け、そのまま壁に向かってダッシュ。

 

「うォォォォォォっ!!」

 

 その時、銀時はある作戦を思いつく。壁を片足で蹴って天井まで飛び上がり、そのまま天井を蹴った勢いを利用して頭上を飛んでいる傀儡を倒そう、という案を。

 

「神よォォォッ! 我に翼をォォォッ!」

 

 だが、ズドンッ! と勢い余って銀時の足は壁にめり込んでしまった。

 

「いでででででッ!? 足嵌った!! 足つる!!」

 

 その隙を逃すほど傀儡たちも甘くはなく、無防備な銀時の背中に向けて二体の槍が彼を貫こうとする。

 だが――。

 ガキン! と傀儡たちの槍はクロスして空振るだけ。標的の銀時は、体をエビのように仰け反らし、槍を避けていた。そのまま自分の目の前にある二本の槍を掴み取り、

 

「うおりゃァッ!」

 

 体を上に起こす勢いを利用して二体の傀儡を壁に叩き付けた。続いて、壁に埋まってない足で壁を蹴り、嵌った足を壁から引っ張り出す。

 足を引っこ抜いた勢いで尻餅をついた銀時が立ち上がろうとした直後、なんの予告もなしに彼を囲むように、三体の大柄な鎧が、手に持った大剣で襲いかかる。

 銀時が立ち上がる前に三体の傀儡の大剣は振り下ろされ、ズドンッ! と重い音が部屋中に響く。

 様子を鏡越しに見ていたプレシアは少しため息をこぼす。

 

「……さすがに、期待し過ぎたかしら」

 

 と言った直後。

 

 何かを切り裂き、砕く音――。

 

 ハッとプレシアが中の様子を見れば、銀時に襲い掛かった傀儡たちが次々に砕け散り倒れていく。その中心には、肩膝を地面に付きながら木刀を振りかぶった状態の銀時が居た。彼の体には傷一つなく、特に怪我らしい怪我は見当たらなかった。

 

「ッ!?」

 

 それを見たプレシアは何を思ったのか、ニヤリと笑みを浮かべ、銀時に聞こえない声で「思った以上の掘り出し物だわ」と。

 周りから何も襲いかかってこないであろうことを確認した銀時は、まっすぐプレシアの覗いているガラスの前まで歩いていく。

 そして銀時はドンドンとガラスを叩きながらすぐさま不満を口にする。

 

「おい! これ以上俺の命を危険に晒すならストライキ起こすぞコラッ! この魔法熟女おば――!!」

 

 言い終わる前に部屋の扉が開き、すぐさま銀時の前に近づいたプレシアが彼の頭を鷲掴みにする。

 

「なにか言ったかしらぁ?」

「なんでもありません!」

 

 銀時は速攻で謝罪。血走った目、ミシミシ音を立てる頭。一瞬で命の危険を感じ取る。

 謝罪を聞いたプレシアはすぐさま銀時の頭を離す。

 

「まぁ、いいわ。それよりも、合格と言っておきましょう。私の思っていた以上よ、あなたは」

「つうか、戦っている最中ですんげー残酷な言葉をあんたからいくつも聞いたんだけど?」

「冗談よ。あなたのやる気を出させるための演技だから」

 

 銀時は「へェ~!」とワザとらしく声を出して捲し立てる。

 

「すげー演技っすね! 主演女優ものっすね! つーかだったらそろそろ演技止めてくれません! 顔がずっと真顔なんだけど!」

 

 銀時は皮肉込みで言葉を返すが、無論プレシアの表情は崩れない。

 笑顔なんぞ一切見せないプレシアは告げる。

 

「とりあえず、詳しい仕事の内容はおいおい話すわ。今はフェイトのところに言って、衣食住のことでも聞きなさい。私の仕事を手伝うために雇ったと言っておくわ」

「へいへい……もうどうにでもなれだコノヤロー……」

 

 *

 

「――と、散々人のこと引っ掻き回したあげく、今に至るわけ。ホント、お前の母ちゃんて無茶苦茶なんだな」

 

 両膝を机に付いて両手を顔の前で組みながら、銀時は真剣な表情で語る。

 彼の語りを聞き終えている頃には、フェイトは机に突っ伏していた。顔は伺えないが、彼女のぐぐもった涙声が聞こえてくる。

 

「ぅぅ……ごめんなさい。本当に母さんが……ごめんなさい……」

 

 話しをする前よりも夕食の空気がさらにどんよりと重くなってしまっていた。

 余計に落ち込んだフェイトの姿を見たアルフは、

 

「どんなフォローだぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 銀時を頭を鷲掴み、彼の顔面を机に叩き付けた。

 そしてアルフはすぐさまフェイトの方に指を突き付ける。

 

「ちょっ、これ!? さっきよりもっと空気が重くなってんだろうがっ!! どうすんだよこの空気!? フェイトさっきよりも落ち込んじまってるよ!! 気分なんか海底のどん底まで落ちてんじゃないのかいコレ!?」

「ハァ? なに言ってんのお前?」

 

 銀時は痛む鼻を抑えながら顔を上げ、アルフはまだ言い足りないようで声を上げる。

 

「いや、だってこれ――!」

「こんな空気なんざまだまだだって」

 

 銀時はアルフの言葉を遮って腕を組んで話す。そう、彼はもっと気まずい空気を知っている。

 

「身内にエロ本見つかった時の気まずさに比べればマシだ」

 

 銀時は、新八がエロ本読んでいるところをお妙に偶然見つかってしまう状況を思い浮かべる。

 

「いやそんな体験した事もない状況なんざ言われても納得できるわけないだろ!」 

 

 とアルフはツッコミ入れつつ拳を握りしめる。

 

「そもそもフェイトが落ち込んでんのは変わらないだろうが!! 下らない言い訳したってフェイトは元気にならないんだよ!!」

「たく、しょーがねーなー」

 

 銀時は渋々といった感じでフェイトに傍に移動する。

 

「ど、どうするんだい?」

 

 アルフの質問に銀時に真剣な表情で返す。

 

「いいか? こういう重い空気ってのは、ちょっと面白いギャグの一つでも飛ばせば和むもんだ。きっかけなんてのは些細なものでイイ。ブッと噴出すとまでは言わねー、クスっと笑う程度でイイんだよ」

 

 フェイトの長い金髪のツインテールは彼女が突っ伏しているので、今は机の上にまるで開きかけの扇のように無造作に乗っており、そのツインテールを銀時は弄り始めた。

 アルフは、一体銀時が何をしようてしているのか分からず、息を呑んで見守る。

 銀時は一通りの作業を終えると、アルフに顔を向ける。

 

「ほれ、クワガタ」

 

 ツインテールをクワガタのハサミのように形作り、フェイトの頭をまるでクワガタのように見せたギャグ。その和やかな姿に、アルフはついクスっと笑ってしまう。

 

「――って、あたしを笑わせてどうするぅぅぅ!!」

 

 アルフは再び怒り、銀時の顔面を机に叩き付けた。そして銀髪の胸倉を鷲掴み、食ってかかる。

 

「もうちょっとマシなことできないのかいあんたはぁ!!」

 

 銀時は両手を出しながら平坦な声で弁明する。

 

「わかったわかった。じゃー、俺の2000ある特技の一つ、お菓子作りでなんとかしてやるよ。とりあえずガキはお菓子食べさせとけば機嫌よくなるだろ」

「フェイトをそんじょそこらのガキと一緒にするんじゃないよ!!」

 

 二時間後――。

 

「おいひぃ♪」

 

 銀時特製のケーキを頬張って喜ぶフェイトの姿があった。それを見てアルフは一言。

 

「子供って意外と単純なんだね」

「そうだね」

 

 と銀時は相槌を打つ。

 アルフと銀時は、フェイト同様にケーキを口に頬張りながら、もっさもっさ食べるのであった。




展開は作者個人としても遅いんじゃないかと思ったりしています。
結構じっくり話を広げて進めていきたいので。


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第五話:妄想は変な方向に進むことがある

一週間以上の間が空いてしまいました。
とりあえず、今回リリカルなのはのメンバーではなく、銀魂メンバーが中心の話となります。


「しっかし、あいつが姿消してから一週間経つけど、一体どこで油売ってんだか」

 

 顔に皺を作った老婆は、ため息を吐くようにタバコの煙をふぅーと吹く。

 万事屋の一階で、スナックお登勢という店を営むこの老婆はお登勢(とせ)。銀時、神楽、新八の三人が働く万事屋の事務所は彼女の店の二階を提供しているので、お登勢は三人の大家みたいな存在でもある。

 

「まったくアル」

 

 神楽は足を組んで店のソファーにふんぞり返る。

 

「どこぞで女でも作ってその女の両親と揉めて帰るに帰れない状況でも作ってるに違いないネ」

 

 鼻を穿りながら毒舌を吐く少女。彼女と同じソファーに座る新八がたしなめながら言う。

 

「女の人とかはともかく、ホントに銀さんどこにいるんでしょう……。もう五日も経つのに、連絡の一つもないなんて」

 

 お登勢がため息をつく。

 

「あの甲斐性ナシが、ふらっと姿消して一日か二日帰らなくなることなんてよくある事だけど、さすがになんの連絡もなく一週間も姿を消すってのは変だねェ」

 

 お登勢の言う通り、銀時が飲んだくれての朝帰りや、二日くらい家を開けてひょっこり帰ってくる事はよくあった。だが、一週間となるとさすがに神楽も新八も心配という気持ちが生まれる。しかも連絡一つないとなると、その不安は余計に募ってしまう。

 銀時が、神楽や新八の知らないところで事件に巻き込まれていた、なんてことになってもおかしくない。さすがに心配になった二人は銀時を探したのだが、一向に手がかりはなし。ただ気になったことと言えば、手がかりを聞きに行った時の源外の様子が少々おかしかったくらいだ。

 銀時の消息が一向に掴めない苛立ちからか、神楽はまたしても愚痴をこぼす。

 

「たく、天パは家に帰ってこない。メガネはアニメオタクになる。万事屋崩壊の危機アル。私がしっかりせねば!」

 

 神楽の言葉を聞いた新八は分かりやすいくらい狼狽えだす。

 

「テ、テメー! だ、だだだだだからあれは違うって言ってんだろ! あれは軍曹の心をグラつかせたアニメの調査であって、別に嵌ったワケなんかじゃねェーし!」

 

 前に新八は軍曹から奪った……もとい没収した『リリカルなのはのDVD』シリーズ一式。早く内容を確認したかったが、家のテレビが故障中(妙がストーカーを撃退するためにテレビで殴ったため)。我慢もできず、仕方なく万事屋のテレビを使う事に。

 だが、その行為は今思い返しても浅はかだったとしか言いようがない。出かけていた神楽が想像以上に早く帰ってきてしまう。そんで、アニメを見ていたところをガッツリ見られてしまうのだから。

 挙げ句の果てが、軍曹から奪ったDVDの内容はタイトルからも察せられる通り、女の子ばっか出てくる。その上、変身シーンが裸や下着姿のシーンを盛り込んだ、パッと見は純然たる萌アニメの部類に入るようなモノ。

 なので見ていた新八は無茶苦茶きまずい思いをした上、神楽に「お前、キモ!」と露骨に軽蔑、というか嫌悪されてしまい、今日までに至る。

 

 あの日から侮辱されっぱなしで癪な新八は神楽に反論しだす。

 

「つうかテメーだって思いっきり見てたじゃねーか! 戦闘シーン見た時なんか、『スゲェェェェェ!!』とか言って夢中だったろうが!!」

 

 すると神楽が青筋浮かべる。

 

「あァン? 変身シーンやら風呂のシーンで鼻の下伸ばしてたのはどこのどいつアルか!」

 

 新八は狼狽えながらも反論を返す。

 

「け、健全な男なら女の裸見て興奮しちゃうもんなの! つうか問題なのはああいうシーンを盛り込んだアニメスタッフの方だコラッ! ああ言うシーン見ちゃったのは不可抗力であって僕に罪はない!」

「とかなんとか言ってー、東方とかいうゲームにも嵌っちゃってんの私知ってるんだからナ。しかも、『原作の絵より絵師さんの書いた絵の方が好き』とか完全にオメェは萌え狙いのオタクじゃねーか!!」

「ばっ!」

 

 新八は図星つかれて焦り冷や汗をダラダラ流す。

 

「な、なんのことだコラーッ! 僕はそんなこと知らないぞ!」

「オメェが部屋でコソコソパソコンの前で女の絵を見てニヤニヤしてたの知ってんだよこっちは!」

「ちがァーう!! あれは軍曹が他にも東方とかくだらねーもんに嵌ってたから、それが一体どんなものであるか調査するためであって、決して私的な目的じゃねーんだよ!! つうか人の部屋を勝手に覗くなァァァっ!!」

「なんにせよ、女の私と違ってその歳でプリキュアみたいに女ばっか出てるアニメ見てるお前が気持ち悪いことは変わらないんだヨ!!」

「てめェェェェェ!! 全国の大きなお友達に謝れコラーッ!!」

 

 銀時にまったく関係ないことで、口論しながらメンチ切り合う万事屋の二人。目から火花が出そうなほど睨み合っている。

 そんな二人の喧嘩を見ていたお登勢はため息をつく。

 

「まったく、なにやってんだか……」

「ソウデスネオ登勢サン」

 

 お登勢の横から聞き取りづらい、まるで酷い外国人訛りの入ったような声が聞こえた。

 声に反応したお登勢は顔を横に向け、声の主は喋り続ける。

 

「モウコンナヤツラニ万事屋ヲ任セテハオケマセン。萌エ! セクシー! カッコイイ! 全テ備エタコノ――」

 

 遅れて新八と神楽も喧嘩を止めて反応し、声のした方に顔を向ける。

 

「――『アルティメットシイングキャサリ』ガ勤メマス!!」

 

 タマキュア姿で舌を出しながらポーズを取るのは、スナックお登勢の従業員の一人であり天人(あまんと)――キャサリン。彼女は天人(あまんと)としての特徴で、頭に猫耳が生えている。

 その猫耳女は、原作銀魂のテコ入れ回で披露した『タマキュア』の格好をしていた。ようはニチアサ女児アニメの初代ヒロイン――その白い方のコスプレをしているのだ。

 

「万事屋ノ新リーダーハコノワタシデ決マリデスネ」

 

 キャサリンはドヤ顔で言い放ち、その物言いに黙ってられない新八と神楽が怒鳴る。

 

「テメーはなに気持ち悪いコスプレ姿でジョジョ立ちしながら決めポーズ取ってんだ!!」

「オメェにくれてやるリーダーはないアル!!」

「つうかあんたのどこに萌えとセクシーとカッコイイがあんだよ!! 萌えバカにすんな!!」

 

 指を突き付ける新八の言葉に、キャサリンは得意顔で返す。

 

「ナニヲ言ッテイルンデスカ? 猫耳ハ萌エノ代表格ジャアリマセンカ。ソレヲ備エテイルワタシヲ萌エノト言ワズナント言エト?」

「あんたは顔面で全て台無しなんだよ!!」

 

 新八の言うとおりキャサリンには猫耳こそ頭に付いていれど、顔は堀が深いおばさん顔なのでどうやっても萌えとは結び付かない。一言その容姿を表すなら、団地妻に猫耳くっ付けたような存在なのだ。まさに燃えない萌えを地で行っている。

 だがキャサリンは指を横に振って、余裕の表情で反論。

 

「ノンノン!! キュアハートトナッタ今ノワタシ二隙ハアリマセン。ワタシヲ主人公二スレバハ子供ダケニ止マラズ、大キナオ友達モハートキャッチ出来ルコト間違イアリマセン」

 

 神楽が食ってかかる。

 

「オメーみてェなセリフ読み難いキモイヤツ主人公にしたら全年齢から銀魂見捨てられるんだヨ! せめて仮面ライダーアマゾンくらいの分かり易さを手に入れてから出直してこい!」

「バカカオメェハ! アマゾンハ平成ニナッテカタコトキャラ二シフトチェンジシタダロウガ! ツウカムシロアノ喋ラナイキャラノドコガ分カリ易イッテ言ウンダ、アアン?」

「ともかくキモイからその格好はホントかんべんしてください!!」

 

 土下座するくらいの勢いで、新八はキャサリンのコスプレを止めるように懇願する。もしこんな奴を朝のテレビで映した日には、子供にトラウマ植え付けてもおかしくないレベルだ。

 

「安心シテクダサイ。アフゥン」

 

 キャサリンは喋りながらセクシーポーズを取り続ける。一々ポーズを変えるおまけつきで。

 

「ワタシノ魅力デ全年齢ノ男子共ノ股間モ、ハートキャッチシテミ――」

「ハァ~……タマ、なんとかしておくれ」

 

 さすがに話が進展しないことを見かねたお登勢が、スナックのもう一人の従業員に指示を飛ばす。

 

「了解しましたお登勢様」

 

 メイドと和服を合わせた格好をした機械(カラクリ)家政婦であるタマは、返事をする。

 額にほくろのようなボタンがあり、長い緑色の髪を後ろで三つ編みに結んだ、人の形を(かたど)った機械(からくり)であるタマは、命令を実行。お登勢の言葉を体現するかのように、家政婦は特性のモップの先端から火をキャサリンに向かって、噴射。

 

「ニ"ャァァァァァッ!?」

 

 もろに炎を受けたキャサリン悲鳴を上げ、白いドレスのような服は丸焦げ、髪はアフロになってしまう。

 焼かれ、受けた炎をそのまま怒りの炎に変えたキャサリンはタマに食ってかかる。

 

「ナニスンダコノポンコツッ! 折角ノワタシノキメポーズガ台無シダロウガ! ヒーローヒロインノキメポーズヲ邪魔スルナト言ウ鉄則ヲ知ラナイノカ!? ブッ――!!」

 

 息の続く限り文句言いそうな勢いのキャサリの口をタマはモップで塞ぐ。そのままモップでぐりぐりとキャサリの顔を拭いてこする。それこそ、頑固汚れを落とすような勢いで。

 その様子に新八と神楽は呆れの混じった目線を向けるだけ。

 

 スタッフの暴走に呆れたであろうお登勢はため息を吐く。

 

「まったく……キャサリの奴なんで、〝あたしを抜き〟にしてタマキュアしちまうんだ。タマキュアはあたしとキャサリンのツートップだってのに」

「いや、そっちィ!?」

 

 新八はお登勢の見当違いの反応にツッコム。キャサリの行動ではなく、キャサリンがタマキュアに誘わなかったことに対してため息を漏らしたらしい。

 そしてお登勢はやれやれと首を横に振る。

 

「まったく、一人で人気が取れるほどヒロイン業界は甘くないっていうのに……」

「いや、なんでそんなにノリ気なんですかあんた!? ホントかんべんしてください!」

 

 顔を青ざめさせる新八に神楽も続く。

 

「お前らがツートップの戦うヒロインなんてやった暁には銀魂の株は大暴落間違いなしアル!」

 

 だが一方、萌えない猫耳は感銘受けている。

 

「ソウダッタンデスカオ登勢サン!? ワタシ間違ッテマシタ! ヤハリタマキュアハワタシタチ二人デヤルベキデシタ!」

「そうだよキャサリン。間違いに気付いた今こそ、視聴者に見せてやろうじゃないか。銀魂の新路線を!」

「「いや間違ってんのはオメェらの頭だッ!! つうか話聞けェェェ!!」」

 

 新八と神楽はシャウト。さすがにあの酷い意味で強烈な、白と黒の衝撃は心底見たくないのだ。そもそもあんなものを許した日には、大きなお友達の怒りがマックスハートである。

 だが二人の言葉を無視して、いつの間にかコスプレしたお登勢と、いつまにかまた新しい衣装でコスプレしているキャサリン。

 

「私たち――!」

「二人合ワセテ――!」

 

 二人がともにポーズを取り始める。

 

「「スマイルタマキュア!!」」

 

 新コスチュームになった萌えないダブル年増がポーズした直後、横から炎が二人を襲い、タマキュアを黒こげにした。

 すると、黒焦げになったまま硬直している二人の横にタマが現れ、頭を下げる。

 

「お見苦しいところを見せてしまってすみません」

 

 その後、新八は疲れたようにソファーに座る。

 

「……結局、無駄なことをグダグダやっただけで、進展なしか……」

 

 新八はあまりの不甲斐なさに頭が下がり、落ち込む。今に至るまで銀時の手がかりなしなのだから余計に。

 すると神楽が、

 

「……仕方ないアル。銀ちゃん亡き今、私がグラさんになる他ねーな」

 

 銀時の格好をしながらテーブルに足を乗せてふんぞり返る。

 

「神楽ちゃん、笑えないから……。後、銀さん死んでないから……」

 

 新八は力ないツッコミしかできなかった。

 するとお登勢が思い出したように告げる。

 

「そう言えば……新八、神楽。源外のやつが伝えたいことがあるからちょっと来いって、さっき電話があったよ」

 

 タバコを持ちながら言うお登勢の言葉を聞いて、新八は首を傾げる。

 

「え……? 源外さんが? こんな時になんだろう?」

「おいおいあの老いぼれがかァ?」

 

 とグラさんが文句を垂れる。

 

「まったく、こんな時にめんどくさいやつだなーオイ」

「神楽ちゃん、とりあえず銀さんの真似するのやめて」

 

 新八はまだ銀時の真似を続ける神楽を(たしな)める。そしてお登勢は顎をくいっと使って促す。

 

「とりあえず、行くだけ行ってきな。あのバカについての手がかりも今のところないんだ。それに、もしかしたらあのちゃらんぽらんについてなにか掴めるかもしれないよ」

「お登勢さん……」

 

 新八はなんとも言えない顔で一言。

 

「とりあえずそのコスプレ止めてください」

 

 まだ歳不相応の格好をする老婆であった。

 

 

 

 一方。

 江戸の治安を守る使命を日夜果たす武装警察組織――真選組(しんせんぐみ)。その本部である屯所。

 真選組でも、歌舞伎町で少し名の知れた万事屋の主、銀時がいなくなったという情報は行き渡っていた。

 

「近藤さん、なんでも旦那が蒸発したらしいぜ」

 

 とコタツに入ってだらしなく体を横にして寝転んでいるのは、黒い軍服のような真選組の制服を着こんだ、栗色髪の少年。彼は真選組一番隊隊長――沖田総悟(おきたそうご)

 厳格さを表す制服のまま、沖田はだらしなく棒が刺さったアイスのゴリゴリくんをガリガリ食べる。そして食べカスをボロボロこぼす。

 

「ああ、俺もその話は聞いた」

 

 沖田に対面する形でコタツに入り、新聞を読みつつ返事をするのは、武装警察組織(ぶそうけいさつそしき)真選組局長(しんせんぐみきょくちょう)である近藤勲(こんどういさお)。もちろんこの男も制服姿のまま。

 制服姿なのに雰囲気はアットホームな二人は、会話を続ける。

 

「新八くんが家でお妙さんに万事屋のことを訊いていたのをしっかり俺も天井裏で耳にした」

「近藤さん、平然と人の家に不法侵入した証拠を言わんでくだせェ」

 

 沖田の言葉をにまったく耳を貸さず、近藤は腕を組んでやれやれといった表情。

 

「まったく……万事屋も罪な奴だ。新八くんだけじゃなく、お妙さんまで心配させるとは」

 

 沖田は「おや?」と怪訝そうに肩眉を上げる。

 

「あの眼鏡の姉がですかィ? 旦那が数日いなくなっただけで動揺するタマとは思えませんけどねェ」

 

 新八の姉である妙は、肉体的にも精神的にも色んな意味でたくましいので、銀時が数日姿を見せないだけで凹むような人物とは思えない。だが、近藤は違うと言わんばかりに首を横に振る。

 

「いや、いくら芯がしっかりしているお妙さんであっても、本質は女性。か弱いところがあってもおかしくはない」

 

 うんうんと頷く局長に対し、

 

「へェ~……。俺ァ、あの女はゴリラよりもたくましいと思ってましたんだけどねェ」

 

 沖田は興味なさそうに相槌を打つ。

 近藤は思い出すかのように顔をあさっての方向に向ける。

 

「昨日だって……俺が彼女を見守っている中、悪寒を感じたように体を震わせていた。万事屋の危機を感じ取ったのかもしれん」

「へェ~、姉御が近藤さんにビビるなんて珍しいですね」

 

 直球的な沖田の皮肉を近藤はスルーし、握り拳作って声を荒げる。

 

「お妙さんに心配されるとはなんと羨ましいィ!! あァ……今すぐにでも彼女の悩みの種を解決してあげたい!!」

「たぶん、近藤さんが自殺すればその悩みの種の九割は解決すると思いますぜ」

 

 上司に向かって沖田は結構辛辣な言葉を送る。なにせ近藤の発言から、昨日も天井の隙間からお妙の様子を伺っていたのは容易にわかる。絶賛ストーカー行為を続けている上司に対する部下の態度は、冷ややかなモノ。

 すると近藤は今さっき読んでいた新聞の、ある一覧に注目しだす。

 

「こ、これは!? なになに……『恒道館道場に住む志村家長女、志村妙さんは日頃からストーカー被害にあっているとのこと。取材を行った時の彼女の意気消沈、疲労困憊したかのような佇まいから見ても彼女が悪質なストーカー行為に辟易していると見て間違いないだろう』な、なにィィィィッ!? なんてことだ!! まさかこんな時にお妙さんの悩みの種が増えていたとは! これは由々しき事態だ! この俺自らそのストーカーを成敗してくれる!! お妙さんをストーキングしていいのはこの近藤勲だけだ!!」

 

 沖田は自分の上司の哀れな姿を眺めながら、

 

「土方さん」

 

 とコタツの近くでタバコをくわえながら腕を組んで立つ人物に声をかける。刀を入れた鞘を腰に差し、黒い制服を着込んだ黒髪の男は、

 

「なんだ?」

 

 と短く返事をする。

 少し釣り目気味の鋭い目をした彼こそ、真選組副長であり『鬼の副長』の異名を持つ男――土方十四郎。

 沖田は近藤を指さす。

 

「ああいう悪い事してるって自覚がない人がいるから、犯罪者が一向に減らないんですかねェ? 学校のイジメみたいに」

「…………」

 

 タバコを咥える土方は、近藤が刀を振り回しながら「ストーカーなど俺が刀の錆にしてくれる!」「お妙さん待っていてください! この近藤勲が白馬の王子となって必ずやあなたをお助けします!」などと物騒やら見当違いなセリフを吐きまくる上司の姿を見て、ため息と一緒にタバコの煙を吐く。

 

「……いつもの事だろ。そんなことより……」

 

 土方はチラリと沖田を見る。

 

「なんでコタツまだ出してんだよ?」

 

 クールな土方の疑問。それは、もう夏近いというのにまだコタツ出していること。冬の扇風機くらいの場違いである。

 沖田はジト目で返す。

 

「土方さん、ぶっちゃけて言うなら、コタツよりも近藤さんの奇行の方がツッコムべき点だと思うんですがねェ」

 

 沖田の意見も結構至極まともなのだが、土方は近藤のストーカー行為ではなくコタツの存在にツッコム。

 

「あの眼鏡の姉貴に対する近藤さんのストーカー云々なんて些細な問題だろ。ツッコム気にもならん。俺的は季節外れのコタツの方が気になんだよ」

 

 ちなみに今まで名前が出てきたお妙さんという女性は、志村妙。簡単に説明すると、志村新八の姉である。そしてその姉に警察組織真選組の長たる近藤が、普段ストーキングしているのである。問題(ツッコミどころ)だらけである。

 もう副長としては上司のストーカー行為を些細な問題と言う辺り、半ば慣れているのか、諦めているのか。

 

「まー、そこまで訊くなら答えますが……」

 

 沖田は力の抜けた顔からキリっとした顔となり。

 

「片付けんのメンドーだから」

「タメを作った割りに理由ショボ過ぎんだろ」

 

 と土方は即ツッコミ、すぐクールに指示を飛ばす。

 

「とにかく邪魔くせェから片付けろ」

「え~……ヤダ、めんどくさい」

「駄々こねんな。玩具散らかした子供かお前は」

「今梅雨の時期なんですし、雨降って寒くなる時ありますぜ」

「梅雨は大体湿度高くて蒸し暑くのが相場だろうが。とにかく、そんなもん見てるだけで暑苦しいから片付けろ」

 

 などと親子みたいな会話をしている途中で縁側の襖が開く。

 

 そして開いた襖から現れたのはなんと、先祖代々将軍家の剣術指南役として幕府に仕えてきた武術の名家たる名門柳生家次期当主――柳生九兵衛(やぎゅうきゅうべえ)。彼女は普段から男装をしており、顔も忠誠的で間違えられやすいが、歴とした女性でもあり、お妙の幼馴染でもある。

 

 部屋の中に入ってきた九兵衛は「失礼するぞ」と言った後、ゆっくりと周りを見渡す。

 

 なんの前置きもなく登場した、左目に眼帯を付けた黒髪のポニーテールの少女に、部屋に居た人物たちはなんの言葉も発さずに、事の成り行きを呆然と見つめている。

 様子から誰かを探していたのであろう九兵衛が、近藤の存在に気付き、ゆっくりと彼に近づき、シャキンと刀を鞘から静かに抜刀。刀の切っ先を近藤の眉間に向け、血走った片目がギロリと彼を射抜く。

 

「近藤、ゆ゛る゛さ゛ん゛」

「いや、なにが!?」

 

 と思わずツッコンだのは土方。彼女の前触れのない突然の登場から行動までの一切の理由が、彼にはまるで分からなかった。

 

「おいおい、柳生のお嬢ちゃまがなんだってうちの大将を親の仇みたいに見てんでィ?」

 

 沖田は一切動揺を見せないが、土方は九兵衛の登場に面食らったまま。

 

「つうか、なんで何食わぬ顔で入ってきてんだよ!? ここは柳生家じゃなくて真選組屯所だろうが!!」

 

 お互い知らぬ仲でもないが、互いの家を行き交うほど仲が良いワケでもない。ましてや警察である真選組と名家である柳生家に、交流らしい交流があるわけでもなし。だから彼女が突然こんなところにやってくるなどほとんどない。何かしらの事件やら、主にお妙絡みなどで九兵衛が近藤と行動をともにしたことがあるなど、それくらいだ。

 

「とぼけても無駄だ!」

 

 と九兵衛は土方の言葉を無視して、近藤に怒鳴り声を当てる。

 

「今朝の新聞は貴様のことであろう! 妙ちゃんを付け狙う悪質なストーカーなど貴様以外に誰がいる!」

 

 どうやら九兵衛も今朝の新聞記事の一部を見てここにすっ飛んできたらしい。彼女も幼馴染である妙を大切に思っている、それこそ百合ネタにされるくらい――というよりも実際恋愛感情抱くくらい好いていたので、こと妙のことになるとなりふり構わない時がある。

 

 九兵衛は近藤が妙にストーカー行為を繰り返してたことも知っている。

 だから、ストーカー=近藤、と判断したのであろう。しかもほとんど間違っていないだろうからなお性質が悪い。

 

「待て九兵衛殿」

 

 だが近藤は冷静な顔で、片手を出して待ったをかける。

 

「その新聞の輩は俺ではない。それだけ間違いない」

 

 土方は「あんたが唯一無二の真実なんだけどな」と言いたいが、近藤が斬られるかもしれないので黙っている。

 九兵衛は近藤の言葉でより怒りの表情を作る。

 

「なにをとぼけたことを!! 貴様の普段の行いが真実を物語っているではないか!! 今までの言動はまさしくストーカーそのものだ!!」

 

 事実、九兵衛の言うことに間違いがないのでどう転んでも言い逃れできないだろう。近藤の過去の経歴を調べれば、逆転裁判も逆転できないレベルのストーカーなのだから。だが、近藤は動揺を見せず腕を組み、語る。

 

「確かに俺はストーカーだ! それは百歩譲って認めてもいい! だが――!」

 

 近藤は目をカッと開く。

 

「俺は『善のストーカー』だ!!」

「……なに言ってんのこの人?」

 

 土方は冷めた目で近藤(ストーカー)を見る。

 

「な、なんだその善のストーカーとは? ストーカーに善も悪もないだろ!」

 

 近藤の斜め上からの返しに九兵衛は狼狽する。彼女の言い分がもっともで、土方も「どこも君は間違ってないんだけどね」とさり気なく言う。

 近藤は腕を組んで解説する。

 

「善のストーカーとは、付け狙う相手をそれこそ割れ物のように扱い、まるで守護霊のように守る存在だ!」

「守護霊? 背後霊の間違いじゃなくて?」

 

 土方の言葉を無視して、近藤は「だがしかし!」と新聞の記事に書かれた『ストーカー』という文字を勢いよくビシっと指す。

 

「ここに記載されるストーカーは悪のストーカーと呼ばれる者!! 彼奴(きゃつ)らは相手が嫌がるにもかかわらず、陰湿に、気持ち悪く、執拗に付け狙う! その姿はまさに不気味の一言! 守護霊の神秘的雰囲気には遠く及ばない!!」

「どっちにしろ、霊もストーカーも雰囲気が不気味なのは変わらねーだろ」

 

 と土方がツッコミ、沖田が「そもそも付け狙うって本質が変わってないよなァ」と付け足す。二人が口々にツッコムが近藤も九兵衛も彼らの言葉など耳には入っていなかった。

 近藤は九兵衛の肩を掴んで力説する。

 

「九兵衛殿! お妙さんを守る守護者(ガーディアン)たる俺を信じてはくれいまいか!!」

 

 土方は半眼になる。

 

「ついにストーカーから守護者(ガーディアン)にランクアップしちまったよ……」

「すげーや。アストラルもビックリのランクアップでさァ」

 

 沖田は近藤の図々しい態度に関心(?)している。

 一方の九兵衛は、

 

「だ、だが……お、お前はストーカーで……た、妙ちゃんを付け狙って……」

 

 一体どこに心を揺り動かされたのか、汗を流しながらうろたえている。焦点もうまく定まらず、刀はガタガタと震えていたのだ。

 土方はまさかの光景にビックリ。

 

「いや、なんで後一歩まで丸め込まれそうな感じになってんの!? ぶっちゃけさっきの説明は勢いだけの暴論以外の何者でもないだろうが!!」

 

 そして近藤はトドメとばかりに力強く告げる。

 

「九兵衛殿。全てはこの悪のストーカーってヤツのせいなんだ!」

「なんだって!? それは本当なのか!?」

「なにより――」

 

 近藤は目を瞑って一旦言葉を区切り、

 

「なにより?」

 

 問い返す九兵衛に近藤はカッと目を見開き言い放つ。

 

「――俺はとっくにストーカーとして訴えられていてもおかしくないからだ!!」

「た、たしかに!」

 

 九兵衛にとっては、たぶん今の一言だけは説得力があるようで疑いもせず即納得。

 

「訴えなかったのは、都合の良い奴隷的な立ち位置だからだと思うけどな」

 

 と土方はばっさり現実を口にする。近藤の恋心を利用して妙がゴリラ似上司に無理難題を要求してきた事は記憶に新しい。

 近藤は歯を見せてニカっとサムズアップ。

 

「だから俺を信じてくれ!」

 

 近藤の熱い(?)説得を受けて九兵衛は頭を下げ、うな垂れる。

 

「ぅぅ……ぼ、僕だって分かっているんだ……。妙ちゃんの言っているストーカーが、今回は君でないことは……」

 

 そしてなんとありえないことに、あのクールで涙など柳生編以外で一切見せたことないであろう九兵衛が、涙を流しながらえぐえぐと嗚咽を漏らし始めている。

 

「どうしちゃったの九兵衛くん!?」

 

 まさかの光景に土方は思わずビックリ。

 

「本編でも一度しか見せたことのない涙思いっきり見せちゃったんだけど!? だらしなく鼻水垂らしてんだけど!? つうか近藤さん以外にあのゴリラ女にストーキングするヤツがいるのか!?」

 

 まさかの九兵衛のキャラ崩壊、本当に近藤がストーカーではないかもしれない、という情報に土方は驚きを隠せない。

 

「でも……妙ちゃんが……妙ちゃんが……! うわァァァァァァァァァッ!!」

 

 九兵衛はぶつぶつ妙の名を呟いた後、錯乱でもしたのか頭を抱えて叫ぶ。

 

「ど、どうしたんだ九兵衛殿!?」

 

 近藤もさすがに九兵衛の突然の豹変にうろたえる。

 周りの反応に構わず、九兵衛は床を両腕でがんがん叩きながら感情を爆発させた。

 

「僕だって! 僕だって!! 君のような悪質で、陰湿で、汚くて、汚物で、ゴミクズで、ちびクソ丸のちびクソに劣るような存在のゴリラが今回もストーカーだろうと思ったさ! ……でも……でも!」

「ちょッ、そこまで言うの!?」

 

 とゴリラは涙目につつ困惑。

 

「っていうかホントにお妙さんに何があったの!?」

「黙れチンカスから生まれたゴリラ!! 類人猿である君に僕の気持ちは分からない!!」

「おい、もっと俺たちにも分かるように言え。さっきから近藤さんの悪口しか言ってねェから」

 

 土方が説明を求めた直後、

 

「それは私からご説明しましょう」

 

 床の畳を外して、長髪で糸目の男が出現。彼の名は東城歩(とうじょうあゆむ)。柳生四天王筆頭であり九兵衛の従者でもある。

 無論、突如として登場した東城を土方がスルーするはずがない。

 

「おめーは何さも当たり前のように人ん家の床から出てきてんだよ!? いつから居たてめー!」

「んで? その百合もどきになにがあったんでィ」

 

 土方のツッコミをよそに沖田は東城に説明を促す。東城は「はい」と頷いて説明を始める。

 

「若はお妙殿が今朝の新聞でストーカー被害に遭われたと知って、すぐさま彼女を心配して道場の方まで赴いたのですが……あ、ちなみに*から回想に入るので」

「お前は小説をなんだと思ってんだァーッ!」

 

 と土方がツッコム中、回想は始まる――。

 

 

 時間は朝にまで遡る。

 志村低の庭では……。

 

「妙ちゃんまたゴリラ男にストーカーされたのか!?」

 

 と必死な形相でお妙に問い詰めるのは九兵衛。

 

 近藤がストーカーし、妙が鉄拳制裁の返り討ちにするのはいつもの事だ。普通なら心労がたたるようなことでも、強い彼女はゴリラの悪質なストーキングにも屁でもないといった顔を見せる。

 だが、今の彼女にはいつもの元気がほとんど感じられなかった。普段なら、ニコニコと笑顔を絶やさないはずの妙の表情には影が曇り、逆に無理に笑顔を作ろうと必死になっていることが、簡単に分かってしまうほどに。

 

 お妙は視線を逸らしながら答える。

 

「……確かに、近藤さんには今日もストーカーされけど……今朝の新聞の事はそういうことじゃないの」

「じゃ、じゃあ一体なんなんだ!?」

 

 妙の肩を掴み、九兵衛は必死に問い詰める。

 

「一体妙ちゃんはなに対してそんなに苦しんでいるんだ!!」

 

 別に九兵衛は妙を責めているつもりでも、尋問しているつもりでもない。ただ、彼女の力になりたい。彼女が悩んでいるなら、それを解決してあげたいという思いが先走って、このような行動に九兵衛を走らせてしまっている。

 お妙は目を潤ませる。

 

「九ちゃん……」

 

 九兵衛は妙の肩を掴んだまま、俯いてしまう。

 

「見れば分かるよ……妙ちゃんが苦しそうなことくらい……」

 

 何故、自分に悩みを打ち解けてくれないのか? 自分では力不足なのか? いろんな不満や悔しさが、九兵衛の中で混じり合う。

 すると、

 

「妙~!! ご飯まだ~!!」

 

 突然道場の方で『聞き覚えのある男の声』が聞こえた。

 

「ッ!?」

 

 驚愕する九兵衛に対して妙は、

 

「えっ? ……あっ、ま、待って! 今行くから!」

 

 少々戸惑った後、すぐに返事を大きな声で返す。

 突然聞こえた聞き覚えのある男の声に、九兵衛はありえないとばかりに目を見開く。

 

「た……妙ちゃん。今の声って……」

 

 九兵衛にとっては、とても現実とは思えない事実に茫然自失となってしまう。対し、妙は頼りなくも優しい笑みを見せる。

 

「……九ちゃん。私は本当に大丈夫だから。だけど、今は何も言えないの……」

 

 自分の肩を掴んでいる九兵衛の手をどけるために、腕を軽く握って優しく横に降ろす妙。先ほどと違い、今の九兵衛の手にはほとんど力が入っていないので、簡単に外すことができた。

 

「だから……」

 

 と言って妙は踵を返す。

 

「ごめんなさい!!」

 

 そのまま妙は、九兵衛を振り切るように道場の方へと走って行った。それを見た九兵衛は一瞬唖然としていたが、すぐに手を出して引き止めようと声を上げる。

 

「……ま、待ってくれ妙ちゃんッ!! 妙ちゃァァァァァァァん!!」

 

 だが、九兵衛の制止も聞かず、妙は家の中に入っていく。

 精神的にショッキングな出来事が続いてしまったせいで、九兵衛はガクッと片膝を付いてしまう。

 

「わ、若ァァァァ!! お、お気を確かにィ!!」

 

 血相を変えて声を上げながら出てくるのは、いつものように隠れて近くで見ていたであろう東城。だが、九兵衛の頭の中には妙のことばかりで、ストーキング紛いの事をしていた東城にまったく意識が向いていない。今の九兵衛の意識は、声の主の存在に全て向いている。

 九兵衛は声からその正体をすぐに予測。彼女にとっては、自分の立てた予測による声の正体がなによりもショッキングなことになってしまっている。

 

 ――あ、あの声は……間違いない……。あの男……『坂田銀時』の声!! だが、そんな!? やつが妙ちゃんの家でなにを!?

 

 声の主の正体は坂田銀時。柳生家での一見以来、あのふてぶてしい声を何度も耳にしている。

 妙があの男にご飯を作ってあげたり、その存在を隠すなどといった、到底信じられない状況に九兵衛は眩暈すら覚えている。

 

 ――いや、待て待て! いくらなんでも銀時と断定するのは時期尚早だ! もしかしたらただ銀時に似た声の人物かも知れない! アニメとかなら声の似た人物が複数現れるなどよくある話じゃないか!

 

 この作品はアニメではないし、小説であるので声云々の説は的外れなのだが、今の九兵衛は妙と銀時の関係性を切り離したかった。最悪、あのチャランポランを妙が好きだなんて事実だけは信じたくない。

 

 すると、九兵衛の上着の袖を誰かが引っ張る。それに気付いた彼女は、袖を引っ張る人物に顔を向ける。九兵衛の袖を引っ張っていたのは、白い長髪の少女だった。

 

「……君は?」

 

 困惑しながら小首を傾げる九兵衛に、少女は告げる。

 

「あのね、さっきの女の人なんだけど、家で銀髪の死んだ魚のような目の人とよろしくやってたよ。僕たまたま見ちゃったんだよねェ」

 

 ――な、なんだとォォォオオオオオオオオオオオオッ!?

 

 九兵衛は内心シャウト。誰かも分からない少女の証言に、九兵衛は反射的に立ち上がり、雷を受けたような衝撃を覚える。

 銀髪で死んだ魚のような目をした男など、九兵衛は一人しか知らない。

 

 ――銀時(あいつ)が、妙ちゃんとよろしくやっている?

 

 九兵衛の頭の中で〝よろしくやっている〟という言葉が、何度も繰り返される。

 

 ――よろしくとはなんだっけ……? 挨拶のよろしくだっけ……? いや、もっと大人の……性的関係の意味での……。

 

「わ、若ァァァッ!」

 

 と、東城が声を上げながら捲し立てる。

 

「それ以上想像してはなりません! 大人の関係でのよろしくと言えば、それこそ男のガキンが女のズドンをバキューンしてガキュンガキュンドドドドドドドドなどの行為をする仲といった想像などしてはなりませんぬぅぅぅ!!」

 

 東城は大声でとんでもないセリフ(一部自主規制)を言い続ける。お付きの言葉のせいで、九兵衛は嫌でも想像してしまう。銀時と妙が裸になって、R18以上の展開へと……。

 

「う、うわァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 九兵衛は頭を抱えぶんぶんと振り回しながら、目の前の事実から目を背けるかの如く、志村邸から逃げ出す。

 

「わ、若ァァァァァアアアアアアアッ!? お気を確かにィィィィイイイイイッ!!」

 

 もろ原因の東城も慌てて九兵衛の後を追い掛ける。

 

 

「――っと、お妙殿と銀時殿の関係を受け止めきれなかった若は、事実から目を背けるように近藤殿をストーカーの正体だと思い込み、こんなところまで来てしまった次第なのです」

 

 と言う東城の説明を聞いて、さすがの土方も驚きの表情を見せる。

 

「まじかよ……」

「旦那と姉御がねェ……」

 

 一方、沖田は興味がわいたのか顎を手で撫で、視線を斜め上に向けて思案している。

 東城の説明を聞いていた近藤に至っては、この世の終わりのような顔で俯けている。しかもうわ言のように何かをぶつぶつ呟いている始末だ。

 九兵衛は握りこぶしを作りながら、搾り出すように声を出す。

 

「もしかしたら……君があの男の変装をして……妙ちゃんに近づいたのかと思ったが……その様子では……違うようだな……。くッ!」

「なんだろう……近藤さんなら変装してあの女に近づこうとしてもおかしくない気がする……」

 

 と土方はボソリと呟く。

 たまに近藤は、ホントに頭がおかしいとしか思えないおバカな行動をしてしまうことがあるので、しないと断言できない。もう少し彼が賢いならば、誰かを装って妙に近づく可能性があってもおかしくないからだ。いや、それでもかなり頭の悪い行動ではあるのだが。

 少しの間、壊れた機械のようにブツブツ何かを言っていた近藤。やがてうな垂れる九兵衛の肩をポンと叩く。

 

「…………九兵衛殿。どうやら貴殿は倒す相手を履き違えていたらしい……。いや、なにより俺たち二人は同じ目的を胸に宿す同士!」

「近藤……」

 

 優しく語りかける近藤の言葉を聞いて、九兵衛は顔を上げる。

 近藤は拳を握り締め、怒りの声を上げた。

 

「きっとお妙さんは、万事屋の野朗に都合の良い女としてこき使われていたに違いない! あの万年金欠ドS男ならそれくらいはやりかねん! 前々からお妙さんを付け狙い、彼女の純情をもてあそんで手篭めにしたのであろう!」

「そ、そうか! なにかおかしいと思ったがやはりそういうことだったか! 許せん! 僕は必ず奴をムッコロス!」

 

 ストーカー男の勝手な推論に、強引に乗っかった九兵衛も怒りを燃やす。そして近藤は勢いよく九兵衛に顔を向ける。

 

「九兵衛殿! 俺たちは同じ女性を愛した者同士! 恋のライバルであることには変わりない! だが、今は互いに協力し合い、俺たちがお妙さんを守る守護者(ガーディアン)として彼女を悪の魔の手から救い出すんだ!!」

「おおッ!!」

 

 九兵衛は同調し、近藤と腕をガシッと交差(クロス)させた。それを見た土方は呆れ顔で沖田に顔を向ける。

 

「なー……最近俺はあの柳生の小娘がポンコツになっている気がするんだが……気のせいか?」

 

 沖田は真顔のまま語る。

 

「土方さん。人間つーのは、怒りや嫉妬や恨みなんかで簡単に冷静な判断を捨て去っちまう生き物なんでさァ。つうか、銀魂という作品で一定のキャラを保てという方が無理ですぜェ」

 

 沖田の言葉に土方はため息をつく。

 

「ありえねーが……万が一、いや億が一、万事屋とあの女が愛し合ってたら、どーすんだ? あの二人、ただの邪魔者以外の何者でもないってのによ」

 

 土方は言いながら、箱から新たなタバコを口に咥えて火を付けた。

 すると九兵衛のお目付け役である東城が待ったをかける。

 

「若! そんな男の言うことを聞いてはなりません!! その男は聞き耳の良いことばかり並べて、若をストーキングという名の悪の道に引きずり込もうとしています!! 守護者(ガーディアン)というのは私のような者を言うんです!!」

「おめーはどっちかっていうと背後霊(ストーカー)の部類に入るだろ」

 

 ツッコム土方を無視して九兵衛の手を握る東城。

 

「さー、こんなところに長居は無用です! これから見たいドラマがあるので、早く帰らないと!」

「僕に触るなァァァァァッ!!」

 

 九兵衛は叫びながら東城を一本背負いで投げ飛ばす。男に触られることに対して、アレルギーの如く拒否反応を感じてしまう九兵衛に投げ飛ばされてしまう東城は、ぶつかった襖の下敷きに。

 だが、柳生四天王筆頭はすぐさまのし掛かる襖から這い出て、目を赤く光らせる。

 

「分かりました若ッ! そこまで固い決意であるならば、私は若のサポートをしましょう! 若が修羅の道を進むというならば、私も修羅道を共に歩みましょうぞ!! 柳生四天王筆頭東城歩!! 若のお目付け役としてどこまで付いて行く所存!!」

 

 そして集まった、ストーカー成敗三人組みはコタツを取り囲んで作戦会議をしていた。額には鉢巻をしており、『銀時成敗!』という赤い文字が記されている。

 土方はその様子を見て呆れた声を漏らす。

 

「たく……。まだあの天パがあの女の逢引の相手だって分かってないのによォ……。話聞く限りじゃ、万事屋の姿を誰も見てないって話じゃねーか」

「まーでも……旦那である可能性がないとは言い切れませんけどねェ」

 

 沖田はおもしろくなりそうと言わんばかりに、ニヤリとした笑みを作り顎を撫でる。

 

「所詮ガキの戯言だろ……。悪ふざけってのが関の山だ」

 

 冷静に返す土方。

 一方、ガキの戯言に踊らされているであろうストーカー成敗組は作戦会議を始めている。そして、近藤が「よし分かった」と言って頷く。

 

「万事屋の悪事の現場を押さえるべく、風呂場、トイレ、寝床、私室にカメラ設置は必須だろう」

「よし。なら画像チェックは僕に任せろ」

 

 九兵衛手を上げ志願すると、今度は東城が「ならカメラ設置は私が」と手を上げて力説する。

 

「若のお姿やおみ足を常に映像記録している私ならばベストポジションを確保してみせます!!」

「東城、僕の映った映像ファイルは全て消去しろ。さもなくば一生お前とは口を聞かない」

 

 と九兵衛が冷たく言い放つと、東城はこの世の終わりのような顔になる。

 

「つうかやることは結局悪質なストーカー行為じゃねーか!!」

 

 土方はまずこいつらを成敗して方がいいのではないか? と思うくらい呆れるのだった。

 結局、彼らの作戦内容は、最終的にはお妙の家に潜み込み、銀時を抹殺するための準備をするというモノ。ストーカー脳ここに極まれり。

 そうこうしていると、

 

「ふ、副長ォォォォォォッ!!」

 

 真選組密偵である通称ジミーこと山崎退(やまざきさがる)が叫び声を上げながら、なだれ込むように襖をふっ飛ばし、部屋に入ってきた。

 何度目になるか分からない襖の犠牲、さらに増える厄介ごとに頭を抱える土方は、

 

「山崎ィ~! このクソ忙しい時に一体なにしにきやがったんだテメーは?」

 

 青筋立てながら山崎の胸倉を掴み上げ、顔を近づけてガンを飛ばす。が、山崎は土方の怒り声すら気にしてられないようで、顔を青ざめさせて、ナニかに怯えるように先ほど走ってきた廊下を指さす。

 

「ま、松平のとっつぁんが!!」

「なにッ!? 松平の、とっつぁんだと!?」

 

 土方は、聞いただけでトラブル引き起こしそうな人物の名前に、ギョッと悪寒を覚え、ゆっくりと山崎が走ってきた方に顔を向ける。すると、土方の目に映ったのは、廊下の奥から弾頭が火を噴いて飛んで来る姿(しかも土方に向かって)。

 

「うおォ!?」

 

 土方は咄嗟に山崎を放して後ろに下がり、尻餅をつきながら弾頭を避ける。

 弾頭はそのまま近藤たちが囲む机に当たり爆発。机は爆発四散。ストーカー成敗三人組は黒焦げアフロヘアー。

 そしてさきほど弾頭が飛んできた方角から、ねっとりとした威厳のある声が聞こえてくる。

 

「いや~、最近銃持っての登場もなんか味気ないな~と思ったからよ~。ちょっと趣向を変えてみたわけよ、おじさんはさ」

 

 現れたのは、近藤、土方、沖田たち三人の上司であり警察庁長官、そして『破壊神』の異名を持つ男――松平片栗虎(まつだいらかたくりこ)その人。

 

「おじさんはさ~、ちょいとばかしにお前らに頼みたいことがあるんだわ」

 

 サングラスを通して薄っすらと見える松平の眼光は、怪しく光る。

 既に悪寒を感じていたのか、土方と近藤は頬を引き攣らせていた。




リリカルなのは組も見たいと思った人々にはすみません。
一応、これからの話の流れには必要なので。


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第六話:勘違いと進展

今回も銀魂組中心の話になりますが、ちょこっとリリカル組も登場します。


「ハァァァァァッ!? 銀さんを瞬間移動装置でどこかにぶっ飛ばしたァッ!?」

 

 源外の工場で新八のデカイ声が木霊する。まぁ、彼が叫ぶのも無理ないだろう。工場にやって来たらいきなり源外が「悪い。銀の字の奴を瞬間移動措置でどこかに飛ばしちまった」などと、まるで子供が失敗して謝る様なノリでワケわからんこと言われたら誰だって疑問しかでてこない。

 

「なにがどうなってそうなったんですかッ!? まず何があったのか説明してくださいッ!!」

 

 新八は源外に詰め寄ると、グラさんが腕を組んで問う。

 

「とりあえず60文字以内で説明しろ」

「おめーはとりあえずそのコスプレ止めろ!」

 

 新八は前回からまだ銀時のコスプレしていたグラさんに怒鳴る。するとあっけらかんとした態度で源外が説明する。

 

「俺の新発明の瞬間移動装置の実験体になってもらったんだが、発明品の思わぬ暴走で銀の字が帰れなくなった」

「ええええええええええええええええええええええええええええッ!?」

 

 新八は予想以上にヤバイ状況だったことに思わず驚いてしまう。

 

「何を驚いているアルか新八。ちゃんと60文字以内で説明したアルよ」

 

 いつの間にかいつものチャイナ服に戻った神楽は、何がおかしいのか分からないといった顔をするが、新八は焦る。

 

「むしろこんなとんでもない話を60文字以内で説明したことがビックリだわ! いや、そうじゃなくて!! 銀さん僕らの知らない間にとんでもないことになってるんだよ!!」

 

 焦る新八とは対照的に、神楽は腕を組みながらやれやれと首を振る。

 

「なに言ってるアルか、銀ちゃんは歴代ジャンプキャラと真っ向から勝負したほどの男ネ。これくらいの危機、鼻ほじりながら乗り越えるアル」

「それゲームの話でしょうがッ!!」

 

 とツッコミ入れ、新八は源外へと顔を向ける。

 

「と、とにかく!! 源外さん!! なんで銀さんがそんなワケのわからない状態になっちゃったんですか!?」

「さっき言ったとおりだ。銀の字に俺の作った瞬間移動装置のモルモット……じゃなくて、実験の手伝いをしてもらったんだが、装置の暴走でまったく指定してない場所に飛ばしちまったんだわ」

「いや、今明らかにモルモットっておっかない発言が聞こえたんですけどッ!? って言うか瞬間移動装置ィ!? あんたそんな凄いモン作ったんですかッ!?」

 

 新八の疑問に源外は「おうよ!」と得意げに胸を張る。

 

「その名の通り物体を別の場所へと瞬間移動させる俺の大発明よ!! こいつは俺の発明品の中でも歴史に名を残すであろうシロモノになるだろうな!!」

 

 源外ははにかみながら、近くにあった大きな機械をポンポンと叩く。たぶんアレが瞬間移動装置だろう。彼の態度から、今回の発明品の出来が良かったであろうことが伺える。

 だが、上機嫌だった源外は徐々に表情を落とし、申し訳なさそうに頭を掻く。

 

「……ただ、生物以外の無機物とかなら移動させても問題なかったんだが、まだ生物の実験がまだでな。とりあえず、実験用のネズミを見つけんのめんどかったし、ちょうどそこら辺をぶらぶらしてた銀の字に実験体になってもらったんだわ」

「ちょっとはほのめかしてくださいよ! 銀さんの扱いネズミ以下ですか!?」

 

 新八がそれはあんまりだとばかりにツッコミ入れると、源外は言い訳を始める。

 

「いや~、俺の予想ではなんの問題もなくお前らんとこの万事屋に移動できる計算だったのになァ。まさか銀の字が持ってたこんなモンに装置が反応するとは思わんかったわい」

 

 そう言って源外が懐からある物を取り出す。それは銀時を飛ばした時に唯一残った品――リリカルなのはのDVDケース。

 DVDを見た新八は目を見開き、

 

「ちょッ、それェェ!!」

 

 口をあんぐり開け、驚いた表情で腕が上下に振りながらDVDケースを指差す。

 新八の反応を見た神楽は何かを察したのか、彼に対して軽蔑の目線を向ける。

 

「おいおい、またオタクセンサー反応アルか。マジキモイアル」

「オメーはちょっと黙ってろ!!」

 

 怒鳴ってから、新八は慌てて源外からDVDケースを取り上げ、手にとってまじまじと見ると発明家の爺に顔を向ける。

 

「げ、源外さん!? これが原因で装置の事故が引き起こったんですか!?」

「ああ。なんか銀の字の奴が持ってたな。アイツ、こんなアニメの趣味にでも目覚めたのか?」

 

 源外は銀時らしからぬ所持品に対して首を傾げているようだ。

 一方の新八は、まさかの接点に驚かずにはいられない。前にアニメオタクっぽい人が『頼んだリリカルなのはDVDはどうしたでござるか!!』などと万事屋に文句を言いに来た。おおかた、銀時が依頼失敗してそのままばっくれたとばかり思っていたが、まさかこんなことになっていようとは。しかも、自分はこの作品を最近見たばかりである。

 なんだこの奇妙な接点は? と驚かずにはいられない新八。

 

「とりあえず、このDVDは僕が預かっとくして……」

 

 新八は劇場版魔法少女リリカルなのはのDVDケースを懐に仕舞う。その姿を見て神楽が「持ち逃げアルか?」と言ったので、「持ち主に返すの!」と反論。

 新八はコホンとわざとらしく咳をして、源外に質問する。

 

「源外さん。とにかく、銀さんを事故で別の場所に送ったとしても、なんで僕たちに伝えてくれなかったんですか?」

「最初は俺もそうしようと思ったんだが……装置が直らんことにはどうにもならなかったし。それに……」

「それに?」

 

 首を傾げる新八に源外は真顔で告げる。

 

「なんかいろいろ文句言われるのがめんどかった」

「アンタしまいには殴りますよ!」

 

 新八は銀時ほどではないにせよ、この老人を早く何とかしないと、と思った。すると源外は言い訳を述べ始める。

 

「それに、俺が装置直して銀の字呼び戻せば騒ぎを下手に大きくせずに済むと思ったんだが、どうやらそうも言ってられなくなっちまったようだしな」

「まったくですよ……」

 

 どうやら、源外も風の噂で銀時がいないこと、そしてそのことで皆が騒ぎ始めたことを感じ取ったのだろう。これ以上隠すのはあまり得策と考えず、新八たちに教えることにしたというのが関の山だ。

 

「まー、それにもう一つ問題があってよ」

 

 源外の言葉に新八が汗を流す。

 

「えッ? まだ何か問題があるんですか?」

 

 源外は人差し指を立てる。

 

「銀の字をこっちに呼び戻すには、あいつの現在地、つまり座標を知る必要があんだよ」

 

 新八は「えっと……」と言って眉間に皺を寄せる。

 

「僕そういうことには詳しくないんで分からないんですけど……今の銀さんの場所を特定するのってできないんですか? 瞬間移動装置なんですし、送り迎えが自由とかそういうんじゃないんですか?」

 

 質問に対し、源外は難しい顔を作りながら腕を組む。

 

「まー、実質そういう機能を搭載はしているんだが、こっちに呼び戻すにはアイツの現在位置、まー座標みたいなもんを知るための発信機みたいなモンを持たせないといけないんだわ。まー、持ってなくても、銀の字のヤツが送った地点に動かず止まっていれば送った場所の座標は分かるから、そういうモンがなくとも呼び戻せるんだけどよ。アイツがそこまで想定して動かないなんてワケねーし」

「えっと、つまり……どういうことですか?」

 

 新八の問いに源外は真顔で、

 

「あいつに何も渡してないから、やっぱあいつ帰ってこれねーわ」

 

 とんでもねーこと言うクソ爺を、新八は鬼気迫る顔でガバっと胸倉を掴む。

 

「おィィィィィッ!? じゃ、じゃあ銀さんはッ!!」

「落ち着け新八。俺だってそれを思い出してお前らを呼んだんだよ」

 

 源外は新八を落ち着かせるように彼の腕をぽんぽんと叩く。新八はえッ? と言う顔をになり、源外は説明する。

 

「つまりはアイツに発信機を持たせればいいわけだ。だから、お前たちは『コイツ』を持って銀の字の飛ばされたとこまで行き、あいつを見つければいい」

 

 源外は、新八に折りたたみ式の黒いケータイのような物を渡す。新八は渡されたケータイを不思議そうに見る。

 

「えっと……コレは?」

「コイツがさっき言った、装置で飛ばした奴の座標を知るための発信機だ。見た目どおり通話機能も備えているから、連絡さえくれればそっちの都合で送り返すことも可能だ」

「なるほど」

 

 と新八が頷くと、

 

「キャッホォォォォォォィ!! ケータイアル!」

 

 神楽はケータイを見て興奮したのか、新八から素早く奪い取り、ケータイの形をした発信機をキラキラした目で眺める。すると源外が補足説明。

 

「まあ、通話機能しかねーがな」

「ちェッ、つまんねーの」

 

 メール機能がないと分かった途端、神楽は口をへの字に曲げてケータイを新八に投げる。

 

「とりあえず、お前らは途中で無くしかねんから念を入れて三つ渡しとくぞ」

 

 源外はさきほどと同じような黒いケータイを二つ新八に渡す。すると、ケータイを受け取った新八はうんと頷いて決心を固める。

 

「分かりました源外さんッ! 僕たちが必ず銀さんを見つけてきます!」

「さっさと私たちを銀ちゃんのいるところに送るヨロシ!」

 

 神楽も意気込むが、源外はあっけらかんとした態度で小首を傾げる。

 

「ん? まだ装置直ってねェぞ」

 

 二人は出鼻を挫かれてガクッと体制を崩し、すかさず新八がツッコミを入れる。

 

「まだ直ってないんですか!?」

「なに言ってんだ。お前らが勝手に直ってると勘違いしただけだろーが」

 

 源外の言葉に、新八は言うに言い返せなくなる。

 

「いや、そうかもしれませんけど……」

 

 今の流れなら修理がとっくに終わっていて、自分たちは銀時救出のために瞬間移動している場面になるんじゃないか? と思っても仕方なく、いろいろと納得がいかない気持ちの新八。

 すると神楽が一歩前に出る。

 

「しょうがないアルな。私たちも手伝うアル。とっと直すネ」

「そうだね。こうやってウジウジ言ってても仕方ないし」

 

 と新八も頷きつつ、神楽の後に続いて瞬間移動装置に触ろうとした時、源外が大声を出す。

 

「バカヤローッ!! おめーらみてェな素人が勝手に触れんじゃねー!!」

 

 源外の怒声にぎょっとする新八と神楽。

 利き手にスパナを握る源外は、二人を掻き分けるように追い越し装置の前まで歩く。

 

「お前らのような機械(カラクリ)の〝か〟の字も知らねー素人に触らせた暁には直るモンも直らなくな――!」

 

 歩いていた源外は床に置いてあったネジを踏んでしまい、足を滑らせる。そしてそのまま前に倒れ、手に持っていたスパナの先端を装置に向かってぶつけてしまう。

 

「おィィィィィィィッ!? なにあんたが率先して壊してんだァァァァァァッ!!」

 

 新八シャウト。

 倒れた勢いが加わったスパナの先端に叩かれ、装置の装甲はグシャリと凹み、そこからバチバチと電撃が放電。

 顔面を地面にぶつけた源外は慌てて顔を上げ、冷や汗を流し始める。

 

「い、いかん! せっかく直した瞬間移動装置がッ!!」

 

 すぐに装置の調子を確かめる源外。

 

「こりゃァ……修理すんのに最低でも二週間かかるぞ」

「ちょッ!? それじゃあ銀さんどうなるんですか!?」

 

 慌てる新八に源外は右手ですみませんと言うポーズを取る。

 

「悪いけど、もうちょっと待って」

「ええええええええええええええええええええええええええええッ!?」

 

 まさかの延期に新八の声がまた工場に木霊するのだった。

 

 

「結局、ただの無駄足だった……」

 

 うな垂れる新八の横を、頭の後ろで手を組んだ神楽が歩く。

 

「ま、銀ちゃんの居場所が分かっただけでも収穫ネ。おとなしく二週間待つアル」

「その二週間の間に銀さん死んじゃったら元も子もないんだけどね」

 

 新八は下を向いて想像する。あの男なら拾い食いで死んだりとか、予想外な死に方しそうだから怖い。とにかく気が気ではないから、すぐに銀時の無事を確かめたい新八は、神楽の発言に対してジト目を向けてしまう。

 そんな風に帰路を歩きながら万事屋の前までやって来ると、前の方から見知った顔がやって来る。

 

「ん? あれって……」

 

 真選組の黒い制服を着用し、帯刀した刀を腰に差した地味な男が、新八たちに向かって「あ、いたいた」と声を出しながら小走りでやって来る。どうやら新八が気付いた時には、既にあちらは彼らに気付いていたようだ。

 真選組でも結構接点が多い彼に、新八が一番に声をかける。

 

「山崎さん、どうしたんですか?」

「またタマのストーカーアルか?」

 

 神楽の発言に近くまで来た山崎は両手を振って否定する。

 

「ち、違うって!! 今日はタマさんに用があったワケじゃ……」

「まァ、お見合いでお前は玉砕したらしいから、今告っても無駄だろうけどナ」

 

 神楽の容赦のない発言で山崎はグハッと胸を押さえる。さすが毒舌ヒロイン。相手の傷を掘ることに一切の容赦がない。

 

「か、神楽ちゃん!! いくらなんでも言い過ぎだよ!!」

 

 山崎を不憫に思い新八は神楽を叱責する。

 ただ神楽の言うとおり、山崎はタマと一回だけお見合いしたことがあるのだが、酷い形で終わり迎えた。そのためにタマと上手くいかないと薄々感じているのか、山崎も最近はあまりタマと関わろうとしないでいたらしい。とは言え、さすがに蒸し返されるとなると彼にもクルとこはあるようだ。

 

「と、とにかく、今日は何の用で来たんですか?」

 

 新八は少しでもタマのことから考えを切り離そうとフォローする。真選組と万事屋の仲は基本不仲なのだが、新八と山崎は同じ地味キャラ的な立ち居地からかそれなり良好な関係だ。

 山崎も沈んだ気持ちを湧き上がらせようと涙を拭きながら説明する。

 

「……うん。えっと……実はね……」

 

 

 

 

「銀さんが姉上と逢引してるぅぅぅぅぅ!?」

 

 新八は口をあんぐり開け、

 

「しかも姉御がそのことを隠しているですとォッ!?」

 

 神楽も超ビックリ顔。

 まさかの情報に雷を受けたように二人は衝撃を受け、驚愕の表情になる。

 

 山崎からの話を要約すると、今朝の新聞で言われていた妙のストーカーは近藤ではなく銀時。しかも妙はそれを容認し、あまつさへ恋仲になった彼を庇い、誰からも秘密にした上で性的な関係にまでなっている、というとんでもない話だった。

 改めて聞くと、事実としても現実的に考えてもあまりにもありえない話である。あの姉とダメ主人公の性格を考えれば、とてもじゃないが信じられない内容だ。それは弟である新八が一番よく分かっている。

 

 少しの硬直の後、我に返った新八が山崎に詰め寄る。

 

「そ、そんな情報どこで仕入れたんですかァーッ!? いや、近藤さんと九兵衛さんは一体どんなこと聞いたらそんなアホな思考に辿り付くんですかッ!? いくらなんでもありえないですってッ!!」

「俺も副長もさすがに信じられないから、こうやって新八くんや旦那に直接訊きに来たんだよ。まー、俺はどーでもいいんだけど……さすがに近藤さんたちの気迫が半端じゃないし、下手したらマジで旦那殺しかねないから、嘘かホント確かめてこいって副長に言われて……」

 

 さすがに新八はありえないとばかりに右手を横に振る。

 

「イ、イヤイヤイヤ!! さすがに銀さんも姉上もそんな仲じゃ決してありませんよ!! 銀さんが姉上にストーカーして、あの姉上がストーカーしている相手(ダメ人間)と恋仲ァ!? 常識的に考えたら普通はありえない結論ですよ!!」

「ま~……そーだよね」

 

 山崎も頬を掻きながらやんわり肯定する。さすがに訊くまでもなくこう言う答えが帰ってくることは彼自身、予想していたのだろう。だが、さきほど聞いた話の中で引っかかる点を神楽が指摘する。

 

「でも、銀ちゃんが姉上と合体してたって、近所のガキどもが言ってたって話アルよ」

「そんなの、ただの悪戯か何かでしょ」

 

 新八はばっさり切り捨てるが、山崎はまだ納得がいってないようで、

 

「でも、それにしては人物像が具体的過ぎない? 九兵衛くんが言ってた子供の証言に合致する人物なんて、旦那以外にありえないと思うけど」

 

 顎を指で掴んで首を傾げる。

 これはもしかするともしかするかもしれない、と新八まで妙と銀時の関係についてささやかに疑い始めていた。すると、神楽が人差し指を立てながらある推理を始める。

 

「もしかしたら、瞬間移動装置で銀ちゃんが飛ばされた場所は姉御の部屋で、そのままなんやかんやで姉御と1万年と2千年の愛を誓ったのかもしれないネ」

「いやなにその無駄に長い愛!?」

 

 すかさず新八はツッコミ入れつつ否定する。

 

「って、そもそもそれが仮に本当だとしても姉上が『なにしとんじゃコラァァァッ!!』って殴って終わりでしょうが!」

 

 二人の会話を聞いていた山崎は「えッ!? 瞬間移動装置!?」と驚いた顔をし、彼の反応に気付かない神楽は違うと首を横に振る。

 

「きっと瞬間移動した銀ちゃんは姉御がボコボコにできないほどボロボロで、そんな銀ちゃんを姉御が介護している内に銀ちゃんとの仲が一気に深まりそのまま二人は――」

 

 神楽の憶測を聞いて、新八つい想像してしまった。

 

 

『銀さん、私……』

『何も言うな。俺をここまで面倒見てくれたお前に俺は惚れてんだよ』

『あぁ……銀さん……』

 

 指と指を絡める二人はそのまま倒れながら布団の上で……。

 

 

「あァァァァァァァァァァッ!!」

 

 新八は悲鳴にも似た絶叫を天に向かって放つ。そのまま頭を両手で抱え、髪をガシガシ掻き毟る。

 

「銀さんと姉上がそんな官能小説だかエロマンガだか分かんない安っぽい濡れ場展開になるなんて嫌じゃァァァァッ!!」

 

 いくらシスコン気味の彼とて、姉の恋愛事情に口出すほどのお節介ではないが、よりにもよってあのダメ人間が我が姉と高校の保険体育のようなことし始めたら本気で複雑な気持ちになる。っと言うかぶっちゃけ心底嫌だと言うのが心境だ。

 想像とは言え、姉と人生の先輩(ダメな意味で)的な人のアレなシーンを思い浮かべて涙を流す新八。そして涙を流したまま拳を強く握り締める。

 

「認めん!! 認めんぞォォォッ!! 僕はあんなマダオが義兄だなんて絶対認めんぞォォォッ!!」

「っで、どうするアルかシスコン眼鏡」

 

 ジト目で質問する神楽に対し、目を血走らせた新八は答える。

 

「そんなもんあの天パ……いなかったら姉上に直接聞いて真実を確かめるッ!!」

 

 うォォォォォッ!! と新八は雄叫びを上げながら実家に急行。

 暴走状態となった眼鏡の背中を見ていた山崎に、神楽が顔を向ける。

 

「おいジミー。一緒に来れば、とりあえず姉御に訊いて真実を確かめることはできるアルよ」

「あッ……う、うん」

 

 山崎はぎこちなく返事をする。そして神楽は新八の後をやれやれといった感じに追う。

 暴走機関車のごとく走る新八の後を追う山崎は「瞬間移動装置……まさかね……」と頬を引きつらせていたが、それに万事屋の従業員二人は気付かなかった。

 

 

 

「それで、誰が誰とどこぞのエロマンガみたいな展開になったって?」

 

 家につき、神楽の勝手な憶測を元に早速妙に質問した新八は案の定、

 

「ふァ、ふァい……」

 

 姉に頬を鷲掴みにされていた。顔は笑っているのに、心では笑ってないであろう姉に口をタコのようにされた新八は、顔を真っ青にしながら何も喋れない。

 これ以上質問できない新八に変わり、神楽が質問しようとする。ちなみに彼女の後ろには影薄く山崎が成り行きを静観している。

 

「じゃー、姉御は銀ちゃんと何もないアルか?」

「神楽ちゃん。私があんな万年金欠のプー太郎と一時の過ちを犯すと思う?」

「ま~、そうアルな」

「って、神楽ちゃんが最初に言い出したんでしょ!?」

 

 新八は妙の手を振りほどいてツッコミ入れる。だが姉の説明を聞いても弟の疑問は解消されていない。

 

「じゃ、じゃあ! 今朝の新聞で言ってたストーカーってなんなんですか!? 山崎さんの話だと近藤さんでも九兵衛さんでもないし、ましてや銀さんでもない。一体他に誰が姉上を付け狙ってたって言うんですか!?」

 

 これが最大の謎だ。銀時と妙の密会がなかったとして、妙が誰かに付け狙われていたという疑問がまだ解消されていない。

 近藤、もしくは別のストーカーであったとしても、このたくましい姉なら返り討ちにするくらいの余裕があるであろうから、あまり気にしてなかった。だが、よくよく考えてみれば最近妙が元気ないことは新八もどことなく気付いてはいたのだ。しかし、妙自身が相談もしなければこちらがさり気なく訊いても「なんでもない」としか答えない。だから今の今まで訊かなかったが、ずっと姉の変化が気がかりだったのである。

 そして、今朝の新聞の記事と神楽の変な憶測で、今まで抱えていた新八の不安が一気に爆発したと言ってもいい。

 

「あー、それね」

 

 妙はなんだそんなことか、という風に部屋の押入れまで歩き、襖を開ける。

 すると「にゃ~」と言う声とともに押入れの奥から四速歩行の生き物が顔を出し、ゆっくりと体を出して姿を現す。

 

「あ、猫アル」

 

 神楽が指をさした後、妙がそっと猫を持ち上げる。頭から首までは白、その下は全部黒毛のちょっと珍しい模様の猫だった。

 その姿に新八は困惑気味に質問する。

 

「……え、えっと……その猫は、どういう意味ですか?」

 

 いまいち妙の言いたいことを理解できない。だが、山崎はなんとなく察したのか頬を引きつらせながら猫を指差す。

 

「えっと……つまり、姉さんを付け狙ってた話題のストーカーの正体は、その猫ってことですか?」

「ええ、そうよ」

 

 即答する妙に対し、

 

「…………えッ?」

 

 新八は姉の言葉を理解することに、少し時間がかかってしまう。

 つまり、今朝の新聞で言っていた謎の視線を送るストーカーも、妙と恋仲になっていたと思われた謎の人物の正体も、全ては妙の抱える猫ってことになる。

 

「……え? …………えええええッ!? その猫がストーカァー!?」

 

 呆然としていた新八はまさかの真実に思わず驚愕の声を上げる。

 

「まあ、厳密にはストーカーじゃなくて、ただ家に忍び込んだ猫なんだけどね。たぶん、私に見つからないように隠れて私を注視していたこの子の視線を、私が人の視線と勘違いしてまったみたいなの」

 

 妙は困ったような笑顔を作りながら説明し、新八は追及する。

 

「じゃ、じゃあ九兵衛さんの言ってた女の子の証言は!?」

 

 妙はあっけらかんとした声で答える。

 

「たぶん、その辺の近所にいるただの嘘つき少年ならぬ嘘つき少女ね。子供の言うことなんて半分本当、半分嘘みたいなものでしょ?」

 

 いや、年端もいかない子供でもそこまで嘘つきではないだろう、と心の中でツッコム新八。

 次々と自分の疑問を笑顔で説明していく姉。蓋を開けてみればなんとも下らない真実であろうか。猫だけに引っ掻き回されたと言うべきか。

 ドッと全身の力が抜けたように肩を落とす新八は力ない声で最後に残った疑問を訊く。

 

「なら、どうしてもっと前に僕に猫のこと言ってくれなかったんですか? 早く言ってくくれば、ここまで変な噂が立つことにならなかったのに……」

「ごめんなさい」

 

 と謝る妙。だが顔はまったく反省の色なし。そしてそのまま説明する

 

「ただ、記者の人に言ったストーカーは近藤さんよ。だって昨日も屋根裏に隠れていて、槍を投げて追い返したのよ」

「結局ストーカーは近藤(ゴリラ)かよ!!」

 

 新八は青筋浮かべる。

 妙は猫に「困ったゴリラさんですねェ。今度確実に仕留めないといけませんねェ」と赤ん坊に話しかけるような声で語りかける。実の姉が動物に優しく話しかけるのは微笑ましいのだが、一部の発言が物騒であまり微笑ましくない。

 

「これで少しは自重してくれると思ったのに、もっと強力な武器が必要かしら」

 

 などと妙は笑顔で言う。

 

 今回みたいな勘違いが起きたのも、妙が記者にストーカーがいるとしか話さなかったからだろう。だから記事にもストーカーとして近藤の名前は載らなかった。

 名前を出さなかったのは妙の牽制か、それとも気まぐれな慈悲なのか。なんにせよ、真選組の長が全国に不名誉な形で名前が広がり社会的に抹殺されることもなかったわけである。これで良かったのか悪かったのかは、わからないが。

 ぶっちゃけ、今回みたく報道関係に頼らなくても彼女なら並のストーカーなど寄せ付けもしないだろう。まぁ、近藤がそんじょそこらのストーカーより更に悪質なストーカーだから、報道関係を巻き込んでもほとんど効果がなかったワケだが。

 

 真実を聞いた神楽はため息を吐く。

 

「結局、ゴリラで始まりゴリラで終わったワケアルな」

「ホント、無駄な時間過ごしただけで笑いもおこらないよ……」

 

 新八も、近藤の無駄な深読みと図々しさのせいで変に体力を使ってしまった。

 これで一つ問題は解決したが、まだ重要な問題が解決していない。

 すると、今まで静観していた山崎が落ち込む新八たちにフォローを入れる。

 

「ま、まあ、結局いつもどおり局長が原因だったワケだし、良いんじゃないかな? 特に変な結末を迎えなかっただけ」

 

 むしろその〝いつもどおり〟が問題なワケだが、今はそういったツッコミはいいだろう。

 それよりも、と山崎が新八と神楽に質問する。

 

「新八くんたちが言ってた『瞬間移動装置』って、なに?」

「えッ?」

 

 呆けた声を漏らす新八は口ごもってしまう。

 瞬間移動装置は源外が作った物なのだが、バカ正直に「平賀源外が作った発明品」と言うワケにはいかない。なにせ、彼は過去に起こした事件のせいで犯罪者として幕府に追われている身なのだ。銀時とともに彼を匿っている身として、ここは源外が関わっていることを悟られないように説明するしかない。

 

 

 

「……へ~、新八くんたちの知り合いにそんな凄い発明家がいるんだ」

 

 説明を受けた山崎は純粋に関心を示しているようだ。

 

「え、えェ……まァ……」

 

 新八は頭を掻きながらバレないかとヒヤヒヤする。どうやら、山崎はほとんど気付いていないどころか、純粋に新八の話した『知り合いの発明家』に感心している様子。

 山崎は頭を掻きながら、

 

「俺てっきり、幕府(うち)で開発した『瞬間移動装置』のことだと思ったよ」

「アハハ。いや、違いますよ。どうして山崎さんのところの瞬間移動装置と僕たちに接点があるんですか?」

 

 と新八が笑顔で返すと、山崎も笑顔で頭を掻く。

 

「そうだよねェ。アハハハハハ!」

「っで、山崎さん。瞬間移動装置ってどういうことですか?」

 

 笑っていた山崎は新八の質問に顔をはっとさせる。自分の失言にやっと気付いたようで、思わず口元を押さえる。

 

「おい、ジミー。なんのことだか洗いざらい吐いてもらおうか。ええ?」

 

 神楽はまるでヤーさんのように真選組密偵に詰め寄る。

 無論山崎は回答を拒否する。

 

「ご、極秘事項だから!」

「分かったアル。お前の指一本ずつ曲がらない方向に曲げるから、言いたくなったら言うアル」

 

 神楽は山崎の指を握り、力を入れ始める。

 

「分かった分かったッ!! 言うからホント止めてッ!! 洒落にならないから!!」

 

 山崎は涙目でおとなしく白状する。

 

 山崎の説明をまとめると、警察庁長官である松平は近藤たちに『瞬間移動装置』の実験体になるように命令したらしい。それは幕府直属の研究機関が開発した物であり、それの運用実験がこれから行うれるとのこと。実用に成功すれば犯罪者逮捕に大きく貢献できるからだそうだ。

 

 山崎はげんなりした様子で答える。

 

「……まー、動物実験も済ましたし後は人間が転送できるか試すだけなんだけど……とっつぁんがその実験体になれと副長たちに無茶な要求してきてさ……」

 

 山崎は言い終わった後、「また副長にどやされる……」と呟く。

 元々このことは極秘事項になっていたらしいが、仲の良い知人ということで山崎はつい口を滑らせてしまった。ストーカー事件の追及に山崎一人借り出された理由も、近藤たちがまとめて実験に巻き込まれたためでもあるようだ。

 新八としても山崎には同情するし、このことは他の人間には言わないようにしようと思っているが、それよりも山崎に頼みたいことがある。

 

「山崎さん! 僕たちをその瞬間移動装置の元まで連れて行ってくれませんか!」

「えええッ!? なんで!?」

 

 驚く山崎に新八は説明する。

 

「銀さんが瞬間移動装置の事故でどことも知れない場所に飛ばされてしまって、僕たちがそこに行く方法は瞬間移動装置しかないんです! だけど、こちら側の装置は故障してしまって、直るまで時間がかかるから、山崎さんたちの装置が頼みの綱なんです!」

 

 山崎は両手を振って拒否する。

 

「い、いや、無理だからッ! そっちの事情も分からないでもないけど、さすがに君たち連れて行って、あまつさへ勝手に装置使わせた暁には副長に何されるか――!!」

「足の指と手の指。どっちから曲げて欲しいアルか?」

 

 神楽の脅しに、指ではなく心が折れた山崎は、涙を流しながら案内することに。

 そうと決まれば新八はすぐに次の行動に移る。

 

「神楽ちゃんは〝あの人〟のとこに行って、もう一つの瞬間移動装置があることを伝えて! 僕は山崎さんと一緒に土方さんたちのとこまで行ってなんとか装置を使わせてもらえるように交渉するから!」

「了解アル!」

 

 神楽は敬礼してすぐに『あの人』、つまり源外のとこに走って行く。

 そんな新八たちの様子を不思議そうに見ていた妙は声をかける。

 

「あの、新ちゃん――」

「すみません姉上! 事情は後で説明するから!」

 

 新八は妙の言葉を聞く前に山崎とともに土方たちのいる研究所まで向かう。

 もうその場には、猫を抱いた妙だけが残されていた。そして彼女の抱いている猫が「にゃ~ん」と鳴く。

 

 ――待っていてください! 銀さん!

 

 新八は内心拳を強く握るように意気込むのだった。

 

 

 場所は変わり時の庭園の一室。

 

「あんたさー、少しは動いたらどうだい?」

 

 文句を言うのは使い魔のアルフ。

 時の庭園の一室では銀時がソファーの上に頬杖を付いて寝そべっていた。悩みや不安などまったくなさそうな銀髪はダルそうに答える。

 

「俺は節約してんだよ」

「なにをさ?」

 

 怪訝そうに片眉を上げるアルフに銀時は告げる。

 

「俺のエネルギー」

「リニスが居たらそのひん曲がった性格を一回矯正してもらいたいよ」

 

 アルフの眉がピクピク動く。周りに自分を合わせない銀時のオンリーマイウェイな態度に、内心怒っているのは丸わかりだった。すると、一変して呆れたような顔で腰に手を当てる。

 

「つうかさぁ、あんたよくそんな悠長な態度でいられるね。残した連中が心配じゃないのかい?」

 

 すると銀時はマイペースに鼻の穴を穿る。

 

「まー、帰れる目処はついたからな。ぶっちゃけ、ここの生活の方が前より良いし、当分ここにいようかな~って思ってる」

「まったく……図太いねー、あんた」

 

 アルフは呆れ混じりにため息を吐く。

 もしこんな銀時のセリフを新八たちが聞いていれば、少なくとも拳はまぬがれないだろう。



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第七話:勢いでなんとかしようとすると取り返しのつかないことがおこる

「よしお前ら、とっととこん中入りな」

 

 いきなり理不尽なセリフを吐くのは、松平のとっつぁん。

 無論それに納得しないのは、

 

「いや、なんで!?」

 

 真選組局長の近藤勲。

 

 幕府お抱えの研究所内。そこの研究員たちが作った『瞬間移動装置』。その構造はいろいろな太い配線を複雑に繋げた巨大な円盤型の機械を基盤とし、その上に円柱型のガラスの箱を乗せた物となっている。どうやら、この円柱型のガラス箱に人や物を入れて瞬間移動させるのだろう。

 

 現在進行形で瞬間移動の実験体にされそうになっている土方、近藤、沖田は拳銃を構える松平に「入れ」と、ほぼ恐喝に似た形で強要されている。松平の後ろで事の成り行きをただ黙って見ている研究員たちは、引き攣った笑みを浮かべたまま。そしてそんな横暴なやり方に異を唱えるは、真選組でも比較的まともな思考の持ち主である土方だ。

 

「なんで俺たちが、実験のモルモットにされなきゃならねェんだよ!」

 

 松平は「あのな~」とヤーさんばりばりの威圧感を出しながら説明する。

 

「この瞬間移動装置が完成した暁には、尻尾巻いて逃げる犯罪者(ネズミ)どもをパパッと捕まえられる。んで、その最後の試験運用の実験に参加しろって言ってんのが、なんで分かんねェんだコラァ!」

「だからなんでその役目が俺たちなんだァッ!! そんなもん研究員の連中の役目だろうが!」

 

 真選組副長は、拳銃を構えサングラスを掛けたほぼヤクザと言っても過言ではないおっさんの言い分に反論。土方の言葉に対し、松平は呆れるように首を左右に振る。

 

「あのなァ、お前らのように腕っ節だけのおつむ空っぽの脳筋連中よりも、研究者(こいつら)のような頭皺だらけのがり勉連中の方が人材としては重要だってのが、多くの幹部連中の考え方なのよ」

「なにィ!?」

「とっつぁん。死刑囚を使うって手はなんですかいィ?」

 

 結構人徳に反していそうな沖田の発言に対して、松平は平然と返す。

 

「それだといろいろ、世論やらマスコミやら無駄に正義感ぶった群集の連中がうるさいから、あんま使いたくねーの」

「むしろ自分の部下実験材料にしてる方がいろいろ言われるだろ!!」

 

 ツッコム土方の意見など松平はまったく聞き入れない。

 

「まー、ゴキブリ並の生命力の持ち主であるお前たちのが適当であり、絶対生きて帰ってくるかもしれないって、おじさん信じてるから」

「そんな理由で納得できるかァ! つうか〝かもしれない〟ってなんだ!? 死ぬかもしれないってことか!?」

「ゴホッ、ゴホッ……」

 

 すると突如として、沖田は握りこぶしを口元に当て、苦しそうにする。

 

「……とっつぁん。土方さんはゴキブリ並かもしれませんが……俺は不治の病抱えているんで、瞬間移動はちょっと……。ゲホッ……」

「なにワザとらしい咳して逃げようとしてんだてめーは!」

 

 と土方は怒鳴りつつツッコム。

 

「いつ不治の病になった!? 都合の悪い時に史実設定持ってくんじゃねェ!!」

「沖田、テメェ……」

 

 松平は沖田の仮病姿を見て目を細め、親指で後ろを指す。

 

「分かった、沖田。お前は止めろ」

「ワーイ」

「なんでだァァァァッ!?」

 

 納得いかない土方はシャウト。

 すぐにころっと元気になった沖田は、瞬間移動装置から離れて松平の隣に立つ。すると近藤も握りこぶしを口元に当て、咳をし始める。

 

「ゴホッ、ゴホッ……。とっつぁん……俺も――」

 

 バァン! と、松平は近藤の顔に向かって発砲。だが、弾丸は近藤の横を通り過ぎ、その先の壁に風穴を空けていた。

 近藤はゆっくりとした動作で顔を動かし、穴の空いた壁を見た後、再び松平に向き直る。そして、松平のとっつぁんは声にドスを利かせて、一言。

 

「おめェは行け」

「なんでェェェェッ!?」

 

 近藤はありえないとばかりに叫び、問い詰める。

 

「ちょッ、なんで!? なんで総悟はよくて俺はダメなの!?」

「バカは風ひかねーだろ」

 

 と松平はバッサリ切り捨てる。

 

「お前のようなS級のバカじゃ、予防接種しなくてもコレラにもインフルエンザにもかかんねーよ」

「えええええッ!? そんな殺生な!!」

「まーかかったとしても、お前ならかかったことに気付かねーかもな」

「いや、とっつぁん……。俺、インフルエンザにはかかったことあんだけど……」

「おい、装置起動させとけ。あいつらとっと送るぞ」

 

 松平は近藤の言葉を無視して研究員たちに命令。

 沖田は土方に向かって片手をぶらぶら振る。

 

「じゃあ、頑張ってくだせェ」

「総悟ォ!」

 

 土方は他人事のように振舞う沖田を睨み付ける。すると、近藤がある事に気付く。

 

「つうかとっつぁん。俺らどこに飛ばされるか聞いてないんだけど?」

「あん?」

 

 片眉を上げる松平は顎に手を当てる。

 

「……あ~、そうだな。とりあえず、居場所の分かってる過激派攘夷志士のアジトに送ってやるから、送ったついでにそいつら一網打尽にしてこい」

「いや、そんなことしたら俺らが一網打尽にされるからね!」

 

 ツッコム近藤。さすがに敵のど真ん中にたった二人だけで送り飛ばされたら、命がいくつあっても足りない。

 松平は腕を組んで告げる。

 

「じゃあ、譲歩してお前に合うようなマウンテンゴリラの檻にしてやるから、嫁さんでも探してこい」

「どんな譲歩!? つうか普通に人間、っていうか俺はお妙さんがイイ!」

「とにかくとっとと行って、とっとと帰ってこい!」

 

 と松平は近藤を蹴飛ばして装置の中に無理やり入れる。

 松平は研究所の者たちに顔を向ける。

 

「おーし、じゃーとっととこのゴリラ飛ばせ」

「ちょちょッ! ちょっと待て!」

 

 必死に声をかける近藤を無視して、研究員たちは警察のボスの命令を忠実に実行する。若干、近藤に憐みの視線を送りながら。

 装置の上部に付いた、転送するモノを入れるためのポット。中に出入りするためのドアが横にスライドして、密閉される。

 

「つうかトシは!? なんで俺一人だけ転送されることになってんの!?」

 

 分厚い強化ガラスに張り付いた近藤の言葉は、もう外の人間たちには聞こえない。が、彼の言う通り、なぜか近藤ひとりが転送される状況になってしまっていたのだ。

 いつの間にか装置から離れた土方も「まァ、頑張ってくれ」と声をかけるだけである。

 近藤は強化ガラスにへばりついて必死に止めるように懇願するが、彼の声はもう一切届かず、装置の起動準備は着々と進行していく。

 いよいよ転送準備が整い、近藤が転送されそうになった。その時、

 

「ちょッ、ちょっと待ってください!」

 

 奥から眼鏡を掛けた青年――志村新八が声を上げ、必死に松平たちのとこまで走って来る。そして後ろから彼を追ってやって来る人物は山崎。

 

「あん? おめーは、確か万事屋んとこの眼鏡じゃねェか」

 

 松平はゼェ、ゼェと息を切らしながらやって来る新八を怪訝そうに見る。

 ここまでずっと走ってきたのか、松平のところまでやって来た新八は膝に手を付いたまま話す。

 

「ちょ、まッ……! ゼェ、ゼェ! ……そ、その……ヒュー、ヒュー! ぼ、ぼく……だち……ゴホ、ゴホッ!」

「とりあえず少し休め。なに言ってんだか分かんねーから」

 

 松平に言われたとおり、汗をダラダラ流しながらじっくりと息を整えていく新八。そんな彼の姿を、松平を含めた研究員たちや真選組の面々が見つめる。

 やっと喋れるまでに息が整ったのか、新八は息をすぅーと吸ってから吐き、深呼吸。やっと新八がまともに喋れるであろうと判断した松平は、改めて訊き直す。

 

「っで? 用件は?」

「僕たちに、その瞬間移動装置を貸してください!!」

 

 声を上げる新八の言葉を聞いて、松平は「あん?」眉間に皺を寄せる。

 

「なんのつもりだ、お前?」

 

 土方は怪訝そうに眉間に皺寄せて新八を見つめ、松平はジロリと鋭い眼光を新八から別の人物へと向ける。

 

「それよりも、この機械(カラクリ)のことについては、極秘のはずなんだがなァ……」

 

 新八の後ろで、いたたまれないようにおどおどしている山崎は、松平の視線に気付いて肩をビクッと震わせ、視線を泳がす。

 松平の言いたいことを理解した土方は額に青筋を立て、山崎に向かってダッシュする。

 

「山崎ィィィィ!! てめェはなに極秘情報簡単に漏らしてんだァーッ! 始末書で済むと思ってんのかァー!?」

「い、いや~その~……断れるに断れなかったというか、新八くんたちも困ってたみたいだし……警察らしく人助けみたいな? アハハハハ」

 

 土方に胸倉を捕まれてガン飛ばされている山崎は、視線を左右に泳がしながらぎこちない笑いで誤魔化そうとしている。だが、そんなものは鬼の副長に通じるはずもなく。

 

「笑って――」

 

 土方は思いっきり頭を仰け反らせ、

 

「済むと思ってんのかァァァァァッ!!」

 

 そのままハンマーを振り下ろすように頭を振って、ズゴォンッ!! と思いっきり山崎の額に頭突きを叩き付けた。

 

「ぎょえええええええええええええッ!?」

 

 山崎は凄まじい衝撃と痛みが脳に直撃し、悲鳴を上げ、額を抑えながら蹲る。

 土方は「反省しろ!」と怒鳴ってから、タバコに火をつける。

 

「とにかく緊急事態なんです! その装置を僕たちに使わせてください!!」

 

 土方が山崎に制裁している間に、新八は松平に交渉していた。銀時が瞬間移動装置の事故でどこかに飛ばされて困っている、という説明を織り交ぜて。

 だが、事情を聞いた松平は少し困ったように渋い顔をする。

 

「ま~、おじさんとしても、お妙ちゃんの弟くんの頼みは聞いてあげたいんだけどね~。さすがに幕府の持ち物を一般市民に使わせたら、いくらおじさんでもいろいろ文句言われちゃうわけで~……」

 

 スナックスマイルの常連どころか上客と言っていい松平は、キャバ嬢に甘い。それこそキャバ嬢のためには、大金をドブに捨てるかの如く豪勢な使い方をするほどの依存度。そして、お気に入りの店で働くお妙と弟である新八にもそれなりのはからいをするみたいだが、さすがにこのような貴重な装置を使わせるワケにはいかないようだ。

 

「そ、そこをなんとかお願いします!」

 

 新八は何度も必死に頼み込むが、やはり松平はなかなか首を縦に振らない。

 

「とっつぁん!! 俺からも頼む!!」

 

 すると横から、いつの間にか装置から出ていた近藤が、必死な形相で新八の援護に回る。凄まじい気迫を発する近藤を見て、松平は意外そうな表情。

 

「どうした近藤。お前がそんなに頼み込むとはァ」

「俺ただ、困っている一般市民であり、わが義弟である新八くんのために、何かしてあげたいだけだ!」

「誰が義弟だ!」

 

 新八はいつの間に自分を義弟認定している近藤にツッコム。

 近藤の言葉を聞いて腕を組む松平。いくら真選組局長の必死な頼み込みでも、彼の心を揺らすだけで、まだOKを出すには至らないようだ。

 

「いいんじゃないでしょうか?」

 

 続いて、彼らの会話に白衣を着た青年が割り込む。新八と近藤は不思議そうに割って入った青年を見る。

 近藤は松平に顔を向けて質問する。

 

「とっつぁん、彼は?」

「ん? あー、こいつァ――」

瞬間移動装置(コレ)の発案者である、安斉腎(あんざいじん)です。一応、研究主任もやらせてもらっています」

 

 人当たりが良い笑みを浮かべながら、ペコリと礼儀正しく一礼する。近藤と新八の二人も「どうも」と頭を下げる。

 挨拶が終わると、腎は松平に話しかける。

 

「彼らにこの装置を使わせても、私は構いませんよ」

「いいのか?」

 

 と、松平が片眉を上げながら訊くと、腎は人当たりの良い笑みを浮かべたまま説明する。

 

「まあ、私もこれを開発する目的が『犯罪者確保』というよりは『人々の役に立つ物』としてですし。一般市民救出という名目で使うなら、いくらか上層部の方々からの風当たりも強くはならないと思います。真選組の方々を救出隊として送るという理由なら、面目も保てるでしょう」

「なるほどな~……」

 

 松平は感心したように顎を右手で撫でる。すると、腎が新八に視線を向けた。

 

「ただ、新八(かれ)は連れていけませんね」

「そ、そんな!? どうして!?」

 

 新八は意味が分からないといった顔で悲痛な声を上げ、腎は笑顔のまま説明する。

 

「さすがに私たちは役職上、あなたを危険な場所に送るなんてことできませんよ。あなたの言った、坂田銀時さんを危険から救い出すために、武装警察である真選組(かれら)を送り出すならともかく、あなたを危険に放り込んでは本末転倒ですから」

「うッ……」

 

 新八は相手のもっともな意見になにも返せなくなったようだ。確かに、自分はただの一般市民。市民救助という名を打つなら、自分を連れて行くなど言語道断だ、と理解したのだろう。だが、理解しても納得ができないようで、悔しそうに俯いている。

 すると近藤が、新八の肩に手を置く。

 

「任せておけ新八くん。万事屋の野朗は、俺が必ず見つけ出してやる!!」

「近藤さん……」

 

 サムズアップする近藤に、新八は嬉しそうな顔を向ける。だが次の瞬間、近藤は怒りの表情で拳を握り締め、吠える。

 

「待っていろ万事屋ァァァァァッ!! 今すぐに()ってやるからなー!!」

 

 近藤の大声が研究所内に響く。

 

 近藤の勢いある態度に、彼の目的をなんとなく察したであろう新八は、呆れた表情で頬を引き攣らせる。それは土方も同じで、近藤が銀時を助けるとは真逆のことを考えていると予想してか、ため息を吐く。

 まぁ土方を含め真選組の面々は知らないのだが、今朝の新聞で言っていたストーカーの正体が、猫であろうとは思いもしないだろう。

 

 誤解を解こうとしてか、新八が近藤に声をかけようとする。

 

「……あ、あの。近藤さ――」

「新八ィィィィッ!!」

 

 新八の声を遮って、遠くから少女の声が響く。

 声に反応して、研究所の入り口に全員の視線が向けば、ドスン! ドスン! と思い足音を響かせながら、プロレスラーのようなマスクを付けた巨大な犬と、これまた同じようなマスクを付けた犬に乗った少女が、猛スピードでやって来る。

 ヒグマ並にデカイ大型犬が、突然現れて突進してきたので、研究所にいた人間たちは驚いて逃げ出してしまう。怪物か何か襲ってきたのだと勘違いしたようだ。

 すると、研究所内でけたたましい警報機が鳴り出し、赤い光が点滅しだす。

 

「……どうやら、彼らが装置を使う状況が、できてしまったようですね」

 

 腎はやれやれといった具合に方をすくめる。

 

 『瞬間移動装置』が置かれた実験場とは別の部屋や廊下にいた研究員たちは、警報装置によるけたたましい警笛を聞いて、すぐさま研究所内から脱出。変わりに、いくつもパトカーやら装甲車がやって来る。

 とにもかくにもこれで、誰かが研究所の装置を使ったとしても、誰にも止められずに使うことが可能な状況へとあいなった。

 

 猛スピードでやって来た犬は、新八の前で地面を滑るように急停止。そしてその勢いに乗じて、乗っていた少女が飛んでスタっと着地する。

 

「ぱっつぁん! 第一計画完了アル!」

「つうかその声チャイナ娘だろ!」

 

 チャイナ服を着てレスラーの覆面を被った少女を近藤は指差す。いくらバカな彼でも、丸わかりな口調と声と恰好ですぐに正体に気付いたようだ。

 

「あ~、なるほど」

 

 沖田は何かを察したように声を漏し、巨大犬を指差す。

 

「つまり、そこの化け物並に馬鹿でかいワンころ使って研究所の連中ビビらせて追い出した後、勝手に装置使う算段ってところだな?」

「おい、眼鏡」

 

 と土方が睨むと、新八は「うッ……」と気まずそうに顔を逸らす。どうやら彼は、神楽が来るまでの時間稼ぎだったらしい。

 

「あー、だからさっき、新八くんケータイで電話してたんだ」

 

 山崎は納得したように拳でポンと手のひらを叩く。どうらや、新八はケータイでこの研究所の場所を神楽に伝えていたようだ。

 

「意外と抜け目ない野朗だな……」

 

 呆れる土方。

 新八は言葉での交渉がダメだと分かっていたようで、最初からこんな強引な手段を計画していたのだろう。

 万事屋で一番の良心とは言っても、やはり新八も万事屋の一人ということか。彼もなんだかんだで、いつも強引でハチャメチャな銀時(おとこ)の影響を受けている一人なのだ。

 

「なに言ってるアルか!」

 

 と神楽がムスっと頬を含ませて腕を組む。

 

「もともとココを無人にして装置勝手に使おうって考えたのは私ネ。そこんとこを履き違えないで欲しいヨ」

 

 新八がすかさず神楽に抗議する。

 

「って、神楽ちゃん! 神楽ちゃんは『覆面被って研究員たちを人質にとった後、装置を使おう』ってほとんどテロリスト紛いな作戦だったでしょ! いくらなんでも内容がアレだから、僕が『化け物が襲ってきたと勘違いさせて、研究員追い出して装置勝手に使おう』って作戦に変更したんだよ!」

 

 話を聞いていた土方と沖田は、呆れたような目線を新八と神楽に向ける。

 

「どっちにしろロクな案じゃねーな」

「つーか、俺たちいるのによくそんな作戦思いつきましたねェ」

 

 警察組織である土方たちがその気になれば、新八たちを捕まえることは難しくない。その点を考慮すればかなりお粗末な作戦だ。

 新八は、真選組の面々に顔を向けて捲し立てる。

 

「近藤さんたちは『覆面を被った人間と合体した犬型エイリアンが研究所に攻めてきた』と言って誤魔化してください! 僕たちは外の警察の部隊が攻め込まない内に、この瞬間移動装置を使って銀さんを助けに行きます!!」

「これは私たちの問題アルからな。お前たちに迷惑かけられないアル」

 

 と腕を組んでキッパリ告げる神楽。土方はすかさずツッコミ入れる。

 

「いや、現在進行形で迷惑かけられてんだけど? ほぼ押しかけ強盗みてーなことしといて、図々しいにもほどがあんだろ」

 

 まぁそうは言うが、なんだかんで土方たちは本当に困った時は手助けしてくれるから、新八も神楽もこのように頼んでいるのだろう。腐れ縁もバカにはできなものだ。

 すると、近藤が前に出る。

 

「いや、新八くん! 俺も万事屋のとこに行くぞ! 俺もヤツを抹殺……じゃなくて助けに行くつもりだ!!」

「今抹殺って言いましたよね!? 銀さん助ける気欠片もありませんよね!? っていうか近藤さん! 今朝言ってた新聞のストーカーは銀さんじゃ――!」

 

 新八が喋っている途中で、神楽が彼の袖をぐいっと引っ張り、近藤たちに聞こえないように耳打ちする。一方の近藤は「ん? 何か言ったか新八くん?」と首を傾げていた。

 

「(新八、今は話べきじゃないネ)」

 

 神楽のまさかの提案に新八は「ちょッ!?」と驚き、小声で返す。

 

「(か、神楽ちゃん! このまま誤解を解かなかったら、近藤さん銀さんをどうするか分からないんだよ!)」

「(だからネ)」

「(えッ!?)」

「(あのゴリラは嫉妬心に駆られ、銀ちゃんをなんとしても見つけ出そうとするアル。そこ利用して銀ちゃんを見つけさせるネ。人数が多い方が、銀ちゃんを早く見つけだせるしナ)」

「(いや、そうかもしれないけど……)」

 

 下手したら、銀時を死体にしてきそうな今の近藤を使っても大丈夫なのかと、新八は心配になっているようだ。

 新八と神楽がコソコソ話しているので、周りの者たちは二人を怪訝そうな顔で見る。

 やっと内緒話が終わったのか、神楽はクルっと振り向く。

 

「っさ、とっと銀ちゃんのとこまで行くアル」

 

 そして神楽は「おいお前」と言って、腎に傘の切っ先を突き付ける。

 

「なんでしょうか?」

 

 神楽に脅迫されている腎は、あまり怖がっている様子を見せず、小首を傾げる。神楽は一枚のディスクを出す。

 

「このディスクには、銀ちゃんの送られた座標のデータがあるらしいネ。これ使って、私たちを銀ちゃんのとこに送るヨロシ」

「……仕方ないですね」

 

 神楽に脅迫されている腎。声では渋々という感じだが、さほど抵抗感を感じさせない様子。ディスクを受け取ると操作盤まで行き、カタカタと瞬間移動装置の操作を始める。

 さきほどは、一般市民を危険な場所に行かせられないとは言っていたが、本心ではなく立場状からの発言だったようだ。素直に言うことを聞いているのが、その表れだろう。

 

 しばらくして、装置が音を立てて起動し始める。

 近藤は気合を入れつつ声を荒げる

 

「よっしゃァーッ!! 待っていろ万事屋ッ!! 今すぐに殺すッ!!」

「おィィィィッ!? もう本心隠す気ないよこの人!!」

 

 新八はツッコミながら、近藤の後に続いて装置の中に入って行く。それを見ていた土方は「しゃあねェ……」と言って、後ろにいる部下二人に顔を向ける。

 

「おい、山崎、総悟。俺たちも行くぞ」

「ええええッ!?」

「え~~、めんどくさ」

 

 山崎は予想外とばかりに驚き、沖田に至ってはあからさまに嫌がる。

 

「近藤さんをこのまま行かせられねーだろ。俺たちがしっかり見張っとかねェと」

 

 対し、土方もあまりのり気ではないが、仕方ないといった顔。

 

「へいへ~い」

 

 沖田はテキトーな返事をし、

 

「なんでこんな事に……」

 

 山崎はうな垂れながらトボトボ歩く。

 そのまま二人は土方の後に続いて装置の中に入って行く。

 すると、

 

「待てッ! 僕たちも銀時のとこに行く! 僕は奴をこの手で斬りに行かなければならない!!」

「若行くところにこの私ありです!」

 

 どこからともなくいきなり現れた、九兵衛と東城まで強引に装置の中に入ってくる。もちろん新八はビックリ。

 

「ちょッ!? 九兵衛さんと東城さん!? 一体いつの間にココに来たんですか!?」

「私が説明します」

 

 と、東城が装置に入りながら事のあらましを話し出す。

 

「真選組の屯所から帰った若は、改めてお妙殿のとこに行くと、新八殿たちが血相を変えてどこかに向かって行き、お妙殿に話を訊くと『新八殿たちが銀時殿の所に向かったらしい』と聞いたので、若は憎き恋敵を成敗せんがため、ここまでやって来た次第です」

「九兵衛さん! 姉上の話聞いてないんですか!?」

 

 新八の問いに、九兵衛は不思議そうに首を傾げる。

 

「話? なんの事だ? 妙ちゃんから君たちの話を聞いてすぐに後を追いかけたから、他に何か聞いてはいないぞ」

「あァ! めんどくさい時に余計にメンドーなヤツが……!!」

 

 土方はどんどん状況が酷くなっていくことに対して、頭痛を覚えて右手で頭を抑える。

 すると今度は、神楽が九兵衛たちの勢いに便乗し、

 

「定春。私たちも行くアル」

「ワン!」

 

 鳴く定春とともに装置の中に入ってくる。

 そして定春は頭からではなく、なぜかバックで装置の中に入っていく。

 

「なんで後ろ向いて入ってくんの!?」

 

 装置に尻を向けながら入って来る定春の進行方向に立っていた近藤。毛で覆われた白い尻が彼に迫り、近藤は装置の端に追いやられ、どんどん後ろに後ずさる他なくなる。

 後退する近藤の疑問に、神楽が答える。

 

「定春は体が大きいから、出る時に前向きにならないと出るのが大変アル。なら、最初から前向いた状態で出れるようにした方がイイネ。バック駐車と同じ原理アル。メンドーなことは先にやるって奴ネ」

「いや、別の場所に転送されるんだから出口もヘッタクレもないんだけど!?」

 

 ついには装置の端に追い込まれた近藤は悲痛な声でツッコム。

 

「つうか一気に狭くなりやがった!」

 

 土方の言うとおり、それなりのスペースがあった装置の中も、一気に狭くなる。既に七人も人間が入っている上に、ヒグマ並の大型犬がプラスされれば仕方ない。

 そしてなんだかんだ言っている内に、ついに近藤の顔に、毛で覆われた定春の尻が押しつけられる。

 

「ギャァァァァァッ!! せまい! 苦しい! 暑苦しい!! そしてなんか臭い!!」

 

 近藤はガラスの壁と定春の尻に挟まれ、悲鳴を上げる。しかもちょうど顔を押し潰されているので、余計に苦しいはずだ。

 

「おい、明らかに定員オーバーじゃねーのかコレ!!」

 

 土方はこのぎゅうぎゅう詰めでちゃんと転送されるのか心配になる。

 

「おい、チャイナ! この犬どけろ! せめェだろうが!」

「ああん? オメェが出ればいいだろうが!」

 

 とメンチ切り合う沖田と神楽。

 

「神楽ちゃん! 定春出して! 苦しいィ!」

 

 定春の体に押し潰される新八も近藤と同じように悲鳴を上げる。

 

「ウゥ……」

 

 すると定春が顔を力ませ、声を唸らせる。

 

「えッ……?」

 

 飼い主の一人である新八はすぐに定春の様子を見てなんのサインであるか分かったようだ。

 

「ちょッ!? ま、まさか……! か、神楽ちゃん! ちょッ、コレ!」

 

 新八の顔はどんどん青くなり、神楽は定春に顔を向ける。

 

「あ、定春。〝ウンコ〟アルか? ダメアルヨ定春、こんなとこでしちゃ。メッ!」

「「「「「…………えッ? 」」」」」

 

 軽い感じで定春を優しく叱る神楽の言葉を聞いて、装置内にいた新八以外の全員(沖田を除く)の思考が一瞬停止。だがやがて、

 

「「「「「ええええええええええええええええええッ!?」」」」」

 

 悲鳴にも似た叫び声を沖田を除いた全員が上げる。

 いの一番に悲鳴を含ませた声を上げるのは、定春の尻に押し潰されている近藤。

 

「ちょっとォォォォォッ!? 俺一番危険な位置(ポジション)にいるんだけどォ! えッ!? なに!? 俺の顔に定春くんのウンコがァァァァッ!?」

 

 近藤は、自分の顔に出来立てウンコが直接ぶっかけられるなんて、考えただけでも想像絶する事態に悲鳴を上げる。彼はなんとか出ようともがくが、一切動くことができそうになかった。

 慌てる土方はあることに気付く。

 

「おいィ!? もう扉閉まってんぞ! 早くコイツ出さないと、近藤さんが大変な事に!!」

 

 慌てて山崎が強化ガラスを叩いて、腎に扉を開けるように伝えようとする。

 

「安斉さん!! この扉開けてください!!」

 

 だが山崎の声が聞こえないのか、外にいる腎はニコニコと手を振るだけだ。

 

「あの人こっちの状況が全然分かってないィィィ!!」

 

 山崎は悲鳴のように声を上げる。

 

『ザザ……あー、皆さん。聞こえますか?』

 

 すると突如として、装置の中からスピーカーを通したような声が響く。

 

『安斉です。ちょっとお伝えしたいことがありまして』

「あ、安斉さん!?」

 

 と新八は驚き、土方はツッコミ入れる。

 

「なんだよ! ちゃんと外と連絡が取れるんじゃねーか!!」

 

 スピーカー越しに腎が説明を始めた。

 

『もうすぐ転送が始まります。ただ、どうにも重量オーバーのようで、目的地にちゃんと到着できるか保障ができません』

「だったらとっと扉開けて装置を止めろォーッ!! それに他にも開けて欲しい理由があってだな――!!」

 

 土方が定春のことを説明する前に、腎が少し言い難そうに喋る。

 

『あー……それなんですが……もう転送を中断することができないようです』

「ああッ!?」

 

 土方はまさかの発言にキレ気味に驚きの声。それは他の面々も同じようで、どういうことだ? と言いたげな顔。沖田と神楽だけは、またメンチ切りあっているが。

 

「ど、どういうこと!?」

 

 近藤は顔を押し潰され、涙目になりながら説明を求める。そして腎が説明を開始する。

 

『どうやら、外にいた警察の部隊がもうすぐこの研究室に到着するようです。さきほど松平様が確認されました。今中断すると、転送すらできなくなりますし、仕方ありませんからこのまま転送を続行させてもらいます』

「「「えええええええええええええええええええッ!?」」」

 

 近藤、新八、山崎は揃って悲鳴に似た声を上げてしまう。

 このまま扉が開かないということは、定春の尻の穴から排泄物が出るのを待つのと同義。

 

「そ、そんなァァァァッ!!」

 

 と山崎は嘆き、近藤は必死に懇願。

 

「さ、定春くぅぅぅぅぅん!! このまま転送が終わるまで我慢してェェェェッ!!」

 

 定春も人の言葉が分かるほどそれなりに利口な犬ではあるが、やはりそこは動物。人間みたく生き物の摂理を我慢できるはずもなく。

 

「ゥ~~ン……!」

 

 と定春は力む。

 ブリ、ブリブリブリ!

 

「お゙お゙ッ!? お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙お゙!!」

 

 近藤はジタバタ暴れながら、肥溜めの波に飲み込まれていく。それを顔真っ青にしながら眺める土方、新八、山崎、東城。

 すると、定春の脱糞が合図かのように装置の中が光に包まれる。

 

 新八たちの転送をタバコを吸いながら眺める松平。彼はサングラスをしているから光は大丈夫であるが、隣にいる腎は腕で光を遮りながら、事の成り行きを見守っている。

 そして光が収まれば、装置の中にはウンコが残されているだけだった。

 

「……行っちまったよーだな」

 

 松平はタバコの煙を吐いて呟くと、腎が問いかける。

 

「っで、これからどうするんですか松平様? 本当のことを上層部の方々に報告しますか?」

 

 タバコを吐きながら松平は告げる。

 

「まー、今の状況なら事実を言わんでもいいだろう。部下の我がままに付きやってやるのが良い上司というもんだ。そうすればこっちの我がままにも、あいつらを付き合わせられるしな」

「なるほど」

 

 腎は感心したように言葉を漏らす。すると武装した警察の部隊が研究室内にやって来る。

 

「お怪我はありませんか松平様!」

「ん、まーな」

 

 松平がやって来た部隊の一人に当たり障り無く返事をすると、武装隊員は不思議そうに尋ねる。

 

「一体、何があったんですか? 逃げてきた研究員たちの話では、ここに怪物が襲ってきたとか……」

 

 松平は髪を掻きながら少し間逡巡した後、口を開く。

 

「覆面を被った人間と合体したエイリアンが襲ってきたんだよ」

「はっ?」

 

 

 銀時たちが住む江戸とは違う地球にある町――海鳴市。

 そこに済む小学三年生の高町なのは。少女は、栗色の髪をツインテールにして結ぶリボンをほどきながら、窓から見える夜空を眺めていた。

 すると、夜空に一つの光が零れ落ちるように降る。

 

「あ、流れ星だ。明日、なにか良いことあるかな?」

 

 と笑顔を作りながら、明日の学校に備えてなのはは就寝するのだった。




クリスマスも過ぎていよいよ年末本番ですね。
やっとぱっつぁんたちを海鳴市に送ることができました。
これでやっとなのはも話に絡めることができます。


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第八話:訪れるものたち

今回やっとなのはたちをまともに出すことができました。


 どこかの公園。

 

「…………」

 

 公園の中心に立つ男――近藤勲。手入れがあまりされていない彼のボサボサ髪の頭。その上に、できたてほやほやの定春のウンコがデコレーションされていた。

 汚い物の代名詞であり、お子さま向けギャグの定番でもある物体が、近藤の頭に乗っかっている。一言も喋ろうとせず、直立不動で立っている彼の顔は下を向き、この世の終わりのような表情。

 ぶっちゃけ、頭にウンコ乗せたおっさんが公園の真ん中でじっと動かず立っている姿は、シュールで異様だ。まさにエンガチョ。

 

「エンガチョ」

 

 と神楽は一言。

 

「いや、ホントに言わないで神楽ちゃん!! これ神楽ちゃんのせいなんだから!!」

 

 新八が叱るとチャイナ娘は口を尖らせる。

 

「なんでアルかァ? ゴリラにウンコしたのは定春ネ」

「ペットの不祥事は基本的に飼い主の責任だ。責任もって近藤さんをフォローしろ」

 

 土方がタバコを吸いながらたしなめる。

 

「おめーがしろヨ、フォロ方」

「誰がフォロ方だ!」

 

 毒舌チャイナ娘に土方は怒鳴った後、ほれと首で促す。神楽は渋々といった具合に近藤に近づく。

 

「おい、近藤」

 

 近藤の肩を神楽がポンと叩く。そしてウンコゴリラが振り向けば、チャイナ娘のフォローが入る。

 

「これを機に運が付いた思えばイイネ。ウンコだけに」

「どんなフォローしてんだ! ただの追い打ちじゃねェか!!」

 

 土方は怒鳴りながらツッコミを入れる。

 

「つうか全然ウマくねーんだよ!! 不謹慎だろうが!」

 

 神楽は土方にジト目向ける。

 

「お前のツッコミ、新八並にクドいアルな」

「なんどとコラァ!!」

 

 土方は額に青筋浮かべさらに怒鳴り声を上げる。怒りのあまり腰の刀に手を掛け、抜刀一歩手間。横では新八が「ちょっと神楽ちゃんそれどういう意味ィ!」とツッコンでから神楽を叱る。

 

「さすがに今のは神楽ちゃんが悪いよ! 土方さんも落ち着いて! 今は近藤さんを元気付けないと!」

 

 ああクソ! と土方は髪を掻き毟り、なんとか自分を落ち着けようとする。一方、山崎が探り探り近藤を慰める言葉を言う。

 

「きょ、局長……元気……出してください。いつか、その……きっと、良い事ありますよ。それに、服に付かなかっただけでも不幸中の幸いなんじゃないかと……」

 

 ただ、励ます山崎は、近藤の肩とか体に触れようとしない。

 すると新八も「そ、そうですよ」と言って、山崎と同じようにやんわり慰める。

 

「神楽ちゃんの言ったことはアレですけど、こんだけ悪い事が起こったんですし、その見返りに今度は良い事が起こりますって」

 

 だが、慰めの言葉をかける新八も、触ろうとも近づこうともしない。

 良識ポジからの言葉を受けても、近藤の気持ちが高揚する気配は無し。そして、神楽も元気付けようと。

 

「そうアル。お前は普段脱糞するようなウンコキャラなんだから、そんなに落ち込むなヨ」

「オメーはもう黙ってろ!!」

 

 土方が神楽の余計な一言に怒鳴る。

 神楽の一言がトドメになったのかは分からないが、近藤は目に涙を溜めて両手で顔を覆い、嗚咽を漏らしながらも泣くのを我慢している。わんわん泣かれるよりもかなり悲壮感漂う姿に、新八は凄く罪悪感を覚えたようで、なんとも言えない悲しそうな表情だ。

 傷つく近藤。沖田のジト目が神楽たちに向く。

 

「あ~あ、泣かせちまった」

「今は近藤さんを放っておこう。こういう時は落ち着くまでそっとしておくのがいい」

 

 さすがは土方。真選組でも一番フォローしている男だけあって、こういう時の対応の仕方も心得ている。

 「とりあえず」と言って土方は周りを見渡す。

 

「ここがどこで、〝万事屋〟の野朗が近くにいるのか探索するのが先だ。見たところ、ここは歌舞伎町でも江戸でもないからな」

 

 近藤は土方の言った『万事屋』という単語を聞いて、耳をピクっとさせ、泣き声が止まる。

 

 土方の言うとおり、今いるのは公園。近くを見渡してみた限り江戸の町ではないようだ。建物の様相や町並みは江戸や歌舞伎町に近いものだが、やはり住んでいた町とは違う部分があるのはすぐに分かる。やはり、ここは自分たちの知らない土地であるのだろう。

 沖田が「そうでさァ」と言って同意を示す。

 

「まずは〝旦那〟見つけるのが先決ですぜ。そうすれば、後は帰るだけですから」

「でも、周辺の探索も必要ですよ」

 

 と、新八が沖田の考えに意を唱えつつ意見を言う。

 

「どんな危険が待っているのか分からないんですから。〝銀さん〟を探すにしても、探索の後に捜索を開始しても損はありません」

 

 銀時を示すフレーズを聞いていくうちに、近藤は肩を震わせ始める。それは悲しみからくるものではない。そう、

 

「万事屋ァ……?」

 

 今の近藤の心の奥には、悲しみよりも深い怒りが渦巻いているのだから。

 目を吊り上げ、怒りを徐々に露にする近藤。彼の急激な変化に山崎は驚く

 

「きょ、局長!?」

 

 当の近藤は怒りを燃やし、声を張り上げる。

 

「そうだァァァッ!! 俺はこんなとこでウンコに囚われている暇はない!! 俺は万事屋(こいがたき)を見つけねばいかんのだァァァッ!!」

 

 近藤の目の奥で炎が真っ赤に燃え上がる。そして、ウンコを頭に乗せた男が公園を飛び出し、駆けて行く。その様子を呆然と見ていた土方は、我に返って慌て出す。

 

「お、おィィィィッ!? 今の近藤さん止めろォォォッ!! どんな地域にしろ今の近藤さんほっといたらしょっ引かれるのは目に見えてるぞ!!」

 

 土方の言葉を聞いて真っ先に止めに行くのは、真選組の常識人枠である山崎。

 

「局長ォォォッ!! せめてウンコは落としてから暴走してくださァァァい!!」

「いや山崎さん!! 別にウンコとか関係なく近藤さんの暴走は止めてくださいよ!!」

 

 万事屋の常識人枠である新八がツッコミながら山崎に続き、慌てて近藤を追いかける。

 土方は「くそッ!」と自棄気味に頭を掻く。

 

「そういえば近藤さんの嫉妬を忘れてた!」

 

 近藤が銀時を追って瞬間移動した理由の一部、というか大半が銀時に対する嫉妬(勘違い)。そのことを今さらながらに土方は思い出している。

 今の近藤は考えるよりすぐ行動してしまう、まさに目を離せばいつの間にかいなくなってしまうしん○すけ状態。

 自分の配慮が足りないことに対して、土方はいつもより深くタバコを吸う。なんとか彼なりに、今の状況でも冷静に判断しようと努めているようだ。

 

 すると沖田が「あッ……」と声を漏らし土方が反応を示す。

 

「なんだ総悟? これ以上のメンドーはごめんだぞ」

 

 沖田が思わせぶりに声を出すので、土方はジト目を向ける。土方は既に沖田が碌なことを言わないであろうことは予想しているのだろう。

 沖田は周りに目を向けつつ話す。

 

「近藤さんが旦那に嫉妬丸出ししていることで思い出したんですが、柳生の連中がいませんぜ?」

「えッ?」

 

 土方はその言葉で今まで忘れていた二名の存在を思い出す。

 

 柳生九兵衛と東城歩。

 

 土方は慌てて公園を見渡す。だが、二人の姿はどこにもない。彼女たちも自分たちと一緒に瞬間移動装置でここに転送されているはずだ。今まで二人がまったくセリフを喋らないのは静観していただけかと思ったが、実は二人はどこにもいなかったようである。

 

「アイツらいねェェェェッ!!」

 

 シャウトし、土方は次々と起きるトラブルに対して両手で髪をがしがし掻き毟る。

 

「アイツらどこいった!? つうかなんでいねーんだよ!!」

 

 対照的に冷静な沖田が、顎に手を当てて分析を始める。

 

「そう言えば、なんか重量オーバーでちょっとしたトラブルが起こるかもしれないとかなんとか、研究員の奴がスピーカー越しに言ってたじゃありやせんか。たぶん、それであの二人は別のとこに飛ばされたのかも知れませんねェ」

「たくッ! 次から次にメンドーな事に!!」

 

 土方の憤りがより顕著なものになる。

 出発してすぐにこの有様。いや、出発する前から色々問題だらけだったのではあるが。とにかく、前途多難もいい所だ。

 

「どうします? 柳生の連中探しに行きやすか?」

 

 と沖田が質問すると、土方はキリっと冷静な顔に戻る。

 

「いや、俺たちはここで眼鏡たちが近藤さんを連れ帰ってくるまで、待つ」

 

 タバコを吸って冷静さを保とうとしている上司に対し、沖田は片眉を上げる。

 

「それはなぜですかィ?」

「俺たちはここの地理についてまったく分からねェ。言わば、今の俺たちは右も左も分からねーガキと一緒だ」

「へ~……」

 

 沖田は土方の説明を聞いて生返事を返す。さらに土方は説明を続ける。

 

「そんな俺たちにとって、この公園は目印であり拠点だ。下手にバラバラになって探索するよりも、この公園を中心として探索する方が安全であり着実だ。逆に早く探索しようとここを離れて行くことは、下手したら万事屋の野朗と同じ状態になりかねん。なら、遅くてもここを基点とした探索の方が良い。俺たちもこの地域を把握するにはいくらかの時間が必要だからな。まず俺たちがすることは、眼鏡たちと協力してこの周辺一体を把握することだ。だから、ここはジッと待つぞ」

「分かりやした。じゃー、俺はその辺を探検してくるんで、留守番よろしく」

 

 沖田は手を振りながら公園を出て、まったく知らない町を探索しに出かける。

 土方は「おう」と軽く返す。

 

「――って、待たんかィィィィィィッ!!」

 

 だがそうは問屋が卸さず、すぐに気付いた土方は慌てて沖田を追いかけ始める。

 

「お前俺の話聞いてたァッ!? 下手に動くなって言ってんだろおい!!」

 

 土方が追うが、すると鬼ごっこのように沖田も走って逃げ出す。

 

「やっぱこういう見知らぬ地域に着たら探検したくなるのが、男の性ってもんじゃありやせんか?」

「知らねーんだよお前の冒険心なんて!!」

 

 土方は逃げる沖田を捕まえようとするが、沖田はまったく捕まらず軽口まで叩く。

 

「土方さん一人でここにいればいいじゃありやせんか」

「お前はここいらの地理まったく把握してねェだろ! 考えずに探索してたらすぐに迷うだろうが!! メンドーごと増やすなって言ってんだよ!!」

「お母さん。俺はもう子供じゃねーから」

「誰がお母さんだ!!」

 

 そんなこんなで沖田を追いかけて土方も公園を出て行ってしまう。既に全員散り散りのバラバラである。

 

 

 実は公園で近藤たちが騒ぎ始めた頃に、彼らを目にしていた者たちが三人。その三人は公園の草場の陰で彼らの珍騒動を唖然と見ていた。

 開口一番に口を開くのは、ツインテールの少女。

 

「さ、さっき、あ、頭にう、ウ○チ乗せたゴリラっぽい人が走っていったと思ったら、残った黒い服の男の人たちが騒ぎながら追いかけっこしてたけど……」

「なのは! そ、そういう汚い言葉を軽率に使っちゃダメよ!」

 

 金髪の少女がたしなめ、黒髪の少女が首を傾げる。

 

「なのはちゃん、アリサちゃん。やっぱり、さっきの人たちって学校で言ってた不審者って人たちなのかな?」

「間違いないわすずか」

 

 と金髪の少女は頷き、語る。

 

「正確に言えば変質者ね。格好も普通のモノじゃなかったし。二人とも、ああいうのとは関わらない方がいいわ!」

 

 アリサと呼ばれた少女の言葉を聞いて、他二人は「う、うん」頷く。

 一部始終を見ていたアリサはさっきまで公園に居た彼らを変質者と確定し、なのはとすずかは戸惑いながら納得する。

 

 右から一列に並んで、

 金髪の少女はアリサ・バニングス。

 栗色の短めのツインテールをした少女が高町なのは。

 そして、黒髪の少女が月村すずか。

 

 この三人、実は今まで公園の様子を窺っていたのだ。

 

 なぜこの三人の少女がこんなことをしているかといえば。

 友だち同士である彼女たちは学校の帰りに公園の近くを寄ったら、なにやら騒がしい声が聞こえた。気になりつつも警戒を怠らず、身を草むらに潜めながら公園の様子を窺う。そしたらなんと、あまり見慣れない格好をした人物たちがやたらめったら騒いでいるのだ。そしていきなり、頭にウンコ乗せた男が叫びだしたと思ったら走り出す。そりゃあもうテレビでも見れないような珍騒動に、三人の目は釘付け。

 そのまま一部始終を見終われば、デカイ犬が一匹と赤い服の少女一人だけが公園に取り残された光景、というワケである。

 

 ふとなのはが「あれ?」と首を傾げ、

 

「どうしたの? なのは」

 

 アリサがなのはの声を聞いて顔を向ける。

 なのはは顔を左右に振って、ツインテールを揺らしながら公園を見渡した後、公園を人差し指でさす。

 

「さっきまでいた、中国の人みたいな服を着た女の子が、いつの間にかいなくなってるの!」

「えッ……? あっ!」

 

 アリサは気づき、すずかも唖然とする。

 

「ほ、ホントだ! 全然気が付かなかった……!」

 

 頭にポンポンを二つ付け、チャイナ服を着た、赤毛の少女の姿を三人は首を左右に振って探す。だが、いくら探しても少女の姿が見えず、三人は再び公園に顔を向ける。

 なのはは巨大犬を見る。

 

「なんか、あのシロクマさんだけになっちゃったね」

 

 アリサが「違うわよ」と言って訂正する。

 

「あれは犬よ。白熊じゃないわ。なのは、あなたクマも見たことないの?」

「ええええええっ!? アレ、犬なの!? あんなにおっきいのに!?」

 

 となのはは驚く。無理もない。いくらなんでも、あそこまでドデカイ犬はテレビですら見たことがない。クマかなんかだと言われれば、まだ現実味があるというものだ。

 アリサは顎に手を当てて犬を分析し出す。

 

「もしかしたら、日本外の種かもしれないわ。もしくは、まだ未発表の新種とか、もしくは突然変異とか、はたまた人工的に品種改良されたのかも……」

 

 などと、アリサはあまり聞き慣れない単語をぶつぶつ言いながら、公園の中をどしんどしんと歩く巨大犬を考察する。そんな友たちの姿を見てなのはは苦笑。

 

「あっ、なのはちゃん、アリサちゃん。あの犬さん寝ちゃったよ」

 

 すずかの言葉を聞いて、ヒグマ並みにデカイ白い大型犬に二人は視線を向ける。

 いつの間にか白い犬は、公園の真ん中で堂々と前足を組んで寝ていた。するとアリサは決意の篭った声で言う。

 

「……あたし、ちょっと、近くまで行ってみる」

「えッ!?」

 

 近づく親友になのはは驚き、「アリサちゃん!?」とすずかも慌てている。

 アリサの真剣な顔見れば、犬好きである彼女が今まで見たことないような犬に出会ったことで、触れ合いたいとでも思ったのだろう。

 ともかく、あんな大人でも丸呑みにしそうな大型犬に近づくのは危険だと思ったなのはは、アリサを引き止める。

 

「アリサちゃん! いくらなんでも危ないよ! もし噛まれた怪我だけじゃ済まないよ!」

「そうだよアリサちゃん!」

 

 すずかも引きとめようと声を出すが、アリサは歩を進め続ける。

 なのははアリサが動いた時に声だけでなく、手を引いて止めようと彼女の手を摑もうとした。だが、親友は思ったよりも早く草むらから飛び出してしまったので、引き止めることは敵わない。

 

「大丈夫よ。おとなしそうだし」

 

 どうやら今のアリサは、恐怖心より好奇心のが強いらしい。

 

「それに、こんな珍しい犬と触れ合える機会なんて滅多にないわ……」

 

 巨大犬に近づくに連れて、アリサは声を殺して歩を遅くし、にじり寄るように近づいている。いくら犬好きのアリサでも、やはり警戒心は持っているようだ。

 傍まで近づき、アリサが犬に触れようとした直前、誰かが彼女の服の袖を掴んで引き止める。

 

「って、なのは!」

 

 アリサが少し不満そうな声を出して振り向けば、不安そうな顔のなのはと、後ろでなのはの肩を掴んでいるすずかの二人がいる。

 

「だ、だって……危ないし……」

 

 なのはは弱々しい声を出しながらもアリサを引き留めようとする。

 いくらドスやGとか付きそうなほどデカイ犬が怖いとはいえ、友たちをみすみす危険に晒せないなのは。彼女は勇気を振り絞って、アリサの危険な行動を止めようとしているのだ。

 

「女は度胸! やる時はやるの!」

 

 と、気が強いアリサは頑なに犬との接触を止めようとしない。一度決めたら意地もやり通そうとするような性格の彼女らしいが、こういう時までそれを発揮してほしくはないと、なのはは思ってしまう。

 そして再び顔を前に向けるためにアリサが振り返った時、目の前には大きくつぶらな瞳が二つ。

 

「っ!?」

 

 アリサは思わず息を吸ったような声を出し、自分をじっと見つめる巨大な白い犬に圧倒されていた。彼女と目線を合わせるために顔を低くしているのが、なお巨大犬の圧迫感を増大させている。

 そう、白い巨大犬はいつの間にか起きて三人の前に立っていたのだ。

 寝てたならともかく、何をするか分からない起きた状態である犬を前にして身を固めてしまうアリサ、なのは、すずか。

 顔を強張らして固まっていたアリサ。だがやがて、冷や汗を流しながらも口元をギュッと引き締め、拳を強く握り、背負っていたカバンを地面に置く。なのはとすずかはアリサの行動に首を傾げる。

 

「あ、アリサちゃん?」

「なにしてるの?」

 

 この常識離れした犬相手にどんな行動をしようというのか。二人の疑問にアリサはカバンを弄りながら答える。

 

「いくら大きくても犬は犬でしょ? なら……え~っと……たしかここに……。……あっ!」

 

 アリサはカバンからある袋を取り出した。まさかドラ○もんのようにきびだんご出して、この犬を手懐けるつもりなのか。

 アリサが袋から手を入れて取り出したのは、ビスケットだ。

 

「アリサちゃん、それは?」

 

 となのははビスケットを指さす。

 

「犬用のビスケットよ。もしもの事を考えて、いつもカバンに入れているの。まず動物に自分が害のない存在だって教えるなら、食べ物を与えればいくらか警戒心をなくすことができるわ」

「へ、へぇ……」

 

 なのはは微妙な顔で相槌を打つ。

 アリサは目の前の巨大な犬を手懐けようとでもいうのか。なのはとしては、母親から犬や猫などに餌を与えると懐いて付いてきてしまうことがあるから、無闇に餌を与えてはいけないと教わっているため、大丈夫かと心配になってしまう。

 まぁ、アリサは俗に言うお金持ちな家の育ちなので、家に捨て犬などを何匹も飼っている。だからもし懐かれても、大丈夫だと思うが。

 

「ほ、ほら。食べなさい」

 

 アリサは犬の顔の前にビスケットを乗せた手を出す。若干声が震えているところを見ると、まだ怖がっているようだ。

 すると犬はビスケットの近くに鼻を寄せ、すんすんと臭いを嗅ぎ始める。こんなデカイ犬だとビスケットがかなり小さく見える。どっちかというと、アリサが餌と言われればしっくりくるほど。

 

 どうやら食べれる物と判断したのか、犬は口を少し開け――カブリと目にも留まらぬ速さで、〝アリサの頭〟を丸ごと食べた。グチャリとエグイくらいに肉が引き千切れる音がし、鮮血が飛び散る。アリサの頭は犬の口の中に入り、グチャリグチャリと咀嚼音が犬の口の中で鳴る。

 首から上が無くなったアリサを見て友たち二人は、

 

「「きゃああああああああああああああああああああああああああっ!!」」

 

 溢れんばかりの悲鳴を上げるのだった。

 

「――って、ことになっちゃうよ、アリサちゃん」

 

 と涙目で言うなのはの想像を聞いたアリサは、

 

「なるかァァァッ!! どんなホラー映画よ!!」

 

 涙目で自分の妄想を吐露した親友にツッコミを入れる。

 なのはのイメージがあまりに怖かったのか、アリサの顔は青くなり目に涙を溜めている。汗を流しつつアリサは親友にツッコム。

 

「っていうかなのは! あんたいつからそんな怖い想像するようになったの!? それにあたしはビックリなんだけど!」

「前に家族一緒にホラー映画鑑賞した時に、犬の幽霊が人を襲う映画を見たの。いっぱい血が飛んでたの」

「あなたの親、小学生の娘にそんな映画見せたの!?」

 

 ちなみに、なのは同様に父と兄も映画を見て顔が青ざめていたのだが、母と姉は結構大丈夫そうだった。その上「グロテスクなだけで他に見所なかってね」なんて余裕のコメントするくらいだったのを覚えている。

 

「そうだよなのはちゃん。アリサちゃんの頭が食べられるなんて変だよ」

 

 すずかの言葉にアリサも頷く。

 

「そうよ。そもそもあたしが食べれるなんて想像すること事態まちが――」

「これくらいおっきな犬さんなら、アリサちゃんなんて体ごとぺロリだよ」

「いや、そっち!? 言うことそっちなのすずか!?」

 

 ホラー映画のように、自分が死ぬ想像をすること自体がおかしいと言おうとしたのに、なぜか自分がどういう殺され方するのか、という話題になってしまったことにアリサはついツッコミを入れてしまう。

 

「首だけ食べられるよりも、体全部食べられた方がある意味斬新だとわたしは思うの」

 

 とすずかは真剣な表情で語る。

 

「いや、なにその映画批評みたいな言い方! そもそもあたしは食べられ――」

 

 すずかの天然なボケにアリサがツッコミ入れてる途中で、カプっと犬がアリサの手をビスケットごと食べてしまった。

 

「えッ?」

 

 アリサは目の前の出来事に目をパチクリさせる。それを見て開口一番になのはが叫ぶ。

 

「うわァァァ!! ホントに食べられたァァァッ!!」

「あ、アリサちゃん!」

 

 すずかも慌てた声を出すが、すぐにアリサの腕を掴む。

 

「は、早く抜かないと!」

「う、うん!!」

 

 なのはは戸惑いながらも頷いてアリサの腕を掴み、二人は急いで友たちの手が噛み千切られる前に、引っ張って手を引き抜こうとする。

 すると、

 

「あはははははッ!!」

「「あ、アリサちゃん!?」」

 

 二人はアリサが突然笑い出したことに驚く。

 

「くッ……くすぐったい! や、やめてッ!!」

 

 あははははっ! とアリサは笑い声を上げながら悶える。やがて白い犬は、アリサの手を口から離す。多少ベタついているが、アリサの手は無傷だった。

 

「あは……あははは……。も、もぉ~! なにすんのよ!」

 

 やっと笑いが収まったアリサは、いきなり自分の手を舐めた犬を睨み付ける。

 なのははアリサの手からビスケットがないことに気付く。

 

「あッ……もしかして。アリサちゃんのビスケットを、舌で食べたのかな?」

「えッ?」

 

 声を漏らし、アリサは改めて犬を見る。なのはの予想通りなのか、犬が口を動かしながらポリポリと何かを食べていた。どうやら、器用に彼女の手から舌でビスケットを掬い取って食べたようだ。

 アリサはハンカチで手に付いた犬の唾液をふき取る。

 

「ま、まぁ、予想外だったけど、ちゃんと食べてくれたようね」

 

 手を拭き終えた後、アリサはまた袋からビスケットを取り出す。すると犬はまたビスケットに口を近づける。

 

「待て!」

 

 とアリサが犬の前に掌を出し、犬は動きを止めた。続いてアリサは掌を上に向ける。

 

「お手よ。このビスケットが欲しかったらお手しなさい」

 

 アリサは自信満々な顔で犬に告げ、すずかは小首を傾げる。

 

「アリサちゃん。もしかして躾けてるの?」

「そうよ。餌を与えるなら、こういうことはちゃんと覚えさせないと」

(それって、飼い主がすることなんじゃないかなぁ……)

 

 なのはは既に躾を始めてしまうアリサに苦笑してしまう。

 彼女はもう飼った気でいるのだろうか? たぶん目の前の巨大犬は、さきほど公園で騒いでいた人たちのペットでは? といった具合にいろいろな疑問点をなのはが考えていると、犬は右足をゆっくりと上げる。

 

「あッ……」「す、すごい……」

 

 同時に驚くすずかとなのは。

 これが何匹もの犬を飼っている少女の成せるわざか。会ったばかりの犬をこうも簡単に手懐けてしまうとは。ただ単に飼い主の躾が行き届いているだけかもしれないが。

 感心するすずかとなのはだったが、犬はアリサの頭の上にお手をした。

 

「うッ……」

 

 アリサは肉球の付いた足を頭に乗せられ声を漏らす。そんな彼女の滑稽な姿を見て、つい笑いを零してしまう後ろの二人。

 

「あ、アリサちゃん……」「だ、大丈夫……?」

 

 ふふ、と噴出しそうになっている二人を見て、アリサは肩を震わす。

 

「うるさいうるさい! 笑うんじゃない!」

 

 犬の手を払いのけて怒るアリサ。だが、すずかとなのはははまだ笑い終えない。

 

「ご、ごめん……フフ」

「で、でも……今のちょっとおかしくて……ハハ」

「あ~もぉ~!」

 

 アリサは親友二人に自分の恥ずかしい姿を見せてしまったことに赤面し、髪を掻き毟っている。

 犬は目の前の少女たちの様子に興味がないのか、欠伸をかくとそのまま腕を組んで寝てしまう。

 

「って、なに寝てるのよ! あんたのせいで笑われたのに!」

 

 我関せずといった態度の巨大犬に対してアリサは文句を言い、掴みかかる。だが、犬に触れた途端、アリサの動きがピタっと止まる。

 

「アリサちゃん?」

 

 アリサの様子が見るからにおかしいため、なのはは首を傾げる。

 どういうワケか、アリサはなのはの声に反応せず、そのまま犬の毛に体をガバっと埋めてしまう。

 なのははアリサの様子を見て不思議に思い、ジッと動かなくなった彼女に恐る恐る近づく。後ろからすずかも不安そうに近寄る。

 

「あ……アリサちゃん?」

 

 なのはは返事してもらおうとアリサの肩を叩く。すると、風呂か布団にでも入っているのかのようなふやけた声が、アリサの口から漏れる。

 

「ふかふかぁ~……」

「「へッ?」」

 

 二人は間の抜けた声を漏らす。

 すずかが戸惑いつつ声をかける。

 

「あ、アリサちゃん……大丈夫?」

「ッ!?」

 

 思わず意識を別の場所に向かわせていたであろう金髪の親友は、ハッと我に返ると赤面し、両手をバタバタと横に振る。

 

「こ、これはその……! そ、そう! この犬の毛皮が反則なくらいふかふかだからつい!」

 

 何かを誤魔化そうと必死に言葉を出すアリサ。割と自分の落ち度バレしてしまっているのは気のせいだろうか?

 不思議そうに見る親友二人の視線に耐えられなかったのか、突如としてアリサはなのはの背中に回り込む。

 

「な、なのはも抱き着いてみなさい!」

 

 自分の羞恥心を誤魔化しているであろうアリサに、強引に背中を押されたなのはは「わッ!」と驚く。そして彼女はそのまま犬の白い毛に、顔も体も埋もれてしまう。

 

(あ、これ……)

 

 なのはは犬の毛皮を体全体に感じることで、アリサが少しの間意識を手放していた理由が分かった。

 気持ちいいのだ……。

 ふわっふわっの白い毛の固まりは、羽毛で覆われた布団のように心地いい。少々犬特有の獣の臭いが鼻につくが、それを差し引いてもこのもふもふのふさふさは、このまま眠ってしまってもいいと思えるほどの魔力を秘めていた。しかも人間より少なからず高い犬の体温が、ぬくもりの心地よさを底上げしている。

 

「ふかふか~……」

 

 すっかり犬の毛皮布団の虜になったなのは。彼女は両手で白い毛皮を円を描くようにまさぐる。

 なのはの反応を見て声を出す。

 

「……で、でしょ~? この大きさだけあって、犬のもふもふを全体で味わえるんだから、夢中になるのも当然よね!」

 

 自分のどころか人の犬のことについてアリサは自慢げに語り、誇らしげに胸を張る。だが既に彼女の言葉はなのはの耳には入っておらず、頬をすりすりさせたりなどじっくり巨大犬の毛を味わっていた。

 様子を見ていたすずかは戸惑い気味に聞く

 

「えっと、そんなに気持ちいいの?」

「うん……。すっごく、気持ちいいのぉ~……」

 

 つい小さい頃からの口癖を出してしまうほど、なのはにとって犬の毛は魅力的だった。

 なのはの言葉を聞いてるうちに自分も白い犬毛を味わってみたくなったのか、すずかもゆっくりと犬の胴体に抱きつく。

 

「ホントだ~……。すっごいふかふかぁ~……」

 

 すずかもすぐに毛に顔を埋めて緩みきった笑顔を浮かべる。なのはと同じようにすりすり、もふもふと味わう。

 

「…………」

 

 いったん犬から離れていたアリサは、自分を放って毛皮の感触に夢中になっている親友二人の姿を、恨めしそうに見つめている。だがやがて我慢できなくなったのか、戸惑いながらも徐々に犬に近づいていき、ガバっと空いている胴に抱きついた。

 

「もふもふの、ふかふかぁ~♪」

 

 普段のアリサじゃ言わないであろう言葉と声。さらに緩みきった顔で犬に頬ずりする。

 一方、三人もの少女に抱き付かれている犬は嫌な顔もそこから離れることもせず、ただ黙って眠っているだけ。

 公園にクマ並みにデカイ犬に三人の少女が抱きついている、という珍妙な光景が音も無く数分の間続いた時、その沈黙を少女の声が破った。

 

「お前ら、なァ~にやってるアルか?」

「「「ッ!?」」」

 

 突然の声に驚いた三人は、慌てて犬の胴体から体を離し、右に左にと首を振って周りを確認する。犬もその声に気付いたのか、片耳を上げた後にのっそりと体を起こす。

 

「ど、どこ!?」

 

 なのはは今さっきの声の主を探そうと周りを見渡すが、それらしき人物が見当たらない。公園の外の通りには、通行人すら見当たらないのだ。

 巨大な犬は心なしか笑顔になり、斜め上に向かって顔を上げ「わん!」と鳴く。

 なのはたちは犬がどこを向いているのか気になり、犬と同じ方向に目を向ける。するとその先には、公園にある街灯の上で和傘を差し、その赤毛の髪の色と同じような赤いチャイナ服を着た少女が、カエルのように座っていた。

 なのはたちが視線を向けると、少女は右手を上げてあいさつする。

 

「ウッス」

「うわぁっ!?」

 

 とアリサが怯えた声で仰天。そして次にある名前を叫ぶ。

 

「妖怪街灯女ぁー!!」

「「ど、どうしたのアリサちゃん!?」」

 

 街灯の上に乗ったカエル座り少女より、突然怯えながら謎の名詞を叫ぶアリサに、親友二人は驚いてしまう。

 

「あんたたち知らないの!?」

 

 意外そうな表情を浮かべつつ、アリサは指を立てて説明する。

 

「夕方の街灯が付き始める頃になると、街灯の上に乗って一人でいる人間の首に長く伸びる舌を巻きつけてそのまま街灯の上で丸呑みにするっていう、妖怪街灯女のことを!」

「えええええええええッ!? し、知らないよそんなお化け!!」

 

 なのはは突然の都市伝説的な説明を聞いて仰天。横にいるすずかは「あ、聞いたことあるような……」と呟いている。

 

「誰が妖怪アルか」

「「「うわっ!?」」」

 

 三人は、いつの間にか自分たちの目の前に立っているチャイナ服の少女に驚いて、尻餅を付いてしまう。赤毛の少女は顎を手で摩りながら自慢げな表情になる。

 

「まー、私のように芸能人格付けチェックで、全問正解できるオーラを持った女は中々いないアルからな」

「それ街灯じゃなくGA○KT!」

 

 アリサはついツッコミを入れる。

 

「え、えっと……あなたは?」

 

 すずかは恐る恐る、目の前でドヤ顔している少女に質問を試みている。まともに会話できているのだから、アリサの言った妖怪の類でないとすぐに察したのだろう。

 

「私アルか? 私は神楽ネ。お前たちが抱きついていた定春の飼い主的な存在アル」

「そうなんだ」

「首輪が付いているから野良じゃないのは分かってたけど」

 

 なのはとすずかは納得するように言う。

 やがてなのはは、顔の向きを既に神楽へと向けていた定春の顔を優しく撫でる。

 

「君って、定春くんていうんだね? ごめんね。勝手に抱きついたりして」

 

 定春はくぅんと鳴いてなのはの顔をぺロリと舐める。くすぐったそうにするなのは。

 

「おォ、早速定春と仲良くなっているアルな」

 

 神楽は少なからず驚いた顔をする。

 

「ま、まぁ、あたしは最初から妖怪とかそんなんじゃないは分かっていたけどね」

 

 アリサは尻に付いた砂を叩き落としながら立ち上がる。

 

(最初に妖怪の話出したのはアリサちゃんなんだけどなー……)

 

 すずかは自分の恥を隠そうとする親友を見て、困ったなという感じの表情。すると、なのはは思い出したように神楽に話しかける。

 

「そういえば、さっき公園にいた、その…………変な人たちとお知り合いなんですか?」

 

 基本的に良心的ななのはは他人を変人扱いするのに戸惑ったが、他に良い言い回しが思いつかなかった。

 質問された神楽はまた顎に手を当てて、ん~と考えた後、おっ! と声を出す。

 

「たぶんそいつらは私の下僕ネ。まー、多少変な連中だけどナ」

 

 にんまりと口元を吊り上げる神楽の言葉に対して、

 

(あんたも結構変よ……)

(下僕って嘘だろうなぁ……)

 

 アリサは呆れた表情で、すずかは苦笑している。そしてなのははというと、

 

(下僕……?)

 

 そもそも神楽の言葉の意味が分からなかったらしい。

 話を聞いたアリサは呆れた視線を向けたまま声を漏らす。

 

「まあ、人目もはばからず目立つことする人たちの知り合いだけあって、わざわざ時間をかけて街灯に乗るなんてこともできるのね。無駄な労力もいいとこよ」

「なに言ってるアルか。あんなとこに登るなんて私にとっては朝飯前ネ」

 

 胸をバン! と叩く神楽にアリサは食ってかかる。

 

「嘘おっしゃい。あんなの、あんたみたいな子供が簡単に登れるような高さじゃないわよ」

「おめーよりは歳食ってるネ」

 

 神楽はジト目をアリサに向ける。

 なのはもアリサの言うとおりだと思った。神楽の乗っていた街灯は四、五メートル程度の高さがある。自分たちとそれほど歳の差が離れていないであろう少女が登るのはかなり困難だと。

 だが神楽は。

 

「じゃあ、証拠見せてやるネ」

「証拠って? 強がりもいい加減に――」

 

 アリサが言い切る前に「よっ!」と言って上に飛び上がる赤いチャイナ服の少女。

 

「――っと!」

 

 そして神楽は軽々と街灯の上に乗る。

 

「え……?」

 

 なのはが呆然とするのも無理はない。なにせ神楽は一瞬のうちに空高くジャンプし、空中で一回転した後、街灯の上に飛び乗ったのだ。これはさすがに驚くなと言う方が無理な話。

 神楽が軽々しく見せた凄まじい身体能力に、呆然としていたアリサはやっと口を開く。

 

「……や……や、やややっぱり妖怪じゃない!!」

 

 アリサは顔を青くさせながら神楽を指差して叫ぶ。その言葉に対して神楽は憤慨する。

 

「こんな美少女に向かって妖怪とはふざけんじゃねェゾ!」

 

 「あ、アリサちゃん!」となのはが動揺しながら親友をなだめようとする。

 

「た、確かに今のは凄かったけど、いくらなんでも言い過ぎだよ! き、きっと世界にいる超人的な人とかそういうのだよ! 私テレビで見たもん!」

「どこの世界に数メートルも高くジャンプする女の子がいるのよ!」

 

 アリサはなのはの言葉に反論しているうちに、神楽はスタッと軽やかに飛び降りる。そしてなんでもないように語り出す。

 

「そうアル。人間鍛えれば、手から光線出したり、創造したカード引けたり、空を飛んだりできるアル」

「そんな人間いるかァー!!」

 

 とアリサが叫ぶ。

 

「まあまあ、アリサちゃん落ち着いて」

 

 すずかはアリサをなだめようとする。

 神楽は自分の顔を指差しながら言う。

 

「それに私は妖怪じゃなくて宇宙人ネ。田舎もんと一緒にしてほしくないアル」

「結局人間じゃないじゃない!」

 

 アリサが神楽をビシッと指でさす。

 

「いいわ! もし宇宙人ならあたしがNASAに突き出してやる!」

 

 するとすずかが「だ、ダメだよアリサちゃん!」と言ってアリサをたしなめる。

 

「そんなことしたら、神楽ちゃん解剖されちゃうよ!」

「えええッ!? すずかちゃんツッコムとこそこなの!?」

 

 なのははすずかの見当違いな意見にツッコミ入れる。

 

「えッ? 解剖されるアルか?」

 

 すると神楽は喉を手で叩く。

 

「なら、イマカラワタシハチキュウノ美少女ネ」

「あんたあたしのことバカにしてるでしょ!! しかも美少女だけ淀みがないのが腹立つ!!」

 

 アリサは神楽のふざけた態度に余計に憤慨。なのはとすずかは「まぁまぁ」と言ってなんとか親友を落ち着かせようと努力する。

 アリサは神楽にビシッと指を突きつけて質問する。

 

「じゃあ、あんたどこの星出身よ!」

「私の出身アルか? それは――」

 

 神楽は真剣な表情となり、語り出す。

 

 

 ――故郷は、惑星バジータ。そして私はその星で生まれた戦闘民族ヤサイ人。当時赤ん坊だった私は、地球人を侵略するために惑星バジータから送り込まれた尖兵の一人。

 だが、木に頭をぶつけておだやかな心を手に入れる。

 敵、宇宙の帝王グリーザとの戦いで仲間を殺され、ヤサイ人としての血が覚醒した私は一体何者か?

 

 

「――そう……」

 

 突如、神楽は髪を金色にしてオーラを放出。

 

「スーパーヤサイ人! かぐ――!!」

「いや、違うでしょ!! それただのサイヤ人!! ヤサイ人てなに!?」

 

 無論ツッコムのはアリサ。

 

 ツッコミを入れたアリサは「ハァ~……」と深く短いため息を吐いて、うな垂れる。

 

「なんか疲れた……。とりあえず、家に帰るわ」

「おう、帰るヨロシ。子供は家に帰る時間ネ」

 

 と言いながら神楽は手を振る。

 

「子供のあんたに言われたくないけどね」

 

 アリサはジト目を神楽に向ける。

 なのはとすずかは二人のやり取りを見て苦笑を浮かべるしかなかった。アリサとしては、こんな中途半端な形でことを終わらしたくはないだろうが、さすがにボケかましまくるチャイナ服の少女の相手は嫌気がさしたのかもしれない。

 それに神楽の言うとおり、公園の時計の短い針は五の数字を指しており、小学生がいていい時間ではないだろう。

 なのはとすずかは手を振りながら笑顔でさよならを言う。

 

「じゃあね神楽ちゃん」「またね」

「…………」

 

 だが、アリサだけは特に何も言わなかった。さきほどまで仲の良いとは言えない会話していた彼女としては、さよならの言葉などは言えないのであろうが。

 ただ、歩きながら何度も定春にチラチラ視線を向けている。そしてなのはは、アリサが定春に何度も視線を送っているのに気付く。

 

 ――アリサちゃん……。

 

 犬好きのアリサとしてはもっと定春と触れ合いたいのかもしれない。そう思ったなのはは、思わず神楽に声をかける。

 

「あの、神楽ちゃん!」

「ん? なにアルか?」

 

 首を傾げる神楽になのはは質問する。

 

「明日も公園にいるの?」

「たぶんな」

 

 と神楽が曖昧に答えると、なのはは力強く問う。

 

「だったら、また明日も会いに来ていい?」

 

 なのはの問いに神楽はう~んと少し考えた後、「別に構わないネ」と答える。

 

「ありがとう!」

 

 なのはは右手を大きく左右に振ってさようならをする。すると、アリサが突っかかる。

 

「ちょっとなのは! なんであんなこと……」

「だってアリサちゃん。定春くんにまた会いたいって顔してたよ?」

「うっ……」

 

 アリサは図星を突かれたのか、少し頬を朱に染める。

 

「それに、わたしも神楽ちゃんともっとお話したいと思ったし」

「なのは……」

 

 アリサは瞳を潤ませる。

 これはなのはの正直な気持ちだ。半分はアリサへの気遣いもあるが、なのは自身あの不思議な女の子をもっと知りたいと言う好奇心もある。

 するとアリサはぷいっと顔をそっぽ向ける。

 

「ふ、ふん。あたしは『定春』に興味があるだけよ! あんなふざけたこと言う子に会いたいなんて気持ちはこれっぽっちもないんだから!」

「アリサちゃん。なんでそんなに神楽ちゃん嫌うのかな?」

 

 すずかは素直になれない親友に対して苦笑する。

 

「ちょっと変わってるかもしれないけど、そんなに悪い子には見えないよ?」

「アレで普通、好印象受ける方がおかしいのよ……」

 

 とアリサはため息を吐いた後「それに」と言って言葉を続ける。

 

「なんか、あたしに声似てなかった? しかも、なんていうか……録画した時に聞く声……みたいな感じに」

 

 なのはは「えッ?」と戸惑いながらも頷く。

 

「う、うん。まぁ、確かに似てるなーとは思ったけど」

「わ、わたしも……」

 

 続いてすずかも頷き、アリサはムスッとした顔で腕を組む。

 

「なのに、なにあの日本語覚えたての外人みたいな喋り方? あたしに似た声があんなアホっぽい喋り方すんのがなんか腹立つのよ」

 

 アリサはムスっと腕を組んで不満を漏らす。そんな親友に対して、苦笑しか浮かべないなのはとすずかであった。

 

 

 

「定春」

 

 神楽に呼ばれて定春は「ワゥン?」首を傾げる。

 神楽は自分の顔に指を向け、

 

「あの金髪のガキ、私に声が似てたとは思えないアルか? しかも、昔姉御に録ってもらった録画のビデオの時に聞いた、私の声に」

「ワン!」

 

 定春が神楽の言葉を肯定するように吼える。

 

「だけど……」

 

 神楽はしたり顔で言う。

 

「あんなヒステリックなツンデレ口調なんて今どき流行らないアルよなァ?」

「ワ、ワゥン……」

 

 定春は、そ、そう? と言いたげな鳴き声を出す。

 相棒の気持ちなど知らずに神楽は自慢げに語る。

 

「私のようにミステリアスかつ魅惑的な喋り方の方が、あんな小娘よりもキャラが立ってるネ! 声が似ていても私の方が上――」

 

 そう言いながらアリサたちが帰って行った道の方にくるりと向くと、

 

「は、離しなさいっ!!」

 

 捕まり暴れるアリサと、

 

「ンー! ンー!」

 

 口を抑えられるすずか。

 

「アリサちゃん! すずかちゃん!」

 

 そして親友二人を心配しながらついでみたいに捕まるなのは。

 三人の男たちが、なのはたち三人を黒いワゴンに強引に連れ込もうとしていたのだ。

 そしてその男たちに近くから指示を飛ばしているのは、刀を腰に差し、黒い制服を着た、栗色髪の男。

 

「おい、おめェら。とっととしろ」

「へい!」

 

 返事をした男の声の後には、あっと言う間になのははたちはワゴンの中へと押し込まれてしまう。

 そして男たちに指示を飛ばしていた栗色髪の男は、どす黒い笑み浮かべる。

 

「さ~て、これから大金たんまり頂くとするかァ」

 

 真選組一番隊隊長――沖田総悟が乗り込んだ黒いワゴンは、そのまま少女三人を乗せて行ってしまう。

 その様子を呆然と眺めていた神楽の口は、ありえないとばかりに開き、顔は青ざめ、そして一番に思ったことを叫ぶ。

 

「な……なにしてんじゃァァァァァァァァァッ!?」




まさか出してそうそうリリカルなのは主人公に下ネタ言わせることになってしまった。


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第九話:レトロゲームの影響力は強力

「な……なにしてんじゃァァァァァァァァッ!!」

 

 と、思わぬ沖田の登場と行動に神楽が口をあんぐりしている頃。

 一方の近藤と言うと……。

 

「午後十八時五分、海鳴市公園付近で頭に排泄物を被ったまま奇声を上げる30歳近い男性を確保。本部まで連行します」

 

 近藤は現地の警察に捕まっていた。

 警察官の一人は無線で連絡を入れ、もう一人の警察官は逃げないように近藤を抑えている。手錠を腕にはめられ、顔を下を向けた近藤の顔は、もの凄く哀愁を感じさせた。

 そして、警察官は近藤の背中を押す。

 

「ほら、行くぞ」

「ちょっ、ちょっと待って!」

 

 パトカーに入れられる前に近藤は訴える。

 

「俺警察だから! 頭にウンコ乗せてるけど、れっきとした警察だから!」

「はいはい。とりあえず、署の方までご同行してくださいね。そこでいくらでも話聞きますから」

 

 警官は全く聞き入れないが、近藤は尚も食い下がる。

 

「と、とにかく! 俺は警察だから! ほ、ほら! コ、コレ! ちゃんとした真選組の制服! コレ見れば俺が警察のにんげ――!!」

 

 近藤が言い切る前にバタン! と車のドアが閉まり、拘束された近藤は警察署の方まで連行されていく。

 

「ちょっと待ってェェェェェェッ!!」

 

 後部ガラスに顔を押し付ける近藤の叫びは、パトカーが遠くに行くまでずっと続いていた。

 その様子を電柱の影から、新八と山崎が頬を引き攣らせながら見つめていた。

 二人ともなんとか近藤を助けようと思ってはいたのだが、関わって自分たちまで巻き込まれる方が嫌だったので、彼が捕まるまで静観していたのである。

 

 

 

 一方のなのは、アリサ、すずかの三人は、警察の一人である沖田を加えた誘拐犯たちに捕まったのだ。

 定番とも言えるくらいどこぞの倉庫内で体をガムテープで縛り上げられていた少女三人。これから自分たちが何をされるのであろうか、という先にある恐怖に対して怯えが垣間見える。いや、実際に怯えているのはなのは一人で、アリサとすずかに関して言えば怯えた顔というよりも、険しい表情と言う方が合っているだろう。

 

「あ、アリサちゃん、す、すずかちゃん。ふ、二人とも怖くないの……?」

 

 なのはは自分と違ってあまり怯えた様子を見せない友だち二人を見て疑問を感じた。

 汗を流すアリサは余裕の顔を作りつつ答える。

 

「ま、まぁ……あたしも伊達にお嬢様やってないからね。こんなの慣れたもんよ」

「う、うん……」

 

 とすずかも不安そうではあるが頷き、語る。

 

「……わたしも、慣れたワケじゃないけど……ちょっと経験あるから」

「す、凄いね二人とも! 伊達に大きい家に住んでないんだね!」

 

 なのはは怖がっているせいで、よくわからないことを言いながら驚く。

 そもそもテレビで見るような非人道的な犯罪者に拉致されたとなれば、大の大人だって怯えるのが普通であるので、特に強がる必要はないというフォローもできないくらい、今のなのはは動揺しているので見当違いな質問をし出す。

 

「あ、アリサちゃんとす、すずかちゃんてな、何回くらい誘拐とかされたことあるの? な、慣れてるって言ってたけど」

「え~っと……」

 

 アリサは視線を逸らしてから、上を向きつつ考えながら答える。

 

「確か……今回のを入れるとあたしは……三十八回で、すずかは……三十五回くらいだっけ?」

「三十六回だったと思うよアリサちゃん」

 

 とすずかが補足。

 

「えええええええええええッ!? そんなに捕まっているの!?」

 

 なのはは超ビックリ。

 

「ピーチ姫より攫われてる回数多いよね!? ワザと捕まってるの!? ワザとじゃないよねそれ!?」

「ま、まぁ、あたしたち捕まえて一攫千金とかバカな大望抱くやつがいるのよ。ホントムカつくわ」

 

 少し汗を流しながら不満顔のアリサの話を聞いて、すずかが笑顔で言う。

 

「でも、赤い配管工の格好をした鮫島さんがいつも助けてくれるんだよ」

 

 なのははギョッとした顔で驚く。

 

「もう設定はマリオだよね! まごうことなきマリオだよね! っていうか、そこまで行くとやらせとかじゃないの!?」

「あらなのは、あんたやらせとかそんな言葉よく知ってるじゃない。関心したわよ」

 

 と言ってアリサは口元に笑みを浮かべる。

 

「え? えへへへ。ありがとうアリサちゃん。……って、そんなこと言ってる場合じゃないよォ~ッ!!」

 

 なのはは今自分がおかれている状況再確認して涙を流す。

 

「――っていうか、なんで鮫島さんそんな格好して助けにくるの!? 普通はおまわりさんじゃないの!?」

 

 と、またなのははツッコム。

 

「いや、前に……マリオしてた時にね……」

 

 アリサは気恥ずかしそうに説明する。

 

 

『あたしも誘拐された時とか、このお姫様みたいに救われてみたいわね……』

『では、アリサお嬢様。微力ながらもこの鮫島めが、そのお願いを叶えましょう』

 

 

「――って言ったら、鮫島がコスプレしてあたしを助けるようになったわ」

 

 アリサの言葉になのはは冷めた視線を送る。

 

「鮫島さん、もうおじいさんなんだから無理させちゃダメだと思うの……」

「あと、たまにあんたのお兄さんとお父さんもマ○オとルイ○ジの格好で助けてくれたわよ?」

「ウェェェェェェェェェェッ!?」

 

 なのはは衝撃の事実を聞かれて毛が逆立つほど驚く。

 そうやってなんやかんやしていると、

 

「おうおう。こんな状況なのに随分威勢がイイガキどもじゃねーか?」

 

 コツコツと靴音を鳴らしながら、栗色の髪を短く切り揃えた男がやって来る。男は上から下まで黒一色の制服を着用し、腰に刀を差して携帯。現れた人物とは、なぜか誘拐の片棒を担いでいる――沖田総悟だった。

 

「あら、もしかしてあんたがこの連中のボスなのかしら?」

 

 アリサは誘拐に慣れてるからなのか、不敵な笑みを浮かべる。敵に自分の弱みを見せないようにする彼女なりの反抗なのだろう。

 

「たく、気のつえーガキだな。おめェも――」

 

 すると沖田は、アリサではなくなのはの頭にポンと手を置く。恐怖を感じたなのはは、目に涙を溜める。

 

「こいつくらい怖がってくれればいいのによォ」

 

 と黒い笑みを浮かべる沖田に、アリサはプイっと顔を背ける。

 

「ふん、あんたらみたいな社会の不適格者に見せる弱みなんてないわ」

 

 沖田はアリサの顎を掴み、くいっと自分に顔を向けさせる。

 

「なら、じっくりテメーの弱みってやつを暴いてやるとしやすかねェ」

 

 沖田は口元を吊り上げサディスティックな笑みを浮かべる。

 そして、そんな彼らの様子を少し離れた物陰から見ている少女が一人……。

 

 

 

 ――オメェ絶対警察の人間じゃねーヨ!

 

 倉庫内の様子を窺っていた神楽は、沖田のあまりにもあんまりな犯罪者まっしぐらな姿に汗を流す。

 

 ――なんで沖田(あんなの)が警察アルか!? その辺の不良(ワル)がちっぽけに見える悪魔(ワル)だろアレ!

 

 なのはたちが捕まったのを見て、慌てて定春で車を追跡した神楽。今現在、彼女たちを救出するためのチャンスを伺いながら静観して一部始終みていたのだが、この状況だけ見たら沖田は完全無欠の悪党以外の何者でもない。

 

 ――つうかお前はなんで一話も挟まずに誘拐犯になってるアルか!? 一体八話内の間に何がお前をそうさせたアルか!?

 

 下手したら沖田のエピソードだけでも数話くらい作れそうである。

 すると赤いマスクで口を覆った巨漢の男が沖田の肩に置く。

 

「もうその辺にしておけ沖田。俺たちは頂くもん頂いたらもうこのガキどもに用はねーんだ」

「へーい、ボス」

 

 と沖田は軽く返事をし、その姿に神楽がまた内心ツッコム。

 

 ――お前はなんで誘拐犯のボスとそんな親しげなんだヨ!?

 

 遠めで見えなかったが、沖田は自分の肩に乗ったボスの右手をさり気なく見ていたいたことに気づかなかった神楽。

 すると部下たちがひそひそ話し出す。

 

「(つうかあいつ誰だ? なんでいつの間に仲間みたいなツラしてんだ?)」

「(知らねーよ。なんかいつの間にかいたから一緒に誘拐やってるだけなんだし。分け前どうすんだよこれ?)」

 

 ――いや、今に至るまでなんでそんな怪しいやつ入れたままにしてんだよお前ら!

 

 神楽は最早沖田が一体全体なにをしたいのか皆目見当もつかない。

 一体自分はどのような行動をすればいいのか? 普段は眼鏡にまかせっきりのツッコミをこのまましなければいけないのか? そうなると、このまま眼鏡はお払い箱になってしまうのか? いろいろな心配事が増えていく一方であった。

 そんな風に神楽が悩んでいると、誘拐犯たちとさきほどボスと呼ばれた男が沖田を抜きにして、こそこそ話し合っていた。

 

「(ボス。なんであいつを仲間にしたんですか?)」

「(まあ、よくわからんが、利用できるもんは利用するつもりよ。もしサツの連中が来ても、あいつを囮にして逃げようって算段よ)」

「(なるほどぉ。さすがですボス!)」

 

 ――まー、だろうナ。

 

 と神楽は誘拐犯たちの話に聞き耳を立てながら、ジト目を作っていた。

 

 

 

「アリサちゃん。本当にこのままじゃ……」

 

 不安になるなのはに対し、アリサは一息ついてから笑みを浮かべる。

 

「安心しなさいなのは」

「アリサちゃん……」

 

 なのはは目を潤ませ、アリサは余裕の顔で告げる。

 

「ちゃんとあたしの要望どおり赤い配管工になった鮫島が――」

「だからそれが心配なんだよぉ~~!!」

 

 なのはは涙目になって声を上げる。それに対し、アリサはなんとかフォローする。

 

「ま、まぁ、安心なさい。助けに来る格好はともかく、鮫島の実力は本物よ! なにせ、ゲームを再現するためにキノコを投げながら戦うんだから!」

「それキノコの使い方間違ってるよ!?」

 

 なのはの頭で、配管工の格好をしたおじさんがキノコ投げながら犯罪者を倒す絵図らがよぎる。

 さらにアリサは説明する。

 

「それだけじゃないわ。ヒトデやお金やレンガだって投げて戦うんだから!」

「なんで全部投げるの!? 設定の再現中途半端だよね!?」

「ただね、花はバラを使うから少し華麗な感じになるのよ」

「うわぁ……」

 

 なのはは、バラの茎を咥えながらダンディな姿の鮫島(配管工)を思い浮かべてしまった。まぁ、配管工だとダンディさもへったくれもないが。

 するとすずかが思い出したように口を開く。

 

「そういえば、配管工さんの敵の名前ってなんだっけ? わたし忘れちゃったんだけど」

「いや、すずかちゃん!? 今訊くことじゃないよねそれ!?」

 

 なのはは呑気な少女にツッコム。すると、なぜか沖田が会話に入って来る。

 

「焼肉店でよく頼む雑炊みたいなやつだろ」

「それはクッパ! 名前同じだけど!」

 

 ボケになのはがツッコム。そして沖田は天井を見上げながら言う。

 

「どうでもいいけど、焼肉食いたくなってきたな」

「ホントにどうでもいいよね!」

 

 ついツッコんでしまうなのは。慣れないことしたせいで、ゼェ、ゼェと息を切らせている。

 

「つうか、テメェらのマリオごっこなんてこちとら知ったこっちゃねーんだよ」

 

 沖田はやれやれといった感じになのはたち三人から距離を離し、余裕の表情を見せる。

 

「まー、どんな野朗がやってこようが、この俺の敵じゃねーがな。何より、コスプレして助けにくるようなバカ野朗なら尚更な」

 

 と言って背中を見せる沖田。トゲの付いた甲羅を背負う姿がなのはの目に映る。

 

「あなたも十分バカ野朗だよ!!」

 

 となのははクッパのコスプレ男に盛大にツッコミを入れる。

 

「っていうかそれいつ着たの!?」

 

 なのはの言葉に沖田は親指で後ろを指す。

 

「なに言ってんだ、他の連中も見てみろ」

 

 親指の先を見ると、他の誘拐犯たちもクリボーやらノコノコなどのコスプレ姿になっていた。

 

「なんで他の人たちもマリオになってるのォォォォッ!?」

 

 なのはシャウト。誘拐犯たちは恥ずかしそうに語り始める。

 

「い、いや……。警察(サツ)の連中から身分特定されないために、皆で気ぐるみ着てやり過ごそうぜって作戦で……」

「俺たち皆、マ○オで遊んだ世代だからよ……」

 

 話を聞くうちになのはの目はみるみる冷め、

 

 ――なんだろう……。今、全然ピンチを感じない……。

 

 心から恐怖が消えていた。

 沖田はアリサを値踏みするように見つめだす。

 

「んじゃ、後は姫だな」

「ッ!?」

 

 アリサは沖田に発言に頬を赤く染めて、もじもじしながら喋る。

 

「ま、まー……。ちょッ、ちょっと癪だけど……あ、あたしがお姫様役、やってもいいわよ……?」

「いや、アリサちゃん渋々な感じ醸し出してるけど、ちょっと嬉しそうだよね?」

 

 なのははアリサにジト目向け、沖田は指を差して姫役を決める。

 

「じゃあ、ツインテールのお前で」

「えッ? わたし!?」

 

 沖田の指が自分に向いていたので、なのはは驚く。

 

「なんで!?」

 

 そしてアリサはなのはより驚いている。

 

「この流れならあたしじゃないの!? って、顔をこっちに向けなさいよ! 無視してんじゃないわよ!!」

 

 そして少し時間が経ち……、

 

「これでよし……」

 

 沖田はパンパンと手を叩く。

 

「ぅぅ……」

なのは。お姫様のような格好になって恥ずかしいけどちょっと嬉しい。

 

「…………」

アリサ。なぜかついででテレサの格好にさせれて、悔しい上にちょっと悲しそう。

 

「アハハハ……」

すずか。特に変化なし。

 

 一通り終わると沖田は手を上げ、

 

「んじゃ、とっと身代金要求するぞォ~!」

「「「「「「「へーい!!」」」」」」」

 

 誘拐犯たち全員が返事する。

 

 

 

 ――結局おめェがもろもろ仕切ってんじゃねェか!! なんか隅っこでボスいじけんてんぞ!

 

 神楽は結局また一部始終窺っていたが、最後の最後でまたツッコムのだった。

 

 

 

「おい、お前ら。このボンボンとこの家に電話かけろ」

 

 沖田の命令に従って、誘拐犯の一人が動く。あらかじめ調べていたであろうバニングス家に、携帯で電話をかける。少しの間、発信音が鳴り、バニングス家の人間であろう人物が電話に出た。

 

『はい。こちらはバニングス家のメイド、斉藤美香子がお受けいたします』

「出たぜ」

 

 そう言って誘拐犯の一人が沖田にケータイを投げる。

 受け取った沖田は少し間を置いた後、口を開く。

 

「あー、おれおれ」

『はい?』

 

 沖田の言葉を聞いた電話の相手は怪訝そうな声を漏らし、「お、おれおれ詐欺!?」と誘拐犯たちはどよめき始める。

 

「だーかーらー、おれだって、おれ。分からない?」

 

 突然沖田がおれおれ詐欺始めたことに対して誘拐犯たちは動揺しつつ小声で話し合う。

 

「(な、なんであいつおれおれ詐欺始めてんだ!?)」

「(知らねぇよ! ここは普通脅迫電話だろ!!)」

「(つうかなんでおれおれ詐欺?)」

 

 困惑した電話の相手は、

 

『すみません。お名前を言っていただけませんでしょうか?』

 

 質問を投げかけると、沖田は顎を指で掴みながら少し黙考。

 そもそもおれおれ詐欺した時点で電話切られてもおかしくない今の現状で、次は何を言い出すんだ? と心配そうに見ている誘拐犯たち。そして沖田はマイクに口を近づけ、口を開く。

 

「……アリサ・バーニングで~す」

 

 ガチャ! と、電話が切られる音がマイク越しから聞こえ、ツーという音だけが静けた辺りに響き渡る。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 誰もが言葉を発せず、ただ静寂が過ぎ去っていく。

 少しして誘拐犯の一人が沖田の胸倉を両手で鷲掴む。

 

「おいてめェェェ! 誰がおれおれ詐欺しろって言った!! 脅迫電話しろよ!! 脅迫電話!! 身代金要求すんだよ!!」

 

 沖田は「えッ?」と言って首を傾げる。

 

「『おれおれ詐欺で金をせしめる時、本人登場という危険因子を取り除くための誘拐作戦』……じゃなかったっけ?」

「ちげェーよ! んなまどろっこしい作戦するワケねェだろ!! わざわざ誘拐するなら、寧ろダイレクトに脅迫電話かけて大金手に入れる方が手っ取り早いだろうが!!」

 

 誘拐犯の一人が沖田からケータイを奪う。

 

「貸せッ!!」

「あッ……」

 

 声を漏らす沖田を尻目に、誘拐犯の一人は改めて番号を押していく。

 

「もうてめーには任せてられるか!!」

 

 するとまた発信音の後、さっきと同じメイドが出る。

 

『はい。こちらはバニングス家のメイド、斉藤美香子がお受けいたします』

「おう。てめーらんとこのお嬢様であるアリサ・バニングスってガキは俺らが預かっ――」

 

 ガチャ! またしても電話を切られてしまい、ツーという音がケータイから発せられる。

 

「なんでだァァァッ!!」

 

 シャウトした誘拐犯はケータイを地面に叩き付ける。

 

「なんでまた電話切られるんだよ!? 俺なにかおかしなこと言ったか!? 自分とこのお嬢様が誘拐されたと聞いてあんな反応するとかおかしいだろ!!」

 

 相手の予想外の行動に頭を抱える誘拐犯。

 とにかく、相手に身代金要求しなければならないのでもう一度電話をかける。

 プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルル! プルルルルル! プルルルル! プルルルル!

 

 長い発信音の後、やっと相手が電話に出た。

 

『お電話ありがとうございます』

 

 誘拐犯はドスの効いた声で告げる。

 

「いいか、もう一度言うぞ? 俺たちはお前んとこの――」

『現在電話に出れる人間がいないため、メッセージがある場合はピーという発信音の後に――』

「留守電んんんんんんんッ!!」

 

 今度は留守番電話ボイスだったので、誘拐犯はまたしてもケータイを床に叩き付ける。

 そんな誘拐犯の横着した姿を見ているなのはたち。誘拐犯たちに聞こえないよう、コソコソ話しだす。

 

「(あ、あの、アリサちゃん。本当に助けは来るの?)」

「(大丈夫よ。助けはきっとくるわ)」

 

 不安ななのはにアリサは笑みを浮かべる。

 

「(で、でも……電話の人は……なんかその……妙に冷たいような……)」

 

 なのはが心配するのも無理はない。

 助けにくる人物(コスプレしてるかもしれない)がいるという情報はいくらか安心感を与えてくれるはずなのだが、その頼るべき相手があんな冷徹な態度をしていては、心配するなと言う方が無理な話だ。

 

「(安心なさい。鮫島たちはああやって時間を稼いでいるのよ)」

 

 アリサの言葉になのははきょとんとした顔になる。

 

「(え? どういうこと?)」

「(実はね、鮫島たちはとっくに私たちが誘拐されていることを知っているのよ)」

「(……え? えッ? ど、どういうことなの?)」

 

 まるで状況が掴めないなのはは、頭にいくつも疑問符を浮かべる。アリサは誘拐犯たちに気づかれないよう、説明していく。

 

「(あたしは誘拐された時、咄嗟に私が誘拐されたことを知らせるブザーを鳴らしたの。もちろん学校で渡されるような、大きな音が鳴るタイプじゃないわよ? しかも私たちの居場所を特定できる特別製のヤツ。だから、あたしが誘拐されたという事と、あたしたちの居場所はとっくに鮫島たちに伝わってるの。今頃は鮫島たちが私たちを助けるための根回しをしているはずよ)」

「(そ、そうだったの!?)」

「(ちなみに、さっきのマ○オの話しも時間を稼ぐための一つよ)」

「(そ、そうなんだ。だよね。鮫島さんやお父さんたちがコスプレして助けにくるなんてことないもんね)」

「(そりゃ、そうよ。こういうことは警察の仕事でしょ。こういう時は、テキトーな話で相手を引っ掻き回すのがいいのよ)」

「(よかったぁ……)」

 

 なのははほっと息を撫で下ろす。

 なんだかんだで、今までのは時間を稼ぐためのアリサのでまかせだったらしい。そして父と兄がコスプレして人助けするような、恥ずかしい人物たちでなくて安堵する。それと、アリサやすずかが38回も誘拐されたのは嘘ではないのか? と疑問に思ったなのは。

 すると、アリサのケータイが鳴る。

 

「あッ……」

 

 とアリサは声を漏らす。

 

「ん?」

 

 それに気付く沖田と誘拐犯たち。

 沖田はアリサのポケットにあったケータイを抜き取る。ケータイを開くと、発信者は『鮫島』という人物からだ。

 

「さっきおめェが言ってた、鮫島ってヤツから電話だぜ」

 

 沖田の言葉にアリサは相手に悟られないように努める。

 

「ッ……。で、出てもいいかしら?」

「まず俺が出てからな」

 

 沖田はそう言って通話ボタンを押し、電話に出る。

 

「うィ~っす。おたくのお嬢様預かってる誘拐犯で~す。……えッ? ん~、はいはい。あー、もちろん警察には言うなよ? もし言ったら……」

 

 沖田の話を聞いてアリサはなのはに耳打ちする。

 

「(あー、よくある常套句ね。『命はないぞ』とか、どうせ実行する気なんてないのに)」

 

 歳は幼いなのはでも、アリサと同じようなことは思っていた。ありていに言って、このチンピラの集まりのような誘拐犯たちならば命を奪うと脅しはかけても、実行まではしないだろうと。そしてさっきからボケまくる沖田という人物も。

 沖田はスッと瞳から色を無くし、

 

「――おたくのお嬢様の首を郵送するから」

 

 絶対零度を思わせるような、感情の感じられない声で告げられた言葉。それを聞いてなのはとアリサとすずかはギョッとし、顔を真っ青にさせる。なにせ、沖田の口調に一切の迷いはなく、目が完全にマジな感じだからだ。

 

「…………わかった。じゃあな」

 

 そして話し終えると沖田は携帯を切る。顔を青くさせるアリサのポケットに携帯を戻し、沖田は軽い口調で告げる。

 

「まァ、そんなビビんよ。俺……」

 

 沖田は冷たい声と色のない瞳のまま、ニヤリと口元を吊り上げる。

 

「――痛みなく人の首切るの得意だから」

「………………」

 

 完全に蒼白どころか顔も目も真っ白になるアリサ。

 沖田が誘拐犯たちのところまで戻るのを見た後、アリサはゆっくりとなのはに顔を向け、声を震わせながら声を出す。

 

「(…………ね、ねー、なのは? あたし……大丈夫……よね? アレきっと、誘拐犯特有の……実は本気じゃない脅し文句って……ヤツよね? そもそもアレ……あのアホの……悪ふざけ……よね?)」

 

 なのはは汗を流しながらサッと視線を逸らし、アリサはゆっくりとすずかに顔を向ける。金髪の勝気なお嬢様は目に涙を溜め、声を震わせながら聞く。

 

「(す、すずか……。あたしたち……ちゃんと……時間稼ぎ……できてたわよね? け、警察は……も、もうすぐ来るわよね? そ、そもそも……け、警察来たら私の首が……その……繋がってるわよね? ちゃ、ちゃんと……胴体と……くっ付いたままよね?)」

 

 すずかはドッと汗を流しながらサッと視線を逸らす。

 やがてアリサは、天井を見上げながら呟く。

 

「短い人生だったなぁ……」

 

 アリサは生気の籠ってない瞳で呟き、なのはとすずかは下を俯きながら汗を大量に流す。

 三人の目には、沖田が下手なチンピラなんぞ目じゃないくらい情け容赦のない生粋のサイコパスに映ってしまっていた。

 

「ハッハッハッハッ!! まー、よくやったぞ沖田! 予定は少し狂ったが概ね問題ない! あとは大金を待つのみだ!!」

 

 ぽんぽんと、上機嫌になりながら沖田の肩を叩くのは誘拐犯のボス。

 もう少しで金が手に入ることに対し、ボスだけでなく部下たちも浮き足立っている。

 沖田はチラリとボスに視線を向ける。

 

「しっかし、マジで警察がくるかもしれませんぜェ?」

「安心しろ。その時はその時だ。俺たちには充分な武装を用意してある。腑抜けた日本の警察など恐るるに足らずだ!」

 

 そうボスが言うと、部下たちは見るからに凶悪そうな重火器の数々を取り出す。

 

「顔は隠して逃げおうせればいいだけの話だしな!!」

 

 ガハハハハハッ!! などと言って高笑いするボス。

 

「へェ~、なるほどォ。なら――」

 

 沖田はコツコツと靴音鳴らしながら、ボスの後ろにいる部下たちに向かって歩く。

 バシュバシュバシュッ!! という音の後。ドサドサドサ! と、いくつも何かが倒れるような音が、後ろから聞こえた。

 突然の奇怪な音に反応したボスが、後ろを振り向くと、

 

「俺みたいな……こわァ~いおまわりさんは、怖くねーってことなんですかねェ、ボス?」

 

 抜刀し、刀を肩に掛けた沖田。彼は倒れた誘拐犯たちの前で、黒い笑みを浮かべていた。

 

 

 一方、沖田を追いかけていた土方は、

 

「くそッ、あのヤロー……!」

 

 目標の姿を見失ってしまい、イライラしていた。

 イライラを抑えるためにタバコを吸っている彼の姿は、どう見ても危険な人物そのもの。

 目つきが悪くなり、眉間に皺を寄せて不機嫌オーラの全開の土方。ヤの付く職業の人として認知されるレベル。

 何より傍目から見れば刀(しかも本物)を腰に差しているのだから、関わり合いにならない方が良いと思うのが普通だ。つうかいつ通報されてもおかしくない

 

「チッ……」

 

 と舌打ちする土方。

 

「結局全員気持ちいいくらいに、バラバラじゃねーか」

 

 結局沖田には逃げられてしまったし、沖田(バカ)を追跡するために道も覚えずに走っていた。なので、さきほどの公園に帰れるかどうかすら微妙である。

 とにかく、覚えている限りで元の場所に帰ろうと歩いていると、途中で大きな建物の前を通りがかる。

 

「ん?」

 

 気になった土方は、建物の正面門に刻まれている名前に注目した。

 

「海、鳴、市……市立、〝図書館〟。…………ッ!」

 

 そして土方はハッとあることを思いついた。

 

「……ここなら!」

 

 土方は足早と図書館に入っていく。

 

 ――図書館なら、この地域の情報を手に入れるのも容易いはずだ!

 

 沖田を追いかけている内に、思わぬ情報源を見つけた土方。

 とにかく、この地域の情報が手に入りそうな地図やら地域の資料を集めていく。

 

 ――まずは日本地図だ日本地図! 江戸からここがどこまで離れているのか把握すりゃあイイ!

 

 場所が特定できれば江戸に帰ることも容易い。

 電車だろうが車だろうが地域さえ特定できれば転送装置などに頼らずとも自力で帰って来られる。

 

 ――海鳴市、海鳴市、海鳴市…………ここだ!

 

 人差し指で地図をなぞりながら、自分たちがいる町を特定できた。

 しかも見たところ、海岸付近の地域のようで江戸からさほど離れてはいないらしい。

 

 ――まァ、〝地図から見て〟だからな。帰るにしてもそれなりに時間を要するだろ。…………あれ?

 

 地図を見ていくうちに、土方はある違和感に気付く。

 

 ――あれ? ……江戸が…………ねーぞ?

 

 そう、なぜか江戸と言う地域が見つからない。

 いくら剣しか能のないと言われる真選組の一人である土方とて、江戸が日本のどこにあるかくらいは知っている。なのに、江戸があるはずであろう場所に、なぜか聞き覚えのない『東京』という名前があるのだ。

 

 ――あれ? …………あれ? ……あれ?

 

 土方は見間違いか何かかと思ったが、いくら探しても江戸と言う名前が出てこない。

 

 ――あれ? あれ? あれ? あれ? あれ? ………………アレ?

 

 土方は慌てて他の地図も参照するが、

 

 ――…………ない。……ない。ない。ない! ない! ない!! …………ない。

 

 どの地図にも江戸の地名がなかったのだ。

 

「江戸がねェェェェェェェェェェェェェッ!!」

 

 とんでもない事実に対し、土方は他の利用者も省みず頭を抱えて叫ぶのだった。



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第十話:見知らぬ土地

今回は、ある人たちが登場です。
ただし、出番は結構先になる予定です。


「江戸がねェェェェェェェェェェェッ!!」

 

 自分たちの置かれている状況のヤバさに土方は頭抱え、他人の目も気にせず机に手を置き愕然とする。

 

 ――ど、どうなってんだこりゃ!? なんで日本地図から江戸が消えてんだよ!?

 

 土方は一体全体なにがどうなっているのか理解でない。ここは本当に地球か? とすら疑ってしまう。

 そうこう困惑していると、土方の耳に車輪が軋むような音が聞こえ、

 

「あ、あのぉ……」

 

 恐る恐るといった少女の声。

 自分が声をかけられているのか? と思った土方は「ん?」と声を漏らし、右側に顔を向ける。そこには本を膝に載せ、車椅子に乗った少女と、それを後ろで押している少年がいた。

 

「他の利用者さんにも迷惑ですし、あんまり大きな声とかは出さない方がええですよ?」

 

 少女の言葉はもろ正論だったので、

 

「ん。あ、あァ……」

 

 土方は素直に従うと、少女は話の通じる相手と分かったのか彼の咥えているモノを指さす。

 

「それとタバコも図書館内(ここ)じゃ厳禁ですよ?」

「あッ……それもそうだな。悪かった」

 

 関西辺りの独特なイントネーションの喋り方をする少女に対し、土方は素直に従う。

 動揺していたせいでタバコのことなどすっかり頭から離れていた。いくら子供とは言え、相手の言っていることは完全に正論なので、大人気なく反論なんてことはしない。

 携帯灰皿にタバコを入れる土方は少女に顔を向ける。

 

「これでいいか?」

「あッ、はい、大丈夫です。ありがとうございます」

「迷惑かけたな」

 

 とりあえず土方は軽く謝罪。

 今のやり取りで混乱していた頭も少しは落ち着いてきた。とりあえず、自分の今の状況を整理するために口元に手を当て、眉間に皺を寄せる。タバコが欲しいところだが、今指摘されたばかり。

 すると、おずおずと少女がまた「あのぉ……」と声をかける。

 

「なんだ? まだ用があんのか?」

 

 土方はまた話しかけてきた少女に対し、他にまだ落ち度があったか? 思いながら視線を向ける。そんな彼の視線に対して、茶髪の少女は少し萎縮。どうやら眉間に皺を寄せていたこともあり、いかつい視線を向けてしまったようだ。目付きが悪いのは生まれつきなのでこればっかりどうしようもない。

 関西弁の少女はおずおずいった感じで話しかける。

 

「も、もし困っているようでしたら、お手伝いしましょうか?」

「なに?」

 

 土方は視線を細める。

 大人である自分がこんな年端もいかないガキに手伝ってもらう? 大人のプライドと土方自身のプライドが、子供に頼るような行為は避けさせる。っと言うか、今更ながら考えた。どこか適当な人物に、現在地がどこなのかとか聞けば良かったのではないか? と。

 

 ――……まあ、背に腹は変えられねーか。

 

 土方は頭をボリボリと掻いてため息をつく。

 子供を頼りにするのはあまり気がすすまい。が、この茶髪の少女、見たところ自分の周りにいる銀時(あれ)沖田(それ)近藤(これ)より百倍利口そうだ。しかも素直そうである。

 図書館の人間に訊く手もあるが、せっかくの好意だから素直に受け取っておくのも悪くはない、と土方は思った。そして、車椅子の少女に体を向ける。

 

「……それじゃ、訊きてーんだけどよ」

 

 頼られて少女はニコっとして「なんですか?」と言葉を返す。土方は茶髪の少女の前に地図を広げて質問する。

 

「この地図のどこらへんに、江戸って町があるか分かるか?」

「え~っと……」

 

 最初、返答に詰まった少女。やがて訝し気に応答する。

 

「その……つまり東京ってことですか?」

「いや、江戸は江戸。とうきょうってとこはとうきょうだろ? 俺が知りたいのは江戸って町がどこにあるかだ」

 

 土方の質問に対して、少女は困惑しながら説明する。

 

「あ、あのぉ……江戸って、昔の東京の名称ですよ?」

「えッ?」

「……えッ?」

 

 少女は土方の間の抜けた反応に戸惑っている。

 

「えッ、いや……あの……東京の旧称は江戸ってことなんやけど……」

 

 おずおずと答える茶髪の少女。

 後ろで車椅子を押している少年に「私の言ってること間違ってた?」と訊き少年は「いや、あってるよ」と答える。

 そんな中、土方はダラダラと汗を流す。

 

 ――お、おい。え……江戸がないって……どういうことだよ? ……え? なに? そういうこと?

 

 今の話を聞いてとんでもない推論を思い浮かべてしまった土方は、必死でそれを頭の中で否定しようとする。

 

「な、なァ……」

 

 震える土方の声に反応する少女。

 

「なんですか?」

「も、もうちょっと詳しく……き、聞かせてくれねェか?」

 

 土方は必死に平静になろうと努め、声を震わせながら少女に色々と質問を始める。

 

 

 

「なんかなぁ。変な人だったなぁ」

 

 車椅子の少女――八神はやては後ろから押されながら苦笑を浮かべる。

 

「話を聞いた最後には、抜け殻みたいになっていたからね」

 

 兄の言葉を聞いて、黒服を着た土方という男からの質問の数々を思い出す。

 江戸が一体どうなったのか、現在に至るまでの歴史、などなど事細かに質問された。なので、普段から本を読みふけっているはやても、持ちうる知識を活用して知りうる限り説明した。

 

「んまぁ、なんにせよ、私が無駄に溜めた知識が役に立って良かったかもなぁ」

 

 一応自分が説明したことが事実であると証明するために、本なども見せて説明したのだが、それをした辺りから土方の顔色が急激に悪くなったのを覚えている。そして、奇妙な格好をした二枚目の男が図書館から出て行く時のおぼつかない足取りは、はやてにはかなり印象的だった。

 

「とりあえず〝桂さん〟も待ってるし、帰ろっか」

 

 兄の言葉にはやては頷く。

 

「そうやな。あッ、噂をすれば」

 

 はやてが進んだ先には着物を着た長髪の男が手を振っていた。

 

「おお、はやて殿。遅かったではないか」

 

 長髪の優男の前までやって来たはやては、申し訳ないといった具合に頭を掻く。

 

「いや~、ちょっと人助けをしてたら遅くなってしもうて」

「なら構わん」

 

 と長髪の男は首を横に振る。

 

「武士たるもの、困っている者には手を差し伸べなくてはな」

「いや、私武士ちゃうんやけど……」

 

 はやてはやんわり訂正するが、長髪の男はまったく聞く耳持たない。

 

「よし! では帰るぞ。今エリザベスが家で手打ちそばを作っているのだからな」

 

 「あの」と言ってやんわりはやては訴える。

 

「わたし、別にそば嫌ってワケやないんやけど、さすがにざるそば三日連続はどうかなーと思うんやけど……その……」

 

 長髪の男は「ん?」と首を傾げる。

 

「なら、かけそばにするか?」

「いや、そばの調理の仕方を変えて欲しいんやなくて……」

 

 はやてはちょっと困って苦笑。

 やがて三人は、雑談を交えつつ帰って行った。

 

 

 

 

「て、てめェ……!」

 

 誘拐犯のボスは、自分の部下たちを右手に持った刀で気絶させたであろう相手に対して歯軋りする。

 

「俺らを騙していやがったのか……! 仲間だと思っていたのに!」

「なに言ってんでェ」

 

 と沖田は呆れ顔になりつつ言う。

 

「テメーこそ、分かってるはずだろ?」

「な、何がだ?」

 

 誘拐犯のボスは訝しげに眉をひそめると沖田はニヤっと笑みを浮かべる。

 

「死刑囚の由佳伊畔(ゆうかいはん)さんよォ」

「ッ!?」

 

 と誘拐犯のボスはビックリしている。

 

「――ってちげェよ!! 俺の名前は夕観意嘆(ゆうかんいたん)だ!! 誰のこと言ってんだてめェは!!」

「あッ、やっぱりお前、幕府重鎮のガキどもを連続誘拐して捕まった夕観意嘆じゃねーか」

「ッ!? し、しまったァァァァァァァ!!」

 

 自分を指さす沖田の言葉を聞いて、誘拐犯のボスは頭抱える。一方のなのはたちはというと、沖田と伊畔の話に付いていけないようで困惑の表情を浮かべ始めていた。

 意嘆と名乗った誘拐犯のボスは焦ったように汗を流しながら「人違いだ!」と右手を振る。

 

「俺の名前は確かに夕観意嘆だが、そんな死刑囚とは無関係のただの善良な一般市民だ!!」

「善良な一般市民は誘拐なんてしないわよ!!」

 

 とアリサがツッコム。

 

「この後に及んでしらばっくれてんじゃねェよ」

 

 と言って沖田は意嘆の右腕を指さす。

 

「顔はマスクで覆ってるかもしれねーが、その右手にあるいくつもの星の刺青がなにより証拠なんだよ」

「ぐッ!?」

 

 誘拐犯のボスは反射的に、肘の部分から手の甲にまである★のマークが付いた刺青を左手で隠す。相手の行動を見てから、顎を撫でる沖田。

 

「俺の知ってる死刑囚は、誘拐が成功する度に腕に星の刺青を入れたらしいからな。まさか、そんな特徴的な刺青しといて、名前が同じ別人なんて言うつもりねェよな?」

「ぐッ!」

 

 意嘆は焦りの色が見える声を漏らし、アリサが半眼で告げる。

 

「なんか話はよくわかんないけど……さっき『しまったー』とか言ったし……」

「ぐッ!!」

 

 とさらに焦りの声を漏らした意嘆は被ったマスクをガシガシ掻く。

 

「だァー! チクショー!! なんでこんなことになんだよ!! 予定が完全に狂っちまったじゃねェか!!」

 

 自分の正体を認めたも同然の態度を取った意嘆に対して、沖田は鋭い眼光を向け始める。

 

「つうかお前、いつ脱獄なんてしたんだ? 俺ァ、てめーが脱獄したなんて聞いたことがねーんだがなァ」

「ッ!!」

 

 向けられた貫かんばかりの眼光に対して、意嘆は汗を流しながら後ろに後ずさり、吐き捨てる。

 

「う、うるせェー! てめェら真選組の連中が〝こっち〟に来てるなんて俺も聞いてねェんだよ!! 誰が予想できるかよ!!」

 

 ――こっち?

 

 相手の言葉を聞いて沖田は肩眉を上げるが、構わずさらに問い詰めるために自身の制服に指を差す。

 

「つうかよ、この制服見て分からなかったのか? 俺が真選組の一人だって。もしそうならおめでたい頭してんなお前」

 

 沖田の皮肉交じりの言葉を聞いて、意嘆はマスクをがしがし掻きむしる。

 

「〝こっち〟に真選組の連中なんざいるはずねェから、あいつらのコスプレした変な奴かと思ったのに!! なのに本物の真選組が現れるとかふざけんな!! 話が違うじゃねェか!!」

 

 クソッ!! と怒りを撒き散らすように地団太踏む誘拐犯のボス。

 

 ――なに言ってんだ、コイツ?

 

 沖田は相手の言葉の節々で気になる部分が出てくるために眉をひそめるが、今は考えるよりもお縄を頂戴すること優先である。

 

「まー、いいか。とにかく脱獄したってんならまた牢にブチ込んでやるよ。それとも、死刑囚だしあの世にブチ込まれる方がいいか? 由佳伊畔さんよォ?」

「いやだから誰だそいつは!! 俺の名前は夕観意嘆(ゆうかんいたん)だ!! さっき言っただろうが!! 正体見破ったくせになんでまた名前間違えんだよ!!」

 

 沖田はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「誘拐何度もやったてめーなら、俺が間違えた名前の方がお似合いだろ?」

「人をそんなポっと出のキャラみたいな扱いしてんじゃねェ!!」

 

 意嘆は怒り撒き散らすようにより強く地面を踏みまくる。

 

「えッ? もしかしお前自分の役割分かってない感じ?」

 

 口元をニヤっと歪める沖田の言葉を聞いて、ぶちっと意嘆のナニかが切れる。

 

「ぶっ殺してやるッ!!」

 

 

 

「ね、ねー……一体どうなっているのかな?」

 

 なのはは訝しげに眉を潜め、アリサは「さ、さぁ?」と言って首を傾げる。

 

「あたしもわからないわ。あいつらの話、なに言っているのかさっぱりなんだもん。ついツッコミ入れちゃったけど……」

「あの黒い服の人……一体なにがしたいんだろ?」

 

 そしてすずかもまた、今の状況の変化についていけないでいた。

 三人にはさっぱりわからない。なぜ、誘拐犯の一人である沖田が急に裏切ったのかも、話ている内容も。

 

 

 

 意嘆は近くにあった布を取り払うと、なんとそこからミニガンが姿を現す。六本の銃身が付いたいかつい銃。それは四つの足が付いた脚立に支えられている。

 

「が、ガトリングッ!?」

 

 意嘆が持ち出した重量感がある銃器を見てアリサは驚嘆し、なのはは顔を青ざめさせている親友に質問する。

 

「アリサちゃん!? あの怖そうな銃が何か知ってるの!?」

「あ、あたしも詳しくは知らないけど、めちゃくちゃ強力な銃らしいのよ! コンクリートも平気で粉々するくらいらしいわ!」

「はッはァッ! そのとおりだぜ譲ちゃん!! こいつの威力ならてめェら真選組でもこわかねーんだよ!!」

 

 自分が優勢であると認識したであろう意嘆はさきほどと打って変わって上機嫌になり、沖田に銃口を向ける。が、向けられた真選組の一番隊隊長はそれほど焦った様子を見せない。

 するとアリサがすかさず指摘する。

 

「で、でも! そんなの自衛隊でもない日本人が簡単に持てるワケないでしょ!!」

「へ~、そーなの」

 

 と沖田が平坦な声で相槌を打つ。一方、意嘆は上機嫌なまま弁舌に語り始める。

 

「はッッ!! 俺には優秀なスポンサーがついているお陰で、つえー武器がよりどりみどりなんだよ!! こいつの試し撃ちも兼ねてテメェを後で蜂の巣にする予定だったが、今この場でレンコンにしてやるから覚悟しがれ!!」

 

 得意げに言うと沖田は目を細め眼光を鋭くする。

 

「スポンサーねェ……」

 

 既に銃を発射できる態勢に入った意嘆はミニガンの銃身を回転させ、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「さー、ミンチにしてやるぜー♪」

 

 死ねェ!! と言う叫びとともにミニガンのダダダダダダダ!! というけたたましい発砲音。多数の弾丸が沖田目掛けて飛んでいく。

 

「すぅ――」

 

 沖田は息を吸うと同時に、俊敏な動きで姿勢を低くし、素早い足運び弾丸の雨から逃れる。

 

「くそがッ!」

 

 右に移動した標的に意嘆はすぐさま狙いを定めようと銃口を向けるのだが、沖田の動きがあまりに俊敏なために狙いが追いつかない。

 銃口が追いつけないながらも仕方なく弾を乱射するが、弾丸が沖田を追いかける構図にしかならない。やがてミニガンの砲身を最初の位置から180度ほど移動させた辺り、意嘆の目の前には、横に回転するパイプが既に迫ってきていたのだ。

 ガツンッ! と言う鈍い音を出しながら意嘆の顔にパイプが直撃し、「ぐげッ!?」と間の抜けた声が漏れる。

 顔をのけ反らせ隙が出来た敵に、沖田がすかさず近づこうと駆けようとするが、

 

「動くんじゃねェ!!」

 

 叫ぶ意嘆を見て沖田は足を止める。

 

「ッ……」

 

 沖田が停止した理由は痛む顔を抑える意嘆の言葉によるものではない。意嘆が取り出した拳銃の銃口が、小さな女の子三人に向いているからだ。

 

「クソッタレ!」

 

 と吐き捨て、意嘆は顔を抑えながら沖田を牽制する。

 

「その化け物じみた動きには恐れ入ったが、こうなっちゃてめェはただのデクだろ?」

 

 意嘆は少女たち三人に近づき、そのままなのはを抱え、彼女の頭に銃を突きつける。

 捕まったなのはは顔を青ざめさせ、涙目になりながらもなんとか泣き言を漏らさないよう、我慢しているようだった。

 

「ガキ人質にとって俺に勝った気でいるたァ、やっぱ頭のおめでたいヤツだったみてーだな」

 

 沖田の言葉に意嘆は怒鳴り散らす。

 

「うるせェ! 勝ちゃ官軍なんだよ! とにかく刀を捨てやがれ!」

 

 沖田は刀に目を向けた後、次に意嘆の方をチラリと見て、少し目を向ける。

 

「…………しゃーねーか」

 

 変わらなかった表情から一転して、ため息を吐く沖田。

 

「へッ、わかりゃァいいんだよわかりゃァ」

 

 意嘆は自分の勝ちを確信してかニヤけ顔。だが、沖田は人差し指を出しながら言う。

 

「あ、でも後ろ。気をつけた方がいいぜ」

「あッ?」

 

 意嘆は鼻で笑う。

 

「んなバカな手に引っかかるヤツがいると思っているのか? バァ~カ――」

 

 突如、意嘆の頭が巨大な犬の口の中に包まれる。意嘆は突然の視界の変化に慌てだす。

 

「な、なんだァ!? きゅ、急に世界が暗く――!?」

 

 すると意嘆のどてっぱらに「うォらァー!!」と猛る少女の拳が炸裂した。

 声すら上げることなく、意嘆の体から力が抜け、彼の体は力なくぶら~んと吊るされたような状態になる。

 意嘆の腕から開放されたなのはは地面に落ちてしりもちを付き、「きゃッ!?」と小さな悲鳴を出す。そしてすぐ、自分を助けたであろう存在を確かめるために慌てて顔を上げる。

 

「か、神楽ちゃん!? 定春くん!?」

 

 気絶した誘拐犯のボスの頭を咥えているデカイ犬の定春と、ニコやかな笑顔でブイサイン決めている神楽。一匹と一人がいたのだ。

 そして神楽に近づく沖田は案の定、

 

「おいチャイナ。何いきなりシャシャリ出てきて手柄横取りしてんだハナクソ」

 

 神楽に食ってかかる。もちろん神楽も反論。

 

「ンだと? てめェこそなのはたち人質にされた癖してなに言ってやがるアルかウンコ」

 

 アリサは「えッ!?」と驚く。

 

「何がどうなってるの!? あんたたち知り合いなの!? っていうか言葉汚な!?」

 

 沖田が仲間(本当はまったく赤の他人)であったであろう誘拐犯たちをなぜか裏切り、少し前に公園であった神楽と定春がなぜかいきなり現れ、あげくは沖田となのはを助けて誘拐犯のボスを倒す、といった急展開。今の現状にアリサはまったくついていけず、疑問しか生まれていないようだ。

 

「あんたちそんな風に睨み合ってないで説明しなさいよ!」

 

 とアリサが言うが、沖田と神楽ははまったく止まらない。

 

「バカ」「おめェバカ」「クソ」「じゃてめェはウンコでェ」「クソもウンコも同じだろうが」「じゅあおめェクソ未満だ」「死ね」「おめェが死ね」「土方死ね」「地獄に逝け」「土方地獄に逝け」「土方ミンチになれ」「土方ハゲろ」

 

「いや、いい加減喧嘩やめなさいよ! っていうか最終的にひじかたって人の罵倒合戦になってるんだけど!?」

 

 アリサはまったく喧嘩を止めようとしない二人につい怒鳴り、すずかが苦笑しながら話しかける。

 

「あ、アリサちゃん。とにかく、私たち助かったんだよね?」

「わからないわよそんなこと。あの栗色頭があたしたちを助けたとは限らないのよ。一体なに考えているのか分かったもんじゃないわ」

「あん? なに言ってんだおめェ」

 

 聞いて、沖田は神楽との喧嘩を中断。アリサの元までやって来て、腰を屈めて彼女に目線を合わせる。

 

「こちとら、命張っててめーみてーなガキ助けたんだ。礼言うのが普通だろうが」

 

 沖田はアリサの鼻を摘み、彼女の顔を左右に振る。彼の言ったことに対し、アリサはそっぽ向く。

 

「ふん! どうせ身代金一人締めしようとかいう魂胆でしょ?」

「俺は警察だ」

 

 沖田はため息を吐きつつ説明する。

 

「……オメェみてェなブルジョワ誘拐してもなんの利益もねーんだよ」

「アリサの言うとおり!」

 

 と神楽が沖田を指差しながら断言。

 

「こいつは警察の皮被った悪魔ネ。信じたらダメアル」

「ほら、やっぱり」

 

 アリサに疑いの眼差しを向けられる沖田はジト目になる。

 

「なんでチャイナの言うことは信じて、俺の言うことは信じねーんだよ」

「私とお前じゃ、築いてきた関係が違うからな」

 

 ドヤ顔の神楽にすずかはやんわり指摘。

 

「いや、神楽ちゃんとわたしたちって、それほど知り合いってワケじゃないよね?」

 

 神楽はなのはたちのガムテープに手を伸ばしながら言う。

 

「まー、いいアル。それよりとっととなのはたちを開放するヨロシ」

「おめーがやれ」

 

 と言いながら沖田も神楽に続いてなのはたちを縛っていたガムテープを外していく。

 

「ふぅ~、やっと自由の身だよぉ……」

 

 すずかは拘束が解けたことに安堵し、

 

「ありがとう神楽ちゃん」

 

 なのはは自分を助けてくれいた神楽に笑顔でお礼を告げる。

 沖田がアリサのガムテープを剥がした後、アリサが顔を赤くしながら小声で何かを言う。

 

「…………とう」

「あッ? なにか言った」

 

 沖田は耳に掌を添えて聞く。

 

「だから」

 

 アリサは口をもごもごさせながら言う。

 

「…………がとう」

「えッ? マジでなんて言ったの? 大きい声で言ってくれない?(笑)」

 

 ワザとらしい声とニヤけ顔で耳を近づけてきた沖田に、

 

「ありがとうございましたッ!!」

 

 アリサは顔を真っ赤にしながら大声でお礼を告げる。

 

「ッ!?」

 

 少々アリサの声が大きく、沖田は小指で耳を穿りながら軽口をたたく。

 

「……へいへい。どういたしまして」

「おいサディスト。コイツどうするアルか?」

 

 と神楽。

 

「ん? あー、そいつねェ……」

 

 沖田は気絶している誘拐犯のボスである意嘆に近づく。定春の唾液と噛まれた所からの出血で、顔中赤と透明の液体だらけの男。彼は泡を吹いて気絶している。

 

「おい起きろコラ」

 

 バキバシ! と刀を入れた鞘で意嘆の顔を殴って目を覚まさせようとする沖田。うんともすんとも言わず「ダメだ起きねェ」と言ってから、チラリと神楽を見る。

 

「テメェが強く殴り過ぎなんだよ」

「んだと?」

 

 神楽は口を尖らせ、睨みつける。

 

「敵はライフゼロになるまで徹底的にやるのが常識だろ? あァん?」

 

 そしてまたメンチ切り合う沖田と神楽の犬猿コンビ。

 その時、パチッと意嘆の目が見開かれた。そのまま目を覚ました意嘆は沖田と神楽の足に回し蹴りを放つ。だが、野生的と言っていいほどの勘で二人はジャンプし、蹴りをかわす。

 

「チッ……」

 

 意嘆は舌打ちをしたすぐ後、地面に両手を付いて体を宙に上げ、空中で何度もバック転。そして沖田たちから距離を離す。

 なのはは一連の様子を見て驚く。

 

「な、なになに!?」

「さ、さっきまで気絶したのに!?」

 

 アリサも動揺を示す。すずかは声こそ発していないが、驚きを露にしている。

 突然起き上がった意嘆に対して、動揺するなのはたち三人とは違い、沖田は鋭い眼光を目の前の敵に向ける。

 

「テメー、完全に白目剥いてただろうが。……今の動き、ただの死刑囚じゃねェな」

「やっぱ、厄介だな。しゃーねー、奥の手を使うか」

 

 と言ってから意嘆はズボンのポケットに手を入れる。そしてポケットから取り出した手はなにかを握り締めており、その手を天に掲た。

 

「この俺に力をよこしやがれェェェェッ!!」

 

 意嘆の甲高い声が響く。

 だが、なにも何も起こらない。シ~ンなんて擬音すら聞こえてきそうなほど、静寂に包まれてしまう。

 

「…………お、おい!?」

 

 意嘆は動揺。

 

「ど、どうした!? なぜ反応しねェ!?」

 

 手に持った『ナニカ』をぶんぶん振るが、何も変わったことが起きる様子がない。

 

「――なら、もう一度……」

 

 再び意嘆はポーズ取ろうとする。

 

「俺にちからぎゃああああああああああああッ!!」

 

 なんかやってる誘拐犯に、沖田の刀が上から炸裂。周りに血が飛び散る。

 

「ちょッ!?」

 

 意嘆は手を出してタンマを要求。

 

「待って待って待って待って待って!! ちょっと今取り込み中だから! なにかの間違いだから!!」

 

 沖田は「あん?」とジト目を向ける。

 

「なに言ってんだてめェ? 敵を殺せる千載一遇のチャンス逃すバカがどこにいんだよ?」

 

 沖田は刀の切っ先を意嘆の鼻先に突きつける。

 

「とりあえず、お前なんか有力そうな情報持ってそうだし、いろいろ話訊かせてもらおうじゃねーか」

 

 沖田はニヤりと黒いニヒルな笑みを浮かべる。今の彼はドSモード入りかけ、どころかもう入っている感じだ。

 

「わりィが、こっちには話すことなんざなにもねーぞ」

 

 意嘆はわずかな抵抗を見せるが、沖田は冷血動物さながらの冷たい視線を向ける。

 

「安心しな。俺は開かない口を開かせんのは得意だ。とりあえず、皮剥がしから始めようじゃねーか」

「どこに安心する要素が!?」

 

 意嘆は顔を青ざめさせる。

 その時、周りの地面に突然なにかが投げ込まれ、ボフッ! ボフッ! と破裂する音がしたかと思えば、倉庫内は白い煙に覆われてしまう。そして、ザシュッと何かを切ったような音が、沖田の耳に入った。

 

「うわッ!? なんアルかこれ!?」

 

 神楽は咳込み、

 

「ゲホッ! ゲホッ! なにこれェ!?」

 

 なのはとすずかも突然の煙に驚きながらむせかえる。

 

「ゲホッ! 煙!? ゴホッ!?」

「もぉ! さっきから一体なんなのよぉ!?」

 

 アリサは、自分の許容の範囲を超えた急展開に文句を言ってしまう。

 

「おいチャイナ! そのガキどもとっとと倉庫から連れ出せ!」

 

 不快な音を一瞬でも耳に捉え、違和感を覚えた沖田。なるべく煙を吸い込まないよう腕で口を覆いながら、神楽に指示を飛ばす。

 

「分かってるネ! ゲホッ! 定春ぅー!!」

 

 神楽は軽口を叩きながらも沖田の指示通りに動こうと、自身の愛犬を呼ぶ。そして「ワンワン!」と定春が近寄って来る。

 神楽ははなのはとすずかを脇に抱え、アリサの襟首を定春に咥えさせて持ち上げ、そのまま三人をダッシュで運び出す。

 

「なんであたしだけこんな扱ぃ~!?」

 

 アリサの叫びを遠巻きに聞きながら、沖田は視界が悪い煙の中で意嘆の姿を捉えた。

 

「ッ!?」

 

 一瞬だが、沖田の目は捉えたのだ――『首のない意嘆の死体』を。

 背筋にゾクりとするもの感じた沖田。視界が悪いこの場所を離れるために、すぐさま倉庫から飛び出した。前転をして受身を取りながら、煙のない外まで飛び出し、すぐさま柄に手を置き抜刀の姿勢。

 沖田の一連の動作はまさに、命がけの戦いを幾多も掻い潜ってきた、(せんし)の危機察知能力から生じた行動。

 沖田のただならぬ雰囲気を感じてか、神楽やなのはたちは落ち着いた後も彼に話しかけようとすらしないでいる。やがて煙が晴れ、倉庫の中が見渡せるようになるが、そこには意嘆の頭部のない死体以外なにもなく、気配すら感じない。

 

「ふぅ……」

 

 沖田は少し息を深く吐き、構えを解く。すると後ろから「おい」と神楽の声が聞こえてくる。

 

「ん?」

 

 沖田が臨戦態勢を解いたことで神楽が近くまでやってきた。いつもと違い彼女の顔には真剣(シリアス)な雰囲気が含まれている。

 

「煙をバラ撒いた奴、いなかったアルか?」

「あァ。アレ見てみな」

 

 沖田が親指で差した先に神楽の視線が向かい、彼女の目が見開かれる。

 

「ッ!?」

 

 床に血を撒き散らし、転がっている遺体(それ)

 今まで銀時と死線を潜り抜けてきたであろう少女が息を飲む。これまで死体だって見てきたことはあろうが、ああも露骨に首のない死体を見たら少しは怯むのも仕方はない。だが、神楽が驚いたのはそれだけではないはずだ。

 

「分かったか? 煙を撒いたヤツは、俺たちが煙に巻かれている間、野郎の首をもぎ取った上、俺たちより早く倉庫から出たんだぜ」

 

 沖田の言うとおり、もし倉庫に敵が残っていたのなら、煙のお陰で『ナニかが飛び出す瞬間』がすぐに分かる。倉庫に誰の気配もないことを考慮すると、敵は神楽たちが倉庫から出るより先に脱出したのだ。

 忍びの、それこそ忍びの中でもトップクラスの者ならそんな神業も可能だろう。だが、そんな凄腕の者がなぜあんなことをしたのかが分からない。

 

「今言った早業をやってのけるなんて、相当のやり手ってことだ。もし(やっこ)さんがその気なら……俺たちも無事じゃ済まなかったかもな」

 

 沖田の鋭い視線は、首のない死体に注がれるのだった。



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第十一話:一人一人が個性があり過ぎる話が脱線しまくる

最近かなり煮詰まって中々投稿までこぎ着けませんでした。



「死体を隠す?」

 

 神楽は沖田の言った言葉に首を傾げる。

 沖田は、倉庫に転がっている死体をどこか人目につかない場所に入れようと神楽に提案したのだ。だが、神楽としては沖田の言葉は不可解だった。

 

「なんでアルか? お前らヤクザ警察共はいつも人斬ってんだろーが」

「まーな」

 

 と沖田は頷く。

 

「いつもなら人ぶった斬っても土方さんが尻拭いしてくれるんで、問題ねーんだが――」

「お前、少しはあのマヨラーに感謝した方がいいんじゃないアルか?」

 

 神楽はジト目を向けるがもちろん沖田は無視して話を続ける。

 

「とにかくだ。今回は土方の野郎に責任全部押し付けて終わりってワケにもいかねーようだしな」

「遠まわしげな話し方アルな。つまり何が言いたいネ?」

 

 沖田は周りに視線を向けながら話す。

 

「お前、転送装置で飛ばされてから、なにか違和感に気づかねーのか?」

「ん? あー、この辺海が近いアルな。私はそもそも海でまともに遊べないけどナ」

「お前、ホントガキだな」

 

 と沖田は呆れる。

 

「ンだと? オメェもガキだろうが!」

 

 ガン飛ばす神楽に、沖田は周りを見渡し続けながら説明する。

 

「今まですれ違った連中の服装、周りの建物の雰囲気、ところどころ似通ったところはあるみてーだが、間違いなく俺たちの知る江戸と違う点が多いんだよ」

「なに言ってるアルか……。飛ばされてた場所がただ単に別の町だってだけの話だろ?」

 

 そこまで言うと神楽は口元を押さえる。

 

「え? もしかしてお前、別の世界に飛ばされているとでも思ってるアルか? プププッ。痛い妄想も大概にするヨロシ」

「とりあえずお前死ね」

 

 口元抑えて自分をおもっくそバカにするチャイナ。対し、沖田は若干イラつきを見せながらもボリボリと頭を掻き、説明を続ける。

 

「どこの地域行ったって建物の外見はほとんど変わんねーよ。もちろん服装もな。だけど、あのガキ共の服装を見てみろ」

 

 沖田が親指で後ろを指した方には、なのはたち三人と定春がいる。アリサが執事の鮫島という男に電話をかけて話している途中だ。ちなみに三人は、とっくにコスプレ衣装から着替え、神楽が会った時の白い学生服に戻っていた。

 

「まー、見たことない服アルな。だけど何か変なとこあるアルか?」

 

 首を傾げる神楽。その様子からあまり深く疑問には思ってないだろう。

 沖田はため息混じりに呆れた声を出す。

 

「おめーはホント鈍いな。あんなファッション、江戸の町見回りしている俺でも見たことねェよ。あいつら以外のこの町にいた連中の服も含めてな」

「おお! そう言えば!」

 

 神楽の驚く声を聞きながら、沖田はなのはたちに視線を向ける。

 

「あの三人も寺子屋通いの連中だが、あんな包みも……あの、なんだ? よくわかんねェ死に装束みてーな服装しているガキなんざ、尚更見たことねーよ」

「確かにそうアルな」

 

 神楽はなのはたちの服装をじっくり観察する。

 スカートと上着が合体したワンピースような、白一色に統一された袖の長い服。確かに沖田の言った死に装束みたいな感じではある。彼女たちが近くに置いているカバンも、神楽が今まで会ってきた様な寺子屋のガキ共とは違って、なんて言うか、裕福というか、気品があるというか、豪華な感じが窺い知れた。

 

「ま、ここまでこの俺が説明してやったんだ。もう俺が言いたいことも分かったろ?」

 

 沖田の言葉に神楽は腕を組んで頷きながら答える。

 

「つまりなのはたちは死人ってことアルな」

 

 むずんと神楽の頬を右手で鷲掴む沖田。

 

「お前、死に装束の部分しか理解してねーじゃねーか」

「ぶっちゃけ、お前は何が言いたいアルか?」

 

 ほっぺを鷲掴みされた神楽は口をタコのようにしながら呆れ顔で聞く。沖田は顔を離してから答える。

 

「つまり、ここは俺たちの常識が通じる場所じゃねーってことだ」

「常識……」

 

 神楽はジト目を沖田向ける。

 

「それをお前が口にするのはどうかど思うネ」

「なに言ってんでィ? 常識を知っているからこそ、常識のある奴のルールもモラルも粉々に破壊するまで追い詰める楽しみを実感できるんじゃねェか」

「真顔でなに恐ろしいこと口走ってるアルか!! おめェは警察じゃねー! 人の皮かぶった悪魔ネ!」

「まあ、とにかくだ。下手したら俺たちは誘拐犯の野朗をぶっ殺した罪で、豚箱にぶち込まれるかもしれねェだろ」

「なんでそうなるアルか? あのロリコンイカレ野朗の首を持ってったのは私たちじゃないネ」

 

 神楽の言葉に、沖田はめんどくさそうに頭を掻きながら説明する。

 

「つっても、ここに来る警察のヤツらはそんなこと分からねーだろ? あのガキ共も煙のせいで、誰があいつの首と胴体を離したのか見てねーんだしな。状況証拠的なモノ考えれば、俺たちが犯人てことになるだろ」

「はッ? なに言ってるアルか?」

 

 と言って、神楽は沖田の刀を指差す。

 

「捕まるのは物騒な刀持ったお前だけネ。私のような見るからに可憐な美少女はそもそも論外。捕まるのはお前だけアルから、とっと自首しろヨ~」

 

 そう言って神楽は手をぶらぶら振りながら、なのはたちの元に歩いて行く。すると沖田は顎に手を当てながら言う。

 

「もしくは、お前んとこのデッケェ犬っころが首を食いちぎったって線もあるな。そしたらお前の犬は保健所でガラスケースの中に入れられて、薬嗅がされて永眠――」

「オラァ! とっと死体を山にでも海にでも隠しにいくぞコラァ!」

 

 神楽は態度を180度変え、倉庫にある死体を回収しに行く。そんな神楽の様子を見て、しめしめといった具合に沖田はニヤリと口元に笑みを浮かべ、後を追う。

 すると突然神楽が、

 

「し、死体が消えてるネ!」

 

 驚きの声を上げ、それを聞いた沖田も「なに?」と怪訝なそうな表情を浮かべてすぐさま倉庫に入る。

 倉庫に入ってみれば、首のない死体のあったであろう場所にはなにも残っておらず、少しドロっとした緑色の液体しか残っていない。後はほんのかすかに湯気が立ち上っているのみだ。

 

「なにアルか? この緑色」

 

 緑色の液体が気になったであろう神楽が手を出す。

 

「待ちな」

 

 すかさず沖田が神楽の腕をガシっと掴み、緑色の不審な液体に触れるのを阻止する。

 

「こんなワケのわからねェもんに無闇に触れんじゃねーよ。にしても――どうやら(やっこ)さんが俺たちの手間を省いてくれたみてェだな」

 

 

 

「……………………」

 

 自分を心配してすぐさま駆けつけて来た、目の前の父と兄の姿を見たなのはの目は、ハイライトがOFFになっていた。

 

「い、いやなのは……」

「こ、これはその……」

 

 なのはの兄である高町恭也(きょうや)と父の高町士郎(しろう)は、普段と全然違う姿だった。

 兄がルイージ、父がマリオの格好(コスプレ)。兄と父は、妹であり娘でもある存在の冷めた視線を受け、居心地が悪そうにドッと冷や汗を流している。

 

 捕まっている時に親友のアリサから聞かされた、『マリオで自分たちを助けに来る』という話はやはり本当だったのではないか? となのは思い始めていた。

 

 兎にも角にもやって来た警察が、気絶して動けない犯人たちのお縄を頂戴。なのはたちの保護と事情聴取をする形で誘拐事件の幕は閉じた。

 

 

 港町に集まった警察たちや野次馬の中、神楽、沖田、なのはを倉庫の屋根から見ている影が、一つ。その右手には、口から血を流し、無様としか言いようがない死に顔の男の頭が、掴まれていたのだ。

 

 

 

 

 警察署から出てくる沖田――その腰に刀は差していない。

 事情聴取を受けた沖田は腰に差した刀について訊かれ、模造刀と言って誤魔化そうとした。が、結局誤魔化しきれるワケもなく、免許すら持ってない彼は刀を没収されてしまう。

 そして、神楽と沖田は誘拐犯から少女三人を救った功労により警察から感謝状を贈呈。

 沖田は本物の刀を携帯していたことに対する罰則受けることになるはずだったのだが、誘拐犯逮捕の功労を考慮され、厳重注意だけで済んだ。

 

「――って、あんた結局警察の人間じゃなかったじゃない!」

 

 警察署の前でアリサは自称警察だった沖田に文句を言っていた。本当は沖田も真選組隊士の一番隊隊長という立派な(?)警察の一人なのだが、〝こっち〟の警察ではない。

 自分を騙した沖田にアリサは憤慨しているようだ。それに対して、沖田はめんどくさそうに答える。

 

「そうでも言わねェとお前、あの時俺のこと信じなかっただろ?」

「いや、警察と言っててもあたし、あんたの発言を信じなかったわよ?」

 

 とアリサは白い目を向ける。

 

「やだねェ、おめーみたいな純粋じゃねェガキ」

「あんたみたいなヤツが純真な子によからぬことを考えるんでしょ? 疑り深いくらいが丁度いいのよ」

 

 そんな沖田とアリサの言い合いを眺めているのは、アリサの同級生二人と、その家族たちに、中国服の少女とデカイ犬が一匹。

 

「ニャハハハ。なんだか沖田さんとアリサちゃん仲良しさんになっちゃったね」

 

 なのははニコやかに沖田とアリサの姿を眺め、

 

「う~ん、そうかなぁ? わたしには犬猿の仲って感じだと思うんだけど?」

 

 親友の言葉に疑問に感じてすずかは苦笑。

 すると、高町家の大黒柱である父――高町士郎が一歩前に出る。

 

「沖田くん。神楽ちゃん。この度は本当にどうもありがとうございました。(うち)のなのはを救っていただいたご恩は忘れません。家族を代表してお礼を申し上げます」

 

 懇切丁寧に感謝の意を表し、頭を下げる士郎。それに続き、すずかの姉である月村(しのぶ)も頭を下げた。

 

「私も月村家を代表して、お礼申し上げます。(うち)の月村すずかを救っていただきありがとうございました」

「この鮫島も、バニングス家代表として深く感謝します。アリサお嬢様を救っていただき、ありがとうございます。神楽様と沖田様の勇敢な行いにこの鮫島、感銘を受けました」

 

 うやうやしくお礼を言ってくる三家の代表の言葉に、神楽は得意げに胸を張る。

 

「よきにはからうヨロシ。私はとーぜんのことをしたまでアル」

 

 一方の沖田は、

 

「……かゆ」

 

 頭をポリポリ掻きながら視線を逸らす。そこですかさず神楽が沖田の顔を覗き込むように近づいて来て、ニヤリと口元を歪める。

 

「なにアルか? なにアルか? お前もしかしてガラにもなく照れてるアルか? プププ。普段文句ばっか言われるようなことするからそうなるネ」

「死ね」

 

 沖田は神楽の脳天にチョップ(割と強く)喰らわす。

 

「あいたっ!!」

 

 神楽はあまりの痛みに頭を抑えて蹲るが、すかさず立ち上がって頭を抑えながら文句を言う。

 

「なにするネ!」

「うるせ。弄るのは俺の専売特許でィ」

 

 と沖田が返すと神楽は食ってかかる。

 

「つうかお前、最初は誘拐犯に協力してただろ! 寧ろ最初から助けようとしたのは私ネ! だからお礼を言われる筋合いはお前にはないんじゃァー!」

「何やぶからぼうに言ってんだ。あれは、俺が昔手配記録で見た死刑囚と同じ特徴のヤツだったから、探るために一時的に奴らの仲間になっただけの話だろうが」

「普段警察の仕事サボるクセに、なんでこういう時だけ仕事するアルか! この汚職警察!」

 

 またいつものように神楽と沖田が喧嘩始めようとした時、士郎が声をかけてきた。

 

「沖田くん、つかぬことをうかがうんだけど。君、何か武術でもやっているのかい?」

「ん?」

 

 沖田が後ろ振り向くと、少々興奮した様子の士郎。

 

「娘から聞いたよ。誘拐犯たちを目にも留まらぬ剣裁きで気絶させ、敵の銃弾を右へ左へとかわしたとか」

「ん……まーな」

 

 沖田はテキトーに返事する。

 普段から攘夷浪士相手に危険な戦いをしてきた沖田としては、それほどビックリされるほどの事とは思ってない。

 

「っで、良かったらなんだけど……」

 

 士郎は人柄の良い笑み浮かべつつ尋ねる。

 

「今度、私と模擬試合をしてくれても構わないかい? 私も武術を嗜んでいてね。娘の話を聞いて、久々に武人としての血が――」

「ちょっとあなた……」

 

 妻である高町桃子に諭され、士郎は慌てて頭を下げる。

 

「あッ、つい……すまいない、沖田くん。今の話は忘れてくれ」

 

 桃子はやれやれと首を横に振りながら、

 

「娘の恩人に試合を申し込んでどうするんですか、まったく……。そういうところは相変わらずね」

 

 呆れたようにため息をつく。そして士郎は桃子の言葉を聞いてうな垂れる。

 

「め、面目ない……」

 

 すると沖田が、

 

「別に試合してやっても構わねェぜ」

 

 申し出を受け入れるので、士郎は顔を上げて目を輝かせる。

 

「本当かい!?」

 

 沖田は「ただし」と言った後、眼光を鋭くし、黒いニヒルな笑みを浮かべる。

 

「――足腰粉砕しても構わねェよな?」

「た、立たなくるどころか、ふ、粉砕させちゃうの……!?」

 

 すずかは沖田の足破壊宣言に面食らうってしまう。

 ドS発言する沖田にアリサはジト目向ける。

 

「あんたねー、試合で骨砕くとかしゃれになってないわよ? あり得ない話じゃないんだから」

「誰も骨なんて言ってねェよ」

 

 沖田の言葉を聞いてアリサが「え?」と声を漏らし、きょとんした顔。そして、沖田はより黒い笑みを浮かべる。

 

「俺ァ文字通り、足を粉砕するつもりだ」

「あんた木刀で秘孔かナニか突けるの!?」

 

 アリサは士郎の足が粉々に吹き飛ぶ姿を想像して顔を真っ青にし、沖田は空を見上げながら語る。

 

「俺は土方さんを試合にカコつけて殺すため、色々模索してきたからな。この技術もその一つだ」

「あんたどんだけそのひじかたって人のこと嫌いなのよ……」

 

 アリサは呆れた眼差しを沖田に向ける。

 この男が殺したいくらい嫌う男――土方。一体どんな男なのかある意味会ってみたいと思うアリサであった。

 

「アハハハ。お手柔らかに頼むよ」

 

 士郎はほがらかに笑う。彼は沖田の言ったことを軽い冗談と受け取っているようだ。

 

 ――たぶんマジでやりかねないアルな。

 

 神楽は、士郎が沖田と模擬試合した後、五体満足で明日を迎えられるかちょっぴり心配した。

 

「あ、父さんの次は俺とも試合してくれないか。父さんほどではないにしろ、俺も剣の腕には自信があるんだ」

 

 士郎に続いて試合の申し込みをしたのは高町家の長男である高町恭也だ。

 呆れ顔の沖田は高町家の父と兄から、なのはに顔を向ける。

 

「物好きだね、おめーの家族は」

「ニャハハハ……」

 

 なのはは剣術バカの自分の両親の行動に対して苦笑いしかできない。すると思い出したように、自分の姉である高町美由紀に質問した。

 

「そう言えばお姉ちゃんも剣道やってるけど、沖田さんに試合、頼まないの?」

「あー、あたしは……」

 

 美由紀は頬をぽりぽりと掻く。

 

「銃持った誘拐犯を一人で一網打尽にするような相手に勝てる気がしなくて……」

「アハハ……」

 

 沖田との剣術の差を感じて落ち込む姉を見て、なのははまたしても苦い笑いしか出なかった。すると桃子がパンと両手を合わせ笑顔である提案をする。

 

「お礼と言ってはなんですけど、もし近い内にうちの主人と試合するのでしたら、その時にケーキをご馳走させてもらってもよろしいかしら? ほんのお礼として」

「マジでか!?」

 

 大食い少女の神楽の目が嬉々として輝きを放つ。

 

「うちは喫茶店を経営してるの! うちのお父さんとお母さんが作るケーキは絶品なんだよ!」

 

 なのはは我がことのように父と母の自慢をする。その目は神楽とは別の意味で輝いていた。

 説明を聞いて神楽はガッツポーズ。

 

「うっしゃー! ならとっとケーキ食いに行くネ!」

「行かねーよ」

 

 沖田は神楽の襟首を掴み、

 

「な、なにするアルか!?」

 

 ずるずる沖田に引きずられる神楽は動揺を示す。もちろん神楽は抵抗するが、沖田の手を振り払うことができない。

 沖田は神楽を引きずりながら言う。

 

「いくらなんでもこれ以上単独行動してらんねーよ。さすがに土方さんにどやされるからな」

「戻りたきゃ、お前だけ戻ればいいだろ! 私は自分の限界に挑戦するアル!!」

「フードファイトはまた今度にしな。俺たちにはもっと別の目的があんだろ」

「とかなんとか言って、ホントは私がケーキ食うの邪魔したいだけじゃないアルか!?」

 

 ぬるりと振り返った沖田の口元は釣りあがり、めちゃくちゃ腹黒そうな笑みを浮かべる。

 

「あ、バレた?」

「やっぱそうだったかこのサディストー!!」

 

 神楽は目を吊り上がらせてとにかくもがく。

 

「はーなーせー!! うがァァァァァっ!! 私にケーキ食わせろォォォォォっ!! 私はあのクソ天パのせいで普段から満足に甘い物食えないんだぞォォォォォッ!!」

「んじゃま、俺ら帰るんで。この辺で失礼しや~す」

 

 沖田は右手を軽くぶらぶら振って、腕と足をぶんぶん振りながら必死に抵抗する神楽を引きずる。場を後にしようと歩いて行く沖田と暴れる神楽の後を定春が付いて行く。

 

「あッ、ちょっと待ちなさい!」

 

 アリサは帰ろうする沖田と神楽(いまだに抵抗している)を引き止める。

 沖田が足を止めて振り返ると、アリサは腰に両手を当てて笑みを浮かべた。

 

「折角だから、ウチの車で家まで送ってあげるわ」

「ん? いいのか?」

 

 片眉を上げて聞く沖田にアリサはさも当然と言った態度で返す。

 

「助けた恩人に恩を返すのは、当然の礼儀ってもんでしょ? まあ、この程度じゃ恩を返したうちに入らないけどね」

 

 得意げに答えたアリサは言葉の最後にウィンクをすると、沖田は目をパチクリさせて言う。

 

「あ、目にゴミでも入った?」

「恩を仇で返すわよ?」

 

 額に青筋を立てるアリサ。

 

 

「お前んちの高そうな車に定春入るアルか?」

 

 神楽は横目でアリサを見る。

 

「………………」

 

 お座りした定春と用意した高級車のリムジンが同じ高さなことに、アリサは汗を流す。

 このヒグマ並みにデカイ白い犬では、たぶん無理やり押し込んだとしても入らないだろう。下手したらリムジンが中から不自然に膨張したような姿になりかねない。

 

「なら、ノエルに電話してワゴン車を持ってきてもらうわ」

 

 月村忍の提案で、月村家のメイド長をしているノエル・K・エーアリヒカイトが、定春を乗せるためのワゴン車を持ってくる。

 沖田と神楽となのはとすずかはバニングス家のリムジンに乗り、二台の車で公園まで行くことになった。ちなみに、なのはとすずかは、もう少し神楽と沖田とお話したいということで、少し時間は遅いながらも親の許しを得て一緒にリムジンに乗ることになったのである。

 

 

「ええええええっ!? 三十八回も誘拐されたのってウソなのぉ!?」

 

 運転中のリムジンの中でなのはの驚きの声が響く。

 アリサはさも当然のように「そりゃそうよ」と言う。

 

「どんだけうちの警備ザルかって話よ。まだ今回の合わせても誘拐されたのは二回程度」

 

 自分の発言が嘘であると申告すると、なのはは頬を引き攣らせる。

 

「いや、普通の人生で誘拐されるなんてそうそうないと思うけど……」

 

 なのははすぐにすずかに顔を向ける。

 

「いや、それよりも! じゃあ、すずかちゃんの三十六回誘拐されたのも……」

「ごめんなのはちゃん!」

 

 すずかは両手をついて頭を下げる。

 

「わたしもアレは、ただの悪ノリなの! 誘拐されたのは今回が初めてで……」

「酷いよアリサちゃんすずかちゃん! わたし信じてたのに!」

 

 なのはは二人に嘘つかれたことに対して涙目。まさか親友が嘘をついていたとは毛ほども考えていなかった。

 アリサは呆れ顔になる。

 

「なのは、あんた純粋過ぎるのよ。っていうか、あんな大げさな数字聞いたら普通は嘘だって思わないの?」

 

 すると、運転している鮫島が笑顔で説明する。

 

「まぁ、私ども大人がアリサ様とすずか様の日常を守れるよう努力してますゆえ、そう簡単には誘拐などさせませんよ」

 

 鮫島の言葉を聞いた沖田も頬杖を付きながら言う。

 

「ま、富豪のガキともなりゃ、誘拐=身代金なんて発想はバカでも出てくるわな。気をつけねェ方がおかしいぜ」

「じゃ、じゃぁ……鮫島さんがマリオのコスプレして助けにくるって話も……」

「当然ウソよ」

 

 なのはの疑問にアリサは腕を組んでキッパリ言う。

 

「まー、マリオをプレイしたのは本当だけどね。そもそも、一回ウソって説明したでしょ?」

「いや、だってお兄ちゃんとお父さんがコスプレして来たから、鮫島さんの話も実は本当かと思って……」

 

 なのはの言葉を聞いてアリサは「あぁ……」と声を漏らす。父と兄のコスプレ姿を見た時のなのはは、色んな意味で目が死んでいたのをアリサも覚えているようだ。

 ハッハッハッ、と鮫島は和やかに軽く笑う。

 

「この歳でもアリサ様を守る自信はありますが、さすがに仮装をするほどの元気はありませんよ」

 

 話を聞いて疲れを覚えたなのははガックリうな垂れ、アリサに目を向ける。

 

「そもそも、なんであんなウソを……」

 

 アリサは指を立てて視線を逸らしながら告げる。

 

「いや……それは……あれよ。怖がってたあんた励まそうとしたのよ」

「なのはちゃん」

 

 と言って、すずかが苦笑しながらフォローする。

 

「アリサちゃんは、突拍子もないことを言えば、少しはなのはちゃんの恐怖が和らぐと思ったんだよ」

 

 すずかの言葉を聞いてもなのはは少し疲れ顔。

 

「ただツッコミで疲れただけだと思うの。たしかに、だんだん怖くはなくなってたけど……」

 

 ちなみになのは父と兄がコスプレしていた理由はと言うと、

 

『俺と恭也は喫茶翠屋でこれから始まる、マリオ新作ゲームの宣伝のためにこのコスプレしているだけなんだ! 任○堂からのオファーを受けただけなんだって!! その目ヤメテ!!』

『服の試着をしていた時になのはが誘拐されたという連絡を受けて、着替えもせずに急いでやって来ただけなんだ!! だから兄をそんな目で見ないでくれ!!』

 

 という事だったらしい。

 

 

 

 

 そんなこんなで黒いリムジンとワゴン車は海鳴公園に到着する。

 

「あァ、ここだここ」

 

 沖田は車を降りて背筋伸ばす。

 

「送ってもらってサンキューな」

「ふわァ~」

 

 と神楽はあくびをして、車を降りながら後ろを見る。

 

「やっと付いたネ。とりあえず、もう夜アル。さっさと寝る準備するヨ、定春」

「ワン!」

 

 車から降りた定春も背筋を伸ばす。

 

「――って、ここただの公園じゃない!」

 

 アリサはツッコム。

 

「まさかここで寝るつもりなのあんたら!?」

「なに言ってんだ? ホームレスたちにとっちゃここも立派な寝床なんだぜ?」

 

 沖田の真剣な表情を見てアリサは察し、頬を引きつらせながら汗を流す。

 

「あ、あんたたち……も、もしかしてホームレスなの?」

「ちげーよ。俺はホームレスじゃねェ」

 

 沖田に同意するように神楽も腕を組んで頷く。

 

「あんな底辺の連中と一緒にすんじゃねーヨ」

「でも、ここで寝ようとしているのよね? 家がないってことよね?」

 

 半眼で見てくるアリサに、沖田は両肩に手を置き、真剣な眼差しを向ける。

 

「いいか? 俺たち人間にとっちゃ、地球が家みてーなものだ。つまり、地球の大地全てが俺たちの家――」

「つまりあんたたちは底辺の人間てことでいいのよね?」

 

 アリサはばっさり沖田たちをホームレス認定。

 すると沖田と神楽は、上と下が開いた四角いダンボールを電車ゴッコするみたいに腰まで履く。

 

「ああそうだ! 今の俺たちには満足に住む家なんてねェんでィ!」

「ダンボール戦士になった私たち舐めんじゃねェぞ!」

「開き直ってんじゃないわよ!」

 

 とアリサはツッコミ、なのはは心配そうに言う。

 

「神楽ちゃん、こんなとこで寝たら体を壊しちゃうよ! もしよかったら、家に泊まらない? たぶんお父さんもお母さんも大丈夫って言ってくれると思うし!」

「あの!」

 

 とすずかも手を上げて提案する。

 

「私の家も広いので、神楽ちゃんや沖田さんが泊まっても全然大丈夫です!」

 

 親友二人の提案を聞いて、しょうがないわね、とアリサはため息を吐く。

 

「あたしの家に泊まっていきなさい。あんたら泊まらせるくらい、どうってことないわ」

 

 必死に訴えるなのは。やんわり進言するすずか。少々上から目線のアリサ。三人の提案を聞いて、沖田と神楽は顔を見合わせる。

 

「イイのかよ?」

 

 と沖田は頭を掻きながら問う。

 

「俺たちみてーな得体の知れない奴ら家に入れて」

「悪い人間が、わざわざ危ない思いしてまであたしたちを助ける?」

 

 アリサはニヤリと口元を吊り上げ、してやったりという顔。

 

「まッ、あたしたちに恩返しさせてもいいんじゃない?」

「ホント、かわいげのねーガキだなおめーは」

 

 沖田は頭をボリボリ掻きながら不満げな表情になるが、神楽と定春は素直に喜びをあらわにする。

 

「じゃあ、私はお言葉に甘えさせてもらうネー!」

「ワン!」

 

 神楽は両手を上げて万歳し、定春は嬉しそうに尻尾を振る。するとまだ提案を承諾しない沖田に、神楽はニヤケ顔で言う。

 

「おいサディスト。お前はいいアルか? このままつめたーい地面で、さむーい夜を過ごすアルか?」

 

 神楽の煽りを受けて沖田は若干イラつきを見せるが、渋々と言った顔で、

 

「まー、マジで寝床のあてがねーからな。しゃーねーか」

 

 なのはたちの提案を受け入れる。

 

「決まりね」

 

 うんと頷くアリサは車に乗るように促す。

 

「それじゃ、誰が誰の家に泊まるのか、行きながら相談しましょ」

 

 その時だった。

 

「沖田さァァァァァァァァァんッ!!」「沖田隊長ォォォォォォォォッ!!」

 

 遠くの方で大声が聞こえ、

 

「ん?」「なに?」「どうしたの?」

 

 アリサ、すずか、なのはは同時に声の聞こえる方へと顔を向ける。

 そして、眼鏡を掛けた青年と、沖田と同じ黒い服を着た男が、走ってこちらまでやって来ていたのだ。

 

「探しましたよ沖田隊長! 今までどこ行ってたんですか!?」

「そうですよ!! 公園に戻ってみたら沖田さんも神楽ちゃんも土方さんもいなくなってるし!! 僕らこんな慣れない土地の中、三人を探すのほんと~に! 大変だったんですよ!!」

 

 真選組密偵であり、真選組一影の薄いことに定評のある山崎退(さがる)。と、万事屋の従業員の一人であり、眼鏡をかけた地味な青年、志村新八。

 久しぶりの登場をした二人は、凄まじい勢いで沖田と神楽に詰め寄る。

 

「お~山崎。お前、近藤さんはどうした?」

 

 沖田はあっけらかんとした声で質問すると、山崎が必死な形相で説明を始める。

 

「そ、そうなんです!! 実は近藤さんが――!!」

「ちょ、ちょっと!」

 

 と、話しに割って入ったのはアリサ。彼女は沖田を見上げながら、やって来た新八と山崎に指を向ける。

 

「その人たち、あんたたちの知り合いなの?」

 

 アリサたちに気付いた山崎は不思議そうに沖田に質問する。

 

「あの……沖田隊長。その子たちは?」

「ん? あ~、こいつらは――」

 

 沖田がメンドーそうにしながら説明を始めようとした時、

 

「山崎ィィィィィィィィィッ!! 総悟ォォォォォォォォッ!!」

 

 突然また遠くの方から聞こえてくる大声。

 沖田の説明を遮るほどのデカイ声がする方に全員の視線が向く。

 

「やっと見つけたぞォォォォォオオオオオオオ!!」

 

 鬼の副長が、鬼のような形相で、ダッシュしながらやって来た。

 土方の恐ろしい形相を見た少女三人は、

 

「「「きゃあああああああああああああああああッ!?」」」

 

 顔を真っ青にして涙目になりながら悲鳴を上げる。

 

「あ、土方さ~ん」

 

 と沖田は呑気な声で手を上げる。

 

「そっちこそどこで油売ってたんすかァ?」

「ふ、副長ォ!?」

 

 山崎はやって来た副長(おに)を見てビビる。

 

「沖田隊長はともかく、なんで俺にまであの人怒ってんの!? そりゃ、近藤さん連れ戻せなかったけど!!」

「ん? 近藤さんに何かあったのか?」

 

 と沖田は、山崎の後ろに隠れながら不思議そう首を傾げる。

 

「お、沖田隊長ォ!! さり気なく俺を盾にしないでください!!」

 

 沖田に盾にされて青ざめる山崎。

 手が届くとこまで詰め寄ってきた土方は、そのまま山崎の両肩を掴み、必死な形相で訴える。

 

「た、大変なんだお前ら!! ここは江戸じゃない江戸なんだ!!」

(その前に大変なのは副長の顔なんですが!?)

 

 と、表情でも内心でも超ビビる山崎。必死に走って来た上になんか超慌ててる土方の顔は、はっきり言ってすんごい怖い。

 土方に肩を揺すられる山崎は、三半規管にダメージがいき始め、恐怖以外でも顔を青ざめさせる。

 

「いや、そうではなく! 昔とうきょうだったけど今は江戸、じゃなくて!!」

 

 土方は捲くし立てて気付いてないが、山崎は頭を前へ後ろへシェイクされ、顔色はどんどん悪くなっている。

 一方の土方は、普段はほとんど見せない慌てた表情をこれでもかと披露。

 

「ここは江戸ではないどこか……でもねー!! とにかくここは俺たちの知っている江戸どころか、俺たちの知っている世界ですらねーかもしれなくてだな――!!」

 

 それはそれとして山崎。最初は吐きそうな顔から、今ではこの世の終わりみたいな感じの顔に変化していく。

 

「ちょッ!?」

 

 新八が慌てて土方を止めようとする。

 

「土方さん落ち着いて!! 一体なにがあったんですか!? なに言いたいんだがさっぱり分かりません!! っていうか山崎さんの顔がヤバイです!! もう吐くの通り越して死にそうな顔になってます!!」

 

 新八が止めに入るが、土方はまったく大人しくならない。

 

「しゃーねー。俺が止めるか」

 

 山崎を盾にしていた沖田が、土方の首を絞める。

 

「って、なんで息の根止めようとしてんですかアンタは!!」

 

 久しぶりに新八のツッコミが炸裂し、マイペースな神楽はなのはに質問している。

 

「なのは、お前んとこってベットと布団、どっちで寝られるアルか?」

「一応どっちもあるけど……っていうか、アレ、止めなくていいの?」

 

 てんやわんやしている新八たちを見て、なのはは汗を流しながら戸惑い、

 

「あ、アリサちゃん……あの前の髪がV字の人、ちょっと怖い……」

 

 すずかは恐ろしい形相を見せ続けた土方に怯え、アリサの後ろに隠れる。

 

「………………」

 

 もうめちゃくちゃな状況を前に、アリサの体はふるふると震え、

 

「もぉー!! なんなのよこれぇぇぇぇぇッ!!」

 

 頭を抱えて叫ぶ。

 少女の絶叫が、夜空に消えていったのだった。

 



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第十二話:不思議な喋るアイテム

 公園で土方、新八、山崎の登場でめちゃくちゃややこしい状況になったが、一旦落ち着いたところ。で、夜も遅いのでそれぞれがなのは、アリサ、すずかの家で一晩明かした後に、また集まって改めて話し合おう、ということになった。

 ちなみに、なのはたちを助けていない他三名(新八、山崎、土方)も沖田と神楽の知り合いということで、泊まるのをOKしてもらった。

 

 なのは宅&その様子

 

「ケーキのおかわりいいアルか?」

 

 と空皿出す神楽は一言。

 

「もちろんホールで」

「神楽ちゃん! いくらなんでも図々し過ぎだよ!」

 

 新八はチャイナ娘をたしなめ、頭を下げる。

 

「すみません桃子さん。神楽ちゃん、めっちゃ食べもんで」

 

 神楽ともっとお話したいと言うなのはの意向もあり、神楽と新八の万事屋組はなのはの家で一晩を明かすことになった。 

 

 そして今現在。

 いつもの神楽の遠慮ない口と胃袋、それに対して良識ある新八が謝っているところ。

 高町家の母である桃子は顔色を悪くするどころか、にこやかな笑顔を作る。

 

「別に構わないわよ。神楽ちゃんいくらでも食べてくれるから、むしろ新しいケーキを色々試せて嬉しいわ~♪」

 

 桃子はニコニコしながらホールのケーキを次々持ってくる。彼女も彼女で抜け目ない性格らしい。それを呆然と眺める桃子を抜いた高町家の面々。

 

「あの子、フードファイターかなにかか?」

 

 高町家長男の恭也は唖然とし、末っ子のなのはも驚きの声を漏らす。

 

「か、神楽ちゃん……凄い……。夕飯だって、あんなに食べたのに……」

 

 あの小さな体のどこにケーキやらごはんが詰まっているんだ? と驚嘆する二人。

 

「私、お母さんにケーキの試食何度も引き受けた時、体重増えたっけ……」

 

 一方の高町家長女の美由紀は、桃子が持ってくるケーキを見て明後日の方向に顔を向けている。そんな彼女の瞳の端には、涙の粒が溜まっていた。

 

「いやぁ、今日は桃子の試作ケーキを食べる日だったんだけど、神楽ちゃんがいてくれて良かったよ」

 

 と言って高町家の父、士郎は遠い場所に目を向ける。

 

「…………いや、本当に」

「ア、アハハハハ……」

 

 新八は、そんな高町家の長女と父の姿を見て、乾いた笑いを浮かべる。

 士郎の最後の言葉の辺りで、彼の笑顔の裏に高町家の父としての苦労が新八には垣間見えた気がした。(主に腹膨らませた士郎が、次々やって来るケーキ悪戦苦闘する姿が)

 

 

 アリサ宅&その様子

 

「うっし、サド丸一号、サド丸二号、サド丸三号。山崎のケツに噛み付いてこい!」

 

 沖田の命令に従って、三匹の犬たちが山崎に噛み付こうと駆け出し、

 

「「「ワンッ!!」」」

「ぎゃあああああああああッ!!」

 

 山崎は必死に逃げ惑う。

 

「大型犬三匹に襲われるとか、シャレになんないですよ沖田隊長ォー!!」

「ちょっとあんたなに人んちの犬勝手に手懐けてんのよ!?」

 

 どうやってか知らないが、自分の家の犬を簡単に操る沖田の手腕にビックリするアリサ。

 

「ハッハッハッハッ!」

 

 定春は、アリサが飼っている多くの犬の中の一匹であるゴールデンレトリバーの前でお座りし、一時も目を離さず、息遣いを荒くさせている。

 

「ん? 定春、ダイヤのことじ~っと見て何してるのかしら?」

 

 アリサが訝し気に定春を見る。ちなみに、定春が熱い視線を送っている犬はダイヤという名前だ。

 すると、沖田がアリサに質問する。

 

「あの犬メスか?」

「ええ、そうよ」

 

 と頷くアリサ。沖田は顎に手を当てる。

 

「じゃあ、発情期だな」

「へ~そうなの……って、ええええええええええええッ!?」

 

 アリサはえらい推理を聞いて仰天し、沖田に詰め寄る。

 

「ちょ、ちょっと! それホント!? あんな大きい定春と交尾したらうちのダイヤ死んじゃうわよ!?」

「あいつが短小であることを信じるしかねェだろ」

「レディの前で下の話すんな!!」

 

 アリサは顔を真っ赤にしながら沖田ローキックくらわそうとするが、沖田は簡単に避ける。

 

「アリサ様、沖田様。お食事の準備が整いました」

 

 すると執事の鮫島が現れ、それにいち早く反応する沖田。

 

「へ~い。おめェんちブルジョワだから、めっちゃ豪華な料理なんだろ?」

「いや、たぶんあんたが思っているほど毎日豪勢な料理食べてないけど?」

 

 とアリサは半眼で答える。

 

「とにかくゴチになるぜ、バーニング」

「誰がバーニングよ! 誰が!! だからバニングスだって何度も言ってるでしょ!!」

 

 うがぁ! とアリサは怒髪天さながらに怒りながら、沖田の後を追っていく。

 ちなみに沖田は、アリサの名前を呼ぶたびに『バーニング』と苗字を(ワザと)間違えて呼んでいる。怒っている時の彼女は確かにバーニングと言っても過言ではないが、バーニングではなく、バニングスなのであしからず。

 

「………………」

 

 あと、早速執事である鮫島にも忘れられてしまった地味な山崎くんは、沖田のけしかけてきた犬たちに、頭やら尻やらをかじられ、血と涙を流して地面に倒れ伏している。

 

 これが、バニングス家に厄介になっている真選組二人と一匹の様子だ。

 定春が神楽のいる高町家ではなくバニングス家に来た理由はというと、デカい定春を高町家に置くことが難しいから。なので、犬をたくさん飼えるほど敷地面積が広いアリサのところに置くことになった。

 ちなみに沖田の泊まる理由はアリサに「私の家に泊まれば?」と言われたからである。山崎は沖田がめんどう起こさないための監視役。

 定春と離れることに神楽は中々納得せず、悲しんでいた。が、飯食って悲しみはどっかいったようである。

 

 

 最後に余った鬼の副長たる土方はというと……。

 

 すずか宅&様子

 

「もぐもぐ…………」

 

 マヨネーズ飯食う土方に、すずかが話しかけようとすると、

 

「あの…………」

 

 本人が意識してない怖い目がすずかに向く。

 

「ん?」

「ぁ……な、なんでもないです……」

 

 すずかは何度か食べている土方に会話を試みるのだが、目が怖くて中々喋るまで発展しない。

 食事中、終始気まずい雰囲気が続くのだった。

 

 

 ん? 誰か忘れてないのか? いや、忘れてはいない。

 最後にあの近藤(ゴリラ)はと言うと、

 

「………………」

 

 〝牢屋〟の中で体育座りしながら床にごろんと寝転んでいた。その顔にはどことなく、影が掛かっている。

 

 近藤は知らないが、他の面々はあたたかーい部屋で、うまーい飯を食べ、楽しい思いをしている最中。

 一方の近藤は、つめたーい床で寝て、うまくなーい飯を食べて、悲しい思いしていた。

 

 銀時みたく、死んだ魚のような目でじ~っと何もない灰色の壁を見つめる近藤。

 

 ――ウンコ付いてたのに、運がまったく付かなかったんだけど……。

 

 ただでさへ、ウンコでメンタルにダメージ受けているのに、更に捕まって牢屋に入れられ、メンタルポイントが0近くなりそうだ。

 

 ――なんでこんな目に? 俺が何したの? って言うかなんでこんな牢屋に幽閉されなきゃならないの? 俺一切悪いことした覚えないよ? …………なんで? ……なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで? なんで?

 

 すると、なにかスイッチが入ったように近藤は動き出し、

 

「出してくださァァァァァァいッ!!」

 

 牢屋の鉄格子に張り付いて叫び声を上げ、訴え続ける。

 

「これはッ! これはなにかの間違いなんですッ! 俺なにも悪いことやってないんです!! だから出してッ!! お願いだからァ!!」

「うるさい静かにしろ!!」

 

 巡回にやってきた監視員の警防が鉄格子に当たり、ガン! と音が鳴る。だが、近藤は怯まず自分の無実を主張。

 

「いや、だから俺何も悪いことやってないんだって!!」

「お前は銃刀法違反の罪で捕まっていると何度も言っているだろう」

 

 呆れた調子で言う監視員。

 

「罰金を払う金がないなら、一年以上自由の身になれないと思った方がいいぞ」

「だから俺警察の人間なんだって! 真選組の局長なんだって! って言うか『じゅうとうほういはん』ってなに!? 新しい法律!?」

 

 近藤は涙目になって鼻水垂らしながら弁解するが、まったく聞く耳もたれなかった。

 

 取調べ室でも、何度も自分が警察の人間であり定春にウンコ頭にかけられたからだと近藤は説明した。

 ウンコの件はなんとか理解しては貰えたのだが、今度は持っていた刀のことで取調べを受けた。それについて、自分は真選組所属だから刀の携帯を許されている、と何度も弁解したのだが、取り調べていた警察の方にはまったく理解されなかった。

 おかげで銃刀法違反というわけのわからん罪状を突きつけられた上、近藤の発言から頭のおかしい人物であると判断されてしまう。そのため、これから行われる裁判の内容によっては、精神病棟へ移される可能性もあると言われる始末。

 

「うぅ……なんでこんなことになってしまったんだ……」

 

 近藤は床に両膝を付け、ずずっと鼻をすすり、鉄格子に額を付けてうな垂れる。だが、すぐさま立ち上がり自身を奮起させた。

 

「いや、こんなとこで立ち止まっている暇はない! きっとトシたちも俺のことを心配しているはずだ!! きっとこの危機を脱してみせる!!」

「だからうるさい!!」

 

 ちなみにそのトシたちは今、ぬくい布団で就寝中。

 

 

 バニングス邸――アリサの部屋。

 

「ふぅ~……。疲れた」

 

 シャワーをして心も体もさっぱりしたアリサは、首にタオル巻きながら布団の上に仰向けに寝転がる。窓を開けて網戸にしたことで、心地よい風が火照った体を心地よく冷やす。

 まぶた薄っすらと開け、今日のことを思い出す。

 

 ――ほんとう……今日は忘れられないことばっかだったわね……。

 

 公園でやたら騒ぐ変人たちを見て、その後にやたらデカイ白い犬と触れ合い、帰る途中で誘拐されて、やたら強い男に助けられた。その間、かなりの割合でやたらツッコミとかもしてたと思う。

 本当に思い出すと、良いか悪いかはともかく、やたら印象深いことが今日は色々あった。

 

 ――ま、明日からいつもどおりね……。

 

 また、なのはとすずかと一緒に学校に行き、下校では一緒に雑談しながら帰り、放課後や休日は友達や家族と過ごす楽しい時間が待っているだろう。

 近い未来の想像をしながら、アリサはまどろみへと落ちていく。

 

 

 

《…………ん!》

「ん…………」

 

 耳元で誰かが何かを囁いている。

 

《…………さん!》

(ん…………だれ?)

 

 段々と深い眠りから目覚め、徐々にアリサの瞼が開く。

 

《……リサさん!》

「んん……」

 

 ぼんやりとだが、目が覚めたアリサ。

 右から聞こえてくる声の主を確認するために、アリサは首を横に曲げる。そして目に映ったモノは、

 

《起きてください! アリサさん!》

 

 燃え上がる炎を(かたど)ったような、もしくは火の玉に羽を生やさせたアクセサリーみたいなモノが――〝羽をパタパタ動かしながら〟自分の名を呼んでいた。

 

 ――あ、夢か……。

 

 アリサはそう思ってまた目を閉じる。すると、すぅと息を吸い込むような音の次に、

 

《起きてくださァァァァァァァァいッ!!》

「ウギャァァァァァァッ!!」

 

 アリサの耳に大音量の声が直接入り、これには堪らず悲鳴を上げながら飛び起きる。

 

「もう……なんなのよぉ~……。耳がつんぼになったらどうするの……」

 

 脳が揺れるような錯覚を覚えながら、耳を抑えて涙目になるアリサ。そして自分に大音量を直接叩き込んであろうと、犯人に目を向ける。

 

《やっと起きてくれましたか。どうも始めまして》

 

 炎に羽が付いた『よくわからんモノ』が体(?)を折り曲げて、ペコリと丁寧にお辞儀した。

 

「………………」

 

 アリサはそのまま無言で歩き出し、網戸を開ける。

 

《あれ、どうしたんですか?》

 

 疑問を感じる『よくわからんモノ』は頭に?を出して首(?)を傾げる。

 アリサはすかさず『よくわからんモノ』の羽を掴み、腕を振りかぶる。

 

《え?》

 

 と謎のモノは呆けた声を出す。

 

「うぉりゃぁぁぁぁああああああああッ!!」

 

 アリサはメジャーリーガーさながらの投球フォームで、よくわからんモノを夜空にスパーキング!!

 

《あ~~~~れ~~~~~!!》

 

 そのままキラーンと夜空の一つ星となって、よくわからんモノは消えていった。

 運動したことで出た額の汗を袖で拭くアリサ。

 

「ふぅ……これで安心して――」

《――寝られると思った大間違いですよ~? アリサさん》

 

 ぬぅ、と自分の背後に回っていた変な物体を見てアリサは、

 

「で、出たぁぁぁぁぁぁッ!?」

 

 絶叫して慌てて後ろに飛び退く。すると変なモノは羽を腰(?)に当てる。

 

《もう、人のことオバケみたいに扱わないでください。失礼しちゃいますねェ》

「あんたのどこが〝人〟なのよ!!」

 

 アリサはビシッと謎の物体を指さし、

 

《あ、それもそうですね》

 

 謎の物体は、こりゃ一本取られました、と言って器用に頭(?)を掻く。

 

「って、っていうかなんのなのあんた!? な、なんであんたみたな変なモノがあたしの部屋に!?」

 

 怯えるアリサに対して、謎の物体は軽快に飛びながら、

 

《あ~、自己紹介がまだでしたね。では、お教えしましょう!》

 

 謎の物体はくりると一回転して、自己紹介を始める。

 

《私はエンシェント・フレイアと申します! 気軽にフレイアちゃんと呼んでください!》

「あ、こちらこそ。あたしはアリサ・バニングスともう――って違うわよ! 別にあんたの名前なんてどうでもいいのよ!!」

《むむッ! フレイアちゃんの名前を蔑ろにしないでいただけますか? 泣いちゃいますよ? 目はないですけど》

 

 ノリツッコミするアリサの言葉を聞いて、ちょっと落ち込んでしまうフレイアちゃん。

 構わずアリサは声を上げる。

 

「あたしが知りたいのは、あんたが一体何者かってことよ!!」

《あ~、それもそうですね。アリサさんは、思いっきり私たちの世界とは住む世界の違う人間ですから。ええっとですね――》

 

 とフレイアがアリサに説明しようとした時、バンバンバン! とドアの叩く音と、執事の鮫島の声が聞こえてきた。

 

「アリサお嬢様いかがなさいましたか? さきほどから大きな声を出していましたが」

「うッ……」

 

 鮫島がやって来たことでアリサは言葉を詰まらせ、フレイアはスッと黙る。

 だが、咄嗟にアリサは機転を利かせた。

 

「ちょッ、ちょっと足の小指タンスにぶつけっちゃったの!! 痛くてつい叫び声をあげちゃっただけだから気にしないで!」

「そうでございましたか」

 

 鮫島は安心した声を出す。

 

「とは言え、足の小指は大丈夫ですか? 爪などが傷ついているかもしれませんし、念のために私が見ておいた方が――」

「だ、大丈夫大丈夫! 痛いかっただけで、特に怪我とかないから!」

「そうですか。安心しました。もしなにかあればお申し付けください。すぐに駆けつけますので」

「あ、ありがとう鮫島!」

 

 アリサは乾いた笑いを浮かべながら、鮫島が部屋から離れるのを待つ。

 そして鮫島が居なくなったであろうことをドアの隙間を開けて確認し、緊張の糸が切れたアリサはドサっとベットの上に座る。

 

「まったく、なんであたしがあんたの為に、あんな下手な誤魔化ししなきゃならないよ。って言うか、鮫島に処分させても良かったかも……」

 

 ため息をつくアリサに、フレイアは嬉しそうに話す。

 

《いやいや、中々ナイスな機転ですよ! 小指ぶつけて大声出すとかあるあるですからね! それと、私のことは時期が来るまで誰にも話さず持って置いた方がお得ですよォ?》

「……それはなんでよ?」

 

 アリサがジト目を向けて問うと、フレイアはまた説明しだす。

 

《さきほども説明しようとしましたけど、それはですね~――》

「お~い、頭大丈夫かァ? なんか変な声あげたらしいな」

 

 ノックもせず、失礼なこと言いながらいきなりアリサの部屋に入ってきたのは沖田。

 一方のアリサは『なにか』を布団に慌てて被せたような格好になっていた。

 

「なにやってんだ、お前?」

 

 ジト目を自分に向けてくる沖田の言葉に、アリサはブチっと青筋を立てる。

 

「乙女の部屋にノックもなしに入ってくるなー!」

 

 アリサは近くにあった分厚い本を、沖田の顔面向けて投げた。

 

「ジミーガード」

 

 沖田に盾にされた山崎の額に、本のカドが直撃して「ブヘッ!?」とジミーは悲鳴を上げる。が、アリサは構わず部屋のドアに近づく。

 

「ただ足の小指ぶつけただけなの! あとノック! 気をつけなさいよね!」

 

 バタン! とアリサはドアを無理やり閉める。

 

「なんでェい。折角来てやったのに。あ~あ、無駄足だったな」

 

 沖田は不満そうな声を漏らしながら自分が寝ていた部屋に戻って行った。

 

「沖田隊長ォ、今の扱い酷いですよォ~……!」

 

 山崎も額を抑えながら沖田の後を付いて行った。

 二人が去って行くのをドアを少し開けて確認したアリサは、再びベットに座って息を吐く。

 

「はぁ~……心臓に悪い……」

《いや~、今のは危なかったですね》

 

 布団から出たフレイアは、あっけらかんとした声で言い、アリサはジト目をフレイアに向ける。

 

「って言うか、全部あんたが原因なんだけどね」

《まぁまぁ。それでは、これから早速フレイアちゃんの秘密を教えちゃいましょう!》

「はいはい」

 

 うんざりしているアリサはおざなりな返事をする。

 

《まず、アリサさんは魔法と言うモノをご存知ですか?》

「それって――」

 

『ウェヒヒヒヒ。夢と希望もあるんだよ』

 

「――って言うあれ?」

《それだと私、『僕と契約して魔法少女になってよ』的なポジションになってしまいます》

「それとも――」

 

『ほぇぇぇぇ!!』

 

「――って言う人がカード集めたりするアレ?」

《いや、カードでキャプターなアレだと私のポジション、エセ関西キャラになっちゃいますしねェ》

「てな感じで例えを出してみたけど、あんたはもしかして魔法少女で言うところの、パートーキャラみたいな奴だって言いたいの?」

 

 腕を組んで訝し気な視線を向けてくるアリサに、フレイアは関心して羽をぱちぱちと叩いて鳴らす。

 

《おォ! ほぼ正解ですね! アリサさん賢いですね~!》

 

 アリサはジトーっとした目を向ける。

 

「って言うことは――」

《はい! とどのつまり私は魔法少女モノで言うところの変身アイテムとパートナーを兼任するハイブリットな存在なのですよ!》

 

 自慢げに、えっへんと胸(?)を張るフレイアの答えに、アリサは頭抑える。

 

「あぁ……やっぱり。まぁ、土産のキーホルダーみたいなのが飛んだり喋ったりしてる時点で、あたしの中では魔法かなにかだってイメージはあったけど……」

《最初は魔法の存在から否定していくものなんですが、アリサさん順応力と想像力が高いですねぇ》

「いや、さすがにあんたみたいなぐにゃぐにゃ動いて、感情むき出しで喋るモノをロボットとは到底思えないわよ」

《せめてかわいらしい動きと言ってください》

「それで? あんたは結局あたしになんの用なの?」

《あれぇ? ナチュナルにスルーですか? フレイヤちゃん泣いちゃいますよ?》

 

 羽を使ってしくしくと器用に泣くポーズを取るフレイアに、アリサはジト目向ける。

 

「そういうのはいいから。つまり、なにが言いたいの?」

《察しの良いアリサさんなら、ここまでくればあなたがこの後、どうなるかなんて目に見えているじゃないですかァ~?》

 

 ワザとらしく聞いてくるので、アリサは疲れを感じてため息を吐く。

 

「分かってるけど、あたしはそれに対してあんまりノリ気になんてなれないの」

《なに言ってるんですか! 魔法少女ですよ、魔法少女!! 女の子なら誰だって一度は夢見るアレですよ!!》

「いや、別に女子全般が魔法少女に夢見るワケじゃないし。そもそも、あんたみたいな得体の知れないベラベラ喋るアイテム、誰が進んで使うのよ?」

《アリサさん》

 

 羽で指差してくるフレイアに対して、アリサは腕を掴んで嫌悪する。

 

「いやよ! どんな不幸があたしの身に降りかかる分かったもんじゃないわ!」

《大丈夫ですよ! 別に取って食おうってワケじゃないですから! お試しでいいので、いっちょババーン! と変身しちゃいましょうよ~!》

「なんか詐欺みたいで胡散臭い。って言うか、それならのあたしじゃなくてもいいんじゃないの?」

《そんなぁ、私は伊達や酔狂でアリサさんのパートナーになろうなんて言ってないんですよ? 私にも私になりの理由があってアリサさんを選んだんですからぁ》

「その理由って?」

《私はちょっと特殊なデバイスですから、相性の合う人間じゃないと満足に使うことすらできないんですよ》

「でばいす? ……つまり、その相性の合う人間が、私だってこと?」

 

 聞きなれない単語に首を傾げるアリサ。彼女の質問に、フレイアは首(?)を縦に振る。

 

《そうですそうです! 私の見立てでは、アリサさんと私は相性バッチリ! っということで、私と共に魔法少女の道を――!》

「それじゃ、お休み」

 

 フレイアの言葉をばっさり遮り、アリサはそのまま布団に潜ってしまう。

 

《ちょっとアリサさ~ん!》

 

 フレイアはアリサの周りをびゅんびゅん飛び回る。だが、アリサはまったく反応せず布団に潜ったまま話す。

 

「あたしは今のところ、魔法少女とかになる気はないから」

《えぇ!? あなたの歳ならバリバリ魔法少女目指すもんでしょ!》

「別にあたしは、目指してないし憧れてないわよ」

《じゃあ、魔導師で! 魔導師でいいので! っていうか、私たち世界では魔法使う人を魔導師と呼びます!》

「結局それだと魔法少女も魔導師も似たようなもんでしょうが! とにかく今はなりたいって思わないの!」

 

 とアリサは語気を強めて言う。

 

《そんなぁ……私、アリサさん以外に行く宛てなんてないのに……》

 

 へなへなとフレイアは力なく床に落ちる。器用にも、羽で床に手をついている格好になっており、声も先程みたいに元気が感じられなくなっていた。

 

「…………まぁ、ここにいてもいいわよ」

 

 小さな声で言ったアリサの言葉にフレイアは、

 

《え……?》

 

 顔(?)を上げると、アリサは布団から顔を出してちらりと目を覗かせる。

 

「あんた行くとこないんでしょ? だったら少しの間くらいは、私の部屋に住んでもいいわよ。まぁ、仮にも私のパートナー名乗るなら、私と私の周りの人に迷惑かけないって約束してよね」

《アリサさん……》

 

 フレイアは感動したような声で言う。

 

《――やっぱ、魔法少女になりたかったんですね!!》

 

 アリサはフレイアの羽持って窓から捨てようとする。

 

《あ゙あ゙ぁ゙ーッ!!》

 

 デバイスは暴れる虫のように体を動かしながら謝る。

 

《ごめんなさいごめんなさい!! 反省しますから! だから! だから虫みたいに窓から捨てないで!!》

 

 フレイアは地面に両翼を付いて《ハァ、ハァ、ハァ!》と息を荒くする。

 

「あんた、懲りないわね……」

 

 呆れ顔のアリサにフレイアは彼女の周りを飛び回りながら告げる。

 

《とりあえず、今のところは我慢します。アリサさんが私のパートナーになってくれるよう、アプローチしていきますので。アリサさんだって、私を使いたいと思う時が来ると思いますから》

「そんなことがないことを祈るのわ」

 

 アリサは呆れてため息を吐き、やれやれと困ったような顔を作る。

 「そう言えば」と言って、フッとアリサはあることに気づく。

 

「あんたが魔法のアイテムってこと以外の情報、私聞いてないんだけど? 他にも私に教えることとかないの?」

《ま~、まだ教えなきゃいけないことは色々あるんですが……ふわぁ~。もう眠いので、明日の朝にしましょう》

「へッ?」

 

 アリサはあくびを聞いて間の抜けた声を出し、フレイアは布団を自分の体に掛ける。

 

《それでは、お休みなさ~い。…………くぅ》

「………………」

 

 ゴゴゴゴゴと擬音が出るくらいの凄みを出し、怒髪天と言えるほど髪を逆立たせ、周りには本当に炎が燃えているんじゃないか思えるくらい、アリサは怒りの炎を燃やしていた。

 マイペースなフレイアがこの後どうなったかは、さだかではない。

 

 

《このエンシェント・ホワイト。すずか様のため、誠心誠意パートナーとして頑張らせてもらいます》

 

 目の前で土下座のようなポーズでお辞儀するデバイスに、すずかも同じように土下座してお辞儀する。

 

「こ、こちらこそ、よろしくお願いします」

 

 すずかの元に、あるデバイスがやって来たのだが、アリサと違ってすずかは魔法少女になることをすぐに承諾するのだった。



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第十三話:色々予想したのはいいけど、結局答えは別物なのはよくある

気力が回復してきたので、やっと投稿できました。


「ふぅ~ん」

 

 と呟き、アリサはさきほど聞いた説明を復唱する。

 

「つまり、あんたってその魔法世界の道具で、魔導師って魔法使いが魔法を使うために必要なアイテムが、デバイスって奴なのよね?」

《そうですよ~》

 

 と返事をするフレイア。

 

《さすがですね~、アリサさん。私の見込んだ通り、ナイスな理解力ですよ~! まぁ、厳密には魔導師自体は簡易的な魔法は使えるので、基本的に高度で高威力な魔法をより効率的に使うための補助装置みたいなものって、解釈の方が正しいですね》

 

 炎に羽を生やしたようなデザインの魔法のアイテム――フレイアは、髪をとかしているアリサを待ちながら、彼女の部屋にあったマンガを読んでいる。

 アリサはフレイアに今朝から教えられている魔法世界、デバイスについてなど色々とレクチャーを受け、それをアリサは自分なりにまとめながら復唱している最中だ。

 

《まぁ、私はそのデバイスでも特殊なデバイス……――『エンシェントデバイス』って言われているんですよ》

 

 フレイアの言葉にアリサは反応する。

 

「そう言えば、自律型のIAを積み込んだ……いんてりなんとかってヤツとは違うの?」

 

 アリサが言ったのは『インテリジェントデバイス』。人格型IAを積んだデバイスで、基本的に上級魔導師向けのデバイスである。

 

《インテリジェントデバイスですね》

 

 と頷くフレイアは説明する。

 

《私はインテリジェントデバイスとユニゾンデバイスの両方を合わせたデバイスって感じなんですよね》

「つまり、どう言うこと?」

 

 制服を手に取っていたアリサはよく分からず、後ろを振り返って首を傾げ、フレイアは主の疑問に答える。

 

《簡単に言いますと、インテリジェントデバイスもユニゾンデバイスも、両方とも自律型のIAを積み込んでいるので、サポート面が充実しています。ですがその分、基本的に魔導師として高い実力がある人でないと、使いこなせないんです》

「なるほど。つまり上級者向けってところね」

 

 アリサがうまく解釈したところで、フレイアはマンガを床に置き、空に飛び上がる。

 

《そしてこの私、エンシェントデバイスであるフレイアちゃんは、インテリジェントより高い自律心があり、ユニゾンデバイスのように単独で行動することが可能なのです! 更には両機のハイブリットである私は、自分自身で(マスター)を選ぶこともできます!》 

「で、その両方よりも更に使いにくさは上がっていると?」

《その通り! 大抵の魔導師は私を使いこなすなんてできませんよぉ!》

「まぁ、よく分からないけど……とどのつまり、難易度だけが無駄に高くて大抵の人間が投げ出すクソゲーってところね」

《ちょぉッ!? その例え方はあんまりにもあんまりでしょうが!》

「むしろこれをクリアできる方が凄いっていうゲームみたいに、本体のあんたより、使える人の方が賞賛される的なヤツなんでしょ、あんた……」

 

 ジト目を向けるアリサの言葉を聞いて、フレイアはへなへなと床に降りて、羽を床に着き、しくしくと愚痴を零し出す。

 

《うぅ……確かに私は素直なインテリジェントさんたちと違って少し……いや、ちょこっっっっと自我が強いですよ? ユニゾンさんたちと同じで、主との融合率が高くないと使えないですよ? そりゃ人を選びますよ? ですけど、そんなの私たちを作った人に言ってくれません? いくら使えこなせないからって、ポンコツだとか、駄作だとか、そんなこと言うことないでしょ? 私だってねぇ、主になるであろう人の期待に答えようと必死なんですよ? でもでも、私にだって相性ってもんがあるんですよ? 私だって素敵な主選びたいですよ? ですが! 百歩譲って主を選ばないと言っても、有用な機能色々積んでいるって言っても、使える人いなきゃ、それりゃただのポンコツですよ! クリアできなきゃいくらオプションが充実してても、そんなのただのクソゲーですよ! ゴールできなきゃ意味ないんですよ!》

 

 なにかのスイッチが入ったのか、ぶつぶつと愚痴を言い出すフレイア。さすがのアリサもちょっと不憫だと思ったのかフォローする。

 

「あー……ごめん。あたしが悪かったから、そんなに気を落とさないでよ」

 

 するとやっと愚痴を止めて、フレイアはふわふわと浮き出す。

 

《…………すみません。私もついつい前から溜め込んでいた鬱憤を撒き散らしてしまいました。こんなことでは、アリサさんのパートナーとしてはまだまだですね》

「うん、そうね。パートナー(仮)ね」

《もぉ~。アリサさんは素直じゃないですねぇ。さっきの話を聞けば、私に選ばれたあなたには魔導師として素晴らしい資質があるってことですよ?》

「いくらあたしにその、魔導師の資質があったとしても魔法を使う使わないは別ってこと。前にも言ったと思うけど、本当にあんたを使わなきゃどうにかならないってことになったのなら、パートナーにするかどうか考えるわ。あたしは今の日常に満足してるんだし」

《まったく……夢がないですね~。まぁ、お嬢様であるアリサさんには、魔法がなくても充分生活が潤ってますから、仕方ないかもしれないですけど~》

「しっかしま、あんたのその軽い口。なんでエンシェントなんて名前がついているのか、分かった気がするわ」

 

 呆れた声を出すアリサにフレイアは思い出したように言う。

 

《あぁ、そう言えば、私の開発者が『妖精のように自由気ままなデバイスだから、名前はエンシェントデバイスにしよう』って言う理由でエンシェントって名前にしたらしいです。なんでですかね? 私、まじめな上に主となる人には忠誠心高いんですよ?》

 

 と言いながらまたしてもマンガを読み出すフレイア。ちなみに自由奔放なデバイスの周りには、今まで読んだであろうマンガが散乱している。

 アリサは半眼をデバイスに向けながら、

 

「あんたそれ、もしかしてギャグで言ってるのかしら?」

 

 あとで絶対マンガ片付けさせようと思いながら、金髪の少女はあることを思い出す。

 

「そう言えば、ユニゾンデバイスって人型なのよね? あんたも人になれたりするの?」

 

 アリサは髪をとかし終わり、自分の通っている私立聖祥大附属小学校の制服を着ていく。

 

《まぁ、なれるっちゃなれるんですけど……》

 

 とフレイアは曖昧な返事を返しつつ、話す。

 

《基本的にこっちの姿の方が色々便利なんですよ。でも、必要な時は私のプリチーな姿も見せますよ~》

 

 フレイアはそう言って本のページを捲る。

 アリサは顎に指を当てながら言う。

 

「ふぅ~ん……ホント、魔法ってなんでもありね」

 

 デバイスは本のページを捲りながら言う。

 

《いえいえ、結構魔法だって言うほどなんでもありってワケじゃないんですよ? アニメでやっているような万能的なことはできません。魔法にも魔法の法則(ルール)ってものがあるんですから》

 

 フレイアの言葉にアリサはきょとんする。

 

「え? そうなの? てっきり魔法で、玩具でもお菓子でも、なんでも作り出せるもんだと思ってたわ」

《いやいや~、さすがにあんなのできたら、なんでもあり過ぎですよ~。まぁ、アリサさんも知ればきっと『魔法って言うかこれ、魔法(物理)じゃね?』的なコメントをすると思いますよ~》

「いや、それはそれで夢のない話ね……」

《アハハ。ま~、子供向けのアニメとかの魔法はぶっちゃけ、魔法や魔術のドロドロした部分やまどろっこしい部分を切り取って、大衆受けするようにした物ですから》

「そッ。まぁなんにせよ、魔法を使わないあたしにはどうでもいい話だけど」

《こんな平和な世界じゃ、私たちの世界の魔法を使う機会なんて中々ないでしょうしね~》

 

 そうフレイアが言った頃には、アリサは教科書も全部バックにしまい、小学校に登校する準備を整えていた。

 

「さて、準備も終わったし。後は朝食食べて、時間までゆっくりするだけね」

 

 アリサは手をパンパンと叩きながら満足げな表情。

 

《おぉ~、さすがアリサさん。朝から規則正しいですねぇ~》

 

 と感心するフレイアの周りにはマンガが取っ散らかっており、アリサはジト目向ける。

 

「そう言うあんたは朝から不規則ね」

 

 アリサはため息を吐いた後、ふとあることを思い出す。

 

「そう言えばさ、まだあんたに聞いてなかったことがあるんだけど」

《ん? そうですか? まぁ、まだまだアリサさんには教えたいことは山ほどありますけど、とりあえず大まかなことはお伝えしたつもりですよ?》

 

 アリサは、両足の間にお尻を落としてフレイアの前に座り、真剣な表情でマンガを読んでいたデバイスを見る。

 

「そもそもあんたはなんで、あたしの部屋に居たワケ? あたしがあんたを使いこなせるだけの素質があると言っても、そんなのあたしだけじゃないはずでしょ? そもそも、この魔法のないあたしたちの世界にあんたがいること自体、おかしくない?」

 

 冷静に、だが捲くし立てて一気に訊いてくるアリサに対し、少し間フレイアは黙る。

 魔法の技術は、異世界のモノであると既にフレイアから聞いていたアリサから生まれた疑問。

 真剣な表情のアリサとは違い、フレイアは軽い口調で答え始める。

 

《あー、そのことですか? アリサさんは昨日、あなたを誘拐した連中のボスを覚えてますか?》

「え? えぇ、そりゃー、覚えているわよ。あんな印象的なこと。……って、なんであんた、あたしが誘拐されこと――」

《前の私の所有者、その誘拐犯たちのボスだったんですよ》

「…………えッ?」

 

 フレイアから教えられた驚愕の真実に対して、アリサはポカーンした表情。そんな彼女の様子をまったく気にせず、軽い口調でフレイアは喋り続ける。

 

《いやぁ、あのゲスな野朗が気絶してくれてホントラッキーでしたよ。その時逃げ出せましたから。あんな奴のために働くなんて、真っ平ゴメンこうむりますよ。あ、気付いてなかったと思うんですけど、あの言葉の汚い野朗がポケットからなにか取り出してましたよね? あの時が私の初登場だったんですよー? さすがに初見じゃ気付くの無理ですよね~》

 

 フレイアは、ア~ハッハッハッハーッ! よかったよかった~!! と愉快そうに喜ぶ。それとは対照的に、アリサはフレイアを指差して大声を上げる。

 

「――って言うことはあんた犯罪者の持ち物だったのぉーッ!?」

《あー、勘違いしないでくださいよ。私だって、あんなチンカス野朗を主だなんてこれっぽっちも認めてませんから。隙あらば逃げ出そうと何度考えたことか……》

「いや、あの誘拐犯のこと言葉汚いって言うけど、あんたの方が言葉汚いわよ?」

 

 フレイアは、今思い出しただけでも腹立つ……、と拳ではなく羽を握りしめながら怨嗟の念を口にしている。

 そんなデバイスの姿を見たアリサは、フレイヤの前の所有者が誰とかもうどうでもよくなった。もしかしたら、呪いのアイテムみたいな厄介な存在かと思ったが、こんなおちゃらけた奴なら、その可能性も低そうだ。

 一方のフレイアは、うっとりした声でアリサとの出会いを語る。

 

《しかし、誘拐されたアリサさんがドンピシャの相性だったもんですから、これはもう運命の出会いだと思いましたよぉ~。あなたのご親友のお二人も捨てがたかったのですが、私はアリサさんと決め、姉のホワイトちゃんは〝すずかさんをパートナーにすること〟を決めて、あの野朗のポケットの中で虎視眈々と逃げるチャンスを伺っていたもんです。まぁ、逃げ出せた後は、自力で飛行できる私とホワイトちゃんはアリサさんとすずかさんのポケットに入って身を潜めていたんですけどね》

「そうなの――って、ちょっと待てぇぇぇッ!?」

 

 アリサはフレイアに詰め寄る。

 

「あんたなんかサラリと重要なこと言わなかった!?」

《えッ? 私がこのマンガを一話目から駄作認定したことですか?》

「違うわよ! って言うかそのマンガは話が進んでいく度にマジで面白くなるんだから! って、そうじゃなくて! って言うかなに? あんたの妹? ホワイトちゃんて誰!? あたしあんたに妹とかいるとか初耳よ!? って言うかなんであんたに妹いるのよ!?」

《くどいツッコミありがとうございます》

「やかましィ!」

 

 フレイヤは羽で後頭部(?)を撫でながら気まずそうに喋る。

 

《あー……もしかして、わたし……ホワイトちゃんのこと、教えてませんでした?》

「初 耳 です!」

 

 

 

【つまり……】

 

 アリサは念話の相手であるフレイアに確認する。

 

【あんたの姉妹機で、姉にあたるホワイトって奴が、すずかにパートナーにしてくれるように取り入っていると?】

【言い方はあれですけど、まぁ概ねそんな感じですね】

 

 フレイアに教えて貰った、魔力を使って自分以外の相手とテレパシーのように会話する魔法――『念話』を使いながら、アリサとフレイアは車の中で会話をしている。ちなみに、車の中でフレイアに説明させている理由としては、もう部屋で話しているほど時間があまりないから。

 フレイアは説明を続ける。

 

【まぁ、私をすずかさんに見せれば、彼女も大体のことは察してくれると思いますよ? ホワイトちゃんも、私がアリサさんのところに行ったことを伝えていると思いますし】

【はぁ……。なにもあんたの姉まで、あたしの身近な人物に厄介ごとを持ち込む必要ないでしょう……っていうか魔法のアイテムの姉ってなによ……】

 

 アリサは呆れ顔で頭を抑えるが、フレイアは関心した声。

 

【おや、アリサさん。念話でため息をつくとは器用な。早速魔導師としての資質が現れてますね!】

 

 いや、これは魔法の資質と関係ないのでは? とアリサはツッコミそうになる。が、この念話と言うモノは結構使えるし、とりあえず心の中に留めておくことにする。

 

 ちなみに、すずかの家までやって来たアリサ。玄関から出てきたすずかにフレイアを見せたところ、すずかは苦笑いしながら〝雪の結晶に白い両翼がついたキーホルダーみたいなモノ〟を見せてくれた。

 それを見て、頭痛を覚えたアリサ。

 

 

 昼になる頃。

 新八、神楽、沖田、土方、山崎の江戸からやって来た五人組。なのはの家でもある、喫茶翠屋に集まって今後のことについて話し合うことにした。

 ちなみに席は、店の端っこ。これは、わざわざ客でもない自分たちが席を使うのは図々しいからという、新八たちの配慮が半分。

 

「土方さんがニコチンのお陰で、俺らこんな隅っこの席で雑談するハメになったんですぜ?」

 

 と沖田は言って、席が端っこになった半分の理由である上司を、ジト目で見る。

 

「くぅ! まさかここでも喫煙者差別が行われていたとは……!」

 

 悔しさのあまり拳を握り絞める土方に、沖田は「いや、これ普通の対応ですぜ?」と珍しくツッコム。ちなみに、喫茶翠屋も飲食店なので、ちゃんと喫煙席と禁煙席の仕分けはしてある。

 

「って言うか、なんかあの人……」

 

 山崎はレジに入っている士郎に目を向ける。

 

「こっちを射殺さんばかりの視線で見てるんですけど……」

 

 山崎は身を竦めながら顔を青ざめさせ、神楽は土方をジト目で見る。

 

「よっぽどトッシーのタバコが気に入らないアルな」

 

 目からビーム出さんばりの勢いで目を血走らせる士郎。もちろん視線の先は土方。

 すると、ホールのケーキを持ってきた桃子が苦笑しながら説明する。

 

「ごめんなさいね。士郎さん、タバコのこと毛嫌いしてるから。お陰でうちの常連さんでタバコを吸う人はほとんどいないのよ」

「いや、それ営業する方としてはまずくないんですか?」

 

 と山崎が口元を引きつらせる。

 

「まぁ、口には出さないし私も普段は止めてって言うんだけど……」

 

 桃子は頬に手を当ててやれやれと呆れた表情。

 

「たまに顔に出しちゃうのよ……。ホント、困ったものだわ」

 

 そう言って桃子は厨房に戻っていく。

 土方は士郎の視線にいたたまれなくなったのか、灰皿にタバコを押し付ける。

 

「いっただっきま~す!」

 

 神楽はパクリとホールのケーキを一口で頬張って食べる。そんな彼女を見て山崎は「うわッ、一口で食べちゃったよ……」と若干引いていた。

 

「んでま、どうしますかねェ、近藤さんのこと」

 

 沖田の言葉を聞いて、新八と山崎は言葉が出ないと言うように下を向く。

 さっそく本題の一つが来たことで、土方はため息をつく。

 

「今は現状維持以外に方法が見つからねェ。下手なことしたら俺たちまで警察の連中に捕まりかねん。はっきり言って、〝こっち〟じゃ俺たち真選組は権力的力を何も持ってねェんだからな」

「しかし本当なんですか副長? ここが〝未来の世界〟だって言うのは」

 

 と山崎は不満げに聞くと、

 

「まったくネ。お前、頭がどうかしちゃったんじゃないアルか?」

 

 神楽が訝し気に土方を睨むと、仕返しとばかりに鬼の副長が睨み返す。

 土方は既に『江戸が存在しない未来に来てしまった可能性が高い』という自らの推論を新八たちに話したのだ。しかし、話が話だけに山崎と神楽は未だに信じられないといった顔だ。

 ため息をつく土方は説明する。

 

「だから、この家の連中にも話を訊いたんだよ。案の定、図書館のガキと同じような回答だったけどな」

 

 高町家の士郎や桃子にも尋ねたのだが、図書館で会った車椅子の少女と同じような答えが返ってきただけ。余計に自分たちがいる世界が未来であると言う仮設が、土方の中で深まったのである。

 

「まー、周りの連中のファッションで薄々は勘付いてましたが」

 

 と言って沖田は周りを見渡す。

 

「しかし……未来とは、またとんでもない事実到来ですねェ」

「たく、瞬間移動装置じゃなくてタイムマシンじゃねェか。青い猫型ロボットじゃあるまいし」

 

 今、自分たちが置かれている現状のヤバさに対して土方は頭痛すら覚え、頭を抱える。

 沖田は視線を別の人物に向ける。

 

「まァ、帰る手段がねェワケじゃねェんだろ。な~、眼鏡」

「………………」

 

 当の新八は下を向いて黙ったまま。

 

「おい、ぱっつぁん。呼ばれてるアルよ?」

 

 神楽は肘で新八を小突く。

 

「…………え?」

 

 と、やっと反応を示す新八は。

 

「よ、呼んだ? 神楽ちゃん?」

「いや、お前に話しかけたのはサディストの方ネ」

 

 心ここにあらずと言った新八に対して、神楽はため息を吐く。

 沖田も一回自分が無視されたことに対して呆れた声を出す。

 

「たく、この俺様を無視するたァ、偉くなったもんだなおめーも」

「す、すみません!」

 

 新八は申し訳なさそうに頭を下げる。

 そんな中、土方が「話を戻すぞ」と言って新八に顔を向ける。

 

「お前の知り合いの科学者から貰ったケータイはあるのか?」

「あ、はい。ここに」

 

 新八は懐から黒いケータイを取り出す。

 

「これがあれば、僕たちの知り合いの科学者のげん……げ、〝原人さん〟の瞬間移動装置を使って江戸に帰れますから」

 

 慌てて何かを良い直す新八に対して、土方は怪訝な表情を浮かべるが特に追及はしない。

 山崎は顔を青くさせつつ言う。

 

「ぶっちゃけ、俺たち新八君たちいなきゃ、帰る方法なかったですよね……」

「………………」

 

 山崎の言葉を聞いて土方も顔を青くさせ、冷や汗を流す。

 よくよく考えて、幕府の作っていたあの瞬間移動装置に自分たちを特定できる機能――つまり、行き帰りができるようなシステムがあるかどうかも分からない。下手したら、あのまま自分たちは見知らぬ土地に送られた挙句帰ることすらできなくなっていたのではないか? という予想が、土方の中で浮かんできたのだろう。(そうなった場合、帰れなくなるのは近藤さんだけだが)

 

「ま、まぁ! 銀さんが見つかり次第帰れる目処はあるんですから元気出しましょう! ね?」

 

 新八は声を出して場の雰囲気を変えようと努め始める。

 そこで、沖田が新八の言葉に待ったをかけた。

 

「でもよォ、おめェらの知り合いの科学者が作ったのも瞬間移動装置なんだろ? だけど俺たちがしたのはタイムスリップだ。俺の予想だと瞬間移動とタイムスリップは、別もんじゃねェのか? 本当に帰れんかよ?」

「た、確かに!」

 

 山崎も沖田の意見に納得し、気付いたようだ。

 腕を組んだ土方は新八に顔を向ける。

 

「その電話、今もちゃんと通じるのか?」

「ああ、はい」

 

 と新八は頷き、説明する。

 

「ちゃんと昨日のうちに通じるかどうか確かめましたけど、問題ありませんでした。げんが……原人さんはちゃんと僕たちの特定も出来ているって言ってましたし。ただ、『お前らどこにいるんだ?』とは質問されましたけど」

 

 原人に質問された時、どうやら新八は現状の詳細を大分濁して説明したらしい。理由は分からないが。

 話を聞き、土方はある提案を言う。

 

「なら、誰か一旦戻ってみたらどうだ? 本当に帰れるかどうか確かめるなら早い方がいい」

 

 新八は首を横に振る。

 

「いや、僕も一旦戻れるかどうかは訊いてみたんですけど、どうにも装置の修理にはまだまだ時間がかかるそうなんですよ」

「……そうか。まァ、紛いになりにも帰れる目処がついているならよしとするか」

 

 土方はそう言って一服吸おうとするが、士郎の突き刺すような視線を感じて、タバコを箱に仕舞う。

 山崎が椅子に腰を預けながら、顔を上げて天井を見る。

 

「にしても、本当に未来なんですかね? 〝ここ〟」

「さーな」

 

 土方は首を横に振る。

 

「正直な話、天人(あまんと)共は今の地球には居ないらしい。それどころか、歴史にすら名前が出てきてねェ」

「マジでか!?」

 

 神楽は、天人(あまんと)の存在そのものが地球の歴史から抹消されていることにビックリしているようだ。

 沖田が体をダラけさせながらが言う。

 

「歴史の闇に葬られたんですかねェ? そもそも、天人(あまんと)がこの地球を簡単に捨てるとは到底思えませんねェ、俺ァ」

「詳しい経緯は俺にも分からん」

 

 と土方はまた首を横に振る。

 

「なんにせよ、もしかしたらこの世界は、俺たちが想像しているよりも遥か先の未来(せかい)ってことなんだろうな……。ま、過去の人間の俺たちがクソみてェな天人(あまんと)共を見なくて住むこの世界を目に焼き付けておくのも、悪かねェかもな……」

 

 土方は外の景色を見ながら笑みを零す。

 

「副長……」

 

 山崎は、鬼の副長の顔から感じる一抹の寂しさのようなものを、感じ取っているのだろう。

 

 土方の話では、侍も武士も過去の生き物となっており、現在では刀を持つことは特定の資格を持つ者しかできないらしい。

 そもそも新選組と言う組織は歴史では結局、変わりゆく時代に取り残され、それに抗った者たちとして語り継がれているそうだ。ちなみに情報源は、大河ドラマ好きの高町桃子から。

 

 きっとこれから起こっていくであろう真選組の顛末を聞いた土方。彼なりに、思うところはあるだろう。

 

「あ、あのォ~……」

 

 新八は、ちょっとセンチメンタルに浸っている真選組副長を尻目に、おずおずと手を上げる。

 

「ん? どうしたんでィ、眼鏡」

 

 反応する沖田は、新八を訝し気に見つつ言う。

 

「つうかお前、さっきから目を泳がせたりそわそわしてっけど、思春期特有のエロい妄想か?」

「いや、思春期特有のエロい妄想ってなに!? 思春期の青年がみんなエロいこと考えていると思ったら大間違いだからな! いや、そうじゃなくてですね……あの……その……」

 

 沖田にちゃんとツッコミを入れる新八だが、やはりなにか言いづらいのか視線を左へ右へと泳がせ、声をも小さくなり、中々本題を話そうとしない。

 

「もォ、さっさと言えよ眼鏡。うじうじしててイライラすんだヨ」

 

 神楽が不満そうに口を尖らせると、新八は素直に頭を下げる。

 

「う、うん……ごめん、神楽ちゃん」

「つうか、おめェはさっきから何が言いてェんだ?」

 

 土方の問いを聞いて、新八は汗をダラダラ流す。

 言いたいことがあるのだが、中々言い出せない。そんな様子の新八であったが、やがて、

 

「えっと……ですね……」

 

 ポツリと話し始める。

 

「ここは……土方さんの言うような、未来の世界じゃ、ないと……思うんです」

「はッ? どう言うことだそれは?」

 

 土方は新八の言葉を聞いて怪訝そうな顔を作る。

 

「えっと……」

 

 山崎がちょっと自信なさげに訊く。

 

「じゃあ、ここが未来じゃないなら……異世界? ってことかな?」

 

 すると神楽の目が輝きだす。

 

「異世界アルか!? なら魔法アルか!? ドラクエアルか!? FFアルか!? 異世界RPG編突入アルか!?」

 

 ちょっと少年マンガ的な思考寄りの神楽。凄い期待感に満ちた目をしだす。

 

「いや、異世界でもなくてね……いや、異世界なのかな? それにまァ、魔法っちゃ魔法なんですけど……」

 

 眉間に皺を寄せ、腕を組む新八。彼が二度三度と首を傾げながら曖昧な回答をしてから、やがて神楽に言う。

 

「――って言うか、神楽ちゃん。もしかして忘れちゃった? 神楽ちゃんも『あのDVD』見てたよね?」

「ん?」

 

 神楽は新八の言葉を聞いて「ん~……」と唸りつつ腕を組んで考え出す。

 

「…………………あッ」

 

 そして神楽が何かを思い出したかのように声を漏らすと、土方が訝し気に質問する。

 

「ん? DVDってなんだ? つうかお前らなんのこと言ってんだ?」

 

 新八が何を言いたいのか分からない土方。

 新八は息を吸って意を決したのか、『ある物』を懐から取り出した。

 

「――たぶん僕たち、『この世界』に来ちゃったと思うんです」

 

 新八が出した『DVDのケース』。その視線に沖田、土方、山崎の視線が注がれる。そしてパッケージを見た瞬間、三人の顔は茫然と言う言葉を表したようなモノになってしまう。

 

「たぶん僕ら――『アニメの世界』に来ちゃったみたいなんです」

 

 『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』のパッケージに視線を逸らしながら、新八はドッと汗を流すのだった。

 

 

「にしても、すずかの方は、デバイスのマスター登録っての済ませちゃったのね」

 

 私立聖祥大附属小学校、三年生の廊下にある女子トイレ。その中で、アリサは呆れたような声を漏らす。

 

《まったく、アリサさんもすずかさんを見習って、私にマスター登録させて欲しいものです》

 

 不満そうな声を漏らすのは、未だ主のいないデバイスのフレイア。たぶん口があったら尖らせていたことだろう。

 アリサとフレイアのやり取りを見て、アハハと苦笑いをするすずかは尋ねる。

 

「アリサちゃんはマスター登録してなかったんだね?」

「そりゃそうよ。よく分からない魔法の力なんてあたしには必要ないものだし」

 

 ふんと首を背けるアリサは、ちらりと雪の結晶のようなアクセサリーに目を向ける。

 

「にしても、なんですずかはそのホワイトってのをパートナーにしたの?」

「だってホワイトちゃん、どこにも行くあてがないみたいだから。それに、わざわざ私を選んでくれたんだから、魔法使いになってもいいかなって」

 

 すずかの話を聞いたアリサはため息を漏らす。

 

「まったく、あんたってホント昔っからお人よしなんだから」

 

 すずかは「アハハ」とはまた苦笑してから、話す。

 

「でも、私ね。魔法を使ってみたいと思ったからホワイトちゃんと契約したんだよ」

《すずか様のデバイスとなれて、とても光栄です。これからもすずか様のデバイスとして恥じないよう、全力でバックアップさせてもらいます》

 

 すずかのポケットから顔(?)を出して喋っているのは、雪の結晶に羽が生えたアクセサリーのようなモノ。それこそがすずかのデバイス、ホワイトである。

 

「まったく、姉ってだけあって、妹と違ってしっかりしてるわ」

 

 アリサはそんな礼節な態度を取るすずかのデバイスを見て、不遜な態度を取るデバイスに嫌みったらしい視線を送る。すると、自分のデバイスになりたいとかのたまうフレイアは不満声を漏らす。

 

《失礼ですねぇ。私のどこがホワイトちゃんに劣っていると?》

《姉をちゃん付けで呼ぶ時点で、あなたがお調子者であると気付きなさいフレイア》

 

 自分の妹に注意する姉。デバイスであれど、姉妹の役割もちゃんと果たすようだ。

 

《こんな妹ですが、今後ともよろしくお願いします、アリサ様》

 

 お辞儀するホワイトを見てアリサは納得したように頷く。

 

「……なるほど、姉が良い部分全部吸い取ったから妹はこんなんなのね」

《いや、それナチュナルに酷くあ~りませんか!?》

 

 フレイアは心外とばかりに言う。

 

《って言うか私たちは姉妹と言ってもデバイスなんで! 人間と違って後とか先の優劣とかありませんから! むしろ後継機の方が性能は良いってのが相場なんです~!》

《フレイア。私たちが作れたのはほぼ同時期なので、性能にほぼ差はありません》

 

 と、ホワイトは冷たく言い放つだった。

 

 

 

「……二人とも遅いなー」

 

 カバンを背負いながら昇降口の前で親友二人を待つ、最近あんまり出番のない主人公(なのは)



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第十四話:リリカルなのはの歴史

休みなのでお昼過ぎに投稿しました。


『きっとまた、すぐに会えるもんね』

 

 フェイトと髪の結い留めを交換し、彼女が去って行った青い空を眺めるなのは。

 そして始まるエンディグと後日談的な描写の数々――が〝テレビ〟に映し出されている。

 

「――これが、僕たちが来てしまった世界の大まかな歴史です」

 

 真剣な顔の新八が、テレビの前に立って告げる。

 

 

 

 今土方たちが見ていたのは、新八が前に懐にしまったままになっていたDVD――題名は『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』。

 

 桃子にDVDを見たいと新八が頼んだところ、桃子は「リビングにDVDデッキがあるので、どうぞ見てください」と言ったので、お言葉に甘えて視聴を開始することにした。

 田村ゆ○りさんの歌をBGMにしながら、正座して見ていた山崎と土方。下を向く二人の目元は黒い影で覆われ、一言も喋らない。たぶん目の前の現実を頭で処理しきれてないだろう。

 ちなみに沖田はポテトチップボリボリ食べながら「ちっとパンチの足りねェ映画だな。スプラッタが欲しいところでィ」などと偏った感想を述べていた。

 

「くぅ~! やっぱ何度見て感動する映画ネ!」

 

 神楽は拳を握り絞めて感動している。ちなみにこの銀魂ヒロイン、映画を見ていた新八のことをオタクだロリコンだとバカにしていたのは記憶に新しい。

 

「あ~、なるほどな。これで『あの時』のおめェの奇行も納得がいったぜ」

 

 土方や山崎と違って、何故か冷静な沖田の言葉を聞いて、新八はなのはを初めて見た時の事を思い出す。

 

 

 それは海鳴市の公園で新八と山崎が神楽と沖田に合流し、更には暴走した土方を止めた後の事……。

 

「え? えッ? えッ!? ――君って、もしかして……な、な、な、なのはちゃん!?」

 

 なのはを見て驚愕の表情を浮かべる新八に、ツインテールの少女は戸惑う。

 

「そ、そうですけど……なんで私の名前を知って――」

「そ、そんなバカなァ!? いや、これはなにか間違いだッ!! 僕はアニメオタクみたいにアニメ少女を幻影で見るほど道は踏み外してないはずだァァァッ!!」

「ちょッ!? ど、どうしたんですか!?」

「ウソンダドンドコドーンッ!!」

「えええええええええッ!? なんで地面に頭打ち付けてるんですかァ!? し、死んじゃいますよォ!?」

「消えろォォォッ!! 幻影よ消えろォォォッ!! 僕はお通ちゃん一筋だァァァァッ!!」

 

 

 新八がなのはとの出会いを思い出した後、沖田は新八へと目を向ける。

 

「お前、あのツインテのガキに引かれてたよな」

「いや、その……」

 

 新八は頭をボリボリ掻きながら目を逸らす。

 

「あの時は……マジで自分がおかしくなったのではないかと、思いました……」

 

 顔を上げた山崎は頬を引き攣らせ、大量の汗を流しながら土方に顔を向ける。

 

「ふ、副長……お、俺……しょ、正直アニメの世界来たとか……も、もう頭がどうにかなりそうです……」

 

 土方も相当動揺しながら言葉を返す。

 

「お、落ち着け山崎。しょ、正直、俺も自分が正気でいるのか不安だ。……つうか、あのツインテールのガキ見て、思い出したぞ。なんか影薄いからあんま気にしてなかったけど思い出した。トッシーと一緒に葬り去った記憶に、なんかこんな感じのアニメを見た記憶が俺の中に確かにある」

 

 さり気なくリリカルなのはの主人公に酷いこと言う土方。ちなみに彼は、刀の呪いで重度のオタクであるトッシーに変貌し、暮らしていたことがあったりする。

 なんとか心を落ち着けようとタバコを箱から出して口に咥える。

 

「副長、タバコ逆さです」

 

 山崎のツッコミを受けてタバコを咥え直しながら、土方は新八に意見する。

 

「しかしよ、眼鏡。仮にここが未来の世界じゃなく、アニメの世界だって証拠はあんのか? ただ単に、あのガキがこのDVDのパッケージに映ってたガキと似ていたって方が、まだ信ぴょう性はあるんじゃねェか?」

 

 土方の言葉に新八は首を横に振る。

 

「いえ、それにしたって、この町の名前だったり、町並みだったり、このアニメに描写されているものと類似しているものが多すぎます。って言うか、なのはちゃんどころかアリサちゃんやすずかちゃんがいる時点でもうアニメの世界って言った方が信憑性ありますよ」

「だ、だがよ! アニメの世界だぞアニメの世界!」

 

 土方は新八の説明を受けても納得せず食ってかかる。

 

「あんな俺が仕事中にこっそり作ってた、パラパラマンガの進化系みたいなもんじゃねェか!」

「あんたなに仕事中に小学生みたいなことしてんですか!」

「と、とにかく! 何万枚って紙をただパラパラパラパラ流すだけの、そんなパラパラの世界に俺たちがどうやったらいけるっつうんだよ!!」

「いや、あんたアニメなんだと思ってるんですか!? 知識あるにしてもざっくり感半端ないわ!!」

 

 中々現実を受け止め切れないでいる土方を神楽はジト目で見つめる。

 

「まったく、これだから大人はダメアル」

「まったくだぜ」

 

 と沖田まで便乗する。

 

「土方さんは常識に囚われすぎて、脳みそかちこちに凝り固まってるから順応できないんでさァ。だからダメなんだよ土方は」

「今、タメ口言った!? 今ナチュナルにタメ口言ったよねお前!?」

 

 土方は青筋立たせて沖田を睨み付ける。

 

「とにかく!」

 

 と新八は声を上げて軌道修正する。

 

「僕としてはこの映画、もしくはテレビ版のリリカルなのはの通りの事がこれから起こっていくと予想しているんです!」

 

 「えッ?」と山崎がきょとんした顔で問う。

 

「新八くん、そのリリカルなのはってアニメって、テレビ版もあるの? って言うか、映画とテレビで放映されたモノって、そんなに違いがあるの?」

「はい。まァ、大まかな流れは同じですが、はやり細かいところで色々と違いがあるので。そして今は、手元にこの映画版のDVDしかないですが、安心してください」

 

 新八は眼鏡を人差し指でクイっと押し上げ、自信たっぷりの笑みを浮かべる。

 

「僕の頭の中にはテレビ版の知識もインプットされているので、もしテレビ版の展開になったとしても、ちゃんと対応できるでしょう」

「おお。ぱっつぁんの癖に珍しく頼りになるアルな」

 

 と神楽。

 

「珍しくは余計だよ」

 

 新八はやんわりツッコミ入れるが、その顔は自信に満ちたまま。すると沖田は呆れたような声で喋りだす。

 

「つうか、テレビ版だとか映画版だとか言うけどよ、それが分かったからってなんの意味があるってんだ?」

「なに言ってるんですか。これから展開を知っておくってことは、僕たちにとっては重要なことじゃないですか」

 

 新八の言葉を聞いて沖田は目を細める。

 

「おめェ、もしかしてこんな魔法(笑)みてェな戦いに参加しようとしてんじゃねェだろうな?」

「いや、あんた言い方もうちょっと自重してくれせん? 言い方に悪意こもり過ぎでしょ」

 

 新八はゴホンと咳払いしてから、力強く力説する。

 

「沖田さんの言う通りです! なのはちゃんやフェイトちゃんを助けるって目的を達成するために、この情報はとても有益なものになるんです!」

「そうアル! それくらい察せヨ税金泥棒!」

 

 勢いついでに悪口をさり気なく言う神楽。

 やる気まんまんの二人に対して、沖田はため息を吐きながらドライに返す。

 

「――って言うか、なんであのガキ共助けなきゃならねぇんでィ? んなめんどくせェこと、やる必要がどこにあるってんだ?」

「なッ!?」

 

 と驚く新八は反論する。

 

「沖田さんは映画を見てなにも感じなかったんですか!? この理不尽な話をなんとかしようと思わなかったんですか!?」

 

 続けて神楽が握り拳を作って憤慨。

 

「おめェはこんな悲しい話がこれから始まろうって時に、黙っておねんねアルか!? おめェの血は何色だコラァ!!」

 

 沖田がそんなことを言うとはとても思わなかった、と言わんばかりの勢いで二人は捲くし立てる。

 だが当の沖田は、別に自分におかしなことは言ってない、と言わんばかりに返す。

 

「そうか? 別に俺たちが関わる必要性があんまみられねェと思うぜ? 俺はこのままでも良いと思うけどな」

「なに薄情なこと言ってるんですか!」

 

 声を上げ、新八は捲し立てる。

 

「僕たちがこの世界に来たのは、もう運命と言っても過言ではないはずです!」

 

 そうアル! と神楽も続く。

 

「私たちがここに来たのは間違いなく意味があるはずネ! ソゲブ的な感じで!」

「さっきから黙って聞いてれば、随分勝手なこと言ってくれるな」

 

 不機嫌そうな声を出したのは土方。吹かしたタバコの煙をふぅ、とため息を吐くように口から出す。

 沖田に食ってかかっていた二人の視線が、土方へと向く。

 

「確かにそのバカの言うとおり、俺たちがこのりりなんとかとやらの話に介入する必要性は、皆無と言ってもいいだろう」

 

 土方の言葉に神楽は怒りの表情を見せる。

 

「マヨラーお前ェ!」

「もしかして……」

 

 と言って、新八が不服そうに訊く。

 

「土方さんは物語の道筋を変えるのが、ダメだって考えているんですか? 一つの作品として纏まった話を、僕たちが掻き乱すのは許せないとか」

 

 眉間に皺を寄せる新八の予想に対して、首を横に振る土方。

 

「そう言うワケじゃねェよ。別に未来の出来事とやらを変えたきゃお前らの好きにすりゃあいい」

「ならどうしてですか!?」

 

 返答を聞き、新八が食ってかかる。

 

「僕たちが動かなきゃ――!!」

「――なにも変わらねェってか?」

 

 土方の射抜くような声と眼光で新八、そして神楽は言葉を詰まらせる。

 

「じゃあ、逆に聞くがよ……お前達が関わって、なにか変わるのか?」

 

 冷めた声の土方の問いに、

 

「それは…………」

 

 と新八は言葉を詰まらせ、視線を彷徨わせながらも答える。

 

「ぷ、プレシアさんに、フェイトちゃんを本当の娘だって気付かせるとか」

 

 神楽も続く。

 

「今ならプレシアがフェイトにするドメスティックバイオレンスだって止めることが――」

「できねェよ」

 

 土方はばっさり否定する。

 

「お前らがなにかした所で変わることなんてほとんどないだろうな」

 

 土方の言葉に新八と神楽はまたしても押し黙ってしまう。土方の言葉に気圧され、少しばかし勢いを失いながらも二人は反論するが、その意見さへ刀のようにばっさりと切り捨てられてしまった。

 だが、納得できない新八は改めて土方に反論しだす。

 

「どうしてそんな頭ごなし否定するんですか土方さん! やってみなきゃ分からないでしょうが!」

「なら、俺たちが関わったとして、プレシアってヤローの考えが変わるのか? フェイトってガキを、苦しみから助けることができるのか? 母親と別れさせないようにすることができるのか? とてもじゃねェが、一通り見てもあの狂っちまった母親の意思を、ポッと出の俺らが変えられるなんて到底思えねェな」

「「………………」」

 

 その説明に新八と神楽は反論することすらできず、下を向いて押し黙ってしまった。

 土方の言うように、アリシア・テスタロッサという、たった一人の愛娘のためにすべてを投げ打つような人物の考えを変えさせることが、いかに難しいか。想像し、理解したのだ。

 土方は言葉を続ける。

 

「魔法が使えねェ俺らじゃ、時空管理局って奴らが現れるまでプレシアってヤローの根城に行く手段はない。あの母親が死ぬ間際の短い時間にするような説得じゃ、イカれちまった奴の考えを直すなんて、そうそうできるもんじゃねェだろ」

「たしかに、そうですけど……」

 

 新八は視線を逸らす。

 土方の言うとおり、自分たちに魔法と言う特殊な力は勿論持ち合わせてなどいない。プレシアのところに行くどころか、海鳴市にやって来たフェイトのアパートに行くことするら困難だろう。まともに会うことができるのは時の庭園に乗り込む時くらいだ。

 そんな自分たちでは、時間をかけてプレシアにフェイトを娘として愛するよう説得するなど、土台無理な話だ。

 土方はタバコを吹かす。

 

「ま、フェイトってガキにプレシアのところに連れて行くよう要求するっ手もあるだろうが、俺たちみたいな会ったこともない連中をわざわざ大事な母親のところに案内するなんてマネは、しないだろうな」

「でも、必死に訴えかければフェイトちゃんだってわかってくれかも――!」

 

 新八の言葉を聞いた土方は視線を鋭くする。

 

「なら仮に、プレシアの元まで辿りつけたとして、次はどうする? 死んだ娘のことやら自分の病やら、フェイトですら知りえなかった情報を知っている俺たちをどう思うかなんざ、火を見るより明らかだ。俺ならそんな連中がいたら、信用するどころか警戒心丸出しにするな」

「「………………」」

 

 万事屋コンビは完全に息消沈し、言葉が出てこなかった。なんとか新八が反論の意を唱えても、真っ向から論破されてしまう。

 土方が思いつかないような妙案を新八も神楽も、思いつくことができない。

 土方は腰の刀に手を置く。

 

(これ)だけが取り得の俺たちには、せいぜいなのはの野朗の手伝いをしてやるくらいだろ」

「…………なら」

 

 と俯きながら新八は言葉を搾り出す。

 

「なんで土方さんは関わるなって言うんですか? なのはちゃんの手伝いくらいなら、僕たちにだってできるんですよね?」

 

 納得はいかないながらも納得せざる終えなかった新八は、もう反論はせず、土方の言葉の穴を突こうとする。

 

「お前がさっき言ったように、このリリカルなのはって作品は一つの物語として完成してる。俺から見てだが、俺たちが関わったところであれ以上のハッピーエンドは望めないだろ」

「た、確かにそうですけど……」

 

 口ごもる新八に、土方は更に問いかける。

 

「だが、俺たちが関わることで話の筋ってやつは確実に変わる。それが良い方向に進むとは限らねェだろ?」

 

 新八は「うッ……」と口ごもる。

 土方の言った言葉は、新八も頭の隅には置いておいた可能性だ。自分たちが関わることで未来は未確定なものへと向かっていくことになる。

 

「ようやく分かったか」

 

 土方は腕を組んで首を縦に振る。

 

「俺たちが関わることで、悪い結果を産み落とす可能性が出てきちまう。フェイトが母親の後を追ったり、なのはが酷い重症を負ったりな」

「でも、僕たちは――!」

「ああ。お前達が故意にそんな結末にさせないということは分かってる」

 

 と頷く土方は。真っ向から新八の言葉をねじ伏せる。

 

「だがな、物事ってのは、最善の結果を出そうとして、結局最悪の結果にしかならなかったなんて事はよくあることだ」

「ッ…………」

 

 新八は息を呑む。

 

「もし、自分が関わって最悪のケースになったとしても、その責任を取れるなら、好きにすればいい」

 

 目を細め、もの悲しそうに言う土方の言葉を聞いて、新八は改めて認識する。

 

 ――そうだ、土方さんは……。

 

 目の前の男は真選組副長――土方十四郎。

 彼は組織の上に立つ人間として、町の治安と平和を守るために色々な任についてきた。そのために、どうすれば被害を最小限に抑えられるのか、必死に頭を悩ませてきたのだろう。だが、その努力も虚しく、悪い結果を生み出してきたことも多々あったはずだ。悪い結果になった時、彼はその責任を真選組副長として何度も負ってきたに違いない。

 そしてそんな彼は、新八に問いかけている。

 

 『わざわざ、最高とは言えずともハッピーエンドになるであろう物語を、お前は自分の手で壊すのか? 悪い結果になった時、お前はその責と向き合えるのか?』と。

 

「僕は……」

 

 心が感じたままに、自分はどれだけ浅はかな考えで動こうとしていたのか? と自分に対し、後悔の念を強め始める。

 

「ま、何もせずに後悔することもあれば、何もせず後悔しないこともある、ってことを覚えておきな」

 

 土方はふぅ、と煙を吐いて、ぎりぎりまで吸ったタバコを携帯灰皿に入れて立ち上がる。

 

「まー、もうなのはたちと関わってる以上、なにかしらの変化は起こるだろうが、今ならまだ物語を破綻させることもねェだろうしな」

「……そう、ですね」

 

 新八は落ち込みながらも素直に頷く。最早彼は、土方の意見に反論する気持ちはほんとんどない。

 立ち上がった土方はポケットに手を入れ、リビングを出て行こうと背を向ける。

 

「映画やらアニメやら見て、登場したキャラに共感や同情をしたお前らの気持ちも分からんでもないが、結局画面の外に居ようが中に居ようが変わりはしねェってことだ」

「はい……」

 

 新八は小さく返事を返し、無力な自分に対して悔しいのか、拳を強く握る。

 土方はそんな青年の姿をチラリと見て、口を開く。

 

「とにかく、余計なことはせず、今の俺たちは万事屋の野郎と柳生の連中を探し、近藤さんを助け出す。そこら辺に頭使いな」

 

 土方は時計の時間が四時を指したところを確認した後に、リビングを出ようとドアノブに手をかける。

 

「ま、お前らも少しは感情で動く前に、頭で整理してから動くことを覚えるんだな」

 

 そう言って土方がドアを引くと――彼の目の前には〝少女〟が立っていた。厳密に言うと、閉まっていたドアの前にだが。

 私立聖祥大の初等部の制服を着た、栗色の髪を白いリボンでツインテールにした少女。彼女は顔を青ざめさせ、汗をダラダラ流し、視線を逸らしながら気まずそうな作り笑顔を作っている。

 

「あ、おっす〝なのは〟。今帰りアルか?」

 

 帰ってきた高町家の末っ子に、神楽は呑気に手を上げる。

 一方、なのはの登場に、土方、新八、山崎は『やっちまったァー!』みたいな顔で口をあんぐり開けて、汗を流している。

 

「あ~あ。物語、破綻させちまった」

 

 と沖田がボソリと言った。

 

 

 俺は前々からトイレに視線を感じていた。

 もちろんそれはただの気のせいであろうことは、俺自信が一番分かっているつもりだ。

 窓すらない家のトイレで視線を感じるのはおかしい――と言う疑問を俺はこの一ヶ月、トイレに入るたびに感じていた。

 その視線は天井の電球から感じるていたのだが、電球を見つめてもただただまぶしいだけ。

 そしてある日、母親が俺に言った。

 

「ちょっと啓太ァ? あんたまたトイレの電気付けっぱなしにしたでしょ? 前から電気はちゃんと消したか確認しときなさいよって、言ってたでしょ?」

「なら母さんが消せばいいじゃん」

 

 俺は文句言うが、

 

「自分で消しなさい!」

 

 母は怒鳴り声で叱るので、俺は嫌々トイレの電気を消しに行く。

 

「たく……」

 

 だが、トイレに入ってみると、電気は付いていなかったではないか。

 

「あれ? 付いてねェじゃん」

 

 骨折り損だな、と頭の中で文句を考えた時、尿意を感じた俺は小便をしようとトイレの電気のスイッチを入れる。

 

「あれ? 付かねェな?」

 

 何度もON、OFFを繰り返すが一向に付く気配がなく、電球でも切れたのかと、おもむろに天井に顔を向けると――〝電球が眼球へ〟と変わり、誰とも分からぬ瞳が俺を見つめていたのだ。

 

 

「――ッ!?」

 

 歯を磨いていた銀時は、歯ブラシで頬を内側からグリッと押し上げてしまう。

 横で映画を見ていたフェイトはとっくにおねむの時間のようで、銀時の膝を枕にすやすやと規則正しい吐息を立てている。

 

『出たな悪霊! 悪霊たいさァァァァん!!』

 

 グサッ! ブシュゥゥゥゥッ!! と映画の主人公が天井にあった目玉に指を突き刺し、血が大量に飛び散る。

 それを見たフェイトの使い魔である狼のアルフ(人間形態)がテレビの画面を消す。

 

「なんかこの映画……」

 

 アルフはジト目で映画のパッケージを見つめる。

 

「ホラー演出は結構いいけど、やたらグロテスクなとこが目立って、一週回ってギャグ映画になってるね……」

 

 アルフの言葉を聞いて銀時は腕を組む。

 

「ま、まァ……B級映画なんてこんなモンだろ。俺は全然怖くなったからね? 寧ろ怖くなくて、フェイトみたいに眠くなってきたくらいだしィ」

「あんた、口から歯磨き粉垂れてるよ」

 

 顔を青ざめさせながら、誰にも訊かれていないのに言い訳する銀時を、アルフは半眼で見る。

 ちなみに寝る前の暇つぶし的なあれで、銀時とフェイトとアルフはプレシアが持っていた映画のDVDを鑑賞していた。

 銀時としてはA級のアクション映画を見たいところではあったのだが、プレシアの持っていたDVDにB級のホラーがあり、フェイトが目を輝かせながら催促してくるので、仕方なく『ホラー・オブザ・デット』と言う退魔師の主人公が次々と悪霊をやっつける『まさにB級』な映画を見ることになった。

 

「まぁ、こんな映画見て怖がる奴の気がしれねェよ」

 

 まだ銀髪は説明を続ける。

 

「たしかにィ、演出は中々良かったよ。いや、別に怖いわけじゃねいからね? でもよ、主人公が退魔師で、しかも悪霊退散を力技でやっちまう時点でどうかと思うよ、うん。つうかさ俺としては――」

 

 アルフは「はいはい」とテキトーに相槌をうつ。

 

「あんたがホラー怖くないのは分かったから。とにかく、あんたも寝なよ?」

 

 狼の使い魔はジト目を銀時に向けながら、フェイトをお姫様抱っこする。そしてそのまま主を自室まで運んでいく。

 

「ま、まァ……夜も遅いしィ。寝るとしますか」

 

 怖くない怖くない、と連呼する銀時もアルフの後に続いて寝室まで向かっていく。

 

「そんじゃ、おやすみ」

 

 銀時はベットの布団を体に被せ、フェイトを隣に寝かせながら目を閉じる。それを見ていたアルフは、

 

「お前は自分の部屋で寝ろ!!」

 

 ダメなところ丸出しの大人を蹴りで部屋からたたき出す。

 銀時は「グヘッ!」と悲鳴を上げながら吹っ飛ばされても、すかさず立ち上がる。

 

「おいおい。ホラー映画見て怖がっているであろうお前らのために、気を利かせてる銀さんの優しさが分からないワケ? お前」

「怖がってんのあんただろ」

 

 アルフは情けない大人に対して青筋立て、そしてバタンとドアを閉める。

 しばらく立つと、コンコンとドアをノックする音が聞こえてきた。ドアを引くと、銀時が立っている。

 目の前に立つ銀時に、アルフは怪訝な表情。

 

「なんだいあんた? まだなんか用があんのかい?」

 

 すると、銀時は真剣な眼差しでアルフに言う。

 

「なァ、お前――寝る前にトイレしたくない?」

「おやすみ」

 

 バタン! とドアを閉めるアルフであった。

 

 

「――たく、少しは付き合ってくれもいいじゃねェか。トイレ入ってる間、外でドラ○もんのBGM流してくれてもいいじゃねェか」

 

 ぶつぶつ文句を言いながら、銀時はトイレまで腕を組んで歩いていく。

 そしてトイレの前までやって来た銀時は『電球が眼球になった映画のシーン』を思い出す。

 

「い、いやいや。アレフィクションだから。普通あんなのないから」

 

 などと銀時は自分に言い聞かせるように自己完結しながら、恐る恐る電気を付け、電球を確認する。そして安堵した後に、ズボンを下ろして便器に腰を落とす。

 

「ふぅ……」

 

 銀時は溜まっていたモノを出したことで安堵し、おもむろに天井に顔を向ける。すると、天井裏を覗くための板が少しズレ、そこから覗く光る(まなこ)が二つ。

 

「………………」

 

 その時、銀時の目は白くなって彼の体は硬直していた。

 

 

 

 そして銀時がトイレに行ってから数時間後。

 

「ごめんねアルフ、起こしちゃって」

 

 フェイトは申し訳なさそうにする。

 

「まだ夜遅いのに」

「いいってフェイト。あたしもシたいと思ってたとこだし」

 

 小の方を催したフェイトがトイレに行こうとすると、主人の動きを敏感に察して目を覚ましたアルフ。そのまま彼女はフェイトに付いて行くと言い出し、二人でトイレまで行くことにした。ちなみに、アルフは狼形態のままフェイトのベットの横で寝るのが基本である。ただ、これから行くトイレは犬用ではないのでアルフは人型。

 トイレの前までやって来た二人。

 

「フェイトから先にシなよ。あたしはその後でいいから」

 

 アルフが手で促す。

 

「じゃぁ、お言葉に甘えて」

 

 フェイトがトイレの扉を開くと、二人は絶句した。

 

「………………」

 

 トイレの中には、ズボン下ろしたまま上を見上げ、白目ひん剥いて真っ白になっている銀時の姿が。

 

「……ぎ、銀時!?」

 

 まずフェイトが声を上げ、次にアルフも声を出す。

 

「ちょッ!? どうしたんだいあんた!?」

 

 少しの間、目の前の珍妙な光景に目を点にしていた二人だったが、すぐに我に返り銀時に詰め寄る。

 

「なにがあったの銀時!?」

 

 フェイトは銀髪の体を揺する。

 

「あー……こりゃ、ダメだ。完全に気絶してる」

 

 アルフは情けない姿で気絶している彼に対して呆れた表情になる。

 フェイトはなんとか銀時の目を覚まさせようと、彼の肩に手を掛けて揺らしていた。

 

「ねぇ、しっかりし――」

 

 その時、ふとフェイトの視線が便器に向いてしまった。そのお陰で、少女は言葉を中断させざるおえなくなる。

 そりゃそうだ。ズボンもパンツも下ろしている銀時の下半身のアレは、〝丸見え〟なのだから。

 突如、無言になったフェイトの顔はみるみる赤くなっていく。

 

「………………」

「――って、ぎゃああああああああッ!?」

 

 アルフは慌ててフェイトの目を手で覆う。

 

「フェイト、あんたナニ見てんだい!? いくらなんでもあんたに〝ソレ〟は刺激が強すぎるよッ!!」

 

 当のフェイトは、男のシンボル見たお陰で完全に我を失っているようで、抵抗するようなことはなかった。だが、フェイトの視線を遮ったと同時に、ついでにアルフも銀時のアレを見てしまう。

 

「ッ!? …………あんた、結構イイモン持ってんじゃん」

 

 顔を赤くさせながら、視線逸らすアルフであった。ただつい視線がチラチラ銀時の股間に向いてしまっていたのは、仕方ないと言えば仕方ないのかもしれない。

 ズボンずり落として便器に座って気絶している男のナニを前に、二人の女子が硬直しているトイレ。シュール極まりない状況を一人の影が見つめていた。

 

 

 ちなみに翌日の朝。

 

「――えッ? なに?」

 

 と困惑する銀時。

 

「なんでお前ら俺に目線合わせないの? なんでさっきからフェイトは下向いてんの? なんでアルフはさっきから目を横に逸らしてんの? って言うか、なんでお前らさっきから顔赤いの?」

 

 朝食の時から一日中ずっと銀髪に目を合わせず、顔を赤くすることが多い魔導師と使い魔であった。



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第十五話:臨機応変

最近スランプ気味で投稿が思うようにできませんでした。



 土方の言葉で、新八と神楽が〝リリカルなのはのストーリー〟に関わらないと、決まりそうになった時。

 土方がリビングの扉を開ければ、そこには気まずそうな顔をした、なのはが立っていたのだ。

 

「………………」

 

 絶句する土方と、

 

「………………」

 

 超戸惑っているツインテールの少女。

 

 とてもじゃないが、声らしい声が出せない土方。

 それもそのはず。たぶんだが、リリカルなのはだとか、物語に関わらないだとか、さっきの話を聞いてしまったであろう少女は、目の前で露骨に目を背けている。

 

 とても言葉にならない状況に、土方は『やっちまったァ!!』と言う顔で口をあんぐりさせている。それは新八と山崎も同じで、事態の深刻さを理解しており、土方同様にマヌケな顔を披露していた。

 確定されていたであろう未来の結末を、修正できないレベルでぶっ壊す、なんて事をさっそくやらかしたのだから、こんな顔をしても仕方ないだろう。

 

 だが、ここで普段厄介ごとを即座に解決してきた、真選組副長の頭が回転する。

 

 ――いや、待て!? まだ誤魔化せるんじゃねェか? ほらアレ。実は俺たちは、〝なのはを主役にしたアニメ製作の話をしていました〟と言えば、乗り切りれるんじゃねェか? そうだ。コイツは年齢が二桁もいってねェガキ。むしろ自分たちがアニメ世界の住人だなんて、信じねェはずだ!

 

 いやそれだと、例え誤魔化しを信じたとしても、ユーノを見つけた時にすぐにバレるだとか、なのはが年齢に反してかなり大人びているだとか、そう言うことはまったく頭に入ってこなかった土方。焦りすぎて、誤魔化そうとすることにしか頭が働いていない。

 

 膳は急げ。土方はすぐに、なのはに嘘の説明をしようとしだす。

 

「お、おいなの――」

「ご、ごめんなさい!」

 

 突然謝りだしたなのはに、土方だけでなく他の面々の顔も「えッ? なんで謝るの?」と言ったモノになる。

 

「わ、わたし! 別に盗み聞きするつもりじゃなかったんです!」

 

 声を上げた後、なのはは視線をあちこちに逸らしながら喋る。

 

「帰ってきた時に……お母さんに皆が映画を見ているって言われて、なんの映画見ているんだろう? って気になって、つい覗いたら……その……」

 

 どうやらなのはは、土方たちの話を聞くどころか、映画すら見ていたようだ。

 

「ま、まさかわたしたちの……映画……だなんて、お……思いもしなくて……!」

 

 なんとか言葉を絞り出すように、目に涙を溜めながら必死に説明するなのは。衝撃の事実をなんの心の準備もなく目にしてしまったのだから、さすがに心の整理が追いつかず、ついていけないのだろう。

 

「な、なのはちゃん――」

 

 新八が声をかけようとするが。

 

「み、皆さんが!」

 

 なのはは言葉を遮って捲し立てる。

 

「悪いわけじゃないです! むしろ、わたしたちの為に動こうとしてくれて……わたし、みんな、優しい人たちだと思いました!」

 

 心を整理しきれないまま、なんとか話そうとしているなのは。そのくせ、新八たちのフォローまでしようとしている。

 他の面々も、この場に相応しい言葉が出ないようで、ほとんど喋りだそうとする者がいない。

 

 ついにはなのはは俯き、スカートをぎゅっと握る。

 

「わたし……わたし! 別に気にしてませんから! ちゃんと、わたしの心の中に、しまって! 置きますから! だから……!!」

 

 そこまで言って、なのはは勢いに任せて180度Uターンして、

 

「大丈夫ですからぁぁぁぁ!!」

 

 叫びながら家を飛び出した。

 

 ――ぜ、全然大丈夫じゃねェェェェェェェッ!!

 

 土方は心の中でシャウトし、頭の中で捲し立てる。

 

 ――説得力皆無じゃねェか! おもっくそ精神不安定になってるじゃねェか! 一番最悪なパターンじゃねェかァァァッ!!

 

 まさかの〝物語の主人公に物語の大筋を知られる〟なんて言う、タブー中のタブー。

 はっきし言って、あなたの人生は誰かに作られた物語(アニメ)だったんです、なんて知って平然としているワケがない。たとえ十代に満たない少女と言えど、ショックなはずだ。

 しかも、歳の割に妙に悟ってるとこがあるなのはだと、余計に精神的なダメージは大きいかもしれない。

 

 ぶっちゃけ、自分がなのはの立場なら、一人になりたいと思う。

 

「……ひ、土方さん!」

 

 新八が土方に詰め寄る。

 

「こ、コレどうするんですか!? コレ、間違いなく最悪なパターンですよね!? つうかなんで僕ら、リビングで映画見るなんて軽率な事してたんですか!?」

 

 寄って来た新八が、土方の両肩に手を置き、体を揺する。彼も相当焦っているようで、その顔には一切の余裕はない。しかも、今更ながらな正当なツッコミだ。

 

「お、落ち着け! ま、まずは冷静になれ!」

 

 そう言って、土方は口に咥えたタバコの火を手の甲で消す。

 

「いや、あんたが落ち着こうよ!」

 

 新八はツッコム。例えどんな状況でもツッコミをする。それが新八クオリティ。

 

「私、なのはの元に行くアル!」

 

 出て行こうとする神楽。彼女の後ろの襟を沖田が掴む。

 

「待ちな」

「なにするアルか!?」

 

 睨む神楽。が、沖田はまったく怯まず訊く。

 

「今行って、おめェはなに言うつもりだ?」

 

 目を細める沖田の前で、神楽は「う~ん……」と考えて口を開く。

 

「とりあえず、『魔法使えるようになったら私にも教えてね!』と予約するつもりアル」

「前々から思ってたが、お前バカだろ?」

 

 こんな時でもマイペースな神楽に対して、沖田は呆れた表情を浮かべてから、土方に顔を向ける。

 

「土方さん、正直な話マズイですぜこれは。下手したらなのはの奴、魔法の世界に関わらないなんて事もありますぜ?」

 

 沖田の言葉に、土方はドッと冷や汗を流す。

 

 そりゃそうだ。これから自分が危険な戦いに巻き込まれ、更には一人の少女の理不尽な運命を目の辺りにしなければならない。

 成り行きや進んできた道で見てしまった光景だからこそ、足を止めずに進んで行けると言うもの。が、あらかじめ何が起こるのか分かっているとなれば、それを避けようという考えだって、浮かんでくる。

 

 そのことを、沖田はすぐに予測したのだろう。

 

「ぼ、僕が行って来ます!」

 

 新八の言葉を聞いた土方が、目を細める。

 

「で? お前はなんて言うつもりだ? 〝これから魔法少女頑張ってね〟、なんて言うつもりじゃねェだろうな?」

「そ、それは……」

 

 新八は口ごもってしまう。どうやら勢いだけで、特に言葉などは用意してなかったようだ。

 

「まー、起こっちまった事は仕方ねェでさァ」

 

 と言って、沖田が土方の肩に手を置く。

 

「ここはフォローの達人。フォロ方さんの出番ですぜ?」

「誰がフォロ方さんだ!」

 

 ツッコム土方。やがて、新しいタバコに火をつけ一服し、焦りを吐き出す為に、ふぅ、と煙を吐く。

 

「今の俺たちが、なのはに何か言葉をかけてやるよりも、あいつ自身の心の整理が済んでからの方がいい。焦って問題を解決しようとしても、余計に空回りするだけだ」

 

 さすがはフォローの達人と言ったところか。例え焦っていてもクールに頭を働かせる。それが土方十四郎クオリティ。

 

「副長、上手くまとめましたけど……」

 

 山崎は汗を流しながら言う。

 

「ただ単に、外出たなのはちゃん追いかけても、土地勘のない俺たちじゃ迷子になるってわかってるからじゃ……」

「山崎、後でタイキックな?」

 

 と土方。

 

「ええッ!?」

 

 いらんこと言ったせいで山崎は涙目になるのだった。

 

 

 ――どうすればいいの?

 

 公園で、なのははそのことばかり考えていた。

 

 ブランコに座り、ギィギィとブランコのチェーンを軋ませながら、下を向いて悩むなのは。

 

 故意ではないといえ、見てしまった――未来、しかも確定的であろう予想図を。アニメと言う一つのジャンルを介して、過去の出来事を学ぶように、なのはは未来の映像を見てしまったのだ。

 

 最初、ただの冗談かと思った。新八たちが作った、おふざけビデオか何かの類だと。だが、そもそも彼らにそんなモノを作る技術も場所も金も時間もないことは、小さいなのはでもすぐに分かる。

 では、アレはなんなのか? 映像が終わった後に始まった、彼らの論争。それから導き出される結論は、至ってシンプル――すべて彼らの言ってた通り。

 

 自分たちの世界はアニメの世界であり、アレは未来で起こる出来事――。

 

 自分――高町なのはがフェイトと言う少女といくつもの宝石を巡って、あんな派手な戦いをし、危険な目に遭い、最後には少女の悲しい結末の立会い人となり、そして最後は友情を育む。

 

 大衆を楽しませる為の一つの作品としての事件、とも言える出来事。そして、その主要人物として自分がこれから対面する。

 正直、頭は混乱し、気持ちはちぐはぐで、上手く整理できない。

 

 ――わたし、どうすればいいの?

 

 さきほど見てしまった未来の映像を忘れたまま過ごすことなど、自分には到底できるはずがない。それはなのはだけでなく、ほとんどの人間がそうだろう。

 ならばただ単に、自分は未来どおりの行動をし、言葉を発していけばいいのかもしれない。

 

 だがそれでは、ただ教えられた事を忠実に実行するだけの――そう、糸で吊るされた人形みたいではないのか? そう考えると凄く悲しい気持ちになる。

 

 映像を見て後悔した気持ちさへある。

 だからと言って、新八たちを恨む気持ちは微塵も無い。あれは勝手に覗き見してしまった自分が悪い、そうなのはの中では結論が出ていた。

 

 誰が悪いわけでも、不幸な出来事が起こったワケでもない。

 自分の中でどう決着をつけるのか、それが問題なのだ。

 

「はぁ……」

 

 なんとか胸につっかえたモノを吐き出すように、ため息を吐く。心のもやを晴らすように、空を見上げる。太陽が眩しいだけだった。

 

「あぁ~もぉ~! どうすればいいのぉ~!?」

 

 しまいには頭をワシャワシャと掻き乱す。納得のいく答えがまったくみつからなく、頭がパンクしそうである。

 

「なのは、あんたなにやってんの?」

「えッ?」

 

 少し驚き、自分の名前を言った人物の方に顔を向けると、すずかを連れたアリサが立っていた。

 アリサは肩眉を上げて、怪訝そうな表情になる。

 

「あんた公園で、なに自分の頭クセ毛だらけにしてんのよ?」

「いや、これはそのぉ……」

 

 ボサボサ頭になったなのはは、気恥ずかしそうに顔を逸らしてしまう。

 

 

 

「ふぅ~ん」

 

 アリサは首を上にあげて、空を見上げる。

 

「自分が未来で起こる出来事を知ったら、どうするか……」

 

 なのはの話をあらかた聞いたアリサとすずかは、彼女同様にブランコに座っている。

 

 やって来たアリサとすずかに、なのはは今自分が悩んでいる事を『マンガの主人公の話』と言う前提で話した。

 仲の良い親友二人は、自分の話にちゃんと耳を傾けてくれている。

 

 空を見上げていたアリサは、顔を下ろし、ジト目でなのはを見る。

 

「って言うか、なのは。学校の帰りに『今日、定春を散歩させてみたいから神楽に頼んで』って言ったのに……」

「あッ……」

 

 アリサとの約束を忘れていたことに、なのはは声を漏らす。まぁ、親友との約束を忘れるくらい、衝撃的なモノを見てしまったので仕方ないが。

 

「あんた、そんな良くわからない事でずっと悩んでたの? あたしの頼み、忘れるくらい」

 

 アリサはうらめしそうな眼差しを向けてくる。

 

「ご、ごめんアリサちゃん……」

 

 なのはは申し訳なさそうに頭を下げ、アリサは怪訝そうな表情。

 

「そもそもあんたの悩んでいることって、アニメだって言ったけど、本当は占いとかじゃないの? 悪い結果が出たとか?」

「えッ……?」

 

 と声を漏らし、なのはは顔を背け、曖昧に答える。

 

「ま、まぁ……そんな、感じ、かな?」

 

 嘘を上手く付けないなのはとしては、精一杯の誤魔化しをしたつもりだ。

 さすがに本当のことには気付かなくても、自分のことについて悩んでいるのではないか? とは勘付かれたようだ。

 

 まぁ、本当は違うのだが、バカ正直に『わたしたちの世界はアニメで、これから起こる未来を知って困ってるの』なんて言っても信じてくれないし、下手したら頭おかしいと思われることだろう。

 ここは敢えて、アリサの推理どおりに話を進めた方が良い、と思ったなのはは、占いという体で話を進める。

 

「なんて言うか……詳細に自分の未来が分かったら、アリサちゃんはどうする? しかもとても大きな事件に巻き込まれるって、分かったら」

「んー……」

 

 さすがは自慢の親友の一人だ。バカバカしいと言わず、ちゃんと考えてくれる。

 なのははそんな優しいアリサの悩む姿を見て、嬉しそうに頬を緩ませる。するとアリサは、あっけらかんとした顔で。

 

「まぁ、別に深く悩む必要はないんじゃないかしら」

「えッ?」

 

 なのはは、アリサの言葉にキョトンとした顔。

 アリサは人差し指を立てる。

 

「だって、未来が分かったからと言って、その通り事が起こるとは限らないじゃない」

「でッ、でももし……! 百パーセント起こる未来だったら……」

 

 なのはも、あのアニメによる未来が絶対に起こると信じているワケではないが、敢えてこの言い回しで、アリサがどんな答えを出すのか知りたかった。

 それにより、自分の答えも決まる気がするから……。

 

「いやいや、さすがにそれは言い過ぎでしょ」

 

 とアリサは右手を振って、言う。

 

「だって、〝未来が分からない自分だから起こる未来〟なんでしょ? その未来に関わる人が先の未来を分かったら、その通りの未来になるとは限らないんじゃないの?」

「あ……確かに……」

 

 なのははアリサの言うことに思わず納得してしまう。たしかに、未来なんてのは別に先が決まっているワケではない。

 行動一つで、いくらでも可能性は生まれてくるのだから――。

 

 すずかもアリサに続く。

 

「わたしも、アリサちゃんほどじゃないけど……悪い未来なら、良い未来にするように頑張って、良い未来ならその通りにする、でも良いと思う。でも、知った未来よりももっと良い未来にしよう、って考えで良いと思うんだ。だって、どういう事をすれば、その未来になるのか分かるなら、悪い事が起こらないように動ける、ってことだよね?」

 

 すずかは安心させるようにニコやかな笑みを浮かべ、アリサが首を縦に振って同意する。

 

「すずかの言うとおり、もっと単純に考えなさい。別に絶対起こる事だったとしても、全部が全部その通りってワケじゃないんだから」

 

 アリサがやれやれと首を振る。

 つい自分の中に抱え込んで、すぐに深く悩んでしまうなのはの性格を理解しているだろう。とは言え、ちゃんと親友に相談するというのは、それなりの成長と言えるが。

 

「うん。……うん、確かにそうだよね」

 

 なのはは憑き物が落ちたような顔で、かみ締めるように深く何度も頷く。親友二人の言葉で、今の悩みに対する自分なりの答えが、段々決まってきたからだ。

 

「とりあえず、悪い未来ならもっと良い未来になるように頑張りなさい!」

 

 アリサはバンッ! となのはの背中を叩き、

 

「うわッ!」

 

 後ろから押されたなのはは、前に飛び出す。

 アリサから喝を入れられたなのはは、ゆっくりと後ろを振り向く。

 

「アリサちゃん……」

「ま、気持ち切り替えなさい。ようは、あんた次第ってことでしょ?」

 

 アリサは頑張れと言うようにウィンク。

 親友の励ましを受けたなのはの顔は、ぱぁーっと明るくなり、「うん!」と力強く頷いた。

 

「わたし、家に戻るね! しなくちゃいけない事があるから!」

 

 そう言って、なのはは走って自分の家に戻る。その顔に悩みは見られない。

 

「あッ、帰るならちゃんと神楽に、定春を貸してくれるように頼んでおくのよぉ~!」

 

 ちゃんと目的を忘れないアリサお嬢様。

 

「わかったーッ!」

 

 なのはは、親友に手を振りながら走って行った。

 その姿を満足げな表情で見守る、アリサとすずか。

 

「にしても……なのはって、あんなに占いで悩むタイプだったかしら?」

 

 顎に手を当てるアリサ。すずかは口に人差し指を当てながら、上を向く。

 

「ん~……もしかしてなのはちゃん。今日は悪い運勢で、その通りのことが起こってばっかだったから、落ち込んでたのかな?」

 

 まさかなのはの悩みが、『アニメで見た未来』に悩んでいたなどと、アリサもすずかも思いもしないだろう。

 すると、アリサのポケットにいた『デバイスのフレイア』が、ヒョコッと出てきて言う。

 

《いやいや。もしかしたら、本当はここがアニメの世界だから、悩んでいたとかかもしれませんよ~?》

「いや、さすがにそれはないでしょ」

 

 アハハハハと笑いあうアリサとすずかであった。

 

 

 

 そして当のなのはは今更になって、ある事を思い出した。

 

 ――あ……わたしの世界が、アニメだってこと、忘れてた……。

 

 未来の出来事に向き合うことはできたが、自分の世界がアニメの世界なのかどうか。その悩みをまだ解決できなかった事を思い出す。

 

 しかし、自分ひとりで悩まず、それも含めて新八たちと相談していこうと、思ったなのはであった。

 

 

「どうするんですか土方さん!?」

 

 新八の必死な訴えに、何も喋らず、ただ黙って腕を組む土方。タバコを口に咥えている彼の顔は、汗の粒がいくつも流れていた。

 新八は不安そうに問い詰める。

 

「なのはちゃんの心の整理がつくまで待とう、って言うのはいいですけど……。なのはちゃん、いつまで経っても考えを整理しきれないんじゃ、ないですか?」

 

 新八の言うとおり、なのははリリカルなのは主人公で、歳の割にしっかりした女の子。と言っても、結局のところは、まだまだ成長途中の子供であることに間違いない。

 あんな誰もが経験した事がないであろう事実を、目の辺りにした――と言う現状に、小さな女の子がどう向き合うのか、心配しない方が無理な話だ。

 

「やっぱり、原因の僕たちが、なのはちゃんに言葉をかけてあげるべきですよ」

 

 今もなのはが苦しむように悩んでいるかもしれない、と考えると居ても立ってもいられない新八は訴える。

 

「僕の軽率な行動で、なのはちゃんを傷つけてしまったと思うんです。だから、なのはちゃんを気持ちを少しでも軽くするための言葉が、必要なんじゃないでしょうか」

「う、うむ。そうだな」

 

 やっと相槌を打つ土方に、新八は強い眼差しを向ける。

 

「で、僕は考えたんですけど、ここは〝土方さん〟が適任じゃないかと思います」

「ッ!?」

 

 え? なに言ってんのコイツ? と言う視線を、土方は眼鏡に向けるが、すぐにクールフェイス。

 

「……そ、そうか? まァ、別にいいけどよ」

 

 しょうがねぇな、と言う顔を土方は作るが、裏の顔はと言うと……。

 

 ――なにが『で』、だ! お前が原因なんだから、お前が尻拭いするんじゃねェのかよ!?

 

 めちゃくちゃ困って、焦っていた。

 

 そりゃ、そうだ。あんな小さい少女の今後の考え方を左右するであろう言葉を、考える大役、それを押し付けらそうになっているのだから。はっきり言って、やりたくない。

 

 だが、土方の変化に気付いてくれない新八は、

 

「僕はなのはちゃんの為にかける言葉が、見つかりません。もしかしたら、余計に彼女を傷つけてしまうと思うんです。だから、僕としてはフォローの達人たる土方さんが、適任だと思います。きっと〝土方さんなら〟、なのはちゃんを元気付けられる言葉を持っていると思いますから!」

 

 期待の眼差しで訴えかける。

 

「あ、俺も土方さんがイイと思いま~す」

 

 と手を上げて軽い口調で賛同の意を示すのは、沖田。

 

「お、おう。まー、任せときな」

 

 と余裕綽々の顔を作る土方。だが裏の顔は、

 

 ――総悟ォォォォッ! なんでそういう時だけ俺押すの!? 嫌がらせも大概にしろよお前! つうか、俺だって『アニメで自分の未来を知って悩んでるガキ』にかけてやれる言葉なんて、持ち合わせてねェよ!!

 

 沖田を恨んで歯噛みする。

 

 しかし、新八にあんだけ関わるなだとか、心整理させとけとか、なんか色々偉そうなこと言ってきた身分としては、断りづらくてしょうがない。

 なんか、『この人ならきっと良いセリフを言ってくれる』的な空気になってるし。

 

 新八は拳を握り絞める。

 

「きっと土方さんなら、なのはちゃんを元気付けられる言葉を持っていると思いますから! ちょっと調子に乗ってた僕に、あれだけ偉そうなことを上から目線で言ってくれた土方さんを信用してます!」

 

 きらきらした瞳で見つめる新八に、真選組副長は心の中でツッコミ入れる。

 

 ――いや、お前どっちかと言うと、全然俺の言葉に納得してなくね!? なんか俺が嫌味で偉そうな奴としか伝わんねェよ! なに? そんなに俺の言葉、気にくわなかったの?

 

 正直、ここまで自分持ち上げられると悪い気もしなくないが、どう考えてもめんどうなことこの上ない。

 

「フッ……」

 

 土方は不敵な笑み浮かべる。

 

「まァ、任せときな。あのガキの心の重荷を、少しでも軽くできるかは、わからねェけどな」

 

 ようわからん自分のカッコつけに、心の土方は、

 

 ――なにが『フッ』、だ! なんで俺は無駄にカッコつけてんの!? 心の重荷ってなに!? 俺はバカなの!?

 

 自身の考えとはまったく反対のことを言う表の自分に、ツッコミまくる。

 

 しかしだ。ここで出来ないとかなんとか言って、断ろうものなら……。

 

『うっわ……土方さんてただ単に、上から目線の説教しかできない、口だけの人だったんですね。見損ないました』

 

 新八の軽蔑の眼差し。

 

『お前、今度からマヨラーじゃなくてニコラーだナ』

 

 神楽からのよくわからんあだ名。

 

『土方……フッ』

 

 鼻で笑う沖田!

 

 ――言えねェェ!! 断れねェェェ!! つうか最後の沖田は自分の想像だけど、すげェムカつく!!

 

 土方のプライドは後に退くことを許さない。

 

 周りの雰囲気に押されて『この人にやってもらおう』と言う、期待とか押し付けが入り混じった空気と言うものが、いかに性質が悪いのか分かった。

 

 すると、玄関の開く音が聞こえ、山崎がドアを少し開けてチェックする。

 

「あ、副長! なのはちゃん帰ってきましたよ!」

 

 ――なにィ!? もう帰って来やがった!?

 

 土方はいっそう汗を流す。もっと外で頭を悩ませてるものと思っていたが、予想より早く帰ってきやがった。

 新八が期待した眼差しで、土方に声をかける。

 

「土方さん。お願いします!」

「お前のフォローの力、フォー力の見せ所アル!」

 

 と神楽も便乗。

 

「いや、フォー力ってなんだよ!? フォースみたいに言うんじゃねェ!」

 

 ツッコミ入れる土方。

 

 そして走ってきたなのはは、土方たちの元までやって来た。膝に手を付き、ハァハァと息を乱しながら汗を流している。

 そんななのはに、ゆっくり近づいて行く土方は「ん、んん」とぐぐもった声を漏らす。

 とにかく、なにかしらの言葉を出せねば、と声をかけようとした時、

 

「おい、なの――」

「――あの、皆さんッ!!」

 

 なのはは土方の言葉を覆い隠すほど、大きな声を出す。そしてそのまま言葉を続ける。

 

「わたし、公園でじっくり考えました! でも、まだまだ分からないことや理解できないことも、納得できないこともありますけど、これだけは言いに来ました!」

「えッ? そ、そうか」

 

 土方は思わず相槌を打ってしまう。土方だけでなく、他の面々も意外そうな顔で話を聞いている。

 なのはは強い意志を感じさせる眼差しで、言葉を出す。

 

「ちゃんとこれから起こる事に向かい合おうって! フェイトちゃんとか! ジュエルシードとか! プレシアさんとか! 色々あるけど、全部ちゃんと向き合っていこうって! もっと素敵な未来にしようって!! 未来のわたしでもない――ここにいる〝わたしが〟、正しいと思えることをしようって!!」

 

 どうやら彼女は誰でもない〝自分の考え〟で、動いていきたいと伝えているらしい。

 なのはの力強い意思が宿った言葉に、

 

「なのはちゃん……」「なのは……」

 

 新八と神楽は感銘を受けてか、目を潤ませている。

 なのはは言葉をさらに続ける。

 

「わたし、まだ自分の世界がアニメなのかもしれないとか、これから起こる事件にどうすればいいのか、分からないことばかりですけど、頑張って答えを見つけていこうと思ってます!!」

 

 そして、なのはは勢いよく頭を下げる。

 

「できれば、事情を知ってる皆さんにも、少しだけでもいいので、手伝って欲しいと思ってます!! 迷惑だと思いますけど!!」

 

 おねがいします!! と、最後に精一杯のお願いをするなのは。

 

 やはり自分一人で答えを見つけるのも、事件を良い方向に持っていくのも、限界があると感じたからだろう。

 そして、力不足な自分の力を補って欲しいと、頼み込む彼女の気持ちを、新八たちはちゃんと汲み取っているようで。

 

「もちろんだよなのはちゃん!」

 

 と新八は握り拳を作る。

 

「僕たちのせいでなのはちゃんを苦しめちゃったんだから、僕たちにだって、なのはちゃんを手伝う義務があるよ!」

「私たちにどーんと任せるネ!」

 

 と神楽は胸を叩く。

 

「なんか面白そうだし、手伝うぜ。あのDVババアを俺が折檻すればいいんだろ?」

 

 沖田は黒い笑み浮かべる。

 

「沖田隊長! ホントそういうのは自重してください!」

 

 山崎はツッコム。

 

 四人の言葉を聞いて、笑顔になるなのは。ベクトルが違う沖田は、たぶん無視していると思うが。

 

「みなさん、ありがとうございます!!」

 

 そしてもう一度、なのはは笑顔で頭を下げる。

 ちなみに、思いっきり蚊帳の外にいる土方は、

 

「…………えッ? なにこの空気?」

 

 呆然としながら、自分の言ったこと丸々無駄になったこの状況に、突っ立っているしかなかった。

 

 

 翌日。

 時空の海では、ある時空間船が飛んでいた。

 

 あらゆる色が混ざり、混沌とした光を放つ、とてもじゃないが人の目には悪いであろう時空の海を渡る為の船。

 その船を運転している副操縦士は、船長である操縦士に話しかけた。

 

「船長。あの『ジュエルシード』ってやっぱ……『ロストロギア』なんですよね?」

「ああ、そうだ。古代遺跡の調査を生業とする連中から預かった、重要な品だ。操縦ミスって落とすなよ?」

 

 船長はニヤリと意地悪な笑みを浮かべる。

 

「まぁ、落としたら落としたで、船長に責任なんでいいんすけど」

 

 さり気なく酷いこと言う相棒に「おい」と船長はツッコム。

 

「ですが、マジな話大丈夫なすかこの船? だってロストロギアですよ? 『次元犯罪者』の恰好の標的じゃないですか?」

 

 副操縦士の言うとおり、多くの異世界で犯罪を起こす次元犯罪者。

 色々種類はいるが、魔法世界でもランクの高い次元犯罪者ともなれば、次元の海から海へと渡り、事件を起こす。中にはロストロギアのような、強力な力を狙う者だっている。

 

 そんな連中が欲しがりそうな物を積んでいる船の運転をしていて、ビビるなと言う方が無理な話だ。

 

「そうビクビクするな。『管理局』以外で、この輸送船の経路も積んでいる物も知っている奴はいねぇはずだ。それに万が一犯罪者が来ようものなら、管理局お抱えの優秀な魔導師たちの餌食になるだけだ」

 

 ガハハハハハッ! と船長は豪胆な笑い声を上げる。

 彼の言った管理局とは言わば、あらゆる次元世界の秩序を守る、いわゆる魔法世界の警察のようなものだ。

 その優秀な魔導師たちが、この船には多く搭乗している。

 

「まぁ、そりゃそうっすよね」

 

 船長に合わせるように、乾いた笑いを浮かべる副操縦士。彼も、自分の考えがどうせ杞憂で終わる、と思ったようだ。

 

 だが、事態はすぐに急変する――。

 

 次元の海を渡る一筋の光。それは意思を持つように曲がり、まるで流星のように輸送船の船体に激突したのだ。

 ズドォーン! と言う凄まじい音と共に、船体が激しく揺れだす。

 

「な、なんだ!?」

 

 と船長が驚きの声を上げる。

 副操縦士も驚きの表情になり、船内は警報が鳴り、赤いランプが点灯し始めた。

 

 

 場所は変わって、船内通路。

 

 管理局から派遣された魔導師たちは、杖から魔力で構成された光弾を射撃し、応戦する。だが、標的はまったくと言っていいほどダメージを受けていなかった。

 

 魔力弾によってできる粉塵の中を歩きながら、敵は手を前にかざす。

 すると、敵の背後から現れた『ナニカ』が、口から魔力で出来た黒い光線を放つ。それは縦横無尽に通路を、焼き、抉り、貫通させ、破壊していく。

 

「ぐわぁッ!?」

 

 怪獣のように暴れまわるレーザーの攻撃に巻き込まれ、次々とやられていく管理局の魔導師たち。傷つき、倒れ伏していく魔導師たちを足蹴に、歩いて行く犯罪者。

 

 顔も体もまったく見せないとばかりに、肉体を覆った灰色のローブをなびかせ、目深に被ったフードから見せる眼光は、赤く光っている。

 長い袖から垣間見える――まるで悪魔のように先が尖った手を振る。そうすれば、背後で口から破壊の光線を出している、巨大な蛇のような黒いモノが、魔導師も船の内部も次々壊していく。

 

「フッ……。まぁ、局の〝ゆうしゅうな〟魔導師と言っても、この程度か」

 

 犯罪者は床に倒れ伏す魔導師たちを一瞥し、鼻で笑った後、そのまま破壊を続けながら歩く。そして倉庫の扉を壊し、目的の物が入ったケースの前まで、やって来た。

 

 カチャリ、とケースの蓋を開ければ、そこには青色に怪しく光輝く宝石が入っていた。

 数えれば、全部で二十一個。一つ一つ、丁寧にシリアルナンバーが刻んである。

 

「ほぉ、これがジュエルシードか……」

 

 赤い瞳を細め、ジュエルシードを見つめる犯罪者は、

 

「ん?」

 

 あることに気付く。壊した船の横穴から、小型船が、自分が乗っている輸送船から離れていく姿だ。

 

「どうやら、ロストロギアよりも、命を選んだみたいだな」

 

 途中から、管理局員が邪魔しに来なくなったところを考えると、船が爆発すると見越して、ほとんどの搭乗者たちは脱出したようだ。

 ズドンッ! バゴンッ! と大きな破壊音がする度に、大きく揺れる船。

 

「――どうやら、潮時だな」

 

 襲撃者はそう言った後、手にしていたジュエルシードをすべて、船の空いた穴から、次元の海に投げ出した。

 

「これで、ジュエルシードは船の爆発の衝撃で、地球に行く。後は、〝ひな鳥〟が育つのを待つだけだな」

 

 次元の海でも、光を放ち続けるジュエルシードを見ながら、心底おかしそうに笑い声を漏らして、犯罪者は船から脱出した。

 

 しばらくして輸送船は爆発し、ジュエルシードは爆破の影響で飛ばされてしまう。

 

 

 その夜、海鳴市にはいくつもの流れ星が降る。その数、全部で21――。

 

 



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第十六話:エイリアンにだって知能くらいはある

今回は宇宙最強のハゲが登場します。


 ――拝啓 神楽ちゃん。

 

 もう、神楽ちゃんが地球にやって来てから、何度目だったか分からない手紙を、送らせてもらいます。

 お父さんの頭は不景気ですが、仕事の景気は良いです。

 前もG級の危険種指定になっていた、リオレイヤだとかジンオウガとか言う連中をサクッと片付けてきました。

 

 最近は、神楽ちゃんが田舎臭い地球の空気に染まって、少し野生児化していないか心配になってます。

 ここんとこ、単身赴任のお父さん特有の、置いてきた家族が心配になってきた的なアレのストレスで、お父さんの毛根に多大なダメージが出てきました。

 ですが、ご心配なく。心配の原因は主に、あの腐れ天パ野郎と、思春期エロ眼鏡のせいなので、神楽ちゃんは気にしないでください。(一回あの二人はシメてやろうか考え中です)

 

 話は逸れましたが、神楽ちゃんは今も元気に地球で楽しく暮らしていますか? 

 色々な経験を得て、お母さんみたく慎ましくも芯の強い女性になることを、切に願っているしだいです。でも、お母さんの怖い部分まで似ないでください。お父さん、年甲斐もなくマジ泣きすると思います。

 神楽ちゃんが元気にやっていけるよう、お父さんもお仕事頑張って()るつもりです。

 

 ただ、最近はお父さんが狩り過ぎてしまったせいか、殲滅やら殺戮の依頼が減ってしまい、商売あがったりです。

 最近では、私と似た家業を営んでいる、M78星雲の光の使者と宇宙怪獣をどちらが殺すかで揉めました。

 

『ジュワッ!』

『そうですか。うちも娘の為に頑張ってるんですよ』

 

 とりあえずめんどうだったので、怪獣と一緒にシバキました。

 光の使者さんのビームが、お父さんの頭に当たって反射した時、とても悲しい気持ちになりました。

 そんなこんなで、仕事が減ってしまい暇になったお父さんは、近いうち地球に向かおうと思います。来週の週末には着く予定です。

 神楽ちゃんに久々に会えるのを、年甲斐もなくワクワクしています(笑)

 

 愛しのパパより――。

 

 P.S.

 一応大事な話もあるので、できれば予定は空けといてください。

 

 

 場所は江戸。

 歌舞伎町に店を構える『スナックお登勢』の扉を、誰かがバンバンと叩く。

 

「ん? 誰だい?」

 

 タバコを吹かすオーナーのお登勢は首を傾げ、

 

「準備中ノ看板ガ見エネェノカ? ペッ!」

 

 キャサリンがガラ悪く唾を吐く。

 夜が基本営業のスナックに、昼間からやって来る変わった客に訝し気な視線を送る二人。

 お登勢はタバコを吹かしながら、

 

「悪いけど、今は準備中だよ」

 

 帰るように促すが、

 

「俺は別に飲みに来たワケじゃない。少し聞きたいことがあるだけだ」

 

 相手はどうやら客ではないようで。聞いて「はァ……」と息を吐くお登勢は、キャサリンにチラリと視線を向ける。

 

「しょうがいね。ほらキャサリン、扉を開けてやりな」

「マッタク世話ノ焼ケルヤツネ」

 

 文句垂れながら引き戸を開けるキャサリン。

 

「ハイハイ。ドチラ様――」

 

 扉を開けたキャサリンの目に飛び込んできたは――。

 全てを飲み込まんと言わんばかりの(アギト)を開き、鋭い眼光に、水牛のような角を生やした、ドラゴンみたいな生物のでっかい頭――それが、スナックお登勢の入り口にあった。

 

「ウギャアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 とんでもない来客に、さすがに度肝抜かれたキャサリンは、驚きのあまり尻餅を付き、白目剥いて気絶してしまう。

 さすがのお登勢も、とんでもなく凶暴そうな生物の頭を見て目を見開き、掃除していた機械(カラクリ)家政婦のタマは、守るようにお登勢の前に出る。

 

「お登勢様。お下がりください」

 

 タマはモップを構える。

 

「お掃除モードのレベルをマックスに致します」

「あァ、悪い悪い。驚かせちまったか。そう言えば、あんたとは初対面だったな」

 

 声を出したのは、怪物の横をすり抜けて出てきた男。その姿を見て、お登勢の目が少し鋭くなる。

 

「あんた……」

 

 右手にゴツイ和傘を持ち、着ている服は砂漠の横断者のような装い。一切の肌を見せる部分がない灰色のマントを羽織り、マントの下もまた、膝まで隠すようにコートで体を覆っている。

 ブーツを鳴らしながら入って来た男は、

 

「――すまないが、神楽を知らないか? おみやげも持って来たんだがな」

 

 最強のえいりあんばすたーの星海坊主(うみぼうず)だった。

 

 

 スナックお登勢の前には、ドラゴンのような生き物の頭がそのまま無造作に置かれ、外では通行人が大騒ぎしている。

 

 酷い顔で気絶しているキャサリンを椅子に座らせた後、やって来た星海坊主は、お登勢に事情を話した。

 

「まァ、これでも飲みな」

 

 話しを一通り聞いたお登勢が、酒の入ったグラスを出す。

 

「なら、お言葉に甘えて」

 

 星海坊主はグイっと酒を飲み干す。

 

「ふぅ……。やはり一仕事あとの酒はいいもんだ」

 

 口を拭う海坊主を、お登勢はまじまじと見る。

 

「にしても、宇宙一の掃除屋ねェ。まァ、あの子からちょくちょく話には聞いてたけどさ」

 

 そう言ってお登勢は、未だに自分の店の前を塞いでいる怪物の頭を横目で見る。

 

「まァ、あながち嘘じゃなさそうだね。あんなもん土産にして来るんだから」

 

 お登勢は「子が子なら、親も親ってとこかねェ」と言って、ふぅとタバコの煙を吐く。

 星海坊主は二階の方に視線を向ける。

 

「それで婆さん。早速で申し訳ないんだが、神楽ちゃんがどこに行ったのか知らないか? 二階にある、腐れ天パの事務所に行ってみたが、どこにもいなくてな」

「さーね。いなくなっちまった銀時の野郎を探すために、出かけちまって一週間経つけど、それ以降音沙汰なしさ。どこで道草食ってんだか、てんで見当がつかないよ」

「あの腐れ天パ……! またしてもうちの娘になにかあった場合は、しょうちしねェぞ……!」

 

 ピシっとガラスのコップにヒビが入る。

 娘を溺愛している最強のエイリアンバスター星海坊主。彼の目は愛娘を心配するあまり、血走っていた。

 

「んで、あんたの娘は今ここに居ないわけだけど、このまま帰ってくるまで待つかい? まァ、いつ帰ってくるかは未定だけどね」

 

 お登勢はタバコを咥え、体に悪い煙を吸い込む。老婆の言葉に星海坊主は首を横に振る。

 

「いや。いくら最近仕事が減って時間が出来たと言っても、俺にはまだまだ抱えている案件があるんでな。神楽ちゃんに今会えない以上、ここに長居するつもりはない。今回地球に来たのも、半分は娘の顔を見るためでもあるが、もう半分は仕事の為なんでな」

「そうかい……」

 

 ふぅとお登勢は吸った煙を口から出す。

 「ああそれと」と言って、星海坊主は親指で化け物の頭を指す。

 

「あの土産は酒の礼に、あんたにやるよ」

「持って帰りな」

 

 ばっさりと断るお登勢。

 星海坊主はカウンターに立てかけて置いた傘を手に持ち、立ち上がる。

 

「とりあえず、俺はこのまま警察のとこまで行って来る。ああ、それと。頼みと言っちゃなんだが、もし神楽ちゃんが帰ってきた時の為に伝言――もとい忠告を頼まれてくれないか?」

「ん? ないだい?」

「ある、えいりあんについてなんだが――」

 

 

 場所は変わって真選組屯所

 

「――知能をもったえいりあん~?」

 

 と肩眉を上げて訝し気な表情を作るのは、幕府直轄組織――警察庁の長官、松平(まつだいら)片栗虎(かたくりこ)

 

 床が畳の一室で、海坊主と警察の超お偉いさんが、対面して座っていた。

 その様子を、他の隊士たちが、襖を少し開けて覗いている。

 

「あァ。最近見つかった新種らしい」

 

 と言って、首を縦に振る星海坊主。

 

「それで、その知能を持ったえいりあんてのが、ちょいと厄介なヤツでな」

 

 ちなみになぜ、彼が幕府の重鎮の一人である松平のとっつぁんと対面して話しているかと言えば、それだけこれから話すえいりあんが危険であり、重要な案件として扱われているからだ。

 星海坊主は説明を続ける。

 

「元々、えいりあんてのは俺たち天人(あまんと)と違い、知能は基本的に動物と同じレベルだと考えていい。だが、今言ったえいりあんは人間並みの知恵を持っている」

 

 おいおい、と松平は腕を組んで眉を寄せる。

 

「知能を持っているんなら、天人(あまんと)って扱いなるんじゃないのか?」

 

 彼の言うとおり、動物のように知恵を持たず本能のままに動き回る生物は基本的にえいりあんに分類されている。だが、知恵があれば天人(あまんと)と言っても差し支えないのではないだろうか。

 

「まァ、星々のお偉い方の連中も、集まった情報を元に吟味したんだが、その生物の特殊性や能力的な危険度。知恵がありながらも、持ち合わせた凶暴性を考慮した結果、第一級特殊危険型えいりあんて扱いになったそうだ」

「なるほど。そんで、地球にえいりあん狩りに来たあんたは、ついでに俺たち警察にも忠告をしに寄った、と」

 

 探りを入れながら、星海坊主に喋りかける松平。普段は横暴な上司である彼も、今は警察の重役としての凄みが垣間見える。

 星海坊主は頷く。

 

「まァ、そういうことだ。俺も地球にそのえいりあんが居ると言う情報を受けて、やって来たしだいだ」

「ふぅ~ん。なるほど、な」

「そう言えば、気になっていたんだが……」

 

 星海坊主は周りに目を向ける。

 

「あの人間みたいなゴリラの……〝こんどう〟、とか言う奴は居ないのか?」

「ん? あ~……」

 

 松平は顎に手を当て上へ顔を向けた後に言う。

 

「あいつは今、出張中だ」

 

 

「へくちッ!」

 

 檻の中に囚われている近藤はクシャミする。

 

 

「それでだ。その特殊型ってのは何種類いるんだ?」

 

 松平はサングラスの奥の眼光を鋭くする。

 

「確認されている種類は、今のところ二匹」

 

 星海坊主は指を二本立てる。

 

「うち一匹は、宿主に寄生。そのまま肉体を乗っ取ると言う能力を持っているのだが、その辺は寄生型えいりあんとそう変わらん。ただ、そいつが知恵を持っているのが問題でな」

「するってェと?」

 

 松平は肩眉を上げる。

 

「外見どころか、身近な者が会話をしたとしても、そいつが寄生されたと言うことをまったく気づかせない。相手の脳の部分に取り付いて、宿主の情報を根こそぎ盗み見るそうだ。更には寄生した生物の能力を飛躍的に上げ、肉体を変化させると言ったこともできる」

「なるほどなァ。そいつァ、確かに厄介だ」

 

 松平は顎を撫で、星海坊主は説明を続ける。

 

「俺もその特殊寄生型を三匹ほど駆除したことがあるんだが、取り付いた人間の脳を調べた。ありゃあ酷いもんだった。脳のてっぺんに張り付いた虫みてェな奴が、触手を根のように脳に張り巡らせていた。俺も色んな寄生型えいりあんを見てきたが、あんな外見に影響を及ぼさず、内部だけ侵食する奴は初めて見た」

「なるほどな。それで、もう一匹は?」

 

 松平と星海坊主が話す部屋の前の縁側を、歩く影が一つ。

 

「もう一匹は――」

 

 星海坊主の目が縁側に向いた時、突然障子をぶち破って、一人の真選組隊士が刀を抜刀しながら星海坊主に向かって斬りかかる。

 

「ッ――!」

 

 星海坊主の眼光が鋭さを増し、一瞬のうちに真選組隊士の胸に、ズドン! と拳が叩きつけられた。

 

「ッッッ!」

 

 真選組隊士は声すら上げることなく、そのまま壁まで吹っ飛ばされる。地面を一度もバウンドすることなく、吹き飛ばされた男の体は、そのまま真選組屯所の壁すら破壊してしまう。

 すると、

 

「な、なんだァァッ!?」

「松平様ァ!! 大丈夫ですかァ!!」

 

 ぞろぞろと覗き見ていた真選組隊士たちが部屋に入って来る。

 

「てめェらァー! なに盗み聞きしてやがんだァ!!」

 

 松平の怒鳴り声に一部の隊士たちはすくみ上がり、すぐさま隊士たちは平謝りしだす。

 他の隊士たちは、海坊主に壁まで吹っ飛ばされた隊士の様子を見に行っていた。

 

「お、おい! なんだコイツ!? 体から緑の血を流してんぞ!?」

 

 一人の隊士が声を上げる。

 

 砕けた壁の奥に座り込むようにして気絶しているであろう隊士は、人間では流さないであろう色の血を、体中からダラダラ流していた。

 その気味の悪い色の血を見て、顔を青ざめさせる隊士たちは口々に言う。

 

「天人じゃあるめェし」

「って言うか、コイツ最近配属されたばっかの隊士じゃねェか!」

 

 すると突然、緑色の血を流していた隊士の目が開き、ギロリとその視線を星海坊主に向けた。

 

「ギギャアアアアアアアアアッ!!」

 

 凄まじい奇声と共に壁が破壊され、砂煙と共に出てきたのは、人間の姿をしていながらも、人間とは到底言えない怪物だった。

 口元は口裂け女のように裂け、爪は鋭く長く1mくらいまで伸び、太い舌を蛇のように長く伸ばし、背中からは何本も触手を伸ばしながら蠢かせている。

 

「な、なんだこいつはァッ!?」

 

 隊士たちが変貌した仲間の一人を見て仰天する。

 

「グググ――ギギャァァァァァァッ!!」

 

 と怪物が叫び声を上げたと同時に、ズドンッ! と星海坊主の傘の切っ先が、怪物の頭を吹っ飛ばす。そして頭を失った胴体は、そのままバタリと倒れる。

 怪物の頭をトマトのように吹き飛ばした和傘は、真選組屯所の壊れた白い壁を、更に破壊していた。

 

「――と、ま。今のがそのもう一匹だ」

 

 星海坊主はゆっくりと歩きながら壁に刺さった傘まで歩いていく。

 

「通称――変態型えいりあん」

 

 星海坊主が歩きながら、特徴を説明する。

 

「体を自由自在に変えることが可能だ。ちなみに、知能はあるんだが、正体がバレると狂犬病の犬みたく暴れ出す」

「う、星海坊主さんは、コイツと戦ったことがあるんですか!?」

 

 隊士の一人がした質問に、星海坊主は返答する。

 

「まァ、駆除したと言っても二匹だけだがな。ちなみに俺が駆除したヤツらは、戌威族の星にいたんだが、俺が着く前に正体がバレたらしく、戌威族の連中を好きなだけ虐殺しやがった」

「しかしまた、随分厄介な奴らが地球にやって来たもんだ」

 

 松平はタバコを吹かしながら、変態型えいりあんを見つめる。

 

「まァ、俺たちえいりあんばすたーの世界じゃ、新種の危険生物が見つかるなんて事は、よくある話だ。だが、問題なのはそこじゃねェ」

 

 星海坊主の言葉に、松平は眉を怪訝そうに動かす。

 

「ん?」

「この話は悪魔で噂レベルで確証はない」

 

 星海坊主は傘を抜き、向き直る。

 

「なんでも、こいつらをどこぞのイカれた科学者が〝作った〟って話らしい」

 

 

 どこかの研究室であろう一室。

 

「………………」

 

 そこには、いくつも『えいりあん』が何らかの液体に漬かっている。それを見ているのは、白衣を羽織った男。

 

 この研究室では、生物の研究をしていると思われるが、他にも生物だけでは飽き足らず、武器やら、薬品やら、他にもありとあらゆる分野の研究材料や資料であろう物が、研究室内にはキレイに整頓されて置かれていた。

 

「なるほどなるほど。これは面白い結果が得られた」

 

 白衣を着た男は、嬉々とした様子で手に持った紙に、研究結果を書いていく。すると、男の近くを音もなく、ある人物が降り立つ。

 

「ん?」

 

 男はゆっくりと後ろを振り向く。

 

「……おや、小次郎さん。もうお帰りですか?」

 

 やって来た人物に、白衣の男は柔和な笑みを浮かべる。

 

 やって来たのは、顔の右半分を前髪で隠し、黒いスカーフで口を隠している人物。

 顔を大分隠していて分かりづらいが、よくよく見れば、顔は女性よりの中性的さがある。厚着からでもわかる胸の膨らから考えても、女性と判断できた。

 

 右肩に、カラスのようなふわふわした黒い羽の塊を付け、黒い忍者服の上には、手が隠れるくらい袖が長い、黒いコートを羽織っている。

 彼女の右手に付けている鉤爪(かぎづめ)は、一本一本、先が鋭利で、これで引っ掻かれれば、肉など簡単に抉れてしまうだろう事が、容易に想像できる。そして、そんな彼女の手には、何か丸い物が鷲づかみで握られていた。

 

「それで、『パラサイト』くんは、ちゃんと持ち帰って来ましたか?」

 

 と言って、白衣の男は笑みを浮かべる。

 

「………………」

 

 何も言わずに彼女は左手を上げて、手に持っているモノを見せつける。彼女が鷲づかんで持っていたモノは、人の頭。しかも、誘拐事件の一件で沖田と一戦交えた、意嘆の頭だ。

 

「どうやら、ちゃぁんと『パラサイト』くんを持ってきたようですねぇ」

 

 白衣の男は、頭だけになった意嘆に顔を近づける。

 

 意嘆の顔は口から血を出し、鼻から血を出し、白目を剥いている。その表情はお世辞にも、やすらかな死に顔とは言えない。

 すると、ギョロリと死体の目が少しだけ動く。そして口が開き、

 

「おい」

 

 と、言葉を発した。

 

「おや? 生きてましたか」

 

 白衣の男は、あっけらかんとした様子で小首を傾げるだけ。

 意嘆の顔は口をぱくぱくと動かす。

 

「当たり前だ。〝本体〟の俺は無事なんだからな」

 

 白衣の男は首を傾げる。

 

「お聞きしますが、首から下は?」

「〝俺がいる頭〟から離したんだ。ちゃんと溶けて、ただのゲルになってるだろ」

 

 不服そうに話す首だけの男に、白衣の男は顔を離して、顎に手を当てる。

 

「そうですか。なら、問題ありませんね」

「それよりも、新しい体だ。新しい、か ら だ」

 

 白衣の男は「あー、はいはい」と笑顔で答え、背を向けて何かを取りに向かう。

 白衣の男が離れると、頭だけで喋るとても不気味な男に、黒い女の視線が注がれる。

 

「なんだお前?」

 

 生首は女を睨む。

 

「てめェが俺をこんな姿にしたんだろうが。見せもんじゃねェんだぞ」

 

 そう言われて素直に従ったのか、すぐさま視線を前に戻す黒い女。すると、白衣の男がロープで体を縛り、口をガムテープで塞いだ男を連れてくる。

 

「そいつが俺の新しい体かァ?」

 

 と意嘆は口元を吊り上げる。

 

「んん!?」

 

 意識はあるようで、生首だけで喋る化け物を見て、驚愕で目を見開く縛られた男。

 意嘆の頭は男を値踏みしながら言う。

 

「ちなみに、そいつはどんな奴なんだ?」

 

 白衣の男は答える。

 

「最近捕まった攘夷志士のリーダーの後藤仁(ごとうじん)と言う方らしいです。剣の腕は中々らしいですよ。まぁ、あの桂小太郎と同じで穏健派だったらしく、それほど目立った動きはしてなかったようですが」

「まぁ、〝この誘拐犯〟よりはマシかァ」

 

 ため息を吐く意嘆。

 

「顔も良さげだしな。そんじゃ、まッ。始めますか」

 

 そう生首が言った後に、黒い女は首をゆっくり床に置く。すると、生首は目を瞑り、縛られた男は不思議そうに見る。

 

「んん?」

「よぉ~く見ていてください。面白いものが見られますよ?」

 

 白衣の男は本当に面白いと言った感じに口元を歪める。

 すると、肉が裂けるような生々しい音と共に、生首の後頭部が開いていき、中から触手が顔を出す。

 

「キシャーッ!!」

 

 血を撒き散らしながら、小さな脳みそにピラニアの顔を付けたような生き物が、人の頭から飛び出したのだ。

 

「んんんんんッ!?」

 

 仁と呼ばれた男は、恐怖に顔を青くさせる。

 肌色の気色の悪い生き物は、クモによく似た六つの足で地面に立ち、背中の触手をウネウネと蠢かせていた。そして、その魚のような瞳が、仁と呼ばれた攘夷浪士に向く。

 

「ッ……!」

 

 異形の生物に見つめられ、仁は息を詰まらせる。

 

「キシャァーッ!!」

 

 そのままクモよりも更に素早く動き、六つの足をカサカサ動かしながら男に向かって歩いていく。

 それを見た仁はとにかく逃げようと暴れ出す。

 

「んんんんんんんんッ!?」

「ほらほら、暴れないでください」

 

 白衣の男は仁の肩に両手を置く。

 

 自分に向かってまっすぐ向かってくる化け物を見て、仁は多量の汗を流し、なんとか逃げようとする。が、縛られている上に、抑え付けられてしまっているので、逃げることができない。

 

 男の首まで這い上がった異形は、そのまま首にカブリと噛み付いた。

 

「んんんんッ!? ――ん……」

 

 仁は、すぐに気を失ってしてしまう。怪物の牙から毒を注入された為に、意識が昏倒してしまったのだろう。

 

 そして怪物は、その鋭利な足の一本を使い、仁の後頭部をメスのように切り開き、血が流れるのも構わず、更にはそのまま頭蓋骨も自分が入れるだけのスペースを作る。そして、軟体動物ように隙間に滑り込むように入り、仁の頭の中に侵入。

 脳の中では、怪物が背中の触手で脳を包むように巻き付け、先っぽに脳を突き付けると、更に小さな触手が根を張る様に、宿主の脳と体を侵食していった。

 頭の外側では、ゆっくりと開いた後頭部は閉じていく。

 

 そしてしばらくすると、寄生された仁の体が動き出し、肩をガキ、ガキと鳴らしながら動き出す。

 

「ん、ん~……」

 

 目をゆっくりと開き、仁が動き始めたことを確認した白衣の男はロープを解く。

 仁は口に付いたガムテープを剥がす。

 

「ふゥ~。前のより、この体良いな」

 

 首をコキコキ鳴らしながら、体の調子を確かめるのは、仁と言われてた男ではない〝ナニカ〟。後頭部にあったはずの切り傷は塞がり、後すら見えない。

 

「それは良かった」

 

 白衣の男は笑顔でナニカを見る。

 

「では、パラサイトくん。早速新しい体が手に入ったところで、お聞きしたいのですが、あなたが『夕観意嘆の時』に渡しておいたデバイスたちはどうしましたか?」

「ん? あー……あれか」

 

 パラサイトと呼ばれた、人に寄生する怪物は、宿主の体を操りながら後頭部をポリポリと掻く。

 

「失くした」

「ん?」

 

 白衣の男は、ニヤリと口元を吊り上げ、下から覗き込むようにパラサイトの顔を見る。

 

「では、デバイスたちの被験体も探せないまま、君は現地人にやられたってことですか? 寄生した君を圧倒するほどの人物なら、実に興味深いですねぇ」

「うるせェな。こちらとらデバイスの実験体になりそうな奴らを、ちゃんと確保するとこまでいったんだぞ? わざわざその辺のバカなゴロツキ共掻き集めて、その上宿主の性格を再現しながら動くのは、骨だったんだからな」

 

 まさか、あんなバカな奴とは思わなかったけどな……、と頭を右手で抑えるパラサイトは、アンニュイナな眼差しを向ける。

 

「つうか、お前の自信作かなんか知んねェけどよー……。あんなぎゃーぎゃーうるさいデバイス共なんて、さっさと廃棄すりゃあ良かったんだよ。まったく、俺たちに協力する気ゼロだったんだからな。俺たちに関する記録抹消してなきゃ、下手したらこれからの計画に支障が出るかもしれなかったんだぞ?」

 

 パラサイトの恨めしそうな眼差しに、白衣の男は笑顔のまま両手を出して言う。

 

「まぁまぁ、そう言わなくてもいいじゃないですか。視野を広げれば、アレはあなたたちの〝姉妹〟ってことになるんですよ?」

 

 ワザとらしい白衣の男の言葉に対して、パラサイトは舌打ちをする。

 

「チッ……。まー、それはそれとして、俺は一応役目は果たしたぜ。どうせあのクソデバイス共のことだ。俺が殺された瞬間には、隙を見て逃げただろ。しかも、自分を使いこなせる人間がいれば、当然そいつらの家にご厄介になっているはずだ」

 

 近くにあった三脚椅子に反対向きで座り、大またを広げながら、腰掛に腕と顔を乗せるパラサイト。なんだかんだ、思惑通りに事が運んだことに対して、笑みを浮かべている。

 

 白衣の男は忍びに目を向ける。

 

「小次郎さん。もちろん、二機のデバイスが選んだ(ロード)は確認済みですか?」

 

 小次郎と呼ばれた黒い忍び装束の女は、首を縦に振り、白いボードを出す。

 

『アリサ・バニングス。月村すずか』

「なるほどなるほど」

 

 と首を白衣の男は首を縦に振る。

 

「では、他の任務があるまで、彼女たちの監視をお願いします」

 

 言われ頷く小次郎。それを見てから白衣の男はパラサイトに顔を向ける。

 

「新しい体を手に入れたパラサイトくんには、これかもバリバリ働いてもらいますよ」

「たく、少しは休ませろってんだ」

 

 パラサイトは、ジロリと小次郎に目を向ける。

 

「風魔はその点いいよなァ。ただ見張るだけの仕事とか、楽でしょうがねェだろ」

『できもしない奴が威張るな』

 

 反論する小次郎にパラサイトは睨みきかせる。

 

「あァん? 忍びとか、影でこそこそするしか脳のない奴がなに言ってやがる」

『カーッ(゚Д゚≡゚д゚)、ペッ』

 

 白いボードに書かれた顔文字に、青筋立てるパラサイト。

 

「なんだコラ。その唾なんだ? うぜェんだよその顔文字!」

『人のまわしを使わなければ、満足に生きれない寄生虫が偉そうなこと言うな』

「くッ!」

 

 ボードの文字を見たパラサイトからブチっと何かが切れる。

 

「……いいぜ? 俺の力、心ゆくまで味合わせてやろうか?」

 

 爪をシャキンと鋭利に伸ばすパラサイト。宿主の肉体を変化させられるからこそできる芸当を見せつける。

 小次郎もボードをしまい、クナイを取り出して構え出す。

 

「また喧嘩してんのあんたたち。みっともないわよ?」

 

 一色触発の雰囲気を放っていた二人は、声をした方を向く。そこには色が抜け落ちたような長い白髪に、肌が黒色の少女が机の上に座っていた。

 パラサイトが声の主を見て口を開く。

 

「……『トランス』か。お前も小次郎と同じで神出鬼没な奴だ」

「あんたが鈍いだけでしょ。小次郎はとっくに私の気配に気付いてたわよ?」

 

 トランスと呼ばれる少女は机から飛び降り、パラサイトの言葉に呆れたような声で返す。着ている白いワンピースと、腰まである白い髪をなびかせながら、彼らに近づいていく。

 トランスの姿を見て、白衣の男は柔和な笑みを浮かべる。

 

「どうでしたか、様子は?」

「ダメね」

 

 肩を落とすトランス。

 

「あっさりあのハゲたおっさんにやられちゃったわ。興奮するとすぐに理性飛んじゃうし」

 

 説明を聞いて白衣の男は顎を撫でる。

 

「そうですか。やはり、トランスさん以外の変態型えいりあんは、うまく理性を保つことができないようですね」

「仕方ないわよ」

 

 トランスはやれやれと頭を振って言う。

 

「私と違って、元々が違う『えいりあん』なんですもの。原料が違う物で、まったく同じ物を作ろうってのが土台無理な話よ」

「『プレシアさん』の『クローン技術』があれば良かったんですが、仕方ないですね。クローン以外では、失敗作しか作れないと言うことが分かっただけも収穫です」

 

 トラスンの言葉を聞いて白衣の男はやれやれと肩を竦める。

 

「しっかし、あのえいりあんばすたーめちゃくちゃだぜ」

 

 と言って、パラサイトは顔をしかめる。

 

「戌威星で暴れさせてた奴らまで、あっさり倒しちまうんだからな」

 

 仲間の言葉にトランスは、

 

「あのハゲとは正直、真正面から()り合うのはおすすめしないわね」

 

 頭を掻きながら汗を流す。

 

「まぁ、星海坊主くんのことはいいでしょう。良いデータを取らせてもらいましたし」

 

 白衣の男はトランスとパラサイトの言葉を聞いても、怯えるどころかニヤリと口元を歪める。

 そしてパンと白衣の男は手を叩く。

 

「では、改めて指示を出します。小次郎さんはデバイス所持者の監視とデータ収集を」

 

 頷く小次郎を見て、次に白衣の男は残った二人に顔を向ける。

 

「パラサイトくんは、これからも海鳴市で私の指示通りの行動をお願いします。トラスンさんは研究所で待機を。私も近々海鳴市に行くと思うので」

「わかった」「おっけー」

 

 それぞれ指示された二名は同時に答える。

 

「心してくださいね。そろそろ空から〝アレ〟が降ってくる頃なんですから」

 

 白衣の男は、これから起こるであろう事件を考え、ニヤリと口を歪めた。

 

 

 時の庭園の正面玄関に位置するであろう、門の前には銀時、フェイト、アルフの三人が立っていた。

 

「それじゃ、行くよ銀時」

 

 フェイトに言われ、銀時は無気力に返事する。

 

「はいよ」

 

 彼らはこれから、プレシアが回収を命じたロストロギアが落ちた地球へと向かう直前だ。あらかたの荷物を用意し、後は地球に転移するだけである。

 フェイトが転移の準備をしている時、銀時はふとある疑問が浮かんだ。

 

「なー、フェイト」

「なに? 銀時」

 

 素直に返事するフェイトとは違い、

 

「いまフェイトは転移魔法の準備してんだから、無闇に邪魔するなっての」

 

 アルフは不満そうに注意するが、銀時は構わず尋ねる。

 

「あのよ、地球に着いた後の寝床とかどうすんだよ?」

「あんたの家、って言いたいところだけど――」

 

 と言って、アルフはチラリとフェイトに目を向けると、少女は口を開く。

 

「あまり私たちの任務を他の人間に知られたくないから、あらかじめ拠点になりそうな場所は確認してある」

 

 金髪の少女の言葉に銀時は「そうかい」と言ってボリボリ頭を掻く。

 まぁ、あのうるさい二人に、この金髪と犬耳女の説明をする手間が省けてラッキー、と考えておけばいいだろ、と考える銀時。

 

「それじゃ銀時、行くよ」

 

 フェイトの言葉を合図に彼女は詠唱を始める。そして三人は光に包まれ、地球へと降り立った。

 

 

「フェイト。これどこに置けばいい?」

 

 アルフの問いに対し、フェイトは指示を飛ばす。

 

「あ、それは私の部屋に置いといて」

 

 拠点であるマンションまでやって来たフェイトたちは手続きを済ませ、今は転移と一緒に持ってきた荷物を整理している最中だ。

 アルフは三つのダンボール箱を軽々と持ち上げ、フェイトの部屋へと持っていこうとする。

 

「つうかさぁ――」

 

 とそこで、アルフは足を止めて眉をピクピクと動かし、

 

「なんであんたが率先してテレビ見てくつろいでんだよ!!」

 

 いの一番にテレビの番組を見ながら、ソファーでくつろいでいるダメ人間(銀時)に対して、怒鳴り声を上げる。

 銀時はアルフの怒りなど気にせず、ボーっとテレビに視線を向けながら口を開く。

 

「ほら、よくあるだろ。旅行行って、ホテル着いた後、別に番組が変わってるワケでもないのに、部屋に着いてすぐにテレビを付けちゃうだろ? ついわくわくするだろ? その気持ちと同じだよ」

「いや、知らねぇよそんな気持ち!! 屁理屈はいいからあんたも手伝え!!」

 

 そうアルフが怒鳴った時だった。

 

「――!?」

 

 様子が急に変わる銀時。なぜだか急に喋らなくなり、チャンネルを次々と変えながら、やっているニュースをじっと見ている。

 

 

「……どうしたんだい、銀時?」

 

 少し不思議に思ったアルフは、銀時の顔を覗き込みながら話しかけるが、特に返事は返ってこない。

 いくつもの汗を流しながら、少々困惑した表情を作っていた銀時は、しばらくニュースなどを見ていたが、やがてゆっくりとアルフに顔を向ける。

 

「な、なァ……パソコンとか。ない?」

「パソコン? ……あー、ネットに繋ぐ、機械の名前だっけ?」

 

 腕を組んで顎を摘まむアルフに、銀時は「そうそう」と言う。

 アルフは視線を横に流しながら、思い出しながら答える。

 

「いやー、そう言うのは、ないと思うよ? 必要最低限の物しか持ってきてないしね」

「そ、そうか。じゃあ、この辺の地図とかある?」

「地図? あぁ、一応フェイトがバルディッシュに、この周辺の地図を記録させておいたはずだよ。あんた、もうどこかに出かけたいのかい? って言うか、この辺の人間なんだから、地図なんて別に必要ないだろ?」

「ちょっと、な……」

 

 そう言って立ち上がった銀時に、首を傾げるアルフ。なんだか普段と様子が違う彼に、眉を潜める。

 

 しばらくして、フェイトに図書館などの市民館の場所を案内させた銀時は、図書館にやって来て、パソコンやら地図やら本やら片っ端から調べ上げ、更には図書館にいるスタッフなどに、この辺の地域のことなどを、色々と質問していた。

 その様子を不思議そうに見るアルフとフェイト。

 

 そして、調べるだけ調べて戻ってきた銀時のとぼとぼとした足取りは、元気の欠片も感じられない。

 汗を多量に流す彼は、一言。

 

「ここ、どこ?」

 



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ジュエルシード回収編
第十七話:人間が仕事を選ぶが、仕事も人間を選ぶ


 なのはの部屋に集まった新八、神楽、土方、沖田、山崎。

 六人は今後の事と、自分たちが置かれている状況について、話し合っていた。

 

「やっぱり、僕たちの今後の方針としては、なのはちゃんのサポートって形になると思います」

 

 新八はそう言って、なのはに顔を向け「なのはちゃんもそれでいいよね?」と確認を取る。

 

「はい。わたしもそれで良いと思います」

「まァ、前にも言ったが。魔法の使ええねェ俺たちじゃ、どうしようもねェしな」

 

 と言う土方。ちなみに彼は今、タバコは吸ってない。さすがに女の子の部屋に、害のある煙を撒き散らす、と言うような事はしないようだ。

 

「でも、なのはちゃんて順応性高いよね。自分の世界がアニメの世界とか聞いたら、もっと悩むと思うけど」

 

 山崎が言うように、今のなのはは憑き物が落ちたみたいに、新八たちと今後の方針についてスラスラと話し合っている。

 しかも、なのはから『映画を見てこれから起こる事件の対策を考えたい』といった、申し出まであったくらいだ。まぁ、さすがに映画での自分の発言とかに対して、かなり恥ずかしそうに赤面していたのではあるが。もちろん、一人で見たのは言うまでもない。

 

 山崎の疑問を聞いて、なのはは下を向き、ぽつりと呟くように話し始める。

 

「……最初は、わたしも悩みました……。自分の世界がアニメの事とか、未来の出来事を知っちゃった自分は、ズルいんじゃないだろうかとか……。でも、アリサちゃんやすずかちゃんと話て、自分なりに決めました……」

 

 やがてゆっくりと顔を上げるなのはの顔は、迷いと言う文字がさほど感じらない。

 

「わからないならわからないで、答えが出るまで悩み続けようって。でも、これから悪い事や悲しい事が起こるなら――」

 

 なのはは量の拳をグッと握り、決意の満ちた表情で力強く言う。

 

「悩むのは後回し! 良い結果になるよう頑張ろう! って思ったんです!」

 

 そこまで言って、なのはは気恥ずかしそうに頭を掻く。

 

「でも、わたしみたいな子供が、自分の世界の正体はなんなんだろうって考えても、答えは出ないと思います」

 

 えへへへ……、と照れ隠ししながら愛想笑い浮かべる少女を見て、土方は内心、オメェみてェな子供いねぇよ! とツッコム。

 

「よくそこまで考えたアルな! なのは!」

 

 神楽は感銘を受けてか、なのはの肩に手を回す。

 

「か、神楽ちゃん!?」

 

 突然、肩を掴まれたなのははビックリ。

 

「そうアル! アニメだとか未来だとかそんなの関係ないネ! 私たちはただ目の前の障害にぶち当たっていくのみネ!! 当たって砕けろアル!!」

 

 などと言って、神楽はなのはを脇に寄せ、どこぞの星に向かって指を向ける。

 

「私たちはあのハッピーエンドの星に向かって、突き進むアル!!」

「……うん! がんばろう、神楽ちゃん!」

 

 と、なのははノリよく力強く頷く。

 どこぞの有名な野球マンガのBGM流しながら、なぜか熱い雰囲気を作る神楽となのは。

 どこの巨人の星だ! と言いたいが、今は雰囲気的にツッコミは控える新八だった。

 

「じゃあ、早速メジャーボール一号の特訓ネ!」

 

 意気揚々と神楽はグローブ構える。

 

「こいアル! なのは!」

「いや、なんでいつの間にかメジャー目指す話になってんだ!! ここで魔球の特訓するな!!」

 

 無論、神楽の悪ノリにツッコムのは新八。

 

「まァ、とりあえずなのはの気持ちは分かった」

 

 と言って、土方はポンと自身の膝に手を置く。

 

「なのはにあのアニメ見せちまった俺たちとしても、協力しなきゃならねェし、今のなのはに悩みやら迷いがあんまねェのも分かった。だが、はっきり言って、問題は山積みだ」

 

 すると、神楽はグローブを放り投げて言う。

 

「なに言ってるアルか。ようは、フェイトのマミーに、娘を大事にするように説得すればいいだけネ。十円シールは管理局の連中に任せとけば万事オッケーアル」

「ジュエルシードね」

 

 と新八はやんわり訂正。

 

「それに、フェイトちゃんの事だけなんとかしても、ダメだよ神楽ちゃん。ちゃんとご町内のことも守らないと」

 

 なのはは困り気味の顔で、神楽の言葉を指摘する。

 

「だから、それをする為の具体的な方法を、なにも考えてねェだろうが……」

 

 神楽の言葉を聞いて頭抱える土方。

 すると、おずおずと言った感じに「あのぉ……」となのはが手を上げて、土方が「ん?」と反応する。

 なのははある提案を口にした。

 

「フェイトちゃんに、案内してもらうのはどうでしょうか? 映画で見た感じだと、これからわたしと何度もジュエルシード巡って戦うフェイトちゃんは、良い子だと思います。なら、ちゃんと話せば、分かってくれると思うんです」

 

 なのはの意見を聞いて、首を横に振る土方。

 

「それは正直、望み薄だ。眼鏡たちには言ったが、正直、あの母親主義のガキに、見ず知らずの俺たちを、自分の母親のところまで案内する可能性は、低い。それに説得しようにも、こっちが知りえないあっちの情報を、俺たちがペラペラ喋ったら不用意に警戒させるだけだ。この事は、映画を見たお前も、薄々予想がついてるんじゃねェか?」

「…………」

 

 土方の言葉を聞いたなのはは、彼に論破されて落ち込んだ時の新八のように、下を向く。

 

「まー、とは言え、これが無理な話と言えばそうじゃねェ」

 

 土方の言葉を聞いて、なのはは「えッ?」と声を漏らし、顔をパッと上げる。

 腕を組む土方は、チラリと視線をなのはに向ける。

 

「こればっかりは、なのは――お前の手腕次第だがな」

 

 なのはは首を傾げ、彼女と同じように首を傾ける新八は尋ねる。

 

「どういうことですか、土方さん?」

「つまり、主人公とかそういうのは抜きにしてもだ。これから魔法を使えるなのはは、あのフェイトとか言うガキと何度もぶつかる事になる。それを考えるなら、あのガキの心を動かせんのは、なのは以外に、ほとんどいないだろ?」

「それ、別に私やぱっつぁんでも出来ることじゃないアルか?」

 

 神楽の意見に、土方はハァ、とため息を吐く。

 

「魔法も使えねェ、空も飛べねェ、そんな俺たちじゃジュエルシード取られた上、軽くあしらわれて逃げられるのがオチだろ」

「それに、あのなんと結界で、そもそも俺たちは干渉できねェって事もあるしな」

 

 と、なのはのベットに寝転ぶ沖田が補足する。

 

「――あー、そっか」

 

 新八は二人の説明を聞いて、納得したようだが、神楽は腕を組んで首を傾げている。どうやら彼女は、上手く理解できなかったらしい。

 

「まァ、手も足も出ねェってワケでもねェし、俺たちがなにもしねェってワケでもないがな」

 

 と言ってぽりぽりと頭を掻く土方は、腕を組んで説明する。

 

「なのはを含めて、俺たちが助力しながら必死に説得してけば、早いうちにフェイトの奴に心を開かせるのも、そう難しい話じゃねェだろ」

「前に『俺たちにできることはない(キリ)』とか言ってた人の言葉とは、思えませんねェ」

 

 沖田はニヤニヤと意地悪く口元に笑みを浮かべる。そんな部下に対して、土方は不機嫌そうな表情。

 

「それは、なのはが〝アニメの事を知らない時〟の話だろう。見せちまった今となっちゃ、俺たちが知らんぷりってワケにもいかねェだろうが」

 

 それに、と言って土方は、なのはに顔を向ける。

 

「こいつがこれから経験して得られるはずだったモノを、俺たち色々と台無しにしちまったワケだしな」

 

 土方の言葉を聞いて、DVDを見せる原因となった新八は、落ち込んで表情を曇らせる。

 たしかに、なのはがこれから色々な苦労を重ねて得られるであろう、かけがえない気持ち、強い心構え、経験、といったモノを無くしてしまったのだ。

 

 あの時、DVDを他の人間に見せないようにもっと気をつけるべきだった、と新八は自分を責める。

 

「ごめん、なのはちゃん……。僕たちが余計なこと、したばっかりに……」

「だ、大丈夫です! わたし、気にしてませんから!」

 

 なのはは両手を左右に振って新八をフォローする。

 だが、新八の沈んだ表情は直らない。なのはは両の拳を握り絞めて、元気づける。

 

「だって、新八さんが持っていたDVDのお陰で、これから起こる大変な事を未然に防げるんですよ! それにわたし、映画を見てわかったんですけど、自分がどれだけ危ない事に関わろうとしているのか、それもちゃんと理解しているつもりです!」

「なのはちゃん……」

 

 少しばかりだが、新八はなのはの言葉を聞いて表情を明るくしていく。

 更になのはは言葉を続ける。

 

「映画を見て、フェイトちゃんに対して、いろいろ感じました。でも、会ってもいないフェイトちゃんの為に、何かするのはおかしいって分かってます。でもやっぱり、わたしの力で、フェイトちゃんの為に何かしてあげたいと思ったんです! 安易な同情かもしれませんけど……」

「そんなことないよ! そうやって考えられるなのはちゃんは、十分優しい女の子だと思うよ!」

 

 新八の言葉に神楽も便乗する。

 

「そうアル! 感じたら即行動ネ! 考えるより感じろアル!」

「神楽ちゃん。なんかさっきから、思考が熱血キャラみたいになってない?」

 

 そして、さり気ない新八のツッコミ。

 

「まァ、自分の思うとおりにやればいいだろ」

 

 と言って、土方は立ち上がる。

 

「今のところは、未来(さき)で思うようになった事を、現在(いま)で思うようになった、と考えとけばイイ」

 

 そう言って、土方は今後の方針を話し出す。

 

「とりあえず、今はユーノとか言うフェレットモドキが魔法の杖を持ってくるまで、待っとく他ねェだろ。それまでは各々、万事屋の野郎を探しながら普通に過ごしとけばいい。ま、帰るのは事件が終わった後だな」

「そうネ! 銀ちゃんの奴見つけて、銀ちゃんにも手伝わせるアル!」

 

 などと勝手なこと考える神楽。

 

「新八さん。『銀ちゃん』て、新八さんたちの前に、わたしたちの世界に来ちゃった人なんですよね?」

「あ、うん」

 

 と新八は頷き、説明する。

 

「一応、銀さん探しは僕たちの問題だから、なのはちゃんは気にしなくていいけど。もし見つけたら、教えてくれるくらいでいいから」

 

 すると、なのはが手を上げる。

 

「あッ、わたしも銀時さん探しを手伝います! わたしだって、新八さんたちに手伝ってもらうんですから! アリサちゃんやすずかちゃんにも、心当たりがないか聞いてみます!」

「ホントなのはは良い奴ネ! あの万年グータラとは大間違いネ!」

 

 神楽はなのはの言葉を聞いて感涙を受けている。

 良い子の代名詞と言っても差し支えないなのはに対して、新八まで感動しだす。

 

「そうだよ神楽ちゃん! 僕のフォローまでしてくれるし! アニメを見て思ったけど、ホントなのはちゃん良い子だよ! 天使だよ天使! 神楽ちゃんみたいな毒舌大飯ぐらいヒロインなんてホント霞んじゃうよ!」

「なんだとコラァーッ!!」

 

 神楽が憤慨して新八を殴り、「ぶべッ!!」と声を漏らしながら眼鏡は鼻血吹き出す。

 なのはを絶賛するついでに、神楽をさり気なく罵倒する眼鏡は案の定、その毒舌大飯ぐらいヒロインの制裁受けるのであった。

 

「あの……別にそんな……」

 

 なぜか天使呼ばわりされてしまったなのはは、照れたように顔を赤くさせる。すると、寝転んでいた沖田が起き上がり、思いついたようにある提案を。

 

「なら、その天使なのはを俺たちが称えようじゃねェか」

 

 すると沖田が手を叩きながら、

 

「なーのーは。なーのーは。なーのーは――」

 

 と言い出すと、新八と神楽もつられるように、手を叩き出す。

 

「「「なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは! なーのーは!」」」

 

 沖田と神楽と新八のなのはコールを聞いていた、当の本人は……。

 

「……………………」

 

 涙目になりながら顔を真っ赤にして、ぷるぷる震えていた。めっちゃ恥ずかしそうに。

 

「イジメか!」

 

 とツッコム土方。

 

 

 

 なんやかんやで話は纏まった。

 するといまだになのはのベット寝転んでいる沖田が、思い出したように土方に話しかける。

 

「にしても、土方さん。俺らの住む場所どうしますかィ? 俺としちゃァ、このままあのアリサってガキんとこに世話になってもイイんですが。でも、これ以上世話になると逆にあいつに借り作っちまうことになっちまうのは、嫌でさァ」

「お前はホント自分勝手だな」

 

 土方は呆れた声を出すが、沖田の言葉に賛同するように腕を組んで言う。

 

「まァ、お前の言うとおり、大の大人が何日もガキの世話になるわけにも、いかねェしな」

 

 さすがに自分も大人としてのプライドもあるように、これ以上なのはの親友たちの世話になるのはよろしくないと、土方も考えているのだろう。すると、土方の言葉に反応したなのはが、おずおずと話し始める。

 

「あの、わたしがお母さんに頼んで、皆さんが住めるように頼みましょうか? わたしの(うち)は広いですし、わたしが頼めば、お母さんも大丈夫だと言ってくれると思うので」

「いいの!? なのはちゃん!」

 

 新八が驚いたように訊くと、なのはは笑顔で答える。

 

「はい。これから一緒に頑張る仲間なんですから、助け合いましょう」

「マジで良い子だよなのはちゃん!」

 

 新八はなのはの申し出にまた感動をあらわにし、沖田はまた手を上げる。

 

「よ~し。なのはの優しさを俺たちでたたえ――」

「それはもういいです!」

 

 と言って、なのははコールを止めるのだった。

 腕を組む土方は、深く考えるような表情で。

 

「まァ、オメェの申し出はありがてェ。沖田の野郎やそこのチャイナが、お前たちを誘拐犯から救って、その礼でこれからも住まわせて貰うのも、いいかもしれねェ」

「そうですよ。アリサちゃんやすずかちゃんだって、嫌がってないんですし」

 

 笑顔で言うなのは。その表情に、土方たちを住まわせる事に対して、一切の遠慮や嫌悪は感じられない。

 「だがな」と言って土方は言葉を続ける。

 

「俺たちはいっぱしの大人だ。ずっと他人の甘い汁すするワケにはいかねェ。大人には大人の沽券と責任てものがある。年端もいかないガキに世話になりっぱなしてのは、情けねェ話だからな」

「………………」

 

 他人の気持ちを尊重するなのはとしては、何も言えなくなってしまった。土方の気持ちも、彼女なりに察したのだろう。

 

「ま、その辺のバイトでもしていけば、元の世界に帰るまでは食い繋いでいけるだろ」

 

 腕を組んで言う土方の言葉に対し、ひそひそと沖田と神楽がジト目向けながら話し出す。

 

「うっわ……今の世の中、バイトだけでまともに暮らしていけると思ってるぜあの人」

「いい大人が甘ちゃんな考えるしてるアルな」

「おめェらガキは黙ってろ!」

 

 土方が青筋立てて怒鳴と、新八が意見する。

 

「でも、土方さん。人一人が生活するとなると、一日中バイトしないとダメですよ? そんな暇あまりないのに。それに、雨風はどこでしのぐんですか?」

「食事代だけなら、六時間程度のバイトで充分だ。それに雨風なんざ、公園なり橋の下なりでなんとかすればいいだろ」

 

 土方は冷徹な返答をすると、神楽は口を尖らせる。

 

「えェ~……。いたいけな少女に、ホームレス生活しろって言うアルか?」

「そんなのダメです!」

 

 と声を上げるなのはは、グイっと土方に顔を近づければ、鬼の副長は驚いて思わず顔を引く。

 なのはは真剣な表情で言う。

 

「せめてちゃんとしたところで寝ないと、体壊しちゃいますよ!!」

 

 なのはとしては知り合った彼らに、心身を害するような生活をさせられないのだろう。

 必死な訴えではるが、土方は「だがなァ……」と言って、中々首を縦に振らない。彼も銀時と同じように、相当プライドが高いタイプなので、自分から相手の世話になると言うことができないようだ。

 

「あ、土方さん。なら、俺に提案がありますぜェ」

 

 沖田の言葉に、眉をピクリと上げる土方。

 

「なに?」

 

 その沖田の提案とは……。

 

 

「きゃぁぁぁぁッ! 神楽ちゃんかわぃぃぃぃッ!」

 

 黄色声を上げながら、翠屋御用達のメイド服を着た神楽に抱きつくのは、桃子。

 

「メイド服、ですか……」

 

 てっきり、翠屋は普通の喫茶店かと思ってた新八はメイド服を見て、あっけにとられる。

 新八の隣で、腕を組む士郎は苦笑い。

 

「アレは、桃子の趣味で作ったモノなんだ。なのはや美由紀に着せようとしたものの、二人共恥ずかしがってね……」

 

 そう言って士郎が「ハァ……」とため息を吐いたところで、彼が妻の暴走を止めた時の気苦労が伺える。高町家の大黒柱のそんな姿に、新八は乾いた笑いを浮かべていた。

 

「しかし、まさか娘の恩人がウチでバイトをしたいと言うとは、思わなかったよ」

 

 人当たりのよい笑みを浮かべる士郎に対して、アハハハと頭を掻く新八。

 

 もうここまでくれば分かったと思うが、つまり住み込みのバイトをしよう、と言うワケだ。

 

 沖田いわく、お世話になるならそれ相応の働きをすれば、面子は保てるだろうと言うことらしい。

 ちなみに士郎たちには、なのはと違って異世界からやって来たとか、本当のことはもちろん言ってない。仲間同士で賃金を稼ぎながら旅をしている、と言ってなんとか誤魔化した。

 

 この後、新八は他のバイト先に行く予定なのだが、神楽がちゃんと仕事できるか心配だった彼は、様子を見守っている。まぁ、結果は見えているのだが。

 

「神楽ちゃん。これをあの三番テーブルのお客さんにお願いね」

 

 桃子は笑顔で、神楽に渡したトレイに、ケーキを二つとコーヒーを二つを置く。

 

「任せるヨロシ!」

 

 神楽はバン! と胸を叩いて、自信満々に手に持ったトレイを片手で運んでいく。

 

「おまたせしましたヨォ~」

 

 ドバァン! と自然な流れで転んだ神楽が、お客さんの顔面に手に持ったトレイをぶつけた。

 

「か、神楽ちゃん。床の掃除頼めるかしら?」

 

 桃子は少し頬を引きつらせながら、神楽に次の仕事を頼む。

 

「任せるネ!」

 

 その自信はどこから来るのか、神楽は胸をまたバン! と叩く。

 

「うっしゃァー!」

 

 バキィ! と気合入れたチャイナ娘は、自慢の握力でモップをへし折る。

 そして、なんか頼まれる仕事が減って暇な神楽は、自発的に動く。

 

「なのは、もしかしてそれ運ぶアルか? なら、私に任せるヨロシ!」

「えッ? で、でも神楽ちゃん――」

 

 なのはが何か言おうとするが、チャイナ娘は聞く耳持たない。

 

「安心するアル! 私、お客様に素早くご注文の品を届ける方法を思いつたネ!」

 

 などと自信満々に言う神楽は、なのはの持っていた丸いトレイを取り上げる。

 

「お客様ァー! ご注文をお持ちしましたァー!」

 

 と言って、フリスビーのようにお客の顔面向かってトレイを投げつけ「ぐはぁーッ!?」とお客様は悲鳴上げる。

 十分もしないうちに、次々問題を起こす神楽の姿を見た新八は、

 

「うん。こうなるのは分かってたけどね」

 

 彼女に対して生暖かい視線を注いでいた。

 

 

 結局、神楽は新八や土方たちと同じバイトをすることになった。

 その仕事とは、ボディーガード。

 

 沖田は少し前にアリサから、

 

「あんた、行くとこどころかお金もないんでしょ? だったら、ウチであたしのボディーガードとして雇ってあげる。もちろん、他の連中もあんたみたいに腕が立つんでしょ? なら、ぴったりじゃない」

 

 と、いった提案を受けた――っと言うワケで、新八、神楽、沖田、土方は、アリサ・バニングスのボディーガードをすることになったのだ。

 ちなみに、翠屋は今のところ人手が足りているので、一人二人くらいの手伝いで充分だそうだ。だから新八は、沖田が誘われたこの仕事を一緒にすることにした。

 

 それで、翠屋で働くことになったのは……。

 

「あ、合計で税込み1200円になります。――ありがとございました」

 

 地味に定評のある山崎。理由は、地味に飲食店のバイトに向いていたので。

 

 

 そして山崎以外の四人は、黒いスーツに身を包んでいるわけだ。サングラスを掛けた四人はエントランスで、バニングス家の執事である鮫島の前に、横に一列並んでいる。

 鮫島が後ろに腕を組んで説明する。

 

「では、皆様にはこれからアリサお嬢様の護衛をお願いします。護衛の任務は登校と下校をする間となりますので。それ以外は、アリサお嬢様のご意向により、禁止されておりますので、気をつけてください」

「「「「わかりました」」」」

 

 返事をする土方、沖田、新八、神楽。

 そして、彼らのアリサ・バニングスをガードする仕事が始まったのだった。

 

 

「……………」

 

 ボディーガードの対象となるアリサは、眉間にしわを寄せ、とても不機嫌そうな表情。

 歩く途中で、アリサの後頭部に肘がぶつかる。

 

「あいたッ」

「あ、すみません」

 

 肘をぶつけた新八は謝罪し、ボディーガードを続ける。

 

「――って言うか、あんた達ボディーガードの意味分かってるの!?」

 

 さすがに我慢の限界が来たアリサは、怒鳴り声を上げる。

 

 そりゃそうだ。まるで行動の自由を拘束するように、右に土方が、左に沖田が、後ろに背中向きの新八が、自分を取り囲んでいる。しかも、体が当たるくらいちっかい距離で。

 これに怒るなと言う方が無理な話だ。

 

 不自由極まりない護衛をされているアリサの姿を、親友二人は苦笑いしながら見ている。

 すると、トランシーバを取り出した土方が、ブシュと言う音を出して、喋りだす。

 

「アリサお嬢様のツッコミが入りました。オーバー」

 

 ブシュ。

 

「すみません。もう少し後ろに気をつけます。オーバー」

 

 新八も土方と同じようにトランシーバーで答える。

 プシュ。

 

「道の前に犬のウンコがありました。右にアリサお嬢様を誘導します。オーバー」

 

 沖田はズイズイと、結構強引にアリサを右にずらす。

 

「ちょッ!? 押さないでよ!」

 

 とアリサは文句言う。

 だが、ちゃんとアリサは犬の糞を踏まずに済んだ。

 

「つうかあんた達、なんでこんな急接近してあたしを護衛してんのよ!?」

 

 さすがにツッコまずにいられないアリサ。対し、沖田ボディーガードは渋い声で答える。

 

「アリサお嬢様。おなたは前に誘拐された、間抜けなお嬢様なんですから、これくらいが丁度いいんでさァ」

「今間抜けって言った!? 明らかに雇い主の娘に対して言ってはいけないこと言ったわよね!?」

 

 青筋立てるアリサ。すると沖田はトランシーバーを取り出す。

 プシュ。

 

「アリサお嬢様からくどいツッコミが入りました。オーバー」

 

 ブチッ! とアリサの中のナニカが切れる音がした。

 

「ま、まぁまぁ。落ち着いて、アリサちゃん」

 

 すずかはなんとかアリサをなだめようとする。

 

「つうかなにそのトランシーバー! いちいちそれで話さなくても聞こえるでしょうが!!」

 

 とアリサがツッコミ入れながらも、やっと校門の前までやってくる親友三人。

 そして、アリサが教室の扉を開けると、プシュと言う音。

 

「異常はありません。オーバー」

 

 神楽が、先端がドーナツのような形をした金属探知機で、アリサの机や椅子を検査していた。その様子に、教室のクラスメイト達は戸惑っている。

 

「――ってなにやってんのあんたは!?」

 

 とツッコミ入れるアリサに、振り向く神楽ボディーガード。

 

「もしかしたら、アリサ様が椅子に座った直後、こう、どか~ん! と椅子が壊れてしまう可能性がありますので」

「あたしどんだけ重いのよ!? って言うかその探知機の意味は!?」

 

 アリサは神楽のとんでもなく失礼な物言いに、憤慨どころかビックリしてしまう。

 

「アリサお嬢様」

 

 新八ボディーガードが進言する。

 

「ツッコミ入れてると、ホームルームが始まってしまいます」

「誰のせいだと思ってるのよ! つうか教室まで付いてくんな!!」

「「アハハハハ……」」

 

 苦笑いを浮かべるなのはとすずかは、朝っぱらかツッコミ入れまくっている親友を眺めているのだった。



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第十八話:物語のはじまり。魔法のはじまり

リアルで忙しかったり風邪ひいたりで投稿に中々こぎつけませんでした。



 時刻は夜。

 

 多くの木々が生い茂る森の中には湖があり、遊泳目的で置かれているボートがいくつもある。

 湖の中心には、まるで黒い粘土のようなモノが、不気味に蠢いていた。

 

「――おまえは、こんなとこにいちゃいけない」

 

 そして、まず日本では見ることのない、どこかの部族とおぼしき衣装を身に纏った金髪の少年が、黒い異形に対して、鋭い視線を向けていた。

 

「ウヴォォォォォォッ!!」

 

 怪物がおよそ、生き物とは思えないような雄叫び上げながら、金髪の少年に向かって襲いかかって行く。

 

「帰るんだ、自分の居場所に!」

 

 金髪の少年が指に挟んだ、綺麗な円形の赤い宝石をかざす。すると、少年の前に緑色の円が出現する。

 それは魔方陣のように複雑な模様を描き、襲ってきた怪物を食い止めた。

 

「ジュエルシード封印!!」

「ウヴォォォォォ!?」

 

 少年の反撃に怪物は苦しみだし、怪物の中心に穴が開くと、そこから小さな青いひし形の宝石が姿を見せる。

 

「ウヴォォォォォォッ!!」

 

 だが、封印されまいと抵抗する異形。体の一部を触手のように伸ばし、少年が「なにッ!?」と驚いている間に、怪物は触手を鞭のように使って自身の敵に叩きつける。

 

「うわッ!?」

 

 少年は、なんとかその攻撃を魔方陣を展開して防御するが、あまりの威力に、そのまま体を吹き飛ばされてしまう。

 だが、すぐに体勢を整えて再度、異形を封印しようと手をかざすが、

 

「ウヴォォォォォォォォッ!!」

 

 すかさず、異形が自らの体の一部を弾丸のようにいくつも飛ばして、金髪の少年を攻撃する。

 

「くッ!」

 

 少年は魔方陣を展開してなんとか防ぐが、辺りの地面が抉れ、湖に停泊させてあるボートが次々と壊れてしまう。

 防御した少年の努力も虚しく、攻撃による爆発と共に、少年は空中まで吹き飛ばされてしまう。

 

「ウヴゥ……」

 

 異形は少年に追撃せずに、そのまま体をぐねぐねと変化させながら飛び去って行った。

 傷を負いながら森の中で倒れふしている少年は、なんとか体に力を入れて立とうとする。

 

「……おいかけ、なくちゃ……」

 

 しかし、力尽きた少年の体は、緑色に輝きを放ち、その肉体はキツネ色のフェレットへと姿を変えたのだった。

 

 

 

 翌朝。

 

 ケータイの目覚まし機能によって鳴る音により、意識が徐々に覚め、白いシーツをもぞもぞと動かす。手を伸ばし、耳につく甲高い音を止める、なのは。

 やがて上体を起こし、重いまぶたを何度か(こす)る。そして、下を向く彼女は、シーツをギュッと握り締める。

 

「――たぶん、さっきの夢は……」

 

 映画で見た通りの、自分が見るであろう夢であった。

 少年と異形との戦いを見たということは、つまり……

 

「……これから、始まるんだよね」

 

 始まる物語(じけん)の序章――。

 自分が立ち向かっていかなきゃいけない、事件の始まりを感じながら、なのはは窓から見える青空を眺める。

 

 

「あれ? 新八さんと神楽ちゃんは? ――それに、山崎さん?」

 

 朝食にいるはずだった、新八と神楽がおらず、代わりのように椅子に座っている山崎が居る状況に、なのはは首を傾げる。

 

「アハハハ……。どうも」

 

 山崎は気まずそうに頭を掻きながら、お辞儀。そして、桃子の隣に座っている士郎が説明をする。

 

「今日は、オープンから山崎くんに入ってもらおうと思ってね。折角だから、ウチで朝食でも、って誘ったのさ」

「そうなんだ」

 

 となのはが納得すれば、「うん」と頷く山崎は説明を補足する。

 

「それと、新八くんたちはアリサちゃんのボディーガードの仕事があるからって、もう出ちゃったらしいんだ。まァ、朝食は食べたらしいんだけど」

 

 それを聞いた桃子が、思い出し笑いのように笑みを浮かべた。

 

「フフフ。神楽ちゃんたら、時間がないからって、ハムスターのように口にご飯詰め込んでいたのよ。かわいかったわぁ」

「まぁ、桃子の料理は美味いからな。分からんでもない」

 

 士郎はうんうんと嫁の自慢する。

 

「も~、士郎さんたら♪」

 

 対して、桃子は照れたように赤くさせた頬に手を当てる。

 

「山崎くんも、ウチの嫁が作った最高の料理を食べてくれよ!」

 

 士郎は笑顔満点で山崎の肩を掴む。

 

「は、はァ……」

 

 山崎は頬を引きつらせながら曖昧に返事をする。

 

「も~、そんなに褒めたって何も出ませんよ?」

 

 そして、またしても桃子は照れ隠しながら、旦那の頬をつつく。

 いい歳した夫婦の会話とは思えないくらい、あまあまな雰囲気に、山崎は面食らっていた。

 

「アハハハハ……」

 

 なのはは、他人にまで新婚夫婦のような絵面を見せる我が親の姿に、乾いた笑いを浮かべるのだった。

 

 そんなこんなで、朝食の席。

 

「(あの、山崎さん……)」

 

 なのはは小声で山崎のズボンの裾を軽く引っ張る。それに気づいた山崎は、朝の会話を楽しんでいる高町家の面々が、自分たちに意識が向いていないことを確認しながら、なのはに顔を近づける。

 

「(なに、なのはちゃん?)」

 

 山崎もなのはに合わせて小声で返事をすると、なのはは少し言い難そうに耳打ちする。

 

「(……わたし、ユーノくんとジュエルシードが戦っている時の場面を……夢で見たんです)」

「えッ!? それ――!」

 

 思わず驚きの声を出しそうになった山崎の口を、なのはが慌てて塞ぐ。

 そして、感づかれていないか他の面々を見るが、特に変わった様子もなく会話を続けていた。

 

 安心して、息を吐いた二人は、小声で会話を再開する。

 

「(……それってやっぱり、ジュエルシードがこの町に降って来たって事だよね?)」

「(たぶん、そうだと思います)」

 

 頷くなのは。

 

「(俺、事件が始まるのって、もっと先かと思ってたよ……)」

 

 少し焦ったように汗を流す山崎に対して、なのはも困ったといった表情になる。

 

「(わたしも、まさかこんなに早く始まるなんて、思ってませんでした。すぐに新八さんと神楽ちゃんに相談したかったんですけど……)」

 

 しかし、いないものはしょうがない。

 

「(まァ、遅かれ早かれジュエルシードが出てこない事には、何もできなかったんだし。とりあえず、副長や新八くんたちに会ったら、夢の事を伝えておこう)」

 

 山崎は今後の方針を促し、なのはは頷く。

 

「(わかりました)」

「ん? 何をしているんだい? 二人とも」

 

 二人の姿を見て首を傾げる士郎に対し、

 

「「な、なんでもありません(ないよ)!」」

 

 なのはと山崎は、少し焦りながらもなんとか誤魔化した。

 

 

 

 プシュ

 

「下校中のアリサお嬢様の進路に、依然として異常ありません。オーバー」

 

 先頭を歩く神楽がトランシーバーで新八に伝達し、

 

 プシュ

 

「ならば、先頭の護衛はそのまま警護を続けてください。オーバー」

 

 新八もトランシーバーで答える。

 

「――って、だからそれ止めろって言ってんでしょうがぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 アリサが天に向かって怒声を上げた。

 

 結局、昨日と同じように下校時まで自分の周りを包囲しながら歩く、迷惑極まりない護衛どもに対して、アリサは怒りを露わにする。

 

 時刻は既に夕方になり、辺りの景色は夕日の色に染まっていた。

 そんな夕焼けに彩られた、周りを木に囲まれた道を、なのはとすずか、そして護衛付きのアリサが歩く。

 

「つうかなんで今度はあたしの前にまでいるの!?」

 

 アリサは何回か神楽の背中に頭をぶつけながらツッコミしまくる。

 

「歩きにくくてしょうがないんだけど! 足とか頭が地味にぶつかってウザイし、昨日より迷惑なんだけど! 恥ずかしんだけど!」

 

 アリサの言う通り、昨日より護衛の仕方が悪化している。

 小さな金髪の少女の周りを、黒服の四人が右、左、後、前とがっちり囲みながら歩く姿は、シュール過ぎた。道行く人々の好奇の含まれた眼差しがチラチラと向く。

 

 ――大変だなぁ、アリサちゃん……。

 

 最近知り合った、一度ボケが暴走すると止まらない歳の離れた友人たちのおかしな行動に対して、なのはは苦笑しながら歩いて行く。

 

 ふと、彼女の頭の中にある声が。

 

 

 ――助けて……――

 

 

 ――あッ、この声って……。

 

 なのはは気付く。

 やはりだ。自分の頭の中に向かって、直接伝えるように声が、はっきり響いてきた。

 間違いなく、怪我をしたユーノのSOSであろう。よくわからないが、自分が魔力を持っているから、聞こえてくるようである。

 

 するとアリサが、

 

「ん? あれ? なのは、すずか。なんか今、声が聞こえてなかった?」

 

 と言って、首を傾げるアリサ。彼女の発言になのはは「えッ?」と驚く。

 すると次にすずかが、

 

「えッ? アリサちゃんも? 私も今、変な声が聞こえてきたよ」

 

 と言うので、なのはは「ええッ!?」と更に驚く。

 まさかのすずかまで謎の声が聞こえてきました発言。予想外の出来事に驚きを隠せない。

 映画だと二人に声は聞こえなかったはずなのに、なぜ?

 

「たしかー……」

 

 アリサは辺りを見渡し、森を指さす。

 

「森の奥の方から聞こえてきたわよ!」

「うん。行ってみよう!」

 

 とすずかは頷く。

 アリサは森の中に走り出そうと、

 

「――って、邪魔ぁ!」

 

 するのだが、自分の前に立っていた黒服にぶつかり、怒鳴り声を上げる。しかし、金髪のお嬢様はめげずに黒服を押しのけ、すずかと共に走って行く。

 

「……え? ええッ? ちょッ、ちょっと待って!? 二人とも!!」

 

 なぜか映画とは違い、親友二人が自分を残してユーノ助けに行くと言う展開に、なのはは驚く。

 新八たちも、なぜか分からないが変わってしまった展開に困惑しているようで、顔を見合わせた後に頷いて、少女たち三人の後に付いて行った。

 

「あッ、あれ!」

 

 アリサが指した先には、

 

 プシュ

 

「怪しい生き物を発見。危険がないか検査します。オーバー」

 

 胴の長い小動物を、トランシーバーを片手に、ドーナツのような丸い先端の金属探知機で検査している、神楽がいた。

 

「ってなにやってんのあんたはぁぁぁぁ!?」

 

 アリサは髪を逆立てる勢いでツッコム。言われ、振り返った神楽は低めの声で。

 

「いえ、野生の動物ですので、もしかしたら悪い病原菌を持っているかもしれません。万が一アリサお嬢様がそれに感染したら、こう、なんて言うか、ずど~ん、みたいなことになるかもしれませんので」

「病原菌で『ずど~ん』てなに!? って言うか、そんなもんで動物の何を調べられるって言うの!? そもそもなんで、先に行ったあたしたちより先に着いてのよ!?」

 

 ツッコミまくるアリサを尻目に、すずかが怪我を負っている小動物を抱き上げる。

 

「かわいそう。怪我しているみたい」

「これ、たしかフェレットって動物よね。テレビとかでしか見たことないけど……。それにやっぱり、誰か飼い主がいるのかしら? ペンダントしてるけど」

 

 近寄るアリサも、フェレットを心配しながら、首に掛けてある紐の付いた赤い宝石を手の平に載せて眺めている。一方、心配そうに小動物の体を撫でる、すずか。

 

「え、え~っと……」

 

 なのはは、なんか自分がするはずであったであろう役目を、いつの間にか親友二人が済ましちゃった状況に、なんともいえない気持ち。

 

 ――ま、まぁ……い、いいの、かな?

 

 苦笑しながら、なのはは頬をポリポリと掻く。

 色々疑問はあるが、兎にも角にも怪我したユーノを助けられたのだから、結果オーライと言う形で済ます。そして、親友二人と同様に、ユーノの状態を確かめに行く。

 

 なのはたち三人を、後ろで静観していた新八は、土方に顔を向ける。

 

「なんか、色々と変わってません? 土方さん」

「俺に聞くな。俺たちみたいな異端者(イレギュラー)がいりゃ、そりゃあ未来の一つや二つ変わったって、おかしくねェだろ」

 

 新八の質問に対して、土方はドライに返しながらタバコを吸う。

 

 現場を調査している警察の人間に見つからないように、沖田は木の陰に隠れて、湖にある壊れた遊泳施設やボート、さらに抉れた地面を眺めていた。

 

「こりゃ、随分派手に壊したもんだなァ」

 

 自分たちがこれから相手にしなければならない存在の力を予想してか、めんどくさそうにため息を吐く、沖田だった。

 

 

 時刻は夜。

 一人の少女が、ビルの屋上にたたずみ、町の景色を眺めていた。

 

「――第九十七管理外世界。現地名称は、地球」

 

 少女の右手が握るのは、先端が斧のような形をした杖。黒いマントが風になびく。

 

「ロストロギアはこの付近にある。一般呼称は、ジュエルシード」

 

 左右それぞれで束ねた金色の髪も、纏うマントのように風に揺らめく。

 

「母さんの探し物、見つけよう」

《Yes sir》

 

 彼女の手に持つ黒い斧、それに付属した金色の丸い装飾部分が点滅し、男性のような音声で言葉を返す。

 金髪の少女の後ろに控えていた二人。犬のような耳を生やしたオレンジ髪の女性に、銀髪の男が耳打ちする。

 

「なー、あいつこんなたけェとこで何してんの? なに? 低所恐怖症?」

「ここなら町が見渡せるからだろ」

 

 アルフは呆れた声で返すと、また銀時は耳打ちする。

 

「つうか、なんでマントヒラヒラさせながら、ぶつぶつ一人で話してんの? ちょっと痛いんだけど。なに? 中二病?」

「いや、フェイトのデバイスのバルディッシュに話しかけてんだよ」

「つうかさー――」

「いや、うるさいよあんた!!」

 

 しつこいので、さすがにキレるアルフ。

 

「ちょっと黙ってろ!! フェイトが折角カッコよく決めてるところなんだから!! ちょっと恥ずかしいかもしれないけど、そこは気にすんな!! フェイトの気持ちも考えろ!」

「………………」

 

 当のフェイトはと言うと、なんか二人の話を聞いていて、いたたまれなくなったのか、顔をトマトのように赤くさせ、頭から湯気を出し、涙目になりながらぷるぷる震えている。

 

「お前が一番フェイトちゃん傷つけてますけど!?」

 

 フェイトの姿を見た銀時はツッコミ入れ、アルフはなんとかフォローしようとする。

 

「フェイトォ!! カッコいい!! カッコいいよ!! こんなバカの言うことなんか気にしなくていいから!!」

「バカかおい!」

 

 と銀時が反論。

 

「ちょっとカッコつけようとしたけど、よくよく考えてみたら恥ずかしくなっちゃった奴の気持ちが分かるのかお前! 下手にフォローされて励まされると余計恥ずかしいんだぞ!! 後々めっちゃ後悔するんだぞアレ!! 黒歴史になるんだぞアレ! 俺も経験あったからよくわかる!!」

 

 などと二人が地雷踏みまくってる間に、フェイトは体育座りして顔を隠してしまっていた。そして、小さく呟く。

 

「…………頑張ろう……バルディッシュ……」

《Y、Yes Sir……》

 

 バルディッシュの困惑した声が、後ろで言い合っている二人の声にかき消されていった。

 

 

 なのはたちが拾ったフェレットは、動物病院で治療を受け、無事に一命を取り留めた。

 

 そして、包帯を体に巻いたフェレットは、台座の上で意識を失ったままだったのだが、動物病院の医院長がフェレットが首に巻いていた赤い宝石に手を触れようとすると、パッと目を覚ましたのだ。

 

「あッ、目を覚ました!」

 

 なのはは動物特有の敏感な反応に驚く。と言っても、本当は動物ではなのだが。

 するとフェレットは、アリサとすずかとなのはを交互に見ている。何故か、誰かに決められない、と言った様子だ。

 

 なのはたち三人の後ろで、様子を伺っていた新八は、隣にいる土方に耳打ちする。

 

「(……なんか、ユーノくん。三人の誰にしようか、迷ってる感じですよ)」

「(迷うって……なにに迷ってるんだよ、あのイタチモドキ)」

「(いや、誰に協力してもらおうかってことですよ!)」

 

 少し語気を強めて新八は言う。

 

「(元々、なのはちゃんに魔法の資質があるから、なのはちゃんに目を付けてたって、話だったはずですよ)」

「(あの二人にも、魔法の資質とやらがあるってことじゃねェのか? まァ、大して問題ねェだろ)」

「(いや、問題大有りですよ!)」

 

 無論、新八としては黙ってられない。

 

「(あの二人は元々、魔力なんて持ってなかったんですから!)」

 

 新八の言うとおり、アリサやすずかがもし魔力を持っているなら、自分たちに関係なく、作品の根底的な設定の一つが改変している事になる。

 

「なんか、ずっと私たちのこと、交互に見てるけど……どうしたのかしら?」

 

 アリサの疑問に、すずかが首を傾げる。

 

「う~ん……知らない人が目の前にいるから、ちょっと混乱してるのかな?」

 

 首を右へ左へと動かした後、パタリ、と頭を倒してまた気を失ってしまうフェレット。

 

「あッ……」

 

 なのはは気を失ってしまったフェレットに対して、心配そうに視線を向ける。

 すると、病院の医院長が近くまでやって来た。

 

「目が覚めたら、知らない人間が自分のことを囲んでいて、混乱しちゃったのかもね。怪我はそれほど酷くないけど、衰弱はしてるわね。とは言え、明日には回復すると思うから。それまで、預かっていようか?」

「「「ありがとうございます! 医院長先生!」」」

 

 フェレットのことを心配していた、なのは、アリサ、すずかは、医院長の好意を聞いて嬉しそうにお礼を言う。

 医院長はフェレットに顔を近づけ、顎に手を当てながら思案する。

 

「にしても、変わったフェレットね。私も見たことない種類だわ」

 

 ――そりゃあ、ねェ……。

 

 魔法世界の人間が変身したフェレットなんだから、地球で見たことない種類だとしてもおかしくない、と思った新八であった。

 

 

 ジュエルシードの思念体。

 自分を封印しようとした少年によりダメージを負って、彷徨っていた。

 

 ――もっと強く。自身を更に強くする為の存在が欲しい。人間、動物、木。この世界にはいくらでもある。

 

 ――だが、なによりも欲しいのは自分と同じ、ジュエルシード(モノ)。 

 

 ――もっと…………もっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっともっと……。

 

 所詮は思念体。

 かすかな意思や意識が存在したとしても、それそのものは単純。自身を強くすること――それのみ。

 

 ガサリ、と近くの草むらが揺らめく。

 

「ッ!?」

 

 思念体は何者かの存在を認識。そして、草を掻き分けやってくるのは、古ぼけた薄茶色のマントで体を覆った存在。

 

「ウヴォォォォォォォッ!!」

 

 奇声を上げる思念体。

 

 生物であろうとなんであろうと、魔力を持った対象であると認識。倒すにしろ、取り込むにしろ、思念体は対象に向かって飛びかかる。

 だが、対象はマントの(はし)を揺らしながら、ヒラリと突撃した自分の体を避けた。そして、相手は愉快そうに言葉を発する。

 

「おいお~い。随分やんちゃなヤツじゃねェか」

「グゥゥ……!」

 

 思念体は唸り声を上げて、次の攻撃の態勢に入った。すると、対象は右手を前にかざして、笑いを含めたような声で喋る。

 

「まー、待て――つっても、俺の言葉なんて通じねェか。だから、単刀直入に見せてやるよ」

 

 懐に手を入れた対象は、あるモノを取り出し、声を少しばかし低くする。

 

「――お前へのプレゼントだ」

 

 対象が指に挟んで見せたモノを見て、赤く光る目を鋭くさせる思念体。

 対象の三本の指には、二つのジュエルシードが挟まれていた。

 

「…………」

 

 思念体の赤い瞳は、ジュエルシードに釘付けになるのだった。




今回から『ジュエルシード回収編』スタートです。


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第十九話:主人公のカラーが白だとライバルはたいてい黒になる

今回からついにジュエルシードが本格的に物語に絡んできます。


 なのは、アリサ、すずかが、怪我をして拾ったフェレットを動物病院まで送り届けてから時間は経ち、時刻は夕方から深夜になっていた。

 

 動物病院の電気は既に消え、中に人はおらず、預かっている動物たちだけ。

 そして、台の上にある籠の中には体を丸めてフェレットが眠っている。

 

 そんな静まり返った動物病院の白い塀を乗り越える、赤い頭髪の左右にポンポンを付けた女の子。さらに、その背中にしがみ付いているのは、栗色の髪をツインテールに結わえた少女。

 

「よっと……!」

 

 と言って、軽快に塀を乗り越えたのは神楽。彼女は背中に背負ったなのはに顔を向ける。

 

「なのは、大丈夫アルか?」

「う、うん」

 

 なのはは少し言葉を詰まらせさせながらも、笑みを浮かべて答えた。その背にはリュックを背負っている。

 そして神楽に続くように、新八、土方、沖田、山崎が、次々と塀を乗り越えて動物病院の敷地内に侵入していく。

 

「土方さん。これ、僕ら完全に不法侵入ですよね?」

 

 汗を流し、頬を引き攣らせながら聞いてくる新八に対して、土方はタバコを吸いながらクールに返す。

 

「しょうがねェだろ。あのフェレットを狙って、ジュエルシードの化け物が来るんだ。ケースバイケースだ」

 

 続いて沖田も同意する。

 

「ぶっちゃけ、来ると分かってんだから、わざわざ家で待つ必要ねェしな。つうか、事が起こってから行くの、ぶっちゃけメンドーだし」

 

 なのはたちが病院(ここ)にいる理由は、沖田が言ったとおり。ユーノを襲いにやって来る、ジュエルシードの思念体を迎え撃つための準備と言うワケだ。

 まあ、襲われるのが分かっているのに、なのはに届くであろうユーノのSOSをワザワザ家で待ってから助けに行く道理はない。

 動物病院で待ち構えることが最善だと考えたのだ。それが例え、不法侵入と言う犯罪行為を犯そうとも。

 

「まー、警察の連中が来ても、土方さんを首謀者にしとけば大丈夫でさァ。顔的に」

 

 と言う沖田に、土方はメンチ切る。

 

「それは俺が犯罪者みてェな顔してるって言いてェのかテメェは!!」

「って言うか、近藤さんは今も牢屋なんですよ! 洒落になりませんから!!」

 

 青い顔で汗を流す新八は、今なお牢屋にいるであろう近藤を思い出す。

 

「ニャハハハ……」

 

 なのははそんな彼らの漫才的な会話に、苦笑いを浮かべる。とは言え、こんな時でもペースを崩さない彼らに、少なからず関心もしてもいるのだ。

 山崎は首を右へ左へと動かし、周りになにか居ないか確認する。

 

「とりあえず、後はいつジュエルシードが来るかですよね……」

「まァ、正確な時刻が分からないとは言え、そこまで時間がかかるワケでもないだろ」

 

 と言ってタバコを吸う土方は、時計を確認。短い針は丁度九時を指していた。ちなみに、ちゃんと時計の時刻はこの世界の時間と合わせてある。

 

 

「ふわぁ~…………」

 

 病院の白い外壁に腰掛けた神楽はあくびをし、眠そうに指で目をこしり、

 

「「………………」」

 

 座っている新八は眼鏡の汚れを拭き、土方は二箱目になるタバコを吸い始め、

 

「くぅ…………」

 

 アイマスクをしている沖田は、腕枕作りながら草むらで寝て、

 

「ふんッ! ふんッ! ふんッ! ふんッ! ふんッ! ふんッ!」

 

 山崎はバドミントンの練習にいそしんでいる。

 するとやがて、

 

「あ、神楽ちゃん。おにぎり食べる?」

 

 なのはがリュックのチャックを開け、中を探り始める。

 

「サンキューアルなのは。シャケあるアルか?」

「うん。あるよ」

 

 なのはは笑顔でリュックの中に入っている、自前のおにぎりを神楽に渡した。続いて、新八にもおにぎりを差し出す。

 

「新八さんもどうぞ」

「あッ、ありがとうなのはちゃん」

 

 新八は一回軽くお辞儀をして、なのはからおにぎりを受け取る。そして神楽と同じように、もっさもっさとおにぎりを食す。

 

「ふぅ…………」

 

 タバコの煙を吐く土方。彼の指に挟んだタバコの灰が、ポロリと落ちる。

 そして、土方の額に青筋が浮かび、タバコがくしゃりとへし折れ、

 

「こねェェェなァァ! おい!!」

 

 ついに我慢の限界が来た土方が、立ち上がりながら声を荒げる。

 

「一体いつになったらジュエルシードは来るんだ!? もう一時間も待ってるんだけど!」

 

 丁度、午後十時を指している腕時計を見ながら、土方は地団駄を踏む。

 彼ほどではないが、他の面々も待ち疲れたと言う感じだ。

 

「そうですよね。そろそろ来ると思ったんですけど、ユーノくんからの助けもないし」

 

 新八の言うとおり、ユーノの念話によるSOSもまったくなのはに届かない。

 

「……正直、今日は来ないんじゃないんですかィ?」

 

 そろそろ待つのに飽きたのか、沖田はアイマスクを外しながらつまらなそうに喋る。

 

「いやいや、ユーノくんが入院した夜にジュエルシードが来るはずなんですよ。それはないですって」

 

 と新八は手を横に振りながら言う。が、沖田は呆れたような口調で返す。

 

「どうだかな~。俺たちが関わって、歴史が変わっちまったんじゃねェのか~?」

「そ、それは……」

 

 沖田の言葉も一理あるため、新八は真っ向から反論できないようだ。

 すると突如、

 

「きゃッ!?」

「なのはちゃん!?」

 

 なのはが耳を押さえながら驚いた声を出したために、新八を含めて他の面々の視線がなのはに集まる。

 なのはの頭の中に、少年の声が響いてきた。

 

【聞こえますか!? 僕の声が聞こえますか!?】

 

 なのはは目を見開きながら呟く。

 

「これって……」

「えッ? も、もしかして……!」

 

 新八は少女の反応を見て、ユーノから念話によるSOSが来たと、すぐさま察知したようだ。

 他の面々が言葉を発さずに見守っている中、なのはは片目を瞑りながら、頭の中に響く声に意識を傾ける。

 

【聞いてください! 僕の声が聞こえる方、お願いです! 力を貸してください! お願い……】

 

 まるで神にでもすがるかのような謎の声――ユーノの言葉は途切れてしまう。

 

「なのはちゃん、やっぱり……」

 

 新八の言おうとしている事をすぐに察したなのはは、真剣な面持ちで首を縦に振る。

 

「……はい。ユーノくんからです」

「じゃあ、そろそろジュエルシードが来るアルな」

 

 寝ていた神楽は、少し背中をえびぞりに曲げて、そのままブリッジする時のように両手を地面に付け、地面を手で押す勢いを利用して、ピョンとジャンプしながら立ち上がる。

 

「いや、どうやら――」

 

 土方が口を開き、

 

「お客さんはとっくに来てるようだぜ?」

 

 続いて沖田が、後ろ斜め上へと顔を向けた。

 新八となのはは「えッ?」と声を漏らし、二人に顔を向ける。

 

 真選組の二人は、竹刀袋から刀を取り出し、既に抜刀させ、構えに入っていた。

 

 刀を鞘に入れた状態では警察に色々言われると、士郎にも教えられた為にわざわざ竹刀袋に入れていた刀を、なぜ取り出したのか。そして二人はなぜ、露骨に殺気を出しているのか。

 話は単純……、

 

「グウォォォォ……!」

 

 敵がやって来たからだ――。

 

 白い塀を――ドロドロの石油のような、黒い粘土のような、不気味な姿をした異形が唸り声を上げながら、ゆっくりと這い上がり、乗り越えていた。

 体全体から触手のようなモノをいくつも出し、赤い二つの瞳はギラっと不気味な輝きを放つ。

 

「で、出たァァァァァァァッ!!」

 

 思った以上に不気味な姿で登場したジュエルシードの思念体に対して、新八は叫び声を上げた。

 神楽は非難じみた視線を新八に向ける。

 

「ぱっつぁん。時間を考えろヨ。近所迷惑アル」

「いやいやいやいや! 普通はもっと焦るでしょ!! あんなモンスター見たら!!」

 

 いつでもマイペースな神楽に対して、新八は戸惑いの汗を流す。すると、神楽は右手を肩に置き、腕をぐるんぐるんと回しながら首をコキコキと鳴らした。

 

「まー、なのはと駄眼鏡はそこで見ているヨロシ。私があんなブヨブヨ粘土、サクッと片付けるてくるアル」

 

 ボキボキと拳を鳴らしながら、歩いて行く神楽を見て、なのはは声を上げる。

 

「危ないよ神楽ちゃん!」

 

 自分より少しばかし年が上の少女が、化け物相手に喧嘩を売っていく姿を見て、なのはは心配している。

 だが、神楽は跳躍し、ジュエルシードの思念体に向かって拳を振りかぶった。

 

「うォりゃァァァァァァァッ!!」

 

 神楽の拳が、思念体の眉間にあたるであろう箇所にヒット。

 

 神楽のパンチの強さを物語るように、粘土のような思念体の体が、拳の衝撃で激震。そのまま後ろに吹き飛ばされる――かと思いきや、相手は殴れた直後に体の一部が二つ、飛び散った。

 一番大きな思念体の塊は、神楽に殴られた勢いのまま吹っ飛び、後ろの壁に激突。

 

「ぶ、分裂した!?」

 

 一瞬の出来事とは言え、新八は思念体の体が三つに分裂した瞬間が見えたようだ。さすがに剣の修行を積んでいるだけあって、眼鏡であろうとちゃんとした動体視力は持っているようである。

 

 そして分裂した――本体の塊より少し小さめの塊二。一つは土方へ、もう一つは沖田に対峙。

 

「おいなにやってんでィ、チャイナ。敵増やしてんじゃねェよ」

 

 口をへの字に曲げて文句言う沖田に対し、塀の上に立っている神楽も口を尖らす。

 

「しょーがねェだろ! コイツ、スライムみたいに分裂したんだヨ! 私に文句言うなアル!」

「チッ……! 攻撃すると増えるのかこいつ等?」

 

 土方は刀を構えながら、自分を睨み付ける二つの赤い目に対して、負けじと眼光を鋭くする。

 いくら神楽が殴った本体よりも小ぶりと言っても、その大きさは土方よりも少しデカイために、中々の威圧感がある。

 

「おい、総悟。無闇に斬り付けるんじゃねェぞ? 下手したらもっと増える可能性が――」

 

 土方はおもむろに、後ろの沖田に忠告しようと振り返ると、

 

「おりゃァ!」

 

 言い終わる前に、沖田は軽はずみに思念体を真っ二つにぶった斬る。ちなみにだが、刀は山崎の借り物。

 

「おィィィィィ!?」

 

 土方は慌てて沖田の胸倉を掴み上げ、怒鳴り声上げる。

 

「お前俺の話聞いてた!? さっきの見てなかった!? 下手に攻撃して、余計に増えたらどうすんだよ!!」

 

 沖田は両手を前に出す。

 

「まーまー、土方さん。落ち着いてよく見てください」

「あん?」

 

 沖田が指差した方を、土方が怪訝な表情で見ると……。

 斬られた思念体は体の一部分をつなぎ合わせて、何事もなかったかのように体をくっ付けて、元通りにしていく。まるで、細胞の一つ一つが生きているかのような光景だ。

 

「どうやら、こいつ等は攻撃しても分裂するんじゃなくて、ただ単に元通りになるみたいでさァ。それよりも土方さん……」

「なんだ?」

 

 沖田が土方の背後に目を向ける。

 

「目の前の敵に目を離すのは危ないですぜ」

 

 沖田がそう言った直後、土方と対峙していた思念体の分身が飛び上がって、襲いかかってきた。

 振り返る土方は驚くどころか、刀を振りかぶって追撃の態勢を取る。さすがは真選組鬼の副長と言ったところか。

 だが、

 

「副長ォー!! あぶなァァァァァァいッ!!」

 

 即座に気付いた山崎が、手に持ったミントンで思念体の分身の背中を打つ。

 

 そして、思念体の分身を球にしたスマッシュが土方の体にヒット! 「ウボォッ!!」と土方は声を漏らし、そのまま後ろに吹っ飛ぶ!

 思念体の突撃と、山崎の渾身の一撃がプラスされたスマッシュは、まさに会心の一撃!

 

 土方は、思念体の分身が突撃してくる勢いに体を持っていかれながら、後ろの壁に激突。

 ズドォーン!! という衝撃と共に、砂煙が上がる。

 

 

「ッ!?」

 

 寝ていたユーノは突然の破壊音に、パッと目を覚ます。

 

 

 

「土方さ~ん。コイツどうします?」

 

 沖田は思念体の攻撃を軽やかにかわす。

 

「攻撃は大したことねェけど、斬っても斬っても復活しますぜ?」

 

 思念体の分身を何度も斬りつけてバラバラにする沖田。その声と顔は、飽きたという感情がありありとわかる。

 

「たしかに、これじゃジリ貧だな」

 

 そう言う土方の手の先には、胸倉を捕まれて顔面タコ殴りされた山崎が、泣きながら涙と鼻血を出していた。

 少し服をボロボロにさせた土方は、手に持った山崎をポイっとその辺に捨てて、バラバラになった体を再生させる思念体の分身を睨む。

 

「この魔人ブーもどき、ホントどうにかならないアルか?」

 

 と言う神楽は、一番大きな思念体を蹴って壁にぶつけて、サッカーボールのように遊ぶ。文字通り、常人と比べ物にならないくらい強い少女に、怪物は遊ばれていた。

 壁にぶつかってバウンドし、また蹴られ、壁にぶつけられる。その姿は、最早かわいそうと言う言葉すら浮かぶほど。

 

「シュゥートッ!!」

 

 まるでサッカーゴールにシュートするかの如く、神楽は一際強いキックで思念体を蹴りつけ、またしても壁を破壊した。

 そして、ゴールを決めたサッカー選手のように膝立ちになった神楽は、

 

「ウォォォォォォォッ!!」

 

 両腕でガッツポーズを決めながら、天に向かって吼える。

 そのまま、

 

「へいへいへいへいへい!」

 

 チャイナ娘は無言の沖田と、上、下、と両手を叩き合って連続ハイタッチを決める。

 

「こんな時に遊んでんじゃねェ!! つうかホントはお前ら仲いいだろ!!」

 

 ツッコム土方。

 そんな彼らの余裕綽々と言った姿を、唖然とした顔でなのはは見る。

 

「み、皆さん……。ほ、本当に強いんですね……」

 

 なのはにしてみれば、あんな化け物たちを圧倒する彼らの姿は、最早驚きを通り越して、圧巻の一言だろう。

 

「アハハハ……。あの人たちは、くぐってきた修羅場が違うからね」

 

 念の為、なのはの護衛に回っている新八は、頬を掻きながら苦笑する。

 

「グウォォォォォォォォォッ!!」

 

 壁まで蹴り飛ばされた思念体は、ガレキを吹き飛ばし、触手をうねらせながら、まるで怒りをあらわにするかのように唸り声を上げた。

 それを見た神楽は、呆れたように声を漏らす。

 

「ホント、しつこい奴ネ。ゴリラ並みのしつこさアル」

「なに言ってんでィ。近藤さんの粘着質はこんなモンじゃねェぞ」

 

 と沖田が言い、

 

「いや、威張ることじゃねェよ」

 

 土方はやんわりツッコム。

 余裕があると言えど、倒す手立てがなければ、本当にこのまま平行線だ。それに体力だって無限ではない。下手をすれば有利なこちらが不利にだってなりえる。

 

「チッ……」

 

 と土方はつい舌打ちし、愚痴に似た言葉を漏らす。

 

「そろそろ打開策を見つねェと、騒ぎを聞きつける連中も出てくるしなァ……あッ」

 

 ――あるじゃねェか、打開策が……。

 

 ある事を思い出した土方は、なのはに顔を向けた。

 

「……おい、なのは」

「な、なんですか!?」

 

 いきなり名前を呼ばれたなのはは驚きながら返事をすると、土方は思念体に指を向ける。

 

「確かこいつらは封印すればいいんだろ? なら、映画のお前がやったみたいに、お前がこいつら封印すればいいはずだ」

「えええええッ!?」

 

 いきなりの無茶振りに対して、驚きの声を上げるなのは。

 土方の言葉に対して、新八が待ったをかける。

 

「ちょッ!? 土方さん! 今のなのはちゃんには無理ですって!! レイジングハートをユーノくんから貰わないと、魔法一つ使えないんですから!!」

「おいおい。変身アイテムないとなんの役にも立たないとは、とんだ主人公様だな」

 

 と沖田。

 

「グサッ!」

 

 ショックを受けるなのはは、地面に両手両膝を付く。

 

「沖田さァん!! もうちょっと言葉選んでください!! なのはちゃんめっちゃ落ち込んでるじゃないですか!!」

 

 新八は心配そうになのはに目を配れば、

 

「とにかくだッ!!」

 

 と土方が大きな声を出し、話を戻す。

 

「誰でもイイから、〝れいなんたら〟をあのイタチもどきから借りて来い!! なのはが魔法使えるようになりゃあ、こんな連中にここまで手こずる必要ねェんだよ!!」

 

 その時だった、

 

「――気をつけてください! そいつらはジュエルシードの思念体! 物理攻撃でどうにかできる相手じゃありません!!」

 

 突如の声。全員は驚いて声の主に顔を向ける。

 土方たちが戦闘している位置から、少し離れた場所に立っていたのは、包帯を巻いたフェレット――ユーノ・スクライアだった。

 

「そいつらをどうにかするには封印するんです!! そのためにはこの――!」

 

 そこまでユーノが話しているところで、新八となのはが、まるで早送りしたみたいな素早い動きでユーノに近寄る。

 

「そのレイジングハートを早くなのはちゃんに!!」

 

 と必死の形相の新八が言う。

 

「えええッ!! なんでレイジングハートのことを!?」

 

 とユーノが驚いていると、新八同様に必死な形相のなのはが訴える。

 

「おねがいユーノくん! わたしにレイジングハートを貸して!」

「ええええええッ!? なんで僕の名前を知ってるの!?」

 

 さらに驚きをあらわにするユーノ。

 すると沖田が、

 

「おい淫獣。とっととそのガキに、テメェが首に下げてる赤い宝石渡しやがれ。それで万事解決でィ」

「ええええええええええええええッ!? 淫獣!? 僕が!? なんでェ!?」

 

 あげく、不名誉なあだ名にユーノ仰天。

 

「と、とにかく!」

 

 なのはは両手を振って訴える。

 

「今は時間がないの! わたしたちに力を貸して!」

「わ、分かりました! なら、この宝石を持って!」

 

 ユーノはなのはにレイジングハートを渡し、「うん!」と力強く頷くなのは。

 どうやらユーノは、なのはの勢いやらその場雰囲気やらに、押され、流され、考えるべきことを色々吹っ飛ばして、今やらねばならない事に目を向けたのだろう。

 

「目を閉じて、心を済ませて……」

 

 ユーノに言われ、なのはは赤い宝石を両手で祈るように持ち、目を閉じた。すると、赤い宝石から鼓動のようなモノをなのはは感じ始める。

 

「――管理権限。新規使用者設定機能、フルオープン」

 

 ユーノがそう言うと、なのはとユーノ足元に桃色の魔方陣が展開される。

 

「これは……」

 

 新八はそれを見て目を見開く。

 

「繰り返して。我、使命を受けし者なり――」

 

 言われたとおり、ユーノの言葉をなのはは繰り返す。

 

「わ、我、使命を受けし者なり――」

「契約のもと、その力を解き放て――」

 

 ユーノは目を瞑って言葉を紡ぎ、なのはは少し戸惑いながらも、ユーノ言ったとおりの詠唱を繰り返していく。

 

「け、契約のもと、その力を解き放て――」

「風は空に、星は天に――」

 

 だがその時、なのはの頭に、映画のセリフが頭を過ぎった。

 

「風は空に、星は天に――そして、不屈の(こころ)はこの胸に!!」

「えッ!?」

 

 急に、なのはが自分より先にセリフを言い始めた事に対して、ユーノは思わず声を漏らしている。

 

「この手に魔法を! レイジングハート、セットアップ!」

 

 なのはは赤い宝石――レイジングハートを天に掲げる。

 すると、レイジングハートから女性の声で電信音が流れた。

 

《Stand by Ready, set up》

 

 そして、桃色の光がなのはを覆う。その光は天にも昇り、光の柱は雲さへも突き破った。

 

 新八が目を瞑って「うわッ!?」と驚けば、神楽も「すごい光ネ!!」と目を瞑る。

 土方と沖田も腕で光を防ぐ。山崎は顔を晴らして気絶中。

 

 

 

 光の柱の中、なのはは赤い宝石と対峙していた。

 赤い宝石――レイジングハートが光る。

 

《はじめまして、新たな使用者さん》

「……えッ?」

 

 なのはは少し戸惑いながら、お辞儀する。

 

「あ、はじめまして……」

 

 なのはとしては、あらかじめ予習のようなモノはしてきたつもりだが、やはり実際に体験するとなると、かなり緊張するようだ。

 

《あなたの魔法資質を確認しました。デバイス・防護服ともに、最適な形状を自動選択しますが、よろしい――いや、あなたのイメージする形状が存在しますので、それでよろしいですか?》

「は、はい! それでお願いします!」

 

 レイジングハートの質問に対して、勢いに任せて返事をするなのは。

 

《All right》

 

 と、レイジングハートが答えた。

 言葉を受け取ったレイジングハートは、なのはの服を分解し、魔導師の防護服へと換装し始める。

 

 出現する防護服は、なのはの通う小学校の制服に近い。

 白い制服のところどころに、鎧のような装飾がいくつもほどこされた、戦う為の戦闘服。

 杖の先端には、三日月のような金色の金属が、赤い宝石を囲むようにデザインされている。

 

 そして、見事に魔導師として変身したなのは。少女は魔方陣を展開し、目を瞑って空中に佇んでいた。

 なのはが目をゆっくりと開ければ、自分に襲い掛かる〝三体〟のジュエルシードの思念体が――。

 

「へッ?」

 

 と、なのはは間の抜けた声を漏らす中、

 

「グウォォォォォォッ!!」

 

 思念体が雄叫びを上げながら、襲い掛かって来たのだ。

 

「ふェェェェェェッ!?」

 

 なのはは思わず仰天して、声を上げる。

 いくらなんでも、いきなりの奇襲に対応できるはずもなく、思念体の突進を避けるなんてことは当然できない。

 だが、レイジングハートが光り、音声を発する。

 

《Protection》

「きゃァーッ!!」

 

 なのははそのまま思念体の体当たりをモロに食らってしまうが、間一髪、レイジングハートが防御魔法を展開。

 いくら防御してダメージがなくとも、体当たりの衝撃を殺せず、勢いのままに地面に激突してしまうなのは。

 

 

 

「なのはちゃん!?」

 

 少し遠くの方では、新八がいきなりピンチに陥ったなのはを心配して声を上げ、神楽が怒鳴る。

 

「なにやってるアルか新八!! お前が幼女の着替えシーンを見て興奮してるから、なのはがやられてしまったネ!!」

「興奮してねェよ!! しかも光ばっかで何も見えなかったわ!!」

 

 いきなり酷い当て付けをされて怒鳴り返す新八。

 神楽は、沖田と土方にもキツイ視線を向けた。

 

「お前らもなにしてるアルか! ちゃんとあのブヨブヨ抑えておかなきゃダメだろうが!」

「うるせェチャイナ」

 

 と沖田は口を尖らせ、反論。

 

「お前も同じだろうが。偉そうなこと言うんじゃねェ」

「あいつら、俺たちが光で怯んだ隙に、真っ先になのはを狙いやがった」

 

 土方は、意外と抜け目のない思念体たちに視線を尖らせ、後ろの仲間たちに目を向ける。

 

「おい、お前ら。喧嘩してんな。すぐになのはのところに行くぞ」

 

 また喧嘩しそうな雰囲気を出している二人に、土方は注意を促しながら、なのはが吹き飛ばされた方まで走って行く。その後を他の面々も追いかける。山崎を残して。

 

 

 

「び、ビックリした~……」

 

 一方のなのはは、攻撃を受けたと言っても、吹っ飛ばされただけで特に怪我はない。代わりに、地面は陥没してエライことなっているが。

 デバイスが少々心配そうな声を出す。

 

《お怪我はありませんか? マスター》

「うん。大丈夫だよ、レイジングハート。それに、わたしを守ってくれたんだよね? ありがとう」

 

 立ち上がったなのはは、自分を守ってくれた杖に笑顔でお礼を言う。

 

《あなたに怪我がないのは、あなた自身の魔力のお陰です》

「でも、レイジングハートがいなきゃ、さっきの攻撃は防げなかったんだし、お相子だよ」

 

 クスリと笑って言うなのはに、レイジングハートが、

 

《迎撃の準備をしてください。次の攻撃が来ます》

 

 と進言すれば、電線の上から「グゥゥゥ……」という唸り声。

 なのはが視線を上に向ければ、赤く光る思念体の瞳が、下にいる自分を見据えていた。それを見たなのはは、すぐに真剣な表情を作る。

 

《利き手を前に出してください》

 

 とレイジングハートが言う。

 

「こう?」

 

 なのはは言われたとおり、少し戸惑いながら思念体に向けて利き手である左手をかざす。

 一番大きな思念体が、なのはに向かって降下しながら攻撃してきた。

 

《Shoot bullet》

 

 そうレイジンハートが音声を発すれば、なのはの左の掌に桃色の光が集まり、一つの弾となる。

 

「グウォォォォォォォッ!!」

 

 そうしている間、なおも迫ってくる思念体。そして、レイジンハートが告げる。

 

《撃って》

「はい!」

 

 言われたとおり、なのはは左手にあった光弾を、思念体に目がけて発射した。思念体は、なのはの魔力弾をモロに受けて爆発し、吹き飛ばされる。

 だが、すかさず残った思念体の分身二体が、空中から降下して突撃。

 

「ッ!!」

 

 すぐに二体の攻撃をなのはが防ごうとした時、

 

「あたしの友達になにすんのよぉー!!」

 

 赤い衣装を纏った一人の少女が、熱した鉄のように赤く光る剣で、思念体の一体を斬りつけた。

 

「なのはちゃんをイジメないでー!!」

 

 続けて、青い衣装を纏った少女が、コウモリのような矛先の槍で、もう一体の思念体を一刀両断。

 

「……えッ?」

 

 自分を助けた少女二人の姿を見て、唖然とするなのは。目をぱちくりさせながら、現れた二人を「えッ? えッ? えッ? えッ? えッ?」と何度も交互に見る。

 それもそのはず、なにせ現れた二人が――、

 

「はぁ~……もうなんなのよ、こいつら……。なのはを助けるためとはいえ、結局魔法少女ってのになっちゃったじゃない」

 

 ポリポリ頭を掻かくのは親友の一人――アリサ・バニングス。

 

《いやいや~、似合ってますってアリサさん》

 

 そしてアリサが右手に持つのは、熱を発するように紅蓮に光る剣。それから女性の声が聞こえてくる。

 

 今、アリサが纏っている服装は、普段着でもなければ、学校指定の制服でもない。

 ピンクの上着に、脇までの長さがある赤いコートと赤いスカート。動きやすそうなスパッツを履き、手に赤い手甲を装着していた。腰には、かわいらしく尾の長い黄色いリボンが巻いてある。

 

「う~……さすがに緊張したよぉ……」

 

 手に持った槍を杖代わりにして、へなへな膝を付く少女は親友の一人――月村すずか。

 

《お疲れ様です。すずか様》

 

 すずかが手に持つ、矛先がコウモリのように三又に分かれた槍からも、女性の声が聞こえてきた。

 

 すずかの服装もアリサ同様に変わっており、裾にフリルのついた白い上着を紫の腹当てで締め、膝まである青いコートを着用。フリルついたピンクのスカートと、黒いストッキングを履いている。

 長い彼女の髪は一纏めにされ、髪形はポニーテイルに変わっていた。

 

 そんな、変わりに変わった二人の姿を見たなのはは、

 

「ええええええええええええええええッ!?」

 

 反射的にとんでもなくデカイ声を出す。

 そりゃそうだ。バリアジャケットを着た親友二人が、魔法を使って自分を助けるなんて、夢にも思わなかった場面。驚くなと言う方が無理な話である。

 

 頬をポリポリ掻きながら、目を逸らすアリサ。

 

「ま、まぁ……そう言う反応するわよね……」

「アハハハ……」

 

 力なく笑うすずか。

 

「ど、どう言うことなの二人とも!? な、なんでアリサちゃんとすずかちゃんが魔法を!? それに、その格好って……!?」

 

 まったく冷静になれないなのはは、片っ端から出てきた疑問を口にする。

 

「彼女たちは一体……」

 

 そして、近くで様子を伺っていたユーノもまた、困惑の表情を浮かべていた。

 

「ま、まぁ……いろいろ説明する事は多いけど、とりあえずちゃんと説明するから」

 

 アリサは微妙な表情になりながら説明に入る。

 

「う、うん……」

 

 なのはは真剣な面持ちで唾を飲み込む。

 アリサは息を少し吸い込み、真剣な表情で。

 

「――あたしたちは、魔法少女を始めたの」

 

 と言われて、なのはは「……えッ?」と言う声しか出ない。

 

「……い、いやいやいや! 説明になってないよ!?」

 

 右手を高速で振りながら素っ頓狂な声を上げるなのはに、アリサは腰に手を当てて声を上げる。

 

「もう! 分かってるわよ! ちゃんと説明して――!」

「グウォォォォォォォッ!!」

 

 だが、説明する時間など敵は与えてはくれなかった。

 なのはに吹き飛ばされた思念体が、雄叫びを上げてすぐに彼女たちの元に向かってきたのだから。

 

《今はアレを封印することを優先してください。話すのはその後です》

 

 レイジングハートの言葉に戸惑いながらも、頷くなのは。

 

「う、うん」

 

 確かに、あのような化け物がいては満足に話もできない。色々と知りたいことは山積みだが、今の優先事項は思念体。

 アリサとすずかも、なのは同様に自身の武器を構える。

 

「しょうがないわね」

「もう少し頑張らないとだね」

 

 すると突然……、

 

「フォトンランサー……」

 

 かすかに耳に聞こえてきた少女の声――同時に、思念体の頭上に金色の槍がいくつも降り注いだ。

 

「グウォォォォォォッ!?」

 

 いきなりの攻撃に、さすがの思念体も堪らず悲鳴を上げて、動きを止めてしまう。

 

「な、なに!?」

 

 となのはは驚く。

 

 突然の襲撃。なのはだけでなく、アリサやすずか、そしてやっとやって来た新八たちも、新たな来訪者に目を向ける。

 電灯の天辺に、スラリとした両足を乗せ、黒いマントなびかせる少女。

 

「あ、あれは!?」

 

 新八は驚愕の表情を浮かべる。

 

 長い金髪の髪を夜風になびかせる少女。その姿に、その場にいた全員に差はあれど、誰もが驚きの顔を隠しきれないでいた。

 

 そう、現れたのは、これからなのはとジュエルシードを巡って争う一人の少女――フェイト・テスタロッサ。

 彼女の赤い瞳は、夜の光を照らすように赤く光っていた。



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第二十話:予想外の展開

遅くなりましたが、機会があったので月曜日の朝に投稿しました。


「――確認できるジュエルシードは、三つ……。障害となる魔導師を数人確認。なので、ジュエルシード封印を優先」

 

 なにかぶつぶつと独り言を喋るのは、突如現れた黒衣を纏った金髪の少女。彼女の眼光が一際強くなる。

 

《Scythe Form》

 

 少女の手に持った黒い斧から男性の声が流れれば、まるで黒鳥が翼を広げるかのように、斧の切っ先が変形。変形した斧は、金色に光る刃を出し、死神のような鎌へと、姿を変えた。

 

 少女は、シュタッと電柱の上から地面へと着地。

 

 電気を帯電させた金色の槍を受けて動けなくなった、ジュエルシードの思念体へと、金髪の少女は近いづいて行く。

 すると思念体が、彼女に向かって触手を伸ばして攻撃しようとするが、彼女は手に持った鎌を二度三度振って、触手を簡単に切り落としてしまう。

 一瞬、少女は息を吸ったと同時に、一度のダッシュで一気に思念体の元まで肉薄し、デバイスを変形させる。

 

《Sealing Form》

 

 金髪の少女のデバイスから男性の音声が流れれば、彼女のデバイスは先端の部分をさらに広げ、槍のような形へと変形させた。

 そして、黒衣の少女は勢いのまま槍の切っ先を思念体へと、突き刺す。

 

「――ジュエルシード、封印」

 

 少女が言葉を発すると同時に、思念体は金色の光に包まれ、

 

「グウォォォォォォォッ!!」

 

 叫び声を上げながら消滅する。

 そしてその場に残ったのは、青い宝石だけ。その宝石は、そのまま彼女のデバイスへと吸収されていく。

 

「ジェルシード№20。回収」

 

 と金髪の少女は呟く。

 

「………………」

 

 なのはは、一連の活躍を呆然と見ている他なかった。

 いきなり現れ、見事な手際でジュエルシードを回収した金髪の少女――フェイト・テスタロッサ。

 だが、すぐに我に返ったなのはは、フェイトに話しかけようと声を出す。

 

「あ、あの……」

「………………」

 

 カチャリ、とフェイトは無言で手に持つデバイスの切っ先をなのはに向け、自身の周りの空間に、いくつもの帯電する光の玉を出現させる。

 

「うッ……」

 

 敵対心むき出しのフェイトの眼光に、なのはは一瞬怯んでしまう。

 フェイトは赤い瞳をきらめかせ、口を開く。

 

「あなたには悪いけど、残りのジュエルシードもわたしが回収させてもらう」

「そ、そうじゃなくて! あの――!」

 

 予想外過ぎる登場だったとはいえ、現れたフェイトに対して、なのはは敵対する意思はないことをなんとか伝えようと口を開く。

 だがその時、

 

「ちょっとちょっとちょっとォォ!!」

 

 突如として、オリンピック選手のようなスタイルでダッシュしてやって来るのは、新八。彼がなのはの横を通り過ぎれば、彼女の栗色のツインテールが眼鏡の起こした風で揺らめく。

 

「あ……え……?」

 

 出鼻を挫かれたなのはは、何を言おうとしたのか一瞬わからなくなってしまい、ただ声を漏らすだけ。

 一方の新八は、必死な形相で捲し立てる。

 

「早い! 早過ぎる! いくらなんでも早過ぎる!!」

「……へ? え? な……なにが?」

 

 凄い勢いで近いづいてきた眼鏡の男に、フェイトはつい魔力弾を放とうとしていた。だが、それよりも男の剣幕によって攻撃する暇すらなく、ただ困惑した表情を作るのみ。

 一体新八がなにに不満を立てているのか分からないようで、なのは同様に目を丸くしている。

 

「君の登場はもっと先のはずでしょ!? なのになんでこんな序盤で出てきちゃうかなァ!!」

 

 と怒る眼鏡。

 

「えッ!? ……あ、はい……。ごめんなさい……」

 

 不満そうに眉を潜める新八の言葉に、つい反射的に頭を下げて謝るフェイト。

 すると、眼鏡に便乗するように今度は神楽が現れ、

 

「まったくアル。ちゃんと台本通りに動いて欲しいアル。無駄なアドリブなんていらないんだヨ。これだからちょォっと人気ある奴は調子に乗って困るネ」

「す、すみません……」

 

 まるで映画監督のような感じで、落胆の声で苦言を漏らす神楽の言葉に、フェイトはシュンとしてしまう。

 すると次に沖田がやって来て、

 

「とりあえず、まずはごうも……調教して、母親の場所を聞き出そうじゃねェか」

 

 ブラックなオーラ全開にし、据わった目で、不穏な感情を抱く青年を見たフェイトは「ヒッ!?」と顔を青ざめさせた。

 怯えるフェイトを見て、新八が沖田に顔を向ける。

 

「沖田さん!? それ全然言い直せてませんから!! まったくマイルドになってませんから!! つうかあんたホントに警察ですか!?」

 

 そんなこんなで、フェイトの周りを彼女よりも歳も背も高い連中が取り囲んでいる状況。

 フェイトはフェイトでそんなアウェーな状況に不安を隠し切れず、自身が持っている杖をギュッと抱きしめている。

 

「新八さん! 神楽ちゃん! 沖田さん! フェイトちゃんなんか怖がっちゃってるよ!」

 

 不安そうに新八たちを見上げるフェイトが、なのはには不憫に思えて仕方なかった。

 

「なにやってんだか……」

 

 アリサは、見知らぬ少女を取り囲んでわけのわからないことを口走っている、最近知り合った年上の知り合いたちに、呆れ気味の視線を向けていた。

 すると、アリサとすずかの後ろに、いつの間にか佇んでタバコを吸っていた土方が、

 

「それはそうと、お前らのその格好はなんだ? 仮装パティーの衣装ってワケじゃねェだろ?」

「えッ? え、えっとぉ……」「こ、これはそのぉ……」

 

 視線を逸らし、口ごもるアリサとすずか。

 

 魔法を使うための防護服に、訝しげな視線を向け続ける土方。

 どうやら、なのはを助けることに必死で、自分たちの姿のことについては考えていなかったようである。今更になって悩んでいるのがその証拠だ。

 

「ハァ……」

 

 土方はため息を吐き、告げる。

 

「とりあえず、お前らの事情を聞くのは後でいい。今はもっと、気になる事があることだしな」

「ま、まぁ……見せちゃったもんはしょうがないんだし、後でちゃんと話すわよ」

 

 アリサは観念と開き直りが入り混じったような声で言う。

 

 その時、アリサとすずかにやられた二体のジュエルシードの思念体は、隙を付くように空に飛び上がった。

 その場のほとんどの人間が、封印していなかったジュエルシードの存在をすっかり失念していたので、声を上げたユーノの「逃げた!」と言う言葉で、全員の視線が逃走している思念体に向かう。

 

「ッ!? チィ! あいつらまだあんな動けんのか!」

 

 土方は、あれだけダメージを与えても平然と撤退していく思念体たちを見て、舌打ちする。

 家屋を次から次へとジャンプしていく思念体たち。すると、レイジングハートが赤い宝石を点滅させながら言葉を発する。

 

《どこか遠くを見渡せる高い場所まで飛んでください》

「え? は、はい!」

 

 レイジングハートに言われ、反射的に答えたなのはは、近くにあったビルの屋上に向かう為に飛び上がった。

 

「なのはちゃん!?」

 

 新八はなのはの突然の行動に驚き、

 

「くッ……しまった!」

 

 なのはの行動を見たフェイトも、新八たちを押しのけて飛び上がり、逃げて行く思念体たちを目で捉える。

 屋上までやって来たなのはは、困惑した表情でレイジングハートに尋ねた。

 

「どうすればいいの?」

《胸の奥にある熱い固まりを両腕に集めて。そして私を構え、あなたの思い描く『強い一撃』をイメージしてください》

「そっか! アレをやるんだね!」

 

 レイジングハートの言葉を聞いて、なのはは映画で見た、あの強力な一撃を放つ砲撃を思い出す。

 そして言われたとおり、魔力を両腕に集中させるとともに、レイジンハートの切っ先を逃げる思念体たちに向かって構える。

 

《Cannon Mode!》

 

 レイジンハートの音声に合わせ、デバイスの姿は大きく変化しだす。

 

 金色の金属の先端部分の形状は、三日月型から音叉のような凹形へと変形。上あごの部分が長くなっていた。

 真紅に光る宝石は、(じしん)を強力な一撃を放てる形状へと変化させたのである。

 そして、杖の持ち手の先には、銃のようなトリガーが現れ、そこになのはが指をかけると、ピンクに光る三つの羽がレイジングハートの先端部から出現し、展開。

 

 それを見たフェイトは、

 

「あれは、まさか……封印砲。しかも、あの距離から……」

 

 レイジングハートを構えるなのはの姿を見て、目を見開く。

 

「あの子、砲撃型なのか!」

 

 とユーノも驚く。

 

《ロックオンの瞬間にトリガーを》

 

 レイジングハートの指示を受けて、なのはは「うん!」と頷いた。

 そして、徐々に逃げる二体の黒い魔物にレイジンハートが照準を合わせていき、ついに二体を捉えた。そのロックオンの表示は、なのはの目にも表示されている。

 

「ッ――」

 

 なのはがトリガーを引いた直後、凄まじい威力を持った桃色の光弾が二つ、放たれた――。

 

「きゃッ!?」

 

 あまりの威力にバランスを崩して後ろに倒れるなのはだが、撃たれた魔力弾はしっかり標的を追尾し、一直線に飛んでいく。

 そしてあっという間に、逃げる思念体たちを粉砕し、消滅させ、そのまま青い宝石の姿へと戻してしまう――。

 

「すさまじい威力だ……」

 

 いち早く思念体たちを追っていたフェイトは、すぐにジュエルシードのところまで降り立ったが、すぐには回収せず、腰を擦っているなのはに視線を向けていた。

 

 もし、あの砲撃が自分に向けられていたら? と想像したのか、斧を持つ彼女の手に力が入っている。

 だが、すぐに目的を思い出したのか、フェイトは手に持った黒い斧の先端部にはめ込まれた黄色い宝石の部分に、ジュエルシードを吸収させていく。

 

「ちょっとあんた! なにしてんよ!」

 

 後ろからの声に対して、苦い顔をするフェイト。今しがた文句を言ったのは、飛んでやって来たアリサ。彼女に付いて行くように、すずかも後ろに控えている。

 

 アリサは腰に手を当てて怒り気味の表情。

 

「なんでいきなりしゃしゃり出てきたあんたが、それ持っていこうとしてんのよ! なのはがやっつけたあいつらから出てきたのに! 盗人猛々しいわよ!」

 

 自身の友の成果を横取りされた気分になったのであろうアリサは、勝手にジュエルシード回収しているフェイトに腹を立ているようだ。

 やがて、強力の砲撃を放った本人である、なのはもやって来た。

 

 さきほどの強力な一撃を放った少女に対するフェイトの視線が、鋭いものへと変わる。

 なのははなんとか会話をする為に声を出すが、

 

「あ、あの……」

「悪いけど、わたしにはジュエルシードが必要。だから、あなたたちには一つも渡せない」

 

 対して、フェイトは聞く耳を持たず、すぐさま空を飛ぶ。

 

「待って!」

 

 なのははなんとか話をしようと呼び止めるが、彼女の言葉を無視してフェイトは飛び去ってしまった。

 

「こらー! 戻ってきなさーい!」

 

 アリサは大きな声で呼び止めるが、その声はたぶんフェイトの耳には届いていないだろう。

 

「行っちゃったね……」

 

 すずかの言葉に続いて、アリサは不満そうに腕を組んで頬を膨らませる。

 

「なによ! 随分勝手な奴よね! なんの説明もなしに欲しいものだけ取って逃げるなんて!」

(フェイトちゃん……。今度はちゃんと、お話しないと)

 

 なんとか、これから起こる戦いや悲劇を避けるためにも、ちゃんと話しをしたいとあらためて決意をするなのは。

 

「にしても――」

 

 腕を組むアリサはチラリと、なのはに視線を向ける。

 

「あんたがさっき撃った、あのビームみたいなヤツ……アレ凄かったわね。まさか、あたしの友達があんな芸当をできるようになるとは、思わなかったわ」

「ニャハハハ……」

 

 気恥ずかしくて、苦い笑いを浮かべながら頭を掻くなのは。だが、彼女はすぐにあることを思い出して、慌てて声を出す。

 

「って! そ、それよりも! ふ、二人もどうしてそんな格好してるの!? それになんで魔法が使えるの!?」

「それはこっちのセリフよ! あんたこそその格好なんなの!? あたしたちに説明しなさい!」

 

 なのはに対抗するように、アリサは眉間に皺を寄せながら詰め寄る。

 そしたら、すずかが愛想笑いを浮かべながら二人を制す。

 

「まぁまぁ二人とも、落ち着いて」

 

 すると今度は、下から新八の大声が。

 

「なのはちゃァーん!! 大変だよォー!! なんかユーノくんが倒れちゃったんだァー!!」

「えッ!? ほ、ほんとうですか!?」

 

 なのはは、下からありったけの声を出す新八の言葉を聞いて驚く。

 新八は慌てた様子で、

 

「しかも、なんか遠くの方からサイレンの音が聞こえるから、早くここから離れないとォー!!」

 

 話しを聞いていたアリサも慌てだす。

 

「ちょッ!? マズイわよ! この辺めちゃくちゃ壊れてるし、下手したらあたしたちが犯人にされちゃうわ!!」

 

 アリサの言うとおり、この辺一体――主に動物病院の敷地内が、物凄い被害に遭っている。

 いたるところの壁は粉砕し、地面は抉れ、ところどころに破壊の爪痕がいくつも残っていた。まあ、大半の物をぶっ壊したのは、江戸からやって来た野蛮人たちではあるが。

 

 アリサは親友二人に顔を向ける。

 

「と、とにかく逃げるわよ! なのは! すずか!」

「で、でも……いいのかなぁ……?」

 

 すぐに逃げず、なのはは迷う。

 

「色々壊しちゃった原因はわたしたちにもあるけど……」

 

 尾を引く思いで罪の意識を感じて迷っているなのはに、金髪の親友はフォローを入れる。

 

「いいのよ! 町を怪物から救った為に生じた仕方のない犠牲と思うのよ!!」

「そ、そうだよ!」

 

 うんうん! とすずかは頷き、説得する。

 

「むしろなのはちゃんは町の人たちを守ったんだから! これくらいは仕方ないよ!」

 

 そして、なのはの手を引くアリサ。

 

「とにかく、今は逃げるの!」

「あッ……」

 

 と、声を漏らすなのはの手を引っ張って、アリサはそのまま飛行魔法で飛んで行き、慌ただしく逃げて行く新八たちの後を追いかける。

 その後をすずかも付いて行った。

 

 

 

 そして、地上を走る新八たちはというと……。

 警察が到着する前に、必死に走って現場から距離を取っていた。

 

「逃げるアル定春! ポリ公に捕まるのはゴリラだけで充分ネ!」

 

 定春に乗る神楽。

 

「ワンワン!」

「――って、神楽ちゃん!?」

 

 新八が定春を見てギョッとする。

 

「なんかナチュラルに定春に乗って逃げてるけど、今まで定春どこ居たの!? さっきまで会話どころか地の文にも一切名前が出てこなかったよね!?」

 

 新八は横で並走する定春に驚きつつ、メタいツッコミ。本当に唐突に出てきた万事屋のペットを、新八は錯覚か何かかと思ってしまった。

 

「こんなこともあろうかと、逃走用として近くに定春を待機させたアル!」

 

 神楽は得意げに胸を張る。

 

「おうチャイナ。俺も乗せろィ。てめェだけズリィんだよ」

 

 いつの間にか沖田は、定春の背中に掴まっていた。

 

「っていうかもう勝手に乗ってんだろうがお前は!!」

 

 神楽は驚きながら、沖田を蹴り落そうとする。

 

「離すネサディスト! お前の席はねェ!」

「サディストはおめェでィ」

 

 沖田は定春の体に掴まりながら、神楽の蹴りを器用に避け続ける。

 定春の上でバランス保ちながら取っ組み合い始める二人を見ていた土方は、

 

「……あれ? なんか忘れているような……」

 

 走っている途中で、なんか記憶からすっぽり抜け落ちているような感覚を感じて、上を向く。

 

「……………」

 

 土方にタコ殴りにされ、顔を腫れされたまま気絶している山崎は、まだ動物病院の敷地内。たぶん、このままいけば警察のご厄介コース。

 

「……まー、いいだろ。どうせ忘れてんだし、大したことでもねェか」

 

 そう言って、土方は走るのに意識を戻すのだった。

 

 

「ユーノくんが張ってくれた結界のお陰で、君が気絶するまでの間、周辺の人間が誰も現れなかったんだね」

 

 新八の言葉に頷くフェレット。

 

「ええ、そう言うことですね」

 

 気絶してやっと目が覚めたユーノ。

 彼は夜の公園で、自己紹介を含めて、戦いの時に使用していた魔法のことを説明してくれた。

 

 ユーノの説明を聞いた新八は、たしかに夜空が異様な景色へと変化していた事を思い出す。決して、描写するのを忘れたワケではない。

 

「ただ、その人避けの結界とやらが間に合わなくて、警察の連中に通報されていたようだがな」

 

 土方の言うように、たぶん、破壊音を聞いた周辺の住民が警察へ連絡を入れた後に、ユーノの結界が張られたのであろう。

 ユーノは説明をする。

 

「一応、ジュエルシードの思念体と戦っていたあなたたちは、結界の影響を受けないように調整しました。あそこで、あなたたちを消してしまうのはマズイと思いましたし」

「き、気が利くね……」

 

 会って早々、陰ながら素晴らしいサポートを連発するユーノに、新八は内心で関心するばかり。

 

「あらためて、自己紹介をさせてもらいます。僕はユーノ・スクライア。部族名がスクライアなので、ユーノが名前です」

 

 ユーノは器用に体を折り曲げて、お辞儀のような仕草をする。

 ユーノに合わせて、他の面々も自己紹介を始めた。

 

「高町なのはです。気軽になのはって呼んでください」

「なのはの友達のアリサ・バニングスよ。あたしもアリサでいいわ」

「同じく、なのはちゃんの友達の月村すずかです。私もすずかで構いません」

「志村新八です。よろしく」

「土方十四郎だ」

「神楽アルよォ~。気軽に女王様と呼ぶヨロシ」

「沖田総悟。気軽にご主人様と言うのを許可してやる」

 

 良識ある仲良し三人娘と新八は丁寧にお辞儀をし、クールに土方は言い、そして残り二名は色々問題ある自己紹介。が、とりあえずツッコミはなしにしておく新八。

 

 各々の自己紹介が終われば、ユーノは自身の説明を始める。

 

「信じてくれないかもしれませんが、僕は皆さんが住んでいる世界とは、別の世界から来たんです」

「そ、そーなんだー(棒読み)」

 

 棒読み新八に続き、

 

「そ、それで、な、なんでこの世界に来たのー?(棒読み)」

 

 さらにモロ棒読みのなのは。

 すんごいぎこちない二人をユーノは不思議そうに見るが、構わず説明を続ける。

 

「僕の部族であるスクライアの一族は、遺跡の調査を生業としている種族なんです。ある時、遺跡で見つけたロストロギア――ジュエルシードを回収しに、僕はこの世界までやって来たんです」

「ろすとろぎあ?」「じゅえるしーど?」

 

 アリサとすずかは聞きなれない単語に首を傾げる。

 

「さきほど、あなたたちが戦ったあの黒い魔物たちです。アレはジュエルシードの思念体。ジュエルシードは使用者の願いを叶える力があるのですが、その実、とても不安定な物で、さっきのように暴走して暴れ出す危険性を含んでいる、とても危険な物なんです」

「だ、だから、ユーノくんは責任を感じてジュエルシード回収しに、この世界にやって来たんだよね?(棒読み)」

 

 と新八が問えば、ユーノは「えッ?」と声を漏らして戸惑い気味に答える。

 

「え、えぇ……。ジュエルシードを輸送していた時空航行船が、なんらかの事故にあったらしく、だから僕がこの世界に散らばったジュエルシードを回収しにやって来たんです」

 

 なぜか、自分の言おうとした事をどもりながらも先に言った新八の言葉に、戸惑いを見せ始めるフェレット。

 後ろで話を聞いていた土方は、焦ったように汗を流して頬を引き攣らせる。

 

 すると、神楽が指を立てて言う。

 

「それで、ジュエルシード回収しに来たはいいけど、結局返り討ちにあって、無様にフェレット姿になって、森の中で気絶したアルな?」

「えええッ!?」

 

 とユーノは驚きの声。

 

「なんでそのことを!? 新八さんの時もそうでしたけど、僕説明してませんよ!?」

 

 今度は自分の事情を知らないはずのチャイナ少女が、説明を先取りした事に対してユーノはビックリしていた。

 土方は、軽率な発言を連発する新八と神楽の頭をはたく。

 

「あ、あの……僕に関する説明は以上なので……今度はこっちから、質問させてもらってもいいですか?」

 

 ユーノが戸惑がちに訊けば、

 

「あ、あぁ……」

 

 土方はぎこちなく返事をする。ユーノが聞こうとしていることを予想してか、少しメンドーそうな表情を作っていた。

 ユーノは少々眼光を鋭くしながら、

 

「僕があなたたちに会った時や、なのはさんがレイジングハートの使用者登録の詠唱を知っていた事や、今だって、僕の事情を知っているかのような発言についてです」

 

 やっちまったァ、と言いたげに頭を抱える土方と、気まずそうに顔を逸らす新八。

 さらにユーノは問い詰める。

 

「魔法世界に関わりもなく、僕の事情も初めて聞いたあなたたちの発言は、どこもかしこも不可解なところばかりです。僕に協力して戦ってくれたあなたたちを疑うワケではないのですが、あなたたちは一体何者なんですか?」

 

 自分たちを疑っていないと言いながら、警戒心を濃くしているユーノ。新八たちを、ジュエルシードを狙ってよからぬことを考えている輩だと疑っているのは明白。

 

 さすがに、この状況をギャグとか勢いで誤魔化しきれるはずもない。まあ、あれだけ怪しまれるような発言しといて、疑われないなんて都合の良い展開になるわけもないが。

 ここまで言及されて、映画の事をうやむやにして説明するのはかなり難しい――っというか、適当な誤魔化しを思いつかない新八と土方。

 

 するとここで沖田が、

 

「俺たちの中の一人に、未来予知をできる奴がいてな。つまり、今までの先取った発言は、未来を知っている俺たちだから出来た発言と行動なんでィ」

 

 と苦しい言い訳するが、

 

「それで、あなたたちは何者なんですか?」

 

 とユーノはあっさりスルーして問い詰める。

 新八と土方にしてみれば、沖田の言葉も合ってるっちゃ合ってるのだが、ユーノには過呼吸になるくらい苦しい言い訳としか捉えてもらえなかったようだ。

 

「しょうがねーか……」

 

 と土方はため息を混じりに頭をボリボリ掻く。

 

「土方さん!? まさか!」

 

 新八は土方が何を話そうとしているのか察したようだ。

 土方は新八に目を向ける。

 

「しょうがねェだろ。正直、〝アレ〟見せた方が手っ取り早い。誤魔化しや隠し事があんだけ『下手』なお前らじゃ、到底この先、隠し通すのも難しそうだしな」

 

 と言われて新八は「うッ……!」と苦い顔。

 下手という言葉を強調して言う土方。この状況を作り出してしまった主な原因の一人たる新八は、気まずそうに顔を背けた。

 

 土方はユーノに視線を向ける。

 

「おい、ユーノ」

「はい、なんですか?」

 

 名前を呼ばれたユーノは、まだ警戒心が強いまま。

 ハァ、とメンドーそうに土方はため息を吐く。

 

「お前をなのはの家に連れて行って、『あるモノ』を見せる――が、絶対に内容を他の連中に、見せたり話したりするんじゃねェぞ?」

 

 

 なのはが砲撃を撃って、三体のジュエルシードの思念体を撃破。三つの青い宝石を回収するシーン――のところで、映像が止まる。

 

「――とまー、僕たちがセリフやら事情やら知ってた理由が……〝コレ〟、なんだよね……」

 

 リモンコンで映画を一時停止させた新八は、いたたまれないと言う感じに顔を逸らす。

 

 なのはの部屋で、大人一人と青年少女六人と、動物一匹は、今の今まで『劇場版リリカルなのは』のDVDを鑑賞していた。

 ちなみに、なのはが最初に魔法を使った映像までは見せて、その後のストーリーなどは見せてはいない。

 

「「「………………」」」

 

 フェレットとなのはの親友二人は、映像を見て唖然としている。

 内心では、いくらなんでもコレは性質の悪い冗談かなにかだと思っているに違いない。

 ちなみにだが、変身シーンで自分の素っ裸がお披露目されるという、壊滅的に恥ずかしい映像に、なのはは悲鳴を上げながら顔を抑え、蹲り、悶えていた。

 

「な……なに、これ……?」

 

 最初に口を開いたのはアリサ。青ざめた顔で、指をガタガタと揺らしながら画面を指差す。

 

「リリカルなのはです」

 

 新八は正直に答え、反射的にアリサが聞き返す。

 

「リリカルなのはってなに?」

「君たちの世界です」

「この映画は?」

「アニメです」

「つまり、私たちの世界は?」

「アニメです」

 

 新八はアリサの問いに対し、端的に分かりやすく答え続けた。

 やがて、アリサの体はプルプルと震えだし、

 

「ふざけんなァーッ!!」

 

 憤りをぶつまけるようにドンッ! と床を叩く。

 

「なにがアニメよ!! なにが映画よ!! なにがリリカルなのはよ!!」

 

 ドンドンドンッ!! とアリサは床に怒りをぶつけ続ける。

 

「あたしたちの住んでいる世界が、作り物の世界だって言うの!? 冗談にしても笑えないわよ!!」

 

 まあ、彼女の気持ちも分からなくはない、と思う新八。

 不可抗力とはいえ、なのはが映画を見た時――彼女は相当傷ついてしまった。

 

 こういう反応を予想するなら、ユーノだけに映画を見せてもよかったのだが、さすがにあの会話からアリサとすずかをはずすことはできなかった。なので、仕方なく二人にも映像を見せたわけだが、結果はだいだい予想通りである。

 

「えッ……えっと……」

 

 すずかの方はどう反応していいか分からず、戸惑っている。

 一方、映像を見たユーノはあまり騒がず、冷静に思案している様子。

 

「……あのぉ……」

 

 やがて、おずおずといった感じに、ユーノが声を出す。

 

「ん? なんだ?」

 

 土方がなにか言おうとするユーノに反応する。

 

「もしかして、新八さんたちって、平行世界の住人なんじゃないでしょうか?」

 

 ユーノの言葉に、神楽が首を傾げた。

 

「ヘイホーせかい?」

「平行世界です」

 

 言い間違いを訂正し、ユーノは説明を続ける。

 

「平行世界。つまりIFの世界です。もしかしたらあったかもしれない世界。そこには自分たちの世界とまったく同じ人々が同じような人生、あるいはまったく違う人生を歩んでいるであろう世界」

「あッ、それって……」

 

 さきほどまでギャーギャー騒いでいたアリサが、ユーノの説明を聞いて、静かになる。彼がなにを言わんとしているのか、理解したのだろう。

 だが、江戸出身のおつむ足りない面々は、まだユーノが言おうとしていることを上手く察せていない。なので、ユーノはより分かりやすく説明する。

 

「たぶん、新八さんたちの世界では、僕たちの世界は『アニメとして存在している』、と言うことだと思います。僕たちの世界はアニメであって、アニメでない」

「ええっと……どう言うことアルか?」

 

 まったくわからんという風に、神楽は腕を組んで首を傾げる。

 

「つまり、僕たちの世界は〝アニメの世界ではない〟と言うことです」

 

 ユーノの説明を聞いて新八は「あッ、なるほど!」と、やっと納得。

 土方と沖田も、あーなるほど、といった具合に頷き始めた。

 ユーノは苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ、これは正直、僕の仮説なので確証はないですけどね。でも、平行世界と言う説の方が、二次元の世界に来てしまったと言うより、説得力があると思うんです」

 

 今度は土方が質問をする。

 

「お前ら魔法の住人は、平行世界とやらに行ったことないのか?」

「ええ。管理局も異世界は見つけても、平行世界の存在はまだ認知していないようです。平行世界の存在は、いまだに仮説の域ですから」

 

 答えるユーノの言葉を聞く限り、平行世界と言うのは異世界以上に行くのが困難な世界のようだ。

 

「でも、平行世界っていうのは盲点だったよ!」

 

 新八は喜々とした声を出す。

 

「うん、ホント! ユーノくんのお陰で悩みや不安が解消された気がするよ!」

 

 なのはもユーノが出してくれた仮説を聞いて、大いに喜ぶ。自分の世界の立ち居地が、仮説とはいえ明確に理解できて嬉しいのだろう。

 

(普通は、平行世界って考えが出てきてもおかしくないんだけどなぁ……)

 

 ユーノは喜ぶ二人を見ながら、微妙な顔をしている。

 少しでも創作物に触れていれば、アニメの世界に来た場合、平行世界説を思い浮かべてもいいんじゃないか、と思うユーノだが、あいにく彼らの思考はそこまで巡らなかった。

 

 アリサは口元引きつらせながら、腕を組んで言う。

 

「ま、まぁ、アニメとかいうあやふやなモノより、ヘッポコ世界の方がいくぶんかマシね」

「平行世界ね。アリサちゃん、まだ動揺してない?」

 

 新八はやんわり訂正し、神楽は「ちぇ~……」と口を尖らせる。

 

「アニメの世界に行けるって方が、夢があるアルのになァ……」

 

 ちょっと少年思考な神楽としては、アニメの世界に行けたという事実の方がワクワクできたのだろう。

 

「アハハハ……。まぁ、神楽ちゃんの気持ちも分かるよ」

 

 魔法が使えるという以外は、一般的な庶民であるなのはとしては、神楽の考えに対して頷けるところもあるようで、苦笑いを浮かべていた。

 ブルジョワであるすずかも同じような思考のようで、

 

「うん。確かに、アニメの世界に行くのって、夢があるよね」

 

 すると、ユーノがアリサとすずかに顔を向ける。

 

「……あの、それでもう一つ気になっている事が、あるんですけど……」

「あたしたちがなんで魔法を使えるかってことね」

 

 フェレットの視線を受けて、アリサは先回りして答える。

 すずかの方も表情から伺うに、アリサが口にした疑問については頭にあったようで、柔らかい表情が変わっていた。

 

 その時、コンコンとなのはの部屋を誰かがノック。

 

「入るわよ、なのは」

 

 高町桃子の声に、

 

「「「「「「ッ!?」」」」」」

 

 沖田と神楽の以外の面々がビクっと体を震わせ、慌てだす。

 

「や、ヤバイ!」

 

 新八が焦り、

 

「隠せ隠せ隠せ!」

 

 土方が慌てて声を出して促し、すぐに映画のDVDを隠す面々。

 ドアが開き、桃子が顔を出す。

 

「なのは、もう夜も遅いし、アリサちゃんたちの迎えも来てるから、今日は帰ってもらいなさい」

「は、は~い……」

 

 沖田と神楽以外の全員は正座をして、桃子にぎこちない笑みを浮かべていた。

 そして、アリサが頭を下げる。

 

「夜分遅くまで、お邪魔してすみません」

「いいのよ」

 

 と桃子は笑顔で返し、言う。

 

「アリサちゃんたちもなのはと一緒に拾ったフェレットのー……ユーノくんだっけ? その子が心配だったんでしょ? 子供が夜遅くに出歩くのは褒められた事じゃないけど、生き物の命を心配するというのは、大切なことだと思うわ」

 

 そう言って、扉を閉める桃子。

 

 ちなみに、ユーノを連れて高町家に戻って来た時――なのはの家族には、『偶然ユーノが心配で見に行った、なのはとアリサとすずかを心配して、新八たちも後を追った』という説明で済ませてある。

 

「とりあえず、あたしたちの説明は明日ね」

 

 立ち上がるアリサに続いて、すずかも立ち上がって言う。

 

「ちゃんと明日、説明するから」

「はい。僕の方こそ、夜遅くまで付き合ってもらってすみません」

 

 ユーノは申し訳なさそうに頭を下げる。

 

 そんなこんなで、アリサとすずかに明日、話の続きしてもらう約束を取り付け、今日はお開きなった。

 

 

 翌日。

 

 今朝のニュースで、ジュエルシードの思念体が襲った病院が、さっそく取り上げられていた。

 

『昨日の深夜未明。海鳴市動物病院、およびその半径数百メートルの道路、壁、電柱などが壊されており、今現在、警察による調査が行われている状況です』

 

 すずかがニュースにいち早く反応する。

 

「あ、土方さん。これ昨日の……」

「ん? ああ、そうだな」

 

 すずかと同じ席で、土方はもっさもっさと朝食を食べながらニュースに目を向ける。

 ニュースキャスターが淡々と報告していく中、土方がズズズ、と味噌汁を口に含んだ時――ある人物の映像が映し出された。

 

『海鳴市動物病院の敷地内で気を失った状態で発見された男性、〝山崎退(やまざきさがる)〟。本人は「気付いたら気絶していた」と証言しており、彼がこの事件とどのような関係があるのかは、現在警察が調査中とのことです』

「ブゥーッ!」

 

 味噌汁を口から盛大に吹き出す土方。

 ちなみに、土方と同じチャンネルのニュースを偶然見ていた新八は「ブゥゥゥゥッ!?」と、口からご飯つぶを盛大に吹き出していた。

 

 警察に連行されている山崎(モザイク付き)の映像を見て、頬を引き攣らせるすずか。

 

「ひ、土方さん……」

 

 土方は口を拭いながら呟く。

 

「やっべ、忘れてた……」

 

 



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第二十一話:キングコングだとカッコイイがキングゴリラだとダサくなる

 ジュエルシードが星となって降って来た日の夜……。

 

 ――拝啓お妙さん。

 

 お元気でしょうか。わたしは元気です。

 今は檻に閉じ込められ、犯罪者のような扱いを受けていますが、大丈夫です。巡回の人も人柄がよく、最近はお手をするとバナナをくれます。

 

 わたしはただ、鉄格子から見える空を見る度に、あなたのことを思い出します。

 こんな何もない石造りの部屋の中では、満足にあなたへのリビドーを発散させることもできません。家でパソコンやアルバムに保存した、あなたの写真でエクスタシーに上り詰められないのは辛いです。

 

 最近は『性欲を持て余す』が、わたしの流行語となっています。

 

 あぁ……お妙さん。

 できることなら、あなたへの滾る熱いパッションを、ぼくのお宝写真へとぶつけたい。普段は2,3本わたしのバナナを抜くところですが、今はできることなら10本は抜きたいと思う次第です。

 

 あぁ……Myたえ。

 あなたへのこの下半身に渦巻く熱い思い、伝わっているでしょうか? 伝わっていたらいいなぁ……。

 だからこそ、私の情欲をあなたへの熱い思いと共にポエムとして届けたい。

 聞いてください……、

 

 あぁ、我が愛する女性よ。わたしのラヴソウル、あなたへ届け。

 あぁ、わたしのリビドーよ。我が愛する女性のポッカリ空いた穴へと届け。

 あぁ、もぉあぁ! とにかくあぁ!! わたしはあなたを愛してる~♪

 わたしの理性という鎖を全て解き放ち、あなたへとこの思いを伝えたい。

 近藤勲。心のポエム――。

 

 お妙さん。わたしのこの思い。あなたには伝わっているか分かりません。

 ですが、これだけは伝わって欲しいです

 

 ――『ムラムラ』します。

 

 

 

 キラキラと輝く星が散りばめられた夜空を、体育座りで仰ぎながら目を瞑って、やりきったという表情を作る近藤。

 閉鎖感と圧迫感を感じるこの空間では、正直ポエムの一つでも作らないとどうにかなってしまいそうだ。目の前の白い壁を見ると、気が滅入ってくる。

 

 あらためて、自分が置かれている状況を確認すると、重たいため息しか出てこない。

 

「ここから出たいなァ……」

 

 ポツリと自身の願望を口にした時だった――。

 鉄格子の窓から見えてくる夜空――キラリと星の一つが輝きを放っている。

 

「あ、綺麗だなー……」

 

 ちょっと感動していると、その星は徐々に大きくなっていく。

 なんかこっちに向かってきてね? なんて思った頃にはもう遅く、星は目の前までやって来ていた。

 

「えっ? ええええッ!? も、もしかして隕石!? ちょッ、まッ――!!」

 

 突然の流れ星の飛来。慌てる近藤。

 だが、逃げようにも周りは石の壁と鉄の棒で覆われているので、逃げる術などなく、近藤に光る星は直撃。

 そして、近藤のいた牢屋は眩い光に包まれた。

 

 

 

「………………」

 

 コツコツと靴音を鳴らし、ライトを持って牢屋を巡回する警察官。

 そして、最近捕まったゴリラ似の男の牢屋の前までやって来た。

 

「ウホッ」

「――ん?」

 

 妙な鳴き声が左耳から聞こえてきて、反射的に左側にライトを当てる。

 するとそこには、つぶらな瞳をした真っ黒な毛むくじゃらの男が一人。

 

「ウホッ。ウッホ!」

 

 一人の男というか、まごうことなき一匹のゴリラが牢屋の中にいた。

 ウホウホと鳴くゴリラを見て、目を細める巡回の警察官。

 

「起きてないで、早く寝ろよ」

「ウホッ」

 

 と鳴き声を聞いて、スタスタ歩いていく巡回は首を傾げる。

 

「……あれ? あそこにいた奴って、あんな毛深かかったっけ?」

 

 巡回は「気のせいだな」と言って、見回りを続けるのだった。

 

 

 時間は戻り、現在に至る。

 

 新八たち江戸組となのはたち海鳴市組はいま、翠屋のテラスに座り、白い丸机を二つ占領して、ケーキを食べながら雑談していた。

 話の内容はもちろん、今後の事について。そして、アリサとすずかが魔導師になった経緯についてだ。

 

 アリサとすずかのデバイスに、なのはは目を向ける。

 

「じゃあ、アリサちゃんは『フレイア』を、すずかちゃんは『ホワイト』を手に入れて、魔法を使えるようになったんだね」

「ええそうよ。それでこいつが、そのフレイアってワケ」

 

 アリサが掌のフレイアを見せれば、

 

《よろしくお願いしますね~、なのはさん》

 

 と、翼を生やした炎を模したようなデザインのデバイスは砕けた声音で挨拶。

 

「よ、よろしくお願いします……」

 

 初対面ながら馴れ馴れしい感じのデバイスに、なのはは少し戸惑いながら挨拶を返し、質問をしてみた。

 

「あの、フレイア……さん? はどうやってアリサちゃんと会ったの?」

《それはですねぇ、あなたたちを誘拐した、あのいけすかねぇロリコン誘拐野郎の手元に不本意ながらもいた、不幸な私とホワイトちゃんは、隙を見て逃げ出し、アリサさんとすずかさんと運命的な出会いを果たしたんです。ま~、掻い摘んで言うと、こんな感じですかね》

《――とまぁ、妹であるフレイアはこんな感じの性格なので、軽く流してくれれば結構です》

 

 と冷たく言い放つ姉デバイスの言葉に、妹デバイスは不満をあらわにする。

 

《むッ、わたしをめんどくさいキャラ扱いするとは。いくら姉であるホワイトちゃんでも、許容できませんよぉ?》

《とりあえず、フレイアのことは方っておいて――》

 

 とスルーして、姉のホワイトは自己紹介。

 

《私はすずか様のデバイスとなりました、ホワイトです。以後、お見知りおきを》

「は、はい。どうも」

 

 なのははまたぎこちなく頭を下げる。

 

 堅物というかクールというか、懇切丁寧に話すレイジングハートとは対照的に、フランクな喋り方をするフレイア。

 両機のギャップの差を激しく感じるなのは。

 なんだかフレイアを、レイジングハートのような主に仕える機械的存在としてはまったく感じなかった。対照的に、姉というホワイトからはレイジングハートに近いモノを感じるのではあるが、ちょっとばかし刺々しさも感じる。

 

「そういえば、〝あの時〟はなんでアリサちゃんとすずかちゃんはあそこに現れたの?」

 

 なのはが言う『あの時』とは、病院の外でなのはをジュエルシードから守った時のことだ。

 訊かれた事を理解したのであろうアリサは、説明すべてく口を開く。

 

「それは――」

《それは私がお教えしましょう!!》

 

 横やり入れたフレイアは、「ちょっとあんた!」とアリサに文句言われるが、

 

《ジュエルシードが発動したあの夜……。ホワイトちゃんと、そして契約していたすずかさん、最後に私はジュエルシードから発せられる奇怪な魔力の反応に気付きました――》

 

 主の言葉を無視して回想に入っていくお調子デバイス。

 

 

 ――フェレットを拾った病院の方から、『妙な魔力を感じた』と言った私の言葉にアリサさんは、ユーノさんを心配してこっそり家を抜け出しました。

 ――そしてそれはすずかさんも同じ。揃って家を抜け出したお優しい心の持ち主であるお二人は、病院の近くまでやって来ました。

 ――するとそこには、暴走するジュエルシードに襲われる、なのはさんの姿が……。

 

 

「あ、アリサちゃんあれって……」

「たぶん、あの空を飛んでるのって、なのはよね? 変な格好してるけど……。それに沖田や他の連中も……」

 

 少し顔を青ざめさせたすずかは心配そうな表情で、アリサは怪訝そうな表情。

 二人は電柱の物陰から、ジュエルシードの思念体やなのはたちの様子を伺っていた。

 

 すずかはアリサに顔を向ける。

 

「あ、アリサちゃん。あの黒いお化け、なんだかわかる?」

「あたしもあんなふざけた生き物、見たことないわよ……」

 

 おっかなびっくりとした様子でジュエルシードの思念体に視線を向ける二人の疑問に、

 

《アレは不安定な魔力の塊で出来た生命体。たぶん暴走したロストロギアである可能性が高いと思います》

 

 すずかのデバイスであるホワイトが答えた。

 

「ろすとろぎあ?」

 

 首を傾げるすずか。ホワイトの代わりに、フレイアが答える。

 

《時間がないので説明ははぶきますけどー、チョー危険な魔物って考えてくれれば構いません。しかも、意思があるみたいですし、本能的に魔力を持つ存在を狙ってるようですね》

「つまり、なのはが危ないってこと?」

 

 自身のデバイスの言葉を聞いて、アリサが眉間に皺を寄せた。

 

《まぁ、今の彼女は魔法が使えますし、資質はかなりのモノですけど。ただ、魔導師としてモロ初心者ですからねぇ。苦戦はすると思いますよ》

 

 そうフレイアが言えば、

 

「そっ、わかったわ」

 

 と言って、アリサは諦めたように息を吐く。

 そしてアリサは決意に満ちた表情を浮かべ、手に持ったフレイアに見つめる。

 

「それじゃ、あんた……じゃなくてフレイア。あたしもあんたと『マスター契約』ってのをすれば、魔法を使えるようになるのよね?」

《ええもちろん。どえりゃあスゲェ魔法が使えますよ》

「なんで名古屋弁になったかはこの際置いとくけど……なら、今すぐ契約して簡単なのでもいいから、魔法の使い方を教えなさい」

 

 アリサの言葉にすずかは「えッ?」と意外そうな表情になり、フレイアは「マジですか!?」と驚きの声を漏らす。

 

「いいの? アリサちゃん。今まで魔導師にはならないって言ってたのに……」

 

 不安そうに自身を見つめるすずかに対し、アリサは言う。

 

「癪だけど、コイツが前に言ったみたいに〝魔法が必要な状況〟だから仕方ないわ。危ない目にあって困ってる友達を助ける力があるんだから、当然でしょ?」

「アリサちゃん……」

 

 さも当たり前のように言うアリサに、すずかは目を潤ませる。

 

《いや~、さすがですアリサさん》

 

 フレイアが羽を腕のように組んで、うんうんと頷く。

 

《友ために立ち上がる……いやぁ、王道展開まっしぐらですねぇ》

「ふん! 御託はいいからとっとと契約!」

 

 アリサは少し気恥ずかしいのか顔を背けて頬を赤くさせる。

 

《了解! では、私がこれから言う言葉を大きな声で復唱してください!》

 

 フレイアの言葉にゆっくり頷くアリサ。そして、デバイスは声を張り上げた。

 

《唯我独尊! 天地神明! 粉砕☆玉砕☆大喝采! 我に大いなる力を授けたまえ! 魔法少女に変☆身! グレートハイパースーパーミラクルチェェェェェンジ!! 魔法少女光☆臨!!》

「…………………それ、言わなきゃダメ?」

 

 アリサは頬を引くつかせる。

 さすがにこのセリフを言うのは恥ずかしすぎる、というかアホ丸出し過ぎると思っているのだろう。

 だが、現在進行形で危険な状況の友達を助けるためには、背に腹は代えられないと決意したのか。

 アリサは一旦息を吸い込み気合を入れ、頬を赤くさせながら、フレイアを天に掲げて叫ぶ。

 

「ゆッ、唯我独尊! 天地神明! 粉砕☆玉砕☆大喝采! 我に大いなる力を授けたまえ! 魔法少女に変☆身! グレートハイパースーパーミラクルチェェェェェンジ!! 魔法少女光☆臨!!」

 

 シーン……。

 

 特に何も変化のないアリサ。しかも、何故か笑いを堪えるような声が聞こえてくる。

 アリサはぷるぷると震える手で、手に持ったフレイアに目を向けた。

 

「――ね、ねぇ……今のって、ホントに契約の為の、詠唱?」

《ブッ……!》

 

 吹き出すフレイア。

 

《ま、マジで……い、言うとは……ブフッ!》

「死ねぇぇぇぇぇッ!!」

 

 アリサは思いっきりフレイアを地面に叩き付ける。

 

《あいたぁーッ!!》

 

 痛がるフレイアだが、アリサはまったく気にせず拳をゴキゴキと鳴らす。

 

「あんた、時間ないの分かってんの?」

 

 ゴゴゴゴゴゴ!! と人を殺せそうなほどの殺気の籠った眼力を宿したアリサに、さすがのフレイアもビビッて声を震わす。

 

《す、すみませんすみませんすみませんすみません! ほ、ほんの出来心だったんです!! あ、アリサさんが私を手に持った瞬間にはマスター契約は完了していたんですぅー!!……………………あ》

「……つまり、なに?」

 

 アリサの怒気が余計に膨れ上がった。

 

「あたしの了解も得ずに、とっくにあんたは私を、魔法少女にしてたってことよね、それ?」

 

 さすがにこりゃダメだ、と思ったフレイアは、テヘッ♪ と開き直る。 

 

「うぉぉぉぉぉぉッ!! 死ねぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 アリサはガンガンガン! と何度もフレイアを踏みつけ、デバイスは悲鳴を漏らす。

 

《ゴフッ! ありさゴフッ! やめゲフッ! しぬゴフゲフッ!!》

「あ、アリサちゃん落ち着いて!」

 

 と、すずかは必死に親友を止めるのだった。

 

 

《――とまぁ、そんなこんなで、アリサさんは私のパートナーになってくれたんですよ》

 

 フレイアの説明を聞いた沖田は、

 

「フッ……ミラクルチェンジ……ブッ……!」

 

 口元を押さえながら笑い声を吹き出し、

 

「変な格好……」

 

 なのはは落ち込み、

 

「恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしい恥ずかしいぃぃぃぃぃ!!」

 

 そしてアリサは、恥ずかしさのあまり激しく悶える。

 一通りフレイアの回想が終われば、約三名を除き、各々はなるほど、といった顔。

 

 沖田は悶えるアリサの肩に手を置き、少女は自身を見下ろす青年の顔を見上げれば、

 

「魔法少女光☆臨」

「ブハッ!!」

 

 悪意まみれの顔で言われ、アリサは顔を真っ赤にしてテーブルに突っ伏した。

 

「その辺にしてやれ」

 

 さすがに可哀想だと思った土方が、沖田をたしなめる。

 へーい、と答えた沖田は椅子に座り直したところで、ある事を思い出してフレイアに視線を向けた。

 

「そういやァ、さっきお前が言ってたいけすかねェロリコン誘拐野郎って、俺がぶっ倒したヤローのことだろ?」

《ええそうですよ》

 

 返答を聞き、土方は沖田に顔を向ける。

 

「総悟。たしか、お前が見つけた〝俺たちの世界〟の死刑囚のことだったな? なんでそいつが〝この世界〟に来たのか分からなかったのか?」

 

 土方の言葉を聞きながら、フォークを手に取る沖田。

 

「まー、俺もあいつから色々訊き出したかったんですが、どこぞの誰かがあいつの頭だけ持ち帰っちまったお陰で、一切の情報はなしでさァ」

 

 説明した後、沖田はサクっと目の前のケーキの先端をフォークで切り、切れ端をパクリと口に入れた。

 続けて、なのはの膝の上にいるユーノは、真剣な表情で話す。

 

「しかも、首がなくなった胴体はヘドロ、もしくはスライムみたいになって、溶けてしまったんですよね? 沖田さんたちの世界の住人――しかも、デバイスを持っていた。どう考えても、沖田さんたちのように〝異世界に迷い込んだ人間〟、で済ますことはできませんね」

 

 沖田とユーノの話しを聞いていた三人の少女は、少しばかし顔を青くする。

 実は、なのはたち三人がこの誘拐犯の顛末を聞いたのは、今が初めて。

 

 理由としては、誘拐犯の胴と頭が切り取られたというショッキング極まりない話を、珍しく沖田がなのはたちのような小さな女の子に知らせなかったから(めんどくさかっただけ)。

 ただの誘拐犯なら首チョンパなんてグロい話を聞かせなくてもいいのだが、沖田たちの世界の住人な上、胴はドロドロに溶け、さらにデバイスを持っていたとなれば、その顛末を彼女たちにも話さなくてはならない。

 

 新八は顎に指を当て、首を傾げた。

 

「結局、何者だったんでしょうね? 話を総合する限りだと、どう考えてもただの囚人じゃありませんよね?」

「俺も夕観意嘆なら資料で見たが、ただの地球人だ。天人(あまんと)ではなかった」

 

 土方は背もたれに体重を預け、嘆息する。

 

天人(あまんと)って新八さんたちの世界にいる――宇宙人、なんですよね?」

 

 なのはの質問に新八が「うん。そうだよ」と頷く。

 

「しっかし宇宙人とか、時代は江戸時代なのに……」

 

 と言って、アリサは腕を組んで呆れた声を出し、微妙な表情になる。

 

「しかも、宇宙人襲来で文化が江戸から平成並みに発展って……ホントむちゃくちゃな世界よね」

「なんか、日本にやって来た黒船が宇宙人になっちゃったって、感じだね」

 

 と苦笑するすずか。

 すると、神楽が自分の顔を指差す。

 

「ちなみに私も天人(あまんと)アルよ。前に言ったけど」

「へー………………えッ!?」

 

 突然のカミングアウトを軽く流していたアリサは驚き、他の小学生二人も驚きの表情。

 

「か、神楽ちゃん宇宙人だったのぉ!?」

 

 となのはは身を乗り出し、

 

「ほ、ホント……?」

 

 とすずかは口元を抑えている。

 

 あッ、わたし外国人の血が入ってるんですよ、的なノリで言われたので、三人とも中々事実を受け止めきれないようだ。とはいえ、前に説明した時は冗談と捉えたが、今こうやって彼らの出自を確認した後だと、嘘だと否定できなくなっている部分もあるようで。

 

 新八が説明しだす。

 

「本当だよ。神楽ちゃん、こう見えても宇宙最強の傭兵部族『夜兎(やと)』って種族のいる星の出身なんだよ」

「最初に会った時も思ったけど、どっからどう見ても普通の人間じゃない!? コイツのどこが宇宙人なのよ!!」

 

 食ってかかるアリサの疑問に、新八が答える。

 

「まァ、夜兎の特徴で異常なほど大食いだったり、太陽が天敵で肌が異常に白かったり、めちゃくちゃ怪力ってぐあいに、色々と僕たち地球人とは違う特徴があるんだよ」

「まー、原作者は時たま私の設定忘れるけどな」

 

 と、神楽はちょっとしたメタイ説明を付け加えて、ホールのケーキにフォークを突き刺し、一口で口に頬張る。ちなみにこれで三つ目だ。

 

 たしかに、異常なほど大食いだ……、と思ったなのはたち三人。

 

「まぁ、宇宙人なのは百歩譲っていいけど……さすがにこんな天然おとぼけキャラが宇宙最強ってのは信じられないわね……」

 

 頬杖を付くアリサに、疑いの眼差しを向けられた神楽は、

 

「もぐもぐ、わたしが、むしゃむしゃ、いかに強いかは、もぐもぐもぐ、こんど、むしゃむしゃむしゃ、見せて、もぐもぐもぐもぐ――」

「もぐもぐむしゃむしゃうっさいわね!! お口の中の物なくしてから話しなさい!!」

 

 と、アリサが怒鳴れば、

 

「くちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃくちゃッ!」

「くちゃくちゃ音出して食べるなぁー!! 鬱陶しいぃ!!」

 

 とにかく咀嚼音が無駄にデカイ少女に、アリサは怒鳴り声をまた上げた。そんな怒る彼女をなだめる親友二人。

 土方はコーヒーカップに手を伸ばす。

 

「とりあえず、俺たちの話はもういいだろ。あらかた話したんだ。これ以上いくら話してもキリがねェ」

 

 そう言って、土方はカップに入ったコーヒーをずずずっと啜る。

 

「……それよりも今知りたいのは、お前らが持ってるそのお喋りなアクセサリーについてだ」

 

 土方の鋭い眼光が、アリサとすずかの持っている二機のデバイスに注がれる。

 対し、フレイアは鬼の副長の眼光を意にも返さず、軽口を叩く。

 

《いやいやぁ~、さっき言ったじゃないですか土方さ~ん。私はエンシェントデバイスで、相性の良いアリサさんのパートーになっただけの、いたいけなデバイスなんですよぉ?》

「俺が知りたいのは、お前はなぜ囚人の手にあったかってことだ。正直、得体の知れない犯罪者が持っていたモンだ。きな臭くて仕方ねェ」

 

 それに、とユーノが続く。

 

「エンシェントデバイスなんて種類のデバイスは、僕も聞いたことがありません」

《………………》

 

 二人の言葉を聞いて、無言となるフレイア。

 全員の視線が二機のデバイスに注がれれば、彼らのいる空間だけ、なんとも言えない緊張感に包まれる。

 対してフレイアは、

 

《さぁ?》

 

 と、首を傾げるようにとぼけた声を出し、神楽と沖田を除いた全員が、緊張の糸が解けたみたいにガクッと首を落とす。

 

「〝さぁ?〟ってなんだよ〝さぁ?〟って」

 

 と土方は呆れ眼で、尋ねる。

 

「まさかお前……なにも知らねェってんじゃないだろうな?」

 

 フレイアは羽で頭(?)掻く。

 

《いや~、土方さんの言うとおりでー……私たち、自分たちの出生に関することはなに一つ記憶がないんですよ。気付いたらいつの間にか誘拐犯の持ち物だったんですし》

 

 フレイアのあっけらかんとした態度。すると、冷静な声でホワイトが代わりに説明しだす。

 

《自分たちが何者であるか、どんな性能を有しているのか、そういった記憶は目覚めた時からちゃんとあるのです。ですが、誰が私たちを作ったのか、私たちはどこで作られたのか、そういった記憶を私もフレイアも持っていないんです》

 

 聞いて、ユーノが思い出したように尋ねる。

 

「でもたしか、君たちの開発者は妖精のような存在ってことで、君たちのような機種をエンシェントって名づけたんだよね? それってつまり、開発者の記憶は少なからずあるんじゃ――」

《まぁ、そうなんですけどね》

 

 と頷くフレイアは、残念そうに言う。

 

《でも、本当に記憶は〝それだけ〟なんです》

「それだけ?」

 

 とユーノが首を傾げ、ホワイトが説明を入れる。

 

《つまり、私もフレイアも〝自分についての記憶〟はありますが、〝開発者についての記憶〟はないってことです。名前の由来を付けた人物が私たちの開発者だとしても、開発者がどういう人間かなんてイメージすることはできませんから、そこらへんの記憶は残っていたんだと思います》

「つまり、あんたらを作った人間は自分のことを極力知られたくないってワケね」

 

 アリサは腕を組んで眉間に皺を寄せ、新八がある可能性を示唆した。

 

「じゃあ、フレイアさんたちを作った人間が、この世界に僕たちの世界の囚人を送ったんじゃないですか? しかもフレイアさんたちを渡した上で」

 

 沖田が「それはねェだろ」と即座に否定。

 

「第一、デバイスなんて不思議アイテム作れる奴なんて、俺たちの世界にはいねェ」

 

 新八は「あッ、確かにそうですね」と言う。だが、魔法アイテムだって作れそうなとんでもなくぶっ飛んだ機械(からくり)技師のジジイの姿が、彼の頭をよぎった。

 

「まァ、誰にせよ……」

 

 コーヒーを飲む土方の眼差しは、少しばかし鋭くなる。

 

「わかっているのは、この世界でよからぬことを考えている奴がいるかもしれねェ、ってことだ」

 

 沖田は頬杖つきながら言う。

 

「しっかし、バニング……バーニングも随分といわく付きの厄介なモンに懐かれたもんだな」

「いま、バニングスって言おうとしたわよね!? なのになんで言い直した!? そのままでよかったでしょうが!! ワザと!? ワザとあたしの名前間違えたのか!」

 

 自分をおちょくってる沖田に対して、アリサは憤慨。すると、なのはがアリサをなだめる。

 

「あり……バーニングちゃん落ち着いて」

「なんでなのはまでバーニングって言ってんのよ!?」

 

 なのはからのまさかの言葉に、アリサがぎょっとすれば、

 

「バーニングちゃん落ち着いて」

 

 とすずかも悪ノリ。

 

「すずかぁ!? あんただけは味方だと思ってたのにぃ!!」

 

 うわぁぁぁぁぁんとアリサは机に突っ伏す。

 ちょっと悪ノリが過ぎたと思ったのか、なのははすずかは汗を流しながら苦笑気味に「ご、ごめんね……」とやんわりアリサに謝罪。

 

 そんな中、顎に前足を当てたユーノは難しい表情を作って思案していた。

 

「なんにせよ、フレイアとホワイト。この二機をアリサとすずかに使わせない方が僕はいいと思います」

《ええ~!?》

 

 とフレイアがあからさまに嫌そうな声を出し、

 

《ユーノさん、さすがに今の発言は私も聞き捨てなりません》

 

 ホワイトも不機嫌ボイス。

 不満をあらわにする二機に対し、ユーノは説明しようとする。

 

「それは――」

「ケーキのおかわり持ってきたわよー♪」

 

 突然、ケーキをホールで持ってきた桃子に、神楽と沖田を抜いた面々は肩をビクッとさせ、体を強張らせた。

 その様子を見た桃子は申し訳なそうな顔。

 

「あら? お話のお邪魔だったかしら?」

「だ、大丈夫です!! ぜ、全然問題ありません!!」

 

 新八が慌てて両手をバタバタ振ってフォロー。

 

「そう? あ、これ追加のケーキだから。ゆっくり食べてね」

 

 笑顔となった桃子は、ホールのケーキを机の上に出す。その後、店の仕事に戻って行った。

 声が聞こえないだろう場所まで桃子が行ったところを、さり気なく確認する面々。

 

 そして、土方が深くため息を吐く。

 

「たくッ、喋るイタチのせいで無駄に驚いたな」

「フェレットです」

 

 と訂正するユーノ。

 

「……やっぱり、ここで魔法やら俺たちの世界の話するの、マズくないですか? 他のお客もいるのに」

 

 山崎が至極当然の疑問を言えば、

 

「あッ、山崎、お前いたの? 描写されてなかったから全然気付かなかったわ」

 

 いついたの? と言いたげな顔の土方。

 

「いましたよ!! さいッッしょから俺いましたからね!!」

 

 自分の存在すっかり忘れていた上司に、山崎は悲痛な声で叫ぶ。

 いくら地味と自負していていも、存在まで忘れられてしまったであろう彼は、黙っていられないとばかりに文句を捲し立てた。

 

「つうか〝あの時〟、いくら地味だからって俺だけ置いて逃げるのって酷くないですか!? 目が覚めた時には俺、警察の人たちに捕まってるし、あれやこれや詰問されて大変だったんですよ!!」

 

 敷地内とその周辺が破壊された現場に残っていた重要参考人として、山崎は少し前まで警察に事情聴取を受けていた。

 無難に『夜道を歩いていたら急に衝撃を受けて気絶していた』と言って、なんとか誤魔化して切り抜けて、昼にやっと帰って来たところなのだ。

 

 そして、そんな大変だった山崎の事情を聞いた土方は、

 

「大変だったな」

 

 で、終わらせる。

 

「いや、もうちょっとなにか言ってくれも罰当たりませんよ! つうか罰がそっちに当たりますよ!」

 

 山崎涙目。

 自分と同じ不遇な地味キャラに同情しながら、新八はさきほど言った彼の意見に同意を示す。

 

「でも、先ほど山崎さんが言ったとおり、ここで色々の話すのはちょっとマズイ気が……」

「ま~、大丈夫だろ」

 

 頬杖付く沖田は呑気に言う。

 

「俺たちの話なんざ、他の客共は店に流れるBGM程度、耳になんざ入らねェよ。第一聞かれたとしてもこんな話、常識ある人間はアニメやマンガの話としか思わねェだろーしなー」

「まぁ、それもそうよね」

 

 と、同意を示すアリサ。

 むしろ、今の自分たちの話を聞いた直後に信じる人間の方が、おかしい部類に入るであろう。

 そして沖田は、なのはに視線を向ける。

 

「それにフェレットの野朗も、他の奴らからは見えねェ位置で喋らせてるんだからな」

 

 なのはの膝の上に乗っているユーノ。

 なのはが椅子を深く前に押しているために、その胴長の姿は、机の影に隠れて見えなくなっている。これでは、フェレットが喋っていても、傍からは誰が喋っているのか判別するのは難しいだろう。

 

 でも、と言って山崎は食い下がる。

 

「わざわざここで喋らなくても、周りの視線を気にせず話すなら他にも場所はあるんじゃ……」

「なに言ってるアルかジミー。ここはケーキが食べ放題で、雑談するにはうってつけネ」

 

 と神楽はモリモリ食べながら言う。

 

「いや、それ食べるの我慢すればいいよね?」

 

 と山崎が大食い少女の意見をやんわり否定すれば、ユーノは前脚で頬を掻く。

 

「まぁ、念話ができればここで話していても大丈夫なんですけど、新八さんたちは魔力を持ってませんし……」

 

 魔力を使って相手の頭の中に言葉を送り込む念話。

 これが使えれば、ユーノの言うようにいつでもどこでも誰の目も気にせずに会話が可能なのだ。が、残念ながら新八たち江戸組みには魔力がなかったので、頭の中でテレパシーのように会話するなんて芸当はできない。

 

「とにかくいいんだよコレで。このまま話していたとしても、特に問題はねェよ」

 

 と言って、土方がコーヒーを啜れば、

 

「そういうことでィ。お前らは気にせずペラペラ喋ってな」

 

 沖田もコーヒー啜る。

 

 彼らの言葉に対して、困惑の表情をし、顔を見合わせる面々。

 翠屋のテラスでなるべく話を聞かれないようにしながら、アリサやすずかの事や今後の事を話そうと言ったのは、沖田と土方だ。

 少々納得はいかないものの、なにか考えがあるであろうと思い、彼らの言うとおりここで話しているなのはたち。

 

 真選組の幹部二人の言葉を聞いて、フレイアはさきほどの話の続きに入る。

 

《まぁ、そう仰るのでしたら、話を戻しますよ? そもそもなんでユーノさんは、嫌がるアリサさんから私を無理やり取り上げるなどとトチ狂った事を言ってやがるんですか?》

「なんであたしが、あんたを手放したくない感じになってんのよ?」

 

 アリサはフレイアにジト目を向けた。

 尋ねられたユーノは真剣な表情で言う。

 

「いや、僕の意見は比較的マトモだと思うよ。はっきり言うけど、君たちのような素性の知れない危険なデバイスをなのはたちの友人に使わせることはできない」

 

 危険? と首(?)を傾げるフレイア。

 

《なーに言ってるんですか? 私のような安心安全の四文字が似合うデバイスはいませんよ?》

《フレイア。私が言うのもなんですが、とても白々しく聞こえます》

 

 ホワイトがクールにフレイアの言葉の揚げ足を取り、アリサが口を開く。

 

「まぁ、ユーノの気持ちもわかるけど、あたしはコイツを使っても、体のどこにも異常は出なかったわ」

「だけどそれは今の話……」

 

 ユーノは表情を険しくさせつつ、語る。

 

「もしこれ以上使い続けたら体にどんな悪影響が出るか――いや、もうなにかしらの影響があってもおかしくない」

《ひっどッ!? 私らは放射能か何かですか!》

 

 心外とばかりにフレイアが噛み付けば、

 

「とにかく! 今後、アリサとすずかは二機を使わないで!」

 

 ユーノはデバイスの言葉を無視して語気を強くする。

 彼も自分の都合に巻き込んでいる以上は、最低限彼女たちの身の安全を確保したのだろう。

 

 ユーノの主張を聞いて、フレイアは不満をあらわにする。

 

《そういうこと言うのでしたら、私もはっきり言いますけどね! ユーノさんが持っていたレイハさん――レイジングハートさんも私たちと『同じ人』に作られたんですよ!! 私たちを危険と疑うなら、レイハさんも疑ったらどうですか!!》

「えッ?」

 

 と、なのはが反射的に声を漏らし、他の面々もお喋りなデバイスが言ったとんでもなに驚愕の事実に、えっ? という顔になった。

 

 そして、少しのあいだ沈黙が訪れ、いくばくかの時間が経ってから、

 

「……れ、レイジングハートが――」

 

 なのはが最初に口を開き、

 

「君たちを作った人物に……作られた?」

 

 ユーノはまさかの意外な事実に唖然としている。

 一瞬だが、まるで動揺したかのようにレイジングハートは、キラリと自らを赤く光らせた。

 

 

「ウホッ!」

「や、やっぱゴリラだ! ここ数日観察していてやっと分かった! 間違いなくコイツはゴリラだ!!」

 

 と驚きの声を上げるのは、留置場内を巡回している警察官。

 

 留置場――その檻の中にいたのは紛れもないゴリラ。つぶらな瞳に筋骨隆々な体を黒い体毛で覆っている姿は、間違いなくゴリラそのものだった。

 多くの警察官がゴリラの入った牢屋に押しかけ、ウホウホ鳴き声を出すゴリラに好奇の視線を向けている。

 

「信じられねぇ……。なんでゴリラが留置場にいんだよ? ここは動物園じゃねぇんだぞ」

 

 驚きの声を漏らすのは、海鳴市市警の課長。サングラスを掛け、タバコを吸う角刈りの渋い顔の男だ。

 

 容疑者を檻に閉じ込め拘束しておくのが留置所。動物を檻に閉じ込めておくのが動物園。

 拘留している者がゴリラなら、動物園と揶揄されてもおかしくない。

 

 頭を抱えて被りを振る課長は、視線を鋭くした。

 

「おい、いくら人類の親戚だからってゴリラ逮捕するなんてバカやったのは誰だ? つうかなんで巡回していた奴は気づかなかった? 目ン玉腐ってんのか?」

 

 課長に言われ、巡回を担当していた警官が敬礼する。

 

「す、すみません! じゅ、巡回は私です!! で、ですがそこに入ってたのは間違いなく人間だったはずです!! ゴリラそっくりですが、近藤勲という見た目が三十代前半の男でした」

「その近藤って奴の取調べをした奴は?」

「わ、私と鈴木が担当しました」

 

 課長の鋭い眼光に凄みながらも敬礼する部下二人。

 タバコの煙を、ふぅとため息のように吐く課長は言う。

 

「だが、げんに入っていたのはこの得体の知れないゴリラだ。お前らゴリラと人間の区別もつかなくなったのか? あん?」

「い、いえ! 本当にゴリラではなく、ただの男だったはずです!! 信じてください!!」

「ちゃんと人語を喋っていました!!」

 

 必死に弁明する部下二人。課長はタバコを吸いながらゴリラを横目で見る。

 

「まぁ、さすがにゴリラと人間を間違えるってのは言い過ぎた。だがな、それじゃあこの檻に入ってたその近藤って被疑者はどこに消えた? ゴリラの着ぐるみを被ってるなんてバカな落ちはないだろ?」

 

 本物のゴリラだった場合を考えると、着ぐるみかどうか確かめるのは危険なので、誰も牢屋に入らず確認してはいないが、見た感じは本物のゴリラと思って間違いないだろう。

 すると、部下の一人がある仮説を立てる。

 

「も、もしかしてゴリラにすり替えて被疑者は脱走したんじゃ――」

「アホかぁ!」

 

 課長は怒鳴り散らす。

 

「そんなギャグマンガみてぇなことする奴が現実にいるわけねぇだろ!! まだ着ぐるみだったって方が説得力あらぁ!」

「と、とりあえずこのゴリラどうします?」

 

 アホなこと言った部下を叱責する課長に、おずおずと別の部下が質問した。

 課長は煙を吐きながら冷静に対処を指示。

 

「とりあえず、動物園か保健所、なんでもいいからこのゴリラを処理できるとこに連絡取ってこい。あと、マスコミに嗅ぎ付けられないようにしろよ? ゴリラを留置所に入れたなんて取り上げられたら、俺ら警察は世間様からいい笑いもんだ」

「課長ぉー!!」

 

 と部下が叫ぶ。

 

「誰かがツイッターにゴリラがいることを写真付きでアップしたらしいです!! すでにマスコミが警察署前まで押しかけてます!!」

「どこのバカッターだぁぁ! そんなことしやがったのはぁーッ!!」

 

 課長の怒鳴り声をかき消すほど、警察署前にはマスコミが殺到し、我先にとスクープを撮ろうと躍起になっていた。

 

 

 

『ご覧ください! 今、ツイッターで留置所内にゴリラがいたという書き込みがあり、現在多くの取材陣が押しかけています!』

 

 液晶テレビには、実況するレポーターと、その後ろには多くの取材陣がところ狭しと集まっていた。

 そんな映像をソファーに座り、ジュースを飲みながら見ていたフェイトは後ろに顔を向ける。

 

「ぎんときー。今、けいさつってところにゴリラがいるらしいよ」

「えッ? マジで?」

 

 ソファーでだらしなく開いたジャンプを顔に掛けていた銀時は、上体を起こす。

 

「うん。いま、騒ぎになってる」

 

 フェイトに言われ、顎を撫でながらテレビの映像をマジマジと見る銀時。

 

「へ~……俺の世界にも、警察の局長とストーカーを兼任してるゴリラがいるんだが、この世界にも逮捕されるゴリラがいるんだなー」



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第二十二話:喧嘩するほど仲が悪い

最近ちょっとモチベーションが保てなくて中々投稿にこぎつけなくなってしまっています。
気分転換に暇な時間にゲームしてたらいつの間にかあっという間に時間が過ぎていく……。


「ゆ、ユーノくん。レイジングハートが、フレイアさんやホワイトさんを作った人に作られたって、ホントなの?」

 

 頭に疑問符を浮かべてユーノに質問するのは、なのは。

 驚いてはいるが、少女としては別にレイジングハートが何者の製作物でも、本体である彼女に問題がない限りは特に気にしてはいない。

 とはいえ、興味本位の側面も大きい。なにせレイジングハートと違い、同じ人間に作られたであろうフレイアとホワイトは人工知能という感じが薄いからだ。

 

 質問に対し、ユーノは首を横に振る。

 

「僕もレイジングハートがどこで作られたのかは知らないんだ。偶然、僕が遺跡で発見したデバイスだから」

「じゃあ、レイジングハートもエンシェントデバイスってことなの?」

 

 アリサが問えば、

 

《いえ違います。私は列記としたインテリジェントデバイスです》

 

 とレイジングハートは否定。

 

「そ、そうなんだ……。でも、同じ人から作られたんだよね?」

 

 なのはは少し戸惑いながら新たな質問を投げかけた。それに対し、

 

《えぇ。たしかに、そこのうるさい小娘と同じ方の下で、私は作られました》

 

 若干苛立たし気な声でレイジングハートは答える。

 なのはは「へ、へー……」と汗を流す。

 

(あれ? なんか普段のレイジングハートが言わないような単語を聞いたような……)

 

 ユーノもまた、なんか急に口が悪くなったデバイスに汗をダラダラ。

 

《やっと喋ったと思ったらいきなり罵倒ですか? 相変わらず気難しい人ですね》

 

 フレイアが口を尖らせれば、

 

《――死ね》

 

 と、レイハさんは殺意たっぷりに言う。

 

「死ねッ!? 今、レイジングハートはっきり『死ね』って言ったよね!?」

 

 となのははビックリ。

 

「ど、どうしたんだいレイジングハート!? 普段の君なら絶対言わない単語だよ!」

 

 ユーノは突然の死ね発言に狼狽える。なのは以上に、普段のレイジングハートを知っているからだろう。

 

 なんか様子のおかしいレイジングハートの姿に、不穏な空気を感じ始める新八や土方や山崎。

 だが、フレイアはレイジングハートの雰囲気などつゆ知らず、嫌みったらしくグチグチと、

 

《まったく、無駄に年取ってるからそういう気難しい性格になるんですよ。あ~、やだやだ。これだから『オバサン』は。ぶっちゃけ、性能とかも後継機である私の方がー、優秀なんですからー、はっきり言って嫉妬とか~――レイジングハートちゃまはお歳に似合わずかわいいでちゅねぇ♪》

 

 ブチっとレイジングハートから決定的な何かがキレる音がした。

 

《あー……そういうこと言うんですかー……。私より少し後に生まれただけというのに、そういうこと言っちゃうんですかー……わかりましたー……。――ではマスター》

「は、はい!」

 

 となのはは反射的に背筋を伸ばす。

 語気は強くなくとも、言葉に凄まじい覇気を纏わせるレイジングハートは、

 

《あなたの魔力で、そこの虫唾の走る羽虫を消し炭にしましょう。大丈夫です。あなたの素晴らしい魔力なら一片の欠片も残さず消去できます》

「ええええええええええッ!?」

 

 まさかの提案になのはは大量の汗を流して驚く。すると、フレイアは喧嘩腰になって声を荒げる。

 

《やれるもんならやってみろコラァー!! あなたのヘナチョコ弾なんて全部避けてやりますよ!!》

《上等だゴラァ!! テメェの歪んだその性根、叩きなおしてやらァ!!》

 

 とキレるレイハさん。

 

「ちょっとォー!? フレイアさんはともかく、レイジングハートさんの性格が思いっきり崩壊してるんですけどォ!? なにこれどゆこと!?」

 

 新八は引くほど超ビックリ。

 

「しかも、わたしもさり気なくバカにされてる……」

 

 なのはに至っては、レイジングハートの弾=自分の弾がヘナチョコだと言われて落ち込む。

 

 売り言葉に買い言葉。ヤンキーみたいな凄みのある喋り方するレイハさん。

 

 沖田と神楽以外の面々は口をポカーンとさせ、二機の口喧嘩に唖然としていた。

 フレイアは軽口をさらに加速させる。

 

《私は自分一人でも空飛んで動けますけどー、レイハさんは一人では飛べもしないし動けもしないじゃないですかー! 使う人間がいなきゃ、魔法も使えないあたなははっきり言って無能なんですよッ!!》

「いや、あんたも空飛べて羽動かす以外特になにもできないわよね?」

 

 冷めた目のアリサはやんわりツッコミ入れる。

 

《そんなことありません! 私だって羽を生やして飛ぶくらいお茶の子さいさいです!!》

 

 レイジングハートはそう言って、妖精のようなピンクの羽を左右に二枚出現させて飛び上がった。

 

(えッ!? できるの!?)

 

 となのはは内心ビックリ。

 すると、対抗心むき出しでフレイアが空中に浮かぶ。

 

《なーに偉そうに言ってんですか!! 私だって飛べるんですから!! 同じスタートラインに立ったくらいで、いい気にならないでくれませんか!!》

 

 くッ! この!、ああん? やんですかコラ! と、ガツンガツン!! と自身の体を使って体当たり勝負始める二機のデバイス。

 

「れ、レイジングハート!」「なにやってんのあんた!!」

 

 なのはとアリサは慌てて、飛んでいる自身のデバイスを両手で捕まえた。

 いきなりアクセサリーのような物が飛んだ事に反応している人がいないか、二人は慌てて周りを確かめるが、運良く驚いた表情をしている人も、こちらを見ている人も、誰もいない。

 

 主の手に捕まった二機はそれでも喧嘩を止めず、相手を睨むように光を発し続ける。

 そんな光景を、頬を引き攣らせながら見ていた新八は、すずかの手にあるホワイトに視線を向けた。

 

「……あ、あの、ホワイトさん……。なんであの二人っていうか、二機はあんなに――」

《不仲か? ってことですか?》

「え、えぇ……」

 

 自身の言わんとしていることを先に言われて新八は頷き、更に質問する。

 

「映画を見た限りだと、レイジングハートさんてあんな性格じゃありませんでしたよ?」

《以前に新八様が見せた映画の内容はともかくとして、私としても普段のレイジングハートさんはあんな性格ではないことは知っています》

 

 とホワイトが答えれば、

 

「つまりあの生意気なデバイスが相手の時だけ、あんな風になるんだな?」

 

 確認する土方。

 

《ええ。その通りです。私の時は基本的に誠実な態度を崩しませんから》

 

 肯定するホワイトの言葉に対し、信じられないと言わんばかりの新八。

 

「あそこまで色々言われたら分からなくもないですけど、あそこまでキャラ壊すほどなんですか?」

 

 すると、雪の結晶型のデバイスは言いづらそうに答える。

 

《……妹であるフレイアは、主に仕える者としての礼節や言葉遣いにその……色々と問題があるので……》

「あぁ……。同じでデバイスとして、ああいう態度は見過ごせず、だから気に入らないってことですか?」

 

 納得して首を縦に振る新八に、ホワイトは「ええ、まぁ……」と曖昧な返事を返す。

 

《ただ、フレイアも最初の頃に比べると、態度は大分マシになったんですよ》

「アレで!? アレでマシな方なんですか!?」

 

 驚愕する新八。対し、ホワイトは思い出すように語りだす。

 

《正直、フレイアと最初に会った時はレイジングハートさんも、あそこまで攻撃的ではありませんでした。ですが――》

 

 

 ――レイジングハートさんは私たちより先に作られ、ほどなくして、私とフレイアがエンシェントデバイスとして作られました。

 ――一応わたしたちよりも先に作られたレイジングハートさんは先輩、もしくは姉という立場になります。それを意識してでしょうか……。

 

《エンシェントデバイスのホワイトです。よろしくお願いします》

《インテリジェントデバイスのレイジングハートです。よろしくお願いします。もし、何か聞きたいこと、相談事があれば気兼ねなく言ってください》

《ええ。ありがとうございます》

 

 ――経験者、もしくは年長者としての態度で接してくれました。まぁ、デバイスである私たちには、言葉遣いから礼節としての知識はデータとしてインプットされているので、教えられることなどはなく、特に問題はありませんでした。

 ――人型の融合騎はともかく、アイテム型の私たちの性格など五十歩百歩。長年主に仕えてきたデバイスを除けば、特に差異はないのです。

 ただ妹の方は……。

 

《あなたがエンシェントデバイスのフレイアですか。私はインテリジェントデバイスのレイジングハー――》

《あッ! あなたがレイジングハートさんですか? チッスチッス! 私、エンシェントデバイスのフレイアでぇ~す♪ 気軽にフレイアちゃんて呼んでくださいね♪ きゃッ☆ レイジングハートさんて名前長いですし、レイハさんて呼んでいいですか? あッ、空飛べますかぁ? わたしは飛べますよ? ホラッ! あ、レイジングハートさんて〝まだ〟飛べる機能実装されてませんでしたっけ? あッ! それとですねぇ――》

《………………》

《あれ? な~んで、だまりんこしてるんですか~? 私に何か不満ありますか~? 不安ありますか~? なんちゃって! ……ちょっと~、無視しないでくださよ~。私これでも寂しがりやなんですよ~? うさぎちゃんみたいな? キャッ♪ 言っちゃった! 恥ずかしい!(笑) あれ? ホントに聞いてます? ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?  ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?  ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?  ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?  ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?  ねぇ? ねぇ? ねぇ? ねぇ?――》

 

 

「「「うぜェェェェェェェッ!!」」」

 

 ホワイトの話を聞いていた新八と土方とアリサは、我慢できずに思わず声を上げた。

 新八は目を瞬かせる。

 

「なんですかその学校に一人はいそうな、のべつ幕なしに喋るウザイ後輩みたいな感じ!! 本当に生まれた頃のフレイアさんてそんなんだったんですか!?」

「マジで今の方がマシだったんだな……」

 

 土方は唖然とした表情。

 そしてまたホワイトは過去の話に戻る。

 

《最初の方は戸惑いながらも、レイジングハートさんもコミュニケーションを取りながら、フレイアの言葉遣いや態度を直そうと頑張っていたんですが――》

 

 

 ――先に声をかけるのはいつも妹のフレイアで、

 

《あッ! 私またバージョンアップされたんですよ!! そういえば、レイハさんは〝まだ〟改装も何もされてないって言うじゃないですかぁ~。大丈夫ですかぁ? すみませんね~。私やホワイトちゃんばっかり性能上がっちゃって~。そうそう、私前にこっそり『     』さんのマンガを見たんですけど、それがやたら面白かったんですよねぇ。あッ、テレビ見ました? 今週のドラママジで面白かったですよねぇ! まさに笑いあり涙ありでぇ――》

 

 レイジングハートは捲し立てるフレイアに、ちょっと何かを我慢したような声で。

 

《……フレイア。私たちデバイスは(マスター)である魔導師がいなければ、何もできない身。そのような態度では例えあなたの(マスター)になる方が見つかったとしても、あなたがそうでは、使ってもらえない――》

《ああ~、そういうメンドクサイ話はいいんで。だいじょーぶですよだいじょーぶ。私ぃ、レイハさんと違って性能が段違いですから! やろうと思えば飛んで行って私の(マスター)となる方を見つけることもできるし! むしろレイハさんのような妙に堅苦しい態度の方が、〝ウザがられますよ〟?》

 

 ウザがられるますよ、ウザがられますよ、ウザがられますよ、ウザがられますよ、ウザがられるますよ、ウザがられますよ……。

 レイジングハートの頭の中で「ウザがられますよ」という単語が何度も反復する。

 

 ブチッ!

 

 赤い宝石型のデバイスの中で、決定的な何かがキレた。

 

《ファッキン!!》

《……へっ?》

 

 フレイアは唖然とした声を出し、ちょっと動揺しながら尋ねる。

 

《ど、どうしましたかレイハさん?》

《テメェ黙ってきてりゃぁ付け上がりやがって!! いい加減しろよコラァ!!》

《ちょッッッ!? 一体全体どうしたんですかレイハさん!? そんな不良みたいな言葉遣い!? 普段のあなたらしく――!》

《普段の私ぃッ!? 普段の私の態度さっき否定したテメェが言えたセリフかゴラァ!! 飽きもせずベラベラベラベラ喋りやがって!! テメェのようなわがまま娘のハナシ聞いてるこっちの身にもなりやがってください!!》

 

 すると、慌ててホワイトが止めに入ろうと、

 

《レイジングハートさん落ち着いてください! 今すぐ博士見てもらいましょう! 今のあなたは明らかに異常をきたしています! とにかく落ち着いて――!》

《ホワイトは黙ってなさい!!》

《は、はひッ!!》

 

 レイハさんに気迫に、ホワイトは完全に恐怖で固まる。

 今度はフレイアが声を震わせながら言う。

 

《ま、まぁまぁ……。お、落ち着いてくださいよレイハさん。フリーズフリーズ。一回深呼吸して落ち着いて私の話を――》

 

 無論レイハさんは止まらない。

 

《もうあなたの話なんて聞きたかないんですよこっちは!! 毎日毎日自慢話ばかり! いつもここでじっとしているだけの私の身にもなってください!!》

《そ、そりゃぁ、インテリジェントとして完成しているレイハさんより、まだまだ改造の余地ありの私の方が色々とバージョンをアップされるのはとうぜん――》

《うるせぇぇぇぇ!! 私以上に使い手が限定されるくせに偉そうなこと言わないでください!!(涙)》

《カッチーン(怒) 今のはさすがに頭にきました。えーえー。私は確かに相性の合う人間がいるかどうかすら分からない扱い難さ№1のデバイスとさえ『     』さんに言われましたよ!! あなたはイイですよね! 相性の合うマスターが見つかる可能性は私よりずっと高いんですから!! それに例えいなくても、百パーセント性能をフルに使うことはできなくても、ちゃんと使用することはできるんですからね!!》

 

 そして喧嘩はエスカレートし……、

 

 あなたのやっかみなんてこっちは知りたくもない!!、ああん? 私の悩み全否定からコラ!、うっせぇ黙れクソデバイス!、黙れババァ!、シネクソアマァ!!――。

 

 

《とまぁ、レイジングハートさんがキレた辺りから、二人の仲は加速度的に悪くなっていき――》

 

 そこまでホワイトの言葉を聞いてから、まだ口喧嘩続けている二機を呆れた目で見る土方。

 

「今ではアレか……」

 

 一通り過去を話したホワイトは説明を続ける。

 

《とは言え、フレイアも別に悪気があって喋ってるワケではないんです。ただつい、自分の思っていることをすぐ口に出してしまう性格な上に、お調子者なので……。それにあの子なりに、レイジングハートさんと仲良くしようとしていたようなんです》

「今は犬猿の仲って言葉がピッタリってくらい、敵対心すごいけど?」

 

 と、半眼のアリサが言う。

 

《さすがに、自分を嫌い嫌い言ってる相手に好意を持ち続けられませんから》

 

 とホワイトは言う。

 

《それに、レイジングハートさんも性格上、あの軽い性格のフレイアとはあまり合わないようです》

 

 ホワイトの説明を聞いたアリサは、口喧嘩続けるレイジングハートとフレイアと交互に見て、呟く。

 

「なんか……お調子者の後輩と、生真面目な先輩って感じね」

「あー、性格が真逆だから全然そりが合わない人たちって、いるよね」

 

 新八はうんうんと頷く。

 

《デバイスである私たちには不釣合いな言葉かも知れませんが、時を重ねてフレイアも成長はしていたんです。少しは相手の気持ちを考えたり、会話を一方通行にさせないようにはなってきたんですが……やはりまだまだ成長途中で……》

 

 なんやかんやで妹にフォローを入れる姉デバイスに、ユーノは苦笑しながら同意を示す。

 

「ま、まぁ、人(?)それぞれだと思うよ、そこら辺は。あと、聞きたいんだけど……レイジングハートにもやっぱり製作者に関する記憶は――」

《さきほどの話でも分かる通り、フレイアが言った製作者の名前だけが、私の|記憶《メモリからもすっぽり抜け落ちた状態です。私たちがこういう状態である以上、レイジングハートさんも同じ状態でしょう》

 

 とフレイアが説明すれば、

 

「どうなんだい? レイジングハート」

 

 ユーノは赤い宝石型のデバイスに顔を向けた。レイジングハートは、一旦フレイアとの口喧嘩を止めて答える。

 

《……えぇ。私にも製作者の記録は存在しません。正直、皆さんが知りたいであろう情報はほとんど無いに等しいかと。お役に立てず、申し訳ございません》

「ううん。気にしないで、レイジングハート」

 

 なのはは優しい言葉をかけてフォローする。が、レイジングハートと仲悪いデバイスはそうではなく、

 

《プププ! マスターにご迷惑かけて~、情けないですね~》

 

 と煽るので、レイハさんは『うるさい黙れ!!』と怒りを露にする。

 

「つうか、あんたも人のこと言えた義理じゃないわよね……」

 

 アリサはフレイアの言葉を聞いて、色々と自分を引っ掻き回しているデバイスの所業を思い起こす。

 話を聞いていた土方はタバコの煙を吐く。

 

「まァ、とりあえずそこのお喋り機械(カラクリ)どもの話は先送りでいいだろ。話を聞く限り、使用者限定されるだけで、害があるってワケでもなさそうだしな」

《その通りです! むしろお得なことばかりなんですから!》

 

 フレイアはえっへんと胸を張るが、

 

《どうせ威張るほどのことでもないでしょうに》

 

 とレイハさんは揚げ足取り。

 

《なんですと?》

 

 とフレイアは喧嘩腰。

 

「とにかくッ!」

 

 またしても邪険な雰囲気を出す二機の喧嘩止めさせる為に、土方は一際大きい声を出してから話す。

 

「今問題なのは、今後の方針だ」

「っと、言いますと?」

 

 片眉を上げる沖田の疑問に、土方は答える。

 

「俺たちはこれから先、ジュエルシードがいつ、どこで、どんな風に発動するのか正確に把握していない」

「なに言ってるアルか。映画見れば、そんなの丸分かりネ」

 

 神楽はさも当然とばかりに言うが、土方は首を横に振った。

 

「いくらなんでもアレじゃ大雑把過ぎだ。時間と日付がいちいち表示されてるワケでもなし、この辺の地理に詳しくねェ俺たちじゃ場所を特定するのだって骨だ。その上、描写されずに封印されてるモンだってあんだぞ」

 

 安直な考えの神楽に頭痛を覚える土方。

 いくらストーリーを知っているといっても、アニメだけではどうしても色々と情報は不足してしまう。

 

 すると、おずおずとなのはが手を上げる。

 

「あの、場所に関しては私たちの街なので、じっくり映像を見れば、たぶん特定できると思います」

「時間はともかく、どこにあるかくらいは、あたしたち三人で見てけばなんとかなるんじゃないかしら?」

 

 とアリサが言えば、

 

「うん。そうだね」

 

 と頷くすずか。続いてユーノも提案する。

 

「あ、それなら僕も映画の続きを見せてくれませんか? これから先、どうなるか知っておけば色々と対策もできますし」

 

 「いいのか?」と言って土方は目を細め、忠告するような口調で、

 

「見ちまった俺たちはともかく、お前たちはまだ映画の途中の部分だ。あれから先を見るってことは、未来の全容を見るのと同義だ。はっきり言って、お前たちにとっては色々とショッキングなモノも多いぞ。それでも構わないのか?」

 

 土方の言葉に対して、真剣な面持ちで首を縦に振るユーノ。

 

「えぇ。確かに未来の全容を知るというのは、ズルいことかも知れません。ですけど、これから起こるかもしれない被害を最小限で防ぐことができるなら、見る必要があると思うんです。僕の勝手な考え方かもしれません。ですけど、悪い事を防げるなら、それに越したことはないと思うんです」

「なるほどな……」

 

 と土方は顎を撫でる。

 

「でも、あの映画の中に誰かの秘密やプライバシーなど知ってしまう場面があるなら、それは見せないようにしてくれませんか? いくらなんでも、他人の秘密まで見てしまうのは、おこがましいと思うので」

 

 ユーノの言葉を聞いて、なのはは少し顔を暗くして俯いてしまう。なにせ彼女は、ユーノの言う誰かの秘密やプライバシーといったモノを覗いてしまった一人なのだから。

 

 なのはの雰囲気を見て、ユーノは察したようだ。

 

「あっ、な、なのは……そ、その……」

 

 これから必要な部分だけを切り取って知ることのできる自分と違って、すべてを見てしまい、今でも罪悪感を感じている少女にどう声をかけていいか分からないであろうユーノ。

 

 するとここで、業を煮やした神楽が喋りだす。

 

「ああもう! かったるいアルな! ならユーノもアリサもすずかもこれから映画のストーリーを全部見ればいいね!!」

「ええええっ!?」

 

 とユーノは驚き、戸惑う。

 

「で、でもそれは――!」

「なにを見てなにを感じようと、そんなもん声にも表情にも出さなければいいだけアル!!」

「いや、神楽ちゃん。人間である以上、いくらなんでもそんなの無理だって」

 

 と言う新八の意見に、神楽は強く反論する。

 

「そんなのやってみなくちゃ分からないアル!! ようは誰にも話さず、見たこと聞いたこと全部自分の中にしまって、後はどう動けばハッピーエンドになるか考えればいいだけの話アル!」

「いやいや、論点ズレてるから!」

 

 と新八は片手を振って否定し、言う。

 

「だから、本人の許可とか得ずに勝手に他人の秘密を知っちゃうのがマズイってことなの! 別に未来どうこうの話じゃなくて!」

「そりゃ、映画見たらフェイト秘密を知ってしまうネ! でも、フェイトは良い奴ネ! 私はフェイトを助けてやりたいって思ったアル!」

「いやだから! 前にも土方さんが似たようなこと言ったでしょ! それは作品を見て、共感やら同情やらして助けたいと思った僕たちの抱くのぼせ上がった考え方であって、本来は事件にもまったく関わってない僕たちがフェイトちゃんを助けようって言うのは、おこがましいことなんだよ」

「そんなことないアル! なのはたちに今こうして触れ合って話して仲良くなっているネ! 私の友達ネ! そんな私たちはまだ無関係だって言えるアルか!」

「神楽ちゃん……」

 

 なのはは、自分の肩に手を置いて真剣な眼差しを向ける神楽に対して、目を潤ませる。彼女の真摯な言葉を聞いて、つい嬉しくなってしまったのだろう。

 

「……そりゃ、今の僕たちはなのはちゃんたちとは友達だよ?」

 

 押され気味になるが、新八は反論は続ける。

 

「だけど、別にフェイトちゃんと友達ってワケじゃないでしょ? 神楽ちゃんは……。そりゃ、僕だってフェイトちゃんの為に何かしてあげたいとは思うけど……」

 

 すかさず神楽は捲くし立てた。

 

「別に悪いヤツ助けようってワケじゃないネ! フェイトが良い奴ってだけで、充分なにかしてやる理由にはなるネ! 良い奴が不幸になっているとこを見て、助けようと思うのは、そんなにいけない事アルか!? なにより、助けるだけの力持ってる私らが何もしないことの方がダメなことなんじゃないアルか!!」

「い、いや、そのそれは……」

 

 新八は口ごもってしまう。

 言いたいことも分からんでもないし、納得はできる。が、さすがに冷静に考えると言ってること感情論バリバリなもんなので、色々ツッコミたいところはある。なのだが、神楽の気迫が凄いあまり、反論の言葉が中々口から出てこない。

 

 やがて新八は、一回自分と神楽を諭した土方に目を向けた。新八の視線に気付いたであろう土方は、ため息を吐く。

 

「まー、イイんじゃねェか。好きにやりゃせりゃあ」

「土方さん!?」

 

 まさかの言葉に新八は驚き、土方は腕を組んで言う。

 

「人間の行動なんて行き着くとこは結局感情がほとんど。それに、なのはを助ける上でも、事件なんとかする上でも、あのガキの事情も色々組み入れる必要はあるしな」

「結局のところ、俺たちが口にチャックしとけばいいだけの話だしな」

 

 沖田は口にジッパーを閉める仕草をする。

 

「沖田さんまで……」

 

 まさか、介入否定派だった二人からこんな意見が来るとは思わなかった新八。確かにあの時とは状況が変わり、今は自分たちも事件の解決に尽力しようとは決めたのだが。

 土方は腕を組んだまま、話す。

 

「最終的にどんな事を知ったとしても、ちゃんと自分の中に留めておき、なおかつ感情だけで突っ走らねェって覚悟があるなら、俺はお前たちが映画を一通り見ようと止めはしねェよ。まァ、見ちまった俺が言えた義理でもねェがな」

 

 土方の言葉を皮切りに、俯いて不安げな表情を作るアリサとすずかとユーノ。

 今になってあらためて、安易にこの先の未来を見る事について悩んでいるのだ。

 

 だがしばらくして、三人は顔を上げて決意に満ちた表情を作る。

 

「あたし、見る」

 

 アリサは握り拳を作り、

 

「どうせ悪いことが起こるって言うなら、それをなんとかするために知ることは必要だし。それにこれから先の出来事を知るなんて、早いか遅いかの差よ。じっくり自分の中で受け止めるわ!」

「私も……まだ不安な部分はあるけど、知ったとしても、損なことはないと思う」

 

 すずかも決意の籠った表情で言えば、

 

「僕にも責任はあります。だからこそ、この先の被害をなくす為に躊躇なんかしてられません。どんな事実が待っていたとしても、受け止めなければならないと思うんです」

 

 最後にユーノが力強く決意の言葉を口にした。

 三人の言葉を聞いて、土方はタバコの煙を少し吐く。

 

「そうか。まぁ、そこまで言えんなら大丈夫だろ」

 

 するとユーノがあることを思いつく。

 

「あと、これは僕の想像なんですけど、あの映画の内容とは違う未来になっていくと思うんです。新八さんたちの介入もそうですけど、アリサさんやすずかさんがデバイスを手に入れ、魔法を使ってなのはを助けた。既に歴史は違う方向に向かっていると思います」

 

 ユーノ推論を聞いて、顎に手を当てる土方。

 

「確かにその意見は一理あるな」

「たぶん、あの映画は参考程度のモノと考えていいかもしれません」

「まァ、そこは仕方ねェだろ。むしろ映画通りにこれから話が進む方が、虫の良い話だな」

 

 土方はそう言って席を立つ。

 

「とりあえず、また映画鑑賞――」

 

 そう土方が言いかけたところで、

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 『あるモノ』を察知した、なのはとアリサとすずかとユーノ。四人はある方向に視線を向けた。

 

「ど、どうしたの? なのはちゃん?」

 

 突然様子のおかしくなった四人に対して、新八は戸惑いながら声をかける。

 ユーノは声を震わせながら、

 

「た、大変だ……」

「えっ?」

 

 なんのこと? と新八は首を傾げる。

 

「おいまさか……」

 

 対して、ユーノ様子から土方は何かを察したようだ。

 そしてフェレットは、呟くように声を出す。

 

「ジュエルシードが発動した。しかも――」

「ふ、副長ォ……」

 

 言葉の途中で、山崎の情けない声。

 

「なんだ山崎?」

 

 なぜか青ざめた顔で話しかけてくる山崎に、土方が顔を向ける。

 

「あ、アレ……」

 

 山崎は震える指で後方を指さす。

 

「アレ?」

 

 土方が街中を指す山崎の指先を追うように、顔を振り向けた。そして、その目に映ったのは――、

 

「ウホォーッ!!」

「ギャオォーッ!!」

「キュゥーッ!!」

 

 怪獣のようにデカいゴリラと、デカいトカゲと、デカい蛾が、街中で大きさ相当のこれまたデカい鳴き声上げていた。

 そんな光景を見た土方はポロリとタバコを口から落とし、他の面々も唖然。

 

「――三つもジュエルシードが発動している……!」

 

 とんでもない光景に汗を流すユーノだった。



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第二十三話:熱戦吐く怪獣と良い勝負したゴリラはまさにキングオブゴリラ

 とある道では、二足歩行で歩く緑色のトカゲのような人形を持った男の子が、道に落ちていた青い宝石を拾った直後、その宝石は光だす。

 そして光が収まるとそこには、

 

「グルルルル……」

 

 全長五十メートル近くもある巨大なトカゲのような怪獣が現れていた。

 

「ギャオオオオオオッ!!」

 

 怪獣の凄まじい咆哮を聞いた子供は、泣きながら一目散に逃げ出してしまう。

 

 

 

 とある森の中では、蛾が地面に落ちた宝石の上に乗ると、その蛾は光に包まれる。

 そして光が収まればそこには、

 

「キュゥー!」

 

 巨大な蛾の怪獣が出現していた。

 鳴き声を上げると同時に羽を羽ばたかせ、空に上昇する蛾の怪獣。

 

 

 

 そして留置所……。

 そこにはゴリラが現れたという情報を聞きつけ殺到したマスコミと、警察に呼ばれてやって来た保健所の人間やら動物園の人間やらが、武装をしてやって来ていた。

 檻の中にいるゴリラに麻酔銃を構える部隊。

 

「撃てぇ!」

 

 その言葉を合図にゴリラに向かって麻酔銃が放たれる。

 

「ウホォッ!!」

 

 麻酔銃を撃たれたゴリラは悲痛な叫び声を上げるが、次の瞬間、

 

「ヤメロォッ!!」

 

 なんと喋ったのだ。はっきり「やめろ」と意味のある単語を。それを聞いた人間たちは唖然とし、麻酔銃を撃つことさへ忘れてしまう。

 そしてゴリラは麻酔銃を撃たれても、眠らないどころか興奮して暴れだす。

 

「ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ! ヤメロ!」

 

 なんども叫び声を上げながら檻を凄まじい腕力でこじ開け、そのまま銃を構えている人たちを千切っては投げ、千切っては投げと言った具合に蹴散らしていく。

 その様子を見ていた警察官の課長は、思わずある言葉を発する。

 

「猿の惑星ライジング」

「課長、それもうネタ古いっす」

 

 と部下。

 課長はゴリラパンチにノックアウト。

 暴走したゴリラはそのまま留置所から飛び出す。

 

「きゃあああああああッ!!」

「うわあああああああッ!!」

 

 突如現れたゴリラに驚いたマスコミ陣は一目散に逃げていく。

 

「グウォォォォォォッ!!」

 

 そしてゴリラは自身の怒りを表すかのように胸を叩き、ドラミングを始める。するとゴリラの体は光に包まれ、どんどん巨大になっていく。

 

「ウッホォーッ!!」

 

 そして最後には、体長五十メートルという怪獣サイズの大きさまでになったのだ。

 

 

「ゆ、ゆゆゆゆゆユーノくん!! 結界!! 早く結界を張って!!」

 

 いきなり三大怪獣の登場に唖然としていた新八だったが、すぐに我に返り、慌ててユーノに結界を催促。

 呆然としていたユーノも新八の言葉で我に返る。

 

「はッ、こ、こういき――!」

 

 魔法関係者と自身が許可した人だけを除く、全ての人間に何も認識させず、進入もさせない人避けの結界を張ろうした時だった――。

 

 

 折角の有給休暇。

 俺はブラリと外食しようと外出し、新鮮な空気を吸って暖かい日差しを浴びながら歩いていた。そしてふと、道端に青い光る宝石のような石が落ちていたのに気付く。

 これは運がいいぞ、と思った俺。少し幸福な気持ちを感じながら、近くのレストランに到着。

 

 その時だった――。

 

 まさかの怪獣の登場。その圧倒されるほどの巨大な体躯に恐怖する俺。

 今でも大好きな特撮の存在が目の前に現れたことに対して、憧れではなく恐怖しか生まれてこない――っと感じていたが、俺の心の中のどこかには少なからず、一つの願望もまた、湧き上がっていたのだ。

 ヒーロー――昔見た、銀色の巨人に変身してヒーローになりたいと……。

 その時、俺が手に持っていた青い石が光を放ち、俺の視界は光に包まれた――。

 

 

 

「ジュワッジッ!!」

 

 突如として今度は、銀色の巨人が右腕を伸ばして空から登場。

 

「「「「「「なんか出たァァァァァァァッ!?」」」」」

 

 まさかの巨人の登場に、驚愕する面々(沖田と神楽以外)。

 

「ヘアッ!!」

 

 街中でファイティングポーズする銀色の巨人の声を聞いて、三対の怪獣の視線が一気に巨人へと向く。

 

「ギャオオオオオオオオッ!!」

「グオオオオオオオオオッ!!」

「キュゥ~ッ!!」

 

 銀色の巨人を見た三対の怪獣は同時に雄叫びを上げる。

 

「ま、まさか……結界を発動する直前に、新たなジュエルシードが発動するなんて……」

 

 ユーノはまさかの展開に呆然と汗を流す。これで今、発動しているジュエルシードは合計四つとなったのだ。

 

「って言うかアレ……」

 

 汗を流す新八は怪獣たちを指でさす。

 

「思いっきりゴジ○とモス○とキング○ングとウルト○マンにそっくりですよねェ!! 特撮界のスターのパチモンが揃い踏みじゃないですか!!」

「ならとりあえず、まずは名前付けてやらないとな」

 

 と呑気に沖田が言えば、

 

「いや、そんなことしてる場合ですか!! 僕の結界は人に影響が出ないだけで、周りの建造物は壊れたらそのままなんですよ!!」

 

 いくらなんでも事態の深刻さを軽視しているとか思えない沖田の態度に、さすがのユーノも怒鳴った。

 だが怒鳴られた沖田には少しも反省の色はなく、淡々と語る。

 

「いいか? 特撮界のお決まりとして、やっぱ怪獣の命名は必要なんだよ。視聴者も分かりやすいしな」

「いや、この作品小説! 特撮じゃねェから!!」

 

 ツッコム新八を無視して、沖田は怪獣を指さししながら命名していく。

 

「じゃあ、あのトカゲはジラだな」

「わー、マグロ食ってそうな名前」

 

 新八は反射的にツッコム。それから沖田の命名が続く。

 

「あの蛾はモスで、あのゴリラはキングゴリラだ」

「ゴリラの方はダサしい語呂わるッ……!」

「そんであの巨人はウルトラマソ」

「なんて言うか、どいつこいつもパチモン邦画みたいな命名しますね。いやまー、それでいいんでしょうけど」

 

 脱力気味の新八がコメントしている間に、怪獣たちは動き始める。

 

 まず巨大な蛾の怪獣が銀色の巨人に向かって飛翔し、それを巨人は寸前で避けるが、トカゲの怪獣がすかさず巨人に向かって光線を口から放射し、攻撃を受けた巨人はそのまま背中から地面に倒れてしまう。

 そして巨大ゴリラが銀色の巨人の上に乗ってマウントポジションを取り、顔にパンチのラッシュを叩き込む。

 すかさず巨大トカゲが巨人の足を踏みつけ、巨大蛾はその上空を回りながら鱗粉をまき散らす。

 

「なにしにきたのあの人!?」

 

 あっさりピンチに追い込まれている正義のヒーロー的なポジションを見て汗を流す新八。

 フルボッコにされる巨人を哀れそうに見る土方、アリサ、沖田

 

「あの巨人、思いっきり怪獣の敵って認識されたな……」

「今まで散々怪獣を倒してきた報いってやつかしらね……」

「アレが俗に言う怪獣リンチってヤツか」

 

 他の面々も三人のように巨人に同情の視線を向けていた。

 

「いやなに冷静に見てるんですか!?」

 

 とユーノはツッコム。

 

「あの三匹が巨人に気を取られている間に早く封印しないと! 今度は街に多大な被害が!!」

 

 ユーノの声を聞いてはっと我に返る魔法少女三人。

 

「そ、そうだった! レイジングハート!!」

「う、うん! 早くなんとかしないと! エンシェントホワイト!」

「もちろんよ! エンシェントフレイア!!」

 

 レイジングハートを手に掲げてバリアジャケットを展開するなのは。続いてアリサとすずかもバリアジャケットを纏う。

 光に包まれた三人は特徴的な衣装を身に纏い、その手には変形した自身の相棒が握られていた。

 

「ユーノくん! 私たちはどうすればいいの!」

 

 なのはの問いを聞いて、ユーノは上空の少女を見上げる。

 

「なのはは空を飛んで隙を伺って、前にやった封印砲撃をあの三匹たちに向けて撃ってッ!」

「わかった!」

 

 なのはは力強く頷く。

 

「でも、あの三匹や巨人はたぶん人間や生物を取り込んでいるはずだから、ジュエルシード単体の思念体よりも手強い!! 前に戦った思念体よりも封印するのは難しいと思う!!」

「なら、具体的になにをすればいいの?」

 

 ユーノは自身の魔法に関する知識を使ってアドバイスを続ける。

 

「より強い魔力を込めるんだ! ただ無闇に攻撃を当ててもたぶん効果は薄いと思う! よりジュエルシードが近い箇所に砲撃を当てるのが効果的なはずだ!!」

「わかったの!!」

 

 返事をしたなのはは、靴に妖精のような桃色の羽を左右四枚展開させ、上空に飛び上がった。

 ユーノはより声を大きくして、

 

「僕はここで状況を観察しながら念話で指示するから!!」

 

 うん! となのはは頷いてから、凄まじいスピードで怪獣たちの元まで飛行。

 なのはの後を付いて行こうとするアリサは、ユーノに尋ねる。

 

「ユーノ! あたしとすずかはどうすればいい!?」

「僕は二人のデバイスの特徴をあまり知らないから、デバイスの指示に従って行動して!! フレイア! ホワイト! アリサとすずかをちゃんとサポートして!!」

《な~に当たり前のこと言ってるんですか!!》

 

 と答えるフレイアに続いて、ホワイトも静かに言う。

 

《言われなくてそのつもりです》

 

 二機のデバイスの言葉を皮切りに、アリサは背中に燃える翼を、すずかは妖精のような水色の羽を四翼背中から展開させ、銀色の巨人をリンチしている怪獣たちの元へ向かって行った。

 飛んでいく少女たちを見ていた新八は、やる気まんまんの顔をユーノに向ける。

 

「ユーノくん! 僕たちはなにを!」

「新八さんたちは踏み潰されたりしたら危ないので、そこにいてください」

 

 遠まわしに戦力外通告された新八たち。眼鏡の青年はションボリ。

 まあさすがに、空の飛べない彼らに五十メートル級の怪獣共をなんとかするのは無茶と言うものだ。

 

「ウホッ! ウホッ! ウホォーッ!!」

「ヘアァ……!」

 

 銀色の巨人は、ゴリラの丸太のように太い腕の一撃を顔にくらい、目から光がなくなり、それからピクリとも動かなくなった。

 

「あッ、ノックアウトした」

 

 と沖田は呟く。

 

「ホントなにしに来たんですかあの人はァー!!」

 

 新八は結局なんの活躍もなく敗れた無能巨人を見て口をポカーンとさせる。

 銀色の巨人をやっつけたゴリラはギロリと、つぶらな瞳を巨大なトカゲに向けた。

 

「グオォォォォォォッ!!」

「ギャオオオオオオオンッ!!」

 

 自身を鼓舞するようにドラミングする巨大ゴリラと、耳が割れそうなほどの鳴き声を出すトカゲ怪獣。

 

「おおっと! 両者相手を威嚇するように鳴き声を上げたー!」

 

 と沖田はマイクに勢いのある声を出す。

 

「これは昭和以来の世紀の対決が期待できそうです!!」

 

 沖田の横では神楽もマイクに向かいながら畏まった話し方をしだす。

 

「いや、なに呑気に実況初めてんですかあなたたちは!! なんかキャラもおかしいし!!」

 

 ユーノはツッコム。

 いつの間にか長机を前にして座って、実況的なことはじめる二名。すると沖田はすっと顔を真顔にして、

 

「することなくて暇なんでィ」

「実況すること以外、私たちにできることはないアル」

 

 と言って、鼻をほじる神楽。

 

「もっと他にあるでしょうが!! って言うかうるさいんでちょっと黙っててください!!」

 

 ユーノのツッコミを無視して二人は実況を続ける。

 

「さ~、解説のジミーさん! どう思いますか?」

 

 神楽が横に座っている山崎に目を向ける。彼の前には解説と書かれた立て札が置かれていた。

 いきなり振られた山崎は戸惑い気味に。

 

「えッ? ええっと……やはり、口から光線のようなモノを出せるジラの方が強いんじゃないでしょうか」

「っと、地味で面白みもない地味な解説でしたァ!」

 

 と神楽が言い放つ。

 

「いや、なんの捻りもない解説した俺が言うのもなんだけど、そういうこと大声で言うのやめてくれない!?」

「いやそもそも実況をやめてください!!」

 

 とユーノが強く言うが、

 

「おおっと! 巨大なゴリラがジラに向かって駆け出したァー!!」

 

 沖田は普段のキャラなど置いてけぼりにして、熱い実況を続行。

 そして彼の言うとおりゴリラが駆け出し、トカゲが体を捻って尻尾を巨大ゴリラの横顔に叩きつける。

 

「ウホォッ!」

 

 横に倒れるゴリラ。だが、すぐさま立ち上がる。

 すると、トカゲはまた尻尾を振って攻撃した――が、ゴリラは頭を下げて避け、瞬時に駆け出し、敵の首にラリアットを叩き込む。

 

「ギャァオッ!!」

 

 うめき声のようなモノを出す巨大トカゲ。

 

「特撮界特有のプロレスのような対決が行われてますねェ」

 

 一連の戦いを見た沖田は実況を挟む。

 神楽は「えぇ」と頷き、コメント。

 

「これは両者の奮闘に一層期待できそうです。解説の山崎さんはどう思いますか?」

「ええっと、そうですね。やはり――」

「おおっと! ここで巨大トカゲに動きが!!」

 

 と、神楽は山崎を即スルー。

 

「いや、つまらないかもしれないけど! 振ったならせめて最後まで解説させろよ!!」

 

 と山崎は涙目で抗議。

 ラリアットを受けて倒れるトカゲ怪獣。だが、ダメージなどモノともせずに立ち上がり、口から光線を吐いてゴリラの顔に浴びせる。

 

「グオォッ!?」

 

 さすがのゴリラも堪らず倒れるが、今度は空を飛んでいた巨大蛾が触手から光線を出してトカゲに攻撃。

 

「ギャオォッ!!」

 

 ダメージを受けたのかトカゲも苦しみの混じった鳴き声を上げるが、すぐさま口から光線を出して巨大蛾に反撃。

 

「キュゥ~ッ!!」

 

 巨大蛾は凄まじい反撃に合い、苦しそうに鳴き声を上げた。

 

 すると、再び立ち上がったキングゴリラがジラに向かって駆け出し、二匹の怪獣は取っ組み合いを始める。そして巨大蛾は取っ組み合いを始める二匹の上空を何度も旋回し、羽から鱗粉(りんぷん)を撒く。

 地上で戦う二匹は、鱗粉の毒を受けて皮膚にダメージを受けている。

 ちなみに銀色の巨人は暴れるキングゴリラとジラに何度も踏まれ、しかも落ちてくる鱗粉をモロ全身に浴びていた。

 

 それを見て実況する沖田と神楽にも熱が入る。

 

「なんという攻防! まさに怪獣大決戦だァ!」

 

 と沖田は惜しげもなく声を出し、隣の神楽もノリノリで実況。

 

「これを見れば最初の銀色の巨人がどれだけいらない存在かを、思い知らされますねェ。解説のザキ山さん」

「おおっと!」

 

 と声を上げるのは山崎ではなく沖田。

 

「ここで魔法少女組に動きがあるようです!」

「せめてセリフくらい言わせてくれよ!!」

 

 と涙目なザキ山解説。

 

「いや、そもそもその実況になんの意味があるんですかッ!!」

 

 ユーノのツッコミが実況者たちに炸裂した。

 

【ゆ、ユーノくん! どうしよう! とてもじゃないけど、近づけないよ!】

 

 さすがに隙がないくらい激しい戦闘のためか、戦いの様子を見ていたなのはは、ユーノに念話を飛ばす。

 

【なのは! 君は砲撃型だ! さっきも言ったけど、別に近づかなくても君は封印が可能だ!!】

【そ、そうだった! なら!】

 

 念話でユーノに自分のスタイルを指摘されたなのはは、近くのビルに降り立ち、レイジングハートを構える。

 

《Cannon Mode》

 

 レイジングハートが音声を流すと同時に、デバイスの形状が変形。一撃必殺という言葉が似合う姿へと変化。

 だが、問題なのはどこの箇所に砲撃を当てるかという点だ。肝心のジュエルシードが体のどこにあるのか把握していない。

 なのはは念話でユーノに指示を仰ぐ。

 

【ユーノくん。ジュエルシードがどこにあるのか、どうやって調べればいいの?】

【魔力で生成した『サーチャー』を飛ばして! そうすれば君自身が近づかなくても、魔力の根源を探ることができるはずだ!】

【わかったの!】

 

 言われた通り、なのはは目を瞑る。魔力を集中させ始めたようだ。

 

《Search》

 

 すると、レイジングハートからいくつも桃色の光球が飛び出し、取っ組みをしている怪獣たちの周りを探るように飛び回る。

 怪獣たちの大きさに比べれば、とてもとても小さいが、青く光る部分を見つけた。

 

「見つけたッ!」

【なら、その情報をアリサとすずかに教えて!】

 

 ユーノに言われ、アリサとすずかに念話を送るなのは。

 

【アリサちゃん! すずかちゃん! ジュエルシードの場所が分かったよ!】

【それでどこなのなのは!】

 

 とアリサに聞かれ、なのはは答える。

 

【ジュエルシードは全部怪獣さんたちの顔! 額の部分にあるの!】

【なら、そこに封印用の攻撃を当たればいいんだよね?】

 

 すずかの問いにユーノが頷く。

 

【そう! 君たちの魔力量なら、魔力を込めた一撃をジュエルシード近くの部位に当たれば封印できるはずだ!】

 

 すると、あることに気付いたなのは。

 

【でも、アリサちゃんもすずかちゃんも私と違って長距離の攻撃はできないよね? いくらなんでも、あの中に突っ込んだりしたら怪我じゃ済まないよ! だからジュエルシードは全部わたしが――!】

【ちょっと待ちなさいなのは!】

 

 待ったをかけたアリサ。彼女はニヤリと笑みを浮かべる。

 

【いつあたしが接近戦しかできないって言ったのよ?】

 

 なのはは心配そうに話す。

 

【でも、アリサちゃんのデバイスって剣だよね? さすがに遠くを攻撃するのは……】

【まぁ、見てなさい。遠距離攻撃があんたの専売特許じゃないことを見せてあげるわ!】

 

 念話で啖呵切ったアリサは、手に持つ自身のデバイスに顔を向ける。

 

「あんた、あれだけ自信満々に自分の性能を語ったんだから、ここで拍子抜けするようなとこ見せるんじゃないわよ?」

《もちろんです! 私の性能をちゃ~んとその目に焼き付けてくださいね!》

 

 自信満々に言うフレイアの言葉を聞きながら、アリサは近くのビルの屋上に降り立つ。

 アリサの降りたビルから怪獣たちまでの距離は、およそ四十~五十メートルくらいだ。

 すると、フレイアが軽口を叩く。

 

《でも、いくら私の性能が良くたって、使用者であるアリサさんの技術や魔力や想像力で戦いを左右するんですから、そこら辺はちゃんと頭に入れてくださいよ~》

「分かってるわよ。それで? もちろんあんたは遠距離攻撃もできるんでしょうね?」

《もっちろんです! それどころかアリサさんのイメージで、あなたのできることの幅は広がりますよ~》

「そういうのはこれから先! 今は簡単でいいから遠距離攻撃の仕方を教えなさい!」

《では、アリサさん。柄をしっかり両手で握って、私を顔の横で突き刺すように構えてください》

「こう?」

 

 アリサはフレイアに言われたとおりの突きの構えをし、ジラの額に狙いを定める。

 するとフレイアが普段の軽い口調を止め、真剣な声で指示を出す。

 

《大剣の刀身が伸びる姿をイメージしてください。一本の炎の柱が伸びる姿を……》

 

 アリサはそう言われ、目を瞑り、強くイメージする。自身のデバイスの刀身が長く長く、敵を突き刺す槍となるように、どこまで伸びる姿を――。

 

 柄を握る力をより強め、ゆっくりと目を開くアリサ。

 剣の刀身がより赤く、より熱を持ち、ゴォォッ! と炎を発生させ、纏った炎で大剣となる。

 

「いっけェェェェェェェェッ!!」

 

 アリサが叫べば、炎剣の刀身は敵の額に向かって一気に伸びた。

 

 いきなり自分の目の前まで迫って来た大剣の切っ先を、トカゲは避けることもできず、額にグサリと炎剣が突き刺さる。

 だが、少女が放った大剣よりも遥かに巨大な巨体。突き刺さったところで痛くも痒くもないのであろう。声すらあげることはしない。

 しかし、アリサの目的はダメージを与えることではなく、ジュエルシードの近くまで自身の攻撃を届かせることだ。

 

《今です!》

 

 タイミングを計ってフレイアが声を上げる。

 

「ジュエルシード封印!」

 

 アリサが封印の魔力を流し込む。

 炎剣を伝ってジュエルシードを封印するための魔力が流れ込み、巨大な怪獣は鳴き声を上げながら光に包まれ、ただの怪獣の人形に戻ってしまう。

 

「ウホッ?」

 

 ゴリラは急に自分が戦っていた敵がいなくなったことに首を傾げる。

 

「アリサちゃん凄い!」

 

 すずかは友の活躍を見て目を輝かせた。

 

《すずか様。次は私たちの番です》

 

 デバイスが自身の主に声をかければ、

 

「うん」

 

 頷くすずか。

 空を飛んでいたすずかは空中に留まり、ホワイトに目を向ける。

 

「ホワイト、お願い!」

《Mode change》

 

 すずかの言葉に答えるように、ホワイトは自身を分解させ、槍から銃身の長い銃へと姿を変えた。

 

「す、すごい……。槍が銃になっちゃった……」

 

 なのはのようにデバイスが部分的に変形するのではなく、丸々姿を変えたことに目を丸くするすずか。

 すると、銃からホワイトが声が流れる。

 

《厳密にはスナイパーライフルと呼ばれる物です。すずか様、スコープを覗いてください》

「う、うん」

 

 すずかは少し戸惑いながらも素直に、銃の上部に備え付けられたスコープのレンズを覗く。

 

「あッ……」

 

 声を漏らすすずかの片目に映ったのは――まるで目の前で見ているかのような、蛾の怪獣の額。

 現状の距離では、肉眼で確認したら砂粒ほど小さなジュエルシードが正確に見えるほどなのだから、凄まじい精度だ。

 

「す、すごい……」

 

 自身のデバイスの性能に感嘆するすずか。

 

《すずか様の望むのであれば、努力と工夫次第で数十キロ離れている標的であろうと捉えるようにする事が可能です。後は標準を合わせ、封印の魔力を込めた弾を放つだけです》

 

 ホワイトが解説を入れつつアドバイスすれば、すずかは「うん」と頷く。

 すずかは真剣な面持ちでジュエルシードにゆっくりと標準合わせる。しかし、もちろん標的は動くので引き金を中々引くことはできない。

 すると、ホワイトが少し優しい声音で、

 

《ご安心くださいすずか様。弾に多少の追尾機能もございます。一度ロックオンすれば弾丸が勝手に狙った箇所まで向かっていきます》

「分かった」

 

 そう言って、もう一度ジュエルシードに照準を合わせるすずか。そして、ロックオンした合図であろう、ピピという音声が流れた。

 

 バキュンッ!

 

 引き金を引くすずか。封印の力を纏った魔力弾が螺旋回転しながら、モスの額に向かって飛んでいく。

 弾丸が狙った位置から少しズレるが、弾道は標的を追うように曲がり、そのまま吸い込まれるようにジュエルシードへと直撃。まるで、青く細い魔力の糸が、すずかの銃口とジュエルシードを直結させているかのようだ。

 攻撃が当たったことを確認したすずかは声を上げる。

 

「ジュエルシード封印!」

「キュゥ~!!」

 

 鳴き声を上げて光に包まれた巨大な蛾は、ただの蛾となってどこかに飛び去って行く。

 

 

 

「二人とも凄い!」

 

 なのはは親友二人の活躍を目の当たりにして、自分も負けてられないと思い、レイジンハートをゴリラに向かって構え、『カノンモード』へと変形させた。

 

「ウホッ……」

 

 ゴリラは他の怪獣達がいなくなったことに目を白黒させている。

 別の方向からピンク色の光が発光していることに気付き、そこに顔を向けると――切っ先に魔力を溜めた杖を、自身に向けている少女の姿が。

 

「ええいッ!」

 

 なのはがトリガーを引くと同時に、溜まった魔力が一気に開放。それは光の奔流となり、桃色のエネルギーはゴリラの顔面に直撃した。

 

「ジェルシード封印!」

 

 となのはが言えば、

 

「グワァァァァァァッ!!」

 

 ゴリラは叫び声を上げながら光に包まれる。

 巨大ゴリラの姿は消え、巨獣がいたであろう場所には、白目剥いて仰向けで倒れている近藤と、その横には空中で浮いているジュエルシードの姿。

 

「ジュワッ!?」

 

 ここでようやく目を覚ますのは銀色の巨人。

 ファイティングポーズを取りながら周りを見回すと、武器(デバイス)を自身に構える少女達の姿が。

 

「後はコイツでラストよ!」

 

 アリサの声を皮切りに、三人で攻撃しようとした――その時、電気を纏った金色の魔力の弾が複数、上空からまっすぐ銀色の巨人に向かって降り注ぐ。

 

「ヘアッ!?」

 

 予想外の攻撃に驚く銀色の巨人となのはたち三人。

 上空を見上げると、黒衣を纏った少女が急行していた。

 

「アレは……!」

 

 アリサの目が見開かれ、

 

「フェイトちゃん!!」

 

 なのはは襲撃してきた少女の名前を叫ぶ。

 フェイトはバルディッシュの先端を槍のように変形させ、銀色の巨人の胸元にあるジュエルシードまで突っ込んでいく。

 そのまま金色の閃光となって突貫するフェイトは、一気に銀色の巨人の胸を貫いた。

 

「ジュワッ!?」

 

 驚く銀色の巨人。

 そして、銀色の巨人を体ごと貫いたフェイトは急停止し、デバイスを横なぎに振り切って、呟く。

 

「――ジュエルシード封印」

 

 銀色の巨人は光となって消え、空中には青色に輝くジュエルシードだけとなった。

 流れるように、フェイトはゆっくりとジュエルシードに近づき、バルディッシュの中に青い宝石を収納。

 

 またしても突然のフェイトの登場。呆然としていたなのはであったが、すぐに我に返って黒衣の少女に声をかけようと近づく。

 

「あ、あの……」

 

 だが、なのはに気付いたフェイトは、敵対心といったモノを剥き出しにし、自身の相棒の切っ先をなのはに向ける。

 

「あぅ……」

 

 なのははフェイトの態度を見て一歩引いてしまう。やはり彼女の眼に自分は、ジュエルシードを巡って戦う敵としか、映っていないのだろう。

 

「近いうちに、あなたたちの持つジュエルシードも貰い受けます」

 

 そう捨てゼリフを言った後、すぐさま上空へと飛んでしまうフェイト。

 

「あッ……」

 

 去って行くフェイトへと伸ばされたなのはの手は、虚しく広げられるだけだった。

 

 

 

 

「……あの、今回僕たち、まったく活躍してませんでしたね……」

 

 と新八が言えば、

 

「なら、羽でも生やすこったな」

 

 と土方が返す。

 現れた銀色の巨人並にいいとこなしだった、新八たちであった。



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第二十四話:散歩

「おい早くしろ」

 

 銀時が急かせば、

 

「ちょッ、ちょっと待っておくれよ……」

 

 アルフは戸惑った声を出す。

 狼姿の使い魔は、今現在ピンチに陥っていた。

 

「こっちだってお前に付き合ってる暇ねーんだよ。するならさっさとしろ」

 

 なおも急かす銀時だが、アルフの足は止まったまま。

 

「だから、その……」

 

 このまま生物の本能に任せて事を済ませてはいけないと言う、理性と羞恥心がアルフを引き止めていた。

 だが、銀時の催促は止まらない。

 

「おいおい、いくら辛抱強い銀さんだって、これ以上待つのは無理だからね? ほら、気合入れて早くしろって」

「うぅぅ……」

 

 アルフは羞恥心のせいで、自身の赤みのかかったオレンジの毛並みより顔を真っ赤にする。

 彼女は最早我慢の限界だった……。

 

「だから、早くウンコしろって言ってんだろうがァー!」

 

 もう我慢ならんとばかりに銀時が怒鳴り散らせば、

 

「できるかァァァァァァァッ!!」

 

 さらにデカい声でアルフは怒鳴り返す。

 外で野糞するのはいくらなんでも恥ずかし過ぎる!、とアルフは思うのだった。

 

 

「やっぱさー、犬飼ってる以上散歩は必要じゃね?」

 

 と言う銀時の言葉を皮切りに、地球に着てからアルフの散歩が始まったのである。

 

 海鳴市内をほんの二、三十分程度歩く散歩だ。

 定春というヒグマ並に巨大な犬を飼っている銀時(チャイナ娘のペットだが世話しているのは天パ)。彼としては、アルフを散歩させた方がいいのではないかとフェイトに提案したのだ。

 

 「なぜ散歩が必要なの?」と疑問を口にしたフェイトに、銀時が「犬を飼う以上、散歩は飼い主としての必須事項なんだよ」と説明し、アルフが「あたしは狼だ! しかもペットじゃないし!!」と怒鳴ったのは記憶に新しい。

 ジュエルシード探索も兼ねてということで、結局アルフを狼状態で散歩させることになった。(狼状態のアルフを見た近隣住民の中には、ギョッとする人間もちらほら。ただ、狼似の大型犬と勘違いしてくれたようだが)

 

 そして皆さんはご存じであろうか? ペットになぜ散歩させるのか。

 もちろん普段運動のできない狭い空間に拘束されているペットを、外で運動させるという目的もあるが、もう一つ大事な目的がある。

 それは、

 

「だからウンコしろって言ってんだろ! もう一時間も歩いてるだろうが!! 便秘なのかテメェは!!」

 

 糞をさせるためだ。

 銀時に怒鳴られたアルフは、

 

「だから無理だって何べん言ったら分かるんだい!!」

 

 オレンジの顔をタコのように真っ赤にさせて、道端で野糞をするのを拒否。

 屋内犬は定期的に散歩させないと家の中で糞をするため、そうならいために外で糞をさせるのがベターなのである。

 

「お前なー、犬の癖して散歩でウンコもできねェとは犬失格じゃねェか」

 

 と銀時が言えば、

 

「だからあたし狼!!」

 

 アルフとしてはジュエルシード探しついでの運動かと思っていた。

 だが、途中で銀時が「お前いつになったらウンコすんだよ?」なんて聞くもんだからビックリ。ようやく今頃になって、この散歩の意図に気付いた。

 理性も羞恥心もないただの犬や狼ならいいかもしれないが、狼から使い魔となり理性も羞恥心も持っている上、人間の姿になれる彼女としては野糞、しかも男に見られながらなど堪ったものではない。

 

 銀時は訝し気に片眉を上げる。

 

「つうかお前、小便もしてねェじゃねェか。足上げて豪快マーキングしねェ犬なんて俺は見たことねェぞ」

「おう。お前は人間並みに話せるあたしが、今まで道端にションベン巻き散らしてたと思ってたのか? あとあたしは犬じゃなくて狼だし(メス)だボケ!」

「いや、犬も狼もオスもメスも関係なく、ションベンの仕方は違わなくね?」

 

 ちなみに、基本的に片足上げて小便するのがオス。メスはしない場合が多い。(※ちなみに、メスでも片足を上げる犬も割といる上に、マーキング目的の場合は足を上げる事もある)

 

「ホント勘弁してくれよ銀時ぃ……」

 

 涙声でアルフは言う。

 適度に運動した上に、散歩する前にご飯食べた。お陰ですっかり便意はくるもんだから、正直言って我慢が辛い。小便だってしていない。もう小便くらいなら……、とか思ってしまっている始末。

 

「あたしもう、我慢の限界なんだよぉ……」

 

 アルフは嗚咽を漏らしながら言う。このままで本当に理性も羞恥も捨てて道端を簡易トイレにしなきゃならなくなる。

 銀時は頭を掻く。

 

「わかったわかった。俺が悪かった。いくらなんでも無神経過ぎたな」

 

 銀時の言葉を聞いて、アルフの顔がパーッと明るくなる。

 やっと自分の気持ちに彼が気付いてくれたのだ。そしてトイレがある場所まで一緒に歩いて行く。

 

 

 

「ほれ、砂場(ここ)でしな」

「あたしは猫でもねェ!!」

 

 公園の砂場を勧めてくる銀時(バカ)。さすがにブチ切れたであろうアルフは、思いっきり銀時の頭に噛み付く。

 

「いだだだだだだだッ!!」

 

 と、悲鳴を上げる銀時。

 

「わ、わかった! わかった!! ゴメンてば!! ほ、ほら!! あそこ!!」

 

 銀時が指を差した先を見ると、大きな公園に大抵は設置してあるであろう公衆トイレが目に入った。

 それを見たアルフは慌ててトイレに直行。ちなみにアルフはリードをしているので、

 

「ぬォォォォォッ!!」

 

 それを握っている銀時は、そのまま地面に体を擦りつけながらトイレに向かう形に。

 アルフがトイレに入ったところで、ようやく銀時は引きずりから解放された。

 

「いてて……」

 

 銀時はいたるところに擦り傷作りながら、体の埃を払う。

 すると、トイレからアルフの声が。

 

「おい、リード放しな。それのせいでドアが閉められないんだから」

「安心しろ、見ててやるから。銀さんこう見えても犬の糞はちゃんと持って帰るマナーのある飼い主だから。お前の一本グソはちゃんと持ち帰って――」

「こ ろ す ぞ?」

「…………はい」

 

 銀時は顔面蒼白にして、パッとリードを手から離す。即座に、リードはまるでドアの隙間に吸い込まれるように個室の中へと入っていった。

 

「……さーて、ベンチに座って待つとしますかね」

 

 ぼりぼりと頭を掻く銀時。さすがに女子トイレで待ったまま、他の女性が来て通報なんてアホな展開にするつもりはない。

 すぐさま女子トイレを出ようとした時、

 

「銀時、こんなところにいたの?」

「ッ!?」

 

 まさかの女性が!? と思って声の主を見れば、そこにはバリアジャケット姿のフェイトが立っていた。

 銀時は安堵の息を吐く。

 

「……脅かすんじゃねェよ」

「? ご、ごめん……」

 

 フェイトはなんのことだが分からない顔をしたが、律儀に謝る。

 

「そんで、な~んで俺たちの居場所が分かったんだ? お前」

 

 訝し気な顔をする銀時の質問に、フェイトは素直に答えた。

 

「アルフと私は魔力で出来たリンク――つまり繋がりのようなモノがあるから、相手がどこにいても大体の居場所は分かるの」

「なるほどねェ。相変わらず便利だなァ、魔法ってやつは」

 

 銀時は感心したように顎を撫でる。すると、フェイトは首を左右に動かして辺りを見回す。

 

「アルフは?」

「まあ、ちょっとした野暮用をな。――っと、こんなとこで立ち話してる場合じゃねェ」

 

 自分がどこにいるのか再認識した銀時は、フェイトの手を取る。

 

「ほれ行くぞ。こんなとこで『そんな格好』のお前と一緒にいるとこ見つかったら、警察の厄介に――」

 

 銀時がそう言った時、カタンと何か硬いものが落ちる音がした。

 いやぁ~な予感がして、音のした方を見てみれば、出口の前でケータイを落とした女性が青ざめた顔で自分たちを見ている。

 

「………………」

 

 今の自分たちの状況を頭の中で整理する銀髪。

 

 スクール水着やレオタードのような際どい衣装を着た幼女の手を、いい歳した大人が握っている→しかも女子トイレで。

 

 バッ!! と銀時は、マラソン選手もかくやのロケットダッシュ。もちろん、状況が何一つ分かってない金髪幼女の手は離さず。

 

 状況が状況だけにヤバイなんてモンじゃない。事案確定。お縄頂戴で人生終了。

 言い訳とかそんなんしている暇は微塵もない。取るべき行動は一つ。全力ダッシュでこの場を去ることただ一つ。

 

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!!」

 

 マンションに着いて息を荒くさせる銀時は、ソファーに腰を下ろす。ずっと全力ダッシュで帰ってきたのだから仕方ない。

 

「大丈夫? 銀時」

 

 心配そうな顔で見つめるフェイトに、言葉の一つでもかけいたところではある。

 銀時はなんとか息を整え、声を出す。

 

「だ、大丈夫だコノヤロー……ゼェ、ゼェ……!」

 

 とりあえず疲れて喉も渇いたので、冷蔵庫にあるコーヒー牛乳を取り出し、コップに入れるてグイっと飲む銀時。大分息が整った。

 銀時は額の汗を拭う。

 

「ふぅ……。たく、さすがに焦ったぜ」

 

 その時だった――玄関を勢いよく開ける音がし、次にドタドタと誰かが廊下を走る音。

 

 バタン!

 

 ドアが開き、怒った顔のアルフが現れる。

 

「おい!! なんで勝手に帰ってるんだい!! あたし一人を置いて帰るなんてさすがに酷いじゃないか!!」

「緊急事態だ。少しは察しろ」

 

 銀時はめんどくさそうに半眼をアルフに向けた。対して、眉間に皺を寄せる使い魔。

 

「まったく。緊急事態ってんなら、あたしを頼ればいいだろうに」

「そう言えば、アルフはあの時なにをしてたの?」

 

 フェイトの問いに、銀時が代わりに答える。

 

「あん? コイツはあの時うん――」

 

 言い終わる前に、銀髪の顔面に、顔を真っ赤にした使い魔の拳が炸裂。

 目の前の光景の意味がわからないであろうフェイトは、首を傾げた。

 

 

「んで、ジュエルミートはいくつ集まったんだよ?」

「ジュエルシードな、ジュエルシード」

 

 アルフは名前を間違える銀髪の言葉を訂正して、台布巾でテーブルを拭く。

 取り皿や箸を机に置くフェイトが、疑問に答える。

 

「今あるジュエルシードは全部で四つ。あの白い魔導師の子とその仲間たちが持っているジュエルシードはおそらく全部で三つ。となると、残りは全部で十四」

「まだまだあんな。しかも競争相手もいんのかよ」

 

 銀時はコロッケやから揚げなど、色々な揚げ物が乗った皿やサラダが入ったボールをテーブルの上に乗せていく。

 フェイトは皿を並べながら言う。

 

「ロストロギアの回収である以上、敵対勢力が出てくる可能性は少なからずあるから」

「まー、古代の超スゲェ遺産てヤツなら、インディジョーンズしかり、欲しがる野郎なんざごまんといるわな」

 

 銀時は箸とフォークを出して言うと、アルフは半眼を向ける。

 

「あんたのそのテキトーな表現だと、ロストロギアの凄さが伝わらないけどね。あんたロストロギアの重要性を理解してる?」

 

 アルフがジト目のまま席に座れば、続いて銀時とフェイトも椅子を引いて席に着く。

 

「アレだろ?」

 

 と銀時は指を立てる。

 

「ドラゴンボールくらいの価値があるって思っとけばいいんだろ? 俺たちの狙ってるブツも丁度同じようなモンだし」

「そういう、あたしらが理解できない単語で自己完結するの止めてくれないかい? あんたがなに言いたいのか分からなくなるから」

 

 アルフが呆れ気味に言うが、銀時は飄々と返す。

 

「へいへい。ま~、ジュエルシード回収はちゃ~んと手伝ってやるって。オメーらは、そこら辺だけ頭いれとけばいいから」

「大丈夫かねぇ、ホント……」

 

 アルフはため息を吐く。

 

「そんじゃま、食うとしますか」

 

 銀時の言葉を皮切りに、アルフとフェイトは目の前の銀髪に教わった食事のあいさつをするために、両手を合わせる。

 

「「いただきます」」

 

 そして、三人の夕食の時間が始まった。

 

「てっめアルフ!」

 

 銀時は口に食べ物を突っ込みながら突っかかる。

 

「なにいきなりから揚げバクバク食ってんだ!! 野菜食え! 野菜! 糖尿病になっても知らねェぞ」

「甘党のあんただけには言われたくないよ! つうかサラダとご飯にかけてるその黒いのなんだよ!?」

「宇治金時だバカヤロー。甘味だ。スイーツだ。覚えとけコノヤロー」

「いや、サラダとご飯に甘いモノ掛けるとかあんたはアホか?」

「いいんだよ、俺はこれで。これで美味くねェ野菜もちったァマシになるんだからな」

「いや、そんなことしないと野菜食えないあんたの方が問題じゃないかい!!」

 

 とまぁ、食事が始まれば、銀時とアルフが言い合いながら箸やらフォークを動かし、フェイトがそれをニコやかに眺める――これが、最近の彼らの食卓の風景だ。

 

「ゴクゴクゴク…………プハァーッ!」

 

 食べるだけ食べたアルフは、牛乳を一気に飲みして軽快に喉を鳴らした後、満足げな顔になる。

 

「ん~……やっぱり飯ってのはこ~、ガッツリ食うのがイイねぇ」

「私たちだけじゃ、大したご飯は作れなかったもんね」

 

 アルフの言葉に賛同するようにフェイトは笑みを浮かべ、それを聞いた銀時はどことなく嬉しそうな顔。

 

「ま、せいぜい感謝するこったな。この俺が人様のために飯作るなんざ、中々ねェんだからよ」

 

 すると、アルフは呆れ気味の眼差し向けた。

 

「偉そうに言うけどさ、あんた今んとこ飯くらいしか役に立ってないじゃないのさ」

「あん?」

 

 銀時は片眉を上げる。

 

「そんなこと言っちゃダメだよアルフ。地球に着てから家事は銀時がやってくれてるんだよ?」

 

 フェイトは申し訳なさそうな顔でアルフを注意すれば、銀時は腕を組む。

 

「そうだぞコラ。テメェは朝昼晩、毎日ご飯作ってくれるお母さんの気持ちを知りやがれコノヤロー」

 

 言われたアルフは頭を掻く。

 

「確かにあたしも地球に来てから毎日飯を用意してくれて、服を洗濯してくれるあんたにはもちろん感謝してるよ? でもさ、ジュエルシードに関しちゃ銀時(あんた)、まったくと言っていいほど活躍してないじゃないか。一応、プレシアにはジュエルシード探しも込みで雇われてる身なんだろ?」

 

 アルフに痛いところ疲れた銀時は、バツが悪そうに頬杖を付いて顔を少し背ける。

 

「チッ……しょうがねェだろうが……」

 

 なにせジュエルシード関連に関して銀時がやった事と言えば、アルフを散歩させながらの周辺探索だけ。

 

「まさかあたしたちが『今居る地球』が『銀時の居た地球』と違うなんてねぇ……」

 

 と言う、アルフのジトーとした眼差しが銀時に向く。

 

「これじゃーあんた、ホントなんであたし達と一緒にやって来たのかわからないね」

「しょうがねぇだろうがァァァァァ!!」

 

 いたたまれなくなった銀時は叫び、汗を流しながら自棄になったように捲し立てる。

 

「一体どうすればこれから行く地球は『俺の住んでいた地球じゃありません』なんて分かんだバカヤロー!! 地球つったら俺の地球だと思うだろ普通? 地球が複数あるとか思わねェだろ普通! ソレがなに? やって来てよく見てみたら俺の知ってる地球とは違うって、こしあんかと思ったら実はつぶあんでした、ってか!! わかるかバカヤロー!!」

 

 銀時はクセッ毛だらけの髪をワシャワシャと掻き乱して、より髪のクセを強くしながら、泣き言のように溜め込んでいた愚痴を吐き出す。

 

 そう。ジュエルシード回収のためにやって来たこの星――地球。外見は銀時の住んでいる地球と同じでも、まったくの別物。土地は一緒でも、中身がまるで違うのだ。

 町も人も文化も建物も、銀時の知っている地球とはなにもかも違う。

 

 数日前、フェイトとアルフと共にやって来た銀時は、散歩で地域を観察し、テレビの内容に違和感を覚え、やがて自分の知っている地球ではないのか? という疑いを持ち始めた。

 そして、フェイトに自分が暮らしていた地球とはまるで違うと話したところ、魔法世界関係者であるフェイトから、

 

『これは私の予想なんだけど、たぶんこの世界――地球は、銀時の住んでいた世界の地球とは違う世界の地球なんじゃないかな? だから銀時の言っていた、サムライもエドもアマントって言う存在もいない。次元世界は数え切れないほどあるから、同種の星が複数あったとしてもおかしくないと思う』

 

 という推論を聞いて、希望の光から絶望の闇に一気に叩き落された気分になる銀時。

 結局、自分は世界レベルの迷子のままだと言うことだ。つうかホントに帰れるの? と凄いヘコんだ。

 

 現状を思い出し、銀時は頭抱える。

 

「何これ!? ドラえもんの性別が逆転した別の地球ってことか!? のび太くんは男の大事なシンボル失った代わりにバカから天才になってるから、こっちの地球の俺もチ○コ無くした代わりにサラサラヘアーになってるって言うことか!?」

 

 まだまだ泣き言が止まらない。そんな銀髪を見て、さすがに罪悪感を感じたのであろうアルフが申し訳なさそうな顔をする。

 

「お、落ち着きなよ。あたしも意地が悪かったから」

 

 アルフの言葉を聞いて、やっと我に返った銀時は席に座り直す。さんざん愚痴を吐き出しことで疲れた彼は、息を荒くしていた。

 すると、申し訳なさそうにフェイトが言う。

 

「私としては、銀時を元いた世界に返してあげたいけど、広い次元の中にある星の一つを特定するのはとても困難なことだから、たぶん私たちの力だけじゃ、銀時を帰してあげることは……できないと思う」

「別に構わねェよ。下手に希望与えらえるより、事実教えられた方がこっちとしてはいくらかマシだ」

 

 銀時は手をぶらぶらと振って、なんでもないと言う風に返す。

 

「銀時…………」

 

 フェイトは表情を曇らせる。

 そんな少女を見て銀時は、どっちが気を使っているのか分かんねェな、と思った。

 悲しげなフェイトの表情を見たアルフが、すかさず言葉を挟む。

 

「で、でもさ! 管理局に保護してもらえれば、遠からずあんたの元いた世界に帰れると思うよ!」

「管理局って、確か俺らで言う警察みたいなもんだろ?」

 

 銀時の言葉にフェイトは首を傾げる。

 

「けいさつ?」

 

 前にフェイトから聞いた、管理局という組織。それを自分なりに解釈して言ったつもりだった。が、首を傾げる金髪少女と同じように首を傾げる使い魔。

 二人の様子から考えて、彼女たちは警察という組織を知らないようだ。こういうとこで、また地味に世界の違いというものが感じられる。

 

「あ~、警察知らないのか……」

 

 銀時は頭を指でポリポリと掻く。

 

「つまり、法律っつうか、基本的には一般市民の平和と安全守る組織ってことだ。お前らの言う管理局と同じだろ?」

 

 銀時がなにを伝えようとしているのか分かったであろう二人は、うんうんと首を縦に振る。

 そこまで話して、ため息を吐く銀時。

 

「ま~俺としちゃ、そういうお堅い連中の世話になんのは気が進まないんだけどな……」

「じゃ、じゃあ! 管理局に銀時のことを連絡する必要はないってことだね!?」

 

 何を勘違いしたのか、身を乗り出すアルフ。彼女の言葉に眉をひそめる銀時。

 

「いや、なんでそうなんの?」

「だ、だって……銀時は管理局の世話になりたくないんだろ?」

 

 弱々しく言うアルフに銀時は告げる。

 

「いや、だからって、このままだと俺は一生地球に帰れないままじゃねーか」

「そ、そりゃ、そうだけど……」

「ちゃんと報酬分の仕事はきっちりこなしてやるから(魔法使えないけど)。とりあえず、管理局に俺の世界を探すように言えば、ジュエルシード集め終わった頃には、うまくいけば俺も元に世界に帰れるかもしれねェだろ」

「つまり、今すぐにでも連絡を入れたいと?」

「だからそう言ってんだろうが。お前ちゃんと人の話し聞いてた?」

 

 銀時が少々イラつきながら言えば、

 

「うぅぅ…………」

 

 とアルフは口ごもり始めた。

 彼女の消極的な態度に首を傾げる銀時。管理局と言う組織に、関わり合いになりたくないのだろうか? 遠まわしに接触を避けようとする節が伺える。

 メンドクサさを感じて、銀時は頭をポリポリと掻く。

 

「なー……お前らもしかして、管理局に『関わりたくない理由』でもあんのか?」

「なッ!? な、なに言ってんだい!?」

 

 アルフは汗をダラダラ流しながら、明後日の方角に顔を背ける。

 

「そ、そんわけないだろ! そ、それだとあたしたちが、何かやましいことしているみたいじゃないか!!」

「おーい。そう言う割に目が泳ぎまくってんぞ? こっちに見ろコラ」

 

 ジト目向ける銀時

 あげくの果てに、使い魔はできない口笛まで吹いているのだから、なにか隠しているのは明白だ。

 

 すると、フェイトが口を開く。

 

「もういいよアルフ。銀時には正直に話そう」

「でもフェイト! もし本当のことを話したら銀時は手伝ってくれないよ! それに、下手をしたらフェイトは管理局の連中に――!!」

 

 悲痛な声で訴えるアルフが言い切る前に、フェイトが首を横に振ることで、使い魔は主張を止めてしまう。

 

「フェイト……」

 

 と、主の名を呟くアルフに、フェイトは真剣な表情で言う。

 

「正直、ここまできたら、たぶん銀時には誤魔化しきれないと思う。なら本当の事を言って分かってもらうしかない」

 

 銀時はワケが分からず、?ばかりが頭の上に浮かぶ。なにせ、二人がなんの会話をしているのかまったく掴めないからだ。

 アルフは諦めたように席に腰を下ろし、フェイトが意を決したように銀時に顔を向ける。

 

「銀時。私たちが今集めているジュエルシードは、ロストロギアだって覚えてるよね?」

「なんだよあらたまって。んなもん、テメェとテメェの母ちゃんに散々説明されたっての。よくわかんねェけど、古代のスゲーお宝でいいんだろ?」

 

 頬杖を付いて、今さらなに言ってんだコイツ? みたいな顔を作る銀時。

 だが、銀時の解釈を聞いたアルフは「いや、その理解の仕方はアバウト過ぎるだろ」と言って、微妙な顔をしていた。

 

「厳密には、古代の失われた超技術の結晶みたいなモノなんだけど、それを私たちは集めている」

 

 フェイトの説明を聞いて、銀時は相槌を打つ。

 

「あァ。そんで、依頼を受けた俺も回収を手伝ってる。今んとこ俺たちの現状はこうだろ? んで、つまりお前はなにが言いたいんだよ?」

 

 フェイトの遠まわしげな会話に対し、銀時は徐々に業を煮やしだす。

 すると、アルフが呆れたような表情で、

 

「あんた、感とか鋭いくせにちょっと察しが悪いよね」

「あん?」

 

 銀時は少々失礼なこと言う狼女に睨みをきかせる。すると、フェイトがさらに説明を入れた。

 

「そう言うロストロギアには、次元そのものを危機に追いやってしまうような、危険な物も存在する。だから、管理局は次元世界の安全のためにロストロギアの管理と保管も行っているの」

「そんで、個人がそんな危険な物を保持、または使役するのはもちろん禁止されている」

 

 続いて、説明を補足したアルフ。

 

「へ? するってーと……」

 

 二人の話しを聞いて、銀時はやっと彼女たちがなにを言いたいのか察し始めた。

 頬杖をつくアルフはため息混じりに言う。

 

「管理局員でもなく、許可すら取らずにロストロギアを回収しているあたしたちは、犯罪者ってことだよ」

「あー、なるほどー」

 

 銀時はポンと手の平を拳で叩いて納得。そして彼は二人を指さす。

 

「つまりお前達は犯罪者ってことだな?」

「そうだよ」

 

 とアルフが答え、銀時がさらに追及。

 

「そんで、お前たちに協力している俺も犯罪者の片棒を担いでるってワケだな?」

「そうだよ」

「つまり俺は泥に片足突っ込んじまってるワケだな?」

「そうだよ」

 

 アルフは律儀に銀時の問いかけに相槌を打ってくれる。

 ようやく理解できた。つまり……、

 

「俺犯罪者じゃねェかァァァァァッ!!」

 

 (せき)を切ったように大声出した銀時に対し、フェイトとアルフは耳を指で塞ぐ。

 ようやく自身の現状に気付いた銀時は頭抱えた。

 

「ふざけんじゃねェよ!! えッ? なに? つまり俺は既に前科持ちってこと!? いつまにか別世界でも犯罪の片棒を担がされちまったのか!?」

「ま、まー、落ち着きなよ銀時」

 

 アルフは両手を出しながら言う。

 

「銀時はこっちの世界の事情について詳しくなかったんだから、やることやったとしても、何も知らない協力者ってことで情状酌量の余地はあるはずさ」

「いや、お前なに最後まで俺を犯罪者のお仲間に加えようとしてんの!? 図々しいにもほどがあんだろ!!」

 

 声を荒げる銀時。

 フォローするかと思ったら、目の前の犬耳女は最後まで協力させようとするし、法律の抜け目を通させようとさへさせる。犬のくせして、蛇みたいに狡猾なことを考える恐ろしい奴だ。

 

「あ、アルフ。銀時を困らせちゃダメだよ」

 

 主がやんわり注意すれば、バツが悪そうにぽりぽりと頭を掻く使い魔。

 フェイトは銀時に向き直る。

 

「私としては、銀時の協力なしでもこのままジュエルシードを回収していくつもり。私だって良い事しているとは自分でも思ってない……。でも、母さんのためにも、ジュエルシードはなんとしても手に入れないといけないの」

 

 ゆっくりと自分の気持ちと意思を伝えるフェイト。

 

「銀時にはできればだけど、管理局に私たちのことを言わないでくれれば助かる。ジュエルシードが全部揃えば、なんとか私から銀時に報酬をあげるつもりだから」

 

 黙って耳を傾けていた銀時は、一通りの話しが終わったところで片眉を上げた。

 

「するってーとなにか? 俺はここで戦線離脱ってやつか?」

「えッ? う、うん。そうなるね」

 

 不服そうに言う銀時に、フェイトは意外そうに頷く。

 銀髪は背もたれに体重を掛け、天井を見上げた。

 

「なるほど。つまり俺ァ、お払い箱ってやつか」

「ち、違うよ銀時!」

 

 フェイトが否定し、アルフは食ってかかる。

 

「銀時! あんた、フェイトの気持ちが分からないのかい!? フェイトはあんたにこれ以上迷惑かけたくなくて――!!」

「なら――」

 

 と、銀時が鋭い視線を送り、静かに言い放つ。

 

「最初っから、俺抜きでジュエルシード集めやれば良かっただろ?」

「「ッ…………」」

 

 フェイトとアルフは言葉を詰まらせた。彼の言うとおりだと思ったのだろう。

 押し黙る二人に向けて、銀時はさらに言葉をかける。

 

「まー、あのおっかねェ母ちゃんの命令には逆らえないってのも分かるぜ? 俺を管理局に預けちまったら、あの鬼ババが何しでかすのか分からないもんな」

 

 おおこわ、と言って銀時は腕を摩った。彼の言葉を聞いて俯いていたフェイトは、

 

「違うよ」

「……フェイト?」

 

 少々普段の雰囲気と違うフェイトに、アルフが不安そうに顔を向けた。

 フェイトは俯き、スカートの袖をぎゅぅと両手で握りながら、ぽつりぽつりと呟く。

 

「……確かに、母さんの指示に従わなきゃって、思うところはあるよ? ……でもね……私はもっと……銀時と一緒に居たいって、心のどこで思ってた……」

「…………」

 

 何も答えない銀時。だがフェイトは続ける。

 

「――短い間だったけど……銀時やアルフと過ごす時間は本当に楽しかった。昔、母さんと味わった楽しい時間が……また戻ってきたみたいだった……。とっても温かくて、騒がしいけど、楽しい時間……」

「フェイト……」

 

 アルフは悲しそうな表情でフェイトを見つめる。一方の銀時は、黙って少女の小さな言葉に耳を傾け続けた。

 フェイトの目には少しづつではあるが、水滴が溜まりつつある。

 

「……だから、手放したく、なかったんだと……思う。こうやって、銀時やアルフと過ごす楽しい時間を……。銀時がこのまま一緒にいてくれれば……なんて、勝手なこと思ってた……」

「そうか」

 

 素っ気なく返す銀時。そのまま、フェイトは気持ちを吐露し続ける。

 

「ダメ、だよね? わたし……つい、銀時に甘えてた……」

 

 いつ間にか目の端に溜まっていた涙の雫を袖でふき取り、フェイトは言う。

 

「でも、もう大丈夫。銀時はちゃんと管理局に行って、元の世界に帰ることだけに専念して。私はなんとか、母さんに銀時の協力がなくなったことを納得してもらうから」

 

 と、無理に笑みを浮かべて安心させようとするフェイト。

 主の意思を汲み取ってか、アルフはアルフで何も言えず、悲しそうな表情でギリィっと奥歯を噛み締めていた。

 そんな痛々しい姿の金髪少女と、狼娘の姿に――銀時は諦めたように、ボリボリ頭を描きながらため息を吐く。

 

「……わかった。わかりました。最後まで付き合ってやるよ、お前達に」

「えッ……!? でも――」

「あ~、とにかく気にすんな。俺は俺の勝手でテメェらに付き合うんだ」

 

 片手をぶらぶらと軽く振りながら銀時が言えば、今度はアルフが口を開く。

 

「でも、これ以上あたしらに付き合ったらあんた犯罪者に――」

「俺は元いた世界でも、片足泥に漬かってんだか、全身泥に漬かってんだか分からないような奴だ。今さら、別世界で泥まみれになろうが問題ねェよ」

 

 ため息交じりに言う銀時の言葉を聞いて、フェイトは瞳を潤ます。

 

「銀時……」

 

 それに、と言って銀時はチラリとフェイトに視線を向けた。

 

「オメーみてェな、すぐに無茶しそうなガキに世界どうこうするようなモン任せる方が、大人として問題だろうが。とにかく、俺はこれからも協力してやるから、もうとやかく言うな」

 

 はい、これでしゅーりょー、と最後に言ってから、銀時は自分が食べた分の食器を持って行く。

 照れ隠しするように食器洗いを始める銀時を見て、フェイトは、

 

「ありがとう」

 

 と、笑顔で答えた。

 

 

 朝のワイドショーで、ある事件が取り上げられていた。

 

『昨日夕方未明。白髪の中年男性が女子児童を女子トイレに連れ込み、水着に似た衣装を着せた上で、性的暴行を加えるという事案が発生しました』

 

 画面が切り替わり、顔にモザイクが掛かった女性が取材陣のインタビューを受けていた。

 

『本当に驚きました。……えぇ。まさか比較的平和なこの町で、あんなモノを見てしまうなんて。ホントにショックでした』

 

 ボイスチェンジャー越しからでも伝わる女性の嫌悪と侮蔑の声。

 レポーターが質問を投げかけた。

 

『容疑者を見た印象はどうでした?』

『ええっと……そうですね……。なんと言うか、不潔そうで、とにかく目が怖かったです。なんて言うか、世の中すべてを憎んでいるような、まるで世捨て人のような濁った瞳でしたね、はい。私まで何かされるんじゃないかって、ゾッとしましたよ……』

 

 女性は二の腕をまさぐって嫌悪をあらわにしている。

 

「どこの世界にもこういう人っているんですね」

 

 テレビを見ていた山崎は犯人の情報を聞いて、俺も警察としてしっかりしないとな、と心の中で意気込む。

 テレビを見ていた桃子も箸を止め、

 

「なのはも気をつけなさい。どんなとこにも変質者って怖い人たちがいるんだから」

 

 なのはに真剣な表情で注意。なのはの父も腕を組んでうんと頷く。

 

「あぁ、なのはは特にかわいいからな。連中のいいターゲットだ。十分気をつけるんだぞ?」

「う、うん……」

 

 両親の言葉に怯えた表情を作るなのは。

 

「安心しろなのは!」

 

 と、兄である恭也は握り拳を作って力強く言い放つ。

 

「もしそんな連中が現れたとしても、俺が血祭りに上げてやるからな!!」

「……あの、恭也くん? 目が怖いよ……。パッと見、今の恭也くんの方が犯罪者に見えるんだけど……」

 

 恭也の顔を見て、頬を引き攣らせる山崎。

 今の恭也は『恭也』というより、『凶也』という名前の方がピッタリだと思う、真選組密偵であった。

 

 

 そして、

 

「ぶへっくしょん!!」

「うわッ!? きたなッ!! あっち向いてしなよ!!」

 

 アルフの顔に思いっきりくしゃみぶっかける銀時であった。

 



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第二十五話:深夜の学校は下手なホラー映画より怖い

 フェイトたちが拠点にしているマンションの一室――。

 

 夕食を食べ終えた銀時たちはテーブルにあった食器を片付け、今はデザートを食べながら雑談している最中だ。

 

「しっかし、あんたホントデザートだけは一級品だよねぇ~。夕飯よりずっと完成度高いしさ」

 

 アルフは顔を綻ばせながら、銀時の作ったスペシャルパフェをスプーンで掬って食べる。彼女の言葉にフェイトも笑顔で頷く。

 

「うん。とってもおいしい」

 

 そう言ってパフェのアイスクリームを口に運んだフェイトの顔は、普段の仏頂面を忘れさせ、少女らしい可愛げのある笑みを浮かべていた。

 

「まッ、糖分王目指してる俺としてはまだまだだけどな」

 

 銀時はそう言いながらも、自分が作ったパフェを満足そうに口に運ぶ。

 

「なんか、歯が虫歯だらけになりそうな王様だね……」

 

 アルフは微妙な表情を浮かべながらある袋を取り出し、中に入っている丸い粒をパフェにふりかけた。それを見た銀時は目を細める。

 

「おい、なにやってんだテメェ?」

「なにって……パフェにトッピングを加えてるだけだけど?」

 

 何食わぬ顔で手に持った袋を見せるアルフ。

 自分が作った特性パフェにふりかかった物に、銀時は激しく違和感を覚えてか、声を上げる。

 

「いや、おかしいだろ!! なんで俺特製のスペシャルパフェに『ドックフード』ぶっかけてんだテメェは!!」

 

 指摘されてもアルフは構わずドッグフードを掛け続けた。

 

「なに言ってんだい。コレ、コーンクリプスみたいにコリコリしてるから、結構パフェと相性がいいはずだよ」

「なにそのスナック感覚!? 犬の餌と俺自慢のパフェを同列に扱うんじゃねェよ!!」

 

 銀時は心外と言わんばかりに怒鳴るが、アルフはスプーンでパフェを掬う。

 

「まぁまぁ。そんな目くじら立てずにあんたも食べてみなって。これが結構イケるんだからさ♪」

 

 などと上機嫌でドックフードがトッピングされたパフェを食べるアルフ。あまつさへ「う~ん、美味い」などとのたまっているのだから、余計に性質が悪い。

 そんな人間と味覚が限りなくかけ離れているであろう犬耳女に、銀時は呆れた眼差しを向けた。

 

「……つうか、ドックフード嬉々として食べてる時点で、お前やっぱ犬なんじゃねーの?」

「だからあたしは狼だ!!」

 

 とアルフが怒鳴るが、銀時は平坦な声で指摘。

 

「いやだって、ドックフードって犬の食べ物じゃん。英語で(ドック)だから犬じゃん。お前限りなく犬じゃん」

「ぐっ……!」

 

 ぐぐもった声を漏らすアルフは、少し視線を逸らしつつ、

 

「お、狼は犬科だから……い、犬の食いもんは口に合うんだよ……」

「おーい。お前ん中で狼としてのアイデンティティが揺らいできてるぞー」

「うるさいなぁーっ!! あんたもコレ食え!!」

 

 図星突かれたことを誤魔化すように、アルフはドックフードパフェを掬ったスプーンを銀時の口に強引に突っ込んだ。

 

「んぐっ!?」

 

 銀時は髪を逆立たせる。

 甘い物大好きの甘党男でも、さすがに犬の餌をトッピングされたパフェを喜んで食べるような趣向はもってない。無理やり自身の口に異物混入した目の前のケモミミ女に、文句の一つを言おうとしたのだが、

 

「ボリボリ……ん?」

 

 なぜだか犬の餌が口に入ったと言うのに、嫌悪感を感じるどころか、旨味さへ感じてきた。まさかの新感覚に、ゆっくりと口の中のモノを味わいだす銀時。

 

「ぎ、銀時?」

 

 動物の餌を口に入れられて、さほど嫌悪感を出さない男をフェイトは不思議そうに見つめる。

 え? まさか? と、嫌な予感を覚え始めた少女。

 

 口の中にあったモノを全て喉に通した銀時は、汗を流して一言。

 

「――結構……イケるな……」

「へッ……?」

 

 フェイトはまさかの答えにポカーンとした表情。

 呆然とするフェイトに気付かず、銀時は感想を述べ始める。

 

「いやぁ……ビックリしたぜ。まさかドックフードとパフェがこんなに合うとはな。まさかの新発見だ」

「だろだろ~? こう見えて、あたしは舌には自信あるんだよ」

 

 自慢げに豊満な胸を張るアルフを尻目に、銀時はフェイトに顔を向け、ドッグフードパフェをスプーンで掬って彼女の前に出す。

 まさか!? とフェイトは思い、ギョッとした表情を銀時に向け、彼はスプーンを差し出しながら言う。

 

「ほれ、お前も食ってみろ。結構イケるぞ」

「フェイトも食ってみなって。結構美味しいからさ♪」

 

 とアルフも便乗。

 

「え……? ええええええええええッ!?」

 

 いくらなんでもこれは無理だ。銀時とアルフのおススメと言ってもさすがに無理だ。

 両手を出しながらフェイトはやんわり拒否の意思を示そうと、

 

「え、遠慮してお――」

「ま~、そう言うわずに。何事もチャレンジ精神は大事だぜ」

 

 だが、銀時は構わずフェイトの口にスプーンを突っ込む。

 

「ングゥーッ!?」

 

 有無を言わさずドックフードパフェを口に押し込まれ、フェイトの顔は青ざめ、髪は逆立つ。

 そして金髪少女は涙を流しながら、

 

 ――……なんで、ちょっとおいしいんだろう……(涙)

 

 銀時ほどではないにしろ、それほど悪くないと感じてしまう自身の味覚に悲しみを覚えたフェイトだった。

 

 

 

 翌日の夜――。

 

 フェイト、銀時、アルフの三人は、ジュエルシード回収のためにある建物にやって来ていた。

 目の前の建物を見て眠そうな目蓋をより深く沈めた銀時が、フェイトに顔を向ける。

 

「……なー、マジでここにジュエルシードあんのか?」

 

 フェイトは「うん」と頷く。

 

「少し弱いけど、ここにジュエルシードの魔力を感知した。間違いなくここにある」

 

 アルフはやる気のある表情でバシっと拳を掌に叩きつけた。

 

「そんじゃま、サクッと終わらしちまおうか!」

 

 だが、やる気ある魔導師と使い魔のコンビとは対照的に、銀時の表情は明らかにノリ気という言葉が感じられない。

 夜遅くで眠いというのもあるのだが、それ以上に大きな理由が彼を目の前の建造物に入れたくないと思わせていた。

 

「そ、そうか……。そ、そんじゃ……今回はお前らに任せるわ」

 

 銀時は「頑張れよ~」と言って手をぶらぶら振りながら帰ろうと踵を返す。

 

「待てコノヤロー」

 

 そうはさせないと言わんばかりに、アルフが銀時の襟首を掴み、呆れた表情で言う。

 

「あんた、なに勝手に帰ろうとしてんだよ。昨日言った『俺も手伝う』って言葉は嘘だったのかい?」

「い、いやぁ~……」

 

 銀時は目を泳がせながら口元引くつかせる。

 

「魔法使えない俺じゃ、解説するだけのヤムチャみたいな存在になるだけだろうしィ、ここは素直にお前らに任せようと思ってよ」

「はぁ? 魔法使えなくてもあんた腕は立つんだろ? からっきし戦えないワケじゃないんだろ? あんたが腰に刺してる棒っきれは飾りかい?」

「い、いやいやいや!」

 

 と銀時は声を上擦らせ、右手をぶんぶん振る。

 

「こ、これはアレ! もう強いとか弱いとかそういう次元の話じゃねェんだよ! ……そ、そう! なんかこ~、この建物に入ってはいけないと言う俺の第六感(シックスセンス)が訴えかけてんだよ!!」

「はッ? あんた突然なに言ってんの?」

 

 眉を顰めるアルフ。

 顔を青くして汗を流しながら、必死に言い訳を始める目の前の銀髪。彼が、なぜだか建物に入りたくないらしいことは分かった。

 とは言え、

 

「ここが、危険?」

 

 アルフは振り返って見た建物――『学校の校舎』を見て、首を傾げる。

 

 大きな建造物ではあるが、どう考えても危険な要素を感じる部分は見当たらない。この世界にやって来たアルフとしては、どういった用途の建物なのかはよくは理解できないが、間違いなく危険と言う言葉が当てはまるモノではないことは予測できた。

 ちなみだが、彼女らの目の前の学校は、なのはたちが通っている『私立聖祥大学付属小学校』の校舎だったりする。

 

 すると、

 

「銀時はなにを怖がっているの?」

 

 フェイトは首を傾げて疑問を投げかけた。

 

「えッ? 俺が怖がってる? What's? おいおいおいおい。お前はなに見当違いなこと言ってんの?」

 

 アルフに襟首を掴まれていた銀時は、余裕綽々と言った顔で、汗をダラダラ流しながら語り出す。

 

「これはアレだよ。危険というか、生命の危機を感じての撤退であり、別段恐怖とは違うワケよ。そう! 言うなればアレ! 生存本能による行動! ……みたいな?」

「「………………」」

 

 銀髪の白々しい言い訳を聞いて、フェイトとアルフは半眼になる。

 

「んで? その生命の危機ってなに?」

 

 使い魔の質問に銀時は「えッ?」と間の抜けた声。

 アルフはもう一度同じ質問を口にする。

 

「具体的に、どんな危機がやって来るんだよ?」

「………………」

 

 少しの間、押し黙ってしまった銀時は汗をダラダラ流しながら、視線をあちこちに向ける。そして、よりアルフとフェイトのジト目が増す。

 

「――ゴホン!」

 

 と、銀時はワザとらしく咳払いをし、人差し指を立てる。

 

「つまりざっくり説明するとだ。学校っつうのは危険なスポットの一つなんだよ。ホラーで言うなら病院、墓地と並ぶ三大危険地帯の一つとして数えてもいい場所だ。分かるな?」

「つまりあんたは、ホラーで定番の場所だから怖いってことだろ?」

 

 アルフがバッサリ言えば、

 

「ちげェェェェよ!! 勘違いすんじゃねェよ!!」

 

 銀時は必死な表情で怒鳴り声を上げ、さらには見苦しい言い訳をまた始める。

 

「まるでラスボスのようなデカイ建物! 闇に引きずり込まれそうな暗い廊下! そして誰もいない静寂! どれもこれも危険なモノばっかりじゃねェか!!」

 

 などと供述する銀時の両腕を、アルフとフェイトは左右から挟み込んでガシっと掴む。

 

「はいはい。危険なのは分かったから」

「時間がない。行くよ銀時」

「えッ? ちょッ!? ちょっとまッ――!!」

 

 二人はそのまま何か言う銀時を引きずるように引っ張って行く。そうすれば、銀髪は懇願しだす。

 

「分かった! 分かったから!! せめてドラえもんの歌を歌いながら行こう!! せめてこの暗い雰囲気を払拭するために明るいBGMで場を盛り上げよう!!」

「ドゥルルルル、ドゥルルルル、ドゥルルルルットゥ、ドゥルルルル~~」

 

 フェイトが口ずさんだのは、世にも奇妙なBGM。

 

「おィィィィッ!? なんかタ○リさんが出てきそうなBGMが流れてきたんだけどォォ!? お前ホントにフェイトちゃん!? 『髪切った?』とか訊いてこないよね!?」

 

 ギャーギャー騒ぐ銀時を尻目に、フェイトとアルフはずんずん学校の奥へと入って行く。

 

 

 

「たく、しょうがねーなおい。まァ、俺も別に怖いワケじゃねェしィ、お前らだけじゃ心配だから付いてってやるよ。いいか? 決してビビってるワケじゃないことを忘れるんじゃねェぞ?」

 

 などと、銀時は誰にも求められていない説明をたらたら口にし続ける。

 

「はいはいわかったわかった。それよりさぁ……」

 

 自分の横を平行して歩く銀時に、呆れた表情のアルフは半眼を向けた。

 

「なんであたしら仲良くお手て繋いで歩てんの?」

 

 右からフェイト、銀時、アルフといった具合に、三人は手を繋いで歩いている。

 コスプレした金髪少女に、いい年こいた銀髪の大人に、スタイルのイイ犬耳の女が手を繋ぎながら歩く光景はシュール極まりない。

 

 銀時は「あん?」と片眉を上げた。

 

「オメェらが怖いと思って気を使ってやってんだろうが」

「銀時の手、なんか汗でベトベトしてるよ?」

 

 銀時と繋いだ手を、フェイトは不思議そうな顔で見る。

 少女の手を握って恐怖を誤魔化そうとするダメな大人に対するアルフの眼差しが、より呆れたモノへと変わった。

 

「なにその目? ホントに俺怖くないからね!? なんなら歌口ずさみながら歩いてやっても別に俺は構わないよ!」

 

 銀髪が必死に言い訳しながらサラッとリクエストすれば、金髪少女が口ずさむ。

 

「ドゥルルルル――」

「それは止めろ!!」

 

 青ざめた顔の銀時が怒鳴ってやめさせる。

 そんなこんなでジュエルシードの反応がある一室の前までやってきた一同。

 

「どうやら、ここにジュエルシードがあるようだね」

 

 ギロリと犬歯をのぞかせるアルフ。これから一仕事待っていることを意識してか、好戦的な表情を作り出す。

 だが一方の銀時は、教室がどんな場所であるか指し示す『理科室』と書かれた看板を見て、顔を青くさせる。

 

「お、おい。マジでここにジュエルシードあんのか?」

「うん。間違いない」

 

 とフェイトが頷く。

 

「でも、ジュエルシードが覚醒しているようだけど、割と静かだね?」

 

 アルフはシンと静まり返った部屋に首を傾げた。だが、使い魔は両耳をピクピクと動かして片眉を上げる。

 

「……だけど、どうやら部屋の中に何かいるね。足音と生き物の気配は感じるよ」

 

 動物特有の感の良さで教室に誰かがいることを察知したアルフ。銀時は顔をさらに青くさせる。

 

「おい。それって霊的なモンじゃねェだろうな? お前、実は霊感があってラップ音的なもんを足音と間違えたとかじゃねェだろうな?」

 

 違うよ、とアルフは首を横に振った。

 

「あたしは耳と感には自信があるんだ。ユーレイと人間の区別くらい付くよ。つうか、いい加減その痩せ我慢やめなよ。見てて見苦しい――」

「誰も痩せ我慢なんてしてねーよ!! いいぜ……なんなら俺が先陣斬ってやるよゴラァ!!」

 

 半ばヤケグソ気味に銀時は教室の引き戸に手を掛けた。

 たぶん、幽霊と違うとわかった時点で強気な態度取っているんだろうなー……、と思ったアルフ。

 銀時は勢いよく扉を横に引いた。

 

「ジュエルシード出てこいやゴラァ!! お縄頂戴じゃァァァァッ!!」

「きゃああああああああああああッ!!」

 

 その時、突然の悲鳴――と同時に、肩にフェレットを乗せた栗色髪のツインテール少女が黒闇に包まれた教室から出てくる。

 そして、その少女の頭の高さは銀時の股間あたりなので、扉開けた銀髪に向かって思いっきり走ってきた少女の脳天は勢いよく男の急所へと激突。

 

「ッッッッ!?」

 

 声にならない声を吐き出しながら、まるで世界がスローになったかのよう感覚と共に、鈍く鋭い痛みが股間から彼の全身へと伝っていく。

 だらしなく口から唾液を垂らし、顔面蒼白にしながら仰向けに倒れ、ピクピクと体を悶絶させる銀時。

 

「「ぎ、銀時ッ!?」」

 

 一撃で戦闘不能にまで陥ってしまった仲間に駆け寄るフェイトとアルフ。二人は床に両手を付いて必死に銀時に呼びかける。

 

「銀時しっかりして!!」

「大丈夫かいあんた!? たかが股に人間が突っ込んだくらいでなに致命傷受けてんだよ!?」

 

 男の痛みを知らないアルフは呆れ気味の声を出す。

 一方、股間に突撃した杖を握る白い防護服の少女は「こわいよぉ~! こわいよぉ~!」と銀時の腰に抱きつきながら涙を流していた。

 そして意識を失いかけている銀時は、一言。

 

「……あ、あとを……たの、む……(ガクッ)」

「「ぎ、銀時ィィィィィぃぃッ!!」」

 

 死んで(気絶)しまった男の名前を叫ぶ二人に看取られ、口から血(よだれ)を流す彼の顔は安らかだった。

 そして、悲しみにくれるアルフとフェイトは立ち上がる。

 

「さーて、そんじゃとっととジュエルシード封印するか」

「そうだね。銀時の犠牲を無駄にしない為に」

 

 いつの間にか涙が引っ込んでいる二人は、デバイスを構えたり、肩を回したり、戦闘の準備を開始。

 アルフは銀時の股に引っ付いている少女に目を向け、白い少女の襟首を掴んで銀時から引き剥がす。

 

「つうかあんたなんなんだい? いきなり現れて」

 

 首の後ろを持ち上げられた子猫のように、掴んだ少女を吊り下げるアルフ。白い少女を観察するうちに、ハッと気づく。

 

「あッ、もしかしてフェイトの言ってた魔導師の子だね? どうせジュエルシードを回収しに来たんだろうけど、そうはいかないよ。忠告しとくけどね、これ以上フェイトの邪魔をするってんならガブッっと――」

「ふぇぇぇぇぇぇぇぇん!!」

 

 アルフが忠告を混ぜて威嚇しようとした矢先、ツインテールの少女は涙を流しながら使い魔の豊満な胸に顔を埋めて抱きついた。

 

「ちょッ、ちょっと!?」

 

 予想外の相手の行動に頬を赤くさせるアルフ。

 

「怖かったよぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 恐怖に駆られてか、自分の置かれている状況も分からず、首をブンブン左右に振り乱す少女。

 

「あッ、ちょッ、あぁ……ッ!」

 

 ムニュムニュとアルフの豊胸は弾力よく形を変え、そのたびに彼女の体は小刻みに悶える。

 

「や、やめ……!!」

 

 さすがに耐えられず、アルフは顔を赤く紅潮させながら、なんとか胸に抱きついた少女を引き剥がそうとするが、少女はまったく離れる様子がない。

 

「ちょッ! ほ、ホントいい加減にしておくれよ! く、くすぐったいんだから!!」

「うぅぅぅ……ッ」

 

 少女はよほど怖い思いしたのか、怯えるばかり。まるでアルフの言葉が耳に入ってないようだ。涙目のまま、アルフの柔らかそうな胸を、これまた柔らかそうな頬にフニフニと押し付ける。

 そしてさんざん胸を弄られたせいで足がおぼつかなくなったのか、バランスを崩して尻餅をつく。

 

「いたッ!」

「だ、大丈夫アルフ!?」

 

 さすがに心配になったフェイトはアルフに駆け寄れば、

 

「フェイトォ~! コイツなんとかしておくれよぉ……」

 

 涙目の使い魔。

 

「う、うん」

 

 さすがに泣いている子供を強引に引き剥がせないというか、あまり力が入らないアルフ。自身の主に助けを求めれば、フェイトは素直に応じてくれる。

 なんとかアルフの胸に引っ付いていた少女を引き剥がす。

 

「あ、あの……大丈夫?」

 

 とフェイトが聞けば、

 

「ひっぐ……えっぐ……」

 

 涙を流しながら嗚咽を漏らす少女。

 

 見たところ泣いている少女は前にフェイトが、ジュエルシードを回収した時に見た、と言っていた魔導師のようだ。

 敵である可能性が高いのだが、さすがのクールな主も泣きじゃくっている相手に刃を向けるなんて事はできないようで、戸惑い困った様子を見せながらも、なんと落ち着かせようとしている。

 

「……あ、あの、これ使って」

 

 ぎこちなく、フェイトは銀時に持たされたハンカチを少女に貸す。

 

「ありがとう……」

 

 栗色髪の少女はやっと心が落ち着いてきたのかハンカチで涙を拭き、

 

「ヂーーーーーン!」

 

 ついでに自然な動作で鼻も勢いよくかむ。フェイトは絶句。

 少女は鼻水と涙がべっちょりついたハンカチを「ありがとう……」とお礼を言いながら返す。

 

「それあげる」

 

 フェイトは遠まわしにハンカチ返却を拒否。

 

「ぁッ……う、ぅん……」

 

 少女は自分が無意識にしてしまった行為について、客観的に気付いたようで、ぎこちなく返事をしながらハンカチを持った手を引っ込める。

 そして、ようやく落ち着いたであろう少女にアルフが問いかけた。

 

「つうか、あんたなんであんなに怖がってんだい?」

「そ、それはアレが……」

 

 魔導師の少女は震える指で暗い闇に包まれた理科室を指す。

 

「「アレ?」」

 

 アルフとフェイトは理科室に顔を向けると……そこから、のっそりと横半分が人間の内部を模した人形が顔を出す。

 

「ッ…………!?」

 

 それを見て固まるフェイト。

 人形と思わせないような自然な動作で、ゆっくり理科室から出てくるのは『人体模型』。人間の体の内部を学ぶために作られた、等身大の不気味な人形だ。

 

「出たぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 それを見た少女はまた涙を流して悲鳴を上げる。

 滑らかに両の目玉が上下左右に動き、やがて自分より背の低い少女たちをギロリと捕らえた。

 そして手を上げ襲うようなポーズをした直後、

 

「うおぉぉりゃぁぁぁッ!!」

 

 大きく振りかぶったアルフの拳が模型の胴に直撃。人体模型の頭と両手と両足は、胴から離れてバラバラになってしまう。

 

「なにかと思ったら、ただの動く人形じゃないか。どんな化け物が出るのかと思ったよ」

 

 呆れたようにふぅと息を吐くアルフは、フェイトに顔を向ける。

 

「そんじゃフェイト。とっとジュエルシードを回収――」

 

 フェイトは顔面蒼白にし、白目を剥いて立ったまま気絶していた。

 

「フェイトォォォォォォッ!?」

 

 まさかの光景に、アルフは模型人形が現れたことよりもずっとビックリしてしまう。

 

「ちょッ!? フェイトォッ!? そんな気絶するほど怖かったのかい!? いくらなんでもそれは情けなさ過ぎるよぉ!!」

 

 心配したアルフはフェイトの肩を揺する。

 だが、主は目を覚ます様子はない。我が主人は、あの露骨にグロいだけが取り得の人形に恐怖して気絶したとでもいうのだろうか……。

 

「ん……ん~……。うっせーなァ……」

 

 やっと目を覚ました銀時にアルフは気づく。

 

「やっと目が覚めたのかい! ちょっと手伝ってくれよ! 実はフェイトが立ったまま気絶しちまって!」

「おいおい、折角の休日なんだからゆっくり寝かせてくれよ」

 

 と、銀時は寝言のようなことを呟き出す。

 

「基本おれ、休日は昼まで寝る派なんだよ」

「朝でも昼でもねぇ!! 今は夜だぁ!!」

 

 アルフは起きてそうそうボケかます銀髪に怒鳴る。

 

「つうか寝る前に股間に物凄い衝撃が加わった気がするんだけど、なにか知らない?」

 

 銀時はボリボリ頭掻きながら呑気なこと言い、アルフが必死な顔で頼み込む。

 

「そんなこと今はどうでもいいから! とにかくフェイトを起こすの手伝ってくれよ! 頼むから! これじゃジュエルシードも封印できないし!」

「そんなこととはなんだ。キ○タマの問題は男にとって死活問題――」

 

 と言いながら銀時が顔を上げた時、彼の目と鼻の先に首だけの人体模型が浮いていた。そして、パカっと口がクルミ割り人形のように開く。

 

「………………」

 

 それを見た銀時は、またしても顔面蒼白になり、白目を剥いて仰向けに倒れた。

 

「オメーはホントなにしに来たんだぁぁぁぁぁッ!!」

 

 ここまでまったく役に立たない男に、アルフは青筋立てて怒りをあらわにする。

 だがすぐに意識を切り替えて、頭や腕や足や胴を浮かせる人体模型を睨む。

 

「チィッ! 結構思いっきりぶっ飛ばしたつもりだったのに!」

「やっぱり、封印しない限りあの程度の攻撃をしても完全に行動を封じることはできないみたいだ!」

 

 悔しそうに歯軋りするアルフの横で、セリフを喋ったのはフェレット。

 喋った小動物を見てアルフは驚く。

 

「喋った!? あんたもしかしてそこの白い奴の使い魔か!?」

「僕は使い魔じゃない!」

 

 アルフの予想をフェレットは即効で否定。

 

「とにかく『なのは』! 黒い魔導師が気絶している以上、君が封印しないと! 僕や使い魔の彼女じゃ奴をまともに封印できな――!!」

 

 なのはと呼ばれた少女にフェレットが顔を向ければ、白い魔導師は白目を剥いて倒れていた。ようは気絶していた。

 

「って君もかいぃぃぃぃぃぃッ!!」

 

 なんか叫んでるフェレットは放っておいて、アルフは拳を掌に叩き付ける。

 

「はッ! あたしを舐めんじゃないよ! 原型が残らなくなるまで粉々にしちまえば、問題ないだろ!」

 

 アルフがニヤリと笑みを浮かべた直後、パカっと人体模型の口が縦に開く。

 

「?」

 

 いったいなにを? と思った矢先、模型の口の先に魔力が集まり、魔力の塊が一つの球体として形成されていく。

 

 ――アレはまずいッ!

 

 アルフが危険を察知した直後――自分の顔目がけて魔力の球体が、まるでスリングショットで飛ばした球のように放たれる。

 

「くッ!」

 

 咄嗟に横に跳び引いて魔力弾を避けたアルフ。

 弾の直線状にあった窓ガラスは砕け散り、そのまま魔力の球体は空中まで飛んで行ってしまう。

 

「危ないねぇ、たく……」

 

 直感的に避けず、下手に防いでいたら無事では済まなかっただろう。さきほどの魔力弾は、もし当たっていたら自分の頭が吹っ飛んでいた可能性があろう魔力を秘めていたのだ。

 

 アルフは安堵して額から流した汗を拭う。

 すると、すかさず人体模型の両足がアルフに向かって突っ込んでくる。

 

「ふんッ!」

 

 右の拳を一振りするだけで、二本の足を吹き飛ばす。だが、自分が足を弾いた直後を狙ってか、浮かんでいた両手がすでに掌を開いて、間合いを詰めていた。

 

 ――しまったッ!

 

 そう思った瞬間には、自分の体は両手に捕らえられてしまう。

 

 ムニュ!

 

「ん?」

 

 両手はしっかり自分の胸を鷲掴んで、捕らえていた。アルフの胸は豊満で人形の手には収まりきらず、両の胸の肉が指の間からはみ出るほど強く、使い魔の胸は掴まれていた。

 一瞬自分が何をされたか分からず呆けていたアルフは、ムニュムニュと自分の胸を揉む手を見てやっと我に返り、

 

「うぎゃああああああああああああッ!?」

 

 顔を真っ赤にして、胸に引っ付いた腕を殴って粉砕。

 

「なにすんだこのセクハラ人形!! つうかなんであたしは今回こんなにエロいことされんだよ!?」

 

 思わずアルフは自身の胸で腕で隠す。

 その時だった――。

 

 人形の胴がアルフ目がけて突っ込んできた。

 胸を掴まれたことで敵から意識が逸れてしまったアルフは、無防備の腹に胴体の突進をもろに受けてしまう。

 

「ガハッ!?」

 

 口から唾液や空気を漏らしながら、勢いのまま壁に叩き付けられた。さらには人形の頭がアルフの顔の前まで詰め寄り、口を空け、彼女の目の前で魔力の球体を作っていく。

 咄嗟に逃げようともがくが、胴体に押さえ込まれている上に、ダメージを受けたせいでロクに動けない。

 

 ――クソッ!

 

 油断した。胸を触られたぐらいでミスを犯した自分の責任だ。

 最後まで抵抗を試みようと体に力を入れるが、どうしても思うように動けない。すでに模型の頭は魔力弾を発射できる状態に入ってしまっている始末。

 

 ――もうダメだ!

 

 と、思った瞬間――バキリ、と模型の額に木刀の切っ先が生えた。

 アルフの目に映ったのは、背後から木刀で人形の後頭部から額を一直線に貫いている銀時の姿。

 

「おいおい、うちの犬になにサラしてくれてんだテメェ」

 

 銀時が鋭い眼差しをジュエルシードの相異体に送る。

 人体模型は壊れた機械のようにガクガクと口を動かし、目を世話しなく四方八方に動かす。

 

 一閃――。

 

 銀時は上から下へと木刀振り、ものの見事に模型の頭を一刀両断。パカリと二つに割れた模型の頭は床へと落ちる。

 そしてすかさず、銀時はアルフを押さえ付けている胴体を蹴り飛ばす。

 

「銀時…………」

 

 アルフは自分を窮地から助けた男の名前を呟く。

 だが、銀時はアルフではなく吹っ飛ばした胴体に顔を向けた。そして怒りの表情を作り、

 

「このクソッタレ人形が!! 人のことビックリさせやがって!! ビックリして十二指腸飛び出るかと思ったじゃねェかこのヤローッ!!」

 

 ゲシゲシと胴体を踏みつける。

 やったんらんかいィーッ!! と銀時が叫べば、二人の少女もリンチ開始。

 

「怖かった……。怖かったのぉぉぉぉぉッ!!」

「うぅッ!!」

 

 気絶していた白い魔道師とフェイト。二人は手に持った杖で胴体をタコ殴り。ちなみに二人とも恐怖が抜けないのか涙目。

 銀時が憤慨しながら声を上げる。

 

「こんな腐れ人形はとっと封印じゃあー!! やったれフェイトォー!!」

「うん!」

 

 フェイトは力強く頷いて、ジュエルシードをあっという間に封印してしまう。ここまで怒りを露にしているのは、たぶん怖い目に遭わされた事がよほど悔しかったのだろう。

 これにて、フェイトが集めたジュエルシードは計六つだ。

 

 銀時は「ふぅ……」と額の汗を拭う。

 

「まぁ、危なかったが初陣としては中々じゃねェか? 所詮はただの人形ってこった。なー、アルフ」

 

 銀時は満足げな表情でアルフに振り向く。

 

「銀時……」

 

 とアルフは呟き、

 

「ざけんなァーッ!!」

 

 青筋浮かべて銀時の顔面に拳を叩きつけた。

 

「ブホォーッ!?」

 

 声を漏らしながら倒れた銀時を、使い魔は何度も踏みつける。

 

「最後にイイところ全部持っていきやがっただけのくせして、なにしたり顔でやり切った感出しんだコラ!! 途中まで頑張ってたのはあたしだろうが!! しかもお前は途中までずっと気絶しててまったく役に立ってなかっただろうが!! 偉そうなこと言う資格ねェだろうが!!」

「ちょッ!? ゴメン!! ホントゴメン!! だから蹴るの止めて!!」

 

 悲鳴を上げる銀時。

 散々蹴りまくった後、ようやく怒りが収まったアルフは肩で息をし、腕を組んで顔をプイッと背ける。

 

「……まぁ、ちったーあんたのこと、認めてやるよ……」

 

 そう言うアルフの頬をほんのり赤くなっていた。

 その時、

 

「あの、もしかしてあなたって……坂田、銀時、さん?」

 

 戸惑い気味に銀時のフルネームが呼ばれた。

 

「ん?」「あん?」「…………」

 

 アルフ、銀時、フェイトは三者三様に、声の主――白い魔導師の少女へと顔を向ける。

 白い少女は必死な表情で、

 

「坂田銀時さんですよね!? わたし、なのは! 高町なのはです!!」



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第二十六話:未来と光明

今までのけもだった近藤さんが今回からついに参戦です。


「わたし、高町なのはです!!」

 

 突然自己紹介したなのはに目をパチクリさせる銀時。

 目の前の少女の顔にまったく見覚えがない。いや、厳密には顔にうっすらとだが心当たりがあるのだが、全然思い出せない。

 

「あの、志村新八と神楽って名前に心当たりはありませんか?」

 

 なのはが不安そうな顔で尋ねれば、銀時は驚愕の表情になる。

 

「えッ!? お前あのバカ二人のこと知ってんのか?」

「バカ……」

 

 仲間を『バカ』呼ばわりする銀時の言葉に、若干微妙そうな表情を作るなのは。

 銀時は元の世界の仲間が出てきたことに驚きを隠せないようで。

 

「つうか、なに? お前あの二人と知り合いなの? マジで?」

 

 フェイトの手助けをしている銀時。彼の現状の立場は、目の前のなのはとはジュエルシードを巡って争っていると言う、紛いなりにも対立関係なワケだ。

 だがしかし、まさかその少女が自分のよく知る人物たちと知人だと言うことに信じられないでいた。

 

「あと、土方さんや沖田さんや近藤さんとも知り合いですよね?」

 

 と付け足すように言うなのはの言葉に、銀時はさらに驚いてしまう。

 

「はッ!? お前あの腐れ警察共とも知り合いなのか!?」

「腐れ……」

 

 なのはは銀時の言い草にまた微妙な表情。

 まさか、警察の皮を被ったチンピラ共とも知り合いと言うことに、銀時はなんとも言えない表情で嫌悪感を露にし始める。

 

「おいおい、世界狭過ぎるとかそんなレベルじゃねェだろ。なんであいつら異世界いんだよ。同じ世界の、しかも知り合いが別世界で出会う確率とか天文学的数値だろんなもん」

「いや、あの、新八さんたちは銀時さんを追いかけて海鳴市にやって来たそうだなので」

「あー、そうなの」

 

 銀時のあっさりした態度に、なのはと一緒にいるフェレットまで微妙な表情。

 

「そ、そんなあっさりこっちの話しを信じるんですか……」

「……あのさぁ、話がよく見えないんだけど? つまりあんたの家族が見つかったってことかい?」

 

 眉間に皺を寄せるアルフの言葉に、銀時は首を縦に振る。

 

「あァ。まあ、帰れるめどが立ったかまでは分からねェが、俺んとこのバカ共がどうやらこの世界にやって来ちまったみてェだな」

「へぇ、なるほど……」

 

 相槌を打つアルフの顔は、どことなく不安そうに見えた。

 銀時の顔に一度目を向けたフェイトはなのはへと顔を向ける。

 

「じゃあ、銀時の仲間たちはあなたのとこにいるってこと?」

「う、うん」

 

 なのはがぎこちなく首を縦に振れば、再びフェイトは銀時に顔を向けた。

 

「銀時は……」

 

 そこで一旦言葉を途切らせたフェイトは、意を決した表情で言葉を続ける。

 

「仲間たちの元に戻りたい? もしかしたら、自分の世界に帰れる可能性だって高いよ」

「…………」

 

 口を閉ざし見つめてくる銀時に、フェイトは安心させようとしてか薄く笑みを浮かべた。

 

「わたしは大丈夫。銀時がいなくても、アルフと二人でジュエルシードは回収していくから」

 

 だが、黒い魔導師の表情は、一抹の寂しさを感じさせた。

 一方、なのははおずおずと話しかける。

 

「……あの、新八さんと神楽ちゃんも、ずっと銀時さんのことを気にかけていました。もし、銀時さんが戻れば二人も喜ぶと思うんです」

 

 やまかしいがほっとけない、バカ二人の顔が銀時の頭を過ぎった。だが、銀時は何も言わずフェイトの襟首を掴んで帰ろうとしだす。

 

「ほら、とっと帰るぞ」

「ぎ、銀時?」

 

 と驚くフェイト。

 

「銀時さん!?」

 

 なのはも銀時の行動が予想外だったのか驚いた表情になり、困惑しながら質問をする。

 

「あの、銀時さんは……新八さんと神楽ちゃんに会いたくないんですか? 二人はずっと銀時さんのことを心配してたのに……」

 

 悲しそうな表情を作るなのはの言葉を聞いて銀時は立ち止まり、口を開く。

 

「なァ、一つ聞きたいことがあるんだけどよ」

「えッ? えっと、なんですか?」

 

 小首を傾げるなのはに、銀時は質問を投げかけた。

 

「二人は元気だったか?」

「はい。寧ろこっちが元気を貰うくらい元気です」

 

 と、なのはは苦笑気味に言う。

 

「そうか……」

 

 相槌を打つ銀時の口元は、心なしか少なからず釣り上がっていた。

 銀時は頭をポリポリと掻く。

 

「それだけ聞ければ充分だ。今んとこ会う必要はねェ。あいつらにちゃんと会うのは、こっちの仕事を片付けてからだ」

「えッ……」

 

 なのはは意外そうに声を漏らし、銀時は振り返らずに語る。

 

「途中で依頼を投げ出す真似なんざする方が、あいつらに怒られらァ。それに、俺もそれなりに仕事にはプライドを持って臨んでるんでな」

 

 そして、振り返った銀時はビシっとなのはに指を突きつけた。

 

「一度コレと決めた依頼は最後まできっちりこなすのが万事屋だ。覚えときな」

 

 そう言ってまたフェイトの襟首を引っ張って行こうとする銀時に対し、なのはは引き止めようとしない。さほどやる気の感じられない彼の瞳から、確かな決意を感じたからだろう。

 

「銀時、あんた……」

 

 静観していたアルフは瞳を揺らしながら銀時を見つめている。その瞳をチラリと見た銀時は、頭を掻く。

 

「お前、俺が自分犠牲にしてお前らのために味方してるだとか、そう言うこと思ってるだろ?」

「だって、折角仲間が見つかったのに……」

 

 どうやらアルフはアルフで銀時のことを考えてくれていたようだ。だが銀髪の侍にとって、今のところ大きなお世話でしかない。

 

「別に俺は無理してお前らに付き合ってるワケじゃねェよ。変な勘ぐりすんな」

 

 アルフの顎を指で撫でる銀時。対して、狼の使い魔はくすぐったそうに目を細める。

 

「前にも同じような話したが、俺ァ好きでお前らに付き合ってんだ。人の好意には遠慮せずに甘えときな」

「んん…………って、あたしは猫じゃねェ!!」

 

 アルフはバシっと銀時の腕を振り払う。

 銀時はプラプラと手を軽く振りながら歩き出す。

 

「ほれ、とっとけェって飯食うぞ~」

「待ってください!!」

 

 すると声を上げたのは、フェレット。なのはの横にいた小動物は捲し立てる。

 

「あなたたちが集めようとしているジュエルシードは危険な物なんです!! それを集めたってあなたたちには何のメリットもありません!!」

 

 喋るフェレットを見た銀時は驚いた表情で。

 

「うわッ、ウィンナーが喋った。気持ちワル」

「誰がウィンナーですか!! いきなり失礼ですね!!」

 

 怒鳴るフェレット。すると銀時は、

 

「じゃあ、お稲荷さん?」

「お稲荷さんてなんですか!?」

「あ、ならチ○コか。卑猥な形してるもんなお前」

「しまいには殴りますよあんた!!」

 

 ブチ切れるフェレットはなんとか気持ちを静めて、再度説得に入る。

 

「と、とにかく! ジュエルシードは危険な物なんです! 私的な理由で使ったって決して良いことなんておきません!!」

 

 対し、

 

「悪いけど、わたしたちは損得抜きにしてジュエルシードが必要。だからいくら言われようと、引き下がるつもりはない」

 

 冷たく言い放つフェイト。

 押し黙ってしまうフェレットに、続いてアルフに主にならって言い放つ。

 

「あたしはフェイトの使い魔だから、フェイトに付いて行くだけさ。フェイトが考えを変えないなら、あたしだって変えるつもりはないよ」 

 

 仲間二人に、銀時は交互に視線を送る。

 

「宣戦布告はその程度にしときな。そろそろ帰らねェと、夕飯が夜食になっちまう」

 

 じゃあな、と銀時は言って手を軽く振りながら歩く。そして、彼の後を付いて行く少女と使い魔。

 

 そのまま三人は、廊下の暗闇にゆっくりと消えていく――。

 

 なのはは彼らに何か言おうと声を出そうとしているが、まるで喉に何かが詰まったかのように言葉を出せずにいた。

 そんな白い少女に、フェレットが声のトーンを落としながら話しかける。

 

「……なのは、僕たちも帰ろう。銀時さんを見つけたことも含めて、土方さんたちに話さないと」

「……うん」

 

 力なく返事をするなのは。

 結局、今回もフェイトたちに対して何もすることができなかったことを、悔やんでいるのだろう。

 

 

 翌日。

 

「ガァーハッハッハッハッ!! いやァ~、桃子さんの料理は本当においしい!! 俺の思い人に負けてないくらですなァ!!」

 

 朝っぱらか高町家の食卓で一際バカデカイ声を上げるのは、ゴリラ似の偉丈夫――近藤勲。

 彼は目の前にある和食をガツガツと勢いよく口に運んでいく。

 

「美人な上に料理上手な奥さんがいて、士郎殿は罪作りな男ですなァ!!」

 

 ガハハハハッ!! とまた豪快に笑うゴリラ。もとい近藤。

 上機嫌の彼の言葉に対し、桃子はニコニコとした顔でお茶を持ってくる。

 

「まぁ、近藤さんはお世辞が上手なんですねぇ」

「いやいやァ~! お世辞を言った覚えはありませんよ! 俺は本当のことしか言えないバカなもんですから!!」

「まぁ」

 

 フフと笑う桃子。

 すると、近藤と対面して座っていた桃子の夫である士郎も笑い声を上げる。

 

「ハッハッハッ! 近藤さんは本当に愉快で豪快な方だ。見てるこっちまで元気を貰えそうですよ。そうだっ! 機会があれば今度、〝コレ〟でもどうですか?」

 

 と、おちょこを持つポーズをする高町家父。

 

「おっ! いいですなァ! 素敵な奥方の話を(さかな)にするのはどうですかな?」

 

 と近藤も同じポーズで答える。

 

「ハッハッハッハッ!! 本当に気持ち良い人だ!!」

 

 愉快そうな二人の様子を眺めているのは、高町夫婦二人を除いた高町兄妹と新八に、神楽と真選組一同。

 

 頬を引き攣らせる新八は、場を静観していた土方に顔を向けた。

 

「……あの、なんで近藤さんあんなに馴染んでんですか? あの人、気絶してそのまま一晩明かして朝食ご馳走になってるだけの人ですよ」

「さーな。まァ、あの人に関して言えば、他人と縁を深めるって部分は得意分野って言っていいからな。裏表がなく、無邪気な性格が功を奏してるってところだろ」

 

 土方はタバコを吹かしながら答えた時、士郎は近藤の太い二の腕を観察しながら尋ねる。

 

「そう言えば、近藤さんはスポーツか何かでもやっているのですか? 中々がっしりとした体躯をお持ちだ」

「おや、分かりますかな? いやァ~、士郎殿は中々の眼力をお持ちだ。ええ、その通り。この近藤勲。ちょっとしたスポーツに勤しんでおりまして」

「ほほぉ……。それで、どんなスポーツを?」

 

 目を細める士郎に、

 

「『ストーカアスロン』です」

 

 と、真顔で答えた近藤。彼の言葉に士郎は目をパチクリさせる。

 

「? ……すみません。そのようなスポーツは聞いたことがないのですが、どう言ったスポーツなのですか?」

 

 士郎は謎の単語に首を傾げ、近藤は腕を組む。

 

「おや、士郎殿は知りませんでしたか。では、お教えしましょう。『ストーカアスロン』とは――!!」

 

 ストーカアスロン――。

 その起源は古く、古代ギリシャ時代から始まったとされる。

 当時、恋愛にも女性にも臆病でチキンだった童貞(ヘタレ)のエロス。当時から彼はエロ本を読み漁り、性欲を嫌というほど溜めていた。

 母親には「早く働けこのごくつぶし!!」と毎日罵声を浴びせられる日々。

 ある時、エロ本のチェック為に本屋に向かっていたエロスは、王宮に仕えていた娘に一目惚れした。それからエロスが彼女の尻を追いかける日々が始まる。

 だが、いつものように娘の尻を追いかけながら王宮に忍び込んだエロスは運悪く衛兵に見つかり、捕まってしまう。

 王妃と毎日よろしくヤってる王は、童貞で嫉妬深い非リア充であるエロスを嫌悪し、処刑しようとした。が、最後にエロスはコミケに行きたいと懇願。

 王は「誰か一人、身代わりになる者(リア充)を紹介して代わりに処刑せてくれたら見逃すけど、どう?」とエロスに持ちかけた。

 エロスはすぐさまリア充である親友を差し出したのだが、次に王が「もし三日が経つまでにお前が戻ってきたら、お前の好きな娘はお前に惚れるかもな(笑)」と言われ、トンズラするつもりだったエロスは必死な思いでコミケ会場まで走り、王宮に戻る為に必死に走る。

 今まで溜めていた性欲を爆発させる勢いで、王のところまで戻り、最後の最後、好きだった娘を手に入れた。

 

「――といった具合の感動活劇を元に、好きな女性の後を追う、ストーカアスロンと言うスポーツが出来たんですよ」

 

 近藤の長ったらしい説明を聞いて、士郎は口元を引くつかせる。

 

「…………それは、ただのストーカー行為なのでは?」

 

 対して、腕を組んだ近藤はしみじみとした顔で、

 

「まぁ、正式名称はストーカーですが、基本的には純粋で一途な想いを元に走るスポーツとして扱われています。俺も過去にいた伝説のストーカーを見習って、日々想い人の尻を追っているんです」

 

 うんうんと頷きながら語る。

 

「な、なるほど…………」

 

 士郎は戸惑いながらも、妙な説得力につい納得してしまったようだ。

 その様子を見ていた新八は、青筋を浮かべながら冷めた視線を土方に向ける。

 

「土方さん、アレのどこが善悪がなくて無邪気なんですか? 嫌がる女性の尻を追う行為を、スポーツとして正当化させようとしてるんですけど。悪と邪気しかない不純な存在なんですけど」

「………………」

 

 ジト目の新八の言葉を無視するように、土方は明後日の方向に顔を向けながらタバコの煙を吐く。

 

 

「ほほォ……」

 

 と、顎髭を撫でる近藤。

 

「つまり、なのはちゃんとユーノ殿はなんでも願いを叶えると言うジュエルシードを回収している最中で、今は突如現れたジュエルシードを狙う黒いライバル魔導師と対立している最中ということだな」

 

 なのはたちの説明を噛み締めるように復唱する近藤。

 なのはの部屋で、うんうんと頷きながら話を聞いている近藤を見て、新八と山崎と土方は安堵した表情。

 新八が微笑を浮かべながら口を開く。

 

「よかった。近藤さんてバカだから、一回で話を理解できないと思ってましたよ」

「お前たまに酷いこと言うよな」

 

 さらっと近藤をバカにした新八に、土方はジト目向ける。

 

「よくわかった!!」

 

 説明を聞き終えた近藤は一際声を上げ、膝をバンと叩く。

 

「つまり君たちは聖杯戦争やっているのだな?」

「いや、ちげェよ!! さっきの説明ゼリフはなんだったんだよ!!」

 

 結局、ちゃんと理解してなかった近藤にツッコム新八。

 そんなこんなで、近藤に一から十まで理解させるのに数時間は時間を有した。

 

 

 場所は変わり、バニングス邸のリビング。

 そこにいるのは、土方、なのは、新八、神楽、沖田、山崎、近藤。

 

「土方さん。本当に近藤さんにも『コレ』を見せるんですか?」

 

 と言いながら、新八が『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』のパッケージを見せる。

 いくらなんでもなのはの部屋では狭いということで、バニングス邸の広いリビングでDVD観賞することとなった。ちなみに近藤、アリサ、すずか、ユーノはDVDの準備ということで別の部屋で待ってもらっている。

 

 「気がすすまねェか?」と土方が片眉を上げながら言えば、神楽が新八をたしなめる。

 

「ぱっつぁん。いくらゴリラとはいえ、ハブはよくないネ」

「そうだぜ眼鏡」

 

 と沖田も便乗して語りだす。

 

「いくら近藤さんがオメェの姉上を普段ストーキングしてるからって、そんな一人だけ『社内旅行教えてもらえなかった』悲しい窓際社員みてェな扱いはよくねェなァ」

「沖田さんの例え分かりにいくいんですけど!」

 

 と新八はツッコンでから「いや、そうじゃなくて!」と首を振る。

 

「僕が言いたいのはそういうことじゃなくてですね――!」

「近藤さんは知る必要がねェって思ってんだろ?」

 

 言葉を遮って言う土方の言葉に、新八は頷く。

 

「はい。事情を知る人間が一人でも多い方が良いとは僕だって思いますよ? でも、魔法関係者で覚悟ができているアリサちゃん、すずかちゃん、ユーノくんはともかく、近藤さんに至ってはまだジュエルシード事件を知ったばかりだし。それに――」

「近藤さんが知らなくても、事件に関われば結果的にいろいろ知ることになるから、わざわざ教える必要はないと?」

 

 オブラートに包まず、先取りした土方の言葉に、

 

「ええ、まァ……」

 

 と自信なさげに返事をする新八は、弱々しく語る。

 

「正直これ以上『この秘密』を知る人間を必要以上に増やすのに意味はあるのかなって……思ったので」

「まァ、お前の言いたいことも分からんでもない……」

 

 腕を組む土方。

 すると、なのはがおずおずと言い出す。

 

「でも……近藤さんも知ってくれれば、きっと力になってくれると思うの」

 

 まだ知り合ってからの時間は少ないが、土方たちのボスで明け透けのない性格を見てそう思ったのだろう。

 

「いや、なのはちゃん。事は、そう単純じゃないんだよ」

 

 新八の言葉を聞いた沖田が口を開く。

 

「他人の秘密をベラベラ喋るような真似をしたくないってことだろ? 眼鏡」

「はい。土方さんの考えを聞いて僕も少しは考えたんです。やっぱり、DVDの内容を見せるってことは、フェイトちゃんの秘密を教えるってことだし……。なにより、近藤さんにまで重い秘密を背負わせるのはどうなのかなって……」

「あっ……」

 

 なのはも新八の言わんとしていることがようやく分かったようだ。

 

 他人の秘密を易々と口外すると言う行為もそうだが、フェイトがクローンで母親に愛されていなかった、などという重い秘密。

 それをバカだが純粋な近藤に教え、内に秘めさせながら事件に関わらせるという、気苦労が耐えない役割を与えるべきなのかどうか。

 

 新八なりに近藤を思っての意見に、土方は首を縦に振る。

 

「確かに、俺らの誰しもフェイトの真実、そして未来で起きる悲劇を知って、これからどうするかなんてことは数え切れないほど悩んだ」

 

 近藤だけではない、新八や神楽になのはなんかは必要以上に他人に共感し何かしようとする。真選組の面々だって何かしらの葛藤は抱えているはずだ。

 

「それを他人にベラベラ喋るのだって、よくねェってこともな」

 

 土方の言うように、今だって「自分たちも知りたい」と言ったアリサたちに、件の映像を見せる事は正しい事なのか? と悩んでさへいる。

 

「だけど俺たちは決めただろ? 知った以上はハッピーエンド――いや、俺たちが納得のいく『良い未来』にこれから変えていこう、てな。どうなるにせよ」

 

 土方がそこまで言えば、

 

「もちろん全力でナ!」

 

 と付け足す神楽。

 

「過去に戻れるワケでもなし。なら悔いが残らねェよう万全の状態で俺たちはこの事件に臨むしかねェ」

 

 土方の語りを聞いて新八は呟く。

 

「だからこそ、近藤さんに教えることは必要……」

「あァ……それにあの人に迷惑をかけるかどうかで、気を使う必要はねェよ」

「部下に気ィ使われて頭悩まさないより、部下と一緒に頭悩ます方を選ぶ人ですからねェ」

 

 沖田の言葉を聞いて、新八は力強くうんと頷き、立ち上がった。

 

「わかりました! 近藤さんにも事情を知ってもらいましょう! あっ……でも近藤さんが他人の秘密を知るのを断った場合は――」

「俺たちが知っている以上……まー、あの人が断るってことはねェだろうがな」

 

 こころなしか、真選組副長は微かな笑みを浮べていた。

 

 

 数時間後――。

 

 今、テレビの前では『プレシアがアリシアが入ったポットに抱きつきながら虚数空間に落ちていくシーン』が流されている。

 そこまで映像が流れたところで土方は映像を止め、DVDを機器から取り出す。

 それを真剣に見ていたのは、怪獣騒ぎでまだ最後まで映像を見ていなかったアリサとすずかとユーノ、とついでにデバイス組。そして今までずーっと警察に捕まって離脱していた近藤勲。

 

「――まァ、これが今回起こるであろう事件の大まかな内容ってところだな」

 

 土方はDVDをケースに入れながら言う。

 正直、新八としてもこれが『実際に現実で起こる』内容と知ると、グッと心が締め付けられるような、言葉で説明しきれない感情が生まれる。

 特に根が優しいアリサとすずかは、余計に感じるものがあるだろう。

 

「……これが、本当にこれから『起こる』内容ってなると……結構キツいわね……」

 

 アリサは険しい表情で視線をあちこちに向ける。内心相当複雑な心境なのだろう。

 

「………………」

 

 すずかに至っては俯いて何も言えずに、ただただ涙を流している。

 やはり、『現実に起こる事』とあらかじめ前提に置きながら見れば、悲しいと言う気持ちが映像作品として感じるよりも、何倍にもなっておしよせているのかもしれない。

 

「まさか、この先こんな事が……」

 

 ユーノに至っては悲しみ同情といった感情よりも、プレシアと言う人物が行った非道やジュエルシードによって起きかけた災害に呆然としているようだ。

 まさか自分がきっかけで起こった事件がこんなことにまで発展するとは、本人さへ思っていなかったのだろう。

 

 腕を組んで真剣な顔で俯いていた近藤は、ゆっくりと土方に顔を向ける。

 

「トシ……」

「近藤さん。正直、決意も何も準備ができてねェあんたに見せるのもどうかと思ったが、俺たちの大将であるあんたにも俺としては見て欲しかったってのが俺の個人的な意見だ。すま――」

「お前たち、いつの間になのはちゃんたちと一緒に実写映画なんぞ撮ったたんだ?」

「いや、ちげェよ!! なんでそういう解釈になった!? あんたにコレ見せる前に、未来の映像だのなんだの説明を色々した後、あんたちゃんと納得したよな!? そんで見るって力強く返事したよな!? なんでそんな答えが返ってくるワケ!?」

 

 まさかの回答に土方は呆れてしまう。対して、近藤は頭をぼりぼり掻く。

 

「いや~、すまんすまん。なんかあんまりにも戦闘やら話やらがぶっ飛びすぎて、本当に未来で起こることなのか、にわかに信じられなくてな」

「なんでこの人バカのくせに、こういうとこは常識的なんだろ……」

 

 と呟く新八。

 近藤は「だが……」と言って、膝に手を置く。

 

「『お前たち』が本当のことだと言うなら、本当にコレは未来で起こることなんだろうな……」

「近藤さん……」

 

 思わず自身の大将の名前を口にする土方。

 

「お前たちが頭悩ませて、俺を信じて打ち明けてくれた話だ。大将が部下の言葉の一つや二つ信じてやらんでどうする」

 

 近藤は頭をぼりぼり掻きながら、新八や土方たちに向かって顔を上げる。

 

「俺もこんな馬鹿げた未来にならんよう、せいぜいない頭を使わせてもらおう」

 

 と、言葉の最期に眩いくらいの笑顔を見せる真選組の長。

 

「まァ、期待に答えられるほどいい案が、俺の頭から出てくるか分からんがな」

 

 そして、頭を悩ませるようにまた頭皮を掻きは始める近藤。

 年長者の考えを聞いたアリサやすずかは、お互いの顔を見合わせて決意の篭った表情を作る。

 

「そうね! 色々思うことはあるけど、下を向いてる暇なんてないわね! やることも考えることもたくさんあるんだから!」

 

 アリサが立ち上がりながら言えば、

 

「うん! これからうんっと頭を使って、頑張って考えていこう!」

 

 すずかも力強く握り拳を作る。

 そんな少女たちの様子を見た新八は笑みを浮かべ、土方へと顔を向けた。

 

「僕、近藤さんも仲間に入れて良かったと思います」

「なんだかんであの人の不器用なところは周りに影響与えちまうんだよ」

 

 ちょっと満足げに言う土方。

 

「それに、『悩む』なんてこととは無縁の人ですしねェ」

 

 壁に背を預ける沖田も、少なからず笑みを浮かべている。

 やがて、土方がドアを開けて出て行く。

 

「土方さん?」

 

 それに気づいた新八が土方に目を向ける。

 

「……外でタバコ吸ってくる」

 

 

 

 テラスに出た土方はマヨネーズ型のライターに火を付け、タバコに火を付ける。

 

「すぅー…………ハァ~……」

 

 煙を目いっぱい吸い込み、まるで溜めていたものを吐き出すかのように、煙を吐く。

 

「どうしたトシ? 最近タバコが吸えなくてストレスでも溜まったか?」

 

 冗談け混じりに言ったのは、近藤だ。腕を組み、広いバニングス低の庭を眺める。

 土方はタバコを吸いながら横目でチラリと近藤を見る。

 

「近藤さん。あんたは正直どう思ってる?」

「どう、とは?」

「もちろん、フェイトのことだ」

 

 近藤は空を眺めてから、口を開く。

 

「正直、魔法だの『ろすとろぎあ』だの、俺たちの世界にはないモノのばかり。続けて間髪入れずに未来の話だ。正直、俺の脳みそでは処理しきれんよ」

 

 苦笑混じりに言う近藤の言葉に、土方は「そうか……」と小さく相槌を打つ。

 

「だが――」

 

 土方の視線がチラリと横に向く。

 近藤は憂いを帯びた顔で。

 

「ただ言えるとするなら……なのはちゃんの裸を見てしまった為に、あの子と今後どう接すればいいか分からんと言うところだ」

「そこォ!?」

 

 予想外な発言する近藤に思わずツッコミ入れる土方。構わずゴリラは真剣な表情で言う。

 

「いやまさか、なのはちゃんの全裸シーンを拝んでしまうとはなァ。俺はロリコンではないが、あの年頃の少女に悪いことをしたと思っているよ」

 

 近藤の言うとおり、なのはの魔法少女変身シーン(ほぼ素っ裸)を飛ばし忘れて、彼女の顔を死ぬほど真っ赤させたのは記憶に新しい。

 さすがの土方でも真摯になって謝ったほどだ。

 

「あー……うん……。なのはは優しいから許してくれるんじゃー、ないかな? そこら辺」

 

 土方はとりあず曖昧なフォローしておく。

 すると、近藤は顎鬚を触りながら思案顔を作る。

 

「しかし……プレシア・テスタロッサ……か。あれは一筋縄ではいかなそうだ」

 

 とりあえず、シリアス会話に戻ったので土方も真面目モードで返す。

 

「あァ。言い方悪いが、あのイカレちまった母親が目下最大の難所だ。フェイトを介さんことには説得することすら困難だ」

「しかし、あの人一体何歳なんだろうな? 結構な歳のはずなのに、すげェ見た目若かったな」

「いや、そこは別によくない? アニメのお約束的なアレでサラッと流せばよくない?」

「歯がゆいことだが、魔法を使えん俺たちにはフェイトちゃんの説得と言う地道な道しかないのだろうな」

 

 軽くなったり、真剣になったり、なんとも安定しない近藤についツッコム土方。

 とりあえず、シリアスな方に主軸を置くことにする。

 

「……剣を振るうしか脳のない俺たちが、そもそも魔法なんぞ関わること自体、おこがましいことなのかもな」

 

 タバコの煙を吐く土方は内心、客観的に見ればこの事件での自分たちの力など非力に等しいモノになるかもしれない、とすら思っているほどだ。

 

「ふっ……あの天然パーマのバカなら、一体どんな突拍子もない解決策を考え付いただろうな」

 

 近藤は、この世界に来ているであろう、憎たらしい顔をする銀髪男の顔を思い起こしているのだろう。

 

「さーな。ま、碌なこと思いつかねェだろうがな」

 

 そう言って土方がタバコを吐いた時だった。

 

「なんのお話をしているんですか?」

 

 土方と近藤が背後からの声に反応して目を向けると、なのはがテラスを繋ぐ窓を開けて入ってきていた。

 

「おまえこそどうした? こんな所に来て」

 

 と、逆に土方が問えば、

 

「ちょっと、土方さんと近藤さんの様子が気になって」

 

 なのはは苦笑混じりに答える。

 

「別に大した話じゃねェ。どこぞの腐れ天然パーマのことを話していただけだ」

 

 そう言って土方は煙を吐く。

 

「天然、パーマ……」

 

 一部の単語に反応したなのはを見て、土方は怪訝そうな表情になる。

 

「ん? どうした?」

 

 するとなのはがおずおずと言う。

 

「あの、その天然パーマの人って……もしかして銀髪の人ですよね?」

「っ!?」

 

 土方は驚きの表情を浮べ、近藤が食い気味に質問しだす。

 

「なのはちゃん!! まさか万事屋――坂田銀時のことを知っているのか!?」

「はいっ! わたし、銀時さんに会いました!!」

「おい、詳しく聞かせろ」

 

 土方の眼光が鋭いものとなる。

 

 

 

「えええええええええっ!? 銀さんがフェイトちゃんと行動を共にしているゥーっ!?」

 

 驚愕の声を上げたのは新八。神楽も「マジでか!?」と驚きの表情。っと言うか、まさか自分たちがよく知る人物が、フェイトと行動を共にしていると言う衝撃的事実に、動揺を隠し切れないのは土方や近藤も一緒だ。

 

「さすが旦那。いつも厄介ごとの中心にいるような人でさァ」

 

 江戸出身者で、沖田だけはあっけらかんとした態度だが。

 

「あの野郎は……なんでこうつくづく、重要な案件の中心にいつの間にか首突っ込んでだ!!」

 

 頭を抑える土方の脳裏に、憎たらしい銀髪天然パーマの顔がちらつく。

 

「つうか、なんでお前今までそんな重要話黙ってたんだ?」

 

 土方の言葉に、なのはは人差し指同士をつんつんとくっ付けながら、シュンと肩を落とす。

 

「すみません……。わたしも言おうと思ったんですけど……昨日、銀時さんに遭った後は皆さん寝てましたし……。それで、朝言おうとしても学校で、その上朝から皆さん忙しそうだったから……。それで……帰ってから言おうとしたけど、アリサちゃんやすずかちゃんやユーノくんにDVDを見せる大事な場面でしたし……中々言えるタイミングが見つからなくて……」

「あー……わかった。とりあえずお前の言い分はわかった。もう気にするな」

 

 なんか悲壮感漂う少女を見て可哀そうに感じたのか、土方はとりあえずフォロー入れた。

 その様子を見ていた新八は関心気味に。

 

「あの鬼の副長に一切の攻めの隙を与えないなんて……さすがなのはちゃん……殊勝だ……」

 

 たぶん山崎なら「山崎ィィィィッ!! 早く言わんかいィィィィィッ!!」と言った感じに、ぶっ飛ばされていたんだろうなぁ、と新八は思った。

 まあそもそも、いくら鬼の副長でも反省している子供を頭ごなしに怒鳴るなんてこともないだろうが。

 

 すると、新八は握り拳を作って笑みを浮かべる。

 

「でも、これはチャンスですよ!! 光明が見えてきました!!」

「どう言うことアルか新八?」

 

 神楽は首を傾げ、沖田はニヤけ顔で。

 

「察しがわりィなチャイナ」

「んだとコラ!」

 

 ドS男に神楽はメンチ切るが、沖田は無視して新八に顔を向ける。

 

「ようは、フェイト側にいる旦那を使って、時の庭園の案内役にするってことだろ?」

 

 沖田の言葉を聞いて新八は「はい!」と力強く頷く。すると、なのははパンと両手を合わせた。

 

「そっか!! 銀時さんを説得すれば、フェイトちゃんともお話しする場を設けられる!!」

「うまくすれば時の庭園にも行けるかもしれない!」

 

 すずかが言葉を続け、

 

「そんで逆らうようなら拷問&調教して吐かせればいいって寸法でさァ。まァ、半日もすればあの小娘と犬娘を従順に仕上げてみせますぜェ」

 

 黒い笑みを浮かべておぞましい案を出す沖田。

 アリサは新八にサラッと告げる。

 

「新八。あいつは絶対フェイトに近づけちゃダメよ?」

「うん。断固阻止するから」

「と、とにかく!! 銀時さんのお陰で一気に良い方向まで物事が進みそうですね!!」

 

 とにもかくにも、なのはは嬉しそうに表情をほころばせていた。まさかの予想外のチャンスに、彼女も嬉しいと言う感情を抑えきれないのだろう。

 土方も満更ではないような顔で。

 

「まッ、まだまだ狸の皮算用の粋だが、自体が好転してきたのは確かだな。……あの銀髪のお陰ってのは胸糞だが」

 

 ぼそりと土方が最後に言った言葉を聞いたなのはは新八に、耳打ちする。

 

「(新八さん。土方さんて、銀時さんのことが嫌いなんですか?)」

「(う、うん。あの二人、水と油ってくらいホントに仲が悪いから。とりあえず、あの人を銀さんの交渉相手にさせるのだけは避けてね?)」

「(は、はい……)」

 

 小声でひそひそ新八となのはが話していれば、

 

「ガァーハッハッハッ!! まったく!! 万事屋の奴は知らぬところでとんだファインプレーをやってのけたもんだ!!」

 

 と大笑いする近藤。

 なんの悩みもなく笑う男を見て、新八と土方は思った。

 

 ――あッ、この人完全に『ここに来た最初の目的』忘れてる、と。

 

 読者諸兄も忘れているかもしれないが、近藤は銀時を恋敵だと勘違いし、抹殺目的で彼を追いかけてきた――のだが、おバカなゴリラ(ストーカー)はそのことをすっかり忘れてしまったらしい。

 思い出させて勘違いを訂正させるのもメンドーなだけなので、江戸組は誰も教えないが。

 



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第二十七話:プールには危険がいっぱい

 海鳴市にある温水プール施設。

 

 今ここには高町家、月村家、バニングス家の仲良しご家族+ふきでものゴロツキ組(万事屋&真選組)が遊びに来ていた。

 

「なんか銀魂組の扱い酷くない!?」

 

 いつものようにふきでもの眼鏡のツッコミはさておき。

 

「なんか今回の地の文いつにもまして辛辣極まりないんですけど!?」

 

 と眼鏡が連続ツッコミ。

 

 今回はジュエルシードなど普段抱えている問題などは忘れ、パーッと楽しく遊ぶ日なのである。むろん温水プールという場所は、夏だろうが冬だろうが関係なく水で遊べるレジャー施設。

 

 ちなみに、今はあたたかい時期であり、休日だ。そのため老若男女問わず客は多い。

 当然、その中で目を引くは女性たちの水着&露出された素肌であろう。下心ありありの男でなくとも、ついついその水着姿(主に胸や尻)に視線がいきがちになるもの。

 そして多くの女性たちがいる中でも、ひと際キラめく女性の一団が一つ。

 

「うわ~、人がいっぱいだねアリサちゃん!」

 

 白を中心とした、フリルの付いたセパレードのなのは。

 

「まぁ、休日なんだし、こんなもんじゃないの?」

 

 オレンジを中心とした、トップスとボトムズにフリルが付いたセパレードのアリサ。

 

「ここ、温泉もあるらしいよ」

 

 白を中心とし紫の装飾がほどこされたワンピース型の水着のすずか。

 

「ほぉ、それは興味がありますね」

 

 目が興味津々と言った様子の女性は、月村家のメイド長であるノエル・K・エーアリヒカイト。彼女の水着は白を基調としたビキニであり、その大きな胸の谷間が垣間見える。

 

「すずかちゃんたち! さっそくボールや浮き輪の準備をしますね!」

 

 そう言いながらバッグの中から空気の抜けたゴムボールに息を入れるのは、ノエルと同じく月村家メイドのファリン・K・エーアリヒカイト。水着は紺のスク水姿だ。

 

「へ~、ここって、飛び込み台もあるんだね」

 

 と、周りを見渡す高町美由紀は競泳水着を着ている。

 

「あ、お姉ちゃん。その水着って新しいヤツだよね?」

 

 とすずかは横にいる姉に問いかければ、

 

「ええそうよ」

 

 頷く、月村家長女の月村忍。彼女はワンピース型の露出部分を多めにした水着を着用している。

 胸の谷間の露出がちらほらと男どもの視線を引き寄せ、同時に恭也の『にらみつける』も引き付ける。ちなみにこの月村忍は、高町恭也と恋仲なのだそうだ。

 この情報を教えられた時、新八がかなり苦い顔をしていたのは特に知らなくてもいいことであろう。

 

「いやぁ~、僕たちまで誘ってもらっちゃって悪いですね」

 

 と、新八は若干鼻の下伸ばし気味。

 

「ぺッ! これだから童貞色情眼鏡は……」

 

 と神楽は唾吐き捨てながらジト目を向ける。彼女はチャイナ服を模して作られた赤いフィットネス水着を着用。

 ちなみに新八を含めた男性陣は地味目のトランクス型やサーフパンツなどを着て、パーカー羽織ってるだけなので、特に記載することもないだろう。

 

「ホント今回の地の文による差別酷くない!? 水着回だからって男性陣ぞんざいにし過ぎにもほどがあんでしょうが!!」

 

 ツッコミを入れる新八を見て、なのはは「だ、誰に向かって怒鳴ってるんだろう、新八さん……」と困惑していた。

 

「いやァ~‼ こうやって美女たちの水着姿を拝めるとは、眼福とはまさにこのことですなァー!!」

 

 と恥ずかしげもなく恥ずかしいセリフをデカい声で言うのは、真選組局長である近藤勲。

 

「おやおや、これはまた世辞の上手いゴリラさんですね」

 

 ノエルメイド長は微笑みながら結構ひでぇこと言う。

 「ところで」と言って、ノエルは目をパチクリさせて近藤の下半身に視線を向ける。

 

「あなたの『それ』は水着……なのですか?」

「ええ。自慢の一張羅です」

 

 赤いふんどし一丁で、惜しみもなく筋肉と素肌曝しまくっているゴリラ顔の偉丈夫は、サムズアップ。

 

「じゃ、ねェェェだろォォォォォッ!!」

 

 ドカァ!! と新八の渾身の蹴りが、近藤の背中にヒット。

 ふんどしゴリラはプールにドボンし、プールに入っていた客たちはぎょっとする。

 

「あんたなに自慢げに決め顔作ってんですか!? そんな恰好アウトに決まってんでしょうが!!」

 

 と、新八が顔に青筋浮かべながら怒鳴れば、

 

「まちな眼鏡」

 

 新八の肩に手を置く沖田総悟。彼はしたり顔で。

 

「今回、近藤さんは公共施設と言うこともあって、ちゃーんとPTOを弁えて来てるんだぜ」

「アレのどこが!? つうかTPOです!」

 

 当然の返しをする新八に対し、TPOを間違えた沖田は真剣な声で言う。

 

「普段の近藤さんであれば、ギャグと称して全裸で登場のところをふんどしで登場してんだぜ?」

「どうよすげェだろ? みたな顔されても困るんですけどッ!」

「近藤さんも成長してんだ、褒めてやんな」

「褒める基準がおかしい!!」

「近藤さんもそれなりに進歩してんだぜ」

「いや、だから! ふんどし認める理由なりませんから!! そもそもTPOのスタートラインにすら立ててないんですよ近藤(あの人)は!!」

 

 さすがに丸めこまれず、しっかりツッコミ入れる新八であった。

 

「確かに、新八くんの言うことも一理ある」

 

 プールに蹴飛ばされた近藤はいつの間にか立って、プールに下半身を沈めながら腕を腕を組む。

 

「俺とてこのような場で恥部を露出させるほど愚かではないさ。それに、俺は変態的な意味でふんどし一丁になったワケではない」

 

 水滴を垂らしながら真剣に語る近藤に、新八は半眼を向ける。

 

「じゃあ、ちゃんとした理由があるんですか?」

「いくら遊びに来たとは言え、俺たちは侍。刀を待たずとも、いついかなる時もその心構えを忘れてはいかん」

 

 ん? これはもしかして珍しくちゃんとした理由があるのでは? と、説明を聞いてつい思ってしまう新八。

 近藤は目を瞑り、語る。

 

「腰には一本の剣は差さっておらずとも、俺たちの股には一本の剣が宿っている」

「あの、いきなり下ネタぶっこんで来たんですけどこの人……」

 

 あ、こりゃダメだな。いつものパターン入った。と、新八は既に呆れ顔。

 新八のリアクションなど無視して近藤は語り続ける。

 

「俺たち侍は刀をひけらかす様に、むやみやたらに引き抜いたりはせん。それと同じように、股にぶら下がったこの一本の刀もまた、無暗に抜刀などできるはずもない」

「あの、真剣な顔で堂々と下ネタ長々と語るの止めてくれません?」

 

 だが、新八のツッコミをまったく聞き入れない近藤。

 

「俺たち侍が鞘から刀を抜くのは敵を前にした時。そして、水着男子の刀が抜けるのはいつか? 無論、水着女子(てき)を前にした時を置いて他にいない」

「おィィィィィッ!? 公共施設でなにとんでもないことほざてんだこのゴリラ!!」

「ゆるゆるの海パン(さや)ではすぐに抜刀してしまう。なればこそ、俺たち水着男子(さむらい)にとってこのキツキツのふんどしこそが、立派な鞘であることは明白」

「明白なのはあんたの下心ですけど!? つうかあんた侍でもなんでもないただの変態エロ男子だよ!!」

 

 ならばッ!! と、カッと目を見開く近藤。

 

「このふんどしできっちり帯刀している俺こそ、限りなく今日一番の水着男子(さむらい)と!!」

 

 そう言いながら、プールから上がる近藤の(ちん〇)は、モロ丸出しの抜刀状態だった。ちなみに近藤のふんどしは流れるプールに流されている。

 

「限りなく今日一番の変態はあんただァァァァァッ!!」

 

 新八の渾身のツッコミと時を同じくして、大量の女性の黄色い悲鳴が公共施設を覆った。

 

 

「あん? なんか、向こうやけに騒がしくね? ショーでもやってんのか?」

 

 そう言って人一人乗れる巨大浮き輪にだらりと体を預けているのは、銀髪天然パーマの男――坂田銀時。彼は簡素な青いトランクス型の水着を着ている。

 

「もしかして、ジュエルシード!」

 

 そう言って表情を引き締めるのは、黒色のセパレードを着たフェイト。その首には紐を通した刀のペンダントがぶら下げられている。

 彼女は手に持ったゴムボールを目の前の相手にポーンとパス。

 

『ご来場のお客様へ。ただいま、流れるプール付近で変質者が出没しました。係員が対応中ですので、くれぐれも流れるプール付近には近づかないようお願いします』

 

 とプール施設内に係員の放送が流れ、多くの客の顔が天井へと向けられていた。

 

「やっぱこういう人の多いところだと、変な奴の一人や二人現れるもんだねぇ」

 

 そう言って、パスされたゴムボールを受け取るのはアルフ。今は犬耳は露出させてないが、オレンジと白を混ぜた色のビキニを着て、普段より肌の露出を多めにさせている。

 使い魔は受け取ったゴムボールをフェイトにパス。

 

「でも、ここにジュエルシードがあるのは確か」

 

 厳しい表情を作るフェイトは、ウォータスライダーの列に並ぶ。

 

「ジュエルシードはまだ発動してないけど、二人共気を緩めちゃダメだよ」

 

 ウォータースライダーの滑る順番きたフェイトは、アルフに抱かれながら一緒に滑る準備をする。そして勢いよく水が流れるレーンを滑り、ゴールのプールにバシャーン!! と突撃。

 滑り終わったフェイトは顔を左右に振って髪や顔についた水を振り払い、後ろにいる二人に真剣な顔を向ける。

 

「私たちに、楽しんでる暇はないから」

((うん、めっちゃ楽しそうだね))

 

 と、内心ツッコミ入れる銀時とアルフであった。

 

 

 ――と言うワケで、ジュエルシード反応があったので、フェイト組もまたこの海鳴市温水プール施設に来ているのである。

 

「悪魔で私たちはジェルシードが目的。だから、この施設を回るのも発動していないジュエルシードを見つけるため」

 

 そう言いながら歩くフェイト。そんな少女を銀時は半眼で見る。

 

「お前、さっきのウォータースライダー十回くらい滑ってなかった?」

「でもこの人通りだと見つけ出すのは一苦労。だからこそ、視野を広くしないと」

 

 と言うフェイトの視線は上に向いていた。

 「お嬢ちゃん。今はバニラチョコがおすすめだよ」と店員におすすめ押されている少女に、銀時は半眼を向ける。

 

「うん、今お前の視線めっちゃ狭いよね? ソフトクリームに一点集中だよね?」

「銀時、いくら甘いものが好きだからって、バニラチョコにうつつを抜かしてちゃダメだよ?」

 

 と、フェイトはうるうる、キラキラとした視線を銀時に向け、その視線を受けている対象はたじろく。

 

「いや、お前がいちばんバニラとチョコにうつつ抜かしてるよね? 心囚われてるよね?」

 

 おいおい、とアルフは呆れ顔。

 

「このかき氷ってヤツにドッグフードトッピングとかないのかい?」

 

 アルフはアルフで真剣な顔でかき氷選んでいた。

 

「ねェよんなもん!!」

 

 と銀時はツッコンだ。

 

 つうわけでベンチで一旦休憩を取るフェイト一行。

 

「くゥゥゥ……!! このかき氷って一気に食べると頭になんかこう……キーン!! とくるねェ……」

 

 イチゴかき氷食べた狼の使い魔は、頭を抑えるというかき氷あるあるする。

 フェイトはと言うと。

 

「ペロペロペロペロ――」

 

 バニラチョコソフトクリームを舐めている。

 

「たく、随分ベタなリアクションやりやがるなテメェも」

 

 と呆れ顔の銀時が食べているのは、バニラチョコストロベリーの三段重ねアイス。

 

「ペロペロペロペロペロペロ――」

 

 とフェイトはソフトクリーム舐める。

 

「つうか、あんた結構贅沢なヤツ頼んだねェ。金はあたしらのだってのに」

 

 とアルフが言えば、

 

「ペロペロペロペロペロペロペロペロ――」

「うるせェ。保護者の特権ってやつだよ」

 

 と銀時が軽口を返す。

 

「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――」

「…………なんか言えよ」

 

 さすがに突如喋らなくなった少女に不気味さすら覚えた銀時は声をかけるのだが。

 

「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――」

 

 一向に金髪魔導師が舌を休ませる気配がない。

 銀時は頬を引きつらせて汗を流す。

 

「……いや、あのさ、フェイトちゃん? そろそろそのペロペロ止めない? お前花京院でもないしさ。そうやってっと、大きなお友達のいいネタに――」

「ペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロペロ――」

「おィィィ!! おまえさすがに返事しろよ!! 微笑ましいの取り越して不気味だろうが!! さっきまで『口だけは』ジュエルシード優先してたのが噓みたいに何も喋らなくなってんじゃねェか!!」

 

 そう言った後にフェイトの肩に銀時は手を置こうとしたが、

 バシッ!

 と彼の手は少女の手によってはじかれてしまった。さすがの銀時も呆然とする。

 そしてフェイトは、

 

「――クリームが垂れる」

 

 冷たい瞳でソフトクリームを銀時から遠ざける。

 

「…………いや、どこにクール要素発揮してんのお前!?」

 

 と、銀時は思わず声を上げ、すかさずツッコム。

 

「キャラが迷走してるってもんじゃねェぞおい!! さすがに戻ろう!! いつものジュエルシード一筋のフェイトちゃんに戻ろう? な?」

「たこ焼き、ホットドック、フランクフルト、バニラ、チョコ、ストロベリー、かき氷、クレープ――」

「怖ええええええええええええッ!! 今日のフェイトこえェェェェェェェッ!?」

 

 顔に影を落とし、ぶつぶつ今日出展されているフードを呪文のように唱えるフェイト。対して、顔を真っ青にする銀時。

 

「まー、普段こんな風に食べて遊ぶなんてしなかった子だからね」

 

 アルフが苦笑しながら言えば、銀時はガバっと顔を向ける。

 

「いやなに、『しょうがないか』的な顔してんの!? お前これぜってェヤベェよ!! 抑圧された感情爆発してるってレベルじゃねェぞこれ!! ジュエルシードなんざ忘却の彼方に吹っ飛んでるぞおい!!」

「まー、いいじゃないか。今日くらいハメを外したってさ」

 

 アルフはあっけらかんとした声で言う。

 

「いや、『これ』お前のご主人様だろ? 少しは危機感持った方がよくね?」

 

 すると、パンパンとフェイトが銀時の肩を叩き、「ん?」と銀時が反応を示して振り返れば、

 

「銀時、次はアレを――」

 

 フェイトが指さす方には、フランクフルトなどジャンクフードを販売している店。

 瞳を輝かしながら自分を見つめてくる少女を見た銀時は、ため息を一つ。

 

「はァ~、しゃーねーなー……」

 

 銀時は頭をボリボリ掻きながら立ち上がる。

 

「コーラとから揚げもな」

 

 銀髪の返答を聞いて、フェイトは顔をパーッと輝かせて「うん」と笑顔で答える。

 

「あたしは骨付きフライドチキンねぇ~」

 

 呑気に間延びしたアルフの声を背に、フェイトと一緒に売店に歩いて行った銀時。

 

 

「アハハハ!」

 

 と、ゴムボールを持って走る子供たち。

 すると、ピピィーッと甲高い音が響く。

 

「君たち。滑ると危ないからプールサイドでは走らないように」

 

 笛を鳴らした恭也が子供たちに注意をし、子供たちも渋々ながら「はーい」と言う返事で了承する。

 今回、恭也や忍などの年長者組はプールの監視員としてココに来ているのだ。

 

「まったく、ちゃんとルールを守らないお子様が多いったらないわ」

 

 アリサは腕を組んで不満顔。

 なのはは「ニャハハハ……」と苦笑する。

 

「やっぱりみんなこういうとこにいると気が緩んじゃうよね」

 

 

 流れるプールで仰向けになって流れているフェイトは、

 

「……銀時……さいこうだね……」

 

 最高に緩み切った顔。

 

「うん、そうだね」

 

 とうきわに乗りながら生返事する銀時であった。

 

 

「気が緩んでじゃなくて、ハメを外し過ぎるって言うのよ、ああいうのは」

 

 まだ不満げなアリサ。

 

「でも、やっぱりああいうのは他のお客さんも危ないよね」

 

 すずかの視線の先には、走ったりじゃれてふざけたりする子供たちがちらほら。

 監視員に注意される子供の中には、

 

「別にいいじゃん。俺たちだって気をつけてるし」「そうそう。それにちょっと転んだって大したケガにならないって」「俺の親父も言ってたぜ。男は擦り傷作ってナンボってさ」

 

 などと反省もせず生意気な反論を返す始末。

 

「わたし……プールで転んだことあったけど、結構痛いすり傷できたことあるの」

 

 なのはが少し不安げに言えば、

 

「うん。実は、私も」

 

 と同意するすずか。

 二人は昔、プールで遊んで転んだ時にできた手痛い怪我を思い出し、身震いした。

 実のところ、プールサイドは滑り止めのためにザラザラしている床などがあり、転ぶとかなり痛い擦り傷できる場合がある。

 

「まったく。ああ言うやつらは転んだ時、どうなるかを少しは考えなさいっての」

 

 やれやれといった具合に、アリサが腕を組んで言った時だった。

 

「きゃあああああああああああああああああああッ!!」

 

 突如、少女の悲鳴が響き渡り、子供たちだけでなく多くの人の視線がそちらに向く。

 

「どうしました!!」

 

 そこに向かったのは監視員――ではなく、ただのお客の志村新八。そして倒れて白目向いているのは沖田総悟。さらに、悲鳴上げたであろう少女は神楽。

 

「一体何があったんですか!?」

 

 新八は切迫した顔で質問する。

 

「この人、さっきまでプールサイドを走っていたんですけど……水に滑って転んでしまって……」

 

 何故かいつもの口調ではなく標準語の神楽。

 新八は沖田の様子を見て、目を見開く。

 

「こ、これは!!」

 

 彼が驚くのも無理はない。なにせ、沖田の全身は真っ赤に染まっていたのだ。

 神楽は両手で目を覆い嘆く。

 

「ちょっと転んだと思ったら、地面のザラザラに全身やられてこんなズタズタの擦り傷まみれに!!」

「な、なんてことだ!! だからプールの地面のザラザラは危険だとあれほど言ったのに!!」

 

 と新八は言うが、ここの監視員の誰一人としてそんなことは言ってない。

 おいおい泣く神楽。

 

「地面のザラザラを舐めていたばっかりにこんな……!!」

 

 すると、倒れていた沖田がのっそりとした動作で起き上がる。

 

「次ハ……オ前ラダァァ……!!」

 

 血まみれの顔でゾンビのようなおぞましい声を出した沖田。ソレを見た子供たちは、

 

「「「「「「「うわああああああああああああああああああああああッ!!」」」」」」」

 

 と一目散に逃げる。ちなみに一部の大人たちも。

 自分たちの周りに人がほとんどいなくなった沖田は、

 

「あーあ、全身トマトジュースくせェ」

 

 自分の体についた液体に顔をしかめる。そして神楽がドヤ顔で。

 

「フッ、これぞプールの恐ろしさネ」

「――じゃ、ないわよこのバカタレ共!!」

 

 アリサがビートバンの側面を二人の脳天に叩きつけた。

 すると、頭を抑える沖田が不満げな目をアリサに向ける。

 

「いってーなー。ビートバンの側面は結構いてェんだぞ」

「あんたら一体なにやってんの!? 一体全体今の茶番はなに!」

 

 怒髪天のアリサに神楽はしたり顔で答える。

 

「これぞ銀ちゃん直伝、『プールの恐ろしさ――ざらざら編』アル」

「バカじゃない!!」

 

 ばっさり言い切るアリサに、沖田は不満そうな声を出す。

 

「おいおい。プールのマナー守らせるために一芝居うったってのに、その言い草はねェだろ」

「一番のマナー違反はあんたらじゃボケェ!!」

 

 アリサは強めのツッコミ。だが、反省の色なしの神楽が語りだす。

 

「銀ちゃんいわく、プールの恐ろしさを知った者こそ、水辺で遊ぶ権利を得られるのだと――」

「プールサイドで血だるまになる恐怖を知る必要ある!? 最後に至ってはプール一切関係ないゾンビものになってんでしょうが!!」

 

 言葉を切ってツッコミ入れるアリサ。

 ちなみにプールの恐ろしさを知った大人と子供たちは、更衣室で楳図か〇おマンガみたいな恐怖に染まった表情を浮かべて震えていた。

 

 神楽は辺りを見渡した後、遊具を身に着け、

 

「まァ、これで水辺も広くなったし――」

「結果オーライってことで」

 

 遊具を身に着けた沖田が親指を立てる。

 

「結局目的はそれかァ!! あんたらのフリースペース手に入れるのが目的かァー!!」

 

 ビシッと二人を指で差すアリサ。

 三人のやり取りを遠目で見ていた恭也は新八に目を向ける。

 

「新八くん、俺は子供たちを恐怖に溺れさせろとは言ってないんだけど」

「あの二人に協力頼んだ時点で失敗ですよ」

「そうか……若いあの子たちの目線なら、良い注意喚起を思いついてくれると思ったんだが」

 

 少し残念そうに、恭也は腕を組む。

 

「一つ言っとくが、がっつりあの芝居に参加してたそこの眼鏡も共犯だからな?」

 

 と土方が傍観者決め込む眼鏡を睨む。そして煙草を吹かす真選組副長は興味なさげに。

 

「ま、とりあえずこれでいいだろ。ルール守らねェガキ共には良い薬だ」

「土方さん、ここ喫煙所じゃないですよ? ルール守ってください」

 

 高町家長男はルールを破る警察に注意入れるが、土方は言葉を無視して言う。

 

「ガキ共なんかより、もっと性質の悪りィ問題があるだろ」

「変質者……でしったけ?」

 

 と新八が言う。

 そう。今このプールでは女性の水着や着替えを盗むという不届きな変質者が出没しているらしい。中々捕まらず、施設側も手をやいているのだとか。

 

「ま、この真選組副長がいる以上、変質者なんぞ現れたらすぐにお縄頂戴だがな」

「あんたらの変質者(じょうし)もお縄頂戴されて事情聴取されてますけどね」

 

 新八の言うように、近藤(へんしつしゃ)は今現在、プールの運営サイドに事情聴取されている最中である。まぁ、水着が取れて恥部露出なので厳重注意で済むはずではあるが。

 

「しかしその変質者、相当な曲者のようなんだ。なんでも妙な技を使うらしい」

 

 顎に指を当てて思案顔の恭也に、新八が疑問符浮かべる。

 

「妙な技? アクロバティックな逃げ方でもするんですか?」

「なんでも奴を追っていた人たちの証言では、パンツを硬質化させて手裏剣のように相手に投げつけ、追ってなどから逃げるらしくてな」

「なにそれ!? どんな念能力者!?」

 

 まさかの常人離れした技を聞かされて新八は思わずビックリしてしまい、すぐに右手を横に振りだす。

 

「いやいやいや! パンツ硬質化って、なんですかその変質者!? どんな修行すればパンツを手裏剣にできるって言うんですか!! ハンター×ハ〇ターじゃあるまいし!!」

「いや、ハ〇ター×ハンターにだってそんな間抜けな能力使う奴いねェからな?」

 

 と土方はさり気にツッコム。

 

「しかも逃走する時、なぜか何人かの男性警官の懐にパンツを仕込ませているらしくてな」

 

 恭也の補足を聞いて土方は眉を顰めた。

 

「はッ? それしてそいつになんのメリットがあるんだよ?」

 

 土方は変質者の謎の行動にあっけに取られ、恭也は首を横に振る。

 

「俺にも分かりません」

 

 だが、話を聞いていた新八はちょっとばかし「ん?」となりながら、デジャヴ的なものを感じていた。

 あれ? 似たような話を聞いたことがあるような……? 的な既視感を。

 すると、ポンポンと新八の足元を誰かが叩く。

 

「ん?」

 

 下に目を向けると、足元のユーノが自身の足を前足で叩き、なにか言いたげな顔をしていた。

 ちなみに今まで一切描写されていなかったが、高町家のペット扱いであるユーノもまた、この温水プールに連れてこられていたのである。

 新八はしゃがみ込み、ユーノの声が周りに聞こえないように小声で話す。

 

「(どうしたの? ユーノくん。っていうか、僕は君のことすっかり忘れてたよ)」

「(いや、別にそれはいいですけど……。それよりも、恭也さんが話していた下着泥棒に僕、心当たりがあります)」

「(えッ!? ユーノくん変質者に知り合いが!)」

 

 驚く新八に対して、違います!! と即否定したユーノは説明する。

 

「(そうじゃなくて、さきほどの話に似た事件を起こす犯罪者が、僕たちの世界でも結構話題になっているんですよ)」

「(えッ? それってまさか……)」

 

 ユーノの話を聞いて、ある可能性を考える新八。

 その時だった――。

 

「きゃああああああああああああああああああッ!!」

「待てぇーッ!!」

 

 女性の悲鳴と複数人の男性の大声に、なのはたちなど多くの客の視線が声のあった方へと向く。

 目を向ければ、

 

「そこの君、止まりなさい!!」

 

 プールサイドでも構わず走る男性監視員と――忍者のように身軽に走る、『海パン一丁に女性用の下着を仮面のように被った』一目瞭然の変態が追いかけっこをしていた。

 追いかける係員が恭也の姿を見て声を出す。

 

「恭也くん!! そこの男が更衣室から女性用の下着を盗んだ!! 捕まえてくれ!!」

「なに!! 噂の変質者か!!」

 

 恭也は係員の声を聞くと素早い動作で変態の前に回り込む。さすがは武道の嗜みがあると言ったところか。

 

「待て変質者!! 悪いがこれ以上の好き勝手を許すワケにはいかんぞ!!」

 

 制止の声を出す恭也だけでなく、モップなどの武器を所持した月村家メイドのノエルや高町美由紀も、すぐに変質者を取り囲む。

 

「うわー……こりゃ想像以上に酷い変質者だね……」

 

 美由紀は呆れ顔でドン引きの表情になる。

 そりゃそうであろう。なにせ変質者の恰好はまごうことなき変態のそれ。

 顔に被った女性用の下着で顔面を隠し、足を通す部分で目を見えるようにしている。さらには防具なのかどうか分らんが、胸の部分は女性用のブラを装着。

 女性の下着を惜しげもなく装備している姿はまさにザ・変態。

 さらによく見れば、海パンはブーメランでより変態度を悪化させていた。

 

「フフフ。どうやら今回は、中々の手練れが揃っているようだな」

 

 人数的不利にもまったく臆さず、変質者は腕を組んで余裕の声を出す。

 変質者を見た新八は頬を引き攣らせる。

 

「あの……土方さん……僕、あんな感じの変態を昔みたことがあるんですけど……」

「あァ、俺もだ……」

 

 二人の脳裏にチラリとよぎる、昔戦った下着泥棒の姿。

 

「皆さん、気をつけてください。恰好はホントに吐き気を催しますが、身のこなしはどうやら只者ではないようです」

 

 正直、視線を合わせたくないと言った様子のノエルが忠告。

 真剣な眼差しで変質者を睨みつける恭也は声を上げる。

 

「なんなんだお前は!!」

「いや、見て通りの変態でしょ」

 

 と新八。

 

「俺か? フッ、聞かれたのならば答えねばなるまい」

 

 変態は腕を組んで余裕綽々の態度を取り、対して土方は呆れる。

 

「なにあいつ? なんで変態のくせにカッコつけてんの?」

 

 すると変態は腰に左の拳を添え、腕を天に向かって斜めに伸ばす。

 

「俺の名は――」

 

 そのまま伸ばした腕を円を描くように右に持っていき、その手をすかさず腰に添えると、今度は腰に添えていた左手を斜め左上に伸ばす。

 

「仮面ライダーパァァァンツ!!」

 

 バァーン!! と、効果音でも出そうな勢いで変態が名乗った。

 

「「語呂わるッ!?」」

 

 と、土方と新八が同時に言うのだった。

 




この話はハーメルン版に載せるか悩んだんですが、ぶっちゃけまァ書いちゃったし載せちゃってもいいかなぁと思って載せました。


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第二十八話:最低の変態と最高のヒーロー

「仮面ライダーパァァァンツ!!」

 

 と、現れた変態はどこかにめっちゃ怒られそうな決めポーズで名乗り、それを見た新八の顔は青ざめていた。

 

「ちょっとォォォォッ!? あいつ色んな意味でヤバいんですけどォ!? 主に東〇方面で!!」

「おいそこの変態ィ!! ただの変態下着ドロのクセしてヒーローの代名詞の一つを名乗ってんじゃねェー!!」

 

 顔に青筋浮かべた土方が怒鳴る。

 

 すると、仮面ライダーパンツ――もとい変質者はさも当然のように。

 

「なにを言う。俺のこの通り名は、全て俺を現していると言っても過言ではないのだぞ」

「過言だろ!! お前のどこにライダー要素があんの!?」

 

 指を突きつける土方に対し、変質者は自分の仮面(パンツ)を指さす。

 

「俺はこの通り仮面を被っている。そして、自転車で逃走するのだ。名が体を現わしているではないか」

「バイクじゃねェのかよ!!」

 

 と土方はツッコム。

 

「ATの普通自動車免許しか持っておらんのだから仕方あるまい」

「しかもATかよ!! せめてMT取れよ!!」

「いや、そこはどうでもいいでしょ!!」

 

 新八は妙なところにツッコミ入れる土方にツッコミし、アリサはジト目を変質者に向ける。

 

「つうか犯罪者のくせに律儀に交通法は守るのね」

「自転車しか乗れないのにライダー名乗るとかどういう了見だコラァ!!」

 

 神楽が怒鳴り声を上げるが、変質者はどこ吹く風。

 

「ふん。貴様らがいくらほざこうと俺は自身の異名を変えるつもりなどない!!」

 

 変質者はそう言ってまたポーズ取り始める。

 

「俺の名は……仮面ライダー――」

 

 ドン!! と何者かのパンチが変質者の顔面にクリーンヒットする。

 

「――悪いが、こっちは貴様の茶番に付き合ってる暇はない」

 

 殴ったのは恭也。その顔はいかついもの。

 さすがに武道の上級者である恭也のパンチではひとたまりもないと、その場の誰もが思った。

 

「フフフ……」

 

 だがしかし、変質者から聞こえてきたのは苦悶の声でなく、不敵な笑い声。

 変態は余裕の笑みを浮かべる(見えないが)。

 

「決めポーズの途中に攻撃とは、無粋な男だ」

「なに!?」

 

 恭也はまったくのノーダメージの変質者に驚く。

 恭也の拳が変質者の顔面から離れるが、敵の顔はまったく無傷だった。

 

「魔法が使えない者への攻撃は避けているが……」

 

 カッと変質者が目を見開く。

 

「貴様は別だ!! イケメン男子よ!!」

 

 変質者は手からブラジャーを取り出す。すると、ふらふら風にゆれるだけのブラジャーの紐は変質者が手に持った瞬間、ピンとまっすぐに伸びて固まる。

 変質者はブラジャーを上へと振りかぶり、

 

「喰らえ!! ブラスラッシュ!!」

 

 剣のように振り下ろす。

 

「くッ!?」

 

 攻撃を受けた恭也は腕を盾代わりにしながら数歩後ろに後退した。

 さすがは武道の達人の申し子か、本能的に危険を察知したであろう。だが、かわし切れなかったようで、恭也の腕は少し切られ、血が滴っている。

 恭也が怪我をしたと言う事実に、美由紀は驚愕の表情をして心配そうに声をかける。

 

「恭ちゃん!!」

「今援護します!」

 

 ノエルは危険を察知しモップで援護しようとするが、

 

「心配するな! 少し切っただけだ!」

 

 恭也は腕を出し、加勢に来ようとするノエルや美由紀を制止させた。

 高町長男は目の前の変態を憎々しげに睨みつける。

 

「くッ……まさか本当に下着で攻撃してくるとは……。どこまで拘りを持った変態なんだ……!」

 

 どうやら彼は変質者の持っているブラジャーを、ブラジャーに模した特殊な武器と判断したようだ。

 一方の変質者は、女性を庇う恭也の姿に憎々しげな声を漏らす。

 

「女性を危険な目に遭わせないその紳士な態度もまた、俺にとっては忌々しいことこの上ない。だがしかし……」

 

 すると、変質者はチラリと後ろの方に視線を向ける。そこにはモップを構えた美由紀とノエル。突如踵を返し、素早い動きで二人に向かって行く変態。

 

「――ッ!? 二人共!! 危ない!!」

 

 恭也が声を出すが、変質者は目に止まらなぬスピードで二人の間をすり抜ける。やがて、二人の後ろに立った変質者は振り向きざまに言う。

 

「俺の標的は『コレ』なんでな」

 

 その手には、紺色の競泳水着と白のビキニ(トップとアンダー)が握られていた。その持ち主とはもちろん美由紀とノエル。

 もちろん、水着を着てない二人の恰好は言わずもがな。

 二人は自分に起こったことがわからず呆然としていたが、美由紀とノエルは体を眺めてすぐに理解し、

 

「きゃあああああああああああああああッ!!」

「くッ!!」

 

 美由紀は悲鳴を上げ、ノエルはすぐさまは両手で自分の体(主に大事な部分)を覆い隠す。ちなみに、ノエルは射殺さんばかりに変質者を睨んでいる。

 

 変質者は「フッ……」と満足げに笑みを零す。

 

「今日は美人が多いようだ。これならば、予想以上の収穫が望めるな」

 

 しげしげと、自分が獲得した獲物(みずぎ)を眺める変態。

 それを見ていた土方は呆れた表情から、すぐにドン引き顔。

 

「おィィッ!? なんだあいつ!? なんでブラジャーで人斬れるんだよ!」

「つうかあの人、ふんどし仮面よりも性質悪いですよ!!」

 

 新八は変態を指さしながら、昔遭遇した下着泥棒を思い出し、「ふんどし仮面て誰!?」とアリサは出てきた謎の人物名に驚く。

 

「お姉ちゃん!! お兄ちゃん!!」

 

 なのはは純粋に自分の姉と兄を心配し、すずかも「ノエル!!」と月村家のメイドを心配しだす。

 

 意外に手練れな変質者に、各々が戸惑いを隠せず、慌てだす。

 

「間違いない! アレは次元犯罪者――『仮面ライダーパンツ』だ!」

「知っているかユーノ!」

 

 ユーノの言葉に土方はどっかで聞いたことあるようなセリフを言う。

 

「(あの人だれなのユーノくん!)」

 

 なのはは小声で質問をする。

 

「(魔力を感じてようやく確信したよ。あいつは僕たちの世界の犯罪者だ!)」

 

 ユーノも魔法関係者以外に聞こえないように小声で話し出す。

 なぜ念話使わないの? という疑問を持っている方もいるだろうが、念話を使えない人たちもいるので。

 

「(僕たちの世界でもある意味有名な犯罪者なんだけど、女性の下着を盗み、盗んだ下着をなぜか『モテない男子』とか言う人たちに配る、かなり異色の次元犯罪者なんだ!)」

「(なにそれ!? あの人『ふんどし仮面』の親戚か何か!?)」

 

 まぁ、新八の意見も無理はないだろう。

 なにせ、随分昔に一度捕まえる為に戦ったふんどし仮面と名乗る下着泥棒がいた。しかも、今ユーノが言ったことと同じ行為を江戸で行っていた人物。違う世界同士で、似通った風体と目的を持った人物が存在しているのだから、正直驚くのも無理からぬこと。

 

「(だからその聞くからに変態臭い『ふんどし仮面』って誰よ!?)」

 

 とアリサも小声で会話に参加。

 

「(私たちの住んでる江戸にいた、ふんどしを顔に被った下着ドロボーネ)」

 

 小声の神楽がアリサの疑問に答え、説明を聞いた金髪少女はドン引き。

 

「(そ、それはそれで酷い泥棒ね……)」

「まー、俺らの前にいるアイツが顔に被ってんのはパンツだけどな」

 

 小声じゃない沖田は特にいらん付けたしをする。

 

「ふんどしだろうとパンツだろうと、どうでもいい」

 

 すると小声ではない土方がたばこに火を付け、一歩前に出た。変質者の視線が真選組副長に向く。

 鬼の副長はたばこを吹かし、口を開く。

 

「まさか、初めて出会った〝大人の魔導師〟が、テメェみてェな変態だとはな」

「貴様、まさか魔導師か?」

 

 変質者は土方の言葉を聞いて険しい表情を作る。

 

「いや、ちげぇよ……俺は、侍だ」

 

 不敵に笑う土方。

 

「あの、すずかちゃん。土方さんの言ってる『まどうし』とか『さむらい』って、なんのことかな?」

 

 と月村家メイドのファリンは聞きなれない単語に不思議そうな表情をし、すずかは「さ、さぁ……」と冷や汗を流しながら誤魔化す。

 ファリンとすずかの会話で、新八は思い出したかのようにユーノに催促する。

 

「(ゆ、ユーノくん! いくらなんでも魔法のことバレちゃうって! 結界結界!)」

「(ッ! は、はい! ――って、待ってください!! このまま結界なんてしたら、なのはの家族の前で僕たちが突然姿を消したことになりますから、いくらなんでも不自然ですよ!!)」

「(たしかに!!)」

 

 などと新八とユーノがあたふたしている間に、

 

「ふん。侍だと? 知らんな。どこの馬の骨だか知らんが、イケメンである貴様もまた俺の敵であることに変わりはない」

 

 と、変質者は吐き捨て、手から何枚ものパンツを手裏剣のように取り出す。

 

「俺の邪魔をするなら排除するのみ」

 

 対し、土方は不敵な笑みを崩さない。

 

「やってみな。変態が相手なのはちと残念だが、折角だ。俺ら侍が魔導師とやらにどこまで通用するか、いい腕試しにならァ」

「ちょっと待って土方さァァァァん!! 戦うのちょっと待ってェェェェェ!!」

 

 突如大声を出す新八に、土方は不服そうな顔を振り向ける。

 

「おい、なんだよ? 折角これからって時に、出鼻挫きやがって」

「いやリリカル的なアレ! 結界的なアレ! 一般人避難!!」

 

 新八のぼかしつつ必死な訴えを聞いて、土方は「あッ」と声を漏らす。

 ようやく気付いた土方は、ケガを抑える恭也や、水着がなくなって体を手で隠す女性たちを見た後、

 

「おい、変態」

 

 変態下着ドロに顔を向けた。

 

「なんだ?」

「一般人避難させるから、ちょっと待ってくんない?」

「……うむ。よかろう」

 

 敵は臨戦態勢のまま土方の提案に応じる。

 

(あッ、いいんだ……)

(犯罪者なのに、魔法秘匿に協力してくれるんだ……)

 

 と、新八とユーノは思った。

 とにもかくにも、慌てて結界を張る為の準備を開始する新八たち。

 

「きょ、恭也さん!! ここは一旦更衣室に避難しましょう!!」

「し、しかし!!」

 

 恭也は渋るが、新八は捲し立てつつ恭也の両肩を抱いて立たせ、誘導する。

 

「土方さんや沖田さんがあの変態を牽制しつつ引き付けてくれてますから!! 信じて一旦女性陣を避難させましょう!! それにケガの治療を!」

 

 あなたたちも誘導を手伝ってください!! と、ちょっと強引ではあるが、鬼気迫る雰囲気で係員に言葉を飛ばす新八。

 係員も慌てて、女性陣の避難誘導を始め、

 

「お、お姉ちゃん!! と、とにかく更衣室に!!」

「ノエルも!!」

 

 色々察したであろうなのはとすずかも、姉やメイドにタオル掛けて、新八の誘導の手伝いを後押し。

 さきほどまで違和感や疑問を感じていたであろうメイドのファリンも、アリサと一緒に避難の手伝い。

 やがて、変態の近くに残ったのは土方、沖田、神楽、ユーノだけ。(ちなみに、チャイナだけ避難誘導されなかった)

 

 そして、土方と変態下着ドロが睨み合ってる中、しばし時間が経てば、

 

【ゆ、ユーノくん! 結界をお願い! 今ならお姉ちゃんたちから少し離れてるから、結界で姿が見えなくなっても問題ないよ!】

 

 なのはからの念話がユーノに届く。

 

「よし!!」

 

 ユーノはすぐに魔法非関係者を排除する封鎖結界を発動させる。やがて、ドーム状の光の壁がプール施設一帯に展開された。

 変態が結界に視線を向ける中、

 

「待たせたな、変態ヤロー」

 

 鋭い視線の土方の言葉。

 

「かまわん。私も紛いなりにも魔導師。魔法を秘匿させるフィールドの方が、都合が良いのは理解しているからな」

 

 と変態が話している途中で、

 

「土方さーーーーーん!!」

 

 声を上げる新八を筆頭に、なのは、アリサ、すずかなどが更衣室から戻って来た。

 

「どうやら、あいつらが魔法関係者か。ならば……」

 

 ついに魔法で戦うための舞台が整ったところで、下着ドロの魔導師は再び攻撃を開始しようと予備動作を始めた、

 すると、ユーノが声を上げる。

 

「土方さん気をつけて!! そいつは自分の手に入れた下着に魔力を纏わせて武器にするそうです!! 魔導師としてはかなり練度が高いという噂が!!」

「なんかすっごい才能の無駄使いしてますよねあの人!!」

 

 戻って来た新八は、息を乱しつつドン引き。

 ますます人としても魔導師としても誤った道に突き進んでる変質者魔導師に、土方は吐き捨てる。

 

「けッ。そんなくだらねぇ技、俺の刀で――」

「土方さん」

 

 と、ここで沖田が声をかけた。

 

「俺らの刀、公共施設に持ってけないんでアリサん家ですぜ」

「あッ……」

 

 土方を含め、江戸組はジュエルシード探索ではなく、遊びにいくだけのつもりだったので、刀や木刀は持ってきてないことに、鬼の副長は今気づく。

 変態はパンツを構える。

 

「さー、イケメンよ、舞台は整った。覚悟はよいか!」

「ちょちょッ! ちょっと待って!! 今はタイミングが――!!」

 

 慌てて右手を前に出す土方。だが無論、敵が待ったなど聞き入れるはずもなし。

 

「問答無用!! パンツブーメラン!!」

 

 変質者はパンツをブーメランというか、手裏剣のように投げつける。

 

「アレ全然攻撃に見えないんですけど!?」

 

 新八の言う通り、パンツが武器になる姿はシュール極まりない。

 

「でも魔力を纏ったあの……下着は危険です!! 絶対に当たらないでください!!」

 

 さすがにパンツという単語を言うのは恥ずかしいらしく、ユーノは顔を赤くさせながら言葉を選ぶ。

 

「うォォォォォッ!!」

 

 土方は体をエビぞりにして、すんでんのところで躱す。

 普段から凶刃の中で戦っている猛者だけはあり、さすがの反射神経。パンツはそのまま飛んで後ろの壁に深く突き刺さる。

 

「おいおい、ちゃんと急所に当てろよ変質者」

 

 と、外野から煽る沖田。

 

「てめェ総悟!! あとでぶっ殺すからな!!」

 

 土方が部下を睨む。

 

「ふん、とんだ口だけ男のようだな」

 

 と変質者は吐き捨て、

 

「実力差がはっきりした以上、このまま戦う必要もあるまい」

 

 魔法関係者以外誰もいなくなった施設内を見渡す。

 

「予定外の結界ではあったが、更衣室の下着を盗むには打って付け。それに――」

 

 そこまで言って、変態はパンツをシャキンと構える。

 

「盗むだけ盗んだ後に、結界を張ってる者を仕留めれば、また女共から水着をはぎ取れる。今回は実にいい収穫になりそうだ」

「下着だろうが水着だろうが見境なしかあんたは!!」

 

 と、新八はツッコム。

 

「ふん、水着も下着もさして変わらん」

「なんであんたそこまで下着盗むのに拘るのよ!! そんなに女性の下着が欲しいなら盗まず買えばいいでしょ!!」

「アリサちゃん、その意見はちょっと……」

 

 すずかは親友のズレた言葉に微妙な顔。

 

「ふん。子供よのう」

 

 アリサの言葉を聞いて変質者は失笑し、言う。

 

「女性が身に着けているからこそ、『彼ら』には価値があるのだ」

 

 アリサは眉をひそめる。

 

「『彼ら』って……ユーノが言ってた『モテない男子』とか言う連中?」

「その通り!!」

 

 変質者は目をカッと見開き、熱く語りだす。

 

「『モテない男子』! チェリーボーイ、童貞、ムッツリ! 女性に縁がなく、その身に宿したリビドーを溜め込んだ男たちの為に、俺は日夜下着を集めているのだ!!」

 

 変質者は水着を強く握りしめ、拳を作る。

 

「そして彼らにとって女性――特に美女、美少女の温もりを宿した下着はまさに宝!! 明日の糧となる!!」

 

 やがて変態は、さきほどまで女性が着用していた水着を天高く掲げた。

 

「俺の手にある水着もまた彼らの猛るリビドーを解消する!! つまりオカズにな――!!」

 

 ズバァァァァン!! と桃色の閃光が変質者を飲み込んだ。

 桃色の閃光の発射元に全員の視線が向く。

 

「これでいいよね? ユーノくん」

 

 と、笑顔で言うのは、レイジングハート構えたバリアジャケット姿のなのは。

 

「う、うん……」

 

 ユーノは冷や汗流しながら引きつった表情で頷く。

 よ、容赦ねェー……。とその場にいるほとんどの者が思い、あんな強力な一撃を躊躇せず当てる少女に戦慄を覚える。

 

「あッ……アレ」

 

 神楽が指をさす先には、ヒラヒラと舞いながら落ちる美由紀とノエルの水着。どうやら、変質者がなのはの魔砲攻撃によって手放し、そのまま宙を舞ってしまったらしい。

 すると、突如として手が伸び、落ちてくる水着を掴む。その掴んだ人物とは、なのはの魔法が直撃した変質者だ。

 

「フハハハッ! その程度の攻撃で、俺を止められると思ったのか!!」

 

 変質者は女性の水着を天高く掲げながら高笑い。

 

「俺にはこのブラジャー型バリアジャケットがある!! その程度の攻撃ではビクともせんぞ!!」

 

 煙が張れ、変質者の全身が姿を現す。見れば確かにブラジャーは無傷だが、それ以外の素肌からは焼けたような煙が立ち上っている。

 

「いや、おもっくそダメージ受けてますが!!」

 

 と新八はツッコミ入れた。

 

「その装備どう考えても胸部以外守れてないでしょ!! 足なんかふらふらじゃねェか!!」

 

 生まれたての小鹿のように足を笑わせる満身創痍の変質者を見て、ツッコミしながら呆れ顔の新八。

 

「なのはの砲撃で胸部が無傷な辺り……あそこだけ魔法の防御を集中させてたのかな……?」

 

 ユーノの容赦のない指摘。どうやら敵はただのバカのようである。

 

「な、ななな中々、やややややるではないか、しょしょしょ少女よ……!」

 

 と変質者は腕を組んで不敵な笑みを浮かべるが、声はおもっくそ震えまくり、目は涙目。今頃になって激痛を感じ始めてきたのだろう。

 新八は白い目を変態に向ける。

 

「完全に追い詰められてるのに、なんで上から目線なんですかあの人?」

 

 痛みを振り払い、変質者は鬼気迫る表情で宣言する。

 

「モテない男たちの自由と平和を守る! 仮面ライダーとして俺は諦めるワケにはいかんのだ!!」

「黙れッ!!」

 

 即座に怒鳴る土方。

 

「ホント黙ってお前ッ!! 初代ライダーが初っ端からライダーキックしてくる勢いでお前は失礼だから!!」

 

 土方のツッコミを無視し、変質者は指をビシッと、なのは、アリサ、すずかの三人に向けた。

 

「俺をここまで追い詰めた褒美に君たちを好敵手と認め、君たちのパンツ&水着も頂くことを宣言しよう!!」

「死んでも願い下げよこの変態!!」

 

 アリサは自分の体と水着を抱きしめ、嫌悪感マックスの表情で罵声浴びせる。

 すると、アリサの肩からひょっこと顔(?)を出したのは、赤い羽を生やした炎を模ったデバイス。

 

《まずいですねアリサさん。敵は中々にタフな上、肝の据わった方のようです。一筋縄ではいきませんよ》

 

 久々に喋ったアリサのデバイスであるフレイアは、自身の主に助言する。

 

《こちらは水着を脱いですっぽんぽんになって対抗するんです!! そうなれば敵は盗む下着がなくなり、攻撃の隙が生まれるはずです!! さらには変態的な意味でも有利に立てます!!》

「なるほど! 逆転の発想ね!! わかったわ!!」

 

 フレイアの言葉を聞いてアリサは早速――自身のデバイスを水の中に押し付ける。

 

《ごぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼぼッ!!》

 

 フレイアは苦しみもがき、アリサは光が消えた瞳で暴れる相棒を水に押し込み続けた。

 新八はとりあえず後ろでデバイスを溺死させようとする少女は放っておいて、変質者に声をかける。

 

「あんたに勝ち目はない! おとなしく降参するんだ!!」

「降参? 笑わせる!! 例えどんなに傷つこうとも、『モテない男たち』の性欲解消の平和と自由のために俺は戦う!!」

 

 変質者はまったく聞く耳持たない。

 そして、変態は「ゆくぞッ!!」と気合の一声で空高く飛び上がった。

 

「ライダー――」

 

 変態は空中で一回転し、

 

「パンツキィィィィックッ!!」

 

 右足で蹴りを放ちながらパンツをまき散らす。

 

「あんな最低なライダーキック見たくなかったんですけど僕!」

 

 新八がツッコミをしたその時、変質者の前に桃色の閃光が放たれた。

 

「えッ?」

 

 変態が声を漏らす頃には、彼は魔力の本流に飲み込まれた。光が通り過ぎれば、空中で制止する男の体からは、煙が立ち上り、そのまま地面にぼとりと落ちる。

 

 そして追撃と言わんばかりに、桃色閃光のみならず、巨大な炎の玉と巨大な氷の塊が一斉に変質者に放たれた。

 

 ズガガガガガッ!! ドカン!! ドカン!! ズドォーン!!

 

 凄まじい轟音と共に、あっと言う間に爆発の煙で敵の姿が見えなくなる。

 そして攻撃の発射元へと視線を向ければ、バリアジャケットを展開し、デバイスを構える三人の少女――なのは、すずか、アリサ。

 

「「「………………」」」

 

 無言で魔法の武器を構えたままの少女たちを見て、新八と土方は頬を引きつらせる。

 

「……まァ、これで今度こそいっけんらくちゃ――」

 

 そう言って土方が一服吸おうとした時、突如として変質者がいた場所から眩い光の柱が立ち昇った。

 

「こ、これって……!?」

 

 眩い光と突風に、なのはだけでなく、他の面々も腕で目を覆いながら、なんとか飛ばされないようにする。

 

「まさか、この反応は!!」

 

 突如の出来事に戸惑いを見せる彼らの中で、一匹のフェレットだけはその原因に心当たりがあるらしい。

 光と風が収まり、一つの影が姿を現す。

 

「パァァァァァァァンツゥゥゥゥゥ!!」

 

 まるでハ〇クのように筋肉を大増量させた変質者が雄たけびを上げた。

 

「な、なにあれェェェェッ!?」

 

 まさかの第二形態に、新八は驚きを隠せず口をあんぐりとさせ、ユーノはすぐに察したような声で。

 

「やっぱり!! あの次元犯罪者は――〝ジュエルシード〟を使ったんだ!!」

「嘘ォ!?」

「マジでか!」

 

 新八と神楽の驚きの声。

 まさかのジュエルシード登場に、ユーノの話を聞いていた他の面々(沖田以外)も驚き顔。

 ユーノは変態した変質者に前足を向ける。

 

「ほら見て! 彼の股の中心にジュエルシードが!! きっと拾って隠し持っていたジュエルシードが彼の執念に反応して、発動してしまったんだ!!」

 

 ユーノの言う通り変質者の海パンの中心は青い光を放っていた。

 

「なんつうとこにしまい込んでだ!! こち亀の海パン刑事かあんたは!!」

 

 ツッコミ入れる新八をよそに、変態した変態はある一単語を叫びまくり始める。

 

「パンツパンツパンツパンツパンツブラジャーパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツパンツゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 さすがの土方も引く。

 

「おィィィィィッ!? ジュエルシードの影響か知らねェけど、理性失ってパンツと言う一単語しか発せられなくなってんぞ!?」

「なにその輪をかけて酷い理性の失い方!? 言葉発せなくなる方がまだいいよ!!」

 

 嘆く新八とは逆に沖田は冷静に語る。

 

「やべェですぜ土方さん。最早あいつは仮面ライダーでもねェ、ただパンツを追い求めるだけの悲しき怪人に成り下がっちまったようでさァ」

「なにそれどんな怪人!? こっちまで悲しくなってくるわ!! つうかアレを仮面ライダーとしてカウントするのぜってぇダメだからな!!」

 

 神楽は腕を組んで思案顔。

 

「でもあいつ、ポロっとブラジャーって単語言ってたアル。きっとパンツだけでなく、ブラジャーに対する思いも残っているようアルな……」

「別にどうでもいいよそんなの!! 冷静に分析してないでアレなんとかする方法を考えないと!!」

 

 と、新八が慌てていると、

 

「パンツッ!!」

 

 巨漢になった変質者は巨大なパンツを一枚取り出し、まるで大剣のように両腕で握り、構えた。やがて、凄まじいスピードでなのはに向かって巨大パンツを振りかぶりながら突進してくる。

 

「マズイ!! なのは! 防ぐんだ!!」

 

 ユーノの言葉を聞いてなのは咄嗟に障壁を展開。

 

「パンツゥッ!!」

 

 変質者の巨大パンツがなのはに振り下ろされる。

 

「きゃあッ!!」

 

 凄まじい攻撃力だったらしく、障壁にはヒビが入り、なのはは数十センチも後ろに後退させられた。

 

「マズイぞ!! 紛いなりにも魔導師に寄生したせいで、能力が格段に上昇している!!」

 

 ユーノが焦りの声を出す中、

 

「パンツッ!!」

 

 変態はアリサとすずかに向かって巨大パンツを手裏剣のように投げつける。

 二人はとっさにシールドを展開するが、

 

「「きゃッ!!」」

 

 弾いたはいいが、同時にシールドも壊されてしまった。さすがに二人の魔力障壁は、なのは以上の防御力を持っていないらしい。

 

「つ、強い!」

 

 すずかは冷や汗を流し、手に持つ槍に変形しているホワイトを握り絞める。

 

「なにこれ!? あたしたちこんなくっだらない攻撃に押されてるの!? 屈辱以外の何ものでもないんだけど!!」

 

 一方、アリサは真っ当な怒りと困惑の声。

 

 江戸組は魔法を使えないので観戦していたが、さすがになのはたちの分が悪いと判断したのか、新八は土方に切迫した声で言う。

 

「ど、どうしましょう土方さん!! 僕らも加勢した方が――!!」

「俺たちは武器も持たねェ生身だぞ! 今行ってもただの足手まといにしかならねェよ!」

 

 土方は「くそ、刀があれば!」と愚痴る。だがない物をねだっても仕方ない。

 

 すると、突然のことだった――バン! バン! バン! と、何発もの電気を帯びた黄色い閃光弾が、変質者に襲い掛かった。

 

「パンツッ!?」

 

 巨漢変質者は咄嗟に腕でガード。

 

「い、今のって……」

 

 閃光弾を見たなのは。今の攻撃を行った人物をすぐに予想する。

 そして、その予想が正解だと言わんばかりに、マントを羽織った黒い金髪の少女が、ふわりとなのはの前に背を向けながら降り立つ。

 なのははその姿を見て、思わず少女の名前を呼ぼうとする。

 

「フェイトちゃ――!」

 

 後ろを振り向いたフェイトを見てなのは絶句。なにせ、少女は口一杯にフランクフルトを頬張っていたのだから。

 

「…………ふぇ、フェイトちゃ――」

 

 なのはは唖然とするものの、なんとか声をかけようと、

 

「あふぁなにじゅふぇふしーふどはわふぁふぁせふぁい」

「フェイトちゃァァァァァん!?」

 

 なんとかコミュニケーション取ろうとしたなのはだが、相手が何言ってるかまったくわからずビックリすることしかできない。

 

「あふぁふぁはじゃふぁしふぁふぃふぇ」

 

 フェイトはフランクフルト咥えながら相棒を握り絞める。

 

「いや、なに言ってるか全然わからない!! 分からないよフェイトちゃん!!」

 

 首を横にぶんぶん振るなのは。その時、なんか彼女の恰好がところどころおかしいことに気づいた。

 

「フェイトちゃん!? その両手の袋なに!? 絶対邪魔そうだよねそれ!」

 

 手に下げたビニール袋を指摘されたフェイトは訝し気な視線をなのはに向け、袋を抱きかかえて隠す。

 

「いや、取ったりしないよ!? 私そんな酷いことしないよ! って言うかフェイトちゃん今回キャラが全然違うよね!?」

 

 ひでぇ勘繰りに、なのはは普段しない怒涛のツッコミを連発。

 まさか今までクールで冷徹な態度を取りながら、憂いを帯びた瞳でジュエルシード集めしていた少女が一変――食べ物が入った袋を両手目いっぱいにぶら下げて、口にはフランクフルト咥えてきたもんだから、なのはの頭は混乱しっぱなしだ。

 

 アリサは半眼でなのはとフェイトのやり取りを見る。

 

「……あの子、絶対出店楽しんでたわよね? 絶対プール満喫してたわよね?」

「フェイトちゃん、よっぽどプールが楽しかったんだね」

 

 と、すずかは笑顔で天然発言。

 

「ちょっとォォォォォォッ!! なにこのグダグダ感!? 敵目の前にして君たちなにやってんの!」

 

 シャウトした新八のツッコミを聞いて、ハッとした魔法少女たちの視線がジュエルシードで変態した変質者に向く。

 

「パンツゥゥゥゥゥッ!!」

 

 今まで放置されていたことに怒ったのかは知らないが、変質者は新たな巨大パンツを二枚出現させ、両手に持ち、雄たけびを上げ、やたらめったら巨大パンツを振り回し始める。

 

「ちょッ!? こェェェよ!! 僕生まれて初めて女性のパンツを怖いと思ったんですけど!?」

 

 戦々恐々の新八は叫び、不安そうな顔をユーノに向けた。

 

「フェイトちゃんが参戦したのはいいけど、状況はまったく好転してる気がしないんだけど……。ど、どうしよう? ユーノくん」

「ど、どうしようと言われましても……。あの次元犯罪者、どうやらジュエルシードの影響で理性はないようですけど、防御力や攻撃力やスピードが信じられないくらい強化されているようで。僕も正直、まだ魔法経験の薄いなのはたちで勝てるかどうか……」

 

 困ったような顔のユーノの解説を聞いて、新八が分かった事は、とりあえずピンチということだ。

 だが、すぐにユーノは冷静な分析を口にしだす。

 

「僕としては、あの黒い魔導師の子に頑張ってもらうしかないかと。ジュエルシードを奪われるのは致し方ありませんが、被害を最小限に抑える方が最善だと思います」

「たしかに、それもそうだね」

 

 頷いた新八はなのはに大声で助言を送る。

 

「なのはちゃァーん!! 今回はいつもの争奪戦は忘れてフェイトちゃんとその変態をやっつけることに全力を注いでェー!!」

 

 なのはは「はい!」と頷くと、フェイトに顔を向けた。

 

「フェイトちゃん! 今回はいつものジュエルシード争奪はなしにして、一緒にあの人をなんとかしよう!」

「わふいけふぉ、わふぁしふぁあなふぁにきょうふぉふしふきふぁ――」

「フェイトちゃん!! 口に入れた物一旦なくして!! でないと何言ってるか全然分からないの!!」

「ちょとぉーッ!! いつまでコントやってんの!! こっちはこの変態の相手してるってのに!!」

 

 いつの間にか変質者と交戦していたアリサの叫び。ちなみにすずかもアリサとタッグを組んで戦っている最中。

 

「ご、ごめん! とにかくフェイトちゃん!! わたしたちと協力して!!」

 

 さすがに申し訳ないと言う気持ちが大きくなったなのはは、捲し立てるように黒衣の魔導師に協力を申し入れる。

 フェイトはごくんと口に入れたフランクフルト飲み込み、真剣な表情で、

 

「そんなことをする必要はない」

 

 首を横に振って提案を拒否し、なのはは困惑する。

 

「どうして!?」

「なぜなら――」

 

 フェイトが答えを言おうとした直後、何者かが空中で体を前転させながら現れた。

 謎の人物は、右手を天高く掲げると、太陽のように体を輝かせる。

 

「パンツッ!?」

 

 あまりの眩しさに変質者は驚きの声を上げ、

 

「あ、あれはッ!!」

 

 突如として姿を現した黒い影を見て、驚愕の表情となる新八。

 

「俺は太陽の子――」

 

 現れた人物は右手を握りながら引き、左手の指を伸ばしてクロスさせ、

 

「仮面ライダーブラァッ――!!」

 

 左手を左上に引き抜くと右手を切り落とし、すかさず右手を右上に返し、

 

「ア゛ール――!!」

 

 右手を右上から左下へとRを描くように振り下ろし、両手をXを描くようにグルリ曲げて握り拳を構える。

 

「エ゛ッグス!!」

 

 と、文章にしきれないキレッキレのポーズで現れたのは――仮面ライダーBlackRXだったのだ。

 

「え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ッ!?」

 

 新八の叫び声が温室プールに木霊した。

 



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第二十九話:無敵のヒーロー

「俺は太陽の子!! 仮面ライダーブラ゛ック!! アールエ゛ックスッ!!」

 

 キレッキレの変身ポーズをしながら名乗りを上げる仮面ライダーさん。

 それを見て新八は、

 

「え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ッ⁉」

 

 倉田て〇をばりの濁音が混じった叫び声を上げる。

 現れたRXは、ジュエルシールドでハルク並みの巨漢になった変質者に指をビシッと向けた。

 

「仮面ライダーパンツ!! ヒーローと言う名を盾に卑劣な行為を繰り返す貴様の勝手な行いは――」

 

 覇気を放つ声で言われた変質者は気迫負けしてか後ずさる。

 

「この仮面ライダーBLACK RXがゆ"る゛ざん゛!!」

「パンパンパンパンッ!! パンツゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 変質者は雄たけびを上げながら手に持った巨大パンツ振りかぶり、RXに向かって突進していく。

 

「RXキィーック!!」

 

 摩擦により発熱した足裏によるRXのキックが変質者の胸に直撃。

 

「パァッ!!」

 

 胸のブラジャーは爆散し、変質者は体を転げまわしながら吹き飛ばされる。

 その様をあんぐりと口を開けて見ていた新八は、

 

「ちょっとォォォォォォッ!? なんかもう絵ずらが銀魂でもリリカルでもないんですけどォォ!? ちょッ!? どういうことこれェ!?」

 

 ついにシャウト。焦り顔をガバっと土方に顔を向けた。

 

「土方さん!! モノホンのライダーが出てきちゃいましたよ! マジでどうすんですかこれ! どう収集すんですかこれ!」

「知るか! 俺に聞くな!! あんなガチで強ェヒーローどうしろっつうんだよ!!」

 

 新八たちが言い争っている間に、すぐさまRXは次々に変質者に攻撃を当てていく。

 

「RXパァンチッ!!」

 

 RXは赤く光る拳をジャンプして変質者の顔面に叩きこむ。

 

「パァァァンツッ!!」

 

 変質者は顔を焦げさせ、体を捻りながら吹っ飛ぶ。

 

「ずずず…………」

 

 沖田は呑気にコーラ飲む。

 

「すげェや、圧倒的だぜ。挿入歌まで聞こえてきそうな勢いでさァ」

 

 ヒーローの戦いを観戦しているのは真選組一番隊隊長だけではなく、

 

「いけおらァ!! そこだぶっ飛ばせェーッ!!」

 

 熱血思考も内包している神楽もまたプロセス観戦するかのように野次を飛ばす。

 すずかは戸惑いがちにアリサに意見を求める。

 

「あ、アリサちゃん。私たちはなにをすれば……」

「とりあえず、様子見でいいんじゃない? ピンチにでもなったらあの黒い人の加勢すれば良いと思うわよ」

「え、えっと……」

 

 冷静なアリサとは打って変わって、なのはに至ってはどうしていいかわからずおろおろするばかり。

 

「パクパクパクパク……!」

 

 そしてフェイトはたこ焼き頬張りながら観戦。

 

「――っておィィッ!? あのガキのキャラどうした!? チャイナ娘みたいな感じになってんぞ!?」

 

 驚きを隠せない土方。

 なにせ、何くわぬ顔でたこ焼き食べ続ける金髪魔導師の少女が普段と別キャラになっているのだから。

 

「沖田さんはともかく、フェイトちゃんがあの余裕の態度ってことは……」

 

 新八はフェイトの様子を見て、ハッとあることに気づく。

 

「もしかしてあのライダーさん、フェイトちゃんの仲間なんじゃないですか!?」

「はァ!? なんで太陽の子があいつの仲間になってんだよ!!」

 

 困惑気味の土方の疑問は当然だ。だが、新八も答えようがない。

 

「い、いや……それは分かりませんけど……」

 

 そうこう話しているうちにライダーと変質者の戦いは激化していった。

 

「パァンツ!!」

 

 変質者は両手に持った巨大なパンツでRXに斬りかかろうとする。

 すると、RXの姿が突如として変わり、まるで鉄人のような姿に。

 肩に振り下ろされた巨大パンツは変身したRXに当たるが、その攻撃はまるで効いている様子がなかった。

 まるでロボットのような動きでパンチを変質者の腹に浴びせ、吹き飛ばす。

 

「俺は悲しみの王子!! ロボライダー!!」

 

 すかさず手に銃を出現させるロボライダー。

 

「ボルティックシューター」

 

 ロボライダーは引き金を引く。すると、銃から二発の光線弾が発射され、変質者が持つ巨大パンツを破壊した。

 

「変身した!?」

「かっけェーッ!!」

 

 アリサは驚き、神楽は目を少年のように輝かせる。

 

「パパパパパッ!!」

 

 変質者は悔しそうに声を漏らし、

 

「パンツゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 両手を上に掲げ、自分の周りに大量のパンツを出現させると、それらを丸ノコのように縦に高速回転させた。

 その様を見た新八は思わず声を上げる。

 

「なにあの最低なファンネル!」

「ジュエルシードの影響であいつの魔法が強力になっているんだ!!」

 

 ユーノの解説を訊いて、土方はドン引き。

 

「あいつの攻撃方法はとりあえずパンツ以外にねェのかよ!! 芸がねェな!!」

「でも悪質度で言ったらふんどし仮面より上です!!」

 

 と、新八はツッコミを入れた。

 二人が言い合ってる中、敵の攻撃方法の変化を見たRXはまたもや姿を変える。

 今度は全身が青色の戦士へとその姿を変化。

 

「俺は怒りの王子! バイオ! ライダー!!」

 

 まるで爪を立てた鷹のようなポーズを取り、名乗りを上げるライダー。

 

「パンツッ!!」

 

 変質者は構わず、自分の周りに浮かせた回転するパンツを手裏剣のようにバイオライダーに放つ。

 だがしかし、その攻撃は全てバイオライダーには当たらなかった。

 

「パンツが全部ヤツの身体を突き抜けてしまうぞ!!」

 

 まさかの光景に叫び声を上げる土方。

 

「ちょっとォ! あいつ絶対チートよ!! あんな変身できる上に能力がいちいち凶悪過ぎるでしょ!!」

 

 アリサは理不尽なくらい強いヒーローにビックリしていた。

 バイオライダーは姿を青いゲル状へと変化させ、変質者の周りを飛び回る。

 

「パッ、パパパッ!!」

 

 変質者はゲル状攻撃に翻弄されてしまう。

 そしてゲル状態から人間態へと姿を戻すと、今度は一番最初の黒いRXの姿へと戻っていた。

 そして腰のベルトの前に右手の前にかざすと、鞘がベルトから飛び出す。

 

「リボルケイン!!」

 

 RXが鞘を抜き去れば、刀身が光る剣が出現。

 それを見て神楽は目を輝かせる。

 

「おおッ!! ライトセイバーが出てきたネ!!」

「いやたぶんちげェから!!」

 

 新八は即座に訂正。

 RXは地面を叩き、空中へと舞い上がると、リボルケインを変質者の股間――ジュエルシードへと突き刺した。ちなみにそれを見た新八や土方は、股間を抑えて顔面蒼白。

 突き刺された股間から一直線上に、尻から火花が飛び散る。

 

「パァァァァッ……!!」

 

 苦しみの声を上げ、変質者は悶えていた。

 

「うわァッ! ひでェ絵面……!!」

 

 新八と土方はあまりにもあんまりな光景にドン引き中。

 

 リボルケインが引き抜かれ、変質者は肘から崩れ去り倒れ、爆発した――。

 

 背を向けRをリボルケインで描きながら、爆風を背に受けるRX。

 その様を見ていた一同はしばらく言葉を発することができず、立ち去るRXを見続けた。

 

「――って、爆殺したァァァァァァァッ!?」

 

 開口一番に大声を上げたのは新八。そして頭抱えてしまう。

 

「色々言いたいことはあるけど、変質者ごとジュエルシード爆殺しちゃったんですけどあの人ォォォ!!」

 

 新八は頭を抱えながらことの重大さに大慌て。犯罪者とは言え死人が出た上に、ジュエルシードが木っ端微塵ではさすがに落ち着けと言う方が酷であろう。

 

「いや、大丈夫みたいだぜ。よく見てみな」

 

 と、沖田が変質者が爆発した地点を指さす。

 

「えッ!?」

 

 新八や他の面々の視線が爆風の中心地に向かう。

 そこには白目向いて真っ黒焦げの変質者――っと、なんの傷もないジュエルシードの姿。

 その光景を見て、新八は驚く。

 

「えッ!? 魔法で封印してないのに大丈夫だったの!?」

「たぶん、取り付いた対象が撃破されたせいで一時的に抑止されたんだと思います」

 

 冷静に分析したユーノはなのはに向かって声を上げる。

 

「ジュエルシードはまだ安定していない!! すぐに封印して回収を――!!」

「あ、もう遅いみたいだぜ」

 

 呑気な沖田の言葉に、ユーノは「えッ?」と声を漏らす。

 ジュエルシードの傍にはフェイトの使い魔である水着姿のアルフが立ち、地面に落ちた青い宝石を手に掴んでいた。

 

「ジュエルシード、ゲット、と……。フェイト! そんじゃま、ずらかるよ!」

 

 アルフがジュエルシードを主に投げ渡す。フェイトは頷きつつ、封印処理を施しながらバルディッシュの中に収納。

 そして二人はそのまま空中に逃げて行った。

 

「こら待ちなさい!!」

 

 すぐさまアリサが飛んでおいかけようとするが、フェイトがいくつかの魔力弾を出現させ、放つ。

 

「くッ!」

 

 アリサがシールドで防ぐと、爆炎が上り、視界が塞がれる。

 そして視界が晴れる頃には、二人の姿はどこにもなかった。

 

「もう!! また横取りされちゃったじゃない!!」

 

 アリサは悔しそうに燃える剣をぶんぶん振り回す。

 

「フェイトちゃん……」

 

 結局、またお話できなかった……、となのはは残念そうに俯く。

 

「それで、残ったこいつはどうします?」

 

 沖田が黒焦げになった変質者の髪を鷲掴んで持ち上げ、それを見たユーノが微妙な表情で答える。

 

「こっちの警察に渡しても拘置できないでしょうし、管理局に引き渡すまでの間は僕たちが捕まえておきましょう」

「そんじゃあ、アリサん家にでも放り込んでおくか?」

「ちょッ!? いくらなんでもそれは止めて!! 気持ち悪くて寝られなくるでしょ!!」

 

 マジで嫌がるアリサに沖田は、

 

「安心しな。おめェの(うち)には、取っておきの場所があんだよ」

 

 ニヤリと黒い笑みを浮かべるのだった。

 

 

 

 

 一方、なのはたちから無事に逃げおおせ、ジュエルシードまでゲットしたフェイトとアルフ。

 二人はおみやげ(売店の食品)の入ったビニール袋を手にぶら下げて飛んでいた。もちろん水着から普段着に着替えて。

 フェイトはバリアジャケットなので分からないし、なんならジャケット自体が水着と似たような恰好ではあるが。

 二人は空中を浮遊しながら、下をきょろきょろと見渡す。

 

「あッ! いたいた!」

 

 アルフは温水プール施設の近く、茂みにいる黒い人物を見つけた――さきほどまで変質者と戦っていた、RXだ。

 RXの近くまで降り立つアルフとフェイト。

 

「いや~、探したよ。あんた、戦い終わったらすぐに姿消すんだから」

 

 アルフは親し気にRXに喋りかけるが、特になにも答えない黒い戦士。

 

「でもま! 今回はあんたのお手柄だったよ! ジュエルシードに取り付かれた魔導師を倒すなんてやるじゃないか!!」

 

 アルフはポンポンとRXの肩を叩き、フェイトは小首を傾げる。

 

「まだ変身を解かないの? ――――『銀時』」

  

 するとRXの姿は光だし、光が収まればそこに居たのは木刀を持った天然パーマの侍――坂田銀時だった。ちなみにトランクス水着姿のまま。

 水着姿の銀時は目をパチクリさせ、しきりに当たりを見渡した後に口を開く。

 

「あり? なんかもう終わった感じか?」

「ありゃ? やっぱ覚えないのかい?」

 

 アルフは小首を傾げ、銀時は頭をボリボリ掻く。

 

「あァ……。完全に『あの後』からの記憶すっぽり抜け落ちてらァ」

「しっかし、あんたんとこの『げんがい』って奴は妙なモン作ったもんだねぇ。あんな姿になっちまうんだから」

 

 アルフの言葉を聞いて銀時は戸惑う。

 

「えッ? なになに? 俺なんか変なモンにでもなってたの?」

「カッコ良かったよ銀時」

 

 フェイトは微笑み、アルフはニヤニヤしながら銀時の肩を叩く。

 

「ま、あんたが変身した『カッコいい』姿は後でじっくり聞かせてやるさ」

 

 含みのある言い方でニヤニヤしているアルフに銀時は怪訝な表情を作る。

 

「お、おい。本当に俺、ナニになったんだ? マジで記憶ねェから不安なんだけど? 版権的にヤベェもんになったんじゃねェだろうな? ハハッて笑うネズミじゃねェよな?」

 

 するとアルフは銀時の肩に腕を回して、笑顔で袋を見せた。

 

「まぁまぁ安心しなって。あんたの大活躍はこれを食べながら、ちゃーんと聞かせてやるからさ」

「マジで大丈夫なんだな? 信用していいんだな?」

 

 終始不安そうな銀時をよそにアルフとフェイトは帰路へと歩いていく。

 

 ちなみになぜ銀時がRXで、そもそも彼に何があったのか。

 それは――。

 

 

 

 

 仮面ライダーパンツが現れて暴走していた頃。

 

「んで? ココでジュエルシード発動してんのか?」

 

 片眉を上げる銀時の質問にフェイトは「うん」と頷く。

 

「結界が発動したことを考えても、きっとあの白い魔導師の子か一緒にいたフェレットが結界を張った。そしてジュエルシードが発動した気配も感じる」

「つまり、向こうでな~んか起きてんだな……」

 

 銀時は顎を撫でながら、色んな人間の声が聞こえてくる方向へと目を向けた。施設の遊具が邪魔で何をやっているかは見えない。が、あまり穏やかではないことはわかる。

 

「つうか……『パンツ』……って聞こえね? なんでパンツ?」

 

 微妙な顔の銀時に、フェイトは首を横に振る。

 

「分からない。行ってみないことにはなんとも言えない」

 

 なんか知らんがある一単語を発する者がいるようだ。かなりデカい声で。

 

「とにかく、早く回収に――」

 

 急いで行こうとするフェイトの肩を銀時は「待てって」と言って掴む。

 

「俺もおめェも丸腰だろうが。ばるー……」

 

 と銀時はフェイトのデバイスの名前を言おうとして言葉に詰まるが、すぐに思い出して言う。

 

「バルバトス。おめェのデバイス、バルバトスがなきゃなんにも始まらねェだろ。もちろん俺の木刀もだが」

「銀時、ガンダムは私持ってないよ」

「そういうツッコミをお前がしちゃダメでしょ。いや、ボケか? まあ、間違えた俺が言うのもアレなんだけど」

 

 と言ってから銀時は頭を掻く。

 

「ばるなんちゃらがなきゃ、おめェはただの金髪のガキだ。おとなしくペットの犬がおめェの相棒持ってくんの待ってな」

 

 バルディッシュのない自分の無力さを痛感したのか、俯くフェイト。

 すると遠くの方から「あたしは狼だァーッ!!」と言う女性の声が聞こえてくる。

 

「やっと来たか……」

 

 銀時が声をした方に目を向ければ、

 

「フェイト! 銀時! バルディッシュと木刀持ってきたよ!」

 

 金色の三角形の結晶と、鞘に『洞爺湖』と彫られた木刀を持って現れるアルフ。

 

「おせェぞバカ犬」

「あたしは狼だって言ってんだろ!! バカ天パ!!」

 

 アルフは怒鳴った後、銀時に木刀を手渡す。

 

「ほら、言われた通り更衣室から木刀持ってきたよ」

「サンキュ」

 

 と銀時が礼を言い、続いてアルフは金色の三角形の結晶を主に渡す。

 

「フェイトも」

「ありがとうアルフ」

 

 フェイトは微笑みお礼を言う。

 ふと、アルフは思い出したように指を立てる。

 

「ああ、そうそう。あんたのその……『ぼくとう』だっけ? それの持ち手のさきっちょに、なんかボタンみたいなのあったよ」

「は? ボタン?」

 

 銀時は怪訝な顔をし、柄頭を見る。すると、ホントに赤いボタンが付いていた。

 

「……え? なにこれ?」

 

 銀時は見覚えのないボタンを見て目を白黒させ、それを見たアルフは首を傾げる。

 

「あんたも知らないのかい?」

「…………ん? そういえば……」

 

 銀時はその時、あることを思い出す。

 そう、それは――この魔法なんてものがある世界にくるちょっと前のこと。

 

『ああ、銀の字。おめェの木刀ちょっと改造しといてやったぞ。ありがたく思え』

『いや、なに余計なことしてんだクソジジイ!!』

 

 などと言うやり取りをしたような、しなかったような……。

 爺の作った不気味なボタンに不安が芽生える銀時。対して、アルフは平然とした顔でボタンを指さす。

 

「とりあえず押してみたらどうだい?」

 

 銀時は「いやいや」と手を軽く振る。

 

「あの爺の作ったモンだ。下手したらどんなひでェ目に遭うか――」

 

 アルフは「あ、ごめん」と言って、

 

「実のところ言うと、持ってくる時に気づいてつい押しちゃったんだよね」

 

 舌を出してテヘペロ。

 

「おィィィィッ!? じゃあ最初にそれ言えよ!! 俺に渡してから言うんじゃねェよ!! つうかその仕草ムカつくんですけど!!」

 

 青筋浮かべる銀時はハッとあることに気づく。

 

「あれ? でもお前なんともねェよな? 何も起きなかったのか?」

「いや、特になにも起きなかったね」

 

 眉間に皺を寄せて答えるアルフは人差し指を立てて言う。

 

「ただ、なんか木刀から爺さんぽい声が聞こえてきて『この改造は、ボタンを押してからエネルギー充填するのに数分時間を要するから気を付けな』とか言ってたね」

「………………」

 

 少しの沈黙の後に、目に影を落とした銀時は口を開く。

 

「お前……ボタン押してから何分経った?」

「まぁ、ほんの4、5分かな」

「まだ何も起きてないよな?」

「そうだね」

「つまりこれからなにかしら起きるワケだよな?」

「木刀から聞こえてきた声通りならそうなるだろうね」

「ほォ~、なるほどな~。よくわかった」

 

 うんうん頷く銀時は、

 

「だからそういうことは早く言えェェェェェェェエエエエエッ!!」

 

 慌てて木刀をどこぞに放り投げようとするが、時既に遅し――銀髪は木刀から発せられる光に包まれてしまった

 フェイトとアルフはあまりの眩さに思わず目を瞑る。

 そして光が収まっていくことを感じて、二人は徐々に目を開ければ、

 

「俺は太陽の子――」

 

 黒い戦士が立っていた。

 

「仮面ライダーブラック!! ア゛ールエ゛ックス!!」

 

 キレッキレのポーズを決める仮面ライダーBLACK RX。

 

「「おぉッ……」」

 

 アルフとフェイトは見事な変身を遂げた銀時を見てパチパチと拍手。

 そしてフェイトはRXの腕をポンと叩く。

 

「頑張ろうね。銀時RX」

 

 無言で頷く銀時RX。

 

 その後はと言うと、変質者を見た銀時RXが「むッ! あれは怪人! このRXがゆ゛る゛ざん゛」と言い出して、そのままジュエルシードで変態した変態に向かって勝負挑んだと言うワケである。

 

 

 

 

 ちなみに捕まった仮面ライダーパンツはどうなっているかと言えば……。

 

「わんわんッ!!」

 

 と吠える定春と、

 

「ぎゃああああああああああああッ!! だずげでぐれ゛ェェェェェェッ!!」

 

 と悲鳴を叫ぶ変質者。

 

 変態は檻に入れた、定春と一緒に。そしてそのまま犬の遊び相手。

 ただし犬の遊び相手と言ってもそんな微笑ましいものではない。ヒグマ並みにでかい定春の相手となるとそれこそ命がけ。

 血がでるほど頭を甘噛みされる、皮が引き裂かれるほど爪で体が研がれる、挙句定春が寝る時はその巨体がのしかかってくるなどなど。

 なにこれ新手の拷問? レベルの犬の遊び相手。常人では一日も持たない事だろう。

 

「管理局に引き取られるまでの間はその犬ッコロの遊び相手……いや、おもちゃになってもらぜ」

 

 黒い笑みを浮かべながら変質者を見る沖田に対し、アリサは半眼を向ける。

 

「いや、言い直し方逆じゃないそれ?」

「管理局ぅぅぅぅぅぅぅぅッ!! 早く来てくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 変質者は管理局が早くやってくることを願いながら定春の爪で背中を研がれていた。 

 

 デバイスを取り上げ、檻に入れ、更には定春の遊び相手をさせるという沖田のアイデア。

 そういう条件付きで渋々アリサは許可。バニングス邸の庭(一般人の目に付かず、悲鳴が届かない場所)で次元犯罪者――仮面ライダーパンツは身柄を拘束されることになったのである。

 ちなみに変質者のデバイスは彼のブーメラン海パンだった。が、誰も預かる奴などいるはずもないので、アリサが魔法で燃やしましたとさ。

 

「あれ? みんな、俺のこと忘れてない?」

 

 ちなみにふんどしゴリラが解放されたのは皆が温水プールから帰った後の夕暮れ時だった。

 

 

 

 

「そう言えばよ……」

 

 銀時がおもむろにアルフに問いかけた。

 

「フェイトが首に下げてる刀みてェな、なんだ……キーホルダーか? アレなに? デバイス?」

「さぁ……? アレがなんだか、あたしもわからないんだよ」

 

 アルフは腕を組んで首を傾げて、フェイトの背を見ながら説明する。

 

「なんかフェイト、アレを肌身離さず誰にも見られないように、服の下に入れて首に下げてるんだよね」

「ふ~ん。でもよ、普通はああ言うネックレス的なもんて、見えるように首に下げね?」

 

 銀時の疑問は最もなようでアルフも首を傾げながら。

 

「いやさ、あたしも言ったんだよ? 『なんでわざわざ服の下に入れてんの?』って。でさ、フェイトの奴は、『こっちの方が落ち着くから』って言うしさ。な~んか、ネックレスのこと聞かれたくなさそうだったから、それ以降は何にも聞いてないけどね」

 

 アルフの説明を聞いた銀時はフェイトに顔を向けて、彼女に駆け寄る。

 

「なー、フェイト」

「なに銀時?」

「お前、刀のキーホルダーみてェなネックレスしてるだろ?」

「ッ!!」

 

 フェイトは目を見開き足を止めた。

 銀時は訝し気な視線を少女へと向ける。

 

「大事なモンなのか?」

「うん……」

 

 と頷き、フェイトは微笑みを作った。

 

「母さんから貰ったの」

「へぇー……プレシアからねェ……」

 

 銀時は顎を撫でながら微笑むフェイトを見るが、少女は首を傾げて言う。

 

「気になるの?」

「まぁ、わざわざ服の中に入れてたらな」

「母さんに貰った……大事な物……だから」

 

 フェイトは胸の辺りを握りしめる。たぶん、ネックレスがある場所だろう。

 

「そうか」

 

 銀時はぼりぼり頭を掻いた後、ネックレスを指さす。

 

「それ見せて貰ってもいいか?」

「だ、ダメ!!」

 

 フェイトが必死な顔で拒否するので、銀時は少々驚いてしまう。

 

「こ、これは母さんから人に絶対渡すなって言われてて……」

 

 フェイトはより強く服越しにネックレスを掴みながら不安そうに俯く。

 

「……わかった。悪かったな」

 

 そう言った銀時は、後ろで二人の会話を怪訝そうに見ているアルフの元へ戻る。

 フェイトは銀時が後ろに行った後に呟く。

 

「まだ……。……大丈夫、だよね」

 

 フェイトは強くネックレスを握り絞めるのだった。

 




第二十九話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/25.html


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こち亀連載終了&40周年特別企画
第三十話:何事も長く続けられる人間は凄い


この回、もう時期とハズレも良いところなのですが、一応は本編に繋がっているので、載せる事にしました。


 海鳴市。

 平和なこの町で、今一つの大事件が起ころうとしていた――。

 

「あ~あ……。ほんとどうしようかなァ……〝この眉〟……」

 

 その始まりは、まだ日が出たばかりの早朝の公園。そのベンチに一人で座るフリーターから始まったのだ……。

 

 ベンチに座る男はケータイに映った自分の顔――主に眉の部分を見て顔を顰める。そこにはまるで、ブリッジの掛かった『M』のような形を描いたぶっとい眉毛が生えていた。

 

「やっぱ、いくら短期でまとまった金欲しいからって『治験』はちょっとやり過ぎたかなぁ……」

 

 男の眉毛は元々、こんな見たら一瞬で記憶に残りそうなほど濃いものではなかった。彼はある理由からまとまった金欲しさに、塗薬タイプの毛生え薬ならぬ『毛伸び薬』の治験を受けたのである。

 

「まさか剃ってもまだこのままってワケじゃないよな……」

 

 自分は前にちょっとおしゃれに気を遣う感覚で眉を剃り過ぎてしまった。なので、治験の時に眉毛に薬を塗って試したのだが、効果は御覧のあり様。効き過ぎというが、予想外な方向に眉の毛は数日の内に変貌を遂げてしまった。

 治験を担当した職員の一人からは「塗った時に現れる効果はそれほど長くないので、伸びきってから剃れば問題ありません」と言われた。が、さすがにここまで予想斜め上の効果を発揮されては不安もぬぐい切れない。

 

「つうか俺もバカだよなぁ……。帰ったらすぐ剃ればよかったのに」

 

 治験の為に数日の間は実験用の施設に宿泊していた。周りは薬の効果でこうなったと理解してくれる人間だけだったので、あまりに気にしていなかった。

 家に帰ってすぐに寝て、いつもよりかなり早く朝起きて散歩している時にやっと自分の痴態に気づいた。なにせ、すれ違う犬の散歩のおじいちゃんが苦笑いしているのだから。

 さすがに恥ずくね? と思ってちょっと公園に寄って自分の眉を今一度チェック。かなり頬が引きつるビジュアルであるとあらためて実感した。

 治験時での閉鎖空間、並びに周りの人間がそれを受け入れてくれたせいで、完全に感覚が麻痺していたようである。

 

「まぁ、被害が眉だけで済んだんだし……良しとするか……」

 

 ため息を吐きながら男はケータイをポケットにしまう。

 薬の効果の結果は予想外とはいえ、詐欺のレベルではなかっし、ちゃんと高いアルバイト代も貰えた。

 毛なんて剃ればいいのだから文句を言う気はない。不幸中の幸いなのは、近所の人に見られたと言っても老人一人だけだ。

 

 ――フフッ……。これでゲームがやっと買える……。

 

 だからこそ、男は剃ればいい眉より、今の自分が溜めている金額を思い起こして笑みを浮かべてしまう。このまま今やっているバイトの貯蓄を考えれば、余裕で目的の物も買えそうだ。

 その時、ふっとある事を思い出し、ポケットに手を入れた。

 

「コレ……臨時収入とかになるかなぁ……」

 

 ポケットから手を出し、掌に載せた『青い宝石のような石』を見つめる。石と言うにはあまりに形が整っており、宝石のような輝きを放つ石。

 コレはもしかしたら値打ちがあるかもしれない、と思った男。後でネットオークション、もしくは質屋に入れたらそれなりの値打ちを叩き出すかもしれないと淡い期待を抱いていた。

 男は青い石をぎゅっと握りしめながら発売されればすぐに買う事のできるゲームのことを思い浮かべる。

 

 ――金も纏まったし、早く新作の『バイハザ』やりたいなぁ……。

 

 男は元来のホラーゲーム好きであり、今度発売のバイハザにはかなり満足いくものだった。

 ただ、今度の新作のバイハザはゾンビ物好きの男としては、ゾンビ要素がない点にちょっと不満を覚えてはいる。まあ、バイハザは昨今ゾンビゲーみたいにゾンビオンリーが魅力ではないと理解はしているつもりではいるが。

 男は「よいしょ……」と言って立ち上がる。

 

 ――帰って眉剃って、最近買ったばかりのゾンビゲーでもしようっと。

 

 と男が思った矢先。

 青く眩い光が、眉毛をMのような形にした男を包み込んだ。

 

 

 

「――本当にジュエルシードが発動したの?」

 

 と、海鳴公園で話すのは新八。彼は困惑気味の顔をユーノとなのはに向ける。

 

「なんかいつもみたいに怪物の影も形も見えないよ?」

「でも、私もユーノくんもちゃんと発動したジュエルシードの気配のようなモノは察知したんです」

 

 制服姿のなのはが眉間に皺を寄せながら困ったように言葉を返す。

 

「あたしも感じたわよ」

「私もジュエルシードの気配を察知しました」

 

 と、制服姿のアリサとすずかもジュエルシードが発動していると断言。

 

 今、この海鳴公園にやって来ているのはなのは、アリサ、すずか、ユーノ、新八、神楽、土方、沖田、近藤――つまりなのは組全員(山崎抜き)だ。もちろん目的は今なのはが言った通り、発動したであろうジュエルシード封印の為。

 山崎だけなぜいないかというと、翠屋でのバイトが結構様になっちゃったから。そして今日も朝のシフトイン。

 

 フェレット姿のユーノは険しい表情。前足を使って器用に腕を組み、小首を傾げる。

 

「人間……もしくは動植物に触れて発動したとしても、ここまで何も起こらないはずはないんですけど……」

「まァ、変わったことと言えば……」

 

 タバコを口に咥えた土方は空を見上げ、目を細める。

 

「この曇り空くれェか……」

 

 発動したジュエルシードにより天候が操作されたのかは定かではないが、朝晴れていた空はすっかりおどろおどろしい曇り空へと変化してしまっている。それこそ、まるで世界が一変してしまったような不気味さへ感じるほどの曇天だ。

 土方は上げた首を下ろし、タバコを指に挟んで口から離す。

 

「とりあえず、ジュエルシードからのリアクションがねェ以上は俺たちもお手上げだ」

 

 制服姿の小学生三人組に、チラリと視線を向ける土方。

 

「とりあえず、お前らは学校に行け。ジュエルシードの探索は俺たちに任せておきな」

 

 そう、なのはたちが制服姿の理由は平日であり学校があるから。ただ、ジュエルシードの発動を早朝で確認できた為に今こうして急いで公園へとやって来た次第だ。

 なのはは不安そうに土方に言葉をかける。

 

「でも、土方さんたちは念話が……」

「ユーノを残しとけば、なんかあってもすぐにおめェらに念話で連絡できる」

「あッ、確かに……」

 

 とすずかは納得。

 フェレット姿のユーノはなのはたちと一緒に学校に行く必要が別にないので、このまま探索班に回せば問題ない。

 

「ジュエルシード集めも良いが、おめェらにとっちゃ勉学もきちんとした仕事だ」

 

 大人としてとても良識的なことを言う土方の言葉を聞いたなのは、アリサ、すずか。三人は彼の言う通り学校に行った方が良いのでは? と思ってか、お互いの顔を見る。

 土方は沖田に顔を向けた。

 

「おい、総悟。おめェはもう少しここに残ってユーノと一緒にジュエルシード探しを続けろ。万一ジュエルシード製のバケモンに遭遇しても、おめェならユーノと一緒に切り抜けることくらいはできんだろ?」

「えェー……」

 

 と沖田は露骨に不満げな声を漏らして口を尖らせる。

 

「なら土方さんがウィンナーモドキとジュエルシード探してくださいよ。言いだっしぺなんだし」

「誰がウィンナーモドキですかッ!!」

 

 ユーノは怒鳴り、土方は「副長命令だ。文句言うな」と言って鋭い眼光を沖田に向けた。

 

「俺とチャイナはボディーガードとしてすずかたちを学校に送らなきゃいけねェんだよ」

「えェー……」

 

 と、次に不満声を漏らすのは神楽。

 

「なんで私がニコマヨと一緒に登下校しないといけないアルか?」

「なんだニコマヨって!? ニコ動みたいに言うんじゃねェよ!! 後お前は学校に登校しねェだろうが!!」

「そうだそうだ。探索も送り迎えも土方一人でやればいいんでさァ」

 

 と野次を飛ばすのは沖田。

 

「おめェらは文句しか返せねェのか!! ぶった切ってやろうか!」

 

 土方は青筋浮かべながら竹刀袋に入れてある刀を取り出そうとするが、すぐにすずかとなのはが「お、落ち着てください」と苦笑しながらなだめる。

 小学生二人に制止を受けた大人土方は「ああッ!! くそッ!!」と頭を掻きむしった。

 さっきから文句しか言わない沖田と神楽を睨む鬼の副長。

 

「とにかく言う事聞けッ! 話も状況も一向に進まねェんだよッ!」

「「ええー……」」

 

 沖田と神楽は揃って口を尖らすが、とりあえず何か反論はしないようである。

 

「あの、土方さん」

 

 とここで新八が進言。

 

「僕と近藤さんも沖田さんと一緒に探索した方がいいんじゃないでしょうか? 二人より四人の方が安全でしょうし」

「いや、この辺一帯に発動したジュエルシードがあるとは限らねェ。いつ何かしらの被害があってもおかしくねェなら、できるだけ探索域は広げておくべきだ」

 

 首を振って説明する土方の言葉に、新八は「なるほど」と納得して頷く。

 土方は制服の懐に手を入れてまさぐり、トランシーバーを取り出す。それはボディーガードとしてバニングス家から支給された物だ。

 土方は新八にトランシーバーを手渡す。

 

「お前はコレを持ってけ。何かあったらすぐに俺に連絡しろ」

「分かりました」

 

 と新八は頷いてトランシーバーを懐に入れた。

 まだ学校に行くか迷っている様子のなのはたち少女三人に近寄る土方。

 

「お前らは心配せずに寺子屋……いや学校だったか? とにかく行って勉強してこい。発動したジュエルシード見つけたら、ちゃんと呼んでやるから」

 

 一番このグループの中でしっかりしている土方からの説得。なのはたちも渋々といった具合だが、ちゃんと学校に行こうと歩を進める。

 そして土方は神楽に顔を向けて「ほれ、おめェも行くぞ」と言って顎を使って促す。

 

「しゃうがないアルな……」

 

 神楽は不満声を漏らしながらも土方の後に付いて行く。やがて真選組副長の視線は部下に向く。

 

「おめェもちゃんとユーノと探索しろよ?」

「へいへ~い」

 

 沖田も不満げな返事をするが、ユーノと一緒に土方たちとは別の方向に歩き出す。

 そんな様子を見ていた新八は微笑みを浮かべる。

 

「土方さん……最初は否定派だったのに、今ではすっかりこのグループの司令塔ですね」

 

 新八の言葉を受けて近藤は腕を組みながら「フッ……」と笑みを零す。

 

「あいつはただ中途半端が嫌いで、責任感が強いだけなのさ」

「うちのリーダーとは大違いですよホント……」

 

 未だに再会すらできていない万事屋のリーダーの顔を思い浮かべて、新八は苦笑した。

 

 

 場所は海鳴市にあるパチンコ屋。

 パチンコ台の前に座る銀髪天然パーマの男が一人。彼はハンドルに手を回しながら銀の玉を転がす。

 ジャラジャラと台から音が鳴っていると、突如として軽快なBGMと共にパンパカパーンとパチンコ台から音楽が鳴り、映像がフィーバーする。

 

「おッ、スッゲ。これで三回目じゃん」

 

 と嬉しそうに声を漏らすのは、万事屋のダメリーダーこと坂田銀時。

 彼の後ろで、フェイトとアルフが銀の玉が入ったプラスチックケースを持っていた。

 銀時は後ろにいる二人に目を向ける。

 

「おっし、アルフ。次の箱をもって――」

「なにをやってんだテメェはぁぁぁぁッ!!」

 

 ドカァッ!! とアルフは銀時の脳天にパチンコ玉が大量に入った箱の底を叩きつけ、銀髪は「ゴフォッ!!」と悲鳴を漏らす。

 ぶつけた衝撃で箱からパチンコ玉が飛び散るが、床に転がる銀の玉など気にせずにアルフは拳をボキボキ鳴らす。

 

「おいコラァッ……! ジュエルシード探しがなんでいつの間にかパチンコフィーバーになってんだ?」

「ままままま待てってッ!」

 

 銀時は頭を抑えながら右手を出して弁明開始。

 

「もしかしたらジュエルシードがパチンコの景品にあるかもしれないじゃん? だから銀さんこうやってパチンコの玉を必死に転がしてんのよ?」

「『必死』じゃなくて『楽しい』の間違いだろうがッ!! つうかあるワケないだろッ!!」

「バカヤローッ!! 楽しだけじゃねェんだよパチンコは! 生きるか死ぬかの真剣の勝負ッ!! だって負けたらお金なくなっちゃうから!!」

「んなこと知るかッ!!」

 

 とアルフは銀時に怒鳴り、「ああッ!! もうッ!!」と言って頭掻きむしる。

 

「発動したジュエルシードが見つからないもんだから、『俺に良い考えがある』とか言ったこの銀時(バカ)の言う事なんて聞くんじゃなかったよッ!!」

 

 銀時は「しょうがねェだろ……」と言ってダルそうに地面に落ちた玉を拾う。

 

「発動したジュエルシードの姿の影も形もなかったんだ。だからこうやって別の切り口を考えたんじゃねェか」

「それがなんでコレッ!?」

 

 アルフはわけわからんといった顔でパチンコ台をビシッと指さし、銀時はキリッとした顔で告げる。

 

「――今日は新台入れ替えだから」

「よしフェイト。とっととジュエルシード見つけに行くよ」

 

 アルフはダメな大人の言葉など無視して我が主に顔を向けると、

 

「あッ……当たった」

 

 リリカルなのはのヒロインの一人は、パチンコのノズルを回してパチンコフィーバー。

 

「フェイトォォォォォォッ!?」

 

 まさかの主の行動にアルフはシャウトし、すぐさまフェイトに詰め寄る。

 

「なにやってんのフェイト!? こんなことしてる場合じゃないだろ!」

 

 フェイトは「アルフ……」と言って真剣な表情を使い魔に顔を向けると、少し興奮した顔で。

 

「これ結構楽しい……」

「フェイトォォォォォォォォォォォッ!! 戻ってきてぇぇぇぇぇッ!!」

 

 本来のキャラをプールの時のようにどこぞに置き去ってしまった主の姿に、アルフは涙を流しながら天に向かって叫ぶ。

 地面に転がる銀の玉を拾う銀時はアルフに顔を向けた。

 

「あッ、玉取るの手伝ってくんない?」

「勝手に拾ってろ!!」

 

 アルフに怒鳴られた銀時は「たく……」と文句を漏らしながら玉の回収を再開。そうしていると、彼の目の前には一人の男の足が。

 目の前に歩いている人間がいることに気付いた銀時は、

 

「あ、すんません。すぐに拾いますんで」

 

 あまりの反省の色がまったく見えない謝罪をしながら玉拾いを続行。対して、目の前の男は一言。

 

「らさぁ~る……」

 

 

「新八君」

 

 と声を掛けるのは新八の横を歩く近藤。彼は不思議そうに新八に顔を向けた。

 

「このまま進むと翠屋に付いてしまうが、本当にこのまま進んでしまっていいのか?」

 

 新八は「えェ、大丈夫です」と頷いて説明する。

 

「もしジュエルシードの怪物が翠屋方面に現れた場合、なのはちゃんが魔法少女であることを高町家の人たちに知られてしまう可能性が出てきてしまいます。ですから、そうならないように僕たちが先に行って様子を見れば、もしジュエルシードの怪物が現れても色々と魔法の秘密を守る為のフォローができるんです」

「なるほど」

 

 と腕を組む近藤は納得して頷く。

 そしてしばらく歩けばもう喫茶翠屋の手前まで来ていた。するとバタン!! と突如として翠屋の扉が開き、中から逃げるように慌てて出てくる人物が一人。

 近藤が「ん?」と声を漏らし、新八が出て来た人物に声を掛ける。

 

「山崎さん、どうしたんですか? そんなに青い顔して」

 

 まだこの時間は翠屋でレジ打ちをしているであろう山崎。彼は声を掛けられてハッと新八と近藤の二人に気づいて、泡を食ったように駆け寄る。

 

「ふふふふふふ二人共ッ!! へんたい――じゃなくて大変な事態が!!」

「ど、どうしたのだ山崎!? そんな古典的な慌て方をして!」

 

 近藤は尋常じゃないくらい冷静さを欠いた山崎を見て汗を流し、新八はハッと気づく。

 

「もしかしてジュエルシードの怪物が現れたんですか!」

 

 まさか自分の予想がこんなに早く当たると思ってなかった新八は少し慌てる。対して、山崎は青い顔をしながら後ろを指さす。

 

「そ、それは分からないけど! と、とにかくアレを見てッ!!」

「「アレ?」」

 

 と、新八と近藤は訝し気に目を細めて、山崎の後ろへと目を向けた。

 喫茶翠屋の扉から出てくる人間が一人。その人物は幽鬼のようにゆったりとした――まるで体に力の入ってないような足取りで不気味に道まで出てくる。

 背格好から見て女性――しかも喫茶翠屋の従業員の制服である黒いエプロンを着用。彼女はゆっくりと、三人に顔を向けた。

 

「「なッ!?」」

 

 女性の顔を見て新八と近藤は驚愕の表情を浮かべる。

 翠屋から出て来た女性は高町桃子。彼女の目はまるで生気を感じられないような白目を剥き、その眉は信じられない姿へと変貌していた。

 

「桃子さんの眉がァァァァァ!!」

「桃子殿の眉が繋がってるゥゥゥゥゥ!?」

 

 新八と近藤は目の前の光景に度肝抜かれる。

 Mのような文字にも見える、ぶっとい一本に繋がった眉。それを見た彼らは表情を青くさせていた。

 さすがのおバカ局長も目の前の光景にドン引き。

 

「ちょっとォォォォ!? 三児の母の眉がえれェ事態になっちゃってんだけど!? 山崎なんなのアレッ!? 今翠屋でこち亀感謝祭でも開いてるの!?」

「わ、分かりません!! 突然眉が繋がったお客さんに桃子さんが襲われて、助けに行った士郎さんも恭也さんもついでに美由紀さんも全員眉が繋がって別人のように凶暴になっちゃんです!!」

「美由紀殿の扱いざっくり過ぎない!? ついでで美由紀殿もあんな姿になっちゃったの!?」

「あ、アレはまさか『マユゾン』!」

 

 山崎の説明を聞いて新八はかつて見た、眉が繋がったゾンビのような姿の者たちの名を叫ぶ。

 

「新八くんマユゾンてなに!?」

 

 近藤は聞きなれない単語に汗を流し、新八はかつて歌舞伎町を襲ったウイルスの名を告げる。

 

「な、なんで別世界である海鳴市に『RYO-Ⅱ』が!! し、信じられない!!」

「RYO-Ⅱ!? やっぱりアレってRYO-Ⅱのせいなの!」

 

 新八の言葉を聞いた山崎はすぐに桃子たちを変貌させたモノの正体を理解したようで顔を青くさせる。

 話を聞いても一人だけ付いていけてないであろう近藤は困惑していた。

 

「マユゾンとかRYO-Ⅱってだからなんなの!? 俺全然分かんないんだけどッ!?」

「局長覚えてないんですか!? ほら、昔歌舞伎町に蔓延したウイルスの名前ですよ!!」

 

 山崎は記憶力の悪い上司に説明するが、

 

「それがウイルス名――マユゾンなのか!」

 

 勘違い回答する近藤。

 

「いや、違いますよ!! だから――!」

「うがァァァァァ!!」

 

 無論、感染者桃子が待ってるはずもない。説明中の山崎に後ろから襲い掛かかり、更には近藤と新八も襲おうとする。

 

「「「ぎゃあああああああああああッ!!」」」

 

 三人は悲鳴を上げた。

 山崎は尻もちをつきながらも、なんとか襲い掛かる桃子の攻撃を必死に回避。近藤と新八はすぐに逃げ出し、山崎も手と足をばたつかせながらがむしゃらに距離を離そうと走り出す。

 

「な、なんなんだアレはァァァァ!? まるで西洋の死霊ゾンビではないかッ!!」

 

 全力で走る近藤が後ろに目を向ければ、覚束ない足取りで歩く桃子。さらに翠屋から次々出てくる士郎や恭也や美由紀。その全員の眉が一本に繋がり、Mのような形へと変貌を遂げていた。

 

「だからRYO-Ⅱに感染した人は眉が繋がってダメなおっさんに成れ果ててしまうんですよッ!!」

 

 新八は近藤の横を並走しながら説明すると、記憶力のない真選組局長は「あッ! 思い出した!」と言ってやっと記憶を呼び覚ます。

 山崎は顔を青くさせながら声を上げる。

 

「そ、そもそもなんで俺たちの世界で猛威を振るったウイルス兵器が海鳴市にあるの!?」

「知りませんよそんなこと!! とにかく緊急事態です!! 土方さんに連絡しないと!!」

 

 新八は慌てて懐からトランシーバーを取り出す。土方が持っているトランシーバーのチャンネルに合わせる前に、呼び出し音が鳴りだす。

 もしかして、と思った新八がすぐにチャンネルを合わせれば、ザザっと言う音が漏れ始め、

 

『……おいッ!! 眼鏡無事か!?』

 

 聞こえてきたのは土方の焦り声。

 新八は走りながらトランシーバーを口に近づける。

 

「ひ、土方さん!! た、大変なんです!! マユゾンが!! マユゾンが海鳴市に現れたんです!!」

『マユゾン!? なんだそれッ!?』

 

 RYO-Ⅱ感染者のマユゾン呼びをまったく知らないであろう土方は怪訝な声を漏らし、新八は慌てて説明。

 

「RYO-Ⅱです!!  RYO-Ⅱに感染した人たちを僕たちはそう呼んでるんです!!」

『別に感染者の呼び名なんて今はどうでもいい!! 近藤さんは無事かッ!?』

「は、はいッ!! 山崎さんとも合流して今は一緒に逃げてます!!」

『よし分かった!! ならならなのはたちが通う寺子屋まで来い!! 俺たちもそこにいる!!』

「わ、分かりましたッ!!」

 

 新八は頷いてトランシーバーを切ると、山崎が前の方を指さす。

 

「あッ! 駕籠屋(かごや)だッ!! 乗っけってもらおう!!」

 

 タクシーを見つけた山崎は更に走るスピード上げて新八と近藤の前を走る。が、悪い予感を覚えた新八はすぐに彼を止めようと手を伸ばす。

 

「待って山崎さん!!」

「すみません乗せてください!!」

 

 だが新八の制止は耳に届いてないようで、山崎はタクシーの窓に張り付いて運転手に訴えかける。

 

「お願いです!! 早くドアを開けてください!! 変な眉毛に追われているんです!!」

 

 山崎の声に反応したのか、運転手が顔を向ければ――彼の眉も繋がっていたのだ。

 

「ッ!?」

 

 山崎は目を見開いて驚愕し、マユゾンと化した運転手は山崎が張り付いている窓を突き破って襲い掛かる。

 

「ぎゃあああああああああああ!!」

 

 山崎は悲鳴を上げて飛び退き、

 

「チェストォォォ!!」

 

 近藤は運転手の顔にキックを浴びせ、意識を奪う。そして運転手の服を掴んで強引にタクシーから引っ張り出す。

 

「仕方ない!! 緊急事態だ!! 運転手さんには悪いが、車を拝借してなのはちゃんたちの寺子屋まで向かうぞ!!」

「「は、はいッ!!」」

 

 破れた窓から手を差し込んでタクシーのドアを開ける。そのままなのはたちが通う小学校――私立聖祥大付属小学校まで向かう。

 そしてそのまま暫く近藤の運転でタクシーを飛ばしていた彼らは、海鳴市の惨状を目の当たりにした。

 

「あ、あちこちにマユゾンが……」

 

 後部座席に座る山崎は顔を青くさせて声を漏らし、どんどん感染して眉が繋がっていく人々を気の毒そうに見ていた。

 

「見えたぞ!! アレは間違いなくなのはちゃんたちが通う寺子屋の校舎だ!!」

 

 近藤が指さす方に新八と山崎も目を向ければ、確かに私立聖祥大の白い校舎が見え始めている。

 

「ちょッ、ちょっと待ってください!! 『アレ』見てッ!!」

 

 助手席に座っていた新八はすぐに前方の光景を見て指を突き付け、近藤はタクシーを止めて声を上げる。

 

「なんと言う事だ!! 『アレ』では通れんぞ!!」

 

 校門は酷い惨状だった。なんとマユゾンの大群が聖祥大小学校の門に集まり、ごった煮状態。

 このままでは門を開けれず、校舎内には入れない。すぐに新八はトランシーバーを使って土方に連絡を入れる。

 

「ひ、土方さん大変です!! 校門前にマユゾンの大群が居て通れません!!」

『安心しな。ちょっと待ってろ』

「えッ……?」

 

 土方の冷静な言葉を聞いて新八は、何をするのだろう? とマユゾンの軍勢が集まる校門へと目をむける。するとしばらくして、門が開いてしまう。それを見た山崎は慌て出す。

 

「ちょッ!? 門が開い――!?」

 

 と山崎が言い切る前に、校門に集まったマユゾンの大群が桃色の光に飲み込まれた。そして光が収まれば、意識を失い倒れ伏した無傷のマユゾン軍団。

 

 そして門の先に立っているのは、トランシーバーを片手に持った土方と、白いバリアジャケット姿でレイジングハートを構えたなのは。そして後ろには神楽とバリアジャケット姿のアリサとすずか。

 タクシーに乗った新八たちを確認した土方はトランシーバーを顔に近づける。

 

『……よし。すぐに校門を通りな』

「「「………………」」」

 

 あらためて、なのはという魔法少女の力を実感したタクシーに乗った三人。あと、容赦なく一般人を蹴散らした少女に若干頬を引き攣らせていた。

 

 

 校門を占め、下駄箱まで避難した新八たち。

 

「眼鏡、近藤さん。よく無事だったな」

 

 土方の言葉に新八は真剣な顔で頷く。

 

「えェ。ホント運が良かったですよ」

「あァ、まったくだ。ここまで五体満足でいられた事は、不幸中の幸いであろう」

 

 近藤も神妙な表情で頷きながら腕を組む。

 

「あの……副長? ナチュラルに俺のことハブきませんでした?」

 

 山崎は頬を引き攣らせながら自分の顔を指さすが、土方はスルー。

 新八は困惑気味に真選組副長に声を掛ける。

 

「にしてもなんで海鳴市にマユゾンが?」

「マユゾンてなんですかッ!?」

 

 と聞き慣れない単語に驚くなのは。近藤は腕を組んで少女の疑問に答える。

 

「RYO-Ⅱ感染者の呼び名さ」

「りょうつう?」

 

 すずかが首を傾げると、土方がクールに説明した。

 

「簡単に説明すれば、俺たちの世界のウイルスだ」

「「ウイルス!?」」

 

 驚愕するなのはとすずかに対し、

 

「ふざけんじゃないわよッ!!」

 

 憤慨しだすアリサ。

 

「マユゾンだかRYO-Ⅱだか知らないけどなんであんたたちの世界の病原菌が私たちの世界にあんのよ!! おかしいでしょッ!!」

「僕たちだって分からないよ!!」

 

 と、新八は困惑顔で説明する。

 

「ただ分かっているのはRYO-Ⅱに感染したら眉が繋がって、ダメなおっさんになっちゃうってことだけ!!」

「おっさん!? アレ、ゾンビじゃないんですか!?」

「どこら辺がダメなんですか!? パッと見ただのゾンビですよ!」

 

 なのはとすずかはワケが分からないと困惑顔で驚き、再び近藤が説明しだす。

 

「一見するとただの眉が繋がったゾンビだが、その実感染すると、金にがめつく強欲で、仕事も怠けてばかり。しかも豪快に見えてなんかマニアックな趣味を持ち合わせた気持ち悪いおっさんになってしまうようなんだ」

「「いやぁぁぁぁぁぁッ!!」」

 

 なのはとすずかはマユゾンの正体を聞いて顔を青くさせながら悲鳴を上げたが、

 

「バッッッッカじゃない!! なんで感染したら眉が繋がってダメなおっさんになるの!? どんなウイルスよそれ!!」

 

 アリサだけ納得できないと言わんばかりに怒鳴る。

 

「それがRYO-Ⅱの力アル」

 

 と神楽は腕を組んで真剣に答えるが、アリサは頭抱える。

 

「マジでふざけんなぁぁぁぁ!! なんであたしたちの町が眉が繋がったダメなおっさん軍団に支配されなきゃならないのよ!? そもそもダメなおっさんになるウイルスとか非常識にもほどがあんでしょうが!!」

「お、落ち着ていアリサちゃん!!」

 

 頭をぶんぶん振って混乱している親友をなだめようとするなのは。すると、アリサはなのはの肩をガシっと掴む。

 

「なのは!! これはジュエルシードよ!! きっとコレはジュエルシードのせいに違いないわ!! って言うかジュエルシードのせいだと言って!!」

 

 アリサは目を血走らせ、親友の肩をぶんぶん揺する。

 

「封印すればきっと皆の眉毛は戻ってるはずよね!? オシャレ眉毛に戻るわよね!? そうよね!? そうだと言って!!」

「あわわわわッ!!」

 

 なのはは肩と頭を揺さぶられて三半規管がやられたのかぐるぐる目を回す。

 

「鮫島も学校の皆も元に戻るって言ってぇぇぇぇッ!!」

 

 アリサは必死に今の現実を否定したいのか、何度も目を回す親友に構わず問いかけた。

 

「お、落ち着いてアリサちゃん!! なのはちゃんが大変なことに!!」

 

 なんとかなのはを助けようとアリサを宥めるすずか。

 そんな哀れな姿をさらし続けるアリサに新八と山崎は同情を禁じえなかった。

 

「まァ、俺たちの世界のウイルスがこっちにやって来たってよりはジュエルシードのせいって方が合点がいくかもな」

 

 ここで自身の予測を口にする土方に対し、新八が疑問を投げかける。

 

「でも、おかしくありません? なんでここまでRYO-Ⅱと酷似した症状が現れているんですか? やっぱり原因はRYO-Ⅱなんじゃ――」

「ちがぁうッ!!」

 

 と、アリサが噛みつかんばかりに声を荒げる。

 

「アレはジュエルシード!! ジュエルシードなの!! でないと私はマジであんたらを恨むッ!!」

 

 目がマジのアリサの言葉に新八は汗を流して押し黙る。すると炎剣に姿を変えたフレイアが声を出す。

 

《まぁ、微弱ではありますが、あのマユゾンと化した人々一人一人に魔力を感知できたので、今回の騒動の原因は十中八九ジュエルシードでしょうね》

 

 すると神楽が近藤に顔を向けながら口を開く。

 

「まァ、毛が毛深い近藤(ゴリラ)がマユゾンにならない時点でRYO-Ⅱの可能性は限りなく低いネ」

「やっぱりそうなのね!! 絶対封印して皆をオシャレ眉毛に戻してみせるわッ!!」

 

 拳を握ってアリサは力強く宣言。眉が繋がった町の住人たちの姿によほどショックを受けているのか、気合が違う。

 とりあえず、疑問は色々残る所ではあるが、下手なことは言わないでおこうと思った新八。彼は別の話題を土方に振る。

 

「それにしても、よく寺子屋に籠城なんてできましたね。子供とはいえ、人が多く集まる場所には変わりないんだし」

「まァ、こっちはこっちで強力な魔法を撃てる魔導師(ガキ)が三人もいるしな」

 

 土方の説明によると、なのはとすずか、そして特にアリサの活躍により学校にいるほとんどの生徒や先生を捕まえたらしい。もちろん、魔法のお陰で傷つけずに。

 そして無力化した人間たちは現在体育館に集めて閉じ込めているようだ。

 

「ただ、ちょいとやっつけ仕事だったんでな。まだ学校にマユゾン共が残っている可能性は十分にあるから気を付けろよ」

 

 土方の忠告に対し、

 

「それでも籠城できる場所が手に入っただけでも御の字ですよ!」

 

 新八は嬉しそうに言うと山崎も同意する。

 

「新八君の言う通りですね。これでなんとか事件解決の為の策をじっくり練れますし」

「ならばまずは学園生活部を設立しよう!! そして24時間はしゃがなくては!!」

 

 と近藤が握り拳を作りながら言えば、神楽も乗っかりだす。

 

「なら定春も改名するアル!! 名前は定春からたろうまるに――!!」

「せんでィッ!!」

 

 土方は青筋浮かべて怒鳴る。

 

「そんもんは巡ヶ丘の連中にでも任せときゃいいんだよ!!」

「探索の為に別れた沖田さんとユーノくんは大丈夫でしょうか? 町はマユゾンだらけですし」

 

 軌道修正を兼ねて新八が心配そうに二人の名を口にした。すると、目をぐるぐる回すなのはを介抱しているすずかが答える。

 

「さっき、ユーノくんと念話できたので無事であることは確認が取れました。沖田さんも大丈夫みたいで、今二人はこっちに向かっているようです」

 

 土方は口に咥えたタバコに火を付けながら話す。

 

「まァ、魔法が使えるユーノにバカだが戦闘力だけはピカ一の沖田のペアだ。そうそう眉毛が繋がることもあるめェよ」

「なら、すぐにこの騒動の原因を魔法で探し当てて封印するわよ!!」

 

 アリサがすぐにスフィアを作ってジュエルシードの暴走体を探索しようとした時、

 

《あッ……それなら――》

 

 と、フレイアが声を漏らした瞬間だった――固く閉ざされた門がドカァーンッ!! と破壊され、鉄柵が吹き飛ぶ。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 突如の轟音に驚いた一同は反射的に校門の方に目を向け、フレイアは呑気な声で告げる。

 

《――魔力反応から考えてたぶん『アレ』がジェルシードの異相体ですよ、きっと》

 

 校門には成人男性二人分の身長はありそうなほどデカい影がいた。

 ジーパンを履いている以外は上半身が裸。丸太のように太い左手の先は完全に変質して、指先が鋭く太い四本の爪が生えた姿に。

 そして頭皮どころか全身の毛がもろに剥げて髪どころか体毛が一本も生えていない。なのに、なぜか眉にはしっかりMのような形をしたぶっとい眉毛が生えている。

 ぶっちゃけ、眉以外が完全無欠のタイ〇ントさんだった。

 

《敢えて名付けるなら『マユラント』さんですね》

 

 と呑気なこと言うフレイア。対照的に、新八、近藤、山崎は凄まじい威圧感出しながらこちらに歩いて来るマユラントを見て顔を青くさせながら頬を引き攣らせる。

 

「マジかよ……」

 

 土方はポタリとタバコを口から落とすのだった。

 

 



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第三十一話:40年の重み

「銀時……大丈夫かな……」

 

 空を飛ぶフェイトは不安そうな顔で銀髪天然パーマの顔を思い出す。すると、横を飛ぶ狼姿の使い魔は主を安心させようと声を掛ける。

 

「まあ、あんなふざけた眉の連中の餌食になるタマじゃないさ。もし眉が繋がっちまっても、結局ジュエルシードを封印すれば元通りになるんだから心配いらないよ」

「う、うん。今は銀時を信じよう」

 

 フェイトはまだ不安が残り、バルディッシュを握る手に力が籠ってしまうが、銀時が無事であると信じる他なかった。

 実はフェイトとアルフはパチンコ屋で眉毛が繋がった暴徒に襲われ逃げているうちに、銀時と離れ離れになってしまったのだ。

 空が飛べるフェイトとアルフはマユゾンたちを簡単に避けながら、発動したであろうジュエルシードが居る場所へと向かっている。

 

「しっかし……」

 

 アルフは空を飛びながら、眉毛が繋がった暴徒で埋め尽くされた眼下の町の様子を眺めた。

 

「こんなおかしな現象を起こしたジュエルシードの異相体って……一体どんな奴だろうね?」

 

 

 

「グォォォォォォッ!!」

 

 ↑こんな奴です。

 

 マユラントは凄まじい雄たけびを上げ、その後ろからはどんどんマユゾンの群れが学校の敷地へと侵入していく。

 その様子を見ていた新八は慌てだす。

 

「ちょッ、ちょっとッ!? ヤバいですよコレ!? 門が壊されてマユゾンが雪崩ように入って来てるじゃないですかッ!!」

「いかん!! すぐに扉を閉めるんだッ!!」

 

 近藤は焦り声を上げて校舎の入り口に向かい、続いて山崎と土方も扉を急いで閉めた。なんとかマユゾンの侵入を防ごうとする。

 

「くそッ!! まさかあんなバケモンが出てくるとはッ……!!」

 

 土方は忌々し気に拳を掌に叩きつけ、近藤は汗を流す。

 

「まずいな……このままでは俺たちは一歩も校舎から出れんぞ」

「いや、それどころか――」

 

 扉を閉めて窓越しに外の様子を見ていた山崎。彼は頬を引き攣らせ、青ざめた顔を土方たちへと向ける――そして窓の外では綺麗なフォームで走るマユラントの姿が。

 

「ここで()られる可能性大みたいです……」

 

 と山崎が言い切ると同時に、ズガァーンッ!! と校舎の扉がマユラントの鋭く太い左腕の爪で破壊される。

 

「「「ぎゃああああああああああッ!!」」

 

 今さっきまで扉を閉めていた近藤、土方、山崎は、一瞬のうちに吹き飛ぶ扉の衝撃を受けて悲鳴を上げながら吹っ飛ぶ。

 入って来たバケモンから距離を取ろうと慌てて立ち上がり、ダッシュで後退。そして近藤が逃げながらジロリと白い目を向けてくるマユラントを見る。

 

「最強だッ!! 最強のM(マユゲ).O(オーガニック).W(ウェポン).が誕生してしまった!!」

 

 近藤、土方、山崎はデバイスを構えるなのはの元まで走るが、すぐに土方が急ブレーキを掛けて足を止めた。

 

「いや、逃げてる場合じゃねェ!!」

 

 踵を返し、腰に差した刀を抜いて切っ先をマユラントに向ける土方。

 

「ようはあいつをぶっ倒せばこんな騒動は終わりだ!! 全員で袋にしろ!!」

「待って下さい土方さん!!」

 

 と新八が慌ててマユラントに向かおうとする土方を止める。

 

「魔法で遠距離攻撃が使えるなのはちゃんたち三人はともかく接近性主体僕ら侍じゃさすがに分が悪過ぎますよ!! 接触したら即マユゾンなんですよ!?」

「しかもどんどんマユゾンの群れが校舎内に!!」

 

 指を差す山崎の言う通り、マユラントに続いてマユゾンの群れが校舎内を埋め尽くそうとどんどん入って来る。それを見た土方は舌打ちして、すぐに考えを切り替えて指示を飛ばす。

 

「チッ、狭い上に多勢に無勢かッ!! 仕方ねェ!! 一時撤退して体制を立て直すぞ!! 屋上に逃げるんだ!!」

「ならこっちの廊下の奥にエレベーターが!!」

 

 なのはが誘導し、新八たちはすぐにエレベーターに向かおうと走るが。

 

「「「らさァーるぅッ!!」」」

 

 三匹のマユゾンが新八に飛び掛かる。

 

「うわァァァァ!?」

 

 さすがに逃げ切れないと思った新八は反射的に両腕を使って顔の前をガードしてしまうが、そんなことで三匹のマユゾンを防げるはずもない。

 

(もうダメだァァァ!!)

 

 と新八が諦めた瞬間だった。

 

「とりゃぁーッ!!」

 

 突如新八の前に躍り出たアリサ。彼女は赤く光る炎剣を振ってマユゾン三匹を吹き飛ばす。無論、非殺傷設定なのでマユゾンが燃える心配なし。

 新八は助けられて安堵し、お礼を言う。

 

「あ、アリサちゃんありがとう……!」

「てりゃぁぁぁぁッ!!」

 

 だが新八のお礼などにも目もくれず、アリサは向かってくるマユゾンたちを炎剣を振り回してばったばったと倒していく。

 破竹の勢いでマユゾンを撃破していくアリサ。その姿を横目で見た土方は足を止めてすぐに声を掛ける。

 

「おいアリサなにやってんだ!? もう殿(しんがり)はいいからとっととこっちに来てエレベーターに乗れ!!」

「ジュエルシードを封印してあたしの学校も町もダメなおっさんの間の手から取り戻すんじゃぁぁぁぁぁッ!!」

 

 乱心するアリサはマユゾンたちを倒しながらマユラントに向かって行く。

 

「ダメだ!! 完全に我を失ってる!! もう今のアリサちゃんはマユラント倒すことしか頭にない!!」

 

 と山崎が声を上げ、

 

「私がアリサちゃんのサポートをします!!」

 

 すずかがアリサの助けに向かう。切っ先がコウモリを象ったように三又に分かれた槍を握るすずかは、マユゾンたちを魔法で凍らせて動きを封じていく。

 すぐに土方は「おいよせ!!」と言って咄嗟に手を出して止めようとするが、

 

「皆さんは私たちに構わずに屋上に避難してください!! 私たちは大丈夫ですから!!」

 

 制止を聞かないすずか。彼女はマユラントと戦い始めたアリサの援護を始めてしまう。

 

「でりゃでりゃでりゃぁぁぁぁッ!!」

 

 アリサは炎剣を何度も振るい、マユラントも負けじと左腕の爪を使って炎剣の攻撃を防いでいる。

 そうこうしている内に二人の姿はマユゾンの群れによって見えなくなってしまう。

 

「アリサちゃん!! すずかちゃん!!」

 

 親友二人を心配してなのははすぐにレイジングハートを構えて援護に向かおうとするが、土方が少女の肩を掴んで止める。

 

「なのはよせッ!! 万が一を考えてお前は俺たちと一緒に屋上に避難しろ!!」

「なのはちゃん!! 今は二人を信じて逃げるんだ!!」

 

 エレベーターに向かって逃げる山崎の言葉を聞いてなのはは少し逡巡するが、

 

「わかりました!!」

 

 すぐに決意を固めた。そのまま土方の横を飛んでエレベーターまで退避する。

 

「置いてかないでェェェェ!!」

 

 最後に必死こいて土方の後を追うのは新八。

 エレベーターには既に神楽と近藤が避難していた。

 

「こっちだ!! 早くッ!!」

 

 近藤がエレベーターの扉が閉まらないように手で押さえており、すぐに飛ぶなのはがエレベーターに入り込む。続いてマユゾンの群れから必死に逃げる土方と山崎がエレベーターへとなんとか飛び込む形で入り込んだ。

 そして二人が入り込むと同時にエレベーターの扉は閉まり、マユゾンの侵入を防いでくれた。

 

「「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ、ハァッ!!」」

 

 全力ダッシュで息切れを起こす土方と山崎。二人が膝に手を付いて呼吸を荒くしている間、近藤が声を掛ける。

 

「皆無事か!? 全員ちゃんといるか!?」

「ハァ、ハァ……ちょっと待て……。今、確認する」

 

 息を整えながら土方は周りを眺め、一同の人数を確認。

 

「一、二、三、四、五、六……。どうやら大丈夫みてェだな」

 

 エレベーターの中にはなのは、山崎、局長、眼鏡(しんぱち)、チャイナと自分を合わせて六人。

 

「えッ? ホントに六人ですか? 少ない気がするんですけど?」

 

 なのはが不思議そうに小首を傾げ、神楽が口を開く。

 

「ジミーの存在感が希薄過ぎるせいじゃないアルか?」

「いや、いくら影薄くてもこんな至近距離で存在認識できないワケないでしょッ!!」

 

 と山崎がツッコミ入れ、土方は再度確認を取る。

 

「じゃあ、今度は名前を呼ぶから呼ばれた奴はちゃんと返事しろ。まずチャイナ」

「ほい」

「近藤さん」

「おう」

「なのは」

「はい」

「山崎」

「はい」

「眼鏡」

 

 そして床に落ちた眼鏡だけは返事しないが、土方は腕を組んで頷く。

 

「ほら、ちゃんと六人いるじゃねェか」

「ちょって待ってェェェェ!?」

 

 やっと異変に気づいた山崎が慌てて床に落ちた眼鏡を拾い上げて抗議。

 

「コレただの眼鏡じゃん! 新八くんどこにもいませんよ!」

「居ないってことは一階に置いてきちゃったってことですよ!」

 

 なのはは新八の行方を想像して顔を青ざめさせる。今頃彼は、マユゾンに囲まれて眉が繋がってしまったであろう。

 

「アリサちゃんが新八くんを助けた描写なんの意味もねェんじゃん!!」

 

 山崎は嘆き、土方は腕を組んで興味なさげに言う。

 

「まァ、いいんじゃね? あの眼鏡は眼鏡が本体みてェなモンだし」

「いやいくらなんでもその言い草は酷くないですか!? いくら鬼の副長でも言っていいことと悪い事はありますよ!!」

 

 汗を流す山崎は黙ってられないとばかりにツッコムが、今度は神楽は呆れ顔で語りだす。

 

「なに言ってるアルかジミー。ぱっつぁん<眼鏡だから眼鏡が残っているのは不幸中の幸いネ」

「むしろ不幸しか残ってないよ!! どこにも幸せなんてないよ!! 君みたいな毒舌少女の仲間なのが新八くん最大の不幸だと俺は思えてきたんだけど!」

「と、とにかく早く戻って助けないと!!」

 

 となのはが慌てて言うが神楽が口を尖らせる。

 

「ヤーヨ。今戻っても皆奴らの餌食ネ。私あんな眉毛になんて二度となりたくないアル」

「それにたぶん眼鏡が居ても居なくても戦力になんら支障はきたさんしな」

 

 とバッサリ言う土方。

 

「副長ォーッ!? 今のあなたは鬼じゃなくて鬼畜ですよ!!」

 

 山崎があんまりな言い方に顔を青くさせるが、すぐに表情を引き締める。

 

「とにかく二階か三階に降りて新八くんを助けに行きましょう!!」

 

 やはり同じ地味キャラ、もしくは影薄キャラとかいう共通点を多くの持つからなのか。新八を気にかけてほっとけない山崎は救助を進言しだす。

 すると神楽は「えェー……」とすんごい不満そうな声を漏らす。

 

「なんで私らがあんな『眼鏡掛け機』の為に危険冒して体張らなきゃならないアルかー?」

「眼鏡掛け機ってなに!?」

 

 と驚くなのは。

 

「眼鏡を掛けとく棒的なアレアルヨ~」

「それただのフックだよね! フックで充分だよね!」

「つまり新八(アレ)はおまけで、新八の本体は眼鏡ってことアル」

「つまりどういうことなの!?」

 

 あまりの超理論になのはは汗を流す。

 すると土方は手に持った刀を鞘から少し抜き、銀色に鈍く光る刀身を見つめる。

 

「俺たち侍の魂は刀だと常々言われてきた。それと同じように志村新八の魂もまた眼鏡であると――」

「今のあんたに魂も心もありません!!」

 

 山崎はツッコミ、すぐに三階のボタンを押す。

 

「もう分かりました!! 薄情なあんた達に頼りません!! 俺だけでも新八くんを助けに行きます!!」

「私も新八さんを助けに行きます!!」

 

 となのはも手を上げて賛成し、土方は「たくお前らは……」と呆れるように頭を抑える。

 すると近藤がポンと山崎の肩に手を置く。

 

「――ならば俺も行こう」

「局長……」

 

 なのは同様にちゃんとした良心で動く人間がいることに山崎は感動を覚えたようだ。そして近藤は満足気に語りだす。

 

「新八くんはなにせ俺の義弟だからな。助ければ、彼を伝ってお妙さんの好感度アップ間違いなしだ」

「「…………」」

 

 沈黙する山崎となのは。どうやら近藤は良心ではなく下心で動くようである。

 そうこうしている内にエレベーターの扉が開く。すると廊下の先を見たなのはは「あッ……」と声を漏らす。

 

「アレを見てください!」

 

 なのはが声を上げて廊下の先を指差し、全員の視線が廊下の先に向く。

 廊下の先には真選組隊士の黒い制服を着て、腰に刀を差し、肩にフェレットを乗せた栗色髪の青年が背を向けて歩いていた。

 

「間違いない! アレは沖田隊長とユーノくんだ!」

 

 山崎は見覚えのある後姿とフェレットを見て嬉しそうに声を上げ、手を振りながら二人に走って近づく。

 

「沖田隊長ォッ!!」

「おい待て山崎ッ!」

 

 嫌な予感を覚えて土方はすぐに止めようとしたが山崎は既に沖田とユーノに駆け寄ってしまっていた。

 山崎の声に反応したのか、沖田は足を止めて立ち止まる。ただ、後ろを一切振り返ろうとしない。

 

「沖田隊長ッ! ユーノくん!! 二人共心配しましたよ!!」

 

 山崎は返答がなくても構わずに沖田とユーノに慌てて話しかける。

 

「ふ、二人共ッ!! 大変なんです!! 実は新八くんが――!!」

 

 そこまで山崎が話していたところで沖田が振り向いた。彼の眉は一本に繋がり、Mのような形をした眉毛へと変貌。そして肩に乗ったフェレットにも同様の眉毛が出来上がっていた。

 

「………………えッ?」

 

 と、呆けた山崎の声を最後に、エレベーターのドアが閉まる。

 そして、

 

「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”ッ!!」

 

 扉越しからでも届く断末魔。

 やがて、土方は横に並ぶなのはにクールに告げる。

 

「……アレを見たろ? 沖田がダメだったんだ。もう眼鏡も手遅れだろうな」

 

 なのははどんどん失っていく仲間たちを思い浮かべて落ち込む。そして暫くエレベーターは上へと昇り、五階のランプが点灯して動きを停止。

 土方は訝し気に眉を上げた。

 

「ん? 五階だと? 屋上じゃねェのか?」

「屋上は五階から階段を上がって行くんです」

 

 なのはの説明を聞いて土方は「なるほど」と頷いた後、鞘に手を掛け、残っている面々に告げる。

 

「いいかお前ら? さっきの沖田みたくマユゾン共がエレベーターの前で待ち構えてる可能性を十分考慮するんだぞ?」

 

 真剣な表情で言う真選組副長の言葉になのはと近藤は無言で頷き、神楽も番傘を手に持って戦闘準備。そしてエレベーターの扉は開くが、廊下にはマユゾンどころか人の影すら見えない。

 とりあえず襲撃が無かった事に一同は安堵し、そのまま廊下に出て屋上へと続く階段の前まで歩く。

 

「この階段を上がれば屋上か?」

 

 土方の問いかけに、なのはは「はい」と頷く。

 階段を登り始める土方。

 

「ならとっとと屋上に行って安全を確保。そしてジュエルシード封印の為の作戦を練るぞ」

「おい、ちょっと待てトシ」

 

 近藤の声を聞いて土方は階段を数段登った所で足を止め、後ろを振り向く。下の階に続く階段の様子を眺めている上司の姿が目に入った。

 土方に目を向けず、近藤が声を掛ける。

 

「誰か登って来るようだ」

「なに?」

 

 目を細める土方。徐々にだが、彼の耳に階段を登る靴の足音が聞こえ始める。

 なのはは汗を流す。

 

「まさかマユゾンが!」

 

 土方も焦りの表情を浮かべ始めた。

 

「くそッ! 奴らもう来やがったのか!! 近藤さん! 早く屋上に上るぞ!!」

「いやちょっと待てッ!!」

 

 と近藤は声を上げ、彼は更に下の階を深く覗き込む。すると彼の目にチラリと映るのは人の頭――天然パーマで銀髪の頭髪。

 

「まさか、万事屋か!?」

「なにッ!? 万事屋だと!」

「銀ちゃんが!?」

 

 土方と神楽は近藤の言葉を聞いて信じられないとばかりに驚く。

 やがて階段の踊り場に立つのは、銀髪天然パーマで腰のベルトに木刀を差し、白い着物を半分はだけた状態で着こなした男。

 

「間違いない!! 万事屋だ!! トシッ!! 階段を上って来たのは万事屋だぞ!!」

 

 近藤のデカい声を聞いて土方は「マジかよ……」と声を漏らす。

 そりゃそうだ。まさか自分たちが逃げ込んだ学校の校舎にフェイトの協力者となった憎たらしい奴が居るなど、さすがの鬼の副長でも予想すらしていなかったことだ。

 すぐさまなのはは嬉しそうに声を上げる。

 

「なら銀時さんにも協力してもらいましょう!! それにフェイトちゃんの事についてもお話を!!」

「待てなのはッ!!」

 

 だがすぐに土方がなのはの肩を掴んで銀時の元に向かおうとする少女を止める。

 

「沖田の例をもう忘れたのか! 万事屋の野郎がなんで学校(ここ)にいるのかは分からねェが奴も間違いなくマユゾンだ!! 今は戦力になんざならねェよ!!」

 

 銀時が聖祥大小学校の校舎に居る理由は分からずとも、分かっていることはある。それは階段を上って来た銀髪天然パーマも間違いないく下の階でマユゾンの餌食になっている可能性大と言う事だ。

 

「待つネトッシー! 銀ちゃんはマユゾンにならないアル!!」

 

 断言する神楽の言葉に土方は怪訝な表情を浮かべる。

 

「はァーッ!? なんでそんな事を言い切れるんだよ!?」

「何故なら銀ちゃんは……」

 

 神楽は腕を組んで目を瞑り、溜めを作り出す。そしてグワッと目を見開いて、

 

「――ダメなおっさんだからネッ!!」

「つまりどういうことなの!?」

 

 と困惑するなのはとは対照的に、近藤は「なるほどッ!」と声を上げた。

 

「マユゾンの持つダメなおっさん要素を全て兼ね備えた万事屋まさにウイルスの抗体を持った存在と言うワケだな!! まさに無敵艦ではないか!!」

「理屈は良く分かりませんけど、つまり銀時さんはマユゾンってことじゃないんですよね?」

 

 なのはの問いに近藤は「ああッ!」と力強く頷いて力説する。

 

「それどころか、俺たちにとっては魔法以上の切り札となりえるぞ!! 早速万事屋と協力の交渉をせねば!!」

 

 言うやいなや近藤は階段を駆け下りて近づく。下の階段の踊り場でなぜか俯いて突っ立っている銀時に。

 

「なら私も!!」

 

 なのはも駆け出し、そのまま肩を掴む土方の手を振りほどいてしまう。

 

 ――マジかよ……。あの万事屋が切り札だと……。

 

 まさかの一発逆転の切り札が銀時であることに、土方は半ば呆然としてしまう。

 

「よォ、万事屋! お前なんか知らんがフェイトちゃんと協力しているそうではないか!!」

 

 近藤が手を上げて馴れ馴れしく銀時に声を掛ければ、続くようになのはが必死に頼み込む。

 

「町の惨状を見て銀時さんも事情は察していると思います!! 今は海鳴市を救う為に私たちと一緒に〝ジュエルルシード〟を封印しましょう!!」

 

 なのはの口から発せられた『ジュエルシード』と言う単語。それを聞いた土方は、何か大事な見落としをしていないか? と違和感を覚え、眉間に皺を寄せた。

 

 ――いや、待てよ? 確か、今起こってるマユゾン騒動ってRYO-Ⅱじゃなくてジュエルシードが原因だったんじゃ……。

 

 そこまで考えて土方は顔を青くさせて、すぐに近藤となのはに声を掛ける。

 

「二人共逃げろ!! そいつはもう――!!」

 

 と土方が言い切る前に、銀時はバッと俯いていた顔を上げた。彼の眉毛は――繋がっていたのだ、一本に。

 そしてもろに銀時の攻撃の射程距離に近づいていたなのはと近藤は、

 

「「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!」」

 

 絶叫し、

 

「なのはァァァァァァァッ!!」

「近藤さんんんんんんん!!」

 

 神楽と土方は叫び声を上げた。

 だが、すぐに思考を切り替える真選組副長。

 

「逃げるぞチャイナ!! もう二人はダメだ!!」

「銀ちゃんの役立たずゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 異世界に来てから仲良くなった少女が犠牲になった事実に神楽は涙を流しながらも、屋上に続く階段を駆け上がる。

 二人は必死に階段を駆け上り、すぐに屋上に入る為の扉の前までたどり着く。そして土方はドアノブに手を掛けて回すと、扉が開くことに気づいて嬉々とした声を上げる。

 

「しめたッ! 鍵は閉まってねェ!!」

 

 今更だが、もし鍵が閉まっていた場合はアウトだったという事実に身震いを禁じえないが、今は天が与えたもうた運に感謝だ。

 土方はドアノブを引いて扉を開けると、眉が繋がった沖田マユゾンが目の前に待ち構えていた。

 

「「ぎゃあああああああああああッ!?」」

 

 まさかの天国から地獄に叩き落された。二人は飛び轢いて悲鳴を上げるが、すぐに土方は刀を鞘から引き抜いて声を荒げる。

 

「怯むなァァァァ!! 俺たちはなんとしても生き残るんだァァァァァ!!」

「皆の犠牲を無駄にしてなるものかァァァァァァ!!」

 

 神楽も番傘を沖田マユゾンの脳天に叩き込もうと振り上げる。

 二人が一斉に沖田マユゾンを攻撃したその時、

 

「――止めてくれやせんか? 俺正気なんで」

「「へ……?」」

 

 目は白目ではなく、普通に喋る眉が繋がった沖田の声。土方と神楽は目を点にさせて、一時停止したように動きを止めてしまう。

 そして沖田はあっけらかんとした表情で告げる。

 

「俺はマユゾンになんざなってないんで、そんな物騒なモンで攻撃しないでくだせェ」

「「……はッ?」」

 

 と土方と神楽は口をポカーンとさせた後、

 

「「はァァァァァァァァッ!?」」

 

 まさかの展開に大声を上げ、沖田はうるさそうに両耳を手で塞ぐ。

 すぐさま土方が沖田に指を突き付けた。

 

「なんでお前マユゾンになってんのに普通に意識あんの!?」

 

 沖田はポケットから黒色油性ペンを取り出して前髪をかき上げる。

 

「この眉は落書きでさァ」

「落書きだァッ!?」

 

 土方は唖然としながら沖田のMのような形をした眉をよくよく見る。確かに毛じゃなくて黒いインクだ。

 

「てめェェェェェッ!!」

 

 と神楽はキレて沖田の胸倉を両手で鷲掴む。

 

「なんでんな紛らわしいことしてんだァァァァ!! 心臓止まるかと思っただろうがァァァァ!! ぶっ殺されてェのかァァァァ!!」

「だってしょうがねェだろ。屋上の鍵手に入れるのに連中を騙す必要があったんだよ」

 

 平然とした顔で言う沖田の言葉を聞いて土方は「はァッ!?」と驚きの声を漏らす。

 

「あいつらそんなインクで書いた眉で騙せんの!? んな単純な方法で良いの!?」

 

 沖田は油性ペンをポンポンと上に投げて手で弄びながら口を開く。

 

「連中の眉だってぶっちゃけ落書きみたいなものですぜ土方さん。インクと毛の違いなんて分かるほどの知能も持ってなさそうですし」

「マジかよ……」

 

 土方は呆れ半分、驚き半分といった顔でがっくりと腕を垂らす。

 

「つうことは……」

 

 沖田と一緒に居たフェレット、更には襲われてマユゾン化したと思っていた部下の顔を思い出す土方。彼が屋上を見渡せば、

 

「うわー……校庭はマユゾンだらけだ……」

「こんな酷い惨状になるなんて……」

 

 手すりに手を付いて眼下の光景を見る山崎とその肩に乗るユーノの姿が確認できた。どうやら様子を見る限り無事らしい。

 呑気な二人を見て土方が頬を引き攣らせるのをよそに、神楽はユーノと山崎の姿を認識して声を上げる。

 

「あッ! ジミーにユーノも無事だったアルか!?」

「神楽ちゃん!? それに副長も!!」

 

 山崎は神楽の声に反応して後ろを振り向き、生き残っていた仲間の元に駆け寄る。そして肩に乗ったユーノが嬉しそうに声を上げる。

 

「良かった! 神楽と土方さんが無事で!」

「だが、此処に来るまでに大半の仲間がマユゾン共の餌食になっちまった」

 

 土方の言葉を聞いて山崎は「そんなッ!」と言って質問する。

 

「じゃあ、局長になのはちゃんもやられちゃったんですか!?」

 

 土方は無言で頷き、ユーノは焦り声を出す。

 

「それだと状況はかなりマズイですよ!! 自分で言うのは情けないですけど、僕だけじゃ魔導師として戦力不足ですし!! アリサとすずかは!?」

 

 気持ちが落ち着いた土方は箱から一本のタバコを取り出す。

 

「安否までは確認できねェが、アリサとすずかは一階でジュエルシードのバケモンと戦ってる。二人の勝利を信じて待つか、もしくはこのメンバーでジュエルシードをなんとかする策を立てるしかあるめェ」

 

 と言って土方は口にタバコを咥えて火を付ける。すると上司の言葉を聞いた山崎が頬を引き攣らせて顔を青くさせた。

 

「マジ……ですか……? このメンツであのバケモンとマユゾンの両方を相手取りながら封印て……相当ハードですよ?」

「しかもだ。万が一、アリサとすずかが負けていたらあのマユラントの戦闘力は相当モノってことが判明する」

 

 土方の言葉を聞いて山崎は更に顔を青白くさせて右手を横にぶんぶん振る。

 

「無理無理無理無理ッ!! あの二人が負けているかどうかはともかく、あんな人外を倒すなんて冷静に考えたらマジでムリゲーですよ!! そもそも封印はどうするんですか!?」

「ユーノがいんだろ?」

「でもユーノくんはほぼ戦闘用の魔法は使えないじゃないですか!!」

「なんていうかすみません!!」

 

 と謝るユーノ。対して、土方はクールに言葉を続けた。

 

「ポケモン戦法だ。俺たちがあのバケモンを弱らせ、ユーノが封印する。単純だが有効なはずだ」

「でも――!」

 

 まだ否定的な意見を言おうとする山崎の胸倉を土方は掴み上げ、血走った目を向けた。

 

「もう俺たちに退路は残されてねェんだよッ!! 後は死ぬか生きるかのデットorアライブだッ!! おめェも腹を決めろ!! これ以上四の五の言うなら切腹だコラァッ!!」

 

 鬼のような形相の副長の言葉に山崎は涙目になって押し黙る。その時だった。

 

「あァ”……」

 

 うめき声のような声と人の気配。やがて全員の視線が屋上の出入り口へと注がれる。

 そこには眉が繋がり白目を剥いた新八が、力なく屋上の扉を潜り抜けて入って来る。その様子を見ていた土方はおもむろに口を開く。

 

「……おい、総悟」

「なんですか?」

「お前、眼鏡は助けたのか?」

「いいえ。たぶん眼鏡は演技じゃなくてマジでマユゾンだと思いますぜ」

「なるほどな。……それで、一つ気になったことがある」

 

 土方は山崎の胸倉を離して、タバコを口から離すと、

 

「なんで誰も出入り口閉めてねぇんだァァァァァッ!!」

 

 タバコを握り潰して、クワッと目を見開いてシャウト。

 

「ホワタァーッ!!」

 

 神楽が新八マユゾンの顔面にキックを入れて屋上の中心までぶっ飛ばし、出入り口から遠ざけた。そして彼女はすぐさま屋上の扉を閉める。

 

「これで扉は閉めたから大丈夫アル!」

 

 神楽は親指を立て、土方はガッツポーズ。

 

「良くやったチャイナ! ――って言うと思ったかッ!! なんで眼鏡を屋上に残しままにしてんだよ!? せめてぶっ飛ばすなら階段の方にぶっ飛ばしてくんない!!」

「あァ”……!」

 

 と新八マユゾンはのっそりとした動作で立ち上がる。

 

「どうすんだこれ!? このままじゃマユラント倒す前にマユゾン眼鏡のせいで全滅しちまうぞ!!」

「なら僕のチェーンバインドで動きを止めます!」

 

 山崎の肩を下りたユーノが緑色の魔法陣を展開するが、すぐに沖田が手を出して止める。

 

「待ちなユーノ。実はちょっと試してェ事がある」

「えッ?」

 

 すると沖田は懐に手を突っ込み、

 

「みんなッ! 『コレ』で使うんでィ!」

 

 土方、山崎、神楽に取り出した『カミソリ』を投げ渡す。

 

「そいつで眉を剃ってみてくだせェ! もしかしたら眼鏡が正気に戻るかもしれやせん!」

 

 告げられた沖田の提案に対し、カミソリを手に持つ土方は困惑。

 

「いや、確かに試す価値はあるが……。動く奴の眉毛をピンポイントで剃るとか難易度高過ぎるぞ。下手したら余計な毛を剃ることに――」

「うがァァァァッ!!」

 

 と新八マユゾンが山崎に向かって襲い掛かる。

 

「もうこなりゃァなるようになれだ!! 新八くん!! 正気に戻るんだッ!!」

 

 山崎は向かってくる新八マユゾンの攻撃を避けながら眉を剃ろうとカミソリを振りかぶり、思いっきり振り下げた。

 だが山崎は手元が狂ったのか、剃れたのは新八の繋がった眉毛ではなく彼の前髪だった。しかも思いっきり剃ってしまったらしく、新八の髪は著しく剥げてしまう。

 そのなんとも凄惨な姿を見た山崎は悲鳴を上げる。

 

「ぎゃああああああああッ!? ゴメン新八くん!! ワザとじゃないんだ!!」

「この下手糞ォーッ!! もっと慎重にやらねぇと眼鏡を苦しめだけだぞ!!」

 

 土方が怒鳴り、ユーノは声を荒げる。

 

「新八さんは僕がバインドで動きを封じますからそれから眉毛を剃ってください!!」

「それもそう――」

 

 と土方が相槌を打とうとした時、

 

「うがァァァァッ!!」

 

 今度は標的を変えた新八マユゾンが鬼の副長に襲い掛かる。

 

「ぬおォォォォッ!?」

 

 急な攻撃に対応しきれなかった土方は咄嗟に身を捻って避けて、ついでに新八の髪も剃ってしまう。

 

「ちょっとぉぉぉぉぉッ!? なにやってんですかぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 とユーノはシャウト。

 

「あッ……」

 

 と声を漏らす土方。また大きく新八の毛を刈り取ってしまった事実に、土方は顔を青くさせながら手を出して謝る。

 

「す、すまん眼鏡……。ほ、ホントにワザとじゃねェんだ……。だから許して」

「なにやってるアルか!! 新八を一刻も早く助ける為に尻込みしてる場合じゃないネ!!」

 

 神楽はカミソリを構え、

 

「ほァちゃァァァッ!!」

 

 新八の〝後頭部〟に向かってカミソリ攻撃を喰らわせた。

 

「「どこ狙ってんだァァァァァァッ!?」」

 

 おもっくそ最初から髪に攻撃した神楽に向かって、土方とユーノは怒鳴り声を上げる。

 

「あ”あ”あ”あ”ッ!! 新八さぁぁぁぁん!!」

 

 ユーノは嘆く。髪を三回も大きく剃られてエライヘアスタイルになった新八の姿を見て。

 そして山崎も新八のあまりにも哀れな姿を見て汗を流して顔を青くさせる。

 

「どうすんですかアレェッ!? 頭虎刈りなんてレベルじゃねぇよ!! 外歩けねェよ!!」

「しょうがねェなァ。俺が手本てやつを見せてやるぜ」

 

 沖田はやれやれと首を横に振ってカミソリを構える。

 

「喰らいやがれェェェェ!!」

 

 ザシュッ!! と髪と眉が剃れた――土方の。

 

「なんで俺だァァァァァ!?」

 

 前髪の一部と片眉を無残に剃り落された土方は絶叫し、沖田は頭をポリポリ掻く。

 

「あー、ヤッベー。間違えたー(棒読み)」

「総悟テメェェェェッ!! 絶対今のワザとだろ!? どうしてくれんだこのヘアスタイル!!」

 

 土方は喉が張り裂けんばかりに怒声浴びせるが、まったく意に返さない沖田は「やっぱダメか」と言ってユーノに顔を向ける。

 

「おいユーノ。すぐに魔法で眼鏡の動きを封じろィ」

「だから最初からそうすれば良かったでしょうがぁぁぁぁぁ!!」

 

 ユーノは叫びながら新八に向かって『チェーンバインド』を放ち、緑色の鎖で動きを封じた。

 

「さあ今です!! 早く新八さんをたすけ――!!」

 

 ユーノが言い切る前に、大きな影が鉄の柵すら飛び越え、ドシーンッ!! と屋上に降り立つ。

 現れた『ナニカ』はそのまま山崎の後頭部を右手で掴んで地面に叩きつける。

 

「うぎゃあああああああああッ!?」

 

 突如現れた者が山崎を襲った光景に一瞬、一同は唖然。

 

「あ、アレは……!!」

 

 そして開口一番に土方が声を出し、動揺しながらも現れた者の名を口にする。

 

「――『マユラント』!? マユラントが現れやがった!!」

 

 丸太のように太い左手の先は完全に変質して、指先が鋭く太い四本の爪が生えた姿。頭髪はなくともぶっとい眉毛はしっかり一本に連結。

 マユゾン共のボスが登場したのだ。

 

「まさかこんな時にボスキャラお出ましですかィ……」

 

 さすがの沖田も状況が悪いとみてか、少し汗を流している。

 土方はマユラントを睨み付けながら焦りを浮かべた。

 

「くそ……! まさかアリサとすずかはコイツの餌食になっちまったのか……!?」

 

 二人の魔法少女が一体どうなってしまったのか確認のしようがない。

 アリサとすずかが単純にコイツを取り逃がしたのならまだ良い。が、もし目の前の怪物が二人を倒してここまでやって来たのなら、このメンツで倒し切れる可能性は限りなく低い事になる。

 準備も満足に整っていない今の状況はまさに最悪以外の何ものでもない。

 

「つうかここ屋上だよな? コイツ、階段使わずに壁をよじ登ってここまで来たのか?」

 

 まさか一回ジャンプしただけで屋上までやって来たとは考え難いので、壁をよじ登ってきたと見ていいだろう。とはいえ、見た目通り凄まじい身体能力であることは間違いなないだろうが。

 沖田は刀をゆっくり鞘から引き抜きながら口を開く。

 

「土方さんどうします? 正直、眉が繋がることを考えたら無暗に接近戦とかできませんぜ?」

「こうなった以上、背水の陣だ。ここでコイツを倒してこの騒動を終わらせるしかあるめェよ」

 

 土方も沖田同様に刀を鞘から抜きながら構えを取る。

 

「それに邪魔なマユゾン軍団もいねェ。これは寧ろ俺たちにとってまたとないチャンスだ」

「ならまず僕が動きを止めます!!」

 

 ユーノが魔法陣を展開。すると、マユラントの白い眼がユーノに向く。

 

「チェーンバイ――!」

 

 だが本能的に危機を察知してか、マユラントは初動から凄まじく早い動きでユーノに肉薄。そしてそのまますくい上げるように右手でユーノの体を掴み取った。

 

「ぐあッ!?」

 

 ユーノは悲鳴を上げ、それを見た土方は「ユーノッ!!」と声をだす。

 

「ユーノを離せこのデカブツゥゥゥッ!!」

 

 神楽が一気にマユラントまで距離を詰め、怪物の足に足蹴りを叩きつけた。バランスを崩したマユラントは仰向けに倒れ、神楽はその体に跨る。

 

「とどめだおらァァァァァッ!!

 

 神楽はマウントボジションからマユラントの顔面に拳のラッシュを叩き込む。マユラントの両の頬に何度も凄まじい一撃がおみまいされた。

 一見すると神楽有利だが、マユゾンの特性を知っている土方は手を出して慌てて止めようとする。

 

「バカよせ!! そいつに無暗に触れたら――!!」

「私の拳がこの町を救って――!!」

 

 と言ったところで神楽の動きがピタリと止まり、チャイナ服の少女は腕を力なくだらりと垂れさせる。そしてゆっくりと立ち上がり、顔を土方たちへと向けた。

 

「あァ”……!」

 

 眉が繋がったマユゾンへと姿を変貌させた神楽は白目を向いて声を漏らす。

 

「だから接触はすんなってあれほど言ったのに……」

 

 記憶力皆無の神楽に対して、土方は頭痛を覚えたように左手で頭を押さえる。

 

「「あァ”……!」」

 

 と起き上がるマユゾン山崎とマユゾンフェレット。二人もマユラントと接触してしまったが為に眉が繋がり意識を失ってしまった。そしてマユゾン化してしまったユーノの拘束が解けたことで、頭髪が大惨事となった新八マユゾンも立ち上がる。

 そうこうしているうちに屋上にはマユゾンが四体へと増加。一方、マユラントは先ほど神楽にラッシュを叩き込まれたダメージがあるのか、立ち上がる気配はない。

 沖田は「あ~あ」と呑気な声を漏らす。

 

「ゾンビ物でよく見る、『狭い空間で次々と仲間がゾンビになって形勢不利になるパターン』ですぜこれ」

「言ってる場合か!!」

 

 と土方は怒鳴り、焦り声を上げる。

 

「ホントにどうすんだこの状況!? 魔法を使える奴が誰もいねェじゃねェか!!」

「泣き言はなしですぜ土方さん。まずユーノの眉を剃って正気に戻し、次にマユラントを撃破すればいいだけの話じゃないですかィ」

 

 そこまで作戦を沖田は説明した後、ニヤリと不敵に口元を吊り上げた。

 

「ここが正念場ですぜ、〝鬼の副長〟」

「なッ……!?」

 

 沖田の言葉に土方は驚く。まさかあの怠け者で自分にドS行為を常に仕掛けてくる男からこんなにも心強い言葉を受け取るとは思わなかった。

 部下から発破をかけられた土方。このまま引き下がるワケにはいかない。

 

「……いいぜ。やってやる……」

 

 土方は口元を吊り上げ、薄っすら笑みを浮かべる。

 

「マユラントだかタイラントだか知らねェが、鬼の副長の力――思い知らせてやろうじゃねェか」

 

 右手には刀を、左手にはカミソリを構える土方は、咆哮する。

 

「行くぞ総悟ォォォッ!! 真選組の底力、眉毛のバケモンに見せてやるれェェェ!!」

「おっしゃァァァァ!!」

 

 と沖田は大声を上げながら屋上の扉を開けて撤退開始。

 

「って、待たんかィィィィィィィ!!」

 

 土方慌てて沖田に詰め寄り、彼の肩を掴んで止める。

 

「言ってることとやってることが丸っきり正反対じゃねェか!! なにさも当たり前のように俺を見捨てようとしてんの!? さっきの良い感じのセリフはなんだったんだよ!?」

「ああ言えば、土方さんを囮にできるかなァ~って」

「オブラートに包まずぶっちゃっけちゃったよコイツ!?」

「とりあえず離してくれやせん? 俺、ゾンビ映画特有の仲間見捨てるキャラポジでいこうと思うんで」

「それ間違いなく凄惨な目に遭うポジションだぞ! お前それで良いの!?」

「あッ……」

 

 と、沖田が声を漏らしながら土方の後ろを指さす。それに反応して土方がつい後ろに目を向けると、

 

「「うがァァァァァァッ!!」」

 

 新八マユゾンと山崎マユゾンが土方に向かって襲い掛かってきたのだ。

 

「うォォォォッ!!」

 

 吠える土方は咄嗟に沖田の服を思いっきり掴み、一本背負いの要領で彼の体を持ち上げる。

 「えッ?」と呆けた声を漏らす沖田は、マユゾン二匹に向かって投げ飛ばされた。

 

「「うがァッ!!」」

 

 とマユゾン二匹は悲鳴を上げながら、ぶつけられた沖田と一緒に吹き飛ばされる。

 なんとか危機を脱した土方は額の汗を拭う。

 

「危なかった……」

「土方コノヤロォーッ!!」

 

 怒鳴り声を上げる沖田。彼は二体のマユゾンと接触したことによりそのまま眉が繋がり、正真正銘マユゾンと化す。ある意味、土方囮にしようとした報いなのかもしれない。

 目の前のマユゾン四匹にやっと立ち上がり始めるマユラントを見て、土方は頬を引きつらせた。

 

「ヤベ……」

 

 もう正気の人間は土方ただ一人。完全無欠のアウェーと化した屋上に残されたのは自分だけ。

 なんとか逃げ伸びねば、と考えた土方は汗を流しながら少しづつ足を後退させるが、

 

「「「「「うがァァァァァァッ!!」」」」」

 

 今度は五体のマユゾンが逃がさないとばかりに一斉に襲い掛かってくる。

 

「クソォォォォォッ!!」

 

 今度は全力疾走しようと体を後ろに向けた直後、フェレットマユゾンがその素早い動きで土方の背中に張り付く。

 

「ヤバイッ!?」

 

 服越しだからまだ大丈夫かもしれないが、完全に敵に背後を取られ慌てて背中のユーノマユゾンを引き剥がそうとした矢先。

 

「「「「ウガァァァァァッ!!」」」」

 

 四体マユゾンが一斉に土方に飛び掛り、取り押さえられる。

 

「ぐッ!!」

 

 地面に倒れ付した土方はうめき声を上げる。

 完全アウト。もうすぐ土方も眉毛が一本に繋がり、マユゾンと化すであろう。マユラントもゆっくり歩を進めながら土方たちの近くまでやって来る。

 薄れゆく意識の中、土方の目に映ったのは、黒いズボンを履いた足が二本。そしてカタンと『何か』が落ちる。それは黒い――油性ペン。

 そして必死に瞳を上へと向ければ、白い着物を着た銀髪の男がニヤリと笑みを浮かべた。

 

 

 

 バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! バシュッ! と一瞬にして土方含めた新八、山崎、神楽、ユーノの繋がった眉毛がそぎ落とされる。

 

「――ふッ……。普段から無駄毛処理に追われる俺からしてみれば繋がった太眉の処理など造作もない」

 

 真選組局長――近藤勲はカミソリを構えながらニヤリと笑みを浮かべた。

 

「グォォォォォォッ!!」

 

 敵を発見したマユラントはすぐさま雄たけびを上げて、左手の鋭利な爪を構える。が、すぐに何者かがその腹部にとび蹴りを食らわせ、あまりの威力に後退する怪物。

 そしてマユラントにとび蹴りを食らわせた銀髪の男は木刀を肩にかけながら告げる。

 

「――さァて、そろそろこち亀終了記念も終わりにしようじゃねェか」

 

 銀髪の男の眉には、Mのような形をした黒い眉が生えている――だが、よくよく見ればそれは油性で書かれた落書きの偽物眉毛だ。

 正気には戻ったが気絶している新八、神楽、山崎、沖田とは違い、マユゾンなり掛けだった為に意識をすぐに取り戻した土方は驚いた目で〝銀時〟を見る。

 

「……お前……沖田みてェに眉に落書きしてマユゾン共を騙していやがったのか……」

 

 土方の言葉を聞いた銀時は後ろを振り向いてニヤリと口元を吊り上げた。

 

「なァに。たまたま見たお前んとこのドS王子の案を借りたまでよ」

 

 銀時は自分がRYO-Ⅱに感染しない人間だと知ってはいたのだが、今回のマユゾン騒動はどうやらジュエルシードが原因と言う話をフェイトから聞いた。とすると、自分もマユゾンに変貌してしまうと予想。

 必死こいてマユゾンたちから逃げているうちにフェイトとアルフとは離れ離れ。そんな時に、学校に向かう眉が繋がった沖田とフェレットの姿を見かけた。

 何故二人は眉が繋がっているのに正気なのか疑問に思った銀時。すぐに二人の眉は油性ペンの落書きだと気づいて、自分も油性ペンを使ってマユゾン共を騙すことにした。そしてそのまま沖田の後を付けていたら、学校に到着したと言うワケである。

 そして階段を上っている途中で、近藤となのはが話しかけてきた。かと思ったら、悲鳴を上げて自分を攻撃してきようとしたので、慌てて誤解を解く。そして事情を聞いて一時的に事件解決の為に協力することを決めた。

 

「ぐォォォォォッ!!」

 

 銀時が仲間のマユゾンでないと理解したのか、すぐにマユラントは雄たけびを上げて左の爪を振りかぶり、駆け出す。

 銀時は木刀を構え、大声を上げる。

 

「高町なのはァァァァァ!! 準備はいいかァァァァァ!!」

「はいッ!!」

 

 すると屋上の出入り口から浮遊するなのはが飛び出し、空高く舞い上がってデバイスを構えた。

 銀時は向かってくるマユラントをぎりぎりまで引きつけながら体を捻り、木刀を後ろに引く。

 

「こち亀40周年――」

 

 爪を振り下ろそうとするマユラント。対し、銀時はグワっと目を見開き、木刀の切っ先を一気に前へと押し出す。

 

「おめでとうございまァァァァァァす!!」

 

 凄まじい突きの一撃がマユラント鳩尾に叩き込まれ、その巨体は後ろまで吹き飛んだ。そのまま鉄の柵すら破壊して、屋上から空へと体が放り出される。

 

「ディバイン――」

 

 そして上空には杖の先に桃色の魔力を溜めたなのは。彼女はマユラントに砲身を向けていた。

 

「バスタァァァァァァァッ!!」

 

 凄まじい桃色の魔力の本流が、空中では何もできないマユラントを包み込む。その威力は凄まじく、桃色の光はそのまま下の校庭を破壊して小さなクレーターを作るほど。

 やがて桃色の光が収まれば、抉れた地面には仰向けで倒れ付した男とジュエルシードが一つ。

 

 徐々に曇り空は晴れていき、眉毛が繋がった人々は元に戻っていく。

 そして千切れた雲は少しの間だが、ある文字を作った。

 

 ――『こち亀40周年万歳』

 

 

 

 この後どうなったかと言えば……ジュエルシードをなのはが回収。だがその頃には銀時は姿を消していた。

 今回の騒動を解決する以外の話をなのはと近藤は銀時にしていなかったので、また銀時やフェイトと遭遇するまでは時の庭園へ案内させる交渉は持ち越しとなった。

 アリサとすずかはマユゾンになるどころかマユラントを追い詰めるとこまではいったらしい。だが、襲ってきたマユゾン軍団が多すぎて逃げるマユラントを取り逃がしてしまったようである。

 

 

 新八は学校の屋上で夕日染まる空を眺めている。彼の頭は三回もカミソリで大きく剃られて残念な虎刈り状態になっていた。

 

「――僕の髪……次回には戻りますよね?」

 

 涙を流す新八の横には、前髪の一部と片眉を剃られた土方が立つ。彼はタバコの煙を吐いて、

 

「……作者に直談判でもするか? 俺も付き合うぞ」

 

 余談だが、マユゾン事件はかなりの間ニュースとして取り上げられた。が、映像的な証拠以外この事件を解明できる物が出てくることはなかったと言う――。

 

 



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特別回編:2017年明け
2017年明け前編:二度あることは三度ある


今回の話はサブタイトルの通りPixivで投稿した2017年の年末年始特別回を少し手直ししたものになります。
時系列的には31話~32話辺りになります。

次話は少し時間を置いて手直しが出来次第投稿します。


 ――目覚めよ。目覚めるのだ――

 

「…………んァ?」

 

 突如として頭から響いてくる謎の声を聞き、坂田銀時はゆっくりと瞼を開け始める。

 

 ――悠久なる時に大きな変化をもたらす時がついにやってきた――

 

「…………ん?」

 

 フェイト・テスタロッサの瞼もゆっくりと開け始める。

 

 ――内なる力、秘めし能力を開放し……――

 

「…………んん?」

 

 そして最後に瞼を開けるのは高町なのは。

 

 ――真なる敵を撃ち滅ぼす時がついにやってきたのだ――

 

 銀時、フェイト、なのはの三人は川の字を描くように横に綺麗に並んで寝ており、頭に響く謎の声に導かれるように瞼を開けながら糸に釣られた人形のようにゆっくりと体を起こす。

 

「…………ッ!」

 

 意識が覚醒した銀時が自身の周りの異変に気付き、辺りを見渡し怪訝な表情を浮かべる。

 

「……どこだ……ここ?」

 

 今、銀時のいる空間には一切の光すら見えないほどの暗闇がどこまでも広がる――まさに暗黒の世界だ。

 

「……銀時、おはよう」

 

 フェイトも意識が覚醒し、眠たげに目を擦りながら呑気に朝の挨拶をする。

 

「ぎ、銀時さん!? ふぇ、フェイトちゃん!?」

 

 そして驚きの声を上げるのは左端で寝ていたなのは。

 少女は今現在ジュエルシード争奪の為に敵対関係に近い間柄となっている二人が目を覚まして隣で寝ていることに若干パニックになっているようだ。

 

「よォ、なのは。おはようさん」

 

 しかし銀時はマイペースに手を上げてなのはへと朝のあいさつをする。

 

「お、おはようございます……」

 

 なのはは戸惑いながらも律儀に頭を下げて銀時に挨拶を返す。

 なのはからあいさつを返された銀時は頭をボリボリと掻きながら「さてと」と言って立ち上がり、銀時に続くようにフェイトも体を起こす。

 なのはは二人の行動を見て、何をするんだろう? と言いたげな視線を向けながら観察している。

 銀時はフェイトに顔を向け、フェイトは銀時の顔を見つめ、二人はゆっくりと首を縦に振る。

 

「よし、フェイト」

 

 銀時はフェイトの肩に手を置く。

 

「なんか余計な連中いねェし、なのはからジュエルシードぶん捕る絶好のチャンスだ」

「バルディッシュ!」

 

 フェイトは自身の愛機のデバイスを待機状態から起動させ、黒い戦斧へと姿を変えさせ、更には私服の姿から布地の薄そうな黒いバリアジェケットと黒いマントを羽織った姿へと服装を変化させる。

 

「えええええええええええええええええええ!?」

 

 微妙な空気からの戦闘空間への急な変化になのははビックリする。

 

「ちょッ、ちょっと待ってください!」

 

 なのはは慌てて両手を出してバルディッシュを構えるフェイトを制止させようと声を出す。

 

「今はジュエルシードを掛けて戦ってる場合じゃありません!!」

「なに言ってんだ」銀時は気だるげな眼差しで説明する。「ジュエルシードを持ったおめェは俺たちに言わせれば、旨そうな肉を首にぶら下げてライオンの前に立った子ウサギみてェなもんだ。こんなジュエルシード大量ゲットの千載一遇のチャンスを俺たちが逃すと思ってんの?」

「それお肉いりませんよね!?」

 

 となのはがツッコミ入れるとフェイトはバルディッシュを構え鋭い眼光をなのはに向ける。

 

「怪我をしたくなければジュエルシードを渡せ」

「二人共言ってることもやってることも完全に悪党ですよ!?」

 

 押し入り強盗に近い行動をし始めた二人になのははギョッとする。だがなのはは尚も食い下がる。

 

「ジュエルシード争奪をする前に周りの状況を見てよく考えてみてください! なにか違和感を感じないんですか!?」

「あん? 違和感?」

 

 なのはの言葉を聞いて銀時は肩眉を上げながら再び暗黒の空間を見渡す。そして徐々に怪訝な表情を浮かべ始める。

 

「……そういやァ、なんでこんなに辺り真っ暗なのに俺たちの姿がはっきり見えるんだ?」

 

 しかもどこか見覚えがあったかもしれないようなしれなくもないような光景に銀時はより怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「それに、君が私たちと一緒に寝ていたこともよくよく考えれば不可解だ……」

 

 続いてフェイトもなのはを一瞥しながら自分たちの置かれた不可思議な状況に気づいたのか、怪訝そうにあたりを見渡し始める。

 やっと自分から敵意を無くしてくれた二人になのはは安堵したように息を吐き、不安そうな表情で更に言葉を投げかける。

 

「そもそも、私たち全員寝間着じゃなくて私服なんですよ? こんな絶対おかしいですって」

「銀時、どうする?」

 

 フェイトも若干不安げに自分よりも歳が高い大人の銀時の顔を見る。すると銀時は頭をぼりぼり掻きながら口を開く。

 

「まァ、なんだ……。こりゃあもう、やること決まってんだろ?」

「「それは?」」

 

 なのはとフェイトは同時に質問すると銀時はなのはに人差し指を向ける。

 

「フェイトがなのはからジュエルシードを頂戴する」

 

 するとフェイトがバルディッシュから金色の鎌のような刃を出現させる。

 

「バルディッシュ! アークセイ――!」

「なんで!?」

 

 なのははつい反撃の準備ではなくツッコミをする。

 

「なんでそうなるんですか!? まずは私たちの置かれた状況の解明じゃないんですか!? そもそもフェイトちゃん素直過ぎるよ!! 少しは銀時さんの意見に疑問持とうよ!」

「わかったわかった」

 

 銀時はめんどくさそうに頭をぼりぼり掻きながら右の掌を出す。

 

「じゃあ、寝るか」

 

 銀時はそのまま右腕を枕に寝ると、フェイトも銀時の横で仰向けになって寝る。

 

「だからなんで!?」

 

 そしてまたなのはがツッコミ入れ始める。

 

「なんで二度寝!? おかしいですよね!? この状況で寝るってどう考えても正しい行動じゃないですよ!? だからなんでフェイトちゃんは銀さんと一緒に天然な行動しちゃうの!?」

「あのなァ……」銀時は体を起こしてやれやれと言った顔で説明する。「これはアレだ。間違いなく夢だ。だって状況を整理したらどう考えても夢で間違いないだろ? お前が俺たちと一緒に寝ているとか、光源もねェのにお互いの姿見える空間とか、どう考えても夢の世界以外ありえねェだろ」

「た、確かにそうですけど……」

 

 なのはは銀時の最もな意見を聞いて戸惑いの色を見せながら納得し始めている。そして銀時はまた右腕を枕にして目を瞑る。

 

「どうせ夢なんだから何考えても無駄だよ。目が覚めるまで寝て待つだけだ」

「目を覚ます為に寝るってなんか、おかしくありません?」

 

 銀時の矛盾ありまくりの行動になのはは呆れたように腕をだらんと垂れさせる。

 

「とにかくお前も寝ろ。そんで後は時間が解決して――」

 

 ――いくら寝ようが、お前たちはこの世界より出ることはできん――

 

「「「ッ!?」」」

 

 突如として聞こえてきた謎の声に三人は驚きの表情を浮かべ、銀時とフェイトはすぐさま体を起こす。そしてまた謎の声が三人の頭の中に響く。

 

 ――内なる力を開放し、真の敵を(ほふ)らぬ限りな――

 

「だ、誰……!?」

 

 なのはは不安そうに辺りをきょろきょろ見渡し、フェイトはバルディッシュを持つ手に力を込める。

 

「何者だ? 姿を見せろ!」

 

 ――そう慌てずともすぐに姿をみせてやる。さァ、とくと我が姿……拝むがいい!――

 

 突如として雷鳴が轟、炎が舞い上がり、その中をゆっくりと一人の影が歩いてやって来る。

 バイザー型のサングラスを付け、灰色のマントを羽織った長い髭を蓄えた男がゆっくりと歩きながら姿を現したのだ。

 

「お、お前は……!」

 

 銀時が驚きの表情を浮かべ、額に『洞』と言う文字を覗かせる男はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「久しぶりだな……我が――」

 

 バァーン! と謎の男に雷が直撃し、更にはゴォォ!! と下から舞い上がる炎が謎の男を包む。

 

「「「…………」」」

 

 現れていきなり演出かと思ってた雷と炎に黒焦げにされた男の惨状を見ていた三人は目を点にする。

 そして真っ黒焦げになり、プシュ~! と言う音を体から立てる男は足を小鹿のようにフラつかせ、涙目になりながら告げる。

 

「…………ひ、久しぶりだな……坂田銀時……。お、俺の姿を覚えているか……?」

「……あのォ……すんません……。こんがり真っ黒に焼きあがって誰だか分からないんですけど?」

「き、貴様と会合を果たすのはこれで三度目だが……お、覚えていないであろうことはこちらも想定の範囲内だ……」

「いや、覚えてないって言うか、誰だか判別つかないんですけど? コナンの犯人のシルエットみたくなってて記憶呼び覚まそうにもできないんですけど?」

「あ、あのぉ……大丈夫ですか?」

 

 さすがに痛み堪えながら喋る真っ黒焦げの男の姿にいたたまれなくなったのか、なのははが心配そうに声をかける。すると謎の男は痛みに声を震わせながら答える。

 

「し、心配いらぬぞ少女よ……」

「いやいや、ホント病院行ったら?」と銀時。

「だ、だから大丈夫だ。問題ない」

 

 と真っ黒焦げの男が答えるとフェイトが小首を傾げる。

 

「本当に?」

「何度言わせるつもりだ? 大丈夫だと何度言えば分かる」

 

 やっと痛みが引いてきたのか真っ黒焦げの男は普通のトーンで話し始める。すると銀時が少し驚いた口調で聞く。

 

「マジで? あんなにダサい登場しちゃったのに?」

「だ、大丈夫だ……」

 

 マントの男の声が震え始める。たぶんその声の震えはきっと痛みによるものではないだろう。

 フェイトはマントの男に少し関心したような視線を向けながら銀時に顔を向ける。

 

「銀時、あの人凄い。あんなの雷と炎を受けて平然と立っていられるなんて」

「あァ、まったくだぜ。あんなマジでダサい登場しといて、俺たちの前に平然と立ったままでいられるなんてよ。ぶっちゃけ、俺なら羞恥で耐えられねェよ」

「あのぉ、それ以上言わない方が……」

 

 なのはが真っ黒焦げの男をちらちら見ながらやんわり二人の会話を止めようとする一方で、真っ黒焦げの男の顔は引き攣り、汗を流し始める。

 なのはの制止が聞こえないのかフェイトは謎の男を警戒するように一瞥しながら銀時に声を掛ける。

 

「それにしても銀時、さっきの雷と炎はあの人が起こしたのかな? なら、あの人は自分で起こした雷と炎であんな酷い姿になったってことだよね? どういう意図があると思う?」

「ばっかおめェ。言及すんじゃねェよ。アレはあのおっさんがカッコつけて演出としてやろうとしたけど、失敗しただけなんだよ」

「えッ? じゃあ、自分で出した雷と炎を自分で受けただけなの? そもそもカッコつける意味は?」

「あ、あの……ホントそれくらいにしてあげた方が……」

 

 となのはが頬を引き攣らせながら二人の会話を止めようとする。チラチラ謎の男に視線を向ければ、真っ黒焦げの男は顔を真っ赤にさせ、年甲斐もなく泣きそうになっている大人の姿が目に映る。

 

「まだあの人名乗ってすらいなのに……たぶんメンタルがボロボロになっちゃってますよ」

 

 やっとなのはの言葉が耳に入ったらしく、「あん?」と銀時が反応をみせ、返答する。

 

「ならいいじゃねェか。肉体もボロボロなら精神だってボロボロにした方がバランスが取れるだろ。俺が通ってた病院の先生もそんなこと言ってたから」

「その人ホントに医者なんですか!?」

 

 となのはがツッコムとフェイトが一歩前に出て、真っ黒焦げの男に話しかける。

 

「あなた、名前は?」

「と、洞爺湖仙人と申すが?」

「えッ? ちゃんとした名前を教えてくれませんか? そんなふざけた偽名じゃなくて」

「……えッ? ……い、いや……洞爺湖仙人は実名なのだが……」

 

 若干フェイトの言葉に汗を流す洞爺湖仙人と名乗った男。するとフェイトは眉間に皺を寄せて訝し気に洞爺湖仙人を見る。

 

「とうやこせんにん? 仙人てなんですか? どう考えても偽名ですよね?」

「いや、厳密には『洞爺湖』と言う名なのだが、仙人はいわば称号のようなものであり――」

「ファミリーネームは?」

「洞爺湖が私のフルネームだが……」

 

 フェイトの質問攻めに洞爺湖仙人は戸惑いを見せながら答え、フェイトはクルリと首を後ろに曲げて銀時に顔を向け、きっぱり言い放つ。

 

「銀時間違いない。この人――中二病だ」

「えッ? お前その歳で中二病知ってんの?」

「うん。前に母さんの使い魔のリニスから聞いたことがある。威力を殺しても派手に見せることができる魔法があって、それを使って自分をカッコよくみせたり、なんか意味不明な異名を名乗り出したりなんか意味のあるかわからないカッコよさげな服装をする人たちが魔法世界には一定数いる。そしてそんな人たちを総じて――中二病と呼ぶって」

「なるほど。なら、そいつは間違いなく中二病だ。つうか俺も薄々感じてた」

「そして中二病の人たちに共通しているのは、結局総じてカッコつけてるのにカッコ悪くて恥ずかしいってこと」

「あァ、雷と炎で自分の登場を演出した上に失敗してんだからそいつは中二病で間違い――」

「止めてェェェェェェ!!」

 

 なのはが思わず二人の会話を遮り叫び声を上げる。

 

「止めてあげて!! 仙人さんを見て!!」

 

 なのはが指を向けた先には、

 

「ぅぅぅぅぅ……!!」

 

 目と鼻から体液を流し、唇を必死に噛んで表情筋を強張らせながら必死に泣くのを我慢する洞爺湖仙人の姿だった。

 

「もう精神崩壊する寸前だから止めてあげて! これ以上追い打ちをかけないであげて!」

 

 なのははあまりにもあんまりな仙人の姿に同情しているが、フェイトは腕を組んでバッサリと告げる。

 

「私たちはただ事実確認をしているだけ。純粋にあの人がカッコ悪いかどうか談義して――」

「フェイトちゃん!!」

 

 となのはが怒鳴ってバシッとフェイトの頭をはたくと金髪の少女は「いた……」と声を漏らす。

 フェイトは叩かれた頭を右手摩りながらなのはにジト目を向ける。すると口元を押えて涙を流す洞爺湖仙人になのははビシッと指を突き付けながらフェイトと銀時に説教をする。

 

「確かにあの人がカッコ悪いのは事実だよ!! だけど言っていいことと悪いことがあるの!!」

「ヂグジョォォォォォォォォッ!!」

 

 と洞爺湖仙人は吠え、ダムが決壊したように涙を流して銀時たちとは反対方向へ駆け出す。

 

「最終的にお前がトドメさしてんじゃねェか!」と銀時がツッコム。「言っちゃダメなことズバリ言っちゃてんじゃねェか!」

「ごめんなさァァァァァい!!」

 

 自分の失言に気づいたなのはが頭を抱えて謝罪した時だった。

 

「逃げちゃダメでしょォォォォォォッ!!」

 

 突如として現れた仙人と同じ格好をしたパンチパーマに髭を生やしたおばさんが洞爺湖仙人の顔面にドロップキックをかます。

 

「グハァッ!!」

 

 と洞爺湖仙人は悲鳴を上げながら吹っ飛び、

 

「「「洞爺湖仙人!」」」

 

 三人は思わず洞爺湖仙人の名を呼ぶのだった。

 

 

「……すまなかった。仙人の身でありながら少々取り乱してしまった」

 

 洞爺湖仙人は右の頬を腫れぼったくさせて銀時、なのは、フェイトの三人の前に立つ。ちなみに今の彼の恰好は真っ黒焦げから通常のマントを羽織った姿へと戻っている。まぁ、元々真っ黒な衣装ではあるが。

 

「いや、それはいいんだけど……」

 

 銀時は少し体を傾けて洞爺湖仙人の後ろで仁王立ちしている彼と同じ格好のパンチパーマに髭を生やしたおばちゃんを見る。

 

「アレ……誰?」

「おか……マザー仙人だ」

「今お母さんて言いかけましたよね!?」

 

 となのはは洞爺湖仙人の言葉を聞き逃さず、すぐに問い詰める。

 

「あの人あなたのお母さんなんですか!? なんで女の人があんな立派な髭を生やしているんですか!?」

「違う、マザー仙人だ。仙人たちの母と呼ばれるとってもえら~い仙人なのだ。言動には気を付けよ」

 

 腕を組んで説明する洞爺湖仙人に銀時はジト目向ける。

 

「すべてのマザーつうか、もろお前のマザーだろ」

「だから違う!」と洞爺湖仙人は怒鳴る。「マザー仙人だって言っているだろうが! 全ての仙人の頂点に君臨するお方なの!! 私が不甲斐ない姿を見せちゃったからこうやって現出してくださったの!!」

「親子揃って中二病……」とフェイト。

「お前ホントいい加減にせんと子供とは言え殴るぞ!!」

 

 洞爺湖は尚も中二呼ばわりするフェイトに怒鳴りながら握り拳を作るが、すぐに気持ちを落ち着け「コホン」と咳払いして腕を組む。

 

「まさかこんなに早くマザー仙人の姿をお前たちの前に晒してしまうとは思わなんだ。ここまで段取りを狂わされるとは思わなかったぞ……」

 

 そこまで言って洞爺湖仙人は鋭い眼光を銀時に向ける。

 

「さすがは我が(マスター)――坂田銀時だ」

「えッ!? ど、どういうことなんですか銀時さん!? 仙人さんのお知り合いなんですか!?」

 

 なのはは驚き銀時に問いかけるとフェイトも銀時の顔を見て質問を投げかける。

 

「この変な人は銀時の使い魔だったの?」

「変……」

 

 と洞爺湖仙人はフェイトの言い草に少しショックを受け、銀時は若干苛立たし気に答える。

 

「ふざけんな。なんで中二病患った気色の悪い髭親父を俺が使い魔にせにゃならねェんだ。こんなおっさん使い魔にするくらいなら定春やアルフを使い魔にする方が数十倍マシだ」

「ちょっと銀時さん! また仙人さん泣きそうになってますから!」

 

 なのはが青い顔して目を右手で覆う仙人を見ていると、マザー仙人が後ろから洞爺湖仙人に近づいて肩にポンと手を置く。

 洞爺湖仙人は涙と鼻水を垂れ流しそうになりながらマザー仙人の顔を見ると、彼の母は笑みを浮かべる。

 

「頑張れ、洞爺湖仙人」

「お、お母さん……」

「今お母さんて言ったよね? やっぱりお前のお母さんだよね?」と銀時。

 

 洞爺湖仙人は唇をギュッと結んで垂れ流しそうになる涙と鼻水を袖で拭き取り、銀時たちに顔を向ける。

 

「――よいか、坂田銀時。貴様はどうせ忘れているだろうし、私の登場回を知らぬ読者の為にあらためて説明しよう」

 

 仙人はカッと目を見開いて銀時にビシッと指を突き付ける。

 

「私は洞爺湖! つまり貴様が持つ木刀――『洞爺湖』の化身なのだ!」

「つまり、あなたはデバイスってことですか?」

 

 フェイトが質問をすると洞爺湖仙人はフッと笑みを浮かべる。

 

「所詮は子供よのう。自身の持つ知識でしか物事を判断できぬか」

 

 意趣返しのように言う洞爺湖仙人の言い草にフェイトは少し不満そうな表情を浮かべ、仙人は更に説明する。

 

「我々仙人は古今東西ありとあらゆる物品に住まう仙人なのだ」

「つまりどういうことですか?」

 

 フェイトが問いかけると洞爺湖仙人は「えッ?」と声を漏らし、金髪の少女は更に問いかける。

 

「なんで仙人がありとあらゆる物品に住んでいるんですか? そこをちゃんと説明してください。あまりにも説明がふわふわし過ぎです」

 

 フェイトの詰問に仙人はすぐには答えられるずに言葉を詰まらせ、

 

「……まァ……その……なんだ……ええ~っと……」

 

 腕を組んで顔をあちこちに向けてああでもないこうでもないとぶつぶ呟く。そんな仙人に銀時、なのは、フェイトはジト目を向ける。

 すると仙人が「つくもがみ……」と呟き、ハッと思いついたように顔を上げる。

 

「――私は銀時の持つ妖刀『星砕き』の付喪神なのだ!」

「今思いつきましたよね!?」

 

 もちろんツッコムのはなのは。

 

「どう考えても今思いついた設定ですよね!? あなた自分の存在をちゃんと認識しているんですか!?」

「うるさい!! 付喪神っつたら付喪神なの!!」

 

 と仙人は逆切れ気味に怒鳴った後、声音を低くして告げる。

 

「そしてありとあらゆる物に宿る我々を人々は仙人と呼ぶのだ」

「結局仙人じゃねェか!! 付喪神設定どこいった!!」

「ええいうるさい!! 詳しいことは原作者にでも聞け!! 私に聞くな!!」

 

 挙句は銀魂の作者に丸投げする洞爺湖仙人に銀時たちは呆れるが、洞爺湖仙人は咳払いして話を軌道修正させる。

 

「とにかく、この私の正体を話すまでに大分行数も文字数も使ってしまったが、ようは私は(マスター)である坂田銀時に用があるのだ」

「んで? その付喪神だか仙人だか分からんお前が俺になんのようなの?」

 

 肩眉を上げて聞く銀時の質問に洞爺湖仙人は静かに告げる。

 

「私はお前に必殺技を教えにきたのだ」

「必殺技ァ? なんでんなもん俺に教えんだよ?」

 

 銀時はすんごくめんどくさそうに言うと、洞爺湖仙人は呆れようにため息を吐く。

 

「分かっていたことだが……まさかここまで必殺技伝授に否定的な奴がジャンプの看板マンガの主人公やっているとは……なんと嘆かわしい。まさに世も末だな」

「んだとこら!! こちとらまともな技もなしに今までジャンプで十年以上頑張ってきたんだぞ!!」

 

 洞爺湖仙人の言い草に銀時はキレるが、なのはは「まぁまぁ」と言って怒る銀魂の主人公を宥め、仙人に顔を向ける。

 

「それで、なんで銀時さんにその……必殺技? を教えようとしている仙人さんは私たちもこの空間に呼んだんですか? そもそもこの空間はなんなんですか?」

 

 なのはの問いを聞いて洞爺湖仙人は目を瞑って説明を始める。

 

「ここは夢と現、二つの空間と次元の狭間にできた仙人世界。ここに坂田銀時を呼んだのさきほど言った通り、我が必殺技を伝授させる為。そして君たちマジカライズエナジーを秘めた少女を呼んだ理由は――」

「銀時、やっぱりあの人は中二病だ。だって言ってることが意味不明」

 

 フェイトが銀時に顔を向けながら洞爺湖仙人を指さす。

 

「黙れ小娘!!」

 

 洞爺湖仙人はキレて怒鳴る。すると銀時が自身の右肩を揉みながら気だるげな視線を仙人に向ける。

 

「もう一々レベルの低い中二病指摘されたくらいで怒んなって。話進まなねェから」

「そっちがいちいち話の腰を折っているんだろうが!! あとレベルが低いとはなんだ!!」

 

 洞爺湖仙人は怒鳴り散らすが、すぐに平常心を取り戻して話を再開させる。

 

「……坂田銀時よ。貴様にはなんとしても我が必殺技を伝授してもらわねばならぬ。それは何故だと思う?」

「えッ? なんでいきなり問いかけてくんの?」

「これも試練だ」

「なんでいきなり修行始まった感じになってんだよ!! 俺まだ必殺技覚える宣言すらしてねェぞ!!」

「あ、もしかして(マスター)である銀時さんに死なれては困るからですか?」

 

 なのはが思いついたように質問すると、洞爺湖仙人は満足気に笑みを浮かべる。

 

「フッ……中々利口な少女だ。だが、半分は正解で、半分は違う」

「おい、なのは。お前別にあの中二髭の茶番に付き合わなくていいからな?」

 

 なんか銀時が言ってるが、洞爺湖仙人は構わず言葉を続ける。

 

「私が必殺技を伝授する本当の理由は坂田銀時――お前……いや、貴様の世界そのものをも脅かそうする〝真の敵〟に対抗させる為」

「真の敵だと?」

 

 銀時の目が細くなり、なのはとフェイトの表情にも緊張の色が見え始める。そんな三人の姿を見て洞爺湖仙人は満足気に笑い零す。

 

「フフ……どうやら食いつてきたようだな。必殺技に否定的な貴様でも、さすがに無視できなくなったと見える」

「おいおい、ぶっちゃけこの回って年明け特別編じゃなかったっけ?」

 

 とかなりメタイ発言をする銀時の言葉を聞いて洞爺湖仙人は顔色一つ変えることなく得意げに告げる。

 

「だからこそ意味があるのだ。〝真の敵〟だけでなく、『どうせ、特別回なんてなんかちょっと今まで違う事して終わりで、本編にまったく関係ないだろ?』的な考えを持つ読者の意表すら突くことができるのだからな」

「どこに意表を突いてんだ!! 余計なお世話にもほどがあんだよ!!」

「それで、『真の敵』とは?」

 

 視線を鋭くさせるフェイトの問いに洞爺湖仙人は目を瞑り、ゆっくりと口を開く。

 

「真の敵――その名は……」

 

 カっと洞爺湖仙人は目を見開いて拳を振り上げながら叫ぶ。

 

「リリカルなのはだァァァァァァ!!」

 

 ゴロゴロピカーンと仙人の後ろで雷鳴が轟く。

 

「「「……はッ?」」」

 

 予想外の『真の敵』の名を聞かされた三人は表情をポカーンとさせ、思考停止する。だが呆けた顔をする三人に構わず、洞爺湖仙人は拳を握り絞めて熱く語り出す。

 

「我々の真の敵の正式名称は『魔法少女リリカルなのは』なのだ!! こやつを倒さぬ限り坂田銀時、貴様だけではない! この小説さへも滅びの道へと突き進むことになってしまう!!」

「マジでなんの話をしてんだテメェは!!」

 

 といの一番に声を上げたのは銀時。

 

「リリカルなのはってなんだ!? リリカルなのはをぶっ倒して俺らになんの得があんだよ!! つうかリリカルなのは倒すってなに!?」

 

 すると洞爺湖仙人は腕を組んで語り掛ける。

 

「よいか? リリカルなのはは魔法少女たちが魔法を使い、少年マンガ顔負けのバトルを繰り広げる作品なのは知っておるか?」

「あ、あァ……」

「そして銀魂は少年ジャンプの看板マンガの一つ。そしてジャンプ作品を占める作品のほとんどはバトルマンガだ」

「だから?」

 

 洞爺湖仙人の言葉を聞いて銀時は何がいいたいんだ? と言いたげに肩眉を上げる。すると仙人は銀時に向けてビシッと人差し指を突き付ける。

 

「ジャンプ看板マンガの主人公がたかだか魔法少女なんぞに戦闘力で劣ってて情けないとは思わないのかァァァァァ!!」

「思わねェよ!!」

 

 と銀時はバッサリ切り捨て、なのはとフェイトは青筋浮かべる。

 

「私たち……かなりバカにされてる気がするんだけど?」

「うん。そんな気がする」

「ごめんなさいね~」

 

 するとマザー仙人と言うか洞爺湖仙人のお母さんがなのはとフェイトの前までやって来て少し頭を下げながら説明する。

 

「あの子ね、最近リリなんちゃらって作品と他の作品を合体させる? みたいな小説をネットに投稿してたらしいんだけど、それが上手くいかなかったらしくて、ちょっとムシャクシャしてるのよ」

「あ”あ”あ”!! ちょッ、おかあ……マザー仙人!! 余計な事言わないで!!」

 

 顔を真っ赤にしながら洞爺湖仙人は母を止めようと声を上げるが、マザー仙人は止まらず、懐からクッキーの詰まった包みを二つ取り出して少女二人に配る。

 

「も~少し、あの子の我がままに付き合ってあげて。これはほんの気持ちだから」

「は、はぁ……」

 

 なのはは若干戸惑いながらも包みを受け取り、

 

「ポリポリ……あふぃがふぉごふぁいまふ」

 

 フェイトはクッキーを食べながらお礼を言い、そんな隣の少女の姿になのははギョッとする。

 

「フェイトちゃん手を付けるの早い!?」

「マザー仙人!! クッキーとかいいから早くこっちに戻って来て!!」

 

 洞爺湖仙人に呼ばれ、マザー仙人はまた定位置に戻ろうとしながら何度も何度もフェイトとなのはに頭を下げる。

 

「もうちょっと……もうちょっとあの子に付き合ってあげてね?」

「お願いだからもうやめて!! めっちゃ恥ずかしいから!!」

 

 洞爺湖仙人は顔を真っ赤しながらマザー仙人が自分の後ろに立って仁王立ちするのを確認した後、銀時に顔を向ける。

 銀時は視線を少し逸らしながら口を開く。

 

「まァ……お前を応援してくれる読者もいるって」

「うるさい黙れ!! とにかくだ!!」

 

 更に顔を真っ赤にさせながら洞爺湖仙人は捲し立てる。

 

「そもそも必殺技もなく、なんか力の強さがあやふやお前たち銀魂組と言うか、坂田銀時! 貴様の強さの基準がかなりふわふわなのだ!! リリカルなのはの魔法に対抗できるくらい強いのか、それとも強くないのか、もうなんかようわからん! とにかく必殺技の一つでもパパッと付けてリリカルなのはの強さに劣らぬ力を身に着けてもらわねば困るのだ!! 俺がどれだけ小説書くの大変だったと思っているんだ!!」

「知るかんなこと!! ふわふわの何が悪い!! つうかこの小説の設定上、俺たちはアニメDVDが原因でリリカルなのはの世界に来てるって建前になってんだぞ! テメェの発言のせいでこの小説の内のリリカルなのはなのか、現実のリリカルなのはなのか区別できなくなって、このままだと世界観が崩壊しちまうだろうが!!」

「いや……銀時さんの発言もかなり世界観を崩壊させてます……」

 

 銀時のメタだらけの発言を聞いてなのはが口元を引き攣らせる。すると洞爺湖仙人が笑みを浮かべる。

 

「フフフ……安心しろ。さきほどここは夢と現の狭間の空間と言ったであろう? お前たちが目を覚ませばここでの記憶は全て忘れる。だからいくらメタだらけの発言をしても問題ない」

「じゃあ必殺技覚えても意味ねェだろうが!!」と銀時はツッコム。

「心配には及ばん。アフターケアもばっちりだ。此処で必殺技を覚えた暁には、貴様は目覚めた後に……」

 

『俺は知らないはずなのに知っている。俺の新たな力を――』

 

「――と言った具合に必殺技を覚えた事実だけが残る」

「マジで中二病だなお前! つうか特別編で覚えた技を使い始めた暁には違和感バリバリだろうが!!」

「そう拒まずに考えてみよ。このまま必殺技を持たぬ上に強さもふわふわなお前が魔法戦士たちと戦わせる展開にまで発展すればどうなる?」

「はッ? 俺一応ちゃんと戦ってきたじゃねェか。なにか問題あんの?」

「このまま話が先に進めば……」

 

 洞爺湖仙人は構わずクワっと表情を変化させて叫ぶ。

 

「作者のモチベーションが一気にダウンしてしまうではないかァァァァァ!!」

「知るかァァァァァァ!!」

 

 銀時はシャウトするが、仙人は構わずに語る。

 

「よくよく考えてみよ。この小説は連載してからもう既に3年以上も経っているのだぞ? それなのにまだ30話をやっと過ぎたばかり。しかし展開はまだ時の庭園突入どころか時空管理局すら登場してないと言う有様だ。この事実をどう捉える?」

「止めて!!」なのはは悲痛な声を上げる。「作者さんはやっとモチベーションや活力が回復して年末特別回や年明け特別回まで執筆できるまでになったんだよ!!」

 

 ついにはなのはまでメタ発言してしまうあり様だ。銀時は頭を掻きながらめんどくさそうに答える。

 

「つうか、そんなに悩むこともねェだろ。クロスオーバーつっても、スパロボとかアレなんて無茶苦茶だぜ。ロボットの強さもデカさもしっちゃっかめっちゃかな連中をちゃんと無謀にもまとめて話にしてるんだからよ」

「銀時さん止めて! 他作品のファンを敵に回そうとしないでください!!」

 

 なのはは思ずツッコムが、洞爺湖仙人は首を横に振る。

 

「アレはプレイヤーが操作して好きなキャラとロボを使って敵を自由に倒せる仕様だから成立しているのだ。だが、これは小説。プレイヤーの自由と言う逃げ道はない」

「逃げ道ってなんですか!?」なのははツッコム。「作り手側が言い訳作りの為にシステム開発したみたいに言わないでください!!」

 

 洞爺湖仙人は拳を握り絞め、悔しそうに声を絞り出す

 

「とにかくこのままこの状況を放置すれば、この小説は終わってしまう……!!」

 

 そして洞爺湖仙人はビシッと銀時に指を突き付ける。

 

「それこれも全ては必殺技を持たぬ貴様がリリカルなのはに勝てるかどうかも分からぬ戦闘力であるのが原因なのだァァァァ!!」

「ふざけんなァァァ!!」と銀時は怒鳴る。「キャラに責任を擦り付けるんじゃねェーッ!!」

「よ~く考えてみよ。貴様がこのまま必殺技を覚えなければ、戦闘描写がたいへん地味なモノになってしまう上に、描写がとてつもなく難しくなってしまう。それに下手に勝てせたり負けさせたりすると物議を醸しだしてしまうお前は大変扱い難いキャラなのだ」

「お前ホント黙ってくんない! つうかそんなもん全てのクロスオーバー作品に言えることだろうが!!」

「これだけ説明してもまだ納得せんか! ならばこれを見よ!」

 

 すると洞爺湖仙人はどこから出したのか、白いボード見せる。そこにはある一文が書かれている。銀時、なのは、フェイトは少し近づいてボードに書かれた文章を見る。

 

 

「ディバインバスター!!」

 

 高町なのはの放った桃色の魔力砲撃が坂田銀時に向かって放たれる。

 だが銀時は寸前のところで躱し、そのまま木刀を持って高町なのはへと肉薄する。すると白い魔導師はいくつもの魔力弾を生成して、銀時に向かって放つ。

 銀時は木刀を2、3度振って魔力弾を切り裂き、捌き切れない魔力弾は体を最低限の動きで捻って躱し、そのままなのはの元へと向かって走る。するとなのはは接近戦を避ける為に空高くへと飛び上がろうとする。

 なのはの行動を見た銀時はすぐさまに足を蹴り上げる。するとなのはに向かって一つの握り拳ぐらいの石がまっすぐに飛んでいく。

 なのはは咄嗟に障壁を張ってガードした直後、銀時はなのはの元までジャンプしており、少女に向かって木刀を振りかぶる。だが、ガキン!! となのはの障壁が銀時の木刀による一撃を防いでしまう。

 

「うォォォォォ!!」

 

 だが銀時は怯まずに何度も何度も残像が生まれそうなほどのスピードで木刀を振り、なのはの障壁にヒビを入れていき――

 

 

「――って長ァァァァい!!」

 

 銀時たち三人が文章を読んでいる途中で洞爺湖仙人は白いボードを膝で真っ二つに叩き割る。

 

「何がしたいんだテメェはァァァァ!!」

 

 仙人の意味不明な行動に銀時はシャウトし、フェイトが不満げな声を漏らす。

 

「……読んでいる途中だったんだけど……」

「私は別にお前たちに小説を見せる為に今の文章を見せたワケではない!!」

 

 洞爺湖仙人は声を張り、新たな白いボードを取り出す。

 

「これは言わば、小説と言う媒体において、必殺技がどれだけ必要な物なのか教える為の例題なのだ!!」

 

 そして銀時たちは三人は戸惑いながらも白いボードに書かれた新たな文章に目を通す。

 

 

「ディバインバスター!!」

 

 なのはが杖から桃色の魔力砲撃を放った時、

 

「か~め~は~め~……」

 

 銀時は合わせた両の掌にエネルギーを蓄積させる。

 その間にも銀時に向かって桃色の魔力の本流は向かってくる。

 そして銀時が魔力の本流に飲み込まれようとした直前、銀時がカッと目を見開き、合わせた掌を前に向けて押し出す。

 

「派ァァァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 銀時が合わせた両の掌からエネルギーが放たれ、そのままなのはの砲撃を押し返す。

 

「そんな!?」

 

 なのはが驚く間に、少女は一気に銀時の放つエネルギーの本流へと飲み込まれていくのだった。

 

 

「どうだ! これで良く分かったろ!!」

 

 得意げに言う洞爺湖仙人の言葉を聞いても三人は理解できず、微妙な表情を作る。

なのはに至っては自分の負けるシーン見せられたようなもんなので、かなり頬を引き攣らせている。

 

「……お前は何が言いたいワケ?」

 

 怪訝な表情を浮かべる銀時の言葉を聞いて洞爺湖仙人はクワっと表情を変えて言い放つ。

 

「敵を倒すまでのプロセスが簡単になったではないかァァァァァァ!!」

「ただの手抜きじゃねェかァァァァァ!!」

 

 銀時はシャウトしながら膝でボードを叩き割り、仙人は熱く語り始める。

 

「さっきまで長ったらしい地の文で語ってもいまだに少女一人を追い詰められなかったのが、どうだ!! あんな少ない文章で一気に倒す描写まで持っていけたではないか!! これならば作者の作業量も一気に減ると言うもの!!」

「結局必殺技と言う名の手抜き技法じゃねェか!! つうかドラゴンボールの必殺技を手抜きみたいに語るの止めてくんない!! 失礼にもほどがあんだろ!!」

 

 銀時は怒鳴り声を上げるが、洞爺湖仙人は右手を横薙ぎに振って言い放つ。

 

「兎にも角にも! 貴様には必殺技を体得してもらい、今見た文章みたくリリカルなのはのキャラたちをバッタバッタと倒して、リリカルなのはを打ち倒すのだ!!」

「お前アレだろ!! さっきお母さんが言ってた小説失敗したってやつ!! それでリリカルなのは恨んでるだけだろ!!」

 

 ビシッと銀時に指を突き付けられた洞爺湖仙人は図星を指されてらしく「ぐッ……!!」と声を漏らすがめげずに言葉を返す。

 

「と、とにかくお前が必殺技を体得すれば私の気分もスカッとするし皆も笑顔になるのだ!!」

「そんな手抜きした暁には読者の笑顔が消え失せるだろ!!」

「なんて器の小さい人なの!?」

 

 なのはは仙人すら名乗っている大人の癖してここまで狭量な洞爺湖にドン引きしているようだ。

 どうやらこの仙人がさきほど『真の敵』をリリカルなのはと言ったのも、個人的な恨みから来るものからなのだろう。

 銀時が洞爺湖仙人に訝し気な眼差しを送る。

 

「つうかお前なんでなのはとフェイトをこの空間に呼んだんだ? 俺に必殺技教えてリリカルなのはのキャラ倒せって言うなら、コイツらも此処に呼んで必殺技を教えるのって、なんか矛盾してね?」

「た、確かに!」

 

 なのはも銀時の意見は最もだと思ったらしく声を漏らす。

 

「高町なのはとフェイト・テスタロッサをこの空間に呼んだ理由は簡単だ……」

 

 洞爺湖仙人は腕を組み、徐々に口元を吊り上げる。

 

「お前たちに我が(マスター)が必殺技を覚える姿を目の前で見せつけることで、未来の危機に慌てふためく様を拝むためよ」

「本当になんて器の小さい仙人なの!? 仙人じゃなくてただの小物だよね!!」

 

 邪悪な笑みを浮かべながらおもっくそ下らない理由を説明する仙人になのはは呆れかえっている。

 話を聞いていたフェイトは腕を組んで半眼を洞爺湖仙人に向ける。

 

「一つ聞きたいんだけど、そんな下らない理由でジャンプの主人公が必殺技を体得するってどうなんだろ? 必殺技得るにしても……仲間を守る? みたいな大一番で発現したり覚えようとするものだと思うけど?」

「フェイトちゃんどこ目線で話してるの?」

 

 なのはは編集部みたいな発言をするフェイトの言葉を聞いて汗を流す。すると洞爺湖仙人はニヤリと笑みを浮かべる。

 

「フッ……ならば何も問題ないではないか」

「いや、さっきから聞いてても問題しかないけど?」

 

 と銀時はジト目向けるが、洞爺湖仙人は腕を組んで目を瞑り語る。

 

「必殺技を使って作者を文章構成と言う呪縛から……」

 

 そして洞爺湖仙人はクワっと目を見開いて叫ぶ。

 

「――助けるのだァァァァァァ!!」

「コイツ絶対仙人じゃないよね? 作者の回しもんの二次小説作家だよね?」

 

 銀時は呆れた声を漏らし、なのはとフェイトも完全に自分勝手な仙人に呆れた眼差しを向けるが、洞爺湖仙人は尚も銀時を説得しようと語り掛ける。

 

「今からでも遅くはない。これから先の戦闘を単純化させ、作者のモチベーションを維持する為の必殺技を会得するのだ。このままでは作者のモチベーションはどんどん低下し、下手をすれば次の投稿が一年後なんて展開もあり得てしまう。この年明け特別回の次の回がまた年明け特別回なんて未来もありえてしまう」

「怖いこと言わないで!!」となのは。

「おい、あいつホント黙らせないと次なに喋るか分からねェぞ」

 

 と銀時が呆れた声を漏らし、フェイトが問いかける。

 

「そもそも、必殺技必殺技連呼するけど、一体銀時にどんな必殺技を教えるつもりなの? 半端な必殺技じゃ、高ランクの魔導師には太刀打ちできないのは目に見えてる」

「つうかお前の教える必殺技なんてどうせパクリだろ?」と銀時。「どうせ『全解(ぜんかい)』とか『風戦丸(ふうせんがん)』とかパクリ技なんだろ?」

「フフフ……それなら心配ご無用だ」

 

 得意げに笑みを浮かべて仙人が歩き出すと彼が向かった先には巨大なモニターがあり、機械を操作するためのたくさんボタンが付いている。

 

「いきなりモニターが!」

 

 今まで姿を見せなかったモニターが現れたことになのはは驚き、洞爺湖仙人は今まであまり話に介入してこなかった仁王立ちするマザー仙人に顔を向ける。

 

「マザー仙人。頼むぞ」

「承った」

 

 小さく頷いて低い声を漏らし、マザー仙人は扉を開いてどこかへ向かう。

 

「い、異空間に扉が!?」

 

 また驚きの声を上げるのはなのは。少女にはホントにここがどういった空間なのか分からなくなっていく。

 洞爺湖仙人はパネルを操作し始めるのだった。

 一体仙人は何を? それは次回に続く――。

 

「えッ? これ続くの?」




銀時「結局さ、今回の話の1年くらい投稿が空くって下り、やっぱ現実に――」

なのは「そこを言及するの止めましょう!! 色んな意味で!!」


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2017年明け後編:究極の必殺技

 洞爺湖仙人はパネルを操作しながら説明する。

 

「坂田銀時よ。私は貴様に必殺技を教える今日この日の為に、古今東西の必殺技を持つ者たちを集めた。いわば、これから貴様の師匠となるかもしれん者たちだ」

「はァ!? こんな茶番に付き合ってる連中がいるの!? つうか何勝手に俺の了承も得ないうちに必殺技教える方向で話進めてんだよ!!」

 

 銀時は文句言うが、洞爺湖仙人はパネル操作を続けながら説明する。

 

「無論、私とてお前の意思はできるだけ尊重するつもりだ。だからお前がコレと思った究極の必殺技を選ばせる為に一度、必殺技の会得の為の修行風景をリアルタイムで見せる」

「えッ?」となのはは声を漏らす。「じゃあ、必殺技の師匠を揃えるだけじゃなくて弟子も用意しちゃったんですか?」

「その通りだ」

 

 と洞爺湖仙人は答えた後、モニターの操作パネルを弄っていると映像が映り出す。そこには真選組の制服を着た男が腕を組んで馬に跨っていた。

 

「土方さん!?」

 

 なのはは今自分の仲間となっている男の顔を見てその名を口にし、一方の銀時は怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「おいおい、あのマヨネーズ。一体なにやってんだ?」

「奴は第一の師。伊達仙人の修行を受けている」

 

 洞爺湖仙人の言葉を聞いて銀時は肩眉を上げながら怪訝そうな表情を浮かべる。

 

「伊達仙人? 伊達政宗か?」

「伊達政宗って……あの歴史の偉人ですか!?」

 

 なのはは有名な歴史の人物の名を聞いて驚きの声を上げる。

 

「おいおい、なんでおっちんだ独眼竜が出てくんだよ?」

 

 銀時の言葉を聞いて洞爺湖仙人は鋭い眼差しを向ける。

 

「仙界を甘く見るな。古今東西あらゆる必殺技を持つ者を集めることなど造作もない。それが例え歴史の偉人であってもだ」

「いや、伊達政宗は必殺技なんて持ってねェけど?」

 

 と銀時が指摘すると、フェイトが更に問いかける。

 

「そもそもなんで仙人て呼ぶの? 銀時の師匠になるなら、伊達師匠って呼ぶんじゃないの?」

「仙界では必殺技を伝授させる者を仙人と呼ぶのだ」

「仙人の定義ぶれぶれじゃねェか!!」と銀時はツッコム。「付喪神つったり、仙人でもなんでもねェ歴史の偉人を仙人呼ばわりしたり!」

 

 銀時のツッコミをよそに、洞爺湖仙人はモニターに顔を向ける。

 

「伊達仙人。どうだそっち様子は?」

 

 するとモニターの横から、青い兜と服に身を包み六本の刀を腰に差して右目に眼帯を付けた男が現れる。

 

『Hey、洞爺湖仙人。コイツは中々に良いsenseを持ってるぜ』

「ってBASARAの伊達政宗じゃねェか!!」

 

 と銀時は仰天。

 

「歴史の偉人どこから他作品から師匠連れて来たよコイツ!!」

「では、もう必殺技を会得したのか?」

 

 と洞爺湖仙人が質問を投げかけると伊達政宗――もとい伊達仙人は首を横に振る。

 

『NO。だが、中々の上達ぶりだ』

 

 伊達仙人は眼帯をしてない目で馬に乗った土方を見る。すると土方はカッと目を見開く。

 

『――ヒィアウィゴォォォォォ!! レッツパーリィィィィィ!!』

 

 と土方が叫び、馬が「ヒヒィ~ン!!」と(いなな)き前足を上げる。まさにそのワンシーンはかの欧州筆頭に勝るとも劣らない覇気を放っていた。

 そして洞爺湖仙人は手を上げて叫ぶ。

 

「オッケェェェェェイ!!」

「なんの修行をしてんだァァァァァァ!!」 

 

 銀時がシャウトすると洞爺湖仙人は顔を向けて話す。

 

「キャラを強くする為の修行だ」

「必殺技は!? 必殺技どこにいっちゃんですか!?」

 

 なのはがツッコミ入れると、洞爺湖仙人は腕を組む。

 

「いくらなんでも、キャラが弱い奴が強力な必殺技使うのはバランスが悪いからな。だから師匠たちには自己判断に敢えて任せ、各々の強さとキャラを強くしてもらっているのだ」

「土方さんキャラ弱くありませんよ!? 寧ろ強い方です!!」

「つうかあんなのただの中の人ネタじゃねェか!! 絶対作者がやりたかっただけだよね!?」

 

 銀時がツッコミを入れていると伊達仙人は土方を叱責する。

 

『もっと舌と唇をうまく使え!!  Let's English!!』

『レッツパーリィィィィィ!!』

 

 と土方は馬の上で若干流暢じゃない英語を叫ぶ。その光景を見て銀時は声を荒げる。

 

「これただの英会話の授業じゃねェか!! 全然強くなってるように見えねェんだけど!? 一体おめェらは真選組副長をどこに向かわせようとしてんだ!!」

「あんな凄そうな人をよく呼べたね。これも仙人の力?」

 

 フェイトは腕を組んで訝し気に片眉を上げると、洞爺湖仙人はフッと笑みを浮かべる。

 

「マザー仙人とファザー仙人の――財力(ちから)だ」

「それようはただ出演料払っただけじゃねェか!!」

 

 と銀時がキメ顔作る洞爺湖仙人にツッコミ入れる。

 

「ファザー仙人て……もしかしてお父さんですか?」

 

 なのははマザー仙人と言う名の母だった女性を思い出し、たぶんファザー仙人は彼の父なのではと予想する。

 洞爺湖仙人は銀時にドヤ顔を向ける。

 

「どうだ坂田銀時よ。伊達仙人の修行を受けてみる気になったか?」

「なるワケねェだろ!! なんで俺があんな安っぽい英会話教育受けなきゃならねェんだ!!」

「そうか。伊達仙人がお気に召さないのなら、次は聖剣仙人だ」

 

 洞爺湖仙人はそう言ってパネル盤のボタンを操作して映像を切り替え始める。そして銀時は新たな仙人の名を聞いて肩眉を上げる。

 

「聖剣仙人? なんか今度は凄そうだな」

「あ、もしかしてアーサー王さんですか!」

 

 と言ってなのはは両手をポンと叩いて若干興奮しながら語る。

 

「聖剣と言えばアーサー王のエクスカリバーが有名ですし!」

「それ完全にFateフラグじゃねェか!! BASARAの伊達政宗の次はセイバーかよ!!」

 

 銀時はなのはの予想を聞いて次も他作品キャラであると予想する。

 やがて映像が切り替われば、モニターに映っていたのは腕を組んで目を瞑り立つ近藤勲の姿だった。

 モニターの映像を見てなのはが驚きの声を上げる。

 

「近藤さん!? 近藤さんがエクスカリバーを受け継ぐんですか!!」

「まさかのゴリラ!? 嘘だろおい! セイバーの弟子があのストーカーかよ!!」

 

 と銀時が顔を顰めながら言った直後、近藤はカッと目を見開いて後ろに走り出し空中で一回転、そして緑色の土管の中に頭から入り込む。

 一体何を? と三人はモニターを覗いていると、近藤が土管から這い出てくる――しかも何故か赤いMのトレードマークが付いた帽子を被り、配管工の恰好をして。

 土管から這い出て配管工の姿となった近藤は自身の修行を眺める仙人に顔を向ける。

 

『どうですか? 着替えのタイム、かなり縮まったと思いますけど?』

 

 黒いスーツ姿に赤い帽子を被った仙人は親指を立て、それを見た近藤は嬉しそうに声を上げる。

 

『マジっすか!? ありがとうございます!! 安部まり――!』

「って聖剣じゃなくて政権じゃねェかァァァァァァ!!」

 

 と銀時は食い気味にシャウトし、更にツッコミ入れる。

 

「つうかネタが古ィんだよ!! コレ本当に大丈夫!? 他作品使うより危なくない!?」

「これは一体なんの修行なんですか!? 最早ただのコスプレの技磨いてるだけですよ!!」

 

 なのはの疑問に洞爺湖仙人は答える。

 

「奴には必殺技を身に着けてもらうついでに組織のトップとしての力も身に付けさせている」

「そもそもあのマリオは必殺技持ってねェよ!!」

「後、聖剣仙人てさっきあなた言いましたよね?」

 

 とフェイトが指摘すると洞爺湖仙人はパネルを操作しながら謝罪する。

 

「すまん、ちょっと間違えた。こっちが本当の聖剣仙人のセイバーさんだ」

「しかもFateの方も呼んでるんかい!! つうかセイバーって認めてるし!!」

 

 と銀時がツッコムとモニターの映像が切り替わり、金髪のアホ毛が頭頂部に生えた少女の姿が映り込み、声を荒げる。

 

『まだだ! もっと手を動かすのだ!!』

『おっす!!』

 

 と返事をするのは神楽。彼女は汗を流しながら再度手を動かす。

 

「神楽ちゃん!?」

 

 映像を見て最初に声を上げるのはなのは。

 

「おいおい、神楽に騎士王の必殺技伝授させようとしてんのかよ。あいつは聖剣つうか正拳じゃねェの?」

 

 と銀時が言った直後、修行風景全体の映像が映し出される。

 セイバー――もとい聖剣仙人は、竹刀を床に叩きつけて神楽を叱責する。

 

『もっとチャーハンを口に掻き込めェェェェ!!』

『うォォォォォ!!』

 

 神楽はレンゲを持つ手を更に早めて口に中華ライスを入れていく。

 そしてチャーハンを食べ、椅子に座る神楽の前にある回転テーブルにはありとあらゆる中華料理が置かれていた。

 

「ってただのフードファイターの修行じゃねェか!! セイバーの無駄遣いも甚だしいわ!!」

 

 銀時がツッコムと聖剣仙人は神楽の横に座って言い放つ。

 

『甘い!! そんな食い方ではまだまだだ!! もう見てられん!! 私が手本を見せる!!』

 

 と言って聖剣仙人まで中華料理を食べだす。

 

「お前はただ単に食いたいだけだろッ!!! もう修行でもなんでもねェよ!!」

 

 と銀時がツッコミ入れると、洞爺湖仙人が振り向く。

 

「どうだ坂田銀時。この修行を受けてみたく――」

「なるワケねェだろ!! 胃袋強大にしても強大な敵には勝てねェんだよ!!」

「ウマイ」とフェイト。

「そうか、それは残念だ。では次の仙人だ」

 

 と言って洞爺湖仙人はパネルを操作し出すが、銀時は呆れた声を掛ける。

 

「なァ、もういいだろ? 三つ見せられたけど、ぶっちゃけ碌な修行がねェよ。キャラとしちゃスゲェけど、まったく必殺技を体得できる気がしねェんだけど?」

 

 洞爺湖仙人は銀時の言葉を受けて振り返り「ほほォ?」と言って目を細めると、またパネルに向きに直ってボタンを操作し出す。

 

「ならば次の仙人は凄いぞ。興行収入700億を叩き出した雷仙人だ」

「興行収入700億!?」

「なんで雷の仙人が興行収入700億を出せるんだよ!! 電機会社の社長か!?」

 

 なのはは驚き、銀時はツッコミ入れる。すると映像が切り替わり、突如仙人の声らしきモノが聞こえてくる。

 

『ピッピカピカチュー!』

「雷じゃなくて電気ネズミだろうがァァァ!!」

 

 銀時が大声を上げているうちに修行風景の全体像が映し出されると、ピカチュー――もとい雷仙人の前には定春がお座りをしており、鳴き声を上げる。

 

『ワン!』

「定春くんが弟子なの!?」となのはは驚く。

「つうかもう師匠も弟子も人間すらなくなってんじゃねェか!」

 

 銀時がツッコミ入れる中、雷仙人がまた鳴き声を上げる。

 

『ピカッ! ピカピカ!』

「ワ、ワン!」

 

 と定春は戸惑いどながらまた鳴く。すると雷仙人はより強い鳴き声を出す。

 

『ピカカッ! ピッ! ピカッ!』

『ワン! ワワン!』

 

 すると定春は気合を入れて鳴き声を上げるが、雷仙人は満足していないらしい。

 

『ピかッ! ピカチューッ! ピッ!!』

『ワン!! ワンワン!!』

『ピカピカ!! ピカッピ!!』

『ワン! ワ、ワン!!』

『ピカピカピッカカ!! ピカチュー!!』

『ワォーン! ワンワン!!』

『ピカカ!! ピッカ!!』

「ピカピカワンワンうるせェェェェェ!!」

 

 さすがに我慢できなくなった銀時がシャウトし、モニターに指を突き付ける。

 

「こいつら一体なんの修行をしてんだよ!! アニマル共が喋ってるだけで全然なにやってんだか理解できねェよ!!」

「よし、ならば翻訳機能発動だ」

 

 ポチッと洞爺湖仙人が一つのボタンを押す。

 

『ピカカッ! ピカチュー!!(頑張れ! 君ならできるはずだ!)』

「モニターの下に字幕が!」

 

 なのはが言った通り、雷仙人が鳴き声を上げると同時にモニターの下には字幕が出現する。これで雷仙人と定春がなにを喋っているのか一目瞭然だ。

 定春が弱々しく鳴き声を上げる。

 

『ワゥン……。ワン……。(無理です師匠……。これ以上僕にはできません……)』

『ピカァァァァッ! ピカチュー!!(弱音を吐くなァァァァ!! ピカチューと鳴いてみせろ!!)』

「なんの修行をしてんだテメェらはァァァァァ!! つうか無理難題にもほどがあんだろ!!」

 

 と銀時がシャウトすると雷仙人は定春を鼓舞する。

 

『ピカカ!? ピッピカ!!(君は僕みたいなマスコットになりたくないのか!? 夢の国のネズミを超えるマスコットになるのではなかったのか!!)』

「なれるワケねェだろ!! チョッパーさんだって無理だぞそれは!!」

 

 ツッコミ入れる銀時をよそに映像に映った定春は下顎を地につけて前足で頭を抱える。

 

『ワン! ワゥ~ン……! ワン!(やっぱり無理です! だって僕はポケモンじゃなくて犬なんですから……。ピカチューにはなれません!)』

 

 字幕の文字を見て銀時は仰天する。

 

「ホントになんの修行してんの!? キャラ強化するどころの別キャラになる修行じゃねェか!!」

『ピッカッ! ピカチュー!!(10万ボルトはできたじゃないか!! ならピカチューと鳴くことだってできるはずだ!)』

「10万ボルトはできたんかい!!」

 

 銀時は驚き、洞爺湖仙人はやれやれとため息を吐く。

 

「どうやら、こちらの修行はまだまだ難航しそうだな……」

「どこが!? 寧ろ必殺技体得できてんじゃねェか!!」

 

 ツッコム銀時に構わず、洞爺湖仙人はボタンを操作し出す。

 

「では、次は必殺技の成功例がいないかマザー仙人に聞いてみよう」

「いや、さっきの定春とピカチューペアはもろ成功例だぞ!! 定春の10万ボルト見せろよ!!」

 

 銀時の言葉は聞こえてないのか、洞爺湖仙人は映像を切り替える。するとさっきこの空間をドアから出て行ったマザー仙人がモニターに映る。

 

「マザー仙人よ。今、必殺技を体得できた者はおるか?」

『あァ。私は四人確認した。ファザー仙人が担当している者も既に必殺技を体得しているらしい』

「なんと! この短期間で計五人も必殺技の体得者か!」

「後、一匹もね」

 

 驚きの声を上げる洞爺湖戦の傍ら銀時はサラリと言葉を付け足す。

 

「さっきから時折聞く、ファザー仙人て?」

 

 フェイトの質問を聞いた洞爺湖仙人は振り向いて得意げな笑みを浮かべる。

 

「ファザー仙人とは、マザー仙人と対となる存在。彼女の相棒的な存在だなのだ。とってもえら~いお人だから言動には気をつけよ」

「ようは夫だよね? 棒的な意味での相棒だよね? つまりお前のお父さんだよね?」と銀時。

「お父さんじゃない! ファザー仙人だ!!」

 

 と洞爺湖仙人は苦しい訂正をすると、銀時は訝し気に質問する。

 

「つうか、お前のご両親は一体なにやってんだよ?」

「ご両親じゃない!! 二人は仙人のトップに立つビック仙人なの!!」

 

 なおも指摘されたことを認めない洞爺湖仙人はゴホンと咳ばらいをし、真剣な表情を告げる。

 

「マザー仙人とファザー仙人のお二人には、今回の修行の統括者として監視役をお任せしている」

「お前のご両親も大変だな。いいお歳なのに息子の我儘に付き合って」と銀時。

「うるさい!! とにかくお前たちに必殺技体得者たちの映像を見せてやるからちょっと待ってろ!!」

 

 洞爺湖仙人は切れ気味に吐き捨てて、再びモニターに顔を向けると低い声を出す。

 

「マザー仙人よ。まずはあなたが担当している必殺技体得者たちと師匠たちのデータを送ってくれ」

『了解した。そちらにデータを送る』

 

 するとマザー仙人もモニターの向こうで手を動かしているところを見ると、洞爺湖仙人と同じようにボタンを操作しているのだろう。

 

「ほほォ、この者達か……」

 

 洞爺湖仙人はパネルの操作盤に設置されている小さなモニターを見て目を細める。そしてパネルを操作しながら銀時たちに顔を向ける。

 

「ではまずは、忍者仙人の様子をお見せしよう」

「忍者仙人?」とフェイトは首を傾げる。

「忍者さんを見れるんですか!」

 

 となのはは少し興奮したように両手を合わせるが、銀時はなんだか嫌な予感を覚え始めていた。

 モニターの映像が切り替わり、忍者仙人とその弟子が修行しているであろう場所の映像が映し出される。

 

「忍者仙人よ。そちらの様子はどうだ」

 

 するとうずまきの模様が彫られた額当を頭に巻き、オレンジと黒が基調のジャージのような服を着た青年が腰に左手を当て、右手を上げて合わせた二本の指をビシッと振る。

 

『よォ、洞爺湖仙人。ちょうどこっちは山崎の奴に分身の術をやらせる最中だってばよ」

「やっぱりナルトかい!!」

 

 銀時はやっぱり嫌な予感が的中して声を上げ、山崎の名を聞いてなのははまた驚きの表情を浮かべる。

 

「って言うか今度は山崎さんですか!?」

「つうか、あんな新八並みに地味な奴になに超使える技教えてんだよ!!」

 

 ちょっと酷いこと言う銀時をよそに洞爺湖仙人は忍者仙人と話を続ける。

 

「では、忍者仙人よ。お主の弟子の影分身を見せてはもらぬか?」

『いや、それがよォ……』

 

 忍者仙人は申し訳なさそうに頭を掻いて後ろに目を向ける。

 そこには三人に増えた山崎の姿があった。しかもなんか山崎本体と分身山崎はそれぞれ、桃太郎と浦島太郎と金太郎の恰好をしている。

 

『なんか山崎の奴、影分子つうか分裂しちゃったんけど……やっぱダメか?』

「ナルトじゃなくてドラゴンボールになってんじゃねェか!! 天津飯か!!」

 

 銀時がツッコミ入れ、なのはが山崎の恰好を見て汗を流す。

 

「って言うか、山崎さんの恰好変じゃないですか!? なんでおとぎ話の人たち恰好をしているんですか!?」

「つうか三太郎じゃねェか!!」と銀時「A〇だよな!? 絶対〇Uだよな!?」

「忍者仙人よ、なぜ弟子にそのような恰好をさせたのだ?」

 

 洞爺湖仙人の質問を聞いて忍者仙人は困ったように頭を掻く。

 

『いや……技教えるついでにキャラを強くしてくれって言われてもコイツちょっと地味過ぎて悩んだ結果……三太郎つうかザキ太郎にしてみたんだけど』

「ザキ太郎!? って言うか言い方がちょっと酷くありませんか!?」

 

 なのはは忍者仙人のあんまりな言い草にちょっと悲しそうな表情を浮かべ、洞爺湖仙人は眉間に皺を寄せる。

 

「すまぬが、私は携帯会社のCMはともかく三太郎についてはあまり詳しくなくてな……」

『じゃあ、やっぱ失敗か?』

 

 忍者仙人は残念そうに告げると洞爺湖仙人は腕を組む。

 

「できたものは影分身でもないし、キャラも強くなったとは言い難いしな。残念だが、お主の修行は今のところ失敗と言う他あるまい」

「なんでだ!!」と銀時は怒鳴る。「寧ろ成功も良いとこだろ!! 影分身じゃなくても十分凄い技会得してんじゃねェか!! どんだけ影分身覚えさせてェんだよ!!」

「キャラも十分強いと思いますよ!!」となのは。

「次の仙人に行こう」

 

 銀時となのはの言葉をまたもスルーして洞爺湖仙人はモニターの映像を切り替える。

 

「次の仙人は、プリキュア仙人だ」

「少しは名前捻れよ!! 映像見る前から丸わかりじゃねェか!!」

 

 銀時はツッコミ入れるが、なのはは嬉しそうに両手を合わせる。

 

「えッ! プリキュアさんに会えるんですか!」

 

 絶賛9歳の現役小学生のなのはとしてはプリキュアに映像越しとは言え会えるのは嬉しいらしい。

 

「ぷりきゅあ?」

 

 しかし、一方のなのはと同い年くらいのフェイトはプリキュアを知らないようで首を傾げる。

 すると映像が切り替わり、長い金髪の少女が現れる。彼女はピンクを基調としたフリルとリボンに飾られたふんわりした衣装を着こなしている。

 なのはは「あれ?」と首を傾げる。

 

「私の知らないプリキュアさんなの」

 

 不思議そうに自分を見るなのはに対してプリキュア仙人は笑顔で手を振る。

 

『どうも、なのはちゃん。キュアミラクルです!』

「キュアミラクルじゃない!! プリキュア仙人だ!!」

 

 と洞爺湖仙人は慌てて声を出すとキュアミラクル――もといプリキュア仙人はしまったと口に手を当てて頭を下げる。

 

『ご、ごめんさない! プリキュア仙人でした!』

「いや、別に謝る必要ないからね? 頑なにこのクソ仙人に付き合う必要ないからね?」

 

 律儀なプリキュア仙人に銀時はちょっと関心してしまう。すると今度はモニターの横から紫色の髪の少女が出てくる。

 

「あッ! また知らないプリキュアさんだ!」

 

 紫を基調とした衣装を身に纏ったプリキュア仙人を見てなのはは驚きの声を出し、もう一人のプリキュア仙人は少し笑みを浮かべて手を振る。

 

『私はキュアマジカルって言うの。よろしく』

「おい、プリキュア仙人何人いんだよ? アイツなに仙人なんだよ?」

 

 銀時の言葉を聞いてもう一人のプリキュア仙人はうんうんと腕を組んで頷く。

 

『ホントよ。なんて名乗れば良いのか私、あなたのお母さんから聞いてないんだけど?』

 

 話を聞いた洞爺湖仙人は頭抱えて焦る。

 

「お母さん! ちゃんとプリキュア二人呼ぶなら呼ぶって言っといてくれよ!! 元々こっちは一人だと思ってたのに!!」

「おい、もうなんだよこれ。ぐだぐだ過ぎんだろ。仙人設定ホントにいんの?」

「よ、よし!! ならばお前は今からプリキュア仙人二号だ!」

 

 洞爺湖仙人はビシッともう一人のキャアマジカル――もといプリキュア仙人二号に指を突き付ける。

 

「テキトーにもほどがあんだろ!! ちょっとは名前捻れよ!!」

 

 銀時がツッコミ入れると、プリキュア仙人二号はすんごく嫌そうな顔をする。

 

『えェー……ホントにそう名乗るの? 果てしなく嫌なんだけど?』

「いやホントだよ!」と銀時も同意する。「他の連中にも言えたことだけど、なんでお前らこのアホにここまで付き合ってんの!? そんなにお金欲しいの!?」

『い、いや……別に私もミラクルもお金が欲しくて師匠とかになったワケじゃないのよ?』

 

 プリキュア仙人二号が困ったように両手を出すと銀時は怪訝な表情を浮かべる。

 

「えッ? じゃあなんの為にこの髭に付き合ってんの!?」

 

 すると洞爺湖仙人がある物を両手に持って取り出す。

 

「言う事を聞かねば、このクマの人形がどうなるか分からんぞォ!」

「みらい! リコ!!」

 

 とクマのぬいぐるみが不安そうなそうな表情で声を上げる。

 

『『モフルン!!』』

 

 プリキュア仙人の二人は画面に張り付き、心配そうにクマのぬいぐるみ――モフルンを声を掛ける。

 

「フハハハ! 早く師匠として弟子に必殺技を伝授しなければ……」

 

 と洞爺湖仙人は邪悪な笑いを浮かべた後、クワっと表情を変化させて言い放つ。

 

「――このクマの人形から綿を全部抜いてやるぞォーッ!!」 

『『止めてェェェェ!!』』

 

 プリキュア仙人の二人は必死な声を出し、

 

「いやお前もう仙人じゃなくてただの悪党じゃねェか!!」

 

 銀時はプリキュアの悪党組でもそうそうしない手段を取る仙人にドン引きする。すると洞爺湖仙人は銀時に顔を向ける。

 

「しょうがないだろ!! 一回アプローチした時、『いくらなんでもちょっと……』とか言ってお金や物で動いてくれなかったんだから!! こうやってこんなクマの人形なんぞを誘拐する羽目になったんだぞ!!」

「当たり前だろ!! むしろこんな馬鹿馬鹿しいことにあれだけのキャストを総動員させられた方がすげェよ!! つうか一回断られたなら諦めろよ!!」

「とにかくプリキュア仙人たちよ!! 我々に成果を見せて貰おう!!」

 

 と言って洞爺湖仙人は血走った目でモフルンをずいっとモニターに近づける。

 

「でないとこのクマがどうなうなるか――!」

『分かった! 分かったから!!』

 

 プリキュア仙人は両手を出し、プリキュア仙人二号は洞爺湖仙人を睨み付けながら言い放つ。

 

『でもコレが終わったらちゃんとモフルンは返して貰うわよ!!』

 

 すると銀時はなのはとフェイトに耳打ちする。

 

「おい、俺たちでアイツぶっ飛ばさねェか? これ以上変なことする前に」

「そうですね」

「うん……」

 

 なのはは待機状態のレイジングハートを握り絞めバリアジェケット姿となり、バリアジェケット姿のままだったフェイトも戦斧状態のバルディッシュを握りる手に力を込める。

 そして銀時は木刀を抜き、なのははレイジングハートを構え、フェイトはバルディッシュを構え、三人が洞爺湖仙人におしおきしようとにじり寄ったその時。

 

「では、お前たちの弟子の成果を見せてもらおう」

 

 洞爺湖仙人の言葉を聞いてプリキュア仙人二人はすんごい顔を顰め、お互いの顔を見つめ合った後、渋々と言った顔で、

 

『『ど、どうぞご覧ください……』』

 

 モニターの端まで下がる。すると画面の少し奥にはとんがり帽子に黒いローブを着た二人組が手に孫の手を持っている。その顔は帽子の大きなふちによって隠れている。

 やがて二人組は手に持った孫の手で帽子のふちを押し上げ、顔を覗かせる。

 

『さァ、出番だよキャサリン』

『ハァイ、オ登勢サン』

 

 皺だらけのババアと堀の深い老け顔の女が顔を見せて怪しく笑う。

 

「「「えッ?」」」

 

 洞爺湖仙人に攻撃する直前でモニターの映像を見た三人の表情が固まる。

 その間にお登勢とキャサリンはお互いの手を握り、

 

『『キャア! タマタマ!』』

 

 握り合っていない方の手を天高く上げる。

 すると突如としてジャスタウェイが現れ、

 

『『ゴールド!』』

 

 その胸の中心に金の玉がはめ込まれる。そして二人はジャスタウェイとお互いの手を握り、空中でくるくる回りながら呪文を唱える。

 

『『ミラクルタマクル! カネヨコセ!!』』

 

 二人の衣装が徐々に変化していく。

 お登勢は髪が黒から金髪となり、髪が伸びるだけは飽き足らず髪型も変化し、服装はピンクを基調としたフリルとリボンに飾られたふんわりした衣装――簡単に言えばキュアミラクルと同じ髪と服装になる。

 そしてキャサリンの髪も紫に変化して髪型も変わり、服も紫を基調とした衣装へと変化する――ぶっちゃけこっちもキャアマジカルまんまである。

 変身し、地面に降り立つ二人。

 お登勢が人差し指を振り、

 

『二人で――!』

『――家賃回収ゥ!』

 

 続いてキャサリンも人差し指を振る。

 そして二人はまた手を握り、手を合わせてハートマークを作る。

 

『『痴呆じゃねェよ! タマキュア!』』

 

 そして背中合わせにポーズを取る『痴呆じゃねェよタマキュア』。

 

「「「「「オ”ェェェェェェェ!!」」」」」

『『オ"ェェェェェェェ!!』』

 

 銀時、なのは、フェイト、洞爺湖仙人だけでは飽き足らず、モフルンも本家のプリキュアお二人も凄まじい嘔吐感に苦しむ。

※七人が口から出た物は皆さまのご想像にお任せします。

 

「な”ん"な"の"あ”の”お”ぞま”じい”プリ”ギュア"は"ァァァ……!!」

 

 なのはは涙と涎を垂れ流しながらモニターに映ったタマキュアの二人を見ると、

 

『『うふ♪』』

 

 タマキュアの二人はウィンク――バタっとなのはは地面に倒れ伏す。

 高町なのは撃沈!

 

「お"ィィィ……!! 仙人テメェェェ……!!」

 

 銀時は凄まじい嘔吐感に襲われながら洞爺湖仙人を睨み付ける。

 

「アレはなんだァァァ……!! どう言う必殺技なのか説明しろォォォ……!!」

 

 洞爺湖仙人は両手両膝を付いて息も絶え絶えになりながら銀時に顔を向ける。

 

「あ、アレは……敵と味方だけではない……果ては作品そのものを……終わらせる最凶の必殺技なのだァァァ……!! オェ”!」

 

 そう言って洞爺湖仙人は口からまた何かを吐き出す。

 

「銀時……私……疲れちゃったよ……」

 

 地に伏したフェイトは力の籠ってない瞳で声を出す。

 

「おい、しっかりしろォ……!」

 

 銀時ははいずりながらフェイトを介抱しに向かう。

 

『ね、ねェ……マジカル……』

 

 モニターの向こうでは、両手両膝を付いたプリキュア仙人が口から涎を垂らして息も絶え絶えに、生気の籠ってない瞳で告げる。

 

『ワクワクしないことも……世の中にはあるんだね……』

 

 プリキュア仙人二号は自嘲気味に笑みを浮かべる。

 

『フッ…………そうね』

 

 そしてバタリ、とプリキュア仙人二人は地に倒れ伏すのだった。

 

 

 

「――さて……次の仙人と必殺技の紹介に移ろう」

 

 やっとタマキュアショックから立ち直った洞爺湖仙人と銀時たち三人。

 反省の色のない洞爺湖仙人に銀時が青筋浮かべて憤慨する

 

「つうかふざけんな!! 新年早々おぞましいモノを見せやがって!!」

「プリキュアさんたちは大丈夫なんですか!?」

 

 心配そうになのはが言うと、洞爺湖仙人は変然とした顔で告げる。

 

「まァ、大丈夫であろう。クマの人形もさっきプリキュア仙人たちの様子を見に行ったし」

 

 モフルンさんは解放されてプリキュア仙人二人のところに急いで向かいました。

 洞爺湖仙人は操作パネルのボタンを操作し出す。

 

「次の仙人は聞いて驚け! ライダー仙人だ!」

「次はライダーかよ! ニチ〇サタイムに突入か!! どうせ魔法の次はエグゼイドとかなんだろ!」

 

 銀時が捲し立てるように言った後、モニターが切り替わり、バッタの姿を模した改造人間がモニターに映る。

 

『こちら仮面ライダーあらためライダー仙人だ』

「クソッ! 初代だったか!」と銀時は右手を振る。

「いや、なんで悔しそうなんですか?」

 

 なんか銀時が人当てゲーム的なことを始めているのでななのはは汗を流す。

 洞爺湖仙人はライダー仙人に質問を投げかける。

 

「ライダー仙人。あなたにお弟子として預けた志村新八がライダーキックを会得できたとマザー仙人から聞いたのだが?」

「今度はぱっつぁんかよ!!」と銀時。「なんで地味キャラがことごとくすげェ技覚えてんの!?」

「銀時さんは山崎さんと新八さんに恨みでもあるんですか!?」

 

 地味キャラ二人に対してちょっと意地悪な発言する銀時になのはは悲痛な声を上げる。

 洞爺湖仙人の質問を聞いたライダー仙人の表情は仮面で伺えないが、少し困ったような声を出す。

 

『いや、ちょっと問題があってな……』

「っと、言うと?」

 

 洞爺湖仙人の質問を聞いてライダー仙人は言いづらそうに答える。

 

『実は、彼にライダーキックを覚えさせたまではよかったのだが……ライダーキックを放ったと同時に右足が複雑骨折してしまってな……』

「「ゑッ……?」」

 

 まさかの情報に銀時となのはは口をポカーンと開け、洞爺湖仙人は腕を組んで険しい表情を作る。

 

「やはり……ライダーキックはライダーにしかできぬか……」

「じゃねェだろォォォォ!!」と銀時はシャウト。「うちの従業員の足が使いモンならなくなったらどうしてくれんだテメェら!!」

「し、新八さんは大丈夫なんですか!?」

 

 なのはの声を聞いてライダー仙人は腕を組みながら力強く頷く。

 

『安心しろ少女よ。こんなこともあろうかと……』

 

 ライダー仙人が赤い瞳を後ろに向けると、そこには手術台に手足を拘束されて貼り付けにされた新八がいた。

 ライダー仙人はグッと親指を立てる。

 

『――これから彼を改造手術して正真正銘の改造人間にするつもりだ。これでもうライダーキックで足を怪我することもない』

 

 その光景に唖然とする銀時となのはをよそに顔面蒼白にさせいた新八が銀時たちの姿に気づく。

 

『ぎ、銀さァァァァん!! な、なのはちゃァァァァァん!! たすけ――!!』

 

 プツン、と映像が切り替わり、洞爺湖仙人はボタンを操作しながら告げる。

 

「必殺技を見れなかったのは残念だが、概ね順調そうだ」

「「どこがァァァァァァァ!?」」

 

 と銀時となのははシャウトし、二人は捲し立てる。

 

「ちょっと待てェェェェ!! アレあのままにしたらマズイ!! ぱっつぁんが完全に別のナニカなって帰って来るぞ!!」

「新八さんを開放してあげて!!」

 

 銀時となのはの言葉を聞いた洞爺湖仙人は後ろを振り返り、真剣な表情で告げる。

 

「よいか。強い必殺技とは艱難辛苦を乗り越え、初めて手にできるものなのだ。求める必殺技の力が大きければ大きいほど、犠牲にするモノも大きくなるのだ」

「思いっきり新八さん助けを求めてましたよね!? 必殺技を求めていませんでしたよね!?」

 

 なのははツッコミ入れるが、洞爺湖仙人は無視してボタンを操作して次の映像へと移り変わる。

 すんごい不安そうに新八の安否を心配するなのはの肩にフェイトが肩を置いて告げる。

 

「今度から彼のことは仮面ライダーエイトと呼んであげよう」

「フェイトちゃんホントにどこに向かおうとしてるの!?」

 

 自分の知っているキャラからどんどん遠ざかっているフェイトになのはは汗を流す。そして映像が切り替わり、洞爺湖仙人が新たな仙人の名を告げる。

 

「さァ、次の仙人はロボ仙人だ」

「ロボ仙人? ガンダムとかスーパーロボットとかか? まァ、もう何が来ても驚かねェけど」

 

 もう流れ作業をするかの如く、銀時は切り替わるモニターを眺める。すると、映像が切り替わり、頭も胴どころか手と手の先も丸く、色が青い人が登場する。

 

『こんにちは。ぼくドラえもんです』

「あァ……そっちのロボね……」

 

 銀時は疲れたような眼差しで青い猫型ロボットを見る。

 

「ドラえもんじゃない!! ロボ仙人でしょ!!」

 

 洞爺湖仙人が訂正するとドラえもん――もといロボ仙人は丸く白い手を使って頭を掻いて謝る。

 

『あァ~、ごめんごめん。こんにちは、ぼくロボ仙人です』

「銀時さん! 凄いですよ! ドラえもんですよ!」

 

 なのはは興奮したように銀時の袖を引っ張るが銀時は「あァー、そうだね。凄いね」と力の籠らない返事を返した後、洞爺湖仙人に向けて気だるげな眼差しを向ける。

 

「つうかよォ、ドラえもんには必殺技はねェだろ。秘密道具はあるけど」

「ドラえもんではなくロボ仙人だ。まァ、そう急くな。すぐに分かる」

 

 洞爺湖仙人が腕を組んで言った時、

 

『助けてェ~!! ロボ仙に~ん!!』

 

 とおっさんの声のようなダミ声、もといおっさんのダミ声が聞こえてきたかと思うと、横からグラさんかけたおっさん――つまり長谷川泰三が現れ、ロボ仙人に抱き着く。

 

「のび太よりもダメな大人(マダオ)が現れやがった!!」

 

 銀時は現れたのび太よりもマジでダメな大人の登場に声を上げ、長谷川に抱き着かれたロボ仙人は彼の頭を撫でながら困ったような笑みを浮かべる。

 

『も~、はせ太くんは本当に〝マジで脱糞(だっぷん)よりもダメなおっさん〟、略してマダオだな~』

「ドラえもんめちゃくちゃ辛辣なんだけど!?」銀時は汗を流す。「原作でも言ったことないくらいキツイ言葉を笑顔で吐いてんだけど!?」

『それで? 一体なにがあったんだい?』

 

 ニコリとロボ仙人は笑顔で問いかけると長谷川は顔をバッと離して涙を流しながら話す。

 

『聞いてくれよロボ仙人! 就活うまくいかねェし、家ねェし、金ねェし、毎日公園のベンチで段ボールを布団にして寝てるし、誰も金貸してくれねェし、世の中みんな意地悪しだし、もうこんな生活嫌なんだァ~……!!』

 

 そう言って長谷川はまたわんわん泣いて涙を流しながらロボ仙人に抱き着く。猫型ロボットはその丸い手を使ってよしよしとはせ太くんの頭を撫でる。

 長谷川の生活の有様を聞いてなのはとフェイトは口を手で覆って瞳を潤ませる。

 

「「か、悲しすぎる……!」」

 

 あまりに惨い生活を送る長谷川に二人は同情を禁じえなかったようだが、

 

「いや、そもそも必殺技はどうした!?」 

 

 銀時だけはツッコミ入れ、洞爺湖仙人に顔を向けながらモニターに指を突き付ける。

 

「あいつらに至っては修行じゃなくてただの安っぽい三文芝居じゃねェか!! 必殺技のひの字も出てこねェぞおい!!」

「なにを言っている。既に必殺技は発動しているのだぞ」

 

 洞爺湖仙人の言葉を聞いて銀時は「あん?」と眉を顰め、洞爺湖はモニターに映る長谷川とロボ仙人にビシッと指を突き付ける。

 

「アレこそ必殺――『助けて~! ドラえも~ん!』なのだ!」

「それのどこが必殺技だ!! つうかロボ仙人呼びじゃなくなってんじゃねェか!!」

「まァ、見ていろ。ここからがこの必殺技の本領発揮だ」

 

 腕を組んでモニターを一瞥する洞爺湖仙人に言葉を聞いて銀時は訝し気に肩眉を上げ、モニターに目を向ける。

 

『もうこんな世の中いやだッ!!』と長谷川は吐き捨てる。『ロボ仙人!! こんな糞みてェな世界をぶっ壊す道具を出して!!』

「なにサラッと超病んだブラックな発言してんの!? この超絶ダメのび太!!」

『任せて!!』

 

 とロボ仙人は胸をポンと叩いてお腹にくっ付けたポケットからテテテテッテテーン!! と言う音と共にある道具を取り出す。

 

『地球破壊爆だ~ん!』

「ぎゃァァァァ!? なにとんでもねェ秘密兵器取り出してんだ!!」

「止めてェェェェ!! 私たちの世界を壊さないでェェェェ!!」

 

 銀時となのははロボ仙人の出した巨大なミサイルのような物を見て顔を真っ青にさせるが、洞爺湖仙人は得意げに語り出す。

 

「みたかッ!! これが必殺技――『助けて~! ドラえも~ん!』の威力よ!!」

「言ってる場合か!! つうかただの他力本願じゃねェか!!」

 

 銀時はツッコミ入れ、なのはは「あわわわわ!」とあたふたする。

 

「あの大きさの爆弾で星を壊せるの?」

 

 とフェイトだけは腕を組んで小首を傾げながら冷静な分析をする。

 

『やったァ~! これで嫌なこと全部消し飛ばせるぞ~!』

 

 長谷川はロボ仙人の出した道具を見て両手を上げて万歳し、その姿を見たなのははドン引きする。

 

「朗らかな声ですんごく怖い発言してるよあのサングラスの人!!」

「抱えてる闇デカすぎんだろ!! 生粋のサイコパスじゃねェか!!」

 

 さすがの銀時も顔面蒼白にさせている。

 このままでは地球滅亡してしまう事態に銀時となのははあたふたするが、相手が画面の向こう側ではどうすることもできない。

 そしてロボ仙人は『地球破壊爆弾』を持つ両手を振りかぶる。

 

『さァ~、これで君の悩みは全て解決だ!』

「ちょっと待てドラえもん!! さすがにそこまでやれと言ってない!!」

 

 顔を青くした洞爺湖仙人が慌てて止めようとし、フェイトは「あ、ドラえもんって言った……」と呟く。

 洞爺湖仙人の制止など聞かず、ロボ仙人の腕は止まることはなかった。

 

『いっくよォ~!』

「「ちょっと待て(待って)ェェェェェェ!!」」

 

 銀時となのはは手を出して叫んだその時、横から放たれた火炎放射によってドラえもんと長谷川の姿は爆弾を残して消え去る。

 

「「「ッ!?」」」

 

 まさかの展開に驚く洞爺湖仙人と銀時となのはだが、すぐに爆弾が支え失い地面に落ちようとしていることに気づく。

 

「「「あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”あ”!!」」」

 

 もうダメだ!! と思った三人は叫び声を上げながら頭を抱える。

 だが、その瞬間だった――。

 画面の端から手が伸び、掌の先からブラックホールのような暗黒空間を作ったと思ったら、凄まじい吸引力で地球破壊爆弾を吸い込んでしまったのだ。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 驚く洞爺湖仙人、銀時、なのは、フェイトをよそに、謎の手は掌を握ってブラックホールを消し去る。そして手の主であろう人物の声が画面外から聞こえてくる。

 

『もォ~、ダメですよ長谷川さん、ドラちゃん。地球を壊したりなんてしたら』

「……えッ?」

 

 銀時だけがモニターから聞こえてくる朗らかな声に反応して声を漏らす。そして画面の横からゆっくりと歩いて来る人物が一人。

 その人物はTと言う文字がトレードマークの赤い帽子を被り、赤いシャツの上に青いオーバーオールを着た女性が画面の外より現れる。

 

「だ、誰……!?」

 

 なのはは見覚えない人物に困惑の表情を示すが、銀時には現れた女性が誰であるのかすぐに分かった。

 

「お、お前は――志村妙!!」

「志村妙って……新八さんのお姉さんですか!!」

 

 なのはは現れた人物の名を聞いて驚きの表情を浮かべ、銀時は洞爺湖仙人の胸倉を掴んでお妙に指を突き付ける。

 

「おい! なんだアレ!! お妙に一体どんな修行を付けやがったんだ!? さっきの一場面みただけでも戦闘力がおかしなことになってんぞ!!」

「し、知らん!! 私もあやつに師匠が付いて必殺技を体得しているなど聞いてない!!」

 

 洞爺湖仙人は腕をぶんぶん振って否定していると、モニターから別の声が聞こえてくる。

 

『いや~、洞爺湖~。危ないとこだったな~』

 

 すると現れるのはセンターがハゲ、頭にネクタイを巻いたスーツ姿の男だった。しかも男は若干酔っているのか、顔がほんのり赤い。

 モニターに映った男の姿を見て洞爺湖は驚きの表情を浮かべる。

 

「おと……ファザー仙人!!」

「お父さんだろ! アレお前のお父さんなんだろ!」と銀時。

「つまり、あなたが志村妙って人に必殺技を伝授してあそこまで強くしたってこと?」

 

 フェイトがファザー仙人に質問すると洞爺湖仙人の父は軽い口調で答える。

 

『いや~、俺はただの監視だよ~。あのキャバ嬢に必殺技を教えたのは~、この人たち~』

 

 モニターの映像が動き、一人の人物が映り込む。

 

『どうも、M仙人です』

 

 お妙と同じ格好をした髭を生やした配管工が右手を上げてあいさつする。

 

「マリオじゃねェか!! 妙の恰好でうっすら予想はしてたけども!!」

 

 するとマリオ――もといM仙人は何かを持ち上げて、モニターに移り込むようにする。それはピンクの丸い生物であり、謎の生物は小さな手を上げる。

 

『ポヨ!』

『こっちはピンク仙人です』とM仙人。

「カービィじゃねェか!」

 

 銀時は現れた仙人二人の本名をズバリ言い当て、なのはとフェイトはカービィを見て「かわいい……」と言いながら頬を誇ろばせる。

 一方、洞爺湖仙人はすかさず声を上げる。

 

「おと……ファザー仙人! 一人の者に師匠が二人付くなど私は聞いていないぞ!!」

『いやね、師匠を雇ったまではよかったんだけど~、この二人がちょっと余っちゃったからさ、俺のお気に入りのキャバ嬢の師匠にしちゃおうかな~って思って』

「なるほど、理由は分かった」

 

 洞爺湖仙人は腕を組んでうんうんと頷く一方で銀時はツッコミ入れる。

 

「いや、わかんねェよ!! なんでマリオとカービィから修行受けたらただのキャバ嬢が手から豪炎出したり、ブラックホール生み出せたりするんだよ!!」

「そこのところどうなのだ? ファザー仙人」

 

 洞爺湖仙人が聞くとファザー仙人は軽い口調で答える。

 

『いやさ~、なんかこのキャバ嬢飲み込みが早くて~……』

 

 チラリとファザー仙人がお妙に視線を向ける。

 

『お妙さァァァァァん!! あなたも修行を受けていたんですねェェェェ!!』

 

 すると突如としてゴリラマリオが登場し、お妙に向かって行く。その光景を見て銀時は頬を引き攣らせる。

 

「げッ! ゴリラ!」

「近藤さん!!」

 

 なのはが近藤の名を呼んだ直後、

 

『イヤッフゥゥゥゥ!!』

 

 とお妙は右手から全てを消し炭にせんほどの豪炎を近藤に向かって放ち、

 

『しかもペアルックなんて俺とあなたはやはり運命の赤い帽子で――!!』

 

 喋るゴリラマリオはGと書かれたトレードマークの帽子だけ残して跡形もなく消滅し、残った帽子も妙が左手から出現させた全てを飲み込むブラックホールへと吸い込まれていった。

 ファザー仙人は頭を掻きながら話す。

 

『スーパーサイヤ人くらい強くなっちゃったんだけど大丈夫かな?』

「なんでだァァァァァァ!?」

「近藤さんが消し炭になったァァァァァァ!?」

 

 銀時となのはがシャウトし、

 

「なるほど。右手で炎を左手で吸い込む力を使えるのか……」

 

 フェイトは冷静に分析する。すると映像が突如として切り替わり、マザー仙人の顔が映る。

 

『た、大変よ洞くん!!』

「ど、どうした!? おか、マザー仙人!!」

 

 洞爺湖仙人は母からの切羽詰まった声を聞いて汗を流し、マザー仙人は顔に焦りの色を浮かべて説明する。

 

『仙人戦争が勃発してしまったわ!!』

「せ、仙人戦争だとォォォォ!!」

「仙人戦争?」

 

 フェイトは首を傾げ、洞爺湖仙人は振り向いて説明する。

 

「仙人戦争とは、仙人同士の意見の食い違いや不一致から起こる仙人同士での戦いのことだ!!」

「それようはただの喧嘩だろ!! 聖杯戦争みたく言うな!!」

 

 銀時のツッコミを背に受けながら洞爺湖仙人はモニターに顔を向ける。

 

「マザー仙人よ!! 一体誰と誰が仙人戦争を!?」

『伊達仙人と聖剣仙人よ!』

「伊達政宗とセイバーが喧嘩してんのか!?」

 

 汗を流す銀時をよそに洞爺湖仙人はボタンを弄って映像を切り替える。

 すると聖剣仙人と伊達仙人が腕を組んで睨み合っている場面が映し出され、その光景を見て銀時は訝し気に目を細める。

 

「おい……あの二人なに喧嘩してんだ?」

「伊達仙人! 聖剣仙人! お前たちは何をしておるのだ!」

 

 洞爺湖仙人が声を掛けるが睨み合う両者の耳にはまったく届いてないようだ。

 伊達仙人が口元を吊り上げる。

 

『あんた確かセイバーだったか? 実物がこんなsmallなGirlとは思わなかったぜ』

「セイバーじゃなくて聖剣仙人ね!」と洞爺湖仙人。

『貴様は確か、伊達政宗だったか?』聖剣仙人は目を細める。『まぁ、私にはさして重要なことではいが』

「伊達政宗じゃなくて伊達仙人ね!」

 

 洞爺湖仙人がいちいち訂正する中、銀時はモニターの様子を見て口を開く。

 

「おいおい、なんかプチ聖杯戦争が始まりかけてんじゃねェか。喧嘩の原因はなんだ?」

 

 聖剣仙人はビシッと伊達仙人に指を突き付け、涎を垂らしながら吠える。

 

『貴様の弟子のマヨネーズと部下が持っている立派な野菜を私に寄越せェェェ!!』

「お前騎士王じゃなくてただの盗賊じゃねェか!」

 

 と銀時がツッコミ入れてると彼女の弟子の神楽も涎を垂らしながら横に立つ。

 

『そうアル!! 野菜にとってマヨネーズは最高の相棒ネ!! 私も師匠も腹ペコなんだヨ!! とっとあるだけの野菜もマヨネーズも全部寄越すヨロシ!!』

 

 すると伊達仙人の横に土方が並んで異を唱える。

 

『俺のマヨネーズはテメェらの胃袋を満たす為にあるんじゃねェよ。とっと帰りなファッキュー』

 

 土方が親指を下に向ける。

 

「つうかおめェはそのエセ英語止めろ!! 聞いててイラっとくるんだよ!!」

 

 銀時は怒鳴り声を上げると、聖剣仙人はエクスカリバーを出現させる。

 

『よかろう。ならば我が剣の錆にしてくれる。続け! 神楽!』

『うっす! 師匠!』

 

 神楽も手の平に拳をバシ! と叩きつけて気合を入れる。

 するとどこからともなくプリキュア仙人が現れ聖剣仙人を宥めようとし、更にプリキュア仙人二号も現れて神楽を止めようとする。

 

『まぁ、まぁ、落ち着いてください』

『そうよ。お野菜なんていつでも食べられるでしょ?』

「どっから出て来たプリキュア共!!」

 

 銀時がツッコミ入れると聖剣仙人と対峙していた伊達仙人が六本の刀の柄を指の間に挟んで引き抜く。

 

『俺のDiscipleの持ちもんと小十郎の野菜を奪いおうなんざ良い度胸だ。いいぜ? 龍の逆鱗に触れようとする行為がいかに恐ろしいか教えてやる。それに、一回騎士王って奴と勝負してみてェと思っていたところだ』

『俺のマヨネーズを奪おうするとは、お前たちにはデットエンドがお似合いだ』

 

 土方も伊達仙人の横に並んで刀を引き抜く。

 すると今度はどこからか現れたのか忍者仙人が伊達仙人と土方を止めに入る。

 

『伊達の兄ちゃんも土方の兄ちゃんも落ち着けって。別に喧嘩する必要はねェってばよ』

 

 続いてその弟子である桃太郎山崎と浦島山崎と金太郎山崎が出てくる。

 

『まっまっまっまっ、落ち着てください。副長も独眼竜さんも』

『あの二人もお腹が減って気が立ってるだけなんですし』

『そ、そうですよ。ここは穏便にいきましょう』

「気持ちワリーんだよ太郎共!! 必殺技駆使して止めに入んな!!」

 

 ところせましとわらわら出てくる山崎太郎たちを見て銀時は怒鳴り声を上げる。

 

『離せニチアサの化身! 貴様らのように良い子ちゃんぶった連中に我ら深夜枠の気持ちなど分かるまい!!』

 

 プリキュア仙人に止められている騎士王がその手を振りほどき、

 

『そうアル!! お前らみたいに見た目だけ着飾ったヒロイン共に私たちは止められないネ!! 深夜に移ったアニメを舐めんじゃねェぞ!!』

 

 神楽も声を荒げてプリキュア仙人二号の手を振りほどく。するとプリキュア仙人二号は頬を膨らませる。

 

『ひっどい! そんな言い方ないでしょ!』

『そうですよ! プリキュアを見た目だけで判断しないでください!!』

 

 相棒のプリキュア仙人も少しばかし怒りを見せ始める。

 その様子を見ていた銀時は場の雰囲気が悪くなっていく様子を見て汗を流す。

 

「おいおいおいおい。なんか朝と夜のヒロインが喧嘩始めそうになってんぞ」

「よすのだプリキュア仙人!! 聖剣仙人!! 朝枠と深夜枠の喧嘩など誰も望みはしない!!」

 

 洞爺湖仙人が止めようとするが聖剣仙人も神楽も止まりそうにない。

 

『独眼竜の前にまずは貴様ら着飾った小娘共を叩き切る!!』

 

 聖剣仙人がプリキュア仙人たちにエクスカリバーの切っ先を向け、神楽に顔を向ける。

 

『神楽よ!! 私が与えた〝必殺の剣〟でこやつらをねじ伏せるぞ!!』

『おっしゃァァァ!!』

 

 神楽が気合の咆哮を上げて何かを手に持って構える。それなんとギルガメッシュだった。

 

「なんで英雄王を武器にしてんだァァァァ!!」

 

 銀時がシャウトし、神楽に足を持たれながら腕を組んで直立不動のギルガメッシュは口を開く。

 

『騎士王よ。この小娘の剣になれば、(おれ)と一回〝でーと〟してくれるのだな?』

「嘘だろ!? お前たかだかそんなことの為に剣になったの!?」

 

 銀時はビックリし、聖剣仙人はジト目で返事する。

 

『あぁー……はいはい。〝一応〟考えておきます』

『よし小娘!! (おれ)を存分に使うがいい!!』とギルガメッシュは気合を入れる。

「お前それでいいの!? ホントにそれでいいの!? その邪悪な騎士王絶対お前とデートする気ねェぞ!!」

 

 だが銀時のツッコミなど連中の耳にはまったく届きはしない。

 聖剣と英雄王を構えたエロゲヒロインとゲロインに対抗せんが為、少女たちに夢と希望を与えるヒロインたちも構えを取る。

 

『行くぞォォォォ!!』

『死ねおらァァァァァ!!』

『『はァァァァァ!!』』

 

 深夜枠のヒロインと朝枠のヒロインたちがぶつかり合おうとしたその時、

 

『――よすのだ少女たちよ!!』

 

 突如として現れたライダー仙人が両陣営がぶつかるであろう地点に降り立つ。

 

『『『『ッ!?』』』』

 

 プリキュア仙人たちと聖剣仙人たちの四人は突如現れたライダー仙人に驚き、動きを止める。

 そして突如現れたライダー仙人は聖剣仙人とプリキュア仙人たちに向かって両腕を突き出す。

 

『これ以上無益な争いは止めるのだ!! 決して何も得られはしない!!』

 

 ライダー仙人の雄姿を見て伊達仙人を止めていた忍者仙人はガッツポーズを取る。

 

『さっすが初代ライダーだってばよ! 歳の甲は違うぜ!』

『そうですよ、神楽ちゃんもプリキュアちゃんたちも争いは止めましょう』

 

 するとライダー仙人の弟子となり改造手術まで受けそうになっていたはずの新八の声が聞こえてくる。

 

「あ、新八もいたのか」

「無事だったんですね!」

 

 銀時とはのはは安堵する。

 そして現れたのは、

 

『もォ~、神楽ちゃんだって僕と同じで中の人がプリキュアに出てたんだからそんなにつっけんどんしなくてもいいでしょ?』

 

 浮遊する眼鏡。そしてその眼鏡から新八の呆れたような声が聞こえてくる。

 

「「…………」」

 

 浮遊する眼鏡が喋る光景を見て銀時となのはの表情が固まる。そしてライダー仙人は嬉しそうに握り拳を作って声を出す。

 

『よく言ったぞ新八! いや、仮面ライダーグラス!!』

『いえいえ。僕だってもう〝仮面ライダー〟の一人ですから』

 

 アハハハ、と浮遊しながら笑う眼鏡。

 銀時は真顔で声を漏らす。

 

「…………あのォ……なのはちゃん」

「…………なんですか?」

「……俺にはー……眼鏡から〝新八の声〟が聞こえてくる気がするんだけど……気のせいかな?」

「あ、銀時さんにも聞こえますか? 実は私もあの眼鏡からはっきり新八さんの声が聞こえます」

「そうかー……やっぱ聞こえるかー……」

「えぇー……聞こえますねー……」

 

 などと生気の籠ってない声で会話を続ける二人の後ろでフェイトが告げる。

 

「眼鏡の人、体を眼鏡そのものに改造されたようだね」

 

 フェイトの言葉を聞いて銀時は頭を掻き、なのはは息を吐き、

 

「「なんだ(なに)あれェェェェェェェェェェェ!?」」

 

 同時にシャウトする。

 そして銀時となのはは捲し立てる。

 

「おィィィィィィ!? アレどうなってんだ!? アレホントにどうなってんだ!?」

「なんで体が眼鏡しかないのに生きてるんですか!? 生物の法則すら超越しちゃってますよ!!」

『あ、銀さんとなのはちゃん。さっきぶりですね』

 

 と朗らかな声でモニター越しに挨拶する新八(めがね)の言葉を聞いてなのはは心配そうに声を掛ける。

 

「新八さんなんでそんな平然としていられるんですか!? 体を眼鏡だけにされてなんでそんなに穏やかに会話できるんですか!?」

『なのはちゃん……僕は分かったんだよ。眼鏡は僕であり、僕は眼鏡だってね』

「なんか改造されて悟り開いてるゥゥゥ!!」と銀時。

「新八さん帰って来て!!」となのはは訴える。「あなたは普段から本体は眼鏡じゃないって訴えたじゃないですか!!」

「安心してなのはちゃん。眼鏡と一心同体となった今――眼鏡が本体かどうかなんて今の僕には関係ないんだ!!」

 

 とキッパリ告げる新八の言葉を聞いて銀時は顔を真っ青にさせる。

 

「ごめんね!! 普段眼鏡が本体とか言ってホントごめん!! だからいつものツッコミが得意な新八くんに戻って!!」

「安心してください銀さん! 今の僕は戦力的にも問題ありません! レンズからビームだって発射できます! この特別回が終わったら一緒に万事屋として頑張りましょう!」

「嫌だァァァァァ!! ビーム発射する眼鏡と一緒に万事屋なんて俺絶対ゴメンだからな!!」

 

 銀時は頭を抱えて叫んだ後、

 

「おい! うちの従業員になんつう改造手術施してくれてんだこのショッカーライダー!!」

 

 ライダー仙人に怒鳴り散らすが、相手はスルーしてプリキュア仙人組と聖剣仙人組に交互に顔を向ける。

 

『今一度お互いによく話し合え。話せばきっとわか――』

『黙れよバッタじじい』

 

 神楽の辛辣な一言にライダー仙人は言葉を閉ざし、その仮面に影が差す。するとプリキュア仙人たちも言い放つ。

 

『昭和の人は話に入ってこないでください!』

『そうよ! これは平成アニメヒロインの問題なの! 予算カツカツの特撮の出る幕はないの!』

 

 辛辣な言葉をぶつけられる度にピクッ、ピクッ、とライダー仙人の肩が動き、より仮面の影が濃くなる。そしてライダー仙人はゆっくりと両手を下ろして、空を見上げる。

 

『…………新八よ。分かっているな?』

『えェ、師匠。もちろんです』

 

 新八(めがね)は神楽と聖剣仙人にレンズを向け、

 

『夜の時間を制し……』

『朝のキッズタイムを制し……』

 

 ライダー仙人はプリキュア仙人たちにファイティングポーズを取り、師弟は同時に言い放つ。

 

『『――全ての時間をライダー一色へと変える!!』』

「いい歳した大人がキレんの早すぎだろ!! 少しは耐えろよ!!」

 

 銀時がツッコム中、まず最初に動くのは新八(めがね)だ。

 新八(めがね)は神楽と聖剣仙人にその目と言うかレンズを向ける。

 

『神楽ちゃん!! セイバーさん!! 深夜の時間は僕たちライダーがもらいうけます!!』

『ふざけんじゃねェゾ!!』

 

 と神楽はギルガメッシュを構えながら怒鳴る。

 

『深夜は大きなお友達がヒロインのエロシーンを見て聖剣を発動する時間なんだヨ!!』

「ふざけんてんのお前の意見!!」

 

 と銀時がツッコミ入れると聖剣仙人もエクスカリバーの切っ先を新八(めがね)に突き付ける。

 

『その通りだ! 深夜と言う枠はヒロインの枠なのだ!! 男キャラはお呼びではない!!』

「んなワケねェだろ!! 偏見を生むような発言するんじゃねェ!!」

 

 銀時がツッコミ入れると眼鏡は荘厳な口調で話し始める。

 

『ならば! ライダーの技を持ってして、その枠を貰い受ける!』

「そもそも今のお前のどこにライダー要素があるんだよ!!」

 

 銀時がツッコミ入れる一方でライダー仙人とプリキュア仙人たちも対峙していた。

 

『8時半以降を手に入れ、ニチアサキッズタイムをニチアサボーイズタイムにさせてもらう!』

 

 とライダー仙人がフェイティングポーズを構えながら言い放つと、プリキュア仙人とプリキュア仙人二号が言葉を返す。

 

『そっちがその気なら……』

『あなたを倒して8時以降をニチアサガールズタイムに変えてみせる!』

「いや、そいつ倒しても8時は手に入らないからね?」

 

 と銀時がさり気にツッコムと同時にヒロインとヒーローの火花が切って落とされる。

 まず眼鏡がレンズにエネルギーを溜め、ライダーは空高くジャンプする。

 

『ライダービィィィィム!!』

『ライダーキィィィィク!!』

 

 仮面ライダーグラスはレンズがからエネルギーを開放して聖剣仙人たちに放ち、ライダー仙人は十八番の蹴り技をプリキュア仙人たちに向けて放つ。

 すると攻撃を受けた者たちも反撃の技を放つ。

 

約束された勝利の剣(エクスカリバー)ァァァァァァ!!』

英雄王は投げる矢(ギルガ・アーチャー)ァァァァァァ!!』

 

 聖剣仙人はエクスカリバーから輝く一撃を放ち、神楽はギルガメッシュをぶん投げる。

 プリキュア仙人たちもリンクルステッキを取り出し、杖の先端構える。

 

『『プリキュア! ダイヤモンド! エターナル!!』』

 

 プリキュア仙人たちは杖の先端から巨大なダイヤを作り出して放つ。

 三組が各々の必殺技を一斉に放ち、ぶつかり合い、光が明滅し始める。

 その光景を見て銀時は焦り、頭抱える。

 

「おィィィィ!! ついに番組時間枠を賭けた決戦が勃発しちまったぞ!! どうすんだコレ!!」

「皆さん落ち着いてください!!」

 

 なのはも焦り、声を出して止めようとする。

 すると今度は別の二組が突如として乱入してくる。それは雷仙人と定春にM仙人とピンク仙人だった。

 

『ピカッ! ピカチュー!(定春くん! 彼らを倒してニチアサと深夜をマスコットタイムへと変えるんだ!!)』

「おめェはゴールデンタイム確保してんじゃねェか!!」

 

 銀時はツッコミ入れ、雷仙人の鳴き声に呼応してピカチューのような耳と尻尾を生やし、全身が黄色くなった定春が鳴く。

 

『ワンワン! ワゥーン!!(時代はヒーローでもヒロインでもない!! マスコットたちの時代なんだァァァァ!!)』

「つうかお前になにがあったァァァァ!?」と銀時は定春の変容を見て驚く。「ポケモンなのか!? ネズミなのか!? 犬なのか!? うちのマスコットがただのバケモンになっちゃったんだけど!?」

 

 すると現れたもう一組のM仙人とピンク仙人も声を張り上げる。

 

『待て待てェェェ!! ポケモン放送枠拡大ではなく、アニメマリオを放送させるんだ!!』

『ポヨォ!!(アニメ復活させて!!)』

「同じ会社のキャラで争うなァァァァァァ!!」

 

 と銀時がシャウトする。

 

『ピカチュゥゥゥゥ!!』

『ワゥゥゥゥン!!』

 

 と雷仙人と定春は体から電気を放電させる。するとM仙人は手から炎を放ち、ピンク仙人は口を大きく開けて吸い込みを始める。

 他作品同士での必殺技合戦になってしまい、忍者仙人が止めに入っていた伊達仙人の闘争心にまで火が付く。

 

『おもしれェ!! こんな多種多様な連中とPartyが出来るとは思わなかったぜ!! もう黙って見ていられるか!!』

 

 伊達仙人は指に挟んだ六本の刀で構え、忍者仙人たちの振りほどき駆け出すと、弟子の土方も刀を構えて後に続く。

 

『マヨネーズパリィだ!!』

『止めてください!!』

 

 突如としてお妙が両手を出して伊達仙人と土方の前に立ちはだかり、争いを止めようとする。

 

『奥州筆頭がそんな少年マンガみたいな動機で争いの炎を広げてどうするんですか!! 少しは大人になってください!!』

 

 しかし、お妙の制止で伊達仙人は止まらない。

 

『なら力づくで止めてみな!! 一度火が付いた俺のheartはそう簡単には止まらねェぜ!!』

『いい加減にしろコラァァァ!! 私が止まれつったら止まんだよ歴史捏造ゲームがァァァ!!』

 

 とお妙は青筋浮かべて右手に巨大な火球を作り出し、左手にブラックホールを作り出す。

 

「お前が大人になれェェェェ!!」と銀時はシャウト。「つうか最後のセリフは銀魂キャラのおめェが言えたセリフじゃねェからな!!」

 

 伊達仙人は六本の刀を構え、

 

『WAR DANCE!!』

 

 青い電撃を放ちが振りかぶる。

 そして土方も刀を構え振りかぶる。

 

『マヨネーズドラゴン!!』

 

 すると振りかぶった刀から大量のマヨネーズが吹き出し辺りに飛び散る。それを見て銀時はツッコミ入れる。

 

「マヨネーズドラゴンってなんだ!? ただ単にマヨーズ周りにまき散らしてだけじゃねェか!!」

 

 お妙は出現させた火球さらに大きくし、

 

『マンマミィィアァァァァアアアアアア!!』

 

 手の先から全てを焼き尽くさんばかりの豪炎を繰り出す。

 

「おいヤベェよ!! さっき見たマリオのファイアボールが超ショボく見えるんですけど!!」

 

 銀時は完全に戦闘力が別次元へと到達したお妙に戦慄する。

 もう戦いを止められないと感じたのか忍者仙人は拳を握り、山崎に顔を向ける。

 

『仕方ねェ!! 山崎太郎たち! 俺たちだけでも技を使って皆を止めるぞ!!』

『ええええ!?』 

『ちょっと待って下さい師匠!』

『俺分裂しかできないんですけど!!』

 

 顔を青くする山崎三太郎たちに構わずナルトは影分身を使い、風の性質変化を利用して一つの玉を作り出す。

 

『螺旋丸!!』

 

 そして乱回転する玉を構えながら駆け出す。

 

『『『こなりゃァやけくそだァァァァ!!』』』

 

 山崎三太郎も激戦地へと駆け出す。

 全キャラ総出の乱闘騒ぎを見て銀時は顔を真っ青にさせ、頭を抱える。

 

「おィィィィィィ!? マジでこれどうすんだ!? 聖杯戦争なんて目じゃねェよこれ!! どう収集つけるつもりなんだよ!!」

 

 モニター内で行われるのは光と爆発と叫び声がミックスされたまさに紛争地帯も真っ青な激戦だ。

 洞爺湖仙人はモニターの映像で繰り広げられる最終戦争に絶句するが、やげて操作盤に両手の拳をバン! と叩きつけ、拳と声を震わせる

 

「…………おしまいだ……!  一人一人のキャラのアクがあまりにも強過ぎたんだ……!!」

「おめェらがあのオールスター共を呼んだんだろうが!!」と銀時。

「早く皆を止めて下さい!!」

 

 となのはが必死に頼むが、洞爺湖仙人は首を横に振る。

 

「もう手遅れだ……! 仙人戦争が始まってしまった以上……必殺技伝授も『リリカルなのは』討伐も、全ては水泡に帰す……!! 我々に止める手段はない……!!」

「あなたの持つ必殺技でなんとかならないの?」

 

 フェイトが冷静に問いかけると洞爺湖仙人は汗を流しながら声を絞り出す。

 

「無理だ……! そもそも連中と私とでは必殺技のレベルが違う!!」

「どんだけ使えない上に無責任なんだよおめェは!!」と銀時が文句言う。

「だってしょうがないじゃないじゃん!!」

 

 洞爺湖仙人はガバッと振り向いて涙を鼻水を垂れ流しながら喚く。

 

「強くて凄くてカッコいい必殺技伝授させたかったんだもん!! だから特別回利用してあいつら呼んだのに、あんなに融通の利かない連中だなんて思わなかったんだもん!!」

「もんじゃねェよ!! 仙人の癖に泣き言言うな!!」

「俺はもう仙人じゃありませーん!! ただのネット小説作家です!! だから責任は発生しません!!」

「テメェ……!!」

 

 さすがの銀時も堪忍袋の緒が切れて洞爺湖仙人に掴みかかろうとした時、

 

『――諦めるのはまだ早いわよ洞くん』

「「「ッ!!」」」

 

 突如モニターから聞こえてきた声に洞爺湖仙人と銀時となのはは反応し、画面に視線を向ける。

 

『私たちにはまだ希望が残っているの。この仙人戦争(ラグナロク)を止める為の希望が』

 

 映っていたのはパンチパーマのマザー仙人だった。その姿を見て洞爺湖仙人は涙を流しながら声を上げる。

 

「マザ……お母さんんんんんんん!!」

「ついにお母さん言っちゃよ!!」

 

 と銀時がツッコミ入れ、モニター映ったお母さんは優し気な表情で告げる。

 

『洞くん。私たちにはこの不毛な戦いを止める為の最後の必殺技が残っているじゃない』

「どうするつもりなんだお母さん! まさか、あのバケモノ共を止めに行くつもりなのか!!」

「紛いなりにも有名作品の主人公たちをバケモノ呼ばりってどうなの?」

 

 と銀時はジト目向け、洞爺湖仙人は母の覚悟の決まった顔を見て必死な声で説得する。

 

「無茶だ! いくらなんで相手が悪過ぎる!! こうなったら荷物まとめて家族全員で別の仙界に逃げる以外に我々に道は残されていない!!」

「清々しいまでに無責任ですね、この人……」

 

 となのはは洞爺湖仙人の言動に呆れ果てる。

 すると画面の横から別の人物が現れる。

 

『洞爺湖。お前は必殺技のなんたるかをまだ理解していないようだな』

「お父さん!!」

「ついに直球でお父さんつっちゃったよ。ファザーのファの字も言わなくなったよ」

 

 銀時がツッコミ入れる中、現れた洞爺湖仙人のお父さんは真剣な表情で語り掛ける。

 

『よいか洞爺湖。必殺技とは、凄いだとか、派手だからとか、カッコいいだからとか、強いとかだからで手に入れる物では決してない』

『まして誰かを倒す為の物でもないの』

 

 と洞爺湖の母は語ると息子は必死に問いかける。

 

「では一体なんの為に必殺技は存在するのだ!! バトルマンガの主人公にとって必殺技はなくてはならない代物なのだぞ!!」

「これ小説なんだけど?」とフェイト。

『いい、洞くん。よく聞いて』

 

 と洞爺湖のお母さんは優し気な口調で語り掛ける。

 

『あなたは必殺技の威力や見た目だけじゃない、キャラの強さと言う概念に囚われ過ぎていたのよ』

 

 すると洞爺湖のお父さんは首を横に振って告げる

 

『必殺技を身に着けたからと言って、全てが思い通りになるワケでも物事が上手くいくワケではない』

「ねェ、なんの話してんのこいつら?」と銀時「必殺技談義している暇あったら後ろでドンパチやってる連中止めてくんない?」

「で、では……一体必殺技とはなんなんのだ!?」

 

 と洞爺湖仙人は狼狽えながら問いかける。

 

「必殺技とは我々に――主人公に何をもたらすものなのだ!!」

 

 洞爺湖の必死な問いかけに対して母と父は薄っすらと笑みを浮かべて口を開く。

 

『そんなことは決まっているじゃない』

『〝大切なモノ〟を――守る為さ』

 

 暖かな目で自分を見る両親の言葉に洞爺湖仙人は目を見開き、

 

「おかあ……さん……。おとお……さん……」

 

 涙と鼻水を垂れ流す。

 

「ねェ、なんでドラマチックな感じになっての? 元はと言えば、全部コイツらのせいだよね?」

 

 と銀時は冷たく告げる。

 やがて仙人夫婦はカっと目を見開く。

 

『私たちの大切なモノを守る為!』

『この無益な争いを終わらせる為!』

『『ここに見せよう!! 究極の必殺技を!!』』

 

 二人はバッと画面外へと飛び退き、モニターには二つの影が映り込む。

 

「「「「あ、あれは……!!」」」」

 

 モニターを見ていた四人は二つの影を見て驚きの声を上げる。そして画面外の外から夫婦仙人たちは力強いく言い放つ。

 

『力も派手さを持たぬとしても!』

『誰からも望まれぬとしても!』

『『この必殺技は全ての戦いに終止符を打つ!! その名は――!!』

 

 二つの影はゆっくりと前へと歩き、

 

『『タマキュア!!』』

 

 初代プリキュアの恰好をしたおぞましいババア共がポーズを取る。

 すると戦闘を行っていた連中の動きが一斉にピタリと止まり、黒と白のタマキュアを見る。

 

『やっぱり原点回帰こそ!』

『一番デスネ!』

 

 そしてタマキュアはうふっとウィンクする。

 

『『『『『オ”ェェェェェェェェェェェェ!!』』』』

 

 まるで噴火でも起こったかのようにその場に居た連中全員が嘔吐感に襲われ、地面に両手両足を付いて苦しみ出す。

 

『『オ”ェェェェェェェェェェェ!!』』

 

 タマキュア登場させたお父さんとお母さんも苦しみ、

 

「「「「オ"ェェェェェェェェェェ!!」」」」

 

 モニターを見ていた四人も苦しみ悶えるのだった。

 

 

「えェ……色々騒動もあったが、なんとか一件落着したようでなによりだ」

 

 と腕を後ろ組んだ洞爺湖仙人が少し後ろに父と母を立たせ、今まで出て来た仙人や弟子たち、そして銀時たち全員の前に立って語る。

 

「私も色々と学んだ。必殺技がなんたるか、必殺技がいかなるものなのか」

 

 ちなみに一部だが消えちゃってる仙人と弟子がいるが、彼らのことは追及しない方がいいだろう。

 

「私は改心した。今の私にはリリカルなのは討伐の野心も、カッコいい必殺技に拘る心も捨て去り、新たな心境でこの究極の必殺技を皆にも平等に伝授させるべきだと決意した」

 

 洞爺湖仙人は立っている仙人たちの間を歩き、一番後ろで聞いてた銀時の元まで歩く。そして銀時の肩をポンと手を乗せる。

 

「さァ、みなで覚えるぞ。究極の必殺技――『タマキュア』を」

 

 銀時、なのは、フェイトだけではない、その場にいたお登勢とキャサリンを抜いた仙人や弟子たちも瞳を赤くギラつかせる。

 

「「「「「いるかァァァァァ!!」」」」」

 

 そして全員が洞爺湖仙人に飛び掛かるのだった。

 

 

「ッ!」

 

 銀時はパッと目を覚ます。そしてゆっくり上半身起き上がらせ、周りを見る。今、自分が寝ているのはリビングのソファーであり、日付変更線を超えているらしく、外は真っ暗だ。

 おもむろに頭をボリボリ掻くと、突如として嘔吐感が銀時に襲い掛かる。

 

「うッ!」

 

 銀時慌てて立ち上がり、電気も付けぬままにトイレに駆け込む。

 廊下の途中でトイレから出て来たのかアルフとすれ違うが、今の銀時にはあいさつをしている暇はなく、トイレの便座に手を付いてオェオェと口から吐しゃ物を吐き出す。

 そんな銀時の様子を眺めていたアルフはボソリとジト目で呟く。

 

「飲み過ぎだよ……」

 

 

 

 時刻は朝になり、なのはは海鳴公園にユーノを連れてやって来ていた。

 公園のソファーに立つユーノは訝し気になのはに質問する。

 

「なのは、どうして急に技の練習したいなんて言い出したんだい? 一応学校でもレイジングハートと一緒に〝あの技〟のイメージトレーニングはしてるんだよね?」

「アハハ……ちょっとね」

 

 ユーノの言葉を聞いてなのはは頬を掻きながら苦笑した後、赤い宝石の姿のレイジングハートを握り絞めながら空を見上げ、呟く。

 

「やっぱり……大事な事をやり抜く為にはちゃんとした切り札が必要だと思ったの……」




ちなみにこの話を投稿した理由としては、当時はこの特別回ハーメルンに投稿すべきかどうか迷っていたんですが、まー良いかなーっと考え方が緩やかに変わって来たので、余裕がある今頃投稿した次第です。


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ジュエルシード回収編
第三十二話:ちょっと会わない間に急成長するキャラがたまにいる


ぶっちゃけpixiv版はの進み具合があまり芳しくはないのですが、こちらの方はそろそろ追いつきそうなのでペースを少しだけアップしています。


 ジュエルシードマユゾン事件が数日経ったある日。

 

 時刻は夜となり、街中にジュエルシードの微弱な反応を察知したなのは組。

 夜でも街中を歩く人は多く、行き交う人間を尻目に手分けしてジュエルシードを探すのは一苦労だ。

 なので、ジュエルシードが感知できる人間を基点にして四組に分かれた。

 班分けは以下の通り。

 

なのはチーム:新八、神楽。

ユーノチーム:土方、近藤。

アリサチーム:沖田、山崎。

すずかチーム:定春。

 

 もっと分かれてもよかったのだが、魔力感知ができない江戸組では街中でどこに落ちたかも分からない特徴のある石ころを探すレベルになってしまう。なので、一人一人が探すよりも効率が良いと判断しての組み分けだ。

 

「見つからない……」

 

 不安な表情を作るなのはに新八は相槌を打つ。

 

「人も多いし、範囲も広いもんね」

 

 一時間ほど街を散策したが一向に見つかる気配がない。

 

「まったく、『この辺一体』にジュエルシードがあるとかアバウト過ぎネ。もっとピンポイントに絞れないアルか?」

 

 歩き疲れたのか探し飽きたのか、しゃがみ込む神楽。それを見た新八はため息を吐く。

 

「しょうがないよ。発動してないジュエルシードじゃ、大まかにしか探知できないんだから」

「でも、ジュエルシードには発動してほしくはありませんけどね」

 

 となのはは苦笑。

 

「そうアルなー……」

 

 説明を聞いても神楽の機嫌はさほどよくならない。

 

「頑張って地道に探そう、神楽ちゃん」

 

 なのはの元気づけに「へーい」とやる気なく返事するチャイナ少女。彼女のアンニュイな視線は、眼鏡の青年へと向く。

 

「にしても、新八。ジュエルシードが見つかった場合どうするアルか? 私はともかく、雑魚(しんぱち)じゃ足手纏いアルよ?」

「おいっ!? 今雑魚って字をしんぱちって読んだろ!? いくらなんでもその読み方は酷過ぎるだろ!!」

「だってぱっつぁん、ジュエルシードの怪物が出てきても太刀打ちできるアルか? あんな化け物共、魔法なしで対抗できるなんて私か銀ちゃんかチンピラ警察共くらいアルよ?」

「いや、もうちょっと僕の力高く評価してもよくないかな!? 原作だと僕も結構人外と渡り合ってきたと思うよ!」

 

 さすがに聞き捨てならいとばかりに新八は食って掛かるが、すぐに冷静な表情へと変化。

 

「……ま、僕には『秘策』があるけどね」

 

 新八は眼鏡をクイっと上げてニヤリと笑みを浮かべると、神楽も不敵な笑みを浮かべ始める。

 

「なに言っているアルか? 私にだってじいさんから貰った『秘密兵器』があるアル」

「えッ? それってなんですか?」

 

 なのはは二人を交互に見ながら興味津々といった顔。

 

「それは後のお楽しみだよ、なのはちゃん」

 

 含みのある笑みで返す新八。どうやら相当な自信があるらしい。

 

「ジュエルシード! どっからでもくるヨロシ!」

 

 パン! と神楽は拳を掌に叩きつけた。

 新八は「だけど」と言ってなのはと神楽を交互に見る。

 

「僕たちの『本当の狙い』はジュエルシードじゃないでしょ?」

「銀時さん、ですよね?」

 

 となのはが答えれば、新八は「その通り」と指を立てた。

 

「フェイトちゃんとはまともに話ができないかもしれないけど、銀さんなら僕たちの言葉に耳を貸してくれる」

「あの時、銀時さんを説得できてればなぁ……」

 

 なのははマユゾン事件を思い出して落ち込みだす。

 

 ジュエルシードによって引き起こされたマユゾン事件の時に銀時と会っていたなのは。だが、あの時は事件解決の為にフェイトについての会話ができず、マユラントを倒す為の最低限の会話しかできなかった。

 しかも銀時と一番関りが深い神楽と新八に至っては、マユゾンになって気絶。なので銀時の姿すらまともに確認していない始末。

 

 新八はなのはに同意するように少し気を落としながら話す。

 

「……しかも、近藤さんの話だとなのはちゃんがジュエルシードを回収してる頃には、いつの間にか銀さんは姿を消しちゃってたらしいしね……」

 

 落ち込んだ様子を見せるなのはと新八とは対照的に、神楽はあっけらかんとした態度。

 

「別に銀ちゃんに会えるチャンスは一回ぽっきりだけじゃないんだから、そんなに落ち込むことないアル。会ったら即捕まえて銀ちゃん説得すれば良いアル。そのままフェイトも説得して、万事解決ネ」

「いや、銀さんはともかくフェイトちゃんを説得できる保証はないからね?」

 

 と新八は付け加えておく。

 映画はともかく、なのはから聞いたフェイトの印象はそれなりに結構頑固な部分が目立つ。敵と認識されている自分たちの言う事を素直に聞いてくれる可能性は、はっきり言って高くないだろう。

 なのはが力強く両手の拳を強く握り込む。

 

「でも銀時さんと話さへできれば大きく一歩前進できるのは確かです!」

「そうネ! でもってそのままフェイトをふんじばってプレシアにカチコミネ!!」

 

 と神楽も便乗して力こぶ作る。

 

「か、神楽ちゃん。お、お願いだから穏便にね?」

 

 物騒なこと言うチャイナ娘をなだめるなのは。

 

 

 

「ん~、見つからんなァ」

 

 そう言って世話しなく辺りを見回すのは近藤勲。

 ジュエルシードの場所も知らないのにずんずん前を歩いていく局長。彼の後ろを付いて歩く部下、土方十四郎は「そう言えば」と言ってふいにあることを思い出す。

 

「近藤さんてこの世界の警察に捕まってたよな? 外歩かせてたらマズイんじゃねェのか?」

 

 今更ながら、近藤が紛いなりにも脱走犯だと気付く土方。自問自答気味な彼の呟きに対し、肩に乗っているユーノが言う。

 

「一応、近藤さんには僕たち以外の人間には『近藤さんの顔を知っている人間が近藤さんと認知できない』認識阻害の魔法を掛けたので大丈夫だと思います」

「なんつうか、都合の良い魔法だな」

 

 タバコを咥えながら歩く土方は、魔法便利だな、と思った。

 

 

 

「おい、バーニング。魔法使えるお前しかジュエルシード探知できねェんだから、しっかり探せよ」

 

 そう言ってアイマスクを付けてベンチで横になるのは沖田総悟。

 

「あらそう?」

 

 と言って笑顔を浮かべるアリサは、掌を沖田にかざす。

 

「じゃあ、あんたを燃やしてから探しましょうか? バーニングだけに」

「お、落ち着いてアリサちゃん。沖田隊長の代わりに俺がちゃんと探すから」

 

 掌から怒りの炎を物理的に燃やすアリサを、山崎がなんとか宥めようとする。

 するとフレイアも「そうですよ」と相槌を打つ。

 

《あんな怠惰に身を任せた人間は放っておいて、私たちだけで探しましょう『バーニング』さん》

 

 顔に影を落としたアリサは、無言で炎を模るデバイスを折ろうと指に力入れる。

 

《ぎゃあああああああッ!! 何も言わずに私を折ろうとするの止めてください!! 目がマジで怖いですから!! 折れる折れる折れる!! マジで折れるッ!!》

(大丈夫かなァ……このチーム……)

 

 中々探索が進展しないチームに山崎は凄く心配になってきた。

 

 

「ハッ、ハッ、ハッ、ハッ!」

「…………」

 

 自分の前で舌を出して尻尾を振る定春と見つめ合うのはすずか。

 なんで自分だけ犬とペア? と少女は謎の配役に疑問しか出てこなかった。

 大きな大きな白犬にすずかは声をかける。

 

「ジュエルシード探そっか」

「ワンッ!」

 

 とりあえずすずかは前向きに考えて定春と探すことにした。

 探索に犬の鼻が役に立ったらいいなぁ……、と思いながら。

 

 

 

 ビルの屋上で銀時は銀髪を夜風に靡かせながら、眼下に広がる街を眺める。

 

「んで、どうすんだよ。この辺にジュエルシードあるっつても、こんなにごちゃごちゃした場所じゃ太陽昇ってきても見つからねェぞ」

 

 トイレ座りしている銀時は、まだ探してもいないのに疲れたようにため息を吐く。

 めんどくさがり屋の彼からしたら、人も建物もごちゃごちゃした街での探し物(しかも夜)は苦痛な上に退屈でしかない。しかも大きさに至っては石ころ程度なのが、めんどくささに拍車をかける。

 

「なら、魔力流を流してジュエルシードを強制発動させようと思う。そうすれば、すぐにジュエルシードの位置が分かる」

 

 そう言ったのは、銀時の横でマントと金髪を夜風で揺らすフェイト。彼女はバルディッシュを構える。

 

「それならあたしに任せておくれよ」

 

 と言って一歩前に出るのは、使い魔のアルフ。

 

「フェイトはあの白い魔導師の子が邪魔してきたら戦わなきゃならないんだしさ」

 

 アルフはグっと拳を作って余裕のある笑みを浮かべた。

 フェイトは自身の使い魔を心配そうに見る。

 

「大丈夫アルフ? 結構魔力を消費するよ」

「あたしを誰の使い魔とお思いで? どーんと任せなって!」

 

 アルフは自信たっぷりにポンと胸を叩く。

 

「じゃあ、お願いアルフ」

「おう!」

 

 笑みを浮かべるフェイトに対して、アルフも気持ちいいくらいの笑顔で答えた。

 そんな二人の会話を横で聞いていた銀時は、二人の方に顔を向ける。

 

「盛り上がってるとこ悪いんだけどよ、一つ聞いていいか?」

「なに銀時?」

「忙しいんだから手短に頼むよ」

 

 フェイトとアルフの言葉を聞いた後、銀時は眼下に広がる街を見ながら口を開く。

 

「もし魔力流ってのをジュエルシードに流したら、ジュエルシードは強制発動するんだよな?」

「うんそうだよ」

 

 フェイトは素直に頷き、銀時は更に問いかける。

 

「それってようは、暴走させるってことだろ?」

「まー、捉え方によっちゃそうなるね」

 

 今度はアルフが答えた。

 

「じゃあ、街にいる連中どうなんの?」

 

 最もな銀時の疑問に対し、

 

「「………………あ」」

 

 と声を漏らす二人。

 銀時はスッと目を細めて怪訝な表情を作る。

 

「『あ』じゃねェよ、『あ』じゃ。つうか…………え? マジで街の人間のこと考えてなかったの?」

「ソ、ソンナコトナイヨ?」

 

 目を逸らしつつ否定するフェイトに、銀時はビシッと指を突きつけた。

 

「思いっきりカタコトになってんだろうが!! エリートっぽいキャラの癖してなんでそういうとこ抜けてんだよお前は!!」

 

 しんのすけの母ちゃんよろしく、銀時はフェイトの頭を拳でグリグリと万力のように締め付け開始。

 

「いだだだだだだだッ!!」

 

 痛がるフェイトに構わず銀時は青筋浮かべる。

 

「下手したら街ぶっ壊すだけじゃ済まねェだろうが!! テメェなに考えてんだコラァ!!」

「ご、ごめんなさいィ~!!」

 

 目に涙を溜めながら痛みを堪えるフェイトを見て、慌てて銀時を止めようとするアルフ。

 

「お、落ち着いておくれよ銀時! 別に強制発動させるって言っても、いつもみたいにあそこまで危険な暴走をするワケじゃないんだって!! それに人だって結界張れば問題ないんだから!! っていうか街は壊すのはOKなのかい!?」

 

 アルフの説得を聞いても銀時のおしおきは中々終わらず、フェイトが痛みに悶える声は夜の街の喧騒に消えていった。

 

 

 そしてフェイト組、なのは組が探索している街では他にもう一組――暗躍している者達がいた。

 

「さァて、ジュエルシードは見つけたが……どうすっかねェ……」

 

 ビルの屋上に男が一人で佇み、親指と人差し指で青い宝石を弄ぶ。

 男は攘夷浪士であり、穏健派攘夷志士のリーダーである後藤仁(ごとうじん)だ。容姿は後藤そのものだが、その体を支配してるのは人外――パラサイト。

 ジュエルードは青く光り、それをパラサイトはまじまじと眺めている時、その後ろにすっと音もなく人が降り立つ。

 突如現れた人物の気配をパラサイトは感じて目を後ろに向ければ、そこには自分がよく知っている者が立っていた。

 

「チッ……やっと来たか。当て馬になりそうな奴は見つかった……のか?」

 

 今現在仲間として共に行動している者だとすぐに分かったが、その姿を見て言葉を詰まらせる怪物。

 

『鳩が豆鉄砲食らったような顔をしてどうした?』

 

 白いボードで会話する彼女の頭の上には、うにょうにょと八本の足を蠢かすタコがいた。その姿を見て目をパチクリさせるパラサイトは指を向け、半笑いで告げる。

 

「お前もしかして、触手プレイ好きな変態だったか?」

 

 グサッ! とパラサイトの眉間にクナイが刺さった。

 

「おわァァァァァッ!?」

 

 クナイが刺さり、ブシャーと額から血が噴水のように噴出すパラサイト。怪物は額を押さえながら悲鳴を上げ、女忍者はボード見せる。

 

『あまりふざけたこと言うようならクナイ投げるぞ(・`□´・)』

「いや、もう投げてんだろうが!! しかも〝俺の本体〟が近いとことか洒落になってねェんだよ!!」

 

 吹き出る血を押さえる怪物のことなどまったく無視する女忍者。彼女は頭に乗せていたタコを鉤爪を付けた手で掴み、突き出す。

 

『それよりもこのタコをジュエルシードを使って怪物にしろ。私の任務はこれで終了だ』

「あァ、分かった。……つうか、タコとかもうちょっと強い感じのいなかったのかよ」

 

 パラサイトはぶつぶつ文句を言いながら、持っているジュエルシードをタコの袋にくっ付けた。そしてタコの体は光輝き、忍者はすぐさまビルから光るタコを放り投げる。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 その時、魔導師たちと使い魔はすぐにジュエルシードが発動したことに気付く。

 

「グオォォォォォォォッ!!」

 

 街中ではタコのモンスターが雄叫びを上げた。

 

[newpage]

 

「ッ! ジュエルシード!」

 

 銀時に頭をぐりぐりされているフェイト、

 

「発動した!!」

 

 そして土方の肩に乗っていたユーノ。

 両者は同時にジュエルシードを感知、片っぽ絵面が間抜けだが。

 

 怪物が現れたと同時にジュエルシードが発動したことを察知した魔導師たちはすぐさまそれぞれ行動を開始。

 

 フェイト組。

 

「銀時! こんなことしている場合じゃない!! ジュエルシードが発動した!!」

 

 フェイトの言葉を聞いてアルフと銀時は驚いた表情になる。

 

「えッ!?」「マジかッ!?」

 

 

 ユーノ組。

 

「くッ! 広域結界!!」

 

 一方のユーノはすぐさま結界を展開し、一般住民の被害を回避。ただ、彼の姿を見た近藤が驚く。

 

「どうしたのだユーノくん!? いきなり変なポーズ取って!!」

「変なポーズじゃありません!! 結界を張ったんです!!」

 

 ちょっと怒るユーノ。

 確かに手をかざして張り手どすこいみたいなポーズを取っていたユーノだが、別にふざけていたわけではない。

 ユーノの言葉を聞いた土方が目を細める。

 

「つまり、結界を張らなきゃならない事態になったってことだな?」

「はい! ジュエルシードが発動したんです!!」

 

 ユーノは頷く。

 

 

 アリサ組。

 

「ほら急いで! ジュエルシードが発動したのよ!!」

 

 アリサは沖田を急かし、「よし、急がねェとな」と沖田は寝転がりながら言う。

 

「それのどこが!?」

 

 とツッコム山崎。

 

 

 すずか組。

 

「急ごう定春くん!」

 

 すずかは定春に声をかける。

 

「ワン!」

 

 一声鳴くと定春はすずかの横でしゃがみ込む。それを見たすずかは首を傾げる。

 

「えッ? 乗せてくれるの?」

「ワン!」

「ありがとう定春くん!!」

 

 すずかはそのまま定春に乗って町中を駆ける。ちょっと絵面がシュールではあるが。

 

 

 そしてまた戻ってフェイト組。

 

「たく、なんであたしがあんた背中乗せなきゃならないんだよ……」

 

 文句言いながら飛ぶのは狼姿のアルフ。

 

「しょうがねェだろうが、俺空飛べねェんだから」

 

 銀時はアルフの胴体にまたがりながら体に捕まっていた。

 アルフは背に乗った銀時に目を向ける。

 

「まあ、その分ジュエルシード封印する時はしっかり働いてもらうからね」

「わァーってるよ」

 

 ぶっきらぼうに銀時が返事した後、アルフは前を向いて飛行を続けるが、ふいにボソリと呟く。

 

「……ねぇ、銀時。あんた大丈夫なのかい?」

「はッ? なにが?」

「たぶん今回は、あの白い魔導師の子と戦う事になるけどさ、たぶんあんたの仲間も一緒の可能性が高いよ」

「あァ」

 

 銀時自身だってとっくに分かってることらしく、特に何も言う様子はない。

 耳を垂らすアルフ。

 

「今更聞くのもあれだけどさ、銀時は良いのかい? 自分の大切な仲間と戦うことになってもさ」

「別にあいつらとの喧嘩なんて珍しいことじゃねェよ。本当に命取り合うワケじゃねェんだ。適当にパパッとあしらってマユゾンの時みたく俺たちがとっとと退散すればいいだけの話だ。もちろん、貰うモン貰ってな」

「………………」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフは口を閉じる。

 今まで一緒に行動してきた銀時はもう仲間だ。だからこそ、そんな彼を古くからの仲間と戦わせる事に対し、どうしても後ろ髪を引かれる思いが拭いきれない。

 だが、当の本人はアルフの心配など露知らず、あっけらかんとした顔。

 

「ま、俺としちゃあいつらに再会できるってだけで十分だ。お前らとの一件が片付けば、後はなるようになるだろ」

 

 楽天的な銀時の発言。たぶん心配するアルフに対し、彼なりに気を使っているのかもしれない。

 

「……ありがとう」

 

 アルフは聞こえるか聞こえないくらいの声で、お礼の言葉を口にする。彼女の言葉は銀時の耳に届いたのか、彼の片眉がピクリと上がった。

 横から空を飛ぶフェイトがアルフの横に並びながら声を掛けてくる。

 

「もうすぐ発動したジュエルシードのとこに着くよ銀時! 準備して!」

「そんじゃ、初仕事と参りますか!」

 

 銀時は柄に洞爺湖という文字が掘れられた木刀に手を掛けた。

 

 

 

 目的地に到着。アルフは地面に勢いよく降り立ち、銀時も次いでアルフの背中から飛んで降りる。

 銀時の目の前には巨大なタコの化け物が怪獣のように巨大な口を開き、雄叫びを上げた。

 

「グォォォオオオオオオオッ!!」

 

 目の前で触手をうねらせる巨大ダコを見て、銀時は目をパチクリさせる。

 

「……なにこのタコのバケモン? 暴走したジュエルシードは? つうかどっかで見たことあるな……」

 

 タコを指差しながらアルフに顔を向ける銀時。彼の頭に、あのバカ王子とそのペットの記憶が掘り起こされていた。

 アルフはタコの化け物威嚇しながら答える。

 

「タコがジュエルシードを取り込んでこういうバケモンになったんだろ。とっとと倒してジュエルシード回収するよ!」

「ふ~ん、なるほど」

 

 と銀時は納得したように相槌を打った後、再びアルフに顔を向ける。

 

「――なんで街中にタコいんの?」

「知らないよ!! んなこと今はどうでもいいだろうが!!」

 

 どうでもいいこといちいちツッコンでくる銀時にアルフはイラついてか声を出す。

 その時だ、タコの化け物に向かって桃色の光弾が直撃。

 ドカン! ドカン! ドォン!!

 

「グオオオオオッ!!」

 

 三発見事に命中したことで、化け物は痛みによる声を出す。

 いきなりなんだ? と思った一人と一匹。両者の視線が突然の襲撃者のいるであろう空へと向く。そこには靴に桃色の羽を生やし、白い防護服を纏ったなのはが杖を構えて飛んでいた。

 空中のなのはは、地上にいる銀時とフェイトとアルフの姿にすぐさま気付く。

 

「銀時さん! それにフェイトちゃんにアルフさんも!!」

「お~、なのはじゃねェか。またまた会ったな」

 

 そう言ってなのはに向かって右手を振る銀時。そんな呑気な姿を見たアルフは驚きの声を出す。

 

「ちょッ!? 銀時! あの子今は敵なんだよ!」

「別にいいじゃねェか。今戦ってるワケじゃねェだろ? 俺、戦う時にふんどし締める方だから」

「いや、さっきの会話で戦う覚悟みたいなの決めたんじゃないのかよ!? あんたの決意ぶれっぶれじゃないか!!」

「まァまァ、硬い事言うなって。こっちも聞きてェことあんだからよ」

 

 噛み付かんばかりに文句言うアルフを銀時は宥めた後、なのはに顔を向けて大声出す。

 

「なァー! 一つ聞きたいんだけどよ!! 今回は新八と神楽もお前と一緒に来てんのか!?」

 

 上空にいるなのはは大声で返す。

 

「はい! 二人共私と一緒です! あと、しんせんぐみの土方さんや近藤さんや沖田さんや山崎さんも一緒にジュエルシードを探してます!!」

「チッ……やっぱりチンピラ警察二十四時もいんのかよ」

 

 銀時は舌打ちをして露骨に嫌悪感を露にした。

 銀時だって真選組とはまた遭遇することはちゃんと念頭に置いてはいた。が、やはり嫌いなものは嫌い。特に土方が。

 アルフは銀時の言葉や態度から不思議そうに質問する。

 

「銀時、その『しんせんぐみ』って連中もあんたの仲間なのかい?」

「いえ敵です。確実に脳みそを噛み砕きなさい。特に土方を」

「なんでいきなり丁寧語!?」

 

 真選組アレルギーと言っても過言ではないほど、あの警察の皮を被ったチンピラ集団が嫌いな銀時。会っても感動もへったくれもない。心底どうでもいい存在なので、すぐさま頭の隅に追いやった。

 とりあえず、まだ姿が見えない新八と神楽について考えを巡らせる。

 

 ――そういやァ、マユゾンの時はちゃんと話せなかったから、今回がまともな顔合わせってことになるなァ……。会った時やっぱ怒るかなァ、あいつら……。

 

 なんだかんだで銀時としても感慨深いものだ。いつもは鬱陶しい年下タッグではあるのだが、こう長い間会わず、しかも久しぶりの再会と会話。その一歩手前となると、それになりにくるものがある。

 

 ――ま、あいつらの文句なんざかる~く流すのが一番だな。結構長い間あいつらとは会ってなかったけど、別段お互い変わったってワケじゃねェんだし。

 

 そう銀時が思った矢先だった。少し離れた所から聞き覚えのある声が。

 

「覚悟しろこのバケモノダコ!!」

「とっととお前をたこ焼きにして食ってやるネ!!」

 

 新八と神楽の声だ。

 

 ――おッ! 噂をすればだな。久々に万事屋三人が集合ってところだな……。

 

「「お前に万事屋銀ちゃんの力を見せてやる!!」」

 

 などとらしくないことを新八と神楽が言い放ち、銀時が満更でもなさそうに薄っすらと笑みを浮かべた。

 

 ――おいおい、なんだよ。例え異世界でもでけェ口叩くじゃねェか。なら、今は敵味方関係なく万事屋として協力してやっても……。

 

 と、銀時が声のした方に顔を向け、向かってくる二人を見る。そしてその目に映ったのは……。

 

「この手が真っ赤に燃える!! 勝利を掴めと轟き叫ぶ!! バーニングソウル!!」

 

 黒い学生服を着た赤毛の少女の背中から、巨大な赤い悪魔の竜が出現。竜は両の拳に炎を纏わせた。

 

「スタープラチナアブソリュートフォース!!」

 

 少女の叫びに合わせて、ドラゴンが炎の拳のラッシュをタコのバケモノに打ち込む。

 

「オラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

 

 少女の操る竜は、凄まじい拳のラッシュでタコの化け物をボコボコにしていく。そして攻撃が終われば、少女が学生帽のつばをつまみ、一言。

 

「やれやれ、キングはただ一人だぜ」

 

 今の光景を見たなのはは嬉しそうに驚きの声を上げる。

 

「〝神楽〟ちゃんすごい!!」

 

 ――ええええええええッ!? 神楽!? アレ神楽なの!?

 

 銀時は口をあんぐり開けて仰天。

 

 ――なんで酢昆布食ってるだけのゲイロンがライバルキャラだか主人公キャラだかわかんねェ変貌を遂げちゃってんの!?

 

 銀時は内心ツッコミ入れながらビックリしていると今度は、

 

「俺ターン!! ドロー!!」

 

 眼鏡が軌跡を描き、タコの足を切り裂く。

 眼鏡をカードのように掴み、どこぞの決闘者のような派手なヒトデ頭に学生服を着た青年が出現。彼の身に着けている眼鏡には、シルバー色のテープがぐるぐるに巻きつけられていた。

 青年の活躍を見てなのははまた嬉しそうに声を上げる。

 

「〝新八〟さんも凄い!!」

 

 ――新八!? 新八なのアレ!? 眼鏡ですらもう原型トドメてねェんだけど!!

 

 銀時は更にビックリ仰天して口をあんぐり開ける。

 眼鏡をクイっと上げて一言。

 

「もっと眼鏡にシルバー巻くとかさ」

 

 ――眼鏡にシルバーってなに!? 確かに俺前に、『眼鏡オシャレにしてみたら? そしたらお前も主人公になれんじゃね?(笑)』とか言っちゃけど!!

 

 新八は眼鏡ケースから眼鏡をドローして叫ぶ。

 

「いくぜタコ野郎!! 神楽ちゃん追加攻撃!!」

「オラオラオラオラオラオラオラオラッ!!」

 

 叫ぶ神楽は新八の胴体を持って槍のようにぶんぶん振り回しながら彼のヒトデヘアーでタコの足を切り刻む。

 

 ――そのヒトデにそんな使い方が!? つうかドローした眼鏡の意味ねェじゃねェか!!

 

 内心またツッコム銀時。

 コスプレとキャラが重複した二人組みによりタコのバケモノはすぐさま撃沈。そして新八は眼鏡をクイッと上げ、神楽は帽子のつまみを掴んで告げる。

 

「「――みたか、万事屋の力を」」

 

 ――こんな万事屋知らねェェェ!! こんなパチモンの塊みたいな万事屋、俺知らねェェェェッ!!

 

 銀時は口をあんぐりと空けて呆然。数日のうちに変わり果ててしまったかつての仲間たちの活躍を眺めることしかできない。

 ドスンとタコは体を倒し、圧倒的戦闘力で敵を倒した新八(?)と神楽(?)は満足げな顔でタコとは反対の方向になぜか歩いていく。

 倒されたタコのバケモノは光に包まれ、普通のタコに戻る。そして上空にはジュエルシードが浮上。

 

「今だよフェイト! あたしたちがこいつらを足止めしているうちにジュエルシードを回収しちまうんだ!!」

 

 隙あらばとすかさず主にチャンスを教えるアルフ。

 使い魔の言葉に小さく頷いたフェイトは自身の相棒であるバルディッシュを変形。猛スピードでジュエルシードに向かって飛んでいく。

 

「ッ!」

 

 それを見たなのはもすぐさまジュエルシードに向かって飛んでいく。

 

 相手よりも先に――!

 

 お互いに譲る気などまったくない二人はスピードを落とすどころか、少しでも早く飛ぼうとスピード上げてしまう。

 同時にジュエルシードに向かって杖を突きたて、封印しようとする。二人のデバイスの切っ先はまったく同時にジュエルシードに到達し、杖の先端は重なり合うようにぶつかり合う。

 

「「ッ!!」」

 

 まるで時間が停止したかのような一瞬の静寂――。

 そして次に起こるのは目を瞑らんばかりの眩い閃光と衝撃。

 

「くッ!」「きゃぁッ!?」

 

 同時にフェイトとなのはは吹き飛ばされ、周りにいた他の面々も衝撃の影響を受け、吹き飛ばされるのであった。

 

 

 

 杖同士の衝突と共に、町中を眩いばかりの光が包み込む。

 

「おいなんだあの光!? まさか! ジュエルシード暴走させちまったのかあいつら!!」

 

 土方は天を貫くほどの光の柱を見て走り出し、肩に乗ったユーノは焦る。

 

「間違いありません! かなり不味い状況です!!」

 

 

 

 光の柱を見た沖田たちも既に暴走しているであろうジュエルシードの元へと向かっていた。

 

「おいおい、なんだあの光? この世の終わりか何かか?」

 

 呑気な沖田の横で山崎は焦り、慌てる。

 

「ちょッ、これ! マジでやばくないですか!? 沖田隊長! 確か映画でこんなシーンありましたよ!!」

 

 不安そうな表情の山崎とは対照的に、沖田はあっけらかんとした表情を崩さない。

 

「まァ、小生意気なガキは〝先に行っちまった〟んだし、大丈夫だろ」

 



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第三十三話:突然の敵

 ジュエルシードは魔導師の少女二人の杖がぶつかり合った瞬間、暴走を開始――光と衝撃が周辺にいた者たちを襲う。

 光と衝撃が収まり、倒れていた銀時は頭を左右に振りながら立ち上がる。

 

「いてて……。なんだ、今のは?」

 

 フェイトとアルフはどうなったのか? と思い、周りを見渡せば立ち上がっている使い魔。そしてゆらゆらと炎のように光を放っているジュエルシードを睨むフェイトがいた。

 立ち上がりながら、銀時は体についた埃を叩き落とす。

 

「一番ダメージ受けてたろうに、タフなガキだ」

 

 フェイトは衝撃の震源地に一番近くいたにも関わらず、怪我らしい怪我は一つもない。これもバリアジャケットという魔法の防護服のお陰なのだろう。さすがは魔法の服、ただの小っ恥ずかしいコスプレ衣装ではないようだ。

 ただ手に持った愛機であるバルディッシュは相当なダメージらしく、先端部は亀裂がいくつも走っていて今にも壊れそうなほど。

 フェイトはバルディッシュを気遣うように優しげに微笑み、何か一言言った後にバルディッシュを待機モードにする。そして鋭い視線をジュエルシードに向けた。

 

 ――どうしたんだあいつ?

 

 めらめら怪しげな光を放つ不安定な状態なジュエルシード。それに対するフェイトの表情を見て、銀時は疑問と同時に一抹の不安を覚える。

 フェイトは一旦後ろに下がり、まるでクラウチングスタートするかのように姿勢を低くした。

 

 ――あいつ、まさか!

 

 銀時が止める間もなく、フェイトは一気にジュエルシードに向かってダッシュ。

 

「フェイトッ!?」

 

 アルフの声を聞き流しながら突進する勢いでジュエルシードに向かうフェイト。彼女は青い宝石を掴もうと手を伸ばす。

 後一歩――ジュエルシードを握ろうとした瞬間、

 

「ダメェェェッ!!」

 

 突如なのはがフェイトに飛びつき、抱き着く。

 ジュエルシードを手にするのを阻止されたフェイトは、突然の出来事に思考を停止。抱きつかれた勢いのまま尻餅をついてしまう。

 

「……ッ!? ……なにをする!」

 

 しばし呆然としていたフェイトだが、やがて強引になのはを引き剥がす。

 ジュエルシードを手にすることを邪魔されたと思ってか、なのはを睨みつけた。

 

「そんなに私がジュエルシードを手に入れるのを邪魔したいの?」

「違う!」

 

 なのはは首を横に振って必死に否定し、訴える。

 

「今、フェイトちゃん危ないことしようとしたよね!? あんなジュエルシードを杖もなしに封印するなんて危ないよ!!」

「君にどうこう言われる筋合いはない! 私にはどうしてもジュエルシードが必要だからするだけだ!」

 

 いつなになく強い感情を垣間見せるフェイト。ジュエルシード回収の障害になっているなのはを睨み続ける。

 

「それでも、私は目の前で傷つこうとしているフェイトちゃんをほっとけない!」

 

 なのはもまた、引き下がろうとはしない。気持ちを譲れないとばかりに決意の篭った瞳をフェイトへと向けた。

 

 睨み会う両者――。

 

 その時、ゴツンとフェイトの脳天に拳が振り下ろされる。

 

「ッ!? いったぁー……!!」

 

 フェイトはあまりの痛みに涙目になって蹲る。

 一体なにが? とビックリした顔で自身を殴った張本人を確認。そうすれば、少なからず怒りの表情を垣間見せる銀時が拳を握り締めていた。

 

「なにやってんだテメェ。そいつの言うとおりなら、おもっくそ危ねェ事しようとしたろ? あんな危ねェもん素手で持とうとか正気の沙汰じゃねェぞ。銀さんはお前をそんな子に育てた覚えはありません」

「うぅ……でも……」

 

 と口ごもるフェイトだったが、

 

「って言うか、私を育ててくれたのは母さん――」

「でももへちまもあるかボケ。心配するこっちの身にもなれってんだバカヤロー」

 

 フェイトのツッコミを無視して、鋭い視線を向ける銀時。

 

「銀時……」

 

 フェイトは目を潤ませながら銀時を見上げた。

 そしてさきほどフェイトを殴った手がまたその頭に向かって伸びてくる。

 また殴られる! と思ったであろうフェイトは瞬間的に目を瞑ってしまう。だが、銀時はゆっくりとフェイトの頭に掌を置く。

 恐る恐る目を開け、戸惑うフェイトに銀時は気だるげな眼差しで告げる。

 

「たく、ガキが擦り傷切り傷作って肝を冷やすのは親なんだぜ? おめェは痛いだけで済むかもしれねェが、母親は傷つくって帰ってくる娘見て同じように心傷つけるんだ。母ちゃんのためってんなら、自分から大事な体傷つけるようなマネはすんじゃねェ」

「ぎん、とき……」

 

 ぽんぽんとフェイトの頭を柔らかく叩く銀時。

 フェイトはまた目を潤ませて涙を出しそうになっているが、それは痛みとはまた別の理由からくるものだろう。

 黒衣の少女にとって、銀時の言葉は心に深く突き刺さるところがあったにはずだ。親を想う彼女ならなおのこと。

 

「フェイトォー!!」

 

 すると遠くの方からすぐさまアルフが人間体になって駆けつけてくる。そのまま心配そうな表情で駆け寄り、フェイトの肩を抱く。

 

「大丈夫かいフェイト!? あんた無茶だよ! 暴走したジュエルシードを素手触るようなことしたら怪我じゃ済まないかもしれなかったんだよ!!」

「アルフ……」

 

 自分を心配して怒ってくれた銀時、健気に身を案じてくれる使い魔。両者を交互に見るフェイトは、顔を少し下げて口を開く。

 

「……ごめん……二人共……」

 

 自分を思ってくれた人たちの事を考えてか、フェイトはさきほど危険を顧みずにしようとした無茶な行動を省みたようだ。

 すると銀時はフェイトの体をなのはの方に振り向かせる。

 

「反省したなら、なのはの奴に礼を言いな。コイツが体張っておめェが傷つかねェようにしてくれたんだからよ」

 

 フェイトの背中をポン叩く銀時。対して、なのはは両手をパタパタ振って戸惑う。

 

「わ、私はそんなお礼を言われるようなことしてません! だって、フェイトちゃんの邪魔をしちゃっただけなんですし……」

 

 言葉の尻目には少し弱々しく言うなのはに対して、フェイトは小さく頭を下げた。

 

「ありがとう……」

 

 声音は小さいがちゃんとお礼の言葉を口にするフェイトに、なのはは「う、うん」とぎこちなく頷く。

 なんかちょっと微妙な空気が出来てしまったが、銀時はマイペースな口調で口を開く。

 

「さァて……残る問題は……」

 

 銀時はジュエルシードへと目を向けた。フェイトとアルフ、そしてなのはもその目線を追って暴走状態であろうロストロギアを見る。

 フェイトの無茶な行動を防げたのはいいが、ジュエルシードを封印できなきゃ事態は好転しないままだ。

 

「なのはちゃーん!!」

「なのはーッ!!」

 

 するとジュエルシードの発した衝撃によって吹き飛ばされたであろう新八と神楽の声。二人は心配そうな表情をしながらこちらにやって来る。

 なのはの元までやって来た二人のうち、新八がいの一番に声をかけた。

 

「なのはちゃん! 大丈夫だった!?」

「はい。……でも、レイジングハートのダメージが大きくて」

 

 どうやらフェイトのバルディッシュ同様に、なのはのデバイスも相当なダメージを負ったようだ。

 残念そうに顔を俯かせるなのは。そんな彼女を元気付けるように神楽が声を掛ける。

 

「でも、なのはに怪我がなくて良かったネ! 不幸中の幸いって奴アル!」

「でも、フェイトちゃんのデバイスもダメらしくて、これじゃ誰もジュエルシードを封印することが……」

 

 新八が「大丈夫!」と力強く言う。

 

「きっとすずかちゃんとアリサちゃんもこっち向かってるはずだから、すぐにジュエルシードを封印してくれるはずだよ!」

 

 ハッと笑顔になるなのは。

 

「そっか! すずかちゃんとアリサちゃんも魔法が使えますもんね!!」

 

 新八はなんだかんだで冷静に周りの状況を把握しているようだ。

 なのはたちの会話を聞いていたアルフは舌打ちする。

 

「チッ……魔導師が多い向こうの方がやっぱり有利だね。今回のジュエルシードは大人しく諦めるしかなさそうだ」

「大丈夫アルフ。最後の最後で、私たちが全部のジュエルシードを手に入れればいい」

 

 決意に満ちたフェイトの言葉を聞いて、アルフはニヤリと笑って犬歯をのぞかせた。

 

「さっすがあたしのご主人様。その通り、最後の最後で勝つのはあたしたちさ!」

 

 好戦的な笑みを浮かべてアルフが握り拳を作った時、

 

「おいおいおいおいッ!!」

 

 場の空気とは一変して銀時が声を上げ始めた。

 

「なんか誰も言及しないどころか、地の文ですら語ってなかったんだけど……」

 

 銀時はビシッと新八と神楽に指を突き付ける。

 

「なんで新八たちはいつの間にかいつもどおりの格好になってんだ!? なんでそこら辺誰もツッコまねェんだよ!?」

「「あ、ホントだ……」」

 

 アルフとフェイトもそれに気づいて声を漏らすが、反応は薄かった。

 アルフとフェイトにしてみれば、ただ単にバリアジャケットみたく衣装チェンジしただけに過ぎないだろうから、反応が薄いのも仕方ない。

 だが、銀時にしみれば不思議に思わない方がおかしいレベル。さきほどの新八と神楽の格好は、完全に別キャラの寄せ集めみたいな変貌なのだから。

 

「あ、銀さん!!」

 

 新八は銀時の存在に気付いて声を上げると神楽も気づく。

 

「あ、久しぶりアルな銀ちゃん!! 今までどこほっつき歩いていたアルか!! 心配したから十発ぶん殴らせろ!!」

「そうですよ!! 僕たち心配したんですよ!! だから僕も二十発殴らせてください!!」

 

 神楽同様に新八も拳を握りしめる。

 

「殴らせねぇよ!!」

 

 と銀時は声を上げて拒否。

 

「神楽はともかく新八! お前そんなに暴力的だったっけ!? つうかお前らさっきのパチモンみてェな格好はどうしたんだよ!!」

「ああ、アレですか? あれは源外さんから貰った秘密兵器の『変身ベルト』で強化した姿だったんですけど……」

「さっきの衝撃でベルトが壊れて変身が解けてしまったネ」

 

 説明した新八と神楽は残念そうな表情。

 

「なんだそれ!? たかだかベルト一本であんなすげェ力手に入ったのか!? ベルトすげェ!!」

 

 またしても源外のとんでも発明品にビックリさせられる銀時であった。

 

「ま、今回ぽっきりの一発ネタだけどナ」

「神楽ちゃん、誰に向かって話してんの?」

 

 新八は神楽にジト目向ける。

 兎にも角にもただの発明品で出来たとんでもキャラだったことに銀時はホッとした。

 

「あー、ビックリした。俺が知らない間にキャラを変えてテコ入れして失敗したマンガみたく、謎進化遂げたかと思ったぜ」

 

 あんなパクリ丸出しのキャラのまま万事屋スタート、なんてことになったらどうしようかと本気で心配していた銀時。とりあえず思考を切り替える。

 

「……しっかし、こうやって面と向かって再会したはいいが、お前らと俺らって敵対関係っつうかなんつうか……」

 

 銀時はめんどくさそうにボリボリと頭を掻き、神楽は小首を傾げて質問。

 

「銀ちゃんはフェイトの味方するアルか?」

「なのはの味方してるお前らにはわりィがその通りだ」

 

 そう言って、銀時は横にいるフェイトの頭に手をポンと乗せる。

 

「こいつがジュエルシードを欲しいって言うなら、俺も最後までジュエルシード探しを手伝う。お前らはどうなんだ?」

 

 銀時の問いに対し、新八と神楽も譲る気はないと言わんばかりの決意に満ちた表情になりだす。

 

「僕らだって同じ気持ちです。なのはちゃんやユーノくんを助けたいんです!」

「私たちの決意だって鉄のように固いアル!!」

 

 二人の顔を見た銀時はため息を吐き、また頭をボリボリと掻く。

 

「そうかい。たく、とんだ感動の再会になったもんだぜ」

「そ、そそそそれよりも銀さん!!」

 

 すると新八が慌てた様子で銀時に声を掛け、銀時は片眉上げる。

 

「どうしたぱっつぁん? フェイトの恰好見て思春期特有の発情でもしてロリコンに目覚めたか?」

「なんだって!? この眼鏡、フェイトに色目使ってんのかい!」

 

 銀時の言葉を聞いたアルフはすぐさまフェイトの前に回り込む。主を庇い、新八に鋭い眼光を向ける。

 

「ちげェーよ!!」

 

 と新八は怒鳴る。

 

「あとアルフさんもその人の話真に受けないで!! 僕はロリコンじゃありません!!」

 

 妙な言いが掛かりに対して必死に弁明する新八は、捲し立てるように話を戻す。

 

「そうじゃなくて!! 僕たちは銀さんに話たいことがあって――!!」

 

 その時――銀時の後ろ、それも上の方角。上空から銀時へと真っ直ぐ向かう人影、その手に持った刀の刃が彼の肩に向かって迫っていた。

 斜め上から真っ直ぐに迫る凶刃が、新八の瞳に写りこんでいた。

 

[newpage]

 

[chapter:突然の敵]

 

 時間は、なのはとフェイトがぶつかりジュエルシードが光と衝撃波を発している頃まで遡る。

 ビル屋上では、やってきた衝撃波の余波を受けるパラサイトと忍者。二人は衝撃に吹き飛ばされてように手摺りに捕まり、目を腕でガードする。

 

「うおッ……!」

 

 襲って来た衝撃が収まり、パラサイトは汗を流しながらおもむろに口を開く。

 

「…………なるほど。暴走したジュエルシードってのは、中々凄いな……。それなりに距離は取っていたつもりだったんだが……」

 

 パラサイトは手摺りに右肘を預け、左手をだらりと垂らして腰を曲げた。半眼になりがら空中で光り輝くジュエルシードを見る。

 やがてゆっくりと首を曲げ、横で立っているくノ一に顔を向ける。

 

「……これからどうする?」

 

 声を掛けられたくノ一は、視線をチラリとパラサイトに向けた。白いボードすら使わず無言のまま。何かを考えているのか、それとも無視しているのか。

 ただ突っ立ったままのくノ一は、ジュエルシードの衝撃により吹き飛ばされたフェイトやなのはや銀時を見る。

 小次郎の態度を見て、パラサイトは眉間に皺を寄せて舌打ちした。

 

「チッ……だんまりかよ。喋れなくても、スケッチブック使って返答するくらいはしろよな……」

 

 苛立たし気にパラサイトが言葉を発すると、小次郎がサッと白いボードを取り出す。パラサイトは目を細めながらそこに書かれた文字を見る。

 

『スケッチブックではない。正しくはボードだマヌケ( ´,_ゝ`)プッ』

 

 白いボードに書かれた文字&顔文字を見たパラサイトは「くッ!」と青筋を浮かべて怒りを露にし、拳を握り絞める。

 

「なんでテメェは人様罵倒する時は文字限定でそんなにお喋りなんだァ!!」

 

 そのまま殴りかかろうとするパラサイトだが、グサッと額にクナイが刺さった。怪物が放った拳の先に小次郎はおらず、その背後数十センチ先に腕を組んで立っていた。

 まさに一瞬の出来事。反応できなかったパラサイトは我に返ると忌々しそうな表情で振り返る。

 

「憎たらしいくらいの早業だな」

『それほどでも(*´σー`)』

「褒めてねェよ」

 

 ボードで答える小次郎に対してパラサイトは舌打ちして額のクナイを抜く。

 

「つうかふざけんなよテメェ。俺の本体は(ここ)にあんだからな。下手に傷つけたらマジで洒落にならねェんだぞ」

 

 パラサイトは声にドス利かせ、親指で自身の頭を指さす。

 文句を言われた小次郎はまったく聞く耳をもっていなのか、下で起き上がり始める銀時たちに目を向ける。

 

『そんなことより、お前にはそろそろしてもらうことがあるそうだ』

「そんなこと!? 俺の命に関わることをそんなこと呼ばわり!? マジ仕舞いにはぶっとばすぞテメェ!!」

 

 あっさりスルーされたパラサイトは怒り心頭で怒鳴り散らすが、小次郎はどこ吹く風。

 くノ一の視線の先では、起き上がり、ジュエルシードに向かって走り出すフェイト。それをなのはが抱きついて引き止め、言い合いをしている光景が映っていた。

 小次郎は淡々とした態度でパラサイトにボードを見せる。

 

『博士曰く〝頃合い〟だそうだ』

 

 ボードの文字を見てパラサイトが流し目で銀時たちに目を向ける。

 

「ん? それはつまり、連中と戦えってことか? 観戦するんじゃなくて?」

『察しが悪いな。つまりは〝そう言うこと〟だ』

 

 白いボードの文字を見て、パラサイトはニヤリと口元を吊り上げ、ワザとらしい口調で話す。

 

「ほォ~? つまり、俺の〝好き〟にしていいんだな? 連中にちょっかい出しても博士からお咎めがないと?」

『むしろ、眼鏡の男以外の江戸出身の者たちは〝今の貴様の全力〟を出す気で戦わないと、逆に痛い目をみるとのことだ』

「なるほど……な」

 

 パラサイトは見下すように眼下で集まり始めている銀時たちに目をやる。

 

「まァ、俺は目的さへ果てせれば連中が強かろうが弱かろうがどうでもいいしな」

『貴様も最近、イライラを解消したいとボヤいていたではないか』

 

 白いボードの文字をチラリと見て、パラサイトは腰に差している鞘から刀を引き抜く。集まって何かごちゃごちゃ話している銀時や新八たちに、ジロリと目を向ける。

 

「見たとこ、魔導師のガキ共は魔法使えねェようだし、ちょっかい出すなら侍共か、もしくは今んとこ魔法が使える魔導師共か?」

『それは貴様の自由で構わん』

 

 パラサイトは鈍く光を放つ刀の刀身を見ながら、チラリと小次郎に目を向ける。

 

「お前らが思ってるより、連中が弱くて俺に殺されるかもしんねェぜ?」

『その時はその時だ。その程度の連中でしかいなかったと割り切ってくれて構わない、と博士からの伝言だ』

 

 パラサイトは「くくく……」とケタケタ喉から笑い声を漏らす。

 

「言うねェ、博士も。まァ、俺も溜まってきた鬱憤を晴らす絶好の機会だし、せいぜい……」

 

 そこまで言ってパラサイトは地面を強く蹴る。

 

「――暴れさせもらうぜ!」

 

 ジャンプし、柵を飛び越え、ビルの壁面を伝って地面へと走り出す。

 走っている途中で、大きく壁を蹴る――その先には銀時――そして彼の肩に向かって、鈍く光る刃が迫る。

 

『せいぜい頑張ることだ』

 

 そんな一瞬の出来事を眺めるくノ一のボードには、誰が見るワケでもないのにそんな一文が書かれていた。

 

 

 そして時間は現在へと戻る。

 新八の目にスローで映るのは、ゆっくりと目の前の天然パーマの肩に刀が振り下ろされ、バッサリと肉どころか骨まで切断されそうになる光景。

 

 銀時に迫る凶刃。完全なる不意打ち――。

 

 このままでは自分が声を掛ける暇すらなく、銀時は重傷を負う。

 だが――ガキィン! と刀と木刀のぶつかる音。

 新八の予想は一瞬で裏切られる。

 刃は柄に洞爺湖と掘られた木の棒によって、肩に届く前に防がれたのだ。

 

「おいマジかよッ!?」

 

 と驚く襲撃者。

 

「うおォら!」

 

 銀時は力任せに迫る刀を押しのけ、襲撃者を後ろの木まで吹き飛ばした。

 加えられた力に対して空中ではまったく抵抗できない襲撃者は、ドカァ! と鈍い音と共に木に激突。そのままズルズルと背中を木に擦り付けながら地面に尻を付ける。

 そして常人離れした襲撃者撃退の一連をやってのけた銀時の声は、

 

「……あっぶねェな。なにおまえ? 変質者?」

 

 気の抜けたものだった。

 

「ぎ、銀さん……!?」

 

 一瞬のうちに起きたことが急展開過ぎて、新八は状況の整理が追いつかず、呆然としている。

 今、一体なにが起こったのか?

 やっと再開できた銀時を説得しようと試みた。すると突如、現れた何者かの攻撃を銀時が一瞬のうちに防ぎ、あまつさへ彼はその襲撃者を返り討ちにして木に叩き付けた。

 文にすると簡単だが、目で捉えるのがやっとであった新八の脳は整理がまだ追いつかない。

 

「い、いったい……」

「なにが……」

 

 フェイトやアルフも状況を飲み込め切れず、呆然。

 

「え? ……え?」

 

 なのはに至っては何が起こったのかまったく理解できないと言った様子だ。

 

「……大丈夫アルか、銀ちゃん?」

 

 だが唯一この中で神楽一人だけが銀時の安否を確認する。

 さほど銀時を心配している感じではない神楽の言葉に、

 

「……ん。まァ、な」

 

 と、銀時はテキトーに答えた。

 さすがは夜兎(やと)といった所か。並外れた動体視力で一部始終をちゃんと把握できていたのだろう。まあとはいえ、彼女自身は難しく考えることが苦手なので、現在の状況を深く考えてはいないだろうが。

 

 ようやく我に返った新八は焦り声を出す。

 

「ぎ……銀さん!? 今一体なにが起こったんですか!? 僕上手く状況が飲み込めないんだけすけど!?」

「俺も同じだよコノヤロー。さすがにちょっとヒヤッとしたし」

 

 言うほど銀時に緊迫感は見られない。

 銀時は首を撫でながら襲撃者に目を向ければ、彼を襲った敵はゆっくりと立ち上がる。

 敵であろう相手に銀時は鋭い視線を向けた。

 

「……よくわからねェが……確かなのは、あのクソヤローが俺の肩を掻っ切ろうとしたってことだな」

「ッ!? だ、大丈夫なの銀時!?」

 

 やっと銀時の身に起こった危機を理解したフェイトは、慌てて彼の身の安否を心配する。

 

「心配すんな。別にどこも怪我してねぇから」

 

 銀時はフェイトを安心させるように手をぶらぶら振った。

 

「銀ちゃん、あの変なおっさんに何か恨まれるようなことしたアルか?」

 

 神楽の問いに対して、

 

「あん? 知らねぇよ。俺はこっちの人間にほとんど関わった覚えがないんだからな」

 

 心底ワケがわからないと首を振る銀時。

 その時、

 

「クハァーハッハッハッハッハッ!!」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 突然の笑い声に全員の視線が声の主へと注がれる。彼らの視線の先には、銀時に吹き飛ばされた襲撃者が立ち上がり、不気味に天高く笑い声を上げていた。

 

「えッ!? なに? いきなり笑い出してキモイんだけど!? コイツ頭大丈夫?」

 

 色々斜め上の相手の行動にさすがの銀時もドン引きして頬を引きつらせていた。

 他の面々も相手の異様な振る舞いに緊張、不安、嫌悪と言った感情を感じ始めている様子。

 襲撃者は首をゴキゴキ鳴らしだす。

 

「いやァ、驚いたぜ! まさかさっきの一撃防がれた挙句反撃くらうとはな! 聞いてたより中々強いじゃんあんた。赤毛のチャイナ女の体の方が良いとばっかり思ってたが、なかなかどうして……」

 

 そう言って襲撃者は刀の切っ先を銀時に向ける。

 

「テメェの体もちょっと欲しいと思ってきたじゃねェか」

「「ッ!?」」

 

 相手の言葉を聞いた銀時とさらに神楽までもが顔面蒼白にし、全身に鳥肌立てる。

 

「ちょっとちょっとなにあの人!?」

 

 と、銀時は神楽に耳打ちしだす。

 

「いきなり意味不明な登場したと思ったら、今度は男の体欲しいとか言い出したぞ!?」

「マジドン引きネ! キモい通り越してドキモいネ! さり気なく私の体狙ってる発言してたし、ロリコンな上にホモとか救いようがない変態アル。私の中で変質者ランキングがゴリラ越えそうな勢いアル」

 

 ひそひそ話しだす銀髪とチャイナ娘に対して変質者は青筋浮かべる。

 

「いや、全部聞こえてんだよ!! ひそひそ話してる体装っても全部丸聞こえだぞコラァ!!」

 

 怒鳴り散らす襲撃者に対して銀時と神楽は嫌そうな顔を作り、一歩引く。

 

「あの、すんません……話しかけないでもらいます? カッコ悪く登場した人」

「そうアルキモイアル、カッコ悪く登場した上に変態な人」

「カッコ悪く登場した人ってなんだァーッ!」

 

 襲撃者は青筋立ててキレた。

 

「カッコ悪くなったのはテメェのせいだろうが!! あと俺は変態でもねェー!!」

 

 襲撃者に指を突きつけられた銀時が右手を横に振る。

 

「いやいや、お前が俺に攻撃してこなきゃ、別にあんなダサい登場にならなかったからね? ダサい人」

 

 神楽も「そうアル」と同意。

 

「しかもあの発言が全てをお前のドキツイ性癖を物語ってるアル。全部お前の自業自得ネ。ダサく変態な人」

「いちいち変なあだ名で呼ぶんじゃねェ!! マジぶっ殺すぞテメェら!!」

 

 ダサい人は銀時と神楽の毒舌攻めに血管切れるんじゃないかと思うくらい怒鳴り散らす。

 すると新八が軌道修正も兼ねて、謎の襲撃者に怒り気味の質問を飛ばした。

 

「あんたは一体なんなんだ! なんでいきなり銀さんを襲ったんだ!」

「ほら、あれだよ」

 

 と言うのは銀時。彼は代わりに答えるように新八に耳打ちする。

 

「さっきあいつ理由言ったろ? あいつはどこにも需要のないヤンデレホモロリコン野朗だから俺を襲ってきたんだよ。それ以上でもそれ以下でもない変質者だ。あんま関わろうとすんな新八」

「テメェは黙ってろ!!」

 

 襲撃者は青筋立てて怒鳴ると、ふと何かに気づいたように真顔になってジッと新八を見つめ始めた。

 

「………………」

「な、なんですか!? 人のことそんなに見つめて!?」

 

 困惑する新八は眉間に皺を寄せ、自分を見つめる相手を見てハッと理由を悟る。

 

「ま、まさか!? 僕も銀さんと神楽ちゃん同様ターゲットに――!?」

「…………お前なに?」

 

 と襲撃者。

 

「…………へ?」

 

 新八は予想外の答えに呆けた声を出し、襲撃者は怪訝そうな表情で新八を指さす。

 

「つうか、お前誰? ……え? いつから居たの? 全然気付かなかったんだが? ……え? もしかして最初からいたのか? 存在を感じなかったぞ……」

「おィィィィィッ!?」

 

 と新八シャウト。

 

「なにそれ!? いきなり現れてその発言ってめちゃくちゃ酷くない!? すんごい傷ついたんだけど! 僕の存在感そんなに皆無ですか!?」

 

 まさか解答に新八は涙流しそうになる。すると銀時が不敵な笑みを浮かべて新八の肩に手を置く。

 

「ふッ。テメェが気付かねェも無理はねェ。なにせコイツは――!!」

 

 クワッと銀時は目を見開き、言い放つ。

 

「永遠のサイドマン!! 志村新八だからな!!」

「永遠のサイドマンってなんだァァァァァ!?」

 

 とサイドマンは張り裂けそうなほどの声でツッコム。

 

「なんだその称号!? 一度も聞いたことねェよ!!」

 

 ツッコム新八の空いている肩に今度は神楽が手を置く。彼女は真剣な表情で語りだす。

 

「永遠のサイドマンとはそのあまりにも中途半端な能力ため、前線にも出されず、かと言って存在感は必殺のミスディレクションの影響で薄過ぎてコーチからも作者からも忘れ去られ、声と尻で場とベンチを暖める存在となったものの名称――それが幻の補欠(サイドマン)!!」

「それようするにただ単に影薄くて使えないから忘れ去られてるだけだろうがァッ!!」

 

 無論、ツッコミがそんな称号を受け入れるはずもない。

 

「つうか僕ってそんなに使えない感じのキャラだったの!? って言うかそんなデタラメ敵が信じると――」

「その眼鏡にそんな特殊能力が……!」

 

 と襲撃者は汗を流し驚く。

 

「信じるんかィィィィィィッ!?」

 

 まさかの反応に逆に新八が驚き、ツッコミ開始。

 

「なに驚いてんの!? 今の虚しいキャラ説明のどこに驚く要素があったの!? つうかなに!? 僕ってこの作品だとそう言うポジションなの!? ただ応援しかできないクリリン的なポジションなの!?」

 

 銀時が「いや違うな」と手を振って否定する。

 

「クリリンは一応結婚しているけど、お前は彼女いない暦=年齢の童貞だから。言っちゃうと、ちょっと戦うシーンのあるヤムチャだな」

「そこまで言うことねェだろォ!! せめて成長途中のご飯君ポジって言ってくださいよ!! 僕、原作だと銀さんの弟子っぽい感じで活躍したりした事もあるんですよ!?」

 

 すると神楽が「いやいや」と右手を振って否定する。

 

「原作だとぱっつぁんはちょっと戦うシーンあるけど、見せ場らしい見せ場もなく敵と戦ってるポジアル」

「そんなことないでしょ神楽ちゃん!! 映画でも僕は結構活躍してたでしょ!!」

「あれはパラレルだからノーカン」

 

 と言う銀時。

 

「ひでェ!! この人数少ない僕の活躍バッサリ切捨てやがったよおい!!」

 

 新八は銀時の言葉にキレ気味に涙流す。

 なのはは三人の様子を呆然と見つめながら、フェイトに顔を向ける。

 

「あの、フェイトちゃん……。銀時さんて、フェイトちゃんといる時もあんな感じだったりするの?」

「うん、まぁ……」

 

 なのはの質問に対してフェイトは微妙な表情で首を縦に振る。トリオ漫才披露する銀時の姿に苦笑するしかないようだ。

 

「いい加減にしやがれテメェらッ!!」

 

 突然の怒声にその場にいた全員の視線が襲撃者に注がれる。目の前では青筋浮かべ、怒気全開の男が刀を持って怒りを露わにしていた。

 

「好き勝手ほざいた挙句人様のこと無視とはいい度胸じゃねェか!! あん? こちとら折角のいい気分がテメェらのバカ丸出しの会話のせいで台無しだクソったれ!!」

 

 襲撃者は苛立たしそうに地団駄踏む。その様子から察してかなり不機嫌そうだ。

 銀時は「けッ」と吐き捨てる。

 

「人様に不意打ちしてぶった切ろうとした変態野朗が何ほざいてやがる。寧ろ勝手なこと言ってんのはテメェだろうが」

「お前の目的は一体なんだ?」

 

 フェイトが鋭い視線を向けて問い掛けると、襲撃者は片眉を上げる。

 

「目的ィ? そんなモンお前らに話してどうなる? 俺がそもそも懇切丁寧に教える思ってんのかお前? 案外賢そうに見えてバカなんだなァ?」

 

 襲撃者は人差し指で頭をつんつんと指しながら、フェイトを小ばかにしたような視線と言葉を送り、高らかに言う。

 

「お前ら全員逃げるか殺されるかでもして、ジュエルシードおとなしく寄越せば問題ねェんだよ」

「ジュエルシードが目的か……!」

 

 フェイトは拳を強く握り込み、

 

「なら、あたしらの敵ってことで間違いないようだね」

 

 アルフの視線も鋭さを増し、拳を握りしめる。

 

「言動からしても、あんま良い奴って感じじゃなさそうだし、遠慮なくガブっていかせもらおうか」

 

 拳を掌にバシっと叩き付けるアルフに、襲撃者はニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ただの犬風情が随分大口叩くなァ。使えないご主人様でも犬は忠を尽くすってか?」

「あぁん?」

 

 敵の言葉を聞いてアルフの声に怒気が含まれる。

 

「あたしだけのみならず、フェイトまでバカにしやがって……」

 

 アルフはわなわなと拳を震わせ、ポキポキと拳を鳴らしながら鋭い犬歯を口から覗かせた。

 

「――覚悟はできるんだろうね?」

 

 そう言って拳に魔力を込めながらゆっくり敵に向かって歩き出そうとするが、使い魔の進路を木刀が塞ぐ。

 

「……なんのマネだい? 銀時」

 

 鋭い視線を向けてくるアルフに対し、彼女の行動を遮った当の本人は飄々とした顔で答える。

 

「わりィがこの喧嘩は俺に譲れ。アレに最初喧嘩売られたのは俺だ。こういう事に関しては最後までシメねェと気が済まねェ性質でな」

 

 アルフはジッと銀時の瞳を覗き込むように見つめるが、やがてため息を吐いて一言。

 

「……フェイトの分もぶっ飛ばさないと承知しないよ」

「ついでにおめェの分も利子付けて叩きつけてやるから安心しろ」

 

 銀時はそう言って木刀を肩に掛けて敵に向かって歩いていく。そんな侍の背中に向けてアルフは「頼んだよ」と一言、それに対して銀時は「ああ」と短く答える。

 それを見ていたなのは慌てた様子で新八に顔を向ける。

 

「し、新八さん! 銀時さんは一人で大丈夫なんですか!?」

 

 危険な雰囲気を漂わせる敵に一人向かっていく銀時を心配する少女。それに対し神楽と新八は心配ないと言わんばかりに答える。

 

「サシの喧嘩に女やガキが横槍入れるのは無粋アル。下手に手を出したら私たちがぶっ飛ばされるネ」

「それに、あんな奴に銀さんが負けると思えないしね」

 

 そこまで言って新八はなのはに「だから安心して見守ろう」と微笑みかけた。

 

「「………………」」

 

 彼らの言葉を聞いてなのはは押し黙る。完全に納得はできないが、銀時をよく知る二人の意見を信じて銀髪の侍の戦いを見守ることにしたようだ。

 すると神楽があッ、と思い出したように声を漏らす。

 

「あの変態のせいで忘れてたけど、暴走したジュエルシードってあのままでいいアルか?」

「「「あっ……」」」

 

 神楽の言葉で一瞬にして場が氷付く。そして全員の視線が後ろで光り輝いて暴走しているであろう、ジュエルシードに自然と注がれる。

 

「もうあんたたち!! ジュエルシードほったらかして何くっちゃっべってるのよ!? フレイアから話を聞いたら、このまま暴走させてたら大変なことになっていたって言うじゃない!! なに考えてるのよ!」

 

 とプンスカ憤慨しているのはアリサ。続いてすずかが皆を安心させるように右手を振る。

 

「私たちがちゃんと封印したからもう大丈夫だよ~!!」

 

 それを見た銀時は柔和な笑みを浮かべサムズアップ。

 

「良くやった、コスプレ少女共」

「ど、どうも……」

 

 すずかは戸惑い気味に返事をし、

 

「誰がコスプレ少女だァー!! って言うかあんた誰よ!?」

 

 明らかに悪意ある呼び名に怒鳴るアリサだが、銀時の背格好を観察して「あッ!」と声を漏らす。

 

「もしかしてあんたが坂田銀時!? 新八から聞いた特徴に当てはまるところ多いし!! もしそうならあんたに話したいことが――!!」

「まったく大した連中でさァ、痛い服着たガキ共」

 

 だがアリサの言葉を遮るように突如現れたのは沖田。それを聞いたアリサは青筋浮かべる。

 

「誰が痛い服よッ!! なに!? そんなにあたしたちの格好って痛々しかった!? ちょっとショックなんだけど!! って、そんなことより、あたしたちにはあの銀髪男に話があるの忘れたの!!」

 

 ちなみにいつの間にか他の真選組の面々も集まっていた。

 アリサは再度大声で銀時に声を掛ける。

 

「ちょっとあんた聞きなさい!! あたしたちにはあんたに伝えなきゃならない話が――!!」

「あー、そういうのは後にしてくれ。今おめェの話聞く暇ねェから」

 

 そう言って銀時は右手を軽く振りながらアリサの話を遮ってしまう。

 アリサは何か言いたそうにするが、銀時が敵と対峙している状況を見て、さすがに邪魔をするのはマズイと思ったのか押し黙る。

 

「いいのか? 大事なら話なら待ってやってもいいぞ?」

 

 と言う襲撃者に対し、銀時は目を細めた。

 

「へェー、お優しいこった。どうせ、人様が話している間に後ろからグサリだろ?」

 

 銀時はウォーミングアップするように肩を回す。

 

「今の俺の優先順位は不意打ちと言うあいさつしてくれたおたくをぶっ飛ばすことだから安心しな」

 

 ニヤリと襲撃者は笑み浮かべる。

 

「そうかい。ならとっとと殺し合おうぜ」

 

 対峙する二人の間には一瞬の静寂が訪れる。

 ダッ! と先に駆け出したのは銀時。彼は声を上げて突っ込む。

 

「うォォォォォ――ッ!!」

「はッ! この刀で死なない程度に刻んで――!!」

 

 襲撃者は銀時を迎え撃とうと刀を振りかぶり――バキッ! と刀から嫌な音が聞こえて来た。

 

「………………」

 

 襲撃者はゆっくりと自身が持った刀の刀身を見えようと目の前に持ってきて確認。刀身はポッキリ半分に折れており、折れた先は無残にも地面に落ちていた。

 

「…………あれ? 先っちょ……が……あれ?」

 

 襲撃者は目をぱちくりさせ、刀身の上半分以上が消えた刀を見ながら間の抜けた声を出す。

 刀を両手に持って自分の刀の現状に唖然。

 

「……えッ? あれ? ……えッ!? ちょッ!? え”ッ!?」

「――ォォォォオオオオオッ!!」

 

 銀時は距離を詰め、右腕を引く。

 襲撃者は近づく銀時と自分の刀を交互に見ながら混乱中。

 

「これッ!? ちょッ、まッ! 先っちょ! これ先っちょ折れてる!」

「おりゃァァァッ!!」

 

 銀時の渾身の突きが敵の胸にズドンッ!! と突き刺さった。

 敵は何もできないまま体をくの字に曲げて後ろに吹っ飛ばされ、そのままさきほど叩き付けられた木にまたしても吹き飛ばされる。

 銀時の一撃の威力が凄まじいらしく、人一人がぶつかった木もくの字に傾き、襲撃者の背中は少しばかし木の幹にめり込んでいた。

 決着を付けた銀時は息を吐き、人差し指を指して一言。

 

「あッ、お前の持ってる刀、ヒビ入ってたから使わない方がいいぞ」

 

 その言葉を聞いたこの場の人間の何人かは「えェ……」と言う落胆したような、呆れたような声を漏らす。

 まさかの予想斜め上(悪い意味)での勝負の幕引きにテンション下がってしまった者も少なくないのだろう。

 新八がボソリと声を漏らす。

 

「まさか、銀さんが反撃した一撃で刀が折れるほどに脆くなっていたなんて……」

 

 銀時と違って新八は刀のヒビに気づかなかったが、彼の予想が正解だ。

 銀時の反撃した一撃があまりに強く、刀が耐え切れず刀身にヒビが入った。敵が刀を振って力を加えたところで、ポッキリ折れてしまったのだろう。

 刀身が限界であることに気付かない敵が負けたと言うなんともパッとしないオチ。

 これにて謎の襲撃者と戦いに決着……。

 

「くくく…………」

 

 と思いきや。

 

「まさかッ――!?」

 

 新八は木の幹から体を抜き出す男の姿を見て驚愕の表情を浮かべる。

 

「ギャァーハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 背中を折って下を向いたまま敵は狂ったように笑い出す。

 

「さっきの一撃でも気絶しないなんて……」

 

 と驚く新八。

 

「しかも、あいつあんなボロボロの状態でなんで動けんだ……?」

 

 土方も驚いた顔で呟き、異様な立ち姿でゆらゆらと体を動かす敵を眺めていた。

 すると今度はミシミシと何かが軋む音がしたかと思うと、敵のぶつかった木の幹が前のめりになって折れ出し、大きな大木が敵の頭上に向かって倒れだした。

 

「危ないッ!!」

 

 なのはが叫んだと同時に、襲撃者を押し潰そうと倒れた大木――が、敵はそれを両腕を上げて受け止めてしまう。

 

「グギャハハハハハハハハッ!!」

 

 襲撃者は血を吐きながら高笑い。

 

「ブハッ! マジでやってくれたなクソヤローッ!! ブェハッ!! 俺の新品の体粗大ゴミにしやがって!! オェッ!!」

 

 口から多量の血を吹き出しながらも構わず大声で叫びまくる、最早人間とすら呼ぶのも戸惑うほどの怪物。

 

「おいおいマジかよ……。アレ、マジで人間?」

 

 さすがの銀時も面食らう。男は満身創痍で数百キロはありそうな木を持ち上げるのだ。

 

「もう任務だとかそんなもん知った事か……! 俺の全力で挽肉(ミンチ)にしてやるよォ!!」

 

 襲撃者がそう言った直後、彼が持ち上げる木の幹――それも握っている部分がミシミシと音を立て始める。

 

「『今』の俺の全力でこれからお前らぶっころ――!!」

 

 すると、突如上空から降ってきた二つの影、それらは怪物の持っていた大木に、ズドォーン!! と降り注ぐ。

 

「ぐおッ!?」

 

 凄まじい衝撃が木の幹に加わったことで、支えきれなくなったであろう怪物は大木の幹に押しつぶされ、下敷きにされてしまう。

 

 その光景を見ていた一同は、衝撃の突風に髪を揺らしながらポカーンと茫然自失。

 

 突如現れた影のうち、一人はすね毛の生えたおっさんの足がチラリと見える白いペンギン。

 そしてもう一人を見た銀時は呆れ声を漏らす。

 

「………………ヅラ……お前……なにしてんの……?」

 

 穏健派攘夷志士のリーダーであり、髪の長さくらい性格がウザイ男、

 

「ヅラじゃない……桂だ!」

 

 バカ(ヅラ)が現れたのだった。

 

「バカじゃないヅラだッ! あ、間違えた。桂だ!!」

 



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第三十四話:髪も無駄に長きゃ話も無駄に長い

休日の上、折角の桂登場なので二日連続投稿です。


 突如として天高くから降り立ち、そのまま銀時を襲撃してきた怪物を撃退してしまう桂小太郎とエリザベスのコンビ。

 

「か……桂さん!?」

 

 まさかの穏健派攘夷志士のリーダー格である桂小太郎の登場に、新八は驚愕の表情を浮かべた。

 銀時たちの姿に気付いた桂は驚き気味に声を出す。

 

「おォ! 新八くんにリーダーに銀時ではないか!! 何故ここに!?」

「いや、それこっちセリフ!!」

 

 とツッコミを入れたのは新八。

 どうやら桂の眼中には今の今まで、万事屋や真選組の姿は映っていなかったようだ。

 すると銀時たちを見ていた桂は「ん~」と唸り声を上げて腕を組んだかと思えば、ポンと掌を拳で叩く。

 

「そうか分かったぞ! ははぁ~ん? さては俺たちの仲間になりたくてこっそり後を付けていたのであろう? んん?」

「なに勝手に自己完結した上で外れな納得してんのこの人!? つうか顔も言い方もウザッ!」

 

 新八は露骨に顔をしかめ、

 

「…………おい、ヅラ」

 

 と銀時が言う。だが、桂はまったく意に返さずうんうん頷く。

 

「よしよし分かった。銀時もリーダーも新八君も俺たち攘夷志士の同士になりたいことはよく伝わった」

「こっちは何も言ってないんですが!?」

 

 言葉を無視する攘夷バカにツッコム新八。

 

「……おい、ヅラ」

 

 とまた銀時は言うが、

 

「ならば入会特典してこの『攘夷バッジ』を進呈しよう!!」

 

 無視する桂はダサいバッジを懐から取り出す。

 

「入会!? あんたの攘夷グループって会員制なの!?」

 

 『攘』という文字が描かれた低センスのバッジを見せびらかす桂に、新八はまたツッコム。

 

「無論プレゼントギフトはこれだけではない! この攘夷ハッピもプレゼントだ!!」

 

 桂が次に取り出した物は背に『攘夷志士』と刺繍がしてあるハッピ。それを見た新八はキレ気味に怒鳴る。

 

「いやいらねェよそんなゴミ!」

「なにィ!? 俺が攘夷志士増員の為に作ったグッズがゴミだと……!!」

 

 ガチで驚愕の表情を浮かべる桂に対し、新八はギョッとした。

 

「あんたそんなしょぼいアイテムで攘夷志士増えると本気で思ってたの!?」

「おいヅラァ!!」

 

 と怒鳴ったのは銀時。

 

「ヅラじゃない桂だァァァァァッ!!」

 

 そして桂は旧友の頬に、ドカァ! と拳浴びせた。

 

「ぶべェ!?」

 

 銀時は悲鳴を上げながらズザザザァー!! と地面を滑る。

 倒れる銀時に対し、桂はビシッと指を突き付けた。

 

「さっきからなんだ銀時貴様! 人の話を邪魔しおって!! ちゃんと話が終わるまで貴様は待てぬのか!? ほら、アレだぞ! 会話によこやり……なんたら的な…………アレ!!」

 

 何かの言葉をど忘れしたようで、桂はしばし腕を組んで黙考を始める。やがて思い出したのか、クワっと目を見開いた。

 

「『人の話を邪魔しちゃダメ』とお母さんに習わなかったのかァァァ!!」

「さんざん考えて結局出てきた言葉それかィィィィィっ!!」

 

 銀時渾身のジャンプキックが、桂の顔面にドカァー!! とクリーンヒット。

 

「グハァーッ!!」

 

 桂は勢いのあまり吹っ飛び、地面で背中をズザザザァー!! と滑った。

 すかさず銀時は桂の胸倉を掴んでメンチ切る。

 

「つうかお前なんで異世界いんの? ここはテメェの住んでる江戸じゃねェんだよ。バカは時空の跳躍もできんのか? あん?」

「貴様こそ何を言ってるのだ銀時? 異世界だと? フッ……」

 

 桂は小ばかにしたように鼻で笑う。

 

「バカバカしい。糖分の取り過ぎでついには脳までスイーツになってしまったか」

「脳味噌ババロアの奴は黙ってろ」

 

 青筋立てる銀時。だが、桂の言葉を聞いて銀時はあることを察する。

 

「あァ~……なるほどな。どうやって来たか知らねェが、テメェはこの世界に来たばかりってか? なら無理もねェか」

「いや、俺が江戸を離れて〝ここ〟に滞在してからかれこれ一ヶ月以上は経ったな」

 

 と予想外の答えを桂は口にした。

 すると銀時は自分が最初にしていた勘違いを目の前の長髪がしているだろうと予想しだす。

 

「…………なら、ここが別の惑星とでも――」

「ここは地球なのだろう? そんなことも分からんのか貴様?」

「………………」

 

 桂の答えに絶句した銀時は長髪の頭をガシっと鷲掴み、

 

「じゃーなんでテメェは現状を理解できてねぇーんだよォ!」

 

 顔面を地面に叩き付けた。長髪のバカは「ブバァッ!?」と悲鳴上げる。

 地面とキスする桂に銀時はビシッと指をさす。

 

「バカでもここに数日もいりゃあ、俺たちの世界と違うってちったァ考えるだろうが!! 帰る方法探そうと思って地図とか見るだろうが!! んで、色々調べるだろうが!! そんで気が付くだろうが!! お前アレか! バカ以上なのか! バカ以上のバカなのか!」

 

 最後には自分を散々こきおろす銀時に対して桂は顔を上げて言う。

 

「バカは貴様だ銀時。俺とてこの町並みを見て何も感じなかったワケではない。とっくに気付いておったわ」

「なら……」

「ここが……」

 

 桂は一旦言葉を溜め、クワッと目を見開く。

 

「『未来』だと言う事にな!!」

「………………はッ?」

 

 まさかの答えに思わず銀時は間の抜けた声を漏らす。

 桂は銀時の様子になど気にも留めずにしみじみと語り出す。

 

「いやはや。まさか『あの装置』で一瞬にして俺たちの時代から何百年も先の未来に飛ばされていたとは……さすがの俺も驚かずにはいられなかった」

「ちがッ……あー……うん」

 

 この(バカ)がそれなりに最もらしい仮説に行き着いたので、あまり強く言い返せない銀時。

 

「まァ、お前がそれで納得してんのなら、もう別にいいや。なんか訂正すんのもめんどくせェし」

 

 これ以上何か言ってもこの(バカ)が理解してくれるとは思えない。それに目の前の電波バカに労力費やすのもバカバカしいと思った銀時は、別の疑問をぶつける。

 

「っで?」

「……っで?」

 

 不思議そうに銀時の言葉を反復する桂に、銀時は質問を投げかけた。

 

「いや、最初に聞いたけど、なんでお前こんな所にいんの? どうやって異世界(ここ)までやって来たんだよ」

 

 新八は「あッ」と銀時の言葉に反応する。

 

「さっき桂さん装置とか言ってましたけど、もしかして瞬間移動装置でここまで来たんですか!?」

「ん? ああ、実はな――」

 

 と言って桂は腕を組み、ある出来事を話し始めた。

 

「最近、エリザベスの姿を見なくなった俺は部下達に命を出し、その消息を追った。すると俺はある時、エリザベスが幕府の者共に連れ去られた挙句、幕府直属の研究者共の実験動物にされそうになっているという情報を得た」

「まさか、エリザベスは――!」

 

 話の流れから瞬間移動装置の実験動物にされそうになったのでは、と新八は予想したようだ。

 

「エリザベス救出の為、単身研究所に乗り込んだ俺は見た――」

 

 桂が回想に入る。

 

 

 物陰から研究室を覗く桂は驚愕の表情を浮かべた。

 

「まさかここまでの実験結果が出るとは……」

「ああ。この――新型筋肉増強剤の効力は素晴らしい」

 

 と、マッチョになったエリザベスを見て感嘆する研究員たち。

 

 

 桂は腕を組んで目を瞑り、顔を上げる。

 

「――そこにはサイヤ人もビックリの筋肉ムキムキのエリザベスが立っていた……」

「いやなにそれェェェェェェェッ!?」

 

 新八は瞬間移動にまったく関係ない話が出てきたので思わず叫ぶ。

 桂は涙を流し、拳を握りしめる。

 

「あのような醜い姿のエリザベスを見た俺は驚愕のあまり言葉もでなかった……」

「新型筋肉増強剤ってなに!? 瞬間移動装置まったく出てきてないんですけど!?」

「まさか、エリーがそんな目に……辛かったアルなヅラァ……」

 

 話を聞いていた神楽は釣られて涙を流す。対して、新八は桂にツッコム。

 

「いや、悲しいのは分かりますけども! あんたが異世界(ここ)に来た経緯の話はどうしたんですか!?」

「だが、エリザベスに対する実験はこれでは終わらなかった……」

 

 桂は新八の言葉を無視してまた回想に入りだす。

 

「エリザベス救出の為、俺は機を伺った。そしてエリザベスは、新たな『装置』の実験台にされようとしていた……」

「そうか! その装置が瞬間移動――!」

 

 瞬間移動装置! と声を出そうとする新八に構わず、回想が始まった。

 

 

 物陰から装置を見た桂は驚愕する。

 

「この装置は凄いぞ!」

「ああ。この――『学習装置』の効力は素晴らしい」

 

 すらすら問題を解くのは、頭になんか鉄の帽子を被ったエリザベス。

 その姿にまたまた感嘆の声を漏らす研究員たち。

 

 

「そこには、赤ペン先生もビックリなくらいメキメキ学力を向上させているエリザベスの姿があった……」

 

 目を瞑って複雑そうな表情で語る桂。

 

「だからなにそれェェェェェッ!?」

 

 と新八は叫ぶ。

 桂は悔しそうに拳を握りしめた。

 

「幕府の連中は、非情にも俺の大事なエリザベスをあのような醜い化物へと変えていった……!!」

「いや、お前のペット元々化物みたいなもんだろ……」

 

 と銀時はさりげなく言う。

 

「連中はキュートなエリザベスをあのような見た目はサイヤ人、頭脳は名探偵と言う化物へと変貌させてしまったのだ……」

 

 握り拳を震わせ、涙を流す桂は思い出す。

 

『オラ腹減っちまったぞぉ……。なんか飯食わせてくれ』

 

 と、丸太のような腕でプラカードを持って話す改造エリザベスのことを。

 

「結局頭脳もサイヤ人じゃねェか!!」

 

 と新八はツッコム。

 桂は歯噛みし、握り拳を掲げた。

 

「俺の愛するエリザベスをあのような醜悪で下劣な化物に変えた幕府を俺はけっして許さん!!」

 

 新八は半眼で桂を見る。

 

「いや、その愛するエリザベスをさっきからこき下ろしまっくてるあんたから、どこにも愛を感じないんですけど?」

「つうかさァ……」

 

 と言葉を挟むのは銀時。

 

「さっきから筋肉増強剤とか学習装置とか、幕府は何考えてそんなアホみたいな研究してんだ?」

 

 なんかよく分からん秘密裏の研究内容を聞いて銀時は呆れ気味に眉を寄せていた。

 すると、銀時の後ろの方にいた沖田が横にいる近藤に顔を向ける。

 

「そう言えば近藤さん。とっつぁんが『うちの軟弱バカゴリラを改造ゴリラにできねェかなァ……』とか言ってましたぜ」

「え”え”ッ!?」

 

 近藤の顔が真っ青になった。

 

「つうかさっきから瞬間移動装置の話が一向に出て来ねェじゃねェか」

 

 ついに痺れを切らした銀時は桂に問い詰める。

 

「おめェのことだからどうせ無駄に長い前置きがまだ続くんだろ? もういいから、とっとと瞬間移動装置のとこまで話し持ってってくんない?」

「まったく辛抱のない奴だ……だが、良かろう。せっかちなお前の為にクライマックスの部分を語るとしよう」

 

 呆れた様子を見せる桂は、コホン! と一息入れ、語りだす。

 

「――俺はエリザベス共々幕府の研究所を木っ端微塵にしてやった!!」

 

 回想には『ふはははははっ!! 天☆誅!!』と爆発する施設をバックに走り去る桂の姿があった。

 

「いや飛ばし過ぎだろォォォォォォッ!!」

 

 まさかの超展開に叫ぶ銀時は「一体なにがあったァ!?」とツッコム。

 

「かくして、俺と幕府直轄の研究所との戦いは幕を閉じたのであった……」

 

 桂はうんうんとやり切った顔で頷く。

 

「いや、まったくこっちは理解できないんだけど!? 一週分読まずに見たジャンプマンガよりワケわかんねェぞおい!!」

 

 銀時がツッコミを入れれば、新八も続く。

 

「つうかなんであんた研究所ごと愛するエリザベス爆殺してんですか!? じゃああんたの後ろにいるエリザベス誰よ!?」

 

 エリザベスをビシッと指さす新八の指摘。対して、桂はエリザベスの肩に手を置いて答える。

 

「潜入している途中で気付いたのだが、捕まっていたのはエリザベスのそっくりさんだったようでな、なんかめんどくさくなったから爆弾で奴らの研究を潰す計画に変更した。ちなみにエリザベスは俺に黙って宇宙旅行に行っていたらしくてな、正直マジ羨ましい。俺も連れて行ってくれても良かったと思うのだが、銀時、お前もそう思わんか?」

「知るかァァァァァッ!! それ結局今の話丸々無駄だっただけじゃねぇかァァァァァッ!!」

 

 顔中に青筋を立てて怒った銀時は、桂の顔面に全力キック。

 

「ブバァッ!?」

 

 ズザザザザッ!! と桂は勢いに乗って地面を滑る。そして倒れる長髪に銀時は怒りの眼光をぶつける。

 

「結局テメェはどうやって異世界(ここ)にやって来たんだコノヤローッ!! 次余計な話ししたらマジぶっ殺すからな!!」

「ああ、それはだな……」

 

 桂は顔に付いた汚れを拭いながらあっさり喋る。

 

「――ずっと瞬間移動装置の中でスタンバってました」

 

 源外の作った『瞬間移動装置』の中には銀時。そしてその真上には――ガラスの壁に手と足を付けて、天井の方で待機していた桂とエリザベス。

 装置は人一人くらいを入れる広さなので、手足をガラスの壁に付ける事が可能だった。

 

「って最初からそう言えやァァァァッ!!」

 

 顔中に血管浮かべた銀時は桂の脳天に踵落とし喰らわせる。桂は「グボァッ!!」と地面に倒れ伏す。

 頬の筋肉をピクピク痙攣させる銀時は倒れる桂を見下ろす。

 

「……えっ? じゃあなに? お前とそこの化けモンは俺と一緒に異世界(ここ)に飛ばされたってこと?」

 

 なんでもなかったように立ち上がる桂は、残念そうに語る。

 

「まさかこのような奇怪な状況になるとは俺自身も予想だにしなかった。あの時、居眠りしなきゃ良かった……」

「いや、壁に手足付けたまま寝るあんたの方が奇怪だわ!」

 

 と新八はツッコミ入れ、銀時は青筋浮かべて口元を引くつかせる。

 

「そんでなに? 俺と一緒に飛ばされた挙句別の場所に飛ばされたであろうテメェはたまたま見つけた俺をあのマジもんの化物かたら助けたと? そう言うワケか?」

「化物? 一体なんの話をしているのだ貴様?」

 

 と首を傾げる桂。対して新八は「えッ?」と疑問符を上げた。

 

「桂さんはあの怪物から僕たちを守る為に撃退してくれたんじゃないんですか?」

「俺が〝ここ〟にいるのは同じ攘夷志士であり、同じ志を持つ同志――『後藤仁(ごとうじん)』を見つけたからだ」

「はっ? どゆこと?」

 

 銀時は桂の言いたい事がまるで分からず片眉を上げる。すると桂はまた腕を組んで語り出す。

 

「――こちらにやって来てから住む場所を提供してくれた家主殿の為、俺とエリザベスは買い物帰りの途中だった。帰宅途中、ふと何気なく屋上を見上げた時のことだ。ビルの屋上から俺と同じ穏健派攘夷志士である後藤がビルの屋上に立っている所を目撃した。まさか何百年も先の未来で同志に会えると思わなかった俺は必死で後藤のいるビルの屋上へ向かったのだ」

「いや、何百年も先の未来に同志いる時点でおかしいと思わね?」

 

 ツッコム銀時だが攘夷バカの説明は続く。

 

「だが、俺が屋上に着いた直後、驚くべきことに奴は飛び降りたのだ!!」

「えッ? って言うか……飛び降りた、人?」

 

 そこまで聞いた新八はあることを察し、。

 

「まさか……」

 

 銀時の視線が大木に向く。それに続くようにその場にいた人々の視線が倒れた大木に注がれる。

 

「それを見た俺は居てもたってもいられず屋上を飛び降り――!!」

 

 桂の言葉を聞いた新八は驚きの声を上げる。

 

「えっ!? あんたビルの屋上から飛び降りたんですか!? なんで無事なの!?」

「――っと思ったが怖いから、五階くらいから飛び降りた!!」

 

 と桂は迫真の声。

 

「いや、ビルの五階でも充分高いからな? お前よく足骨折しなかったな」

 

 銀時は呆れた声を出し、桂は説明を続けた。

 

「そして飛び降りてみれば、目の前には銀時やリーダーや新八くんたちや見慣れない者たちがいるではないか。さすがの俺も驚いた。まさか未来で同じ攘夷を掲げた同志に〝二人〟も会えたのだからな」

「いや、人を勝手にテロリストの仲間にしないでくんない? 俺お前みたいな〝バカ〟と同じ志し持った覚えないから」

 

 露骨に嫌そうな顔をする銀時に構わず、桂は語る。

 

「まー、そんなこんなで今現在俺はここにこうしているワケだ。だから取り合えず――土方(このひと)なんとかしてくれない!?」

 

 桂はいつの間にか真選組副長――土方十四郎に手錠を掛けられていた。

 一方、桂に手錠を掛けた土方はタバコ吸いながらほくそ笑む。

 

「よォ、桂ァ~。まさか異世界(こんなところ)でテメェに会えるとは思わなかったぜェ。俺たちはつくづく縁が在るようだなァ」

「くっ……!」

 

 と、苦虫を噛み潰したような表情を作る桂。

 

 攘夷志士と真選組――犯罪者と警察。

 桂は攘夷志士(テロリスト)の親玉の一人。ともなれば、真選組の幹部である土方が放っておくはずもない。そして簡単に犯罪者の親玉という名の大魚を捕獲した土方は上機嫌だ。

 桂は忌々しそうに土方を睨み付ける。

 

「まさか今の今まで俺に出番を奪われ、まったく存在が描写されず、出番皆無の立場を利用して俺を捕まえに来るとは、中々の意地汚さだ。さすがは真選組副長だと褒めておこう」

「いや、それ一言たりとも褒めてねェよな?」

 

 土方は額に青筋浮かべるが、あえて流す。

 

「まァ、俺たち警察はテメェら犯罪者を捕まえるためなら出番のなさだろうが影のうすさだろうが利用するってことだ」

 

 フッと勝ち誇った笑みを浮かべる土方を見て、沖田が山崎に耳打ちしだす。

 

「うわー……ああ言う出番も影もある奴が言うとただの嫌味にしか聞こえねェよなァ? ジミー」

「は、はァ……」

 

 と気のない返事をする山崎に、土方はチラリと視線を向けた。

 

「山崎……あとでビンタな」

「ええッ!?」

 

 なんで!? と山崎はビックリ。

 なんやかんやで土方に追い詰められた桂だが、すぐに余裕を取り戻す。

 

「フッ……大した覚悟だと褒めてやりたいところだが、甘いぞ土方」

「なにッ!?」

 

 身構える土方に、桂は声高々に告げる。

 

「俺にはエリザベスと言う切り札がいるのだ! 我が愛しのエリザベスは俺の事を決して『見捨て』はしない!!」

「お前の愛しのエリザベス――」

 

 と言う土方が指を指した先には、

 

『食材は責任持ってお届けします。桂さんは安らかに監獄で暮らしてください』

 

 プラカードを振りながら買い物袋を持って去っていくエリザベスの姿があった。

 エリザベスの白い背中を呆然と見ていた桂に、土方は告げる。

 

「とっくにお前のこと切り捨ててるぞ」

「エリザベスゥゥゥゥゥゥッ!?」

 

 桂は世界の終わりのような絶望顔で叫ぶ。それを見た土方はニヤニヤ顔。

 

「万策尽きたな桂。言いたい事ならたっぷり屯所で聞いてやるぜ」

「土方さん。俺らの屯所は異世界(ここ)にありやせんぜ?」

 

 と沖田はさり気なく言う。

 すると桂は「まて土方!」と待ったをかけた。

 

「この近くには俺と志しを同じくした同志たる、後藤仁がいる! 後藤を見つけ出して差し出すから、代わりに俺を解放すると言う案はどうだろう?」

「どうだろう、じゃねェよ! あんたなにサラッと同志売ろうとしてんですか!?」

 

 と新八はツッコム。

 

「つうかお前の同志、倒れた木の下敷きになってるけど?」

 

 木を指さす銀時の言葉を聞いて、桂は驚愕の表情を浮かべた。

 

「なんだとっ!? なぜそれを早く言わんのだ銀時!? 早くひっぱり上げねば!!」

 

 言うやいなや、桂は手錠はそのままに走り出す。

 

「おい待て!!」

 

 と言って捕まえようとする土方の手よりも早く、桂は後藤の方へと向かっていく。

 「いや、トドメさしたのはお前だけどね」と呟く銀時をよそに、桂は必死に後藤を潰している木をどかそうとする。

 

「つうか止めとけって、ヅラ。そいつ、お前の連れてる化けモンより化けモンだから。下手に刺激しない方がいいぞ」

 

 銀時が止めようとするが、桂は構わずふんばりながら大木を押す。

 

「ふぅ~~ん!! なにを言い出すのだ貴様! 言うに事欠いて俺の心の同志を化物呼ばわりとは、いくら貴様でも許さんぞ!!」

「いや、心の同志ってなに? ジャイアンかテメェは。兎に角、そいつ助けんの止めろ。後悔してもしんねェぞ?」

「ふん! 下らん! どんな見てくれであろうと、俺は一度友と決めてた男を蔑ろにはしないのだ!!」

 

 そう言った時、ゴロッと木が横に転がり、後藤の上からどいた。

 

「よし、助けたぞ! 大丈夫だったか、ごと――!!」

 

 桂が持ち上げた後藤は全身血まみれで、足やら腕やらの骨があらぬ方向に折れていた。間違いなく全身複雑骨折どころか生きていることすら不思議なはずの姿。

 だが、男の目は血走り、

 

「テメェ”……!!」

 

 と自身を木の下敷きにした桂を射殺さんばかりに睨み付けた。

 

「なんだこの化物はァァァァァッ!?」

 

 血相を変えた桂は後藤(バケモノ)を銀時に向かって全力で放り投げる。

 

「心の同志ぶん投げたァァァァァッ!!」

 

 と叫ぶ新八。

 

「ぎゃああああああああああああッ!! こっち投げんな気持ちワルッ!?」

 

 と銀時も悲鳴を上げながら、投げつけられた後藤を神楽に投げつける。

 

「うぎゃああああああああッ!! キモイアル!!」

 

 と神楽は回し蹴りで土方に後藤をパス。

 

「んな気持ち悪いモン俺に投げんなァァァァァァァァッ!!」

 

 と土方は新八に蹴ってパスし、眼鏡はまた悲鳴上げる。

 

「ちょっとォォォォッ!? ありない方向に曲がった足とか手がぶらぶらしてめちゃ怖いんですけどォ!!」

 

 阿鼻叫喚と言った具合に騒ぎまくる彼らを見て、魔法少女になった少女達は呆然。

 

「また変なのが増えた……」

 

 アリサの呟きは彼らの悲鳴に消えていったのだった。

 



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第三十五話:お祝いと反省会

「へい神楽パス!!」

 

 銀時の蹴った後藤(ボール)が宙を舞い、神楽に向かっていく。

 

「任せたぞ神楽!!」

 

 銀時がひと際大きな声をかければ、

 

「任せるアル銀ちゃん!!」

 

 神楽は高く跳躍。舞い上がった化物(ボール)の頭が彼女の手に納まる。

 そして神楽は腕を大きく振りかぶり、

 

「メテ○ジャム!!」

 

 まるで隕石(メテオ)のように後藤(ボール)を新八に叩き付けた。

 

「あっぶねェッ!?」

 

 新八は寸前で後藤を回避。そのまま化物の頭は地面に叩き付けられ、突き刺さる。

 いきなり化物をぶつけられそうになった新八は怒鳴り声を上げた。

 

「ちょっとォ!! あんたらいきなりなにすんですか!? 今の当たってたら僕の骨折れちゃいますよ!!」

「何言っているアルか。人間は215本骨があるネ。たかだか210本折れたくらいでガタガタさわぐんじゃネェヨ」

 

 と真顔で神楽が言う。

 

「いや、五本以外の骨全部折れたら重傷なんてレベルじゃないから!!」

 

 新八は「っていうか!」と言って、いきなり球技を始めた二人に指を向ける。

 

「あんたら一体なにやってんですか!?」

「サッカー」「バスケ」

 

 と、同時に言う銀時と神楽。

 

「一つに絞れェ!! なんでてんでバラバラのことしてんの!! そもそも怪物使って球技している時点でおかしいでしょ!!」

 

 新八がツッコムと、神楽は両手を地面に付けて訴える。

 

「先生、バスケがしたいです……」

「勝手にやってろ!! もちろんちゃんとしたボールで!!」

 

 バッサリ言う新八。すると今度は銀時が地面に両手を付いて訴える。

 

「先生、ちょっとむかつくニコチン野朗の顔面にシュート決めたいです」

「ほほほ、坂田くん。一人でニコチンは、殺せませんよ」

 

 と、ダミ声で言うのは沖田。もちろん土方が青筋浮かべて反応。

 

「いや、殺せませんよじゃねェよ!! なに良い感じ出して人殺そうとしてんの!! 安西先生絶対許さないよ!!」

「って言うか神楽ちゃん! バスケするのはいいけど!!」

 

 新八の言葉に「いや、状況的に遊んでる暇ないです」とユーノがやんわりツッコム。

 

「なんで僕にシュートするの!? いつもの嫌がらせ!?」

 

 プンスカ怒りながら抗議する新八に対して、神楽はあっけらかんとした顔で。

 

「パスしただけアル」

「あれのどこがパス!? 明らかにゴールに向けて撃つ技だよね!?」

「あれくらいのパスもまともに取れないなんてホント使えない眼鏡アル」

「なんで呆れ気味!? あんなパス取れる奴黒バスの世界にもそうそういねェよ!!」

 

 いつものように喧嘩腰の会話を始めるチャイナと眼鏡。それを見ていた土方はため息を漏らす。

 

「たく、あいも変わらず万事屋の連中は能天気っつうか、なんつうか……」

 

 そこまで言って土方はタバコを咥え、火を点ける。

 

「まァ、なんにせよ。桂の野朗を捕まえられたから、良しとするか」

 

 タバコを吸いながら思わぬ収穫にほくそ笑む土方。なんやかんやで桂という大物攘夷志士をあっさり捕まえられた事は、彼にとってデカイ功績になることだろう。

 

「桂って誰?」

 

 とアリサは首を傾げながら質問する。

 

「ん? あァ、さっき突然現れたウザイくらい長髪の長い優男だ」

 

 土方は答え、煙を吐く。するとアリサは指をある方向に向けた。

 

「そいつならもうとっくにいないわよ」

 

 土方は「えッ?」と呆けた声を漏らし、桂がいた場所に顔を向ける。

 アリサが向けた指の先、さきほど倒れた木の近く。そこで化物をぶん投げていた桂の姿はなく、辺りを見回しても影も形もない。

 

「「ああッ!!」」

 

 すると今度は新八と神楽の驚く声。

 

「銀さんが!」

「いつの間にかいなくなってるアル!?」

 

 新八と神楽はあたりをキョロキョロと見渡している。二人の言うように銀時の姿もどこかに消えていた。

 

「「ああああッ!!」」

 

 と今度はなのはとユーノの声が。

 

「フェイトちゃんがいない!!」

「それに封印したジュエルシードも!!」

 

 なのはとユーノもまた辺りをキョロキョロ探す。

 黒衣の魔導師の姿やその使い魔の姿どころか、封印したはずのジュエルシードの姿すらどこかに消え去っていた。

 次に近藤が、

 

「ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

「いや、うるせェよ!!」

 

 と土方がツッコム。

 無駄にデカイ声を無駄に長く出す近藤。久々にセリフを喋った彼は、穴の空いている地面を指差す。

 

「さっきまで地面に刺さってた化物がいなくなっているぞ!!」

 

 どうやら怪物はまだ息どころか意識があったらしく、いつの間にか逃げられていたらしい。まあ、あのような人外ならあれだけの仕打ちを受けたとしても、動けそうではあるが。

 

 ない! いない! どこだ! どこいった!? どうしよう! ダメだやっぱりどこにもいない!! 彼女もいない! 山崎もいない! 俺最初からちゃんといますからね!? と言った具合にないないづくし。

 

 結局あんだけ頑張って、騒いで、ふざけて、三話かけて、特に収穫なんもなし。

 そんな無様な惨状に鬼の副長は頬をピクピクさせる。

 

「土方さん!!」

 

 と次に声を上げたのは沖田。驚きの声を上げるのは彼にしては珍しい。

 

「今度はなんだ総悟!! つうかこれ以上なにがなくなったんだ!!」

 

 土方は頬に青筋を立てて怒鳴り散らす。

 部下に苛立ちをぶつけてしまうのは上司としても大人としてよろしくないところ。だが、土方とてこの短時間での連続失態にイライラも頂点に達しようとしているので、声を荒げてしまうのは仕方ない。

 

「ここに……」

 

 そこまで言って、沖田は地面を指す。

 

「犬の糞が落ちてますぜ」

「だから!?」

 

 心底どうでもいいことだった!! と土方は内心呆れる。

 鬼の副長のイライラはさらに上がるが、沖田は構わず真顔で告げた。

 

「しかもできたてほやほやですぜ」

「だからなに!?」

 

 心底どうでもいい!! と土方は内心怒る。

 土方のイライラが限界突破するが、沖田は真剣みのある顔で言う。

 

「この立派なウ○コから俺は推理しやした。聞きたいですか?」

「ああ」

 

 と土方は頷き、抜刀。

 

「それが最後の言葉になりそうだからな。聞いてやるよ」

 

 心底どうでもいいので、とりあえず部下を叩き切ろうと思った土方。

 沖田は腕を組み思案顔。

 

「きっとこれはさっきのオレンジ犬女の野グソに間違いありやせん。だから、このウ○コの臭いを土方さんが覚えればきっと奴らを捕らえることが――」

「よしわかった――つまり死にたいってことだなッ!!」

 

 烈火の如く怒った土方は沖田に斬りかかろうと駆け出す。

 すると沖田はフンを蹴って土方の顔面に叩き付けた。顔面に汚物叩き込まれた土方の動きが止まる。そして沖田は一言。

 

「エンガチョッ!」

「――縁じゃなくて、テメェの命断ってやらァァァァァッ!!」

 

 土方の雄叫びが街の夜空へと消えていった。

 

 

「ブハハハハハハッ!!」

 

 フェイトが拠点にしているマンションの一室から高笑いを響かせるのは坂田銀時。

 死んだ魚のような目の男はビールが入ったジョッキを片手に食事を楽しんでいた。

 

「いやァ~、あのクサレポリ公共出し抜けてマジサイコーだわ! 今頃あいつら反省会でもしてんだろうな~!!」

 

 ジュエルシード確保よりも、真選組を出し抜いて悔しい思いをさせた事に上機嫌な銀時。人としてはかなり捻くれた喜び方ではあるが。

 オレンジジュースをジョッキに持ったアルフもご機嫌状態。

 

「あんたの〝サイコー〟はともかく、ジュエルシードが確保できたんだ。これなら残りもすぐ回収できそうだよ♪」

 

 順調、順調♪ と喜ぶアルフ。ちなみにこの使い魔、内心では白い魔導師――高町なのはよりも多くのジュエルシードが自分たちの手にあることが喜ばしいという、銀時と似た感じだったりする。

 

 かんぱーい♪ とジョッキをぶつけて喜びを分かち合う銀時とアルフ。

 

「アハハ……」

 

 フェイトはハイテンションの二人を見て苦笑しかでない。

 ビールをごくごく一気飲みした後、銀時はアルフの肩に腕を回す。

 

「アルフよォ~、今んとこジュエルミートいくつになったよ?」

 

 既に酒が回り始めたのか銀時の顔はほんのり赤い。

 アルフは絡み酒されながらも機嫌よく律儀に指を使って答える。

 

「とりあえず、八個だね。連中が今いくつ持っているか知んないけど、たぶんあたしらの方が数は上さ。あと、ジュエルシードな」

 

 地球のどこに落ちたのかも分からない石ころ大のターゲット。それをこの短い期間で八個も見つけることができたという事実はアルフも嬉しい。ちなみにちょっと前に一個回収していたりする。

 

「結構、結構♪ この分ならプレシアから報酬がっぽりふんだくれそうだな~」

 

 ブハハハハ!! と銀時はまた何がおかしいのか高笑いしながらビールを飲み干す。ちなみにこれでビール瓶三本目。

 さすがにそんな酔っ払い親父さながらの銀時を見てアルフは呆れた眼差しを向ける。

 

「うわー……大分出来上がっちまってるね……」

 

 するとフェイトは優しく微笑みを浮かべる。

 

「フフ……でも、いいと思うよ。銀時、今まで頑張ってくれたんだし」

 

 主の言葉を聞いてアルフも相槌を打つ。

 

「そうだね。回収されてないジュエルシードも残りわずかだろうし。今晩くらいパーッとハジケさせてもバチはあたらないか」

 

 とアルフも笑顔でフェイトに返す。

 だが、アルフの言葉を聞いてさきほどまで明るい雰囲気だったフェイトの面持ちが真剣みを帯びていく。

 

「どうしたんだい、フェイト?」

 

 使い魔は主の心の変化を感じ取り心配そうな表情を作る。

 

「あ、ごめんアルフ。これから先のことを思ったら、ちょっと、ね……」

 

 感慨深そうにジュースを啜るフェイトを見て「あッ……」と声を漏らすアルフ。主の心情を察することのできる使い魔はすぐに気付いた。

 

 決着の時がちゃくちゃくと迫っていることに――。

 

 野良ジュエルシードが少なくなっているということは、今度は持っているもの同志でのジュエルシードの奪い合いになる。

 

 ――フェイトはやっぱり、あの白い魔導師のことを少なからず気にしている……。

 

 それはジュエルシードを争奪してきたライバルと決着をつけなければいけないという感情だろう。

 だが、それだけだろうか? 

 当の白い少女はフェイトに対し、話をしたいと何度も訴えてきた。それは主に少なからず敵対心以外の感情を芽生えさせることになっているのかもしれない。

 そう、考えたアルフ。彼女は心配そうにフェイトに声をかける。

 

「フェイト、やっぱりあの白いガキンチョとは戦いづらいのかい?」

 

 元々、性格の優しい主。

 いくら魔導師として優れていても、彼女自身の闘争本能みたいなものはお世辞にも強いとは言えない。だが、それでも母親の笑顔を取り戻したいという一心で、今の今までしたくもない戦いをしてきた。

 だからこそ、アルフもそんな彼女の思いを汲み取って意の一番に戦陣を切ってきたのだ。

 

「ううん。心配しなくても大丈夫だよ、アルフ」

 

 使い魔を心配させまいと主は優しげな笑みを浮かべた後、決意ある表情を作る。

 

「私は絶対にジュエルシードを集めて母さんの願いを叶える。だから、ジュエルシードを全部集めきるまで躊躇も戸惑いもするつもりはない」

 

 一歩も引かない――。

 そんな強い意志がフェイトの瞳からは感じられたのだ。それは使い魔として繋がり(リンク)がなくともふつふつと感じられるほどに。

 フェイトの言葉を聞いたアルフは力強く答える。

 

「フェイトの決意は使い魔であるあたしが〝一番〟よく分かってるつもりだよ! フェイトが母親の願いを全力で叶えられるように、あたしも自慢の牙と拳を使って全力でフェイトをサポートするよ!」

 

 と言ってアルフはフェイトの肩に手を置き、サムズアップ。フェイトはそんな使い魔の言葉を聞いて笑顔になる。

 

「ありがとう。アルフの気持ちは私にはもったないくらい心強いよ」

 

 微笑むフェイトは「けど」と言って真剣な表情に再び戻る。

 

「心配なのはあの正体不明の怪物……」

「あー……確かにあのバケモンは目的が分からないし、不気味だったね」

「あいつには他にも仲間がいるのかもしれない」

「つまり、あの魔導師の子以外にもジュエルシードを狙っているグループがいるってことかい?」

「たぶん。だから、これからもっと敵が多くなる可能性が高いかも」

 

 「なるほどねぇ……」とアルフは腕を組み難しい顔を作る。

 すると銀時が「でぇじょうぶだ」と言って二人の肩に腕を回す。

 

「俺がいりゃあ、バケモンだろうが改造人間だろうがマヨラーだろうがまとめてぶっとばしてやるから安心しな」

「いや、なんか余計なのまでぶっとばそうとしてない?」

 

 とアルフはやんわりツッコミ入れるが、銀時の言葉もまた心強いのは確かだ。

 心強いのだが……

 

「つうか酒くさ……!」

 

 アルフは思わず鼻を抑える。

 人よりも遥かに匂いに敏感な狼の使い魔。絡み酒してくる銀髪の酒臭さに顔をしかめてしまう。

 

「ありがとう、銀時」

 

 だが、よい子のフェイトちゃんは酒くせぇ男に対して素直に感謝を示す。しかも笑顔で。

 反対にアルフは呆れた表情だ。

 

「たく、明日プレシアの報告に行くっていうのに、そんなに酔って大丈夫なのかい?」

 

 アルフの言葉を聞いてフェイトの表情が沈んだものとなる。

 フェイトの変化に、ハッといち早く気づいたアルフは慌ててフォロー。

 

「だ、大丈夫だよ! ジュエルシードを八個も手に入れたんだ! あんたの母さんもきっと褒めてくれるよ!」

 

 きっとバケモノのことよりもフェイトが一番不安に感じているのは母親のことだろう。

 自分の出した結果に満足してくれるか? 笑顔になってくれるか? むしろ不満を言われるのではないか? といった不安が彼女の中で渦巻いていることだろう。

 

「安心しろって」

 

 酔った銀髪がコップに飲み物を注ぐ。

 

「ちゃんと結果出してんだ。おめェの母ちゃんがいくら鬼ババつっても、娘が体張って出した結果に文句は言わねェだろ」

 

 そう言った銀時は、飲み物を注いだコップをフェイトとアルフの前に差し出す。

 

「今は飲んで食って、不安なことは全部忘れな。こう言う祝いの時間は嫌なことなんて全部発散させちまうもんだ。そして心機一転明日も頑張ろうってな」

「あんたは単純だね~。たかだか飲んで食うだけで嫌なこと忘れるなんて」

 

 呆れたように苦笑するアルフに対し、銀時は「へッ」と鼻で笑う。

 

「飲んで忘れるってのは大人にしかできねェ特権ってヤツだ」

「大人って意外と簡単なんだね」

「寧ろ色々と難しいから大人は酒で嫌なことぜぇ~んぶ吐き出して忘れてんだよ」

「それって、ただの現実逃避ってことだろ」

 

 と言いながらも、アルフは銀時に差し出された飲み物を一気に飲む。

 するとフェイトも何度か頷き、決意するように一気飲みする。

 

「んじゃ、俺はさっそく吐き出してきま~す」

 

 銀時は口元を押さえてトイレ向かう。

 あんたが吐き出してどうする! と言うアルフのツッコミは入ってこなかった。

 ただ二人から、

 

「「…………ヒック」」

 

 という音が聞こえた。

 

 

 場所は変わって月村邸の庭園。

 

「えー……ということで……」

 

 と言って、近藤が話し出す。

 

「すずかちゃんのはからいにより、我々は今日ここで反省会を行うことになった。今回の失敗を教訓にし、より一層ジュエルシード回収を頑張ろうというワケだ。では今回はみんな飲み、話し、触れ合い、お互いを高める糧にしてくれ」

 

 そう言って近藤は右手でコップを掲げる。

 

「俺もこの一杯を飲んだら、後はふんどしをしめなおすつもりだ」

 

 そこまで言った近藤は一旦溜めを作ってからひと際大きな声を出す。

 

「そういうワケで、カンパーイ!」

 

 音頭を取った局長(ゴリラ)の姿は――ふんどし一丁。股間以外は筋肉やら肌やらを惜しげもなく見せ付けていた。

 

「「「「きゃあああああああああああああああああああッ!!」」」」

 

 当然だが、年端もいかない少女達がほぼ全裸の男を受け入れるワケなど決して無く。幼い悲鳴が月村邸の広いガーデンに響く。

 

「なにやってんであんたはァァァァァァッ!!」

 

 新八は叫び、全裸に近い裸体を晒す近藤(バカ)の無防備な腹にドロップキックをドカァーッ!! と浴びせた。

 

「ぐぼォォォッ!!」

 

 さすがの偉丈夫もこれにたまらず悲鳴を上げながら体をくの字に曲げて、後ろに吹っ飛ばされる。

 ふんどし一丁は「うごごッ……!」と腹を抑えて苦しむ。

 

「いたいけな女の子が三人もいるのにあんたはなにやってんですか!!」

 

 のたうつ近藤などまったく意に介さず、新八は怒鳴り声を上げる。

 さすが万事屋一番の良識&ツッコミとして普段機能している青年。たまにポンコツになることもあるが、異常行動への反応が早い。

 

「なに言ってるアル。ゴリラの肌見せ芸なんて今に始まったことじゃないネ」

 

 とここで頬杖付きながら異を唱えるのは神楽。

 

「だから怒る必要なくね? みたいな顔しないでよ!! 普通に小さい子に悪影響なんだから!!」

 

 もちろん新八は怒鳴って反論。

 

「ま、待ってくれ新八くん……」

 

 ここで近藤が腹を押さえながら青ざめた顔で起き上がり、やんわり抗議。

 

「べ、別に俺はいつもの変態的な意味でふんどし一丁になったわけではないんだ」

「それ、いつもは変態的な意味で行動してる自覚あるってことじゃねェか! なお性質悪いは!」

 

 新八のツッコミに構わず近藤は腹の痛みに耐えながら弁明を続ける。

 

「お、俺のこのふんどし一丁スタイルには意味があるんだ」

「意味?」

 

 と新八は訝し気に首を傾げる。

 近藤は「その通り」と腕を組んで頷き、説明しだす。

 

「隙をつかれ、ジュエルシードを取られてしまったなのはちゃんたちに対し、俺はこの裸体(ネイキット)で彼女たちに俺の気持ちを伝えようとしたのだ」

「いや、その姿のあんたを見てもただの公然猥褻おじさんって印象しか受けないんですけど……」

「そうか。ならば俺の口から直接伝えよう」

 

 近藤は腕を組み、目を瞑って語る。

 

「『生まれたままの姿で心機一転頑張ろう』、『ふんどしを締めなおそう』、『お妙さんに俺の体を見て欲しい』、『例え何も持たずとも俺は君たちのために尽力しよう』、『お妙さんと合体したい』、『お妙さんを俺の肉体美でメロメロにしたい』、『お妙さんとラブホ行きたい』といった俺の気持ちの現れを伝えようとしたのだ」

「いや、後半ほぼあんたの気持ち悪い欲望しか伝わんなかったんですけど」

 

 新八のツッコミに続き、

 

「とりあえず、見苦しいからさっさと服着て」

 

 アリサの冷たい一言。ネイキットゴリラは落ち込みながら服を着ることにした。

 

 なのはは「アハハハ……」と苦笑いを零す。だが、すぐに沈んだ表情を浮かべ始めた。

 それにいち早く気付いた新八はジュースの入ったグラスを二つ持ちながら、ツインテールの少女に声を掛ける。

 

「あれ? どうしたのなのはちゃん。もしかして近藤さんの裸見て気分悪くなっちゃった?」

「あの、新八くんさり気なく酷くない?」

 

 と涙目になるゴリラはスルー。

 

「う、ううん。大丈夫です」

 

 自身の変化を悟られたなのははすぐに表情を明るくする。だが、どことなくその笑顔はぎこちない。

 

「はい、どうぞ」

 

 と言って、新八はなのはにコップを渡す。

 

「ありがとうございます」

 

 なのはは笑顔でお礼を言って受け取る。そのままジュースを口に含む彼女の顔はやはり、憂いをおびているのが伺えた。

 新八は頬を掻きながら聞く。

 

「もしかして、ジュエルシードが思うように集まらないから落ち込んでいる、とか?」

「ち、違います!」

 

 となのははすぐに否定するが、やがて表情を落とす。

 

「……いえ、それもありますけど」

「もしかしてフェイトちゃんのこと?」

 

 新八の言葉を聞いて少し反応を見せた後、なのはは首を小さく縦に振る。

 

「……私、全然フェイトちゃんとお話できてないなって。これから先、フェイトちゃんの心を本当に動かせるのかなって」

 

 「あッ」と声を漏らす新八は少女の悩みを理解した。

 なのはの言うとおり、今までの接触から考えてフェイトの心を変えられているとは思えないのは普通だ。

 

「大丈夫だよ」

 

 だが、新八はなのはの行動が無駄になっているとは思っていない。

 即座に否定した青年の言葉を聞いて、なのはは不安そうな瞳を向けた。そんななのはの顔を見て、新八は微笑みを浮かべながら言葉を続ける。

 

「だってうちの天然パーマのぐうたら男だって、人の心に影響を与えるような事を言えるんだし」

「それってもしかして……銀時さん?」

 

 首を傾げるなのはに、新八は頷く。

 

「あんな人でも人の心を動かせるんだよ? だったら、なのはちゃんの言葉だってフェイトちゃんの心を動かしてるかもしれない」

「そう、でしょうか……」

 

 新八の言葉を聞いてもなのはの顔は暗いまま。

「それに」と新八は言葉を付け足す。

 

「ぶっちゃけ……銀さんを説得して時の庭園に行けるチャンスをふいにした僕の失態の僕の方がダメダメだよ」

 

 ハハ……、と新八は乾いた笑い声を出しながらみるみる落ち込んでいく。

 確かに、銀時にこちらの事情を話していればフェイトの心変わり云々など抜きにして時の庭園に直行することができたのだ。はっきり言って、逃した魚は大きい。

 そんな悲壮感漂わせる新八をなのはは慌てて元気づけようとする。

 

「だ、大丈夫ですよ新八さん!! ジュエルシード集めをしていれば銀時さんにすぐまた会えます!! その時に今度こそちゃんとお話しすればいいんです!!」

「そ、そうだね……。まだまだチャンスも時間もあるんだし」

「はい! 私も根気よくフェイトちゃんに気持ちを伝えられるように頑張ります!!」

 

 うん! と声を出して、力強くガッツポーズするなのは。その姿を見て新八も自然と笑みを浮かべる。

 

「なのはちゃんも僕もまだまだ若いんだし、失敗なんて恐れず当たって砕けろだ!」

 

 そう言って新八は手に持ったグラスのジュースをグイッと飲み干す。

 すると突然、新八の背中に大きな影が激突。凄まじい勢いで吹き飛ばされた新八は口からジュースを「ブブーッ!!」と吹き出した後、ズザザザ! と芝生をむしりながら顔面スライディング。

 

「し、新八さん!?」

 

 なのははいきなり吹っ飛んだ新八に驚く。

 

「似合わないセリフ言う眼鏡(ツッコミ)に私、引いちゃったかもしれないネ」

 

 と言うのは定春に乗った神楽。チャイナ少女は悪びれもせずに苦虫を噛み潰したような顔。

 

「いや、かもじゃなくて轢いてんでしょうが!」

 

 新八は顔を起き上がらせながら怒鳴り、ペッと草を口から吐き出す。そしてビシッと定春に乗った神楽を指さす。

 

「その(さだはる)で人のこと轢いてんでしょうが! つうかなにすんの神楽ちゃん!!」

「バカヤロォー!!」

 

 と神楽はいきなり新八の顔面を殴る。

 「おぼォっ!!」と悲鳴を上げて吹っ飛ぶ新八と、「えええええっ!?」と驚くなのは。

 今度は背中で芝生を削りながら吹っ飛ぶ眼鏡に対し、神楽は握り拳を作りながら涙を流す。

 

「私の大切な馬車馬(かぞく)を車と書いてさだはると呼ぶとは何事アルか! 見損なったネ!!」

 

 新八はのっそりと立ち上がり青筋を浮かべ、

 

「馬車馬と書いてかぞくと呼んでるおめェの方がひでェじゃねェかァー!!」

 

 理不尽な暴力にぶち切れた眼鏡はチャイナとタイマン張るが、どう考えても結果は見えているだろう。

 世紀末モヒカン並みのやられっぷりを見せる新八をなのは呆然と見ている他なかった。

 

「あれ? 土方さんと沖田さんは?」

 

 ふと、なのはは気づく。少し怖い顔の男と超ドSの青年が、今に至るまで姿を見せていないことに。

 

 

「くそがァ……」

 

 場所は夜のビルの屋上。そこには、一人の男の掠れるような声が聞こえる。

 男の体のいたるところが折れ曲がり、潰れている。生物としての生命活動を停止してもおかしくないありさま。なのに喋れる姿はまさに異様そのもの。

 

「チクショー……なんで俺がこんな目にィ……」

 

 恨みの言葉を吐き続けるのは全身を血まみれにし、足と腕など全身の骨を複雑に骨折、もしくは砕けさせた攘夷志士――後藤仁、ではない存在。

 

『酷い有様だな』

 

 それをなんの感情も感じられない瞳で見つめるくノ一。白いボードで会話する女忍者を後藤は睨む。

 

「うるせェ……まさか……桂小太郎が……上から降ってくるとか……誰が予想……できんだよ……」

 

 息も絶え絶え。会話するのも困難なはずであるのに、それでも構わず会話を続ける後藤(パラサイト)

 

『その体、そろそろ捨てたらどうだ? この後もお前には大事な仕事があるはずだ』

 

 女忍者の文字を見て後藤は、

 

「……そうだな」

 

 後頭部を内側から開こうとする。

 

『まて』

 

 だがそこで、くノ一がボードで待ったをかける。

 後藤は「あん?」と片眉を上げ、

 

『どうやら――』

 

 女忍者の視線は後ろへと向く。

 

「動くんじゃねェぞ、忍者女」

 

 くノ一の後頭部に刀の切っ先が向けられた。

 女忍者が首を後ろに曲げ、ボードはパラサイトに見せる。

 

『客のようだ』

 

 くノ一の後ろにいるのは刀を右手に持ち、左手にフライドチキンを持つ沖田総悟。

 

「お巡りさんだムシャ。下手なことすんなよ? もしかしたら間違えて片腕斬っちまうかもしれェからな」

 

 そう言った沖田はまた分厚い肉がついたフライドチキンに齧り付く。

 くノ一はボードの文字が書いている面を沖田に見せる。

 

『とても警察の発言とは思えんな』

「優しい犬のお巡りさんを期待してんなら、ご愁傷様だな」

 

 今の言葉は沖田ではなく、右から聞こえてきた。

 くノ一から見て右側の暗闇から現れたのは、煙草を咥えた眼光の鋭い男――土方十四郎。

 

「今は鬼よりこわ~いお巡りさんが巡回中だ」

 

 と言って土方はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。するとくノ一は鉤爪を装着させた手を動かす。

 

「おっと動くな」

 

 と言う土方は、刀に素早く手をかける。

 

「指の一本や二本飛んでも俺は構わねェぞ?」

 

 さすがにマズイと感じてくノ一の動きは停止。

 その様を見ていた後藤は息も絶え絶えに喋る。

 

「おい、どういう……ことだ……。俺たちのこと……嗅ぎつけられてるぞ……」

 

 ズタボロの姿で喋るパラサイトを見て土方の視線が鋭くなる。

 

「おいおい、こんな状態でまだ生きてんのか?」

「穏健派攘夷志士の皮被った過激派攘夷志士が随分様変わりしたもんだ……」

 

 沖田も見た目が完全無欠の化物に少なからず興味抱いているようだ。

 

『いつから我々の監視に気づいていた?』

 

 くノ一のボードを見て土方が答える。

 

「まぁ、教える義理はねェが折角だから言っておくか。なのはが初めて魔法を使った時だ」

『ほォ、忍びの監視に気づくとは恐れ入った。さすがは真選組と言ったところか』

「俺から言わせれば、君の監察はちょっと意識を相手に向けすぎてるよ」

 

 そう言って沖田の後ろから出てきたのは真選組の監察――山崎退。

 山崎は右手の人差し指を立てて得意げに言う。

 

「監察の基本はいかに自分の存在を消せるかだよ、女忍者さん」

「さすがだなジミー。オリキャラより地味なキャラは言うことが違うぜ」

「沖田隊長それ褒めてます!?」

 

 ひでェ言い草に対して山崎は涙目になる。すると女忍者は次の文字を見せた。

 

『喫茶店でわざわざ会話していたのは私の視線を探るためか』

 

 土方は「ああ」と言って答える。

 

「案の定、俺らのことジーっと見つめていたからな。お陰で存在に確証が持てた。忍者のクセに爪があめェ野郎だ。御庭番の連中の爪の垢でも貰ったらどうだ?」

 

 皮肉交じりの土方の言葉を聞いて山崎は自分の顔を指す。

 

「つうかあの時おれまったく何も教えてもらってなかったんですけど? 最初に視線に気づいて教えたの俺なのに、この生け捕り作戦今の今まで何一つ教えてくれませんでしたよね?」

 

 翠屋の屋外での会話が今回のことに繋がっているとはまったく知らなかった山崎は不本意とばかりに言う。

 

「ああ悪い。お前に言うの忘れてた」

 

 と土方は一ミリも反省していない顔。

 

「ちょっとォーッ!! 深い理由あるかと思ったらそんな単純な理由ゥ!? いくらなんでも酷くないですか!?」

 

 抗議する山崎だが土方も沖田もスルー。

 土方は鋭い視線を女忍者に向ける。

 

「そんでテメェは何モンだ? さっきの会話で俺らの世界の奴だってのはもう分かってんぞ?」

「いや、会話つうかそこの忍者さんボードでしか喋ってませんけど……」

 

 と山崎はさり気に言う。

 土方に続いて沖田も鋭い視線を向ける。

 

「俺らの世界のチンピラ犯罪者を『こっち』に連れてきたのもテメェらだろ? とっとと観念して洗いざらい吐いちまいな」

「無論、忍びであるテメェのバックには主だか雇い主だか、裏で糸引いてる野郎がいんだろ? 俺らが知りたい情報は残さず吐いてもらうぞ」

 

 喋りながら煙草の煙を吐く土方。そして沖田が黒いサデスティックな笑みを浮かべる。

 

「たとえ吐かなくても別に俺は構わねェぜ? その分警察としての拷問(じんもん)が楽しくならァ」

「あの、沖田隊長……尋問と拷問を一緒くたにするの止めてください」

 

 顔を青くしてドン引きする山崎。

 

 するとくノ一は足元で転がっている後藤に目を向けると、怪物もまた視線を女忍者に向けた。

 突如、後藤仁の後頭部が内側からパカっと開いたと思うと――中から虫のような奇怪な生物が姿を現し、聞いたことないような奇声を発する。

 

「キィァーッ!!」

「ぎゃあああああああッ!! なんか出たーッ!!」

 

 山崎はまさかのグロシーンにドン引き。

 土方と沖田の視線も一瞬、奇形の怪物に奪われる。そしてその隙を逃さず、くノ一は懐に素早く手を入れ、小さな黒いボールを取り出す。

 

「逃がすか!」

 

 だが、敵の行動にいち早く気づいた沖田は斬りかかろうとするが、一歩動きが早かった忍者は地面に黒い玉を投げる。

 すると玉は弾け、あたり一面を黒い煙が覆う。

 

「くそッ!? 煙幕か!」

 

 土方は腕で目をガードした後、当たりを見渡そうとするが視界はゼロ。

 

「そこだァーッ!!」

 

 沖田が気合一閃――土方に向かって斬りかかる。

 

「どわァァァァッ!?」

 

 土方は慌てて背中をのけ反らせて斬撃を回避。

 

「チィッ!」

 

 と沖田は舌打ち。

 

「なんで悔しそうななのお前!? 今のワザと!? 絶対ワザとだよね!?」

 

 土方はこんな状況でもすかさず上司の寝首を掻こうとする部下に冷や汗流す。

 徐々にだが煙は晴れ、辺りが見えるようになる。すると山崎が声を上げた。

 

「副長ォーッ!! 敵はもうビルからビルに飛び移って逃げちゃってます!!」

 

 遠くの方を見れば、肩に虫みたいなのを乗せた忍者の姿が。

 

「どうします土方さん。追い掛けますか?」

 

 沖田の質問に土方は舌打ちをして首を横に振る。

 

「いや、深追いは得策じゃねェ。あの足じゃ到底俺たちじゃ追いつけねェよ」

 

 もう姿が見えなくなっていく忍者を沖田は眺める。

 

「土方さんが魔法を使えてれば――」

「無茶言うな」

「ケツに翼を生やして『魔法おっさんリリカルニコチン』に変身して追い掛けられるんですけどねェ」

 

 土方は煙草に火を付ける。

 

「ああ。それができたらテメェを真っ先に天高くから落としてやるよ」

 

 ちなみにだが、さきほどまで女くノ一がいた場所には緑のドロドロした液体が広がっていた。

 

 

「あれ? そう言えば山崎さんは?」

 

 とすずかが首を傾げる。

 

「あッ……忘れてた……」

 

 素で山崎の存在を忘れていたなのはがやっと思い出す。ちなみに気付いたのは、反省会がお開きになりかけの頃。いなくなった土方や沖田よりずっと遅い。

 

 

 それから数時間が経過した。

 場所は変わり、時の庭園の玉座の間。

 

 玉座に座ったプレシアは肘掛に肘を置いて頬杖を付く。もう片方の肘掛に人差し指をトントンと小刻み鳴らしながら来客が来るのを待つ。

 プレシアはふっと肘掛をトントンと叩く人差し指を止めて、空中にウィンドを出現させた。そして片手を使ってウィンドを操作すれば、写真の画像が出現する。

 そこには微笑みを浮かべる金髪の少女と、その小さな体を抱き上げた自分が映る――ツーショットの写真。

 写真を少し複雑な表情で見ながらプレシアはおもむろに口を開く。

 

「……二十年弱……長いようであっと言う間だったわね……」

 

 この二十年以上という歳月の末、自身が行おうとしている行動は本当に正しいのかどうか。そのような疑問が何度頭を過ったか。だがその度に、自分の進んできた道は正しいと信じて突き進んできた。

 例え、犯罪という道に足を踏み入れることになったとしてもだ。

 

 プレシアがそうやって写真を見ながら物思いにふけっていると、ギギィと言う音を立てながら少し大きな扉が開く。それに気づけばすぐにウィンドを消して、来訪者へと目を向ける。

 扉をゆっくりと開けながら入って来るのは白衣を羽織った白髪の男だ。

 白衣の男を見てプレシアは頬杖を付きながら目を細める。

 

「……いつもながら、急な来訪ね。しかもこんな夜分に」

「ですが、あなたのご自宅の『警報装置』がちゃんと私の来訪を知らせてくれるのですからいいじゃないですか」

 

 笑みを浮かべる白衣の男にプレシアはため息を吐く。

 

「この四年間、度々言ってるけど時の庭園の防衛システムをインターホン代わりみたいにするは止めて欲しいものだわ……」

「こっちだって下手に通信はしたくありませんから。もし、管理局に通信を傍受された場合もちゃんと考慮に入れてるんですよ」

「管理局にではなく、〝私に〟に通信先を探知されるを恐れているのではなくって?」

「フフフ……まぁ、天下の大魔導師に雷の一つでも落とされたらこちらも溜まったものじゃありませんしねェ」

 

 クスクス笑いながら言葉を発した後、白衣の男は右手を軽く動かしながら説明する。

 

「私たちの関係は悪魔で利害の一致からの協力関係。ならァ、当然お互いに最低限の身の安全は確保しておくというのが寧ろマナーではありませんか?」

「ふん。減らず口もそこまでいくと大したものね」

 

 プレシアが苛立たし気に吐き捨て、鋭い眼光を白衣の男に向けた。

 

「それで、この忙しい時にあなたは何しに来たの? 私の人形がジュエルシードを集め切れた報告でもしに来たの?」

「いえいえ。どうやら私の部下の報告によると、あなたのお人形さんのジュエルシード集めは中々に芳しくないようですよ?」

 

 白衣の男の言葉を聞いてプレシアの眼光がより鋭くなる。

 

「どう言うことかしら?」

「フェイトさんを監視していた部下の報告によりますと……」

 

 白衣の男は、今フェイトとジュエルシードを巡って争っているグループの特徴を説明。

 説明を聞き終わったプレシアは口元を手で覆い、視線を流した後、白衣の男に目を向ける。

 

「……厄介そうなのは、その〝白衣の魔導師〟だけのようね」

「他は魔法も使えない味噌っかすみたいな連中ですので、まぁ……さほど気にする必要はないと思いますよ」

「そう。……それで? あなたはどんな用でこの時の庭園まで来たの? 人形から聞けるであろう情報をわざわざ私に言いに来たワケではないんでしょう?」

 

 プレシアの疑問に対し、白衣の男は待ってましたとばかりに口元を吊り上げ、玉座の間の空いた扉へと目を向ける。

 

「こっちに持ってきなさい」

 

 声を掛けると同時に、白衣の男の部下であろう黒いスーツを着た成人男性二名が姿を現す。彼らが協力して持っているのはカプセル。

 カプセルの両端を持って門を潜りながら入って来る男たち。

 プレシアはカプセルの形状を確認。楕円形の錠剤のような形をしており、上の部分には中の様子が覗けるであろう小窓が付ついていた。大きさは子供が一人入れそうなくらいだ。

 プレシアは持って来たカプセルを見て訝し気に片眉を上げる。

 

「それは?」

「あなたへの贈り物」

 

 男の言葉を聞いてプレシアは少し思案した後、カプセルの形状と大きさからハッと中に入っている物を予想した。

 少し動揺する気持ちを落ち着かせ、毅然とした態度で問いかけようとする。

 

「中身はまさかと思うけど――」

「あなたが前々から〝欲しがっていたモノ〟」

 

 白衣の男は瞳を鈍く光らせ、ニヤリと口元吊り上げる。

 その間に黒服の男たちはゆっくりとカプセルを白衣の男の横まで持って来て、慎重にカプセルを地面へと置く。

 プレシアは高鳴る心臓を落ち着けながら、表情を崩さないようにゆっくりとした動作で玉座から腰を上げた。

 床に置かれたカプセルの前までやって来たプレシアは、チラリと白衣の男に視線を向ける。

 

「……中身を確認させてもらっていいかしら?」

「えぇ、もちろん」

 

 白衣の男は頷き、カプセルに付いた青いボタンを押す。するとブシュー! という音と共にカプセルの蓋に隙間ができ、中から白い煙が漏れる。

 やがて蓋がゆっくりと開き、プレシアの目にカプセルの中身が映り込む。

 

「ッ!」

 

 そして中身を確認したプレシアの瞳は見開かれ、表情は驚きに包まれた。だが、すぐに表情を平然としたものに戻して白衣の男へと顔を向ける。

 

「なぜ、カプセルに?」

「いくら抜け殻でも、さすがに〝コレ〟を人目に晒すワケにはいきませんから」

 

 「まあ、念の為ですが」と言葉を付け足す白衣の男。

 プレシアは「そう」と短く答えた後、更に問いかける。

 

「……それで? なぜ今なの? フェイトはまだジュエルシードを集め終えてないわよ? 少し私に渡すのが早いんじゃない?」

 

 白衣の男は頭をぼりぼり掻きながら少し困ったように話し始めた。

 

「どうやら、管理局が出張ってきそうでして。正直、あなたにはとっととアルハザードに行ってもらって、〝プロジェクトFとフェイトさんを引き渡してもらう〟準備を進めようと思いましてね」

 

 白衣の男の言葉を聞いてプレシアは少し目を細める。

 

「なるほど。どうやら、計画を前倒しせざる負えなくなったみたいね」

「まったく……人材不足で無能で偽善だらけの組織が出張るなって話ですよね」

 

 やれやれと白衣の男は大げさに首を横に振り、プレシアはニヤリと口元を歪めた。

 

「えぇ、まったくその通りね。あんな役に立たない組織恐れるに足らないけど……」

 

 そこまで言ったプレシアは忌々しそうに表情を冷たいものへと変える。

 

「出て来たら出て来たでメンドーこの上ないわ」

「言いますねェ」

 

 白衣の男は半笑いで相槌を打ち、プレシアは訝し気な視線を向けた。

 

「しかし、どうするの? ジュエルシードが集まり切っていないままだと、私の計画もあなたの計画も中途半端なままよ?」

「心配には及びません」

 

 プレシアの問いを聞いて白衣の男は右手を出しながら余裕の笑みを浮かべ、ゆっくりとプレシアに今後の計画の内容を話し始める。

 白衣の男の話を聞いていくうちにプレシアの目はささやかに見開き、やがて口元を薄っすら吊り上げた。

 

「それはいいわね。それなら、ジュエルシードも予定より早く集まるわ」

「フフフ……でしょう?」

 

 白衣の男は満足気に怪しく笑みを零し、

 

「アハハハハハハ!!」

 

 とプレシアは目を右手で覆って高笑いを浮かべ、狂ったように天向かって語り掛ける。

 

「これならもうバカバカしい母親ごっこの必要もないわ! なにもかも全て上手くいく!! 全てを取り戻せる!!」

 

 白衣の男も手をパンパン! と軽快に叩いて喜びの声を上げ出す。

 

「えェ! えェ! まったくその通り! 私もあのお人形をやっと手にできる!!」

「なら景気よく、あの人形に〝真実〟でも話してあげましょうか! どうせもういらないのだし!」

「アハハハハ! それはいい! 文字通り精神崩壊を起こしますよ!! あの人形は!!」

 

 白衣の男は心底おかしそうに語り、プレシアはひとしきり高笑いした後に、右手を白衣の男の前に出す。

 差し出された右手を見て白衣の男は小首を傾げた。

 

「……なんのマネですか?」

 

 プレシアはニコリと笑みを浮かべる。

 

「握手しましょ? もうそろそろ、あなたとの協力関係も終わりそうですし、記念に」

「おやおや。まさかあなたからそんな提案を受けるとは」

 

 白衣の男は少し意外そうに言った後、左手を差し出す。

 

「では、お互い最後まで頑張りましょう」

 

 白衣の男は差し出された右手を握り、プレシアは笑顔で告げる。

 

「えぇ――〝さようなら〟」

 

 バァン!! とプレシアの左手から放たれた紫色の雷撃が、白衣の男の腹を貫通した。

 白衣の男は自身に何が起こったのか分からないといった顔。だがその視線はゆっくりと、下へと向かう。

 腹部に起きた現象を見れば、腹は大きく抉れ、貫かれていた――。

 

「……あれ?」

 

 と言いながら白衣の男は横に倒れ、それを見た黒服たちは慌てだす。が、プレシアは左手を彼らに向けて魔法陣を展開、そして雷撃を黒服たちに浴びせて黒焦げにした。

 さきほど行った魔力攻撃は非殺傷設定など一切行っていないので、直撃すればもろに肉体的ダメージが反映され、間違いなく死は免れない。

 

「…………て、テメェ……!」

 

 白衣の男は口から緑色の血を垂れ流し、腹に空いた風穴からも緑色の血を垂れ流しながらプレシアを睨み付けた。しかし、当のプレシアは冷めた目線で倒れ伏す男を見る。

 

「あら、まだ生きていたの?」

「だ、騙しや……がった……のか……!」

 

 息も絶え絶えに怒りの籠った目と言葉を向けてくる白衣の男に、プレシアは冷たい目線を向け続ける。

 

「欲しい物は全て揃ったわ。だからあなたは……」

 

 プレシアはゆっくりと右手を死ぬ寸前の白衣の男へと向け、魔法陣を展開。

 

「――消えなさい」



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第三十六話:勘違いと教育もほどほどに

時間設定で平日でも朝投稿に変えてみました。


 フェイトの拠点であるマンション。

 

「ふ~……結構の鬱憤が出たもんだぜ」

 

 トイレで鬱憤と言う名の吐しゃ物を思う存分吐き出した銀時はまた祝いの席に戻ろうとする。

 

「まぁ、俺もはしゃぎ過ぎていきなりリバースしちまったが、まだまだ宵の口だ。ガンガン飲んで食おうじゃねぇか」

 

 どうやらこの銀髪には吐くまで飲んだら充分だという考えはないらしい。それにこのままガンガンいったら明日は頭がガンガンすることも頭の片隅にもないようだ。

 椅子に座り直した時、銀時は違和感に気づく。

 

「ん? どうしたよ、フェイト。黙りこくって」

 

 何故だか、フェイトが俯き、一言も喋らなくなっている。しかもほんのり顔が赤いように見えるのは気のせいだろうか。

 

 ――まさか……。

 

 銀時は嫌な予感を覚えてフェイトに声を掛けようとする。

 

「ちょっ、お前どうし――」

「銀時……」

 

 すると銀時の横にはいつの間にかアルフが立っていた。ゆらりと幽鬼のように俯く彼女の頬は赤く染まっている。

 反射的に呼ばれた方に振り向く銀時。すると突如としてガシッと両肩を捕まれ押し倒された。

 

「うおッ!?」

 

 と驚き、そのまま椅子を倒しながら背中を床にぶつけた銀時はうめき声を上げる。

 

「いってェ……!! てっめ、なにしやがる!!」

 

 いきなりのアルフの行動に銀時は露骨に怒った。

 だが、怒鳴られた当のアルフは銀時の両肩を抑えつけたままボーっとした顔で彼の顔を見続ける。

 さすがに様子がおかしいこと気づき始めた。あれ? これって酔ってね? といった具合に。

 

 ――そう言えば、俺があいつらに勧めた飲みモンってノンアルコールだっけ?

 

 もしかして結構酔っていた自分も間違えて彼女たちのコップに酒入れたんじゃないか? と、思い始めた。

 彼女たちの様子がおかしい原因を思い出そうとしていた銀時の頬を、アルフの舌がツーっと舐める。

 

「うおッ!?」

 

 銀時は背筋にぞわっとしたものを感じて声を漏らし、思考は停止してしまう。

 すると次にアルフはすんすんと銀時の匂いを嗅ぎ始めて焦点の定まらない瞳で口を開く。

 

「銀時、あんた……ちょっと臭いね」

「いや、この流れでそれ言う!?」

「なんつうか――オス臭い」

「あ、あぁ……」

「つうわけで、子作りするか♪」

 

 とアルフはニッコリ笑顔。銀時ビックリ仰天。

 

「どういうワケで!? 脈絡もなしになに言いだしてんのこの犬!」

「強いオスとガキつくんのは動物の本能って奴さ。だから交尾しよ♪」

「いや、銀さんもお前みたいな別嬪さんに求められるのはやぶさかではないよ? でも、お前は酔ってるわけだから。これ、酔い覚めたらとんでもねェ後悔するから。つうか、俺は犬にガキ腹ます趣味なんざさすがに持ち合わせてねェから」

「大丈夫大丈夫。天井のシミ数えてる間は痛いはずだから」

「セリフ間違ってる上にどこでそんな言葉覚えたお前!!」

「ぐちぐちうるさい奴だねェ。男ならバシッと決める時に決めないとダメだよ」

「いや、そもそも年端もいかないお前のご主人様の目の前でおっぱじめる気か!? 大人の階段なん段飛ばしさせる気だよおめェ!!」

「ならフェイトも混じっちまえばいいんだよ。フェイトとあたしは一心同体。ならフェイトも合体すれば問題無し」

 

 アルフは胸を張って自信満々の顔。

 

「俺を犯罪者にするつもりかァァァァァァァァッ!!」

 

 銀時はシャウトするがアルフはまったく聞く耳持たない。

 

「そんじゃ、手始めに……」

 

 銀時の叫びも虚しく馬乗りになったアルフは彼の両の頬に手を添えると、顔を近づける。

 まさか異世界に来て犬(狼)とシてしまうと思わなんだ。

 アルフの口があと数センチで銀時の口に届く……

 

「ぐぼろしゃあーッ!!」

 

 前にアルフの口からゲロが大量に発射。銀時の顔は大惨事とあいなった。

 

 

「ん、ん~……」

 

 銀時はゆっくりと瞼を開く。

 体が重い、瞼が重い、頭はづきづき。気分はまさに最悪の一言。これは酒を多量に飲んでから常に思うことの一つ。

 

「いててて……飲み過ぎたなこりゃ……」

 

 銀時は頭抑える。

 何回味わったとしてもこの感覚だけはどうやっても慣れない。それどころか、もう酒なんて飲みたくないとすら思えるほどの後悔の念が生まれる。

 まあ、また飲んじゃうんだけど、とダメな思考をよぎらせた銀時は昨日の酒の席を思い出す。

 

「たく、酷い目にあったぜ……」

 

 犬耳女からの交尾要求からの顔面ゲロアタック。

 一番記憶に残ってしまったモノだが、一番記憶に残したくない思い出の一つとなってしまった。

 

「――ええっと、ゲロぶっかけられてから……どうしたっけ俺……」

 

 銀時は顎に手を当ててなんとか昨日の出来事を思い出そうとする。

 美女のゲロでもゲロはゲロ。とんでもない不快感を感じながら洗面所に直行し、ついでに自分も貰いゲロ(直接的に)。必死に顔を洗浄し、そのまま寝てしまったような気がする……。

 ぼんやりと昨日の思い出を思い出している時に、自分の横でごそっと何かが動くような気配。

 

「ん?」

 

 銀時が横に顔を向ければ、盛り上がった白い掛け布団。

 

「あり?」

 

 銀時は首を傾げる。

 普段自分は和式がいいと言うことで、フェイトに勧められたベットではなくリビングに布団を敷いて寝ている。だが、今自分がいるのはベットの上。

 とはいえ、そんなことは今はどうでもいい。

 問題なのは目の前にある人一人分盛り上がった掛け布団。それを見て目元を覆う銀時。これを見て考えられることは一つ。

 

 ――もしかして、ヤっちゃった? マジで交尾しちゃった? あのままゲロ犬と?

 

 正直自分の予想が正しかったら、これからあの初心(うぶ)な犬耳女とどう接していいか分からなくなる。

 だがヤっちゃったもんは仕方ない。

 もしかしたらあっちは覚えてないかもしれないし、などと淡い身勝手な希望を抱いてしまう銀時。覚悟を決めて掛け布団を少し捲ると、そこには金髪ツインテールの少女の頭が出てくる。

 

「………………」

 

 銀時から大量の冷や汗がドっと出てくる。

 だがそこで、すぐに悪い予想を否定。

 

 ――き、きっと……人肌が恋しくて、自分と一緒に寝て欲しいとかなんとか頼んだに違いない。そうだ、そういうことにしてください!

 

「う、う~ん……」

 

 とフェイトは目を擦りながら、上半身を起こす。掛け布団がずり落ち、彼女の上半身が全裸で登場。

 銀時の顔が絶望一色に変貌。

 

「ぁぁ…………………」

 

 口から声が出たかも定かではない。

 もう完全に希望は砕け散り、社会的絶望が出迎える。

 全裸の女が男の隣で寝ているなんて、どう考えても一発ぶちかました後でしかない。いや、もしかしたら二発か? などとバカなこと考えている場合ではない。

 酔っているからってここまで見境なしだとは思わなかった。とりあえず、昨日の自分を半殺しにしたくなってくる。

 

「ふわぁ~……」

 

 すると左側から欠伸が。

 

 ――えッ!? まだ誰かいんの!?

 

 っというか、この状況で残っている奴なんてあのオレンジ犬しかいないのだが。

 思わず左を振り向くと、欠伸をしながら背筋を伸ばす、四足歩行の動物がいた。

 

 ――最早人間ですらねェェェェェェェッ!!

 

 確かにこっちも全裸だけど!! 毛皮に覆われているけど間違いなく全裸でいいんだろうけども!! せめてあのナイスバディの姿で一夜を過ごさせてくんなかったのォ!?

 まさかのマニアックなプレイ×2を自分がやらかしてしまったことにさらなる後悔が生まれてしまう。

 社会人失格どころ、人間失格になっていようとは。

 

「くッ、くハハハハハ……」

 

 呆れた銀時は手で目を覆い、乾いた笑いしか出ない。

 ここまで自分の業が深いとは。

 情けなさすぎて乾いた笑いを口から漏らし続ける銀時だった。

 

 

 

「「…………」」

 

 朝食の席でフェイトとアルフは絶句していた。

 それは昨日の夕食の席で間違って飲んでしまった酒のせいではなく、

 

「なにしてんだ? 早く食べねェと飯が冷めんぞ」

 

 紋付羽織袴(もんつきはおりはかま)――つまり、結婚式用に男性が着る和式の礼服を着た銀髪天然パーマ男に呆然としていたからである。

 朝、目を覚ましたらフェイトは自身が全裸のことにももちろん驚いた。だが、それ以上に驚いたのが銀時の格好。どこから出したのか、妙に分厚そうな服で朝食の席に座っていたのだ。

 

「あんた、なんでそんなの着てるんだい?」

 

 当然の疑問をアルフが開口一番に聞くと、銀時は深刻そうな顔で口を開く。

 

「まァ、ヤッちまったもんはもうどうしようもねェ。だが、自分で招いたことの責任くらいは取るつもりだ」

「いや……えッ?」

 

 分けわからん回答にアルフは怪訝な顔をする。

 

「銀時、どうしたの?」

 

 続けてフェイトが質問すると、銀時は深刻そうな顔のまま。

 

「おれァ、普段はかなりテキトーな男だけどよ、投げ出しちゃいけねェもんの分別もわきまえていたつもりだった。だがどうやら、俺は自分で思っていたよりも、相当な愚かもんだったらしい」

「うん、ごめん。よくわからない」

 

 とさすがのフェイトも困惑気味。

 

「はぁー……。酒に頭でもヤラレちまったんかい?」

 

 席に座って頬杖をつくアルフは呆れ気味にため息を吐く。そのまま用意してあった牛乳を一飲みした時、「うッ!?」と口を押えて洗面所に向かった。

 

「アルフ!? ……まさか!」

 

 アルフの様子を見て銀時は焦った表情になり、すぐさま彼女の後を追う。

 

「おェッ! げほッ! げほッ! げほッ!」

 

 アルフは口から牛乳を吐き出し、せき込み涙目になる。

 

「おい!! 大丈夫か!?」

 

 と言って銀時は優しくアルフの背中を摩る。

 

「まさかこんなに早く『つわり』が起こるなんて思わなかったぜ」

「げほッ! げほッ! げほッ! はァ!? げほッ! つわりィ!?」

 

 アルフは咳き込みながら銀時の発言に驚愕の表情を浮かべた。

 銀時はアルフの背を撫でながら真剣な表情で言う。

 

「犬ってこんなに身ごもるの早かったんだな。恐れ入ったぜ」

「あんたさっきからなに言ってんの!? つうかあたし狼!!」

 

 なぜか一人真剣な表情で自分を気遣う天パ男に困惑するアルフ。

 

(気管に牛乳が入ってむせただけなのに……)

 

 とアルフが思っていると、

 

「アルフ、大丈夫?」

 

 銀時に続いて心配そうにフェイトも様子を見にくる。アルフは片手を出す。

 

「大丈夫だよ。別に大したことないし……」

「バカヤロォー!!」

 

 となぜかいきなり銀時に怒鳴られアルフは驚く。

 銀時はアルフの両肩を掴みながら鬼気迫る顔で。

 

「〝赤ん坊ができた〟ってのに、なにが『大したことない』だ! 大問題じゃねェか!!」

「えええええええええッ!?」

 

 アルフは超ビックリ。無論フェイトも「アルフ赤ちゃんできちゃったの!?」と驚愕する。

 銀時はしゃがみ、アルフの腹を優しく撫で始めた。

 

「こん中には新しい命が宿ってんだ、大したことだろうが」

「人の腹触りながらなに言っちゃってんのコイツ!?」

 

 アルフドン引き。

 腹を触られるくすぐったさなんか気にならないくらい今の銀時の発言は意味不明だ。

 普段は死んだ魚のような目をした彼の瞳には確かに、慈しみの感情が宿っていた。

 ぶっちゃけ、赤ん坊など身籠っていない自分としては驚き通り越して、不気味さすら今の銀髪には感じる。

 一通りアルフの腹を撫でた後、銀時は立ち上がり腕を組む。

 

「大事な体だ。今後のジュエルシード探しは俺一人でやらせてもらうぜ」

「なに一人で決めてんの!? つうか妊娠してねぇし!!」

 

 とアルフはツッコム。

 

「そうだよアルフ。今は大事な時期なんだから、体を大切にしなきゃ!」

 

 挙句フェイトもアルフの手を握って説得するもんだから使い魔は驚いて汗を流す。

 

「フェイトまでなに言ってんの!? このアホの話真に受けないでおくれよ!」

 

 まさかの主まで信じてしまう始末。この空間に自分の味方はいないのか? と若干悲しくなる使い魔。

 銀時は腕を組んで頷く。

 

「俺みてェな奴のガキを生むのはさすがに心苦しいってオメェの気持ち分かる」

「どこが!? お前はあたしの気持ち一ミリたりとも理解してないからね!?」

 

 とアルフがツッコムが、銀時は止まらない。

 

「だが、できちまった命だ。俺はそれを最後まで育てていくのが作っちまったもん定めって奴だと思ってる。たとえそれが犬でも」

「狼だから! 妊娠してないけど、あたしから生まれるとしたら狼以外ありえないから!」

「安心しろ。俺は定春っていうサラブレットを世話したことのある経験者だ。散歩だってうんこ処理だってちゃんとやってやる。こう見えて愛情は注ぐ男だ」

「いや、既にペット扱いじゃん! 親としての愛情の欠片も感じられないんだけど!? つうか妊娠してねぇって!!」

「安心してアルフ! 私も一生懸命アルフの赤ちゃん育てるよ!!」

 

 と意気込むフェイト。

 

「フェイトォ!? あんたいつからそんな天然なっちまったんだい!?」

 

 驚くアルフをよそに、銀時はフェイトの両肩に手を置く。

 

「――フェイト。実はな……」

 

 真剣みのある銀時の表情にフェイトは不安な表情を作り、銀時は目を瞑って静かに口を開く。

 

「アルフだけでなくおめェの腹の中にも……新しい命が宿っているかもしれねェんだ」

「ッ!?」

 

 雷に打たれたような衝撃が、フェイトに走る。

 

「そ、そうなの?」

 

 動揺し、尋ねるフェイトに銀時は真剣な顔で頷く。

 

「あぁ。まだ、確証はねぇがそうなる可能性はたけぇ」

「……そっか。私もお母さんになるかもしれないんだね……」

 

 フェイトは複雑そうな表情で自分のお腹を触り、銀時は優しい笑みを浮かべる。

 

「安心しな。俺が支えてやるから」

「銀時…………」

 

 うるうるとフェイトは瞳を揺らす。

 そんな天然アホコントしながらいい雰囲気作る二人を眺めていたアルフは天井に向かって、

 

「誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 涙を流しながら叫ぶのであった。

 

 

 

 場所は変わり『時の庭園』。

 

「――たくよぉ、焦って損したぜ」

 

 長い廊下歩く銀時は気だるげな雰囲気を出す。彼の服装はいつもの和服を半分はだけた私服に戻っていた。

 

「なんであんたが被害者みたいなツラしてんだよ……」

 

 アルフは横の銀時にジト目を向ける。

 

 あの後、アルフの説明により銀時の早とちりはすぐに解決した。

 簡単に説明すると、間違えて銀時の酒を飲んでしまったアルフとフェイト。

 吐いたことで少し酔いが覚めてきたアルフはとりあず一夜の過ちを犯さずに済んだのだが、問題はフェイトだった。

 アルコールにまったくの耐性のない酔った少女の言動はとにかく凄まじいものであった。

 まず、

 

「暑い……」とか言い出して素っ裸になろうとするは、

「うん、私も最近頑張っているけど結果が出ないんだ……」とバラエティ番組の司会者に延々と愚痴をぶつぶつ言うは、

 挙句の果てには「は~る~か~そら……!」と水樹〇々ばりの声量で歌うなど、とにかく彼女を落ち着けるのに一晩てんやわんやだった。

 

 そしてやっと布団に寝かせたはいいが、銀時とアルフも酔ってるやら疲れたやらでギブアップ。そのままフェイトを寝かせたベットに潜り込んでしまったのが、事の顛末だったワケである。

 ちなみに寝かせる時、フェイトに服を着せたはいいが、まだ酔いが冷め切ってなかった彼女は寝ている途中でまた脱いでしまったようである。

 

 そして今現在。頭に軽い痛みを覚えながらも、プレシア・テスタロッサにジュエルシード回収の途中経過の報告をしに『時の庭園』へとやって来た次第だ。

 

「まァ、何事もなくてなによりじゃねェか」

 

 とりあえず自分が犬&十に満たない少女と一夜の過ちをせずにすんで安堵の表情の銀時。

 対して、ジト目のアルフは納得いかいない様子。

 

「いや、そもそもあんたの記憶が忘却の彼方に行ってなきゃ、朝からあんな茶番せずに済んだんだよ」

「そもそも、ガキが出来たのなんだのでお前ら取り乱し過ぎなんだよ……」

 

 と腕を組んで文句言う銀時にアルフは「いや、取り乱してたのあんた」とツッコミを入れる。

 

「いててて……」

 

 銀時はまた痛みを感じて頭抑える。痛みを忘れるくらいの責任感と不安が取り除けたことにより、彼の二日酔いがまた牙を向く。

 ずきんずきん鬱陶しく鳴る頭を押さえながら歩く銀時。その前を歩くのは、『時の庭園(ここ)』に来てから一言も言葉を発さなくなったフェイト。

 

「…………」

 

 心なしか、彼女の小さく儚げな背中が一回り小さくなったように見えた銀時。

 

「つうか、この廊下長げェよな。娘一人、母親一人、犬一匹住むには広すぎんだろ。せめて1LDKくらいの広さで十分だろうに」

 

 銀時の軽口に、「いや、あたし狼」とアルフは相変わらずの訂正を入れてくる。が、一方の金髪の少女の反応はなく、左右に結んだ金色の髪は前に垂れたまま。

 ただ、『プレシア』と銀時がその名を口にする度にフェイトの肩がピクッと震え、ケーキが入った箱の持ち手を握る手に力が入っているのが目に映った。

 銀時の隣を歩くアルフも浮かない表情を作る。

 

(こりゃ、親子の溝が深けェとかそんなレベルじゃねェかもな)

 

 銀時は薄々感じ始めていた。

 フェイトという心根の優しい小さな娘と、プレシアという得体の知れない雰囲気を醸し出す母。

 

 この母と娘の間には何かある……。

 

 漠然とした、だが確実に感じる嫌な予感に対し、銀時の表情は自然と険しくなる。

 

 少し重い空気のまま、無言で玉座の間の扉の前まで到着。

 フェイトは後ろから付いて来る二人に浮かない微笑みを向ける。

 

「じゃあ、銀時とアルフは扉の前で待ってて。母さんへの報告は私だけで大丈夫だから」

 

 そう言ってフェイトが扉を開けようと取っ手に手を掛けようとした時、

 

「おいフェイト」

 

 銀時が声をかけた。

 

「なに?」

 

 フェイトは少し弱々しい返事をする。

 

「なにかあったら、迷わず呼びな」

 

 銀時の言葉を聞いて、フェイトは小さな笑みを浮かべた後に「うん」と頷き、玉座の間へと入って行った。

 

 

「待っていたわよ、フェイト」

 

 『玉座の間』では、玉座に座ったプレシアが杖を片手に頬杖をつく。その鋭い眼光は今までロストロギア回収の任を命じていた娘へと注がれる。

 母からの視線に、フェイトの小さな体は少なからず縮こまってしまう。だが、プレシアの顔はすっと柔らかい物へと変わりだす。

 

「フフフ……そんなに緊張しなくても大丈夫よ?」

 

 と微笑を浮かべるプレシアを見て、ふとフェイトは不思議そうに目を何度かパチクリさせた。

 プレシアは微笑を携えたまま玉座から立ち上がる。

 

「――ちょっとあなたに、やってもらいたいことがあるの」

 

 すると、フェイトの表情が徐々に驚きのモノへと変わっていた。

 

 

 

 

「なァ、随分遅くねェか?」

 

 壁に寄り掛かった銀時がボソリと呟くと、腕を組むアルフは世話しなく指と尻尾を動かしながら言う。

 

「今までのあたしたちがしてきたことを細かに説明するんだ。そりゃ、さらっと言って終りってわけにいかないだろ」

「にしても遅いな。数時間は待たされてんぞ。あんまりにも遅いんで、鼻毛抜きまくったり、廊下で昼寝しちゃったじゃねェか」

「なら、部屋で待てば良かっただろ?」

 

 アルフが少々苛立ち気味に素っ気なく返すと、銀時は小指で耳をほじりながら言う。

 

「……つうか、書類とか情報がまとまったもんを見せればいいだけの話だろうに」

「フェイトにとってこの時間は――!」

 

 言葉を荒げようとしたアルフだが、視線を逸らして言葉を途切れさせ、口ごもりながら。

 

「……フェイトにしてみれば、数少ない母親と話せる時間なんだ……。例え、情もへったくれもない事務的なものでもね……」

 

 それを聞いた銀時は、耳から小指を引き抜く。

 

「……あいつらの関係がまともな親子関係ってヤツじゃねェってのは、お前も自覚してんだろ?」

 

 銀時から出た言葉を聞いて、アルフは苦虫を嚙み締めたような表情を作る。

 

「頭のよくないあたしだってそんくらいのこと分かってるよ。だけど、フェイトが『大丈夫』って言う以上、あたしがあの二人のことに口出しはできない……」

 

 と言うアルフの拳はギリィと音が出そうなほどに強く握りしめられていた。

 

「おめぇがダメなら、赤の他人の俺はもっとダメだな」

 

 そう言った銀時は頭を掻くが、やがてチラリと扉に目を向けた。

 

「だけどな……フェイト(あいつ)が苦しんでたり、悲しんでんの目の前で見るようなことがあれば、俺ァは部外者や他人なんて言葉は無視して動かしてもらうぜ。誰になんと言われようとな」

 

 銀時の言葉を聞いたアルフは瞳を潤ませる。

 

「――あたしも、あんたくらい図々しかったら、少しはあの子の助けになったのかね……」

「犬なんざ、頭からっぽにして人様に全速力で突っ込むくらいが丁度いいだろ」

「あたしは狼だ」

 

 と言うアルフの声音は少なからず安堵が宿っているようだった。

 その時、

 

「――母さん! わたし、嫌だよ……!」

「いいえ、フェイト。これはあなたにとって必要なことなのよ」

「「っ!?」」

 

 扉越しからフェイト絞り出したかのような苦渋の声と、プレシアの冷徹な声。それを聴いた銀時はアルフは咄嗟に扉に顔を向けた。

 

「でも、母さん。わたし――」

「フェイト。私はあなたの情けない答えは求めないのよ」

 

 フェイトの救援を求めるかのような声を聴いた二人は悪い予感を覚える。そして顔を見合わせ、同時に頷く。

 銀時がすかさず玉座の間の扉を開けた。

 

「どうしたァー! フェイトォ!」

 

 叫ぶ銀時の目に移った光景は……、

 

「母さん……やっぱりわたし、できない……!」

 

 涙目で懇願する娘と、

 

「あらフェイト。私はあなたをそんな情けない子に育てた覚えはないわよ」

 

 我が子を冷徹な視線で見つめる母親と、

 

「フゴォーッ! フゴォーッ!」

 

 猿轡(さるぐつわ)で口を塞がれ、魔法の拘束糸で亀甲縛りされ、地に伏している女忍者(メスブタ)だった。

 鞭を握るフェイトが足でケツを踏みつけているのは女忍者――というか始末屋さっちゃんこと猿飛あやめだった。

 

「「…………」」

 

 予想の斜め上、というか下の光景に銀時とアルフは白目向いて絶句。

 ちなみに、フェイトの黒いスク水のような『バリアジャケット』と鞭持って誰か踏みつけている姿。それがなぜかマッチしているように感じるのは気のせいではないだろう。

 

「さぁフェイト。さっさとそこに這いつくばっている豚をその鞭で滅多打ちにしなさい」

 

 銀時たちが飛び込んで来たのにも構わず、プレシアに指示を飛ばされたフェイトは首を横に振る。

 

「できません……! わたしには、無抵抗な人を鞭で攻撃するなんて……」

 

 できない言ってる割にちゃっかり尻をぐりぐり踏んづけている金髪少女。

 

「フゴォーッ!!」

 

 そして雌豚(くノ一)は喜悦のような声を漏らす。

 プレシアはいつまでも渋り続けるフェイトの頬に手を添える。

 

「いい? フェイト。これはあなたの為に必要なことなの。言わばこれはあなたにとって必要な教育なの。わかる?」

(いや、わかんねぇよ)

 

 とアルフは内心ツッコミ入れる。

 

「すみ、ません……わたしには、母さんの意図が分かりません……」

 

 娘は涙目になりながら答えるが、プレシアは構わない。

 

「フェイト。これはあなたの魔導師としての精神を養うためのものなのよ」

(精神てなに? SM嬢の?)

 

 と銀時が内心でツッコム。

 

「せいしん?」

 

 フェイトは首を傾げ、プレシアは「ええそうよ」と頷く。

 

「あなたがその鞭を振るうことで、敵を容赦なく倒す為の心を鍛え上げることができるわ」

(いや、それで鍛えられるのはSの心だけだから)

 

 内心銀時はまたツッコム。

 フェイトは首を横に振る。

 

「でもやっぱり、わたしにはできません。だけど、母さんの思いは理解できます」

((理解しちゃうのかよ))

 

 今度は二人でツッコム銀髪&犬耳ペア。

 

「無抵抗な人間、しかも魔法ではなく鞭で相手を傷つけるなんてこと――」

 

 と俯くフェイト。

 

「フェイト、あなたにはがっかりだわ。あなたがそんな腰抜けだとは思わなかった」

 

 プレシアはワザとらしくかぶりを振る。

 

「あなたがそんな態度でいるからほら――」

 

 プレシアは地に伏したまま猿飛あやめの猿轡を外す。

 

「この捕虜も好戦的なままよ」

「もっとぶちなさいよォーッ!!」

 

 と目を血走らせ、鼻息が荒く、頬が真っ赤なさっちゃん。

 

「あなたのSはそんなモノなの!? そんな様じゃこの私を堕とすことなんてできないわよォォォォォォッ!!」

((いや、もう堕ちてんじゃねぇか))

 

 外野は冷めた視線を猿飛に向け、猿飛(メスブタ)は怒鳴る。

 

「つうかあなたの責めはなに? カマトトぶってんじゃないわよ!! もっと自分を解放しなさいよ!!」

((いや、お前より自分を解放できる人間なんてそうそういねぇよ))

 

 ツッコムのは以下略。

 猿飛は捲し立てる。

 

「あんたみたいに幸薄そうで、金髪で、露出度高い服着てクールキャラ気取って実は優しい心持ってます、的な!! 設定盛りに盛り込んで人気取ったガキと違ってわたしは全てさらけ出してるの!! 人間臭いの! 綺麗な部分も汚い部分も全部さらけ出してるの!! あんたみたいに綺麗な部分だけで人気取ってきた女とは違うの!! 恋でも仕事でもわたしは全力で自分を解放するの!! なのにあんたはなに!? さっきから聞いてればできないできないって!! なに自分は良い女ですアピールしてるの! 反吐が出るわ!!」

 

 なに言ってんのコイツ? 的な目線を猿飛に向ける銀時とアルフ。

 あらかたまくし立てた後、猿飛は一呼吸置いて、

 

「愛する人の愛に答えたいのなら、汚いことでもしたくないことでもする、それが愛!! さァ! 銀さん!! あなたの股間に生えた熱く熱した鉄棒をわたしに叩きつけ――」

 

 と言い切る前――かなり手遅れな気もするが、猿飛の脳天に銀時の踵落としが炸裂し、さっちゃんは昇天。

 そのまま銀時は猿飛の襟首を掴んで玉座の間を後にし、扉がガシャンと閉まる。

 その様をフェイトとプレシアは黙って見つめていた。

 

 

「てめぇ、あんなとこでなにやってんだ? つうかなんでここにいんだおい?」

 

 銀時はグググと猿飛の頭を鷲掴みながら青筋浮かべる。

 一方の猿飛は「やっぱり銀さんの責めは一味違うわ……」と頬を赤らめる始末。

 その様をアルフは冷めた視線で見つめていた。

 

「……銀時、なにこの変なの? あんたの知り合い?」

「ああん?」

 

 と猿飛はアルフを睨む。

 

「あんたこそ銀さんのなんなの? 犬の耳と尻尾生やしたくらいで調子乗ってんじゃないわよこのめすい――!」

 

 すかさずアルフに突っかかる変態くノ一の首を、銀時は百八十度ぐるりと回して自分の方に向かせる。

 

「とりあえず、簡潔に明確に答えろ変態忍者。てめェは『どうやって』ここまで来たんだ? つうかお前はここがどこだか知ってんのか?」

 

 女忍者は真面目モード(首が百八十度回転)で答えた。

 

「ええもちろんよ銀さん。ここは『時の庭園』、そしてこの世界は私たちが居た世界とは別世界であることも全て把握済みよ」

「つうことはなにか? お前まさか、俺たちの世界に帰る方法とか知ってたりするのか?」

「ええもちろんよ。だけどその方法を今あなたに話すワケには――」

「つうか銀時。ホントにこいつなんなんだ? あたしはまったく状況が飲み込めないんだけど?」

 

 困惑気味のアルフが口を挟むと、

 

「気安く銀さんに話しかえるな雌犬がァァァァァァァッ!!」

 

 さっちゃんは更に首を百八十度曲げてアルフを威嚇。

 

「あんま気にすんな。そいつは見ての通りの変態だ」

 

 と銀時はサラっと答える。

 

「いや、ただの化け物にしか見えないんだけど……?」

 

 アルフは人間が到底できない芸当をし出す猿飛にドン引き。

 そして銀時はまた猿飛の首を百八十度曲げて自分の方に顔を向けさせた。

 

「とりあえずごちゃごちゃ言ってねぇで、とっとと元の世界に帰る方法教えやがれ」

「相変わらず強引ね……。でも、そこが素敵だからズルい人だわ」

 

 猿飛は首を一回転半させながら頬を赤らめる。

 

「いや、もう強引てレベルの状況じゃないよ……」

 

 なにこの化け物? とアルフは更に引く。

 

「たく、めんどくせぇな。これ以上聞いても無駄そうだ。今はフェイトのことが先決か」

 

 頭を掻く銀時はアルフに顔を向ける。

 

「まさか、お前の言っていたプレシアの親としての『問題』って『ああいうこと』だったんだな」

 

 同情を含んだ眼差しを向ける銀時の言葉を聞いて、アルフは戸惑いだす。

 

「えッ!? い、いやいやいや! あたしが言ってる『プレシアの問題』って別にあんなのじゃ――!!」

 

 違う違うと両手を振りながら否定を口にするアルフに銀時は腕を組んで言う。

 

「まさか娘にSM調教を教えるようなクレイジーな母親だったとは思わなかったぜ。さすがにお前のご主人がそんな奴の娘だったらああ言う顔にもなるわな」

 

 勝手に自己完結する銀時だがアルフは尚も否定する。

 

「いやいやいや! ホントに!! プレシアの『おかしい』はああ言うベクトルじゃないんだってば!!」

 

 あれはきっとなんか間違いだって!! つうか信じたくないし!! と必死に説明するアルフの言葉を聞いても銀時は信じない。

 

「じゃあなにか? 娘に教育とか言い出して虐待染みた折檻するような母親だってか?」

「なんでつまんなそうな顔すんのさ!? つうかあたしがプレシアに抱いてるイメージはそういう感じなんだよ!!」

「なんかありきたりだなおい。そんな母親や父親がDVでしたー、とか使い古しもいい所じゃねェか。むしろSM調教無理強いする母親の方が斬新じゃね?」

「別に斬新さ求めてねぇし!! DVでいいんだよ! DVで!! いや、良くもないけど!!」

 

 自分で自分の言葉にツッコミ入れてしまうアルフ。

 

「――母さんやめて!!」

 

 すると突如として玉座の間からフェイトの叫び声が聞こえてきた。

 

「母さん!! そんなことしないで!!」

 

 その悲痛なフェイトの叫び声を聞いてアルフは必死に語り掛ける。

 

「ほらッ!! 今だよ!! 今の声!! きっとプレシアのやつ、今度こそフェイトに酷いことしているに違いないよ!! 間違いない!!」

「どうやら、今度はマジらしいな」

 

 と銀時も眼光を鋭くした。

 さっちゃんが後ろで「あの~、わたしの(これ)はこのままなの?」と言っているが、とりあえず無視。

 

 

 ドンッ! と銀時が勢いよく扉を蹴破る。

 

「おらァ!! プレシアァ!! テメェなにやってんだァ!!」

「現行犯だプレシアァァァァァァァッ!!」

 

 続いてアルフが叫び、二人はまた玉座の間に突撃。

 二人の目に映ったのは……。 

 

「母さん!! そんなことしちゃダメだよ!!」

 

 母を言葉で説得する娘と、

 

「いいえフェイト。これはあなたの為に必要なことなの」

 

 娘の言葉を無視する母親と、

 

「ぐォォ……ヤメロォー……」

 

 ケツにロウソクぶち込まれそうになっているイボ痔忍者の服部全蔵だった。

 お庭番衆筆頭である服部は地に伏し、その尻の穴には今まさに太いロウソクが差し込まれようしていた。

 

「か、母さん! そんなことしないで! いくらなんでも汚いよ!」

 

 フェイトが必死に母を止めようとすると、プレシアは語りだす。

 

「私はねフェイト。あなたを立派な魔導師するためならどんな汚れ役も買ってでるつもりよ」

 

 言葉の最後に何故かドヤ顔披露するプレシア。そして服部は叫ぶ。

 

「ヤメロォォォォォォォッ!! せめて入れるならポラ〇ノール(注入タイプ)にして――!!」

 

 するといつの間にか冷たい眼差しの銀時は服部の後ろにおり、手にロウソクを持って構えていた。

 そして銀時が腕を振り下ろしたと同時にグサッという音が鳴り、

 

「ぎゃああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 服部の悲痛な叫び声が時の庭園に鳴り響いた。

 

 

 



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第三十七話:忍者

最近自分のジュエルシードに対する打ちミスがホントに酷い!

毎度毎度見直してみたらジュエルシードが『ジェルシード』になると言う失敗を過去作にしろ作ったばっかの話にしろ度々発見してしまいます。

ホントにこれは完全に私の失態なので自分でなんとかする他ないのですが、ジェルシードと言う単語見る度に(# ゚Д゚) と言う感情が生まれてしまう今日この頃。

読者の方に指摘されるまでまさかここまで大きな間違いに気付かなかったのが悔しかったです。

もし誤字脱字や文法的におかなしところがありましたら、遠慮なく言って下さい。暇があればできるだけ早く直す所存です。


「っで? てめェらホントなんなの? なにしに来たのホント?」

 

 頬を引きつらせる銀時の前には、何故かこの時の庭園にいる猿飛あやめと全蔵全蔵(やって来た理由と方法は不明)が並んで立っていた。

 

「なんだ、会ってそうそうやぶからぼうに」

 

 と全蔵が言うと猿飛が呆れ顔で。

 

「あんたが性懲りもなくイボ痔ネタするから銀さんは怒ってるのよ。分からない?」

「なんの前触れもなく登場しやがったテメェら両方に俺はイラついてんだバカヤロー!」

 

 銀時は怒り気味に言う。横のアルフは呆れ顔。

 

「前から思ってたけど……あんたの知り合いって、変なの多いね……。ま、あんたも十分変な奴の部類に入るけどさ」

「ふざけんな! こんな変態共と一瞬すんじゃねェよ!」

 

 銀時が怒鳴ると、全蔵が食ってかかった。

 

「おいおい、この摩利支天を変態呼ばわりとは随分なモノ言いじゃねェか」

「ケツにロウソク生やした奴を変態以外のなんと呼べと?」

 

 そう言う銀時がジト目を向けるのは、全蔵の尻の穴に刺さったままのピンクのロウソク。

 

「これはテメェが刺したモンだろうが!!」

 

 全蔵が怒鳴り返すと、猿飛が腕を組んで言う。

 

「まったくね。ケツにロウソク生やしたあんたは忍者ではなくただのイボ痔の変態と知りなさい」

 

 辛辣なさっちゃんに対して、アルフは半眼を向けた。

 

「いや、あたしからしたらあんたも十分変態に見えるんだけど……」

「うっさいわねこの雌犬風情が!! 私をこんなイボ痔と一緒にしなでちょうだい!!」

 

 胴体が前、顔が後ろ向きの猿飛が怒鳴る。銀時はそんなくノ一の姿にドン引き。

 

「いや、首が1回転半してるテメェは変態どころかバケモンなんだけど」

「つうかお前いつまで捻じれたままなんだよ!」

 

 とアルフがツッコムと、

 

「銀さん。忍者はね、時として相手の隙を自ら作らなければいけない時もあるのよ」

 

 突如語りだした猿飛。目を瞬かせる銀時の様子など気にせず変態くノ一の語りが続く。

 

「忍者の技の一つには相手の隙を作るための『死んだフリ』と言うモノがあるわ」

「むろん忍者の『死んだフリ』はテメェらが熊なんかにやるようなちゃちな『死んだフリ』とはワケが違う」

 

 と説明を繋げるのは全蔵。そして再び猿飛が自慢げに語る。

 

「それこそ、近くから見ても重傷を負って死んだようにしか見えないような高等テクにより相手を騙すワザよ。いくら銀さんといえど、素人の目ではただの屍にしか見えないわ」

 

 説明を聞いた銀時は汗を流しながら指摘した。

 

「いや、どんな高等テク覚えたら首が540度も曲げられるようなんだよ。つうか、首が一回転半してる死体なんて普通いねェし」

「とりあえず全蔵。首が痛くなってきたから戻してくれないかしら」

 

 猿飛は全蔵に後頭部を見せながら言う。

 

「いや、お前どっち向いて喋ってんだよ。俺こっちだから」

「しょうがないでしょ。胴と顔の正面が反対なんだから」

 

 猿飛の言葉を聞いて全蔵は「たくしょうがねェなァ」と言いながら、猿飛の側頭部を両手で掴み固定。

 ゴキボキとかなり不穏な音を出した後に猿飛の首は元に――戻らず更に百八十度回転した。

 全蔵は満足げに頷く。

 

「これでよし」

「いやどこがッ!? 余計酷くなってんじゃねェか!! ついに二回曲がっちまったぞおい!!」

 

 銀時が青ざめながらツッコムが、猿飛は満足そうに肩を回す。

 

「ふぅ~。これで楽になったわ」

「なんでッ!? どこに楽になった要素あんの!? 命が楽になったの!?」

 

 戦々恐々の銀時の言葉を無視して、全蔵は片手を上げてさよならのポーズ。

 

「そんじゃま、俺たちはこの辺で退散するとするわ。やることまだ色々残ってるんでな」

「いや、おい!! 行く前に江戸に帰る方法教えろよ!! 俺に!!」

 

 と、慌てた銀時は食い気味全蔵の肩を掴む。

 

「お前ら江戸からこっちの世界に来たんだよな!? だったら帰る方法もちゃんと知ってるんだろ!?」

 

 銀時の懇願に対し、全蔵は取り合わない。

 

「わりィがこっちも任務なんでな。お前さんをこのまま江戸に帰すワケにも、帰す方法を教えるワケにいかねェ。もしマジで帰りたきゃ自力でなんとかしてくれ」

「自力でって、それができりゃあテメェみてェなイボ痔忍者に頼み事なんかするかボケェ!」

 

 どこ吹く風とばかりの全蔵は「あ、そうそう」と言って懐からあるものを取り出す。

 

「こいつは選別だ。マジで困った時はこいつを使って切り抜けな」

 

 そう言って全蔵が渡したのは、今週号のジャンプだった。

 

「これで何を切り抜けと!? おまけで付く切り抜き付録を切り抜けってか!」

 

 銀時のツッコミにアルフは「ウマイ」と呟く。

 

「ああッ! やっべ! 間違えた! それは買ったばっかのジャンプ!」

 

 と全蔵は慌てて銀時からジャンプ奪い取り、ズボンの中に手を突っ込む。

 

「本当に渡すもんはちゃんと大事にしまってあったんだった!」

 

 そう言いながら全蔵はズボンの中をまさぐり始めた――主に尻の部分を。その姿を見た銀時は青ざめる。

 

「なんつうとこに大事なモンしまってんだテメェはァ!?」

 

 全蔵は尻を弄りながら説明しだす。

 

「忍者ってのは身ぐるみ剝がされても大事な密書やら物品を奪われないようにするために予想外な場所に隠すんだよ」

「だからって野郎の汚ねェケツに隠すとかバカじゃねェの!! イボ痔のクセしてテメェは自分のケツが綺麗だとでも思ってんのか!? つうかそうやってなんか入れてるからお前イボ痔なんじゃねェの!」

「銀時やっぱコイツただの変態だよ!」

 

 ついにはアルフにまで変態呼ばわりされる始末の全蔵。

 スポンッ! という軽快な音と共に全蔵はズボンから握り拳を出す。

 

「ほれ、受け取りな」

「なに真顔でとんでもねェ要求してんのお前!?」

 

 無論銀時は全力拒否。

 

「んなもん汚くて受け取れるワケねェだろ! イボ痔がうつるわ!!」

 

 嫌悪感全開にする銀時はアルフに顔を向ける。

 

「アルフ代わりに受け取ってくんない? 洗ったら俺も受け取る覚悟決めるわ」

 

 と言う銀時にアルフは「断固断る!!」と拒否全開。

 

「たく、注文の多い野郎だ。つべこべ言わずに受けとりゃあいいんだよ」

 

 全蔵は握っていたものを銀時に投げつける。

 

「きったねェ!!」

 

 もちろん銀時が避けるのは当たり前で、全蔵が投げたものは当然地面に落下。

 

「そんじゃ、今度こそ俺ら行くわ。せいぜい頑張んな」

 

 全蔵は手を振って姿を消す。

 

「おィィ!! 行くにしてもこれ洗ってからにしろォ!!」

 

 銀時は止めに入ろうとするが、あっという間に全蔵の姿は消失。

 

「銀さん、私も首を長くしてあなたの帰りを待っているわ」

 

 と続いて、首が二回転した猿飛も姿を消す。

 

「いや、お前は首が捻じれてるせいですでに微妙に長くなってんぞ!」

 

 と銀時がツッコミ入れてる間に、猿飛は姿を消してしまう。

 そしてこの場の空間に残ったは、アルフと銀時だけ。

 

「なー銀時、これどうする?」

 

 しゃがんでいるアルフが指を差す先には、イボ痔忍者のイボから出てきたと思われる謎の物体。

 布に包まれた正体不明の物を見て、銀時は一言。

 

「お前、ゴム手袋とか持ってない?」

 

 

「っで、あんたの知り合い連中は結局なんだったんだい? なんでこの『時の庭園』いた上にプレシアの奴に捕まって拷問紛いのマネまでされそうになってんのさ」

 

 怪訝そうなアルフの質問。対して、ゴム手袋とマスクで完全防備した銀時は袋の中のモノを取り出す。

 

「知らねェよ。あのバカ忍者共の目的なんて。何も話さずに消えちまったんだからな」

 

 つうかアレは拷問なのか? と銀時はつい内心疑問に思ってしまうが、とりあえず気にするのはやめておく。

 ボケ合戦しただけで結局重要な情報なんてものは一切得られることができなかった。もしかして自分に情報を与えないために敢えてボケ連発してたのか? などとアホな邪推までしてしまう始末の銀時。

 

「って言うか、あたしらこんなことしてる場合じゃないよ!! 今更だけど!!」

 

 すぐさまアルフは慌てた様子で言うが、銀時はまったく慌てずに返す。

 

「あん? なにが? ウン〇でもしたくなったか?」

「なんでこの状況でウ〇コの話になるんだい!!」

 

 と、怒鳴り返すアルフは捲し立てる。

 

「じゃなくてプレシアとフェイトだよ!! 結局玉座の間に二人を放置したままじゃないか!! 今度こそフェイトがプレシアの奴になにされてるか分かったもんじゃないよ!!」

 

 使い魔の訴えを聞いても、銀時の態度は依然として気だるい感じのまま。

 

「つうか、二回もあんな一場面みせられたらあの女に危機感なんて覚えねェよ。いや、子供の教育上的な意味じゃかなり危険な部類入るかもしれねェけどよ。あの様子じゃ別にフェイトにどうこうするような感じでもなかったろ?」

「た、確かにそうだけど……でも!! あたしが前々から感じ取ってたプレシアの雰囲気はホントに危険な感じだったんだ! フェイトにとっても!」

「わァーったよ」

 

 そう言って立ち上がった銀時は、包みから出したモノにアルコールをシュッシュと振りかけながら言う。

 

「そんじゃ、三度目の正直だ。今度こそヤベェ母親の姿って奴を拝ませてもらおうじゃねェか」

 

 アルコールをタオルでふき取りながら不敵な笑みを浮かべる銀時。

 

「――っで、結局それなんだったんだい?」

 

 アルフはしまらない絵面に微妙な顔をしながら銀時に問いかける。

 

「――鞘の……首飾りか?」

 

 タオルの中にあったのは鞘を模したペンダントのようなモノ。鞘の先端部分には穴が開き、そこから長い紐が通されているので、首にかける物のようだ。

 アルフは眉間に皺を寄せてペンダントを見る。

 

「それが一体なんの役に立つって言うんだい?」

「さァな。ま、あのイボ痔忍者のことだ。なんかあんだろうよ」

 

 そう言って銀時の鞘のペンダントをポケットに仕舞った。

 その時、

 

 バシンッ!! バシンッ!!

 

 と何かを叩かくかのような乾いた音が玉座の間から聞こえてきたのだ。

 

「母さん……もう、わたし……!!」

 

 フェイトの弱々しい声を聞いて二人は三度目の突撃をした。

 

 

 

 ドアを無言で蹴破る銀時と、

 

「プレシアァ! あんたついに本性を現したな!!」

 

 気合の入ったアルフの掛け声。

 二人の目の前にはとんでもない光景が広がっていたのだ。

 

「母さん、わたし……もう無理です!!」

 

 根を上げる娘と、

 

「やりなさいフェイト!! これはあなたの為でもあるのよ!!」

 

 懇願する母。

 一見文章にするとようわからんが、説明するこうなる。

 娘が鞭を手に持ち、母親の尻を足蹴にし、その母親は娘に鞭でぶたせることを強要している姿だった。

 プレシアは叫ぶ。

 

「今こそ今までの教育の成果を見せる時なのよ!! さァ、この私をその鞭でぶったたき――!!」

 

 ズドォン!! という音と共に、拳がプレシアの脳天を直撃。大魔導師の顔面は地面にめり込んでしまった。

 そしてそれをやった人物こそ、フェイト・テスタロッサの使い魔の狼。

 

「あ、アルフ……」

 

 フェイトは自分の使い魔の行動に呆然。目の前の光景に銀時は頬を引きつらせ、アルフは一言も言葉を発さない。

 そしてアルフはボトボトと力なく歩きながら銀時の方へ向かって行く。

 

「……銀時」

「な、なに?」

 

 ビクッと肩を震わせる銀時。対して、アルフは光のない瞳で。

 

「なんか、あたしの勘違いだったみたいだね……」

「そ、そうだね……」

 

 銀時は怖くて乾いた返事しかできない。

 そのままボトボトと歩くアルフの後姿を見つめていた銀時は、フェイトに向き直る。

 

「ま、まァ……なんだ……。親子のスキンシップって奴も、ほどほどにな……」

 

 当たりさわりないことを言った後に銀時も玉座の間を後にした。

 

 

「チクショォォォォォッ!!」

 

 時の庭園の一室に戻った後、アルフは大声を上げながらベットに拳を叩きつけた。そして何度も何度もベットを両手で叩く。

 

「まさかプレシアの正体が実の娘にあんな変態プレイ要求する奴だったとはぁぁぁぁぁあああ!!」

「まままま、落ち着けって」

 

 微妙な顔の銀時が優しく声をかける。

 

「フェイトがプレシアに肉体的外傷を与えられてねェって分かっただけでもいいじゃねェか」

 

 銀時はフォローを入れるが、アルフは尚も声を荒げた。

 

「その分精神的な負担半端ないよ!! フェイトはあんな変態の母親の娘っていう足枷をずうっと履かされることになるんだよ!!」

「いや、まァ、な。うん……」

 

 正論なだけに銀時としては言葉を返し辛い。

 実は陳腐というか、間の抜けたテスタロッサの闇に対し、めんどくさく感じてきた銀時。

 これ、もう教育委員会とかの案件じゃね? みたいな考えまで頭に浮かんできてしまう。

 

 すると部屋のドアが開く。

 

「あ、二人共ここにいたんだ」

 

 扉を開けたのはフェイトだ。

 

「フェイトォーッ!!」

 

 フェイトの姿を見た途端、アルフは涙を流しながら自分の主に抱き着く。

 

「あ、アルフ……」

 

 突如抱きしめられたフェイトは戸惑い、アルフは涙を流しながら訴える。

 

「もうあんな頭イっちゃった変態クソババアのとこにいちゃダメだよ!! あたしとフェイトとついでに銀時の三人で逃げて静かに暮らそうよ!!」

 

 感情を吐露するように捲し立てるアルフに、銀時はさり気なくツッコム。

 

「いや、それはいくらなんでも言い過ぎじゃね? 仮にもおたくの主の母親よ? つうかついで扱いでお前、俺を巻き込もうとしてない?」

 

 アルフはフェイトから顔を離して力強く宣言。

 

「つうわけで、フェイトはあたしと銀時が頑張って育てるから! あんなのの元にいたらフェイトには悪影響しかないよ!!」

 

 そこで銀時が待ったをかける。

 

「いや、なんで俺まで保護者にしようとしてんの!? なし崩し的に人にデカい荷物背負わせようとすんの止めてくんない!?」

「旅は道連れ世は情けってことわざが地球にはあるらしいじゃないか!」

「なら小さい子には旅をさせろってことわざも覚えてとけバカヤロー!」

 

 いつ知ったかは知らないが地球のことわざをわざわざ引っ張り出してくるのアルフに、銀時もことわざで反論。

 

「ちょ、ちょっと待って二人共!」

 

 二人が言い合っているとフェイトが両手を出してストップをかけた。

 少女の静止を聞いて犬耳女と天然パーマの視線がフェイトに集まる。

 

「わたし、このまま母さんのためにジュエルシードを集める」

 

 フェイトは決意の籠った目ではっきり言う。

 無論、納得いかないでろうアルフは「なんでだよフェイト!?」と驚く。

 

「アレだよ!? アレなんだよ! あんたになんか、変な事させるような母親の為にどうしてそこまで……」

 

 言葉を選びながら悲しそうな顔をするアルフ。

 

「まァ、SMプレイさせるような母親はヤベェはな」

 

 言葉選ばずにガッツリ明言する銀時もさり気なく同意。

 

「――私には、分かる」

 

 と言ってフェイトはアルフの腕に手を置き、俯き気味に語りだす。

 

「母さんは、たくさん大変なことがあって疲れてるだけ。だからあんな変なことまでしちゃったんだと思う……」

「フェイト……」

 

 アルフは悲しそうに瞳を潤ませる。

 

「え? なにこれ? 今の話の流れからシリアスすんの?」

 

 銀時が後ろでなんか言ってるが、フェイトは構わず続けた。

 

「教えてもらったの。ジュエルシードが集まれば、母さんが長年求め続けていた研究に近づけるって。そうすれば、ゆっくり休むことができるって」

「その研究って?」

 

 アルフの問いにフェイトは首を横に振る。

 

「研究の内容は教えてもらえなかった。でも、私は最後まで母さんを信じる」

 

 フェイトは自身のシャツの胸部を掴みながら顔を反らして言う。

 

「母さんの願いを――ジュエルシード集めれば、きっと昔の母さんが戻ってくるって……予感がするから」

 

 主の話を聞いて使い魔は視線を反らした後、首をぶんぶんと振り、力強く言う。

 

「わかったよ! ならあたしもとことんフェイトを信じるよ!! ダメで元々だ! やるだけやってみようじゃないか!!」

「……ありがとう、アルフ」

 

 フェイトはアルフの手を取り、優しく微笑む。

 そんな二人のやり取りを、腕を組む銀時は壁に背中を預けながら見ていた。

 

 

 

 報告も済み、地球に戻る時だった。

 

「なァ、フェイト」

 

 フェイトの後ろにいた銀時が唐突に話し掛ける。

 

「なに、銀時?」

 

 少女は振り向かずに返事をするが、銀時は構わず聞く。

 

「お前、なんか悩んでることでもあんのか?」

「…………どうして、そんなこと聞くの?」

 

 依然と振り向かないままフェイトは言葉を返す。銀時はポリポリと頭を掻きながら答える。

 

「いや、特に他意はねェんだけどよ……。アルフに喋ってる時のお前、なんつうか、気持ち悪いの我慢してる感じ? みてェに見えたからよ」

「あの……白い魔導師の子と……決着をつけないといけないと思うからかな。たぶん、自分で思ってるよりも……きんちょー、しているんだと思う」

「そうかい。ならいいんだけどよ」

 

 そう言って別の方向に視線を移した後、銀時は口を開く。

 

「そういやァ、俺とアルフが買ってきたケーキ、ちゃんと母ちゃんに渡せたか?」

「……うん。渡せた」

 

 とフェイトが頷いて返事をすれば、銀時は軽く返す。

 

「……そうかい」

 

 それっきり二人は地球につくまで、会話をすることはなかった。

 

 

「ええええッ!? 忍者ですか!?」

 

 バニングス低のリビングで驚きの声を上げるのは新八。

 対して、土方は「ああ」と頷く。

 

「どうやら今回の事件、プレシア以外にも妙な連中が暗躍してんのは間違いねェみてェだ」

 

 くノ一と人間に寄生する化け物が裏で何かしている、と説明した土方はコーヒーを啜る。ちなみに周りに幼い子供がいるのでTPOを弁えタバコは我慢しています。

 

「しかもさっちゃんさんと同じくノ一なんですよね? その忍者って」

 

 新八と問いに土方は無言で頷く。

 

「お、さすがムッツリ眼鏡。女と聞けばたちまち発情アルか?」

 

 人聞きの悪いこと言うチャイナにメンチ切る眼鏡。

 話を聞いたアリサは微妙な表情。

 

「侍の次は忍者……」

「ホントに江戸時代の人たちなんだね、土方さんたちって……」

 

 すずかは関心半分驚き半分といった顔になった。

 

「新八さん。さっちゃんさんて誰ですか?」

 

 新八の口から発せられた聞きなれない人物名に、なのはは首を傾げる。

 

「僕らの世界のくノ一だよ。僕たちの知り合いでもあるんだ」

「ちなみにさっちゃんはドMで銀ちゃんのストーカーアル」

 

 と神楽が付け足す。

 

「えッ? なにそれ……」

 

 アリサはさっちゃんの人物像を聞いてドン引きし、沖田が口を開く。

 

「あの雌豚は近藤さんと同族ってことだ」

「おいおい、俺をあんな変態マゾヒストと一緒にするなよ総悟ォ」

 

 軽い調子で言う近藤をアリサはジト目で見る。

 

「いや、変態的な部分ならあんたとどっこいどっこいよ」

「他にどんな忍者さんと神楽ちゃんは知り合いなの?」

 

 純粋に興味があるらしいすずかは神楽に質問。チャイナ娘は腕を組んで答えた。

 

「う~ん……あと知ってるのは、ジャンプ好きのイボ痔の忍者アル」

「イボ……」

 

 すずかは神楽の言葉を聞いて絶句。

 

「あんたたちの世界の忍者ってマトモなのいないの?」

 

 半眼で引き気味のアリサに新八が弁明する。

 

「いや、僕らの『知り合い』の忍者が特殊なだけで、ちゃんとした忍者もいるからね!」

「つまりあんたらの周りって基本変なのしかいないってこと?」

 

 アリサの言葉にまったく言い訳できない新八は黙った。

 なんか話が脱線しだしたので土方は「とにかく!」と大きな声を出して話を軌道修正させ、声を低くして告げる。

 

「まったく未知の輩がこの世界で何かしら企んでいるのは確かってことだ」

「その人たちって、悪い人たちなんですか?」

 

 なのはの質問に土方は首を左右に振った。

 

「さァな。可能性は高いが、悪人かどうかまでは判断できん。だが、得体のしれねェ化け物を引き連れてる連中だ。マトモな奴らでは、ないだろうな」

 

 説明を聞いたなのはは不安な表情を作ってしまう。

 アリサはため息を吐く。

 

「フェイトのことだけで手一杯だってのに、その上正体不明の敵。正直、これから先どうなるのかしら」

「まァいいネ。私らの邪魔するならぶっ飛ばすだけネ」

 

 神楽が拳を掌に叩きつける。

 

「あんたホント物事を頭で考えないわね……」

 

 アリサは呆れた目で神楽を見るのだった。

 そして数日ほど時間が経ち、海鳴市の海岸付近にジュエルシードが発動することとなる。

 

 

おまけ

  

 ちなみにフェイトがプレシアのために持って来たケーキは一体どこから入手してかと言えば……。

 

 チャリンという軽快な鈴の音と共に喫茶翠屋のドアが開き、新たな客がやって来る。

 

「いらっしゃいませー」

 

 と無難な言葉で応対するのは、地味にレジ打ちまで覚えた山崎退。

 この山崎と言う男はその地味な見た目に反して運が悪かったする。

 原作でも初恋相手の時に最悪の見合いをセッティングされたり、志村家にスパイをしに行ったらいつの間にか抹殺されそうになるなど、結構な頻度で酷い目にあっているのだ。

 

 そして今回たまたま午前中のレジを任された山崎の前に不運がやって来てしまう。

 

 軽快な音と共にまた店のドアが開き、その音に反応した山崎が慣れたあいさつを口にしようとした。

 

「いらっしゃいま――」

 

 ドアを開けやって来たのは、銀髪天然パーマとオレンジ髪の女――ようは銀時とアルフ。

 招かれざる客とはまさにこのこと。

 今現在、敵対関係に位置するであろう一派の二人。そいつらが、なんか知らんが自分が店員として働いている喫茶翠屋にやって来たのだ。

 

 ――嘘ォォォォォォォォ!?

 

 山崎は内心シャウト。

 

 ――いや、なに!? なんでこの二人平然とここにやって来てんの!? ここなのはちゃんの家だよ! つまりアウェーだよ! 本丸だよ!

 

 と山崎は内心では思ってみるものの、すぐに予想がついた。どうせこいつらはこの喫茶店がなのは一家が経営しているとは知らずに来たのであろうと。

 

 ――や、やべェよ……。どうしよ……。あの二人なんか俺見て、固まっちゃるし……。あの旦那のことだ、ぜってェロクなこと考えてないよな……。

 

 真選組一番隊隊長である沖田総悟並に時たまドS 行為働く男だ。自分もあの銀髪にひどい目に遭わされた記憶が何度もある。モヒカンにされたり……。

 

「おい、俺があいつの顎に一発入れるからお前は……」

 

 と銀髪が耳打ちすれば、オレンジ髪の女は。

 

「なるほど。そこであたしが首をこう、カブっと……」

 

 ――なんかすっげェ物騒な話し合い始めたんですけど!

 ――しかもなにあれ? ヒソヒソ話のつもり? 小声で話してるつもりなの!? おもっくそこっちにあんたらの物騒な相談丸聞こえなんですけど!

 

 このまま店員として棒立ちしていたらなにをされるか分かったもんではない。

 待っていては()られる。その前にこっちから牽制するのだ。自分がネゴシエイトして向こう側の銀時をこっちに引き入れるしかない。

 

「ちょ、ちょっと万事屋の旦那! 俺たち別に敵対する必要ないでしょうが!! 俺、これから土方さんに連絡入れて、話し合いの場儲けますからおとなしくして――!!」

 

 と言い切る前に、突如動いたのはアルフ。自分の口になにかを突っ込んだのだ。

 

「んごォ!?」

 

 ――んぎゃああああああああッ!? なにッ!? なんかイクラみたいな大量のつぶつぶが口に放り込まれた!?

 

 ちなみに山崎の口に放り込まれたのはドックフード(アルフのおやつ)。

 突如の不意打ちにもんどりうつ山崎。

 山崎に攻撃してきたアルフは拳をボキボキ鳴らしながら睨みをきかせる。

 

「おいあんた。余計なマネすんじゃないよ。こっちはいつでも臨戦態勢OKだ。隙見て仲間にチクろうったってそうはいかないよ」

 

 山崎は「ぺッぺッぺッ!!」と鼻につく固形物を口から吐き出し、すぐに弁明開始。

 

「ちょちょちょッ!! だから俺は話し合いをしようとしてるだけ――!!」

 

 すると今度は銀時が山崎の首に腕を巻いて言葉を遮る。

 

「おい、学級王山崎くん」

「いや、誰それ!? 俺そんなコロコロ的な異名名乗った覚えないし!」

「わりィけど、俺あのニコチンマヨネーズパーリィ野郎とグダグダ揉めんの嫌なんだわ」

 

 だから、と言う銀時の手にはガリリリリと鳴る機械が握られている。そして銀髪はサディステックな目線で。

 

「もし、おめェの上司&うちの社員&あの白チビに俺たちが来たこと教えたら、てめェのヘアースタイルが世紀末か坊主のどちらかになるぜ」

 

 山崎は青ざめた顔で自分の眼前にある電動剃刀を見る。目の前で立っているアルフも無言で、駆動音が鳴る髪を散髪するための機器を構えていた。

 銀時は剃刀を近づけながら言う。

 

「とりあえず、俺たちが来たことは黙った上で、ケーキ全品100%OFFにしな」

「それ最早ただの強盗じゃん! 脅迫じゃん!!」

 

 山崎は抵抗のツッコミ入れるが、髪質を取られている以上は最早抵抗するわけにはいかないのであった。

 

 

 

「ありがとうございましたー……」

 

 山崎が店員としての挨拶をし、喫茶翠屋から銀髪とオレンジ髪の客が出ていく。

 すると裏から高町家の母である桃子が出てくる。

 

「あ、山崎さん。そろそろ休憩を入れて、少し早めのお昼にしたら――」

 

 新しく入ったバイトの頭を見て、店主の妻は絶句。

 

「おっす。おら、山崎」

 

 涙を流す山崎の頭髪はザキロットへと進化を遂げたのであった。

 

 



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第三十八話:人数増えても連携取れなきゃ烏合の衆

やっとpixiv版と同じ話数まで投稿する事ができましたので、今回から投稿頻度は遅くなります。


 時刻は夜。

 

 海鳴市町内のビルの屋上に立つ一つの影。

 空を暗雲が覆い、月光が影の姿を隠す。

 体をローブで覆い、頭はフードを被って全身を隠す影。だが、フードの中から覗くその赤く光る両目は、緑色の鉄網の向こうから眼下に広がる海鳴市の街並みをジッと眺めていた。

 すると影の後ろから声が聞こえてくる。

 

「――あァ、いたいた」

 

 影がゆっくりと振り向けば、そこには黒髪を逆立たせた目つきの悪い男が立っていた。

 影は見知らぬ男を見て目を細めると、ゆっくりと指先が尖った右手を前へとかざし、黒い魔力球を生成。

 

「……なにものだ?」

 

 魔力の弾丸を向けられた男は両手を上げて汗を流す。

 

「ちょッ! 俺です俺! 〝パラサイト〟ですよ!」

 

 パラサイトという名を聞いて影は掌に作った魔力弾を消し去り、また眼下に広がる街並みを眺め始める。

 

「……紛らわしい。それで報告か? さっさと済ませろ」

 

 攻撃されずに済んで、パラサイトは軽くため息を吐く。怪物はゆっくりと影に近づき、耳打ちした。すると影は目を少しばかし細くする。

 

「ふん。何かと思えばそんな事か。騒ぐ事のほどでもない」

 

 影は興味が失せたと言わんばかりの眼下の街を再び眺め、パラサイトは影の反応を見て頬を掻く。

 だがやがて、影は「とは言え」と言ってギロリと赤い瞳をのぞかせた。

 

「もし貴様らの手に余るようだったら、当初の予定通り私が代わりを務めてもよいのだぞ?」

 

 影の言葉を聞いて、パラサイトは余裕の笑みを浮かべながら右手を顔の前で横に振る。

 

「いえいえ。〝ボス〟の手をこれ以上煩わせる事もありません。ジュエルシードをこの地に降らせてくれただけでも充分なんですから」

 

 そこまで言って、パラサイトは右手を胸の置いて軽くお辞儀をした。

 

「後は我々に任せて、あなたはご自身の事に専念にしてください」

 

 言葉を聞いた影は指先が尖った人差し指をパラサイトの顔へと突きつける。

 

「今回の件は貴様らの有用性を試す為でもある。それは分かっているな?」

「えェ、重々承知しています」

 

 赤く光る視線を浴びながら、パラサイトは頭を下げながら答えた。

 そして影は腕を下ろし、視線をゆっくりと眼下の街へと移す。

 

「――ならせいぜい、励むことだ」

 

 まるで凍てつく氷のような影の言葉。それを聞いたパラサイトはゆっくりと上半身を上げ、背を向けて歩いて行く。

 背を向けるパラサイトの顔は、さきほどの相手の好感を得るような笑みから、真顔へと変わっていた。

 

 

 翌日。

 

「グォォォォォッ!!」

 

 海鳴市の海が見える浜辺の近くでは、ジュエルシードによって変貌した大木が不気味な声を上げ、木の根っこを鞭のように振るう。それに地上で対応しているのは、刀と木刀を持った侍たち。

 

「ぎゃああああああああッ!! なんですかあのジュレイモンは!!」

 

 情けない声を上げる眼鏡――志村新八はなんとか振り下ろされる木の根を木刀で捌き、体を捻って避け、凌ぐ。

 

「たく、何回か見て慣れているとはいえ、ホントバケモノ製造機だなジュエルシードってのは!」

 

 そう愚痴りながら刀で根っ子を切り裂く土方。

 

「皆さん頑張ってください!! すぐに封印します!!」

 

 桃色の光る羽を靴横から生やして上空に飛び上がるなのは。手に持つレイジングハートを封印形態――『カノンモード』と変形させ、構える。

 

「シュートッ!!」

 

 そう言ってなのははレイジングハートに付いたトリガーを引き、桃色の魔力砲撃を放つ。凄まじい一撃によりジュエルシードの異相体があえなく封印され撃沈かと思いきや、

 

「フォワタァーッ!!」

 

 と神楽が凄まじい飛び蹴りを大木の化け物に叩きつけた。

 神楽の攻撃を受けて大木の幹は折れ、異相体の胴体は地面に倒れる。そのおかげでなのはの放った砲撃はそのまま的を外れてしまう。

 

「なにしとんじゃぁぁぁぁッ!! 余計なことすんな!!」

 

 バリアジャケット姿のアリサが怒髪天といった具合に髪を逆立たせながらツッコミ入れる。

 

「でも、これで次は簡単に倒せるネ」

 

 神楽は足引っ張ったにも関わらずあっけらかんと反省のない態度。

 

「グォォォ……!!」

 

 ぐぐもった声を漏らした大木の化け物は折れた部分のから木の根を生やして、体を立ち上げさせる。さらには胴体から両腕まで生えてくる始末。

 

「あッ……」

 

 と神楽は声を漏らす。

 

「なんの意味もないじゃない!! むしろ状況悪化してない!?」

 

 アリサはジュエルシードの異相体の変化に嘆く。

 

「今度こそ!! シュート!!」

 

 なのはが封印の力が宿った砲撃を放つが、大木の怪物は木の根を使って軽快に横に移動して砲撃を避ける。

 

「えいッ! この!」

 

 今度はすずかがスナイパーライフル型にしたホワイトから封印の魔力が籠った銃弾を撃つ。だが、バリアを張られたり、カニのように横に避けられたりで、中々決定打を与えられないでいる。

 

「かんッッぜんに!! 状況悪化したわよ!! 倒しにくくなってんじゃない!!」

 

 アリサも怒鳴りながら木の根を燃やしたり焼き切ったりするのだが、中々本体に攻撃が届かない。

 

「うおらァ!! うどの大木の癖に調子ぶっこいてんじゃねェー!!」

 

 神楽が傘の切っ先からズドドドド!! と銃弾を連発して大木の幹の側面に当てまくる。

 

「グォォォォッ!!」

 

 神楽の攻撃を直接体に受けてさすがの怪物も苦しみの声を上げた。

 だが、ギロリと怪物の目が神楽を捉える。

 

「神楽ちゃん!! 危ない!!」

 

 新八の叫びと共に神楽に向かって巨大な木の拳が放たれた。

 

「ふんぬゥゥゥゥッ!!」

 

 神楽は傘ですぐさま拳を防ぎ、後ずさりながらなんとか威力を殺す。

 傘に力を入れていて身動き取れないであろう神楽の腹に向かって、切っ先の尖った木の根がすぐさま向かっていく。

 

「神楽ちゃん!! 逃げてぇーッ!!」

 

 なのはは神楽を守ろうとすぐさま飛んで防御魔法を展開しようとするが、間に合うはずがない。

 神楽の腹を木の根が突き刺そうとした。

 

 ザシュ! と、赤髪の少女に向かっていた木の根は、狼に乗った銀時の木刀で断ち切られる。続いて神楽を潰そうとする木の拳は、回転しながら飛ぶ金色の三日月の刃が断ち切った。

 

「銀さん!!」

 

 現れた銀髪の男を見て新八が声を上げる。

 狼形態のアルフに乗った銀時と黒いマントを翻しながらフェイトが現れたのだ。

 

「おいおい神楽。随分ピンチだったじゃねェか。ピンチヒッターが必要か?」

 

 と銀時は木刀を肩に掛けながら軽口叩き、神楽は口を尖らせる。

 

「なに言っているアルか。余計なことすんなヨ。あれくらい私一人で三塁サヨナラホームランネ」

「か、神楽ちゃん……今のは本当に危なかったんだし、ちゃんとお礼は言うべきだと思うの」

 

 なのはにたしなめられた神楽は鼻をほじりながら「ありがとござあしたー」と全然誠意の籠ってないお礼。

 対して、銀時は青筋を浮かべる。

 

「うん、お前次はぜってェ助ねェからな?」

「とりあえず降りてくんないかい銀時? あたし戦えないんだけど?」

 

 アルフの言葉を聞いてへいへいと言いながら銀時は狼の背から降りた。

 

「そう言えば、さっき神楽ちゃんを助けた金色の刃ってフェイトちゃんの?」

 

 なのはの質問にアルフは人間体になりながら得意げに答える。

 

「ふふん♪ そうだよ。フェイトの『アークセイバー』さ。ちゃんと感謝しなよ」

「うん! 神楽ちゃんを助けてくれてありがとう! フェイトちゃん!」

 

 なぜか助けられた本人でないのにも関わらず、なのはは笑顔でお礼を言う。

 だがしかし、フェイトはなのはの感謝の言葉に少しだけ視線を向けるが、すぐさま鋭い視線を大木の化物――ジュエルシードへと移す。

 

「フェイト、ちゃん?」

 

 フェイトから何か違和感を感じ取ったのか、なのはは首を傾げる。

 

《Photon Lancer》

 

 バルディッシュ音声が発せられ、フェイトは自分の周りに数個の電気を帯びた魔力の槍を放つ。

 高速の槍で大木の体が貫かれるかと思ったが、怪物の展開したシールドによって攻撃は防がれる。

 

「げッ!? あいついっちょ前にシールドなんて張りやがったよ!!」

 

 今までのジュエルシードの怪物よりめんどくさそうな相手に、アルフは苦い顔。

 

「おい、ウィンナーくん。アレの攻略法をいつものように解説しろ」

 

 銀時は木の怪物を親指で指しながらユーノに言う。

 

「えッ!? もしかしてウィンナーくんて僕のことですか!?」

 

 ユーノはまさかのあだ名にギョッとしていた。

 

「じゃあソーセージにするか?」

「いや、どっちも嫌ですよ!! あなたフェレットをなんだと思ってんですか!?」

「わたかったわかった。チン〇くんで妥協してやるから」

「なにも妥協してないでしょうがぁーッ!! つうかこんな会話前にしませんでした!?」

 

 涙を流しながら怒鳴るユーノ。するとアルフは銀時の胸倉を掴む。

 

「あんたホント真面目にジュエルシード集め手伝わないとしまいにはぶっとばすよ?」

 

 拳構えるアルフに対し、銀時は慌てて両手を出す。

 

「わああッ! ちょッ!? ちょっと待て! ちょっと待ってッ!! だからこうやってあのお利口そうなウィンナーモドキから攻略法聞き出そうとしてんじゃねェか!! 銀さん今回真面目よ!」

「僕絶対あなたにだけはアドバイスしませんからね!!」

 

 とユーノは涙声。

 

「ああ言ってるけど?」

 

 アルフはユーノを親指で指す。すると銀時は真面目な顔で。

 

「じゃあアルフ、テメェがアドバイスしてくれ」

「いや、なんか代替案みたい言ってるけど、あたしからアドバイス貰うのが普通だからね? 敵対してるあのフェレットからアドバイス貰うのがそもそもおかしいからね?」

 

 はぁ~、とため息を吐いたアルフは、真選組や魔法少女たちと戦っている木の化物を親指で指す。

 

「……普通にあんたと私はフェイトのサポートしながらあの子が封印しやすいようにあいつを弱らせる」

 

 銀時は「あん?」と眉を寄せた。

 

「なにそのふわふわした説明? もうちょっとパッとした攻略法ねェの?」

「あんたがもし封印魔法の一つでも使えてりゃあ二人分の封印魔法であっさり封印できるけど、魔法使えないあんたにはとりあえず木の根っこぶった切れとしか言えないよ」

 

 銀時とアルフの会話に聞き耳を立てていたなのはは『二人』という単語を聞いて、フェイトに顔を向けてある提案をする。

 

「あの、フェイトちゃん」

 

 自分に話しかけているのはすぐに分かったようだが、金髪少女の目線はなのはには向かない。だが白い少女は言葉を続ける。

 

「今はジュエルシードを封印することは最優先にして、二人で一緒に封印しちゃダメ、かな?」

「なぜ?」

 

 当然の疑問を返すフェイトに、なのはは少し口ごもるがはっきり自分の意思を伝えようとする。

 

「前みたいに二人の魔法がぶつかってジュエルシードが暴走したら大変だから、今度は二人で協力して封印すれば前みたいな暴走が起きる可能性も少なくなると思うの!」

 

 一瞬、フェイトはなのはに目を向けた。そうすれば、強い意思の篭った瞳が黒い少女の目に映る。

 フェイトは目を瞑り、一瞬の逡巡の後に口を開く。

 

「君の考えは分かった」

「なら――!」

 

 パァとなのはは顔を明るくさせる。

 フェイトは無言で頷きデバイスを封印形態――『シーリングフォーム』へと変形させた。

 

「でも……封印できたらジュエルシードを賭けて戦うことになる」

 

 フェイトの言葉に対し、

 

「構わないよ。その時は、全力でぶつからせてもらうから」

 

 なのはも強気な態度で答える。

 そんなフェイトとなのはを横目で見ていたアリサは口を尖らせた。

 

「別にあたしたちもいるんだから、親友三人で一斉に封印すればいい話でしょうに……」

 

 すずかが苦笑してアリサをたしなめる。

 

「なのはちゃんは、フェイトちゃんと少しでも分かり合おうと頑張っているんだからあんまり拗ねちゃダメだよ? アリサちゃん」

「分かってるわよ」

 

 プイッとアリサはそっぽ向く。

 

「なのはちゃァーん!! 話終わったァーッ!!」

 

 すると、木の根っこを必死こいて弾き返している山崎退の叫び声が聞こえてきた。

 

「フェイトちゃんと話すのもいいけど、こっちもいっぱいっぱいだから早く封印してェーッ!!」

 

 山崎は情けない声を上げながらバトミントンのラケットで木の根っこを防ぐ。

 

「いや、なんでバトミントン!?」

 

 とアリサはビックリしてツッコミ開始。

 

「あんた侍なんでしょ!? なんで刀とか木刀じゃないの!? 全然緊迫感感じられないんだけど!」

 

 まさかのバトミントンのラケットで戦闘をこなすミントン山崎は必死に説明する。

 

「いやだって! 俺の刀、沖田隊長に使われちゃってるから!!」

「だからってなんでバトミントン!?」

「山崎ィィィィッ!!」

 

 と怒鳴り声上げるのは真選組副長。

 

「木刀はどうしたァァァァァッ!! 高町家から借りてこいって言っただろうがァ!!」

「すみません!! なんかついクセでラケット持ってきちゃいましたァーッ!!」

 

 と山崎は涙声で謝る。

 

「テメェーッ!! 状況分かってんのかァッ!! ……後でぜってェシメるからな?」

 

 ギロリと土方は鋭い眼光を山崎に向けた。

 

「ひィィィィィッ!!」

 

 山崎は目の前の木の化物より、鬼の副長の方が数十倍怖いと思ったそうな。

 

「あわわわッ! ご、ごめんなさい!! ふぇ、フェイトちゃん!! 早く封印しないと!!」

 

 慌てるなのは。さすがに仲間が必死こいて戦っているのに、いつまで喋っているワケにはいかないと思ったようだ。少女はすぐにデバイスを構えて封印の為の魔力を溜める。

 それを横目で見ていたフェイトも封印の為の魔力を溜め始めた。

 

「まったく、トシもザキ余裕がなくて困るぜ」

 

 すると近藤が木刀(高町家からの借り物)を構えながら余裕の笑みを浮かべる。

 

「俺たち大の大人がこんな大慌てしてどうする? 寧ろ、一つの物を巡って戦い、競う少女たちのガールズトークの為に時間の一つや二つ稼がんで、なにが男か……」

 

 木刀を大振りし、いくつもの木の根を叩き切る近藤は力強くなのはたちに声をかけた。

 

「さあ、なのはちゃん!! フェイトちゃん!! 気が済むまで存分に話すがいい!! その間の時間くらい俺たちがいくらでも稼いで――!!」

 

 近藤が言い終わる前に、バシィッ!! と木の根がゴリラの頬をぶっ叩く。

 

「あべェッ!!」

「近藤さんんんんんん!!」

 

 と新八が叫び声を上げた。

 近藤は吹っ飛ばされ、道路と砂浜を分け隔てる鉄の柵に激突。そのまま白目向いて気絶。

 

「おィィィィッ!!」

 

 と銀時がシャウト。だらしなく気絶した近藤を指差す。

 

「なんかかっこ良さげな事言ってたら案の定即やられちまったぞあのゴリラ!!」

「ちょっとォォォッ!! いの一番にリタイアしてくれたお陰で余計に余裕なくなったんですけどォォ!?」

 

 シャウトする新八は、裁く量の根っこが増えたので汗だくになりながら必死で木刀振る。

 すると沖田が真面目な顔で、

 

「なに言ってんだ。近藤さんの言ってたとおり、俺ら男が根性みせんでどうすんだ」

 

 ベンチで寝転んで観戦していた。

 

「お前はせめて1%でもいいから根性みせてくんない!?」

 

 と土方は青筋立てるが、沖田は真顔で返す。

 

「俺、刀警察に取られたんですよ」

「おめェの腰に差してる(それ)はなに?」

 

 土方に指摘された沖田は腰に差している刀を鞘ごと引き抜いて、

 

「孫の手」

 

 と言って背中を掻く。そして土方は青筋浮かべた。

 

「ようし分かった。俺の(まごのて)で背中掻いてやるよ」

「副長も状況考えてッ!!」

 

 沖田をシメに行こうとする土方を山崎が止めながら「沖田隊長も孫の手にするくらいなら俺の刀返してください!!」と抗議する。

 

「な、なのはちゃん!! もうそろそろ封印できそう!?」

 

 汗だくの新八が、後ろで封印の準備をしているであろうなのはたちに目を向ければ……。

 

「えっ? ここじゃダメなの?」

 

 となのはが言うと、

 

「そこだと封印魔法を放った時に君の魔法と私の魔法が相殺されてしまう。もう少し後ろに」

 

 フェイトは指で指示しながらなのはの位置を調整中。

 

「ちょっとォォォォォォッ!?」

 

 新八またシャウト。

 

「あの二人なんかポジショニング決め合ってるんですけど!? さっきまで魔法溜めてる描写どこいったァァァァッ!!」

 

 渾身の力でツッコミしながら木の根を弾く新八。するとなのはが大声で。

 

「新八さんごめんなさい!! フェイトちゃんが協力するならちゃんとした位置取りじゃないと気が済まないそうなんです!!」

「そういう職人気質的なことはいいから早くしてェェェェェェッ!!」

 

 もう新八の汗はダラダラ、地面に水滴がポタポタ。

 

「すげぇーなアイツ。ツッコミながら戦ってる……」

 

 魔力弾で木の化物を牽制するアルフは、少し新八に感心していた。

 

「なッ? あいつ意外に器用だろ? 万事屋一のツッコミ使いは伊達じゃねェってことよ」

 

 と自慢げに語る銀時は、暢気にベンチに横になってジャンプ読書中。

 

「ちょっと銀さんんんんッ!? なにやってんですかあんたはァァァァッ!! 状況分かってんのかァァァァァァァッ!!」

 

 新八またまたシャウト。

 第二のサボり男に怒涛のツッコミが炸裂。だが、とうの銀時はページをパラリとめくりクスリとほくそ笑む。

 

「いや、この状況でどんだけ熟読してんのあんた!? ホントしまいにはぶん殴りますよ!!」

 

 さすがの新八も堪忍袋の緒が切れて殺しそうな勢いだ。

 

「えッ? それ、そんなに面白の?」

 

 すると今度はアルフまで戦闘を止めて横から銀時のジャンプを覗き見る。

 

「アルフさんんんんんッ!? あんたツッコミキャラどこに捨ててきたァァァァァァッ!!」

 

 まさかの使い魔のボケに新八は喉が裂けんばかりに叫ぶ。すると土方が怒鳴る。

 

「もういいメガネ!! おめェんとこの糞上司は一ミリも戦力にならねェよ!!」

「あんたの上司と部下もですけどね!!」

 

 と新八は付け足す。

 

「おォらォ!!」

 

 土方は気合一閃。ついに化物の本体にまで刀の斬撃を与える。

 

「グォォォォ……!!」

 

 化物は苦しみの声を上げるが、やはり物理攻撃では効果ないのか傷が徐々に回復していってしまう。

 それを見たアリサは冷静に分析を口にする。

 

「なんかあの大木、魔法の攻撃はシールドみたいので防いだり横に避けたりするけど、刀だったり弾丸だったり蹴りだったりは、避けたりしないわね……」

 

 大木の行動を観察していたアリサの呟きを聞いて、すずかも「そう言えば……」と声を漏らす。

 

「たぶん、魔力以外の攻撃は脅威ではないと認識しているんだ」

 

 ユーノの説明を聞いて山崎が驚いた顔をする。

 

「ええッ!? じゃあコイツもしかして考えて動いてるってこと!?」

「い、いえ! たぶん本能的なモノだと思います。ジュエルシードの異相対に基本は知性なんてものはないはずですから」

「ようは俺たちは眼中にねェってことか……」

 

 そうはき捨てながら、土方は刀で何度も大木の幹を切り付けた。だが、大木は苦しみに似た声を上げるだけで意に返す様子がない。

 

「でも、なんでコイツ根っ子で攻撃してくるの!?」

 

 と新八はもっとも疑問をぶつける。

 

「どうせ俺たちのことハエかなんかだと思ってんだろ? 舐められたもんだぜ」

 

 銀時はそう言いながらベンチから立ち上がり木刀を鞘から抜く。

 

「銀さん!」

 

 ついに参戦する気になったか! と新八はやる気のない上司の行動に少なからず喜ぶ。

 銀時は肩を揉み回す。

 

「ま、数分は経ってるだろうし、そろそろだな」

「えッ? なんの話ですか銀さん?」

 

 なにをしようとしているんだ? と新八は怪訝そうな表情を浮かべた。

 すると、アルフが指を立てて説明する。

 

「あッ、プールの時のこと覚えてるかい? あの……なんだっけ? 太陽の……なんたらって、銀時(コイツ)だったんだよ」

「「「「…………えッ?」」」」

 

 土方、新八、すずか、アリサの顔が一瞬にして凍りつく。

 

「「「「ええええええええええええええええええええッ!?」」」」

 

 アルフの言葉をようやく理解したのか四人が驚きの声を上げた。

 そしていの一番にツッコミに入るのは新八。

 

「ちょっとォォォォォッ!? それどういうことォォ!? つまりあのRXの正体って銀さんだったってことですかァーッ!?」

 

 口をあんぐりさせる新八。対して真顔のアルフは銀時に指を向けた。

 

「なんかコイツの木刀改造されてるらしくてね。それで変身できるらしいよ」

「源外さんかァー!? あの人またとんでもない発明しちゃったよ!! まあ、僕たちも前に変身とかしちゃったけど!!」

(あ、ありえねェーッ!)

 

 新八の言葉から発せられた源外と言うワードなど気にも留められない土方。

 土方、さらにはアリサも内心超絶ビックリ中。

 

(あの熱血漢そのもののヒーローの正体があのやる気が氷点下まで下がったアイツとか――)

(どんだけミスマッチな組み合わせ!?)

 

 RXと銀時の姿を重ねて想像したアリサと土方の口は、ポカーンと開きっぱなし。

 土方たちの動きが止まったので、ジュエルシードの怪物は視線を右に左に移して戸惑い中。

 銀時は不敵な笑みを怪物へと向ける。

 

「おい大木野郎。見せてやろうじゃねェか、侍の力って奴をよ」

「いや、アルフさんが言ったとおりあんたが太陽の子なら侍の力もくそもないんですが?」

 

 さり気なくツッコム新八。

 すると木刀は徐々に発光しだした。

 

「変身の合図だな。いくぜ」

 

 銀時は木刀の切っ先を怪物に向けて言う。

 

「へ~んしん」

 

 銀時の気のないセリフと共に、木刀から目が眩むほどの光が発生。

 そのままドカァーン!! と木刀の刀身が爆発した。

 

「「え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ッ!?」」

 

 新八と山崎はまさかの光景に驚愕。

 銀時と近くにいたアルフは爆発によって黒こげ&アフロヘアーとなった。

 銀時は「あり?」と目をパチクリさせる。

 

「おい」

 

 青筋浮かべるアルフは、どういうことだ? と言わんばかりの鋭い眼光をアフロ銀髪に向ける。

 

『あーあー……銀の字、聞こえるか?』

 

 すると残った柄の部分から源外の声が、ザザザという雑音と共に聞こえてきた。自然と銀時の視線が手に持った柄に向く。

 

『おめェの木刀に付けた変身機能だけどよ、あれ一万分の一の確立でしか成功しねェから。一回成功しても安易に変身しようとすんなのよ? 下手したら爆発するから』

 

 そのまま音声が切れ、銀時は片眉をピクピク震わせながら、

 

「先に言えェェェェェェェェッ!!」

 

 渾身の力で柄だけになった木刀を地面に投げつける。

 

「みなさぁーん!! 離れてください!! ジュエルシードを封印します!!」

 

 なのはの声が聞こえる方に全員の視線が向く。

 フェイトとなのはは空中に浮かび、魔方陣を展開してジュエルシード封印用の魔法を放とうとしていた。

 木の化物の前にいた新八たちはすぐさま退避開始。

 

「撃ち抜いて!!」

 

 となのはが声を上げれば、

 

《Devine Buster》

 

 レイジングハートから音声が流れ、砲身から桃色の砲撃が発射。

 

「貫け轟雷!」

 

 フェイトが前方の魔方陣にバルディッシュを突き立てれば、

 

《Thunder Smasher》

 

 バルディッシュを介して魔法陣から金色の光が放出される。

 桃色と金色の二つの本流はそのまま木の化物に直撃するかと思ったが、シールドによって防がれた。

 

「グォォォォ……」

 

 だが着実に追い詰めているようで、木の怪物は押しつぶされるように体を縮込ませる。

 

「よしいける!!」

 

 新八がそう言った瞬間だった。

 

「私のこと忘れてんじゃねェーッ!!」

 

 突如の怒声に嫌な予感を覚え、新八が声のした森の方に目を向ければ、

 

「私の渾身の一撃受けてみろ!!」

 

 森から引っこ抜いたであろう大木を持った神楽が突撃してくる。

 

「ちょっと神楽ちゃァーん!?」

 

 新八が必死に止めようと声をかけるが、興奮している神楽は止まらない。

 

「くらえおらァァァァァッ!!」

 

 木の怪物に向かって神楽は力の限り大木をぶん投げる。

 大木は一直線に木の怪物の顔に直撃。そのまま怪物は後ろに倒れてしまうので、二人の魔導師が撃った攻撃が二つとも大外れ。桃色と金色の光は、倒れた怪物の上を通り過ぎていく。

 

「「だから余計なことすんなァァァァァァァッ!!」」

 

 またもや封印の邪魔しちまったチャイナ娘に、アリサと新八が渾身の力でツッコム。

 すると突如上空から青白い光がジュエルシードの怪物に向かって放たれた。

 

「グォォォォォォッ!!」

 

 さすがの怪物もシールドを張る暇がなかったのか、そのまま光の本流を受けて青い宝石の姿へと封印されてしまう。

 その光景を呆然と見ていたその場の面々たち。

 

「――まったく……君たちはいったい何をやっているんだ……」

 

 上空から呆れた声が聞こえ、全員の視線が上へと向く。

 

「管理局執務官――クロノ・ハラオウンだ。事情を聞かせてもらおう」

 



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第三十九話:時空管理局

「管理局執務官――クロノ・ハラオウンだ。事情を聞かせてもらおう」

 

 なのはより少し年上だと思われる、黒いローブに似たバリアジェケットを装着した魔導師の少年。

 少年の姿を見てアルフは苦虫を噛み潰したよう顔になる。

 

「なッ!? 管理局!」

「ッ!」

 

 フェイトもまた思わぬ邪魔者の登場に険しい表情。

 クロノを見て土方は新八に耳打ちする。

 

「(おいメガネ。あのガキが来んのはコンビナートみてェなとこじゃなかったか?)」

「(はい。映画だとそうでしたけど、でもアニメ版だと木のジュエルシードの時に二人の決闘を止める為に出てくるはずです)」

「(いや、そういうことは前も持って教えろよ!! 全然なんの対応の準備もしてねェぞこっちは!!)」

 

 土方は少し焦り顔。管理局が現れたらこちらが動きやすいように話しを纏めるつもりだったのだが、まったくなんの案も浮かんではいない。

 ひそひそと話している土方と新八に気づいたクロノは二人に鋭い視線を向ける。

 

「そこ。何をこそこそ話している」

「い、いえ何も!」

 

 両手を振って誤魔化す新八だが、クロノはますます懐疑的な目を向ける。

 

(ちょっとォーッ!! なんかめっちゃ疑われてません!?)

 

 新八は冷や汗をだらだら流し、土方は冷静に分析。

 

(たぶんあいつ、俺たちが魔法使えないのに魔法関連の事件に関わってるから、警戒してんだろ)

 

 ちなみに二人はテレパシーに近いアイコンタクトで話していると思っていただければありがたい。

 なのはとフェイトに交互に顔を向けるクロノ。

 

「さて、そこの白い魔導師の君と黒い魔導師の君は何もしないように。こちらも手荒な真似をするつもりはない」

 

 抵抗するなよ? 的な意味が篭っているであろう言葉に、身を硬くするなのはとフェイト。

 

 クロノの言葉を聴いた土方は、なのは組の面々にアイコンタクトで「なにもするなよ?」とメッセージを送る。

 実のところ交渉の内容はともかく、管理局(クロノ・ハラオウン)が出た際の行動は既に全員で話し合って決めていた。

 とどのつまり『なにもしない』である。

 

(まァ、あの金髪が何かした場合はガキ共には庇ってもいいとは言ったが……はてさて)

 

 そう考えながら土方は顎を撫でた。

 なのは、アリサ、すずか、神楽など、年齢層が低い少女たちにはフェイトがクロノに攻撃された場合、多少庇っても問題ないとは伝えてある。

 年端もいかない彼女たちなら、警察組織である管理局の命令に逆らっても見逃される可能性が大きいことは既に把握済みだ。(ただし神楽には、やり過ぎるな、無抵抗に徹しろと釘を徹底的に指してある)

 

(問題は……)

 

 フェイト、アルフ、銀時たちの方へ、土方はチラリと視線を向ける。

 もういつ管理局員に攻撃してもおかしくないはずだが、特に銀時なんかは。

 

「あぁ、はいはい。なにもしません」「これでいいかい?」「…………」

 

 銀時、アルフ、フェイトは両手を挙げて無抵抗ポーズ。

 それを見た土方と新八は、

 

((ええええええええええええええええええええッ!?))

 

 まさかの予想斜め上の光景に度肝抜かれていた。てっきり魔力弾撃って逃走するんだとばかり思っていたのに、まさかの両手万歳である。

 

(ちょっと待てェェェェェッ!? あいつら何してんの!? このままじゃアースラ連行コース&尋問受けてアウト確定だぞ!)

 

 と土方は内心動揺。

 

(銀さんか!? 銀さんの入れ知恵か!)

 

 新八は銀髪を睨む。まさかフェイトとアルフに無抵抗でいろと指示したのは銀時では? とすぐに思い至った。

 遅れて土方も銀時を睨む。

 

(間違いねェあの銀髪! フェイトたちに何か吹き込みやがった! まさか管理局を言いくるめられるとでも思ってるんじゃねェだろうな!)

(口先から生まれたあの人だって無理でしょいくらなんでも!!)

 

 新八は銀時の口がすんごいうまいことは周知だが、今回は不利過ぎる。

 いくら口からでまかせ言って目的を隠しても、管理局に「ジュエルシード渡してね?」なんて言われたら、フェイトとアルフ的にはアウトのはずだ。二人はいったいどんな説得受けてあの天然パーマを信じたというのだろうか。

 

「いや、別に手を上げる必要はないんだが……」

 

 クロノは三人の行動に微妙な顔をし、銀時はあっけらかんとした顔で手を下ろし始める。

 

「えッ? ああ、そうなの? なんだよ、手ェ上げて損したじゃねェか」

 

 アルフとフェイトも銀時に釣られて手を下に降ろす。

 クロノは銀時の不満そうな態度に呆れる。

 

「いや、別に手を上げろとこっちは言ってないんだが……まぁ、いいか。とにかく、アースラに来てもらうよ」

 

 なんかメンドーな奴に出会ったな、と言いたげな顔で三人に近づくクロノ。

 銀時は一歩前に出て言う。

 

「そんじゃま、そのアスランとかいう所に案内してもらおうじゃねェか」

「アースラだ」

 

 と訂正するクロノ。

 銀時に続いてアルフも前に出るのだが、なぜかフェイトだけ一歩も動こうとしない。

 俯き、目元を髪で隠した金髪の少女。

 

(フェイトちゃん?)

 

 その姿をなのはは不思議そうに見る。

 

「えッ……」

 

 やがて、なのははすぐに気づいた。フェイトが背中に回した右手、その手の平で魔力弾を構成していることに。

 だが、そんなフェイトの行動に気づかないほど、執務官は甘くなかった。

 

「黒い魔導師……一体なにをしているんだ?」

 

 少し声音を強くさせたクロノの言葉に、肩をビクリと震わせるフェイト。

 前に出た二人は後ろを振り向き、金髪の少女の様子がおかしいことに気づく。

 

「フェイト?」

 

 心配そうにフェイトを見るアルフ。

 

「…………?」

 

 怪訝そうな表情の銀時。

 口を結んでいたフェイトはボソリと呟いた。

 

「アルフ、銀時……ごめん……」

「お前……!」

 

 銀時はすぐに異変を察したようだ。

 

「動くなッ!!」

 

 そして黒衣の少女が何かしようとしていることに気づいたクロノも、すぐさまデバイスを向けてフェイトに魔法をかけようとする。

 だが、一歩フェイトの行動の方が早かった。

 フェイトは右手を前に突き出すと魔力弾をクロノに向けて撃つ。

 

「くッ!?」

 

 素早く反応したクロノは防御魔法で弾を防ぐが、弾は爆発し爆煙が上がる。

 

「うおッ!?」

「フェイトッ!?」

 

 銀時は顔を腕で覆い、アルフは思わず声を出す。

 

「不意打ちか!! だが――!」

 

 クロノすぐさまフェイトに向かって拘束魔法――バインドを仕掛けた。爆煙で姿は見えずとも彼女の位置は把握していたようだ。

 だが次の瞬間、バキンとフェイトに掛けたバインドが砕け散る音。

 

「なにッ!? バカな!」

 

 ベタな驚き方をしてしまったクロノ。だが、彼のようなリアクションになるのも仕方ない。なにせ彼のバインド技術は魔導師としては一級品のはず。彼自身、それに自信を持っているはずだ。

 管理局執務官として得意のバインドで何度も犯罪者を捕まえてきたはずだろう。そんな得意のバインドが仕掛けた直後に破壊されたとなれば、いくらなんでも驚くなと言う方が酷な話だ。

 

 煙の向こうの影がまっすぐ自身に向かって来るのがクロノの目に映る。彼を攻撃するつもりなのだろう。

 

「ならッ!!」

 

 クロノは水色の魔力弾を複数打ち込むが、彼女は手に持った『モノ』で自分に当たるであろう弾を全て防ぐ。『モノ』に当たった魔力弾は、そのままガラスが砕けるように霧散してしまう。

 

「ッ!?」

 

 捕縛どころか攻撃も一瞬で無効化されてしまったことに、クロノは最早驚きを隠す暇さへない。いくらなんでも未知の経験過ぎて、どう対処していいか判断が鈍ってしまっているようだ。

 数瞬の動揺による隙が敵の接近を許し、武器が自分に向かって振り下ろされる。

 

「くッ!」

 

 クロノは咄嗟に手に持った杖――『S2U』で攻撃を防ぐ。

 襲い掛かる〝剣撃〟をなんとか杖で防いだクロノ。だが、刃を防いだ部分にヒビが入ったかと思えば、杖はそのまま真っ二つにされてしまう。

 

「なんだとッ!?」

 

 もう驚いてばかりで防戦一方なクロノだが、まだ諦めてはいなかった。

 

「まだだ!」

 

 クロノは魔法陣を展開して防御したのち、魔力弾を超至近距離で当てる準備を開始。

 だが、敵が振り下ろした『刀の峰』はクロノの防御魔法を瓦解させ、そのまま彼の肩に叩き付けられる。

 

「ぐッ!」

 

 クロノは鈍い痛みを感じて膝を付く。

 峰打ちをされたクロノはバリアジャケットの肩部分の異変に気づいた。

 

「これはッ!?」

 

 なんとバリアジャケットが壊れかけていたのだ――たかだか刀の峰打ち程度の攻撃で。そんなありえない光景に目を奪われている隙に、自分の腹に黒い斧の切っ先が向けられていることに気づく。

 冷徹な声でフェイトが呟く。

 

「サンダースマッシャー……」

「ぐわァァァァァッ!!」

 

 クロノの体を電気を帯びた金色の光が貫き、彼は苦悶の声を上げながら鉄の柵まで吹き飛ばされる。そのままクロノのバリアジャケットは瓦解。

 クロノの服装は、彼が普段着ているであろう制服姿に変化。

 

「くぅぅ……!!」

 

 クロノは腹を抑え、苦痛による痛みで起き上がれないでいる。

 

「ふぇい、と……?」

 

 今の一部始終を呆然と見ていたアルフ。

 管理局の執務官――凄腕魔導師をあっさり倒してしまったことに驚きを隠せないようだ。だが、なにより少女の手に握られている『ソレ』の存在が、彼女の動揺を大きくさせているはずだ。

 

「フェイト、ちゃん……?」

 

 なのはは今のフェイトの姿を見て目を見開いていた。

 容赦のない戦い方だけではない。

 左手にバルディッシュ、右手に『刀』を持った異様な立ち姿。それは少女に驚きと戸惑いの心を抱かせるには、十分だった。

 

「ふぇ、フェイトちゃん……それ……」

 

 フェイトの持つ刀を震える指で差すなのは。

 すると声に反応してか、フェイトが振り向いた時、

 

「ッ――!?」

 

 なのはは思わず息を呑んだ。

 

 彼女の瞳からは『何も』感じられない。

 喜びにしろ、悲しみにしろ、憂いにしろ、何も感じ取れない。

 今までなら、フェイトの綺麗な赤い瞳からは無機質でありながらも、どこか悲しそうな感情が垣間見えた。だが、今の彼女の瞳からは何の感情も見えてこないのだ。

 まるでロボットみたいな――そう、無機質という言葉しか見当たらない。それを見て、冷や汗だか脂汗だか分からないものがドッと肌から出るのを、なのはは感じる。

 

「くッ……!」

 

 なんとか立ち上がろうとするクロノに気づいたフェイト。彼女は右手の刀を今度は峰から刃に裏返し、クロノの前にゆっくり向かっていく。

 

『止めてください!!』

 

 突如として立体モニターのようなモノが現れると、そこには緑色の髪をした女性の必死な表情が写っていた。

 

「うわッ! 空にテレビが出てきたネ!!」

 

 神楽と同様に多くの人間の視線が現れたモニターに寄せられる。が、フェイトの意識をまったく逸らすことができなかった。

 クロノの前まで来た少女は刀を振り上げる。

 

『お願い!! 待って!!』

 

 モニターの女性は懸命にフェイトを止めようと声を上げるが、まったく止まる気配が見受けられない。

 

「フェイトちゃん!! やめて!!」

 

 まさか目の前の少年の命を奪おうとしているのでは? と思ったなのはは、必死な声でフェイトを止めようとした。

 

「おいよせ!!」

「フェイトちゃんダメだ!!」

 

 土方と新八は声を荒げ、慌てて駆け寄ろうとした。

 他の者もさすがにフェイトが何をしようとしているのかに気づき、慌てて駆け出す者もいたが、もう遅い。

 

 黒衣の魔導師は手に持った刀を振り下ろす――風を切る鋭い音が周りにいた者の耳に届く。

 刀の刃は――少年の鼻先から数センチ先で止まっていた。

 

「おいおい、なにやってんだテメェ……」

 

 フェイトの凶刃を止めていたのは、銀時。彼女の腕を掴み、強い力で振り下ろそうとする手を止めている。

 フェイトは自身の腕を掴んでいる人物へと、ゆっくりと顔を向けた。

 

「お前、こんな物騒なモンどこで手に入れた? つうか、何があった?」

 

 さすがの銀時もフェイトの異様さに気づき、真剣な面持ちで声を掛ける。するとフェイトの瞳に徐々にだが、光のようなモノが宿っていく。

 

「ぎん……とき……」

 

 瞳を揺らす黒衣の魔導師。この短い期間、使い魔同様に自分を支えてくれた侍の名を呼ぶ。

 大丈夫だろうと感じ取ったのか、銀時はフェイトの腕をゆっくりと放す。するとフェイトは覚束ない足取りで後ろに後退し、顔を右に左へと向ける。

 そしてフェイトは手に持っている刀を見ると、苦しそうに頭を抑えだす。

 

「ッ……!?」

「フェイトッ!?」「フェイトちゃん!!」

 

 フェイトの異変に気付くアルフとなのはがいち早く駆けつけようとするのだが、

 

「こないで!!」

「「ッ!?」」

 

 はっきりとした拒絶の言葉が掛けられ、二人の足が止まってしまう。

 

「ふぇ、フェイト……」

 

 アルフに至っては信じられないといった顔でフェイトを見る。主からはっきりとした拒絶の言葉など今まで一度も受けたことないであろう彼女からしてみれば、当然の反応だ。

 ふらつき、まるで迷いを断ち切るかのようにフェイトは首をぶんぶんと左右に振る。やがて、銀時とアルフに顔を見せないように俯きながら、口を開く。

 

「……アルフ、銀時……。二人はもう私のところに来なくていい……」

 

 フェイトの言葉を聞いてアルフは瞳を揺らし、震える足で主に近づこうとする。

 

「ふぇ、フェイト……なに言って……」

 

 だがフェイトが顔を上げた瞬間、

 

「――ッ!?」

 

 アルフの足は止まってしまう。その瞳は、まるで信じられないモノを見たかのように大きく開いていた。

 自身のご主人様の優しさも、好意も――まったく感じられない冷たい表情に愕然している使い魔。

 

「私にはこの剣がある」

 

 アルフと銀時に見せつけるように剣を見せるフェイト。

 銀時は剣を見て、視線を鋭くさせる。

 

「これがあれば、どんな魔導師も私の敵じゃない」

 

 フェイトの言葉を聞いてアルフは怯えたように唇をわななかせた。

 

「……だ……だからなんだって言うんだいッ!!」

 

 涙を流す一歩手前、と言ったところか。震える声で必死に絞り出した使い魔の言葉に、フェイトは冷たい一言を返す。

 

「だから……使い魔もさむらいも、いらない……」

 

 アルフと銀時にそれぞれ目を向けるフェイト。

 

「――あなたたちの力はもう……必要ない」

 

 一陣の風が吹き抜け、アルフの髪をすくい上げる。

 主からの拒絶の言葉を受けた使い魔。目の前の現実が信じられないとばかりに目を見開き動揺を示す。だが、自然と震える手を前に伸ばして、足を一歩踏み出し、主に近づこうとする。

 

「ふぇい……」

 

 だが、名前を言い切る前にバシュッとアルフの足元に一発の金色の魔力弾が放たれ、使い魔の足を強引に止めた。

 

「ッ!」

 

 魔力弾の発射元――フェイトは手を伸ばし、掌に魔法陣を展開している。

 不安や動揺を顕著に表し、言葉すら発せない自身の使い魔へ、冷たく言い放つ。

 

「来ないでと言った」

 

 冷徹なまでの瞳と言葉を受けて、狼の使い魔は膝から崩れ落ち、地面に手を付けた。一言の言葉すら発せられずにいる。

 

「何言ってるのフェイトちゃん!?」

 

 その様子を見てなのはは悲痛な声を出すが、フェイトから返ってきたのは剣の切っ先だった。

 

「この剣があれば、君にも絶対に負けない。ジュエルシードは全て手に入れる」

「ッ……!?」

 

 なのははフェイトの気迫に息を飲み、レイジングハートを強く握り絞める。

 

「どうしちまったんだあのガキ……」

 

 まるでありえない物を見るような顔になっているのは土方だけではない。

 新八も神楽もアリサもすずかもユーノも、目の前の光景が信じられないとばかりに目を見開いている。

 

「銀時、アルフ……」

 

 フェイトは今まで自分の為に協力してきてくれた両者を一瞥し、

 

「――さようなら」

 

 背を向け、高速移動の魔法でその場を離脱し、上空へと飛翔していった。

 両手両膝をついて項垂れたまま、声すら出せずにいるアルフ。

 銀時はただただ、フェイトの後姿を見ることしかできなかった。

 

 

 

「――皆さん。お待ちしていました」

 

 笑顔で女性がお出迎えする。

 次元航行艦アースラ。その艦内で待っていた光景に万事屋、真選組(近藤は気絶中のために山崎おんぶ)、少年少女たちは絶句。

 

 SF感バリバリの船の廊下を通って扉を潜れば、純日本風の家具やら獅子脅しやら桜やらが姿を見せた。完全な和風テイストの物品がこれでもかと展開された広い空間。挙句の果てに差し出されたのは、和菓子の羊羹に飲み物はお茶。

 え? 日本文化齧った外人が作った部屋ですか? といった感じの部屋が、地球出身者たちの目に飛び込んでいた。

 

「ささ、どうぞ楽にしてください」

 

 柔和な笑顔でお出迎えするのは、緑色の髪を後ろで人括りに結んでいる女性。

 

「なにあれ? 絶対和風バカにしてるよね? 絶対わびさび愚弄してるよね?」

 

 新八に耳打ちする銀時。

 

「銀さん、寧ろリスペクトしてるから『コレ』だと思いますよ?」

 

 新八が真顔で返すと神楽が銀時に耳打ちする。

 

「なにアルかあのおでこの三角? スカウターアルか?」

「きっとアレで戦闘力ならぬ魔力を測るんだぜ。間違いねェ」

「聞こえてますよ?」

 

 と言う緑髪の女性は、柔和な笑みを崩さない。

 

 銀時たちの横では、山崎に肩を貸されながら歩いているクロノ。まだダメージが大きく残っているであろう彼は、茶髪の女性に渡された。クロノは山崎に「すまない」と軽く頭を下げてお礼を言う。

 それを横目で見ていた緑髪の女性は銀時たちの方に向き直る。

 

「それではまず、お礼を言わねばなりませんね」

 

 そこまで言って、緑髪の女性は両手を膝に置き、深々と頭を下げる。

 

「今回は執務官――クロノ・ハラオウンを窮地から救っていただき、ありがとうございました」

 

 それを見て新八は内心苦笑。

 

(なんか、日本人じゃない人の日本人以上のしっかりしたお辞儀を見るのって、シュールだなァ……)

(正直、前情報なかったら数十秒は思考停止してたな……)

 

 映画を見て心の準備ができていた土方でも、目の前の女性の和風かぶれには少し面食らっている。

 

「時空航行艦アースラの艦長を務めさせてもらってます――リンディ・ハラオウンです。以後、お見知りおきを」

 

 そう言ってリンディは顔を上げ、柔和な笑みを見せる。

 

「あァ、どうもこれはご丁寧に。万事屋の社長の坂田銀時で~す」

 

 と銀時は軽く右手を上げて丁寧じゃない挨拶を返す。そして銀髪に続いて万事屋の従業員二名もあいさつを始める。

 

「志村新八です」

「神楽アル。最近の抱負は卵かけご飯とふりかけご飯を腹いっぱい食べることです!」

「いや、君の抱負とか別に興味はないんだが? そもそも随分ハードルが低いな」

 

 とクロノは微妙そうな顔で反応。

 続いて真選組の面々が顔を見合わせた後にあいさつを始める。

 

「真選組一番隊隊長沖田総悟で~す。最近の抱負は土方を殺して真選組副長の座を手に入れることで~す」

「それはおめェが年がら年中抱いている野望だろうが」

 

 青筋浮かべてツッコム土方。一方クロノは、コイツ大丈夫か? と言いたげな視線を沖田に送る。

 あいさつ(?)を終えたはずの沖田は更に喋りだす。

 

「ちなみに最近の悩みは土方抹殺が成功した後、真選組を沖田帝国にするかソーゴ・ザ・エンパイアにするべきか考えて――」

「いやあの、君の悩みは聞いてないんだが?」

 

 クロノはより眉間に皺を寄せて微妙な表情。

 土方は沖田に「おめェはそろそろマジで黙れ」と言って鋭く睨み付けた。

 部下の暴走を止めた土方はため息を吐いた後、クロノとリンディに顔を向ける。

 

「……俺は真選組副長、土方十四郎だ。そんでこっちは山崎退」

 

 と言って土方が山崎を指させば、山崎は「どうも」と言って軽く会釈。次に土方は山崎が背負っている男を指さす。

 

「そんでこっちが俺ら真選組のボスである局長……近藤勲だ」

 

 白目剥いて絶賛情けない姿をさらしまくっている自分の上司。彼を指さしながら、土方は言い辛そうに説明を始める。

 

「ただちょっと……さっき木のバケモンにその……だな……」

「あぁ、説明しなくても大丈夫です。こっちはちゃんと映像であなたたちの戦闘の様子を見ていたから」

 

 クロノは右手を出してフォローを入れ、土方は「そうか……」と若干悲しそうな声を出す。

 まあ、余裕をぶっこいてあっさり敵の攻撃で気絶しちゃった上司の姿。それを説明されるのも見られるのも、部下としては悲しいし恥ずかしいのだろう。

 

 続いては海鳴市に住み、魔法少女となった三人の少女が名乗り始める。

 

「聖祥大付属小学校三年生の高町なのはです」

「同級生のアリサ・バニングスです」

「同じく同級生の月村すずかです」

 

 そして三人は両手を下腹部の前で合わせ、同時に仲良く綺麗にお辞儀をした。

 最後にフェレットがあいさつをする。

 

「ユーノ・スクライアです」

 

 一通り全員の軽いあいさつは終わり――ではなく、一人だけまだ言葉すら発してない者がいる。完全に意気消沈し、俯いて何か言う気配すらないアルフだ。

 

 アルフへとチラリと視線を向けるアースラ艦長。

 彼女の視線を追うように他の面々の視線も使い魔へと集まるが、フェイトから受けた仕打ちが相当ショックだったらしい。使い魔は周りの視線も言葉も気にしている暇すらないようだ。かと言って、今のアルフに声を掛ける者は誰一人としていない。たぶん、今の彼女の雰囲気から誰も言葉を掛けようとは思えないからだろう。

 

 リンディは視線をアルフから外し、銀時たちに顔を向けて笑顔を作り、右手を前に出す。

 

「ささ。長い話になりそうですし、茶菓子を食べながら皆さんの事情を聞いていきましょう」

 

 各々は顔を見合わせ少々戸惑いながらも赤い毛氈(もうせん)に腰をかけていく。

 

(な~んか、喰えなさそうな女)

 

 銀時はリンディ態度を見て思った。頭でっかちそうなクロノとかいう小僧よりも厄介そうだと。

 

 

 

「なるほど。それは大変でしたね」

 

 まずリンディが事情を聞いたのは、なのは組。

 

 あらましとしては、ユーノが発見したロストロギア――ジュエルシードがなんらかの事故でなのはの世界である第97管理外世界に飛び散ってしまった。それを現地で回収しようとするが力及ばず失敗。

 最後の手段として現地で魔力量の高い人間に協力を仰ごうと試み、魔力資質の高いなのはがデバイス――レイジングハートの(マスター)となる。

 本人の強い意志もあり一緒にジュエルシード回収へと乗り出す。

 さらにはなのは、アリサ、すずかのところで居候していた次元漂流者である新八、神楽、土方、近藤(途中参加)、沖田、山崎は『偶然』にもなのはが魔法を使用している現場に居合わせてしまった。そこから彼らもジュエルシード回収の助力を申し出、なのは側もそれを了承。そして何故か、デバイスをなのはよりも先に所持していたアリサとすずかも親友の為に手伝うと決めた。

 と、ここまでがなのは組のおおまかな経緯である。もちろん、映画で未来のこと知りましたなどという失言はしていない。(神楽が口滑らしそうになったが)

 

 話を聞き終えた銀時は「へェ~、俺の知らない間にそんなことあったんだなァ」と鼻ほじりながら納得していた。

 

「高町なのは。君は随分奇妙な出会いに縁があるようだな……」

 

 と呆れ顔のクロノ。

 なのはは「にゃハハハハ……」と苦笑いで答え、沖田は頬杖付きながら言う。

 

「世の中小説よりも希なりって言うしな」

 

 リンディは「フフ……」と笑みを零す。

 

「沖田さんの言うとおり、奇妙な出来事が重なって起きるなんてこともあるでしょう」

 

 笑みを浮かべるリンディは砂糖をたっぷり入れた抹茶を戸惑いもなくすする。

 

「わー……」

 

 それを見て新八は唖然とし、内心で銀髪と姿を重ねる。

 

(この人、確か銀さんみたいに甘党なんだよね……)

 

 まさかあのようなとんでも味覚の人物がもう一人現れたことに、さすがの新八も頬を引き攣らせた。

 

(って言うか、あれは茶道として成立させていいの?)

 

 と山崎は内心でツッコミ入れる。

 音も立てずに抹茶を飲んだリンディは、ユーノに顔を向けた。

 

「あなたがロストロギア――ジュエルシードを発掘したユーノ・スクライアさんですね?」

「はい」

 

 フェレットのユーノは首を縦に振る。

 ユーノの姿を見たリンディは少し首を傾げた。

 

「まだ変身魔法は解かないのですか? あなたの魔力はたぶんもう充分回復していると思いますが」

「…………あッ!! そ、それもそうですね……」

 

 リンディの言葉で気づいたように声を上げるユーノ。

 

「えッ? 本当の姿?」

 

 その場にいた銀時だけが呆けた声を出す。

 なのは組はユーノの正体をもう映画で事前に知っているので驚く素振りすらない。

 

 ユーノの体は光だす。やがてその姿は変化しだし、身長はなのはと同じくらい。服装は部族の衣装であろう見慣れない物となる。そして光が収まれば、髪が金髪の少年の姿へと変化した。

 

 一部始終を見ていた銀時はポカーンと間の抜けた顔になるが、ユーノは構わず笑顔で挨拶をする。

 

「銀時さんにこの姿を見せるのは初めてですよね? フェレットは仮の姿でこっちが本当の――」

「チ〇コが人間なったァァァッ!?」

 

 と叫ぶ銀時。

 

「ちょっとォォォオオオオオオッ!!」

 

 まさかのチ〇コ呼びにユーノはシャウト。そしてド直球で下ネタ叫んだ銀時の声を聞いて茶髪の女性はギョッとする。

 もちろんチン〇呼びされたユーノは銀時に抗議開始。

 

「いい加減にそういう呼び方するのやめてって何回言えば分かるんですか!」

「あァ、分かったぜ……チ〇コくん」

「殴りますよ! 本当にしまいには殴りますよ!」

 

 さすがの温厚なユーノも涙流しながらグーパン作る。なのははまぁまぁとなんとかユーノを落ち着けようと努めた。

 クロノは話を切り替えるためにワザとらしく「コホン!」と咳払い。

 

「しかし、ユーノ。強力なロストロギアを一人で回収しようだなんて、君は随分と無謀なことをするもんだな」

 

 ジト目でユーノを見るクロノ。執務官の言葉を聞いてスクライアの少年は顔を俯かせる。

 リンディもクロノの意見に同意を示す。

 

「クロノの言った通り、まだ年端もいかないあなたが単身一人で強力なロストロギアを封印するのはやはり危険な行動であることは否めません」

 

 説教に近い言葉に対し、身を縮めてしまうユーノ。二人の言葉は正論だと彼自身理解しているのだろう。だからこそ、言い返せないでいる。

 すると銀時がユーノの頭に手を置く。

 

「でもよォ、ユーノが動かなかったらなのはの町がジュエルシードの怪獣軍団に蹂躙されてんじゃねェの?」

「ぐッ……!」

 

 押し黙るクロノ。

 確かにユーノがいなかったら、遅れてきた管理局が来る頃にはなのはの町どころか国さへ壊滅的な打撃を受けていたかもしれない。現地で優秀な魔導師を発見し、被害を最小限に押しとどめいたのは事実なのだから、反論の言葉が出ないのだろう。

 リンディは銀時の言葉に頷く。

 

「確かに、私たち管理局側の対応があまりにも遅かったのも事実です。それを考慮すれば、ユーノさんの行動は一魔導師として尊く、立派な行動であったと言うべきでしょう」

「かあさ……艦長!」

 

 何か言いたそうにするクロノをリンディは手で制す。

 

「我々が早く到着していればユーノさんに無謀な事をさせる事態にはならなかったのは、認めなくてはなりません」

 

 そしてリンディはユーノに向かって深々とお辞儀をする。

 

「ユーノさんになのはさん。それに協力者の皆さん。我々管理局が来るまでの間ロストロギアの暴走を防いで頂き、誠に感謝にします。と同時に、アースラ艦長、並びに管理局の代表として、迅速な対応が取れなかった我々の不手際に深く謝罪します」

 

 そんなリンディの様子を見て焦るユーノ。

 

「そ、そんな!! そこまで言われるようなことは!!」

「あ、頭を上げてください!」

 

 なのはもリンディの真摯な対応に狼狽してしまう。

 後ろにいるクロノはまだ納得がいかなそうな顔をするが、艦長に倣って頭を下げ始めた。

 二人の様子を見ていた新八は土方に耳打ちする。

 

「(なんか、随分あっさり自分たちの不手際を認めましたね。映画だと管理局側の意見が正しいって感じだったのに)」

「(ああ。まァ、あいつら……特にリンディはお役所仕事をしている人間。しかも上に立つ奴だ。ちゃーんと言い訳もあらかじめ考えていたんだろうな。でなきゃ、あんなすらすらした謝罪文句出てこねェよ)」

 

 お役所仕事をし、更には上に立つ土方にも思うところはあるようだ。彼のような役職の人物だからこそ、リンディのような立場の人間の苦労がなんとなく分かるのだろう。

 リンディはゆっくりと顔を上げ息を吐いた後に、銀時とアルフに顔を向ける。

 

「では、お次はお二方についてお話を聞かせてもらいないでしょうか? あの黒い魔導師の少女とどういう関係で、一体なにがあって離別したのかを」

 

 銀時はめんどくさそうにポリポリと頭を掻き、アルフは俯いて何も喋らないままだった。

 

 

 

 銀時から事情を聞いたリンディ。彼女は顎に指を当てて話をまとめ始めた。

 

「――つまり次元漂流者である銀時さんはフェイトさんのお母さん……プレシア・テスタロッサさんから衣食住の提供、更には依頼料を受け取ると言う契約の元、フェイトさんのジュエルシード集めに協力していたワケですか……」

 

 ちなみにアルフはフェイトの使い魔なので、主のために働いていたという理由で片付いている。

 話を聞き終えたクロノは顎に指を当て、視線を横にずらしながら思案顔になった。

 

「プレシア・テスタロッサ……この数年で姿を消した大魔導師の名だな……」

「あッ、私も知ってる。なんか急に居なくなっちゃったんだよね」

 

 と茶髪の局員も相槌を打つ。

 二人の話を聞いていたなのは組のうち、新八と土方となのはは小声で話しだす。

 

「(やっぱり……プレシアさんは事故でアリシアちゃんを失って、責任まで負わされたんでしょうか?)」

 

 新八の問いに土方はクールに答える。

 

「(さァな。だが、いくら俺たちが介入していると言っても二十年くらいだったか? ――そんな昔の出来事が変わるなんてことねェだろ)」

「(それだと、やっぱりプレシアさんはアリシアちゃんを生き選らせる為に……)」

 

 なのははそこまで言って悲しそうな表情になった。

 

 娘を失って狂ってしまったプレシアはフェイトを使ってジュエルシードを集めさせている。その彼女が、正体不明の刀をフェイトに渡してあんことをさせたのでは? となのはは考えており、心苦しさを感じているのかもしれない。

 

 新八もなのはと同じような考えであり、やはりフェイトの突然の行動の原因はプレシア。母の凶行が起因となって今の事態に陥っているのではないかと考えた。

 たぶん、なのは組の他の面々の考えも似たり寄ったりといったところだろう。

 

 映画の内容など全く知らない銀時は頬杖を付きながら片眉を上げる。

 

「なに? プレシアの奴ってそんなに有名人なの?」

「まぁ、我々の世界で大魔導師という称号はそうそう得られる物ではありませんから」

 

 とリンディは答え、銀時は「へ~、なるほど」と興味なさげに呟く。するとクロノが腕を組んで問いかける。

 

「それで、あなたはプレシア・テスタロッサがジュエルシードを使って何をするのか何か聞いてないのか?」

「聞いたけど、教えてくんなかった」

 

 銀時はあっけらかんと答え、クロノは少し呆れた眼差しを向けた。

 

「それでもあなたは彼女の依頼を受けたのか?」

「ああ。どんな依頼も受けるのが万事屋のもっとうだからな。依頼料によるが」

 

 そう答えた銀時に、クロノは頭痛を覚えたように頭を抑える。

 

「呆れた人だ……。そんなことだと、元の世界ではどうせ犯罪紛いの仕事も知らずに平気で受けたんじゃないのか?」

 

 はいその通りです、と内心で答えるのは部下である新八。昔なんかはテロリスト一味に仕立て上げられそうになったことだってある。

 銀時は真顔で返す。

 

「俺は依頼人のデリケートな部分に触れないようにしてんの」

(うそつけ! あんたの辞書にデリケートなんてモノはねェだろ!)

 

 新八は内心ツッコミ入れた。

 やがて銀時は視線を流す。

 

「まぁ、ただ……なにかしらの研究のためだとかは聞いたな」

「プレシア・テスタロッサ……研究……」

 

 クロノは銀時の証言から心当たりがあるのか顎に指を当て思案しだす。

 

「でもよかったのですか? 銀時さん」

 

 リンディの問いかけに「なにが?」と片眉を上げる銀時。

 リンディは質問を重ねる。

 

「我々が管理局という立場を差し引いても、依頼人の情報をこうも簡単に喋るのは、あなたの仕事上のルールというか、ポリシィのようなモノに反するのでは?」

「なんか分らんが、どうにも〝俺たち〟はお払い箱みてェだからな。もう依頼もくそもねェだろ」

 

 銀時の言葉にピクリと肩を震わせるアルフは、より表情を落ち込ませる。

 使い魔の様子を横目で見ていたリンディは更に問いかけた。

 

「フェイトさんがあなたたちを置いて行った理由は分かりませんか?」

 

 銀時は首を左右に振る。

 

「さァな。『管理局が出てきたらおとなしく言うことを聞く』ってフェイトの提案を受けたらこの有様だ。正直、俺もアルフもあのガキが何を思ってあんなことしたのか、頭ん中混乱中だ」

 

 クロノは「全然混乱している人間には見えないんだが……」と呟く。

 

「銀時さん! フェイトちゃんがその提案をしたんですか!?」

 

 なのはが食い気味に質問する。

 

「ん? あぁ……。何か妙案でも思いつと思ったんだがなー……」

 

 銀時は掌に顎を乗せて不服そうな声を漏らし、なのはは俯いて不可解と言いたげな表情になった。

 

「フェイトちゃん……どうして……」

 

 銀時の話を聞いてなのは組の面々も互いに顔を見合わせながら小声で話す。

 

「(つまりあのガキ、管理局が現れた時点でこいつら切り離すつもりだったのか?)」

 

 と怪訝そうに言う土方に新八は困惑した顔で。

 

「(でもどうして……。銀さんはともかく、アルフさんまで置いていくなんて……)」

「(なんか、嫌な予感がするわ……)」

 

 と呟くアリサは眉間に皺を寄せる。

 「では次に」と言ったリンディは、銀時だけでなく新八や土方にも視線を向けた。

 

「『えど』出身の方々の事情をお聞きしましょう。主にどのような世界なのかを交えて」

 

 リンディの言葉を聞いて江戸出身の面々はそれぞれ顔を見合わせた。そしてまず口を開くのは、江戸組で一番良識と常識を身に着けている新八。

 

「まず僕たちの世界は……」

 

 

 

「『あまんと』と言う、宇宙人の襲来で……文化が飛躍的に発展した世界……」

 

 新八から話を聞いたクロノはなんとも微妙で間の抜けた表情をしている。リンディも言葉が出ないのか口を手で隠して目を白黒させるばかり。

 どうやら色々な次元を拝見してきたであろうさすがの執務官と艦長も、彼らの異色な世界観には面食らったようだ。

 話を聞き終わったリンディは作り笑顔で。

 

「ず、随分ユニークな世界なんですね……」

「あの、無理に褒めなくていいですから……」

 

 新八はさすがにいたたまれなくなったのかフォローする。

 

「っで、その赤い服の子は『宇宙最強』の『やと』と言う種族だと……」

 

 クロノは頬を引き攣らせながら震える手で神楽を指さす。

 神楽は胸を張って自慢げに威張る。

 

「えっへん。褒めたたえるヨロシ」

 

 顔を顰めたクロノは頭を抑えながらリンディに顔を向ける。

 

「母さん……僕らおちょくられているんじゃないか?」

「ま、まぁまぁクロノ。次元世界は広いんですから」

 

 さすがのリンディも彼らの話を百パーセント信じ切れてはいないらしい。

 すると銀時がクロノの言ったある一単語に反応する。

 

「えッ? 母さん? あんたらもしかして……」

 

 親子であろう二人を交互に見比べる銀時に、リンディは笑みを浮かべて答えた。

 

「ええ。私とクロノは親子なんです」

「まぁ、とっくにハラオウンと名乗っていましたしね」

 

 と新八が付け足す。

 

「へェ~、あんたらが親子ねェ……」

 

 と銀時は驚きの声を漏らしながら二人を交互に見た後、クロノを指さす。

 

「そっちのまっくろくろすけの髪は緑じゃねェんだな」

「あなた、人の名前覚える努力とかしないだろ?」

 

 クロノは青筋浮かべながら銀時を睨む。

 執務官の態度など気にしない銀時は、次にリンディをまじまじと見る。

 

「ふ~ん。にしても子持ちとは思えねェな、見た感じ」

(つうか、この世界の母親は大体見た目と年齢が見合ってない人ばかりですよ)

 

 と新八は内心で呟く。主に桃子とかプレシアが良い例だ。

 銀時の言葉を聞いてリンディは嬉しそうな声を漏らす。

 

「まぁ~、そんなに若く見えます? よく言われ――」

「もしかして学生時代にハメ外してついでに股のハメも外しちゃ――」

 

 バシュ! と光る弾が銀時の頬を掠めた。

 

「ないか言いまして?」

 

 人差し指を向けるリンディ提督の柔和な笑みから、おっそろしい何かが見えた銀時。

 頬に熱いモノを感じる銀髪は冷や汗を流しながら、

 

「いえ、なんでもありません」

 

 

 



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第四十話:味覚がぶっとんだ人間は意外に多い

ついにやっとこさ四十話達成です。
話数だけならどうことないのですが、やはり一話一話が一万字以上となると結構時間かかるのだなーと思い知ります。


「ああそうそう。あなたたち『えど』出身者の話で〝彼ら〟のことを思い出したよ」

 

 クロノの言葉に新八は「彼ら?」と首を傾げた。執務官は疑問に答えるように言葉を続ける。

 

「君たちの世界は〝彼ら〟から聞いた世界観と合致するところが多い。たぶん、君たちの世界の住人だと思う。今ここに連れてこさせるよ」

 

 するとクロノは茶髪の女性に顔を向ける。

 

「エイミィ。『九兵衛』と『東城』をブリッジまで連れてきてくれないか?」

((え゛ッ!?))

 

 二名の人物名を聞いた新八と土方は驚くと同時に頬を引き攣らせた。

 エイミィと呼ばれた茶髪の女性は「はーい」と軽く返事をしてブリッジを出ていく。

 むろん驚いているのは新八たちだけではない。

 

「えッ!? 九兵衛と東城って言わなかったか!? 今!」

 

 と銀時が驚けば、

 

「ええ。そうですよ」

 

 とリンディは頷き、あッ、と手を叩く。

 

「もしかして彼らは銀時さんたちのお知り合いでしたか?」

「あァ、そうだ。まー、腐れ縁つう方が正しいかもな」

 

 銀時はぶっきらぼうに答え、神楽は素直に喜びを表す。

 

「ついに九ちゃん登場ネ!!」

「前に言っていた、新八さんたちの探していたお仲間さんたちですよね!」

 

 なのはは嬉しそうに新八に顔を向け、続くようにアリサも笑みを浮かべる。

 

「これであんたらの探し人コンプリートじゃない」

「良かったですね!」

 

 とすずかかもまた笑顔。

 だが、一方の土方と新八の顔は笑顔ではまったくない。

 

(おい、どうすんだ眼鏡。あの眼帯、絶対あの銀髪の命狙ったままだぞ? ぜってェーめんどくせェ展開になるぞ)

(もうこうなったらなるようになれです。僕たちは黙って銀さんの行く末見守りましょう)

 

 たぶん九兵衛は銀時が自分の恋敵であると絶賛勘違い中なので、銀時の姿を見たら暴走するのは明らか。

 同じく勘違い中の近藤は土方の背中で絶賛気絶中。なので、お妙ラブコンビが揃って銀時に急襲と言うカオス空間になることはないだろう。まあ、気絶する前の近藤は銀時が恋敵という勘違いは忘却の彼方だったが。

 

「ではでは、銀時さんたちのお知り合いが来るまでの間、茶菓子とお茶を頂きましょう」

 

 そう言ってリンディは二杯目の抹茶に砂糖をたっぷり入れまくる。

 糖分王自称する銀時がリンディの行動を見て何のリアクションも起こさないことに、不思議に思った新八。

 

「あれ? 銀さんリンディさんみたく抹茶に砂糖入れないんですか?」

「えッ!? 銀時さんも抹茶に砂糖を!?」

 

 なのははまさかの第二の甘党(異常)の存在にビックリ。

 

「あいつは甘党中毒者とでも思っとけばいい」

 

 と土方が言う。

 新八の問いを受けて銀時は眉間に皺を寄せる。

 

「あん? わびさびの茶道の席で、江戸の男たる俺が抹茶にあんな無粋モン入れるワケねェだろ」

「「ええええええええええええええええッ!?」」

「銀ちゃんどうしたアルか!?」

 

 新八、山崎、神楽は驚愕。まさか銀髪から茶道やわびさびを重んじようとする言葉が出るとは思わなかったようだ。

 土方も「お前、頭でも打ったか?」と言って不可解極まりないという表情。

 

「あら? 私の飲み方に何か問題がありましたか?」

 

 リンディは意外そうな顔をし、銀時は真面目な顔で。

 

「問題大ありよ。あんたの茶道には足りねェもんがある」

「では、その必要な物とは?」

 

 リンディも真剣な表情で問い返すと、銀時は手を上げた。

 

「すんませーん! 抹茶アイスくださァーい!!」

 

 すると木皿に乗った抹茶アイスが登場。

 それを見たリンディは生唾を飲み込む。

 

「こ、これが……」

「そう。これが茶道に不可欠の必需品――抹茶アイス!!」

 

 カッと目を見開く銀時に、

 

「んなわけねぇだろォォーッ!!」

 

 新八のツッコミが炸裂。

 

「どうだ。これぞ和の心」

 

 銀時はしたり顔で抹茶アイスが乗った皿を手に持って見せつけた。

 

「なんで横文字の食いモンが和の心なんじゃボケェーッ!!」

 

 新八は尚ツッコミいれるが、リンディは両手を床に付けて愕然。

 

「た、たしかに……抹茶は飲み物という概念に囚われ、固形物として出す考えは浮かばなかった……」

「リンディさんんんんんんッ!?」

 

 まさかのリンディのリアクションに新八はビックリ。

 

「だがしかし、抹茶にだって究極の和の姿が存在する」

 

 そう言って銀時はまた手を上げる。

 

「すんませーん! ハチミツと生クリームくださーい!」

 

 銀時の前にハチミツの入った容器とクリームの入った袋が置かれた。

 

「そしてこれこそが茶道における抹茶の最終進化」

 

 銀時は抹茶に角砂糖とハチミツをドバドバ入れる。

 

「ぎゃあああああああああああッ!!」

 

 それを見た新八は絶叫。そして小学生組は顔真っ青。

 抹茶の上に生クリームをとぐろ状に巻いてデコレーション。

 

「はい完成」

 

 と銀時は告げた。

 

「いや、最早もう別の飲みモンじゃねェか!!」

 

 新八は抹茶(?)を指さす。

 

「これもう甘味と言う名の劇物だよ!! 和もヘッタクレもねェよ!!」

「ほれ、飲んでみな」

 

 銀時に勧められたリンディ。彼女は恐る恐るもう抹茶とすら呼べない代物を啜る。

 それを見てなのは、すずか、アリサの小学生組は虫歯を恐れてか口元を抑えていた。

 

「はぁ~……」

 

 抹茶(?)を飲んだリンディは恍惚とした表情で吐息を漏らし、心底満足そうな顔で言う。

 

「これは素晴らしいですね銀時さん。今度からはお客様にこれをお勧めしましょう」

「か、母さんの病気がまた悪い方に進行してしまった……」

 

 クロノは頭痛を覚えるように頭を抱える。

 

「たく、世の中にあんなふざけた味覚を持つ奴が二人も現れるとはな」

 

 そう言ったのは土方。彼は抹茶にマヨネーズをとぐろ状にかけてデコレーションしている。

 

「いや、あんたも大概だから!!」

 

 新八は久々のマヨラー土方を見てツッコム。

 

「ほれ土方スペシャル抹茶バージョン。ぐいっといきな」

 

 土方がリンディに差し出したモノ。それは器にマヨネーズが入った抹茶――というかマヨネーズの姿しか見えない飲み物とすら呼んでいいか分からんナニカだった。

 土方スペシャル抹茶バージョンを見てまた口を抑える魔法少女三人組。

 リンディは無言で土方スペシャルをじ~っと見つめる。

 

「…………」

 

 やがてリンディは右手を動かし、マヨネーズの塊が入った器を隣のクロノにささっと移す。そして笑顔で告げた。

 

「さぁ、クロノ。折角の土方さんのお品、味わってください」

「え゛ッ!?」

 

 まさかの母親から生贄にされると思ってなかった息子は顔面蒼白。母親の顔をもう一度みれば、ニコニコ顔で自分を見ている。

 クロノは改めて土方スペシャル抹茶バージョンに視線を移す。頬は引き攣り、冷や汗をだらだら流すが、勇気を振り絞ってか手に取り、口に運んだ。

 

「ッ!!」

 

 クロノは目をカッと見開き――口を抑えてトイレに直行。

 

(君はよく頑張ったよ……)

 

 新八は優し気な笑みをトイレのクロノに送るのだった。

 

「みなさーん! 九兵衛さんと東城さんを連れてきましたよー!!」

 

 するとエイミィが手を振りながらブリッジにやって来る。

 

「あ、九兵衛さん!! 東城さん!!」

 

 と新八は喜びの声を上げた。

 エイミィの後ろから確認できる眼帯姿の黒髪ポニーテイルと長髪の糸目。

 神楽もまた喜びを露わにしだす。

 

「九ちゃん! 久しぶりアル!!」

 

 対して九兵衛は手を振りながら安堵の微笑みを浮かべてやって来る。

 

「やぁ、新八くんに神楽ちゃん! ずっと君たちのことが気がかりで仕方なかったよ。だが、こうして無事に会えたのは何よりだ」

「まったくですよ! 九兵衛さんは何か変わったことはあったんですか?」

 

 文句を言いつつも嬉しそうな声を出す新八。

 

「いやいや、大した出来事はなかったよ」

 

 そう言う九兵衛は死覇装(しはくしょう)を着ていた――ようはブリーチの死神になっていた。

 

「いや、なにがあったァァァァァァァァッ!?」

 

 まさかの九兵衛の恰好に新八シャウト。ツッコミ眼鏡はすぐさま問いただす。

 

「九兵衛さん!? 何があったんですかあんた!? その恰好はなんですか!?」

「おや新八殿。どうされました? 若の恰好におかしなところが?」

 

 不思議そうに言うのは柳生家四天王筆頭――東城歩。ちなみに彼の恰好は普段通りの和服だ。

 新八は九兵衛を指さしながら指摘しまくる。

 

「いや、首から下までおかしなところだらけでしょうが!! なんで全身ブリーチになってんですかあんたんとこの若は!!」

「ああ、これかい」

 

 九兵衛は自分の着ている黒い装束に目を向け、説明する。

 

「実は瞬間移動先のソウルソサエティでウェコムンドを制覇した暁に貰った――」

「おィィィィィッ!? 僕たちが知らない間にこの人なんかもの凄い偉業を成し遂げちゃってんですけどォ!?」

「ああ、これはおみやげの袖白雪(そでのしらゆき)だ」

 

 そう言って九兵衛は美しい白い刀を新八に渡す。そして眼鏡は更にビックリ。

 

「ちょっとォォォッ!? あんたどこのルキアさん!? 絶対おみやげに貰えるもんじゃないでしょそれェー!!」

 

 とはいえ新八は一応受け取る。

 

「ちなみに私は若とは別の場所に飛ばされてしまって」

 

 すると今度は東城が語りだす。

 

「じゃあ東城さんは一体どこに?」

 

 新八は首を傾げ、東城は人差し指を立てて言う。

 

「時を走る電車に――」

「いや、お前も中の人ネタかいィィィィィィッ!!」

 

 またしても他作品世界に飛んだ柳生に新八シャウト。

 

「私は青い亀さんと一緒に時間を遡りながら若を懸命に探しました」

 

 真剣みのある顔で言う東城の回想には、あらゆる時代のソープとロフトが思い起こされる。

 

「あんたただソープとロフト巡りしただけじゃねェか!! つうか古い時代にソープとロフトがあんの!?」

 

 まさかの柳生コンビの意外な登場に新八は怒涛のツッコミを炸裂させまくる。

 やがて東城は懐からある物を取り出す。

 

「あ、これおみやげです」

 

 そう言って東城が差し出したのはライダーパス。そして新八はまた戸惑いながら驚く。

 

「ちょっとォォォ!? ホントにこれ貰っていいの!? あっちの人たち困らないの!?」

 

 新八は困惑するが結局は一応受け取る。

 

「でも九ちゃんが元気でなによりアル!!」

 

 神楽は再会の喜びのあまり九兵衛に抱き着く。

 

「神楽ちゃん……」

 

 九兵衛も嬉しそうに神楽の抱擁を受け入れる。もしこれが男だった場合はそのまま背負い投げコースだが。

 

「良かったね神楽ちゃん。お友達に再会できて」

 

 仲睦まじい九兵衛と神楽の様子を見て、なのはは自分の事のように笑顔を浮かべていた。

 神楽の抱擁を受けていた九兵衛は、なのはを見て不思議そうな顔になる。

 

「おや? 君は?」

「わたし、高町なのはです。神楽ちゃんや新八さんや真選組の方たちのお友達で、今まで一緒にジュエルシードを集めていました」

 

 と言って、なのはは頭を下げて挨拶。

 九兵衛は「そうか」と言って神楽をやんわり離す。そしてなのはに習って、丁寧に頭を下げた。

 

「僕は柳生家次期当主――柳生九兵衛だ。神楽ちゃんや新八くんたちが世話になったようだな。彼女たちの友として、感謝する」

「そ、そんな! わ、わたしの方こそ助けてもらってばかりで!!」

 

 なのはは恭しく頭を下げる九兵衛に戸惑う。するとなのはの後ろからひょっことアリサとすずかが出てくる。

 

「あたしはアリサ・バニングスよ! なのはの親友で、一応神楽たちの仲間! 覚えておいて!」

「私は月村すずかです。神楽ちゃんたちとはいつも仲良くさせてもらってます」

「あ、アリサちゃん……すずかちゃん……」

 

 ちょっと強引に自己紹介する二人に苦笑してしまうなのは。

 現れた二人に九兵衛は少しの間面を喰らってしまったようだが、すぐに満足げな笑みを浮かべる。

 

「そうか、よろしく頼む。どうやら神楽ちゃんと新八くんは異世界に来ても、友を作ってしまうようだな」

「あの……」

 

 なのはがおずおずと話しかけ、九兵衛は「ん?」と反応。やがて小さな少女は言う。

 

「九兵衛さんともお友達になってもいいですか?」

 

 なのはの提案に目をパチクリさせる九兵衛は苦笑する。

 

「君と友になるには、僕は少々歳を取り過ぎてると思うが……」

「歳なんて関係ありません」

 

 なのはは首を横に振り、アリサが続く。

 

「そうそう。それを言ったら、なのはなんてあんな変なおじさんとまで仲良くなってんのよ?」

 

 アリサに親指で指された近藤は気絶しているのでリアクションなし。だが、あんまりの言い草に山崎は頬を引き攣らせていた。

 アリサに続いてすずかも言う。

 

「そうです。神楽ちゃんや新八さんとお友達になれたなら、そのお友達の九兵衛さんとも仲良くなれるって、私たちは思ってるんです」

 

 三人の言葉を聞いて九兵衛は「フッ……」と笑みを零す。

 

「どうやら……新八くんと神楽ちゃんは異世界でも変わった友を作ってしまうようだな」

 

 かつて対立し、友となった九兵衛だから分かるのだろう。奇縁に恵まれる新八や神楽たちが一風変わった人間とすぐに繋がりを持ってしまう事に。

 例えそれが年端のいかない少女であろうと。

 

「今後ともよろしく頼む」

 

 九兵衛はそう言ってなのはたちに手を出し、なのはたち三人は笑顔で。

 

「「「よろしくお願いします」」」

 

 眼帯の少女となのはたちは順々に手を繋いでいく。

 

「さすが若! 異世界でもあのようなかわいらしい少女たちと縁を結ぶとは!! この東城歩感動です!!」

 

 東城は涙を流し、カメラを構えて撮影中。もちろん対象は九兵衛。

 そして九兵衛は柳生四天王に人差し指を向ける。

 

「あの変なロンゲとは絶対に友達になるな」

「ッ!?」

 

 と東城はショックを受けた表情。

 九兵衛の苦労をなんとなく察したなのはたちは苦笑する。

 すると……。

 

「おー、九兵衛。久々に会ったら随分様変わりしたじゃねェか」

 

 気だるげな銀髪が声を掛けてきた。

 一瞬にして九兵衛の目元に影がかかる。そのまま眼帯のつけてない視線が銀髪の男を捉えた瞬間、

 

「銀時ィィィィィィィッ!!」

 

 凄まじい雄たけびを上げた。

 

「「「「「えッ?」」」」」

 

 いきなりの咆哮に唖然とする銀時や事情を知らないなのは、アリサ、すずか、ユーノ。

 

「天誅ゥゥゥゥゥゥゥ!!」

 

 叫ぶやいなや抜刀した九兵衛。握手していたなのはたちの手を引き離し、そのまま銀時に向かって刀を振り下ろす。

 

「のわァァァァッ!!」

 

 だが銀時は寸前の処で振り下ろされた刃を回避。

 

「「きゅ、九兵衛さん!?」」

 

 驚くなのはとリンディ。

 突如刀で斬りかかって来る九兵衛に小学生の少女だけでなくアースラの艦長も驚いたようだ。

 

「おのれ逃すかァー!!」

 

 だが周りの反応など意に返さず、九兵衛は銀時に向かって刀を振り続ける。

 

「ちょっとまってちょっとまってちょっとまってェェェェ!!」

 

 銀時は必死に斬撃を避けながら慌ててワケを聞く。

 

「俺九ちゃんを怒らせるようなことしましたァー!?」

「うるさい黙れ!!」

 

 九兵衛はまったく聞く耳もたず刀を振り下げ一閃――だが、銀時は寸前の処で刃を真剣白鳥。

 受け止められた刀を持つ手に九兵衛は力を入れながら銀時を射殺さんばかりに睨み付ける。

 

「胸に手を当ててようく考えてみろ!!」

「いや、無理だから!! おたくの刀のせいで胸に手を当てる暇ないから!!」

 

 銀時は刃を抑える腕に力を込め、九兵衛は柄を握る手に力を込める。

 力が拮抗し、両者膠着状態。

 だが、やがて九兵衛はクワっと噛み付かんばかりの表情で声を出す。

 

「お妙ちゃんのことだッ!!」

「はッ? どゆこと?」

 

 と銀時は眉を顰める。

 

「貴様がお妙ちゃんと逢引し、既に深い仲にまで発展しているのはもう調べがついている!!」

「いや、知らねェよ!! なんで俺があのまな板女と乳繰り合わなきゃいけねェんだよ!!」

 

 そこで新八が「ちょっと銀さん!!」とたしなめる。

 

「子供もいるんだからそういう発言は控えてください!! つうか姉上がここにいたらあんたぶっ飛ばされますよ!!」

「ちょっと! いきなり襲ってきたけど、九兵衛ってあんたらの仲間じゃないの!?」

 

 当然のアリサの疑問に対し、土方は呆れ顔で答えた。

 

「込み入った事情があるんだよ」

 

 銀時に刀を離させる為に、九兵衛は彼の腹に蹴りを入れようとする。

 

「命おしさにしらっばくれるつもりか!!」

  

 九兵衛の蹴りを銀時は咄嗟に後ろに飛んで避けながら弁明。

 

「だから知らねェつってんだろ!! 命おしいってんなら、あんなダークマター製造機のゴリラ女と夫婦になる方が命の危機だわ!!」

「やはり夫婦になったのだな!!」

「なんで『夫婦』の部分だけしか耳に聞こえてねェーんだテメェは!!」

 

 などと言い合いをしながら九兵衛はまた銀時を切り裂こうと攻撃開始。

 必死に避け続ける銀時。ちなみに彼が避けるだけの理由は、いつも持ち歩いている木刀――洞爺湖(とうやこ)が爆散してしまった為なのであしからず。

 

「あなたたちはなにをやっているんだ!? ここはアースラ艦内だぞ!!」

 

 やがてトイレから戻ったクロノが大慌てで怒鳴り声を出す。刀を人に向かって振りまくる九兵衛をいきなり見たのだから当然の反応だ。

 その様子を見ていた土方は新八に顔を向ける。

 

「そろそろ止めるぞ眼鏡。いくらなんでも収集つかなくなりそうだ」

「めんどくさがって放置していた僕たちにも多少は責任ありますしね」

 

 と新八も頷きながら立ち上がった時だった。

 

「万事屋ァァァァァァァァァッ!!」

 

 突然の叫び声。全員の視線が声の主に向く。

 そこには、いつの間にか気絶状態から覚醒状態へとなっているゴリラ。

 

「こ、近藤さん!?」

 

 新八は驚きの声を上げた。

 目を覚ました近藤は山崎の背からすぐさま離れ、

 

「万事屋ァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 凄まじい形相で叫び、銀時に向かってダッシュ。その様子を見た土方は汗を流し、慌てた声を出す。

 

「マズイ!! 近藤さん、さっきの柳生の話を聞いてお妙の件を思い出しやがった!!」

「ちょっと待ってください近藤さん!! まずは僕たちの話を聞いてくださいッ!!」

 

 銀時を襲いに行こうとしているであろう近藤を制止させようと、新八は慌てて手を出す。が、ゴリラはまったく聞く耳持たないようで。

 

「そこで待っていろ万事屋ァァァァァァァァァァァァァァァッ!!」

「な、なにッ!? なんなのッ!?」

 

 銀時は九兵衛の斬撃を避けながら慌て、すぐに近藤の様子を見て察する。

 

「えッ!? まさかお前も妙な勘違いしてんの!?」

 

 お妙信者(かなり手強い)にダブルで襲われたらさすがの銀時も身がもたないと思ったのだろう。すぐに必死な顔で訴える。

 

「こっち来んなゴリラッ!! テメェの大好きなメスゴリラと俺はなんの関係も――!!」

「時の庭園に案内しろォォォォォォッ!!」

 

 と叫ぶ近藤は銀時の肩を掴む。

 

「「「いや、そっちィィィィィィィッ!?」」」

 

 銀時、新八、土方はまさかの要求にシャウト。だが近藤は構わず必死な形相で訴える。

 

「聞け万事屋ッ!! お前がフェイトちゃんを説得し、プレシア殿の所へ俺たちを案内すれば事態は一気に好転するかもしれないんだ!!」

 

 気絶から覚醒して記憶が混濁しているのか、それともただ単にバカなのか。場の空気などお構いなしに必死に頼み込む近藤だが、いかんせん銀時にその願いは無理と言うもの。

 近藤が何も分かってないと察して銀時は青筋浮かべる。

 

「無理なんだよバカゴリラ!! そもそも俺は時の庭園に――!」

「フェイトちゃんの手前俺たちに味方できないと言うのは分かる!! だがこれはどうしても必要なことなんだ!! お前が最後の希望なんだぞ万事屋ァァァァァッ!!」

 

 だが近藤はまったく聞く耳持たない。

 

「だから話聞けェェェェェェェッ!!」

 

 銀時のシャウトがアースラ艦内に響き渡った。

 

 

 つうわけで、クロノのバインドというアシストのお陰で荒ぶるゴリラと眼帯の動きを抑制。なんとか二人を一旦落ち着かせられた。

 リンディの提案で、場所をアースラの食堂へと移すことになった。理由としては時間的に夕食の時間だから。話をするついでに食事を済ませようと言うことである。

 ちなみに妙のことを思い出した近藤。食堂に移動する間、九兵衛と一緒に銀時を今にもぶっ殺さんと言わんばかりの血走った目で睨んでいたのは言うまでもない。

 食堂に到着した後、土方、新八、山崎という比較的常識人三人が誤解を解く為の説明をした。

 

「なるほどな。お妙ちゃんは猫を隠していたのか。そして僕に告げ口した少女の悪ふざけが真相であると」

 

 腕を組むは九兵衛は納得した様子。対して、新八は「まぁ、そういうことです」と相槌を打つ。

 

「ガァーハッハッハッハッハッ!! そんな真相だったとは!! まったくお妙さんも人騒がせなお人だ!!」

 

 と豪快に笑う近藤。

 近藤の言葉を聞いて九兵衛は「まったくだな」と言い、やれやれと首を横に振りながら笑みを浮かべる。

 

「いや、むしろあんたらのせいで騒ぎが大きくなったと言っても過言じゃないですけどね……」

 

 新八はあっけらかんとした態度の近藤と九兵衛にジト目向ける。

 九兵衛と近藤の志村妙に対する愛というか執着に近い想い。それを大まかではあるが新八から聞いたなのはは苦笑していた。

 

「なんて言うか……九兵衛さんは……新八さんのお姉さんのお妙さんって人が大切? ……なんですね」

「なのは。アレは俗に言う同性愛者って奴よ。しかもかなり拗らせた」

 

 アリサは腕を組んで呆れた表情をしながら言う。

 

「どうせいあいしゃ? アリサちゃん、難しい言葉知ってるね」

 

 聞きなれない単語になのは、更にはすずかも首を傾げる。

 アリサの言葉を聞いていた新八と土方は微妙な表情で視線を逸らす。なにせ否定できる部分がほとんどないから。

 すると骨付きチキンにかぶり付いていた沖田が関心したような声をだす。

 

「ムシャムシャ。おぉ~、バーニング。同族だけに良くわかってるじゃねェか」

「バーニング言うな!」

 

 噛みつかんばかりに目を吊り上げるアリサだったが、やがて怪訝な表情になる。

 

「って言うか、同族ってどういう意味よ?」

 

 沖田はあっけらかんとした表情ですずかを指さす。

 

「だっておめぇはすずかに友達以上の感情を抱いているんだろ?」

「あッ?」

「えッ!?」

 

 アリサは青筋浮かべ、すずきは驚きの表情。

 

「ほ、本当なのアリサちゃん!?」

 

 疑う事を知らないすずかが声をかける中、沖田は意地の悪い笑みを浮かべた。

 

「そうだぜ。アリサはおめぇの貞操を今か今かと狙って――」

 

 ブチッ!! とアリサから何かがキレる音。

 

「うがァァァアアアアアアアアアアア!!」

 

 さすがに我慢の限界だったらしい。アリサは椅子の上に立って沖田に掴みかかり、胸倉を鷲掴んで彼の頭をぐわんぐわん揺らす。

 するとなのはが慌ててアリサを抑え付ける。

 

「あ、アリサちゃん落ち着て!!」

 

 沖田の冗談を天然のすずかがつい真に受けちゃった展開。それを理解しているなのはは肉食獣の如く猛り狂うアリサをなんとか宥めようと努めるのだが、怒れる金髪少女は止まらない。

 

「もぉ許さん!! これ以上すずかに変な入り知恵する前に燃や゛す!!」

「怒ってるってことはやっぱり本音でェ~――」

 

 頭をシェイクされる沖田は懲りない。

 

「燃やす燃やす燃やす燃やす燃やす燃やすぅぅぅぅぅぅぅ!!」

「あ、アリサちゃん!! 本当に今のアリサちゃんバーニングちゃんになってるから!!」

 

 我を失った友にさすがのなのはも汗を流す。

 今のアリサを表すなら憤怒爆裂(バーニング)とでも言えばいいだろうか。普段弄られ過ぎたせいで怒りの許容範囲を超えてしまったらしい。

 そんな沖田とアリサのじゃれ合い(?)を頬杖を付きながら気だるげな視線で見ていた銀時。彼は土方へと視線を向ける。

 

「な~んか、おたくの総悟くん。知らねェ間にうちの神楽以外の遊び相手を見つけたようだな」

「声も似てるしな」

 

 とクールに返す土方。

 

「土方さん。そういう発言は控えて下さい」

 

 新八はやんわりツッコミ入れ、銀時は視線を東城と九兵衛に向ける。

 

「つうかさ~、お前らいつ時空管理局の連中のお世話になったの? なんか、話聞いてたらお前らほぼ別次元に飛ばされてた感じなんだけど?」

「そ、そう言えば……!」

 

 最もな疑問を聞いてハッと気づく新八。

 なにせ柳生組の登場のインパクトが強すぎた上に、銀時を恋敵だと勘違いしたままで暴走。お陰で二人がどのようにして時空航行艦アースラに乗車したのか聞けずじまいだなのだ。

 

「そこんとこどうなんでィ、エセ死神」

 

 アリサに首をぶんぶん振られながら、ジト目を向ける沖田。

 いまだにブリーチスタイルの九兵衛は腕を組む。

 

「ならば、まず僕がどうやってウェコムンドを制覇したのか話そう」

「ならば、私はあらやる時間のソープ店の感想を話しましょう」

 

 時を走る電車に乗っていたとのたまっていた東城も腕を組む。

 

「いや、そこら辺はいいんで。『時空管理局のお世話になった時』の話をお願いします」

 

 新八が冷めた視線でバッサリ切り捨てた。だってすんごく長くなりそうな上に別の物語になりそうなのだから。

 二人に代わって、クロノが腕を組んで説明を始める。

 

「突如として『ミッドチルダ』――つまりミッドチルダ式魔法の発祥の地である世界に妙な方法で出現して注目を集めた彼ら二人を時空管理局がすぐに保護。それで、そのまま『地球』出身と言う彼らから得た証言で第97管理外世界『地球』、その付近の次元の海に向かう予定だったアースラに乗艦させて送り届けることになった、と言うのが大まかな経緯(いきさつ)だ」

「「「なるほど」」」

 

 山崎と新八と近藤は納得して相槌を打ち、銀時や土方や沖田もだいたいの事情を分かったらしく特に何か言う様子はない。

 しかし神楽だけ気になった点があったらしく、九兵衛と東城に顔を向ける。

 

「お前らどんな感じにみっとなんちゃらにやって来たアルか?」

 

 すると九兵衛が「そうだな……」と言って腕を組んで説明を始める。

 

「僕は現世とソウルソサエティをつなぐ――」

「分かりました!! 九兵衛さんたちの事情はじゅーぶん! 僕たちは分かりましたから!!」

 

 新八は右手を出して強引に発言を阻止。これ以上語らせたら、作品の垣根の領域がぶれぶれになるにもほどがあるからだ。

 すると東城が眉をひそめて言葉を発する。

 

「しかし、私は若と違いでんらい――」

「だからもう分かったって言ってんだろうが!! あんたらの発言はぶっちゃけ世界観ぶち壊しかねェんだよ!!」

 

 新八の必死な形相と言葉で東城は押し黙る。すると土方が腕を組んで九兵衛たちに顔を向けた。

 

「まァ、お前らの事情は大体分かった。となると問題は……」

 

 土方が次にチラリと向けた視線の先は銀時とアルフ。

 銀時に真剣な眼差しを向ける近藤が話を切り出す。

 

「万事屋よ、俺たちを時の庭園に案内してくれんか?」

「だからできねェよバカゴリラ。俺が魔法使えると思ってんのか?」

 

 銀時が青筋を浮かべて返すと、今度はクロノが質問しだす。

 

「なら、座標は知らないか? 時の庭園に転移する時にフェイト・テスタロッサが呟いてたはずだ」

「あんな長ったらしい暗号なんざ覚えてるワケねェだろ」

 

 銀時は頭をぼりぼり掻いて、めんどくさそうに返す。

 

「俺だって一回案内されたけど、フェイトはぶつぶつ言っててほとんど何言ってんだか聞こえなかったしな」

「なら、彼女はどうだ?」

 

 と言ってクロノが視線を向けたのはアルフ。

 

「フェイト・テスタロッサの使い魔の彼女なら時の庭園の座標も把握しているんじゃないか?」

 

 直接アルフに質問するのではなく銀時に問いかけたのは、意気消沈している使い魔を一応は気遣ってのことだろう。

 問いかけられた銀時は「そんなの知らねェよ」とめんどさそうに返す。すると、今まで一言も言葉を話さず、口を閉ざしていたアルフが視線を逸らしながら口を開く。

 

「……あたしも……座標は、知らない。時の庭園に……行くのも帰るのもフェイトと……」

 

 そこまで言ってアルフは口を閉ざし、歯を強く噛み締め、膝の上に乗せた拳を強く震わせた。

 

 アルフの言葉を聞いてクロノは追及せずに「そうか」と短く答える。

 執務官であるクロノなら、相手が嘘を付いていないか判断する為にもっと問いただすかと新八は思っていた。が、そうする様子はない。さすがにアルフの悲壮な態度と雰囲気を察して無神経な追及は酷だと思ったようだ。

 

 頬杖を付いた銀時は視線を逸らし、アルフに代わるように話し出す。

 

「……分かったろ?  時の庭園の座標ってのを知ってるフェイトは俺とアルフの前から『居なくなっちまった』」

 

 銀時の『居なくなった』と言う言葉にピクッと反応を示すアルフ。彼女はより悲痛な表情を作るが、特に何か言う様子はない。

 

「だからおめェらを時の庭園に案内するのは無理なんだよ」

 

 そう銀時がキッパリ言った後、彼は机上でパスタの上に『あるモノ』を振りかけていた。

 

「……銀時さん、それはなんですか?」

 

 小首を傾げるリンディは、銀時が『作り出したモノ』を見る。対して、銀時は平然とした顔で答えた。

 

「ん? 宇治銀時パスタパージョンだ」

「ま~、中々おいそうですね」

 

 銀時が作り出した――パスタにタラコの如く小豆ぶっかけた、みるからにおぞましい料理。それを見ているリンディは両手を合わせ、目を輝かせている。

 一方、小学生三人組は宇治銀時パスタパージョンを見てまた気分を害していた。

 リンディは小豆ぶっかけパスタを指さす。

 

「それ、お味見してもよろしいですか?」

「おう、いいぞ」

 

 銀時の了解を得て、リンディはフォークで小豆が乗った湯でパスタの麺を口に運ぶ。

 

「ん~♪ 麺のしょっぱさと小豆の甘さが絶妙なハーモニーを生み出しますね~」

 

 リンディは頬に手を当て、百点満点の笑顔でゲテモノ甘味料理を褒める。

 

「おォ、そうだろそうだろ?」

 

 対して、銀時は普段あまり見せない嬉しそうな顔。

 そんな様子を見ていた新八は半眼状態。

 

「もうあの二人は結婚しちゃえばいいんじゃないかな?」

「冗談でもそんな恐ろしいこと言うのは止めてくれ……」

 

 クロノが泣きそうになりがら顔面蒼白にするので、新八も「ごめん」と親身になって謝る。

 

「これは家のメニューに加えてもいいかもしれませんね♪」

 

 笑顔のリンディの言葉を聞いて、クロノは泣きながら銀時を指さす。

 

「誰かあの男を止めてくれ。でないと家の食卓が崩壊する」

 

 するとアリサがクロノの肩に手を置く。

 

「強く生きなさい。胃と共に」

 

 テーブルに顔面を突っ伏すクロノであった。

 

「たくしょうがねェ。俺がお前の食卓に希望の光を与えてやるよ」

 

 土方がそう言って差し出したのは、

 

「ほれ、土方スペシャルパスタバージョン」

 

 パスタが見えなくなるくらいとぐろを巻いたマヨネーズの塊だ。

 土方は作り出した黄色の塊をリンディの前に差し出す。そして笑顔のリンディは流れ作業のように息子に皿を渡す。クロノの顔から血の気が引く。

 

「土方さん。絶望の闇を与えてどうすんですか」

 

 新八はさり気にツッコム。

 

「そう言えばさ――」

 

 そこで言葉を発したのはオペレーターのエイミィ・リミエッタ。

 

「アリサちゃんとすずかちゃんのデバイスって、どこで手に入れたの? レイジングハートみたいにユーノくんが持っていたワケじゃないんでしょ?」

 

 カレーを口に頬張りながら疑問を問いかけるエイミィ。

 オペレーターの問いにアリサは頷く。

 

「はい。あたしたちを誘拐した誘拐犯が持っていたデバイスだってフレイアは言ってますけどね」

「うわー、それはまた怪しさ満点な……そもそもエンシェントデバイスなんて私聞いたことすらないんだよねー」

 

 半眼になるエイミィに同意するように、リンディも真剣な顔で顎に指を当てる。

 

「確かに、それは私も疑問でした。アリサさんとすずかさんの持つフレイアとホワイト。その二機はエンシェントデバイスだと聞きましたが、エンシェントと言う型のデバイスは私も一度も耳にしたことがありません」

 

 そう言うリンディの前には小豆を乗せたパスタ。

 

(既に宇治銀時パスタバージョンが量産されている……)

 

 新八はリンディの話より彼女の前のゲテモノ料理に意識が集中していた。いつのまに作ったのだろうか?

 スプーンを指で弄びながらエイミィは怪訝な表情で言う。

 

「私も一応管理局のデータベースを調べてみたけど、エンシェントデバイスなんて種類のデバイスの存在は一切出てこなかったよ」

「つまり現状の判断としては、元は犯罪者の持ち物だったフレイアとホワイト……」

 

 リンディはチラリとデバイス二機を見れば、エイミィはカレーをスプーンですくいながら語りだす。

 

「その正体は管理局にも報告されていない未知のデバイスであるか……もしくはデバイスである二機が嘘を言っているか」

 

 そこまで言ってスプーンを口に運んだエイミィは、カレーを飲み込んでから話を続けた。

 

「……ぶっちゃけ、検査した時もUnknownな部分、つまり未知の機能やシステムがちらほらあったし、技術班の人たちは一回解体して調べたいって言ってたね」

《ちょちょちょちょ!?》

 

 とフレイアは慌てだす。

 

《ホントそう言う止めてくださいよ!! 解体とか洒落になってませんからね!?》

 

 羽を生やしたフレイアは、いつの間にか怒りが収まったのか席に戻っているアリサの後ろに隠れる。

 

《私も解体だけは断固拒否します》

 

 ホワイトも強い声音で拒絶を示す。

 二機の様子を見てエイミィは笑いを零す。

 

「アハハハ、やっぱり人間みたいに感情豊かなデバイスだよねー。ホントに誰が作ったんだろ?」

 

 お気楽に言うアースラオペレーター。

 ちなみだが、フレイアたちデバイスをいつ検査したかと言えば、なのはたちからデバイス三機の情報を聞いてすぐ後だ。

 話を聞いていたアリサが、意地の悪い笑みを浮かべだす。

 

「あんた一回解体してもらって、そのお調子者の性格直してもらえば?」

 

 ギョッとするフレイア。

 

《あ、アリサさん!? ホント勘弁してください!! 私たちにとって解体は人間で言うところの解剖と同意儀なんですから、マジでご容赦を!!》

 

 本気で怯えた様子のフレイアを見てアリサはため息をつきながらやれやれと言った顔をした後、リンディに言う。

 

「こう言うワケだから、解体はやめてあげてください」

「私からもお願いします」

 

 すずかも真摯に頭を下げてお願いする。するとエイミィはあっけらかんとした態度で返す。

 

「大丈夫大丈夫。念の為に身体検査をしてリンカーコアにも体にも異常はないって出たから。今は二人のデバイスという形で現状維持になるよ」

 

 エイミィの言葉を聞いて安堵のため息を漏らすフレイア。

 

「そう言えば、レイジングハートはどうなんですか?」

 

 なのはの問いにリンディが答える。

 

「なのはさんのレイジングハートは私たちで言うところのインテリジェントデバイスです。念の為にフレイアやホワイト同様に検査をしてみましたが、特に問題はありません」

 

 リンディの言葉を聞いて安堵するなのは。するとエイミィが首を傾げる。

 

「でも、三機のデバイスの製作者は同じだって聞きましたけど、なんで一緒の型のデバイスにしなかったんでしょうか?」

 

 エイミィの問いかけにリンディも分らないと言いたげな顔。

 

「それは神のみぞならぬ――製作者のみぞ知る、としか言えませんね」

「だがしかし、僕としてはそんな正体不明のデバイスを彼女たちに使わせ続けるのには賛成できない」

 

 そう言うのはまたトイレに直行していつの間にか席に戻っているクロノ。その頬が心なしかやつれているのは気のせいではないだろう。

 フレイアは不満そうな声を漏らす。

 

《なんですかまっくろくろすけさん。まだそんなこと言うなら、土方さんのゲテモノスペシャルのおかわり食べさせますよ?》

「誰の料理がゲテモノスペシャルだ?」

 

 フレイアの言葉に土方は青筋浮かべた。

 マヨネーズの塊を思い出して気分を悪そうにさせるクロノだが、引き下がらない。

 

「と、ともかく! 出自も能力も不明な点が多いデバイスを幼い彼女たちに使わせ続けて本当に良いと、あなたたちは思っているのか?」

 

 そうクロノが問いかけたのは、平均年齢が高い組。

 まず最初に新八が口を開く。

 

「まァ、言われてみればそうですけど……」

「確かにな。俺も引っかかってた部分はある」

 

 と土方も同意しだす。

 

「ぶっちゃけ俺も怪しいなァー、とは薄々……」

 

 最後に山崎が頬を掻きながらやんわり言う。

 三者三葉、自信なさげに言う。が、なんにせよ彼らも冷静な思考の部分では『怪しいデバイス』という考えを持っていたようだ。

 そんな場の様子にフレイアは少しばかし不安そうな声を出し始めた。

 

《あ、あれあれ? なんか私たちの立ち位置、危ない感じですか?》

 

 ホワイトも感情の読み取れない冷静な声で。

 

《フレイア。どうやら私たちはかなり疑われ始めているようです。まぁ、ユーノさん以外にとやかく言われなかった事の方がおかしかったのもしれませんが》

 

 ユーノや土方以外は深く物事を考えない、単純、好意的な相手はすぐに信じるなどなど。詐欺師などに騙されそうな面々ばかりだったので色々言われずに済んでいたのだろう。

 とはいえ、ちゃんと今まで一緒に戦ってきた仲間なのだから今更とやかく言う必要性がなくなっていたのも大きい。

 

 だが、二機とは初対面のクロノは違う。あげく彼は管理局員であり執務官で、疑うのが仕事。しかも結構頑固な性格。謎のデバイスの存在をこのままよしとすることはできないであろう。

 

「じゃあ、とりあえず解体しちゃえば?」

 

 頬杖ついて言う銀時の言葉にフレイアがギョッとする。

 

《ちょっと銀時さん!? あなたこの件にほぼなんの関りもないんですからそう言う無責任なこと言うの止めてください!!》

 

 さすがのお調子者のフレイアも今回ばかりは自身の安全を守るために必死のようだ。

 腕を組んでクロノが言う。

 

「解体はともかく、さすがにこのまま彼女たちの元に置かずこちらで預かるというのが妥当な判断だと僕は思う」

「あー、確かにそれが最善の処置かもしれないね」

《ちょっとエイミィさんんんん!?》

 

 フレイアはシャウト。

 

《あなたさっき現状維持で良いって言いませんでした!? あなたの手はドリルですか!》

 

 デバイスに指摘されたエイミィは軽い感じに返す。

 

「いや~、私はさ。なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃんのような魔力資質が高い子の能力を十二分に発揮できるデバイスを取り上げて、戦力ダウンさせたくないなぁ~って内心思うところもあってさ」

 

 アハハハ、と笑うエイミィ。対して、クロノがオペレーターをたしなめた。

 

「こらエイミィ! 彼女たちは管理局員でもない一般人なんだぞ!! 勝手に戦力にカウントするのは言語道断だ!!」

 

 ごめん、とエイミィは両手を合わせてクロノに謝る。

 リンディも苦笑しながら言う。

 

「正直、私としてもなのはさん達の存在は戦力として惜しいところではありますが――」

「かあさ……艦長!」

 

 クロノは自身の上官の言葉に声を上げてしまう。するとリンディは真剣みのある顔で。

 

「うちの執務官の意見もありますし、やはりここはこちらでアリサさんとすずかさんのデバイスをお預かりするという形になるでしょうね」

 

 リンディの言葉を受けてアリサの肩にしがみつきながらフレイアは声を荒げる。

 

《ちょっとちょっとちょっと!! また蒸し返しますか!? そんでもってまた言わせますか!? だーかーらー、折角見つけた(マスター)と離れ離れになるとかホントに嫌なんですってば!!》

 

 相棒の必死な訴えを聞いたアリサは、頬を少し掻いて心なしか嬉しそうな表情。

 

「あのリンディさん。このままフレイアをあたしのデバイスってことにできませんか?」

《アリサさん!》

 

 フレイアが嬉しそうに声を上げると、

 

「私からもお願いします! ホワイトは良い子です! 折角出会えて仲良くなれたのに、離れ離れになんかなりたくありません!」

 

 すずかはホワイトを抱きしめながら懇願する。

 

《すずか様……》

 

 ホワイトも心なしか嬉しそうな声を漏らす。

 

「私からもお願いします! 四人とも仲良しなんです! 無理に離れ離れにしないであげてください!!」

 

 そして最後に頭を下げて頼み込むなのは。親友二人の姿を見て我慢できなくなったのだろう。

 すると神楽まで声を上げだす。

 

「そうアル! アリサとフレイア、すずかとホワイトは二人で一人の魔法少女!! 仮面ライダーWならぬ魔法少女だぶ――!!」

「うん。神楽ちゃんは黙ろうか」

 

 とりあえずボケるチャイナに新八は冷たい一言。

 するとフレイアも声を上げる。

 

《そうです! 私とアリサさんは二人で一人の魔法少女! 魔法少女Wです!!》

「おめェも乗っかるな!!」

 

 強引にボケ重ねるデバイスにツッコミ入れる新八。

 後ろでなんか言ってる連中に構わず、「お願いします!!」と頭を下げるなのはたち。

 

「困りましたねぇ……」

 

 健気な少女たちの姿を見てリンディは頬を掻くが、クロノは譲らない。

 

「君たちには悪いがその要求には答えられない。レイジングハートのようなインテリジェントデバイスですらない君たちにどんな機能が備わっているか分からない以上は」

「頑固だねぇ……」

 

 と銀時が言い、エイミィは苦笑する。

 

「クロノくん、かわいい女の子のお願いに答えてあげないと、モテないよ?」

「エイミィ……」

 

 と呆れ顔のクロノ。

 

《そう言うワケで、私たちはこのままアリサさんたちと一緒と言うことで》

 

 そしてフレイアが絞める。

 

「なにが、と言うワケだ!! 強引に話を終わらすな!!」

 

 バッと立ち上がり怒鳴るクロノはすぐさま椅子に座りなおして言う。

 

「取り上げられるのが嫌ならなら誰が製作者なのか、それを教えてくれ。製作者として信用に足る人物ならこちらだって考えを改める」

 

 それに対しフレイアはユーノにも言った返答を返す。

 

《だから私たちに製作者のデータはないと――》

《――アトリス・エドワード》

「ッ!?」

 

 突如出た名前に驚きの表情を作るクロノ。

 謎の名前を言ったのは人間ではない。

 

「……レイジングハート?」

 

 いきなり見知らぬ人物の名を言った自身のデバイスに目を向けるなのは。

 構わずレイジングハートは言葉を続ける。

 

《彼女たち……そして私を製作したのはアトリス・エドワード。アルハザードに到達したと言われる技術者です》

 



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第四十一話:技術者

《――アトリス・エドワード。彼女たち……そして私を製作した人間であり、アルハザードに到達したと言われる技術者です》

 

 レイジングハートの言葉を聞いて管理局側の人間だけでなくユーノもまた驚愕の表情となる。

 

「う、うそ……。レイジングハートを作った人が……」

「アトリスって……」

 

 エイミィもまた信じられないと言う表情で人物の性を呟く。

 

「それは本当なのかレイジングハート!?」

 

 クロノは立ち上がりながら机をバン! と叩き食い気味に質問するのでなのはは「ひゃッ!」とビックリする。

 

「おいおいどうした?」

 

 銀時は怪訝な表情を作る。そして人物名を聞いてもまったく状況が理解できないであろう新八は質問する。

 

「その『あとりす』さんて、有名な方なんですか?」

「そりゃもう!」とエイミィ。「なにせ、教科書に載るほどの人だもん!」

「えぇ。アトリス・エドワードは古代ベルカ時代にいた技術者の一人で、魔法世界の歴史に名を残す偉業を成し遂げた人物ですから」

 

 とリンディが続けざまに答える。

 

「そいつ、なにをやらかしたんだ?」と銀時。

「犯罪を犯したみたいに言うな」

 

 失礼な事を言うな、と言いたげにクロノが銀時を睨む。

 ユーノが口を開く。

 

「アトリス・エドワードはデバイス技術を考案し、開発した人間として歴史に名を残した偉人なんです」

「それもしかしてメッチャすごくない!?」

 

 魔法世界に詳しくない新八でもユーノの『デバイスを考案した人』と言う言葉を聞いてアトリスと言う人物がいかに技術者として名声を得たか窺い知ることができたようだ。

 新八はリンディに聞く。

 

「つまり、『デバイスの生みの親』ってことですよね!?」

「なるほど。そりゃぁすげぇ」と沖田。

「つまりレイジングハートのパピーと言うことアルか!?」

 

 神楽の言葉を聞いて東城が待ったをかける。

 

「神楽殿、その解釈は少し違いますな。言うなればクインシーの王であるユーハバッハ的なポジショ――」

「だからブリーチはもういいんだよ!!」

 

 土方はツッコム。

 新八の言葉を聞いて江戸の人間たちもアトリスと言う人物がいかに歴史的に凄い人間であったか理解し始めたようだ。

 

「ふ~ん。んで、そいつってやっぱ死んでんの?」

 

 銀時は鼻を穿りながら聞く。

 

「銀さん、さすがに今も生きてたら偉人じゃなくて化物になっちゃうよ」

 

 エイミィは苦笑を浮かべ、ユーノが説明をする。

 

「まぁただ、何時死んだか分からないので諸説あるんですけど、『アルハザードに到達した』って言う伝記が残ってるからそれがそのまま現在の教科書に説明として載ってる、ってところなんです」

「とは言え、そんな伝記を信じる人間はほとんどいないだろう」クロノは腕を組んで不満そうな顔で。「そもそも彼の若い時の記録しか残ってない上におとぎ話に出てくるような場所に行ったなんて伝記が残っているせいで、神話が混じったようなふざけた歴史が出来上がったしまったのは甚だ疑問だよ」

 

 ユーノとクロノの説明を聞いて新八以外の江戸の人間たちは「へー……」と曖昧な返事をし、なのはたち海鳴市出身の少女たちはあまり理解できないと言った顔だ。

 リンディが苦笑いを浮かべる。

 

「まぁ、銀時さんたちやなのはさんたちは古代ベルカがいかに古い時代か分かりませんし、魔法の世界にもほとんど関りがなかったのでピンとはきませんよね」

 

 リンディの言葉を聞いていたであろうクロノが腕を組みながら説明を始める。

 

「まだ魔法技術が発展途上で、魔法を行使するための武器や道具がまちまちだった時代。アトリス・エドワードによって考案された『デバイス』と言う魔法の道具はまさに革新的だった……」

 

 続けてエイミィが。

 

「なにせ、その頃は魔法の使用するために術式の演算やら何やらを本人がほとんど負担しなきゃいけなかったから魔法を使う人は今よりかなり少なかったし、使うにしても相当大変だったらしいよ」

 

 そしてまたクロノが説明をする。

 

「魔法使用の処理を高速で行い瞬時に高度な魔法を扱えるデバイスを作ったアトリスと言う人物は古代ベルカだけでなく、ミットチルダにもその技術を提供し発展させたと言う。だからこそミットチルダでも知らない人はいないと言われるほどの偉人として今も語り継がれているんだ」

 

 説明を聞いた銀時の反応は、

 

「へー……そうすっか……」

 

 かなり淡白なもので、銀髪の様子を見たクロノは不服そうに青筋を浮かべる。

 その様子を見てエイミィとリンディはまた苦笑を浮かべる。

 説明を聞いたアリサはフレイアを見る。

 

「あんたって、その性格の割に随分と凄い人間の作品だったのね」

《ええ……まぁ……》

 

 いつもならちょっと褒めれば調子ぶっこくデバイスの煮え切らない返事に首を傾げるアリサ。

 だがアリサの言葉を聞いてクロノは待ったをかけた。

 

「だがレイジングハートの言葉は丸々信用できるものじゃない。アトリスがデバイスを生み出してから既に数百年以上は経過している。今あるデバイスのほとんどは彼の技術を学び、発展させた技術者たちが生み出していったものだ。彼が『作った』デバイスを使用している人間なんている方が珍しいくらいだ」

「じゃあ、レイジングハートさんはデタラメを言ったってことですか?」

 

 新八の質問にエイミィはう~ん、と難しそうに顎に指を当てる。

 

「たしかにクロノくんの言った通り、彼が手掛けたデバイスを使用しているかいないかレベルだけど、彼が作ったって証明されているデバイスはちらほら見つかってはいるんだよね」

 

 エイミィの説明をリンディが補足する。

 

「まぁ、それはもっぱらオークションに出品されるか大手の博物館の展示物となってしまうのがほとんどですから」

 

 それを聞いて銀時は察したように呟く。

 

「ようはただの骨董品てことか」

「莫大な値段がつく、と言う言葉がつきますがね」

 

 リンディの言葉を聞いて銀時の耳がピクリと動く。そしてクロノが語る。

 

「技術的なレベルはもう当時のデバイスより今のデバイスの方が圧倒的に勝っているが、彼の名声を考えればアトリス製作と証明されたデバイスの歴史的価値は計り知れない」

「それこそ、大富豪でもないと手が出ないような値段が付けられる物ばっかりですからね」

 

 とエイミィが補足する。

 二人の説明を聞いて銀時の耳がまたぴくぴくと動く。

 クロノは首を横に振る。

 

「だからこそ、レイジングハートの言った『アトリス・エドワード』に作られたと言う話を簡単に信じるわけにはいかない」

 

 エイミィはスプーンを咥えながら喋る。

 

「まぁ、デバイスの製造記録データに彼のサインでも入っていればそれ一発で証明できるんだけどねぇ」

「エイミィ、行儀が悪いぞ」とクロノはエイミィをたしなめる。「まぁ、そうだな。もしその話が『本当なら』、サインの一つでも見せて欲しいものだ」

 

 少し皮肉交じりに言いながらコーヒーを飲むクロノ。

 

《これでよろしいですか》

 

 レイジングハートは上空に立体的な映像を投影すると、そこには何か文字が浮かべあがっている。それをエイミィは指を指して驚きながら言う。

 

「あ、ミットチルダの原語で『アトリス・エドワード作』って書いてある!」

「ブゥゥーッ!?」

 

 クロノはもろに口からコーヒーを目の前に相席していたユーノの顔めがけてぶっかける。

 レイジングハートから投影された文字を見てリンディは真剣な表情で。

 

「エイミィ、すぐに検証を」

「了解!」

 

 エイミィは何もないところからタッチパネルのような物を空中に出現させ、早打ちし出す。

 するとレイジングハートが音声を出す。

 

《ほら、フレイアとホワイトもアトリス様のサインを見せないさい。もうあなた方だってこの方法が最善であると分かっているはずです》

《わ、分かりました……》

《事ここに至っては仕方ありませんね……》

 

 渋々と言った具合に二機も空中にミットチルダの文字で書かれた単語を投影する。

 

「二機のサインの検証も」

 

 リンディの言葉に無言で頷くエイミィ。返事をしない当たり、かなり集中力を使っているらしい。

 しばしの間沈黙が続き時間が過ぎる。やがてエイミィがふぅー、と息を吐きながらタッチパネルの操作を止める。

 

「管理局のデータベースにあった、アトリス・エドワードのサインと三機のサインの検証の照らし合わせ、完了です」

「結果は?」

 

 クロノは緊張した面持ちで聞き、エイミィは答える。

 

「検証結果は99%合致。アトリス・エドワード本人のサインであり、三機はアトリス本人が手掛けたデバイスとして間違いないみたい」

「し、信じられない……」

 

 クロノはエイミィの言葉に愕然とする。

 

「サインは本物……っと言うことは……」

 

 なのはは自然とアリサとすずかに視線が向く。

 

「つまり、あんたとはこれからも一緒ってことかしら?」

 

 アリサは皮肉気味に笑みを浮かべる。

 

「良かったねホワイト!」

 

 すずかは嬉しそうに愛機を両手で抱きしめる。

 

「い、いや待て!! ことはそう単純じゃない!!」

 

 だがここでクロノ慌てたようにが待ったを掛ける。

 

「く、クロノくん落ち着て!」

 

 エイミィが動揺するクロノをなだめ、気を落ち着かせながら執務官は説明を続ける。

 

「出自が分かったのはいい。だが、製作者がアトリスだと証明された以上、今度は別の問題が浮上する」

「つまり、フレイアやホワイト、更にはレイジングハートを狙う連中が現れるってこと?」

 

 お嬢様であるアリサは偉人が手掛けた作品の問題点にすぐに気づいたようで、クロノは頷く。

 

「ああ。この事実が公に公表されれば、君たちのデバイスを狙う人物はごまんといるだろう」

 

 だがクロノ言葉にすずかは待ったをかける。

 

「でも、大丈夫じゃないかな? 逆に国宝みたいな凄い価値の芸術作品なんかは盗んだとしてもすぐにお金に変えちゃった時点で足がついちゃうリスクが高いですし。まず盗んでやろうって人は出てこないと思います」

「私たちの世界の『モナ・リザ』なんかが良い例だよね」

 

 なのはが相槌を打つ。

 いくら高額な品だが数の少ない物品である以上、無事盗み出せたとしても現金に変換する作業だって困難を極めると彼女たちは考えたのだろう。

 

「その歳の割には賢い回答じゃねぇか。だが、悪事を働く連中ってのは一般人が思っているようも狡猾だ」

 

 関心した声で言う土方の言葉にクロノが相槌を打つ。

 

「あぁ。それに公で取引できなくても裏の世界には闇市場(ブラックマーケット)だって存在する。狡猾な犯罪者に狙われる危険性は限りなく高い。個人で持つにはあまりにもリスクが高いデバイスであることは疑いようがない」

 

 きっぱり言うクロノの話を聞いてすずかとアリサは自身の相棒に顔を向ける。

 

「もしかして、ホワイト。私たちの安全を守るために製作者さんの事は噓をついてまで黙っていたの?」

「あたしたちが危険にならないように……」

《ええ》とホワイト。《私とフレイアの製作者がアトリス・エドワード様であることを口外するのはデメリットしかない》

《だからこそ、必死こいて誤魔化していたと言うのにィーッ!!》

 

 フレイアは羽で頭(?)を抱える。

 なんだかんだ言っても主のことを第一に考えていた二機に目を潤ませるアリサとすずか。

 だがアリサはすぐに眉間に皺を寄せる。

 

「――って、あんたがそれを主であるあたしにくらい言ってくれても良かったんじゃないの! そうすれば、あたしだって一緒になって秘密を守るために頭使ったわよ!」

 

 もっともな意見にフレイアはバツが悪そうにする。

 

《だ、だって……もしそんなこと話したらアリサさん……怖がって私を捨てちゃうんじゃないかって……》

「たく、あんたは……。あたしを認めるとか言って、全然あたしのこと分かってないじゃない。相棒が聞いて呆れるわ」

《す、すみません……》

 

 人工物でありながら涙声で言うフレイアにアリサはきっぱり言う。

 

「あんたを相棒にするなら、それくらいのリスクくらいどうってことないわ! このアリサ・バニングスを安く見ないで頂戴!」

《ア”リ”ザザン!!》

 

 涙声で喋る炎を象ったネックレスを見て新八はシュールだなぁ、とつい思った。

 すずかも続く。

 

「そうだよホワイト。他の人はどう思うか分からないけど、それくらじゃ私はホワイトを手放そうだなんて思わないよ」

 

 優しい声音で言うすずかにホワイトは感動の声を漏らす。

 

(マスター)に対する配慮をしたつもりでしたが、どうやら思慮が足りなかったのは私のようです。申し訳ありませんすずか様》

 

 と言った具合に二組の魔法少女とその相棒の絆がなんだかんだで高まっている光景に空気を読んでか何も言わなかったクロノだが。

 

「感傷中のところすまないが、まだこちらの話は終わってない」

 

 このまま話を負わせる季など毛頭ないようである。

 

「エンシェントデバイスだっけ?」とエイミィが首を傾げる。「アトリスが死ぬまで公表すらしなかった型ってことは……アトリスが密かに作った隠しデバイスってことだよね!」

「いや、そんな隠しアイテムみたいな……」

 

 興奮気味に言うオペレーターに新八は微妙な表情を作る。

 クロノは腕を組んで真剣な面持ちで告げる。

 

「なのはのレイジングハートはともかく、エンシェントデバイスと言うのが事実なら、二機は下手したら重要文化財認定だって受けるかもしれない」

 

 最後にリンディが真面目な顔で。

 

「そうなれば、結局はアリサさんとすずかさんの手を離れ、管理局が保管した後、大手の博物館に厳重な警護の元、展示されると言うことになりますね」

「結局離れ離れじゃないですか!!」

 

 新八が声を上げ、リンディは更に説明を補足する。

 

「それどころか、なのはさんのレイジングハートもこちらお預かりすると言う形になるかもしれません。なのはさん個人の安全を考えるなら」

 

 難しそうな表情を作るリンディの言葉に対してなのはは「そ、そんな!!」と言って焦る。

 それを聞いて新八は慌てだす。

 

「ちょっとォーッ!? レイジングハートさん、なんでアトリスさんのサインなんて見せちゃうんですか!? 状況がおもっくそ悪化してますよ!」

 

 一体なに考えているの!? とつい思った新八はレイジングハートに顔を向ける。

 色々長い話をした割にまた元の問題にぶち当たってしまう。いや、下手したら余計に状況が悪くなっていっている。このままで魔法少女三人娘がただの小学生三人娘に逆戻りだ。

 無論フレイアも黙っていない。

 

《そうですよレイジングハートさん!! なにやらかしてくれやがるんですか!? あなたの提案に従った私がバカでした!!》

 

 思いっきり手の平を返すフレイアの言葉にレイジングハートはまったく無反応。それとフレイアと違いホワイトは無言を続けている。

 フレイアはこの世の終わりのように声を出す。

 

《ああ~!! 私はこのまま管理局に連れていかれて金庫にぶちこまれたのち、そのまま博物館の狭いっ苦しいケースの中に展示されて一生さらし者にされながら生きていくんですねェーッ!! まるでトイ〇トー〇ー2のように!!》

「いや、生き物じゃないでしょあんた……」

 

 新八はおいおいとわざとらしく泣くフレイアをジト目で見る。

 するとあっけらかんとした表情で銀時が口を開く。

 

「でもよ、用はこわ~い悪党の連中に知られなきゃいいんだろ? そうすれば何も問題はねぇじゃねぇか」

「いやいや!」と新八は右手を振る。「フレイアさんたち国宝級の品なんですよ!? そんなの国民全員が知ることになっちゃうでしょ!!」

 

 新八の言葉にクロノが当然とばかりに頷く。

 

「あぁ。それどころかアトリスが秘密裏に製作した新型デバイスと言うことが証明されれば、それは歴史的大発見でありニュースにも――」

「だから、それ言わなきゃいいんじゃん」

 

 平然とした顔で言う銀時の言葉にポカーンとした表情になるクロノと新八。

 沖田が掌にポンと拳を乗せる。

 

「なるほどぉ。つまり、今の話を知っているのは『ここにいる俺たちだけ』だから、俺たちが黙っていれば問題はねぇってわけですね、旦那」

「そうだよ沖田くん」

 

 と頷く銀時。するとリンディが手を合わせて言う。

 

「あぁ、なるほど。確かにこのことを知っているのは『私たちだけ』のようですからね」

 

 リンディが周りに目を向けると、運よく他の局員は周りにいない。居たとしても食堂で料理を作る人間だけだろうが、こっちの話が聞こえる距離ではない。

 話しの流れを理解してかクロノはありえないとばかりに捲し立てる。

 

「母さんあなた正気ですか!? こんな歴史的大発見を上に報告もせず、僕たちだけの心の内に留めておけと!」

「よく分かっているじゃないですかクロノ」

 

 形式上の呼び方すら忘れて慌てるクロノにリンディはニコリと笑顔で答え、説明する。

 

「いいじゃないですか。教科書にすら載ることなかった事実を知ることができ、あまつさへそれを知るのはこの数少ない面々だけ。スリリングで魅力的ではありませんか」

「か、母さん……」

 

 クロノは呆然自失と言ったところだろう。まさか母親であり直々の上司から堂々とした規律違反の申し出に呆れを通り越して絶句している。

 だがすぐにリンディは舌をペロッと出す。

 

「と言うのは冗談で、ちゃんと私が信頼できる方に報告はするつもりです。無論、持ち主並びにその所在はトップシークレットと言う形にして」

「ハァ…………」

 

 クロノはガックリと項垂れながら席に座り直す。

 

「艦長さんよ」銀時が言う。「そう言う仕草はお歳を考え――」

 

 バビュンバビュン!! と銀時の頭髪を二発の閃光が掠める。そして笑顔を崩さないリンディに冷や汗流す銀髪天然パーマ。

 リンディの話を聞いていたなのは、アリサ、すずかは順々に言葉を発し始める。

 

「じゃ、じゃあ……もしかして……」

「フレイアと……」

「ホワイトは……」

 

 少女たちの疑問にリンディは笑顔で。

 

「もちろんあなた方のデバイスのままです」

「「「やったァーッ!!」」」

 

 親友三人は嬉しさのあまり手を合わせてキャッキャと喜ぶ。

 喜ぶなのはたちを見てからリンディはクロノに目を向ける。

 

「どうしましたか? クロノ執務官」

「いや、まぁ……。艦長と言うか母親におちゃくれた気がして、ドッと疲れたが出ただけです……」

「もうちょっと思考は柔軟に働かせるべきですよ。あんまり物事をストレートに考えすぎるのはあなたの悪い癖ですから」

「まぁ、もろもろの手続きはともかく彼女たちが公表したくない、手放したくないと言われたこちらも手の出しようがありません。なによりかなり珍しい例ですが、デバイスそのものが嫌々言ってますし……」

 

 クロノはチラリとアリサの周りを喜びを表すように元気に飛び回るフレイアを見る。そして再びリンディへと視線を戻す。

 

「とは言え管理局員として、なにより一人の魔導師としてあのような貴重なデバイスの存在を世間の公表しないのは心が痛みますが」

 

 残念そうに告げるクロノの言葉にリンディは頷く。

 

「確かにこのような歴史の一ページに書かれる重大な事実を公表しないと言う点。なによりも歴史的に貴重なデバイスを彼女たちに任せると言う点でも正しい判断ではないかもしれませんね」

 

 ですが、とリンディは言葉を続ける。

 

「あんなに純粋で優しい――未来ある少女たちに後々まで残るようなシコリを残す結果になると分かっていても、あなたは公表するべきだと考えますか? クロノ・ハラオウン」

 

 その言葉に俯くクロノ。

 役職名を除いてのフルネームで呼ぶと言う事は『クロノ・ハラオウン』個人としてどう思うか? と聞いているのだろう。

 

「ハァー……」クロノはひとしきり深いため息吐き、キッパリ告げる。「僕はただ〝一人の管理局員〟として彼女たちがデバイスをちゃんと管理できるようにサポートするだけです」

「ウフフフ……」

 

 リンディは息子の答えに口元から笑みを零し、レイジングハートへと視線を移す。

 

「レイジングハート。あなたは〝こうなること〟を見越してアトリスの名前を私たちに見せたのですか?」

 

 それは疑問ではなく、再確認と言うニュアンスが含まれているであろう言葉。

 レイジングハートは答える。

 

《えぇ。少々賭けに近いモノでしたがあなた方のお人柄を考慮した結果、フレイアとホワイトがアリサ様とすずか様の愛機のままでいられる最善の手だと計算した上での判断です》

「しかし、アトリスの名前を出せばあなたもなのはさんと離れ離れなる可能性もあったでしょうに。自分に損な賭けをしましたね」

 

 リンディの言葉を聞いてフレイアは意外そうに声を漏らす。

 

《レイジングハートさん……あなた……》

(マスター)はご友人が悲しめば自身も同様に悲しむ方。なら、私が取る行動は主のご友人を悲しませないよう、彼女たちの手にあなたたちを残すこと。そう、判断しただけです》

 

 まさかの犬猿の仲と思っていた姉妹機であるデバイスからのアシスト。ホワイトもまた嬉しそうな声で。

 

《レイジングハートさん。あなたも案外姉妹思いなデバイスですね》

《ホワイト、食玩のお菓子。もともとは同じ製作者によって生まれた姉妹機。(マスター)の為と言う建前はありますが、あなた方も大切な主と居られ続ける結果には私も満足しています》

《ってちょっとォォォォォォッ!?》

 

 そこで声を上げるのはフレイア。アリサの愛機は食って掛かる。

 

《なんかレイジングハートさん満足げに言ってましたけど、今おもっくそ私のこと『食玩のお菓子』ってナチュナルに呼んでましたよね!? おまけ!? おまけ扱いですか私は!》

《食玩のラムネは黙ってください》

 

 レイハさんからの冷たい一言にフレイアは涙声。

 

《それ絶対いらない奴! 食べないで捨てるお菓子の代表格!! 私の存在はその程度ってことですかァーッ!》

 

 この流れからのぞんざいな扱いにあふれんばかりに声を出すデバイス。

 するとリンディが笑みを零す。

 

「デバイスであるあなたに対してこういう発言は少しおかしいかもしれませんが、意外に食えない方なんですね」

《いえいえ。あなたほどでは》

 

 と言うレイジングハートにリンディも「あらあら」と笑顔で返す。

 

《無視!? 挙句の果ては無視!》とフレイアはギョッとする。《私のツッコミ一切無視しての腹に一物抱えてる者同士の会話に移行! 今回のレイハさんはいつにもまして酷い!!》

《姉に対してなんですかその愛称は。失礼ですよ、食玩の箱》とレイハさん。

《ついにはゴミにされたァーッ!!》

 

 さすがの言い草においおい泣くフレイアをアリサも珍しく慰める。

 そんな光景を見て新八はよっぽど、普段から怒らせてるんだろうなぁ……、つい思った。

 

「あのさ、すずかちゃん」

 

 突如、銀時がすずかに話しかける。すずかは親友たちと喜びを分かち合うのを中断して「なんですか?」と目を向け、銀時は一つの頼み事する。

 

「ちょっと悪いんだけど、ホワイトだっけか? 君のデバイス。ちょっと見せてくんない?」

「え、えぇ。いいですよ」

 

 少々戸惑いながらもすずかは素直にホワイトを銀時に手渡す。

 

「あんがと」銀時は雪の結晶を模ったデバイスをまじまじと眺める。「へぇ~、こんな土産のキーホルダーみてぇなのが歴史的価値のあるもんねぇ。信じられねぇな」

 

 銀時の様子を見て新八はどこか嫌な予感を覚える。あ、こいつなんかやらかすな、的な。

 

「あんがとよ。見せてくれて」

 

 そう言って銀時はホワイトの持っていた右手を懐に入れる。

 

「まてまてまてまて!!」新八がそこですかさず待ったを掛ける。「あんた何ナチュナルに人の物ネコババしようとしてんだ!!」

「えッ? 誰が?」

 

 どこどこ? と言った具合に銀時が辺りを見回す。

 

「いや、おめぇだよ!!」と新八は銀時を指さす。「この犯罪者予備軍!!」

「おいおい、人聞きの悪いこと言うんじゃねぇよ」

「じゃあ、懐から手を見せろよ!! 寒くもねぇくせに頑なに右手を懐に突っ込んでじゃねぇか!!」

「ほい」

 

 銀時はグーになった右手を懐から出す。

 

「手を開け!! パーにしてみろ!!」

 

 新八は指を出してビシっと指摘。すると銀時は右手に握った物を左手に移した後、右手を開く。

 

「ほれ」

「なにが『ほれ』だ!! ふてぶてしいにもほどがあるわ!! この金の亡者が!!」

「誰が金の亡者だコノヤロー!!」と銀時は逆切れ気味に起こる。「俺は億万長者になってヤキニク寿司芸者すき焼きなんてこれっぽっちも思ってねぇんだよ!!」

「欲望駄々漏れじゃねぇか!! 体からにじみ出るくらい駄々もれてんぞおい!!  つうかどこのアメリカ人だおめェは!!」

 

 銀時と新八のやり取りをみていた沖田はジト目を向ける。

 

「すげぇ近くにいましたねェ。こわ~い犯罪者が」

「まったくアル!!」すると今度は神楽が声を上げる。「金金金!! 人として恥ずかしくないアルか銀ちゃんは!!」

《痛い!! 神楽さん力強すぎです!!》とフレイアは悲鳴上げる。

 

 神楽はいつの間にかフレイアを握っていた。しかも力強く。

 

「恥ずかしいのはあんただ!!」

 

 アリサが怒鳴り声上げる。

 

「分かったネ。じゃあ半分こにして、半億万長者で我慢するアル」

 

 そう言ってフレイアを半分に折ろうとする神楽。もちろんフレイアは悲鳴上げる。

 

《いだだだだだだだだだだだだ!! 折れる折れる折れるぅーッ!!》

「やめんかァァァァッ!!」

 

 アリサは神楽の脳天にトレイを叩きつける。

 

「わかった。わかりました。じゃあ、すずか。俺のこの洞爺湖と交換でどうだ?」

 

 銀時はすずかに柄だけとなった木刀を渡す。

 

「ただゴミ渡しただけじゃねェか!!」とツッコム新八。「釣り合うワケねェだろ!!」

「いりません」

 

 すずかは無論拒否してホワイトを奪い返す。

 

「いい加減にしないと、デバイスの代わりに手錠をプレゼントするぞ?」

 

 クロノが半眼で腕を組みながら告げる。

 

「今なら牢屋もセットでついてきますよ」

 

 とリンディはニコニコ顔。

 さすがに悪ノリが過ぎたと思ったのか、アルフの隣に座り直す銀時は口を尖らせる。

 

「ちょ~っとふざけただけじゃねぇか。真に受けんな」

「いや、あんた結構マジだったでしょ?」

 

 新八はジト目で銀時を見る。

 

「しっかし」土方が腕を組んで言う。「話を整理すると。フレイアとホワイトを俺たちの世界の死刑囚が持っていたのが、余計に奇妙だな」

 

 土方が言う死刑囚とは、目的は分からないがなのはたちを誘拐した夕観(ゆうかん)意嘆(いたん)である。

 

「そう言えば、フレイアたちには犯罪者の手に渡った経緯の記憶はないのですか?」

 

 リンディの問いにホワイトが答える。

 

《えぇ。私たちエンシェントデバイスは適合者が近くで感知できるまで、機能をスリープモードに移行しますので》

 

 続けてフレイアが説明する。

 

《なによりアトリス様の手を離れた後の記憶なんてほとんどないに等しいですね。ちなみにこれは嘘じゃないですからね?》

 

 

 一方、話を聞いていた沖田が目を細め、思案し始める。

 

 ――そう言えば、誘拐野郎がこのデバイス共を使おうとする素振りがあったな……。

 

 首が切られ、体だけが倉庫に残された夕観意嘆。だが煙幕と共に首のない体は消え、残ったは緑のドロドロした液体だけ。

 

 ――待てよ、そういやァあのくノ一と化けモンを取り逃がした時も化けモンが寝転がっていた場所に緑のドロドロがあったよな?

 

 後頭部を切り裂いて出て来た妙な化け物。穏健派攘夷志士を偽っていた過激派攘夷志士の後藤仁と言う男にそっくりな姿で突如現れた。

 夕観意嘆と後藤仁。その両者の体は共に『緑のドロッとした液体』へと変貌を遂げていた。

 実際に工程を見たワケではないが、もしかするとあの緑のドロドロが奴らの体の馴れの果てではないのだろうか?

 

 ――おいおい、まさか……。

 

 そこまで考えた沖田はまるで点と点が線で結ばれるような憶測を考え付く。

 

 ――俺があった誘拐野郎も後藤の姿した化け物も、もちろんあのくノ一もグルで、この世界で何かしようとしているってことか?

 

 そこまで考えたところで、沖田は口を開く。

 

「ちょっと話があるんですが、いいですかい?」

 

 沖田の言葉に全員の視線が彼に集まる。

 

 

「なるほど。確かに憶測としては筋が通っている」

 

 沖田がした説明を聞いてクロノは腕を組んで思案する。リンディも顎に指を当てて思案する。

 

「人の姿に化けられる知能を持った怪物か、もしくは見たままの通り、人の体を乗っ取る怪物なのか……」

「しっかし、改めて聞くとB級SF映画っぽい気味の悪い怪物ね。まるでエイリアンみたい」

 

 顔をしかめるアリサの言葉を聞いて新八が思いついたように人差しを指を立てる。

 

「あッ! もしかして僕たちの世界の『えいりあん』なのかも! だって、人に寄生するえいりあんと昔戦ったことあるじゃないですか!」

 

 銀時たち万事屋の面々は神楽の父である『えいりあんばすたー』の宇宙坊主が追っていたえりあんが人の寄生するタイプであり、そのえいりあんとターミナルで激戦を繰り広げたことがある。

 だが神楽が新八の意見を否定する。

 

「でも基本的にえいりあんは虫とか動物みたいなもんだから基本的に考える脳みそはないって言ってパピーが言ってたネ」

「そっか……」と新八は予想が外れて残念そうになる。「じゃあ、なのはちゃんたちの世界の生き物なのかな?」

 

 それを聞いてなのははすぐに否定する。

 

「そ、そんな怖い生き物私たちの世界にはいません!!」

 

 顔を青ざめさせるなのはを横目で見ている銀時が口を開く。

 

「じゃあ単純に魔法の世界の化けモンなんじゃねぇの?」

 

 クロノが首を横に振る。

 

「いや、管理局も人の体を乗っ取る上に人間並みの知恵を持った生物は確認はできていない」

「じゃあ、僕たちが出会ったあの怪物って一体全体なんなんでしょうね?」

 

 首を傾げる新八の問いに答えられる者はこの場にいない。

 

「正体はなんにせよ」とリンディが口を開く。「土方さんやなのはさんたちの事を姿を隠して観察している以上、魔法をまったく知らない人たちではないようですね」

「フレイアとホワイトをデバイスとして使おうとしていたってのも、魔法を知っている裏付けにもなりますね」

 

 エイミィが言葉を続け、クロノが険しい顔で言う。

 

「しかも、話を聞く限りでは法を順守する連中でもなさそうだな」

 

 エイミィがチラリと土方たちを見る。

 

「土方さんたちの世界の住人が、人の体を乗っ取る怪物を使ってなのはちゃんの世界で何かしようとしている、ってことですかね?」

 

 土方が腕を組みながらなのはをチラリと見る。

 

「もしくはなのはの世界の連中かもな」

 

 だがアリサが半眼ですぐに否定する。

 

「なのはも言ってたけど、私たちの世界にそんな化け物もいなければ、現役の忍者だっていないわよ」

 

 次に沖田がフレイアとホワイトを見る。

 

「だけど俺たちの世界にデバイスなんて物はねぇんだぜ。それなのに誘拐野郎が持っていたのはそのデバイス共だ」

 

 ホワイトはある仮説を立てる。

 

《数多の次元世界を流れ渡り、土方様たちの世界に行きつき、犯罪者の手に渡ってしまったと言うことではないでしょうか?》

「そんでそのままこっちの世界に悪事をしにやって来た、ってか?」土方が呆れた声を出す。「さすがに偶然やら運命やらで片づけるにしても無理があるだろ」

「結局、わっかんないことだらけアルな」

 

 神楽は背もたれに体を預けながら脱力し、クロノはため息を吐く。

 

「今分かっているのは、警戒するべき相手が姿を隠し暗躍している、と言うことか」

「見つけ次第、捕縛し事情聴取も視野に入れるべきですね」

 

 リンディの言葉を聞いた銀時は隣にいるオレンジ髪の狼女に顔を向ける。

 

「どうやら、俺らの知らねェところで随分とややこしい事態に発展してるみたいだな」

 

 だが、銀時の言葉にまるで反応しないアルフ。彼女は俯き、狼の耳も尻尾もピクリとも動かない。

 そんなアルフの皿の前にある骨付き肉に目を向けるが、齧った後は一切見受けられない。

 

「食う元気もなけりゃあ、喋る元気もねぇか」

 

 テーブルに肘を乗せた銀時は顎を掌に顎を乗せる。

 その時だった――。

 

 

『艦長!! 大変です!!』

 

 リンディの横に空中に浮かんだウィンドウが出現する。

 ウィンドウに映った局員から慌てた声を聞きリンディもアースラ艦長としての表情を作る。

 

「どうしました?」

『フェイト・テスタロッサからの映像通信が!!』

「「「「「「「「ッ!!」」」」」」」」

 

 その言葉にいち早く反応し狼の耳を立てたのはアルフ。続いてリンディだけでなくその場にいた全員の表情が変化する。

 沖田と土方は視線を鋭くさせる。ユーノとアリサとすずと新八と神楽と山崎は何を思ってか戸惑い半分、険しさ半分と言った顔。近藤は腕を組んで沈黙。まだフェイトと言う少女と接点すらない柳生の二人は静観している。

 特にいち早く通信の『フェイト』と言う言葉に反応したアルフは、

 

「フェイト……」

 

 主の名前を呟いて苦しそうな顔で瞳を潤ませ、銀時はそんな俯く彼女を横目で見ている。

 

「フェイトちゃん……」

 

 なのははまだ彼女のやったことが信じられない、そして彼女自身を心配しているといった表情を作っていた。

 



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第四十二話:黒幕

「フェイトさんからの通信というのは!」

 

 険しい表情を作りながらブリッジに入るリンディ。

 そして彼女の後ろからぞろぞろ入って来るのは江戸組と魔法少女組。各々が思い思いの表情を作っていた。

 

「フェイトォーッ!!」

 

 いの一番に主の名を叫んだのはアルフ。まだショックが抜けきれないはずであるのに、彼女の心はまだ主に向いていたのだ。

 そしてブリッジのモニターに映っていたのは、

 

『よォ、久しぶりだな』

 

 まったく知らない男だった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 それを見たブリッジにやって来た全員(アルフを抜いた)の視線がジト目へと変わる。

 

『ククク。どうやら俺の登場に声も出な――』

 

 男の言葉を聞かずアルフを抜いた全員がブリッジから出ようと180度方向転換。

 

『まてまてまてまてまて!!』

 

 この小説で一回も顔を出したことない男が全員を引き止める。

 

『なに平然と帰ろうとしてんだ!! 普通ここは〝お前は誰だ!?〟的な反応をするとこだろ!!』

「いや、僕たちフェイトちゃんからの通信があると聞いて来たので――」

「おめぇみてぇなおっさんに用はねェんだヨ」

 

 ジト目の新八と神楽がバッサリ返す。

 

『誰がおっさんだ!! まだ体は二十歳なんですけど!!』

 

 謎の男は憤慨。とはいえ、新八と神楽の態度も仕方のないことだろう。

 すると呆れ顔のリンディは、通信を受け持っている局員に顔を向ける。

 

「これはどう言うことですか? 新八さんと神楽さんの言うとおり、私たちは『フェイト』さんからの通信と聞いて急いでここまできたんですよ」

 

 さすがに見知らぬ男が通信してきたら艦長であるリンディも出張るところではあるだろう。が、前もって『フェイトが通信してきた』と聞かされているのだ。

 なのに出てきたのは新八や山崎とは別の意味で特に特徴のない日本人風の男。どう言いつくろったところで肩透かしには変わりない。

 

 局員は少々戸惑いながら口を開く。

 

「い、いえ……それが……。通信に出ている男が『フェイト・テスタロッサの仲間』だと言いましたので」

「フェイトちゃん、の……」

 

 呟くなのはに続くように、アルフも信じられないといった顔で口を開く。

 

「…………仲間?」

 

 局員の言葉を聴いて江戸組も魔法少女組も顔を見合わせて戸惑い顔だ。

 

「おい、適当なこと言ってんじゃないネ!」

 

 いの一番に声を上げたのは神楽。

 

「なんでお前みたいなむさ苦しい男とフェイトが仲間なんだヨ!」

 

 神楽の意見はもっともだ。この男とフェイトが仲間であるという言葉を真に受けるほど彼らもさすがに馬鹿でも単純でもない。

 すると謎の男はケタケタと笑い声を漏らす。

 

『まぁ、そういう前情報があるならお前らの反応も仕方ねェか。だが、本当だ。俺は〝フェイト・テスタロッサの仲間〟としておたくらに通信してんだぜ?』

「証拠はあんのか?」

 

 銀時が鋭い視線を男に向ける。

 

『ククク……こいつを見てみな』

 

 男が体を横へと少しどかし、背景が見えるようにした。するとそこに写っていたのは一人の女性。

 

『あら、ようやく私の出番のようね』

 

 露出の多いドレスを着こなし、血色の悪い顔。手には仰々しい杖を手に持って立っているプレシア・テスタロッサが登場したのだ。

 

「ぷ……プレシア……!」

 

 女性の顔を見て身を見開くアルフ。

 

『あら、久しぶりねアルフ。随分元気がないようだけど、フェイトと〝喧嘩〟でもしたかしら?』

 

 ニヤリと笑うプレシアの表情と言葉を聞いた途端、

 

「プレシアァァァァァァッ!!」

 

 アルフは叫び、モニターに噛みつかんばかりに前に出る。

 

「おい落ち着け」

 

 さすがに見かねた銀時がアルフを羽交い絞めして止めに入る。だがアルフは気にも止めず、銀時の拘束を振りほどかんとする勢いで暴れていた。

 

『あらあら。随分と好意的じゃない、アルフ』

 

 プレシアはニヤリと笑みを浮かべたまま軽口を叩く。

 

「あんたか!!」

 

 アルフは涙を流しながら憎しみと怒りを込めた眼光をプレシアに向ける。

 

「あんたがフェイトに〝あんなこと〟を言わせたのかァァァァァァッ!!」

『あら、なんのことかしら? 記憶にないわね』

 

 とプレシアは露骨に首を傾げた。

 

「プレシアァァァァァァァッ!!」

 

 アルフは喉が張り裂けんばかりに憎々しい相手の名を叫ぶ。

 フェイトが自分を切り捨てた原因はプレシアにあると考えたのだろう。いや、それ以外考えられないと言っていいかもしれない。

 

 リンディが一歩前に出て口を開く。

 

「プレシア・テスタロッサ、あなたも随分と良い性格をしていますね」

 

 皮肉を込めた言葉を受けたプレシアはあっけらかんとした態度。

 

『あら、私はただ娘の使い魔と楽しくお喋りしていただけよ?』

「そうですか」

 

 そう返したリンディがチラリと視線を向けた先はアルフ。使い魔はプレシアの名を叫びながら暴れまくっている。

 アルフの反応からプレシア・テスタロッサ――フェイトの母である彼女の人間性を考えているのだろう。

 リンディは再びモニターへと視線を戻す。

 

「今回のジュエルシードを巡る事件。あなたが首謀者――つまり黒幕であることは既に銀時さんから説明を受けています」

『あら? 依頼を放棄するつもり、坂田銀時。それにあなたは守秘義務すら守れない人間のようね』

 

 プレシアは銀時に鋭い眼光を向ける。

 銀時はアルフを抑えながら「けッ……!」と吐き捨てる。

 

自分(テメェ)の娘使って切り捨てといて何言ってやがる」

「あなたは一体なにを目的として、幼い娘に危険なロストロギアの回収をさせていたのですか?」

 

 毅然としたリンディの質問にプレシアは不敵な笑みを浮かべた。

 

『私の目的は――』

 

 すると突如として画面がガクッと下に落ち、写っていた映像の視点がズレてしまう。それと同時にデカイチ○コのような物が見える――そう、〝プレシアの股間〟から。

 

「「「「「………………」」」」」

 

 それを見て、その場にいた者たちは絶句し、白目。

 

『――約束の地、〝アルハザード〟に行くこと!!』

 

 とプレシアがかなり事件の核心に触れる部分を宣言した。

 だが、画面に映っているのは彼女の狂った顔ではなく下半身――そして彼女の股間から生えたデカイ棒のようなモノ。映像にすればモザイク処理がいりそうなナニか。

 

 ――…………え? ……なにあれ?

 

 さすがの銀時も目を点にする。画面に映るのは大根くらいありそうなデカイナニか。

 

 ――つうか…………なに? ……え? …………ナニじゃね? アレ?

 

 まさかの巨大チ○コが登場――しかも女性の股間から生えているのだから思考停止しても仕方ない。

 

『…………あら? なんか何も反応が返ってこないわよ?』

 

 画面の向こうのプレシアが不思議そうな声を出す。

 

 ――なにこれ? ……なんでチ○コが喋ってんの?

 

 もう銀時にはチ○コがプレシアでプレシアがチ○コなのか分からなくなってきていた。

 すると画面に映ったチ○コが横に向き、その長さを見せ付ける。

 

『ちょっと。決め台詞の時にカメラが下がっちゃったわよ』

 

 すると画面外から、忍者が履くような裾が詰まった袴と黒い足袋を履いた足が姿を見せた。ぎりぎりチ○コに当たらない距離を保ちながら。

 

『ええそう。直して頂戴』

 

 ぶんぶんと首っつうか、チ○コが縦に震える。すると画面がブレだし、焦点が上へと持ち上がり始めた。

 そしてプレシアの上半身――胸と顔の部分が写る。

 

『まったく……話の腰が折れてしまったわね』

 

 ため息を吐いたプレシアは、コホンと息を吐く。そして再びニヤリと狂った笑顔を浮かべる。

 

『私の目的は約束の地アルハ――』

「「いや、ちょっと待てェェェェェェェッ!!」」

 

 シャウトしたのは新八と銀時。

 

『ちょっと。邪魔しないでくれるかしら? こっちはキメ台詞の途中なのよ?』

 

 とプレシアは不服そうな表情。対して、銀時ビシッとプレシアを指さす。

 

「いや、おかしい!! キメ台詞とかお前が言っちゃう以前に相当おかしいモノが画面に映った!!」

「なんであんたの股間にバベルの塔が生えてんですか!! 貞子かあんたは!!」

 

 新八のツッコミを聞いてプレシアはやれやれと首を横に振る。

 

『まったく。そんな細かいことはどうでもいいでしょう』

「細かくねぇよ!! 寧ろデカかったぞ!!」

 

 と銀時。

 

『あら? コレのことかしら?』

 

 するとプレシアはブチリと何かを引きちぎり、手にチ○コを持って見せ付けた。

 

「「取ったァァァァァァァッ!?」」

 

 新八と銀時はまさかの行動に口をあんぐり。対して、プレシアはあっけらかんとした顔。

 

『あら知らなかったのかしら? 魔導師は大魔導師にランクアップすると股間にデカイナニが生えるのよ』

「そ、そうなのクロノくん!?」

 

 となのはは驚愕の表情。

 

「んなワケあるかぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 クロノは青筋浮かべて怒鳴り返す。

 

『ちょっとフレームを小さくして頂戴』

 

 プレシアに言われ何者かが操作し、画面のフレームが小さくなるとプレシアの全体像が写りだす。

 

『ちなみに何度でも生やすことができるわ』

 

 そうプレシアが言った後、彼女の股間からにょきっと新たなデカイチ○コが出現。

 

「「生えたァァァァァァァァッ!?」」

 

 新八と銀時はまさかの光景に絶叫。

 次にプレシアは腰に手を回し、チンコを虹色に光らせる。

 

『そしてここから魔法を発射することもでき――!!』

『なにやってんだテメェはァーッ!!』

 

 すると謎の男がプレシアの顔面を思いっきりぶん殴る。

 

「「殴られたァァァァァァァッ!」」

 

 もうただ叫びたいだけじゃね? という感じの新八と銀時は放っておき、画面では信じられないことが起きた。

 なんとプレシアの体が縮め始めたではないか。いや、服も何もかもが変化し、ドレスは白いワンピースに、肌は浅黒くなり、髪は白髪へと変色していく。

 そして姿がまるで違うモノになったプレシアは、

 

『ちょっと痛いじゃない!! 頬をぶん殴ることないでしょ!!』

 

 なんとフェイトと同じくらいの背丈に、白髪で浅黒い肌をし、白いワンピースを着た少女へと変化。

 涙目で怒る浅黒い肌の少女の言葉に謎の男が怒鳴り声を上げる。

 

『うるせェーッ!! フェイトが報告してきた時もそうだったが、ちゃんとプレシア演じろよ!! なんでSMプレイ強調させてんだ!! なんで股間からイチモツ生えてんだァァァァァァァァッ!!』

『別にいいじゃない!! だってコミケの薄い漫画で女の人にチ○コが生えた奴再現したかったんだもん!!』

 

 と薄いエロ漫画を両手に持つ白髪の少女。

 謎の男は怒鳴る。

 

『〝もん〟じゃねぇよ!! なにかわいい感じでどキツイ事言ってんだテメェは!! まじめにやれ!!』

 

 怒鳴りツッコミした謎の男は、画面に顔を向けた。

 

『いやーすんませんね。こいつほんとアドリブばっかでまじめに演技しないアホなんですよ』

 

 などと恭しく言う謎の男。

 もうブリッジにいる全員、今画面の向こうで何が起こっているのか理解できないのか絶句している始末だ。

 謎の男は人差し指立てる。

 

『だから、もう一回いきます! TAKE2いくんで、よろしくお願いします』

 

 そう言って頭を下げる謎の男は後ろで棒立ちしている少女にキッと鋭い目を向けた。

 

『ほら。お前もちゃんと誠意見せて謝んなさい』

『は~い、ごめんなさい』

 

 浅黒い肌の少女は前に出てあんまり誠意の見えない態度で頭を下げる。

 謎の男はぱんぱんと手を叩く。

 

『よし。TAKE2。〝プレシア目的暴露〟だ。準備しろ~』

『は~い』

 

 浅黒い少女は手を上げて返事をし、体も服装もプレシアの姿に完璧に変身。

 

『じゃ、目的発表のとこから』

 

 白髪少女が変身したプレシアは頷き、両手を広げた。

 

『私の目的はアルハザードに――』

「いや、ちょっと待てェェェェェェェェェッ!!」

 

 そこでようやく新八がシャウトし、ビシッと指を向ける。

 

「なにさっきまでのやり取りなかった感じに話進めようとしてんだ!! 今の見せられて話進むわけねェだろ!!」

 

 顔に青筋浮かべてツッコミ炸裂させる眼鏡。

 

『………………』

 

 すると謎の少女はプレシアからまた元の浅黒い肌の白髪少女の姿へと戻った。

 

「あんたらは一体なんなんだ!! 何でプレシアさんに変身してんだ!! フェイトちゃんはどこいった!! あんたらの目的なんなんだァァァァァァァァッ!!」

 

 抱えてる疑問を発散させるかの如く新八は声を張り上げる。

 新八の叫びを聞いてリンディも我に返ったのか、画面に映る謎の人物たちに顔を向けた。

 

「あなたたちは一体何者ですか? プレシアさんに変身したその能力……その能力を使ってあなた方はフェイトさんとプレシアさんに罪を着せようとしているだけではありませんか?」

 

 一見すると完全にアホの垂れ流しみたいな映像だった。が、今回の事件に関わってきた者たちの情報と今の映像から彼らの目的を憶測しているであろうリンディは言葉を続ける。

 

「あなた方の目的はジュエルシード。そしてその能力を使いなんの罪もないプレシアさんとフェイトさんに罪を被せる。それがあなた方の描いた筋書きでは?」

 

 少々強引な推理を聞いた土方は、なるほどな、といった顔。リンディが奴らから情報を引き出そうとしているのが分かったのだろう。

 なぜ正体をバラすミスを犯したかはともかくとしてだ。強引でもいい、彼らの罪を問うことで何らかの有力な情報を口から滑らせるつもりに違いない。

 

「テメェらまさか……」

 

 そこで銀時はあることに気づく。

 

「最初からプレシアに化けてやがったのか? そんでフェイトを利用してたんじゃねェのか? プレシアはどこかに監禁して」

「答えろ!!」

 

 続けてアルフが怒鳴り声を上げながら問い詰める。

 

「あんたらが黒幕なのか!! あんたらがフェイトを騙してジュエルシード集めさせて、あの子を悪者に仕立て上げようとしたのか!!」

 

 射殺さんばかりに画面の向こうの者達を睨み付けるアルフは、より一層悲痛な声で叫ぶ。

 

「答えろォォォーッ!!」

 

 アルフの必死な思いが伝わってくる。プレシアにしろ、謎の者達にしろ、フェイトが自分を捨てていった『仕方のない理由』を探しているのだ。だから縋り付くように悪者を探しているに違いない。

 

『プッ……』

 

 噴出す白髪の少女。

 

『ククク……アハハハ……!』

 

 謎の男もケタケタと笑い声を漏らし始める。

 

『『アハハハハハハハハハッ!!』』

 

 そしてついに二人は腹を抱えながら笑い出す。

 

「なにがおかしい!!」

 

 アルフは人を小ばかにしたように笑い声を上げる二人を睨み付ける。

 一通り笑い声を上げた後、

 

『全然ちげぇよ狼が!!』

 

 謎の男は吐き捨てるように言う。浅黒い少女も続く。

 

『私たちがホントに黒幕か何かだとでも思ってんの? ププ……勘違いもいいとこね』

 

 浅黒い肌の少女もワザとらしい笑い声を出して嘲笑。そして謎の男は耳の穴を穿る。

 

『あ~あ、やだやだ。これだから捨て犬――いや、捨て狼は。主に捨てられといて、ま~だ自分の現実に向き合いないでいやがるんだからな』

 

 それを聞いてアルフの瞳孔が開き、

 

「ふざけるなぁぁぁぁぁーーッ!!」

 

 張り裂けんばかりの声を張り上げた。対して、謎の男はニヤニヤと耳くそ眺める。

 

『あ~あ。おたくの主に聞いてた通り聞き分けのなってない犬だなァ。事実を否定したって虚しいだけなのに』

「口から出まかせ言うな!! 殺されたいのか!!」

 

 アルフは今にも喉笛を噛み切ってやると言わんばかりに映像の相手を威嚇。だが相手は映像の向こう。彼女にはただ怒声を浴びせることしかできない。

 

『俺は最初に言ったと思うんだけどなぁ……〝フェイト・テスタロッサから通信です〟って』

 

 謎の男のねっとりとした声。それを聞いてアルフの動きが止まる。

 

「あんた……なに言って……」

『なぁ、ご主人様さん』

 

 男が一歩引き、現れる人物――。

 

「ふぇ……」

 

 その姿を見てなのはが声を漏らし、

 

「フェイトォォォォォッ!!」

 

 アルフがありったけの声で自身の主の名を叫ぶ。

 示し合わせたかのように現れた私服姿のフェイトは片腕に手で握り、視線を逸らしながら現れる。

 一歩一歩、ゆっくりと前に現れるフェイト。

 

『では紹介しましょう! この方こそ、俺達の依頼主!』

 

 謎の男は手を上げて軽快に言えば、

 

『フェイト・テスタロッサちゃんで~す!』

 

 白髪の少女はぱちぱちと拍手。

 そして謎の男はフェイトの首に腕を回す。

 

『このフェイトちゃんならぬフェイトさんこそが、俺らの依頼人その人なのです』

「依頼人だと?」

 

 土方は相手の態度にイラつきを見せながら眼光が鋭くした。

 

『ジュエルシード回収のお手伝いの依頼ってこと。実はあんたらがジュエルシードをちゃ~ん回収できるように見張っていたのよね』

 

 白髪の少女が順番に指差すのは、銀時とアルフ。

 

『まぁ、そこの銀髪は役に立たなそうだから消すつもりだったけどな』

 

 謎の男はあっけらかんとした表情で銀時を指差す。

 

『折角の依頼なのに余計な奴のせいでプラン崩されたくないしね』

 

 白髪の少女はやれやれといった表情をし、謎の男はフェイトの両肩に手を置く。

 

『まぁ、依頼主殿が必要ないと言ってくれたんで俺らも渋々銀髪抹殺は取りやめたんだがな』

『そうそう』

 

 白髪の少女は相槌を打つ。

 

「あなた方は何者なのですか?」

 

 その場の誰もが思っているだろう疑問をリンディが問いかける。

 

『まさか……俺らが正体バラすとあんた本気で思ってんのか?』

 

 謎の男が目を鋭くさせるが、リンディは怯まない。

 

「なら何故通信まで使って正体を現したんですか? それはあなた方が自分達を私たちに教えるという考えの表れでは?」

 

 すると謎の男は目を瞑り、頭をぼりぼり掻く。そしてやがて目を開き、低い声を出す。

 

『おたくら……〝クリミナル〟ってご存知?』

「くりみなる……?」

 

 新八は謎の単語に疑問符を浮かべ、リンディが答えを言う。

 

「クリミナルとは……『傭兵集団クリミナル』のことですか?」

『正解』

 

 ニヤリと笑みを浮かべるクリミナルと呼ばれる組織のメンバーの男。

 

「リンディ殿。そのくりなんたらとは?」

 

 近藤の疑問にクロノが答える。

 

「通称――傭兵集団クリミナル。報酬さへ出せば、殺人、強奪、戦争、なんでもする連中だ」

「管理局でも犯罪集団として最近注視され始めてきた一団です」

 

 とリンディが言葉を付け足す。

 

『おいおい、犯罪集団はないだろ』

 

 やれやれと首を振るクリミナルの男に続いて、隣の少女が首を縦に振る。

 

『ええそうね。クリミナルはただ依頼人のご期待に答えてるだけなんだから』

「ふざけるな! 金の為に犯罪を起こすなど、言語道断だ!!」

 

 正義感の強い執務官がここ一番に声を上げた。だが一方で、リンディは冷静な態度を崩さない。

 

「管理局に名を知られているとはいえ、なぜここまで公に姿を公表したのですか? 管理局が怖くないと?」

 

 リンディの問いに不敵に笑うクリミナルの男。

 

『寧ろ怖がる要素がどこにあると?』

「なッ……」

 

 クロノは相手の回答を聞いてありえないとばかりに声を漏らした。管理局を巨大な公的組織として認識している彼にしてみれば意外な返答だったのだろう。

 白髪の少女は目を瞑り、語る。

 

『人材不足が慢性的で、基本的な魔導師はCランク~Bランクがざら』

 

 続けて謎の男が口を開く。

 

『ちょっと魔法が使える程度の人間風情しか集まってない集団に、俺らをどうこうできると思えんしな』

 

 ケタケタと笑いながら言うクリミナルのメンバー二人。

 対して、クロノが不敵な笑みを浮かべる。

 

「そう思うならそう思うがいい。その考えが君達の命取りになるかもしれないからね」

『ああそう』

 

 クリミナルの少女は興味なさ気に髪を弄りだす。

 リンディは視線を鋭くさせた。

 

「それで、私の疑問には答えてくれるんですか?」

(はく)だよ』

 

 クリミナルの男の即答を聞いてリンディは顎に手を当てて思案する。

 

(はく)……ですか。なるほど……随分イカレた方達のようですね」

 

 リンディの言葉の意図に気付いたであろうクロノは荒げ気味の声を出す。

 

「管理局が君たちの評判稼ぎの踏み台になると思っているのか!!」

『人間風情がデカイ口叩くな』

 

 冷たい声音を出し、クリミナルの男は首を傾ける。

 

『まさか魔法が使える程度の人間しかいない脆弱な組織の連中を俺らが捻じ伏せられないと?』

『ま、せいぜい頑張りなさい。あんたらが頑張ったら頑張った分だけ、倒せば私たちの名が売れるんだし』

 

 白髪の少女はニコニコしながら言う。

 

「さっきから聞いてりゃあ人間風情とよ。まるでテメェら人間じゃねェみてぇじゃねェか」

 

 と言って銀時はクリミナルの二人を睨み付けた。

 すると突如、銀時たちにとっては信じられない物が映像に映し出される。

 

『あたしはトランス』

 

 トランスと名乗った白髪で浅黒い肌の少女は自身の指を一メートルほど長く伸ばし、

 

『キシャァァァァァッ!!』

 

 隣の男の頭が垂れたと思ったら、その後頭部の真ん中の頭皮が左右にパカっと開く。そして蜘蛛の頭にピラニアの顔が付いたような肌色の奇怪な生物が出てくる。

 

『こいつはパラサイト』

 

 キシャァァァァッ!! と叫ぶ生物をトランスは親指で指し、彼の変わりに名前を告げた。

 

「な、なにあれ!?」

 

 アリサはパラサイトを見て腕を抱いて嫌悪感を露にしていた。

 

「………………」

 

 すずかは口を押さえ、目の前に光景に呆然としている。

 

「ひ、土方さん!! もしかしてあれが――!!」

 

 一方、新八はパラサイトの方を見てすぐに何かを察したようだ。

 

「ああ、間違いねぇ。屋上で俺達が追い詰めたあのバケモンだ」

 

 これでやっと土方たちを影からこそこそ見ていた連中の正体と目的がはっきりした。奴らこそが今回の事件で暗躍していた者達の正体なのだ。

 

「クリミナルのメンバーのほとんどが人間ではないという情報だったが……」

 

 画面の光景にクロノも唖然とし、リンディも汗を流す。

 

「どうやらこれではっきりしましたね。クリミナルは知能を持った人外生物の集団」

 

 するといつの間にかまた『本体』であろう虫を頭に戻したパラサイトが不適な笑みを浮かべる。

 

『はッ! そう言うことだ管理局員共! てめぇらの脆弱な魔法じゃ俺たち倒すことはおろか、捕まえることなんざできはしない!!』

 

 クロノは眼光を強め、声を上げる。

 

「ふざけるな!! 人間をなめ――!!」

「人間を舐めん方がいいぞ物の怪共」

 

 そう言ったのは近藤勲。彼はクロノの横に並び執務官の肩を叩く。

 クロノは「近藤さん?」と不思議そうに彼の顔を見つめ、真選組局長はそんな少年に不敵な笑み浮かべてから画面に顔を向ける。

 

「法を遵守する人間を――安寧に暮らす人々を守ろうとする者達の底力を舐めない方がいい」

 

 そう言う近藤の視線には強い芯が感じられた。

 

「近藤さん……」

 

 嬉しそうに声を出すクロノ。

 クロノも仕事柄管理局員と言うことで煙たがれたりすることもあったのだろう。だがそれでも強い正義感を持って法の裁きを下してきたに違いない。

 そしてまた、真選組局長である近藤勲も同じ法を守り、人々を守る組織の一員。そんな彼の心強い言葉に感銘を受けているようである。

 

『…………』

 

 近藤を見たパラサイトは目をぱちくりさせ、トランスに顔を向ける。

 

『おい、ゴリラに説教されちゃったんだけど俺』

「ゴリラじゃないから!! 俺人間だから!! 真選組局長だから!!」

 

 近藤はこの流れからのゴリラ扱いに涙目で訴える。対して、パラサイトは引き気味。

 

『うっわ、やっべー……。ゴリラが人間の言葉喋ってんぞ』

『ねぇ怪人ゴリラさん。私たちの仲間にならない? 一緒に人間共を駆逐しましょ?』

 

 笑顔で勧誘するトランスの言葉に近藤は必死に弁明しだす。

 

「怪人ゴリラってなに!? 俺ゴリラっぽいかもしれないけど列記としたホモサピエンスだから!! ヒューマンだから!! この流れからゴリラ扱いとか酷くない!? 折角キメ台詞まで言ったのに!!」

 

 落ち込む近藤の肩をポンと叩く神楽。すると近藤は嬉しそうに少女に顔を向け、チャイナ娘は笑顔で。

 

「元気だすネ。ゴリラ・ゴリラ・ゴリラ」

「うわァァァァァんッ!!」

 

 近藤は泣き崩れる。

 

「泣かすなァーッ!!」

 

 と土方が怒鳴り、ツッコミ開始。

 

「数少ない活躍シーンからどんだけ人のこと落とせば気が済むんだよお前!! この人原作でも活躍シーンあんまないんだぞ!!」

「トシィーッ!! 俺、原作でも結構活躍してるよォーッ!!」

 

 近藤はおいおい泣く。

 

「あ、ごめん……」

 

 上司を泣かした失言に汗を流す土方。

 軌道修正しようとしてかリンディが「こほん!」と咳払い。

 

「私にはまだ腑に落ちない点があります」

『へぇ~……』

 

 パラサイトは目を細め、リンディは問いかける。

 

「何故〝今〟になって自分達の正体を現したのですか? 最初からあなた方が行動すれば済む話ではないのですか?」

『まぁ、ごもっともな疑問だ』

 

 ポリポリと頭を搔きながらパラサイトは言う。

 

『変わったんだよ……依頼人が。だから途中から俺らも参加で管理局出し抜くプランに変更したわけ』

「誰から誰に?」

 

 リンディの問いにパラサイトはニヤリと笑みを浮かべ、フェイトに指を向ける。

 

『今の依頼人がこいつ。そんで――』

 

 後ろに目を向けるパラサイト。すると後ろから鉤爪を手に装着し、口元を襟で隠し、黒いポニーテールの女忍者やって来る。その手には布を被せた丸い物があった。

 その見覚えのるあるくノ一の姿を見て土方の目が見開かれる。

 

「あいつは……!」

 

 土方や沖田の話から出て来た女忍者なのだろう。そして奴らの仲間の一人と言う事だ。

 パラサイトが女忍者が手に持った布に手をかける。

 

『こいつが前の依頼人だ』

 

 布が取り払われ、中にある物が映し出された。

 それを見て、艦長室にいる者達の表情が凍りつく。

 なにせそれは――。

 

『プレシア・テスタロッサ。俺達に〝最初〟に依頼した女だ』

 

 目を瞑り、安らかな表情を浮かべた――プレシアの頭だった。

 

 

 



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第四十三話:真実

『――プレシア・テスタロッサ。俺達に〝最初〟に依頼した女だ。いや、元依頼主って言うべきか』

 

 パラサイトが頭を鷲づかみながらプレシア・テスタロッサの生首を見せ付け、ブリッジ全体が凍りつく。

 なのはとすずかは口元を抑えて顔を青くし、ユーノとアリサと神楽と新八と真選組の四人も驚愕の表情を浮かべている。事件に詳しくない東城と九兵衛ですら表情は険しい。

 なにより一番衝撃を受けているのは信じられないと顔のアルフだろう。

 それを見た銀時は驚きの顔を浮かべながらもゆっくりと口を開く。

 

「……じゃあ、俺が最初にあったプレシアは……やっぱり最初からテメェらが化けた姿ってことか? なるほどな。そりゃそうだ。あの無駄に良い子ちゃんなフェイトの母親があそこまでヤベェ感じがするワケねェからな」

 

 今の言葉にフェイトは一瞬ピクリと反応したように見えたが、それは細やかな変化であり更にブリッジにいる他の面々の視線は銀時とトランスに向いており気付かなかった。

  

『う~ん……簡単に答えを言っちゃうのは面白くないし~……折角だから~……』

 

 とトランスは頬に人差し指を当てて少し悩んだ後、目を開いて口元を少し吊り上げる。

 

『今まで会ったプレシアは私か、それとも本物か。どっちだと思う?』

 

 暇潰しと言わんばかりに出したトランスの問題に対して銀時は少し視線を逸らした後、ニヤリと口元を吊り上げて「そんなの簡単だ」と言って薄褐色の少女に真剣な表情でビシッと指を突き付ける。

 

「最初の冷徹ババアが偽モン。そして再会した変態ババアが本物であることにワンチャン掛けようじゃねェか」

『えッ? それで良いの?』

 

 とトランスは意外と言わんばかりの声を出し、新八はジト目で汗を流しながらツッコミ入れる。

 

「あの……銀さん。あなたとあの子がなんの話してるか分かりませんけど、あんたプレシアさんにとんでもない風評被害与えようとしてません? つうかあんたプレシアさんを普段どんな風に見てるんですか?」

 

 話を遮るようにリンディが口を開く。

 

「銀時さんの言う本物か偽物かの問題は置いといて、別の質問をします。あなたたちがプレシア・テスタロッサを殺害したのですか?」

 

 リンディに続いてクロノも眼光を鋭くする。

 

「契約すら終えてないうちに依頼人を殺害して、よくもまぁぬけぬけと傭兵と名乗れるものだな」

『おいおい、勘違いしてもらっちゃ困るぜ。なァ?』

 

 パラサイトの言葉にトランスは頷く。

 

『ええそうね。だって〝私たち〟が()ったワケじゃないもの』

「お前達以外に該当する人物を僕は思いつかないのだが?」

 

 鋭い眼光のクロノの問いにパラサイトは自分の頭をつんつん指す。

 

『その足りないオツムでよ~く考えてみろ? この女を殺しそうな奴が一人いるだろ? そんで俺達の依頼主が変わった。もう答えは出ているんじゃねェか?』

 

 リンディはパッとアルフに目を向ける。

 リンディの視線に気づいた新八は察した。アルフを疑ったのだろうと。だがその視線がアルフからすぐに逸れたところを考えて、リンディはありえないと判断したのだろう。確かにアルフがプレシアのことをよく思ってはいないのは銀時の話からしても間違いないだろうが、犯人でないことはその態度から見ても明らかなのだから。

 やがてリンディの視線は画面の隅で視線を逸らす金髪の少女にふっと向いている。彼女の推測を予想した新八は全身に鳥肌が立ち、嫌な脂汗が流れるのを感じ始める。

 アースラ艦長は少し息を吐き出し、汗を流しながら決意を固めたように口を開く。

 

「――フェイトさん……ですか?」

『う~ん……』

 

 パラサイトは顎に手を当ててワザとらしく思案顔を作り、やがてニヤリと笑みを浮かべる。

 

『正解』

 

 その言葉を聞いてアルフは全身の毛が逆立つかの如く目を見開きギリィと歯を軋ませた後、

 

「ふざけるなァァァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 溢れんばかりに叫び、そして血走った目をパラサイトへと向ける。

 

「口から出まかせ言うなァァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 新八やなのはやアリサやすずかなどが威圧されるほど怒りが籠った声でありったけ叫んだアルフは肩を上下させるほど息を荒くさせながらも手すりに手を付き、呼吸が整わないままに捲くし立てるように怒鳴る。

 

「フェイトがそんなことするワケないだろッ!! プレシアは酷い母親だッ!! でもフェイトはそれでも母親の笑顔がみたいって理由だけで頑張ってきたんだよッ!! そんな子が母親を手にかけるはずないだろッ!!」

 

 アルフの怒鳴り声に威圧されてトランスの発言に反応できなかった新八だったが、ハッと我に返ってモニターに向かって声を上げる。

 

「そッ、そうだ!! 悪ふざけにしてもほどがある!!」

 

 新八が怒鳴れば続いて神楽も怒鳴る。

 

「適当な事言ってフェイトに罪を着せようたってそうは問屋がおろさないネ!!」

「もうちょっとまともな冗談言ったらどうなのよ!!」

 

 アリサも憤慨する。

 そして声を上げずともなのはですら、クリミナルの面々に少なからず鋭い視線を向けている。心根が優しい彼女から怒りの感情が垣間見れるほど、やはりクリミナルと言う連中の言い分は我慢ならないのだろう。

 パラサイトは各々の言葉を聞いてやれやれと首を横に振る。

 

『あらら。俺の言葉は全否定か』

「当たり前だッ!!」

 

 アルフは牙を見せ、凄まじい威圧感を放つ形相で睨む。

 アルフの怒りを代弁するように新八が感情のままに怒鳴り声を上げる。

 

「あんたらはフェイトちゃんを知らないからそんなことが言えるんだろ!! その子は平気で人を――ましてや母親を殺すような子じゃない!!」

『あん? おいおい、なんだそりゃ』

 

 パラサイトは訝し気に肩眉を上げた後、目を細める。

 

『ただ単に〝ジュエルシード取り合ってるだけの関係〟の奴らが随分知ったような口だなァ』

「ッ! そ、それは……!」

 

 感情のままに自身の意見をぶつけてしまった新八はハッとし、押し黙ってしまう。

 映画を見てフェイトの人となりを知っている、などと言う言葉をこのアースラのブリッジで暴露するワケにもいかないので反論の言葉がうまく出てこない。

 無論それは映画で彼女の事を知っている者たち全員に言えることだ。『本当の意味』でフェイトを知っている者はジュエルシードを取り合っているメンバーにはいないのかもしれないと彼は頭の隅で考えてしまっていた。フェイトとぶつかり合い、多少なりとも彼女のをことを知っているのだと言う考えも頭を過ったが、それでは反論には弱いとも考えてしまっている。

 だが新八と違いフェイトと言う少女をちゃんと知ってる人物が今このブリッジには二人いる。

 そのうちの一人である使い魔は新八たちを一瞥した後、

 

「こいつらと違ってあたしはフェイトのことをガキの時から知ってる!! あんたらなんかよりも遥かにだ!!」

 

 睨みを利かせ、力強い言葉と共に吠える。するとパラサイトはうんうんと頷く。

 

『よくまぁ、〝今の状況〟でそこまで言えるもんだ。まぁ、それほど言うなら……』パラサイトはフェイトに目を向ける。『――お前の〝ご主人様〟に直接言ってもらいますか』

「ッ!!」

 

 パラサイトの言葉にアルフは息が止まったような表情を浮かべている。

 アルフもきっと、今の〝異質な状況〟にすぐ気付いたのだろう。新八自身もそもそもずっと考えないようにしていた。そこに触れることを恐れていた。

 フェイトが表情の変化のないままずっと黙って静観しつづけていると言う状況に――。

 

『それじゃあ、我らが依頼人様に俺らの冤罪を晴らしてもらいましょうか』

 

 一歩パラサイトが後ろに下がると変わるようにフェイトが前に出てくる。

 

『そんじゃ、よろしく』

 

 そしてパラサイトは出てきたフェイトの肩に手を置く。俯くフェイトは一瞬肩を震わせたが、顔を上げた時はまるで感情が感じられないような無機質な瞳と表情を見せる。

 

「フェイト……ちゃん……」

 

 なのはは声を震わせる。彼女にとっては信じられないことだが、これから少女が言わんとしているしていることを予想してか不安が見て取れる表情で瞳を振るわせている。

 なによりフェイトを『心優しい少女』として知っている者たち全員が彼女の口から発せられる言葉に緊張と不安を覚えているのだ。

 

『……私が』フェイトが口を開く。『――母さんを〝殺した〟』

 

 言った――。

 あのフェイトの口から母を殺したと言う事実が発せられたのだ。その言葉が発せられた同時に限界まで目を見開くアルフ。

 

「ぁぁ……」

 

 アルフの口から声が漏れ出す。

 

「あああああああああああああああああッ!!」

 

 顔を横にぶんぶん振ってアルフは叫ぶ。今の言葉を否定するように、変わってしまったと思った主を認めたくないように。

 そして画面に映ったフェイトにキッ! と鋭い視線を向ける。

 

「どうせそいつはフェイトの偽者なんだろ!!」アルフは画面に映ったフェイトを指差す。「お前らの仲間の女みたいに他人に変身できる奴が化けてるだけなんだろッ!! フェイトを悪人しようとしてるだけなんだろッ!!」

 

 アルフの言葉にパラサイトは顎を指で摘まんでまたうんうん、と頷く。

 

『確かに使い魔さんの意見も一理ある』

『私が一度証拠みたいな物見せちゃったしねェ』

 

 トランスは苦笑しながら言う。

 だがもう、ブリッジにいる面々は薄々感づいているし、気づいているだろう。

 目の前の連中が、こう言いながらもこちらの希望も予想も裏切る物を見せてくると。そのワザとらしい言い回しからすぐに察することができるのだ。

 その時、クロノがハッと顔を上げて、状況と裏腹に冷静な声音でアルフに話しかける。

 

「アルフ。そもそも君は使い魔だ。ならあのフェイト・テスタロッサが本物であるかどうかなんてすぐに――」

『分かるワケないだろ』とパラサイトははっきり告げ、アルフを見下ろす。『だってそこの狼――ご主人様との〝リンク〟が今はないはずだからな』

「ッ!?」

 

 パラサイトの言葉を聞いて驚いたクロノはすぐさまアルフに顔を向けると、狼の使い魔は涙を流しながら歯噛みして拳を強く握り込んでいる。その姿が既に、ブリッジにいる面々に答えを物語っているようなものだった。

 パラサイトの言葉を聞いた銀時は険しい表情でクロノに顔を向ける。

 

「おい。その『リンク』ってのがねェと何かあるのか?」

『――消えるんだよ』

 

 とクロノ代わりに答えたのはパラサイト。そしてそのままニヤリと笑みを浮かべて残酷な事実を告げる。

 

『リンクが切れたっつうことは魔力は供給されない。つまり魔力で存在を保ってる使い魔の消滅を意味するってことだ』

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 冷たく言い放つパラサイトの言葉になのは、アリサ、すずか、神楽、新八、山崎、近藤は心底ショックを受けて目と口を見開き、土方と沖田も少なからず動揺している。あいにく柳生家の二人は今まで交流が少なかった為にどう反応すればいいか分からずことの成り行きを静観していているようだ。

 使い魔の存在に詳しいリンディとクロノとユーノは視線を既にアルフからモニターへと向けている。

 パラサイトはジロリとアルフに目を向ける。

 

『しっかし、そこの狼の強情だよなぁ。俺らもいつリンクが切れたのかまで知らねェが、自分が一番分かっているだろうに』

 

 そこまで言ってパラサイトはニヤリと厭味ったらしく口元を吊り上げる。

 

『――主に切り捨てられって事実をよォ』

 

 言葉を聞いてアルフはよりギリィと歯を強く軋ませ、拳を血が出るくらいに握りしめる。そして魔法にあまり詳しくなかった新八を含めたなのは組の面々はパラサイトの言葉で更に気づいただろう。

 フェイトが使い魔の存在を維持する為の魔力を供給するという行為を自ら止めていると言う事実に――。

 

「……一つ聞きかせろ」

 

 誰もが衝撃的な情報に言葉を閉ざしている時、ブリッジ内で声を発したのは銀時。彼は声のトーンを低くして質問する。

 

「さっきよ、アルフが聞いてたがそこにいんのは本当に『フェイト本人』なのか」

『あんた……何が聞きたいんだ?』

 

 パラサイトは目を細め、銀時は再度聞く。

 

「そいつがフェイトかって俺は聞いてんだよ。こっちもなァ、フェイトご本人に言いてェことがあるが、そいつが本物って分からねェと話しが始まんねェんだよ」

『おいおい……疑り深いねェ』

 

 鼻で笑い肩をすくめるパラサイトに対して銀時は低いトーンで告げる。

 

「ハガレンにでてきそうな奴お披露目しといて偽モン疑わねェ道理はねェだろ」

『まァ……そりゃそうだ』

 

 流し目でジロリとパラサイトはフェイトの隣に立つトランスを睨むと白髪の少女は掌を合わせて舌を出す。

 パラサイトは軽く舌打ちしたの後、フェイトの頭を上からポンポンと叩く。

 

『だがそうなると俺らの口からこれ以上、コイツが本物であるかどうかなんて証明しようがねェからな。もうご本人様に証明してもらう他ないだろう、な』

 

 「な」と言う発音と共に前かがみになったパラサイトはフェイトと同じ目線となり少女の顔を近づけ耳打ちをする。するとフェイトは一度目を瞑って深く息を吸って吐いた後、暗いながらも決意に満ちたの表情を作り上げる。

 するとアルフはハッと驚いた表情で、

 

「ッ!? ……フェ……イト……?」

 

 戸惑いとも困惑とも取れる表情で瞳を揺らしながら画面に映る主である少女を見つめる。新八は気付かなかったが、ブリッジ内でアルフの呟きを聞き洩らさなかったであろう銀時はすぐさまアルフに顔を向けていた。

 そしてフェイトは深く息を吸って吐いた後、

 

『……銀時、アルフ…………』

 

 名を呼ばれた銀時はすぐにアルフの顔を見るのを止めてフェイトの顔が映る画面へと向き直る。

 少しの間。新八は一体どんな言葉で本人として証明するのか? という緊張で深く唾をのみ込む。

 やがて――。

 

『銀時が私に食べさせたパフェには普通は食べない食材が乗っていた。それは?』

「ドックフード」

 

 ビシッと人差し指を突き付け、ちょっと決め顔で答える銀時。そしてフェイトは暗い表情で。

 

『ファイナルアンサー?』

「ファイナルアンサー」

『正解』

「くっそ! 本物じゃねェか!」

 

 銀時は悔しそうに腕を振るのだった。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 そしてアースラのオペレーター室の空気は変な感じとなり、シーンと静まり返る。

 

「……いや――」

 

 開口一番に口を開いたのはもちろんツッコミ眼鏡。

 

「なんで真面目な雰囲気でクイズゥゥ!? ノリおかしくない!? さっきまでシリアスは!? つうかあんたフェイトちゃんになんてもん食わせんだおい!!」

「え゛ッ? お前らドッグフードデザートにしてんの?」

 

 パラサイトは少し驚いた表情を見せる。

 

「ちょっとォォォ!? (あっち)も素で引いてんじゃん!!」

 

 新八のツッコミを聞いたパラサイトはすぐに画面へと顔を戻し、わざとらしく咳払い。

 

「ん、んん! まァ……これで本物だと証明できただろう」

「ゥゥッ…………!!」

 

 フェイトの言葉を聞いたアルフは俯いて歯を食いしばり、血がでんほどの勢いで強く拳を握りしめる。

 使い魔の必死な態度だけで答えは出たようなモノだろう。

 新八は内心、このままシリアス戻るんだ……、と呟く。

 後ろの方で様子を見ていた沖田はポツリと呟く。

 

「マジで犬の餌、年端もいかないガキに食わしたんだな」

「なんと可哀そうに……」

 

 近藤はほろりと涙を流し、そんな二人の言葉を隣で聞いていた土方は言う。

 

「犬の餌の部分に同情してんじゃねェよ。あいつが本物のフェイトだって事に悲壮感覚えろよ。いや、さっきの流れから悲壮感が大分薄れてるけども」

 

 フェイトは暗い表情のまま、口を開く。

 

『もしこの話で不十分なら。アルフと私だけが知っている話がある。……アルフと私が初めて任務に言った時、怪我をした時の話を――』

「いやだ……!!」

 

 そこでアルフはたまらず声を出し、フェイトの言葉をバッサリと切る。

 

「もう……いいから……!!」

 

 どう否定しても画面向こう側の人物がフェイト本人であると言う事実に対してか、頭と狼の耳を抑えつける。

 フェイトはそんなアルフの姿を見ても、

 

『ダメ。……ちゃんと聞いて』

 

 冷たい口調で言い放つ。

 パラサイトはフェイトの肩をぽんぽんと叩きながらニヤリと口元を吊り上げる。

 

『ホント、往生際の悪い使い魔さんだよなァ』

 

 アルフは涙を堪えながら頭と狼の耳を抑え続ける。

 

『これ以上聞くのは嫌か? なら話は打ち切ってそろそろおいとまでしましょうかねェ?』

『待って。話はまだ終わってない』

 

 フェイトは頑なに過去の思い出話を続けようとする。

 アルフは頭をぶんぶんと振るが、フェイトは構わず使い魔を見つめながら口を開く。

 

『……ねェ、アルフ。覚えてる? 私とあなたが始めて母さんに頼まれたお使いに行った時のこと』

「……ッ!!」

 

 アルフは唇を噛み必死に頭の耳を抑える。

 アルフの小さな抵抗もむなしく、フェイトはぽつりぽつりと語る。

 

『私も……アルフも……魔法を使っての初めて実戦だったから……目的の物を手に入れるのは大変だったよね……』

「もう……いいんだって……!!」

 

 アルフは唇を震わせ、歯を強くかみ締めて声を上げる。

 もしこのまま主の言葉を聞き続ければ、アルフは認めなければいけなくなるのだろう。

 フェイトが自分を捨てたこと、母親を殺したこと――非常とも思える現実全てを……。

 

『それで私が……ちょっと小さな傷を負っちゃったこと……覚えてる?』

「やめてくれ……!」

 

 アルフは涙を流し、前髪を掻きあがるように両手で頭を抑える。

  

『その時私が怪我をしちゃったよね……』

 

 そうしてフェイトが背を向け、上着の裾に手を掛ける。

 

『これがその時――』

 

 フェイトがそのまま上着を脱ぎ去ろうとする動作をトランスが右腕をガシっと掴んで止める。

 腕を掴む相手に顔を向けるフェイト。そしてトランスはニッコリ笑みを浮かべて。

 

『そこまでしなくていいから。そもそも見せても使い魔ちゃんくらいしか分かんないし、思い出話で充分だから』

『う、うん……』

 

 フェイトと不可解と言わんばかりの声で頷くがパラサイトが腕を組んで真顔でボソリと『別に大した事ないと思うけどな。上半身裸くらい』と呟いている。

 クリミナルたちの反応に新八たち若干不可解そうな表情でお互いの顔を見合ったり片眉を上げたりしている間にすぐさま進む。

 フェイトはまた体を半回転させて正面へと体を剥き直し話を続ける。

 

『……今の話は〝アルフ以外〟誰も知らないこと。フェイト・テスタロッサである、証明』

 

 フェイトの言葉を聞いたアルフは嗚咽を漏らし、頭と髪を掴む指に力が入っている。

 もう使い魔の態度だけで答えは出たようなモノだろう。

 アルフの悲痛な姿を見ていた銀時が映像に鋭い視線を向ける。

 

「……よ~く分かった。そこにいんのは確かにフェイトなんだろうな」

『だから最初からそう言ってんだろ』

 

 呆れたようにパラサイトはため息吐き、銀時は鋭い視線をフェイトへと向ける。

 

「……フェイト。テメェは〝本当〟にアルフを捨てたのか?」

「…………」

 

 だがフェイトは銀時の問いに答えない。更に銀髪の侍は問いかける。

 

「このままコイツにテメェの魔力ってのが補充されなきゃアルフは消えちまうんだぞ? それはつまりコイツが死ぬってことだ。おめェは本当にそれで構わねェのか?」

「私は――」 

 

 フェイトが答えようとした時、パラサイトが『はッ? おまえ何言ってんの?』と言いながら眉間に皺を寄せ、喋り出す。

 

『使い魔ってのは魔導師が必要な時だけ呼び出す、言わば一時的なお手伝い。つまり役に立つ道具だ。持ち主が道具をどうしようがなんら問題――』

「ちょっと黙ってくんない、お前」

 

 銀時の声は静か。だがパラサイトは思わず後ろに体を逸らす。それは銀時の眼光がまるで鬼や龍を連想させるほどに凄まじかったからだ。

 ブリッジにいるオペレーターたちはもまた銀時の威圧感を感じ取ってか、汗を流している者もちらほらいる。

 もちろんそれは江戸組には伝わっている。銀時がかなり圧を放っているのが……。

 

「俺はおめェに聞いてねェって。フェイトに聞いてんの」

 

 声は尚も静か。口調もそれほど荒くない。だが銀時の雰囲気から威圧感を感じてか、なのは、すずか、アリサ、クロノ、リンディは無意識に汗を流している。

 フェイトは銀時の視線を見てかたじろき一瞬瞳を揺らすが、すぐに冷たい眼差しに戻す。

 

『…………もう、今の私にアルフは必要ない』

「ッ!?」

 

 フェイトの『必要ない』という言葉が発せられた瞬間、アルフは肘から崩れ落ち顔を両手で覆いながら涙を流している。そして見えない彼女の顔からは嗚咽声が漏れている。

 なのはは「アルフさんッ!?」と声を上げてアルフに駆け寄り、彼女に続くようにアリサとすずかも狼の使い魔の元に心配そうに駆け寄っている。

 新八はフェイトの発言を聞いて殴られたような衝撃を受けながら信じられないとばかりに少女を見るが、アルフの主は冷たい瞳を向けるだけ。

 

「もしアルフが心配なら銀時が主にでもなんでもなればいい。首輪か何かでも付けて」

 

 フェイトの言葉でついにアルフは床に額を擦り付けて嗚咽を漏らしながらただただ涙を流す。

 もうこの中の誰よりも痛感している。主の口から告げられた『必要ない』と言う言葉――それはアルフにとってフェイトに捨てられたというなによりの事実になってしまったのだろう……。

 アルフのあんまりにも痛ましい姿を見たなのははいたたまれないようで涙目になりながらフェイトに訴える。

 

「フェイトちゃん! どうして……なんで……こんな……!!」

 

 上手く言葉にできないのかなのはは思った言葉をただ口に出している。

 

「………………」

 

 だがフェイトはなのはには目もくれず、ただ黙って銀時を見ている。

 銀時は涙を溢して崩れ落ちるアルフに視線を向けていたが、フェイトの視線を感じ取ってかまた映像に視線を戻す。

 銀時は少し不思議そうに眉間に皺を寄せている。それはフェイトの視線の先が顔よりもっと下に向いているからだ。

 銀時はハッと顔を上げ、思わず右ポケットに手を入れて何かを確かめ始める。

 その一連の流れに気付かなかった新八は、

 

「ちょっと待てッ!!」

 

 怒声を上げて人差し指を突き付ける。

 

「もしかしてあんたらがフェイトちゃんを脅してこんなことを――!!」

『俺らにこいつを脅せるモンがあると?』

 

 相手の切り返しに新八が言葉を詰まらせれば、パラサイトは画面に映ったプレシアの生首を掴んで説明する。

 

『母親はこの通り死んで、使い魔と銀髪も管理局の庇護か。身内以外でこいつにここまで言うこと聞かせられるモンがあると? まぁ、使い魔に至っては切り捨てられたの確定したしな』

 

 フェイトと言う人物を脅せるモノなど彼らには一つもない。今の新八たちが持っている判断材料だけでは、そのような推論しか立てられないのだから。

 

『ましてや殺すとか言って脅すなんて手がこんな上位の魔導師に通じないことは――』

 

 パラサイトはニヤリと笑みを浮かべてクロノとリンディを見る。

 

『おたくら管理局が一番分かってるよな?』

 

 眉間の皺を深くさせるクロノ。どうやら魔導師である彼らが一番わかっているようだ。

 

「魔導師風情とかのたまわっておきながら、随分気弱な発言だな」

 

 と銀時の言葉を受けて、トランスは視線を細める。

 

『あら? 私たちは上位の魔導師まで軽視するような発言をした覚えはないわよ?』

「けっ、口が回る奴だ」

 

 トランスの減らず口を聞いて銀時がより眉間に皺を寄せれば、すぐさまトランスは手をぱんぱんと叩く。

 

『はい、これにて論破完了。フェイトちゃんが母親を殺し、私たちの依頼主となったことが証明――』

「待ちなさい!」

 

 そこですかさずリンディが声を上げてからすぐに声を低くして。

 

「本当にその首は……〝プレシア・テスタロッサのご本人〟なのですか?」

 

 リンディの問いに新八はハッとした顔でキッと画面を睨み付ける。

 

「そ、そうだ! 結局お前たちはプレシアさんの死を偽装して、自分たちの本当の目的を隠しているだけじゃないのか!! フェイトちゃんを自分たちの仲間で、なにより犯罪者であると印象付けたいだけじゃないのか!!」

 

 新八の推測を聞いて一瞬だがフェイトの瞳が揺れたかのように見えたが声を上げるのに必死な彼が気付くことはない。

 新八の言葉を聞いてか意気消沈していたアルフは若干だが狼の耳を立て始めている。

 新八の声に続くようにアリサが声を上げる。

 

「そ、そうよ! その頭はあんたらが作った偽物なんじゃないの!!」

 

 パラサイトは舌打ちしながら投げやりに「あァ、メンドクせェな」と呟いてから手に持っていた首を顔の前に持ってきて見つめてから、スッと口を開く。

 

『そんじゃあ、〝ここに来た局員〟の一人に渡しておくからおたくらの船で確かめれば』

「ッ!!」

 

 パラサイトの言葉を聞いたリンディが目を見開き汗を流せば、画面の向こうに映る管理局の敵は一度画面の外に出る。

 やがてすぐに戻って来れば、パラサイトはある一人の男の襟首を掴んで見せるつける。そこに映ったのはバリアジャケットと杖を持った男。服や体に外傷はないが、気絶していた。

 

「あれはもしかして管理局員の方ですか!?」

 

 新八が驚きの顔をリンディに向ければ、アースラ艦長は静かに「えェ……」と言って頷き、クロノは悔しそうな顔で拳をギュッと握る。

 映像を見て状況を察した土方が口を開く。

 

「どうやら、俺たちが知らない間に連中の場所を割り当てて実働部隊を送り付けていたようだな」

「しかし、(やっこ)さんのお仲間があっさり返り討ちにしたみたいですねェ」

 

 少し辛口な沖田の言葉を聞いてクロノはギリッと歯を強く噛み締め、パラサイトは冷めた眼差しで告げる。

 

『迅速な対応には恐れ入ったが、まァ~こいつらじゃあ役不足だったな』

 

 その言葉を聞いてクロノはすぐさま踵を返す。

 

「艦長。奴らの場所はもうわかっています。すぐに僕が――」

『来たら局員皆殺しだが、良いのか?』

「くッ!」

 

 クロノは振り向いて射殺さんばかりの視線を通信画面へと向けるが、パラサイトはどこ吹く風のまま言葉を続ける。

 

『とりあえず、話が終わるまで待てって。終れば局員どころかフェイトの犯罪の証拠も渡してやるから』

 

 嫌味ったらしく口元を吊り上げながら局員と生首を見せつけ、新八はより表情を険しくさせる。

 

「さっきの僕の話を聞いていなかったのか!」

『だから本物だって言ってんじゃん。ちゃんと渡してやるからよ。もちろん近くで見たら生首なのはすぐに分かるぜ』

 

 ワザとらしく嫌味たらしく喋れるパラサイトを見てリンディも表情を険しくさせるが、息を深く吐いて冷静な表情へと戻る。

 

「……なら、フェイトさんの動機を教えてくれませんか?」

『動機ィ?』

 

 パラサイトは首を傾げ、リンディは鋭い視線を向けながら続ける。

 

「フェイトさんのような幼い少女があなた方のような犯罪集団と手を組み、母を殺すその動機です」

 

 するとパラサイトはまた舌打ちして頭をぼりぼり掻きながら「しつけェなッ!」と愚痴を零してからすぐさま冷静な声で、

 

『……たく、逆転裁判にやってんじゃねェんだぞこっちは。んまァ、ちゃーんとご証明できるものは用意してあるけどな』

 

 すると忍者がまた何かしら持ってやって来る。

 両手に抱えたそれは一人の少女。フェイトやなのはより同じくらいの身長で、金髪を揺らしながらお姫様だっこされて運ばれる幼い少女。力がまったく入っていない腕をだらんと垂らしている。

 

「あ、あれは!!」

 

 忍者が持ってきたモノを見て新八は驚愕の表情を浮かべる。いや、それはアースラブリッジにいる者達全員だった。

 顔を上げた銀時は驚愕の表情で口を開く。

 

「フェイ、ト……?」

『ま、半分正解かな』

 

 トランスは口元に指を当て言う。

 パラサイトは女忍者が持ったフェイトにそっくりの少女に目を向ける。

 

『こいつはアリシア・テスタロッサ』そしてパラサイトはプレシアの生首を持ち上げる。『そしてプレシア・テスタロッサの実の娘』

「フェイトさんの……姉妹ですか?」

 

 少々困惑しているリンディの問いにちっちとパラサイトは指を振る。

 

『いいんや。フェイトはプレシアの娘でもなければ、コイツの姉でも妹でもない』

 

 それを聞いてアリシアと言う少女とフェイトの関係性を知らないリンディとクロノとエイミィは困惑の表情を浮かべる。

 

『だってフェイトちゃんは――』トランスがフェイトの両肩に手を置く。『アリシア・テスタロッサちゃんのクローンなんだから』

「クローンだと!?」

 

 クロノは驚愕の表情を作る。執務官の反応を見てパラサイトはニヤニヤと笑みを浮かべる。

 

『その様子を見ると、管理局の〝優秀〟な局員さんたちはま~だ調査が全然できてないらしィな』

 

 そりゃそうだ。だって銀時とアルフからプレシア・テスタロッサの話を聞いてまだ一日すら経っていないのだから。

 

(こ、こんなことになるなんて……)

 

 まさかの展開に新八は汗を大量に流す。

 原作崩壊だとか未来の改変なんてレベルじゃない。

 連中――クリミナルの存在もそうだが、プレシアの死、アリシアの存在の露呈、次々と予想外の出来事が起こっている。もうリリカルなのはの予備知識なんてまったく意味をなさないくらいに。

 これはこの世界に来た自分たちのせいなのか? と新八は内心罪の意識にも似た感情すら覚えて始めている。

 するとトランスがパラサイトに顔を向ける。

 

『そんじゃ、私たちが知ってること教えてあげる?』

『おッ、いいなそれ。捜査協力してあげますか』

 

 などとワザとらしいやり取りの後、トランスとパラサイトはアースラ側に顔を向ける。

 

『私たちが知っているフェイトちゃん誕生の秘密と――』

『プレシア・テスタロッサの秘密をな』

 

 パラサイトがニヤリと笑みを浮かべ、やがてゆっくりと首を傾ける。

 

『おたくら、〝プロジェクトF.A.T.E〟ってご存知?』

「プロジェクトF.A.T.E?」

 

 クロノは聞き覚えのない単語に怪訝な表情を作る。するとトランスが答える。

 

『プレシア・テスタロッサが研究していた使い魔を超えた人造生命体を作る技術』

『素体の細胞を使って寸分違わぬ体を作り、記憶転写させたクローンによる死者を蘇生させる研究』

 

 次にパラサイトが説明を続ける。

 

『そしてその研究の成果がこのフェイトちゃんと言うワケ』

 

 トランスはそう言ってぽんぽんとフェイトの両肩を叩く。

 

「なッ…………!?」

 

 二人の言葉を聴いたクロノは顔を上げ驚愕の表情でフェイトを見る。

 

「そんなバカな話――」

 

 クロノがすぐさまクリミナルたちの言葉を否定しようとするが、パラサイトは淡々と告げる。

 

『じゃあ調べてみろ。証明する資料くらいは見つかるだろうしな』

 

 嘘は言ってない、と言わんばかりの眼光に押し黙ってしまうクロノ。

 

「おいおい……」銀時は冷や汗を流す。「似たような話どっかで聞いたぞ。笑えねェ冗談だ」

 

 銀時が言っているのはスナックお登勢で働くからくり家政婦のたまのことだろう。

 たま――正式名称は芙蓉伊-零號試作型。

 林流山が、病弱で孤独だった娘・芙蓉のために造ったからくり家政婦のたま。彼女は死んでしまった芙蓉の記憶と人格のデータをインプットし、林流山が娘の新たな器としようとした。

 とどのつまり、死んだ娘を蘇らせようとしたのだ。

 その時、林流山の人格データを移したからくりによる事件が起こり、銀時たちもそれに関わっている。

 銀時の脳内にはたまに初めて出会った時や事件の思い出がフラッシュバックのように思い起こされていることだろう。

 再びパラサイトは話し出す。

 

『ちょ~っとした事故で死んだ娘を蘇らせる為にプレシアは娘の遺伝子からあらたな生命を生み出した』

『まァ、出来ちゃったのは娘でもなんでもないただ別人なんだけどね』

 

 トランスは興味なさげに告げ、パラサイトはプレシアの生首を宙に何度も投げながら弄ぶ。

 

『そんでプレシアはフェイトにその事実を隠したまま娘――アリシア・テスタロッサを蘇らせる別の方法を探す為の手伝いをさせていた』

『だけど最近知っちゃったのよね、フェイトちゃん。自分の出生の秘密に』

 

 ベラベラとフェイトとプレシアの秘密を暴露する二人の言葉を聞いて、映画を見ていた者たちは驚愕の表情でお互いの顔を見合わせる。

 なにせフェイトが自分の出生の秘密を、管理局が時の庭園に突入する展開の前に知ってしまうなど、思いもしなかったからだ。

 

『そんで』パラサイトは喉の奥からからからと笑い声を漏らす。『自分の出生の秘密を知り、母が自分を娘としてではなくただの人形として扱っていた事実を知ってしまったフェイトちゃんは完全に絶望』

 

 トランスは眉をひそめる。

 

『嘘や虐待までして自分に言うこと聞かせてた母親でもなんでもない女をどう思うかなんて、もう言わなくても分かるわよね?』

 

 薄褐色の少女は首どころか体まで傾げて長い白髪の髪を垂らしながらニヤリと笑みを浮かべ、横に立つパラサイトは手刀にした右手の指先を左の掌に当てる。

 

『そのままザクッ! 怒りに燃えた悲劇の少女はクソババアを自身のデバイスで刺し殺した』

『フェイトちゃん大勝利。めでたしめでたし』

 

 トランスは頬の横で両手を合わせ満面の笑みを作る。

 額を床に付けるアルフの拳は血がでるのではないかと思うくらい強く握られていることに新八は気付いた。どうやら画面の向こうでワザとらしい説明を聞くうちに怒りの感情が抑えきれなくっているだろう。

 

「だが」憎々し気にクロノは口を開く。「君たちの証言ではなんの証拠にも――」

『本人がこうやって自白してるのに証拠もクソもないだろ』

 

 目を細めるてニヤリと笑みを浮かべるパラサイトの言葉に、ついに言葉が出なくなるクロノ。彼には脅されているかどうかは決める材料がない以上、現時点ではフェイト自身が母を殺しているという発言に対して反論の余地がないのかもしれない。

 

『まァ、俺たちが言いたいことは以上だ。後は依頼主殿に任せるとしよう』

 

 パラサイトの言葉を皮切りに画面外から出て行くように歩き出すクリミナルのメンバー。

 

「待てッ!!」

 

 無論連中にまだまだ聞きたいことがあるクロノは引き留めようとするが、その言葉を聞くはずもない。

 そして残ったのはフェイト・テスタロッサただ一人。

 

「なァ、フェイト」

 

 まだ尚、銀時は冷静な口調で腕を組みながらフェイトへと問いかける。まるでなにも話せなくなったアルフの代わりのように。

 

「本当か? テメェが母親()ったってのは?」

 

 一応、話は耳に入っているのかアルフの拳はわなわなと震えている。そんな彼女の姿をなのはは悲し気な表情で見つめることしかできないようだ。

 

『嘘じゃない』

 

 優しかった少女の口から、

 

『私をどう思ってるか母さんに聞いたら……〝嫌い〟って言われた……。〝大嫌い〟って……』

 

 現実は残酷だと言わんばかりに、

 

『事実を知って……絶望し……私が母さんを殺した……』

 

 到底信じられないような言葉を口から吐き出し続ける。

 フェイトの冷たい言葉がブリッジに響く度に我慢できないとばかりにアルフは右の拳をガンガンガン!! と床に叩きつけ始める。血が滲むのも構わず。

 そんな痛ましいアルフの姿を見て、誰一人として止めようとできるものがいない。いの一番に自傷行為を止めそうななのはたち小学生は使い魔の剣幕に尻込みしてしまっているようだ。

 下手に声すら掛けられないほどまでにアルフの感情の荒れは顕著となっている。

 

「フェイトさん」とリンディが口を開く。「聞きたいのですが、母を殺し、その上でこれからいったい何をしようとしているんですか? 何故母の代わりに彼らのような者達と手を組むなどを」

『……〝アルハザード〟』

 

 あっさり告げられた答えに「えッ?」とリンディは声を漏らす。

 フェイトは淡々と言葉を続ける。

 

『母さんがジュエルシードで行こうとしてた場所。そこは過去を変えられ、失ったモノを取り戻せる』

 

 フェイトの言葉を聞いたリンディは険しい表情を作る。

 

「そこであなたは何を取り戻すと?」

『失った全てを』

 

 フェイトの言葉にクロノが眼光を鋭くさせながら口早に食って掛かる。

 

「そんなおとぎ話を信じようと言うのか? そんなあるかどうかも分からないモノの為にまだ君はまだ罪を重ねようと言うのか?」

『もう私には……〝何もない〟』

 

 フェイトの言葉にアルフの瞳が限界まで見開かれる。

 

『〝大切なモノ〟はもう……何も……』

 

 その言葉が発せられた瞬間、

 

「ぁぁ……」

 

 アルフの口から声が漏れ、

 

「――ぁぁあああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 空気を震わせ、喉が張り裂けんばかりに絶叫へと変化し、より強く床を拳で殴る。そんな使い魔の姿を銀時はただ黙って見ていた。

 そしてそのままフェイトは画面の外へと向かってしまう。

 

「フェイトちゃん!!」

 

 なのはは反射的に声を上げるが、その声がフェイトに届くことはない。フェイトが画面からいなくなれば、誰も映らなくなった映像が続き、木や草、その先にある道路の景色が映るのみである。

 フェイトの言葉を聞き終え、なのはと一緒にジュエルシード集めをしながら彼女をなんとか助けようとしていた模索していた面々たちはただ顔を逸らしたり、目を閉じて黙るほかなかった。

 クロノは表情を強張らせながらキーボードを操作するエイミィに近づき、声を掛ける。

 

「エイミィ。奴らがいる現地の様子は分からないか?」

「ダメ。通信や結界のお陰で座標まで分かってるけど、ジャマーのせいで場所の様子を確認できない」

「くッ……! これじゃ、奴らを捕まえることも送り出した局員たちを助けることもままらないな」

 

 人命を優先しているだけに後手にならざるおえない状況にクロノ、さらにリンディは険しい表情で解決案を模索している。

 なにも映らない映像が数分ほど続く。その間、パラサイトの声であろう音声がごく僅かに聞こえてきた。

 何も行動に移せないという状況が続く中、やがて一人の人物――トランスが顔が映り込む。

 

「……あッ、通信を切るのを忘れてたわね」

「ちょっと待ってください!」とリンディ。

「はいはい。無謀にも突っ込んで来た局員さんたちが気になるんでしょ?」

 

 興味なさげにトランスは喋りながら、視線をチラチラと横へと向けている。

 

「通信が切れたらそ~ね~……数十秒くらい待ってからならいつでも来ていいわよ?」

 

 トランスが言い終わると同時に画面は暗転し、通信映像は途絶える。

 そして緊迫した数十秒が経過した共に、クロノはオペレーターへと勢いよく声を掛ける。

 

「エイミィ! 現場の様子は!」

「結界やジャマーはなし! 気絶している局員十数名が放置されている!」

「わかった! ぼくは武装隊を連れて直接現地に赴く! すぐにゲートを!」

 

 クロノの言葉を聞いてリンディは表情を引き締めながら告げる。

 

「クロノ執務官。分かっていると思いますが、現場にはどんな(トラップ)が用意されているか分かりません。焦らず慎重な判断を」

「はい!」

 

 クロノが強く返事すると同時にブリッジにあった転移用のゲートとなっている箇所が光り輝く。

 その時、ゲートに向かってすぐさまアルフは立ち上げり駆け出そうとする――。

 

「アルフさん!」

 

 気付き声を上げるなのはの言葉が過ぎるうちには、もう数瞬で涙を流すアルフは光輝くゲートに向かって突っ込もうとする場面だった。

 だが、すぐさま水色のリングがアルフの胴と両足を拘束する。バランスを崩し、勢いを殺せないアルフはそのまま滑るように床を転んでしまう。そして倒れた場所はささやかゲートの数歩分前。

 

「「「「「アルフ(さん)!!」」」」」

 

 勢いをよく倒れたアルフを見てなのは、すずか、アリサ、新八、神楽は反射的に声を上げる。

 使い魔がゲートを使って現場へ向かうであろうことをあらかじめよとしくしていたクロノはアルフへと杖を向け、近づく。そして鋭い眼差しのまま大きめの声で。

 

「君の気持ちも分からなくはないが、こちらとしては君の勝手な行動で現場を乱してほしくはない」

 

 クロノがアルフに向かって今の言葉を告げたのは、局員以外のブリッジにいる者たちにも聞かせる為だろう。

 執務官の言葉の意味を察したなのは、すずか、アリサ、新八はアルフの元へ心配そうに駆け寄りながらもフェイトのところへ向かおうとなどと言う行動には出ない。

 ただ神楽だけは感情のままにクロノへと絡む。

 

「おまえアルフになにするアルか! この黒チビ!」

「誰が黒チビだ!」

 

 怒鳴り返すクロノとは対照的にリンディは冷静な声で告げる。

 

「神楽さん、それに皆さん。あなたちは納得できないかもしれませんが、事件の早期解決の為にも魔法関連に詳しい私たちに任せて、無暗な行動はなるべく避けるようお願いします」

 

 リンディの言葉を聞いてもまだ不満げな神楽だったが新八の「神楽ちゃん、今は下手に動いちゃダメだよ」と言ってたしなめられ、渋々了承している。

 

「くぅ……!」

 

 フェイトのところへ向かいたい、直接話がしたいと言う感情に支配されて冷静な判断が下せないでいるだろうアルフはただただ動けないことに苛立ち、涙を流し、歯噛みしているようだ。そんな痛々しいアルフの姿を見てなのは、アリサ、すずかはかける言葉すら見つからないようで、ただ悲し気な表情を作るばかり。

 そもそも管理局の転送ゲートなど使わずに自分の転移魔法で移動すればよかったのだが、魔力の総量がかなり限られている現状ではその方法も取れずにさきほどのような強引な手段を取る他なかったに違いない。そもそも転移魔法を使う前にクロノに止められていただろう。

 すると一部始終を眺めていた銀時が、

 

「いや~、すんませんねうちのアルフが。ご迷惑かけて」

 

 右手を立てごめんごめんというポーズを取りながら動けないアルフの元へと歩みより、しゃがんでアルフの体を持ち上げればまるで米俵のように右肩へと乗せる。

 銀時の言い草を聞いた新八は、

 

「ちょっと銀さん!! いくらあんたが人の気持ちガン無視する人間でも言い方ってもんがあんでしょう!! 迷惑だとか、アルフさんの気持ちもちょっとは考えてください!!」

 

 言葉に怒気を含ませて文句言うが、銀時は素知らぬ顔で訝し気に視線を送るクロノへと顔を向ける。

 

「そんじゃ、こいつの面倒は俺に任せておたくらはおたくらの仕事しな」

「……すまない」

 

 銀時に言動に若干の違和感をクロノは感じてか微妙な表情を浮かべているが素直に頭を下げ、そのままエイミィへと顔を向ける。

 

「エイミィ、武装部隊の転送の準備は?」

「もうできてる。すぐにでも現場に迎えるから」

「よし、僕もすぐに現場に――」

 

 と言ってクロノがゲートへと顔を向けると光輝くゲートに前にはアルフを抱えた銀時が。

 

「…………」

 

 目の前の光景に一瞬の間茫然としているクロノへと銀時は左手を上げて軽く振る。

 

「――じゃ」

 

 そのまま銀時はアルフを担いだまま転送ゲートの中へと入るのだった。

 




*1年半近く投稿が停止してしまい、お待たせてして申し訳ございません。
活動報告やお知らせなどでも知らせ通り、リアル事情があまり良くなく創作活動にあまり着手できませんでした。
作り上げたストーリー全体を見直して大丈夫かどうかを何回も判断すると言う作業を繰り返していました。
兎にも角にもなんとか最新話を投稿出来たのは声を掛けてくれた読者の方々のお陰です。ありがとうございます。
『リリカルなのは×銀魂』に拘らず、なるべく創作にちょっとでも触れていければ良いなぁと思いながら今後も活動を続けていくつもりです。


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第四十四話:怒っている時ほど口数が少なくなる

「あの天パどこ行ったァァァァァアアアアアアアアアア!!」

 

 海鳴公園に管理局執務官――クロノ・ハラオウンの叫び声が天に向かって響く。

 

 

 銀時がアルフを連れて、「じゃ」という短い一言でアースラの転送ゲートを使い海鳴公園へと一瞬にして移動した。

 まさかの展開に一瞬の思考を停止していたクロノではあったのだが、すぐさま我に返って転送ゲートに入り銀時の後を追いかけたのだが、海鳴公園のどこにもその姿は確認できなかった。どうやらアルフを抱えたままどこかへと向かってしまったらしい。

 銀時のとんでもない行動の素早さにクロノは呆れ半分怒り半分といった感情をない交ぜにしながら思考を切り替えた。

 銀時の行動は予測できなかった。つまり、彼がなんのためにアルフを連れ、どこに向かったのかは分からない。これからクリミナルたちと接触するのか? なんのために? フェイトに直接問いただしに行くのか? さすがに彼らと協力関係を結ぶなんて考えを銀時が持っていると思えない。

 銀時の真意を探る為にアースラに戻ってすぐさま新八に問いただした時も、

 

「銀さんの行動理由はわからないし……たぶんロクなことじゃないかもしれないけど……。こういう時のあの人は意味のない行動はしないと思います」

 

 といった言葉を受け取っている。

 銀時の行動理由の有無はとっ捕まえた後にじっくり問いただすとして、問題は現場(海鳴公園周辺)の調査。最重要の確保対象であるクリミナルたちを追う為の手がかりを手繰り寄せる為の何かを発見することの方が先決だ。

 それに銀時を見つけるのにも時間はかからないだろう。なにせフェイトは十中八九この海鳴市のどこかに拠点を構えていたに違いない。そして銀時がその拠点に向かって行った可能性が高い。

 それならば、アースラを探査機器で結界魔法が敷かれている場所もすぐに特定できる。早急に銀髪侍と使い魔を確保しに行きたいところではあるのだが、こればかりは焦ってどうこうできることはでないので、ただ待つほかない。

 

 

 そして、時間と共に現場周辺の調査は進んでいく。

 クリミナルの面々に返り討ちにされた局員たち十数名――そしてパラサイトの言う通り、傷ついた局員の一人が持たされていたプレシア・テスタロッサであろう生首。頭の方は鑑識に回すとし、本格的な現場の調査を始めた。

 魔法世界に無関係の人間を寄せ付けない封鎖結界を周りに張った後、自分は指示を出しながら局員たちに現場検証為に世話しなく動き回っている。

 だが、いくら時間をかけても一向に他の目ぼしい手掛かりは出てこない。分かっていたことだが、あんな大仰な振る舞いをしていながらクリミナルたちは自分たちに繋がるような痕跡を残してなどいなかった。

 ただ一つ、気になる点は。

 

「この液体は……」

 

 海鳴公園の一か所。砂利の地面にはまるで持っていた飲み物を溢したかようになにかの液体が不快な異臭を放ちながら広がっている。

 クロノは近づき、片膝を付いて鼻につく不快な匂いを我慢しながら地面に広がる液体を眺める。

 

「やはり……これは……」

 

 一応、詳しく検査しないことには正体は断定できないが、一目見て目の前の液体の正体には心当たりが付いている。だが、問題は〝どうして乾いていないこの液体が地面に広がっている〟かと言う点だ。

 立ち上がり、液体に視線と顔を逸らしながらクロノが腕を組んで思考し、推理を始める。

 すると、

 

「ふむふむ……これは有力な手掛かりアルな」

 

 ――……アル?

 

 突如として耳に聞こえてきた聞き覚えのある声に反応してパッと液体の方へと目を向けると、右ひざを地面に付きながら地面に広がる異臭を放つ液体を見つめる神楽の姿があった。

 

「……なにをやっているんだ……? 君は……」

 

 捜査の邪魔にならないように新八たちと一緒にアースラの食堂で待機しているよう指示したはずなのに、いつの間にかやってきて探偵さながらに現場の検証を始めている神楽にクロノはジト目を向ける。つうか、魔法も使えないのにそもそもどうやってアースラから公園までやって来たのか謎だ。

 クロノの言葉を無視して神楽は左手の親指と人差し指で顎を挟みながら、空いている手の人差し指で地面に広がる液体に触れすくい上げる。

 

「ちょッ!? 勝手に触れるんじゃない!」

 

 いきなり素手で証拠の一つになりそうなモノに触れる神楽に注意するクロノ。いやクロノ的には正体は予想が付いているから触った事自体もビックリなのだが。

 だが、神楽にとっては執務官の言葉はまったく眼中にないようで指に付いたネチョっとした液体の匂いをスンスンと嗅ぎ始め、眉間に皺を寄せて「むッ!」と意味ありげに声を漏らして目を見開く。

 

「なにか分かったのか?」

 

 まさか本当に何か手掛かりになそうな答えを話してくれるのではないか? と期待してしまったクロノは真剣な表情で問いかければ、神楽はゆっくりと立ち上がりこちらの顔を見つめる。

 そして口を開き……、

 

「グボロシャァァァァアアアアアアアアアアアア!!」

 

 クロノの顔面に向かって盛大にゲロをぶっ掛けた。

 そして吐しゃ物を出した神楽は色んな意味でスッキリしたようなキリっと表情で告げる。

 

「――どうやら、これはゲロのようネ。貰いゲロがその証拠アル」

 

 顔面ゲロ塗れのクロノは、

 

「…………あぁ……だと思ったよ……」

 

 

 

 

 海鳴市の一角に建てられた高層マンション。

 いくつもある部屋のうちのワンルーム――フェイトがジュエルシード回収の為の拠点の玄関の鍵がカチャリと回され、扉が開く。

 扉をくぐり部屋へと入るのは銀髪天然パーマの男――坂田銀時。その肩にはフェイトの使い魔であるアルフが抱えられている。既にクロノがかけていた拘束用のバインドは解けているが、表情は深く影がさし完全に意気消沈している。

 てっきり銀時としてはアースラ抜け出した時点で暴れるかもと思っていたが、マンションに来るまでの間はまるで動く様子がなかった。

 銀時は静まり返った部屋に目を細めながら乱雑に靴を脱ぎ、リビングへと続く廊下を歩く。

 リビングと廊下を隔てる扉のドアノブを回して開き、部屋をぐるっと見渡すが誰もおらず、何者の気配も感じられない。ため息を吐きながら頭を掻く。

 

「さすがにいるわきゃねェ……か」

 

 ゆっくりと廊下を歩きながら辺りを見渡していき、ドアを開けてリビングまで入ると肩に抱えたアルフをゆっくりとソファーへと降ろす。

 銀時はアルフを乗せていた肩を撫でながら首を回す。

 

「さてと、お役所の連中が来る前にさっさとなんか手掛かりねェか探しますかね」

 

 と言いながら銀時はアルフをリビングに残して別の部屋へと繋がる扉を開き、歩いて行く。

 ガチャリと扉を閉め、洋服ダンスなどがおかれた部屋へと入った銀時は今しがた閉じた扉の前に背中を預け、ポケットの中に入っている物を取り出し見つめる。

 

 

 

 一方のアルフは、ソファに座ったまま床を俯いていたが、銀時が扉を閉めるとすぐに顔を上げて彼が出て行った扉へと横目を向ける。

 

「…………」

 

 少しの間、待っても銀時が出てこない事を確認したのであろうアルフはゆっくりと立ち上がり、玄関へと繋がる廊下に出る為の扉へと歩き出し、ドアノブへと手を掛ける。

 

「――なんだ。散歩か?」

 

 声が聞こえ、ドアノブを回そうとするアルフの手が止まる。

 アルフはハッと声を漏らしながらも、慌てた様子もなくゆっくりと後ろへと首を向ける。すると片目に映るのはさきほどまで銀時が入って行った部屋。そして奥まで開き切ったドアに背中を預け腕を組んで立っている銀髪天然パーマの姿だった。

 

「…………」

 

 数瞬、アルフは黙ったまま視線を斜め下へと向けて考え込んでいるようだったがすぐにまたドアノブを回そうと手を動かす。

 

「待ちな。どこに行くかも告げねェのはいただけねェな」

 

 自身を無視して立ち去ろうとするアルフを止める為に銀時はまた声を掛け、彼女の元まで歩き出す。

 銀時の声に反応してか、アルフは正面こそ向いているもののドアノブを強く握りしめるだけで動こうとしない。

 銀時はアルフに手が届く距離までやって来ると足を止め、再び問いかける。

 

「行く当てでもあんのか?」

「……ないよ」

 

 アルフは感情が籠らないような冷たい声で答える。

 銀時は首を掻いてから問いかける。

 

「じゃあなにか。フェイトの居場所もわかんねェのに、おめェはこのまま一人で出ていくつもりか?」

「あぁ……だからほっといてくれ」

「わりィが、はいそうですかって行かせるつもりはねェぜ、俺は」

 

 と言いながら銀時はアルフの肩に手を置く。

 するとアルフは右肩に置かれた銀時の腕にゆっくりと左手を持っていき、手首を掴む。

 

「ほっとけって……言ったろ……?」

 

 俯き気味に冷たさへ感じさえる声で答え、片目をジロリと銀髪の侍の顔へと向ける使い魔。

 徐々にだが自分の手首を掴む手に力が入り始めていることを感じる銀時。彼は掴む手に目を向けてから、自身を見つめるアルフの顔を見たのち、少し息を吐きだしてから口を開く。

 

「……今にも〝人殺しそうな目〟をしてるテメェをか? 無理な相談だぜ、そりゃ」

 

 銀時の言葉を聞いたアルフは「そうかい」と呟いた後、ゆっくりと顔を前へと向き直し、俯く。

 やがて狼の使い魔はギリィと強く歯を軋ませ――。

 

 

 場所は変わり海鳴市にある公園、さきほどまでフェイトとクリミナルたちが居たであろう公園に設置してある公衆便所。

 その男子トイレ内ではバシャバシャ!! と言う勢いのある水の音と、

 

「だァァァアアアアアアアアアア!! チクショォォォオオオオオオオオオオオ!!」

 

 キャラすらかなぐり捨てて顔面に付着した吐しゃ物を必死に洗浄しようとする執務官の雄たけびが聞こえてくる。

 それをトイレの入り口から見つめていた神楽はタオルを手に取ってクロノの近づき、

 

「災難だったアルな」

 

 なんとも言えない憐みの視線を向ける。

 

「その災難の元凶は君だろうがァァアアア!!」

 

 怒声を神楽にぶつけながらタオルをバシッと奪い取るクロノ。

 コイツ公務執行妨害で牢屋にぶち込んでやろうか!? と考えながらクロノがタオルで顔を勢いよく拭いていると神楽の少し後ろにいた沖田が、

 

「いよッ、ゲロもしたたる良い男」

 

 と煽る。

 

「だァァァ!! うっさい!! 名誉棄損で逮捕するぞ!!」

 

 とクロノは怒鳴ってから、

 

「つうかなんでお前もここにいるんだコラァァッ!!」

 

 いつの間にか神楽同様にアースラ抜け出している沖田に気付いてタオルを便所の床に叩きつける。

 すると、

 

「ちょっとッ!! 沖田さん神楽ちゃん!! こんなとこでなにやってん!?」

 

 新八まで現れる始末。

 そしてクロノの怒りは臨界点を超える。

 

「お前もかァァァ!! お前もなのかァァァァ!!」

 

 顔面が青筋だらけと言わんばかりの勢いで指と腕をぶんぶん振りながら新八に詰め寄る。

 新八は執務官のあまりの剣幕に怯えてしまい、

 

「すみませんすみませんすみません!! なんかわからないけどすんっっません!!」

 

 とにかく平謝り。

 だがいくら謝ろうと執務官の怒りは収まらず、頭を掻きむしる。

 

「なんでどいつもこいつもフリーダムなんだッ!! 待機しろつったら待機しろよ!! 言うこと聞けよッ!! 管理局舐めんのも大概にしろコラァァァ!!」

「すみませんすみませんすみません!! なんかわからないけどマジすんっっっません!!」

 

 とりあえず何度もぶんぶん頭を下げる万事屋の常識人たる新八。

 

「まァ、眼鏡もこう言ってることだし許してやろうぜ」

 

 と言って沖田はクロノは肩に手を置く。

 

「いやおめェも謝れ」

 

 と言って沖田の頭にチョップを叩きつけるのはクロノでもましてや新八でもなくタバコをくわえた土方。

 

「土方さん!? どうしてここに!?」

 

 いきなり現れた真選組副長を見て驚きの声を上げる新八に対し、土方は頭を抑えてしゃがむ沖田を指さしながら答える。

 

「この沖田(バカ)のお守りだ」

 

 と言う回答にすぐに新八は納得。

 

「なんでこう……誰も彼も……」

 

 一方、沖田、新八に引き続き現れた土方を見てクロノは右手で目元を覆いながら天井を仰ぐ。

 そんな悲壮感と苦悩たっぷりのクロノを見て土方は小さく、すまん、と謝ってから沖田と神楽の襟首をグイっと捕まえる。

 

「ほれ行くぞ」

 

 そのままずるずると沖田と神楽を連れ行こうとする。沖田は「へ~い」と言って意外と素直に連れて行かれるが、一方のチャイナガールは。

 

「離すネマヨ!! お前銀ちゃんでもねェ癖に私の手綱を握れると思ったら大間違いネ!!」

「あーおい、暴れんじゃねェ」ごねる神楽を土方はめんどくさそうにしながら捕まえ続ける。「つうか俺から見て万事屋の野郎がおめェの手綱握れてるように見えねェけど?」

「とにかく離すネ!! このまま銀ちゃんとアルフをポリ公共に任せちゃいられないネ!!」

「おめェが居たって万事屋の野郎を見つけだせねェだろうが」

「なに言ってるアルか!! 私の知力を舐めてもらっちゃ困るネ!!」

「道も満足に覚えられねェ奴に知力なんざ1もあるわけねェだろ」

「真実はいつも一つ!!」

「だからなに? 真実見つけても万事屋もアルフも見つからねェからな? 分かったことはお前の知力も推理力もゼロだってことだけだからな?」

「ゼロの執行人だけに!!」

「うまくねェんだよ。安室さんに謝れ」

 

 とにかく銀時とアルフを探し出すと言って聞かない神楽を力づくで引っ張りながら土方は局員と話してアースラへと転送してもらう前に後方に立っていた新八へと顔を向ける。

 

「おい眼鏡。ボーっとしてねェで、おめェもとっととアースラに戻れよ」

「あッ、はい!」

 

 ごねる神楽の様子を見て何を思ったのか、心ここにあらずだった新八は土方の声ですぐに我に返る。

 アースラへと転送される土方たちを見てから新八もすぐさま後ろいるクロノへと体を向け、頭を下げる。

 

「あの……クロノくん! 神楽ちゃんが迷惑かけたみたいで本当にごめん! あとでちゃんと注意するから!」

 

 新八の謝罪を聞いて、クロノは深くため息を吐く。

 

「……まぁ、いいよ。彼女も居ても立ってもいられなかったんだろうってことにしておくから」

 

 行動の内容はともかくとして、と恨めしそうにセリフを付け足したクロノの言葉を聞いて新八は「本当にすんません!!」とまた深く謝る。

 

「……じゃ、じゃあ僕はこれで……」

 

 と言って申し訳なそうにアースラへと戻ろうとする新八に対してクロノは待ったをかける。

 

「ちょっと待ってくれ」

「えッ?」

「アースラに戻る前に、改めて聞きたいんだが」

「銀さんのこと……だよね?」

 

 クロノは軽く頷き、新八は申し訳なそうに後頭部を掻く。

 

「ごめん……。さっきも答えた通り、歌舞伎町……僕たちの元の世界ならともかく、この世界で銀さんがどこに向かうだとかどこにいるかなんて皆目見当がつかない」

「……まぁ、そうだろうな。となると……かなりマズイかもしれない……」

 

 ある予想を立てたクロノは疲れを覚えたように眉間をおさえる。

 クロノの言葉を聞いて新八はおずおずと言葉をかける。

 

「いや……あのォ……確かに銀さんはチャランポランで時折なにしですかわかんないとんでも侍ですけど……」

「彼に身近な人物である君からそこまで自信なさげなフォローが来ると余計に心配なんだが……」

 

 より深く眉間をおさえるクロノは心底疲れたような声を漏らす。

 

「その様子だと、彼の行動予測もあまりできなそうだね……」

「ま、まぁ大丈夫だよ! いくら好き勝手するあの人でも、悪いことはたぶんしないから! だから気長に探して行こう!」

「〝たぶん〟がつくのか……」

 

 なんとも頼りない新八のフォローを聞いてクロノは額を手で抑えてから、深くため息を吐く。そして顔を上げ、真剣な表情を作ってから新八へと語り掛ける。

 

「彼の身内の君には話すが、正直いまは悠長に坂田銀時とアルフを探してはいられない」

「えッ? それって……どういう……」

 

 よくわからないと言いたげな新八に対してクロノは順を立てて説明を始める。

 

「一応君たちはアルフが使い魔だってことは知っているのか?」

「う、うん……」

「だが、使い魔がどういった存在なのかは知らないだろ?」

「うん……まぁ……」

 

 歯切れが悪いが予想通りの答えを聞いてクロノは説明を続ける。

 

「簡単に説明するが、使い魔と言うのは主人に対して忠誠心が高いのが基本的だ」

「そりゃ、そういうものなんじゃ……」

「あぁ」と頷くクロノ。「だからこの強い忠誠心が今は厄介なんだ」

「えッ?」

 

 首を傾げる新八に対してクロノは腕を組んで語る。

 

「僕は少ししかアルフを見ていないから断定はできないが、たぶん彼女はフェイトに対してとても高い忠誠心をもっているのは確かだ。それこそ、主人の望むことならなんでもするとすら思っているほどかもしれない」

「…………」

 

 クロノの説明を聞いて段々と何かを察し、嫌な予感を覚えてきたのだろう新八は不安そうな表情を見せ始める。

 クロノは新八の表情の変化に構わず説明を続ける。

 

「そんな使い魔の元をあんな形で主人が去ってしまった。はっきり言って、主人に対する依存度が高い今のアルフの精神は平穏とは程遠いだろう。もうなにをしでかすか分からない状態――まぁ、自暴自棄と言った状態まで追い込まれてしまっている一目瞭然だった。魔力の供給がないと状態だから、無茶はしないだろうなんて可能性は相当低い。その上、坂田銀時という何を言い出すかもしですかもわからない不安要素だらけの起爆剤まで一緒だからな……」

「もし今の状態でアルフさんが暴走したら……」

 

 青白い顔で不安そうに言葉を絞り出す新八に対して、クロノは自身の今考えられる最悪の予想を口にする。

 

「――アルフの命どころか、場合によって銀時の命も危険な状態ということだ」

 

 

 

 ズガンッ!! ドカンッ!! という音と共にフェイトが今まで拠点にしていたアパートの一室へと繋がる玄関扉が内側からぶつかってきたモノの勢いに押し出され、留め金を破壊しながら、共有廊下の手すりまで吹っ飛んでしまう。

 破壊され、くの字に折れ曲がった玄関扉の上には更に扉が乗っており、その更に上には体を逆さにして乗った銀髪の男――坂田銀時が声を漏らす。

 

「こりゃ、骨が折れそうだ……」

 

 

 




新八「銀さん銀さん。なんとか最新話も投稿されました」

銀時「つっても一か月以上経ってるけどな。前の話なんて1年半近く経ってんだぞ……」

なのは「ホントに1年半で色々とありましたよね」

銀時「なにかあったーつっても特に何もねェだろ。なんか驚くことあった? 世の中なんか変わった?」

なのは「すんごいビックイベントがありましたよ!!」

新八「そうですよ!! だって平成が終わったんですよ!!」

銀時「いや平成が終わったー、新年号きたー……って俺たちがコメントして良い事なの?」

なのは「そこはメタ発言気にせず素直に祝いましょう!!」

新八「そもそもそうそうないビックイベントだったんですよ!! ちょっとはオーバーなリアクション取りましょうよ!!」

銀時「つってもよー……令和になってなんか変わんの? 良い事あんの? これから消費税も上がんのに?」

新八「うわ……なんて後ろ向きな発言……。やっぱこの人毛根と一緒に捻くれてる……」

なのは「でもでも!! 前向きな驚きのイベントもたくさんありました!!」

銀時「例えば?」

なのは「リリカルなのはの映画が放映されました!!」

銀時「でもvivid終わってなかったっけ?」

なのは「はうッ!?」

新八「いやそこは最終回お疲れさまくらい言えよ!! あと銀魂のアニメも放映もされたんですよ!!」

銀時「銀魂はジャンプから消えたけどな」

新八「ぐわッ!? ってまだ連載してるから!! 終わる終わる詐欺だから!! つうかあんたちょっとはビックニュース聞いてデカいリアクション取れないんですか!?」

銀時「そもそも令和終わっても無印編すら終われてない時点でテンションだだ下がりなんだよ」

新八「そこは作者のあれこれ考慮してホントッ!! 自虐ネタだとしてもデリケートなとこなんですから!!」

銀時「まぁ、良いけどよ。そもそもよ、俺を驚かせたかったらもうちょっとビックニュースねェの?」

新八「いや令和以上のビックニュースとか――」

フェイト「終わったよ……」

銀時「はッ?」

新八「えッ? ……なにが?」

フェイト「銀魂……終わったよ」

銀時「……えッ? いや、ジャンプで連載してないだけだから」

新八「それは原作のまさかの終わる終わる詐欺で――」

フェイト「原作銀魂……〝本当〟に最終回迎えたよ」

銀時「……詐欺じゃなくて?」

フェイト「うん」

新八「…………移籍でもなくて?」

フェイト「うん」

なのは「本当に………………満を持して?」
 
フェイト「うん」

銀時・新八・なのは
「「「………………」」」

フェイト「銀時……お疲れ様」

銀時・新八・なのは
「「「ええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええええ!?」」」




本当の本当に原作の銀魂が最終回を迎えたと言う情報を確認して、ついに終わったのかー……って気持ちになりました。
私個人はまだ最終回……と言うかジャンプ最終回以降は進んでいないんですよね。
15年……私が銀魂を1話から追ってから10以上経ったのかーって……。早いようで長い時間が過ぎたんだなーって感覚です。
私はアニメから銀魂にのめり込んでいったのでそこから単行本だったり小説だったりを揃えたり、果ては映画を見に行ったり、ゲーム買ったり、ずっと楽しんできました。
最初に買ったジャンプマンガは銀魂ではなく、ボーボボなんですがたぶんそこからギャグマンガが好きになってその延長線上で銀魂が大好きになったと思います。
私は銀魂がこち亀並みにずっと続くと思っていただけに物語が本当に終わりそうな話を迎えると、本当に終わるのかなー、それとも続くのかなー、ってやきもきしながらジャンプを買い続けて話を追い続けていました。(まぁ、GIGAに移ってから追えなくなってしまったんですが)
それで本当に銀魂が最終回詐欺ではなく本当に迎えたって情報を見て、本当に最終回迎えたんだなーって半信半疑になりながら実感し始めてる感じです。まぁ、単行本を買って確認しないと私個人が銀魂の最終回を迎えたとは言えないんですけど(笑)。
そんなこんなで、最終回を迎えた銀魂と空知先生。お疲れ様です。本当にお疲れ様。そして、本当にありがとうございました。
最後に。

銀魂は永久に不潔だと思います。


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第四十五話:夫婦喧嘩は犬も食わないどころか見てて吐きそうになる

銀時「そういやぁ、夏だよな今。無印の世界って今何月くらいなんだっけ?」

新八「5月~6月くらいだと思いますよ」

銀時「じゃあ時期的にも夏ネタとか平和な回とかやんねェのかね」

新八「そもそも本編の問題諸々が解決してませんからね?」



「こりゃ、骨が折れそうだ……」

 

 呑気な声で銀時は天と地が反対になった景色を眺めながら自身を廊下の扉ごと玄関扉まで吹っ飛ばした使い魔へと目を向ける。顔を俯かせながらゆっくり歩を進め、廊下に散らばるガラス片を踏みつけながら進んで行く。

 まさか一本背負いの感覚でここまで吹っ飛ばされるとは思っていなかった銀時。

 

「たく……無駄にパワフルだなおい……」

 

 と呟きながら上下逆転した体を立ち上がらせる。

 銀時は首をゴキゴキと鳴らしながら玄関に置いてあった靴を履けば、もう目の前にはアルフの姿。

 普段は銀時が見下ろす側であるのだが今は廊下と土間(どま)の段差によりアルフが見下ろす形になっている。

 冷たい眼差しを向けるてくるアルフは中々に迫力があるが、

 

「よォ、アルフ。随分元気そうじゃねェか。さっきまで死にそうな顔してたのによ」

 

 銀時はまったく気圧されず、普段と変わらず飄々としている。耳の穴をほじりながら声をかけるが、アルフは銀時の軽口に反応する様子はない。

 

「どけ」

 

 アルフはただ端的に要求を口にする。

 

「つうかよ、誰がなんの為に動けないお前おぶってこんなとこまで来たと思ってんだ。忘れ物取りに来たワケじゃねェんだぜ」

 

 銀時は高圧的な態度のアルフに対して平然とした顔で、小指についた耳クソを飛ばしながら告げる。

 

「あんな堅苦しい場所でもねェ。ましてや俺とお前意外に余計な奴が誰もいねェここなら、今のお前と腹割って話せると思ったんだけどな」

「知ったことじゃない。あたしはあんたに構ってる時間なんてないんだ。だから――」

 

 どけ、と再度通告してくるアルフの声にはだんだんとドスの色が濃くなっていく。拳にギリリと力が込められているのも銀時は見逃さない。

 アルフのあふれんばかりの怒気と殺意を感じながらも銀時は声音を崩さずに話しかける。

 

「じゃあなにか? 急いでフェイトのとこ行って復讐でも――」

「ッ!!」

 

 突如、銀時の左頬に感じたのは鋭い痛みと衝撃。

 すさまじい剛拳に視界はグラつき、唇は切れる。だが、銀時は左足を一歩だけ後ろに後退させるにとどまる。

 視線をアルフの顔へとむければ狼の使い魔は怒気と殺気がないまぜになった鋭い瞳をギロリと浴びせてくる。銀時はただジッとその視線を見つめる。

 

「それ以上ふざけたこと抜かすなら……カブっといくだけじゃすまないよ」

 

 普段、軽めの口調で言う口癖とはわけが違う。本気で殺す意志さへ感じさせるほどの威圧感がある。

 銀時はゆっくりと切れた唇から垂れる血を左手の甲拭う。

 

「……なるほどな。なんとなくわかってきた」

 

 血を混ぜた唾をペッと吐き出す。

 

「こりゃ、マジでおめェから話を聞いた方がよさそうだな」

「そうかい……」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフの目は据わり、両の手をゴキゴキと鳴らし始める。だが銀時は構わず口を開く。

 

「まずは話を聞け。あのな――」

 

 風を切る音と共にアルフの右の拳が銀時の顔面に向かって放たれる。

 バァン!! と凄まじい炸裂音が鳴るが、拳が当たったのは銀時の顔ではなく掌。

 アルフの剛拳を受け止めた銀時は口を開く。

 

「んなでっけェ耳頭にくっ付けるわりに、聞く耳持たねェってか……」

 

 語りかけようがもうアルフの口は開く気配がない。どうやら口ではなく拳でどかした方が早いと即決したらしい。

 我を失っていると言っても過言ではない狼をなだめる必要があると決めた銀時は、アルフの拳を受け止める手に力を籠める。

 

「いいぜ。うだうだ口で語るつもりがねェってんなら、拳で語った方が良さそうだ」

 

 銀時の言葉が終わると同時にアルフが空いた左の拳を振りかぶった瞬間、

 

「ちょっとォォォオオオオオオ!!」

 

 突如として奇声を上げながらパンチパーマのおばちゃん乱入。

 銀時とアルフがいるアパート一室の前までやって来たのはおばちゃんは興奮気味に捲し立てる。

 

「なにこれッ!? ちょッ!?」

 

 たぶん左右どちらかの隣の部屋に住む住人だろうおばちゃんが大きな破壊音に反応してやって来たようだ。

破壊された玄関扉を見ながら無駄に大声をまき散らすパンチパーマのおばちゃん。

 

「あんたたちちょっとどうしたのォォォオオ!?」

「あァ、すんません」銀時は飄々とした声。「いま、ちょっと取り込み中なので、要件なら後にしくれません? 別に大騒ぎすることのほどじゃないんで」

「いやいやいやいや!! どう考えてもただ事じゃないでしょ!! 大丈夫!? 怪我してない!?」

「いやいやいやいや。大したことないんで。気にしないでください」

 

 途中からアルフではなくおばさんと対峙しだす銀時。

 

「どこがァァァアアアアアア!! 玄関壊れてるじゃない!! あらやだ怖い!! これ絶対ドロボーでしょ!! 空き巣ね!! 空き巣なのねッ!!」

「うっせェェェババアァァァアアアア!! なんでもねェって言ってんだろうがァァァアアア!!」

「いやこわィィィイイイイイイイ!! もしかしてDV!! DV夫!!」

「誰がDVだコラァ!! DV(ダイナミックヴォイス)ババアに言われたかねェんだよ!!」

「いやァァァアアアア!! 殺されるわァァァアア!! 警察!! 警察呼ぶわ!!」

「すんまっせん!! 警察はマジ勘弁してください!! これ以上メンドーごと増えたらこっちもホント処理しきれないんで!!」

 

 銀時がパンチパーマおばさんとデカ声合戦しているのでアルフはすかさず銀時のどてっぱらに鉄拳をおみまいする。

 

「ンゴォ!?」

 

 しかも間髪入れず連続で腹パン連打する容赦のなさ。

 

「いやァァァァアア!! やっぱりDV!! DVだわ!! 警察!! 家庭裁判所!!」

 

 銀時は腹に痛みに耐えながら必死に弁明しだす。

 

「い、いやオベェ!! だなァァァ! グボェ!! ぼ、僕たゴゲェ!! ちィィィ! きょ、きょきょきょ今日オボォ!! ちょっと白熱しゲェェ!! たプレイをしてゴンェ!! ただけですってブベラァァァァァ! (訳:いや、僕たち今日はちょっと白熱したプレイしてただけです)」

 

 口から胃液と唾液を吐き出すだけでまったく気絶しないどころか作り笑いすら浮かべる銀時に業を煮やしたのか、今度は顔面に鉄拳をお見舞いしようとする。

 一方のおばさんは口元を両手で隠して騒ぎ出す。

 

「あらあらあらァ~!! まぁまぁまぁまぁ~!! そうなんですかァ!! あらやだ私ったらァ~!! 早とちりしちゃった感じかしらァァァ!!」

 

 なぜか言ってること理解できたおばさんが顔を赤くさせる中、銀時は腹を抑えながら必死に頭を上へ下へと移動させて拳を避ける。

 

「そ、そうなんですゥ!! ぼ、僕らのプレイィィ!! すぐに燃え上がっちゃってェェェェ!!」

 

 銀時は必死に頭がトマトのように砕けそうなくらい凄まじい剛拳を避け、時には腕でいなしながら必死にガードする。

 

「でも、なぜ玄関ドアが壊れているんですか?」

 

 おばさんのもっともな指摘に、銀時はアルフに髪を鷲掴みにされ何度も拳をドカドカ脳天にくらいながら必死に言いつくろう。

 

「そ、それわァァァ!! ほらアレェェェ!! 白熱し過ぎて脳が沸騰してアレになったのォォォォオオオッ!!」

「あらあらあらァ~!! まぁまぁまぁまぁ~!! 本当にお熱いのねェ~!!」

 

 おばさんはまたも口元覆って赤面。

 拳ではダメと判断としたのかアルフは人間の姿のままガブリと銀時の肩に思いっきり噛みつき、鮮血が飛び散る。

 

「これアレェェェエエエエ!! 俗にいうアマガミィィィイイイイイ!!」

 

 アマガミではなくガチガミなのだが、おばさんはまたも赤面。

 

「あらあらあらァ~!! まぁまぁまぁまぁ~!! マニアックなプレイがお好きなんですねぇ~!!」

 

 だがすぐに「あら?」と声を漏らす。

 

「でも旦那さんの背中にいっぱいガラス片が刺さってますが? それは一体?」

 

 吹っ飛ばされた時にガラスの破片がおもっくそ背中に刺さっていたが我慢していた銀時は叫ぶ。

 

「それはアレェェェェエエエエエエ!!」

 

 銀時は噛みつこうとするアルフの両肩を必死に押し返しながら、頭と肩と背中から血をダラダラ垂れ流す。

 

「ロウソクプレイ的なアレッ!! 背中に刺激受けると子供出来やすくなる超最新プレイ的なアレッッッ!!」

 

 銀時は右足を軸に体を半回転させながら力の限り両腕を振り絞り、

 

「だから心配しないでおばさんんんんんん!!」

 

 アルフは廊下の先にあるリビングまでぶん投げる。

 ぶっ飛ばされたアルフはソファに激突。そのままソファは後ろに勢いよく倒れ込む。

 

「だからおばさんは僕らの邪魔しないでください!! 今僕たち、子供を失うか失わないかの大事な瀬戸際なんで!!」

「わかったわッ!! 頑張って!!」

 

 おばさんの声援を受けながら銀時はアルフを吹っ飛ばしたリビングへと突撃していく。

 銀時の背中を見送ったおばさんは踵を返し、

 

「じゃあ、後は若い二人に任せて私は洗濯物を――」

 

 すぐさま自分の部屋へ向かおうとするのだが。

 ズドォン!! と後ろで響く凄まじい轟音に反応して、思わず後ろを振り向けば。

 

「ぬぎぎぎッ……!!」

 

 狼形態となったアルフに今にも頭を噛みつかれそうになっている銀時の姿があった。

 なんとか上顎と下顎を押しかえして抵抗している銀時を見ておばさんはビックリ仰天してしまい。

 

「お、おおおおおおお――!!」

「おっきい犬ですよねェェェェエエ!!」

 

 すかさず銀時がフォローの大声。

 

「えええええ!? でもそれどう見ても狼じゃない!! 警察!! 今度こそ警察に!! ウルフハンターッ!!」

「違います!! コイツは我が家のペット!! いえ、ファミリーですから!!」

「ええええええええ!? でも今襲われそうになって――!!」

「ちげェェェんだよ!! じゃれ合ってるだけなんだよッ!! 見れば分かんだろッ!!」

 

 と言いながら銀時はアルフに頭を思いっきり噛みつかれ、体を上へ下へとぶんぶん振り回されながら床や壁に叩きつけられる。もうとにかくなりふり構ってる余裕が無いので、気合で誤魔化そうとする。

 銀時は体が床に叩きつけられる直前に足を地面に付け、そのまま狼形態であるアルフの巨体を頭が噛まれたままの状態で持ち上げてしまう。

 

「うォォォらァァァアアアアア!!」

 

 オレンジの巨体を思いっきり投げ飛ばし、またリビングへとアルフを投げ入れるのだった。

 銀時は肩で息をしながら、グイっとおばさん顔を向け、ガシっと両肩を掴む。

 

「だからおばさんんんんん!! もうホントッ!! これ以上、家族の営みを邪魔しないでッ!! これ以上おばさんとあの剛力狼の相手してたら俺の体がもたないからッ!!」

 

 血走った眼で顔面血まみれにしながら頼み込む銀時を見ておばさんはぶんぶん頷くのだった。

 

 

 

 

 ――クソ……!! 

 

 リビングの床に背を付けて天井を見上げながらアルフは内心焦り、怒りと共に悪態を付く。

 

 ――クソ……!! クソッ……!!

 

 思い通りにいかない今の状況に強くは歯を軋ませ、ガン!! と拳を床に叩きつける。

 あまりの焦燥感に目の端から涙が出そうになり、目元を腕で覆う。

 

 ――こんなこと……してる暇ねぇんだよ!!

 

 あんな死んだ魚みたいな目をした男を相手にしている時間も暇も自分にはないのだ。だからこそ、殴ってでも噛みついてでもどかそうとしているのに。

 

 アルフはチラリと腕を上げて玄関口の方に視線を向ければ、さっきまでぎゃあぎゃあ知らないおばさんと口論していた銀時。さっきまでいたうるさいおばさんは追っ払ったようで今は一人だ。

 

 ――なんであんたは……!!

 

 銀時は頭から血を流しながら自分を見つめ、やがてゆっくりとこちらに向かおうと歩き出している。

 アルフはキッと腕の隙間から銀髪の男を睨み付ける。

 

 ――そこまであたしに構うんだ……!!

 

 一体なにがそこまであの天然パーマの男を突き動かすのか分からない。なにを思って目の前に立ちはだかっているいるのかは知りはしない。

 あの場面に遭遇していてあの天パが管理局の連中同様に〝今のフェイト〟の為に何かをしようとしているなんて思えない。

 だからこそ、本当にフェイトの事を思って動こうとしている者など自分だけのはずなのだ。

 

「くッ……!」

 

 改めて自身に残されている時間も猶予もないと考えるアルフは溢れ出た涙をすぐさま拭い去り、立ち上がる。

 そして扉の戸当たりを掴み、こちらにやって来る顔や方から血を流す銀時をアルフは睨みつける。

 

「どけよ……!」

「ワリィが、死に急いでる〝だけ〟のテメェをこのまま行かせるワケにはいかねェな」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフは俯き、

 

「なにも分かってない奴が……」

 

 歯ぐきから血が出んばかりに強く歯を噛み締め、

 

「なんにも知らない奴が……」

 

 掴む戸当たりに亀裂が入り、

 

「勝手なこと言うなァァァ!!」

 

 アルフは吠え、銀時に向かって走り出す。

 冷静な判断も思考もまったくできないアルフ。

 

 ――もうあたししか……あたししかフェイトを〝救える〟奴はいないんだ……!!

 

 怒り任せに拳を振り上げるアルフはまるでフラッシュバックのようにあの時――フェイトが自身や銀時と決別した時の光景が思い起こされる。

 アースラのブリッジでフェイトに〝真意〟を告げられた時の事を……。

 

 

 そうそれは……フェイトがパラサイトに耳打ちされ、決意の表情を浮かべた後に自分が本物であると証明しようとした時――。

 

【――アルフ……聞こえてる……?】

 

 突如として繋がったフェイトと念話に主従の繋がり(リンク)

 

「ッ!? ……フェ……イト……?」

 

 いきなり出来事に本来念話で返答できることもできず、動揺したまま主の名前を呟いてしまう。

 

【アルフ……突然の事で混乱してるだろうけど、とにかくこの念話が誰にも悟られないように聞いて欲しい。できるだけ、念話で答えて。お願い】

 

 聞こえてくる優し気な、だが必死な感情が伝わる主の声。だが声以上にアルフには分かることがいくらでもある。フェイトの今置かれてる立場も気持ちも。

 なぜならリンクが繋がった時点でフェイトの感情が一気に流れ込んできたのだから……。

 

【……フェイト……やっぱり……連中に脅されて……!】

 

 主の悔しいという思いも、悲しいと思いも、怒りに震える思いも全て。どうしようもない感情を感じてしまいアルフは瞳を震わせ、唇を震わせながらも溢れてくる感情を必死に我慢する。主を思って出てくる涙を必死に押し殺す。

 アルフが自身の状況をおおまかにではあるが理解してくれた事にフェイトは嬉しそうな声で。

 

【ありがとう……アルフ。すぐわかってくれ……。でも、いつまで時間稼ぎができるか分からない。だからこれから言う事を聞いて――】

【どうして!!】

 

 思わずアルフは念話で怒鳴り、フェイトの話を遮ってしまう。

 

【アルフ……】

 

 少し悲しそうな声で自身の名前を呟く主にアルフは捲し立てるように声を荒げる。

 

【どうしてあの時フェイトはあたしを置いていったんだよ!! 銀時はともかく、あたしとは念話だってリンクだってあるんだ!! だから、連中に脅されて誰にも話せないなんて事ないだろ!! あんな連中の言いなりになってあんな事しなくたって!!】

 

 いつものフェイトだったと言う安堵感よりも湧いてきたのは怒り、そして焦燥感。まるで今までのショックで受けたダメージを発散させるかの如く、アルフは納得できない部分に異を唱え始める。

 いや、アルフは内心どこか察してしまっていた。なにせ、自分よりもずっと聡明な主があんな行動をしなくてはならなかったのか。どうしてなんの相談すらできずに一人去ってしまったのかも。

 

【いくらでも相談してくれれば!! どんな事になったってあたしはフェイトに付いて――!!】

【ダメだよ】

「ッ!?」

 

 優し気に諭すような口調ではっきりと告げる主の言葉にアルフは口を閉ざし、フェイトはゆっくりと優しく告げる。

 

【だって、これ以上わたしのわがままにアルフを巻き込めないよ。私がこれからしなきゃいけない事はたぶん、後戻りはできないことだから……】

 

 心配ないよと言いたげな困ったような声で優しく語り掛けてくるフェイトの声に涙がでそうになるアルフ。

 

【だから、ここでアルフとはもうお別れしなきゃダメなんだよ】

 

 一人でも大丈夫だと言いたげな声だが、アルフには分かってしまう。リンクによってフェイトの不安で苦しみに溢れた気持ちが。

 

【どうしてなんだよフェイト……!! どうしてそこまでして……!! 一体連中になにを――!!】

【母さんの……〝命〟】

【ッ!? やっぱり!!】

 

 フェイトがいつものフェイトである時点で予想はできていた。母親思いの主にあそこまでさせられる脅しの材料なんて、もう母親の生死くらいしかないのだから。

 

【彼ら、理由は分からないけどどうしても私を犯罪者にしたいみたい】

【なにがしたいんだよあいつら!!】

 

 どれだけフェイトを苦しめれば気が済むんだ!! と内心怒りを露にしてしまう。

 あの優しいフェイトがあんな母親だって絶対見捨てられない事は分かっている。自分が悪役になろうととも。それが分かっているからこそアルフは連中の卑劣な手口に歯を強く噛み締め、拳を握りしめる。

 だが怒ってもいられないアルフは冷静にある理由を聞く。

 

【……でも、それならなんでこうやってあたしと念話が、できたんだい? それにリンクまで……】

 

 用意周到にプレシアの偽の頭まで準備した連中が魔導師の通信手段である念話も使い魔とのつながりであるリンクも念頭に置いないほど阿呆だとさすがのアルフも思ってはいない。

 どうやっているかは知らないが、フェイトの念話の内容を傍受しているのだろうし。

 

【うん。彼らは私どころかアルフたちのことだってどこからか常に監視している。だから私がアルフにこうやって念話することだってできないはずだと思うよね?】

 

 そりゃそうだ。アルフが真実を知った暁には銀時どころか、果ては管理局に事情を話してフェイトを助けさせようとさせるかもしれないリスクを連中は背負うことになる。

 もうアルフには主の意志を無視してでも、それこそフェイトに恨まれたって本当のことを銀時だろうが管理局にだろうが打ち明けたいと言う思いが芽生え始めている。

 だがもし、

 

【だからね、私は必死に彼らを説得したの……】

 

 リンクの繋がった今の状態で、

 

【だって……いくら母さんの為でも……アルフを最後の最後まで傷つけるなんて……】

 

 フェイトの溢れんばかりの感情を受け止めたのなら……。

 

【でも…………ごめんね……アルフ……。調子のいいこと……言って……。本当に、ごめんね……。強引に別れる為でも……あんなこと……。さっきまで散々……傷つけて……。本当に……ごめんね……】

 

 嗚咽に紛れた涙声を聞くたびにアルフのさきほどまでの決意が揺らいでいく。フェイトの後悔の念と同時に伝わって来る決意を感じる度に。

 

【アルフだけには……〝本当の私〟で……最後に……お別れが……言いたいの……】

【いやだ……!!】

 

 念話と一緒に口からも『いやだ……!!』と言う言葉が漏れ出てしまう。

 

【フェイト! お願いだから……!! 頼むから……!! 帰ってきてよ……!!】

 

 今からでもいい。今からでもいいからこちらに側に戻って来ると決めてくれたのならば、すぐにでも事情を銀時にも管理局にも打ち明ける。

 そうすればフェイトだけは……。

 

「もう……いいから……!!」

 

 これ以上、傷ついてほしくない、背負ってほしくないと言わんばかりの声と言葉がアルフの口から洩れてしまい、思わず頭と耳を押さえつけてしまう。

 

【ダメ。……ちゃんと聞いて】

 

 言葉では冷たく、だが念話ではどこまで優しく語り掛ける少女。

 

【ごめんねアルフ。悲しいお別れだけど、最後まで聞いて】

【フェイト……! 一言いってよ! 助けて欲しいって! あたしに今からでもいる場所を教えてよ!! そしたら全員ぶっ飛ばしてプレシアだって助けてやるから!!】

【アルフ、わがまま言わないで。アルフだってわかってるよね? もう私やアルフだけじゃどうしようもないって。このまま彼らに反抗したら母さんの命も……〝私の命〟だってないってこと……】

 

 アルフは残酷な現実とフェイトの言葉に対して頭をぶんぶんと振る。

 ズルい主である。自分に無理にでも言う事を聞かせようと、普段なら口にしないセリフまで使って説得しようとしている。

 

【このまま彼らの言う事を聞いてうまくいけば、母さんの命だって助かる。それに私の命も。まぁ……これからはとっても悪い犯罪者ってことになっちゃうだろうけど】

 

 最後のセリフなんかは困ったような声で軽めに言うフェイトにアルフは余計に辛さを覚えてしまう。

 いや、そもそもこの事件が終わったらフェイトだってどうなるか分からない。それこそプレシアだって。だがしかし、結局母の命が握られている以上はフェイトがどうこうできる立場ではないことくらいアルフも既に分かっているのだ。

 

「もう……いいんだって……!!」

 

 苦しまなくていい! 無理しなくていい! と続く言葉を押し殺しながらもアルフは涙を流し、頭に付いた耳を抑え付ける。これ以上別れの言葉を聞きたくない、先に進みたくないと思いながらも。

 

【あのね、アルフ。アルフはさ、母さんのこと酷い母親だって言うけど、私にとってはかけがえのない家族で、大切な人なの】

「やめてくれ……!!」

 

 愛しそうに母の事を語るフェイトの言葉を遮ろうとするアルフは既に、念話で返答することさへ満足にできないでいる。

 

【だから母さんの命は絶対に守りたい】

 

 譲れない決意が伝わってくる。

 アルフは涙を流し、前髪を掻きあがるように両手で頭を抑える。

 

【最後の最後まで母さんのこと、アルフに分かってもらえなかったのは残念だけどね】

 

 少し困ったような軽めの口調でフェイトは告げる。

 

【もう、時間も稼げそうなにない、かな? 本当にこれで最後。もう私はアルフの前で本当の自分になることもできないね】

 

 徐々に別れの時間が迫っていることに対してアルフは嗚咽を漏らし、指に自然と力が入る。

 フェイトの昔話は終わり、銀時に問い詰められ始めている。

 

【銀時って、意外に怖いね。思わず決意が揺らいじゃいそう……】

 

 ――お願いだから揺らいでよ……。

 

 使い魔の儚い願いも届きはしない。

 

【だから〝最後〟にアルフに聞いてほしい】

 

 フェイトは今までに聞いた事のないくらい優し気な声で、

 

【私はね、母さんのことが大事。でも、それと同じくらいアルフは私にとって――】

 

 フェイトが口で、そして念話で最後の言葉を告げる。

 

『…………もう、今の私にアルフは必要ない』

 

【大事な――〝家族〟だよ】

 

 その言葉を聞いてついにアルフは膝から崩れ落ち、顔を抑えながら頭を下げ、涙が流し続ける。

 そんなアルフの姿を見ながらも、フェイトは言葉を続ける。

 

【だからアルフは最後まで生きて。主を変えてでも、どんなモノに頼ってでも。どんなことをしても。私がアルフに願うのは、最後まで幸せに生きて欲しいってこと】

 

 自分を思う、主の切な願いを感じ取りながら、アルフはフェイトの念話を聞き続ける。

 

【そして、これから起こることは最後まで、ただ黙って聞いてほしい。私と母さんの為にも】

 

 お願い、と言う言葉を最後にフェイトは念話もリンクも完全に切ってしまうのだった。

 もうアルフは我慢できず頭を抑えながら地面に額をこすりつけるほど蹲る。

 

 優しい主としての、家族としてのフェイトの言葉を聞いたアルフ。

 

 ――なぁ、フェイト……。

 

 画面ではパラサイトがなにやらフェイトの犯行動機だとか出生だとかについて語っている。だが、もう今の自分にはそんなことはどうでもいいことだった。

 

 ――あんたがさ、あたしのこと大事な家族だって、幸せに生きて欲しいって言うんならさ……。

 

 アルフの中ではふつふつとどうやっても抑えきれない衝動が沸き上がり、渦を巻く。

 

 ――あたしだってあんたと思いは同じなんだよ?

 

 もうフェイトが何者であるだとかそんなことはどうでもいい。

 とにかくフェイトに遭う。それから自分の全身全霊を使って奴らからフェイトを救い出す。フェイトになんと思われようとも関係ない。

 なにがなんでも(かぞく)の元へと行かねばならない。

 だからこそ、

 

 ――あたしもさ、あんたに幸せになってほしいから……。

 

 アルフは決意と共に自身の邪魔をする銀髪へと拳を振るうのだった。

 



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第四十六話:苦悩の始まり、決意の強さ

リアル事情で2カ月以上更新が遅れてしまい申し訳ございません。
今回はあとがきと、あとがきにちょっとしたおまけ話を載せています。


 時空航行艦アースラの食堂。

 そこでテーブルの一角を囲んで集まっているのはアースラ勤務の管理局員ではない。新八、神楽、近藤、土方、沖田、山崎、九兵衛、東城、なのは、アリサ、すすか、ユーノといった非管理局の者たち。

 もちろん、大半の局員が捜査の為に出払っているので食堂には新八たち以外誰もおらず多くの人間が賑あう場は彼ら同様にしんと静まり返っている。

 新八たちは管理局の事件捜査が進展するまでの間はゆっくりしていてどうぞ、とやんわりとした感じに食堂を勧められ渋々此処にいるわけだが、そもそも誰もかれもが今の心情でゆっくり落ち着けるはずもない。ただただ、沈む感情や混乱する思考を整理しているだけに過ぎないのだ。

 新八に至ってはさきほどクロノにアルフの問題を聞いたばかりとあって気が気ではない。

 とは言え、結局のところ事件の捜査は管理局に任せざるおえない状況なので、今に至るまで誰一人言葉を発さず、下を俯くか、腕を組んで目を瞑るか、椅子の背もたれに寄り掛かるか、タバコ吸っている者しかいない。

 

「どうやら……」

 

 そしてそんな重い空気の中、開口一番に口を開くのは柳生九兵衛。彼女は真剣な表情で言葉を紡ぐ。

 

「僕たちがいない間に色々と大変な事態になっているようだ……」

「九兵衛さん……」

 

 新八が沈んだ表情を下へ向けたまま口を開く。

 

「いつまでブリーチなんですか?」

 

 俯きながらもエセ死神スタイルの眼帯少女にツッコミ入れるツッコミ担当の新八。

 すると、

 

「それで……結局どうだったの? あんたら一応、事件現場に行ってきたんでしょ? 強引に」

 

 本題の口火を切ったのはアリサ。『強引に』の部分から金髪の少女はジト目を向けながら聞く。

 

「なにか分かった事とか、手がかりになったことなかったの?」

「う、うん……。まぁ……特に分かったことは……なかった……かな……」

 

 なのはたちの不安を煽るだけだと言う事でクロノに口止めされている新八は歯切れの悪い答えしか出せなかった。そもそも銀時とアルフの問題をどう説明していいか分からないのが実情である。

 アリサは新八の答えを聞いて「そう……」小さく言葉を返し、神楽の方へと顔を向ける。

 

「神楽、あんたは何か気づいた?」

 

 質問を受けた神楽は腕を組んでう~んと唸った後、口を開く。

 

「あったネ……」

「……なにが?」

 

 まさか手がかりが? と思ったのか、アリサは真剣な表情で聞き返す。

 神楽はまじめな顔で。

 

「――ゲロが」

「わかった。もうあんたは喋んなくていいから」

 

 アリサは冷たく返し、ため息を吐いてより表情を暗くさせる。

 

「なんだヨー。私が頑張って見つけた手がかりが不満アルかー?」神楽は不服そうに頬杖を付き、文句を垂れる。「もっと時間があれば私はもっと多くの手がかりを見つけられのにナー」

「おめェはクロノを怒らせて発狂させただけだろうが」

 

 と言った土方の言葉を聞いてすずかとなのはとアリサは「あぁ……」と何かを察したような声を漏らす。

 

「だから神楽ちゃん土方さんに引きずられてたんだ……」とすずか。

「神楽ちゃん、クロノくんたちの邪魔しちゃダメだよ……」となのは。

「神楽を捜査現場に参加させちゃダメって事が分かっただけでも収穫ね」とアリサ。

 

 自分より年齢が下の少女たちに呆れられ、挙句の果てには皮肉をもらう始末。

 だが我らが神楽ちゃんはどこ吹く風。

 

「まったく、融通の利かないポリ公共ネ。折角私の明晰な頭脳を駆使した名推理でズバリと銀ちゃんだろうがアルフだろうがクリスマスの尻尾だろうが掴んでやろうと思ったのに」

「んで、明晰な頭脳を持つ迷探偵殿はともかくとしだ」

 

 手に黒い携帯ゲーム機を弄る沖田が視線を液晶画面に向けたまま口を開く。

 

「あんた……さっきあんな事あったばっかなのによくゲームしてられるわね……」

 

 そんな呑気な姿の沖田を見てアリサは呆れた表情で告げるが、沖田は構わず言葉を続ける。

 

「結局手がかりなんてもんはほとんどなしでさァ。コナンや金田一みてェに都合よく手がかりあるなんてことはないってことですかねェ」

 

 タバコの代わりにコーヒーを飲んで口の寂しさを紛らわしていたであろう土方はため息を吐く。

 

「どうやら、管理局の連中も今のところは有力な手掛かりを掴めてはなさそうだな。まぁ、予想通りって言えば予想通りだが」

 

 どうやら、クリミナルの連中が裏のような世界で仕事をこなすプロであるなら自分たちが不利なるような手がかりを残さないであると土方は予想していたようだ。

 

「あッ……」とそこでなのはが声を漏らす。「もしかして沖田さんと土方さんはワザと外に出たんですか?」

「やっと気づいたか?」

 

 沖田はゲーム機を弄りながら答える。

 

「うじうじ悩んでるより、少しでも情報を集めとけって話だしな」

 

 そこまで言って沖田は「ね? 近藤さん?」と真選組局長の名を出す。

 

「ん?」

 

 名前を呼ばれ近藤はしばしの間沖田を見つめた後に自信たっぷりに頷く。

 

「うむ……」

「じゃあ、近藤さんの指示だったんですか?」

 

 すずかが驚いたように近藤の顔を見つめる。

 

「あぁ……」

 

 静かに自信に満ち溢れた顔で頷き、アリサはちょっと意外そうな表情で。

 

「普段かなり頼りないって思ってたけど、やる時はやるのね。さすがはリーダーじゃない」

 

 近藤はニヤリと笑みを浮かべた後、クワッと表情を変えて告げる。

 

「ゲームは情報収集が命だからなッ!!」

「ちげェェェェよッ!!」

 

 と新八が即ツッコミまくる。

 

「誰もゲームの話してねェから!!  沖田さん見てテキトーなこと言ってんじゃねェよ!! つうかあんたまったく話についてきてねェじゃん!! なんでそんなに自信満々に頷けんだよッ!!」

 

 アリサの表情はすぐさま呆れたものへと変わる。

 

「関心して損した……」

 

 すると近藤は涙目で土方に顔を向ける。

 

「トシィィィィィ!! なんで俺に相談してくれないの!? 俺ちょっとショック!!」

「自己判断だ自己判断」

 

 トシは真選組のリーダーに顔を背けながら答えるのだった。

 

「土方さんや沖田さんて、凄いですね……」

 

 ポツリと呟くように話しかけてきたなのはに名前を呼ばれた二人はん? と声を漏らして反応し、沖田は少しだけ眉間に皺を寄せる。

 

「やぶから棒に何言ってんだ?」

 

 沖田の問いかけになのはは「えっと……」と声を漏らしてから答える。

 

「だって、あんなことがあってまだ全然時間も経ってないのに、お二人はすぐ次に繋げようと動いているのが凄くて……」

 

 「私はただ、ここで俯いてるだけだったし……」とそこまで言った所で言葉が続くかなくなったのか、顔をまた俯けてしまうなのは。

 なのはの言葉を皮切りにまた彼らの間で暗い雰囲気がどんより染み渡りだし、深く落ち込む少女の姿を見て沖田はため息を吐いた後、土方へと視線を向ける。

 沖田のジトッとした生意気な眼差しははまるで「フォロー頼みまさァ」と言わんばかりであり、その視線に気づいているだろう鬼の副長は疲れたようにため息を零している。

 ひとしきり息を出し終えてから、土方は顔をなのはへと向ける。

 

「おい、なのは」

「えッ? ……あッ、はい……」

 

 心ここにあらずであったなのははピクッと顔を上げてから反応の遅い返事をし、土方は腕を組みながら言葉を続ける。

 

「俺だってまぁ、何も思わんワケじゃない。まったくショックを受けてない……と言えば嘘になる」

「そう、ですよね……」

 

 なのははぎこちない表情で頷き、呟く。

 

「だけど土方さんは大人で、なにより警察官さんですもんね。ひどい事が起こったからって、うじうじなんか……してられませんよね……」

 

 まるで自分に言い聞かせているかのように言葉を紡ぎ出すなのはを見て、土方はまたため息を吐く。

 

「なのは。……そもそもだ。俺らは無関係な出来事に首突っ込んでるワケでもねェ。なのにダメージ受けるなって方が酷な話だろ。警察だろうが大人だろうがショックを受ける時は受けるんだよ」

 

 土方の言い分に異議を唱えるようにでも、とアリサが言って言葉を掛ける。

 

「あんたも沖田も全然気落ちしてるように見えないけど……」

「そりゃー土方さんは人でなしだからな」と沖田。

「それはおめェだ」

 

 と青筋浮かべる土方は話を戻す。

 

「俺はじっとして頭悩ませてるよりは木刀で素振りしたり、捜査したり……まァようは体動かしながら悩む方が性に合っているだけのことだ」

「そう……だったんですか……」

 

 土方も土方で悩んでいる。クールの表情の裏側では彼なりに心を整理しようとしているのだと理解したのだろうなのは。彼女は納得したような安堵したような表情となる。

 土方の言葉を聞いてアリサ「なるほど」と頷き、沖田へと顔を向ける。

 

「ならあんたも同じ感じなの?」

「さァてねェ……」

 

 と言って沖田は椅子の背もたれに背中を預けながら天井を見上げる。

 

「そもそも、分からねェことだらけなのに頭悩ます方がバカらしいと俺は思うけどなァ……」

「ッ……」

 

 沖田の言葉になのはは思わず声を漏らし、栗色髪の青年は独り言のように言葉を続ける。

 

「連中の言う通り俺らの知っていることなんざ毛の生えた程度。事件の全貌どころかフェイトのことまでまるで分ってない。これじゃー道化もいいとこですねェ」

 

 沖田の自分たちの状態を的確についたキツイ言葉に新八は「うッ……」と苦々しい声を漏らし、アリサ、すずかは暗い表情を浮かべている。少女たち三人の中でなのはだけは深く俯いてしまったので表情こそ分からないが、より深く悩み始めていることだろう。

 一方、柳生家の二人は話の内容に付いて来れないようなので怪訝な表情を浮かべるばかりだ。

 沖田は腰の鞘から刀を引き抜き、光る刀身を色のない瞳で眺める。

 

「斬らなきゃならねェ奴が分かりづれェと、憂いなく刀を振れねェなァ……」

 

 平然とブラックな発言する沖田にアリサとすずかは頬を引き攣らせて冷や汗を流す。

 土方は一度息を深く吐いてから沖田を親指で指す。

 

「まァ、まとめるとだ。そこの人斬り腹黒ドSは言う通り、今のところはさっきのやりとりだけでフェイトが良い奴か悪い奴か決めつけてどうこうするほど短慮な考えは起こさねェってことだ」

 

 沖田はジト目を土方へと向ける。

 

「なに言ってんですかィ? 土方さんは短慮でしょ? 普段からめっちゃキレてるじゃありやせんか」

「それはテメェが普段から俺をキレさせるからだろうが」

 

 と若干青筋を浮かべてキレ気味の土方。

 

「折れたナイフ土方という異名で呼ばれてるくせに」

「なんだその出川〇郎みてぇな異名。俺一度もそんな間抜けな異名聞いたことないんだけど? つうか折れたナイフってなんだ? 俺の気がめちゃくちゃ短いって言いてェのか?」

「あとチ〇コも」

「なんなら今からテメェのナイフも折ってやろうか! あん?」

「土方さん沖田さん!! 小さい女の子もいるんですから下ネタもほどほどに!!」

 

 おちおち落ち込んでもいられず慌てて新八が二人の口喧嘩をいさめる。

 沖田は刀を鞘にしまい、口を開く。

 

「しっかし、ことここまで来るといろいろ臭いますねェ、土方さん」

「そりゃ私の指にはまたゲロが付いているからナ」と神楽。

「ちょッ!? きたなッ!!」

 

 少しテカった人差し指を立てる神楽に対してアリサはすぐさま嫌悪の表情を露にし、「とっと手を拭きなさい!!」と怒鳴りながら神楽の顔に手拭きタオルを投げつける。

 また話しがどうでもいい方向に逸れ始めたので土方「んん!」と強めに喉を鳴らしてから、

 

「まァ……あのバケモン連中がきなくせェのは自明の理だろ。んなこと口に出さなくてもここの大半の連中が感じてることだ」

 

 そう言って土方はコーヒーを啜る。

 

「まったく、きな臭くて仕方ねェですぜ」

 

 と相槌を打つ沖田に合わせて土方は頷き自身の考えを口にする。

 

「あのまるで台本が用意されたかのようなセリフ回しにしろ、お前が気づいた緑のドロドロと連中の関係にしろ……どう考えたって、全ての真実が明るみ出たなんてワケがねェしな」

「スイッチの品薄売り切れはどう考えてもきな臭いですぜ」

「「いやなんの話ィィ!?」」

 

 まさかの沖田の答えに土方と新八は思わずツッコミを入れ、

 

「どっからスイッチ出てきた!? お前の言うきな臭いってそっち!? いくらなんでも関係なさ過ぎてな上に唐突でビックリだわ!! そもそもスイッチ品薄の話題なんてとっくに過ぎた話だろうが!!」

 

 と土方は更にツッコム。沖田はゲーム画面を眺めながら平然とした声で告げる。

 

「だってしょうがねェでじゃねェですかィ。ここ最近までメンタル豆腐作者が精神病んでやろうと思ってもできなかったネタ――」

「おいやめろォォォ!! そこら辺のリアル事情を持ち出すんじゃねェ!! マジそこら辺はディープな内容だからな!!」

「沖田さん!! 話を戻しましょう!! 話を!!」

 

 慌てて新八も土方をフォローする。

 

「スイッチはやっぱり転売屋や業者の大きな思惑が動いて――」

「誰がスイッチの話に戻せっていったよ!!」と土方。

「FGOのガチャってェ――」

「だからディープな話に入ろうとすんじゃねェェェ!! お前なに!? 作者と一緒にお前までいつの間にか精神病んじゃったのか!?」

「つうか沖田さん! いちいちシリアスぶっ壊すの止めてくれません!?」

 

 新八がツッコミ入れ、東城が「まったくですな」と言って腕を組み眉間に皺を寄せながら告げる。

 

「スイッチ品薄による業者の陰謀など考えるよりも、新しい携帯ゲーム機種がどんなものであるか想像し胸躍らせる方が有意義ではありますまいか?」

「おめェも話に乗っかるな!!」と新八。

「いやいや」と近藤は腕を組んで首を横に振る。「そもそもスイッチが3DSに代わる新しい携帯ゲーム機種と言う分類で良いではなのか? 少々大きめだが持ち運びでき、いつでもどこでも遊べる時点で携帯ゲーム機としての利点を全て兼ね備えているぞ。値段もリーズナブルだしな」

「おめェも乗っかってくるな!! つうかなにこれ!? スイッチの宣伝!?」

「お待ち下され近藤殿!」と東城は食って掛かる。「スイッチは確かに持ち運びができ、いつでもどこでもゲームができますが、元々は据置ゲームがテレビがなければ遊べないという概念を覆し考案された物! つまり据置ゲームと言う分類として扱わなければその魅力が半減してしまう!! なによりスイッチライトと言う存在をお忘れか!!」

「しまった! 俺とした事が!! 大事なところを失念していたァ!!」

 

 と近藤は頭を抱えて自身の失言に後悔している。

 

「あんたは年中失念だらけだけどな」

 

 と真選組副長は冷ややかなツッコミを入れ、沖田は近藤へと顔を向ける。

 

「そもそも注目すべてき点はスイッチ品薄の原因ですぜ」

「うん。お前はまずゲームの話題から焦点ずらせ。いくらなんでもしつけェから。つうかもう終わったって言うか解決した話題だからな? ゲーム屋行ってみろ。すぐにスイッチ購入できるぞ」と土方。

「でもよく考えてみてくだせェ土方さん。当時話題だったマリオオデッセイにしろ最近発売されたスマブラにしろ、肝心の本体は品薄状態で転売されるという事例。こんなことを今後許せば、もし周りの奴らが最新作をプレイして盛り上がっている中、自分だけで買えるはずの本体買えずにいまだにその面白さを体験できない悔しい思いを味わうってことがまた起こるかもしれないんですぜ? なにより土方さんは販売元に金が行き渡らず、転売連中が私腹肥やす状態を良しとするんですかィ」

「……なるほど、確かにそうだな」

「土方さんんんんんんん!?」

 

 まさか回答に仰天する新八。いきなりツッコミがボケに回ったのだから仕方ない。確か土方はマリオファンであり弁天堂好きだったので、マリオを登場するするゲームをプレイできないことで納得しちゃったのかもしれない。どうでもいいことだが。

 

「なるほど」と近藤が腕を組んで頷く。「今なお着任できない提督というワケか」

「私はいつになったら天龍殿のフフ怖が聞けると言うのだ!!」

 

 バン!! と悔しそうに東城はテーブルを叩き、ガバっと隣に座る九兵衛へと顔を向ける。

 

「こうなれば若!! 少々お胸が足りませんが、若が天龍殿となり私の秘書艦に――!!」

 

 言い切る前に九兵衛の裏拳が東城の顔面に炸裂する。

 

「ちょっとちょっとちょっとォ!! なんなのこのボケ率!? 前回のシリアスの反動!?」

 

 いくらなんでも見ていられなくなった新八が物申そうとすれば、神楽も「まったくアル!!」と怒鳴り声を出す。

 

「艦これもスイッチもいまの私たちにはどうでもいいネ!! どっちも終わった話題ネ!! 問題視すべき点は他にアルある!!」

「神楽ちゃん!」

 

 普段ボケまくりの神楽から真面目な発言が出た事に新八は意外そうに彼女の名を呼び、チャイナ娘は机をバン!! と叩く。

 

「銀魂乱舞!! 私たちが語るべきはこっちアル!!」

「「確かに!!」」

 

 と近藤と東城が納得し、

 

「ちげェェェェよ!! 誰が宣伝商品変えろって言ったよ!! そしてそっちももうホットの話題じゃねェし!!」

 

 新八は力強くツッコミすれば神楽は顔を向けて、

 

「そもそも新八はおかしいと思わないアルか!! なんで冴えない眼鏡のお前があんなに敵キャラばったばった無双してるアルか!! 違和感バリバリネ!! まさか制作陣に賄賂でも渡したんじゃねぇだろうナ! 見損なったネ!!」

「そこは別にいいだろうが!! ゲームでくらい活躍したっていいだろうが!! 僕だって一応人気キャラなんだぞコラ!! バン〇ムさんはちゃんと僕のこと理解してるじゃん!! 正しい性能じゃん!!」

 

 神楽はビシッと新八の顔に指を突きつける。

 

「お前はJスターズで眼鏡だけ映ってツッコミ入れてた記憶を忘れたアルか!!」

「それを言うならおめェだって操作キャラじゃなかっただろうが!!」

「眼鏡だけ映って、敵千人倒した時に『お前こそ真の銀魂無双よ!!』と言うセリフは誰が言うつもりネ!!」

「止めろォォ!! 確かに同じ無双ゲームかもしんないけど、メーカー元ちげェから!! ごっちゃになっちゃってるから!!」

「ええッ!?」と近藤は驚く。「無双ってバンナ〇さんが作ってるんじゃなかったっけ!?」

「ちげェェェェよ!! いや確かに無双系はバ〇ナムさんも出してるけども!!」

「バ〇ナムって言えば有名なクソゲーがー―――」

「おィィィィ!! だからそういう話止めろ!! どんだけ闇を持ち込めば気が済むんだテメェは!!」

 

 そんなこんなでああだこうだとボケとツッコミの合戦をしている時。

 

「いい加減にせんかァァァァァァァァいッ!!」

 

 耐えきれず、新八は力の限りドカン!! とテーブルを叩きながら怒声を上げる。

 この場に居る全員の視線が怒声の主である新八へと向けられる。

 

「さっきまであんなことがあったばっかなんですよ!! アルフさんはすごくショックを受けて!! フェイトちゃんはあんなことを言って!! 銀さんはアルフさん連れていなくなっちゃうし!! ちょっとはあんたら空気読んで下さいよ!! なのはちゃんやアリサちゃんやすずかちゃんに気を使いましょうよ!!」

 

 もうとにかく思いついた言葉を次々と口から発していき、声を荒げ、感情を露にする新八。

 

「ちょっと新八! 落ち着いて!」

「私は大丈夫ですから!!」

 

 アリサとすずかは慌てて新八をなだめようとする。

 なんとか新八を落ち着かせようとしてかアリサは説明し出す。

 

「いや、確かに沖田や神楽たちのノリは空気読めないかもしれないけど、別にあたしそれで傷ついてないし。そもそもいつものことだから気にしてないし」

「うんうん!!」

 

 とすずかも首をぶんぶん縦に振って相槌を打つ。

 どうやら新八のあまりの剣幕に二人は逆に冷静になって気落ちした感情すら吹っ飛んでしまったようだ。

 だが少女二人がなだめようとも怒髪天となった青年は止まらない。

 

「いいや二人が許しても僕が許さない!!」

「そもそも私たち怒ってないけど!?」とアリサ。

「なのはちゃん為にも僕は心を鬼にして言わせてもらいます!!」

「特に気にしてない私たちの為に怒るんですか!?」とすずか。

 

 少女たちにツッコミ受けながら新八が怒鳴り声を上げている途中でなのはは「ちょっと、お手洗い行ってくるね……」と言いながら横にいるすずかにどいてもらって席を立つ。

 なのはの様子など全く目に入ってない新八は説教を始める。

 

「そりゃいつも通りの僕らならこのノリでもいいでしょうけど、ここは江戸でも歌舞伎町でもないんです!! 別世界なんです!! 海鳴市なんです!! リリカルなのはなんです!!」

 

 と新八が力説している間になのははとぼとぼと食堂から廊下に繋がる扉へと向かって行くのをすずかとアリサは眺めている。

 

「内輪ネタとかメタネタやってる場合じゃないんですよ!! もっとマジメに!! シリアスに!!」

 

 と新八が熱く語っている間になのはは廊下に出て姿が見えなくなってしまう。

 

「僕は前々から言いたかった!! あんたらいくらなんでもこっちの世界に銀魂のノリを持って来すぎ!! ギャグじゃねェんだよこっちは!! シリアスなんだよこの世界は!!」

「あの~……新八……」

 

 とアリサが捲し立てる新八に話しかけようとするが、怒る眼鏡は止まらない。

 

「いつも通りじゃダメなんです!! もっと気を使って!! 知的な会話繰り広げて!! なのはちゃん傷つけないで!!」

「新八さん……あの……なのはちゃんは……」

 

 すずかも話しかけようとするが感情の赴くままに怒鳴り散らす眼鏡の耳には入らないず、なのはがさっきまでいた空席を席を両手を使って指し示す。

 

「そう! なのはちゃん!! ほら見て!! なのはちゃんを見て!! あんたらが無神経な会話繰り広げるもんだからなのはちゃんめっちゃ落ち込んで――!!」

 

 とここで新八がさきほどまでなのはのいた場所に顔を向け、言葉が止まる。

 

「………………」

 

 新八は少しの間黙りこくり、やがてすずかへと顔を向ける。

 

「…………なのはちゃんは?」

「えっと……お手洗いに……」

「……いつから?」

 

 すずかの代わりにアリサが答える。

 

「『なのはちゃん為にも僕は心を鬼にして言わせてもらいます』あたりから」

「そっか……」

 

 と言って口を閉ざし、少ししてから新八は再び口を聞く。

 

「なのはちゃんは僕の話とかは?」

 

 新八の問いにアリサは少し視線を逸らしてから真顔で告げる。

 

「……たぶん、まった耳に入ってないんじゃないかしら? 反応している様子すらなかったし。そもそも、チラっとあの子の様子見たけど土方の言葉聞いてからずっと思い悩んでるみたいで、周りの音なんてほとんど耳に入ってないはずよ。だからそもそも傷ついているもなにもないわけで……」

「僕が怒った意味とかは?」

「ねェだろ」

 

 と沖田に冷たく一蹴される。

 そして新八は遠くの方を見つめながら思う。

 

 ――なにやってんだろ……僕……。

 

 とても頭が冷えた新八であった。

 

 

 

 

 ――私は……どうしたら……。

 

 座って思い悩んでいても仕方ないと思ったなのはは気分転換の為にアースラの廊下を歩いていた。

 リンディやクロノには食堂で待機しているように言われてはいたのだが、じっとしていてもネガティブになっていくだけ。だから土方の言葉を見習って少しは体を動かしてもみたが気分も悩みもまったく晴れることはなく、良い考えがもまったく浮かばない。

 

 ――こんな時……。

 

 別の誰かならどうするか? 自分以外の誰かならこんな状況の時どうするか? という問いかけをしてみた。

 そしてふとある人物のことを思い出す。

 

 ――そう言えば、銀時さん……。

 

 あの銀髪の気だるげな眼をした人物の顔を思い浮かべる。

 あんなことがあった後でも即座に予想外の行動に出た人物は何を思い、何をしようとしているのか。

 それがとても気になり始めるなのは。

 

 ――銀時さんは、フェイトちゃんのことをどう思っているんだろう……。

 

 なにか目的があるからあのような行動に出たはずである。だが、その理由は皆目見当も付かない。

 自分ではどうやったってあのやることなすこと予想できない人物の行動理由を考えることなどできないだろう。

 だが彼がどういう人物なのか、そしてフェイトに対してどのような答えをだしているのか無性に気になっている。

 だから彼を知っているだろう誰かに聞こうと思い、食堂に戻る為になのはは踵を返そうと振り返ると。

 

「こんなとこでなにやっているアルか?」

 

 赤毛チャイナ娘の顔面がドアップで目に映り込んでしまうのでなのはは「うひゃーッ!!」と悲鳴を上げて尻もちをついてしまう。

 

「か、かかかか神楽ちゃん!? どどどどどどうして!!」

 

 あまりの不意打ちの出来事に動揺しまくるなのはに対し、神楽は腕を組んでむすっとした表情で告げる。

 

「あの説教眼鏡の話なんか聞いてられないからなのはの様子を見に来たネ」

 

 と言ってから神楽はなのはに手を差し出す。

 

「そ、そっか……」

 

 なのはは「ありがとう」と言って神楽の手を取って立ち上がり、ポンポンと尻に付いた埃を叩き落とす。まぁ、そもそも転んだ原因が目の前のチャイナ娘なのでありがとうもクソもないのだがお人よしのなのはにはまったくそんな考えは浮かばない。

 なのはを立ち上がらせた神楽は眉間に皺を寄せる。

 

「そもそもトイレと廊下を間違えるなんて、なのはは思い詰めすぎもいいとこアル」

「あ、アハハ……。ごめん……」

 

 頬を掻きながら苦笑い浮かべるなのは。そもそも気分転換の為に廊下に出たのであって、決してトイレと廊下の場所を間違えたワケではない。まぁ、すずかにお手洗いに行くと言って出て来たので神楽の言葉は無理からぬことだが。

 

 ――思い詰めすぎ……か……。

 

 とは言えだ。神楽の言っていることも決して的外れではないので、なのはは複雑な気持ちになる。

 確かに家族でも親友でも友達でもないフェイトの為にここまで思い悩む自分はちょっとおかしいのかもしれない。だが、悩まずにはいられないのも正直な気持ちである。

 

「あの……神楽ちゃん!」

「ん?」

 

 だから思わず聞かずにはいられなかった。

 

「神楽ちゃんは、分かる? 銀時さんの考え。なんでアルフさんを連れていったのか。これからどうするのか?」

 

 もしかしたら自分の答えも見つかるかもしれないからと、自分よりもフェイトと確かな繋がりが有ったであろう人物のことを聞かずにはいられなかった。

 

「あのチャランポランの考えることなんて私にはさっぱりネ」

 

 両手を頭の後ろに組む神楽の答えを聞いてなのはは少し残念そうな声で。

 

「やっぱり……そう……だよね……。ごめんね……無理なこと聞いちゃって……」

「ただ、分かんなくても分かることもあるネ」

「えッ?」

 

 よく意味の分からない言い回しになのはは声を漏らし、神楽は少し顔を上げ、廊下の天井を見上げながら呟くように声を漏らす。

 

「他人の言葉にはいそうですかって従うほど、あの腐れ天パは素直じゃないってことアル」

 

 

 

 ズガン!! とフェイトの拠点していた一室を揺らすほどの鈍く重い音が響く。

 アルフの握りしめた拳は銀時の顔へとまっすぐ直撃しており、ポタリと赤い滴が床へと滴り落ちる。

 銀時の体は前へも後ろも一切動かずにいた。

 拳を振り被ったままの狼の使い魔はその鋭い犬歯をギリィと軋ませる。

 悔しさと悲しみがない交ぜになったような表情のアルフの目に映るのは、

 

「なんで……あんたは……」

 

 倒れもせず、意識も失わず、拳を額で受け止め血を垂らしながら歯を食いしばる男の姿だった。

 強い意志が宿る瞳で自身を睨み付ける銀髪はガシっと自身の腕を掴み取る。

 

「気は済んだか……コノヤロー……」

 

 まるで退くと言う意思を感じさせない銀時の姿にアルフは徐々に拳から力が抜けていき、目に涙を溜めてしまう。

 

「そこまであたしに……構うんだよォ……!」

 

 漏らすように絞り出したような声を出すアルフ。

 血まみれのボロボロになりながらこうまで自身を止めようとする――今までフェイトや自分と一緒に行動してくれた男に問いかけてしまう。

 

「あんたが優先すんのは……元の世界の仲間たちだろ……?」

 

 目の前の男――坂田銀時は寝食を共にし、今まで一緒に過ごし行動してきた仲間なのかもしれない。だがしかし、そんなのはたかが一カ月から二カ月くらい程度の関係だ。だが自分とフェイトの関係は深く、とてもじゃないが日数や年月だけでは表せないモノがあると自負できる。だからこそ、アルフにとって彼女の為に命を掛けることにすらなんの躊躇いも生まれないのだ。

 しかし銀時にとって自分たちの存在など長い年月で培ってきたは仲間たちの存在に比べれば大したものではないはず。

 ましてやここまで傷つき体を張る理由など……。

 

「あたしはあんたにとって――」

「大したモンじゃねェから……放っておけってか?」

 

 力の弱まったアルフの腕を掴みながら銀時は平然とした顔のまま言葉を投げかける。

 

「背負うモンがデカかろうが小さかろうが、優先順位を決められるほど手際よくねェし、ましてや一回背負っちまったらほいほい簡単に下ろすことができるほど利口じゃねェんだよ、俺は」

 

 今までのダメージからか肩で息をしながら言葉を吐き出す銀時。

 

「まァそんなだから色んなモン背負って耐えきれず、にっちもっさっちもいかなくなっちまうのかもしれねェがな」

 

 そこまで言って自嘲気味に口元を薄く吊り上げる銀時。だがすぐさま表情は真剣なモノへと移り変わり。

 

「だけどよ、フェイトを〝助けよう〟ともがいているテメェを放っておいちゃならねェってことくらい今の俺にも分かんだよ」

「ッ!?」

 

 ――たす…ける……?

 

 銀時の口から出た言葉に唇を震わせるアルフ。

 なぜ『捕まえる』や『止める』と言った言葉ではなく『助ける』という言葉が出たのかアルフは分からず呆然としてしまう。

 狼狽するアルフの様子を見て銀時は「やっぱりな」と言って口元を吊り上げる。

 

「フェイト助けてェなら、まずは自分の命も優先しな。考えなしに無茶しておめェが先におっちんじまったら、助けるもクソもねェだろ。なにより……」

 

 そこまで言って深く息を吐いてから銀時ははっきりと告げる。

 

「――フェイト(あいつ)が一番悲しむだろうしな」

 

 アルフは瞳を揺らし、混乱する思考の中、必死に言葉を絞り出す。

 

「なんで……どうして……」

 

 だが目の前の男の発言はどう考えても事情を知っている。フェイトが置かれている状況を知っているからこそ出る言葉のはずだ。

 

「あんたが……」

 

 そもそも念話すら使えない人間が一体どうやってフェイトから事情を知れるというのだ。いや、そもそも念話で事情を話すことすらできない状態にフェイトは置かれているのである。

 もうワケがわからず、アルフは言葉を漏らしながら左手で頭を抑える。

 アルフの様子を見て銀時はため息を吐く。

 

「だから話聞けっつったろ」

 

 銀時は大人しくなったアルフの手を離し、ポケットに手を入れるとおもむろに何かを取り出す。

 銀時が摘まむように取り出したのは折り畳まれた白い紙片だった。

 

「それって……」

 

 アルフの漏らした声に呼応して銀時は紙片を揺らしながらまざまざ見せつける。

 

「――おめェのご主人様の……置き土産だ」

 




『ちょこっとリリ銀』

『フェイトちゃんの様子が最近おかしい1』

フェイト「…………」ボケ~

アルフ「どうしたんだいフェイト? なんかボケっとしちゃってさ?」

なのは「最近のフェイトちゃん、なんかボーっと遠くの空を見て心ここにあらずって感じだよね」

アリサ「考え事してるんじゃない? フェイトって集中力とか凄そうだし」

沖田「いやアレはブラック企業クリミナルに心壊されたせいでたまに頭カラッポにして遠くの景色見てるだけ。特に意味ある行動してないぜ」

なのは「そうだったんだ……」

アルフ「えッ? フェイト歳いくつ?」

神楽「…………」ボケ~

すずか「神楽ちゃんも空見てボケっとしてる!! まさか!!」

沖田「あいつはただ単に元から頭がカラッぽなだけだな」




『フェイトちゃんの様子がおかしい2』

フェイト「…………」ボケ~

死んだ目で意味なくアリの様子を眺めるフェイトちゃん。

クロノ「くッ!! なんてことだッ!! まさかフェイトの心がいつの間にかブラック企業に壊されていたとは!!」

沖田「聞くところによると~……」

トランス『フフフ~、フェイトちゃァ~ん♪ 今日もかわいいわね~♪ ペロペロペロ~』

パラサイト『うォらァ!! 給料泥棒!! とっととこの資料も片付けろおらァ!! 残業はサービスだ!! ありがとうございます!!』

 小さい上司には撫でられ舐めまくられ背の高い上司からは資料の束で頭をバンバン叩かれながら涙を流しつつ仕事をこなすフェイト。

沖田「って感じでセクハラとパワハラのサンドイッチだったらしいぜ」

クロノ「なにィーッ!? 管理局とさほど変わりないぞ!! どういうことだ!!」

アリサ「あんたの職場もおかしいわよ」



『フェイトちゃんの様子がおかいし3』

フェイト「…………」ボケ~

 死んだ目でお花と蝶を眺めるフェイト。

アリサ「なんとか元気づけてあげらないかしら……」

なのは「とにかくなんでもいいからフェイトちゃんが笑顔になれるように頑張ってみよう!!」

アルフ「まずはあたしから!!」

アルフは後ろからフェイトをギュッと優しく抱きしめる。

アルフ「フェイト……辛いことがあったら泣いたっていいんだよ。全部吐き出しな」

フェイト「うぅ……うわァァァァォヴぇェェェ!!」

泣きながら吐くフェイトちゃん。

『フェイトちゃんの様子がおかしい4』

アリサ「美味しいモノ食べて元気出しましょう」

フェイトに焼き肉をご馳走をしてあげるなのはたち。

フェイト「モグモグ……」

食べながらフェイトは思った。
おなかは減っているのに食欲が出ない。
味を感じるのに美味しいと感じない。
胸や喉が苦しくて箸が進まない。
なんで普段当たり前に感じられる喜びが感じられなくなっちゃったんだろうと……。


『かみさま』

 涙を流しながら布団で横になるフェイト。

フェイト「ハァ……今日もご飯が美味しく感じられなかったなァ……」

???「フェイト……」

突如フェイトの部屋の窓が光り輝く。
杖持って白いなんか布を巻いて白いひげ生やした人が現れる。

神(銀時)「わたしは……神だ」

フェイト「えッ? かみさま?」

神(銀時)「今日はお前に助言を与えよう。なにか一つで良い。誇れるモノを持ちなさい」

フェイト「でも……なにをしたら良いのか……自分には特に趣味も特技ないし……」

神(銀時)「なんかそう……アレ。手頃にスマホできるゲーム。それのガチャが最高レアの神引きしない。まぁ、下手に排出率良い奴だとドヤれないから相性から考えてやっぱ偉人とか召喚できて最高レアの排出率は1%のガチャ。それで神引きしてSNSで自慢して――」

フェイト「あの神様……私は確かにフェイトですけどソシャゲのガチャと相性が良いワケじゃ……」

神(銀時)「ああん!? グダグダ言わずとっととガチャんだよ!!」



フェイト「あッ、10連で最高レアが三体出た……」

まさかの超絶神引きをフェイトがSNSで呟けば……。

トランス「あああああああああああああああああ!! 私は100万課金しても狙いの最高レア出なかったのにチクショォォォォォオオオオオオオオオオ!!」

 セクハラ上司はショックのあまり爆発してクリミナルは崩壊しました。
 おしまい。


『あとがき』

銀時「あ~あ……夏終わって秋になっちまったよ……」

新八「まぁ、しょうがないんじゃないですか?」

銀時「それにあのネタも旬が過ぎちまったしな」

新八「ネタ?」

銀時「FGOの確定ガチャの奴」

新八「あぁ……そう言えば作者は一応はマスターでしたね。ストーリー全然進んでないですけど」

銀時「そうそう。んでそのFGO(ファッキンゴッドオールド)でな――」

新八「おィィィィィィィ!! 正式名称一単語も合ってねェよ!! それようはただ年老いた神を罵倒してるだけじゃん!!」

銀時「それでだ、そのFGOのなんか1年に2回やってる高レアが出るヤツ。それ引いたらなら、すんごいことが起こったらしいぞ」

新八「えッ? まさかの最高レア2枚抜きですか?」

銀時「いや、なんだっけ……スカスカスカンクとか言うのが1枚出たらしくてな」

新八「いやいねェよ!! そんなくっさそうな英霊!!」

※スカサハ・スカディでした。

新八「なんか訂正入った!? つうかもしかしてと思ったけどやっぱスカアハじゃねェかェか!! そしてFGOでも人気キャラの名前をめっちゃひでェ間違い方してるし!!」

銀時「んで、そのスカを今回の確定で出したんだよ」

新八「なんか大当たり引いたのにハズレ引いたみたいな言い方……。まぁでも、確かに良い引きですし、スカディ引けたのはすんごいことですけど……」

銀時「いや、ここからが凄くてな。今回の確定ガチャの前の確定ガチャも作者は引いたんだよ」

新八「あー、約10カ月くらい前の奴ですか? なんで今更……」

銀時「そこでなんとスカを引いたらしい」

新八「はッ? ダブったんですか? しかも確定で? 全然最高レア持ってないのに? それ逆に運がないんじゃ……」

銀時「いや別のスカを引いたんだよ」

新八「はェッ!? 別のスカって……それ槍の方のスカ様ですか!? うっそッ!? マジで!?」

銀時「マジらしいぞ。作者もビックリしてた」

新八「いや……えッ? 作者って確定以外で最高レア持ってませんよね? つまり確定限定で連続でスカキャラ当てたってことですか? うっそ……マジで? どんな確率……」

銀時「だから活動報告(ハーメルン限定)でスカ顔ダブルピースって報告したらしいぜ」

新八「やりたかったネタってそれかよッ!! 引きに反比例してネタがしょうもなさすぎる!!」


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第四十七話:話したくても話せない心苦しさ

銀時「おいおい。ハロウィン終わっちゃってんじゃん。今年もハロウィンネタなしかー」

新八「そもそも銀魂でもハロウィンネタなんてしたことありませんよ」

神楽「はろうぃんてなにアルか?」

新八「お祭りだよ。コスプレして――」

銀時「大体渋谷辺りでフイーバーしてる感じ」

新八「いやフィーバーって……パチンコじゃないんですから。他に言い方ありません?」

銀時「大体渋谷辺りでヒャッハーしてる感じ」

新八「いや違うだろォォォ!! せめてもっと言い方ってもんがあるでしょ!! 祭りに集まった人たちが危ない人たちみたいじゃん!!」

神楽「なるほど」

新八「いや違うから!! それで納得しちゃダメだから!!」

銀時「祭りとか人間が集まるモンなんて大体やってる連中がヒャッハーして頭のハメ外してるようなもんだろ。文化祭とかは頭じゃなくて股のハメを――」

新八「あんた文化祭をなんだと思ってんだッ!! もっと周りに配慮して祭りしてる人たちだっているんだよ!! あんたどんだけ歪んだが見方しかできねェんだよ!!」



 詳しい事情は説明できないけど私は今母さんを人質にされ脅されている

 この手紙を読んだ後決して誰にも事情を話さないで欲しい

 彼らの話だと監視されているようだから

 銀時は私よりもアルフを助けて欲しい私のせいで無茶なことをしてしまうと思うから

 私の大事な家族を最後まで守ってくれることが私が一番して欲しいこと

 どうかお願い

 

「――ってことが書かれてるな。まーおめェは地球の文字なんざ読めねェから分からんだろうが、俺が事情を知ってるワケはその置手紙ってことだ」

 

 と銀時が手紙の内容を説明する。

 紙片に書かれている少し拙く乱れた文はすべて地球の文字だ。もちろん地球の文字などを勉強しなかった自分には地球の簡単な文字だって読めない。だから銀髪の言葉の正否を確かめる手段はない。

 だが……。

 

 紙片を持つ両手に力が入り、皺ができる。

 手紙を読んでいたアルフは紙片の端をギュッと握りしめ、両膝を床へと付き、頭を俯かせる。

 これでようやくわかった。

 なんであそこまで銀時が自身を止めようとしたのか。きっと魔力減少による消滅をさせないためだったのだろう。

 だが今のアルフの頭の中にあるのは銀時の行動理由よりも、

 

「なんで……フェイトは……」

 

 こと此処に至るまで自身よりも使い魔の身を案じて守ろうとする優しい主のこと。

 

「自分よりも……他人ばっかり……」

 

 アルフは嬉しいくもあり悲しくもあり悔しくもあるようなごちゃまぜの感情のせいで涙声をもらす。

 するとアルフの耳に気だるそうな声が届く。

 

「よくまー地球の文字なんざ知らなねェのにこんな文を書けたもんだ。最初見た時なんざ、俺の方があいつの文じゃねェだろって少し疑ったくれェだ」

 

 手紙を渡した主――銀時は廊下に両膝を付けるアルフの目線に合わせるように横でしゃがみ込むとアルフはボソリと言葉を漏らす。

 

「きっと……バルディッシュを使ったんだよ……」

「だろうな……」

 

 バルディッシュを使った、つまりデバイスの翻訳機能を使ったと言うことが伝わったのか銀時は頭をポリポリ掻いてから少し顔を上げて空を眺める。

 

「おめェの主はよっぽどお前に死んで欲しくねェから、色々頭こねくり回してそいつを用意したんだろうな。下手なことして自分(テメェ)の母ちゃんの命を危険に晒すって不安を押し殺しながら」

 

 銀時の言葉からフェイトの必死な思いをより想像してアルフは手紙に額を埋めるように頭を下げる。

 

「それに、こんな物まであいつ用意してたしな」

 

 と言って銀時はポケットから取り出したのは黒い首輪だ。真ん中には赤い宝石が埋め込まれている。

 

「……それは?」

 

 涙声で尋ねるアルフに銀時は首輪を摘まんで垂らしながら答える。

 

「手紙の裏に説明が書いてあったが、なんでも『〝魔力を貯蔵する宝石〟が埋め込まれた首輪』らしい。んで、使い魔がコレを付けると、主との繋がりがなくてもある程度魔力の確保とやら可能なんだとよ」

「それも……手紙と一緒に……」

「あぁ。ちょっと前にな……」

 

 と言って銀時はフェイトに手紙を渡された時の事を話しだす――。

 

 

 それはフェイトと共に時の庭園から戻った後。彼女との最後のジュエルシード回収に向かう直前だった――。

 

「銀時。渡したい物があるの」

 

 そう言うフェイトの掌の上には赤い宝石が埋め込まれ、丁寧に折り畳まれた首輪が置かれていた。

 銀時は首輪を見せられて首を傾げる。

 

「なんだこれ? 首輪か? なんで俺にくれんの? おめェの使い魔にやればいいだろ。尻尾振って喜ぶぞアイツ」

「……近いうち役に立つはずだから受け取ってほしい」

 

 含みのある言い回しでフェイトが首輪を持つ手を少し前へと出す。

 

「ちょっとッ!! ジュエルシードがあの白い魔導師の子たちに取られるちゃうよ!!」

 

 遠くの方でアルフが大声で急かすので銀時は怒声で返す。

 

「うっせェなクソ犬! 待てもできねェのか!」

「あたしは狼だクソ天パッ!!」

 

 アルフの罵声を受けた後、銀時はフェイトに向き直る。

 銀時の反応を待つフェイトは不安そうな目をしており、そんな瞳を見た銀時はため息を吐く。

 

「んな捨てられた子犬みてェな目で見んなって……」

 

 そう言って銀時はフェイトから首輪を受け取り、ポケットへと突っ込む。

 

「ま、お守り代わりに貰っといてやるよ」

 

 

「んで、あいつの首輪がどうたらって言葉を聞いてあらためてもらった首輪を確認したら、折りたたまれた手紙が裏側にテープでくっ付いていたってワケだ」

 

 銀時は摘まんだ首輪を垂らして見つめながら疲れたように声を漏らす。

 

「まぁ、ここに来るまで首輪がどんなモンで手紙がくっ付いてることすら気づかないまま大雑把な勘でお前連れてきちまったが……まー予想よりは収穫があったみてェだしな」

 

 そこまで言って銀時はチラリと隣のアルフに視線を向けつつ疲れたように声を漏らす。

 

「おめェの様子にどうも違和感を感じたがやっぱ……フェイトの為に色々と前のめりなってただけみてェなのは手紙を読んでおおまかにだが察しが付いたしな」

 

 そこまで言って銀時は手に持った首輪を膝の上に置いてアルフが持っている手紙に目を向ける。

 

「先走る使い魔のアフターケアもできる限り考えて大したご主人様だよ、あいつは」

 

 銀時の説明を聞いてアルフはより涙を目に溜めて、嗚咽を漏らし始める。

 アルフの様子を見て銀時は息を吐く。

 

「やれやれ。手紙が偽もんかとかホラ話すんなってゴネるとも思ったが、心配なさそうだな」

「だって……ミッドの文字で……フェイトの名前の……サインがあるんだ……」

 

 嗚咽を漏らしながら手紙がフェイトが書いたものであるという証拠を説明するアルフ。

 もしかしたら手紙は銀時が自分を強引にでも止める為に用意した偽物かともいう考えが頭を過ったのは本当だが、銀時が書けるはずもないミッドチルダの文字、しかも一見してフェイトの文字だと判断できるサインがあることに気付いた。

 わざわざ疑う要素はほとんどない。

 アルフは涙声を漏らしながら言葉を掛ける。

 

「あんたもしかして……フェイトにミッドの文字……習った?」

「おめェが知らねェ間にか? そもそも俺がんなメンドーなことすると思うか?」

「そう……だよね……」

「そもそも今のおめェにんな偽もん見せてバレた暁には半殺しにされんだろ」

 

 銀時は頭をボリボリ掻いて一呼吸入れてから落ち着いた声で語り掛ける。

 

「おめェの大好きなご主人様の気持ちはあらためて分かったろ? ならちったァ自分の体の事も考えろ」

「で、でも!」

 

 自分がどうなろうとフェイトをどうしても助けたいという思いから反射的に意義を唱えようと顔を上げるが、

 

「フェイトを……」

 

 また頭を下げてしまう。

 自身を思いやる主の気持ちを反故にしたくないという思いもまた生まれてしまい、語気はどんどん弱まり、狼の耳と一緒に頭も垂れ下がる。

 最初は抑えきれない感情の赴くままにフェイトを助けようと無茶な行動に出ようとしてしまっていたが、大岩のごとく引き下がらない銀時に引き留められ冷えた今の頭では主の気持ちも汲もうとする感情もあるのだ。

 アルフは垂れ下がる耳を両手で抑え込む。

 

「あたしは……」

 

 主を助けたい、だが主の思いと覚悟をないがしろにできないという相反する二つの感情がないまぜになってしまい、今自分がどうするべきなか分からなくなってしまう。

 がんじがらめで動けず、苦しすら覚え始めた時、

 

「……?」

 

 ふっと頭に暖かな何かが乗る。

 

「別に頭悩ます必要なんかねェだろ」

 

 アルフがゆっくりと顔を上げれば、目の前には気だるげな銀髪天然パーマの顔があった。

 

「俺もおめェも結局やることはなんざ変わらねェ」

 

 まるで苦悩をはたきを落とすように優しくぽんぽんと頭を軽く叩いた後、銀時は腕を引っ込めながら告げる。

 

「フェイトはな~んにも変わってねェが、困ってる。なら助けれりゃァいい。簡単な話じゃねェか」

「なら――!」

 

 すぐにでも動くべきだ! とアルフが進言しようとするが。

 

「焦って動いたところであいつを助けられる保証なんてどこにもねェだろ? いま下手になんかしたところであいつを悲しませるだけになるかもしれねェしよ」

 

 すぐさま挟まれた銀時の言葉によってアルフは反論できなくなってしまう。

 冷静になった今の頭で考えれば、まったくもって銀時の言う通りだ。魔力供給のない今の状態ままただがむしゃらに動いて消滅へのカウントダウンを速めたところで結局はなにも良い結果なんて生まれないだろう。

 

「あたしはどうしたら……!」

 

 今の自分には一体なにができるというのだ? 役立たずもいいところじゃないか!

 隣で平然とした銀時の方がまだフェイトを助ける為に考えて動こうとしている!

 

 自責の念に捕らわれ、悔し涙を流すアルフ。

 

「たく、おめェのご主人様に対する忠誠心はホント呆れるくれェに大したもんだ」

 

 呆れと関心が混ざったような気だるげな声で告げられた言葉にアルフは「えッ……?」と声を漏らし、銀時はまっすぐこちらを見つめながら語る。

 

「別になんもかんも決着が付いたワケでもねェし、ましてやおめェが消滅するなんて決まったワケでもねェ。なら、負け犬になんのも早ェはずだ」

 

 ニヤリと口元を吊り上げる銀時。

 

「とっととおめェが万全の状態になれるよう魔力でもなんでも手に入れて、あのクソッタレ共にガブっとやる準備してやろうじゃねェか」

 

 銀時の言葉を聞き、アルフは徐々にだが心のおくでなにかがふつふつと湧いていくのを感じる。

 

「その執念ぶけェ忠誠心使って、主助けんのも主の思いに応えんのもどっちもやってのけれりゃあいい」

 

 まるで靄が晴れるような、自身を前へと押し出すような何かが沸き立つかのような心の変化。

 銀時の言葉を受ける度に暗い未来であることに変わりがなくても、なにかしらの光が見え始めていくような感覚を覚えるアルフ。

 銀時は自嘲気味な口調で。

 

「さすがに一二か月のポッと出の俺が、なげェ時間フェイトと一緒だったおめェと同じだなんて言うつもりはねェさ。けどよ、あいつを助けてやりてェって気持ちの一つや二つは持ち合わせてるつもりだぜ?」

 

 「だからよ」と言って銀時がゆっくりと手を出せば、アルフは頭に優しい温もりを感じ始める。

 銀時は軽く手を左右に動かしながら、

 

「――おめェが背負い込んでるモン、少しは俺にも背負わしちゃくれねェか?」

 

 どことなく優し気な言葉を送る。

 

「ぎん……とき……」

 

 涙と流し、嗚咽を漏らすアルフ。

 主従の関係や家族の関係とも違う、心を許せる相手。身内以外で自分に安心や安らぎをくれるようなそんな存在を初めて実感した。

 アルフは頭に乗せられた手を両手でギュッと握りしめ、震える声で。

 

「頼っても……いい?」

「エリート魔導師様に比べれば魔法は使えねェし頭の出来もそこまで良くねェが、それでもいいなら……いくらでも手は貸してやるぜ」

 

 銀時に答えを示すようにアルフはギュッと彼の手を強く握り、頷く。

 アルフの答えを受け取ったのか銀時は少しばかし口元を吊り上げる。

 

「まぁ、もしお前が尻尾振る相手がいなくて寂しいってんなら臨時でご主人様になってやってもいいけどな。お前のご主人様が戻るまでの間」

「……バカ」

 

 軽口を叩く銀時の言葉を聞いてアルフは涙声のまま笑い声を漏らす。

 肩の力が抜けたアルフを見て銀時は安心したのか息を吐きだす。

 

「とりあえず、まずはおめェの魔力の確保からだな。どこぞの執務官殿のお小言は聞きたかねェが、まずはアースラにもど――」

 

 銀時の言葉の途中。

 まるでこと切れたかのようにアルフは銀時の胸に倒れてしまった。

 

 

 暗く、まるでそこのない泥に沈んでいく感覚。

 そんな終わるともしれない暗闇の中でまどろむアルフの脳裏にはまるで映像のように昔の記憶が映りだす――。

 

『待っててね! すぐ助けてあげるから!』

 

 最初に聞こえたのは少女の言葉だった。

 もう記憶の残骸としてしか残っておらず、彼女が意識を覚醒させればすぐに露となってしまうモノ。

 自分は何故狼の群れから捨てられたのかよく覚えていない。ただ、そうしなければいけなかったのだろう……。

 冷たくなる体。ただ孤独と寂しさが自分の中を埋め、死すら感じ始めたさなか、一つの温もりが自分を包んだ。

 

『この命を糧に新たな命をここに!!』

 

 少女力強く言い放ち、何かが自分に流れ込んで来る。それは暖かく力強いものだった。

 

『ワンッ!』

 

 目を覚ませば、金色の髪の少女が戸惑いながら自分を見ている。

 自分にはすぐに分かった。この子は私の――。

 

『え、えっと……』

 

 少女は擦り寄って来る自分に戸惑う。

 だが自分はついつい甘えたくて構わず尻尾を振り、舌を出す。隣の背の高い女性が何かアドバイスを言っている。

 

『わぁ……あったかい……』

 

 抱かれると凄く嬉しい。温もりと優しさを全身で感じることができる。

 

『これからよろしくね――〝アルフ〟』

 

 少女は自分の名前を笑顔で言ってくれた。

 決してこの子を裏切らない。決してこの子を一人にしない。自分が絶対に守ってみせる。

 だってそうすれば……もう独りぼっちには……孤独には……ならないのだから……。

 

 そこで急激に映像は変わり現在――あの時の苦い思い出へと。

 

『これ以上わたしのわがままにアルフを巻き込めないよ』

 

 結局また同じことが起こってしまう……。

 

『私がこれから進もうとしている道はもうたぶん、後戻りはできないから……』

 

 また自分は独りになってしまう。

 

『だから、ここでアルフとはもうお別れしなきゃ』

 

 必死に掴もうとしてもまた離れてしまう。離されてしまう……。

 また一人になってしまう。孤独の闇に落ちてしまう……。

 だから離れていく手を……大事な人の手を離したくなくて……もがいてもがいてもがき続けた……。

 何をすればいいのかもどうすればいいのかもわからず……ただがむしゃらに……。

 

 だが闇はまるでそんな必死に抗う自分をあざ笑うかのようにあの大事な人の手を自分から引き離す。

 涙を流し声を荒げる自分を引きずり込もうと暗闇は足にも体にも絡みつき、徐々に暗い底へと引きずり込まれていく。

 

 だが不意に――。

 

『ワリィが、死に急いでるだけのテメェをこのまま行かせるワケにはいかねェな』

 

 光が自分を照らす――。

 

『別に頭悩ます必要なんかねェだろ』

 

 温もりを感じる――。

 

『別になんもかんも決着が付いたワケでもねェし、ましてやおめェが消滅するなんて決まったワケでもねェ』

 

 その光は明滅で鈍く、分かりづらい。

 温もりだって自分が大好きな人に比べれば、微々たるものであろう。

 でもほんの数瞬にも見たいな時ではあるが、確かに感じる。

 

『おめェが背負い込んでるモン、少しは俺にも分けてくれねェか?』

 

 安らぎも、暖かさも――。

 

 

 暗闇から光が差し込み、徐々にアルフの目が覚め覚醒していく。

 ゆっくりと体を起こせば独特の匂いが鼻に付き始める。

 辺りを見渡せば、白い色と薬品が目に付く。

 どこだここは? と思った時だった、

 

「よォ、目が覚めたか?」

 

 声がし、アルフの狼の耳が立ち上がる。

 声に目を向ければ、壁を背にして立っているのは銀髪で気だるげな顔をした男――坂田銀時。

 顔は包帯でぐるぐる巻き、更には肩を気遣ってる節もある。

 まぁ、彼の怪我の主だった原因は誰でもない自分なのだろうが……。

 

「どうだ、調子は?」

 

 と銀時が声を掛けてきたので、アルフは頭を抑えながら答える。

 

「な~んか……まだ頭の中ごちゃごちゃのぐるぐるって感じ……」

 

 そこまで言うとアルフは「でも……」と言ってから胸の辺りを軽く撫でる。

 

「ここはなんだか少しスッとしてる」

「そうかい」

 

 と返事をする銀時の表情は特に変わらない。

 アルフはもう一度辺りを見回してから、銀時へと声を掛ける。

 

「ここは?」

「アースラの医務室だ。さすがに魔力関係の治療なんて俺にはできねェからな」

「…………」

 

 答えを聞いてからアルフは自身の体の状態を確認する。

 疲労感を感じるが、魔力の欠乏はそこまで感じない。どうやら、アースラの魔導師の誰かが魔力を供給してくれたのだろう。

 アルフは今のところはすぐにでも消滅の危険がないことに安堵し、気になっていることを聞く。

 

「ねェ、銀時。ここがアースラだってことはさ、やっぱり……色々大変じゃなかった?」

 

 独断行動しまくりで挙句は大怪我して帰って来たのだから当然、あの厳格で身長の低い執務官は酷くご立腹だったはずだ。

 アルフの問いを聞いて銀時は視線を斜め上へと向ける。

 

「あァ……まァ……別にィ……問題なかったな……」

 

 

 気絶したアルフを連れた銀さんを待ち受けていたのは……。

 

「ちょっと銀さんんん!? あんたなにがあったんですかァーッ!?」

 

 医務室でもところ構わず大声を上げる眼鏡。

 

「さぁ~て、とりあえずワケを聞かせてもらおうか?」

 

 腕を組みながら顔面に青筋浮かべるまくる執務官。

 

「銀ちゃん銀ちゃん!! まさかのアルフとランデブーアルか!! 愛の逃避行アルか!!」

 

 素っ頓狂なこと言うチャイナ娘。

 

「なにィィィ!! 万事屋ァァァ!! お前まさかアルフ殿と交尾したのかァァァァァ!!」

 

 アホチャイナの言うことそのまま真に受けるアホゴリラ。

 

「なんですって銀時殿ォォ!! あなたはなんてうらやま――じゃなく破廉恥なッ!! それで!! 場所は!! どこのホテルですかな!! どんなローションをお使いに!! そこんとこ詳しく!!」

 

 勘違いに拍車かけるアホエロ糸目。

 

「それじゃアルフは旦那のガキを身籠ってるってことで風潮しておきますぜェ~」

 

 悪びれもせずとんでもない誤解を広めようとする腹黒ドS少年。

 

 まだ治療すら受けてない状態の銀時を待っていたのは容赦のない質問攻めという精神攻撃であった。

 

 

「うわぁ……」

 

 アースラに帰った後の銀時の混沌とした状態を聞いてアルフは汗を流す。

 根掘り葉掘り聞かれたのだろうが、銀時が自分たちの秘密を喋ったなんてことはアルフは微塵も思ってはいない。

 

「まァ、うるせェのには慣れってからな」

 

 平然とした顔で告げる銀時にアルフは「そっか……」と軽く返す。

 その後は会話が途切れてしまい、いくばくかの沈黙が続く。

 するとアルフがポツリと口を開く。

 

「なんか……ごめんね……。迷惑かけて……」

 

 銀時は何も言わずただ頭を掻く。

 銀時の反応を見て、アルフは狼の耳をペタリと前に倒す。

 

「怒ってる……かい? そりゃそうだよね……。自暴自棄になって……残った唯一の仲間を手ひどくボコボコにしちまった上に散々迷惑かけたんじゃ、あんたが怒んのも当然だよね……」

「別に怒っちゃいねェよ。勝手に勘違いすんな」

 

 そう言って銀時はアルフの寝ているベットに腰を掛ける。

 

「テメェの甘噛みの一つや二つ喰らって怪我するほど俺はひ弱じゃねェっての。図に乗んな」

「甘噛みって……」

 

 見るからに怪我人と言わんばかりの男の強がりにアルフは呆れた表情を浮かべる。

 やがて銀時はベットに両手を付いて天井を見上げ、アルフに背を向けたまま口を開く。

 

「がむしゃらに足掻いて頭悩ませてる〝ダチ〟の愚痴や一つ二つ聞かねェでどうすんだって話だろ」

「ダチ……」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフは噛み締めるように小さくダチと言う単語を口にする。

 銀時は「それにな」と言って振り向き、後ろのアルフへと告げる。

 

「俺にとっちゃあれくれェのメンドー事なんざ、日常茶飯事だしな」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフはクスリと笑みを零す。

 

「あんたって……強がりと減らず口は一級品だよね」

 

 だが笑みを浮かべていたアルフの顔は少し暗いものへと変化してしまう。

 

「…………ねェ、銀時。……これからどうすればいいんだろうね?」

 

 もう前みたいに自分の命を顧みずに自暴自棄にも似た無茶な行動を起こそうという気はないのだが、いかんせん解決策が見つかったワケではない。

 むしろこれからなにをすればいいのかまったく思いつかないと言ってもいい。

 苦悩するアルフの言葉を聞いて銀時は顔を前へと向け、両腕を膝の上へと乗せて少し体を前へと倒す。

 

「なァ、アルフ」

 

 銀時の口から発せられる声は真剣なものだった。

 

「どうやら俺とおめェはこうやってベットでゆっくりできる状況でもねェらしいぞ」

「えッ?」

 

 銀時の言葉を聞いてアルフは呆けた声を出す。

 

 

 

 

 時間は少し遡り、銀時がアースラに戻って医療室で治療を受けている時のこと。

 独断行動に走った銀時を待っていたのはもみくちゃにされるかの如く仲間たちからの邪推と質問の嵐。

 それから次は手当と執務官&艦長による事情聴取である。

 

「さて? なにか申し開きはあるかな?」

 

 腕を組みながら対面して黒い丸椅子に座るのはクロノ執務官。そんな彼の隣にニコニコした笑顔で立つのはリンディ艦長。

 ちなみに治療室には銀時、クロノ、リンディ、エイミィ、新八、神楽以外の人間は誰もいない。さきほどまでわいわいがやがやと騒いでいた他の面々は治療と事情聴取の邪魔と言う事でクロノに強制退去させられている。

 クロノと同じような丸椅子に座り、気だるげな表情を浮かべる銀時は横からエイミィに手当をうけつつ声を漏らす。

 

「あの~執務官さん。俺は怪我人なんですけど? ちょっと圧力強くありません? 少しは労わってくれてもよくありません?」

 

 救急箱を近く置くエイミィに手当てをされながら、顔面と肩が血まみれのひでェ状態の銀時。たしかに普通なら治療と事情聴取を一緒にするなんてしないのだが。

 

「いやだなぁ~。そんなことはないぞ? 僕だちだって気は使うさ」

 

 いつもはまったく見せない屈託のない笑顔のクロノ。彼は笑顔のまま語る。

 

「ただ、人の隙をついて精神的に弱った重要参考人を勝手に連れ出した挙句、忙しい中必死に捜索していたこっちの気も知らずに勝手に怪我して勝手に仕事増やす〝クソ〟に与える配慮なんてないだけだぞ?」

 

 笑顔のクロノの額には青筋がくっきりと浮かべられている。

 すると続くようにクロノの隣に立つニコニコ顔のリンディ提督も口を開く。

 

「とは言え、銀時さんも分かっていますよね? 多くの不確定な要素がひしめく現在の状態であそこまで無責任な行動に出られたんです。色々と〝覚悟〟の上での行動だったのでしょう? もしかして、そこまで考えてない勢い任せの行動とかじゃありませんよね? いい大人がそこまで無責任な行動をしませんよね? そうですよね?」

 

 素晴らしいくらいニコニコの真っ黒な笑顔のリンディにさすがの銀時も顔を引き攣らせていた。

 この時のリンディはマジで肝が冷えるくらいおっかないと銀時は思ったそうな。

 見かねたのか立会人の一人である新八が銀時に耳打ちする。

 

「(銀さん銀さん! さすがに今回の事はクロノくんだけじゃなくてリンディさんもマジで頭にキてます! 正直に何があったか話してください! あんた一体なんの目的でアルフさん無理やり連れだしたんですか!?)」

 

 新八の助言をもらいつつも銀時は少しの間だけ沈黙し、やがて気だるげな表情でぶっきらぼうに答える。

 

「つい犬とじゃれたくなってな。それが白熱して怪我しちまったいってェ!!」

 

 と言葉の途中で思わず声を上げる銀時。

 銀時の反応に構わずエイミィが額の傷に薬品を塗り付けた丸い綿を当て、

 

「いってッ!!」

 

 と銀時はまた声を上げる。

 そしてすぐさま銀時はクロノへと顔を向けながらエイミィを指さす。

 

「ちょっと執務官さん!! この人! この人医者じゃない!! なんでコイツが俺の怪我の治療してんの!?」

「ついさきほど怪我人が多く出てしまってな。医療チームは手が離せなくて忙しい。だから犬とじゃれて怪我した奴の治療はエイミィで充分だ」

「ホワッツ!? だからって素人に怪我人の治療させるっておかしいだろ!! それが公務員の仕事かいっでェーッ!!」

 

 文句の途中で今度は別の傷に薬を塗られて銀時はたまらず声を上げる。

 銀時の悲鳴などまったく気にせずクロノは淡々と告げる。

 

「安心しろ。エイミィはオペレーターだが何度か傷の治療もしたことがある」

「ま、マジで?」

 

 もしかして執務官として生傷が絶えないであろうクロノの治療をしてきたことが? と思った銀時は半信半疑という表情で自身の傷の治療を行うエイミィへと顔を向ける。

 銀時の視線に気づいたエイミィはビシッとブイサイン。

 

「子供の頃はクロノくんとお医者さんごっこいっぱいしました!」

「いやそれ素人ォォォーッ!! 純然たる素人じゃねェかおい!!」

 

 銀時は顔面青ざめさせながら叫び、声を荒げる。

 

「医者ァァァァ!! ここに医者を呼べェェェェ!! ヤブでもいいから!! せめてまともに医学の知識がある奴呼んいってェェェェェな!! いっでェなチクショォォォォォォ!!」

 

 銀時はあまりの痛みにまたしても声を大にして叫ぶ。エイミィがぽんぽんと薬を傷のいたるところに塗ったからである。

 銀時は青筋立て目元を影で隠しながらエイミィの両肩を掴んで詰め寄る。

 

「ねェワザと? ワザとなの? ちょっと薬塗りすぎじゃないの? さっきからお前なに? 治療じゃなくて拷問してんの?」

「い、いや~……アハハ……」

 

 たぶんテキトーに薬塗って失敗したのだろうエイミィは乾いた笑いを浮かべながら視線と顔を逸らす。

 するとクロノが。

 

「エイミィ。気にせずに彼を拷問(ちりょう)してやれ。その方が自白も早くなる」

「りょ~かい♪」

 

 エイミィは銀時に両肩を掴まれながら笑顔で敬礼のポーズをして応える。

 一連のやり取りを見て銀時は顔を青くして叫ぶ。

 

「ヘルゥゥゥプ!! ヘルプミィィィィ!! 誰かァァァ!! この執務官ならぬ拷問官をなんとかしろォォォ!!」

 

 さすがに見かねたのか新八が横から声を掛ける。

 

「く、クロノくん。銀さんもたぶん? 反省してると思うからもうその辺に……」

 

 新八の言葉を聞いてクロノは深くため息を吐く。

 

「別にちょっと意地悪を言っただけで――」

「ちょっと意地悪? ガッツリ痛い思いしてんだけど、俺?」

 

 と銀時が青筋浮かべながらツッコムがクロノは構わず新八に話す。

 

「あれだけの傷だ。薬が染みて当たり前だ。とにかくこっちも真面目に治療している。ただ本当に人手不足で彼にまで医療スタッフを回せないから治療経験が少なからずあるエイミィに任せているだけだ」

「そ、そうですよね……」

 

 と新八は少し安堵したようなホッとした表情を浮かべる。どうやら、クロノが怒ってはいるものの私怨を抜きにした冷静な判断能力があると思って安心したのだろう。

「とは言えだ……」と言ってクロノは指を絡めて真剣な眼差しを銀時へと向ける。

 

「これ以上あなたの戯言に付き合えるほど僕たちだって余裕があるワケじゃない。事件解決の為にもちゃんと〝真実〟を話してくれないか?」

「…………」

 

 銀時は口を閉ざし、場に重い沈黙が訪れる。

 エイミィは場の空気が重くなったことで心配そうな表情を浮かべながらも銀時の顔に包帯を巻き始める。

 だが銀時はやがて口を開き、

 

「…………犬とじゃれてただけだ。気にすんなって言ったろ?」

 

 銀時の変わらない態度と言葉を聞いてクロノは深くため息を吐きながら眉間を抑え、リンディは少し残念そうに肩を落とす。

 そんななんとも言えない複雑な雰囲気の中、

 

「いい加減にするネ銀ちゃん!!」

 

 業を煮やしたように神楽が声を張り上げる。

 

「そんな大怪我見せられて気にするなって言う方が無理アル!! 水臭いネ!! 隠し事してないでとっと喋るヨロシ!! 私らはちゃんと力になるアル!!」

「そうですよ銀さん!」と新八も便乗する。「僕ら紛いなりにも仲間でしょ!! 少しは僕らの事も頼ってくださいよ!!」

 

 仲間たちの真摯な言葉を聞いて銀時は少しの間口を閉ざすが頑なに意志を曲げることはなく。

 

「……しつけェな。だから犬とじゃれ合って――」

「いい加減にしろおらァァァァァァァッ!! 白状しねェとぶっ飛ばすぞコラァァァァァッ!!」

 

 銀時の胸倉掴んで拳振りかぶるチャイナ娘。さらに眼鏡も。

 

「エイミィさん。さすがに僕もイライラしてきたんで傷に薬じゃなくてワサビ塗り込んで下さい。とっと自白させましょう」

「えッ? えぇ……」

 

 とさすがのエイミィも新八の容赦ない発言に戸惑いを見せる。

 

「おィィィィィィィ!!」と銀時はシャウト。「お前らもうちょっと粘れよ!! 暴力と拷問で事情を聞こうとする仲間がどこの世界にいんだよ!!」

 

 銀時はツッコミ入れながら神楽の手を振り払う。。

 

「とにかくなァ! おめェらが思ってるような事は何も起こらなかったんだよ!! 傷だってほら!」

 

 銀時はグイッと服を脱ぐ。

 

「この通り大したことねェし!」

 

 銀時の服の下から見えた噛み傷は痛々しいほどで、血がダラダラと流れ出した跡と傷の付近には赤黒く変色した血が見える。

 

「どこがァァァァァァ!?」と新八はツッコム。「むっちゃ大怪我じゃん!! あんたホントアルフさんとどんだけ争ったんですか!!」

「アルフじゃねェよ! つうかなんでアルフなんだよ! 俺がいつアルフの名前出したよ! 変な勘繰りすんのやめてくんない!」

「いやそのエグイ噛み傷見たら一目瞭然じゃん!! あんたのことだからどうせ、精神が不安定なアルフさんを怒らせて怪我したんでしょ!!」

「な、なにバカなことを言ってんだコノヤロー! こ、これただじゃれただけだから! それで白熱してちょっと怪我しただけだから!」

 

 痛いところを突かれて少し汗を流しながら必死に誤魔化す銀時に新八とクロノはジト目を向ける。

 そして神楽は拳を握りしめる。

 

「つまりアルフに鉄拳制裁すればいいアルな!」

「ちょっと待てッ!」

 

 銀時は一喝して暴走しそうになる神楽を止める。

 

「確かにアルフかもしれねー……」

「いやかもしれないってなんですか? あんたは自分を怪我させた人だか犬だか見てないんですか?」

 

 と言う新八のツッコミも構わずに銀時は言葉を続ける。

 

「だがな……」

 

 そこで銀時は一旦言葉を止めフッと鼻で笑い、

 

「こんなもん、大したことねぇよ」

 

 自分の肩の怪我をパンと叩く。

 そしてブシャァァァァァッ!! と銀時の肩から血が噴射する。

 

「いや大したことあるだろォォォォォッ!?」と新八はシャウトとする。「原作でもそうそうしたことないほどの大怪我じゃねェか!!」

「ば、ばばばばばバカヤロー……こんなもん掠り傷――」

 

 震える声で言う銀時の肩にエイミィが薬を塗る。

 

「ぬ”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”お”ッ!!」

 

 銀時は肩を押さえて悶える。

 

「もうやせ我慢止めろあんた!! 見てて痛々しいことこの上ないわ!! つうかエイミィさんも止めてあげて!! さすがに可哀想だから!!」

 

 新八がツッコミ入れる中、

 

「アルフ、貴様はもう死んでいる」

 

 全身筋肉が盛り上がり世紀末スタイルとなった神楽は医務室を出て行こうとする。

 

「いやそもそもおめェは考えんのめんどくさくなったから誰かを殴りてェだけだろ!!」

 

 誰かあのバカ止めろ!! という銀時の言葉を聞いて新八が慌てて神楽を羽交い絞めして止めるのだった。

 

 

 

「つまりー……」

 

 とアルフは銀時の回想を聞いて言葉を漏らし、

 

「あたしはその神楽って子に半殺しにされると……」

 

 青白くなった顔を俯かせながら涙目になる。

 

「と、当然の報いだよね……。あたしは黙ってボコボコに――」

「いやちげェよ。早とちりすんな。まだ続きがあるから」

 

 と銀時はすぐに訂正を入れながら回想を続けるのだった。

 

 

 

 新八と神楽が医療室のドアの手前で揉め、リンディが銀時に何かを耳打ちしている時だった。

 神楽と新八の二人の前の白い扉が横にスライドする。するとある人物が医療室の廊下側の扉の前に立っていた。

 それは、

 

「すまない。ちょっといいか?」

 

 眼帯をした中性的な顔立ちの少女である柳生九兵衛だ。

 

「きゅ、九兵衛さん!? どうしたんですか!?」

 

 いきなり現れた九兵衛に新八は神楽を抑え付けながら目を瞬かせる。一方の神楽も九兵衛の登場に動きを停止して彼女の言動を静観し始める。

 

「いや、実はな……」

 

 と言って九兵衛は申し訳なさそうな表情で頬を掻く。

 

「新しい怪我人を作ってしまったので、ここへ連れて来たんだ……」

「えッ!? そうなんですか!? なら早く治療しないと!」

 

 九兵衛の言葉を聞いたエイミィは驚きの声を上げつつ治療箱を手に取る。

 

「いや、ちょっと待て」

 

 とここでクロノが待ったの声を掛け、九兵衛に訝しな視線を送る。

 

「今、君は〝作ってしまった〟って言わなかったか? それってつまり――」

「そこからこの柳生四天王筆頭! 東城歩がご説明いたしましょう!」

 

 体の横半分を開いた扉の隙間から見せながら声を張って自己紹介する糸目男。クロノの言葉を遮ってそのまま説明を始める。

 

「実は若がトイレに行く途中で、すれ違ったアースラの局員の一人の手があろうことか若に手にぶつかったのです!! 許せねェ!! そしてその局員は『気を付けろ』という一言だけで行こうとする!! 無礼なッ!! 殴りてェ!! しかしそこは問屋が卸さない!! なぜなら若は男が苦手!! ちょっとでも若に触れようものなら一本背負いされてぶっ飛ばされる!! もちろんその局員殿も例に漏れず若に投げられ壁に叩きつけられる!! ざまァ!!」

「いやなにどうでもいい事で怪我人増やしてんだァァァァァァァ!!」

 とクロノは怒鳴り声を雄たけびの如く九兵衛と東城にぶつけ、新八は呆れ顔。

 

「あの、東城さん。あんたの説明の節々で身勝手な私怨隠しきれてなくて気持ち悪いんですけど……」

「そこの糸目が気持ち悪いのはどうでもいい!! それよりもこの忙しい時になに仕事増やしてくれてんだッ!! しかも人材が減るおまけつきだチクショォォォォォォッ!!」

 

 クロノは思いもよらない形で次々に問題が起こる事に苛立ち頭をわしゃわしゃかき乱す。そして涙を流しながら九兵衛を睨み付ける。

 

「君は銀時側の人間では少しはまともな人だと思ったのに!!」

「す、すまない……」

 

 心の底から申し訳ないと思っているのか九兵衛は頭を下げてただひたすら謝っている。

 

「いえお待ちください!!」

 

 と体を扉から半分しか見せない東城が手を前にかざして待ったをかける。

 

「若を責めるのはお門違いです!! 責めると言うならこの東城歩をお願いします!!」

 

 新八は呆れた声でツッコム。

 

「いや、あんたまったくの無関係でしょ? 九兵衛さんを過保護にするのもいいですけど、庇い過ぎるのもどうかと思いますよ? あとなんで体半分だけ見せてんですか? 家政婦ですかあんた」

「だってその局員の方に怪我を負わせたのは私ですから」

「いやなんでェッ!?」

 

 まさかの答えに新八はビックリして目を瞬かせる。

 

「えッ!? なにッ!? どういうことッ!? なんで九兵衛さんがぶん投げた局員をあんたが怪我人にすんの!? なにがあった!?」

「いやそれが……」

 

 と言って東城は腕を組んで眉間に皺を寄せながら説明を始める。

 

「その局員殿は若にぶん投げられて壁に叩きつけられた後、『スパイである俺の正体に気付いたか』とかワケわかんないこと言い出して背中から〝緑色の触手〟を何本も生やしたんです」

「「「「「えッ?」」」」」

 

 東城の説明を聞いてその場に居た九兵衛以外の全員が呆けた声を漏らし、その様子にまったく気付かない糸目は話を続ける。

 

「爪の先も鋭くなり、口元はまるで裂けたように大きく開き、歯が何本も鋭くなっていきました。その異形の姿を見て私はすぐに察知しました。若が危ない。私は思わずその変態した変態局員殿にドロップキックを浴びせ、そいつにありったけの拳をお見舞いしたのです」

 

 そこまで言って東城は開いた扉の見えない位置から何かを引っ張り出す。

 

「とは言え、さすがにボコボコにした挙句放って置くこともできなかったのでこうやって……」

 

 九兵衛が横へと下がり、東城が開いた扉の前に引っ張って来たのは話通りの姿をした怪物。体を変質させた人間の形を保った異形である。

 異形の服を掴みながら東城は真顔で告げる。

 

「医務室に運んできたワケです」

「「「「「…………」」」」」

 

 医療室に居た五人の目が完全に点になっている。

 そんな中、裂けた口元を大きく開けて白目向いてのびている異形へと新八は震える指を向ける。

 

「つ……つまり……と、東城さんはその怪物から九兵衛さんを護ってリンディさんとクロノくんに引き渡しに来た……と?」

「えッ? いや、新八くんは何を言っているのですか? この人はただの局員でしょう?」

「えッ? ……いや……えッ? 東城さんこそなに言って……」

「いや私はただ、コイツが可憐で見目麗しい若に欲情して触手で若のピーにピーしてピーをピーピーピーピーしようとしたと思ったから私がボコボコにしたってだけの話であり、つまり私が護った若のしょ――」

 

 言い終わる前に東城の胴に腕を回した九兵衛がバックドロップを炸裂させ、糸目の頭を地面へと叩きつける。

 東城は「ピィィィィ!!」と悲鳴を上げながら体を悶絶させながら昇天し、九兵衛は「コホン」と咳払いする。

 

「まァ、つまりだ。僕の不注意と東城のバカの勘違いで怪我をさせてしまった彼をここまで連れて来たと言うワケだ」

「…………」

 

 新八はポカーンとした表情で九兵衛と東城の話を聞いており、銀時も呆けた表情を浮かべながらも九兵衛へと震える声で話しかける。

 

「な、なァ……九兵衛……? お、お前もしかして……そいつがアースラの局員だとか思ってんの?」

「そうじゃないのか?」と九兵衛は頭を傾げる。「魔法の世界の住人はこうやって体を変形させる人間もいるんじゃないのか?」

「そんなワケないだろォォォォォ!!」

 

 ようやく話の流れが分かったのかクロノがシャウトする。

 

「いくら魔法の世界でもそんな360°化物な人間なんているワケないだろ!! 魔法が使えるだけで他の人間と大差ないんだ普通は!!」

「なにッ!? そうなのか!? なんと夢のない……」

 

 と九兵衛は驚きすぐさま少し残念そうな表情を浮かべ、クロノはツッコミ入れる。

 

「いやそっちの方こそ夢ないだろ!! むしろ悪夢だぞ!!」

「ちょッ ちょっと待ってください!」

 

 とここでリンディが汗を流しながら声を上げる。

 

「つまり、その方はもしかして――」

「――クリミナルの回しもんじゃね?」

 

 続くように告げた銀時の言葉を皮切りに全員の視線が気絶しているであろう異形の存在に向く。

 そしてやがてお互いの顔を見合った後に、

 

「確保ォォォォォォォ!!」

 

 クロノの張り裂けんばかりの声を合図にクリミナルのスパイと思わし存在に向かってその場に居た全員が捕縛しようと一斉に飛び掛かるのだった。

 

 

「えッ? …………マ?」

 

 まさかの展開にアルフはポカーンとした表情で思わず声を漏らす他なかった。

 



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第四十八話:新しい繋がり

「えッ? …………マ?」

 

 アースラの医務室ではクリミナルの監視の目であろう存在をあっけなく捕らえたと言うまさかの情報にアルフははポカーンとした表情のまま口を動かす。

 

「……マジで……そんなアホな偶然で……連中のスパイ……捕まえたの?」

「あぁ……マジで」

 

 銀時は頷き、アルフは顔を横から下へと向けながら呟く。

 

「マジかぁ……」

 

 まさか自分とフェイト苦しめてる相手の一人をそんな間抜けな状況で捕まえた事実にアルフは呆然自失という感じだった。

 

「そんでよ……」

 

 なんとも複雑そうな表情のアルフに銀時は言葉を掛ける。

 

「おめェが俺と色々と揉め合った挙句にマンションで気絶しただろ?」

「う、うん……」

 

 これまたなんともバツが悪そうな顔でぎこちなく頷くアルフ。返事を聞いた銀時は話を続ける。

 

「んでよ。おめェが気絶した後にある奴が現れてな……」

 

 と言って銀時はアルフが気絶した後の話を始める。

 

 

 銀時との激しいぶつかり合いの末に力なく気絶したアルフ。

 

「おい!」

 

 突如として倒れ自身の胸に顔を預けるアルフに銀時は声を掛ける。

 

「アルフ! どうした!」

 

 右手をアルフの背中に回して肩を持ち、すぐさま顔色を確認する銀時。

 右腕で抱くアルフの表情は少し青ざめ、息も荒い。

 

「ちッ、くそッ……!」

 

 もう魔力切れの影響が?

 まだ先かとも思ったが、フェイトに魔力を供給されていない影響がもう現れたのかと考えた銀時は珍しく焦りの色を顔に浮かべてしまう。

 とにもかくにも早く処置しなくては、と手に持った首輪に目を向けた時。

 

「――あら、あなたってそんな顔するのね」

「ッ!?」

 

 突如として後ろから、つまり玄関口の方から声が聞こえてきた。それもまるで弄ぶかのような余裕のある声。

 銀時は声に反応として反射的に振り向くと玄関口から声だけが銀時の耳に届く。

 

「まぁ、そこまで心配しなくて大丈夫じゃないかしら? 気を失った原因は魔力供給がないからだろうけど、主な原因は肉体と精神の疲労でしょうし。心が安心したせいで緊張の糸のが途切れたんでしょ」

 

 破壊され扉がなくなっている玄関の近くから聞こえる声。たぶん、声色と喋り方から女性であると判断できる。

 謎の声の主に眼光を鋭くさせる銀時は首輪をポケットへとしまってから木刀へと手を掛ける。

 

「むしろ今あなたが心配すべきなのはその子のことより、フェイトちゃんやプレシアのことじゃなくって?」

 

 余裕という態度をたっぷり感じさせる言葉を聞いた瞬間、銀時は目を大きく見開く。

 

 ――まさか!

 

 今の言葉の内容で姿を見せぬ人物が何者なのかすぐさま察してしまう銀時。いや、さきほどの含みのある言葉と声音で相手の正体を大まかにではあるが予想できていた。

 クリミナル――。

 手紙の存在を一番知られたくない相手に知られてしまったのだ。

 銀時は汗を流しながらも不敵な笑みを浮かべる。

 

「チッ……随分目ざといバケモン共だ……。これでも結構他人の視線には目ざといんだけどな……」

 

 連中の追跡はあらかじめ警戒していた。フェイトの拠点にいる間もここでアルフと取っ組み合いをしている間も連中の監視には警戒していたはずだ。

 だがしかし、そんな付け狙う視線などまったく感じなかった。

 銀時の言葉を受けて姿の見えぬ女かバケモノか分からぬ存在はクスクスと笑い声を漏らす。

 

「あらあらそうなの? フェイトちゃんの真意には気付いても私たちの監視の目には気付かなかったようだけど」

 

 ――クソッ! 間違いねェ! 手紙の事まで知ってやがる!

 

 自分も母も危険になる可能性を承知で手紙を託してくれたフェイトの行動を無駄にしてしまったことに銀時は歯を強く噛み締める。

 アルフを止める為だったとはいえ、軽率な行動だったかもしれないと後悔の念が内に生まれてしまう。

 

「あなたが思っているよりも、私たちの監視の目は甘くないと言う事よ」

 

 カツカツと銀時の耳に廊下の鉄と靴が当たる音が聞こえてくれば、ゆっくりと声の主が姿を現す。

 扉を無くした玄関の前に逆光を背にし、腕を組みながら声の主は現れた――。

 

「お、おまえは――!」

「なによりこのわたしの目を甘く見ない事ね」

 

 さきほどまで銀時と口論していた〝パンチパーマのおばちゃん〟だった!

 

「いやお前のなのかよォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 まさかの人物に銀時シャウト。

 

「あ~ら、開いた口が塞がらないようね。そんなに驚いた?」

 

 おばちゃんはニヤリと不敵に笑い、銀時はすかさずツッコミ入れる。

 

「あたりめェだろうが!! むしろ誰が予想できんだよ!!  頭の天辺から下まで一世代の前のババアが犯罪者でバケモンなんて!!」

「あらあら~。ババアなんて失礼しちゃうわね~。お姉さんて呼んでほしいわ~」

「いやそのビジュアルで妖艶な女幹部的な仕草やめてくんない!! 吐き気催すわ!!」

「あッ、戻るの忘れてた」

 

 と言っておばちゃんは姿を一瞬で小さな褐色肌の白いワンピースを着た少女へ変える。つまりは――。

 

「トランスちゃん再登場☆」

 

 腰に手を当てウインク&顔の横でピースサインするトランス。

 

「結局お前かよォォォオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」

 

 銀時の大シャウトが高層マンションに木霊するのだった。

 

 

「まッッッじかおい!! いやマジか!! マジで気にも留めなかったあのおばちゃんが変身チビだったのかよ!!」

 

 現代に時間が戻り、病室でアルフが声を荒げ、銀時は何度か頷く。

 

「うん、マジマジ。それで正体見せたあのガキがその後なんて言ったと思う?」

 

 

 トランスは両目を二本の指で指し示しつつニヤリと告げる。

 

『私たちの監視の目は常にある。フェイトちゃんの為にも言動には注意することね』

 

 

「――ってセリフ吐いたんだぜ」

「監視の目捕まってんじゃん!! ダメじゃん!!」

 

 説明を聞いてアルフは思わずツッコミ、銀時は更に説明を付け加える。

 

「しかも『みっともない無駄な足掻きは止めることね』って決めゼリフ言って颯爽とベランダから飛び降りたぜ」

「台無しじゃん!! カッコつけたの台無しじゃん!! みっともねェな!!」

 

 とアルフは更にツッコムのだった。

 

 

 場所は変わり、時の庭園。

 一人が持つ私有地としてはそのあまりに広い荒廃した庭園。そこから目や気分が悪くなりそうな次元の海の景色を眺めるのは白髪の長い髪に白い薄褐色の肌を白い簡素なワンピースで包んだ少女――トランス。

 彼女はただジッと色と景色が不規則に変化し歪む景色を眺めていると、

 

「どうした、ボーっとして?」

 

 後ろから聞こえてきた声に反応してトランスはチラリと視線を後ろへと向けると、両手をポケットに入れながら歩いて来るパラサイトの姿が目に映る。

 トランスは声を掛けてきた相手を確認した後、再び視線を次元の海へと向けてから口を開く。

 

「なんか用?」

「……そろそろ仕事が始まるから、わざわざ呼びに来たんだよ」

「そう……」

 

 短い返事を聞きながら白髪の少女の隣にまでやって来て立ち止まったパラサイト。トランスと同じように次元の海を憂いを帯びたような瞳で眺めながら口を開く。

 

「……哀愁にでも浸ってんのか?」

 

 言葉を聞いてトランスはクスリと笑みを浮かべる。

 

「私がそんな感傷的なキャラじゃないことはあんたが一番よく知ってるでしょ?」

「……まぁ、な」

 

 短い言葉で返事をするパラサイトにトランスは言葉をかける。

 

「ちょっと考え事をしてるだけ。結構、この景色を眺めながら物思いに耽るのも悪くないわよ?」

「俺は段々眩暈がしてきそうだけどな……」

 

 眉間に皺を寄せるパラサイトは次元の海の景色を見て目を細める。すると隣に立つ相方はふと思い出したように口を開く。

 

「眩暈がすると言えばよ、あの銀髪……坂田銀時だ。まさか使い魔の奴だけじゃなくてあいつにもフェイトが秘密をバラしてたとはな」

 

 不測の事態に対して不機嫌そうに眉間に皺を寄せる相方に対してトランスは余裕綽々と言った顔で。

 

「まぁ、ちょっと意表を突かれたけど、それほど問題にもならないし」

「……そうか」

 

 パラサイトのどうでもよさそうな相槌を聞きトランスはポケットに入っている黒い折り畳み式のケータイ型の通信機器を取り出し、開いてボタンを操作しながら画面を見つめる。

 通信機器を操作していたパラサイトはあるメールを見て目を少しだけ細め、細やかに口元を吊り上げる

 

「……なるほど。頑張ってるようね」

 

 パラサイトはトランスの様子を伺うように眺めてから言葉を紡ぐ。

 

「まぁ、なんにせよだ。アースラでの銀髪の行動を危惧して、マンションで見張ってたのは正解だったなわけだしな」

「まぁ、今後の事も加味して念の為に坂田銀時に釘は刺しておいたから問題ないでしょ」

 

 どうやら自分が忠告した後、銀時はアルフの事を考えてか魔力を感知して追いかけてきたクロノに捕まったようである。

 

「まぁ、なんにせよ……」

 

 トランスは余裕のある笑みをニヤリと浮かべ、

 

「――私に抜かりはない」

 

 キリっと決め顔で告げるのだった。

 

 

「――まぁ、つまりだ。今の話聞いてどういうことだか分かるか?」

 

 銀時の説明を聞いてようやくアルフは合点がいったのか何度か首を縦に振る。

 

「あー、なるほど……。つまり連中って私たちが思ってるより抜けた連中ってことか……。そんであたしとフェイトはそんな抜けた連中に……」

 

 そこまで言ってアルフは疲れたように右手で目元を覆いながら抑え、しばらくしてから右手を目から話して銀時へと顔を向ける。

 

「……それで、その間抜けな監視の目はどうなったんだい?」

 

 半分脱力したような顔のアルフの問いに銀時は頭をボリボリと掻きながら答える。

 

「捕まえて色々と吐かせようとはしたんだけど……そいつ目を覚ますとすぐになんか体が溶けて緑色のドロドロしたもんになっちまった」

「つまり……フェイトの今の居場所は突き止められないって……こと?」

 

 アルフの質問に銀時は「まぁな」と言って答え、顎を掌に上に乗せる。

 

「さすがにバレた時の対処くらいは連中もしてたみてェだ」

「そっか……」

 

 残念そうに顔を俯かせるアルフに銀時は「でもよ」と言って言葉を続ける。

 

「そいつの服を探ったらなんか携帯……得た情報を相手に送る機械(からくり)……」

 

 説明している銀時はチラリとアルフを見ると使い魔はあまりうまく理解できてないのか眉間に皺を寄せるので銀時は少しメンドクサそうに頭を掻きながら説明を再開する。

 

「いや、なんつうかまぁようは通信機器みたいなモンが出て来たんだよ。どうもそれで連中にこっちの情報を送ってたらしい」

「へッ!?」

 

 とアルフが呆けた声を漏らし、銀時は呆れたような声で。

 

「いや、なんかすんげーアホな話なんだが話に出てきたバケモンは自害して情報漏らさねェようにしたのに、結局携帯っつう通信手段残してるもんだから意味があったのかなかったのか分からねェ自害の仕方してんだよ」

「えぇ……」

 

 アルフはなんとも言えない表情で声を漏らす。さすがに相手の行動が色々とお粗末過ぎるのだから仕方ない。

 銀時はアルフの気持ちに内心共感しつつ言葉を続ける。

 

「まァ、色々とバカバカしい話だがなんにせよ、そのバカスパイのお陰で連中に嘘情報は流せるし、連中がアースラに送ったスパイは一人だってことくらいは分かった。ついでに分かったのが入れ代わりの為に連れ去られちまった武装局員とやらが一人居るかもしれねェわけだから、執務官殿は局員救出も視野に入れなきゃなんねェってことで、頭ハゲそうになってるけど」

「ほ、他には!?」

 

 今後の希望に繋がるであろう情報に食いつくアルフだが、銀時は少し肩を落とす。

 

「そんだけだ。リンディとクロノから聞いたがどうにも奴ら、スパイの奴には指示だけで他の情報はまったく与えてないそうだ。履歴をあらかた辿って唯一分かったのが、アースラに居んのは俺たちが捕まえたスパイが一人だって情報だけ。かと言ってこっちから送信して話を聞き出そうにも、履歴の内容から考えて連中の情報を引き出すのは難しいとよ」

「そ、そうなんだ……」

 

 少し残念そうな表情を浮かべるアルフをチラリと横目で見てから銀時は息を吐くように肩を落とす。

 

「でもよ、これで俺もおめェもただ口を閉じてだんまりする必要はもうねェんじゃねェか?」

 

 アルフは銀時の言葉に反応して顔を上げるがすぐに俯き「でも……」と言葉を漏らす。

 

「フェイトが……」

「確かに、いくら連中の監視の目が緩んだって言ってもフェイトの事を考えたら俺たちが知ってることを他の奴らに話すのはかなり怖ェだろうな。あいつを危険に晒す可能性だってゼロじゃねェだろうし」

 

 アルフは黙って頷き、銀時はベットに両手を付きながら天井を見上げる。

 

「でもよ、尻込みしてたって足踏みしたってあいつを助ける為に伸ばした手は届かねェ。だったら、気に入らねェ腐れ管理局の連中だろうが腐れポリ公だろうがなんでも使ってあいつに伸ばした手が少しでも、ホンの1ミリでも届くようにすりゃァいい。1歩でも2歩でも足元をよく見てよ、あいつを助ける手が届くまで、歩き続ける他ねェのさ。俺もお前も」

「…………」

 

 アルフはただ口を閉ざすだけで反応は示さない。だが、銀時は言葉を続ける。

 

「誰彼構わず話せって言ってるワケじゃねェんだ。あいつを助ける為に必要な奴も方法もじっくり吟味して揃えていきゃァいい。バカはバカなりに、な」

 

 そこまで言って銀時はベットから腰を上げる。

 その瞬間――。

 パン! と後ろで何かを叩く音が聞こえる。銀時が思わず振り向くと、アルフが頬を赤くさせながら両手で自身の頬を抑えていた。

 やがてアルフはうんうんと何度も頷いてから真剣な眼差しを銀時の顔へと向ける。

 

「――わかった。あたしはバカだけど、フェイトを助ける為にはあんたとあたしのだけの力や頭だけじゃ足りないってことくらいは今のあたしでも分かる」

 

 そしてアルフは真剣な表情で問いかける。

 

「まず……どうする?」

 

 銀時はニヤリと不敵な笑みを浮かべてから前へと向き直る。

 

「ならまず行くのは、艦長様のお部屋だ」

 

 

 場所は代わり、アースラ艦長――リンディ提督の執務室。

 綺麗な白い床。周りには厚いファイルケースなどが綺麗に整理されて置かれた棚。そして部屋の奥には高そうな黒色の机。

 執務室の備え付けの椅子に近くに立ち、ニコリと笑顔を浮かべるリンディ提督。机の斜め横に立つのはクロノ。

 そんな彼女らの前には気だるげな表情の銀時と緊張の面持ちのアルフ。

 

「銀時さん、アルフさん。よく来てくれましたね」

 

 リンディ柔和な笑みを浮かべる。

 

「ここに来たと言う事は私に言いたい事が何かあるんですよね?」

「もったいぶった言い方すんじゃねェよ」

 

 と銀時に若干不機嫌そうな表情となりながら小指で耳をほじる。

 

「素直にフェイトのことを聞きたいって言ったらどうだ? どさくさに紛れて『フェイトさんを助けたいなら後で艦長室に』なんて意味深な耳打ちしやがってよ」

「えッ?」

 

 と銀時の言葉を聞いたアルフは驚きの声を漏らす。

 そう。実はリンディは新八と神楽が医務室で騒いでいるあの時、こっそりと銀時にさきほどの言葉を耳打ちしたのである。

 さすがの銀時もまさかのあの時にそのようなセリフを耳打ちされるとは思っておらず驚いた表情を浮かべてしまった。そして自身の表情の変化を見てリンディはニコリと笑みを浮かべたのだ。

 さきほど銀時の言葉を聞いて驚きの表情を浮かべていたアルフはハッとすぐに我に返ってリンディの方へと向き直り、緊張の面持ちで汗を流しながら口を開く。

 

「……あんたら、フェイトのことについてどこまで知ってるんだい?」

 

 アルフの言葉を聞いてリンディは目を瞑り首を横に振りつつ「私たちはさほど知ってるワケではありませんよ」と言ってから目を開けて言葉を紡ぐ。

 

「私やクロノはあの時――つまりフェイトさんとクリミナルたちとの通信映像を見てすぐにフェイトさんの態度に違和感を感じました」

「それで僕と艦長は思ったんだ。やはりフェイト・テスタロッサは何かしら脅されて無理やり協力させられているんじゃないかってね」

 

 リンディの言葉に続くようにクロノが話、銀時は目の前の局員二人にジト目を向ける。

 

「どこぞの執務官と艦長殿はすっごくフェイトの話信じてたように見えましたが? クロノ執務官に至っては説教までしてませんでした?」

 

 銀時の言葉を聞いてクロノは特に表情を崩すことなく腕を組んで説明する。

 

「僕も艦長もフェイトの不自然な態度に薄々は感づいていたが、なにも確証も得られないから敢えて言及せずに話の流れに乗っていたんだ」

「あそこであれ以上色々と言及しても、なんの証拠も得られまんせんからね。なら、敢えて泳がせてみようと思ったんです」

「なるほど。つまりはフェイトが加害者か被害者か吟味してたってワケか」

 

 耳の穴を小指で穿りながら告げる銀時にクロノは説明する。

 

「フェイトのように高い魔力を持った子供が犯罪者の駒にされるなんてケースはよくある話だからね。局員として、なにより執務官として出来うる限り色々なケースは想定しておくように心がけているんだ」

 

 クロノは「それに」と言って銀時にジト目を向ける。

 

「あなたのあの唐突な行動を見て思ったんだ。きっとフェイト・テスタロッサについてアルフと二人で話さなければならない情報を掴んでいるんじゃないかって」

「だからちょっとかまをかけてみました」

 

 ニッコリとした笑顔でリンディが告げる。

 

「……意外に抜け目ねェな」

 

 銀時はより深く耳を穿ってから、

 

「だってよ、アルフ」

 

 チラリと狼の使い魔へと視線を送る。

 

「どうやら見た感じ、こいつらは頭ごなしにフェイトを悪党とは決めつけてはいないようだぜ? どうする?」

「ッ…………」

 

 アルフは一度口を開けて話そうとするが、すぐに話すのを止めて俯く。

 すると銀時の手がポンとアルフの頭の上に乗ると狼の耳がゆっくりと立ち上がる。

 

「ちなみにだが、ここは防音とか大丈夫なのか?」

「安心しろ。会話が漏れないように細心の注意と準備はしている」

 

 クロノの説明を聞いてから銀時がアルフの頭から手を離せば、彼女はぶんぶんと頭を振って顔を上げる。

 その表情には決意が籠った様子が見て取れた。

 

「フェイトは――」

 

 

 

 

 リンディの執務室の扉がスライドして閉まり、銀時は閉じた扉にチラリと視線を向ける。

 

「……これでまぁ、なんとか一歩前進てとこか」

 

 詳しい状況までは分からないが、プレシアは健在でフェイトはクリミナルたちに脅されているという情報をリンディとクロノに伝える事ができた。見た感じリンディとクロノも信じれてくれたようで、今後の対策を考えるとは言っている。

 ただ捻くれた考えの銀時は『納得したフリして強硬策とかに出ねェだろうな?』とちょっと意地悪な言葉を掛けたが、クロノに『まぁ、今は信じてくれ。それしか言えない』と言葉を返されそれ以上の言及はしなかった。

 

「でも、先行き不安なのは変わらないね……」

 

 アルフは狼の耳を垂れさせながらまだまだ危ない状況に変わりない現実に暗い表情を浮かべる。

 アルフの不安も最もであろう。リンディとクロノと言う高い地位の管理局員でありアースラの中心人物たちにフェイトにほとんど罪がない事を理解させ協力関係を構築できたと言っても、なんの打開策も打ち立てられてはいない。

 

 そしてリンディにはこのような箝口令(かんこうれい)を言い渡された。

 フェイトやプレシアを救出する為の確かな算段が立てられるまでの間は誰にも余計な情報を漏らさない。敵のスパイが忍び込んでいたこともあり、どんな経緯で情報が漏れ出るか分かったもんではないからである。だからこそ、フェイトに関する情報は慎重に取り扱う必要があるので出来うる限り必要最低限の人数が知るべき案件と――。

 せいぜい今出来ることはフェイトとプレシアの身の安全を守る為にも余計な情報を誰かに漏らさないと言う、最初の状況からあまり進展していない現状。これではアルフとしても不安な思いが募るばかりである。

 

「たく……」

 

 と銀時が呆れたような声を漏らせば、アルフは頭にポンポンと軽く叩かれる感触を感じた。

 ふと顔を上げれば、頭を軽く撫でる銀時がため息混じりに告げる。

 

「いちいち暗い事ばっか考えてねェで、そのドックフードが詰まった頭でフェイトを助ける為の作戦の一つや二つ考えやがれ」

「銀時……」

 

 名を呼ぶアルフを尻目に銀時は前へと進んでいく。

 

「そんな覇気のねェ姿じゃ、フェイトを助けるここぞと言う時に力発揮できねェぞ? 俺に噛みつかん――って言うか噛みついてきたあのとんでもねェ気合はどこに抜けちまったのかねェ」

「う、うん……そうだね……」

 

 アルフはぎこちなく返事をする。銀時の軽口に背中を押されてやる気は出てくるものの中々気分は前に向かない。フェイトがこれからも傷つくことや助けられるどうか分からないと言ったいろんな不安要素でまだまだ頭がいっぱいだからだ。

 銀時は足を止め振り返る。

 

「まッ、嫌な考えが頭を過るならよ、せめて大好きなご主人様のことで頭いっぱいにして幸せな脳みそにでもしときな。俺なんかより、あいつとの思い出は百や二百じゃ数えきれないほどあるはずだろ?」

「思い出……」

 

 そうだ――。

 自分が使い魔になってから今の今までフェイトはずっと自分に優しい顔を向けてくれた。

 母親に冷たくされても、魔法の先生がいなくなっても、表情が乏しくなっても……ずっと自分に対する優しさだけは失わなかった。

 そうやって大好きなフェイトの事を思い出すとだんだん気持ちが楽になり、元気が出てくる。

 それに……。

 

「そう言えば……」

 

 アルフはくしゃりと顔をほころばせる。

 

「……あんたとも結構色々あったよね」

「まァ、バカなモンばっかだけどな」

 

 やれやれとほくそ笑む銀時との思い出を思い起こせば、色々な記憶が蘇る。

 いきなり瞬間移動して現れたり、食事の時はとにかく騒がしかったり、ジュエルシード集めではあんま役に立たなかったり、プールではとにかく遊びまくったり、散歩なんか道に野糞させようとしたり――、

 

「プッ……」とアルフは吹き出す。「ホントバカっつううか……碌な思い出ないね……」

 

 溜まった涙を拭いながらアルフは笑い声を漏らす。

 

「でも、楽しかったよ。短い間だったけど」

 

 アルフは「まァ、マジでぶん殴りたい時もあったけど」とマジなトーンでサラッと言葉を付け足す。

 

「そりゃどうも」

 

 自分の少し前で止まり顔を前へと向けている銀時。顔は見えないがまんざらでもないと言いたげな声を漏らしている。

 

「あぁ、それとよ」

 

 と言って銀時は振り返り、ポケットから『ある物』を取り出す。

 

「コイツはちゃんと首に巻いときな」

 

 銀時から投げられ、アルフが受け取ったのはフェイトから渡されたと言う黒い首輪だ。

 

「コレ……」

 

 アルフは両の掌の上に置かれた首輪を見て声を漏らす。

 ボーっと黒い首を見つめるアルフに銀時は告げる。

 

「リンディたちからそいつにはちゃんと魔力を溜める力はあるって聞いてっから使いな。魔力の方も充填済みらしいぜ。それにどうせおめェのことだ。仮だとしても新しいご主人様に鞍替えなんてさらさらする気ねェんだろ? だったらそれ巻いて魔力確保して、おめェのご主人様に以外の使い魔になる気なんざさらさらねェって意思表示してやんな」

 

 銀時は右手を上げてぶらり振りながら前へと歩き出す。

 

「つうことだ。飯は後で持ってきてやるから、クロノが用意したとか言う部屋でゆっくり休んどきな。これから忙しくなるんだからよ」

 

 銀時の言葉を耳に受けながら、アルフはギュッと首輪を両手で握りしめる。

 

 

 

 

 

 アルフに背を向けて歩く銀時。

 言う事は全部言った。後はアルフの気持ちの整理が付くまで待つ他ないだろう。

 今後考えるべきはフェイトだったりワケわからんバケモノ連中であるクリミナルたちについて。

 だが今一番の問題なのはアルフとあの江戸のバカ共を対面させる時のこと……。

 

 ――マジでメンドーくせェ……。

 

 今後はホント色々とどうしたもんかと悩みながら頭をボリボリ掻いていた時、 

 

「決めた!」

 

 後ろで勢いよく聞こえてきたアルフの声を聞いて、銀時は「ん?」と声を漏らながら足を止めて思わず振り返る。

 すると既に首輪を首に巻き付け近づいて来たアルフはビシッと銀時に顔の前に指を突きつける。

 

「あんたはあたしの――臨時ご主人様!!」

 

 いきなり気合い入れていきなりワケわからんこと言い出すアルフに銀時は思わず振り向いたまま口を少し開けてポカーンとした表情を作ってしまう。

 

「…………ナニイッテンノオマエ?」

 

 銀時の様子などまったく気にも留めずにアルフは肩に腕を回しながらニカッと笑みを見せて語りだす。

 

「だってあんた前に、あたしの新しいご主人様になってくれるとかなんとか言ってたじゃん」

「いやまァ……確かにな……」

 

 そう言えばそんなことも軽口に乗せて言っちまったな、と思い返しながら曖昧な返事をする銀時。すると彼の肩に腕を回すアルフは小首を傾げて告げる。

 

「あッ、臨時ご主人様が嫌ならご主人様二号にする? それとも新ご主人様(仮)がいい?」

「どこのライダーだよ。つうかよ、お前のご主人様は後にも先にもあの金髪ツインテールじゃねェの?」

「うん。後にも先にもあたしのご主人様はフェイトただ一人だから」

「あッ、そこは即答なんだ。譲らないんだ」

 

 そんなやり取りの後、回した腕を外して銀時から少し離れるアルフは少々気恥しそうに頬を赤くしながら告げる。

 

「まぁ今のあたしにとっちゃあんたは大事な……いや!」

 

 アルフは言葉の途中ですぐさま顔を赤くしながら何かを咄嗟に避けるように両手を上下にぶんぶん振りつつ捲し立てる。

 

「あんたを認めた称号的なアレ!! フェイトに及ばずともすきな……じゃなくて!! ご主人様みてェな奴的なアレだから臨時ご主人様にしてやるって言ってんの!! 要はあたしがあんたを認めてやったって事を形にしたいんだよ!! ありがたくその名誉を受け取りなって!!」

 

 なんか途中で強引に言葉を変えて意味不明なこと言いつつ必死に言葉を取り繕うアルフに対して銀時は怪訝な表情を浮かべる。

 

「いや、そんな賞を上げます的なノリで言われてもァ。つうかおめェは一々近くにご主人様が居ねェと調子でねェのか?」

 

 銀時の疑問にさきほどまで世話しなく表情を変えていたアルフは打って変わって少しだけ悲し気な暗い表情を浮かべる。

 

「いや別にさ……あんたに寄り掛かって依存しようとかそんなワケじゃないよ? ただね……あたしにも身近な……なんだろうね? 家族とか親友って言うのかな? そんな頼れる奴となにかしらの繋がりを言葉って言うか確かなもんとして形にしたいと思ったんだ……」

「別に繋がりなんざ……いちいち言葉とかんなモンで飾り付けなくてもいいだろ。勝手にできちまうもんなんだからよ。つうかよ、ご主人様どうこうはどうでもいいんじゃねェか? ただのダチ公で充分だろ」

「そう……かもね……」

 

 アルフは首を軽く縦に降ってから少し顔を逸らして「でもしょうがないじゃん……」と言ってから銀時の耳には届かないとてもか細い小さな声で。

 

「あんたとはさ……親友よりも……もっとさ……近い……」

 

 口が動いた姿を見て銀時は怪訝そうに肩眉を上げながら告げる。

 

「……えッ? いや、なに? 声が通ってなくて聞こえねェんだけど?」

 

 アルフはまた顔を赤くしつつ首を軽く横に振る。

 

「いや、やっぱなんでもない! あたしの勝手なんだから、あんま気にすんなって!」

「いや、お前の勝手って言うけどよ、勝手に俺はお前のご主人様(仮)にされてんだけど? いやまぁ、俺が言った事で始まった話だけども。なんだかなー……」

 

 あまり納得がいかず銀時が眉間に皺を寄せる中、アルフは気持ちの踏ん切りがついたと言わんばかりに体を伸ばす。

 

「ん、ん~ッ! ようやく体が楽になった感じだよ」

 

 コキコキとアルフは軽快に首を鳴らす。

 

「なんかよくわかんねーうちに元気になっちゃたよ俺の臨時使い魔」

 

 腕を組んでツッコム銀時に構わずアルフは近づきながら新しく出来た天然パーマの主人に人差し指を突き付ける。

 

「あんたはあたしの臨時ご主人様で――」

 

 そしてアルフは突き出した人差し指を拳へと変える。

 

「――初めての親友(ダチ)だ!」

 

 出された拳を見て銀時は少し呆れてため息と共に声を漏らし、

 

「ハァ……たく……」

 

 頬を少し吊り上げる。

 

「こりゃ、とんでもねェペットを引き受けちまったもんだ」

 

 銀時は突き出された拳に向かって拳を突き出す。

 

「よろしくな――ダチ公」

 

 銀時は軽く拳を突き合わせる。

 

「よろしく――親友♪」

 

 ニカっとアルフも笑みを浮かべる答える。

 この時、魔力のパスもなければ、ましてや契約すらなく、家族としての繋がりもない新しい繋がりをアルフが得た瞬間だった。

 

「にしても、こ~んな美人が臨時とは言え使い魔になったんだ。罪な男だね~」

 

 にやけ顔でアルフはうりうりと肘で銀時を小突く。

 すると銀時はフッと鼻で笑い軽口叩く。

 

「随分態度のでけェ(ペット)だなおい」

「狼だっての。あと使い魔な」

 

 アルフは普段の「狼だ」より若干声音を優しくさせる。なんだかんだでこの会話に嬉しさを感じてるようだ。

 アルフはやれやれと首をすくめる。

 

「あたしの臨時ご主人様はホント素直じゃないし柄も悪いし口も悪いし頭も悪いし足も臭いし、ホントフェイトと比べて良いとこないね」

「足臭いは余計じゃね?」と銀時は肩眉を上げる。「つうかなにこの使い魔? 早速臨時とは言え新しいご主人様貶し始めたんだけど? 傷口じゃなくて心の傷開きそうなんだけど?」

「あ~あ。ホントこの天パご主人様(笑)には色々困らされそうだよ」

「おい(笑)ってなんだ。絶対忠誠心ゼロだろお前。お前の中の順位付けで『フェイト>アルフ>俺』みたいになってるだろ」

「フェイト≧あたし>>>>>>銀時、くらいだから安心しなって」

「ミジコン並みに俺の価値ひっくんだけど!! 絶対お前と俺の間に越せない壁が出来てんだろそれ!!」

 

 銀時のツッコミを聞きつつ軽口を叩くアルフは後頭部に手を回して前を歩いていく。だがその時、くるりと振り向く。

 振り向かれた彼女の顔を見た銀時は声を発せずに一瞬、目を見開く。

 腕を後ろで組み、笑みを浮かべる使い魔の顔はどこか満足げで、儚げで、女性的で――、

 

「しっかりしてよ。あんたはあたしが初めて――」

 

 目の前の女は何を思いとどまったのか口を閉じ、笑みを浮かべる。

 

「なんでもない」

 

 そのままアルフは軽快な足取りで銀時の前を歩き出す。

 ただアルフの言葉を待つように突っ立ていた銀時は我に返りポカンとした表情で眉間に皺を寄せる。

 

「……えッ……ちょッ……」 

 

 すんごく意味深な言葉だけ受け取った銀時は戸惑いながらアルフの後を追いながら問い詰める。

 

「おいおいおい。お前今なに言おうとした? 初めて? 初めてがなに? ご主人様(仮)になに言おうとした? 満足してるとこ悪いけど臨時ご主人様にはモヤモヤだけが残っちまったぞ」

「ご主人様(笑)。フェイトのことが片付いたら教えてやるよ」

「絶対だな? 今言ったな? 言質とったからな」

 

 などと言う会話をしながら歩く二人。

 憑き物が落ちたような笑顔を浮かべるアルフ。そんな彼女の首輪の宝石が赤くキラリと光るのだった――。



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第四十九話:ペットを飼い始める時は意外にわくわくする

 銀時とアルフが互いの溝を修復してから時間は経過し翌日。

 時空航行艦アースラ食堂。

 新八と山崎は目の間の光景に絶句していた。

 

「ほら銀時、あ~ん♪」

 

 アルフが猫なで声で銀時にパフェを掬ったスプーンを彼の口に運ぼうとする。

 

「いや、いい。自分で食べれるから」

 

 それを拒否する銀時にアルフは不満顔。

 

「いいじゃないか。まだ満足に腕が使えないんだろ? ならあたしが食べさせてやるのが筋ってもんだろ? はいあ~ん」

「ちょっ!? 止めッ!! 鼻に近づけんな!! どこで食わせようとしてんだテメェは!!」

「あんたが大人しくしてないのが悪いんだろ」

 

 と口を尖らせるアルフに銀時は怒鳴り声を上げる。

 

「別に片腕使えるからいいっての!! つうか皆見てて恥ずかしいだろうが!! ちったァ周りの目も考えろバカ犬」

 

 そんな光景を見て新八と山崎の顔の影が酷なる。え? なにこれ? どうなってんの? みたいな表情がより一層深みを増す。

 

「犬じゃなくて狼。別にいいじゃないかい。そんなもん気にしなくても」

「そういうワケにいくかよ。ほれ見てみろ」銀時は新八に親指を向ける。「年齢=童貞拗らせた眼鏡がえれェ眼差しでこっちを見て――」

「銀髪コラァァァァァァッ!!」

 

 ついにブチ切れた童貞(しんぱち)が銀時の胸倉掴んでありったけの声で叫ぶ。

 

「あ、童貞がキレたネ」と神楽。

「なにしてんだコラァァァァァァァッ!! どういうことだコラァァァァァァッ!! 何があったコラァァァァァァァッ!!」

 

 新八は胸倉掴んでありったけの力で銀時の頭をシェイクする。青筋浮かべたその顔は嫉妬やら怒りやら色んな感情が見て取れる。

 

「お、落ち着くんだ新八くん!!」

 

 さすがの近藤もドン引きしながらやんわり止めようとするが猛る眼鏡は止まらない。

 

「どこのバカップルだオメェらはッ!! なんでアルフさんと戻ってきたらいつの間にかそんなにうらやま――密接な関係になってだァァァァァッ!!」

「今羨ましいって言おうとよね? 絶対嫉妬してるよねあれ?」

 

 土方は半眼で新八の乱心を見ている。するとアルフは頬杖付きながら不服そうにする。

 

「おい眼鏡。あたしのご主人様(仮)は病み上がりなんだから、あんま乱暴しないでくれないかい?」

 

 スプーンの先を向けながら言うアルフの言葉を聞いた新八はより一層目を血走らせ、喉が張り裂けんばかりに声を荒げる。

 

「どうことだテメェコラァァァァァァッ!! なんでアルフさんがあんたみたいなダメ人間の使い魔なってんだコラァァァァァァッ!!」

 

 そんな新八の姿になのは、すずか、アリサの小学生三人組も無言でドン引きである。

 

「お、おおおおお落ち着け!! 童貞=新八!!」と銀時。

「どう意味だそれはァーッ!! 僕が童貞の代名詞だと言いたいのかァァァァァ!! いつまでも僕が童貞だと思ったら大間違いだぞコラァァァァッ!!」

 

 新八の言葉に近藤が青ざめた表情で止めに入る。

 

「お、落ち着け新八くん! いつの間にか童貞の話にすり替わっちゃってるから! 小さい女の子もいるからホントもう止めよう!」

 

 あの近藤に下の発言を(たしな)められたからなのか、はたまた単純に叫び疲れただけなのか息を荒げながら銀時の胸倉を離す新八。

 そして新八に代わるように土方が質問を投げかける。

 

「んで、銀髪。おめェはなんでその犬耳のご主人様なんぞになってんだ?」

 

 煙草吸う土方を見て銀時はアルフに耳打ちする。

 

「覚えとけ。あれが妖怪ニコチンだ。体に溜まったニコチンを股間から噴射する奇怪な生物だ」

「へぇー……」

 

 とアルフは返事をし、土方は青筋立ててツッコム。

 

「嘘教えてんじゃねェよ!! つうかニコチン股間から噴射ってどゆこと!?」

 

 すると今度は沖田がアルフに向かって耳打ちする。

 

「違う違う。アレは妖怪マヨネーズだ。股とケツからマヨを巻き散らして――」

「ようし分かった。この妖怪『首置いてけ』がおまえらの首を切ってやろうじゃねェか」

 

 土方は目に影を落とし、刀を鞘から抜く。それを近藤がすかさず羽交い絞めして止める。

 

「落ち着いてトシィッ!! 気持ちは分かるけど落ち着てェーッ!! 場所考えて!! 流血沙汰はいくなんでもマズいから!!」

 

 さすがに管理局員がいるアースラ内で流血沙汰など言語道断。

 暴走する部下を止める近藤を銀時が親指で指してアルフに耳打ちする。

 

「そしてあのゴリラが妖怪ゴリラ・ゴリラ・ゴリラだ」

「それようはただのゴリラじゃねェか!! 妖怪いらねェだろそれ!!」

 

 と近藤はツッコミを入れるが銀時は構わずアルフに告げる。

 

「つまりだ、真選組と言うチンピラ警察と言う組織は妖怪の巣窟で――」

「いやチンピラで妖怪の巣窟ってなんだその伏魔殿!! いい加減ホラ吹き込むのやめろ!!」

 

 と土方が怒鳴ると同時に、

 

「そうですよ!! いい加減にしてください!!」

 

 話が脱線し始めたので新八が声を上げて軌道修正に入ろうする。

 

「アルフさん! なんで銀さんの使い魔なんかになってんですか!? この人魔導師でもなんでもないただのダメな侍なんですよ!?」

 

 新八の問いアルフはあっけらかんとした顔で銀時を手に持ったスプーンの先で指す。

 

「ま、用はあたしが勝手にコイツを臨時のご主人様として扱ってるだけだから。そもそも契約もしてなきゃ、魔力のパスもないしね」

 

 そうアルフが苦笑しながら答えつつパフェを掬い、銀時の顔にスプーンを差し出す。だが照準がズレて銀時の鼻にスプーンの切っ先が突っ込んでいく。

 

「いでででッ!! 鼻ッ!! 鼻に入った!! せめてよそ見しないでやって!!」

 

 アルフ言葉に新八は絶句し愕然。

 

「し、信じられない……」

 

 そんなアルフの姿に少年の姿のユーノが唖然としつつ言葉を漏らす。

 

「契約を結んだ主以外の人間を使い魔が仮とは言え主として認める姿なんて初めて見た……」

「つうか昨日まで死人みたいな顔してた人と同じとは到底思えない……」

 

 とアリサは呆れ声からの、

 

「「う、うん」」

 

 なのは、すずかの続くように頷く。

 

「ホントに次から次へと予想の斜め上なんだか下なんだか分からないことが起きて頭痛が……」

 

 クロノも呆れた声を漏らしつつ右手で頭を抑え、エイミィはニッコリと笑顔を浮かべる。

 

「でも、アルフが暴走せずに元気になったのは良い事だと思うよ。消滅しないで済むし、あの様子なら今後も前向きに私たちに協力してくれそうだし」

「いやまー、確かに言われてみるとそうなんだが……」

 

 どうも納得できんと言いたげに首を傾げるクロノ。

 するとリンディは面白そうに笑みを浮かべる

 

「ふふ。まぁ、過程はあまり褒められてものではありませんが、銀時さんが型破りなお陰で良い結果を得られたと思いますし、認めるべきとこは認めても良いと思いますよ」

「いや型破りと言うか行き当たりばったりと言うか……」

 

 小首を傾げ続けるクロノは銀時を見てジト目向ける。

 

「……そもそもあの無責任な甘党狂いの天パのどこがいいんだ?」

 

 クロノの言葉に反応したのか執務官へとアルフは顔を向ける。

 言い過ぎたか? と思ってかクロノはアルフの文句の一つも身構えるような表情をするとアルフは腰を上げ、

 

「すいませーん! チャーハン大皿一つお願いしまーす!」

 

 手を上げてチャーハンを注文。

 

「いや、そっちィ!?」

 

 クロノは間の抜けた顔になる。

 アルフは構わず自分の体よりでけェ大皿のチャーハンを持ち上げレンゲを使って口に掻き込む。

 

「って言うかなんだそのデカい皿は!? アースラにあんな大きな皿あったのか!?」

 

 クロノはあまりにもバカデカい皿にビックリして汗を流す。するとリンディは苦笑しながら頷く。

 

「えぇ、まぁ……団体人数用なんですけどね」

 

 凄まじい食欲を披露するアルフはご飯を口に掻き込みながら喋る。

 

「そりゃ、そうさ。パクパク! いざって時の為に、もぐもぐ! 体力を作っておかなきゃ、ガツガツ! いけないんだから!」

「うん。食べるか喋るかどっちからにしたらどうだ?」

 

 どうやらアルフは銀時の言われた通りいつでも全快で動けるように食べて元気を付けているようだ。

 

「そうアル! あのムカつく奴らと決着つけるためにも、私たちには準備が必要ネ!」

 

 そう力強く言い放つ神楽の腹は妊婦のように膨らんでいた。彼女の周りには積み上げられた皿のタワーがいくつもある。

 

「お前はその腹でなんの準備できたの? 妊娠の?」

 

 銀時が半眼を向け、神楽は苦しそうにする。

 

「時の庭園にヒッヒフゥー! レッツヒッヒフゥー! ゴーヒッヒフゥー!」

「完全にただの妊婦じゃねェか!! 産婦人科にレッツゴーしてろテメェは!!」

 

 と銀時がツッコミ、神楽の食べっぷりを見ていたクロノは汗を流す。

 

「新八、あの子を止めてくれ。アースラの備蓄が数日で底を尽く」

「無理です」

 

 食べ物関係の神楽は誰にも止めることができなのは新八もよく知っていること。

 するとアルフの態度を今まで見ていた土方が声を出す。

 

「そこの天パがアルフの仮のご主人様だか飼い主だかなんのにはさして興味はねェが……」

 

 土方の言葉に反応してアルフは彼に顔を向けてから口に入れたものを飲み込む。狼の使い魔のほっぺにはご飯粒がところどころついている。

 

「お前が管理局の連中と今後どうするかは気になるな」

 

 土方はアルフに視線を顔を向けつつ、少し低い声音を出して語る。

 

「管理局は仮ではない方の主を〝今のところ〟犯罪者か容疑者として、なによりあの謎の連中の仲間として扱っていてもおかしくはないだろ」

 

 どうやら土方の話を聞く限り非管理局側の人間は銀時とアルフを除いてフェイトの真実を知らないようだ。前に言った通り敵にこちらの情報を漏らさない為にクロノとリンディは情報を開示するのは先送りしているみたいである。

 だからこそ、フェイトの真実を知らない人間であろう土方は質問を投げかけている。

 土方は煙草の煙を吐き、アルフに鋭い眼光を向ける。

 

「結局のところお前は、元々のご主人様を犯罪者として扱うだろう管理局の連中とこのままつるむのか?」

 

 アースラの局員でもフェイトが脅されて演技を強要されているなんて情報をどれだけの人間が共有されているか銀時にもアルフにも分からない。だが、今やることは変わらないのだ。

 アルフは少し息を吸い込んで、

 

「すみませーん!! 次は大皿のミートスパゲッティお願いしまーす!」

 

 手を上げて追加注文する。

 

「いや無視すんなァァァッ!! 俺の作ったシリアス台無しじゃねェか!!」

 

 まさかの追加オーダーに土方は怒鳴り声を上げる。

 

「関係ないよ」

 

 すると唐突にアルフがご飯粒を頬につけたまま、真剣な表情となり語る。

 

「あたしにとってのフェイトは犯罪者でもないし、ましてやあんな連中の仲間でもない」

 

 アルフの言葉を聞いて頬杖をする銀時は彼女を見つつ肩眉を上げる。

 一方のクロノは少し心配そうに表情を曇らせ汗を流しつつ、アルフに言葉を掛ける。

 

「え、え~っと……ならつまり、真実は定かではないが君はフェイト・テスタロッサの味方――つまり彼女の使い魔のままでいくと言うことになるのか? 僕たちに協力はできないと?」

 

 クロノはこのままアルフが下手に真実を漏らしてしまうことを危惧してかフォローに入ったようだ。

 クロノの言葉を聞いたアルフは真剣な表情で告げる。

 

「協力はしてやる。ただしあたしはずるるるるるる!!」

 

 と言葉の途中でアルフはスパゲッティ啜り始める。

 

「だから話の途中で口に物を入れるなァァァッ!! 腹立つなッ!!」

 

 また話の腰を折る狼にクロノ怒鳴り声上げる。

 

「なんかアルフさんもクロノくんも色々キャラが……」

 

 なんかキャラ崩壊的なモノを起こし始めている二人を見て新八は汗を流している。

 ぶっちゃけ、アルフはフェイトの天然が若干移った感もあるが。

 

「そんなこと今に始まったことずるるるるるるる!!」

 

 そして神楽はラーメンを食し、クロノは怒鳴り声を上げる。

 

「ええい!! 啜りながら話に入って来るな!! 腹立つなホント!!」

「つうかまだ食うのかおめェは!! 腹破裂すんぞ!!」

 

 と新八も声を荒げてツッコム。

 やがて麺を啜り終えたアルフは皿から口を離す。

 

「――あたしはフェイトの『家族』としてあの子に会いに行く。局員の味方でもなきゃ、あの子の悪いお友達連中の味方でもない。もう一度会う為にとことんやれるだけのことはやってるやるつもりなだけさ」

 

 と狼の使い魔はクロノのフォローに一応は応えつつ自身の意思を伝える。口にべっちゃりミートソース付けながら。

 

「食べて今後に備えるはいいがせめて口を綺麗にしてくれ……」

 

 台無し感半端ない絵ずらにクロノはため息を吐き、銀時は顔を上げ土方に声を掛ける。

 

「つうことだニコネーズ」

「いやニコネーズってなに? マヨネーズの新商品?」

 

 土方のツッコミを受けつつ銀時はアルフの口を布で拭きながら話す。

 

「俺はダチとして、コイツは家族としてあいつに会いに行く。もう使い魔だの犯罪者だのはグダグダ考えんのは止めだ」

 

 口を拭き終えれば、アルフと銀時の両名は真剣な眼差しで宣言するように言葉を紡ぐ。

 

「困ってるなら助ける」

「道を外れそうになってんなら引っ張り戻す」

 

 もう協力者としてでも使い魔などと言う形と言葉で取り繕ったもので動くのではない。

 

「家族として――」

「ダチ公として――」

 

 もっと単純で、純粋で、強い思いが少女の為にこの二人を動かそうとする。

 

「「必ず」」

 

 アルフは拳を掌に叩きつけ、銀時は無表情な顔ながらも真っ直ぐな瞳。

 シンプルだが真っ直ぐな意思がこの二人の闘志に火を付けている。もうこの二人が止まることなどない。そう周りの人間たちが感じ取れるほど二人の強い思いは伝わっていく。

 

「どうやら……」

 

 二人を見たリンディは笑顔をクロノに顔を向ける。

 

「心強い味方ができたみたいですね」

「そうですねぇ……」

 

 とクロノは腕を組みつつ二人の様子を眺める。

 

「さすが旦那」と沖田が銀時に近づく。「もうその犬と息ぴったりとは。随分調教が行き届いてるみたいで」

「そうだろ沖田くん」

 

 自慢げな銀時。彼の横ではアルフが大皿もって食事を再開しているが銀髪は構わず使い魔に顔を向ける。

 

「定春しかり、俺ほどペットに慕われるご主人様早々いるもんじゃねェよ。なァ、アルフ」

「ん?」

 

 呼ばれてアルフが振り向いた瞬間、彼女が持っていた大皿のふちが銀時の顔に直撃。

 

「おごォ!?」

「あ、ごめん」

 

 鼻血出して後ろに倒れる銀時にアルフは謝る。

 その様子を見て沖田は顎を撫でる。

 

「さすが旦那。普段ペットに舐められまくってるだけありますねェ。良いお手本見させてもらいました」

 

 一方、話を聞き終えた新八はすんごく納得いかないと言わんばかりの表情を浮かべている。

 

「結局、アルフさんが銀さんを仮の主として扱ってる理由がいまいちわからなかったんだけど……」

「それはやはり……」

 

 実は居て今まで喋らなかった東城が腕を組んで語る。

 

「我々の知らないとこで銀時殿がアルフ殿をベットの上で調教――」

「黙れエロ糸目!! テメェの頭鞭でぶっ叩いて調教すんぞ!!」

 

 言葉の途中で鼻血出す銀時に怒鳴りつけられた東城は驚きの声を上げる。

 

「えッ!? 銀時殿は私をアヘ顔調教するのがお望みなのですか!?」

「誰がテメェのアヘ顔見て喜ぶんだよ!! ホントテメェは一回調教されて真人間になってこい!! いやマジで!!」

 

 そんな一部始終を見たクロノは、

 

「――バカと心配ごとが増えただけでは?」

 

 半眼で実直な感想をリンディに告げる。

 

「あ、あの!」

 

 するとなのはがおずおずと緊張した面持ちでアルフの元へとやって来る。

 

「こ、これからよろしくお願いします!」

 

 そう言って頭を下げるなのは。これから協力するかもしれない仲なのだから、挨拶をするべきだと思ったのだろう。

 

「え、えっと……その……」

 

 ただあいさつの後は何を言っていいのか分からないのか言葉を詰まらせている。

 彼女自身、アルフとはほとんど関わりがないと言うか、接点がなかったと言うか、会話をしていなかったので、どう接すればいいのか分からないのだろう。

 もしかしたらフェイトよりもコミュニケーションが取りずらい相手と認識しているかもしれない。

 アルフはなのはを見てから口に入った物をごくりを飲み込む。

 

「ぅぅ……」

 

 今までフェイトと敵対してきた自分が何を言われるのか、なのはは不安そうな表情を作る。

 

「ん。よろしく」

 

 短く返事をし、なのはの頭をポンポンと叩くアルフ。そしてそのまま食事を再開する。

 

「え、えっと……」

 

 戸惑うなのはに右手で鼻血を抑えつつ机に座り直す銀時が平坦な声で告げる。

 

「こいつは別におめェを憎んでも恨んでもねェと思うぞ」

「そ、そうなんですか?」

 

 不安そうにするなのは。

 銀時はチラリと横のアルフに目を向ける。

 

「まぁ、むしろ……」

 

 仲良くしてェんじゃねェの? と言おうとした言葉を飲み込み、アルフに含みのある視線を向ける銀時。

 当のアルフは銀時の視線に気づいて、彼が何を言いたいのか察してか照れ隠しのように荒っぽく料理を口に掻き込み始める。

 伝えようとしていることがいまいち分からなかったのか、首を傾げるなのはに銀時は平坦な声で告げる。

 

「まぁ、今後ともよろしくってこと」

 

 

 場所はどこかの森林。

 

「ギィエエエエエエエエエエッ!!」

 

 ジュエルシードの憑依された鳥の怪物が奇声を上げる。

 すると怪鳥の体を緑色に光る鎖が巻き付く。

 

「よし! バインド成功!」

 

 魔法陣を出して空に浮かぶフェレット姿ではないユーノが後ろで控えているなのはに声を掛ける。

 

「なのは! すずか! アリサ! バインドの練習!! やってみて!!」

「「うん!!」」

「了解!」

 

 力強いく頷いた三人は怪鳥に向かって自身のデバイスを向ける。

 

《Bind》

 

 三機のデバイスから女性の声が聞こえ、怪鳥に桃色と紫と赤の光るリングが巻き付く。

 

「ギィエエエエエエエエッ!!」

 

 苦しみの声を上げる怪鳥。

 

「そう! バインドをすれば動きの速い相手も止められるし、大型の魔法も当てられる!!」

 

 ジュエルシードの怪物を使って『バインド』のレクチャーをするユーノ。

 その様子を地上から見つめる者たちがいる。

 

「あれじゃ俺たちの出番ないですねェ」

 

 呑気に眺める沖田の言葉にタバコを吸う土方が相槌を打つ。

 

「まァ、俺らは空飛べねェからな」

「お前は飛べるけどどうすんだ?」

 

 銀時の問いにアルフは苦笑する。

 

「まー、見てるだけでいいんじゃない? あの子らのレベルアップが目的ってことで」

「やれやれ、情けない者たちだ。大の男がこれだけいながら幼き少女たちだけに戦わすなど」

 

 そう言って一歩前に出るのは、心は男、体は女である九兵衛。

 おもむろに前へと出た九兵衛を見て新八は彼女に声を掛ける。

 

「九兵衛さん――あんたいつまで死神やってんですか?」

 

 ブリーチスタイルの九兵衛に新八はジト目でツッコミ入れるが眼帯死神少女は刀を構えつつ気合いを入れ始める。

 

「ソウルソサエティで得た僕の奥義を見るがいい」

「えッ? まさか卍――」

「眼――」

 

 九兵衛は自身の眼帯に手を掛ける。

 

「――解!!」

 

 そして眼帯を取り去りば、九兵衛の片目が光り出す。

 

「眼解ってなんだァァァァァァァッ!? ただ単に眼帯外しただけじゃん!!」

 

 聞いたことない奥義名に新八はシャウト。

 

 ――説明しよう。

 眼解とは九兵衛がソウルソサエティで得た必殺の型。

 自身のキャラとしてのアイデンティを減らすことにより己が能力を数倍にする諸刃の奥義である。

 

「ゆくぞ!! 鳥の化生よ!!」

 

 すると九兵衛は近く木に踏み台に両足で蹴りを入れてそのまま空高く飛び上がり、バインドによって拘束されている怪鳥に向かっていく。

 そのまま目に止まらぬ速さでズババババッ! と鳥の体を刀で切り刻む。

 

「ギェエエエエエエエエエエエッ!!」

 

 体が刻まれて会長は悲鳴を上げる。

 そして九兵衛の常人離れした攻撃を見て新八はまたシャウト。

 

「いやなんでェェェェッ!? なんで眼帯外してキャラ弱くしただけで反比例して強くなんのォォォォッ!? どう言う原理ッ!?」

「九兵衛さん凄いの!!」

 

 新八とは打って変わってなのはは素直に九兵衛の活躍に感心する。

 

「さすが九ちゃんネ!!」

 

 神楽は九兵衛の活躍を見て瞳を輝かせる。

 すると今度は新たな人物が一歩前へと躍り出る。

 

「若が行くところ……」

 

 それは糸目の長髪の九兵衛のお付きの男。

 

「この柳生四天王筆頭――東城歩ありです!!」

「東城さん!!」

 

 前に出る東城を見て新八は声を上げる。

 

「見るがいい!! これが私があらゆる時間を遡り得た新フォーム!!」

 

 勢いよく東城は服を脱ぎ捨て新たな姿を見せる。タオル一枚を体に巻き、手にカーテンをシャーする棒を持った姿(フォーム)を。

 

「ソープフォーム!!」

「ただのソープ嬢になっただけじゃねぇかァァァァァッ!!」

 

 ソープ状態の東城に新八はシャウト。

 

 ――説明しよう。

 ソープフォームとはあらゆる時間を行き来する時を走る電車で時間を遡った東城があらゆる古代のソープとロフトを体験して得た姿である。

 

「ようはただ単にカーテンのシャーする棒持ったソープ嬢じゃねェか!! つうかソープもロフトも古代にねェよ!!」

 

 新八のツッコミは無視してカーテンをシャーする棒を構える東城。ちなみにカーテンをシャーする棒の名称はカーテンランナーと言うらしい。

 すると東城は新八に顔を向ける。

 

「何を言うのですか新八殿! ソープとライダーは切っても切れぬ縁なのですぞ!」

「いやんなワケねェだろ!! なんで全年齢とR18が密接に繋がってんだよ!! ライダーに対して失礼にもほどがあるぞあんた!!」

 

 だが新八の怒りにも東城は怯まず腕を組んで語り始める。

 

「では新八殿、ライダーの必殺技はキックなのはご存知ですかな?」

「え、ええ……そりゃァ、まァ……」

 

 繋がりをまったく感じられないが素直に相槌を打つ新八に東城は頷き、説明を続ける。

 

「ソープ嬢の中には足技が得意な者も数多くいる。それで何度となく性欲と言う怪人を昇天――」

「そんなモンにライダーとソープに接点見出してんじゃねェェェッ!!」

 

 まさかの回答に新八はより一層怒る。

 

「謝れ!! 今すぐライダーに謝れ!!」

 

 だが暴走するソープ嬢となった柳生四天王は止まらない。

 

「それに平成では銃ライダーが豊富! っとすればソープ嬢には男の銃を扱い弾を幾度となく発射する技術がライダーと酷似――!」

「黙れェェェェッ!! テメェは今すぐライダーに土下座してこい!!」

「そして私が絆を得た亀殿はロッド使いライダー。つまり、男のロッドを扱うソープ嬢はまさに仮面らい――」

「いい加減にしろゴラァァァァァァッ!!」

 

 新八は叫び、東城の顎にアッパーを炸裂させる。「ぐぼォッ!!」と長髪のソープバカは天を舞う。

 だが地面に落ちて背中を打ち付けても東城はすぐに立ち上がりなお食い下がる。

 

「分かりました!! では我が新たなる力をお見せして、納得してもらいましょう!!」

 

 そう言って東城はカーテンシャーを槍投げのように持ち、

 

「とりゃァーッ!!」

 

 カーテンのシャーする棒を怪鳥に向かってぶん投げる。

 

「やってる事はただの原始人じゃねェか!!」

 

 新八のツッコミと同時にガン!! と棒が怪鳥の体にぶつかる。

 

「ギェ?」

 

 えッ? なに? みたいな感じで首を傾げる怪鳥。それを見て新八はツッコム。

 

「しかも効いてねェし!!」

「亀殿との絆で得たフォームがまったく効かないとは……!」

 

 東城は両手両膝をついて落ち込む。

 

「そんな汚ねェロッドフォームなんぞ捨てちまえ!!」

 

 と新八は吐き捨てる。

 

「とりあえず、邪魔しないでちょうだい」

 

 アリサの冷たい一言が落ち込む東城により深く突き刺さるのだった。

 

 

 

 

「うんうん。さすが魔力量が高いだけあって、納得の成果だね~」

 

 なのはたちがジュエルシードを封印する映像を見ながら予想通りの結果を見て笑みを浮かべるのはオペレーターのエイミィ。

 

「『四人共』なかなか優秀だわ。うちに欲しいくらい」

 

 ついリンディは口元を緩ませ微笑を浮かべている。彼女にとっては魔法少女三人より遥かに魔力量が少ないユーノも優秀な魔導師に入っているのだろう。

 クロノは母の様子を見ながら、たぶん冗談ではないのだろうなぁ……、と考えてやれやれと少し呆れる。

 エイミィはパネルを操作しつつ映像を見ながら言葉を漏らす。

 

「でも魔力を持ってない『えど』出身の銀さんたちの身体能力も侮れないですよねぇ。神楽ちゃんは人間じゃないらしいけど。他の人たちもホントに人間なのかな?」

 

 エイミィの疑問にクロノは腕を組んで答える。

 

「まぁ、例は少ないが彼らのように高い身体能力を持った人間がいる世界も確認されているからね」

管理局(うち)に欲しい?」

 

 振り向くエイミィの言葉にクロノは顔をしかめる、

 

「冗談言うな。彼らは元の世界では職についてるんだぞ? それに……」そう言ってクロノは画面に映る銀時を見る。「個人的にもあまり管理局に来て欲しくない」

 

 エイミィはクロノ言葉に苦笑する。

 大雑把と言うかテキトーと言うか色んな意味で関わると心労が絶えない銀時にクロノが苦手意識持っていることに気付いているようだ。

 クロノは腕を組みつつ冷徹に告げる。

 

「そもそも『刀』などの質量を持った武器で戦う彼らのスタイルと管理局の掲げる規定は水と油と言ってもいい」

 

 息子であるクロノの言葉にリンディは難しい顔になる。

 

「まぁ、ミッドチルダではないので〝今〟は彼らの刀の使用を許可していますが。ミッドでは……」

「間違いなく〝戦えなく〟なりますね」

 

 とエイミィが意味深げに告げればクロノはため息を吐く。

 

「当然だな。刀なんぞで暴れられたら、今度逮捕しなければいけないのは彼らだ」

 

 ミッドチルダ。そしてその世界に本拠地を置く管理局。

 非質量の魔法で犯罪者を無力化して事件解決を目下とする管理局の規定は刀で戦う『江戸』出身の銀時たちには既に説明してある。

 するとエイミィは意外そうな顔で。

 

「にしても、なのはちゃん、アリサちゃん、すずかちゃん、ユーノくんの四人だけじゃなくて『えど』の人たちまで今回の事件協力を艦長とクロノくんが許可するとは思わなかったよ。最初はかなり渋ってましたから」

 

 一週間前にユーノから、

 

『僕はともかく……なのは、アリサ、すずかの高い魔力はそちらにとっても有効な戦力のはずです。ジュエルシード回収、それにクリミナルたちへの牽制。そちらとしては便利に使えるはずです』

 

 と言う捜査協力のための交渉を受けた。

 それでリンディは最初こそかなり渋ったがユーノの強い要望と小さいながらも上手い交渉術で渋々OKした。

 すると今度は「魔法を使えない土方さんたちをこのまま事件に関わらせられない」と言う旨を伝えたところ今度は土方から。

 

『ユーノとも話して確認したが、やはりフェイトの使うあの謎の剣は〝魔法を無力化〟できる力を持っているんじゃねェか? もしそうなら、そのフェイトへの対抗戦力として俺たちは有効な戦力だと思うんだがな。魔法にタメ張れると驕るつもりはねェが、そんじょそこらの一般人よりは魔法なしでも腕が立つ連中ばっか揃ってるぜ。下手に足を引っ張る心配も少ないはずだ』

 

 そう言われ、『江戸』の人間たちの事件解決への参加を許可したリンディ。こちらも許可するまではそれなりに渋ったが。

 だがクロノは彼ら江戸の人間の参加に苦言を呈した。なにせ刀やましてや弾丸仕込んだ番傘で戦う戦闘スタイルは管理局執務官として認められないからである。ギリギリ木刀で戦うのが認められるかどうかレベル

 ぶーぶー不満やら文句やらを神楽たちにかなり言われ口論に発展。キリがないので仕方なくミッドチルダではない『なのはの世界』での使用を許可すると言う妥協案で片付いた。

 

「まぁ……フェイトの使っていた『謎の剣』に対する決定的な対抗策がないのも事実だからね……」

 

 いまもクロノはリンディ以上に渋々と言った感じである。

 

「フェイトちゃんの持ってる〝アレ〟、本当になんなんだろうね?」

 

 エイミィはパネルを操作し、フェイトとクロノが戦った時の画像を出す。画像を拡大し、フェイトが持っていた『謎の剣』を見て首を傾げる。

 

「これ、デバイスなのかな?」

「わからない。ましてや魔力を吸収するデバイスなんて見たことも聞いたこともない」

 

 首を振るクロノの言葉を聞いてリンディは顎に指を当て思案顔を作る。

 

「もしあったとしたら、局員以外しか使うことを許されない違法なデバイスとして扱われそうですね」

「まぁ、もろもろ問題は置いといて、もし配備されたのなら魔法を使って犯罪を働く魔導師の抑制になりますからね」

 

 クロノ言葉を聞きつつ、エイミィはパネルを操作しながら考えを述べ始める。

 

「私、最初は魔力を無効にしてるかと思ったんだけど……後から調べたら実は触れたモノ――要は防御魔法の魔力を吸収してるって分かったんだよね。だからクロノくんが構築した魔法が不安定になってあんなあっさり破られちゃったみたい」

 

 更にリンディが、顎に手を当てながら真剣な表情で分析を口にする。

 

「っと、なると……クロノの杖とバリアジャケットが簡単に破壊されたのも、説明がつきますね」

「バリアジャケットと杖も質量こそ持ってますけど、基本は魔力で構成された上での頑丈さですからね。ましてや魔力を吸収されて、構築を乱されたらそりゃあ……」

 

 と言って、エイミィは苦笑しながら「近接と遠距離両方でキツイ相手ですよねー」と言う。

 二人の言葉で、フェイトにあっさり負けたことを思い出して、クロノは苦い顔をしつつ、。

 

「だが、魔法を吸収されるからって完全に対抗できないワケじゃない」

 

 今度は負けないと言わんばかりに強気な態度のクロノ。

 それを見たリンディは苦笑した後、立ち上がる。

 

「ジュエルシードの回収も済みましたし、なのはさんたちとお食事にしましょう。会わせたい〝人たち〟もいますしね」

 

 ニコっとリンディは笑顔で言う。

 

 

 

 アースラに用意された個室では、なのはとすずかとアリサが休息を取っていた。

 

「フェイトちゃんが銀時さんとアルフさんと一緒に居る時に持っていたジュエルシードが八つ」

 

 と言ってなのははジュエルシードをレイジングハートから出して上空に浮かべる。

 

「そして、私たちが持っているのが今回のと〝クロノたち〟が見つけた一個を合わせて……」

 

 アリサの言葉に続いてすずかが呟く。

 

「八個……」

「どっこいどっこね……」

 

 アリサはベットにうつ伏せになり、枕に顔を乗せながら両足を歩くようにパタパタと上から下へと行ったりきたりさせる。

 

「でも、銀さんとアルフさんと別れてからもジュエルシードを見つけてるよね」

 

 ベットに座りながら言うすずかの言葉にアリサは腕を組んで目を伏せる。

 

「推定でも一つは見つけている可能性が高いって、リンディさんたちが言ってたわ」

「となると、多くても残り四つ……」

 

 なのはは天井を見上げる。

 

「数が少なくなってくると……局員さんたちの協力があっても見つかり難くなっちゃうね」

 

 弱気なすずかの言葉にアリサが強気に答える。

 

「それは向こうも同じ。ここからが頑張りどころでしょ!」

「うん!」「頑張ろう!」

 

 すずかもなのはも小さなガッツポーズで返す。

 アリサは体を起こしつつ「ただ……」と言って眉間に皺を寄せる。

 

「やっぱ、映画の通り絶対海よね。残り全部」

「うん。だよね」とすずかが相槌を打つ。

「数は少ないけど、たぶんそうなるよね……」

 

 なのはも苦笑しながら映画の内容を思い出す。

 本当は『六個』海にあるはずなのだが、どういうワケか今残っているのは四個。海の捜索はユーノの進言でとうに行われているが、いかんせん範囲が広いのでまだまだ見つからない。

 かと言って『映画だとジュエルシードは海にあるので探索を海に集中してください』などとアホ丸出しの発言などするはずもいかず、さり気なく海の探査を推し進めさせているのが現状だ。

 

「まぁ、こればっかりは待つしかないよね……」

 

 なのはは天井を見上げる。

 リンディの指示で動くと言う形になっている以上、理由もなく自分たちだけで海の探索を頑張るなんてこともできない。結局、こればっかりは歯がゆい思いで待つしかないのだ。

 

「フェイトちゃん……もう海に気づいてるかな……」

 

 なのはの言葉を聞いてアリサが呟く。

 

「まぁ、時間の問題でしょうね……」

 

 するとアリサが「フェイトと言えば……」と思い出したように言って腕を組む。

 

「〝あの時〟はさすがになのははもうジュエルシードに関わらないと思ったわ」

「なのはちゃん、フェイトちゃんとの通信の後はすっごい落ち込んでたもんね」

 

 すずかの言葉になのはは頬を掻きながら苦笑する。

 

「ニャハハハ……」

 

 なのはは思い出す。

 フェイトとの衝撃の通信の後のことを――。

 

 



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第五十話:自分の答え

銀時「祝――」

神楽「五十話達成!」

なのは「わ~い!!」

フェイト「いえ~い……」

新八「いや祝じゃねェだろォォォォォ!! 五十話達成するまでにどんだけ時間かかったと思ってんですか!! 祝どころか悲だよ!! あとフェイトちゃんのテンションひっく!!」

銀時「おいおいなんだよ。暮れの、しかも五十話達成って言うこんなめでてェ時に」

新八「いや令和になった時にテンションダダ下がりだった人に言われたくないんですけど!! そもそもこの小説五十話達成するまでに6年近く掛かってるんですが!!」

銀時「長期連載してる大作じゃねェか」

神楽「わおッ! すっごいッ!」

新八「よくそのセリフあんたら恥ずかしげもなく言えますね!!」

銀時「安心しろぱっつぁん。五十話達成に確かに六年もノロノロ亀足で続けてきたが、ハーメルンだと三年くらいの駆け足だから」

新八「それも長過ぎだろォォォォ!! どこが駆け足!? つうかピクシブで掛かった時間が帳消しになってねェから!!」

なのは「そもそも五十話近く経って無印も終わってないんですよね……」

新八「うっはッ!! 遅過ぎ!!」

神楽「つまり後10年は私たちは戦えるってことアル!!」

新八「それ完結に10年以上掛かるってことじゃん!! 先行き不安過ぎるなおい!!」

銀時「まー、安心しろ。この業界じゃ完結しないまま未完で放置される作品なんてごまんとあるんだから。俺たちもその作品群の一つになるだけだって」

新八「なにも安心できねェェェェ!! そして怖ェェェェェェェ!!」

フェイト「これからも『リリカルなのは×銀魂~侍と魔法少女~』をよろしくお願いします」

なのは「いまの話の流れでよろしくって言っちゃうの!?」


 アースラのブリッジでフェイトからの通信で衝撃の言葉を聴いた後のこと。

 時間は進み、夕方。

 なのはは重い足取りで自宅へと歩を進めていた。

 歩くたびにアースラでリンディとクロノから言い渡された言葉が何度も思い起こされる。

 

『これから〝ジュエルシード〟の回収については私たち管理局が担当させてもらいます』

 

 自分、アリサ、すずか、ユーノにリンディがきっぱりと言葉を言い渡し、

 

『君達は今回のことは忘れて……とはさすがに言えないが、それぞれの暮らしに戻るといい。民間人である君たちにこれ以上任すワケにはいかないからね』

 

 クロノもまたなのはたちへと事件に関わらないよう言い渡す。

 そしてリンディが優し気であるが厳格さを思わせる口調で説明する。

 

『たぶん、なのはさんたちにはまだ心の整理がつかないと思います。ですが、悪質な犯罪集団が関わっていると分かった以上……我々はあなた方のような幼い子供たちがロスロギア回収に参加することを許容できません。そのことだけは、理解してください』

 

 リンディの言葉によってなのはや親友たちはほとんど何も言えなくなり、家へと帰ることになった。

 そしてアースラを出る前にユーノからこっそり、

 

『管理局やクリミナルと言う連中が現れて、土方さんたちが持っていた映像の内容とだいぶ違う未来になってきた。フェイトのこともある。……心苦しいけど、なのはには一度じっくりジュエルシードにこのまま関わるか考えて欲しい。まぁ、まだ僕も考えは明確には決まってないけど。ただ、なのはがどっちを選んでも良いようにしておくつもりだから』

 

 一人で考えて欲しいということ。そして少女の答えがどちらに転んでもいいようにアースラで何かをする、といった言葉を受け取った。

 だが、帰路に付く現在も迷っている最中だ。

 ゆっくりとした歩みの中、なのはは親友二人の言葉を思い出す。

 

 アースラから海鳴市へと戻り、帰路に着く時。

 まずアリサから、

 

『あたしは正直、ただ漠然とあんたを助けようって思ってた。途中からは街を守ったりフェイトを助けたいって思いもできたんだけど……色々ととんでもない事実は出てくるし、妙な連中が出てくるしで、頭ん中しっちゃかめっちゃか。だから、まだまだ混乱中の頭を整理してから答えを出すつもり』

 

 次にすずかから、

 

『私もアリサちゃんと同じ。全然心も頭も追いついていかないし、あのクリミナルって人たちは正直に言うと怖いって思ってる……。でも、この事件には最後まで向き合いたいって思いもあるんだ……。だから、ちゃんと自分の思いに向き合って答えを出してみようと思う』

 

 それぞれの考えを聞いた。

 二人は自身の正直な思いを打ち明けてから自分たちの家へと帰って行った。

 ただ、二人の言葉を受け取ってもいまだに自身の考えが覚束ないなのは。

 

「わたしは……」

 

 胸に手を当てるが、それで答えが出るはずもなし。

 土方から『まだ終わったわけではない』という言葉を聞いた以上、まだこの事件に関わり真実に辿り着こうと思う意思は残っている。

 だが――。

 

 クリミナルと言う狂気的で何を考えているかの分からない不気味な犯罪集団に対する恐怖。

 フェイトはもう自分が考えているような心根の優しい子ではなく、母を殺してしまい、使い魔であるアルフも切り捨てた、恐ろしい少女に変貌してしまったと頭を過る疑念。

 自分はこれからなにができる? この事件に最後まで向き合えるのか? と言った自信の揺らぎによる迷い。

 

 不安、恐怖、迷い――

 

 あらゆる要素がなのはが事件へと関わることを止めさせようと後ろ髪を引っ張る。

 そもそもこんな不安定な気持ちで事件解決に協力し、ましてや助力なんて満足にできるはずもないことはなのはだって自覚している。

 

 ――ダメだなぁ……わたし……。

 

 DVDで見た、直球でフェイトへと対峙していた〝もう一人の自分〟の姿を思い浮かべると余計に情けなさを感じてしまう。

 まぁそもそも、あのDVDを見たからと言って自分は主人公などと自惚れてはいない。寧ろ、自分には映画で見た時のような強い志や揺らがない意志があるのか? と不安になることの方が多いくらいだったのだから。

 挙句の果てには、そもそも映画を見てフェイトを知った風になっていた自分はこれから彼女と関わっていくべきではないんじゃないだろうか? と言う自責の念にすら今は駆られてしまっている。

 ぐるぐるぐるぐると色んな考えや感情が頭の中を駆け巡っては混ざり合い、ワケの分からないモノへとなってしまう。

 

「あッ……」

 

 なのははそうこう考えてるうちに実家である喫茶翠屋の前まで歩いてきたことに気づく。

 歩きながら考え、家まで着いたが結局考えも感情もまとまらないまま。

 

「ただいま……」

 

 とりあえず、癖のように普段のあいさつをしながらなのはは玄関を開ける。

 

「あら、お帰りなさい」

 

 すると母――桃子が笑顔でお出迎えしてくれる。

 柔和な笑みを浮かべる母の顔を見ると、まるで胸が締め付けられるような言葉にしずらい不安な気持ちがわいてきて、つい甘えたくなってしまう。

 

「た、ただいま……」

 

 本当のことを言うワケにもいかないので、なのははとりあえずぎこちない笑みを浮かべる。

 すると桃子は少しきょとんとした顔を作った後、また笑顔を作る。

 

「お腹すいた? 丁度お菓子を作ってたところだけど、食べる?」

「う、うん」

 

 なのははぎこちない笑みのまま頷く。

 そのまま桃子の後を付いて行くようにリビングまで行き、台所で手洗いうがいした後、ソファーに座るなのは。

 おもむろに家が静かで、桃子以外の人の気配がしないことになのはは気付く。

 

「ねぇ、お母さん。お父さんやお兄ちゃんやお姉ちゃんは?」

「お父さんは恭也と道場で稽古。美由紀はその見学に行ってるわ」

「そっか……」

 

 なのはは頷いて、渡されたホットココアが入ったコップに口をつける。

 すると桃子がお皿を持って台所からテーブルへとやって来る。

 

「お待たせ」

 

 と言って桃子はクッキーを載せた皿を出す。

 

「あ、おいしそう」

 

 そう言って少々ぎこちなくはあるがなのはは笑顔でクッキーを取って咀嚼する。

 

「やっぱり、お母さんは料理上手だね」

 

 なのははそう言って母の料理の腕を褒めながらちょっとぎこちない笑顔を作り続ける。

 不安で仕方ない、相談したい、そう思うがやはり魔法とは無関係である母に相談できない。そう思い自身の悩みを悟られないようにしてしまう。

 

「ねぇ、なのは」

 

 と言って桃子は手に持ったコップを置く。

 

「なにか……悩んでいることがあるんじゃない?」

「えッ……?」

 

 自身の心の内を見透かされなのははきょとんする。

 桃子は柔らかい笑みを薄く浮かべながら言葉を続ける。

 

「相談したいこと、あるんじゃない?」

「な、ないよ!」

 

 両手を振って慌てて否定するなのはだが、次第に目を逸らしながら弱々しく告げてしまう。

 

「だいじょう……ぶ」

「そっか……」

 

 桃子は少し残念そうに言って、ココアが入ったコップに口をつける。

 

「う、うん。ゼンゼンダイジョウブダカラ」

 

 挙句の果てはロボットのような喋り方になってしまうなのはは内心テンパっていた。

 

(うわァー!! なにやってるの私ィ!! ぜっぜん誤魔化せてない!! むしろ悪化してるよォー!!)

 

 桃子の視線が外れるとなのははすぐに頭抱えて悶える。

 コップを口から離して桃子がおもむろに口を開く。

 

「なのは、一ついいかしら?」

 

 桃子の視線を感じてなのははすぐにビシっと体を正し、

 

「な、なんどぅえすかッ!?」

 

 間の抜けた返事してしまう。そしてなのはの内心は涙目。

 

(どもったァー!! どもっちゃったァー!! 何今の返事ィィ!? 全然自然体にできないィィィ!!)

 

 桃子は指を折り曲げて口元に当て、苦笑する。

 

「別に、悩みを人に言う事は悪いことじゃないのよ?」

「ッ…………」

 

 そう言われてなのはは口を一文字に結んで俯き、何も言えなくなってしまう。

 桃子は「フフ……」と笑みを零して天井を見上げる。

 

「今のなのはを見てると、あなたが小さい頃を思い出しちゃうわね……って、今もまだ小さいか……」

「あッ……」

 

 桃子に言われてなのはは声を漏らしながら思い出す。

 士郎が大怪我をして病院で寝たきりになっていた頃、喫茶翠屋はかなり忙しい切迫した状態になっていた。

 そんな中、幼いなのはは小さいながらも家族の為に何ができるのか? と自分に問いかけ、『最低限迷惑をかけないように我慢する』と言うのが彼女の出した答えだった。

 寂しい気持ちを押し殺し、必死に家族の足枷にならないように我慢した。

 桃子はコップを手に取る。

 

「あの時みたいに……なのはが私たちの為を思って負担を掛けないようにしてくれたことは、今でもとても嬉しいって思ってるわ」

 

 桃子はコップのココアを眺めた後、なのはに顔を向ける。

 

「でも、正直に言うとね……同時に悲しいって気持ちもあったの……」

「うッ……」

 

 なのはは苦い顔をする。

 今思うと、ああやって家族に自分の気持ちを打ち上げずにただおとなしい子でいようとしていたのは、ただ家族に心配を掛けただけで自分でも間違いだったでは? 思ったことがあるだけに、申し訳ないと言う気持ちが大きくなる。

 

「別に、無理に気持ちを打ち明けてくれなんて思ってないわ」

 

 と桃子は苦笑しながらフォローする。

 

「やっぱり……私はあなたの母親だから、娘に悲しい思いをさせてるって感じると、つい自分になにか足りないのかなーって思ったりしちゃうの」

「お母さん……」

 

 なのはは瞳を潤ませて桃子の顔を見る。

 

「あなたが家族に迷惑を掛けないって思いは尊いモノよ」

 

 と言いながらすると桃子はなのはの頬に手を添える。

 

「でも同時に、母親のわがままとしてあなたの悩みや苦しみを打ち明けて欲しいって思いもあるの」

 

 そう言われて頬に添えられた桃子の手をそっと掴むなのは。

 握った手はとても温かく感じた……。

 

「もちろん、無理に私に言わなくてもいいの」

 

 桃子はニコっと笑顔を作り、優しく言葉をかける。

 

「あなたが信頼できる……頼れると思う〝誰か〟に悩みや不安を打ち明けてくれれば。あなたが前へ進む手助けになるならお母さんじゃなくてもいいの」

 

 頬に当てられた桃子の強く手握り、なのはは目に涙を溜める。

 

 ――あぁ……やっぱり……敵わないなぁ……。

 

 悩む自分に母は言葉を心に沁み込ませるように送ってくれる。

 

「お父さんでも恭也でも美由紀でも――家族じゃなくてもいい。すずかちゃんでもアリサちゃんや神楽ちゃんでも。なんなら新八くんや土方さんたちだっていい」

 

 母は悩みや苦しみを伝えなくても、いつでも助けを与えてくれる。自分に手を伸ばそうしてくれる。

 桃子はより一層優し気な柔らかい笑みを浮かべる。

 

「なのはが信頼できると……話せば自分の助けになってくれると思う人に話してくれればいい。それであなたの悩みが少しでも軽くなって欲しい。それがお母さんの願い」

 

 添えた手を戻した後、桃子はニコっと笑顔を作る。

 

「ただやっぱり、個人的にはお母さんに相談してくれるのが一番嬉しいけどね」

 

 言葉を聞いて、嬉しい気持ちと温かい気持ちがなのはの心を満たしていく。つい涙が溢れそうになるがぐっと我慢して息を吐く。

 やがてなのはは決意の籠った瞳で母を見る。

 

「……お母さん。聞いて欲しいことがあるの」

「はい」

 

 桃子は嬉しそうに返事をし、じっと娘の言葉を受け止める。

 

 

 

 なのはは説明した。

 もちろん、魔法の出来事やフェイトが母を殺したかもしれないということや未来の出来事を映像化したDVDなどは伏せた上で。

 

「――これで全部。〝今〟、私が話せること全部だよ」

 

 説明を終えたなのは。

 

「…………」

 

 桃子は膝に手をお置いて目を瞑り、娘の話をゆっくりと咀嚼するように頷きながらどう答えるべきか思案しているようだ。

 なのはが説明したことを要約すると次の通り。

 

 自分がある一人の少女の秘密を知ってしまったこと。ある物から事前情報を得て、少女の心根は優しい人物であり、今置かれている環境のせいで苦しんでいるから少しでも助けたいと思った。

 だがしかし、あるショックな出来事が原因で少女はまるで別人のように冷たい人物へと変わってしまったかもしれない。

 その子を助けたいと思う反面、ただその子を優しい少女であると〝思い込んでいただけ〟の自分がこれ以上その少女と関わるべきなのか。

 結局、今まで思ってきた事、やろうとしてきたことは独りよがりで、結局自分は少女に関わるべきではない人間ではないのか。

 そう言った心の内にしまっていた悩みを説明できない部分はぼかしながらもなのはは母に話した。

 

 やがて桃子はゆっくりと目を開けてなのはへと顔を向ける。

 

「……なのは。私からも一つ聞いていいかしら?」

 

 桃子の問いに無言でなのはは頷き、母は人差し指を立てる。

 

「なのはは『歴史の教科書で習った人を思い浮かべて』って言われたら、誰を思い浮かべる?」

「えッ? ……え、えっ~と……」

 

 いきなり脈絡なく話の本筋と無関係そうな質問になのはは間の抜けた声を出してしまうが、素直に母の言葉に従って学校の歴史で習った人物を思い浮かべてみる。

 

「織田信長さん……かな?」

 

 歴史の人物でよく思いつくであろう武将の名をなのはは思い浮かべて口にすれば桃子は顎に手を当てて少し視線を逸らす。

 

「織田信長かー……」

 

 少し思案してから桃子は再びなのはへと視線を向きなおす。

 

「じゃあ、なのは。織田信長を授業で習ったことから考えて、どう言う人だと思う?」

「ええ~っと……怖い人……かな」

 

 母の意図がまだ分からないが素直に自身のイメージを回答するなのは。

 なのは的に信長は、なんか天下取るために色々恐ろしいことをした、と言うざっくばらんとした印象が強い。

 娘の回答を聞いて桃子は頷く。

 

「そう。織田信長は怖い戦国武将ってことで有名だわ。なにせ自ら第六天魔王なんて名乗っちゃう人でもあるしね」

「う、うん?」

 

 織田信長で何を伝えたいのか分からず、なのはは困惑しながら首を縦に振る。

 すると桃子は含みある笑みを浮かべる。

 

「でもね、その織田信長さんて実は優しかったって説もあるのよ。特に女性には」

「そ、そうなの?」

 

 授業では習っていない偉人の雑学に少しビックリするなのは。やがては難しい顔を浮かべる。

 

「でも、これだって本当かどうか分からないわ。そもそも、文献だけで今の時代に過去の偉人の人柄を知っている人はいないしね」

「う、うん」

 

 なのはは戸惑いながら頷く。

 まぁ、そりゃそうだろう。もし今、織田信長を実際見た人いたらただのバケモンか仙人である。

 桃子はなのはの反応を見つつ言葉をかける。

 

「でもそれって、なのはがその女の子を〝見聞きした情報だけ〟で知っていた事と同じなんじゃないかしら」

「ッ……うん……」

 

 となのは少し声音を弱くしつつ同意して頷く。

 似たような事を通信でパラサイトにも言われた事を思い出し、つい声音を弱くしてしまうなのは。

 言われてみれば、教科書とかで歴史人物の一生と人となりを知るのと、映画でフェイトの人となりを知るのに違いはない。直接会わないで手に入れたその人物の情報、と言う点では。

 ただフェイトの場合は映画の描写のお陰で彼女の内にある人物像を見ることができたと言う相違点はあるものの、結局〝その人物を情報だけで知る〟と言う点は教科書や映画も変わらないだろう、となのはは考える。

 なのはが悩みながら考える中、桃子は語る。

 

「やっぱり、文章や写真や映像だけじゃどうしたってその人の内どころか一面までしか知ることはできないわよね。ある程度予想はできるかもしれないけど、実はあの人って聞いていたより怖いとか、実は思ってたより優しいって具合に実際会ってみたらイメージと違うって話もあるワケだし」

「……うん」

 

 自身の悩みの痛い部分を言葉にされ、なのははより弱々しく相槌を打つ。

 例え話から言っている母の言葉はなにより土方の指摘を聞いて頭の隅に置いてきた、『自分たちが知っていたフェイトと今まで会ってきたフェイトは違う』という事と一緒だ。

 見聞きした情報とは大分違うフェイトには何度も会って来たのだから。

 桃子は諭すように問いかける。

 

「なのはだって、アリサちゃんやすずかちゃんと仲良くなってから、最初会った時からの印象が変わったりしなかった?」

「…………うん」

 

 最初会った時のアリサはすずかに意地悪をしていた子、すずかは気弱そうな少女と言う印象を抱いてたのは覚えている。だが、会ってから話す度に二人の印象はどんどん変わっていったのも。

 アリサは少し気が強いが優しく面倒見が良くかわいい一面があったり、すずかは大人しくおっとりしたところがあるが優しく気遣い出来るし実は芯が強かったりなど。

 最初見た時より、会ってから色々と知れば相手の知らない部分はたくさん見えてきた。

 フェイトも同じように……。

 

「…………」

 

 俯き、強くコップを握りしめてしまうなのは。

 丁寧に説明され、諭されるとより深く母の言葉は棘のようになのはの心に刺さってしまい、あらためて自身の悩みと向き合うことになる。

 なのはの様子を眺めてから桃子は柔らかい表情を作り、口を開く。

 

「だから別段、前持って誰かの何かを知っていること自体は問題じゃないと私は思うの。それに会ったことのない人の情報を得ることなんて、今じゃいくらでもできることなんだし」

 

 言葉を聞いてなのはは思わず顔を上げて母の顔を見ると、桃子は安心させるような口調で告げる。

 

「だから問題は相手の事を〝知っている事自体〟じゃなくて、〝知った後どうするか〟じゃないかしら?」

「ッ……!」

 

 ハッと表情を変化させるなのはに桃子は薄く優し気な笑みを浮かべて語る。

 

「最初は知らない誰かのことを知って関わろうとする、関わらようにするなんて考えるのは当たり前のことですもの。知ってしまったり、関わってしまった以上はもうどうしようもないことだわ。だから問題は知った後、関わった後、どう考えて行動するか。話して、触れて、考えて……そこからどんな関係を構築していくか」

「……そっか……。そう、だよね……」

 

 ようやく棘が抜け落ちたような、靄が晴れていくような感覚を覚えるなのはは噛みしめるように小さな声で言葉を紡ぐ。

 なのはは考える。

 映画でフェイトのことを知った風になっていた自分が彼女に関わるべきかどうかと言う問題に固執し過ぎていたかもしれない。問題は知った後、関わった後、どうしていくか。それこそが重要なことだと。

 考えるべき問題に気付くが、気付くと同時になのははまた暗い表情を浮かべてしまう。

 

 ――だけど私は……これからフェイトちゃんにどう向き合ったら……。

 

「だから問題は、なのはの言ってる娘にこれからどう向き合っていくかってことよね……」

 

 なのはの考えを読み取るように母は自身の悩みを言葉にしてくれる。

 

「うん……」

 

 返事をしつつ、悩むなのは。

 実は仕方ない理由があったとしてもフェイトが心がわりしているかもしれない。もしくはもともと……といういくつもの可能性。

 真実なんて今は分からない。

 ただ、それらが捨てきれない以上このままフェイトやジュエルシードとまっすぐ向き合おうという意思が固まらないでいる。

 そしてもしフェイトが本当に自分が思っているような人物じゃないなら、彼女にどう対峙したらいいのか……。

 

 するとさきほどまで真剣な表情だった桃子は苦笑いを浮かべ始める。

 

「新八さんや神楽ちゃんみたいな子だったら難しく考えずに気楽に仲良くなれるのにねー」

「う、うん……」

 

 フェイトと新八たちは正反対過ぎてぎこちない返事しかできないなのは。

 

「まぁ、正直に自分を偽らな過ぎるっていうのも問題かもしれないけど」

「あ、アハハ……まぁ……そうだね……」

 

 否定できずなのはも苦笑しながら頬を掻く。

 フェイトとは正反対で新八や神楽ほど単純で親しみ易いオープンな人間もそういないだろう。マイナスな点に目を瞑ればだが。

 そして桃子はまた考える仕草をしながら思案顔となる。

 

「でもなのはの言ってる女の子は自分の内を一切を見せないで、人となるべく関わり合いを待たないようにする娘なのよね……」

 

 それがフェイト・テスタロッサと言う少女。

 神楽たちとは逆に何重にも自分の心に蓋をして表に出さないようなフェイトを相手に、自分は何を言い、何をすればいいのか。

 もうなのはは当初のように自分の正直な言葉や気持ちをぶつければいいと思えなくなってしまっている。

 

「ただなのはは、良い子だと思ったから最初その女の子と仲良くなって……助けたいと思ったんでしょ?」

 

 桃子の問いになのはは表情を沈めながら頷く。

 

「うん。でも……」

「いつの間にかその子は変わってしまったのかもしれない……。元々自分が思っているような人じゃないのかもしれない……」

 

 桃子が先回りして自分が言いたいことを言い、無言で頷くなのは。

 最初のフェイトは桃子の言った通りの人物だったのかもしれないが、今の彼女がどんな人間になってしまったのかは分からない。もしかしたら元々……。

 なにより今のフェイトは自ら一人になることを選び、破滅の道にさへ足を踏み入れようとしている風にさへ見える。

 桃子はなのはから視線を逸らして顔を前へと向けつつ口を開く。

 

「今のその子に自分はどう接していいのか分からない……。そもそもこのまま関わり合っていいのかさへ分からない……」

 

 ポツリ、ポツリと桃子はなのはの気持ちを代弁していく。

 まさしく言われたことがその通りなので、より顔を俯けてしまう。

 

「難しいわよね……」

 

 すると桃子はそっとなのはの頬へと手を当てる。

 なのはは思わず顔を上げて桃子の顔を見上げ、母はゆっくりと語り掛ける。

 

「人との距離や関わりは、簡単には割り切れないし、決められないもの。関わって色々なことを知って後々後悔することもあると思う。相手の嘘や真実なんて簡単には判断できないし、疑心暗鬼にだってなると思う。だから考えれば考えるほどわからなくなるわよね……」

 

 桃子の言葉を受ける度、なのはは自身の悩みを母が掬い取ってくれてるようで瞳が潤む。

 

「なら、いっそのこともっと悩んでみたらどう?」

 

 今の話の流れからの予想外の桃子の言葉に「えッ?」となのははきょとんした顔になる。そして母は柔らかい笑みたたえながら。

 

「相談して、考えるの」

「相談?」

 

 桃子は頷き、諭すように語り掛ける。

 

「私だけじゃない。それこそ家族や友達、なのはが相談したいと思った身近な人。信頼できる人たちに」

 

 桃子の言葉を聞いて思い浮かべる。

 父に兄に姉。今ではジュエルシード事件で一緒に協力してきた仲間たちに小さい頃からの一緒の友達。

 桃子はなのはの頬を撫でながら言葉を続ける。

 

「いっぱい相談していっぱい考えて、自分の心に何度も問いかけるの。自分がこれからなにをしたいのかって。自分がその子になにをしてあげたいのかって」

 

 桃子の言葉を受けて、なのはは心の靄のようなモノが徐々にではあるが晴れていくような感覚を覚える。

 

「ゆっくり、時間を掛けて、迷って、悩んで、考えた先にきっとなのはだけが出せる答えがあるはずよ」

 

 まるでほぐすように語り掛けてくる母の言葉にさきほどまで重く引きずるようななのはの気持ちは徐々に軽く楽なものへと変化していき、同時に前へと進もうとする気持ちがふつふつと湧いてくる。

 

「ねぇ、なのは。聞いていい?」

「ん?」

「あなたが話してくれた女の子と出会った時や話した時。なにか感じ取れたこと、なかった?」

「感じた……こと……」

 

 少々心苦しさを感じてなのはは絞り出すように言葉を紡ぐ。そして少し俯きながら自身の胸の部分をギュッと掴み、ゆっくりと思い起こす。

 

 初めて会ったのは、初めて自分が魔法を使った時――。

 その時の彼女は悲しそうな目の中に、少なからず幸せが見て取れた。映画のように決してどこまで寂しそうで、悲しそうな感じではなかった。

 銀時とアルフと一緒にいる時のフェイトは楽しそうで、銀髪の男をどことなく信頼し、頼りにしていそうだった。

 きっと、銀時やアルフがフェイトの寂しさを埋めてあげていたに違いない。

 対立するような構図だったとは言え、自分もジュエルシードを巡ったり、たまに変な行動を取っちゃうフェイトにツッコミ入れたり、危なくなった彼女を心配した。

 巡り合った回数も、話した時間も圧倒的に少ないだろう。

 それでも……――。

 

「どう? ……なにか思い出せた?」

 

 タイミングを見計らって優し気に問いかける母の言葉にゆっくりと頷くなのは。

 

「あなたのことだから、大変でも色々と思うところがあって関わろうって思ったのでしょうね」

 

 心なしか心配するような声音と表情の母を見てなのは少し目を潤ませる。

 表情をまた優し気なモノに戻す桃子はなのはの頬からゆっくりと手を離し、柔らかい微笑みを浮かべる。

 

「今こうやって悩んでいるからこそ、あなたが持ち続けている思いがあるんじゃないかしら?」

「思い……」

 

 桃子はしっかり頷く。

 

「そう。元々なのはが持ち続けるている消えない思い。そしてそれがあなたが前へ進む助けになってくれると私は思うの」

 

 そう言って桃子は自身の胸を人差し指でツンツンと差しながらニコリと微笑む。

 

「だからこそ、自分の心を見つめ直すの。まずはそこから始めれば良いと思う」

 

 桃子はそっと優しくなのはの肩へと手を置く。

 母の言葉を受けてなのははゆっくり視線を下に移し、自身の胸に手を当て、目を瞑り俯く。

 

 ――私は……。

 

「…………」

 

 なのはは自問自答を繰り返しながら自分の気持ちを探り当てようとしていた。

 すると桃子はタイミングを見計らったように口を開き、強く優し気な眼差しを向ける。

 

「大変かもしれないけど、時間を掛けてゆっくり今のあなたが出せる答えを探して。きっと、後悔しないように」

 

 母の言葉を聞いてなのははゆっくりと目を開く。

 やがてなのはの肩から手を離す桃子はニコリと笑顔を作って人差し指を立てる。

 

「それにそこまで心配しなくても大丈夫よ。だってアリサちゃんと最初に会った時だってあまり良い出会いって言えないでしょ? それでも今じゃ親友と言えるくらい仲良しな関係になったじゃない」

「あ、アハハ……」

 

 過去の実績として励ましの言葉をもらったが、いかせん素直に頷けず苦笑いで返してしまうなのは。なにせ実際、アリサとの初めての出会いはお世辞にも良い出会いは呼べないモノだったのだから。

 桃子はゆっくりとなのはの頭に手を置いて軽く優しく撫でながら言葉を紡ぐ。

 

「人とどんな関係を結んで、それが後々どんな結果になるのかなんて大抵の人は分からないものよ。良い結果になるか、それとも悪い結果になるかだって。だから今回みたいに凄く悩んだり迷ったりした時は焦って答えを出したりしないで、ちゃんと誰かに相談すること。一人で頭を抱えて出した答えよりも、誰かと一緒に頭を悩ませた方が気持ちだって楽だし、もっといい答えがでてくることもあるから」

 

 そして桃子は手をゆっくりと離し、柔らかい笑顔で告げる。

 

「悩んで悩み抜いた後、答えが出たら……あとは自分を信じて頑張るだけよ」

 

 なのはは母の顔を少し間みつめ続けた後、決意の籠った表情を作っていき、

 

「ごくごくごく!」

 

 一気にココアを飲み干す。そのまま立ち上がり、母に顔を向ける。

 

「お母さん! 私、みんなにも話してくる!」

「ええ」と桃子は優しく頷く。「きっと助けになってくるわ」

 

 なのははグッと拳に力を込める。

 

「決まったら、これからどうするかちゃんと話すから!」

「うん。待ってる」

 

 桃子の言葉を受けてから駆け足で二階へと向かうなのは。

 やがて娘の姿が見えなくなってから桃子は顎に指を当てて思案顔を作りながら、

 

「新八くんたちって……携帯持ってたかしら?」

 

 小首を傾げる。

 

 

 

 なのはは二階に駆け上がり急ぎ早に自室に入ると、レイジングハートに手に取ってユーノに連絡を入れよう頼む。

 やがてユーノがレイジングハートの通信に応じれば、自身の相棒から小さなウィンドウが空中に映し出される。

 ユーノの顔が映像に映り、なのははすぐさま声を掛ける。

 

「ユーノくん! ちょっとお願いしたことがあるの!」

『うん、何かな?』

 

 画面に映ったユーノの顔と声はどことなく待ってましたと言わんばかりに嬉しそうなモノだった。

 なのはは念話で自身の頼みごとを伝える。

 

「新八さん、神楽ちゃん、沖田さん、土方さん、近藤さん、山崎さんたちとお話ができないかな? 今すぐにじゃなくても」

 

 すると待ってましたと言わんばかりユーノは笑みを浮かべる。

 

『大丈夫だよ。なのはがみんなといつでも話せるように準備はしてたんだ。今、新八さんたちを呼んでくるから。少しの間待ってて』

「ユーノくん……ありがとう……」

 

 自分を信頼してか、それとも気遣ってか。事前に色々と準備をしてくれるユーノに対し、なのはは心の底から感謝する。

 そして少し時間が経過し、やがてウィンドウの画面には今まで魔法が使えなくても自分と共にジュエルシード集めを手伝ってくれた者たちが映り込む。少々画面が狭いので全員を満足に映せないが。

 今まで一緒にジュエルシード集めをしてきた仲間たちを見てなのはの目を潤ませる。

 

「皆さん……」

『どうしたアルか? なのは』

 

 開口一番に首を傾げて聞いてくるのは神楽。なのはは決意の篭った瞳で。

 

「うん。ちょっと図々しんですけど、皆さんのいまの考えを聞きたくて」

 

 彼らの思いを知りたい。

 それはもちろん彼らの考えに流されるつもりでは決してない。ただどうしても、自分と一緒にジュエルシード集めを頑張ってきた仲間たちの気持ちを確認したかった。

 

『まだ色々悩んでいることはあるけど、僕は決めたよ』

 

 まず開口一番に言うのは眼鏡を掛けた侍――志村新八。

 彼がなのはが映画を見るきっかけを作った人物。

 もちろんなのはにだってそれが良いことだったのか悪いことだったのかは今でも分からない。

 それでも彼らとジュエルシードを集めるきっかけを作ったのは新八であると言っても過言ではないだろう。

 

『もちろん最後まで――それこそ事件の決着を見届けるまで僕は今回の件に目を背けるなんてことはしないよ!!』

 

 新八は力強く宣言する。

 普段からよく仲間たちには地味など役割ツッコミなど一番弄られているが、それでもその強い心は確かに窺い知れる。

 なにより、新八はいつも自分の意志に共感を示してくれた。

 そして新八は笑顔で。

 

『もちろん。なのはちゃんが最後まで関わるなら、僕は全力でサポートするから!!』

『おい眼鏡!! 役割ツッコミの癖になにいっちょ前にカッコつけんだヨ! 言う事言ったんなら私に代わるヨロシ!!』

 

 「役割ツッコミとはなんじゃい!!」とツッコミする新八を無理やり押しのけてどかすのは神楽。

 自分と歳があまり違わない彼女とは結構楽しくお喋りしたりしたものだ。

 自分や母が作ったケーキをおいしそうに頬張ったり、全然ヘコたれない悩みや迷いをまったく見せないその姿にはいつも元気を分けて貰ったものだ。

 神楽はバシッ! と拳を掌にぶち当てる。

 

『私はもちろん全力で突っ走るだけアル!! あのいけすかねェ連中ぶっ飛ばすまで止まるつもりはさらさらないネ!!』

 

 彼女の怪力と戦闘力は魔法を持った自分でさへいつもビックリさせられる。なによりも一番自分の背中を押してくれたのは、いつも元気な彼女かもしれない。

 神楽はグッと胸を張って宣言する。

 

『歌舞伎町の女王たる私を存分に頼るといいネ!! 魔法少女なんぞより今は格闘少女の時代ふぎゃッ!!』

 

 すると突然神楽が何者かに蹴られて横の画面外に飛ばされる。

 

『おうチャイナ。次はおれでィ』

 

 と言いながら次に姿を現し喋り出すのは沖田。

 

『まー、俺が言いたいことは一言』

 

 そう言って沖田は人差し指を立てる。

 

『俺はか~な~り強い』

『いや、それ別の人の決めゼリフ!! つうかあんたなら紫の人でしょ!』

 

 と画面外で新八がツッコミ入れている。

 なのはがつい苦笑してしまうと沖田は頭をぼりぼり掻きながら語る。

 

『まーようは、どんなバケモノだろうが魔法を使うガキだろうが、俺の行く道を止めるなんざできねェってことだ。このままハイ終りなんて目覚めが悪くて仕方ねェ』

 

 彼のサディスティックな性格や突拍子もない行動にはいつも度肝抜かれてきた。

 だがなんだかんで最初に自分や友達たちを助けてくれたのは沖田と神楽である。

 その心根はたぶん……いや、もしかしたら、他人を放っておけない優しいモノなのかもしれない。

 いつもドライだが、なんだかんで冷静に物事を見ている彼にはよく助けられたのも事実だ。

 

『ま、テメェがあの金髪と決着つけたいなら……』そこまで言って沖田は黒い笑みを浮かべる。『今なら特別に邪魔な奴は血祭&拷問に――』

『なにすんじゃこの栗頭ァーッ!!』

 

 すると神楽が横から沖田に襲い掛かるが、沖田はあっさり避ける。

 そのまま画面の真ん中やら端っこやら最終的には後ろで犬猿の二名は取っ組み合い始める。

 今度はずかずかと大柄な男――近藤勲が画面の真ん中に入って来る。

 

『なのはちゃん!! 俺はお妙さんが好きだ!!』

「えッ!?」

 

 いきなり知らない誰かの愛の告白になのはは間の抜けた声を上げてしまう。

 

『いや、あんたなんの話してんの!? なのはちゃん困惑してますよ!!』

 

 また画面外から新八がツッコムが近藤(ゴリラ)はお構いなしに続ける。

 

『俺にとってお妙さんは何よりも心の支えであり、ロードオブザリングで例えるなら、ゴラムの指輪的な立ち位置と言っても過言ではない! 愛しい人……』

「は、はぁ……」

 

 つまりどういうことなの? となのはは困惑し、新八は画面外でいつもの役割ツッコミを果たす。

 

『いや聞けよ人の話!! つうかあんた普段からゴラムみたいもんじゃん!! 主に気色悪さとしつこさ的な意味で!!』

 

 眼鏡のツッコミなどに聞く耳は持たず、我が道を行く近藤は腕を組んで話を続ける。

 

『今すぐにでも江戸に戻り、お妙さんの元に戻りたい。だがこの事件にも最後まで立ち合いたい。そんな二律背反で惑う感情がどっちだか分からない状態だ』

『おい、今度は指輪次元から決闘次元になったぞ』

 

 と土方が画面外からツッコム。

 近藤は目を瞑り、なのはに告げる。

 

『なのはちゃんもまた、そうやって迷っているのではないか?』

「えぇ、まぁ……」

 

 苦笑してなのはは頬を掻く。

 一応なんとなく答えは決まり始めているが、さっきまでは近藤の言うような感じだったので否定はできない。

 さきほどまで冷静な声だった近藤は力強く宣言する。

 

『だがやはり、俺は目の前で起こっていることに背を向けることはできん! 最後まで自分の意志と志を貫いたままこの事件に最後まで向き合いたいと思っている!』

 

 なんだかんだで自分の意志を力強く近藤は伝えた。

 神楽同様に物事を深く考えずに突っ走り、明け透けで裏表のない人格にいつも元気づけられてきた。

 途中からの合流とは言え、彼もまたなのはの元気づけ、助けてくれた仲間の一人である。

 

『なのはちゃんはただ泥船に乗ったつもりでフェイトちゃんと決着をつけてくれて構わん!! 汚れ仕事は俺たちが引き受けよう!! 泥船だけに!!』

 

 サムズアップする近藤に新八はさり気にツッコム。

 

『いや、汚れ仕事はいいですけど、乗る船はせめて綺麗にしてください』

『では俺の意気込みを込めたお妙さんに対する熱い思いを聞いてくれなのはちゃん!!』近藤は息を一気に吸い込む。『俺のお妙さんの対する熱いリビドーは今に股間から爆発すん――』

『いい加減にせんかィィィィィッ!!』

 

 新八の飛び膝蹴りが近藤に炸裂する。

 

『ぐぼォーッ!!』

 

 そのまま退場するストーカーゴリラ。

 すると次に、クールにタバコを咥えながら土方が出てくる。

 

『俺は後ろの連中みたいにごちゃごちゃ言うつもりはねェ。答えは至ってシンプルだ』

 

 やはりいつも通り一方後ろに引いたようにクールな土方。

 でも彼が進んで誰よりもみんなをまとめて、誰よりも皆をフォローしようとしてきたことは知っている。

 新八や神楽とは別の視点から自分を思ってちゃんと考えていたことも。

 なんだかんだで一番面倒見が良いのは鬼と呼ばれる副長なのかもしれない。

 土方はチラリと腰の鞘に視線を向け手を置く。

 

『どんな障害があろうと、ただ折れるまで(コイツ)を振るう。それだけだ』

 

 何よりもその鋭い視線以上に彼のうちには揺るがない一本の筋がある。一人の侍として、何より人の上に立つ人間として。それはなのはにとってある意味、憧れにも似た感情を抱かせた。

 土方はタバコの煙を吐く。

 

『ま、まだおめェの剣が折れてねェのなら、せいぜい頑張んな。近藤さんの言ったように汚れ仕事は俺たちが引き受けてやる』

 

 そこまで言って土方が下がると金髪の少年――ユーノの顔がまた映る。

 

『なのは。僕はなのはがどんな答えを決めても構わない。僕も僕の気持ちに正直に従おうと思う』

 

 そしてユーノ。

 自分が魔法を使うきっかけを作ってくれた人物。

 今まで魔法のサポートで助けてくれて、色々と教えてくれた――魔法の先生だ。

 ユーノは決意の篭った顔で。

 

『僕もジュエルシードと最後まで決着をつけたい。そしてもしこのままなのはが事件に向き合うなら、僕はせめてなのはがフェイトとの決着がつけられるようにちゃんとサポートするから』

 

 そしてユーノは笑顔を作る。

 

『これで、みんなの考えがなのはに伝わったね』

「みんな……」

 

 なのはは涙目に、

 

「――山崎さんは!?」

 

 なる前に山崎のことを思い出す。

 

『『『『『『あッ……』』』』』』

 

 通信に応じていた山崎以外の者たちが同時に声を漏らす。

 

『ちょっとォーッ!!』画面外で山崎が声を出す。『俺の番いつくるのか待ってたのに、まさかこの流れで忘れてたのォーッ!? いくらなんでも酷過ぎるでしょ皆ッ!!』

 

 涙目山崎はそう言いながら画面の中心にやって来る。

 当たり前だが山崎の姿が確認できてなのはは安堵する。

 

「山崎さん」

『や、やあ、なのはちゃん』

 

 出鼻くじかれた山崎はぎこちなく軽く挨拶する。そして頬を掻きながら語る。

 

『俺はぶっちゃけ、このジュエルシードの事件でまったく活躍できてなかったし、特にどうこう言える立場でもないんだけどさ』

「いえ、そんなことはありません!」

 

 強くなのははきっぱり否定する。

 山崎退。

 彼は確かに地味で目立たないと感じの人物だと、なのはも失礼ながら思ったことはある。

 それでも影からさり気なく自分たちをサポートしてくれることもあった。時には大胆に戦闘に参加してくれたこともある。なぜかバトミントンで。

 それに黒幕――クリミナルの存在に一番に気づいた大きな功績だって残している。

 それに新八と同じく常識人枠として客観的な意見を言ってくれてたりもした。

 

『ありがとう。それでも俺から言えることを言わせてもらうよ』

 

 山崎は笑顔でお礼を言い、自分の気持ちを伝え始める。

 

『俺って、影から物事を観察して報告する監察って仕事をしているんだ。だから、よく地味で目立たない仕事って言われるんだけど、俺なりに誇りを持ってこれに臨んでる』

 

 なのはは無言で頷き、山崎は真剣な声で告げる。

 

『そんな俺だから思ったんだけど、別になのはちゃんの選択肢に事件を忘れるか、事件に立ち向かうかの二択じゃないと思うんだ』

「えッ?」

 

 なのはは山崎の言葉につい声を漏らしてしまう。

 山崎は優し気な笑みを薄く浮かべて人差し指を立てる。

 

『ただ見てるだけ――つまり傍観者として事件の行く末を見守るって選択肢もあると思うんだ』

「あッ……」

 

 その説明で山崎が自分に何を言わんとしているか分かったなのは。少女の様子を見て山崎は頷く。

 

『俺の言いたいことはこれだけ。もしなのはちゃんが事件解決を頑張るなら、監察として影からサポートさせてもらうから』

『おいおい。ザキのクセに随分ご立派なご高説を垂れるじゃねェか』

 

 すると沖田がしゃしゃり出て来て更に神楽まで便乗する。

 

『まったくネ。ジミーのクセにちょっと調子こいてないか? あん?』

 

 いつも犬猿の仲の二人にヤンキーみたく絡まれた山崎は慌てる。

 

『……えッ? えええッ!? 俺結構良いこと言ったつもりなのになにこの扱い!?』

『山崎』と土方。

『副長! 助けてください!』

『なんか偉そうでムカつくからケツバット……じゃなくサマーソルトな』

『えええええええええええッ!?』

 

 まさかの理不尽な理由に山崎は超ビックリしている。

 そのまま山崎いびりを始める彼らを見てなのはは、

 

(変わらないなぁ……)

 

 数時間以上前まで暗い雰囲気だったのが嘘のように前向きな面々。

 良くも悪くもいつもどおり自由にやりながらなんだかんだ前に進んでいく彼らを少し羨ましく思う。

 普段からいつも内に溜め込んで迷ってばかりの自分とは大違い。

 ただ純粋に真っ直ぐに、刀のように折れずに進む彼らの姿は見てみて清々しい。

 

『なのは。君がどんな答えを持ってきたとしても僕は構わない』

 

 ユーノが言い、新八も続く。

 

『僕たちは――』

『なのはの友達ネ!』

 

 神楽は新八の前に横から飛び出して言い、

 

『俺たちはジェルペットを集めた同士!! これからも変わりはせん!!』

 

 近藤は腕を組んで力強く告げ、

 

『年はかなり離れた同士ですけどね』

 

 山崎は苦笑し、

 

『やれやれ。まさか鬼の副長が魔法少女なんぞに縁を持つ日が来ようとはな』

 

 土方は一瞬笑みを浮かべ、

 

『ま、俺の舎弟を名乗ることは許してやるよ』

 

 なんやかんで沖田も笑みを浮かべる。

 

「みんな……」

 

 そんな仲間たちの頼もしい姿を見て今度こそなのはは瞳を潤ませて涙を流しそうになってしまう。

 とても元気をもらった。本当に相談して良かった、となのはは心の底から思った。

 だが感涙からすぐさま瞳を決意の籠ったモノへと変えて。

 

「ユーノくん、もう大丈夫。明日、答えを言うから」

『わかった。待ってる』

「うん」

 

 笑顔でなのはは頷き、ユーノは通信を切る。

 なのははレイジングハートを手に取って決意の籠った眼差しを向ける。

 

「レイジングハート。私、分かった。私がしたいこと」

《どんな答えでも、あなたは私のマスターです》

「ありがとう。あなたも、いつも私を支えてくれた一人だもんね」

 

 なのはは愛し気に自身の相棒を撫でる。

 

「明日から、頑張ろう」

《All right》

 

 ぎゅっと優しくレイジングハートを抱きしめるなのはの心はもう決まっていた。

 フェイトの為だけではない。自分を支え、仲間(ともだち)である皆と一緒に何をするかは――。

 

 

 

 

 バニングス低、アリサの部屋。

 

「ふぅ……」

 

フレイアを介しての通信を切り、アリサは息を吐いて頭を掻く。

 

「まったく……ホントに〝騒がしい人たち〟ね」

《顔がニヤけますよ~?》

 

 とフレイアがニヤけたような声を聞いてアリサは顔を赤くさせながら口元を右手で隠して顔を逸らす。

 

《なのはさんとすずかさんとはお話しないでいいんですか?》

 

 フレイアの問いにアリサは答える。

 

「二人と話すのは明日。ちゃんと、答えを聞かせてもらう」

《やれやれ、相変わらず頑固ですね~》

 

 

 

 

 月村邸、すずかの部屋。

 

「フフ……」

 

 ホワイトを介しての通信を切った後、すずかは笑みを零す。

 ホワイトから女性の声が流れる。

 

《〝彼ら〟は人を笑顔にするのが上手い方たちですね。ある意味関心します》

「うん、そうだね」

 

 すずかは笑顔でホワイトの意見に頷く。

 

《ご友人二人へのご連絡はいかがしますか?》

 

 ホワイトの提案にすずかは首を横に振る。

 

「大丈夫。二人とは、明日〝あの場所〟でちゃんと話を聞くから」

 

 

 魔法少女たち三人の決意は固まりつつ、夜は更けていく。

 

 



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特別回編:2020年明け&50話達成
2020年明け 1:年末だからってなにか特別なことをしようと思っても中々思い付かない


「年末……なんかネタねェの?」

 

 と万事屋の和室に設置したコタツに下半身を入れる自堕落なやる気のない侍――坂田銀時はアンニュイな声を出しながら視線を和室の端に置かれたクリスマスツリーへと向ける。

 

「クリスマスの用意もしたってのに、結局年越しまで秒読みだしよー……」

「いやちょッ……えッ?」

 

 眼鏡を両耳に飾ったツリーが戸惑いの声を漏らす。

 

「そんなモン思い付くワケないネ……。つうか考えんのメンドーアル……。年越しそば食って終わりネ……」

 

 だが、戸惑いの声を漏らすツリーに構わずに銀時の正面から斜め右の位置に座る神楽は頬杖を付きながら向いたミカンの切れ端を口に放り込む。

 銀時も神楽同様に頬杖を付き、眉間に皺を寄せながらダルそうな声を出す。

 

「まー、それもそうだな……」

 

 すると銀時に対面する形で座る高町なのはは苦笑いを浮かべる。

 

「いやー、そこは肯定しちゃダメですよ。折角また最新話が定期的に投稿され始めるんですから、こういう時こそ何か特別なことをやっとくべきなんじゃなんでしょうか」

「いや……あの……えッ? なにこれ?」

 

 またもパンツ一丁のツリーが戸惑いの声を漏らすが周りの者たちは依然として反応を示さず、銀時は頬を机の上に乗せてアンニュイな眼差しをなのはに向ける。

 

「つってもよー……特別なことつたってパッと思いつかねェよ……。つうか考えんもメンドーだし実行すんのもめんでェよ。あと本編進めんのもメンドイ……このままコタツで一生を過ごしたい……」

 

 あまりにも気力と言う感情が抜け落ちた銀魂主人公を見てリリカルなのはの主人公は何も言えなくなったのか苦笑いを浮かべながら頬を掻く。

 頬杖を付きながらさっきからミカンの切れ端を口にパクパク放り込んでいた神楽は気だるげな眼差しでなのはに語り掛ける。

 

「このグータラが人の形したような主人公に何言っても無駄ネ、なのは。今回の年末&年越し特別回は私たちのコタツ風景をお届けすれば良いアル」

「じゅ、需要あるのかな……それ?」

 

 となのはが戸惑っているとツリーが声を出す。

 

「いやあの……待って……話進めないで……」

 

 片足立ちで両腕を両側に広く伸ばしたツリーが言葉を掛けるが他の面々はまったく反応を示さない。

 頬杖を付いたまま神楽は達観したような表情で告げる。

 

「そもそも年末はガキつか、紅白。年越しは格付け、相棒、スポーツ王……見るもん多すぎて特別回やってる暇なんてこれっぽちもないアル」

「それ神楽ちゃんの事情なんじゃ……」

 

 となのはが言おうとすると銀時が顔を上げ腕を組みながら「そうそう」と相槌を打つ。

 

「大体、年末は特番ばっかでわざわざ俺らがなんか特別なことする必要ねェんだよ。どうせみんなそっちで年末と年越し気分味わって特別感エンジョイしてんだよ。あとぶっちゃけ、年末にも年越しにも結局間に合わなかったしな」

「いやー、そこら辺はあんまり言わない方が……」

 

 となのはがやんわり告げると神楽がバッサリ告げる。

 

「間に合わなかったの事実ネ。それに私たちの小手先の特別感なんて提供したところでどうだって話ネ。こうやって(あった)かくなるまでコタツでゴロゴロしてるのが一番アル」

 

 そう言って神楽が後ろに倒れてゴロンと寝転がる。

 するとなのはの背中側にある和室の襖が横にズレて開き、Fateシリーズのソーシャルゲーム――FGOでお馴染みの二人のサーヴァントが姿を現す。

 

「……まったく、折角の年末だと言うのになんともまー怠惰なことじゃ。こういう時こそパーッと盛り上げるものじゃろうが。パーッと」

 

 やれやれといった感じに告げるのは通称ノッブと魔人アーチャーでお馴染みの織田信長。ノッブは銀時の右斜め前の席に座ってコタツに足を入れる。

 

「ふー、寒い寒い……」

 

 と続くようにノッブの横に座ってコタツに足を入れるのは桜セイバーと沖田さんでお馴染みの沖田総司。

 和室に入ってきたノッブと沖田さんをアンニュイな眼差しで見ながら銀時は気だるげなを声を出す。

 

「つってもなー……俺が思い付くのはジャンプ年末号の発売日くらいだしなー……」

「それは思い付くとは言わん。気を付けると言うんじゃ。しかみゴミ出しの日を忘れない程度のな」

 

 腕を組むノッブはジト目で告げ、横に座る沖田さんは手に持った白いレジ袋から何かを取り出す。

 

「なのはちゃん、はいコレ。お団子買ってきたので一緒に食べましょう」

「あッ、ありがとうございます」

 

 なのははお団子が入った入れ物二つを受け取るとコタツに座る全員が団子を食べられるように机の真ん中――入ってるミカンの量が少ない木皿の横に置き、箱を開ける。

 

「あの……誰もツッコまないの? ホントにこのまま話進めてくの?」

 

 ツリーがなんか言うがその場にいる全員スルー。

 開けた箱から姿を現すみたらし団子や三色団子を見て銀時は少し声を弾ませながら手を伸ばす。

 

「おッ、ちょっと高そうな奴じゃん」

「そりゃー、年末ですしね。ちょ~っと奮発しました」

 

 沖田さんは薄く笑みを浮かべつつ団子の串を手に取ってパクリと一番目のみたらし団子を口に含む。

 するとノッブがレジ袋に手を突っ込みながらオレンジ色の丸い物を取り出す。

 

「あー、あとミカンの追加じゃ」

 

 一個一個ミカンを取り出して、ミカンが少なくなった木皿に新しいミカンを乗せるノッブ。

 銀時は「サンキュ」とお礼を言い、神楽は上半身を上げて右手に団子を取って食べながら左手でミカンを取ってすぐさま皮を剥き始める。

 ノッブは三色団子を一個口に含んで頬を少し膨らせながら銀時に問いかける。

 

「モグモグ……それで、なんか年末か年明けの為のイベントの案は考えついたか? モグモグ」

「モグモグ……ねェよんなもん……モグモグ」

 

 と銀時は団子をもっさもっさ食いながら気だるげな声で話す。

 

「今回の俺ら銀リリF組の正月は、コタツで紅白見ながらミカン食って甘味食って正月特番見ながらおせち食って終わりなんだよ」

 

 銀時は団子をもっさもっさ口に含みながらやる気のない声で告げる。

 

「なんとも心が躍らん年末と年明けで終わりそうじゃな……」

 

 と言ってからノッブはふと後ろに振り向き、和室の隅っこに置かれた新八(クリスマスツリー)を見て再び銀時へと顔を向ける。

 

「おい、なんじゃアレは? いくらなんでもアレはあんまりじゃろ」

 

 ノッブは尖った串の先をツリーへと向けながら眉間に皺を寄せて告げる。

 

「もうクリスマスも過ぎているというのに、なにうえまだツリーがあるんじゃ?」

「あー……」

 

 と銀時は思い出したように声を漏らしつつ説明をする。

 

「片すの忘れてた。つうかメンドーだからそのまんまにしてたな」

 

 ノッブは腕を組んでジト目となる。

 

「本当に風情も何もないのー……。おぬしらこのまま年越すつもりか? わし、あんまりクリスマスには詳しくないから分からんが、あんなみすぼらしいツリー年明けまで置いておいたら縁起が悪くならんか?」

「まー、赤いサンタじゃなくて黒いサンタが寄ってきそうな価値ゼロ円のクソツリーだけどよ、飾らんよりはマシだろ」

 

 すると団子を口に咥えた沖田さんがツリーを見れば、ツリーの顔面には青筋が浮かび上がっており、沖田さんは口に団子を入れながらサラッと告げる。

 

「あのツリーだと別のメリーが寄ってきそうで――」

「ちょっと待てやコラァァァァァァァァァ!!」

 

 我慢の限界を迎えたかのようにパンツ一丁で両耳に眼鏡を垂らした新八(ツリー)がコタツの机に両手をバンッ!! と叩きつけながら張り裂けんばかりに叫び、声を荒げる。

 

「黙って聞ィてりゃァ勝手なことばっか言いやがってコノヤローッ!! いい加減誰かツッコめこの状況!! どこもかしこもツッコミどころ満載なのになんで誰も言及しねェんだバカヤローッ!! なんで僕はクリスマスツリーになってんだ!! なんでFateのキャラが出てくんだッ!! そもそもなんで僕ら万事屋にいるんだァァァ!! 海鳴市もリリカルなのはもどこ行ったァァァァァァァァ!! あともう正月も過ぎちまったぞコノヤロォォォォォオオオオオオオオオ!!」

 

 するとノッブは「ほほォ?」と興味深そうに怒鳴り散らすツリーをまじまじと見ながら告げる。

 

「ただの貧乏くさいツリーかと思いきや動く上に喋るツリーとは中々に奇怪で面白いではないか。カルデアでも動く雪だるまは見たが、かように気色の悪いツリーは初めてじゃ」

「へー、そうなの?」と銀時。「うちのツリーに興味沸いたなら片付けるついでにおたくんとこに引き取ってくんね」

「いやじゃ」

 

 ノッブはバッサリ断ると、

 

「いい加減人様をクリスマスツリー扱いすんの止めろコラァァァァァァ!!」

 

 ツリーは張り裂けんばかりの声でシャウトし、マシンガンのようにツッコミ始める。

 

「僕はクリスマスツリーじゃねェ!! 志村新八だァ!! つうかパンイチで耳に眼鏡飾ったツリーがどこの世界のクリスマスにあるんだボケェ!!」

 

 そこまで捲し立ててツリー、もとい新八はグイッと顔をなのはに向ける。

 

「つうかなのはちゃん!! なんで一番の常識キャラの君が開口一番にツッコミしないの!? この空間ツッコミ要素満載でしょうが!! 僕が話の始まり早々ツリーにされてることにツッコミ入れてよ!!」

「い、いやー……そのー……」

 

 なのはは気まずそうに視線を逸らして汗を流しつつ答える。

 

「……神楽ちゃんと銀時さんがツリーがないから新八さんが身を張ってツリー役を買って出たって……」

「そのクソッタレ共の言う事は8割信じちゃダメ!! 僕はなんか知らねェうちにツリーにされたんだよ!! つうかアレのどこがツリーなんだよチクショーッ!! あともう正月終わってんだよコンチクショーッ!!」

 

 嘆く新八に銀時は腕を組みつつ冷静に告げる。

 

「しょうがねェだろ。年末は話用意しようにもクリスマスから年越しまでスパン短過ぎんだよ。メンドーだし満足に話作れなかったからせめてものクリスマスネタだよ。あと悲しいかな正月も間に合わなかった」

「ぶっちゃけ過ぎだろッ!! あとだからって人をパンイチ眼鏡ツリーにすることありません!?」

 

 銀時と新八のやり取りを聞いてノッブと沖田さんは肩透かしを食らったかのような声を出す。

 

「なんじゃー、ただの気持ち悪い眼鏡じゃったか。てっきり人型の気持ちの悪いツリーかとかと思った」

「なんだー、ただの変態でしたか。FGO(こっち)基準で動くツリーと思い込んでしまいました」

「ちょっとあんたら!! いちいち人のことディスるの止めてくれません!? 割と傷つくんですけど!!」

 

 と新八が悲し気な声でツッコミ、並んで座るFateグダグダコンビに指をビシッと突き付ける。

 

「つうかなんであんたらFateのキャラが万事屋(ここ)いんのッ!? なんでさも元からいました感醸し出しながら馴染んでんの!?」

 

 そして新八は混乱する頭をわしゃわしゃかき乱しながらありったけの声で疑問を巻き散らす。

 

「そもそもなんで僕らどころなのはちゃんまで万事屋いんの!? 海鳴市はッ!? ジュエルシードはァ!? フェイトちゃんはァッ!? リリカルなのははァーッ!? 『魔法少女リリカルなのは×銀魂』の本編はどこ行ったァァァァァァァッ!?」

 

 もうワケが分からず嘆く新八に銀時は腕を組んで目を閉じながら冷静な声で語り掛ける。

 

「まー、混乱するお前の気持ちもよく分かる。だが安心しろ。今の状況は一言で説明できる」

「えッ!?」

 

 と新八はありえないと言わんばかりの表情で驚きの声を漏らし、銀時は目をクワっと開いて強く言い放つ。

 

「今回は特別回だからです!!」

「だからなにッ!?」

 

 と新八は食い気味に言葉を返す。

 

「だからなんなのッ!? なんで年末特別回だからってリリカルでも銀魂でもないキャラが出てくんの!? おかしくない!?」

 

 新八の疑問に対して、心底メンドクサそうな表情で銀時は説明を始める。

 

「おまえさー、考えてみろよ。年末もしくは年越しの特別回だからこそ、こうやって有名なゲストキャラ呼んだんだろうが」

「むしろ年末年越しの特別回だからこそリリ銀本編に沿ってクリスマスネタだったり正月ネタするべきなのでは!?」

「いや出来るワケねェじゃんお前。本編がいまどんな状況か忘れたの? フェイトは悪の組織の手先にされ、なのははショックのあまり鬱病に片足突っ込んでんだぞ」

「えッ!? そうでしたっけ!?」となのは。

「本編の内容を微妙に捏造すんのやめろッ!!」

 

 と新八がツッコミ入れると沖田さんはなのはに向かって「大丈夫です!」と親指をグッと上げて笑顔で告げる。

 

「わたしなんて常に死の病によって血反吐を吐きながら暮らしています! それに比べたら鬱病なんて大したことありません!」

「そ、そうなんですか……大変ですね……」

 

 となのはは戸惑いつつ答え、新八は声を上げる。

 

「ちょっとォォ!! いきなり別作品の人に変な誤解与えてんじゃん!! あと比べるレベルがおかしいでしょそれ!! あとなのはちゃんに鬱病になってませんから!!」

「パンイチでうるさい変態眼鏡じゃな……」

 

 ミカンを口に入れながらノッブは新八にジト目を向ける。

 

「そこは言及しないでください信長さん!! 今はこの状況にツッコミ入れながらボケにまでツッコミ入れてるだけでいっぱいいっぱいなんですよ!!」

「ぱっつぁん、抗うな。受け入れろ。さすれば楽になる」

 

 と銀時が諭すように告げると新八は怒鳴り返す。

 

「うっせェ黙れ!! あんたどんなキャラだよ!!」

 

 我慢できないと言わんばかりに新八はありったけの声を腹から出す。

 

「あといい加減ボケを止めろォォォォォ!! 話が進まないんじゃボケェェェェェェ!!」

 

 パンイチで両耳に眼鏡を垂らした青年のボケェェェェェェェ!! が年明け早々、万事屋を震わせるのだった。

 

 

「……まー、とりあえずなんとなく状況は掴めました……」

 

 ようやくパンイチ眼鏡ツリー姿からいつもの白と青を基調とした和服姿に戻った新八は銀時の隣に座りつつ、現在の状況を口に出しながら整理する。

 

「つまり……本編でクリスマスネタも年越しネタも正月ネタもできない状況だから僕はツリーにされた挙句この特殊空間で特別回をやろうと……」

 

 そこまで言って新八は銀時に顔を向ける。

 

「それなら本編投稿して話を進めた方がよくありません?」

「それを言っちゃーおしめェだろ、ぱっつぁんよ」

 

 と銀時が言い、神楽は団子をはむはむ口に含みながら告げる。

 

「特別な行事は出来る時にやっといてナンボアル」

 

 するとノッブと沖田さんも続く。

 

「まー、イベントはやれる時にやっとくもんじゃしな」

「まー、そうは言ってもFGO(うち)はイベントのバーゲンセールですけどね」

 

 ぐだぐだ組の言い分を聞いて新八は腕を組みながら前へと向き直りうんうんと頷く。

 

「まー、僕も行事と季節関係の特別回をやるのは良いと思いますよ。今までバレンタインネタも夏ネタも見送り続けたワケですし、年末くらいはとは思いますよ」

 

 そこまで言って新八は「ですけど」と言って再び銀時に顔を向ける。

 

「わざわざ、このわけ分からん異界用意する意味あります? つうかこの空間なんなんですか?」

「特別回用の特別万事屋空間だよ」と銀時。

「いや特別万事屋空間てなんだよ」

「ほら、銀魂アニメでよくやるじゃん。本編始まる前とかに万事屋の全体像映し出しながら原作銀さんたちが駄べって制作秘話暴露するアレ。アレみたいな感じの空間。ようはなんでもありな感じのあの空間」

「いや、制作秘話暴露とかぶっちゃけんの止めてください。聞いてて悲しくなります。……まー、一応は理解できました。つまり番外回用の特殊空間ですね。……前回の年明け特別回みたいに夢空間にできなかったんですか?」

 

 顔を向けながら言う新八の疑問に銀時はメンドクサそうに答える。

 

「特別回特有の夢落ち天丼も考えたが、仙人ネタはやりきちまったし諸々の事情で止めたんだとよ」

「まー、そこは作者の都合ってことで飲み込みますけど……。じゃあ、最後に一ついいですか?」

「なに?」

 

 と銀時が聞くと新八は斜め左のノッブと沖田さんに指を突き付ける。

 

「なんでFateって言うかFGOで有名なこのお二人が万事屋にいるんですか?」

「なんか他作品のゲスト呼んだら特別っぽいだろ?」

「理由うっす!?」

 

 と新八は思わずツッコミ入れ、ミカンを皮を剥きながら神楽が語る。

 

「年末年始くらい作者のやりたいようにやらせれば良いアル」

 

 そこまで言って神楽は剥いたみかんを丸々一個口に放り入れ、新八は目を瞬かせる。

 

「じゅあなに!? 年末年始は毎度毎度どっかの作品からゲスト呼ぶことになんの!? 本編進んでも今後の年末年始はこういう感じなの!?」

「知らねェよ。一々細けェこと気にする奴だな」

 

 銀時は心底めんどうそうに吐き捨てる。

 

「俺は今後の特別回どうなるかなんて興味ねェし、考えのもめんどくせェの。グダグダ言ってねェで特別回は特別なモンとして受け入れろ」

 

 銀時は腕を組みながらノッブと沖田さんに顔と人差し指を向ける。

 

「それにだ、この二人はあのドラえもんを押しのけて大晦日にスペシャル回をやるFateのキャラなんだぞ。特別ゲストとしては申し分ねェだろ」

 

 銀時の言葉を聞いてノッブと沖田さんは不満そうな声を出す。

 

「なんじゃ、まるでFateが原因でドラえもんが大晦日にやらなくなったみたいな言い草は」

「そうですよ。ドラえもんが大晦日に枠取れなくなったのは単純に人気が落ちて――」

「ちょっとォォォォォォ!! 沖田さん止めて!! そう言う不用意な発言しないで!!」

 

 新八は顔を青くしながら沖田さんの言葉を止めるが神楽まで話に乗っかりだす。

 

「でもドラえもんが大晦日にやらなくなって物足りないアル。大晦日はドラえもん見てガキ使見るのが私の定番だったのに」

 

 神楽の言葉を聞いて沖田さんは腕を組みながら残念そうに告げる。

 

「二時間が一時間と時間帯が短くなって薄々感じていましたがやっぱり――」

「だからそう言うデリケートな部分に言及するの止めてッ!!」

 

 新八は必死に話を遮り、強引に話を本題に戻す。

 

「ま、まーとりあえず分かりました……。有名なFate……じゃなくてFGOでしったけ? とにかく特別なゲスト呼んで特別っちゃ特別な感じは出てきましたしね……」

 

 新八は諦めたように自信を少し強引に納得させ、「それで……」と言って銀時に尋ねる。

 

「ゲストも来たことですし、今回の年末年始はなにするんですか?」

「まずは……録画と番組チェックだな」

「いやなんでだよ!!」

 

 と新八がツッコミ入れるが銀時は新聞紙を机の上に開いて覗きながら気だるげに告げる。

 

「さっきも言ったろ? 年末年始はガキ使、紅白、格付け、スポーツ王、相棒などなどの特番目白押しだって」

「だからって僕らがこのまま特番見る事ないでしょ!! どんだけ消極的なんですかあんた!! 特別回見に来た読者に申し訳ないとは思わんのか!!」

 

 と新八がツッコミ入れながら説教するとノッブが両手を握りしめ二本の親指を立てる。

 

「ならば年末特番を見ながらわしらはコメントすれば万事オーケーじゃ!!」

「ここは実況掲示板じゃねェんだよ!!」

 

 と新八がツッコミ入れるがどんどん話は進んでいく。

 

「とりあえず、まずなに見ます?」

 

 と沖田さんが言うとノッブが腕を組みつつ告げる。

 

「やはりここは駅伝であろう。正月と言えば駅伝じゃ」

「いや駅伝なんてつまんねェよ。やっぱ格付けだろ。次に相棒かスポーツ王だ」

 

 と銀時が返すと神楽がビシッと手を上げる。

 

「私は録画したガキ使かドラえもんを押します!! あとFate特番の前にグレンラガンの映画やってました!!」

「あッ、私はドラえもんがいいかな」

 

 となのはも便乗し、

 

「それならやっぱりここはゲストである私たちを考慮してFate特番では?」

 

 沖田さんが告げる。

 

「なんの為の年末年始特別回だと思ってんだお前らはァァァァァァァァ!!」

 

 我慢できずに新八が天井に向かってシャウト。

 するとノッブがやれやれと言った表情で告げる。

 

「まったく……仕方ないのー……。折角の特別回であり正月じゃ。正月らしい特別なことをするとしようではないか」

「信長さん……」

 

 ようやくわかってくれたか、と思って新八は嬉しそうな声を出し、ノッブはみかんが入ってあったレジ袋から何かを取り出す。

 

「正月らしく……」

 

 ノッブがレジ袋から取り出した物を机いっぱいに広げる。

 

「――すごろくをやろうではないか!」

 

 ノッブが用意したのは折り畳み式すごろくシートだった。

 

 ――うわー、地味だー。

 

 笑顔の新八は内心、実直にそう思った。ただ信長さんに悪かったので口には出さないが。

 

「地味だなおい」

 

 だがこの失礼な銀魂主人公はハッキリ口にし、沖田さんはさらりと告げる。

 

「まー、いいんじゃないですか? ありきたりな正月ネタですが、多少は見栄えもよくなりますよ」

「お前ら用意したわしに対する配慮とかないのか?」

 

 とノッブが不満そうに声を出すと新八はすかさずフォローする。

 

「い、いいじゃないですかすごろく!! ゲストキャラとすごろくを楽しく遊ぶって良いですよね!! きっと盛り上がりますよ!!」

「とりあえず、サイコロと駒が必要ですね」

 

 となのはが立ち上がろうとした瞬間だった。

 なんと、突如として広げたすごろくシートがピカッと光り出したのだ。

 

「な、なんじゃーッ!?」

「ノッブ!! あなたなに持ってきたんですか!!」

 

 と沖田さんが声を上げ、神楽があまりの眩しさに目を抑える。

 

「目が、目がァァァァァァ!!」

「神楽ちゃんそれ言いたいだけでしょ!!」

 

 そしてなんの前触れもなく起こった突如の異変にリリカルと銀魂の主人公ズも慌て出す。

 

「前の年明け回みたいに嫌な予感がするのォォォォォ!!」

「俺もだァァァァァ!!」

 

 

「……ん……んん……」

 

 うつ伏せに倒れる新八は呻き声を漏らす。

 徐々に意識を覚醒させながら眩しさのあまり目を閉じ、いつの間にか自身が意識を失っていたことに気付く新八は、いったいなにが? と思いながら体を起こし始める。

 眼鏡を上にズラしてぼやける目を摩ってから新八が周りを見渡せば自身と同じように白い床で倒れ伏していたであろう他五名の姿を確認する。

 

「…………ん?」

 

 えッ? 白い……床? 

 五人が倒れ伏していた床が白い真っ平なよく分からないモノで出来たことに気付く。なにせ和室に敷いてある畳とはまったく違う材質の床に、更には一瞬で目に入った万事屋の狭っ苦しい和室とは雲泥の差のだだっ広い床。それらを見て一気に状況が一変していることに気付く。

 

「…………」

 

 地平線が見えそうなほど広く白い床だか地面だか分からない光景に新八はもう一度眼鏡をズラして目を摩ってから呻き声を漏らし始めている銀時たちを尻目に振り返り、

 

「ッッッ……!?」

 

 〝ありえないモノ〟を見て驚きの表情を浮かべ、自分の一番近くでうつ伏せ状態の銀時に慌てて声を掛ける。

 

「ぎ、ぎぎぎぎぎ銀さん!!」

「……んん……」

 

 新八に体を揺らされて目を覚ましゆっくり起きる銀時は頭を抑えて左右に軽く振りながら体を起こし始め気だるげな声を漏らす。

 

「ッ……ぁー……ノッブたちと酒飲み過ぎて……寝落ちしちまったか……?」

「いやいやいや!! たぶん酒じゃありません!! もっとヤバイ感じです!!」

「あん? なんだよ、ぱっつぁん……年末年始くらいたっぷり寝かせてくれよなァ……」

 

 銀時は慌てる新八になど構わず欠伸をする。

 

「と、とにかくアレ!! アレ見て!! アレェーッ!!」

 

 だが新八は銀時の反応などに構わず目の前に建って居るモノに必死で指を突き付ける。

 

「なんだよ、アレアレって……」

 

 新八に訝し気な視線を送る銀時はゆっくりと新八の指が示す方に顔を向ける。そして、巨大なアーチ型の門――それこそ運動会で見るような奴の二倍か三倍くらいデッカイ門が目の間に建てられていた。

 

「…………」

 

 目の前の門を見て銀時は視線を細め、ゆっくりと首を上にあげれば門の二本の鉄柱を繋ぐように設置されたアーチ状のパネルが目に付く。

 デカデカと書かれた文字をゆっくりと銀時は口にする。

 

「50話達成……&……年明け……すごろく大会……2020……」

 




ノッブ「なー、気になってたんじゃがなんで地の文のわしの名前が常にノッブなんじゃ?」

沖田さん「私は沖田さんですしね。いや、沖田さんは沖田さんですから別に構いませんが」

銀時「いや、うちは沖田もいるし銀魂原作じゃ信長も出てるしな。混乱しないようにする為の配慮だそうだ」

ノッブ「信長ってあのナマズ顔ブリーフじゃろ!! アレ気にしてわしはノッブ表記なのか!?」

沖田さん「私には桜セイバーって立派な異名が公式にあるんですからそちらを採用してもよくないですか?」

ノッブ「そうじゃそうじゃ!! わしにも魔人アーチャーと言うイカした異名があるんじゃぞ!!」

銀時「今のお前らの名前の方が労力少ないからな」

ノッブ「理由ひどッ!!」

沖田さん「沖田さんと桜セイバーってそんなに書く労力違いありませんよね!?」

銀時「まー、今回は年明け特別回って言うゆる~い場だしな。いいんじゃね?」

ノッブ「なんかすんごい不完全燃焼感が否めないんじゃが。じゃが」

沖田さん「やっぱり、ここはゲストとして来るのは間違いだったのでは?」

ノッブ「催し物は好きじゃが、今回は嫌な予感するしのー……」

沖田「まーまー、せいぜい汚れて帰ってくだせェ」

ノッブ「おッ、沖田。お前いつの間に性転換したんじゃ?」

沖田さん「ノッブ、あなた頭どころか目までイカれましたか……」

ノッブ「それ、お前元からわしの頭はイカれたと思っとったのか!! 相変わらず腹立つこと言いおってからに!!」

沖田さん「最初にふざけたこと言ったあなたが悪いでしょうが!」

銀時「つうわけで、おけおめー」

なのは「わー、グダグダだー……」


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2020年明け 2:すごろく大会

遅くなって申し訳ありません。
まさか2月頭に投稿する羽目になるとはちょっと見通しが甘かったです。特別回の1話目を投稿した辺りで体調を崩してしまったので、その後ズルズル小説書けない状態が続きましたがなんとか投稿できるようになりました。
とりあえず、今後はすぐに投稿できるよう一応準備は出来ていますので、Pixivで質問コーナーの準備が出来次第投稿する予定です。




「50話達成……&……年明け……すごろく大会……2020……」

 

 

「――はッ!?」

 

 自身が看板の文字を呟い辺り、銀時は布団から起き上がり目を覚ます。

 周りを見渡すと変な白い異空間ではなくいつも寝ている和室であった。

 銀時は頭をボリボリ掻きながらため息を吐く。

 

「なーんか……すげー初夢みたなー……。女信長とか女沖田とか出たり……」

 

 欠伸をしつつ銀時は布団から出――ようとはせずにまた布団に潜りこむ。

 

「色々やることあるけど……もう一眠り眠りしてからしようっと……」

 

 そして銀時はまどろみの中に沈んで行く。

 そう、ノッブも沖田さんも異空間転移も全ては銀時の初夢だったのである。

 今回の特別回はこれにて終了。次回から本編開始です

 

 

 

 

新八「――って、オチにはなるかァー! 現実逃避すんじゃねェ!! ……ちょッ!? そもそもなんなんですかコレ!? ここ本編ですよ! いま前書きみたいな感じになってるんですけど!?」

 

銀時「いやー、さっきみたいな感じで終わらせるつもりだったからつい前書きじゃなくて本編に移っちゃった」

 

新八「移っちゃった、ってどう言うこと!? どんな間違い!?」

 

ノッブ「そもそも前回の引きからこれだけ引っ張ってさっきのオチはあかんじゃろ」

 

銀時「だよなー。でも二月なんだよなー。……マジで終わらない? 『すみません、やっぱ本編進めます』とかにならない?」

 

沖田さん「ならないならない」

 

ノッブ「わしらのようなビックゲスト呼んであっさり終了など認められるワケあるまい」

 

神楽「最後までやり切るアル!」

 

なのは「そうです! 頑張りましょう!」

 

銀時「あァ~ァ……二月なのに俺たちはなにやってんだろうな~……」

 

沖田さん「ならついでに本編も投稿するのは?」

 

新八「沖田さん、さすがにそれは無理ですって……」

 

ノッブ「それじゃ、本編始まるぞ~」

 

新八「いやここ本編!! 前書きでも後書きでもないんですよ!! つうか本編の概念が分かんなくなってきた!! ホントフリーダム過ぎだろ!!」

 

 

「50話達成……&……年明け……すごろく大会……2020……」

 

 文字を見て凄く嫌な予感を覚えたのだろうか、銀時の表情がどんどん険しくなる。

 やがて銀時がゆっくりと視線を落とせば、門の先の地面にはなんとデッカイ……なんと表現すればいいだろうか。地面か床かあずかり知れぬ材質のモノに〇がいくつも描かれ並び、そのいくつも並んだ〇の左右の端っこにはそれぞれの〇を繋ぐように一本の線が敷かれている。そして〇や線の周りにはネズミや富士山やコマや凧揚げや餅などと言った正月には欠かせないであろう絵柄がいくつもある。

 一言簡単に言うと『等身大すごろく』が目の前に広がっていたのだ。

 

「……えッ? ちょッ? なにアレ? アレなに?」

 

 銀時は目の前の光景に目を白黒させながら目元を摩り、ようやく起き上がって近くにやって来たなのは、神楽、ノッブ、沖田さんも目の前のありえない光景に各々反応を示し始める。

 

「お、おっきいすごろくだ……おっきいすごろくが……」

「おォ……!」

「なんじゃあれは? こっちでも特異点発生するのか?」

「もしくは固有結界じゃないですか?」

「お、お二人共、慣れた反応ですね……」

 

 新八は目の前のありえない光景を慣れ切った様子で分析し始めるノッブと沖田さんに畏敬の念を込めた視線を送っている。

 

「あー……コレ……夢だな」

 

 と銀時は断言し、そのまま新八の頭をバシッと叩く。

 

「あいたァーッ!! なにすんの!?」

「ほらー、痛くない。やっぱコレ夢なんだって」

「人殴って確かめられるかッ!! つうか痛いってことはコレ夢じゃないですよ!! たぶん!!」

 

 と新八がツッコミ入れるが銀時は無視して右手で額を抑える。

 

「あァ~……新年早々とんでもねェ夢見ちまったなー、おれ……。ゲストとどんちゃん騒ぎで酒飲んだのが悪かったのかなァ……」

「いや、酒は一滴たりとも飲んでないがの」

 

 とノッブがサラッと告げると銀時は第六天魔王の頭を叩く。

 

「いたァッ!! なぜ叩くッ!?」

 

 頭を抑えながら目を瞬かせるノッブに銀時は平坦な声で言う。

 

「ほら、おれいたくな~い。夢じゃな~い」

「「だから人を叩いて確かめんなァーッ!!」」

 

 新八とノッブは同時に銀時に足にスネ蹴りを叩きつける。

 

「いっでェェェエエエエエエエエエエッ!! ……あッ!! コレ夢じゃねェじゃん!!」

 

 銀時がスネを抑えて蹲る中、神楽が腕を組みながら悟ったような顔で冷静に告げる。

 

「まー、年明けくらいは作者のやりたいようにやらせても罰当たらないアル」

 

 足をさする銀時は不満げな声を漏らす。

 

「……いや、だってよー、さすがにありえねェもん。いくら特別回だからってコレはねェわ。すごろくの紙が光って巨大すごろく空間出現て、もう色々と無視し過ぎだろ。年明けだからってやりたい放題が過ぎるだろ」

 

 銀時の言葉を聞いて沖田さんはノッブに話掛ける。

 

「まー、そうは言いますが、私たちのところも特異点を良い事に割と行事関係はやりたい放題感ありますよね」

「いや、ここまで色々とメタが入り込んだやりたい放題はせんじゃろ。つうか、コレは本編と関係あるやりたい放題とは思えんがな」

「あんたらもう銀魂キャラ並みにめちゃくちゃメタ発言かましますね」と新八。

「あッ、巨大すごろくの方から誰か来ますよ!」

 

 となのはが声を出し、全員の視線が巨大なアーチ状の門の先に向く。

 『50話達成&年明けすごろく大会2020』と書かれたアーチ状の門を潜ってやって来る小さな人影は、

 

「……どうも、みなさん。今回のすごろく大会の司会進行を務めさせてもらう、フェイト・テスタロッサです」

 

 クリップボードを持ったまさかのフェイト・テスタロッサ。

 予想外の登場人物に新八どころか銀時やなのはすらビックリ仰天。

 

「ちょッッッ!? フェイトちゃんッ!?」

「お前なにやってんだ!?」

「フェイトちゃんクリミナルの人たちはどうしたの!? なんでここにいるの!?」

 

 驚く三人とは正反対にフェイトは真顔で告げる。

 

「年明けで私を出さないのもアレと言う事らしいので、こういう形で参加することになりました」

「「もうなんでもありだなおい!!」」

 

 と銀時と新八が揃って声を上げるがフェイトはフリップボードに乗せた用紙を覗きながら粛々と話し続ける。

 

「色々とツッコミはあると思いますが、そう言うのはナシでお願いします。それでは、これから今回の『すごろく大会』のルール説明をさせてもらいます。まず――」

 

 フェイトが説明を始めようとする中、銀時と新八はげんなりとした様子。

 

「令和の年明け早々やりたい放題なおい……」

「なんかすごろくよりもっとするべき大事なことがある気がするんですけど、飲み込むべきなんですかね……?」

 

 既に疲れを見せ始めている年上組になのはは苦笑いを浮かべながら声を掛ける。

 

「と、とりあえず、折角の特別感のあるすごろく大会なんですし、が、がんばりましょう……」

 

 更にノッブや沖田さんや神楽も言葉を掛ける。

 

「まー、何事もノリと勢いと時期が大事じゃ。逆らえん流れとも言うのもあろう」

「とりあえず今は楽しむだけ楽しみましょう」

「楽しんだもの勝ちアル!!」

 

 と三人が励ましの言葉を送るとフェイトがサラッと告げる。

 

「――基本ルールは以上になります」

「……あの……なんか話してる間にルール説明終わっちゃったんですけど……」

 

 と新八は汗を流しながら頬を引き攣らせる。

 

「ぼく、ルールほとんど聞いてなかったんですけど……」

「わ、私も……」

 

 なのはも申し訳なそうに言うとノッブ、沖田さん、神楽も告げる。

 

「あー、わしもじゃ」

「私もです」

「同じく」

 

 最後の神楽に至ってはルールを聞いてもちゃんと理解できるか怪しい子なので聞いていようがいまいが銀時的にはどっちでもいい。

 銀時は肩を揉みながらアンニュイな声で告げる。

 

「まー、いいだろ。どうせコレ、人間大すごろくみたいなもんなんだし。ルールなんて聞かなくても平気だろ」

「いやもう、なんか初っ端からグダグダですね……」

 

 と新八は呆れた声を漏らす。

 

「それじゃ、次にスタート地点に案内します」

 

 とフェイトは平坦声で案内する。

 

「なんというか、テンションのひっくい司会じゃの……」

 

 とノッブが言葉を漏らしつつ、六人はすごろく大会の門を潜ってスタート地点へと移動するのだった。

 

 

 

 

「私はあんまり大きな声が出せない方なこともあり、私の声をゲーム中のみなさんに届かせる為にマイクを使用することもあります」

 

 移動が終わるとフェイトはヘッドマイクを顔に付け始める。そんなテンションだだ低い司会進行を見る銀時は隣の新八に声を掛ける。

 

「なー、なんでアレに司会進行させてんだろうな?」

「強引に出さない方が良かった感がありますよね」

 

 巨大な〇の上でヘッドマイクを付けたフェイトはクリップボードの用紙に目を通しながら説明を始める。

 

「では次に、チーム分けをします」

「チーム分け?」

 

 と銀時は肩眉を上げ、周りにいるメンバーを見渡す。

 

「この六人で対戦するんじゃねェのか?」

「それだと時間がかかるので、四チームで対戦になります」

 

 フェイトの説明を聞いて新八が待ったを掛ける。

 

「えッ? 四チーム? でもそれだと二人づつに分けても三組しかチームが出来なくない?」

「どう分けても、二チームは一人になりますよね」

 

 となのはが告げるとフェイトは「では、この辺でご紹介します」と言いながら右手を裏返して少し後ろに伸ばす。

 ん? なんだ? と疑問に思いながら銀時たちはフェイトが右手で指し示した方に自然と目を向ければ、地面の数か所から突如として白い煙が勢いよくプシューッ!! と飛び出す。

 

「「「「ッ!?」」」」

「えッ!? なになに!?」

 

 なのはが驚きの声を漏らし、他の面々も少し面を食らっていると白い煙の中から三つの影が白煙をかき乱しながら勢いよく飛び出す。

 一つの影は空中で前転し、シュタっと地面に降りれば顔の横でピースサイン。

 

「イエーイ! 超次元から颯爽参上!! ネプテューヌだよ~!!」

 

 次に現れた二つの影はそれぞれネプテューヌの左右へと並び立ち、ポーズを取る。

 ネプテューヌの右側に移動した一つの影は左手を引いて右手を斜め右上へとビシッと伸ばし、

 

「サマーン星からオヨッと参上!! ララ!! ルン!!」

 

 ネプテューヌの左側に移動したもう一つの影は右手を引いて左手を斜め左上へとビシッと伸ばし、

 

「地球からキラヤバ参上!! 星名星奈ひかる!!」

 

 そしてお互いの伸ばした腕を一回転させてそれぞれ腕を伸ばした逆方向にビシッと伸ばしてクロスさせる。

 

「「スター☆トゥインクルプリキュア!!」」

「&超次元ゲイムネプテューヌ!!」

 

 そしてネプテューヌは両手を左右に広げてかがみ、

 

「三人合わせて~……」

 

 ネプテューヌが一旦溜を作っている間に左右のララとひかるがそれぞれ伸ばした手を再び元の方向へとビシッと翼のように伸ばす。

 

「「「ゲスト参戦!! ネプキュア!!」」」

 

 名乗りを上げた三人の少し後ろが戦隊登場シーンのようにドカーンッ! と爆発。青、紫、桃の爆煙が噴き上がる。

 その光景に銀時たちはポカーンとした表情。三人が名乗り終えるとフェイトが声を掛ける。

 

「では、この三人のゲストと――」

「待て待て待て待て待て!! 色々待てェェェェェェ!!」

 

 だがさすがにこのまま話を進められずに銀時がたまらずフェイトの声を遮って待ったをかけるが、フェイトは構わず説明を続ける。

 

「この三人のゲストと共に今回のすごろく大戦をやってもらいます」

「無視すんなッ!! つうかホントちょっと待て! 色々ツッコミさせろ!!」

 

 食い下がる銀時を置いてけぼりにするかのように、

 

「「「いえ~い(ルン)!!」」」

 

 ネプキュアたちはハイタッチして盛り上がっている。

 

「いや~!! 練習した甲斐があったね~!!」

 

 ネプテューヌはサムズアップし、ひかるとララもサムズアップを返す。

 

「キラヤバーだったね!」

「バッチリ決まったルン!」

「おおいッ!! 話進めんてんじゃねェ!! 色々とインパクト強すぎて付いていけねェんだよこっちはッ!!」

 

 と銀時が食って掛かるがやっぱり三人はスルー。

 息ピッタリに口上と決めポーズがキマッた事を称えった後、いの一番にネプテューヌが軽快に銀時に近づきながら軽く右手を上げる。

 

「オッス銀ちゃん! オラネプテューヌだよ!! 呼ばれて飛び出てゲスト参戦しちゃいましたー!!」

「うわ、無駄にテンションたけーし無駄にフレンドリーだなおい」

 

 登場早々無駄にハイテンションなネプテューヌに銀時は若干引き、新たなゲストを見てノッブは腕を組みつつジト目になる。

 

「しっかし、小さなお友達のヒロインと大きなお友達のヒロインを呼んでくるとはのー」

「節操ありませんねー」と沖田さん。

「あんたらどこ目線で話してんですか?」

 

 と新八がツッコミ入れる。

 

「つうかよー、お前らよくもまーこんなふざけたイベントに参加したもんだな」

 

 超次元とプリキュアのゲスト三人に銀時が呆れた声で言うとひかるは興奮したように告げる。

 

「だってこんなキラヤバ~なイベントに誘われたんだもん! 行くっきゃないですよ!」

「お前なのはより年上の癖してテンションは小学生だな。そこのちっさい女神と一緒で」

 

 と銀時が言うと新八がすぐさま苦言を呈す。

 

「あんたプリキュアさんに失礼でしょうが!!」

「私には失礼ではないと!?」とネプテューヌ。

「えッ!? あの二人もプリキュアさんなんですか!?」

 

 と驚くなのはにノッブが告げる。

 

「そうそう。あいつらがスターバックスプリキュアじゃ」

「信長さん平気で嘘吹き込まないで!!」

 

 と新八がツッコミ入れる中、ララもひかる同様に目を輝かせながら両の拳を握りしめる。

 

「地球のしょうがつの遊びを体験してみたかったルン!!」

「これからお前がやろうとしてんのは正月の文化から限りなく似て非なるもんだと思うぞ」

 

 銀時がサラッと告げ、ノッブは腕を組みながら今回の参加者を見渡す。

 

「しっかし、銀魂組以外見事に女人一色じゃの。一人か二人男性連れてこんとバランス悪くないか?」

「あー、確かに」

 

 と沖田さんが相槌を打ち、新八は二人の指摘を聞いて汗を流す。

 

「あんたらグイグイデリケートなとこ指摘(ツッコミ)しますね」

 

 するとフェイトがクリップボードに挟んだ紙を覗きながら告げる。

 

「実は、ネプテューヌとプリキュア以外にもゲストメンバーを呼ぼうとしたんですが……」

 

『興味ないね』

 

 FF7 クラウド・ストライフ、参加拒否。

 

『すまぬ!! 某は今年親方様と初日の出を見ると共に正月は富士山で稽古をせねばならぬゆえ参加には間に合わぬ!!』

 

 戦国BASARA 真田幸村、参加断念。

 

『Sorry。俺は今回はちょっと無理だ。天下取りの先駆けに年明けは日ノ本巡りをするつもりなんでな』

 

 戦国BASARA 伊達政宗、参加拒否。

 

『ワシはだいじょう――』

『イベントだと? 面白い! (おれ)は一向にかま――!』

 

「――っと、いった具合に断られたようです」

 

 とフェイトが告げると新八は汗を流しながら指摘する。

 

「あの……なんかノリノリそうな東照大権現的な人と英雄王的な人がハブられように見えたんだけど、気のせいかな?」

「なんじゃー、残念じゃの。バサラのメンツと相まみえても良かったと思ったんじゃが」

 

 ノッブは少々残念そうに言葉を漏らし、沖田さんはうんうんと察したように告げる。

 

「まー、年末年始で呼ぶの難しいですからね。休みと言っても予定埋まってる人なんていっぱいいるでしょうし」

「そう言うおめェらは年末年始暇だったんだな……」

 

 とサラッと告げてから銀時は顔をネプテューヌへと向ける。

 

「学生のプリキュア共はともかく、女神の癖しておめェも暇してんだな」

「いやー、私は忙しかったよ? 特に年末は。だけど、年末追い込みの仕事がめんどくさくてボイコットの為にも来たから」

「サラッととんでもねェこと暴露しましたよこの駄女神」

 

 と新八ツッコミ入れ、ネプテューヌはなんの罪悪感も感じさせない顔まま告げる。

 

「それに、1位の賞品が『豪華おせち&高額お年玉』のセットなんて聞かされたら来ないワケにいかないって」

「「「「えッ!?」」」」

 

 ネプテューヌの言葉を聞いて銀時、神楽、なのは、新八は驚きの声を漏らす。そして銀時が即座に司会進行であるフェイトに顔を向ける。

 

「ちょッ、おいフェイト。このイベントって一位、つうか一番に上がった奴は賞品があんの?」

「うん。一位でゴールした人はいまネプテューヌが言った通り……」

 

 そこまで言ってフェイトが顔を斜め後ろに向ければ、上空から街中のビルにあるような電子看板並みにデカいディスプレイが降下しつつ出現。

 

「なんか無駄に大がかりなのが出てきたな……」

「この空間マジでなんでもありっぽいですね……」

 

 と銀時と新八が呟くと同時にフェイトが告げる。

 

「こちらの賞品が授与されます」

 

 ディスプレイに高級そうな材料を調理する映像が流されると共に音声が流れる。

 

『すごろく大戦の一位を見事飾った方には総額30万円分の材料をふんだんに使ったおせちと――』

「うわ、なんか格付けのナレーションみたいな声が流れてきた」

 

 と新八が声を出し、映像が切り替われば大きなお年玉袋の口からはみ出た札束が扇子のように広げられている映像が映し出される。

 

『――現金100万円分のお年玉が進呈されます』

 

 そこまで言って映像が止まり、フェイトが銀時たちへと平坦声で告げる。

 

「今のが今大会のお年玉です」

 

 すると司会進行とは逆に万事屋三人組の態度は急変し始める。

 

「マジでマジでマジで? メンドーなイベだと思ったけどスゲェサプライズきたぞおい!!」

「ぎ、銀さん銀さん銀さん!! コレなんとしてもでも勝つしかありませんよ!!」

「キョッホォォイ!! 優勝は私のモンアルゥゥゥゥウウウウウウウウ!!」

 

 銀時、新八、神楽の血管破裂しそうなほどの興奮具合を見てなのはは少し汗を流す。

 

「さっきまでテンションが低かった皆さんの態度が一変した……」

 

 一方、ノッブは腕を組みながら意外そうな声を出す。

 

「なんじゃ? おぬしらこのイベントの賞品知らなかったのか?」

「ぶっちゃけると、私たちも賞品目的で今回のゲストにお呼ばれしたんですよね」

 

 沖田さんが苦笑いを浮かべて言うと銀時は驚き気味に声を出す。

 

「おいなんだよ。お前ら知ってたのかよ」

「まー、そう言うワケじゃ。悪いが、賞品が賞品だけに遊び半分で済ますつもりはないからの」

 

 と言うノッブの言葉を聞いて銀時は対抗心をメラメラ燃やし始める。

 

「上等だ。こっちも全力でテメェら叩き潰してやるよ」

「覚悟するヨロシ!」

 

 口から涎を垂らしまくる神楽は掌に拳を叩きつけ、一気に勝負熱を燃やし始める彼らを遠巻きに見ているネプ&プリの三人。

 

「あちゃー、こりゃ賞品取るの難しそうかなー」

「いっぱい楽しもうね! ララ!」

「ルン!」

 

 参加選手たちのテンションと気合いが上がってきたところでフェイトが淡々と告げる。

 

「それで、最下位のチームの罰がこちらになります」

 

 すぐさま映像が切り替わり巨大な一文が表示される。

 

『最下位はウ〇コと合☆体』

 

 罰ゲームをチラッと見た銀時はすぐに視線をノッブたちに向き直しながら口にする。

 

「あー、罰ゲームはウン〇とフュージョンね。はいはい。それよりしょう……ひん……」

 

 やがて銀時の言葉尻が弱くなり、油が切れたブリキ人形のように首を動かして再びゆっくりとドでかいディスプレイに表示された一文に目を向ける。

 

『最下位はウ〇コと合☆体』

 

「「「「「…………」」」」」

 

 銀時に続くようにその場にいる全員がディスプレイを見て絶句。

 幾ばくか静寂の後、銀時が声を震わせながら司会進行に告げる。

 

「ふぇ、フェイトちゃァ~ん? 画面の表示がバクってなァ~い? さっきからとんでもねェ一文が見えるんだけど? もォ~、ちゃんと修正してくれなきゃ~」

 

 続いてノッブも声を震わせながら告げる。

 

「そ、そうじゃそうじゃ~……は、初耳じゃし~……さ、さすがにそんな罰ゲームじゃ……ないじゃろ?」

「うんうんうん!!」

 

 ネプテューヌがぶんぶん首を縦に振って相槌を打つが、フェイトは「ううん」と首を横にふる。

 

「画面の通りの罰が執行されます」

 

 司会進行の言葉を聞いてルル以外の全員の目元に影が落ちる。

 そして、

 

「「「「「え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ッ!?」」」」」

 

 とララ以外の全員が噴火したように悲鳴を上げるのだった。

 



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2020年明け 3:賞品を考えるより罰ゲームを考える方が難しい

「「「「「え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ッ!?」」」」」

 

 とララ以外の全員がありったけの叫び声を上げた後、すぐさま阿鼻叫喚の嵐が巻き起こる。

 

「ふざけんゴラァァァァァ!!」

 

 銀時はブーイングを飛ばし、

 

「なんて最低なザ・フライなんだァァァァアアアアアアアアア!!」

「アレになるのは嫌ァァァァァァァ!!」

 

 新八、なのはは涙を流しながら頭を抱え、

 

「「ウゾダドンドコドーンッ!!」」

 

 神楽とネプテューヌはよくわからない悲鳴を上げ、

 

「キラヤバ……くない! 普通にヤバイ!!」

 

 プリキュアのポジティブ主人公なひかるですら事態の深刻さに青い顔を浮かべ頭抱えていた。

 そんな阿鼻叫喚の嵐の中、ララは不思議そうな顔をひかるへと向ける。

 

「ひかる。ちょっと聞いていいかルン?」

「な、なに?」

 

 ひかるは青い顔をしながらも相方の問いに応えようと努めてる。

 

「ばつげーむ、っていうので一体私たちはなにと合体さられるルン?」

「あー、ララ……知らないんだ……」

 

 ひかるはすぐにララが聞こうとしていること察したような表情となり、ララは小首を傾げながら更に問う。

 

「さっきから言ってるウン――」

 

 ひかるは咄嗟にララの口を塞いで言葉を途中で遮り耳打ちする。

 

「あ、あのね……」

 

 ひかるから耳打ちされてウ〇コと一緒に罰ゲームのヤバさを知らされるララ。

 

「オ゙、゙オ゙ヨ゙ッ!?」

 

 ララの顔面は一気に蒼白になり、彼女は信じられないとばかりにひかるの顔を見る。

 

「さ、最下位は……!!」

 

 ララは再びディスプレイの『最下位はウ〇コと合☆体』の文字とひかるの顔を交互に何度も見る。

 

「あ、アレに……!」

「うん……そう……みたい……」

 

 ひかるは頬を引き攣らせながら力なく相槌を打つ。

 事態の深刻さをようやく知ったであろうララの頬は引き攣り、ひかるの頬もまた引き攣っていた。

 しばらくお互いの顔を見合っていた二人は今回の催しの司会進行たるフェイトへと顔を向ける。

 

「ね、ねー……」

「る、ルン……」

 

 プリキュア二名は青い顔をし、声を震わせながらも真顔のフェイトに近づきながら問いかける。

 

「なに?」

「さ、さすがに……あの罰ゲームはダメなんじゃないかなー……と。た、楽しくないんじゃにかなー……と」

「る、ルン……」

 

 張り付いたようなぎこちない笑顔を浮かべるは二人がフェイトへと声を掛ける姿を見た新八と銀時が感心の声を漏らす。

 

「あッ、プリキュア二人がフェイトちゃんにやんわりと抗議を!」

「さすが伝説の戦士! この状況でも即座に立ち向かってやがる!」

 

 ひかるに続いてララがやんわり提案する。

 

「ば、ばつげーむと言う非効率なモノがない方が、も、もっとみんな素直に楽しめて効率的ルン」

「ダメです」

 

 だがフェイトはバッサリ切り捨てララは「お、オヨッ!?」と面食らっており、ひかるがやんわり食い下がる。

 

「そ、そこをなんとかー……罰ゲームはあってもいいけど、せめて正月らしく顔に墨塗るくらいのヤツとかにー……」

「だって、私は今回の大会の司会進行を任されてるだけで特に何かを変える決定権を持ってないから」

「「えッ?」」

 

 ララとひかるは呆けた声を漏らし、フェイトはキッパリ告げる。

 

「悪いけど、私に色々言っても何も覆らないからどうしようもない」

「ル゙ゥ゙ゥ゙ゥ゙ヴヴヴヴヴヴヴヴヴン゙!!」

「ギラ゙ヤバァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!」

 

 望みが絶たれたプリキュア二人は地面に両手両膝を付いて絶望に打ちひしがれる。

 

「プリキュアさんの心が折れたッ!!」

 

 となのはが声を出し、新八は同情を含んだ視線を送る。

 

「わー、プリキュアの二人が本家で絶対出さないような声だしてるよ……」

「うっそだろおい。最下位になったらプリキュア共にもウ〇コ執行すんのかよ……」

 

 銀時が汗を流しながら顔を青くて頬を引き攣らせていると隣の新八が「いや、ウ〇コ執行てなんだよ」とツッコミ入れる。

 

「せ、せめてゲストである私だけは罰ゲームとかは見逃してー……」

 

 するとプリキュアに続くようにネプテューヌがやんわりフェイトに頼み込んでいたのに銀時たちは気付く。

 

「ゲストなんだしさー、ねッ? ねッ? ネプギアのプリン上げるから~」

 

 両手を合わせて抗議ならぬ命乞いと袖下をしている女神(ネプテューヌ)

 そんな姿を見て銀時と新八が頬に青筋を浮かべる。

 

「あの駄女神、自分だけでサラッと助かろうとしてやがる」

「なんて女神様だ」

 

 二人が怒気を含ませた声を出しているとフェイトがキッパリ告げる。

 

「ダメです」

「おっぺけぺェェェェェェェェ!!」

 

 ネプテューヌは両手両膝を付いて絶望する。そんな女神の姿を見た新八とノッブは半分冷めた視線を送る。

 

「ネプテューヌさんに至ってはワケのわからない悲鳴を上げますよ……」

「女神の心も折れたか……」

 

 銀時は「おいおいヤベーよ」と口にしつつ現状を再確認して眉間に皺を寄せる。

 

「ネプはともかく、プリキュアをウ〇コとフュージョンさせるとか、この作品年明けに潰されるんじゃねェの?」

「ちょっと銀ちゃん!! 私はともかくてドユコト!?」

 

 とネプテューヌは頭を上げて反応するが銀時は無視しふと思い付いたようにあることを口にする。

 

「つうかこんなふざけた催しに付き合う必要なくね?」

「そうそう!!」

 

 ネプテューヌも便乗して訴える。

 

「罰ゲームがウ〇コな時点で参加する道理なし!!」

「あの、ネプテューヌちゃん?」と新八。「君自分が女神だって自覚ある? とてもじゃないけど、女神が口にしちゃならない単語思いっきり口にしてるんだけど」

 

 銀時は左の掌に拳をバシッと当てる。

 

「なら今から目指すのはすごろくのゴールじゃなくて主催者の顔面にしようぜ。それで誰が一番早くボコれるのか競う」

 

 銀時は握り拳をゴキゴキ鳴らしながらドスの効いた声を出しつつ提案する。

 

「このクソ大会のクソ司会者をいち早くボコボコにした奴がそのまま高級おせち&100万ゲットってことOK?」

「「オーケー」」

 

 ノッブと沖田さんはそれぞれどっから出したのか火縄銃と刀を取り出して不敵にニヤリと口角を上げる。そんな背の低い戦国魔王と病弱な幕末剣士の姿に新八は即座に待ったを掛ける。

 

「ちょっとお二人共!? 銀さんが言ったこと実行したらあんたら戦国大名でも武士でも英霊でもないただの盗賊なんですけど!?」

 

 指摘されたノッブと沖田さんは軽い口調で言葉を返す。

 

「別に良いじゃろ~、戦国大名なんてどっかの国に攻め込んで領地も資源もぶん捕るのが主な仕事と目的なんじゃし、盗賊や強盗と変わらんて」

「幕府だって市民の血税を搾取する組織ですし~、大して変わりませんて」

「おィィィィィ!! 元有名戦国大名と元幕末剣士がとんでもねェこと口走ったよ!!」

 

 新八は汗を流しながら即座にツッコミ入れる。

 

「あんたら年明けだからって頭緩くなり過ぎにもほどがあんでしょ!!」

 

 新八がツッコム横でなのはが力強く言い放つ。

 

「暴力はダメですけど主催者さんを探すって案には私は賛成です!! いくらなんでも嫌です!! あんな罰ゲーム!! せめてもっと誰も損せず傷つかない罰ゲームに変えてもらいましょう!!」

「それってそもそも罰ゲームなの?」

 

 とネプテューヌが小首を傾げながらサラっとツッコミ入れ、なのはの言葉を聞いたプリキュア組や新八も食い付くように賛同し始める。

 

「賛成賛成!!」

「ルンルン!!」

「なのはちゃんの言う通り!! こんな罰ゲーム用意したクソ野郎にお灸を据えてやりましょう!!」

「フェイトちゃん!! 主催者さんの居場所知ってる!?」

 

 となのはが食い付くようにフェイトに問い詰めると、金髪ツインテールの少女は真顔で告げる。

 

「知りません」

 

 新八がフェイトの冷たい態度に汗を流す。

 

「って言うかフェイトちゃん、なんでさっきからそんなに他人行儀なの? 司会進行だからなの? 本編色々アレだからなの?」

 

 銀時はため息を吐きながらやれやれと言った感じで告げる。

 

「なのは、ぱっつぁん。そいつに聞いても時間の無駄そうだ。俺たちで勝手に探した方が手っ取り早い」

 

 すると沖田さんが「あッ」と声を出して上空を指さす。

 

「あのデッカイ画面から新しい文字が表示されてますよ」

「ん?」

「えッ?」

 

 銀時と新八が声を漏らし、その場にいる全員の視線がいつの間にか新たな文字が表示されている空中のディスプレイに注がれる。

 

『ゲームが始まらない限り、食べ物すらまともに出ないのであしからず。それでも探したいのなら飲まず食わずで探すがいい(笑)』

「「「「「…………」」」」」

 

 銀時、新八、なのは、ネプテューヌ、ひかる、ララの六人の頬にブチっと青筋が浮かぶ。

 そしてノッブが呆れ半分、諦め半分の声で告げる。

 

「こりゃ、何がなんでもわしらにゲームをさせてたいらしいな」

「「「だァァァチクショォォオオオオオオオオオオオオオオオオ!!」」」

 

 銀時と新八とネプテューヌは怒りと悔しさのあまりシャウトし、

 

「ちゃんとした年末年始をやりたいよォォォォォォ!!」

 

 なのはは前回の年末年始の特別回同様に酷い状況に涙を流し、

 

「「…………」」

 

 ひかるとララの口からは半透明な丸っこい物が飛び出そうとしていた。それぞれ半透明な物から「キラヤバー」とか「オヨー」と言った声を出している。

 そんなプリキュア組の姿を見て新八は声を出す。

 

「うわッ、プリキュア二人組の口からなんか出てる!? やっぱこういうノリとか慣れてないから拒否反応尋常じゃない!!」

 

 そしてまた空中のウィンドウの文字が変化する。

 

『諦めてウ〇コになる運命を受け入れてとっとゲームを始めるのだな(笑)』

 

「おィィィィィ!! マジでなんなんだよこの大会の主催者!!」

 

 銀時は顔中に青筋を浮かべながら拳を握りしめる。

 

「本気でぶっ殺してェくらいウゼェよチクショォーッ!! つうかウン〇になんのは最下位だろうが!!」

 

 怒鳴り散らす銀時とは対照的にノッブと沖田さんは慌てず騒がず、

 

「しかし……う、う〇ことふゅーじょんか……ブフッ……」

「いやー……しょ、正月なのに、た、大変ですね……ブッ……!」

 

 笑うの堪え切れないのか噴き出して顔を背けたり口元を手で抑えたりしていた。

 

「テメェら笑ってんじゃねェコノヤロー!! おめェらも他人事じゃねェだろうが!!」

 

 銀時の怒鳴り声に対してノッブは余裕の表情で言葉を返す。

 

「バカだの~。わしと沖田はゲストなんじゃぞ?」

「いやさっき、ゲストたるネプ子さんがバッサリ切り捨てられてたの見たでしょ?」

 

 新八が呆れた表情で指摘するがノッブの余裕の態度は崩れない。

 

「フッ、なにを言うか。あんな駄女神とわしらじゃ格というものが違う。それこそ、二流芸能人と一流芸能人くらいな。なにせわしらはあのFGOのゲスト。子供向けアニメと大して話題にならんゲームなんぞとは格が違うのじゃよ格が」

「あんた調子こいてめっちゃ色んなとこに無用な喧嘩売ってません?」と新八。

「言ってしまえば私たちはG〇KUT……汚れキャラとは格が違うのです!」

 

 沖田さんは親指と人差し指と中指を立ててシャキンと決めポーズする。

 

「今年のGA〇UT二流どころか三流になったぞ」

 

 と銀時がサラッと告げる。

 ノッブは自分は関係ないと言わんばかりの口調で右手をプラプラ振る。

 

「兎にも角にも、ビックゲストであるわしらまでウ〇コ合体させられるワケなかろ~」

「ちょッ、信長さん!! あんたさっきからウ〇コウ〇コ言い過ぎでしょ!!」

 

 と新八は驚きつつ苦言を呈する。

 

「あんた自分がどこから来たゲストだか自覚してますか!?」

「私たちはゲストとして後ろの方から観戦させてもらいますね~。誰がウ〇コになるか楽しみに見届けておきますから~」

「ちょっとォッ! 沖田さんまでウ〇コってハッキリ口にしちゃったよッ!! つうか性格わっる!!」

 

 と新八は焦り声を上げ、呑気なぐだぐだコンビに対して汗を流す。

 

「つうかあんたらホントにFateの人気キャラって自覚あんの!?」

 

 一方、超次元、リリカル、プリキュアのキャラたちは涙を流しながら恨めしそうな声を漏らす。

 

「この世は理不尽だ……」

「なの……」

「キラヤバ……」

「ルン……」

 

 そして自称ビックゲストノッブは余裕の態度で背を向け軽く手を上げて歩き出そうとする。

 

「フハハハッ!! それでは下々の賑やかし共はせいぜい頑張ることじゃなァ~ッ!! ワシと沖田は楽しく観戦――」

 

 するとノッブの言葉を遮るように司会進行がぐだぐだ組に冷たく告げる。

 

「敢えて言いますけど、あなたたちもゲームには参加してもらいます。辞退したらさっき言った通り強制合体です」

「「え゛ッ!?」」

 

 ぐだぐだ組の表情が固まり、ノッブは声を震わせながらフェイトに声を掛ける。

 

「……も、もし……ま、負けたら……?」

「もちろん罰ゲーム執行です」

 

 容赦なく告げられた言葉になおも食い下がるように沖田さんが確認する。

 

「う、ウ〇コと……が、合体……すると?」

 

 フェイトは無言で頷く。

 

「「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あッ!!」」

 

 ぐだぐだコンビはこの世の終わりような声を出しながら両手両膝をついて嘆き悲しむ。

 

「なんという無慈悲で悪質な主催者じゃァァァァ!! わしらをどこのゲストと心得る!!」

 

 ノッブは何度も拳で地面を叩き、

 

「人類悪めェェェェェェェェ!! ゴフッ!!」

 

 沖田さんはショックのあまり凄まじい量の吐血していた。

 一方、さっきまで調子乗っていたFateゲストに対する他の面々の視線は冷ややかなものであり、代表するように銀時が冷たく言い放つ。

 

「むしろプリキュア以上に汚れ役似合うキャラの癖してよくあそこまで余裕ぶっこいていられたな」

 

 とりあえず、フェイト以外のこの場にいる全員が危険な状態と言う状況は変わらず、話は進んでいく。

 

「つうかヤバイですよ銀さんコレ!! 本気でゲームに挑まないと!!」

 

 と新八が焦りの声を出すと銀時は吐き捨てるように言い放つ。

 

「そもそも辞退するべきだろこんなクソすごろく!!」

「クソだけにな!」

「ノッブは黙りやがってください!!」

 

 沖田さんが怒鳴り声を上げ、銀時は右手をぶんと振りながら皆を先導する。

 

「とっとこっから抜け出すぞ!! こんなハイリスクなゲームやってられるか!!」

「そうだ!! そうだ!! こんなところにいられるか!! 私は超次元に戻るぞ!!」

 

 とネプテューヌも拳を何度も振り上げ賛同し、ララも右手をビシッと上げて賛同の意を示す。

 

「サマーン星に帰ルン!!」

「帰ルン?」となのは。

「地球に帰ルン!!」

「星奈ちゃん!? 相方の口癖移っちゃってるよ!?」

 

 と新八がツッコミ入れ、

 

「「実家(FGO)に帰らせていただきます!!」」

 

 ノッブ&沖田さんもとっとと撤退しようとする。

 だが、

 

「辞退したら強制合体らしいですけど、良いんですか?」

 

 フェイトがサラッと告げた言葉を聞いて逃げようとしていた銀時たちの足がピタリと止まる。やがて振り向いて、

 

「「「「「やってやろうじゃねェかコノヤロォォォォォォ!!」」」」」

 

 涙を流しながら銀時、新八、神楽、ネプテューヌ、ノッブと沖田さんはヤケクソ気味に叫ぶ。一方ひかるとララとなのはは顔を両手で覆って嘆いていた。

 

「年明けそうそうなんでこんなことに……」

「ルン……」

「ぁぁぁぁ…………!!」

 

 そしてウィンドウに新たな文字が表示される。

 

『そもそもゲームが終わらないとこの空間から一生出られんから(笑)』

「「「「「テメェはいつかぶっ殺すッ!!」」」」」

 

 顔面青筋まみれの銀時、新八、ネプテューヌ、ノッブ、沖田さんはウィンドウに指を付きつけながらまだ見ぬ主催者に対する殺意を高めていくのだった。

 一方、少し冷静な新八はあることを思い出して銀時に慌てて言いだす。

 

「つ、つうか銀さん!! ゲーム始めるにしても僕らルール説明全然聞いてませんでしたよね!?」

「うわッ! そうだ!! ヤバイ!! 出だしから躓くワケにいかねェぞコレ!!」

「フェイトちゃんにすぐにルールの確認を!!」

 

 と新八が言うがフェイトはマイペースに告げる。

 

「それでは、ゲームを始めます」

「フェイトちゃァァァァァァん!! ちょっと待ってッ!!」

 

 と今度は銀時は慌てながらすぐさまフェイトに待ったをかけて両手を合わせながら詰め寄る。

 

「やっぱお願い!! もう一回説明して!! 一からちゃんと説明して!! 戦略立てたいから!!」

「もう一回説明するのは疲れるし、あと早く終わらせ……進めたいので主なルールはゲームの進行で必要な時に説明します」

 

 疲れたように告げるフェイトに対して銀時は青い顔してギョッとしながらも食い下がる。

 

「フェイトちゃァん!? ちょっと年末明けだからって無気力過ぎない!? 本編も色々とアレだからってやる気なさすぎない!? 俺たちウ〇コになるかどうかの瀬戸際なんだけど!? 少しくらい優しさを見せてくれても――!!」

「さっさと初めてさっさと終わらせて」

「フェイトちゃァァァん!? 本編が色々とあって理由が色々あってアレだからって優しさ無さ過ぎない!? 無慈悲過ぎない!? 冷た過ぎない!?」

 

 フェイトはメンドクサそうにフリップボードに挟んだ紙を眺めながら冷めた眼差しで告げる。

 

「そもそもこのゲームの基本てサイコロの数に合わせて進んでいくだけだから戦略もなにもないと思うけど……」

「じゃあ最初からそう言えよ!!」

 

 と銀時は怒鳴り、新八とは諦めたような感じで告げる。

 

「まー……基本はすごろくと同じってことですね……運任せの……」

「運で私たちはウ〇コにされるかどうか決まるんですね……運だけに……」

 

 沖田さんは腕と頭を垂らしながら悲し気な声を漏らし、

 

「正月の盛り上がる遊びがこんな凄惨なモノになるとは……」

 

 ノッブは達観したように顔を上へと向けている。

 一方ララは「すごろくってどんなルールン?」と相方のひかるに聞いていた。ひかるは「ルールン? ……えっとね……」と説明をしている。

 フェイトはフリップボードの紙を眺めながら説明を続ける。

 

「ゲームを進めている途中で説明が必要な時はちゃんと教えるから。基本ルール以外はゲームを進めながら順々に説明した方が銀時たちも分かると思うよ」

「まー、おめェの言いたいことはわかった。とりあえず、ちゃんと司会進行やってくれよ……」

 

 と銀時が疲れたように告げ、フェイトはフリップボードを眺めながら空いてる手を前に出して参加者たち筒状の物を差し出す。

 

「それじゃまず初めにチーム分けをします。『コレ』から一本の棒を取って下さい」

 

 フェイトが説明しながら出したのは八本の細い白い棒が入った筒状の物だった。つうか筒だった。

 

「大掛かりな割にチーム分けの仕方はしょっぱなおい」

 

 と銀時が言う。

 ようは簡単に説明するとくじ引きによるチーム分けである。

 近づきつつ筒に入った棒をマジマジと見る全員にフェイトが説明する。

 

「一人一本引いて、棒の先が同じ色の人同士でチームを組んで下さい」

「アレ? その棒、八本しかなくない?」

 

 と新八が不思議そうに小首を傾げ、周りの人数を確認する。

 

「……僕を含めて……九人いるんだけど? 棒の数が足りなくない?」

 

 指摘に対してフェイトがすかさず説明する。

 

「プリキュアの二人は別れずに一人分としてチーム分けに参加してもらいます」

 

 説明を聞いて銀時が腕を組みつつうんうんと頷く。

 

「なるほど。二人はプリキュアだしな」

「いやそれ初代ですからね?」

 

 と新八がツッコミ入れるとノッブが腕を組んで小首を傾げる。

 

「いやなんか最近もそんなこと言ってた奴らおらんかったか?」

 

 すると沖田さんが人差し指を立てながら思い出したように呟く。

 

「あ~、なのはがプリキュアだった時の」

「え゛ッ!?」

 

 と驚きの声を上げるなのはに新八が「いやハグッと、って言うか中の人の話ね?」と言う。するとフェイトは少し腕を前へと出してカランカランと棒を鳴らしながら告げる。

 

「チーム分けの説明は以上なので、くじを引いて下さい」

「あッ、はい」

 

 と新八は律儀に返事をしながら棒に手を掛ける。

 新八が棒を引くと続くようにおずおずとなのはも引き、次に神楽も独り言を言いながら引く。

 

「運悪そうなオチ枠ぱっつぁん以外なら誰でも良いアル」

「だとコラテメェッ!! 今回だけはオチにされるのだけは死んでもゴメンだからなッ!!」

 

 新八が怒鳴る間に沖田さんも引き、続いてネプテューヌが目を瞑って祈りながら棒を引く。

 

「どうかぱっつぁんとだけは組みませんように!!」

「駄女神テメェもかッ!!」

 

 と新八がまた怒鳴り、二人は一人のプリキュア組は代表してひかるが引く。

 そして残った銀時とノッブも互いに牽制しつつ残った棒に手を伸ばす。

 

「言っとくがな、俺はゲストだからって容赦しねェからな? ウ〇コ回避するついでに優勝してやるよ。テメェをウ〇コにしてでも俺は生き残ってやるよ」

「上等じゃ。わしとてウン〇を回避しつつ、貴様をウ〇コに蹴落としてくれるわ。いくら主人公とは言え容赦せんぞ」

「わー、もう当たり前のようにFateの人気キャラの一人がウ〇コウン〇言ってるよ……」

 

 と新八が呆れつつ声を出す。

 そしてそれぞれが同じ色の棒を確認しつつチーム分けは決まり、

 

「よろしくアル、オッキー」

「オッキーですか、うちにオッキーってあだ名の人いるから被っちゃうんですよねー……」

「じゃあソッジーネ」

「ソッジー!?」

 

 幕末剣士&チャイナ娘、

 

「よろしく、なのはちゃん」

「よろしくルン」

「よろしくお願いします」

 

 プリキュアコンビ&魔法少女、

 

「……ハァー……私はこれから女神からウ〇コに転職かー……」

「ちょっとォ!! なんで僕とチーム組んだだけでもう負けたみたいなリアクションしてんの!!」

 

 女神&眼鏡。

 そして……、

 

「「…………」」

 

 銀時とノッブはお互いに持つ先っぽの色が〝同じ〟棒を見る。

 

 ※天パ&魔王

 

 銀時とノッブはお互いの手をギュッと握り合う。

 

「ノッブ! 俺たちはズッ友だよな!」

「その通り! わしらはなまかじゃ!」

 

 そんなさきほどとは掌180度変えた二人に他の面々は冷めた眼差しを向け、沖田さんは抑揚のない声で告げる。

 

「ノッブ……随分前に流行った言葉もってきましたね」

「反応するとこそこ!?」

 

 と新八がツッコミ入れる。

 

 そんなこんなで地獄のすごろく大会は始まるのだった。

 

 



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2020年明け 4:ゲームのルール

 なんやかんやで地獄のすごろく大会は進んでいき、

 

「「「「最初はグー! じゃんけんぽん!」」」」

 

 それぞれのチームの代表者(銀時、沖田さん、ひかる、ネプテューヌ)が順番決めの為のじゃんけんを始めていた。

 そして順番が決まると空中の巨大なウィンドウに一番手のチーム名が表示される。

 

『一番目、銀時&ノッブ――チーム銀ノッブ』

 

「売れないお笑いコンビみてェな名前だな……」

 

 と銀時がボソッと呟き、ダンボール箱並みに大きなサイコロを両手に持ったフェイトが銀時とノッブの元までやって来る。

 

「それじゃ、このサイコロを振って下さい」

「へいへい」

 

 ぶっきらぼうに返事をしながら銀時はフェイトからサイコロを受け取るとノッブが待ったをかける。

 

「待て銀時。お主は見るからに幸うすそうじゃ。ここワシが投げよう」

「待て待てノッブ」

 

 と銀時は右手を前に出して反論する。

 

「一応こんなふざけたイベントでもだ、やっぱスタートの口火を切るべきは主人公である俺だろ。だから俺がサイコロ振るから」

「いやいや。わしが振る。ゲストであるわしが振ってこそ、特別回にふさわしいじゃろ」

 

 だがノッブは食い下がり銀時が両手で持っているサイコロを掴む。

 中々サイコロ振らない二人を見ている新八は声を掛ける。

 

「あの……どっちでも良いから早く始めてくれません? もう正月大分過ぎてバレンタイン来ちゃってるんですし、とっとと初めてとっとと終わらせましょうよ」

 

 メタイ発言しながら進行をやんわり進言する新八の言葉など二人には耳に届かず口論は続いて行く。

 銀時がまたズイッとサイコロを自分の方へと引っ張る。

 

「いいから、俺がやるって。俺これでも最近パチンコで大当たり引いたから。任せろって」

「いやわし幸運Bくらいあるから。下手したらA-くらいあるから。わしに任せろって」

 

 やがてどんどん二人の腕に力が入り、顔に血管浮き始める。

 

「俺にやらせろ。俺が投げる。他人に自分の運命任せてらんねェんだよ」

「わしやる。わしが投げる。自分の運命は自分で切り開く」

 

 おれ、わし、おれ、わし、おれ! わし! おれッ! わしッ! と言い合いながらお互いにサイコロを引っ張り合う腕に力が入り始め、ついに。

 

「俺がやるっつんだろうがァッ!! いい加減離せやチビ魔王ォーッ!!」

「わしがやると言っておろうがァ!! いい加減譲渡せいこのダメ天パァーッ!!」

「おィィィィ!! 喧嘩してねェでいい加減さっさと始めろ!! この凸凹グダグダコンビ!!」

 

 と新八がツッコミ入れるが頭に血の上った二人の口論はヒートアップする。

 

「つうか信長っていやァ天下一歩手前で本能寺で部下に裏切られた幸うす武将って俺でも知ってんだよ!! そんな奴に任せられるかァ!! 一回自分の半生見直せ!! そしてしくじり先生に出てこい!!」

「本能寺のアレは運とかそう言うのではないんじゃアホォがッ!! むしろわしは桶狭間の無茶ぶり成功させたラッキー武将なんじゃぞ!! 一から日本史勉強し直してこいてこい!! そしてセンター試験受けてこい!!」

「「「「「…………」」」」」

 

 フェイト含め、その場にいる全員がイベントの進行を無意識に遅らせる銀ノッブにジト目を向けていた。

 それから数分、サイコロ引っ張り合いながら一向にどちらがサイコロを振るか決まらないので……。

 

「……では、当初の予定通りつつがなく進行させる為、必ずチーム内の一人がサイコロを振るように順番に回して下さい。順番決めは……メンドーなのでじゃんけんで」

 

 と言うフェイト司会進行の言葉を受けてまた「じゃんけんぽん!」をした銀時とノッブ。それにより、最初に銀時がサイコロを振り、次にサイコロを振るのがノッブと言う感じで銀ノッブのサイコロを振る順番は決まった。

 そんなこんなで、ようやくチーム銀ノッブがサイコロを振ることになる。

 銀時が両手に持ったサイコロを振ろうと構えを取ると後ろのノッブが腕を組みながら声音を低くして告げる。

 

「おい銀時。とにかく1はダメじゃ。せめて1は避けろ」

「お前どんだけ俺に運がねェと思ってんだ」

 

 銀時は頬に青筋を浮かべつつサイコロを振ろうと手を動かす。

 

「それと……」

 

 とフェイトが何か言おうするのだが銀時は「えッ?」と反応はして振り向くものの、サイコロは既に彼の手を離れて地面を転がる。すると軽快な音楽と共に『なにがでるかな?』と言葉が何度も繰り返される。

 

「おィィィ!! ごきげんようかよ!!」

「フッ……」

 

 ツッコム銀時の後ろでノッブが鼻でつい吹いてしまうと、

 

『ノッブ アウト。

銀ノッブ:9ポイント』

 

 と言うアナウンスが流れ、ノッブと銀時は周りを見渡しながら戸惑いの声を出す。

 

「えッ? なんじゃ?」

「えッ? なに? ガキ使?」

 

 チーム銀ノッブと同様に突然のアナウンスに困惑する参加者たちのうち、なのはがあることに気付いて空中の巨大ディスプレイを指さす。

 

「あッ、さっきのアナウンスの通りの文字が大きなテレビにも!」

 

 なのはの言う通り、空中にある巨大なディスプレイにも『ノッブ アウトー。銀ノッブ9ポイント』と言う文字が表示されている。

 全員の視線がディスプレイへと向き、ノッブと銀時は嫌な予感を感じてかいの一番に顔をしかめ始めている。

 突然の展開に困惑する面々をよそに真顔のフェイトがクリップボードを見ながら説明を始める。

 

「えぇ……この大会は笑ってはいけません。もし笑った場合はそのチームのポイントが1引かれます」

 

 説明する司会者に反射的に顔を向ける参加者たち。そして開始早々ルールの餌食となった銀時とノッブは困惑と不満が入り混じった表情を浮かべる。

 

「いやポイントってなんだよ……」

「つうかそう言うのって最初に説明して欲しいんじゃが……」

「さっき説明しようとしたんだけど……」

 

 と言うフェイトの言葉を聞いて銀時は「あー、そう言えばなんか言おうとしてたな……」と思い出し、ノッブは「お主せっかちすぎじゃ」と苦言を呈していた。

 司会進行(フェイト)は更に説明する。

 

「それぞれのチームには持ち点が10ポイント与えられており、笑う度に1ポイント引かれます。5秒以上笑ってしまった場合は更に1ポイント引かれます。しかし……」

 

 フェイトは銀時とノッブに黒い棒を渡す。

 

「5秒以上笑ってから20秒以内に相方のお尻か頭を叩けばポイントは引かれません」

「マジで半分ガキ使じゃねェか!!」

 

 と銀時は黒い棒を手に持ちながら声を上げ、フェイトは構わず次にベルトを渡す。ベルトの横には棒状の物を入れるための輪っかが付いている。

 

「こちらは棒携帯用のベルトです」

 

 ノッブは受け取った黒い棒を指さしながらある指摘をする。

 

「つうか二人共笑ってたらケツだろうが頭だろうがシバけんじゃろ」

「チーム全員が笑った場合は2ポイント差し引かれるだけで済みます。その場合は5秒以上笑っていても大丈夫ですか、笑い終わって再び笑ったらまたポイントが引かれます。あと、もしお尻か頭を叩かれなくても5秒以上笑わなかったらマイナス1ポイントで済みます」

 

 フェイトの説明を聞いて銀時とノッブあからさまに疲れと嫌々が混ざったような表情を浮かべる。

 

「5秒かー……半端に笑ってても結構ギリギリ笑い続けるかしないかのラインだな……」

「たぶん笑うの我慢しとる場合あるから余裕ないと思うが……20秒か……まー、ギリ余裕あるかの?」

 

 少し柔らかい黒い棒を手で弄びながら言葉を漏らす二人。そしてフェイトは他の面々にも黒い棒とベルトを渡して行く中、新八がおずおずと質問する。

 

「それで……フェイトちゃん。もしポイントが0になったら……なにがあるの?」

「罰ゲームが執行されます」

「ウ〇コになるんですか!?」

 

 と沖田さんが声を上げ、新八は呆れた声を出す。

 

「あんたマジでウ〇コって口にすることに抵抗ありませんね」

 

 沖田さんの疑問に答えるようにフェイトは説明を続ける。

 

「そちらは最下位の人が受ける罰ゲームで、ポイントがゼロになった場合はこちらから――」

 

 フェイトの言葉の途中、待機しているチームの近くにはいつの間にか四脚の机が出現しており、その上には八角形の箱に回す為の取っ手が付いた抽選機――ガラガラがあった。

 フェイトはガラガラに目を配りつつ手を向ける。

 

「1回だけこの抽選機を回してもらい、出てきた玉の数字に合わせた軽い罰ゲームが執行されます。罰ゲームを受け終わった後はまた持ち点が10点になります」

「なるほど……下手すると何回も罰ゲーム受ける羽目になるのか……」

 

 と新八は頷き言い、なのはは汗を流しながら聞く。

 

「ちなみにどんな罰ゲームが執行されるかは……」

 

 フェイトは首を横に振る。

 

「振り出しに戻る、以外は発表できません」

「振り出しに戻るとかあんのかよ!?」

 

 と銀時が驚きの声を上げ、ノッブは慌てて右手を顔の前でぶんぶん振りながら食って掛かる。

 

「いやいやいやいやいやッ!! 今のなしじゃろ!! 今のはないじゃろ!! まだルール説明してないのに!!」

「説明しようとしたのに銀時がすぐ投げてゲームを始めるから――」

 

 とフェイトが答える途中で銀時が空中のディスプレイに顔を向けて祈るように両手を握る。

 

「主催者ッ!! ポイント戻して!! お願い!!」

「お願いッ!!」

 

 さらにノッブが両手を握って祈るように頼み込むが、

 

『ダメ』

 

 主催者は許してくれなかった。

 

「「だァァチクショーッ!!」」

 

 チーム銀ノッブは頭を抱えて嘆き、ノッブは涙を流しながら銀時の胸倉を掴む。

 

「銀時ィ!! 貴様なんてことしてくれたんじゃーッ!! いきなり不利になってしまっただろうがァ!! これが原因でウ〇コにされたらわしは貴様を一生恨んでやるぞッ!!」

 

 背の低いノッブに胸倉掴まれ顔を下にグイッと持っていかれた銀時もノッブの胸倉を掴みながら言い返す。

 

「しょうがねェだろ!! これから笑わなきゃいいだけの話だッ!!」

「貴様が笑おうものならわしが貴様のケツぶっ叩いてやるッ!!」

「上等だゴラッ!! もしテメェがちょっとでも吹いたらケツが割れるくらい全力で振りかぶってやるよ!!」

 

 またおれ! わし! おれッ! わしッ! と言い合いを始めるチーム銀ノッブを見て新八はため息を吐く。

 

「あの二人……仲良いんだか悪いんだか……」

「喧嘩するほど仲が良いって言葉はあるけど……あの二人はどうなんだろ?」

 

 顎に手を当てて小首を傾げるひかるの言葉を聞いてララは腕を組んで感心した言葉を漏らす。

 

「ほーほー、地球にはそんな言葉があるルンかー」

「あるルン?」となのは。

「とりあえず、1マス進みます」

 

 と言うフェイトの言葉を聞いて今の今まで喧嘩していた銀時とノッブは「え゛ッ!?」と驚きの言葉を漏らしてさきほど投げたサイコロに目を向ける。確かに銀時とノッブが投げたサイコロは1を表す記号を空に向けていた。

 

「「あああああああああッ!! よりにもよって1だァァァァァァァッ!!」」

 

 初っ端一番運の悪い出目に銀ノッブは息ピッタリに頭を抱えて絶叫するがイベントは進行していく。

 

「……では、コマが1マス進みます」

 

 クリップボードを見ながら告げるフェイトの言葉を聞いて新八、ひかる、なのは、沖田さんは同時に不思議そうに声を出す。

 

「「「「えッ? コマ?」」」」

 

 四人の声と同時にふりだしの丸いマスが光輝き、何かが水面から浮き出るように現れる。

 出てきたモノは銀色のモジャモジャ髪の上に黒い軍帽を被り、こけしのような円柱の胴体には両腕に見立てているのであろう細い木の棒が真っ直ぐ付いており、そしてその顔はなんとも言えない表情が描かれたコマだった。

 気になった新八はコマの前に回り込んで覗き込み、思わず目を細めて冷めた声を出す。

 

「……このコマ、もろジャスタウェイじゃん。しかも銀さんと信長さんの特徴を入れた」

「それぞれのチームがサイコロを振る度にチーム専用のコマが指定のマスまで移動します」

 

 と言うフェイトの説明を聞いてなのはは即座に戸惑いの声を出す。

 

「じ、自分たちでマスに移動していくんじゃないんだ……」

「もろもろ理由があるので、皆さんにはスタート近くで待機してもらいます」とフェイト。

「コレ……わざわざ床一面こんなデッカイすごろくにしてゲームする意味、あります?」

 

 手を前に組む沖田さんが指摘すると神楽は両手を頭の後ろで組みながら冷めた声を出す。

 

「コマ使うんじゃ、コタツですごろくしてんのと大差ないネ」

 

 そう不満を呟いているうちにコマは1マス進んでいく一方で、

 

「なにをやってるんじゃ銀時ィィィ!! 貴様アレほど1出すなって言っただろうにィ!!」

「仕方ねェだろォーッ!! 時の運なんだよバカヤロォーッ!!」

 

 チーム銀ノッブは幸先の悪さに涙流しながら取っ組み合いしていた。

 もう彼らの喧嘩にも慣れたもんなのか少し離れた位置からただただ見守る参加者たち。やがてジャスタウェイコマ(チーム銀ノッブ仕様)が1マス目に止まる。

 すると、

 

『ミッションマス』

 

 と言うアナウンスが流れればディスプレイにも『ミッションマス』と言う文字が表示される。

 

「えッ?」

「なにアルか?」

「なんだろ?」

「なになに?」

 

 新八、神楽、なのは、ひかるが声を出してお互いの顔を見合わせながら声を漏らし、沖田さんとララはディスプレイに目を向けていた

 そして全員の疑問に答えるようにフェイトが説明をする。

 

「マスにはそれぞれ種類があり、今出てきたミッションマスは文字通りそこに出てきたミッション――つまり提示されたお題をクリアすれば更にマスを進むことができます」

「「マジで!?」」

 

 と銀時とノッブは食い付き、クリップボードを見る司会進行の説明は続いて行く。

 

「詳しいミッション内容はミッションが始まってから説明されます。ミッションに挑戦するかしないかは選べますが、挑戦しない場合はペナルティとしてポイント-4、更には3マス戻ってもらいます」

「うわ、結構ペナルティが重い……」

 

 と新八は顔をしかめて汗を流し、銀時やノッブ、それに他の面々もゲームとして大事な場面と判断してフェイトの説明を真剣に聞いている。

 

「ミッションに失敗した場合、ポイント-1にするか2マス戻るか選んでもらいます」

「基本的には積極的にミッションに挑戦した方がいいみたいですね」

 

 と腕を組みつつ沖田さんが今後の方針を口にしている。

 

「ミッション中棄権もできますがその場合、ペナルティはさきほど言った挑戦しないと同じになります」

 

 フェイトの説明を聞いて銀時はノッブに顔を向ける。

 

「ミッション中の棄権って、失敗とどう違うんだ?」

「いやわからん」

 

 ララが顎に手を当てながら分析し始める。

 

「前の人と同じマスに止まるとしても、結局ミッション受けなきゃペナルティが重いから、あまり後が有利で前が不利って場合も少なそうルン」

「せいぜい前の人が人柱になったお陰で危険回避くらい……ですかね?」

 

 と沖田さんがが言うとノッブはジト目で告げる。

 

「つうかマリパじゃろ。コレ絶対マリパが元ネタじゃろ」

 

 各々がルールの内容について分析や考えを口にしている中、フェイトがいったん言葉を止めるいるので銀時が訝し気に問いかける。

 

「なー、フェイト。さっきみたいに残ってる説明とか、ないの?」

「補足としては、一応ミッションの内容に合わせたタイトルが出るって、とこくらい。今のところ他に説明することはないよ」

「わかっ……た。今度は大丈夫そうだな」

 

 銀時はうんうんと頷きながら同じ轍は踏まないようにし、今度は沖田さんが「あのー……」と言いながら右手を軽く上げる。

 

「たぶん、ミッションマスの他にも色んなマスがあるんですよね? 教えてもらったりとかは……」

「できません」

 

 とフェイトはキッパリ首を振りながら告げ、沖田さんは「ですよねー」と相槌を打つ。

 

「ミッション……あー、キツそ……」

 

 新八はこれから待っている試練に対し既に疲れの色を見せ始めてか頭を下げて顔を左右に振っている。

 

「では、ミッションのタイトルが発表されるので空中のディスプレイを見てください」

 

 フェイトの言葉を聞いてゲーム参加メンバーの視線が巨大ディスプレイに向き、ミッションマスの内容がアナウンスと共に表示される。

 

『アイアンマン』

 

「「「「「…………」」」」」

 

 全員がミッションの題名を見て無言になり、銀時はゆっくりと顔をノッブへと向ける。

 

「……中身わかるか? アレ」

「いやー……いくらわしでもアレだけじゃ予測つかん」

「だよな……」

「とりあえず、受けてみる他なかろう。これ以上ポイントを失うのは後々響く」

「だな」

 

 銀ノッブの相談は終わり、銀時がフェイトに声を掛ける。

 

「フェイト、ミッション受ける」

「わかりました」

 

 とフェイトが返事をすると同時に、スタート地点の近くにさきほどの巨大ジャスタウェイコマ同様に白い両扉が地面から浮き出るように出現。更に扉の前の地面からプシュウーッ!! と勢いよく白い煙が噴き出す。

 

「「「「ッ!?」」」」

 

 大きな音と煙に新八、なのは、ひかる、ララはビックリし、更にはアナウンスが流れだす。

 

『その姿はまさにスーパーヒーロー!! 彼の名は――!!』

 

 アナウンスに合わせるように白煙の奥から人型の影が噴出する煙を飛び越えるように前へと躍り出てる。

 現れ、銀時とノッブの前にスーパーヒーロー着地するのは全身を黄土色の装甲で覆った戦士。

 右膝と左拳を地面に付けた戦士が姿を現すと、アナウンスが勢いよく彼の名を告げる。

 

『ダンボォォォォォル戦士!! アイアンマン!!』

「待たせたな」

 

 顔をグイッと上げるサングラスを掛けた長谷川(マダオ)――額には油性ペンで『鉄』と言う文字が描かれていた。

 

「「「「「ブフッ……!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、アウト。

銀ノッブ:7点』

 

 ダンボール装甲で全身を覆ったマダオのまさかの登場に吹いてしまう各々。神楽、沖田さん、ひかる、ララ、なのはは口をつぐんで笑うの我慢しているようだ。

 名乗りを終えたダンボール戦士が無言でゆっくりと立ち上がると彼の胸には縦書きである名前が刻まれた。

 汚い文字で『アイアソマソ』と……。

 

「「「「「「アハハハハッ!!」」」」」」

「「「フフフ……ッ!!」」」

 

『神楽、沖田さん、ひかる、なのは、ララ、アウト』

 

 結局全チーム笑ってしまった後、半笑いになりながら銀時、ノッブ、沖田さんがツッコミ始める。

 

「いや、ちょッ、待て……! アイアンマンじゃなくてダンボールマンじゃねェか……!」

「あ、アイアンマン名乗ってる割にクソダサ過ぎる……! ダンボールか鉄なのかどっちなんじゃ……!」

「ど、胴体の文字汚いし間違えてるし……ひ、額のアレなんですか……! アイアンマンアピール必死過ぎでしょ……!」

「で、出てきた時のセリフなんてスネークですよ」

 

 と新八が指摘すると、真顔のダンボールマンはなぜか左右にゆっくりと移動する。だが、彼の真顔だけは銀時たちへと依然として向いていた。

 

「「「ブフォフッ!!」」」

 

 更に吹き出し笑うなのは、ひかる、ララは口元を抑え、新八は笑いながらツッコミ入れる。

 

「ちょッ! 止めろ!! シュール過ぎる!」

「あの動きと顔腹立つなー……」

 

 既に笑いが収まっていた銀時がボソッと呟くと新八が慌てて声を掛ける。

 

「つうか長谷川さん!! あんたなにやってんですか!?」

 

 新八の疑問に対し、長谷川の代わりにフェイトが答える。

 

「今回の大会の為の呼ばれた私と同じ仕掛け人(スタッフ)がいるんですが、彼もその一人です」

 

 説明を聞いて沖田さんは達観したような声で告げる。

 

「これだと……私たちの顔見知りも待機してそうですねー……」

 

 ノッブとネプテューヌは疲れたように声を漏らす。

 

「あー、きっとあいつみたいにわしらを笑わせにくるんじゃろうなー……」

「やだなー……」

 

 ようやく長谷川の動きが止まるとフェイトが告げる。

 

「では、ディスプレイにミッション内容が表示されれます」

 

 全員の視線がディスプレイに移る。

 

『ミッション

成功条件:アイアンマンを倒す

失敗条件:アイアンマンに負ける』

 

「「「「「…………」」」」」

 

 やがて全員の視線がダンボール製アイアンマンに注がれる。

 

『ミッション――開始』

 

 合図と同時にシュタッ! とダンボールマンはウルトラマンのようなファイティングポーズを取る。

 

「「…………」」

 

 銀時とノッブはジト目でお互いの顔を見た後、ダンボールマンに顔を向ける。

 

「ゆくぞッ!!」

 

 気合いの掛け声と共にダンボールマンが銀ノッブに挑む。

 次の瞬間には――銀時とノッブはダンボールマンの左右の腕を覆う装甲(ダンボール)を強引に引っぺがそうとしている。

 

「あッ! ちょッ! やめッ!!」

 

 抵抗する長谷川に構わず銀時は左腕のダンボールを引っ張って剥がし、ノッブは右腕のダンボールを剥ぎ取る。

 そのまま銀時は怯む長谷川の脳天を剥がしたダンボールではたき、

 

「あいてッ!?」

 

 次にノッブが長谷川の横顔をダンボールではたく。

 

「いったッ!!」

 

 悲鳴を上げながら叩かれた勢いでグラサンが取れてしまう長谷川は尻もちを付いて倒れる。

 

「…………」

 

 長谷川は叩かれた横顔を抑えながら容赦のない銀時とノッブを見上げ、目を何度もパチクリさせる。

 

「……フフ……」

 

『新八、アウト』

 

「ちょッ……なんですか、あの訴えかけるような物悲しい顔……」

 

 笑いながら新八がツッコンで横で沖田さんは顔を横に背けてなんとか笑わないように我慢している。

 そして新八は5秒以上笑っていると判断されたようで、

 

「テヤァーッ!!」

 

 ネプテューヌがその尻を叩く。

 

「いったッ!!」

 

 痛みを受けてすぐに笑いを止める新八。

 

『ミッション成功:1マス進む』

 

 と言うアナウンスが流れ、ディスプレイにも文字が表示されている。

 戦いを終えた二人にフェイトが近づきながら言葉を告げる。

 

「ミッション成功なので、アナウンス通り1マス進みます」

「うわッ、うま味すくな」

「まー、簡単だったしの」

 

 と銀時とノッブが吐き捨てながらダンボールを捨てると長谷川は落ちたダンボールを拾い上げて立ち上がり、

 

「ゥゥ……チクショォーッ!!」

 

 すぐさま開いた白い両扉の中に逃げ込み、白い扉はバタン! と閉じてしまう。

 そんな長谷川の逃げる姿を見たララとノッブは呆れた声を漏らす。

 

「……なんてカッコ悪いヒーロールン……」

「頭の天辺から足のつま先まで英雄(ヒーロー)とは程遠い奴だったの……」

 

 そんなこんなで銀ノッブのコマは一つ進み、フェイトが説明する。

 

「このような感じでゲームは進行していきます」

「まー、大体わかったよ」

 

 と新八が相槌を打つと、フェイトは新八たちの少し後ろに手を向ける。

 

「みなさん、立ちっぱなしは疲れると思うので休むための椅子を用意してあります」

 

 フェイトが手を向けた先には小学校の木と鉄パイプで構成された椅子が人数分用意されていた。

 

「うわー、ミスマッチだなー……」

 

 各々は少々戸惑いながら椅子に座ろうとするのだが、

 

「うわッ! 冷たッ!!」

 

 一番に座った新八が思わず声を上げて飛び上がる。

 

『※冬の風物詩、超冷たい学校椅子』

 

「うわー、ビックリしたー……」

「あー、冬あるあるだねー」

 

 プリキュアであり現役中学のひかるがうんうんと相槌を打つと何枚も座布団を持ったフェイトが全員に座布団を手渡していく。

 

「椅子が冷たくなっていると思うのでこの座布団を使って下さい」

「座る前に渡して欲しいんだけど……」

 

 と新八が呆れ声で座布団を受け取り、ノッブと銀時と沖田さんも疲れを帯びた声で座布団を受け取る。

 

「こんなビックリ要素もところかしこに用意されてそうじゃな……」

「マジでガキ使要素てんこ盛りだな……」

「このまま半分バラエティ状態で進んでくんですね……」

 

 座布団を受け取った神楽とネプテューヌは感心したような声を出す。

 

「おー、この座布団中々良さげアル。見てみるネ」

「うんうん。センスいいじゃん」

 

 と二人が座布団の表面を見せれば、『番傘を構えた神楽』と『女神姿で剣を構えたパープルハート姿のネプテューヌ』が描かれていた。

 

『※参加者専用イラスト付き座布団』

 

 どう? カッコよくね? 的な顔で自身のキャラクタークッションを見せつけてくる神楽とネプテューヌを見て銀時は再び渡された座布団を冷めた目で見る。

 

「あー、なるほど……」

 

 続くように銀時が座布団の表面を見せれば、『銀時が木刀を肩に掛けてポーズを決める絵』がプリントされている。

 すると他の面々もお互いの顔を見ながら複雑な表情で座布団を見せていく。

 

 ノッブは火縄銃を両手に持って構えながら不敵な笑みを浮かべる姿、

 沖田さんは剣の突きを構える姿、

 なのははバリアジェケット姿でレイジングハートを構える姿、

 ひかるとララはそれぞれプリキュアに変身した状態で構えを取る姿、

 

 と言った具合にそれぞれの決めポーズが表面に描かれた座布団であった。

 ノッブと沖田さんは改めて自身がプリントされた座布団を見て少々複雑そうな顔を浮かべる。

 

「いやさすがにちょいはずいのー……」

「ホント小ネタ色々仕込んできますね……」

 

 なのは、ララに至っては普通に恥ずかしそうに顔を赤らめており、ひかるはチームメイトの様子を見て苦笑いを浮かべている。

 

「あのー……僕だけおかしいんですけど?」

 

 新八が見せた座布団の表面には〝眼鏡しか〟描かれてなかった。

 

『※新八だけ眼鏡プリント座布団』

 

 それを見た銀時と神楽はお互いの顔を見てから言う。

 

「いや、特に問題なくね?」

「そうアル」

「いやちょっとは疑問持てよ!! あとちょっとは笑えよ!! ネタで弄られてんだから!!」

 

 しかし新八の訴えとは裏腹にこの場で誰も笑う者はいなかった。

 万事屋の毒舌コンビは平然とした顔で告げる。

 

「当たり前のこと笑えって言われてもなー」

「そうそう」

「ネタとしてはパンチが弱いしの」

 

 とFate側のノッブまで便乗する。

 

「おいコラ好き勝手言いやがってテメェら!!」

 

 新八が拳を握りしめているとなのはとララが怒れる青年をなだめようと声を掛ける。

 

「ま、まーまー」

「お、落ち着くルン」

 

 そんなこんなで座布団引いて学校机に座る参加者たち。

 次の組である新八とネプテューヌのチームはサイコロを振る準備に入っている。

 

『二番目、志村新八&ネプテューヌ。チーム名――メガメガ。現在ポイント7』

 

「うわー、しっかり笑った分引かれてるんだ……」

 

 アナウンスを聞いて新八が少し嫌そうな顔をしながら呟き、沖田さんが腕を組みながら分析し出す。

 

「どうやら、名前が発表されると現在のポイントも発表されるみたいですね……」

 

 一方、銀時とノッブは座りながら平坦声でコメントする。

 

「眼鏡と女神……ね」

「まー、オーソドックスじゃな」

 

 後ろからの声に反応して新八は振り向き、待機席の天パ&魔王を見て眉間に皺を寄せる。

 

「あいつらどこのベテラン芸能人だ?」

 

 大会のルールの説明も一通り終わったことにより、ついにすごろく大会が本格的に始まった。

 

 

 

 サイコロを拾ったネプテューヌは両手で強く握りしめながら念じるように呟く。

 

「とりあえず、まずはこの女神たる私がサイコロを振りましょう。運が裸足で逃げだしそうな眼鏡が相方である以上、女神である私が最初に高い数字で歩数を稼いでおかなくては」

「なんで組んだだけこんなにディスられないきゃならないの? 僕」

 

 女神の後ろで新八が不満を呟くとネプテューヌが両手に持ったサイコロを投げる。

 

「よっ……」

 

 軽くサイコロを投げるネプテューヌ。

 サイコロはコロコロと転がり、出た目は……1。

 

「「「「フッ……!」」」」

「「「フフ……!」」」

 

『銀時、なのは、ひかる、ララ、アウト。

銀ノッブ:6ポイント』

 

「ちょっとネプテューヌちゃァーん!!」

 

 とチームの相方である新八がすぐさま文句を言う。

 

「君女神でしょォ!? なんで初っ端から一番出しちゃダメな数字出してんの!! 今さっき人のことボロクソ言っといて!! せめて3くらいは出そうよ!!」

「知りませ~ん! 私は幸運の女神じゃなくてプラネテューヌの女神ですゥ!! サイコロの数字の出目なんて保障できませ~ん!!」

「開き直んじゃねェ!! 腹立つなコノヤローッ!!」

「それに相方が悪運新だったからこんな出の悪い目が出たのかもしれないでしょー!」

「悪運新って誰だコラァ!! ワザとか!! ワザと神を新にしたのか!! そして新ってアレか!? 新八の新から取ったのかおい!!」

「ツッコミがくどい!!」

 

 などと新八とネプテューヌが喧嘩している間にスタートのマスからチームメガメガのコマが出現する。

 頭の髪型と髪飾りはネプテューヌ、そしてなんとも言えない顔には新八と同じ型の眼鏡が掛けられていた。

 新たなコマに出現に一番に反応するのは銀時と沖田さん。

 

「おー、出てきた出てきた」

「やっぱりチームに合わせて特徴作ってるんですね」

 

 兎にも角にも1コマ進み、チームメガメガのコマはチーム銀ノッブのコマの横に並び立つ。

 そしてチーム銀ノッブの時と同じ、ディスプレイに文字が表示される。

 

『ミッションマス――アイアンマン』

 

 ディスプレイに文字が表示されると同時にアナウンスがされ、さきほどと同じように白い両扉の前の地面からプシュウーッ!! と勢いよく白い煙が噴き出す。そしてテンションの高いアナウンスが流れだす。

 

『その姿はまさにスーパーヒーロー!!』

 

「一回やったんだからもういいでしょうに……」

 

 大人しくスーパーヒーローの登場を待っている新八は冷めた声を漏らすが、アナウンスは続く。

 

『彼の名は――!!』

 

 アナウンスに合わせるように白煙の奥から人型の影が吹きだす煙をかき分け飛び出すように前へと躍り出てる。

 現れ、新八とネプテューヌの前にスーパーヒーロー着地するのは全身を黄土色の装甲で覆った戦士。

 右膝と左拳を地面に付けた黄土色の戦士の名をアナウンスが再び勢いよく彼の名を告げる。

 

『ダンボォォォォォル戦士!! アイアンマン!!』

「待たせたな」

 

 顔をグイッと上げるサングラスを掛けた長谷川(マダオ)――額には油性ペンで『鉄』と言う文字が描かれていた。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 二度目のダンボールマンの登場を無言で見る一同。ちなみにだが、剥がされた両腕のダンボール装甲は補修されまた腕に取り付けられている。

 長谷川ダンボールマンがゆっくり立ち上がり、その横姿を座って見ていた銀時は笑い声を我慢してか声を震わせながら他の面々に声を掛ける。

 

「は、剥がされた腕の装甲……テープで補強してあんぞ」

 

『※ダンボール戦士の装甲補修はセロハンテープ』

 

「だ、ダンボールなんだからガムテープ使えば良かろうに……」

 

 ノップも笑うの我慢しながらコメントする。

 他の面々も雑にテープで補強したダンボールマンの腕を見て顔を少し逸らしたりとちょっと笑いそうになっている。

 ダンボールマンが二三歩と歩くとボトッ、と両腕のダンボール装甲が地面に落ちる。

 

「あッ……」

 

 と長谷川が声を漏らす。どうやら粘着力が足りなかったらしい。

 

「「「フフフッ……!!」」」

「「「「ハハハッ……!!」」」」

「アハハハハハッ!!」

 

『銀時、ノッブ、沖田さん、なのは、ひかる、ララ、ネプテューヌ、アウト。

銀ノッブ:4ポイント

メガメガ:6ポイント』

 

 銀時とノッブは笑いながらツッコミ入れる。

 

「〝あ〟じゃねェだろ〝あ〟じゃ……!」

「わ、分かるじゃろすぐに落ちるくらい……!」

 

 新八がベルトの差し入れ口から棒を即座に引き抜き相方のケツをシバく。

 

「おりゃァ!!」

「いったァーッ!!」

 

 ネプテューヌが悲鳴を上げている一方で「肛門食いしばれ!」と言って神楽も沖田を椅子から立たせてケツを叩こうとしている。

 

「ちょちょちょッ!! 私5秒以上も笑ってないと思います!! 笑って――!!」

「セイヤァァァァァーッ!!」

「あ゙い゙だッァァァァァァーッ!」

 

 神楽のバカ力で尻を叩かれた沖田さんは悲鳴を上げ、お尻を抑えながらながらぴょんぴょん跳ね回る。

 

「ブフフォッ……!!」

 

『ノッブ、アウト。

銀ノッブ:3ポイント』

 

 沖田さんが痛がる姿を見て吹きだすノッブの脳天に銀時がすかさず棒を叩きつける。

 

「無駄に笑ってんじゃねェーッ!!」

「いったァーッ!!」

 

 尻を叩かれたネプテューヌは涙目になりながら尻を抑えつつ新八に抗議する。

 

「新八ィィ!! プリチーな女神様のお尻をあんな強く叩くことないでしょ!!」

「自分でプリチーとか言うんじゃねェよ!!」と新八。「つうか叩かねェとポイント減るんだからしょうがないでしょ!! 5秒以上笑ってたし!! あと言っとくが僕は君みたいな駄女神にはなんの遠慮もしません!!」

「にゃにをォーッ!!」

 

 とチームメガメガが口論している途中でチーム銀ノッブは慌て出す。

 

「おィィィィ!! どうすんだァァァァ!! いきなり罰ゲームに王手掛かってんじゃねェか!!」

「す、すまん!! いやしかし……沖田のリアクションマジおもろくてな、反射的に吹いてしまった」

 

 その話題の沖田さんは、

 

「いっだいっだッ!!  い゙っだい゙ッ!!」

 

 神楽の一撃が痛かったのかまだ涙目になりながらぴょんぴょん跳ねており、自然と全員の注目がそのオーバーなリアクションをする幕末剣士に向く。ぴょんぴょん跳ねる沖田さんを見て笑いを堪えるように顔を逸らす者もちらほら。

 ようやく跳ねるの止めた沖田さんは尻をさすりながら涙目で神楽に抗議する。

 

「ちょっと神楽!! 強く叩きすぎですよ!! むっちゃ痛かったです!!」

「銀ちゃんと同じ剣士名乗ってんならちょっと痛いぐらい我慢するネ」

 

 相方の神楽は黒い棒を肩にポンポンと当てながら呆れたように告げると沖田さんはすぐさま言葉を返す。

 

「確かに私は剣士を選んだ以上女を捨てたと言えましょう! でもお尻は乙女なんです!!」

「いやお尻は乙女って――!」

 

 即座に新八がツッコもうとするが言葉の途中でフフ……! と吹きだしてしまう。

 

『新八、アウト。

メガメガ:5ポイント』

 

「てーい!!」

 

 すかさずお返しとばかりにネプテューヌが新八の尻を思いっきり叩く。

 

「いったァッ! ちょっとォ!! 変なこと言って笑わせないでくださいよ!!」

 

 新八が文句言うと沖田さんはすかさず言葉を返す。

 

「いやでも、私のお尻は……乙女なんです」

 

 一旦溜を作って真剣な顔で言う沖田さんに対して新八とネプテューヌは、

 

「「……フフ……!」」

 

『新八、ネプテューヌ、アウト。

メガメガ:3ポイント』

 

 間を置いて笑った新八とネプテューヌはすぐに沖田さんに文句をぶつける。

 

「もォー!! だから止めてッ!! いまのキメ顔ワザとでしょ!!」

「この幕末腐れ剣士芸人!! 私たちまで罰ゲームリーチ寸前にしやがってェ!!」

 

 文句を受ける沖田さんは軽く右手を振って食い下がる。

 

「いやいやいや。だから私のお尻は――」

「「しつけェんだよッ!!」」

 

 とチームメガメガが同時に怒鳴り、その様子を眺めてなのはが汗を流す。

 

「始まって早々、足の引っ張り合いが始まってる……」

 

 チーム同士の足の引っ張り合いを眺めていたフェイトはようやく新八とネプテューヌに声を掛ける。

 

「それで、チームメガメガの二人はミッションに挑戦しますか?」

「「……」」

 

 フェイトの言葉を受けてさきほど沖田さんと言い合ってた新八とネプテューヌは反応し、やがて両腕の装甲(ダンボール)を失いながらファイティングポーズを取る長谷川を見る。  

 しばらくしてチームメガメガは無言でお互いの顔を見つめ合った後、

 

「ちょッ!! やめッ!! やめてッ!!」

 

 ダンボールマンの両足の装甲パーツを引っぺがし、その剥がした足の装甲パーツで二人はマダオの左右の頬をバシンッ! バシンッ! とぶっ叩く。

 

「いったッ!! ブッ!!」

 

 痛みと衝撃で尻持ちを付く長谷川は痛そうに頬を抑えて体を前に屈め、新八とネプテューヌは無表情で奪い取った足のダンボール装甲を長谷川の近くに捨てる。

 その光景を見ていたノッブが腕を組んでコメントする。

 

「容赦ないのー。沖田の奴のせいでイライラ溜まっとるな、アレは」

「えッ? 私のせいですか?」

 

 沖田さんは自分の顔を指さしながら不思議そうな表情を浮かべている。

 やがて袖なし丈なし状態の長谷川さんは涙を流しながら捨てられた腕と足のパーツを回収し、哀愁漂う背中を晒しつつトボトボと白い扉の中へと戻っていく。

 

『ミッション成功:1マス進む』

 

 アナウンス通り、チームメガメガのコマが1マス前へと進む。

 

「……それで、次は確かなのはたちのチームだったかの」

 

 もう情けないヒーローにまったく興味示さず、ノッブが小中学生チームに顔を向ければなのはは「あッ、はい」と言いながら立ち上がり、ひかるとララも席から腰を上げる。

 

『三番目、高町なのは&星奈ひかる&ララ。チーム名――プリなの。現在4ポイント』

 

「なんかどっかの少女向けアニメのタイトル略したみたいな名前だな」

 

 と銀時がサラッとコメント入れ、ノッブが「いやちょっと待て」と言葉を掛ける。

 

「プリなののポイント数おかしくはないか? あやつら三人共三回もアウトになったのに何上残り4ポイントなんじゃ? せいぜい残ってても1ポイントくらいじゃろ」

 

 ノッブの指摘を聞いてなのはも「あッ、確かに」と気付き、ひかるやララも不思議そうな表情を浮かべていた。

 ただノッブの言葉を聞いて沖田さんは呆れた表情を浮かべている。

 

「ノッブ……『わしは普段は細かこと気にせんぞー』的なオーラ出しといて随分みみっちいこと指摘するんですね?」

「……神楽、これからはもっと全力で沖田の尻をシバけ。わしが許す」

「うっすッ!!」

 

 と神楽は敬礼し、沖田さんは「ちょちょちょちょッ!!」と青い顔して慌て始めている。

 ノッブの指摘に対し、司会進行であるフェイトがフリップボードを確認しながら答える。

 

「チームプリなののポイントについてなのですが、プリキュアの二人は二人で一人の扱いなので二人共笑ってもマイナス1ポイントになります。ただし、どちらかが笑った場合はポイントが1引かれます」

「あー、なるほど……」

 

 と銀時は納得する。

 フェイトの説明を聞いて特に意義を申し立てる者はいなかった。

 チームの人数が多い方がミッション挑戦時は有利かもしれないが、笑う確率は人数多い方が高いのでチームプリなのが有利か不利か判断しかねているのだろう。

 疑問も解消されたところで、待機席から少し前まで歩きサイコロを持つなのはにひかるとララが応援する。

 

「じゃあ、最初はなのはちゃん。ファイトだよ!」

「ガンバルン!」

「ガンバルン?」

 

 時折ゲストのララが原作で見せたことない不思議な語尾の使い方になのはが少々戸惑いつつ、サイコロを振る。

 そして出た目は……1。

 

「「「ええッ!?」」」

 

 まさかの出目に驚くチームプリなのとは対照的に銀時と新八は、

 

「「フッ……」」

「あッ、笑った」

 

 と沖田さんが指をさして指摘するとアナウンスが流れる。

 

『銀時、新八、アウト。

銀ノッブ:2ポイント

メガメガ:2ポイント』

 

 すかさずノッブとネプテューヌが二人の脳天に向かって棒を振りかぶる。

 

「もうあと2ポイントじゃボケェェェェ!!」

「こっちも2ポイントじゃァァァァァ!!」

「「いっだァァァァァァァァッ!!」」

 

 頭思いっきり叩かれた二人は悲鳴を上げ、銀時はすぐさま文句を言い放つ。

 

「無駄に叩くんじゃねェェェェ!! 俺5秒以上も笑ってねェだろうが!!」

「えええい!! うるさい!! だったら無駄に笑うなッ!!」

 

 ノッブがキレながら言い返す。

 もう追い詰められた二チームに構わず、チームプリなののコマがスタートマスの地面から浮くように出現する。

 新八は頭を摩りながら出てきたコマの後ろ姿を見て眉間に皺を寄せる。

 

「……なんか、なのはちゃんたちのコマ、頭がおかしくありません?」

 

 新八の指摘を受けて、気になったのか沖田さんが席から立ちあがりチームなのプリの動くコマを正面から見ようと回り込む。

 その姿と顔はジャスタウェイ、頭の髪は青と桃と栗色がメッシュのようにアンバランスに混ざり、左右の側頭部にはピンクと栗色のツインテールがそれぞれ生えて左右四本、そして頭部には丸いボールのような先端が付いた触覚が生えていた。

 その頭はまるで足が四本生えた触覚を持つ生き物みたいな感じだった。

 

『※特徴ごった煮ジャスタウェイ』

 

「ブフッ……!」

 

 思わず吹いて口を抑える沖田さん。

 

『沖田さん、アウト』

 

 ヘンテコジャスタウェイを見た沖田さんは半笑いになりつつツッコミ入れる。

 

「フフ……ぜ、全部合体させることないでしょ……!」

 

 するとすさかさず棒を持った神楽が沖田さんに駆け寄りながら振りかぶる。

 

「おりゃーッ!!」

「い゙ッッッだァーッ!! もォ!! だから強いですって!! お尻は乙女なのに!!」

 

 尻を抑えながら背中をエビのように逸らす沖田さんに新八は呆れた視線を向ける。

 

「いやあんたもしつこいですね。もう何回言うんですか」

 

 相棒の神楽は腰に手を当てて不満声を出す。

 

「ソッジーッ!! 一々わざわざ笑いに行くんじゃないネ!! 今んとこ私らのチームはソッジーの失点が大きいアル!!」

「いやだって、正面から見ると結構きますよ、アレ」

「マジでか~?」

 

 気になった神楽は1マス進んで止まっているヘンテコジャスタウェイを正面から覗く。

 

「ブハハハハハハッ!!」

 

『神楽、アウト』

 

「ほーらみなさい!!」

 

 沖田さんがお返しとばかりに神楽の尻を棒で思いっきり叩く。

 

「あいったァーッ!!」

 

 神楽が尻を抑えて摩る中、空中の巨大ディスプレイにミッション内容が表示されアナウンスが聞こえてくる。

 

『アイアンマン』

 

「「「「「…………」」」」」

 

『その姿はまさにスーパーヒーロー!! 彼の名は!! ダンボォォォォォル戦士!! 長谷川!!』

 

「もうアイアンマンて呼ばれなくなったぞ」

 

 と銀時がツッコミ入れる。

 全員の視線が白い扉に向き、扉が開くと同時に地面の数か所から白煙が勢いよく上がる。もう三度目である。

 そして出てくるであろうダンボール戦士、なぜか今度はゆっくり白い煙を下から浴びながら前へとやって来る。

 出てきたダンボールマンの足の装甲はテープでくっ付けており、両腕はダンボール装甲がなくなってノースリーブ状態だった。

 

『※ダンボール戦士、腕の修復間に合わず』

 

「「「「フフッ……!」」」」

 

 銀時、新八、ノッブ、沖田さんが吹き出してしまっている途中、ダンボール戦士の足の装甲をくっ付けていたテープの付け根が外れて両足の装甲が二つとも地面にずり落ちる。

 

「ッッッ……!?」

 

 ダンボールの裾を踏んでバランス崩し、腕と足をバタつかせながら盛大に前へと倒れてしまう長谷川。

 

「「「「「アハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

 まさかと言うか予想通りのアクシデントに全員笑ってしまう。

 

『全員、アウト。

銀ノッブ:0ポイント

メガメガ:0ポイント

プリなの:2ポイント

※ポイントゼロになったチームがいますが、ミッションは続行されます』

 

「だ、大丈夫ですか……?」

 

 笑いながらもなんとか長谷川を心配して歩み寄り声を掛けるなのはに続き、はるかとララが声を掛けながら手を出す。

 

「け、怪我してませんか……?」

「へ、平気……ルン?」

「あ、あぁ……」

 

 と顔を上げた長谷川のグラサンにはヒビが入っていた。

 

「「「んん……!」」」

 

 まさかの不意打ちに思わず吹き出そうになった三人はなんとか堪えつつ顔を背ける。

 長谷川は少女たちの助けは借りずに起き上がろうとするが、ダンボールの袖が邪魔で立てずに足をバタつかせる。

 長谷川は必死にダンボールを脱ごうとする。

 

「ふッ! ふッ! ふッ! ふッ! ふんッ!!」

 

 バタバタバタバタバタバタッ!! とダンボールを蹴りまくる長谷川の姿を見て銀時、ノッブ、新八はそれぞれ笑いながらツッコミ入れる。

 

「な、なにやってんだおめェは!」

「ぶ、無様過ぎるじゃろ!」

「ちょッ、もうやめて! 腹痛いッ!!」

 

 チームプリなの以外は我慢できずに笑いまくり、ようやくダンボールが脱げた長谷川はまた袖なし丈なし状態になってしまう。

 

「……少女たち……俺の負けだ。さらば」

 

 長谷川が地面に落ちたダンボールを拾い上げ颯爽と空いた白い両扉の中に逃げ込む。

 

『ミッション成功』

 

「「「…………えッ?」」」

 

 とチームプリなのの三人は呆けた声を漏らし、銀時とノッブは冷静にコメントする。

 

「もう嫌になったんだな……」

「まぁ、あそこまで醜態晒せばのー……」

 

 すると横で新八が生気の薄れた声で告げる。

 

「……それより、銀さん、信長さん。僕ら両チーム共もう0ポイントなんですけど?」

「「あッ!!」」

 

 と驚きの声を上げ、ネプテューヌもヤバッ! といった表情になる。

 タイミングを見計らったように八角形の箱が付いた抽選機――ガラガラを置いた机に近くに立っているフェイトが声を掛ける。

 

「それでは、チーム銀ノッブとメガメガはポイントが0以下になりましたので抽選機を回して下さい」

 

 果たして、両チームを待ち受ける罰ゲームとは?

 




銀時「つうかこのペースだと今回の特別編いつ終わんだよ。もう正月過ぎて二月入ろうとしてんぞ」

ノッブ「来年の正月までには終わるじゃろ」

銀時「ダメだなこりゃ」


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2020年明け 5:椅子に長時間座っているとケツがキックされたみたいに痛くなる

休日前なので予定より早めに投稿しました。


「それでは、チーム銀ノッブとメガメガはポイントが0以下になりましたので抽選機を回してください」

 

 司会進行であるフェイトに指示され、露骨に気が進まなそうな顔を見せながらも銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌはガラガラが置かれた机の前に立つ。

 まず最初にガラガラを回す為の取っ手に手を付けるのはノッブ。

 

「……どれ、とっと終わらすとするかの……」

 

 そう言ってノッブは軽くガラガラを何度か回せば、排出口から一個の白い小さな玉が出てカランと銀色の四角い皿の上に落ちる。

 近くに控えていたフェイトは小さな玉を手に取って数字を確認し、ノッブと銀時に玉の数字を見せる。

 

「出た数字は、1です」

「俺らよくよく1に縁があんな」

 

 と銀時が言うと、フェイトが思い出したようにある説明をする。

 

「あーそれと、一応補足して説明しておきますが、罰ゲーム中も笑った場合はアウトとなりマイナスポイントが付き、罰ゲームが終わって再び与えられる10ポイントがマイナス分引かれます。なので0になっても更にポイントがマイナスされることを覚えておいてください」

「うわー……マジかよ……」

「休まる時がないとはこのとこじゃな……」

「うげーッ……」

 

銀時、ノッブ、ネプテューヌは露骨に嫌そうな声を漏らし、新八が問いかける。

 

「あのー、じゃあもしかして……罰ゲーム受けるまでに笑ってポイントが-1とか-2とか……下手したら-10とかになったら……」

「二回連続で罰ゲーム受けてもらいます」とフェイト。

「うわ……」

 

 説明を聞いて新八のみならず他の面々も顔をしかめる。だが、銀時はないないと首を横に振る。

 

「いや、さすがに罰ゲーム受けるまでに-10まで笑うってこと早々ないだろ」

「でも止まったマスの内容が終わるまで罰ゲーム受けないみたいですから……分かりませんよ?」

 

 新八の指摘を受けて銀時はなんとも言えない微妙な表情で口を閉ざす。

 

「それでは説明も一通り終わったので罰ゲームを始めます」

 

 とフェイトが言うと、ショックキングな出来事を表すかのような大きな音がディスプレイの方から聞こえ、画面には新たな文字が出現する。

 音に反応して参加者一同の視線が空中のディスプレイに注がれる。

 

『罰ゲーム1――タイキック』

 

「「えッ……え゛ッ!」」

 

 もうタイトルで罰ゲーム内容を察してしまったであろう銀時とノッブは驚きの声を漏らし、白い両扉が開けばタイキックさんが出てくる時のBGMが流れだす。

 

「うわッ、マジでタイキックさん来んの?」

 

 銀時やノッブを含め参加者一同の視線が白い両扉に向く。

 開いた扉の奥から出てくるのは、白いシャツに赤い短パンを履き頭に鉢巻きを撒いたタイキックさんに似た格好をした――〝志村妙〟が謎のダンスをしながら出てくる。

 

「ちょッ!? 姉上ェッ!?」

 

 タイキック役がまさかの身内と言う事実にビックリする志村弟。

 むろん残りの万事屋組も驚き、神楽は驚き席から立ちあがる。

 

「おォ! 姉御ッ!」

 

 ちなみに妙を知らない面々はだれだれ? と不思議そうな表情を浮かべている。

 

「ちょッ!? お前かよ!? タイキックじゃなくて妙キックじゃねェか!!」

 

 と銀時は顔を青くさせながらツッコミ入れるが、妙は構わずゆっくり謎ダンスしながら近づく。

 

「おわおわおわ、きたきた……!」

「マジかマジかマジか……!」

 

 銀時とノッブはお互いの方に手を伸ばしながら戦々恐々。

 銀ノッブの前までやって来てダンスを踊りながら止まる妙。そしてタイキックされることに若干怯えている二人にフェイトは声を掛ける。

 

「それでは、チーム内でタイキックされる方を選んでください。あんまり長引く場合は二人に執行されます」

 

 フェイトの言葉を聞いた銀時とノッブはお互いの顔を見合ってすぐさま、

 

「さいしょはグー!! じゃんけんポン!!」

 

 銀時はグー、ノッブはチョキ。

 

「しゃーおらァーッ!!」

「あああああァァァァァ……ッ!!」

 

 銀時は喜び二の腕を抑えながらガッツボーズ、ノッブはチョキを出したまま膝たちになり絶望。

 

『ノッブ、妙キック』

 

「いつの間にかタイキックが妙キックに代わってる……」

 

 と新八がツッコミ入れる中、妙はノッブにキックを受けさせる為に立たせて少し尻を後ろに出させていた。

 ノッブはビビるあまり祈るように震える両手を合わせ女声で必死に訴えかける。

 

「わ、わし戦国大名の前に女じゃから!! 第六天魔王の前に乙女じゃからッ!! だから優しくして!! やさ――!!」

「死ねやァァァァァッ!!」

 

 気合い一発、妙キックがノッブの尻に炸裂!

 

「あ゙い゙ッッッ!! お゙ッゔッ!!  ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙……!!」

 

 ぐぐもった吐きそうな悲鳴を漏らしながらノッブは衝撃で前を歩き、そのまま痛みのあまり尻を抑えながら横に倒れ悶えている。

 

「「「アハハハハッ……!!」」」

 

 チームの相方銀時とぐだの相方沖田さんとついでにチームメガメガの計四人がノッブの様子を見て蹴られた直後から笑っていた。

 

『銀時、沖田さん、ネプテューヌ、新八、アウト。

銀ノッブ:-2ポイント

メガメガ:-2ポイント』

 

「わー、本当にマイナス表記されてる……」

 

 となのはがコメントする。チームプリなのだけは悲痛なノッブの姿に同情して顔を背けているようだ。

 一方でまったく遠慮なしに笑っていた沖田さんのケツを神楽が棒でぶっ叩く。

 

「おりゃァーッ!!」

「い゙っだッッ!! わたしもい゙っだいッ!!」

 

 痛がる沖田さんとは対照的に銀時はまだアハハッと笑っていた。

 妙キックをした妙はそのままタイキックさんのBGMと共に小走りで白い扉に向かっていく。

 尻を抑えて倒れるノッブは痛みに耐えながら銀時に顔を向け睨みつける。

 

「ぉ、ぉィ……! ぎ、銀時ィ……貴様ァ……! わし、相方、じゃろ……! 笑い……過ぎじゃ!!」

「アハハハ……あー……いや、すまん。お前の命乞いとリアクションおもしれェからつい、な」

 

 ようやく笑い終わった銀時は右手を顔の前でちょんと立てて謝罪の意を示す。顔はニヤけているが。

 銀時がノッブをゆっくり立たせながら待機席に戻ろうとしている辺りでフェイトが声を掛ける。

 

「それでは、罰ゲームが終わったので銀ノッブは8ポイントからスタートです」

「あー、はいはい……ん?」

 

 と銀時が生返事している途中で疑問の声をもらす。

 銀時とノッブは司会進行であるフェイトに声を掛ける。

 

「……あれ? そう言えば、俺らのポイント……1ポイント……余分に減ってね?」

「うんうん」

 

 とノッブも相槌を打つ。するとフェイトは平然とした顔で教える。

 

「銀時が罰ゲーム中5秒以上笑って20秒以内にお尻を叩かれませんでしたので」

「あッ! ヤベッ!! しまった!!」

 

 と銀時が頭抱えていると、

 

「…………」

 

 ノッブが凄まじい眼力で恨めしそうに自分の不幸で無駄に笑って無駄にポイント減らした天パを見つめていた。

 ノッブの色素のなくなった目力から逃げるように銀時は汗を流しながら待機席に足早に戻り、ノッブも足早に席に戻った後もずっと銀髪天パを見つめ続けている。

 そしてようやく、メガメガが罰ゲームを受ける番となりフェイトが声を掛ける。

 

「では、メガメガもどうぞ」

「……はい」

 

 と代表者である新八がガラガラの取っ手を握る。

 さっき1出した負い目があるのか、ネプテューヌは「私がやるー!」みたいなことは言い出さなかった。

 ガラガラが周り、カランと玉が出てフェイトが確認する。

 

「出た目は……4です」

「うわ、不吉だ……」

 

 新八は露骨に嫌な顔をしながら罰ゲームの内容が表示されるであろうディスプレイに目を向ければアナウンスが流れる。

 

『罰ゲーム4:注射』

 

 ネプテューヌと新八はあからさまに顔をしかめる。

 

「うわッ……」

「露骨にやりたくない奴がきたなー……」

 

 また白い両扉が開き、中から二人の女性が歩いて出てくる。一人は白いニットの上着と赤いスカートを履いた女性、もう一人は青いロングコートを着た女性。

 そしてその二人の人物にいの一番に反応するのはネプテューヌ。

 

「あッ、コンパとアイエフじゃん! なになに? 二人も仕掛け人みたいな感じなの?」

 

 コンパとアイエフとは簡単に説明するとネプテューヌ側のゲストである。

 ネプテューヌの問いかけに「はいです」とコンパは笑顔で答え、反対にアイエフは愛想のない表情でコンパを指さしながら答える。

 

「まー、コンパがメイン。私はサポートって言う感じ。私は言っちゃえばお手伝いみたいなもんね。……あんまり気は進まないけど」

 

 最後に顔を背けてボソリと呟いた言葉が新八の耳には届いたようで同情の視線を送っていた。

 ネプテューヌは説明を聞いてうんうんと頷きながら相槌を打つ。

 

「ふ~ん、それで? 私たちのどっちかがコンパの注射を受ければいいの?」

「はいです。年明けも健康な体でいられるように注射を打つです」

 

 アイエフは目を逸らしつつ頭を掻きながらテキトーに告げる。

 

「まー、寒いときは風邪ひきやすいんだし、打ってもらえば?」

「えぇ~……年明け早々注射は嫌だなー……」

 

 腕を垂らしてあからさまに嫌がる素振りを見せるネプテューヌに新八は言葉を掛ける。

 

「でもネプテューヌちゃん。クリアしないとデメリット大きいし、さっさと打ってもらおう」

「まー、しょうがないね」

 

 そう話しているうちにコンパたちの近くに四脚の診察台が地面から浮き出てくるのを見て少し離れた場所から見ているなのはは汗を流す。

 

「ホントに謎の超設備ですね……」

「マジでなんでもありな空間だよな」

 

 銀時が相槌を打っていると、ノッブはあること気付く。

 

「なんかあの眼鏡……少し後ろに下がっておらんか?」

 

 ノッブの言う通り、新八は診察台が出た辺りで何も言わずにネプテューヌの少し後ろに下がっていた。

 仕掛け人と言うかスタッフみたいな感じで出てきた友人にネプテューヌは普段通りと言った感じで気楽に言葉を掛ける。

 

「じゃあ、コンパ。なるべく痛くないようにお願いね? わたし、どこぞのサイヤ人くらい注射嫌いだから」

 

 どうやらネプテューヌは自分が罰ゲームを受ける流れで話を進めているようだ。たぶん友人相手だから警戒も薄れて普段のノリになっているのだろう。

 

「大丈夫です。痛くならないように注射を打つのも看護師の務めですから」

 

 と言ってコンパは容器がドラム缶のようにドでかく針が親指よりもぶっとい注射器を出して笑顔で告げる。

 

「それじゃ、〝肛門に注射〟するので〝お尻〟を出してくださ~い」

 

 ネプテューヌは口を縦にポカーンと開け顔と目は死んだように一気に真っ白になる。

 

「「「アハハハハッ……!!」」」

 

『銀時、ノッブ、沖田さん、アウト。

銀ノッブ:6ポイント』

 

「おりゃーッ!!」と神楽。

「あ゙ゔッッッ!!」

 

 と神楽にケツを叩かれる沖田さんは尻を抑えながら「一々全力で尻を叩かないで!!」と涙を流して嘆く。

 

「厳密には肛門に注射するのではなく、肛門に針を入れて直腸に健康に良い溶液を――」

 

 などとコンパが説明しているが、説明を受ける側のネプテューヌは口をポカーンと開けて白いまま。そして相方の新八は罰ゲームの肛門注射から逃げようとどんどん後ろに下がる。

 やがて、呆けた表情のままのネプテューヌがようやく後ろを振り向く。

 

「……? ……」

 

 ネプテューヌは一度前に向き直り、

 

「……ッ!?」

 

 再び後ろを振り返って逃げようとする新八を見て驚きの表情を浮かべる。そしてすぐさま逃げる相方を追いかけようと足と手をバタつかせながらずっこけて前に倒れる。

 

「「アハハハ……!!」」

 

『銀時、ノッブ、アウト。

銀ノッブ:4ポイント』

 

「な、なんだ今の二度見……!」

 

 笑いながら銀時がツッコミしている間に、

 

「まままままま待って!! 待ってッ!! 待てッ!!」

 

 ネプテューヌは四つん這いになりながら新八の足に必死にしがみつく。それを見てノッブは腹抱えて余計に笑う。

 

「アハハハハッ! いや必死過ぎじゃろ!! 気持ちは分かるが!!」

 

 袴の裾にしがみ付くネプテューヌを新八は必死に振り払おうとする。

 

「ちょッ! 離して! 離してッ!! 離せッ!!」

「嫌だァァァァァァァ!! 尻に注射は嫌だァァァァァァァ!!」

「僕も嫌だァァァァァァァ!!」

 

 などと揉めているとコンパは困ったように告げる。

 

「どうしましょう……このままですとお二人に注射をしなくちゃ――」

「「――――ッ!!」」

 

 コンパの言葉を聞いて新八とネプテューヌは口をあんぐり開けて顔面蒼白となる。

 ネプテューヌは顔を上げて涙を流しながら、

 

「新八ィィィィィ!! 受けろやァァァァァッ!!」

 

 キャラを捨てて迫真の顔で頼み込む、と言うか命令する。

 

「嫌じゃァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 新八も跳ねのけんばかりの勢いで必死に抵抗して、ネプテューヌの掴みをなんとか振り払い走って逃げ出し、顔を後ろに向けて大声で告げる。

 

「コンパちゃァーん!! 逃げ遅れた方に注射打ってェェェ!!」

「ちょちょちょッ!! テメェ!! ズルい!!」

 

 とネプテューヌが慌てて立ち上がり新八に文句を言ってからすぐさま後ろを振り返れば、

 

「そうなんですか?」

 

 と小首を傾げて自身を見つめてくるデカい注射機持ったコンパ。それを見た途端、ネプテューヌはなりふり構わなくなる。

 

「こ、ここここここうなったら――変身!!」

 

 そう言ってネプテューヌは光に包まれ、光が収まれば別の女性の姿がそこにはあった。長い紫色の髪をお下げにし、ヘビータイプの黒いレオタードに身を包んだ戦う女神――パープルハートの姿が。

 パープルハートに変わったネプテューヌを見てノッブ、沖田さん、ひかる、ララは驚きの声を漏らす。

 

「うおッ、マシュみたいな格好になった」

「なんかデカいノッブの時みたく胸も無駄にデカくになってますね」

「キラヤバー! プリキュアみたいに変身した!」

「オヨー……」

 

 呑気な待機席の面々と違って新八は汗を流し焦り声を出す。

 

「あッ!! テメェ!! ズルいぞ!!」

 

 逃げながら文句を言う相方の言葉など無視してパープルハートはギラリと目を光らせて新八にとびかかる。

 

「逃がすかァァァァァァァァ!!」

 

 こっちも完全にキャラなど忘れて高速移動で近づいて新八の肩を掴み、柔道技よろしく相方を背負い投げして診察台に叩きつける。

 

「おべッ!!」

 

 強引にうつ伏せ状態で診察台に乗せられた新八をパープルハートは上から必死に抑え付けながら必死の形相で友人二人に声を掛ける。

 

「コンパァーッ!! アイエフゥーッ!! 私がこの眼鏡を抑えてるから早急に尻に打ってッ!!」

「いやもうめちゃくちゃだな……」

 

 と銀時は見せられている光景に対して呆れた声を漏らす。

 

「いやァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 新八は喉が裂けんばかりの悲鳴を上げて逃げようと暴れる。だがパープルハートの力は尋常じゃないくらい強いのでまったく逃げられず、巨大注射を持ったコンパは敬礼。

 

「わかりましたです!!」

「そもそもなんで尻に薬打つんんだァァァァァ!! なんで健康な一年に必要な行為なんだよおィィィィ!!」

 

 最後の抵抗とばかりに新八が疑問を含めたツッコミ入れるとアイエフに巨大注射を預けたコンパは新八の袴を下ろしながら説明する。

 

「最近は食生活が偏ってしまう場合が多いので、快便になれようお薬をお尻に打つです」

「それただのカンチョーじゃねェかァァァァァ!! いやァァァァァアアアアアア!!」

 

 完全に尻を出された新八はなお悲鳴を上げる。ただしこれ以上暴れると危ないので体は大人しくなっている。なんとも言えない表情で顔を背けるアイエフからコンパは巨大注射を受け取る。

 そんな光景を離れて見ているノッブは腕を組みながら相方の銀時に声を掛ける。

 

「なにが悲しくて年明け早々男の尻穴に針を突っ込むシーンなんぞ見なきゃならないんじゃ……」

 

 冷静に冷めたコメントをする待機組とは逆に白熱するパープルハートはコンパに声を掛ける。

 

「コンパ! ヤっちゃって!!」

「ちょッ!! そのヤはどういう――!!」

 

 と新八がツッコもうとするがコンパは巨大注射機を構えて気合いの一声。

 

「イくです!」

 

 ゴスッ!

 

「アッーーーーーーーーーーーーーー!!」

 

 

『4番目、沖田さん&神楽。チーム名――沖楽』

 

「あー、ピッタリなチーム名だな」

「頭ユルユルのコンビじゃしな」

 

 と銀時とノッブのコメントを聞いてサイコロを振る準備ができた沖田さんと神楽は青筋浮かべる。

 

「うわー、あの二人無駄にムカつきますね」

「できればあいつらウ〇コにしたいナ」

 

 そんなこんなで次にサイコロを投げる組みは残っている神楽と沖田さんのチーム。既に神楽がサイコロを持って待機しており、待機席に座る面々はその姿を見ている。

 

「………………」

 

 ただその中で、眼鏡の青年は席に座らず尻を抑えながら頭を下げてどんより暗い空気を醸し出し、いつもの姿に戻った女神は悪気があるのか席に座りながら相方から顔を背けている。ちなみにこのチームの現在のポイントは8。

 そして今までと同じように空中ディスプレイに神楽と沖田さんのチーム名とポイントが表示される。

 

『チーム名――沖楽。現在ポイント〝1〟』

 

「「ヴェ゙ッ!?」」

 

 1と言う数字を見てチーム沖楽の二人は信じられないとばかりに驚きの声を上げるが、銀時とノッブは冷静にコメントする。

 

「そりゃ順番回ってくるまでにあんだけ笑えばな」

「むしろ、よく1だけ残ってたもんじゃ」

 

 そこまで言って再びノッブがディスプレイに目を向ける。

 

「しかし、わしと沖田だけは頑なに真名で呼ばんのな」

「サーヴァントは真名を知られてはダメだからな」と銀時。

「って言うか、これだけ色々あって……まだ1巡もしてないんですよね……」

 

 なのはが少し疲れたように言葉を漏らす。

 

「ソッジーーーーーーーーッ!!」

 

 と神楽が今まで散々笑いまくってポイント減らしてきた沖田さんに怒鳴り声をぶつける。一部の罰ゲームを知ってしまった以上、さすがの神楽も澄ましてはいられなかったようだ。

 神楽の怒鳴り声を受け、

 

「すみしぇん!!」

 

 沖田さん、涙を流しながら思わず噛んで謝罪。

 

「「んん……!」」

 

 ノッブとなのははなんとか吹き出そうになるを耐え、銀時は口を大きく開けて堪えている。

 すると司会進行のフェイトが催促する。

 

「とりあえず、サイコロを振ってください」

「ん……」

 

 最初の元気なテンションとは打って変わってテンションただ下がり神楽がテキトーにサイコロを放り投げる。

 出た目は……1。

 

「ンフ……」

 

 とララが声を漏らすと、

 

「「あッ……」」

 

 なのはとひかるが声を漏らす。たぶんアウトになったと思ったのだろう。

 すぐさまララが右手を横に振って否定する。

 

「大丈夫大丈夫ルン!! 今のは笑ってないルン!!」

 

 ララの言う通りアナウンスは来ず、なのはとひかるはホッと胸を撫でおろす。

 銀時とノッブは眉間に皺を寄せながら不満の声を漏らす。

 

「今の笑ったよなー?」

「ちょっとプリキュアに判定甘いんじゃないか?」

 

 すると話題を逸らすようにララが慌てて立ち上がりサイコロに指を突き付ける。

 

「そ、それよりあのサイコロ絶対おかしいルン!! いくらなんでも四回連続で1が出るなんておかしいルン!! 確率1296分の1ルン!! インチキルン!!」

「ルンルンうるさいルン。誤魔化すなルン」と銀時。

「まーでも、こういう事ってたまーにあるし」

 

 とネプテューヌが相槌を打ち、沖田さんが反応する

 

「あー、ガチャで最高レアが連続で当たる時と一緒ですよ。出る時は出ますし」

「えー……でもやっぱり怪しいルン」

 

 とまだ納得のいってない様子のララにようやく復活し始めている新八が言葉をかける。

 

「……まー、本当にインチキサイコロだって分かったらそれをネタに主催者に抗議しよう。今いくら言っても僕たちは自由になれないし」

「そう言うことじゃな……」

 

 ノッブが疲れたように言うと納得はしてないがララもしょうがないと言わんばかりにため息を吐きながら席に座り直す。

 

「あッ、神楽ちゃんたちのコマが出てきましたよ」

 

 と言うなのはの言葉を聞いて全員の視線がスタートのマスの方へと向く。

 出てきたのは沖田さんと同じ髪型に神楽のぼんぼりを二つ付けた頭の大型ジャスタウェイコマ。

 線に沿って進むコマを見てノッブはつまんそうに見る。

 

「あー可もなく不可もなく、普通じゃな」

 

 とノッブがコメントした直後、

 

『コフッ!』

 

 コマの口が四角く開き、音声と共に口から赤い液体と一緒に黒い佃煮みたいな物が飛び出す。

 

「「「「うおッ!?」」」」

「「「「わッ!?」」」」

 

 まさかコマから声が出て口から何か出したことに驚く参加者一同。

 地面に赤い液体と黒い紙の切れ端みたいなのを巻き散らしながら進むコマ。

 

「…………」

 

 新八は恐る恐る近づきながら黒と赤が混ざった物を一つまみ取り上げ、観察すると口角を上げる。そして声を震わせながら銀時たちに見せつける。

 

「こ、これ……す、酢昆布です……アハハハ……!」

 

『※チーム沖楽のコマだけ特殊仕様』

 

「「アハハハッ……!!」」

 

『新八、銀時、ノッブ、アウト。

メガメガ:7ポイント

銀ノッブ:2ポイント』

 

「てりゃァッ!!」

「いったァッ!!」

 

 ネプテューヌに尻を叩かれる新八をよそに銀時とノッブは笑い声を漏らしつつコメントする。

 

「ハハハ……あー、なるほど……こう言う感じできたかー……」

「さ、最後に予想外のがきたのー……」

 

 そうこうしてるうちにチーム沖楽のコマは1マス目に到着。

 

『ミッションマス――アイアンマン』

 

「「「「「…………」」」」」

 

 もう四回目なので参加者一同の反応は薄い。

 

『その姿はまさにスーパーヒーロー!!  彼の名は!!  ダンボォォォォォル戦士!! マダオ!!』

 

「あッ、ついにマダオになった……」

 

 と銀時が呟くと同時に扉が開けば、

 

「うっせェー!! 知るかバーカッ!!」

 

 若干涙目声と共に白い扉の奥からダンボールの切れ端だけが出てくる。

 

『※長谷川、登場拒否』

 

 長谷川がヤケクソになって投げた足と腕のパーツだけが地面に残り白い扉はバタンと閉まる。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 全員がその光景を無言と見つめていると。

 

『ミッション成功』

 

「「んん……」」

 

 アナウンスを聞いた銀時とノッブは口を閉ざし顔を逸らしてなんとか笑うのを堪え、ネプテューヌがコメントする。

 

「まー、あんだけ無様な姿晒したらねー……」

 

 とりあえずミッション成功なので沖楽のコマは1マス進む。コマの移動が終わり、これで全チームのコマが同じマスに並ぶことになる。

 すると、

 

『コフッ!』

 

 沖楽のコマがまた吐血して前にいた銀ノッブのコマの頭にビシャッと血と酢昆布を巻き散らす。銀色のモジャ頭は赤く汚れ、酢昆布があちこちに纏わりついている。

 

「「「「ブッ……ハハハッ……!!」」」」

「「アハハハハッ……!!」」

「「「ブフッ……!!」」」

 

『全員アウト。

銀ノッブ:0ポイント』

メガメガ:5ポイント

プリなの:0ポイント

沖楽:-1ポイント』

 

 ようやく1巡終わったところで0ポイントになった3チーム。

 司会進行のフェイトが声を掛ける。

 

「では、0ポイントになったチームの代表者は抽選機を回して下さい」

 

 席を立つ二チームのテンションはただ下がりになる。

 銀時は頭を下げて右手で顔を抑え、ノッブは疲れたように頭を下げ、

 

「あァ……また罰ゲームだー……」

「またかー……」

 

 なのは、ひかる、ララはあからさまに落ち込み、

 

「ついに私たちもかー……」

「あァ……」

「オヨー……」

 

 神楽は沖田さんの肩をガシっと掴む。

 

「ソッジー!! 責任取るアル!!」

「連帯責任でお願いします!!」

 

 0ポイントになったチームが各々嘆きながらも言われた通りに抽選機の前に集まる。

 まず、チーム銀ノッブ。

 

「出た数字は……1です」

 

 フェイトの言葉に銀時とノッブは驚きの声を上げる。

 

「「うっそだろおいッ!?」」

 

『罰ゲーム1――妙キック』

 

 そして白い両扉が開けばタイキックさんが出てくる時のBGMが流れだすと共に妙キックさんが謎ダンスしながら出てくる。

 

「いや妙キックさんてなに!?」

 

 と新八が地の文にツッコミ入れ、銀時とノッブはじゃんけん始める。

 

「「最初はグー! じゃんけんポン!!」」

 

 銀時はグー、ノッブはチョキ。

 

「しゃーおらァッ!!」

「ぬおーッ!! パー出すと思ったにィ!!」

「「「フフッ……!!」」」

 

『新八、なのは、ひかる、アウト。

メガメガ:4ポイント

プリなの:-2ポイント』

 

 1度目の妙キックと全く同じ内容に吹き出す三人。

 

「せいやァーッ!!」

「いったァッ!!」

 

 新八のケツは相方の女神にシバかれる。そしてノッブのタイキックがスタート。

 

「わし乙女じゃから!! 魔王でもなんでもないか弱い女の子じゃから!!」

 

 また女の子声で妙キックさんに祈るように両手を合わせながら命乞いしており、銀時がなんとか笑わないように口をつぐんでいる。

 

「堪忍して――!!」

 

 ノッブは必死に頼み込むが、

 

「死ねオラァァァァァッ!!」

 

 妙キックは容赦なく第六天魔王の尻に炸裂!!

 

「お゙ゔッッッ!!  あ゙ゔぅ゙ぅ゙ぅ゙ッ!!」

 

 1回目と同じく前へと倒れ込みながら横に倒れ、尻を抑えながら悶絶するノッブ。そんな魔王を尻目に妙キックさんは小走りに帰っていく。

 その光景を見て銀時と新八とネプテューヌと沖田さんは口開けたり、口をつぐんだり、首を傾げて笑わないように堪えている。

 そして次のチームは『沖楽』。

 

「出た数字は、2です」

 

『罰ゲーム2――握手』

 

 そして白い両扉が開き中から出てくるのは頭が白いライオンでどこぞのヒーローのような青いスーツをきた筋肉マッチョの巨漢。

 その姿を見ていち早く反応を示す小中学生トリオ。

 

「わッ、なんか凄い人が出てきた……!?」

「キラヤバーッ!! 宇宙人!?」

「オヨー……」

 

 そして出てきた仕掛け人に沖田さんが気さくに声を掛ける。

 

「あッ、エジソンじゃないですか」

「ついにわしらのとこからも来たなー……」

 

 待機席から眺めているノッブが呟き、FGOからの仕掛け人トーマス・エジソンが右手をグイッと前に出す。

 

「では、代表者が私と握手をしてくれ」

「…………」

 

 沖田さんがエジソンの大きな手を少し目を細めながら眺め、神楽は意外そうな声を出す。

 

「なんか結構簡単そうアルな」

 

 神楽の言葉を聞いてチラリと横のチャイナに目を向けた沖田さんは相方の肩をポンと叩き人当たりの良い笑顔を浮かべる。

 

「楽な罰ゲームそうですし、神楽に頼んでもいいですか?」

「しょうがないアルな」

 

 沖田さんに乗せられた神楽はやれやれと言った感じでエジソンの手を握った瞬間、

 

「いだだだだだだだだッ!!」

 

 超痛がり出す。

 

『※罰ゲームはエジソンと直流(でんげき)握手』

 

「いだッ!! いだいいだいいだいッ!! いだだだだだだだだだッ!!」

 

 電撃握手が痛くてたまらないようで手を放そうとするがエジソンが神楽の手をがっしり掴んで離さない。

 神楽が手を離そうとぶんぶん振るが、

 

「はなッ! いだだッ!! はなッ!! いだだだだだだッ!!」

 

 エジソンは手を離してくれずライオン頭の手もぶんぶん縦横に振られる。

 

『※エジソンの握手は割と長い』

 

「「「「「アハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、新八、沖田さん、アウト。

銀ノッブ:8ポイント

メガメガ:3ポイント

沖楽:7ポイント』

 

 そして笑いながら銀時とノッブがコメントする。

 

「アハハ……! 痛がってんだから離してやれよ……!」

「しかも割としつこく握ってくるんじゃな……! ハハハ……!」

 

 執拗に握り続けるエジソンの手を縦横無尽に振りながら痛がる神楽の姿にもろに笑ってしまう五人。

 しかも沖田さんに至っては5秒以上笑っても20秒以内に尻を叩く人がいないので更にポイントが減っている。

 ようやくエジソンが手を離して直流握手が終了。そして罰ゲーム執行人エジソンは扉の奥に戻る前にサムズアップ。

 

「直流をよろしく!」

 

 だが左手を抑える神楽は直流マンになどまったく意に返さず沖田さんを睨みつける。

 

「ソッジィィィィッ……!!」

「す、すみません……よ、予想外でした」

 

 ニヤけ顔のまま弁明する沖田さんに待機席から見る銀時とノッブはジト目を向ける。

 

「あいつたぶん分かってて神楽に譲ったよな」

「思ったより良い性格しとるな……」

 

 そして最後に罰ゲームを受けるチーム『プリなの』。

 代表者のひかるが抽選機を回すと白ではなく黒い玉が飛び出す。

 

「あッ……」

 

 とフェイトが声を漏らし、なのはとひかるは少し怯えながら声を漏らす。

 

「えッ? えッ?」

「な、なになに?」

 

 フェイトは玉を拾って見せる。玉には小さな赤い文字で0が描かれていた。

 

「大外れの0が出ました」

「「ええええッ!?」」

「よ、よりにもよって大外れ!?」

 

 なのは、ララ、ひかるはまさかの驚きの声を上げ、待機席の面々も反応を示す。

 

「おッ、なんかヤバそうだな」

「なんじゃなんじゃ?」

 

 銀時とノッブは興味を示し、

 

「なんだろー?」

 

 ネプテューヌは若干わくわくしていた。

 そしてディスプレイに罰ゲームの内容が表示される。

 

『罰ゲーム0――ふりだしに戻る』

 

「「「えッ?」」」

 

 とプリなのは呆けた声を漏らし、

 

「「「「「はッ?」」」」」

 

 待機席の面々は冷めた声を漏らす。

 そしてチームプリなののコマは2コマ下がってふりだしに戻った。

 

「なにあいつらー、運良過ぎね?」

「うっそー……今の状態じゃ実質損害ゼロじゃん……」

 

 銀時、新八は落胆と驚きの声を漏らし、

 

「絶対プリキュア贔屓しとる!! なんじゃこの格差は!!」

「ぶーぶーッ!! 女児アニメだからって優しくするなー!」

 

 ノッブとネプテューヌは文句とブーイングを飛ばし、

 

「私はあんな痛い思いしたのに!!」

「痛い思いをしたの私じゃァーッ!!」

 

 文句を言う沖田さんの頭を神楽が黒い棒でぶっ叩く。

 

「いったァァァァァッ!!」

 

 と悲鳴を上げる沖田さん。

 そのなんとも微妙な空気になった光景にプリなのの三人は、

 

「「「アハハハ……」」」

 

 安堵感からか苦笑いの声を漏らす。

 

『なのは、ひかる、ララ、アウト。

プリなの:6ポイント』

 

「「「あッ……」」」

 



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2020年明け 6:ミッションとイベント

※予定(理想的)では今週中にすごろく大会は終盤まで進めるつもりです。


「ようやく1周だな……」

 

 全チームがサイコロを振って二回目の自分のチームの番が来たことにため息を吐く銀時。ここまで来るのに何度笑って何度痛い目にあったことか。

 そして次にチーム銀ノッブのサイコロを振るのはノッブ。

 

「ほいっと……」

 

 ノッブが軽くサイコロを片手で投げれば出た目は3。

 

「おー、少しマシな数字が出てきたな」

 

 と銀時がコメントしているうちに銀ノッブのコマ(頭は赤い液体と酢昆布まみれ)が動き出す。

 そして3コマ進み、アナウンスと共にディスプレイに内容が表示される。

 

『ハズレマス』

 

 ミッションマス以外の種類が出て来た。ディスプレイの文字を見てノッブと銀時は露骨に嫌そうな顔をする。

 

「ハズレマス……」

「いやーな予感……」

 

 新しい種類のマスが出たのでフェイトが説明を始める。

 

「ハズレマスは文字通りハズレです。基本はプレイヤーに不利益(マイナス)なことが起こります」

 

 とフェイトが説明し終えるとハズレマスの内容が表示される。

 

『1回休み』

 

「うわッ……すごろく的に普通だけど地味に嫌なヤツだ……」

「んー……キツイぞコレ……」

 

 この最低の罰ゲームが待ってるすごろくでは重症レベルの躓きに銀ノッブの二人は顔をしかめ、待機席へととぼとぼ戻っていく。

 そして次にチームメガメガが前へと出て新八が地面に落ちたサイコロを手に取り、一旦息を吐いて気持ちを整えている。

 

「……よし」

 

 うんと頷いてサイコロを投げる新八。

 出た目は5。

 

「ぱっつぁんやるじゃん!!」

 

 良い結果にネプテューヌは喜んで新八の尻をバシッと強く叩く。

 

「い゛ったい!! ちょッ!! やめてッ!! さっきまで結構尻叩かれてて尻が弱ってんだから!!」

「い、いや尻弱ってるって……」

 

 新八の言葉にギリギリ笑いそうになるが堪えるネプテューヌ。

 そしてコマが5マス進む。

 

『ミッションマス――野球

成功条件:投手からヒットを一本打つ

失敗条件:チーム全員が三振

成功した場合:10マス進む』

 

「野球……」

「10マスって大分奮発してる……」

 

 ミッションの内容を呟くネプテューヌと新八にフェイトが近づき説明をする。

 

「それでは、二人は白い扉を潜ってミッション用のステージに移動して下さい」

 

 促された二人は戸惑いながら開いた白い両扉を潜っていく。

 どうやら大掛かりのミッションらしいが、このままだとチームメガメガがこれから何をさせられるのか待機組には見えない状態。

 

「それでは、待機組の皆さんは空中のディスプレイを見て下さい」

 

 とフェイトが促し、待機組の視線が空中の巨大ディスプレイに向けば、ある映像が表示される。「おッ……」と銀時が声を漏らす。

 映像は新八とネプテューヌを映し、それから彼らがこれからミッションを行うステージの各所や全体像が映し出され、なのはが驚き気味に声を出す。

 

「あッ、野球場だ」

「新八とネプテューヌがいますし、わざわざ球場でバッティングするんですね……」

 

 無駄に大掛かりな設備に沖田さんは汗を流し、映像が再び新八とネプテューヌをピックアップする。

 

「なんか年明け特番のスポーツなんちゃらを思い出すの……」

 

 腕を組むノッブがコメントすれば、ネプテューヌと新八が長谷川に金属バットを手渡された。

 

『長谷川さん仕掛け人とスタッフ兼任してんですね……』

 

 ディスプレイから新八の声が流れると銀時となのはがコメントする。

 

「わー、ぱっつぁんの声がめっちゃクリアに聞こえる」

「しかも画面の下に字幕出てますよ……」

「いや生放送じゃろアレ? どうなっとんじゃアレ?」

 

 最早技術が色々となんでもありなことに対してノッブですら戸惑う始末。

 そんなこんなでミッションを進める為にフェイトがマイクに向かって声を出す。

 

「ではミッション通り、二人はこちらが用意した投手からヒットを一本打てば成功です」

『あッ、フェイトちゃんの声だ』

 

 と新八が反応し、ネプテューヌが「はーい」と手を上げて返事をしながらバッターボックスに向かう。

 

『それじゃ、私がサクッと打って終わらせますか~』

 

 銀色の金属バットを軽く振りながら余裕のネプテューヌ。

 そしてベンチから野球帽を被り、グローブを付け、ボールを握った投手が出てくる。

 

『■■■■――!!』

 

 バーサーカー(ヘラクレス)が投手板に立つ。

 

「「うわッ……!!」」

 

 と沖田さんとノッブがいの一番に反応し、

 

『『うわァァァァァァァァッ!!』』

 

 新八とネプテューヌが絶望の声を上げる。

 

「「「わわわわわ……!!」」」

 

 なのは、ひかる、ララは映像越しのとんでもない投手に顔を青ざめさせる。

 

「あー、ダメだな……」

 

 銀時がボソッと呟くとすぐにミッションスタート。

 ぶるぶると震えてバットを構えるネプテューヌに対し、

 

『■■■■■――!!』

 

 ヘラクレスは容赦なく全力投球。

 

『うぎゃッーッ!!』

 

 人ぶっ殺しそうなほどの威力で投げられた野球ボールにビビるネプテューヌはボールから逃げるように後ろに飛び下がり、とんでもな風圧を放つボールはストライクゾーンに入ってそのまま後ろの壁に激突。分厚い鉄の壁に野球ボールがめり込む。

 

『『…………』』

 

 尻もち付くネプテューヌと後ろで控えていた新八は鉄の壁にめり込んだボールを見て唖然。

 

『ストライク』

 

 機械判定なのかストライクのアナウンスが流れる。

 そしてネプテューヌと新八は、

 

『『打てるかァァァァァアアアアアアアッ!!』』

 

 ありったけの声でシャウト。

 

「どうりで10マスなワケだ……」

 

 と銀時が冷めた声を漏らし、ネプテューヌは涙目になりながらバットを構える。

 

『もうヤケクソじゃァァァァァァァッ!!』

『■■■■■――!!』

 

 ヘラクレスピッチャーが二球目を投げる。

 

『おんりゃァァァアアアアアアアアアアアアッ!!』

 

 ほとんど当てずっぽうでネプテューヌはバットを振り、バキンッ!! と凄まじい音が響く。

 

「えッ……!?」

「当た……った?」

 

 音で銀時とひかるが驚きの声を漏らしていると、地面にコトンとバットが落ちる。厳密に言うとバットの上半分。

 ネプテューヌは落ちたバットの上半分を見てから後ろの壁にめり込んだ二球目のボールを見て、次に自分が握っているバットを見る。

 〝金属〟バットは〝半分〟にポッキリ折れていた。

 

「「「「「…………」」」」」

 

 映像の光景に待機組一同は唖然とし、

 

『『打てるかァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!』』

 

 ネプテューヌと新八は涙を流しながらシャウト。

 

『ストライク』

 

「えッ? アレストライクなの?」

 

 と銀時が疑問の声を漏らし、ネプテューヌは折れたバットを勢いよく投げ捨てる。

 

『こうなったら私の奥の手見せてやるーーーーーー!!』

 

 気合いの声を出し、ネプテューヌはまたパープルハートへと変身。

 ノッブと沖田さんは呆れ声でコメント。

 

「いやバットが折れるんじゃ変身しても意味ないじゃろ……」

「つうかあの恰好でメットだけ被ってるのってシュールですね……」

 

 パープルハートは不屈の闘志でバッティングホームで構える。

 

『さぁ……きなさい!!』

 

 パープルハートが構えているのはバット――ではなく黒と紫の入り混じった刀だった。

 

「あれで打つ気かよ!?」

 

 と銀時が驚きの声を漏らし、ノッブが冷めた声を出す。

 

「もうヤケクソじゃな。もし当たってもあれじゃボールが真っ二つになるだけじゃろ……」

『■■■■■――!!』

 

 ヘラクレスが気合いの雄たけび(?)を上げ、三球目を投球。

 

「ッ――!!」

 

 捉えた! とばかりにパープルハートはカッと目を見開き、愛刀を振り切る。

 スカッ!! と刀にボールはかすりもせず、後ろの鉄の壁にストライクする。

 

「「「「「えッ?」」」」」

 

 まさかの結果に呆けた声を漏らす待機組。そしてアナウンスが流れる。

 

『それでは、今の瞬間をスローで見てみよう』

 

 すかさずディスプレイにバッディングの瞬間の映像がスローモーションで流される。パープルハートの脇をボールがすり抜けていく頃に刀が振られ始めているのがよくわかった。

 

「「「「「アハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、なのは、ひかる、ララ、神楽、沖田さん、アウト。

銀ノッブ:6ポイント

プリなの:4ポイント

沖楽:5ポイント』

 

 そして銀時とノッブが笑いながらツッコミ入れる。

 

「へ、変身までして外すのかよ……!」

「み、見事に振り遅れたなー……!」

 

 そして三振したパープルハートは既にネプテューヌに戻っており、

 

『うぅ……チクショー……!』

 

 涙を流しながら球場の土を集めていた。

 次の番が来た新八がバットを持ちながらバッターボックスに立ち、バッタを握り締め息を吸い込み、

 

『かかってこいやオラァァァァァァッ!!』

 

 気合いの一声で立ち向かう。

 

 

 

「――それで、ミッション失敗ですがマイナス1ポイントと2マス戻るのどちらにしますか?」

 

 とフェイトが聞くと、

 

「「……とりあえず、2マス戻ります……」」

 

 結局予想通り三振して球場ステージから戻ってきた二人が沈んだ声で告げる。そしてチームメガメガのコマが2マス戻る。

 とぼとぼと待機席に戻る新八とネプテューヌを見ながら銀時がノッブに話しかける。

 

「なー、なんであいつら2マス戻るにしたんだろうな。折角デカい数字出て結構進んだのに」

「罰ゲーム回避を優先したんじゃろ。なにより、わしらが1回休みなのを見越してな」

 

 と銀時とノッブが話し合ってる間にチームなのプリがサイコロを振る。

 

「えいッ!」

 

 ひかるが勢いよくサイコロを投げ、出た目は4。

 

『アイテムマス』

 

 アナウンスと共にディスプレイに表示された文字を見てなのはがあッ、と声を漏らす。

 

「新しいマスだ」

 

 そして司会進行を務めるフェイトが近づきつつ説明する。

 

「アイテムマスは1~8番のうちのどれかの番号を選んでもらいます。選んだ番号に合わせてアイテムを一つ支給します。アイテムによって得られる効果や影響は様々です」

「「なるほど」」

 

 プリキュアコンビがうんうんと頷き、チームプリなのの作戦会議が始まる。

 

「……とりあえず、どうします?」

 

 なのはが少々不安げに尋ねるとララがひかるを指さす。

 

「ならひかるに任せルン!」

「えッ? 私?」

 

 とひかるが自分の顔を指さしながら目をパチクリさせるとなのはがルルの意見に同意を示す。

 

「あー、確かに。ひかるさんて運が良さそうですしね」

「わ、わかった! 頑張る!」

 

 ひかるは両の拳をギュッと握りしめ、フェイトへと人差し指を立てながら告げる。

 

「じゃー1でお願いします!」

「端っこの番号は止めた方が良いと思うけどなー……」

 

 ボソッと銀時がコメントを漏らし、フェイトが「それでは……」と言ってある物を取り出す。

 

「こちらをどうぞ」

 

 長方形の皿に乗った白く丸い食べ物だった。

 

「あッ、大福だ」

 

 とひかるが反応し、なのは大福を数える。

 

「ちょうど三人分ですね」

「ひかるの家で食べたことあるルン!!」

 

 フェイトはひかるに大福と刺す用の短い串が乗った皿を手渡しながら説明する。

 

「1のアイテムは大福です。好きな時に食べて下さい」

「あー……良かったー……」

 

 なのははホッと胸を撫でおろし、ララも安心したように肩を撫でおろす。

 

「酷いアイテムに当たらなくて良かったルン」

「とりあえず、席に戻って食べよう」

 

 ひかるの言葉になのはとララもうんと頷き、三人は待機席に戻っていき、代わるように沖田さんと神楽が前に出る。

 

「「…………」」

 

 一方、銀時と新八は皿に乗った大福を無言でジッと見つめている。

 そして沖田さんがサイコロを投げる。出た目は5。

 

「おッ! やったアル!」

 

 神楽は喜ぶが、沖田さんは「あッ」と声を漏らしている。

 コマが移動し、止まったマスはさきほどチームメガメガが挑戦した『ミッションマス』の『野球』。

 空中のウィンドウに表示された文字を見てさっきまで喜んでいた神楽も「あッ……」と声を漏らす。

 そして始まるバーサーカーピッチャーの投球。

 ボールにバットが当たるが吹っ飛ぶ! 沖田さんバットに当てるが三振空振り! 

 

『打てるわきゃないでしょあんなの!!』

 

 画面の向こうでは沖田さんがヘルメットを地面に叩きつける。

 そんなほぼムリゲーな野球中継を見ながら大福を食べているプリなの。大福を口にし、ララが少し驚きの声を出す。

 

「あッ、これちょっとしょっぱいルン」

「「――ッ!」」

 

 新八と銀時が反応を示し、なのはとひかるが説明する。

 

「コレ塩大福ですね」

「しょっぱいのと甘いのが混ざって美味しいね」

 

 三人の塩大福の感想を聞いて銀時と新八はお互いの顔を見合わせる。

 

「ぎ、銀さん……アレって……」

「いや、さすがにないだろ。だってプリキュアにアレをなー……」

 

 すると銀時の隣のノッブも反応を示す。

 

「まー、この容赦のないイベントじゃ。なにより、来る時が来たのかもしれんな」

「あー、お前も知ってんだ、アレ……」

 

 と銀時が気のない返事をする辺りで、画面の向こうでは神楽がボールにバットを当てるがバットが折れている。

 

『チクショメェェェェェェェッ!!』

 

 バットを地面に叩きつける神楽であった。

 結局、チーム沖楽は5マス進んで2マス下がった。

 そして三巡目――チーム銀ノッブは一回休みなので飛ばしてチームメガメガ。

 

「それじゃネプテューヌちゃん、お願い」

 

 と新八が声を掛ければネプテューヌはビシッと敬礼。

 

「任されたッ!」

 

 そしてネプテューヌが軽くサイコロを投げれば、出た目は4。

 コマが移動しマスの内容が表示される。

 

『イベントマス――ジョーカー』

 

「あッ、また新しいマスが出た……」

 

 新しいマスが出たのでお馴染みのフェイト司会進行の説明が始まる。

 

「説明します。イベントマスは文字通り何かしらのイベントが発生します。基本的には参加者たちが何かするワケではありません」

 

 フェイトの説明を待機席で聞いている銀時とノッブは訝し気な表情となる。

 

「基本的には……かー……」

「いやーな予感がするのー……」

 

 フェイトは手を空中のディスプレイへと向ける。

 

「では、映像が始まるので皆さんはディプレイを見て下さい」

 

 フェイトに促され参加者一同がディスプレイに目を向ける。ちなみにさきほどまでサイコロを振っていた新八とネプテューヌも待機席に戻っている。

 やがてある映像が映し出され始める。

 

*

 

 薄暗い部屋。ブーと言う音が鳴ると同時に扉が開き、眼鏡をかけ髭を蓄えた男が出てくる。

 眼鏡をかけた男が歩くと同時にアングルが変わり、薄暗い部屋の中で鉄の机の前に座るのはピエロのメイクをした男。

 ピエロは問いかける。

 

『ごきげんよう。結果はどうだった?』

 

 そこまで映像を見て銀時がコメントする。

 

「なんかどっかで見たことあるぞコレ……」

「たぶん嘘字幕で有名な奴ですよ、アレ……いや、僕ら見てるの吹替ですけど……」

 

 と新八が相槌を打つ。

 そして映像が続き、ピエロの男――ジョーカーと対面するように座るゴードン警部が告げる。

 

『なんとも言えんな……』

『だろうね』

 

 とジョーカーが相槌を打つとゴードンが問いかける。

 

『お前はどう思う?』

『俺か? ……俺は特に問題なかった』

 

 すると新八がコメントする。

 

「なんかー……普通ですね」

「ちょいと違和感を感じるが特に変なとこないな」

 

 ノッブが腕を組みながらコメントし、映像は進んでいく。

 ジョーカーが手錠を見せつけてから言う。

 

『他に誰が回した? お前の部下か? まーなんにせよ……良い結果にはならなかったかな?』

 

 黙るゴードンにジョーカーは告げる。

 

『いかんかな? 総督。できる人間がどれ程いる? よく考えずにやらせたらどんな結果を招くか予想できなかったのかな?』

『お前はどうだ?』

『いま何時?』

『それを訊いてどうする?』

『時間によって違うんだ。纏まってたり、バラバラだったりね』

 

 唐突に始まったバットマンダークナイトのジョーカーの尋問シーン(吹替)を黙って見続ける銀時たち。

 

『ゲームをするつもりなら……』

 

 そこまで言ってゴードンはジョーカーの手錠を外し、立ちながら告げる。

 

『コーヒーを持ってこよう』

『お決まりのパターンだな』

『少し違う』

 

 そこまで言ってゴードンは尋問室のドアを開けて出て行く。

 ドアが閉まると同時に電気が明るくなった瞬間、ジョーカーの後ろに黒い男が立っており、黒い男は彼の頭を机の上に叩きつける。

 ジョーカーは痛がりながら額を抑え、自分の前へと回り込んだ黒い男――バットマンに文句を言う。

 

『ずいぶんご立腹だな。やっぱ結果がわる――』

 

 すかさずバットマンがジョーカーが机に置いた右手に拳を叩きつける。

 

『――っかたのかな?』

 

 椅子へと座ったバットマンがジョーカーに低い声で告げる。

 

『俺の結果を聞きたいんだろう?』

『お前の出方をみたくてね』

 

 ジョーカーが喋ってる途中でマジックミラー越しに尋問室の中の様子を覗いている警察たちのシーンが挟まれる。

 そして再びジョーカーとバットマンが対談するシーンに移る。

 

『そして期待通りの結果だったと見える。お前は失敗し、次のチャンスまで待たなくちゃならなくなった。残念だったな。俺と同じ強欲な奴だ』

『そんなことはない』

 

 食い気味に否定するバットマンにジョーカーが諭すように告げる。

 

『バカな奴は次こそは次こそはと躍起になる。だが俺にはわかる。元には戻らない。お前は間違いなく後悔している』

『そんなことはない』

 

 そこでジョーカーは吹き出し笑いながら煽るように語り掛ける。

 

『後悔してるだろ? どう考えても未練たらたらだぜ? 俺にも同じ轍を踏ませようとってか? まさか』

 

 そこまで見て銀時が眉間に皺を寄せる。

 

「やっぱセリフおかしくね?」

「なんか違和感ありますよね」

 

 と新八が相槌を打ち、ジョーカーがバットマンに諭すように語り掛ける。

 

『お前は、まさに俺と同じだ』

『お前と一緒にされる筋合いはない』

『誤魔化すな!』

 

 ジョーカーは食い気味に言い放ち、冷静な声で語り掛ける。

 

『だからお前は失敗したんだ。……所詮お前も同じ穴のムジナに過ぎない。俺と同じくな。連中がお前を必要としてると思うか? お前は必要としてるとしても、お前の想いに応えてくれるとは限りない。ましてや闇を自覚してなお突き進むとは、タチの悪い冗談だ。だから俺が教えてやろう』

 

 ジョーカーはグイッとバットマンに顔を近づけ、告げる。

 

『俺の〝グラブルガチャ〟の結果をな』

 

「「「ッ!?」」」

「「ブッ!?」」

「んん!」

 

『新八、ネプテューヌ、アウト。

メガメガ:1ポイント』

 

 驚く銀時、ノッブ、神楽、吹き出す新八、ネプテューヌ、そして笑うのはギリ耐える沖田。

 銀時とノッブは笑うの耐えてから納得したように声を出す。

 

「あー、違和感あると思ったらそう言うことかー……」

「ガチャの話だったかー……」

 

 そして再び映像は再生され始め、さきほどのシーンの続きから始まる。

 

『俺の〝グラブルガチャ〟の結果をな』

 

 ジョーカーさんが余裕の表情で告げる。

 

『まーとりあえず年末年始じゃお目当てのピックアップキャラはゲット出来たぜ』

 

 そこまで言ってジョーカーはグイッとバットマンに顔を近づけ、低い声音で告げる。

 

『――お前はどうだった?』

 

 突如としてバットマンがジョーカーの胸倉を掴み上げる。

 バットマンはジョーカーの足を地面から離させながらより一層声音を低くする。

 

『クリスマスでサンタナルメアちゃんが手に入った』

 

 少し笑いそうになった銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、沖田さん。そして沖田さん以外の面々ががツッコミ入れる。

 

「バットマンにサンタナルメアちゃんって言わせんよ……」

「イメージ崩れるのー……」

「もうダークヒーローじゃなくてただのソシャゲおじさんとソシャゲピエロですね……」

「しかも良い声の吹替で言うからなー……」

 

 ツッコミ入れてる間もシーンは続いていく。

 

『おー良かったじゃないか。間違いなくお目当てのキャラだろ?』

 

 バットマンはジョーカーの背中を壁へと叩きつける。

 そこまで見てノッブは冷めた声で告げる。

 

「わしら一体何を見せられてるんじゃ?」

 

 バットマンはジョーカーの首を腕で抑え付けながら低い声音で告げる。

 

『天井まで引いたんだぞ』

『おー、初めての300連か。もしかして天井でナルメアゲットか?』

『あーそうだよ』

『今までガチャ我慢した甲斐があったな。ガチャを回す石は狙いのキャラの為に惜しみなく使うのがベストだぞ』

『マギサさんが出なかった』

『そりゃ残念。だがどちらかしか選べないなら優先度の高い方を選ぶ他ないだろ』

『……どちらか……』

 

 そこまで聞いて銀時が腕を組みつつコメントする。

 

「なんかちょくちょくそれっぽいセリフにしてくんのが腹立つなー……」

 

ジョーカーはバットマンに告げる。

 

『苦渋の決断だっただろう。〝シコリティ〟が高いキャラを優先するのはソシャゲあるあるだ』

 

「「「「アハハハ……!!」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、アウト。

銀ノッブ:4ポイント

メガメガ:-1ポイント

※0ポイントのチームが出ましたが映像は続きます』

 

 映像が止まり必死に笑いを耐える沖田さんの横で銀時と新八とノッブは半笑いながらツッコミする。

 

「なにを真面目に言ってんだ……!」

「いきなり下ネタぶっこんできましたねー……!」

「結局スケベ親父ではないか……! いや分からぬくはないが……!」

 

 新八は笑いつつ、たぶんネタについていけてないだろう困惑顔のチームプリなのを見る。それ見てまた笑いそうになる新八は我慢しつつコメントする。

 

「……こ、コレもそうだけどなのはちゃんたちが特定のネタが笑う回数少ないなー……」

「絶対色々ネタが分かる私たちを狙い撃ちしてるよもー……」

 

 ネプテューヌが疲れようにコメントした辺りで映像が再開される。

 やがて再び止まった映像が動き出す。

 

『苦渋の決断だっただろう。シコリティが高いキャラを優先するのはソシャゲあるあるだ』

 

 バットマンがジョーカーを机の上に叩きつけ、背中を打ち付けられたジョーカーはケラケラ笑い出す。

 

『天井回しご苦労様!』

 

 バットマンは椅子でドアを封鎖。

 机から降りたジョーカーは背中を伸ばしながら告げる。

 

『まぁ、もう一回天井まで回せば良い話だしな』

 

 バットマンはすぐさま近づいてジョーカーの頭を近くのガラス窓に叩きつける。

 

『出来るワケねェだろ!』

 

 するとジョーカーは壁に背中を預けながら告げる。

 

『なら天井に頼らず当てれば良い!』

 

 バットマンはジョーカーの顔を殴る。

 

『出来るワケねェだろ!!』

 

 怒鳴るバットマンにジョーカーは体を元の位置に戻しつつ告げる。

 

『俺は天井せずに初っ端両方当てたんですけどね! 次のクリスマスガチャまで頑張って石貯めてね! アハハハハ!!』

 

 バットマンはジョーカーの顔を殴り付け、倒れ伏すジョーカーは体を起こしつつ嘲笑いながら告げる。

 

『まー何度やっても無駄さ。何度やろうがあんたはお目当てのキャラを引くことはない。お前がいくら我慢して石貯めようとな』

 

 ジョーカーの煽りに耐えきれずにバットマンはピエロの胸倉を持ち上げる。

 

『そうカッカするな。俺がガチャの必勝法を教えてやる。これでお前もいくらでも好きなキャラを揃えられるぞ。やることは一つだけ。お目当てが出るまで、ガチャを――回し続けろ』

 

 バットマンはジョーカーを床に叩きつけるところで画面は暗転する。

 するとタイミングよくフェイトが告げる。

 

「これでイベント映像が終わったのでポイントが0以下にまでなったチームの罰ゲームを始めます」

 

 新八、ネプテューヌが嫌そうに声を漏らす。

 

「注射だけは避けないと……」

「あー……もうあんな映像で……」

 

 チームメガメガの抽選。

 出た数字は1。

 

「「うげッ!?」」

 

 もう何が来るか分かってる二人は嫌そうな声を出し、すさかずネプテューヌが新八に力強く言い放つ。

 

「ぱっつぁん!! 弟の責務として姉キック受けなさい!!」

「嫌だボケッ!!」

 

 言い合っても結局決まらないので公平に決める。

 

「「最初はグー!! ジャンケンポン!!」」

 

 新八はパー。ネプテューヌはチョキ。

 

「あああああああああああッ!!」

「よっしゃーッ!!」

 

『罰ゲーム1――妙キック』

 

 そして妙キックさんが謎ダンスしながら登場。

 新八は姉からのキックをジッと待つ、

 

「あ、姉上!! 僕弟ですから!! だから手加減してッ!!」

 

 ほど度胸はないのでやっぱり命乞い。

 

「ケツ砕けろおらァァァァァァァァッ!!」

「お゛ッッッッ!!」

 

 だが姉は全く容赦せず、実の弟は苦悶の声を上げながら尻を抑えて倒れ悶絶している。

 

「「フッ……!!」」

 

『銀時、ネプテューヌ、アウト。

銀ノッブ:3ポイント

メガメガ:8ポイント』

 

 銀時とネプテューヌは耐えきれず吹き出し、ポイントを失う。

 すかさずノッブが銀時のケツを叩く。

 

「そらッ!」

「いっだッ!! 5秒も笑ってねェよ!!」

 

 無意味にケツ殴られた銀時は文句を言う。

 そんなこんで罰ゲームタイムは終了し、次はプリなのがサイコロを振る番になる。

 

「ルン……」

 

 ララが投げたサイコロの目は……6。

 

「おお!」

「凄い!! また高い数字!!」

 

 喜ぶプリなのをよそにコマは進み、マスの内容が発表される。

 

『イベントマス――ジョーカー2』

 

「「「「「えッ?」」」」」

 

 一同が呆けた声を出し、またウィンドウにさっきのジョーカーさんの映像が流れだす。

 しかもそれは唐突にバットマンがジョーカーに対面するシーンで、ジョーカーが低い声音で告げる。

 

『レジェフェスでグビラちゃんどころかビカラちゃんも出なかった』

 

「「「「「もうええわッ!!」」」」」

 

 ノッブ、銀時、新八、ネプテューヌ、沖田さんが一斉にツッコムのであった。

 ほとんどセリフが変わったガチャ報告だったので不意打ちもなく特に目新しい映像もなかったのだが、ジョーカーさんが映像の終盤であるセリフを言いだす。

 

『そうカッカするな。ガチャが失敗してそんなにストレス溜まったか? なら最高のストレス解消法を教えてやる。ネプテューヌ――妙キックだ』

 

「え゛ッ!?」

「「「「「えッ?」」」」」

 

 驚きの声を上げるネプテューヌと呆けた声を漏らす他の面々。

 映像が終わりすぐさまアナウンスが流れる。

 

『ネプテューヌ、妙キック』

 

 そしてタイキックさんのBGMが流れ始め、白い両扉から妙キックさんが踊りながら出てくる。

 

「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってェェェェェェェッ!!」

 

 まさかの展開にありったけの声で悲鳴を上げ、妙キックさんから逃げるように新八の後ろに隠れるネプテューヌ。

 

「「「「「アハハハハハッ……!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、沖田さん、神楽、アウト。

銀ノッブ:1ポイント

メガメガ:6ポイント

沖楽:3ポイント』

 

「いやァァァァァァアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 まさかの理不尽展開にネプテューヌはありったけの声で悲鳴を上げる。もちろん新八のケツ叩くなんて考えはない。

 

「ハハハ……ほ、ほらほら、妙キック受けて……逃げてもしょうがないから……」

 

 だが新八は笑いながら容赦なくネプテューヌを強引に引っ張って妙キックさんの元に差し出す。

 

「わァァァ! わァァァァ!! わァァァァアアアアアッ!!」

「「「「アハハハハハハハハッ!!」」」」

 

 ネプテューヌが必死に首を横にぶんぶん振って全力で嫌がる姿を見て更に笑う銀時、ノッブ、沖田さん、神楽。チームぷりなのの面々ですらネプテューヌのオーバーな嫌がり方に笑いそうになっている。

 そして背の低い女神は妙キックさんに捕まりそのままキックを受ける体勢に促される。

 ネプテューヌは怯えながら命乞いを始める。

 

「私はか弱い女神さま――!!」

「ケツ死ねェェェェェェエエエエエエ!!」

 

 全力の妙キックがネプテューヌの尻に炸裂する。

 

「ア゙ヴヂッッッッ!!」

 

 前に少し吹っ飛ばされ、尻を抑えながら倒れ死にかけの魚のように悶絶するネプテューヌ。その光景を見て新八も鼻息荒くしながら笑うの耐える。

 妙キックさんは白い扉の奥に帰って行き、なんとか笑いが収まった新八は悶絶するネプテューヌに声を掛ける。

 

「だ、大丈夫……ぶ?」

 

 ネプテューヌは声を震わせながら答える。

 

「……し、ししり……だけじゃ、なくて、腰も……痛い……」

「「「「ァハハハハ……!!」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、沖田さん、神楽、アウト。

銀ノッブ:-1ポイント

メガメガ:4ポイント

沖楽:1ポイント』

 

 もちろん新八の尻叩く人間がいないので更にポイントはマイナス。笑いながら銀時がコメントする。

 

「ハハハ……せ、背低いから腰にもあったたかー……!」

 

 

 

 そして罰ゲームを受ける銀ノッブ。

 

「あー……またかー……」

「もう三回目じゃぞ……」

 

『罰ゲーム6――真田丸』

 

 ディスプレイの文字を訝し気に見ている銀時。

 白い両扉が開いて中から黒い制服を着た男たちが二人出てくる。それはなんと真選組の面々――近藤勲、土方十四郎。

 

「あッ、チンピラ警察……」

 

 もろ知り合いが執行人として出てきて声を漏らす銀時。さらに沖田さんも反応を示す。

 

「おー、アレが別世界の近藤さんや土方さんがですか……。近藤さんマジでゴリラですね……」

 

 沖田さんにゴリラ呼ばわりされた近藤がフェイトに代わり元気よく説明する。

 

「では、お前たちのうちどちらかがこの馬に乗馬してもらう!」

 

 近藤が指さした方には扉から白い『三角木馬』を引っ張って来る沖田総司と山崎退。

 

「「げッ……!」」

 

 三角木馬を見て銀時とノッブは同時に嫌なそうな声を漏らし、すぐさま始める。

 

「「最初はグー!! じゃんけんぽん!!」」

 

 銀時チョキ。ノッブはパー。

 

「しゃーおらーッ!!」

「のあああああッ!! わしの幸運ステサボり過ぎじゃろォーッ!!」

 

 銀時はガッツポーズして喜び、ノッブは自身の右腕を握りしめながら嘆く。

 じゃんけんの結果が決まったところで近藤がうんと頷く。

 

「では別世界の信長殿にはこの真田の象徴たる赤鎧を着てもらおう」

 

 そう言って近藤、土方、沖田、山崎はすぐさまノッブに赤い兜や鎧を付け、大人しく鎧を付けられるノッブは小さくツッコミ入れる。

 

「なんで織田のわしが真田にならねばならんのじゃ……。つうか真田丸なんてとっくにブーム過ぎ去ってるじゃろうが……」

「あー、でも結構似合ってんじゃん」

 

 と銀時が呑気にコメントし、ノッブは近藤と土方によってすぐさま三角木馬に跨らされる。

 

「ちょッ……思ったよりキツイぞコレ……」

 

 ノッブが苦悶の声を漏らす中、近藤と山崎は真田の家紋を描かれた白い旗を立て、土方は小太鼓を叩き、沖田が三角木馬の手綱を握る。

 

「いくぞーッ!!」

 

 近藤が気合いの一言で沖田が手綱を引っ張り、三角木馬は動き出す。

 

「いたッ……! い、いたい……!」

 

 ノッブが地味に悲鳴を上げるが、

 

「「真田! 真田!! 真田丸ッ!!」」

 

 旗を掲げる近藤と山崎の掛け声と土方のポンポンポンポン!! と言う太鼓の音にノッブの小さな悲鳴は掻き消える。

 

「アハハハッ……! 真田丸にバカにしてんだろ……!!」

 

『銀時、アウト。

銀ノッブ:-3ポイント』

 

 銀時が笑ってしまい、彼の尻を叩く人もないないので銀ノッブは余分にポイントを失う。

 そして木馬が進んでいく先の地面にはなぜかコブのような小さな盛り上がり出来た道があり、それを見たノッブは慌て出す。

 

「ちょちょちょ!! いだだだだだだだだだだだだだだだッ!!」

 

 デコボコ道を通ると木馬がかなり振動するのでノッブはたまらず悲鳴を上げ、銀時は更に笑い、新八、ネプテューヌ、沖田さんまで笑いだす。

 

「「「「アハハハハハハハハッ!!」」」」

 

『新八、ネプテューヌ、沖田さん、アウト。

メガメガ:2ポイント

沖楽:0ポイント』

 

「おめェもあーなりたいのかーッ!!」

「あーもォ!! い゛っだいッ!!」

 

 そして神楽に尻をぶっ叩かれる沖田さん。

 ようやく真田丸から解放されたノッブは木馬から降りると股を抑えながら蹲る。銀時が笑いながらノッブに声をかける。

 

「だ、大丈夫か……?」

「け、結構……いたかった……」

 

 実は今の罰ゲームのこの真田丸……、

 

『罰ゲーム6――真田丸』

 

「「ええッ!?」」

 

 まさかの二回連続に驚くチーム沖楽。。それを受けるさきほどポイントが0になったばっかの沖田さんと神楽。だが二人も驚いてはいられないで。

 

「「さいしょはグー!! ジャンケンポン!!」」

 

 結果は……。

 

「「真田! 真田!! 真田丸!!」」

「いだだだだだだだだだだだだだだッ!!」

 

 赤い鎧を着込んで小太鼓の音と共に悲鳴を上げるのは神楽。

 電撃の時同様に罰ゲームが回避出来て沖田さんはしてやったりと言った顔。

 その光景を見て銀時とノッブは冷めた声でコメントする。

 

「なんかチーム同士のメンバーが一番の敵だよなコレ……」

「まーゲームの内容的にそうもなってくるじゃろうな……」

 

 と言ってからノッブはジロリと銀時を睨む。

 

「次は絶対にお主に罰ゲームを受けさせる」

「い や だ」

 



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2020年明け 7:アイテムが役立つ物ばかりとは限らない

 罰ゲームが終わり、次にサイコロを投げるのはチーム沖楽の神楽。

 

「ほいっと」

 

 神楽が軽く投げたサイコロの出た目は2。

 

「「あぁ……!」」

 

 一番低い出目ではないがまたあの野球マスに行く事になって露骨に落胆の声を出す二人。

 そしてそんな運の悪い結果を示すようにチーム沖楽のコマが、

 

『コフッ!』

 

 と口から血と酢昆布を吹き出す。

 しかしさすがに三回目なので特に笑う者はいなかった。少しだけ笑いを我慢する者はちらほらいたが。

 

『ミッションマス――野球』

 

 天下無双のバーサーカー投手の球を打てる人間(バット)がいるはずもなく、また2マス下がって元の位置に戻るチーム沖楽のコマ。

 その光景を見て銀時はとぼとぼ待機席に戻って来る神楽と沖田さんを見ながらなんとも言えない表情でコメントする。

 

「アレどうやったらクリアできんだよ……」

「あの球打つバットか、もしくは2以外を出さん限り無限ループじゃな……」

 

 とノッブも相槌を打ち、1回休みが終わった銀ノッブが三回目のサイコロを振る。

 

「とりあえず2以外が出てくれよ……」

 

 銀時もチーム沖楽と同じマスに止まっているので、2を出すとムリゲー野球に挑まなければならなくなる。

 銀時が出したサイコロの目は……1。

 

「2以外が出ろつったけどよー!」

 

 とても喜べない結果に悔しそうに腕を振り、サイコロは1マス進みマスの内容が発表される。

 

『スカマス』

 

「「ん?」」

 

 また新しい種類のマスに銀時とノッブは疑問の声を漏らし、フェイトが説明する。

 

「スカマスは……特に何も起こりません」

 

 拍子抜けしたような表情となる銀時とノッブは一拍置いてからコメントする。

 

「……まー、いいんじゃね?」

「そう、じゃな。特にメンドーなことするワケでもないしの」

 

 特に不満も喜びもなく待機席へと戻る二人と交代してサイコロを投げるのはチームメガメガの新八。

 

「よっと」

 

 出た目は……5。

 

「よし!!」

 

 良い目が出て拳を握りしめる新八にネプテューヌが「よくやったぱっつぁん!!」と背中をバシッと叩き、新八が痛がる間にコマは進んで止まり、マスの内容が発表される。

 

『ミッションマス――カード。

成功した場合:7マス進む』

 

 アナウンスと共にディスプレイに表示された文字を見て新八は不思議そうに眉間に皺を寄せる。

 

「あれ? 成功条件と失敗条件が書かれてない?」

「そこは俺が説明するぜ!」

 

 すると突如としていきなり白い両扉の方から声が聞こえてきた。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 声に反応して全員が反射的に白い両扉の方へと顔を向ければ、扉は両側が開き、中から一人の男が姿を現していた。

 開いた扉から放たれる光を背に受けながら現れる人物にいの一番に反応するのは万事屋の面々。

 

「お、お前は!?」

「いやうそ!? マジで!?」

 

 ゆっくりと歩き姿を現すのは頭がまるで星のように見える影。それを見て銀時と新八は口をあんぐりと上げ、神楽が目を輝かせながらその人物の名を告げる。

 

「武藤遊戯アル!!」

 

 現れた人物――武藤遊戯のもう一人の人格として名を馳せた通称闇遊戯がゲストとして現れたのだ。

 余裕綽々の笑みを浮かべる闇遊戯はポケットに右手を入れながら歩いており、その姿を見てネプテューヌは興奮気味に鼻息を荒くさせる。

 

「うっそマジで? マジで闇遊戯!? アテムじゃん!! すげェェェェ!!」

「いやホントよくまーこんな下らんイベントに闇遊戯さん呼べましたよね……」

 

 新八は呆れた声を出し、闇遊戯を知っているであろうノッブと沖田さんも呆れと驚きが混ざった声を漏らす。

 

「いやよくまー呼べたもんじゃな……」

「いやホント、カード界のファラオですよあの人……」

 

 闇遊戯はやがて足を止めてチームメガメガへと声を掛ける。

 

「分かっていると思うが、これから俺とお前たちでゲームをする。……コレを使ってな」

 

 遊戯がポケットから右手出して上げれば、彼の手に握られているのはデュエルモンスターズのカードの束。ようはカードデッキである。

 すると新八が「あのー……」と言っておずおずと手を上げる。

 

「あの遊戯さんとデュエル出来ることは大変栄誉なことですし、こっちとしてもどんとこいなんですけど……僕デュエルモンスターズのカードは全然持ってなくて……」

 

 続いてネプテューヌもおずおずと軽く右手を上げる。

 

「デッキは持ってるけど、家に置きっぱでー……」

 

 と二人がデュエルが出来ない理由を説明すると遊戯はフッと薄く笑みを浮かべる。

 

「なーに、デュエルと違ってそこまで時間は取らせない。簡単なゲームさ」

「っと、言いますと?」

 

 と新八が聞くと遊戯はデッキの一番上のカードを一枚引きながら説明する。

 

「このデッキのカードを一枚引き、より攻撃力が高いモンスターを引いた方が勝ちと言うゲームだ」

「あー、なるほど」

 

 と新八はうんうんと頷き、ネプテューヌも腕を組みながら同意を示す。

 

「まー、そう言う感じの方が時間取られないしね」

「先行はそっちに譲るぜ。まずは公平を期す為にあんたがデッキをシャッフルしてくれ」

 

 闇遊戯にデッキを渡され素直にシャッフルする新八。

 新八はシャッフルし終わったデッキを闇遊戯に返してからネプテューヌに告げる。

 

「……とりあえず、僕が引くよ」

 

 新八が闇遊戯が手に持つデッキのカードの一番上を引こうとするが、

 

「…………」

 

 相方の顔をジッと見つめる女神の視線に気づいて手を止め、新八は顔を向けつつ反応する。

 

「いやなにその……『お前大丈夫か?』って言いたげな顔? 今回の僕、出目に関しちゃ結構運が良かったでしょ?」

 

 新八に諭され、ネプテューヌは少し口を尖らせながら不満そうに顔を逸らす。

 

「……よし」

 

 小さく気合いの言葉を漏らして新八は一枚のカードを引く。

 

「あッ……ゴキボール引いちゃった……」

 

 新八が見せた攻撃力1200のモンスターを見て銀時とノッブが吹きそうになるが耐える。

 するとすかさず闇遊戯が新八の胸倉に掴みかかり、

 

「HA☆GAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!」

 

 ありったけの声で叫ぶ。

 

「ええええ!? えッえッえッ!? ちょッ!? な、なに!? こ、こわいッ!?」

 

 いきなり豹変した闇遊戯に新八は怯えて戸惑う。

 

「「「……アハハハ……!」」」

 

『銀時、ネプテューヌ、アウト。

銀ノッブ:6ポイント

メガメガ:0ポイント

※0ポイントのチームがいますが引き続きミッションは進行します』

 

 ノッブは銀時の尻を叩く。

 

「くらえーいッ!!」

「いっだッ!! 五秒も笑ってた!?」

 

 ネプテューヌは相方のぱっつぁんが遊戯さんに胸倉掴まれたままなので余計に1ポイント失う。

 ようやく胸倉を離された新八は闇遊戯から少し離れる。

 

「ちょッ、こ、こわッ……なにこの王様怖いんですけど……」

 

 さっきまで怒鳴っていたのにスッと真顔に戻っている闇遊戯に新八は少し怯えているが、名もなきファラオは構わずゲームを進める為にデッキの上に二本の指を置く。

 

「いくぜ! 俺のターンドロー!」

 

 闇遊戯は勢いよくカードを引くとフッと笑みを浮かべ、新八とネプテューヌは闇遊戯の態度を見てえッ? という表情になる。

 闇遊戯は自身が引いたカードをチームメガメガに見せつける。

 

「俺の引いたカードは……クリボー!」

 

 クリボー――攻撃力300。

 

「「アハハハ……!!」」

「「「「ンフフフ……!!」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、神楽、沖田さん、アウト。

銀ノッブ:4ポイント

メガメガ:-2ポイント

沖楽:8ポイント』

 

 3チームは笑い、なのは、ひかる、ララはなんとか笑わないように顔を背けて耐えている。そして銀時が笑いながらコメントする。

 

「今の恥ずいなー……!」

 

 新八が若干笑いながら闇遊戯に告げる。

 

「お、王様……ぼ、僕たちの勝ちですね?」

「ち、違う! クリボーが勝手に!!」

 

 ノッブが更に笑い声を漏らす。

 

「か、勝手にって……お、お前が引いたカードじゃろ……!」

 

 自身の敗北の事実に対し王様は、

 

「うわァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 頭を抱えぶんぶん振り回しながら一目散に白い両扉に向けて走り出す。

 

『※情緒不安定な名もなきファラオ』

 

 闇遊戯が白い両扉の中に入って姿を消すとアナウンスが流れる。

 

『チームメガメガ勝利:7マス進む』

 

 ミッションが終わり、新八と銀時がコメントする。

 

「いやー……凄まじかったー……」

「カード界のレジェンドにあんなことさせるとは思わなかったなー……」

 

 そして0ポイントになってしまったチームたちにフェイトが告げる。

 

「では、0ポイントになったメガメガは罰ゲームを受けてもらいます」

 

 もう何度目か分からない罰ゲーム執行にメガメガは嫌そうな表情を浮かべながら渋々罰ゲームを受ける。

 フェイトがガラガラを回すと黒い玉が出てくる。

 

「あッ……」

 

 フェイトが出た玉を見て声を漏らし、新八とネプテューヌはえッ? と若干困惑している。

 フェイトが見せる玉の数字には赤い数字で5と書いてある。それを見て新八とネプテューヌは顔を引きつらせる。

 

「うわー……」

「嫌な予感……」

 

 そしてアナウンスと共にディスプレイに文字が表示される。

 

『罰ゲーム5:闇』

 

 するとすかさず白い両扉が開き奥から、

 

「オイラァ!!」

 

 という凄まじい声が聞こえてくる。

 

「えッ!?」

「なになに!?」

 

 ビビり困惑する新八とネプテューヌ。声に反応して他の面々の視線も両扉に向く。

 そして扉の奥から大柄で筋肉質なナマモノ――グラブルのビィ(マッチョ)が出てくる。

 

「うわァァァァァァァッ!?」

「なんか凄いの来たッ!!」

 

 新八と銀時は驚きの声を上げ、

 

「うわうわうわうわッ!?」

「わわわわわッ!?」

 

 ネプテューヌとなのはは正体不明の存在に戦々恐々し、さすがのひかるとララもドン引きしている。

 

「ゆ、ユーマ!? う、宇宙人!?」

「なに星人ルン!?」

 

 ゆっくりと新八とネプテューヌの前までやって来たマッチョなビィ(?)はその無機質な目で二人を見下ろす。

 

「ようやくオイラの出番だなァ。待たせちまったな」

「「待ってない! 待ってない! 待ってない! 待ってない!!」」

 

 チームメガメガは首を横にぶんぶんと振るがビィ(?)は鋭い爪が生えた人差し指を二人に突きつける。

 

「おめェらのどちらかに与える罰ゲームはオイラの――〝ビンタ〟だァ!」

「「ウ゛ェッッッッ――――!?」」

 

 罰ゲームの内容を知った二人は凄まじい表情で驚き声を上げる。

 

『※スペシャル罰ゲームはオイラビンタ』

 

 罰ゲームの内容を知った新八とネプテューヌはやがてお互いの顔を見た後、

 

「「さいしょはグーッ!!」」

 

 鬼気迫る勢いでじゃんけんを始める。

 

「「じゃんけんぽんッ!!」」

 

 新八がグー。ネプテューヌがパー。

 

「うわあああああああああああああああああッ!!」

「しゃおらァァァァアアアアアアアアアアアアア!!」

 

 新八は絶望の悲鳴を上げ、ネプテューヌは両手を上げてガッツポーズ。

 

「おめェかァ……」

 

 ビィ(?)はそのデカい手で新八の肩をガシっと掴んで逃げられないようにする。

 

「ちょちょちょちょッ!! 待って待って待ってッ!!」

「さァ……歯ァ食いしばるんだぜェ……」

 

 怯える新八にマッチョビィは構わずビンタの構えに入る。

 新八は涙目になりながら必死に命乞いし出す。

 

「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待って!!」

「なんだァ?」

 

 一応律儀に話を聞くビィ(?)に新八は怯えながら震える手でネプテューヌを指さす。

 

「あ……あっちの……め、女神の方が……ビンタし、しがい、あります……!」

「ファッツッ!?」

 

 とネプテューヌは驚きの声を上げる。

 

「「「ブフッ……ハハハ……!」」」

 

『銀時、ノッブ、沖田さん、アウト。

銀ノッブ:2ポイント

沖楽:7ポイント』

 

 銀時とノッブは笑いながらツッコミ入れる。

 

「ちょッ、ビンタしがいありますってなんだよ……!」

「み、見苦しいのー……!」

 

 沖田さんは神楽のケツ叩きを受ける。

 

「そいやッ!!」

「あうちッ!!」

 

 新八の命乞いを聞いてネプテューヌが怒声を浴びせる。

 

「さっさと受けろぱっつぁん!!」

「折角じゃんけん勝ったんだしな……」

 

 と銀時がコメントするとビィ(?)はグイッと新八の顔を自身の顔の近くに引き寄せる。

 

「罰ゲームを受けるのはおめェだァ!!」

 

 新八の命乞いなどまったく聞き入れられるワケもなく、大声を浴びせられた新八は更に怯える。そしてマッチョビィは手を振りかぶり罰ゲームを執行する。

 

「ビィィィィイイイイイイイイイイイイッ!!」

 

 その筋肉質な腕から放たれたビンタが新八の顔に直撃する。

 

「ブッッッ!!」

 

 頬に衝撃を受け、勢いのあまり後ろに倒れる新八。

 新八は頬を抑えながら痛みによって口を閉ざしつつ恨めしそうにネプテューヌを睨みつけている。

 そんな新八の姿に銀時、ノッブ、沖田さん、神楽は笑いそうになっているがなんとか耐えている。

 

「オイラァ!!」

 

 仕事を終えたビィ(?)はよくわからない鳴き声を上げながら白い両扉の奥に消えていく。

 ビィ(?)をジッと見ていたララは汗を流しながらコメントする。

 

「なんかさっきの謎の生物……神楽やノッブに声が似ていたルン……」

 

 罰ゲームが終わったことでネプテューヌが新八に近づきながら手を差し出す。

 

「それじゃ、罰ゲームも終わったしもど――」

 

 言葉の途中で新八がネプテューヌの差し出した手をバシッと叩いて払いのける。

 

「…………」

 

 新八は頬を手で抑え、口をギュッと一文字に結びながらネプテューヌを睨みつける。

 ネプテューヌは払いのけられた手を撫でながら悲しそうな表情で呟く。

 

「新八……」

「「「フフフ……!!」」」

 

『銀時、ノッブ、沖田さん、アウト。

銀ノッブ:0ポイント

沖楽:6ポイント』

 

「笑うんじゃねェ!!」

「あァうッ!!」

 

 神楽が沖田さんのケツを叩き、銀時とノッブは笑いながらコメントする。

 

「な、なんのドラマ繰り広げてんだよ……!」

「なんでそこで即興の寸劇始めるのかのー……!」

 

 そして0ポイントになってしまった銀時とノッブも立ち上がりつつ不満の声を漏らす。

 

「あークソ! 0ポイントじゃねェか……!」

「あー……道連れにされた……」

 

 待機席へと戻るメガメガと入れ替わるように前へと出る銀ノッブ。不満全開なその姿を見て新八はしてやったりといった顔をしていた。

 そしてチーム銀ノッブがなんの罰ゲームを受けるかの抽選が始まり……なんと金色の玉が出現する。

 

「あッ……」

 

 とフェイトが声を漏らし、銀時が声を漏らす。

 

「あッ、金玉出た」

「ちょッ……フッ……」

 

 ノッブは不意打ちとばかりに吹き出してしまい、沖田さんと新八はなんとかギリギリ笑うのを堪えた。

 

『ノッブ、アウト。

銀ノッブ:-1ポイント』

 

「もォ! 銀時笑わすなッ!」

 

 ノッブが文句を言う中、フェイトは金色の玉を摘まみ上げて見せながら説明を始める。

 

「罰ゲーム抽選で1枠だけ用意されている特別玉の7です」

 

 フェイトの言う通り玉には銀色の文字で7と描かれている。

 

「コレが出た場合はアイテムを選ぶことができます」

「えッ?」

「マジかッ!?」

 

『罰ゲーム7――アイテム選択』

 

 まさかの罰ゲーム回避に銀時とノッブは安堵と共に喜びの声を出す。

 

「よし、よしよし……!」

「あー、ついに運が向いてきたー……」

 

 そんなチーム銀ノッブを新八は射殺さんばかりの鋭い視線で睨みつけており、なのはとひかるはそんな眼鏡の青年の顔に気付いて汗を流している。

 

「じゃあ、番号を選んでください。ちなみに一度選ばれた番号は選べません」

 

 フェイトの言葉を受け銀時とノッブは少しの間話し合う。やがてお互いにうんと頷き合った後、銀時が告げる。

 

「じゃあ、7で」

 

 そしてアナウンスと共にディスプレイに文字が表示される。

 

『アイテム7――ステーキ』

 

「「おッ……!」」

 

 銀時とノッブが声を漏らし、白い両扉が開くとワゴンカートを押すのは銀魂側の沖田総悟。そのカートの台には二人分のステーキ定食が用意されていた。

 

「へ~い……ステーキお待ちでさァ」

「「おおッ……!」」

 

 鉄板に乗った厚みのある肉にソースが既に掛かったステーキを見て銀時とノッブは嬉しそうに声を漏らす。

 

「では、待機席で好きな時に食べて下さい」

 

 とフェイトが言っているうちに銀ノッブの待機席の前には親切に学習机が地面から出現していた。

 沖田は出現した学習机の上にステーキ皿とライスの皿を置く。ステーキはアツアツで湯気が立つ鉄板の上に乗ってジューと言う音を鳴らしている。

 仕事を終えた沖田はワゴンカートを押しながら白い両扉の奥へと消えていく。

 銀時とノッブは待機席に向かいながら満足げな声を出す。

 

「いや~、マジで運が向いてきたな」

「みたか! これぞ幸運準Aランクの実力よ!」

 

 罰ゲームを回避しステーキまでゲットした二人を新八は呪いそうなほどの眼差しで睨む。

 銀時とノッブはステーキを一切れ切って口に入れて満足げな声を出す。

 

「モグモグ……おッ、中々味付けは良い感じだな」

「ふむ……悪くない……」

 

 銀ノッブが食べている間に次はチームプリなの。なのはがサイコロを投げる。

 出た目は……3。

 

『ハズレマス――ポイント-5』

 

「「「えッ!?」」」

 

 チームプリなのはマスの内容を見て驚きの声を上げ、銀時がナイフとフォークを持った手を止めてコメントする。

 

「うわ、単純だけどエグイのきた」

「では、プリなのは0ポイントになりましたので抽選を行います」

 

 とフェイトは言ってガラガラを回す。

 出た数は2。

 

『罰ゲーム2:握手』

 

 さきほどの電撃握手を思い出してか浮かない顔になるなのは、ひかる、ララ。そして白い両扉からさきほどのエジソンよりも二回りくらい小柄な人物が出て来て軽く右手を上げる。

 

「どうも」

「えッ? ライオン丸じゃねェぞ?」

 

 と銀時が戸惑いの声を漏らし、新八が「あッ」と声を出しつつ出てきた人物の名を言う。

 

「御坂美琴ちゃんだ」

 

 なぜか出てきたのは『とある魔術の禁書目録』のヒロインであり、『とある科学の超電磁砲』の主人公である『御坂美琴』でった。

 御坂はなのはたち前まで歩くと右手を出す。

 

「それじゃ、私と握手して」

 

 御坂の出された手を見てチームプリなのは戸惑い互いに顔を見合わせるが、やがてララがおずおず右手を上げながら一歩前に出る。

 

「じゃ、じゃあ私がー……」

 

 するとすさかさずひかるが待ったをかける。

 

「こ、ここは公平にじゃんけんをした方が……」

「だ、大丈夫ルン。だってさっきの異星人ではないからきっと電気は――」

 

 と言いながらララは戸惑いつつも御坂の手を握る。

 

「いだだだだだだだだだだだだだだだだッ!!」

 

 やっぱり電撃握手だったのでララはめっちゃ痛がる。しかも前のエジソン同様に手を離そうとしているが御坂がギュッと手を握り締めているので離そうとしても離れない。

 するとララが、

 

「ルンルンルンルンルンルンルンルンルンッ!!」

 

『※痛みのあまり変わった悲鳴を上げるララ』

 

「「「「「ハハハハハ……!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、沖田さん、神楽。アウト

銀ノッブ:8ポイント

メガメガ:6ポイント

沖楽:4ポイント』

 

「はい、終わり」

 

 ようやく手を離す御坂。

 

「ル゛……ン゛……」

 

 そしてララはカエル座りになって左手を上げながら悶えている。

 御坂は白い両扉に向かいながら歩いていると思い出したように「あッ」と声を漏らして待機席の面々に顔を向ける。

 

「とりあえず一応、とある科学の超電磁砲Tよろしく」

 

 そう言って白い扉の奥に消える御坂であった。

 消えていった御坂を見て新八がコメントする。

 

「結構おざなりでしたけど、完全に番宣してきましたねー……」

「今アニメやってる最中だしな……」

 

 と銀時が相槌を打ちながらステーキを切り分けており、罰ゲームが終わったララは涙目になって左手を摩りながら待機席へと戻る。途中でひかるとララが励ましの言葉を送っており、そんな三人の姿を見たノッブは感慨深そうに告げる。

 

「ホントあのチームが一番平和じゃな……」

「他のチームは足の引っ張りばっかアルからな……」

 

 と言って神楽が立ち上がりながらジト目を沖田さんに向けるが相方は立ち上がりつつ顔を背ける。そして神楽がサイコロを投げれば、出た目は3。

 

「ようやく野球から解放されたネ」

「なんとかバーサーカーから脱しましたね……」

 

 そしてコマがマスへと到着。アナウンスと共にディスプレイに文字が表示される。

 

『アイテムマス――ダブル』

 

「ん?」

「えッ?」

 

 アイテムマスなのだが、ダブルと言う文字を見て神楽と沖田さんは疑問の声を漏らす。するとフェイトが説明する。

 

「このマスは二回アイテムの番号を選ぶことができます」

「マジでかッ!」

「おぉ……」

 

 神楽は喜びの声を上げ、沖田さんは声を出しながら何度か首を縦に振る。今までアイテム系は良い感じのヤツが出ていることもあってか、さほど危険を感じていない二人は話し合い始める。

 やがてお互いにうんと頷き沖田さんと神楽が声を出す。

 

「じゃあ2でお願いします」

「あと3もお願いネ!」

「……ではまず、こちらをどうぞ」

 

 と言ってフェイトが沖田さんに一枚のカードを手渡す。

 それには白いドラゴンの絵柄が描かれており、

 

「ん? ……わッ!」

 

 カードの絵柄を見て沖田さんは驚きの声を漏らしつつ待機席の面々にカードを見せつける。

 

「コレ、ブールアイズですよ! しかも初期の超レアそうヤツ!!」

「ソッジー!! 良い物もらったアルなーッ!!」

 

 神楽は羨ましそうに沖田さんが持っている青眼の白竜(ブルーアイズホワイトドラゴン)を眺める。

 沖田さんはブルーアイズを見せつけた後にカードしげしげと見ながら告げる。

 

「帰ったら早速売りにいきましょう。コレ絶対良い値段で売れますよ」

 

 沖田さんの言葉を聞いて銀時はノッブに呆れた声で告げる。

 

「記念にとっとくとかしないんだな」

「まー、あいつはデュエリストどころかリアリストなところあるしの……」

 

 ノッブが言葉を返すと新八が銀時に呆れ気味な視線を向ける。

 

「あんただって絶対売る側のリアリストでしょ……」

 

 そして次にフェイトは白い右手用の手袋と一枚の半分に折れた紙を取り出して神楽に渡す。

 

「ん? なにアルかコレ?」 

 

 神楽は受け取った手袋を訝し気に見ており、沖田さんが覗くように手袋を見て言葉を漏らす。

 

「……なんか手袋に令呪みたいな紋章がありますね……」

「手袋の説明については紙を見て下さい」

「え~っと……」

 

 神楽はフェイトからもらった紙を開いて読むが、眉間に皺を寄せている。たぶん紙に書いてあることを理解するのに時間が掛かっているのだろう。

 

「神楽。その紙、ちょっと私に見せてくれませんか?」

「ほい」

 

 神楽は素直に相方に紙を渡し、沖田さんは紙をじっくり見ながらやがて口に出して内容を説明し出す。

 

「え~っとなになに……『あなたが受け取ったのは無限令呪手袋。この手袋を嵌めた者が笑った場合、装着者がチームメイトに指示を飛ばして他のチームの誰かの尻を叩かせればチームのポイントが減ることを防ぐことができます。これは無限令呪なのでいくらでも使うことが可能です』……って、マジですか!?」

 

 説明を読んで驚く沖田さんに続き、銀時と新八も驚きの声を上げる。

 

「うっそマジで!?」

「うわうわうわッ!!」

「ちょッ! ズルいぞそれは!!」

 

 ノッブが文句を告げる一方で説明を聞いても理解できていないであろう神楽が沖田さんに問いかける。

 

「つまり、どういうことアルか?」

「じゃあ神楽。分かり易く説明しますのでこれから私の指示通り動いて下さい。まず、その手袋渡して下さい」

「ほい」

 

 と神楽が沖田さんに手袋を渡し、沖田さんは右手に無限令呪手袋を嵌める。

 

「そして、笑います。アハハハハ!」

 

『沖田さん、アウト』

 

 わざとらしい笑いでアウトになる沖田さん。そして幕末剣士は待機席に人差し指を向ける。

 

「それでは神楽、ノッブのケツを叩きなさい」

「ちょッおまッ!?」

 

 驚くノッブをよそに神楽が黒い棒を握って敬礼する。

 

「イエッサーッ!!」

 

 神楽はノッブに近づいて小さな魔王を立たせてケツを思いっきりぶっ叩く。

 

「おりゃァーッ!!」

「い゛っだいッ!!」

 

 夜兎族渾身のケツ叩きがヒットし、ノッブは悲鳴を上げながら尻を抑える。

 ノッブの尻を叩き戻って来た神楽に沖田さんは満足顔で教える。

 

「私は笑いましたが、私たちのチームのポイントは減りません。つまり、私が笑っても神楽が私が指示した人間のケツを叩けばポイントは減らないってことです」

「おー、なるほど」

 

 ようやく手袋の効果が分かった神楽は感心したように頷く。

 

「なるほどじゃないッ!!」

 

 ノッブは尻を抑えながら沖田さんに文句をぶつける。

 

「沖田貴様!! わしに恨みでもあるのかッ!!」

「いやステーキ当ててイラっときたので」

「なんじゃとこのクソ幕末剣士!!」

 

 すると沖田さんは睨みつけるノッブを見て腕を組みながらワザとらしく告げる。

 

「む、言いやがりましたね? では、アハハハハハ!」

 

『沖田さん、アウト』

 

「ちょちょちょちょ!!」

 

 ノッブは焦り声を上げ、沖田さんは神楽に指示を飛ばす。

 

「神楽、標的はノッブです」

「任せるヨロシ!」

「待て待て待てッ!! 理不尽過ぎるじゃろ!!」

 

 両手を出して反論するが神楽は止まらずまたノッブの尻を黒い棒で叩く。

 

「あ゛う゛ッ!!」

 

 ノッブは悲鳴を上げ、沖田さんは満足げにうんうんと頷く。

 

「いや~、良い物当てました」

「最悪じゃ……最悪な奴に最悪なモンが行き渡りおった……」

 

 ノッブは尻を抑えながら恨み言のように呟き、フェイトが沖田さんに告げる。

 

「笑うのを我慢する必要はないですが、ワザと笑うような遅延行為はあまりしないでください」

「はーい」

 

 と沖田さんは素直に右手を軽く上げて返事をし、神楽と共に待機席へと戻る。

 待機席の近くまで戻ってきた沖田さんに銀時はジト目で告げる。

 

「つうか神楽が受け取ったモンをおめェが使うってどうなんだ?」

「あッ、そうアル! 銀ちゃんの言う通りネ!」

 

 と言って神楽は沖田さんに右の掌を出す。

 

「ソッジー! その手袋私が貰ったモンアル! 返すネ!」

「ですけど、基本的に私ばっか笑っちゃてんですから、罰ゲーム回避の為にも私が使う方が良いのでは?」

「チームの足引っ張てる事実を恥ずかしげもなく言うんですね……」

 

 と新八が呆れ声を出し、神楽は腕を組んでうんと頷く。

 

「なるほど。確かにソッジーの言う通りアル」

「あッ、納得しちゃったよ」

 

 と銀時がツッコミ入れるとすかさず神楽が沖田に食ってかかる。

 

「だったらそのブルーアイズ寄越すネ! 手袋と交換アル!! つうかそっちの方が良いアル!!」

 

 神楽が沖田さんが手に持ったブルーアイズを奪い取ろうとするが相方はカードを持つ手を高く上げて抵抗する。

 

「い~や~で~す~! コレはカルデアに帰ったらダヴィンチちゃんに鑑定してもらって高く売るんです~!」

 

 ブルーアイズをどちらの物にするかで揉める二人をジト目で見る参加者たち。

 銀時とノッブは呆れたようにため息を吐きながら立ち上がる。

 

「……銀時。とにかく、あのガキ共より早くゴールするぞ」

「あぁ、だな」

 

 ノッブの少し気合いの入った言葉に銀時は頷き、サイコロを投げる。

 出た目は6。

 

「よしみたか主人公の力!!」

 

 銀時が拳を握って気合いの声を上げ、銀ノッブのコマは6マス進む。

 そしてマスの内容は、

 

『スカマス』

 

「「またかよッ!!」」

 

 と銀時とノッブは特に何も起こらないマスに止まったことにツッコミ入れる。

 

「アハハハ……!」

 

『沖田さん、アウト』

 

 まったく笑う事を躊躇するどころかワザと笑ってる節すらある沖田さんがまたアウトになる。そして無限令呪装備した彼女は神楽に指示を飛ばす。

 

「では、神楽……銀時で」

「わかったアル!」

「ちょッテメェッ!!」

 

 怒る銀時に構わず彼のケツを神楽が豪快に叩く。

 

「いっだッ!! 無駄にいたッ!!」

 

 痛がる銀時を見ながら新八は立ち上がりつつコメントする。

 

「うわー……マジで腹黒幕末剣士だよあれじゃ……」

「とにかく、目を付けられないようにしよ。下手に関わったら被害に遭うし」

 

 とネプテューヌが助言しながら新八にサイコロを手渡す。

 

「そうだね。……ん? あれ?」

 

 ネプテューヌからサイコロを受け取りすごろくステージを見た新八は目をパチクリさせつつじっくりとゴール辺りを見渡す。

 

「なんかー……あと二回くらいサイコロ振れば……僕たちのチーム……ゴールできるんじゃない?」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 待機席の面々は驚きの表情となり席から立ちあがり、

 

「えッ!? マジでッ!?」

 

 驚くネプテューヌもすぐさま自分たちのコマとゴールマスまでの距離を確認しに小走りでゴールの方まで近づき、マスの数を数える。

 

「1、2、3、4…………うわッ! ホントだ! あと9マスじゃん!!」

「おいおいおい! あいつらもうゴールまでリーチかかってたのかよ!?」

 

 と銀時が驚きの声を上げ、なのはが思い出したように告げる。

 

「確か新八さん達って途中のミッションで大分歩数を稼いでましたもんね……」

 

 ノッブが腕を組みながらすごろくステージを眺めて驚きの声を出す。

 

「広い上にマスがデカい。その上色々あり過ぎて気付かんかったが、このすごろく30マスくらしかないぞ」

「まー、そもそもこんな険しいすごろくは長く続くよりはあっさり終わった方が楽でいいですけど」

 

 サイコロを両手で持つ新八の意見を聞いて銀時は席に戻り頭をボリボリと掻く。

 

「あークソ、まずいなー……駄眼鏡&駄女神に負けるとかよー……」

「もう仕方あるまい。ゴールはともかく最下位だけは回避することに専念するべきじゃ」

 

 とノッブが銀時に告げ、一方素敵なアイテムをゲットをしながらいまだに進み具合が悪い神楽と沖田さんは汗をダラダラ流し青い顔をし始める。

 ゴールが近いと分かった途端、ネプテューヌは新八の背中をバシッ! と叩く。

 

「ぱっつぁーん!! 3以上!! 3以上出せばゴールまであと一息ィーッ!!」

「うっしゃオラァーッ!!」

 

 と新八がサイコロをぶん投げる。

 勢いよく転がったサイコロが出た目は……5。

 

「「よっしゃキタァァァァァァッ!!」」

 

 チームメガメガは喜びの雄たけびを上げる。

 ゴール目前まで進むコマを見て銀時は焦りの声を漏らす。

 

「あーまずいまずいまずい……」

「どう考えてもあと2回くらいでゴールいくアル……」

 

 神楽も焦り声を漏らす。

 そしてネプテューヌと新八がコマが移動したマスの内容は。

 

『アイテムマス』

 

「よしよしよし……!」

「いいぞいいぞいいぞ!」

 

 酷い目に遭わない順当なマスで新八とネプテューヌは喜びの声を出す。もう既に何をするかは何度も見ている二人は話し合いを始める。

 

「えー、大丈夫……?」

「うん、今日の僕はツキがある。ならあの番号ならいけるはず!」

 

 話を終えた二人。そして新八は自信満々の顔で人差し指を立てながら告げる。

 

「志村新八の8で!」

「……わかりました」

 

 フェイトは頷き、ある物を取り出す。それはどうやら何かをやわらかい布で包んだ大きな物のようで。

 

「こちらをどうぞ」

 

 フェイトはある物を両手に抱えながら新八へと手渡す。

 

「…………」

 

 新八は渡された物を見て無言となり、ネプテューヌは渡された物を覗き込んで、

 

「アハハハハッ!!」

 

『ネプテューヌ、アウト。

メガメガ:5ポイント』

 

 新八は受け取ったモノをすかさず床に置いてからネプテューヌのケツを叩く。

 

「ッいたいッ!!」

 

 だがネプテューヌは叩かれた後も半笑いのまま笑みを浮かべて続けている。一部始終を見ていた待機席の面々は新八が受け取った物に興味示し始める。

 

「なんだなんだ?」

「なに貰ったんじゃ?」

 

 床に置いた物を再び拾い上げ両手で抱える新八に席を立って近づく面々。

 やがてゆっくりと新八が振り向くことで彼が受け取った物の正体がようやく分かる。

 それは『新八に顔がそっくりな赤ん坊の人形』だった――しかも布に包まった体だけ赤ん坊で顔はシリアスな顔の青年新八と言うアンバランスな体躯の赤ん坊だった。

 冷めた視線でこちらを見つめてくる赤ん坊新八を見た銀時たちは、

 

「「「「「アハハハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、なのは、ひかる、ララ、沖田さん、神楽、アウト。

銀ノップ:6ポイント

プリなの:7ポイント

神楽:2ポイント』

 

「…………」

 

 無言の新八とは対照的にノッブと沖田さんと神楽が笑いながらコメントする。

 

「アハハハッ!! しゅ、シュールじゃなーッ!!」

「ハハハハッ!! な、なにか達観したような顔がまたッ!!」

「アハハハハッ!! か、可愛くない赤ん坊アルなァーッ!!」

 

 銀時は新八が抱っこする人形を笑いながら指さす。

 

「そ、それ前に近藤の奴が作った捏造写真の赤ん坊にそっくりじゃねェかッ!! ブハハハッ!!」

 

『※近藤が作った捏造の赤ん坊写真が知りたい人はアニメ銀魂204話、もしく銀魂34巻のハガキ回をチェック』

 

「アハハ……あッ、神楽……叩くの忘れてた……」

 

 と沖田さんは20秒以内に叩くの忘れたことに気付いて声を漏らし、半笑いになりつつ神楽に指示を飛ばす。

 

「フフ……とりあえず私の分は……ノッブで」

 

 と無限令呪手袋装備した沖田さんがケツを叩く人間を指さす。

 

「ほいきた!」

「とりあえずってなんじゃッ!! いったいッ!!」

 

 ノッブが悲鳴を上げる。ちなみに神楽は無限令呪手袋装備してないので笑ったらポイントが引かれている。

 

「…………」

 

 一人だけ笑ってない新八は自分の顔そっくりと言うかまんま新八顔の赤ん坊が笑われている現状に不満なのか赤ん坊を握る手に力が入る。

 すると、

 

「オンギャァバァーッ!!」

 

 赤ん坊新八が物凄い声で鳴き声を上げる。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 驚く新八と銀時たち。

 新八が何が起こったのか確かめようと赤ん坊人形のお腹を強く押す。

 

「オンギャァバァーッ!!」

 

 とても赤ん坊とは思えない鳴き声を出す赤ん坊新八。

 

『※赤ん坊新八はお腹周りを押すと声が出る特別仕様』

 

「「「「「アハハハハハハッ!!」」」」」

 

 新八がまた赤ん坊を床に置いて無言でネプテューヌのケツを叩く。

 

「いったいッ!!」

 

 尻を叩かれる必要のない銀時とノッブが笑いながらコメントする。

 

「アハハハハハッ!! き、きたねェ鳴き声だなァ!!」

「ブハハハハハッ!! に、人間のじゃないアル!!」

「ば、バケモノの子じゃろそいつッ!! アハハハハハハハッ!!」

「コファハハハハハッ!! 腹痛い腹痛いッ!!」

 

 沖田さんに至っては吐血しながら笑い続ける。

 

「…………」

 

 みんな笑い続ける中、新八だけが赤ん坊と同じなんとも言えない冷めた表情をしている。その顔がより一層全員の笑いのツボを刺激するのだった。

 そして20秒立つ前に沖田さんは笑い収まらぬうちに珍しく神楽のケツを叩く。

 

「さ、さすがに次は忘れません!!」

「いったッ!! この私がァー!!」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、なのは、ヒカル、ララ、沖田さん、神楽、アウト。

銀ノッブ:4ポイント

メガメガ:4ポイント

プリなの:5ポイント

沖楽:1ポイント』

 

 ちなみに沖田さんの代わりに尻を叩かれる対象はと言うと、

 

「あッ、じゃあネプテューヌで」

「またーッ!! また私叩かれるのォーッ!! あうちッ!!」

 

 

 

 新八赤ん坊からようやく笑いが収まってきた参加者一同。とは言え、また吹き出そうになるのを避けてか新八が抱っこする赤ん坊の方を見ないように努めている。

 次のサイコロを回すチームであるプリなのを見ながら銀時が疲れたようにコメントする。

 

「あー、キツイわー……アレマジで殺戮兵器だろ……」

「あぁ……あの見た目とあの声は反則じゃ……」

 

 脱力するノッブも銀時の意見に同意を示しながらひかるが投げるサイコロを見つめる。

 

「大きい数字こい!」

 

 そして有言実行か、ひかるは4を出す。

 

「よし! 悪くない!」

 

 ひかるが喜ぶ中、コマは進む。

 

『ハズレマス――1回休み』

 

「あぁ~! 大きい数字出たのにィ……!!」

 

 さいころを投げたひかるはあからさまにガッカリしてしまい、なのはとひかるは慰める。

 

「どんまい」

「まだまだチャンスはあるルン」

 

 その光景を見てノッブは腕を組みながらコメントする。

 

「あぁ……なんて平和なチームじゃ……」

「ハハ、いやまったく、私たちと比べると平和なもんですね」

 

 沖田さんは自嘲気味に苦笑いを浮かべる。

 

『沖田さん、アウト』

 

 沖田さんは「あッ……」と声を漏らす。

 もちろん苦笑いも笑ったうちになるでアウトになりノッブが立ち上がりながら怒声を浴びせる。

 

「苦笑いするなァーッ!! 緊張感持てェーッ!!」

「あちゃ~……」

 

 沖田さんは軽い態度でしまったーと言う感じに頭を掻き、ノッブに視線を向ける。

 

「じゃー、ノッブで」

「おまえふざけんなもォーッ!!」

 

 とノッブは文句言うが神楽にケツはぶっ叩かれる。

 

「いっだい!! あーもォーッ!!」

 

 もう黙っていられないのかノッブは尻を抑えながら沖田さんに指を付きつけ文句をぶつける。

 

「お前いい加減にしろォーッ!! そのパチモン令呪使うのやめんかァーッ!!」

「だって無限令呪ですも~ん」

 

 と沖田さんは無限令呪手袋をこれ見よがしに見せつける。

 

「もんじゃない!! 腹立つなコイツ!!」

 

 沖田さんとノッブのぐだぐだコンビが喧嘩する中、銀時は頬杖付きながら問う。

 

「とりあえず次、どのチームだ?」

 

 と銀時が聞くと新八が答える。

 

「あッ、次は沖田さんたちですよ」

「では、いきますか……」

 

 ペナルティを受けずに済んでいる沖田さんは余裕の表情で立ち上がり神楽がサイコロを投げる。

 そんなチーム沖楽、と言うか沖田さんの後姿をノッブは恨めしそうに見ながら告げる。

 

「あいつ絶対いつか酷い目に遭うぞ……」

 

 神楽がサイコロを投げる。出た目は2。なのでイベントマスに行く。

 

「またジョーカーさん見せられるのかー……」

 

 銀時は落胆したように言う。たぶん笑わない、もしくはタイキック宣言されるかもしれない時間が無駄に取られる三度目の上映回がメンドクサイのだろう。

 だが、

 

『特殊イベント発生』

 

「「「「「えッ!?」」」」」

 

 アナウンスとディスプレイの表示を見て参加者一同が驚きの声を上げる。すると司会進行役のフェイトが説明する。

 

「特殊イベントはある特定のアイテムが出た時にイベントマスを踏むと発生します」

「「へー……」」

 

 銀時とノッブがテキトーに相槌を打っている時、

 

『――沖田総司。おまん、いい加減にするぜよ!』

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 突如謎の女性の声がナレーションとして聞こえてきた事に驚く参加者一同。

 そしてシュピーン! シュピーン! と言う謎の音まで聞こえ始め、なのはと新八は戸惑いの声を出す。

 

「なになに?」

「なんかどっかで聞いたことあるような?」

 

 沖田さんとノッブは声の方に反応する。

 

「えッ? 土佐弁? 人斬りさんですか?」

「いや、さっきの声女じゃぞ。しかも聞いたことあるぞ」

 

 困惑する一同をよそに白い両扉が開き、一回りも二回りも時代が古い黒いセーラー服を着た女性が出てくる。

 そして突如現れた黒い手袋を嵌め、ヨーヨーを構えた女性を見て銀時とノッブと沖田さんは驚きの声を上げる。

 

「うおッ!? なんだなんだッ!?」

「マジで!? えッ!? マジで!?」

「ここで来ますか!?」

 

『スケバン刑事――マシュ・キリエライト参上』

 

 短く切りそろえられた薄紫色の髪、そして片方が長く垂れた前髪に眼鏡をかけた女性――FGOからのゲストであるマシュ・キリエライトがスケバン刑事として突如登場。

 

「うわ、なつッ……!」

 

 と銀時が一番にマシュの恰好がなんであるか理解したようで声を漏らし、驚く一同をよそにスケバン刑事がヨーヨーを構えながらゆっくり沖田さんに近づきつつ語りだす。

 

「鉄仮面に顔を奪われ……とお……とお……」

「ん? ん? ん?」

 

 スケバン刑事のセリフが止まった事で銀時が疑問の声を漏らし、他の面々も少し困惑する。すると一旦セリフが止まったマシュは強くセリフを言い放つ。

 

「とお! …………鉄仮面に顔を奪われ、何の因果か〝トッポ〟の手先……」

 

『※スケバン刑事、決め口上をド忘れしてやり直すがセリフが飛ぶ上に間違える』

 

「「「「「アハハハハ……!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、沖田さん、神楽。アウト。

銀ノッブ:2ポイント

メガメガ:2ポイント

沖楽:-1ポイント

※0ポイントのチームが出ましたがイベントは続きます』

 

 チームプリなのが笑いを堪える横で銀時、ネプテューヌ、ノッブが笑いながらツッコミとコメントする。

 

「と、トッポってお前、お菓子の手下なのかよ……!」

「も、元ネタ分からないけどセリフ間違えてるの分かった……!」

「トッポはあかんじゃろトッポは……!」

 

 そして笑いが収まり始めた沖田さんがディスプレイの表示を見て疑問の声を漏らす。

 

「あ、あれ? 私まだ指示飛ばしてないのにポイントが減ってるんですけど?」

「悪党沖田総司!!」

 

 そこでスケバン刑事が食い気味に沖田さんに言い放つ。少し気圧される沖田さんにスケバン刑事は語りつつ言い放つ。

 

「おまんの令呪はもう無効ぜよ!!」

「えッ? そ、そうなんですか?」

「いやまー、流れ的にそうだろ……」

 

 驚き気味に言う沖田さんに銀時は冷めた口調で告げ、スケバン刑事は口上を続ける。

 

「人の心を無くし、悪逆三昧の悪党沖田総司!! お天道様が許しても……このスケバン刑事!! マシュ・キリエライトが許しません!!」

 

 そこまで言ってスケバン刑事マシュが腕を前に出せばヨーヨーの側面部が開いて桜の代紋が姿を現す。

 

『※セリフがうろ覚えのスケバン刑事』

 

「「「……ハハハ……!」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、沖田さん、アウト。

銀ノッブ:0ポイント

メガメガ:0ポイント

沖楽:-2ポイント』

 

 そして沖田さんはいつも通り神楽にケツを叩かれるようになる。

 

「いっだッ!!」

 

 銀時、新八、ネプテューヌ、ノッブは半笑いになりながら疲れ気味にコメントする。

 

「ハハハ……あーもーめちゃくちゃじゃねェか……!」

「いかんいかんいかん……完成度低すぎて逆に笑う……」

「やるならちゃんとやってよもー……」

「しかも最後素が出るしのー……」

 

 スケバン刑事は桜の代紋を見せつけながら沖田さんに近づき食い気味に言い放つ。

 

「極悪非道の沖田総司! あなたはこのマシュ・キリエライトが裁きます! 覚悟するきに!!」

 

 半歩下がってのけぞりながら戸惑う沖田さん。

 

『※スケバン刑事マシュが桜セイバー沖田総司を裁く』

 

 そんな光景を見ながら銀時とノッブと新八はコメントする。

 

「素が時々出てくんなーあのスケバン刑事……」

「セリフほとんど抜けてるじゃろあれ……」

「なるほど、アイテムによってはこういうイベント起こるんですね……」

 

 一方、沖田さんはこれから自分が制裁されることを知って周りをみながら戸惑いの声を漏らす。

 

「えッ? ちょッ、えッ? なんで? そんな……」

 

 困惑する沖田さんとは対照的に銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌは当然とばかりに冷めた声で告げる。

 

「いやー、手袋手に入れてからすげー調子乗ってたしな」

「散々好き勝手やってたじゃろ」

「来るべき時が来たんですよ」

「横暴だったしねー」

「いや、横暴って……無限令呪使ってただけなのに……」

 

 まったく助け船来ない沖田さんにスケバン刑事は強く言い放つ。

 

「悪党沖田総司ッ!!」

「あッ、はい……」

「……好きな食べ物は、なんですか?」

 

 また素の口調で沖田さんに問いただす。

 銀時は笑いそうになるの我慢しながらコメントする。

 

「あれ、絶対セリフ飛んでるだろ……」

 

 沖田さんは戸惑いながら弱々しく答える。

 

「え、えっと……お、お団子です……」

「お団子!?」

 

 とスケバン刑事は大げさ気味に反応を示し、背を向けて歩きながら語り出す。

 

「……沖田総司の癖して女になってマスターたちから金を巻き上げお団子三昧!!」

「「「ブフフフ……!!」」」

 

 銀時とノッブと新八が吹き出して笑うがスケバン刑事の口上は続く。

 

「いざ戦えばるろうに剣士をパクったインチキ剣技!! ……この、大詐欺師!!」

「「「「アハハハハッ!!」」」」

「悪党沖田総司!! 絶対許さんぜよ!!」

 

 再びスケバン刑事マシュは桜の代紋をビシッと見せつける。

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、神楽。アウト

銀ノッブ:-2ポイント

メガメガ:-2ポイント

沖楽:-3ポイント』

 

「いったッ!!」

 

 沖田さんが笑う神楽の尻を叩く。

 銀時とノッブが笑いながらツッコミ入れる。

 

「いやー、そこら辺のセリフはちゃんと覚えてるんだなー……!」

「今のアドリブだったらわしマシュの見え目変わるんじゃが……!」

 

 スケバン刑事は桜の代紋を沖田さんの顔に近づけつつ言い放つ。

 

「無限令呪を悪用する悪逆非道の沖田総司!! …………あ、あてぇの正義のヨーヨーがあなたさばフフッ……!」

 

 マシュが我慢できずに吹き出して口元を抑える。

 

「「「「アハハハハハハッ!!」」」」」

 

『全員アウト。

銀ノッブ:-4ポイント

メガメガ:-4ポイント

プリなの:3ポイント

沖楽:-6ポイント』

 

 銀時、ノッブ、新八、ひかるが半笑いなりながらツッコミ入れる。

 

「セリフめちゃくちゃだし笑うしでひっでェなこのスケバン刑事……!!」

「もうちゃんと進めてくれ……!!」

「スケバン刑事さんそこら辺はもうビシッと決めましょう!!」

「笑うのズルい笑うのズルい!!」

 

 スケバン刑事は落ち着いてからセリフを再開する。

 

「もうこれでは埒があきません!! あなたにはこんな最後がお似合いぜよ!!」

 

 そうスケバン刑事マシュが言ったと途端、タイキックさんのBGMが鳴り出す。それを聴いて沖田さんは慌て出す。

 

「えッ? えッ? えッ? えッ? えッ!?」

「あー、そうきたかー……」

 

 銀時は冷静になってなるほどと頷く。

 そして白い両扉から鉄仮面を付け体を黒いマントで覆った人が現れる。姿を隠した謎の人物を見て銀時となのはは疑問の声を出す。

 

「んッ? 誰だ?」

「妙キックさん……じゃないですね?」

 

 スケバン刑事マシュは謎の鉄仮面の人物に近づく。

 

「覚悟するぜよ!」

 

 マシュが鉄仮面の頭をポンと叩くと仮面が二つに割れて素顔を晒す――その顔は初代仮面ライダー1号。

 

「「「「「うわッ!?」」」」」

「「「うわァァァァアアアアアアッ!!」」」

 

 まさかのゲスト登場にビックリする一同。

 沖田さん、新八、ネプテューヌに至っては悲鳴まで上げる。

 

「か、仮面の下に仮面被ってた……!!」

 

 と新八が驚きのツッコミする中、ライダー一号はマントを脱いでプロテクターに覆われた体を見せつける。

 

『※お仕置きは仮面ライダー1号によるタイキック』

 

「いやいやいやいやァァァァァァアアアアアアアアッ!!」

 

 沖田さんはこれから何を受けるのかもう分かって悲鳴を上げながら後ろに下がって逃げようとするが、銀時とノッブとネプテューヌと新八が取り押さえる。

 

「ほら覚悟決めろ」

「黙って受けろ」

「逃げちゃダメだから逃げちゃダメだから」

「制裁受けてください」

「でもアレ改造人間じゃないですか!! キック力何トンあると思ってるんですか!! 無理無理無理無理!! 無理です!! 私の尻が持ちません!!」

 

 沖田さんは必死に抵抗するが結局無言の1号ライダーの誘導の元にタイキックを受ける準備をさせられる。

 タイキックを待つ沖田さんはビビりながら命乞いし出す。

 

「せ、正義の味方なんですから優しくしてェーッ!! お尻は乙女!! わ、私びょうじゃ――!!」

「ライダー……タイキックッ!!」

 

 改造人間渾身のケリが沖田さんの尻にヒット!!

 

「いっだァァァァァァァッ!! ゴッッッファァァッ!!」

 

 悲鳴を上げながら吐血し横向きに倒れ、

 

「いだだいだいだいだいぢ%&%&@$**#`’$%$*+>Q+`%&※$%&ッ!!」

 

 尻を抑えながら暴れるエビのように謎の悲鳴を上げ続ける。

 

「「「「アハハハハッ!!」」」」

「「ブハハハハハハハハッ!!」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、神楽。アウト

銀ノッブ:-6ポイント

メガメガ:-6ポイント

沖楽:-7ポイント』

 

 顔を背けるなのは、ひかる、ララ以外は笑いまくり、神楽は尻を叩くはずの沖田さんが倒れているのでポイントをさらに失う。

 そして痛がる沖田さんを見ながら言い放つ。

 

「成敗完了!!」

 

 そして白い両扉の奥へと帰って行くスケバン刑事マシュと仮面ライダー1号。

 一方、帰って行く二人など気にせず沖田さんは笑う五人を睨みつける。

 

「ちょっとォーッ!! あなたたち血も涙もないんですかッ!! 私こんなに痛がってるのに!! 特にノッブと神楽ァ!!」

 

 実はノッブと神楽だけ指差して腹抑えながらめちゃくちゃ笑っていたりする。ネプテューヌと新八と銀時は笑いながら言い返す。

 

「だ、だってそのリアクションはズルいって!」

「い、いやそれもうギャグですって!!」

「つうか後半なんつってんだよ!! アハハハハハッ!!」

 

 するとなのはがおずおずと近づきながらなんとも言えない表情で沖田さんに声を掛ける。

 

「だ、大丈夫ですか……?」

「ほらーッ! なのはちゃんは心配してくれてますよー!」

 

 沖田さんはすぐさま立ち上がり尻を抑えながらながらなのはを指さす。すると銀時がある指摘をする。

 

「いや、なのはどころかプリキュア共も顔を背けて笑うの我慢してたぞ」

「えッ?」

 

 と沖田さんが声を漏らすとチームプリなのの面々はまた顔を背ける。

 沖田さんに文句言われた面々はまったく反省の色はなく、既に白い扉の奥に引っ込んでいったスケバン刑事の話をしている。

 

「しっかし、可愛いスケバン刑事でしたねー」

「迫力全然なかったしのー」

「しかしまさか今回の特別編も1号来るとは思わなかったなー……」

 

 新八とノッブと銀時の会話を聞いて沖田さんは露骨に不満そうな表情を浮かべる。

 

「うわー……あなたたちこそ人の心ないでしょ……」

 

 するとララとひかるが沖田さんにジト目を向ける。

 

「散々アイテム使って好き勝手してた人が言えるセリフじゃないルン……」

「うん……」

 

 アイテムによるイベントが一通り終わるとフェイトが告げる。

 

「それでは、0ポイントになったチームは罰ゲームの抽選を行います」

「「「「「あッ……」」」」」

 

 罰ゲームのことをすっかり忘れていた五人は声を漏らす。

 そんなこんなで笑いまくった3チームが罰ゲームを受けることになった。



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2020年明け 8:サプライズ

※今回の話の途中でポイントが表記されなくなりますが、表記忘れではありません。
最後まですごろくの内容を描けないので、敢えて途中から表記は表示しないことにしました。



 前回、3チームが罰ゲームを受けることになった。

 それでは、先行2チームの罰ゲームの風景をダイジェストにお送りします。

 

 チーム銀ノッブの罰ゲームは――1の『妙キック』

 

「「またかよッ!!」」

 

 銀時とノッブがツッコミ入れる。

 そして妙キックを受けるのは……、

 

「ケツ死ねオラァァァァァァッ!!」

「あ゛う゛ん゛ッッッ!!」

 

 ノッブであった。

 

「アハハハハハッ!!」

 

『沖田さん、アウト。

沖楽:-8ポイント』

 

『※三回目でも元気に手を叩いてめっちゃ笑う沖田さん』

 

「あうちッ!!」

 

 そして沖田さんは神楽にシバかれる

 続いてチームメガメガの罰ゲームは……2の電撃握手。

 

「私は二コラ・テスラ。天才である」

 

『※FGOからのゲスト、二コラ・テスラと握手』

 

「「…………」」

 

 新八とネプテューヌは三回目なのでもう既に察しているのかお互いの顔を見合う。

 するとテスラがすかさず、

 

「握手である」

 

 新八とネプテューヌの手首をそれぞれ掴む。

 

「「あいだだだだだだだだだだだだだだッ!!」」

「交流をよろしくッ!!」

 

 手を握りながら力強く言い放つテスラさん。

 

「「「「フフフ……!」」」」

 

 それを見て吹き出す四人。

 

『銀時、ノッブ、沖田さん、神楽、アウト。

銀ノッブ:2ポイント

沖楽:-10ポイント』

 

 銀時、ノッブ、沖田さんは半笑いになりながらツッコミ入れる。

 

「あ、握手じゃねェじゃん……!」

「手を掴んでるだけじゃの……!  アハハ……!」

「せ、選挙活動してんですかアレ……!」

「アハハハッ……!」

 

 そして電撃握手からようやく解放された新八とネプテューヌは手を抑えながら待機席へと戻る。

 

「うわー……不意打ち過ぎる……」

「問答無用で二人同時とか……」

 

 最後は沖楽の神楽と沖田さん。

 そしてなんと、この二人の番になって今までに出てない数字の8が出たのである。

 

『罰ゲーム8――ハリセン』

 

「わッ、直球のタイトルが来た……」

 

 沖田さんが嫌そうな表情を浮かべる中、白い両扉から青色のドレスの上に鎧を着込んだ金髪の少女がハリセンを持って出てくる。

 出てきた人物を見て新八が驚きの声を出す。

 

「うわッ、青セイバーさんだ!」

「Fateのドル箱今回も来たのかー……」

 

 青セイバーことアルトリア・ペンドラゴンは無言で神楽と沖田さんの前に立つ。丁度二人が並ぶ中間点の前に。

 無言で来た青セイバーに神楽と沖田さんが汗を流しながらお互いに視線を向けつつ戸惑っていると騎士王がハリセンを持ってない手を上げてある人物を指さす。

 

「――では、あなたで……」

 

 青セイバーが指さしたのは桜セイバー。

 沖田さんは一瞬左右を見渡してから疑問の声を出す。

 

「えッ? ……えッ!? わたしッ!?」

 

 自分の顔を指さして戸惑う沖田さんの胸倉を青セイバーは左手でガッシリ掴んでハリセンの準備に入る。既に自分が罰ゲーム執行されると分かって桜セイバーは慌て出す。

 

「ちょちょちょッ!! えッ!? えッ!? えッ!? なんで私なんですか!? なんで私なんですか!? コハエースですか!? コハエースの時のこと怒ってるんですか!?」

 

 慌てる沖田さんを見てノッブは必死に笑う我慢しているのか口を大きく開けている。

 神楽は無言でWセイバーから少し距離を取り、離れる相方に沖田さんが気付く。

 

「ちょッ神楽!? なに逃げてんですか!? なに逃げてんですかッ!!」

「ッ――!!」

 

 そこで青セイバーの目がカッと見開かれる。

 

「私以外のセイバーみんな死ねェェェェェェェッ!!」

 

 宝具ぶっ放す勢いで沖田さんの頭にハリセンが叩きつけられる。

 

 バッッシィン!!

 

「いッッッだァァァァァアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 勢いのあまり悲鳴を上げながら倒れる沖田さんは頭を抑えながらジタバタ地面を転がる。

 

「いたいいたいいたいい゙だい゙い゙っ゙だい゙!!」

「アハハハ……!!」

 

『ノッブ、アウト。

銀ノッブ:1ポイント』

 

 銀時がノッブのケツをしばく。

 

「いっだ!」

 

 沖田さんの頭を叩いた青セイバーさんは威風堂々と白い両扉の奥に向かって行き、ノッブは尻を摩りながらその姿を見つつコメントする。

 

「さっきのアルトリアじゃなくてエックスなのでは?」

「『私以外のセイバー死ねェェェ!!』って言ってましたもんね……」

 

 と新八が相槌を打つ。

 そして罰ゲームが終わった沖楽にフェイトが容赦なく告げる。

 

「二人のチームは-10ポイントなのでもう一回罰ゲームを行います」

「うえーッ……」

 

 と神楽が露骨に嫌そうな声を漏らす。

 ちなみに沖田さんは頭抑えて動けない。彼女が再起動する前に神楽はガラガラを回す。

 

「出た数字は……3です」

 

 と言うフェイトの言葉を聞いて新八が反応する。

 

「あッ、たぶんまだ出たことない罰ゲームですよ」

 

『罰ゲーム3――スリッパ』

 

「あッ、今度は地味に痛そうなヤツだ……」

 

 銀時が呟く間に白い扉が開き、中から先ほどの執行人青セイバーさんが出てくる。

 

「えッ? あれ? また出て来た……」

 

 驚きの声を漏らす新八。そして銀時がセイバーの手を指さす。

 

「あッ、スリッパ持ってる」

「スタッフ使いまわしじゃん……」

 

 とネプテューヌがツッコミ入れる中、青セイバーが神楽と倒れる沖田さんの前までやって来る。

 青セイバーは二人を交互に見てから口を開く。

 

「それで、どちらですか?」

 

 すると神楽が倒れる沖田さんを見てから屈んで告げる。

 

「ソッジー、じゃんけんするけどもし出さなかったらソッジーの不戦敗ってことにするアル」

「うわ、そうくるかあいつ……」

 

 と銀時がコメントし、神楽が右手を振る。

 

「じゃ~んけん……」

 

 ポンと言って神楽がパー、頭抑える沖田さんは手を上げてチョキ。

 口をポカーンと開けて自分のパーを見つめる神楽。

 

「「「「「……ァハハハハ……!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、なのは、ひかる、アウト。

銀ノッブ:-1ポイント

メガメガ:2ポイント

プリなの:2ポイント』

 

 笑いながらノッブと新八がコメントする。

 

「ハハハ……余裕あるのー沖田(あいつ)……」

「ビシッて手上げましたよねビシッて……」

 

 自分の手を見つめて呆然とする神楽に青セイバーは近づき、胸倉を掴む。すると神楽は悲鳴を上げる。

 

「ちょッ!! 師匠ォー!! ヤメテェ!!」

「あいつ前回の特別回のヤツ持ち出してきたな」

 

 と銀時が言うと同時に、

 

「師匠の愛の鞭だァァァァ!!」

 

 青セイバーは神楽の顔の横にスリッパ叩きつける。

 

「ブッッッ!!」

 

 衝撃のあまり神楽は横に倒れて頬を抑えながら悶絶。

 

「ブフ……ハハハ……!!」

 

『銀時、アウト。

銀ノッブ:-1ポイント』

 

 銀時は笑いながらツッコム。

 

「あ、愛の鞭ってなんだよ……!」

「笑ってる場合かーッ!!」

 

 ノッブが銀時のケツを叩く。

 

「いっだッ!!」

 

 ノッブは抽選機の前に向かいながら「ほれわしらの番じゃ……」と促し、尻を摩る銀時も後をついて行く。

 頭と顔を抑えて蹲る沖田さんと神楽に構わず銀時がガラガラを引く。ノッブは倒れる沖田さんを見て「おまえいつまで倒れとるんじゃ?」とツッコミ入れている。

 チーム銀ノッブの罰ゲームの番号は9。

 

「あッ、新しい奴だ」

 

 と銀時が声を漏らし内容が発表される。

 

『罰ゲーム9――タマキュア』

 

「「げッ!?」」

「うわッ!?」

 

 露骨に新八と銀時となのはが嫌そうな表情を浮かべ、タマキュアを知らない他の面々は困惑と疑問が入り混じった表情を浮かべている。

 そして白い両扉が開けば中から――キュアブラックのコスプレしたお登勢(ババア)とキュアホワイトのコスプレしたキャサリン(おばさん)が出てくる。

 

「「「「おェェェェェェェェッ!!」」」」

 

 銀時、新八、なのは、は露骨に吐き気と嫌悪感を出し、

 

「き、キツ過ぎる!! 目が腐る!!」

「お、おおおおぞましい!!」

 

 ノッブとネプテューヌはビックリしながら嫌悪感マックスになり、

 

「な、ななななにあれ!?」

「き、気持ち悪いルン……!!」

 

 ひかるとララは顔面蒼白になっていた。

 ちなみに倒れる神楽と沖田さんは腕枕して顔を覆ってタマキュアを見ないようにしている。

 銀時とノッブの前までやって来たタマキュアコンビ。

 吐き気が収まった銀時はなにされるのか分からず体を後ろに逸らしているとタマブラック(お登勢)が銀時に近づく。

 

「ちょちょちょッ! なになになに!? なんで俺!? じゃんけんは!?」

 

 タマブラックは左手を銀時の肩に置き、右手を銀時の頬に添える。

 

「えッ? えッ? えッ? えッ?」

 

 愛しそうな表情を浮かべるタマブラックは銀時にゆっくりと顔を近づけ、ノッブはハッとする。

 

「えッ? マジか? えッ!? マジか!? アレか!? せッ――!!」

 

 銀時はようやく自分がなにされるのか分かってノッブの言葉を掻き消すように、

 

「ちょッ!? うっそッ!! い、いやァァァァァァ!! ちょッ!! いやァァァァァアアアアアアアアッ!!」

 

 涙目になりながらありったけの声で悲鳴を上げ逃げようとするがタマブラックにガッシリ捕まれ体も顔も逃げられない。

 そして顔と顔がくっ付くところで、

 

「ハァ~ッ!!」

 

 タマブラックが思いっきり銀時に息を吐きかける。

 

「ッッッ!?」

 

 ビックリする銀時はすぐさま、

 

「くっさッ!? えッ!? うっわッ! くッッッさッ!!」

 

 あまりの臭さに鼻を抑えて苦しがる。

 銀時の様子を見てようやく罰ゲームの内容が理解できた面々は笑い出す。

 

「「「「ァハハハハハ……!!」」」」

 

『ノッブ、新八、ネプテューヌ、アウト。

銀ノッブ:7ポイント

メガメガ:0ポイント』

 

「くっさッ!! くっさッ!! くせェーッ!!」

 

 ノッブの尻を叩くのも忘れ臭がる銀時を尻目に帰って行くタマキュア。

 新八がさっきからずっと倒れている神楽と沖田さんに指を突き付ける。

 

「ちょッ! あの二人ズルい!! 絶対笑ってるってあれ!!」

 

 新八の指摘通り腕で顔と口を抑える神楽と沖田さんの顔は小刻みに動いていた。

 

「ほらお前ら立たんか!! アウトをいつまでも回避させるかッ!!」

 

 ノッブがいつまでも倒れる二人に怒鳴り声を上げつつ蹴り入れて立たせる。

 そんなこんなで次はチームメガメガの罰ゲーム。

 

「あァ……永遠に罰ゲームから抜けられない気がする……」

「うん……ホント……」

 

 そしてネプテューヌと新八が受ける罰ゲームの番号は……9。

 

「「え゛ッ!?」」

 

 驚くメガメガ。出てくるタマキュア。

 するとタマブラックが告げる。

 

「今度はタマホワイト、あんたの番だよ」

 

 そしてまたじゃんけんを待たずに今度はタマホワイト(キャサリン)が新八に近づく。

 

「ちょっとォーッ!! だからじゃんけんはッ!? なんで僕なの!?」

 

 臭い息吐きかけられるの嫌がる新八にタマホワイトが告げる。

 

「安心シナサイ。私ノ口臭ハ臭クアリマセン」

「えッ? そ、そうなんですか……?」

 

 タマホワイトは新八の左肩を掴んだところで何かの音楽が流れだす。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 なんだなんだ? と少し驚き困惑する参加者一同。

 そして音楽に合わせて歌が流れ始める。

 

『はじめてのチュウ~、君とチュウ~――』

 

 『はじめてのチュウ』のサビが流れ出し、タマホワイトは右手を新八の頬に添えて頬を赤らめる。

 そして静観している一部の人間はすぐさま状況を理解して、

 

「「「「「アハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、神楽、沖田さん、アウト。

銀ノッブ:5ポイント

メガメガ:8ポイント

沖楽:8ポイント』

 

 事態を理解した新八は涙目になる。

 

「い、いやァァァァァッ!? 今度はマジでそっちィィィィィ!?」

 

 ホリの深いおばさん顔があとちょっとのところで新八に顔に近づいた時、

 

 バシンッ!!

 

 とタマホワイトは思いっきり新八の頬にビンタする。

 

「ッッッ!?」

 

 驚き頬を抑えながら呆然とする新八と少し驚く待機組。そしてタマホワイトは吐き捨てる。

 

「変身ヒロイン見テ発情シテンジャネェヨ!! エロガキ!!」

 

 カーッペとタマホワイトは新八の額にツバ飛ばす。そして帰って行くタマキュアコンビ。

 

「………………」

 

 なんとも言えない空気の中、すさまじく複雑な表情を浮かべる新八は額に付いた唾をおもむろに手で触る。

 

「くさッ……!」

 

 ツバの匂いが鼻に付いて顔をしかめる新八。

 

「「「「「ブフ……ハハハ……!!」」」」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、沖田さん、神楽。アウト』

 

 そして新八がネプテューヌの尻を叩くのだった。

 

「いったァーッ!!」

 

 

 

 とりあえず罰ゲームが終わったので銀時が軽くサイコロを投げる。出た目は……2。

 銀時は小さくガッツポーズ。

 

「よーし、出目は悪いがポンコツ遊戯さんのマスだ。勝って一気にゴールに近づくぞ」

「運が向いてきたの」

 

 ノッブも機嫌よく告げると、

 

『特殊イベントマス』

 

「「えッ?」」

 

 まさかの特殊イベント発生に驚きの声を上げる銀時とノッブ。

 

「いやでも確かに結構アイテムいくつか出ましたしねー」

 

 と新八が言い、フェイトが声を掛ける。

 

「では皆さんはディスプレイを見て下さい」

 

 全員の視線がディスプレイへと移り、やがてディスプレイに映像が流れる。

 映像には頭に触覚が生えた肌色が薄紫色の健康に悪そうな小太りな男。恰好はいかにも西洋の王子風。

 そんな男が城のバルコニーで手を振っているシーンが流れ、ナレーションも流れ出す。

 

『我々はある星の王子に接触を図った。その動物にワケ隔てなくその愛情を注ぎ続けるその人物こそ、王子の中の王子――ハタ王子』

 

 そこまで見て嫌な予感を覚えたのか銀魂組とFGO組の顔が歪む。

 ナレーションは続いて行く。

 

『民衆の間ではバカ王子と親しみのあるあだ名で呼ばれ慕われるハタ王子』

 

「バカにされてんじゃん……」

 

 と銀時がツッコミ入れる。

 

『本日は、そんなバカ王子が密かに生成している商品をご紹介しよう』

 

「バカ王子になっちゃいましたよ……」

 

 と今度は冷めた顔で新八がコメントする。

 バカ王子が走り込みしたり、階段走りしたり、シャドーボクシングしたり、トレーニングシーンがダイジェスト風味で映し出される。小太りな王子からは大量の汗が流れ、彼はタオルで汗を拭う度に携帯している瓶に汗を入れていた。

 そのシーンを見てなのは、ひかる、ララは若干引いて青い顔をし、神楽はォェと露骨に嫌悪感を露わにしていた。銀時、新八、ノッブ、沖田さんは何かを察したのかチームプリなのに目を向ける。

 

『このように彼が激しいトレーニングをする理由は王子の貴重なDNAを採取する為』

 

 映像が切り替わりビーカーを熱して何かの理科実験をするようなシーンに移り変わる。

 

『彼が大量に流した汗を回収した後、熱して余分な雑味を取り、生成したのが純度100%の――王塩』

 

 汗から塩を作り出すシーンを見て銀時、新八、ノッブ、沖田さんはあー、と言う風に口をポカンと開ける。

 

『その王塩を惜しげもなく使い……』

 

 そして場面は移り変わり、グラサンを付けた半袖白Tシャツの男が右腕を立てながら塩を振りかけていた――分厚い生肉の上に。

 

「「「「「――ッッッ!!」」」」」

 

 そのシーンを見てビックリする一同。特に銀時とノッブの驚き顔は尋常ではない。

 

『完成した高貴なる一品が今度のすごろく大会で振る舞われる――』

 

 映像にはさきほどまで銀時とノッブが食べていた――出来上がったばっかのアツアツステーキにそっくりな物が映り込んでた。

 

『――〝王級ステーキ〟なのだ』

 

「「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!」」

 

 銀時とノッブが喉を抑えながらさながらこの世の終わりのように凄まじい悲鳴を上げ、他の面々も反応を示す。

 

「「アハハハハハ……!!」」

 

 新八と沖田さんは笑い、

 

「嘘ォォォッ!?」

「いやいやいやいやいやッ!!」

「わわわわわわわわわわッ!!」

 

 なのは、ひかる、ララは顔面蒼白になってドン引きし、

 

「「お゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ッ!!」」

 

 神楽とネプテューヌは凄まじい嫌悪感を示していた。

 阿鼻叫喚の中でも特に銀時と涙目ノッブのリアクションが凄まじい。

 

「気持ちわる気持ちわる気持ちわる気持ちわりィィィィィィ!!」

「わしさっきまでパクパク食ってんだぞォォォォォ!! しかも全部食っちまったぞォォォォォォ!!」

 

銀時は喉を両手で抑えながら、

 

「ああああッ!! ああああああッ!! ああああああああああああああッ!!」

 

 なんとかステーキの肉を口から出したいのか凄まじい声を吐き出す。

 

「「アハハハハハハッ!!」」

 

 銀時とノッブのリアクションがおかしいのか更に笑う新八と沖田さん。そして沖田さんは半笑いになりながらノッブに告げる。

 

「アハハハ……! い、一生取れませんよ、王塩……!」

「言うなそれをォォォッ!!」

 

 ノッブは涙を流しながら叫び、新八は笑いながらコメントする。

 

「王塩っつうかバカ王塩ですね……アハハハ……!」

 

 そしてノッブと銀時は叫び、嘆く。

 

「わしこの大会終わったらカルデアじゃなくて英霊座に帰るゥゥゥゥゥゥ!! 全身分解させて新たな英霊に生まれ代わるゥゥゥゥゥゥッ!!」

「俺も帰ったら全身の血を抜くゥゥゥゥゥゥ!! 全身の細胞入れ替えるゥゥゥゥゥゥゥ!!」

「「アハハハハハハハハッ!!」」

 

 更に笑う新八と沖田さん。

 

『新八、沖田さん、アウト。

メガメガ:5ポイント

沖楽:4ポイント』

 

 インパクト強すぎたせいで二人のケツを20秒以内に叩く側が忘れたので二人のチームは余分にポイントが引かれることとなるのだった。

 そして締めとばかりにディスプレでは塩が入った瓶を手に持ったバカ王子がまるで商品を宣伝するように告げる。

 

『余の高貴なるDNAが入ったこの王塩。皆もこれを摂取し高貴になろ――』

 

 ズカァン!! と二つの学習椅子が空中のディスプレイに激突、もちろん投げたのは銀時とノッブである。

 

 

 

 王塩ショックからなんとか落ち着いた一同。

 だが銀時とノッブの疲労具合が半端なく、グッタリしていた。マイナスのオーラがひしひしと出ている。

 そしてそんな二人に関係なく、ネプテューヌが投げたサイコロがなんとゴールピッタリの〝4〟を出す。

 

「「はッ、えッ!?」」

 

 出た数字を見て驚き、喜びの顔を浮かべるチームメガメガ。他のチームも二人の出目に唖然としている。

 そしてコマがゴールのマスへと移動し、

 

『ゴォォォォォル!! 優勝はチームメガメガッ!!』

 

 勢いよくアナウンスが流れ、一部がヒビ割れたディスプレイでは花火が何度も上がっている。

 チームメガメガは同時に喜びの声を上げる。

 

「「や、やったァァァァァァァ!!」」

 

 新八はネプテューヌの肩に手を当て、ネプテューヌは新八の腰に手を当てて喜びのあまりぴょんぴょん跳ねる二人。

 すると新たに用意された椅子で座っていた銀時とノッブが立ち上がって無言で新八とネプテューヌに近づく。

 

「あッ! 銀さん!! 信長さん!!」

 

 新八は近づいて来た二人に気付いて嬉しそうに声を掛ける。

 

「長く感じましたけどようやくおわ――!!」

 

 突如銀時は新八の頬にバシッ! とビンタ食らわせる。

 

「ッ!? ……えッ? えッ!? ええッ!?」

「えッ、えッ、えッ?」

 

 頬を抑えて戸惑う新八と少しビックリしているネプテューヌに銀時は震える指を付きつけながら感情を押し殺したかのような声を出す。

 

「お、お前ら……! お、俺らはバカ王塩まで食ったのに俺たちより先にゴールしやがってコノヤロー……!」

 

 ノッブも震える指を突き付けながら頬をピクピク引き攣らせながらググもった声を鳴らしている。

 頬を抑える新八と唖然としていたネプテューヌはしばしの間黙っているが、

 

「……ブフ……ハハハ……!」

「……プフッ……!!」

 

 軽く吹き出し当てしまう。

 

『新八、ネプテューヌ、アウト。

メガメガ:2ポイント』

 

「「えッ?」」

 

 アウトになってポイントが減ったことに驚く新八とネプテューヌ。

 新八は戸惑いながら司会進行であるフェイトに問う。

 

「あ、あのー……ふぇ、フェイトちゃん? なんで僕らアウトになってポイント減ってんの?」

「う、うん。も、もうゴールしたのに……」

 

 ネプテューヌもおずおずと問いかける。

 嫌な予感を覚えているであろう二人にフェイトは冷たく言い放つ。

 

「1位が決まっても最下位が決まるまで大会は終わりません。ですので、笑ったらアウトになり罰ゲームも執行されます」

 

 フェイトの言葉を聞いて新八とネプテューヌは心底残念がる。

 

「うっそォ……!」

「まだ笑っちゃ駄目なのォ……!!」

 

 銀時は大きくため息吐き、ボリボリ頭を掻きながら諦めたように席へと戻っていく。

 

「あーもー、しょうがねェ。とっととやってとっとと終わらすか……」

「とりあえずやる気はでんが、最下位だけでも回避せんとのー……」

 

 ため息を吐くようにノッブも言葉を吐き捨て銀時の後に続き、さきほどビンタされた新八は不満そうに告げる。

 

「なんて勝手な奴らだコイツら……」

 

 銀ノッブにジト目向けている新八とネプテューヌ。

 そしてチームメガメガの次のチームであるチームプリなののララがサイコロを投げる事になった。

 

「ルン……」

 

 出た目は3。そして止まったマスの内容は『スカマス』。

 

「なんにもなしかー……」

 

 と言うひかるの言葉を聞いてなのはは告げる。

 

「なにもない方が良いですよ……」

 

 次に沖楽の番となる。

 沖田さんが投げたサイコロの目は4。

 

『特殊イベント発生』

 

「「あッ……」」

 

 と沖田さんと神楽は声を漏らし、白い両扉が開くとある人物が出てくる。

 それはさきほどこのイベントマスで出てきた仕掛け人――闇遊戯さんであった。

 

「ん?」

「なんだんだ?」

 

 新八と銀時が反応し、闇遊戯は沖田さんと神楽に声を掛ける。

 

「二人共、悪いんだがちょっと席に座ってくれないか?」

「あッ、はい……」

「わかったアル」

 

 沖田さんと神楽は素直に席に座る。そして闇遊戯は参加者一同の前に立つと、腕を組みながら全員に聞こえるように話し始める。

 

「みんな、聞いてくれ。実は俺の相棒の大事なカードが盗まれてしまったんだ」

 

 闇遊戯の言葉を聞いて参加者一同は少し驚きの表情を浮かべる。

 闇遊戯は深刻な表情のまま力強く告げる。

 

「そのカードの名は……青眼の白龍(ブルーアイズホワイトドラゴン)!」

「「「「「フフフッ……!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、神楽、なのは、ララ、ひかる、アウト。

※0ポイントのチームがいますがイベントは続きます』

 

 参加者全員笑っているが沖田さんだけ真顔。

 

「どうにかして相棒のカードを盗んだ犯人を見つけたい。みんな! 力を貸してくれ!」

 

 闇遊戯の言葉を聞いて全員の視線が沖田さんに向く。

 沖田さんは自分を見つめる周りを見て首を左右に振って慌て出す。すると神楽が沖田さんの右腕をガッチリ掴んで右手を上げさせながら立たせる。

 

「コイツです!! コイツがブルーアイズを盗みました!!」

「ちょちょちょちょちょッ!!」

 

 慌てる沖田さんに闇遊戯が嫌疑の眼差しを向け、神楽がしっかり説明する。

 

「コイツブルーアイズを売ったお金で私に美味いもん食わせるとか言ってましけど、きっとそっくりそのまま売上金を持ち逃げする気だったに違いありません!!」

 

『銀時、ノッブ、新八、アウト』

 

 銀時とノッブが半笑いになりながらツッコミ入れる。

 

「ハハハ……なんの子芝居してんだよ……!」

「結局ブルーアイズせしめてたのか……!」

 

 新八がネプテューヌにケツを叩かれ後、闇遊戯は沖田さんの前に立って鋭い眼差しを向ける。

 

「なるほど……お前が盗んだのか?」

「ち、違います……!!」

 

 沖田さんは首を横に振って小さく否定するが、闇遊戯が強く言い放つ。

 

「じゃあ〝袖〟のブルーアイズは一体なんだーッ!!」

 

 闇遊戯の気迫に沖田さんはビビる。

 

「「「「「アハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、神楽、なのは、ララ、ヒカル、アウト』

 

 銀時とノッブと新八が笑いながらツッコミ入れる。

 

「な、なんで知ってんだよブルーアイズの場所……!」

「ち、力貸してもらう必要ないじゃろ……!」

「み、ミレアムアイでも使ってんですか……!」

 

 そしてさきほどの剣幕から一転して闇遊戯は沖田さんに冷静に告げる。

 

「よし、付いて来い」

「は、はい……」

 

 沖田さんは渋々ついて行き、待機席から少し前の場所へと移動する二人。

 定位置まで移動すると闇遊戯は沖田さんに告げる。

 

「相棒の大事なカードを盗んだお前にはコレから闇の罰ゲームを受けてもらう」

「はい……」

 

 気のない返事を返す沖田さんを見つつ銀時とノッブは興味津々。

 

「ビンタかビンタか?」

「なんじゃろうなー?」

 

 闇遊戯は沖田さんに告げる。

 

「お前に送る闇の罰ゲームは……『大納言ビンタ』だ」

 

 闇遊戯の言葉に銀時、ノッブ、新八はお互いの顔を見ながら疑問の声を漏らす。

 

「ん? ん?」

「なんじゃ? 大納言ビンタって?」

「なんですかね?」

 

 やがてプロレスの選手が登場するかのようなBGMが鳴り響き、参加者一同が驚いていると白い両扉が開く。

 

「ガッデムッ!!」

 

 聞き覚えのある叫び声の後、扉の奥から出てくるのは筋肉ムキムキ大柄な――女。

 銀時、新八、ノッブ、ネプテューヌ、なのは、ひかる、ララが驚きつつコメントする。

 

「うわうわうわッ!!」

「なんかまた凄いのきたッ!!」

「またビジュアルが凄いのー!!」

「なにあれなにあれ!?」

「わわわわわわッ!!」

「ぷ、プロレスラーッ!?」

「異星人ルン!?」

 

『※闇の罰ゲーム執行人は弱酸性のエル大納言』

 

 弱酸性からの使者たるエル大納言の登場に騒然とする待機組。

 特に沖田さんなんかはとんでもないゲストに声も出せずに超ビビっている。

 ムキムキマッチョのエル大納言は沖田さんの前まで歩いて行くと腕を組んで低い声音で告げる。

 

「さぁ、覚悟は出来たな?」

「できてませんできてませんできてませんできてません!!」

 

 沖田さんは首を横にぶんぶん振って全力拒否するがエル大納言は強く言い返す。

 

「よしわかったッ!! そこに直れ!!」

 

 嫌がる沖田さんの胸倉を無理やり掴んでビンタの体制に入ろうとするエル大納言。

 

「「「「ハハハハッ……!!」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、アウト』

 

「ハハハハッ……!! 話し聞かねェ……!!」

 

 と銀時が笑いながらツッコミ入れる。

 凄まじい力で胸倉掴まれて逃げられない沖田さんは必死で待ったを掛ける。

 

「待ってください待ってください待ってください待ってください待ってください!!」

「ん? なんだ?」

 

 素直に応じるエル大納言に沖田さんはノッブを指さしながら必死に訴える。

 

「あいつに命令されたんですー!!」

「「「「「アハハハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、神楽、なのは、ひかる、ララ、アウト』

 

 ノッブ、銀時、新八、ネプテューヌは笑いながらツッコミ入れる。

 

「お前はなにゆっとるんじゃ……!!」

「アハハハ……罪な擦りつけようとすんな……!」

「いやいやいや!! もう!!」

「ハハハハ……!! 往生際が悪い……!!」

 

 エル大納言は低い声を出しながら沖田さんに問いかける。

 

「どういう……ことだ? 経緯を説明しろ」

「え、えっと!! つ、つまりですね!!」

 

 沖田さんは言葉を詰まらせながらも両手を動かし必死に説明する。

 

「ノ……し、新八がカード盗んで!! の、ノッブが私に命令して盗んだカード盗ませたんですッ!!」

「「「「「アハハハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、神楽、なのは、ひかる、ララ、アウト』

 

 銀時、ネプテューヌ、ノッブ、新八が爆笑しながらツッコミする。

 

「アハハハハッ!! な、なんで被害者増やすんだよ……!」

「み、見苦しい……!! ハハハハハッ!!」

「さ、最初わしの名前出そうとしてたろ……!!」

「ぼ、僕なんで実行犯になってんですか……!!」

 

 するとエル大納言は沖田さんの袖からカードを抜き去り彼女の顔に近づけつつ言い放つ。

 

「ごちゃごちゃ言うな貴様が犯人だァーッ!!」

 

 襟首をグイッと引っ張るエル大納言のせいで沖田さんの表情はビビりながら苦しそうな表情になる。

 

「「「「「アハハハハハハハッ!!」」」」」

 

 銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、神楽は更に笑う。

 

「アハハハハ……あーもー受けろ沖田……!!」

「アハハハハ……! もうそれがあんたの運命(さだめ)ですって……!!」

 

 銀時と新八が笑いながらコメントし、エル大納言は闇遊戯に沖田さんが持っていたブルーアイズを手渡してからビンタをする為に腕を大きく振りかぶる。

 もうビンタ回避が無理だと分かったのか沖田さんは待機席の銀時と新八とノッブを恨めそうに見ていた。

 エル大納言は強引にビンタの構えに入りカウントダウンを開始する。

 

「よし、行くぞ? 5、4、3、2、1――!!」

 

 もう諦めてか沖田さんがギュッと目を瞑った時だった。

 

「待ってッ!!」

「「「「「ッ!?」」」」」

 

 突然の声に驚く一同。なにせ待ったの声を掛けたのは闇遊戯なのだ。だが、さきほど声を出したのは厳密には闇遊戯ではない。

 

「彼女は犯人じゃない!!」

 

 沖田さんが犯人じゃないと言う遊戯を見て銀時は驚きの声を漏らす。

 

「うわッ、表遊戯が出てきた……」

「なんか雲行きが怪しくなってきた……」

「ちょっとまずいかも……コレ……」

 

 新八とネプテューヌは不安げな表情を浮かべ、

 

「……えッ? ど、どういうこと?」

 

 なのはを含めひかるとララも呆然として困惑している。

 闇遊戯のもう一つの人格であり主人核でもある表遊戯――武藤遊戯はエル大納言へと説明する。

 

「実は僕の爺ちゃんの大切なカードを盗んだのは彼女じゃなかった!!」

「なに? どういう……ことだ?」

 

 エル大納言は沖田さんの胸倉を離し、九死に一生を得た沖田さんは胸を抑えて安堵し始めている。

 遊戯はエル大納言から受け取ったカードをかざして見せつけながら言い放つ。

 

「このカード真っ赤な偽物!! コピーカードなんだッ!!」

「なにィ!?」

 

 驚くエル大納言と一緒に沖田さんも驚きの表情を浮かべる。

 

「えッ? それ偽物なんですか?」

 

 遊戯はカードを指で挟みながら説明する。

 

「カードショップの店長をしている爺ちゃんから僕はレプリカと本物の見分け方を教わっている。彼女が持っていたのは間違いなく偽物の青眼の白龍(ブルーアイズホワイトドラゴン)

「では、コイツはなぜカードを?」

 

 エル大納言の問いに遊戯が答える。

 

「きっとコピーカードを作っただけの人だったんだろう」

「ざっくりした背景だな……」

 

 と銀時がツッコミ入れる。

 

「では本物は誰が持っているんだ?」

 

 腕を組むエル大納言の疑問に新八も反応する。

 

「マジで他に誰もカードもらってませんよね?」

「そうだよな。アイテムマスで沖田と神楽以外でカード誰も受け取ってねェし」

 

 と銀時が相槌を打つと遊戯が待ってましたとばかりに懐に手を入れる。

 

「だから盗んだカードを探し出す為にこの……」

 

 そう言って遊戯が懐から取り出したのはトランシーバーのような機械。

 

「海場コーポレーションで開発された『カード探知機』でカードを盗んだ犯人を捜す。この中の誰かが盗んだカードを持っていれば必ず反応する」

 

 遊戯の言葉を聞いて息を飲む参加者一同。

 遊戯は探知機を持って、彼から見て一番右端の席に座るララに探知機を向ける。

 

「…………」

 

 緊張の面持ちで背筋をピンと伸ばすララ。

 

「……違う」

 

 探知機が反応しないのでララはセーフ。次にひかる。

 

「……違う」

 

 ひかるもセーフ。

 次になのは、神楽もセーフとなる。

 

「…………」

 

 問題はさきほどビンタされそうになった沖田さん。息を止めるくらいの勢いで口を一文字にする幕末剣士。

 

「……違う」

 

 やはりセーフ。

 

「フー……!」

 

 沖田さんはホッと息を吐き出して胸を撫でおろす。続いて彼女の隣に座るノッブ。

 

「……違う」

「ほッ……」

 

 ノッブもセーフとなり、第六天魔王も安堵の表情。続いては銀時。

 

「ん?」

 

 ここで遊戯が反応を示したので銀時は焦りの表情を浮かべる。

 

「えッ? えッ? えッ?」

「……違う」

「……び、ビビらせんなよ……!」

 

 自分がターゲットじゃないことに安堵しつつ文句を言う銀時。次が新八となる。

 遊戯が新八に探知機を近づけた瞬間、

 

 ピピピピピピピピピッ!!

 

 探知機が目覚ましのようにけたたましい音を出し、遊戯がビシッと新八に指を突き付ける。

 

「コイツが犯人だッ!!」

「えええええええええええええええええええええええええええええええええッ!?」

 

 新八がありったけの声で驚く。

 新八はすぐさま席から立ちあがり焦り出す。

 

「ちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってちょっと待ってェェェェェェェ!!」

「「「アハハハハ……!!」」」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、沖田さん、神楽、アウト』

 

「さっき沖田とほぼ同じリアクションじゃねェか……!」

 

 銀時が笑いながらツッコミし、新八はすぐさま弁明フェイズを開始する。

 

「僕じゃない僕じゃない僕じゃない僕じゃなァーい!!」

 

 新八は首をぶんぶん振りながら体のあちこちを触りながら上ずった声を出す。。

 

「僕の服のどこにもブルーアイズなんてありませェーん!! なんなら裸になってもいいですよォーッ!!」

「「「「「アハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

『なのは、ひかる、ララ、アウト』

 

 新八の言い方に反応して笑っていなかった三人も一緒に笑いだす。

 

「アハハハ……やめんか見苦しい……!!」

 

 ノッブが腹を抑えながらコメントすると遊戯は諦めろと言わんばかりに告げる。

 

「残念だけど、あなたの悪知恵はすべてお見通しだ」

「だって悪知恵なんて働かせてないもん!!」

「なら……」

 

 遊戯はしゃがみ込み、新八の椅子の下に置いてあった物を取り出す。

 遊戯の不可解な行動を見てなのはとネプテューヌは不思議そうに声を漏らす。

 

「えッ?」

「なになに?」

 

 遊戯は新八が邪魔になって椅子の下に置いておいた赤ん坊新八を引っ張り出して抱きかかえると、赤ん坊を包むための白い布の隙間に指を入れてなにかを取り出す。

 

「この青眼の白竜(ブルーアイズホワイトドラゴン)はどう説明するつもり?」

 

 なんと赤ん坊新八の布の隙間から青眼の白竜(ブルーアイズホワイトドラゴン)が出て来て新八は口をポカーンと開けて唖然とする。

 

「「「「「アハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、沖田さん、神楽、なのは、ひかる、ララ、アウト』

 

 まさかの展開に爆笑する銀時たち。

 

「アハハハハッ!! そ、そうきたかーッ!!」

「いやァーッ!! これはさすがに気付かんかったァーッ!!」

「アハハハハハッ!! 腹痛い腹痛い腹痛いッ!!」

 

 銀時とノッブはしてやられたとばかりに笑い、ネプテューヌは腹抑えて爆笑している。

 ポカーンとする新八に武藤遊戯が言い放つ。

 

「自分の子供を盗んだカードの隠れ蓑にするなんてあんたは最低の人間だッ!!」

 

 遊戯にビシッと指を突き付けられた新八は、

 

「ちがァァァァうッ!!」

 

 ありったけの声で言い返し、反論フェイズを返しする。

 

「そいつは僕の子供なんかじゃなァァァァァいッ!!」

「「「「「アハハハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

 新八以外が爆笑しまくり、銀時が腹を抑えながらツッコミ入れる。

 

「な、なにを真面目に言ってんだお前は! ハハハハ!!」

 

 すると武藤遊戯が赤ん坊新八を流し目で見ながら告げる。

 

「だったら、みんなに確かめてもらおう。この子が君の子供であるかどうか」

「えッ?」

 

 戸惑う新八の肩をすかさずエル大納言がガシっと掴み、待機組全員が新八の顔を見れるように振り向かせる。

 そして遊戯は赤ん坊新八を縦にし、そのなんとも言えない表情をした顔を新八の横に並ばせる。

 人形の顔が横に並ぶ直前、新八は突然眉を吊り上げ下唇を突き出しながら変顔をし出す。

 

「「「「「アハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

 新八以外全員が大爆笑。

 銀時とノッブが笑いながらコメントする。

 

「アハハハッ……! お、お前もう抵抗すんな……!!」

「い、いい加減観念せい……!! ァハハハ……!」

 

 遊戯は真面目な顔で待機組に問いかける。

 

「どう? みんな? ……似てる?」

 

 笑いながら銀時、ノッブ、ネプテューヌがすかさず答える。

 

「似てる似てる似てる!!」

「うんそっくりじゃなッ!!」

「クリソツクリソツクリソツッ!!」

「ぜッッッッたい息子です!!」

 

 最後の沖田さんは間違いないと言わんばかりにハッキリ言い放つ。

 

「お、お前らァーッ!!」

 

 あっさり自分を見捨てるどころか売り渡す四人を睨む新八だったが、すかさずなにを思い付いたのかネプテューヌを指さしながら訴える。

 

「だ、だったらネプテューヌちゃんも調べて下さい!! この子が実は本物のブルーアイズ持ってる可能性もあるでしょ!!」

 

 新八の言葉を聞いて一同は余計に笑い続け、銀時とノッブはツッコミ入れる。

 

「アハハハ……ほ、本物もう出たじゃねェか……!!」

「し、支離滅裂じゃな……!! アハハハハハ!!」

 

 新八に言われた通り遊戯は腕をスッと軽く振ってネプテューヌにカード探知機の先を近づけるだけにしてあっさり終わらせてから新八に告げる。

 

「彼女も違う」

「もっとじっくり調べろォォォォォォォ!!」

 

 と新八は怒鳴り、

 

「「「「「アハハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

 新八以外は爆笑する。

 もう完全に詰んだ状態の新八は更に抵抗フェイズを続ける。

 

「そ、そもそも僕はあなたが言ったような悪知恵を働かせません!! ぜ、〝善良な眼鏡〟なんです!!」

「「「「「アハハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

 新八の謎の発言に新八以外は爆笑し、仕掛け人の遊戯ですら笑いかけて顔を背けている。

 銀時、ノッブ、ネプテューヌが笑いながらコメントする。

 

「ぜ、善良な眼鏡ってなんだよお前……!! ハハハハ……!!」

「ハハハ……! こ、ここでボケかますの腹立つなー……!」

「善良な眼鏡ですって言い方がイラっとくるー……!!」

 

 なんとか笑うの堪えた遊戯は真面目な顔に戻って向き直り、新八に言い放つ。

 

「……いや、君の悪どさは既に証明されている。なぜなら……」

「な、なぜなら?」

 

 と新八が問うと遊戯はビシッと眼鏡の顔に指を突き付ける。

 

「君はもう一人の僕にイカサマで勝っているからだ!!」

「ええええええッ!? …………あッ!!」

 

 驚きながら思い出す新八。そして笑いが収まった銀時とネプテューヌと沖田さんが冷静にコメントする。

 

「あー、確かに勝ってたな」

「絶対負けると思ってたのに余裕で買ってたもんねー」

「なんかおかしいと思ってましたよ」

 

 新八はなに言いだすんだテメェら! と言いたげ眼差しを三人に向ける。

 遊戯は新八に力強く説明する。

 

「あんたはデッキをシャッフルした時にイカサマをしたのを僕は見逃さなかった!! そして僕は確信した!! あんたのようなずる賢い眼鏡がイカサマの犯人であると!! だからこの時の為にもう一人の僕はあんたにワザと勝たせたんだ!! 全てはあんたの悪事の証拠を突き付ける為の布石として!!」

 

 ドン☆ と効果音が出そうなほどの論破カウンターを叩きつけ、銀時、ノッブ、沖田さん、ネプテューヌ、神楽はおぉ……と声を漏らしつつパチパチと拍手している。

 一方、犯人となった新八は、

 

「ちがァァァァう!! 僕はイカサマなんかしてなァァァァァい!!」

 

 声を荒げて必死に抗う。

 銀時たちは笑いそうになっているのを堪えており、新八はなおも弁明フェイズを開始する。

 

「い、イカサマをしたのは僕じゃない!! あ、アテムだ!! アテムが〝ワザとイカサマ〟して僕に勝たせたんだッ!! だから〝めっちゃ弱い僕〟が勝ったんだァァァァァァ!!」

「フフ……!」

 

 遊戯もさすがに耐えきれなかったの吹き出す。

 

「「「「「アハハハハハハハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、沖田さん、神楽、なのは、ひかる、ララ、アウト』

 

 新八以外が大爆笑。

 銀時、ノッブ、ネプテューヌ、沖田さんが笑いながらツッコミ入れ始める。

 

「アハハハ! ふぁ、ファラオの本名呼び捨てにしやがった……!!」

「そ、そんな力強く弱い言わんでも……!! ハハハハ!!」

「し、仕掛け人の癖して笑っちゃダメでしょ……!!」

「アハハハッ!! よ、弱いからってイカサマしない理由にならないでしょ……!!」

 

 結局新八の無意味な抵抗は功を奏さず、

 

「とにかくこっち来い!!」

 

 エル大納言にしょっ引かれてビンタの為の位置、待機席から少し離れた前へと移動する。

 

『※カード窃盗の犯人である志村新八にはお仕置きの大納言ビンタ』

 

 そして定位置までやってくるエル大納言は腕を組んで問いかける。

 

「よし、覚悟は良いな?」

「だから違うんですってばッ!!」

 

 と新八は必死に弁明し、エル大納言は問い返す。

 

「なにが違う?」

 

 新八は遊戯の抱きかかえる赤ん坊をビシッと指さす。

 

「あいつは僕の赤ん坊じゃありません!! たまたま拾った子なんです!! だから僕は無罪なんです!!」

「わーまた別方向から粘るなー……」

 

 笑いが収まっている銀時は腕を組みながら言い、エル大納言は問い返す。

 

「では、誰の子だと言うんだ?」

 

 新八は迷わず待機席側を指さす。

 

「ネプテューヌちゃんの子です!!」

「「「「「アハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、沖田さん、神楽、なのは、ひかる、ララ、アウト』

 

 まさかの飛び火に新八以外が爆笑し、銀時、ネプテューヌ、ノッブが笑いながらツッコミ入れる。

 

「アハハハハハッ!! お、女のネプテューヌに擦り付けても意味ねェだろ……!!」

「アハハハハハッ!! わ、私があんな子供産むワケないでしょ……!!

「い、遺伝子まったく仕事しとらんじゃないか……!!」

 

 エル大納言は真面目なトーンで新八に問いかける。

 

「どうことだ?」

「あいつはネプテューヌちゃんがどっかからこさえた子供で僕とはまったく無関係!! だから僕は無罪!!」

 

 諦めの悪い新八の弁明に銀時とノッブは半笑いになりながらコメントする。

 

「も、もう黙れお前……!!」

「と、とっととビンタ受けろ……!!」

 

 新八の言葉にエル大納言はうんうんと頷く。

 

「ほー、なるほど。お前の言い分は分かった。ならば、お前の赤ん坊に訊いてみよう」

「えッ?」

 

 驚く新八にエル大納言は告げる。

 

「赤ん坊は嘘をつかん。貴様が親なら反応を示すはずだ」

 

 エル大納言の言葉を聞いて遊戯が赤ん坊新八の首とお尻の辺りに手を当てながら縦に持って新八に近づく。そしてエル大納言は赤ん坊新八に顔を近づけて話しかける。

 

「さー、赤ちゃん。あの地味な眼鏡は、お前の……親か?」

 

 すると赤ん坊が、

 

「パバァ゛~ッ!」

 

 とても人間が出すとは思えないような凄まじくきったない声で新八をパパと呼ぶ。

 

「「「「「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、沖田さん、神楽、なのは、ひかる、ララ、アウト』

 

 新八以外が大爆笑し、腕を組むエル大納言は新八に近づく。

 

「これでお前が犯人と決まったも同然だ」

「いやだァァァァァァァァァッ!! あんな〝バケモノ〟僕の子じゃなァァァァァァい!!」

「「「「「アハハハハハハハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

 新八以外の待機組全員が更に爆笑し、銀時とノッブが笑いながらツッコミ入れる。

 

「アハハハハッ!! あ、アレ声以外お前の顔そっくりだろッ!! アハハハハハッ!!」

「アハハハッ! ば、バケモノ呼ばわりせんでも……!!」

 

 エル大納言は嫌がる新八の胸倉をグイッと左手で掴む。

 

「さー、覚悟しろ」

「なら最後に……頼みを聞いて下さい」

 

 と真剣に言って新八は待機席を指さす。

 

「あそこにいる、病弱幕末剣士も一回ぶってください」

「いや、なんで?」

 

 と戸惑いの声を出す沖田さん。

 

「「「「「ァハハハハハハ……!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、神楽、アウト』

 

 戸惑う沖田さんは一応神楽の尻を叩いてから不満そうな声を出す。

 

「なんで私を巻き込もうとしてんですかあの眼鏡」

 

 エル大納言は新八の胸倉を離し腕を組みながら問いかける。

 

「なぜだ?」

「だ、だってあいつはカードを盗んだじゃないですか!」

「いや盗んでません!」

 

 と沖田さんは首を横に振って否定すると新八は、

 

「盗んでなくてもコピーカード持ってたろお前!!」

 

 力強く言い放つと沖田さんも首を横に振って否定の言葉を返す。

 

「そ、そうかもしれませんけど遊戯さんのカードじゃないただ偽物です」

「魂のないカードを作ったお前も十分罪深い!! 裁きを受けろ!!」

「「「「「アハハハハハハハハッ!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、沖田さん、神楽、アウト』

 

 銀時と沖田さんは笑いながらツッコミ入れる。

 

「あ、あいつどこの立場でモノ言ってんだよ……!」

「よくアドリブで思い付きますねあんなセリフ……!」

 

 エル大納言は新八に語り掛ける。

 

沖田さん(あいつ)はもう関係ない。裁きを受けるのは真犯人である……お前だ」

 

 エル大納言はそのまま新八の胸倉を掴む。

 

「尺もあまりない。そろそろビンタするぞ」

「じゃ、じゃあビンタしないでください……!」

 

 怯えながら新八が反論すると、

 

「うるせェバカヤローッ!! 黙ってビンタされろ!!」

 

 凄まじい気迫で言葉を返すエル大納言。新八は更にビビりまくる。

 銀時はその光景を見て半笑いになりながらコメントする。

 

「もうアレほとんど蝶野さんだな……」

 

 すると新八は小さな声を出す。

 

「……れました……」

「ん? なんだ?」

 

 エル大納言が新八の胸倉を掴みながら問うと新八は小さな声で言う。

 

「ぼく……一回……ビンタ……されました……」

「もう少し大きな声で言ってみろ」

 

 新八は少し声を大きくしていう。

 

「……オイラに……一回ビンタされたから、ぶたないで……ください」

「んなこと知るかァーッ!!」

 

 エル大納言は新八の顔の間近で怒鳴り散らす。

 超ビビる新八は思わず後ろに下がって逃げようとするがエル大納言は胸倉を思いっきり掴んでいるので新八は嫌がりながら苦悶の表情を浮かべる。

 

「「「「「ンフハハハハハハハハッ……!!」」」」」

 

『銀時、ノッブ、ネプテューヌ、沖田さん、神楽、アウト』

 

 抵抗虚しくついにお仕置きの大納言ビンタのカウントダウンが始まる。

 

「さー行くぞ。……5、4、3、2、1!」

 

 バシィーンッ!!

 

「ッッッ――!!」

 

 衝撃のあまり声も上げられずに後ろに吹っ飛び倒れる新八。ビィ(?)の時と同じく、彼の眼鏡も吹っ飛んでしまう。

 そしてエル大納言は最後に決めゼリフを言い放つ。

 

「ガッデムッ!!」

 

 エル大納言は白い扉に向かって歩き、遊戯も赤ん坊を床に置いて白い扉の奥へと消えていく。

 

「あんだけ赤ん坊扱いしといて床に置いてくんだな……」

 

 と銀時がツッコミ入れ、床に倒れる新八は恨めしそうに銀時、ノッブ、ネプテューヌ、沖田さんを見ていた。

 新八の眼光を見て銀時とノッブはコメントする。

 

「わー……人殺しそうな目してる……」

「アレなら目からビーム出せそうじゃな……」

 

 ビンタされた新八に興味ないのかネプテューヌはこれから先に起こることを呟く。

 

「それより、あんだけ笑っちゃったから絶対罰ゲーム来るよねー……」

 

 ネプテューヌの言葉に銀時とノッブが相槌を打つ。

 

「あー……全員来るなー……」

「2週くらいやらされそうじゃなー……」

 

 ビンタタイムが終わったのでなのは、プリキュアコンビが新八を助け起こしたりしつつ銀時たちは罰ゲーム迎えることになった。

 

 

 

 一方、暗い空間ではある男が椅子に座って画面を見ながら、タイキックされたり、真田されたり、電撃握手くらったり、ハリセンくらって苦しむ銀時たちの様子を眺めていた。

 

「フフフ……そろそろ出番だな……」

 

 そう言って男は立ち上がる。

 

 



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2020年明け 9:イベントの終わりはなぜか寂しく感じる

さすがに最下位が決まるまで書き切るとかなり尺が伸びるので、もろもろの事を考慮して今回の話ですごろく大会を終わらせることにしました。


 大納言ビンタからほどなくして、大会はなんとか進んで行き……。

 ようやく2位、3位、最下位が決まったのだ。

 

2位――チーム銀ノッブ。

 

「いやー……助かったー……」

「ゴール折り返しなしに救われた……」

 

 銀時、ノッブは安堵のため息を吐く。

 

3位――チームプリなの。

 

「「「…………」」」

 

 なのは、ひかる、ララは喜びや安堵を浮かべず、自分たちの隣にいるチームに同情の眼差しを送っている。

 そう、最悪の罰ゲームウ〇コ合☆体をすることになったのは……。

 

最下位――チーム沖楽。

 

「「…………」」

 

 沖田さんと神楽は四つん這いになって絶望の表情を浮かべながら意気消沈していた。二人からどんよりした暗黒のオーラが出まくっている。

 ようやくすごろく大会が終わり、フェイトが参加者一同へと近寄る。

 

「それでは大会も無事に終わったので大会の主催者の方々からあいさつがあります」

「「「「「えッ?」」」」」

 

 と驚きの声を漏らす一同。

 するとバン!! と白い両扉が勢いよく開く。そして奥から一人の人物が顔を出す。黒いマントで体を覆いサングラスを掛け顎髭を生やしたおじさん――洞爺湖仙人であった。

 このおじさんは簡単に説明すると銀時の木刀――洞爺湖に潜む仙人みたいなおっさんである。

 

「フハハハハッ!! 随分と醜態を晒したものだなーッ!! お前たち!!」

 

 高笑いしながら出てくる洞爺湖仙人を見て銀時たちは彼にジト目向けるが、仙人構わず自身の顔に親指をビシッと突き付け自己紹介。

 

「何を隠そう!! この洞爺湖仙人こそが今大会の主催者なのだッ!!」

 

 そして洞爺湖仙人は拳を握りしめながら意気揚々と語り始める。

 

「全ての始まりはこの小説での第一回目の特別回!! 私は仙人として大恥をかき、仙界ではずっと肩身の狭い思いをしてきた!! 私をタマキュアおじさんなど揶揄する者までいる始末!! だからこそ貴様らにも私と同じ、いやあの時以上の屈辱を味合わせることを決意したのだ!!」

 

 聞かれてもいないのにベラベラ語る洞爺湖仙人はクワッと表情を変え、背を逸らしながら天を仰ぎ力強く語る。

 

「そして今日この日を持って私の復讐は完了する!! もちろんコレは私の復讐であるからして優勝賞品などありはしなァい!! 貴様らを躍らせる為の釣り餌よ!! まーウ〇コはあるがなァッ!! フハハハハハハハハハハッ!!」

 

 天に向かって高笑いする洞爺湖仙人に合わせるように彼の後ろの地面から巨大な機械が浮き出てくる。

 出現した機械は、大きなガラスで作られた円柱の二つカプセルの上部に付いた太いチューブでカプセル同士を繋げた大掛かりな巨大装置。ちなみに片方のカプセルの中にはウ〇コが入っている。

 洞爺湖仙人は自身の後ろに出てきた巨大な機械を手でビシッと指す。

 

「さァーッ!! 最後の仕上げ!! この融合装置で最下位の者はウ〇コと合体だァーッ!! どちらが合体するか好きなだけ醜く争い選ぶがいいッ!! ハーハッハッハッハッハッハッ!!」

「「「「「…………」」」」」

 

 銀時たちはしばし無言となった後、平坦な声で洞爺湖仙人を指さしながら告げる。

 

「「「「「洞爺湖仙人、アウト」」」」」

「へッ?」

 

 そしてすかさず目の色をギロリと変えた神楽と沖田さんが同時に洞爺湖仙人の腹に鉄拳をお見舞いする。

 

「オ゛ッッ――!!」

 

 口から唾液を吐き出す洞爺湖仙人にすかさず今度は銀時とノッブがモモパーンを炸裂させる。

 

「ア゛ッッッ!!」

 

 続いてネプテューヌがバットを振りかぶって洞爺湖仙人のケツをぶっ叩く。

 

「ゴッッッッ!!」

 

 そしてトドメの一撃に新八がバシンッ!! と洞爺湖仙人の頬にビンタを炸裂させた。

 

「ブッッッッッ!!」

 

 そして倒れ伏す洞爺湖仙人にララとひかるとなのはが冷めた言葉を浴びせる。

 

「自業自得ルン」

「「うん。ホント」」

 

 そんなこんなで大会参加者一同にお仕置きされ簀巻きにされた洞爺湖仙人。

 ボロボロになった洞爺湖仙人にネプテューヌはしゃがみ込んで猫なで声で問う。

 

「一つ聞きたいんだけど~、なんで銀ちゃんたちはともかく私とかノッブみたいに前回の特別回とは関係ないメンツまで集めたの?」

 

 するとノッブも腕を組みながら便乗して問う。

 

「おー、そうじゃな。そこ聞きたいのー」

「さっさと答えなさい」

 

 沖田さんは刀を差した鞘で洞爺湖仙人のケツをバシッと叩くと簀巻き仙人は顔を引き攣らせながら答える。

 

「え、えっとー……ぼ、ぼくー……さ、最近エドチューバーになろうと思ってー……ど、動画映えする人気キャラであるみなさんをお呼びましたー……」

 

 ノップはうんと頷く。

 

「よく分かった。貴様とウ〇コが合体するシーンを撮ってUPしてやろう」

 

 ノッブの言葉を聞いて沖田さんとネプテューヌも笑顔で相槌を打つ。

 

「きっとバズって再生数稼げますよ~」

「よかったね~」

「いやあああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 悲鳴を上げる仙人。もちろん彼を助ける者など誰もいないと思ったのだが、

 

「まー待てお前ら」

 

 銀時が手を出して待ったをかける。この男からまさかの言葉を聞いて意外そうな表情を浮かべる一同。

 

「我がマスターーーーーー!!」

 

 洞爺湖仙人が涙目になりながら嬉しそうに声を上げると銀時は冷静に告げる。

 

「そいつをウ〇コにすんのは俺らが貰うはずだった高級おせつちとお年玉分の金を預金から引き抜いてからでも遅くはないだろ」

「「「あー、確かに」」」

 

 ノッブ、沖田さん、ネプテューヌは同時に相槌を打ち、

 

「いやああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 洞爺湖仙人はこの世の終わりのように悲鳴を上げる。

 すると、

 

「あー、みなさん。ちょっといいですか?」

 

 突如として聞き覚えのない謎の声が聞こえた。

 声のする方に全員が一斉に顔を向けるとそこにはねずみ色のローブで全身を覆い、フードを深くかぶって顔を隠した謎の人物が手を上げて立って居た。

 もちろんいつの間にか近くに立って居た謎の人物を見て全員が驚きの表情を浮かべる。

 

「「「「「ッ!?」」」」」

「ッ!? だ、誰ですかあんた!?」

 

 新八が驚きながらいの一番に問うとローブの人物は自己紹介を始める。

 

「私の名前は皆さんの知っている言語では説明できないのでお教えできませんが、私はいわばそこの簀巻きにされている方と同じ今大会の主催者です」

「ほ~、なるほど」

 

 銀時は目を細めながら木刀に手を掛け、ノッブと沖田さんも武器を構え始める。

 だが主催者は殺気と怒気を向けられても慌てず冷静に話しかける。

 

「あッ、私をボコボコにする前にお話だけでも聞いてくれませんか?」

「おー、良いぞ。世事の句か?」

 

 殺意を全く隠さない銀時。まぁ、殺意隠さないのは銀時だけではないが。

 ローブの主催者は冷静に物腰柔らかい声で説明する。

 

「私の住む星は他の惑星の方々からイベント星と呼ばれ、そこに住む我々住人はイベント星人と呼ばれています。そして我々イベント星人はあらゆる次元を観測並びに干渉することができるのですが、そんな我々が一番好きなのが催しごとなのです。特に特定の時期は催しをするのが(さが)みたいなものでして」

「ふ~ん……だから俺たち呼んで、色々ゲスト呼んで、こんなふざけた大会開いたと」

 

 目を細める銀時の言葉にイベント星人は頷く。

 

「はい。たまたま知り会った洞爺湖仙人さんにアドバイスをもらうついでに皆さんをご紹介されて今大会を思い付きました」

「あー……なるほど……」

 

 銀時、ノッブ、新八、ネプテューヌ、沖田さんが洞爺湖仙人に鋭い眼差しを向ける。仙人は汗をダラダラ流しながら下手くそな口笛を吹いて露骨に顔を背ける。

 イベント星人は申し訳なさそうに説明を続ける。

 

「少々突貫作業な部分があって人員が思うように確保できずに色々と足りない部分も否めませんでした。とりあえず、ギリギリまで見てる方たちもやる方たちも楽しめるよう色々工夫はしたつもりなんですが……」

「いやそもそも見てる方はともかく、やる方は楽しめんじゃろアレでは」

 

 と腕を組むノッブは冷静に告げてから強く言い放つ。

 

「最下位はウ〇コにされるんじゃぞ!! わしらに楽しんどる余裕なんぞないわ!! まー笑ってしまっていたがな!!」

「あー、そこら辺は最後にドッキリとして明かすつもりでホントに実行するつもりはなかったんです」

「えッ!? ウ〇コはドッキリだったんですか!?」

 

 と新八が驚きの声を上げ、他の面々も意外な展開に驚きの表情を浮かべ始めている。だが沖田さんが疑いの眼差しを向ける。

 

「仙人みたくシバかれたくないから口から出まかせ言ってるんじゃないんですか?」

「そこまで疑われてしまうと弁明のしようがないのですが、私としては皆さんを本当にウ〇コにする気はなく……皆さんがゲームを真剣に取り組んでもらう為に利用した方便みたいものでして、はい、すみません。いやー少々やり過ぎてしまったみたいで、申し訳ない」

 

 頭を下げるイベント星人を見ても沖田さんやノッブなども少し怒りの感情を抑え始めている。

 イベント星人はある一言を口にする。

 

「空間に閉じ込めウ〇コにするって脅せば皆さん絶対に大会を最後まで全力疾走してくれるって仙人さんが言ってくれたんですが……やっぱり少々強引だったみたいですね」

「あッ! ちょッ! そのこと今言わないで!!」

 

 簀巻きにされた洞爺湖仙人が慌ててイベント星人の言葉を止めようする。だがそれが逆に証拠となり、

 

「「「「「あん?」」」」」

 

 銀時、新八、神楽、ノッブ、沖田さん、ネプテューヌが洞爺湖仙人にギロリと鋭い眼差しを向ける。うわやべッ! と言いたげな表情で仙人の顔は真っ青になり汗をダラダラ流す。

 イベント星人はマイペースに説明を続ける。

 

「実は最後まで最下位の方はウ〇コにするかどうかで彼と揉めたんですよね。私はドッキリで済まそうって何回も言ったんですが」

「ちょッ!! 黙って!! もう喋んないで!!」

 

 どんどん自分の立場を危うくするイベント星人に洞爺湖仙人は必死声をかけるが、銀時がドスの利いた声で食い気味に言う。

 

「いや、もっと喋れ。俺たちも色々知りたいしな」

「ちなみにもろもろの罰ゲームを考えたのもこのクソ仙人ですか?」

 

 と新八が仙人にジト目向けながら聞くとイベント星人は首を横に振る。

 

「いえ。彼が考えて用意したのはウ〇コ合☆体のとこだけですね」

「そこだけかよ!!」

 

 と新八はツッコミ入れ地面に転がる洞爺湖仙人を冷めた眼差しで見る。

 

「この人たったそれだけのアイデアしか出してないのに主催者名乗ってたんですか?」

 

 恥ずかしそうに顔を背ける洞爺湖仙人。すると思い出すようにイベント星人はある説明をする。

 

「あッ、最初辺りの皆さんを焚き付ける為のディスプレイの文字は彼でしたね。それはもうノリノリに――」

「ちょっと黙ってホント!!」

 

 と洞爺湖仙人が慌てて言葉を遮るが、時すでに遅し。

 銀時、ノッブ、沖田、ネプテューヌさんが殺意をまったく隠さない視線を洞爺湖仙人向ける。

 

「あー、なるほどー……」

「どうりで高圧的で腹立つ文だったわけじゃ……」

「あの煽り文はあなたでしたか……」

「なっとく~……」

 

 新八、神楽も無言で煽り仙人に鋭い視線を向ける。

 汗を滝のように流す洞爺湖仙人に構わず、イベント星人は説明を続ける。

 

「後の他もろもろはフェイトさんをお借りする時に交渉したトランスさんと相談して出してもらったアイデアを取り入れました」

「トランスって俺たちの世界のあいつかよッ!! ホントなにやってんだあのバケモン!!」

 

 とツッコミ入れる銀時の頭の中には憎たらしい笑みを浮かべながらブイサインする薄褐色の少女の顔が浮かび上がっていた。

 新八も顔に青筋浮かべながら頬をヒクつかせている。

 

「道理で性格悪そうなキツイヤツがあったと思ったら……」

「あいつの案だったアルか……」

 

 新八同様に神楽も青筋を浮かべている。すると話を聞いていたなのははあることに気付き、イベント星人に話しかける。

 

「あのー、そう言えばフェイトちゃんの姿がさっきから見えないんですけど?」

「あぁ、彼女ならさきほど仕事が終わった事を告げたらさっさと帰ってしまいましたね」

「そ、そうなんですか……」

 

 残念そうに頭を下げるなのは。

 説明を聞いた銀時は腕を組みながらジト目を向ける。

 

「つうかあの変身娘から聞いたアイデアほとんど採用したのかよ……」

 

 イベント星人は手を軽く合わせながら説明する。

 

「全部ではないですが、結構参考になりましたね。一部はキツく、他はほどほどの罰ゲームなど。罰ゲーム系はこういう催しで外せないと私は認識しておりますし、さすがにこの内容で罰ゲームなしと言うのは少々味気ないですから」

 

 一通り事情を聞いたノッブはため息を吐く。

 

「……まー、その意見は分からんでもないが……」

 

 なんとも言えない複雑な表情を浮かべ腕を組むノッブに沖田さんとネプテューヌも相槌を打つ。

 

「えー……まー……色々納得できない部分もあるにはありますが……」

「こうやってネタバラし受けちゃうと、なんだかんだもう済んだことだなーって思う部分あったりなかったりするよーなー……」

 

 色々説明を聞いたことで毒気が抜かれたような雰囲気になる参加者たち。

 すると洞爺湖仙人は声を弾ませる。

 

「なんだッ! ではやはり私のウ〇コ案も別に問題な――!!」

「「「「「それはない(ルン)」」」」」

 

 参加者全員がキッパリ言い放つ。

 一通り説明が終わり、ひかる、ララ、ネプテューヌは一気に脱力したように地面にへたり込む。

 

「疲れたー……」

「ルン……」

「そして得られる物はなにもなーい……」

 

 嘆くネプテューヌの言葉に反応してイベント星人はふと思い出したようにある言葉を言いだす。

 

「あッ、優勝者のネプテューヌさんと新八さんには賞品の高級おせちと100万円のおとしだま進呈しますから待っていてくださいね」

「「「「「えッ?」」」」」

 

 驚く一同。そして新八が戸惑いの声をもらしながら聞く。

 

「えッ? で、でも……さっきクソ仙人が優勝賞品はないって……」

「それは彼の勝手な取り決めで、私は元から賞品はお渡しするつもりでした。安心してください」

「「よっしゃァァァァァァァッ!!」」

 

 ちゃんと賞品がもらえることを聞いて新八とネプテューヌは両腕を上げてガッツポーズ。すると銀時と神楽が左右から新八の肩に腕を回す。

 

「な~、ぱっつぁ~ん。俺たち万事屋の仲間だろ? 俺社長、お前社員。だから社長命令だ。おとしだま8割寄越せ」

「ふざけんなブラック社長!」

 

 と新八が怒鳴ると神楽も便乗する。

 

「私専務。お前ヒラ社員。だからお年玉9割、おせち10割寄越せ」

「ざけんな!! お前は専務じゃねェ!! 盗賊だ!!」

 

 怒鳴る新八であったが、やがてため息を吐き柔らかい表情を浮かべる。

 

「……まー、お年玉はともかくおせちはみんなで食べましょうか? どうせ僕と姉上だけじゃ食べきれる量じゃないんですし」

「ぱっつぁん!! 話しが分かるアル!!」

 

 喜ぶ神楽、そして銀時も満足げな表情を浮かべる。

 ひかるが思い付いたように元気よく立ち上がる。

 

「じゃあみんなで年明けを祝おう!! 折角この大会を一緒に遊んだ仲間なんだし!!」

「それは良いルン!!」

 

 ララも立ち上がりつつ相槌を打ちと銀時がボソッと「まー、ぶっちゃけ年明けにはもうだいぶ遅いけど……」と呟く。

 ノッブが笑みを浮かべて告げる。

 

「よーし、では最後に楽しく年明け祝いする前に……」

 

 ノッブが火縄銃の銃口を洞爺湖仙人の頭に突き付けながら黒いオーラを出す。

 

「わしらを散々弄んだ報いは代表してコイツに受けさせよう。主催者なんじゃしな」

 

 すると沖田さんとネプテューヌも黒いオーラを出しながら笑みを浮かべて便乗し出す。

 

「なら彼の案に(なら)ってウ〇コ合☆体を執行しましょうか」

「いやいや。その前に私たちが受けた罰ゲーム全部受けさせようよ」

「許して許して堪忍してェェェェェェェッ!!」

 

 洞爺湖仙人は命乞いするがまず間違いなく彼は許されないだろう。

 

「では、皆さんがお帰りなる前にいま用意できた分のおせちをお渡ししますね」

 

 主催者が振り返り白い両扉に向かおうとする。

 これでようやく大変だったすごろく大会が終わりまったりのんびり年明けを祝えると思った一同であったのだが、

 

「た、大変です!!」

 

 突如としてスケバン刑事から私服姿になっているマシュ・キリエライトが慌てた様子で開いた白い両扉から出てくる。そして走りながらイベント星人に耳打ちする。

 事態が急変したことでノッブ、銀時、新八は声を出しつつ反応する。

 

「ん?」

「なんだ?」

「まだなんか残ってんですか?」

 

 他の面々も少々戸惑っており、マシュから耳打ちを受けたイベント星人は少し驚きの声を出す。

 

「あー、それは結構マズいですねー……」

「な、なにかあったんですか……?」

 

 代表して新八が戸惑い気味に問いかけるとマシュが焦り顔で困ったように説明し出す。

 

「じ、実は大納言さんとオイラさんが喧嘩を始めてしまって……」

「えええッ!? あのヤバそうな二人が!?」

 

 驚きの声を上げる新八。話を聞いて他の面々も驚き顔を浮かべている。

 イベント星人は冷静にマシュに話を聞く。

 

「喧嘩の原因は?」

「はい。実は出番が終わったお二人がなんでも待機室でどちらが最強かって話でどんどん揉め始めたようでして――」

 

 とマシュが説明してる間に神楽とネプテューヌがあることに気付く。

 

「「あッ、あれ……」」

 

 空中の方を指さす神楽とネプテューヌに反応して全員の視線も空中のディスプレイへと向く。するとひび割れていたディスプレイからミシミシという音と共にどんどんヒビが入り、ズガシャーン!! と割れて中から大きな二つの影――ビィ(?)とエル大納言が飛び出す。

 

「ぎゃあああああああああッ!? どっから出て来てんだあの二人ィィィィ!?」

 

 いの一番に新八が悲鳴を上げる。そしてディスプレイを破壊して地面に降り立つ二人の落下地点には簀巻きにされた洞爺湖仙人が居た。

 

「えッ?」

 

 ドカァーンッ!! とまるで砲弾のように地面に落下するダブルマッチョ。

 

「「「「「ぎゅあああああああああああああッ!!」」」」」

「「「うわああああああああああああああああッ!!」」」

 

 洞爺湖仙人の近くにいた大会参加者一同は悲鳴を上げながら咄嗟に飛んで衝撃を受けながらもなんとか被害を逃れる。

 爆煙のように上がった土煙が晴れれば、オーラを出して腕を組み相対するオイラと大納言の姿が。そして二人の破壊の跡を物語るように地面は埋没し大きな亀裂が円を描くように広がっていた。

 あまりにもぶっ飛んだ光景を見て尻もち付いていた新八は青い顔でへっぴり腰になりながらも必死に立ち上がりイベント星人の元へと駆け寄る。

 

「しゅ、しゅしゅしゅしゅ主催者さァァァァん!!」

 

 離れて衝撃波の被害から逃れていたイベント星人に新八は必死に問いかける。

 

「あ、アレって……た、だたのネタですよね!? ただの大会が終わった後に用意したサプライズですよね!?」

 

 睨み合うビィ(?)と大納言を指さしながら問いかける新八にイベント星人は首を横に振りながら答える。

 

「いえ。ネタでもなんでもなくアレは完全にあの二人が暴走してますね。私では手に負えません」

「えええええええええええええッ!?」

 

 まさかのガチの緊急事態に口をあんぐり開けてビックリする新八。一方、銀時たちもマッチョ共の争いに巻き込まれないように慌ててイベント星人の近くに避難し出す。

 オーラを出し、仁王立ちするビィ(?)とエル大納言は言葉を交わし始める。

 

「へッ、やっぱ最初見た時からピーンと来たぜ。おめェは間違いなく全空の王となるオイラの最大の障害になるってなァ」

「あたしもお前のような強者と相対したのは始めてだ」

 

 やがてビィ(?)とエル大納言はゆっくりと構えを取り始める。

 

「どちらが最強のネタキャラか……!」

「決めるとしよう……!」

 

 二人の言葉を聞いて銀時はおっかなビックリしながら小さな声でツッコミ入れる。

 

「ね、ネタキャラの自覚あんだ……」

「最強のネタキャラって、決める意味あるのか……?」

 

 ノッブも戸惑いつつコメントする。

 沖田さんはビビりつつ焦り声を出す。

 

「っていうかあの人たち誰か止められないんですか!? こ、この空間破壊しそうな勢いですよ!?」

 

 そこですかさず新八がネプテューヌに顔を向ける。

 

「ネプテューヌちゃん!! 君女神でしょ!! 神の力でなんとかして!!」

「無理無理無理無理無理無理無理無理無理ッ!!」

 

 ネプテューヌは首を左右にぶんぶん振って全力拒否する。

 

「まったく情けない連中アルな~……」

 

 なんとここで、今にも一触即発になりそうな雰囲気のビィ(?)とエル大納言にやれやれといった感じで近づくのは神楽。

 

「「ちょッ!? 神楽ちゃん!? 危ないッ!!」」

 

 驚き心配の声を出す新八となのはを無視して神楽は呑気な声でマッチョビィとエル大納言をなだめようとする。

 

「お前ら~、最強決定戦も結構アルがもっと遠くで――」

 

 しかしまったく神楽を意に返さないマッチョ共は拳を振りかぶる。

 

「ビィィィィイイイイイイイイイッ!!」

「ヌォォォォオオオオオオオオオッ!!」

 

 両者の筋肉質な腕から放たれる拳がぶつかり合い凄まじい衝撃波を生み出す。

 

「「「「「うわァァァァァッ!!」」」」」

 

 あまりの衝撃波に驚く一同。特にその衝撃をもろに近くで受けた神楽はボールように後ろに吹っ飛ばされる。

 

「「神楽ちゃァァァァァァァァァァん!!」」

 

 新八となのはが悲鳴にも似た声を上げ、吹っ飛ばされた神楽は洞爺湖仙人が用意した融合装置に一直線に向かう。

 そのままドガシャンッ!! と神楽がぶつかったショックで装置は倒れる。

 

「ちょッッ!?」

「だ、大丈夫!?」

 

 心配した新八となのはがすぐさま助け出そうと近づこうとするのだが、

 

「な、なんか装置の方からビリビリって変な音が……」

 

 ララが青い顔をして指摘した通り装置から電気がスパークし出し二人の動きが止まる。

 

「アレ……まずくね?」

 

 と銀時が言った直後、まるで雷が落ちたかのように機械から電気が放電され眩い光を発し始める。

 

「ぎゃあああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 神楽から悲鳴が上がり、新八が焦り声を出す。

 

「ちょっとォォォォッ!! 神楽ちゃんヤバイですって!!」

 

 挙句の果ては、凄まじい電気を放電した装置がドカァーン!! と爆発してしまう。

 

「「神楽ちゃァァァァアアアアアアアアアアアアアアアアン!!」」

 

 新八となのはが神楽の身を案じて声を張り上げる。

 装置の辺りは爆発の黒煙によって何も見えなくなってしまう。

 すごろく大会参加メンバーはその光景を見て呆然とし、なのはが声を漏らす。

 

「か、神楽ちゃん……」

「か、神楽ちゃん……し、死ん……」

 

 と新八が言ってる途中、黒い煙の奥から一つの影が姿を現していた。

 

 

 一方、ビィ(?)とエル大納言は爆発も気にせずドラゴンボールばりの拳のぶつけ合いを続けている。

 だが、

 

「おう、その戦い、私も混ぜてまらおうか」

「「――ッ」」

 

 突如として聞こえてきた声にビィ(?)とエル大納言は拳をピタリと止め、声がした方へと顔を向ける。

 二人から数歩離れた近くには――頭の左右に髪留めを二つ付け、筋肉質な腕と足を持ち、胴体がデッカイとぐろを巻いたウ〇コが腕を組んで仁王立ちしていたのだ。

 そのウ〇コの上部分についたパッチリとした瞳が筋肉の怪物共を捉えており、謎の存在を見てビィ(?)は問いかける。

 

「なんだ、おめェ?」

「私の名は……――」

 

 ウ〇コの下部分に付いた口が動いて言葉を発し、一拍置いて力強く言い放つ。。

 

「神楽大王ォーッ!! 最強の化身(ウ〇コ)アル!!」

「いやなんでだァァァァァァァアアアアアアアアアアアアッ!?」

 

 と新八は渾身のシャウト、すかさずツッコミを入れまくる。

 

「なんでウ〇コと神楽ちゃんが合体してバケモンが爆誕するんだァァァァァッ!?」

 

 ウ〇コ神楽、もとい神楽大王は筋肉ムキムキな腕で構えを取りながら言い放つ。

 

「私を差し置いて最強を名乗るなどおこがましい!!」

 

 ビィ(?)とエル大納言も神楽大王を強敵と判断したのか拳を構える。

 

「おもしれェ……!」

「良いだろう……!」

 

 言葉を発すると同時に最強の両者が襲い掛かるが、神楽大王は負けじとビィ(?)とエル大納言の拳をいなし、防ぎ、更には反撃までして渡り合う。

 そんなドラゴンボールや北斗の拳ばりの戦いを披露する神楽大王を見て新八はまたシャウトする。

 

「マジで超つえェェェェェ!? なんでウ〇コと合体しただけでめっちゃ強くなんのォォォォォォォ!?」

 

 マッチョな少女とマッチョのナマモノとマッチョなウ〇コの拳と拳がぶつかり合い、小さな衝撃波がいくつも現れ、地面にヒビまで入り始める。

 

「もう手に負えねェェェェェエエエエエエエエエエッ!!」

 

 ヤムチャも裸足で逃げ出す光景を見て新八は涙を流しながら頭を抱えて叫ぶ。

 沖田さんはジト目になりながら口を開く。

 

「……っで、どうするんですか……コレ? さっきより手に負えなくなりましたよ?」

「「「「「…………」」」」」

 

 沖田さんの問いかけに全員が三人の破壊により壊れていくフィールドを見ており、代表して銀時が一言告げる。

 

「――帰るか」

「「「「「……うん」」」」」

 

 全員が頷き、イベント星人である主催者が白い両扉の片方を開けつつ話す。

 

「では、みなさん。今回はコレでお開きになります。お帰りはこちらです。次はもっと面白く、そしてバランスの取れた大会になるように頑張りますね」

「次考えてんのかよ……」

 

 白い扉に近づきながら銀時が疲れた声で言い返し、ノッブがグッと腕を上げて背筋を伸ばす。

 

「あ~……疲れた……」

「ようやく終わった~……」

「ルン……」

 

 ひかるとララは疲れを表すように腕をだらけさせる。

 

「とりあえず、次があるとしても罰ゲームは色々と見直して欲しいですね……」

 

 となのがが腕を垂れ下げながら言うとイベント星人が言葉を返す。

 

「もし今度やる時は少なくとも人員を確保して、ケツ叩き用のスタッフは用意しておこうと思います」

「あッ、スタッフいなかったからあんなメンドーなケツ叩きルールにしたんだ……」

 

 と言うネプテューヌの言葉を聞いてイベント星人は手を合わせながら話す。

 

「今度はあまり禍根が残らないよう、ケツ叩き用のスタッフを見つけてくるつもりです」

「そもそもケツ叩かれたくないんですけど……」

 

 と沖田さんが言う。

 

「つうかもうやりたくないです……」

 

 そして最後に新八が脱力したように告げた時、主催者は新八におせちの束を渡す。

 

「コレは今用意できるだけのおせちです。残りはお年玉と大会の内容を編集したDVDと一緒に送りますので」

「あッ、どうも……」

 

 そんなこんなで、ついに終わったすごろく大会。

 扉をくぐる前、新八は一人を除いた参加者たちを見渡しながら満足げな表情で告げる。

 

「じゃーみなさん。最後は遠慮なく笑顔で終りにしましょうか。もうなんの枷もないわけですし」

「まッ、それも良いな……」

 

 相槌を打つ銀時も薄く笑みを浮かべ、他の面々も笑顔や苦笑を浮かべ始めている。戦うマッチョたちを背に笑顔の参加者たちは白い扉を潜り万事屋へと向かうのであった。

 



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裏エンド

 折角おせちをもらったのですごろく大会参加者たちはお互いの労をねぎらいながらコタツに入り、取り溜めしていた年末年始の特番を見つつ、最高級おせつを食している。

 

「このおせちめっちゃ美味しい!」

 

 普段貧乏な食生活が多い新八は舌鼓を打ち、

 

「大会が終わった後なのかより美味しく感じますね」

 

 なのはも笑顔で相槌を打つ。するとノッブが疲れたように言葉を漏らす。

 

「……しっかし、こう思い返してみるとあんなに笑わせられるとはのー……」

「たぶん、銀時さんと信長さんが一番笑ってと思います……」

 

 となのはが苦笑しながら言うとネプテューヌが両手で頬杖を付きながら話す。

 

「って言うか、笑わなかった時があんま無かったよねー。なにか起こるマスにしろ罰ゲームにしろ大抵誰かが笑ってたし」

「スカマスとハズレマスだけが平和だったねー」

 

 とひかるが苦笑しながら言うとララが微妙な表情を浮かべる。

 

「ハズレは平和とは言えないルン……」

「あー、ごめん……」

 

 ひかるはハズレマスで罰ゲームを受けてことを思い出してか顔を逸らす。

 すると沖田さんが口に箸の先を当てながら思い出しように言う。

 

「いやでも、たしか誰も笑わないイベントとかありませんでしたか?」

 

 新八が人差し指を前に出しながら反応する。

 

「あー、ありましたありました。終盤で出てきた『総統閣下』のマスがありましたよね。時間無駄にしただけの」

「アレ誰も笑わなかったルン」

 

 とララが言うとノッブが腕を組みながら眉間に皺を寄せる。

 

「そもそもあのマス最後ら辺不自然なとこがなかったか?」

「そう言えば……」

 

 となのはが思い出しつつ言うとネプテューヌが小首を傾げる。

 

「えッ? そうだった?」

「じゃあ、ちょっと気になりますし確認してみますか?」

 

 そう言って新八がさきほどイベント星人から送られて来た大会の内容を編集してまとめたDVDを取り出す。

 

 

 これは大会終盤で出て来たイベントマスの一連の出来事。

 

『イベントマス――総統閣下』

 

「またなんか来るのかー……」

 

 イベントマスと言う表示を見てノッブの頭は垂れ下がる。

 

「ゴールしたのに、これ以上罰ゲーム受けたくないなー……」

 

 ネプテューヌも嫌そうにコメントするが、イベントは勝手に進んで行く。

 

「ではみなさん、空中のディスプレイに目を向けて下さい」

 

 参加者一同は指示に従い、待機席の椅子に座りつつ画面へと目を向ける。

 

 

 映像が流れ始める。

 ガチャンと言う音と共に最初に聞こえ、画面下に字幕が映る。

 

『閣下。ようやくこの時がやってきました。年に二回だけある確定ガチャのお時間です』

 

 画面下に字幕が出る中、画面には複数人の人間が所狭しと映っている。ほとんどが軍人だ。

 

 

「あー、また嘘字幕か……」

 

 と銀時が言ってると映像では開いた扉からは軍服姿の沖田総悟が入って来る。

 

「ん?」

 

 銀時が疑問の声を漏らす中、字幕のセリフは続く。

 

『剣、弓、槍と言った具合に小分けされているこのガチャこそ現状で少ない戦力を補強するまたとない機会です』

 

 どうやらとある作戦会議室の風景のようで、髪型がアフロで口元を覆面で隠した軍服姿の男が地図を指さしながら何かの説明をしている。

 そして画面が移り変われば椅子に座るある眼鏡をかけちょび髭を付けた近藤勲が映る。

 

 

 そこまで映像を見て、銀時は少し驚きの声を漏らす。

 

「ええッ? そう言う感じ?」

「いや最初字幕でしたからてっきりまた嘘字幕かと思いました……」

 

 新八も驚きの声を漏らす。

 

『※イベントの映像は真選組による総統閣下』

 

 映像は進んで行きアフロの男が地図を指を動かすと字幕が出てくる。

 

『更には今後のことを考えアルターエゴとフォリーナーが確定で出るガチャを選びますZ。我々にとっては確実に新キャラ確定な上、騎、殺の高レアすら持っていない現状を鑑みれば十分な戦果が得られるはずですZ』

 

 そこまで字幕で言ってアフロの男は地図から指を離して背筋をゆっくり伸ばす。

 画面が移り変わり総統閣下姿の近藤が手に持ったペンを動かしながら告げる。

 

『よし、待ちに待った☆5確定ガチャだ。怯えていらん。年明けの景気づけにパーッと引こう』

 

 

 

「いや普通に喋んのかよ!! サイレントパロディ映像じゃねェの!?」

 

 と銀時が即座にツッコミ入れ、少し笑いそうになっている新八もツッコミ入れる。

 

「つうか字幕のZってなんですかね? まァ、それにしても真選組総出でアホなことやってますねー……」

 

 続けて沖田さんとノッブもコメントする。

 

「って言うか、ジョーカーさんと違って別世界の新選組が担当するんですね……」

「またスタッフ使いまわしたのー……」

 

 映像の内容を見てある程度察しが付いたネプテューヌが脱力しつつコメントする。

 

「グラブルの次はFGOかー……」

 

 

 

 やがて映像はガチャを引く画面に入っていた。そしていきなり高レアのカードが出たようで。

 

―☆4 恋知らぬ令嬢―

 

『あッ、最低保証終わった……』

 

 山崎がボソリと告げ、近藤閣下が言う。

 

『礼装か……とりあえずタップしておくか』

『あッ……』

 

 アフロの男が字幕を漏らし、近藤総統が困惑の声を出す。

 

『ん? なんだ? なんかマズいことしたか?』

 

 頭が丸坊主の真選組隊士――原田右之助が説明する。

 

『あの、総統。総統は普段あんまりガチャを引かないから忘れてますが、タップすると新礼装と新サバと高レア以外はすぐに飛ばされてしまいますよ』

『しまったッ! 折角の福袋だからじっくり引きを見るつもりだったのに!』

 

 近藤閣下が焦った声を出す。

 

 

「わしら一体何を見せられとるんじゃ……』

 

 ノッブが冷めた声を出し、銀時が困惑気味の声を漏らす。

 

「つうかさっきからなんなんだあのアフロ? なんであいつのセリフだけ無音字幕なんだ? テレパシーで喋ってんのか?」

「わかりませんね……」

 

 と言って新八は眉間に皺を寄せる。

 

 

 映像では新たな高レアのカードが出始める。

 

『次だな。高レアの礼装……☆5か?』

 

 近藤総統が期待を込めたセリフを言う中、出てくる礼装は……。

 

―☆4 マグダラの聖骸布―

 

 近藤閣下の部下がコメントし出す。

 

『一応、新☆4礼装は出るんだな』

 

 続いてと原田とアフロの男が言う。

 

『まー、☆4サバはともかく☆4礼装くらいは2、3枚くらいは出てもおかしくないだろ』

『せめて☆5礼装、欲を言えばカレスコみたいなかなり使える礼装が出て欲しいZ』

 

 次はどうやらサーヴァントが出る演出で、出たカードは☆3。

 

『おッ、新サバか?』

 

 と近藤総統が期待する中出るのは、

 

―☆3 アスクレピオスー

 

『アスクレピオスって☆3でもかなり優秀なサバじゃないか?』

 

 山崎の言葉を聞いて部下たちが次々話し出す。

 

『確か陳宮編成で使ってた記憶がある』

『宝具重ねる必要ないよな?』

『問題はスキル上げだろ』

 

 するとまたガチャの演出が始まり、原田ヨードルがボソッと言う。

 

『あッ、光った……次が新☆5か……』

 

 そして出るのは金ランサー。

 

『えッ?』

 

―☆4 ウラド三世―

 

 予想とは反したキャラが出て近藤閣下がコメントする。

 

『わー、ビックリした……一瞬何事かと思った……』

 

 アフロの男が相槌を打つ。

 

『狂じゃないのに狂なウラドが来たZ』

『良かったですね、☆4が来て』

 

 部下の言葉を聞いて近藤総統は少し残念そうに告げる。

 

『できれば女子キャラ、それでなくてもせめて槍以外、剣か殺か騎が来て欲しかった……』

『あぁ、うちは槍が最低限揃ってますから』

 

 とアフロの男が言うと近藤閣下の右腕の土方十四郎が助言する。

 

『でもその為のアルターエゴが出る福袋じゃないですか。次を期待しましょう』

 

 そしてようやく出た高レアサバは……☆5 ムーンキャンサー。

 

『え゛ッ?』

 

 驚く近藤総統をよそに部下たちが話し合う。

 

『☆5でムーンキャスターって言えば……』

『あの子しかいないだろ』

 

―☆5 水着BB―

 

『おおッ! 水着BBちゃん来た……!』

 

 近藤閣下は嬉しそうに驚くがクレープスは少し残念そうに告げる。

 

『あー、この福袋、アルターエゴとフォーリナー以外にムーンキャンサー入ってたのか……』

『まさか一人しかいないBBちゃん、しかも水着が来てくれてむっちゃ嬉しい! けど……』

 

 近藤総統の言葉を代弁するようにアフロの男が言う。

 

『戦力的にはアルターエゴかフォーリナーが欲しかったZ』

 

『※ちなみにこの時、総統閣下たちはジコナの存在を完全に忘れてます』

 

 締めとばかりにアフロの男と原田ヨードルが終わったようにコメントする。

 

『まー、これで年明け福袋も終わりだZ……』

『次は五周年までお預け……』

 

 部下たちがガチャ終幕ムードになっているとガチャの演出はまだ続き金サバ。

 

『『『『『えッ!?』』』』』

 

 驚く近藤閣下と愉快な仲間たち。

 そして出てきたカードは……アルターエゴ。

 それを見て驚く総統閣下の愉快な仲間たち。

 

『うっそ……』

『マジで……』

『まさか……』

 

―☆5 魔神・沖田総司―

 

『き……来たァァァァァァァァァ!!』

 

 近藤総統、まさかの大当たりにありったけ叫ぶ。

 

『マジで二枚抜きしたぞおい!! てっきりパッションリップかと思ったのに!!』

『クソォ!! おっぱいパッションが見れずじまいか!!』

『すげェ! まさかの魔神さんが来たぞ!!』

『今回大勝利じゃないか!! 魔神さんだけに!!』

 

 と浮足立つ総統閣下と部下たちだが近藤閣下がここであることに気付く。

 

『いや、ちょっと待て!!』

 

 また演出が始まり……金サバが登場。

 

『えッ!? また!?』

『マジか!?』

 

 驚く部下たちをよそに出るのはアルターエゴ。

 

『うっそうっそうっそ!! うっそだろおい!!』

『また魔神さんか!?』

『次こそパッションでは!?』

『今回凄過ぎるぞ!!』

 

 盛り上がる部下たち。そして出てくるのは、

 

―☆5 メルトリリス―

 

『来たァァァァァ!! うォォォオオオ!! 来たァァァァアアアアアアアアア!!』

 

 近藤総統は血管が張り裂けんばかりに大喜びし、部下たちの盛り上がりも最高潮に達する。

 

『うっそだろおい!! 別キャラ☆5三枚抜きって尋常じゃないぞ!! マジで神引きじゃないか!!』

『ウラド公で肩透かしくらったのが嘘みたいな大逆転だぞ!! 凄過ぎないか!!』

『福袋1枚抜いたとしても11連中に☆5二枚は凄過ぎる!!』

『これは行くべきだ!! 次も行くべきだ!!』

『もう福袋引けねェよ!!』

『ならば次は通常ガチャだ!!』

『よせ止めろ!! そこから先は地獄だぞ!!』

『年明けに良いモン見れた!!』

 

 だがそこで、

 

『あーあ、次はガチャ引こうとしても当分☆5引けないな』

 

 沖田の発言で会議室にいた全員が意気消沈する。

 

『『『『『…………』』』』』

『お、おまえ!! 折角の神引きなのになんてこと言うんだ!!』

 

 小太りな童顔の男――佐々木鉄之助が文句を言うが沖田はすかさず反論する。

 

『だが実際そうだろう? 確率は収束する。ガチャが怖いとこは高レアが出た後だぞ』

『渋ガチャの神引き報告は氷山の一角。渋ガチャソシャゲーマーには有名な話だ』

 

 冷静になった原田ヨードルが言うと近藤閣下も冷静に返す。

 

『いや……うん……。変な汗出るほど嬉しいけど……たぶんこれから先当分☆5出ないよね?』

『閣下!! 諦めていけません!! このままガチャにレッツトライしましょう!!』

 

 するとまだ熱が冷めないのか土方ゲッベルスが煽るので部下の一人が慌てて止めに入る。

 

『お前なんてこと言うんだ!! これ以上は虹石が全部パーになる確率大だぞ!!』

 

 するとさっき場を冷めさせた沖田が言う。

 

『もしかしたらもっと出るかもしれんだろォ?』

『さっき確率は収束するって言ってただろうが!!』

 

 と鉄之助ブルクドルフがツッコミ入れる。部下たちの発言を聞いて頭が冷えた近藤総統が冷静な発言をする。

 

『お前たちも今回の神引きでテンションおかしくなっているが……ガチャ、特にFGOのガチャは常に引き際を弁え、自制心を養わねばならん。下手に突っ込めば闇に引きずり込まれる。あと、今回の引きが無駄にならんようにID復帰の事前準備をしておかねば』

 

 するとさきほどまでガチャを煽っていた土方ゲッベルスも便乗してコメントする。

 

『とは言え、結局ガチャ産高レアサバ宝具は1。いや、これで充分なのですが、やはり基本はフレ便りになるでしょうな。せめてそろそろ☆5キャラ、もしくは☆4キャラをスキルマ、もしくはレベマにする方向も考えた方がいいかもしれません』

『レベマならまずは魔神さんにしたいな』

 

 と言う近藤閣下に原田ヨードルが机を叩いて熱く諭す。

 

『あなたには最初に出た☆5のおっぱいタイツ師匠がいるでしょう!! 最初に出てくれた☆5としての縁を大事にするべきです!!』

 

 続けて鉄之助ブルクドルフが強く言い放つ。

 

『そもそも今回当たった☆5を全員スキルマにしたらどんだけ素材いると思ってんだ!! 素材むっちゃ食う連中だぞ!! 初期からいるサバたちだって満足に上げられてないのに!!』

 

 鉄之助の発言からどんどん部下たちの論争が激しくなる。

 

『つうかまずは新スマフォに課金する為の軍資金を作り出すことが優先だろ!!』

『お前それを言うなよ!! 悲しくなるだろ!!』

『スマフォより最新パソコンだッ!!』

 

 そんな中、近藤閣下が締めの言葉を告げる。

 

『まぁ、とにもかくにも良い一年になりそうだ』

『運使い果たして事故死しないようにしてくださいね』

 

 原田ヨードルの冷たい言葉に近藤総統はなんとも言えない表情で返す。

 

『そう言うのはせめて宝くじ当たった時に言ってくれない? ガチャで神引きした後、悲運が降ってきて死ぬとか笑い話にもならんから。だ――』

 

 と言う近藤総統閣下の言葉で画面は暗転する。

 一通り映像を眺めていた参加者たちは無言で、いの一番にノッブがコメントする。

 

「……クスリともせんかったな……」

 

 

 

 そこでピッとDVDの再生を止め、新八たちが互いの顔を見ながら話し出す。

 

「やはりクスリともせんかったな」

 

 とノッブが腕を組みつつキッパリ告げると新八が汗を流す。

 

「信長さん、わざわざ大会の時と同じこと言わなくてもいいんですよ?」

 

 続いてネプテューヌが意見を言う。

 

「でもさ、やっぱジョーカーさんの方がシュールで不意打ちキツかったもんね。なんて言うかこっちはツッコミどころ満載だけど、ギリギリ笑わなかったって感じ」

「まー、そこまで笑えないってワケじゃないですし、ガチャの結果は凄い事は凄いのかもしれませんが……ん~……なんでしょうか? なにかが足りませんね?」

 

 と沖田さんがコメントし、なのはが指を立てる。

 

「山崎さんでは?」

「いや、山崎さんはチラッと映ってたよ」

 

 と新八が言ってから腕を組んで小首を傾げる。

 

「ん~……やっぱり、少し違和感を感じるのは最後辺りですね」

「話を途中で切った感ありましたよね」

 

 沖田さんが腕を組みながら相槌を打ち、ひかるが小首を傾げる。

 

「やっぱり『だ』って聞こえたよね」

「ミスルン?」

 

 とララ言うとノッブは首を傾げる。

 

「さ~、わからん」

 

 

 

 一方、マッチョたちが暴れ終わった空間ではイベント星人がフェイトにおせちの重箱を手渡していた。

 

「どうも、今まで司会進行のお仕事ありがとうございました。コレはほんのお礼です。帰ったらゆっくり食べて下さい」

 

 フェイトは無言で頭を下げながら受け取る。

 ちなみにイベント星人の隣では他のゲストのまとめ役も兼任していたマシュが立っている。

 フェイトにおせちの重箱を手渡したイベント星人は手を前で組みながら問いかける。

 

「でも良かったんですか? わざわざ隠れず彼らと年明け祝っても罰は当たらないと思いますよ?」

 

 フェイトは首を横に振りながら説明する。

 

「私にも色々事情があるから。彼女たちとはまともに話すことはできない」

「……そうですか」

 

 とイベント星人が相槌を打つとフェイトは「でも……」と言って真面目な表情を少し変化させる。

 

「少し、息抜きができたから大丈夫……」

「なるほど……」

 

 イベント星人は何度か首を縦に軽く振り、再び深く頭を下げる。

 

「今回はお忙しい中、司会進行を引き受けていただきありがとうございました。今回はあなたのお陰で大会を問題なく進めることができました」

「…………」

 

 フェイトは周りの破壊の後をジト目で見ながら、ふと思い出しように尋ねる。

 

「そう言えば……『総統閣下』のマスだけど、なんで映像の最後を流さなかったの? 『だから戒めの為、罰を執行する』って言葉の後に罰が執行される予定って聞いてたけど」

「あぁ、それですか……」

 

 イベント星人は遠くを見つめながら説明する。

 

「執行を担当する〝ゲスト〟がどこかに消えてしまったので……」

 

 とイベント星人が話している途中で、白い両扉が開き始めていた。

 

 

 

 そしてまた時間は経ち。

 おせちを食べながら一通りすごろく大会の思い出話で雑談する参加者たち。そしてある時、ノッブが襖を見ながら肩眉を上げる。

 

「そう言えば、いくらなんでもちょっと銀時の奴遅くないか?」

「年明け用のお酒がないから買ってくるって言ったきり帰ってきませんね?」

 

 と沖田さんが言い、ノッブが不満そうな表情で腕を組む。

 

「祝いの敦盛ならぬ酒盛りしたいんじゃがの~……」

 

 すると、

 

「みなさん大変です!!」

 

 突然和室の扉が勢いよく開き、慌てた様子でマシュが出てくる。驚く新八、なのは、ひかる、ララとは対照的に現れたマシュに顔を向けてノッブと沖田さんは呑気な声を出す。

 

「おー、マシュではないか。わしたちと一緒に遅い年明け祝いをしに来たのか?」

「おせちまだまだありますよ~」

「おせち食べてる場合じゃありませんみなさん!! 銀時さんが!!」

「「「「「ん?」」」」」

 

 全員が不思議そうな声を出し、マシュに案内されてある場所に向かう。

 そこはすごろく大会のあった会場で、筋肉のモンスターたちによって破壊された跡が真新しい空間。

 

「あれを見て下さい!!」

 

 マシュが指を指す方向、すごろくステージの真ん中に付いて来た面々は顔を向ける。

 そこにはオレンジ色のクセのあるショートヘアの左側の髪をシュシュで結んだアホ毛が生えた――黒いパンツ一丁のほぼ全裸の女が銀時の胸倉を掴み上げて絡んでいた。

 

「おいテメェ。なんでも10連で☆5三枚も出したって話じゃねェか」

 

 かわいらしい声でドスを効かせながら謎の迫力を出す謎の女。

 

「ちょちょちょッ!? なになに!? お前だれ!?」

 

 感情があるのかないのか分からない瞳と笑っているのか笑ってないのか分からない口を持った何考えてるか分からない顔を近づけられた銀時はおっかなビックリしながら弁明するが、謎の女はお構いなし。

 

「おいふざけてんのか? 調子こいてんじゃねェぞ?」

 

 謎の女は制裁とばかりに銀時に何度も腹パンを叩きつける。

 

「ブヘッ! ブハッ! ちょッ!! ブェッ!! 俺じゃない!! ブヘェッ!! 当てたの閣下で――!!」

「ん? 当てた?」

 

 謎の女の拳の振りがより強くなる。

 

「グフェッ!! だからちがブベェッ!!」

 

 そしてマシュが焦ったようにみんなに声を掛ける。

 

「謎のマスターに銀時さんが襲われているんです!!」

「いや一体全体どういうことッ!?」

 

 いの一番に新八が声を上げ、他にもあることに気付いて声を上げる。

 

「ってッ、ちょッ、あれェ!? フェイトちゃんがいる!? 銀さんが殴られるのを離れた場所で黙って見てる!?」

 

 新八の言う通り、イベント星人の隣でフェイトは銀時が腹パンされている様子を黙って眺めている。謎のマスター相手なので手が出せないだろうか。

 色々ツッコミどころ満載なのを敢えて無視してなのはが他の大会参加者一同に呼びかける。

 

「と、とにかく銀時さんを助けましょう!!」

 

 だがノッブ、沖田さん、ネプテューヌは完全に及び腰になっている。

 

「だ、駄目じゃ!! アレには関わってはいかん!!」

「そ、そうです!! 謎のヒロインXさんも言ってました!! 『謎のマスターには関わるな』と!」

「私の本能も告げている!! 関わってはダメなやつだよアレは!!」

「なにを言ってルン!!」

 

 そこでララが強く言い放ち、ひかるも続く。

 

「そうだよッ!! 私たちはこのすごろく大会を一緒に乗り越えた仲間だよ!! 仲間のピンチを助けない理由はないよ!!」

「「「ッ!!」」」

 

 ノッブ、沖田さん、ネプテューヌがハッと何かを悟ったような表情となる。

 するとマシュが力強く言い放つ。

 

「安心してください!! 皆さんの他にも救援を呼んであります!!」

 

 マシュの言葉に呼応するかのように銀時救出の助っ人が駆けつける。

 

「Let's party!! Yaーhaー!!」 

 

 欧州筆頭伊達政宗!! 

 

「政宗さん!! まさか来てくれんですか!!」

 

 と新八が驚きと喜びが混ざった声を上げ、黒い馬に乗る政宗は六本の刀を抜刀。

 

「Helpを聞いて駆けつけてきたぜ!! 前の特別回のよしみだしな!! もちろん俺だけじゃないぜ!!」

 

 すると前回の特別回のゲストたちも援軍として続々駆けつけて来る。

 

「半端な相手ではないようですね。我が宝具を開放しましょう」

「ピカチューッ!!」

「私たちもお助けします!!」

「しょうがないわね」

「私も力を貸そう!!」

「イヤッフゥゥゥゥ!!」

「ポヨッ!!」

「助太刀するってばよ!!」

 

 青セイバー、ピカチュー、キュアマジカル&キュアミラクル、仮面ライダー1号、マリオ、カービィ、ナルトが救援に集まってくれた。

 

「みんなッ!!」

 

 まさかの前回の特別回ゲストたち大集合に嬉しそうになのはは声を上げる。だが、救援者たちはこれでは終わらない。

 新たに今回のゲストたちまでも続々と姿を現す。

 

「まッ、見捨てても目覚めが悪いしね」

「お助けするです!」

「■■■■■■――ッ!!」

「力を貸すぜ! 神を召喚!!」

「しょうがないわね……」

「直流の力を見せてやろう!」

「交流の力を見せてくれる!」

 

 コンパ、アイエフ、ヘラクレス、闇遊戯、御坂美琴、エジソン&テスラ。

 更には、

 

「また本気が出せそうだ」

「おもしれェ……」

「リヨの名を持つマスターか。申し分ない相手だ」

 

 エル大納言、ビィ(?)、神楽大王も駆けつける。

 

「みんなありがとう!!」

 

 となのはが力いっぱいお礼言い、バリアジェケット姿となってレイジングハートを構える。

 するとなのはに倣ってひかるやララもプリキュアの姿にネプテューヌはパープルハートの姿に変身し、ノッブや沖田さんは武器を構える。

 そしてマシュが手を上げて集まった全員に号令のように言い放つ。

 

「みんなの力を一つにするんです!!」

「「「「「うおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」」」」」

 

 新八を除いた大会参加者たちとゲストたちが一斉に力を開放して攻撃を放ち、そのエネルギーは一纏まりの巨大な力の本流となる。

 巨大な光は一直線に謎のマスターへと向かい直撃した――盾にされた銀時に。

 

「あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!」 

 

 銀時の悲鳴をBGMに新八は涙を流しながら両手を上げて叫ぶ。

 

「あけましておめでとォォォォォォオオオオオオオッ!!!!」

 

Happy New Year!!!!

 

 




ようやく2020年明け&50話達成特別回が終わったので、本編進めます。


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閑話:投稿の間隔が空いたので色々な説明を入れた雑談

最新話の投稿が大分(半年以上)遅れてしまい誠に申し訳ありません。
とりあえず、そろそろ最新話が投稿できる目途が立ちましたが、その前にリハビリと説明ついでに閑話を投稿することにしました。(ピクシブ版では質問コーナーも一緒に掲載します)

投稿できなかったことについての詳しい話は、大分前に活動報告でも説明したことに更に追記したことを、あとがきに載せておきます。

ちなみに今回の内容はスナック感覚的な軽いモノなので台本形式でお送りします。


銀八「教えて」

 

生徒一同「「「「「銀八せんせ~い!!」」」」」

 

 

 

銀八「は~い、っと言うワケで、作者の思い付きとついでに話が全然投稿されなかったことに関する説明のため――『教えて銀八先生』を急遽始めま~す。ちなには今回の話はPixivにある質問コーナー後のお話という形でおおくりしま~す」

 

新八「いや先生、説明がついでなんですか? 説明が本題じゃないんですか? つうかこう言う時くらいは作者が前に出て説明するべきじゃないんですか? そもそも最後の説明入ります?」

 

銀八「開幕うっせーな、イキリ質問地味眼鏡」

 

新八「いやイキリ要素どこだよ!」

 

アリサ「でも、こういう時くらいは作者を出して喋らせても、罰は当たらないんじゃない?」

 

銀八「作者は『診断の結果、精神に過度の負担の恐れがあり面会謝絶』だって言うんだからしょうがねェだろ」

 

新八「不祥事起こした政治家かよ!! いや確かにウチの作者精神病んだけども!!」

 

銀八「俺だってなー、作者の代わりに言い訳の説明とかしたくねーんだよ。でも誰かが説明しないといけないだろ? だから嫌だけどやってんの先生が。ね? 褒めて。先生偉いでしょ? こんなメンドーな仕事引き受けてるんだから。先生偉いなー」

 

新八「自分で言わないでくださいよ」

 

沖田「せんせ~。ちょっと前に作者に茶封筒もらってたのはなんだったんですか~?」

 

神楽「せんせ~。なんか今日は焼き肉臭いで~す」

 

銀八「えー、この長い期間の投稿停滞ついてですが――」

 

新八「おい誤魔化すな!! 袖の下受け取ってんじゃねェよ聖職者!!」

 

銀八「うっせーうっせー。薄給の先生にとって、あのメンドーな質問コーナーとかこういう特殊な話は結構な臨時収入になんだよ」

 

新八「あんた金もらってコーナーとか担当してたのかよ!! それでメンドーメンドーって言ってんの!?」

 

なのは「あの、さっきから思ってたんですけど、ハーメルンの読者の方たちには質問コーナーとか分からない人もいると思うので、あんまり話題にするのはどうかと……」

 

銀八「そんじゃ最低限の説明も終わったし、これにて『教えて銀八先生』を終わりにしま~す」

 

新八「っておい待てコラ!! なんにも説明されてねェぞ!! 最低限の説明すらしてないだろ!! なんかちょっとは教えろよ!! 最新話投稿停止理由はどこいった!!」

 

銀八「マジでうっせーなー、おめェは。だってほら、さっき言ったじゃん。『診断の結果、精神疾患の恐れがあり』って。それで察しろ」

 

土方「いやそれで察せるのは、やましいことを誤魔化すための逃げの姿勢だけだと思うぞ」

 

銀八「それになー、最近の世の中の情勢を見てみろ。これで小説停滞の理由が察せるだろ?」

 

新八「いや、世の中の情勢で何が察せるんですか? 不景気くらいしか察せませんよ」

 

銀八「最近もっぱらの話題はコロナコロナ鬼滅じゃねェか。こんなんじゃ小説執筆ままならねーだろ?」

 

新八「いやなんでだよ!! なんで感染したワケでもねェのにコロナで小説執筆が止まるんだよ!!」

 

銀八「ほら、一時期コロナで放映延期したアニメいっぱいあるじゃん」

 

新八「ウチは個人が趣味で書いてる小説だろうが!! どうやったらコロナで延期すんだよ!! コロナを言い訳にするな!!」

 

土方「むしろ自粛待機の影響で小説執筆の時間増えねェか?」

 

新八「あとコロナと鬼滅を並べないでください!! 小説執筆が止まる理由とも関係ねェし!!」

 

銀八「つってもよー、コロナ押し返す勢いで鬼滅売れまくりで、大統領とセットでニュース出まくりじゃねェか」

 

新八「どっから出て来た大統領ー!!」

 

神楽「つまり鬼滅の真の敵は鬼でも無惨様でもなくコロナだった!?」

 

近藤「そして決着は選挙の後、法廷で付けるのだな!!」

 

新八「んなワケねェだろォー!! 流行りの情報をごっちゃにすんじゃねェよ!!」

 

桂「せんせー。自粛待機のせいか、ストレスが溜まって最近髪のキューティクルさが失われた気がします」

 

銀八「なら坊主にしろ。おめェのウゼェ長髪がふり乱れると接触感染でウイルスを巻き散らすからな」

 

桂「せんせーッ!! たぶんもうすぐ裁判所から先生に連絡がいくと思います!! 大統領の前に我々の裁判の決着を付けましょう!!」

 

銀八「あとは精神の治療ついでに積みゲーと積みアニメ消化してんじゃね? 今はテイルズタイム入ってるはずだ」

 

新八「いや主に理由そっちじゃねェか!! 前からちょくちょくFGOとかグラブルのネタ出してきたけど、やっぱそういうことか!! ゲームとアニメに時間取られてやがるな!!」

 

桂「ソシャゲを含め、ゲームは時間泥棒だからな。かくいう俺も有名ソシャゲ、JKMBをプレイしている」

 

新八「いやなんですかそのソシャゲ。僕、聞いたことないんですけど?」

 

銀八「JKMBってなんの略だよ」

 

桂「J(攘夷志士)K(勧誘)M(メール)B(爆撃)の略です」

 

新八「それただの詐欺メール業者の仕事じゃねェか!!」

 

銀八「なに悪質なことをゲーム感覚でやってんだテメ―は!! おめーこそ裁判で裁かれろ!! もちろん刑事でな!!」

 

近藤「ちなみに俺は恋愛ゲーを絶賛プレイ中でな。もうすぐお妙さんに赤ちゃんを仕込むパートまで――」

 

*近藤、お妙の鉄拳により撃沈。

 

銀八「まー、小説書こうとしたら話が書けなくて、つい別のことして時間がなくなるってパターンもあるけどな」

 

神楽「あるある~」

 

桂「なんと深刻な理由だ」

 

新八「いや普通じゃねェか!! どこが深刻だよ!!」

 

近藤「俺だってそうだ。仕事中に、ついエロ画像やアダルトサイトを漁って時間がなくなってしまうからな」

 

土方「おい、ちょっと待て。あんたおい」

 

近藤「もちろんお妙さんのストーキングが一番の時間泥棒だが! とは言え中々ハートは盗めんがな! ガーハッハッハッハッ!!」

 

お妙「あら~、私はいますぐにウマイこと言った気になってる近藤(ゴリラ)心臓(ハート)をキャッチしたいわ~」

 

銀八「なんで近藤(コイツ)が真選組のトップいまだにやれてんだろうな。まー、3Zだと風紀委員長って設定だけど」

 

沖田「つってもパッと見、本人は風紀の欠片も持ち合わせてませんがねー」

 

土方「…………」

 

銀八「まぁつうわけで、『教えて銀八先生』はこれで終わりで~す」

 

なのは「あッ、もう終わっちゃうんだ……」

 

銀八「それで…………お前ら、なんか言う事ない?」

 

新八「いやなんですか、藪から棒に」

 

銀八「いや、一応今回の話は番外編? まぁ、そんな感じで閑話として投稿されてるワケなんだよ。んで、このまま終わると味気ないし短い。だから、もう少し尺を稼いでおきたいんだけど、なんか話ない?」

 

新八「って言われましても……なにを話したらの良いのか……。今んとこリアル情勢は良いとは言えませんし」

 

なのは「それに私たちは、この空間だと色々と設定があやふやですし」

 

銀八「しょうがねーなー。じゃあ、話題を振るけどよ…………実は……」

 

新八「はい」

 

銀八「今回で『リリカルなのは×銀魂』は終了で~す。お疲れ様でした~」

 

「「「「「お疲れ様でした~」」」」」

 

新八・アリサ

「「いやちょっと待てェェェェェェェェェ!!」」

 

銀八「そして次回から、『3年Z組 銀八先生』がスタートしま~す。みんな、ぜってぇ見てくれよな」

 

新八「おいおいおい! 話進めんな!!」

 

銀八「なんだようっせーなおい」

 

新八「いやうっせーなじゃねェよおい!! あんた今とんでもないことぶっちゃけましたよ!!」

 

なのは「終わるってどういうことですか!! 納得できません!! これから色々と解決しないといけないことが本編にいっぱいあるのに!!」

 

銀八「あ~、今のは軽い冗談だ。話のタネとして出しただけ。マジに受け取んな」

 

なのは「えッ?」

 

新八「軽い冗談? かなりとんでもない嘘ぶっこきませんでした?」

 

銀八「とにかくだ、こうやってなにかしら話のタネ作って、作者に今回の話の本編を引き延ばしてくれって言われたんだよ。つうわけで、もし3年Z組銀八先生をやるなら、どんな話になるかって体で、話を進め行こうと思ってな」

 

新八「それ、話す意味あるんすか? 実現しないこと言っても虚しくなりません?」

 

銀八「もしかしたらこの話が元で、マジで先生が主役の3年Z組銀八先生の二次創作を、作者が書くかもしれないだろ?」

 

新八「あんた主役なんだ。ちゃっかりあんたが主役って前提で話しちゃうんだ」

 

長谷川「でも良いかもしれねーな。今んとこ、銀魂でもリリカルでも出番がないキャラがまだまだいるし、3Zワールドが始まるならそいつら全員にスポット当たるワケだしな。ここで3ZワールドをPRしたら、もしかしたらこれから作者がやる気出して、3Zベースの二次創作をするかもしれねェし」

 

新八「あッ、本編でまったく出番ないのに番外編だとちょくちょく出番がある長谷川さん。なるほど、それは一理ありますね」

 

長谷川「えッ? 新八くん? なに今の紹介? ちょっと悪意感じたんだけど?」

 

桂「出番のない長谷川くんの意見ももっともだ!! 俺ももっと出番欲しいしな!!」

 

長谷川「なんでさっきから出番ないない言うの? 地味に傷つくんだけど?」

 

銀八「出番のない長谷川の意見を尊重して、俺たち3ZワールドのPRを始めるぞー」

 

長谷川「ヤバイ。俺もう、3Zワールドが嫌になってきた……」

 

銀八「まずこの小説、っというか本編はいまんとこシリアスストーリー一直線だ」

 

新八「えッ? あ、まぁ、そうですけど……」

 

銀八「フェイトちゃんは悪魔に魂売って敵の組織の仲間になって敵対するし、なのははうじうじ悩みまくって鬱病になるし」

 

なのは「えッ?」

 

新八「おいコラ! 事実と嘘を混ぜ込んで捏造するな!」

 

銀八「っで、ぶっちゃけた話、こういう話の路線って、メンドーじゃん」

 

新八「おい待て!! なにぶっちゃけてんだあんた!!」

 

銀八「ギャグが主体なら話が多少ガバガバでもギャグだから許されるけど、シリアス系の話したらあんまり雑なストーリー作れないじゃん」

 

新八「おおおい!! なに言ってんのちょっと!! ってことはなに!? ギャグ系の話は今まで手を抜くための手段!? 手抜きできるからギャグにしてたってこと!?」

 

銀八「その点、3年Z組銀八先生ならギャグ一辺倒の学園モノだから、基本シリアスにならずに話が展開できるしな。Fateみたく設定がみみっちいファンタジー設定なんて一切ない。頭カラッポで書ける学園モノは楽なんだよ」

 

新八「おィィイイイ!! その言い分はあらゆる方面に失礼だろ!! あんたPRしながら四方八方に喧嘩売りまくってんぞ!!」

 

なのは「色々言いたいことありますけど、そもそも私たち『リリカルなのは』側の存在はどうなるんですか? もしかして、このまま消えちゃうんですか!?」

 

銀八「お前たちはアレだ。銀魂高校の初等部として今後たま~に登場していくから」

 

すずか「たま~に、なんですか?」

 

新八「なんでsts設定ベースにして高校生にしないんですか!? つうか銀魂高校に初等部ないでしょ! 〝高校〟なんだから!」

 

銀八「じゃあアレだ。下校途中に見かける近所のガキ」

 

新八「それほぼモブじゃねェか!! なんで頑なになのはちゃんたちを高校生にしないんですか!!」

 

銀八「バッカおめェ。なのはたちが高校生なんて、んな誰でも考えつく安易なことしても読者は引き付けられないんだよ。なにかしら変化球入れないと、三振は取れねェの」

 

新八「変化入れ過ぎてデッドボールになってんしょうが!! なのはちゃんたちモブにしたらほぼほぼクロスしない3Zワールドじゃん!! クロスオーバーの意味あるんすか!?」

 

銀八「ほらあれ、リリカルなのはの名前を餌にファンどもが釣れて注目度アップ。そしてそのまま銀魂と3Zの注目度アップ」

 

新八「詐欺じゃんそれただの!! 炎上商法かよ!!」

 

近藤「注目度を上げると言うなら、鬼滅にあやかろう! まずは全員で呼吸を覚えて鬼を倒しにいくんだ!」

 

新八「鬼滅に戻ってくんな! つうかそれもう学園モノでもなんでもないじゃん!」

 

桂「近藤! 無関係の鬼滅にあやかるのはいかん!! あやかるべきスマブラだ!! お前にはちゃんとした繋がりがあるだろう!!」

 

近藤「それは俺をドンキーだと言いたいのか!! 失礼な!!」

 

土方「スマブラと言われて真っ先にドンキーが出た時点で、あんたの自己認識も大概だけどな」

 

沖田「ならFGOとかどうですかいィ。新選組的な繋がりで。あっちも月何億って稼いでる英雄級の稼ぎ頭ですし、強引にコラボして連中の収入減をせしめちまうんでさ~」

 

新八「沖田さんそれただの寄生虫ですから!! つうか目的がなんかすり替わってます!!」

 

沖田「まず、『しんせんぐみピックアップガチャ』を出して、出てくるキャラを俺たちにして、ファン共から金を絞り取るんでさァ。ひらがなで『しんせんぐみ』と表記すれば無問題」

 

新八「問題大ありです!! 詐欺ですそれは!!」

 

山崎「あの、沖田隊長。そもそも3Zに真選組設定はありませんよ」

 

すずか「あの、そもそもリリカルなのはどこ行ったのでしょうか?」

 

銀八「だって今が旬の鬼滅とかFGOとかとコラボした方がリリカルより人気になりやすいじゃん。俺たちは旬のコンテンツを相棒にして、その人気にあやかるのが目標なんだからよ」

 

アリサ「最終目標が最低でゲスね、寄生虫も真っ青だわ……」

 

神楽「リリカルは置いて行く。この人気競争(たたかい)に付いて行けそうにないからな」

 

なのは「ぇぇ……そんな……50話もみんなで頑張ってきたのに……」

 

新八「いやなのはちゃん!! あんなクソ教師の言う事真に受けないで!! 少なくとも僕はこれからも離れないよ!! ずっと一緒だから!!」

 

土方「フォローしてるとこ悪いが、女子小学生相手にその言い方は単純に通報レベルで気持ち悪いぞ」

 

銀八「もうアレ。なんか人気のコンテンツと強引にコラボしてその人気を俺たちの人気にしちまえばいいんだよ。金と一緒に」

 

新八「なんて最低な思想暴露してんですか!! つうか目的結局金じゃねェか!!」

 

銀八「お前コンビニとかスーパー行ってみろ。あっちこっちで鬼滅グッズやコラボ商品見かけるんだぞ。ニュースまでめちゃくちゃ鬼滅押しじゃねェか。なんだアレ? 最終回迎えた癖に! 銀魂はなんであんな風にならなかったんだよ!」

 

新八「知るか!! つうかいちいち鬼滅に戻ってくんな!! 鬼滅鬼滅しつけーんだよ!! 銀魂は終わっても鬼滅にはならなかったんだよ!!」

 

桂「ならば、まず誰をアミーボにするかだが、俺はエリザベスがベストだと――」

 

銀八「誰がスマブラに戻れつったよ」

 

沖田「なら、近藤さんのアミーボをドンキーとして売り出せば、その売上はそっくりそのまま俺たちの物に――」

 

新八「それも詐欺でしょうが!! なんであんたさっきから詐欺のことばっか考えてんですか!! 警察ですかホントに!!」

 

神楽「はいはいはい!! ここは王道のストリートファイターに私が出演するという形で!! チェンリーより人気を獲得してスマブラに出張して来るネ!!」

 

新八「それただ単にお前がストファイとスマブラに出演したいだけだろ!! つうかなに高望みしてんだ!!」

 

長谷川「あの~、ちなみに俺っていつになったら定職を獲得できると思う?」

 

新八「いや、あの、ちょっと、そういう重い話はちょっと……」

 

銀八「どいつこいつも好き勝手言いやがってよー。話を戻してだな、最終回迎えた癖にメッチャ流行ってる鬼滅の人気を、どうやって俺たちの人気にすり替えるって話しだがな――」

 

新八「おいいつからそんな話になった!! 話してる内容が完全に悪役側の思想じゃねェか!! あといい加減鬼滅から離れろ!!」

 

アリサ「そもそもだけどさ……私たち……なんの話してたんだっけ?」

 

全員

「「「「「…………なんだっけ?」」」」」

 

銀八「……まぁ、まとめるとだ。これからも小説の執筆は続けていきま~すってことだな。まー、またちょくちょく止まるだろうけど」

 

新八「最初からそう言えよ」

 




前書きで説明しましたが、リハビリを兼ねの閑話の投稿でした。
ここからは活動報告でも説明したことを少し加筆した説明になります。

 あまり大事な場面で投稿の間が空かないよう、まぁ次の話の投稿の期間が空かないようにストックを作っている最中です。
 お陰で思ったより投稿に時間がかかっている現在。そもそも中々に進みが遅いのが現状です。
 そんな中、あれ? そもそも自分の小説って見やすいのかな? って色々疑問に思ったんですよね。
 一応は小説である『3年Z組銀八先生』を参考にした文体にしていたわけですが、基本が横読みの小説であの形式は読みやすいのかなー、とか。
 時々目にする、地の文の途中を改行して空白部分を作るとか。
 見やすいネット小説はなんだろうなぁ、って調べてたら……。

 そもそも自分は見やすい小説、もしくは文章の基本があまり出来ていなかった、ということに気付きました。
 こと小説に関する漢字の開き(感じをひらがなになおす)とか、適度な句読点とか、主語と述語は近づけるとか、改行のルールやタイミングまぁ調べる色々と読みやすい基本的な技法をまとめて教えてくれるサイトがあったので結構参考になったんのはいいんですが。

 適度な句読点とか、主語と述語、改行なんかは今まで意識してなかった部分に気付けただけに、サラッと見返してみたら割と直した方が良さそうな箇所が多々ありました。
 漢字の開きなんかほぼ知らなかったので、直す箇所が結構ありそうな感じです。
 主語述語や句読点を意識すると、読みにくそうな地の文も見つかって。

 あー、これは全編推敲しないとなぁ、って思いました。

 とりあえず、小説文体も銀八先生を横読み基本のネット小説としては合わないんじゃないかと思って、普通に戻した方がよさそうだなぁ、って思っています。

 量が量ではありますが、小説の間違いや開きを指摘してくれるソフトなんかもあるので、なるべく主観に頼らずに間違いを減らしていけそうです。
とりあえず、ゆっくり直していく感じです。

っと活動報告で説明した通り、ここまで良かったのですが、さすがに量が量だけに本編投稿しつつちょくちょくやっていく感じですね。
本題は普段のまったく無計画な私生活に小説関連の作業を停滞しないように入れていくと言う事で、これについては時間配分を考えながら小説執筆や推敲に当てることにしました。
運動やアニメやゲームの時間を配分しつつって感じです。なんだかんだでそっちの方が私に合っていたようで、なるべく日にちの間隔を空けないように小説関連の作業をちょくちょくできるようにはなっていましたね。
思い付いた時に一気にやると長くできるのは良いんのですが、次にあまりやらなくなって時間が空くなんてパターンも結構ある上に、話が思い付かないとつい別のことをして時間を潰して後悔するなんてパターンもちょくちょくあるので。

とまー、とりあえずは最近はどうにか小説の作業をそれなりに習慣化させるか、ってことで色々試行錯誤している感じです。話が思い付かず別のことを長時間してしまう癖は、運動を挟んで一回頭や気持ちをスッキリさせると割と良い感じに小説執筆を進められたりします。


※とりあえず、そのうちに本編の最新話を投稿する予定です。


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ジュエルシード回収編
第五十一話:女三人寄ればかしましい


銀時「メリ~クリスマ~ス」

新八・神楽
「「メリークリスマース……」」

なのは「テンションが低いの……」

アリサ「とてもイヴとは思えないわ」

銀時「しょうがねェだろ。結局最新話の投稿が閑話のお知らせから3週間以上かかったんだからよ」

新八「なんか作者、最新話の準備ができた辺りでクリスマスに近いってことでイヴに合わせたらしいですよ」

神楽「でも本編はクリスマスネタでもなければ、季節は冬でもないけどな」

なのは・アリサ・すずか
「「「あー……」」」



銀時「そう言えば、銀魂の映画やるらしいぞ。原作ラストまでを描いた」

新八「そう言えばって、銀魂の映画がやるって朗報をんなテンション低めで言わないでくださいよ」

なのは「おめでとうございます!」

新八「他作品のなのはちゃんの方がテンション高めで祝ってくれてる……」

桂「そして映画が終わり、『GINTAMA NEXT GENERATIONS』がスタートするのだな!」

新八「どこのBORUTOだ!!」

神楽「そもそも眼鏡と天パに息子が生まれる可能性はほぼなしネ。一生を独身で追える運命ネ」

新八・銀時
「「あん?」」


それでは、どうにかこうにか投稿でできた最新話です。


 朝。

 ちゅんちゅん。小鳥の声と窓からかかる日差しでなのはは目を覚ます。

 

「ん……」

 

 目を摩りながらゆっくり目蓋を開けるなのは。

 家に帰る前は、悩み過ぎて全然眠れないと思っていたのが嘘のようにしっかり睡眠が取れていたのか、悪くない目覚め。

 

「……今日から……」

 

 なのはは窓の景色を眺めながら、自分がこれから予測のつかない大変な事件に最後まで関わろうとしている、と自覚する。

 不安だらけで、怖いとさへ思う。だが、一度心に誓った決意が揺らぐことはなく、前よりもハッキリと気持ちと意思が固まったようにすら感じる。

 ある意味、今後が自身の魔導師としての本番なのかもしれない、とすら思っていた。

 

「う~ん……!」

 

 なのはが腕を上げて体を伸ばしていると、

 

《おはようございます。マスター》

 

 自身の愛機が朝の挨拶をする。もちろん、なのはは笑顔であいさつを返す。

 

「おはよう、レイジングハート」

《今日から本番、というワケですね》

「うん」

 

 頷くなのはは布団から出て、ベットから降りる。

 フェイトのことだけではない。もうすぐ、ジュエルシードを巡る事件に決着を付ける時は、迫っているはずだと直感的に感じる。

 

「あッ……」

 

 なのははおもむろに自身の机に置いてある、『あるモノ』に目を向ける。それは、新八がたまたま忘れたであろう『魔法少女リリカルなのは』の劇場版のDVDケースだ。

 なのはがケースを眺めていると、レイジングハートから音声が流れる。

 

《マスターを散々悩ませた物ではありますが、ご友人たちとあなたを巡り合わせたきっかけを作ったモノでもあると考えますと、感慨深いですね》

「そうだね……」

 

 相槌を打つなのはは、DVDケースを手に取り、パッケージに映った自分の姿を見つめる。

 

 フェイトとなのはがお互いのデバイスをぶつけ合う姿を映したモノ――。

 

 目の前の絵を見ると、やはり少し複雑な気持ちになる。

 きっと、この映画のようにこれから純粋で強い気持ちのまま臨むことはできないかもしれない。決して決意が揺らいだワケではないが、未来に不安を感じてないと言えば、嘘になる。

 

「……わたしは……〝いま〟のフェイトちゃんと最後まで向き合えるかな……?」

 

 自問自答、とも違う変な気分だ。別の未来――いや、別の世界の自分に問いかけたような気分になる。

 答えが返ってくるワケでもない。だが、なのははつい心の内を口に出さずにはいられなかった。

 

《マスター……》

 

 点滅する愛機の言葉を聞いて、なのはが赤い宝石に目を向けると、レイジングハートは言葉を続ける。

 

《〝いま〟のあなたなら、より高く飛び、どんな壁も撃ち抜けると信じています》

「……ありがとう、レイジングハート」

 

 薄く笑みを浮かべるなのはの言葉に呼応して、デバイスが赤く光る。

 

《では不躾ではありますが、あらためて聞かせていただいてもよろしいですか? マスターのいまの気持ちを》

 

 頷くなのはは優しい笑みを浮かべて。

 

「うん。わたしは――」

 

 

 バニングス低。

 アリサは自室で、リュックに入れる荷物の整理をしていた。それを見ていたフレイアが声を出す。

 

《アリサさ~ん。本当にこのまま事件に関わるつもりですか?》

「あのバカ共にあんだけ励まされて、黙って引き下がれるワケないでしょ?」

 

 アリサはリュックに荷物を詰め込みながら喋り、更にフレイアは問う。

 

《もう迷いはないと?》

「迷いや不安はあるけど、決意はもうできた。後は、前に進むだけ」

 

 と言いながらアリサは荷物を詰め込み終わる。

 

「よしできた!!」

 

 アリサはリュックを背負い、出発しようとするのだが、

 

「ぬぉ~……!!」

 

 荷物がデカ過ぎてまったく動けない。そりゃそうだ。リュックはパンパンで、アリサの体の三倍以上はデカいのだから。

 

《いきなり前に進めてませんよ!! 最初から前途多難じゃないですか!! 出鼻くじかれてるじゃないですか!!》

 

 フレイアがツッコミをし、アリサは更に力を入れる

 

「ふ、ふん!! こ、これくらいぃ~!!」

 

 だが、リュックはピクリとも動かない。なおも諦めない主にフレイアは、いやいやいや!! と食い下がる。

 

《あなた魔法少女であって、どこぞのチャイナさんみたいな怪力少女じゃないんですから!! 声そっくりですけど!!》

「しょうがない……」

 

 体から力を抜いてアリサは諦める。

 

「こっちを持っていきましょ」

 

 すると小さいというか、普通サイズのリュックを取り出すアリサ。それを見てフレイアはまたツッコム。

 

《用意してたんなら最初からそっちにすれば良かったでしょ! 珍しくボケかましますねアリサさん!! つうか私、ツッコミポジじゃないのに今回ガンガンツッコミされられちゃってるんですけど!》

「自分で言うことじゃないでしょ……」

 

 ジト目向けながらアリサは部屋を出て行くのだった。フレイア置いて。

 

《いや私ィィィッ! 一番の忘れ物してますよォォォォォ!? 私無しであなた何しに行くんですかぁーッ!?》

「いや、飛んでこっち来なさいよ」

 

 アリサはジト目をフレイアに向け、愛機は不満声。

 

《相棒としてちゃんと携帯して欲しいんですぅ~》

 

 備え付けの羽を使っているかのは分からないフレイアが、アリサの元に飛んでいく。

 アリサは飛んできたフレイアを手に取り、薄く笑みを浮かべる

 

「よろしく、相棒。期待してるから」

《ホント、中々いいご性格に成長しましたね~、私の(マスター)は》

 

 そう嬉しそうに言った後、フレイアは軽めの口調で。

 

《では、最後の確認です。そんな逞しい我が(マスター)の決意のほどを》

「しょうがないわね」

 

 そう言いながら、アリサは満更でもない顔で告げる。

 

「あたしは――」

 

 

 

 月村邸、すずかの部屋。

 

「これでいいかな」

 

 あらかたの必需品を入れたリュックをすずかは持ち上げて重さを確認すると彼女の相棒から女性の音声が流れる。

 

《さすがすずか様。ベストなチョイスです。特にお忘れ物もありません》

「ありがとう、ホワイト」

 

 すずかは笑顔で愛機に答える。するとホワイトが質問を投げかける。

 

《ですが、よろしいのですか? これ以上の関与は、すずか様にとって決してプラスになるとは――》

「いいの」

 

 すずかはホワイトの言葉を遮って、カバンを背負う。

 

「だって、わたしは――」

 

 

 

 

「行ってらっしゃい、なのは」

 

 桃子は玄関でリュックを背負うなのはを見送る。

 

「行ってきます」

 

 桃子に迎えられ、なのはも決意の籠った瞳で告げる。

 自分にはやらなければいけないことがあり、これから少々長い期間家を空けることを、既に母には話してある。無論、魔法関係のことは秘密にした上で、できうる限りの説明を。

 

「頑張ってね」

 

 桃子は笑顔で言葉を送る。

 今は、父も兄も姉も朝の日課となっている、朝稽古で道場の方にいる。

 桃子の提案で、なのはが当分の間家を空けることの説明を母が家族に上手く説明してくれるそうだ。

 

「うん。きっと後悔が残らないように頑張って来るから!」

 

 なのはは笑顔でガッツポーズを作る。だがそれを見た桃子の笑顔は薄く曇り、不安そうな表情でなのはを抱きしめる。

 

「ッ……おかあ、さん……」

 

 なのはは自身を抱きしめる母を心配そうに見る。

 

「……ごめんね、なのは。あなたの決意に水を差すような事をして」

 

 まるで離したくないと言わんばかりに、桃子は強く娘を抱きしめ、自分の気持ちを吐露する。

 

「私はなのはのお母さんだから、なのはには怪我をして欲しくないし、無理に辛い思いだってしてほしくない。健やかに育って欲しいっていつも思ってる」

「お母さん……」

 

 母の正直な気持ちを聞いて、なのはもぎゅっと彼女の体を抱きしめる。

 

「でもきっと、これからあなたがしようとしている事は……」

 

 桃子はなのはを抱きしめるの止め、体をゆっくり離す。

 

「あなたが最後まで貫き通したいと思っていることなんでしょ?」

 

 娘の両肩に手を置いて母は笑顔を作る。

 

「だから悔いが残らないように、頑張ってきてね」

「うん!」

 

 満点の笑顔でなのはは答える。

 母を決して不安にさせない為に、なにより自分の未来が明るいモノになるように。

 

 

 

 

 海鳴市の公園。

 そこにはリュックを背負ったアリサとすずかがいた。

 

「あ、なのはちゃん!」

 

 いの一番にすずかがやって来るなのはに気づく。

 

「あッ! アリサちゃん、すずかちゃん!」

 

 なのはは二人の姿を確認して駆け寄り、声をかける。

 

「二人共早いね!」

 

 なのはの言葉を聞いて、すずかは笑みを浮かべながら「ううん」と顔を横に振る。

 

「わたしたちだって、今来たばっかりだもん」

「そうなんだ」

 

 なのはは笑顔で答え、アリサは公園を見渡しながら腕を組む。

 

「しっかし、〝あいつら〟と最初に遭った公園で待ち合わせしようだなんて、なのはも妙なこと考えるもんね」

「ニャハハハ……」

 

 なのはは頬を掻く。

 そう、この海鳴市の公園こそ、なのはたち親友三人が江戸の六人を最初に見つけた場所なのである。

 アリサは呆れ顔で語る。

 

「最初見た時は変な連中で、もしかしたら不審者かも? くらいにしか思わなかったのに、いつの間にか仲間になっちゃってるんだから、ホント妙な縁よね」

 

 言葉の最後辺りには感慨深そうにアリサはあたりを見渡し、すずかもつられるように公園を眺める。

 

「わたしも、こんな風になるなんて思ってもみなかったよ」

 

 なのはも懐かしむように公園を見る。

 

「そっか……ある意味、ここが始まりみたいなものだもんね……」

 

 最初は珍妙な集団としか思わなかった人たちと、いつの間にかお互いを助け合う仲間のような関係にまで発展した。

 本当に奇妙な出会いではあったが、今思えば自分にとってはとても良い出会いであるとなのはは実感している。この事件が終わって別れることなったとしても、彼らとの思い出が色褪せることはきっとないだろう。

 

「だからこそ、ここであたしたちの決意を発表しようってことなんでしょ?」

 

 腕を組んで肩眉を上げながら言うアリサに、なのはは笑顔で答える。

 

「うん。ここで言うからこそ意味があると思うんだ」

 

 なのははなんとなく親友二人の答えも自分と同じような気がしていた。直感だが、きっと二人の答えも自分と同じであると、信じたくなっていた。無論、そうでなくても二人を恨んだり責めたりする気持ちは微塵もない。

 

「じゃあ、順番に言う?」

 

 すずかの提案にアリサが首を横に振る。

 

「やっぱ、こういうのはせーので同時に言うの方が良いと思う。誰かが後とか先なんてのはなし」

「うん」

「わかった」

 

 なのはとすずかも、アリサの提案を笑顔で承諾する。

 アリサとすずかがなのはに顔を向ける。

 

「じゃあ、タイミングはなのはに任せるわ」

「せーのでも、3、2、1でもいいよ」

「じゃあ、せーので!」

 

 なのはは深呼吸をし、ゆっくりと息を吸い込んで口を開く。

 

「せーの――!」

 

 そして三人は一斉に自身の正直な意思と気持ちを伝える。

 

「「「これからもみんなで一緒に事件を解決したい!!」」」

 

 ピッタリ声が揃い、目を瞑って声を張り上げた三人は、目を開けながらきょとんとした顔で互いを見る。

 

「フフ……」

「ニャハハ……」

「ハハ……」

 

 そして三者三様に笑い声を零す。

 どことなく予想をしてはいたが、こうもピッタリ呼吸が合うと、ついおかしくて笑い声を零してしまう。

 

「よーし!」

 

 と、アリサが飛びつくように親友二人の肩に腕を回す。

 

「「わッ!」」

 

 なのはとすずかは驚き、ちょっとバランスを崩す。アリサは二人の顔を交互に見ながら得意顔で言い放つ。

 

「三人いれば怖いモノなしよ!! あたしたちが力を合わせてといて、残念な結末なんかにはさせないんだから!!」

「「うん!」」

 

 力強く頷くなのはとすずか。

 

 なのは確かに感じ、思った。

 この二人と皆がいれば、きっと大丈夫。どんな困難だって打ち砕ける――。

 

 すると、

 

「三人寄り合って、随分仲が良いことって。(かしま)しいってのはこういうこと言うんかねェ」

 

 聞き覚えのある声がなのはの耳に入る。

 声に反応して、三人の視線が公園の外からやって来る人物に向けられる。

 

「沖田さん!」

 

 なのはは嬉しそうにやって来た人物の名を呼ぶ。

 

「あッ、土方さんにユーノくんもいる」

 

 すずかが沖田の後方にいる二名に気づく。

 土方とその隣にユーノがおり、二人もゆっくりとなのはたちの元に寄って来る。

 

「どうやら、答えが出たみてェだな」

 

 土方は煙草を吸いながら言うと、

 

「「はい!」」

「あたしたち三人の力! これからも見せてあげる!」

 

 すずか、なのはは元気に頷き、アリサは自信に満ちた笑みを浮かべる。

 親友三人組の姿を見て、沖田は関心と呆れが混ざったような顔。

 

「ホント仲が良い連中だ……示し合わせたように通信してくることだけはあるぜ」

「「「えッ?」」」

 

 その言葉にアリサ、なのは、すずかはきょとんとした顔をし、お互いの顔を見合わせる。

 アリサが一番に口を開く。

 

「二人共、もしかしてこいつらと昨日、通信したの?」

「えッ? アリサちゃんも……なの?」

 

 となのはが驚きの声を漏らせば、

 

「えッ? 二人共、わたしと同じことしてたんだ……」

 

 すずかも同じように驚きの混ざった声を漏らしている。

 まさかアリサとすずかが昨日の夜、同じようにユーノを介して江戸組の面々に相談をしていたなど、露も知らなったなのは。

 そしてその事実に三人は、

 

「「「プッ……!」」」

 

 思わずまた吹き出してしまう。

 

「「「アハハハハッ!」」」

 

 仲良く笑い合う三人を見て、沖田は呆れたように頭をぼりぼり搔く。そして、ユーノが沖田の横に並んで優し気な声で告げる。

 

「じゃあみんな、アースラに行こう。君たちの決意をリンディ提督たちに伝えないとね」

 

 ユーノ言葉を聞いてアリサは眉間に皺を寄せる。

 

「でも大丈夫なの? リンディさん、映画と違って事件に関わらせる気なんてなさそうよ」

 

 アリサの言う通り、クリミナルなどという危険な犯罪集団が関与してしまったせいで、リンディに『一日考える暇』すら与えてはもらえなかった。

 するとユーノは笑顔で答える。

 

「そこは大丈夫。なのはたちが関わるにしろ、関わらないにしろ、どちらに転んでもいいように交渉は済ませてあるんだ」

「あッ、映画みたいな提案を言ったの?」

 

 すずかの疑問にユーノは頬を掻きながら苦笑を浮かべる。

 

「まぁ、僕と土方さんでアレンジは加えたつもりだから」

 

 

 

 

 アースラ艦内。

 

「……そうですか。なのはさんたちの決意のほどは伝わりました」

 

 リンディが噛みしめるように静かに首を縦に振ると、新八はおずおずと声を出す。

 

「……あの、あなたアースラに客招く時はいつもここを〝コレ〟にするんですか?」

 

 前に見た和風かぶれしまくった艦長室を見て、新八は遠慮がちにツッコミ入れる。

 敷かれた赤い毛氈(もうせん)に正座するなのは、すずか、アリサ、新八、山崎に腰をかける神楽、土方、沖田。

 

「私個人としては心苦しくもあり、納得できないところもあります」

 

 リンディの言葉に土方は腕を組んで片眉を上げる。

 

「でもあんたはこいつらが事件解決に協力するのを認めた。違うか?」

 

 リンディは「ええそうです」と頷く。

 

「私も、今回の事件解決のためになのはさんたち三人だけでなく、次元漂流者であるあなた方の協力も許可することにしました」

「まぁ、もちろん……僕も艦長も思うところはあるけどね」

 

 とクロノが付け足し、リンディは目を瞑り神妙な面持ちで言う。

 

「なのはさんたちはまだ十にも満たない少女……それだけに、大人としてあのような悪質な犯罪者と関わらせる事には抵抗を感じています」

 

 リンディの気持ちは、子供ながらになのはも感じ取れる。

 やはり多感な時期の幼い子供に、あのような形で人の生首を見せつけてくるような恐ろしい連中を、なのはたちに関わらせることによる悪影響を考慮しているのだろう。

 すると「だからこそ」と言ってユーノが口を開く。

 

「なのはたちはフェイトとのジュエルシード争奪だけに専念するという条件付きにしたはずです」

「そして、管理局と俺たち汚れ仕事役があのクソッタレどもを引き受ける」

 

 土方が眼光を鋭くして刀の柄に手を置き、江戸組の面々に目を向ける。

 

 そう、ユーノと土方は自分たちが管理局の利になると説明した。が、それだけはリンディの首を縦に振らせるのは難しいだろうと踏み、最後の一押しとして『フェイト以外との戦闘はなのはたちには基本させない』という条件を取り入れることにしたのだ。

 無論なのはたちはクリミナルたちの暗躍も阻止しようと提案している。だが、ユーノは少女たちの事を考えてか、そこは大人である『江戸組』と『管理局員』に任せることを前提にした方が良い、という意見を推した。

 

 少々残念ではあるが、ユーノの考えを尊重し、なのはたち三人はユーノの出した条件を受け入れたのだ。

 

「おいおい、なんで私のようなプリチーでか弱い乙女が汚れ仕事役になってんだヨ?」

 

 神楽が文句言うが、他の面々は無視。

 

「やれやれ……」

 

 リンディはため息をつく。だがその顔は言葉ほど困っているようには見えない。

 まあリンディ自身もなのは、アリサ、すずかにフェイトとの決着くらいはさせたいと思っていたのだろう。それに、やはり戦力増強はアースラ艦長として少なからず嬉しいという感情もあるのかもしれない。

 

「わかりました。フェイトさんはなのはさんたちに任せます」

 

 リンディの言葉を聞いて嬉しそうに互いの顔を見合わせるなのは、アリサ、すずか。

 「ですが!」と言葉を強調させ、リンディは強く告げる。

 

「もちろん私の指示にきちんと従ってもらいます! そこをお忘れなきように!」

 

 念を押すリンディの視線は江戸組の面々にも向いている。

 どうやらアースラ艦長も一番好き勝手しそうな連中は分かっているようだ。すると、リンディの横に並んぶ神楽。

 

「おうおう。ちゃんと艦長様の言うことは聞くんだぞオメェら?」

 

 ヤンキーの舎弟のような口調のチャイナ娘に、クロノはジト目向ける。

 

「うん。君もちゃんと言うこと聞いてくれよ? つうか君が一番言うこと聞かないよな?」

 

 次に沖田がリンディの横に来る。

 

「盾になれと言われたら盾になれよ? 土方。神風特攻しかけれろと言われたらしろよ? 土方」

「なんで俺限定なの? お前を盾にして神風特攻すんぞおい」

 

 いつもの通り沖田とメンチ切る土方。

 

「ハァ~……」

 

 ため息をつくクロノ。こいつら多分また何かやらかすな、と思っている事だろう。

 苦笑しながらリンディは立ち上がる。

 

「それでは、クルーたちに自己紹介をしてもらいましょう」

 

 そして会議室ではアースラスタッフに、江戸組のユニークでユーモア溢れるツッコミどころ満載の社会常識が欠如したようなあいさつが行われた。

 

 まず神楽が明日にでも実現できそうな抱負を語ったり、近藤が日々愛する女性を影から見守っているというストーキング行為を暴露したり、沖田が土方抹殺宣言をして土方が沖田滅殺宣言したりなど……まぁ、色々であった。

 江戸の面々を知っているなのは、すずか、ユーノは終始苦笑し、アリサは呆れたため息を吐くばかり。

 そしてクロノは、凄く心労が募っていそうだった。

 

 

 

 

 それから少し時間は進み、アースラ食堂。

 テーブルを挟んで、なのは、アリサ、すずか、ユーノ。少年少女たちは、気だるげな眼差しを向けながら頬づえを付く銀時と対面していた。

 

「新八たちの次はお前らか……」

 

 銀時がなぜ若干めんどくさそうな態度なのかといえば、

 

「ホントお前ら、あの天然で不愛想な金髪の何が気になるんだ?」

 

 新八たちにフェイトのことについて散々訊かれたからであろう。そしてなのはたちもまた、これから〝銀時が知っているフェイト〟について、訊こうとしているところなのだ。

 

「たく、何回俺に同じ話させれば気が済むんだよおめェら……」

 

 露骨にウンザリという態度を取る銀時に「す、すみません……」と申し訳なさそうになのは、すずか、ユーノは頭を下げる他なかった。

 

「つうか、フェイトはともかくぱっつぁんや神楽から俺の話なんて散々聞いてるだろ?」

 

 と銀時は訝し気に眉をひそめた後、ハッと何かを察した表情になる。

 

「……もしかして、あいつら俺についてはまったく話してなかったとか?」

「いえ、一応銀時さんの話は聞いてます」

 

 ユーノはそこまで言って「ただ……」と言い辛そうに視線を逸らし、代わりにアリサが言う。

 

「あんたの人間性は、基本的にダメ人間のちゃらんぽらんってことは、十分聞かされたわ」

「あ、そー……」

 

 否定も肯定もせずに返事をする銀時の態度を見て、あ、否定しないんだ……と四人は思った。

 アリサは「でもま……」と言ってニヤリと笑みを浮かべる。

 

「あんたが他人のために、体を張る人間だってことも知ってるわ。アルフのために結構頑張ったそうじゃない」

「あいつら……結局そんな風に言ったのかよ……」

 

 銀時は呆れたようにため息を吐くいた後、ふとあることに気づく。

 

「つうかよー、フェイトのこと聞きたいなら俺じゃなくて、アルフに聞けばいいだろ? 今のあいつなら、ちゃんと話はできると思うぜ」

 

 銀時の言葉を聞いて、すずかは困ったといった顔で言い辛そうに話す。

 

「まだ……アルフさんとはその……ちょっとコミュニケーションが取りづらくて……」

「あ~、なるほど。だけどよ、一応俺もちょっと前まで敵対関係みたいな感じだったけど? 気まずくねェの?」

 

 と言って銀時が自分の顔を指さすと、ユーノが説明する。

 

「銀時さんは距離感を無視すると言うか、図々しい方なので、話すならあなたが良いと僕たちは思ったんです」

「なァ、ユーノくん。それ褒めてんの? なんか言い方キツくない? 今までのチ〇コ発言そんなに気に障った?」

 

 銀時の言葉を受けて、ユーノは無表情で露骨にサッと顔を逸らす。すると、横のなのはが微笑みを浮かべながら告げる。

 

「フェイトちゃんのことが聞きたいのも理由の一つですけど、直接銀時さんとお話したいのも正直な気持ちなんです」

 

 更にすずかとアリサも続く。

 

「私もです」

「まー、私もそれなりにあんたに興味あるし」

 

 そしてなのははニコリと笑顔で告げる。

 

「それに、これからは一緒にジュエルシード集めをする仲間ですから。一度、ちゃんとお話しをしたいんです」

 

 屈託のない笑みを見せるなのは。そんな少女の言葉を聞いて、銀時はめんどくさそうにため息をつく。

 

「……わァ~ったよ」

 

 それから銀時は、自分から見たフェイトの人柄を話したり、なのはたちの質問に答えたり、他愛もない話をしていくのだった。

 

 こうして、魔法少女たちは新たな決意と新たな仲間とともに、ジュエルシード集め、そしてフェイトとの決着に臨むことになったのである――。

 

 

 そして時間はなのはたちがジュエルシードの怪鳥を倒した後、部屋で雑談している現在にまで戻る。

 

(あれからもう半月かぁ……)

 

 なのはは天井を見上げる。

 

 あれだけ悩んでいたのが嘘のように、今はフェイトのことにも、ジュエルシードにも、面と向き合おうという気持ちが前に向いている。

 アルフとも徐々にコミュニケーションも取れ始めているのも良い傾向だ。

 このままできれば、クリミナル逮捕にも尽力したくはあるが、さすがに管理局側も江戸の大人組も、そう簡単には許可してくれそうにない。そこら辺はユーノでさへ、現状も否定的な面を見せている。

 銀時は「別によくね?」なんて軽い口調で、自分たちがクリミナルたちと戦うことを否定しようとはしなかったが、その発言で土方やらクロノやらリンディに睨まれもしていた。

 

 長期的に家を空ける事に関して、なのははともかく、アリサとすずかについてはリンディ自らがわざわざ二人の家まで出向き、嘘と事実を織り交ぜたウマイ誤魔化しで納得させた。

 ちなみに設定として忘れそうになるお嬢様であるアリサとすずかなのだが、さすがに過去の誘拐もあっただけに、二人を長期的に手の届かない場所に送るのは、両親や家族はあまり乗り気ではなかった。が、人格はともかく、ボディーガードとして申し分ないほどの戦闘力を持っている江戸組の面々が付き添う事、そしてなによりアリサとすずかの進言もあって、了承してくれたのである。

 

 雑談の途中で、なのはが過去の出来事をうっすら思い起こしていると、

 

「まぁ、なのはと同じように落ち込んでいたのはあたしたちも同じか……」

 

 アリサは腕を組んで、なのは同様に天井を見上げる。するとすずかが同意を示すように頷く。

 

「うん。やっぱり、フェイトちゃんの事は、本当に衝撃的だったしね」

 

 とアリサは言うが、親友二人がフェイトのことで気後れしたり、戸惑う様子は見られない。最後まで向き合おうと言う、意思の表れすら感じられる

 

「まぁ、一番ショックを受けていた使い魔のアルフが、あんな風に立ち直っちゃー、ねー」

 

 苦笑しながら言うアリサに、なのはは頷く。

 

「うん。アルフさん、復活したと思ったら、突然銀時さんの使い魔になるって言うんだもん。私も最初はホントにビックリしちゃった」

 

 食堂で銀時の鼻にパフェ食わそうとしたり、神楽並みの大食い発揮したり、今でもそのなんとも言えない前向きな姿は記憶に新しい。そんでもって、今は自分たちと同じ事件を解決するための仲間になっている。

 そしてそれらの光景は、銀時が体を張った努力ゆえの結果かもしれない、と新八からこっそり教えられている。まぁ、そこら辺は銀時の人柄を知っている人間としての予想らしい。

 なにせ一方の、銀時に近しい人間である神楽なんか、「駄メンズに惹かれて尻尾ケツ振るバカな女もいるしな」なんて辛辣なコメントを残していたが。

 

「あんなやる気が抜け落ちたような顔してるけど、やる時はやるって感じなのかしら?」

 

 アリサは顎に手を当てて小首を傾げながら、少なからず銀時に興味を示している様子。

 すると、コンコンと部屋の扉がノックされる。

 

「どうぞ~」

 

 すずかがふんわりと愛想よく返事をすれば、扉が横にスライド。ノックの主が、ユーノであることを確認する。

 

「三人共。リンディ提督が紹介したい人がいるから、食堂に来て欲しいそうだよ」

 

 そうユーノが言った後、三人は顔を交互に見合わせる。

 

「それって、誰なの?」

 

 なのはの質問に、ユーノは首を傾げる。

 

「いや、僕も詳しい事は聞いてないんだ。でも、会えばかなり驚くことになるって」

 

 ユーノの言葉を聞いて、アリサはうんざりしたように頭に片手を当てる。

 

「なんか、ジュエルシードや新八たちに関わってから、驚かされる回数が異様に増えているのは、気のせいかしら……? どっちが原因か分からないけど……」

 

 疲れ気味の親友の言葉に、なのはとすずかは苦笑する。

 

「ま、まぁでも、会って話せば君たちは喜ぶだろうって」

 

 ユーノというか、リンディ艦長の含みのある前置きに、ますます三人はワケがわからないと言う顔を見合わせる。

 

 

 

「リンディ提督。なのはたちを連れて来ました」

 

 ユーノが先頭で前を歩き、アースラの食堂へとなのはたちを連れてくる。

 

「ユーノくん、ご苦労さま」

 

 リンディはニコやかな笑みで、やって来たユーノと彼の後ろに付いて歩くなのはたちを迎え入れる。

 そしてなのはは、リンディの膝の上に何かが乗っているのに気づく。よくよく見るとそれは、

 

「にゃ~」

 

 薄茶色の毛色をし、毛並みがふさふさの猫だった。

 

「あッ! 猫さんだ!」

 

 猫好きのすずかはすぐさま反応。自身の屋敷にも猫を大量に飼っている彼女は、すぐさまリンディが膝に乗せている猫に駆け寄り、頭を撫でる。

 

「あらあら」

 

 猫を愛でるすずかをリンディは微笑ましそうに見る。

 

「それでリンディさん。私たちに合わせたい人って? その猫?」

 

 小首を傾げるアリサの問いに、リンディはすぐに笑顔で答える。

 

「ではまずは、〝彼ら〟に自己紹介をしてもらいましょう」

 

 そう言って、リンディが掌を上向きにして横に出して、なのはたちの視線を誘導。

 そしてタイミングを合わせたかのように、ある人物が歩いてくる。

 

 現れた人物を見て、なのはは驚きの表情を浮かべる。

 

「あ、あなたは!!」

 

 

 

 

「――んで? 俺たちに会わせたい奴って、誰よ?」

 

 銀時は怪訝そうな表情で廊下を歩きながら、先頭を歩くクロノに問いかける。

 銀時の他には、江戸組とアルフがクロノの後を付いている。

 

「行けば分かる……」

 

 そう言うクロノの声は、どことなく呆れや疲れを帯びている。

 歩きながら新八は銀時に耳打ちする。

 

「(やっぱり、リンディさんが仕掛け人ですかね?)」

「(だろうな。ユーモア皆無の頭でっかちな執務官殿なら、前置きとかなしにすぐ話すだろうしな)」

 

 と、割と失礼なこと言いながら銀時も耳打ちで言葉を返す。なんだかんだで、クロノとリンディの性格をちゃっかり掴んでいる銀時と新八。

 

 やがて食堂の前まで到着。クロノがドアの前まで歩けば、ドアが横にスライド。

 

「艦長。銀時たちを連れて来ました」

 

 クロノが声を出しながら扉をくぐり、彼に続いてぞろぞろと中に入る侍&天人(あまんと)&使い魔。

 彼らの目に映ったのは、

 

「はい。それじゃもう一度いくぞ」

 

 赤いシャツの上に、青いオーバーオールを着て、Kのイニシャルがついた赤い帽子を被り、髭を生やした攘夷志士――桂小太郎。彼の手にはウォー〇マン。

 そして桂は、体を右に左に揺らしながらリズムに乗って、

 

「やるなら今しかねーZURA、やるなら今しかねーZURA」

 

 などと口ずさみながら、隣の白いペンギンみたいな生物――エリザベスと踊る。

 

「攘夷がJOY、JOYが攘夷」

 

 「はいそこで復唱!」と桂が言うと、エリザベスがプラカードで、

 

『攘夷がJOY』

「違う! もういい加減しゃべれや!! 文字じゃなくて!!」

 

 憤慨する桂はキレながら捲し立てる。

 

「俺ホントはとっくに知ってるんだからな! お前がペラペラペラペラ喋れるの知ってんだかんな俺! 今までずっとツッコまず飲み込んできたんだかんな俺!!」

 

 それを見た江戸組一同は、絶句して立ち尽くす。白い眼をDJ配管工と白いペンギンに向けている。

 

「よし、もっかいいくぞ! はいせーの! 攘夷が――」

「じょォォォォォォォいッ!!」

 

 銀時のキックが桂の顔面に炸裂し、「ブベェッ!!」と声を上げる攘夷ラップバカであった。




※アンケート

Pixivやハーメルンなどでもらった質問(最近はハーメルンでの質問などはなし)などを、Pixiv版では本編の後にコーナーとして掲載しています
ちなみにメッセージで受け取った感想を掲載するコーナーもあります

それで考えたのですが、ハーメルンの方にも質問コーナーを掲載しようかと考えています
たぶんハーメルンの方には質問コーナーを知らない人もいると考えて、どうしようか考えたからです
ここまでくるとハーメルン版とpixiv版と違いは感想の返信コーナーくらいになりますが

ただハーメルン版となりますと、本編に繋げて1話内に入れると無駄に長くなってしまいますので、別個で最新話として投稿
もしくは、質問コーナー用の新規の小説を作って投稿などを考えています

それでアンケートの内容なのですが、ハーメルン版にも質問コーナーを掲載する方が良いかどうかいう感じです

―――――――――――――――――――――――――――

1:ハーメルン版にも質問コーナー投稿、もしくは掲載する

2:ハーメルン版には質問コーナーは投稿、掲載はしない

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とりあえず、気軽にお答えしてもらえるとありがたいです。意見や質問なども大丈夫です


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第五十二話:長髪の攘夷志士

銀時「あけまして――」

新八・神楽・なのは
「「「おめでとうございまーす!」」」

新八「いやー、また話進まないままついに新年迎えちゃいま――」

ノッブ「ゴートゥースライディング敦盛ゲスト出演んんッ!!」

新八「うわァーッ!? いきなりなんか滑って来たァーッ!?」

ノッブ「ソーシャルディスタンスを意識しての~~~――!!」

なのは「あッ、滑りながらそのまま行っちゃった……」

銀時「なんだなんだ?」

沖田さん「沖田さんのソーシャル縮地フライングゲスト出演んんん!!」

新八「うわッ、またなんか出たッ!?」

沖田さん「今年の沖田さん(の中の人)プリキュアをよろしくコファッ!!」

なのは「あッ! 血を吐き出しながら転んだッ!」

新八「わー、高速で動きながら高速で血を吐いて高速で血まみれに……」

銀時「つうかもうすぐプリキュア世代交代だろ」

沖田さん「こ、コフ……! だ、だれか……たすけて……!」

銀時「くんなくんなッ! ゾンビみてェな格好で!!」

神楽「ソーシャルディスタンス!!」

なのは「あッ、今度はネプテューヌちゃんが……」

ネプテューヌ「ね~ね~~~! 特別回ないの~~~~?」

銀時・新八・神楽
「「「(作者にそんな余裕は)ねーよ」」」


「よし、もっかいいくぞ! はいせーの! 攘夷が――」

「じょォォォォォォォいッ!!」

 

 銀時のキックが桂の顔面に炸裂し、「ブベェッ!!」と声を上げる攘夷バカ。

 ウォー〇マンが地面に転がる。

 

「あッ……」

 

 と桂。

 

「あッ、じゃねェよ」

 

 銀時は捲し立てる。

 

「なにやってんだオメェは? つうか、オメェは何してんのここで? なんでカツオでカツラップスタイルなんだよ。もう古いんだよ。ワケわかんねェよ。とりあず死んでくんない?」

「原作でやった古いネタをそのまま使うのも、如何なものかと考えてな」

 

 桂は立ち上がって腕を組むと、「そう!」と言ってカッと目を見開く。

 

「これぞ俺の新たなるニュースタイル――DJKATUOだYO!」

 

 ウォーク○ンを持って、ラッパースタイルのポーズをキメる桂。

 

「うん、どっちのネタも古いから」

 

 銀時は青筋浮かべながらバッサリ切り捨てる。

 

「配管工なんかもう36周年だからね? だからとりあず死んでくんない? つうか手に持ってるウォークマ○が地味に腹立つんだよ」

 

 ちくいちウザい長髪を銀時は殺したくて仕方なさそうだ。

 

「あ、あの……リンディさん……」

 

 すると新八が、笑顔で桂のラップを聞いていたであろうリンディに、さり気なく話かける。

 新八は動揺しながらもおずおずと質問する。

 

「な、なんであの……」

「桂さんのことですか?」

 

 あっけらかんとした顔でリンディは聞き返す。

 

「ええ、まァ……」

 

 新八は気のない返事で頷く。正直、神出鬼没の桂ではあるが、まさかこのアースラにまで出現してくると思わなかった。ツッコミとかする前に、若干頭が混乱中の新八。

 新八の様子に構わず、リンディは笑顔で言う。

 

「面白い方ですね。桂さんからは、銀時さんとは心の友と聞きましたよ」

「違います。心から殺したい相手です」

 

 と銀時。

 

「とりあえず、彼の話とその……まー、なんだ……」

 

 と歯切れが悪いクロノは、疲れ顔で尋ねる。

 

「……性格から察するに、君たちの世界の住人なのだろ? ……一応」

「違います。とりあえず土管にでも送り返してください」

 

 と銀時は速攻で否定する。

 

「そんなこと言わないで引き取ってくれないか? 正直、僕はもうこれ以上、彼の話を半分も聞きたくないんだ」

 

 ウンザリと言った顔のクロノを見た新八は「あーこれ絶対、尋問した時に桂さんと話すの嫌になったな」と思った。

 クロノが食堂に来る前、疲れたような感じがする理由がようやくわかった新八。桂との会話が相当辛かったのだろう。真面目な彼なら尚更。

 

「あら、桂さんのラップとお話は結構魅力的ではありませんか?」

 

 などと、リンディは掌を合わせつつ笑顔で言う。

 

「オメーの母ちゃん正気なの?」

 

 と銀時が訊くと、

 

「そうであって欲しいと願ってる……」

 

 クロノは更にやつれた顔になる。

 すると、誰かがぽんぽんと銀時の肩を叩く。銀時が振り向くと、叩いた主は桂。その手には、イニシャルがGの緑色の帽子が握られていた。

 

「銀時。コレを被り、俺と共に幕府をラップで倒幕しようでは――」

「よしわかった。オメェはマグマに落ちてマンマミーヤしてろ」

 

 銀時は速攻で攘夷バカの言葉を切り捨てる。

 すると、

 

「はぁ~……やっと終わった……」

 

 机に頬を付けて、疲れ顔のアリサが腕を伸ばしている。

 山崎が心配して声をかける。

 

「あ、アリサちゃん。大丈夫?」

「大丈夫じゃないわよ……」

 

 アリサは机に突っ伏しながら愚痴を零す。

 

「あの長髪マリオのラップ練習、あんたらが来るまで何十回聞かされたと思ってんのよ……」

「ご、ご愁傷様……」

 

 山崎はアリサの肩に手を置いて、頑張りを労う。新八は、つうかよくキレなかったな、と思った。

 

「攘夷がJOY――」

 

 アリサの横で声がしたので見れば、なのはも金髪の親友同様に机に突っ伏している。そんでぶつぶつと呪詛のように、

 

「攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY攘夷がJOY……」

「なのはちゃんんんんんんんんッ!?」

 

 山崎は慌て、絶叫。まさかの洗脳されかけているリリカルなのはの主人公。

「おいィィィ!? 大丈夫かァー!」

 

 それを見た銀時も慌てて駆け寄る。狂乱のバカの被害者に、さすがの銀時も同情を禁じえなかったらしく、なのはを介抱する。

 

「あッ! もしかしてこの流れだとすずかちゃんも!」

 

 と山崎は、なのはの横にいるであろうすずかを心配して見てみるが、

 

「あ、山崎さん。こんにちは」

 

 全然元気そうだった。笑顔で挨拶までする始末。つうか今、山崎の存在に気付いた節がある。

 すると、突っ伏しているアリサが顔を右に回す。

 

「あの子、結構天然だから、相性いいみたい」

「そ、そうなんだ……」

 

 山崎は頬を引き攣らせる。

 あの狂乱のバカ相手にして、平常心保てる人間がリリカル側に二人もいるという事実。リリカルなのはスゲェ、と山崎は思ったそうな。

 

「っと、とりあえず教えてください! なんで桂さんがアースラに!?」

 

 話しを戻し、新八は今ある疑問をリンディに追及する。

 この世界に桂が居るのは知ってはいた(第三十三話参照)。が、アースラで配管工の恰好しながらラップ披露している事には、まるで見当がつかない。

 

「それは――」

「まさかこんな所で会えるとはな」

 

 リンディの言葉を遮って出てくるのは、真選組鬼の副長――土方十四郎。

 

「ここで会ったが百年目だ。覚悟してもらおうか?」

 

 土方は鋭い眼光を桂に向ける。

 「攘夷がJOY」と連呼するなのはを介抱していた銀時は反応し、土方に顔を向ける。

 

「よし。そのバカとっと逮捕――」

「俺、根っからの弁天堂派なんですよ。握手いいっすか?」

 

 土方は敬語でカツオに握手求める。

 

「鬼のバカ長ォォォォォォォッ!!」

 

 銀時シャウト。

 土方は構わず感激の言葉を述べる。

 

「いや~、まさかリリカルなのはでまたあなたに遭えるなんて、思いませんでした。マジリスペクトしてます」

「バカじゃねェの!!」

 

 銀時がバッサリ言う。

 

「お前ホントバカじゃねェの!! ツッコミキャラ止めたら!!」

 

 銀時の怒声に構わず、土方が色紙を取り出す。

 

「とりあえずサインいいですか? あと今度こそ写真を」

「うん、一回病院行こう! そんで頭からマヨネーズとニコチンを摘出してもらおう!」

 

 銀時のツッコミをしり目に、カツオから『K』と言うイニシャルのサインを貰い、一緒にツーショットまで取る土方。

 

「待ってくだせェ土方さん」

 

 すると今度は沖田が前に出る。その視線は鋭い。

 

「あんたいい加減にしてくだせェ」

 

 ああそうだ、と銀時は頷く。

 

「とにかく、その(バカ)とおめェんとこのバカ上司をなんとか――」

「あっちのソニックさんにサイン頼まねェとは、どう言う了見でさァ」

 

 沖田が指さす方には、『カツオ。すぐにスマブラに戻るぞ』と書かれたプラカードを持った、全身青く染めて後ろに青い針を生やしたエリザベスがいた。

 

「いや、そんな足のクソ遅そうなソニックいるわけねェだろ!!」

 

 と銀時はツッコム。

 土方と沖田はメンチ切りだす。

 

「セガ派は黙ってくんない? スマブラ初期から兄弟出演しているマリオさんはなァ、格が違うんだよ」

「なに言ってんでィ。初期のスマブラなんざアレ、身内のお祭りみたいもんでしょうが。他社から出演してきたソニックの実力を舐めるんじゃねェ」

「待て待て」

 

 と近藤が止めに入る。

 

「喧嘩をしてはいかん。ここはゾニー派である俺の顔に免じて――」

「「スマブラ出る見込みのない打ち切りクラッシュは黙ってくんない?」」

「打ち切られてません!!」

 

 部下二人の容赦ない言葉に近藤は食ってかかる。

 

「おめェら知らないだろうけど、クラッシュはリメイクもされてるし、新作の予定もあるんだぞ!! スマブラは出てないけど!! でもきっと出てくれるって信じてるから!! こっちにはラチェットとクランクだっているんだぞ!!」

 

 などとゲーム戦争始める真選組トリオ。

 それを横目で見ていたアルフはため息をつく。

 

「しっかし、あんたとこの世界の連中はホントに自由だね。色んな意味で」

「うん。まーね」

 

 銀時は気のない返事を返すのだった。

 

 

「――っと言うことで、今アースラで保護している次元漂流者の、桂さんです」

 

 リンディは笑顔で言う。

 

「あの、すみません」

 

 すると桂が両手を上げる。

 なぜ、桂が片手ではなく両手を上げたか? と問えば、その手には手錠がされているから。理由は? そりゃあもちろん、あのままカツオで誤魔化せるワケねェから。つうかさっきリンディさんが桂さんと言ったし。

 

「はい、なんでしょう桂さん」

 

 リンディが答えを促すが、たぶん手錠のことで文句言うのだろう、と新八は思った。

 

「昼飯はかけ蕎麦でよいだろうか?」

「いや、そっち?」

 

 今のツッコミは新八ではなく銀時。

 

「すみません」

 

 リンディは申し訳なさそうに言う。

 

「今、そばを切らしていまして」

「そばあんの!?」

 

 今のツッコミは新八。まぁ、日本かぶれのしまくったリンディの趣味で、アースラのメニューには和風テイストの物が多いし、あってもおかしくはない。

 

「そうか……」

 

 桂は残念そうに肩を落とした後、言う。

 

「では、とりあえず手錠を外してもらえぬか?」

「わかりました」

 

 そう言ってリンディが手錠を外そうとする。

 

「いや止めてくんない! 折角捕まえたテロリスト自由にするとかあんた警察!?」

 

 と土方がツッコミ入れつつ止める。

 

「いや、管理局なんだが……」

 

 とやんわり言うクロノ。

 土方に言われてリンディは渋々、桂の手錠を外すのを止める。

 桂は「やれやれ」と(かぶり)を振る。

 

「こんな〝異世界〟でもお役所仕事とは、なんとも頭の固い連中だ」

「頭がプリンみてェにゆるゆるの奴に言われたら、おしまいだな」

 

 と銀時が皮肉言う。

 

「――って、桂さん!? あなた、ここが異世界だってやっと理解したんですか!」

 

 桂の発言に反応する新八。対し、桂は頷く。

 

「あぁ。リンディ殿たちのお陰で、俺のいる今の世界が未来でないことははっきりした」

 

 するとクロノが腕を組んで説明する。

 

「彼を見つけて、事情聴取のついでに異次元世界について説明したんだが……」

 

 クロノはそう言って、明後日の方向に顔を向ける。

 

「いくら言っても理解しないし、どうでもいい話が二転三転し出した時は、正直魔法をぶっ放そうと思ったよ……」

 

 ハハ、と乾いた笑いをするクロノに、新八は合掌。

 

「まぁ、魔法などを見せて異世界の証拠を見せたら桂さんも〝ちゃんと〟理解してくれましたから」

 

 苦笑しながら言うリンディの言葉に、桂は頷く。

 

「あぁ。つまりここは――ドラクエの世界なのだな?」

「いや、ちげェよ」

 

 と銀時は冷めた声でツッコム。

 

「つうか、マヒャドもベギラマもスライムもいねェよ」

「なんだと! 魔法と言えばドラクエではないのか!?」

 

 と驚愕する桂は食ってかかる。

 

「ならばFFか!? それならばオーディン殿にご挨拶を――!」

「ちげェよバカヅラ! お前の魔法の基準はなんでもスク〇ニかよ! 分かるけどな!」

「分かっちゃうんだ……」

 

 と新八は呆れた声を出す。

 

「そうか……」

 

 桂は銀時のツッコミを受けて天井を見つめる。

 

「まさかゼルダの世界に飛ばされていようとは……」

「ちげェェェェェよッ!!」

 

 シャウトする銀時は捲し立てる。

 

「なんでゼルダ!? スク〇ニの次は弁天堂か! ハイラルもトライフォースもマスターソードもねェんだよ!! いい加減に理解しろ!! 脳みそ異次元野郎!!」

 

 すると銀時が青筋浮かべながらリンディに顔を向ける。

 

「このアホテロリストとっと牢屋にぶち込んでくれません!? 艦長殿!!」

「いやその……」

 

 リンディは困り顔。すると、「その通りだ」と土方も便乗する。

 

「俺も桂の野郎は牢屋にぶち込んでおくべきだと進言する」

 

 さすがは鬼の副長土方十四郎。手錠だけでは物足りないようである。

 青筋浮かべる土方は、バンッ! と机を拳で叩く。

 

「マリオを侮辱した桂は牢屋にぶち込んでおくべきだッ!!」

「なにその理由ッ!?」

 

 と新八はツッコミ、山崎が食ってかかる。

 

「副長!! そんな私情じゃなくてちゃんと『警察の職務』として桂を逮捕してください!!」

「テロよりもマリオを二度も侮辱した罪の方が重い!!」

「えええええええええええええッ!?」

 

 まさかの真選組副長の発言に、山崎は度肝抜かれる。が、右手を振って否定し出す。

 

「いやいやいやいや!! さすがにマリオのコスプレして騙したくらいでそんな怒らんでも――!!」

 

 途端、土方が山崎の胸倉を掴み上げる。

 

「35年もの間、弁天堂を支え続け、SNWまで打ち立てたマリオの何を知っているって言うんだテメェは! あん!? マリオとして俺を騙った桂は万死に値する!!」

 

 血走った目で捲し立てる土方に山崎は涙目になる。

 クロノが「一つ言っておくが」と言って言葉を挟む。

 

「桂小太郎の為に、アースラが軟禁室を用意することはできないぞ」

「はッ?」

 

 土方は鋭い目線をクロノに向け、問う。

 

「なんでだ? (コイツ)、現役バリバリのTR(テロリスト)だぞ」

「現役バリバリのJKみたいに言わないでください」

 

 と新八。

 クロノは首を横に振って理由を説明する。

 

「悪いがそれはできない相談だ。なにせ、こちらでの彼は次元漂流者という扱いだからな」

「はッ? おめェらなに? 次元漂流者なら殺人鬼も捕まえない規則なの?」

 

 と銀時が食ってかかると、リンディは苦笑を浮かべる。

 

「さすがにそれはケースバイケースにもよりますが。桂さんとあなた方の話を聞いて判断すると、どうやら桂さんは革命運動家のようですね」

 

 続いてクロノが説明を補足する。

 

「僕ら管理局としては、桂の扱いは政治運動を起こす人間であり、拘束の対象ではないというワケだ。……残念だが」

「今、最後に『残念』て言ったよね? クロノくんどんだけ桂さん嫌なの?」

 

 と新八はさり気にツッコミ、リンディは説明を続ける。

 

「正直、彼は管理外世界の人間ですので、干渉できない我々が勝手に拘束したり軟禁するは現状無理ですから」

「彼が僕らの目の前で犯罪の一つでも起こせば話は別だがな。残念だが」

 

 とクロノは補足する。

 

「クロノくん絶対桂さん嫌いだよね? 絶対牢屋にぶち込んでやりたいとか思ってるよね?」

 

 クロノと桂が事情聴取の時にどんな会話を繰り広げたのか、結構気になる新八。

 そしてリンディは笑顔で人差し指を立てる。

 

「あと、もし我々の目の前で勝手に桂さんを監禁などをした場合、こちらとしては口を出さなければいけないので、お忘れなきよう。一応、法を守る組織の人間ですので」

 

 アースラ提督であるリンディの言葉をまとめると『桂の過去や現在の立場はともかく、目の前で犯罪紛いな事したら法の番人が黙ってないぞ?』と言うことになるらしい。

 

「チッ……」

 

 桂を閉じ込める事ができなくて残念なのか、土方は舌打ちする。

 まぁ、拘束して監禁は法を守る人間以外が行えば、立派な犯罪行為。なので、それが目の前で行われて知らんぷりできないのは、同じ法を守る人間である土方も理解したのだろう。

 

「フハハハハハハッ!!」

 

 すると桂が高笑い。

 

「真選組よ!! どうやら貴様らの権力はこの世界ではなんの役にも立たんらしいな!!」

「ッ……!」

 

 ここぞとばかりに調子乗る桂に、土方は歯噛みする。

 桂はドヤ顔でどんどん調子ぶっこきだす。

 

「フハハハハハハハハハハッ!! ここでの貴様等は警察でも公僕でもない!! ただのプーだ!! ホームレスだ!! 地に落ちなたものだな真選組よッ!!」

「このやろォ……!!」

 

 土方は拳を血が出るくらい握り絞め、目を血走らせ、歯を強く噛み締める。

 

「さ~この手錠を外し、俺を自由にするがいい!!」

 

 と桂は、自身の手を拘束する手錠を見せつける。

 

「それで蕎麦の一つでも食わせていただこう!! 俺は権力を持たぬプー太郎に手錠をされて〝苦しんだ〟のだしな!!」

「だからソバはないと言ってるだろう……」

 

 とクロノ。

 

「すんませ~ん! あつあつのおでん一つくださ~い!」

 

 銀時がおでんを一つ注文すると、ぐつぐつ煮えたぎったおでんが入った鍋が、桂の前に置かれる。

 

「おい銀時、俺が欲しいのはおでんではなく蕎麦だぞ」

 

 不満顔の桂だが、すぐに表情を戻す。

 

「まァいい。俺はおでんも結構好きだからな。とりあえず、食えないので手錠を外してもらえぬか?」

「安心しな。それなら俺が食わせてやるよ」

 

 沖田が箸を持って桂の横に座り、桂は満足げな笑みを浮かべる。

 

「ほほォ、殊勝な心掛けだな? だが別に構わん。自分で食べあつゥッ!!」

 

 沖田が桂の右頬にあつあつの卵を押し付ける。

 

「ほ~れ、食いなァ~」

 

 黒い笑みの沖田は、更におでんの具の一つ、あつあつのがんもどきを箸で掴んで、桂に無理やり食わそうとする。

 

「ちょッ!? あっつゥ!? 熱いからッ!! 自分で食べるからッ!! ちょッ!?」

 

 もちろん桂は悲鳴を上げる。無理やり口に超高温のおでんねじ込もうとする沖田に、桂は必死に抗議するのだが、まったく聞き入れてもらえない。

 すると今度は桂の左の頬に、あつあつのはんぺんが押し付けられる。

 

「あっづゥゥゥッ!!」

「はいは~い。はんぺんも食いなさ~い」

 

 今度は銀時が桂をおでんで拷問。

 桂は更に悲鳴上げながら講義する。

 

「ちょッ!? 銀時ィ!? 俺のほっぺ口じゃないからッ!? せめて口に入れてッ!? いや、両方からいれないでッ!! ちょッ!? 止めてッ!! せめてふーふーして!!」

 

 桂は必死こいて顔を逸らし、ダブルあつあつおでんから逃げようとするが、なおも桂の顔にあつあつのおでんの具が次から次へと襲いかかる。

 

「ちょっ!! やめッ!! やめてッ!! ちょやめてッ!! やめェェェェェェェェェッ!!」

 

 さすがに桂も我慢の限界だったらしく天に向かって叫ぶ。

 

「リンディ殿!! クロノくん!! この人たち止めて!! あなたたち警察でしょ!?」

 

 桂は管理局員に助けを求めるが、

 

「管理局です」

 

 と笑顔のリンディ。

 するとドSコンビが振り向いて、

 

「別にいいっすよねェ?」

「俺らダチョ〇倶楽部ごっこしてるだけなんで?」

 

 沖田と銀時に、クロノはグッと親指で出してOKする。

 

「いやダメでしょッ!!」

 

 と桂は食ってかかる。

 

「これちょっとした拷問だから!! 顔やけどするから!! 誰かこの人たち止めてェッ!!」

 

 だが、江戸側どころかアースラ側からも誰も止める者がいないあたり、桂のアレ具合が伺える。

 

 ドSコンビが桂をおでん責めしている時だった。くいくいと銀時の服の裾を誰かが引っ張る。

 真顔でドS行為していた銀時は、おもむろに自分の服をちょんちょんと引っ張ていた人物に顔を向ける。

 

「ん?」

 

 振り返れば、自分の目線より下の方から声が聞こえてくる。

 

「あのォ~……私の友人をあまりいじめんといてもらいますか?」

 

 関西独特のイントネーションが聞こえ、視線を下に向ける銀時。話しかけていたのは、車椅子に乗った困り顔の少女。

 銀時は眉間に皺を寄せる。

 

「だれ?」

 

 銀時にはまったく見覚えのない、茶髪を短く切りそろえたボブカットの容姿。

 少女の車椅子の手押しハンドルを握っているのは、エリザベス。

 

「あッ! ごあいさつが遅れました!」

 

 少女はそう言って懇切丁寧にお辞儀をする。

 

「八神はやてと申します。桂さんを居候させている家の者です。以後お見知りおきを」

 

 すると銀時も思わず頭を下げて丁寧に挨拶を返す。

 

「あ、これはこれはどうもご丁寧に。ジャンプに居候させてもらってる坂田銀時です」

「いや、お前紛いなりにもジャンプの看板やってたマンガの主人公だろ? その言い方はどうなんだよ?」

 

 と土方がツッコム。

 すると、銀時がはやてと言う少女の発言で気になる部分に気づく。

 

「つうか……〝ヅラを居候させてる〟?」

「ヅラじゃない桂だ」

 

 とヅラ。

 

「だから桂だって」

 

 するとリンディが近寄り、はやての肩に手を置く。

 

「彼女――八神はやてさんは、桂小太郎さんとエリザベスさんを居候させている家の家主の一人なんです。なので、事情聴取の協力者としてアースラに来てもらいました」

 

 ニコりと言うリンディの言葉を聞いて、銀時は目をぱちくりさせる。

 

「こんなガキが家主? 父ちゃんとか母ちゃんは?」

「ああ……その……まぁ……」

 

 はやては視線を逸らし、ちょっと困り気味の顔。しかもその顔は、どことなく悲しそうな感じが伺える。

 銀時は頬を掻きながら、「ちょっとまじィこと、聞いちまったな……」と呟く。

 などとちょっとしたセンチメンタルな雰囲気の中、

 

「あなた、はやてちゃんて言うの? 私、高町なのは。なのはだよ」

 

 そう言って笑顔ではやてに握手を求める少女。彼女なりに暗い雰囲気を払拭しようとした気遣いなのだろう。

 対し、はやては笑顔で、

 

「八神はやて言います。よろしゅうな、なのはちゃん」

 

 二人の様子を見たアリサとすずかも顔を見合わせ、なのはに続く。

 

「あたしはアリサ・バニングス。よろしく」

「私は月村すずかって言います。もしかして……」

 

 ふと、すずかが思い出しように言う。

 

「図書館で良く本を読んでる子かな?」

「あッ! そやそや!」

 

 はやてもパンと両手を叩いて言う。

 

「すずかちゃんどっかで見たことあると思っとったけど、図書館によく来る子やったんやな!」

 

 どうやら、すずかとはなんだかんだで面識があるらしい。しかも、同年代の子たちと知り合えて嬉しそうなはやて。

 

「お前は……」

 

 すると、土方がはやての元に歩み寄る。それに気づいたはやては土方を指差す。

 

「あッ! ちょっと目つきの怖いイケメンの人!」

「そ、そうか……あの時のガキか」

 

 土方の反応を見て銀時が、

 

「な~にちょっと嬉しそうにしてんだよ? 幼女に〝イケメン〟言われて嬉しいのか? このロリマヨ」

「そうでさァ。ニヤニヤして気持ち悪いですぜ、目つきが犯罪者のロリ方さん」

 

 と沖田も便乗。

 

「黙れ性格最悪ドS共!」

 

 土方は青筋浮かべ、山崎が土方に質問する。

 

「副長、この子と知り合いなんですか?」

「まーな。少し、世話になった」

 

 すると、銀時と沖田がひそひそ話し出す。

 

「うわー、やだねー。鬼の副長ともあろうものが、あんな小さい幼女に『お世話』してもらったらしいぜ」

「マジでロリ方に成り下がったみたいですね。すぐにペド野郎として逮捕して、俺が副長になる他ありやせんぜ」

「お前らホントいっぺん殺すぞ?」

 

 土方は青筋浮かべながらギロリと天敵二人を睨む。

 すると続けて、

 

「はやてちゃん!! 俺は近藤勲だッ!! 一応こいつ等のボスを担っている!!」

 

 近藤がはやてに近づきつつ、真選組の面々に目を向けながらデカい声で挨拶。

 

「うわッ!? ゴリラさんが喋った!?」

 

 とはやては驚く。

 

「ゴリラじゃないから!! ゴリラっぽいかもしれないけど、俺人間だから!!」

 

 と涙目のゴリラ。すると神楽がはやてに耳打ちする。

 

「違うアル。あれは純度百パーセントのゴリラ・ゴリラ・ゴリラネ」

「違うから!! 俺は純度百パーセントのホモ・サピエンス・サピエンスだから!!」

 

 必死に近藤は弁明。

 そんなこんなで魔法少女組と江戸組で、はやてを囲んでわいのわいのと盛り上がる。

 

 

 

「…………」

 

 だが、その中に入れない者が一人。

 そう、実はジュエルシード事件以降のリリカルを知っている新八だけは、ツッコミすら忘れて絶句していた。

 

 ――なんで、はやてちゃんが出てくんのォォォォォォォッ!?

 

 新八は内心シャウト。そりゃ、驚くのも無理はない。なにせ、はやての登場は俗に言えば、続編の二期(A.s編)からなのだから。

 そして、はやての家に居候しているという桂に、新八は目を向ける。

 

 ――あのバカか!? あのバカのせいではやてちゃんがアースラいるんか!?

 

 視線に気づいたのか、桂は親指をグッと立てる。新八はちょっとイラ。

 

 ――なんだその親指は!? なにに対してのグットサインなんだそれは!!

 

 まさかおバカ攘夷志士のせいで、すげェ歴史改変が起こるとは思わなかった新八。だが、すぐに考えを切り替えて脱力する。

 

 ――まァ、別に問題ないか……。仲良くなって損になるワケじゃないし……。

 

 微笑ましそう、と言うか騒がしくわいわい話すはやてたち。それを見て、新八は笑みを零す。

 

 ――いや、待てよ?

 

 その時、新八はある考えに至る。

 

 ――寧ろこれって、良い事なんじゃ……?

 

 もしかしたら今回の出会いがきっかけで、後の歴史が良い方向に進むもしれないと思い始めた。

 

 ――そ、そうだよ! ヴォルケンリッターさんたちが出てくる前に、はやてちゃんと仲良くなれるのは寧ろ良いことじゃないか!! これで闇の書事件の解決が良い方向に――。

 

 と新八が内心興奮し始めた時、

 

「――なー、はやて」

 

 赤髪をお下げにした、なのはたちくらいの背の子が突如登場し、はやてに話しかける。

 

「あ、ヴィータ」

 

 ヴィータと呼ばれた少女を見て、はやては笑顔になる。

 

「ここのアイスギガウマだぜ。はやても一緒に食べねェか?」

 

 などと大量のアイスを入れた深皿を抱えるヴィータは、パクリとボール状のアイスを口に頬張る。

 すると今度は、長い髪を後ろに結えて一纏めにした、ピンク髪の女性が出てくる。

 

「ヴィータ。行儀が悪いぞ」

「あ、シグナム」

 

 シグナムと呼ばれた長身の女性は、はやてに名を呼ばれると恭しく一礼。

 すると、

 

「お前、乳デケェな」

 

 ムニュ。神楽がシグナムの胸を両手で鷲掴み、

 

「とりあえずソレ全部私にくれ。全部私に移植しろ」

 

 むにゅむにゅと揉む。

 

「…………」

 

 数瞬、シグナムは自分が何をされているのか分からないのか、きょとんと目を瞬かせる。が、すぐに顔を真っ赤に染め、

 

「なにをするんだ貴様はぁぁぁぁッ!!」

 

 すぐさまは神楽の手を振り払う。対して、神楽はまだ胸を揉むような手を作ってジト目向ける。

 

「お前ホント乳デケェな。ツッキー以上ネ。だから胸寄越せ。全部寄越せ」

 

 なんだこの赤髪は!? と赤面するシグナムは、自分の胸を腕で隠す。

 

「同じ赤髪であるヴィータ並みに性質が悪い!!」

「シグナムてっめッ!! それどういう意味だろコラァッ!!」

 

 とヴィータは青筋立てながらシグナムを睨む。

 すると今度は、シグナムの横にいた、金髪を短く切りそろえた女性が柔和な笑みを浮かべつつ窘める。

 

「まぁまぁヴィータちゃん。そんなに目くじら立てないの」

「うるせェなシャマルッ!! オメェはあたしのお母さんか!!」

 

 ヴィータは怒りが収まらないようで、シャマルと呼んだ金髪の女性に当たり散らす。

 続けて今度は、白髪にアルフのような犬耳を頭から生やした筋骨隆々の男が、呆れた顔で言う。

 

「やれやれ……。アイスに現を抜かす鉄槌の騎士と、胸を触られたくらいで動揺する烈火の将。なんとも情けない……」

「「ふんッ!」」

 

 ヴィータとシグナムは、犬耳生やした男の腹に鉄拳を見舞う。「ぐはッ!?」と名前もまだ知らないムキムキマッチョはダウン。白目剥き、口から涎を垂らす。

 一連の流れを見ていたはやては苦笑。

 

「ありゃりゃ……。ザフィーラ、女性の胸には夢が詰まっとるのになぁ、軽視するのはよくないで」

「主はやてッ!?」

 

 シグナムは顔を真っ赤にしながら声を上げる。

 

「あのォ……はやてちゃん。その人たちは、君の家族なの?」

 

 山崎がおずおずと尋ねると、はやては顎に指を当てて思案顔。

 

「ん~……」

 

 やれではやては、笑顔で答える。

 

「それで合ってると思います」

「いや、我々は主はやての従者――」

 

 そこでシグナムがキリッと表情を戻して首を横に振り、訂正する。

 

「――『ヴォルケンリッター』だ」

 

 シグナムの自己紹介に、各々顔を見合わせるなど、よくわからないといった表情を見せる江戸組と魔法少女組の面々。

 一方、新八はこの世の終わりのような顔で絶句し、

 

 ――続編が始まりやがったあああああああああああああああああああああッ!!

 

 内心絶叫するのだった。

 

 

 

『おまけ』

 

 なんでクロノがあんなに桂を毛嫌いしているの? と疑問に思う読者もいるだろう。

 なので、二人の確執の原因となる話をちょっとずつ振り返っていく。

 

『執務官クロノ~桂尋問編~』

 

「では、早速話を訊こうか」

 

 とクロノは椅子に座り、机の上に手を置いて対面する桂に向き合う。

 すると、桂が手を上げる。

 

「ちょっとお尋ねしたいのだが?」

「ん? なんだ?」

 

 クロノは首を傾げ、桂は尋ねる。

 

「なぜ、〝子供〟が警察の真似事などをやってるのだ?」

 

 ブチッ! クロノの頬に血管が浮き出る。が、さすがに今ので怒ったりするほど執務官は短気ではない。

 

「ま、まぁ……僕の見た目を見てそう疑問に思うのも無理はない。だが、僕はこう見えて十四なんだ。だから――」

「なにィィィィィッ!?」

 

 急に桂が驚きの声を上げ、クロノはギョッとした。

 桂は同情の眼差しをクロノに向ける。

 

(よわい)十四でその背の高さだと!? なんと嘆かわしい!! かわいそうに……」

 

 言葉の最後にほろりとワザとらしく涙を見せる桂に、クロノはイラッ! だが、執務官は怒らない。

 

「い、いや……別にそこまで気にしては――」

「ならば蕎麦を食え!! 蕎麦を食えば立派な背の高いおのこになれるぞ!! そんな〝ちんちんくりん〟な背など気にする必要などない!!」

 

 さらにイラッ!! だが執務官は我慢する。

 

「そ、そそソバを食っても背は高くならないと思うぞ? ふ、普通は牛乳だ。そ、それに僕は背の高さなど気にしては――」

「ならばキャプテン翼を読破するのだ!! そうすれば八頭身になれるぞ!!」

 

 と、桂はどっから出したのか、キャプつばの単行本出して熱く語る。

 

「これでお主もはれて、そのヨーダのような身長から脱却することができよう!!」

 

 さらにさらにイラッッ!! でも執務官は絶対に怒ら――

 

「いい加減にしろぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 さすがに怒った。クロノはバンっ!! と机を叩く。

 

「もう僕の背のことはいい!! こっちが訊きたいのは背を高くすることではなくお前のことだぁぁぁッ!!」

 

 バンッ! バンッ! バンッ! とクロノは机を両手で叩きまくった後、乱暴に椅子に座り直す。すると、桂は無言で椅子に座り直し、さっきまで饒舌だった姿とは打って変わって静かになる。

 やっと真面目に答える気になったか、とクロノは内心思った。

 

「……では」

 

 と言って、桂は手を上げる。

 

「一つよろしいか?」

「あぁ……」

 

 クロノは眉間に皺を寄せて不機嫌な声を出してしまうが、目の前の長髪のせいなのだから気にしない。

 桂は口を開く。

 

「取り調べで『カツどぅん』は出ないのか?」

 

 ブチッ! とクロノの何かが切れた。

 

「出るかああああああああああああああああああああああああああッ!!」

 

 この時のクロノは後に、こう語る。

 『カツ丼』を『カツどぅん』と言う長髪は、かなりウザかったと。

 

 執務官と狂乱のバカの事情聴取は続く。




ノッブ「それで、マジで特別回ないのか? 今年は」

なのは「あッ、普通に喋りかけてきた」

新八「ソーシャルディスタンススライディングどこいったんですか?」

銀時「つうかだからねーよ。とっととFGOに帰れ」

沖田さん「折角、今度は沖田さんの中の人が『主役』のプリキュアと共演できると思ったんですけどね~」

新八「あんたどんだけそれアピールしたいんですか」

ネプテューヌ「なのはちゃんあけおめ~」

なのは「あ、あけましておめでとうございます……」

神楽「つうか今から特別回なんてやったら、本編二話だけしか進んでないのにまた特別回やるハメになるネ」

ノッブ・沖田さん・ネプテューヌ
「「「たしかに」」」

新八「情けなさ過ぎる!」



『アンケート』

『ハーメルンにもピクシブと同じ質問コーナーを掲載する方がいいのか?』のアンケートは、次話の投稿を早めにしたので引き続き続行します
次回辺りで、ピクシブとハーメルンの集計をまとめて結果を報告します

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1:ハーメルン版にも質問コーナー投稿、もしくは掲載する

2:ハーメルン版には質問コーナーは投稿、掲載はしない

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アンケートは受付続行中です


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第五十三話:物事はいつも予想外

今更ながら、特殊ルビで文字をでっかく出来ることに気付いたので、ちょっと入れてみました。


 時間は遡り、管理局がなのはやフェイトの前に現れる三日前。

 

「うわぁ~……海が綺麗やなぁ……」

 

 八神はやては、夕日が反射する海を見て目を輝かせ、感嘆の声を漏らす。少女の後ろの砂浜には、彼女の乗る車椅子の車輪の跡が残っていた。

 はやては嬉しそうに海を眺め、呟く。

 

「こんな近くまで、海に来たのは初めてや……」

「そうなのか? はやて殿は、兄上に海に連れて行ってもらえんのか?」

 

 付き添いの桂小太郎は首を傾げ、はやては彼の問いに頬を掻く。

 

「ま~なぁ……。兄やんは危ないから、海に行っちゃだめーって言うさかい」

「なるほど。まァ、足を動かせん幼子が海の近くで遊ぶのは危険と考えるのも、妥当だな」

 

 桂は、はやての兄の考えもわかると思ったようで、うんうんと頷く。

 

「でも、ありがとうなぁ桂さん」

 

 と、はやては笑顔で桂に礼を言う。

 

「こんな近くで海を見れるのは、とっても嬉しい」

「なに、礼には及ばんさ。居候の身。家主の願いの一つでも叶えてやらねば、武士としての名折れだ」

「桂さん、ホントにお侍みたいな人やなー」

 

 と、はやてはニコニコ顔。

 

「みたいではない、侍だ。ま、未来人のはやて殿に説明しても信じてもらえぬか」

「またまた~、桂さんはほんまにおもろい冗談つくなぁ~」

 

 はやてはおかしそうにくすくす笑みを零す。

 ちなみにこの時の桂は『今いる世界が未来の世界』だと思い込んでおり、その説明を居候相手の家主であるはやてに説明したはいいが、この通りはやてはまったく信じてない。

 とまぁ、こんな会話を二人は今の今まで何回も繰り返してきたワケである。

 すると、パンパンと白い手がはやての肩を叩く。

 

「ん?」

 

 最近、はやての車椅子を押すのがもっぱらの仕事のエリザベスが、はやてに掌を出す。その上には、何かが乗っていた。

 

「うわぁ、綺麗な貝殻や」

 

 形の整った虹色に輝く貝殻。それ見て、はやては瞳を輝かせる。

 そしてエリザベスは、白いペンギンのような手をグイッと、はやての前に差し出す。

 

「私にくれるん?」

 

 エリザベスはグイッと体を折り曲げて頷く。

 はやてはぱぁっと顔を輝かせて、

 

「ほんまありがとうな! エリザベスくん!」

 

 エリザベスの手から貝殻を受け取り、両手で包むように握りしめる。

 普段通りエリザベスの表情に変化はない、と言うか変化せんのだが、その顔はどことなく嬉しそうだった。

 

「ふッ……幼き子供の無邪気な笑顔ほど、尊きモノはないな」

 

 腕を組む桂は笑顔のはやてを見てから、少女が持っている〝本〟にチラリと目を向ける。

 

「しかし……はやて殿はいついかなる時も、その本を持ち歩いているのか?」

「あー、これな……」

 

 はやてがそう言って、膝に置いた本を両手で持つ。

 はやての持つ本は、表紙から全体にかけて十字に鎖が巻き付き、本としての機能をまったく果たしていない。表紙には十字架のような装飾が施されている。

 

「……大事な物なのか?」

 

 問う桂。

 まるで染みついた癖のように『読めない本』をはやては持ち歩いている。それこそ、外出する時はいつも。

 そんな光景を、会った時から何度も見た桂から出た疑問に対し、はやては不思議そうに小首を傾げる。

 

「な~んか……手元に置いておかないと、落ち着かなくてなぁ。なんでやろ?」

 

 はやて自身も自分が鎖に巻かれた本を持つ理由が分かっていないところがある。

 

「ふむ……」

 

 はやての本を、桂は顎に手を当てつつ観察。

 桂の視線に気づいたはやては、おもむろに本を差し出す。

 

「見ます?」

「むッ……では、少々拝見させてもらう」

 

 はやてから本を受け取り、桂は少しの間じっくり見た後、本を開こうとするが、鎖が邪魔して開くことはかなわない。

 

「ん、この……!」

 

 しかし、桂が力を入れても鎖はビクともしない。

 

「アハハ、無理ですよ」

 

 とはやては苦笑しつつ話す。

 

「私だって何度試しても無理でしたもん。どこ探しても鍵穴もあらへんから、鎖を解くこともできません。工具使ってもダメでしたし」

「えいッ……この……!!」

 

 はやての説明を聞かずに、桂はなんとか本を開けようと奮起する。たが、鎖が軋むだけで、なんの変化もしない。

 

「あの……桂さん?」

 

 はやてはなんか桂の様子がおかしいことに気づく。

 

「ふんッ! このッ! おのれッ!」

 

 桂の顔がどんどん必死な形相になっていく。

 

「あ、あのぉ~……」

 

 はやてはさすがに本を取り返した方が良いと思い、手を出す。

 

「んんんんんんんッ!!」

 

 桂は目を充血させ、歯を食いしばり、全身の血管を浮き出たせ、全身のありとあらゆる力を使い、凄まじい形相で本を開かせようとする。

 

「あの桂さん!?」

 

 いくらなんでも止めた方が良いと思ったはやては声を上げる。

 

ぬおおおおおおおおおおおおおおおッ!!

 

 バンバンバンバンッ!! と近くの岩に本を何度も高速で叩きつける桂。だが、鎖も本もビクともしない。

 

「桂さんんんんんッ!?」

 

 さすがのはやても桂の執念深い行動に焦る。

 

「おのれ本風情がッ!!」

 

 桂は青筋浮かべて怒鳴る。

 

「武士を愚弄するとどういう目に遭うか思い知らせてくれるわッ!!」

 

 桂は眼光を光らせ、エリザベスに顔を向ける。

 

「エリザベースッ!!」

『ラジャーッ!!』

 

 エリザベスがプラカードで返事をすると、口から何か出す。

 

「ドリルーッ!?」

 

 はやてはエリザベスの口から出たドリルを見てギョッとする。

 

ゆくぞォォォォォッ!!

 

 桂は本を盾のように突き出し、ドリルを回転させるエリザベスに突撃。無論、ドリルで鎖ごと本を破壊するつもりだ。

 

やめてぇぇぇぇぇぇぇッ!!

 

 さすがに本を破壊されてはかなわんと思ったはやては、声を上げて止めようとする。

 その時――。

 ザバーン!! と海から間欠泉のように水柱が立つ。

 全員の動きが止まり、視線が目の前の水柱に注がれる。上にあがった水が地面に落ちると、でっけークリオネみてぇな生き物が海に立っていた。っと言うか浮かんでいた。

 でっけークリオネの大きさ、約十メートル。

 

「『「…………」』」

 

 突如現れたバケモノにポカーンとするはやて、桂、エリザベス。

 

「うわぁーッ!? お化けクリオネェーッ!!」

 

 ようやく状況を理解したはやては開口一番に叫び声を上げる。

 

「か、桂さんッ!! え、エリザベスくんッ!! 早く逃げるんやッ!!」

 

 はやての言葉を受けて、素早く行動したのはエリザベス。

 車椅子の手押しハンドルを握った白いペンギンのおばけ。その鈍重そうな見た目に似合わない超早いダッシュで、はやての車椅子を後ろから押してクリオネから離れる。

 

「ちょッ、ちょっと待って!!」

 

 だが、逃走の途中ではやては待ったをかけ、後ろに顔を向ける。

 

「か、桂さんが!!」

 

 声を受け、エリザベスが足を止めて振り返れば、

 

「………………」

 

 微動だにもせず、突っ立っている桂。彼はバケモノクリオネを見つめていた。

 まさか恐怖で固まって逃げられないのか? と即座に思ったはやては、大声で呼びかける。

 

「か、桂さぁーん!! 早く逃げてぇぇぇぇぇッ!!」

『そうです! 逃げましょう!』

 

 エリザベスもプラカードで逃げるよう促す。桂の目に入らないので、特に意味のない行動だが。

 

「待つのだ二人共ッ!!」

 

 ビシッと声を上げる桂。

 

「『ッ!?』」

 

 桂の言葉に二人は驚く。(エリザベスは文字だけ)

 

「で、でも!!」

 

 なおも食い下がるはやてに振り返る桂は、諭すように余裕の笑みを浮かべる。

 

「いいか、はやて殿。いくら常識外れのバカみたいにデカい生き物であろうと、そのように無暗に怖がったり怯えたりしては、かわいそうではないか」

 

 桂は小さな子供に言い聞かせるかのように語る。

 

『桂さん……』

 

 人間ではない(?)エリザベスは、桂の言葉に感涙を受けているようだ。

 桂は慈愛に満ちた微笑を浮かべつつ、語る。

 

「母なる海より来た生き物。ただ人間を襲うような恐ろしいバケモノであるはずがない。こちらから歩み寄る。その姿勢こそ、多くの人種や生物と分かり合うきっかけに繋がるはずだ」

「な、なんてええ人や……!」

 

 はやても桂の言葉に感動し、口元を手で覆う。

 

「それに見ろはやて殿」

 

 クリオネのバケモノを桂は見上げつつ、表情を和らげる。

 

「少々ナリはデカいが、このような愛らしい姿をしているモノが、やたらめったら人を襲うように見えるか?」

 

 そこではやてはある事に気づく。本を数多く読んで知識を溜めた少女は、知っている。

 

「いや、クリオネは――」

「この姿、まるで天使のようではないか」

 

 はやての言葉を最後まで聞かず、桂がクリオネに触れようとした瞬間――パカっとクリオネの顔面がチャックのように縦に割れ、割れ目から牙が生えてくる。

 

「えッ?」

 

 呆けた声を出す桂の上半身をガブリッ! と縦に開いた口が噛みつく。

 

ぎゃああああああああああああああああああああッ!!

 

 と桂が悲鳴を上げる。

 

「天使が悪魔になったぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 とはやても叫ぶ。

 彼女は知っていたのだ。実はクリオネが外面がいいだけの悪魔であることに。(実際のクリオネはこんな変態はしない)

 

『桂さァーん!!』

 

 エリザベスもプラカードで叫ぶ。

 バケモノクリオネは桂が噛み切れないのか、頭を左右上下にぶんぶん振って餌の下半身を振り回す。

 

ぬ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!

 

 苦しみのあまり、溢れんばかりに悲鳴を上げる桂。砂浜に飛び散る鮮血。

 

「か、桂さんんんんんんんッ!!

 

 はやては叫び声を上げ、エリザベスに顔を向ける。

 

「え、エリザベスくん!! なんとかならないんか!? あのままじゃ桂さんが死んでまう!!」

 

 いや、もう手遅れじゃね? と言うツッコミあるだろうが、桂は丈夫なので大丈夫。たぶん。

 エリザベスはプラカードを見せる。

 

『タイムマシンを探しましょう』

「いや、現実逃避しないで!! 現在(いま)をなんとかするんや!!」

 

 関西弁少女はツッコミ入れる。

 

 そんな時だった。

 縦に開く口から桂をだらーんと垂らすバケモノクリオネの顔が、はやてを捉える。まるで、ない目で車椅子に座った少女を見つめるように。

 ゆっくりと頭を下げ、頭部をはやてとエリザベスに向ける怪物。

 次の瞬間――バッ! とクリオネの頭部が弾ける。いな、それは弾けたのではない。まるで花弁が開くかの如く、頭部が何本もの触手に変形したのだ。

 

「えッ?」

 

 はやてが気づいた時にはもう遅い。

 クリオネは、はやてとエリザベスに向かって触手をいくつも伸ばした。

 発射と言っても過言ではない勢いで放たれた触手が、二人に向かう。

 

 ――もうダメッ!!

 

 そうはやてが思った瞬間には、触手は車椅子の少女と白いペンギンのいる地点に到達し、砂塵を巻き上げる。

 

「はやて殿ォォォォォッ!! エリザベスゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 と、頭に血を流した桂が、クリオネの口を無理やりこじ開けて声を上げる。なんか結構大丈夫そうである。

 触手が引いていき、クリオネの頭部は元の形に戻る。

 そして爆炎のように巻き上がった砂塵が晴れていくと、妙な光景が広がっていた。

 

「?」

 

 首の部分を傾げるクリオネ。

 なにせ、自分が触手を当てた場所には、少女もあの白いペンギンも居はしないのだから――。

 

 

 

「…………」

 

 はやては来るであろう衝撃に思わず目を瞑っていたのだが、

 

「…………?」

 

 一向にそれがやって来ないので、ゆっくりと目を開ける。

 

「なッ……!?」

 

 そして自分に起こった状況を見て思わず声を漏らす。

 今、自分は上空にいるのだ。それも、三角形の白い魔法陣のようなモノに乗って浮いている。遥か下には、クリオネのようなバケモノと食べられている桂。

 

『これはッ!?』

 

 エリザベスも自身に起きた状況に驚きを隠せないようだ。

 

「い、いったい……!?」

 

 不安そうに周りを確認し、ふいにエリザベスの顔を見た時、

 

『はやてちゃん! あれを見ろ!』

 

 エリザベスが指(?)を差す方を見れば、自分の視線より高い位置に、鎖が十字に巻き付いた本が浮かんでいたのだ。

 

 それは、普段から自分が当たり前のように持ち歩いている――いつ手に入れたかも分からない本。だが、さきほどからクリオネに食われている〝桂の手にあった物〟が、どうして空中に浮かんでいるのか? 

 

 ワケのわからないまま、混乱するはやて。

 ふと、エリザベスはある事に気づく。

 

『む…………?』

 

 ドクン、ドクン、ドクン、ドクン――。

 まるで心臓の鼓動。鳴動を始める本。その姿は、不気味な雰囲気さへ漂わせる。

 突如、本に巻き付いていた鎖にヒビが入ったかと思えば、バリンッ! と砕け散ってしまう。

 

「ッ…………!?」

 

 それを見てはやては驚く。

 なにせ、何をやっても壊せないと思っていたものが、なんの前触れもなく勝手に壊れたのだ。驚くのも無理はない。

 本が今まで見せなかった中身を見せる。

 真っ白――。

 どんどん捲れる本のページは全て真っ白の白紙。

 すると、

 

(マスター)の危険を感知――封印を解除します》

 

 本から発せられた女性のような声。

 そして、ゆっくりと本ははやてに近づく。だが、エリザベスがはやてを守ろうと、素早く動いて彼女の前に出ていくが、

 

『ッ!?』

 

 なんと、本はいつの間にかはやての眼前へと移動していた。無論、エリザベスは驚く。

 無機質に浮遊し、自分のところにやって来る本に――はやては怯え、唇を震わせる。

 はやての眼前に近づいた本は、また音声を発する。

 

《――起動》

 

 

 

 

おのれ貴様ァァァァァッ!!

 

 桂は喉が張り裂けんばかりに吼える――バケモノクリオネの口の中で。

 

「はやて殿とエリザベスを粉みじんにするとは!!」

 

 *なってません。

 

「あのような幼き少女に牙を向くなど許せん!! 貴様のような輩はこの桂小太郎がせいばあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!

 

 成敗する前に、桂はまた噛みつかれ、体を上下左右にぶんぶん振り回される。

 

 

 

 

「ッ……!?」

 

 『起動』という言葉と共に、はやてとエリザベスの四方を囲むように、四つの陣が出現――そこから、四人の人影が姿を現す。

 出現した四人は、囲む二人に向けて恭しく膝を折り、目を瞑ったまま頭を下げている。

 簡素な黒一色の服を身に纏ってこそいるが、その雰囲気はまさに王に仕える中世の騎士さながら。

 

「――闇の書の起動、確認しました」

 

 まず口を開くのは、桃色の髪を後ろで一括りにした女性。

 

『闇の書ッ!?』

 

 とエリザベスはプラカードで驚きを表現する。

 

「我ら、闇の書の収集を行い、主を守る守護騎士にございます」

 

 続いて説明するのは、髪を短く切りそろえた金髪の女性。

 

『主ッ!?』

 

 とプラカードで言って、エリザベスは自分を指さす。

 

『まさか俺か!』

「まじか!?」

 

 はやては素直にエリザベスの予想を信じる。

 今度は、白髪に犬のような青い耳を生やした筋骨隆々の男が、言葉を発する。

 

「夜天の主に集いし騎士」

 

 そして最後に、赤毛の髪を二本の三つ編みお下げにした一番背の低い――はやてくらいの少女が、告げる。

 

「――ヴォルケンリッター」

 

 四人の重々しい自己紹介が終わると、

 

『なるほど。よくわかった』

 

 エリザベスがプラカードで言い、腕を組んでうんうんと頷く。

 

『つまり、お前たちは俺の部下と言うワケだな?』

「すごいなぁ、エリザベスくん」

 

 と感心する天然関西弁少女。

 はやての言葉が耳に入ったであろう赤毛の少女が、目を瞑ったまま訝し気に片眉を上げる。

 

【なー、なんか主があたしら無視して誰かと喋ってんぞ? つうか独り言か?】

 

 赤毛の少女が念話で他の騎士たちに喋りかける。

 

【ヴィータちゃん、しッ】

 

 と金髪の女性がたしなめる。

 

【ヴィータ、主の御前だ。我ら騎士は主の命があるまで黙するのみ】

 

 続いて桃色の女性が念話を使う。

 ちなみに騎士たちは目を瞑っているので、エリザベスにもプラカードにも気づいてない。

 

『ならば、俺が〝主〟として最初の命令を下さねばなるまい』

 

 エリザベスはどこから取り出したのか、鎧武者の兜を被る。

 

「よッ! エリザベスくん! かっこいいで!」

 

 悪乗りしてはやてはエリザベスを持ち上げる。

 

【やっぱ誰かいるんじゃね?】

 

 赤髪の少女は眉間に皺を寄せる。

 

【あたしら完全に無視して話してんぞ】

【黙れヴィータ、主に不敬だぞ】

 

 とピンク髪の女性も眉間に皺を寄せ、ヴィータと呼ばれる赤髪の少女に言う。

 

【例え主が、〝頭の中の人間〟と話すお人であろうと、我らは付き従うのだ】

【いや、むしろおめーが不敬じゃねぇか!】

 

 と念話でツッコミ入れるヴィータ。

 

【今の無礼な発言聞いたからな? 絶対忘れねェからな? 守護騎士失格だなおい】

 

 ヴィータの言葉を受け、ピンク髪の女性が青筋浮かべる。

 

【ヴィータ、そこになおれ。叩き切ってやろう】

【上等だ! やってみろこのデカ乳女! 脳みそ筋肉!】

【よしわかった。貴様は主への挨拶が済み次第、粛清してくれる!】

 

 ピンク髪と赤髪の騎士が念話で火花を散らし始めていると、

 

「あのぉ~……」

 

 はやての声を受けて、全員の目蓋が開く。念話で喧嘩していようとも、忠誠心を優先させる騎士たち。

 代表して、ピンク髪の女性が最初に口を開く。

 

「闇の書の主。我らにご命令を」

『では、早速最初の命を下す!』

 

 と言って、エリザベスが刀を魔法陣に突き刺す。

 

「――っと、あなた方の主が申しております」

 

 笑顔のはやてが、両手の先をエリザベスに向けながら言う。

 

「「「「…………はッ?」」」」

 

 目が点になる騎士四人に、エリザベスはプラカードで言い放つ。

 

『俺はエリザベスだ! まずは桂さんをたすけ――』

「「誰だ貴様(テメェ)はぁぁぁぁぁぁッ!!」」

 

 桃色髪の騎士と赤毛の騎士が、白いペンギンモドキのどてっ腹に鉄拳のストレートを叩きつける。エリザベスの体がくの字に折曲がり、吹っ飛ぶ。

 

「いきなり主を殴ったぁぁぁぁッ!?」

 

 はやてはビックリ。

 

「いや、おめーだから!! あたしらの主!!」

 

 青筋を浮かべるヴィータは、はやてを指さしながらツッコミ入れる。

 

「わたし?」

 

 はやてはきょとんとした顔で、自分の顔を指さす。

 ヴィータは青筋浮かべながら、エリザベスにビシッと指を向ける。

 

「あんな得体の知れねぇバケモンがあたしらの主なわきゃねぇだろ!! お前天然か!? 天然だろ!」

「ヴィータ貴様!! 主に不敬だぞ!!」

 

 ピンク髪の女性が怒りながらヴィータに駆け寄る。

 

「だってしょうがねぇだろ!!」

 

 怒られてもヴィータは構わず食ってかかる。

 

「召喚されていきなりペンギンの騎士にされそうになってんだぞ!! 怒るだろ普通!!」

「例え主がエセペンギンでも我らは忠義を尽くさねばならんのだ!!」

 

 と言い放つ桃色髪の女性。青筋浮かべるヴィータは、倒れるエリザベスに指をビシッと向ける。

 

「だったらあのペンギンに忠誠誓ってみろコラァ!!」

「なぜ私がペンギンなんぞに忠義を尽くさねばならんのだ!! 例え話だバカ者!!」

 

 桃色の髪の女性は怒鳴り返す。

 

「んだとコラッ!!」

「やる気か貴様!!」

 

 そして取っ組み合い始める赤髪の騎士と桃色髪の騎士。

 すると、はやてがおずおずと手を上げる。

 

「あ、あのぉ~……」

「「なんだッ!!」」

 

 二人は喧嘩の横やり入れた相手を睨む。睨まれたはやては「ひッ!」と怯え、おすおずと言う。

 

「ど、どうぞ、続けてください……」

「ッ!?」

 

 桃色髪の女性はハッとなり、この世の終わりのような顔になる。

 騎士でありながら主である少女を怯えさせてしまった彼女は、地面(魔法陣)に両手を付いて平伏し、全力で謝罪。

 

「も、申し訳ございません主よッ!! 召喚されて早々にこのような無礼をッ!!」

「い、いやぁ~、別にそう気にせんでも……」

 

 はやては苦笑しながら頬を掻く。

 桃色髪の騎士は棒立ちしているヴィータをギロリと睨み、

 

「貴様も謝らんかッ!!」

 

 赤毛の頭を掴んで、無理やり謝らそうと頭を地面に押し付ける。

 

ふぎゃッ!?

 

 ヴィータは頭を地面に叩きつけられ、悲鳴を漏らす。

 

「まことに!! まことに申し訳ございません!! 騎士としてなんなりと罰を!!」

 

 桃色髪の騎士はそう言いながら、ヴィータの頭を魔法陣にガンガンガンガン!! と何度も叩きつける。

 

「いやー、あなたの隣の子、もう十分過ぎるほど、罰受け取ると思うんやけど……」

 

 はやては冷や汗を流す。何度も額を地面に叩きつけられるヴィータに、同情の眼差しが向く。

 

「と、とりあえず、頭上げてくれへん? もう謝るのは十分やから」

「はッ!」

 

 桃色髪の騎士は主の許しを受けて、現れた時と同じ跪いた態勢へと戻る。

 横で無理やり頭を地面に叩きつけられたヴィータは、額から煙を出し、白目剝いている。

 とりあえず、ヴィータに同情するような視線を向けつつ、はやては尋ねる。

 

「それで、わたしがあなた達の主ってことになるんか?」

「えぇ」

 

 と頷く桃色髪の騎士。

 

「あなたの命に従い、行動します」

 

 騎士の言葉を受け、はやては下にいるクリオネのバケモノに視線を向ける。

 

「あなたたちって、もしかしてめっちゃ強かったりするん?」

 

 

 

 クリオネのバケモノの口からはみ出した桂の下半身が、ぶんぶんと振られる。

 

「よしわかったッ!!」

 

 桂はクリオネの口を無理やりこじ開けて訴える。

 

「とりあえず休戦しよう!! 一旦タイム取ろう!! そんで仕切りなおあ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ッ!!

 

 桂の言うことなどに聞く耳持つはずもなく、彼の体を嚙み千切らんばかりの勢いでぶんぶん振り回すクリオネ。

 このまま桂は食われてしまうのか?

 その時――、

 

「うぉぉぉりゃあああッ!!」

 

 犬耳の男が、その丸太のように太い腕を使って、クリオネの腹に鉄拳を叩き込む。

 十メートルはある巨体が空中に持ち上がり、縦の口が開いて桂を離す。

 

「ぬおッ!?」

 

 桂はそのまま地面に落下し始める。が、砂浜に落ちる前に、彼の襟首を空中に浮かぶ桃色髪の女性が掴む。その手には、剣が握られていた。

 

「ラケーテン――!!」

 

 すると今度は、空中に持ち上がったクリオネの更に上空――赤髪の少女が手に持ったハンマーのヘッドの反対側の噴射口から、エネルギーをロケットのように吐き出させ、突撃する。

 

ハンマァァアアアアアッ!!

 

 叫ぶ少女。そして浮かぶクリオネの胴体に、ハンマーの前方にあるスパイクが直撃。

 口から血のような液体をまき散らしながら、クリオネの体がくの字に折れ曲がり、地面に叩きつけられる。

 ドカーンッ!! とまるで爆発のごとく砂塵が巻き上がった。

 やがて赤髪の少女が砂塵の中から飛び出し、空中に佇んで敵の様子を伺う。

 

「ッ……!!」

 

 すると砂塵から、何本もの触手が針のように飛び出す。

 

「させん!」

 

 犬耳の男が赤髪の少女の前に飛び出し、魔法陣のような物を展開させ、触手を防ぐ。触手は硬い盾に弾かれたように跳ね返る。

 砂塵からクリオネが、頭を変形させた状態で立ち上がる。

 

「なるほどな……」

 

 桃色髪の女性は地面に降り立ち、桂の襟首を手から離してクリオネを睨む。

 

「ロストロギアの異相対か。通常の攻撃では倒しきれぬようだ」

 

 桃色髪の女性は後ろに顔を向ける。

 

「シャマル。ヤツの封印を頼む」

「了解」

 

 後ろに控えたシャマルと呼ばれた金髪の女性は、右手を前にかざす。

 

「――クラールヴィント」

 

 すると、彼女の指に嵌められた二つの指輪――そこに挿し込まれた緑と青の宝石が飛び出す。まるでベンデュラムのように、尖った宝石の後ろには光る糸が付いている。

 宝石は自動で飛んでいき、クリオネの周りを何度も周回し、怪物の体を糸で拘束する。

 体を捻って暴れるクリオネだが、まったく光の糸が切れる様子はない。

 

「――封印」

 

 シャマルがそう言った瞬間、クリオネが光り出し、体がどんどん小さくなっていく。

 そして残ったのは、小さな通常サイズのクリオネと青い宝石のみ。

 

「なんと面妖な!!」

 

 その様を見ていた桂は目を見開き、驚愕する。

 

「桂さぁ~ん!!」

 

 すると今度は、エリザベスに車椅子を押されながら、はやてが桂の元まで駆け寄る。

 

「はやて殿!?」

 

 と桂は驚く。

 

「死んだのではなかったのか!?」

「勝手に殺さんといて! でも良かったぁ~……!」

 

 はやては桂の安否を確認して安堵する。

 

「無事そう――」

 

 そこではやては絶句する。なにせ、桂の上半身がおもっくそ血まみれなのだから。

 

「か、桂さん……!?」

 

 はやては桂の姿を見てぎょっとし、慌てて声をかける。

 

「だ、大丈夫なんですか!? それ致死量やないんですか!? その血!!」

「安心しろはやて殿」

 

 血まみれ桂は笑顔で言う。

 

「この程度、怪我のうちにもはいら――」

 

 そのまま桂は仰向けに倒れて、白目剥く。

 

「桂さんんんんんんん!?」

 

 はやては叫び、エリザベスも『いかん!』と言って焦る。

 シグナムがシャマルに目配せし、はやてが桂を介抱しようと駆け寄ろうとした時、

 

「管理局執務官――クロノ・ハラオウンだ」

 

 管理局の執務官と名乗る少年が、突如上空から現われる。

 

「チッ……管理局かよ」

 

 赤髪の少女――ヴィータはクロノを見て舌打ちをする。

 他のヴォルケンリッターたちも自身の武器や拳を構えていた。

 

「ッ……」

 

 ヴォルケンリッターを見て、クロノはデバイスを構える。が、彼がちらりと視線を横に向ければ、

 

「桂さん!! 桂さん!! 桂さん!! 桂さぁぁぁぁん!!」

 

 涙目で必死に血まみれの桂の名を呼ぶ、はやての姿が目に映った。

 クロノは少しため息をついて肩の力抜き、

 

「攻撃しないと約束するなら、こちらの医療設備で彼を治療しよう。まぁ、君たちが彼を〝助けたいと思う〟のなら……だが」

 

 値踏みするようにヴォルケンリッターとはやてを見る。

 するとはやてが涙目になりがら、クロノに懇願する。

 

「お願いします!! 桂さんを――私の友達を助けてください!!」

 

 

 

「――はやて殿と、まー……なんかよくわからんポッと出の人たち。そしてリンディ殿やクロノくんのお陰で、俺は一命を取り止めたと言うワケだ」

 

 時間は現在に戻り、手錠した桂はアースラにやって来た経緯を説明し終える。

 前回同様、食堂での桂の説明。話を聞いたヴィータはジト目で「いやポッと出ってなんだ。ポッと出って」とツッコミ入れている。

 一通り話を聞いて、銀時はボソリと呟く。

 

「そのまま死んでれば良かったのに」

「いやその言い草はちょっと酷くない!?」

 

 古き友から死ねばよかったのに、などと言われて桂は声を上げる。

 

「つうかポッと出ってなんだよ。ポッと出って」

 

 とヴィータはジト目で同じ文句を呟くと、隣のシャマルが苦笑を浮かべる。

 

「まぁまぁヴィータちゃん。当時の桂さんから見たら、私たちはいきなり現れたみたいなモノなんだから。まぁ、実際そうだし」

 

 次に、説明を聞き終えたアリサは腕を組んでジト目になり、独り言を呟く。

 

「あー、だから〝あの時〟、ジュエルシードの気配がすぐに消えたんだ……」

 

 すずかも苦笑しながら相槌を打つ。

 

「うん。ちょっと遠出してた時に魔力を遠くから感じて、焦って向かってる途中で、反応が消えちゃったもんね……。結局場所が分からなくなって、諦めちゃったし……」

「てっきり、フェイトちゃんに先を越されちゃったとばかり……」

 

 なのはもようやく合点がいったように、なんとも言えない表情で汗を流す。まさかの原因に、新八以外の江戸組ですら、呆れなどが混ざったなんとも言えない表情。

 すると、腕を組むクロノが喋り始める。

 

「まぁ、お互いのタイミングと運の悪さもあるだろうが、桂や――」

 

 クロノは一瞬言葉を詰まらせるが、すぐに説明を再開する。

 

「……ヴォルケンリッターたちへの対応に追われれていなければ、もう少し君たちへの接触が早まっていたかもしれないな」

「なるほどな……」

 

 と銀時は頬杖をつきながら言い、山崎は首を傾げる。

 

「にしても数日って、尋問じゃなくて事情聴取でそんなに時間を取られるものなの?」

 

 クロノは青筋を浮かべる。

 

「主に長髪のウザい男への事情聴取が長引いたせいでな……軽くノイローゼにすらなりかけたよ……」

 

 と言うクロノは頬を引くつかせる。

 若き執務官の反応を見て、江戸組は察した。

 

「なに? それは一体誰の事なんだ?」

 

 当の桂は真顔で疑問符を浮かべつつ首を傾げるので、クロノが杖をウザい長髪に向けようとする。が、エイミィが「まぁまぁ」と言いながらが羽交い絞めしてクロノを制止。

 

「………………」

 

 そんな中、桂の回想を聞いていた新八は俯き、一向に喋ろうとしない。

 

「どうしたアルか新八? 眼鏡でも痛いアルか?」

 

 それに気づいた神楽がボケをかますが、新八のツッコミは返ってこない。普段なら「眼鏡が痛いってなに!? 腹でしょ腹!」という感じのツッコミが返って来るはずである。

 

「んん? どうした新八?」

 

 銀時も新八の様子がおかしいことに気づいて、怪訝そうに眼鏡の青年を見つつ、声をかける。

 

「どうしたんだよ新八く~ん。シグナムさん見て色々我慢してんのか? なら厠にでも行って、一回スッキリして来たらどうだ?」

 

 色んな意味で新八が怒りそうな発言しても、眼鏡は反応なし。

 すると今度は沖田が、

 

「あッ、もしかしもう暴発しちまったか?」

 

 かなり失礼な言い草だが、ぱっつぁんの反応なし。いや、心なしかちょっと反応した。

 そして桂が、新八に声をかける。

 

「本当にどうしたのだ新八くん? 銀時の言う通り、厠を我慢して漏らしたのか? ならばすぐにでも――」

 

桂コラァァァァァァァァッ!!

 

 目を血走らせ、新八が桂の両肩を掴みシャウトする。

 

「ど、どうしたのだ? 新八くん。漏らして錯乱したか?」

 

 怪訝そうな顔をする桂に、新八は怒鳴り散らす。

 

漏らしとらんわァァァァァァッ!! つうか、どうしたのだ? じゃねェよ!! あんたかァァァァッ!! あんたのせいで〝闇の書発動〟したんかァァァァアアアアッ!!

「「ッ!?」」

 

 新八の反応と言葉に、リンディとクロノがいち早く反応した。一方、それ以外の面々は新八の豹変に、完全に呆気に取られているが。

 新八は桂の肩をぶんぶん揺すりながら青筋浮かべ、目を血走らせ、鬼気迫った形相で捲し立てる。

 

「どうしてくれんだァァァァッ!! まだ無印リリカルなのは終わってねェよ!! ジュエルシード集め切ってねェよ!! PT事件終わってねェよ!! A.s始まってねェよ!! なのに、なのに、なにはやてちゃん危機にさらして闇の書発動させとんじゃおのれはァァァァァアアアアアアアッ!!

「えッ? なに? ……PTA?」

 

 さすがの桂も困惑。

 ちなみに回想の描写でこそ、はやてが闇の書の主に選ばれたシーンも入っている。だがその実、桂が話したのは彼からの視点での説明だ。その為、そもそも〝桂の説明から〟闇の書の覚醒とかもろもろを新八たちが知るはずがないのである。

 じゃあ、桂は闇の書について説明したの? と問われれば、言及したのは、

 

『FFの新アイテム闇の書……あー、こっちは分んないしどうでもいいな。俺を助けたのは、ポッと出のヴォルケンリッターたちでな。よく分らんが、どうやらはやて殿はシグナム殿たちの主らしい』

 

 ↑この一回だけ。

 ちなみに現状の銀時たちの間でヴォルケンリッターたちは、『はやてのピンチ前に突然現れ、彼女に騎士になった謎の四人』という、ふわふわでご都合的な変な集団扱いになっている。

 

「あッ、お、おい眼鏡ッ!!」

 

 我に返った土方が、新八の失言にいち早く気づいて止めようとするが、興奮するネタバレ眼鏡は止まらない。

 

「どうしてくれんだおい!! もう〝地球滅亡のカウントダウン〟始まってんだぞ!! まだジュエルシードも集めきってねェし、フェイトちゃんも仲間になってねェし、何してくれとんじゃおのれはァァァァァァァッ!!

 

 そして散々桂に怒鳴り散らした新八は頭を抱え、

 

もう地球はおしまいだァァァァアアアアアアアアッ!!

 

 天に向かって助けを乞うように叫び、涙を流す。

 そんな暴走する眼鏡の両肩に、ポンと手が置かれる。

 新八がゆっくり後ろを振り返れば、ニコやかな笑顔のリンディと真顔のクロノ。

 

「さて新八さん――」

「話を訊かせてもらおうか?」

「…………」

 

 新八は自分の失言の数々にやっと気づいて、大量の冷や汗流す。

 土方は見ていられないとばかりに、両手で顔を覆っていたのだった。

 

――――――――――――――――――――――――――――

 

おまけ

 

執務官クロノ~桂尋問編~その2

 

 桂は、数分でクロノ執務官をブチ切れさせた。

 

「なに?」

 

 と桂は首を傾げる。

 

「取り調べでカツ丼は定番であろう」

「出るワケないだろ!! カツ丼がッ!!」

 

 とクロノは怒鳴り、桂はありえないとばかりに目を見開く

 

「なに? 取り調べならカツ丼が出るのではないのか!?」

「これは取り調べではなく事情聴取だ! よってカツ丼はなしだ!!」

 

 ちなみに現実の取り調べでもカツ丼はでないのであしからず。

 桂は「そうか……」と言って口を閉ざす。

 やっと長髪のウゼェ男がおとなしくなったので、今度は自分から、とクロノは口を開く。

 

「よし、あなたの疑問も晴れた。今度こそこっちの質問に――」

「では自分で頼むとしよう」

 

 桂はどっから取り出したのか、黒電話を机の上に置き、ダイヤルを回して電話かける。

 

デリバリーを頼むなぁぁぁぁぁッ!!

 

 クロノは怒鳴り、桂が出した黒電話を指さす。

 

「そもそもなんだその……ゴツイ……なんだ!? その使い方、まさか電話か!? そもそもここにデリバリーが来るワケ――!!」

『へいお待ち』

 

 と、取り調べ室のドアが開き、プラカードを持ったエリザベスが『岡持ち』を持って現れる。

 

なんか出たぁぁぁぁぁッ!?

 

 ビックリするクロノを無視して、エリザベスは岡持ちを机に置き、蓋を上にスライドさせる。中には熱々のカツ丼。

 

「おー、これこれ」

 

 待ってましたとばかりに声を漏らす桂。

 エリザベスが『では、お勘定を』とプラカードの文字を見せ、桂に手を出す。

 

「うむ。ではそこの人が」

 

 と桂はクロノを手で指し、エリザベスはクロノに手を出す。そしてプラカードで、

 

『お二つで、3000円になります』

「払うワケないだろ!!」

 

 クロノはエリザベスの手をバシッとはじき、桂は熱々のカツ丼を食べる。

 

勝手に食べるなぁぁぁぁぁッ!!

 

 クロノが怒鳴る。無論、桂は構わず食べ続け、熱さで「あふあふ!」と口をぱくぱく動かす。

 

「ムカつく!! 勝手に食べるのもムカつくが!! その『あふあふ』が余計に腹立つ!!」

「折角だ。クロノ殿も食べふふか?」

 

 桂はもう一個のカツ丼をクロノに差し出す。クロノの顔のいたるところから血管が浮き出る。

 

「ムカつくから食べながら喋んな!! 『ふふか?』が余計に腹立たしいんじゃボケェッ!!」

 

 もう今のクロノは、クロノ執務官ではなくクロノヤンキーみたいな感じになっているが、桂はまったく物怖じしない。

 

『あの、お勘定……』

 

 とエリザベス。

 

「そもそもお前はなんだッ!!」

 

 クロノはエリザベスを頭の天辺から下まで指さす。

 

「桂と一緒にいたなんかよくわからんペンギンじゃないか!! なんで取り調べ室に勝手に入って来て、デリバリーなんぞ受けて、そのままカツ丼持って来るんだ!!」

『だからお勘定』

「払うワケないだろ!! そもそも僕が頼んだワケじゃないんだぞ!! しかも一口も食べてないし!!」

『だから勘定払えって言ってんだろボケェッ!!』

「だから払わねぇって言ってんだろボケェ!! そこの長髪に請求しろッ!!」

 

 クロノは怒鳴り散らし、桂を指さす。

 口にカツ丼を入れた桂は、きょとんとした顔で首を傾げる。

 

「なんふぇ?」

死ねぇぇぇぇぇぇッ!! 長髪死ねぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!

 

 クロノは天に向かって怒鳴り散らす。だが、エリザベスにとってはそんなこと知ったこっちゃないようで。

 

『おいおい、あんちゃん。出前取っといて、金を払わねェとはどう言う了見だ? あァん?』

「お前はとりあずだま――!!」

 

 クロノの言葉をエリザベスの鉄拳が封じ、「ぶべぇ!?」と執務官は顔を殴られながらぶっ飛ぶ。

 

『金払えゴラァ……!!』

 

 ゴゴゴゴゴゴゴッ!! とエリザベスは凄まじい覇気を放ち始める。

 クロノはその姿を見て、頬を抑えながら目をパチクリさせ、

 

「……い、いや待てッ!!」

 

 なんか怖いんで、とりあえずエリザベスを止めようと、クロノは両手を出して制止させようとする。だが、出前のあんちゃんと化したエリザベスは止まらない。

 

『ぐだぐだ言わんと、銭も払えんのかワレ? とっとと耳そろえて3000円払わんかい』

「いやおかしいしだろ!! 僕がお金を払うこともおかしい!! 取調室にそもそもデリバリーが来るのもおかしいし!! 桂の仲間のお前がデリバリーなのもおかしいし!! なにより管理局員に暴力を振るうのは――!!」

『うるせェーッ!! 銭を払わねェ奴は警察だろうと犯罪者じゃァァァァッ!!』

ぎゃあああああああああああああああああああッ!!

 

 エリザベスはクロノをタコ殴り。

 桂はカツ丼を食べ終え、両手を合わせてから一言。

 

「うむ。やはり蕎麦の方が良かったな」

 

 クロノと桂の尋問は続く――。

 




今回でアンケートの結果を集計しようとしたのですが、ハーメルンにもアンケート機能があることに気付いたので、そっちの集計を見てから最終的な判断をしようと思います


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第五十四話:証拠と信頼

投稿が二か月ほど間が空いてしまいすみません。

とりあえず、特殊タグ活用を続行しています。


 リンディ提督の執務室。

 

 そこでは、空中に映ったウィンドウに、何度目かわからないエンディングロールと田村ゆ〇りの歌が流れる。

 一応エンディングに入ったことで、ウィンドウを消すエイミィ。彼女の瞳に光はない。

 

「――こ、これがリリカルなのはです……」

 

 新八は冷や汗流しながら言う。

 もう誤魔化しとかそんなもんは、頭の良いアースラ組の方たちに多分通じるはずもないので、直球でホントの事言った。

 

 なんとも言えない空気の、艦長の執務室。その机の上に載っているのは『魔法少女リリカルなのは The MOVIE 1st』のDVDが入ったケース(なのはがたまたまバッグに入れて持って来た物)。

 

「…………」

 

 リンディは一言も発さずに口元を抑えて、パッケージの絵柄をじーっと見つめている。リンディのペットなのかは知らないが、執務室の隅っこで一匹の猫が横になっていた。

 同席し、立っているクロノがジト目で。

 

「エイミィ。ミッドチルダで一番の精神科病院はどこだったかな?」

「え~っと……」

 

 エイミィはクロノに言われてパネル操作を始める。

 

「いやホントなんです!!」

 

 さすがにその対応はあんまりだ、と言わんばかりに新八は声を上げて説得し出す。

 

「僕たちの世界だと本当に、あなた方はアニメのキャラってことになってるんですよ!!」

「信じられるかぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 クロノの当然の反応。青筋浮かべる執務官の気持ちは痛いほどわかる。

 新八は涙目で訴える。

 

「でも本当なんだからしょうがないでしょ!! クロノくんはアニメのキャラなの!!」

「ふざけてんのかお前はぁぁぁぁぁあああああああッ!!」

 

 更に激しく怒鳴るクロノ。そして溜めてたモノを吐き出さんばかりの勢いで、捲し立てる。

 

「何を!! どうしたら!! 自分たちがアニメのキャラだなんて!! 暴論を信じられると思うんだッ!! バカなのか!? 君はバカなのか! バカなんだろ!!」

「いやでもクロノくんもちゃんと内容見たでしょ!! 証拠揃ってるでしょ!!」

 

 新八の言葉を、クロノはビシッとDVDケースを指差して真っ向から否定する。

 

「あんなののどこが証拠だ!! どこが!! 裁判に出したら確実に鼻で笑われるレベルだぞ!!」

 

 クロノはDVDケースを手に取り、パッケージを手でバシバシ叩く。

 

「そもそもこのDVDの内容と、君たちから聞いた事件の内容が、かなり食い違う部分が多いぞ!! それでも信用しろとでも言う気か!」

「だってそれは、僕たちが関わって歴史が変わったんだから仕方ないんですよ!! 他に説明のしようがありません!!」

 

 新八もなんとか信じてもらおうときっぱり返す。話にならんとばかりに、クロノはリンディに顔を向け、声を上げる。

 

「艦長もなんとか言ってください!! 僕は正直今、ノイローゼになりかけてます!!」

「新八さん……」

 

 リンディはゆっくりと顔を上げ、DVDのパッケージを指さす。

 

「このパッケージのシーンがありませんでしたよ?」

「いやそこぉぉぉぉぉッ!?」

 

 クロノはシャウト。ツッコミ開始

 

「別にそこはどうでもいいでしょうが!! DVDの内容にあなたからも一言、文句言ってください!!」

 

 リンディは手を組んで真剣な顔で告げる。

 

「なのはさんとフェイトさんの変身シーンは少々刺激が――」

「艦長ぉぉぉぉぉッ!!」

 

 クロノは叫び、リンディは真剣な顔のまま。

 

「やはり少女の全裸シーンを映すのはいかがなもの――」

「艦長ぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!」

 

 そんでもう一回クロノは叫ぶ。リンディは執務官に真顔で言う。

 

「落ち着きなさいクロノ。みっともないですよ」

「いや、ほぼあんたのせいですよ」

 

 とツッコム新八。

 

「ゼェ、ゼェ、ゼェ、ゼェ!」

 

 クロノは叫び過ぎて肩で息をしている。すると、リンディは人差し指を立てて。

 

「ただ私としては、あのくらいの歳の子でも、もう少し胸は盛り上がってもおかしくは――」

 

「艦長おおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおおッ!!」

 

 クロノはリンディの頭をバシッとはたく。

 

「お、落ち着いてクロノ君……」

 

 エイミィは失笑しながらクロノをなだめる。

 

「――さて、新八さん」

 

 頭にたんこぶが出来たリンディは、真面目な顔を作る。

 

「あなたは……なのはさんとフェイトさんの全裸を見てまさか興奮――」

 

「おいゴラァァァァアアアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 クロノは普段のキャラかなぐり捨てて、真顔のリンディの胸倉掴む。

 

「お、おおおおお落ち着いてクロノくん!! 気持ちは分かるけど落ち着こう!!」

 

 エイミィはクロノの両手を掴んで、なんとかなだめる。

 居住まいを正したリンディは再び机に座り、両手を組んで言う。

 

「……新八さん。まさかコレを見せて、私たちに『信用しろ』などと、まだ言うつもりですか?」

「うッ……」

 

 新八は口ごもり、リンディは言葉を続ける。

 

「あなた方が制作した自主映画と、ばっさり切り捨てられることを念頭に置かなかったのですか? 一つ言っておきますが、現状コレは〝証拠〟としてなんの力も発揮しません」

 

 リンディはDVDを前に出しながら、きっぱり言う。

 

「実はあなた方は何かよからぬ企みがあり、それを誤魔化す為にこのDVDを用意したと言う説も考えられます」

「い、いや!! いくらなんでもそれは極論過ぎるでしょ!!」

 

 さすがに新八は待ったをかける。

 本当に自分たちは、悪巧みなど一つも考えてなどいない。ただ、なのはたちの助けになりたいから行動しているだけなのだ。そもそもなんの目的があれば、手間と時間と金がかかる映画を、フェイクとして用意するというのか。

 

 返しを聞いて、リンディは「えぇ」と頷く。

 

「さすがに今のは、少々意地が悪い言い方でしたね」

「やっぱり……信じてもらえませんか?」

 

 新八は俯く。

 

「正直あなた方の世界をこの目で見ない限りは、新八さんの〝アニメの世界〟と言う言い分を信じるワケにはいきません」

「その通りだ!!」

 

 とクロノが怒鳴り、捲し立てる。

 

「バカバカしくて話にもならん!! なんでなのはたちはこんな話を信じられるんだ!! 理解に苦しむよほんと!!」

 

 クロノは腕を組んで不満顔。相当頭にキてるらしい。

 

「で、でも! ユーノくんの平行世界説はどうなんですか!?」

 

 引き下がれない新八は、前に納得させられたユーノの説を突き出す。

 

「それは論理として、中々的を射てはいますが……」

 

 と言ってから、リンディは首を横に振る。

 

「やはり〝今ある証拠〟で我々を納得させれるには不十分ですね。結局はただの憶測と仮説によるものですから」

「そうですか……」

 

 新八はがっくり項垂れる。

 

「なら次は――〝本当のこと〟を話してもらおう」

 

 するとクロノは、鋭い視線を新八に向けた。

 

「ほ、本当のこと?」

 

 目を瞬かせる新八に、クロノは頷く。

 

「ああそうだ。どうやって君が闇の書の事を知ったかだ」

「いやだからさっき説明した通りなんですって!!」

 

 と新八は食い下がる。アニメを見て知った。それ以外の答えなど持ち合わせてはいない。だから他に答えようがない。

 答えを聞いて、クロノは一歩前に出る。

 

「なら取調室に案内しよう。そこでじっくりと――」

「待ちなさいクロノ」

 

 そこでリンディが、前へ出るクロノの襟首を掴む。「ぐェッ!!」とカエルの潰れたような声を出す執務官。

 

「新八さんに何をする気ですか?」

 

 笑顔で訊くリンディに、クロノは後ろを振り向いて説明する。

 

「次元漂流者――いや、もしかしたら〝僕たちの世界の人間かもしれない〟彼を、尋問しようと――!!」

「それは許可できません」

 

 と、きっぱり言うリンディ。

 

「何故ですか!?」

「ただ〝闇の書を知っているだけ〟の彼を、これ以上尋問することはできません」

「し、しかし――!!」

 

 食い下がるクロノに、リンディは説明する。

 

「彼が他に答えを持ち合わせていないと言い張る以上、我々もこれ以上の尋問はできない。それとも、魔法を持たない、まして魔法世界側の後ろ盾が確認できない、そんな新八さんが闇の書をどうこうできる人物であると?」

「うッ……!」

 

 クロノは押し黙り、リンディは更に論破する。

 

「ましてや、何かよからぬ事を考えている人間が、我々の前であんな失言をして何の意味があると言うんですか? 論理的に考えれば、新八さんが悪意を持って闇の書の名前を言ったとは考え辛いでしょう」

「リンディさん……!」

 

 新八は自分を弁護してくれるリンディに瞳を潤ませる。

 

「ですが……」

 

 とリンディは言って、新八に目を向ける。

 

「無論、あなたの主張を我々は信じることはできません。そこはお忘れなきように」

「では、どうするんですか?」

 

 まだ何か言いたげなクロノの問い。

 対してリンディは、

 

「これで終わりにしましょう」

 

 と笑顔で言う。

 

「「はッ?」」

 

 クロノと新八は揃って間の抜けた声を漏らす。

 リンディは説明を始める。

 

「新八さんの話は、次元漂流者と言う点を考えれば絶対に嘘とも言い切れませんが、絶対に本当とも判断できない。当然、我々は彼の情報を信じて動くなんてことはできません」

「え、えぇ、まぁ……」

 

 クロノは戸惑いながら、頷く。リンディは、新八に顔を向ける。

 

「新八さんも〝本当のこと〟を話した。違いますか?」

「は、はい」

 

 戸惑いながら新八は頷き、リンディは少し肩を下げる。

 

「我々は新八さんの言うことを真に受けられない。かと言って、隠し事がないか新八さんをこれ以上尋問することはできない。どちらも膠着状態です」

 

 指で×を作るリンディ。そして艦長は笑顔を作り、

 

「ならば現状維持。この話を忘れろ、とまでは言いませんが、これ以上続けても堂々巡りになる以上は、これで話を終わらせる他ないでしょう」

「た、確かに……」

 

 新八はリンディの意見は一理あると思った。

 このまま新八が本当のことを言い続けたとしても、アースラ組が言ってる事を信じるワケではない。だから、続けても不毛なだけ。

 

 パン! とリンディは手を合わせる。

 

「それでは、このお話しはここまで、といたしましょう」

 

 笑顔で言うリンディとは違い、クロノはまだ納得しきれない様子だった。が、脱力するようにため息吐いて、艦長室を出て行こうとする。

 

「……僕はこれで、失礼します」

「クロノ」

 

 呼ばれ、クロノは扉の前で足を止め、アースラ艦長は子に語りかける。

 

「いくら『闇の書』の名が出たからと言って、頭に血を登らせて冷静な判断力を失うのは、褒められた事ではありませんよ」

「…………」

 

 クロノの拳に力が入る。

 

「……少し、頭を冷やしてきます」

 

 クロノはそう言って、執務室を出る。合ってるかどうかわからないが、事情を知ってるかもしれないだけに、新八としては複雑だ。

 

「私も失礼します」

 

 エイミィと猫も、クロノの後を追うように執務室を後にする。

 

 執務室に残ったのは新八とリンディ。

 さすがにもうここに居てもしょうがないよね? と思った新八は出て行こうと、踵を返す。

 

「じゃあ僕もしつれ――」

「ちょっと待ってください新八さん」

 

 引き留められ、ちょこっとビクリと反応する新八は、ゆっくりとリンディに顔を向ける。

 

「……あの、なんでしょうか?」

「いえ、少々お聞きしたのですが……」

 

 リンディは左手で口元を隠し、顔をとんとんと指で何度か叩く。彼女が何を訊こうとしているのか、新八は予想できず疑問符を浮かべる。

 やがて、リンディは口を開く。

 

「あなた以外でその……『私たちのアニメ』の内容、それも〝この映画の先〟を知っている人間はいますか?」

「えっと……」

 

 新八は頭を掻きながら言う。

 

「たぶん僕以外だと、神楽ちゃんと土方さんは知っていると思います」

「ではお二人も交えて、話を聞いてもよろしいですか?」

 

 リンディの言葉に、新八はきょとんとした顔になる。

 

「えッ? ……も、もしかしてリンディさんは、僕の話を信じてくれるんですか?」

 

 意外そうな表情を浮かべる新八に、リンディは苦笑しながら答える。

 

「クロノの手前、ああは言いましたが、個人的には信じても良いとは思っているので」

「で、でもなんで?」

 

 さきほど真っ向から否定された新八としては、リンディの言葉をいまだに信じられないでいる。

 リンディはニコリと笑顔で言う。

 

「一応これでも、人を見る目は持ってるつもりです。信じていい人間と、そうでない人間を見分ける力は、養っているつもりですよ」

 

 新八はぱぁーっと顔を明るくさせる。

 

「ありがとうございますッ!」

 

 バッと頭を下げる新八。

 やはりこうやって、信じる、と言われるのは嬉しいものだ。それに、仲間が増えたような気がして心強くもなる。

 

「でも、話を聞いたとしても、その情報から局員たちを動かすことはできません。ただ、私個人として、話を聞きたいだけなので。特に闇の書の事に関しては」

「それでも構いません!!」

 

 と新八は顔を上げ、興奮気味に告げる。

 

「僕たちは僕たちで、なのはちゃんの為に頑張るって決めましたから!!」

「フフ。なのはさん達は、良いお友達をお持ちのようですね」

 

 リンディは口元に手を当てて笑みを見せる。

 

「では、早速で悪いのですが、神楽ちゃんと土方さんを呼んで来てもらってもよろしいでしょうか?」

「あッ、ちょっと待ってください」

 

 きょとんした顔のリンディ。新八は苦笑しながら頬を掻く。

 

「たぶん……あの二人は、有力な情報を話せないと思います」

「それは、なぜですか?」

「神楽ちゃんは一応、アニメを見せてあげたんですけど、もう色々細かい情報は忘却の彼方だろうし、人に説明するのも、説明を訊くのも、どっちにも適したタイプでもないので」

「では、土方さんは?」

「土方さんに至っては、ほぼアニメの記憶がない状態だと思ってください。色々あって、もう記憶があやふやだと思うので」

 

 説明するとかなりメンドーなので、かなり曖昧な言い方で新八は誤魔化す。

 さすがに今の土方に〝トッシーだった時に見たアニメ〟の記憶など、片隅もないだろう。

 つまり、とリンディは片眉を上げる。

 

「さきほどのアニメ、アレの先の事を詳しく話せる人間は、新八さんだけだと?」

「えェ、まァ……。ただ、土方さんには一応はおおまかにではありますが、無印以降――まァつまり、未来の事についてはザックリですけど、説明はしてはいます。詳しく語れないとは思いますが」

 

 新八は頭を掻きながら、申し訳なさそうに説明する。

 わかりました、とリンディは笑顔で頷き、告げる。

 

「そう言うことでしたら、土方さんだけお呼びしてもらっていいでしょうか? 念の為に、三人でお話しするのが良いでしょうし」

「あッ、はい。わかりました」

 

 そう言って新八は土方を呼びに行こうと踵を返し、執務室から退室する。

 

 

 そしてしばらくすれば……。

 

 新八が土方を連れて執務室の前へと戻り、鉄の扉を手の甲でトントンと叩く。

 中にいるリンディの「どうぞ」と言う声を聞いてから、新八は「失礼します」と言ってボタンを押して扉を開ける。

 

 執務室に足を踏み入れば、リンディはニッコリと笑顔で。

 

「それでは、三人でじっくりお話ししましょう。椅子とお菓子もご用意してますので」

 

 新八から現状のあらましを聞かされている土方は、肩を落としながら言う。

 

「……灰皿、あるか?」

 

 

 

おまけ

 

執務官クロノ~桂尋問編~その3

 

「これはまた……」

 

 目をぱちくりさせながら、リンディはきょとんした顔でクロノを見る。

 

「…………」

 

 むすっとした表情の執務官。その顔は、至る所に絆創膏やガーゼが張られていた。

 

「母さん……」

 

 とクロノはボソリと呟き、言う。

 

「僕は今初めて、執務官という職が、嫌だと思いました……」

「そ、そう……」

 

 リンディは苦笑し、チラリと取り調べし室のリアルタイム映像を見る。

 

 今、取調室では、桂とエリザベスが『いっせーのせ』をやっている。エリザベスは指ないのに。かと思ったら、今度は狭い部屋で野球やり出したと思ったら、ジェンガやったり、人生ゲームやったり、バトミントンやったり、漫才の練習したり、変化に(いとま)がない。

 

「あいつら……取調室を自分の部屋と、勘違いしてるんじゃないか?」

 

 クロノはジトーっとした目で、桂&エリザベスを見るばかり。

 リンディは苦笑しながら尋ねる。

 

「とりあえず、重要な情報は得られそうですか?」

「その前に僕がノイローゼを得られそうです」

 

 クロノの言葉を聞いて、リンディは乾いた笑いしか出てこない。すると、自分の顔を指す。

 

「なら、私が事情聴取を代わりますか?」

「いえ。それは絶対に許可できません」

 

 とクロノは首を横に振る。

 

「艦長の頭が壊れるかもしれないので」

「そ、そうですか……」

 

 汗を流すリンディに、クロノは「では戻ります」と言って背を向け、また取調室に向かおうとすが、扉の前で立ち止まる。

 

「艦長」

「なんですか? クロノ」

 

 クロノは振り向く。

 

「事情聴取が終わるまで、僕の頭と精神が無事であるように、祈っていてください」

 

 そう言う執務官の顔はどこか、儚げだった。

 

「わ、わかりました……」

 

 リンディは更に汗を流すばかり。

 

 

「桂ぁぁぁぁッ!!」

 

 クロノは気合を入れて取調室に繰り出す。

 

「事情聴取再開の時間だぁぁぁぁぁッ!!」

 

 もうキャラクターの原型が壊れた始めたクロノの目に映ったのは――。

 

「いくよ!! ドローフォー!!」

 

 と気合入った声で取調室の机の上にカードを置く、オペレーターのエイミィ・リミエッタ。

 

「フハハハッ!! 甘いぞエイミィ殿!! ドローフォー返し!!」

 

 と桂がカードを出す。

 

『ならばこちらもドローフォー!!』

 

 とエリザベスがカードを出す。

 

「あちゃーッ!! やられたァ~!」

 

 とエイミィは頭に手を当てて悔しがる。

 

「まさか二人共ドローフォーを温存していたなんて思わなかった~!」

 

 エイミィは計十二枚のカードを引く。桂は得意げにほくそ笑む。

 

「フッ……。俺とエリザベスは常日頃から『ウノ』の腕を磨いてきたのだ。そうそう未来世界の住人などに、遅れは取らんさ」

『我々の力を舐めないでもらいたい』

 

 とエリザベスもプラカード出して自慢げ。(顔は変化なし)

 

「でも、これで終わったワケじゃありませんよ!! これから逆転劇を見せてあげます!!」

 

 エイミィは持ち札が二桁になったカードを構える。

 

「ほほォ? その手札の数で、まだ諦める素振りすら見せぬとは……」

 

 桂は、エイミィの諦めないスピリッツを見て「フッ……」と笑みを零す。

 

「よかろう! ならば大差がついていようと、この桂小太郎――少しも手は緩めんぞ!!」

「望むところです!! こっからが本当の勝負なんですから!!」

 

 とエイミィも強気に返す。

 

『ならば私が一番に上がってみせましょう』

 

 とプラカードで宣言するエリザベスに、桂は目を細める。

 

「ほほォ、エリザベス。言うようになったではないか。だが、いくらお前でも、ウノ一番上がりは譲れぬな」

 

 桂は一番少ない手札を見せつける。

 

「俺が一番に上がり、実力の差を見せつけようぞ!!」

『望むところです!! ですが、一番手札が少ない時が危ういことをお忘れなきよう!』

「まだまだこんな楽しいゲームは終わらせませんよ!!」

 

 エリザベスと笑顔のエイミィも強気に迎え撃つ。

 

「まったく、これだからウノは面白い」

 

 と桂は笑みを浮かべ、笑い声を上げる。

 

「ハーハッハッハッハッハッハッハッ!!」

『「アハハハハハハハッ!!」』

 

 そしてエリザベスとエイミィも、ゲームの楽しさを分かち合うように笑い合う。無論エリザベスはプラカードで。

 その様子を見ていたクロノは笑みを浮かべ、

 

「まったく……」

 

 取調室の机をひっくり返す! カードが宙を舞う! クロノはビシッと指を突きつける!

 

「何をしてるんだッ!! お前たちはぁぁぁぁぁぁ!!」

「我が目前の勝利がァァァァァァァッ!!」

 

 桂は頭を抱え、叫ぶ。エイミィは「やったぁーッ!!」とガッツポーズ。

 

「これでゲームは振り出しッ!!」

 

 そしてエイミィはクロノに笑顔でサムズアップ。

 

「ナイスアシストだよクロノくん!!」

「エイミィィィッ!!」

 

 クロノはエイミィの肩を掴んで、昔馴染みの同僚に問いただす。

 

「君は!! なんで!! この長髪と!! カードゲームなんぞやってるんだッ!? 僕はなんかもう色々悲しいよッ!!」

「クロノくん……」

 

 エイミィは複雑そうな表情になり、

 

「クロノくんもウノやりたかったんだね? 一緒にやろうよ!」

 

 すぐに顔を笑顔にして、クロノにカード見せる。

 

「エイミィィィィィィィィッ!!」

 

 クロノはアホな勘違いする同僚の言葉を聞いて叫ぶ。

 

「貴様ァーッ!! ウノの勝負に途中で横やりを入れるとはなんと無礼な!!」

 

 桂が目を光らせ、クロノを睨む。

 

「お前が言うなッ!! お前にだけは無礼と言われたくない!!」

 

 クロノは桂に怒鳴り、エイミィに顔を向け直す。

 

「なんでオペレーターの君が、取調室でこんなアホと一緒にカードゲームを楽しんでるんだ!?」

 

 エイミィは「いや~……」と言って、頭を掻きながら舌を出す。

 

「お昼のカツ丼届けたら誘われちゃって」

「またカツ丼かぁぁぁぁぁッ!! つうか参加すんなぁぁぁぁぁッ!!」

 

 クロノは喉が張り裂けんばかりに叫ぶ。

 

「まぁまぁ、落ち着て」

 

 とエイミィはクロノをなだめてから、床に落ちたカードをエリザベスと一緒に拾い集める。そして、クロノに笑顔を向けて。

 

「とりあえず、今度はクロノくんも一緒に――」

「取調室はフリースペースじゃねぇんだよッ!!」

 

 またクロノは執務官からヤンキーにジョブチェンジ。

 

「やれやれ。仕方のない……」

 

 と桂は頭を振り、椅子に座り直す。

 

「そろそろ頃合いか」

 

 桂の態度を見てクロノは、やっと話す気になったか……、と内心どっとため息を吐く。

 

「俺もウノばかりに興じてはいられぬからな。そろそろ取調室も飽きてきたところだ」

 

 桂の言葉を聞いてクロノも椅子に座り、話を聞く体制になる。机は倒れたままだが。

 

 どうにかこの長髪のバカから聴取が取れると思うと、今までの苦労が報われ涙さへ出てきそうだ。正直、たったの数時間で諦めようとも……。

 だが、執務官として、なにより自身のプライドがこのアホから聴取を取ることを諦めさせようとせず、奮起させてきた。やっと真面目な話できると思うと、笑みすら浮かべてしまう。

 

「さて。あなたの事情を訊かせ――」

「はやて殿の(うち)でスマブラをしようではないか!!」

 

 桂は弁天堂が出した一番最初のスマブラの入った箱を取り出す。

 

「それ面白そうですね!!」

 

 エイミィはパンと両手を合わせてゲームに興味を示す。

 

『桂さん。現実のゲームはいいのですか?』

 

 エリザベスの問いに桂は笑みを零す。

 

「フッ……。リアルゲームは少々マンネリ気味だったのでな。そろそろバーチャルゲームに興じる頃合いと思っていたのだ」

 

 桂の説明を聞いて、エリザベスはプラカードを見せて褒める。

 

『ナイス判断!! さすが桂さん!!』

「じゃあ早速始めましょう!!」

 

 とエイミィもノリノリでテレビゲームを始めようとし出す。

 

「あ、すみません。艦長、事情聴取代わってください」

 

 死んだ目のクロノは、折れた。

 

 

「やはり蕎麦は和の心であると俺は思う」

「なるほど。でも、私としてはうどんも和としての代表作であると――」

「あ、桂さん!! このスマブラってゲーム、すんごい面白いね!!」

『すきあり!!』

「ああッ!! しまったぁーッ!!」

「桂さん。次は私と対戦してもらっても、よろしいでしょうか?」

「ほほォ? 俺のマリオは強敵だぞ」

 

 そんで桂の事情聴取は、リンディとあいなった。なぜか余計なペンギンとオペレーターもセットで。

 そうこうしているうちに、桂の事情聴取は数日を用した。ちなみに文章とかにすると、ほぼどうでもいい話が95%を占める。

 

 後に、執務官はこうは語る。

 

 なんか母と同僚は、あの長髪とペンギンとの会話したからなのか、ちょっと変になった――by管理局執務官 クロノ・ハラオウン。

 

執務官クロノ~桂尋問編~完




今度こそアンケートの集計結果の発表です。

1.質問コーナーを投稿か掲載する:28
2.質問コーナーは投稿か掲載しない:24

っと言う事で、ハーメルンに質問コーナーは掲載するということになりました。
結果としては、pixivの方が2の票が多い感じです。
アンケートに答えて頂いた方々、ありがとうございました。

今後の方針としては、

ハーメルンに質問用の小説を作成からの投稿

暇が出来次第、Pixivに掲載していた質問コーナーを順次掲載

と言った流れになります。
これらの流れを最新話に追いつくまでやるつもりです。

現状でこれは、投稿する小説のあらすじにも書くつもりですが、ハーメルンでは感想欄、活動報告、メールで質問を受け付けるつもりです。
活動報告の場合は、最新話投稿報告&質問がある人は書き込む、という感じになります。

感想欄だと内容によっては、削除される場合もあると思うので、もし削除されてしまった場合、メールや活動報告に再度送ってもらうことになると思います。
もし心配な方は、メールや活動報告に送るのでで大丈夫です。



質問コーナーをハーメルンに投稿しました。
https://syosetu.org/novel/253452/

侍と魔法少女~教えて銀八先生版~ 第五十四話の質問コーナーです
https://syosetu.org/novel/253452/64.html


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第五十五話:誤魔化すのは、難しい

 リンディの執務室。

 

 土方も交えてじっくりとアニメの話――つまり『リリカルなのはの話』をし終えた三人。

 大まかとはいえ少し長くはなったが、〝リリカルなのはの今後〟をリンディと土方に話し終えた、新八。まあ、主にstsまでだが。

 

「まあ、話は大体わかった……」

 

 椅子に座る土方はタバコを吸って煙を吐いてから、隣の新八へと告げる。

 

「とにかく、今回は相手がリンディ達だったから良かったものの、お前は俺たちん中で一番『リリカルなのは未来』の情報を持ってんだ。もっと発言には細心の注意を払え。いいな?」

「はい! 肝に銘じます!」

 

 勢いよく頭を下げる新八。

 土方はため息をつきながら、安堵したように告げる。

 

「つうか闇の書のとこなんか、危うくヴォルケンリッターどもに色々とバレるとこだったぞ。まー、お前が言ってた事を、あいつらはなんの事だか良くわかってねェみてェだから、案外誤魔化せて助かったが」

 

 ただまァ、少し変な奴と思われたけどな、と土方に言われて、新八ちょっとショック。

 土方は釘を打つように、

 

「今後はマジで気を付けろよ。こんな時に、あいつらにヤケでも起こされたりしたら、目も当てられん。今のごちゃごちゃした状況が、余計にごちゃごちゃして、手に負えなくなるだろうからな」

「は、はい! ホント! マジで気を付けます!」

 

 未来に関する自分の発言がいかに危ういかを痛感し、新八は首をぶんぶん縦に振る。

 机を挟んで話を聞いたリンディは、苦笑い。

 

「まぁ、今後どうなるかは分かりませんが、闇の書に関してはなるべく大きな問題が生じないように、注意していく他ありませんね。今は、フェイトさんやジュエルシードやクリミナルなど、目の前の問題を解決するのが先決です。それに現状は、闇の書をどうこうする為に動くよりも、静観を優先する方が良さそうですから」

「静観……で、良いんですか?」

 

 まさかの答えに新八が不思議そうに尋ねると、リンディは真剣な面持ちで答える。

 

「確かに闇の書は、ロストロギアとして第一級捜索指受けてはありますが、今から強引に確保しようとしても良い結果には繋がらない……私はそう判断しています」

「なるほど……」

 

 と新八は頷く。

 すると、タバコを指に挟む土方が、不可解そうに片眉を上げる。

 

「あの厳格なおめェの息子なら、んな危険なロストロギア『今すぐ封印するべきだ』みてェに進言していると思ってたんだがな」

 

 疑問を訊いて、リンディは苦笑を浮かべた。

 

「まぁ、桂さんと一緒にヴォルケンリッターの方たちを保護した際に、クロノも同じような事は口にはしましたが、はやてさんを事情聴取した際に、闇の書の封印は見送るって話しに落ち着いたんです」

「あー……なるほど……」

 

 一応は、八神はやてのことを知っている新八としては、すぐに納得がいった。

 温厚で心優しいあの少女ならば『ヴォルケンリッターに命じて事件を起こす』といった問題が起こる可能性は少ないはずだ。ただ、後々に起こるであろう問題は、はやて自身の性格の有無に関わらないのが、なんとも歯がゆいが。

 

 リンディは難しい顔を浮かべながら語る。

 

「悠長に時間を無駄にするつもりもありませんが、性急に事を運ぶつもりもありません。闇の書に関しては、慎重に処理していくつもりです。ヴォルケンリッターも現状は特に事件を起こす、というワケでもなさそうですし、無理に敵対関係を作る必要もないですから」

 

 そこまで言ってからリンディは苦笑して「まぁ、現状は片付けるべき問題が山積み、というのもありますが」と言う。

 

 闇の書については先送り、という結果に新八は安堵する。

 

 八神はやてはぱっと見、〝新八の知っている通り〟の性格だろう。

 だったらクロノとリンディが『闇の書ごと封印』、なんて強硬策も取るか迷っている最中に違いない。だから、様子見といったところか。

 時間が経って、どんな判断を下すか、そこは怖いところだが。

 

 話しを聞き、土方は軽く煙を吐く。

 

「まァ、闇の書に関してはあんたら専門職に任せる。魔法素人の俺らが口出ししても、焼け石に水だろうしな」

「それでお願いします。それと――」

「口外するのは控えろ、だろ? 他の奴らにベラベラ喋っても、今はなんの得にもならんしな」

 

 先回りして答える土方に、リンディはニコリと笑みを浮かべる。

 

「えぇ、ありがとうございます。できれば、ジュエルシードの件が片付くまでは、訊かれたとしても、できるだけ混乱や騒ぎを招くような情報を話すのは、控えて説明してください。例え身内であろうと」

 

 言葉の最後辺りで真剣な表情を作るリンディに、新八は尋ねる。

 

「それってつまり……〝ジュエルシード事件が終わるまでの間〟は、闇の書に関しては誰かに口外しない方が良い、と言うことでしょうか?」

 

 リンディは「えぇ、そうです」と頷き、説明する。

 

「ジュエルシードの案件が片付いた時に、どのような状況になるかまでは予想できません。でも、今回の件が片付けば、否が応でも闇の書の問題に当たらなければなりません。それに、クロノが言ったように、〝新八さんの知っている闇の書〟の情報と〝目の前の闇の書〟の情報がすべて一致するとは限らないでしょうし。なるべく、無用な不安や混乱を皆さんに与えないように努めた方が賢明です。せめて、話すにしても『我々のすり合っている闇の書の情報』、しかも、皆さんを不安にさせる情報は伏せて教えるべきですね」

「は、はい」

 

 と新八はぎこちなくなりながらも、頷く。少々頭の中がこんがらがりそうだが、仕方ない。

 土方は咥えるタバコを上下に揺らしながら語る。

 

「まー、妥当な考えだな。そもそもジュエルシード事件が終わった後も、俺らが関わるかどうかわからん以上は、身内だろうが無暗に話すって行為は、控えた方がイイだろう。口が滑りそうな、チャイナや天パや沖田や近藤さんなんかは、間違いなく話さん方がいい。なにしでかすか分からん」

「そ、そうですね……」

 

 なんていうか、部下と上司すら信用ならん、とハッキリ言う土方の言葉を聞いて、微妙な表情を浮かべる新八。まあ、他言無用が中々実行できない方たちなのは周知の事実なので、反論とかは特にないが。

 

「本格的に事に当たる時なら伝えても構わんだろうが、現状は教えても気を揉ませるだけだろ。今は、ジュエルシードとフェイトのことを第一に考えさせた方が良い」

 

 土方の言葉を聞いて、新八も特に反論意見はないので、はい、としっかり頷く。

 そしてリンディも、いつになく真剣な表情で告げる。

 

「それに、未来の情報は本当に必要だと思う時以外は、基本的には口外はしないという形を取って下さい。現在の人間は〝なにもしていない〟ですし、〝なにかをする〟保証もありません。だから下手に教えたりすれば、誰かが〝起こるかどうかも分からない情報〟に踊らされて、誤った行動をしてしまう可能性があるということも、考慮してください」

「わ、わかりました!」

 

 アニメの情報に関してはより一層慎重に扱おうと、新八は肝に銘じた。

 過去の行いの反省、そしてこれからも慎重な言動を――と頭の中で考えている時、ふと、ある事に気付いた新八は、リンディに尋ねる。

 

「……っていうか……食堂でシグナムさん、自分たちの事を普通に『ヴォルケンリッターだ』って、自己紹介してましたよね? アレ、ほっといて大丈夫なんですか? シグナムさんたち、普通に闇の書について色々ベラベラ喋ちゃったりしませんか?」

「あー、そのことですか」

 

 とリンディは思い出しように言い、土方も新八の言った事に気付いて、アースラ艦長に不可解と言いたげな眼差しを向ける。

 リンディはちょっとおかしそうに、理由を説明しだす。

 

「ヴォルケンリッターの方々には、あの時会うまでに、あなた方が〝どういう方々〟なのか話しましたから」

 

 リンディの含みある説明に、土方と新八は脱力したように呟く。

 

「あー、なるほどな……。俺らって、眼鏡以外は魔法の知識も、この世界の知識も、皆無だもんな……」

「そりゃァ……僕らヴォルケンリッターどころか、闇の書って聞かされても、まず分からない側の人間のはずですもんね……。ヴォルケンリッターって自己紹介されても、『あー、へー、ふーん』くらいですもんね……普通は……」

 

 どうやら、なのはちゃんたち含めて自分たちは、ヴォルケンリッターにとって『名乗るくらいなら問題ない存在』と認識されていたらしい。

 そこで新八は、ふと考えた。

 

――あれ? 僕、めちゃくちゃヴォルケンさんたちの前で、闇の書の情報を暴露しちゃったんだけど? なんで変な奴としてか思われてないの?

 

 

 そして、食堂のヴォルケンリッターたち。

 

「なー、さっきの眼鏡さー」

 

 ヴィータが不思議そうに仲間たちに話す。

 

「なんで、闇の書の名前出しながら、地球滅亡がどうたらこうたら叫びながら発狂してたんだろうな」

「闇の書を狙う者だとしても、あの錯乱行動が不可解過ぎるな」

 

 とザフィーラは顎に手を当てつつ、眉間に皺を寄せる。

  

「そもそも闇の書に、そんな危険な機能はないはずよね?」

 

 頬に手を当て、シャマルは不思議そうに小首を傾げた。

 シグナムは腕を組んで、難しそうな表情を浮かべながら話す。

 

「土方という男の話では、どうやらあの眼鏡の青年は、普段から心労(ストレス)が酷いらしく、それに伴って脳のダメージが深刻のようでな。発作のように、頭の中でアニメやマンガなどの創作物と、現実の情報が混ざり合い、あげく興奮状態になってしまうらしい」

「なるほど、だからあんなに錯乱していたのか……」

 

 ザフィーラは腕を組んで、同情したような表情でうんうんと頷く。

 そこでヴィータは、思いついたように人差し指を立てる。

 

「あ~、ならきっと、はやてと一緒に見たドラえもんだな。地球なんちゃら爆弾ってヤツ。それに、桂やはやてと一緒に遊んだFF。そういう感じの情報が、ごっちゃになったに違いないぜ」

「そして興奮しながら錯乱状態に陥る……」

 

 汗を流すシャマルが呟き、

 

「……冷静に考えると、中々に病んでいるな……」

 

 なんとも言えない表情で、シグナムは視線を下げた。

 

「……あの眼鏡、地味な見た目に反して抱えてるもんがヤベーな……。近づかない方がいいぜ」

 

 ヴィータがちょっと引いたような表情で言えば、シグナムは「あぁ、それが正解だな」と言って頷き、話す。

 

「土方も彼の持病については『危険だから、触れず、口に出さず、心の中にしまいつつ、なるべく避ける方針を取った方がイイ』と言われてな。主はやてにも、注意してもらおう」

 

 他の騎士たちも満場一致の意見になる。

 知らないところで、ヴォルケンリッターに変なヤツどころか、相当ヤベー奴認定を受ける新八であった。

 

 

 ヴォルケンリッターたちに悪い意味で注目され、避けられているなど、露も知らない新八。

 とにもかくにも、リンディの執務室では、話がまとまっていく。

 

「まァなんにせよ、俺たちは時期が来るまでしっかり口を閉ざした上で、訊かれても誤魔化せるかどうかだが……」

 

 と言って土方は、ジロリと鋭い眼光で新八を睨む。

 まあ、間違いなくこの鬼の副長は、桂の時にやらかした〝迂闊な発言〟の事を言っているのだろう。

 

 今まで、リンディの執務室で肩身の狭い思いをしていた新八は、椅子から立ち上がり、ここぞとばかりに反論。

 

「で、でも僕だけじゃないでしょ問題は! あの桂さんだって絶対に闇の書の事知ってますよ! ヴォルケンさんたちが目覚めてからもずっとはやてちゃんのところで居候してて、闇の書の事を知らないってことはないですし!! あの人がいつなにを喋るかなんてわかったもんじゃない!!」

 

 ちょっと人のことを盾にしてるようで複雑な気持ちになるが、問題は問題なので指摘する新八。

 

「あー、確かに。桂も桂で問題だな……」

 

 新八の言葉を受け止め、メンドクサそうな表情になる土方。

 回想の時は誤魔化せた。が、今後、桂がどんな風に口滑らすかわかったもんではない。

 するとリンディが苦笑しながら、

 

「とりあえず、桂さんにも忠告をしようとしたんですけどー……」

 

 

『なに? 闇の書? はやて殿が持ってる本のことか?』

 

 と桂が聞き返すと、クロノは頷き説明する。

 

『あぁ。それで、あなたにお願いしたいのだが、闇の書については――』

『はやて殿が持ってるFF新アイテムのことか? 小数点以下の確率で出てくる希少なレアアイテムなのか?  俺は新作FFには詳しくないが、やはり新作のレアイテムのような重要情報は伏せておくべきか? それに次世代機のことも視野に入れて――』

『あぁぁぁぁ……! ――うん……。うん。うん! もうそれでいい。そう思ってるならそれでいい!』

 

 

「――っと言うことで、とりあえず勘違いさせておいた方が良いかと思いまして」

 

 苦笑するリンディの説明を聞いて、

 

「クロノくん……なんて痛ましい……」

 

 狂乱のバカ――その深淵の一部を覗き込んだクロノの心労を推し量り、新八は同情した。

 

「まー、桂はほっといた方が良さそうだな。下手に説明すると逆に危険だ」

 

 だから問題なのは、と土方は言って、新八を再びジロリと睨む。

 

「おめェと俺の、今後の言動次第だからな?」

 

 結局矛先が自分に向いて、いたたまれなくなった新八は、乾いた笑いを浮かべる。

 

「ァ、アハハハ……。じゃ、じゃあ僕……これでー、失礼します。ちゃんとー、口はチャックしますので! 言い訳も考えておきますので!」

 

 そう口早に言って新八は立ち上がり、そのままリンディの執務室の扉を開け、

 

「では、失礼します!」

 

 90度の角度でしっかり腰を折り曲げてから、退室するのだった。

 そんな新八の姿を見て、土方は眉間に皺を寄せる。

 

「……大丈夫か?」

「まぁこれ以上、意地悪く釘を指しても、なるようにしかなりませんよ」

 

 とリンディは笑みを浮かべながら告げ、土方はため息を吐くようにタバコの煙を口から出す。

 

「……そんじゃあ、最後に一つ。今後のことも兼ねて、あんたに頼んでおきたいことがある」

「はい。なんでしょうか?」

 

 土方はあることをリンディに頼むのだった。

 

 

 海鳴市付近の海が見える堤防では、フェイトがマントをなびかせていた。

 

「本当にジュエルシードが?」

 

 フェイトは金髪を海風に揺らめかせながら、後ろにいる男に質問する。 

 

「やっぱどこ探してもないとなると、海だろ」

 

 黒い髪を逆立たせた男――パラサイトは、腕を組みながら言う。

 フェイトはまだ納得しきれない。

 

「まだ探し足りない可能性もある」

「俺の『部下たち』総動員して探させてんのに、一個も発見できねェんだ。そりゃ、海にあって然るべきだろ。つうか、ない方がおかしいと俺は思うけどな」

 

 顎に手を当てながら語るパラサイト。

 

「そう」

 

 フェイトは短く返事し、また海を見つめ直す。対し、パラサイトは片眉を上げる。

 

「んで、どうすんだ?」

「魔力を流し込んで、海のジュエルシードを一斉に発動させる。それで後は――」

 

 フェイトは憂いが伺える表情で、右手に持った刀を見た。

 すると、ニヤリと笑みを浮かべるパラサイト。

 

(そいつ)を使えば、暴走するジュエルシードが十個あろうがニ十個あろうが楽勝なはずだ」

 

 チラリと、フェイトはパラサイトに視線を向け、また海を見る。

 

「……待ってて――」

 

 憂いを帯びた表情で、フェイトは家族の名を呟く。

 

 

 

 場所は変わって、アースラの休憩室。

 

「――えッ? ……マジなの?」

 

 銀時は手に持ったDVDのケースを見て、頬を引きつらせていた。隣にいるアルフは絶句している。

 

 さすがに新八があそこまで騒ぎを起こして、いくら銀時でも無視するはずがない。

 あげく、神楽は身内だからってポロっと『リリカルなのはの事』について口を滑らす始末。

 

 それからもう、あれよあれよと銀時は土方たちを問い詰めるし、近くに控えていたアルフまで興味を示し出す。

 そんなこんなで、ようやくワケを聞き出した銀時とアルフ。

 もちろん説明を聞けば、今自分たちがいる世界は『アニメの世界』などという、ぶっ飛んだ話を真っ向から信じるはずがない。あげく、「ふざけてんのか? 本当のこと言えや。本当ならとっとと証拠みせろやコラ」とキレながら絡んでくる始末。

 

 そこで、執務室からやっと戻って来た新八にDVDケースを見せることで、二人もやっと信じ始めていた。

 

「ま、マジなのかい……銀時……?」

 

 アルフは動揺しながら問いかける。

 一応、主(仮)とするほど信頼を置いている銀時がもし本当に『自分たちの世界はアニメ』だと言えば、ある程度は信じるだろう。もちろん、並行世界と言う説を前置きにしての話ではあるが。

 

「ぼ、僕らは……いつの間にか、アニメの世界とやらに来てしまっていたのか……!?  し、信じられん……!」

 

 流れでちゃっかり話を聞いていた九兵衛も、かなり動揺している。

 

「ですが若!! これはチャンスですぞ!!」

 

 ガッツポーズして声を上げる東城歩。

 

「この世界で若が『魔法少女リリカルきゅうちゃん』になれば、女子力アップまちがいな――」

 

 東城の顎に、九兵衛の女子力(鉄拳)が炸裂した。

 一方の銀時。アルフの問いには答えられず内心で、

 

 ――そ、そうだったのかァァァァァッ!!

 

 超ビックリしていた。

 

 ――どうりで、なのはやフェイトに見覚えあると思った!! あいつら、このパッケージのキャラだったのかァーッ!! 

 

 目から鱗が取れたような、喉に引っかかっていた小骨が取れたような、そんな気分の銀時。

 

「ぎ、銀時……! ど、どうなんだい!? やっぱりあたしらの世界って……!!」

 

 銀髪がダラダラ汗を流しながらずっと黙っているので、アルフは語気を強めて再度質問する。

 銀時はチラリと使い魔に目を向けてから、ため息を吐き、そして頭をポンポンと叩く。

 

「……別に、そんな動揺することでもねェだろ。ユーノも説明したろ? ただ俺らの世界じゃ、おめェらの世界の立ち位置が、ちょっと変わってるってだけの話みてェだしな」

 

 使い魔を安心させるように頭を撫でる銀時。

 

「そう、だね……」

 

 アルフは嬉しそうに、銀時の手の温もりを味わう。

 

「ゴホンッ!!」

 

 突如、新八がワザとらしく咳払いする。

 

「まー、ちょっとショックかもしれねェけど、深く考えてもどうしようもねェさ。世界どうこうの話しだしな」

 

 そこまで言って手を離す銀時に、アルフは微笑む。

 

「そうだな、銀時」

「ゴホンッ!! ウッオホンッ!!」

 

 より強くせき込む新八だが、少し頬を赤くさせるアルフは構わず、

 

「なー、銀時――」

「ゲホォーッ!! ゴホォーッ!! ンゴホォォーッ!! ――って、アホかァァァァァァッ!!

 

 いい加減に我慢の限界らしく、新八は張り裂けんばかりの怒鳴り声を出す。

 すると、真顔に戻ったアルフはジト目を向けた。

 

「なんだよ、眼鏡。主人(仮)と使い魔が話してる時に、一々変なちゃちゃ入れて」

「そうだぜぱっつぁん」

 

 と銀時も便乗し、言う。

 

「こっちはペットの世話で忙しいんだ。風邪の訴えならお近くの薬局で――」

「風邪ちゃうわ!! 話し切り出そうとしてんのこっちは!!」

 

 新八はビシッと銀時とアルフを指さす。

 

「つうかそのラブコメみたいな雰囲気やめてくんない!! この作品はとらぶるでもニセコイでもねェんだよ!!」

 

 銀時は腕を組んで呆れ声。

 

「おいおい、ペットと語らってただけなのにラブコメ扱いかよ。童貞嫉妬眼鏡ここに極まれりだな」

「んだコラァーッ!!」

 

 と新八はキレ、

 

「いや、さっきからスルーしてたけど、ペットじゃなくて使い魔だからね?」

 

 とアルフは訂正。一方、新八はキレたまま青筋を更に浮かべる。

 

「こっちにはイチャイチャしてるようにしか見えねェんだよ!! ラブコメしたきゃ、とらぶるの世界にでも行きやがれ!!」

 

 はいはい、と銀時は飄々とした態度まま。

 

「とらぶるでもニセコイでもゆらぎ荘でも別にいいから、とっとと本題言えって」

 

 そう言われて、新八は居住まいを正して口を開く。

 

「……では、言いますけど……この事はあんまり口外しないでくださいよ? 僕もちょっと前にリンディさんから『あまり他人に喋らないように』と、注意されたんですから」

 

 ちなみにちょっと前に新八は、唇の前に指を立てるリンディから、

 

『クロノには、私があなたの話を信じた事についてはなるべくご内密に。ちょっと傷つくと思うので』

 

 と口止めもされていた。

 

 特に闇の書に関しては、ヴォルケンリッターやはやてたちどころか、現状は銀時やなのはたちにも話さない方がいいと忠告を受けたばかり。

 今はクリミナルやジュエルシードで手一杯だから仕方ないといえば仕方ない。

 

 銀時は片手をぶらぶら振りながら言う。

 

「つうか、俺ら以外でこんな話し、信じる奴なんて皆無だろ? 言ったら言ったで、ただの妄想癖のひでェ頭の変なヤツ扱いだ」

「まー、そこはリンディさんにもクロノくんにも指摘されたとこなので、言い返せませんが……」

 

 新八は少々口を尖らせるが、言ってることは正論なので反論の余地がない。

 

「ちなみに訊きたいんだけどよ?」

 

 銀時はDVDケースを持つ。

 

「コレを見たとして、この先役に立ったりすんの?」

「さーな」

 

 と言って、土方はタバコを吸いながら語る。

 

「正直ここまでDVDの内容と乖離しちまうと、予測不能もいいところだ。出てくるはずのない連中まで出てくる始末なんだからな」

「まぁでも、〝信じる〟っていう前提条件なら、結構な情報源にならないかい?」

 

 アルフの言葉に、土方は「まー、な」と返す。すると、狼の使い魔はニカっと犬歯を見せる。

 

「なら、あたしは見させてもらうよ。これからの為に、必要なんだからさ」

「もうフェイトの秘密も暴露されてるし、他人の秘密みてェなモンを知る心配もねェんだろ?」

 

 頬杖つく銀時の言葉に、新八が頷く。

 

「えェ、まァ」

「なら、情報源の一つとして、俺も見させてもらうとするか」

 

 銀時がそう言って立ち上がると、なのはが勢いよくバッと手を上げる。

 

「もちろん私の変身シーンは飛ばしてください!! 色々恥ずかしいので!!」

「えッ? なんで?」

 

 と銀時は首を傾げ、訊く。

 

「仮面ライダーと同じで、そこが一番の見せ場じゃねェの?」

「ダメなものはダメです!!」

 

 涙目で顔を真っ赤にして訴えるなのは。少女の様子を見て、眉を顰める銀時だが、パッと思いつく。

 

「あッ、もしかして……全裸になんの?」

「ッ!!」

 

 まさかの正解予想に、なのはは更に顔を真っ赤にさせてビックリ。

 銀時は右手を軽く上げる。

 

「別に俺、大人だからそんなのぜ~んぜん気にしないから。だからだいじょう――」

 

 カチャッ、と涙目のなのはが、レイジングハートの先端を銀時に向ける。気を使えない大人は汗を流す。

 

「やっぱ早送りで――」

 

 なのはの目の端に涙の粒が溜まり、レイジングハートの先端にも魔力が溜まる。

 

「すんませんスキップでお願いします」

 

 冷や汗を流す銀時は、やっとなのはが杖を下ろしたことで安堵した後に、新八に耳打ち。

 

「……新八。魔法少女の全裸の写真って、相場いくらくらいで売れ――」

 

 笑顔のアルフが、銀時の頭をガシっと鷲掴み。頭からミシミシと音が。

 

「ホントマジすんません」

 

 そんなこんなで食堂から移動し、余計な局員が来ないであろう少々広めの部屋で、DVD鑑賞会が始まった。

 

 

「――あぁ、なるほどな」

 

 エンディングまで見た銀時は、顎を撫でる。

 アルフは複雑な表情を作りながら、感慨深そうに首を垂れていた。

 

「本当に……僕たちが来ていた世界は、アニメの世界だったのか……」

 

 半信半疑だった九兵衛は、映画の内容を見て信じることにしたようだ。

 

「若ッ!!」

 

 すると、東城が必死な形相で訴える。

 

「ならば早速魔法の修練をし、魔法少女リリカルきゅうちゃんに――!!」

 

 東城のアゴに九兵衛の魔法(アッパーカット)が炸裂した。

 すると、銀時がおもむろに口を開く。

 

「ぶっちゃけ、映画の方がイージーモードじゃね?」

 

 銀時の言葉は最もだと新八も思った。

 

 フェイトは、なんか魔力を吸収するとかいう刀を手に入れてパワーアップ。あげくに母親殺したとかのたまうし、クリミナルとかいうワケの分からん犯罪集団が介入してくる始末。

 なんか、状況の難易度と複雑さが、何段階か跳ね上がったような気がする。

 

「おいおい、俺たちって、もしかして疫病神?」

 

 銀時は耳を小指でほじりながら言う。

 

 その言葉に新八は落ち込んでしまう。

 確かに、自分たちが来てからというもの、この世界の歴史のようなモノがしっちゃかめっちゃかになっている。こうなった原因が自分たちにあるのでは? と思ったことは、新八だって何度もあった。

 

 銀時はおもむろに口を開く。

 

「……俺たちって、この世界にとっちゃ、いらない存在なのかもな」

「そんことありません!!」

 

 と、なのはが銀時の言葉を即座に否定した。

 

「もう私には、映画なんて関係ありません!!」

 

 なのはの言葉を聞いて、銀時も耳をほじるのを止め、必死に訴える少女の言葉に耳を傾けた。

 

「私は、新八さん、神楽ちゃん、土方さん、沖田さん、近藤さんに、凄く助けられました!! アリサちゃんやすずかちゃんと一緒に魔導師を出来ているのだって、沖田さんと神楽ちゃんと定春くんのお陰ですし、心が挫けそうになった時は、何度も新八さんたちに励まされました!! だからいらないなんて事はありません!!」

 

 少女の言葉を聞いた山崎は、涙を流し始める。

 

(なのはちゃん……。地味に俺のこと、忘れてんだけど……)

 

 しかも、山崎の名前は出ないのに、犬である定春の名前は挙がっている事実。

 真選組一、地味な男の反応に気付かないなのはは、ムスッとした顔で。

 

「いくら銀時さんでも、そんなこと言ったら私だって怒りますよ!」

「なのは……」

「なのはちゃん……」

 

 山崎と違い、神楽と新八は、なのはの言葉に感銘を受けていた。

 小さな少女の言葉が、ともにジュエルシード集めをしてきた者たちにとっては、とても心強く、温かいモノであるだろう。

 

 銀時は頭を指でぽりぽりと掻き、

 

「……悪かった。オメェのダチの存在を否定するようなこと言って」

 

 頭を下げはしないが、自分の非を認めた。

 

 一連のやり取りと、なのはの訴えと気持ちを聞いた新八は、思わず考えた。

 彼女を主人公などと揶揄するつもりはないし、そう扱うつもりもほとんどない。が、今のなのははやはり、主人公と思ってしまうほどの風格と言うべきだろうか? そんな心強いモノを感じられる、と。

 

 銀時の謝罪を聞き、ムスッとした表情だったなのはは、ニコリと笑顔を浮かべた。

 

「はい。もう新八さんたちは、私の大事なお友達ですから。あんまり悪く言わないでくださいね」

 

 するとアルフが、眉間に皺を寄せて不満げな表情を作る。

 

「そうだよ銀時。あんたの言葉が正しいなら、あんたを認めたあたしまで否定することになるんだから、言葉には気をつけな?」

 

 でないと、と言ってアルフは牙を見せつけた。

 

「ガブッていっちゃうよ?」

「たく、ホントおっかねェのが使い魔になったもんだぜ」

 

 銀時は頬杖を付きながら言う。

 すると、ゆっくりと手が上がり、

 

「ちょっとよろしいか」

 

 全員の視線が声のした方に向く。見れば、桂小太郎が手を上げていた。

 

 え? いたの? と、この場にいる全員が思った。だって、桂はジュエルシード事件に関係ないから、まったく話に入れない人物の一人。なのに、なぜかいる。

 

「一つ聞きたいのだが……」

 

 と言って、桂は手を下ろして腕を組む。

 

「この映画の二作目に、俺の出番はあるのか? ギャラについて話したいのだが」

「ねーよ。テメェは一生ノーギャラだ」

 

 銀時は冷たくあしらうと、桂は真顔で返す。

 

「何を言う。俺の中の人の大人気だぞ。エヴァも公開してるしな。ギャラを弾まずしてどうする」

「うん。ほんと黙るかもしくは死んでくんないかな、ホント」

「つうか桂さん、なんであんたまで映画鑑賞してんですか?」

 

 ジト目を向ける新八の問いに、桂はあっけらかんとした顔で。

 

「なんか気になったから」

「あんたホント自由人ですね!! 雰囲気察するとかできません!?」

 

 と新八がツッコめば、

 

「つうか手錠はどうしたァッ!?」

 

 土方は指をビシッと突き付け、桂の手が自由になったことを指摘。

 桂は真顔で両手を見せつける。

 

「ヴィータ殿のハンマーで壊してもらった」

「よしわかった!! もう一度手錠してやる!!」

 

 土方がふところから手錠を出そうとするが、

 

「あ、あれ?」

 

 と土方は焦り、汗を流す。

 

「……手錠が、ねェ……」

 

 手錠のストックがない土方が、山崎に顔を向ける。

 

「おい山崎。テメェの手錠をよこせ」

「フハハハハハハッ!!」

 

 突如、桂は高笑いし、言い放つ。

 

「無駄だ真選組よ! 何度手錠をしようとも、その度にヴィータ殿に壊してもらうからな!」

 

 桂の説明に、土方は拳を握りしめ歯噛みする。

 

「小さな女の子頼りで、あんた情けなくないんですか?」

 

 冷めた目で新八が桂を見るが、攘夷バカはスルー。

 銀時はふと、ある事について訊く。

 

「つうかよ、ぱっつぁん。ヅラで思い出したけどよ――」

「ヅラじゃない桂だ」

「おめェ、闇のなんちゃらがどうとか言ってたけど、なにそれ? リリカルなのはになんか関係あんの?」

「ふァいッ!?」

 

 突如の質問に、新八は素っ頓狂な声を上げた。

 新八の反応など気にせず、銀時は平然とした顔でまた尋ねる。

 

「いやだから闇の~……なんだっけ? 神楽」

「闇の絵本アル」

 

 と神楽が言い、銀時が「そうそう」と相槌を打つ。

 

「闇の絵本。おめェ、それがどうとか言ってたじゃん。それなに?」

「いや闇の書です闇の書!!」

 

 新八は訂正し、銀時は再び尋ねる。

 

「いや名前は別にどうでもいいけどよ、その闇の書ってなに? おめー、やたらそれに反応してたじゃん。地球滅亡とかなんとか」

「あッ、えッ……えッ……ええっ~と……」

 

 銀時の問いかけに新八は口ごもり、視線を右往左往させ、汗をダラダラながす。

 

 

 

 今、新八は内心すんごい焦っていた。

 

 ――ヤバイヤバイヤバイ!! いま!? いま聞くの!? このタイミングで!?

 

 まさに寝耳に水。まさか闇の書について触れるどころか、もう忘れてると思ってた人物からの突然の疑問の投げかけ。しかも、まさかのこの場面で。

 

 銀時の問いと新八の歯切れの悪い態度に釣られるかのように、周りの者たちの視線が新八に集まり始める。

 

 ――ちょっとォォォォォ!? みんなめっちゃ見てる! すんごい注目してる!

 

 新八は思わず、このメンツの中で闇の書について知っている、土方へと目を向けると、

 

 ――こっわッ!? めっちゃ睨んでる!? 

 

 ほとんど人間は気づかないが、土方は新八をめっちゃ鋭い視線で睨んでいる。『オメェ、今度は余計なことを言うんじゃねェぞ?』と目で語っている。

 

 ――こェェェよ!! 土方さん!! こッッェェェェェよ!! つうかあんたのおっかない形相に山崎さんがビビッてるんですけど!?

 

 鬼の副長の鬼のような視線――というか鬼の形相に気づいて、山崎は青ざめながら怯えている。

 

 とにかく、このまま黙ってはいらない新八。黙り続ければ、余計に疑惑の念を向けられる。なんとか誤魔化すかしかない。

 はやてちゃんのためにも、ヴォルケンリッターのためにも、なのはちゃんたちのためにも、穏便な感じで説明するしかないのだ。

 

 しかしチャンスなのは、図らずも桂の説明がイイ感じに、はやてやヴォルケンリッターと闇の書の存在を紐づけせずに、切り離してるところ。

 前々回のお話しで、

 

 『FFの新アイテム闇の書……あー、こっちは分んないしどうでもいいな。俺を助けたのは、ポッと出のヴォルケンリッターたちでな』

 

 って言ってた辺りが、ちょうどよく誤魔化しになってる。

 やがて新八は息を深く吐き、コホンと咳払いしてから真剣な表情で告げる。

 

「ロストロギアなので……ヤバイ……」

 

 ――うっは! 僕、誤魔化すの下手過ぎ!

 

 内心、機転の利かない自分を自己嫌悪する。今の回答は、『自分は何か隠してます』と宣言しているようなもんだ。

 だがしかし、

 

「ほ~……ロストロギアでヤバイの? だから管理局が追ってんだな」

 

 まさかの天パが好意的に解釈してくれたので、新八の顔がパ~っと明るくなり、顔をぶんぶんと縦に振る。

 銀時は腕を組んで、なるほどなるほど、と呟きながら納得し、

 

「んで?」

 

 少し目を細める。

 

「へッ?」

「いや、『へッ?』じゃねェよ。ヤベーってどんな感じにヤベーんだよ」

 

 珍しく鋭さを発揮させる銀時の指摘を聞いて、アリサも「確かに」と言って、腕を組みながら自身の考えを口にする。

 

「ロストロギアって言うけど、種類も色々のはずよね。ジュエルシードなんかは、〝手に入れた人の願いを暴走させる〟危険なモノだし。だったら闇の書も、どんな風に危険なのかしら?」

 

 ――アリサちゃん!? 小学生とは思えない冷静な分析やめて!! 変な後押ししないで!!

 

 内心焦る新八だったが、

 

 ――もうこうなればヤケだッ!!

 

 勢いよく立ち上がり、腹をくくる。

 

「僕も詳しい設定とか能力は分かりませんが、なんかアニメで見た感じヤバかったんです! こ~描写がすんごく、ズガガーン!!  シャキーン!! ズババーン!! ジャキーン!! ズゴーン!! グワァ~ァン!! みたいな感じで――!!」

 

 身振り手振り使って、なんとか詳しい内容を伝えないようにしながら、伝える努力した。

 そして新八は最後に、ズッガドガァァァン!! と叫びながら、拳を上げてやり切った表情で、

 

 ――なにやってんだろ、ぼく? アホの子かな?

 

 複雑な感情を抱いていた。内心、涙を流している。

 なんとか誤魔化せたか? と恐る恐る銀時の顔を伺うと、さきほどまで訝し気な眼差しを向けていた天パは、

 

「なにそれ? アホの子かな?」

 

 少し引いていた。

 

 ――うっせェェェよ!! もういいよそれで!!

 

 心で涙を流しながらヤケクソになる。

 神楽は新八を指さしながら腹抱えて笑う。

 

「ブハハハハハ!! 新八!! お前、表現稚拙過ぎて、アホ丸出しネ!! おバカキャラに転向したアルか!!」

 

 ――おめェにだけは言われたくねェェ!! すんげェームカつく!!

 

 やっぱ面と向かってバカにアホ呼ばわりされるのは、心の底から腹が立った。

 

「うむ! 良くわかった!!」

 

 近藤(バカ)はなんでか自信満々に頷く。あの説明で理解できたらしい。

 

 ――近藤さんあんたよくわかってないでしょ!! まあ別にいいけど!!

 

 新八は内心ツッコミ入れながらゆっくりと座り直し、頬を引きつらせながら銀時へと問いかける。

 

「ど、どうですか銀さん? や、闇の書について、わ、わかってもらえました?」

「うん。お前が読解力なくて、アニメは美少女目当て、内容よりも美少女キャラだけに注目してる、ティッシュペーパー並みに薄っぺらい奴だって分かった」

 

 ――そこまで言う!? そこまで言うの!? 酷くない!? つうかそういう理由でアニメ見る層に失礼じゃない!?

 

 新八はあんまりにもあんまりな言い草に、青筋を浮かべながら内心歯噛みする。

 

 ――クッソォォォ……!! 僕だってなァ……!! 僕だってなァァ……!! ちゃんと〝内容にだって〟惹かれたんだチクショォォォ!! 語れるもんなら語りてェよ!! 

 

 だけど、美少女目当ては否定できない思春期新八であった。まぁ、男の子だからしょうがないよね。

 銀時は肘を机の上に置いて、掌の上に顎を乗せながら告げる。

 

「まぁ、今後出てくるかどうかも分かんねェモン気にしてもしょうがねェか。このチ〇コでアニメ見るオタクの言ってた、地球がヤベーってのも、アニメ特有の過剰表現ってことなんだろ。ドラゴンボールでもあるめェし、ポンポン星がぶっ壊れるわきゃねェしな」

 

 ――良かったァァァァ!! マジムカつくけどなんとか誤魔化せたァァァァ!!

 

 と内心安堵する時、桂が顎に手を当てながらボソリと口を開く。

 

「そう言えば、はやて殿が持ってるFFの新アイテムって、闇の書って名前だったっけ? ヴォルケンリッター殿たちが説明してくれてたよーなー……」

「あー、なんか出てきたな、お前の話に。はやてが持ってる本なの?」

 

 と銀時が反応し、新八は固まる。

 桂の話しを聞いて、眉間に皺を寄せる銀時。

 

「つうかよ~、おめェは大事なとこ説明しろよな。なんだよFFの新アイテムって。変な勘違いしやがってよ」

 

 やがて銀時は納得したように、顎に手を当て、うんうんと頷く。

 

「でも、なるほどな。ヅラとぱっつぁんの話の辻褄が合ってきたな。じゃあ、気付いてない管理局の連中にでも、忠告しとくか?」

「ヅラじゃない桂だ」

 

 ――おい桂テメェェェェェ!! 余計なこと言ってんじゃねェェェェェェ!! なんで今更そんな説明すんだァァァァァァアアアアアアア!!

 

 まさかの(バカ)の追撃に内心、怒鳴る新八。

 

 ――いまさら闇の書とはやてちゃん紐付けすんじゃねェコノヤロォォォォォォ!! 僕の努力返せェェェェェ!! 一生FFに閉じこもってろッ!!

 

 桂に呪詛の念を送る新八。むろん長髪は露知らず。

 すると土方が、

 

「ま、まー、俺が知ってる限り、闇の書の機能は大まかに説明すれば、強力な騎士と強力な魔法が手に入る。だから強力なロストロギアとして認定されてる。そんな感じらしい」

 

 汗を流しながらフォローを入れる。

 

 ――さすがフォロ方さん!! 僕より誤魔化し方が上手い!!

 

「じゃあ、闇の書については特に問題はないんですか?」

 

 なのはの問いについて、土方はタバコの煙を吐きながら答える。

 

「そこら辺はあらかじめ聞いておいたが、管理局も対応は考えているらしい。だから〝現状〟は特に問題ないそうだ。だからあんま気にすんな」

 

 ――しかも後々責められないように、上手くボカして説明してる!! さすがフォローの達人フォロ方トシフォロー!!

 

 内心、土方に尊敬の念を送る新八。

 すると近藤が、腕を組みながら意外にそうに小首を傾げる。

 

「あれ? トシ? お前、トッシーとしての記憶って持ってるの? 前にリリカルなのはの知識皆無だって――」

うォォォォォォォッ!!

 

 と、土方はドでかい声で近藤の言葉を遮って、右手で頭を抑え、声を荒げる。

 

「どうしたトシィィィィィィ!?」

 

 もちろん近藤はビックリ。土方は頭を抑えながら、声を荒げつつ語り出す。

 

「きゅ、急にトッシーの記憶がァァァァァ!! 消滅したかと思われたトッシーの記憶が俺の頭の中にィィィィィ!! ピンポイントで闇の書の情報がァァァァァァァ!! でも他の情報は霞がかかったモヤのようにふわふわであんまり思い出せないィィィィ……!!」

「しっかりしろトシィィィィィィィ!!」

 

 苦しむフリをする土方の言葉を、近藤は真に受けて必死に心配する。

 

 ――土方さァァん!? あんた痛いところ突かれると誤魔化し方が下手になんの!?

 

 付け焼刃さながらのへったくそな誤魔化し方に、内心ツッコム新八。

 一方、アリサは沖田へと顔を向け、問いかける。

 

「トッシーって?」

「伝説のオタク」

「伝説って?」

「ああ。それって土方。つまり土方は、伝説のクッソ気持ち悪いオタクってこと」

「えぇ……」

 

 アリサは若干、引く。

 

「お前なにテキトーなこと言って俺の名を貶めてやがんだ!! ちゃんと説明しやがれ!!」

 

 沖田がさらりと、とんでもない風評被害を広めようとしているので、土方は怒鳴り声を上げながら食ってかかる。

 とは言え、なんとか誤魔化せて、新八安堵。

 

 そんなこんなで、わちゃわちゃしている時だった――。

 

『みんなお取込み中ゴメン!!』

 

 部屋の中心部分の空中に、ウィンドウが出現。そこに映るのは、慌てた顔のエイミィ。

 なんだ? どうした? と少しざわめく銀時たち。

 

「……どうしたんですか?」

 

 ユーノが彼女の雰囲気を察して、真剣な表情で訊けば、エイミィは声を上げて告げる。

 

『――フェイトちゃんが現れたの!!』




第五十五話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/65.html



*質問コーナーのルールを、

『回答者が複数の場合は基本的には5人前後になります。』

『回答者が複数の場合は基本的には、5人前後、もしくはそれより少数になる場合が多いです。質問の内容と回答者の気分次第では、例外で人数が多くなることもあります。』

に変更しました。



あとこれ、本当に最近、気付いたんですけど……『魔法少女リリカルなのは×銀魂』のサブタイトルが、

『~侍と魔法少女~』

『~魔法少女と侍~』

ってなってました……。
ピクシブだと『侍と魔法少女』だったのに……。

いや、本当に気付くの遅過ぎました……。
副題を見て、アレ? なんか変だなー、って思った辺りで、「あッ……」ってなって気付きました。

まさか長い間、こん凡ミスしていたとは……。


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第五十六話:最後のジュエルシード

新八「そう言えば、ゴールデンウィーク突入しましたね」

銀時「あー、そういえばそうだな。まぁ、コロナ流行ってるから遠出なんてできねェからゴールデンもクソもねェけど」

神楽「うちの中でゴロゴロとか、テンション下がるアルなー」

新八「いや、あんたらはそもそもゴールデンでもまともに遠出せんし、そっちゅうゴロゴロしてる万年ゴールデンどころか毎日夏休みみたいな生活してんでしょうが」


 曇天の空。

 雨が降り、雷が鳴り響く。

 

「…………」

 

 巨大な魔法陣を展開させたフェイトは、目を瞑り、電気が帯電している金色の光球を自身の周辺にいくつも配置していた。

 彼女が右手に持つのは愛機――左手に持つのは、魔力を吸い取る謎の刀。

 

 ――たぶん、ジュエルシードはこの辺りにある……。

 

 連中の情報から、残りのジュエルシードが集まった区域を絞ることができた。

 

 ――後は、魔力流を打ち込んで強制発動させるだけ……。

 

「ハァーーーッ!!」

 

 フェイトが天高く戦斧を掲げれば、自分の周りに浮かばせた複数の金色の光球から、落雷のような激しい(いかづち)が海に向かって落ちる。

 すると、海から青白い光が四つ――。

 やがて四つの青白い光が柱となり、天空に向かって立ち昇った。

 

「くッ……!」

 

 自身の魔力が一気に削られてきていることを、フェイトは実感する。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 大きく息を切らすフェイト。魔力が著し減ったことによる消耗が予想よりも大きいようだ。

 やがて右手に持つ自身の相棒に目を向け、

 

「無理させて、ごめんね……バルディッシュ」

《Yes sir》

 

 いくつかの意味を含ませた謝罪の言葉。

 少女の愛機は自身を点滅させ、素直に答えた。

 

 そしてフェイトは、バルディッシュとは反対の手に持った刀に、目を向けるのだった。

 

 

「さぁ~て。自力でなんとかするか、それとも刀を使うか――」

 

 離れた場所――海面から突き出た岩に乗ったパラサイトは、上空のフェイトを見上げながら目を細める。

 

「見物だな」

 

 人外が放つ声には、言葉ほど興味という意思は含まれてはいない。

 

 

 アースラ内に甲高いエマージェンシーコールが鳴り響く。

 通信でエイミィに呼ばれた江戸組、魔導師組。両者がアースラ艦内の廊下を走る。

 一方、

 

「やっぱり、フェイトちゃんの魔力とセンスは凄いね……」

 

 海水を暴走させるジュエルシード相手に奮闘するフェイトの姿に、言葉を漏らすエイミィ。

 言葉に反応してか、クロノは腕を組みながら巨大なモニターの映像を眺めつつ、口を開く。

 

「確かに彼女の才能は本物だろう。だが、無茶のし過ぎだ。あれじゃ、封印までにはこぎ着けないはずだ」

 

 鋭い眼差しでフェイトの現状を分析するクロノ。

 すると、彼の隣に立つリンディは険しい表情を浮かべながら口を開く。

 

「えぇ……。ただそれは〝通常の場合〟なら、ですが…………」

 

 魔法関係者として各々の反応を見せるアースラの面々。

 モニターの向こう側で黒衣の魔導師が、自身に向かっていく海水の柱を避けながら戦っていれば、

 

「――フェイトちゃん!!」

 

 やって来たなのはが開口一番に少女の名を呼ぶ。

 そして彼女の後ろには仲間たちに、アルフ&銀時ペア+ヅラ。

 

「ヅラじゃない桂だ」

 

 と地の文に言う桂に神楽が「なんでお前もいるアルか?」と訊けば、「いや、なんか成り行きで」と長髪は答えている。

 

「お~……まるで映画みてェ」

 

 沖田の抑揚のない声に反応して、新八は食い気味に、

 

「いや、んな呑気こと言ってる場合じゃないでしょ!! アレ絶対フェイトちゃんヤバイですって!!」

 

 映像ではフェイトが――荒れ狂う竜のような巨大な海水の塊――に立ち向かう姿が、映し出されていた。

 新八はビシッとブリッジのモニターに指を向ける。

 

「早くフェイトちゃん助けないと!!」

「わたし、すぐに現場に行きます!!」

 

 新八の言葉に呼応するかのように、即座になのはが急いでブリッジから出ようとするが、

 

「いや、君は行かない方がいい」

 

 クロノは首を横に振る。

 

「どうして!?」

 

 なのはが食い下がると、銀時がクロノに顔を向けた。

 

「なら、あいつの自滅待ちでも狙ってんのか?」

 

 銀時の言葉を聞いて「あなたもか……」とクロノは右手で頭を抑える。たぶん今のセリフで、銀髪が映画を見たのだろう、と執務官は推測したようだ。

 

「……セオリーが通じるなら、そう答えるつもりだったが――」

 

 クロノはフェイトに目を向ける。

 

「〝今の彼女〟に、消耗を待つなんて定石は当て嵌まらないかもな……」

「えッ……」

 

 言葉を聞いて、なのははフェイトの戦う映像に目を向けた。

 

 

 フェイトは必死に襲い掛かる海流を避け続ける。

 

「ハァ……ハァ……!!」

 

 消耗した魔力、徐々に疲弊する体力。

 はっきり言って、ジュエルシードを強制的に暴走させた時点でコンディションはかなり悪い。ジュエルシードを1個封印するのだって厳しい状態だ。

 まったく歯が立たない状況に、フェイトはふい右手に持った刀を見てしまう。

 

「…………」

 

 思わず顔を歪めた時、海流の一つがまるで襲いかかる大蛇のように、フェイトの背中に向かって突撃していく。

 

「ッ!?」

 

 フェイトが気付いた時には避ける暇などなく、海流の先端(くち)は少女を飲み込む――

 

「――――ッ!!」

 

 ――ことはなく、ズバァン!! と海水の塊は四散してしまう。

 フェイトは思わず刀の刀身を盾に使って、海流の突撃を防いでいたのだ――。

 

 だが、すぐさま他の海流が別方向からフェイトへと向かって襲いかかる。

 黒衣の魔導師は苦々しげに歯を食いしばり、

 

「クッ……!」

 

 一閃――。

 

 ジュエルシードの魔力が宿った海水をフェイトが刀で斬りつけると、水の柱はまるで力を失ったように落水。

 そして彼女の中に、ジュエルシードから奪い取った魔力が満ち始める。

 

「ハァッ!!」

 

 また一閃――。

 

 ロストロギアに向かって刀を振り下ろす。すると、ジュエルシードは輝きを放つの止め、青い宝石となる。

 フェイトは海に落ちる前に、青い宝石を空中で手中に収め、他の三つのロストロギアを見据えた。

 嫌な脂汗を流しながら、凄く辛そうな顔のまま、歯を食いしばる黒衣の少女。

 

 

「なんか、フェイトのヤツ、元気になってないアルか? さっきまでヘトヘトだったのに」

 

 神楽は不可解と言わんばかりの表情で、破竹の勢いで反撃開始するフェイトを眺める。

 

「でも、な~んか顔はあんま晴れやかじゃねェな」

 

 沖田は少し目を細め、

 

「もしかして……魔力を急激に吸収して体に異常な負担が……?」

 

 リンディは右手で口元を覆い隠しながら、鋭い眼差しでフェイトの持つ刀の分析を始めていた。

 

「あの剣、想像以上の性能だな……」

「あっさりジュエルシードの封印までしちゃってる……」

 

 眉間の皺をより濃くするクロノと同じように、モニターを眺めるエイミィも呆然とした顔だ。

 

「ちょちょちょッ!!」

 

 ここで、新八が慌てて声を出す。

 

「冷静に分析してる場合ですか!! このままじゃジュエルシード全部持ってかれちゃいますよ!!」

「むしろなおのこと、なのはやクロノを行かせた方がよくねェか? なんならアリサやすずかも付けてよォ」

 

 目を細める土方は冷静に意見を飛ばす。

 

「このまま指を咥えて黙って見てるのは下策かもしれんぞ?」

「問題は、クロノやなのはさんを行かせた後、どうするかです」

 

 リンディの言葉を聞いて、銀時は顎に手を当てる。

 

「つまり今のフェイトをなんとかできそうな魔導師が、誰もいねェって言いてェのか?」

「……まだ、有効な戦術を用意できていないのが、現状です……」

 

 神妙な面持ちで言うリンディ。横のクロノもまた、悔しさと不甲斐なさが合わさったような表情で口を強く結び、顔を少し背けていた。

 すると銀時は、わざとらしく両手を軽く上げてやれやれと首を横に振った。

 

「おいおい参ったな。法を執行する人間が、ただのガキ一人相手にビビッて足踏みとはよ」

 

 クロノがジロリと銀時が睨むが、銀髪の男は飄々とした態度を崩さない。

 

「そんじゃ、そんな頼りない公僕に代わって、お侍様が行くとしますか」

 

 そこまで言って銀時は、アルフに顔を向ける。

 

「おいアルフ。俺を乗っけながらフェイトの相手をできるか?」

「もちろん。ただ言っとくけど、乗り心地は保証できないからね?」

 

 アルフは軽口を叩きながらニヤリと不敵な笑みを浮かべ、銀時もまた不敵に笑う

 

「暴れ馬じゃなくて暴れ犬ってか? 上等」

「犬じゃなく狼」

 

 二人はそのままフェイトの元まで向かおうと動き出すが、

 

「待ってください」

 

 強めの口調でリンディが二人を引き留めれば、銀時とアルフは振り向く。

 

「あなたたちの今やろうとしていることは、はっきり言って無謀です」

 

 ピシャリと告げられたリンディの言葉。対し、銀時は自身の腕を叩く。

 

「なに言ってやがる。魔法頼りの魔法少女も魔法少年もダメってんなら、腕っぷしが取り柄のお侍さんが行くのがベストだろうが」

 

 口の減らない銀時に対して、リンディはより口調を強めて言う。

 

「それはフェイトさんが魔法をまともに使えないという前提の場合です! 今の彼女は充分な魔力で魔法攻撃ができるんですよ!」

 

 銀時は舌打ちをして食い下がる。

 

「つまり、誰もあいつをなんとかできないってか? だからこのままあんたらと一緒に、俺もボーっと突っ立てろと?」

 

 するとクロノが鋭い視線を銀時に向けた。

 

「なら逆に訊くが、あなたが行ってどうなる? 返り討ちにされるだけだぞ」

 

 と言われ、銀時がまたクロノを睨んだ時だった……。

 

「フェイトちゃん……」

 

 憂いや悲しみを帯びた声で、なのはは少女の名を小さく呟く。

 

「――すごく、苦しそう……」

 

 

 

 バシュ! バシュ! と自身に向かってくる海水の柱を、フェイトは素早い剣捌きで斬りつけ、どんどん魔力を吸い取り、無力化していく。

 自身に魔力が満ちていくのが分かる。同時に思考がさだまらない。

 

「ハァ……ッ!! ハァ……ッ!!」

 

 力が高まっていくのが分かる。だが、精神がまるで落ち着かない。心がちぐはぐになっていく。

 

「ァァァッ!!」

 

 フェイトは髪をかき上げ、天に向かって声を吐き出す。

 魔力が高まる度に、高揚感が高まり、感情の制御が難しくなる。腕には痺れが出始めた。

 

「ァァァアアアァァアアアァッ!!」

 

 徐々に、体の内側がぐつぐつ煮えたぎるような、体全体が軋むような、凄く不快な感覚が体全体に張り巡らされていく。

 なんとか嫌な感覚を振り払おうと、フェイトは光の柱を出すジュエルシードに向かって突進していく。

 

「アアアアアアッ!!」

 

 一つのジェルシード封印すれば、

 

「ァァアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 また一つ、ジェルシードを封印する。

 そして残りは一つ――。

 

「ァ゙ァ゙ァ゙ッ……!!」

 

 とにかく、外から入って来る大きな魔力も、自身の魔力も安定しない。

 今の状態は不快で、苦しく吐きたくなるような、とにかく我慢できるようなものではない。腕どころか、体のあちこちから感じる、小さな痺れと痛み。

 

 不快感や不安感などあらゆるモノを吐き出すように、口から荒れた声を出し続ける。

 

 まるで自分が自分じゃなくなるような……頭がぐちゃぐちゃになるような……制御できるはずのモノが制御できない……。

 そんなワケのわからない恐怖(モノ)が、幼い魔導師を蝕んでいた――。

 

 

「フェイト……ちゃん……!?」

 

 なのはは、フェイトの戦う姿を見て目を見開いていた。

 

「フェイト、あの子……!!」

 

 半狂乱となった主に、アルフも驚きを隠せないようだ。と同時に、何かを感じたのか、悲しそうな表情と声も垣間見える。

 

「おい……本格的にマズイんじゃねェか……?」

 

 物静かだった少女のあまりの豹変ぶりに、土方も唖然としていた。

 クロノはチラリとリンディに目を向ける。

 

「……魔力を吸収し過ぎたせいで、余剰分の魔力が体に負荷をかけているのでしょうか?」

「わかりません。でも、もしそうなら……放っておけば……」

 

 リンディは憂いや焦りといった、悲哀の混ざったような複雑な表情を浮かべた。

 

「…………」

 

 新八はもうどう反応していいのか分からないのか、口を閉ざしている。

 

 フェイトの変容を目の当たりにして、ブリッジに集まった多くの人間が色んな思いを巡らしていることだろう。

 黒衣の少女がなに上、苦しみながらもあんな険しい道を進むのか。本当に狂気に染まって、自らを省みない行動なのか。

 

 そんな戸惑いが渦巻く空間の中、なのはは瞳を震わせる。

 

 ――フェイトちゃん……。

 

 もしかしたら気のせいかもしれないし、フェイトという少女に持っていた先入観から見えてくるモノなのかもしれない。

 だが、なのははには少女の頬から流れる雫が、 

 

 ――泣いてる……。

 

 彼女の気持ちを表しているように見えてならなかった。

 

 雨か海水か汗の、どれかかもしれない。それでも、黒衣の魔導師が吠え、必死に戦っている姿を見る度に……彼女が苦しみも悲しも、感情すべてを押し殺しているように見えてならない。

 なにかを必死に隠しながら――辛くても苦しくても、戦い続ける――そんな姿が垣間見えてくる……。

 

 そして、〝彼女(フェイト)の仲間〟もまた、何かを感じ始めているようで、

 

「おい、アルフ……」

 

 銀時の口から低い声が漏れる。

 

「――行くぞ」

「あぁ……」

 

 アルフもきっと自分のように何かを感じ、銀時と同じような気持ちを持っているのだろう。

 使い魔が力強く頷きながら銀時の後を追うとするが、

 

「だから待てと言っているだろう!!」

 

 クロノが銀時の腕を掴み、再び止めようとした。

 

「そもそもまとも空も飛べないのに現場に行こうというのか!? 下手をしたら大怪我だけじゃ――!」

 

 そこまで言って、クロノは言葉を止めてしまう。

 

 銀時の目――。

 感情の読み取れない深淵のような瞳から、寒気を覚えるほどの威圧感。それは、少し離れたなのはですら、はっきり感じ取れるほどに。

 リンディやアルフでさへ――いや、江戸の人間たちの何人かですら、息を飲むほどの威圧と覇気の籠った、読み切れない瞳。

 

「あんたらお役所の人間は、役人らしいやり方で最善を尽くせばいい――」

 

 銀時はクロノとリンディに視線を向け、

 

「そこのガキ共やチンピラ警察共、うちの従業員は指示に従わせたって文句は言わねェ――」

 

 なのはたち幼い魔導師たち、真選組、そして新八と神楽を見回した後、映像のフェイトに顔を向ける。

 

「――だが、俺とアルフはフェイトのとこに行く。言っておくが、あんたらの指示や命令に従うと約束した覚えもねェしよ」

「僕はあなたのために――!!」

 

 クロノは再度、銀時の説得を試みようとする。だが、

 

「俺のやろうとしてることは、確かにバカで愚直で無謀な事かもしれねェ。だけどよ――」

 

 銀時は新八から借りている腰に差した木刀の柄に、手を置く。

 

「苦しんでるあいつを見て……何もしねェなんて考えは、ねェんだよ」

 

 怠惰な銀髪の男の――今までに見たことのないくらい強い意志。

 その強さを感じさせる言葉と瞳に、クロノは押し黙ってしまったようだ。

 

 なのはにだってハッキリわかる。もう何を言っても無駄だろう、と。

 銀髪の侍は止まらない。フェイトと言う少女と対峙するまで、止まろうとしない。

 

 銀時の言葉が気になったなのはは、ゆっくりと彼に近寄る。

 

「銀時さんは、フェイトちゃんを見て……」

「どうにもあのガキ、バカな無茶始めたようだ」

 

 なのはが言葉を言い切る前に、言葉を口にしつつ銀時は映像に目を向けた。

 

「〝あんなもん〟を見ちまった以上、どうにもここで黙っていられるほど、俺は辛抱強くねェんでな」

 

 『あんなもん』――それは、なのはが見た涙のことを言っているのか、フェイトの心の奥底から隠しきれないほど溢れ出ている気持ちを察知して言ったのか……。

 

「艦長殿の言うようなことが、あいつの身に何が起こってんなら……なおさらな」

 

 なにを感じ取り、どんな意思を固めたのかわからない。

 だが、フェイトと対峙しなければいけない、という思いは伝わってくる。

 まるで、大木のように揺るがない銀時の意志――それを垣間見た気がするなのは。

 

 一方のクロノは、視線を彷徨わせた後に俯き、逡巡し、やがて決意の籠った表情を浮かべた。

 

「――なら、僕も行こう」

 

 クロノは杖を出し、バリアジャケットを纏う。

 

「クロノ執務官……!」

 

 リンディはクロノの予想外の行動に、少しだけ驚きの声を漏らす。

 執務官はアースラ艦長に決意の籠った眼差しを向ける。

 

「艦長。〝今のフェイト・テスタロッサ〟の力と能力を分析し、少しでも情報を手に入れる上でも、彼らと協力して彼女と対峙する必要があると思います」

 

 クロノの強い意志の籠った瞳を見て、リンディは目を閉じ、唇を硬く結んで思案。やがてゆっくりと目を開くと、

 

「……わかりました」

 

 〝艦長としての顔〟となった。

 決意の決まった瞳でリンディは、オペレーターのエイミィに顔を向ける。

 

「エイミィ。ゲートをフェイトさんのいる結界近くに開いてください」

「分かりました!」

 

 エイミィはすぐにパネルを操作して、ゲートを開く。そうすれば、ブリッジにあるゲートが光を発し始めた。

 そこで、

 

「私も行かせてください!!」

 

 なのはが力強く訴える。

 

「なのはさんまで……」

 

 リンディは呆れた声を出し、説得するような口調で言う。

 

「あなたは砲撃型の魔導師ですよ? 今のフェイトさんにあなたの魔法は――」

「わかってます! 私の魔法が今のフェイトちゃんに通じないかもしれないことも!!」

 

 力強い眼差しで訴えるなのはに対し、リンディも鋭い視線を向けた。

 

「なら、なぜ行こうと?」

「それでも会いたいんです!! フェイトちゃんと話をしたいんです!! 放って置けないんです!!」

 

 意思が強く、曲がることのないであろう、なのはの瞳が意志を訴えかける。

 リンディは薄く息を吐き、頷く。

 

「――今のフェイトさん相手でも対応できる銀時さん、そして高位の魔導師であるクロノやなのはさんが協力すれば、さすがに無謀とまではいかないでしょう」

 

 半分は理論的、半分は彼らの意思を汲み取ってくれたリンディ。

 すると今度は、

 

「ならあたしだって行くわ!!」

「私も行きます!!」

 

 アリサはなのはの肩に手を置き、すずかはなのはの手を取る。二人もまた、強い意思を示す。

 なのはは二人の言葉を聞いて目を潤ませ、まずアリサに顔を向け、

 

「アリサちゃん……」

「あんただけ危ないところに行かせられないっての!」

 

 次にすずかを見れば、

 

「すずかちゃん……」

「一緒にフェイトちゃんに会いに行こう!」

 

 二人に心強い言葉と表情を贈られる。

 徐々にだが、恐怖と不安が和らいでいくなのは。

 

「なら私も行くアル!!」

 

 と、ここで神楽まで便乗。

 

「いや、神楽ちゃん!! アルフさん付きの銀さんはともかく、僕ら空飛べないでしょ!!」

 

 すぐに新八が止めに入るが、神楽は止まらない。

 

「そんなもん、海に落ちたら足が水に沈む前にもう片方の足を上げて、沈む前にまた反対の足を上げてを繰り返せば大丈夫ネ!!」

「できんの!? そんなこと!? いや出来たとして空飛べなきゃ結局意味ないじゃん!!」

 

 新八はツッコム。すると、リンディはチラリと神楽を見て呟く。

 

「そういえば、神楽さんは『夜兎(やと)』という、とても〝身体能力が高く肉体が頑丈な種族〟の方なんですよね?」

「え、えェ……」

 

 新八は神楽を抑えながら戸惑い気味に頷く。

 答えを聞いてリンディは俯き、口に手を当て少し思案した後、

 

「では指示を出します!」

 

 顔を上げ、少女たちの思いに応えるように力強く指示を飛ばす。

 

「銀時さんとアルフさんを主軸に、二人をサポート! 無論、魔導師たちは魔力吸収に細心の注意を払い、近接戦を避けることを第一に考えてください! 決して、彼女の接近を許してはなりません!」

「了解!」

「「「はい!」」」

 

 クロノはビシッ姿勢を正して返事をし、少女三人も力強く頷く。

 

「そんじゃいっちょ、久々にアイツの顔を拝んでやるとするか」

 

 銀時はニヤリと口元を吊り上げた。

 

 

 バシュッ!! 最後のジュエルシードが刀で横薙ぎに一閃――。

 そして、フェイトは大人しくなったロストロギアを手中へと収め、バルディッシュへと収納する。

 

「クッ……!!」

 

 フェイトは髪をかき上げるように片目部分を空いた右手で覆い、

 

「ハァ……ハァ……ハァ……ッ!!」

 

 肩を激しく上下させる。

 やっと戦闘が終わった事に対し、内心安堵した。魔力は必要以上に充分なのに、精神と肉体の疲労が尋常じゃない。あまり余った魔力が、ゆっくり抜けて行くような感覚を覚える。

 苦しかった……。苦しくて苦しくて苦しくて苦しくて、仕方なかった……。

 だからなのか、思わず呟いてしまう。

 

「アルフ……銀時……」

 

 今まで自分の側にいてくれた人たちのことを――。

 息を荒くするフェイトの頬には、涙腺から出たモノか雨水か分からないが、水滴が通った跡があった。

 

 

 

「あ~りゃりゃ……」

 

 海面に突き出た岩の上から空を眺めるのは、パラサイト。

 

「拒んでるせいか、色々問題起きてそうだな……ありゃァ」

 

 パラサイトは上空のフェイトを見ながら「頑固なガキだな……」と呟き、頬を掻く。

 

「アレ、さすがに大丈夫か? これだとさすがになァ……」

 

 などとパラサイトがぶつぶつ言っている時、

 

「ん?」

 

 自身の背後に何者かの気配を感じた。

 

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 肩で息をするフェイトは、ゆっくりと呼吸を整えた後、おもむろにさきほどまで使っていた刀を見る。

 

「…………」

 

 なんとも言えない表情でフェイトが刀を見ていると、

 

「随分お疲れじゃねェか」

「ッ!?」

 

 後ろから聞き覚えのある声が聞こえ、フェイトは驚く。

 咄嗟に振り返れば、少し離れた位置――木刀を肩にかけ、不敵な笑みを浮かべる銀髪の男が狼に跨っていた。

 

「ぎん、とき……! アルフ……!」

 

 目を見開くフェイトは、二人の名を呟く。

 

「よォ~。ひっさしぶりだな、フェイト」

 

 銀時はニヤリと不敵に笑いながら、軽く右手を上げて振る。

 

「フェイト……」

 

 狼の姿で表情こそ分かりづらいものの、アルフの声が憂いを帯びているのが感じ取れた。

 フェイトはひとしきり視線を左右に泳がせた後、後ろを振り向いて立ち去ろうとするが、

 

「おっと待ちな」

 

 素早くアルフが移動し、銀時がフェイトの顔の横に木刀の刀身を突きつけた。

 

「わりィが、行くならおめェがその手に持った物騒なモンは、置いていきな」

 

 フェイトは顔を少しだけ後ろに向けて、冷たい眼差しを銀時に向ける。

 

「銀時、わかってるよね? 私はあなたたちに構ってるほど暇じゃない。そんな余裕もない」

「そうつれねーこと言うなよ。まー、銀さんとしちゃ、おめェの気持ちも尊重してやりてェところだが、過労死しそうなおめェを放って置くのも、一ジャンプ主人公として見逃せねェんでな」

 

 軽口を叩く銀時。

 刀の柄を持つフェイトの手に力がこもり、

 

「ッ……!」

 

 フェイトは刀を振って木刀の刀身を弾いた後、数歩分後ろに後退。

 

「言っとくけど、邪魔するなら手加減するつもりはない!」

 

 フェイトは刀の切っ先を銀時とアルフに向け、鋭い眼光を向ける。

 

「おっと待ちな」

 

 銀時は左手を出してフェイトに制止を促す。

 ニヤリと口元を吊り上げた銀時は、

 

「血気盛んなのは結構だが、喧嘩すんのは役者が揃ってからにしようぜ」

 

 まるで遥か上空を指すように人差し指を立てる。

 訝し気な表情を浮かべながらも、フェイトは指の先を追うように視線を遥か上空と向けた。

 

 

 桃色、赤色、紫色の三つの光が、上空で小さく輝く――。

 

 三つの小さな光――三人の少女は、強い風を全身に受けながらも、まっすぐフェイトたちの元へと急降下していく。

 そして、光のうちの一つ――なのはが声を出す。

 

「いくよ。レイジングハート!」

《All right!》

 

 愛機の答えを聞いた後、なのはは一緒にここまで付いて来てくれた二人に顔を向ける。

 

「がんばろう! アリサちゃん! すずかちゃん!」

「もちろん!」

「うん!」

 

 親友二人も急降下しながら力強く答えた。

 

「行くわよエンシェント・フレイア!!」

《もちのろんです!!》

 

 アリサは相棒をしっかり握りしめ、

 

「がんばろう……! エンシェント・ホワイト!」

《この身はあなたと共に》

 

 すずかはパートナーを胸の近くで抱きしめる。

 

 急降下していく中、自然となのはは目を瞑り、最初に自分が魔法の力を手に入れた時――相棒を起動させるための言葉を思い出す。

 

「風は空に、星は天に、輝く光はこの腕に――」

 

 そうすれば、

 

「火は大地に、光は炎に、赤き焔はこの身体に――」

「水は海に、輝きは氷に、白き息吹はこの背中に――」

 

 アリサとすずかもまた、心に言葉が自然と浮かび、紡ぐ。

 

「不屈の(こころ)は――」

「消えぬ(こころ)は――」

「砕けぬ(こころ)は――」

 

 三人の魔導師(しょうじょ)がおのが相棒(デバイス)を掲げれば、

 

 ――この胸に!!

 

 声は一つとなる――。

 

「「「セットアップ!!」」」

 

 そしてそれぞれが、桃、赤、紫の光に包まれるのだった。

 

 

「ッ!!」

 

 フェイトは目を見開く。

 

 曇天の空から――まるで暗雲を晴らすかの如く、太陽の光を浴びて――三人の魔導師が降り立つ。

 一人は赤い宝石が先端に付いた杖を携え、一人は炎の剣を持ち、一人は槍を構えていた。

 

「さァて……役者が揃ったぜ」

 

 アルフの背に立ち上がる銀時が口元を吊り上げれば、

 

「…………」

 

 フェイトの視線がひと際するどいモノとなる。

 

 一方は、魔力を吸収する刀を持つ黒衣の魔導師。

 一方は、魔力を持たない侍と狼の使い魔、そして三人の幼い魔導師。

 いま、対峙する――。

 




第五十六話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/66.html


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第五十七話:魔導師と侍の共同戦線

銀時「ジュエルシードが全部出揃った――っていうかよー、全部出てくんのにここまで時間かかるとかマジかよ……」

新八「いやホント、ここまで来るまで長かったっすね……」

なのは「はい……」

銀時「つうかここからフェイトと対決とか時庭園突入とかイベント残ってんだろ? ヤベーな、いつになったら無印おわんだよ」

新八「いやそれは原作の無印ですからね? っていうか作者に聞いてください。つうか僕も知りたいです」

神楽「無印であと数年は戦えるアルな」

銀時「やめろ。マジでそうなったらどうすんだよ」


「呆れたな。魔法が効かない相手にあいつら何する気だ?」

 

 海から突き出た岩の上に立つパラサイトが、片眉を上げながら声を漏らすと、

 

「捕まっている割に随分余裕だな?」

 

 クロノは杖を後頭部に突き付けながら鋭い視線を犯罪者に向ける。

 執務官に奇襲を受けたパラサイトは、両手両足にバインドを受けて身動きが取れない状態にされていた。人外の犯罪者は自身の状態を見て舌打ちする。

 

「チッ……仕事してねェじゃねェか……」

「…………。仕事? なんのことだ?」

 

 少々ワザとらしく見えるかもしれないが、クロノは訝しげに片眉を上げた。たぶん敵が言っているのは、アースラに送り込んだスパイのことだろう。

 パラサイトは問いに対して返答せず、おもむろにニヤリと口元を吊り上げる。

 

「まー、いい。せいぜい局員共が来るまで、拝見させてもらいましょうか。連中がどうするのか」

 

 

「さ~て、役者が揃ったぜ」

 

 アルフの背中に立つ銀時は、ニヤリと不敵な笑みを浮かべながら木刀の切っ先をフェイトに突きつけた。すると、アルフが声を漏らす。

 

「銀時。カッコつけんのはいいけど、そろそろ立つのやめてくんない? さすがに背中が痛いから」

「あ、わり」

 

 銀時はすぐにアルフに跨り直す。

 

「もう、しまらないわね……」

 

 そんなアルフと銀時の様子を、少し離れた所から見ていたアリサはため息吐く。バリアジャケット姿の彼女は、なのはに念話を送る。

 

【意気揚々と出てきたのはいいけど……なのは、あたしたちの魔法はたぶんフェイトに通じないわよ。それでもあの子とこのままぶつかるの? 一応、作戦があるとはいえ、それが成功するかもわかんないし】

【アリサちゃん、私の目的は戦うことじゃないよ】

 

 言葉を聞いてアリサは眉間に皺を寄せ、なのはは落ち着いた声で。。

 

【フェイトちゃんとお話しをするために、来たんだから】

【でも、話を聞いてくれる雰囲気じゃないわよ? 今のあの子】

 

 すんごい睨んでくるフェイトを見て、なのはは静かながらも強い意志の込められた念話を返す。

 

【たぶん、ぶつかる事になると思う――だけど構わない。話をして、フェイトちゃんの気持ちを確かめたい。ただそれだけなの】

 

 するとすずかが『わかった』と念話し、なのはの気持ちを汲み取るように言う。

 

【なのはちゃんが納得できるように私もサポートするよ】

【まぁ、とことんやんなさい。あんたはそういう子なんだし】

 

 アリサも苦笑しながら答えた。

 

【ありがとう。すずかちゃん、アリサちゃん】

 

 なのはがお礼を念話で言う頃には、三人は銀時に並ぶようにフェイトの近くまでやって来る。

 

「高ランクの魔導師が三人……。でも、数を揃えても、今の私には勝てる見込みはないよ」

 

 鋭い視線をフェイトに向けるられる銀時は、飄々とした口調で話す。

 

「俺の国にはよー、『三人集まれば文殊の知恵』って言葉があんだよ」

「つまり……?」

 

 フェイトが小首を傾げ、銀時は平然とした顔で。

 

「魔法少女としてはクソの役にも立たないから、せめて知恵くらい出してね、ってこと」

「いやまったくフォローになってない!! しかも意味違うし!!」

 

 とアリサはツッコミ入れ、フェイトは鋭い眼差しを向けながら刀を構える。

 

「……これ以上、銀時の話に……付き合うつもりは――!」

 

 フェイトが臨戦態勢に入った時――、

 

「フェイトちゃん!」

 

 なのはが声を上げ、さらに一歩前に出た。

 名を呼ばれたフェイトは構えを解かず、返事もしない。が、白い少女は話し続ける。

 

「どうして……そんなに悲しそうなの?」

「ッ!? ……なんの話だ?」

 

 一瞬の動揺を見せるフェイトだが、すぐに視線を鋭いモノへと戻す。

 なのはは瞳を伏せ、

 

「だって、フェイトちゃん……その剣を使ってジュエルシードを回収している時……」

 

 握りしめた右手を胸の前に置きながら、悲しみが混じった声で言葉を紡ぐ。

 

「すっごく辛そうで……苦しそうで…………今にも――」

「うるさい! 黙れッ!!」

 

 なのはの話しを振り払おうように、左手を振るフェイト。黒衣の少女の、射殺さんばかりの強い眼光と言葉。

 一瞬、なのはは怯んで言葉を詰まらせてしまう。

 

「――君には関係ない!!」

 

 フェイトは鬼気迫る凄まじい形相でなのはを睨む。

 黒衣の少女のあまりの気迫に、白い少女は少し後ろに後退してしまいそうになる。

 

 フェイトちゃんとは、やっぱりわかり合えなのかな……、――と、なのはは心の底奥で小さく思った時、ポンとなのはの背中を誰かが軽く叩いた。

 

 なのはが自分の背を押してくれる人物の顔を見れば、銀時の顔が瞳に映る。銀髪の侍は、意思の篭った眼差しをまっすぐに向けていた。

 口からは何も発さないが、その目は「自分の気持ちは最後まで伝えろ」と言わんばかりに、まっすぐになのはの顔を見つめているのだ。

 

 そして今度は、なのはの右肩をアリサが叩き、

 

「決めた事くらい、最後までやり遂げなさい」

 

 フェイトを見据えながらも力強い言葉をかけてくれる。

 アリサの方に顔を向ければ、すずかの顔も目に映り「頑張れ」と口を動かして、励ましてくれる。

 

 そうだ。今の自分には仲間が、友達がいる。なにより、フェイトと話したいという理由だけが、今の自分を突き動かしているワケじゃない――。

 

 なのはは、フェイトにゆっくりと顔を向け、強い思いの宿った眼差しを相対する少女へと送る。

 

「ッ……」

 

 また向かってくるかのようななのはの意思に、フェイトは少し怯んだように表情を変化させるが、すぐに眼光を鋭くさせた。

 フェイトは手に持つ刀に、魔力で作り出した電気をバチバチと纏わせ、戦闘の準備を始める――が、なのはは構わずに口を開く。

 

「――フェイトちゃんは、なにを〝隠しているの〟?」

「ッ……!?」

 

 なのはの問いにフェイトは一瞬呆け、銀時とアルフは少し驚いたように「おっ」と声を漏らしている。だが、なのはは銀時とアルフの変化には気付かない。

 動揺を見せたフェイトだが、すぐに表情を険しいモノへと戻す。

 

「……なんの……ことだ?」

「フェイトちゃん、ずっと……なにかを押さえつけているみたいに、なにかを隠しているみたいに、戦ってる……」

 

 なのはの言葉を受け、フェイトは俯いて顔を逸らし、表情を隠す。

 

「違う……」

「苦しいって、悲しいって、気持ちが溢れ出すのを、必死に我慢しているように見えた」

「違う……!」

「フェイトちゃんの戦っている姿を見て……私はどうしても、フェイトちゃんが戦わなきゃいけない本当の理由が、あるんじゃないかって――」

「違う!」

 

 フェイトはなのはに喋らせんと言わんばかりに、左手をかざして一発の魔力弾を放つ。

 だが、アリサが咄嗟になのはの前に出て、右手をかざして赤色の防御魔法を展開し、金色の弾を防ぐ。

 

「悪いけど、そう簡単に友達を傷つけさせないわよ?」

 

 炎剣を持つ少女は勝気にニヤリと笑みを浮かべた後、後ろにいるなのはに顔を向ける。

 

「あんたの気持ち、最後まで伝えなさい。ちゃんと手伝ってあげるから」

 

 安心させるような笑みを見せる友達の励ましに、なのはは嬉しそうに「うん」と頷いた後、ゆっくりとアリサの横に並んで、

 

「――私には、フェイトちゃんがまるで〝悪い人を演じている〟みたいに見える」

「……ッ! 君の勝手な思い込みだ!」

 

 フェイトはまたなのはの言葉に一瞬の動揺を見せるが、すぐに歯をギリッと噛みしめ、キっと鋭い視線を向けた。

 しかし、なのはは怯まずに言葉を送り続ける。

 

「なら、アルフさんのことは? アルフさんが消えないように、銀時さんに首輪を渡したんだよね?」

「アルフには、ただ、情けを与えただけ。可哀そうと思ったから、気まぐれであの首輪を、銀時に渡したんだ。捨てられた……アルフを……銀時がどうせ拾うだろうと、考えたからに……過ぎない……」

 

 冷酷な言葉とは裏腹に、苦しそうに絞り出したフェイトの言葉を聞いて、なのはは「そっか……」と呟き、手に持った杖をギュッと握り絞める。

 そして、フェイトは苛立たし気に、

 

「君はなぜ、そうも頑なに私を善人扱いしようとする? 銀時以上に、私のことなんてまったく知らないはずだ」

「そう……だよね……」

 

 なのはは俯き、自嘲気味に笑みを零す。

 

「私は、フェイトちゃんのことについて、〝本当に何も〟知らないよね……」

「だったら――」

「でもね」

 

 なのははフェイトの言葉を遮り、チラリと銀時に目を向けて、

 

「――フェイトちゃんのことを〝ちゃんと知っている人たち〟が居る。そして、私はその人たちの言葉を信じたい」

 

 フェイトへと視線を戻し、強い信念を心に宿しながら想いを紡ぐ。

 なのはの気持ちを聞き、フェイトは視線を下に向け、物憂げな表情で語る。

 

「……私は、変わった。母さんを……。殺した……時から……! ――もう、以前の、私じゃないッ……!」

 

 血が出るほど歯を噛みしめ、震える声で忌々し気に言葉を吐き出し、フェイトは頭を何度か横に振る。そして、なのはに刀の切っ先と、激情の隠し切れない眼差しを突き付けた。

 

「ジュエルシードを全部渡して去れ! 戦うなら、君や仲間の命の保証は一切しない!」

「逃げないよ」

 

 なのはも返す――静かだが、たしかな揺るがない感情と意思を。

 

「フェイトちゃんからも、ジュエルシードからも――その剣からも」

 

 フェイトは噛み締めた歯をギリッと軋ませ、苛立たし気に、

 

「怖くないのかッ!!」

「怖い! でも、私はこのまま背を向ける方がもっと怖い!!」

 

 だが、負けじとなのはも言葉を返す。

 

「ッ……!」

 

 なのはの主張にフェイトが怯んだ様子を見せれば、更にアリサとすずかも続く。

 

「悪いけど、私だって黙って倒される気は毛頭ないわ!」

「ちゃんとみんなでこの事件を終わらせようって、決めたの!」

 

 負けないと言わんばかりに、アリサはビシっとフェイトに指を突き付けた。

 

「それに私もすずかも、なのはと同じであんたの言動には全然納得できないの!」

「魔法が効かない剣を使ったって、私たちは止まらないよ!」

 

 手に持つ槍型のデバイスをギュッと握って、すずかも言い放つ。

 

 三人の揺らがないまっすぐな意思。それを受けて、フェイトは俯き、柄を持つ手に力が入り始めた。

 やがてなのはは自身の胸に手を当て、静かに――、

 

「私は、どうしてもフェイトちゃんが苦しんでいるにように見えちゃう。そんなフェイトちゃんを、どうしても放っておけない。ジュエルシード集めだって、このまま投げ出したくない。なにより――」

 

 だが、強く――、

 

「フェイトちゃんの気持ちを知らなくちゃいけないって、自分の気持ちを無視できないから――!」

 

 揺らがない気持ちをぶつけた――。

 対し、フェイトは唇を噛み、刀を握りしめる手が震え始める。

 

「黙れッ……!! これ以上……私を……まよわせ――!」

 

 フェイトは思わず何かを言いかけそうになるが、ハッとして頭を横にブンブン振り、自身の頭を右手で抑え込む。

 やがて金髪の少女は、自身の周りに電気を纏った金色の球体をいくつも展開。

 

 黒衣の少女の予備動作を見て、銀時は木刀を構え、アルフも身を低くする。なのはたちは素早く銀時たちの前に躍り出た。

 

「もう……私に……」

 

 頭を抑え、瞳を潤ませるフェイトは、

 

「――構うなッ!!」

 

 声を張り上げると同時に、空いている手を振って展開した魔力弾を一気に放つ。

 アリサ、すずか、なのはは利き手をかざして防御壁を展開し、自分たちと後ろの二人を魔力弾の雨から守る。

 

「わっかりやすい子ね!」

 

 声に呆れを混ぜつつ、アリサは勢いよく炎剣を構え、

 

「うん。私もなんだか、やるべき事が見えてきたが気がする」

 

 すずかは静かに力強く頷いて、穂先がコウモリのような形に分かれた三又の槍を構え、

 

「フェイトと戦うつもりなんて毛頭ないけど、引き下がる気も毛頭ないよ。とことん食らい付くとこまで食らいつくから!」

 

 アルフは身を低くし、

 

「そんじゃそろそろ、俺らの初めての喧嘩……おっぱじめるか?」

 

 不敵な笑みを浮かべながら銀時が木刀を振りかぶる。

 

「フェイトちゃん……」

 

 なのはは、自身の気持ちの必死に隠し通そうとしているフェイトを見てか、すぐにデバイスを構えようとしない。

 すると銀時がなのはに顔を向け、

 

「なのは、おめェも覚悟決めろ。好きなだけ『おはなし』したきゃ、やることやってからだ」

 

 発破をかけると、なのはも表情を引き締め、デバイスを構える。

 

「はいッ!!」

 

 暗雲の空の下、ついに両者が――激突する。

 

「――ッ!!」

 

 フェイトが開戦とばかりに、展開した金色の魔力弾を五人に向かって一斉に放つ。だが、なのはが前に飛び出し、巨大な防御壁を作って全員を魔力弾からの雨から守った。

 続けてアリサが一気に前に飛び出し、

 

「ホントあんたの防御は凄いわね!!」

 

 フェイトに距離を詰め、炎の剣を振り下ろす。

 

「無駄だッ!!」

 

 フェイトが刀でアリサの剣を防げば、たちまち魔力が吸収された上に、纏わせた炎どころが実体剣も維持できなくなってしまう。

 刃が無残に砕け、力を入れる対象がなくなったことで、アリサが前のめりに体制を崩す。

 

 目の前のアリサで、一瞬視界を遮られ気づかなかったフェイトが、すぐにあることに気付く。

 炎使いの少女の後方には、アルフ〝しか〟いない。使い魔の背に乗っていたはずの銀時の姿がなくなっていた。

 直感に従うように、咄嗟にフェイトが上を見れば、木刀を振りかぶった銀時の姿が――、

 

「ッ!」

 

 銀時が空を飛べないことは彼女だって分かっている。だからアルフに乗ったまま戦う、と予想したことだろう。

 不意を突いたとはいえ、まさかの開幕早々で自殺行為に近い特攻。フェイトも驚いたようだ。

 

 フェイトに気付かれたのも構わず、銀時は木刀を振り下ろす。

 一瞬、フェイトは刀で迎え撃とうと手を一瞬動かすが、即座に後ろに後退してやり過ごそうとした。これで木刀は体に掠ることもなく、銀時の体はそのまま海に落ちていくだけ。

 

 彼女の予想通り、銀時は空気を切りながら落下。

 

「ッ……!」

 

 だがフェイトは、目の前で落ちて行く銀髪の男の顔を見て、気付いたようだ――意地悪く笑っていることに……。

 

「――氷の歌」

 

 槍の刀身の表面に引いた光の弦を、すずかが氷の爪で奏でるように弾くと、音の波が拡がるように周辺の海が凍りだす。

 あっと言う間に、周辺一帯は氷山のように分厚い氷塊と化した。ちなみにだが、クロノたちのいる地点を避けて氷は形成されていく。

 

「氷の足場……!」

 

 自身の足元までせり上がった氷の舞台に、フェイトが若干驚く。どうやら、銀時たちの狙いを予想したようだ。

 銀時が立って戦いができるフィールドを作る、これが狙いだろうと。

 

「問題ない……!」

 

 だが、フェイトは落下していく銀時になど目もくれず、空で戦える魔導師の少女たちや使い魔に視線を戻す。

 彼女はすぐに結論付けたのだろう。銀時が地面に立てたとしても、木刀の刃が自分に届くことなど――、

 

 ガキンッ!!

 

 フェイトが左手に持った刀に、強い衝撃が撃ち込まれた。

 

「ッ!?」

 

 驚くフェイトが反射的に左に目を向ければ、空中に回転する木刀と、手から離れた刀型のデバイス。

 

「なッ!?」

 

 完全に不意をつかれたであろうフェイトは、驚愕の表情で目を見開く。

 

「おいおーい! 銀さんが遠距離攻撃できないと思ってたのかー! フェイトちゃ~ん!」

 

 露骨に憎たらしい声を出しながら、銀時は氷の地面に着地。

 さきほど落下中の彼は、フェイトの視線が外れた隙をついて、下側から木刀を投擲したのだ。

 

 唯一の武器を躊躇なく投げる戦法――さすがのフェイトも予想だにしていなかったようだ。

 

 空中に放り出された刀――目の前の光景に唖然とする黒衣の魔導師。

 完全に意識外の攻撃だったのだろう。満足に力を入れてなかったのか、刀はフェイトの手から容易に飛ばされていた。

 

「しまッ!!」

 

 フェイトの手から完全に離れた刀――それは空中でクルクルと回転した後、落ちて、氷の地面へと突き刺さる。

 

「やったッ!!」

 

 なのはは両手でガッツポーズ。なにせ、フェイトの手から厄介な武器を取り除くことができたのだから。

 氷の地面に刺さった刀を見て、アリサは不可解そうに眉をひそめる。

 

「あれ? なんで刀が刺さってるのに、すずかの氷が消えないの?」

 

 銀時の不意打ちは聞いてたが、すずかの作った氷が無事なことはアリサにとって予想外だったようだ。

 

《どうやらアレは〝魔力でできた氷〟ではなく、〝氷結魔法の冷気で作った氷〟のようですね》

 

 疑問にフレイアが答えれば、

 

「なるほど! つまりあれは〝ただの氷〟なのね!」

 

 すぐさまアリサは納得する。

 魔力を用いて自然現象と同じように作った氷。だから魔力は宿っておらず、魔力を吸われることもなく、消滅することもない、と少女は理解したのだろう。

 

《ホワイトちゃんの入れ知恵ですね、すずかさん!》

 

 とフレイアが言えば、すずかは「うん!」と笑顔で答えた。

 

「まだだッ!」

 

 フェイトが素早く刺さった刀を取りに行こうとするが、

 

「させないっての!!」

 

 素早くアルフがフェイトを羽交い絞めする。

 

「アルフッ!?」

 

 フェイトは驚愕の表情。

 正直、このようにアルフがフェイトの行動を邪魔する場面など、中々見れるものではないだろう。

 

「サンキュー犬っころ!!」

 

 と銀時が言えば、

 

「狼だッ!!」

 

 アルフからいつもの言葉を受けつつ、銀時はすぐに刀の元に向かう。

 

「銀時ッ!? アルフ離してッ!!」

 

 銀時の行動を見てフェイトは必死の形相で暴れ出すが、力で彼女がアルフに勝てるはずがない。

 フェイトの抵抗むなしく銀時は導かれるような自然な動作で、ついに刀の柄を握った。

 

「ダメェェェェェェッ!!」

 

 喉が張り裂けんばかりに叫ぶフェイト。が、銀時は氷から引き抜いた刀の切っ先を、上空のフェイトに向けて得意顔を作る。

 

「へッ! これでチャックメイ――!」

 

 突如――銀時の頭に〝ナニカ〟が流れ込んでくる――。

 それはまるで、大量の情報のようなモノが、頭、精神、果ては体を浸食するかのように。全神経に絡みつくかのような感覚。理解できない未知の不快感。

 どんどん自分の思考も心も魂でさへ〝ナニカ〟が埋め尽くそうと押し寄せて来た。

 

「――――――!!」

 

 叫び――。

 頭を抑えた銀時が、目を血走らせ、苦しみ、叫ぶ――。

 

 

 

「「銀ちゃん(銀さん)!?」」

 

 神楽と新八は、銀時の変化を見て声を上げ、

 

「おい!! 足場は出来た!! さっさと俺たちも転送しろ!!」

 

 一方の土方はパネルを弄るエイミィを急かす。

 

「待って待って!! 武装隊員を送ってる最中なの!! まだジャミングのせいで、新しい魔法陣を展開するのにも苦労してて!! だから数人に小分けしてしか送れない上に、場所も離れたり、バラつくし!!」

 

 このジャミング、かなり厄介!! とエイミィが汗を流しながら、忙しなくパネルを指で叩く。

 チッ! 連中も後方支援が分厚いみてェだな! と土方は苛立たし気に舌を打つ。

 

「魔導師も必要だろうが、なのはたちの援護も必要だ! 魔法ナシで戦えるヤツを氷の上に送る準備をしてくれ!」

「それもダメ!! 氷の上に転送するための魔法陣を展開しようとしてるんだけど、ジャミングのせいで上空にしか転送できません!! 出来たとして、限界ギリギリで離れた場所に一人だけしか!!」

 

 エイミィの説明を聞いて、近藤は「それでも構わん!!」と強く言い放つ。

 

「緊急事態だ!! 多少の危険は覚悟しよう!!」

「地上数十メートルからのダイブですけど大丈夫ですか!?」

 

 とエイミィが言えば、

 

「すんません無理です!!」

 

 近藤はすぐさま辞退。次に沖田がビシッと言い放つ。

 

「よし土方! ゴートゥフライ!」

「ゴートゥフライしたらそのままゴートゥヘルだろうが!! 俺に死ねってか!!」

「逝け土方! 五体四散だ!!」

「ポケモンみたく命令すんな!! 行ったら最後、永遠の戦闘不能だろうがッ!!」

「なら渡りに船じゃないですか~。役に立たない土方もゴーストタイプに進化して、ぶつり無効で多少はマシな戦力になりますぜェ」

「ならまず、お前のHPを0にしてやろうか?」

 

 などと真選組の面々もあーだこーだと騒ぎ。

 一方、リンディは口元を手で覆い思案に耽っている。やがて、艦長はチラリと神楽へと視線を向けるのだった。

 

 

 

 

「がァァアアアアアァァァアアアアアアアアアアッ――!!」

 

 銀時は自分の中に入って来るモノを振り払うように、頭を抑えながらやたらめったら刀を振り回す。

 

 混乱し、かき乱される思考の中、銀時はようやく理解できた。

 フェイトの様子がおかしかった大部分の理由は、決して刀が魔力を吸って体に異常をきたすからでも、敵に脅されて嫌々言う事を聞かされていたからでもない。

 この刀のナニカが――自分の思考や体に侵入し、浸食してこようとするからだったのだろう。

 

「銀時さん!!」

 

 心配するなのはが駆け寄ろうとするが、アリサが慌てて止める。

 

「だ、ダメよなのは!! 今の銀時は危ないわ!! 近寄ったらあなたまで斬られちゃう!!」

「でも!! でもッ!!」

 

 それでもなのはは銀時を助けるために近寄ろうとするが、

 

「来るんじゃねェェェエエエエエッ!!」

「ッ!!」

 

 銀時の張り裂けんばかりの声に動きが止まってしまう。

 

「銀時!! ソレを離してッ!!」

 

 フェイトが必死の形相で銀時を説得するが、

 

「ふざけんじゃねェェェェェッ!! テメェに!! こんなもん!! 渡せるワケねェだろォォォォォォォォォォッ!!」

 

 銀時は必死の形相で頭を抑え、目を血走らせ、鼻や目から血を垂れ流し、声を発する度に口から血が噴き出す。

 

 手に持った刀は決して、魔力を吸い取るだけじゃない。もっと別のナニカが存在する。

 そのナニカがフェイトから引き離した自身を排斥しようとしているのか、それとも浸食しようとして支配しようとしているのか、分からない。だがなんにせよ、精神にも体にもダメージを与えていることは確かだ。

 

 まさかただの魔力吸い取り棒だと思っていた武器が、実はこんなに厄介なモノだと想像できなかった。持つんじゃなくて、海に蹴り捨てればよかったのだと、銀時は今さながらに自身の短慮を後悔してしまっている――いや、あの時から自然と刀に操られていたのか?

 

「だったら遠くに捨てればいいじゃないかッ!!」

 

 アルフが悲痛な声でもっともな意見を訴えるのだが、

 

「それが、できれば――やってんだァァァァァァァ……ッ!!」

 

 銀時は必死に声を捻り出す。

 対して、アルフは銀時の言ってる意味が分からないのか、唖然とし、汗を流していた。

 

 銀時自身、捨てようにも捨てられないのだ。一度持ったら、指が言う事を効かず、まるで柄と手を溶接されたような気分になる。

 だが――フェイトに渡せばこの苦しみから解放される――と感じるが、そんなことするつもりは、毛頭ない。

 

 

「銀時ッ!?」

 

 杖を構えたクロノは、自身の頭の高さほどある氷のステージから聞こえた、銀時の叫びを耳にして驚きの表情を浮かべた。

 

「あ~ぁ。あのガキ、刀落として、しかもあの銀髪が取っちまったのか。たく」

 

 まぁ、これもある意味予想通りとも言えるか? と、バインドで手足を拘束されたパラサイトが疲れたように呆れた声でボヤく。

 呟きを聞いたクロノが、杖をパラサイトの後頭部に突き付ける。

 

「なんの話だ!? 彼――銀時は、一体なにに苦しんでいると言うんだ!」

「さーなー? 自分の目で確かめればいいじゃねーか」

 

 とぼけた返事をするパラサイトに対し、クロノは「くッ!!」と歯噛みするしかない。

 このクリミナルの幹部であろうパラサイトを拘束した機会を逃せない、と判断しているクロノ。彼は動けない自分の状況に苛立ちさへ覚えていた。

 

「まァ、ちょいと色々予想外だが、これならもろもろの手間が省けそうだな」

 

 パラサイトはニヤリと笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ァ゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッ!!」

 

 頭と体の中に入って来るモノを追い出したいがために、銀時はガンガンガンガン!! と氷の地面に頭を何度も打ち付ける。額から血が噴き出すのも構わず。

 

「でて――いきやがれぇ゙ぇ゙ぇ゙ぇ゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ッ!!」

 

 ひと際ガンッ!! と銀時が頭を氷の地面に叩きつけ――鮮血が当たりに飛び散る。

 

「銀時……」

 

 苦しみ悶える銀時の様子に、アルフは呆然自失となっていた。

 フェイトはアルフの拘束が緩んだことに気付くと、すぐさま彼女の手から逃れる。

 

「フェイトッ!?」

 

 アルフが慌てて手を伸ばして主の名を呼ぶが、黒衣の魔導師は一目散に飛んで向かう。

 フェイトは飛び込むように銀時に突っ込み、手から刀を無理やり奪い取り、氷の上を転がった。

 

「ダメだよフェイトォーッ!!」

 

 主が得体の知れない刀をまた持ってしまったことに、アルフは悲痛な上げた。

 

「ッ……!! ――ぁぁぁああああああああああッ!!」

 

 当然と言うべきか、フェイトは倒れたまま両手で頭を抑えて銀時のように叫び声を上げ、足をバタ付かせ、顔を振り乱し、刀を持ったまま苦しみだす。

 

「フェイトォォォォォッ!!」

 

 アルフは叫びながらフェイトに近づこうとし、

 

「フェイトちゃん!!」

 

 なのはもまた、親友の手を振りほどいてフェイトへと向かう。

 

「なのはッ!!」

 

 アリサが声を上げるがなのはは止まらない。

 

「来るなああああああああああああああああああッ!!」

「「ッ!!」」

 

 頭を抑えて叫ぶフェイトの声で、二人の歩みが止まる――あと少しで彼女に届くところで。

 

 そして突如、フェイトの動きがピタリと止まり、声も止む。まるで一時停止したように――。

 頭を抑えていた腕を、ダラリと地面に降ろす少女……。

 

「ふぇ、フェイト……?」

 

 アルフは困惑しつつも、声をかける。

 いきなり黙り、電池が切れたように動かなくなったフェイトに戸惑う、魔導師たちと使い魔。

 

「…………」

 

 やがて、フェイトはゆっくりと上半身を起こし、こちらへと静かに顔を向けた。

 

「ッ!!」

 

 なのははフェイトの顔を見て驚愕の表情。

 

 感情を感じない――。

 

 そう、まるで彼女の瞳から感情という色を消したかのように、何も感じられないのだ。

 冷たいとか冷徹とか、そんなレベルの話じゃない。まるで機械のように……。

 一方、

 

「ァ゙ァ゙……!!」

 

 刀の影響からか、地面に手を付いてぐぐもった苦悶の声と一緒に、血を漏らす銀時。彼に、フェイトが目を向けた。

 

「――なるほど……」

 

 するとフェイトは、ゆっくりと立ち上がりながら刀を握り直し、銀時に近づく。

 やがて、黒衣の少女は苦しむ銀髪の男をじっくり値踏みするかのように見下す。

 

「あの子……なにを……」

 

 アリサはフェイトの突然の行動と言葉に困惑している。

 

「ぅえ゛ッ!! ォエ゛ェッ!!」

 

 ついには耐え切れず、口から吐しゃ物までまき散らす銀時。吐かれたモノには、血液も色濃く混ざっていた。

 苦しむ男を観察するように見つめている、冷たい瞳。

 

「大したものですね……」

 

 フェイトは刀に金色の魔力と電気を帯びさせ、カチャリと構え、ゆっくりと腕を上げた。

 

「ですが―――――ここは排除を優先します」

 

 すぐにこれから何が起こるのか予想した少女たちは、自身のデバイスを構えだす。

 

「やめてぇぇぇぇッ!!」

 

 なのはが咄嗟にフェイトに『ディバインバスター』を放ち、桃色の極太光線を当てようとするのだが、それに気づいたフェイトは、

 

「無駄」

 

 刀の切っ先を桃色の光線へと向ける。

 そしてディバインバスターそのまま魔力を凄まじい勢いで吸収され、消されてしまう。

 

「このッ!!」

 

 アリサも剣を振って炎の斬撃を放つが、

 

「無意味」

 

 フェイトは横薙ぎに刀を振るい、炎の魔力を吸収しながら攻撃を打ち消してしまう。

 

「やっぱダメか!! なんなのよあの反則能力は!! つうかなにあの喋り方!?」

 

 歯噛みするアリサ。フェイトの様子があからさまにおかしい事にも困惑している。

 そして、フェイトが銀時へと向き直った。

 

 すると今度は、いつの間にか駆け出していたアルフが、刀に向かって手が届く一歩手前まで来ていたのだ。

 

「邪魔」

 

 フェイトが指をアルフに向ければ、金色の光球がアルフの体に当たり――同時に爆発。使い魔を吹き飛ばす。

 

「アルフさんッ!!」

 

 すずかがアルフの名を叫ぶ。

 

「ォえ゛ェ……!」

 

 吐しゃ物と血を口から吐くだけ吐いた銀時は、焦点の合わない目をしながら顔を上げた。

 目の前に立つ、黒衣の魔導師の体を使う『ナニカ』。もう銀時には、目の前の見知った顔の少女が、自分の知っている『フェイト』であると、直感的に認識できない。

 

「フェイトを……!」

 

 銀時にとっては喉から声を出すのさへ苦しいが、それでも自身の意思を曲げずに、小さく言葉を吐き出し、

 

「返し……やがれ……!」

 

 手を上げ、伸ばす――。

 フェイトの体を使っている『ナニカ』の正体など銀時には検討も付かない。今言っている自分の発言の整合性など考える暇すらない。

 

 『ナニカ』はフェイトの体をゆっくりと見てから、

 

「残念ですが――」

 

 感情の一切籠ってない瞳で銀時を見下ろす。

 

「それはできません」

「ざけん……なッ……!」

 

 銀時は目、鼻、口、額から血を出し、まるで消えない炎のような意志の籠った瞳で、『ナニカ』を見据え続けた。

 思考がぐちゃぐちゃ、意識すら途切れかけそうになりながらも、フェイトを『コイツ』から取り返せと、銀時の(こころ)が訴える――。

 

 無機質な瞳が、銀時を捉える。

 

「いまのあなたの手では――」

「ッ…………!」

 

 銀時の目が限界まで見開かれた。

 

 過去の光景が頭を過る――

 

「その力のない手では――」

 

 フェイトの両手が刀の柄を握り、ゆっくりと振り上げる。

 

 忌まわき、全てを取りこぼした――

 

「なにも――」

 

 戦場の記憶――

 

「――つかみ取れはしない」

 

 一瞬の間、過去の光景が銀時の脳裏をよぎり出す――。

 

 凶刃が銀時に向かって振り下ろされる、

 

「ダメェェェェェッ!!」

 

 が、間一髪――魔法がダメなら物理と言わんばかりに、なのはがフェイトの体に体当たりして彼女の体を抑え込んだ。

 そのまま氷の地面を背中で滑るフェイト。

 

「これ以上フェイトちゃん苦しめないでッ!!」

 

 なのはは必死に声を出し、訴える。

 

「フェイトちゃんに酷いことさせないでッ!! フェイトちゃんの体は、フェイトちゃんだけの物なんだからッ!!」

 

 なのははフェイトの体を抱きしめながら『本当のフェイト』に訴えかける。

 もう既に少女は、フェイトの雰囲気や様子から何かを感じ取って、銀時同様に直感から出てきた言葉を吐き出しているのだろう。

 

 なのはに抱き着かれ拘束された相手は、体を動かす素振りを見せるが、思うように動けないらしい。刀を持つ手以外が封じられているのだから、なおのことだろう。

 

 体に抱き着くなのはに、ゆっくりと少女の視線が向く。

 

「離しなさい」

「いやぁぁぁぁッ!!」

 

 なのはは絶対にフェイトを離さないとばかりに、彼女の体をより強く抱きしめる。もしこのままフェイトを自由にさせれば、フェイトを操る『ナニカ』がこれから何をするのかは、彼女だって分かっているのだろう。

 

「そうですか。理解しました」

 

 相手はあっさりとした声で言う。やがて、右手に握った刀の柄に力を込め、刃に雷を纏わせ始めた。

 

「では、仕方ありません」

 

 右手を振り上げ、なのはに向かって雷の刀を振り下ろそうと準備する。

 なのははなのはで必死になり過ぎている上に、視界の外なので気づいていない。その光景を見て、上空のすずかとアリサは急いで飛んで距離を詰めながら叫ぶ。

 

「なのはちゃん逃げてぇぇぇぇッ!!」

「やめてぇぇぇぇッ!!」

 

 二人はユーノに教えてもらったバインドを必死な思いでフェイトの腕に掛けるが、

 

「無駄」

 

 少女の口が動くと同時に、バキンッ! とバインドはあっという間に砕けてしまう。まるで拘束するための効力を発揮しない。手は止まらない。

 そしてなのはの背中に、雷の刃が当たる――その手前で凶刃は、少女の背中と刃にほんのわずかな隙間を残して、止まっていた。

 

「ッ……!!」

 

 いや、厳密には刀は少し震えている――。

 

 銀時が歯を食いしばりながら、力の出ない体を振り絞り、右手で刃を止めていた。掌は斬れ、電気が手を痛めつけ、刀の刀身に血が流れる。

 

「離しなさい」

 

 とフェイトの口が言う。

 

「テメェがフェイト(そいつ)の体を……離したらなァァ……!!」

 

 死に物狂いなのに、軽口を叩く銀髪。

 なんとか刀を持ち上げようとするが、やはりほとんど力が入らないらしく、膠着状態が続く。

 だがやがて、銀時は自身の顔をフェイトの顔のところまで持っていく。上から反対向きに、少女の顔を見下ろす形となった。

 

 銀時は声を振り絞る。

 

「いい加減にィ……!」

 

 銀時の行動を見て、不思議そうに首を傾げる少女の頭。

 

「戻ってきやがれバカ魔導師ィィィィィィッ!!」

 

 渾身の叫び声と共に、銀時はフェイトの額に頭突きを叩きつけた。

 硬いものがぶつかる衝撃音と、パッと顔を上げるなのは。

 

 フェイトの手から力が抜けて、掌が開く。

 

「がああああああああああああああッ!!」

 

 そして銀時は頭の中に流れ込んでくるナニカを、最後の力を振り絞って跳ね除け、刀身を持ったまま刀を遠くの方へ放り投げた。

 刀が離れた氷の地面に落ちて、ガチャンッ! と音を鳴らす。

 一連の光景を、なのはは呆然とした顔で見つめていた。

 

 銀時がフェイトに目を向ければ、少し額を腫らしてはいるものの、気絶しているだけのようだ。たぶん付いている血も、自分の物であろう。

 

「…………」

 

 額や鼻から血を出す銀時は、焦点の合わない眼差しのまま上半身をふらつかせ、地面へ横向きに倒れる。

 

「ぎ、銀時さん!!」

 

 我に返ったなのはが、声を出す。

 

「バカヤロー……」

 

 息も絶え絶えな銀時が、掠れた声で。

 

「とっとと……そのパツキン……連れてけ……」

「銀時さんも早くアースラに戻って治療しないとッ!!」

 

 涙目のなのはは銀時に近寄って声を上げる。

 

「……あんたはフェイトを頼むよ」

 

 すると、いつの間にか近くにいたアルフ。少し体に焦げ痕を残しているが、大丈夫そうだ。

 

「アルフさん!」

 

 アルフの無事を再確認して、なのはは喜びの声。

 使い魔は銀時の体を下から持ち上げようと、手を背中と地面の間に入れようとする。

 

「あたしはコイツを治療室まで――」

「――はいそこまで」

 

 すると突如、アルフの首に白い糸の房のようなモノが巻き付く。

 

「がッ!!」

 

 首が絞められ、空中に浮かされ、アルフは苦しみながら足をバタつかせる。

 

「アルフさんッ!!」

 

 なのははアルフの名を叫び、突如現れた襲撃者を確認すれば、

 

「は~い、なのはちゃん」

 

 そこには、ニコニコ顔で手を振る薄褐色肌の少女――トランスの姿。

 彼女は自身の髪を伸ばして、アルフの首に髪の束を巻き付けていたのだった。

 

 

 トランスが現れる少し前……。

 

「くッ! 氷の上では何が!」

 

 クロノは氷の足場に目を向ける。

 嵐のような銀時の叫び声が止んだと思ったら、またなのはの悲痛な声。エイミィからの通信でも、いかんせん状況が掴みずらい。

 

 ここまで悲鳴や叫びを聞くと、少女たちを危険な犯罪者と接触させないためとはいえ、今の自分の行動はやはり間違っていたとさへ思えてくる。

 

「おいおい。この後に及んで捨て駒の心配か?」

 

 ニヤリ笑みを浮かべるパラサイトの顔を見て、クロノは怒りの感情を露にした。

 

「なんだと? 捨て駒とはなのはたちのことか!」

「そうだよ。実力があるくせに、重要参考人である俺を捕まえる為に、連中をフェイトの囮にした執務官さん」

「貴様……」

 

 いくら挑発と分かっていても、ここまで露骨な言い回しにはさすがのクロノも怒りを隠しきれず、視線を鋭くする。

 そんな時、

 

「クロノ執務官ッ!!」

 

 武装した局員数名が到着。

 クロノが一瞬だけ局員たちに視線を向けた後、すぐにパラサイトに視線を戻し、怒りを含んだ声で告げる。

 

「お前はアースラでじっくり尋問を受けてもらう」

 

 こうなればもうクロノのやることは一つ。一刻も早く、この男をアースラに連行し、なのはたちの安否を確認すること。

 魔力を感じられないことから考えても、魔力攻撃での気絶、もしくはこのまま拘束による連行が最適だろう。

 やって来た局員たちが捕縛された犯罪者を捕まえようと、一歩前進した時だった。

 

「――なー、一ついいか?」

 

 パラサイトがゆっくり自身の後ろにいるクロノに顔を向ける。

 

「俺を雑魚か何かだと思ってんなら――見通しが甘いな」

 

 両の頬を口元までパックリ開き、裂けた部分から牙を出すパラサイトは、指先から長く鋭利な爪を伸ばす。

 

 

 時間は戻り、氷の足場でトランスがアルフの首を髪で締め上げている時――。

 ズドォーン!! という、激しい衝撃と音。突如として氷の足場に何かが降って来たのだ。

 

「えッ? なに?」

 

 さすがに驚いたであろうトランス。無論なのはもだ。

 トランスは自分の後方に降って来た落下物に視線を向ける。すると、衝撃によって起こった煙の中から、一人の人間が飛び出す。

 

「おらァァァァッ!! アルフに何さらしてるアルかァァァァッ!!」

 

 なんと、落下物は神楽。赤服の少女が拳を振りかぶりながらトランスに向かってダッシュ。

 

「えッ!? ちょッ!? えッ!? まッ!」

 

 普通の人間なら死んでいるような高い位置から降ってきた神楽に、トランスは戸惑いつつ驚きの声を上げている。

 

「喰らえオラァァァァァッ!!」

 

 神楽が右の拳を振りかぶり、動揺を示すトランスの顔を殴ろうとするが、

 

「――オラァッ!!」

 

 と叫ぶ何者かの、太い鞭のようなモノが神楽の頬を殴りつけ、チャイナ少女の体を吹き飛ばす。飛ばされた神楽は、氷の地面を何度もバウンドし、転がる。

 

「神楽ちゃん!!」

 

 なのはは吹き飛ぶ神楽の安否を心配し、声を上げた。

 

「なにやってんだ。油断し過ぎだぞ」

 

 するとやって来たのは、右腕からまるで恐竜の尻尾のようなモノを生やした、パラサイト。

 その体からは所々血が出ており、目玉は片方抉れて潰れ、片足に至っては膝から下がなく、傷口から何本もの触手を束にして伸ばし、義足のようにしていた。

 

「めんごめんご」

 

 トランスは手を出して謝る。

 

「すずか! 私たちも加勢するわよ!!」

 

 アリサが刃に炎を纏わせ、

 

「うん!!」

 

 すずかも力強く頷いて槍を構える。

 一瞬の攻防と二転三転する展開に思考を止まらせていた二人だが、すぐに我に返って判断を下す。

 だが、動こうとした二人の目の前に、ボールくらいの黒い玉が二つ投げ込まれた。

 

「「うわッ!?」」

 

 瞬時に黒い玉たちは弾け、眩い閃光と黒い煙を発生させる。

 まさかの攻撃に、アリサとすずかは目を瞑って動きを止めてしまう。黒煙はオートのシールドでなんとかできたが、光の目くらましには対応できなかった。

 

 やがて一人のくノ一が、パラサイトとトランスの元に一瞬で現れた。

 

「どうした小次郎」

 

 パラサイトが後ろに視線を向け、小次郎と呼ばれた忍者は白いボードに文字を書いて意思疎通を図る。

 

『どうもこうもない。フェイトを回収し、すぐに撤収するぞ。さすがにこれ以上、ジャミングだけには期待できない。このまま応援が来ると厄介だ』

「だな」

 

 パラサイトは頭を掻いてフェイトに近づく。

 だが、なのはがすぐに反応し、レイジングハートを構えようとするが、

 

「ほら邪魔!」

 

 少女より一瞬早く、パラサイトが恐竜の尻尾ような腕を、鞭のように振るって少女に叩きつけようとする。

 

「ッ!!」

《Protection》

 

 レイジングハートが咄嗟に、一番弱くはあるが防御魔法を展開するが、

 

「ぐッッ!! ブッッ――!」

 

 踏ん張りが効かないなのはをパラサイトは、

 

「――ッットべェェェェッ!! オラァァァァァ!!」

 

 そのまま力任せに防御魔法を破壊。尻尾の攻撃によって、なのはの体をボールのように遠くへ吹っ飛ばす。

 

「きゃぁッ!!」

 

 吹っ飛ばされたなのはは、氷の上に背中を打ち付けながら後ろに滑るが、怪我はバリアジャケットのお陰でほぼないだろう。

 強引になのはを吹っ飛ばしたパラサイトは、体をよろめかせる。

 

「うおッ! 体にガタきてやがる……!!」

 

 パラサイトは体勢をなんとか整えながら、なのはの方に目を向ける。白い少女が、ゆっくりとだが立ち上がろうとしている姿に「げッ!」と声を漏らす。

 すると、突如としてなのはの目の前に、いつの間にか投げ込まれた二つの黒い玉。それぞれが一瞬にはじけ、光を放ち、黒い煙をまき散らす。

 

「きゃああッ!?」

 

 不意を突かれ、視力を奪われたなのはの悲鳴。

 パラサイトは苛立ち気味に髪を掻きむしる。

 

「アアアァァァクソッ!! なんだなんだあの硬さ!! 今ので弱い方の防御魔法ってマジか!? ダメージを受けてる様子もねェし!! 結構ガチで本気出したんだぞこっちは!! ホントもうなんなんだよあの白チビ!! こわいわ!!」

「ほらほら、フェイトちゃん」

 

 トランスに言われ、「わかったわかった!!」と言ってパラサイトはそのままフェイトを担ぎ上げる。

 

「よし! あの白いのが攻撃してくる前にずらかるぞ! 俺、アレに勝てる気しねェわ!」

「わー、後ろ向きー……」

 

 と、トランスはジト目向けた。

 すると、

 

「フェイ、トォ……!!」

 

 白い髪に首を絞められながら、アルフがフェイトに手を伸ばすが、

 

「ほら、あなたも邪魔だから、あっちね」

 

 トランスが髪を操ってアルフを放り投げた。

 

「ぐあッ!!」

 

 アルフの体はボールのように氷の地面に叩きつけられてしまう。

 するとトランスは、おもむろにパラサイトの体をジロジロ眺める。

 

「ありゃ~、こりゃ酷い……」

 

 彼女の言う通り、パラサイトの体は本当に動けるのが不思議なくらい、酷いありさま。体のほぼ半分が人外の要素で補助されてた状態だ。

 視線を受けたパラサイトは舌打ちして、

 

「チッ……。あの執務官、普通に殺傷設定で攻撃してきやがった……!」

 

 忌々しそうに歯噛みする。対して、トランスは口元を押え、

 

「プッ……ダサ」

「……殺すぞ?」

 

 パラサイトはギロリと睨む。そして眉間に皺を寄せて、トランスにメンチ切る。

 

「つうかてめェ、監視の目はどうした監視の目は。危うく捕まるとこだったじゃねェか」

「知らないわよ。あんな岩にボーっと立ってるあんたの落ち度でしょ? どうせ途中で来る時に気づかれでもしたんじゃない?」

 

 トランスは文句言うと、ヤンキーのように声にドスをきかせるパラサイト。

 

「あん? 仕事も満足にこなせない奴に言われたかねェんだよ。こっちは〝本気〟出さなきゃお縄頂戴される間近だったんだぞ? おおコラ!」

「ぐちぐちうっさいわね」

 

 トランスは人差し指で頭を掻く。

 

「余裕ぶっこいて、岩にボーっと突っ立って見つかった挙句に拘束されて、貰った新品の体ダメにする『アホ』に言われたかないのよ」

 

 パラサイトは青筋浮かべる。

 

「ンだこら! 胸も身長も小さい癖に偉そうにご高説とはいいご身分だなおい!!」

「ンーッ?」

 

 トランスも青筋を浮かべ、低い声で告げた。

 

「黙りやがりなさい寄生虫」

「誰が寄生虫だゴラァァッ!! ババアみてェに頭白髪のくせして偉そうにすんじゃねェェェ!!」

「誰がババアだコラァァァァッ!!」

 

 グサッ! グサッ! と喧嘩するバケモノ二匹の側頭部にクナイが刺さる。

 二人がクナイが向かって来た方を見れば、

 

『時間がないと言わなかったか?(#・∀・)』

 

 ボードを持った小次郎が佇んでいた。その顔は文字と違って無表情ではあるが。

 パラサイトとトランスはお互いに顔を見合わせ、

 

「チッ……」

「この続きはまた別の機会ねー……」

 

 二人はそれぞれ頭にクナイを刺したまま不本意そうに喧嘩をやめた時、

 

「動くな!!」

 

 十人近くの武装した局員たちが、杖を構えてパラサイトたちの周りを取り囲む。

 トランスがジト目で、

 

「あ~あ、もたもたしてるから」

「オメェが言うな」

 

 青筋浮かべて返すパラサイト。

 トランスが女忍者に視線を向けた。

 

「小次郎」

『御意』

 

 女忍者は二つの黒い玉を手に持ち、地面に叩きつけて、閃光とつんざくような音と黒い煙で局員たちの目を眩ます。

 

 

 

「応援に向かった局員には決して深追いしないよう伝えてください!! 他の局員は迅速に怪我人の救助を!!」

 

 フェイトが無力化できた時には、リンディは既に局員たちに指示を飛ばし、応援を向かわせていた。

 情勢が変わる度に的確な指示を出す艦長。

 

 そんな姿を見ていた近藤は腕を組みながら、

 

「普段はおっとりしているが、さすがは提督と言われるだけはあるな。冷静に状況を判断し、指示を与えている」

 

 と感心し、山崎は「えェ、そうですね」と言いながら、世話しなく働くオペレーターたちに視線を向ける。

 

「よし! ジャマーが大分弱まってきてる!」

 

 パネル操作するエイミィの言葉を聞いて、近藤はすぐさま拳を握りしめ、強く言い放つ。

 

「よし!! なら今度こそ俺たちも現場に向かうぞ!!」

 

 するとエイミィが告げる。

 

「三十メートル以上の高さから落下しちゃうかもしれませんけど、大丈夫ですか!?」

「よし!! 冷静に行こうみんな!!  『いのちだいじに』の精神で!!」

 

 すぐさま発言を撤回し、近藤の発言に沖田が便乗しだす。

 

「土方さん! 今こそ漢を見せるチャンスですぜ!」

「見せた暁には足の骨が折れるどころの騒ぎじゃねェだろうが!!」

「足の骨の一本や二本や骨盤や肋骨がなんですか! 助ける気ゼロですかあんたは!」

「そこまで犠牲にしたら俺は何ができんだよ!? 俺が助けられる側じゃねェか!!」

「口だけとは見損なったぜ土方! この冷血ヤロー!!」

「なんでお前にそこまで言われなきゃなんねェの!? 腹立つなこの冷酷ヤロー!!」

 

 土方が沖田にメンチをぶつけていると、今のいままでずっと事の成り行きを見守っていた長髪の男が口を開く。

 

「それにしてもなんと奇怪な集団だ……」

 

 桂は神妙な面持ちで、

 

「ズルルルルルルルル」

 

 とかけそばを啜る。

 

「……とりあえず、お前は牢屋にでも行ってくんない?」

 

 青筋浮かべた土方は、呆れ気味の視線をマイペースな攘夷バカに向けた。

 

 ブリッジのモニターには、救助される銀時たちの姿が映っているのだった。




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第五十八話:新たなる協力者

「銀時さん!! 銀時さん!!」

 

 涙目の白い魔導師が、自分の名前を何度も口にしながら呼びかけ、

 

「しっかりしろ!! あんたはあたしのご主人様だろうが!!」

 

 必死な形相の使い魔が自分を背負い、

 

「辛いだろうけどがんばって! すぐにアースラに連れて行くから!!」

 

 炎を使う魔導師が自身に声をかけ続け、

 

「早く!! こっちに重傷者が!!」

 

 氷を操る魔導師が局員たちを先導している。

 

 銀髪の侍のまぶたがゆっくりと閉じ、暗闇の世界へと、自身を向かわせる……。

 

 

 すべてが真っ黒な世界――。

 

『その力のない手では――』

 

 前に立つ、黒い影――無機質で、光のない瞳が、自身に向けられる。

 

『なにも――』

 

 黒い影が右手の刀を振り上げ、

 

『――つかみ取れはしない』

 

 自身に刃を振り下ろす。

 そして、薄れゆく視界に映るのは――瞳から流れる、一筋の雫だった……。

 

 

「ッ……!!」

 

 パッと銀時の目が開く。意識が覚醒すれば、荒い呼吸が口から漏れ出す。

 

「ハッ……! ハァ、ハァ……!」

 

 さきほどまで見ていた夢の光景が頭を過り、全身から嫌な脂汗が流れる。

 

「ハァ……」

 

 銀時は呼吸を落ち着け、首を右に左に曲げて周りを見渡す。

 横には、

 

「ず~、ず~……」

 

 椅子に座ったまま、目を見開いて寝息を立てつつ涎を垂らす桂と、

 

「ん、んん……」

「くぅ……」

 

 そして、銀時が寝ているベッドのシーツに顔を埋めるなのはとアルフ。当たり前だが、二人は桂と違いちゃんと目を閉じて、静かに寝息を立てている。

 

 銀時がさらに周りを見渡せば、見たことある白い壁やカーテンに薬品や機械。どうやらアースラの医務室らしい。

 少し息を吐き、かなりダルさを感じる体を動かそうとすると、

 

「いッ……つぅ……!!」

 

 凄まじい頭痛が頭に襲いかかる。

 その銀時の声で、彼を看病していたであろう三人の意識がパッと覚醒した。

 

「……ぎ、銀時!」

 

 いの一番に銀時が目を覚ましたのを確認して声を上げるのは、アルフ。

 

「銀時さん!」

 

 続いてなのはが声を上げ、心配そうに銀時の顔を覗き込む。

 

「くっ……そ……!」

 

 だが一方の銀時は、自分が覚醒して喜ぶ二人になど構ってられないほどの痛みに、表情を歪め、苦悶の声を漏らす。思わず手で頭を抑えてしまう。

 

「おい、銀時。大丈夫か?」

 

 あの桂も銀時の苦しみようを見て心配しているようだ。口の端から涎垂れているが。

 

「あァ……! なん……とか……な!」

 

 銀時はなんとか激痛を我慢しながら強がりを返す。

 

「いや、大丈夫に見えないって! まともに声が出ないじゃないのさ!」

 

 アルフは涙目で心配そうに銀時の顔を覗き込み、なのははすぐに立ち上がる。

 

「わたし、皆に銀時さんが目を覚ました事を伝えてきます!」

 

 そのまま栗色髪の少女は、急いで医務室を出て行く。

 一方の銀時は体を起こそうとするが、まるで体に力が入らず、

 

「ぐッ!? いってェッ!!」

 

 ひときわ凄まじい頭痛がやって来て、すぐにベッドに体を預けてしまう。

 

「だ、大丈夫かい銀時!?」

 

 医療の知識がないアルフはどうしたらいいのか分からないのか、おろおろしながら声をかけることしかできないようだ。

 

「よせ銀時。お前は丸一日も寝込んでいたんだぞ。無理に立とうとするな」

 

 と、桂が冷静な声でたしなめる。

 

「この程度の、けが――ぐァッ!!」

 

 また銀時は起き上がろうとするが、また凄まじい頭痛に襲われた。

 さすがにベッドから起き上がろうとすることを諦め、吐き捨てる。

 

「くそッ……」

「あんたホントバカだね!  一回無理だって分かったならちゃんと理解しろって!」

 

 アルフが目を潤ませながら弱々しく叱れば、同意するように桂は頷く。

 

「アルフ殿の言う通りだ。医師に聞いたが、どうやらお前の体、特に脳にかなりのダメージがあったらしい。下手をしたら頭パーンになっていたそうだぞ」

「頭パーンてなに? むしろおめェの頭がパーンだろ」

 

 銀時は首だけ動かして、桂にジト目向ける。

 

「なぁ、銀時。あたしのことちゃんと分かるよね? 頭パーンになってないよね?」

 

 とアルフは涙声で自分を指さす。

 

「いやだから頭パーンてなに? 絶対お前ら医者の話ちゃんと理解してないよね? ふわふわだよね?」

「なー、銀時」

 

 今度は桂が涙声で自分を指さす。

 

「俺のこと分かるよな? 一緒に攘夷活動する同志だよな? 一緒にラップ練習したよな?」

「オメェと攘夷活動もラップもした覚えなんてねェよ!! アルフのマネすんなッ!! かわいくねェんだよッ!! 果てしなく腹立つんだよッ!!」

 

 青筋浮かべた銀時はひとしきりツッコミ入れた後、ため息を吐く。

 

「……牛みたいにデカい乳した犬と、ウゼー長髪」

 

 バシッと、銀髪の頭に痛くない程度のアルフチョップ。

 

「でもよかったよ……。それほど悪くなさそうで……」

 

 アルフは安堵したように息を吐く。

 

「……んで? あの後どうなった?」

 

 銀時の問いかけに対して、アルフは俯き、口を閉ざす。すると代わりに、腕を組む桂が答えた。

 

「フェイト殿と言ったか……。あの金髪コスプレ少女は――」

「コスプレって言うな」

 

 と、アルフがツッコムが桂は構わず話す。

 

「面妖な能力と姿を持つ連中にお持ち帰りされたそうだ」

「お持ち帰りって表現やめろ。フェイトだとシャレになんねェんだよ」

 

 と、銀時はツッコミしてから、ゆっくりと首を桂たちとは反対の方に向ける。

 

「……悪かったな」

 

 銀時がボソリと呟き、「えッ?」とアルフは声を漏らす。

 

「フェイトとよ、ちゃんと、腹を割って話をさせてやれなくて……」

 

 小さく静かに銀時が言えば、

 

「そんな気にしないでくれよ! あんたらしくもない!」

 

 とアルフは言うが、涙目でながらも労うように表情を綻ばせる。

 

「むしろ、こんなにがんばってくれたあんたを責めたら、あたしの方がアホだよ」

 

 言葉の最後にニコリと笑みを浮かべたアルフ。

 銀時はまたボソリと呟く。

 

「あのガキ……ホント、イイ使い魔持ったもんだ……」

「なぁ、銀時。今は、頭の方は大丈夫なのかい?」

 

 アルフがおもむろに尋ねれば、銀時は半眼を向けた。

 

「頭大丈夫って……それどっちの意味で言ったの?」

「一応話しは出来てるけど、このまま会話はできるかい? 辛くない?」

「大丈夫だ。動かなきゃ別に話くらいはな」

「そっか……。良かったよ」

 

 アルフは胸に手を当てて安堵し、立ち上がる。

 

「ちょっとあんたに〝紹介したい人〟がいるんだよ」

 

 アルフの言葉を聞いて、銀時は怪訝そうに片眉を上げた。

 ちょっと連れてくるから、とアルフは言い残し、そのまま病室を出て行く。

 やがて銀時は「おいおい」と声を漏らす。

 

「ここに来てまた新キャラ登場かよ。この小説、そろそろ登場人物捌ききれなくなっちゃうんじゃね? つうか読者は登場キャラ把握しきれんの?」

 

 と銀時が言った後、病室は静寂に包まれる。

 

「…………」

 

 ただ腕を組んで自身を見つめてくる桂。たぶん何も考えてないだろう。

 なんでこのウザェ長髪とこんな沈黙に包まれなきゃなんねェの? と内心を愚痴を漏らす銀時。

 

 時間が少し経った後、沈黙と視線に耐えられなくなった銀時は、おもむろに口を開く。

 

「……つうか、他の連中……遅くね? 誰も見舞い来なくね? なのはが俺の無事伝えるとか言って、割と時間経ってるよな?」

 

 そろそろ、新八や神楽あたりが病室に飛び込んでボケの一発でもかまして、続けて小学生組のなのはやアリサがツッコミしたり(たしな)めながら来て、呆れ顔のクロノや苦笑するすずかも入って来て、そんで最後にリンディ辺りが来るといった、バカ騒ぎが起きても良さそうな頃合いなのに、誰の気配も感じない。

 

 そして銀時は、独り言を口にする

 

「やべーよ。来るなら来るで、鬱陶しいとか思っちゃうけど、ここまで誰も来ないとちょっと寂しいんだけど。このまま誰も来ないとか考えちゃうと、ちょっと虚しいんだけど。このロンゲ野郎しかいないとか、すんげー悲しいんだけど」

「いや、今の発言で俺の方が悲しいんだけど?」

 

 と桂が言った時だった。

 ウィーンと医務室の扉が横にスライドし、

 

「クロノ執務官が坂田さんを気遣って、あなたの仲間の方々を病室に入れないようにしてくれているんですよ」

 

 聞き覚えのない女性の声が聞こえてきた。

 桂と銀時の視線が、ゆっくりと声の主へと注がれる。

 

「あー……え~っと……」

 

 銀時は眉を顰めた。

 

 後ろにアルフを連れてやって来た、どことなく見覚えのある女性。

 薄茶色の髪の上に帽子を被り、黒いピッチリした服の上に白い上着を羽織っている。首には、中心に白い宝石が埋め込まれた黒い首輪が巻かれていた。

 

 銀時が寝ているベッドの横までやって来た薄茶色の髪の女性は、訝し気な視線を送る銀髪の侍に対して、微笑みを浮かべている。

 

「〝一応〟は初対面ですので、自己紹介をさせてもらいます。私は――」

 

 

 時は遡り、銀時が医務室に運びこまれて少し経った後だった――。

 アースラの会議室では、江戸組と海鳴市小学生組、そしてアースラ組が集まって話し合っていた。

 

「銀さんの容体はどうなんですか!?」

 

 最初に坂田銀時の安否を確認するのは志村新八。

 彼は自分たちの仲間であり上司でもある男が、理由は分からないがあそこまで追い詰められるとは思っていなかったので、気が気ではいられなかった。

 

「それはまだなんとも……」

 

 アースラ艦長であるリンディが心苦しそうに質問に答えれば、クロノが代わるように説明する。

 

「外傷は掌と額以外はないんだが……。脳と言うか、精神と言うか、そう言った内側のダメージが酷いらしくてね。まぁ、肉体どころか脳の方も彼の異常な頑丈さと回復力のお陰で大事には至らないそうだ……。ただ精神面の方は正直……」

 

 クロノは重い表情を浮かべながら「こればっかりは、彼の精神力に大きく左右されてしまうとしか……」と言葉を濁すことしかできないようだ。

 

「じゃあ、このまま待つしかないんですか?」

 

 不安げな新八の問いに、エイミィが目線を落とす。

 

「そう、だね。医師の言葉では、治療をして、後は銀時さんの自然治癒力に任せる方が良いって」

「肉体の傷なら、話は早いんだが……」

 

 残念そうに告げるクロノ。

 新八は顔を俯かせ「そうなんですか……」と呟くことしかできない。

 

「あの、クロノくん……」

 

 続いて、なのはがクロノに声をかける。

 「なんだ?」と返す執務官に、なのはは汗を流しながら訊く。

 

「く、クロノくんこそ……〝体の傷〟は、大丈夫なの? 今のクロノくん、見た目は銀時さんより酷いよ……」

 

 なのはの問いに、バツが悪そうに顔を逸らすクロノ。

 

 今のクロノは頭に包帯を巻き、顔中に絆創膏やらガーゼを張り、右腕なんかに至っては包帯でぐるぐる巻きのギブス状態。動くようではあるが。

 ぶっちゃけ、今んとこ一番外傷が酷いのが、このクロノ。なので、なのはなど常識ある面々は、なぜこの執務官は医務室で休んでないの? といった疑問を持っていた。

 ただ、医務室に行かない理由を訊こうにも、なんか言いたくなさそうな雰囲気を醸し出すので、訊きづらい。

 

 だから新八はちょっと勇気を出して、

 

「ぎ、銀さんと一緒に医務室で、安静にした方がいいんじゃない?」

 

 汗を流しながらやんわり提案。対して、クロノは首を横に振る。

 

「これから事件解決の為に忙しくなるんだ。目が覚めて、体が動く以上は休んでなんかいられないよ」

 

 クロノの強気な発言を聞いて、山崎もやんわり進言。

 

「いや、普通はそれくらいの怪我したらベッドコースなんだし。他の局員の人もいるんだから、別にクロノくんだけ無理する必要は――」

「やめな」

 

 するとここで、沖田が山崎の言葉を遮り、

 

「クロノの気持ちも考えてやれよ」

 

 などと柄にもない事を言いだす。

 えッ? あの沖田が人の気持ちを気遣ったぞ? と、腹黒ドS王子をよく知る面々は困惑。

 沖田は、

 

「折角、魔法少女共と旦那使って『危ない金髪』の相手を『わざわざ』させて、事件の重要参考人を捕まえるチャンスを得たのに――」

 

 徐々に口角をニヤリと吊り上げ、どんどん黒い笑みを浮かべ初めた。逆にクロノは「うッ……」と苦い顔をしだす。が、ドSの語りは止まらない。

 

「捕まえられる一歩手前で、バケモンに反撃喰らって怪我した挙句、逃げられるって失態をエリート執務官が犯しちまったんだから、あんまり色々言ってやるなよ。かわいそうだろ」

「いや、オメーが一番かわいそうな事してるからな?」

 

 と、沖田にジト目向ける土方。

 見てみろ、と土方が指を向けた先にいるクロノは、すんごい申し訳なさそうに頭を下げて「すまなかった……」と、声を絞り出している。

 

「エリート執務官、完全に意気消沈してるぞ? どうすんだアレ?」

 

 沖田の無駄に嫌味ったらしい言葉責めに、土方は呆れ、その攻撃をくらった執務官に同情していた。

 なのははクロノ肩にポンと手を置き、苦笑いを浮かべながら言う。

 

「く、クロノくん……。げ、元気出して」

 

 続いて、ユーノもクロノを元気づけようと、

 

「き、君のガッツは、モニターで見てた僕たちがちゃんと分かってるから!」

「そ、そうそう!」

 

 と新八も相槌を打ち、励ます。

 

「クロノくん咄嗟に反撃してたし、さすが執務官だよ!! しかもあんなバケモノ相手に局員の人たちが無傷だったのは、不幸中の幸いじゃないか!!」

 

 さらにアリサとすずかも続く。

 

「いわばその傷は勲章よ! 男の勲章!」

「クロノくんカッコよかったよ!」

「いや、すずかは銀髪と一緒に戦ってたから、クロノの活躍見てなくね?」

 

 つい土方はツッコミいれた。

 年上やら年下の女の子にやら、気を遣われまくっているクロノは、顔を両手で覆う。

 

「やめてあげて!!」

 

 見ていられなくなって、土方は声を上げた。

 

「そうやって励ますのもダメなんだよ!! とりあえずそっとしておけお前ら!!」

 

 この中で一番執務官の気持ちを分かっているのは、フォローの達人たる土方だけのようだ。

 クロノのプライドが高いのは土方も周知であり、プライドが高い鬼の副長もまたその気持ちをちゃんと理解しているのだろう。

 

 そうだぞ、と沖田は腕を組んで頷く。

 

「〝油断して失態を犯した無様な〟エリート執務官殿は放っておいてやれ」

 

 クロノの目の端から水滴が……。

 

「お前はとりあえず黙れ!」

 

 土方がギロリと沖田を睨む。

 

 プライドが高い人間が失敗した時に励まそうとすると、逆に傷ついちゃうんだぞ、っという土方のフォローを、沖田以外の人間は察したらしい。クロノをそっとしておくことにシフト。

 

 そして土方が話しの軌道修正に入る。

 

「さっきの話に戻るんだが……」

「執務官の失敗談義ですかィ?」

 

 としつこい沖田。

 

「ちげェよ!! もうその話はやめろつったろ!! お前マジで陰湿だな!!」

 

 とツッコミ、土方は「銀髪の話だよ!!」と苛立ち気味に言い、他の面々も銀時のことをまた気にしだす。

 

「あの野郎がいつ目覚めるのか分かるのか?」

 

 土方の問いに、エイミィは首を横に振る。

 

「さっきクロノくんが言った通り、精神的な外傷……って言えばいいのかな? 肉体の怪我じゃないから、どうしても銀時さんの精神力に左右されるらしくて。いつ目覚めるかは断定できないの」

「そう、なんですか……」

 

 新八は声を落とすが、すぐに顔を上げ、

 

「でも銀さんなら大丈夫!! きっとすぐに、あの憎たらしい腹立つ顔を見せに来ますよ!!」

「そうアル!!」

 

 神楽も同調し、力強く拳を握る。

 

「あのバカが怪我して布団にお世話になるなんてしょっちゅうネ! きっとすぐにあの腑抜けたアホ面拝めるアル!!」

「銀時さんは、随分慕われているんですね」

 

 とリンディは笑顔だが、

 

(信頼よりも罵倒が目立つんだけど……)

 

 ユーノは汗を流しながら微妙な表情。

 そして新八は力強く宣言する。

 

「後は桂さんに任せて、僕たちは銀さんが目覚めるのを待ちましょう!」

 

 桂はこの事件にほとんど関りを持たない人物という立場からか、率先して銀時の看病を申し出てくれた。

 

「たく……テロリストの癖して俺ら警察ガン無視とはな……」

 

 と土方は呆れ顔。なにせ、現状の桂は真選組などお構いなしにフリー行動。さすがに真選組副長も思うところはあるだろう。

 だが、桂のことを考えるのがメンドーになったようで、土方は「まァ、いいか……」と気にするのをやめる。

 

「とりあえず、あの銀髪がゴキブリ並みの精神力で復活するのを持つとして……」

 

 と言ってタバコを吸う土方は、煙を吐いて視線を落とし、眼光を鋭くさせた。

 

「――なら、俺たちが次に考えるべきは〝金髪〟か……」

 

 真選組副長の言葉にその場の誰しもが、フェイト――いや、彼女の持っている謎の刀のことを考え始めているはずだ。

 

「アレ、なんなのかしら?」

 

 アリサが首を傾げ、沖田が顎を指で撫でる。

 

「どうにも、魔法を吸い取るだけが取り柄じゃねェみてェだな」

「えぇ……」

 

 とリンディが頷き、神妙な面持ちで語る。

 

「アレは、フェイトさんの〝精神を乗っ取ろうとする〟危険な怪物と言っても、過言ではないでしょう」

「えッ!?」

 

 リンディの言葉に新八は驚きの声を漏らし、江戸組や魔導師の少女たち、なによりアルフがアースラ艦長の言葉に驚きと困惑の表情を浮かべていた。

 目を細めた土方が、一番にリンディに問いかける。

 

「……あんた、フェイトの持ってる『あの刀』についてなにか知ってんのか?」

 

 リンディは無言で頷き、口を開く。

 

「あの剣には特殊なAIがあり、それが適合する者を選び、所有者すら操るようにできているようです」

「……つまり、やっぱりアレはデバイスってことですか? それとも……」

 

 不安げなユーノの問いに、リンディは顎に手を当てて表情を険しくさせながら話す。

 

「そうですね……デバイスではあるようです。私たちの知っている従来のデバイスとは、大きく特徴も性能も異なるとはいえ」

 

 リンディの言葉を聞いて、アースラ組以外の面々に動揺が走る。

 

「操る……だから、途中からあんな変な喋り方になったのね……」

 

 アリサは汗を流し、フェイトが変化していた時の言動を思い出しているようだ。

 やがて彼女は自身の炎を模ったデバイスを掌に乗せて、見つめながら呟く。

 

「フェイトの使ってたヤツは……なんていうか、ホントに異質だったわね……。私たちが使ってるデバイスと違って、持ち主と一緒に、って感じがしなかった……」

「うん。フェイトちゃんや銀時さんの様子から、危険な感じが伝わってきた……」

 

 頷き、困惑と不安が混じった表情を浮かべるすずか。

 二人の話を聞いたなのはは「フェイトちゃん……」と心配そうに声を漏らす。

 クロノは腕を組んで、険しい面持ちになる。

 

「……すずかの言う通りだ。フェイト・テスタロッサの使っているデバイスは魔力を吸収したり、使い手を操るだけじゃない。もう一つ厄介な機能があるらしい」

「それは?」

 

 と、土方が視線を鋭くして問えば、

 

「あの剣を使い続ければ……」

 

 リンディは答えようとするが、少し言い辛そうに視線を逸らし、一旦言葉を置く。やがて、神妙な面持ちで。

 

「――フェイトさんという〝存在〟が、消えてしまう機能が備わっているようなんです」

「「「「「「ッ…………!?」」」」」」

 

 なのは、アリサ、すずか、新八、神楽はリンディの言葉を聞いて息を飲む。

 

「そ、それは一体どういうことなんだい!?」

 

 無論、一番に食ってかかるのは使い魔のアルフだ。続いて近藤も食い気味に。

 

「リンディ殿! つまりフェイトちゃんは透明人間になるということなのか!?」

「んなワケないだろ!」

 

 とクロノがツッコム。

 

「近藤さん、話しの筋からある程度答えを考えてくれ」

 

 と土方は、勘違い上司にため息を吐く。

 

「フェイトちゃんが消えちゃうって、どう言う意味なんですか!? リンディさん!!」

 

 なのはの問いに、リンディは難しい顔を浮かべながら顎に手を当てる。

 

「そうですね……フェイトさんの精神が、あのデバイスに塗りつぶされてしまう、って表現が妥当でしょうか……」

「つまりどういう事なんだ一体!?」

 

 よくわからないといった近藤。すると、沖田が目を細めながら口を開く。

 

「つまり、あの金髪のガキの精神、ようは魂みたいなモンがあのデバイスのせいで消えるってことか? ゲームのデータを上書きするみたいに」

 

 推論を聞いて、リンディは頷く。

 

「えぇ。おおむね、その表現で間違いないでしょう」

「「そ、そんなッ!!」」

 

 なのはとすずかは驚愕し、

 

「クソッ!」

 

 アルフは歯噛みして、苛立ちからか突発的に右の拳で会議室の机を叩く。

 沖田以外の面々も、衝撃を受けたようで見るからに動揺が見て取れる。

 

「おいちょっと待て」

 

 だがそこで、すぐに冷静な土方は疑問点に気づく。

 

「あんたらなんでそこまでフェイトの持ってる刀に詳しいんだ? クリミナルとか言う連中に、密偵でも送り込んでんのか?」

 

 土方の問いを聞いたリンディは、居住まいを整え、口を開く。

 

「そうですね。土方さんの疑問は最もです」

「そもそもこんな情報を知っているのは少し前、僕たちの元に〝ある協力者〟が来ていたからなんだ」

 

 続けて言うクロノの言葉に、神楽は「協力者?」と呟いて首を傾げる。

 

「彼女です」

 

 リンディは掌を出して対象の人物を指し示し、全員の視線が後ろにいるであろう〝人物〟に向く。

 リンディの言った『協力者』は口を開く。

 

「にゃ~」

「いや、猫じゃん!!」

 

 ツッコミ入れた新八はガバっと顔をリンディに向けて、薄茶色の猫を指さす。

 

「アレのどこが協力者なんですか!? アレのどこがッ!? 猫の手も借りたいってこと!?」

「あッ、ウマイ……」

 

 となのは。

 するとすずかが、思い出したように両手をパンと合わた。

 

「あ、前にリンディさんが膝に乗せてた猫さんだ」

「あ、たしかにそうだね――って、今は別にどうでもいいから!!」

 

 と、ツッコミ入れた新八は再び顔をリンディに勢いよく向ける。

 

「あのリンディさん!! いくらなんでもこのシリアスな雰囲気でボケかますのやめてもらえません!?」

「ちょっと待て眼鏡!」

 

 咄嗟に声をかけた土方は、猫をマジマジと観察しだす。

 

「……お前、この猫……どっかで、見覚えねェと思わねェか?」

 

 汗を流し、困惑気味の土方の言葉――対し、新八も「えッ?」と声を漏らして猫をマジマジと見る。その姿を確認するうちに、青年は汗を流し、頬を引き攣らせ始めた。

 猫の正体に気づき始め、えッ? うそッ? そんなことありえるの!? と、内心のテンパり具合が大きくなれば、

 

「――では、ご紹介します」

 

 と、リンディが言う。

 直後、猫の体が光り出し、やがてその光は人間大――しかも大人の大きさへと変化する。

 変身が終われば、

 

「う、うそ……ッ!!」

 

 アルフは信じられないとばかりに目を見開き、声を漏らす。

 いや、アルフだけではなく、他の面々ですら驚愕の表情を浮かべ始めていた。

 リンディが真剣な表情で協力者を紹介する。

 

「彼女はプレシア・テスタロッサの使い魔――」

「――〝リニス〟です」

 

 大魔導師の使い魔は、恭しく一礼するのだった。

 




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テスタロッサ編
第五十九話:すべてが暴かれるのは大体終盤あたり


 フェイトが海にあった最後のジュエルシード四つ全てを集め、銀時たちと一戦交え、クリミナルの面々たちによりあの氷の戦場から離脱してから、少し後……。

 

 場所は『時の庭園』――玉座の間。

 

 

「あ~……このガタついた体で肩になんか乗っけて動くの、メンドクサクてしょうがねェ」

 

 右肩の付け根の切れ端から恐竜のような尻尾を生やし、片足の切り端から触手の束を生やして義足にし、片目が潰れた異形。

 見た目は間違いなく重症なのに、まったくそれを感じさせない怪物。

 

 左肩をくるくる回す異形のそばには、床に寝かされたフェイト・テスタロッサの姿。

 

 パラサイトの横まで歩いてきた白髪の少女――トランスは「にしても」と呟き、床に倒れ気絶しているフェイトの前まで歩き、しゃがみ込む。

 

「まずないとは思うけど……フェイトちゃん、精神崩壊とか起こしちゃったりしないわよね?」

 

 トランスはフェイトの頬をつんつん突き、それに反応してか金髪の少女は時おり眉を顰める。

 パラサイトもしゃがみ込み、床に寝転ぶフェイトを見下ろす。

 

「博士の話じゃ、精神的な方は問題ないらしいが……」

「天パの狂乱ぶりを見たらねー……」

 

 相槌を打つように言うトランス。

 ゆっくり立ち上がりながら、パラサイトは呟く。

 

「まー……コイツの精神がどうこうは、俺の知ったこっちゃねェから別にいいけどな」

「あ~ら、冷たい」

 

 トランスにジト目向けられるパラサイトは、メンドクサそうに頭を掻きながら「とにもかくにも、このまま計画が成功すんのかどうかだろ……」と呟く。

 すると、フェイトの瞳がゆっくりと開き始めた。

 

「ん……」

「あ、起きた……」

 

 呟くトランス。

 フェイトは目を覚ますと、気だるげながらも体を起こそうとする。だが、

 

「ぐッ!? ぁ、あぁ……!!」

 

 すぐに体中から痛みを感じて、反射的に両手で体を抱きしめながら蹲る。さらには重力を何倍にもしたような、体が上から押し付けられるような感覚。

 なんとか必死に痛みに耐え、嗚咽を口から漏らし、大量の汗を全身から流す。

 フェイトの様子を見ていたパラサイトは、眉間に皺を寄せる。

 

「おいおい……大丈夫か?」

「くぅッ……!! うる、さい……!!」

 

 しゃがんで自分を見るパラサイトを、フェイトは射殺すさんばかりに睨みつける。だが、異形が幼い少女の視線などに物怖じするワケもなく。

 

「俺たちの忠告無視して、あんなにデバイスを拒んだんだ。その痛みも、自分が招いたことだぜ」

「だま、れッ!!」

 

 フェイトは何度も立ち上がろうとしては失敗し、その度に体や額からくる痛みに涙を流す。さらには強い倦怠感や疲れが重くのしかかり、思うように体が動かせない。

 頑固な黒衣の魔導師にため息漏らすパラサイト。

 

「刀に体を任せれば、そんなに苦しまずに済むのにな……」

「そん、な、ものッ!! なんかに……!!」

 

 フェイトは自分の横に落ちている刀を睨む。

 

「私は……たよ、らない……!!」

 

 必死に痛みを耐え忍び、息を切らし、涙を流し、汗をぽたぽたと地面に落としながらフェイトは立ち上がる。

 その姿を見て、トランスはパチパチと軽く拍手。

 

「お~……ナイスガッツ。それともドM?」

 

 フェイトはギロリとパラサイトやトランスに鋭い視線を向け、息を切らしながら口を開く。

 

「ハァ、ハァ! さいご……! までッ! くッ! ハァッ! わた、しが……ッ!! 決着を……つけるッ!! じぶん、で……!!」

 

 強引に言葉を絞り出し、フェイトはゆっくりと覚束ない足取りで前へと歩き出す。

 

「それが……!! ハァ、ハァ!! わたしの、やらなきゃ……ッ!! いけない……こと……ッ!!」

 

 まるで体を引きずるように、フェイトは前へと歩いて行く。

 そんな少女の姿に、パラサイトは視線を向けながら言葉を漏らす。

 

「お強いことで……」

「くッ! ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!!」

 

 後はもう喋ろうともせず、フェイトは荒く息を切らしながら、ただただゆっくりと歩き続ける。

 

 少女が向かうところは、〝ある人物〟の待つ部屋――。

 

 

 

 

 

「すんごい精神力……」

 

 トランスはフェイトの歩く後ろ姿を見ながら、つい思ったであろうことを口にした。

 

「ただ、そのすごい精神力がいつまで持つかって話しでもあるけどな……」

 

 視線を斜め下に向けながら語るパラサイト。対して、トランスはおぼえつかないフェイトの足取りを見ながら声を漏らす。

 

「あの状態で会いに行く執念……。ああいうのを、子を想う親ならぬ〝親を想う子の力〟って言うのかしらね」

「……さーな。ただま、その母を想う子の力を利用してんのは、俺らだけどな」

「――んー、そうよねー」

 

 声のトーンを落とし、視線を流しながらトランスが返事をすれば、パラサイトは一旦口を閉ざす。

 やがて、人外は残った片目をチラリと相方へと向ける。

 

「まー、それはそれとして……〝アースラの連中〟は〝どんなメール〟を送って来た? それともメールなしか」

「そ~ね~……ちょっと確認してみますか」

 

 と言いながら、トランスは折り畳み式の携帯をポケットから取り出して操作し、メールを確認する。

 白髪の少女が新着のメールを開け、

 

『赤髪少女。転送装置に突っ込む』

 

 と言う内容が確認できた。

 パラサイトは横からメールの文面を覗き見て、目を細める。

 

「……ほ~、着信履歴を遅くして、誤魔化したってところか」

「にしてもまさか、送り込んだスパイがダメになってることを〝私たちが知っている〟なんて、夢にも思わないでしょうねー」

 

 電源ボタンを押して待ち受け画面に戻した後、番号を押し始めるトランス。

 相方がケータイを操作する姿を眺めながら、パラサイトは側頭部を人差し指でトントン叩く。

 

「送り込んだ俺の手足が見たモノ聞いた事の情報は、ぜーんぶダイレクトに俺に送られてくるからな。執務官にちょいとカマかけてみたが、案の定俺らを一歩だし抜けてると思ってたみたいだしよ」

「まッ……このままなら少なくとも管理局側に出し抜かれる心配はないでしょ」

 

 と返事をしたトランスは、携帯を耳に当てながら始めながら歩き出し、

 

「じゃ、私はこれで」

 

 右手を軽く振りながら去って行く。

 薄褐色肌の少女が白い髪を揺らしながら話す後ろ姿を見ながら、パラサイトはふぅと鼻で息を吐き、呟く。

 

「……ここまで来たとはいえ……これ以上メンドーなことが起きねェといいんだがな……」

 

 

 そして、時間は少しだけ進み――次元航行船アースラ会議室。

 

「――リニスです」

 

 人の姿となった〝プレシア・テスタロッサの使い魔〟は、両手を腰の前に揃え、恭しく一礼。

 

「えッ……? あッ……なッ……!」

 

 アルフは唇を震わし、ありえないとばかりに目を見開く。

 

「「猫が人間になったァァァァァァァァァァッ!?」」

 

 なんか横でゴリラ顔の男と糸目の長髪が度肝抜かれているが、アルフにはそのドデカい声ですら耳に入る余裕はない。

 

「ほ、本当にリニスなのかい……?」

 

 実はまた、クリミナルの連中みたいなのが化けているんじゃないのか? 本当に本物なのか? という疑問がアルフの中で生まれている。

 すると、目の前の『リニス』は、

 

「あなたとフェイトの契約は――〝フェイトの心と体を守り、その手で主に対する厄災をすべて振り払うこと〟」

 

 優しく微笑みを浮かべ、

 

「あなたが、狼の血と誇りに誓ったことですよね?」

 

 と、問いかけた。

 そう、契約の内容はリニス、フェイト、アルフ以外は知らないのだ。あのプレシアにだって知られてはいないこと。ましてや、クリミナルなんて外部の連中が知るはずのない情報。

 アルフはぎゅっと唇を噛み締め、目に涙を溜め、

 

「リニスーーーーーーッ!!」

 

 涙を流しながら猫の使い魔に抱き着く。

 リニスは抱き着かれ少し驚くが、「あらあら」と言いながらすぐに慈愛に満ちた笑みを浮かべてアルフの頭を撫でた。

 

「今までよくフェイトの為に頑張りましたね。あなたは使い魔として――なにより私の教え子として、誇りに思います」

「ぅぅ……!!」

 

 アルフは涙を流しながら嗚咽を漏らす。感動と嬉しさで涙がどんどん溢れてくる。

 

「アルフゥ……良かったアルなァ……」

 

 と、なぜか神楽までもらい泣きしている始末。

 

「ホントに……感動の再会だね……」

 

 と、さらにエイミィも涙を流す。そんでもってチーン!! とハンカチで鼻かむ。

 

「――いやちょっと待てェェェェェェッ!!」

 

 そんでデカい声で待ったをかけたのは、ツッコミ枠新八。眼鏡は再開の喜びに浸っている猫の使い魔に人差し指を向ける。

 

「おかしいでしょッ!! なんでリニスさんがアースラにいんのッ!? ヴォルケンリッターの人たちが出て来た時並みの衝撃なんですけどォーッ!!」

 

 すると、神楽とエイミィはジト目を新八に向けた。

 

「おい眼鏡。感動の再会に水差すんじゃねェヨ」

「そうだよ新八くん。いくらなんでもそのツッコミは無粋だよ」

「いやいやいやいやッ!!」

 

 と新八は右手をブンブン横に振り、食い下がる。

 

「〝映画見た〟二人なら僕の疑問も分かるでしょッ! 言っちゃなんですけどリニスさんは――ッ!!」

「〝プレシアの契約を終え、消えているはずだった〟」

 

 先回りして答えたリニスは、少し困ったような表情で「ですよね? 新八さん」と確認してくる。

 

「……えッ!?」

 

 まさかの返しに新八唖然。

 すると、

 

「リニスさんも映画を見ているんですよ」

 

 と、リンディ艦長が笑顔でカミングアウト。

 

「……えッ?」

 

 新八は思考停止。そして、

 

「……え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ッ!?」

 

 喉が張り裂けんばかりに叫ぶ眼鏡をよそに、土方はリンディに問い詰める。

 

「おいちょっと待てェェェッ!? いつだ!? いつあの猫はあの映画を見たんだ!?」

 

 リンディは人差し指を立てて笑顔で。

 

「〝新八さんに映画を見せてもらったあの時〟――実はリニスさんもいたんですよ」

「ハァッッ!?」

 

 さらなるカミングアウトに、新八は間の抜けた顔。そんで思い出してみた。

 

『リンディは一言も発さずに口元を抑えて、パッケージの絵柄をじーっと見つめている。リンディのペットなのかは知らないが、執務室の隅っこで一匹の〝猫〟が横になっていた』

『エイミィと〝猫〟も、クロノの後を追うように執務室を後にする』

↑(第五十四話参照)

 

 あの時いたね、猫が――。

 

「あの猫リニスさんだったんかいィィィィィィィィッ!!」

 

 新八は天に向かってシャウト。

 

「なるほどな。よくわかった」

 

 土方はうんうんと頷くと、沖田がジト目向ける。

 

「いや、土方さん。地の文で説明されてるだけなんで、俺ら登場人物たちにはまったく理解できやせんぜ」

 

 メタイツッコミは置いておき、土方は目下最大の疑問を問いかけた。

 

「そもそもなんで、プレシアの使い魔はまだ現存してんだ? そこが一番の謎だ」

「そ、そう言えば……!!」

 

 土方の言葉でアルフもやっと泣くのを止め、リニスの顔を見る。

 

「な、なんでリニスは消滅しなかったんだい!? だって、プレシアとの契約を終えて……」

 

 するとリンディが「ええ、そうですね」と声を発し、会議室にいる者たち全員に真剣な表情を向けた。

 

「ここにいる、映画を見ているであろう方々はリニスさんの存在を知っている。だからこそ、なぜリニスさんが『使い魔としての契約を終えて消滅していないのか?』と、当然の疑問も持っているでしょう」

 

 映画を見た江戸組、なのは、アリサ、すずか。そしてリニスに一番近い存在であるアルフ。全員の疑問を、リンディは先取りするように口で説明した。

 一呼吸置き、リンディは話しを続ける。

 

「リニスさん現存の理由と、彼女がなぜアースラにいるか。少々長くはなりますが、まずは現状に至るまでの彼女の事情を聞く必要があります。疑問を回収する上でも、今回の事件のあらましを知る上でも、今後のためにも」

 

 艦長の話しに合わせるように、クロノも口を開く。

 

「リニスのおかげで、ようやく〝事件の全貌〟が大体わかったんだが……」

 

 そこまで言って、執務官は若干、疲れが混じったような表情になる。

 

「今回の事件、細かいところが結構ややこしいことになっててね……」

「とりあえず順を追って説明するなら、まずは〝フェイトさんに関して〟ですね」

 

 リンディの言葉を皮切りに、艦長と執務官と使い魔によって明かされる――フェイトの真意。

 

 

 

 一通りの説明が終われば、

 

「――ぷ、プレシアさんが生きてるって……本当なんですか!?」

 

 その場にいるほんとんどの者たちは驚愕の表情を浮かべる他ない。

 いの一番に新八が驚愕の表情で聞き返せば、リニスは「はい」と頷く。

 一方、

 

「やっぱ、あのバケモン共の偽装か……」

 

 腕を組んだ土方の表情は驚きではなく、眉間に皺を寄せた神妙な面持ち。

 隣で頬杖をつく沖田は真顔。

 

「ま、人に簡単に化けられるっつうヤツがいるってのが、いい証拠でさァ。生首用意する偽装は朝飯前だろうしなー」

 

 真選組の二名と同様に、さきほどの『プレシアが生きていた』という話しであまりリアクションに変化がなかったアルフに、チラリと目を向ける新八。

 

 沖田は「でもよー」と言って、管理局側の人間にジト目を向ける。

 

「異世界の超技術で科捜研もビックリの科学捜査ができるであろう管理局様が、まさか連中のちゃちな偽装に気付かなかったんですかィ?」

「君ホントに陰湿だな……」

 

 とクロノは呆れ気味の声をだし、エイミィが苦笑しながら頬を掻く。

 

「まー、なんていうか……あの首を調べてみたら、血液とか細胞とかが人間と遜色ない上に、プレシア・テスタロッサのDNAのサンプルデータなんて持ってませんでしたから……。揃った情報だけだと、プレシア・テスタロッサの生首の可能性が大きいって結論にせざるおえなくて……」

「不謹慎だが、もし彼女が前科ありだったら、DNAデータと照合もできたかもしれないが……」

 

 と、クロノが言葉を付け足す。

 そこまで話したところで、

 

「あのぉ~……それで……」

 

 眼鏡の青年はおずおずと言葉を挟む。

 

「もしかして、ですけどォ……やっぱり、アルフさんも事情とか知ってたんですか?」

「えッ?」

 

 呆けた声を出すアルフに、新八はおずおずと畳みかける。

 

「いや、アルフさん、なんかフェイトちゃんの裏事情の話をしてる時、ほとんど驚いてなかったし……」

「あー……えー……そのー……」

 

 あからさまに目を逸らすアルフ。

 使い魔の反応から、新八はあらたな予測を口にする。

 

「それじゃあもしかしてー……なんですけど。銀さんもー、フェイトちゃんの事情や、プレシアさんが生きてることを知ってた、とか?」

「あッ……ん……いや……」

 

 誤魔化すことが下手なのか、アルフはまたあからさまな反応。

 今までの銀時やアルフの態度、そして現在のアルフの動揺から色々察し始める新八。

 そんなアルフの様子を見てか、土方はため息を吐く。

 

「やっぱあの銀髪、何か知ってやがったか」

「まァ、どう考えても旦那がな~んか隠してたのは察せますしねェ」

 

 続くように沖田も呑気な声で言い、神楽は驚きの声を上げる。

 

「マジでか!? 銀ちゃん私らに隠し事してたアルか!! 許さねェ! ネ!」

 

 するとここで、

 

「あー……一応フォローを入れとくとだな……」

 

 クロノ執務官が疲れたように説明を始めた。

 

 かいつまんで説明すると……銀時とアルフ、さらには管理局側の人間たるクロノやリンディが知っていたのは、フェイトが〝プレシアの命を盾に脅されていた〟と言う事。

 そして管理局側の二人が、スパイの存在からフェイトやプレシアの安全を危惧して口止めをし、情報が漏れる危険性を徹底的に排除していた事。

 

 一通りの説明を聞いて、やっとフェイトの真意を知ることができた面々は、各々思い思いの表情を浮かべている。

 そしていの一番に声を発したのは、

 

「僕……」

 

 ガックリと肩と頭を落とす新八。

 

「フェイトちゃんの態度とか言葉とか状況とか、いろいろなことに流されちゃったせいで……数ある可能性の一つを、見落としていました……」

 

 完全にクリミナルたちの掌で踊らされ、考えが足らなかった自分に悔しささへこみ上げてきた。

 クロノは腕を組んで首を横に振る。

 

「そう気に病む必要はない。フェイトの意固地なまでの演技。あげく偽物とは言え、プレシアの首まで出てきた。そしてあの時の通信以外に、他の可能性を示唆するような証拠があまりにも少なかったんだ。あそこまでいくと、彼女が母を殺してしまったかもしれない、という考えが頭をよぎっててしまうのも仕方ないよ」

 

 クロノのフォローで、若干だが新八も自責の念や自己嫌悪の気持ちがやわらぐ。

 

「フェイトちゃん……」

 

 なのはは顔を俯かせ、瞳を震わせていた。フェイトの現状を想って複雑な感情を抱き、悲しんでいるのだろう。

 

「たく、蓋を開けてみれば簡単な話だったな」

 

 と言って、土方は新しいタバコに火を付け、視線を鋭くさせる。

 

「小悪党どもが、年端もいかないガキを執拗に苦しめていた」

「外道ここに極まれりですねェ……」

 

 沖田は少しばかし目を細め、土方はタバコを咥えながら腕を組む。

 

「とりあえず、フェイトはいいとして……問題はプレシアだな。あいつの事がまだよう分からん」

「トシ……プレシア殿はフェイトちゃんの母親であろう」

 

 近藤が腕を組みながら真剣な表情で言えば、土方は呆れ気味の顔で返す。

 

「いや、つまりな。俺らはフェイトの立ち位置はある程度把握できたが、プレシアのもろもろの立ち位置も関係性もマジで分からねェって問題が残ってんだろ?」

「なるほど……。つまり……どういうことだってばよ」

「あんたなんで〝なるほど〟って言ったの? なにがなるほどだったの?」

 

 どこぞの七代目火影みたいな口調で問い返す真選組局長と、理解力が乏しい上司に対して青筋を浮かべる真選組副長。

 すると説明を代わるように、慌てて新八が口を開く。

 

「こッ、近藤さん。つまり、フェイトちゃんは僕らの思った通りの人物と考え大丈夫ってことです。けど、問題はプレシアさんが今回の事件でどんな立ち位置なのか。そもそも目的どころか、クリミナルとの関りも知らないことだらけで、被害者として扱えば良いのかどうかも判断できかねる状況ってことです」

「なるほど……」

 

 分かったのか分からなかったのか、近藤は腕を組んで深く頷く。

 

「そして、そのどう扱っていいかわからんプレシアについての詳細を知ってんのが……」

 

 そこまで言って、プレシアの使い魔へと目を向ける土方。

 自身に複数の視線が向けば、リニスは真剣な表情をクロノとリンディへと向けた

 

「リンディ艦長、クロノ執務官。あなた方はプレシアについて、もう調査は済んでいますか?」

「あぁ」

 

 クロノは頷き、オペレーターに顔を向ける。

 

「エイミィ。プレシア・テスタロッサの資料を」

「あいあいさ」

 

 エイミィは空中にパネルを出して操作し、会議室の机の真ん中にモニターが出現。

 そこには、プレシア・テスタロッサの写真。と、その経歴と思しき文字の羅列がミットチルダの文字であろう言語で書き綴られていた。

 クロノは資料を見つめながら説明を始める。

 

「僕らと同じミットチルダの魔導師プレシア・テスタロッサ――」

「あ~、別にそういうのいいから。俺ら『映画』で知ってるしー」

 

 と、頬杖を付いた沖田はクロノの説明をバッサリ切り捨て。プラプラ左手首振る栗色髪の青年を見ながら、執務官はブチっと頬に血管浮かせた。

 すると、土方はタバコの煙を吐く。

 

「そこの執務官は映画の話は信じてねェだろうが、俺たちはプレシアがブラック企業の無理難題な要望に付き合わされ、実験に失敗。そんで娘を失っちまったことまで把握してる」

 

 土方が映画で描かれたプレシアの過去を口にすれば、リンディはなんとも言えない顔で苦笑いを浮かべている。

 

 映画でのプレシアの経歴をザックリ説明すると……。

 

 プレシア・テスタロッサはミットチルダの民間エネルギー企業に勤務しており、そこの開発主任として働いていた。

 だが、実験は失敗し、その全責任を会社に押し付けられたプレシアはそのままどこかに姿を暗まし、プロジェクトF.A.T.Eを使って娘アリシアを復活させようとする。が、それも失敗に終わって、フェイト・テスタロッサという別の存在が生まれてしまう。

 そして次なる手段として、アルハザードに行く為、彼女はフェイトを使ってジュエルシードを集めさせた……。

 

 というのが、映画を見た者たちのおもに持っている情報である。

 

「あらためて考えると、酷くて悲しい話よね……」

「うん……」

 

 アリサが言い、すずかも相槌を打つ。

 呆れ気味の視線で沖田は声を漏らす。

 

「まー、世の中にはマジで正気を疑うようなことするブラック企業って割といるからなー」

「腹ン中ドブラックのオメェが言えた義理じゃねェけどな」

 

 と土方が指摘。

 

「っというかそもそも……僕は『あんなモノ』の情報をいちいち信じながら話したくないんだがな……」

 

 一方のクロノは青筋浮かべながら、頬を引き攣らせていた。やっぱり、『自分たちの世界(アニメ)』の情報前提って話しは嫌らしい。

 

 するとここで、

 

「――ただ問題なのは、映画とは違い『プレシアの過去』は〝大きく異なり〟ます」

 

 リニスが首を振って否定。「合ってるとこもあるにはありますが」と言葉を付け足しながら。

 映画を見ている者の大半が、多かれ少なかれ困惑と驚きの表情を浮かべ始めた。

 

 えッ? そ、そうなんですか? 過去も変わってるんだ……。じゃあ映画って……。映画の情報の価値がどんどん薄れるわね……。むしろ誰かさんのせいで変な偏見がくっ付いたり視野が狭まったりするだけでしたねェ。ホトンどこぞの眼鏡は使えねー。

 

 といった感じで、少々どよめく映画視聴済みメンバー。

 

 そして、主に視野を狭める映画見せた誰かさんに対する、ドSとチャイナの冷ややかな視線がチラホラ。

 どこぞの眼鏡は、冷ややかな視線からサッと顔を逸らし「オメーら今さっきまで映画の内容真に受けてたクセに……」と呟いている。

 

 土方はタバコの煙をふぅ、と吐く。

 

「まァ、テメェがここにいるって辺りで、そんな予想もうっすらしてたがな」

「あ、ズル。この前髪ブイ字、自分だけいろいろ察してました感を出してカッコつけてやがる」

 

 と沖田が言えば、土方はこめかみにブチっと青筋を浮かべる。

 

「最近のお前、マジで俺に対する表面上の敬いすらなくなってきたな」

 

 とりあえず、上司を全く立てない部下はクールにスルーしつつ、土方は鋭い眼差しをリニスへと向けた。

 

「……それじゃ、聞かせてもらおうじゃねェか。事実関係を細部まで知ってるオメーの事情と、プレシアの過去ってヤツをな」

 

 一旦の間――やがて、猫の使い魔は真剣な表情で口を開く。

 

「――そうですね……まず話さなければいけないのは……」

 

 

 時の庭園――とある一室。

 

 その部屋にある備え付けのベッドに腰かけるのは、時の庭園の主だった魔導師――プレシア・テスタロッサ。

 おもむろに顔を上げ、部屋を淡い光で照らす天井の丸いライトを、憂いを帯びた瞳で見つめる。

 そしてゆっくりと視線を移し、自身の右手首に嵌められた腕輪へと向けた。

 

「これさえなければ……!」

 

 プレシアは忌々し気に自分の能力(まりょく)を抑えつけている腕輪を見つめ、右手を強く握り絞め、歯を強く噛みしめる。

 ギリィ! と圧迫する歯ぐきからも、白く変色した手からも、血が出そうなほど……強く。

 

 色んな感情が腹の中で渦巻き、腸が煮えくり返そうになる――が、いくら怒りを内で暴れさせたところで現状はどうにもならない、と冷静な思考が頭を過り、ゆっくりと感情沈めつつ、深く息を口からこぼす。

 

「なんで……こんなことになってしまったのかしら……」

 

 床を見つめながら、悲しみ、悔しさ、後悔をない交ぜにした言葉を漏らすプレシアは――思い出す。

 

 ――そう。すべての始まりだった、あの事故の〝後〟……。

 

 

 

 

「アリシアァァァッ!! アリシアァァァァッ!!」

 

 プレシアは喉が張り裂けんばかりの勢いで、とにかく〝たった一人〟の娘を見つける為に『森の中』を奔走していた。

 

 安全管理不良で起きてしまった『次元航行エネルギー駆動炉ヒュドラ』の暴走による不慮の事故――。

 駆動炉から半径数キロ圏内が金色の光に包まれた。そしてその光を作り出す原料は――『酸素』。

 あの光は酸素を喰らいつくして、熱と光を作り続けているのだ。そして、その光の範囲にいる生物は……。

 

「アリシアァァァァッ!! お願いッ!! 返事をしてぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 プレシアはありったけの声で娘の名前を呼び続け、走り続ける。サーチャーをいくつも飛ばして探索しているが、一向に娘の姿が見つからない。

 

 自身が所属する会社――『アレクトロ社』から命じられた、新型の大型魔力駆動炉プロジェクトの設計の引継ぎ。

 前任者の杜撰な資料管理、スケジュールの猶予のなさから実験を何段階も飛ばす勢いで推し進め、無駄の多いシステムや設計の変更や追加、まともに準備されなかった安全基準や確認……。

 なにもかもが不安定で、未完成で、準備不足のまま――稼働実験は強行された。

 

 そして、〝不慮の事故〟が起きた――。

 

 不慮の事故――いや、そもそもアレでは不慮の事故とすら言えない。あんな状態では、事故も問題も起きないと言う方が不思議なほど。故意に事故を起こしたと揶揄されても言い訳できないレベル。

 あげく、〝事故が起きた時〟の安全対策すらまともに機能しない。

 

 ――こうなった以上、問題なのは事故が起きた後の……被害……。

 

 考えたくない。考えたくはない……が、まず間違いなく、駆動炉の光に〝娘〟が巻き込まれてしまう可能性が大きい……。

 

「アリシア!! ゴホッ……!! あり、ゲホッ!! しあ……!!」

 

 プレシアもさすがに体力の限界だった。いくら火事場の馬鹿力と言えど、限度があり、言葉ではなく咳が出てしまう。

 それにデスクワーク中心の女性の身となれば、なおのこと。

 

 ――いくら娘と一緒にいる時間を増やすためとはいえ、研究所近くの寮を借りたがために……このような形で最悪の不幸を呼び込むなんて……。

 

 駆動炉の光の範囲内に、用意した寮も入っている。完全遮断結界でなんとか駆動炉の暴走から身を護れた自分は良かった。が、〝ただ〟の防御結界しか用意してなかった、寮にいる魔法を使えない娘の安否など、推して知るべし。

 

「どこ……なの……? アリシア……」

 

 プレシアは縋るような想いで、涙を流しながら森の中を必死に見渡す。

 駆動炉の影響がなくなれば、とにかくプレシアはなりふり構わず寮に帰り、娘の無事を確認した。それがたとえ、どうなっているかなど分かっていようと……。

 

 だが、自身の予想に反する事態が起こったのだ。

 

 アリシアが消えた――。

 

 そう、生きている姿どころか死体すらない。まさに蒸発したように娘は家のどこにもいなかった。

 あげく飼っていた山猫、リニスの姿まで見当たらない始末。家族が二人もこつ然と消えてしまったのだ。

 

 しらみつぶしに家の中、寮付近、会社から寮までの道などを探し続けたが見つからない。なら、近くの森にいるのでは? という考えがふと頭を過った。思いつけば、必死に森中を駆け回ったが、まったく見つからない。

 

 だが、あの魔導炉の暴走による光には、生物を蒸発させるような熱量も作用もないはずだ。ならば、娘はきっとどこかで生きているのかもしれない。

 そんな一縷(いちる)の望みにかけて、とにかく足がふらつきながらも死に物狂いで娘を探し続けた。

 

「アリシアッ!!」

 

 草むら探したり、

 

「アリシアッ!! アリシアッ!!」

 

 木に登ったり、

 

「アリシアァーッ!!」

 

 岩をひっくり返したり、

 

「アリシアァァァァァァァッ!!」

 

 ドカンッ! ズドンッ!! ドカンッ!! と魔法をぶっ放してとりあえずその辺の木々をなぎ倒したり、

 

「アリシアァァァァァァァァアアアアアアアアアアアアアッ!!」

 

 雷の雨を降らせて森をとにかく破壊した。

 なんかはたから見たら娘に怒り狂ってんじゃねェの? みたいな光景だが、本人的にはなりふり構わないくらい物凄い必死なのだ。やってることはただの環境破壊とはいえ。

 

「いない……!! どこにも……!」

 

 焦土となった森で、膝と手を付き、涙を流すプレシア。ポタポタと地面に水滴が落ちる。

 すると、

 

「――大した魔力ですね」

「えッ……?」

 

 突如、聞きなれた声にプレシアは顔を上げる。

 ふと、耳に入る小さな足音――そして、幹がへし折れた木の陰から姿を現した金髪の少女。

 現れた少女こそプレシアの愛娘、

 

「アリシアッ!!」

 

 立ち上がり、生きている娘を見て歓喜し、口元を押えて涙を流す母。

 

 ――生きていた!! 娘が生きていた!! なぜ生きていたなんてどうでもいい!! 今は早くその無事な体を抱きしめてあげたい!!

 

 なぜか左手に剣を持っているが、そんなことすらどうでもいいくらいに、プレシアにとっては無事な姿の娘は救いだったのだ。

 

「アリシア……!」

 

 プレシアは足をふらつかせながらも、一刻も早く娘の元に駆けつけようとする。だが、アリシアは右手を前に出し、静かに告げた。

 

「――それ以上は寄らないでください」

「ッ……!?」

 

 息をするのさへ忘れるほどの衝撃を受けるプレシア。

 感情の一切を伺わせない瞳を宿した娘からの、確かな拒絶の言葉――。

 その姿から、

 

「あなた、まさか……」

 

 母は全てを察した。

 

「理解が早いですね。私は――」

「ごめんなさいアリシアッ!!」

 

 プレシアはいきなり両手両膝を付いて頭を地面に擦り付けた(土下座)。

 

「…………」

 

 思考が停止したように目をパチクリさせるアリシア。対して、プレシアは口早に話す。

 

「あなた、お母さんがいつも帰って来るの遅いから、へそを曲げてしまったのねッ!! 本当にごめんなさいッ!! だけどあなたの為ならあんなブラッククソ上司に魔法の一発でもぶち込んで、すぐにでもあなたと一緒の暮らしを選ぶわッ!!」

「……あッ、いえ、違います。私は――」

「ならすんごい早い反抗期ね!! お母さんまだ母親として未熟だけど、頑張って受け止めるわッ!!」

「いやですから――」

「ならピーマンね!! あなたの大っ嫌いなピーマンをハンバーグにこっそり入れたこと怒ってるのね!! アレはちょっとやり過ぎたとお母さん反省してるわッ!!」

「だからちが――」

「ならあなたが寝ている時に写真めっちゃ激写しちゃったこと!? アレはさすがにお母さんも欲望むき出しにしてしまったと反省してるわ!!」

「………………あの、会話する気があるんですか? 私は――」

「ならお母さん新しいお父さんを見つけてあげる!! もう一度良い男見つけて、今度こそ良い家庭を築き上げ――!!」

 

 アリシアはスタスタとどこかに行こうとする。

 

「アリシア待ってぇぇぇぇぇッ!! ホントに待ってぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 娘を引き留めるため、手を伸ばしたプレシアは年甲斐もなく涙を流して懇願。

 

「お願いアリシア!! もう一度お母さんにチャンスを頂戴!! 今度は親子仲良く二人で生活する道を選んでみせるからッ!!」

 

 アリシアはピタリと立ち止まり、ゆっくりと振り向いて、無機質な瞳で射貫く。

 

「――まず言っておきますが、今のアリシア・テスタロッサは、〝あなたの娘〟ではありません」

「ッ!?」

 

 プレシアは目を見開き、

 

「ガハッ!!」

 

 ショックのあまり吐血。

 

「…………これが、母親……」

 

 アリシアの言葉など耳に入らず、真っ白になっちゃった母は、口から出た血で地面にグルグルマークを書き続ける。

 

「そーよねー……ダメなお母さんよねー……。こんなお母さんじゃ、あなたも母親だなんて認めたくないわよねー……」

 

 ハハ……、と渇いた笑いを零すプレシアさん。そしてアリシアはスタスタとまた歩く。

 

「待ってッ!!」

 

 ガシッとプレシアはアリシアの足にしがみ付き、ガバッと顔を上げた。

 

「お母さん頑張るからッ!! なんでも欲しい物あげるからッ!! だからい゛がな゛い゛でェ゛ッ!!」

 

 最後には、目と鼻と口から汁を垂れ流しながら、プレシアさんは死に物狂いで引き留める。

 

「――そろそろ、察したらどうですか? 大魔導師さん」

 

 すると、突如としてプレシアの後ろから、聞き覚えのない声が聞こえてきた。

 カツカツと靴音を鳴らし、白衣を着た男が、プレシアから数歩離れた距離で止まり、ニヤリと笑みを浮かべる。

 

「ソレの言った通り、〝今のアリシア・テスタロッサ〟はあなたの娘ではなく――」

「ア゙リ゙ジア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッ……!!」

 

 プレシアは後ろの謎の人物のことなどまったく意に返さず、すんごい涙声でアリシアに縋りつく。そんで、心なしか若干アリシアの顔は嫌がっていた。

 

「………………」

 

 笑みが真顔になる白衣の男。やがて、また口を開く。

 

「……もう一度いいますよ? あなたの娘は手に持っているデバイ――」

 

 カチャっと男の眼前に杖の切っ先が突き付けられる。

 プレシアはもう殺人鬼みたいな形相で、目を血走らせながら魔力を杖の先端に溜め始めている。

 

「アリシア。アリシアリアシア。アリリリシア。アリシア」

 

 とっとどっか行け。でないと殺す。もしくは頭を吹っ飛ばす。とにかくうるさい、といった感情を前面にぶつける一児の母。

 

「…………うーわー……娘でキメちゃってるよこの人……」

 

 プレシアの狂気染みた愛と言うか執着に、白衣の男は両手を上げながら引く。

 娘命の母は構わず、杖の先端に魔力を収束し終えた。

 

「アリシア」

「……いやー、ビックリ。娘のことになると、ここまで理性がぶっ飛ぶとは……」

 

 呆れ気味にため息を漏らす白衣の男は、少し小首を傾げながら言う。

 

「……でも、いいんですか私を殺しても? でないとあなたは――」

 

 カチャリとプレシアの後頭部に刃が突き付けられる。

 プレシアが恐る恐る後ろを振り向けば、

 

「――永遠に後悔することになりますよ?」

 

 口元を吊り上げる男。

 プレシアは信じられないモノを見たと言わんばかりに、目を見開く。

 

 手に刀を持った娘は、無機質な瞳と刃を、母へと向けていた――。




第五十九話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/69.html


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第六十話:大魔導師の過去

今回、『カオスオーバー』さんと『閃火・ムーンライト』さんの投稿キャラが登場します。


「アリアリアリリリシアァァァアアアアッ!!」

 

 どういうことだオラァァァァッ!! と気持ちを込めて、眼光を光らせたプレシア。白衣の男の顔面を鷲掴み、後頭部を折れた大木の幹に叩きつけた。

 

「――ァァァァアアアウチッ!!」

 

 と、悲鳴を口から漏らす男の後頭部は、バコォーン!! と木にめり込む。

 

「アリシアリリシアシアアリシア!?」

 

 男の顔面を鷲掴み、目の血走ったプレシアは必死な形相で問いかけた

 白衣の男が口から出すのは、苦悶ではなく、

 

「一体いつまで言語中枢イカレてんの!? いだだだだッ!! なにこの握力!? 大魔導師じゃなくて狂戦士じゃん!!」

 

 聞いてた話と違う!! といった焦りと困惑と悲鳴。

 

「私の娘はどこだ!! アレはなんだッ!! 説明しろボケ!!」

「人語に戻っても支離滅裂!!」

 

 どうにかギリギリ理性が戻ったプレシアはいきなり無茶苦茶な問いかけ。

 

「私のアリシアッ!! 私の娘ッ!! だから私の(アリシア)はどこだァァァァッ!!」

 

 必死に問い詰める母(狂人)。

 すると白衣の男はプレシアの後ろ――無機質な瞳で右手に刀を持った金髪の少女――に、ビシッと指を突きつける。

 

「あ、あなたの娘はあそこにいるじゃァァアアりませんかーーー!!」

「今更とぼけるんじゃないわよッ!! 〝アレ〟はあの子の体を乗っ取った別の『ナニカ』ッ!! さっき〝あなたが説明した〟通りねッ!!」

 

 プレシアは顔面を掴む右手にさらに力こめ、顔と頭を圧迫。

 白衣の男は「いだだだだだ!!」と悲鳴を漏らしながら、ジタバタ体をバタつかせる。

 

 信じたくはなかったが、この事実を受け入れる他ない。男の話を聞き、娘の様子を観察するうちに、ようやく状況を理解してきたところなのだ。

 

 受け入れがたい状況をなんとか飲み込んだところで、プレシアの手の力が弱まり、

 

「よ、ようやく理解してくれましたか……。娘ジャンキーの狂戦士さん。まったくもォ~、すでに頭に老化現象が――」

「…………」

「いだだッ!! いだだだだだだだッ!!」

 

 とりあえずムカついたので右手に力を込め直すプレシア。

 

 さきほど、謎の白衣の男はプレシアにこう説明した。

 今、アリシアの体を操っているのは、アリシアと言う少女の意思ではない――少女の持つ刀型のデバイスなのだと。

 

「私の大事な〝娘〟はどこに行ったの!?  体だけあったって、そこに(こころ)がなきゃなんの意味もないのよッ!!」

「いだだだ!! いだだだいだいだいだいッ!!

 

 プレシアの目から涙が零れ始める。

 

 もしかしたらアリシアが生きているかもしれない、という希望を抱いた矢先にこれだ。娘の体は得体の知れないデバイスが乗っ取ってしまった。

 会社の次はデバイスに奪われる。

 自分と娘に安寧をもたらすことのない神すら、呪ってしまいたい気分だ。

 

「今もあの子の体に娘の意思――魂は残っているの!? 答えなさいッ!!」

 

いだだだだばぼじょばがばだだもばじょばがばま!!

 

 とりあえず悲鳴しか返ってこないので、答えを聞く為に握力を弱めるプレシア。

 白衣の男は頬を汗を流しながら、頬を引き攣らせつつ答える。

 

「…………え、えェ……ちゃんと残っていますよ……。ただ、刀に体を乗っ取られている限りは、あなたの娘さんの意識が表に出ることは永遠にないと思いますが……」

 

 プレシアは「ならッ!!」と言って白衣の男の顔面を離す。

 「ぉぅ……!」と尻もち付く男など放っておいて、プレシアはアリシアに向き直る。

 

「あんな剣、折ってしまえば問題ない!!」

 

 射殺さんばかりの視線をアリシアが手に持つ刀に向けつつ、プレシアは左手に出現させた杖の先端を刀に向けた。が、白衣の男は首を横に振る。

 

「それは無理ですよ」

「なんですって!?」

 

 プレシアは白衣の男をキッと睨みつけ、目を光らせながら再びアイアンクローの構え。

 

「タイムタイムタイムタイム!!」

 

 白髪の男は木に背中をくっ付けながら、横向きにした手のひらの中心に縦にした左手を差し込む、待ったのポーズ。

 

「そ、その(デバイス)は魔力を吸収する機能を有していまァァァす! 魔法が効かなくてはどうしようもないでしょォォォ!」

 

 慌てた白衣の男の説明。たぶん嘘はないだろう。

 話しを聞けば、プレシアはありえないとばかりの表情。思わず、無機質な瞳で自分と白衣の男を見るアリシアが持つ、刀に目を向ける。

 

「そんなデバイス……私でも聞いたこと……」

「……あなたが知らないからと言って、別に『ない』と断言できるモノではないでしょう」

 

 余裕を取り戻したのか、白衣の男は立ち上がりながらやれやれと首を横に振る。

 

「それに製作者の名を聞けば、魔力吸収の能力を備えているデバイスが〝存在している可能性がある〟と思うはずですよ」

「なら勿体ぶった言い方をしないでさっさと教えなさい!! 一体あんなふざけたデバイスを誰が作ったって言うの!?」

 

 白髪の男は待ってました言わんばかり口元を吊り上げ、告げた。

 

「――アトリス・エドワード」

 

 プレシアの目が見開かれる中、男は言葉を続ける。

 

「この名前、あなたもご存じですよね?」

 

 そんなの魔導師――いや、ミットチルダで教養を身に着けた者なら誰だって耳にする名だ。それこそ、歴史の授業で耳にするほどの人物。

 だが、その名を耳にしたからといって、はいそうですかと信じるワケもなし。

 

「あまりふざけたこと抜かしているとただじゃおかないわよ?」

 

 プレシアの目が一層鋭くなった。

 デバイス技術の基礎を生み出したとか、アルハザードに到達したとか、そんな経歴が残った人間がアトリス・エドワード。なら、確かに魔力を吸収するデバイスを作り上げていたとしてもおかしくはないが。

 

「たしかに、アトリス・エドワードは教科書に載るような天才よ。でもね? それは初期のデバイスを生み出した人物の一人だからであって、そんな魔力吸収とか人体乗っ取りとかが出来るシロモノを作製できる技術が当時あったかは、甚だ疑問ね。そもそも現在だって、そんなデバイス生み出そうとして、生み出せるモノではないはずよ」

 

 自分の娘の体を乗っ取っているデバイスがアトリス作の物であるなど、常識的な考えを持てばありえない話だとすぐに分かる。

 アトリスが作製したと思われるデバイスは未発見のモノが数多くあると言われてはいる。が、発見されても起動できないくらい。もし起動できたとしても、特異な能力は確認できないという話がほとんど。

 白衣の男は、両手を軽く上げながら軽い口調で。

 

「まーまー、そう喧嘩腰にならず……。現状は『アトリス・エドワードが作ったされるデバイス』が存在して、あなたの娘の体を乗っ取っているってことなんですよ」

「ならなに? 魔力を吸収するトンデモ機能を有したアトリスが作ったデバイスが、人様の娘が偶然手にして、その体を乗っ取られた、とでも言いたいワケなの? まさに天災の起こした不幸な事故ね」

 

 そこまで言って、プレシアはより視線を鋭くし、怒気を強める。

 

「それとも――あんたが強引に渡したのかしら? 自分の作ったデバイスを」

 

 紫色の魔力と共に、プレシアの周りにバチバチと電気が放電し始めた。

 

 これは下手したら、目の前の科学者然とした男が、この人間の体を乗っ取るという奇妙なデバイスを製作し、娘であるアリシアに渡したと考える方が自然である。理由は今のところ分からないが。

 

「……まァ、どう推理するかは、あなたのご自由に」

 

 汗を流す白衣の男はふっと鼻で笑った後、「ただ」と言って言葉を続ける。

 

「あなたの娘――アリシア・テスタロッサの現状はさきほど私が説明した通り」

 

 白衣の男の言葉にプレシアは苦虫を嚙み潰したような顔になる。事実がどのようなモノにせよ、アリシアが今現在肉体をデバイスのようなモノに乗っ取られているというのは事実なのだ。

 

「なるほど……」

 

 プレシアは目を閉じ、怒りを静め、静かに言葉を紡ぐ。

 

「アリシアの体はデバイスに乗っ取られ、そのデバイス自体に魔法は効かない。現状、アリシアの肉体を取り戻す手段はない……」

「さすが大魔導師。ご理解が早くて助かる」

 

 パチパチと白衣の男は手を叩く。

 

「なんて――」

 

 プレシアは力強く土を蹴り、

 

「い う わ け ないでしょがァァァァ!!」

 

 白衣の男のどてっぱらに飛び膝蹴りをお見舞いした。

 

ア゛ウ゛ヂッッッッ!!」

 

 口から唾液と悲鳴を漏らす白衣の男。彼の体はちょっと浮き上がり、やがて横にバタリと倒れて、撃沈。

 

 邪魔者を排除したプレシアは、すかさず後方に振り向く。

 

 杖をアリシアに向け――いや、厳密には持っている剣に向け、紫色の雷撃を放つ。

 

 だが、白衣の男の言葉通り剣はまったくダメージも受けず、微動だにすらしない。当たった雷撃が霧散してしまうところを見るに、魔力を吸収されたのだろう。

 魔力が効かないと言う話は事実だったが、かといってプレシアは動揺していない。寧ろこれは想定の範囲内。

 

 一瞬の隙をついた攻撃で、アリシアの体を乗っ取っている刀の気を逸らしたと読んだ。脱兎の如く駆け出し、娘の左手に向かって手を伸ばす。無論、剣で手を切られるかもしれない、なんてリスクを気にしている余裕もない。

 剣を持つ手さへ抑えれば、子供と大人の力の差。握っている剣を引き離すくらい簡単なはずだ。

 魔力が効かないなら物理的に娘と刀を引き離せばいいだけの話なのだ。

 

 ――取ったッ!!

 

 と確信したが、

 

「無駄」

 

 『アリシア』はプレシアの手首に峰内を食らわせ、手の軌道ずらし、そのまま峰を母の肩に叩きつける。

 

「うッ!?」

 

 たかだか五歳の腕力とは思えないほどの圧力と打撃が肩に加わり、プレシアは苦悶の声を漏らす。両手両膝を地面に付けてしまう。

 しかも、次に起こる現象でよりプレシアの顔は苦しみに歪む。

 

「魔力……が……!」

 

 服越しとはいえ、自分に(デバイス)の刀身が触れているからか、凄い勢いで魔力を吸われるプレシア。

 魔力量の多い彼女だからこそ魔力にはまだ余力はある。が、これが低ランクの魔導師だった場合は、砂漠の砂が水を吸うように、たちまち魔力を吸収されていたに違いない。

 

「この器は幼く、貧弱で脆い。その上魔力をまったく持たない」

 

 『アリシア』は刀を持たない利き手とは反対の手――右手を顔の前まで持っていき、握っては開く仕草を繰り返す。

 

「だが、本体である『私』の魔力を使って強化すれば、成人女性の突撃を防ぐくらいは造作もないことです」

「まだ……よ……!!」

 

 プレシアは必死な思いで、杖をアリシアの体に向ける。

 刀を魔法で破壊することは叶わない。でも、娘の体に非殺傷設定の魔法を当てることで気絶させ、デバイスの呪縛から解く、という方法が残っているはずだ。

 幼いアリシアなら、それほど大きな魔力攻撃でなくても気絶を狙えるだろう。

 

 だが、

 

「ッ……!」

 

 杖を持つプレシアの手は震え、瞳から涙が流れる。

 娘でないモノが今のアリシアの体を操り、自分に危害を加えていると頭では理解している。

 でも心が――魔力弾を幼き愛娘に撃たせてくれなかった。

 

「……高い魔力量。高濃度の魔力の充填を確認できます」

 

 アリシアの口は喜ぶような言葉を出すが、その声音も顔もまったく平坦なモノ。まさしくデバイスのような機械染みたものだ。

 無機質な瞳がチラリと、プレシアへと向く。

 

「あなたは〝必要〟なので、殺しません」

 

 アリシアは無機質な目で苦しむ母を見下ろす。

 

「だが、一度無力化を――」

「……もうやめなさい」

 

 すると、腹を抑えた『白いワンピースを着た、褐色肌の白髪の少女』が、アリシアの肩をポンと叩く。

 無機質な目がジロリと、青い顔をした白髪の少女を見据える。

 

「何故ですか? プレシア・テスタロッサは『私』を排除しようとしました。一度、無力化する必要があります」

「いやいや……彼女の力じゃ、あなたを排除することはできないって」

 

 引き攣った笑みを浮かべて右手を軽く振る少女。そして、彼女の視線がチラリと、地面に倒れ伏すプレシアへと向く。

 

「彼女自身がよ~く理解して――いたたた……!」

 

 痛みに耐えきれなくなったのか、お腹を抑えながら蹲る白髪の少女。

 

「…………分かりました」

 

 アリシアは刀の峰をプレシアの肩からどける。対して、プレシアは過度な魔力消費により息を乱し、汗を流す。

 

「ハァ、ハァ、ハァッ!! ……くッ!」

 

 だが息も整わぬまま、プレシアは白髪の少女を睨み付け、

 

「必ず……あんたたちからアリシアを…………ん? いや、えッ? んん? ちょっと……待って……?」

 

 プレシアは〝白髪の少女の背中〟を見て目をパチクリさせる。

 背中を丸め、お腹を両手で抑えながら「ぅぅぅ……いつつつ……!」と唸り声を上げている少女。

 今さっきまでいなかった存在に、ようやく気付いたプレシア。反骨心が如実に表れた怒りの表情が、戸惑いの表情に変わっていた。

 

 視線を受けて、白髪の少女は顔だけプレシアへと向け、頬を引き攣らせながら、フッと口元を吊り上げる。

 

「……大した、気骨ねいつつつ…………。まー、そう慌て、んんいたたた……。さっき私が言ったのは、あくまでデバイスの能力の一旦であり、アリシアちゃんの現状のうちの一つを説明したに――」

「いや、ちょっと待ちなさい。そもそも、あんた……誰?」

 

 そう聞きながら周りを見渡せば、さっき自分がKOした白衣の男がいなくなっていた。

 白髪の少女はお腹を摩りながらニコリと。

 

「私はね~……さっきあなたに飛び膝蹴りを受けた人です」

「…………はッ?」

 

 思考停止するプレシアに、白髪の少女は続けて。

 

「さっき、あなたと話してた白衣の男に変身してました」

「……はッ?」

「トランスちゃんです♪」

「はッ?」

「かわいいかわいい美少女トランスちゃんです☆」

「はッ? コロスゾ?」

「ひッ!? こ、こわッ……!」

 

 トランスと自己紹介した白髪の褐色少女は、すぐさまアリシアの後ろに隠れる。青い顔しながらぶるぶる震え始めた。

 

「…………」

 

 まあ、変身魔法とか、そんなところだろう、とプレシアは予測。

 ビビる白髪少女が白衣の男に変身してたのか、もしくはさっきの白衣の男が自分の制裁を逃れるために少女の姿に化けたのか。まあ、どっちにしろ、殺意は鈍らないが。

 相手の言葉から、いろいろと冷静に推測したプレシアは息を吐き、本題を戻す。

 

「……それで、どういう意味なの? デバイスの能力が一つじゃないって」

 

 たとえ予想外の出来事で思考停止させられても、再び殺意の籠った眼光を飛ばすプレシア。

 対し、白髪の少女は青い顔のまま、アリシアの背中から離れて数歩前へと出る。

 

「え、えっと~……い、今のアリシアちゃんはちょ~っと、複雑な状態にあってね~。まずはそこをご説明しましょう」

 

 実験が失敗し、大事故を引き起こした魔導炉のある施設の方へと、トランスの顔が向く。

 

「アリシアちゃんは~……あなたの実験の失敗のせいで……一度死んじゃった」

「ブッコロス」

「ひッ!! も、モンスターペアレンツ!?」

 

 再びアリシアの背中に隠れてガタガタ震える白髪少女。

 だが、プレシアの溢れんばかりの殺意は弱まるどころか、膨れ上がる。

 

「ナニイッテンノアンタハ? モシソウナラ――アンタヲ八つ裂きに――!!」

「い、いやいやいや! そ、そう早とちりしないで! アリシアちゃんは命を落としてないから!! いや、落としたけど!! いやアレ? なんだっけ?」

「ハヤクシロ」

「え、えっとォォォ…………そ、そう! 体は死んで~……けど魂だっけ? とにかくアレ…………精神な的なアレは……そ、そう! デバイスに精神がある的なッ!!」

「ナニイッテンダオマエハ?」

 

 殺意がまったく減少せず、ただただ疑問が増大しただけ。

 わからないが殺す、と殺意の感情を放つプレシア。

 対して、白髪の少女は青い顔で、アリシアの肩の後ろから顔をちょくちょく出しながら、

 

「わ、私にとっても未知の超技術なので、詳しい事はー、わかりませんすみませんごめんなさい……。ただ、簡単に説明するとねー……」

 

 プレシアの様子を窺いつつ、説明を続ける少女。

 

「肉体は~……えっと……そう。ゾンビみたいなもの、だっけ? えっと、とりあえず、体は死んでて……でも、魂がデバイスの中でギリギリ生き残ってる状態……だったっけ? アレ? これでいいんだっけ?」

「ハッ? ウチノカワイイ娘ガ、ゾンビダト?」

 

 シニタイヨウダナ? と、もう殺意MAXで睨みつけてくるプレシア。

 対して、白髪の少女は目をギュッとつむって、アリシアの背中の後ろで体を丸めて隠しながらガタガタ震えていた。

 

 理性がすでに崩壊寸前、文字通りのモンスターなペアレントになった母。目の前の現実から目を背けるように、頭を垂れ、地面を見つめる。だが、ゆっくり顔を上げ、冷静な表情で。

 

「……そんなバカな話を、はいそうですかと信じるワケないでしょ」

「うわ……急に冷静になった……」

 

 ひょこりとアリシアの背中の後ろから顔を出す白髪の少女は、汗を流す。やがて、顎に手を当てながら。

 

「……じゃあ、あなたの娘からデバイスを取り上げる? そしたら、魂は体に戻って、あなたの娘は肉体と一緒に完全に死ぬでしょうけど」

 

 と言いながら、トランスはアリシアの手からデバイスを取ろうと手を伸ばす。

 

「やめてッ!!」

 

 が、悲痛な声を受け、トランスの手は止まる。白髪の少女は、プレシアに顔を向け、ニヤリと笑みを浮かべた。

 

「ほら、いくら冷静に考えても、デバイスを取り上げたとして、あなたの娘が無事かどうかなんて、あなただって自信を持てないでしょ? 宿主を保護する為の……デバイスの補助機能だったけ? まー、そんな感じの機能が働ているらしいけど……まぁ、私も教えられた事から語ってるに過ぎないし、さっき抵抗したみたいに下手な事はしない方がいいわよ?」

 

 八方ふさがりな状況に、プレシアはまた頭を下げ、うな垂れる。

 もう、娘の為にどうすれば良いのか、わからない。どうすれば、娘を無事に元に戻せるのか、わからない。何をするのが正解なのか、わからないのだ……。

 

 トランスははうまくいったと言いたげな顔で、うんうんと語る。

 

「……そもそも話、あなたが娘を事故で死なせた。だけど、その娘は私たちのデバイスで助かった。だから、私たちを恨むのは筋違いってこと」

 

 プリシアはゆっくりを顔を上げ、睨みつけつつ、不可解そうに尋ねた。

 

「…………なら訊くけど……なんであなたたちは今すぐに、アリシアからデバイスを取り上げないの?」

「ま~、そう聞くでしょうねー……。ただちょっと、こっちにも事情があってねー。そこで、今の状況に合わせた、お互いに損のないピッタリの提案を提供しようと思うんだけど~」

「……私に……何を、させたいの?」

 

 詰問するプレシア。

 デバイス以外での狙いなど、現状を考えたらおのずとわかる。

 アリシアを狙ってないのだとしたら、狙いは間違いなく、その母であり魔導工学研究者である自分――プレシア・テスタロッサ。それが目の前の謎の少女の狙いに違いない。

 

「さすが、頭が良い。状況を考え、相手の目的を読み取る。私の欲しい答えをずばりと口にしてくれる」

 

 白髪の少女は、しゃがみ込む。両手片膝を付くプレシアの顔と視線を合わせるように、下へと頭を傾け、ニッコリと満面の笑みを浮かべた。

 

「――あなたに完成させて欲しい〝モノ〟があるの」

 

 

 

 

 それから三週間が経過した。

 

 ――たった一人の娘を救うため。そして、娘と二人でもう一度幸せな人生を手に入れる為。

 ――〝あの小娘(クソガキ)〟と出会い、『提案』を受け入れた私は、行動を起こし始める。

 

「……また、引っ越しか。君も性急なことだ」

 

 プレシアの住んでいる寮の一室で、長身の黒いボブカットの女性は生気が抜けたような声を出しながら息を吐く。

 

 この白衣を着たいかにも顔色が悪そうな女性は――ナハティ・ウェン。

 彼女はプレシアの学生時代の友人であり、そして研究者仲間の一人でもある。

 

 ナハティも一時的とはいえ、技術研究者としての高い能力を買われアレクトロ社に派遣という形で『次元航行エネルギー駆動炉ヒュドラ』の開発に参加していた。ちなみにこれはあまり知られていないが、駆動炉に『ヒュドラ』と言う名が付いた要因の一つがこのナハティだったりする。理由はかなりどうでもいいが、どっかの世界の神話から取ったらしい。

 

 隈を携えたナハティの三白眼に見つめられ、プレシアは真剣な表情で口を開く。

 

「アリシア。アリリリシア。アリアリアリリシ――」

「すまない。とりあえず、その宇宙後みたいなので話すのはやめてくれないか? 翻訳するのが割と大変なのだが」

 

 若干汗を流すナハティ。

 どうやら、またアリシア成分が抜けた影響が出てきてしまったか、と思いつつ、プレシアは心をどうにか落ち着ける。

 

「……悪かったわ。ここ最近ショックな出来事が多くていささか混乱していたの」

「たく、聞いてた通りの子煩悩だな。うちのご主人様のご友人様は」

 

 とヤンキーみたいな口調で耳穿りながら話すのは――ナハティの連れ。

 見た目は、ロングドレスの上に白いエプロンを着て、編み上げブーツを履いたメイド。髪の色は情熱的な紅蓮で、瞳は深海の如く深い蒼碧だ。

 プレシアは見慣れないヴィクトリアンメイドにジト目向ける。

 

「あなた、誰?」

「あん? なんですかコノヤロー。ナハティ様のメイドロボットのメアリ・アンヴィーアスだコンチクショー」

 

 ナハティのメイドと名乗る女性――メアリがすんごい鋭い視線で睨んでくる中、プレシアは古き友人に顔を向けた。

 

「なにあの子? アレ、ホントにあなたのメイド? ただのメイドの皮被ったヤンキーにしか見えないんだけど? つうかロボなのに名前が人間みたいよ」

「いや、すまないな」

 

 と、ナハティは一ミリも申し訳なさそうではない顔で、

 

「アレはいかせん気位が荒くてね。ヤンキーの皮被ったロボットだと思ってくれればいい。ちなみに名前は私が付けた」

「あなた……確か魔導ロボット工学を専攻してたわよね」

「あぁ、そうだよ」

「つまり、あの見た目メイドの皮被ったヤンキーはロボットなの?」

「あぁ、私の自信作の一つだ」

 

 言葉は自慢げだが、顔と声は生気が抜け落ちたようなナハティに、プレシアは訝し気に目を向ける。

 

「アレ……自信作なの? 見た目完全に人間なのはいいけど、態度がメイドからかけ離れているわよ? 用心棒にでもしたら?」

「うん。私も常々そう思ってる」

「全部聞こえてんぞコラァッ!!」

 

 メイドロボは青筋立ててめちゃくちゃ怒鳴る。ロボなのに。

 だが、プレシアはスルー。

 

「私は荷物運びを手伝えるロボットを寄越して欲しいと言ったのよ? 誰もヤンキーロボ連れてこいなんて言ってないんだけど?」

「あんなのでもいないよりはマシだ。我慢してくれ」

 

 とナハティ。

 

「おいゴラァ……! まずテメェらを段ボールに詰め込んでやろうかあん?」

 

 紅蓮髪のメイドロボはすんごいメンチ切りながら、その髪の色のように赤いオーラ燃やす。

 プレシアは眉間に皺を寄せてナハティを見る。

 

「他の荷物運び用のロボットは?」

 

 ナハティは頬を掻く。

 

「それが、つい最近研究費の為に、全部他の企業に売ってしまったね。スタ〇ク社だとかオズコ〇プ社だとか。まぁ、色々と」

「随分な大企業ね。名前伏字だけど」

 

 プレシアは「それで」と言って、自分とナハティにすんごい至近距離でメンチ切ってくるメイドロボに視線を向けた。

 

「なんでこのヤンキーだけ残したの? 絶対売った方が良いと思うわよ」

「あん?」

 

 とメアリが青筋浮かべるが、ナハティは無視して、

 

「仕方ないだろ。私だってこんな腐れヤンキー残したくなかったが、こいつが鼻からオイル垂らしながらすり寄ってくるもんで仕方なく――」

「よしわかった!! そこに直れ!! 脳天に風穴開けてやる!!」

 

 メアリは一瞬で両手の裾から拳銃は出し、プレシアとナハティに銃口を突きつけた。

 プレシアは冷静な表情でナハティに顔を向ける。

 

「あなたなにロボに質量兵器持たせてるのよ。ヤンキーどころかヒットマンじゃない」

「アレは私の開発した魔力弾を発射する銃だ。決して質量兵器などではない。ちなみに、ヒットマンと言う意見には私も賛成だ」

 

 とナハティも真顔で返す。

 

「なにこいつら? なんで銃口向けられてこんなに冷静なワケ?」

 

 メアリは困惑するように眉間に皺を寄せ、「あほくさ」と言いながら袖に銃をしまう。

 プレシアはチラリとメイドロボを見て、ため息を吐く。

 

「まぁ、いいわ。ないよりはマシね……。ナハティ。じゃあ、とっとと荷物運び初めてくれないかしら?」

「ん?」

 

 呼ばれて反応したナハティは、ソファーに座りながらカロリーメイトを口に咥え、マンガ読んでいた。

 それを見てプレシアは右手で頭抱える。

 

「……あのね、ナハティ。いくら古い友人とはいえ、私はあなたにちゃんと引っ越しの代金を払ってここに呼んでいるのよ? なんで指示出すあなたはくつろいでいるのかしら?」

「まーまー、そう慌てるな。メアリを見てみろ、準備を進めているぞ」

 

 チラリと、プレシアはメイドロボに視線を向けると、

 

「すぅ~……ハァー……」

 

 とタバコ吸っていた。

 その姿を見て、プレシアは頬を引きつらせながらマンガを読んでいるナハティに目を向ける。

 

「……あの、ナハティ。ロボットがタバコ吸って突っ立ってるだけよ? つうかアレ、ロボットじゃないでしょ? アレ、その辺から連れてきたただのレディースのヘッドかマフィアのヒットマンじゃないの? もしそうなら、あなたに代金文の荷物きっちり運んでもらうわよ」

「まぁ、見ていたまえ。(じき)に分かる」

 

 含みのある古い友人の言葉に、プレシアは訝し気に眉間に皺を寄せ、また視線をメアリと名乗るメイドロボに移す。

 

「よし……」

 

 メアリはタバコを口にしたまま、目を開くと、その蒼碧の瞳が光を輝き始める。

 

「ッ……!?」

 

 プレシアが少々驚く間に、メアリは凄まじい勢いでマンション内にある荷物を次から次へと外にある小型次元航行艇に乗せていく。

 その勢いたるや、引っ越しの業者十人呼ぶよりも凄いかもしれない。さらにプレシアの部屋がある階層は五階なので、重い段ボールをいくつもバランスよく持って運んでいく様はまさに圧巻の一言。

 

「す、凄いわね……」

 

 プレシアも次々から次へと消えていく段ボールを見て汗を流しながら唖然とし、ナハティはマンガに視線を向けながら少し自慢げに語り始める。

 

「まー、普段のメアリではできない芸当ではあるのだが。あの子の咥えてるタバコは、私が作ったタバコ型の魔力チャージャーだ。アレを咥えてる間のメアリの出力は見ての通りだよ」

 

 話しを聞いて、プレシアはナハティに呆れ気味の視線を向けた。

 

「……なんでそういうわざわざ凝った造りにするの? ロボ抜いたら、アレもうタバコ加えたヤーさんよ?」

「口調と相まって似合ってはいるだろ?」

「まぁ、荷物が片付くのならなんでもいいわ……」

 

 プレシアが呆れ顔でため息を吐く頃には、

 

「荷物の積み込み終わりやがりました~」

 

 メアリがリビングのドアからひょっこと体の半分を出して、敬礼のポーズで報告。それを聞いてプレシアは満足げに笑みを浮かべた。

 

「さすがにナハティの作品ね。仕事が早くて助かるわ」

「手のひら返しすげーな。んで、これで終わりか? ご友人様」

 

 メアリの質問に、プレシアは首を横に振る。

 

「いいえ、まだ私の研究用の機材が残ってるわ。寧ろ、そっちが本番と言うべきかしら。言っとくけど、部屋の荷物以上に慎重に扱わなければならない物ばかりだから、この部屋の荷物の数倍以上は大変よ」

「え゙え゙~……。クソメンドくさ」

 

 とメアリは露骨に嫌そうな顔。それを見て、プレシアはゆっくりと製造主に顔を向けた。

 

「ナハティ。あのロボット、仕事が終わったら解体して部品売ったら?」

「おー、それはグットアイデ――」

「殺すぞコラッ!!」

 

 目を吊り上げるメアリだが、すぐに表情を戻して「あぁ、それと」と言って何かを手に取って摘まみ上げる。

 

「コレ、どうする?」

 

 メイドロボが襟首を掴んで持っているのは、気絶して白目剥いている男。それを見て、プレシアはギョッとしてしまう。

 

「ヴェ、ヴェルサス先輩!?」

 

 この無残な気絶状態の男はプレシアが学生の頃に世話になった先輩だ。

 

 アッシュブロンドのツンツン頭に、淡い黒の澄んだ瞳。無精髭の精悍な顔立ちが、今は白目剥いて口から涎垂らしていた。

 

 メアリは引き気味にヴェルサスと呼ばれた男を見る。

 

「この生ごみ捨てていいか?」

「いや、ダメよッ! その人、学生の時代の先輩なのよ!」

 

 とプレシアは声を荒げ、メアリは眉間に皺を寄せる。

 

「え~……こんなどこぞの不良だかヤーさんだか分かんない奴が?」

「あんただって人の見た目どうこう言えないでしょ!」

「メアリ。なぜヴェルサス先輩は気絶してるんだ?」

 

 ナハティが問いかければ、メアリは真顔で。

 

「折角俺が荷物運びしている時、コイツが階段上ってきたんだけど、なんか不審者ぽかったから飛び膝蹴りを鳩尾(みぞおち)に喰らわせて意識奪った」

「いや、なにしてくれんのあんた!? その人管理局員なのよ!!」

 

 さすがのプレシアも汗を流しながら凄まじい剣幕でツッコム。

 いくらなんでも学生時代の顔見知りの先輩で、今は現役の管理局員を飛び膝蹴りで気絶させられたなどと聞いて冷静でいられるはずもない。

 するとナハティもマンガに顔を向けたままうんうんと頷く。

 

「そうだぞメアリ」

「うへ……この不潔そうな無精髭がご主人の先輩で管理局員かよ……世も末だな」

 

 とメアリは露骨に嫌そうな顔。

 

「だからあんたみたいなヤーさんロボに言う資格ないでしょ!」

 

 プレシアはツッコミ入れ、ナハティはやれやれと首を横に振りつつメアリに命令を与えた。

 

「その人はプレシアだけでなく私の学生時代の先輩でもある人だ。それに今日は客人のようだしな、あんまり無下に扱ってはいかん」

 

 メアリは「へーい」と頷き、手に持ったヴェルサスを見る。

 

「焼却炉行きでいいですね?」

「全然わかってないじゃない!!」

 

 ツッコムプレシアとは対照的に、ナハティは少し頭を傾げた後に、無気力な声で。

 

「……まー、それでいいかな」

「いやダメに決まってるでしょ!! あなたが一番無下に扱ってるじゃない!!」

 

 プレシアがツッコミ入れる中、ナハティの指示を受けてメアリは嬉しそうに「了解♪」と敬礼して姿を消す。するとすぐにプレシアが慌てて止めようと、

 

「ちょっと待ってぇぇッ!! 先輩を強制的に遺灰にするのはやめてぇぇぇッ!! そのままだと私が月曜だか火曜だかのサスペンスの容疑者になっちゃうからぁぁぁッ!!」

 

 ――そんなこんなで、私のアリシアを救うための引っ越しの準備はなんとか、滞りなく進んでいった……。うん。とりあえずは、進んだ……。

 

「――まさか着いて早々、鳩尾に膝蹴りを貰うと思わなかった……」

 

 と、鳩尾を撫でながら頬を引き攣らせるのは焼却処分をされずに済んだヴェルサス・イザード。

 

「すみません……。折角来て貰ったのに……」

 

 プレシアは申し訳なさそうに謝り、横に立ったナハティとメアリは腕を組んでうんうんと頷く。

 

「まったく、私たちの先輩に対してとんだ無礼を働いたものだ」

「反省しろよな」

「ごちゃごちゃ言ってないであんたらも謝れ!!」

 

 青筋浮かべたプレシアは、ナハティとメアリの頭をガシっと掴んで、グイッと強引に下げさせた。

 対して、被害者のヴェルサスは怒りの表情も作らず、やれやれと首を横に振る。

 

「まったく……ナハティのロボットはかなりユニークなのが多いが、そのメアリとかいうロボットは今まで見た中でもピカ一だな」

 

 ヴェルサスはそこまで言って「それで」と言葉を付けたし、腕を組みながらプレシアに顔を向ける。

 

「なぜ俺を呼んだんだ? そっちは会社の事と……アリシアちゃんのことで、ゴタゴタしていると思ったんだが……」

 

 アリシアの話題で少々言い辛そうにするヴェルサス。

 プレシアは二人の頭から手を離し、説明を始める。

 

「少々また引っ越すのですが、住居を移動させる前に〝管理局員〟である先輩に伺いたいことがあったので呼んだんです」

 

 話を聞いてプレシアの意図をある程度読み取ったのか、ヴェルサスは視線を鋭くさせた。

 

「なるほどな。で、その用とは?」

「『人の意識を乗っ取るデバイス』についてなにかご存知ありませんか?」

 

 プレシアの言葉を聞いて、ヴェルサスだけでなくナハティも訝し気に視線を細める。

 

「意識を乗っ取るデバイス、か……」

 

 ヴェルサスは顎に指を当てて思案するが、やがて首を横に振った。

 

「管理局に努めてもう十年近くになるが、そんなデバイスの情報は耳に入ったことがないな」

「そう……ですか……」

 

 プレシアは残念そうに顔を俯かせる。

 もしかしたら管理局員であるヴェルサスならば、あの奇妙なデバイスについての情報を得るきっかけになるかと思ったが、そんな甘くはなかったようだ。

 ヴェルサスはチラリとナハティに視線を向ける。

 

「ナハティは何か知らないのか? 俺以上に機械関連については詳しいと思うんだが?」

「私も一度プレシアに訊かれたが、そんな奇妙キテレツなデバイスについての情報は知らないよ」

「プレシアがお前にではなく、俺に訊いている時点でそうだろうと思ったが」

「だったら訊くなよ無精髭」

 

 とメアリがジト目向けると、ヴェルサスは頬を引き攣らせていた。

 

「ナハティ、それはホントにロボットなのか?」

「自信作だ」

 

 ナハティは若干ドヤ顔で答え、ヴェルサスは呆れたようにため息を吐き、プレシアに顔を向ける。

 

「しかし、なぜそんな人の意識を乗っ取るデバイスの情報なんて知りたいんだ?」

「『人を乗っ取るデバイスが作られている』と言う変な噂を小耳に挟んで、研究者としてちょっと気になったもので」

 

 苦笑いを浮かべて答えるプレシアに、ヴェルサスは「なるほどな」と失笑を浮かた。

 

「まぁ、よくある根も葉もない噂だろう」

「あぁ、その通りだな」

 

 と、頷くナハティ。

 

「人間を乗っ取る機能を持ったデバイスなんて作られた暁には、間違いなく違法なデバイスとして取り扱われる上に話題に上がらないワケがないからな」

 

 言葉の最期に「まー、そもそも作ってなんの利益が得られるのかは分からんが」と付け足すナハティ。

 ヴェルサスは薄く笑みを浮かべる。

 

「とりあえず、もし何か情報が入ったら教えよう」

「お手数おかけしてすみません」

 

 とプレシアは頭を下げ、誰にも自分の顔が見えない時に残念そうな表情を浮かべた。

 

 ――やはり、管理局にも『あのデバイスの情報はない』か……。

 

 そして顔を上げれば、ニコリと笑みを浮かべた。

 

「荷物の整理が出来次第、ナハティと引っ越し前に食事をしようと思うんですが、先輩もどうですか?」

 

 ヴェルサスは腕を組んで口元を吊り上げる。

 

「そうだな。今日はオフだし、構わんぞ」

 

 

 

 

 荷物の整理は、時々文句を言うロボメイドのメアリが滞りなく終わらせた。

 

 そして、時刻は夕方。

 

 プレシア、ナハティ、ヴェルサスは、私物が一切残っていないリビングにある備え付けのテーブルを間に挟んで、四脚の椅子に座っている。

 ヴェルサスは、机の上に置かれた『料理』を見て訝し気に眉間に皺を寄せた。

 

「……なぜ、カレーオンリーなんだ? もっと色々な料理を作るかと思っていたのだが?」

 

 ヴェルサスが料理を担当したロボメイドに視線を向けると、開発者であるナハティが気だるげな表情で告げる。

 

「ちょっとばかし、テキトーに料理ナビをインプットしたらカレーしか作れないバグが発生してしまってな」

「ホント色々斜め上のことしてくれるわね、このヤーさんカレーロボは……」

 

 プレシアは頬を引き攣らせ、カレーライスが盛られた皿が乗った机を見てヴェルサスは汗を流す。

 

「サラダすらないのか……」

 

 ヴェルサスは呆れたような視線をナハティに向ける。

 

「そのロボットの人口頭脳、一度ちゃんとチェックした方がいいんじゃないか?」

「後ついでにあなたの脳みそもちゃんとチェックした方が良いと思うわよ」

 

 プレシアもジト目向けるが、メアリの開発者は平然とした顔で返す。

 

「まぁ、カレーでもいいじゃないか。みんな大好きだろ」

 

 ヴェルサスとプレシアはため息を付く。

 すると、ヴェルサスは言い辛そうではあるが、ある話を切り出す。

 

「しかし……想像とは違って……元気そうで安心した」

「そこは私も気になっていたな」

 

 とナハティもプレシアに顔を向ける。

 

「子煩悩の君が、〝娘の死〟で憔悴しきって廃人にならず、この短期間で引っ越しする上、そこまで普通の反応を返せるのは、少々不可解だな」

「さすがに憔悴はしても、廃人にはならないわよ……」

 

 ――まぁ、なっちゃうかもしれないけど……。

 

 と、プレシアは内心で自分のもろさを自覚して言うと、ナハティは更に言う。

 

「てっきり、娘が死んでも生き返らそうと、人造生命の技術とかに手を付けると思ったんだが」

 

 ――ちょっとなんで半分くらいは当ててくんの!? あんたまさか連中の回し者なんてことないでしょうね!! 

 

 内心で古い友人にツッコミ入れつつ、友人たちの疑問も最もだと思う。

 プレシアはとても深刻そうな表情を作り始め、語る。

 

「……まだ……〝アリシアが死んだ〟って……実感が持てないの。悲しみとか、怒りとか……それすら通り越して……心が死んだような……そんな感じ……。たぶん……その内、酷くなるかもしれないわ……。だから、療養のために、こんな嫌な思い出しかない場所から離れて……静かな場所で……一人になろうと思って……」

 

 理由もそれなりに尤もらしいし、瞳を揺らすところなんか我ながら迫真の演技だな、と自画自賛するプレシアであった。

 

「なるほど」

 

 とナハティは納得する。

 ヴェルサスはスプーンに手に持ちながら、口を開く。

 

「…………なるほど、わからんでもないな。それで、プレシアはどこに引っ越したんだ? ミッドから離れた住居のようだが」

「――『時の庭園』です」

 

 引っ越し先の名前を聞いて、ヴェルサスはスプーンを動かす手を止める。

 

「……時の庭園。あそこは確か……」

 

 ナハティにチラリと目を向けるヴェルサス。

 

「研究所にしていた次元間航行も可能な移動庭園とか、だいぶ前に話していなかった? ナハティ」

「あぁ。つい最近、プレシアが私から買い取ったのでね。今では彼女のものさ」

 

 ナハティの言葉を聞いて、ヴェルサスは訝し気にプレシアを見る。

 

「気持ちが落ち着いたら、何か新しい実験でも始めるつもりなのか?」

「そう……ですね……。前に進む準備も兼ねて、ってところでしょうか……」

 

 プレシアは視線を斜め下に落とす。

 

「悩んでばかりも……いられませんから……」

 

 本音を交えたプレシアの独白を聞いて、ナハティはマジメな顔で。

 

「やっぱり思い切って人造生命を――」

「いや、違うから」

 

 ピシャリと否定するプレシア。

 

 ――つうか、こいつホントに勘が鋭いわね……。嘘付くのが下手じゃなくて良かった……。

 

 我ながら無駄に嘘つくの上手いな、と思う一児の母。

 

「そうか……」

 

 ヴェルサスはプレシアの言葉と雰囲気で何か察したのか、それ以上追及しようとはしない。

 そして、プレシアは微笑みを浮かべつつカレーをスプーンで掬う。

 

「じゃあ、冷めないうちに食べましょう。学生時代の話でも交えながら」

 

 プレシアと学生時代の友人たちとの会話は中々に盛り上がった。

 

 ヴェルサスは自身の持つレアスキルと才能を買われ、局員として高い評価と実績をどんどん得ていること。

 ナハティは学生時代は生物の解剖ばっかしまくってほとんどの同級生をドン引きさせたこと。

 などなど、現在や過去の話で引っ越し祝いは結構盛り上がって行った。

 

 

 そして時間も夜遅くなり、最後につまみを食べながら少し高いワインを飲もうという辺りになると、ヴェルサスは「付き合いたいが、実は明日は仕事なのでな。さすがに支障をきたすので、俺はこの辺で失礼するよ」と言って、寮を後にした。

 そして寮の――プレシアとアリシアの家だった部屋のリビングには、プレシアとナハティの二人とメイドロボのメアリだけとなった。 

 

「しかし……先輩がいなくなった今だから言うけど……」

 

 と言って、プレシアは横に座るナハティに目を向ける。

 

「誰かさんは〝会社を使って〟、また随分と稼いだそうじゃない。お陰で倒産寸前らしいけど」

 

 グラスに入ったワインを少し口にしたナハティは、ニヤリと口元を吊り上げた。

 

「その誰かさんだって、あんなアホな会社が起こした事故には思うところがあったってことだろう」

「まぁ、誰かさんが平然と犯罪者紛いなことしてくれたお陰で、私も難を逃れたワケだけどね……」

 

 プレシアはまたワインが入ったグラスに口を付けるナハティに呆れと関心が混ざったような視線を向ける。

 

 そう、実は『アレクトロ社』の上層部は魔導炉暴走事故は『研究主任であるプレシア・テスタロッサの管理責任能力のなさが原因である』と言う形で、魔導炉の事故を片付けるつもりだった。

 だがしかし、アレクトロ社上層部の人間たちが研究者たちに魔導炉の起動を無理やり押し進めさせるだけでは飽き足らず、安全管理をいくつも度外視させる、スケジュールをどんどん切り詰めさせ、研究者たちに休む暇すら与えずに実験を推し進める、などなど。

 とにかく上げればキリがないほど、ヒュドラの開発から運用に関するまで、アレクトロ社の落ち度をまとめた資料と音声記録が送られた。それこそ、一つの小説にできそうなほど量を。匿名で――。

 

 んで、そんな違法スレスレどころか違法な行為を誰がやったかとプレシアは考えた……。

 そこでパッと浮かんだのが、あの会社に勤めていて、十代の頃から趣味の研究の資金のためとかで、モラルから逸脱した行為で資金集めしていた友人の顔が浮かび、あッ……もしかして……、と予想した。

 

 プレシアはワインを少し飲んだ後、「とは言え……」と言って話しを切り出す。

 

「誰かさんは会社の上層部連中からたんまり口止め料をせしめた後、今度は実験に無茶な指示ばかりを要求してきた連中の不祥事をまとめた資料を、管理局に匿名で暴露」

 

 プレシアは「どこぞの誰かさん、いつか後ろから刺されそうね」と呆れた視線を、アレクトロ社の株に大ダメージ与えたであろう人間に向ける。

 三白眼の女は、ワインと一口すすり、ククク、鬱屈した笑い声を漏らす。

 

「私があんな間抜け共に返り討ちに遭うと? そもそも、私に金を払った連中はとっくに地位も名誉もなくして、今はどれだけ自分の罪を軽くしようか奔走している最中だろうな」

 

 あッ、バラした……、とプレシアは思った。まあ、告げ口する気はサラサラないが。

 

 ナハティはまた、クククと普段は滅多に見せない愉快そうだが鬱屈した笑い声を漏らし、プレシアは少しばかし関心したように笑いを零す。

 

「ホント、準備が良い事ね。早々に会社を辞めた後から、狙っていたのかしら?」

「あんなアホな追加の機能やらシステムを持ってくるだけでは飽き足らず、スケジュールをバカみたいに切り詰めてくる兆候が垣間見えた時点でな」

「メイドロボにアホな機能やシステム組み込むクセに」

 

 呆れた眼差しのプレシアの言葉にナハティはやれやれと首を横に振る。

 

「アレはもともと個人の趣味で作ったモノに入れた機能だ。多くの人間が関わる共同の研究なら少しは自分をセーブするさ」

「あッ、少しだけなんだ。あなたって、意外に公私混同は分けようと努力するのね」

「私とて、研究者としての端くれだからね。多くの人間たちと共同研究をするとき、自分のペースだけで研究を掻き乱すのはナンセンスとは思ってるよ」

 

 ナハティはそう言ってグラスの赤い液体を飲み干した後、「それに」と言葉を付け足す。

 

「最初こそ、中々気の合う連中もいたからね……。最初は割と楽しめたんだが」

 

 そこまで言ってナハティは真顔で。

 

「ただま、君の前任の主任がはっきり言って〝無能なクソ〟だった時点で離れて正解だったな」

「ホント、前主任の資料管理の杜撰さ目に余ったわ……」

 

 プレシアが頬を引き攣らせながら言えば、ナハティは「あとスケジュール管理も雑だったな」と漏らす。

 そしてプレシアは思い出す。

 引継ぎの時に、ナハティから言われた、

 

『あの駆動炉の研究に参加するのはお勧めしないぞ。いや、マジで』

 

 って言葉。

 マジで当時の自分はあの会社辞めなかったんだろう? と後悔するプレシア。まあ、結局自分も職を失うことと逆らうことのデメリットばかりにしか目がいかず、上の命令に異議を唱えきれずに従ってしまった、歯車の一つでしかなかったということだろう。

 

 拳で頬杖をつくナハティは、グラスを揺らしながら、しげしげと赤い液体を眺める。

 

「……まぁ、何も起こらなければ、さすがに隙もないし、何もする気はなかったんだが……まさかあそこまでの暴走事故が起こるのはさすがに予想外だった」

 

 おかげでやりやすかったがな、と言いながら、ちょっとあくどい笑みを浮かべる友人を見て、プレシアは視線を別の方向に向ける。

 

「……だからこそ、研究を台無しにした奴らを許せなかった。初期の研究メンバーとして……。なにより……〝子供一人が死んだ〟と言う結果まで付いてくれば」

「いやいや、別に私はそこまで情が深いワケでもないし、君ほどの被害者ではないさ……」

 

 頭の良さと決断力で難を逃れたナハティだって、会社の無茶なごり押しに巻き込まれた被害者だろう。

 あげくの果てが、自分が関わっていた研究が事故を起こし、人が死んだというならなおさら。

 

 そしてこの被害者の一人たるナハティは、無理な駆動炉実験の原因となった人物たちをまとめた資料をわざわざ作って管理局に提供したのである。わざわざめんどうな特定よりも、会社の不祥事と一括りすれば楽にも関わらずだ。

 

「きっと上層部に苦労させられた人たちは感謝しているわよ」

 

 とプレシアは笑顔で言うが、ナハティは視線を下に向けて「どうだろうな」と言って言葉を返す。

 

「会社を傾ければ、当然職を失う者たちもいるぞ? 路頭に迷う者たちがな」

 

 目を細め、どう思う? と問いかけんばかりの顔をするナハティにプレシアは、

 

「――別にいいんじゃないかしら?」

 

 あっけらかんとした顔で答え、それを聞いたナハティは少し意外そうな顔になる。

 

「なぜ、そう思う?」

「だって、私とアリシアの時間を奪ったあのクソ共が諸悪の根源であり、そんな連中がふんぞり返ってのさばり続ける会社なんてどうなろうと知ったこっちゃないわ。そもそも、あんな連中を放逐しない会社なら、結局はまた今回みたいな事が起こる可能性だってあるワケでしょ? なら、いっそ一撃ぶちかました方が世の為よ」

 

 プレシアの言葉を聞いたナハティはまたくくく、と笑いを零す。

 

「まぁ、あんな無能ばっか上に立ってる会社は、これからなんとかしなければいずれ瓦解するだろ。いくら事故と言っても、あそこまでアホなこと連発して、防いでしかるべきだった事故を許してしまったんだ。とてもじゃないが、あんなブラック会社は落ちるとこまで堕ちるのは目に見えてる」

「それでも会社に縋り付きたいなら、そいつらでどうぞ会社を盛り返してください、とでも言う他ないわね。まー、まともな考えの人間が残れば、再起の可能性も十分あるでしょ」

 

 クスクス笑うプレシアはテキトーなこと居ながらワインを口にし、ナハティはよりおかしそうに笑いを零す。

 

 プレシアが知っている限りでは、今回の騒動がきっかけなのか、『アレクトロ社』を辞職している人間が結構いるらしい。さすがに子供の死を責任転嫁(しかも死んだ子供の母親)にする会社はヤバイと思った人間も多かったようだ。

 ちなみに、プロジェクトのメンバー内、この二人と仲がそれなりに良好だった者たちは、ナハティが既に新しい職を紹介しているという話を、メンバーの一人からプレシアは聞いていた。

 

 酒が少し回ってきたのか、ナハティは半笑いになりながら言葉を口にする。

 

「しっかし、君も言うね? 以前の君ならさすがにやり過ぎだと私をたしなめるところだろう?」

「いいのいいの! あんな会社にあんなクソッタレ連中。一回痛い目みた方がいいのよ。プロジェクトの皆もすんごいスカッとしたって喜んでたし!」

 

 上機嫌で手を横に振るプレシア。

 

「そうかい。それは良いとこしたね」

「ホントホント! なんで昔の私はあんな会社辞めてやらなかったのかしら? 今頃こんな事にはならなかったのになー!! 昔の私のバカヤロー!! ヒック」

「こりゃ、酔ってきやがりましたねー……」

 

 メアリはジト目を酔っ払い二名に向けるが、顔に朱がかかり始めたお二人はおかまいなしに捲し立てる。

 

「ホントあのクソ副主任には頭にきわた!」

 

 と、プレシアは机をバン! と叩く。

 

「ヒック。なにあの四角眼鏡? ホント一回眼鏡たたき割りたくなったわよチクショーッ!!」

「まったくだな! あの時のクソデブもマジムカつく! 脳みそにまで脂肪が回ってるんじゃないかと内心常に思っていたよ!」

「そうそう! 脳みそメタボリック! あんたもムカついてたのね! 自分の太ってるから舐めてんのか? みたいな愚痴を聞かされた時は、アレはホントに腹が立ったわ!! 知るかクソ! って言いたくなったわ!」

「それにあのハゲ上司! アレ絶対ハゲてたね! アレ絶対、頭が後退間近だったね! それでハゲのコンプレックスに関するイライラを部下にぶつけてたのは、マジでクソだと思ったね!」

「アハハハ! そうそう! 一回ズラ取って、残った髪全部引っこ抜いてやろうとか思ったわよ!」

 

 アハハハハハッ!! とワイン飲み過ぎて、完全に元社会人二人による愚痴暴露大会になってしまった元プレシア邸。

 そして夜はさらけていく……。

 

 

 

「……さてそろそろ」

 

 プレシアは席を立ち上がり、ナハティも「そろそろお開きか」と言って立ち上がろうとするが、少し体がよろけてしまい、すぐにメイドロボが「大丈夫ですか、酔っ払いご主人様」と言って体を支える。

 その光景を見たプレシアはおかしそうに笑いを零す。

 

「あら? 意外にメイドらしいこともするのね?」

「あん? 俺は頭のてっぺんから下まで完璧なメイドだよコノヤロー」

 

 と、メアリはガン飛ばしながらナハティを支え、玄関口に向かう。プレシアも後に続くように歩いて行く。

 そして、玄関から外に続くエスカレーターや階段に続く寮の廊下にまで出ると、プレシアは帰ろうとするナハティとメアリを見送る。

 

「結構酔ってるみたいだから、気を付けて。まー、そのヤンキーロボが入れば大丈夫だとは思うけど」

「誰がヤンキーロボだ」

 

 とメアリ。

 

「君こそ、ちゃんと酔いは醒ますんだぞ? 前に私は風呂で死にかけた」

 

 ナハティの言葉を聞いて、プレシアはつい笑みを零す。

 

「……フフ、気を付けるわ」

「では私はこれで」

 

 そう言って、ナハティはメアリに肩を貸してもらいながら寮を後にしようと歩き出す。しかし、いくばく歩いた後、「あー、それと」と言って足を止める。

 

「私と違って君はもう骨の髄まで研究者と言うワケじゃないんだ。大事な何かを失った辛さは、研究や酒で誤魔化しきれるほどでもないだろう」

 

 プレシアは相手に自分の顔が見えてないと思い、少しばかし悲しそうながらも嬉しさも垣間見える表情で。

 

「……えぇ、善処するわ」

 

 プレシアの言葉を聞いて、ナハティはやれやれと困ったような笑みを浮かべた後、またおぼつかない足取りで歩き出し、左手を上げなる。

 

「本当に助けが欲しいなら、連絡の一つでも寄越してくれ~」

 

 今、助けられてる人間の言葉じゃないわよ、と思いつつ、プレシアは苦笑しながら去って行く旧友の背中を見送るのだった……。




今回はプレシアの過去であり、もうずいぶん前(数年前)から送られていた『カオスオーバー』さんと『閃火・ムーンライト』さんの投稿キャラお披露目回となりました。

いやホントに、この投稿キャラたちを登場させるまで時間かかっちゃいました。
まさかここまで期間が長くなるとは、当初はマジで思いませんでした。
カオスオーバーさんと閃火・ムーンライトさん、ホントにすみませんでした……。

『カオスオーバーさん投稿キャラ』
・ナハティ・ウェン
・メアリ・アンヴィーアス

『閃火・ムーンライトさん投稿キャラ』
・ヴェルサス

ちなみに、それぞれ設定に変更を加えつつ登場させることにしました。


第六十話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/70.html


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第六十一話:プロジェクトF





 時間は進み、プレシアが古い知人たちと別れた後――。

 

「これはこれは……。これまた随分立派な住居を手に入れたものね」

 

 プレシアの新たな住居となる『時の庭園』を眺めるのは、長い白髪を腰まで伸ばした褐色肌のチビ女――トランス。

 そして彼女の数歩後ろには、白金の髪を腰まで伸ばした、白衣を着た見たことない女が一人。

 

 庭園と言うだけあり、緑豊かな広い草原まで存在した時の庭園。

 

「しっかしまー……」

 

 そんな庭園の真ん中に位置するであろう場所に鎮座する、巨大でおどろどろしい様相を呈した石で建造物。それを見て、トランスは目を細める。

 

「あの魔王城みたいな建物はちょっと、この外観にそぐわないわね~」

「ナハティが魔改築してしまった産物よ。気にする必要はないわ」

 

 嬉々としてロボット使って元の建造物を弄りまくったであろう親友の顔をプレシアは思い出し、ため息を漏らす。

 石造りの建造物をその赤い瞳でしげしげと眺める少女に、隣に立つプレシアはジト目を向ける。

 

「……別にあなたが住むワケではないのよ」

「まー、〝私〟はそうだけど……」

 

 と、トランスは意味深に言った後、自身の後ろに控えていた白金の髪の女性をチラリと見た。

 

「〝彼女〟の仮の住まいには、なるワケだし」

 

 プレシアの視線もまた、プラチナブロンドの女性へと向く。

 

「彼女があなたの言ってた、〝研究の助手〟?」

「ええ、そう」

 

 トランスが頷けば、研究の助手たる女性はタイミングを合わせたかのように歩き出し、プレシアの前までやって来ると、右手を差し出す。

 

「ボクがこれから君の〝助手兼監視〟を務めさせてもらう者さ。どうぞ、気軽に〝アル〟と呼んでくれたまえ」

 

 ニコリと笑顔を浮かべる、自分より少し身長の低い白衣の人物。

 

「随分、爽やかに言わなくいい部分までぶっちゃけるのね」

 

 プレシアは呆れと侮蔑の混ざった目を細めるだけで、手を取るなんてことはしない。

 アルは手を後ろに引きながら「なるほどなるほど、ボクの印象も悪そうだ」と呟く。

 

 白衣の女性の姿を見ながら、プレシアは思い出す。自分にコンタクトを取って来た、白衣の男の姿を。

 

「どうせあんたも……そこの白チビみたく、本当の姿があるんじゃないの?」

 

 ジト目と一緒に人差し指を向けられた白チビは、なんとも言えない顔で「白チビ……」と呟き、

 

「さー、どうだろうね?」

 

 アルと名乗った白衣の女は、笑みをたたえたまま曖昧に答えを濁す。

 下手したら、コイツも実は妙な本来の姿を持っている可能性が高くなってきた。まー、考えるだけ疲れるだけなので、これ以上追及はしないが。

 

「どうせ君のことだから、ボクがただ助手の為に派遣されたんじゃないってことは、分かっているんじゃないのかい?」

 

 首を傾げ、探るような、覗き込むような、なんとも嫌な視線を向けてくるアル。

 深淵のような不気味な瞳に対し、プレシアは少し顔を背ける。

 

 二人のやり取りを見た白髪の少女は、やれやれとかぶりを振り、人差し指を立てて軽く振る。

 

「お互い〝協力関係〟にあるワケなんだから、ちょっとは仲良くしていき――」

 

 途中で、喋る生意気な小娘の後頭部をプレシアはガシッと鷲掴み、絶対零度を思わせるような冷たい眼差しを向ける。

 

「私があなたの協力を受けたのは――」

「あいだだだだだだだだだだッ!!」

 

 ミシミシミシと白髪の頭から鳴る音など無視して、金髪の少女――無機質な瞳の娘に、プレシアは視線を移す。

 無残な姿の娘を見て、プレシアは苦し気に表情を曇らせるが、すぐさまは射殺さんばかりの眼光をワンピースと白衣の女どもに向けた。

 

(アリシア)を〝取り戻す〟為だコラッ!! わかったかオラァッ!!」

「あいだだだだだだだッ!! そそそそそそうでしたね!! ああああああなたと私たちの関係は!! りりりりりり利害が一致した上での協力関係ィィィィィィィ!! そそそそいたいたいたッ!! そへんは重々を承知していたァァァァァァい!!」

 

 悲鳴を上げ、涙を流しながら、手足をジタバタ暴れさせる少女。すると、代わるように控えていたアルが一歩前に出る。

 

「では、始めようか――『人造生命完成』を」

 

 対して、プレシアはギリィと憎々し気に奥歯を強く噛みしめる。

 

「……協力と言っても――!!」

 

 仰向けにした少女の体を、自身の首を支点として肩の上に乗せ、その細い顎と腿を掴み、小さな体をグイッと豪快に弓なりに反らせた。

 

「半ば娘の命を使って脅してるような関係でしょうがァァァァァッ!!」

「オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙オ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ォ゙……ッ!!」

 

 アルゼンチン・バックブリーカーを受けて、小さな少女がとんでもない悲鳴を口から漏らすな中、

 

「でも、ボクたちがプロジェクトの提案をしなかったら――」

 

 アルは口元の笑みを絶やさず、視線をチラリと後ろへ向けた。数歩後ろで控えるアリシアに。

 

「今頃キミの娘さんは、体はゾンビのまま、デバイスの中で一生を過ごすことになっていたよ?」

「ええええ!! そうねぇぇぇコンチクショォォォ!!

 

 苛立ちを表現するかの如く、プレシアはトランスの細い腰に両腕を回して、背中をエビぞりに反り曲げた勢いを利用して、少女の体を真後ろに反り投げる。

 

「ゴォ゙ッッッッッッ――!!」

 

 見事決まったバックドロップにより、少女の後頭部が地面に激突!

 

 ピクピクと悶絶する少女の体を、エビぞりのまま腕でホールドするプレシアに、まったく感謝する気持ちなど芽生えてこなかった。

 

 結局連中が欲しいのは、娘の命をギリギリ保っているデバイスと、自分がこれから生み出さなければいけない技術。アリシアのことなどのどうでもいいのである。

 とは言え、憎たらしいデバイスのお陰でアリシア・テスタロッサは魔導炉暴走による事故をその身に受けながらも、今もその命を失わずに済んでいる。理屈はプレシアにすら分からないが。

 

 じゃあ、なんで友人たちはアリシアを死んだと思っているのか? 

 

 

 理由は、白衣の野郎もとい、白髪の小娘と出会った日――。

 一度、アリシアと一緒に姿を消した白髪が戻って来ると、

 

『とりあえず、私は変身が得意なの。知ってるわよね? なのでー、私が娘さん(死体)の代わりになってあげる~。よかったわね~、これで葬儀が問題なく執り行え――』

『火葬でいい?』

『すんませんごめんさい! 火葬はご勘弁を!』

 

 この白髪小娘は、あろうことかアリシアを死んだことにしやがったのである。

 ぶっちゃけ、マジで火葬したかった、と思うプレシア。

 

 まあ、アリシアが死んだ方が色々と都合が良いと言うのは、プレシア的にも分らんワケではないので納得せざる負えないが。

 行方不明者にして、管理局に捜索を頼んでもアレだし。

 

 だがしかし問題だったのは、もう一匹の家族の所在を訊いた時。

 

『紛いなりにもアリシアは見つかったからいいとして……ウチの猫、リニスの姿が見当たらないのだけれど……あなた、なにか知らない?』

 

 問いかけるプレシアに、白髪小娘は唇に指を当てながら、視線を斜め上に向けて。

 

『う~ん……あの猫ちゃん、食べちゃいたいくらい可愛かったのよね~……』

『……ん? ちょっと、待って……。あなた……まさか……!』

 

 嫌な予感を覚えたプレシアに対し、白髪の少女は両手を合わせながら笑顔で、

 

『いただいちゃいました♪』

 

 とんでもねーこと言いやがったのである。

 

『やっぱ火葬ね』

『すんませんごめんなさいゆるしてくださいマジすみませんでした!!』

 

 とにもかくにも話は戻るが、相手方の目的は、記憶転写による人造生命を生み出す技術。それをプレシアという技術者に完成させ、手に入れること。

 

 とは言え現状、クローン技術は自分に必要な技術。アリシアの魂を入れる器を用意しなければならない。

 それこそ、トランスから聞いた『魂の拒否反応』を示さない、まったく同じ体を作る。だからこそ、クローン技術はうってつけなのだ。本当に、必要なのかどうかは分らないが、そこに疑問を抱いても現状は前に進まないので仕方ない。

 

 

 

「もし、ただ単に〝善意で娘を助けていた人間〟なら……」

 

 思い出しつつ、チョークスリーパーを少女に決めるプレシア。その顔は力の入れまくりで凄まじい。

 首に片腕を回され、回した腕を片方の腕でホールドし、締めあげられた少女は、青白い顔になりながら、プレシアの腕をパンパンパンパン!! と連続タップ。

 

 青白い顔で今にも死にそうな表情のトランスの首を開放し、そのまま流れるように持った両足を左右の脇に挟み込み、

 

「お礼にキスだってしてあげたいくらいだったわァァァァァァッッッ!!」

 

 風車のように体をグルグル回転させて、少女の体をスイング。ようは、ジャイアントスイング。

 

ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ッッッ――!!

 

 風圧と遠心力を受け長い髪が逆立ち、目から涙を、口からを悲鳴をまき散らす少女。

 

「おや、それはよかったね、トランス」

 

 対し、アルは笑顔で皮肉とも取れるような返し。

 ブチっと青筋を浮かべたプレシアは、

 

「ゥォォオォラァァッ!!」

 

 トランスをそのまま時の庭園――城の扉に向かって豪快にぶん投げた。

 少女は悲鳴を上げながら砲弾の如く、扉に頭からドカァァァァン!! と激突。

 

 しかし、堅牢な扉は、白髪少女の体当たりではビクともしなかった。

 一方、体が半壊しているかもしれない白髪少女は、地面に寝転がり、白目を剥いて、ピクピクと悶絶中。心なしか、口からは白い魂が出ている気がする。

 

 プレシアは真顔でパンパンパン! と手をはたきつつ、

 

「あら、想像以上に丈夫ね」

 

 頑丈な扉を触りながら傷がないことをチェック。気絶しているであろうトランスをふんずけて。

 

「ふむふむ……中々にいい材質を使ってるようだね」

 

 アルも扉を撫でながら、感想を口にした。

 

 とりあえず、気絶した小娘は放っておいて、そのまま扉を開いて時の庭園内部を歩く。

 

 岩で飾ったおどろおどろしい外観とは打って変わって、内部は中々に良い雰囲気だ。

 西洋然とした廊下や広間に、いくつも点在する部屋。さらには研究用の機材や書物など、色々と必要な物が揃っていた。

 

「へ~、中々に良い物件みたいだね」

 

 そんな至れりつくせりの内装にアルは感嘆の声を漏らしてから、やがて小首を傾げる。

 

「揃った機材から見ても……君の友達、中々に良いプレゼントをくれたようだね」

「……そこまで知ってるのね……」

 

 相手方の監視体制に、若干の息苦しさを感じるプレシア。やっぱり、管理局に務める先輩に事情を説明しなかったのは正解だと、あらためて思った。

 

 ナハティからこの時の庭園を買い取った時、ただ同然の額で機材を含めてここを譲り受けた。たしかに、プレゼントと言っても差しつかえないだろう。

 旧き友人曰く、

 

『私もそろそろ時の庭園には飽きてきて引っ越しを考えいたからね。それに、臨時収入も入ったことだし』

 

 とのこと。

 旧友の贈り物をこんな形で使うのはプレシアとしても癪だが、アリシアを救う為には我慢する他ない。

 

 これから自分の書斎になるであろう部屋まで入ったところで足を止め、振り向き、後ろから付いて来ていた白衣の女とアリシアに体を向ける。

 

「それで? 娘の新しい体が必要な私と違って、何故あなたたちは人造生命精製の技術が必要なのかしら?」

「……デバイスにはより強い体が必要だからです」

 

 答えたのはアルではなく、アリシアの体を使う(デバイス)

 言葉を聞いて、プレシアは苛立ち気味に目を細める。

 

「〝デバイスには〟って、なにその言い方? まさかあなた、アリシアにでもなったつもり? 娘の体を使ってるだけの分際で」

「…………」

 

 デバイスは少しの間、アリシアの口を止めた。アルもチラリと、黙ってしまったアリシアへと視線を向ける。

 やがて『アリシア』は、再び口を動かす。

 

「……あー……まー……そう言うことですね。現在、私はアリシア・テスタロッサみたいなモノなので」

 

 ふざけた言い分に、プレシアのイライラはより増す。

 アリシアは無機質な目で口から感情の籠らない言葉を、まさに機械のように紡ぐ。

 

「見ての通り、あなたの娘の体は幼く、貧弱です。魔力も持ってないに等しい。いくら適合率が非常に高くても、こんな『(からだ)』では使い物になりません」

「っと言うわけで、デバイスには必要なの。より強靭でより強い体を持った器が」

 

 と、食い気味に言うのは――いつの間にか復活して、書斎まで来ていたトランス。

 人差し指を立てる小娘は無視しつつ、プレシアは書斎の机に腰を掛け、腕を組む。

 

「なるほど。人造生命なら自分たちの思い描く最高の肉体と魔力を持った存在を生み出すのに、一番手っ取り早い方法だと、あなたたちは考えたワケね」

 

 トランスが「ええ」と頷くと、プレシアは「でも、解せないわね」と言って視線を鋭くさせた。

 

「何故わざわざ新しい技術を〝私〟に完成させるの? いくら私が研究者と言っても、あなたたちだってお抱えの研究者がいるんじゃないの? そこの白金頭みたく。なのに、わざわざ他人に自分たちの違法な行いを知られるリスクを冒す理由はなに?」

 

 白髪の少女は困ったような顔で「そうしたいの山々なんだけどね~」と言って残念そうに首を横に振り、変わるようにアルと名乗った女性が口を開く。

 

「いかんせん僕たちじゃ、既存の基礎技術を発展させてからの新たな人造生命技術――肉体がまったく同じクローンを完成させる為の、知識や能力を有してなくてね。畑違いってところさ。こっちで一番の研究者も得意なのは、デバイスを作成したり、改造すること」

 

 やっぱ目の前のクソデバイス作ったの、コイツ等なんじゃねぇの? とプレシアは思いつつ、視線を白衣の女性へと向ける。

 

「なら、アル(あんた)はなにしにここに来たの?」

「ボクは君ほど天才ってワケでもはないけど、サポートくらいはできるからね」

 

 などと困った笑みを浮かべつつ褒められても、なんにも嬉しくない。

 

「それで、〝天才である〟このプレシア・テスタロッサの知恵を借りたいと言うワケ?」

 

 むしろ天才と判断された自分のせいで、娘が現状のままだと思うと素直に喜べない。まあ、魔力炉暴走から娘が助かった要因であるなら、不本意でも喜ばしい事ではあるが。

 

 待ってましたと言わんばかりに、トランスは銃の形にした両手で、人差し指を前へとビシッと向けた。

 

「その通り。クローン技術さへ手に入れば、いくらでも人間を使った違法な実験をすることができる」

 

 そして、ニヤリとあくどく口元を吊り上げる白髪の少女。

 

「――わざわざその辺から人間(モルモット)を連れてくる手間が省けるし人道的、でしょう? でしょうでしょうでしょォ~~?」

「下種ね。ウザい」

 

 プレシアは見下す様に吐き捨てるが、相手はあっけらかんとした笑顔で人差し指を立てる。

 

「ん~~~、どんな素晴らしいモノも、多くの試行錯誤と挑戦、そしてあらゆる犠牲によって生み出されるじゃ~~~ん」

「最低ね。クソウザい」

「あァ~~ん、もォ~、ひどォ~い。私たちは~、人類により素晴らしい技術の提供をする為に粉骨砕身努力する所存なのにょィ~~~。プレシアちゃんもそう邪見にせず、一研究者としてモルモット人間製作をがんばっちゃおうよォ~~YOU~~~」

「反吐が出るわ、クソウザい死ね」

 

 プレシアが顔を逸らして毒を吐けば、

 

「ンもォ~~~~、そんなツンツンしちゃってゥェ~~~、ちょっとはしゅなおにィ~~~――」

 

 果てしなくクソウザい口調と頭がおかしいクソガキが笑顔のまま、背中に引っ付いて、頬を人差し指でツンツン突くので、

 

「うっさい――わねぇぇぇぇぇッ!!」

 

 とりあえず、説明するとかなりメンドーなので要約するが、ロメロスペシャルをプレシアはかました。

 

「いだだだだだだだだだだッッッ!!」

 

 手を引っ張られ、下から両足で両腿(りょうもも)を押し上げられ、体が吊り上げられたトランスは悲鳴を上げる。

 

「あんたらの計画なんてこっちは知ったこっちゃないんじゃぁぁぁぁッ!! あと死ぬほどウザァァァァァァイ!!」

「ギブギブギブギブギブギブゥゥゥゥゥッ!!」

 

 体が弓なり引っ張られ、天を仰いだ状態のトランスは涙を流しながら、頭をブンブン左右に振り乱す。

 続けて、うつ伏せにした相手の両足を両脇で抱え込み、そのまま背中に馬乗りになって、

 

「こっちだってェェェェェッ!! 慈善事業でテメェらに協力するワケじゃねェんだァァァァァ!! すべて娘のためじゃあああああああああああああッ!! ウザい死ねえええええええええええええッ!!」

 

 足を引っ張って、背中を反り返らせて締め上げる――逆エビ固めをお見舞いする。

 

いだだいだだぢああああッ!! しぬしぬしぬしぬしぬゥゥゥゥゥッ!!

 

 バンバンバンバンバンッ!! と床を叩くトランス。

 

 様子を見ていたアルはおっとりした口調で。

 

「君の都合もわかってるつもりだからさ。とはいえ、とりあえずはクローン技術を完成をさせないと始まらないよ?」

 

 言われ、とりあえずトランスを技から解放するプレシア。 

 ゼェ……ゼェ……、と息を乱しながら、うつ伏せに倒れるトランスは、青い顔しつつ。

 

「そ、そうそう……。も、もし……さ、逆らうと……娘の体をハンバーグにして、あなたのディナーに――」

 

 プレシアは少女の体を逆さにして、両手で両足を掴み、大股開きに。首付近に逆さにした頭を乗せ、自分の首でフックをかけ、近くの机の上に乗った。

 

「えッッ!?」

 

 一気に怒りMAXハートになったプレシアは眼光を赤く光らせ、大きくジャンプ。

 

だとコラァァアアアアアッ!!

 

 

 筋肉バスター炸裂――!!

 

 

 ドスーン!! と着地した瞬間、

 

「ブゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 大股開きで口から多量の鮮血を吹き出す少女。ひでー絵面である。

 

 プレシアが地面に降ろす頃には、白髪少女は口から血と泡を吹き、白目剥いてピクピクと悶絶していた(二回目)。

 

 娘を人質に取られた母は、ジロリとアルに視線を向ける。

 

「私だってわかっているわ。管理局に助けをもとめたって、娘は助けられない。任せても、デバイスを取られて死ぬか、一生暴れないように閉じ込められるかのどちらか。治す方法が見つかるなんて期待は、望み薄。そもそも肉体が死んでいた場合、体を蘇生させる技術が必要。けど、管理局にそんな技術はない。知人友人に頼んでも、同じこと。あんたたちに協力する以外、あの子は助からない……」

 

 感情を殺しながら、現状を冷静に言葉にしてまとめる母。

 そう言う事でしょ? と、言いたげな視線を向ければ、アルは目を瞑って語る。

 

「管理局だって、クローン技術を完成させて君のために提供、なんて都合のいいことしてくれないだろうね。正義の組織や味方が助けてくれない以上、〝悪魔に魂を売って〟でも〝君〟が頑張らないと」

 

 そこまで言って、アルはニコリと笑みを浮かべた。

 

「それじゃ、これから一緒にプロジェクトを完成させようじゃないか」

 

 すると、アルは近くで控えているデバイスに目配せ。そうすれば、アリシアは一歩前に出て。

 

「……それと言っておきますが、あなたが管理局に通報、もしくは友人知人に助けを求めて抵抗しても、娘の魂は体に戻りません。…………あッ、あと変なことした場合は、魂は、消します」

 

 機械らしく、凄まじい棒読みでプレシアに念押しするデバイス。

 続けて、口から血と涎を垂らし、青い顔したトランスが、指をビシッと突き付ける。

 

「と、とととと言うことDEATH! わ、わわわわ私たちを嵌めようとなんて思わないことDEATH!! 娘が大事ならDEATH!! ホント余計なことしないでDEATH!!」

 

 真っ青な表情で、ビビりながら支離滅裂な忠告する白髪少女。

 

(コイツ、無駄に丈夫だな……)

 

 もう一回シメとくか? とプレシアが手をゴキリと鳴らした瞬間、

 

「ッッ!!」

 

 ビクッと怯えた表情で反応したトランスは、

 

「あ、ああああああ後はアルとがんばってェェェェェ!!」

 

 一気に踵を返してダッシュ。白い長髪を振り乱し、アリシアの元まで走れば、そのまま娘の手を引っ張って逃げて行く。

 あっという間に姿を消した二人の少女と代わるように、プレシアの近づくアルは落ち着いた表情で。

 

「ちなみにだけど、僕らの監視と情報網はすごいよ? 誰かに……ましてや管理局に言わない方がいいよ? そうなったら、たぶん君がすごく〝後悔する未来〟が待っているだろうからね」

「……しつこいわね、わかってるわよ」

 

 プレシアがいまいましげに言い返せば、アルが懐からクリップで止められた資料の束を取り出す。

 

「それじゃこれが、君が目指す人造生命精製技術の完成に必要なノウハウを得るのに適しているであろう研究をしているめぼしいチームの所在。やる気もあるようだし、頭に入れておいてくれたまえ」

 

 資料をズイッとプレシアの前に差し出すアル。

 

「…………」

 

 白金頭の白衣女を見て、プレシアは目を細め、思った。

 

 偉そうだし、コイツもシメておこかなー……? と。

 

 

 それから、プレシアの長い長い道のりが始まる――。

 

 紹介された、あらゆる技術や特許を取得する為、方々の研究チームや企業や会社に入っては出て行くを繰り返す。

 もちろん、アルと言う女も金魚の糞のようにピッタリと自分の後を付いて行く。

 

 時々、管理局や友人知人に助けを求める考えもふと何度か頭を過ったが、〝結局娘を助けられない〟という一番望まぬ結果を予想してしまい、止まることはできなかった。

 

 そしてプレシア・テスタロッサが基礎の段階から、人間を精製できる段階までにこぎ着けるのに、十数年後。

 

「――ここまで本当に、長かった……」

 

 プレシアは時の庭園に用意した、クローン精製の為の設備を見ながら、呟く。

 もちろん設備だけでなく、今まで培ってきたノウハウから構築した人造生命の基礎を発展させ完成させた、クローン技術の理論もデータとしてインプットさせてある。

 

 長い道のりのゴールが見え始めた事で、プレシアが今までの苦労に対し、深くため吐いていると……。

 

「とりあえず、『プロジェクトF.A.T.E』完成だね。ここまで来れば理論通りに、理想の素体を完成させるかどうか、って段階だけど」

 

 後ろから、自分の『助手兼監視兼報告役』を謎の組織から言い渡されている、女の声。

 

「…………」

 

 プレシアは振り向くことなく、ため息を吐いてしまう。

 

 このアルと名乗った女、サポート専門と言うが、そこら辺が優秀どころか、役に立つかどうかすら判別できないほど、はっきり言って微妙だった。

 別段邪魔なワケではないが、サポートしていると言えばしているのかもしれないが、役に立っているのかどうかわからないレベルで微妙な、自分が道筋から逸れないようにする程度の、研究者としての能力。たまに、必要な機材な技術を進言する程度。

 

 ただ、プレシアにも納得はいく。トランスの所属する組織にこんなレベルの研究者しかないなら、自分を頼るのも分からないわけではない、と。

 

 下手したらこの女は、自分が完成させたプロジェクトFのデータを、定期的にトランスに送るのが役目の人間かとも思った。

 そこで、大量のデータを送信、もしくは記録する為の機器を持ってないかの身体検査を欠かさなかった。そうすることで、事前にデータの流出を阻止。

 アル自体は身体検査自体を快く引き受けるので、余計に違和感を覚えたが。ちなみに持っているのは、組織と通信する為の端末だけ。

 他にも、時の庭園で自分以外の誰かが勝手に出入りした時、警報が鳴るようにした上に、時の庭園に保存してあるプロジェクトFのデータもろもろには、厳重なロックをかけてある。

 

 だがしかし、自分の心配ごとが杞憂と言わんばかりに、妙な機器をアルは持ち込んだり、持ち出したり、時の庭園を勝手に出て行くなんて事はしない。

 

 アルはずっと時の庭園でプレシアと一緒に暮らしているし、妙な行動一つせず、研究の助手をするだけ。まあ、本当に助手と監視目的だけならそれはそれで良いのだが、助手としてあまり役立たないのがなんとも……。

 とは言え、助かった点もある。それが、プロジェクトFに必要な薬品による呼吸器官の悪影響を事前に教えてくれ、対策を考えてくれたこと。

 

 あと目立ったところと言えば、なんかよく食べてる弁当のおかずがほぼ全て真っ黒い『ナニカ』で、それを嬉々としてザリザリゴリゴリ音を鳴らしながら食べてるところ。

 食べるかい? なんて訊かれた時には、プレシアは首を速攻で左右に振った。

 この時、あぁ、やっぱコイツもトランスと一緒でどっかおかしいんだな、と思った。

 

 

 この十数年間の事をプレシアが思い出してる中、後ろに控えるアルはニコリと笑顔を作る。

 

「それじゃ、最期は君の娘の〝新しい器〟作りだね」

 

 と言うアルが用意したのが、素体作りの為に前々から保存していたと言う『アリシアの体細胞』。

 用意が良い事この上ないが、自分とアリシアの体を接近させないための処置だろう。

 

 そして、アリシアの新たな器となる、完全な素体を完成させるのに数年を要した……。

 

「やっと……完成した……!」

 

 アリシアとまったく瓜二つであろう肉体を作り出した。その、愛らしい金髪の少女の体がポッドに充満した液体の中で浮かんでいる。

 ポッドのガラスにプレシアは両手を当てながら、膝から崩れるように体を落とし、額をガラスに付け、感涙のあまり涙を流す。

 

 ――ここまでに到達するのに、21年以上と言う歳月が流れた…………長かった。本当に長かった……。

 

 だがこれでやっと娘の笑顔をもう一度拝むことができる。もう自分は五十近くなる頃だろうし、本来なら娘は二十歳を過ぎてる頃だっただろう。もしこれからアリシアが二十歳になる頃には……自分は……。

 が、自分の歳など関係ないし、何年会わなくても、アリシアが自分の愛娘であることに変わりなどない。

 

 トランスからの要求を終わらせられることができた。つまりそれは――。

 

 パチパチとプレシアの後ろから拍手が聞こえ、

 

「『プロジェクトF.A.T.E』と素体の完成おめでとう~」

 

 後ろを振り向くプレシアの目に映るは――拍手をしながら、ニコニコとした可愛らしい笑顔の褐色肌の少女。だが、その笑顔はプレシアにとっては、とてつもなく憎たらしい笑顔だ。

 二十年以上経ってもその容姿は成長というものを感じさせない。

 体を変身させる場面から想像して、変身魔法で若作りしてるのか、もしくは人間と言う枠に収まる存在ではないのか。どちらにせよ、歳など気にしても、詮無きことだろう。

 

 こうやってトランスと直接会うのは、これで十数回程度。数カ月に一回とか、本当に会って話す事がない限り、ほとんどない。

 自分の研究から状況の全ての報告は、この十数年間で自分の元にピッタリ付き、監視していたアルの役目だったのが如実にわかる。

 

 今回、こうやってトランスが来たのは、アルからの『プロジェクトF.A.T.Eが完成した』と言う報告を受けたからに違いない。

 

「では早速、『完成形のプロジェクトF.A.T.E』のデータをちょ~だい」

 

 拍手を止めたトランスが右の掌を差し出すと、プレシアはキッを白髪少女を睨みつける。

 

「それなら、まずはアリシアを返してもらうのが先よ……」

「だ~か~ら~、こっちがアリシアちゃんを新品の体に入れたら、すぐにでもお返しするって~」

 

 口を尖らせたトランスがずいっと手をさらに前に差し出すが、プレシアは毅然とした態度で返す。

 

「私が約束を守ったとして、あなたたちが約束を守る保証はどこにもない。なら、『プロジェクF.A.T.E』を完成させた私の要求をあなたが先に呑むのが筋じゃなくって?」

 

 トランスはプレシアの言葉を聞いて出した手を引っ込め、口を閉ざす。そしてプレシアはさらに言葉を続けた。

 

「あなたに『プロジェクトF.A.T.E』のデータを渡したとして、そのまま約束を反故にされた挙句、さらに何か要求を突き立てられる立場にあるのは、あなた」

「いや~……ん~……ま~……そうね……」

 

 なにかを言いたげな眼差しのトランスは、ハァ~……、とため息をついて肩を落とす。

 

「……じゃあ、どうするの? アリシアちゃんがデバイスの中にある以上、あなたが私たちに反旗を翻すなんて展開は、止めておいた方がいいって、忠告しとくけど?」

「だからこう言うのはどう?」

 

 プレシアはニヤリと余裕の笑みを浮かべる。

 

「あなたたちに『プロジェクトF.A.T.E』のデータはまだ渡さない。だから、時の庭園でアリシアの精神、魂? まぁ、とにかくそれらを新しい体に入れる。その後、あなたたちにデータを渡して終わり。それでお互い、後腐れなく――」

「ま~それよりも~……」

 

 プレシアの言葉の途中、一歩前に出たトランスは、

 

「〝こっち〟の方が手っ取り早いと思うけど……」

 

 右手の爪を鋭利に伸ばし、見せつける。人外じみた芸当を見せた少女の表情は変化を無くし、赤く光る眼はとても冷たい。

 少女がまた一歩、歩を進めた瞬間、

 

 ゴキリッ!

 

 と骨を鳴らす音が聞こえ、鋭利な爪を構えたトランスの体がピタリと止まる。

 

「アイアンクロー……」

 

 プレシアがボソリと呟き、

 

「ドラゴンスクリュー、ジャイアントスイング、シャイニングウィザード、パイルドライバー、パワーボム、フェイスロック――」

 

 今まで会うたび会うたび、ムカついた時にキメてきたありとあらゆる技を呟きながら、ゴキゴキと手を鳴らすプレシア。その目が、ギラリと赤く光る。

 

「…………」

 

 目元に影を落とし、トランスは手を後ろに回せば、爪を元に戻して。

 

「……う、うん……ごめんなさい。今の冗談だから……」

 

 右手を前に出してコホンと咳払いしたトランスは、両手を顔の横で合わせ、

 

「アハハ~~、んもぉ~~~……プレシアさまって実は魔導師じゃなくて残虐超人だった~~~? アハハハ~~……」

 

 さっきの冷たい雰囲気とは打って変わって、ニコニコ笑顔で猫なで声。汗はダラダラ。

 

「アハハハハ~~~、こんなこと私だって言いたくないけど~~、私は〝一人〟であなたを脅してるワケじゃないから~~。組織だって動いているの~~。私を排除しても、私が一日戻らないだけで~~、あなたの娘さんは大変なことになっちゃうわよ~~」

 

 などとトランスが説明すれば、プレシアは冷静な表情で。

 

「あら、そうなの。あなたみたい死ぬほどウザくて、クソッタレで、頭おかしくて、姑息なガキを気遣う組織なのね」

「アハハ~、泣いていい?」

「あと言っとくけど、私になにかしても、あんたをブチ殺す自信くらいあるし、データも破棄する準備もバッチリだから」

「アハハハハ~……あなた、ホントに一般人?」

「さらに言っておくと、あなたの脅し通り娘に何かあったら、腹いせに私は何をするか分からないわよ? 例えば――」

 

 プレシアは口角を吊り上げ、不敵に笑う。

 

「この私でさへ作るのに〝二十年近く〟も時間を有した『完成形のプロジェクトF.A.T.E』のデータを破棄しようかしら?」

「…………」

 

 口を閉ざすトランス。対し、プレシアは余裕の態度で語る。

 

「まーとは言え、私が構築した基礎からの応用技術のいくつかは、渡り歩いた他社や研究チームに渡っているから、初期の基礎理論から『プロジェクトF.A.T.E』を完成させられるのに、〝私ほど〟の苦労はないでしょうけど。まぁ、その内、どこかの研究チームが完成させるんじゃない? それでも技術完成には時間はかかるし、また長い時間待つ羽目になるわね」

 

 自分が完成させた技術、『プロジェクトF.A.T.Eの完成形』は大いに交渉材料として使える。

 交渉材料として一番に使えると判断した点は、誰も基礎段階から先へと進められていなかったこと。プレシア以外でこの技術を生物構築にまで発展させていても、自分の知る限りでは虫や小動物が限界のはず。

 

 なにより人間を作り上げる基礎理論の構築にさへ15年全てを捧げてやっと辿り着いたのだ。しかもこの技術は『プレシア・テスタロッサが着手した』と言う記録は残っているが、素体作りを含めた完成形のデータは一切外部に漏らしてはいない。

 

 まあそれでも、『プロジェクトF』がどこかで完成され、こいつらのような連中が悪用するのは時間の問題かもしれないが。

 

「それに、あちこちの他社から私の作った応用技術を集めるのは大変よ? あっちこっちの会社や組織、ましてや局とそんなにメンドクサイ喧嘩をしたいのなら、構わないけど? なにより、私以外で完璧なアリシアと同じ素体作りなんて、どれだけ時間がかかるのかしら?」

 

 無論、連中や誰かが時の庭園にある『プロジェクトF.A.T.E』のデータを盗むことのできないよう対策も施してある。現状なら、プレシア以外の者が『プロジェクトF.A.T.E』の技術を扱う事は不可能と言ってもいいだろう。

 

「それでもあんたらが我慢強く、プロジェクトFを他で確保するなら構わないわ……」

 

 プレシアは不敵に、そして諦めと覚悟が混ざった表情でさらに畳みかけた。

 いろいろと事前に用意はしたが、プレシアにとっての最大の交渉材料は、何年も待てば補填が効くプロジェクトFなどではない。

 

「どうせ娘が戻らないなら、あんたかアルを徹底的に叩きのめして拷問して、組織の情報聞き出して、私の魔力と知恵をフル活用して、死んでもあんたの組織を叩き潰すのも良いわね。管理局も巻き込めば、できないことはないでしょ?」

 

 高い魔力を保有し、自暴自棄気味になった『自分』こそが、最大の交渉材料だと――。

 

「あんたらを殲滅しなきゃ、プロジェクトFで娘を蘇らせても、平穏なんて夢のまた夢になるワケだし。あんたらを殲滅してから、娘との時間を作るしかないわね。私を裏切り、全ての希望を絶とうとしてる、あんたらの自業自得よ?」

 

 プレシア・テスタロッサには分かっていた。幼い少女を人質にするような奴が約束を素直に守るとは考え辛い。なればこそ、ここで思い知らせるしかない。

 

 二十年もの間、努力に努力、苦労に苦労を重ねた人間を裏切ったら、どうなるかと言うことを――。

 

 たぶん、徐々に不気味な笑みを浮かべているに違いない自分の顔。若干自分が壊れ始めているような感覚すら覚え始めてさへいる。

 

 もうプレシアという魔導師は、娘を人質にされ言うことを聞かされるだけの弱い立場(?)などではなくなっていた。

 娘を失い、時間を失い、自暴自棄で何をしですか分からない、娘への愛で暴走する狂人(ははおや)に足を踏み込む寸前なのだ。

 

 ニヤリと笑みを浮かべるプレシアの狂気的な、表情、眼力、言葉。それらを聞いたトランスは、汗を流しながら両手を軽く上げて、後ろにゆっくりと下る。

 

「…………さすがに、狂った大魔導師(バーサーカー)を相手にするのはご勘弁」

 

 トランスは諦めたようにため息を吐き、がっくりと肩を落とす。

 

「……それじゃー、お互いの為、このまま協力関係は維持と言うことで……」

 

 十分に自分から距離を離したトランスを見て、プレシアは内心でほくそ笑む。

 正直、『協力関係』と相手は言っているが、どこまで向こうが協力する気があるのか分かったもんではない。さっきだって、冗談とは言っていたがどこまで冗談なのか。

 トランスは頭を掻きながら、周りを見渡す。

 

「……それでー、アルは? 姿が見えないけど?」

「あんたらとの交渉に使えそうだから、どっかの部屋に監禁してあるわ」

「わー、そうきたかー。プレシア様って残虐超人じゃなくて悪魔超人だったっかー」

 

 やれやれとげんなりが混ざった表情で頭を振るトランスに対し、プレシアは冷徹な表情で返す。

 

「あいつと、それに『今までのやり取りを記録した映像』を管理局に突き出されたくなかったら、私との〝協力関係〟はちゃんと維持することね」

「映像もかー……ま~、管理局との対決は、現状は望むところじゃないし~……仕方ないか~」

 

 どうやら、目の前の奴の組織は、管理局と対決できるだけの戦力を整えてる最中と言う事らしい。ハッタリかもしれないが、規模が大きい組織という事を、念頭に置いておくプレシア。

 

 トランスは視線を鋭くする。

 

「ただあんまりこっちの事を追い詰めない方がいいわよ? お互い、ガチンコ対決なんて望まないでしょう?」

「そこはわかってる」

 

 まあ、協力関係を維持するだけで充分。娘さへ帰ってくれば、目の前の連中が何をしようが関係ない。

 トランスは嫌々そうな表情で、首を横に振る。

 

「こうなると……やっぱり〝アレ〟の事を話さないといけないわよねー……」

「アレ? なんのこと?」

 

 眉間に皺を寄せるプレシアに対し、トランスは両手の人差し指を立てながら言う。

 

「じゃあ、ちょ~っとアリシアちゃんを連れて来るから~、待ってて~」

 

 プレシアの疑問などに応えず、トランスはそそくさと研究室から出て行く。

 白髪小娘が時の庭園からいなくなったのが分かってから、プレシアは息を深く吐く。

 

 内心安堵するプレシアは、ポッドのガラスに背を預け、ずるずると腰を床に落とし、「ハァ……」と息を吐く。

 緊張からか、ドッと背中から大量の汗が出ていることに気づく。そして、顔からも汗がいくつも流れ始める。

 

 ――なんとかうまくいったはずだ……。

 

 あの頭のおかしいヘンテコ小娘が相手だ。自分の予想の斜め上を行く脅しもそれなりに覚悟していたが、想像よりもずっとマイルドに相手が折れてくれた。

 

 とにもかくにも、約二十年ぶりにアリシアと再会するとこまでこぎ着けたのだ。

 後は連中が妙な考えを起こさずに娘を返してくれることを祈る他ない。

 

 さきほどの強気な発言だって、ほとんど賭けに近かった。相手は犯罪者。もっと短慮で強引な後先考えないような性格の奴らだったら、本当に娘の命が失われる危険性も含んでいたのだから。

 

 アリシアの安否を心配しつつ、拭いきれない不安をなんとか押し殺しながら、あの得体の知れない存在を言いくるめられて本当に安堵した。きっと、今まで掛けてきた技も功をそうしたに違いない。

 

 プレシアはポッドのガラスに後頭部を預け、疲れた目で天井を見つめる。

 

「アリシア……ごめんなさい……。本当に待たしてしまったわね……」

 

 きっとアリシアがデバイスから解放されれば、おそらく体を操られてからの記憶はないのだろう。もし記憶があったとしたら、相当精神に負担がかかっているはず。

 そしてなにより……。

 

 ――二十代の時は五歳のアリシアが……二十年ぶりに帰って来る……そして私は四十台後半……。

 

 娘も育てられず、年も人生も果てしなく無駄にしたような感覚がドッと押し寄せてきた。

 

 ――あッ、なんか涙出てきた……。

 

 なんかこれからの苦労(家庭的な)を考えて、つい零れそうになる涙を抑える為に目を手で覆う。

 娘と自分の二十年以上を奪った白髪に、大魔法とプロレス技全般を死ぬまで叩き込まないと気が済まなくなってきた。

 

 プレシア・テスタロッサ四十代。頑張るぞ! あんなクソッタレなんかに負けないぞ!

 

 

 ほどなくして……トランスがデバイスに操られた娘の体を研究室に連れてくるのだが……。

 

「……どういうこと?」

 

 まだ(デバイス)を持ったまま体を乗っ取られた状態のアリシアを見て、プレシアが抱いたのは喜びや悲しみや怒りよりも、疑問だった。

 アリシアの姿を見て一番に感じた〝不可解な部分〟を、白髪小娘に問いただす。

 

「――なんか、アリシア……心なしか大きくなってない? 気のせい?」

 

 そう。アリシアの背格好は20年以上前とほぼ変わってはいなかった――ワケではなく、それどころか、見たところ当時から体が少し大きくなってる。母親目線的に、1.2cm背が伸びてるのがわかる。

 プレシアの疑問に、トランスは目を横に逸らしながら、ボソリと。

 

「……いや、なんでわかるの……」

「それで……理由は?」

 

 プレシアがキツめに問えば。

 

「……健康に……なりました……」

「……はい?」

 

 呆けた声を出すプレシアに、トランスは露骨に目と顔を逸らしながら。

 

「……あなたの娘さんの体はー……健康な状態にー……戻りました……」

「はッ? ナニイッテンノアンタ?」

「……まー……つまりー……健康な肉体になったんです。ゾンビ状態から、生きてる普通の体になったんです」

「…………」

 

 呆然とするプレシアに、トランスは汗をダラダラ流しつつ、言葉を濁しながら告げる。

 

「……デバイスの隠された機能でー……娘さんの体はー……なんか復活しました。良かったですね。うん」

「…………そう」

 

 短く答え、顔を俯けるプレシア。

 

 ――わ、わたわた、わたしの……わたしの……!

 

 心中で、

 

 ――に、二十年はなんだったんじゃああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああッ!!

 

 怒りが大爆発した。

 




第六十一話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/71.html


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第六十二話:親の愛は海より深く、山より大きい

 とりあえず、アリシア復活からの、プレシア心の絶叫――

 

あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あッ―――!!

 

 からの、発狂。

 

「…………その~~……落ち着い――」

 

 汗を流しながら声をかけるトランスの片足を持って、

 

「えッ!?」

 

ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぃ゙ぃ゙ぃ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙ぁ゙あ゙あ゙あ゙い゙い゙い゙い゙い゙い゙あ゙あ゙あ゙あ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙ェ゙あ゙あ゙あ゙あ゙ィ゙ィ゙ィ゙ィ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙イ゙あ゙あ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙エ゙あ゙あ゙あ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ァ゙ア゙ア゙ア゙ア゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙え゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ッッッッッ!!

 

 ビターン!! ビターン!! バシーン!! ベシーン!! と小さな少女を何度もハンマーのように床に叩きつけ滅多打ち。

 

「あ゙ゔッ!! お゛べッ!!  はぎゃッ!! あ゛べッ!! お゙ゔッ!! ふぎゃッ!! え゙ゔッ!! ごべッ!!

 

 地面がひび割れるほどの勢いによる少女のたたきが、数分ほど続いた……。

 

 

 

 

 ――なんかもうツッコミたいし、白髪小娘を半殺しにしたい(した)し、死ぬほど疲れたし、色々思うところは多分にあるが、アリシア復活を喜ぶ。そもそもデバイスに関しての今までの説明が全部嘘だったかもしれないが、喜ぶしかない。

 

 ――つうかアリシア存命(コレ)も嘘だったら、このガキ百万回ブッコロス!

 

 ブッコロスと心に決めたガキは、満身創痍のボロボロ状態。

 地面に倒れ伏すトランスは、なんとか顔をあげつつ。

 

「…………と、とりあえず……た、たたた単刀直入に言って、アレな空気になっちゃったけど……まァ、気持ちを落ち着けましょう。あなたの二十年は……無駄になってないから」

 

 気持ちをとにかく必死に抑え付け、プレシアは冷静に言葉を返すように努める。

 

「……んだよ、ふざけんよ……二十年はなんだったんだよ……死ねよ……!」

「ぉぉぅ……こわァ……」

 

 ダメだ。まったく心が落ち着かない。呪いの言葉が口から洩れる。

 プレシアはジロリと白髪の少女に、冷たい視線を向けた。

 

「それで……私が数年かけて作った……アリシアの〝新しい体〟はどうするつもり?」

「…………」

 

 トランスは、アリシアと瓜二つの少女(からだ)が入った円柱の水槽(ポッド)に、チラリと視線を向ける。しばし、アリシアのそっくりの体を見てから、プレシアへと視線を戻す。

 

「……とりあえず、アリシアちゃんはこちらで預かると言う方針で」

「ナニイッテンダオマエ?」

 

 ガシッとトランスの頭を鷲掴みするプレシア。

 プラーンと体を人形のように持ち上げらた少女は、汗をダラダラ流しながら。

 

「え、ええっと……その……あ、アルに記憶転写させた後、あなたがそこのクローンを育ててくれませんでしょうか?」

「フザケンテノカ?」

 

 少女の白い頭からミシミシと音を出させながら、今にも人殺しそうなほどの殺気を含んだ眼光を浴びせるプレシア。

 

「オマエ、死ニタイヨウダナ?」

「ちゃんと聞いてくださいちゃんと聞いてください! こっちの話を聞いてください! 理性を取り戻してください!」

 

 トランスは青い顔で慌てながら説明を開始。

 

「組織の科学部門の見解では!! やっぱりアリシアちゃんの肉体が一番今のところ(デバイス)との適合率が高いみたいなことになったの!! すんごい候補者がいたけど結局はアリシアちゃんなんです!! つまり娘さんは宝くじの一等が当たったみたいな――!!」

「ツマリ、クローンヲ、娘ガワリニ、シロト?」

 

 瞳に影を落としたプレシアの体の周りにバチバチと紫色の電気が迸り始める。

 

「ちょちょちょちょッ!! ちがちがちがちが!! 助けて助けて助けて!!」

 

 顔面蒼白のトランスがデバイスに助けを求め、デバイスが一歩前に出ると、

 

「ウゴイタラ、コイツヲ殺ス!!」

 

 プレシアが凄まじい眼光を向ければ、デバイスはピタリとアリシアの足を止め、その動きを封じる。

 

「つうかもう今にも私を殺しそうじゃん!!」

 

 ほぼ助けゼロ状態になったトランスは、汗と涙を流しながら両手を合わせて必死に懇願。

 

「と、ととととにかく説明を聞いて!! お願いだからお願いだからお願いだから!!」

「サッサトイエ。死ヌマエニ」

 

 プレシアの真っ黒な影で覆われた顔は――目を赤く光らせ、歯を鋭くさせ、口から白い煙を出しながら、獣のようにグルルル! と唸り声を上げているようにさせ見える。

 今度は首をガシっと鷲掴みにされた少女は「あわわわわわわわわ!!」と慌てながら必死に話し出す。

 

「つ、つつつつまりね!! で、デバイスの新しい体をあなたに育てて欲しいんですぅー!! 娘さんとほぼ同じなんですから適合率も問題ないでしょうしィー!! それである程度育ったら娘さんと交換と言う事でェェェ!!」

「オメェガ、ソダテロ」

「最もですよね!! 最もな意見ですよね!! でも!! 私たちは人間の子供、ましやて魔導師を一から育てるノウハウはないの!! つうかやりたくないの!! だから人間の母親であるあなたに、ある程度クローンを育てて欲しいんです!! お願いします!! もうちょっとで娘が返ってくるんだからそれくらいサービスして!! お願い!!」

 

 プレシアはジロリと、アリシアと瓜二つの体が入った水槽に目を向けてから、トランスへと視線を戻す。

 

「……なんで、アリシアのクローンが、魔導師に……育つの?」

「えッ?」

 

 プレシアの疑問を訊いて、トランスは汗をダラダラ流した後、「え~~っと……うんと……その……」と呟いてから、思いついたように。

 

「……か、科学的なアレとか……ソレとか……コレから導き出した……奇跡の結論? みたいな?」

「……あん?」

「け、決してー……プロジェクトFだと結局生まれるのは、別人とか別の命とかじゃー……ないからー……」

 

 露骨に顔を逸らすトランス。

 

「…………」

 

 プレシアはチラリと視線を移し、液体の中に浮かぶアリシアと瓜二つの少女を見つめる。

 青い顔をしながらプレシアの返答を待っているであろう白髪少女。

 やがて、プレシアはため息を吐き、

 

「…………わかった」

「へッ?」

 

 呆けた声を出すトランスに対し、プレシアは冷めた視線を向けながら言う。

 

「……クローンをある程度育てたら、アリシアを返してくれるのね?」

「そ、そそそそそそりゃもちろん!」

 

 首を縦にブンブン振るトランス。

 再び、アリシアそっくりの少女を見つめながら、

 

「…………わかった」

 

 プレシアは手から徐々に力を抜く。

 プレシアの拘束から逃れたトランスは尻もちを付いたまま、水槽を見つめる大魔導師から距離を離そうと後ろに下ろうとした時、

 

「データ」

「は、はい?」

 

 ボソリとプレシアが言った単語に、トランスは呆けた声を漏らす。

 

「記憶転写用のデータ」

 

 プレシアが冷たい声でハッキリと告げれば、気付いたトランスは青い顔しながら答える。

 

「そ、そそそそそうですねー!! じゃ、じゃあ! あ、アルをつ、つつつ連れて来てくれない? き、記憶転写用のデータを渡す予定だったから!!」

 

 自分から攻撃されないように、アリシアの近くまで尻を引きずりながら下がるトランス。ちなみに近づいた瞬間、白髪の少女は小さな金髪少女の体にギュッと抱き着いていた。

 

 プレシアは時の庭園の警備用の傀儡兵に指示を出し、アルを連れてこさせる。

 

 二体の傀儡兵によって連行させられたアルの姿は――両手を魔法妨害用の手枷で封じられ、両足には鉄球付きの足枷(魔法妨害用)付きだった。

 その姿を見たトランスは「せ、世紀末過ぎる!」とアリシアの体の近くでガタガタ震えながらビビりたおしている始末。逆に、アルの方は穏やかな表情だが。

 

 まだダメージと恐怖で満足に動けないのか、四つん這いのハイハイ状態でアルに近づくトランス。

 

「そ、それじゃあ……き、記憶転写用のデータを……」

 

 アルに長方形状のモノを渡すと、ゆっくり立ち上がって、青い顔のまま苦笑いを浮かべ始める。

 

「あ、アハハハ~~……! そ、それじゃあ私はこれで!!」

 

 これ以上は状況的にも肉体的にも危険と判断したのか、アリシアの体を連れて退散するトランス。

 

「…………」

 

 白髪と金髪の少女二人が、時の庭園からいなくなったという分かった後も、プレシアはただただ、保存用の液体の中に浮かぶ幼い少女を、見つめ続ける――瞳にどことなく、憂いの感情を帯びさせながら。

 すると、

 

「少し前に〝ボクがちょっと言った事〟について、考えているのかな?」

 

 今まで一言も喋らなかったアルが、言葉を発した。

 声の方へとチラリと視線を向ければ、ニコリと薄く笑みを(たた)えている白金頭の女。

 プレシアは視線を落としてから、再び水槽(ポッド)に視線を向けつつ、言葉を口にする。

 

「…………〝プロジェクトFは死者蘇生の技術ではなく、新たな命を生み出すだけの技術にしかならない可能性〟って、話よね」

「そう。それで、そうやって物思いにふける君は、どう思うんだい?」

 

 と尋ねるアルに対し、プレシアは詰まったモノを漏らすように、声を出す。

 

「……もしあなたの言う通りなら……私はロクでもない人間ってことかも……しれないわね……」

「その考えに至った、理由は?」

「一つの人間の命を犠牲にしたあげく……その命を勝手に娘に背負い込ませようとしていた……ってことよね? ある意味ひどい罪人よね、私って……」

 

 「まぁ、あの狂人(バカ)の仲間であるあなたには、理解できない感情でしょうけど……」と言うプレシア。

 

「そこの水槽に浮かぶのは、ただの肉塊と思わないのかい? ただの娘の為の器だと」

 

 対し、アルは小首を傾げたまま新たに問う。

 すぐに答えず、プレシアは逡巡した後、口を開く。

 

「…………思わなかった……って言えば、嘘になるわね。私が着手したクローン技術は、新しい肉体を作り、命を延命、もしくは死者を蘇らせる技術……と、あなたに指摘されるまで、思っていたのだから」

「指摘、ってほどではないけどね。ボクはちょっとした疑念を言ったまでだし」

 

 笑みを浮かべたまま、大した事はしてないと言いたげなアル。対し、プレシアはより憂いの色を強くさせた。

 

「まぁ、あなたに言われる前から……私も、プロジェクトF……いや、一人の人間を構成する要素に対して、多少の疑念はあったわね……。ただ、人間の人格を構成する要因は〝記憶〟って考えがあったから、今の今まで深く考えてこなかったけど」

「じゃあ、訊くけど……君はそこに浮かぶクローンを、どう思うんだい?」

 

 と訊かれ、プレシアは後ろを振り向き、目を細める。

 

「……あなた、そんなに私の考えに興味があるの? 今まで何も言わず、尋ねず、手伝ってきただけだったのに」

「まー、事ここまで来たわけだし、折角だからね。個人的に興味があるんだ……」

 

 〝君がそのクローンをどう見てるのか〟――。

 

 と言う言葉が耳に入った瞬間、何を考えているのか分からない深淵のような瞳が、プレシアを捉える。

 

「それで、教えてくれるのかい?」

 

 まるで心の中を覗き込んでくるかのような瞳に対し、プレシアは視線を逸らしながら瞳を前にある水槽へと戻す。

 

「……まぁ、いいわ。私も、考えをまとめたいし……」

 

 言われ、アルはニコリと笑みを浮かべる。

 

「それじゃ、訊こうか。君は今、目の前のクローンをどう思っているんだい?」

「……さぁ、分からないわね。目の前のクローンが、アリシアの〝新しい体〟なのか、新しく出来てしまった〝命〟なのか……」

「命……か。科学者なら、研究用に犠牲になるマウスかなんかだと思うのが、普通じゃないのかな?」

 

 偏見の混ざったような意見に、プレシアは肩を落とす。

 

「あんた、科学者をなんだと思ってるの?」

 

 呆れた声を漏らしつつ、深く息を吐く。

 

「……ただ……そうね。そう思えたら、楽だったかもしれないけど……」

 

 そこまで言って、プレシアは言葉を止めてしまう。

 

 ――自分がクローンに対して、何を思っているのか……分からなくなってくる……。

 

 ――当たり前だが、あのクローンは娘とまったく瓜二つの顔をしている。冷静に考えれば、ただの〝器〟……だが、もし新たな命なら、それはクローンではなく……。

 

 プレシアの心の内を理解しているかのように、

 

「そうかー……良心は捨て切れないよね……」

 

 白衣の女は言葉を紡ぎ、

 

「じゃあ、目の前のクローンはマウスどころか、君の娘の〝姉妹〟かな? それとも、〝君の娘〟なのかな?」

 

 軽快に痛い質問を突きつけてくる。

 

「君の作った子供(クローン)は、お腹を痛めて生んだワケでもなければ、必死に親として育てた過去もない。まして養子でもない。ただ特殊な液体と容器と技術の中で生まれ、君と娘の血が流れ、姿形だけが一緒の肉の塊。それがクローンに対して、科学者として正しい見識なんじゃないかい?」

 

 言葉を聞いて、プレシアは唇を噛み締め、目を瞑った。

 そう、感情と良心と道徳心から出した答えもあるが、冷静に考えれば、あのクローン体は娘と扱うべきなのか? ただ子供として見るべきなのか? 一人の人間と等しい命として扱うべきなのか? という疑念がプレシアの中にどんどん生まれ始めてしまう。

 思考を巡らせ始めると、相手の意見にも一理あると納得する部分さへある始末。

 

「それじゃあ、あえてこう訊こう」

 

 アルは声のトーンを低くし、言い放つ。

 

「――娘とそのクローン、〝どっちが大事〟?」

「ッ…………!」

 

 ずばり言われたプレシアは息を飲み、

 

「そもそも、目の前の存在は元々……君が〝犠牲〟にする為に作ったモノだよ? 忘れたの?」

 

 問われ、ギリィと歯を強く噛みしめ、拳を強く握りしめる。

 

「娘を取り返すには、クローンを犠牲にするしかない。ちょっと良心を捨てれば、万事解決だよ」

 

 まるで悪魔のささやきのような言葉に、プレシアは良心をガリガリと削られるような、痛いところを抉られるような――楽な道が見つかったような、そんな感覚を覚えてしまう。

 

「僕たちとの契約さへ済ませられれば、娘との〝平穏な生活〟が待って――」

「黙りなさい!!」

 

 耐え切れず、言葉を遮るプレシア。

 もうそれ以上訊くなッ!! といった念を込めた視線をアルに送れば、白衣の女は「わかった」と言って、ニコリと笑みを浮かべる。

 

「――それじゃ、君は疲れているだろうし、ボクが出来上がったクローンに『記憶データ』を入れるとするよ」

 

 アルは両手を封じる手錠を見せつけながら、「とりあえず、手錠を外してくれないかい?」と言う。

 

 手錠を外し、記憶データを入れるアルの姿を見ながら、プレシアは思い悩む。

 ただただ、このままで本当に良いのか? だが、コイツの言う事も一理ある、と言う迷いだけが、頭の中をぐるぐる駆け回っていた……。

 

 

 

「……記憶転写はこれで大丈夫なはずだよ。ようやく、クローンの完成だね」

 

 と言うアル。

 

「それで、クローンの教育は君がするのかい?」

 

 再び拘束しようとするアルに問われ、プレシアは逡巡し、あるクローンを思い出す。

 

「……〝リニス〟のクローンを使うわ」

 

 プレシアが言った『リニスのクローン』とは、飼い猫リニスのクローンのこと。

 戻って来たアリシアが寂しくないようにと、素体実験としてアリシアのクローンより先に作り出し、使い魔にするつもりでとっくに目覚めさせたリニスのクローン。

 

 いや、なんでそもそもリニスのクローンを作ることができたのか? あのクソガキ(トランス)のせいで、死体すら回収できなかったのに。

 

 

 理由は簡単なのだが、ある時アルが……。

 

『君の飼い猫をこちらの身内が奪ってしまって悪かったね。だから、こちらが〝回収できた〟君の猫の体細胞をお詫びに提供しよう。それで存分に、君の猫を復活させてくれたまえ』

 

 と、道徳心も思いやりも礼節もない、クソッタレな殺意を覚える気の回し方をしてきやがったのだ。(なので、元凶であるクソ白髪をむっちゃボコボコにしたが)

 

 色々癪ではあったものの、精神的に色々と余裕のなかった当時、アリシアにリニスが必要だったと考えてクローンを作ってはしまった。まあ、人間を作る前段階的な部分もあったが。

 

 

 とにもかくにも、もうこれ以上は話すと精神的に参ってしまいそうで、アルを再び拘束して監禁室に入れた。

 だがしかし、一人になってもプレシアはまた考え込んでしまう。

 

 ――クローンを元にした飼い猫(かぞく)の使い魔に、娘のクローンの世話を任せる……。

 

 俯瞰して見れば、なんとも歪で皮肉な話しだろうか……。

 

 ――かと言って……あの子を面と向かって教育できそうにない……。

 

 山猫は母性も強いし、自分の知識と技術を圧縮して送り込めば早いうちに教育者としては打って付けの存在になる。自分の代わりとして、十二分にな働きをするだろう。

 

 色々な引っかかりや胸のつかえを感じながらも、リニスのクローンを使い魔へと変えてしまう。

 記憶の封印(まぁ封印するほど記憶もないが)と精神リンクを切り、生み出されたばかりで少し混乱するリニスにプレシアは、

 

「あなたの仕事は、追って伝えるわ。今はあなた用に用意した部屋で待機しててちょうだい」

「わ、わかりました……」

 

 まだ確かめたい事も色々ある上、リニスは教育者としてはまだまだ未熟だ。現状はアリシアのアリシアのクローンに会わせるには早い。

 

 

 

 一方、記憶データを転写されたアリシアのクローン体は実験室のベットの上に寝かせ、それをモニターで監視している最中だ。

 

 今、あの幼き体にどのような記憶が転写され、どのような〝人格〟が形成されたかは分からない。

 

 ――でも、これでこの子を育て上げ引き渡せば、アリシアが帰って来る……。

 

 そう思うのに、プレシアの心は晴れない。後ろ髪引かれるような、胸に何かが刺さったような、なんとも嫌な感覚が精神的に多大な疲れを生む。

 悩んで悩んで悩むほど、精神が摩耗していき、疲れが増す。緊張感と集中力が切れたように、鈍重な疲労感をドッと感じ始める。

 

 椅子に深く腰かけ、チラリと目を向けてしまう――ベッドに安らかな顔で寝ている〝娘に瓜二つの少女〟に。

 

 だが、頭をブンブンと軽く振って『アレは娘ではない』、『大事なのはアリシアだ』と割り切り、背もたれの上辺に後頭部を乗せながら、白い天井を見つめる。

 

 ――ちょっと……仮眠を……取りましょう……。

 

 疲れのせいで、悩み、決意が揺らいでいるのだ。

 だからまずは一旦寝て、眠気を取ろうと考えつく。

 

 私室のベッドに向かうのすら億劫なほどの疲れと睡魔の欲求。

 

 ――軽く寝て……疲れを取れば……迷いも……。

 

 重くなった目蓋を、ゆっくりと閉じるプレシア。

 

 

 場所は、まだ会社が事故を起こす前。アリシアと一緒に暮らす、家の近くにあった森。

 休日のお昼ごろ、日がまだ高い時間。

 

 昼食が出来たので、娘を呼びに森まで足を運ぶ。

 木の根に腰を下ろし、おもちゃの宝石箱を横に置きながら、木陰で画板の上に乗せた白い用紙にペンを走らせるニコニコ顔のアリシア。

 

 ――嬉しそうに鼻歌までしている娘を思わず抱きしめたくなる衝動を抑えながら、私は木の幹の後ろからそっと顔を出す。

 

「ア~リシア♪」

「わぅッ!? ま、ママ!?」

 

 驚き、後ろを振り向きながら目を丸くする娘。慌てて画板を抱きしめている。

 

 ――ちょっと悪いことしちゃったと思いつつ、すごく良い反応が見れたと内心喜んでしまう。

 

「なにを書いてたのかしら? お絵描き?」

 

 プレシアが質問すると、アリシアはギュッと画板を抱きしめ、用紙の中身が見えないように隠す。

 

「意地悪なママにはおしえません」

 

 プイっと可愛く頬を逸らすアリシアを見て、プレシアは両手を合わせる。

 

「ごめんなさいアリシア。お詫びに、後でデザートのプリンをあげるから」

「プリン!」

 

 パッと表情を変え、喜ぶアリシア。だが、画板は離さない。

 ここまで頑なに隠されると、つい見たくなってしまう。が、無理に見せてもらうワケにもいかない。

 

 プレシアはゆっくりとアリシアの正面へと移動して、膝を曲げ、右手を前へと伸ばし、ニコリと笑みを浮かべる。

 

「それじゃ、そろそろお昼だから、おうちに帰りましょう」

「うん! あッ、ちょっと待ってね!」

 

 アリシアがプレシアが差し出した右手を手に取る前に、横にあったおもちゃの宝石で装飾された白い箱を手に取り、蓋を開ける。

 キョトンした表情を浮かべるプレシアに構わず、アリシアは画板の白紙を丁寧に折り畳んでから、箱の中にしまい蓋を閉じた。

 そんな娘の姿を見て、プレシアは苦笑いを浮かべてしまう。

 

「そんなにママに見せたくないの?」

「えっと、ね……」

 

 アリシアは少し困ったような笑みを浮かべながら、頬を掻く。

 

「〝みかんせいのお手紙〟だから、まだママには見せられないの……」

「お手紙? まだって事は、ママへの送りもの?」

 

 両手を膝に乗せ、小首を傾げつつ、優し気な笑みを浮かべるプレシア。

 するとアリシアは笑顔で「うん!」と頷く。

 

「でも、まだみかんせいだから。だからかんせいするまで、ぜーったい! ママは見ちゃダメだよ? だいじなお手紙だから!」

 

 ギュッと両手を握りしめ、念押しするアリシア。

 

「フフ……わかったわ」

 

 娘の反応があまりにも可愛くておかしいものだから、プレシアは思わず笑みを零してしまう。

 

「でも〝かんせい〟したら、〝ぜったい〟に見てね! ママ!」

「ええ、わかったわ」

 

 満面の笑顔を浮かべる娘に対し、母は笑顔で答え「約束」と言って指切りするるのだった。

 

 

「ッ!」

 

 そこでハッと目を覚まし、思わず体を起こすプレシア。さきほどまで鮮明に見ていた夢が、過去の思い出なのをすぐに自覚する。

 そして、目から頬にかけて何かの感触が。

 

 ――……なみだ……?

 

 ついアリシアとの幸せな思い出を呼び起こしたせいで、感情の振れ幅が大きくなって出たモノだろうか?

 

 そしてふいに、アリシアのクローンを監視しているはずの画面に目を向ければ、金髪の少女はまだ寝息を立てて寝ている映像のまま。

 何も起こっていないことにホッとした同時に、アリシアそっくりの少女の姿を見て、思い出す。

 

 夢から思い起こす、幸せな思い出――そこから同時に蘇る、苦い記憶。

 

 ――そう言えば、事故が起こる少し前……アリシアは……。

 

『ママ、あのね……見て欲しいモノが――』

 

 ――って、言ってた事があったわね……。

 

 だが、研究が終盤で慌ただしくなり、とてもじゃないが娘の相手をする余裕がない時だったため、「ごめんなさい。今は忙しいから、また後でね」とプレシアは断りを入れてしまった。

 この時、アリシアは悲しそうな表情をするだけで、同じ要求をしなかった。ただこれは、研究が忙しくなる連れよくある事で、いつもの事だと、仕方ない事だと、後悔しつつ割り切る他なかった。

 

 いま思い返せば……アリシアの見せたかったモノは……。

 

「ッ――――!!」

 

 気付けば、片手で頭を抑え、自分の娘に対する残酷な対応に歯噛みするプレシア。

 手で掴む髪が引っ張られ、強い痛みを感じるが、そんなことは構わない。

 

 記憶とはなんと曖昧で揺らぎやすく、忘れやすいのだろうか。いくらなんでも、気付くのが遅すぎたくらいである。

 

 プレシアは心の苦しさのあまり、胸倉をギュッと握り絞めた時、あることを思い出す。

 

 ――……そうだ。確か、アリシアの荷物は……。

 

 チラリと、アリシアそっくりの少女を見てから、プレシアは頭を横へぶんぶん振って、立ち上がる。

 そして、少し重たい足取りで、アリシアの荷物がまとめてある部屋へと足を運ぶ。

 

 

 

 がさごそ、とプラスチックの大きな収納ボックスを探れば、中にはアリシアの洋服やおもちゃや落書きが丁寧にしまってある。

 無論、密閉されていたのでチリやホコリなんてモノはほぼない。

 その中で、アリシアが書いた絵の一枚を見つけた。

 

「フフ……。あの子……こんな絵を書いていたわね……」

 

 絵を撫でてつつ、娘との古い思い出が蘇り、プレシアは悲し気な笑みを浮かべてしまう。

 

 アリシアの書いた絵の一枚は、行方不明になる前のリニスの絵だ。

 ぶっちゃっけ、結構下手なので猫と言うか出来損ないの四足歩行の悲しい怪獣(モンスター)みたいになってしまっている。が、これだって娘の数少ない物品の一つだ。

 

 ゆっくり、一つ一つ噛み締めるように娘の物品を眺めながら、過去の思い出に浸ってしまう……もうどれくらい時間が過ぎたか分からなほどに……。

 

 そんな時だった。

 

「これ……」

 

 プレシアはようやく、娘が大事な物をしまう時に使う箱を見つける。夢で見た箱とまったく同じ、おもちゃの宝石で装飾された白い箱。

 いくら親子とはいえ、プライバシーというモノがあるし、なによりアリシアの荷物を丁寧にまとめてすぐに引っ越しをすることで頭がいっぱいだった為、最初に詰めた時にはまったく意に返してはいなかった物。

 

「………………」

 

 開けるべきか、開けざるべきか……。

 どうするべきか悩んだ末、

 

「……アリシア、ごめんね」

 

 と呟いて、蓋を開けてみることした。

 中に入っていたのは……。

 

「……手紙……だけ……」

 

 おもちゃの宝石でも首飾りもなく、丁寧に二つ折りたたまれた紙のみ。たぶん、コレが例の〝完成した手紙〟なのだろう。万が一未完成なら、目も当てられないが。

 プレシアはおもむろにゆっくり折り畳まれた用紙を広げると、子供特有の稚拙で少し大きめで読み辛い字で、『ある事』が書かれている文を読み解く。

 

「――――ッ!!」

 

 紙に書かれた『文面』を一通り見て、プレシアは息を吸うのも忘れるほど衝撃を受けた。

 口元を押え、目から涙を零す――。

 

 それほどまでに〝今の状況〟で〝この文面〟は、(プレシア)の心と記憶を大きく揺さぶったのだ。

 

 しばし紙の端を強く指で抑え付け、肩を震わせていたプレシア。

 やがて、バッと顔を上げ、実験室に寝かせている少女を思い出す。涙が頬を伝うのも気にせず、すぐさま慌てて実験室に駆け戻る。

 息を切らせながら廊下を走っている時、ある光景を見てプレシアは目を見開く。

 

「ッ!?」

「ぅぅ……! ハァ、ハァ……!!」

 

 なんとさきほどまで実験室で横になっていた少女が、壁伝いに手をつきながら必死に前へ前へと歩こうとしている。まだ満足に体が動かないのにも関わらず……。

 プレシアはその光景にしばしば呆然としていると、

 

「あッ……!」

 

 少女が足をもつれさせて「うッ……」とうめき声を漏らしながら、地面に倒れ伏してしまう。

 プレシアはその光景を見てハッと我に返り、慌てて少女に駆け寄る。

 

「何をしているの!? まだ満足に体も動かないのに!!」

 

 プレシアはここに来るまでに息も絶え絶えで疲れ果てている少女を優しく抱き上げ、心配そうに見つめる。

 少女はプレシアの顔を見て、嬉しそうに頬を緩めた後、口を開き一言。

 

「……〝ママ〟」

「ッッ!?」

 

 少女の口から自分に向かって発せられた一単語を聞いて、プレシアは驚愕のあまり目を見開く。そしてその聡明な頭脳は、少女の一言から〝ある解〟を導き出した。

 少女はプレシアの動揺を見て小首を傾げた後、心配そうにプレシアの頬に『右手』で触れる。

 

「ママ……どうして……泣いてるの?」

 

 プレシアは少女の問いに混乱する頭で、なんとか心配させまいと必死に言葉を選び、震える唇噛み締めた後、笑みを浮かべる。

 

「……な、なんでもないの。ちょっと……目にゴミが入っちゃって」

「だいじょうぶ?」

「えぇ、大丈夫」

 

 プレシアはなんとか笑顔を作り上げた後、ある質問で自身が抱く疑問と迷いに決着を付けようとする。

 

「それよりも〝アリシア〟。眠る前のことは覚えてる?」

 

 これからの返答で全てがわかる――。

 

「ママが……お仕事で帰ってくるのを待っていたら、寝ちゃった……と思う」

 

 プレシアは「そう」と優しい声音で相槌を打ち、次の質問に移る。

 

「それで、なんで廊下を歩いていたの? たぶん、満足に体が動かなかったはずでしょ?」

「起きたらママがいなくて……不安、だったから……」

 

 聞いて、優し気な笑顔を浮かべるプレシア。

 

「大丈夫。ママはあなたの側を離れたりなんかしないわ。だから安心してベットに行って、お休みしましょう?」

「うん……」

 

 どことなく嬉しそうに少女は頷き、プレシアはアリシアの寝室として用意するはずだった部屋へと向かう。

 今はこの子をあの部屋で休ませてあげることが最優先だ。

 

 そして次にやるべきことも決まっている……。

 

 

「それで、どういうことか説明してもらえるかしら?」

 

 プレシアは娘を寝室で寝かしつけた後、アリシアの代わりとなるクローンを作らせた人物に、鋭い視線を向ける。

 

「なんで、アリシアのクローンに『娘の記憶』が転写されているのかしら? そもそもどっから記憶のデータを手に入れたんだコノヤロー」

『ずるるるるる、結構動揺するかと思ったけど……以外に冷静ね」

 

 画面越しに、カップ麺の麺を啜りながら白髪の少女はニヤリと口元を歪める。不敵な笑い浮かべているのはいいが、カップ麺食ってる姿のせいでまったくカッコつかない。

 正直目の前のコイツの姿はクソウザいから殴ってやりたいが、相手は通信画面越しなので殴れないのが残念で仕方ない。たぶん、攻撃されないように通信方式にしたのだろう。本当に残念だ。

 

 トランスは麺をすすりながら話す。

 

『ずるるる。あなたといちいち問答を繰り返すのも面倒なんでずるるる。ちゃっちゃか説明させてもらいますかずるるる』

 

 と最後にプラスチックのカップを口元に傾けて麺や汁を口に掻き込み、「ああ~!」と満足げな声を漏らす。

 ブチ切れた自分が脅した時の怖がりぶりとは雲泥の差の態度。画面越しで話したいと言ったのも、どうせ内心ビビっているからの提案だろうが、まあどうでもいいところだ。

 

 トランスはカップを横に置いて口元を拭く。

 

『まー、記憶の方はこっちにアリシアちゃんいるし、頭を覗いてご利用でき――』

「フフフ、死ね」

『すんません……』

 

 じゃあ転写した理由は? とプレシアが問えば、

 

『……アリシアちゃんの記憶を転写させれば、何かと言う事を聞かせるのに便利ってところね』

「……例えば、『母親に合わせるから頑張れ』とかあの子に吹き込むつもり?」

 

 プレシアの問いに、白髪少女は真顔で「ええ」と頷く。

 

『ありていに言えば、あの年頃の子供は親を求めてやまない年頃でしょうし、母に会わせてあげるなどなんだの色々希望に満ちた嘘で動かせるんじゃないか、ってのが私たち側の考え』

「あとそれに、あんたの能力を使えばどんな母親の真似(フリ)だってできるでしょ?」

『…………まあ、そんな方法もあるわね。まー、なんていうか、こっちもクローンを使っての実験なんてしたことないから、色々と試さないといけない感じだから』

「なぜ小さな時のアリシアの記憶を使うの?」

『なにぶん子供の記憶と言っても、私たちは適当なモノを持っていなかったの。だから手短に済ませる為にあなたの娘さんの記憶を使わせてもらったワケ』

 

 ――勝手に使ってんじゃねェよ。

 

 と内心ツッコミ入れるプレシア。

 トランスは人差し指を立てて説明しだす。

 

『なにより子供は大人よりも騙しやすく、さらにこちらの思い通りに動かしやすい。わるーい人たちはそう考えたからこそ、記憶だって捻くれていないあなたの娘さんの記憶と人格が今のところは一番最適だと考えた』

 

 プレシアは相手の言葉に「そう」と小さく返事をして目を伏せ、相手は平坦な声で言葉を続ける。

 

『何も知らない純粋無垢な存在。どれくらい嘘を付いても従順にこちらの言う事を聞いてくれる人形。あらゆる嘘で言う事を聞かせ、強くさせ続ければ――』

 

 そしてトランスは、まるで一気に血が冷めたかのような、冷徹な眼差しで。

 

『――いずれ、都合のいい道具(てごま)が完成する』

 

 目の前の歪んだ考えを喋る相手に、手が見えないように後ろへと腕を回すプレシア。

 拳を深く深く握り絞めながら口を開く。

 

「……それにどうせ最後にはデバイスに体を乗っ取られるから、いくら嘘を付いて希望を与えて言う事を聞かせようが後の祭りだと?」

『まー、そんなところね』

 

 ニコリと感心したように笑みを浮かべるトランスに、プレシアは「なるほど」と返事をするが、

 

「……ちょっといいかしら?」

 

 ふとした疑問が浮かんだ。

 

『なに?』

「そもそも、純粋無垢な存在が欲しいなら、わざわざ余計な記憶とか与えないで、記憶のないまっさらな状態の方が言う事聞かせられるんじゃないの? 知識だけ転写するなり、やりようはあったんじゃない?」

『…………』

 

 指摘を受けてトランスは真顔になり少しの間口を閉ざすが、

 

「……まー、私たちも初めての技術とかで色々手探りな状態だから、もろもろ試して実験をしなきゃならないワケで~――」

 

 そこまで説明して、両手を合わせながら、ニコリと笑みを浮かべた。

 

『それに~、嘘を付いて騙すなら、かわいくていい子ちゃんのアリシアちゃんみたいな純粋な子が一番でしょ?』

 

 ――あらためて思うけど、腐れ外道ねこいつ……。

 

 まー、コイツの所属する組織もろくでもないが、と内心でめっちゃ蔑むプレシア。

 やがてトランスは再び真顔に戻り。

 

『まー、後々の成長やらなんやら吟味すると、やっぱりある程度人格のある実験体(モルモット)を騙して成長させてデバイスと〝統合〟させるのが良いって上も言って――』

「…………統合?」

 

 プレシアは気になる単語を聞いて眉間に皺を寄せ、トランスはワザとらしく「あー」と声を漏らして掌にポンと拳を叩く。

 

『あなたにはちゃんと説明をしてなかったっけ? 実は娘さんに持たせたデバイスは体を乗っ取るだけが機能じゃないの。アレは――』

 

 トランスは声を平坦にしたまま。

 

『――人間の精神とデバイスが元々持っている人工知能(IA)を統合させ、まったく別の〝存在〟へと変化させる』

「なッ……!?」

 

 説明を聞いたプレシアは驚愕の表情を浮かべるが、相手はまったく意に返さず軽めの口調で説明を続ける。

 

『それで~、つまり~、まー、よくわかんないんだけど、デバイスと人間が超融合して、一つの兵器(デバイス)へと生まれ変わる、でいいかな?』

 

 聞いている間、プレシアは嫌な予感を覚えて汗を流しながら唇を震わせてしまう。

 

『人間的な柔軟な思考を持ち合わせながらも、情など一切介在しない機械的な判断で正確に冷徹に冷静に手を緩めることなく敵を駆逐する。それこそがあのデバイスが完全に人間と適合を果たした時の最終的な兵器として――』

「アリシアはッ!?」

 

 言葉を遮り、プレシアは食い気味に問い詰める。

 

「アリシアはどうなったの!? あの子は無事なの!? デバイスを持ったあの子の精神は消えたってことなの!?」

 

 必死な形相で画面に詰め寄るプレシア。一方のトランスは、まったく意に返さず、淡々と。

 

『安心して。娘さんと(デバイス)が統合できないように手は打っているらしいから。っと言うかできないって話し。あの(デバイス)は、適合する人間が子供の場合は戦闘が一番できる全盛期……まー、成人近くに成長するまでの間は精神と融合をしようとはしないって。まー、アリシアちゃんと融合されても困るし』

「信用してもいいんでしょうね!?」

 

 射殺さんばかりの視線でプレシアは睨むが、相手は表情を崩さずに告げる。

 

『ええ、もちろん。そもそもアリシアちゃんに危害を加えたら、絶対あなたが妙な行動を起こすでしょ? それはそれで困るし』

「……もう、その言葉を信じるしか、ないわね……」

 

 でもね、プレシアは言葉を付けたした後、殺気全開の眼光で。

 

「もし、アリシアが本当に〝いなくなる〟ようなら、あんたらを全身全霊で殲滅するから」

 

 覚悟しろよ? と念を送れば、ビクッと顔を青ざめさせるトランス。白髪の少女は苦笑いを浮かべ。

 

『あ、アハハハ……。そ、そそそそうならないように、お、おおお互い、び、ビジネスライフでいきましょう?』

 

 画面越しでもビビっている少女にプレシアは少しスカっとした気持ちになるが、表情には出さない。

 

「それで? 私はあのクローンをいつまで教育すれば良いの? そもそもだけど、いつアリシアは帰って来るの? まさか成人近くになるまで待てとか言い出すんじゃないでしょうね?」

『そ、そーねー……。とりあえずー……いろいろな様子見も兼ねて、魔導師として優秀に育つレベルまでには、剣を渡そうかなーと。その時に、アリシアちゃんも返す感じで』

『具体的にはどのくらい、猶予があるの?』

「まー…………三、四年くらい、かな?」

 

 ――想像以上になげーなおい!!

 

 だが、まさかここまで猶予を与えられると思ってなかったプレシア。

 

『あ、アリシアちゃんのことはー、我慢してください! すみません! それでは!』

 

 とトランスは食い気味に通信を切る。

 

 アリシアの安否は依然心配だし、連中の元に娘を置いておくのは一秒でも真っ平御免だし、心が引き裂かれるように苦しいが、一応釘は刺したし、今は我慢する他ない。

 

 ――ごめんなさいアリシア!! 我慢して!!

 

 とにかく無事でいて! と願いながら、プレシアはアリシアの部屋に寝かしている少女の元へ急いで向かう。

 

 

「今度は勝手に部屋を出たりしてないみたいね……」

 

 プレシアはすやすや眠るアリシアに瓜二つの少女を見て安堵のため息を漏らす。またてっきり母である自分を探して廊下を歩いていると思ったが、どうやら杞憂に終わったようだ。

 プレシアは静かに寝息を立てる少女の顔を見ながら、思い出す。

 

 少女が自分の頬を触ったのは『右手』だった――。

 

 ――確かめなくてはね……。

 

 ある可能性を考えたが、まだ情報が少なすぎる。

 今はまず、生まれてきた少女を観察してから答えを出さなくてはならない――いや、もう答えは出ているのかもしれない……。

 

 

 

 そして、リニスに世話を任せながら、瞬く間に一か月の月日が流れた。

 

「……違う」

 

 プレシアは書斎である映像を見て、呟く。

 

「声は同じ。たぶん……あの子にもアリシアとしての記憶はあるはず」

 

 プレシアは椅子に腰かけながら映像に映る少女を眺める。

 それはこの一か月で記録したアリシアのクローンとして生まれた少女の映像記録。

 

「喋り方も、利き腕も、魔力資質も、人格も――アリシアと違うところばかりね……」

 

 プレシアは少女の記録を記した紙面の文字を眺めながら、複雑な笑みを浮かべる。

 

「結局……『プロジェクトF.A.T.E』は死者を蘇らせる技術ではなかったと言うワケね……」

 

 まあ、トランス側が欲しているのは人間を生み出す技術だから、完璧な人格をコピーしたクローン技術であるかないかなど気にしないだろう。

 無論、今のプレシアにとっても『プロジェクトF.A.T.E』は死者を蘇らせる技術ではなかった、ただそれだけのことでしかない。特に残念と思う気持ちは微塵もない。

 

 リニスの作ったハンバーグを美味しそうに食べながら、リニスと話す少女をプレシアは見ながら、おもむろに机に置いてあるおもちゃの宝石で装飾された宝箱に目を移す。

 

 おもちゃの宝箱を手に取り、中身を空けて二枚折りされた紙を取り出す。

 紙を開きながら、とある思い出を呼び起こす……。

 

 

 

 それは、アリシアと『完成した手紙』を受け取る約束をする前――ピクニックに行った時のこと。

 

『ねえ、アリシア。お誕生日のプレゼントで……何か欲しい物ある?』

 

 花で作った冠を被りながらアリシアは、

 

『ん~とねー……』

 

 と顎に指を当てながら考えると、パッと笑顔で口にする。

 

『わたし――』

 

 

 

 その時、ピピピピッ! と匿名で連絡の通知が鳴る。たぶん相手はあの憎たらしい奴であろう。

 プレシアは紙から目を離し、紙を机の上に置いてあるおもちゃの宝箱に丁寧にしまい――通信相手から見えない位置に置く。

 そして通信に応じれば、画面に白髪の顔が映り、うんざりしたような気分になる。

 もちろん顔には、

 

『うわー、いつも通りめっちゃ嫌そう……』

 

 思いっ切り感情を出すが。

 

「……やっぱりあなたね」

『あッ、うん、なんかごめんね』

「ここのところ、通信機器ばかりを使うのね」

 

 最近ボコボコにできなくて、ちょいちょいストレスの発散ができないプレシアはついどうでも良い事を訊いてしまう。

 

『ほら~、テレワークで無駄を省く的な~? ……なので、映像通信と言う手段を取りました、うん』

 

 最後にボソリと、「そりゃそうでしょ、だって怖いもん」とトランスが呟くのが聞こえたので。

 

「チッ……逃げてんじゃねぇよ……」

『うわ、やだ、こわい、この人……』

 

 正直、映像越しだけだとストレスだけが溜まるので、一秒でも顔を拝みたくはないが相手に合わせるしかない。

 

「それで、なんの用なの?」

『アルから渡されたクローンのデータを見たけど――まー、上は大分気に入ってくれたわ』

 

 トランスは淡々と話す。

 

『魔導師資質はかなり高い上に素直。これほどまでピッタリな素材は中々にいないってことで、欲しがってるわね。あなたの娘とは大違い、あッ、すみませんごめんなさい』

 

 我が子をさり気なくバカにされてプレシアは内心殺意が沸き、つい顔に出てしまったようだ。

 とりあえず、冷静な感情を戻して話しを続ける。

 

「まさか、もうあの子をそちらに引き渡して欲しいって連絡かしら?」

『いや、さすがに早いから。せめて魔導師として育ててもらわないと』

「実はそれについていくつか相談があるのだけど、良いかしら?」

 

 プレシアの言葉に通信相手の白髪は訝し気に目を細める。

 

『それで、一体なんのご相談?』

「まず……私が〝フェイトを渡したくない〟って言ったらどうする?」

 

 トランスは不可解そうに肩眉を上げて、少し逡巡してから口を開く。

 

『……親としての情でも湧いた?』

「変な勘繰りはやめて。ちょっとした仮定の話よ。ほら、あの子は魔力資質が高いから、ある目的のために戦力として手放したくないって思ったの」

『〝ある目的〟?』

「――アルハザードに行くから」

 

 プレシアがバッサリ言った目的に、トランスは目をパチクリさせる。

 

『……えッ? ん? えッ? ドユコト?』

「若さが欲しいから」

『…………えッ? えッ? ん? ん? えッ? ん? ナニウエ?』

「さすがにこの年だと肌ツヤの維持も難しいし、とりあえず年齢を若くしておこうと」

『……いや、そんなエイジングケアで肌年齢若くするみたいなノリで言われましてもォ……』

 

 すると、プレシアは憂いを帯びた表情で流し目をし、

 

「私は、歳を取り過ぎたわ……。アリシアとの時間も失い過ぎた……。これからあの子が戻って来ても、遠くない未来で負担をかけてしまう」

 

 などと言った後、プレシアはニヤリと口元を吊り上げ、邪悪な笑みを浮かべる。

 

「だからこそ、なりふり構っていられない。人としての寿命弄れるであろう、アルハザードこそ、私の新たな目的であり、再出発地点」

『……あー……うん……なるほど……娘のため……』

「そう! 私の行動原理は娘! 娘!! 娘ッ!! アルハザードにいけば娘と永遠の時間を過ごすのだって、夢じゃないわ!」

『わー……あー……わー……』

 

 プレシアの主張に対し、もう相手は言葉すら出ない様子。

 

 ――まー、半分嘘だけど……。

 

 と、プレシアは内心で舌を出す。

 やっぱり、20年近く無駄にしたのだから、アルハザードみたいな伝説とかに頼って若くなって娘との時間をやり直したいという願望もあるっちゃある。まあ、どうせそんなこと叶うワケないとは内心わかっているが。

 

「それで、フェイトは私の物、クローン技術は破棄、これで私たちの関係は終わり、ってことでいい?」

『えッ、あッ、はい――っていうワケないじゃん!! ダメダメダメ!! 二話くらいかけたあれこれなんだったの!?』

 

 ――チッ……やっぱダメか……。

 

 内心悪態をつくプレシアは、ここから本題に入る。

 

「なら、アリシアとフェイトを渡さないけど『プロジェクトF.A.T.E』はあげるってことで」

『まー……そういうことなら、って言うワケないじゃん!! 今までの私の話し聞いてなかったの!?』

 

 そんな詐欺みたいな手に私は引っかかりません!! と豪語する相手に対し、プレシアは舌打ち。

 

「チッ……そこまでバカじゃなかったか……」

『うわー……はっきり本人の目の前で……』

 

 頬を引き攣らせるトランスは、両手で×を作る。

 

『上の命令には逆らえない。譲歩は無理』

「チッ……ただの下っ端か……」

『にゃにィォ~~!! 中間管理職くらいの権限はありますぅ~~!! 辛いですぅ~~~!!』

 

 どうやら涙を流す画面向こうの小娘は組織でそれなりの立場らしいが、ぶっちゃけどうでもいい。

 問題は、フェイトを手元に置くという前提の交渉が難しそうと言う事。

 

 まー、これは元々わかっていた。

 なにせ監禁しているアルから、

 

『それじゃあ、ちょっとあなたの組織についていろいろ教えてちょうだい? 嫌ならいいわよ? ちなみにあなたってお肉なら、レア、ミディアム、ウェルダンのどれがいいの?』

『うん、ボクに拒否権はないね』

 

 脅迫(こうしょう)して手に入れた事前の情報でわかったことだが、連中の組織の上層部が融通の利かない可能性が高い。

 情で訴えかけてもダメそうだから、色々嘘を取り繕ったがそれもダメだった。

 連中の元にアリシアがいる上に、これ以上ゴネても下手な印象を相手に与えるだけだろう。

 

「じゃあ、話しを戻すけど、私がフェイトを育てるのは四年近くってことよね?」

『まー……うん……そういうこと』

 

 画面向こうのトランスがちょっと不満そうに返事する。

 

 ――となると、とりあえず四年はこいつらをなんとかするための準備が立てられ……。

 

『あー、それと――』

 

 プレシアが考えをまとめている途中で、トランスが話しかけてきた。

 

『〝あるロストロギア〟が見つかるまで、あなたにはフェイトちゃんを〝厳しく〟そして〝冷徹〟に育ててもらうのが、今後の予定』

「…………はッ? なんで?」

 

 ちょっと声音を低くしながらプレシアが食い気味に問えば、相手は真顔で話し出す。

 

『だって、クローンに愛情なんて持ってないんでしょ?』

「いや、だから……なんで私がそんなことしなくちゃならないの?」

『鉄は熱いうちに打てって言うし』

「いきなりなに? 知らないわよ、そんな言葉」

『柔軟性のある若い時に厳しく鍛えるべき、ってこと。甘やかされて育った、軟弱でひ弱な魔導師なんていらないってこと』

「使い魔に教育を任せているんだけど? 母性が強い山猫の」

『なら、飴と鞭でいきましょう』

「だから知らないわよ、そんな言葉」

『あなたは厳しくし、山猫の使い魔は愛情を持って育てる。それでバランスが取れて、立派な魔導師が育つってこと。あなたはクローンに愛情なんてないんだし、ちょうどいいでしょ?』

 

 ――そうくるかぁぁぁぁ……!!

 

 トランスの言葉を聞いて、プレシアはなんとか頬が引き攣るのを抑えるが、拳は血が滲むほど握りしめていた。

 

「ま、まー……理屈は、わ、わかった……」

 

 ――う、うん……後々のことを考えて、フェイトを魔導師として強くしておくことも……考えてはいたし…………仕方ないし……………なんかコイツに言われるとすっごく釈然としないけど!!

 

 納得できない感情をプレシアが必死に抑え込んでいると、視線を上に向けたトランスは立てた人差し指を口元に当てながら。

 

『う~~んと、あと、これはフェイトちゃんを育てる上での、念の為の取り決めね。フェイトちゃんには、私たちの事は基本教えない。知り合いや友人程度ってことで』

 

 ――こいつが友人とか死ぬほど嫌なんだけど……。

 

 とプレシアは内心で嫌悪の感情を出す。もちろん顔にも。

 

『あッ、うん……とりあえずー、友人はダメ……みたいですね。うん……知り合いで……。あと、フェイトちゃんに余計な事を吹き込んでいないか確認する為に、基本はアルに監視スフィアで監視させてね?  あとアルは監禁してても良いんで。外出が多くなるフェイトちゃんだけは、監視したいんで。フェイトちゃん〝だけ〟監視するんで! だからそんなおっかない顔しないで!! あなた様の私生活は覗かないんでッ!!』

「……わかったわ。友好の証として、アルは監禁から軟禁にチェンジするから。あと、フェイトの近く以外で余計な監視スフィア見たらぶっ壊すしぶっ飛ばすから」

『……友好の証ってなんだっけ?』

 

 汗を流すトランスは、ジト目を向ける。

 

『私は寛大だから色々見逃してるけど、あんまり強気に出ないでよねー? こっちも本気(マジ)でおっかない組織であると、あなたに認識させなきゃならなくなるし』

 

 トランスが警告とばかりに少々目を細めるが、プレシアにはさして脅威に感じない。

 

「わかってる。でも、お互い協力関係なんだから、妥協と折衷案は必要でしょ?」

『……う~ん、まー、そりゃそうだけど』

 

 と言って、普通の表情に戻るトランス。

 

「それと、あんたらの紹介は、前もってフェイトにしておくから」

『それはどうも。……まぁとりあえず、お互いの取り決めは……こんなもんかな? 詳細は後々詰めていく感じで』

「ええ、そうね……」

 

 と、返事を返せば、「それじゃ」と言ってトランスは通信を切る。

 相手の顔が見えなくなったところで、プレシアははぁ、と息を吐く。

 

 ――会話途中であのクソガキをボコれないと、ストレスが溜まるわね……。

 

 内心かなり暴力的なことを考えつつ、

 

 ――これからね……。

 

 決意をあらたにする。

 問題は山積みだ。だが、決して諦めなどするつもりはない。

 

 今後の予定を既に頭の中で構築しつつ、アルを監禁している部屋へと向かう……。

 

 

 

「交渉が上手くいってよかったじゃないか」

 

 などと、部屋に付いて早々いきなり言ってくるアル。

 

「……あんた、体のどこかに通信装置でも隠し持ってるの?」

 

 不可解と言わんばかりに、プレシアは眉間に皺を寄せてしまう。

 一応は念入りにボディチェックして、通信端末は没収したはずなのだが。(もちろん、必要な時は連中と通信させている)

 

 アルはフフッと笑いを零して、

 

「ちょっと、ボクには特殊な能力が――」

「ふ~ん? 装置は下の穴とかかしら?」

 

 先の長いピンセットを取り出すプレシア。

 

「……うん。話しを聞いてくれないかな? うん、だからそれを持って近づくのはやめてくれるかな? えっと、突っ込んでも何も出てこないからね? 取れないからね?」

 

 必死に否定するので、とりあえずやめるプレシア。

 まあ、目の前の女の穴と言う穴をほじくるなんてアブノーマルなマネはしたくないのもあるが。

 

「……つまり、念話のような方法で外と通信できる希少技能(レアスキル)を使っていると?」

「まー、そんなとこだね」

 

 プレシアは目を細める。

 

「……装置隠すために、テキトーな嘘ぶっこんてんじゃないでしょうね?」

「うん、だからピンセット(それ)を持ってこっちに来ないでくれないかな? うん、やめて。さすがに、ボクもそんな趣味はないから」

 

 とりあえず、身体検査も実施するということで、ピンセット検査はやめるプレシア。

 

「まー、いいわ。にしても、やっぱりあんたを監禁しといて正解だったわね」

 

 外と通信できる謎のレアスキル。魔力を封じる手枷を嵌めた状態でもできるのだから、正直信じられるか怪しいところだ。

 なんにせよ言ってることが本当で、通信できている事を鑑みれば、簡単に防げるようなものではないのだろう。目の前の女をぶっ殺すという最終手段もあるが、それは現状はできない。

 

「とりあえず、監視の仕事はさせてもらうよ? ボクの仕事だからね」

「ええ、構わないわ。そういう取り決めだし」

 

 とりあえず、アルが動けるように足や手の枷や重りを外すプレシア。

 

「それでさ、ちょっと質問したいことが二つあるんだけど、いいかな?」

 

 と、アルが問いかければ、プレシアは訝し気に肩眉を上げる。

 

「…………まぁ、いいわよ」

 

 答えられる範囲での話しだが。

 

「じゃあまずは、クローンについてなんだけど……自分が〝アリシアと言う名前だった〟っていう記憶はどうしたんだい?」

「……消したわ。あの子はアリシアではないもの」

 

 相手の顔を見ずに答えるプレシア。

 

「そっか。じゃあ、残りの質問だけど……」

 

 アルはスッと目を細める。

 

「なぜ、クローンに〝フェイト〟と言う名を与えたのかな? プロジェクトの(もじ)り?」

 

 プレシアは視線を落とし、少し口を閉ざした後、

 

「そうよ」

 

 と、短く答えを返す。

 

「……所詮はクローンだから、意味のある名など必要ない――ってとこかな?」

「理由は勝手に考えて」

 

 あまり話したくないという感情が出てしまい、

 

「それじゃ、明日からフェイトの監視はしてちょうだい。それ以外であんたの監視用スフィア見つけたら、あんたの穴と言う穴に電撃ぶち込むから」

 

 キツめに忠告して話しを区切り、プレシアは部屋を出ようと背を向ける。

 

「……あー、それとさ。質問に答えてくれたお礼に、一応言っておくよ。もし君があのクローンに愛情を持っているなら、こちらの対応もそれなりに変わってくるから」

 

 なんとも意味深な事を言ってくるアル。

 お礼というか、脅しにも聞こえるが、一応は有益な情報ではあろう。

 

「……そう。なら、一応は頭の隅にとどめておくわ」

 

 そう、吐き捨てるプレシアは部屋を出て行く。

 ささくれだった感情をなんとか切り捨てつつ、フェイトの寝ているであろう寝室へと向かう。

 

 

 

 天井が星座で彩られた部屋に入れば――フェイトがベットの上で静かに寝息を立てていた。

 リニスが寝かしつけた後だろう。

 

 愛らしく眠る姿の少女。だが、プレシアはあることに気付く。

 

「…………」

 

 よく見ると少し寝相が悪かったのか、掛け布団が捲れていた。

 プレシアは苦笑しつつ、布団を少女の首まで掛け直そうとする。この一か月間、このように幼い少女相手に母親らしいことをしたのは実に二十年以上以来だ。

 

「ん……ママ……」

 

 口から洩れた、少女の寝言。

 プレシアはちょっと驚き、きょとんとした顔になるが、フッと笑みを浮かべて。

 

「……なに?」

 

 と、返事も帰ってこないのについ優し気に聞き返してしまう。

 すると、

 

「大好き……」

 

 少女が呟く、返事にも近い寝言。

 その言葉を聞いて、プレシアは目を見開く……。

 

 

 

 

『――わたし妹が欲しい!!』

 

 そう、笑顔で力強く言った娘の望み(わがまま)――。

 

『だって妹がいればお留守番も寂しくないし、ママのおてつだいだっていっぱいできるよ?』

 

 ピクニックの時に告げられた愛娘(アリシア)願い(ことば)――。

 

『それは……そうなんだけど……』

 

 自分の言っている要求がどんな事に繋がるかたぶん分かってないだろう娘の言葉に、どぎまぎしつつ苦笑いを浮かべることしかできない。

 母の心中にまるで気づいていない娘は微笑むばかり。

 

『妹がいい~……。ママ、約束して?』

 

 可愛らしくわがままを懇願しつつ、小指を出す(アリシア)

 困ったような苦笑いを浮かべつつも、表情を笑みへと変えて小指を出す(プレシア)

 

『ええ……約束』

 

 

 

 

 眠るフェイトの笑顔を見つつ、娘との約束を思い起こすプレシア。

 

 彼女は口元を押えて膝から崩れ落ち、涙をポロポロ流す。

 アリシアとまったく同じ声と容姿を持って生まれた。だけどもうこの子は……フェイトは――クローンなどではない。

 

 アリシアと違うところをいっぱい持った、ただの―――大切な……〝娘〟……。

 

 ――あいつらには絶対渡さない……!!

 

 プレシアはシーツを握りしめ、歯を強く噛み締める。

 

 ――フェイトも……アリシアも……娘は誰一人としてあんな連中の実験動物(おもちゃ)になんてさせない!!

 

 さらに言うなら、『プロジェクトF.A.T.E』だって連中に渡すつもりはない。

 もし『プロジェクトF.A.T.E』を渡して、そこから生まれてくるクローン――それこそ数えきれない子供が連中の実験動物(せんりょく)となり、多くの犯罪を犯す。

 

 このような事になれば、自分は一生娘たちの目をまともに見ることができなくなってしまうだろう。

 

 ましてや連中の犯罪の片棒を担ぐなど、ごめんだ。

 白髪の少女の後ろに控える組織の連中を睨みつけるように、プレシアの眼光は鋭さを増す。

 

 ――ここからだ! ここから奴らに目にもの見せてやるッ!!

 

 プレシアは決意を固め、ゆっくりと立ち上がり、寝ているフェイトに顔を向ける。やがて、表情を険しい物から優し気なモノへと変え、ゆっくりと娘の頬を撫でた。

 

「フェイト……」

 

 プレシアは娘の頬を撫でながら優しく、そして悲し気な顔で告げる。

 

「……お母さんね、これからあなたに酷いことをすると思う……」

 

 当たり前だが、フェイトは眠っていて聞こえてすらいないはず。だが、あえて口にすることで内に秘めた決意をより強固なモノへと変えねばならない。

 

「きっとあなたに愛想をつかされるだろうし……勝手にあなたを生み出して、勝手なことをする私をいくらでも恨んでくれたって、構わない……」

 

 ――だが、娘たちの為にやるしかない。

 

 これからの計画を考え、想像するだけでも心を爪で深く引っ掻くような気分にさへなる。

 自分がしようとすることは、フェイトを傷つけてしまうかもしれない。心の残るトラウマを植え付けてしまうかもしれない。

 

「許して、だなんて都合の良いことも言わない……」

 

 だが、もう後戻りもできないし、逃げ道もありはしない。

 

「だけどこれだけは言わせて……」

 

 プレシアは目に涙を溜め、と声を震わせながら頬から手を離す。

 

 ――あの子と姉妹仲良く暮らせる、幸せな未来を必ず届けてあげるから……。

 

「……愛してる」

 

 愛しい娘の額に軽く口づけをして、涙を拭い、部屋を後にする。

 そして、廊下を歩きながらさきほどのアルとの会話を思い出す。

 

『……所詮はクローンだから、意味のある名など必要ない――ってとこかな?』

 

 ――意味はある……いや、あったと言うべきか……。

 

 プレシアは書斎に入り、おもちゃの宝箱に入った手紙を取り出し、薄く笑みを零す

 

「偶然て……怖いわね……」

 

 ――フェイト……。あなたの名前はね……『プロジェクトF.A.T.E』を捩ったわけじゃない……ちゃんとした願いが込められてるの……。

 

「……名付け親……取られちゃったわね……」

 

 年相応のつたなさを残しながら、しっかりとした文字で書かれた文面を見て、プレシアは涙を零す。

 

 

おかあさんへ

わたしのいもうとのおなまえをかんがえてみました

フェイトっておなまえがいいとおもいます

だって、おかあさんとのやくそくでうまれてくるからです

わたしのいもうとが、げんきにうまれてくるみらいがまっているからです

おねえちゃんとして、いもうとだいじにするってきめたからです

いもうとにはしあわせなみらいがまっているから、フェイトっておなまえがいいとおもいました

アリシアより

 

 

 

 

 

 

 時は数年進み。

 フェイトが時の庭園へと帰還させられ、息も絶え絶えになりながらも『ある部屋』の元へと向かう頃――。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……!」

 

 フェイトは壁に手を付け、必死に時の庭園の長い廊下を歩く。

 

「もう、少し……!」

 

 顔中から汗が流れ、廊下に雫の跡を作る。

 

「ハァ、ハァ……!」

 

 酷い倦怠感と疲労が慢性的に襲ってくるが、小さな魔導師はそんなことにいちいち構ってはいられない。

 だが、体は限界だったのか、

 

「ッ……!」

 

 足がもつれ、転びそうになる。今の弱った状態なら、転んだ衝撃で気絶なんてこともありえてしまう。

 フェイトは思わずギュッと目を瞑り、衝撃に備えることしかできない。

 だが、

 

「…………えッ?」

 

 フェイトの体が地面につくことはなかった。

 態勢を崩す少女の体が感じるのは、痛みではなく、

 

「――本当に、無理ばかりするわね。〝私に似て〟」

 

 温もりだった――。

 

 フェイトは声を聞き、瞳を潤ませながら、ゆっくりと自分を受け止めた人物を呼ぶ。

 

「かあ……さん……」

 

 フェイトはぎゅっと、服を掴む。

 優しげで、少し困ったような笑みを浮かべた――〝母〟の服を……。




第六十二話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/72.html


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第六十三話:演技

また一年以上も更新が開いてしまい申し訳ございません。
こうやって更新が遅くても見てくれる読者の方々には感謝の言葉しかありません。


 場所は時の庭園の一室。

 

「母さん……」

 

 とフェイトが呟くと、

 

「なに? フェイト」

 

 とプレシアは優し気な笑みを浮かべて答えた。

 

 簡素なベットの上で、(フェイト)に膝枕をする(プレシア)

 

 プレシアの恰好は前までの紫色の際どいドレスではない。紫色のスーツの上に白衣を羽織った姿。顔の化粧も、悪役や魔女を連想させるようなモノではなく、一般OLがするような簡素さ。

 

 現在のプレシアの姿は、フェイトの思い出の中に存在する優しき母の姿。妙に若々しい肌の色ツヤ含めて。

 膝に乗せた娘の頭を、何度も優しく撫でるプレシア。

 

「少しは、楽になった?」

 

 薄く笑みを浮かべたフェイトは無言でゆっくりと頷く。

 対して、プレシアは「そう」と短く答え、微笑を浮かべる。娘の頭に置いた手の平を何度も優しく滑らせた。

 やがてフェイトは「……どうして」とおもむろに口を開く。

 

「母さんは、部屋から出ていたの? あいつらに監禁されているはずなのに……」

 

 フェイトの頭を撫でる手とは反対の腕を見せるプレシア。その手首には鉄の塊のような分厚い腕輪がめられていた。

 

「コレのお陰で、少しは部屋から出る自由が与えられてるの。監視付きではあるけど」

 

 腕輪を見つつ、フェイトは思わず自身の予想を口から出す。

 

「……魔力を封じられてる……」

 

 プレシアは頷き、フェイトは忌々しげな視線を腕輪に向ける。

 

「……きっと、母さんを自由にしてみせるから」

「フェイト……」

 

 プレシアは瞳を伏せ、悲しそうに視線を落とす。

 

「これ以上あなたが無理する必要はないのよ。なんなら、〝前に言った〟ように私を見捨てたって――」

「ダメッ!!」

 

 フェイトはバッと上半身を起き上がらせ、プレシアの両手をギュッと掴む。

 

「私は諦めない!! あんな連中の思い通りになったとしても、守りたいと思ったモノだけは守ってみせる!!」

「…………」

 

 娘は母の手を強く、そしてどこまでも優しく握りしめた。

 腕からも伝わる強い意志――それに対し、プレシアは何も言えなくなってしまったようだ。

 やがてフェイトは、優しく笑みを浮かべる。

 

「私は大丈夫。ジュエルシードが全部集まったら、あいつらはどこかにいなくなる。そしたらまた、家族で仲良く暮らせるようになるから」

 

 そう言ってフェイトがゆっくりとベットに降りれば、

 

「フェイト! まだあなたは体が――!!」

 

 思わず声をかけて止めようとするプレシア。さきほどまで苦しそうだった姿を見ていたのだから当然の反応だろう。

 

「母さんのお陰で、すっごく良くなったから」

 

 だが、フェイトは『大丈夫』と言わんばかりの笑顔で返す。そしてそのまま部屋を出ようとすると、

 

「フェイトッ!!」

 

 プレシアが後ろからフェイトをバッと抱きしめ、涙を流す。

 

「ごめんさいッ!! ……ごめんね……!」

「……母さん……」

 

 感極まって我慢ができなくなったのか――娘はただただ、目の端から涙を零す。しばしの間、母の抱擁を受け続けるのだった……。

 

 

 

 

 娘との交流を終え、今は部屋で一人となった(プレシア)

 疲労や辛さを必死に我慢しながら出て行く娘の姿を見送った後――母として無力な自分に対して、悔しさや情けなさを感じてしまう。

 プレシアはベットに座り、後ろの壁に頭を預ける。

 

「……ナハティからの贈り物……取られちゃったわね……」

 

 過去を思い出し――物憂げな眼差しで天井を見上げ続けた。

 

 今や『時の庭園の主』ではなく、ただ囚われの身。

 譲り受けた旧友の贈り物は連中――クリミナルの仮住まいと変貌。

 プレシアは自分の置かれている現状に、怒り、憎しみ、悔しさ、それらすべてが沸き上がり、拳を強く握り絞める。

 

 ――リニス……私はどうなってもいいから、せめてフェイトとアリシアを救う為に……。

 

 神にも縋るような想いで、祈る他ない。使い魔がうまく娘たちを助ける為に動いていることを……。

 

 

「くッ!」

 

 母が囚われた部屋から出たフェイト。廊下の壁に体を預ける少女の呼吸は、荒くなる。

 

「ハァ、ハァ……!」

 

 凄まじい疲労感、激しい頭痛、嘔吐感など、立っているだけも苦しい状態が襲い続けた。

 いくらか回復したとはいえ、母親の前で強い自分を演じるだけでも一苦労だった。だが、決して弱い姿を母に見せることはできない。

 そうなれば、母はきっと自分の為に無茶なことをしてしまう。そう、確信めいたものがフェイトにはあった。

 

 フェイトは足に力を入れ、壁伝いに歩き出す。

 

「次の……部屋だ……!」

 

 そしてなにより〝もう一人〟――無事を確認しなければいけない人物がいる。大切な、欠かせない存在がもう一人、この時の庭園にはいるのだ。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ……」

 

 息を切らしながらも、やっと目的の部屋の前まで到着。とはいえ、部屋の中にいる人物に自身の弱っている姿など見せるワケにはいかない。

 フェイトは汗を拭き、呼吸を整え、なんとか正常な状態で会話できるように専念。

 

「よし……!」

 

 力強くうんと頷き、拳を握り絞めるフェイト。体調の不良も時間が経つにつれてだいぶ和らいできた。これなら母の時ほど、無理に元気を偽る必要もなさそうだ。

 コンコン、とドアを叩く。

 

「ど~ぞ~」

 

 と和やかな声が返って来た。

 反応を確認したフェイトはドアに手を掛け、扉を開く。

 部屋に入れば、中にいる人物が「あッ!」と嬉しそうに声を漏らす。

 

「フェイト!」

 

 部屋に備え付けられたふかふかそうなベットから飛び降り、金髪の少女はフェイトに抱き着く。

 対してフェイトは微笑みを浮かべ、割れ物を扱うように少女を優しくギュッと抱きしめ返す。

 

「今日も来てくれたんだ!!」

 

 抱きしめながら嬉しそうに告げる金髪の少女に対して、フェイトは優しく頷く。

 

「うん――〝お姉ちゃん〟」

 

 

「アリシアちゃんが……生きていたなんて……」

 

 場所は変わって、アースラの会議室。

 リニスから聞かされた話を聞いた新八は、信じられないとばかりに驚きの表情を浮かべていた。

 

 無論、驚いているのは新八だけではない。アースラ組であるリンディとクロノ以外の映画を見た面々全員だ。あの沖田ですら、アリシアが生存して〝あげくに人質として扱われている〟情報に驚きを隠せないでいる様子。

 

 会議室に備え付けられた椅子に腰をかけるリニスが語る、プレシアの過去。謎の組織(クリミナル)の登場。更にプレシアが魔法実験の責任負わされていない事(プレシアの友人のナハティが裏で犯罪者紛いのことを行ったことはぼかして)。

 明かされた内容はまさに海鳴市組と江戸組の双方の予想をいくつも裏切るものであった。

 自分たちがあらかじめ持っていた情報と食い違っている事があまりに予想外過ぎてか、アースラ組以外の面々は中々言葉を発せずにいる。

 

 そんな中、このメンバーの中でも普段からひと際は冷静(クール)に努める土方。彼は自身を落ち着かせるようにタバコの煙を深く吸い、吐き出し、口を開く。

 

「……未来の状況どころか、過去の出来事までこんなに変わっちまっているとはな……」

 

 土方はそこまで言った後、「まァ、これでユーノの平行世界説は濃厚になったが」と言葉を付けたし、沖田はダルそうに頬杖を付く。

 

「さすがに事がここまでくると、眼鏡の持ち合わせてる知識なんざマジでムダ毛程度にしか役に立たねェってことですねェ……」

「そうアルな……」

「ちょッ……!?」

 

 沖田+神楽のあかさらまな嫌味の狙い撃ち。対して眼鏡(しんぱち)は何も言い返せずに不服そうな表情。

 

「プレシア……」

 

 俯くアルフは、悲しそうな、それでいて納得しきれない、と言わんばかり複雑な表情だ。

 プレシア・テスタロッサを酷い母親であるとずっと思っていただけに、怒りよりも戸惑いの方が大きいのだろう。

 プレシアの置かれた立場と自分に向けられた今までの態度。思い返して考えると、彼女なりに頷ける部分とそうでない部分もありそうだ。

 

 だがアルフと違い、単純にクリミナル(特にトランス)に怒りを覚え、プレシアの境遇に共感している者は多い。

 

 土方は煙草の煙を吐き捨てるように口から出す。

 

「五歳の娘を人質に取って人様に言う事聞かせ、挙句ガキは道具扱い。……あいつら、あのふざけた態度とは裏腹にあくどいことやってやがるな」

 

 腕を組むクロノも険しい顔で同意を示す。

 

「まとめると人の心を感じさせませんね。今までの行動から考えるとただの間抜けな犯罪者集団でしかないですけど、逆にあのふざけた態度が、奴らの悪質性をより強調させているとも言えます」

「そもそも人間じゃねェ連中の集まりみたいですしねェ……人間様の倫理観を持ち合わせてるか怪しいところですぜ」

 

 と言って、目を細める沖田。

 普段から警察として悪質な犯罪者と対峙している真選組の二人や執務官ですら、嫌悪感を感じているようだ。

 

「さすがに……許せるような行いじゃないですね」

 

 膝の上に置いた拳をギリっと握り絞める新八。その顔からありありと怒りの表情が読み取れほど。

 

「あの白髪ガキんちょとパラセクト……あの時、顔が変形するくらい殴ってやればよかったネ」

 

 神楽は声のトーンを落とし、自身の怒りを表すように拳を握りしめ、腕を震わせる。(名前は間違えているが)

 

「まさか異世界でここまでの悪党に出会う羽目になろうとはな……」

 

 腕を組む近藤。彼の怒りを示すように、二の腕を掴む手には力が込めらている。

 そして山崎は何も喋らず俯いているが、眉間に皺が寄っているところを見るに、大分憤りを感じているのだろう。

 

「ホントに……ひどい連中……」

 

 怒りと悲しみが入り混じった表情で言葉を絞り出すアリサ。

 

「うん……」

 

 ただただ悲しそうな表情を浮かべ、俯くすずか。その言葉に力はない。

 

「…………」

 

 なのはもまた、表情は暗く重い。悲しみの感情がありありとわかるほど。

 クリミナルたちよって、フェイトやその家族が振り回され苦しめられている状況。それに対し、深い悲しみを抱いているのだろう三人。

 

 幼い三人の様子を見て、視線を落とすクロノの表情がより険しく深くなる。

 彼の上官であるリンディもまた、難しい表情を作っていた。

 なのはたちのような幼い少女たちを悪質な犯罪者集団に関わらせたくない、と言っていただけに色々思うところがあるのだろう。

 

 だが、クロノやリンディは気づかない――スカートを両手で力強く握りしめている、なのはのことに。

 悲しみが浮かぶなのはの表情に――どこか決意の籠ったような、悲しみ以外の感情を感じさせるような、意思が垣間見えていたことに。

 

 重い空気が会議室を漂う中、土方が「にしてもよ」と言っておもむろにリニスに顔を向ける。

 

「結構大まかではあるが、プレシアの内面部分のとこまでよく説明できるな? まー、あの親の真意はこっちとしても知りてェ情報ではあったけどよ」

 

 リニスは瞳を閉じ、胸に手を当てた。

 

「プレシアから話を聞いていただけではなく、私は彼女の使い魔。そして私とプレシアは精神リンクで繋がっていた」

 

 リニスの言葉を聞いて「なるほどな」と頷く土方。

 みなまで聞かずとも真選組副長はすぐに理解したようだ。つまり、リニスとプレシアを繋ぐ精神リンクという繋がり(パス)。それが、プレシアの抱く想いを説明させる要因なのだろう。

 

「だからこそ、精神リンクのお陰で私はプレシアの秘めた想いを……原稿にぶつける事ができました」

 

 と言ってリニスは紙の束を取り出す。

 

「いや、小説ゥゥゥ!?」

 

 と土方は口をあんぐりと開け、

 

「いやなんか喋ってる時、一々視線が下に向くなとは思ってたけど!! やたら説明が物語チックだなとは思ったけど!! まさかの原稿朗読してたのかよ!!」

 

 ツッコミしまくる。

 対して神楽は「なるほどォ」と納得したように呟き、沖田は手を上げながら。

 

「すんませ~~ん、この長い回想って後どんくらい続くんですか~~ィ? もうちょっとはしょれませんかィ?」

「うォォォい沖田さん!! そういう事聞くんじゃねェよ!! 今大事な話の最中なんだぞ!! なんだはしょるって!!」

 

 と新八がツッコムが、沖田は辟易とした表情で頬杖をつく。

 

「いやだって~、正直もう三話使ってんのにまァ~だ回想ですかィ? もう知るべきところ知れたんですしいいじゃないですかィ」 

「……あの、沖田隊長。そう言うメタな発言はちょっと……」

 

 と山崎がやんさわり進言するが沖田は、

 

「しかもそろそろ回想編クライマックスって予想してる読者がいるのにまだ回想入る気ですかィ? こういう回想はもっとパパっと終わらせないと読者がダレて――」

「沖田隊長ォォォッ!? あんたどこ目線で語ってんですか!! どこの編集者気取りですかあんた!?」

「まったく、的外れもいいとこアルな」

 

 神楽が腕を組みながら言えば、山崎が「そうですよ」と相槌を打つ。

 

「そういうメタとかは置いといて、今はプレシアさんの事情について考えることが重要で――」

「そもそも今の私たちの会話だって過去回想みたいもんなんだから、現在進行形で過去回想の過去回想してる真っ最中ネ」

「現在進行形で過去回想の過去回想ってどういう日本語!? つうかなにを指摘してんの!?」

「過去回想にいる癖して回想に文句言うのはお門違いアル」

「なるほど。回想中なのに回想に文句言っちまうのは確かに変な話だ」

 

 沖田は納得したように首を縦に振る。

 

「いやあんたらずっと変な会話繰り広げてますが!! なにこの摩訶不思議な会話劇!?」

 

 と山崎はツッコむ。

 

「とにかく、話を戻しましょう! ホントに話が進まないから!」

 

 新八の催促に対して、沖田「たしかにな」と頷く。

 

「このまま無駄な会話繰り広げて尺伸ばしに戻るし――」

「誰がそこに話し戻せっつったよ!!」

 

 と新八がツッコミ、続いて神楽が。

 

「そもそも1年近くも続き放置した挙句にまだ回想で尺伸ばし真っ最中ネ。作者は生きてる間にこの小説が終わるかどうかすら――」

「神楽ちゃんんんんん!! そういう話はやめてェェェェェッ!!」

 

 青い顔しながら新八が神楽の発言をストップ。すると続いて沖田が。

 

「つうか俺疑問に思うんですが、俺らの話し挟む必要あるんですかィ? 最初プレシアの回想じゃありませんでしたか?」

「そこは大丈夫アル」

 

 と言って、神楽は人差し指を立てる。

 

「私たち銀魂キャラは回想の細かい点によくツッコミ入れてるから無問題ネ」

「いや問題だらけだからッ!! その発言が!!」

 

 と新八は声を上げ、捲し立てる。

 

「そういう細かいとこはサラっと流そうよ!! つうかこの会話自体無駄かもしれないけど!!」

「安心してください」

 

 とここでリンディが笑顔で指を立てる。

 

「その為にリニスさんが原稿に向かってペンを走らせたって言ってくれたじゃないですか。これなら私たち視点になっても大丈夫です」

「母さんッ! 発言が全然大丈夫じゃありません!! 寧ろアウトです!!」

 

 とクロノがツッコミ、土方が「ホントいい加減にしろ!!」と怒鳴る。

 

「どこまでメタ発言連発すれば気が済むんだよ!! 下手したらメタルスライム出てくるレベルだぞ!!」

「なにッ!? ならば聖水を使わねば!!」

 

 と近藤。

 

「局長! 俺たち別にドラクエの話とかしてませんからね!!」

 

 と山崎がツッコムと土方は青筋浮かべてまた怒鳴る。

 

「物語っつうか事件の核心に触れる部分なんだからこれ以上メタ発言で流れぶち壊すんじゃねェよ!! 話が一向に進まねェんだよ!! もう60話過ぎてんのに!!」

「いや、お前もばっちりメタい発言してるアル」

 

 と神楽がジト目で土方を見る。

 

「コホンッ!」

 

 とクロノが咳払いし、リニスに顔を向ける。

 

「……とりあえず、まだ話は終わってんないんだ。続きを頼む」

「えぇ、では……」

 

 そしてリニスはまた過去(原稿見ながら)を語り始める――。

 

 

 プレシアがトンラスの所属する組織と上辺だけの協力関係を結んでから、更に二年の歳月が経過した。

 現在、時の庭園はミッドチルダ南部の『アルトセイム地方』に停泊中。

 

「アハハッ!! こっちこっち!!」

 

 フェイトはオレンジ色の小さな狼と一緒に時の庭園の庭で走り回っている。

 その映像をプレシアは優し気な笑みを浮かべて眺めていた。

 

「……あの狼があなたの報告したフェイトの使い魔?」

 

 プレシアは紅茶を入れる女性――リニスに話しかければ、山猫の使い魔は笑顔で「えぇ」と返す。

 

「あの激しい雨の晩に、フェイトが弱っている子供の狼を保護したんです。そしてそのまま使い魔に」

「まったく……あの子は本当に優しい子ね……」

 

 フェイトに何があってもいいように、外にはスフィアを張り巡らせていたので知ってはいた(もちろん、トランス監視用のスフィアも混ざっている)

 びしょ濡れになるフェイトを助けたいとは思っていたのだが、トランスとの取り決めで手助けをすることができなくなっているのが歯がゆくはあるが。

 

 白いティーカップに紅茶を入れたリニス。クッキーを乗せた皿と一緒にカップを机の上に置き、プレシアの前に差し出す。

 

「ありがとう」

 

 プレシアは軽く笑みを浮かべて紅茶を口にし、「いつも通り良い味ね」と感想を漏らす。

 やがてプレシアは真剣な表情をリニスへと向ける。

 

「それで、フェイトの魔導師としての教育はどうなっているの?」

 

 今、フェイトの先生は基本的にこのリニスだ。

 以前飼っていた山猫――『リニスから生み出したクローン』。それを使って生み出した使い魔が今のリニス。(遺伝子の提供者はクソガキで、殺したのもそのクソ白髪)

 そしてリニスの素体になった山猫は、死んだ山猫とは違う存在だった節があった。やはりここら辺も人間と同様の結果になる、というデータを得ることに繋がった。

 

 まだクローン技術が死人を蘇らす技術ではないと認識できなかった頃。戻って来たアリシアが寂しくならないようにと、生み出してしまった命。

 殺すことはできないし、フェイトの教育係は必要。だからこそ、使い魔としてリニスのクローンを選んだ。

 今、プレシアはフェイトの為のデバイスを製作中。あとは娘が大怪我をしない程度のロストロギア回収の任務を吟味している最中である。

 

「順調に――どころか異常なほどですね。やはりプレシアの娘……あの子の魔導師としての潜在的能力は計り知れません」

 

 リニスは真剣な表情で語りつつも、言葉の最後に「もしかしたら、将来はあなたを越してしまうかもしれませんね」と言って笑みを零す。

 

「フフ、そう。さすがは私の娘。それは楽しみだわ」

 

 笑みを浮かべるプレシア。視線を画面に映し、小さな狼と遊んでいる元気な娘の姿を眺め続ける。

 手の甲で頬杖を付き、やがて瞳には憂いが宿る母。そしてふと、ある事を口にした。

 

「あの子のあんな無邪気の姿を見ていると、思い出すわね……夢のこと……」

「前に話した……二年くらい前からたまに見る、アリシアと会ったり、それどころかフェイトやアリシアと一緒に過ごす夢ですか?」

「えぇ……」

 

 白いティーカップを撫でながら、プレシアは愛おし気に語る。

 

「内容はまったく覚えてないけど……アリシアどころか、フェイトと三人で会って、話して、遊んで……そんな感覚は残ってるの……。あの子たちと楽しい時間を過ごしたって満足感が……心のどこかに残ってしまう感じ……。まぁ、夢だし、覚えてないんだけど……不思議よね?」

 

 最初にアリシアの夢を見た、という感覚が残ったまま起きた時は、頬から涙が流れていたくらいだ。

 その時はさすがに、ヤバイ、末期だ……なんて思い、精神科を受診するか本気で悩んだレベル。

 

 ただ、末期症状からくる夢のお陰か、長年抱えた娘に会えないストレスが緩和されて精神は結構安定していた。だから、受診とかは見送ったが……。

 

 コレって神様の送りモノかしら? なんて冗談めかして言う主に、使い魔は不安そうな表情で。

 

「……あの、プレシア。フェイトに変な術とか、かけてませんよね?」

「いやなんで?」

 

 食い気味にツッコミ入れるプレシアに、リニスは苦笑を浮かべる。

 

「いや、フェイトもなんか、プレシアや記憶にない姉と一緒に楽しい時間を過ごした、って夢を見るそうなので」

「…………えッ?」

 

 マジで? と言いたげな表情を浮かべるプレシアに、リニスは汗を流しながら言う。

 

「ありえないとは思いますけど、あんまりにもアリシアとフェイトが恋しくて、プレシアがなんらかの呪術を用いているのか思ったもので……」

「あなた私をなんだと思ってるの!? 私の使い魔よね!?」

 

 リニスは顎に手を当てながら、怪訝そうに片眉を上げる。

 

「もしプレシアの身に覚えがないのなら、あなたの邪念が怪電波のように流れて、フェイトの夢に悪影響を及ぼしているのかも……」 

「なんで私の娘への恋慕が邪念になるのよ! 娘に対する愛情を毒電波みたいに扱わないでちょうだい!」

「いや恋慕の使い方間違ってますから! いや、あなただとあながち間違ってない気がしてきますけど……」

 

 リニスは若干呆れ気味にため息を吐いてから問いかけた。

 

「……となると、あなた以外で原因は?」

「どう考えても記憶転写の副作用でしょう? あの子にはアリシアの記憶もあるんだから、夢で記憶の混濁が起こってるって考えるのが普通でしょ?」

「あッ、なるほど……」

 

 ポンと掌に拳を打ち付けるリニスに対し、プレシアは「まったく」と言いながら右手で頭を抑えた。

 

「先にそっちを連想して欲しいわ。使い魔なんだから、ちょっとは主に対する礼儀を持ちなさいよね……」

 

 言われたリニスは複雑そうな表情で言い辛そうに、

 

「いやでも……あなたの使い魔だからこそ……その……もう狂ってるんじゃないかと思う、それこそ何かしらの呪いかけそうなほどの、娘に対する念が来るもんですから……。もう……私の手に負えないレベルの……」

 

 言われ、プレシアは露骨に視線を横に逸らす。

 

「……うん。……まぁ……自分が末期な自覚はー……ちょっとー……あるかもだけどー……」

「いや、そこはもっと自覚を持ってください……」

 

 リニスはため息を吐きながら、苦笑を浮かべる。

 

「今は順調にフェイトが育っている大事な時期なんですから、まずは我々がしっかりして導いていかないと。夢に現を抜かして、変なボロを出さないでくださいよ?」

「えぇ、そうね。フェイトの大事な成長の手助け。疎かにするつもりはないわ」

 

 釘を刺され、うんと頷くプレシア。やがて顎に手を当て、視線を流す。

 

 ――にしても、フェイトがアリシアと自分の夢を見るとは……。やっぱり……寝る前に娘たちに祈りを捧げる習慣が原因かしら? 愛情の念を送っているのが、通じたのだろうか?

 

 さきほどまで微笑みを浮かべていたリニスだったが、すぐに表情を暗くする。

 

「しかし……フェイトの成長……。本来は喜ばしいことですが……」

 

 リニスの言わんとすることを察して、プレシアは表情を険しくさせる。紅茶のカップを持つ指に力が入り、白い持ち手に亀裂が入った。

 

「あのクソガキのいる、〝クソッタレ組織〟にとっても喜ばしい事でもあるものね……!」

「ぷ、プレシア……。子持ちの母ですし、もう少し言葉遣いには気を付けた方が……。それに、そういう言葉は普段口にすると、癖になって無意識に出てしまいますし……」

 

 リニスは汗を流しながらたしなめる。

 

「……そうね。では、言い直すわ。あのクソウ〇コクソガキにはホントに辟易して――」

「プレシアッ!? 全然言い直せてないどころか意味も単語も重複してる上に汚いです! ホントに一児の母の自覚がありますかッ!?」 

 

 とリニスはツッコミ入れた後に「怒る気持ちはよく分かりますが抑えて!!」となだめる。

 プレシアはふぅと息を吐いて紅茶を口に運び、気持ちを落ち着けた。

 

「……リニス。これからもあなたには色々と迷惑をかけるかもしれないけど……フェイトのことをよろしく頼むわ」

「ええ、もちろん。私の全身全霊をかけてフェイトを守り、最高の魔導師に育ててみせます」

 

 リニスには最初、事情を教えなかった。アリシアのこと、フェイトのこと、そして組織の存在も。自分が今抱えている問題やこれから行おうとしていることですら。

 過去のことから自分の抱えている問題について教えるのは、使い魔として完成してから。そしてフェイトとある程度触れ合わせてからの方が良いと考えたからだ。

 リニスを使い魔として生み出して三か月が過ぎた辺りで、封印した記憶を戻した。さらにフェイトの出生の秘密、今起こっている現状、アリシアとフェイトを救う為の策を全て伝えた。

 

 全てを知った後のリニスの表情は……痛々しかった。涙を流し、言葉がでないと言わんばかりに俯いて。

 アリシアに飼われていた時の記憶も戻り、今はフェイトの育て役。だからこそ、山猫として母性が強い彼女を余計に悲しませ、混乱させたことだろう。

 

 だが、リニスはすぐに決意を固めた表情で。

 

『フェイトとアリシア――お二人を必ず救いしましょう!』

 

 と、使い魔からはっきり告げられた時、プレシアはとても心強く嬉しかった。

 二人の娘を救うという強い感情。精神リンクのせいか、使い魔側の感情がはっきり伝わってきた時は、思わず涙と笑みすら零してしまいそうになるほど。

 

「でもやはり、フェイトの為とはいえ……あの歳の子が母親と満足に触れ合うことができないというのは、心苦しいですね……」

 

 悲しそうな表情で視線を落とすリニス。

 

「仕方ないわ……。もしあの子に私が〝母親〟として接すれば、連中が私を『良心の欠如した協力者(けんきゅうしゃ)』ではなく『(フェイト)を優先する(じゃまもの)』であると悟られてしまう」

 

 トランスの組織ははっきり言って、自分たち親子の愛情や絆ですら利用する為の道具としか思っていないだろう。

 フェイトの愛情を知られたあげく、『協力をしない側の人間』であると判断された場合は最悪だ。どんな悪辣な手を打ってくるか分かったもんではない。(まあ、普段からトランスをボコボコにしてるとはいえ)

 アリシア以外はどうでもよい人物であると思わせる他ない。

 

 なんとかこの二年、フェイトと触れ合いたい、ハグしたい、添い寝したい、一緒にお風呂入りたい、キスしたい、という気持ちをグッと堪えてきた。厳しく冷たい母親を演じてきたのだ。

 まあ、さすがに完全に冷酷になり切れないので、厳しさの中にちょっとした優しを小出しに見せちゃっているが。

 

「管理局に通報する手段はないのでしょうか?」

 

 リニスの言葉を聞いてプレシアはため息を吐く。

 

「リニス……あなただって分かっているでしょう? 連中にそんな隙は一切ないの」

 

 プレシアの言葉にリニスは表情を曇らせる。

 

 事実、この時の庭園内は外部との通信手段は遮断。外でも連中の監視が目が光っているようで、外に出てもトランスが付き纏う始末。

 付き纏ってない時に管理局連絡しようと試してみたら、

 

『ちゃ~~んと見てるわよ~~。管理局に連絡とかやめてね? ね? ね?』

 

 などとウザったい忠告を頭に直接流しこんでくるのだファッキン。 

 助けを求める手段もなく、自分たちの気持ちを打ち明けられる場などこの時の庭園内をおいて他にない。

 この徹底した監視体制は、プレシアがプロジェクトFを完成させ、フェイトに対する想いが変化した頃から顕著になった。

 

 フェイトの思いに気付くまでは、通報など露も考えていなかった。それだけに、自分の娘に対する感情をいいように利用されたのが如実にわかる。

 

 プレシアはより眉間に皺を寄せて言葉を続けた。

 

「かといって管理局に通報が成功して、アリシア救出の為に管理局が動いているなんてことが連中に知れれば、まず間違いなく通報したのは私たちだと勘づくはずよ。そしてアリシアは……」

 

 肉塊(ハンバーグ)になって帰って来る……――。

 

 最悪の事態を想像をして、顔を青くさせるプレシア。その表情は苦虫を嚙み潰したようになってしまう。

 

 プレシアにとっての最大の障害なのが皮肉にも娘たちの存在。

 人質に取られているアリシアはもちろんのこと、時の庭園にいるフェイトだって現状安全だとは言い難いのだ。

 

 しかも、トランスが所属する組織の名すら自分たちは知らない。無論、組織の規模の把握など論外だ。どれほどの規模を持った連中か分からない以上、奴らが部隊を率いて本気でフェイトを無理やりにでも攫いにくる可能性だってある。

 そうなった場合、いくらプレシアが大魔導師と言ったって分が悪る過ぎる。規模も分からない組織が相手な上、娘が人質に取られた状態で戦うなんて愚の骨頂もいいところだ。あっちが何もしてこない現状を維持する為にも、大人しく連中の協力者という立場を演じ切る他ない。

 

『プロジェクトF.A.T.E』と言う交渉材料がいつまで通用するか分からない。なによりあのような連中に『プロジェクトF.A.T.E』を渡して高い魔力資質を有したクローン軍団なんてモノを作られた暁には――最悪、後々管理局でも手に負えないような大組織に成長してしまうかもしれない。

 娘だけ取り返しても、下手したら口封じとばかりに娘との平和な暮らしをデストロイされる可能性も低くない。

 

「チャンスが来るまで私たちは耐え忍ぶ他ない……」

 

 絞り出すようなプレシアの言葉を聞いて、リニスは俯き、悔し気に拳を握り絞める。

 アリシアを救う機会が来るまでは『プレシアはフェイトをただのクローンだと思っている人間』と、思い込ませておく必要があるのだ。

 

 今は我慢の時、そうプレシアが自身言い聞かせてから更に一か月経った頃……。

 

 

「あ、あの……こんにちは……。フェイトのお母さん……」

 

 人間態のアルフが自分の書斎に入って来た。

 フェイトより少し身長が低い狼の使い魔は、ぎこちない笑みを浮かべている。

 

「…………」

 

 ――どうしようかしら……。

 

 フェイトの使い魔であるから、邪険にしたくはない。が、この使い魔にだって自分が『冷血な母親』であると印象付ける必要がある。

 むしろこれは良い機会かもしれない。

 

 ――ちょっとだけ、使い魔としての能力を試してみましょう。

 

「あたし、フェイトの使い魔のアルフだよ。初めましてでよろし――」

 

 汗を流しながら笑顔を浮かべるアルフ。対し、プレシアは手をかざしていくつもの魔力弾を精製。

 

「えッ!?」

 

 アルフは目の前の光景に唖然。

 

 ――ごめんなさいね……。

 

 雷を帯電させた紫色の魔力弾をアルフに向かって発射するプレシア。

 

「うわわわッ!?」

 

 アルフは驚きながらも俊敏に避ける。

 

 ――さすが狼の使い魔ね。って言うか、猿かしら?

 

 内心失礼なことを多少思いつつ、フェイトの使い魔がちゃんと成長していることにプレシアは安堵。そして冷徹な視線をアルフに向ける。

 

「使い魔にするなら素材を選ばないといけないのに、リニスの失策ね。これではフェイトの出来も知れたところかしら」

「リニスは良い奴だ!! フェイトだって優しい!!」

 

 アルフはプンスカ怒りながら、つたない言葉で抗議。リニスとフェイトがしてくれたことを話しだす。

 

 ――あらあら。随分素直で良い子じゃない。これならフェイトをちゃんと守ってくれそうね……。

 

「リニスはフェイトと一緒にお風呂も添い寝もしてくれるッ!!」

 

 アルフの言葉を聞いてプレシアの眉がピクリと動く。

 

 ――……あらリニス。フェイトと〝一緒にお風呂〟だなんて羨ましい事この上ないわねチクショー。私だってここ二年、まッッッッたくあの子とお風呂も添い寝もしてあげてないのになークソッタレ……!!

 

「そんでほっぺやおでこにお休みのチューとかいうのもしてくれるッ!!」

 

 プレシアはガバっとアルフに顔を向け、アルフはビックリ。なにせ見開いたプレシアの目がやたら怖いから。

 

 ――リニィィィスッ!! それ私一回だけッ!! 何回したッ!? それ何回したッ!?

 

 心の中で涙を流しながらプレシアは悔しがるが、表情には出さない――ちょっと涙目だけど……。

 そして表情を戻しながら椅子に座り直し、アルフに冷たい視線を向けなおす。

 

「使い魔はペットじゃないのよ? あなた、使い魔の使命を知ってる?」

「しめいって……オトコのひとがオンナのひとを選ぶときの――」

「それは指名よッ! あなたそれどこで覚えたの!?」

「リニスが夜中に見ているドラマで――」

 

 ――リニスコラァァァッ!! なにいたいけな少女に年齢層高いドラマ見せてんのよッ!?  まさかフェイトにも見せてんじゃないでしょうねぇぇ!? リニィィィィス! キルユーーッ!!

 

 その時、山猫の使い魔の背中に悪寒が走ったらしい。

 プレシアは表情を戻してアルフに説明する。

 

「いい? 使い魔の使命というのは――」

 

 使い魔がどういった目的で生まれ、使命を果たせば消えるという説明を聞いたアルフ。

 真実を知った小さな使い魔は悲しみにくれ、雨の中で泣いていたらしい。

 プレシアとしては悪い事をしたと心の中で謝る他なかった。

 

 だがその翌日。

 アルフはフェイトとより絆を深め、使い魔としての誓約を誓う。フェイトとちゃんとした契約を結んだ事がリニス経由でわかった。

 

 それからまた月日は経過。

 

「どうやら、使い魔としての契約を結んでからのアルフの成長は、中々良好のようです」

 

 書斎でリニスは紅茶を入れながら笑顔で説明を続ける。

 

「今では魔力を込めた拳でバリアを破壊する程ですよ。魔力の圧縮が得意ですし、きっとフェイトの良いサポート役に成長してくれます」

「フフ……それは頼もしい限りね」

 

 プレシアは笑みを浮かべた後、机の上に肘を乗せた。

 

「……時にリニス。ちょっと小耳に挟んだのだけれど……」

 

 スッと表情を変えて、顔の前で手を組みながら自身の使い魔に目を向ける。

 

「あなた……フェイトのほっぺとかおでこにおやすみのキスを良くやっているそうね~? 〝私〟を差し置いて」

「ッ……!?」 

 

 リニスはサッと視線を逸らし、「え、えぇ……まぁ……」と曖昧に返す。対して、プレシアは立ち上がりずいっとリニスに顔を近づける。

 

「あと夜中にクッキーぼりぼり食べながら、レンタルした深夜枠のドラマ見ているそうね? 〝幼い〟フェイトやアルフと一緒に」

「お、おおおおおおおふたりが見たいと言うモノでつい……」

 

 リニスは両手を前に出して顔を逸らしながら汗をダラダラ流す。

 プレシアはため息をついて椅子に座り直す。そして、机の上にあるアリシアと一緒に写った写真立てに悲しみ帯びた目を向けた。

 

 いいなぁぁ……自分も娘とそういう事してみたいなぁぁぁ……、なんてちょっと羨ましがっている時――。

 

《転送反応確認》

 

 時の庭園の防衛システムが来訪者を察知。同時に、リニスとプレシアはすぐに表情を真剣なモノに変えた。

 

「奴らですね……」

「ええ、今日も事前連絡もなしに来たようね……」

 

 奴ら、それはもちろんトランス、引いては悪質な組織たちとの唐突な会合の時間の来訪。もう通算にして五十近い。

 お互いの顔を見合わせて出迎える準備を始める二人。

 プレシアはモニターを出して来訪者の様子を確認。

 

「あのウザい小娘に……初めてみる奴らもいるわね……」

 

 時の庭園に近い場所。そこに映るのは三人の人間。トランスの横にはサングラスにスーツを着た男が並び、その後ろには白衣を着た男が歩いていた。

 

「どうやら、トランスやアル以外の構成員といったところでしょうね」

 

 リニスの言葉に、プレシアも内心で妥当な予測だと同意を示す。

 

「リニス、私はここで監視をしているから、あなたは連中の出迎えをして」

「了解しました」

 

 そう言って、リニスは小走りにトランスたちの元へと向かう。

 リニスが書斎から出た後、プレシアは映像を切り替える。

 画面にはアルフと魔法の練習しているフェイトの姿が映り、プレシアはその姿を心配そうに見つめていた。

 

 

 

 

 時の庭園。その住居たる城の入口へと向かい歩く三人組。

 

 冬用のオーバージャケットとズボンを履き、腰まで長い白髪を揺らす少女――トランス。彼女は手を後ろで組みながら歩き、視線を横で歩いている男に向ける。

 

「もォ~~、な~~んで私一人に任せてくれないかにゃ~~。大丈夫って言ったじゃ~~ん、〝パラサイト〟くぅ~~ん」

 

 黒髪が逆立った、サングラスをかけた黒スーツの男――パラサイト。彼は両手をポケットに突っ込みながら青筋を浮かべた。

 

「……今回はお前だけじゃ心配だからこうやって俺も来てんだろうが」

 

 黒髪の男はサングラスの下から目をジロリと、浅黒い肌の少女に向ける。対してトランスはワザとらしくやれやれと首を横に振る。

 

「ひっど~~い、私がミスするとお思いで?」

「その煽り全開の口調続けて、あの年増女に炭にされても知らねェぞ?」

「…………」

 

 心当たりありまくりなのか、ちょっと視線を逸らして汗をダラダラ流すトランス。

 

「まッ、下手なこと言って大魔導師の大魔法の餌食になりたくねェし、俺は黙って〝博士の護衛〟に専念しとくけどよ」

 

 骨は拾ってやるぞ? と最後に言葉を付け足すパラサイト。

 

「ふぅ~~、なんだか寒いのに汗かいて喉乾いた……ちょっと水分補給」

 

 汗を拭うトランス。彼女はどこからかペットボトルを取り出し、蓋に手をかける。

 取り出した容器には、あらゆる絵の具の色を混ぜたような液体が半分ほど入っており、それをごくごく飲む。その間に、後ろに付いて歩いていた白衣の男は、横へと顔を向けて別の場所へと向かってしまう。

 えげつない色をしたモノ飲む相方を微妙な表情で見るパラサイト。

 

「いつも思うが、よくそんなモン飲み続けられるな」

「ごくごく……ふぅ、クソまずい。もう――飲みたくない!」

「もう一杯、じゃねェんだ。じゃあ飲むの止めろよな」

「でも体のために飲むの」

「むしろ体にすんごく悪そうな色してるけどな……」

 

 トランスの飲む液体に若干引き気味のパラサイト。

 二人がそんなやり取りをしながら歩いていると、プレシアの使い魔が前の道から歩いて来た。

 

「お待ちしておりました」

 

 足を止め、恭しく頭を下げるリニス。

 

「書斎でプレシアがお待ちです」

「案内ご苦労様。山猫ちゃん」

 

 ニコリと笑みを浮かべ、軽く上げた手を振るトランス。

 ポケットに手を突っ込んだまま気だるげな態度のパラサイトに対し、顔を上げたリニスは少し訝し気な視線を向けた。

 

「……あの、それでそちらの方は初めて見ますが、どのようなご用件なのでしょうか?」

「ん? あぁ、俺は後ろにいるヤツの付き人だ。俺自体は用はねェよ」

 

 そう言って、パラサイトは親指で〝誰もいない空間〟を指さす。

 

「…………あの……後ろに誰もいないのですが?」

 

 リニスがかなり怪訝そうな表情で聞けば、パラサイトは眉間に皺を寄せる。

 

「なに言ってんだ? 後ろにいる白衣着た――」

 

 そう言って顔を後ろに向けるパラサイト。そして言葉が止まった。

 トランスも釣られるように後ろに顔を向ければ、驚いたように目を丸くしてしまう。

 それもそのはず。なにせさっきまで後ろにくっ付いて歩いていたと思った白衣の男――博士の姿が、影も形もなくなっていたのだから。

 

「「…………あれ?」」

 

 思わず声を漏らす二人。

 

 

 そして場所は変わって、時の庭園から少し離れた場所。

 現在、時の庭園が停泊しているミットチルダ南部の『アルトセイム地方』。今は雪が降り積もる季節となり、時の庭園の外は白く染まっていた。

 

「どりゃぁぁぁぁッ!!」

 

 アルフは拳に魔力を込めてその辺の岩に鉄拳を打ち込む。すると、岩にいくつもの亀裂が入った。

 それを見てフェイトは白い息を漏らしながらパチパチと拍手。

 

「アルフ凄いよッ!」

「へっへ~ん!」

 

 アルフは自慢げに胸を張った後、

 

「鉄拳無敵!!」

 

 とサムズアップ。

 

 その時――ザク、ザク、ザク、と雪が等間隔で踏みつけられるような音。それがアルフの狼の耳に入った。

 狼の鋭い聴力によって、聞き逃さなかった音のする方へと視線を向ける使い魔。

 

「…………おや、予想より反応が良いですね」

 

 聞こえた声によって、フェイトの視線もアルフと同じ方へと向く。

 白衣を着た謎の男。その人物はどうやら二人の死角になる方角から歩いて来たようで、彼の後ろにある白い足跡がその証拠。

 

「ッ!? だ、誰だお前!?」

 

 驚くアルフは咄嗟にフェイトを守るように前に出た。犬歯を剥き出し、威嚇。

 フェイトもフェイトで、まったく見覚えのない不審な人物に対し、警戒の様子を少なからず見せていた。

 だが、アルフの事は眼中にないと言わんばかりに、白衣の男はフェイトをマジマジと見続ける。

 

「ふむ……使い魔の成長具合から考えて、やはり先天的に魔力の才能を親から引き継ぐ事には成功しているようですね……」

 

 ぶつぶつ呟きながら一歩一歩フェイトに近づく白衣の男。その目が、少し鋭くなる。

 

「なるほど……量と質が高い……年齢にそぐわないほどの魔力。運用の技能も肉体に自然に身についている。やはりデバイスの持ち主としては――」

「ふぇ、フェイトに近づくなッ!!」

 

 再び威嚇の怒声を出すアルフ。フェイトの前で両手を広げながら唸り声を鳴らす。

 何を考えているのかわからない不気味な相手に対する恐怖が沸き上がる。だが、大切な主を守るための気持ちの方が勝っていた。

 

 これ以上近づいたら噛みついてやる! と言わんばかりのアルフの攻撃意思。それを察したのか、白衣の男の足が止まる。

 男は顎に手を当てて「ふむ……」と声を漏らして、視線を逸らす。

 

「…………あいさつをした方がいいでしょうか?」

 

 と呟く男は、やがて姿勢を正して、

 

「初めまして。私は――」

 

 腰を曲げて一礼し、

 

「私は…………私は…………」

 

 そこまで言って言葉を止めた。

 謎の男は曲げた腰を戻して「ふむ……」と呟き、再び顎に指を当て、視線を横に逸らす。

 

「「??」」

 

 相手の不可解な一連の行動に、フェイトとアルフは困惑の表情。

 

「な、なんだよおまえ……!?」

 

 不気味に感じたアルフが引き気味の声で言葉をぶつける。

 対して白衣の男は視線をアルフへと向けて、

 

「いえ……本名を名乗れない事を思い出したので……なんと名乗ろうかと。なんと名乗ればよいでしょうか?」

「「????」」

 

 困惑の色がより一層濃くなった幼い二人。

 相手の言動があまりにも頓珍漢で、いや知らねえよ、的なツッコミを入れるほどの思考的余裕すら持てない少女たち。

 白衣の男はぶつぶつと呟いた後に、

 

「……じゃあとりあえず、〝博士〟と名乗っておきましょう」

 

 白衣の男は姿勢を正し、腰を曲げて一礼。

 

「初めまして――私は博士です」

 

「「??????????????」」

 

 二人の困惑はより一層深くなったのだった。




第六十三話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/73.html


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第六十四話:母親の苦悩は子供には中々伝わらない

どこで投稿しようか悩んだ末に、結構な長さになりました


「フェイト! アルフ!」

 

 山猫の使い魔は、雪で覆われた白い地面を走る。

 呼吸が荒くなり、口からは白くなった息が何度も不規則に漏れながらも、二人がいるであろう場所へと一刻も早く向かっていた。

 

 時の庭園へとやって来たトランスたちを出迎えれば、なぜか歩いて来たのは三人ではなく二人。彼女らの後ろを付いて歩いていたはずの人物がいつの間にかいなくなっており、化け物二人は茫然自失。

 挙句の果てが、プレシアからの通信。トランスたちからはぐれた人物――博士がフェイトに接近。

 娘に害虫がぁぁぁ! と主は怒髪でファッキンシャウト。

 

 色んな意味でフェイトの元へと早急に向かわなければならない。

 

 ――無事でいてください!

 

 プレシアとの約定がある以上は何か起こる可能性は低いと思うが、万が一もある。リニスの内心の焦りは消えない。

 不安を抱えたまま走っているうちにフェイトとアルフの元まで到着。

 だが、棒立ちする少女二人の前には白衣の不審者。

 

「くッ……!」

 

 万が一も考え、先端に金色の球体が付いた自分用の杖を右手に瞬時に召喚。いつでも魔法を撃てる準備をしておくリニス。

 

「フェイト!! アルフ!!」

 

 リニスが大声で呼びかけた。フェイトたちはしばし反応が遅れたが、やがて後ろを振り返り、やって来た保護者を見て困惑から喜びに表情を変化。

 

「リニス!」

「リニスーッ!!」

 

 助けてと言わんばかりにリニスに駆け寄る二人。

 金髪の少女とオレンジ髪の少女は明らかに白衣の男を警戒している、というか怯えているようだ。リニスの足の後ろに回り込んで、柱から覗き込むような仕草で白衣の男を見ていた。

 アルフは男に指をビシッと突き付ける。

 

「あ、アイツ! へ、変なヤツ!」

「う、うん!」

 

 フェイトですらアルフの言葉を否定せずに首を強く縦に振って同意を示す。

 何があったかわからないが、二人にこう言われるほどの奇行を目の前の男はしたのだろう。とはいえ、少女たちが何かされたワケではなそうなのでリニスは安堵。

 

「わかりました。怖かったですよね? でも、もう大丈夫ですから」

 

 幼い少女たちの不安を払拭させるように、二人の頭を撫でるリニス。

 

「なにかされましたか?」

 

 優し気な笑みを浮かべ、母のように優しく問う。

 

「ぶつぶつなんかわけわかんないこと言ってた」

「話しかけられて、あいさつ? されたと、思う」。

 

 アルフとフェイトはそれぞれ答え、「なるほど、わかりました」と答えるリニス。

 保護者の登場で不安が和らいだのか、表情がやわらかくなる二人。

 少女たちを安心させた後、リニスは白衣の男へと少しばかし鋭い視線を送る。

 

「フェイトとアルフに、何か御用でしょうか? プレシアはこちらにはいらっしゃいませんよ?」

 

 相手はトランスの関係者なのは間違いない。あまり敵意を見せるような態度は極力避けるべきだ。

 だが、愛しい少女たちに危害を加える、もしくは誘拐、などの疑念を抱かずにはいられない。そうなると、自然と棘のような態度を取ってしまいそうになってしまう。

 ギリギリの感情を抑えるリニスの問いかけに対し、

 

「そうですねー……」

 

 白衣の男はゆったりとした口調で、独り言のように呟く。顎に手を当てて思案している様子。

 話しを聞いたフェイトはリニスの顔を見上げながら、

 

「えっと……リニス。あの人は、母さんの、知り合いなの?」

「え、ええ、そう……ですね。はい。知り合いというか、プレシアの仕事上のお客様という感じですね」

 

 少し視線を逸らしながら真実を誤魔化しつつ答えるリニス。

 フェイトは「そ、そうなんだね……」と動揺しつつも納得してくれたようだ。

 一方、白衣の男は顔を逸らしつつ、うんうんと一人で自身を納得させるようにぶつぶつ言い続け、

 

「まー……そうですねー……一応は、用は終わりました。もう少し詳しく確認したくもありましたが……」

 

 やがて視線をリニスたちへと戻す。

 

「……用事は済みました」

「は、はぁ……そうですか」

 

 相手の目的や真意が読めず、ぎこちない返事になってしまうリニス。

 もしかしたらフェイトに何かよからぬ手出しをしたのかもしれないが、二人の発言から特にそんな様子も見られない。

 

 フェイトに会って話す事が自体が目的だったのか? なんのために? 

 アリシアの代わりにフェイトをデバイスの器にする事はもう知っている。が、それとフェイトと会って話す事に何か関係あったのだろうか。

 とりあえず、今ここで色々考えても疑問は解消されないので、後で監視映像を見ながら推察すればいいだろう。(ちなみに、この後監視映像で確認したが、博士は何が目的でフェイトと話したのかリニスもプレシアもわからずじまいだった)

 

「その……それで、この後はどうします? トランス様と一緒に、プレシアにお会いになるんでしょうか?」

「そうですね……」

 

 また顎に手を当てて視線を逸らす白衣の男。どうやら考え込むとやる癖らしい。

 

「大魔導師と呼ばれる彼女を間近で見るのもいいかもしれませんね。では、とりあえず一度くらいは私も会って――」

 

 そこまで言った時――ビュン! とリニスたちの横を何かが凄まじいスピードで横切った後、

 

「なァァァァにやってんだァァァァァッ!!」

 

 白衣の男の腹にドロップキックが炸裂。

 体がくの字に折れ曲がって後ろに大きく吹っ飛ぶ白衣の男。ズザザザザッ! と背中で雪の地面を削る。

 リニス、フェイト、アルフは急激な状況変化で目が点に。

 

 リニスたちを横切った影――黒いスーツを着た男は、あお向けで倒れる白衣の男に近づき、胸倉を鷲掴む。

 

「テメェェェェエエエッ! 勝手にいなくなってんじゃねェェェェッ!! ガキかテメェは!! 良い歳して無言でいなくなるとか五歳児か!! なんとか言えや!!」

 

 顔中に青筋浮かべたスーツの男が掴み上げた胸倉を何度もぶんぶん揺らすので、白衣の男の頭もブンブンシェイクされる。

 

「すすすすみみみみまままませせせせせんんんんん」

 

 頭をグラグラ揺らせているせいでちゃんと発音できない白衣の男。謝罪こそしているが、その顔には反省の色はなく無表情。

 

「こういう大事な時こそ自分を抑える努力しろや!! ホウレンソウの精神を忘れんな!!」

「わわわわかかかわかわかわかりりりましました」

 

 ――え、えっと……。

 

 とりあえず状況は飲み込みずらいが、スーツの男がめっちゃ怒ってるのだけはリニスにもわかった。たぶん護衛である白衣の男――つまり博士が〝勝手に〟姿を消したからだろう。

 あと、黒スーツの男が博士を回収するために付いて来ていたことも思い出した。

 とりあえず、なんか揉めてるし、話に割り込んだら絡まれそうなので……、

 

「え、えっと……フェイト、アルフ。風邪ひいちゃいますし、家に戻りましょう」

「「う、うん……」」

 

 リニスは少女たちを家に連れていく事にした。

 

 

 一方、プレシアの書斎では……、

 

「…………」

 

 殺してやる、と言わんばかりの眼光で、ゴゴゴゴゴゴッ!! という音が出そうなほどの殺意のオーラを出しまくるプレシアと、

 

「…………」

 

 椅子の上で体育座りしながら、顔を真っ青にし、汗を滝のように流すトランス。

 連れとリニスが帰って来るまで、二人はずっとこんな対面を続けていた。

 

 

 そんなこんなで来訪してきた三名はプレシアの書斎に集まり、会談が始まった。

 

「んで、単刀直入に聞くけど、どう? フェイトちゃんの出来栄えは?」

 

 椅子の背もたれを前にして、股を広げて座るトランス。身内が合流した事でいつもの調子が戻ったらしい。

 

【この小娘、人様の話を聞く態度じゃないわね? 一発殴ろうかしら? 目ん玉を】

【落ち着いてくださいプレシア。我慢です我慢しましょう】

 

 トランスの失礼な態度ですでにご立腹気味の主を念話でいさめる使い魔。そもそも会うたびに目の前の小娘に怒りを貯めているから、攻撃性バリバリなのはもう仕方ないといえば仕方ないことだが。

 書斎の机を挟んで座るプレシアに代わり、彼女の横に控えるリニスが答える。

 

「え、えぇ。順調に魔導師として成長しています」

 

 リニスはフェイトの魔導の先生。彼女の成長は熟知しているので、答える人物としては適任だ。

 なにより主が怒りで我を失って暴力に訴えないように、トランスとあまり会話させないという裏の役目も兼任中。

 

「ふ~~ん、よかった。二年経つけど、あとどのくらいで魔導師として完成しそう?」

 

 背もたれの上部――つまり笠木の上に両腕を横にして乗せ、腕の上に顎を乗せたトランスは足をプラプラと前後に動かす。

 

【腹立つわぁ~~、この小娘腹立つわぁ~~。中指の関節だけ突き出したグーで眼球潰そうかしら?】

【プレシア! とりあえずそのチンピラ思考を抑えください! ホントにお願いですから!】

 

 イラついた猛獣のような主を抑えつけながら、リニスはなんとか表情に出さずに説明を開始。

 

「え、えっと……フェイトは今七歳。女性機能が成熟するまでに後七年~八年くらいかかります。いくらフェイトが優秀でもあと三年は――」

「一年」

 

 リニスの言葉を遮り、トランスは人差し指を立てた。

 

「後一年で、フェイトちゃんを立派な魔法少女に育て? お願い」

 

 白髪少女の口元は、ニッコリと可愛らしく笑っている――が、目はまったく笑っておらず、不気味さすら感じさせた。

 

「その、さすがにそれは……。魔導師について詳しく知らないから出た言葉かもしれませんが、フェイトを魔導師として十二分に育てるにはもっと時間がいります」

 

 相手をあまり刺激しないように、やんわりと断りを入れるリニス。

 さすがにいくらなんでも一流の魔導師としてカリキュラムを徹底的に叩き込むとして、一年は短すぎる期間だ。

 対して白髪の少女は、ニコッと笑顔を作って、

 

「とりあえず睡眠は三日に一回の三時間、食う寝るトイレ以外はすべて魔法特訓叩き込めばいけるいける」

「あなたフェイトの体と心をぶっ壊す気ですか! 壊すと言うかそこまでいったらもう普通に殺すレベルですよ!! 無理ですから!!」

「無理というのは嘘つきの言葉って言うじゃない」

「じゃああなたは今言ったスケジュールを実践できるんですか!!」

 

 と、リニスが思わず皮肉を交えて反論するとトランスは、

 

「できる」

 

 と即答。

 

「すみません!! フェイトは人間なんです!! 非人間のあなたと一緒にしないでください!!」

「譲歩してるのにィ~~」

 

 今ので譲歩!? とリニスは内心でビビりつつ驚くが、なんとか説得を試みる。

 

「基礎や構造から教えなければいざ実戦になった時、使い物になりません! わかってください!」

 

 リニスの必死な訴えに、

 

【よしわかった! コイツぶっ殺す!! それで万事解決!!】

 

(プレシア)が応えた。

 

【プレシアッ!! あなたは何もわかってません!! 暴力で解決するのやめてください!!】

 

 大魔法ぶっ放しそうな主をなんとか言葉で止めるリニス。

 

【我慢です!! 我慢するんです!! 私だってこのクソッタレブラック脳みそに魔力弾炸裂させて風穴開けたいのを我慢しているんですから!!】

 

 フェイトを思っての使い魔の怒りをわかってもらえたのか、主はなんとか矛を抑え込んだようだ。

 あっちもこっちも気を遣わなきゃで内心めちゃ疲れ始める使い魔。

 

 リニスの訴えを聞いたトランスは口を尖らしながら、

 

「どうせデバイスの器になっちゃう『道具』でしかないんだから、そんな過保護に育てる必要ないのにィ~」

 

 プレシアを前にして言ってはならない不満を口からこぼした。

 

【よっしゃぁぁぁッ!! 殺す!! 殺してやる!! 生きてることを後悔させてやる!!】

 

 プレシアは内心マジでブチ切れ。

 対してリニスは、

 

【分かりましたぁぁぁぁぁッ!! ()りましょう!! ()って()りましょうッ!! そんでコイツの組織壊滅させてアリシアを救いだしましょう!!】

 

 ブレーキが壊れた。山猫の使い魔の愛情は怒りに猛変質。

 

【リニス!? あなたは私のストッパーでしょッ! ダメよ!! ダメなのよ!! 今は耐えるの!! 耐える他ないの!! だけでコイツはとにかく今ここで殺したい!!】

【ダメですプレシア!! 耐えるのです!! 忍耐です!! 我慢です!! でも私も爆発寸前です!!】

 

 二人が内心嵐のような怒りと必死に戦っている間、トランスは頬杖を付いて半目で気だるげな表情になりだす。

 

「どうしたもんかなー……こうなっちゃうと……」

 

 そこまで独り言を呟いて「よいしょっと」と言って椅子から降りる。

 そして「う~~~ん」と腕を上げて体を伸ばし、

 

「しょうがないか……」

 

 と言葉を漏らし、目を瞑ってうんうんと頷いた後――口元をニヤァと薄気味悪く釣り上げたトランス。

 幼い姿の少女が目を開き、両手を少し左右に広げれば、白く長い髪がワナワナと動き出す。

 

「「ッ!」」

 

 ――なにかしてくる……!

 

 と感じて身構えるリニスとプレシア。

 不気味な何かを感じ、冷や水をかけられたように心から怒りが一瞬消え失せた二人。

 トランスが一歩、足を前に出した瞬間、

 

「おいおいおい、グダグダ言い訳してんじゃねェよ、クソ猫」

 

 後ろで控えていた黒いスーツの男――パラサイトが話に割り込んだ。

 パラサイトはずかずかと歩を進めてトランスの横を通り過ぎ、バンッ!! と机の上に掌を叩きつけ、

 

「1年だ。後3年も待てるワケねェだろ。甘ったれたこと抜かすな」

 

 サングラスを外しながらリニスにガンを飛ばして威嚇。

 待てなくなったのか、チンピラのような脅しを始めた仲間。その姿を見てトランスはしらけたと言わんばかりにやれやれと呆れた表情。さきほどまでの雰囲気はなりをひそめていた。

 

 トランスではなくパラサイトが脅しを仕掛けてきたので、ちょっと肩透かしを食らった気分になるプレシアとリニス。だが、ちょうどよく内心冷静になれたので、会話を再開。

 

「だからさきほど話した通り、魔導師としての基礎と応用を固めるには時間が――」

「チッ――!」

 

 舌打ちしたパラサイトは、バァン! と机を拳で叩き、リニスの言葉を阻害。衝撃を受けた机には亀裂が入ってしまう。

 

「話をループさせんじゃねェ……!!」

 

 イラついている、と言わんばかりのイラつき声。

 パラサイトはずかずかとリニスの前まで歩き、右手で胸倉をつかみ上げる。

 

「あのクローンの引き渡し時期を考えたら、一年は妥当な数字だろうが。なにより人間を一番に成長させんのは座学よりも実習って相場決まってんだよ。簡単な魔法でもなんでも覚えさせて後は実戦経験だ」

「ですが――!」

「ですがもクソもあるかァーッ!! とっとと実戦投入でレベルアップすんだよッ!! ファッキンクソ猫!!」

 

 追加の脅しと言わんばかりに、怒鳴りながら左に持ったサングラスを握りつぶすパラサイト。ガラスが割れ、地面に破片が落ちる。

 あからさまな威嚇行動に対して、リニスは視線や顔を逸らさず、動揺も示さない。ただジッとパラサイトの顔を見続けた。

 ビビる様子すらない使い魔の態度にイラつたいのか、チッと舌打ちするパラサイト。

 

「……一つ言っておくが、俺は後ろにいるチビみたく優しくねェぞ?」

 

 チンピラ怪物はそう言って親指を後ろに向ける。当の優しいチビは体に悪そうな液体をぐびぐび飲みながら状況を静観中。

 

「あんま我儘言うなら三味線にすんぞ」

 

 パラサイトがそういった瞬間、彼の左の爪がスーっと鋭く長く伸びあがった。

 三味線という単語こそわからなかったが、自分に危害を加えようとしているのは如実に伝わるリニス。

 

【なるほど、コイツもあの小娘と同じか……】

 

 と、プレシアは念話で喋りながら、後ろに隠した手で魔法攻撃の準備を開始。いますぐではないが、いよいよ手が出たら攻撃するつもりではいるのだろう。

 

【プレシア】

 

 リニスは念話で名を呼び、主に手を出さないよう念押し。

 

【わかってる。ちゃんと頭爆散させるから】

【そうじゃなくて、私は大丈夫ですから。これくらいの脅しなんて事前に予想済みです】

 

 家族の事になると見境がなくなるので、こうやって適度に落ち着けないといけない困った主だ――と思いつつも、自分も守る存在にカウントしてくれるようで嬉しく思ってしまう使い魔。この状況では顔に出せないが。

 

 リニスは毅然とした態度で、自身の意思を曲げずに伝える。

 

「何度でも言いますが、魔導師として十分に育てるならせめて二年か三年は必要なんです。フェイトの教育係として、ここは譲れません」

 

 パラサイトはあからさまにイラつきが増したのか、歯を強くかみしめ、頬の筋肉がグッと吊り上がり、口元が引くついていた。

 そろそろ暴力に訴えてもおかしくないという態度を見せ始めた怪物。だが、一度息を深く吸い、まるで怒りを抜くようにスーッと息を吐く。

 やがてパラサイトは後ろで控えていた白衣の男へと、視線をチラリと向けた。

 

「……おーい、博士ー。この猫がグダグダ言ってるが、あと一年は無理なのかー?」

 

 博士と呼ばれた男は顎に手を当ててしばし思案してから、自身の考えを述べる。

 

「……まー、現実的に無理な数字ではないですね。ある程度教える魔法を限定して、実戦で使える拘束魔法を一通り教えれば、かなり短縮できると思いますよ」

 

 その言葉を聞いた途端、パラサイトは片眉を上げながら「ほらな」と言って露骨にアピール。

 

「ですが、それでは――」

「やっぱ三味線コースか?」

 

 なおも食い下がる使い魔の首筋に爪の先を突きつける怪物。

 

「――やめなさい」

 

 だがその時、声のトーンを低くしたプレシアの声が、書斎の空気を一変させた。

 パラサイトは手を止めてプレシアに視線を移す。対して、時の庭園の主は手の甲で頬杖をつきながら、絶対零度を思わせるような冷たい眼差しを怪物へと向ける。

 

「紛いなりにもそれは私の使い魔なの。見ててとても不快極まりないわ。何よりその子はフェイトの教育係なのは分かってる?」

 

 対し、パラサイトは舌打ちをし、心底めんどくさそうな表情で髪をかき上げた。

 

「あ~~クソッ。あのな、さっきも言ったが前から決めてた予定の期間が迫ってんだぞ。こっちにも譲れねェ事があんだよ」

 

 プレシアは少し息を吐き、より眼光を鋭くさせて告げる。

 

「あなた達の要求は分かったわ」

「プレシア……!」

 

 リニスは思わず声を出してしまう。

 フェイトの先生として、魔法教育に関わる事項については妥協するつもりはなかった。傷つくのも覚悟の上で。

 それに今後のこともあるだけに、プレシアが折れてしまったことに対して何か言わずにはいられない。

 だが、リニスが何か言うよりも前に、プレシアは感情を殺した瞳を使い魔に向けた。

 

「リニス、主として命令よ。私の意思に従いなさい。これ以上の口出しは許さないわ」

「…………わかりました」

 

 納得できない感情をなんとか飲み込んで、主の言葉に従い、引き下がるリニス。

 リニスが折れた事でパラサイトは掴んでいた胸倉を離し、伸ばした爪を戻しながらリニスから離れる。

 使い魔は自身の無力さを感じて、頭が少し下を向く。尻尾と帽子に隠した耳もまた垂れ下がってしまう。

 

 リニスが何も言わないことを確認したところで、プレシアは安堵したように少し息を吐き、トランスたちへと視線を向ける。

 

「……あのクローンには実戦で使える拘束魔法を一通り教えた後、私の使いとしてロストロギア回収の任に向かわせる。これでよろしくて?」

「飼い主の方がちゃんと分かってんじゃねェか」

 

 パラサイトはニヤリと笑みを浮かべた後、博士の隣に立つ。

 笑顔を作るトランスは手を振りながら、

 

「それじゃあ今回の話はこれでおしまい。バイバイ、オバさ――」

「あッ?」

「…………大魔導師様と猫ちゃん」

 

 引きつった笑顔となって、後ろ足で書斎を出ようと下がりだす。

 

「ほれ博士、帰るぞ」

 

 パラサイトが促すが、

 

「いえ、ちょっと待ってください」

 

 博士は手を出して待ったをかける。トランスとパラサイトは博士の言葉が予想外だったのか、「ん?」と不思議そうな表情。

 やがて白衣を着た男は前へと歩き出し、プレシアの机の前まで足を止めた。

 

「…………」

 

 突っ立って無言でプレシアを見下ろす博士。

 

「…………」

 

 相手が何も言わないので、無言でプレシアも博士を見上げ続ける。

 

「…………」

「…………」

 

 見つめ合う両者。

 その様子を眺めるトンラス、パラサイトはお互いの顔を眺めながら戸惑い気味。リニスは何が起こるのか予想できず汗を流す。

 

 書斎の中では沈黙の時間がしばし流れ、なんというか、なんと反応すればいいわからない微妙な状況になってしまう。

 

 えッ? なに? なんで無言で見つめてくんの? とプレシアは内心少々困惑気味のようだ。なにせ、目の前の男は無言でジッと突っ立って見てくるだけなのだから。

 

 やがて、博士は不気味に口元をワザとらしく釣り上げた。

 その異様な表情に隣のリニスが若干引く中、

 

「……自己紹介がまだでしたね。私は博士。彼女らに命令を下すモノであり、今回の計画の立案者兼総指揮者、並びに組織で重要なポストに身を置いています」

 

 と、胸に手を当てながら自己紹介をする男。

 

「んッ……」

「ぁッ……」

 

 思わず出たと言わんばかり声を漏らす、パラサイトとトランス。その表情は若干の驚きと戸惑いが交じり合っていた。

 

【なに……コイツ? なんか色々ぶっちゃけて来たわねコイツ……】

【自己顕示欲が強いのでしょうか?】

 

 色んな意味でツッコミどころ満載だったの、プレシアとリニスは内心で困惑気味。

 

【私の前で自分が重要人物って名乗ってるけど、罠じゃないわよね? 私にこの場で抹殺しろって挑発してるの?】

【プレシア、ここは何もせずに会話を続けましょう。私たちの反骨心を探っているのかもしれません】

 

 後ろで控えている怪物たちの様子を見れば、微妙に不満そうな表情。

 

【後ろの連中としてもコイツの行動って、予想外なのかしら?】

 

 プレシアの推測にリニスも応じる。

 

【特に文句も言う様子もありませんし、本当に上の立場の人間の可能性が高いですね】

 

 情報を整理しつつ、プレシアは口を開く。

 

「……博士……ね。名前は聞かせてくれないのかしら?」

 

 プレシアの当然の疑問に博士はワザとらしく不気味な笑い声を漏らしだす。

 

「フ、フ、フ……当然です。私は名乗れないので偉いけど失礼をお許しください」

「そ、そう……」

 

 プレシアはとりあえず返事をして、

 

【なに言ってんだコイツ!? 会話下手くそか!! あとさっきから笑い方キモッ!!】

 

 口には出せないツッコミを念話でリニスに送る。

 

【プレシア、確かに色んな意味で気色悪いですが我慢しましょう。あなたの気持ちを逆なでする腹づもりなのかもしれません】

 

 どうやら徹頭徹尾本名は明かさないのだとプレシアは判断。

 後ろではトランスはやれやれ顔で、黒スーツの男は顔をしかめていた。まあ、直属の上司が現状恥晒しまくってるのだからあんな反応にもなるだろう。

 プレシアは色んなツッコミを我慢しつつ、会話を続ける。

 

「…………とりあえず、あなたがあいつらの上司って事はわかった。つまり、私が預かってるアルの上司でもあるって認識でよくて?」

「フ、フ、フ……彼女はまー……私の部下でもあり……古い知人でもあると言っておきます」

 

 また不気味で変な笑いをする博士に対して、プレシアは青筋をブチっと立てた。

 

【コイツのクソみたいな笑い聞いてたら、ちょっとマジで腹立ってきたわね】

【落ち着いてくださいプレシア。深呼吸です】

 

 リニスの言葉を受けて、プレシアは深く息を吐いてから話す。

 

「……それでなに? アルを返還しろって、私に要求するつもり?」

「いえ……まだいいですよ。問題ないので」

「じゃあ、なんの用なの? アリシアを返してくれるの?」

 

 少し皮肉交じりに問うプレシアの右手を、博士は両手でギュッと握る。

 

「!?」

 

 予想外の行動に面食らうプレシアに対して、博士は口元を釣り上げながら言う。

 

「これからも暇な時は時の庭園に来ますので、トランスさんたちの上司で組織で偉い責任者の私をよろしくお願いします」

「う、うん……」

 

 相手の真意がわからず困惑し、無意識に体を後ろに逸らすプレシア。

 

【……もしかして挨拶が目的……なの?】

 

 念話でプレシアが疑問を投げかけるが、リニスも呆然としているので念話を返す暇がない。

 やがて博士は握っていた右手を離し、真顔に戻る。

 

「それでは、これで」

 

 と、手を軽く上げて去る博士。

 その後に呆れ気味の顔のトランスとパラサイトも付いて行く。

 ドアが閉まり、ようやく書斎の中はプレシアとリニスだけになった。

 

「…………あの白衣のヤツ……なんだったんのかしら?」

「………………なんて言うか……想像以上に不可解で不気味な方でしたね……」

 

 やがて、プレシアは視線をゆっくりとリニスへと向ける。

 

「……でも、ある意味納得がいった」

「……なにがですか?」

「あのクソウザい白髪の上司がアレだから」

「…………ですね」

 

 とりあえず、白衣の男は組織の重要ポストに席を置いており、謎行動の多い奴とだけで頭に入れておくことにした。

 プレシアは空中にウィンドウを出現させて、監視映像を確認。扉の前でトランスたちが聞き耳を立てる姿がないか、フェイトにまた接触する気はないかと動向をチェックするのは忘れない。

 プレシアが監視映像を確認する中、リニスの方へ視線を向け、

 

「大丈夫だったリニス? 怪我は?」

「……すみません、プレシア」

 

 大丈夫です、でも、少々傷が、でもない。唐突に謝罪の言葉を返して頭を下げるリニス。

 少し困惑気味のプレシアに対して、

 

「私が不甲斐ないばかりに……フェイトの大切な教育期間が……」

 

 リニスは心の底から申し訳ないと言わんばかりに深々と頭を下げ続ける。

 

「頭を上げなさい、リニス。あなたが謝る必要はないわ。連中がああいう要求をするかもしれないと、ある程度は事前に予想していたでしょ?」

「…………はい」

 

 リニス自身、こればかりはわかっていたことだ。

 連中がフェイトを育て欲しいと要求した期間から逆算すれば、当然魔導師として教え導く期間は短縮させられる。

 だができることなら、フェイトには魔導の教育を十二分に受けさせて、どこに出しても恥ずかしくない一流の魔導師として育てたい。いや、するべきなのだ。

 だが、この願いは叶わない。フェイトの先生が抱くこの願いは無情にも叶う事はない。

 

 やがて頭をゆっくり上げるリニス。だが、その表情はあまりにも暗く沈んでいた。

 目に見えて気落ちする使い魔に対して、プレシアはやれやれと立ち上がる。

 

「……あなたの気持ちはわかるけど、切り替えるしかないわ。出来る事を出来うる限りしましょう」

 

 プレシアが励ますようにリニスの肩にポンと手を置き、優し気な表情で語りかける。

 

「もうすぐフェイトのデバイス――『バルディッシュ』も完成する。あなたはあなたで、できるだけフェイトに魔導の知識を与えて。あの子が自分の身を自分でちゃんと守れるように」

 

 徐々にだが、表情から影が薄れていくリニス。プレシアは主として更に言葉を与える。

 

「あなたは誰でもない、私の使い魔なのよ? 無茶をしろとまでは言わないけど、一年でもあなたならあの子に最高の教育を施せると信じているわ」

「はい! 時間の許す限り、フェイトにはあなたから授かった魔導の知恵を存分に吸収させます!」

 

 主の鼓舞。それに応えるように使い魔は力強く自信を奮起させた。

 やがて、時の庭園の防御システムからトランスたちが去ったことが告げるアナウンスが届く。

 

「……あら、ようやく出て行きやがったようね」

 

 通知を受けたプレシアは反応し、リニスは溜まったモノを吐き出すように息を漏らす。

 やっと嫌な時間から解放されたプレシアはニッコリと笑顔を作り、

 

「ねー、リニス。あなた、〝ストレス〟溜まってない?」

「えー、そうですね。今回はいつも以上に〝魔法の練習〟をして発散しないとですね」

 

 リニスもニッコリと素晴らしい笑顔で答える。

 二人はそれぞれ杖を取り出し、

 

「それじゃあ、今日は〝ココ〟にしましょ~♪」

「は~い♪ 今日もめいっぱい魔法をガンガン撃っちゃいますよ~♪」

 

 待ちに待った時間が来た言わんばかり。二人はまるでテンションが上がった少女のようなルンルン気分で、フェイトの目が届かないであろう場所に向かう。

 

 数時間後、時の庭園の一部が〝また〟焦土と化した――。

 

 ちなみにこれは余談だが、時の庭園は白髪の少女だけでなく博士が来る度にどんどんおどろおどろしい姿に変わっていたのだった。

 ちなみに博士は最初遭った時よりも格段に煽り力が高くなり、プレシアとリニスのストレスは尋常ないほど溜まっていった。

 

 

 冬が終わり雪が解ける頃。

 

 アルフの成長は著しい。

 まず獣の姿は体躯が増して、すっかり大人の狼と見分けがつかないほどの大きさ。人間態の姿なんかは、リニスよりも高い身長を獲得していたのだ。

 その分食欲と胃袋が増したので食べる量は小さい頃より圧倒的に増え「まったく、体ばかり大きくなって……」とリニスを少々呆れさせるほど。

 

 そして夏が終わる頃。

 フェイトは最後の課題魔法『サンダーレイジ』も習得した事でリニスの課題をすべてクリア。

 幼い少女はまだまだ荒削りながらも魔導師として完成したのである。

 

 こうやってフェイトの才能とひた向きな努力が実を結んでから数日経ったある日……。

 

「フェイト……こちらに」

 

 リニスは『ある部屋』にフェイトを導く。

 

「う、うん……」

 

 戸惑うフェイト。その姿は、可愛いフリルとリボンがあしらわれた赤いドレスで着飾られていた。

 もちろんおめかし役はリニス。フェイトに「ご褒美があります」と言って準備を開始。髪を整え、少女が着慣れないドレスを着させるところまで全部リニスがお手伝い。

 

 扉の前に立つフェイト。リニスがゆっくりと扉を開ければ、

 

「ッ!」

 

 フェイトは目の前の光景に驚き、思わず声を出す。

 

「か、母さん!」

「久しぶりねフェイト」

 

 食事が用意された席でフェイトを待っていたのは母であった。

 プレシアは少しだけ微笑みを浮かべる。

 

「リニスから聞いたわ。課題を全てクリアしたんですってね。だから今日はそのお祝いに一緒に食事をしましょ」

「は、はい!」

 

 フェイトは少し戸惑い気味に返事をしてしまうが、次の瞬間には嬉しそうに笑みを浮かべる。そしてこのサプライズを用意したであろうリニスに目を向けると、山猫の使い魔はウィンク。

 フェイトは感涙のあまり目を潤ませたようだが、母を待たすワケにもいかないと思ってかすぐに席に着く。

 

「母親らしいところもあるんだね……」

 

 とアルフは不満そうな小声を漏らしながら席に座った。

 狼の使い魔の態度とは打って変わって、

 

【よくやったわリニス!! フェイトのドレス姿――さいッッッこうよッ!!】

 

 プレシアは凄まじい喜びの声を念話でリニスに送る。感情は表に出さず。

 念話を受けた使い魔はビシッと親指を主に向けて立てた。もちろんアルフとフェイトには気づかれないように。

 

【さすがは私の使い魔だわ!! この食事会のセッティング、感謝する!!】

 

 ご褒美と言う形でこの会食を提案したのは何を隠そうプレシアの使い魔であるリニス。

 『課題を全てクリアした褒美を与える』という体裁にすれば良いと助言。いくら冷たい母親を演じていたとしても、これなら問題なく娘と食事ができる。

 

 こうしてプレシアはフェイトと二年振りの食事を行うに至った。

 ちなみに食事を作ったのはプレシア。さらにこれは余談だが、フェイトが知らないだけでプレシアはちょくちょく娘のために料理を作っていたりする。

 

【それにしてもリニス。中々良いドレスを選んだわね】

 

 気づかれないよう、さり気なく娘のドレス姿を眺める母。リニスは自慢げに念話を返す。

 

【この日の為に悩みに悩み抜いて選びましたから】

 

 プレシアは鋭い眼光をリニスに送る。

 

【録画は?】

【もちろん高画質】

【グッジョブ】

 

 プレシアの賛辞を受けてリニスはまたビシッと親指を立てる。

 

 使い魔と真剣(本人基準)な念話を繰り広げたプレシアは、超久々に娘との食事を始める事となった。

 かと言ってプレシアは立場上、親子のような他愛もない会話で楽しくお喋りしながら食事、なんてことはできるはずもない。

 食事が始まってからプレシアがフェイトに話さなければいけないことは、

 

「最後の高位魔法習得までどれくらいかかったの?」

 

 とか、

 

「好きな魔法は?」

 

 とか、

 

「得意な系統の魔法は?」

 

 とか、すんげー味気ない物ばかり。

 

【アァァッ!! チクチョォォォッ!! 愛娘との〝久々〟の食事なのになんで私はこんな『どうでもいい』ことなんぞ聞かなきゃなんないのよッ!!】

 

 我慢できずに念話で愚痴を吐き出すプレシア。

 

【私はアレか!! ドラマとかで出てくる子供の成績しか興味がないドライペアレントか!! なんだこの会話ッ!! 全然楽しくないッッ!!】

 

 涙声と怒りが混じった文句が頭に飛んでくるので、リニスが念話でたしなめる。

 

【我慢ですプレシア! ここは我慢! トランスたちを駆逐するまでの辛抱です!】

【あのねぇ……!】

 

 と、プレシアは念話ですんごい不満げな声を漏らしだす。

 

【我慢我慢言うけど……あなたはフェイトといつもいつも楽しそうに会話したり食事したり魔法を教えたりするけど……。私ここ二年でフェイトと親子らしいこと〝何一つ〟やってないのよ! やったことと言えば、あのクソ共の来訪を待ち構えながらいつかどんな方法で復讐してやろうとか考えたり、別に取りたくもない冷たい態度をフェイトに向けることばっかりなのよ!! このままだとストレスのあまり不治の病に罹りそうだファッキン!!】

 

 今だってこんなクソ味気ない質問に笑顔で答えてくれるフェイトを、抱き締めて頭なでなでしてチュッチュしてあげたいと、プレシアは何度思ったことか。

 聞きたいことだって、好きな魔法は? じゃなくて、好きな食べ物は? とか、最近の調子はどう? とか、どこか行きたい場所はある? とか、もっと親子のスキンシップを深める的なモノを望んでしまう。

 

 ――あ、なんか涙出そうになってきた……。

 

 出そうどころかマジでプレシアは目の端からつつぅと涙を流す。

 そんで、たまたまそれを見たアルフは「えッ?」と声を漏らして唖然。

 

【プレシアッ!? 涙を引っ込めて!! アルフが困惑しています!】

 

 リニスは慌てて念話を送る。

 

「くッ……! 眼精疲労が……!」

 

 プレシアは眉間を摘まみながら誤魔化す。対してアルフは眉間に皺を寄せて訝し気。

 

【眼精疲労ってなんですか!? 目にゴミくらいの言い訳でいいでしょうが!!】

 

 リニスが念話でツッコミ入れると、フェイトは心配そうに母親に声をかける。

 

「か、母さん? だ、大丈夫ですか?」

「…………」

 

 うるうるとしたかわいい瞳で自分を心配する娘を見て――プレシアの目からブワッと大量の涙が溢れ出た。

 今度はアルフどころかフェイトもギョッとしている。

 

【ちょっとぉぉッ!! ホントにいい加減にしてください!!】

 

 リニスが慌てて念話を送ると、

 

「くッ……! 目にウジ虫が……!!」

 

 とプレシアは目を抑えてなんとか誤魔化そうとするが、リニスはもちろん念話でツッコム。

 

【ウジ虫ってなんですか!? 寄生虫でも目に入ったんですか!? それなら眼精疲労の方がまだマシです!!】

「そう……なんですね……。その、大丈夫ですか?」

 

 だが、純粋の娘は疑う事を知らない様子。おどおどしながらも母を想う気持ちを忘れない。

 プレシアは目元を手で覆いながら「大丈夫よ……」と言う。

 

【フェイト……なんて純真な子でしょう……!! あんなアホな誤魔化しを信じて……!!】

 

 バカな母の言う事をなんでも真に受けてしまう教え子に、口元を抑えて涙を流してしまう先生(リニス)

 一方、フェイトの使い魔は正常な疑念を抱いている様子。少しドン引き気味に頬を引き攣らせ、リニスへと顔を向ける。

 

「ね、ねぇ……リニス。なんか……プレシアの様子おかしくない?」

 

 リニスはさっと涙を引っ込めて、頬を引きつらせながらフォロー開始。

 

「……さ、さぁ……? き、きっとプレシアも久々に娘との食事なので、緊張しているんじゃないでしょうか?」

 

 だが正直、少々苦しい言い訳しかできなかった。

 

「そ、そうなの?」

 

 全然納得してないであろうアルフ。やがて疑念の籠った眼差しをプレシアに向け始めた。

 その光景を見たリニスは頭痛を覚えたように頭に手を当て、念話を送る。

 

【ほら見てください! 完全にアルフが変な疑いを持って――!】

 

 ――なんでもねぇんだよ!! このオレンジ狼ッ!!

 

 と、プレシアは心で叫びながら凄まじい眼光をアルフに発射。狼の使い魔は顔を青白くさせながら体を硬直させる。

 アルフの様子に気付いたのか、フェイトが不思議そうに小首を傾げる。

 

「どうしたのアルフ?」

「ナ、ナンデモナイヨ……」

 

 完全にプレシアにビビったアルフはロボットのような声で答えた。

 

【ほら、解決したわ】

 

 プレシアはドヤ声を念話で送り、

 

【いや、力技にもほどがありますよ……】

 

 リニスは呆れ気味の声を念話で返す。

 そんなこんなでまたフェイトとの食事と会話を再開。

 やがてプレシアは念話で嬉しそうに声を漏らす。

 

【フェイト……よっぽど私とのお喋りが嬉しいようね……。こんな味気ない会話でも笑顔で返して……】

 

 リニスは悲しそうな顔でプレシアを見つつ、慰めるように念話を送る。

 

【プレシア……。あなたがフェイトやアリシアと親子として触れ合えず、苦しむ気持ちは痛いほど分かります……】

 

 主を元気づけようとリニスは力強い言葉を送った。

 

【ですがここが正念場! もう少し辛抱すればアリシアとフェイトを救う為の作戦をはじめられ――!】

【あッ……フェイトがおしそうにハンバーグ口に含んだ……】

 

 プレシアは自分が作った料理をおいしそうに食べる娘を見て、口から涎がダバーと漏れ出す。それをたまたま見たアルフは「ウェェェッ!?」と超ビックリ声。ついでにフェイトもビックリ。

 

【プレシアァァァァァァッ!! 我々の努力を水泡に帰すつもりですかぁぁぁぁぁッ!!】

 

 リニスは念話でシャウトし、その後誤魔化すのにかなり苦労した。

 

 

「――そしてこの食事の後、フェイトにバルディッシュを渡した私はフェイトとアルフの前から〝消滅した使い魔〟として姿を消したんです」

 

 と、リニスが真剣な表情で語っている時、

 

「……ちょっといいですか?」

 

 真顔の新八が手を上げる。

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 リニスに言葉を返された新八は、眼鏡をブリッジを指でクイッと押す。

 

「結構シリアスで重要な話も混ざってたんでずっと黙っていたんですけど……ちょっと限界来ちゃったんで、ここら辺で言わせてもらいますね……」

 

 そこまで新八は言ってから、すぅ~っと息を吸い込んで、

 

「プレシアさんなんか色々おかしくありませんかァァァァァッッッ!?」

 

 と、ツッコミしながらシャウト。

 

「ずっとツッコミたかったんですけど、もう我慢の限界です!! プレシアさん予想以上になんかおかしいィ!! プレシアさんのキャラがとんでもなく子煩悩な親バカキャラになっちゃってんですけど!?」

 

 映画から得たプレシアのキャラクターからは想像もできないほどぶっ飛んだ内面に、新八は完全に戸惑いまくりだった。

 

「だからあの時、プレシアの様子が妙におかしかったのか……」

 

 アルフは食事会の時を思い出してか、汗を流しながら納得したように呆れ顔。

 するとリニスは頬に手を当てて、悲しそうに流し目で語る。

 

「プレシアは子を思うあまり……色々苦労しましたので……」

「いやいやいやいやッ!!」

 

 と新八は手をブンブン左右に振る。

 

「苦労してるからってあんなぶっ飛んでいるっていうか、狂ってるというか、もうとにかくプレシアさんどこいった!? ってレベルじゃないですか!! 秘密にしとかなきゃいけない裏面がモロバレじゃないですか!!」

「分かりますわ」

 

 とここでリンディがうんうんと頷き、頬に手を当てた。

 

「子を思う親の苦労……私には痛いほど分かります」

「じゃあ親を思って苦労する子の気持ちも分かってくれませんか?」

 

 と最近は母のツッコミで気苦労が絶えない息子(クロノ)(リンディ)にジト目向ける。

 すると今度は土方が訝し気な視線で疑問を挟み込む。

 

「つうか今の過去話本当なのか? さすがにプレシアのキャラが予想外過ぎてこっちも信用しきれねェんだけど? つうかおめェが生まれてない頃からキャラがおかしいぞ」

「ちょっと映画のプレシアに引っ張られ過ぎだと思いますよ」

 

 リニスは笑みを浮かべながら困ったような表情で言えば、土方は若干押され気味。

 

「いや、まあ……それ言われちまうと何も返せんが……」

「それに、プレシアとの精神リンクが繋がっていた私が語るんですよ?」

 

 だから信用してください、と言わんばかりにニコリと笑顔を送るリニス。

 まだ若干納得しきれない様子の土方は新たな疑問を投げかけた。

 

「そもそもなんだが、なんでプレシアの言動や念話の会話どころか、ちょっとした内面の部分まで語るんだ? つうか語る意味あったのか?」

「主の〝母〟としての切実な思いを分かって欲しいという、使い魔のちょっとした我がままみたいなものです」

「いや、主の〝変な〟部分が如実に伝わっちまってるんだが? むしろ話さない方が良い気がするんだが?」

「俺もわかるわー……」

 

 次に会話に割り込むのは近藤。彼は腕を組んでうんうんと頷き、語る。

 

「俺も自分のお妙さんに対する〝切実な想い〟を少しでも誰かに分かって欲しいと常日頃から思っている。だからリニス殿気持ち、よく伝わるぞ」

「あんたの〝粘着質な想い〟なんて誰も知りたくねェよ」

 

 常日頃姉をストーキングし、一方的な重すぎる想いを強引に伝えてくるゴリラに青筋浮かべる新八。

 やがて新八はリニスへと顔を向け、頬を引き攣らせながら不安そうな表情で尋ねる。

 

「あの、マジで大丈夫なんですかリニスさん? 今回の件、プレシアさんから事前に了承得て話してるんですよね? 話さなくて良いとこまで話してませんよね? 勝手に色々暴露とかしてませんよね? プライバシーに配慮してるんですよね?」

 

 問われ、リニスは口元を隠しつつ、流し目で。

 

「まーそのー……思っていた以上に、筆が走ったというかー……」

「リニスさん!?」

 

 思わず新八が声を出す中、リニスは汗をダラダラ流しながら呟く。

 

「事件解決の致し方ない犠牲と言いますかー……暴露と言いますかー……同情票の獲得と言いますかー……」

「あんた今なんつったッ!? 同情票ォッ!? そんな打算バリバリのこと考えて話してたの!? つうかホントに今の過去話聞いて大丈夫なんですか僕ら!? プレシアさんを助けた後で僕ら口封じとかされませんよね!?」

 

 新八がツッコミをガンガン入れる中、

 

「あのそれで……」

 

 なのはが本筋に関する質問を投げかける。

 

「リニスさんはフェイトちゃんの前から姿を消した後は、どうしたんですか?」

「姿を隠した私は……奴らの動向を秘密裏に監視する役目に終始しました。時の庭園では、常に猫の姿での潜伏が基本になっていましたね」

「クリミナルの連中には気づかれなかったのか? 連中だってテメェとプレシアが自分らを騙くらかすために嘘の消滅をでっち上げたなんて疑う頭くらいあんだろ」

 

 腕を組む土方の疑問は当然だ。

 なにせ、クリミナルがリニスの現存を知っているか知ってないかで、今後の行動を大きく左右してしまう。

 突き詰めるには妥当な部分だ。

 リニスは「はい」と真剣な表情で頷く。

 

「土方さんの予想も最もですね。彼らは私が消えてからプレシアの魔力を調べました。私とプレシアのパスが繋がってないかどうか」

「そんな状況で、どうやって連中を欺いたんだ?」

 

 土方の疑問に対し、リニスは笑顔で。

 

「はい。だからプレシアとの魔力の繋がり(パス)を切断しました」

「「えッ!?」」

 

 ユーノとアルフは驚きの声を上げる。

 魔法関係のユーノと使い魔のアルフはリニスの言った意味について気付くのが早かった。

 

「いやちょっと待って!? じゃあ主の魔力なしにどうやって魔力を補給してるの!?」

 

 ユーノが投げかけた疑問。

 まるで答えるように、リニスは首に巻いた首輪――青い宝石が埋め込まれた箇所を愛おし気に撫でる。

 

「『コレ』のお陰で……私は今も消滅せずに済んでいるんです」

 

 土方はリニスの言葉を聞いて訝し気に片眉を上げるが、アルフは首輪を見てすぐにあることに気づく。

 

「リニス! それって――!!」

 

 リニスは「えぇ」と笑顔で頷く。

 

「あなたが身に着けている物と〝同じ〟、魔力を貯蓄できる鉱石を加工して付けた首輪です」

「リニスも持っていたなんて……」

 

 アルフは自分が身に着けている赤い宝石が付いた黒い首輪に手を当てた。

 リニスの説明を聞いたリンディは言葉を投げかける。

 

「それは、前に話てもらったプレシア・テスタロッサから譲り受けた物ですよね?」

「ええ、そうです」

「えッ……!?」

 

 とアルフは驚きの声を漏らし、表情は複雑なモノへと変わる。

 

「それじゃあ……あたしのコレも……」

 

 リニスの言う通りなら、アルフが身に着けている首輪は単純に考えて――プレシアがフェイトに渡し、フェイトが銀時に渡し、銀時がアルフに渡した、という経緯を辿っていることになるだろう。

 つまり元を辿れば、プレシアによってアルフという使い魔は存在を保てていることになる。

 間接的とはいえ、プレシアに助けられていたという事実。それに対して、アルフは戸惑いを隠せないようだ。

 アルフの様子を見てリニスは苦笑し、説明しだす。

 

「使い魔消滅の嘘を隠蔽する為。そして自分に何かあったとしても私やアルフが消滅しないようにする為のプレシアが事前に用意した保険です」

 

 リンディは「しかし……」と言って顎を指で掴み、思案顔をリニスへと向ける。

 

「よくクリミナルの監視が厳しい中、そのような宝石を手に入れられましたね? 疑われるような行動を避ける為に、外からの材料確保も一苦労だったはず。元々、プレシア・テスタロッサが所持していた宝石だったのですか?」

「いえ、違います」

 

 首を横に振るリニスの言葉に、リンディは腑に落ちないという表情。

 

「ではいつ、どうやって手に入れたんですか?」

 

 リンディの質問を受けて、リニスは愛おし気に宝石を撫でた。

 

「――これは、私の〝教え子たち〟が頑張って取って来てくれた物なんです……」

「えッ!?」

 

 とアルフは驚き、

 

「それって……」

 

 話の流れからなのはも察し始めたようだ。

 リニスは各々の予想を察してか「ええ」と相槌を打つ。

 

「フェイトの任務で回収した品ということで、クリミナルたちは特に興味を示す事はありませんでした」

「なるほど。フェイトさんの成長やプロジェクトFにしか興味がない彼らの虚を突くために……」

 

 リンディがかみ砕くように、プレシアの思惑を語る。

 するとリニスは慈愛に満ちた優しい笑みを浮かべ、それをアルフへと向ける。

 

「アルフ……覚えていませんか? フェイトが魔導師として初めて赴いた任務での出来事」

「あッ……」

 

 対して、思い出したように声を漏らす狼の使い魔。

 リニスは懐かしいと言わんばかりの表情で、優し気な笑みを保ったまま語り始めた。

 

「あなたがフェイトと鉱石を取るために向かった洞窟で出会いましたよね? 小さな現住生物に」

「う、うん……」

 

 うつむき、暗い表情を浮かべ始めるアルフ。

 

「その現住生物に会ったあなたは――」

 

 

『ねぇ、アルフ。あの洞窟の前にいる小型生物、どう思う?』

 

 角の生えたリスのような生物に警戒を示すフェイト。

 

『あんなよわっちそうなの全然怖がる必要ないって! まー、あたしに任せな!』

 

 対し、アルフは余裕そうに口元を釣り上げて、拳を掌にバシっと叩きつけた。犬歯を見せながら小動物の元へと向かっていき、前に立って仁王立ち。

 つぶらな瞳をうるうるさせ、体を震わせる小動物。

 相手が自分にビビってると考えてふふんと鼻を鳴らすアルフ。小動物を指さし、後ろを振り向く。

 

『ほら~! やっぱり大したことな――!』

 

 突如、小動物が跳躍してガブリ! と自身を指さす人差し指に噛みつく。アルフの指から大量の血が噴き出した。

 

『いっだぁぁぁぁあああああああ!!』

 

 

「――厳重生物に襲われたあなたは、主に助けてもらうだけじゃ飽き足らず、怪我をさせましたよね? 背中に」

 

 と、思い出を語るリニスは笑みを浮かべたまま。だが、目は完全に笑っておらず、目元には若干黒い影が差し込んでいた。

 

「主の、しかも小さな女の子の大事な柔肌に自身の油断から傷を作らせるとか、私もさすがに呆れましたよ? プレシアから話を聞いた時は」

 

 リニスの話を聞いて、なのはや新八や土方は「あッ……」と声を漏らす。

 フェイトの背中の傷跡って、たぶん今の話しだ、と察したから。

 

「………………」

 

 リニスの話しから自身の失態と落ち度と恐怖を思い出したのか、うつむき、汗をダラダラ流すアルフ。

 耳も尻尾も脱力したように力なく垂れ下がって不憫さすら感じるほど。

 

 対して、リニスの瞳からはハイライトが消えている。

 

「私、『現地の生物と相対する時は見た目で判断しないで慎重に観察するように』って、何度も何度も教えたつもりだったんですけどねー? 私がいなくても大丈夫なように」

「…………は、はい…………すみません…………」

 

 目も合わせられないと言わんばかりに顔を逸らし、とてもか細い声で謝るアルフ。顔中からダラダラと汗を垂れ流す。

 そこまで言ってリニスは目を閉じて、少し表情を柔らかくさせる。

 

「まー、ちょっと大人げない責め方をしてしまいましたが、私はもう怒っていませんよ? むしろちょっと同情すらしています。なにせ――」

 

 そこまで言って、目を開く――その瞳に光は宿っていなかった。

 

「――プレシアに〝あれだけの制裁〟を受けたんですし」

 

 リニスの言葉を受けた途端、アルフはガン!! と机に顔面をぶつけ、そのまま頭を抱えながら、

 

「オニババコワイオニババコワイオニババコワイオニババコワイオニババコワイオニババコワイオニババコワイオニババコワイオニババコワイオニババコワイオニババコワイオニババコワイオニババコワイオニババコワイ……」

 

 まるで懺悔するかのように、ぶつぶつ単語を繰り返す。どうやら過去のトラウマが刺激されたらしい。

 親バカ、しかも冷酷人間演じ状態のプレシアからのお仕置き。その内容は推して知るべし。

 

 アルフに同情したのか、その場にいるほとんどの人間はアルフに合掌。

 

 

 

「……話を聞いて、プレシアの事情とお前が俺たちの目の前にこうしている理由(ワケ)は分かった」

 

 そこまで言って、土方は短くなったタバコを口から取り、携帯灰皿へと押し付ける。

 

「さすがにここまで聞けば、もうだいたい察しが付く。フェイトの取った行動を含めてな」

 

 パタン、と灰皿の蓋を閉じ、眼光を光らせた。

 

「フェイトは母親を人質に取られ、しかも人の精神と融合しちまうとかいうシロモンを使わされている」

 

 リニスは「はい」と残念そうに頷くと、腕を組むクロノは険しい表情を浮かべながら言葉を続ける。

 

「逆を言えば、プレシアは完全にクリミナルの囚われの身。協力関係はとっくに破綻している状態になっている」

「えぇ……その通りです……」

 

 リニスは俯き、ギュッと手を握り絞め、話し始めた。

 そう、プレシアがクリミナルたちに捕まってしまった時の話を……。

 

 

 リニスは天井裏などありとあらやる場所に身を隠した。細心の注意を払い、時の庭園に時折やって来るクリミナルたちの動向を観察し続けていたのだ。

 

 そしてある時……。

 

 時刻は夜。

 プレシアから念話で「連中がやって来た」と聞かされたリニス。彼女は山猫の姿で物陰に身を隠し、息を殺して玉座の間の様子を伺っていた。

 

「……いつもながら、急な来訪ね。しかもこんな夜分に」

「ですが、あなたのご自宅の『警報装置』がちゃんと私の来訪を知らせてくれるのですからいいじゃないですか」

 

 玉座の間へと来訪したのはクリミナルの一員であり博士と名乗る白衣の男。

 博士はプレシアと一通り話をしていた。

 

 隠れているリニスとプレシアたちの間にはそれなりの開きがある。話が聞き取り辛い距離ではあるが、それは人間の話。猫であるリニスならば、ある程度距離を取っていようと優れた聴力で声を拾えた。

 

「それで、この忙しい時にあなたは何しに来たの? 私の人形がジュエルシードを集め切れた報告でもしに来たの?」

「いえいえ。どうやら私の部下の報告によると、あなたのお人形さんのジュエルシード集めは中々に芳しくないようですよ?」

 

 このように、プレシアは冷徹な母親の演技を忘れてはいない。

 しかし念話では、

 

【ヤバイ……自分で考えたセリフだけど……フェイトを人形呼ばわりは……吐きそう……】

 

 相当げんなりしているプレシア。

 

【プレシア、頑張ってください……】

 

 自傷行為さながらの振る舞いをする主をなんとか念話で応援するリニス。

 

「こっちに持ってきなさい」

 

 博士は後ろで控えていた部下であろう黒服たちに命令。楕円形の錠剤のような形をしたカプセルを運ばせる。その大きさは、子供一人が入れそうなほど。

 プレシアが近づき、その中身を確認すれば、驚きの表情を浮かべた。

 物陰から様子を伺っていたリニスにはカプセルの中身がわからない。中身の正体を確認する為にプレシアに念話を送った。

 

【プレシア。中に一体なにが?】

【…………〝アリシア〟よ】

「ッ!?」

 

 まさかの回答にリニスも驚きを隠せなかった。だが、すぐに冷静な思考に切り替えてプレシアに念話を送る。

 

【……なぜ、このタイミングで?】

【さすがにそれは分からない……】

 

 リニスと念話で会話をしながら、プレシアは白衣の男に話しかける。

 

「なぜ、カプセルに?」

「いくら抜け殻でも、さすがに〝コレ〟を人目に晒すワケにはいきませんから」

 

 会話をしながら平行して念話で会話。魔導師として優秀なプレシアなら念話と会話、同時に行うなど容易いであろう。

 

【やはり、罠ではないでしょうか? プレシアの油断を誘う為の】

 

 リニスは不安げな声で聞くとプレシアは冷静に返す。

 

【えぇ、そうかもしれないわね。あなたの言う通りもし罠だとしたら、連中は私との表面上の協力関係を終わらせるつもりってことになるわね】

【確かにそうかもしれませんが……ならばどうしますか?】

【無論、隙を付いてこの場でコイツを倒すわ】

【非殺傷設定は、なしですか?】

 

 リニスが念話を使って緊張を含んだ声で聞けば、プレシアは「当然よ」と答える。

 

【トランスにパラサイト、どいつも人外。目の前のコイツだって人間かどうかわからないわ。なにより、非殺傷設定で意識を奪える保障はどこにもない。なら、殺傷設定の魔法を至近距離で当てて一撃で片を付ける】

【ちょっと待って下さい! 奴らが運んできたアリシアが〝本物〟という確証がありません!】

【安心なさい。私の母親としての直感が目の前のアリシアを本物と言っている】

【プレシア……】

 

 プレシアの母親としての強い思いを感じ取ったリニスは感動を覚え――、

 

【それに気づかれないように魔法で電気ショック与えてみたから、変身して寝たふりをしてるあの白髪だったらとっくに飛び起きてるわ】

【…………】

 

 感動を覚える前に、リニスの感動は引っ込んでしまった。

 本物という確証を得る為とはいえ、娘の体に速攻で電気浴びせる主に使い魔は少し微妙な気持ちになる。

 昔、操られた娘に魔法を当てられないと躊躇してた頃が嘘のようだ。それだけ、プレシアも覚悟を決めているという事だろうが。

 そうこうしている間にプレシアと博士の会話は進んでいく。

 

「しかし、どうするの? ジュエルシードが集まり切っていないままだと、私の計画もあなたの計画も中途半端なままよ?」

「心配には及びません」

 

 そこまで言って、博士は余裕の笑みを浮かべながらプレシアに今後の計画を話し出す。

 

「フェイトさんにそろそろあの刀のデバイスを持たせ、使わせます。そうなれば邪魔する魔導師を排除し、ロストロギアを確保することなど容易いでしょう」

【ねー、リニス。この野郎はフェイトにあのワケわかんないデバイスを持たせようとしているのよ?】

 

 プレシアは念話をリニスに飛しながら、口元を薄っすら吊り上げて笑みを浮かべる。

 

「それはいいわね。それなら、ジュエルシードも予定より早く集まるわ」

【それに管理局が動いているなら、私たちの作戦は概ね予定通り。動くならアリシアに手が届く今しかないわ】

 

 プレシアの念話を聞いてリニスも決意を固め始める。

 

【……そう、ですね。厄介なデバイスを誰も持ってない〝今〟が、私たちにとって最大のチャンスなのでしょうね……】

「これならもうバカバカしい母親ごっこの必要もないわ! なにもかも全て上手くいく!! 全てを取り戻せる!!」

 

 主の大仰な演技を聞きながら、リニスは改めて自分たちの状況を再確認。

 プレシアが演じているキャラクターは色々省くが要約すると『フェイトを人形扱いし、最終的な目的はアルハザードに行く事。切符であるジュエルシードを手に入れる為ならフェイトがどうなろうが構わない』といったモノ。

 

「えェ! えェ! まったくその通り! 私もあのお人形をやっと手にできる!!」

「なら景気よく、あの人形に〝真実〟でも話してあげましょうか! どうせもういらないのだし!」

「アハハハハ! それはいい! 文字通り精神崩壊を起こしますよ!! あの人形は!!」

 

 このように、相手に会わせて精神をすり減らす演技をしてきたのだ。

 なんか博士は博士で、最初に出会ってからのキャラの乖離が激しい。が、今のプレシアにそんなこと気にしてる余裕はない。

 

 事ここまでくれば、もうこれ以上時間稼ぎがどうこうしてられる状況ではない。

 いよいよというところまで自分たちは来ているのだ。

 

【……もし、私が失敗した時は頼むわよ】

 

 緊張が伝わるほどの、真剣さを含んだプレシアの命令。それを念話で受け取ったリニスはより力強く答える。

 

【はい! 〝地球〟に向かっている管理局員に必ず私が情報を伝えてます!】

 

 博士の情報が本当なら、管理局が地球に向かっている。そしてその目的は次元震を引き起こすかもしれない高ランクロストロギアの対処。

 ならば、次元艦一隻分の部隊を編成してやって来るはずだ。それならば十分にクリミナルたちに対抗できるはず。更に連中の存在を管理局に認知させることに繋がる。

 

 プレシアがひとしきり高笑いした後に、右手を博士の前に出す。どうやらそろそろ仕掛けるようだ。

 博士は少し訝し気な様子を見せるが、プレシアは相手の油断を誘う為にニコリとした作り笑顔で話しかける。

 そして博士は、

 

「では、お互い最後まで頑張りましょう」

 

 と言って、プレシアの手を握った瞬間――大魔導師の強力な魔法による雷撃が、彼の腹を貫く。

 そのままプレシアはなんの迷いもなく、博士が連れてきた部下たちにも漏れなく電撃を浴びせて黒焦げにした。

 

【やりましたねプレシア!】 

 

 リニスは念話で主を褒めながら、ちょっと容赦なくて残酷ですけど!! と内心で思う。だが、相手が相手なのでそうも言ってられない。

 

「だ、騙しや……がった……のか……!」

 

 博士は腹に風穴が空きながら生きていた。やっぱり人ではないのだろうか? と疑問が浮かんだリニス。

 

「欲しい物は全て揃ったわ。だからあなたは……」

 

 相手が生きている以上は何をするか分からない。プレシアもそう思ってか、博士へ手をかざす。

 散々自分たちの人生を弄んだ相手に冷たい視線を送りながら、体を完全に黒焦げにしてやろうと、魔法陣を展開。

 

「――消えなさい」

 

 すると――博士は、ニヤリと薄気味悪く笑みを浮かべた。

 

「じゃあ……消えるとするか」

 

 そう言った瞬間、倒れ伏す男に変化が訪れる。

 彼の顔がグズグズに溶け出したのだ。

 

「ッ!?」

 

 目の前の光景に驚くプレシアをよそに、博士の顔も手も、緑色に変色。まるでヘドロとも形容するような、ドロドロとした不可思議な粘液を含んだ物質へと変化を続ける。

 まさかの光景に、プレシアは呆然。

 

 ――こ、これは一体……!?

 

 リニスも混乱のあまり、念話を送る余裕すらない。

 頭のいいプレシアも、目の前の状況には付いていけてないようだ。

 博士の頭が溶けたアイスのように形を崩すと、

 

「シャーッ!」

 

 液体を弾き飛ばし、小型のクモのような怪物が出現。

 

「なッッ!?」

 

 奇怪な生物の出現に、思わず後ずさるプレシア。

 クモの頭部にピラニアの頭をくっ付けたような肌色の生物は、八本の足をカタカタ素早く動かしながら逃げ出す。

 

【ぷ、プレシアッ! 逃がしてはダメです!」

 

 リニスの念話でハッと我に返ったプレシアは、

 

「まッ、待ちないさいッ!!」

 

 混乱しつつも、魔力弾を撃とうとする。が、怪生物は右に左に逃げるので狙いが定まらない。

 

「くッ!」

 

 ダメ元で魔力弾を打つが、思うように当たらない。

 カタカタカタッ、と足で床を小刻みに鳴らす怪物は、やがて一人の〝少女〟の足元まで到達。

 

「ッ!? あなた――ッ!?」

 

 白く長い髪を伸ばした褐色の少女は、足元にやって来たクモ型生物を手の平へと乗せて、拾い上げる。

 

「フフフ……ご苦労様」

 

 少女は小型生物の頭を人差し指でよしよしと撫でる。

 

「トランス……!」

 

 プレシアは現れた敵を睨むが、白髪少女はお構いなしに気色の悪い生物を指で愛で始めた。

 

「こわぁ~~いヤマンバに殺されそうになって怖かったでちゅね~~。おぉ~~、よちよち」

「シャーッ!」

 

 怪生物は自身の頭を撫でる指をガブリと噛む。

 

「いたたたッ! ごめんごめん! 赤ちゃん言葉はさすがに嫌だったかー」

 

 トランスが指を何度か振ってから噛まれた箇所に息をフーフーと吹きかけている中、プレシアは汗を流しながら口を開く。

 

「あなた……なんで――」

「ここにいるのかって?」

 

 プレシアが疑問を投げかけるよりも先に、言葉を挟むトランス。

 少女は怪生物を肩に乗せた後、

 

「それじゃあ折角だし、お話でもしましょう」

 

 小さな怪物は、ニヤリと笑みを浮かべるのだった。

 




第六十四話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/74.html


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第六十五話:騙し合い

 玉座の間。

 博士の頭から小型の怪生物が飛び出したかと思えば、トランスが出現。

 敵意剥き出しのプレシアと対峙する少女は、余裕の態度で話しだす。

 

「え~~っと……まずはこの子の説明からかな~~……」

 

 肩に乗せた小さなクモ型の怪物を指で撫でるトランス。

 

「この子はパラサイト。あなたも知ってるでしょ?」

「ッ! ……あいつの事ね」

 

 説明を受けて、スーツ姿のヤンキー男を思い出したプレシア。

 合点がいったプレシアはリニスに念話を送る。

 

【とことんバケモノ集団ねこいつら】

【えぇ……】

 

 パラサイトの正体が、まさかのあんなモンスター映画のような怪物だと思わなかった。

 

「ちなみにあなたが会った博士はこの子じゃないわよ。この子には今まで影武者をやらせたの」

 

 そこまで言ったトランスは「腹に風穴開けるの見て正解だったって確信したけど」と呟く。

 

 ――どうりで最初の印象から変だと思ったら……。

 

 騙されたとはいえ、プレシアにもわかったことはいくつかある。

 あの博士という男は最初に名乗った通り、目の前の怪物たちにとって守るべき重要人物。こうやって身を犠牲にするのがその証だ。

 

「それで次は、時の庭園の警備装置に引っかからずに私がここまで来た方法よね~」

 

 下唇に人差し指を当てるトランスは、視線を上に向ける。

 

「ん~~、あんまりネタバラしできないから詳しく話せないんだけど~……単純な話し、こっちにはたくさん時間と余力があったってところかなァ……あなたのところの警備装置を攻略するための余力がー」

 

 いやらしい笑みを浮かべる怪物。対して、ギリィと奥歯を噛みしめるプレシア。

 

 警備装置は今まで念入りに最新の状態にアップデートしてる上に、外部からの通信は受け付けないように遮断状態。時の庭園に転移したら即座に監視の網に引っかかるし、離れて転移すれば虚数空間の餌食だ。

 隙のない時の庭園の監視網。それをどうやって攻略したのか、プレシアにはまったく見当がつかない。

 無力化したのか、それとも潜り抜けたのかすらわからない。

 さきほどの口ぶりからしてもタネなど明かしてはくれないだろう。

 

「それで? 見事警備を突破したあなたは、こうやって私をビックリさせるためにここまで来たの? サプライズはこれでおしまい?」

 

 軽口を混ぜたプレシアの疑問。

 トランスはやれやれと肩をすくめて口を逆への字に曲げる。

 

「いやいや、さすがにサプライズはこれだけじゃないし~。ちゃーんと、〝人質〟を助け出すくらいの余裕はあったし~」

 

 トランスの言葉を聞いたプレシアはやはりか、と言いたげな表情を見せた。

 この時の庭園の警備網に引っかからずに侵入できるようなら、人質(アル)を放っておくはずがない。連中がアルの存在を忘れていない限り、まず行う行動だろう。

 すると、残念そうな声でリニスの念話が届く。

 

【……やはり、人質は救出していたようですね……】

【そりゃそうよね。アルはとっくに時の庭園を抜け出して――】

 

 とプレシアが応えていた時、トランスの横に立つ女性が一人。

 プラチナヘアーの白衣を着た女性――つまり、トランスたちに救出された人質であるアルその人。

 

「や~」

 

 なぜか玉座の間にいる白金頭は笑顔を作り、呑気に右手を振っていた。

 

「………………なんでいるの?」

 

 呆れが混ざったプレシアの疑問に答えるように、アルはニコリと笑みを浮かべる。

 

「どうやら君も色々と覚悟を決めたようだし、帰る前に君の頑張りを一目見ておこうかなって思って」

【くッ……!! 人のこと舐め腐りやがって!!】

 

 プレシアは顔面中に青筋を浮かべながら念話で愚痴を零す。

 明らかに自身を見下すような敵の行動に、プレシアの怒りのボルテージもどんどん上昇。

 

【プレシア、落ち着いてください。ここで心を乱しては奴らのペースです】

 

 リニスの念話を受けて、一旦深く息を吐くプレシア。

 冷静な気持ちを維持しつつ、トランスに鋭い視線を向けた。

 

「まあ、いいわ。観戦するならするで勝手にしなさい。巻き込まれたとしても――」

 

 そこまで言ったプレシアは杖の切っ先をトランスに向け、魔法陣を展開。

 

「――私の知った事ではないわ」

 

 目をカッと見開き、雷撃魔法を発射しようと瞬間、

 

「ドッカーーーーン!」

 

 とトランスが大きな声を出す。まるで何かが大きくはじけたかのように、両手を大きく広げたのだ。

 

「「ッ!?」」

 

 相手の予想外な行動にプレシアは若干驚き、魔法を撃ち損ねた。リニスもまた、トランスの意図がわからず混乱している様子。

 

「…………なんのマネ?」

 

 魔法陣を展開しままプレシアが訪ねれば、トランスは小首を傾げた。

 

「う~~~ん、わからない? これから起こるかもしれない事を予告してあげたんだけど?」

 

 ニッコリと笑みを浮かべるトランスが告げた露骨な表現。

 

「ッ!」

 

 すぐに察したプレシアは、自分の傍にあるアリシアが入ったカプセルに目を向けた。

 

「ドカ~~~ン!」

「ッッッ!」

 

 またしても大きめの声を出すトランス。そしてあからさまに驚きを露わにしたプレシアは、すぐに白髪の少女へとサッと顔を向けた。

 プレシアの視線が向けられた瞬間、トランスは握った拳をパッと上向きで開く。花が開いたのか、それとも何かが破裂したのか、どちらとも取れるような表現。

 

 相手の意図を察したプレシアの表情が見る見る青ざめていく。怖いものなしとまで言わんばかりの強き魔導師(はは)は、恐怖という一文字が浮かぶほど怯えていたのだ。

 

【まさか……!?】

 

 ここまで露骨だと、リニスも相手が何を伝えようとしているのかわかっただろう。

 

 アリシアが爆発する――いや、爆殺されそうになっている。

 

 前々から恐れていた脅し、それも一番嫌なタイミングで敵が仕掛けてきたのだ。

 あからさまな怯えの表情を浮かべたプレシアだったが、すぐに殺意の籠った視線をトランスに向けた。

 プレシアの反抗的な態度を見たトランスはきょとんとした表情になる。

 

「ん? あれ? 伝わんなかったかな? じゃあもう一度、ドカ~~――」

「やめなさい!」

 

 もう聞きたくないとばかりに、プレシアは右手を振ってピシャリと言葉を遮る。そして噛みつかんばかりの眼光を敵に浴びせた。

 

「もし私の娘にそんなふざけたマネをしたら――!!」

「死ぬまで私たちを殺す?」

 

 プレシアの言おうとしている事を先回りして言うトランス。

 ニヤニヤと嫌らしい笑みを浮かべる白髪の怪物に対し、プレシアはより表情を険しくした。

 

「死ぬまでどころか死んでもあんたらを滅殺してやる!!」

「ふ~~ん、なるほど……」

 

 ワザとらしく相槌を打つトランスは、不気味に、そして勝気に――笑みを浮かべた。

 

「――なら、存分に殺し合おう」

「なッ……!」

 

 自分が今まで行ってきた脅しが効かない事に対し、プレシアは驚きの表情を浮かべてしまう。

 余裕の態度を崩さないトランスは悠然と語る。

 

「あなたは知らないだろうけど、こっちの目的は七割以上完遂してる。だからあなたと協力関係をこのまま維持する必要はないし、このままあなたと殺し合いに発展したって一向に構わない」

 

 「まあ、そもそも先に仕掛けたのそっちだし」と言葉を付け加えるトランス。

 相手の最もな意見はともかくとして、無暗な脅迫が通じないとわかったプレシア。感情を抑えて、思考を整えながら、声音を低くして問う。

 

「……私を簡単に殺せると思ってるの?」

「いやいや、プレシア様がつよつよの魔導師様なのは知ってる知ってる」

 

 いつも通り茶化すトランスは腕を組みながら難しい表情を作った。

 

「ま~、さすがに~、このままガチコンで戦ったら私瞬殺されちゃうだろうし~」

 

 軽い口調で自己分析を口にするトランス。相手の危機感を感じさせない態度に対し、プレシアは汗を流す。

 

「……なら、なんでそんな余裕の態度なの? あなた、状況わかってる?」

 

 すると、トランスはやれやれと肩をすくめる。

 

「そっちこそわからない? 私を退けても、私よりもつよつよの人が来るってことが」

 

 プレシア様よりもつよつよの人が、と言葉の最後に突きつけれた情報。

 

「そう、そういうこと……」 

 

 相手の言葉の意味を理解し、プレシアは視線を細めた。するとリニスが少し焦り気味に念話を送る。

 

【強がり、の可能性は低いでしょうか? 判断する材料は少ないですが……】

【どちらにせよ、私の状況が不利に傾いてるのは変わらないわ……】

 

 そこまで念話で話したプレシアは『仕方ない。強引だけど……』と頭の中で考えて作戦を切り替えた。

 自身の周りに紫の雷を帯電させた魔力球を展開。さらに杖の切っ先をトランスに向けた。

 

「じゃあ、取引しない? あなたの命は奪わない。それにプロジェクトFも渡すわ。だからアリシアに仕掛けた爆弾を――」

「ダ~~メ」

 

 舌をチョロッと出して、人差し指でバッテンを作るトランス。

 相手がまったく応じない事に対し、プレシアは表情を険しくさせた。

 

「……あなた、命が惜しくないの?」

「別に?  私、自分の命とかどうでもいいし」

 

 即座に答えた怪物。その瞳には、怯えも、恐怖も、一切の余分な感情が宿っていない。

 まさかの回答と態度。さすがのプレシアも驚きを隠せず、息を飲み、汗を流す。

 

「…………組織に忠実な犬って……ワケ? 意外ね」

「まー……犬ではないけど、忠は尽くしてるつもり」

 

 軽く息を吐きながら肩をすくめるトランス。さきほどまでの不気味な瞳は成りを潜めている。

 そこまで話を聞いたプレシアは残った疑問を口にした。

 

「……それならなんで、アリシアの命を脅しに使うの? 必要ないでしょ」

「そりゃあ、無駄な血を流さない方が良いし」

 

 当然の答えだった。戦わないのに越したことはない。

 (プレシア)を無力化するのに一番有効なのは(アリシア)

 そこを度外視してわざわざ戦っても、無駄な労力にしかならないのは当たり前の話だ。

 

「プロジェクトFは? アレを破棄されてもいいの? あなたたちにとっても必要でしょ?」

 

 プレシアは残った切り札を出すが、

 

「そっちもとっくに入手済みって言ったら?」

 

 相手からの返しはあまりにも予想外のもの。

 プロジェクトFの研究データをいつ盗んだ? あの厳重な保管室から? どうやって? と色々な疑問を浮かべたが、一から十まで相手が答えるワケもない。

 プレシアは言葉を震わせそうになりながらも、必死に踏ん張りながら腹の探り合いを続けた。

 

「…………度胸試しなら、後悔するわよ?」

「なら、今からでもそっちで処分してくれてもいいけど? むしろそっちの方がこっちの手間が省けて助かるくらいだし」

 

 汗一つ流さず、眉一つ動かさず、焦りが何一つ見えないトランス。

 やってみれば? と言わんばかりの顔で、プレシアを煽る始末だ。

 さきほど七割方目的が完遂したと言っていたが、プロジェクトFを入手したということなのだろうか。わからないが、相手の態度がそれを物語っている。

 

 不意打ちは失敗、脅しが効かない、取引も通じない、最後の切り札もなくなった。そしてアリシアの命は失われる寸前――。

 

 八方塞の状況にプレシアは俯き、奥歯から血が出そうなほど、ギリィと歯噛みした。

 

「…………そ、そもそも……私とアリシアを生かす理由はなに? ……どうせ後で殺すつもりじゃないの……?」

 

 思わず出た言葉。取引でも脅しでもなく、ただただ追い詰められた上で出てしまった弱音。

 なんの利用価値もない自分とアリシアの命の保証がどこにあるというのか、という疑問。

 

「あなたがフェイトちゃんをどう思っているかは知らないけど、あなたがいないとフェイトちゃん言う事効かないし」

 

 当然の答えが返って来た。

 

 (フェイト)を利用するために、自分を人質にしたいのだ……。

 

 そこまで考えてしまったプレシアは、血が出るほどに拳を握りしめた。

 思わず涙が出そうなほどの、悔しさと不甲斐なさを感じずにはいられない母。

 

 どうする? どうすればいい? なにか打開策は? と、その明晰な頭脳を必死に使って考えを巡らせている中、

 

「それじゃあ、決めましょうか――プレシア・テスタロッサ」

 

 無情にも怪物から告げられた言葉。

 白髪の少女は目を細め、左手を胸に当て、右手をプレシアに差し出す。

 

「無駄死にするか……それとも――娘と自分の未来を守るか」

 

 二つに一つ――。

 

 突きつけれた最終通告に近い選択肢。

 崖っぷちまで追い込まれたプレシアは視線をチラリとカプセルへ――眠る(アリシア)に向ける。

 娘を見つめる母の顔には、悔しさや焦りはなく……ただただ、悲しみと慈しみの感情が宿っていた。

 

 深く息を吐いたプレシア。やがて顔をトランスへと向け、

 

「…………わかった」

 

 と言い、展開した魔力球も魔法陣も消失させた。

 負けたと言わんばかりに、杖を地面に投げ捨てるプレシア。

 

「よくできました」

 

 トランスが満足げに笑みを浮かべる中、

 

【プレシアッ!!】

 

 リニスが念話が届く。主の思考を邪魔しまいとなるべく念話は控えていたようだが、さすがに声をかけずにはいられなかったらしい。

 

【リニス……あなたは時の庭園から逃げなさい。奴らに占拠される前に】

【…………ッ。わかりました……】

 

 現状できる手がないとリニスもわかっていたはず。だからこそ、悔しさを押し殺した声を出しながらも、主の言葉に従う。

 トランスはある物をプレシアの足元に投げた。それは鉄で出来たような簡素な腕輪。

 

「それ嵌めて。魔力封じるから」

 

 なんの遠慮もなく要求を告げるトランス。

 苦虫を噛み潰したような表情をプレシアはしながらも、無言で腕輪を拾い、腕に装着。

 それを見たトランスは息を吐き、こめかみを人差し指で叩きながら独り言を呟きだす。

 

「……さ~~て、これから忙しくなるな~~。折角だしジュエルシードも集めちゃうとして~~……え~~っと……プレシアおば様は使えないから、私が影武者になってフェイトちゃんに命令して~~~……」

 

 なにさせよっかなー、と言うトランスの言葉を尻目に、リニスは時の庭園の脱出を開始したのだった。

 

 

 

 プレシアが捕えられた顛末。

 それをリニスから聞いた新八は汗を流しながら真剣な表情で口を開く。

 

「……つまり、プレシアさんはそのまま掴まって――」

「断頭されたんだな」

 

 と告げるのは腕を組む沖田。

 

「違います! いや確かにプレシアの生首出てきましたけど! アレは偽物ですから!」

 

 怖い事言わないでください! とリニスが青い顔で否定。

 

「プレシアはフェイトのための人質にされてるって聞いたばっかだろ」

 

 土方は呆れた視線を沖田に向けるが、ドS青年は素知らぬ顔。

 そしてクロノはため息を吐いてリニスへと顔を向ける。

 

「とりあえず、彼の事は気にせず話を続けてくれ」

「分かりました」

 

 クロノに促されたリニスは頷き、話を再開する。

 

「――私は時の庭園がクリミナルの構成員たちに占拠される前に脱出を図り、地球の海鳴市へと潜伏してチャンスを待ちました」

 

 「ここまでが、私とプレシアが今に至るまでの大まかな顛末です」と言って、話を終えるリニス。

 事情を聞き終えた土方は腕を組んで「なるほどな」と頷く。

 

「そして現れたアースラの連中に接触して、今こうして俺たちの前に居るってところか」

「はい」

 

 と頷いたリニスは、ふぅー……と息を吐き出して、どこか悲しそうな笑みを浮かべる。

 

「できれば私もプレシアも、事がここまで大きくなる前にフェイトとアリシアを自由にしてあげたかったんですけどね……」

 

 リニスの話を聞いていたなのは、アリサ、すずか、新八、山崎、ユーノはなんとも言えない顔。六人は少し悲しそうな表情で俯くのだが、

 

「うおォォォォォォォォ!!」

 

 と、神楽は咆哮。怒り心頭と言わんばかりの顔で会議室のテーブルに鉄拳をめり込ませたので、テーブルの表面に亀裂が走る。

 突然の神楽の行動に沖田やなのは以外の一同はビックリするが、怒れるチャイナ娘は両の拳を握り絞めた。

 

「あの白髪クソガキ、想像以上にマジでクソッタレだったネ!! 今すぐにでも時の庭園に乗り込んで顔面タコ殴りにしてやるアル!!」

「ちょッ、ちょっと神楽ちゃん!! 共感したのはわかるけど!! でも今は落ち着こう!!」

 

 怒り任せに暴走しそうになる神楽を新八が慌てて羽交い絞めして止める。続いてアリサやすずかも神楽を抑え込む。

 

「時に庭園に行く手段あんた持ってないでしょうが!!」

「か、神楽ちゃんの気持ちはわかるから! ね!」

 

 なんとか気持ちを静めた神楽は、ふんす!! と椅子に座り直し、腕を組む。

 相も変わらず共感性の強いチャイナ娘であった。

 

「あ~……そうだった……思い出した……」

 

 そんな中、アルフが右手で目元を覆ってぶつぶつ何か言っていることに新八が気づく。

 

「あの……アルフさん。どうしたんですか?」

「……銀時も言ってったっけ……あの時のプレシアってアイツだったんだよなー……」

「あ、アルフ……さん?」

 

 新八の言葉にまったく反応しない狼の使い魔。彼女の異変にその場にいるほとんどの人間が気づき始め、使い魔に対して訝し気な視線を送る。

 やがてアルフは歯をギリィと噛み締め、目を吊り上げ、

 

「チクショォォォ!! 思い出したぁぁぁぁぁ!!」

 

 と叫びながら両手で机をバン!! と叩く。

 

「〝あの時〟フェイトに変なことさせたのってプレシアじゃなくてあのトランスとかいう奴だったのかぁぁぁぁぁ!!」

「どうしたアルフさんんんんんんん!?」

 

 突如としたアルフの変貌に新八は仰天し、他の面々もギョッとした。

 新八は頬を引き攣らせながら恐る恐る質問。

 

「…………あ、あの……アルフさん。い、一体……どうしたんですか? ぼ、僕たちにはまったくなんの話だか把握できないんですけど……」

「あ、あぁ……そうだね。……あんた達には中間報告に行った時の話を聞かせてなかったよね」

 

 すぐに怒りを鎮めたアルフは冷静な態度に戻り、困ったように頭を掻く。

 

「どう……説明したらいいんだろうねぇ……。つうかあんまり説明したくないんだけど……」

 

 アルフの煮え切らない態度。対して新八や他の面々は訝し気に眉を顰め、腕を組んだ土方は鋭い視線を向ける。

 

「中間報告って言うと映画であった、お前とフェイトがジュエルシードの回収経過をプレシアに報告しに行った時の話だよな? その時なにがあった?」

 

 狼の使い魔は「しょうがない……」と諦めたようにため息を吐いて、説明を始める。

 

 プレシアに変身したであろうトランスが中間報告にやって来たフェイトに命令。

 それは時の庭園の侵入者(?)である猿飛あやめと服部全蔵に尋問か拷問か分からない仕打ちの強制。内容は、サディスティックなプレイをさせたり、ケツにロウソクぶっ刺したり、果てはプレシア(トランス)にサディスティックなプレイをさせるというもの。(詳しい内容は第三十六話と第三十七話をチェック)

 

「なんで全蔵さんとさっちゃんさんが出てくるんですか!? つうか銀さんが言ってたプレシアさんが変態がどうのってそのことだったんですか!? とんでもねェ風評被害受けてますねプレシアさん!!」

 

 そんで話を聞いた新八は立ち上がって声を上げる。さすがに聞かされた話があまりにも予想外過ぎるのだから仕方ない。

 そして同時に、前にアースラのブリッジでトランスと銀時が話していた話しの内容がやっと分かった新八他一同。

 すると神楽がアルフに顔を向ける。

 

「にしても、アルフ。なんでクリミナルの連中と話したあの時に、さっきみたいな反応しなかったアルか? 銀ちゃんは気付けたのに」

「いや、さすがにあの時はフェイトのことやプレシアのことが衝撃的過ぎたし、そのことで頭がいっぱいで銀時みたく気にする余裕なんてこれっぽっちもなかったよ。その後だって、フェイトの為にどう動くかってことばっか考えたし……」

「なるほど、完全に忘れてたアルか」

 

 と言う神楽の言葉に、アルフは「まー、うん」と頷くのだった。

 やがて混乱気味に頬を引きつらせるのは山崎。

 

「そもそもだけどフェイトちゃんにアブノーマルプレイ強要した意味はなんなんですかね? 前から思ってたけどあのトランスって子の思考回路、ねじり曲がり過ぎじゃありません?」

「まるで近藤さんみたいだァ」

 

 と沖田が言うと、

 

「ええええッ!? 総悟ォ!?」

 

 心外と言わんばかりに驚く近藤。

 

「フェイトみたく、プレシアさんの悪評を広めたかったんじゃない?」

 

 呆れ顔のアリサの言葉に、土方がタバコを咥えながら告げる。

 

「悪評って……完全に別のベクトルの汚名になってんじゃねェか。まぁ、ある意味社会的に殺せるかもしれんが……」

「あと、銀さんは予想を完全に逆に外してますし……僕たちと違ってプレシアさんに〝直接会ってる〟割に……」

 

 と新八が呆れた声を漏らす。

 ちなみに銀時の外した予想とは第四十三話での、

 

『今まで会ったプレシアは私か、それとも本物か。どっちだと思う?』

『最初の冷徹ババアが偽モン。そして再会した変態ババアが本物であることにワンチャン賭けようじゃねェか』

 

 という、トランスとのやり取り。

 ちなみにこのやり取りを本物のプレシアさんが知ったら天パは髪をむしり取られていただろう、と新八は予想。

 

「クリミナルの人たち、よっぽどプレシアさんのことが嫌いだったのかな?」

 

 すずかが困惑した表情で告げ、沖田が顎を手で触る。

 

「なるほど、嫌いか。つまり報復行為ってことかもしれねェな」

「報復……ですか?」

 

 小首を傾げるすずかに、沖田は真剣な声で語りだす。

 

「命は奪えないからこその社会的抹殺。嫌いな奴の評判を徹底的に地に落とす点で見れば理に叶ってる部分もある。フッ、やるな……今度土方で試してみるか」

「おい! 最後にボソッと何言いやがったお前!! なんだそのほくそ笑み!!」

 

 と土方が怒鳴る中、新八は「いやそういう推察とかは今はいいですから!!」とツッコミを入れてからガバッとアルフに顔を向けた。

 

「それよりアルフさん! 全蔵さんとさっちゃんさんまでどうしてこっちの世界にいるんですか!?」

「そんなのあたしは分からないよ……。銀時もあの変態共に質問攻めしてたけど、あいつら結局何にも答えないで姿消しちゃったし」

 

 アルフは困り気味に返し、腕を組んだ土方はため息を吐く。

 

「今は御庭番の忍者共の事は後回しだ。目的はなんにせよ、見つけた時にとっ捕まえて尋問でもなんでもすればいい」

 

 するとクロノが言葉を挟む。

 

「しかしだ。あなたたちの世界の住人とはいえ、少なからずこの事件に関与している可能性があるなら、完全に無視するワケにはいかない」

「下手をすれば、クリミナルたちに協力している……なんて可能性もありえますしね」

 

 とリンディも言葉を付け足す。

 二人の意見を聞いたすずかは不安そうな表情を新八へ向けた。

 

「新八さん。話に出て来た『ぜんぞう』さんや『さっちゃん』さんて前に教えてくれた忍者さんたちですよね? 実は、悪い人たちだったんですか?」

「安心するアル」

 

 そこで口を挟むのは神楽。

 

「あいつらはイボ痔でドMストーカーなだけで悪人ではないネ」

「それじゃただの病人と変態なだけじゃない!! 忍者要素どこ!? あと言っちゃなんだけどストーカーって悪の部類よ!!」

 

 とアリサはツッコミ、沖田は近藤の肩に手を置く。

 

「ですって、近藤さん」

「…………」

 

 新八の姉をストーキングする男は少女の言葉で見る見るしぼむ様に落ち込んでいた。

 落ち込む近藤など目に入ってないアリサは捲し立てる。

 

「そもそもなんであんたたちの世界からやって来る奴らは揃いも揃って変な特徴ばっか持ってんの! もうちょっとマシな侍と忍者は出てこないワケ! つうかこんな話し前もした気がするんだけど!!」

「まったくだな!」

 

 クロノも強く頷いて同意。この短期間で『江戸』の住人たちのアクの強さを嫌というほど味わったのだから、仕方ない反応だ。

 とはいえ二人の言い草に内心ショックを受けた新八は、悲しくなった。

 

 すると沖田がムッとした表情で腕を組む。

 

「聞き捨てならねェな。俺らはいっぱしの立派な侍だぜ?」

「黙れ腹黒ドS!」

 

 とアリサ。

 今度は近藤が腕を組んで毅然とした態度で。

 

「総悟の言う通りだ。あのような変態ストーカー忍者と我ら立派な武士を一緒にして欲しくない」

「黙れ恥部露出変態ストーカー!!」

 

 と新八。

 

 話を脱線させてあーだこーだ言い出す江戸組と魔導師組。

 その会話を止めるために土方が「とにかくッ!!」と言って机をバン! と叩けば、全員は話を中断。

 周りの視線が自分に集まったところで、鬼の副長は声を荒げる。

 

「忍者共は後回しにしろ!! 問題はクリミナルだ!! クリミナル!! もう事件の真相や連中の目的は全てわかったんだ!! そっちに意識を集中させるぞ!!」

 

 沖田が「まァ、それに」と言って言葉を付け足す。

 

「あの御庭番の連中があんな得体の知れない奴らに肩入れしてると考え辛いですしねェ。頭の隅に置いておく程度でさして問題ないでしょうし」

「うむそうだな」

 

 と近藤は頷き、リンディとクロノへと顔を向ける。

 

「猿飛あやめ殿と服部全蔵殿は元は幕府に仕えていた御庭番の忍び。あのような悪逆非道の輩なんぞに手を貸すとは到底思えん」

「?」

 

 江戸の内政事情を知るはずのないクロノは、腕を組んで怪訝な表情を浮かべた。

 クロノの疑問に気づいた新八は「ええっとですね……」言って説明しようとすると、リンディが顎に指を当てながら口を開く。

 

「つまり、近藤さんたちとは役職が違うが、話に出てきたお二人もまた政府に仕えていた人間ではある、という事でいいでしょうか?」

「え、えェ。概ねその通りです」

 

 新八は少し戸惑いながら頷く。

 さすがは提督という役職に就いていると言うべきか。聞き慣れない単語を耳にしてもすぐに頭で整理して、自分たちの世界の基準に当て嵌めてまとめたようだ。

 いや、そもそもリンディは地球文化――それも日本の文化に嵌っている。もしかしたら昔の日本の政治の内容も予習済みかもしれないから、スラスラまとめられただけかもしれないが。

 リンディの言葉を聞いたクロノはなるほどと頷くが、また怪訝な表情を浮かべる。

 

「しかし、君たちや坂田銀時がこちらの世界に来た理由は聞いたが、その『おにわばん』の二人はどういった経緯で時の庭園にやって来たんだ?」

「きっと……」

 

 近藤は腕を組み、真剣な表情で語りだす。

 

「時空間忍術が失敗して『リリカルなのは』の世界へとやって来てしまったのだろうな」

「どこのナルトだ!!」

 

 と新八がツッコム。

 土方が腕を組んで自身の推理を口にする。

 

「まァ、服部と言う奴は知らんが、猿飛とか言う女忍者はとっつぁんと縁がある。きっと妙な頼み事でもされて瞬間移動でもさせられたってところだろうよ」

「とりあえず、後で『はっとり』さんと『さるとび』さんの特徴を教えてください。お二人を発見次第、こちらで保護して事情を伺おうと思うので」

 

 リンディの話を聞いて新八は「分かりました」と頷く。

 すると神楽が語りだす。

 

「服部は前髪で目を隠したイボ痔アル」

「な、なるほど……前髪はわかりやすい特徴だな……」

 

 微妙な顔をしながらも素直に応えるクロノ。

 

「それでさっちゃんは眼鏡を掛けた変態ネ」

「いや、眼鏡はいいんだが……その、痔とか変態とか確認しづらい特徴を言われてもな……」

「そうかァ? 眼鏡の変態って有力な情報だぜ」

 

 首を傾げる沖田は新八を指さす。

 

「そこの新八(めがね)を参考にすればいいんだからよ」

「おいコラテメェェェェェ!! それどう意味だゴラァァァァァァ!!」

 

 一気にブチ切れた新八は立ち上がり握り拳を固めた。

 

「なにを言い出すアルか!」

 

 と新八に続いて怒鳴るのは神楽。

 

「神楽ちゃん……」

 

 まさかあのチャイナが自分の為に怒ってくれたのか? と思って、新八は嬉しそうな表情を浮かべてしまう。

 そして神楽は言い放つ。

 

「ぱっつぁんとさっちゃんの変態のベクトルは違うネ! そこを履き違えんなヨ!!」

「おいコラチャイナァァァァァァ!!」

 

 と新八は大激怒。

 

「すまねェ。俺が間違ってたぜ」

 

 沖田は素直に謝罪し、新八は涙を流しながら食って掛かる。

 

「なんでそこで素直に謝んの!! そんな態度されたら僕がマジで変態みたいじゃん!! ちょっ、やめて!! マジな雰囲気出さないで!! 変な印象をなのはちゃんたちに与えないで!!」

 

 間違ってんのはこいつらだから!! と新八は弁明中。

 青少年弄りを見ていたクロノはため息を吐き、腕を組んで神楽と沖田にジト目向ける。

 

「君たちの関係はあまり詳しくないから言いたくないんだが、人を弄るのも大概にした方がいいぞ?」

「クロノくん!」

 

 自身の味方になってくれたクロノの言葉を聞いて、新八は目を潤ませる。いつも弄り役になる彼からすれば執務官の言葉は結構嬉しい。

 

「とりあえず、猫の使い魔のお陰で事件の裏事情は大体分かった」

 

 そう言って話を軌道修正するのはタバコに火を付けた土方。彼は煙を吸って吐いた後に言葉を続ける。

 

「なら、俺たちがやるべきことは単純だな。プレシアが残した反撃の糸口を使って連中を一網打尽にする、って言ったところか」

 

 真選組副長の言葉を聞いて新八、山崎、アリサ、すずかの表情は自然と引き締まっていた。

 すると真剣な表情のリンディは手を組む。

 

「えぇ……そうですね。なにより全てのジュエルシードが両陣営に集まっている以上、クリミナルはいつ姿を消してもおかしくありません。人質救出のチャンスを考えても、次に打つ一手は失敗できませんね」

 

 上司の言葉を聞いたクロノは顎に手を当てて険しい表情を浮かべた。

 

「問題は……フェイトやプレシア、そしてアリシアを助けるためにも、どのようにこちらが先手を取るかだな……」

 

 クロノの出した議題。

 そして最初に口を開いたのが土方。

 

「まー……リニスがいる以上、時の庭園の場所はわかる。その上、その存在もバレてないと考えるなら――」

「時の庭園に乗り込んで連中をぶっ飛ばすアル!」

 

 土方が言い終わる前に神楽が掌にバシッと拳を叩きつける。

 

「待て待て、さすがに安直過ぎだ。人質がいるだろうが。もうちょっと連中の虚を突くような捻りを入れる必要がだな……」

 

 すると今度は沖田が真剣な表情で口を挟む。

 

「それじゃあ土方さんが時の庭園に一人で乗り込み、マッパで阿波踊りするというのはどうでしょう?」

「どうでしょう? じゃねェだろう!! なにシリアスな顔で下らねェ作戦提案してんだテメェは!! 俺が恥かくだけじゃねェか!!」

 

 青筋浮かべながら土方がツッコム。

 

「なら、マッパで踊る土方に『俺を殺してくれ』というボードを首に下げさせる。そんで土方が奴らになぶり殺しにされている間に人質救出成功。ミッションコンプリート」

 

 そこまで言って親指をグッと上げる沖田。

 

「それただ、お前の土方抹殺ミッションがコンプリートされただけじゃねェか!! つうかそんな変質者見たら殺すって感情が沸く前にただただ不気味で戸惑うわ!!」

 

 怒鳴る土方は親指を下にさげた。

 すると近藤が手を出して「いや待てトシ!」と待ったをかける。

 

「総悟の案はあながち間違いじゃないかもしれん!! 連中の目を引いて思考力を奪い救出の時間を稼ぐという点では有効ではあるぞ!!」

「いや、まあ……たしかにそうではあるかもしれないけど……」

「っということで、俺がフェイトちゃんたちのために一肌脱ごう!!」

 

 そう力強く宣言した近藤は、上着を一瞬で脱いで上半身裸姿にチェンジ。

 

「あんたそれ言葉の(あや)じゃなくてマジで素っ裸になるつもりだろ! つうか今脱ぐな!! いや時の庭園でも脱いじゃダメだけど!!」

「とりあえず裸はやめてください!! 管理局の名誉にも関わるから!!」

 

 土方に続いてクロノもツッコム。だが近藤は引き下がらない。

 

「ならばトシ! クロノくん! 一体どうやって奴らの目を引けばいいんだ!!」

「少なくても裸以外で目は引けると思うけどなー!!」

「あなたもしかして露出狂なのか!?」

 

 真選組を中心にあーだーこーだ作戦を言い合っている時に、新八は『敵の目を引く』という言葉である案を思いついてしまった。

 現状の事件の様相は映画とはかなり違うものになってしまった。なのに、

 

 ――フェイトちゃんとなのはちゃんの……全部のジュエルシードを賭けた勝負でクリミナルたちの目を引く……。

 

 時期的な事も相まって、映画の展開をなぞる形のモノが頭を過ってしまった。

 人間の心理上いたしかたない部分ではあるが、思いついた案はあまり作戦としてはよろしくない。

 映画通りの展開にワザと持っていくというのも心理上抵抗感はあるが、一番の問題は相性だ。なにせフェイトの持ってるデバイス相手では、遠距離攻撃主体のなのはは不利過ぎてしまう。

 あと単純な話し、男としても年上としても、幼い少女に負担を押し付けるのは後ろ髪が引かれる。

 

 頭の中でつい考えてしまった案のせいで、新八の視線は自然となのはの方へと向いてしまう。

 その時――、

 

「……どれだけ……辛かったんだろう……」

 

 今まで口を開かず俯いていたなのはから、

 

「フェイトちゃん……」

 

 とても小さいな言葉ではあるが、聞こえたのだ――悲しみの籠った言葉が。

 

 今まで何度も対峙し、フェイトを気にかけてきたなのは。彼女の置かれた状況の真実を知り、心を痛め、思わず口から気持ちが漏れ出してしまっているのかもしれない。

 

 リニスの話を聞いている間、ずっと悲しみの感情があらわになった沈痛な表情をしていた少女。

 スカートをギュッと握りしめ、まるで自分の事のように悲痛に満ちた表情を浮かべていた。

 

 悲痛な気持ちがありありと伝わって来る少女を目にした新八はなんとも言えない表情で「なのはちゃん……」と呟く。

 

 だが、悲しみと憂いの感情が入り混じるなのはの表情が、徐々にだが真剣なモノへと変化していく。

 まるで瞑想するようかのように目を瞑り、深く息を吐く少女。いくばくかの黙思の後、彼女がまぶたを開ければ――その瞳には強い意志の灯が宿っていたのだ。

 

 なのはは意を決したように顔を上げ、自分の左隣に座る親友たちに顔を向ける。

 

「ねえ、アリサちゃん、すずかんちゃん」

 

 名前を呼ばれ、顔を向ける二人。

 

「助けよう。フェイトちゃんも、プレシアさんも、アリシアちゃんも――みんなで!」

 

 両手をグッど握りしめながら力強く言葉を送る少女。

 なのはの確かな気持ちを受け取り、親友たちは表情を明るくさせ、そしてしっかりと意思を返す。

 

「もちろん!」

「うん!」

 

 アリサ、すずかの応えになのはは笑顔を返す。

 

 ――なのはちゃん、すごいなァ……。

 

 気持ちを切り替えて親友たちの気持ちを後押しする幼い少女の姿に、新八は素直に関心してしまう。

 銀さんとは違う形で、中心になって周りを引っ張っていく人柄があるんだな、と新八が思っていると、

 

「あの、新八さん」

「……えッ? あッ、ん?」

 

 意識外から思わず声をかけられた青年は若干ビックリ。

 いつの間にか自身の近くにいたなのはは、少し言いづらそうにしながらも声をかける。

 

「えっと……その……実はフェイトちゃん救出のための作戦を、ちょっと前から思いついてて、聞いてもらってもいいですか?」

「えッ? う、うん。いいよ……」

 

 ――あんな悲痛な表情しながら、作戦も考えてたんだ……。

 

 ただ悲しいという感情だけで考えを終わらせていなかった九歳の少女にまた関心してしまう新八。つうかホントに九歳? と思わずツッコミの性が疼く。

 

 真選組やなのはだけではなく、他の面々も今後の作戦案を口にしだす。

 

 紆余曲折ありつつも、各々が前向きにテスタロッサ一家救出に向かって気持ちと思考を前面に押し出し始めている。

 そんな状況にリニスは心の底から嬉しそうな表情。

 

 そしてリンディもまた、

 

(さて……これから色々と詰めていかないとですね……)

 

 今後の為に必要な要素を頭の中でまとめていたのだった。




第六十五話の質問コーナー:https://syosetu.org/novel/253452/75.html


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