落第騎士の英雄譚~世界最強の剣士の弟子~ (火神零次)
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騎士の章~理事長の選抜騎士~ 出会いと再会
~登場人物設定~


ネタバレ有り。




【破軍学園・生徒】

 

宮坂 爛 Miyazaka Ran

 

PROFILE

破軍学園を立て直すために理事長になった黒乃の選抜で破軍学園に入った少年。Fランクの騎士として居るが、Aランク以上の力の持ち主。黒乃達の師をしていた。子供の頃は外国を旅しながら力をつけ、第二次世界大戦にて日本を勝利に導いた三人の英雄、黒鉄龍馬、葛城雅、南郷寅次郎に師をやってもらっていた。人間の種族でありながら、とある化物の活性化を抑えるための力を持ち、人間という種族を捨てた人間。種族はファフニール。様々なトラウマを持ち、雨の日になるとその時のトラウマがフラッシュバックにて蘇り、罪悪感などを感じてしまう。その為、温もりを感じさせてくれる六花やリリーは大切な存在として認識している。そして、自分が化物にも関わらずに接してきてくれる一輝達に感謝している。また酒には弱く、それに爛自身は気づいていない様子。

また、固有霊装が使えないことを代償にし、スタンドと波紋を使用することができる。

 

STATUS

所属:破軍学園一年一組

伐刀者(ブレイザー)ランク:Fランク→Mランク

固有霊装(デバイス)刻雨(こくさめ)呉正(くれまさ)、黒刀・雷黒鳥(らいこくちょう)

     白刀・雷白鳥(らいはくちょう)赤火刀(せきかとう)閃飛燕(せんひえん)

基本戦術:宮坂流、比翼

異能属性:雷、光、闇

二つ名:『予測不能の騎士(ロスト・リール)』→『鬼神の帝王(クレイジーグラント)

スタンド:ゴールド・エクスペリエンス

波紋:太陽、月

 

PARAMETER

(仮)

攻撃力:F 防御力:F+ 魔力量:E+

魔力制御:F 運:F 身体能力:B

(実際)

攻撃力:M 防御力:S+ 魔力量:M+

魔力制御:M+ 運:M 身体能力:M+

 

SKILL

伐刀絶技(ノウブルアーツ):〈天下無双の剣の使い手(ヤマトタケル)〉、

     〈十六夜の絶対覇者(ツクヨミ)〉、

     〈雷鳴閃(らいめいせん)〉、〈刹那ノ極(せつなのきわみ)

剣:〈壱の剣・八意表裏斬撃(やごころひょういざんげき)〉、

  〈弐の剣・後龍閃(こうりゅうせん)〉、〈参の剣・陽炎(かげろう)〉、

  〈肆の剣・空蝉(うつせみ)〉、〈伍の剣・乱月(らんげつ)〉、

  〈陸の剣・乱れ桜吹雪・月花〉、

  〈漆の剣・天昇(てんしょう)飛龍(ひりゅう)〉、

  〈捌の剣・影蒼龍(かげそうりゅう)〉、

  〈玖の剣・九頭龍刀一閃(くづりゅうとういっせん)

  〈拾の剣・五輪(ごりん)極意(ごくい)

変身:〈身体能力・神速化(アクセラレート)〉、〈隕石破壊(メテオスマッシュ)〉、

   〈刻印の力の一閃(イグニートレイ)〉、

   〈刻印の完全なる力の一閃(アカシックノヴァ)

波紋:〈山吹き色の波紋疾走(サンライトイエローオーバードライブ)

   〈黒光りする月の波紋疾走(ブラックライトムーンオーバードライブ)

 

 

葛城 六花 Katuragi Rikka

 

PROFILE

爛の幼馴染みであり、爛が破軍学園に居ると聞いたことから破軍学園に転校してきた。そして、黒鉄王馬に次ぐ力を持つAランク騎士であり、爛に好意を持っている。そのため、時間があれば爛にべったりの状態で爛に甘えている。ボクっ娘であり、破軍学園に転校する前は武曲学園に居た。二年生であったのだが、爛と一緒に居たいがために黒乃に一年生からやりたいと言った。葛城家の家系から雷の力を持っている。

明との戦いの最中、自らが隠してきた負の感情が爆発し、オルタとなった。オルタは今までの六花よりも強くなっており、歯が立たない。

 

STATUS

所属:元武曲学園二年二組→破軍学園一年一組

伐刀者ランク:Aランク

固有霊装:撃剣・龍(げきけん・りゅう)

基本戦術:葛城流

異能属性:雷

二つ名:『雷撃の女王(ミョルニル)

 

PARAMETER

(通常)

攻撃力:A+ 防御力:S 魔力量:A

魔力制御:A+ 運:A 身体能力:A

 

(オルタ)

攻撃力:S+ 防御力:A 魔力量:A

魔力制御A+ 運:S 身体能力:S+

 

SKILL

伐刀絶技:〈全てを断つ雷の最高神(ゼウス)〉、

     〈逆鱗に触れし動けぬ神獣(フェンリル)〉、

     〈閃光撃神(せんこうげきしん)〉、〈雷撃・蝶(らいげき・ちょう)〉、

     〈雷撃・鳥(らいげき・とり)〉、〈雷光撃滅(らいこうげきめつ)

 

 

リリー・アイアス Riri Aiasu

 

PROFILE

最強の剣。カリバーの剣霊。リリーの契約者である爛はリリーからマスターと呼ばれている。妹とも面識があり、仲の良い間柄。六花とは爛の説得をされた後、すぐに仲のよい関係に。剣だけであれば、爛、一輝を上回る実力の持ち主。

 

STATUS

所属:爛の剣霊(剣霊のため、破軍学園の生徒ではないが、生徒扱いされている。)

伐刀者ランク:Fランク

固有霊装:カリバー

基本戦術:我流

異能属性:光

二つ名:『騎士王の聖剣(アーサー)

 

PARAMETER

攻撃力:S 防御力:A 魔力量:F

魔力制御:B+ 運:A 身体能力:A+

 

SKILL

伐刀絶技:〈未来を切り開く最強の聖剣(エクスカリバー)〉、

     〈女王が求めし完全無欠の理想郷(アヴァロン)〉、

     〈聖剣の宝庫〉

 

 

敷波 桜 Shikinami Sakura

 

PROFILE

爛の後輩。年齢が爛より一つ下であるが、それで先輩と呼んでいる。最近になって伐刀者として覚醒しているが、固有霊装が顕現することができないと言う問題を抱えており、爛もその事に関して知っている。ただわかることは異能が二つあることである。爛のように突然変異等でもないため、それも謎にある。そして、異能の一つである静寂は裁定者としての能力があり、ルーラーのクラスと同じようなことができる。

 

STATUS

所属:破軍学園一年一組

伐刀者ランク:Fランク(固有霊装が使えないため)

固有霊装:???

基本戦術:爛から学んだ魔術

異能属性:静寂、暴走

二つ名:『混沌なる鎮魂と狂刃の女王(カオス・レクイエム・バーサーク・クイーン)

 

PARAMETER

攻撃力:A 防御力:B+ 魔力量:B+

魔力制御:S+ 運:C 身体能力:B

 

SKILL

伐刀絶技:〈狂化(バーサーカー)

     〈裁定(ルーラー)

     〈有罪(ギルティ)

     〈黒き凶刃(バーサーク)

 

 

黒鉄 一輝 Kurogane Ikki

 

PROFILE

魔導騎士としての能力値が低すぎて落第したFランク騎士で、落第騎士(ワーストワン)と呼ばれる。だが、剣術を極めたことで実戦では無類の強さを誇る。爛やステラ、そして破軍学園に転校してきた六花により、限界知らずの成長を遂げている。

『雷切』東堂刀華との戦いに勝利し、その後にステラに自分の思いを告白、晴れて恋人となった。

 

STATUS

所属:破軍学園一年一組

伐刀者ランク:Fランク

固有霊装:陰鉄(いんてつ)

基本戦術:模倣剣技(ブレイドスティール)

異能属性:身体能力強化

二つ名:『落第騎士(ワーストワン)』→『戦鬼の剣帝(アナザーワン)

 

PARAMETER

攻撃力:F 防御力:F 魔力量:F

魔力制御:E 運:F 身体能力:A

 

SKILL

伐刀絶技:〈一刀修羅(いっとうしゅら)〉、〈一刀羅刹(いっとうらせつ)

秘剣:第零秘剣〈神楽(かぐら)〉、第一秘剣〈犀撃(さいげき)〉、

   第二秘剣〈裂甲(れっこう)〉、第三秘剣〈(まどか)〉、

   第四秘剣〈蜃気狼(しんきろう)〉、第五秘剣〈(ぜつ)〉、

   第六秘剣〈毒蛾(どくが)の太刀〉、

   第七秘剣〈雷光(らいこう)

 

 

ステラ・ヴァーミリオン Sterra Vermillion

 

PROFILE

強敵を求めて海を越えてきた、ヴァーミリオン皇国の第二皇女。10年に一人の天才と呼ばれるAランク騎士。珠雫とは一輝を巡って口喧嘩を良くしているのだが、それは珠雫であったからこそ。一輝や爛に勝てるよう、爛から言われた自分の真の能力を引き出せるように特訓している。

また、一輝が東堂刀華に勝ち、そのあとに一輝からの告白をされ、それを快く承諾。晴れて恋人となった。

 

STATUS

所属:破軍学園一年一組

伐刀者ランク:Aランク

固有霊装:妃竜の罪剣(レーヴァテイン)

基本戦術:皇室剣技(インペリアルアーツ)

異能属性:炎→ドラゴンを体現する能力

二つ名:『紅蓮の皇女』→『煉獄の女帝(サプレッション)

 

PARAMETER

攻撃力:A 防御力:A 魔力量:A

魔力制御:B+ 運:A 身体能力:B+

 

SKILL

伐刀絶技:〈妃竜の息吹(ドラゴンブレス)〉、

     〈天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)

 

 

宮坂 明 Miyazaka akari

 

PROFILE

砂系の能力を持つ、爛の妹。爛の過去をよく知っており、爛の支えになったりもする。六花とは張り合っており、爛のどんなところが良いのか等を言い合っている。

 

STATUS

所属:破軍学園一年四組

伐刀者ランク:Cランク

固有霊装:蓮花(れんか)

基本戦術:宮坂流

異能属性:砂

二つ名:『砂の戦姫(サンドヴァルキリー)

 

PARAMETER

攻撃力:C 防御力:B 魔力量:C

魔力制御:A 運:E+ 身体能力:C+

 

SKILL

伐刀絶技:〈砂鉄時雨(さてつしぐれ)〉、〈砂鉄閉哮(さてつへいこう)〉、

     〈砂鉄絶槍(さてつぜっそう)〉、〈砂鉄界法(さてつかいほう)

 

 

黒鉄 珠雫 Kurogane Shizuku

 

PROFILE

一輝の妹。一輝に対して特別な感情を持っている。水系の能力を持つBランク騎士。ステラとはよく張り合っており、ステラのことを挑発したりしている。

 

STATUS

所属:破軍学園一年四組

伐刀者ランク:Bランク

固有霊装:宵時雨(よいしぐれ)

基本戦術:遠距離魔法

異能属性:水

二つ名:『深海の魔女(ローレライ)

 

PARAMETER

攻撃力:D 防御力:B 魔力量:C

魔力制御:A 運:C 身体能力:E

 

SKILL

伐刀絶技:〈水牢弾(すいろうだん)〉、〈障破水蓮(しょうはすいれん)〉、

     〈凍土平原(とうどけいげん)

 

 

音無 颯真 Otonashi Soma

 

PROFILE

明のルームメイト。攻撃力は破軍学園の一二を争う力を持つ。爛とは親戚であって仲がいい。六花の兄と爛は良きライバル仲間である。

サーヴァントとの戦いの最中、突然の覚醒を起こす。が、まだ完全に覚醒したわけではなく、一度未来を視ると一定時間待たなければ発動することはない。また、必要なことを視ることは際限なく発動を続ける。

 

STATUS

所属:破軍学園一年四組

伐刀者ランク:Cランク→Aランク

固有霊装:飛鷹(とびたか)→エクソシスト

基本戦術:宮坂短剣流→リリーからの指導により、リリーの剣技を修得。

異能属性:風→???

二つ名:『風の奏者(ストームフロート)』→『蒼の翼(あおのつばさ)

 

PARAMETER

(覚醒前)

攻撃力:A 防御力:C 魔力量:C+

魔力制御:B 運:C 身体能力:B+

 

(覚醒)

攻撃力:S+ 防御力:S+ 魔力量:A+

魔力制御:A 運:B 身体能力:A+

 

SKILL

(覚醒前)

伐刀絶技:〈風の刃(ストームブレイド)〉、

     〈無限の風の刃(インフィニティストームブレイド)〉、

     〈真空斬(しんくうざん)〉、〈風の三絶棍(さんぜつこん)

(覚醒)

形態変化(モードチェンジ)(バスター)

     (シールド)

形態技(モードアーツ):〈桜花鬼神斬(おうかきじんざん)

 

 

 

【破軍学園・関係者】

新宮寺 黒乃 Shinguji Kurono

 

PROFILE

破軍学園の理事長。爛を連れてきた人物であり、爛の弟子。元世界序列(ランク)三位の強者。苦労人であることはかわりないが、爛のことを慕っている。

 

STATUS

所属:破軍学園理事長

伐刀者ランク:Aランク

固有霊装:エンノイア

基本戦術:遠距離戦

異能属性:時空間

二つ名:『世界時計(ワールドクロック)

 

PARAMETER

攻撃力:A 防御力:B 魔力量:B

魔力制御:A 運:A 身体能力:A

 

SKILL

伐刀絶技:禁技・〈時空崩壊(ワールドクライシス)

 

 

宮坂 香 Miyazaka Kaori

 

PROFILE

爛の姉であり弟子。黒乃が理事長に就任すると同時に破軍学園の実戦担当の教師になった。世界序列四位。弟である爛のことが好きである。ただし、宮坂流に関しては、爛より上の使い手であり、完璧な剣技をすることができる。

 

STATUS

所属:破軍学園実戦担当教師

伐刀者ランク:Aランク

固有霊装:白銀(しろがね)

基本戦術:宮坂流

異能属性:無

二つ名:『無の火力(レミントン)

 

PARAMETER

攻撃力:A+ 防御力:B+ 魔力量:A

魔力制御:A 運:B 身体能力:A+

 

SKILL

伐刀絶技:禁技・〈森羅万象(しんらばんしょう)

 

 

西京 寧々 Saikyo Nene

 

PROFILE

爛の弟子。東洋最強の伐刀者と謳われている。黒乃が学園の教師を大量にリストラした結果、人事不足に陥り寧々が臨時として教師をしている。世界序列三位。隕石を降らせることもできるが、魔力制御ができないため、必要以上の力を使ってしまうことがあるが、爛の弟子になってからは、魔力制御を重点的に爛に鍛えられ、必要以上の力を出すことができる。

 

STATUS

所属:破軍学園臨時教師

伐刀者ランク:Aランク

固有霊装:紅色鳳(べにいろあげは)

基本戦術:異能基本

異能属性:重力

二つ名:『夜叉姫(やしゃひめ)

 

PARAMETER

攻撃力:A 防御力:A 魔力量:A

魔力制御:B+ 運:A 身体能力:A

 

SKILL

伐刀絶技:禁技・〈覇道天星(はどうてんせい)

 

 

葛城 椿姫 Katuragi Tubaki

 

PROFILE

世界序列一位の実力者。六花の姉であり、爛と明、颯真とは良き友人。三人には『姉さん』と呼んでもらいたいらしい。現に、三人はさん付けで呼んでいる。黒乃達とはライバル仲間。

 

STATUS

所属:破軍学園教師

伐刀者ランク:A

固有霊装:グローリープレシャス

基本戦術:我流・打撃

異能属性:雷

二つ名:『金銀の激創(プレストフォール)

 

PARAMETER

攻撃力:S 防御力:A 魔力量:A+

魔力制御:A+ 運:A 身体能力:S

 

SKILL

伐刀絶技:禁技・〈金剛懐電(こんごうかいでん)

     禁技・〈銀白虎撃(ぎんはくこげき)

 

【サーヴァント】

 

ネロ・クラウディウス Nero Kuraudhisu

 

PROFILE

爛のサーヴァント。一番最初に契約したサーヴァントであり、聖杯戦争で共に戦ってきた。だが別の聖杯戦争で二人は遭遇するものの、爛の方から離れていき、どこにいったのかと現界したまま爛を探し回っていた。やはり、爛が好きであることは変わらず、病むことはないが、嫉妬したりすることはある。(多分、誰よりもそれに関しては強いかと。)

 

STATUS(※6)

所属:爛のサーヴァント

伐刀者ランク:無し

固有霊装:原初の火(アエストゥス・エストゥス)

基本戦術:爛の独自の剣技、我流

異能属性:炎

二つ名:無し

 

PARAMETER(※1)(※2)

筋力:B 耐久:B+ 敏捷:S+

魔力:EX 幸運:S 宝具:EX

 

SKILL(※3)(※8)

伐刀絶技:〈花散る天幕(ロサ・イクトゥス)

     〈三度、落陽を迎えても(インウィクトゥス・スピリートゥス)

     〈童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)

 

 

玉藻の前 Tamamono Mae

 

PROFILE

爛のサーヴァント。そして自称良妻と名乗り、爛のことを献身的に奉仕しようとする。だが、キャスターとしての定石、及び戦術を悉く根底から破壊していき、「タマモ……お前本当にキャスターか?」と爛から言われたほどである。だが、爛がマスターとなったときは、その根底を破壊することに、磨きかかっていると思われる。因みに、玉藻の前は爛がマスターであることで、本来の力を発揮することができる。彼女曰く、「ご主人様は魔力などが多いですので、本来の私を遺憾なく発揮できるようになりました。」と、爛に言った。……あまり爛本人は気にしてはいないようだが。

 

STATUS(※5)(※6)

所属:爛のサーヴァント

伐刀者ランク:無し

固有霊装:光陽の鏡(こうようのかがみ)

基本戦術:呪術

異能属性:呪術により変わる

二つ名:無し

 

PARAMETER(※1)(※2)

筋力:C 耐久:B+ 敏捷:B

魔力:EX 幸運:B+ 宝具:EX

 

SKILL(※3)

伐刀絶技:〈呪相・炎天(じゅそ・えんてん)

     〈呪相・氷天(じゅそ・ひょうてん)

     〈常世咲き裂く大殺界(ヒガンバナセッショウセキ)

 

 

沖田総司 Okita Sozi

 

PROFILE

同じく爛のサーヴァント。やはり病弱なのはかわりなく、吐血することがある。爛と契約したことにより、少しはマシにはなったが、まだ吐血はする。特にハイテンション時やショックを受けたとき。だが、戦闘となれば、陽気な子供っぽさは完全に抜け、戦闘状態となる。因みに羽織は爛が編んだものをつけている。

 

STATUS(※4)(※6)

所属:爛のサーヴァント

伐刀者ランク:無し

固有霊装:乞食清光(かしゅうきよみつ)菊一文字則宗(きくいちもんじのりむね)

基本戦術:新撰組で扱ってきた生前の剣術

異能属性:突

二つ名:無し

 

PARAMETER(※1)(※2)

筋力:B+ 耐久:C 敏捷:S+

魔力:EX 幸運:C+ 宝具:EX

 

SKILL(※3)

伐刀絶技:〈誓いの羽織(ちかいのはおり)

     〈誠の旗(まことのはた)

     〈無明三段突き(むみょうさんだんづき)

 

 

ジャンヌ・ダルク Joan of Arc

 

PROFILE

やはり、爛のサーヴァント。どうであろうが彼のサーヴァントである。爛との契約をする際、「主よ、この身を捧げます。」とまで言ってしまった。本人は、爛以外に仕えることはないといい放ってしまっている。それでいいのかい聖女さんよぉ……。やはり年相応の感情を持っていため、かなりの初。

 

STATUS(※5)(※6)

所属:爛のサーヴァント

伐刀者ランク:無し

固有霊装:誠実なる聖女の旗剣(エスハァルク)

基本戦術:爛から学んだ技術

異能属性:光

二つ名:無し

 

PARAMETER(※1)(※2)

筋力:A 耐久:A+ 敏捷:S

魔力:EX 幸運:B 宝具:EX

 

SKILL(※3)

伐刀絶技:〈我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)

     〈紅蓮の聖女(ラ・ピュセル)

 

 

清姫 Kiyohime

 

PROFILE

爛のサーヴァント。嘘が大の嫌いで、マスターである爛が嘘をつくことも許すことができないほどに嫌っている。それも、善意的な嘘でさえ嫌っている。ただ、爛に好意は抱いており、言動次第では、清姫をヤンデレとさせることができるそうだ。ただ、バーサーカーのクラスではあるが、元々はひ弱な少女。転身しなければ戦闘などに関しても皆無になっている。

 

STATUS(※5)(※6)

所属:爛のサーヴァント

伐刀者ランク:無し

固有霊装:煉獄芭蕉扇(れんごくばしょうせん)

基本戦術:遠距離からの魔術

異能属性:炎

二つ名:無し

 

PARAMETER(※1)(※2)(※7)

筋力:C 耐久:C+ 敏捷:D+

魔力:EX 幸運:B 宝具:unknown

 

SKILL(※3)(※8)

伐刀絶技:〈転身火生三昧(てんしんかしょうざんまい)

     〈道成寺鐘(どうじょうじがね)百八式火竜薙(ひゃくはちしきかりゅうなぎ)

 

【その他】

 

宮坂 沙耶香 Miyazaka Sayaka

 

PROFILE

爛と明、香の妹であり、末っ子。ある事件によって、死んだとされていたが、爛の前に現れる。しかし、誰かに操られている状態であり、何故生きていたかは不明。

 

STATUS

所属:不明

伐刀者ランク:不明

固有霊装:刻想刃(こくそうじん)

基本戦術:想い描いた武器に合う戦術

異能属性:不明

二つ名:無し

 

PARAMETER

攻撃力:不明 防御力:不明 魔力量:不明

魔力制御:不明 運:不明 身体能力:不明

 

SKILL

伐刀絶技:〈幻想斬(げんそうざん)

 

 

曙 聡美 Akebono Satomi

 

PROFILE

爛のマスター。爛が英霊として動いていた時期に幼い頃の聡美が呼び出した。マスターとしての技術も知能も申し分ない。自身の能力としてはガンドという魔術である。魔力を指先にため、それを発射する。当たればサーヴァントであろうが少しの間、動きを止める。

 

STATUS

所属:爛のマスター

伐刀者ランク:無し

固有霊装:無し

基本戦術:ガンド

異能属性:無し

二つ名:無し

 

PARAMETER及びSKILL無し

 

注意書き

※1:パラメーターはfateのを引用

※2:爛がマスターになっているのみ、全パラメーターが上昇。魔力と宝具に関しては爛の力によるもの。EXは測定不能。

※3:宝具などもスキル枠に入る。(ただ単に宝具枠を作るのが面倒なだけである)

※4:沖田総司のみ〈誓いの羽織(ちかいのはおり)〉を使用時のみ、菊一文字則宗にランクアップ。

※5:武器に名前のないサーヴァントのみ、オリジナルでつけたものになる。

※6:異能属性はサーヴァントが使うものであり、サーヴァント自体の善や悪などはない。

※7:清姫のみ。unknownはEX、つまりは測定不能を超え、測ることが完全にできない状態にある。

※8:衣装チェンジなどをすることにより、別の宝具を使う(例としては、ランサー清姫やネロ・ブライドなどのこと)サーヴァントのみ。衣装チェンジだとしても、使えることにはかわりないため、自身の宝具として扱える。

 

新たなメインキャラが登場する話が近くなったりすれば、随時編集します。



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第1話~落第騎士VS予測不能の騎士~

第1話です!今回はいきなりの模擬戦です。その理由は、本文で書くのであしからず。それでは、どうぞ!


 爛は第四訓練場に向かっていた。これから、落第騎士(ワーストワン)・黒鉄一輝との模擬戦だ。理由は、黒乃が一輝の力を見たいとのこと。自分でやってもいいのだが、爛を指名し、一輝との模擬戦に移行した。同じFランク同士の戦い。見に来る人はそんなに居ないだろうと思っていたのだが、以外と居たことに、爛は少し驚いていた。

 

「まさか、こんなにいるとはな。」

「そうですね。見させていただきますよ、予測不能の騎士(ロスト・リール)。」

「二つ名で呼ぶか。」

 

 予測不能の騎士(ロスト・リール)・・・爛に付けられた二つ名、付けられた理由としては実戦授業にし、圧倒的力で学生騎士を倒すが、大半の授業に出ることはなく、余り大きな行動をしないため。そして、落第騎士(ワーストワン)・黒鉄一輝のルームメイトであることから付けられた二つ名なのだ。そして、噂ではFランクは建前・・・なんてことも。実際、爛にとっては目立ちたくないことから、Fランクにしてもらっているのだが。爛のランクを詳しく知っているのは、黒乃達、学園内で黒乃が信頼できる人だけが、爛の実際のランクを知っている。

 爛が訓練場で一輝を待っていると、周りの席から声が聞こえてくる。

 

「おい、あれが予測不能の騎士(ロスト・リール)だぜ。」

「そういえば、Fランク同士の模擬戦なんだっけ?」

「そうだ。どんな戦いでも、どうせFランクなんだ。期待しても意味がないぜ。」

 

 爛はその席の話しを聞いていると、一輝がどれだけ悪い評価を受けているがよく分かった。それぞれの席の話しを聞いても、悪い評価しか言っていない。爛はそれに呆れてしまった。そこに、一輝がきた。

 

「ごめん、遅れちゃったかな。」

「いや、そんなことはないな。始めてもいいか?」

「勿論、いいよ。」

「よし、黒乃、始めてくれ。」

「分かりました。」

 

 黒乃は二人が始めてくれと言ったので、始める合図を出す。

 

「これから、黒鉄と宮坂の模擬戦を始める。二人は、固有霊装(デバイス)を幻想形態でしてくれ。」

「来てくれ、『陰鉄(いんてつ)』。」

 

 一輝は、右手を前に出し、出てきた光を掴み、左手を握ったところに右手を合わせ、鞘から引き抜いたように顕現させるのは、鋼の太刀。

 

「行くぞ、『刻雨(こくさめ)』。」

 

 爛は、右手を横に出し、そこに可視化された魔力が爛の右手を包み、光を放つ。そこから、払うように右手を振るうと、顕現されたのは妖刀とうたわれた刀『村正(むらまさ)』と、酷似した刀。派手な装飾はなく、一輝と同じ鋼の太刀を構える。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 黒乃の合図と共に走り出したのは一輝。爛に対して、唐竹割りをする。しかし、爛はそれに対応することはなく、まるで斬られても構わないと、言っているようだった。

 

「正気か!?あいつ!」

「嘘だろ!?」

 

 観客席からは驚きの声があがる。しかし、一輝は何かあると思い寸前で止め、爛から距離を取る。 

 

「よく気付いたな。」

「やっぱり何かあったんだね。」

「まぁ、その通りだ。」

 

 一輝は、爛の周りに何かを感じとり、魔力を展開していることに気づく。それは近くに行かなければ、あまりにも感じ取れない微かな魔力を。

 

「じゃあ、こっちから行かせてもらうぞ。」

 

 爛がそう言うと、一輝に向かって走るが、途中で爛の姿が消える。すると、一輝の目の前に爛の姿があった。これに驚いた一輝だが、爛の刀の振りを何とか避け、カウンターの要領で刀を振るうが・・・

 

「それ、見えてるぞ。」

 

 爛は、刻雨を左手に持ち変え、柄で一輝の刀を止める。

 

「っ!?」

「これは変則ガード、動体視力が極限に高めていればできることだ。」

 

 爛は、一輝から距離を取り、刀を構える。一輝は先程までやっていたのは、準備運動だと言っているように一輝には爛が見えた。

 

「いつでも。」

 

 爛は一輝にいつでもいいと言い、刻雨を構える。一輝は陰鉄を構え、爛に向かって走る。

 

「はぁ!」

 

 一輝は右に薙ぐが、爛は後退し、刻雨を構える。一輝は追撃をするために走り出す。爛も、一輝に応戦するために走り出す。

 

「っ!」

 

 一輝は刃がぶつかり合う瞬間に何かが斬れたのを感じとり後ろに下がると、一輝の学生服の袖が斬れていた。それを見た黒乃は、一つのことに気づく。

 

師匠(せんせい)はもう伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使っている・・・ということは、彼は相当強いということか・・・)

 

 伐刀絶技(ノウブルアーツ)・・・伐刀者(ブレイザー)が必ず持っている特殊能力、『異能』の力と固有霊装を組み合わせて繰り出す技だ。

 伐刀者(ブレイザー)とは、千人に一人しか持たない力の持ち主。つまり、魔導騎士や学生騎士はその一人に入っている。

 伐刀絶技は極端に言えば、何でもアリだ。事実、西京寧々は隕石を落とすのだがら。相手を二度と戻ることのできない空間に追いやることもできるし、完全に死ぬしかない状況を作ったり、最悪の場合、この世界を破滅させるなんてこともできてしまうのだ。実際、爛はそんな芸当ができてしまう。それほど伐刀者は国からも重要視され、魔導騎士になるための資格などもあるのだ。裏を返せば、それほど伐刀者は危険な存在なのだ。

 爛は、刻雨を構え、微かに出していた魔力を止め、一輝に向かって走る。

 

(魔力の放出が止まった、なら!)

 

 一輝は爛から放たれている魔力が止まったことを好機と思い、爛に対して刀を振るう。爛は一輝の刀を受け止め続ける。刀を振るう一輝、爛にフェイントで体術を使うが、爛にはそれが見えており、一輝の体術を避ける。一輝は追撃をしようとするが・・・

 

「っ!?」

 

 爛は一輝が体勢を戻すところを狙い、思いっきりスピンキックを当てる。魔力をのせたスピンキックだったので、一輝は吹き飛ばされてしまう。

 

「あいつホントにFランクか!?」

 

 あり得ない動きをする爛に驚きの声があがる。爛からすると、これでも自分の師には到底太刀打ちできないと思っている。一輝も体勢を立て直し、爛に向かって走る。爛も走りだし、二人が得意の刀の戦いに入る。

 

(なんだ、この動き。)

 

 爛の振るう剣術だが、何にも当てはまらない剣術に一輝は、疑問を持つ。爛は自分の剣術に一輝が疑問を持っていることに気付き、一輝とは距離を取る。

 

「俺の剣術に驚いているのか?」

「そうだね。」

「そうか。これは俺の家の剣術。宮坂流・一の太刀・空の型だ。他にも二の太刀だったり、別の型があるんだがな。」

 

 爛の宮坂流は太刀の分類と型の分類があり、一の太刀と二の太刀の二つの太刀に別れ、空の型、雲の型、そして、雨の型の三つの型に別れる。ただし、宮坂家は有名ではあるのだが、これは表の流派である。裏の流派については別の時に話すとしよう。

 爛が一輝に一の太刀・空の型で刀を振るうが一輝は今まで鍛え上げてきた身体能力でかわしていく。

 

「避けるの、上手いな。」

「いや、それでもギリギリさ。」

「俺の剣は見切れたのか?」

「ああ、見切った。」

 

 一輝は爛に刀を振るうが、その刀の軌道は爛が振るう剣術と同じ剣術であった。

 

「同じ軌道!?」

 

 観客席も、一輝が振るう刀の軌道が、爛の振るう刀の軌道と同じことに気付き、驚きの声をあげる。

 

(相手の剣の理を読み、その剣術の欠点を潰し、自分の霊装に最適化した剣術を繰り出す、か。)

 

 一輝は今まで誰にも教わることがなかったため、一輝には剣術がないと言ってよかった。だから、一輝は相手の剣の理を解き、自分の霊装に最適化させた剣術。それは相手の剣術の欠点を潰し、完全な上位互換を即席で作る、ということだ。ようは、相手の剣を見て、盗むということ。普通ならば、一輝のような発想にはならない。いや、なったとしてもやる人はいないに等しいであろう。しかし、一輝はその発想に至ることができ、それをやってのけたのだ。

 

「さすがだな。」

 

 爛は感嘆の声をあげる。一輝は刀を振り上げ、唐竹割りをし、刀を振るうが爛はこれを避け、振るったところに衝撃波が残る。

 

「これが僕の剣術、『模倣剣技(ブレイドスティール)』。」

「それは、厄介な剣術だな。」

 

 爛は刻雨を振るい、一輝の模倣剣技に対応する。一輝は、模倣剣技で刻雨を捉え、陰鉄を振るう。しかし、少しずつ押され始める一輝。

 

(剣の振るう速度が速い!)

 

 少しずつ、爛は剣を振るう速度を速くしているのだ。このままじゃ、ダメだと考えた一輝は、爛と距離を取る。

 

「切り札を切る!《一刀修羅(いっとうしゅら)》!」

 

 一輝から放たれるのは、可視化された魔力。これを見た爛は笑みをこぼす。

 

(まさか、ここまで来るとはな。)

 

 笑みをこぼした後、爛から放たれるのは、一輝と同じ可視化された魔力。その魔力は青く輝いており、まるで、宝石のサファイアを思わせる程の輝きであった。

 

「俺も切らせてもらう。《刹那ノ極(せつなのきわみ)》。」

 

 一輝と爛がぶつかり合う、二人の振るう刀の速度はほぼ見えないに等しい。事実、これを見て二人の刀が見えるのは、黒乃と寧々、そして香の三人のみ。

 

「何してるのか分からねぇ。あいつらFランクなのか?」

 

 観客席からは、二人のあり得ない動きにFランクなのか疑問を持つ人もいた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・」

 

 一輝は、息を切らしながらも、爛に対して陰鉄を振るう。爛は、陰鉄を捉え、刻雨で受け止める。そして、一輝が距離を取ると、膝をつき、肩で呼吸をする。

 

(ハンデ付だったら、黒乃に勝てるかな。)

 

 爛は、そんなことを考えながら、一輝に対して、刻雨を構える。

 

「参った。もう体が動かないよ。」

「そこまで!勝者、宮坂爛!」

 

 一輝がギブアップをすると、黒乃は試合を終了させ、爛の近くに行く。

 

「一輝だが、七星剣武祭の上位に食い込めるな。」 

「なら、七星剣武祭の三位までに入れば、卒業させるということにしますか。」

 

 爛は黒乃と話しを終えると、一輝のそばに行く。

 

「おう、大丈夫か?」

「何とか。」

「そうか。」

 

 爛は一輝を立たせ、部屋に戻るように言い、スマホを見ると、黒乃からのメールがあり、苦笑いをしながら、黒乃のところに戻る。

 

「まったく、面倒なことを俺にさせるか、普通。」

「師匠は授業に出なくてもいいじゃないですか。」

「これが俺じゃなかったら、職権乱用でアウトだぞ。」

 

 黒乃に言いたいことを言った爛は、一輝が居る部屋に戻る。部屋に戻る途中、爛はこんなことを呟いた。

 

「まさか、ヴァーミリオン皇国の皇女の送迎とはね・・・」

 

 ーーー第2話へーーー




結構時間がかかりましたが、第1話終了です!
第2話でお会いしましょう。それでは!


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第2話~ヴァーミリオン皇国の天才騎士~

第2話です!ここで、爛の呟いたことがわかります。それでは、どうぞ!


 一輝と爛の模擬戦の数日後、いつもの通り、朝練をしようとする一輝だが、爛がジャージを着るのではなく、何故かスーツを着ていた。

 

「爛?」

 

 一輝は、スーツを爛が着ていることに疑問を持ち、爛に聞く。

 

「悪い一輝。ちょっと黒乃からの頼まれ事があってな。朝練が出来ない。」

「そうなんだ。それで、爛の道具とかがないのが気になるけど。」

「あー、部屋移動でな、俺が隣の部屋になったんだ。」

 

 一輝は、爛が部屋を移動することに、少しだけこんなことを言った。

 

「って言うことだから、今度から入る人が僕らのルームメイトかな?」

「そうなんじゃないのか?それは分からないからな。もうすぐ時間だ。悪いな。」

 

 爛はそう言うと、部屋を出てしまう。一輝は、仕方ないと思い、朝練に励むことにした。

 爛が黒乃との待ち合わせ場所に行くと、待ちわびたかのように煙草を吸い、車に寄りかかっている黒乃が居た。

 

「今回は、よろしくお願いします。師匠(せんせい)。」

「どう考えても職権乱用だな。」

 

 と言いつつも、爛は高価な車の運転席に乗り込み、黒乃は助手席に乗り、車のドアが閉まったのを確認すると、爛は車を走らせる。普通ならば未成年でダメなのだが、学生騎士、魔導騎士では、十五で成人の扱いになる。そのため、車を運転できたりするのだ。

 

「部屋移動のことは言いましたか?」

「言った。今度来る人がルームメイトじゃないかって話しくらいしかしてないがな。」

「そうですか。」

 

 爛は車を運転しながら、黒乃と話しをする。爛は何故かため息をついた。この事に疑問を持った黒乃なのだが、今は聞かない方がいいと思い、聞くことはなかった。

 黒乃との世間話をしていると目的の場所に付き、黒乃と爛は、ヴァーミリオン皇国の皇女が来るまで車の中で待つことにした。

 

 目的の場所、空港から一人の少女が出ると、報道陣はその少女に迫る。しかし、SPがそれを阻み、近くには迫れず、それでも報道陣は負けじと迫り、その少女に質問を投げる。だが、その質問に答えることはなく、少女は高価な黒い車の中に乗り込む。それは黒乃と爛が乗っている車であった。

 

「やあ、ステラ・ヴァーミリオン。私は破軍学園の理事長、新宮寺黒乃だ。よろしくな。」

「よろしくお願いします。理事長先生。」

 

 ステラと呼ばれた少女は、ヴァーミリオン皇国の第二皇女、十年に一人が宿る潜在能力を持っている。いわば、Aランク(ばけもの)だ。爛は、ステラが乗ったのを確認すると、車を走らせる。爛は二人の話しを聞かないようにしているのだが、コソコソと話しているわけではないため、話しの内容が聞こえてしまうのだ。

 

「留学する理由はなんだ?」

「そうですね。あの国に居ると上を目指せなくなるからです。天才騎士という柵に捕らわれるからです。」

(柵・・・か)

 

 ステラが日本の学園に留学した理由を聞いた爛は、そうかもしれない、と思っていた。すると、爛には驚きのことをステラは口にする。

 

「それと、幼い時に、アタシの力の暴走を止めてくれた人に、会いたいからです。」

(そう言えば、そんなこと言ってたな。)

 

 なぜ、爛がこんなことを考えているのかと言うと、爛は修行の目的で、ヴァーミリオン皇国に来ていたのだ。その時に、あり得ない量の魔力を感じとり、感じた方に歩いていくと、力の発現に失敗したのか、少女が焼かれていたのだ。爛はすぐに封印の術式を施し、少女の魔力の制限を掛けた。爛が何故こんなことをしたのかと言うと、また、ここに来るだろうと思ったからである。この術式は少女が、この力を使いこなすようになると、術式が徐々になくなり、完全に使いこなすときには、術式が消えるようになる。しばらくすると、その少女を心配したのか、少女の父親が来たのだ。父親に少女に施した術式の事を話し、立ち去ろうとしたときに、父親から、何処の国の出身なのか聞かれた時に、『日本で会える。』と言い、自分の名前と、その少女の名前を聞き、去ったのだ。少女の名前はステラ・ヴァーミリオン。その名前をしっかりと焼き付けていた。

 

(まさか、こんなところで会えるなんてな。)

 

 爛はそんなことを思いながら集中し、破軍学園に車を走らせる。爛が車の運転に集中しているときに、ステラが車を運転している爛に疑問を持つ。

 

「彼、若くないですか?」

「まぁな。君と同じ学年で、私の師匠だ。」

「せ、師匠!?」

 

 黒乃の師に会い、しかも、黒乃より若い見た目をしている爛が、黒乃の師だと言うことに、ステラは驚く。

 

「ちなみに、彼の年齢は?」

「今年で十六で、まだ十五だったはずだ。」

「十五!?」

 

 爛の年齢について、驚きを持ってしまうステラであったが、爛は黒乃に対して、こんなことを思っていた。

 

(俺の名前まで出さないでくれよ。もし、ステラが知っていたら、大変なことになるからな。)

 

 こんなことを思っていたのだが、他人から見れば、別にどうだっていい話しなのだ。

 車を走らせ、破軍学園に着くと、ステラは学園の手続きに学園内に入っていった。

 

「はぁ、面倒だ。」

「面倒でもいいじゃないですか。」

「俺にとっちゃ困るな。」

 

 黒乃は、空港に向かっているときに、爛からステラのことを聞いたのだ。

 

「一輝は、アクシデントを起こしそうだし、そのときの仲裁役が俺だしな。」

 

 爛の思っていたことが、本当のことになるのは、まだ知らない。

 ところ変わって、一輝はいつも通りに朝練を済まし、一輝の部屋である、405号室のドアを開けると・・・

 

(あれ、誰か居たっけ?)

 

 405号室の玄関に誰かの靴があった。一輝が知っているなかでは、誰もいない。もし、間違えていたら、注意しようと思っていた一輝が、リビングに着くとそこには、着替えていた少女が居た。

 

 ーーー第3話へーーー

 




第2話終了です!原作沿いで頑張るのでよろしくお願いします。第3話でお会いしましょう。それでは!


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第3話~始まりはイレギュラーから~

第3話です!前書きで何を書いたらいいのか分からない状態ですが、UAが1000を越えました、ありがとうございます。それでは、どうぞ!


 ここは、理事長室。ここに、左頬に真っ赤な紅葉がある一輝と、ことの内容を知っている、爛と黒乃の三人が居た。

 

「いや、本当にアクシデントが起きるとは思ってなかったけどな~」

「呑気に言うことじゃないよね。」

「それは、あれだ。お前が悪い。」

「サラッと酷いね。」

 

 二人の話しを聞きながら煙草を吸っていた黒乃は、話しの中に入る。

 

「アホだな。お前。」

「理事長もいきなり酷いですよ!?」

「それもそうだろ。相手からすると、見知らぬ男性が入ってきて、いきなり服を脱いだんだぞ。誰だって悲鳴あげるよ、そりゃあ。」

 

 爛と黒乃から容赦ない物言いに、反論が出来なくなる一輝。

 

「まあ、黒鉄に非がある訳じゃないがな。」

「いや、ステラさんには悪いことをしたな~」

「ん、知ってるのか?」

「勿論、テレビで見てたし、ステラさんの能力の話しも知っているよ。」

 

 前に話したことだが、ステラは十年に一人が持つ力を持っている。その代わり、その能力を使いこなすには、それ相応の時間が必要になるが、使いこなせれば、相当の力の持ち主となる。

 

「まあ、彼女は才能と能力があるからな。それに破軍学園では、Aランク(ナンバーワン)だからな。能力が低くて留年した師匠(だれか)落第騎士(だれかさん)とは違ってな。」

「それ、俺も入ってるのか。」

「ほっといてください。」

「責任はとってもらおう、男の力を見せてやれ。」

「どうしてこんなときには、男が不利なのかな?」

「そうぼやくな。」

 

 黒乃と一輝が話していると、理事長室のドアがノックされ、黒乃が部屋の中にいれると、怒り心頭と言っていいくらいの形相で一輝を睨む。

 

「ごめんね、ステラさん。僕も驚いてしまって、煮るなり焼くなり好きにしてくれ。」

「潔いのね。なら、ーーー」

 

 ステラが言った言葉は、爛の頭の中にカチンとさせる言葉だった。

 

「ハラキリで許してあげるわ。」

「っ!?」

 

 これには一輝も驚いており、慌てて手を振る。

 

「いや、流石に腹切りは勘弁してよ!」

「ハラキリは日本男子では、名誉なんでしょ?本当なら死刑だけど、これで許してあげるの。」

 

 ステラが上から目線の言い方に、痺れを切らした爛が理事長室の机を叩く。

 

「腹切りが名誉だと・・・?」

「っ!?」

 

 爛から放たれる物凄い殺気に、ステラと一輝はおろか、理事長の黒乃さえ、一歩身を引いてしまう。

 

「ここが何処の国か分かって言ってるんだよな、ステラ・ヴァーミリオン・・・あんたの国じゃないんだよ。」

(すごい殺気だ。爛には見えない。)

 

 爛から放たれる殺気に、一輝は爛が別人のように見えた。

 

「自分の国と同じような言い方は止めてもらおうか・・・これ以上、それを止めないのなら、模擬戦であんたをボコボコにするぞ・・・」

 

 ここに居る誰よりも爛を見てきた黒乃だが、これほど、怒りを露にする爛を初めて見た。

 

「腹切りはな・・・命差し出せって言ってるようなもんなんだよ・・・俺はな、人を殺すような言い方は、嫌なんだよな・・・ましてや、一国の皇女が平気で人を死なせるような物言いをしたら、国の示しがつかないんじゃないのか・・・?」

(何!?このあり得ない量の魔力!?)

 

 ステラは自分に向けられている殺気と同時に、あり得ない量の魔力を向けられているのを感じ取っていた。

 

「どうなんだ、ステラ・ヴァーミリオン・・・」

「確かにそうだけど、いきなりドアが開いたら、彼が入ってきたのよ!?」

 

 ステラの言葉を聞いた爛は、怒りを露にしながら、黒乃の方に顔を向ける。

 

「おい、黒乃・・・あれほど言ったよな・・・相手に誤解を招くようなことはするなって・・・それが出来ないのなら、黒乃・・・お前を二度と戻れない空間に放り込むぞ・・・」

 

 黒乃には爛が悪魔のように見えているのだ。まるで、禁忌を犯した自分に、悪魔が制裁を下すような感覚に陥ってしまう寸前なのだ。

 

「はい、すみません・・・」

 

 黒乃が謝ると、爛は怒りを抑え、いつものように振る舞う。

 

「まあ、黒乃はあとでやるとして、まずはお二人さんからだな。久しぶりだな~初対面、いや、会ったことのある人に殺気を向けたことには。」

 

 爛は平気な顔をしているが、一輝とステラが、黒乃の方に顔を向けると黒乃は、冷や汗を思いっきりかいており、爛が改めて恐ろしいことを思い知らされることとなった二人であった。

 

「二人が言い争うのはわかった。黒乃。二人の部屋と、今後のことについて説明してやれ。」

「分かりました。」

 

 爛が黒乃に言うと黒乃は、一輝達の方に向き、しっかりと話す。

 

「黒鉄、ここは二人一寮なのは知っているよな。」

「勿論です。」

 

 黒乃は一輝に寮の人数の確認をとると、黒乃は当初のことについて話し出す。

 

「そして、何のためにここに来たのか・・・分かるよな?」

「破軍学園を立て直すため、ですよね。」

「あぁ、全国の学生騎士が集まり、日本一の学生騎士を目指す、武の祭典。『七星剣武祭(しちせいけんぶさい)』では、ここの学園は余り良い成績がない。ここ数年は優勝者0。それを立て直すために、私の選抜で選ばせてもらった奴も居る。」

「それが、俺ってわけ。」

 

 黒乃が、立て直しのために選んだ人材が自分だと、爛はそう言う。爛から見れば、自分に言わせたがっているようにしか、黒乃が見えないのだが。

 七星剣武祭とは、黒乃が説明した通り、日本全国の学生騎士が集まり、日本一の学生騎士を決める、武の祭典。破軍学園は前までは良い成績があり、優勝者も居たのだが、黒乃の前理事長は七星剣武祭の出場の資格をランク制にし、強制的に下のランクの人間が払われていった。まあ、そのせいでもあるのだが、数年は成績が振るわないのだ。優勝者も0。黒乃はそれを覆す為にここの理事長をしているわけだ。

 

「それで、黒鉄。私の方向はわかるな?」 

「ええ、完全な実力主義。なのは分かります。ですが、僕みたいな落第生に、Aランクの人が居ていいのですか?」

「ア、アンタ落第生なの!?」

「そうだよ。異能も身体能力強化だけだし、おまけに総合評価(ランク)もFだしね。」

「F!?」

「能力値もほとんどが最低ランク、退学ギリギリのところを保っている。黒鉄に付いた二つ名は落第騎士(ワーストワン)。」

「ワ、落第騎士(ワーストワン)。」

 

 一輝の質問に驚いたステラは、一輝が落第騎士なのを知り、さらに驚き、また、Fランクを知ると、驚きを通り越して、呆れが来るほど驚いていた。爛は頭をかきながら、ステラに話す。

 

「まぁ、その話しなんだがな、実際、俺もFランクなんよ。」

「アンタも!?理事長先生の選抜で来たのに!?」

「ま、ホントは違うけどな。」

「表向きは、黒鉄と同じ落第騎士だ。彼に付いた二つ名は、予測不能の騎士(ロスト・リール)。」

「表向きは?」

「これは彼が望んだことなんだ。」

「でも、こんなことは出来ないはず。」

「あー・・・ま、いいか。実際、俺は黒乃の師だ。」

「ウソっ!?」

「嘘じゃないしな~、それと、ステラ。まだ腕に術式は残ってるのか?」

 

 爛がステラに聞いてきたことに、ステラは何故こんなことを聞いてきたのか、そして、何故術式のことを知っているかと聞こうとするが、ステラは爛の話し方と聞き方にある、一つの答えにたどり着く。

 

「もしかして、アンタ。アタシの力の暴走を止めてくれたの?」

「正解。その術式は俺がお前に施した物だ。」

「事実、師匠(せんせい)はFランクなんかじゃない。Aランクを越えている。ましてや、Sランクでさえ、越えている。Mランク(マスターランク)なんて物があったら、師匠はそこまで行っている。」

「おい、俺はそこまで行ってないぞ。」

「師匠なら行ってます。」

 

 一輝とステラは、あり得ない話しを聞くことしかできず、ステラは自分の暴走を止めてくれた人が目の前に居ることに、驚いていた。

 

「話しが逸れたな。言うのが面倒だからな。簡潔に言おう。黒鉄もヴァーミリオンも部屋は間違えていない。君たちはルームメイトなんだよ。」

 

 黒乃から言われた言葉は、今までではおかしいと言えるほどだった。

 

「「え、」」

 

 ステラと一輝は、顔を見合わせ再び驚いた声をあげる。

 

「「えええええええええ!?」」

 

 ステラと一輝は驚き、理事長室の机を叩く。爛は呆れながら三人を見ており、黒乃は面白そうに見ていた。

 

「男女が同じ部屋だなんて聞いてない!」

「それは、私が入る前までの話しだ。」

「もし、間違いが起きたらどうするんですか!?」

「ほう、どんな間違いだ?」

「おい、黒乃。」

 

 黒乃は冗談だと言いつつ、煙草を吸う。爛はそろっと二人が同じ部屋という理由について、話しそうだなと思っていた。その予想はすぐに当たった。

 

「話し忘れていたが、二人が同じ部屋の組み合わせなのだが、それについては師匠から話してもらう。」

「丸投げは止めてもらいたかったな~ま、いいや。」

 

 爛は自分に来るとは思っていたかったため、言いたいことを黒乃に言い、真剣な表情になる。

 

「黒乃が言った通り、黒乃は実力主義だ。で、今回の場合は、同じ者同士だって言うのは知ってるよな。一輝。」

「うん。それで、僕とステラさんのことについては?」

「まあ、簡単に言ってしまえば、能力値の違い、一輝ほど劣った人間も居れば、その逆もあり得る。と言うわけで、一輝とステラが同じ部屋になったというわけ。」

「成る程。」

 

 一輝とステラが納得すると、ステラは一輝の方を向いて、人間には不可能な事を言う。

 

「部屋で暮らすなかで、この三つは守ってね。」

「え?」

「目を開けないこと、話しかけないこと、息をしないこと。それが出来たら暮らしてもいいわ。」

「せめて、息だけでもさせてよ!?多分その一輝君死んでるよね!?」

「嫌よ!アタシの吐いた息を嗅ぐつもりでしょ!」

「じゃあ口呼吸するから!」

「それも嫌よ!アタシの息を味わうつもりでしょ!この変態!」

「「はぁ~」」

 

 ステラの斜め上どころか、完全に真上に上がっている被害妄想に爛と黒乃はため息をつく。黒乃が何か思い付いたのか、言い合っている一輝とステラに案を出す。

 

「なら、こうしろ。騎士らしく力で決めようじゃないか。勝った方が部屋のルールを決める。それでいいな。」

「あ、それは公平で良いですね。」

「ハァ!?アンタ、自分が何言ったか分かってるの!?」

「自分では分かってるよ。」

「天才騎士でAランクの私と、落第騎士でFランクのアンタに勝てることがあるとでも?」

(あ、これはもう決まったな。)

「確かに。でも、やってみなくちゃ分からないじゃないか。」

 

 一輝の言っていることは、正しい。ただ、常人の考えでは、FランクとAランクの戦いでは確実にAランクが勝つという考え方を持っている。しかし、爛はこの戦いでは、一輝が勝つという考えを持っていた。

 一輝の言葉を聞いたステラは、頭にきたのか今後のことも考えてない事を言う。

 

「なら、ルール決めだけじゃないわよ。」

「え?」

「負けた方は勝った方に絶対服従!どんなに恥ずかしい命令であろうと、犬のように付き従うの、いいわね!」

「え、ちょっと!?」

「覚悟してなさい!」

「決まったな。」

「爛!?」

 

 ステラは、理事長室から出てしまい、残った三人は、ただ見てるだけだった。

 

「勝っても負けても嫌なんだろ?」

「ああ。」

「ただ、勝たなければ、お前の夢は達成されないぞ。」

「お前の言いたいことは分かる。だてにルームメイトをやってる訳じゃないし。でもこれは、勝ってこい。」

「分かった。」

「ギャフンと言わせてやれよ。」

 

 爛の言葉を最後まで聞くと、一輝は、理事長室から出ていった。

 

「今回のは面白そうだ。」

 

 そう呟く爛の考えは誰にも分からない。

 

 ーーー第4話へーーー

 

 




第4話終了です!模擬戦の時も4000字とか行きたいなぁって思ってます。それでは、第4話でお会いしましょう。それでは!


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第4話~落第と天才~

第4話です!あと、報告なのですが、UAが2000人を突破し、お気に入りが30件近くも・・・そして、1話のUAが1000人を越えました。(((((゜゜;)ありがとうございます!これからも頑張りますのでよろしくお願いします!それでは、どうぞ!


 突如、理事長室で決まった模擬戦。『落第騎士(ワーストワン)』黒鉄一輝対『紅蓮の皇女』ステラ・ヴァーミリオンがぶつかり合う。この模擬戦はすぐに、学園中に広がった。一輝と爛、理事長の黒乃は先に第四訓練場に居た。

 

「よし、そのコンディションだったら大丈夫だ。しっかりやれよ。」

「ああ。」

 

 爛は一輝を励ますと脚に力を溜め、跳躍し席に座る。会場の設定をしながら、それを見ていた黒乃は少し、ため息をつく。

 

師匠(せんせい)は本当に面倒くさがるな。」

「そこが、逆に長所になるんじゃないんですか?」

「まあな、それと、本当に受けるとは思わなかったぞ。」

「いずれ、戦うことになりますし、彼女もそして、彼も必ず選抜戦にも出るし、七星剣武祭にも出る。戦うのが遅いか速いかですよ。それに、僕は勝たなくちゃいけない。七星剣武祭で3位以内に入れたら、能力値が低くても卒業資格は与えてやると言ったのは貴方ですよ。」

「勝つ・・・か。彼女は強いぞ?」

「でも、負けられませんから、彼に参ったと言わせるには、彼女には簡単に勝たないといけないから。」

 

 一輝と爛の卒業資格。七星剣武祭で3位以内に入れたら、卒業が出来るというもの。爛にとってはそれの方がやる気が出ると言い、それを受け付けた。だが、一輝にとっては、自分が3位以内に入れるのかどうか、凄く悩んでいたのだが、爛が背中を押してくれたことにより、一輝もそれを受け付けたのだ。

 ところ変わり、観客席のところでは、爛は席に座っていたのだが、そこに近寄る二つの影があった。

 

「お隣、良いですか?」

「どうぞ~って、まさか姉妹で来るとは思ってなかったな~」

 

 爛の近くに来たのは、校内序列(ランク)一位の二人。『雷切(らいきり)』の異名を持つ双子の姉。『東堂刀華(とうどうとうか)』。『麒麟(きりん)』の異名を持ち、刀華の妹である、『東堂愛華(とうどうあいか)』。二人は、爛が住んでいるところの遠い親戚であり、爛が小さいときにたまに二人と遊んだそうだ。爛曰く、『遊びって言っても、剣を一緒に振るったりしただけだ。』とのこと。

 

「まぁ、爛くんの事を見に来ただけだからね。」

「ふーん、てっきり、泡沫がくるんじゃないかって思ってたけどな。」

「うた君もそうだけどね。本当は爛君にあることを言いに来たんだ。」

「何だ?刀華。」

「ーーーーーーーーーーー。」

「はいはい、分かった、相手してやる。」

「やったー、ありがと、爛君。」

(刀華があんなになるのは、久しぶりだっけな。)

 

 刀華と爛の話しは、刀華と爛、そして、妹の愛華しか分からない。一輝のところを見やり、愛華は爛に話す。

 

「あれが、爛くんの認めた人・・・」

「まぁ、お前たちだったら仲良く出来るんじゃないのか?」

「そうかもね。いつか、戦えるかな?」

「速ければ選抜戦で戦える、一輝も出るからな。」

 

 それを話したあと、準備運動をしている一輝を見ていると、ふと、愛華が話す。

 

「爛くん。」

「ん?」

「何で、Fランクなの?」

「まぁ、気になるわな。」

 

 爛は少し考え込み、ため息をつくと、一輝を見ながら、話し始める。

 

「Fランクのことについて、ちょっとだけ・・・な。」

「今じゃダメってことね。」

「そうなるな。悪いな、迷惑掛けちまって。」

 

 刀華や愛華からすると、爛がFランクだということに、疑問を持つのだ。実際、二人は爛と剣を交えたことがある。結果、二人の完敗。しかも爛は、異能を使わずに、剣術だけで二人を倒したのだ。能力値が高いとなると、爛はBランク、自分達と同じか、一番高いAランクになると思っていたのだ。しかし、爛はFランク、何かがあると思い、爛に話しかけたのだ。

 

「ま、仕方ないか。」

 

 刀華は仕方ないと思い、一輝の方を見る。しばらくすると、ステラが出てくる。

 

「やぁ、ステラさん、準備はいいかい?」

「噂は聞いたわ。アンタ、能力値が低くて留学したそうね。魔導騎士を目指すのを諦めた方が身のためだと思うわ。」

「確かにそうだね。でも、この試合は止めないよ。」

「アンタも『努力すれば才能に勝てる』口かしら?」

「そうありたいとは思っているよ。」

 

 努力すれば才能に勝てる。ステラは良く聞いてきた言葉だ。結果的に皆、口を揃えてこう言う。『努力しても才能には勝てない』と。ステラにとっては嫌なことだった。自分はここまで力を手に入れるのに努力をしてきた。だが、周りの人達は才能しか見なかった。努力はいつも影に隠れるもの。ステラはこの事に嫌気が差していた。ステラは小さく呟く。

 

「まるでこっちが、努力してないみたいじゃない。」

「え?」

「何でもないわ。さ、始めましょ理事長先生。」

「では、これより模擬戦を始める。分かってるとは思うが模擬戦は肉体的ダメージを与えず、体力だけを削ぐ。」

 

 黒乃の説明が終わると、二人の立っているところに特殊フィールドが出来る。

 

「来てくれ、『陰鉄(いんてつ)』!」

「傅きなさい、『妃竜の罪剣(レーヴァテイン)』!」

 

 一輝が顕現するのは、鋼の太刀。ステラが顕現するのは、黄金の大剣。リーチで言えば、ステラが有利、取り回しなどで言えば、一輝の方が有利なのだが、それは重さなどを含んだときであり、固有霊装(デバイス)は重さなどを無視できるため、どれが有利かはしっかりとは言えない。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 試合が開始されると、駆け出したのはステラ。『妃竜の罪剣』に炎を纏わせ、一輝を唐竹割りで斬ろうとする。短期決戦で決着をつけようと考えたのだ。一輝は、それを防ごうとするが、不味いと思い、後ろに退く。

 

「いい判断ね。私の『妃竜の息吹(ドラゴンブレス)』は摂氏3000度。触れたらただじゃ済まないわよ!」

 

 一気に畳み掛けるステラ。一輝は反撃をするわけでもなく、防御に徹していた。この状況になるのは、分かっていた。まだ、切り札を切るつもりはない。なら、一輝がやることは一つだった。一輝は一度後退し、ステラに向かって走る。

 

「真正面から向かってくるなんてね。その自信、叩き斬ってあげる!」

 

 そう言いながら、霊装を振るうステラ。一輝はそれを紙一重で避けながら、陰鉄を振るう。しかし、それは防がれ、陰鉄が止められてしまう。しかし、一輝にとっては想定の範囲内だった。それを見た爛はこんなことを言った。

 

「これで、ステラの負けは決まったかな。」

「端から見れば、ステラさんの有利に見えるけど?」

「百聞は一見にしかず、ってな。あいつの力の一端が見れるかもな。」

 

 爛は微笑みながら、一輝を見る。 刀華と愛華は不思議に思いながら一輝とステラを見る。

 一輝とステラの剣の対決は、どう見てもステラが有利と見えるが、ステラは自身の剣から伝わる手応えは軽く、そこから導き出される答えは一つだった。

 

(受け流してる!?アタシの剣を!?)

 

 ステラは受け流されなかった自身の剣が、受け流していることに驚いた。剣を受け流すのは、高等技術なのだ。簡単には出来ないのだが、爛は、一輝の剣。相手の剣をすべてを受けず後ろに退く、逃げの剣。それが一輝の剣なのだ。爛は、それを利用して、受け流すことで、逃げの剣でも、攻めの剣にもなるようにしたということ。一輝は、ステラの剣におされ、後退する。

 

「どうやら、逃げるのは上手いようね。」

「いや、と言ってもギリギリだよ。ステラさんが磨きあげてきた剣術。感じるよ、凄い努力だ。」

 

 一輝にこの事を言われたステラは、少し驚く。そして平静を保ちながら話す。

 

「なかなか目がいいのね。でも、そんなので見切れるほど、アタシの剣はお安くないわよ!」

「いや、もう見切った。」

 

 一輝が攻勢に出た時に振るわれた剣。これはステラの剣にそっくりだった。これには試合を見ている刀華と愛華も驚く。

 

「凄いね。相手の剣を模倣するだなんて。」

「模倣だけじゃない。相手の剣の欠点まで潰すからな。相手の剣より、引き出しの数が多いのさ。これを打ち破るには、それと同等の剣か、それより上の剣。後は速さでなんとかするしかないな。」

 

 爛たちが話しているなか、一輝の方は・・・

 

「アタシの剣、何でアンタがそれを?」

 

 ステラは、自分の剣を模倣されていることに驚き、一輝との距離を取る。

 

「どうして、アタシの剣を・・・まさか、この試合で盗んだって言うの!?」

「僕は誰にも教えられなかったから、こう言うのばかりは得意になっちゃってね!」

 

 そう言いながら、ステラに剣を振るう一輝。ステラは自分と同じ剣でありながらも、即席で作られているにも関わらず、押されていく。それは、ステラの剣と、一輝の剣とでは、同じ剣術ではあるが、質と引き出しの量が、一輝の方が上なのだ。一輝はステラより、ステラの使う剣術、『皇室剣技(インペリアルアーツ)』の力を理解していると言っていい。一輝が振るった剣を受けながら、後ろに下がるステラ。爛は、ステラの使う皇室剣技の簡単な力はもう見えていた。

 

「なるほどな。」

「どうしたの?」

「ステラが振るっていた剣技だが、ありゃ間違ってるな。」

「どう言うこと?」

「皇室剣技。これは、相手に攻撃をさせない技だ。取り回しのいい一輝のような霊装の方が使いやすさはあるだろうな。自分の霊装と合ってない剣技は、自分の体に相当の負担を強いる。俺も一撃必殺を要にしている剣技を使ったけど、俺には合わない。一撃必殺の剣技は重い武器の剣技だ。重さを無視できるって言うのが裏目に出たな。ただ、剣技でステラが勝ったとしても、いつの間にか知らず知らずに疲れが溜まっていくはずだ。ステラはもう少し、多様性のある剣技だったらな。」

 

 爛は、ステラの使っている剣技の力を見、ステラに見えない疲れが溜まっていると見た。彼女が疲れてないと言っても、いざと言うときに体が動かなくなると思っていた。これには、爛の話しを聞いていた二人も納得する。事実、爛は二人の使う剣技を読み取り、メリットとデメリットを挙げ、デメリットの改善にも協力し、二人の剣の腕を上げていたのだ。それが出来る理由としては、彼がどれだけ剣にこだわっているかである。彼は、さまざまな剣技を自分で試したり、その剣技の特性などを学んでいたのだ。彼が学んだ量は、ちょっとやそっとじゃない。数えたら切りがない量の数を学んでいたのだ。普通なら脳がオーバーヒートするのだが、彼は自身の異能で補ったのだ。

 一輝の方では、一輝が陰鉄を振り上げ、ステラのガードも壊すつもりで降り下ろしたが、ステラは防ぐことはせず、後退した。

 

「これが僕の剣技、模倣剣技(ブレイドスティール)。」

(見切ったですって?ならフェイントで!)

 

 ステラは、一輝に剣を振るうと見せかけ、一輝が剣を右に振るうと、体勢を低くし、一輝の剣をやり過ごし、剣を振るう。しかし・・・

 

「太刀筋が寝ぼけているよ。」

「なっ!?」

 

 そう言いながら、ステラの剣を止める。止めたところは、陰鉄の柄の部分。この事にステラは驚く。どれだけの動体視力があるのかと聞きたくなるほどに。

 

「こんなのは君の剣じゃない。この曲げた剣は致命的だ!」

 

 一輝は、無理矢理陰鉄を押しやり、ステラの妃竜の罪剣を弾き、ステラの右肩に陰鉄を振るう。

 

 ーーー第5話へーーー

 




第4話終了です!さすがに5000字以上は読む方も大変なので、分けさせてもらいました。それに、独自解釈入りましたね。第5話でお会いしましょう。それでは!


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第5話~一輝の実力~

第5話です!文の途中で中二病が発動しているので、生暖かい目で読んでください。それでは、どうぞ!


 ステラの右肩に降り下ろされた陰鉄。しかし、斬ることは叶わず、止められてしまう。完全に油断した状況で、防御に集中することは無理と言っていいのだが、一輝の陰鉄は何かに遮られた。それは、ステラが纏っている魔力の壁に。それでさえ、斬ることの出来ない理由は簡単なことなのだ。

 

「駄目だったか。」

 

 一輝の魔力の量が少ないのだ。総魔力量は各々の運命の力と比例するという説がまかり通っているのだ。同じように一輝は、魔力量が少ないため、魔力を自身に纏っているステラを斬ることは出来ないのだ。魔力の壁を打ち破るにはその魔力より、上回っている魔力でなければ打ち破ることは出来ない。ステラの周りにある魔力は可視化されており、その魔力は削がれた部分を補修していた。剣術は一輝が勝っているが、一輝からすれば、完全に魔力が少ないという壁を越えて勝たなければ、本当の勝ちとは言わないだろう。

 

「カッコ悪いわね。こんな勝ち方なんて。」

「陰鉄が君を斬れないと分かっていたんだね。その上で剣撃を挑んだ。」

「ええ、剣でアンタに勝って、アタシが才能だけの人間じゃないことを教えるためにね。でも、認めてあげるわ。アタシは才能のお陰で上がってきたと。だから、最大の敬意を持って、倒してあげる。蒼天を穿て、煉獄の焔!」

 

 ステラを囲むように出来たところに、魔力が集中し、そこから出てきたのは、炎を纏った竜だった。そして、第四訓練場の天井を突き破り、ステラに光が差し込む。それは、ただの炎ではなく、太陽の輝きを思わせる光だった。これだけの力を使うには、大量の魔力を消費するにも関わらず、平然とやってのけるステラに、爛たちは驚く様子もなく見ていた。

 

「あれだけの奴は、久しぶりに見るな。」

「天井を軽々と壊すなんて、デタラメな力だね。」

「それを平然とやるのがAランク(ばけもの)でしょ。」

「それでも、爛君には敵わないけどね。」

「それは無いだろ。」

「いや、爛くんならあり得るけどね。一輝くんは、どうするかな?」

「あいつはあいつなりに戦う。逃げるなんてことはしないだろ。」

 

 ステラは妃竜の罪剣を振り上げ、そこに魔力を集中させる。一輝は逃げることなくステラを見ていた。

 

「確かに、僕には魔導騎士の才能はない。でも、退けないんだ。僕の誓いは曲げることは出来ない。いや、誰にも曲げられない。彼との約束のためにも。彼と対等に戦うためには、逃げることなんて出来ないし、負けることなんて許されない。彼を越えるには、Aランクには簡単に勝たないとなんだ。」

 

 自分が誰よりも劣っているなんて承知の上なのだ。自分よりも上の存在の彼が、どれだけ自分が来るのを待っていることか。彼がどれだけ自分を期待してくれているのか、自分は、彼の期待に応えなければいけない。彼が待っている領域へと進まなければならない。彼と、全力で勝負をするために。だからこそ、先ずは彼女を越えなければならない。全てを越えた先に、彼は待っている。どれだけ周りから自分のことを彼に言われているかも分からない状況だが、彼はそれでも、自分の近くにいた。彼自身、自分と戦うのを望んでいるのかもしれない。彼が『鬼神』とするならば、自分は『鬼神』を喰らう『戦鬼』へと、変わらなければならない。自分を待つ、黒鉄一輝という自分を待つ彼のもとに、宮坂爛のもとに行かなければならない。そして、『鬼神』を喰らった先に、自分が望む世界が待っているのかもしれない。それは長く、辛い道なのも知っている。まだ、スタートラインにやっと立ったことも。戻るなんてことはしない。背くなんてことはしない。ただ、前に進むだけの道しかない。なら、自分は走ればいい。走り続ければ。

 

「《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》!!」

 

 ステラの意とともに、飲み込まんとする竜が一輝に向かう。一輝は、避けることをせず、陰鉄の切っ先をステラに向けていた。

 

「だから考えた。最弱が最強に勝つためにはどうしたらいいか。そして、至った。《一刀修羅(いっとうしゅら)》!」

 

 一輝から、可視化された魔力が一輝を包む。しかし、ステラにとってはそんなことはどうでもよかったのだ。何故ならば、もうこのフィールド全てが、ステラの《天壌焼き焦がす竜王の焔》の射程内だからだ。全てを飲み込み、焼き焦がす。それは正に、竜王の炎と言って良かった。炎の竜が一輝を飲み込む瞬間、一輝が消える。ステラは、感じていた気配が、いきなり消えたことに疑問を持ち、周囲を警戒していると、気配を感じ取った先には、一輝が居たのだ。ステラは一輝の居るところに、《天壌焼き焦がす竜王の焔》を振るうが、一輝は、またしても姿を消し、避けている。そしてステラは、一輝の魔力が上がっていることに気づく。上がることはない魔力が上がっていることに驚いたステラは、そのまま、口にする。

 

「あり得ない!魔力も上がってる!?」

「上がったんじゃない。なりふり構わず『全力』で使っているんだ!」

「だからって!そんなに上がることはないじゃない!」

 

 ステラが一輝の魔力を感じ取っているが、その量は、一輝の元々持っている魔力の2倍を感じ取っているのだ。それに、これだけの魔力を身体能力に割いているため、制限時間がついてもおかしくないのだが、一輝は、ステラが驚く言葉を言う。

 

「僕は疑問に思ったんだ。全力は使うことができない。なら、文字通りの全力が使えたらどうかなって。」

「っ!アンタまさか!」

「思っている通りだ。僕は『生存本能(リミッター)』に手を掛けているんだよ!」

 

 全力は、全ての力を使うこと。しかし、人は全力を使うことは出来ない。それはなぜか?生存本能がそれを邪魔しているから。人は精々、30%しか、力を出すことしか出来ない。稀に『火事場の馬鹿力』が起きるときがあるが、それは、生命の危機に陥ったときに、自然と発動するのだ。常人が生存本能を解放したのなら、その負荷に耐えきれず、重傷を負ったり、最悪の場合、死に至ることもあるのだ。一輝はそこに目をつけ、もし、意図的に生存本能が解放出来たのならと考えたのだ。制限時間はつくものの、誰にも負けないための、最弱(さいきょう)伐刀絶技(ノウブルアーツ)。一輝は迫り来る炎を避けながら、ステラに向かって走る。そして、力強く跳躍をする。跳躍した先には、ステラが居る。一輝は陰鉄を構え、降り下ろせるようにしている。

 

「僕の最弱(さいきょう)を以て、君の最強を打ち破る!」

 

 一輝は陰鉄をステラの左肩から、斜めに斬るように振るう。模擬戦なので、ステラの体を斬ることはなく、魔力の壁だけを斬っていった。ステラは、模擬戦で致命傷を受けたときに起きる、ブラックアウトでその場に倒れる。一輝は纏っていた魔力を解除する。

 

「凡人が天才に勝つためには、修羅になるしかないんだ。」 

「そこまで!勝者、黒鉄一輝!」

 

 これを見ていた観客のほとんどは、驚くことだろう。Fランクの人間が、Aランクに勝つことに。爛は笑みを浮かべながら、それを見ていた。

 

「ん、じゃあ一輝のところに行くとするかな。あ、そうだ。刀華、明日いつ頃出ればいいんだ?」

「お昼頃で。」

「了解。じゃあな。」

 

 爛は、そう言いながら跳躍し、一輝のいるフィールドに降り立つ。刀華と愛華は席を立ち、戻っていった。

 

「お疲れさん。いい戦いだったな。」

「いや、そんなことはないよ。」

「謙遜すんなって、刀華と愛華だって、戦いたい顔をしていたからな。」

 

 二人が話していると、そこに救護班が来て、ステラを運んでいった。すると爛のスマホの着信音がなり、スマホを見ると、それは黒乃からの頼み事だった。

 

「どうしたんだい?」

「あー、ちょっとな。ステラのところに行けとな。目覚めるのは夕方くらいだしな。一輝も部屋に戻って体を休めろよ。」

「分かったよ。」

 

 一輝は、一刀修羅を使った反動で、筋肉痛も起きているだろうと思い、休めと促す。爛は、何で時間を潰すか考えながら歩いていた。

 夕方になり、ステラの居る部屋に入ると、ステラは起きており、外を眺めていた。

 

「おう、起きてたんだな。」

「アンタは・・・」

「話してなかったな。俺は宮坂爛。黒乃の師であって、一輝のルームメイトであり、お前さんの腕の術式を着けた人間だ。」

「そうだったのね。ありがとう、アタシの暴走を止めてくれて。」

「いや、大丈夫だ。俺自身、ステラのような奴に会うことはなかったしな。」

 

 素直に礼を言うステラを見て、爛は少し照れくさそうに話す。

 

「それで、どうしてここに?」

「黒乃から、行けって言われてな。」

 

 どうしてここに来たのか問いただすと、理事長の黒乃が言ったことに苦笑する。すると、爛が思い出したかのようにステラに聞いてくる。

 

「そう言えば、腕の術式はどんな感じだ?」

「まだ残ってるわ。使いこなせていないってことね。」

「ん~、いや、それはないな。ステラの本当の能力に気づいているのは俺だけじゃ無さそうだしな。ま、ステラを鍛えてくれる奴は、居るからな。」

「アタシの力は、本当の力じゃない?」

「それに関しては、もう少し、時が経ってからだな。」

 

 ステラは、爛が言ったことに疑問を持ったが、それよりは一輝のことを聞くために、爛に話し掛ける。

 

「ねぇ、イッキのことなんだけど・・・あれでFランクなのは、おかしくないの?」

「やっぱり、そう見えるか。」

「?」

「俺と一輝は、模擬戦をしたことがあるし、それなりに剣を交えてるしな。ステラの言っていることも間違いじゃない。」

「だったら・・・」

 

 ステラが一輝のことを聞いたのは、自分を破った人間なのに、Fランクということだ。あれだけの力を持っているのなら、Fランクではないはずだと、ステラはそう思ったのだ。しかし、爛はそれを打ち消すかのように、ステラに話す。

 

「現に、あいつの力は測れるもんじゃない。あいつは、常識を打ち破ってる。常識では考えられないところまで行ってることもあるんだ。一輝の考え方も、戦い方もな。」

 

 爛から言われたことに、ステラは顔を俯かせる。一輝は、常識では到底考えられない領域まで行っていることに。

 

「とりあえず、あいつの背中を追ってみることだな。それは、お前にとっては、いいことに繋がるはずだからな。」

 

 爛はステラに、留学してきたことの目標を新たに作るように言う。

 

「ええ、そうしてみるわ。」

 

 爛はステラから発せられた言葉に、笑みを浮かべながら、部屋から出ようとすると、何かを思い出したのか、ステラの方に振り向く。

 

「一つだけ言っとく。これから、ステラが来たことを祝うから、一輝とお前の部屋、405号室で待ってるといい。俺が呼びにいくからな。」

 

 そう言い、部屋から出ていく。ステラは、破軍学園の制服に着替え、部屋を出ていく。

 

「ん~と、カレーで良いかな。」

 

 爛は、今日の夕食を考え、買い出しに出掛ける。買う量は、ステラがどれだけ食べるのかと考え、沢山食べてもいいように、いつもより多く物をかごの中に入れているときに、彼の近くに行く人物がいた。

 

「爛か?」

 

 爛に話しかけた相手は一体・・・

 

 ーーー第6話へーーー

 




第5話終了です!第4話での刀華と爛の話しは、第6話辺りで書きたいと思います。第6話でお会いしましょう。それでは!


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第6話~入学式~

第6話です!爛に話しかけた相手は一体・・・そして、すみません!m(__)m文字数の問題で模擬戦は次に引き延ばしです。本当にすみません!


 爛に話しかけた相手は、伐刀者(ブレイザー)なら、誰もが知っている人物だった。

 

「あれ、父さん。」

「やっぱり爛か。学園生活はどうだ?」

「まあまあ、かな。」

「そうか。調子を聞きに来ただけなんでな、俺は戻る。」

「それじゃあ。」

 

 爛に話しかけたのは、爛の父である、『宮坂双木(なみき)』。二つ名は『天剣の騎士(オーバーロード)』圧倒的な魔力の量と剣術で、KOKリーグで東洋最強と謳われた『夜叉姫』の西京寧々よりも強く、寧々達が魔力制御等、様々なことに悩みだし、頼みの綱として、双木のところに行き、双木は爛と模擬戦をし、勝った者が教えてやると言い、寧々達は爛と模擬戦をするが、結果は完敗。それも、爛一人で戦っているのだが、寧々は黒乃と組んでいるのだ。それは、双木が二人がかりでも大変だと言って、試したのだ。しかし、爛は二人の予想を超えた力を持っていたのだ。負けてしまった二人は、双木からヒントを聞くことができなかったが、爛と師弟関係になったのだ。寧々も不得意の魔力制御を重点的に底上げし、今では、『覇道天星』をしっかりと操れるようになったのだ。

 双木はスポーツドリンクを持って会計に向かっていった。すると爛は、こんなことを呟く。

 

「それだけだよな、父さん・・・」

 

 双木は忘れがちなことが多いのだ。それを知っている爛は心配をする。

 買い出しが終わり、部屋の中に入り、カレーを作っていた。

 

「よし、これでいいな。」

 

 鍋に蓋をし、部屋を出てた爛。鍵を閉め、一輝とステラの部屋に入る。

 

「よう、二人とも。」

「あれ?爛は何か用?」

「あれのことね。」

「その通りだ。一輝には言ってなかったな。ステラの歓迎会をな。」

「あ~成る程ね。それじゃ、爛の部屋に行こうか。」

 

 一輝の言葉にそれぞれ頷き、部屋から出て、爛の部屋に行く。二人をソファに座らせ、飲み物とカレーを用意する。

 

「あ、カレーなんだね。」

「ん?どうかしたか?」

「いや、僕の好みだからね。嬉しいんだ。」

「そうか。それは良かった。」

「ランは料理とか、得意なの?」

 

 ステラに聞かれると、爛は少し苦笑いをし、答える。

 

「まあ、家の母さんが俺に家事のことを叩き込んだからね・・・」

「それは大変ね・・・」

「ま、そろそろ食べるか。冷めない内に召し上がれ。」

「「いただきます。」」

 

 一輝とステラは、爛の作ったカレーを食べると、二人とも笑顔を見せる。

 

「美味しいよ、これだけ美味しいカレーは食べたことがない。」

「ははは、そんな大袈裟に言わなくても良いぞ。」

「でも、イッキの言ってることは分かるわ。アタシも同じこと思ってたしね。」

「そう言うなら、素直に受け取っておこうか。」

 

 爛もカレーを食べ始める。そして、少し時間が経ったとき、爛が思い出したかのように二人に話す。

 

「明日、東堂姉妹との模擬戦、見に来るか?」

「どうして、二人と模擬戦を?」

「まあ、二人がもう一度俺の力を見てみたいってな。明日の昼頃からだからな。」

「東堂姉妹?」

「ステラは来たばかりだから分からないよな。東堂姉妹は、破軍学園最強と呼ばれているし、二人とも七星剣武祭のベスト4に入ってる。でも、ステラ辺りなら勝てるんじゃないかな。」

「成る程ね。ランクは?」

「Bランクだ。」

「それくらいなら、アタシも勝てそうね。」

 

 そう言いながら、胸を張るステラ。二人は、それを見ていたのだが、それよりステラに言いたいことがあったのだ。

 

「それはそうとして、ステラさん、カレーの量多くない?」

「え、これが普通よ。」

「明らかに常人が食べる量じゃないんだが・・・」

「?」

 

 ステラが食べているのは、常人が食べる何倍もの量のカレーだ。それこそ、食べる量で言えば、『測定不可能(ダウジングオーバー)』なんて二つ名をステラに付けられそうで、ある意味怖いのだ。ステラは女性の誰もが理想とする『食べれば育つ』をやっているようなものなのだ。こんな話をすると、全世界の女性がステラの敵になりそうで怖いのだ。仲間は居るだろう、爛の知っているなかで一人だけ、同じようなことをやっている人物が居るからだ。

 

「まあいいか。来るのか?」

「勿論行くよ。」

「そうか。」

「アタシも行かせてもらうわ。ランの実力を見てみたいもの。」

「おーおー、期待に添えるよう頑張らないとな。それより一輝、模擬戦の後の話しは終わったか?」

「勿論、終わったよ。」

「そりゃ良かった。」

「ごちそうさま。」

「お、終わったか。流しの方に出しといてくれ。」

「分かったわ。」

 

 ステラが食べ終わると、流しの方に向かい、皿を出す。ステラが戻ってくると一輝は、こんなことを言ってくる。

 

「ステラさんも、朝練どうかな?」

「呼び捨てで構わないのだけれど・・・アタシもやることにするわ。」

「決まりだな。さて、明日のためにも体を休めるかな。」

「それじゃあ、僕たちは部屋に戻るとするよ。」

「ありがとね、ラン。」

「ああ、また明日。」

 

 一輝とステラが自分の部屋に戻ると、爛は食べたものの片付け、風呂に入る。

 

「はぁ~やっぱり風呂はいいよね~」

 

 爛は体を洗い、湯船に浸かっていた体を起こし、風呂からでる。寝間着に着替え、すぐさまベッドに入る爛。そのまま、眠りに入る。

 

 次の日の朝。いつも通りの時間に起きた爛は、ジャージに着替え、部屋を出ると一輝が、ステラを待っているのか、部屋の前に居た。

 

「おはよう一輝。ステラ待ちか?」

「おはよう爛。その通りだよ。」

 

 爛と一輝が、今日の爛が出る模擬戦のことについて話していると、ステラが部屋の中から出てきた。

 

「おはようイッキ、ラン。いつも早いのね。」

「おはよう、ステラ。まあ、いつもはこれくらいだよな。」

「そうだね。おはようステラ。早速朝練をしようか。」

 

 朝練に励むことにした三人は、爛は自分がいつもやっているメニューでやるが、二人は一輝がやっているメニューでやっている。一輝とステラは、25㎞のランニング。爛は、50㎞をダッシュでやっている。そこに加えて魔力を少しずつ放出しているので、かなりの負担になるのだが、爛はそれをやっているのだ。一輝もやってみたのだが、かなりの負担に倒れる勢いだったのだ。そして、二人が25㎞のランニングを終える頃には、爛は自身の霊装を振るっているのだ。

 

「おう、お疲れ一輝。」

「爛はいつも速いね。」

「そうか?ステラはどうした?」

「バテてる。」

「あ~成る程。」

 

 一輝も自身の霊装を顕現し、爛と剣を振るう。普通ならば霊装を顕現させるためには、学園の理事長である黒乃に許可を取らなければならないとだが、黒乃は自分の師ならば、その権限も同じようにあると爛に言い、霊装の顕現を一輝達に出したのだ。少ししている間に、ステラが戻ってきた。

 

「ハァハァ・・・」

「お疲れステラ。大変か?」

「これくらい、大丈夫よ・・・」

「無理したらダメだよ。」

「と、言ってるけど、一輝が。」

「じゃあ、ちょっとだけ・・・」

 

 ステラをベンチに座らせ、スポーツドリンクを渡すと、それを一気に飲み、水分を補給する。

 

「ありがと。助かったわ。」

「無理すんなよ。」

 

 ステラは息を整えると、自身の霊装を顕現させ、一輝に振るう。一輝も陰鉄を振るい、襲いかかる刃を退けていく。爛はそれを見ながら、黒乃に渡された物、黒乃が愛用で吸っている煙草を吸っていた。普通ならば未成年である爛は吸うことができないのだが、十五で成人扱いされることを利用し、煙草を吸っているのだ。

 

「ふぅ、二人の剣を間近で見るのはいいな。」

 

 そう言いながら、携帯用灰皿に吸殻を落とし、また口にくわえる。

 

「終わりにしようか。」

「そうね。」

 

 一輝が霊装を解除すると、ステラもそれに習い、霊装を解除する。そこに爛は、スポーツドリンクを二人に投げる。

 

「お疲れ様。どうだ?もう一度相手の剣を見て。」

「やっぱり、剣を盗むことができるのは厄介よね。」

「僕的には、ステラの霊装自体が厄介だと思うな。」

「剣を盗むことができるイッキがそんなこと言えないと思うわ。」

「それ、言い過ぎだと思うな。」

「ところで、爛。煙草を吸ってるけど、どうしたの?」

 

 爛が煙草を吸っているところは、初めて見たのだ。一輝からすると、何故煙草を吸っているのか、気になるのだ。

 

「あ~、これね。黒乃が俺に渡した奴。十五で成人扱いされる俺達は、運転とか出来るわけだしね。」

「成る程ね。」

 

 三人はそのまま、学園内に戻ろうとするが、あるものを見ると、爛がふと口にする。

 

「もう、1年か。」

「速いね。1年って。」

 

 そこには、入学式・始業式と書かれたプレート。二人、いや、一輝にとっては1年。爛にとっては数ヶ月なのだが、半年ほど破軍学園に居たのだ。

 

「もう、新入生か・・・お前のところの妹が来るのか。」

「そうだね。爛の言っていた妹も?」

「ああ、そうだな。」

「そうなのね。」

「そうだステラ。『無の火力(レミントン)』って知ってるか?」

「カオリさんのこと?」

「学園の教師なんだが。」

「なんで教えてくれなかったの!?」

「いや、俺の姉に興味を持つ奴が居るのか気になるし、俺の母さんが、お前のことについて言ってたしね。」

「カオリさんの弟なの!?」

「ああ。」

 

 ステラは香のファンなのだ。爛自体、香にファンが居るのかどうか聞きたくなるのだが、香はそんなことを気にしないため、ファンが居ることは分からないのだ。香の能力については、後々話すことにしよう。

 ステラの相手をしている爛が手帳にメールが届いていることに気付き、手帳を開くと黒乃からのメールが来ていた。

 

「そろっと始まる。行くぞ。」

「分かった。行こうステラ。」

「分かったわ。」

 

 三人はその場を離れ、学園内に向かう。入学式・始業式のことについてなのだが、この学園も含め、他の学園も理事長の話が長いとのこと。だが、黒乃は必要なこと以外はすべてを省くという大胆なことに出る。爛自身、必要なことは省いた方が良いと黒乃に言っているため、こんなことになったとかもしれない。それを感じさせることも黒乃の挨拶でもそうだった。

 

「まずは入学おめでとうと言っておく。私はランクよりも、君達の努力に期待している。才能も努力がなければ意味がない。その言葉を胸に刻み、学園生活に励んでほしい。以上だ。」

 

 簡潔に終わった挨拶だが、元Aランクの言葉は重みが違った。それに、黒乃の知っているなかで、才能がなくとも才能に匹敵する努力をしている人間を知っているからだ。これを聞いた学生はどよめきを作るだろう。今までは、ランク重視の世界だったため、ランクしか見てなかった人間は驚くであろう。ランクが高い人間も弱いと言う訳ではない。しかし、状況判断が甘いとランクの高い人間も負けてしまうと言うことだ。その事については、どう考えるかは個人の問題だ。

 

「お昼頃にってこういうことだったな・・・」

 

 爛の呟いたこととは一体・・・

 

 ーーー第7話へーーー

 




作者「遅れてすみませんでした!それと後書きに少しだけメタ話し等をします」
爛「まあ、この事は作者が悪いよな」
作者「ちょっ、酷い!」
ステラ「作者が悪いわね」
一輝「言い過ぎじゃない?」
作者「(´・ω・`)」


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第7話~爛と東堂姉妹~

爛「やっと二人との模擬戦か~」
ステラ「そうね。見させてもらうわ」
爛「前書きにも会話文付けるか作者」
作者「・・・」
爛「前書きに何書くか決めろよな。」
作者「だって無理だもん!」
爛「そんなことを言うのなら襲うぞ?」
作者「えっ・・・」
爛「じゃあ、ステラ。後頼む。」
作者「あーーーーー!」
ステラ「作者は連れていかれたわ。それより、第7話読んでね!」


 一年一組の教室のある一席に座っている爛。一輝とステラは用事があると言い、爛は先に教室で待っているのだ。爛が座っている席の周りでは、落第騎士(ワーストワン)の話しで持ち上がりだ。すると、教室のドアが開けられ、そこから出てきたのは、一輝とステラ。そのまま二人は爛の席の後ろに座った。

 

「黒乃からか?」

「その通りなんだけど、なんで分かった?」

「なんとなくだ。なんとなく。」

「なんとなくって・・・」

「ま、言わなくても良いぞ。」

「と言うか、伝えなきゃ行けないんだけどね。

 

 爛はこんなときに黒乃から伝えなければいけないことに感づいたのか、ため息を出す。

 

「ルームメイトの件で・・・だろ?」

「よく分かったね。理事長が言ってた意味が分かったよ。」

 

 黒乃から言われたことは、この件については少し話す程度でいいと、言っているのだ。黒乃はその答えについては何も言っておらず、爛が一輝の言うことを当てたことに、一輝はどうやって当てたのかが、分かったからこそ、黒乃の言っていた意味が分かったのだ。

 

「それはそれでだな。俺らの担任は少し面倒だな。」

「どういうこと?」

「まあ、担任が来れば分かるな。」

 

 爛の言っていた言葉に首をかしげるステラだが、これから起こることを見てしまうと、爛の言葉に共感してしまう。それは、スクリーンにクラッカーの絵と効果音が教室のドアが開け放たれたと同時に鳴り響く。そして、教室のドアを開け放ったのは、若い女性教師だった。

 

「新入生のみなさーん、入学おめでとー!この一年一組の教室を受け持つけど、新米教師なの。私は『折木有里(おれきゆうり)』。ユリちゃんって呼んでね!」

「ランの言ってることに同情するわ。」

「えっ!爛さんもこの教室なの!?」

「よう、折木。相変わらずだな。」

 

 他の生徒達は折木のハイテンションに何も言えなくなっており、爛が折木と平然と話していることに、驚きを持つ。

 

「あんまり張り切り過ぎないでくれよ。」

 

 そんなこと言った爛だが、折木は聞いておらず、七星剣武祭について、説明をしていた。七星剣武祭、黒乃は今までのランク制度を廃止し、実力を重視するため、選抜戦に出ることができ、七星剣武祭に出る資格を一年でも、取れるようになっていた。そして、本戦は団体戦があり、七星剣武祭に出れる各学園の上位八名の中から三人を選び、団体戦に臨む。他の五人は交代が可能。団体戦については何も知らせ等がなかったため、突発的な物だった。それに対応するため、黒乃は自分の師である爛と、ヴァーミリオン皇国のAランク騎士のステラを選抜したと言うことなのだ。

 しかし、爛にはこの事について、一輝に対することもあったのではないかと思っていた。何故なら、七星剣武祭のことについては、一輝の父である、『黒鉄(いつき)』に任されているのだ。一輝が七星剣武祭に来るのも踏まえて行った結果なのだろう。一輝を『魔導騎士にさせないため』に。爛はその事に呆れてしまうほどに。

 七星剣武祭で尻込みする人も居るだろう。いつもは殺傷能力をなくした『幻想形態』でやっているのだが、選抜戦と本戦は殺傷能力をそのままで行う『実像形態』でやるのだ。最悪の場合、死に至る。因みに、選抜戦は来週からなので、参加する人はメールがいつ来てもいいように要チェックしろとのこと。

 すると、ステラが何か疑問に思ったのか、折木に話しかける。

 

「先生。」

「ノンノン☆ユリちゃんって呼ばないと教えないぞ☆」

「ユ、ユリちゃん・・・」

「何?ステラちゃん。」

「試合ってどのくらいあるんですか?」

「詳しくは言えないけど、軽く十試合以上あると思っていいよ。そうだね~三日に一試合ぐらいあると思っていいよ。」

 

 この話しで不満を持つ者もいるはずだ。平穏に学園生活を送り、魔導騎士として過ごす。なんて人間も居る。一輝は安堵していた。三日に一試合なら、全部の試合で一刀修羅を使うことが出来る。一日さえあれば魔力を回復し、次の試合では、万全な体勢で挑むことができる。

 

「参加自体は人それぞれだよ。『実行委員会』にメールで不参加の意を伝えれば、自動的に抽選から外されるよ。・・・でもね、大変だと思うけれど、誰でも『七星剣王』を目指すことができるの。それを分かった上で、参加するかは君達次第だよ。」

 

 ここに居る爛と折木以外は分からない。この中に、『七星剣王』になっている人間の子がここに居り、そして、ありえない力を持っていることに。それは爛が一番よく知っているのだ。その力を持っている人間だから。そして、人としては居ないとも言える存在だと・・・

 

「じゃあ、みんな。これから一年間、全力で頑張ろう!エイエイ、オブファーーーーーーーーッ!」

「あ~、やっちゃったな。」

「え!?え!?どういうこと!?」

「折木はああいう体質だから、一日一リットル吐血する。」

「ええーーーーー・・・」

「一輝、折木を頼む。後は俺がなんとかするからな。」

「分かった。頼むよ。」

 

 その後、一輝は折木を保健室まで運び、爛は折木が吐血したものを処理し、各自解散でお開きになった。

 爛は先に部屋に戻り、昼食をとっていた。爛に送られたメールは、刀華からであった。爛はすぐに返事を送り、昼食をとっていると言うことだ。

 

「さて、今回はどうくる?」

 

 爛はそんな呟きをこぼし、第3訓練場に向かった。

 爛が第3訓練場に着くと、模擬戦をする相手である、刀華と愛華が居た。

 

「遅くなったか?」

「いや、ちょうどだよ。ね、お姉ちゃん。」

「そうだね。いきなりだけど、二人がかりで良い?」

「俺は別に構わないけど。」

「ならそうさせてもらうよ爛くん。」

 

 爛は周りの席を見ていた。そこには『雷切』と『麒麟』を一目見ようと大勢の生徒が来ていた。爛が見ていたところには一輝とステラ、そして、近くには爛の妹である『(あかり)』の姿も。

 

「たくさん居るな。」

 

 三人の近くにやって来た一人の女性、黒乃ではなく、爛の姉の香。

 

「これから、宮坂爛対東堂刀華・東堂愛華の模擬戦を始めるよ。三人は分かってるから省くけど、幻想形態で霊装を顕現させてね。」

 

 香がフィールドから出ると、特殊な魔力が張り巡らされたフィールドが作られる。その中にいるのは、爛と刀華、愛華。

 

「行くぞ。刻雨(こくさめ)。」

「轟け。鳴神(なるかみ)。」

「響け。春雨(はるさめ)。」

 

 三人の周囲に起こる雷。爛は光の中から鋼の太刀、刻雨を顕現し、刀華は紫電より黄金色の鋼の太刀を、愛華は雷が落ちてくると同時に右手で掴み、すぐに鞘を顕現し、その雷を鞘の中に入れると刀になり、本来の姿を見せる。刀華も鞘に鳴神を入れていた。刀華は付けていた眼鏡を外しており、それを見た爛は刀華にこんなことを言う。

 

「それが後悔にならないように思うな。」

「爛君には本気でやらないと駄目だから。」

「そうか。」

 

 三人が霊装を顕現すると、試合が始まる合図が出る。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 試合開始の合図とともに、刀を抜き放つ刀華。爛は霊装を構えることなく見ていた。そして、一分が経つが誰も動くことなく相手を見ていた。このことをおかしいと感じる人間が居るはずだ。三人の表情は爛が余裕な表情をしているが、刀華と愛華は切羽詰まった表情をしていた。ここの誰もが思ったのは、真逆のことだった。しかし、爛の実力を知っている者はこのことが起きると分かっていた。

 

「行かないのなら、こっちから行くぞ。」

 

 爛はそういうと、二人に向かって走り出す。途中で爛の姿が消え、その姿が見える頃には刀華と愛華の目の前に居た。

 

「っ!」

 

 二人の間に入り、刻雨を振るう。二人は左右に跳躍し、距離をとる。このことで爛の敗北が決まったと思うものが居るだろう。しかし、それは爛がそれに陥るように自らが起こした行動なのだ。

 

(どうしてこんなにも攻めの可能性を持っているの!?)

 

 刀華は爛に向かって鳴神を振るうが、全て爛に受け止められ、爛の後ろから愛華が春雨を振るうがそれを避け、二人から距離を取る。

 

「攻めあぐねてるな。刀華。」

 

 爛が再び二人に向かって走ると刀華と愛華も走り出す。ぶつかり合うと、爛は後ろに下がり、刻雨を構える。刀華は鳴神を構え、伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使う。

 

「《雷鴎(らいおう)》!」

 

 刀華が鳴神を振るうと、三日月型の斬撃が爛に向かっていく。

 

「それくらい、打ち消せる。《壱の剣・八意表裏斬撃(やごころひょういざんげき)》」

 

 刀華と同じく三日月型の斬撃。刀華の斬撃を打ち消し、二人に八つの斬撃が襲いかかる。爛の斬撃を打ち消そうとするが、後ろから何か来ていることに気付き、左右に避けると二人の後ろから斬撃が飛んできていた。

 

「お、初見で避けるとはな。流石、校内一位の伐刀者(ブレイザー)。」

 

 二人は飛んだ反動で、フィールドを滑るが、即座に爛に向かって跳躍し、剣を振るう。

 

「くっ、やっぱ二つ同時はキツイな。」

 

 爛が二人の剣を止めた部分は、刻雨を左手に持ちかえ、刀華を鳴神を止め、右手首で愛華の春雨を止める。手首で止めること自体できないのだが、爛の右手首には腕輪が付けられていた。刀華と愛華はジリ貧だと思ったのか後ろに下がる。

 

「全力でうたせてもらいます!」

「行くよ。爛くん!」

「臨むところだ。」

 

 刀華は鳴神を鞘におさめ、雷の力を最大限に高める。愛華は春雨を右側に構え、切っ先に左手を添える。二人が最大限に雷の力を高めているなか、訓練場内の人間は驚愕の表情をする。それは、爛から黒の力が出ているのだ。それをなんと言ったらいいのかは分からない。しかし、言えることと言えば、爛はまるで鬼神のように感じられるのだ。そして、爛は二人に話す。

 

「とっておきとまでは行かないが、俺の力を少しだけ見せてやる。」

 

 爛がそう言うと、黒の力は爛を包み込み、そこから黒い光が放たれると、爛が出てくるのだが、爛は人間とも言えない者になっていた。体を黒く埋め尽くされ、眼は赤く光り、右腕は異形へと変わっていた。

 

「っ!?」

「力を・・・・・・!」

 

 この模擬戦はどうなっていくのだろうか。

 

 ーーー第8話へーーー

 




一輝「爛!?その姿は!?」
爛「作者曰く、俺の力をどうしようか迷っていたとき、ドハマリしているゲームから引用したそうだ。」
ステラ「そう言えば、作者は?」
爛「あそこに居る。」
作者「爛・・・・・・」
ステラ「どうなっているの?」
爛「襲った。(意味深)」
一輝「あ~、成る程ね。それと作者から刀華さんの伐刀絶技のおうの字だけど実際は違うんだけど、旧文字で書けなかった。だって、第7話読んでくれてありがとう!」
爛「第8話も読んでくれよな!」


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第8話~人ならざる者~

爛「おい、題名さ、絶対ゲームのところから引用したよな作者。」
作者「いや、爛の状態を書かなくちゃいけないときにこれしか思い浮かばなかったの。」
爛「あー、それは仕方ないな。」
作者「第8話、読んでくださいね!」


 人ならざる者へと変わった爛は、魔力とは別のものを感じさせている。爛の姿が変わったことに、観客は驚愕する。この姿を知っているのは姉の香と妹の明。そして、爛の家族しかしらない。刀華と愛華は驚き、手を止めてしまう。

 

「爛・・・君が言っていたのはこの事か・・・」

「イッキ?」

「いや、何でもないよ。」

 

 一輝は爛に前から言われていたことがあった。そのときは何も分からなかったが、爛の姿が変わったことに一輝は爛が言いたかったことが分かったのだ。それは、自分達も巻き込んでしまうかもしれない自体に。フィールド内になぜか、炎の羽が落ちていることに気付く。上の方に向くと、炎の羽が綺麗に落ちていた。まるで紅葉が落ちていくように。すると、炎の羽が一点に集中し、少しずつ形になっていく。

 

「陰陽師の血を引き継いでいる者として、この力を見せてやる。朱雀召喚。激、敵を一掃せよ。」

 

 少しずつ形になっていったものは、炎を纏った鳥、四神獣の朱雀だった。朱雀は南の神獣であり、夏の朱雀とも呼ばれる。朱雀が咆哮をあげると、フィールド全体に炎の羽が飛び散る。その羽は高密度に圧縮された羽。本能的にマズイと思った二人は後退するが、フィールド全体に羽が飛び散っているため、避け続けることはほぼできない。そう考えた二人は霊装を振るい、羽を退ける。

 

「流石に長時間は召喚できないか。」

 

 爛はそう呟くと、朱雀が少しずつ形を崩していき、完全にいなくなる。炎の羽も同じようになくなっていく。

 

「愛華!」

「分かってる!〈麒麟〉!」

 

 愛華は自身の伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使う。雷を纏い、まっすぐに突き抜ける伐刀絶技。まさに『麒麟』という名でもかわりないほどに。愛華と爛がぶつかり合い、つばぜり合いをしている。

 

「くっ!」

「はあっ!」

 

 愛華はつばぜり合いに押し負けてしまい、後退させられる。

 

「《雷切》!」

「うおっと!危ない危ない。」

 

 刀華はつばぜり合いをしている間に、爛の後ろに回り込んでおり、そこから〈雷切〉を見舞う。爛は即座に対応し、雷切を防ぐ。

 

「はあぁぁぁぁぁ!」

「っ!うおぉぉぉぉ!」

 

 刀華が、雷切で使えるすべての力を使っていることに気付いた爛は、それに対応するように力を使う。

 

「くっ!《麒麟》!」

「っ!《身体能力・神速化(アクセラレート)》。」

 

 愛華が再び〈麒麟〉を使ったことに気付くと、身体能力強化では間に合わないと踏んだ爛は伐刀絶技を使い、一気に後退する。

 

「ホント、二対一はキツいな。」

「そう言ってるけど、理事長とかにも二対一で勝ってるんでしょ?」

「まあな。」

 

 刀華と愛華は爛の力に敵わないと思ったのか、最大限に力を溜める。そのことに気付いた爛は、次が最後の一撃だと分かり、爛も同じように力を溜める。

 

「一矢報わせてもらいます!《建御雷神(たけみかづち)》!」

「全力で行くよ!《雷迅双破(らいじんそうは)》!」

 

 刀華は磁力を越え、爛に向かって突撃する。愛華は脚に雷の力を使い、一気に突き進む。爛は右腕に力を溜め、刻印ができると同時に走り出す。そして、三人がぶつかり合う時、爛は伐刀絶技の名を呟く。

 

「《刻印の力の一閃(イグニートレイ)》。」

 

 三人がぶつかり合うと、強い光が放たれ、観客はその光から目を背ける。しばらくすると、光がおさまり、フィールドの方を向くと、立ち尽くしている爛と、その場に倒れている刀華と愛華が居た。爛は人間に戻っており、刀華と愛華の霊装は壊れており、意識を失っていた。そして、香が合図を出す。

 

「そこまで!勝者、宮坂爛!」

 

 爛の勝利となり、観客は驚愕する。それもそのはずだ。校内一位の『雷切』と『麒麟』に勝ったということになる。この大判狂わせは、後に爛の過去を聞かなければならない自体になり、爛が狙われることになる。刀華と愛華は破軍学園の救護係に運ばれていった。

 そんな大判狂わせをした爛であったが、すぐに自室に戻っていた。

 

「くっ!やっぱり、抑えきれてないか・・・!」

 

 人ならざる者へと変わったときの反動か、右腕に激痛が走っている爛。人ならざる者のことを知っている者は、爛の言っていることが分かるのだが、それは話すときが来る・・・それまで待ってくれ・・・

 激痛が収まり、爛は、刀華のいる部屋、医務室へと向かっていた。

 

「居るか?刀華。」

「居ますよ。」

「入ってもいいか?」

「どうぞ。」

 

 刀華から許可をもらい、医務室に入る。そこには刀華だけではなく、愛華も居た。

 

「二人して居たんだな。」

「ええ、二人して同じ部屋に居ましたから。」

「んで、刀華。何で敬語なんだ?」

「あ、つい・・・」

「お前らしいな。」

 

 そう言いながら笑ってしまう爛。何か疑問に思ったのか愛華が聞いてくる。

 

「それで、何で来たの?」

「まあ、様子を見に来たんだけだが、大丈夫そうだな。」

「まあね、私達も柔じゃないから。」

「そうだったな。」

 

 三人で話していると、医務室の外がやたらとうるさいことに気付く。

 

「何か、うるさくないか?」

「そうだね。」

「ま、それはいいとして、戻ってもいいか?」

「うん、いいよ。」

「じゃあな。」

 

 爛は医務室を出ると、手帳にメールが届いており、それを見ると、一輝からメールが来ており、それを見た爛は教室に向かう。教室に入ると一輝の近くに行く。

 

「どうした?」

「そんなに時間が掛かる訳じゃないけど、これ、何とかしてくれる?」

「ん?」

 

 一輝が指をさした方向を向くと、ステラともう一人の少女が睨みあっていた。一輝の方を向くと一輝は苦笑いをした。

 

「しょうがないな~」

 

 睨みあっている二人はついには霊装を顕現し、本気でぶつかろうとしている。それにマズイと思った爛は霊装を顕現する。

 

「「っ!?」」

「二人とも、こんなところで霊装を顕現するのは止めてくれ。消化作業はごめんだ。初めましてだな、『黒鉄珠雫(しずく)』。」

「・・・・・・」

「おっと、俺も軽率だったな。俺の名前は宮坂爛。よろしくな。」

「・・・よろしくお願いします。」

「まあ、二人とも止めてくれ。こっちが面倒になるし、最悪の場合、退学の可能性があるんだから、霊装を今すぐ解除。一輝は黒乃のところに行って、罰を受けるんだ。勿論、お前らもな。」

 

 爛はステラと珠雫が霊装を解除すると、自身の霊装も解除する。一輝達と理事長室に行く。

 

「おう、黒乃。」

「どうしたんですか?師匠(せんせい)。」

「あー、ついさっき電話した通りだ。」

「成る程。黒鉄とヴァーミリオンは?」

「連れてきた、入ってくれ。」

 

 爛が一輝達を呼ぶと、理事長室のドアが開き、一輝とステラ、珠雫が入ってくる。爛は黒乃の横に立っている。

 

「罰則だが、霊装を顕現した場所、許可をとらなかったこと、だ。黒鉄、お前は止めるはずの立場だろ?」

「すみません。」

「取り合えず、この事に関しては、師匠に任すから師匠は罰をしてやってください。」

「取り合えず、全員有罪(ギルティ)。罰としては、七星剣武祭選抜戦の初戦を無傷で突破することだ。反論は受け付けないからな。」

 

 爛からの罰に反論したいステラと珠雫だが、爛の言っていることは正論なので、反論をすることができない。一輝は苦笑いをしていた。

 

「ん、じゃあ終わり。」

「よし、戻っていいぞ。」

 

 罰則を受けた三人は理事長室から出る。爛も同じように出ようとするが・・・

 

「待ってください。」

「ん?」

 

 黒乃は爛を引き留め、あることを聞こうとする。

 

「模擬戦の時のあの姿、あれは一体・・・?」

「やっぱり気になるか。何も言ってなかったからな。」

 

 爛は一つため息をつく。爛が言ったのは黒乃にとって、最悪の展開を考えなければいけないことだった。

 

「俺の力は、研究サンプルとして扱われる。研究サンプルを作ってるのは『国』だ。最悪の展開を考えとけ、黒乃。」

 

 爛はそう言い、理事長室から退室する。黒乃の頭の中は最悪の展開を描いていた。

 

「まさか師匠は・・・」

 

 爛は自室に戻り、久しぶりに本を読むことにした。しかし、余りページが進まず、霊装を顕現できる場所に行き、霊装を顕現させる。しかし、爛が顕現した霊装は刻雨ではなく、別の霊装であった。

 

「久しぶりに持ったな。やっぱり手に馴染む。」

 

 爛が持っているのは刻雨と同じ、刀型の霊装だが、刃や柄は真っ赤になっており、まるで血がついた刀を握っていた。

 

「でも、七星剣武祭にも使うことはないかな。」

 

 爛はその霊装を振るい、前の感覚を掴む。爛は霊装ごとにスタイルを変えているため、そのときの霊装の感覚を掴まなければならない。爛は霊装を振るい続け、元の感覚に戻す。

 

「まあ、俺の相棒として、これからもよろしくな。」

 

 霊装に語りかけると、その霊装を解除し、また別の霊装を顕現する。

 

「これが、七星剣武祭とかで使いそうなんだよなぁ。」

 

 そう言いながら、刀型の霊装をまじまじと見る。その刀は先程顕現した霊装と配色は似ているが、黒で統一されている。

 それから数十分、自身の霊装を振るい続けていた爛は、止めることにし、自室へと戻る。自室に戻り、家事をしていると、部屋のインターホンがなり、玄関を開けると・・・

 

「どうも~こんにちは。」

「こんにちは。ところで、何でお前が来た?」

 

 爛の目の前に現れたのは、同じ一年一組の『日下部加々美』。記事を書いたりしているらしい。夢はジャーナリストとか。爛が出ていた模擬戦に来ていたのだろう。爛のことを興味津々に見ていた。

 

「理由は簡単ですよ。先輩の強さの秘密に迫りたいと思いまして!」

「成る程ね。因みに、一輝もそれに該当するかもな。」

「え、どういうことですか?」

「あいつも俺に劣らない力を持ってる。剣術で言えばあいつの方が上かもしれない。」

「でも、一位の二人に勝った先輩の強さを教えてください!」

「興味津々なこって・・・」

 

 爛は一つため息をつくと、加々美を部屋の中に入れ、お茶を出す。

 

「では、聞かせてください!」

「はい、待った。」

「なんですか?」

 

 爛は、この時間に加々美が来たことに少し疑問に思ったのを口にする。

 

「加々美お前、夕食どうするんだ?」

「あっ・・・」

 

 案の定、夕食のことなど考えておらず、爛に言われたときに、やっと気付く。

 

「お前、ルームメイトって居るのか?」

「居ますよ。」

「なら時間考えような。」

 

 加々美が来た時間は、午後6時。なにがなんでも遅い。爛としては部屋に戻ってもらわないと困るのだ。そこで爛は、加々美にこんなことを言う。

 

「聞くのは構わないが、俺もちょっと家事とかをしなきゃならない。取材は次にお預けでいいか?それこそ、一輝とかが居るところで。」

「確かにそうですね。・・・分かりました。取材は後日と言うことで。失礼しました!」

(回避成功っと・・・)

 

 爛は、加々美が部屋に戻っていったのを見て、ほっとしてしまった。理由とすれば加々美の執着心が半端ないからだ。後々面倒なことになることに、爛はため息をつく。爛は、すぐに家事に取りかかり、夕食を食べていた。

 

(まさか、本当に当たるとはな。面倒なことになりそうだ。)

 

 爛は黒乃から届いたメールを見ると、爛が黒乃に言っていたことが本当になることになってしまったのだ。『ノヴァの騎士誘拐作戦』。これは、ノヴァの騎士の力を持つ、魔導騎士、学生騎士を誘拐し、人ならざる者の研究をし、サンプルを作り、その他の騎士にもノヴァの力を持たせること。そして、誘拐していくのを見た等、嘘の情報を流し、誘拐したグループを見つけないように作戦。それと同時に『炎竜討伐(ベオウルフ)作戦』も、実行することになった。これは、破軍学園を潰すということ、一輝の父がやるという可能性も否定はできないが、もしかしたら『ノヴァの騎士誘拐作戦』を遂行するためには、『炎竜討伐作戦』が必要になるのかも知れない。『ノヴァの騎士誘拐作戦』の目的はノヴァの力。あらゆる手段を問わないということだ。事実、ノヴァの力を持っているのは爛である。その力は使いこなしてはいるものの、完全とまではいかない。この作戦を立案した者は、破軍学園にノヴァの力を持った人間が居ること。そのためには、『炎竜討伐作戦』で破軍学園を潰すこと。しかも、その二つの作戦には『解放軍(リベリオン)』もついているとのこと。ノヴァの力は絶大なため、最大戦力で爛を捕まえに、そして、破軍学園を潰すために。『解放軍』とは、自分達、用は解放軍の自分達を『選ばれた名誉市民』等と言い、平気で人に危害を加える。爛はそのせいで、一人の家族を失っていた。爛は解放軍に怒りを覚えている。復讐を誓っている。それほどに愛していた家族を失ったことは、爛にとっては大きな代償なのだ。この二つの作戦が始動するとき、爛は完膚なきまで、叩き潰すと考えていた。

 復讐に走っていく爛。この二つの作戦との関係は一体?

 

 ーーー第9話へーーー

 




作者「破軍学園の襲撃に一つ増やした作戦。」
爛「長くないか?作戦名。」
作者「仕方ないね。」
爛「そして、俺の復讐への道。」
作者「なんか色々と番外編とか、外伝とか作った方がいいのかも知れなくなってきた。というか、5000文字は疲れた。」
爛「書かなくちゃいけないのが山ほどあるし、作者の脳内がパンクしそうだな。」
作者「取り合えず、第9話も読んでくださいね!」


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第9話~お出かけ~

爛「第9話だ。」
一輝「アニメ第二話だね。」
爛「それと、明達が出るからな。」
一輝「第9話、読んでね。」


 金曜日の朝。いつもの通りの朝が来ていた。爛と一輝、ステラは朝練をしており、三人とも霊装を振るっていた。

 

「っ!」

「ふっ!」

「はぁ!」

 

 一輝とステラが振るっているが、爛には当たらず、爛は二人の剣を自身の霊装一つで防いでいる。そして、隙あらば霊装を振るい、一輝達に当てるように振るう。爛が一旦距離をとると、霊装を解除する。霊装を解除したことに察した二人は同じように霊装を解除する。

 

「休憩するか。」

「そうだね。」

 

 三人は持ってきた飲み物を飲みながら、選抜戦の話しをしていた。

 

「爛は選抜戦の初戦は決まったの?」

「いや、まだだ。一輝も決まってないのか?」

「そうだよ。ステラは初戦の相手は決まったの?」

「ええ、決まったわ。」

 

 ステラが手帳を開き、爛と一輝に見せてくる。ステラの相手は校内序列(ランク)十八位の荒川三谷(あらかわみつや)。それを見た一輝は荒川のことを言ってくる。

 

「確か、荒川さんってーーーー」

「言わなくていいって!」

「え、良いの?」

「ステラにとっては未知の伐刀者(ブレイザー)と対決するから、そいつの異能とかは知らなくてもいい、だろ?」

 

 爛の問いに胸を張りながら、爛の言っていることと同じだと言う。すると、爛は座っていたベンチから立ち、霊装を顕現させ、ステラに刃を向ける。

 

「物騒な言い方で悪いが、俺と手合わせをしてくれるか?ステラ。」

 

 爛からの問いに、驚いた表情を見せるが、笑みをこぼし、霊装を顕現する。

 

「受けてたつわ。アタシもランの力を間近で見たいもの。」

「場所があれだから、伐刀絶技(ノウブルアーツ)は無しだぞ。」

「ええ、わかってるわ。」

 

 一輝は少し焦ったが、爛が剣だけでやると言ったことに少しだけ、ほっとした。爛自身、ステラを傷つけることはしないとしているからだ。しかし、選抜戦や本戦では別だと割りきっている。二人は剣を構えたまま、動くことはなく、五分後、ステラが動き出す。

 

「来ないのなら、こっちから行くわ!」

 

 ステラが走りだし、爛に霊装を振るう。爛はそれを受け止め、わざと後退する。その後も爛は、防戦に徹し、ステラの剣を止めていた。

 

「もらった!」

 

 ステラが爛の意表の突く動作を起こし、爛が剣を止められない位置に、剣を振るう。そのまま一撃をもらう爛だが、そんな簡単に負ける爛ではない。防御に徹している体勢を、無理矢理低くしステラの剣をやり過ごす。

 

「これで、チェックメイト!」

 

 爛は、そのまま体を回転し、体勢を高くする。高くすると同時に下から上へと霊装を振るう。そのまま行けばステラの体を斬っていくが、ステラの顎下に来るように爛が、体の回転を工夫し、顎下に剣の切っ先が行く。

 

「《逆乱星(ぎゃくらんせい)》。これで終わりだな。」

「そうね。って言うか、ランは何で伐刀絶技使ってるのよ!」

「実際はこれ違うぞ?」

「え?」

「元々は剣技だ。それを色々と改良したのが、俺の使う伐刀絶技。今のも一応これに入るんだけど、異能を使ってないから、セーフだし、この《逆乱星》は異能を使わないでやることがあるからな。」

「爛、ステラ。」

 

 爛が使った《逆乱星》の説明をしていると、一輝が飲み物を二人に渡す。

 

「お、悪いな、一輝。」

「爛がやってることを同じようにしてるだけだよ。ところでステラ。どうだった?爛の剣は。」

「結構大変、としか言えないわね。ランの剣を防ぐのでも精一杯なのにね。」

「そこまで言うのか。俺からするとまだまだなんだけどな。」

「どこまで高みを目指すのかしら・・・」

 

 ステラが爛の剣に対し、率直な答えを言うと、爛はそれでも足りないと言い、更なる高みを目指していることにステラはどれほど行くのかと呟いた。ふと、一輝がこんなことを言ってくる。

 

「今日って金曜日だよね。」

「そうね。」

「明日は土曜日で休みだから、何処か出掛けない?」

「俺もか?」

「勿論。ステラも行くだろう?」

「ええ、そうね。」

「だったら、明達も連れてきていいか?」

「良いよ。みんなで行った方が楽しいしね。」

 

 一輝の言った言葉に、爛は笑みをこぼした。しかし、その笑みはただの笑みではなく、悪趣味を楽しんでいるときのような笑みをし、こんなことを言ってくる。

 

「なら、珠雫達も連れてきた方がいいか?」

「なっーーー!」

「良いよ。」

「ちょっ、イッキー!」

「えっ!何!?」

「一輝はもうちょっと、女心を考えた方がいいんじゃないのか?」

 

 珠雫達を連れてくるかと言う問いに、あっさりと承諾する一輝を見て、八つ当たりをするステラ。それを見た爛は、一輝の鈍感を何とかした方がいいんじゃないのか?と、思うほどであった。

 その後は特に何もなく一日が終わり、土曜日をしている迎える。一輝とステラは破軍学園の正門前に居た。

 

「遅いわね・・・」

「珠雫達も、一緒に来れればいいんだけどね。」

 

 一輝達が居るのは、破軍学園の正門を向き、右側の寮に居り、珠雫達はその反対、左側の寮に居るため、合流するにしても待ち合わせ場所を作らなければならない。一輝達は、珠雫達と爛達を待っていた。なぜ爛がここに居ないのかと言うと、爛は妹の明達を連れてくるために行ったため、一輝達は待つことにしたのだ。

 

「おーい、一輝~」

 

 一輝達が呼ばれた方を見ると、そこには爛と妹の明、そして、明のルームメイトであろう人物がいた。

 

「紹介しとくな。こっちは妹の明。こっちは俺の友人の『音無颯真(おとなしそうま)』だ。」

「初めまして、僕は黒鉄一輝。こっちはルームメイトのステラ・ヴァーミリオン。よろしくね。」

「ええ、こちらこそ。よろしくお願いします。」

「よろしくな。あ、そうだ。呼び方は呼び捨てで構わないからな。」

「私も呼び捨てで構いません。」

 

 明はペコリとお辞儀をし、颯真は笑みをしながら、話す。

 

「ん?まだ珠雫達は来てないのか?」

「そうみたい。」

 

 爛達が話している時、一輝とステラの後ろから足音がし、足音がした方を向くと、そこには珠雫と、珠雫のルームメイトがいた。

 

「お待たせしました。お兄様。」

「初めまして、ね。」

「確かに初めましてだな。『有栖院凪(ありすいんなぎ)』。」

「あら、貴方は知ってるのね。」

「知ってるも何も、アリスは『黒い茨(ブラックソニア)』の異名を持ってるからな。加々美に頼んで、お前のこととかはあいつに頼んでるしな。」

 

 爛達は紹介を終え、出掛けることとなった。出掛けた先は、破軍学園の近くにあるショッピングモール。破軍学園近いため、学園の生徒がここに来たりすることが多い。爛達は映画を見るためにここに来たのはいいが、映画が始まる時間よりも早めに来たため、何か暇潰しができないかと考えていたとき、アリスがこんなことを提案してきた。

 

「クレープでも、食べないかしら。」

 

 誰もいい案が思い付かないため、アリスが言ったことに賛同し、クレープ屋に行くことにした。

 

「ん~!ここのクレープ、おいしいですね!」

「明、別に敬語じゃなくてもいいんだが・・・」

「え、良いの?」

「僕は別に構わないよ。」

「私も大丈夫ですよ。」

 

 爛から言われ、一輝達も敬語じゃなくても大丈夫と言うので、明は敬語をするのを止める。すると、爛が何かに気づいたのか、明と珠雫に話しかける。

 

「あのな、二人とも、頬っぺたにクリームが付いてるぞ。」

 

 そう言いながら、二人の頬についているクリームを取り、口の中に入れる。

 

「「ーーーーーーっ!///」」

 

 爛の行動に、二人は顔を真っ赤にし、ルームメイトの背中に隠れる。

 

「なんだ、明。攻めはあるが、守りがダメじゃないか。」

「ちょっ、ちょっと~!///」

「何、珠雫。貴女、攻撃力はあっても防御力がないじゃない。」

「ううう、うるさい!///」

「ありゃ、二人には早かったかな?」

 

 その後、何とか平静を取り戻した二人は、いつものように振る舞う。そして、珠雫は映画を見に行こうと提案した。

 

「悪い、俺トイレに行ってくるから、俺の分のチケットを買ってくれるか?」

「僕もトイレに行くよ。」

「あたしも行こうかしら。」

「分かりました。三人の分は買っておきますね。」

「悪いな。」

 

 爛と一輝、アリスはトイレに向かった。その途中でアリスがこんなことを言ってくる。

 

「貴方達は、気づいているのかしら。」

「何を?」

「心の悲鳴にーーー。」

「一輝、爛。貴方達は傷つけられることに慣れすぎている。いつかそれを吐き出さないとーーー」

「俺らの心が折れてしまう。」

「その通りよ。あたしは、貴方達の心の悲鳴に気づいてもらえる人が来ることを、友人として祈ってるわ。」

 

 アリスと爛が何かに気付くと切羽詰まった顔になる。

 

「アリス!」

「わかってるわ!一輝、ちょっと来て!」

「ええ!?」

 

 すると、三人が走っている左側のところから銃弾が発射される。

 

(なんだ、あれ!?)

 

 爛達は一気に中に駆け込み、トイレの個室に隠れる。

 

「今のは!?」

「展開が速すぎるだろ・・・まさかとは思いたくはないが・・・」

解放軍(リベリオン)・・・」

 

 爛は急いで手帳を取りだし、メールを送ると、手帳の電源を落とす。

 

「ここでバレたらマズイな。」

「何が?」

「ステラだよ。ステラが見つかったら大変なことになる。今、メールを送ったのは颯真にだが、あいつらのところも占拠されてても、あいつならメールを見ることができる。それと、後一つバレたらマズイものがある。」

「それは?」

「俺の力だ。あいつらは、俺の力を狙ってるからな。」

 

 一方、ステラ達の所は、爛の言っていた通りに占拠されていた。颯真はステラがバレないように隠していた。

 

(こんなときに誰だ!?爛!?)

 

 颯真は手帳を開き、メールの内容を見ると、手帳をしまい、三人に話す。

 

「いいか?三人に話すことがある。」

「何かしら?」

「まず一つ、ステラは自分がバレないようにしろ。お前が見つかったら面倒なことになる。」

「分かったわ。」

「明と珠雫は、防御系の伐刀絶技を持っているか?」

「はい。」

「持ってるよ。」

「なら、その伐刀絶技を俺のタイミングに従って使ってくれ。爛達が動いてくれる。」

「分かりました。」

「わかったよ。」

 

 ーーー第10話へーーー

 




爛「作者から伝言。第10話、爛のダーク無双が始まるとのこと。」
一輝「解放軍に怖いことをするんだね。」
爛「あれを恐いで済むのか?」
一輝「第10話も読んでね。」


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第10話~爛と解放軍~

爛「ダーク無双が始まるな。」



 爛、一輝、ステラ、珠雫、アリス、明、颯真の七人で、破軍学園の近くにある、ショッピングモールに出掛けていたが、そこで、世界規模の犯罪組織、解放軍(リベリオン)に遭遇する。爛と一輝、アリスはトイレに行っており、そこで解放軍と遭遇したものの、回避に成功。三人以外の四人は解放軍の人質として、フードコートに居た。

 一輝とアリスは、影の中から顔を出す。爛は自身の異能である雷を使い、脳の電気信号を掌握し、自身の姿が見えていないようにした。

 

「アリスの異能は便利だな。」

「影を扱うなんて、逃げに良いね。」

「あたしの霊装(デバイス)影の隠者(ダークネスハーミット)は、逃げだけではないわよ。ただ、影のない闘技場では意味がないけどね。」

 

 すると、爛が歩き出す。歩きながら、二人に話しかける。

 

「一輝、黒乃に霊装の顕現の許可をとっておけ、俺は学園内の霊装の顕現の許可しか持ってない。学園外では、黒乃に頼んでくれ。俺は周りの警戒に行く。」

「分かった。」

 

 爛が警戒に行くと、一輝は手帳を取りだし、黒乃に電話を掛ける。

 

「理事長。」

『ああ、状況は分かっている。相手は解放軍で間違いない。数は二十人から三十人辺り、奴等が定期的に行っている資金集めだ。弾を撃ったが、死傷者は0。人質はフードコートに集めている。』

「フードコートは、あたし達がクレープを食べたところね。」

「理事長、霊装の顕現の許可をお願いします。」

『分かった。誰だ?』

「黒鉄一輝、ステラ・ヴァーミリオン、宮坂爛、黒鉄珠雫、有栖院凪、宮坂明、音無颯真この七人です。

『・・・分かった。それと、一般人の安全が第一だ。後もう一つ、師匠(せんせい)を極力戦いに出すな。』

「どうしてですか?」

 

 普通ならば、黒乃達より実力が上の爛を戦いに出すはずだ。その一輝の考えを打ち壊す答えを言う。

 

『師匠は、完膚なきまで叩き潰すほど、解放軍を良く思っていない。そして、師匠の家族が解放軍に殺されている。』

「なっ───!」

 

 一輝は黒乃から帰ってきた返答に、驚きを隠せなかった。爛の家族が解放軍に殺されているということは、爛は少なからず復讐心を持っている可能性がある。黒乃は、それを承知で爛の霊装の顕現の許可を出したのだ。

 

「分かりました。」

 

 黒乃の意思を汲み取った一輝は、返事をする。

 

『ああ、頼む。』

 

 そう言うと、電話をきり、手帳をポケットの中にしまう。

 

「一輝、許可を貰ったか?」

「ああ、勿論。」

「じゃあ、アリスと一輝は、フードコートに行ってくれ、俺は単独行動で各階に居る解放軍をやる。後は下に行ってフードコートで注意を引き付ける。二人は人質の安全を確保と、解放軍を統率しているヤツを捕らえること。良いか?」

「ええ、分かったわ。」

「じゃあ、俺は行く。」

 

 爛はそう言うと、霊装を顕現し、一輝達の前から姿を消す。

 

「ちょっ、間に合わなかった。」

「仕方ないわ。フードコートなら、あたしの《日陰道(シャドウウォーク)》で一気に移動できるわ。」

「なら、見つからないところから様子を探ろう。そこにステラ達も居るだろうしね。じゃあ、行こうか。」

「おまかせあれ。」

 

 一輝は、アリスの手に触れると、アリスは《日陰道》を発動。二人は影の中に沈んでいく。

 三階に居る爛は、見つからないよう隠れながらこの階を巡回している解放軍を探していた。

 

「居たな。」

 

 爛が見つけたのは二人一組で巡回している解放軍。その二人の装備は、防弾チョッキにガスマスク、そしてアサルトライフルとショッピングモールを襲うには充実した装備だった。

 

「資金を急いで集めないとは、大変だな。」

「でも、ノヴァの力を手に入れれば、俺たちの目的を達成される。ここは我慢をすることだ。」

 

 巡回している二人が、立ち止まった瞬間、右側にいた一人が後ろに引きずり込まれる。それを見たもう一人は銃を構える。

 

「誰だ!」

「誰だと言われて、お前らに答える筋合いはない。」

 

 右側の一人を引きずり込んだのは、少年。少年から感じられるのは殺気。逃げなければ殺さんとしているようだった。

 

「っ!?動くな!動かなければ───」

 

 銃を構えた一人が、少年に言おうとすると、少年は引きずり込んだもう一人の銃を掴み、構える。

 

「俺を殺すぞと、言わんばかりの顔だな。お前らの言う名誉市民あろう者が、下等市民に怖じ気づくのか?」

 

 少年がいった言葉は、まさしく名誉市民である自分達を見下している言い方だった。

 

「っ!ガキがぁぁ!」

 

 後ろに引きずり込まれた解放軍の一人が、少年の拘束から抜け出そうとするが、少年は大の大人の力に負けることなく、拘束していた。

 

「うるさいんだよ、静かにしてろゴミが。」

 

 少年は吐き捨てるように言うと、構えていた銃を拘束から抜け出そうとしている人間の頭へ向け、引き金を引く。人を殺すことに怖じ気づかない少年を見て、少年に銃を構えていた人間は、この少年のことをこう思った。『人を殺すことに慣れている。』と。少年は殺した人間を、自分に銃を構えている人間に押し付けるように蹴り飛ばす。死体が飛んできていることに驚いたが、なんとかそれを避け、少年に銃を向け、引き金を引こうとするが、そのときには遅かった。

 

「何が名誉市民だ。自分達がどれほど馬鹿なのか、身をもって知れ。」

 

 少年はそう言うと、銃の引き金を引く。この少年に殺されていった解放軍は少年のことを化け物だと恐れていった。そして、いつしか解放軍が滅びるときには、この化け物に滅ぼされると思った。

 

「銃声だ!」

 

 三階を巡回していた別の組が、銃声に気づき、こちらに向かってくる。少年はその場から離れ、見つからないところに身を潜めていた。そして、別のところからもう一組が来ると、その少年が殺していた人間の死体に近づく。

 

「誰かが、こいつらを殺したのか?」

「まだ、周囲に居るはずだ。探すぞ!」

 

 別の組は、殺された仲間の復讐心にかられ、殺した人間を探そうと躍起になる。それが、少年の仕組んだ罠だと気づかずに。二人がバラバラになり、殺した人間を見つけようとしているなか、少年は暗躍する。

 

「くそっ!まだ、見つからねぇのか!」

 

 仲間を殺した人間を見つけ、殺そうと復讐心を燃やすなか、目的の人間が見つからず、苛立っていた。少年はその人間の後ろまで来ていた。

 

「もしかしたら、まだ、見てないところがあるのか?それとも、あいつが行ったところに居るのか?」

 

 苛立ちを抑えながら考え、自分と組んでいたもう一人と合流しようと後ろを向いたとき、少し離れたところに少年が立っていた。少年は青いパーカーを着ており、フードを被っているため、誰かは分からなかったが、彼は気付いた。こいつが仲間を殺したと。それが分かると銃を構え、引き金を引く。

 

「死ねぇぇぇぇぇ!」

 

 雄叫びをあげながら、引き金を引き、少年を殺そうとするが、少年は姿を消し、彼の前から姿を現さなかった。

 

「チッ!どこだぁ!」

 

 復讐心にかられていく、さっきより、もっと、強く、標的を潰そうとしている。

 

「居たか!?」

 

 離れて探していた彼と組んでいたもう一人が、彼に声を掛ける。しかし、彼は反応することはなかった。彼が反応する頃には、もう一人を見る目は殺気に満ち溢れていた。

 

「お前かぁ!」

「なんのことだ!?」

「お前がぁ!俺達の仲間を!」

 

 彼はそう言いながら、組んでいたもう一人に向かって、銃を突きつける。

 

「今度こそ、地獄へ沈んでいけぇぇぇぇぇ!」

「待て!俺はーーー」

 

 そして、彼は引き金を引いてしまった。

 

「あ?」

 

 彼が、自分の理性を取り戻すと、彼の目の前には自分と組んでいたもう一人が血を吹き出しながら倒れていた。

 

「ああぁぁぁぁぁ!」

 

 彼は自分のやったことが、フラッシュバックのように頭の中を駆け巡る。自分が彼を殺したことも。自分が行った行動次第では、彼は死ぬはずじゃなかったことを。記憶とは実に残酷なものだ。覚えていることをすべてを見せるからだ。残酷であればもっと残酷になっていく。そんな彼の側に一人の少年が近付いてくる。そして、彼へ銃を向け、引き金を引く。

 

「本当に現実は残酷で、心の怒りや復讐は人を殺めることになる。まあ、実際に俺もそうなんだがな。」

 

 そう言いながら、少年はフードを取ると、素顔を見せる。少年の名は、爛。爛はフードコートを目指して歩いていった。

 一輝とアリスは、アリスの《日陰道》を使い、フードコートから見られない位置に姿を現す。そして、柱からフードコートの様子を見ていた。

 

「一輝、あれ。」

「珠雫とステラ、明ちゃんと颯真君だ。三人はステラを見つけないようにしているね。」

「ステラちゃんは顔が知られているから、バレたら大変なことになるって爛も言ってたわよね。」

「そうだね。」

 

 一輝とアリスは、フードコートの様子を見ていたが、一輝が思ったことを口にする。

 

「人質と解放軍との距離が近すぎる。安全を確保したいところだけど、人質を危険な目にあわせることができない。それに、見張りの数と理事長が言っていた人数と合わないね。」

「それは多分、別のところを巡回しているのかもね。」

「ここは、爛に任せた方が良いかも知れないね。」

 

 二人は、爛に任せることにし、フードコートが見れる位置で、身を潜めることにした。

 人質の見張りとして居た解放軍の一人が、近くに居るもう一人に話しかける。

 

「三階の連絡が途絶えた。」

「何?警察か?」

「いや、ちがう。中に伐刀者(ブレイザー)が紛れ込んでいるらしい。警戒を怠るなよ。」

「ああ、分かってる。」

 

 二人が話しているなか、別のところから大きい声が放たれる。

 

「お母さんをいじめるなーーーーーーっ!」

 

 人質として捕らわれていた子供が、持っていたソフトクリームを解放軍の人間に投げつける。その投げたソフトクリームが見事に当たる。ソフトクリームを当てられた解放軍の人間は、その子供を蹴り飛ばそうとする。

 

「こんのガキがあぁぁぁぁ!」

 

 それもそうだ。自分達は誇り高き名誉市民。その自分が、下等市民に汚されてしまったことに名誉市民の名が傷つくことになり、それは、解放軍の誰もが許さないことだ。子供を蹴り飛ばそうとするなか、強い風が吹きはじめる。その風に吹かれ、バランスを保てなくなり、風に連れられていき、壁に打ち付けられる。

 

「ぐあぁぁぁぁぁ!」

「伐刀者か!?」

 

 風を操った伐刀者とは───!

 

 ーーー第11話へーーー

 




作者「後書きをどうしたら良いのか分からなくなっちゃった♪」
爛「何気に音符マークをつけるんじゃない。」
作者「それは置いといて、第11話も読んでくださいね。」


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第11話~因縁~

爛「活動報告を読んでくれた人、すまない。」
一輝「作者は優柔不断だからね。」
爛「作者をたっぷりと叱っておくから、読んでくれている人、作者を許してやってくれ。」
一輝「それじゃあ、第11話スタート!」


 アイスクリームを投げた子供を蹴ろうとし、風に連れられていき、壁に打ち付けられる。壁から出るが、床に立とうとすると、足などに激痛が走り、立つことなど到底できることではなかった。改めて、自分を壁に打ち付けた相手を見ると、子供とその母親を気遣うように少年は立っていた。少年が持っているのは短剣。そして、解放軍(リベリオン)は少年が伐刀者(ブレイザー)であることが分かる。

 

「なっ・・・伐刀者だと!?」

「こうなったら、人質もろとも・・・」

 

 人質もろとも撃とうとしているのを見逃さなかった珠雫と明は伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使用する。もう人質を守れる範囲を取れている。

 

「遮れ───『障破水蓮(しょうはすいれん)』!」

「防げ───『砂の防壁(ぼうへき)』!」

 

 二人は防御系の伐刀絶技を使用し、人質へと飛んでくる銃弾の雨を防ぐ。水の壁と砂の壁、この二つの壁は、重火器であろうと防ぎきる。

 

「なっ!防がれた!?」

「なら、コイツだけでも・・・!」

 

 解放軍は突然現れた水の壁と砂の壁に、弾を防がれ、人質を撃つことはできなくなってしまう。しかし、その壁の外にいる少年に狙いを絞り、弾を撃つ。しかし、その少年は数千と飛び交っている銃弾の中を平然と立っていた。それは、少年が使う風の力を使い、弾の軌道を変えていたからだ。

 一方、一輝達のところでは、颯真が行動したことに驚いていたが、行動しようとしていた。

 

「珠雫達が注意を引いている今のうちに、僕達は動こう。」

「そうね。騒ぎを聞き付けて、来るかも知れないからね。」

 

 そう言い、一輝とアリスは影の中に入っていく。

 銃弾が飛び交っている中を立っている少年───颯真はため息をつくと、跳躍をし、壁の内側に入ると、ステラに話す。

 

「ステラ、今だ!」

「ハアァァァ!」

 

 颯真のタイミングに従い、自身の異能で壁の外側の解放軍を焼き尽くしているステラ。解放軍を焼き尽くすと異能を止め、炎を無くすと颯真が風を起こし、解放軍の死体を運ぶようにする。理由とすれば、燃やされた死体を見れば、一般人が恐怖するからだ。解放軍の死体を見えないところまで運ぶと風を止める。二人はそれを確認すると、伐刀絶技を解除する。すると、騒ぎを聞き付けて来たのは、フードをかぶり、表情が見えないように衣を纏っていると男と護衛の兵士が姿を現す。衣を纏っている男が颯真達の姿を見ると、伐刀者だと分かり、冷静では居られなくなる。

 

「なっ・・・伐刀者である者が我々の邪魔をするのか!?」

「非力な人間達を人質にとっているお前らに言われたくないんだよ。」

 

 衣を纏っている男からの質問に颯真は即答する。颯真が歩き出そうとしたとき、一瞬止まるが、数歩だけ歩くと、口を開く。

 

「あ~あ、お前らが来なかったらお前らの命はあったのにな。」

「フッ、それはことかな?」

 

 颯真の挑発的言動に男と兵士は銃を構える。身構える珠雫達だが、ある気配に気付くと構えを解く。それを見た男は颯真達に聞く。

 

「構えないところを見ると、降伏したということで良いのかな?」

「それは違うんだよ。逆にお前らは逃げた方が良いぞ?」

「貴様ぁ!」

 

 颯真から完全に挑発したと分かる事を言われ、痺れを切らした男───ビショウは銃の引き金を引く。しかし、銃から弾が発射されることはなかった。不思議に思ったビショウだが、次第にビショウの右腕が霞んで消えていく。すると、突然ビショウの目の前から血が飛び散る。それが、自分の血であることを身をもって知ることになる。

 

「がああぁぁぁぁぁ!?」

「第零秘剣《神楽(かぐら)》。爛から教えてもらったけど、意外とできるもんだね。」

「これで、王手(チェックメイト)よ。死にたくなければ、下手なことはしないことね。でも、どんなことをしても、貴方は死ぬ運命かもよ。」

 

 ビショウの右腕が霞んで消えていったのは、一輝が《神楽》を使ったからである。《神楽》は、斬ったものを幻覚であるように見せるというもの。原理は爛しか分からないのだが、爛は一輝ならこれをできると言い、一輝に教えたのだ。その結果、一輝は《神楽》の習得に成功。爛も《神楽》を使うことはできる。爛自身、一輝に《神楽》を教えるのは無謀だと思っていた。それは、斬ったものを幻覚であるように見せるという部分のことだった。それには、高度な技術がいるのだが、一輝が得意とする相手の剣の理を読み、上位互換の剣を作る『模倣剣技(ブレイドスティール)』。それがあったため、爛は《神楽》の理を掴むことができるのか。それによっては《神楽》を習得することができると思い、一輝に爛自身がする《神楽》をする。そして、一輝は《神楽》の理を掴むことができたのだ。理を掴むことができたからこそ、一輝に《神楽》を習得させることができたということだ。

 

「さて、これ以上被害を加えないのなら、なにもしない。」

「くっ・・・」

 

 負けている状況でありながらも笑みをしているビショウ。しかし、一輝達にとってはもう分かっていることだった。彼がどうしてくるかも。

 

「悪いけど、君の伏兵ならご退場してもらったよ。」

「何!?」

「二段構えで来るのは誰もが分かることだ。人数が足りないからな。」

「くそぉ!」

 

 ビショウは自分の策が二度も看破されるとは思ってもおらず、この怒りをまだ残っている左腕を使い、近くにいた一輝に殴ろうとする。

 

「っ!?」

 

 すると、ビショウが滅多斬りにされ、その場に倒れてしまう。そして、そのビショウを斬ったのは、青いパーカーに赤い血がついている少年───爛だった。爛はここまで歩いてきたのだが、たまたま着いた時がこの瞬間だったため、この解放軍を統率していたビショウを滅多斬りにしたのだ。そして、爛は自身の霊装を解除する。

 

「ふう、終わったな。」

「そうだな。それと、いつまでそこで女子と群がりながら見ているんだ?昨年度首席入学者、Cランク、『狩人(かりうど)』、桐原静矢。」

 

 爛が桐原の名前を言うと、ある部分の背景が削り落ちていくかのようになっていき、姿を現したのは昨年度首席入学者の桐原静矢。一輝達の事を見ていたようだ。そして、桐原は顕現していた霊装を解除する。そして、颯真とアリスは驚いた。それもそうだ。二人の異能では桐原が感じ取れなかったからだ。

 

「風じゃ、感じ取れなかったぞ。」

「あたしも無理だったわ。って言うことは。」

「ああ、アイツの能力は『認知不能(ステルス)』だ。」

「それでも僕を見つけることができたんだ。久しぶりだねぇ黒鉄君、宮坂君。君ら、まだ学園にいたんだ。」

 

 二人が感じ取れなかったのは、爛も説明した通り、桐原の能力は『認知不能』、見つけることが出来ない。しかし、爛は見つけることができた。それは爛がいつも行っている方法で、探しているからだ。爛の方法はどんなものでも見つけることができる。だからこそ桐原を見つけることができたのだ。そして、爛にとっては一番面倒な相手でもある。その後は警察が現場に到着、爛と一輝、颯真はこの事件の事をよく知っているため、事情聴取を受けることになった。桐原は、ただ見ていただけ。と言い、取り巻きの女子と何処に行くのかと話し合うということになった。それを見たステラはこんなのを口にする。

 

「正直言って、アイツを今この場で焼き尽くしたいわ。」

「まさか、貴女と同じ考えになるとは思ってもいませんでしたよ。」

「私も同感ね。アイツは本当に許せない。お兄ちゃんや、お兄ちゃんが認めた一輝さんを馬鹿にしてるから。」

 

 ステラ、珠雫、明の三人は、桐原に思っていることが同じになり、桐原を許せないと思っていた。すると、ふと桐原がこんなことを言ってくる。

 

「そう言えば、いつまで君達はその惨めったらしい力(・・・・・・・)を使っているつもりなのかな?」

「アンタねぇ!」

「ステラ、いいんだ。」

「よくない!」

 

 桐原の言ったことに痺れを切らしたステラは、桐原に対しての怒りがマックスにまで溜まっていた。ステラの堪忍袋の緒を切るには丁度良い言葉だった。一輝はステラを止めるが、ステラは止まることはなかった。

 

「ステラ、止めろ。」

「でも・・・!」

「止めろ!今やっても無駄だ。」

 

 爛の覇気のこもった言葉に、怒りを抑え込むステラ。それを見た桐原は高らかに笑う。

 

「あ、あはははははは!これは良い傑作な笑い話だ!黒鉄君は格好いいところを彼女に吹き込んでいるみたいだねぇ。でも、皇女様、君と仲の良い彼と彼は僕と戦うのが怖くて逃げたんだよ?それが、格好いいとでも言えるのかい?」

 

 桐原の言ったことに、ステラは完全に怒ってしまう。

 

「アンタ、それ以上言ってみなさいよ。アタシの炎で焼き尽くしてあげるわ。」

 

 ステラからは尋常じゃない殺気が放たれる。それには、ステラをよく知っている一輝も少し怖じ気づいてしまう。しかし、爛はステラを見たまま、止めることはなかった。桐原はそれをただ見ており、一輝に話す。

 

「そう言えば黒鉄君。手帳はもう見たのかい?」

「手帳?まさか!」

 

 一輝はあることを察し、手帳のメール受信を見ると、一輝の初戦の相手の通知が来ていた。

 

「黒鉄一輝様、選抜戦第一回戦は二年三組、桐原静矢様に決まりました。」

「そう、君の初戦は僕、桐原静矢様が相手だ。精々逃げないでくれよ?最も、宮坂君のは逃げ出しても良いんだけどね。」

 

 桐原が言う頃には、爛は手帳をもう開いて、メール受信を確認していた。爛の選抜戦の初戦はーーー

 

「宮坂爛様、選抜戦第一回戦は三年三組、貴徳原(とうとくばら)カナタ様に決まりました。」

 

 校内序列第三位の生徒会の会計、貴徳原カナタ。破軍学園では、刀華と愛華に次ぐ強者。すると、爛は桐原にこんなことを言った。

 

「桐原。お前がどう思おうと勝手だが、慢心していると負けるぞ?特にランクという差を見ているだけじゃ、な。それと、俺と一輝は必ず勝ち上がる。それをどう思うかはこれも勝手だ。」

「そうかな?ランクという差は絶対にひっくり返らない。君のような人間ではない人に言われたくないけどね。」

「そうか。お前もあっちに付いたのか?」

「なんのことかな?『ノヴァの騎士』について知りたいのかい?」

「いや、別にいい。」

「そうか。それじゃあ今度は選抜戦て会おう。逃げ出さないでくれよ?惨めな騎士達。」

 

 桐原は爛と話したあと、桐原についている女子と共にショッピングモールから姿を消す。すると、珠雫とアリスが爛に聞いてくる。

 

「爛、『ノヴァの騎士』とはどう言うことなの?」

「『ノヴァの騎士』・・・人ではない存在の力だ。一輝とステラ、颯真と明は見たことはあるよな。『ノヴァの騎士』それは、人よりも生命力を持ち、圧倒的な力を持つ。最も、『ノヴァの騎士』の力は受け継がれていく。いや、選ばれると言った方が正しい。」

「どう言うことですか?」

「選ばれた人間が、『ノヴァの騎士』になると言った方が良い。『ノヴァの騎士』の生命力は並の人間の何十倍だ。数百年は生きられる。」

「っ!?」

「後は、ある儀式に『ノヴァの騎士』の力が必要になってくるとしか、俺は知らない。」

 

 爛は悲しい顔になりながら、『ノヴァの騎士』について話す。『ノヴァの騎士』の歴史を聞いた二人は何も言えない状態だった。

 

 ーーー第12話へーーー

 




爛「第11話、終了だ。」
一輝「僕達もまだ、ノヴァの騎士についてはあまりよくわかっていない。だけど、これから少しずつわかっていくことになるよ。」
爛「それと、作者には怒っておいたからな。第12話、読んでくれよ。」


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第12話~願いと真なる力と再会~

爛「第12話だ。」



 土曜日の昼、ショッピングモールに出掛けた爛達は解放軍(リベリオン)に遭遇してしまう。しかし、爛達なんとかこれを退ける。というか、爛や颯真達が無双をしたため、なんとかこれを退けたという訳じゃない。そして、爛達は桐原と会う。そこで、『ノヴァの騎士』の単語が出る。珠雫とアリスは何も知らないため、『ノヴァの騎士』について爛に聞いてくる。爛は『ノヴァの騎士』について二人に説明をすると、二人は何も言えない状態だった。そんな一日を過ごした。次の日の昼、爛は手帳を開き、なにかをすると手帳を閉じ、部屋を出る。そして、ある場所に行くと、一人の少女が立っていた。少女が爛に気付くと手を振る。

 

「爛~!」

「早いなステラ。」

「それで、話って?」

 

 爛が手帳を開いていてのは、ステラにメールを送るためだ。そして、爛が送ったのは話があるとしか送っていない。

 

「まあ、一輝のことと、お前のことの話なんだがな。一輝について頼みたいことがある。いや、俺自身の願いと言った方が良いのか。」

「どう言うこと?」

「俺と一輝が模擬戦を結構な量をやっているのを知っているか?」

「ええ、イッキから聞いたわ。ランと模擬戦を大量にやっていたと。」

「それと、一輝が公式戦に一度も出てないのも知ってるよな?」

「ええ。」

 

 ステラの頭の中には、自分が一輝に負けたときに爛がいっていたことを思い出していた。一輝のことは測ることができないと。

 

『現に、あいつの力は測れるもんじゃない。あいつは、常識を打ち破ってる。常識では考えられないところまで行ってることもあるんだ。一輝の考え方も、戦い方もな。』

 

 爛は、どれだけ一輝が不当にチャンスを奪われ続けていると行っていたようなものだった。

 

「一輝は公式戦に出るのは当たり前だ。だが、それで一輝は緊張しないとも限らない。そこでだ。ステラに俺の願いを聞いてくれるか?」

「何、かしら?」

「あいつの心の悲鳴を聞いてやってくれるか?」

「心の、悲鳴を・・・聞く。」

「そうだ。俺も聞いてやれるが、俺も一輝の心の悲鳴と同じだ。流石に自分の心の悲鳴と一輝の心の悲鳴を何とかするのは割りと大変なんだ。だから、一輝のルームメイトであるお前に言ったんだ。」

 

 爛は同じように心の悲鳴を感じていた。それは、彼が人ならざる者である以上、爛は周りの人間から隠れるように過ごしていた。だからこそ、爛は出ることは出来なかったのだ。自分が眼帯をしていることもそれに含まれている。

 

「分かったわ。できる範囲だけど、やってみる。」

「そうか。助かるよ。それと、一輝の心の悲鳴はいつもと違う一輝を感じたときだ。」

「?」

「ありゃ、言い方が悪かったな。一輝の姿勢は分かるよな。一度手合わせをしたから。」

「ええ。わかるわ。」

「なら、その一輝の姿勢と違う姿勢を感じたら、それが心の悲鳴になる。」

 

 爛自身、一輝の姿勢とは違う姿勢を見ていることはない、ただ、一輝のルームメイトだからこそ、分かっていたのだ。だから、爛は一輝のルームメイトになったステラに頼むのだ。自分より長い付き合いになるであろうステラに。

 

「一輝は表面上、何もないように思うが、内側は脆すぎるんだ。」

 

 常人では、一輝が受けてしまっている物には誰も耐えることができない。常識ではストレスが臨界状態でも、一輝は耐えてしまう。───表面上では。元ルームメイトとしてできることは、ステラに一輝を支えるということをさせること。

 

「成る程ね。承ったわ。アタシにとって、イッキは格好いい騎士であってほしいからね。」

「それってつまり、一輝のことが好きなのか?」

「ななな、何でそうなるのよ!?」

「一輝にたいしての行動で分かるからな。」

「ええ!?」

 

 顔を真っ赤にして、爛の言ったことに否定をする。爛はため息をつくと、ステラをデコピンする。

 

「痛っ!?」

「ほい、もう言い訳を止めような。」

「何すんのよ~」

「ま、俺の願いを聞いてくれたしな。何か、聞きたいことでもあるか?」

 

 ステラは少しだけ悩むと、何を聞くか決まったのか、爛に話す。

 

「アタシの本当の能力を知りたいわ。」

「そうか。じゃあ、単刀直入に言うぞ?」

「分かったわ。」

 

 爛は一呼吸おくと、口を開く。

 

「ステラの本当の能力は・・・ドラゴンを体現する───そう言う能力だ。」

「ドラゴンを・・・体現する・・・」

「つまりは、自分自身が───ドラゴンになるということだ。本当の能力を使いこなしたとき、お前に施している術式はなくなる。」

 

 爛はそう言いながら、ステラの腕を指で差す。すると、爛は何かに気づいたのか、周りを見渡しながら言う。

 

「誰だ?隠れてるのは。」

 

 爛はそう言うが、誰も出てこなかった。しかし、爛はあるところを一点に見つめる。

 

「そこに居るんだろ?誰かは知ってるけどな。」

「え?え?誰?」

 

 爛は一点を見つめ、ステラは爛が何を言っているか、分からなかったが、爛が見つめている方向を見ると、木の陰に誰かが居た。

 

「おい、そこから出てこいよ。」

 

 しかし、そこから出てくる気配はなかった。爛はため息をつくと、木の陰に居る人間の名前を言う。

 

「出てきてくれよ。ただ、こんなタイミングで会うのは俺も驚きだ。『エーデルワイス』。」

「バレてしまいましたか。」

 

 そう言いながら出てきたのは、白い鎧をつけている女性が出てくる。その姿はまるで天使のような姿だった。

 

「ラン、この人は?」

「俺の師であり、世界最強の剣士だ。二つ名は『比翼(ひよく)』。」

「世界最強の剣士・・・」

「ステラ、お前は戻っておけ、ここは俺とエーデルワイスの場だ。」

「わ、分かったわ。」

 

 ステラは爛に言われ、学園内に戻っていく。爛とエーデルワイスは学園を離れ、山の中に居た。

 

「もう一度聞くけど、何の用で来たんだ?」

 

 爛がエーデルワイスに聞くと、エーデルワイスは空を見る。爛も空を見ると、満天の星が見えていた。

 

「綺麗、ですね。」

「そうだな。で?」

「ああ、そうでしたね。それは貴方を見に来ようかと。」

 

 理由を聞いた爛は、微笑んだ。そして、エーデルワイスの言った理由に対して、こう言った。

 

「はいそれ、嘘だろ。」

「何で分かったんですか?」

「寝る場所が無いんだろ?貴女はいつも何処かに居るんだから。」

 

 爛の言ったことに何も言わないエーデルワイス。二人で話をしていると、爛とエーデルワイスは何かに気づいたのか、爛は一言言う。

 

「一輝、居るのは良いが、そこで居て良いのかな?どうせ居るんならこっちに来い。」

「良いのかな?折角の再会なのに。」

「良いさ。な?エーデルワイス。」

「はい、構いませんよ。」

 

 爛がそう言うと、一輝がこっちに来た。そこにはステラの姿もあった。

 

「ステラも居たんだな。」

「何よ。」

 

 一輝達が来たのは、ステラが無理矢理連れてきたという感じだったのだ。一輝達も空を見上げる。

 

「キレイね~」

「そうだね。こっちに来ただけでこんなに違うんだ。」

 

 満天の星空に見とれる二人。爛とエーデルワイスが立つと、爛とエーデルワイスは霊装(デバイス)を顕現し、構える。それを見た一輝とステラは驚く。

 

「え?え?何やってるの!?」

「弟子の力を見ようかと。」

「まあ、幻想形態だし、伐刀絶技(ノウブルアーツ)は使わないからな。」

 

 爛とエーデルワイスは霊装を構える。

 

「っ!」

 

 爛がエーデルワイスに向かって走り出す。エーデルワイスは二つの剣を構え、爛と対峙する。

 

「ふっ!」

「やあっ!」

 

 二人の振るわれる剣はエーデルワイスが使う剣技だった。しかし、二人の剣は一輝達には見えなかった。それほど二人が振るっている剣は速いということ。

 

「だぁ!」

「っ!」

 

 爛がエーデルワイスの意表を突く剣の振りをするが、エーデルワイスの霊装は、二つの剣。爛より手数が多いのだ。だから、爛の意表を突いた振りは、止められてしまう。

 

「流石、俺の師だ。本当に戦いがいのある人だよ!」

「そう言ってもらえて私も嬉しいですよ!」

 

 爛もエーデルワイスも二人とも剣を全力で振るっている。爛はエーデルワイスの二つの剣を捉えるように刻雨を振るう。エーデルワイスは爛の刻雨の振りの速度を越えるように二つの剣を振るう。

 

「刻雨、全力解放!」

 

 爛は刻雨の能力を全力解放する。すると、刻雨と爛が紫電を纏う。一輝とステラは驚く。自分達と戦っていたときは全力を出していなかったと。

 

「これが、爛の全力・・・」

「スゴい力ね・・・」

 

 一輝とステラは感嘆の声を出す。爛とエーデルワイスは剣を振るう。一進一退の攻防。剣であれば二人は絶対に負けることのない剣士だ。

 

「「シッ───!」」

 

 剣の速度が尋常じゃないほど速くなる。剣が見えなくなるだけではなく、己の姿さえ、見えなくなっている。爛とエーデルワイスしか持っていない剣技。これは剣の振るう速度を操れる剣技。爛とエーデルワイスは一から百までの速度を変えられる。二人が一旦距離を取る。

 

「っ!?」

 

 爛が何かに気付くと、脚に力をため、エーデルワイスの後ろに行く。すると、銃声が響き、爛を貫く。

 

「ぐあっ!?」

 

 爛は膝を突くが倒れるまでは行かず、立とうとするが、脚が痺れ、動けなくなる。

 

「しまった・・・!?」

「爛!?」

 

 すると、もう一度銃声が響き、今度は爛の胸を銃弾が貫く。

 

「かはっ・・・」

「爛ーーーーーーっ!」

 

 爛が倒れると、一輝とステラが爛に駆け寄る。爛はまだ生きているが、完全に胸を貫いており、ほぼ死ぬ間際と言ってよかった。エーデルワイスは爛を撃った人間を探したが見つからず、今は断念せざる終えなかった。一輝達は黒乃にこの事を連絡し、全速力で学園に戻る。

 

「理事長!」

「取り合えず、師匠(せんせい)をiPS再生槽(カプセル)に!救護係急げ!」

「っ!」

「お前は・・・師匠の一体何の関係だ。」

「師弟の関係です。気になるのでしたら、彼に聞いてみたらどうですか?」

「師匠の師なのか?」

「そうです。」

「今はごちゃごちゃ言ってる暇はないな。今は師匠の無事を祈ろう。」

「そうですね。」

 

 エーデルワイスは爛が目を覚ますまで、学園に居ることになり、黒乃達は爛が目を覚ますことを祈っていた。それも、何時間も彼のそばに居た。

 

「爛、戻ってきてくださいね・・・私は貴方を待ってますから・・・」

 

 爛を撃ち抜いたのは一体・・・

 

 ーーー第13話へーーー

 




一輝「爛が撃ち抜かれたのを次の話で分かるかもね。それじゃあ。」


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序戦の章~七星剣武祭代表選抜戦~ 叶わぬ願い
第13話~選抜戦開始~


一輝「第13話だよ。」


 爛が撃ち抜かれて次の日、爛の居る医務室には、エーデルワイスが昨日の夜から居た。エーデルワイスはあのときから爛が心配で眠っていなかった。

 

「爛・・・」

 

 エーデルワイスが爛の手を握っていると、爛の手が弱々しい力で握りかえす。

 

「ん・・・」

「爛!?」

「エ、エーデルワイス。ここは・・・?」

「破軍学園の医務室です。iPS再生槽(カプセル)に入って、撃たれた部分の再生した後、ここに来ました。」

「そうか・・・生きてるんだな。俺は。」

 

 爛はそう言うとエーデルワイスの手をしっかりと握る。すると、爛はエーデルワイスにこんなことを言う。

 

「ありがとう。」

「いきなりなんですか?お礼なんて。」

「今までの恩だよ。ありがとう、エーデルワイス。」

「それなら仕方ありませんね。どういたしまして。」

 

 すると、医務室のドアが開き、入ってきたのは・・・

 

「起きたんですね。師匠(せんせい)。」

「悪いな。お前達に迷惑かけて。」

「いえ、たとえ師匠であろうと破軍学園の生徒の一人。死なせることはできません。」

「そうか。」

 

 爛が外を眺めていると、黒乃が話を始める。それも、今回、爛が撃ち抜かれたことについて。

 

「師匠を撃ち抜いた弾丸は、対称に当たると、GPSをつける弾丸。師匠の位置を特定するためでしょう。」

「そう言うことか・・・ったく、総理も連盟の奴等も解放軍(リベリオン)の奴等も馬鹿としか言えないな。」

 

 黒乃と爛の話に入ることもなく、聞いているエーデルワイス。

 

「師匠を敵にまわすと、必ず『死』でしかないからな。」

 

 それもそうだ。爛は解放軍に良い印象を持っていない。しかもそれが自分を狙っているとなると、爛は真っ向から斬っていくのだ。爛は悪に手を染めるのなら、悪を真っ向から斬り伏せていく方が良いと考えたからだ。そして、仕組まれた戦いもほぼすべては連盟が行ったこと。爛は仕組まれたものはすべてを斬り伏せていく。だからこそ、一輝が魔導騎士を目指すことを許さない一輝の父、厳をよく思っていないのだ。

 

「まあ、GPSを仕込むのは大体何のためか分かったぞ。」

「なんですか?」

「俺の力だ。もし、あいつらが俺に力があると知ればこれをやって来るのはわかる。」

「でも、何で銃弾に仕込む必要が・・・」

「多分、殺せたら殺せられるようにしたんだろう。それだけ、強大な力を持っているからだ。」

「解放軍の可能性はあるんですか?」

 

 エーデルワイスは爛と黒乃が話をしていた中で、国と解放軍が手を組んでいるという言い方をしているため、解放軍がこれをやったのではないかと思い、口にしたが、爛はそれを否定する。

 

「いや、それはないな。解放軍がそんなことをすることはない。いや、できないんだ。たとえ資金集めをしてようがな。でも、これは連盟がやったもんだと思うぞ。」

「どうしてですか?」

「俺は一輝との関係が、一番深い人物だ。俺を殺すことで、一輝が頼れる人間を消すつもりだったんだろう。そうなってくると、一輝を完全に開放することはできないんじゃないのか?」

「どうして、そんなことが?」

「黒鉄厳、連盟の倫理委員会の赤座(あかざ)守は一輝のことをどう思っているのか分かるだろう?」

「まさか!」

 

 厳と赤座は、一輝のことではなく、黒鉄家のことしか考えていない。つまり、一輝を完全に呪縛から開放するには黒鉄家と連盟の支部を潰さなければならない。一輝と珠雫はそれでも黒鉄家は無くなってほしくないと思っているはずだ。だからこそ、一輝を開放するには、一輝の力を全員に認めさせることだ。だが、それをよく思っていない者が多いのだ。

 

「多分、一輝をどん底に落としたいんだろう。それこそ、這い上がることができないところまでな。」

「そんな・・・連盟がそんなことを・・・」

「それをするのが、連盟だ。能力のない者は切り捨てる。それが、黒鉄本家ーーー黒鉄厳のやり方だ。」

 

 黒鉄本家はーーー弱肉強食のやり方をしていると言っていい。弱き者は切り捨て、強き者は大事にする。爛達は呆れている。それでも人だと言うのに、厳は何とも思っていない。やり方が卑劣過ぎることから、厳は『鉄血(てっけつ)』と呼ばれる所以なのだ。

 

「ということは・・・」

「ああ、でも、厳は自分から手を汚すようなことはしない。多分、赤座辺りがやったんだろう。」

 

 爛はそう言いながら、ベッドから降りて、立ち上がろうとする。

 

「ああ、選抜戦か・・・」

「はい。師匠の出番はもう少し後です。」

「そうか・・・一輝の試合は?」

「師匠の試合の後なのでまだですね。」

「まだ時間は午前だしな。」

 

 爛は医務室のドアの前に行く。黒乃とエーデルワイスは何も言わない。

 

「黒乃、俺は部屋に戻る。すまないが、後は頼むよ。」

「分かりました。」

 

 爛は医務室のドアを開け、部屋に戻っていく。爛が居た医務室に残っている二人は、話始める。

 

「ありがとうございました。」

「いや、礼には及ばない。ただ、師匠には生きてもらいたいからな。」

「そうですね。お世話になりました。」

「それではな。」

 

 黒乃とエーデルワイスは少しだけ話をすると、エーデルワイスは医務室を出る。黒乃は少しだけ医務室にとどまり、理事長室に戻っていく。

 

「ふう、もう昼か。」

 

 爛は制服に着替え、午後の選抜戦に備えて、刀を振るっていた。爛の持っていた刀は固有霊装(デバイス)ではなく、実際の刀であった。持っていた刀を鞘に入れると、食堂に向かった。

 

「爛ーーー!」

 

 食堂に入ると、爛を呼ぶ声がし、爛が席の周りを見ていると、一輝が呼んでいた。

 

「どうした?一輝。」

「どうしたじゃないよ!傷は治ったの?」

「まあ、iPS再生槽に入ってたからな。傷は治ってるな。」

「因みに、爛?」

「ん?」

「ゲン担ぎかい?それ。」

 

 爛が食べているのはカツカレー。一輝はいつも食べているのはバランスの良い定食。一輝はいつもと違う物を食べている爛に疑問を持ったのだ。

 

「まあ、俺は食べないと動けないから、量のあるやつを食べないとだからな。そう言えば、ステラ達は選抜戦の初戦は無傷で勝ったのか?」

「そう言えば無傷で初戦を勝つんだよね。ステラも珠雫も無傷で勝ったよ。」

「そうか。」

 

 爛はそう言いながら、カツカレーを口にする。一輝も定食を口にする。すると、爛がふと思い付いたのか、一輝に話す。

 

「なあ、一輝。」

「なんだい?」

「打ち合いを後でしないか?」

「別に構わないよ。」

「それじゃあ、食べた後でやるか。」

「そうしようか。」

 

 爛と一輝はそれぞれ食べ終わると、二人は選抜戦で使っていない訓練場に行く。

 

「来てくれ、陰鉄(いんてつ)。」

「行くぞ、刻雨(こくさめ)。」

 

 二人は、霊装を幻想形態で顕現し、霊装を構える。そして、二人が走り出すと、二人とも霊装を振るう。しかし、二人は全力で振るうことはなかった。それもそうだ。この後、爛と一輝は選抜戦があるため、全力で霊装を振るえば、体力を回復しなければならないため、軽く振るっている。

 

「ふっ・・・!」

「はぁ・・・!」

 

 爛と一輝は相手の霊装を捉えるように振るい、自身に刃が当たらないようにする。数分打ち合っていると、訓練場に誰かが入ってくる。

 

「ここに居たのね。」

「ステラ・・・」

 

 ステラは一輝が居ないため何処にいったかと思い、颯真に聞いてみたのだ。颯真に聞いてみた理由と言えば、颯真は風で誰が居るのか分かるのだ。颯真は訓練場に爛と居ると言い、ステラはここに来たのだ。

 

「ランは大丈夫なのね?」

「ああ、大丈夫だ。」

 

 ステラに聞かれ、大丈夫だと答える爛。一輝はステラにこんなことを言う。

 

「ステラ、どうしたんだい?」

「イッキに会いたくて来たんだけど。」

「すっごいストレートだな。だったら、ステラも打ち合いをするか?」

「じゃあ、そうするわ。」

 

 爛と一輝の打ち合いに、ステラも参加し、打ち合いをした。因みに、爛と一輝の試合は爛が試合をしたら、一つ試合を挟んで、一輝の試合がある。そして、颯真の試合はその間にあるのだ。爛は颯真と一輝の試合を見ることはできるが、一輝は爛の試合しか見ることはできない。自分の試合の前には、待機室に居なければならない。

 一輝とステラは爛に霊装を振るうが、爛は霊装を受け流しながら、自身の霊装を振るう。

 

「防御だけに徹するかってんの!」

 

 爛は一旦距離を取ると、霊装を構え、一気に二人との距離を積める。

 

「っ!?」

「速い!?」

 

 爛は霊装を二人に対して交互に振るう。二人は爛の霊装の振るう速度が速く、さばくのが精一杯だ。

 

「っ!」

 

 一輝は爛の霊装を止め、押し退ける。

 

「はあ!」

 

 爛は一輝が縦に振るってきた霊装を、刀に反りながら流していく。

 

「ステラ!」

「はあぁぁぁ!」

 

 ステラは後ろから霊装を振るい、爛を斬ろうとする。

 

「ふっ・・・」

 

 爛は左に跳躍し、ステラの霊装の振りを避ける。一輝とステラは霊装を構え、爛に対応できるようにする。

 

「なっ!?」

「鞘!?」

 

 爛は何と鞘を顕現し、刻雨を納刀し、抜刀できるように刻雨をの柄を握り、伐刀絶技(ノウブルアーツ)の名を言う。

 

「雷撃究極抜刀術《雷鳴閃(らいめいせん)》。」

 

 爛は二人を斬ることなく、二人の間を通りすぎる。

 

「っ・・・」

「ふう、終わりにするか。選抜戦が始まるからな。」

「ビックリしたよ。本当に斬るかと思ったからね。」

「それは悪かった。でも、これは見せた方が良いかと思ってな。」

「それじゃ、ステラも行こうか。」

「ええ、そうしましょ。」

 

 三人は霊装を解除し、爛が出る訓練場に向かう。一輝とステラは席を取っていた。爛は待機室に行っていた。爛が待機室に向かっている途中に爛が知っている人物と会う。

 

「愛華?」

「あ、爛くん。これから試合?」

「まあ、そんなところだ。愛華はどうなんだ?」

「相手が棄権しちゃってね。不戦勝なの。」

「そうか。」

 

 爛と愛華が話していると、二人の手帳が鳴る。二人が手帳を取りだすとメールが届いており、二人が見た内容は───

 

「宮坂爛様、選抜戦第二回戦は三年三組、東堂愛華様に決まりました。」

「東堂愛華様、選抜戦第二回戦は一年一組、宮坂爛様に決まりました。」

「事前情報?」

「事前情報はないだろ?」

「うん。対戦相手の決定はその人の対戦が終わってからだけど・・・」

 

 事前情報は刀華達の時にはなかったのだ。爛は愛華が言ったことにどうして事前情報が来たのか分かった。

 

「成る程な。本当に馬鹿な奴等だな。」

「どう言うことなの?」

「連盟の奴等だ。多分としか言えないがな。今まで通りに選抜戦をやるのなら、代表は六人になる。残りは一敗した奴等の勝負なんだろう。俺がカナタと当たって負けて、お前と当たって負ければ、俺は七星剣武祭に出れなくなる。俺を七星剣武祭に出したくないんだろう。連盟の奴等はな。」

「でも、爛くんは負けることはない。」

「それ、言い切るんだな。」

「その通りでしょ?」

「そうなるな。でも、邪魔をするなら斬り伏せるだけだ。」

「フフッ」

 

 爛は、待機室に入るときの実像形態での注意事項を聞くことなく、承認のボタンが出ると、躊躇わずそのボタンを押し、中に入っていく。愛華はそれを黙って見ていた。爛と愛華は、選抜戦第二回戦で激突することになった。

 

 

 ーーー第14話へーーー

 




爛「第14話、俺の選抜戦の初戦だ。二回戦のことについては、作者の思い付きだ。じゃあな!」


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第14話~桁外れの力~

 爛の居る待機室にアナウンスが入る。

 

「宮坂爛選手、試合の時間になりました。ゲート前までお願いします。」

「・・・もうそんな時間か。」

 

 爛はそう呟きながら、ゲート前まで歩いていく。一方一輝達は大闘技場に入り、席を確保していた。珠雫達も同じく、大闘技場に入っており、一輝達の席の隣に座る。そして、試合が始まる時間になる。

 

『さあ、注目のカードに入ります!第二試合は意外なカードです!』

「赤ゲート選手入場。」

『赤ゲートから出てきたのは、あの『雷切』と『麒麟』につぐ実力を持っています。校内序列(ランク)第三位!生徒会会計、三年、貴徳原カナタ選手です!』

 

 出てきたのは、まるで貴婦人のような姿をした人物だ。しかし、彼女はれっきとした実力者、観客席に居る一輝達もそれを察している。学生の身分でありながら、特別召集で実戦の現場にも居る。

 

「青ゲート選手入場。」

『青ゲートから出てきたのは、あの落第騎士(ワーストワン)のルームメイト!しかし、侮ることなかれ!彼は入学式の後、『雷切』と『麒麟』を相手に勝っています!その実力は本物なのか?今、それが明かされます!一年、宮坂爛選手!実況は月夜見半月(つくよみはんげつ)、解説は西京寧々先生です!』

『うぃーっす。』

 

 爛のことを興味津々に言う実況の月夜見。それを聞いていたステラはこんなことを言うのだった。

 

「・・・ずいぶんとした言われようね。」

「仕方ないよ。彼は実際に二人に勝ってるんだから。」

 

 注目されるのも当然だ。月夜見の説明にもあった通り、爛は刀華と愛華に勝っているのだ。否が応でも学園に名は少しくらいは知られているだろう。

 

「逃げるつもりなどないですか・・・」

「やりたくなかったら、やってないしな。今年ばかりはチャンスを逃したくないんでね。」

「そうですか。」

 

 カナタも気づいてはいる。この闘技場に立った以上、覚悟はもうできていると、なら、自分はその覚悟に応えればいいと。

 

「参りましょう、フランチェスカ。」

「手加減はしない。行くぞ、刻雨(こくさめ)。」

 

 カナタは、レイピア系の霊装を顕現すると、霊装を自身の胸の高さに水平にし、持っていない手を使い、霊装の先端から押していくように砕いていく。すると、フランチェスカは空気中に展開することになり、霊装は見えることがない。爛は霊装を顕現すると、鞘に納める。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 合図が出たと同時に、カナタは空気中に展開しているフランチェスカを操作し、爛を斬ろうとする。

 

(決まった・・・!)

 

 カナタはそう思ったが、それは、すぐに覆される。

 

「えっ・・・!?」

 

 素っ気ない声をあげるのも分かる。爛はフランチェスカの斬撃を止めていたのだ。フランチェスカを止められることはできるが、空気中に展開しているので、止められることはないのだが、爛はその考えを覆すことができるのだ。

 

「ねぇイッキ、ランは何をしているの?」

 

 ステラがそう言うのも分かる。爛はフランチェスカを止めているが、爛は動くことはなく、たっているのだ。その事にステラは疑問を持ったのだ。因みに、一輝にこの答えを知らない。となれば、一輝がステラに返す言葉は自然と分かるものだ。

 

「僕にも分からない。爛に聞けばいいんじゃないかな。」

 

 一輝の言っていることは正しい。分からないのなら、本人に直接聞きに行くのも。ただ、半分しか正しいとしか言えない。それは、簡単に人がそれを教えるかどうかだ。教えてもらえないのなら、自分で考えるしかない。カナタは目の前の人間が何をして、見えない霊装を止めることが出来たのか、その事で頭の中が一杯になる。

 

(何故止めることができたのですか!?何か、彼に何かがあるとしか思えません!?)

 

 爛はバックステップをし、距離を取る。カナタは悩んでいる暇はないと思い、展開した霊装を構える。フランチェスカは空気中に展開しているため、カナタが展開しているところで息なんてしたら、体内にフランチェスカが入っていき、遠隔操作で斬られてしまう。爛は、ほぼ自殺行為だと分かる行動をする。

 

『宮坂選手、貴徳原選手に向かって走っていく!』

 

 そう、爛はカナタに向かって走るのだ。普通ならば、空気中に展開しているフランチェスカに斬られるか、息をしてフランチェスカを吸い込んでしまい、遠隔操作で内蔵などを斬られてしまう。しかし、爛はそれを打破するものを持っているのだ。

 

(正気なのですか!?仕方ありません、これも覚悟の一つ。やらせていただきます!)

 

 カナタはフランチェスカを操作し、爛を斬ろうとする。しかし、爛は止まることなく走っていく。すると、爛の姿が消える。

 

「っ!?」

 

 いきなり爛が消えたことに驚くカナタだが、攻撃をしてくることも踏まえ、自身の周りにフランチェスカを展開し、爛を寄せ付けないようにしていた。しかし、防御に徹してようが、爛には関係がなかった。

 

 ───考えは良い。でも、それじゃ俺を止めることはできないぞ。

 

 カナタの耳に爛の声が聞こえたときには、意識を失っていた。そして、爛は伐刀絶技(ノウブルアーツ)を口にする。

 

「《捌の剣・影蒼龍(かげそうりゅう)》。」

 

 一瞬、闘技場の時間が止まったような気がした。しかし、観客は爛とカナタを見ると、改めて分かる。爛はカナタを下したのだと。そう、爛の実力は本物なのだ。そう思い知らされることとなった。爛はゲートの方に戻っていく。

 

『き、決まったー!二合で終わってしまったこの第二試合!勝者は、『予測不能の騎士(ロスト・リール)』、宮坂爛選手、『雷切』と『麒麟』を下した実力は、紛れもない本物だー!』

 

 観客達は驚愕しかないだろう。たった二合で終わってしまった第二試合。それも、Fランクが実戦を経験しているBランクを下すと言う大判狂わせをしたのだ。そして、爛は『予測不能の騎士』へと、戻ることが出来なくなる。それは、本人はもう分かっている。爛が一輝達のところに戻ろうとするとき、爛は颯真と会う。

 

「お疲れ、爛。」

「これから試合か。負けるなよ。」

「お前に言われたかないな。まあ、万が一とも考えておく。と言うか、負けるつもりないしな。」

「そうだな。お前なら、行けるだろ。」

 

 爛と颯真は、叩くように右手を合わせ、別れていく。すると、爛は続けて一輝と会う。

 

「あ、爛。お疲れ様。それと、一つ聞いていいかい?」

「何だ?」

「カナタさんを倒したときに使った剣。あれは何をしているのか教えてもらえないかな。」

「〈影蒼龍〉か・・・一応言っておくけど、これに対応できるのは学園内の生徒では、刀華と愛華だけだ。俺はこの剣では『抜き足』を使用している。」

「抜き足?」

 

 爛は、一輝が自身の言った『抜き足』のことが気になったのに気付くと、爛は抜き足のことについて、話始める。

 

「古武術の呼吸法と歩法の合わせ技。どういうものかと言うと、自分の存在を無意識に滑り込ませる体術だ。」

「相手にはどう見えるんだい?」

「瞬間的にこちらに来ているとしか。観客から見ると、反応速度が遅くなって見える。」

「成る程ね。ありがとう教えてくれて。」

「いや、それほどじゃない。じゃあな。」

 

 爛は、颯真と一輝の試合を見るために、ステラ達のところに行く。

 

「お疲れ様、ラン。圧勝だったわね。」

「ん。まあ、いつも通りかな。」

「それをいつも通りだと言うと、おかしいと思われますよ。」

「それは、常人の考え方ね。彼からすると、これが普通ならいいんじゃない?別に迷惑になることじゃないし。」

 

 爛は、颯真が座っていた席に座り、闘技場の方を向く。明は爛のことを心配していた。理由とすれば、ステラ達と話すときに、表情が切羽詰まったような顔だったからだ。だが、爛に問いただしても彼は答えない。

 

(父さん・・・あの人との約束を、果たさないといけないかもしれない・・・)

 

 爛は、颯真達の心配ではなく、今後のことについて心配していた。

 

 ーーー第15話へーーー

 



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第15話~爛の隠し事と一輝の決意~

作者「やっと投稿できた・・・お待たせして申し訳ありません!」


 時間的には第三試合が始まる前の時間。爛は観客席から立ち、大闘技場から出ていこうとするのを、明が止める。

 

「どこいくの?お兄ちゃん。」

「用事だ。颯真の試合は結果だけ教えてくれ。」

 

 爛はそう言うと、大闘技場から姿を消す。一方一輝のところでは、固有霊装(デバイス)の実像形態の注意事項を聞いていた。しかし、一輝は聞くことなく承認のボタンが出ると、迷わずそのボタンを押す。

 

「即決で決めるとは、男だねぇ少年♪」

 

 一輝のことを言っているのだろうか。一輝が声のした方向を向くと、そこには背の小さい人がいた。

 

「西京寧々さん・・・ですよね?」

「おんやぁ?ウチの名前をご存じで?」

 

 一輝はこの人のことを知っていた。西京寧々、爛の弟子であり、『KOKトップリーグ』と去年のオリンピックの出場者であり、東洋太平洋圏最強と謳われている。一輝は寧々がどうしてここに居るのか、その理由を考えているとすぐに答えに行き当たった。

 

「もしかして、寧々さんが臨時教師ですか?」

 

 一輝がそう言うと、寧々は口元を隠すように開いていた鉄扇を閉じ、一輝に対して答えを出す。

 

「その通り、くーちゃん・・・新宮寺のことね。くーちゃんが使えない教師どもを大量に捨てたからねぇ~ くーちゃんが知っている相手を通してウチに来たって話の方がいいかもねぇ。」

 

 一輝は寧々に答えを聞くと、ここに寧々がどうして来ているのか、それを聞こうとする。

 

「どうして、ここに来たんですか?」

「それはねぇ、くーちゃんが期待している騎士を見ておこうと思ってね。この対戦が終わったら・・・」

 

 何を言ってくるのだろか、そんなことを考えながら聞いている一輝は驚く。寧々が瞬間的にこちらに来たのだ。何故瞬間的にこちらに来ているのか、その答えを探しだそうとしたが、答えはすぐにでた。爛が初戦で決めたときの伐刀絶技(ノウブルアーツ)の時に教えてもらったもの。それは───抜き足。その答えに行き着いたのだ。

 

「どうよ?二人っきりで夜の特別授業とかは?」

 

 寧々の言ったことに、何を言っているんだ。と聞きたくなる一輝だが、それを抑えていた。

 

「貴様、ウチの生徒に何してる。」

 

 寧々の後ろからドスの利いた声を発してくる人物は、新宮寺黒乃。寧々は驚き、一輝の後ろに即座にいく。

 

「びっくりさせないでよくーちゃん。間違えたら殺すところだったよ?」

「貴様に殺されるものか。ところで、試合の監督はどうした?」

「いやー、あまりにもしょっぱい試合をするからさ。くーちゃんのお気に入りの子を見に来た方がいいかなーって。」

 

 正直に話す・・・というか、所々嘘をついているように感じる理由だが、寧々の言った言葉に黒乃は反応する。

 

「べ、別にお気に入りと言うわけではない!」

 

 黒乃はそう言いながら、寧々の頭を殴る。そうして、一輝の方を向いた顔は恥ずかしいような、彼女の表情の中では珍しい表情をしていた。

 

「すまんな、黒鉄。こいつのせいで集中を乱してしまったな。」

「いえ、少し驚いただけなので、大丈夫です。」

 

 黒乃が一輝に謝ると、一輝は黒乃達は悪くないように言う。というか、一輝の集中には何も支障はなかった。

 

「今持って帰るから、こいつの世迷い事の言葉には気にするな。持ち場にもどれ、歩く公然猥褻罪!」

 

 そう言いながら、寧々の着物の裾を引っ張り寧々を引きずっていく黒乃。

 

「わかったから、着物を掴むな~ これスッゴい高いんだぞ~」

 

 そういうも、黒乃に引きずられていく寧々。一輝は寧々に誘われた答えを返してないと思い、寧々に答えを返す。

 

「それと、寧々さん。お誘いしていただきましたが、すみません。僕の方では祝勝会をするので、別の時にでも。」

「予約が入ってるのかぁ~ ま、その分を試合で楽しませてよね。少年の試合の監督はウチだから。」

 

 寧々はそう言うと、黒乃の手から外れ、黒乃の隣を歩いていく。一輝は待機室の方へと向かい、自身の第四試合までしっかりとコンディションを整えようと考えていた。同時刻、爛は破軍学園の大闘技場の外に出ていた。大闘技場に見覚えのある魔力を感じたからだ。悪い方向で。

 

「居るなら来な。赤座。」

 

 爛はそう言うが、誰も出てこない。爛は試しに言っただけなのだ。見覚えのある魔力と言うのは前にも同じようなことがあったからだ。それが赤座だ。

 

「はあ、出ないのは分かってる。お前達の作戦は簡単だろうに、何故俺を襲わない?」

 

 爛は虚空に話す。赤座が居るのはわかっているからだ。何も言わずとも誰が来ていることかは、一度感じたことがあれば、次会ったときに変装していたとしてもわかる。

 

「いやぁ、それは貴方が強いからですよ。」

 

 そう言いながら出てくるのは赤座。中年の太ってる男性だ。爛と一輝からすると非常にうざったらしい奴だ。

 

「用件はなんだ?」

「用件、とは?」

「とぼけるな。貴様が俺のところまで来たのは何か用件があるからだろう?」

 

 爛が見透かすように言うと、赤座は笑みを浮かべ、爛に話す。

 

「では用件ですが・・・」

 

 赤座がそう言うと、爛を囲むように連盟の連中が銃を構えて出てくる。爛はそんなことは分かっていた。

 

「ここで死んでもらいましょう。」

「・・・俺がこんなところで死ぬとでも?」

 

 赤座の言ったことに、少し間をおいて話す爛。爛が連盟を嫌っているのは分かるのだが、何故こんなことをしているのか、それは後々分かることとなる。

 

「ええ。ここで貴方が銃弾の雨を避けきれなければ、ですがね。」

 

 赤座の卑劣なやり方に、ため息をつく爛。正直言って、連盟にまともな奴が居るのか居ないのか、その辺りを試したくなるようになってきた爛は、口を開く。

 

「貴様ら、何も分かってないな。」

「どういうことですか?」

 

 爛の言ったことに疑問を持った赤座。それを聞くと、爛はニヤリと笑みを浮かべ、霊装を顕現する。

 

「悪いが、俺にも霊装の使用許可ぐらい持ってるからな。正当防衛ということで黒乃に話をする。」

「そうですか。ですが、貴方は幻想形態でなくてはいけませんよ。」

「本当にバカだろ貴様ら。解放軍(リベリオン)と手を組んでいる貴様らに、容赦する道理がない。」

 

 爛はそういい、刻雨を構える。彼は幻想形態ではなく、実像形態で刻雨を顕現していた。

 

「何故その事を?」

「話すつもりはない。と言ったら?」

 

 爛が挑発するように言うと、赤座は命令を出す。分かりきっている命令だった。

 

「彼を撃ちなさい。」

 

 そう言うと、周りを囲っていた連中が銃の引き金を引こうとした瞬間。

 

「ヒッ!?」

「貴様に殺されるものか。こんなことしてると、逆に噛み殺されるぞ。」

 

 一瞬にして、囲っていた連中を殺していた。爛は刃を赤座の首もとまで突き付け、最後に忠告をし、大闘技場とは別の方向に歩いていった。赤座から離れるように歩いていた爛は、元々の目的を達成しようとする。爛の手帳から着信音が発せられる。そして、破軍学園とは別の手帳を取りだし、電話に応じる。

 

「あー、なんだ?」

『あれは見つかりましたか?』

「まだだ。」

『早く見つけてくださいね。作戦に間に合いませんから。』

「はいはい、分かったよ。」

 

 そう言うと、爛は通話を終了する。一体誰と話していたのだろうか、誰もいないところで話していたことは一輝達と巻き込んでいく。待機室に入った一輝は、桐原との試合で集中していた。一輝は桐原が戦った試合を見ていないのだ。見ていたら一輝の作戦は失敗する。それが例え矢が見えなくなろうと、一輝は桐原に勝てる自信があった。

 

『アイツの試合は見ないの?』

 

 桐原との試合の映像を見ていない一輝に、ステラは聞いてきたのだ。その答えに一輝はこう返した。

 

『大丈夫。僕は戦略をたててあるから、負けるかもしれないけど、勝ちに行くよ。』

 

 一輝はそうステラに返した。そこに、アナウンスが入る。

 

「黒鉄一輝選手、試合の時間になりました。ゲート前までお願いします。」

「それじゃ、行こうか。」

 

 一輝の初めての公式戦。桐原相手にどこまで行くのだろうか。

 

 ーーー第16話へーーー

 

 



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第16話~爛の過去と一輝の優しさ~

作者「第16話、やっと一巻が終わりに近づいてる・・・長い・・・」


 電話を終え、一輝の試合である第四試合前までに大闘技場に戻った爛。近くの席に座っていた明に颯真の試合である第三試合の結果を聞く。

 

「明、颯真は勝ったのか?」

「勝ったよ。お兄ちゃんは結果は分かってたの?」

「まぁ、推測でしかないけどな。」

 

 第三試合の結果を聞くと、爛は席に座った。次は第四試合。一輝と桐原が対戦する試合だ。正直、ステラ達は心配をしていた。一輝は自信に道溢れていたが、桐原の能力をつい最近見てきたばかりなのだ。しかし、爛は心配をすることはなかった。何故、一輝はあれほどに自信に道溢れ、爛はこの対戦で一輝が一方的にやられるとも言わないのだろう。まるでこの試合。最初から一輝の勝ちが決まってるかのように。

 

『さあ!第四試合に入りたいと思います!第二、第三試合での結果に興奮が冷めないと言ったところですが、第四試合は注目の対戦(カード)です!実況は同じく月夜見半月。解説も同じく西京寧々先生です!』

『よろしく~』

「赤ゲート、選手入場。」

 

 アナウンスとともに赤ゲートが開いていく。そして、フィールドに向かい、手を挙げる。

 

『まず入場してきたのは、二年Cランク、桐原静矢選手!昨年度では一年にして七星剣武祭に出場する快挙を成し遂げ、またその一回戦で優勝候補の一人とまで言われていた文曲(ぶんきょく)学園の三年生をワンサイドゲームで打ち破った昨年度主席入学者!決して無理はせず、勝てる相手から勝っていくそのスタンスと、無傷のパーフェクトゲーム貫く事からついた二つ名は『狩人(かりうど)』!七星剣武祭最有力候補者です!』

 

 月夜見の説明が終わると、桐原に対しての歓声が聞こえた。そのほぼ全てが女子生徒からだった。

 

『流石桐原選手。その容姿の良さで女子受けは抜群です!』

『ウチはもーちょっとワイルドな方が好みだけどねー』

『寧々先生の好みは聞いてません。』

『さいですか。』

 

 月夜見は業務放棄をする寧々を軽くあしらう。そして、青ゲートの選手の説明にはいる。

 

「青ゲート、選手入場。」

『次に入場してきたのは、Fランク騎士!しかし、侮ることなかれ!この騎士は、Aランク騎士であるステラ・ヴァーミリオンを倒した騎士です!強さは本物か!?それともただの『落第騎士(ワーストワン)』なのか!?一年、黒鉄一輝選手!』

 

 一輝が姿を見せると、爛は一輝に声援を送る。

 

「全員、お前を待ってるから、勝てよ・・・」

「分かってる。」

 

 爛が最後に「絶対・・・」と呟いているのが聞こえたのか、一輝は頷く。そして、桐原と対峙する。

 

「おやおや、同じ落ちこぼれからの声援だけで、そんなになるのかねぇ」

「何も分かってない君に、分かるはずのないものがある。」

 

 桐原はニヤリと笑みを浮かべると、爛の方に顔を向け、話始める。爛の悪夢の話を───

 

「それと、宮坂君。君の一番下の妹君の話なんだけど、あれは僕がやったものだよ。」

 

 桐原が極悪非道な笑みを浮かべながら話すのは、爛だけが知っている、あの日の悪夢。その事に爛は絶望の顔をする。そして、爛の脳にあるのは、あの日の最後の妹の声。

 

『爛・・・兄さん・・・』

『もういい!何もしゃべるな!』

 

 灰色の雲が空を包み、雨が降りしきるなか、爛と一番下の妹───沙耶香が血だらけの状態でいた。爛は必死に沙耶香に声をかける。死んでほしくなかった。一緒に生きてほしかった。そんな願いと共に、ずっと───。

 

『お前には、一緒に生きてもらいたいんだ・・・お前が居なくなったら、何も守るものが無くなるじゃないか!俺は、お前と共に平穏で暮らしたいんだ・・・なのに、なんで・・・』

『爛兄さん・・・私は・・・悔いはないんだ。十年とちょっとだったけど・・・楽しかった・・・』

『待て沙耶香。逝くな・・・欠けてしまったら、意味がないんだ・・・』

『だから、私の分まで生きて・・・爛兄さん・・・大好き・・・さよ・・・なら・・・』

 

 沙耶香はそう言うと、徐々に体は冷たくなり、爛に体を預けるように、静かに逝った。

 

『沙耶香?沙耶香!逝くなぁぁぁぁぁぁぁぁ!』

 

 爛の悲痛な叫びは、空に響いた。重く、悲しく、そして、何よりも爛が辛い現実だった。爛は一輝の妹、珠雫と会ってから、時折あの日のことが夢として出てくる。今度は、彼の妹を失うのではないのかと、自分のせいで、彼女を失うことになるのではと、自分のせいで、彼女を失うだけではなく、彼達まで失うことになるのではないかと、大事な選抜戦と、七星剣武祭での戦いで、この事を明かせれてしまった爛の精神は、もう、限界に達していた。一輝をも超える限界に。爛はそれを抑え込んでいた。ここで、その扉を無理矢理こじ開けられた悲しみと、絶望と、苦しみは、爛を完全に侵食していった。

 

「・・・・・・なんで、お前が殺った?」

「ん?」

「・・・なんでお前が殺ったのか。聞いてる。」

 

 桐原は爛の質問に、極悪非道な笑みを浮かべ続けながら、答えを口にする。

 

「君の力が、うざかったからさ。その力が!」

 

 桐原は完全に悪人だった。何もかもをかなぐり捨てた笑い声は、大闘技場に響いた。そして、爛に追い討ちをかけるように闘技場内にいる生徒達に言う。

 

「見ろ!あの無様な騎士の顔を!あれが!必要のない力を持ってる人間が絶望に落ちたときの顔だ!アハハハハハハハ!」

 

 まるで、爛が悪いかのように言う桐原を闘技場内にいる生徒達は信用してしまう。実際は───桐原が悪いと言うことよりも、爛が絶望に落ちている顔を面白そうに見ている。桐原が極悪非道な笑みを浮かべていても、爛は学園のないがしろ。爛を信用する者は、ごくわずかだ。そしてこの事は寧々達は知らない。爛は爆発をするはずの心の悲鳴を抑えている。無理矢理───。次こじ開けられてしまえば、爛の心は完全に折れてしまう。アリスが言ったことが、本当になってしまうと言うことだ。

 

「爛・・・」

「・・・・・・」

 

 一輝は爛に声をかけるが、爛は何も反応をしない。しかし、一輝は爛が聞いていると思い、話続ける。

 

「爛、後で君の話を聞くけど、これだけは言わせてもらう。」

 

 自分を離すことだろう、と思いながら、爛は一輝の言う言葉を聞いていた。

 

「僕の最弱(さいきょう)を以て、君の思いを取り戻す。」

「っ!」

 

 空っぽだった心の穴が、埋められていく気がした。爛の中で、凍っていたものが溶けていった。

 

「一輝・・・頼む!」

「わかってるよ。」

 

 爛は、一輝に願うように言うと、一輝は爛に優しく答える。

 

『試合前から大変なことが起きていますが、第四試合に入ります!』

 

 月夜見はそう言うと、二人は自身の固有霊装(デバイス)を顕現する。

 

「来てくれ、陰鉄(いんてつ)!」

「狩りの時間だ、朧月(おぼろづき)。」

 

 一輝は黒い鋼の太刀、桐原は翠色の弓、そして、試合開始の合図が闘技場に響く。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 試合開始の合図と同時に、桐原はエアピアノをし始める。しかし、ピアノの音はするのだ。すると、桐原の姿が消える。

 

『あーっと、桐原選手、いきなりの《狩人の森(エリア・インビジブル)》だー!黒鉄選手、厳しい状況となるのか!?』

『桐やんの《狩人の森》にはワイドレンジアタックが有効だけど、黒坊が持ってなかったらキツいだろうね。』

 

 ワイドレンジアタック・・・広範囲攻撃のことだ。広範囲攻撃は、ステラの《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》ならば、桐原は瞬殺で終了する。桐原は、ワイドレンジアタックを持っている相手とは戦っていないのだ。姿を消してしまえば、ワイドレンジアタックであぶり出してしまえばいいからだ。それを一輝は持っていない。だが、それは普通の学生騎士ならば、だ。一輝に向かっていく桐原の朧月の矢。

 

「はあ!」

 

 一輝はそれを切り落とし、矢が来た方向に走る。一輝が走っている方向から来る矢を次々切り落とし、ある場所で陰鉄を振るう。

 

「くっ・・・!」

『あれは、学生服の切れはし!?』

『黒坊は矢が飛んできているのを捉えたら、その矢を逆算して、桐やんの位置を割り出したんよ。』

 

 一輝が有利に見えるこの戦い、桐原はこんなこともあろうかと去年よりも認知不能(ステルス)の能力を上げていた。しかし、一輝には関係がない。どれ程桐原が認知不能の能力を上げていたとしても、一輝の勝ちは揺るぐことはない(・・・・・・・・)

 

「これは参った。黒鉄君は本気で僕に勝つつもりなのかな?」

「そうでなければ、こんなところには立たないよ。」

「聞いておくけど、相応の覚悟はしてきたんだよね?」

「勿論してきたさ。君が気に入らないと言うのなら、好きなだけ矢を放てばいい。僕はそのことごとくを切り捨てよう。」

 

 それを聞いた桐原は、笑いながら一輝に話す。

 

「フフ、フハハハハハハハ。なら、精々頑張ってくれよ。落ちこぼれ。」

 

 そして、見えていた桐原の姿がまた消える。桐原の能力も伐刀絶技(ノウブルアーツ)である《狩人の森》は意味をなさなくなる。

 

「これからハンデとして、矢の当たる場所を教えてあげよう。」

 

 桐原の声が、頭のなかに響くように聞こえてくる。そして、桐原は矢を飛ばすと同時に当たる場所を言う。

 

「まずは右肩・・・」

 

 このまま行けば、一輝の右肩に桐原の矢が当たる・・・はずだった。

 

「へ?」

 

 桐原の素っ気ない声が、聞こえてくる。当たるはずの矢が、一輝には当たっていないのだ。一輝の横を素通りしていったのだ。

 

「やっぱり、矢の方も認知不能化できたんだね。」

「僕の矢は当たるまで視認できないはず・・・だ!?」

 

 桐原から見れば、一輝は自分の姿を見えることはないはずなのに、しっかりとこっちを見ている。まるで、自分のことが見えているかのように。桐原はその事に恐怖をしてしまった。そして、次に桐原がする行動を一輝が話ながら当てる。

 

「君の殺気等は見えているようなものなんだよ。今も君が、三歩僕から離れていったようにね。」

「そ、それがどうした!僕と君には絶対的な差がある!落ちこぼれの君が、僕に勝てるとでも!?」

 

 一輝が言ったことは、図星で、桐原は図星であることを悟られないようにしようとしたが、言葉の言い方でわかってしまう。そして、一輝はただ見えていないはずの桐原を見ながらこう言った。

 

「君は逃げようとしているよね。僕が君が見えているようなものだと言ったから。」

「っ!?」

 

 次々に、桐原が行おうとしている行動を言い当てていく一輝。実況の月夜見と寧々のところでは、一輝の行動を見ていた。

 

『あははは、やりやがったよあいつ!』

『ど、どう言うことですか西京先生!?』

 

 月夜見に説明を求められた寧々は、扇子を口元に持っていき、一輝が行った事の説明をする。

 

模倣剣技(ブレイドスティール)・・・黒坊はお姫様の剣技を盗んだ。それを今、桐原静矢というものに対して同じことを行った。だよね?黒坊。』

「まあそんなとこです。その名も───」

 

 ーーー第17話へーーー

 




作者「次で桐原戦は最後です。」


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第17話~完全掌握~

「まあそんなとこです。その名も───」

 

 《完全掌握(パーフェクトビジョン)》。剣術も人間も、構造は同じだ。全ての行動の根幹を司る『理』が必ず存在する。価値観と言ってもいい。それをその人間の行動や趣向、言葉の端々から辿り、理解すれば、その人間が今何を考えているのか、自分がどう動けば、どういう手を講じてくるか、往くか戻るか、攻めるか守るかーーーありとあらゆる行動全てが手に取るように分かる。

 ならば、桐原は『認知不能(ステルス)』のことをどう思っていたのか、それも一輝は分かっている。桐原からすれば、『認知不能』は弱者をいたぶるだけの道具としか考えていないからだ。だからこそ、自分が劣性に立つことを知っていると、必ず棄権する。今、桐原は劣性にたっている。彼がどう出るかは、《完全掌握》から読み取れている。必ず彼は、一輝から逃げる。

 

「今君が行動したことを教えてあげようか。」

 

 一輝は見えないはずの桐原の位置を知っている。一輝は見えないはずの桐原を見抜くように、桐原が居るであろう位置に顔を向ける。

 

「今、君は僕から三歩距離をあけたよね。」

「~~~~~~~~~~~~~~~ッッ!!??」

 

 一輝が言ったことは図星なのか、声にもならない悲鳴をあげる桐原。しかし、見抜かれるのも当然。『理』とはその場その場の考えではない。それは人間の思考回路、その根底に根ざす『絶対価値観(アイデンティティ)』だ。これは、一日などで変革することは絶対にない。本人がどれだけ裏をかいているつもりだろうが、結局はその『裏をかこう』とする考え方そのものが『絶対価値観』から生じている以上、一輝の知覚を逃れられない。相手の『絶対価値観』を盗み出すことにより、思考や感情を掌握する。

 桐原はようやく、黒鉄一輝という男がどれ程の怖さを持っているのか、一輝の真の怖さは、剣術だけではなく、一分間のブーストでもない。見るものすべての本質を暴き出す、照魔鏡が如き洞察眼なのだと。しかし、気付いていても遅すぎる。その照魔鏡は、今や不可視の『狩人』を捉えた。故にーーー、

 

「君は僕から逃げられることはない!《一刀修羅(いっとうしゅら)》!」

 

 黒鉄一輝の勝ちは確定へとなっていった。始めから。そして、宣言し、爆ぜるような速度で駆け出した。まっすぐに、逃げ場を失った狩人に牙を突き立てるために!

 

「く、来るなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 対して、『狩人』は最後の抵抗を試みる。自身の霊装である朧月がギチギチと悲鳴をあげるほどに力強く弓を引き絞って、ありったけの魔力をつぎ込んだ一矢を上空に向かって撃ち放つ。そのとき、撃ち放たれた矢は中空で爆発し、百を超える不可視の光の鏃となり、驟雨が如く一輝を目掛けて降り注いだ。フィールドの素材が穿たれ、砕け、巻き上がられてはまた砕ける。降り注ぐ破壊の雨に法則性などない。いや、あるはずなどない。伐刀絶技(ノウブルアーツ)の名は〈驟雨烈光閃(ミリオンレイン)〉。百の光の鏃による無差別攻撃。考えが読まれているのならば、考えずに絨毯爆撃をすればいい。これが桐原の出した答え。しかしーーー、

 

「なんで、なんで当たらないんだ!?」

 

 一輝には当たることもなく、一瞬たりとも立ち止まらずに破壊の雨の中を走っていく。普通ならば当たるはずの矢は一輝を貫くことは許されなかった。一輝は〈一刀修羅〉による一分間のブーストで常人には見えない速度で駆けているため、当たることなどないのだ。一輝のような動体視力と、何十倍ものブーストがあればの話なのだが。

 

「無駄だよ。どんなに無心を心がけるようにしていても、『殺したい』と心の中に少しでもあれば、それは刃となって襲いかかる。どうしても『殺意』という意志が宿るのさ。」

 

 一輝が言ったことを理解することは簡単だ。理由とすれば、無心を心がけるなどある種の武の極みだ。無心を心がけるように攻撃をすることは、そう容易く習得できるものではない。長い年月をかけて、森羅万象に心を委ねることで無心で攻撃をすることができる。桐原は感情を過小評価してたに過ぎないのだ。桐原が無心を心がけるように攻撃ができていたなら、桐原にも十分勝機はあったとしか言えない。今の彼を言うのであれば、後悔先立たず。と言ったところだろうか。彼の思考が裏目に出た。一輝は桐原という人間がどれ程哀れなのかを知っている。

 

 

 ーーーー去年ーーーー

 

 

 桐原は一輝達の世代の『首席』であり、一年生にして『七星剣武祭』出場を果たした超新星(スーパールーキー)。まず、一輝は桐原という人間を見てから、正直いい印象など持つことさえ出来なかった。普通の生徒は自衛のために一輝から遠ざかることはしても、積極的に一輝を傷つけることなどしなかった。しかし、桐原は違った。教室に居るときなどは、取り巻きの女子達に大声で一輝の中傷を言い、クラスメイト達に一輝が不利になる噂を広めたりと、色々嫌がらせをしてきた。何故そんなことをするのか。正直、一輝は恨みを買うようなことはしていない。ただ、あのときから一輝は助けられることのない人間だった。いや、一人だけ一輝を助ける人間がいた。今の彼ではない。彼のような人間で、一輝と同じように中傷を受けるも、余り気にすることもなかった彼。確か、名前は『真壁浪人(まかべなみひと)』。一輝のあのときの唯一の友人。しかし、彼は家の用事で破軍学園から離れることとなった。その用事は、家族が亡くなった。家族の墓参りや何やらをしなくてはならないと言ったからだ。しかも、思い出深い家族の家を売ることはできないため、家の方で近い学園に入るとのことだった。一輝は離れていったとは思わなかった。理由とすれば、彼はちょくちょく手紙を送ってくれていた。しかも、その手紙の内容は、全部自分を心配している手紙だった。『今は大丈夫なのか?』とか、『もし耐えられなくなったら、家にこい。学生騎士の学園もある、いつでもこい。』等の手紙を送ってくれていた。本当に彼には感謝しきれなかった。

 ある日のこと、一輝は中庭を歩いていた。そのとき、桐原が声をかけてきたのだ。

 

「君、先生に従っているようじゃ、先生達に自分の実力を見せることはできないだろ?良かったら僕と決闘しないかい?」

 

 明らかに固有霊装(デバイス)展開を禁じられている場所だった。しかも、一輝の周りには教師がいた。自分を卒業させまいと邪魔をする黒鉄家に加担している理事長派の教師もいた。

 

「断る、ここで決闘する気もない。」

 

 一輝はそういい、すぐに立ち去ろうとした。しかし───

 

「っ!?」

「おいおい、そんなつれないことを言うな。僕は黒鉄君を心配しているんだ。霊装の罰則は僕が受けよう。だから君も霊装を展開するんだ。」

 

 そういいながら、桐原は一輝に向かって朧月の矢を放った。普通ならば一輝は避けることができた。しかし、一輝は避けることをしなかった。避けたりすることが戦闘行為だと取られると思ったからだ。一輝を退学させようとするならばちょうどいい話。一輝は自分の中傷することを言っているのにも関わらず、こんなことを言ってくるのはお門違いだ。と思った。しかも、誰も桐原をとめようとはしなかった。その時、一輝は彼も理事長と繋がっている可能性を感じていた。ずる賢い彼は自分に目をつけたはずだ。そして、自らが理事長と繋がり、今こうしていると。だから一輝は避けることなどしなかった。

 その後、一輝と桐原の一連は監視カメラに映し出されていたため、一輝は処罰を受けることはなかった。桐原は厳重注意と言う言葉だけの処罰を受けた。

 

 

 ーーーーーーーーー

 

 

 桐原の抵抗は無駄なものとなっていた。どう矢を撃ち放とうが、一輝の《完全掌握》からは逃れられず、全ての矢が斬り捨てられる。もう彼は逃げ惑うしかなかった。いや、負けることしかなかったとしか言えなくなっていった。反撃に出た獣は狩人が獣に与える攻撃よりも、はるかに強い攻撃になった。

 

「そんなものが百になろうと千になろうと、僕の《一刀修羅》は苦にならない!」

 

 桐原の抵抗をものともしない一輝。卓越した棋士が百手も先まで読み取るように、一輝にはこの盤上(フィールド)での戦いは終局面(終わり)まで読み取れている。

 

「待て!来るな!来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな来るな!来るなって言ってるのが聞こえないのかよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!ふざけるな!ふざけてたまるか!君みたいなFランクの落ちこぼれに僕は負けられないんだよ!君と違って失うものがあるんだよッ!!君なんかが僕に勝っていい通りがどこにあるんだよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!だから止まれよぉぉぉぉぉぉぉぉぉ!」

 

 止められるものなら止めている。しかし、一輝は止めることなどしない。一輝の友を絶望に落とした人間に止めることなど果たして出来るのであろうか?答えは否だ。できるはずがない。友が絶望に落ちているのに、止めることはできないはずだ。だから、一輝を止めることはできない!

 

「お、おい!冗談だろ!?なあ!止めようよ!もう止めよう!そんな、それ、刃物だぞ!?そんなんで人を斬ったら大変なことになるだろ!?普通じゃないってこんなの!どうかしてるって!だから止めよう!そ、そうだ!ジャンケンで決めよう!それがいいよ!なあ黒鉄君!僕達はクラスメイト、友達じゃないか!」

 

 聞く耳など持つこともしない。絶望から立ち直った爛は一輝と桐原の試合を見ていたが、桐原の言葉だけの通りに一輝が聞く耳を持つのか聞いてみたいほどだった。この試合の途中で相応の覚悟はしてきたのかと聞いてきたのは誰だったであろうか。覚悟はしてきたのかと。騎士は斬る覚悟と斬られる覚悟を済ませてくるもの。だから、一輝は容赦をしない。一輝の霊装である陰鉄の間合いに桐原を捉えると───、

 

「ハアアアァァァァァァァァ!」

「ひ、ヒイイイィィィィィィィィ!?分かったもう敗けでいい。敗けでいいから、痛いのは嫌だぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 ザン、と一閃に降り下ろした。その時、一輝の陰鉄が斬った空間から光が放たれ、その中から桐原の姿が現れる。桐原は意識などなく、白目を向き、口に泡を吹いているが、一輝が振るった陰鉄の太刀傷はなかった───しかし、桐原の鼻の頭が少し斬れていた。一輝は桐原を斬るつもりなどなかったのだ。桐原が降参することなど目に見えていた。斬るつもりなどなかったが、わずかに刀が届いてしまった。一輝はまだ完全に距離を掴めていないことを戒めた。

 

「一ミリ予測とずれたか、僕もまだまだだな。」

『桐原静矢、戦闘不能。勝者、黒鉄一輝。』

 

 レフェリーの審判により、刀を持った獣は狩人を相手に勝利を収めた。

 

 

 ーーー第18話へーーー

 




作者「真壁浪人ですが、七星剣武祭戦で出てきます。」


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第18話~約束~

『試合終了ぉぉぉ!勝ったのはなんと、Fランク騎士、黒鉄一輝選手!!去年までは授業すら受けることが出来なかった黒鉄選手が、自分達の世代の最強騎士を討ち取り、見事公式戦初白星を上げました!』

 

 一輝の勝利が告げられた後、一輝はフィールドをあとにする。フィールドに残ったのは未だ気絶したままの桐原一人。その桐原も職員の手によりずるずると引きずり出されていく。

 

『今、桐原選手の方もフィールドから去っていきます。今年も七星剣武祭代表の有力候補と思われていた桐原選手にとってはまさかの敗北だったでしょう!よほどショックだったのか、傷を受けたわけではないようですが、未だ起き上がる気配がありません!』

 

 その様子を観客席から見ていた、桐原を応援していた女子が呟いた。

 

「なんか・・・・・・だっさい」

「最後の方、泣いてなかった?痛いのは嫌だーって。」

「正直幻滅・・・・・・」

「帰ろ帰ろ。なんかもう冷めちゃった。」

『あらら、応援団の女の子達がゾロゾロと帰っていきます。うーん困りましたね。誰か友達に引き取ってもらいたいのですが。』

『怪我してるわけじゃないしー、そのうち目ェ覚ますよ。』

『・・・・・・それもそうですね。───えー、それでは、これにて本日の第四試合を終了します。フィールドの清掃後、第五試合を開始しますので、出場される選手は準備をお願いします。』

 

 アナウンスをしてから、マイクを切り、隣に居る寧々に話しかける。

 

「ふぅ。いや、すごい試合でしたね。まさか桐原選手の無傷完勝(パーフェクトゲーム)を支えていた《狩人の森(エリア・インビジブル)》がFランク騎士に破られるなんて。予想もしてませんでした。」

 

 そう言い、寧々の居る方向に目を向けるが、解説席には『満足したから帰る』という寧々の書き置きと、寧々を模した人形が置いてあった。 

 

「もういやぁぁぁぁぁぁぁーっ!誰か実況代わってぇぇぇぇ!」

 

 寧々の職務放棄は公式戦でよくある話で、実況をしている月夜見三姉妹は寧々の職務放棄の被害者なのだ。

 月夜見が悲鳴を上げた頃、観客の生徒達も次々と大闘技場から立ち去っていく。ここに集まった観客の大半が、爛と颯真、一輝達の試合を見に来たのだから当然と言えば当然だ。だが、その流れの中で動かずに足を止めている三人がいた。───颯真と珠雫と、アリスだ。

 

「ここまで露骨に観客が減ると、次に試合をする人が少し気の毒になるわね。」

 

 アリスは人の動きに目をやりながら呟き、

 

「それで、・・・・・・珠雫は一輝達についていかなかったの?」

 

 隣にたつ小柄な少女に尋ねる。アリスの問いかけに珠雫は、小さく首を横に振った。

 

「・・・・・・行っても、三人で話しているもの。」

 

 三人とは一輝と爛、ステラだ。一輝は爛の過去の話を聞くために爛と話すのだ。ステラはすぐに二人の追いかけていき、ステラも話に加わることになったのだ。

 

「そうね・・・でも、彼の話は貴女も聞いた方が良さそうだけどね。」

「どういうこと?」

 

 珠雫の答えに、アリスは爛の話を聞いた方が良いと言ったことに珠雫は疑問を持つ。

 

「あいつは迷惑をかけたくないから、今まで隠してきた。話を聞くことは、あいつに安心感ができるからだ。」

「安心感・・・・・・?」

「あいつが今まで隠してきた。・・・・・・と言うのが答えに繋がるヒントになる。」

 

 颯真はアリスの言ったことを割り込むように話始める。珠雫はしばらく考えると、答えに行き繋がった。

 

「まさか、心から許すことがなかったから・・・ですか?」

「その通り、そうなのならば妹の明にも話しているはずだ・・・って、珠雫は思ったか?」

「・・・はい。」

 

 まさか、私の考えが颯真さんに見抜かれるとは思わなかった。

 珠雫が考えていたことが、颯真に当てられたことに驚いていた。爛が明にも話さなかったことを颯真は爛の性格を知っているから分かることだった。

 

「あいつの性格を考えると、あいつは背負い込むことをする。だから、明には誤魔化している可能性がある。」

「だから、話を聞いた方が良いと?」

「まあ、そんなとこだ。」

 

 颯真はそう言うと、大闘技場から立ち去っていく。

 

「もうこの件に触れるのは止めましょうか。珠雫、一緒に買い物に行きましょ。爛から頼まれてるから。」

「爛さんから?」

 

 珠雫がアリスに問いかけると、アリスは手帳を取りだし、爛から送られていたメールの内容を見せる。その内容は───

 

『アリス、悪いけど祝勝会で食べるものを買ってきてくれないか?俺は一輝と話さないといけないからな。買ってくるものはそっちに任せる。後、ステラは大量に食べるから大量に食材を買ってきてくれ。使った金の方は食べに行くときとかに俺が出すからな。』

 

 と言う内容だった。彼らしいメールの内容だった。

 

「それじゃ、行きましょアリス。」

 

 珠雫は何故か鼻唄を歌いながら、大闘技場をあとにする。アリスも珠雫についていった。そして、珠雫はふと呟いた。

 

「・・・・・・さっきお兄様を侮辱したやつらは、やっぱりまだお兄様の力を信じていないのかしら。」

「さあ、どうかしらね。中にはやっぱり、自分の目で現実を 目の当たりにしても、それを信じようとしない人は居るでしょうね。・・・・・・だけど七星の頂にふさわしい力を持った実力者達は、全員気づいたはず。そして記憶したはずよ。黒鉄一輝と言う騎士の名を。だから一輝はもう、今までみたいなただの『落第騎士(ワーストワン)』には戻れないわ。絶対にね。それも、爛と共に。」

 

 アリスの言っていることは正しい。今日この日を境に、ネットの片隅で『落第騎士』はもうひとつの通り名を持つようになる。

 『戦鬼の剣帝(アナザーワン)

 その通り名は、一輝がただの『落第騎士』に戻れないことを示していた。当然だ。黒鉄一輝は七星剣武祭代表最有力候補の一角を落としたのだから。

 ところ代わって爛達。爛の部屋に入り、一輝とステラは爛の話を聞いていた。爛の過去の話は、とても残酷だった。途中からステラは涙ぐんでいた。

 

「これが、あのときの一連だ。」

「そんな・・・・・・どうにかできなかったの?」

「無理だった・・・間に合わなかったんだ・・・」

 

 爛はそう言うと、爛の部屋にある一枚のアルバムを手に取り、とある写真を見せてくる。

 

「これは?」

「俺と沙耶香だ。これが、沙耶香が生きていたときの最後の写真だ。」

 

 爛が差した写真は爛と沙耶香が写っていた。これが、沙耶香が生きていたときの最後の写真のようだ。そこには、沙耶香が前に、爛が後ろで写っていた。そして、写真には『お兄ちゃん、大好き!!』と言うことが書かれていた。

 

「可愛いわね。」

「そうか・・・ステラも言ったことだから可愛いんだな。沙耶香は。」

「いつもはどう過ごしていたんだい?」

「沙耶香は、いつも俺にべったりだったよ。俺が出掛けるときも沙耶香が隣にいた。どんなことでもな。俺が海外に修行に行ったときには、毎日泣いていたって父さんが言ってたな。だから、俺は沙耶香の隣に居れるようにしたんだ。守れるように・・・大切なものを・・・な。」

「可愛い妹だったのね。」

「可愛さは、俺の姉さんと明の可愛さだったな。三人とも同じような可愛さだったよ。」

 

 爛が懐かしむように言っていた。そして、一輝とステラが爛の方を見ると、爛は涙を流していた。爛の涙は一輝もステラも分かっていた。大切なものを守れなかった悲しみの涙だった。だから、一輝とステラは爛が涙を流していることに触れることはしなかった。

 

「悪い。お前らの前で泣くことなんてなかったもんな。」

「・・・そうだね。」

「苦しいところを見せたな。でも大丈夫だ。吹っ切れたからな。」

 

 爛はそう言うと、笑みを浮かべる。すると、爛の部屋のドアをノックする音が聞こえる。

 

「はいよー。」

 

 爛が玄関の方に行き、ドアを開けると、颯真と明が居た。

 

「お兄ちゃん、祝勝会しに来たよ。」

「おう、入れ入れ。」

「じゃ、失礼するぜ。」

 

 明と颯真は部屋の中に入って行く。

 

「明ちゃんに颯真?」

「イッキ、祝勝会やるの覚えてる?」

「・・・忘れてた・・・」

 

 一輝は明と颯真が来たことに疑問を持ったが、ステラが祝勝会をやるのを覚えているのかと聞いてきたときに、一輝は忘れていた。すると、明はアルバムの方に行く。

 

「懐かしい!沙耶香はいつ見ても可愛いよね。」

「お、沙耶香と爛の写真じゃないか。」

 

 明と颯真は、アルバムに入っている写真を見ていた。颯真にも沙耶香と面識があったようだ。

 

「いつも爛にべったりだったか?」

「そうだよ。颯真はお兄ちゃんほどに好かれなかったけどね。」

「それは面倒だから嫌かな・・・」

 

 すると、部屋のドアが開けられ、中に入ってきたのは荷物を持った爛と、珠雫とアリスだった。

 

「まさかすぐに来るとは思わなかった・・・」

「あら、すぐに買うもの決まったから買ってきたのだけれど。迷惑だったかしら。」

「いや、迷惑じゃないんだけどな・・・」

 

 爛が一輝の方を向くと、相変わらず珠雫とステラが言い合いをしている。ある意味で両手に花だ。

 

「ん~じゃ、作りましょうか。」

 

 爛は料理を始めることにした。爛の部屋は元々は祝勝会をする場所には良いところだった。一輝達は大きいテーブルを囲んで話していた。爛が作ろうとしているのは鍋。まだ4月の肌寒い頃だ。肌寒いだけだから大丈夫。何て考えしてると痛い目にあう。

 一時間ほど経つと、爛が鍋をもって一輝達の方に行く。

 

「何を作ったんだい?」

「鍋。」

「即答だね。お兄ちゃんの料理は久しぶりだから、楽しみだなぁ。」

「爛さんは料理は得意なんですか?」

「まあまあかな。」

「って言うわりに美味しいものを作るよね。」

「うまいものは食べてもらいたいからな。」

 

 そう言いながら、食べれるように準備をする。一輝達は食器棚から皿を取りだし、平等に分けるのだが───

 

「ステラの皿、おかしくないか・・・?」

 

 どんぶり皿だしなぁ、驚くのも無理はない。俺と一輝も驚いてたもんなぁ。

 そんなことを思っていると、一輝が颯真に説明する。

 

「ステラは大量に食べるからね。」

 

 一輝は苦笑いをしながら席に座る。全員が席に座ると、爛が切り出す。

 

「じゃあ、食べようとは思うけど・・・七星剣武祭代表に全員でなれるといいな。」

「そうだね。僕もそう思うよ。」

「と言うことだ。全員で七星剣武祭に出れるように約束と言うことでも良いか?より一層に勝ちに行くと言うことで。」

「それもそうだな。俺は爛に賛成だ。」

「それは私もかな。お兄ちゃんに追い付かないと。」

 

 爛の言ったことに全員が賛成した。爛は笑みを浮かべると、話始める。

 

「食べましょうかね。」

「「「「「「「いただきます。」」」」」」」

 

 そう言うと、全員は食事を始める。鍋は冬に食べるものなのだが、春に食べるのも良いものだと爛は思った。

 

「ん~、爛さんの料理は美味しいですね。」

「同感だわ。今度教えてもらおうかしら。」

「そこまで行くのか?俺の料理は。」

「行くだろ。店に出せるくらいのうまさなんだからさ。」

 

 珠雫とアリスの感想に、少し頬を赤くする。褒められることには慣れていないのだろうか。

 

「あ、お兄ちゃん頬赤くしてる。沙耶香の時はいつも赤くしてたよね。」

「明!それを言うな!」

 

 明にいじられてしまう爛。頬を赤くすることに、恥ずかしさを感じている爛は意外だった。

 爛の料理を堪能すると、一輝とステラ以外は部屋に戻っていった。

 

「ん?戻らないのか?」

「戻るけど、爛と約束をしたいからね。」

「そうか。で、どういう約束なんだ?」

「七星の頂で全力で戦うことだよ。でも三人だから、どう当たるかは分からない。」

「アタシがランと当たる可能性もあるからね。」

「そうだな。」

「「「約束だ。」」」

 

 こうして、爛達は七星剣武祭に出れるように全力で戦うともう一度決意をした。

 

 

 ーーー第19話へーーー

 



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第19話~爛の右目~

 一輝が桐原と戦い、三日が経った。一輝達はいつもと変わらずトレーニング等をこなしていたのだが、そこには爛の姿がなかった。爛は誰も使っていない訓練場に一人で居た。すると、自身の固有霊装(デバイス)を顕現し、魔力を集中する。すると、爛の体の周りに青い蒸気が発生する。

 

「う~ん、まだここまでしか行かないか・・・七星剣武祭までには最後の方まで行きたいな。」

 

 爛がそう呟くと、発生していた蒸気をなくす。すると、身体中に激痛がはしる。

 

「くっ! ・・・やっぱり、これを使ったあとは休んだ方が良いよな。」

(あれも後一回しか使えないしなぁ。)

 

 身体中にはしる痛みがなくなると、一輝達の方に戻っていく。因みに、今日は爛達の二回戦目。爛は東堂愛華との戦いだ。爛も一輝達のトレーニングに参加し、自分自身のトレーニングも昼までこなしていた。昼は昼食を食べ、二回戦目のためにコンディションを整えていた。

 爛は第四訓練場の待機室に移動していた。一輝達は二回戦目を突破。残りは爛だけになった。一輝達のところでは観客席に座り、爛の二回戦目のことを話していた。

 

「前にも言った通り、爛は一位の二人を倒している。だから、心配することはないんだけどね。」

「そうね。でも、相手はある意味で強敵よ。」

 

 アリスの言ったことに、全員は疑問を持つ。しかし、一輝はすぐに答えにたどり着いた。

 

「相手が、妹だからかい?」

「その通りよ。爛は慈悲深い人。だから手心を加えてくる可能性もあるかもしれないわ。」

「いや、それはないな。」

「どうして?」

 

 颯真は爛がこの戦いで手心を加えてくると言ったアリスを否定する。やはり、前から知っている人は爛のことをよく知っているのかと、思った一輝だった。

 

「あいつは割りきることができる。でも、女は傷つけない趣味かな。」

「と言うことは・・・」

「お兄ちゃんは愛華さんを斬るとき、霊装を幻想形態で斬ると言うことになる。」

 

 ステラの言葉に続くように、明が加えてくる。爛は誰よりも強い代わりに誰よりも優しい。しかし、彼は割りきってこの場に立つ。だから、相手が誰であろうと斬ると言うことになる。しかし、彼は颯真達が言ったこととは違う行動に出るのだった。そして、爛の試合、第五試合が始まる。

 

『これから第五試合を始めます。実況は代わらず、月夜見三日月。解説は宮坂香先生です。』

『よろしくお願いします。』

『香先生はこれから出場する選手とは血縁関係にありますが・・・』

『大丈夫です。平等にジャッジしますから。』

 

 それとそうだ。月夜見の言う通り、香と爛は血縁関係どころか姉弟の関係だ。しかし、香には戦いに関してシビアだから結果的に平等になるのだ。

 

『それでは、選手の紹介に入ります!』

「赤ゲート、選手入場。」

『赤ゲートから出てきたのは『紅の淑女(シャルラッハフラウ)』を一回戦目で破りました!今回はどんな戦い方で会場を驚かすのでしょうか?一年、宮坂爛選手!』

 

 赤ゲートから出てきたのは爛。一輝達から見ても、コンディションは完璧に整えてきているのが分かる。

 

「青ゲート、選手入場。」

『青ゲートから出てきたのは校内序列(ランク)一位!東堂刀華選手の妹であり、『麒麟』の異名を持っています!三年、東堂愛華選手!』

 

 青ゲートから出てきたのは愛華。誰もが見ても愛華は本気で爛を倒しに来ていることが分かる。体の周りには雷が見えているからだ。

 

「随分と本気だな。愛華。」

「本気で来ないと倒されちゃうし。」

「・・・じゃ、今から終了まで敵だと割りきらせてもらう。」

「もちろん。」

 

 二人は霊装を顕現する。

 

「響け、春雨。」

「切り裂け、呉正(くれまさ)。」

 

 愛華は稲妻から自身の霊装、春雨を顕現し、鞘の中に納める。爛は右手に力を溜め、地面に手をつけ、そのまま体勢を高くするのと同時に手を上げていくと、霊装が姿を現し、右手で掴む。霊装は『村雨』と酷似した刀だった。それに会場の誰もが驚愕の表情になる。

 

『な、なんと言うことでしょう!爛選手、一回戦目の霊装とは違う霊装を顕現した!これはどう言うことでしょう?香先生。』

『爛は余りにも力が強すぎるため、霊装で力の制限をかけているのです。彼の本当の霊装はこの選抜戦では見ることがないでしょう。それと、彼は魔力の制限もかけています。魔力を解放したら、私でもどうなるかは分かりません。』

 

 姉の香ですらどうなるかは分からないと言っていることに、会場はどよめきに包まれる。そう、世界序列第四位の人間ですら警戒をすることに、彼はどのくらい強いのだろうかと気になる人も居るだろう。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 試合開始の合図と共に愛華は跳躍し、爛に斬りかかる。爛は魔力を少し放出し、愛華の攻撃に備える。

 

『愛華選手、いきなりの跳躍だーっ!爛選手に斬りかかる!』

 

 愛華は爛の目の前まで行くと、愛華の体がいきなり滅多斬りになり、バックステップをとる。

 

『な、な、何でしょうか!?いきなり愛華選手の体が滅多斬りに!』

(爛・・・隠すつもりはないのね。)

(今のは・・・一体?)

 

 愛華の体が滅多斬りになり、会場はまたどよめきに包まれる。一輝達も何故愛華の体が滅多斬りになったのか、その事について、戦いを見ながら話していた。

 

「今のは!?」

「罠・・・なのかしら?」

「いや、違う。」

 

 爛が罠を仕掛けていることに感じたアリスは罠なのかと口にするが、一輝はそれを否定する。

 

「どう言うこと?」

「彼は罠を仕掛けてない。僕も愛華さんと同じような現象を受けたことがあるんだ。」

「それは?」

「爛が少し魔力を放出しているとき、一定の距離に入ると、彼の意で斬られる。僕は制服の袖を斬られたからね。」

「だから、罠ではないと?」

「その通り。」

 

 一輝言ったことは本当だ。爛は魔力を放出し、魔力を操り、魔力を刃に変えて見えない刃を作り、自分の意で操作することができる。伐刀絶技(ノウブルアーツ)、《(つゆ)》。これが一輝と愛華の受けた現象の正体だ。爛と愛華は剣戟で戦っていた。

 

「ハァ!」

(やっぱり、俺の視界の右側に陣取っている。)

 

 爛の右目は眼帯で隠しているため、右側の視界が狭い。だから愛華は爛の右側に陣取っている。爛はバックステップをし、愛華との距離を取ると、眼帯をはずす。すると、爛から強い光が放たれる。光は次第に収まっていき、爛の方に向くと、爛の右目が金色に光っていた。

 

「これが、眼帯をつけている理由だ。」

 

 爛が眼帯をしていたのはこの目を隠すためだったのだ。左目が黒く、右目は金色に光っている。ここまで色の差があるのはおかしい。オッドアイでもはっきりと色が違うのはないのだ。爛の場合、右目も左目も力を持っており、何故こういう目になったのか、理由もあった。

 

「爛くん。これで、しっかりと戦える!」

 

 愛華と爛は駆け出し、刀の戦いになる。最初は互角に見えていた二人の戦いも爛が右目を見えるようにしたためか、愛華がおされていく。

 

『愛華選手、爛選手の剣戟に圧倒されていく!防ぐのが精一杯か!?』

 

 確かに防ぐのが精一杯だ。それだけ爛の剣戟は卓越していると言うことだ。爛が霊装を振るっていくと、愛華はそれを避け、カウンターをするのだが、爛の右目の力が最大限にたまると、力を発動する。

 

「っ!?」

『辺りが光で包まれたーっ!爛選手を捉えることができない!』

(この光の中では、俺しか自由に動けない。でも、そこから斬ることはしない。)

 

 光が収まっていくと、爛が愛華の離れたところに居た。すると、愛華は爛に問いかける。

 

「何で、斬らなかった?」

「お前の立場を・・・考えてほしいな。それが答えだ。」

 

 爛が斬らない理由、愛華はすぐに分かった。爛も妹が居た。自分は刀華の妹。妹を斬ることはしないことに気づいた。

 

「まさか、自分が妹だから?」

「そうだな。でも、今度は斬るぞ。」

 

 爛は愛華に宣言をする。勝つために、次は絶対に斬ると、愛華はそれを受け取った。だから、愛華はそれに応えようとする。

 

「なら、私も全力で斬りに行くよ。」

 

 愛華も宣言をする。そして、雷の力をためていく。爛も霊装を構え、愛華に対応できるようにする。

 

「《麒麟》!」

 

 雷を纏った愛華は爆発的な速度で走っていく。爛はバックステップをし、愛華との距離をさらにあける。

 

「《八門遁甲(はちもんとんこう)・第五・杜門(ともん)》開!」

 

 爛の体から青い蒸気が発生する。《八門遁甲》・・・どこかの世界の忍の体術しか使えない忍が長い年月をかけ会得した技。チャクラと呼ばれるものを身体能力強化に運用するが、爛はそれを魔力で応用し、会得をした。しかし、無理矢理力を引き出すことから、一輝の《一刀修羅(いっとうしゅら)》を超える疲労がのし掛かり、動くことさえできない状況に陥る。正に諸刃の剣の技。

 

『まさか、この伐刀絶技は!?』

『香先生、何か爛選手のことに気づいたのですか?』

『彼が行ったのは《八門遁甲》・・・私達伐刀者(ブレイザー)には八門だけ、魔力が溜まらないところがあります。しかし、そこに魔力を溜めることにより、爆発的な身体能力、パワーを得ることができます。しかし、代償として自身の体を痛め付けることになります。動けないところまで行くことがあります。そして、最後の八門を開いた場合、使用者はほぼ確実に死にます。諸刃の剣と言うことになりますね。』

(速いっ!)

 

 爛の速度は愛華の《麒麟》をも超える速さで愛華に向かっていく。ぶつかり合う瞬間、爛の姿が消える。

 

「っ!?」

 

 すると、横から爛の蹴りを受ける。身体能力を強化し、さらにはパワーをも兼ね備えた蹴りは人一人を蹴り飛ばすことができる。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

(次で決めないとな・・・)

 

 爛は霊装に力を溜め、一撃で決めようとする。愛華は体全体が痛むなか、なんとか立ち、最後の一撃をしようとする。

 

「《天下無双の剣の使い手(ヤマトタケル)》ーーっ!」

「《雷迅双破(らいじんそうは)》ぁぁぁぁ!」

 

 二人の最大の一撃がぶつかり合う。一瞬、何もかもが止まったように感じられた。止められたのが動き出したように感じたのは、愛華の春雨が砕け散った音を聴いたときだった。そして、愛華が倒れる。

 

『東堂愛華、戦闘不能。勝者、宮坂爛。』

『試合終了ーーっ!第五試合、死闘を制したのは一回戦目で『紅の淑女』に勝利を収めた宮坂爛選手だ!』

 

 この死闘に幕が下ろされた。

 

 ーーー第20話へーーー

 




作者「何か、カオスのような気が・・・しないか。」


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第20話~無慈悲と狂気の爛~

フフフ♪楽しみにしていた方、ついに書きましたよ♪今日は爛君が無双しますよ♪フフフ♪グロテスク注意!今回はグロいです。


 爛が愛華と戦って三日が経った。今日は爛が三回戦目があるのだが、相手は桐原だった。爛からすれば最愛の妹を殺された憎む相手。だから一輝達は爛を心配するのだが、爛は変わらなかった。そして、爛が今でもブツブツと呟いているのだが、それを聞いているステラと珠雫は爛が恐ろしく感じていた。

 

「さて今日はどうしようかな?桐原をどういたぶろうかな?気絶ができないように雷で操作して針を一本一本突き刺していこうかな?それとも雷を落として焼け焦げさせようかな?それともすべての部位をくりぬいてやろうかな?人生を諦めさせようかな?それとも桐原の罪を暴いて桐原が騎士を・・・ってそれは無理か。桐原は厳に加担しているからな。罪は軽く・・・・・・いや、厳を脅しにいけば良いか。普通の裁判のやり方ならば桐原は騎士を止めなければならない。桐原の処分はそうしよう・・・・・・ブツブツ・・・・・・」

 

 爛が桐原をこの三回戦目でどうしようかとブツブツ言っているのだが、言っている内容が人ではない内容なため、ステラと珠雫は一輝の後ろに隠れていた。

 

「ランのことが凄く怖いのだけど・・・」

「妹の怨みは・・・怖いですね・・・」

 

 一輝はそれを苦笑いしながら見ていたのだが、爛はそれに気にすることもなくブツブツと呟いている。何を言っているのかと耳を澄ませる二人なのだが、そんなことをしなければ恐れなくて良いんだけど、と一輝は思った。

 

「拷問のやり方はどうしようか?板に張り付けて鞭で四六時中打ちまくるか?それとも俺の練習の的になってもらおうかな?それとも四六時中檻に放置しておこうかな?戯れ言を言ったら生き地獄を味わってもらおうかな?それとも五右衛門風呂で焼いてやろうかな?それともガムテープを口と鼻につけて窒息死させようかな?食事なんて出さずに餓死してもらおうかな?・・・・・・ブツブツ・・・」

 

 聞こえている部分がそうなのだが、爛の言っていることは全て殺されることになっている内容だった。

 爛の言っていることは絶対に死でしかないような気がするんだけど・・・大丈夫かな?爛の二つ名も変わることになりそうだけど、怖い印象は持たれないかな?

 爛の言っていることに少し不安になってきた一輝であったが、爛はそんなことを気にしない方だった。爛自体、一人でいても複数でいてもどっちでも良いのだ。正直言って桐原をぶちのめしたい爛はそんなのはお構いなしだ。すると、爛は手帳を取りだし、持っているメールアドレス全てに同じ内容でメールをした。

 

『今日の俺の戦いは見に来ない方が良いよ。見てる見てないは俺は気にしないけど、見てると騎士を止めたくなるほどだと思うから。』

 

 爛はそう送ったのだ。これで爛は文句を言われていてもしっかりと言うことができるのだ。対策をしないなんて爛はしない方だ。そして、爛の試合の時間になる。今回の試合は悲惨なことになりそうなのだが、爛も注目の的なのは確かだ。今日、最後の試合なのだが観客はたくさん居た。

 

『これから、今日最後の試合を始めます!実況は月夜見半月。解説は西京寧々先生です!』

『よろ~』

 

 半月の説明にやる気のなさそうな寧々。と言うかないと言い切れる。

 

「赤ゲート、選手入場。」

『赤ゲートから入ってきたのは、一回戦目で黒鉄一輝選手に負けてしまった桐原選手!しかし、黒鉄選手に一回戦目に負けてしまったが二回戦目では一回戦目のショックはなかったような立ち振舞いと戦い方でした!今日も完全勝利(パーフェクトゲーム)を見せてくれるのでしょうか?二年、桐原静矢選手!』

 

 桐原は一回戦目の一輝との戦いの始めのように余裕の表情でフィールドに立つ。しかし、今日の戦いばかりは最初から決着がついている。桐原は棄権をするべきだったのだと後悔することになるのだった。

 

「青ゲート、選手入場。」

『青ゲートから入ってきたのは、一回戦目と二回戦目で大判狂わせをした宮坂選手!今日はどんな戦いを見せてくれるのでしょうか?一年、宮坂爛選手!』

 

 爛が青ゲートからフィールドに向かうと声をかけられる。

 

「爛君!」

「ん?なんだ?」

 

 爛は声のかけられた方に歩いていくと、小さな包みを渡された。よく見ると菓子の入った包みだった。

 

「マカロンを作ってみたんだけど、爛君に食べてもらいたくて・・・良いかな?」

「ああ、ありがとな。この戦いが終わったら、食べさせてもらうよ。」

「ありがとう!感想を待ってるね!」

「ああ。」

 

 爛は少し慈悲をかけた方が良いのだろうかと考えてしまった。自分のために菓子を作ってきてくれた人に酷すぎる戦いを見せるわけにはいかないと思ったのだが、それは桐原の振る舞いで決めることにした。そして、爛はフィールドに立つ。

 

「逃げることはしないんだね。惨めな騎士君。」

「逃げる・・・か。俺からするとお前が逃げた方が良いんだけどな。」

「クロスレンジの武器しかない君に僕が負けることはない。」

 

 爛と桐原の会話を聞いていた周りの生徒達が爛に向かってこう言ってくる。

 

「行けーっ!お前なら勝てるぞー!予測不能の騎士(ロスト・リール)ー!」

「頑張ってー!爛君!」

 

 生徒達から応援された爛を見た桐原は盛大に笑う。

 

「ハハハハハ!君は応援されるようになったのか。大切なものを守ることができない君が。」

 

 桐原の言ったことに爛の中で、あるものが途切れた。糸が切られたようになった。そして、爛は決めた。

 絶対に怨みを晴らすっ!!殺すっ!!

 

「行くぞ、刻雨。」

「狩りの時間だ、朧月。」

 

 爛は光の中から固有霊装(デバイス)を顕現し、桐原は翠の弓を顕現する。

 

Let' s Go Ahaed!(試合開始)

 

 合図が出ると桐原は〈狩人の森(エリア・インビジブル)〉を発動する。ワイドレンジアタックを未だに見せていない爛は持っていないとならば爛は不利になる。

 

『あーっと!桐原選手いきなりの《狩人の森》だぁー!宮坂選手、苦戦をするのか!?』

『爛はワイドレンジアタックの伐刀絶技(ノウブルアーツ)を持っていないとは限らないからね。もしかすると、桐やんが圧倒的に不利かもしれないねぇ。』

 

 爛は未だに全力を見せることはない。寧々の言う通り、爛がワイドレンジアタックを持っている可能性もあるのだ。しかし、今の爛にとって、それはどうでもよかった。そして、爛に襲いかかる朧月の矢。その矢はまだ見えている矢だった。爛はそれを斬り落とし、矢が来た方向に走りだし、桐原を捉える。

 

「ハァ!」

「くっ・・・!」

『な、何と!宮坂選手も黒鉄選手と同じような行動をしています!どう言うことなのでしょうか?西京先生。』

『黒坊の時にもいった通り、爛は矢を見つけると、矢が飛んできたところを測定したのさ。だから桐やんを見つけることが出来た。』

 

 すると、桐原は木の上に居た。認知不能(ステルス)を解いた状態で居た。爛はそれを待っていた。桐原が余裕でいるからこそ、爛はそれを待っていた。一輝と同じ行動を起こすことで。

 

「僕に勝つ気なのかもしれないけど、君に勝算何てないんだよ。」

「なら、今この場で俺の目を見ろ。沙耶香を殺した罪は相当重いんだがな。次に写るのがどうなるのか、見せてやる。」

 

 爛が桐原を釣るために言ったことに見事に引っ掛かる。桐原はニヤリと笑い、爛の目を見る。爛は左目を開放し、桐原と目を合わせる。その瞬間───、

 

「ぐわぁぁぁぁぁぁ!」

 

 周りの景色が変わり、真っ黒な世界に爛と桐原が居た。そして、爛は桐原の右手をもぎ取る。

 

「黙ってろ。俺の妹の命を奪った下衆が。お前にはこれから一日、生き地獄を味わってもらう。」

 

 爛はそう言うと、桐原からもいだ右手の指を一本ずつ抜いていく。もがれているはずなのに、痛みは感じないはずなのに、桐原には指を一本ずつもがれていく。その痛みを感じていた。

 

「があぁぁぁ!」

「お前の神経はこの世界では全てと繋がっている。もがれた部分でも痛みを感じるのさ。そして、この世界では永遠の命がある。俺とお前もそうだ。何度も復活し、永遠の痛みをお前は味わい続ける。お前が俺の妹を奪った罪としてな。」

 

 そういいながら爛は、すべての指をもぎ取ると、霊装で桐原の右手を真っ二つにする。そして、血が溢れ出す。爛は桐原の体を痛め付けながら話す。

 

「お前が俺の妹を奪わなければこんなところまで行かなかったんだよ。大事な家族を奪われたんだ。相応の罪を背負い、償ってもらう。」

 

 爛はそういいながら、自分の左腕を全て斬り落とす。爛に痛みが伝わるのかと思いきや、桐原に痛みが伝わる。

 

「俺だけは特別だ。俺はこの世界を作ったようなものだからな。お前はこの世界にいる限り、痛みからは逃れられない。」

 

 爛は霊装を右手で器用に使い、自身の左腕を粉々になるほどに斬り刻む。

 

「ああぁぁぁぁぁぁ!止めてくれ!すまなかった!僕が悪かった!罪は償うからここから出してくれ!頼む!宮坂君!」

 

 爛は桐原の声を聞くと、少し間をおき、桐原に話す。

 

「なら、妹を復活させることができるのか?最愛の妹を取り戻すことはできるのか?」

 

 爛はそう桐原に問う。しかし、桐原にはただの口実に過ぎない。死者を本当に生を受けた人間にさせることなど不可能だ。

 

「できる!僕はできる!だからここから出してくれ!頼む!」

 

 それを聞いた爛はニヤリと笑い、霊装を解除する。そして、桐原に近づき話す。

 

「ふーん、なら、お前を開放───、」

 

 桐原が安堵した瞬間───、

 

「うわぁぁぁぁぁぁ!」

「何てやると思ったのかよ。ゴミ。」

 

 桐原の両腕全てを斬り落とす。今の爛には慈悲なんてない悪魔なのだ。だから、なんと言おうと桐原は一日中爛の生き地獄を味わらなくてはならないのだ。桐原が爛の腕を見ると、爛が斬り落としたはずの左腕が再生していた。桐原は必死に命を乞おうとしていた。その判断が自分を絶望へと引きずり込んでいる罠だと気づかずに。

 

「せめて斬った部分を再生してくれ!それをしてくれるのなら一日中受けてるから!」

「そうか。」

 

 爛はそれを一言で受けとると桐原の体を再生する。そして、完全に再生したのを確認すると、即座に斬り刻む。そして再生させるのを繰り返していた。時には火炙りにしたり、時には水の中に落としたり、底無し沼に沈めたり、時には自分の異能の雷を形態変化させ、雷の槍で串刺しにしたり、目を潰したりしていた。まるで極悪非道。桐原よりも酷いことになっていた。これは彼の伐刀絶技《天国の名の地獄(アウター・ヘブン)》。これは自分の目に力を溜め、開放すると同時に相手の目と合わせる。その事で相手を自分と相手だけの空間に引きずり込み、相手の精神を貪り尽くす技。これは禁技の指定などは受けていないのだ。と言うか、桐原で初めて使った技。これで禁技指定されるのは知っている。しかし、爛がそれだけでもの足りる訳ではない。実際は相手は倒れ込み、意識を失うことになる。使用者は何のデメリットもない。完全に使用者は絶対の存在と言うことだ。爛が一輝達の近くでブツブツと呟いていたのはことことだったのだ。そして、実際の方では決着がついていた。

 

『桐原静矢、戦闘不能。勝者、宮坂爛。』

『し、試合終了!一体二人には何があったのでしょうか?桐原選手が宮坂選手の目を見た瞬間倒れ、決着がついてしまうことになりました!これは一体どう言うことなのでしょうか?西京先生。』

『これはウチにも分からないけど、爛は桐やんに絶対何かをしていた。罠を仕掛けている訳ではないようだけれど、こればかりはウチにも分からないねぇ。』

 

 爛は試合会場から立ち去るときに、貰った包みから一つマカロンを取り、口に放り込む。味は美味しく、飽きない味だった。爛はマカロンをくれた女子生徒に感想を言うと、嬉しそうに喜んでいた。

 

 後に桐原は一体・・・?

 

 ーーー第21話へーーー

 




はい。絶対にうちは家の写輪眼ですねw

桐原くんもといゴミ原くんはどうなったのでしょうか。それでは次回にお会いしましょう。


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思いの章~七星剣武祭代表選抜戦~ 戦いに餓えた獣 全てを失った少女
第21話~変わった日々~


綾辻絢瀬編に入るので章を追加します!


 桐原との戦いを終わらせた爛は試合会場から立ち去る。桐原は以前、爛の精神介入《天国の名の地獄(アウター・ヘブン)》により精神をズタボロに攻撃されていた。爛から感じるのは自分に対する復讐心と悲しみ、絶望・・・様々な暗い感情と共に精神を喰らっていた。まるで感情を刈り取る兵器のように。いや、実際彼がそうなのかもしれない。フィールドに爛が立つと何もかもが変わって見える。まるで自分達など相手にならないと。其れほどの威圧を爛は相手に流し込んでいた。桐原は一日は目を覚まさず、目を覚ましたときには爛が行った精神攻撃は何もなかったが、爛に出会った瞬間に、フラッシュバックが起こり、絶望にうちひしがれていた。その後桐原は七星剣武祭代表選抜戦のエントリーをはずしてもらうよう実行委員会に頼んだ。

 爛はいつもの通りだった。しかし、爛はもうただの『予測不能の騎士(ロスト・リール)』には戻れることはなかった。それもそうだ。破軍学園の生徒ではかすり傷でさえつけることが叶わなかった『紅の淑女(シャルラッハフラウ)』・・・生徒会の会計、三年の貴徳原カナタを破り、去年の七星剣武祭ベスト5、『麒麟』の東堂愛華を破り、黒鉄一輝との戦いでは敗北を喫してしまったが、なおを勢いを止めない、一輝達の超新星(スーパールーキー)、無傷の完勝をあげる『狩人』、桐原静矢からダメージをもらわずに完勝をした爛は戻れることなどないのだ。そして、一輝同様に学園、ネットのスレ・・・いや、世界中に名を馳せる強者へとなっていくのだった。そして、名付けられた新たな二つ名は・・・

 

鬼神の帝王(クレイジーグラント)』。

 

 爛から放たれる気は例え相手でなくとも、動画であっても迫力が違った。その立ち振舞いから『帝王』が付けられる。爛の戦い方・・・相手を圧勝するのだが、桐原戦で見せた一輝と同様の動きをし、相手の動きを誘うこと。そして、何もかもを切り裂く姿からは『鬼神』と言われた。それが爛の新しい二つ名。『鬼神の帝王』だ。

 そして、爛と一輝はいつもとは違う日常を過ごしていた。それは、爛と一輝の周りには女子がたくさん居たのだ。

 

「教えてくださいよ~、先輩のこと。」

「あのなぁ・・・俺は教える趣味なんて無いんだけど・・・」

「良いですからぁ、教えてください。ダメですか?」

 

 日下部にとりつかれ、日下部の言ったことを却下する爛だったが、日下部のショボンとした顔に上目遣いをされた爛は内心で「うぐっ・・・」となった。

 正直言って、俺は教えても良いんだけれど・・・

 そう思いながら一輝の方を向くと、一輝も爛と同様に女子にとりつかれていた。そして、それを離れた場所で見ているのは嫉妬心を抱いて一輝を見ているステラと呆れながらステラを見ている珠雫。そして、クスクスと笑いながら見ているアリスが居た。爛は「はぁ」っとため息つき、日下部に話す。

 

「俺で良ければなんだが・・・その代わり、一輝から相手を俺に移してくれ。一輝が困っていると言うか・・・ステラが怒りそうだから。」

 

 爛は苦笑しながら日下部に話す。これ自体は事実だ。ステラが嫉妬心を抱きすぎて一輝が燃やされないようにしないといけないと思っている爛の気遣いだ。

 

「わかりました~、それでは、言ってきますね。」

 

 日下部がそう言い、一輝にとりついている女子に爛がOKを出したことを言いに行こうとすると・・・

 

 バン!

 

 と机が叩かれた音が聞こえる。爛達は音のした方を向くと、そこには爛達を見ていた五人の男子生徒が居た。このとき爛は、まだ自分と一輝のことを信用していない人間達だとすぐに気づいた。爛はすぐ女子に離れてもらい、男子グループと対峙する。そして、そのグループのリーダーであろう少年、真鍋が爛に挑発するように話す。

 

「俺達にも教えてくれませんかねぇ?大先輩達のことを。」

 

 そういうと、全員が固有霊装(デバイス)を顕現し、爛に向ける。しかし、爛は動じることもなくグループ達をただ普通に見ていた。すると、日下部が爛にこんなことを話す。

 

「私達、見ているので、霊装を顕現しても良いのでやっちゃってください!」

 

 日下部は爛にそう言うと、爛と一輝の周りに居た女子達が爛に「やっちゃって!先輩!」と言うのだが・・・爛には霊装を顕現しなくても対処は可能だ。

 

「いや、霊装は顕現しない。安全なところまで下がってるんだ。一輝。」

「わかった。みんな、こっちに来てくれ。」

 

 爛は全員が安全な場所まで下がるように言い、一輝の名前を言う。一輝は爛の意図が分かったのか、女子達を安全なところまで下がらせる。すると、爛は右足に体重がかかるように立ち、コインを取りだし、右手に持つ。そして、今度は爛から真鍋達のグループを挑発する。

 

「んなこと言ってる暇があったら鍛練でもした方が良いぞ?ま、お前らに鍛練と言う言葉があるのかないのかと言われれば、ないというだけじゃないのか?」

 

 爛はコインに雷の力をためながら真鍋達を見ている。完全に伐刀者(ブレイザー)からすれば酷い物言いなのだが、魔力だけで補おうとするから体が鈍ると言うことから言ったことだが、真鍋達はそれを別のことで受け取ったのか痺れを切らす。

 

「なんだとぉ!?やっちまえ!てめぇら!」

「「「「おおー!」」」」

 

 真鍋の号令と共に爛に走っていく近接戦闘の霊装を持っている四人。爛は目の方に集中し、相手がどう来るのかと見ていた。

 

(速いが・・・見え見えだ。)

 

 爛は呆れながら前から走ってくる日本刀の霊装を持っている少年に狙いを定めた。正に抵抗がないと思い込み、爛に向かって跳躍し、爛を斬ろうとする。その刹那、刀は何かの衝撃を受け、爛の隣に降ろされることになった。

 

「っ!?」

「何っ!?」

 

 爛に向かって走っていた三人と真鍋は驚いた表情をしていた。爛が刀をそらし、当たらないようにしたのは、右手に握り持っていたコインに雷の力をため、斬りかかってきた時に、コインを親指で弾き、魔力制御でコインの軌道を変え、日本刀に当てたのだ。雷の力を使っていたのは、ただのコインでは弾かれて刀が降ろされる軌道を変えることができないのだ。だから、雷を使い、軌道を変えることにしたのだ。

 

「反応が遅い。」

「うわぁぁぁぁぁ!」

 

 爛はすぐさま日本刀を持っていた少年の日本刀を叩き落とし、少年の腕を掴んで高速で背負い投げをする。勢いをつけて投げられた少年はあまりの衝撃に気を失った。

 

「さて、次にやられたい奴は誰かな?」

「三人で行くんだ!やっちまえ!」

 

 爛は三人を威嚇するように殺気を向ける。三人は爛の圧倒的な強さに一歩退いてしまう。しかし、真鍋は三人に行くように大きな声を出す。

 

(動かない奴ほど何もできないってね。)

 

 爛はもう一枚コインを取りだし、親指で弾くことができるように構える。そして───、

 

「余所見してると危ないぞ!」

 

 爛は親指を弾き、雷の力をコインにため、真鍋に向かって弾く。そして、軌道は真鍋ではなく、真鍋の霊装であるリボルバーの銃口に向かってコインが行く。そして、コインがリボルバーの銃口を無理矢理入っていく。

 

「こっちも見ないで良いのかよ!」

 

 爛はそのときには行動に移していた。三人は霊装を縦に振るっており、どれも爛の頭を斬るようになっていた。爛は最小限の動きで避ける。そして、日本刀、鉄棍、斧と言う形で降ろされていく。しかし、降ろすのを間違えた。斧を持った少年は日本刀、鉄棍を砕きながら地面に叩きつける。そして、日本刀と鉄棍を持った少年は霊装を破壊された影響で気を失う。

 

「くそぉ!」

 

 斧を持った少年は斧が食い込んだせいで、抜けることがなかったため、拳で爛に殴りかかる。しかし、見え見えの拳は目を閉じながらでも避けることができる。爛は体勢を低くし、一気に懐に潜り込む。そして、拳で腹に一発。そのまま腕を掴み、背負い投げ。少年は爛の力で気絶をする。

 

「全く、単純な動きしか出来ないんだな。お前らは。」

 

 爛は頭を掻きながら、真鍋にそういう。先程の威勢はどうしたものかと思うほど爛に怯えていた。

 

「な、なめるな!」

 

 真鍋はリボルバーの引き金を引こうとするが引くことはできたが弾が撃たれることはなかった。それは、爛がコインで塞いでいるからだ。爛はすかさず、真鍋の目の前まで行き、真鍋を殴ろうとするが、真鍋の目の前で拳を止める。真鍋は気絶し、仰向けで倒れる。

 

「ふぅ・・・さて、こいつらを運ばないとだな。」

 

 爛が真鍋達を連れていこうとすると教室のドアが開けられ、そこから現れたのは・・・

 

「それは私がやっておくよ。」

「香姉!?どうしてここに?」

「それはまあ・・・調度監視カメラで見てたからね。」

「成程ね。」

 

 爛は日下部達のところに戻っていく。しかし、一年の教室ではギクシャクした空気になっていた。まあ、体術で伐刀者を倒すことなど常識外れなのだ。相手が弱かったと言うのが正しいのだが。

 

「で、どうするんだ?加々美、何もなければ俺は鍛練に行くぞ。」

 

 爛が逃げるような口実を作るが、加々美は爛の腕にとりつく。そして、爛の耳元で甘い声で、吐息で爛に話す。

 

「先輩のこと・・・教えてくださいね。」

「あ、ああ。」

 

 爛はこの事に頷くことしか出来なかった。爛自身、沙耶香が甘えてきていたので耐性等はあったのだが、加々美のするようなことはなかったため、頬を少し赤くしていた。一輝の周りについていた女子も爛の方に行き、爛はそのまま、自室へと連れていかれた。因みに一輝達は止めることはせず見ていた。

 

「僕達の方もトレーニングしようか。」

 

 そして、一輝達は何事もなかったようにトレーニングをしに行った。一方、爛の方では爛の自室に入り、質問を受けていた。いや、女子が爛のかっこいいところなどを話していた。爛は加々美に至近距離で質問攻めを受けていた。

 

「先輩は何で破軍学園に入ってきたんですか?」

「それは、黒乃が入ってくれと言ってきたからだな。」

「じゃあ、何でFランクで居るんですか?」

「良い意味で目立ちたくないし、陰口を言われるのが一番嫌だからかな。それに俺の両親もFランクで居たからね。」

「成程・・・因みにご両親のお名前は?」

「宮坂双木と宮坂華楠・・・いや、川南華楠って行った方が良いか。」

 

 爛はこの通り質問攻めを受けていた。そして、女子達の話が終わると、爛を挟むように隣に座ったり、爛の膝の上に座ったり、爛を後ろから抱き締めたりするのだった。因みに爛はそれなりに性欲はあるのだが、耳元で甘い声で呟かれたりしたため、爛の理性が異常なまでに減っていくのだった。そして、爛から離れたところで見ている少女はため息をつくのだった。

 

 ーーー第22話へーーー

 




因みに爛から離れたところで見ている少女は絢瀬のことです。


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第22話~爛のストーカー!?~

 日下部達のとりつきと言う名の拘束から逃れることができた爛は一輝達とトレーニングをしていた。

 

(・・・またか。)

 

 爛は休憩をしているなか、ある方向を一点に見ていた。そこから感じるのは人の気配。まるでここに隠れていますよと言わんばかりに感じていた。一輝は爛があるところだけを見ていることから、爛が気になり話しかける。

 

「どうしたんだい?爛。ずっと同じところを見ているようだけれど。」

「ああ、まあな。俺は誰かにつけられてるみたいだ。」

「まさか、ストーカー?」

 

 爛と一輝の近くにいたステラ達は爛と一輝の会話には参加しなかったが、ステラ達は二人の会話を聞いており、一輝の言ったことが耳に入ったのか、爛と一輝のそばに行く。

 

「ストーカーってあれよね!?一日中その人の後ろをつけまわしたり、勝手に部屋に入ってきたり、手紙にヒゲソリ入れて送りつけたりする、あのストーカーよね!?」

「それ随分と良いストーカーだな・・・」

「ステラさん。カミソリの刃です。ヒゲソリのまま入れてどうするんですか。」

「確かに親切だね。」

「身だしなみに気をつかえってことかしら。」

「ううう、うるさいわね!ちょっと分解し忘れただけでしょ!て言うか今そんなことどうでもいいし!」

「それもそうですね。爛さん。詳しく教えてください。」

 

 珠雫に言われ、つけられているときのことを思い出す。

 

「目線を感じたのはここ最近だよなぁ。」

「何かした?」

「何も。」

「恨まれるようなことは?」

「ないな。」

 

 爛はもう一度目線を感じ、気配を感じている方を向きながらそう言った。そこから感じているのは恨みでも何でもなかった。感じている気から判断すると、爛を見ているのは女性。

 

「アリスは気づいてたみたいだな。俺は放っておいたけど・・・止めないみたいだな。」

「そうね。あたしも分かっていたけど、爛が気にかけないから放っておいた感じね。」

 

 話をしても、予想を立てても、相手がどういう意味で自分をつけまわしているのか、それは分からない。

 

「ランのことが好き・・・とか?」

「俺自身それを信じたくないんだが・・・」

「爛さんは今やお兄様と同じ注目の騎士・・・しかも女性の方に人気がありますからね。それもあり得るでしょう。」

 

 珠雫の言ったことに爛は「はぁ・・・」とため息をつく。爛も一輝と同様に女性に人気がある。爛はその場その場の状況を見極めて、話題を出したり、女性の話についていけることもある。因みに一輝が日下部に爛が人気の理由のことを聞いてみると、守ってくれそうな見た目に優しく包み込んでくれるような笑顔。喜怒哀楽が分かりやすく、爛の表情はどの感情でも可愛らしいとのこと。爛はそれを否定したいのだが。爛自身、人を相手にするのは珠雫やアリスみたいに得意ではなく、苦手な方なのだ。人を追い払うなど、妹が甘えてくることから、そんなことはしないのだ。だからこそ、求めてくれれば爛は出来る限りのことはするのだ。そういう行動が相手に勘違いをさせたのではないのか。ステラ達はそう睨む。・・・が、爛はそんなことはないと思うのだ。気配から感じるに好意ではないのだ。

 

「アイドル気分ではしゃいでるならともかく、分不相応にも私のお兄様に手を出そうと言うのなら、見過ごすわけには行きません。これはもう拷問ですね。」

「いや・・・、一輝じゃなくて俺だからな!?」

 

 珠雫は一輝に手をだすのなら拷問も辞さないと言い、爛は相手が見ているのは自分だと焦りながら珠雫にそう言う。そして、珠雫が取り出したのは羽根箒。爛はそれを見て何か嫌な予感がした。

 

「シズク、羽根箒なんて取り出してどうするのよ。」

「決まっています。捕まえてくすぐりの刑です。」

「・・・・・・珠雫らしくない可愛らしい刑だね・・・。」

「くすぐるのは眼球ですけどね。」

「「「「怖っ」」」」

 

 案の定、爛の嫌な予感は的中。珠雫ならこれはやりかねないから困るのだ。眼球にくすぐられるのはくすぐったいのではなく、痛いでしかない。眼球にくすぐられ続けるのはいつか血の涙でも流すんじゃないかと思うと、ゾッとする。爛はそんなことがないようにと思うのだった。

 

「ま、この事については本人に聞いてみるか。」

「もしかして爛・・・今も?」

 

 爛はある木の一点を見つめる。何もないように見えるが、したの方を見ると、破軍学園の女子生徒が着るスカートの紐の部分が見えているのだ。

 

「朝っぱらからだ。全く・・・俺をつけまわす理由があるのかないのか・・・」

 

 そう、ここ最近と言うのは1週間前からだ。調度、爛と一輝の人気が出てきた頃だ。何かを求めるような目線は、一輝ではなく爛に向けられていた。爛はわざとらしく、追跡者が何処にいるのかと口にする。

 

「ま、何処にいるかは分かるぞ。例えばあの辺りとかな。」

「あの辺り?」

 

 爛が指を指したのは草むらの茂み。確かに隠れるには絶好の場所でもある。一輝が爛の指を指した方に行き、誰かいるのか見に行くと・・・

 

「誰もいないよ?」

 

 誰もいないのだ。爛は残念そうな顔もせず、一輝を見ていた。爛は追跡者が何処にいるのかはわかるのだ。面倒だから言っても良いのだが、爛は焦らしたいと思っているのだが、ステラと珠雫から来る視線が早くしろと言わんばかりの目線に爛はため息をつく。

 

「さて・・・そこに居るのは誰なのかな?」

 

 爛は少し大きな声で追跡者に話しかける。爛が見ているのは、女子生徒の紐がある木のところ。するとーーー、

 

「ひゃわわあぅ!!??」

 

 びょーん!と木のところから弾かれたように飛び出した。敵意は感じられないがつけまわすのは普通じゃない。追跡者の正体はーーー驚いたことに清楚な黒髪の真面目そうな美少女だった。その両手には葉っぱのついた木の枝が握られている。ベタだと爛は思った。

 

「あ、あうあぅ!ちが、これは違うんだっ!ぼ、ボクは、ぅぅう、うわ~~~!!!!」

 

 自分の追跡がバレていないと思っていたのだろうか。爛にそれは通用しない。気配を完全に殺すことができるのであれば見つかることはなかっただろう。突然居場所を言い当てられたことに女子生徒は目を回して動揺。すぐさま爛達から逃げ出す。・・・が、女子生徒が走った方向には小さな池があり───、

 

「きゃああああ~~~~~!?ぎゃふ!?」 

 

 ざっぱ~ん、と慌てていた女子生徒は池を囲む石に蹴躓き、頭から突っ込んだ。その瞬間、「ゴンッ」と生理的嫌悪感を覚える危ない音が響き・・・・・・

 

「・・・・・・・・・・・・」

 

 物言わなくなった女子生徒が爛達に背中を向けたままぷかぷか浮き上がってきた。そして、その女子生徒は動く気配などなかった。多分、気絶しているのだろう。

 

「お、おい!これマズイやつだよ!一輝、医務室確保しとけ!」

「わ、分かった!」

 

 爛と一輝が慌てながらも対応するなか、ステラと珠雫は爛のストーカーで話していた。

 

「あ、あんな綺麗な人が・・・・・・ランのストーカー!?」

「これはこの羽根箒を使うタイミングが思ったより早く来そうですね。」

 

 ステラと珠雫はこの出合いに女の勘がならす警鐘を聞いていた。

 

 

   ーーーーーーーーーーーーーーー

 

 ここはある一つの部屋。明かりは机に置かれた小さな電気スタンドが一つ。そして、個室には椅子に座らされた少女と、少女を囲むように四人の屈強な中年が立っている。男達はいずれもが眉間に皺を刻んだ険しい表情で、怒鳴り声をあげながら少女を詰問する。

 

「正直に言え!貴様は被害者・宮坂爛氏をストーカーしていた!そうだな!?」

「現行犯逮捕なんだ!まさかしていませんなんて言うわけないよな!?」

 

 問い詰める声。顔に向けられる眩しすぎる電気スタンドの光。そのいずれにも気圧されながらも、少女は必死に言葉を作る。

 

「ち、違う!あれはストーカーしていたわけじゃなくて・・・・・・っ。」

「言い訳言うなぁああ!」

「ひっ!」

「お前が一週間彼をつけまわしていたことは明白なんだ!」

「だと言うのにシラを切るか貴様ぁぁぁ!」

「ええい、とにかく拷問だ!拷問にかけろ!」

「や、やめて~~~~~~っ!」

 

 そうして目の前が光に包まれていく。

 

 

   ーーーーーーーーーーーーーーー

 

「ーーーはっ!?」

 

 少女はそこで悪夢の世界から目を覚ました。視界に写るのは清潔感のある白い天井。鼻腔をくすぐる薬品の匂いから、ここが医務室だと言うのが分かる。どうやら自分は医務室のベッドに寝かされているようだ。その事実に少女は安堵する。さっきのただの悪い夢ーーー、

 

「蝋燭責め。鞭打ち。爪剥がし。駿河問い。石抱き・・・。」

 

 ぐるりと首を回すと、耳元でブツブツと呪詛を呟く少女と、その隣に椅子で座っているのは少年。

 

「火あぶり。水責め。釘付け。市中引き回し。三角木馬。ーーーあ、起きましたか。」

「今ブツブツ呟いていた言葉は・・・」

「さあ、悪い夢でも見てたんじゃないですか。」

「ん、起きたか。おはよう。と言っても、昼過ぎなんだけどな。気分はどうだ?」

 

 銀髪の少女───珠雫は呪詛を呟いていたのを止め、漆黒の髪で眼帯をつけている少年───爛は少女に気分はどうかと話しかける。

 

「うん、助かったよ。ありがとう。」

「そりゃよかった。流石、珠雫の治癒術だな。一輝、目を覚ましたぞ。」

 

 爛がコントラクトカーテンの外側に向かって告げる。その声に呼ばれて入ってきたのは一輝とステラ、アリスの三人。

 

「随分と大きなコブだったから心配したけど、流石珠雫の治癒術ね!」

「試合の怪我じゃない限りiPS再生槽(カプセル)は使えないからね。珠雫が居たから助かったよ。」

「で、何で俺から目を背けてるんだ?」

 

 爛がその少女を見ると、爛から目を背けていた。 すると、少女は爛の問いにこう答えた。

 

「き、気にしないでっ。す、すごく個人的な理由だから。」

 

 答える少女の声には焦りの色がある。何か後ろめたい事があることから顔を合わせづらいのだろうか。そこのところは追々聞いていくとして・・・

 

「それは後々聞くことにするか・・・一番大切なことを聞くけど、名前は?」

「ぼ、ボクは───」

 

 少女の名前は?

 

 

 ーーー第23話へーーー

 



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第23話~綾辻~

作者「遅れてしまいました。すみませんでした。反省はしていない。」
爛「おい、作者ーー!反省しろ!」
作者「する気なんてありません。」
爛「いっぺん死んでみっか?」
作者「お待ちください!」
爛「だが断る。」
作者「いやーーー!!!」


「ぼ、ボクは綾辻絢瀬(あやつじあやせ)。三年生だよ。」

(三年生か。意外だな。)

 

 前書きの茶番は置いて、絢瀬は自己紹介をした。爛はこの少女が年上だとは思わなかった。おどおどしている感じで、ドジをしていたため、一つ上かも分からなかった。しかし、爛は先輩にため口で良いのかと思ってしまうのだった。

 

「話すときは・・・ため口で構わないかな?俺は敬語が苦手でね。」

「う、うん。ため口で構わないよ。年上扱いされると、ちょっとダメだから。」

 

 意外とシャイなんだなぁと思っている爛が絢瀬を見ようとしていると、絢瀬の顔は、後ろの方にまで向いていた。壁に何かある訳じゃないだろう。何かあって見ようとしたらそんなことになるはずはない。見たいものがあれば、そっちの方に体も向くはずだ。しかし、そんなことはなかったため、爛は絢瀬に聞いてくる。

 

「どうして、後ろ向いてるんだ?目線じゃなくて首ごとそっぽ向いてるけど。」

「き、気にしないでっ。大したことじゃないからっ。」

「いや、誰もいない壁の方を向きながら話されたのは初めてだよ!?目を逸らされているならまだしも。」

 

 挙動不審な絢瀬に耐えかねずツッコミを入れてしまう爛。すると、絢瀬はそっぽ向いている理由を話す。

 

「だ、だって・・・、恥ずかしい・・・から。」

「・・・・・・え?」

 

 蚊のなくような声でそんなことを言い、爛は素っ気ない声をあげる。

 

「し、知らない男の子と、目と目を合わせて会話するなんて・・・恥ずかしいよ。」

 

 よくよく見れば、絢瀬の顔は耳まで火が出そうなくらい真っ赤になっていた。

 

「宮坂君は、なんでそんな会ったばかりの異性と目を見て会話できるの?」

 

 絢瀬の意外な質問に爛は頭を掻きながら絢瀬に話す。

 

「まあ、なんでと言われても・・・ねぇ・・・。話すときに相手の顔を見るのは普通なんだが。」

「ふ、普通・・・・・・、そうなんだ。すごいや・・・・・・。ボクには無理だよ。失礼だとはわかっていても、そんなに見つめられたら恥ずかしくて前を向いていられない・・・」

 

 普通のことが感心されるとは思わなかった。だが、確かに絢瀬の視線は何度も窺うようにチラチラと爛に向けられているのだが、爛が絢瀬の視線に合わせようとし、絢瀬と視線が合うと、絢瀬はすぐに瞳が逃げてしまう。本人も爛の顔を見ようとして、努力しているのだが、恥ずかしさが勝ってしまい、それどころではなかった。

 

(参ったな・・・。ん?もうそんな時間なのか。そう言えば、一輝の試合があるはず・・・。)

 

 爛はそんなことを考え、一輝に聞いてくる。

 

「一輝、そろっと試合じゃないのか?」

 

 一輝が爛に言われ、医務室にある時計を見ると、一輝の試合の時間が迫っていた。一輝はそれに気づいた。

 

「あ、もうそんな時間なんだ。じゃあ、爛。僕は先に行ってるよ。」

「ああ、分かった。それじゃあ。」

 

 一輝達は医務室から退室し、部屋に残っているのは爛と絢瀬の二人だけ。爛は絢瀬にストーカーしてきたことの理由を聞いてくる。

 

「じゃあ、絢瀬。俺は貴女が跡をつけていたことの理由を聞きたいんだが・・・、良いか?」

「うん、良いよ。ボクは剣術でどうしても上達しなくなって、スランプ気味なんだ。」

「なるほどね。で?俺をつけていたことは?」

「そんなときに、宮坂君と黒鉄君の噂を聞いたんだ。今時珍しい剣技の使い手が一年生に居るって。だから、宮坂君と黒鉄君に相談できれば、もしかしたら何か掴めるかも・・と思ったんだけど───」

 

 爛は絢瀬の話を聞きながら、あるところを見ていた。そのところは、絢瀬の手。爛は絢瀬の名字である綾辻に思うところがあった。そして、爛は絢瀬の話を止めるように話す。

 

「ちょっと良いか?」

「何かな?宮坂君。」

「手を見せてくれ。気になることがある。」

「う、うん。分かった。」

 

 絢瀬が爛に自分の手を見せると、爛は一目で分かった。絢瀬の手は、竹刀を何千回、何万回と振るってでしかできないたこができていた。爛はその事にあることに気づいたのだ。

 

(綾辻・・・、そしてこのたこは・・・。)

「もしかして・・・、絢瀬は海斗さんの娘さん?」

「た、確かに海斗はボクの父さんだけど・・・ど、どうしてわかるの?」

「絢瀬の手のたこだよ。それは剣術家の手だ。それに、俺のジョギングについていけなくとも、一輝とステラのジョギングについていくには相当鍛えてないとついていけない。・・・それに、絢瀬の名字である『綾辻』にちょっとピンと来たものだからね。」

 

 そう言いながら話す爛に、絢瀬は爛をつけていたことの目的を詳しく教える。一方一輝達のところでは一輝の試合会場に向かいながら、綾辻について話していた。

 

「綾辻海斗さんの娘さんなのかな?」

「アヤツジカイトって誰?」

 

 一輝の呟いたことが聞こえたのか、ステラは一輝に海斗のことを聞いてくる。すると、珠雫がそれに答えた。

 

「『最後の侍(ラストサムライ)』と呼ばれていた非伐刀者(ブレイザー)ですよ。伐刀者は武芸に興味のない人が多いですからね。でも、剣術を少しかじっただけでも綾辻海斗の名前が出てきます。それほどの剣術の達人です。」

 

 そう、珠雫の言った通り、『最後の侍』である綾辻海斗は様々な功績を残している。

 『天龍御前試合(てんりゅうごぜんじあい)』『東西統一戦』『武蔵杯』『十段戦』───

 かつて剣の世界の名だたるすべての大会で優勝し、その栄光を欲しいままにした稀代の天才剣士。全盛期には非伐刀者でありながら、数多の能力犯罪者鎮圧に尽力した記録もある。

 そんな功績を残している海斗だが、一線を退くと同時に海斗の行動がどのようなものなのか、それが一切だされることもなくなった。爛達の年齢で言えば、まだ小学生の頃か、それよりも下だろう。

 

「普通、魔力に守られた伐刀者相手に拳銃の弾ですら軽い打撲程度の傷しか与えられません。でも彼の太刀はそんなハンデをものともしなかったとか。おそらく、この世界で一番伐刀者でなかったことを悔やまれている人間でしょうね。・・・・・・もっとも、非伐刀者であるのに強すぎたことは魔導騎士達の不興を買って、その勇名が騎士の世界に轟くことは無かったようですが。」

「でも、シズクは知っているのね。」

「黒鉄家は多くの魔導騎士と違い、武道の有用性をちゃんと認識してますから。」

 

 黒鉄家は数多くの魔導騎士を育成し、それを世界に出している。そのため、生半可な鍛え方ではなく、しっかりとした鍛え方をさせるためには武術も必要になってくると、黒鉄家は考え、それを叩き込んでいるのだ。しかし、珠雫は最愛の兄を追いやった黒鉄家に嫌気が差して、だいぶ前に黒鉄家が行う武道の授業を受けなくなっていたのだが、『最後の侍』の勇名は記憶に残っている。ならば、彼女以上に直向きに剣の道を歩んできた一輝と爛がその偉大な先達の名を知らないわけがなかった。

 

「僕も子供の頃はよく海斗さんの試合の映像を見て剣の勉強をしていたよ。中学の頃は、直接道場に行って試合を申し込みに行ったこともあるしね。」

「え、そうなの?」

「うん。断られちゃったけどね。そういう野良試合はやってないって。服の襟を掴んでクルッと向きを変えさせられてね。」

 

 思い出話のように話す一輝。どれだけ海斗のことを慕っているかがよくわかる。爛の方では絢瀬が爛をつけていたことの話を聞いていた。絢瀬のことについて思わず口に出してしまった爛は少し反省していた。

 

「噂を聞いたは良いんだ。だ、だけどボク、男の人とは父さんを除けば子供の頃から一緒にいる門下生しか話したことがなくって・・・その、何て話しかけたら良いのか分からなくて・・・・・・」

「それで、一週間も俺の跡をつけていたと。」

「お恥ずかしながら・・・。」

 

 こくん。と顔を俯きながらうなずく絢瀬。爛はどうしたものかと考えてしまう。

 

(やっぱり、シャイかぁ。)

 

 そんなことを思ってしまう爛だった。爛が時計を見ると、一輝の試合が始まる頃だった。爛はこの試合を見に行くべきなのだが、絢瀬も放っておくことはできない。そこで、爛は考えたのだ。絢瀬も連れていこうと。

 

「絢瀬、一輝の試合が始まる頃だ。良かったら見に行かないか?」

「黒鉄君の試合を?」

「ああ。」

「うん。ボクも行くよ。黒鉄君の剣術を見てみたい。」

 

 絢瀬の言ったことに爛は少し苦笑をした。それは一輝の試合相手が一輝の刀を振らせてくれるかどうか。それとも一輝は刀を振るのかどうか。その二つに一つ。爛はその事も踏まえて絢瀬に話す。

 

「それは・・・、微妙なんだが、振らないかもしれないぞ?」

「それでも構わないよ。ボクは黒鉄君の戦い方も見てみたいから。」

「勉強熱心な子って。ああ、それと良かったら一緒にトレーニングでもしないか?一輝だって、綾辻流を見たいだろうしな。」

「ホント!?」

 

 爛は絢瀬にそう言うと、絢瀬は目をキラキラさせて、爛の手を握る。

 

「嬉しいよ!二人に剣を見てもらうなんて!・・・あっ。」

 

 つい勢いでやってしまったと思った絢瀬はすぐに爛から放れ、顔を赤くさせる。

 

「ゴ、ゴメン!勝手に手を取っちゃって。気安く触れちゃダメだよね。」

「い、いや・・・、別に大丈夫なんだが・・・。」

 

 恥ずかしい絢瀬を見て、爛はどうしたものかと考えてしまった。まあ、日に日にそんなことは無くなっていくだろう。爛は絢瀬と一緒に一輝の試合会場に向かった。

 

 

 ーーー第24話へーーー

 




作者「ちょっと短め。」
爛「今度からはしっかり書いてくれよ。」
作者「分かった。」
爛「意外と素直だな・・・」
作者「な訳ないでしょ!じゃあね~」
爛「ちょっ!?おい!?待て!」


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第24話~一輝の強さ~

はい、生徒会役員ボコボコの回その1ですw




 爛と絢瀬は一輝の試合が始まる前に会場にたどり着き、簡単な席についていた。そして、アナウンスが入る。

 

『さあそれでは!これより本日の第七試合を開始しまーす!青ゲートから姿を見せたのは、選抜戦第一戦目で、昨年の七星剣武祭出場者であったCランク騎士、桐原静矢選手にまさかの勝利をあげた、一年Fランクーーー『落第騎士(ワーストワン)』黒鉄一輝選手です!ここまで八戦八勝無敗。しかも桐原選手との試合も含め、すべての試合をかすり傷一つ負わずに勝利しています。だが、そんな飛ぶ鳥を落とす勢いの『落第騎士』に、『狩人』以来の強敵が立ちはだかる!それこそが赤ゲートより姿を見せる破軍学園生徒会役員の一人にして七星剣武祭代表有力候補!二年Cランクーーー『速度中毒(ランナーズハイ)兎丸恋々(とまるれんれん)選手!戦績は黒鉄選手と同じ八戦八勝無敗!しかししかーし去年の年末に発表された兎丸選手の校内序列は第四位!つまり彼女はこの学校で四番目に強い学生騎士なのです!兎丸選手が順位通りの強さを見せつけるかそれとも今日もまた『落第騎士』が武術は異能に勝てないと言う我々の常識を蹂躙するのか!解説の柳田(やなぎだ)先生、どう思われますか!?』

『なげぇわ寝てた。』

『ありがとうございます!さあ注目の一戦が今、・・・始まりました!』

 

 試合開始のブザーが鳴り、それに呼応して観客席から熱狂が迸る。その熱狂の注目する先は、フィールドに立つ二人の騎士。日本刀型の固有霊装(デバイス)携え佇む黒髪の少年・黒鉄一輝。そしてナックルダスター型の霊装を装備したブルマ姿の少女・兎丸恋々だ。一輝は霊装を構えたまま、兎丸を見つめ、兎丸はステップを踏みながら一輝と会話していた。

 

「クロガネ君。『狩人』との試合は見させてもらったよ!なかなかいい試合だった!」

 

 兎丸の笑顔は日に焼けた小麦色の肌と同じ、とても健康的で溌剌としたものだ。そんな彼女の笑顔に対して、一輝も口元に微笑みを宿して言葉を返す。

 

「それはどうも。第四位の兎丸さんに言ってもらえると嬉しいですよ。」

「敬語は良いよ敬語は。アタシたち同い年なんだからさー。でも不思議だよねぇ。あれだけ戦えるのにどうして留年なんかしちゃったん?」

「・・・・・・あはは、まあそれは、色々事情があって。」

「ふーん。ま、どんな事情があったかは知らないけど、残念だよ。クロガネ君みたいな強い人が同じ学年だったら楽しそうだからねー。」

「強いと言うのなら第五位の砕城(さいじょう)さんが居るじゃないか。」

「アイツはダメダメ。馬鹿力だけでアタシに触れることすら出来ないんだから。ただの扇風機だね。・・・まあでも、それを言ったらクロガネ君もかな。『狩人』程度の敵に足踏みしてるようじゃ、アタシには勝てない。」

 

 そして、兎丸は溌剌とした笑顔を獰猛な笑みに変え、言葉と共に一気に踏み出す。

 

「見せてあげる。第四位の戦いをーーーッ!」

 

 瞬間、一輝の目の前から兎丸の姿がなくなる。一輝は表情を崩すこともなく、驚くこともなかった。桐原と同じ『認知不能(ステルス)』能力か。いや、それは違う。フィールド内を駆け巡る音が聞こえる。正確に言えば、兎丸の足音。兎丸を目で追おうとすると、残像が残っている。彼女は姿を消しているのではなく、姿が消えるほどに走っているのだ。一輝も知っていた。これは彼女の異能。そして、彼女の伐刀絶技(ノウブルアーツ)───

 

『《マッハグリード》だぁ!兎丸選手、いきなり勝負をかけに来たあぁぁぁ!』

 

 その異能の正体は『速度の累積』。兎丸自らの身体にかかる『減速』という概念を捨て、『停止』しない限り、加速を累積することが出来る。『停止』しない限りは。これを見ていた爛はこの試合の結果が分かった。

 

「この試合、一輝の勝ちだ。」

 

 爛はそう断言したのだ。それを聞いた絢瀬はまだ爛の言っていることが分かっていなかった。それを見た爛はどういうことなのか話した。

 

「一輝にそんなのは効かないんだよ。あいつには《完全掌握(パーフェクトビジョン)》がある。不可視の敵でさえ見つけることが出来た一輝に速度だけの伐刀者(ブレイザー)なんさ苦でもない。」

 

 爛の言っていることは正しい。爛の言ったことに絢瀬は納得し、一輝達の試合の見る。

 

「・・・試合の始めに話しかけてきたのは、ステップで初速を稼ぐためかな?」

「大正解。この異能の弱点は初速にあるからね。話しかけてきたのはステップで初速稼ぐこと。今ので五百キロは稼げたよ。でも、この《マッハグリード》はこんなもんじゃないよ!」

 

 兎丸はそう言いながら、次々に速度を上げていく。それは残像すら見えなくなるほどに。しかし、一輝は残像すら追えなくなった兎丸を見ようとすることを『捨てた』。

 

「アタシの《マッハグリード》の本領は音速を超えることで発揮されるんだから!」

 

 八百───九百───千───千十───千二百キロ!

 遂に、兎丸の速度は超音速の領域に入った。一輝は足音しか聞こえない状態でも、冷静に居ることができた。そして、兎丸が最初に一輝と話していたことは一輝を勝利へと導くことでもあった。

 

「アタシは『狩人』みたいに消えるだけじゃない。消える上に捕まえることもできないのさ!消えるだけに足踏みしてたらアタシには到底勝てないよ!」

「じゃあもし、僕が兎丸さんを捕まえることができたら、負けを認めてくれるかな?」

「はは・・・っ!まあそれが出来たらね!だけどできない!できるわけがない!残念だけど、クロガネ君の七星剣武祭はここまでさ!行くよ!超音速の一撃・・・ッ!」

 

 一輝の超人的な動体視力を持ってしても、兎丸の残像すら追えなくなったそのとき、兎丸は決着をつけるために拳に力を入れる。一輝の背後を取り、放つは重ねに重ねた最高速を打撃のエネルギーに転換する一撃・・・。

 

「《ブラックバード》ーーーッッ!!」

 

 兎丸はソニックブームを起こしながら超音速の一撃を一輝に入れるべく、一輝の背後から打ち込む。その速さ、実にマッハ二を超える。もはや見えることも不可能になった速さの一撃は、当然防ぐこともおろか、避けることも叶わない。しかし、兎丸はここで過ちを犯していた。それは一輝と話していたときから始まっていた。そんなことにも分からなかった兎丸は自分の勝利だと確信していた。だが、

 

「バカねあの人。」

 

 すり鉢状の観客席の一角。そこにたつ小柄な銀髪の少女が、小馬鹿にするようなため息をつく。ビスクドールを思わせる可憐な容姿の少女の名は黒鉄珠雫。一輝の妹であり、相手を溺れさせるという独特の戦い方から『深海の魔女(ローレライ)』の二つ名で呼ばれ始めたBランク騎士だ。

 

「お兄様があの男に足踏みしたのは『姿が見えない』なんて理由じゃないのに。」

 

 呟かれた言葉は兎丸に届くことはない。届くことはないがその意味を兎丸は理解する。

 

(え!?)

 

 兎丸は自らの視界にあり得ないものを感じる。それは自分を撃ち抜くような視線。糸のように細く伸びた刹那の中で、兎丸は自らに視線が刺さるのを感じた。それは決して捉えることのできない超音速の自分を双眸に納めた一輝の視線!

 

(う、うそ!?反応された!?)

 

 次の瞬間、兎丸が繰り出した超音速の拳の先から一輝の姿が消える。超音速の拳が空を切り、二人の身体が交差する。そのすれ違いざまに一輝は兎丸のウインドブレーカーの襟首を掴み、彼女の超音速の推進力を利用してその場で独楽のように身体を一回転させ───勢いのまま、兎丸の身体を石板の地面に叩きつけた。

 

「か、っは。」

 

 そして背中を殴打する衝撃に息を詰まらせる兎丸に黒い切っ先を突きつけ、

 

「僕の勝ち、だね。」

「・・・・・・・・・・・・」

 

 何が起きたのか。自分が何故捕まったのか。倒れた兎丸には理解できない。ただ、自らが敗北したことだけは悟った。兎丸の《マッハグリード》は止まってしまうと速さはリセットされてしまう。常に動き続けなければならない技なのだ。ここからもう一度、速度を積み直すなんてできない。そんなことを、目の前の侍は許しはしない。だから、・・・・・・兎丸はこくりと小さく頷き、一輝の降伏勧告を受け入れた。

 

『き、決まったぁぁ!あっけなく終わってしまったぁぁ!学園序列第四位の『速度中毒』をもあっさりと下して黒鉄選手は土付かずの九連勝!いよいよ史上初のEランク以下での七星剣武祭代表抜擢が現実味を帯びてきました!』

「おいおいマジかよ!」

「あの兎丸さんが触れることも出来ないなんて・・・。」

「なんなんだよあのFランク!もう一人の方は愛華さんまで倒すしよ!何であんな化け物が留年なんかしてるんだ!?」

「か、かっこいい・・・。」

「流石は一輝ね。まったく危なげない試合だったわぁ。」

 

 実況や観客の歓声の中、珠雫の側に立つ眉目秀麗な長身の男、アリスがフィールドから立ち去る一輝に拍手を送る。

 

「結局《一刀修羅(いっとうしゅら)》を使いもすらしなかったし。」

「当然の結果よアリス。お兄様が『狩人』に足踏みしたのは見える見えないじゃなくて間合いを制されていたから。どれだけ速かろうと見えなかろうと、お兄様の・・・超一流の剣客の間合いに土足で踏み込んで無事でいられる道理がないわ。」

 

 一輝や爛のクラスになればもうクロスレンジは剣の結界だ。踏みいるものがいれば可視だろうが不可視だろうが、速かろうが遅かろうが、研ぎ澄まされていた剣客の第六感が必ずその挙動を捉え、対応できる。そして兎丸が初速を稼ぐために一輝に話していた時には一輝の〈完全掌握〉内に兎丸は居たのだ。その地点で、兎丸の負けなのだ。

 次はステラの試合。爛はステラの次の試合で出るため、絢瀬に一言断り、待機室に向かっていた。その時に、黒乃と出会う。

 

「お、黒乃。」

師匠(せんせい)、一つだけ。」

「何だ?」

「もう一人、留学してくる人がいます。その人が師匠のルームメイトになります。明日の十時に理事長室に来てください。」

「成程、例の人ですか。分かった。十時に理事長室だな。」

「はい。それでは。」

「おう。」

 

 黒乃はそれだけ話すと爛が来た道を戻るように歩いていく。爛はそのまま待機室に向かった。その時に爛はこう呟いた。

 

「へぇ、例の人が、ね。会うのは・・・何年ぶりかな?」

 

 

 ーーー第25話へーーー

 




爛の呟いたことはこれを含めて後二話先です。



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第25話~ステラと爛の強さ~

生徒会役員ボコボコの回その二




 爛は黒乃に言われたことにあることを思っていた。それは爛のルームメイトについてだ。爛が知っている人物であるのだが、その人物にどうも慣れないところがあるというか、振り回されるところがある。

 

(あいつ、昔と変わってくれてかな。良い意味で。)

 

 爛がこう思うのはルームメイトの行動が、周りの人間からすれば、可笑しいのだ。例えば、爛の目の前にメイド服で過ごしたり、露出度の高い服を着たり、する必要のない奉仕をしてくることから、ある意味で変わってほしいと思っていたのだ。しかし、爛はそれがどうと言うつもりはなかった。いや、思っていてもそれは口に出すことのできない物であった。まあ、それがその人物の性格でもあるため、無理強いはしないとしていた。そして、爛は自分の試合のために集中するのだった。

 

『さあ興奮が冷めないなか、続いて本日の第八試合だ!燃えるような髪を揺らして、フィールドに現れたのは破軍学園唯一のAランク騎士!〈煉獄の女帝(サプレッション)〉ステラ・ヴァーミリオン選手です!ルームメイトである〈落第騎士(ワーストワン)〉と同じく八戦八勝無敗!そのうえすべての勝利が相手の棄権負け!無傷どころか試合もせずに威圧だけで勝ち抜いてきた驚異の超新星(スーパールーキー)だ!だがしかし、今日の相手は鼻息バッファローーー!!』

 

 ステラは歩く度に炎を撒き散らせ、自身の強さを見せつける。一方で兎丸と入れ違いになるようにフィールドに上がったのは坊主頭の巨漢。

 

『校内序列第五位『城砕き(デストロイヤー)』の異名を持つ我が校の生徒会役員の一人!Cランク騎士・砕城(いかずち)選手だぁぁ!長ランを靡かせながら、悠々とヴァーミリオン選手の前に立つ!そこに今まで彼女と対峙した選手のような緊張感や気負いは感じられません!ただただ倒すべき敵に鋭い視線をぶつけていく!以前の破軍学園壁新聞部の取材にて「日本男子に逃走はない。」と断言をした砕城選手!その言葉通り、彼はヴァーミリオン選手と戦う気満々!いよいよ我々も〈煉獄の女帝〉の戦いを生で見ることが出来そうだ!両者、固有霊装(デバイス)顕現させ、・・・試合開始の合図が、今鳴りました!』

 

 試合開始のブザー音がなると、『城砕き』砕城は自身の霊装である斬馬刀を回す。

 

「うおおおぉぉぉおぉぉぉ!」

『おぉっと!開始早々砕城選手が自身の霊装である斬馬刀を振り回す!その霊装から風を斬る轟音が実況席まで届いてきそうな迫力だぁあぁぁ!』

 

「問おう。貴嬢は某の能力は知っておられるか?」

 

 砕城は斬馬刀を頭の上で回転させながら、ステラに自身の能力は知っているのかと問う。これにステラはこう返した。それはステラのスタイルを知っている爛達ならば当然のことだと予想できる。

 

「知らないわ。アタシはイッキと違って相手のことは事前に調べないもの。」

 

 一輝は桐原戦のみ調べることはしなかった。彼は自分の洞察力を生かし、《完全掌握(パーフェクトビジョン)》を物にした。そして、次からは相手のことを調べ、《完全掌握》とともに試合を進めていく。爛はステラと同じように調べることなどしなかった。いや、する必要がなかった。世界最強の剣士と剣を交えている爛には余裕と言う二文字しかなかったのだ。

 

「フッ。流石は誇り高きAランク。Cランク等眼中にないか。」

「別に油断しているつもりはないわ。結局のところ、この体表戦も、七星剣武祭も、すべてはアタシ達が強い魔導騎士となるための訓練みたいなものでしょ。テロリストの伐刀者(ブレイザー)と相対したとき、敵の能力が分かるなんてこと、ほぼあり得ない。だから、相手がどんな能力を持っていようと戦えるようにならないとダメなのよ。」

「その感覚を養うために下調べはしないと。うむ。流石と言うほかあるまい。一年にしてなんと貴き志よ。されど───此度ばかりは貴嬢の気高さは仇ぞ!」

 

 砕城は頭の上で回していた斬馬刀の回転を止め、ステラに向けて構える。そのステラの金色の大剣、妃竜の罪剣(レーヴァテイン)をも凌ぐ巨体さと無骨を有するならば刀身からは、魔力の気配が滲んでいる。その刀身には既に、超常の理が働いているからだ。これこそ、砕城の異能。

 

「某の能力は『斬撃重量の累積加算』!振り回せば振り回すほどに重くなる!限界重量ざっと十トン!某の能力を知らずに限界までチャージさせてしまったのは貴嬢の落ち度!」

 

 吠えるように告げた砕城は斬馬刀を唐竹割りの容量でステラに打ち落とす。

 

「《クレッシェンドアックス》ーーーッ!!」

 

 砕城は嘘などついていない。今、降り下ろされているのは、一撃で地を割るほどの超重量を宿した斬撃。しかし───

 

「例え、アンタの斬撃が重かろうが、用は当たらなければ良いのね。」

 

 兎丸に劣る理由はそれだ。《クレッシェンドアックス》は確かにこの一撃の威力だけならば最強クラスの攻撃力。しかし、速さがない。兎丸のようなスピードを重視している伐刀者にとっては良い的だ。そして、ステラもまた兎丸には劣るが十分なスピードを兼ね備えている。この程度の斬撃、目を瞑っていてもかわせるに等しい。だがステラは、

 

「だけど、あえて受けるわ!」

「な、なにぃぃ!?」

 

 ステラは妃竜の罪剣を振るい、砕城の《クレッシェンドアックス》を受け止めた。しかし、それだけではない。受けるだけではなく、ステラは砕城の斬馬刀を力任せに押し退けた。

 

「ば、バカなぁ!」

 

 自分が力負けをした。その事実に砕城は目を剥き驚愕する。それもそうだ。砕城は今まで自分の霊装を攻略されたことはなかった。そして、砕城は知らない。ステラがただ一度、この学校で戦った一輝との模擬戦の際には、その場に砕城は居なかった。生徒が動画サイトにアップロードした動画しか見ていなかったからだ。そのため、砕城は測り間違えた。ステラが一刀で大地を震撼させるほどの重撃の使い手だと言うことに。

 

「覚えておくといいわセンパイ。」

 

 斬馬刀を打ち上げられ、無防備に伸びきった砕城の上体にステラは手を伸ばし、制服の片襟を掴む。そして、口元に残酷な笑みを少し浮かべ、

 

「力も、異能も、小細工も、全て真正面からねじ伏せる。それができるからこそ、アタシはAランクなのよ。」

 

 その瞬間、砕城の片襟を掴んだ手から爆炎が迸った。襟がちぎれ、砕城の身体が十メートルほど宙を舞い、フィールドに落下する。煤だらけとなった砕城はピクリとも動かない。超至近距離からの爆発に、砕城の意識は砕け散っていたのだ。

 

『砕城雷、戦闘不能。勝者、ステラ・ヴァーミリオン。』

 

 すぐにその事実を確認したレフェリーのジャッジが入り、この戦いの勝者が確定した。

 

『ま、またまた圧勝ぉぉおお!!砕城選手、勇猛果敢に『煉獄の女帝』に戦いを挑むも、まるで相手にならず!これが世界レベル!これが最高ランク!強い!強すぎる!』

 

 興奮しながら実況と観客が拍手を送るなか、ステラは悠々とゲートの方に戻っていく。ステラがゲートを越え、待機室に行くと、そこには爛が居た。

 

「お疲れ、ステラ。やっぱり圧勝か。」

「余裕だったわよ。ランの方も楽勝でしょ?」

「まあな。第六位が相手だろうが余裕だ。」

 

 爛とステラは簡単な会話を済ますと、爛はフィールドに向かって歩き出す。その姿は頂点を目指すために底辺に堕ちた鬼神が動き出した。ということが分かるだろう。それほど、爛の姿は誰が見てもたくましいと感じるほどだった。

 

『さあ、連続で第九試合だ!赤ゲートより出てくるのは、強者を薙ぎに薙ぎ払いここまで駆けてきた代表戦のダークホース!ここまでの戦績は黒鉄選手、ヴァーミリオン選手と同じように八戦八戦無敗!彼に勝てるものは居るのか!?この快進撃を止められるのか!?否、それはできないと断言させるように、破軍学園の序列一位と三位を薙ぎ倒したこの選手をなんと呼んだか!?『予測不能の騎士(ロスト・リール)』!?いや、それは違う!これこそ、彼に合う二つ名!『鬼神の帝王(クレイジーグラント)』!宮坂爛選手の登場だーーー!!』

 

 先程よりも歓声は大きく、熱狂に溢れていた。爛はそんな歓声をどこ吹く風と優雅に歩いていく。そして、青ゲートからも現れる。

 

『青ゲートからは生徒会役員の一人である選手!破軍学園序列第六位!彼に近づける伐刀者は居るのか!?遠距離の魔法戦に特化している彼の二つ名は『遠距離の毒蛇(ロングバイパー)』Cランク騎士・葵透(あおいとおる)選手です!』 

 

 葵は青ゲートから爛と同じように現れた。爛と葵は開始位置に立つ。

 

『両者、霊装を顕現し、構え、・・・試合の合図が鳴りました!』

 

 爛は村正に酷似した刀、刻雨を顕現し、鞘に入れ、構えていた。葵の霊装はハンドガン。ハンドガンを握り、構える。そして、爛が刻雨の柄を握った瞬間、葵は一気に距離をとる。爛は動きを止め、葵が行ってくる攻撃に対応しようとしていた。すると、葵がこんなことを聞いてきた。

 

「初めまして、宮坂君。愛華さんとカナタさんとの戦いは流石ですね。」

「そりゃどうも。」

「因みに聞きますが、貴方は僕の異能は知っていますか?」

「知らないな。」

「そうですか。それが仇にならないことを祈ってますよ!」

 

 そういうと、葵はハンドガンの引き金を数回引く。すると、そこから弾が分裂し、弾から新たな弾が数弾現れた。爛はそれを斬っていき、葵に迫っていく。すると、葵は自身の周りに魔力の弾を展開する。

 

「《毒蛇の魔弾(どくへびのまだん)》!」

『で、出たぁ!《毒蛇の魔弾》だあ!触れた部分は侵食され、使い物にならなくなる魔弾!宮坂選手、この魔弾にどう対応するのか!?』

 

 爛は抜刀していた刀を納刀する。葵の《毒蛇の魔弾》が爛に当たる瞬間、爛の姿が消え、葵の前に現れる。すると、葵は倒れ、展開していた〈毒蛇の魔弾〉は消えていく。そして、爛は伐刀絶技(ノウブルアーツ)の名を呟く。

 

「《拾の剣・五輪の極意(ごりんのごくい)》。」

『葵透、戦闘不能。勝者、宮坂爛。』

『き、決まったーー!あっという間に終わってしまった!なんと!この八戦の間に、代表戦に出場している生徒会役員、『雷切』を残し、全員一年に破れています!強い!今年の一年は強すぎる!彼達ならば、彼達ならば、破軍学園に七星剣武祭の優勝をもたらしてくれるかもしれません!』

 

 爛は試合を終わらせると、すぐにゲートの方に歩いていく。そして、絢瀬を連れて、一輝達と合流すると、珠雫とステラが言い合っていた。

 

 

 ーーー第26話へーーー

 




次回、爛の幼馴染み、登場!



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第26話~突然の再会~

はい、爛のルームメイト登場です!これがヒロインになるかも・・・。そうなると、ヒロイン登場遅すぎですね。




 爛が九戦目を終えると、一輝達と合流したのだが、ステラと珠雫がまたもや言い争いをしており、大変なことになっていた。爛は一輝と絢瀬に自室に戻ると言った。絢瀬の指導については明日からと、絢瀬はそれを承諾し、爛は自室へと帰っていった。

 自室へと戻った爛は鍵を開けようとしたとき、鍵が開いていることに気づき、まさかとは思いつつ、部屋の中に入っていくと・・・

 

「お帰り、爛。」

「六花か・・・。黒乃からは明日と言われてなかったか?」

「そうだよ。でも、爛に会いたくなっちゃったから今日来たの。」

「あのなぁ・・・。」

 

 爛の部屋に居たのは『葛城六花(かつらぎりっか)』。爛の幼馴染みであり、葛城家の娘でもある。そして、第二次世界大戦では日本を勝戦国へと導いた、三人の英雄の一人の孫娘。その一人の英雄とは、『葛城雅(かつらぎみやび)』。葛城家と宮坂家は親戚の関係にあり、そのため、六花が良く宮坂家に来ているため、宮坂家の誰もが知っている。しかし、六花は沙耶香が死んでしまったことは知らない。六花が宮坂家に来ていたのは十一の時から。沙耶香が死んでしまったときは十の時だったため、沙耶香のことは知らない。爛が六花に悲しい思いをさせたくなかったためなのだ。

 そして、爛は近くにある椅子に座ると、六花も動きだし、爛の膝の上に座る。

 

「・・・おい。」

「何?」

「何で俺の膝の上に座るんだ?」

「ダメ?」

 

 六花は爛に上目遣い、少し寂しげな表情をする。爛は日下部の時と同じように「うぐっ・・・」としてしまった。爛は別の意味で精神が弱いのである。

 

「分かった。だけど、下りてくれと言ったら下りてくれよ。」

「分かって・・・、ねぇ、爛。」

「何だ?」

「他の女の人の匂いがするんだけど・・・、何かしたの?」

 

 六花が爛に目を合わせて言うのだが、爛は冷や汗をかいた。それは、六花の目のハイライトが消えているのだ。爛はここまで死を覚悟したことはなかった。六花は爛が好きすぎるが故に病んでしまったのだ。・・・正直に言うと、爛はドンマイとしか言えないのである。六花が嘘をついて、演技をしていた時もあったのだが。爛からすれば、六花が変わってほしかったところはこれなのである。爛は必死に平静を保とうとしながら、六花に話す。

 

「い、いや、俺の友人のルームメイトに女性が居るからな。そ、それに、教室にも女性は居るからな!?」

 

 爛は六花を説得しようと、焦りながらそう言うのだが、六花には爛の説得の声が聞こえていなかった。

 

「爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。爛は僕の物。・・・・・・」

(こ、怖い・・・。)

 

 六花は爛が自分の物であると、呟き続け、爛はそんな六花を見て、いつ見ても慣れないと思いながら、怖いとも思うのであった。すると、そんな爛を見たのか六花は・・・

 

「大丈夫だよ。爛は絶対に僕が守るから、ね?だから僕の傍にずっと居てね?」

 

 少しでも期待した自分が馬鹿だったと爛はそう思うしかなかった。昔からまるで変わってない。爛は破軍学園に入学しなければ良かったのだろうかと思ってしまうほどであった。

 

「爛?」

 

 六花は爛の顔を見ると、何か悩んでいるような顔をしていたため、爛のことが気になり、爛に声をかけた。自分自身がその悩みの中に入っているとは知らずに。

 

「いや、何でもない。」

 

 爛がそう言うと、六花は爛に抱きつく。しかも、足も使って爛を動けないようにしているため、爛は動くことはできない。いわゆる、だいしゅきホールドだ。

 

「六花?」

「なんだい?」

「何で、俺にこんなことをするんだ?」

「そっか、爛はこう言うのが嫌なんだね。」

「い、いや、俺は別に───」

「僕がいけないんだよね。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。僕がいけない。・・・・・・」

 

 爛の言葉も聞かずに、何度も何度も同じ言葉を繰り返し言う六花。ある意味怖いし、普通に怖い。因みにこれが二回目である。

 

「六花!そんなことしなくても良いんだって!俺は別に嫌な訳じゃないし。」

 

 爛は恥ずかしながら、六花にそう言った。六花は目をキラキラさせ、抱きついていた力を強くする。もう放さないと言わんばかりに。しかも、六花は「にゃ~」と蕩けた声をあげながら、爛に抱きついている。爛はそんな六花の頭を撫でながら、あることを思い出していた。

 それは、沙耶香との事。沙耶香は六花と同じように爛に抱きついていた。甘えん坊の沙耶香は爛にいつもべったりであり、どんなときでもそうだった。すると、六花が爛にこんなことを言ってきた。

 

「ねぇ、ちょっといいかな?」

「え?」

 

 爛が素っ気ない声をあげると、いきなり視界が傾き、床にぶつかる。すると、六花が爛の上に跨がり、爛の両腕を抑えられ、爛は何も出来ない状態にする。

 

「え?え?ちょっと待って。これどう言うこと?」

 

 爛が戸惑いの声をあげるのだが、六花はそれに答えることもなく、爛の首筋に顔をうめる。すると・・・

 

「~~~~~~~~~~~~~~ッッ!!??」

 

 爛は声にならない悲鳴をあげる。六花が爛の首筋に噛みついたのだ。爛は口をパクパクさせ、酸素を取り込もうとする。

 

「ぷはっ!」

「ハァ・・・ハァ・・・。いきなりなんだよ。いつもより積極的じゃないか。」

 

 爛は息を整えながら、六花にそう尋ねる。すると、六花は少し涙目になり、爛の質問に答える。

 

「だって、どこかに行ってしまったじゃないか。僕は寂しかったんだよ?爛が四年も会ってくれなかったから、僕はすごく寂しかった。」

 

 二人がいつも会っていたのは二年間。爛の今の年齢は十六なため、今から四年前と考えると、爛は十二の時に六花の前から姿を消しているのだ。

 

「悪い。あの時は色々と事情があってな。」

「む~。」

 

 爛は六花にそう言うのだが、六花は納得がいかず、抱きつく力をもっと強くする。

 

「待って。ちょっと痛い。力緩めて。」

「やだ。」

 

 爛はどうしたものかと考え始める。そして、爛はある行動に出る。

 

「仕方ないな。」

「あっ・・・。」

 

 爛は六花を抱き返して、また頭をなで始めた。そして、爛はこれでいいのかと六花に聞く。

 

「なぁ、これで良いか?」

「うん。」

 

 六花は幸せそうに爛に抱きつく。とまぁ、爛はこんな再会でこんなことになるのかと思ってしまうほどであった。しかし、久しぶりに会うことができた幼馴染みに会うことができたのは嬉しいことであった。

 しばらくこの状態でいた二人は、爛が六花から離れようとするのだが、六花はそれを拒否し、爛は困り果ててしまった。

 

「六花。」

「何?」

「離れてくれな───」

「嫌だ。」

「え~・・・。」

「離れたくない。ずっとこうしてたいんだ。」

「・・・・・・・・・」

「だから、絶対僕から離れないでね?」

(これ・・・、どうするべきかなぁ・・・。)

 

 六花は爛を束縛するように体にしがみつき、爛は遠い目をしながらどうするべきなのか考える。

 

「なぁ・・・、黒乃のところに行かなきゃいけないんだけど。」

「む・・・。分かった。理事長のところに行こう。」

 

 六花はしぶしぶ爛から離れ、爛と共に黒乃の居る理事長室に向かう。その時に爛は黒乃に連絡を取り、理事長室に向かった。

 黒乃のところでは選抜戦についての書類、七星剣武祭についての書類など、様々なことについての書類を片付けていた。その隣で手伝っているのは爛の姉である香。

 

「はぁ。」

「何、ため息をついている。あれか?あいつの件か?」

「そうだよ。ホント、六花ちゃんには悩まさせるよ。」

 

 香は絶賛不幸中。この書類の山を片付けた後、爛に甘えようかと思っていたのだが、六花が一日早く、破軍学園に来ていたため、それが出来なくなったのだ。と言うか、それでいいのか?爛からすれば、いい男を見つけろよと言っているところなのだが。すると、理事長室のドアがノックされる。

 

「香。」

「分かってるよ黒乃ちゃん。どうぞ~。」

 

 香が理事長室のドアに向かってそう言うと、中に入ってきたのは爛と六花。

 

「で、黒乃。元々、六花は明日からなんだろ?」

「ええ、その通りですよ。」

「はぁ・・・。六花の性格は考えものだな。」

「それどういう意味なの?」

「そのままの意味だ。」

 

 爛は黒乃に六花が破軍学園に来るのが明日のことを尋ねると、黒乃はその通りだと爛に言う。爛はその事にため息をつき、六花の性格は考えものだと言うのだった。

 

「まぁ、それは良いとしましょう。師匠(せんせい)、貴方の姉を何とかしたらどうですか?」

「ん?」

 

 爛が黒乃にそういわれ、香の居る方を向くと、香は爛から視線を外し、後ろの方を向く。

 

「香姉・・・。」

「あいつを何とかしてください。師匠に甘えたいと言っていたので。」

「な、なんでそんなことを言うの!?私は別にそんなことはないからね!」

 

 香は顔を真っ赤にしながら、黒乃が言ったことに反論する。

 

「香姉!」

「っ!?」

 

 爛は香に近づくと、香に抱きついた。香は何故爛がそんな行動を起こすのか、良く分からなかった。爛からこんなことをするのは無いのだ。香はそれに、驚いたのだ。

 

「ら、爛?」

「ごめん。姉としても甘えたいときはあるんだよな。俺で良かったら、甘えに来て良いよ。」

 

 爛はそう言った。爛は姉だから大丈夫だろうと思っていたのだ。しかし、黒乃が言ったことに姉でも甘えたいときはあると知ったからこそ言ったのだ。

 

「爛・・・。爛ーー!」

「え!?香姉!?う、うわ!?」

 

 香は急に爛の方を向き、爛を押し倒す。それを見た六花は・・・

 

「爛は僕の物なのに・・・。後で僕が抱きつかないと・・・。」

(怖すぎる!!)

 

 六花は香が爛に抱きついていることによく分からない怒りを覚え、それが聞こえていた爛は背筋が凍るほど怖いと感じた。・・・完全に病んでいるとしか言えない・・・。

 

「爛~。やっぱり、爛は私の自慢の弟だよ!」

「か、香姉!?そんなこと言わないでくれよ!?俺が恥ずかしいから!」

 

 爛は顔を赤くしながら、香を放そうとする。しかし、香は負けじと爛に抱きつき、放れることはしなかった。因みに六花は黒乃に一日早く破軍学園に来たことについての説明は終わらせてあった。

 ハチャメチャ過ぎる一日を過ごしている爛。彼はその後どうなったのだろうか・・・。

 

 ーーー第27話へーーー

 

 



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第27話~災難と確かな幸せ~

 黒乃と香の居る理事長室に向かった爛と六花。そこで爛は香の心のことを知り、香のことを心配する。そして、香は爛に甘えた。それを見てしまった六花はヤンデレとなり、ブツブツと言っていた。そして、爛と六花は理事長室から退室する際・・・

 

「爛。」

「ん?どうした?」

 

 爛が六花の顔を見ると、六花の目のハイライト消えており、爛は冷や汗をかきはじめた。嫌な予感がしたのだ。

 

「ねぇ、ちょっと来て。」

「え?え?え?どう言うこと?」

 

 爛が戸惑いの表情と声をあげていると、六花は爛に天使のような笑みを向け、

 

「爛が僕の物だって分かるように印をつけないとね。」

 

 と、言うのであった。それを聞いた爛は確実にマズイと思い、六花から逃げ出し、理事長室を飛び出した。六花は爛を追うように、理事長室を跡にした。

 

「フフッ、師匠(せんせい)も大変だな。」

「そうだね。私は甘えることができて嬉しいよ。」

 

 と、どこ吹く風のように見ていたのであった。一心不乱に逃げている爛は身の危険を感じた。

 

「見つけた~。」

「~~~~~~ッ!?」

 

 正面から六花が現れたのだ。爛は雷の力で急旋回し、六花から背を向けて、階段を飛び降りる。六花もそれに続くように爛を追うのであった。

 

「怖すぎるんだよ!前より大変なことになってるんじゃないのか!?」

 

 爛は叫ぶように言いながら、外を目指した。外ならば隠れる場所はたくさんあるし、時間的に一輝達がトレーニングをしている時間であったからだ。爛はそれに賭け、外に出るとすぐに一輝達を探した。

 

(何処だ!?一輝!)

 

 爛はそう思いながら走り、六花が居ってきてないか、後ろを見ると・・・

 

「もう逃がさない・・・。」

「なッ!?速すぎないか!?」

 

 爛のすぐ後ろまで来ていたのだ。外に出るときまでは結構な差があったはずなのだが、もうここまで詰められていた。すると、一輝達がトレーニングしている場所に着いた。

 

「あ、爛。ってどうしたの!?」

「悪い一輝、俺は───」

「捕まえたよ。爛。」

「ええっ!?」

 

 一輝は爛を見つけ、話しかけようとしたのは良いのだが、爛が全速力で走ってきていることに驚き、後ろに見知らぬ美少女を見つけた。爛はこの事を簡単に話、逃走を続けようとしたのだが、六花は爛を捕まえた。

 

「さぁ、爛。部屋に戻って僕の印をつけようか。」

「い、嫌だーーー!!もう、勘弁してくれ!!俺はやることがあるんだーー!!」

「問答無用。さ、行こうか。」

「い、一輝!助けてくれーー!」

 

 爛は六花に放すように言うのだが、六花はそれを一言でバッサリと言い、爛は一輝に助けを求めるのだが、一輝は六花から発せられている気に動くことができず、助けにいくことが出来ない。と言うか一輝自体、こういうのは触れないでおく人だ。触らぬ神に祟りなし。と言う考え方だ。

 

「うん、頑張って。」

「おいーー!」

 

 爛は一輝が触れないでおくと言うことに気付き、一輝に向かって叫ぶのだが、一輝は苦笑しながら見ることしかできなかった。すると爛が姿形を崩していき、最終的に雷となって消えていった。

 

「雷の力で分身を作って、囮にしたのか。」

 

 六花はそれに気付くと、一輝達の方を向き、一輝に話す。

 

「初めまして、黒鉄一輝さん。僕は葛城六花。よろしくお願いするよ。それじゃあ。」

 

 自己紹介を終えると、破軍学園の校舎に入っていく。一輝達は唖然とするしかなかった。一輝が爛にそう言ったのは突然のことですぐに一輝の頭の中に出てきたのはそれに触れないこと。だから一輝は触れないでおいたのだ。

 

「爛のルームメイトって居たかしら。」

「多分、居ない・・・。けど、『武曲学園(ぶきょくがくえん)』のAランク騎士が破軍学園に転入・・・、って聞いたことがある。」

「もしかして、『雷撃の女王(ミョルニル)』ですか?」

「『雷撃の女王』?」

 

 武曲学園とは、関西地方にある伐刀者(ブレイザー)の育成高校だ。そして、武曲学園に居る三年生の一人が七星剣武祭で数々の死闘を乗り越え、七星剣王(しちせいけんおう)となった人物がいたのだ。

 そして、『雷撃の女王』についてだが、六花の二つ名である。彼女は武曲学園唯一のAランク騎士。しかし、六花が武曲に来るまでは武曲学園に居る姿は見たことがないとあるのだが、Aランク騎士がいた。それが『風の剣帝(かぜのけんてい)』・黒鉄王馬(くろがねおうま)。一輝の実の兄だ。しかし、ここで疑問に思うはずだ。何故六花は七星剣武祭に出ないのかと。その理由は簡単だ。六花は爛がどこかの学園に入学していると言う情報がなかったのだ。それに宮坂家からの手紙では破軍に入学している等書いていなかった。そして、爛が破軍に入学したのを知ると、破軍に移るとしたのだ。

 一輝達はその噂を耳にしていたため、その可能性は考えられた。そして、六花のことを知らないステラは一輝達に聞いてくる。

 

「『雷撃の女王』は武曲学園のAランク騎士。そして、日本で二人しか居ないAランク騎士の内の一人です。」

「なるほどね。そのリッカって多分Aランクだと思うわ。魔力量が私と同じくらいだもの。」

「もしかしたら、さっきの人は『雷撃の女王』の可能性があると。」

「でしょうね。それは明日にでも聞きましょうか。」

 

 一輝達はその事を明日、爛に聞こうと思い、それ以上は蓋を開けず、閉めておくのだった。

 一方、爛の方では爛は校舎内で隠れたは良いものの、結果的に六花に見つかり、六花から逃げている最中だった。

 

「俺、運悪いなぁ!!あんなに簡単に見つかるか!?」

 

 爛はそう叫びながら、走っており、息が荒れているなか、六花から逃げ回っている状態だった。

 

「居た~!」

「ま、マズイ!」

 

 爛は咄嗟に近くにある窓を開け放つと、そこから飛び出した。そして、雷の力を使い、きれいに着地する。

 

「ふぅ。あそこから飛んだら流石に───」

「よいしょっと。」

「え?」

 

 爛があんな高いところから飛んできたら、例え六花であろうと流石に無理だろうと思っている際に、六花は平然と爛の隣に降りてきたのだ。

 

「嘘だろ~!」

「む~、早く捕まえられろ!」

 

 爛はすぐに走りだし、六花も爛の跡を追いながら叫ぶ。しかし、流石に爛は体力の限界だったのか。その場に倒れ込んでしまう。

 

「っ・・・。」

「爛!?」

 

 流石におかしいと感じたのか、六花は爛にかけより、心配して爛の様子を見る。すると、爛の魔力が異常なまでに減っていた。

 

「ど、どうしたんだい!?魔力が大量に減ってるじゃないか!?」

「き、気にしなくて大丈夫だ。流石に《刹那ノ極(せつなのきわみ)》を長時間使うのは無理だっただけだからな。」

 

 そう、爛は六花から逃げ切るために《刹那ノ極》を使っていたのだ。しかし、六花があまりにも粘って追いかけていたため、爛は魔力切れを起こし、倒れたのだ。その後、六花は爛を部屋まで運ぶことにした。因みに、あの鬼ごっこはたとえ伐刀者であろうとしてはダメだ。良いな?

 そして、その後は何事もなく時は過ぎていき、夜になった。爛は夕食をとり終え、風呂に入っていた。魔力切れまで起こした鬼ごっこの疲れを取り除くには丁度良かったのだ。そんなことを思っている際・・・

 

「僕も入るね~。」

 

 爛の耳にそんな声が聞こえたのだ。それを聞いた爛は何度目かも分からない冷や汗をまたかきはじめた。そして、風呂のドアが開けられ、爛がそちらの方に目を向けるとそこには六花が居たのだ。一応体にバスタオルは巻いているのだが、彼女のきれいなくびれ。そしてうなじ。何と言っていいのか分からない豊満な胸。誰もを虜にする体の持ち主であると、異性に興味のない爛でさえそう断言できた。

 そのあと、六花は体を洗い始め、爛は六花を見ないよう反対側の方を向いて待っていた。そして、六花は爛の入っている浴槽に体を浸かる。しかし、六花が浸かってきた場所は爛の前。浴槽自体一人用のため、二人で入ることはないのだ。そして、爛からは六花のきれいなうなじははっきりとわかるほどだった。六花は爛の方に体を向けると、またもや爛に抱きつく。

 

「・・・逃げないんだ。」

「逃げないよ。」

「逃げられないから?」

「違うな。俺だって思い返してみれば、こうしていられたのもお前のことが好きだからかな。」

「ストレートだね。・・・嬉しいけど。」

「そっか。」

 

 爛はそう思っていた。そうだったとしか言えない。病み気味な彼女にたいして普通に居れること自体凄いことなのかもしれない。しかし、爛からすればそれは、彼女のことが好きだったから普通に居れたのかもしれないと思ったのだ。すると、六花は顔を赤くさせながら爛にこんなことを言ってくる。

 

「ねぇ、キ、キスしても良いかな?」

「フッ、好きな相手にこんなこと言われたら、応えない男が居るか。」

 

 爛は六花に顔を近づける。六花も同じように顔を近づけ、もう少しでキスができると言う位置で爛は顔を止めた。すると、六花も顔を止めた。そうして少しの間見つめあったまま、顔を見合っていた。そして・・・

 

「悪い、ちょっと強引になる。」

「え?」

 

 爛は耐えられなくなり、強引に六花とのキスに移行する。六花は爛が自分を求めてきてくれたことに驚きと喜びが混ざりあっていた。それも、二人してファーストキス。

 

「ん・・・ちゅ・・・れろ・・・はぁ・・・んんっ・・・。」

「ちゅ・・・ら、ん・・・んんっ・・・はむ・・・。」

 

 二人して長いキスを楽しんでいるのであった。そして、初めてのキスにしては長いキスをした二人。

 

「ぷはっ!」

「はぁ、はぁ、はぁ。」

 

 爛は六花の方を見ると、六花は蕩けた顔をしながら爛に抱きついていた。しかし、長い時間湯に浸かっていた爛はのぼせてきそうなのだ。

 

「悪い、六花。のぼせてきそうだから上がっていいか?」

「僕も上がるよ。」

 

 こうして、二人して風呂を上がり、ベットに横になる。そして、またもや六花が行動に出るのだ。

 

「ねぇ、一緒に寝てもいい?」 

「構わないよ。二人で寝れば暖かいもんな。」

 

 六花は爛のベットの中に入り、爛と一緒に横になるのだった。すると、今度は爛が行動に出る。六花を抱き締めたのだ。

 

「何?爛。」

「あのさ、俺達って付き合ってるようで付き合ってないよな。」

「確かにそうだね。」

「それでさ、良かったら・・・付き合ってくれないか?」

「人のファーストキスを奪っておいて何言ってるんだい?でも、僕も爛と付き合いたいよ。」

「じゃ、決まりだな。」

「そうだね。」

 

 これで、誰にも気付かれずに恋人同士になった二人は確かな幸せを感じながら、眠りについていった。それも幸せな夢を見たと言う。

 

 

 ーーー第28話へーーー

 




晴れて恋人同士になった二人───、急展開のような気がしますが二人して両想いですので、それなら大丈夫でしょう。末永くお幸せに。



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第28話~特訓~

近況報告・・・
簡単に言ってしまえば、シャドウバースやってました。スミマセン・・・。楽しすぎて書いてませんでした。他にも色々とあったんですけどね。取り合えず、シャドウバースを楽しんでましたと言うことだけです。

今回のあらすじ
ただ単に入れてみたかっただけ、と言うことなので、書いている話と書いていない話がありますが気にしないでください。絢瀬を弟子に特訓を開始した爛達。剣術家である絢瀬は爛や一輝が感心するほどの剣術を持っていた。そして、爛が見つけた絢瀬が悩んでいることの答えとは・・・。




 絢瀬が爛の弟子となり、とある日の放課後。爛達は校舎の裏手にある森の広場で剣の鍛錬を行っている。ここは高く聳える木々の木陰となっており、またコンクリートも少ないのでとても涼しい。蒸し暑い日本の夏入りに、体を動かすにはちょうどいい場所だ。爛もここが気に入っている。何か考え事があればここに来ている。話を戻すが爛の鍛錬は魔力制御も兼ねたランニング。そして、刻雨(こくさめ)を用いた素振りへ。そして、自身の型を振るい続け、雷の分身を作り、刀の打ち合い。そんな爛の隣では一輝とステラが同じように陰鉄(いんてつ)妃竜の罪剣(レーヴァテイン)で剣の鍛錬をし、少し離れたベンチでは珠雫とアリスが素のままの魔力を特殊な粘土に通わせ、手を使わずに整形する魔力制御の鍛錬を行っている。このとき、五人の間には会話などない。普段一輝にじゃれつく珠雫とステラも、この時間は真剣に自らの研鑽に励んでいる。これがこの五人が一緒に行う鍛錬のいつもの光景だ。だが、三日前からその光景に、もう二人新しい人物が加わった。もちろん、絢瀬と六花だ。

 

「フッ、ハァ!」

 

 気合いの入った声と共に、絢瀬の固有霊装(デバイス)、燃えるように鮮やかな緋色の刀身を持つ日本刀・緋爪(ひづめ)が美しい弧を描く。剣を振るうときの絢瀬の表情は、以前医務室で爛を前にしたときのおどおどした頼りないものとはまるで別人。口元を締め、まなじりを上げ、非常に凛々しいものとなっていた。流石、剣士と言うだけあって、男性への苦手意識を剣を握ったときまで引きずることはないようだ。

 

「ッ!てい!」

 

 絢瀬と同じように気合いの入った声と共に、二つの武器を使い分ける六花。その霊装は刀と拳銃の二つ、撃剣・龍(げきけん・りゅう)。刀と拳銃の両方に龍のような装飾が施されている。六花は爛とじゃれつく時の幸せそうな表情とは違い、絢瀬と同じように凛々しい表情だ。それに、剣や銃に関しても、爛や一輝と同じレベルの域まで達している。流石、第二次世界大戦にて日本を勝利に導いた三人の英雄の一人の孫娘である。

 

「フッ!」

「やぁ!」

 

 今、爛と絢瀬は互角稽古をしている。互角稽古とはレベルの高い人間はレベルの低い人間のレベルに合わせ、同等の戦い方をするという方法だ。それを二人に合わせるとしたなら、レベルの高い爛はレベルの低い絢瀬に合わせるために、少しいつもとの動きにハンデをつけて打ち合いをしていると言った方が良いだろう。しかし、流石はあの『最後の侍(ラストサムライ)』と呼ばれた綾辻海斗の娘だ。実質、爛達が教えている生徒達よりレベルが高い。そして、剣を振るうことにして大切なもの。それは

 

 ───決して型を忘れず───

 ───しかし型にはまらず───

 

 それをしっかりと出来ていた。そして、体を運ぶ足捌きも、弧を描く剣筋も、いずれもが淀みなく流れ、途切れるということを知らない。何千回、何万回と型をなぞったのだろう。かといって、型だけの攻撃をしてくるわけでもない。この互角稽古の中で、爛は型の裏をつく意地の悪い攻撃を繰り出しているのだが、そのいずれもが適切な防御を取り、すぐさま反撃に移っている。そんな素直な努力家である絢瀬の一面が観ること(・・・・)ができる。そう、『観ること』だ。そうしたことで、爛は絢瀬が悩んでいることを看破したのだ。

 

「絢瀬、止めてくれ。」

「ん?」

 

 爛の逆袈裟斬りを滑らせ、受け流すことですれ違い様に爛の首元を斬ろうとしていた絢瀬の緋爪がピタリと止まった。

 

「どうしたの宮坂君。ボクはまだ、その、疲れてないよ?」

 

 突然の中断に絢瀬が戸惑いの視線を向けてくる。少し視線が落ち着かないが初めて会った初日の時のように、首ごとそっぽ向くことはなくなった。流石に三日も一緒に過ごしていれば、慣れてくるものもあるのだろう。

 

「見た感じ、と言うか。調べても分かることだが、確認で聞かせてもらうけど、綾辻一刀流は『後の先(カウンター)』が基本と見て間違いないよな?」

「え?あ、う、うん。そうだけど、宮坂君は打ち合っただけで分かったりするの?」

「まあな。俺は色々と調べてたりしてたからな。時々、自分自身の型とは違ったものの型を振るってみたり、な。それに、絢瀬が悩んでることについて分かったことがある。」

 

 爛が絢瀬に少し笑みを浮かべながら話すと、絢瀬は目を見開く。

 

「ほ、本当!?」

「ああ、もちろんだ。絢瀬が悩んでることは・・・、海斗さんに追い付けないことだろう?」

 

 爛の言ったことに、絢瀬は興奮した面持ちでコクコクと頷く。とにかく、一つ目の門は通ることができた。問題は次のことについて、彼女がどんな反応をするかだ。まぁ、これについての説明は爛はもう思い付いている。すると、絢瀬が悩んでいることについて話してきた。

 

「そうなんだ。どうやっても父さんのようなキレのある動きができるようにならない。父さんの動きは完璧に覚えているはずなのに。」

 

 絢瀬は顔を俯かせる。それだけ悩んでいるのだろう。これから爛が言うことは、絢瀬が確実に爛の言っていることについて否定する。爛はあることを言った。

 

「絢瀬、それについてなんだが・・・。少し、お前にとって悪いことを言うかもしれないが・・・いいか?」

 

 爛は一つ断りをいれた。彼女の返答次第では教えることの幅が変わってくる。

 

「うん。それでもいいんだ。教えてくれないかな。」

「分かった。絢瀬がそう言うなら、教えよう。」

 

 爛は一つ息を吸った。そして、少し間を置いて、絢瀬に真剣な表情で話す。

 

「海斗さんの動きを真似しようとする。それが、何より悩んでいることになる。」

「・・・それは、どう言うことだい?」

 

 すると、絢瀬は俯いた顔を爛に向けた。爛から見えたのは、絢瀬の瞳に映る感情。───怒りだ。それもそうだろう。自分の偉大な父を間違っているような言い方をしているのだ。刺し違えても怒るだろう。それは、彼女がどれだけ海斗のことが好きなのか。よくわかるところだった。

 

(あの人を尊敬していることはよくわかるさ。俺や一輝だって、あの人に憧れていた。)

 

 爛はそんなことを思いながら、絢瀬に自分の言ったことを納得してもらえるように話す。

 

「もちろん、あの人が間違ってる訳じゃない。でも、考えてほしいところは別にあるんだ。」

「それは?」

 

 絢瀬の瞳からは怒りの感情が少し消えていた。爛はそのまま説明を続ける。

 

「知っての通り、性別の差だ。剣術であれば、剣を鍛えることはもちろんだ。しかし、あの人が編み出した剣術は、完璧すぎる(・・・・・)。つまり、元の剣術の完成度が高ければ高いほど、性別の差が大きくなってくる。俺が話してるなかで、絢瀬は性別に差はないと思ってないか?」

「うん。ボクはそう思ってた。」

「もう少し詳しく話そうか。性別が違うことは骨格が違うことでもある。そうなると、筋肉のつき方も大幅に変わってくる。男性のポテンシャルをフルに引き出す動きであるのなら、女性のポテンシャルを同じように引き出すのは確実に不可能だ。さっきも言った通り、元々の完成度が高ければ高いほど、性別による動きの悩みは結果的に出てくるものなんだ。剣の適合は、男性と女性。この二つの間で行われている。だから、適合の差は如実に表れるんだ。」

「あ・・・」

 

 絢瀬の瞳からは完全に怒りの感情は消え、理解の光となっていく。そう、爛は彼女の師を馬鹿にしているわけではない。爛が言いたいのは優れているからこそ、そこにも問題があるということ。爛の剣術の一つである比翼(ひよく)もそうだ。これは、脳の電気信号を変えてしまっているということになる。比翼を使う爛とエーデルワイスは脳の電気信号に戦闘用の電気信号が存在する。それがあるからこそ、二人はこの剣技を使うことができるのだ。それに、この剣技を簡単に使うことができないのは、脳に戦闘用の電気信号を作らなければならないからだ。爛はそれができたからこそ、比翼が使えるのだ。まぁ、剣術に対しては他にも理由がある。それは、元々剣術は男性のために作られたものだからだ。

 

「一応、今の絢瀬の動きをどう矯正すればいいかは俺の方で考えてある。だけど、絢瀬が海斗さんと同じ剣を使うのであれば、俺は無理にすることはない。逆にしないべきだ。メンタルも大切なものだ。それに絢瀬がこの剣を使うことにこだわりがあれば、こだわった方がいいさ。何しろ、この矯正は一度してしまえば(・・・・・・・・)二度と戻らない(・・・・・・・)からな。だから、判断は絢瀬に任せることにするよ。」

 

 現状、絢瀬は男性用に調整された剣術を無理に使っている。そうなると、結果的に力が摩耗されていく。それは、無理にその剣術を使うことによって、体の各部に無理が生じるからだ。爛がこれを矯正することで、これ等の悩みは解決することになる。しかし、そこにも問題がある。爛の言った通り、矯正を一度してしまえば二度と戻らないことだ。そして、一度でその感覚を覚えてしまえば、絢瀬のように鍛錬を積んでいる剣士の場合、二度と元の窮屈な剣技に戻ることはできない。必ず、そのときの感覚を追いかける。だからこそ、爛は本人の意思に従うことにしたのだ。自分の噂を聞き、ここまで来た本人に。

 

「・・・・・・」

「俺は絢瀬の意思に従う。道は、二つに一つだ。」

 

 絢瀬はこの少ない時間、考え込むように俯く。爛はもう一つだけ釘をさしておいた。そして、絢瀬の中では強い葛藤がありありと浮かんでいた。絢瀬は迷いがなくなったような表情で爛の方を向き、

 

「教えて欲しいっ!ボクは、どうしても強くならなきゃいけないんだ!」

 

 真剣な表情で爛の助力を願った。こうなったら、爛は惜しむことなどしない。自分の持てるすべてで絢瀬の体を矯正し、強くさせることだ。絢瀬は自分から、強くなりたいと言ってきたのだ。期待を裏切るわけにもいかない。

 

「分かった。絢瀬が強くなりたいと言うのなら、俺も出し惜しみはしない。」

 

 爛は絢瀬に優しい笑みを見せ、絢瀬の綺麗な腕に触れた。

 

「ふわぁぁあ!?み、宮坂君!?」

 

 いきなり腕に触れられたことに驚いたのだろう。顔を真っ赤にして小さな悲鳴をあげている。しかし、いたって爛は真剣だ。今から爛がすることは、絢瀬の構えに手を加えるのだ。下手な邪念を持ってやってしまえば、矯正はおかしな方向にいってしまう。教える側にミスは許されない。尚更、矯正となれば。だから今の爛に絢瀬の感情に同情している暇はない。

 

「今から、絢瀬の動きを正しい形にする。恥ずかしいだろうけど、我慢してくれ。」

 

 ーーー第29話へーーー

 

 




キリが良かったのでこれにて終わります。



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第29話~絢瀬の思い~

今回のあらすじですよ~。
絢瀬の動きに矯正をかける爛。絢瀬は爛達に恩を返したいために、彼と六花を食事に誘う。しかし、そこには絢瀬にとって憎むべき相手が絢瀬の前に現れたであった。


「う、うん。ガマン・・・する。」

 

 爛が絢瀬の動きに矯正をかけると言い、絢瀬は爛の表情を見た。それは、汗すらかかなかった爛が額に汗を流し、真剣な表情で矯正をかけている。そんなので、恥ずかしいなんて言えるわけがない。自分のために真剣にやってくれている人に我が儘なんて言えない。だから、絢瀬は爛に体を委ねた。

 

「動かすの少しだけだ。その変化を感じ取って位置を覚えられるように集中すればいい。」

「わかった・・・・・・んっ。」

 

 爛はガラス細工に触れるかのような繊細な手つきで、絢瀬の構えを調整する。爛は全神経を絢瀬に触れる手に集中していた。ミスをすれば、絢瀬の構えは絶対に元に戻らないからだ。爛も人の体に矯正をかけることなど、ほぼしたことがなかった。だからこそ、繊細な手つきで調整している。肩をはずかに下げ、脇を脇を絞めさせる。次にスカートから伸びる健康的な太もも、その内股に触れ、スタンスを僅かに開かせる。

 

「ふ、あ、ひゃ、ぅう・・・んんっ・・・・・・。」

「女性は男性と比べて格段に優れている。それは関節の柔軟さだ。とくに、股関節に大きな違いがある。女性は妊娠をするために骨盤が広がってる。その分、股関節が外側に張り出してるから、男性よりも稼働域が広く横の動きに強いわけだ。これは女性にしかない武器。これを作るためには、股関節で全身の動きを作ること。これをすれば、絢瀬の動きがワンテンポ速くなる。いつもとは違う速さのはずだ。」

 

 レクチャーをしながら、爛は絢瀬に自分の筋肉の流れを意識されるように、筋に指を這わせ太ももから膝裏までを撫でていく。異性に太ももを撫でられる恥ずかしさに絢瀬の膝は笑っていく。それを矯正しながら見ている爛は少し悪いことをしている感覚がするのを押し殺し、集中を切らさずに微細な調整を続けていった。

 

「うん。構えはこんな感じでいいな。そのままの構えを覚えれば良いよ。」

 

 ミスの許されない作業を終わらせた爛は汗を拭い、絢瀬の表情を窺う。・・・・・・絢瀬の表情は茹でたタコのように真っ赤だった。

 

「自分でやっていながら悪いけど・・・、大丈夫か?」

「・・・ひゃいじょうぶ。」

 

 しかも半泣きだった。爛は少し焦った。嫌だったのだろうかと考えてしまったからだ。

 

「いや、大丈夫ならいいけど、・・・駄目だったか?」

「そ、そんなことないよ!ボクから頼んだことだから、宮坂君は悪くないよ!」

 

 涙を拭いながら笑顔を作った。すると、絢瀬はそのまま続けていった。

 

「・・・・・・それに、宮坂君の手は、大きくて、硬くて、やさしくて、・・・お父さんみたいでイヤじゃなかったから。」

「・・・・・・俺の手が、そんな風に思われるなんてな。お世辞にも俺はそう思わなかったよ。」

 

 爛は自分の右手を見ながらそう言った。なんせ、爛は人ではない。そんな人の手を誉めてくれるのは、家族を除いて、これで二人目だった。この手が真っ黒に染まることを知っているのかと思うが、絢瀬は見ていただろう。自分が刀華と愛華の二人と戦ったときに見せた、人ならざる者だと知っているはずだ。それに、爛は幼い頃から剣しか振るっていなかった。手がどんなことになっても、剣を振るっていたため、手の皮は厚くなっている。だから、お世辞にも綺麗な手だとは思わなかった。しかし、絢瀬は爛の自虐に首を横に振った。

 

「そんなことないよ。・・・・・・ボクは、そういう手、すごくかっこいいと思う。真っ直ぐに何かに打ち込む男の子は大好きだ。」

 

 絢瀬から綺麗な不意打ちをもらった爛は少し驚くが、すぐに笑顔を絢瀬に見せる。

 

「そっか。ありがとな。絢瀬。俺の手を誉めてくれたのは、数少ないからな。ありがとう。嬉しいよ。」

 

 爛はお礼を言いながら、絢瀬の頭を一撫でした。すると、絢瀬は爛が太ももに触れるときよりも真っ赤な顔をした。

 

「あ・・・うぅ・・・。」

 

 絢瀬は恥ずかしくなったのか、顔を俯かせてしまった。

 

「わ、悪い。つい、手がな。」

 

 爛は苦笑しながら、絢瀬に話す。

 

「う、うん。大丈夫だよ。」

「とりあえず、しっかり構えてみて。」

 

 絢瀬は爛に言われた通りに、しっかりと構える。絢瀬は構えとき、違和感を感じた。

 

「ん・・・・・・、でも宮坂君。・・・これ少し窮屈な気がする。」

「それは仕方ないな。身に付いた構えの癖は矯正しただけじゃ直らない。繰り返して慣れることしかないからな。まずは、実感してもらおうか。」

 

 爛は刻雨(こくさめ)を握り、絢瀬の前に立つ。

 

「今から、さっきと同じように打ち下ろす。肘の角度、膝の角度、股関節で動きを作ること。この三つに意識してさっきと同じカウンターを打ち込んでくれ。」

「わ、わかった・・・。」

 

 絢瀬は緋爪(ひづめ)を構えている絢瀬の表情が引き締まった。爛はそれを瞬時に確認すると、先程と同じ速度、同じ角度で刻雨を打ち下ろす。その瞬間、一瞬にして爛の首元に緋爪の刃が襲いかかった。

 

「───ッッ!?」

 

 絢瀬は先程と同じように爛にカウンターを放った。しかし、動作としては全て同じだったが、一つだけ違った部分があった。それは、スピードだ。その動作は完全に速くなっていた。その事実に誰よりも絢瀬自身が驚いていた。まだこの事に信じられなかったのか、自分が握っている手と、爛の顔を交互に見る。

 

(どうやら、正解だったみたいだな。良かった良かった。)

 

 爛は自分の矯正が成功したことに内心で胸を撫で下ろした。絢瀬は今まで、上半身───つまり、腕の力で打ち下ろしを受け止めていた。だが、それは間違いだ。男ほどの筋肉量があるのなら、それでも次の動作をスムーズに進めることができる。しかし、女性の筋肉量ではどうしても腕の力だけでは足りず、全身で踏ん張る形になる。結果として、体はこわばり、次の反撃(カウンター)までの動作が遅れてしまう。だから爛は構えを矯正することで、衝撃を下半身で受けるようにした。女性特有の体は衝撃を吸収するのに最適な武器だ。大抵の衝撃ならば、足の力で殺すことができる。当然、変に力む心配はない分、体がこわばらず、次の動作に繋げる動きもスムーズになる。それが、このキレを生み出したのだ。

 

「す、すごい・・・、すごい!すごい!すごいよ宮坂君!」

 

 少し経つと自分の変化を受け入れられたのか、絢瀬が輝くような笑顔を浮かべて爛の手をギュッと握り、ぶんぶん振り回した。

 

「ボクが二年間ずっと悩み続けたことをすんなりと解決するなんて!もう宮坂君はあれだね!剣術博士だね!」

「俺も緊張したけど、間違ってなくて良かったよ。」

(その称号。地味に嬉しくないけど・・・。ま、喜んでくれて何よりだよ。)

 

 昼休みに来る珠雫をはじめとする生徒達は絢瀬のように具体的な指導ができる段階ではない。だから爛や一輝としても、こんな細かく誰かに剣を教えたのは初めてのことだ。でも、ぴょんぴょんと子供のように跳ね回って「やったやった!」と体全体で喜ぶ絢瀬の様子を見ていると、緊張してやった矯正はやって良かったと思う。

 

「む~。」

 

 正直、試合より緊張していた。鍛錬の十倍は疲れたけど、やりがいも実感できた。

 

「ん~!」

 

 案外、こういう職業についてみるのも良いかもしれない。他人に剣を教えることはやって良かったと実感することが増えるか───

 

「も~!爛ってば!」

「何だよ六花。」

 

 爛の後ろにいる六花に声をかける。さっきまで距離があったはずなのだが。爛はこれを見て、一輝の方を向く。

 

「・・・・・・あの、ステラ。」

「何かしら。剣術博士のライバルさん。」

「さっきからものすごい風圧が当たるんですけど。」

(あ、こりゃ大変だな。)

 

 一輝は突然横合いからのものすごい風圧の発生源に向き直って話していた。多分、爛のを見て自分も一輝にしてもらいたいのだろう。

 

「爛~!」

「何だよ。」

「僕の太刀筋も見てよ。」

「どうせ、絢瀬に嫉妬でもしたんじゃないのか?」

「・・・それは違うよ。」

「図星だな。六花なら別に頼んでくれたらやっても良いんだぞ?」

 

 すると、突然隣からステラの怒声が聞こえた。爛がそちらの方を向くと、一輝がステラの剣を見ていたのだろう。ステラの剣は荒々しかったものの全てが最適化(アジャスト)されているから、一輝じゃ、何も言えなかったのだろう。ステラが悩んでいることは分かっている。一輝とステラも恋人として過ごしはじめて一ヶ月。そろそろキスをしても良いだろう。すると、絢瀬が爛に話しかけてきた。

 

「ねぇ、宮坂君。良かったら、数日後くらいに食事に行かない?」

「絢瀬から誘うことはなかったな。別に構わないけど、まぁ、一輝達も連れていって良いか?」

「うん、分かったよ。」

(えらく丸くなったものだよ。親しみやすくなったか?)

 

 爛は二人の仲裁と食事の誘いをした。

 数日後、絢瀬がよく行っているファミリーレストランに連れてってくれた。因みに、お代は絢瀬に任しているのだが、ステラがどれ程食べるのか、爛は分かっていたため、爛もお代を出すことにした。

 

「よく・・・食べるんだね。」

「ホント、どれくらい食べるんだろうね。ステラは。」

 

 絢瀬は驚きつつ、ステラの食いっぷりを見ていた。爛と一輝は当然知っているため、気にしてないが、お代はどんどん増えていく一方だ。因みに、他の四人は食事を終えているため、残りはステラだ。五人が頼んだのは、爛がオムライス。六花は天丼。一輝は大盛りきつねうどん。絢瀬は鮭定食。ステラはミックスグリル四人分とステーキ三枚だ。

 

「・・・・・・仕方ないでしょ。これくらい食べないと体が動かないわよ。」

「それでも、そのくびれはどうなんだ・・・。色々と納得がいかないよ。」

「重く考えるな絢瀬。仕方ないからな。」

 

 カロリーたっぷりの夕食を食べているステラを見た絢瀬はステラの体型に納得がいかなかったが、爛は考える必要はない。その後、ステラは夕食を食べ終え、五人で話していた。しかし、その時、爛は絢瀬にある変化を感じられた。それは、絢瀬の感情。話しているとき、特に代表戦での話だ。ほぼ殺意を出していた絢瀬。強い憎悪を感じていた。一体、何が彼女をそこまで出しているのか。その答えはすぐそばにあったのだ。

 

「ハハッ、やっぱりな。どっかで見たツラだと思えば、絢瀬じゃねェか。」

 

 その声を聞いた瞬間、絢瀬の顔が暗く沈んだ。そして、今すぐ爆発しそうな感情を歯を食いしばることで押し殺していた。

 

 

 ーーー第30話へーーー

 

 



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第30話~綾辻絢瀬と倉敷蔵人~

今回の~あらすじィ!
爛達の前に絢瀬が憎むべき相手が現れる。そして、爛の代表戦の第11試合目は爛がよく知っている相手だった。




 絢瀬に声をかけたのは、自身の胸部に髑髏の刺青がある身長の高い男だった。その男を絢瀬はよく知っている。そして、それはもちろん、爛と一輝も知っていた。その男の名は『倉敷蔵人(くらしきくらうど)』。詳細は後程話そう。倉敷が話しているなか、周りに倉敷と同じような服を着た男達が爛達がいるテーブルに集まる。そして、爛は倉敷達の方は見ずに、絢瀬の方を見ていた。無論、絢瀬は何かを堪えていた。それを見た爛の行動は決まっていた。

 

「悪いな。連れが嫌がっている。離れてもらおうか。」

「んだテメェ!?」

「ナマいってんだったらコロスぞぉ!」

 

 取り巻きが爛にそう言うが、爛は相手にはしない。するつもりなどない。攻撃をしてくるならば別だが。爛のこの行動は、一人の男の相手だ。爛は倉敷の顔を見ていた。すると、倉敷は爛に不思議なことを尋ねてきた。

 

「テメェ、剣客だな?」

「・・・・・・」

「シカトか。まぁ、そんなコタぁ別にどうでもいい。」

 

 倉敷は爛達の近くにいた家族客のテーブルからビール瓶とグラスを取り上げ、グラスにビールを注ぎ込み、爛の目の前に滑らせた。

 

「悪ぃな。食事の邪魔してよ。懐かしい顔だったもんなんでつい気安く話しかけちまった。コイツは詫びの印だ。受け取ってくれ。」

「・・・俺は酒を飲まない。が、まぁ詫びの印はもらっておくよ。」

 

 爛は倉敷が滑らせたグラスを取ろうとすると、倉敷はビール瓶で爛を強打しようとした。

 

「爛!!」

「宮坂君!」

 

 瞬間、爛の姿が消えた。倉敷が振るったビール瓶は空を切り、爛が座っていた椅子で割れていった。

 

「ッ。」

「その振り、遅すぎるぞ?」

 

 すると、倉敷の後ろから爛の声が聞こえた。爛は少し笑みを見せながら、倉敷達を見ていた。

 

「いつの間に!?」

「爛・・・。本気でやるつもりなのかい?」

「いや、そんなことはしないよ。殺し合いはしない方なんでね。」

 

 一輝は爛が固有霊装(デバイス)を顕現するとなると、止めることはほぼ不可能だと知っているからこそ、爛に尋ねた。しかし、爛は霊装を顕現するつもりなどないらしい。しかし、その事について、黙っていることができない少女がいた。

 

「君達・・・。消し炭になりたい覚悟はあるかな?」

 

 爛を攻撃しようとしていたことから、六花の怒りは最大限にまで達していた。六花は雷の力を見せながら、大量の殺気を向ける。

 

「止めろ、六花。」

「爛・・・。」

「でもは無しだぞ。これは、俺のやるところだ。お前は下がってろ。」

 

 爛は六花達を巻き込まないようにし、爛は倉敷達と対峙する。

 

「オレァよ、テメェみたいな剣客をぶっ壊すのが大好きなんだよ。さあやろうぜ。持ってんだろ霊装を!」

 

 倉敷が取り出したのはまるで白骨のように輝きのない白のノコギリ刃を持つ野太刀。彼は破軍学園と同じ東京にある騎士学校『貪狼(どんろう)学園』の制服だ。彼の霊装を見た爛は好戦的な笑みを見せた。するとーーー、

 

「悪いな。あいにく、お前より死にたがりのやつが居るみたいでな。そっちを始末してからで良いか?」

 

 爛は六花の殺気とはまるで話にならない殺気を倉敷達にぶつけた。絢瀬はもちろん、一輝達でさえ一歩身を引いてしまう。それだけの殺気を、彼は発しているのだ。つまるところ、彼らでさえ一歩身を引いてしまうほどの殺気を、爛にとって話にならない取り巻きは、

 

「ひ、ヒイイィィィィィ!!」

「な、な、何て、殺気なんだよ・・・。」

「こ、殺されちまう・・・。」

 

 腰を抜かすのが結果だ。しかし、倉敷は腰を抜かすこともなく、爛の殺気を感じ取ったことでもっと戦いたいと思ってしまった。

 

「とまぁ、状況が状況だ。俺は、お前のところに行こう。場所はーーー」

 

 爛が口にした言葉は、絢瀬にとって悪夢のような光景を思い出させるところだった。

 

「『旧・綾辻道場』だ。お前が道場破りをしたところなんだろう?ならば、俺はそれを取り戻そう。絢瀬に思い出の場所を返すために。」

「ッ!!??」

「爛ッ!?」

 

 驚きでしかなかった。爛は知らないはずだ。綾辻道場は倉敷に道場破りでなくなっていることは知らないはずなのだ。絢瀬にとって悪夢のような出来事、光景であるのに、道場だけは自分達の誇りだと、今でも思っていたのだ。すると、倉敷は自身の霊装を解いた。

 

「ハッ、だったら、そこで待っててやるよ。テメェら、行くぞ。」

「あ、クラウド!」

 

 倉敷は踵を返しながら、店内から出ていった。爛はそれを見ていると、後ろからとある声が聞こえた。

 

「流石だね☆やっぱり、格が違うわ。」

「流石、と言うべきでしょう。我らが姫の二人を破った人なのですから。」

 

 一輝達が声が聞こえた方向を向くと、そこには爛の一回戦目の相手をしていたカナタと身長の低い、まるで保育園児のような低さの男の人が話しかけてきた。すると、爛はその二人を知っているため、後ろは向かずに話した。

 

「カナタと『泡沫(うたかた)』か。」

 

 爛はその名を言うと、カナタと泡沫の方を向く。紹介をしておこう。最初に話しかけてきたのは泡沫。御祓泡沫(みそぎうたかた)だ。刀華と愛華の幼馴染みであり、カナタとも仲のいい関係だ。それに、爛のことも知っている。

 

「イッキ、こいつら誰?」

「爛の一回戦目の相手だったカナタさんは知ってるよね。その隣にいるのは御祓泡沫さん。生徒会副会長だ。」

 

 ステラはまだ生徒会役員で会っていない泡沫は分かっておらず、一輝から説明を受けていた。爛は絢瀬のところに行き、話していた。

 

「絢瀬、大丈夫か?俺はお前のことを言ってることにもなってるから気になるんだが・・・。」

「大丈夫だよ。それよりもありがとう宮坂君。でも、どうしてあんなこと言ったんだい?」

「道場のことか?」

「うん。普通ならば知らないはずなのに、何で宮坂君は知ってるのかなって。」

「黒乃からだ。俺は絢瀬の悲しむ顔は見たくない。だからあんなこと言ったんだよ。」

 

 爛にとって、これは大切なこと。自分の教えで剣の実力が伸びたことに喜んでくれた絢瀬の笑顔を、爛は忘れることはできない。だからこそ、爛は分かっていた。出来ることならば、この笑顔を守ってあげたいと。すると、ステラは爛にこんなことを聞いてきた。

 

「さっきの男は・・・。」

「あの男は貪狼学園の三年・倉敷蔵人。去年の七星剣武祭ベスト8。剣士の間合いを制することができ、剣士タイプの圧倒的な強さから『剣士殺し(ソードイーター)』と呼ばれている。何にせよ、あいつは相当な男だ。むやみやたらに攻撃をしていたなら、俺は八つ裂きになってただろうな。」

「爛でさえああも言わせるほどの男だ。自分から首を突っ込まない方が良いよ。」

 

 爛は彼の霊装を見たことで、彼がどんな伐刀者(ブレイザー)なのか分かっていた。彼は紛れもなく、強い。爛はあの時間だけでどれ程の相手か見極めていただけなのだ。

 

「泡沫・・・。倉敷達がこっちに来ているときには、お前は近くに居ただろう?」

「よく分かったね。やっぱり爛には、因果干渉じゃダメか☆」

 

 泡沫の異能・・・。と言うか、種類しか分からないのだが、泡沫は因果干渉系の異能の持ち主だ。伐刀者には四つの異能の部類に別れる。

 一輝の《一刀修羅(いっとうしゅら)》のような身体強化系能力。

 ステラの《妃竜の息吹(ドラゴンブレス)》、爛の《雷鳴閃(らいめいせん)》、六花の《雷撃・蝶(らいげき・ちょう)》のような自然干渉系能力。

 そして七星剣武祭優勝者の諸星雄大(もろぼしゆうだい)の『魔力を喰い尽くす』ような概念干渉系能力。

 その数ある伐刀者の異能の中で最も稀少であり、最強と言われる系統。それが、因果干渉系能力。しかし、一輝の記憶が正しければ、そのどれにも該当しない異能の使い手がいた。それは真壁浪人。一輝があのときの唯一の友人。彼は一輝と同じく落第生と言っていいほど魔術の才能などは持っていなかった。しかし、彼は代わりにどの部類にも当てはまらない異能を持っていた。それは『見たもの全てを自身の手で複製する』ことができる異能。そして、それを『内蔵した世界を行き来できる』と言う能力を持っている。それは、身体強化系でも、自然干渉系でも、概念干渉系でも、ましてや因果干渉系でもない。つまりは系統などと言う部類には絶対に入らない。伐刀者と同じ魂を武器としたものとなる。しかし、普通の伐刀者とは違い、自らを盾にするのと同じなのだ。それをまとめて言ってしまえば、『無限の剣を内蔵する世界(エターナル・ブレイジングワールド)』それが、彼のただ一つの異能。身体強化も使わず、自然干渉も使わない。ただ一つ、無限の武器を使うために魔力を使っている。無論、これは諸星の異能でも喰い尽くすことはできない。それほどの異能だ。

 

「さて、俺らは帰るとするか。」

 

 爛はお代を払い、学園に戻ろうとしたときだった。

 

「・・・・・・ん?」

 

 一件のメールが届いていた。それは第十一回戦目の相手決定のメール。それは、絢瀬にも届いていた。

 嫌な予感しかしない。

 爛は絢瀬とあたっていないことを思いながら、生徒手帳のメールの内容を見る。そこには───

 

「宮坂爛様、選抜戦第十一回戦は三年一組、綾辻絢瀬様に決まりました。」

(なんて最悪な展開だ・・・!と言うことは、絢瀬も今メールを見ている・・・!)

 

 メールを見ていた絢瀬は爛の顔を見ると、暗い顔をして俯いてしまった。なんと声をかけたら良いのだろう。爛はどうすればいいのか、まったく分からなかった。すると、絢瀬から切り出す。

 

「ご、ごめん!ルームメイトから戻ってこいってメールが来たから、先に戻ってるね!」

「ああ、お代は俺が払う。先に戻ってるといい。」

 

 絢瀬は焦りながらそう言い、逃げるように店内から出ていった。爛は暗い顔をするしかなかった。

 

「・・・・・・俺は先に戻ってる。寄り道して戻るから、六花は先に部屋に戻っててくれ。お代は払っておく。」

「爛・・・。」

「さて、僕達も戻るとするよ。行こう、カナタ。」

「ええ。それでは皆さん。また会う日まで、ごきげんよう。」

 

 爛はすぐにお代を払い、店内から出ていってしまった。泡沫とカナタも爛についていくように学園に戻ってしまった。

 

「・・・僕達も戻ろう。ここに居るだけ駄目だ。」

「あ・・・、イッキ!」

 

 一輝は学園に戻ると切り出し、ステラは一輝を追っていった。六花も何も言わずに一輝とステラについていった。

 絢瀬との関係がここで止まろうとしていた。第十一回戦、爛はどうするのだろうか。

 

 ーーー第31話へーーー

 

 




おう、いきなり暗くなったな。
ただ一人寄り道して戻るといっていた爛。彼はどうなるのだろうか。

次回を、待ってくれ!



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第31話~届かない言葉~

今回のあらすじ・・・
第十一回戦目の相手が決まってしまった爛。彼は絢瀬と戦うべきなのか迷っていた。そんな絢瀬とギクシャクした関係になってしまう。一度も特訓に顔を見せなくなった絢瀬。もう来ないのかと思ったとき、爛の生徒手帳に絢瀬からのメールが届いていた。




 倉敷蔵人と出会い、絢瀬が爛達の前から姿を消して三日が経つ。結局、あれから一度も顔を出さなかった絢瀬だった。

 

「結局、あれから来なかったわねセンパイ・・・。」

「仕方ないさ。倉敷と会ってから来なくなったもんだしな。それに、絢瀬はどんな手を打ってきても、七星剣武祭に出なければならない。彼女は三年生だ。これを逃せば、彼女は倉敷に復讐の機会を失うことになる。それに、復讐なんてさせたくない。だから俺は、絶対に次の試合では勝たなければならない。」

 

 爛はそう言いながら、自分の生徒手帳のメールを見る。そこには、絢瀬からのメールが届いていた。

 

『宮坂君にしか話せないことがある。午前三時、本校舎の屋上で待ってる。』

 

 と言うメールの内容だった。爛は分かっていた。それが、絢瀬の仕組んだ罠であり、何よりも、試合で反則を使ってくると。

 

「それ、明らかに罠よね。」

「アリス・・・。」

 

 爛の後ろから、アリスが歩きながらそう言ってくる。確かにそうだ。こんなときに限って、メールが届くのは何かあると言うことだ。

 

「知ってるよ。罠だってな。でも、俺は会いに行く。」

「断言するわね。」

「だって、彼女を思うと、絢瀬の笑顔が浮かんでくるんだよ。それを見るたびに、この笑顔を守ってやりたいって思うんだ。」

 

 爛はそう言った。アリスは彼の目を見て悟っていた。彼は、彼女を救うために戦うと。爛の瞳がそう言っていたのだ。アリスは爛に忠告した。

 

「警戒だけはしておきなさいよ。」

 

 その事に、爛は夕日をバックにアリスに微笑みながら───、

 

「わかっているさ。」

 

 その一言だけを言った。

 そして、爛はアリスから忠告を受け、午前三時、本校舎の屋上に来ていた。爛が屋上の扉を抜けると、フェンスを後ろに立っている絢瀬がいた。

 

「・・・あの時以来か、絢瀬。」

「うん・・・こっちから誘ったのにごめんね。」

(・・・やっぱり、その目になってるか。)

 

 爛が気になったのは絢瀬の目。彼女は食事の時もそうなのだが、やはり時々目をそらす。しかし、今回ばかりは違った。爛のことをまっすぐに見つめていた。それだけではない。絢瀬の目が乾いているように見えるのだ。それも、何の輝きを持たないガラス玉のように。だからこそ、爛は追求などはしなかった。今は、そんな話をしに来たのではないからだ。

 

「別に大丈夫だ。流石に相手が決まった状態で仲良く接するのは難しいよ。これくらいは当然さ。」

「そう言ってもらえると助かるよ。・・・・・・それに、一人で来てくれたんだね。ありがとう。だけど、彼女もちとしては褒められる行動じゃないよね?」

「まぁ、そうだな。六花には内緒にしてくれよ?何しでかすか分からないからな。」

 

 爛は肩をすくめながら話している。普通に見れば、いつも通りの光景にしか見えない。爛は少しだけ絢瀬に近づき、本題に入る。

 

「・・・それで、俺にしか話せないことはなんだ?・・・あれか?俺と六花の関係か?」

 

 爛は冗談めかしながら話している。普通に、しかし彼女を問い詰めるためにも。この時間に呼び出したのには、絶対に何かがあるとしか考えられないからだ。

 

「まぁ俺と六花のことについては冗談だ。・・・で?本題は?」

「・・・・・・」

 

 絢瀬は爛の問いに押し黙る。言うことができないのか。それとも別の意味なのか。爛は何も考えていない。今ある状況は、自分と絢瀬。そして夜。屋上。何よりも爛が不信感を持っているのは、

 

『絢瀬の後ろの空気が、止まっているように見える。』

 

 その事だった。何かの斬り込みがつけられているような感覚がしているのだ。だが、黙っているだけでは始まらない。あれが絢瀬の罠のためなのかもしれない。爛はそれにも迫るべく、自分から話を切り出した。

 

「なぁ、前の話。覚えているか?」

「・・・・・・」

 

 絢瀬は何も言わない。爛は答えなくても良いと思って話している。だから、絢瀬の沈黙を肯定と見なし、話を続ける。

 

「倉敷は、絢瀬。お前から道場と何を奪った?」

 

 そう、爛が元々知りたいのはこっち。何故二人が関係があるかだ。倉敷は様々な道場を練り歩いては潰して回っている。絢瀬の家は、綾辻一刀流を教えるための道場がある。そうなると、倉敷は絢瀬から道場と別のなにかを奪われたことになる。爛はそう考えていた。

 

「・・・どうしてそう思うの?」

「倉敷の行動と、絢瀬の家から考えた俺の答えだ。倉敷は様々な道場を練り歩いては潰して回っている。絢瀬の家は、綾辻一刀流を教えるための道場がある。そうなると、絢瀬は道場と他にも失ったものがあるんじゃないのか?って考えたんだよ。」

 

 絢瀬は爛の言葉に黙りながら聞き続けている。さらに爛は続ける。

 

「それに、絢瀬の憎悪を倉敷と会ったときに感じたからだ。ただそれだけだ。」

 

 爛はそれで話を切る。これで、彼女の方から切り出してくれればよいのだ。爛からすれば、他にも理由があるのかもしれない。だが、剣士として感じられるものは、これで当たっていると感じたのだ。

 

「正解だよ。流石だね。新聞部の人から宮坂君は勘が鋭いって聞いたからね。こうなると、隠す気も無くなるや。」

 

 すべて、当たっていた。すると、絢瀬から話を切り出した。

 

「今日、この時間に宮坂君を呼び出したのには聞きたいことがあるからなんだ。」

「聞きたいことか?答えられる範囲であれば答えるぞ?」

「ありがとう宮坂君。やっぱり、君は優しいよ。───僕が聞きたいのは君の家族についてだよ。」

 

 それを聞いたとき、爛は驚いた。絢瀬が自分の家族について知っているのは、門下生ぐらいしかいない。爛の脳裏にあることが通りすぎていった。しかし、その時間だけで爛は十分だった。

 

「・・・もしかして、一輝から聞いたのか?」

「そうだよ。そこで、君は妹を失ったんだよね。」

 

 爛の頭の中でビデオのように繰り返される悪夢。何より、爛が向き合わなければならないことだ。

 

「あぁ。」

「僕は思うんだ。宮坂君はそこまでの力を手にしているのにそれを何で復讐に使わないのか、分からないんだ。」

 

 爛は復讐のためにこの力を持っているわけではない。守ることのために振るうと決めたのだ。この剣はそのためにあると、そう思っていた。綾辻一刀流の道場でも同じはずだ。綾辻流はこう言う剣だった。

 

『人を守るための剣。』

 

 爛はそれを知っていたからこそ、絢瀬の本心が気になった。何故にそこまで復讐に拘るのか。何が、彼女を変えてしまったのか。答えは道場の中にあるはずだ。

 

「絢瀬、綾辻流の心構えはなんたるかを知っているはずだ。何故、そこまでして復讐に拘る。」

 

 爛は自分の本音で絢瀬に問い詰めた。何を言っても意味がないからだ。すると、絢瀬は爛の予想を覆すことを言う。

 

「そんな心構え、とっくに捨てたよ。そんなのは戯れ言でしかない。僕は勝つために、手段を問わない。だから、この選抜戦。宮坂君の七星剣武祭はここで終了させる。」

 

 絢瀬は自身の固有霊装(デバイス)である緋爪(ひづめ)を顕現した。その瞬間、太刀音が二つ聞こえた。

 

「ッ。」

 

 爛は周りを警戒する。明らかに太刀音が聞こえ、どう言うことかと警戒するのだが、その答えはすぐにわかった。それは、絢瀬の後ろの空気が吸い込まれていき、かまいたちを生んだと悟ったのだ。すると、フェンスは壊れ、絢瀬は校舎から飛び降りる。すると、

 

「ッ!?」

 

 絢瀬が空を飛んだのだ。いや、実際には空気が吸い込まれていき、かまいたちが生まれることの勢いで空を飛んでいるのだ。爛が校舎ギリギリのところに居ると、絢瀬は急に落下し始めた。

 

「ッ!?絢瀬!」

 

 このままいけば、尖ったコンクリートに頭から一直線だ。そんなことは絶対にさせない。爛はすぐに行動に出た。

 

(こればっかりは距離がありすぎる。体力を使うぞ!)

「《雷足(らいそく)》!」

 

 爛は雷の力を足にため、筋肉の運動を一気にフル稼働させる。そして、爛が踏み込み、絢瀬を助けに行こうとした瞬間、爛の姿が消え、一瞬にして絢瀬を助けてコンクリートのところに当たらずに絢瀬を抱えたまま、爛は膝をつく。

 

「くっ・・・。」

「体力、使っちゃったね。」

「お、お前・・・、まさか、これのためだけに、仕組んだのか!?」

 

 絢瀬は爛から離れ、校舎の方に歩いていく。何も言わずに。爛はそれでも絢瀬を説得しようとしていた。

 

「絢瀬!お前は、お前はいいのか!誇りを捨ててまで、そこまで復讐に拘りたいのか!お前の中で何が残る!何を得られる!」

 

 爛は動こうとするのたが、《雷足》の反動により、歩くことすらできなかった。絢瀬は何も言わずに、爛の前から去っていった。

 

「く・・・そ・・・。」

(仕方ない・・・。魔力を回復するためには、あれしかないか・・・。)

 

 爛は自らの力を高めていく。すると、爛の周りには赤いオーラが見えていた。

 

(《第一段階・鬼神解放(きしんかいほう)》・・・。久しぶりに使ってみたけど、意外と効果的だ。)

 

 爛は自分の魔力を十分に回復すると、爛も校舎の方に歩いていった。そして、爛の中で何かの警鐘が鳴らされていた。何もわからない警鐘。しかし、爛の熟達した第六感と本能は叫んだ。───避けろ!

 

「ッ!?」

 

 爛は後ろを向き、一気に後退する。そして、爛が顔を上げたすぐそばに黒い影が目の前に居た。

 

刻雨(こくさめ)!」

 

 爛はすぐに刻雨を顕現し、襲いかかってきた黒い影と打ち合う。しかし、黒い影の剣術はほぼ一輝並みの実力だった。

 

「チッ!」

 

 爛はすぐさま後退。爛は感じ取っていた。黒い影、黒い羽織ものをしている者は伐刀者(ブレイザー)なのが、すぐにわかった。しかも、指折りの力を持っていると見ていいだろう。爛は出し惜しみなんてしてられないと考え、一気に攻めに出た。

 

「ハアアァァァァ!」

 

 爛は襲いかかってきた伐刀者の素顔を見るべく、フードの部分を狙い、剣を振るう。相手もその攻撃に対応するようにし、剣同士の打ち合いになる。

 

「ッ!せい!」

「ッ!」

 

 フードの一部分が斬れていった。すると、フードのところから見覚えのある髪が見えていた。

 

(ま、まさか・・・!いや、そんなはずはない!)

 

 爛はある可能性が浮かんだがそれはないと振り払い、伐刀者と戦う。そして、数十分。

 

「うおぉぉぉぉ!」

 

 爛は真上から刻雨を降り下ろし、伐刀者は一歩後退する。すると、伐刀者は霊装を解除し、破軍学園から出ていってしまった。爛はあの髪を見たときに一つだけ、可能性を感じてしまったのだ。死者の復活を目論む伐刀者が居ると。そして、襲いかかってきた伐刀者は死んだはずの伐刀者と感じた。

 

(お前は、これを否定するのか?)

 

 爛はそんなことを考えながら、今度こそ校舎の方に歩いていった。

 

 ーーー第32話へーーー

 

 




爛に襲いかかってきた伐刀者は一体誰でしょうか?因みに、爛に関係があり、この後に正体が明かせれたりします。まぁ、先の話になるのですがね。

次回を待っててくださいね!



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第32話~闇の中で動く者~

今回のあらすじ~。
爛を襲った伐刀者(ブレイザー)は、破軍学園から出ていき、爛はその伐刀者のことについてある可能性を感じた。そして、爛は減ってしまった体力を回復しようと寮部屋に向かう。そして、破軍学園から遠く離れた場所ではあることをしようとある者達が動いていた。




 爛が学園に戻っていくその頃。別のところでは不自然な動きをしている者達が居た。

 

「彼の強さは相当ですね。」

 

 一人の男がそう呟いた。ピエロのような容姿の男は口を歪なまで上げていっていた。

 

「ふん。あいつの相手は俺がする。それと、あの女もな。」

 

 そう言うのは、長身の男。長い黒髪を靡かせ、ピエロの男から少し距離を置いたところで話している。

 

「貴方は彼の相手をするのではなく、彼女の相手をするべきですよ。」

 

 ピエロのような男は長身の男にそう促すのであった。すると、長身の男は疑問を浮かべながら話す。

 

「どういうことだ?」

「言葉の通りですよ。貴方が知っている他にも、仲間は居るのですから。」

 

 すると、暗闇の中にあるドアの方から音がし、入ってきたのは、白みがかった長い黒髪靡かせた少女だった。

 

「やっときましたね。───さん。」

 

 彼がいった名前は、爛がよく知っている名前であり、何よりもここに来たことに悲しむ程の人物がここに来ていた。

 爛は自分の部屋に入り、ベットの方を向く。六花は爛が使っているベットに入り、可愛い寝顔で寝ていた。爛は六花の近くまで行き、六花の頭を撫でる。

 

「六花・・・、お前は・・・離れないよな?」

 

 爛は悲しい顔をしながら、六花に尋ねるように言った。しかし、六花は眠っているため、答えることはなく、眠っていた。だが、六花が起きていたとするならば、六花は離れないと言うと爛は思ったのだ。

 

「ん~、ん?」

「六花?」

 

 六花が急に爛の腕をギューッと掴み、自分の体の方に爛の腕を持っていく。

 

「・・・六花。お前起きてるだろ・・・。」

「あ、バレた?」

「お前が俺の腕を掴んだときに気づいたよ。まったく、大変な幼馴染みを持ったな。俺は。」

 

 爛は六花が起きていることを当て、六花は素直に起き上がり、爛に笑顔を見せた。

 

「ねぇ、何かあったの?」

「特に何もないな。・・・もしかして、お前来てたか?」

「来てないよ。僕は爛の傍に居たいだけ。・・・爛は、そう言うの苦手?」

「いや、苦手じゃないけどな。こんなに積極的だったかな~。と思ってね。」

 

 爛はそう言うと、六花はベットに座っていた爛を無理矢理ベットに倒し、六花は爛の上に乗り掛かる。

 

「爛は、僕から離れないよね?」

「六花?」

 

 六花は爛が自分に言ったときと同じように爛に言った。爛は六花の表情に疑問を持った。それは、六花が悲しい顔をしているからだ。すると、爛の頬に何かが落ちる。

 

「ッ!?六花!?」

「爛は、僕から離れ、ないよね?そうだよね?・・・もう、僕は失いたくないんだ。だから・・・、居なくならないよね?」

 

 六花が泣いていたのだ。六花は爛にそう問いかけながら、涙を流す。何故、彼女がこうなってしまったのかは時を待たなければならない。そうしなければ、話すことはないだろう。爛はその事に思い当たる節があった。

 

(そうか。六花はあれを失ったから、か。)

 

 爛が思い当たっていたことはいずれ明かされるものであるため、そこまで待ってもらいたい。爛はそれを知っていたため、六花の頭をまた撫でる。

 

「爛・・・。」

「六花、俺はどうこう言わないが、甘えてきて良いんだぞ?」

 

 爛は笑顔で六花にそう言うのだった。爛は六花の心の負荷を自分も一緒に背負おうとしていたのだ。

 

「うん・・・、ありがとう。」

「どうってことないさ。」

 

 二人はそのまま、自然に身を任せ、眠りへと入っていった。そして、朝になる。爛が起きると、そこには・・・

 

「おはよう。爛。」

「おはよ・・・、え?」

 

 爛は六花の姿に目を疑った。六花が身に纏っているのはエプロンのみ。詰まるところ、彼女は裸エプロンで爛が起きるまで居たのだ。

 

「ちょっ!六花!?」

「甘えていいんでしょ?だからこうしてるの。爛が僕の体を暖めてよ。」

 

 駄目だ。目眩がしてきた。

 爛は目の前の光景と六花の言葉に目眩を起こしてしまった。

 

「おわぁ!?」

「えへへへ。」

 

 六花は爛を押し倒すように抱きつき、爛はいきなりのことに対応ができず、倒れていってしまった。そして、誰もが思うように六花は爛を押し倒すことが多いような気がする。

 

「・・・暖かい・・・。」

「ああ、確かにこうしてたいな・・・。」

「なら、ずっとこのままで居る?」

「いや、俺はこの後、選抜戦の事がある。・・・そう言えば、六花はどうなるんだ?」

 

 選抜戦の最中に破軍学園に転校してきた六花。武曲学園はランク制で自由参加のため、選抜戦は存在しないはずだ。となると、六花は今年の七星剣武祭には出れないと言うことになる。

 

「僕も途中参加で出場だよ。理事長が僕の経緯を知っていたからね。」

「成程ねぇ・・・。速いもんだ。」

 

 六花が途中参加で選抜戦に出場することになり、爛は黒乃がそれを許可させた速さに感心した爛だった。

 

「さて、六花。しっかり着替えてくれよ。それと、折木のところに行くぞ。」

「え?どういうこと?」

「そのままの意味だ。俺は折木に頼みたいことがあるからな。」

「分かった。」

 

 爛と六花は折木のところに向かうとした。

 第十一回戦が始まる前、爛の生徒手帳にメールが届いていた。

 

「?黒乃・・・、っ!?」

 

 爛はメールの件名を見た瞬間、目を大きく開いた。それは、解放軍(リベリオン)と国の動きを示したメールだった。そして、爛は国の動きのところであるものを見た。

 

師匠(せんせい)、貴方がよく知っている人物が、学園を潰そうとしています。私も見たときは目を疑いましたが・・・。彼女であることは間違いありません。』

 

 その文の下には一つの写真がついていた。そこに写っていたのは、白みがかった黒髪を靡かせた少女だった。それが誰なのか、爛は知っていた。

 

「あの妹が!そっちについて何の特がある!何に引き込まれた!?・・・絶対に連れ戻すからな!」

 

 爛はそう思いながら、生徒手帳を閉じ、試合に集中することにした。第十一回戦、爛の相手は絢瀬。そして、その試合の時間となった。

 

『えーそれでは、お待たせしました!時間になりましたので、これより本日の第六訓練場・第一試合を開始致しまーす!この試合の実況は私、放送部三年の磯貝が。解説は一年一組担任・折木有里先生で担当させていただきます!折木先生、今日は顔色がいいですね~。』

『まだ一試合目だからね~。三試合目にもなればみんなが大好きないつものユリちゃんになるわよ~♪でも大丈夫、血液の予備はリットル単位で用意してるから~。』

『なるほど!本日の実況室にも血の雨が降りそうですね!それでは、皆様お待ちかねの選手入場を行います!』

 

 放送部の磯貝から言った言葉でまず、一試合目の一人の選手がフィールドに入ってくる。

 

『まず青ゲートから出てきたのは十戦十勝のパーフェクトゲームを続ける、今注目の一人!Fランクでありながら、敵を薙ぎに薙ぎ払ってきたこの男!一年・宮坂爛選手です!』

 

 爛がフィールドに上がると、姿を見られるだけで会場の至るところから黄色い歓声が聞こえてくる。『予測不能の騎士(ロスト・リール)』の応援に来た爛のファンだ。

 

『姿を見せたと同時に歓声で会場が沸きます!すごい人気です!』

『爛さんは黒鉄くん同様に女性のファンが多いね!』

『あんなに強いのにFランクって言うのがこう、報われてない感じで応援したくなるんですよね!』

『先生もその気持ち分かるかなー。』

『少し前まではFランクと言うことで誰の目にも止まらない無名の騎士でしたが、七星剣武祭への体制が変わったため、持ち前の実戦力でメキメキと頭角を現してきた宮坂選手!今や七星剣武祭代表候補の一人として数えられるようになってきました!そして今、今日の彼の相手が赤ゲートから姿を現しました!同じく十戦十勝の素晴らしい戦績をひっさげて十一回戦目に望むのは、Dランク騎士、三年・綾辻絢瀬選手です!』

 

 爛に続き、黒い髪を靡かせながら絢瀬が姿を現す。

 

『奇しくも彼女もまた宮坂選手と同じく、今時珍しい剣術家で、これまでの試合を全て剣技のみで勝ち進んでおります。さらには大会実況に協力してくれている『破軍学園壁新聞部』の日下部加賀美さんからの情報によれば、彼女はなんと宮坂選手に剣技のレクチャーを受けている弟子でもあるとか!つまり今日の対決は師弟対決と言うわけですね!弟子はこの強い師匠を超えることができるのでしょうか!』

 

 爛は加賀美がこの事を調べていたことについて、驚いていたが、思い返してみると、加賀美はこれを平然とすることから意外と頭痛はしなかった。すると、どちらもスタートラインに立つと、絢瀬が爛に話しかける。

 

「やっぱり来たんだね。少しは不戦勝も期待してたんだけどな。」

 

 爛は絢瀬の言ったことに何も言わない。あるのはただ絢瀬と真剣に剣を交えることのみ。ならば、爛の今できることはひとつ。固有霊装(デバイス)を顕現すること。

 

「行くぞ、刻雨(こくさめ)。」

「・・・そんなにボクが許せないかい?」

「・・・・・・」

「でも勝つのはボクだ。」

 

 絢瀬はそれを言うと、自身の霊装、緋爪(ひづめ)を顕現する。

 

『さぁ、それでは皆様ご唱和ください。Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 爛は体勢を低くし、足のバネを使うことで推進力を得、絢瀬に向かって走り出す。

 

(かかった!)

 

 爛は絢瀬の近くまで走ってきていると、何かを感じとり、急停止し、バックステップをする。すると、爛の目の前からものすごい量の風を感じた。

 

(かまいたち・・・。やはり仕掛けていたか。)

 

 爛はバックステップをしながら、そう思い、バックステップを終える。

 

「ッ!?」

 

 バックステップが終わったと同時に爛の背中が斬りつけられた。爛はそのまま体勢を崩し、膝をつく。

 

(結構な攻撃力だな。)

『な、な、な、なんだ今のはぁ!?突然宮坂選手の背中が斬りつけられました!?宮坂選手体勢を崩し、膝をつきました!すぐに体勢を立て直すのか!?』

(今だ!)

 

 絢瀬は爛の体勢が崩れると、爛めがけて走りだし、爛に向かって緋爪を振るう。

 

『綾辻選手!宮坂選手が体勢を崩したところに追撃だ!宮坂選手、絶体絶命か!?い、いや、宮坂選手、綾辻選手の猛攻を体勢を崩した状態で耐えています!』

 

 絢瀬は爛の体の至るところから緋爪を振るうが、爛はそれを見切り、最低限の体の動きと霊装の刻雨を振るい、絢瀬の猛攻に耐えている。

 

(あと一歩が・・・遠い。)

 

 絢瀬にとって、爛に一つでも切り傷をつけられればいいのだ。しかし、爛が予想以上に耐え、一つの切り傷をつけさせることはしない。絢瀬は爛の背後を取り、緋爪を振るう。すると・・・

 

「ッ!?」

「玄武結界、発動。」

 

 絢瀬の緋爪を止め、爛はそのまま刻雨を振るい、絢瀬の体を狙う。

 

「くッ!」

 

 絢瀬はすぐに緋爪を自分の方に戻し、バックステップをし、爛の刻雨の攻撃を避ける。

 

「ウォームアップ、手伝ってくれてありがとう。ここからが本番だ。絢瀬。」

 

 ーーー第33話へーーー

 

 




絢瀬との戦いに入りました!六花のヤンデレ理由がこの一つに入りますね。爛自身、六花とかを失ったら発狂するほどでもありますからね。どちらも依存気味・・・。次回、早めに投稿するのでお待ちください!それでは皆様!次回でお会いしましょう!


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第33話~爛の精神世界~

今回のあらすじ
絢瀬との対決で爛は自身の体に異変が起きていることに気づいた爛。爛は意識を閉ざし、精神世界に入り込む。そこで爛が見たものは一体・・・。




「ウォームアップ、手伝ってくれてありがとう。ここからが本番だ。絢瀬。」

 

 爛は絢瀬に向かって走り出す。そして、刀華と愛華での戦いで見せた一瞬にして相手の目の前まで、一息でたどり着くという行動。絢瀬ももちろん、あの場に居たため、その事は知っている。爛は二人との戦いのときと同様に一息で絢瀬の目の前に現れる。

 

「ハァ!」

「ッ!」

 

 絢瀬はそれを見越し、自身の固有霊装(デバイス)緋爪(ひづめ)を振るう。爛はそれを即座に対応し、刻雨(こくさめ)を振るう。そして、二人とも刀を引き、一気に霊装を振るう。その速さは残像しか見えないほどに。それでも一撃を与えることができないため、バックステップをし、距離をとる。

 

(緋爪の能力・・・、多分『傷を開く』能力だろう。となれば、絢瀬からの攻撃は一つも貰うことはできない・・・か。)

「逃げ場はないよ!」

 

 絢瀬は一気に走りだし、爛に対して緋爪を振るう。爛は後ろに下がりつつ、絢瀬の攻撃を捌く。それを見た一輝達は爛の行動に疑問を持った。

 

「どうして、攻めないのかしら?」

「確かに、爛は綾辻さんを超える剣技を持っている。でも反撃もせず、受けに徹しているのは何かを感じてるんじゃないかな。」

 

 一輝の言う通りだ。爛は確かに絢瀬とは比べ物にならないほど力がかけ離れている。しかし、彼が何故受けに徹しているのか、謎でしかなかった。

 爛が受けに徹しながら、絢瀬は大振りの唐竹割りをする。爛はそれを左に避け、そのまま滑る。しかし、それは絢瀬の策の中。

 

(よし!)

 

 絢瀬はかまいたちを発生させる。そのまま、爛が滑っていればかまいたちは爛の背中に当たることになる。しかし、爛はそれを体勢を低くすることで避ける。

 

(なッ!?まさか、ボクのトラップに!?でも確証はないはず、今の内に!)

 

 絢瀬は一気に爛の懐に入り込み、緋爪を爛の左足から逆袈裟斬りをする。爛はそれを回避しようとするものの、しっかりと避けきれず、左肩と左側の胸部に被弾。そして、絢瀬が緋爪の柄を小指で叩く。

 

「ッ!?」

 

 斬られた部分は同じ場所を深く斬られたように広がっていった。左肩から左手首へ。左側の胸部から右肩近くまで開いていった。

 

「ぐぁぁぁぁ!」

 

 血を吹き出しながら膝をつき、絢瀬を見る。今のは絢瀬がしたので間違いない。最初の方で受けた傷よりも深いため、体勢を元に戻すのに時間がかかる。絢瀬がこの時に漬け込んでくることを思いながら、爛は絢瀬に対しての警戒を高める。後一撃でも貰えば、倒れてしまうのが分かるからだ。

 

『な、何だぁ!?今のは!宮坂選手膝をついた!傷が独りでに開いたように見えましたが・・・!』

(今のも・・・、絢瀬のか・・・。)

 

 すると、爛は自分の体の何かに気づく。

 

 ドクン───。

 

(え?)

 

 ドクン───。

 

(あの時と・・・、これ・・・、同じだ・・・。)

 

 自分自身の心臓の心拍ではなく、別の心拍音が聞こえる。しかも、自分の中から。何故?爛でさえ分からない。ただ分かるのは、あの時と同じということだ。

 

 ドクン───。ドクン───。

 

(抑え・・・、られないか・・・。)

 

 爛にこれを抑えることはできなかった。あの時も、これを止めてくれたのは母しか居なかった。爛は分かっていた。これが来るということを。ノヴァの騎士と同じようなものは、出てきていると言えば出てきている。しかし、それについての研究は進めることができない。それは、その力を持つ人間が死んでしまうと、何故かその力は消失するからだ。

 

(でも、こんなこと言ったとしても、言わなかったとしても、六花はそんなこと許さないだろうな。間に合わなかったら、俺の体を心行くまで堪能するのかな。)

 

 爛はそんなことを考えていた。しかし、爛は考えをすぐに引き戻す。

 

(って、こんなところで死んでたまるか!俺は、六花を明を香姉を守らないといけないんだよ!)

 

 爛はその一心で耐えていた。しかし、爛の体はある異変が起きていた。

 

「くっ・・・、うぅ・・・。」

 

 爛は痛みを堪えるように絢瀬から距離を取り、膝をついていた。

 

「っ・・・、あ・・・、ぁ・・・。」

 

 爛の声が少しずつ小さくなる。そして、爛は糸が切れたように倒れてしまう。

 

(今だ!)

 

 絢瀬はフィールドに倒れた爛を突き刺そうと走るが、爛の体から黒い何かが出てきた。それは、爛がノヴァの騎士という力を発動するときに出てきていた黒の力。それが、爛を包み込み、黒い球体となって宙に浮かぶ。

 爛は意識を失っており、体は黒い球体の中にあった。爛の意識は海の底にあった。爛が目を開けると、意識と同じように海の底に沈んでいる感覚に陥った。

 

(あ・・・、またここか・・・。)

 

 爛はここの世界に来ていたことがある。自分の精神と同じような状況を世界にしたのだろう。となれば、ここは爛の精神世界。爛はあの日からこの精神世界になっていた。

 冷たい感触、何かが包み込むように感じる。まるで、這い上がることのできない底に誘われるように。

 

(前よりも遠のいてる・・・。)

 

 爛は海の中から水面へと見える距離が離れていることに気づいた。何が関係しているのだろうか、爛は思考を巡らす。しかし、何も思い浮かばない。すると、海の底の方から声が聞こえる。

 

『おいで・・・。』

 

 爛を誘うように声を発する。爛の耳元でささやくように言っている。爛の感覚はおかしくなっていた。その声が、傷ついていた心を癒すように聞こえるのだ。

 

『おいで・・・。君にはボクがついてるよ。だから、おいで・・・。』

(何だ・・・、この感覚は・・・。)

 

 後ろを振り向きたくなる。しかし、爛は振り替えることはしなかった。いや、彼の本能が振り替えるなと言っているのだ。爛は本能に従った。

 

『君の望む世界が、この先にあるんだよ?』

(止めろ・・・、それ以上、俺の感情に入り込むな・・・!)

 

 今、爛が居るところはまだ底は見えない。だが、爛を底へ行かせるように、響くように声が爛の頭の中に入ってくる。

 

『君が来てくれれば、死んだ妹も、『彼女達』も、そして、これから起きることも。君が望んだ通りになるんだ。』

(止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。止めろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。やめろ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロ。ヤメロォオォォオォォォォォォォ!)

 

 爛は叫んだ。言葉にはすることはできないが、心の中ではこの声を聞きたくないという感情、あの時のことを思い出させることを止めろという感情、自分が求めた理想郷を思い出させる話を止めろという感情。どれも怒りだ。何も出来なかった自分に対しての。

 

『君は欲しくないのかい?全て自分の思い通りになる世界を。かつての英雄王が求めた理想郷を。自分の手にしたくはないのかい?』

(止めろ。やめろ。ヤメロと言ったはずだ!その理想郷は彼女のためのものだ!俺に、その理想郷は必要ないはずだ! 何故俺にその事を話す!?俺には関係のないことだ!)

 

 爛は否定する。すると、爛の体から光が放たれる。すると、二つの物が爛の目の前に現れる。それは、ノヴァの騎士の刻印。そしてもう一つ。鞘がないと言われていた聖剣、エクスカリバーの鞘。そして、頭の中に語りかけるように二つの言葉が聞こえる。

 

『貴方は・・・、私の鞘であり・・・、マスターなのですね。』

(止めろ。俺はお前のマスターじゃない。俺は、お前を捨てたとんだ最低な野郎だ。そんな俺に、構うな。)

 

 聞こえてきた声に爛は反論する。しかし、声の出せない状態では話すことなどできない。

 

『今度はしっかりと会えることを願ってますよ。』

(会うと願うな。どれだけ俺が愚か者なのか、お前は身をもって知ることになるぞ。)

 

 爛は思ってしまう。このまま死んだ方がいいのではないか?大切にしている人を助けることも、救うことも出来なかった自分に何が出来るのだろうかと。できることは、自分の存在を消すことしかできない。ならば、その事にすればいいのではないか?爛は海の底に振り返ろうとする。何もできない自分を止める人は今ここにはいない。地獄の門を一人で開きにいこう。誰も知らない、自分を殺したくなるほどの過去を見に。

 爛は振り返ろうとする。しかし、それを止めた者が居た。爛は腕を掴まれた感覚がし、掴まれた感覚がした方を向く。

 

(沙耶香・・・、なのか?)

 

 沙耶香が爛の腕を掴んでいた。そして、別の方からは・・・

 

(リリー!?)

 

 爛に話しかけていた女性の声。それが彼女、リリー。すると、光が現れ、爛達を包む。

 

「ここは・・・?」

「爛兄さんの精神世界だよ。」

「沙耶香・・・。」

 

 爛の後ろから現れたのは妹の沙耶香。すると、もう一人現れる。

 

「マスター、お久し振りです。」

「その呼び方は止めてくれ。俺はお前を捨てたことは違いないんだ。それに、お前のマスターには相応しくない。」

 

 リリーの言い方に爛は自身を自虐するように言う。その事に関しては、後々話をすることになる。すると、爛は二人に聞きたいことができ、二人に話す。

 

「唐突で悪いが・・・、二人は生きてるのか?」

「はい、生きてますよ。」

「・・・・・・」

 

 爛の質問にリリーは答えるが、沙耶香は答えることはない。爛がこの事を聞いたのはあることを確かめるためだった。

 

「沙耶香。」

「何?」

「お前は、あの時死んだのか?死んでいないとしたら、お前は何者だ?」

 

 他人から見れば意味の分からない質問。しかし、爛が聞きたいことに意味はあった。沙耶香はその質問に答える。

 

「死んでないよ。何とか生き残った。」

「俺の目の前で死んだ奴は?お前なら知ってるはずだ。」

 

 そう。爛は沙耶香の死を見ていた。沙耶香が生きていたというのならば、爛が見ていた沙耶香は何者なのか。あの時の事件の被害者である沙耶香なら、知っているはずだと。

 

「カモフラージュだよ。心配かけてごめんね。爛兄さん。」

「はぁ~。カモフラージュか。本当に心配したんだからな。今度からは俺には話してくれよ。」

「もちろん。」

「それと、あと一つ。」

「ん?」

「何故、お前は解放軍(リベリオン)に居る?」

 

 黒乃から受け取ったメールの写真には沙耶香が写っていた。自分の妹を見間違える事などしない爛は、彼女が何故解放軍に居るのか、その事について沙耶香に迫った。

 

 ーーー第34話へーーー

 

 




爛の謎が分かるのは次になります。どうしてもこれが次に関係するので、書くしかなく、区切りが良いのでここで終わらすことにしました。それと、爛とリリー、あれじゃないですからね!?士〇とセ〇バーみたいな関係ですけど、似てますけど、元にしてるだけですからね!?(必死の弁解。意味がない気がするw)

それでは、次回をお楽しみに!ここまで読んでくださり、ありがとうございました!



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第34話~精神世界での決闘~

今回のあらすじ。
爛と沙耶香は精神世界で戦いを始める。爛は沙耶香が操られていると言うことに気づき、沙耶香を取り戻そうとするが、沙耶香の言動も何もかもがあの時の頃とは違い、まったくの別人に感じた。そして、リリーの口からは、自分が王としてのことが語られる。精神世界から出ようとしたとき、また、爛の体に異変が起きる。そして、爛は自分の力のあることに気づいているとのだった・・・。




「・・・何で、知ってるの?」

「・・・・・・あの時も、俺を襲ってきたのも、お前か?」

 

 沙耶香は爛に疑問の声をあげるが、爛はそれに答えることもなく次の質問を出す。爛はすでに沙耶香が解放軍(リベリオン)に入っていることに気づいたのだ。

 すると、大量の殺気を爛に向ける。

 

「何で知ってるのか、聞いてるけど・・・?」

「理由は簡単だ。俺を襲ってきた時、お前の髪を見た。今ここで見たことで、確信が得られたよ。」

 

 爛はそう言うと、同じように殺気を沙耶香に向ける。

 

「そんなすぐに気づくのなら・・・、今ここで、グチャグチャにしてやる・・・!」

「・・・何て殺気だ・・・。リリー、お前は安全な場所まで下がってろ・・・。死ぬぞ・・・。」

「は、はい。」

 

 沙耶香のあり得ない言動、殺気。それを感じ取った爛はここでは止めることのできないほどの変わりようになっていたことに気づく。爛はリリーに離れるように促す。リリーも二人が発している大量かつ、濃密な殺気に気づいており、爛の言葉に従い、二人から距離をとる。

 

「逃しはしない・・・、壊し尽くせ、刻想刃(こくそうじん)。」

「・・・それでいいのか?沙耶香。」

「・・・・・・」

 

 爛の問いに答えることはない。いや、変わり果ててしまった彼女に、答えることなどないのだ。それを知っていながら、爛は問う。

 

「・・・答えを言わないというのならば、刃で答えを聞こう。闇よ、光を侵食せよ。黒刀・雷黒鳥(らいこくちょう)

 

 沙耶香は二つの曲刀を。爛は真っ黒に染まった刀を握り、相手と対峙する。そして、沙耶香が踏み出す。

 

「ッ!」

「ハァ!」

 

 沙耶香の振り、当然爛はそれを弾き返す。しかし、反撃はしない。

 

「タァ!」

「フッ!」

 

 この攻撃も同じ。一刀目と同じだ。それを、繰り返すことしかしない。

 

「問おう。何故、お前は俺の精神世界に入ってきた?」

「・・・・・・」

「リリー、お前が入ってこれる理由はある。お前も気づいている通り、お前の鞘は俺の中にある。だからこそ、入り込めた。」

 

 爛の精神世界・・・。いや、誰もの精神世界には入ることなどほぼできない。しかし、爛の体に何か施すのか、よっぽどの影響力のある者であれば、入ることは可能だ。だからこそ、リリーは入り込むことができた。しかし、問題は沙耶香だ。沙耶香は爛の体内にものを施したりなどはしていない。そのため、爛の精神世界に入ることはできない。爛は問う。何故、入ってきたのかと。

 

「そして、もう一つ。俺が精神世界に来たのは学園で意識を失ったからだ。ここにいないお前達は入れないはずだ。どうやって入ってきた?」

 

 爛はどうやって入ってきたのかを知っている。しかし、可能性でしかなく、確実とは言えなかったためだ。

 

「何言ってるの?爛兄さんにあげたペンダントから入り込んだ。それだけのこと。」

「・・・そうか、と言うことは、お前達は俺の近くに居たと言うことだな。」

 

 そう、二人は爛と絢瀬の戦いを見ていた。だから、爛の精神世界に入り込めた。

 

「マスター、私は・・・。」

「言いたいことは分かる。お前の生い立ちは聞きたいこともあるさ。でも・・・。」

 

 爛はリリーに優しい笑顔を見せ、沙耶香の方を真剣に見ながら話す。

 

「こっちの(バカ)を何とかしなきゃならない。俺から見ても分かる。・・・沙耶香、お前は操られてるのか?それとも自分の意思か?」

 

 爛は沙耶香にそう問う。爛は沙耶香の答えにより、動き方を変えようとしている。そのためだ。

 

「自分の意思だよ。黒幕(フィクサー)の為にも・・・。」

「・・・そうか・・・。」

 

 爛は俯き、悲しい顔をした。沙耶香の行動にも、言動にも、何もかもが変わってしまったと気づいたのだ。しかし、代わりにやることもできた。それは、彼女を取り戻すこと。彼女は操られているから、あの言い方をした。今までの沙耶香でもそれは言うのだが、その言い方はないと、爛は断言できた。操られていると分かったのなら、兄としてやることはただ一つ。大事な人()を助けることのみ。

 

「お前が操られているのはよく分かった。なら、お前をその呪縛から開放してやるのが、俺の・・・、兄としての・・・、やるべきことだ。」

 

 爛は雷黒鳥を構え、爛の方から接近する。当然、沙耶香は二つの曲刀、刻想刃を構え、爛の攻撃に対応しようとする。

 

「ッ!」

「ヤァ!」

 

 爛の振りに片方の曲刀で対応する。しかし、先程の力とは大違いだった。完全に殺しに掛かっている様子だった。

 

「フッ!」

「っ。」

 

 沙耶香が距離を取り、爛は再び雷黒鳥を構える。沙耶香も同じように構え、二人して踏み込み、相手を斬ろうとする。

 

「あの時のお前から完全に変わってしまった。何故だ。俺を殺そうとするのならば、幾らでもその機会はあったはずだ!何故、あの時だけ襲ってきた!」

 

 爛は沙耶香に固有霊装(デバイス)を振るう。しかし、沙耶香はそれを受け止め、すぐに曲刀を振るうが、爛に止められてしまう。そんな互角の戦いをしていたが、リリーには何か思うところがあった。

 

(マスターの妹様は操られているなかで、必死にそれから抜け出そうとしているのでは?)

 

 リリーはそう思いながら、二人の戦いを真剣に見ていた。

 爛と沙耶香が打ち合っているなか、沙耶香の霊装が壊れてしまう。

 

「・・・・・・」

 

 しかし、沙耶香は倒れることなく、爛の方を見ている。爛は何故、沙耶香が倒れないかを知っている。すると、沙耶香の手に、小太刀があった。

 

「・・・自分が想像したものを魔力で顕現する。・・・それが、お前の霊装。」

 

 沙耶香の霊装は魂を武器にするのではなく、魂を魔力にし、その魔力を使い、武器を顕現する。そのため、沙耶香の霊装は沙耶香の魔力が尽きない限り永遠と顕現される。

 

「俺の言った問いに答えろ!沙耶香!」

 

 爛はそう叫びながら、沙耶香に霊装を振るう。沙耶香は爛の霊装の振りに対応するが、爛の問いには話そうとしない。

 

「ハァ!」

「くっ!」

 

 沙耶香は一瞬の隙をつき、爛の横腹を斬ろうとするが、爛は人知を超えた反射神経より、沙耶香の攻撃を紙一重で止める。

 

「大分、上達してたんだな。」

 

 爛は沙耶香の実力が上達していることに感嘆の声をこぼすが、沙耶香はそれに反応することはなかった。沙耶香は完全に操られていたのだ。

 

「・・・貴方に話すことはない。」

「・・・沙耶香・・・、本当に操られていたのか・・・。嘘であってほしかった・・・。またお前と、平穏な日々を暮らせることを誓いたかった・・・。操られていると言うのなら、俺は・・・、お前を取り戻す!」

 

 爛はそう決めた。決めるしかなかった。彼女を助けるか、助けないか。爛には助けないなんてことはしない。するつもりなど微塵もない。だから、助ける道を選んだ。その先に、何があろうと、後悔と助けられなかったことは絶対にしないと誓う。あの時の灰色の雨の中に願いながら。

 

「ハァァァァァァァ!」

 

 爛は沙耶香に向かって走り出す。取り戻すことができるのなら、今ここで。

 

「ッ!」

 

 爛は沙耶香の前まで行くと、振り上げていた霊装を叩き下ろす。沙耶香はそれを受け止めるが、一瞬だけ動きが鈍った。爛はそれを逃さず、すぐさま呉正(くれまさ)を左手に顕現し、沙耶香の腹を狙い、横に振るう。

 

「ッ!」

 

 沙耶香はすぐにバックステップ。爛の呉正の横振りを避ける。

 

「・・・・・・」

「・・・もう、このくらいで良いでしょう・・・。」

 

 すると、沙耶香の体が少しずつ消えていく。爛は沙耶香がこの精神世界から居なくなることに気づき、沙耶香のところに走り出す。

 

「待て!」

「間に合うことはありません・・・、貴方の刃は、私には届きませんから。」

 

 爛が沙耶香に手を伸ばすが、沙耶香を握ることもできずに、握ろうとした手は空を握る。

 

「っ・・・。」

 

 爛は俯く。また、救えなかった。ただ救えなかったことで悔しかった。自分には救うことはできないのかと、考えてしまう。

 

「っ・・・、くそ!」

 

 爛は地面を殴る。何度も何度も殴り続けた。悔しさと沙耶香を操られていると言うことに怒りを覚えていた。リリーは見ることしかできなかった。今まで、こんな姿の爛はリリーの覚えているなかで、何もない。

 

「・・・マスター。」

「リリー・・・。」

 

 リリーはやっとのことで爛に話しかけた。爛はそれにすぐに反応し、膝をついた状態でリリーを見る。リリーは話しかけたのは良いものの、どこから話すべきなのか分からず、会話が途切れてしまった。

 

「「・・・・・・」」

 

 二人とも話す気配はなく、爛は立ち上がる。そして、リリーの近くまで行き、リリーの頭を撫でる。

 

「・・・ありがとう、リリー。」

「マスター?」

「ホント、こんな奴をマスターと呼び続けてくれて、俺についてきてくれて、ありがとう・・・。お前が居なかったら、俺は・・・。」

「それを言うなら、私もです・・・。」

「リリー?」

 

 リリーは俯きながら爛に話す。爛は何かあったのかと考えるが、爛の覚えているなかで、それはなかった。

 

「マスターは知ってませんが、私は王だったのです。自分があの聖剣を宿していると言うことで・・・、私は・・・。」

「リリー・・・。」

 

 爛は知っていないことは確かだ。しかし、爛は彼女が聖剣を宿していると言うことは知っていた。爛はあの時、信じたくないことだが、世界が違うことからあり得てしまうと思ってもいた。その考えていたことが、当たっていたのだ。リリーはその事の負荷に耐えていたのだ。それに気づいた爛はリリー体を包み込むように抱きつく。

 

「マス、ター?」

「まったく、俺の周りは何で甘えさせないといけない奴らが多いかな。・・・まぁ、それも一つの感情でもあるだろうけどな。リリーも頼れる人が居るのなら、頼ってもいいし、甘えてもいいんだ。負荷に耐えられなくなって心が折れるより良いさ。」

「マスター・・・。」

 

 リリーの瞳からは涙が流れていた。リリーもその事には驚いており、爛は内心で驚きながらも、リリーの意外な一面が見れたことを貴重に思うのだった。

 リリーが泣き止むと、爛は離れていく。そして、手を差し出す。

 

「ほら、帰るぞ。ここにいても意味はもうないからな。」

「はい、マスター。」

 

 リリーは爛が差し出した手を握る。すると、二人が握った手からは、光が溢れ出しており、爛の姿が変わる。

 

「これは・・・!」

「マスター・・・!」

 

 爛の姿は全身武器のようになっており、体は黒く覆われており、鎧をつけているような見た目であった。

 

「・・・そう言うことか・・・。大変な残しものまでしていくのか、あのバカは・・・。」

 

 爛はフッと笑い、そう言った。そして、爛はリリーの方を向く。

 

「さぁ、帰ろうか。俺達を待ってくれているところへ。」

「はい!」

 

 二人はしっかりと手を握り、精神世界から出ると祈る。そして、完全に精神世界から二人が出ようとしたとき、爛はリリーの額に軽くキスをした。

 現実世界では精神世界より時間はほとんどかかっておらず、たった数分が経過した時だった。爛を包んでいた黒い球体にヒビが入る。そして、ある言葉と共に、傷を負っていたはずの爛が、傷を修復した状態でいた。

 

「《女王が求めし完全無欠の理想郷(アヴァロン)》。」

 

 ーーー第35話へーーー

 

 




女王が求めし完全無欠の理想郷(アヴァロン)》はほぼfateの士郎w能力も何もかもが同じですが、名前だけが違うと言うwそして、次回、絢瀬との戦いは決着です!次回をお楽しみに!



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第35話~思いを取り戻すために~

今回の~あ~ら~す~じ~。
精神世界から無事に現実世界へと戻ってくることができた爛。次は絢瀬の思いを取り戻すために自身の魂を振るう。そして、絢瀬との戦いが終わったあと、爛の寮部屋では、また一つの災難が起きようとしていた。




「《女王が求めし完全無欠の理想郷(アヴァロン)》。」

 

 その一言と共に爛が黒い球体から姿を現す。それも、傷を修復した状態で。

 

「なっ!?」

 

 絢瀬は驚く。それもそうだろう。深く傷を負っていたはずの爛が、その傷を修復しているのだ。

 

「これが・・・、彼女の鞘。」

 

 爛はそう呟く。自分の胸を右手で抑え、感覚を集中する。すると、力の元を感じることができた。それは、自分の心臓からだった。

 

「なるほど・・・、俺の命に元から埋め込まれてたのか・・・。なんともまぁ、人間と異なりすぎるものを持っている『人間』なんだろうな。」

 

 爛は自分の心臓に鞘が元々埋め込まれていたことに気づく。それは何故か?爛からすると、別の目的がまた増えたと感じるのだった。

 

「絢瀬、お前は、俺の思っていた通りの人だったよ。」

「え?」

 

 突然爛から言われた一言に素っ気ない声をあげる絢瀬。爛は優しい笑顔を真剣な表情に変え、絢瀬に話す。

 

「絢瀬、今のお前の太刀筋も、呼吸も、何もかもがめちゃくちゃだ。俺の教えていたことはおろか、元々出来ていたことでさえまともにできていない。どれだけ悪ぶった自分を作ろうとしても、魂を欺けることはできない。心が迷っている剣に本当の力は宿らない。」

「ボクは迷ってなんかいない!ボクはもう決めたんだ!」

「絢瀬は、自分が思っている以上に誇り高い人だ。絢瀬と海斗さんが、俺にそれを教えてくれた。」

「二年前に思い知らされたんだ!どれだけ誇り高く戦おうが、負ければ全部台無しなんだって!結果の伴わない綺麗事なんて意味がない!だったら何をしてでも取り戻す!何をしてでも勝って・・・、取り戻すんだ!」

 

 絢瀬は叫ぶ。確かに復讐に走っている者は誰だってそうだ。しかし、それは誰のためにもならない。自分のためにも、人のためにもならない。残るのはただの後悔、それだけだ。爛はそれをよく知っている。

 

「なら、俺のやることは簡単なことだ。」

 

 爛は持っていた固有霊装(デバイス)雷黒鳥(らいこくちょう)・・・ではなく、刻雨(こくさめ)の切っ先を絢瀬に向けて言う。

 

「この勝負で、お前の思いを取り戻す。」

「黙れぇ!」

「行くぞ、絢瀬!」

 

 その声と共に絢瀬に向かって走り出す爛。絢瀬はバックステップをし、爛から距離をとる。その距離、ざっと百メートル。黒乃がリングを広くしたことで、戦いの幅が広がることになったのだ。爛は魔力を纏わず、生身で絢瀬に突進する。

 

『宮坂選手ダーッシュ!しかしこれは、魔力を纏っていない!生身の突進です!』

(何っ!?)

 

 生身での突進に動揺する絢瀬。しかし、爛はそれを気にすることもなく突き進んでいく。そして、絢瀬は自身の異能を使えるようにしていた。

 

(今だ!)

 

 絢瀬は異能である力を使い、突き進んでいる爛に切り傷を与えようとする。しかし───

 

(なっ!?)

 

 爛は絢瀬のかまいたちに当たる寸前で左側にすぐさま移動。そしてそのまま走り出す。絢瀬は同じようにかまいたちを起こすが、爛はそれを次々と回避していく。そして、絢瀬は爛の体に少しだけ切り傷ができていることに気づく。爛は一輝の《完全掌握(パーフェクトビジョン)》のように相手の理を掴むと言うことはできない。だから、回避したとしても、回避しきれないものがあると言うことになる。

 

(なら、回避しきれない様にすれば・・・。)

 

 絢瀬はそう思うが、すぐにできないと判断する。それは、爛が走るスピードを早くしているのだ。それは、自身の異能である雷を足に纏わせることによって足の筋肉をフル稼働させているからだ。

 

(まだ・・・。)

 

 絢瀬の頭には昔の出来事や海斗、倉敷が頭の中で現れていた。

 

「まだ終われない!」

 

 絢瀬はそう叫び、緋爪(ひづめ)をフィールドに突き刺す。すると、フィールドに切り込みができ、その部分を壊し、煙をあげる。

 

「ハァァァァァァァァァ!」

 

 爛はその煙の中から姿を現し、絢瀬を斬ろうと大振りの構えを取っていた。

 

「くっ!」

 

 絢瀬はすぐに緋爪を戻し、爛を迎撃する。しかし、爛はそのまま絢瀬を斬るのではなく、空中で停止し、そのまま降り立つ。

 

「なっ!?」

「甘いぞ、絢瀬。」

 

 爛はそのまま絢瀬を斬る。絢瀬は爛に斬られ、霊装の緋爪を手放し、膝から崩れ落ちる。

 

『決まったー!宮坂選手の一撃がクリーンヒット!しかし、綾辻選手血を流していません!これは・・・。』

『多分、幻想形態で斬ったんだろうね~。』

『女性は斬らないと言うことでしょうか?』

『いや、爛さんには別の目的があったんだと思うよ。だから、幻想形態で綾辻さんを斬った。それに、私や理事長、西京さんや香さんまで、爛さんは斬ってるからね。』

『「えーーーーーー!?」』

 

 実況の磯貝、会場の全員の声が一致する。爛は折木が暴露した出来事に苦笑いをしながら聞いていた。すると、絢瀬が口を開く。

 

「どうして・・・?」

「ん?」

「どうして、斬らない?」

「斬っても意味ないさ。それに、今お前は動けない。違うか?」

「バカにして!」

 

 絢瀬は立ち上がろうとする。しかし、立ち上がることができない。幻想形態で体力を削がれていると言う部分もあるのだが、絢瀬には決定的にかけている部分があった。

 

「っ・・・く・・・。」

 

 立ち上がれない。何度もそうしようとしているのに、立ち上がることが叶わない。何故?どうして?

 絢瀬は困惑する。立ち上がることができないことに。爛はそんな絢瀬に続けて話す。

 

「お前は、この意味のない戦いに、本当の魂があるのか?」

(あ・・・、そうだったんだ・・・。ボクは・・・、何も分かってなかったんだ・・・。)

 

 爛の言われたことに、絢瀬は気づいた。この戦いに自分の魂は拒んでいたと言うことに。だから、立つこともできないのだ。勝ちたい。そういう思いが、魂を欺けようとしたことで、その気力も、振り絞ることができない。

 

「宮坂君の言う通りだよ。・・・・・・ボクの・・・、負けだ・・・。」

『ここで、綾辻選手ギブアップ!一試合目の勝者は『鬼神の帝王(クレイジーグラント)』宮坂爛選手です!』

 

 絢瀬の降参により、爛は第十一回戦を勝ち、第十二回戦に駒を進めた。

 

「情けないな・・・。捨てることは愚か、貫くこともできないなんて・・・。」

「情けない・・・か。」

 

 絢瀬は悲しい顔をして、自分の過ちを責めた。爛は情けないと言う言葉に反応し、優しい笑みをしながら、絢瀬の頭を撫でる。

 

「情けなくないさ。絢瀬は。」

「え?」

「確かに何もかもがめちゃくちゃだった。でも、それでも絢瀬は、綾辻一刀流を最後まで捨ててなかった。俺達剣士がプライドを持つのは己の剣だ。だから、それを大事にすることだ。それに、俺も目的があるからな。」

「目的?」

 

 絢瀬は爛の言った目的に疑問を持った。自分のことで何か目的でもできたのだろうか。それとも、何か別のものなのか。そう考えている絢瀬に、爛は答えを言う。

 

「絢瀬思い出の道場を取り戻すんだろ?俺もやるよ。元々、俺から倉敷に言ったことだからな。」

「でも・・・。」

「でも。じゃないだろ?お前も人を頼ることをしろ。誰だって手伝ってくれる。まぁ、そんなことを言っても威張ってやらない奴は出来損ないとしか言えないがな。」

 

 爛は絢瀬に手を差し出す。

 

「なぁ、俺は、俺はお前を助けたい。だから、倉敷との戦いは、俺に任せてくれ。友人を助けるために、理由なんて必要ないからな。俺の勝手になってるが・・・、頼むよ。」

 

 爛から言われたことに、絢瀬は涙を流す。絢瀬はずっと溜め込んでいたのだ。自分を助けてくれる人は居ると言うことに、絢瀬は気づいた。そして、絢瀬が目指した剣の道をまた進むことができると思うと、涙が溢れてくるのだ。絢瀬は震える手で爛の手を握る。

 

「宮坂君、ボクを、助けて。」

 

 爛はしっかりと絢瀬の手を握ると、絢瀬と同じ目線の高さになるように屈み、言葉を発する。

 

「その言葉が聞きたかった。」

 

 爛は絢瀬に魔力を供給することにより、絢瀬を動けるようにした。

 

「あ・・・、ありがとう。」

「何、魔力の供給ぐらいはできるさ。動けるよな?」

「うん、大丈夫だよ、宮坂君。」

「それじゃあ、俺は戻るな。」

 

 爛はそう言うと、ゲートの方に向いて、戻っていく。綾瀬も爛と同じようにゲートの方に戻っていく。

 爛がゲートの中に入っていくと、そこには六花が居た。

 

「お疲れさま、爛。」

「ああ、六花も勝ち進めてるな。」

「もちろん。」

「そうか。戻るぞ、六花。」

「うん。」

 

 爛と六花は簡単に話をすると、寮部屋に戻っていく。しかし、爛は寮部屋で大変な出来事に巻き込まれることが起きると言うことは、何一つ想定していなかった。

 爛と六花が寮部屋の中に入る。すると、玄関のポーチには一つの靴が置いてあった。

 

(まさか・・・。)

 

 爛はその時に誰が来たのか考えていると、予想のつく人であることに気づいた。そして、二人が玄関から少し進んだところにあるドアを開けると、そこには黄色い髪を靡かせている少女の姿があった。

 

「お帰りなさい、マスター。」

 

 少女はそう言って、爛の近くに寄る。爛は驚いた表情で、少女の名前を言う。

 

「リリー・・・?」

「ええ、そうですよ。」

 

 爛が少女の名前を言うと、その少女はそれで間違いないと言った。

 

「すぐに会えるなんて思ってなかったよ。本当に近くに居たんだな。」

「はい、マスターの試合を見てましたから。」

「黒乃がよく良しとしてくれたな・・・。」

「色々と話しましたよ?マスターのところに行きたかったので。」

「ホント、捻りなしか。」

 

 爛とリリーは笑いながら話しているなか、六花は突然のことに唖然としていたが、爛がまた別の女性とくっついていることに病んでいた。

 

「まぁ、黒乃からは何か言われたことでもあるか?」

「いえ、特に何も。」

「ねぇ、爛。その子、誰?」

 

 二人が話しているなか、六花はリリーのことが気になったのか、爛に話しかける。

 

「あぁ、紹介してなかったな。彼女はリリー・アイアス。俺の友人で、仲の良い一人だよ。」

「マスター、それを言うなら契約者同士ですよ。」

「まぁ、そうとも言うな。」

 

 仲の良い一人だよ。と爛から聞かされた言葉で、六花の目のハイライトが消えていた。しかし、それに気づくことのない二人はそのまま話していた。

 

「カツラギリッカさん・・・、でしたっけ、これからよろしくお願いしますね。まぁ、それでもマスターは譲れませんけどね。」

 

 リリーも目のハイライトを消して、六花に話す。爛はそれを見て冷や汗をかいた。二人をこのままにしておくとマズイと本能的に感じていたが、この空気に入ることはできないと断言するほど、この空気に入ることができない。

 このままどうなってしまうのだろうか?六花とリリーの関係はどうなるのだろうか?

 

 ーーー第36話へーーー

 

 




はい、爛が大好きでしょうがない六花とリリーが出会いました。正直、爛のSUN値がみるみる減っていく事態に発展できれば良いなぁと思っています。

次は六花とリリーの続きと、文字数に余裕があれば何か書きたいと思います。

次回をお楽しみに!



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第36話~二人の愛~

今回のあらすじ・・・は作者の能力では書けなかった・・・
(´・ω・`)

※今回は少しアブナイものかも




 爛と六花は自分の寮部屋にて、リリーと出会う。すると、二人とも目のハイライトを無くし、睨み合っていた。

 

「な、なぁ、もう止めなーーー」

「爛(マスター)は黙ってて(ください)!!」

「アッハイ。」

 

 爛は二人を止めようとするが、二人の気迫に押され、何も言えなくなってしまった。

 

「君は何で爛のことをマスターと呼ぶのかな?」

「それはもちろん、マスターは私の契約者であり、私を受け入れてくれた人なのですから、マスターと呼ばせてもらってるんですよ。それこそ、貴女の方こそマスターに迷惑などかけていませんよね?」

「かけているわけなんてないじゃないか。僕は爛の傍に居たいんだ。」

「それは同感ですね。私もマスターの傍に居たい。」

「「でも、もし邪魔をするのなら・・・。」」

 

 二人は睨み合いながら、剣を顕現する。六花は龍の装飾がされている剣。リリーは黄金に輝く、青い装飾が施されている剣を。

 

「「容赦はしない・・・。」」

(あ、これはマズイパターン。さっさと止めないと。)

 

 爛はマズイとすぐに判断し、二人を止めるように固有霊装(デバイス)を顕現する。そして、六花とリリーは剣を構えたまま、動かなかった。しかし・・・

 

「貴女はマスターの隣に居るべきではない。」

「勝手に決めないでくれるかな?僕と爛は恋人同士なんだ。それこそ、君こそが居ない方が良いんじゃないかな?」

 

 二人の言い合いにどちらもしびれを切らし、真っ直ぐに走っていく。

 

「「殺すッ!」」

 

 二人がそのまま激突するとき───、

 

「はい、そこまで。」

「痛い・・・。」

「痛いです・・・。」

「自業自得だ、二人とも。」

 

 爛は霊装で止めるのに呆れたのか、二人の頭をゲンコツし、正座させる。流石にこれはやりすぎだと、爛が二人に言い聞かせる。

 

「まぁ、二人がそうなるのは、もっともなんだけどな。にしても、リリー。カリバーを出すほどでもないだろ。」

 

 そう、リリーの持っていた黄金の剣。リリーの武器であり、名前をカリバーと言う。剣の中では最強の部類に入り、使い手次第ではどうにでもなると言うほどだ。

 

「で、だ。二人が思う気持ちも分かりはしないと言う訳じゃないが、これから一緒になるんだから、仲良く、な?」

「分かりました・・・。」

「分かったよ・・・。」

 

 六花とリリーは反省した様子で爛の言ったことに答える。

 

「うんうん、素直でよろしい。」

 

 爛は満足した表情で、二人の頭を撫でる。二人は爛から頭を撫でられたことに嬉しくて胸を高鳴らせていた。

 

「さて、リリーの件のこともあるから、黒乃のところに行こうか。」

「そうだね。」

「ええ、そうしましょうか。」

 

 三人は黒乃の居る理事長室に向かっていった。三人が廊下を歩いているなか、爛達の前から見たことのある姿をした人が居た。

 

「一輝?」

「あれ、爛。」

 

 そう、一輝達だ。最近は色々とあったせいか、一輝達と会うことができるのは朝のトレーニングや、選抜戦で会うことぐらいになっていた。すると、明がリリーに気づいたのか、リリーに駆け寄る。

 

「リリーちゃん!?」

「妹様、お久し振りです。」

「随分と会ってなかったもんね。元気だった?」

「ええ、あっちの方でも頑張ってましたし。」

 

 明とリリーは会ったことがあるのか、久し振りに会えたことで、二人の話は盛り上がっていった。尚、話についていけないのは、爛と六花以外だ。

 

「えっと・・・、爛?」

「ん?」

「その人は・・・?」

「彼女はリリー。俺と明の友人だ。これから破軍に居るわけだから、仲良くしてやってくれ。」

「初めまして、リリー・アイアスです。マスターとの契約者で、これから皆さんのお世話になります。よろしくお願いします。」

 

 一輝は爛にリリーの紹介を求め、リリーは一輝達に自己紹介をし、ペコリと一礼した。

 

「よろしくね、僕は黒鉄一輝。」

「はい、これからよろしくお願いします、イッキさん。」

「リリーは敬語癖があってな。大目に見てくれ。」

「へぇ・・・、そうなんだ。」

 

 リリーが敬語癖のことを爛が言うと、ステラは不思議そうに言った。

 

「ん?どうかしたか?」

「いや、メイドなんて雇ってるんだって思ってね。」

「いや、俺の家はメイド雇わないし、俺とリリーにも色々とあったからこんな感じなんだよ。」

 

 確かにリリーの着ている服はメイドのような服だ。しかし、爛はメイドを雇ったりはしない。爛とリリーがどのようにして出会ったかは二人にしか分からないが、二人とも話すつもりはないらしい。時間を置いて、話してみれば教えてくれるだろう。

 

「で、一輝。俺達は黒乃の部屋に行くんだが・・・、来るか?」

「いや、僕はこれから用事があってね。行かなきゃならないんだ。」

「そうか。分かった、じゃあまた今度。」

「うん、それじゃあ。」

 

 爛達と一輝達はそこから別方向に別れ、爛達は黒乃の居る理事長室に向かった。

 理事長室につくと、爛が理事長室のドアをノックするのだが・・・

 

「・・・居ないな。」

「そうだね。」

「鍵も閉まってるようですし・・・。」

 

 理事長室には誰もいなかった。何かあったのだろうか?理事長室には鍵も掛かっており、簡単に開けることができない。

 

「ま、リリーの件は聞かれたときにでも話せば良いか。・・・無駄足だったか。」

「仕方ないよ、部屋に戻ろう。」

「そうだな、戻るか。」

 

 爛達は仕方ないと思いつつ、先程来た道を戻っていく。

 寮部屋に戻ると、爛はいきなりベットに寝転がされたことに驚く。

 

「何で?」

「何でって・・・、ねぇ?」

「そうですよね、リッカさん。」

 

 二人は目配せをすると、声を揃えて爛の耳元で言った。

 

「「これから二人で爛(マスター)に僕(私)達の愛をわからせるんだよ(わからせるんですよ)?」」

「え・・・?」

 

 爛は素っ気ない声をあげ、それを気にせず、六花とリリーは爛を挟むようにベットに横になる。因みに、今は夕方だ。

 

「あ、あのなぁ、二人とも。明日は用事があるし、色々とやることもあるから、離れてくれないか?」

「「嫌だ(です)。」」

「え~・・・。」

 

 すると、二人は爛の両耳をなめ始めた。くちゃくちゃと淫らな音を立てて、爛に快感を与えようとする。

 

「ふ、二人・・・とも。止め・・・て、くれ・・・。」

 

 爛は快感に身をよじらせながら、二人を止めようとするが、二人は止まる気配がない。

 

「ん・・・、ぁ・・・、うぅ・・・。」

 

 弱いところをついてくるため、快感が爛を襲う。爛はその快感を誤魔化そうと懸命に身をよじらせる。

 

(爛・・・、可愛い♪)

(マスター、気持ち良さそう♪)

「ひゃ・・・、んん・・・、やめ・・・て・・・。」

 

 爛の言動で二人は歯止めが掛からなくなっていた。もっと爛に快感を与えたい。そう言う思いが、露になっていくのだ。

 

「爛が可愛い仕草するから歯止めが掛からなくなってきちゃったよ。」

「私達が満足するまで、耐えてくださいね♪マスター♪」

「もう・・・、止めて・・・。」

 

 爛はここから抜け出したいと思っているのだが、快感により、体が痺れて快感を誤魔化すぐらいしか体が動かせなくなっている。

 

「ひゃ・・・、りっ、かぁ・・・、リ、リー・・・、もう、いい・・・だろ・・・?んん・・・。」

「駄目だよ♪」

「まだまだ快感を与えてあげますよ、マスター♪」

 

 その後も爛は二人から快感を与え続けられ、快感に負けてしまい、二人に身を任せることしかできなかった。

 すると、爛がこんなことを呟いた。

 

「夜ご飯・・・、食べたいな・・・。」

 

 今はもう夜。流石に料理を食べなければ、力が入らないのも当然だ。他にも、二人がガッチリと爛の腕を固定しているのもあるのだが。

 

「流石にお腹減ってきますね・・・。」

「そうだね、夜ご飯食べようか。」

 

 やっとのことで開放された爛。耳を触ってみると、舐められているせいで二人の唾液がついていた。

 

「はぁ、やりすぎだ二人とも。耳がふやけてるじゃないか。」

「それは・・・、その・・・、ごめんなさい。」

「やり過ぎちゃったのは分かったから、許して?」

「はぁ・・・、今回だけだぞ。」

「「は~い♪」」

 

 かなりご機嫌な声で返事をする六花とリリー。爛からすれば考えものだ。

 

「軽いものを作る程度だ。良いな?」

「時間もあまりないしね、それでいいと思うよ。」

「私もそうですかね。」

 

 爛は野菜炒めと味噌汁。その二つを作る。後は米を盛るだけで食べれる。爛が作っている間、二人はすぐ食べれるように準備をしていた。

 爛が料理を作ると、料理を皿に盛り付け、テーブルの上に置く。

 

「それじゃ、食べますかね。」

「「「いただきます。」」」

 

 三人は料理を食べ始めた。軽いものではあるが、しっかりと満たされる量を作っているので、三人で食べれば、少し余る程度にしていた。

 

「ん~、マスターの料理は昔から変わらずに美味しいですね♪」

「料理を作ってる方からすれば、誉め言葉だよ。ありがとう。」

 

 リリーは久し振りに爛の料理を食べれたことから、昔を思い出すように爛に言った。

 

「「ごちそうさまでした。」」

「あぁ、お粗末様でした。」

 

 食べ終えると、爛は調理器具を片付けるついでに皿も洗っていた。二人は爛の邪魔にならないように、先に風呂に入っていた。爛が片付けを終える頃には二人は風呂から上がり、寝間着に着替えていた。そして、爛も風呂に入り、寝間着に着替え、ベットに横になる。二人も爛の傍の居たいのか、爛のベットに入り込み、爛の左右で寝ることになった。

 

「ん、じゃ、おやすみ。」

「おやすみ、爛。」

「おやすみなさい、マスター。」

 

 そして、三人は深い眠りに入った。

 

 ーーー第37話へーーー

 

 




第36話、終了です!

サブタイトルが少し可笑しい気がする。そして、しっかりとしたリリーの登場です!いやぁ、考えてみると、六花とリリーのところってステラと珠雫のところに似てる気が。まぁ、爛が止めてたからマシな方ですがw

そして、お知らせです!
新たな小説をあげることにしました!
原作は同じく落第騎士の英雄譚!因みに、爛達は出ません。主人公は一輝と境遇が似ています。

それでは、次回をお楽しみに!



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第37話~剣士殺しの実力~

今回のあらすじ。
倉敷の所有物になってしまった綾辻道場へ爛が道場破りに行く。そして、爛と倉敷の戦いで、倉敷は自分の実力を爛に見せつける。すると、爛は倉敷の見せた実力の謎を紐解くことができた。




 ここは綾辻道場の前。そこには爛と絢瀬、六花とリリーが来ていた。

 

「ここが、ボクの思い出だった場所だよ。」

 

 そう言って、階段の先には綾辻道場へと入る門があった。門の周りにはスプレーで下手に作ってあるもの。何が作られているのかはわからない。爛は捨ててあったビニール袋と木刀を持った。

 

「酷い・・・。」

 

 門をくぐった先で、リリーが口にしたのはその一言だけだった。至るところにビニール袋を投げられており、ゴミだらけ。道場とは言えないほどに変わり果てていた。

 

「最低だね・・・。」

 

 爛が見ている先には貪狼学園の制服を着ている生徒達。倉敷の取り巻きだろう。爛はそこの近くまで歩いていく。

 

「おい。」

「あぁ?」

「倉敷のところは何処だ?」

「テメェごときに教えられるか!!」

 

 爛の言葉に目もくれず、すぐに固有霊装(デバイス)を顕現し、爛に襲いかかる。

 

「素直に教えてくれれば良いんだかな。」

 

 爛はそう呟くと、木刀を構え、動き出す。すると・・・

 

「あ?」

 

 一瞬にして、襲いかかってきた取り巻きの霊装を木刀で破壊した。取り巻きは霊装を壊されたことにより、意識を失い、その場に倒れる。

 

「口ほどにもない・・・。」

 

 爛はビニール袋に取り巻きの生徒手帳を入れた。すると、絢瀬が爛に聞いてくる。

 

「どうして、生徒手帳を?」

「どうしてって言われたらな、・・・倉敷は多分、取り巻きを相手にしろと言ってくると思うから・・・かな。大人数を相手にするよりは、各個撃破の形の方が負荷がかからない。そう言うことだ。」

「そう言うことなのか・・・。」

「そういうことだ、次にいくぞ。」

 

 爛は立ち上がると、ビニール袋と木刀を持ち、歩き出す。

 

「あ、待って、爛。」

「マスター、待ってください~。」

 

 二人は急に爛が動き出したことに遅れてしまい、駆け足で爛のところに行く。

 

「・・・・・・」

 

 倉敷は道場内に置いてあるソファに横になっていた。すると、道場の扉が開かれる。入ってきたのは、爛と絢瀬、六花とリリー。倉敷からすれば、リリーは誰かも知らない。

 

「テメェ、あん時の・・・。」

「倉敷、お前に決闘を申し込む。」

「ハッ!道場破りか?」

「今回は俺が相手だ。絢瀬達は見守りってところだ。」

「・・・あの女に何か吹き込まれたか?」

 

 爛が倉敷の言ったことに答えようとしたとき、別の方から扉が開き、倉敷の取り巻きが現れる。

 

「クラウド!」

「どうした?」

「そいつには気を付けるんだクラウド!俺達の仲間がすぐにやられた!」

「・・・ほう?」

 

 取り巻きから聞かされたことに、倉敷は意外そうな顔で爛を見る。

 

「その袋に入ってるやつは何だ?」

「お前の取り巻きのやつらの生徒手帳さ。気になるなら、見ればいい。」

 

 爛はそう言って、倉敷の前に生徒手帳が入った袋をなげる。倉敷はそれを手に取り、ビニール袋を逆さまにすると、たくさんの生徒手帳が出てきた。

 

(こいつ・・・。)

「それに、そいつは『鬼神の帝王(クレイジーグラント)』って呼ばれてるらしいんだ。俺達、相当ヤバイやつに手を出したんじゃ・・・。」

「そいつは面白い。道場破りとして、ルールがある。俺とお前の真剣勝負だ。どちらかが死んだ方が負けだ。」

 

 一般の連盟の監視下に置かれていない道場では霊装の使用は認められていない。しかし、連盟から認められた道場のみ、霊装の使用を許可されている。学生騎士が霊装を使用できるのは学園の敷地内、何かの出来事に巻き込まれたときにやむ終えない場合、そして、道場での使用だ。今回の場合は最後の方だ。

 

「決闘を受け付けてくれて助かるよ。その条件には俺も乗ろう。『剣士殺し(ソードイーター)』。」

 

 爛はそう言うと、霊装の刻雨(こくさめ)を顕現する。倉敷は爛の刻雨を見ると、刻雨は一級品であることに気づく。

 

「なるほど、そいつぁ一級品だ。」

 

 倉敷はそう言うと、爛と同じように自身の霊装を顕現させる。

 

大蛇丸(おろちまる)。」

 

 倉敷は輝きを持たない白い野太刀を顕現する。爛はいつでも始められるように霊装を構えている。

 

「それじゃあ、始めるぜ!」

 

 倉敷はそのまま走り、爛を力任せのスイングで斬ろうとする。しかし、簡単に当たってくれるはずもなく、爛はそれを避けるとすぐに倉敷に反撃をする。

 

「フッ!」

「ハッ!」

 

 攻撃しては防ぎ、防いでは反撃するの繰り返しを二人はし続けた。そして、爛が倉敷の一振りを避けると、完璧なタイミングで倉敷の腹部を右から斬ろうとするのだが・・・

 

「ッ!?」

「ハハッ!残念!」

 

 止めることができない体勢でありながら、倉敷は一瞬にして爛の一振りを受け止めた。霊装の長さが変わった?いや、それは違う。瞬間的に動いたようにしか見えなかった。何にせよ、爛はある一つの考えをする。

 爛はそのまま倉敷に向かって走り出す。日本刀では強い部分である刺突。爛はそのまま倉敷の胴を貫こうとするが・・・

 

「おっと。」

(こいつ・・・、考えたくもないが可能性としてはある。面倒な相手だな。)

 

 倉敷は体を反らすことにより、爛の霊装の刺突を避ける。そのまま体勢を戻すと同時に大蛇丸を振るい、爛を後退させる。

 

「くっ!」

「ハッハー!!」

 

 倉敷が爛をおしているなか、爛は防御に徹していた。そして、倉敷が爛に唐竹割りを繰り出す。爛はそれに対応するように刻雨を操るが、途中で倉敷の太刀が消えた。

 

(マズイ!間に合うか!?)

 

 爛はすぐさま後方に下げていた左足を軸にし、体を一回転させる。半回転したときには爛の背中側では、消えていた倉敷の太刀が爛の左側から、爛を斬ろうとしていたのだ。爛は残りの半回転を倉敷への反撃で、刻雨を袈裟斬りで倉敷を斬ろうとする。

 

「《乱星(らんせい)》!」

 

 爛のカウンター。大きく下げた足を軸にすることで、半回転で相手の攻撃を避け、残りの半回転で相手に袈裟斬りを繰り出す。

 普通ならば倉敷にその攻撃が当たるのだが、倉敷は爛の攻撃を避けたときの同様に一瞬にして爛の攻撃を避ける。

 

(やはりそうか。間違いない。)

 

 爛は倉敷の動きを見たことで、あることへの確信を得ることができた。そして、倉敷が力任せのスイングを振るい、爛がそれを受け止めるが、力任せに振るったため、受け流すために相応の勢いを殺さなければならない。爛はそれを倉敷が振るった方へと滑ることにより、勢いを殺していった。

 

「・・・なるほど。これが海斗さんを破った、お前の得意技か。」

「ん?」

 

 爛は刻雨の切っ先を倉敷に向けて、話始める。それは、先程の攻防で爛が分かったことを話すのだった。

 

「さっきの攻防で分かったことだが、倉敷が攻撃の要にしてるのは反射神経だ。」

「ハンシャシンケイ?」

「反射神経は僕達にもあるものだよね?」

 

 六花が爛に確かめるように尋ねると、爛は頷き、話を続ける。

 

「確かに反射神経は誰でも持っている。しかし、今の倉敷の動きをカウントしてみたら、0・05秒だった。」

「0・05秒!?」

「俺達、普通の人間であれば、どれだけ鍛え上げたとしても0・1秒を超えることはできない。つまり、倉敷にとっては最大の攻撃ってことになる。俺が一つの動きをしている間にはお前は二つ三つの行動ができる。違うか?」

 

 爛は倉敷に切っ先を向けたまま、自分の推測は違うかと、倉敷に問う。倉敷は大蛇丸を縦に向け、爛に笑みを作りながら話す。

 

「俺の《神速反射(マージナルカウンター)》を初見で破ったヤツはテメェが初めてだ。」

「反射神経を正しく言うと、『知覚し、理解し、対応する。』その処理速度のことを反射神経と言うんだ。一般の人間では0・3秒。ボクシングとか、近距離で戦うことをしている一流の選手であれば、その速度は0・15秒。俺や六花、リリーがどれだけ鍛えたとしても、0・1秒にしかならない。そして、0・1秒を超えることは不可能に達している。それは、脳の電気信号(インパルス)がそれを超えることができないからだ。つまり、お前の〈神速反射〉はそれすらを凌駕する反射速度を使うことができる。お前に対抗するためには、お前の〈神速反射〉を先読みするか、それを超える速さで攻撃をするか、変則ガードで対応するかだ。つまり、これは一輝の《完全掌握(パーフェクトビジョン)》でさえ、倉敷の攻撃にはついてこれないというわけだ。」

 

 《完全掌握》は後だしジャンケンに弱いと言うことだ。後から出されてしまったものに対応するには、自分自身でなんとかしなくてはならない。それに、反射神経の速度を0・1秒にするのでさえ、無理が必要になる。今の爛達でさえ、その反射神経の速さは0・13秒程度。爛の言っていた通り、倉敷は爛が一つの行動をしている間に、二つ三つの行動が可能なのだ。つまり、倉敷の反射神経の速さは人を超えている。

 

「その驚異的な速さを持ってすれば、防ぐことができない攻撃も防ぐことができ、太刀の振りを強制的に変えることができる。だからこそ、太刀が途中で消えたわけさ。」

「ハッハッハッハッハ!大正解だ!」

 

 倉敷は爛の言ったことに笑いながら正解と言った。つまり、爛の推測は当たっていたというわけだ。

 

「だけどよぉ、それがどうした?」

 

 倉敷は笑っていた顔をすぐに真剣な表情に変え、爛に話した。

 

「どうにもできねぇだろ?《神速反射》は技じゃねぇ。俺の生まれ持った特性だ。」

 

 倉敷の言う通り、爛は〈神速反射〉を剣だけで攻略することは不可能だ。ただ単に身体能力を上げているだけでは、電気信号の速度を上げていると言うことではない。そう、倉敷が『剣士殺し』と呼ばれるのは、この反射神経があってこそだ。倉敷の剣は技じゃない。ただのむき出しの暴力でしかない。ただの暴力で、彼は速さのすべてを蹂躙することができるのだ。しかし、爛には一つだけ、剣で倉敷に勝れるところがあった。

 

「全てが反射神経に置き去りにされては無意味だ。その結果を、俺の剣技で教えてやる。構えてろ、『剣士殺し』。さっきの俺と思ったら大間違いだからな。」

 

 殺気の籠った声で倉敷にそう言い、今度は爛から攻めに行った。

 

 

 ーーー第38話へーーー

 

 




あじゃぱっぱっぱやぱー。

んん、いきなり失礼しました。倉敷と爛との戦い、いい感じに書けてますかね?これいっつも書いてると思うんですけど、いい感じに書けてるのかな?って思ってくるんですよね。

次回、多分、決着がつくと思います!

次回をお楽しみに!あじゃじゃしたー!



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第38話~剣士殺しの弱点、そして・・・~

今回のあらすじ。
倉敷の《神速反射(マージナルカウンター)》を遠距離攻撃ではなく、剣技で攻略すると宣言した爛。彼が《神速反射》を攻略するために使った剣技とは。




「ハハッ!そいつぁ面白ぇ。だがな、折角答え合わせをしたんだ。ソッコーぶっ倒れんじゃねぇぞ!《蛇咬(へびがみ)》!」

 

 倉敷は爛に容赦のない突きの攻撃をする。しかし、《神速反射(マージナルカウンター)》の効果もあり、同時に二連続の攻撃となっていた。

 

「二連攻撃!?」

 

 六花は倉敷の出した突きのスピードの速さに驚き、爛のことを心配する。爛は後ろに下がりながら、防ぐこともせず、ステップだけで倉敷の突きの攻撃を軽々と避けていく。

 

「遅い遅い!」

 

 爛はそこから、一瞬の隙をつくことで、倉敷の横に動きだし、刻雨(こくさめ)を振るう。

 

「残念!まだまだ行くぞ!」

 

 倉敷はそれを驚異的な速さで避け、同じように《蛇咬》を爛に繰り出す。

 

「さて・・・、そろそろやるとするか・・・。」

 

 爛は倉敷の攻撃を避けながらそう呟くと、一気に踏み出す。すると、爛の姿が一瞬にして消えていく。

 

「何っ!?」

 

 倉敷はあの連撃のなか、爛が一瞬にして姿を消したことに驚く。そして、爛が姿を消したその後、倉敷の背中が斬られる。

 

「ガッ・・・!?」

 

 倉敷は突然背中から斬られ、後ろを向いて爛を探すが、爛はすでにそこには居なかった。

 

(もういねぇだと・・・!?)

 

 そして、倉敷の体は次から次へと切り刻まれていく。音も聞こえず、姿も見えない状態で、どこからともなく斬られていくことは、剣士としては恥と同じになる。動いているのに音が聞こえないのは、力のロスがないことだ。力のロスがあるからこそ、音がなってしまう。力を最低限に抑えることで、音をなくすことができるのだ。そして、倉敷の前に爛が立っていた。

 

「どうだ?どこからともなく斬られていくことは。避けないとお得意の反射神経は無駄だぞ?」

 

 爛は倉敷を挑発している。得意な反射神経を封じられている中で倉敷が対抗できることはほぼ無くなったに等しい。ただ、そんな状況にあるのに、倉敷は───、

 

「ハハッ・・・、確かに今の速度の《神速反射》はお前の剣についていけねぇ。けどよ、オレだって負けられねぇことがあるんだ。」

 

 笑いながら、爛にそう言った。爛も同じように笑うと、確かめるように倉敷に尋ねる。

 

「最後に一つ、聞きたいことがある。」

「あぁ?」

「俺が、俺達が憧れていた、あの剣士は、今の俺達のように笑えていたか?」

「こんなアツい死合いを楽しめねぇヤツが、『最後の侍(ラストサムライ)』なんて呼ばれることはねぇだろうが。」

「そうだな・・・。」

 

 爛と倉敷は向き合い、共に笑いながら言った。

 

「「じゃあ、まだ続けても構わないな(ねぇよな)?」」

 

 二人はそう言い、一気に走り出した。そして、爛は倉敷の《神速反射》を攻略した剣技を使い、倉敷を斬ろうとする。

 

「ッ!あぶねぇ!」

「今の避けるとはな。何となく分かったか?」

「おう、直に斬られちまったからな。分かってきたんだよ!」

 

 倉敷が大蛇丸(おろちまる)をあるところで振るう。すると、途中で大蛇丸が何かに止められる。止めた先には、爛がいた。

 

「喰らえ!《蛇咬》!」

 

 倉敷は先程よりも速さを上げ、四連撃を繰り出す。爛はそれを刻雨を使いながら避けていく。そして、壁際までおされていく爛。倉敷は爛を斬ろうと迫っていく。すると、壁際に置いてある物に足を当ててしまい、体勢を崩す。

 

(しまった・・・!)

 

 爛が思っていたときには遅かった。爛が体勢を崩したときに、倉敷は四連撃をすぐさま爛に叩き込んできたのだ。

 

「がぁ!」

「爛!」

「マスター!」

 

 爛は防ぐことができず、倉敷の四連撃を受けてしまう。よろけたことで、致命傷を防ぐことができたが、傷が深いことにはかわりなかった。

 

「致命傷を防いだか。悪運の強い男だ。」

「何を今更・・・!元々俺は悪運の強い奴だよ。」

「次はこうは行かねぇぞ。なます斬りにしてやるぜぇ!」

 

 倉敷は大蛇丸を大きく振りかぶり、爛に降り下ろす。爛はそれを受け止め、倉敷の刃を受け流していく。倉敷は次々に大蛇丸を振るっていく。爛は自身の体が斬られないよう防ぐことしかしていない。それを見ていた絢瀬が止めようとする。

 

「今止めたら道場は戻ってこないよ、綾辻さん。」

 

 止めにいこうとしている絢瀬を二人の戦いを真剣に見ている六花が止める。

 

「でも・・・!」

「元々、ここに来たのは道場破りをして、道場を返してもらうことじゃないの?」

「それでもいい!今は宮坂君の体の方が大切だ!」

「それだったら、爛の顔を見てみるといいよ。」

「宮坂君の・・・?」

 

 六花に言われ、絢瀬は倉敷の攻撃を防ぎ続けている爛の顔を見る。すると、爛は死ぬかもしれない状況にいるにも関わらず、笑っていた。

 

「わらっ・・・てる・・・?」

「ホント、上をよく目指すよ。爛は。強いやつと戦いたい。そんな思いで、爛は戦ってると思うよ。」

 

 六花がここ最近で、爛が戦いで笑っていることはほぼなかった。けど、爛はこのとき、強い敵と会えたことに笑みをこぼしていたことを見逃さなかった。

 

「ねぇ、綾辻さん。僕達は気になることがあったんだ。」

「え?」

「本当に、『最後の侍』は無念のなかに沈んだのか・・・。綾辻さんは、あの男が来なければとか思ってなかった?」

「そうだ!あの男さえ来てなければ、ボク達は幸せに居れたに違いない!父さんだってきっとそれを望んでる!」

「・・・でもそれは、綾辻さん主観の話でしかないよね。」

「え?」

 

 六花達はずっと気になっていた。何故、あの有名な『最後の侍』が、無念のなかに沈んでしまったのか。あの男が居たからなのか?何が、『最後の侍』を沈めっていったのか。考えても答えはでない。でも、絢瀬の話を聞く限り、それは、絢瀬の主観の話でしかなかったのだ。本当の意思は?誰にもわかることはないが、それに近いことを考えることは可能だ。そして、何よりも大切なのは、彼が剣士であったこと。そこで、六花達は気づいたのだ。本当はどんなことだったのかと。

 

「前は剣の世界で、栄冠を欲しいままにしていた剣士が、ただ何事もなく朽ちていくことを、望んでいたのかな?確かに、それは人それぞれ。でも、海斗さんはそれでも、綾辻さん達に剣を教えていた。それは、何のため?剣を教えるだけかい?」

「!」

 

 六花から言われたことに、絢瀬はあることを思い出していた。海斗から、すべてを通して必ず教えられていたこと。

 

『いいか絢瀬。どんなときにも、誇り高さを忘れるな。俺達の剣は人を殺せる力だ。お前達の異能は人を超えた力だ。だからこそ、誇り高さを忘れちゃいけない。そいつをなくしたら、それはただの『暴力』だ。常に礼節を重んじ、弱きを助け悪を憎め。決して力に溺れることなく、どんな相手にも正々堂々立ち向かえ。他人にも、自分にも、恥じることのない騎士になれ。』

 

 それが、海斗から言われ続けていた言葉だった。だからこそ、倉敷が道場破りに来たときは、言われた通りに倉敷を憎んだ。そう、悪を。ただそれは、ある一つの間違いを起こすことになる。倉敷の剣には誇りもなにもない。確かにそうだ。でも、倉敷には求めていたことがあった。それは、強者。強者を求めて、戦い続けてきた人間だ。そしてそれは、海斗にとって光とも言えるようだった。

 

「確かにあの男には何の誇りもない。でも、海斗さんは、ただ朽ちていく自分に、価値を見いだしてくれた相手に、何もせずに帰すのかい?確かにしてはいけないことだ。でも、それは剣士としてのプライドが海斗さんを、戦いの場へ導いてくれたんじゃないのかい?たとえどんなことでも、剣士として、自分の強さを、価値を。」

「っ・・・。」

 

 六花の話を聞いているうちに、絢瀬の瞳からは涙が流れていた。

 そうだ、確かにあの時、彼は笑っていた。倉敷との戦いで。自分の価値を、彼は見いだしてくれたんだ。

 そう考えていると、何故だか、彼が正しいと思うようになってしまう。

 いけないことはわかってる。でも、剣士としてのプライドが、彼の支えになったんじゃないのか。だとすれば、自分の考えはなんだったのだろうか。剣士として、何もわかっちゃいなかった。

 絢瀬は剣士として、何もわかっていないことを痛感した。今戦っている二人も、そして、自分の父も、戦いに楽しんでいるのだ。強い敵がいると言うことを知り、その強い敵を超えていくと言う思いで。

 

「ボクは何も分かってなかった・・・。剣士としての心も、戦いでの考えも・・・。何も・・・。」

 

 絢瀬は膝を崩し、泣き崩れた。リリーは絢瀬を励まそうと、絢瀬の肩に手を伸ばす。すると───、

 

 バキィ!

 

 道場の板が二人の霊装が突き刺さっているために、その部分が破れたのだ。二人は肩で息をしながら、笑いあっていた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・、おいしぶといってのにも限度があるぞ。」

「あいにく、俺も負けず嫌いなもんでね・・・。それに、剣でここまで楽しくなったことはなかったからな・・・、止めるのができなかった。」

「楽しいか・・・、ハハッ。テメェも案外イカレてやがる。」

「それはお互い様だろう・・・。」

「それもそうだなっと!」

 

 倉敷は言葉をいい終えると同時に爛の刻雨を払い除けるように自分の手元に戻す。そこで、六花達は倉敷の弱点に気づく。

 

「それが弱点!」

「《神速反射》は速い代わりに、スタミナの消耗が激しい!となれば、マスターに勝機はある!」

 

 そう、体力が人一倍減っていくのだ。速く動く代わりに体力を多く使うため、疲労スピードが速いのだ。

 

「ふぅ・・・、中々楽しかったけど・・・、次で終わりにしよう。倉敷。」

「さっさと終わらせるか・・・!」

 

 爛が倉敷にそう言うと、倉敷は最大級の一撃を繰り出すために構える。爛は絢瀬の方に視線を向ける。

 

「絢瀬、この一撃で、この道場を、二年間を取り戻す!」

「ッ!」

 

 爛は絢瀬にそう言うと、刻雨を構え、構えたまま、走り出す。負けを覚悟の特攻か、それとも別の何かか。すると、爛は刻雨を振り上げ、降り下ろし、刀から腕までをまっずくに伸ばし、走ってくる。

 

(こいつは・・・!あの時、オッサンが最後にオレに見せようとした・・・!)

 

 倉敷は爛がしようとしていることに確信を持つ。単なる特攻ではない。倉敷の心は燃え上がる。倉敷が求め続けたもの、それは、これだった。彼が入院から立ち直り、自分にこれを見せに来るのか、それとも、絢瀬が彼と同等の剣を持ち、自分に挑んでくるのか。倉敷はその時を待ちわびていた。

 

「《八岐大蛇(やまたのおろち)》!!!」

 

 倉敷は全力をもって、爛に対抗する。一瞬にて同時八点連続攻撃を可能にする伐刀絶技(ノウブルアーツ)。しかし、爛は臆することなく突き進む。二人が交錯するとき、倉敷が叫んだ。

 

「待ったかいがあったぞ!二年間!!!!」

 

 そう叫び、二人の体が交錯する。そして、血を流したのは───、

 

「ガッ・・・。」

 

 倉敷だった。胸に左からの袈裟斬りが、綺麗に刻み込まれていた。

 

「ッ!!間違いない!今の技は・・・!」

 

 絢瀬は目を見開く。今、爛が使った技は、あの時、海斗が見せてくれた。まだ未熟な自分に、その技を教えてくれていた。

 

「最終奥義───《天衣無縫(てんいむほう)》!!」

 

 ーーー第39話へーーー

 

 




ふぅ、書き終えました!爛VS倉敷、終了です!

次回は次の章に入る話とこの決着の続きの話になると思います!やはり、天衣無縫のところはかっこいいと僕は思います!(単なる感想)

それでは、次回をお楽しみに!


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第39話~取り戻した思い出の場所~

今回のあらすじ
倉敷との戦いで、勝利を取った爛。無事に道場も返してもらい、爛のことを労る六花達。すると、爛の生徒手帳からは第十四回戦目の相手を知らせるメールが来ており、それは、爛を苦痛へと誘う戦いの鐘だった。




「どうして、宮坂君が・・・。」

 

 爛が綾辻一刀流の最終奥義である《天衣無縫(てんいむほう)》を放つことができたのか、謎でしかなかった。すると、爛が口を開く。

 

「ただの真似事だ。」

「え?」

 

 真似事なのか、絢瀬から見れば完璧に近いほどのものだった。なのにこれが、真似事でしかないのが驚きなのだ。

 

「ホント、ただの真似事だし勝手に編み出したんだけどね。綾辻一刀流の根本を絢瀬の動きで見て解いただけなんだ。」

「何、一輝の《完全掌握(パーフェクトビジョン)》みたいなのは。」

「まぁまぁ、六花さんも分かろうと思えば分かりますから。」

「それ、フォローになってないような・・・。」

 

 爛が言ったことは、ほぼ一輝の戦術に近い。ただ、精度や技術を重ね合わせると一輝の方が上だ。

 

「ガアァァァァァァ!」

「ッ!」

 

 倉敷は倒れることなく、雄叫びをあげながら、立ち上がる。倒れるつもりはないのだろう。荒い息をしながら、爛の方を向く。

 

「・・・テメェの名前は?」

「・・・宮坂爛。」

「ミヤザカ・・・。」

 

 倉敷は霊装を解除すると、道場の出口に向かっていく。

 

「この続きは七星剣武祭でだ。行くぞ。」

「あ、待ってくれよクラウド!」

 

 倉敷は道場を出ようとする。道場は綾辻の元に返ってきた。それに、倉敷の目的も達成された。・・・もう、用はなくなったと考えていいだろう。

 

「クラウド!」

「クラウドが倒れた!」

「救急車を呼べ!」

 

 道場から倉敷の姿も消えたところで、倉敷の取り巻きが叫んでいる。

 

「弱ってるところは人に見せない・・・、か。」

「それをいったら、爛もでしょ。」

「うわっ。」

 

 爛は倉敷のことを言うと、六花から足払いを受けた。避けることはしなかったため、尻餅をついた。しかし、動けないことは爛も同じだ。

 

「まったく、勝てる見込みがあるのなら、すぐにやればよかったのに。」

「無茶言わないでくれ。元々は海斗さんの剣技。そう易々とは編み出すことはできない。それに、ぶっつけ本番だったからな。そのままやってたら八つ裂きにされてたんだ。」

 

 確かにそうだ。爛が使えているのなら、すぐに使っているはずだ。しかし、ただの真似事でここまで至っていること事態が凄いことだ。

 

「綾辻さん、爛の手当を頼めるかな?こういうのは、道場の娘さんの方ができるだろうしね。」

「あ、うん。わかった。」

「僕は学園の方から車を手配してもらうよう連絡してくるから。」

「あぁ、悪い、助かる。」

 

 六花はそう言い、道場から出ていってしまった。

 

「マスター、私も六花さんのところにいきます。」

「そうか、わかった。」

 

 リリーも六花の跡を追うように、道場から出ていってしまった。道場の中にいるのは爛と絢瀬のみ。絢瀬は爛の傷を手当しながら、涙を流していた。

 

「ごめんね、宮坂君。」

「いいんだ。絢瀬が謝るようなことじゃないだろ?」

「でも・・・。」

 

 絢瀬はそれは違うと爛に言おうと、俯かせていた顔を上げると、爛が傷ついた体で絢瀬を優しく抱き締めた。

 

「謝らなくていい。絢瀬はこれを今まで、ずっと自分の中に隠してたんだろ?海斗さんや道場のみんなを失ってから、ずっと。でももういいじゃないか。こうして道場も返ってきた。なら、もう固めていた物を・・・、溶かしてもいいだろ?」

 

 その声が、絢瀬の氷のように固まってしまった心を溶かしていった。何かが溢れるように絢瀬も爛を抱き締め、泣き出した。爛は絢瀬を抱き締めながら、頭を優しく撫で、絢瀬の傍に居た。

 絢瀬は泣き止むと、爛を抱き締めたまま、眠ってしまった。爛は自分の体に包帯を巻くと、絢瀬を頭を自分の膝の上にのせ、撫でていた。

 

「爛、連絡してきた・・・よ?」

「マスター?」

「ん?どうした?」

 

 六花とリリーが見た先にあるのは、絢瀬に膝枕をしている爛の姿。二人にとっては考え物だ。

 

「何を・・・、しているの?」

「何って、絢瀬が泣いて寝ちゃったから膝枕をしてるんだけど?」

「する必要性は?」

「あるだろ。絢瀬はこれまでのことをずっと耐えてきた。しかも二年間。なら、労らないとじゃないのか?」

 

 爛の言っていることは正しい。それを聞いた六花とリリーはため息をつく。

 

「今回だけだからね。」

「後でしてくださいね。」

「お前ら二人になら、頼んでくれたらやってやるぞ?」

 

 爛はそう言うと、ニカッと二人に笑顔を見せた。すると、二人は頬を赤くする。

 

(どこで顔を赤くする要素があるんだか・・・。)

 

 爛は二人を見ると、苦笑いをしながらそう思った。すると、道場の外から走ってくる音が聞こえてくる。迎えだろうか。

 

「爛ーー!!大丈夫!?」

 

 そう思っていると、爛のところまで一気に駆け寄り、爛に飛び付いて、抱き締めてきた。

 

「香姉?香姉が迎えに来たのか?」

「そうだよ!爛が斬られたって黒乃ちゃんが言うから心配したんだよ!」

「そんな心配ならなくても・・・。取り合えず、退いてくれ。絢瀬に膝枕してたんだから。」

「ご、ごめん。」

 

 爛が苦笑いをしながら香にそう言うと、香は謝りながら爛から離れていなかった。幸い、絢瀬は頭を打つなどもなく、まだ眠っていた。

 

「よし、戻るか。」

「でも、綾辻さんどうするの?」

「それは簡単な話だ。」

 

 爛は立ち上がると、絢瀬のところのに行き───、

 

「こうやって運ぶ。」

「「・・・・・・」」

 

 絢瀬をお姫様だっこの状態にした。すると、二人の目のハイライトが一瞬にして消え去っていった。爛はその事に内心冷や冷やしながらも、学園に戻っていった。

 

──────────────────────

 

 そして、一週間たったある日。絢瀬と研鑽していた場所のベンチに座っている爛達。すると、六花が呟く。

 

「綾辻さん、自分から不正をしたことを実行委員会に言いにいったらしいね。」

「あぁ、選抜戦のエントリーは抹消。十日間の授業参加を禁止の処分。まぁ、俺がいたから、まだこの程度だったんだろう。」

「そうですね・・・。それでも、絢瀬さんは・・・、」

「あぁ、前を向いて歩いていけるだろう。」

 

 もう大丈夫だろう。後は海斗のことがある。すると、爛の生徒手帳に電話の着信がある。

 

「ん?絢瀬?」

「え、絢瀬さんから?」

 

 爛が電話に出ると、聞きなれない声が聞こえてくる。

 

『宮坂爛君かい?話は絢瀬から聞いているよ。早速絢瀬と結婚して道場を継いで』

 

 言葉の途中で何故かものすごい打撃音が聞こえたのは気のせいだろうか。声的に海斗のものであると爛は気づく。

 

『ごめん、宮坂君!父さんが変なこと言ってしまって・・・。』

「いや、ダイジョブ。ただ、オドロイタダケダカラ。」

「マスター?片言になってますよ?」

 

 いきなりの出来事に流石の爛も驚いたのだろう。片言で絢瀬に話していた。

 

『二年ぶりに起きたと思ったら、いきなり宮坂君に何してるのさ!!』

 

 電話から父と娘の喧嘩が。いや、喧嘩と言うより絢瀬は照れ隠しなのだろう。

 

『はははっ。そんな照れ隠ししなくてもいいのだぞ?お前が宮坂君の話をしているときの顔は母さんが父さんにのろけていた頃の顔にそっくりだからな!』

『うわぁああ!!うわぁぁああぁあぁ!!そんなことじゃなくて宮坂君に礼を言うために電話をーーー!!』

 

 なんだこの言い合い。海斗が勝っているように感じてしまう。と言うか、最悪の場合実力行使が来るかもしれない。

 

『好きなら好きでいいじゃないか。父さんだったら二人の仲人も───』

『もう二年くらい寝てろーーーーーー!!!』

『ぐふ・・・、・・・かは・・・。』

 

 ホントに実力行使だった。海斗をベットに倒れさせる姿は赤面しながらのものだろう。よくそんなことができると爛は思ってしまう。

 

『ご、ごめんね宮坂君!ありがとう!それじゃ、さっきのことは忘れてね!』

 

 そう言うと、電話を絢瀬は切ってしまった。すると、爛は生徒手帳をしまうと、遠い目しながら呟いた。

 

「何だろう・・・。意外と海斗さんは生きてたんじゃないのか・・・?そんな感じに思えてきたぞ・・・。」

「奇遇だね、僕も同じことを思ってた。」

「そうですね・・・。」

 

 六花もリリーも同じように遠い目をしながら話していた。

 

「それにしても、まさか一輝達が来ないなんてな。」

「そうだね。・・・やっぱり、人数がいないから少し寂しいね。」

「珠雫さん達も居ませんしね。」

「そうだな・・・。」

 

 三人が会話していると、爛の生徒手帳がまた鳴り始めた。爛が生徒手帳を開くと、そこには選抜戦の件が来ていた。そして、爛の第十四回戦目の相手は───。

 

「宮坂爛様、選抜戦第十四回戦は一年四組、黒鉄珠雫様に決定しました。」

「嘘・・・だろ・・・?」

 

 爛は目を疑った。いや、疑うしかなかった。爛にとって明の次に当たりたくなかった相手、珠雫が相手になっていた。

 それはもちろん、一輝達のところにも来ていた。一輝達のところでは一輝の実力に物を言う連中も居なくなり、平穏な日々を過ごしていたのだが・・・。

 

「そんな・・・、珠雫が・・・、爛と・・・?」

「ウソ・・・。」

「本当よ。今頃、爛のところでもこうなってると思うわ。何よりも当たりたくなかった一人でもあるもの。」

 

 一輝とステラも疑っていた。爛が珠雫と当たることに。つまり珠雫は、全力で爛を潰しにかかる。爛は珠雫を斬ることができるのか、分かるというわけではない。だが、斬ることを躊躇うことはあるだろう。そう考えるしかなかった。そして、珠雫が負けてしまうことでもあると、予言しているようでもあった。何せ、破軍学園の最強を破ることができるほどの力を持っているからだ。

 ここは爛達と同時刻。ここではある一人の少女が大人数を相手に戦っていた。普通ならば大人数の方が勝つはずだ。しかし───、

 

「嘘だろ・・・。本当に勝っちまった・・・。」

 

 訓練場に居る破軍の生徒を相手に、五十人VS一人と言う戦いをしてくれと言ってきたのだ。それにはほんの少し、灸を据えようとしていただけだった。しかし、結果は全滅。たった一人に、水使いの一人に誰も触れることも攻撃することも叶わなかった。ただ、立っているのは『戦鬼の剣帝(アナザーワン)』の妹『深海の魔女(ローレライ)』・黒鉄珠雫ただ一人。

 

「全然足りないわ・・・。」

 

 ここのフィールドに立っている一人の魔女、珠雫はそう呟いた。正直、珠雫は失望していた。破軍はこんなにも弱くなっているのだろうかと。それを言えるくらい、破軍は弱者のたまり場となっていた。足りるはずもない。

 

「でも、貴方は違うわよね・・・。」

 

 珠雫が生徒手帳のメールを見た先には、対戦相手の知らせ。

 

「黒鉄珠雫様、選抜戦第十四回戦は一年一組、宮坂爛様に決定しました。」

 

 そう、爛が相手。最強を破った新たな破軍の最強がこの魔女の相手なのだ。つまり、珠雫とっても、全力を出すことができる相手でもある。

 

(こう言うのは、お兄様譲りなのかもしれないわね・・・。)

 

 ようやくだった。ようやく、全力を出せる。

 ようやく───壊すことのできる相手が居る。それも、目の前に。

 ここは冷たいはずなのに、体からの熱が止まらない。全力で戦えることのできる相手が居ると言うことに、興奮が止まる気配がない。

 

「ふふふ、あはははは。」

 

 全力で戦える相手、そして興奮の熱が、彼女を次なる戦いへと進んでいく。

 

 ーーー新章・第40話へーーー

 

 




はい、第39話終了でござんす!

そして、次回!新章突入!
爛と珠雫の戦いです!いやぁ、早いなにしてもw

それと報告をば、4月から更新ペースがぐぐぐと結構下がります。正に一ヶ月に1話のスピードで。更新ペースはなるべく早くするので次回を首を長くしてお待ちください!

それでは、次回をお楽しみに!



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決意の章~七星剣武祭代表選抜戦~最弱と最強の剣
第40話~迷いの剣~


今回のアラスジ。
珠雫との戦いが来てしまったとき、爛は珠雫と戦うべきなのかと考えてしまう。そして、珠雫との戦いのとき、爛は珠雫を斬ることができるのか。それとも、ここで辞退するのか。その二つの考えはどちらも爛の心を揺さぶっていた。




 珠雫との選抜戦が当たってしまった。それ以降、爛の目には生気が宿っていなかった。

 何故───?

 その理由は他でもなく、分かるはずのものだった。

 そう、つまり、珠雫と試合(殺し合い)をするからだった。選抜戦は実像形態で行うもの。つまり、生と死の駆け引き。その駆け引きを制したものが、次の戦いへと駒を進める。

 今の爛には、その駆け引きを楽しもうとする様子ではなく、寧ろそれを恨むような形になっていた。

 そして、珠雫との戦いの前、爛は外にいた。生気を宿さずに、ベンチに座っていた。

 

「・・・・・・」

 

 爛は何も言わずに、ただただ空を眺めていた。何一つ怪しくもない空を。羨ましそうに、爛は見ていた。

 珠雫との戦いの時間が迫っているのを見ると、爛はベンチから立ち上がり、そのまま歩き出す。

 

「・・・・・・」

 

 背後から何かを感じ取った爛は、後ろを振り返り、固有霊装(デバイス)を顕現する。爛の手に顕現されたのは真っ赤な装飾で、まるで血がついたような刀を握っていた。

 すると、爛の目の前に白銀の剣が現れた。爛はそれを軽く流すと、あることを考える。

 

(今のは・・・。いや、彼女があんなはずがない。)

 

 しかし、すぐにその考えを否定する。

 どこからともなく襲いかかる攻撃を、見えているかのように避けていく爛。だが、避けているだけでは、珠雫との戦いの時間に間に合わなくなる。つまり、ここから離れるか、それとも一瞬にして相手の意識を刈り取るのか。

 爛は離れる方を選び、霊装を解除した途端、攻撃の量が増えていく。

 

「チッ・・・。」

 

 爛は舌打ちをしつつも、攻撃を避けていく。しかし、次に避けた攻撃はその次の攻撃を避けることができない。霊装の権限時間を含めると、防ぐことも叶わない。つまり、攻撃を受けることしかなかった。

 

「くっ・・・。」

 

 爛の左腕が斬られていく。血を吹き出しながらも、後ろに下がっていき、魔力で治療をする。ただ、魔力で治療したとはいえ、応急措置。つまり、珠雫との戦いが終われば、腕の治療をしなければならない。

 爛はそんなことを考えつつ、追手を警戒して、破軍の中へと入っていった。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」

 

 腕を斬られたことのダメージが大きいのか、荒い息をする爛。しかし、すぐ後には珠雫との戦いが控えている。すぐに待機室に向かわなければならない。

 待機室に向かう、すぐに第十四回戦が始まる。休んでいる暇などはなかった。

 

「・・・考えたくもない・・・。」

 

 爛はその一言と共に、ゲートの方へと向かう。

 爛達が戦う場所に来ていた観客はほぼ全員だ。それもそうだろう。爛は最強の一角、愛華を下したのだからだ。つまり、Bランク相当の力の持ち主。それに対する珠雫も同じようにBランク。激戦が期待されることでもある。

 

『さぁ、やって来ました!注目の一戦!選抜戦、第十四回戦目の第十二戦目。誰もが望んでいるであろう戦いの一つ!その戦いが、今!ここで、行われようとしています!実況は月夜見三日月。解説は・・・あれ?どちら様ですか?』

 

 月夜見が見た先には、ここに来るはずの寧々ではなく、香や黒乃でもない女性だった。

 

『どうも。理事長ちゃんから言われるまま、解説の代理を任された、『葛城椿姫(つばき)』です。よろしくお願いしますね。』

 

 爽やかなスマイルと共に自己紹介をしたのは、六花の姉である椿姫。KOKリーグではAランクにて、日本人初の一位を獲得した伐刀者(ブレイザー)。流石の妹である六花も驚きでしかなかった。

 

「お姉ちゃん来てたんだ・・・。」

「ツバキさんまで!?」

「ステラ、はしゃぎすぎだ。」

 

 六花は驚きながらそう言い、ステラはまたもや有名な伐刀者と会えたことにより、興奮していたが、颯真がステラに興奮しすぎだと言う。

 

「でも、どうしてここに椿姫さんが来てるんだろうね?」

「さぁ?また爛にでも聞いてみたらどうかしら?」

「そうだね。また、爛だけが知ってそうだしね。」

 

 驚いていない方は、どうして椿姫がここに来ているのかを考えていた。

 そして、各ゲートの扉が開かれ、選手の説明に入る。

 

『さぁ、赤ゲートからやって来たのは、あの『戦鬼の剣帝(アナザーワン)』の妹であり、Bランクの実力を持つ選手、『深海の魔女(ローレライ)』、黒鉄珠雫選手です!今回の戦いも、相手を深海に引きずり込み、無傷の戦いをするのでしょうか!』

 

 珠雫が姿を現す。その目には決意を決めてきた目だった。自分が斬られる覚悟も、斬る覚悟もしてきたと見てとれる。

 

「珠雫は、覚悟してきたんだね。」

「そうみたいだな。後は爛だが・・・。」

「明ちゃん?」

 

 珠雫の様子を見て、最高のコンディションで来て居るということに、一輝と颯真は期待できると思ったが、六花が明の様子がおかしいことに気づく。明は顔を俯かせ、悲しい表情をしていたからだ。

 

(お兄ちゃん・・・、大丈夫だから、絶対に来て・・・。)

 

 明は爛のことを心配しており、爛がこの戦いの場へと来るのかどうか、不安だったのだ。

 しかし、実況はそのまま青ゲートの解説に入る。

 

『次は青ゲートから来た選手の登場で───、ってあぁ!』

 

 実況席からは驚きの声が上がる。何事かと、実況席の方を見ると、月夜見は少し震えながら誰かを見ていた。月夜見が見ていた先には、左腕を失った爛が、血をポタポタと溢しながら歩いてくる姿だった。

 これには観客席にいる生徒達も、一輝達も、そして、爛の相手である珠雫も驚きの表情をしていた。

 

『こ、これは・・・!』

「いいんだ。」

 

 試合を中断しようとしたのを、爛は声で止める。何かの感情が含まれた声で言った。どんな感情かは表すことが難しい。悲しいような、寂しいような、それでも、何となく楽しそうな、嬉しそうな表情だった。

 

「この状態でいい。続けてくれ。」

 

 爛は俯いたまま、そう言った。つまり、ハンデを背負った状態で、しかも剣術家にとっては大事な腕を失った状態で戦うというのは相当不利なものだ。

 

「爛さん!いくら貴方でもその状態では───」

「だから、いいんだ。珠雫。」

 

 珠雫はこれを中断するべきだと考えている。確かに、この状態であれば、いくつか珠雫は有利だ。しかし、それは自分自身の心が許さなかった。だが、それも爛は止めた。何故なのか。何故あそこまで止めようとするのだろうか。

 

「止めなくていい。俺がこれを言ったのは、一つだけ、ある思いがあったからだ。」

 

 爛は珠雫に優しい微笑みを見せると、珠雫だけにしか聞こえない声で───

 

「─────────────。」

 

 珠雫にそう言った。そう、珠雫だけに。珠雫は言葉を失った。彼の言った言葉は負けてもいいと言っているようなものだったからだ。それとも、幻想形態で戦うつもりなのか。

 

「・・・分かりました。」

「あぁ、すまない・・・。こんな俺のわがままを聞いてくれて。」

「良いんです。お兄様が認めた人なのですから。」

「そんなことを言ってくれてありがとうな。・・・じゃあ、続けてくれ。頼むよ。」

 

 この時、誰もが爛の変化に気づくことはなかった。爛の左目が少しずつ、赤くなっていることに・・・。

 

『分かりました。ただし、宮坂さん。左腕の傷口が開いたりしたら、すぐに中止しますからね。』

「悪いな・・・、助かるよ。」

(え・・・?何だったの、今の・・・?)

 

 爛から、圧倒的な何かを感じ取った。ただ分かることは、彼が意図的に放ったものではないということ。無意識の内に放っているとしたのなら、何かが爛の身に起きようとしているのだ。

 その違和感を、爛本人は感じ取っていた。

 

(何だ・・・?この感覚は・・・?あの時とは違う・・・、この感覚は・・・?)

 

 自分を染め上げていくような感覚。何かに取り込まれる感覚が、爛を襲った。

 

『それでは、十二戦目を開始します!』

「飛沫け。宵時雨(よいしぐれ)!」

 

 珠雫は小太刀を顕現し、逆手で持ち、構える。

 

「闇よ、光を侵食せよ。雷黒鳥(らいこくちょう)。」

 

 爛は真っ黒な装飾が施されている刀・・・、雷黒鳥を顕現する。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 そして、戦いが始まった。

 戦いが始まったものの、どちらも動く気配はない。相手を睨むように観察しているのだ。

 

『っと・・・、どうしたことでしょうか。両者一歩も動きません。』

『互いに七星剣王クラスの実力者ですからね。下手に動いてしまえば、あっというまに倒されるでしょう。』

 

 爛が踏み込もうとした瞬間に、珠雫もすぐさま動く。

 

「凍てつけ、〈凍土平原(とうどへいげん)〉───!」

 

 珠雫は伐刀絶技(ノウブルアーツ)でフィールドの凍らせることで、爛の踏み込みを阻止、爛はすぐに右側に跳躍する。

 

「っ!」

 

 足が滑る───。爛が見た先には、足元が凍っていた。しかし、対処法を考える隙も珠雫ならば与えるはずもなく、爛の目の前に、頭一つすっぽりと入る水の塊が目に入る。

 

(珠雫の水は雷が通用しないことは知ってる・・・。だけどな・・・。)

 

 爛はそのまま、珠雫が飛びしてきた水の塊に、雷黒鳥を振るう。雷黒鳥が水の塊に当たる瞬間、水が蒸発していく。

 

「ん?」

 

 爛は自分の足が動かないことに気づく。自分の足が珠雫の作る氷に捕まえられてしまったのだ。

 

(流石、珠雫だな。戦略はたててあったか。)

 

 爛はそう思うと、雷黒鳥を構えつつ、雷の力を足に集中させる。すると、氷が徐々に溶けていき、動ける状態になった。

 すると、この戦いを見ていた一輝達は二人の戦いを見ていた。

 

「互角・・・?」

「・・・・・・」

(互角か・・・。)

 

 ステラは少し疑問になりながらも、爛と珠雫との差はなく、互角に思えていた。無論、一輝でさえ、互角とも思っていた。爛が左腕を失った状態での戦いは、爛の戦闘能力を下げることでもある。

 そして、別のところで見ていた刀華達、生徒会組は二人の戦いを見ながら話していた。

 

「互角だね。手を抜いている状態では。」

「そうですわね。しかし・・・。」

「うん。爛君はまだ本気でもない。ましてや、こんなところで本気になることはまずないからね。」

「となると・・・、互角じゃなくて、大差がもうついているってわけだね。」

「そろっと動いてくると思うよ。完璧なものが、あの子を襲うことになるから・・・。」

 

 ーーー第41話へーーー

 

 




珠雫戦です!まだ続きがありますが。アニメとかはすごい迫力でしたね!見たときなんかはスゲェ!となりましたが。

珠雫の霊装を顕現するところのモーションはプリキュアとほぼ同じと思った方は、私だけではないはずだ。

ということで、次回をお楽しみに!



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第41話~無の栄光~

コンカイノアラスジ・・・。
爛と珠雫の戦い。珠雫は自分の頭に何かが流れ込んできていた。それは、爛からのもの。それを爛に聞こうとするが、爛は彼ではなくなっていた。




 刀華達の会話の後、爛が動き出そうとする。珠雫も爛の動きに対応できるようにするのだが・・・、

 

「ッ!?」

 

 一瞬にして爛に間合いを詰められる。爛はそのまま、固有霊装(デバイス)雷黒鳥(らいこくちょう)を珠雫に振るう。

 珠雫は宵時雨(よいしぐれ)で爛の雷黒鳥を受け止めるが、力量の差は歴然。力に押し負けて、後退させられる。

 

「・・・?」

 

 珠雫は自分の頭の中に何かが流れ込んでいるのに気づく。どんなものが流れているのは分からない。ただ分かることは、爛が雷黒鳥を振るい、その振りを受け止める度に、流れ込んできているものが、分かってくる。

 

 命とは───・・・

 

 それだけしか分からない。続きが流れることなどなかった。珠雫は疑問に思った。何故、自分だけにしか来ないのだろうかと。そう考えるしかなかった。

 

「爛さん。」

「・・・・・・」

 

 声をかけるも、爛は返さない。

 

「爛さん?」

「・・・・・・」

 

 聞こえていないのだろうか。

 そう思った珠雫は後で爛に聞こうとする。しかし・・・

 

「命とは───、生きる物の為にある───。

 故に───、選択肢はその物にある───。

 だからこそ───、考えは違う───。

 生きる物と───、生きない物───。

 それは───、運命か───。

 それとも───、自分の意思か───。

 決めたことか───、それでもない───。

 この定め(人理)が決めたもの───。

 無の栄光よ───、世界に轟け───。

 その光はーーー、全てを覆すーーー。」

(マズイ!今のマスターは・・・!)

 

 爛は珠雫に流れ込んできていたものを詠唱する。

 そして、リリーはいち早く、爛の異変に気づき、二人のいるフィールドに飛び込む。

 

「リリー!」

「リリーさん!」

 

 ステラと一輝の声も聞かず、フィールドに駆ける。そして、続くように一輝達も走り出す。

 しかし、そこにはアリスだけ残った。

 

「良い感じになってるわね。後は・・・、あれだけかしら。」

 

 アリスはそう呟く。そして、一輝達を追う。

 爛のところでは、爛が雷黒鳥を真上に上げ、力をためていた。可視化される力は、光と闇。相反する力が重なりあい、大きな力となる。

 

「全てを覆した先は───、望む物か───。

 それとも───、違う物か───。

 否───、たった一人が望む物───。

 それが───、無の世界───。

 代理の鍵よ───、その門を───、

 切り開け───。」

 

 爛は一歩踏み出す。その右目は、灰色の目をしていた。

 

「《化物が望む世界への喪失した宝庫の鍵(スペア・ワールドブレイズトレース・キー)》!!!!」

 

 降り下ろすその刃は、全てを切り裂く赤い刃へと変わっていた。その刃を降り下ろす姿は、全てを───、

 

『失っているように見えた───。』

 

 

 珠雫はその姿に恐怖した。その刃を受け止めたら───、

 何故か───、

 

 

化物()の考えを否定することができないように感じた。』

 

 

 逃げなければならない。逃げなければ。だけど───、

 逃げられない───。

 すると、珠雫の視界に一人の影が映った。そしてその瞬間、珠雫の視界が揺れる。そして、何かに抱えられている感覚がした。珠雫を抱えていたのは───、

 

「お兄様!?」

「大丈夫かい?珠雫。」

 

 一輝だった。一輝は抱えている珠雫を降ろし、爛の方を向く。

 

「爛・・・。」

「爛さんは・・・。」

「リリーさんの言ってた通りだ。爛は・・・。」

 

 一輝は俯き、爛から目を背けていた。そして、降り下ろされている中で、一人だけ、爛の射程内に居た。

 

「光の聖剣よ、今ここに顕現せよ。カリバー。」

 

 リリーがカリバーを構えて、爛の前に立っていた。そして、リリーの持っているカリバーに光の粒子が集まっていく。

 カリバーを振り上げ、詠唱する。

 

「光の聖剣よ───、闇を切り裂け───。

 あるべき物へと───、変える───。

 闇の世界を───、照らせ───。

 全ての物に───、新たな───、

 未来を切り開く───!」

 

 爛の詠唱より短いもの。しかし、その詠唱だけでも、大きい力はカリバーに宿っていた。

 リリーが一歩踏み出す。それだけで、周りの空気が一輝達を強く打つ。

 

「《未来を切り開く最強の聖剣(エクスカリバー)》ァァァァァァァァァァ!!!!」

 

 光の剣が、爛に降り下ろされる。そして、爛の剣とリリーの剣がぶつかり合う。

 しかし、どちらともほぼ最強の力。ぶつかり合えば、周りの空気が観客、一輝達を強く打つ。

 《化物が望む世界への喪失した宝庫の鍵(スペア・ワールドブレイズトレース・キー)》と《未来を切り開く最強の聖剣(エクスカリバー)》。どちらも詠唱付だ。ステラの《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》でさえ止められるかどうか分からない。つまり、破軍学園最強と言っていいほどの力を持つ爛と、最強の聖剣であるリリー。どちらも最強同士の激突。止められるわけがない。

 

「くっ・・・うぅ・・・。」

 

 おされ出したのはリリーの方だ。普通ならば、爛はここで止めるはずだ。しかし、止めることなく、リリーを斬ろうとする。

 

「リリーちゃん!逃げて!」

 

 明が叫ぶ。確かに、リリーは逃げなければならない。そうしなければ、実像形態で伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使っている爛に斬られてしまう。つまり、殺されるということ。おされている状況では、逃げなければ、爛に殺されるのは時間の問題。だが、リリーは逃げるということをしなかった。

 

「マス・・・ター!答えてください!何故、攻撃するの・・・ですか!?」

「黙れ。貴様らに答える筋合いなどない。潔く死ぬと良い。」

 

 その言葉を聞いたとき、誰もが爛から目を背けた。

 いや、背けたのではない。背けるしかなかったのだ。自分達が知っている爛と、今の爛がどれだけ違うのか。そして、何故、爛の異変に気づくことさえできなかったのか。それは、リリー以外、誰もがそう思った。

 

「それでも・・・、くっ・・・、マスター!私とマスターの・・・、契約をしたときの、あの時の合言葉を・・・、お忘れですか!?」

「知らん。そこまでして知りたいというのならば、貴様のマスターである(幻想の化物)にでも聞いてみると良い。」

「なっ!?」

 

 彼が、幻想の化物・・・?

 リリーは言葉を失った。爛の・・・、いや、彼の皮を被った奴には、それは知らない。リリーと爛が契約を交わしたとき、そして、戦いの中でも、別れの時でも、彼は契約を交わしたときに決めた合言葉を、リリーに言っていた。「お前を、俺は絶対に忘れない。」と、そう誓ってくれた。それなのに、彼は・・・、変わった。

 

「知らんといったはすだ。つまり、貴様らを覚えているなどと口にすることは絶対にあり得ない。そして、万物の宝庫へと沈むと良い。」

(負けられない・・・!終われない・・・!マスターとの約束は・・・、何があっても守り続ける・・・!マスターがこんな私に愛情を注いでくれるのも・・・、私に笑顔を見せてくれることも・・・、すべては、あの契約と、合言葉が始まりだったんだ・・・。だから・・・、今のマスター・・・、いや!マスターを幻想の化物の罵る貴様を許すわけにはいかない!!)

「星に誘われ───、二人が産み出す───、

 最古の世界───。そこに居るは───、

 我一人───。全てを超え───、

 闇を照らし───、その二人は───、

 誰にも屈しない───、絆を産む───。

 その力は───、全てを覆す───!」

 

 リリーの振るったカリバーが新たな力を纏い、彼の皮を被った奴に対抗していく。

 

「《遥か遠くに誓い合った揺るぎない絆(ロク・エヌストフラスリンク・ネオ)》!」

 

 リリーの可視化された光の剣が、爛の赤い刃より、何倍もの大きさにと変化する。

 

「くっ・・・。中々やるな。」

 

 リリーの《遥か遠くに誓い合った揺るぎない絆》には、今の彼が敵うはずがない。

 敵わない・・・、いや、敵わないはずだった(・・・・・)

 リリーの剣を弾き返したのだ。

 

「!?」

「だが、基本が甘すぎるそんな聖剣では、セイバーに示しがつかないぞ?」

 

 奴は、前からリリーが気にしていたことを言う。つまり、奴は自分だけの記憶ではなく、その器にもなっている()の記憶も利用しているということ。

 リリーは気に食わなかった。彼女の聖剣として居たときも、そして、今この時も。彼は「正義の味方とやらになったさ。」と、自分を使ってくれる主のマスターに、そう言っていた。そして、主のマスターの心を折ろうとしていた。

 けど、折れることはなかった。そして、主のマスター・・・、『衛宮(えみや)』は、奴に勝った。つまり、攻略法は見えている。

 

「何故、ここまで来たのですか、アーチャー。」

「アーチャー!?」

「アーチャーは、確か、英霊の一つのクラス・・・。」

「まさか、サーヴァントまでもが、この世界に居るとは思いもしませんでした。ですがアーチャー。我がマスターを返していただきたい。」

 

 その問いに、奴はフッと笑みをこぼした。その瞬間、爛の体は光に包まれ、爛と、もう一人の体が出てきた。爛はリリーがアーチャーと呼んでいた男に抱えられ、意識を失っていた。

 

「爛!」

「待つのです!リッカさん!今のマスターは、意識を失っている。今ここで動いてしまえば、マスターが殺される確率は跳ね上がる。」

「よく分かってるじゃないか。私の目的・・・、その作戦に参加したサーヴァント達はこの男を狙っている。ここで動けば、すぐにこの男を殺すことができるぞ?」

 

 アーチャーは、抱えていた爛を地面に捨て、左手に武器を持ち、爛を刺した。

 

「───ッ!!!」

 

 爛は痛覚により、意識が引き戻され、血を大量に流し始める。

 

「ガァァァァァァァ!」

 

 爛の叫びが訓練場に響く。訓練場には生徒達は居らず、爛の伐刀絶技により、全員が避難していた。

 そして、アーチャーがもう一つの武器で、爛の刺そうとしたとき、アーチャーが何かに吹き飛ばされる。

 

「何っ!?」

「ウチの義理の弟になにやってくれてるのかしら?」

 

 ーーー第42話へーーー

 

 




・・・・・・・・・・・

・・・何だろう。どんどん作品がfateとクロスしている。まぁ、作者がfateにハマってしまったからね!仕方ないね!

爛「仕方ないね!じゃないよ!あれだぞ!次回はもう一体のサーヴァントが出てくんだぞ!?その内聖杯戦争とかこの世界でやると可笑しなことにしかならないんだよ!そこをどうにかできないのか!?」

残念ながら、そんなことはできない!この世界で聖杯戦争を始める章が出てくるので、その時までは、多分ちょくちょく出るサーヴァントと、結構出てくるサーヴァントが居ると思うので、「あぁ、そういえば作者が聖杯戦争とか始めるとか言ってたな」程度で覚えてくれれば幸いです!

・・・というか、この作品の方針が・・・w

爛「変なことにハマリ過ぎだ作者。だから可笑しくなるんだよ。いっそのことfateの物語書けば良いじゃないか。」

残念ながら作者にそんな技術はない!まぁ、多重クロスとかは書けそうだけど。

爛「変な未来しか見えない・・・。まぁ、良いか!それでは次回をお楽しみに!こんな作者の作品に付き合ってくれている人!これからもよろしくな!」


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第42話~サーヴァント~

今回のあらすじ
爛の危機を救ったのは六花の姉である椿姫。一輝達は爛をすぐに助け、再生槽(カプセル)に入れようとするのだが、一輝達のところに新たなサーヴァントが現れる。爛はすぐに己を盾にすることで一輝達を守り、そしてまた、姿を消してしまった。




 爛を殺そうとしていたアーチャーを吹き飛ばしたのは、爛達がよく知っている人物だった。

 

「お姉ちゃん!?」

 

 そう、六花の姉である椿姫。

 椿姫は金と銀の手甲をつけ、魔力をまとわせていた。それが、椿姫の固有霊装(デバイス)、グローリープレシャス。

 アーチャーは吹き飛ばされたものの、すぐに受け身を取り、構えることはなく、自然な体勢で居た。

 

「早く爛を助けてあげて。」

「あ、はい!」

 

 一輝達はすぐに爛の傍に駆け寄る。しかし、素直に助けさせるわけでもなく、アーチャーは一輝達を爛のところに行かせないようにするのだが・・・

 

「っ。」

「悪いけど、私を倒してもらってからにしようかしら。」

 

 椿姫はアーチャーの前に立ちはだかる。

 

「フッ、まぁ良い。彼が死ぬのは時間の問題だ。」

「どういうこと?」

「それは私との戦いが終わるか、彼のところに行けば分かることだ。」

 

 椿姫にはアーチャーが言っていることは分からなかった。しかし、それは一輝達から聞かされたことに、分かることでもあるのだった。

 一輝達のところでは、安全なところまで運び、iPS再生槽(カプセル)に入れようとしていた。

 

「すまない・・・。」

「余り喋らない方がいいよ。爛。」

「・・・アーチャーが言っていたことは・・・、強ち間違えってないんだ。俺がずっと黙ってただけだな・・・。」

「どういう・・・こと?」

 

 六花が足を止めて爛に聞いた。爛は顔を俯かせ、六花の方を向こうとはしなかった。

 しばらくした後、爛は俯いたまま、口を開いた。

 

「それは・・・、俺の体を見れば───」

 

 爛が最後まで言うのを止め、俯かせていた顔を上げる。爛の視線の先には、銀の鎧に青い衣を纏った女性がこちらの方を向いていた。

 

「・・・・・・」

「爛?」

 

 爛は何も言わず、その女性を見ていた。

 

「・・・ジャンヌか?」

 

 もう一度口を開いた時に言った言葉は、見ていた女性の名前だろうか。

 

「・・・・・・」

「帰れ。ここは、お前の来るような場所じゃない。」

 

 ジャンヌは爛の言葉に耳を向けず、その場に立っていた。すると、ジャンヌの姿が消える。

 

「ッ!」

「・・・え?」

「ら・・・ん・・・?」

 

 一輝と六花は素っ気ない声をあげた。爛は一輝を右手で突き飛ばし、六花を蹴り飛ばしたのだ。そして、爛は六花を蹴り飛ばすときに───、

 

「頼む・・・。俺を探しに来い・・・。」

 

 そう言った。そして、爛の居るところは煙に包まれ、煙が晴れたときには、爛の姿は消えていた。

 

「爛・・・?」

 

 颯真は目を疑った。何故、爛は一輝と六花を離れさせ、自分は巻き込まれてしまったのか。その答えはすぐに出ていたのだ。

 爛は負傷をした状態。しかし、爛からすれば関係のないもの。動く片方の手足で一輝と六花を突き放した。そして、自分を盾にし、二人を助けたことになる。

 

「どうして・・・?」

 

 明は涙を流しながら、疑問を口にしていた。

 

「いつもいつも、お兄ちゃんは私達を庇うの?どうして自分だけを犠牲にするの?」

 

 そんな疑問だけが、明の中に残っていた。いや、全員に残っていた。

 

「爛・・・、どこに居るの?」

「・・・・・・」

 

 六花の呟きだけが聞こえる。

 その時、何処かで何かが聞こえた。

 

「?」

「今の音は・・・?」

 

 ポタン───、ポタン───、

 ポタン───、ポタン───、

 

 何かが垂れる音。水か何か。しかし、その音の他にも聞こえてくるものがあった。

 それは足音。誰かが此方に来ている音であった。

 

「・・・!」

「あ、あれは・・・!」

「な、何で・・・!?」

 

 一輝達は目を疑った。一輝達の視界には、右腕を抑えながら此方に歩いてきているアーチャーの姿だった。

 

 一輝達が爛を運んでいる最中、椿姫とアーチャーは戦っていた。

 椿姫はアーチャーに拳を振るい、一撃一撃が重く鋭く、そして何よりも速い。アーチャーは防ぐのに精一杯だった。

 

「フッ!」

「ッ!」

 

 アーチャーは一瞬の隙を突き、持っていた二つの武器ーーー、曲刀を振るっている。曲刀の形姿からするに、アーチャーの持っている曲刀は二本一対の曲刀であるものと見ることができる。

 

「《狐撃(こげき)》!」

 

 椿姫はすぐに距離を取り、魔力を拳に集中し、拳をつきだすと同時に魔力を放つ。それを何度も繰り返し、九つの魔力がアーチャーに迫る。

 《狐撃》は不規則の魔力を拳や武器に乗せ、放つ伐刀絶技(ノウブルアーツ)。不規則のため、弾道、威力、大きさ、色、風圧、耐久などの全てがバラバラ。しかし、最後には必ず相手には当たる。

 

「ッ!」

「やっぱり、これには当たるわけないわよね。」

 

 アーチャーは跳躍し、右に大きく動き、椿姫の《狐撃》をかわす。

 椿姫は分かっていたかのように言った。そして、椿姫はすぐに構え、一気に踏み込み、アーチャーの懐に潜り込む。

 

「ッ!」

「《閃撃(せんげき)》!」

 

 右拳の鋭い一閃がアーチャーの胴体を目掛けて繰り出される。

 しかし、ここで当たるほど、アーチャーも負けてはいない。驚異的な反射神経を用い、横に回避する。

 

「惜しいわね。少しあるものを含ませていたんだけど。」

(《閃撃》は内側から相手を壊す伐刀絶技。一撃でも与えることができればこっちのものなのだけれど・・・。)

 

 椿姫はアーチャーを睨むようにしながら見据える。

 アーチャーは少し息を吐くと、楽しむような笑みを見せ、椿姫を見ながら話す。

 

「簡単には通してくれないか。」

「当然よ。貴方が爛を殺そうとしている限り、私は通すわけにはいかないの。」

「当然のことだな。こちらも急いでいる。早く終わらせることにこしたことはない。」

 

 アーチャーはそう言うと、持っていた二つの曲刀を解除し、右手を前に出す。

 椿姫も魔力を右拳に纏わせ、限界まで魔力を集中していた。

 

「───I am the bone of my sword.」

「《太陽を模倣する金の螺旋(ルインディアウス)》!!」

「───《熾天覆う七つの円環(ロー・アイアス)》!」

 

 アーチャーは薄紫に淡く光る七つの円を顕現する。

 椿姫は魔力が金色に光り、獣のような外見をする魔力の拳を一直線に走りながらつき出す。

 

「ハァァァァァァァ!」

 

 椿姫の伐刀絶技はアーチャーの《熾天覆う七つの円環》を少しずつ破っていく。

 

「くっ!」

 

 アーチャーは苦虫を噛んだような顔をしながらも、椿姫を止めようとしている。

 そして、椿姫はアーチャーの最後の防御を破ると同時に、伐刀絶技が最後の一枚で相殺されたの感じ、すぐに後退する。

 

「どういうこと?」

「何がだ?」

 

 アーチャーの右腕は動かないものとなり、傷だらけになっている。

 

「私の技を防ぐこと事態が謎よ。破壊力であれば、誰よりも高いはずなのに。まさか、あの技も受けきったの?」

「その通りだ。私はランサーの必中の槍、《突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)》を防いでいる。まぁ、胸を張れるようなものではないがな。」

 

 アーチャーは笑みを浮かべながらそう言う。しかし、この状態であれば椿姫が優勢。

 

「っ!?」

「彼の異質な気配、そして魔力。ここから消えたな。」

 

 アーチャーはすぐに感じ取った。それは、椿姫も同様に。つまり、爛は破軍学園から居なくなった。

 

「さて、なら私は戻るとしよう。ここに居るだけ面倒だからな。」

「待て!」

 

 椿姫が止める声に振り返ることなく、アーチャーはすぐに消えていった。

 

「逃がした・・・!一輝君達が危ない・・・!」

 

 椿姫はすぐに走り出す。椿姫は分かっているのだ。あの状態であったとしても、勝ち目はないと知っているのだ。

 

「?」

 

 椿姫は立ち止まった。何処からか視線を感じるのだ。しかし、感じた方向を向いたとしても、誰から感じたのかは分からなかった。

 何も感じなかったため、そのまま歩き始めるのだが、歩くと同じように視線を感じ始めた。椿姫はそれを気にも止めずに歩き続ける。

 

「この感じ、間違いない・・・。」

 

 椿姫が振り向こうとした瞬間、何かの咆哮が聞こえる。

 

「グオオオオオォォォォォォォォォ!!!」

「やっぱり・・・!あの時以来ね・・・。」

 

 椿姫が見ている先には、何と言っていいのか分からない物であった。言うなれば、化物と言ったところだろうか。

 

「ヴィーナス・・・、さぁ、私と踊りましょ!」

 

 椿姫はすぐに構え、ヴィーナスに向かって走り出した。

 

「・・・っ。」

 

 一輝達が爛を探しているなか、椿姫が戦っているなか、爛が目を覚ましたのは、ある場所だった。

 

「ここは・・・、何処だ・・・?」

 

 ーーー第43話へーーー

 

 




今回は短め。

投稿が遅れてしまい、申し訳ありませんでした!都合などがどうにも悪くて書くことができませんでした!

次回、爛の脱出。ヴィーナスとの戦い。そして、覚醒の予兆・・・!?

お楽しみに!


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第43話~覚醒の予兆~

今回のあらすじ
爛の捜索を自分達でやってしまうことにした一輝達。椿姫はヴィーナスとの戦いに身を投じる。一輝達は居なくなってしまった爛を探しに走り出す。その途中、颯真に異変が起こる。颯真はある未来を見た。その時に見たものとは・・・。




 連れ去られた後、爛が目覚めたのは白い壁一面乃の部屋にいた。

 

「真っ白だな・・・。」

 

 爛はそう言いながら、寝転がされていた床から起き上がろうとするのだが───、

 

「っ!?」

 

 全身に強い電流が流れ込む。

 爛は膝をつき、どういうことなのかを考えていた。

 

(おいおい・・・、こりゃ相当厄介だな・・・。下手に動けば俺が危険だ・・・。にしても、ここであれが使えるのか・・・?いや、物は試しだ。やってみる価値はあるか。)

 

 爛は膝をついた状態から、全身を駆け巡る電流に耐えながら立ち上がる。

 

「っ!・・・ハァ・・・ハァ・・・。」

 

 立ち上がるだけでも相当な体力を使うため、ここまで鍛え上げていたことには得をしたことになる。

 すると、爛の視界に一つの歪みが現れ、そこから出できたのは、サーヴァントのジャンヌであった。

 

「・・・・・・」

「ジャンヌ・・・。」

 

 爛が顔を俯く瞬間、ジャンヌは持っていた旗槍で爛を突き殺そうとしていた。

 

「っ!」

 

 爛は咄嗟に横に転がり、旗槍の突きをかわす。

 

「ジャン・・・ヌ・・・?」

 

 爛は目を見開いた。ジャンヌの目はドス黒く変色していたのだ。元々、ジャンヌの目はそんな色をしていない。だからこそ、爛は目を見開いていたのだ。

 

(操られてるのか・・・?沙耶香と同じような・・・、いやでも、沙耶香はそんな目をしてなかった。どういうことだ?)

 

 爛の思考はジャンヌの目の変色のことで埋め尽くされていた。

 爛はハッと我に戻った瞬間、気絶させられる。そしてそこには、見たこともない『何か』を見ながら。

 

 爛が何処にいるかも分からない中、一輝達は爛のことを探していた。

 

「爛・・・。」

「・・・闇雲に探しても意味がありません。理事長に言って探してもらった方が・・・。」

 

 一輝達の間の空気は、先程よりも重くなっていた。爛が何処にいるかも分からず、椿姫がどういう状況になっているかも分からない中、珠雫は一輝達に提案してきた。しかし───、

 

「それは・・・、できないよ・・・。」

 

 六花は珠雫の提案を否定したのだ。六花は顔を俯かせながら、話し始めた。

 

「爛は僕を助けるときに言ったんだ。「俺を探しに来い。」って。だから僕は、爛を助けにいく。もう、失いたくないから・・・。」

「六花ちゃん・・・。」

「リッカさんの言う通りです。」

「リリーさん・・・?」

 

 先程から何も話に参加しなかったリリーがやっと話に入ってきた。そして、リリーは六花の言ったことに賛成した。

 

「マスターは、私がこの姿で生きられる限界になり、倒れそうになったときに助けてくれました。だから、私はこの姿で居られるのです。私はまだマスターに恩を返せていません。マスターの助けになると誓ってから、その役目は果たせていません。ですから、私はマスターを探しにいきます。マスターを助けるまで、この身が朽ち果てようと・・・。」

 

 リリーの意志は大きなものだった。話を聞いているだけでも、簡単には揺らぐこともなく、壊れることなどないということが分かる。

 

「・・・?」

 

 颯真は話を聞きながらも、自分の体が不自然に感じていた。その瞬間、頭に激しい痛みが襲い掛かった。

 

「・・・っ!」

 

 颯真はすぐに頭を抑えた。頭の痛みはより一層強くなり、颯真の視界は少しずつ霞んでいっていた。

 

「颯真!」

「大丈夫!?」

 

 最初に気づいたのはルームメイトの明。すぐ傍に駆け寄る。一輝達も気がつき、心配しながら颯真の傍に行く。

 

「くそ・・・!頭痛が・・・。」

 

 颯真の視界は霞んでいき、そして霞んでいた視界が急に暗くなる。

 自然と頭痛が治まり、颯真は顔を上げると、辺りは暗く、一輝達や明は居ない状態だった。そんな暗闇の中、後ろから光が現れる。

 

「・・・?」

 

 颯真は不思議に思いながら、その光のところへと向かっていく。

 その光は何かを映し出していた。

 

「何だ・・・、これは・・・?」

 

 颯真は様々な思いをしながら光に触れる。すると、光はより一層強くなり、颯真を包み込む。

 

「っ!」

 

 颯真は咄嗟に目を庇った。

 やがて光が消えていき、颯真は顔をあげた。すると、颯真が立っていたところは先程まで一輝達と居たところではなく、山の奥の方に立っていた。

 

「何処だ・・・?」

 

 颯真は何処なのかを考えながら歩きだす。すると、頭の中に声が流れ込んでくる。

 

『爛・・・、爛!!』

「この声、六花の声か・・・?」

 

 颯真は六花の声に近い物を聞き、聞こえた方に歩き出す。

 すると、六花の声とは違い、別の声がまた聞こえてくる。

 

『六花・・・、俺は・・・。』

「爛の声か・・・?どういうことだ?」

 

 爛の声が聞こえてきたため、さらに颯真の疑問は深くなっていく。颯真は声の聞こえた方に歩いていくと、ボロボロになり、血だらけの爛が居たのだ。六花は涙を流しながら爛を見ていた。

 

「っ!?」

『悪いな六花・・・、これは生きられそうにない・・・。いつもいつも、迷惑かけてるな・・・。』

『そんなことないよ。でも・・・、爛が居なくなるのは・・・、嫌だよぉ・・・。』

 

 六花はボロボロの爛を抱き締めていた。それを見ていた颯真はあることに気がつく。

 

(これは・・・、未来・・・?未来にしてもそんなに後の事じゃないぞ。破軍の制服を着てるってことは・・・。爛が・・・、何かのことで・・・、死ぬってことか・・・?)

 

 颯真は自分は未来を見ていると、そう感じた。爛が死ぬことは天地がひっくり返るほどあり得ないと言ってもいいほどだったのだ。

 すると、またもや颯真は光に包まれていく。

 

(今度は何だ!?)

 

 颯真はすぐに目を庇い、光が無くなると同時に顔をあげた。すると今度は全員が居た。誰かが居ないという状況ではなかった。

 

『爛・・・、本当に良いのかい・・・?』

『あぁ、いいんだ。俺の存在意義っていうのはこういうことだったんだよ。あの頃から分かってたことだった。』

『じゃあ・・・、貴方は・・・。』

『悪いな珠雫。元々俺は、破軍を卒業したらお前達の前から姿を消すつもりだった。絆は簡単に切れるものじゃないのは分かってる。でも分かってくれ。お前達じゃこれは止められない。』

 

 爛は一輝達に背を向け、前へと進んでいく。爛はふと、何かを忘れたかのように振り返り、笑顔を見せ、

 

『これからの事は、自由にやれ。もう、縛られることはないからな・・・。』

 

 そう言い、少しずつ魔力の粒子となり、完全に消滅していった。

 

(何てことだ・・・。これじゃ、まず六花には話せないぞ・・・。どうすればいい・・・?)

 

 颯真の思考は全て堂々巡りだった。

 すると、またもや光は颯真を包み込む。颯真の視界は暗転し、そのまま気を失う。

 

「颯真・・・、颯真!!」

「・・・っ。」

 

 颯真が目を覚ますと、明が目の前に居り、心配そうに颯真を見ていた。

 

「あぁ、よかった。いきなり倒れたからビックリしたよ。」

「悪い・・・。」

「何かあったのかい?」

「いや、何もない。」

 

 颯真は何もないと一輝達に答える。だが、颯真の思考は先程の事で一杯だった。

 

(どうするべきなんだろうな・・・。こんなとき、お前ならどうする?爛・・・。)

 

 一輝達が爛を探している同時刻。椿姫はヴィーナスと対峙していた。

 

「っ!」

「ガァァァァァァァァ!!」

 

 ヴィーナスは咆哮し、何かを纏う。

 

「もう纏い始めるのかしら。面倒になる前に早く決着をつけないとね。」

 

 椿姫はそう呟くと、一気に踏み込み、ヴィーナスの後ろに回り込む。

 

「ハァァァ!」

 

 魔力を纏った左拳を降り下ろす。ヴィーナスはすぐにそれを察知し、椿姫の左拳の攻撃を避ける。

 

「くっ!」

(前よりも早い!)

 

 椿姫はすぐに後退し構える。そして、両拳に魔力を纏わせ、一気に駆け出す。

 

「グオオオオォォォォォォォォォ!!!」

 

 ヴィーナスは咆哮し、椿姫に魔力とは違う別の何かを使い、椿姫に向かって弾幕を放つ。

 

「くっ!」

 

 椿姫はその弾幕を避けながらも、接近していき、止まることはしなかった。

 

「遅い!」

 

 椿姫は一歩足を前に出し、両拳を雷の力で魔力を増幅し、目にも止まらぬ乱打をヴィーナスに繰り出す。

 

「ハァァァァァァァァァァァァァ!!!」

「ガァァァァァァァァ!」

 

 椿姫は乱打を止めると、右拳を後ろに下げ、最大の一撃を加えるため、その右拳をヴィーナスに突き出す。

 

「《激・闘乱拳(げき・とうらんけん)》!!!」

 

 ヴィーナスは訓練場の壁に打ち付けられ、魔力の粒子となって消えていく。

 椿姫は緊迫した戦いが終わったことにより、疲労が重くのし掛かった。

 

「一輝君達なら大丈夫よね・・・。」

 

 そのまま、椿姫は倒れ、意識を投げた。

 一輝達のところでは六花を除いた全員で颯真からの話を聞いていた。

 

「未来を見たなんて・・・。」

「あり得ないと言うしかないのは当たり前だ。でも、それが起きてしまった。因果の流れから俺は外れたことになる。」

 

 どうするべきかと考えていた一輝達のところに何処からか声が聞こえる。

 

「ほう。未来が見えるとな。その力、是非とも(オレ)の物にしたいものだ。」

「この声は・・・?」

「まさか、この声は・・・!」

 

 一輝達の目の前に降り立ったのは、サーヴァント。黄金の鎧を身に纏った男だ。

 

「『英雄王』ギルガメッシュ・・・!」

「気を付けて!あいつからは相当な魔力を感じる!」

「六花さん!?いつの間に!」

「とにかく、今はあいつに気を付けて!」

 

 六花が一輝達の傍にいた。六花はギルガメッシュから膨大な魔力を感じ取っていた。

 

「セイバーの聖剣ではないか。こんなところで何をしている?」

「貴方には関係のないことだ。ここに来たのは何のようだ。」

 

 ギルガメッシュは余裕ある笑みをしながらリリーに話しかけるが、リリーはギルガメッシュがここに来た理由を聞こうとギルガメッシュにそう返した。

 

「何、未来が見えると言った雑種の力を見たいと思ってな。どれ程未来が見れるのか。試してみると良さそうな気がしてな。」

「・・・・・・」

 

 颯真は答えることもなく、顔を俯かせていた。そして、何かを決意したのか、顔を上げると、ギルガメッシュに言った。

 

「分かった。良いだろう。『英雄王』。」

「どれ程のものなのか、採点させてもらうぞ。」

 

 ーーー第44話へーーー

 

 




慢心せずして何が王か!!byAUO

はい、結構遅れました。すみません・・・。この話はIFルートがあります。・・・また遅くなるのかぁ。AUOがうるさくなるので早めに書き上げます。

それでは、次回をお楽しみに!


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第43話~覚醒の予兆IF~

今回のあらすじ・・・は普通ルートの方と同じ・・・、ではなく、少しだけ違います。何が違うかって?それは本文を見ればわかることですよ!




 連れ去られた後、爛が目覚めたのは白い壁一面乃の部屋にいた。

 

 

「真っ白だな・・・。」

 

 

 爛はそう言いながら、寝転がされていた床から起き上がろうとするのだが───、

 

 

「っ!?」

 

 

 全身に強い電流が流れ込む。

 爛は膝をつき、どういうことなのかを考えていた。

 

 

(おいおい・・・、こりゃ相当厄介だな・・・。下手に動けば俺が危険だ・・・。にしても、ここであれが使えるのか・・・?いや、物は試しだ。やってみる価値はあるか。)

 

 

 爛は膝をついた状態から、全身を駆け巡る電流に耐えながら立ち上がる。

 

 

「っ!・・・ハァ・・・ハァ・・・。」

 

 

 立ち上がるだけでも相当な体力を使うため、ここまで鍛え上げていたことには得をしたことになる。

 しかし、誰も来ておらず、魔力で感知をしているのだが、誰もいないことに気づいた爛は、正面に立っているドアに手をかけ、開ける。

 

「ん?館・・・、って感じだな。」

 

 爛は周りを警戒しながら、部屋を出るが何も感じないため、一応警戒をしながら館らしきものから脱出した。

 

「おー、結構な大きさだな。ってか、ここは何処だ?」

 

 爛は自分のいる場所が知らないところだと言うことに気づき、生徒手帳を開ける。

 

「ん、破軍からは、結構近いな。じゃ、行くか。」

 

 爛は破軍学園へと戻るために歩き出した。

 

 爛が何処にいるかも分からない中、一輝達は爛のことを探していた。

 

 

「爛・・・。」

「・・・闇雲に探しても意味がありません。理事長に言って探してもらった方が・・・。」

 

 

 一輝達の間の空気は、先程よりも重くなっていた。爛が何処にいるかも分からず、椿姫がどういう状況になっているかも分からない中、珠雫は一輝達に提案してきた。しかし───、

 

 

「それは・・・、できないよ・・・。」

 

 

 六花は珠雫の提案を否定したのだ。六花は顔を俯かせながら、話し始めた。

 

 

「爛は僕を助けるときに言ったんだ。「俺を探しに来い。」って。だから僕は、爛を助けにいく。もう、失いたくないから・・・。」

「六花ちゃん・・・。」

「リッカさんの言う通りです。」

「リリーさん・・・?」

 

 

 先程から何も話に参加しなかったリリーがやっと話に入ってきた。そして、リリーは六花の言ったことに賛成した。

 

 

「マスターは、私がこの姿で生きられる限界になり、倒れそうになったときに助けてくれました。だから、私はこの姿で居られるのです。私はまだマスターに恩を返せていません。マスターの助けになると誓ってから、その役目は果たせていません。ですから、私はマスターを探しにいきます。マスターを助けるまで、この身が朽ち果てようと・・・。」

 

 

 リリーの意志は大きなものだった。話を聞いているだけでも、簡単には揺らぐこともなく、壊れることなどないということが分かる。

 

 

「・・・?」

 

 

 颯真は話を聞きながらも、自分の体が不自然に感じていた。その瞬間、頭に激しい痛みが襲い掛かった。

 

 

「・・・っ!」

 

 

 颯真はすぐに頭を抑えた。頭の痛みはより一層強くなり、颯真の視界は少しずつ霞んでいっていた。

 

 

「颯真!」

「大丈夫!?」

 

 

 最初に気づいたのはルームメイトの明。すぐ傍に駆け寄る。一輝達も気がつき、心配しながら颯真の傍に行く。

 

 

「くそ・・・!頭痛が・・・。」

 

 

 颯真の視界は霞んでいき、そして霞んでいた視界が急に暗くなる。

 自然と頭痛が治まり、颯真は顔を上げると、辺りは暗く、一輝達や明は居ない状態だった。そんな暗闇の中、後ろから光が現れる。

 

 

「・・・?」

 

 

 颯真は不思議に思いながら、その光のところへと向かっていく。

 その光は何かを映し出していた。

 

 

「何だ・・・、これは・・・?」

 

 

 颯真は様々な思いをしながら光に触れる。すると、光はより一層強くなり、颯真を包み込む。

 

 

「っ!」

 

 

 颯真は咄嗟に目を庇った。

 やがて光が消えていき、颯真は顔をあげた。すると、颯真が立っていたところは先程まで一輝達と居たところではなく、山の奥の方に立っていた。

 

 

「何処だ・・・?」

 

 

 颯真は何処なのかを考えながら歩きだす。すると、頭の中に声が流れ込んでくる。

 

 

『爛・・・、爛!!』

「この声、六花の声か・・・?」

 

 

 颯真は六花の声に近い物を聞き、聞こえた方に歩き出す。

 すると、六花の声とは違い、別の声がまた聞こえてくる。

 

 

『六花・・・、俺は・・・。』

「爛の声か・・・?どういうことだ?」

 

 

 爛の声が聞こえてきたため、さらに颯真の疑問は深くなっていく。颯真は声の聞こえた方に歩いていくと、ボロボロになり、血だらけの爛が居たのだ。六花は涙を流しながら爛を見ていた。

 

 

「っ!?」

『悪いな六花・・・、これは生きられそうにない・・・。いつもいつも、迷惑かけてるな・・・。』

『そんなことないよ。でも・・・、爛が居なくなるのは・・・、嫌だよぉ・・・。』

 

 

 六花はボロボロの爛を抱き締めていた。それを見ていた颯真はあることに気がつく。

 

 

(これは・・・、未来・・・?未来にしてもそんなに後の事じゃないぞ。破軍の制服を着てるってことは・・・。爛が・・・、何かのことで・・・、死ぬってことか・・・?)

 

 

 颯真は自分は未来を見ていると、そう感じた。爛が死ぬことは天地がひっくり返るほどあり得ないと言ってもいいほどだったのだ。

 すると、またもや颯真は光に包まれていく。

 

 

(今度は何だ!?)

 

 

 颯真はすぐに目を庇い、光が無くなると同時に顔をあげた。すると今度は全員が居た。誰かが居ないという状況ではなかった。

 

 

『爛・・・、本当に良いのかい・・・?』

『あぁ、いいんだ。俺の存在意義っていうのはこういうことだったんだよ。あの頃から分かってたことだった。』

『じゃあ・・・、貴方は・・・。』

『悪いな珠雫。元々俺は、破軍を卒業したらお前達の前から姿を消すつもりだった。絆は簡単に切れるものじゃないのは分かってる。でも分かってくれ。お前達じゃこれは止められない。』

 

 

 爛は一輝達に背を向け、前へと進んでいく。爛はふと、何かを忘れたかのように振り返り、笑顔を見せ、

 

 

『これからの事は、自由にやれ。もう、縛られることはないからな・・・。』

 

 

 そう言い、少しずつ魔力の粒子となり、完全に消滅していった。

 

 

(何てことだ・・・。これじゃ、まず六花には話せないぞ・・・。どうすればいい・・・?)

 

 

 颯真の思考は全て堂々巡りだった。

 すると、またもや光は颯真を包み込む。颯真の視界は暗転し、そのまま気を失う。

 

 

「颯真・・・、颯真!!」

「・・・っ。」

 

 

 颯真が目を覚ますと、明が目の前に居り、心配そうに颯真を見ていた。

 

 

「あぁ、よかった。いきなり倒れたからビックリしたよ。」

「悪い・・・。」

「何かあったのかい?」

「いや、何もない。」

 

 

 颯真は何もないと一輝達に答える。だが、颯真の思考は先程の事で一杯だった。

 

 

(どうするべきなんだろうな・・・。こんなとき、お前ならどうする?爛・・・。)

 

 颯真は爛ならばどんな行動をするのかと考えていた。そして、颯真は行動する。六花を除いた全員で颯真からの話を聞いていた。

 

 

「未来を見たなんて・・・。」

「あり得ないと言うしかないのは当たり前だ。でも、それが起きてしまった。因果の流れから俺は外れたことになる。今は、椿姫さんのところに行かないといけない。俺が見た未来の他に、別のものも見た。それには、椿姫さんの力が必要だ。俺は、椿姫さんのところに行く。」

 

 颯真は強い意志で、まっすぐな眼差しでリリーを見ていた。六花やリリーは爛を助けに行くべきだと言っていた。しかしそれは、自分達を死なせるために言っているようなものであると、颯真は言ったのだ。その行動は、自分達だけでなく、爛も死なせてしまうことでもあると。

 

「分かりました・・・。」

 

 リリーは渋々、颯真の提案を受け入れる。リリーは爛の剣霊。爛と契約しているリリーは爛を死なせるようなことはしたくはない。

 爛の恋人でもある六花も同じだろう。爛のことを近くで見ている六花ならば颯真の話は分かってくれるはずだ。

 

「六花にも話そう。彼女なら、分かってくれるはずさ。」

 

 六花は颯真の話を聞き、それを承諾。一輝達は颯真の言葉を信じると、破軍学園へと戻っていった。

 

 椿姫はヴィーナスと対峙していた。

 

 

「っ!」

「ガァァァァァァァァ!!」

 

 

 ヴィーナスは咆哮し、何かを纏う。

 

 

「もう纏い始めるのかしら。面倒になる前に早く決着をつけないとね。」

 

 

 椿姫はそう呟くと、一気に踏み込み、ヴィーナスの後ろに回り込む。

 

 

「ハァァァ!」

 

 

 魔力を纏った左拳を降り下ろす。ヴィーナスはすぐにそれを察知し、椿姫の左拳の攻撃を避ける。

 

 

「くっ!」

(前よりも早い!)

 

 

 椿姫はすぐに後退し構える。そして、両拳に魔力を纏わせ、一気に駆け出す。

 

 

「グオオオオォォォォォォォォォ!!!」

 

 

 ヴィーナスは咆哮し、椿姫に魔力とは違う別の何かを使い、椿姫に向かって弾幕を放つ。

 

 

「くっ!」

 

 

 椿姫はその弾幕を避けながらも、接近していき、止まることはしなかった。

 

 

「遅い!」

 

 

 椿姫は雷の力を身体に纏い、ヴィーナスに連続で攻撃を仕掛けていく。

 

「フッ!ハァ!せい!せや!とりゃ!」

 

 椿姫は五連続で攻撃を繰り出し、一歩後ろに下がると、眼を閉じ、ヴィーナスの正面で構える。

 

「ガオォォォォォォォォォ!!!」

 

 ヴィーナスは咆哮をあげ、椿姫を潰そうとする。ヴィーナスの足が椿姫の頭に来ると同時に、椿姫は動き出す。

 

「ハァ!」

 

 椿姫は右の掌でヴィーナスの足を止め、そのまま上げるだけでヴィーナスの足を戻してしまったのだ。

 そして、椿姫はすぐさまヴィーナスの背後に回る。左拳に雷の魔力をため、ヴィーナスの真上には魔方陣を形成する。

 

「《雷神の雷拳(らいじんのらいけん)》!!」

 

 椿姫が真上に振り上げた左拳を降り下ろすと同時に、形成されていた魔方陣から、巨大な拳が雷を纏いながらヴィーナスの上に落ちてきていた。

 

「グォォォォォォォォォォォ!!」

 

 ヴィーナスは抜け出そうと必死にするのだが、それは叶わず、魔力の粒子となって消えていった。

 

「・・・ふぅ・・・。」

 

 椿姫が一つ息を吐くと、どこからか声が聞こえてくる。

 

「椿姫さ~ん!」

「ん?」

 

 ーーー第44話IFへーーー

 

 




やっとあげられたーー!

・・・もうその一言しかないですwはい
次回のIFは爛の捜索です。次回をお楽しみに!


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第44話~聖杯戦争の王者、英雄王~

今回のあらすじ・・・、なんか面倒になってきちゃったよ。ということで、今回はなし。多分他にもないところが出てきちゃうかも。




 颯真は突如として目の前に現れたサーヴァント、『英雄王』ギルガメッシュとの戦いに望む。

 颯真とギルガメッシュは依然として動くこともなく、相手を見据えていた。

 

「一輝、先に爛を助けにいくんだ。」

「え、でも、そしたら颯真が・・・。」

「良いんだ。奴の狙いは俺。戦いに巻き込むわけにはいかない。」

 

 颯真はギルガメッシュとの戦いに一輝達を巻き込むわけにはいかず、一対一の真剣勝負へと持ち込もうとする。しかし、それはそれで得策ではない。相手はどれ程の力量なのかも分からない相手。しかもサーヴァント。苦戦を強いられるのは必須の出来事。

 その考えを視野に入れていた一輝は颯真の言ったことに反論しようとするが、颯真はそれを論破。ギルガメッシュの目的事態は自分であることであり、一輝達は関係のないことだ。

 

「・・・わかった。」

 

 一輝は颯真の思いを汲み取り、二人の戦いから背を向け、走り出す。六花達も同じように一輝の跡を追うように走り出す。

 そんな中、一人だけ残っている人物がいた。

 

「明?行かないのか?」

 

 そう、明である。

 

「颯真、私はすぐに一輝くんの跡を追わなくちゃいけない。でもこれだけ約束して。」

 

 明は願うかのように颯真に言いながら、約束を伝える。

 

「絶対に、帰ってきて。」

「・・・わかってるさ。爛を死なせないため、お前達を死なせないために、俺はここで死ぬわけにはいかないからな。」

「うん。信じるから、帰ってきて。約束だよ。」

「あぁ。行ってこい。」

 

 颯真の声を聞くと、明は颯真に笑みを見せ、一輝達の跡を追った。

 

「さ~て、負けるわけにはいかないんでな。早々に帰ってもらおうか。」

「フン、調子にのるな雑種。(オレ)と貴様では決定的な違いがある。知らぬようであれば、その判断したことを後悔するのだな。」

「負けられないさ。俺は。あの時に誓ったんだ。絶対、後ろは振り返らないと。逃げないと。行くぞ、英雄王!」

 

 そして、颯真はギルガメッシュに向かって走り出した。

 

 一輝達のところでは颯真とギルガメッシュのところから離れるために走っていた。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・。」

「このくらい距離をあけていれば、すぐにこちらに攻撃はできないはずよ。」

 

 アリスがそう言い、後ろの方を向くと、颯真とギルガメッシュは戦っていた。

 本当ならば助けにいきたい。颯真自身を死なせるようなことはしたくない。そう思っている明だが、その考えはすぐに捨てた。約束したのだ。帰ってきて。と。ならば、こちらは彼を待てば良い。そう考える。

 

「でも、爛はどこにいるだろう?」

「確かに、連れ去られてるとしたら、連絡は不可能だと思いますし・・・。」

 

 爛の居場所はどこだろうかと考えている一同。そこに、六花の生徒手帳に電話が入る。

 

「ん?こんなときに・・・って理事長から?」

 

 来ていたのは黒乃からの電話であった。

 どういうことなのか。そう思いながら、六花は電話に出る。

 

「理事長?」

『全く、帰ってこないものだから少し焦ったぞ。』

 

 黒乃はタバコを吸いながら、電話をしている。

 六花達からすれば、どうしてタバコを吸いながらで焦ることという考えに辿り着くんだろうという考えに至った。

 

『で、状況はどうなってる。師匠(せんせい)の生徒手帳から発している電波は、お前達の近くにあるぞ。』

「まぁ、その通りです。爛が連れ去られて、どこにいるかも分からない状況で。」

 

 六花からの説明により、黒乃は少し考え始める。しばらくすると、黒乃が話始める。

 

『そこに、香を送ろうと思っている。しばらく香が来るまで待っていてくれ。香は師匠の場所を先程調べたため、分かっている。香についていくと良い。』

「ありがとうございます。理事長。」

 

 そして、黒乃との通話は終了。一輝達は香が来るまで待つということになった。

 

 颯真とギルガメッシュのところでは、ギルガメッシュは自身の宝具《王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)》を使い、様々な武器を颯真に向けて射出する。

 颯真はそれを自身の異能の風、固有霊装(デバイス)等でそれを退けていく。

 ギルガメッシュは様々な時代で起きる聖杯をかけた戦争。『聖杯戦争』にて聖杯を勝ち取った王者。実力は折り紙つき。油断をすることはできない。

 

「っ!」

 

 颯真は集中力を途切れさせることなく、次々に宝具の宝具を切り捨て、凪ぎ払い、ギルガメッシュの元へ一歩ずつ踏み出していく。

 

「まだまだ、それぐらいでは我の元へとたどり着けんぞ!」

 

 宝具を射出するスピードが上がる。それを感じ取った颯真は避けるということを捨て、全てを切り捨てていくという行動に出る。

 

「っ!はぁ!」

 

 次々に射出される宝具。しかし、それは一つ一つが脆く、弱く、魂にとっては相手ではない。しかし、それが何十にも重なり、それを続けられてしまえば、不利なのには代わりない。だが、伐刀者(ブレイザー)は己の魂を武器にする者。使用者の声に応じ、魂は力となる。その魂が汚れてなければ、生半可な武器では折ることなどできはしない。

 

「ほう、自身の武器を使い、我の宝具を打ち落とすか。」

「ま、他にも考えはあるんだけどな!」

 

 颯真は走りながら、ギルガメッシュ宝具を打ち落としていく。

 そこで颯真は、一つの未来を見た。

 

『雑種ごときにこれを使うのは気が引けるのだが・・・、未来が見えるという貴様には、我のもう一つの宝具を見せてやろう。』

 

 すると、ギルガメッシュは一つの剣を手に取る。

 持ち手が黄金色であり、刃の部分は黒を基調にし、赤の線が入っている。

 一度、颯真は噂を耳にしていた。

 英霊の中に、恐ろしい強さを持つ魔剣を持っている英霊が居ると。

 それを聞いていた颯真は、一瞬でわかった。ギルガメッシュが、その魔剣を持っていると。

 すると、刃の部分が回りだし、大きな風圧が発生する。

 

『ぐっ!』

 

 颯真は異能を使い、堪えようとするが、あまりにもギルガメッシュの持つ魔剣が放つ風圧は、想像を絶する物であると分かる。

 颯真は負荷に耐えれなくなり、そのまま木へと打ち付けられる。

 

『ぐっ、かはっ・・・。』

 

 少し、吐血をした。

 ギルガメッシュは魔剣を手放す。魔剣は先程ギルガメッシュが颯真に使ってきた宝具。《王の財宝》の中に戻っていった。

 

『中々楽しかったぞ。その戦いぶりに敬意を表して、我の宝具で葬ってやろう。』

 

 ギルガメッシュは《王の財宝》を展開する。

 そしてそのまま、容赦なく、颯真に射出した。その宝具の数々は颯真の体に突き刺さり、そして颯真は、死んでいった。

 

 そして颯真は現実へと戻る。

 まずギルガメッシュの魔剣を避けるには、彼が未来を見たときに言った言葉を聞いたとき、瞬時に下がるということ。

 そして、その魔剣が放つ風圧は一定の距離を保てば、その風圧は弱まり、自身の負荷を抑えることができる。

 最後の《王の財宝》の全方位掃射。これには風を遺憾なく発揮するしかない。自分の出せる最大の風力で、彼の宝具を凪ぎ払う。

 颯真は一番最初である、ギルガメッシュが魔剣を使うのか使わないのか、ギルガメッシュの行動で颯真の行動も変わる。ギルガメッシュの行動をしっかりと見ていなければ、死ぬ可能性は高い。

 

「っ!」

 

 颯真はギルガメッシュの行動、射出される宝具。そして自分の行動。全てに目を向けながら、颯真はギルガメッシュの宝具を打ち落としていく。

 

「雑種ごときにこれを使うのは気が引けるのだが・・・、未来が見えるという貴様には、我のもう一つの宝具を見せてやろう。」

 

 ギルガメッシュは颯真が未来で見た、魔剣を取り出す時に言ってきた言葉を実際に現実で言ってきた。それを聞いた颯真はバックステップ。

 

「ほう、すぐに危険だと分かったか。」

(な、何だ・・・。あんなの見たことがない・・・。何か、禍々しい何かがある・・・。)

 

 颯真は動きを止めてしまった。ギルガメッシュが持つ魔剣から感じられるものが、どれ程のものなのか。見ただけでもわかってしまう。

 

(これは、結構マズイ・・・。あの剣の本気を喰らったら、生きられるように感じねぇ・・・。)

 

 颯真は自分の身に迫っている危機をすぐに感じとった。

 

(約束、もう守れないのか・・・?)

 

 颯真は思い出す。ギルガメッシュと戦い前、明と約束したことを。しかし、この相手にはそんなことは通用しないと、知らされた。

 

(いや、負けられない・・・。明との約束を守るために。爛が『あの時』に俺の家族を守ろうと必死にしてたのを、俺は知っている。だから・・・、今度は俺が、あいつらを守る!)

 

 颯真の中から、魔力が溢れ出す。元々颯真が持っているような魔力の量ではない。溢れ出している魔力だけでも、颯真が所有できる魔力量を超えている。

 

「今、ここで退く訳にはいかない!」

 

 颯真はギルガメッシュに向かって走り出し、襲いかかるギルガメッシュの宝具を次々に打ち落としていく。しかし、颯真が持っている霊装、飛鷹は、もう折れかかっていた。そして───、

 

「っ!」

 

 

 ───バキン!

 

 

 その音と共に、飛鷹は折れてしまった。しかし、颯真は倒れることなく、走っている。魂が壊れてしまっては、倒れるのが常識。しかし、颯真はそれでも走っていた。

 

 

 ───られない。

 

 

 ───られない!

 

 

 ───負けられない!

 

 

 ───今ここで、負けるわけにはいかない!

 

 

「ウオオォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 颯真は雄叫び、颯真の右手に、蒼白の魔力が宿る。そして、その蒼白の魔力が作るのは、武器。

 赤い装飾を宿し、その武器に刃はなく。しかし、光の刃にて、全てを切り捨てる。───その武器の名を、

 

「覚悟は良いか!英雄王!英剣よ煌めけ!エクソシスト!」

 

 英剣、エクソシストと言う。

 曰く、その剣は想像上の物でしかない。

 曰く、その剣の使い手は、落ちこぼれの英雄のもの。

 曰く、その剣は全ての力を源とする。

 曰く、その剣は───、

 

 

 とあるものを殺すために作られた剣である。

 

 

 ーーー第45話へーーー

 

 




颯真、まだ本当の覚醒にあらず。

本当の覚醒はもう少しあと。
颯真VSギルガメッシュ、次回終了!

お楽しみに!



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第44話~あの日の恐怖IF~

───雨・・・。
───あの日も・・・、あの日も・・・、雨・・・。




 一輝達は香と合流し、爛を探すために破軍学園を出る。

 山の中に入ったところで、ポツリと雨が降り始めた。

 

「あれ、雨だ・・・。」

 

 一輝がポツリと呟いたことで、それを聞いた六花、颯真、明、リリー、香は冷めたような顔をした。

 

「ど、どうしたの?」

 

 あまりそんなことにならないような人柄の五人は冷めたような顔をすることはない。

 すると、その瞬間───、

 

「うわああぁぁぁぁぁぁぁあぁぁぁぁあ!!!」

 

 爛の叫び声が響いた。

 その声を聞くと、誰よりも早く動き出したのは六花だった。

 

「「「爛!!」」」

「マスター!!」

「お兄ちゃん!!」

 

 五人して同じ方向に走り出した。残りの四人は走り出した五人の跡を追うように走り出した。

 爛の叫び声が聞こえたところに、六花達が急いで行くと、頭を抑えながら膝をついている爛の姿があった。

 

「爛!」

「爛・・・。くっ・・・!」

「爛、しっかりして!」

「マスター・・・。」

「お兄ちゃん!」

 

 六花と香、明はすぐに爛に駆け寄るが、颯真とリリーだけその場に立ち尽くした。

 颯真とリリーにとっては、ここまで苦しんでいる爛を見たこともなく、目を反らすことしかできなかった。

 

「~~~~~~~~~っ!!!」

 

 爛は六花達を見て、怯え始めた。彼には一体何が見えているのか。その事を知っているのは本人の爛でさえ分かることはなかった。

 

「爛!」

「来るな!来ないでくれ!」

「っ!?」

 

 爛から発された言葉は耳を疑うことであった。何かに怯え、罪悪感や別の感情を持っていることに近い。

 この時、誰も気づくことのなかったもの。爛は血のような目をし、血のような深紅の涙を流していることに。

 

「爛!落ち着いて!僕だよ?分かる?爛!」

「来ないでくれ!」

 

 爛は木に背後を阻まれ、後ずさることなどができなくなった。六花は爛の行動に疑問を持ちながらも、爛に語りかける。

 

「分かる?僕のこと。なにもしないから。落ち着いて。」

 

 六花はそのまま怯えている爛を抱き締めた。すると、震えていた爛の体は次第に治まっていった。

 

「六・・・花・・・?」

 

 爛はそう呟くと、六花の腕の中で眠りについた。

 

「寝ちゃったか・・・。」

「どういうことなんだ?爛がここまで取り乱すようなことは・・・。」

「何か、知ってることはないんですか?」

 

 リリーは明と香に尋ねる。爛のことを近くで見ている姉と妹ならば、爛のことをよく知っているだろうと思ったからだ。

 リリーに聞かれた二人は顔を俯かせながら話した。

 

「爛は・・・。」

「雨の日だと、前の出来事がフラッシュバックするの。」

「颯真君達なら分かると思うけど、爛は幼いときに人が死んでいくのを何度も目にしてたの。それも、大切な貴方達の家族が死んでいくところを。」

「・・・・・・。」

「え・・・?」

 

 爛の過去を知らない一輝達は知っていることではない。ただ、それを知っている六花、颯真、リリーは黙ることしかできなかった。

 

「お兄ちゃんはみんなを助けようとした。でも、助けられたのは六花ちゃん達だけ。」

「一体、誰がこんなことを・・・。」

 

 明は悲しみに濡れている顔で爛の過去を話していく。一輝達は何故こんなことになっていったのかと思うしかなかった。そして、六花の口から発せられたことは、爛が憎んでいるものであった。

 

解放軍(リベリオン)だよ・・・。」

「そんな・・・。」

 

 爛が解放軍を憎んでいるのは、妹である沙耶香が死んだからこそ憎んでいるものだと思っていた一輝達は、この話を聞き、爛が本当に解放軍を憎んでいる理由は、六花達の家族を守ることもできずに、目の前で死んでいったのを見てしまったからこそ、解放軍を憎んでいるのだ。

 それも・・・、全て雨の日に・・・。

 

「さく・・・ら・・・。」

「爛?」

「まさか、『敷波桜(しきなみさくら)』?」

「誰?」

「桜は宮坂家にきた養子なの。敷波家は元々、魔術師の家系なんだけど、彼女の家のみんなも、解放軍に殺されてる。それを、爛は見ているの。」

 

 敷波家と宮坂家は親戚関係であり、交友関係も良いため、出会う回数が多いのだ。因みに、桜の年齢は爛の一つ下のため、十五であり、爛のことを先輩と呼び、慕っている。

 

「とにかく、爛を運ばないと・・・。」

 

 六花は爛の横抱きで運び始める。それを見た一輝達は驚いた表情をした。

 

「ちょっ!ア、アンタ・・・!何してるのか分かってるの!?」

「え?爛をお姫様抱っこしてるけど?」

「よくそんなこと言えましたね・・・。」

「六花ちゃんばっかりズルいよ!私にもさせてよ~!」

「爛だったら僕に頼んでる!妹の君に頼むはずがない!」

「ま~た始まった・・・。そこに桜が入ったら・・・。」

 

 六花の行動に全員が驚き、六花に言うステラと珠雫。六花の行動を羨ましそうにする明がいた。それを見ていた香はここに桜がいたらと頭を抑えるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爛は夢の中にいた。爛から見えている街並みは赤く、夕焼けに照らされているような景色であった。

 

「────────────っ。」

 

 爛がふと横を見たとき、見慣れた少女が横を歩いていった。

 

「────────────?」

(声が・・・、でない?)

 

 爛はその少女の名前を言おうとするのだが、口を開けることは出来ても、声を発することができない。爛は仕方なく、少女の跡を追った。

 

(早い・・・。走ってるのに、全然追い付けない・・・。大股で歩いて・・・あ~、ないね。)

 

 爛は走っているのにも関わらず、少女との距離はいっこうに縮まらない。しかも、距離は少しずつ開いていっている。

 そして、少女は爛の方を向く。

 

(あ、やっと気づいてくれ・・・、ん?)

 

 爛は少し気になるところがあった。それは少女の瞳の色。その少女の瞳は少し薄い赤みがかった色をしているのに、今回ばかりは、その色が真っ赤に染まっていたのであった。

 

(何かが可笑しい・・・。彼女はそんな目をしてない。)

 

 爛がそう思っていると、少女は小悪魔のような笑みを浮かべ───、

 

「やっと、来てくれたんですね。先輩。」

 

 爛の側まで行き、爛の耳元でそう呟いた。今、爛は動くことができなくなっている。何故かはわからない。だが、動くことができなくなっているのは、この少女の力であることは間違いない。

 

(桜・・・?)

 

 少女───、桜は爛のことを抱き締めると、爛の首筋を舐め始めた。

 

(い、一体何を・・・?)

 

 快感を誤魔化すこともできない爛の体は、桜の支配圏内。少しでも気を緩めたりしたら、心までもが桜の支配圏内になる。

 すると、桜は爛の首筋を丁寧に舐めているのを止めると、爛の首筋に噛みついた。

 

「─────────────っ!」

 

 桜の歯が爛の皮膚を破り、チャクチャクといわせながら、爛の血を飲んでいく。

 しかし、痛みではないなにかが爛を襲っていた。痛みよりも強く感じた他のもの。それは快感。昔から桜に血を吸われ続けていたため、敏感になっていたのだ。

 

「ん、美味しい・・・。先輩の、美味しいです。」

 

 言えることができないはずの状態で、爛の耳には桜の声が聞こえていた。

 

「─────────────。」

 

 声がでない。それより、首から伝わる快感に爛の感覚はおかしくなっていた。溶けるような感覚。首が無いように感じてしまう。

 もう爛の血はない。しかし、それなのにも関わらず、桜は爛の血を飲もうとしていた。

 

「───もうなくなったんですか?」

 

 首から顔を離した桜は爛の顔を見ながらそう言った。口から少し流れ出ている赤い液体は爛の血。

 

「先輩、夜になったら、二人して体を求め愛し合いましょう・・・?」

(・・・・・・え?本気で言ってるのか?いや、桜だし本気で言ってるわけないよな。)

 

 爛は桜が耳元で呟いたことに驚きが隠せず、驚いた表情をする。それを見た桜は、爛の頬を撫でると、また爛の首筋に噛みついた。

 

「─────────────!」

(いつまでやるつもりなんだ?流石に、目眩がしてくる・・・。)

 

 血を吸われ続けたため、貧血による目眩が爛を襲う。もう爛の血はほとんどないと言うのにも関わらず、桜は喉を鳴らせていく。

 

「ぷはぁ・・・。最後まで、味わい尽くしますね。先輩。」

 

 爛はその声を聞くと共に、意識を無くした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!?」

 

 爛が目を覚ました先には、白い天井。薬品の匂いが鼻を擽る。爛の体を伝う汗は冷たく、何かを思わせるような汗でもあった。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ・・・。」

 

 爛は汗だくになった体を拭こうと、ベットから出ようとするのだが、不意に誰かの寝息が聞こえた。

 

「?」

「すぅ、すぅ、すぅ・・・。」

 

 爛がベットの左側を見ると、そこで寝ている六花の姿があった。爛は微笑むと、六花の頭を撫で、体を拭くためにベットから出る。

 

「・・・何だったんだ・・・。桜が居たが・・・。」

 

 爛は先程の夢に出てきた桜のことを呟いた。そしてふと、窓の方を見てみると、見覚えのある姿が見えた。

 

「桜・・・?」

 

 爛はそのまま破軍学園の外に出た。窓から見ても分かったことなのだが、夜になっていたのだ。

 爛は桜を追って、破軍学園から出た。

 

「桜!」

「先・・・輩・・・?」

 

 ーーー第45話IFへーーー

 

 




諸事情により、英雄王、及び颯真の覚醒の前兆はまだ先になります。

ということで、新キャラの桜です!名字のところは、海軍艦艇の駆逐艦『敷波』から取らせていただきました!

何で敷波なのかは特に理由はありません。なので、詮索は不要です。

今回はちょっと短め。

次回は~、桜との出会いの後。再開した珠雫との戦い・・・は多分通常ルートと同じなので次の次は通常ルートの関係であるかないかって感じです。

それでは、次回をお楽しみに!


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第45話~届かない存在~

今回のあらすじ
ギルガメッシュとの戦いにて、自身の本当の固有霊装(デバイス)を顕現することができた颯真。その霊装はサーヴァントであるギルガメッシュを圧倒するものであった。ギルガメッシュはすぐに退き、颯真はすぐに一輝達を追った。追った先に居たのは、何故か戦っている爛と一輝達だった。

※詠唱時、爛は英語を言っています。




 颯真とギルガメッシュとの戦いはほぼ互角かと思えた。しかし、ギルガメッシュはまだ奥の手を隠しており、その強さはまだ本気ではないということがわかる。しかし、颯真は新たな固有霊装(デバイス)エクソシストを開放。ギルガメッシュを圧倒する力を持った。

 

「ウオォォォォォォォォ!!」

「くっ!雑種ごときにこの(オレ)がおされるとはっ!」

 

 颯真はエクソシストを振るい、次々に襲いかかるギルガメッシュの宝具を楽々と打ち落としていく。ギルガメッシュはこれほどの力を持つということが予想外だったためか、後ろに下がりながら宝具を颯真に向けて射出していた。

 

「っ!せい!」

 

 颯真がエクソシストを横に振るうと、そこから魔力の粒子が発生する。その粒子はエクソシストの周囲を漂い、力の発現を促進させる。

 

形態変化(モードチェンジ)・・・、(バスター)。」

 

 エクソシストの刃の光は先程よりも強く、長くなっていた。

 

「っ!」

 

 颯真は一気に駆け出す。襲いかかるギルガメッシュの宝具を右へ左へと避けながら進んでいく。

 

形態技(モードアーツ)、《鏡花の刹那(きょうかのせつな)》!」

 

 颯真は一瞬にしてエクソシストの攻撃範囲内にギルガメッシュを置くように進み、後ろから半回転の逆袈裟斬りをする。

 

「っ!」

 

 しかし、振るった先にギルガメッシュは居なかった。魔力感知もギルガメッシュを捉えることはできず、居なくなったと考えるしかなかった。

 

「どこに行ったんだ?いや、今は爛のところだ。魔力感知で探せば、六花達もいることになるか。」

 

 颯真はギルガメッシュがどこに行ったのかを考えるが、その考えをすぐに捨て、爛のために動き出す。

 颯真は六花達を魔力感知で見つけ、そこに向かって走っている。颯真が走っている中───、

 

 バチィ!

 

 と、どこかで放電した音が聞こえ、颯真はその先に六花達が居ると思い、先程よりも走る速さを上げていく。

 

「おいおい・・・、冗談じゃないだろ・・・。」

 

 颯真が六花達のところに着いたとき、颯真はそう呟いた。颯真にとって、あり得ないことが起きていたからであった。

 

「どうして爛が・・・、六花達と戦ってるんだよ・・・?」

 

 そう。爛が六花達と戦っていたのだ。しかも実像形態で。つまり、爛は何者かに操られているのか、それとも別のことが起きているのか。誰にも分からないままだった。

 

「ガァ!」

「一輝!」

 

 一輝が爛に蹴り飛ばされ、背後にあった木に背中を強打する。それを見た颯真は急いで一輝のところに行く。

 

「そ、颯真。」

「大丈夫か一輝。・・・にしても、あれはどういうこどだ?爛がお前達を殺すようなことはしないと思うが・・・。」

 

 颯真は率直な質問を一輝にする。当然、最初から居たはずの一輝ならば分かることだろう。

 

「僕にも分からない。でも、誰かに操られてるようにしか考えられなくて・・・。」

「だよな。そうとしか考えられない。操ってる奴が居るのなら、俺が爛を食い止める。一輝、お前は爛を操ってる奴を探しに行けるか?」

 

 颯真は爛の方を見ながらそう言う。しかし、一輝には別に気になることがあった。確かに、自分が爛を操っている者を探しにいくのは分かる。だが、気になるのは颯真の魔力。溢れんばかりの魔力を感じ取っていたのだ。

 

「颯真、その魔力は・・・?」

「あぁ、さっきギルガメッシュとの戦いでな。俺の霊装も変わったからな。この状況で爛に対抗できるのは、俺と六花、リリーだろう。」

 

 颯真の言っていることは確かにそうだ。自分達では到底爛に対抗できない。すぐに斬られることになる。しかし、溢れんばかりの魔力を持っている颯真と、自分の兄に次ぐ実力を持つ六花、最強の剣の霊であり、爛の手の内を知っているであろうリリーならば、確かに対抗できる。

 

「分かった。人数は多い方がいいだろう?僕一人で行ってくるよ。」

「いや、珠雫とステラ、アリスを連れていけ、そっちも人数は居た方がいいだろう。中に居るのは、爛が知ってる奴が居るだろうからな。できたら明も連れてってほしいが、あいつは聞かないか。それじゃ、頼むぞ一輝。」

「分かった。颯真も気を付けて。」

「あぁ。分かってる。」

 

 颯真はそう言うと、六花達の方に走り出す。

 

「さて、僕も行かないとな。ステラ達は・・・、悪いけど来ないでもらうか。何か、嫌な予感がするから。」

 

 一輝はそのまま館の方へと走り出した。そして、一輝はまだ知らない。自分の家である黒鉄家の人達は自分の欲望でしか動いてないことは、まだ知らなかった。

 

「やっと追い付いたぞ!」

「颯真!?」

「あぁ、話は後だ。爛を食い止めないと、大変なことになるぞ!」

 

 颯真はそう言いながら、霊装であるエクソシストを顕現。そのまま爛に斬りかかる。

 

「っ!」

「ハァ!」

 

 爛はそれを刻雨で受け流しながら後ろに下がる。

 

「っ。」

 

 爛はバックステップで颯真との距離をとる。すると、自身の霊装を解除し、呟き始める。

 

「サーヴァント憑依。クラス、アーチャー。真名エミヤ。」

 

 爛はそう呟くと、颯真に向かって歩き出す。

 

「───投影開始(トレース・オン)。」

 

 爛が投影したのは剣。ステラの霊装である妃竜の罪剣(レーヴァテイン)に酷似している剣を構える。

 

「ステラのか。だがな、偽物の剣は、魂じゃないのを知ってるんだよ!」

 

 颯真はそう言うと、跳躍し爛に唐竹割りの要領で斬りに行く。爛はそれを受け流し、カウンターを繰り出す。

 

「おっと、危ない危ない。」

 

 爛はステラの剣に酷似した剣を捨てると、今度は弓を顕現する。

 

「今度はなんだ?」

 

 爛が弓を構えると、魔力を高めた状態で詠唱をする。

 

「───I am the bone of my sword.(我が骨子は捻れ狂う)

「マズイ!」

「《偽・螺旋剣(カラドボルグ)》。」

 

 爛は細く鋭い螺旋剣を颯真に向けて、何の躊躇いもなく、放った。

 

「颯真!!」

 

 六花は叫んだ。このまま当たってしまえば、颯真は確実に貫かれ、死んでしまうからだ。しかし───、

 

「大丈夫だ。ま、ギリギリ間に合ったって感じだったけどな。」

 

 颯真はエクソシストで《偽・螺旋剣》を受け止めていた。いや、正確に言えば、受け止めたのは颯真の霊装ではなく、霊装に纏う粒子がそれを止めていた。

 

「形態変化、(シールド)。意外と便利だなこいつは。」

 

 颯真はそう言いながら、エクソシストを構える。爛は弓を手に持ったまま、また新たな詠唱を始める。

 

「───I am the bone of my sword. (体は剣で出来ている)

 ───Steel is my body, and fire is my blood.(血潮は鉄で、心は硝子)

 ───To me there is what you want salvation.(自分の望みのために動く)

 ───But, it was not possible to save.(誰にも理解されない物)

 ───Not accustomed to shield, not accustomed to pike.(愚かすぎた化物)

 ───Just a desire not a hope.(理解されない望みは)

 ───Part of darkness that changed my.(私を喰らっていった)

 ───Real will continue to play a fake.(人の皮を被った化物は)

 ───Wait for prey secretly.(密かに復讐の時を伺う)

 ───And nice if(だけれど)

 ───If the I is allowed. (貴方は私を許してくれるのなら)

 ───Only once more, at least.(これが最後でいい)

 ───What I want even smiling to you.(貴方が私に笑いかけてくれるのであれば)

 ───Discard all this.(この体を捧げよう)

 ───A person who has lost all.(貴方に捧げたこの体は)

 ───unlimited blade works.(無限の剣で出来ている)

 

 爛が詠唱を終えると、炎が視界を包み込み、辺りの景色を変えた。その変えた先に颯真達が見たものは───、

 

「何だよ、これ・・・。」

 

 想像もできない世界だった。

 辺りは雨でも消えぬことのない炎。空は灰色の雲が包み込み、降ってくるのは血の雨。灰色の地に刺さっているのは剣。そして、爛の立っているところの後ろには、何の意味のない玉座がそこにあった。

 颯真はリリーから聞いたことがある。エミヤというサーヴァントの宝具はその使う人物の精神に近いものとなっていると。

 つまりは、ここは爛の精神を模倣した世界。

 颯真が口にしたのはこの世界のことではない。颯真が口にしたことは、爛のことだった。知ることのなかった爛の過去。それをこの世界で体感しているようで戦うことを躊躇ってしまう。

 それほどに、爛という人間の過去は、殺伐としたものであると感じた。

 それが、どれほどに自分を追い込んでいるかを知ることでもあった。

 

 ーーー第46話へーーー

 

 




爛が無限の剣製を使用!詠唱は爛のオリジナルです。因みに、英語の部分は意味としてはルビ振りしてるのとは違います。「なんでや!何で違うものなんや!」って思うかもしれませんが、アーチャーの詠唱も直訳すると違うものへと変わります。

次回、IFはお休みし、普通ルートになります。颯真と爛の戦い。一輝単独での捜索。そして、IFでは出てきてますが、とある人物の登場になるのかな?

お楽しみに!



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第45話~血の繋がってない兄妹の絆IF~

今回のあらすじ・・・はないです。
作者がこれを書いてるときは疲労感も含めて作者を殺しにかかるほどの疲れが来たのであらすじなんて考えることなんてできませんでした・・・。




「桜、桜だったか!」

「先輩!」

 

 二人はお互いの存在を確かめるように言うと、今まで会えなかった時間を埋めるようにお互いを抱き締めていた。

 

「桜、お前はどこに・・・?」

「先輩がここに居るって、華楠さんから聞いて、来たんです。」

 

 爛は桜がここに来たことの理由を聞くと、苦笑いをしながらため息を出すのであった。

 

「母さんからか・・・。まったく、母さんは桜に甘いなぁ・・・。」

「でも、私は先輩と会えて、よかったです。今まで、会えなかったですから。」

「それは俺も同感だ。今回ばかりは、母さんに感謝しないとだな。」

 

 爛と桜は二人して同時に微笑むと、桜から切り出してくる。

 

「先輩。」

「ん?」

「先輩は今までどうしてたんですか?」

「破軍学園でのことか?」

「はい。」

 

 桜から単刀直入に聞かれた爛は少し悩み出す。それを見た桜は少し残念に思った。

 

「まぁ、いつもの日常だったさ。」

「そう、ですか・・・。」

 

 爛から言われた一言は桜を少し悲しませるものであった。しかし、爛にとっての日常は足りないものもあった。

 

「だけど───、」

「だけど?」

「足りないものもあったよ。」

「っ!」

「確かにいつも通りだった。でも、彼女達が居ない。桜も含め。ネロとタマモ。その他にも俺と契約を結んだサーヴァント達。それに、お前も居なかったものだから、少し胸の奥に何か足りないものがあったんだ。」

 

 爛から聞かされた話で、桜は考えを変えた。そして、自分の中だけにあった感情が爛の優しさで溶けていく感覚がした。

 

「それが、お前だ桜。お前は確かに養子だ。血の繋がらない妹だ。・・・でも、確かにお前は俺達の妹だ。それだけは絶対に切れるものじゃない。それは、俺や香姉、明がお前のことを大切にしてるからだ。」

 

 桜は爛の話を聞いていると、涙が溢れ出しそうになっていた。それだけ自分のことを大切にしてくれている。養子という特別な立ち位置なのにも関わらず、自分を実の妹のようにしてくれているということに、涙が溢れる。

 

「ううっ・・・。」

「さ、桜!?」

 

 桜は溢れでる涙を抑えることができずに涙を流してしまう。それを見た爛は何か癪に障ったのかと思い、焦り始めた。

 

「違うんです。先輩が、皆さんがこんなに私のことを愛してくれていることに涙が溢れてくるんです。それが、嬉しくて・・・。」

「そっか・・・。」

 

 爛は桜が涙を流している理由が分かると、桜を優しく包み込むように抱き締める。

 

「先・・・輩?」

「泣きたいなら盛大に泣いていい。今は夜だし、みんな寝ている。それに、お前のことを構ってやれるのは、まだ俺だけだからな。」

「先輩・・・。」

 

 それから、桜は爛に抱きつき、しばらくの間涙を流していた。爛は桜の頭を撫でながら、桜が泣き止むのを待った。

 

 

 

 

 

 

 桜は泣き疲れてしまったのか、そのまま眠りに入ってしまった。爛は桜を学園内に入れようとするが、あることに気づく。

 

「ヤバイな・・・、これを六花やリリーに見られたらどうしようもないぞ・・・。」

 

 ということだった。六花はとても嫉妬深く、それと同時に病みやすくもなる。リリーはあまり六花のようにはならないが、爛が困るのは必然だ。どうするべきかと考える爛。

 

「・・・ダメだ。何も思い浮かばない・・・。」

 

 爛はガックシと項垂れ、桜を抱えながら、仕方なく破軍学園の中に入るのであった。

 

「ハァ・・・、どうするべきかな・・・。」

 

 爛は自分の部屋に向かって歩いていると、とあることに気づく。

 

「あ、これ絶対終わった感じだ。」

 

 そう言いながら、自分の部屋の中に入り、ベットが置いてある・・・というよりは、リビングと寝室が同じ場所のため、表しかたが難しいのだが、ここではリビングとしよう。

 爛がリビングのドアを開け、ベットの方を向くと・・・、

 

「あ、やっぱり居たのか、六花とリリー。」

「やぁ、爛。」

 

 爛の声に応じる六花。何故か二人して笑顔でいるのは気のせいだと思いたいところなのだが、そうは言っていられない。まず爛が抱えているのは六花とリリーが知らない人物。ここでルームメイトが妹の明ならば大丈夫なのだが、知らないため、非常に危険な状態。

 

「・・・で、何で爛はその知らない人をここまで?」

「六花とリリーは知らないもんな。こいつは敷波桜。ウチの養子だ。」

「あ、それって、香さんが言ってた人だ。」

「ん?香姉が何か言ってたのか?」

 

 爛がその事を聞くと、六花とリリーは今までのことを話した。

 爛が雨の日にはトラウマが起きるということ。桜のことについて香と明から知ったこと。

 それを聞いた爛は二人に何故か謝ったのだ。

 

「すまない・・・。あんな姿を見せて・・・。」

「マ、マスター?」

「話しておくべきだったんだ。俺が、雨の日は危険だと。」

 

 爛は顔を俯かせながらそう言った。因みに、爛は桜を自分のベットに寝かせ、その隣に爛が座っていた。

 

「ううん、良いの。爛に頼ってもらえることがあったから。本当によかった。」

「すまないな・・・、助かるよ・・・。」

 

 爛は六花達に知られたことにより、素の自分を出すことができると思った。

 二人になら、頼っても構わない。そんな気がするから。

 爛は二人を抱き締める。

 

「ら、爛?」

「マスター?」

「・・・少し・・・、泣かせてくれ・・・。桜とまた会えたこと。本当に頼ることができる相手ができたこと。・・・本当に・・・、嬉しいよ・・・。」

 

 爛がそう言い、泣き出すと、二人は爛を優しく抱き締め、爛のことを優しく包み込んでいった。爛はそんな二人の心に感謝をしながら、涙を流していった。

 

「・・・ありがとう。二人とも・・・。」

 

 爛は泣き止むと、二人に感謝の言葉を言い、そっぽを向いてしまった。恥ずかしいのだろう。よく見ると、耳の先まで赤くなっていた。だが、そんなことは二人には関係ない。爛には問いたださなければならないことがある。

 

「爛?どうしてこの人をここに連れてきたの・・・?」

「マスター?私達だけじゃ不服なんですか?ダメなんですか?」

「い、いや、そういうことじゃなくて・・・。」

 

 爛は二人に桜を連れてきたことについて、聞かされていた。二人とも目のハイライトを無くし、爛にじりじりと迫っていく。

 

「ならどういうことか、説明してもらえる?」

「いやだから、さっき言ったじゃないか。破軍のところで桜と会って、桜が泣いてしまって、それで眠りについてしまったから、ここに運んできたわけであってーーー。」

「ふ~ん、じゃあ、僕達がそうねだっても爛はやってくれんだよね?」

 

 痛いところをつかれてしまった。これでは爛は言い返すことがほとんどできない。

 爛自身、六花や明などには甘すぎるのだ。

 爛は視線を六花達から背ける。しかし、それを六花とリリーが許してくれることもなく。

 

「で、どうするんですか?」

「・・・分かったよ・・・。やるから、妬むこともしないでくれ・・・。相変わらず、病みやすいよな、二人は・・・。」

 

 爛は言い返すこともできないので、二人の望む通りにする。

 そして、二人の望んだ通りにしたら───、

 

「・・・・・・。」

「爛と一緒だ♪こうして離れることができないようになってていいね♪」

「はい、私も同じです♪」

(どうしてこうなった・・・。)

 

 爛の両手首を手錠で止め、もう片方を自分の手首に止めるという、なんとも捕まえることしかさせないような雰囲気を醸し出している。

 これではまともに動くことができず、かといって逃げ出そうとすれば、今度は束縛になりかねないため、ここは素直に従うしかないと爛は諦めていた。

 

「う~ん♪やっぱり、爛の体は温かいね。」

「はい♪マスターの体をこうしていられるのは今日だけだと思うので、存分に楽しませてもらいます♪」

(ホント今日だけだからな・・・。)

 

 二人から抱きつかれ、前はリリー、後ろは六花と、サンド状態になりながらも、爛は理性を失わないようにしていた。

 

「・・・爛は───、」

「うん?」

「嬉しいよね?」

 

 後ろにいる六花から聞かれたこと。重いような声で発してはいそうだが、声だけでも圧力が凄い。これの答えは六花のお気に召す答え方をしなければいけない。そう思った爛は、素直に言った。

 

「確かにそうだが・・・、手錠で繋がってるから、満足に二人を抱き締められないんだが・・・。」

 

 それを聞いた二人の胸の鼓動は先程よりも加速し、大変なことになっていた。

 

「・・・・・・。」

「ん?どうしたんだ。いきなり解き始めて。」

「マスターがそんなことを言うからなんですよ。」

「爛が僕達を嬉しくさせることを言うから、自分の気持ちが抑えられなくなったら、どうするの?」

「え・・・、まさか・・・。」

 

 爛の頭に嫌な予感が通る。二人ならやりかねないことを想像してしまう。

 

「僕達がするのは───、」

 

 六花が何かの袋を持ってきて、取り出してきたのは───、

 

「これを身に付けるの♪」

「ネグリジェか?」

「そう、これを着て、爛を襲うの♪」

「・・・は?」

「なるほど、それはいいですね♪」

「あ、それと、爛は逃げちゃダメだからね。逃げたら、一生僕達が居ないと生きていけない体にするからね。」

 

 爛は逃げることができず、六花達に襲われた。(この意味、分かるよね?)因みに、一線は死守した。

 

 ーーー第46話IF・・・あるのか?ーーー

 

 




やっとあげれた・・・。リアルで忙がしいんですよ。六花でもいいから、誰か癒してくれる人が欲しい。できれば時雨とか。

次回のIFはあるかどうかは微妙です。
次回の普通ルートをお楽しみに!



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第46話~激突!英剣の使い手VS英霊憑依者!~

「手向けとして受けとれ。死兆に煌めけ、死相の槍!」
形態変化(モードチェンジ)(バスター)!」
「《突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)》!!」
形態技(モードアーツ)、《桜花鬼神斬(おうかきじんざん)》!!」




「ハァ!」

「フッ!」

 

 二人の剣撃は幾度となく繰り返される。精神世界で二人は、ただ単に殺すように見えた。

 二人の剣は互角。颯真の英剣、エクソシスト。爛が持つ二つの曲刀───、陽と陰の剣、干将(かんしょう)莫耶(ばくや)

 

「ハッ!」

「ッ!」

 

 颯真がバックステップ。すぐさま爛は干将を颯真に投げる。颯真はそれを弾き返し、エクソシストを構える。

 

「実力は分かるだろう。私とお前では、比べても意味がないと。」

 

 リリーは気づいていた。爛が憑依させた英霊の話し方をしていることに。しかし、それはしなくてもいいことなのだ。その力だけを持つことなのだから、そこまですることはない。

 ならば何故、彼はそこまでするのだろうか。

 そんな疑問が、リリーの頭の中にあった。

 爛は干将を剣製すると、一瞬姿を消し、颯真の懐まで一気に移動し、干将と莫耶を振るう。

 

「ッ!」

 

 颯真は遅れながらもその攻撃を防ぐ。しかし、魔力を乗せた剣であったか、勢いを殺し切れずに、体勢を大きく崩してしまう。

 

「ハァッ!」

「クッ!」

 

 体勢を戻すことを爛は許してくれることもなく、すぐに追撃に移る。

 

「何処まで付いてこれる。この剣の五月雨に。」

「ッ!?」

 

 颯真が空に顔を向けた先には、幾百、幾千とも及ぶ剣が颯真に切っ先を向けて、刺さんと構えていた。

 颯真の額に汗が伝う。この状況を誰よりも一番分かるからだ。

 そう。自分が殺させるかもしれないということを恐怖しつつも戦っているということに。

 人間誰しも、生に、生きることにすがり付く。死を求める人間など、何かがあるからこそである。

 

「いいじゃないか。その剣、すべて打ち落とす!」

「フッ、行くぞ!」

 

 爛は颯真に向けて、剣製した剣を射出する。颯真は走りだし、次々に襲いかかる刃を打ち落としていく。

 

「まだまだ行くぞ。追い付けるか?」

 

 爛は剣を精製しては颯真に射出し続ける。颯真もまた、同じように落としていく。

 

「ウオオォォォォォォォォォオォォオォ!!」

 

 咆哮とも言える颯真の雄叫びが、爛の精神世界で木霊する。爛は干将と莫耶を構えると、颯真に向かって走り出す。

 

「ハァ!」

「ッ!せい!」

 

 二人の剣撃がまた始まる。しかし、爛の動きになれてきたのか、颯真は爛の動きについてきており、また反撃にもすぐに移っている。

 

「フッ!」

「タァ!」

 

 一進一退の攻防。しかし、どちらも硬直状態であることは間違いない。ここからは持久戦。どちらかがバテてしまえば、そこで敗北が決定する。そこで勝者が決まる。

 

「お前は、その剣で何を思う!」

 

 爛は颯真に問う。その剣が、何なのかを。その剣が、何のものなのかを知っているからこそ、颯真に問うのだ。

 

「そんなことは、まだ考えたこともない!ただ、この力が、前を向くための支えとなって、誰かを助けられるというのであれば、俺はこの剣に、すべてを託す!」

 

 颯真はそう言いながらも、爛にエクソシストを振るう。本当の答えではない。だが、颯真のその考えは、確かなものだとわかる。

 

「その考えが可笑しい。お前が考えたその思考は、元々はあの事が起きてからの話だろう!」

「ッ!だったら何だ!俺は、お前の言葉だけじゃ曲げられるわけがない!」

 

 爛の言ったことに、颯真は反論する。

 爛の言っていることは、確かにその通りでもある。別のところから引き込まれた物は、自分自身で生み出したものではない。

 だが、颯真にはそれを反論することができる。颯真の知っている親友の彼は、その思いで目指しているのだから!

 

「確かにお前の思考は固い。だが、それを実現することが不可能に等しい!ごく僅かな可能性を信じて動くのか!」

 

 爛はそれを否定するかのごとく、気迫のこもった声で反論する。しかし、颯真とて、負けているだけではない。

 

「だったら、お前はどうなんだ!お前も俺と同じだ!」

「知らん。私は絶望した。あの時に、何もかも失って、絶望した。」

「ふざけるな!その絶望を無くそうと、お前は強くなろうとした!最強は求めなくても、誰かを守る力を求めた!これの何処に違いがある!」

 

 どちらも正しいのだ。

 ただ、それは理想であり、叶うはずもない思い。

 絶望した人間は、理想を追いかけることを捨て、現実的な考えを持つ。

 つまり、今の彼は、現実的な考えを持ってしまったということになる。

 だが、それはあくまで操られているからであり、実際の爛は違う。

 親友の自分に出来ることは、彼を助けることであり、また支えることでもある。

 

「なら、俺が無理矢理にでも助け出す。その果てが機械的なものであったとしても。」

「・・・スタート地点に立ったのか・・・。そこから先は地獄だぞ。」

「構わない。それでも俺は、お前の味方であり続ける。」

 

 颯真はそう言い放つ。濁りもしていない真っ直ぐな瞳で。誰もが美しいと感じるほどの、綺麗な瞳で。

 

「フッ、ならば、その覚悟、その決意、何を以て伝えるのか、お前にはその答えが見えているはずだ。」

「あぁ、分かってるさ。それくらい。」

 

 颯真は過去を思い返す。

 自分が信じて歩いてきた道は間違いではなく、その道は茨の道。しかし、そこを歩いていたのは、颯真の親友である爛。

 颯真は、先を行く爛を見て、過去を見て、自分も同じように助けたいと思った。

 その心が例え、偽善であったとしても。自分の道の先を行く爛は、それを分かっていたはずだ。だけど、それを信じて、他人の評価に屈することなく、前に進んでいた。

 颯真にとって、それは光のような存在であった。

 だからこそ、颯真はそれを信じた。

 

「お前に、剣でそれを証明する!」

 

 そして颯真は、駆け出す。己の剣にて、爛を助け出すために。

 

「ッ!ハァ!」

「フン!」

 

 二人の剣がぶつかる。何気ない剣のぶつかる鉄の音。しかし、騎士にとって、それは大切なものでもある。意味のない剣なんて、何処にもない。剣を振るう人間は、理由があってこそ振るうのだ。

 

(チャンスは一度きり・・・。決して外すことのできない一撃になる。・・・失敗してしまえば・・・、もう俺の敗北は決まっている。)

 

 颯真はとあるチャンスを探していた。一撃にて、爛を戦闘不能に追い込むことが出来るほどの一撃を。

 だが、先程からの形態変化(モードチェンジ)の使用により、体力が減っているのは確かなこと。

 外してしまえば、ここで颯真の敗北になってしまう。

 

「フッ!」

「チッ!」

 

 颯真の一振りで、爛は隙をつかれたのか、苦虫を噛んだような顔をすると、すぐに後ろに下がる。

 

「ここだっ───!」

「ッ。まだまだ───、」

 

 颯真は一気に踏み込み、爛の懐まで行く。爛は瞬時に把握するが、その時には遅かった。

 

「もらった───!?」

 

 しかし、爛を斬ったはずだった───。

 手応えは、それほどになく、花弁を斬ったかのような感覚しかなかった。

 そして次に襲ってきたのは───、

 

「グァッ!?」

「甘いな。」

 

 痛みだった。

 反撃に出れない状態であるはずの爛がどうしてすぐに反撃に出られるのか。それは、六花とリリーはわかるものであった。

 

「まさか・・・《天衣無縫(てんいむほう)》!?」

 

 そう、《天衣無縫》だ。

 後の先・・・、それを主軸に剣を振るうは綾辻一刀流の最終奥義。

 森羅万象すべてに魂を散じ、すべてを感じとることで僅かな体捌きだけで敵の凶刃を受け流す無双の構え。

 しかし、そう易々とはできない。

 

「クソッ・・・。」

 

 あの状態で反撃に出られるものではない。そう考えられたからこそ、颯真は追撃に出たのだ。しかし、それはすぐに覆された。

 未来も見えることなく。

 

(まだ本当の力じゃないのか・・・?)

 

 エクソシストの力をまだ自由に扱えていないことに、颯真は疑問を持つ。

 ───が、そうとは一概に言えるわけではない。自身の技量が足りないのも、一つの理由になる。

 

『君の剣は、選定された剣だ。その事の意味は、君がその剣の持ち主だと言うことだ。』

 

 何処からか、声が聞こえてくる。

 だが、頭の中に直接語りかけてきているの間違いない。聞こえているのは、自分自身のみ。

 

『───変えたいかい?』

(・・・え?)

『未来───。』

 

 間を置かれた後に聞かれたのは、その事だった。突然の事に、颯真は驚いたような表情をする。

 

『エクソシストは、君の意に従う。だけど、その力は本来の力ではない。』

(どういうことだ・・・?)

『真のエクソシストを手に取れば───、それは分かることさ。』

 

 その声を聞いたときには、もう頭の中に語りかけてきている声は無くなっていった。

 ただ、颯真の頭の中は、疑問でしかなかった。

 

「───さて、そろそろ終わりとしようか。」

 

 颯真の意識が呼び戻されたのは、爛の声だった。爛は颯真から距離を取り、手に持っていた干将と莫耶を投げ捨てる。

 

「お前の全力で来い。来なければ死ぬだけだ。」

 

 爛はそう言うと、右手に赤い槍を剣製する。その赤い槍は、死を連想させるような外郭をしていた。

 

「クッ・・・。」

 

 颯真は痛みを堪えながら、立ち上がる。颯真の瞳は、諦めることを知らないような瞳でもあった。

 

「臨むところだ・・・!そう易々とは死ねないからな・・・!」

 

 颯真は、覚悟のこもった声でそう言うと、エクソシストを水平に、横に向ける。

 

「ならいい・・・。」

 

 爛は赤い槍を投げ槍のように持ち、目を閉じて、声を発する。

 

「手向けとして受けとれ。死兆に煌めけ、死相の槍!」

形態変化(モードチェンジ)(バスター)!」

「《突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルグ)》!!」

形態技(モードアーツ)、《桜花鬼神斬(おうかきじんざん)》!!」

 

 爛は天高く跳躍すると、魔力を最大限に溜めた槍を颯真に向かって投げ飛ばす。

 颯真は体を捻るようにし、エクソシストを後ろ側で構えると、そのまま抜刀斬りのように、逆袈裟斬りで投げ飛ばしてきた槍に刃をぶつける。

 

「ウオオオォォォォォォォオォォォォォオォオォォオオォォォオオォォォオォォォォォォォォォオォォォオ!!!!」

 

 二人の力がぶつかり合った瞬間、重い気圧は一気に二人の体を打ち付ける。

 

「例え、偽善に満ちた人生であろうと───。」

 

 颯真は、襲いかかる槍を、死を目の前にしながらも、声を発していた。

 

「その人生が、誰にも理解されなくても───。」

 

 その言葉には、颯真の決意があった。

 

「俺は、正義の味方を張り続けるっ!!」

 

 誰かを助けたいと思った。ただ、それだけのこと。それでも、その道だけは、逸れることは絶対にしないと。そう言っているようでもあった。

 

「ォォオォォォオオォォォォォオオォォオォオォォォオオォォォォォォォォォォォオオォォオオオォオォォォオオォォオオォオォォォォォオオォォォオ!!!」

 

 絶対に負けることはしないという思いも感じ取ることができた。

 颯真の思いは、爛に届くのだろうか・・・。

 

 ーーー第47話へーーー

 

 

 




やっと上げれた・・・。
リアルが忙しいとこんなに投稿スピードが落ちるのか・・・。頑張らねば!

次回、颯真VS爛 ついに決着!そして、一輝のところは・・・。


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第46話~刀華の異変、その事件IF~

───頑張らないといけなかった。
───傷ついて欲しくなかったから、
───自分を変えるしかなかった。

※後書きにて、大事な事をお知らせしています。




 桜と再会した次の日。爛は理事長室にいた。

 

「で、呼び出した用件は?」

「とある事について、聞かせてほしいのです。」

「・・・・・・。」

 

 爛は黒乃からとある事を聞かせてもらいたいと聞いたとき、爛は目を閉じて、黙ってしまう。

 

「・・・刀華があれだけ理想的な考えを持った事について・・・。違うか?」

 

 少し間をあけると、刀華の名前と、その理由をを口にする。

 黒乃は刀華の妹の愛華から話を聞いたのだろう。爛の言ったことに、何も言わずに頷いていた。それを見た爛はため息を深くついた。

 

「聞くのはいいが・・・、まずあの事件について、話さないといけないが、いいか?」

「ええ。」

 

 爛の問いに一声で返すと、爛は懐のポケットから煙草を取りだし、吸い始めた。

 

「・・・私から言うのも何ですが・・・、余り吸いすぎないようにしてくださいね。」

「何、元より吸いすぎるなってのは、香姉と明、六花とリリーに桜と、結構釘を刺されているからな。それに、吸うのは1本程度だ。安心しろ。」

 

 爛はそう言うと、煙草に火をつけ、口にくわえる。

 

 

 

 

 

 

 

 爛の実家は新潟にあり、刀華と愛華とは、離れた親戚になる。幼い頃から三人は一緒に居たためか、宮坂家と東堂家は仲のよい親戚であった。

 

「また負けた~。」

「まぁ、前よりは強くなってるから、そんなにならなくてもいいけどな。」

 

 刀華と爛は、竹刀で打ち合いをしていた。剣の基本を一から鍛えるように、二人とも竹刀でやっていたのだ。

 

「少し休憩しよう。流石にぶっ続けは危ないぞ。」

「爛君の言いたいことは分かるけど・・・、まだ鍛えさせて。」

「どうして?」

 

 いつもならば、爛の言ったことに賛同し、休憩をするはずなのだが、刀華はそれを否定した。

 

「もっと・・・強くなりたいから・・・。」

 

 刀華の答えはそれだけだった。普通ならば納得の行くはずの答え。しかし、爛には思うところがあった。

 

「まぁ、いいんだけどさ。・・・刀華。何か焦ってないか?」

「焦ってる?そう、爛君には見えるの?」

「あぁ。何か、焦らないといけないような事があったのかと。・・・まぁ、大体は予想がついてるけどな。」

 

 爛には刀華が焦っているであろう理由には、爛にも、同じような事があったからだ。

 

「・・・この前の事件からだな。お前が焦ってるように見えたのは。」

「そう・・・。」

 

 爛が暗い顔になりながら話すと、刀華もその事を知っているのか、同じように暗い顔になってしまった。

 そう。あれはつい最近起きてしまった事件。

 爛は刀華たちに会いに行こうと、『若葉の家』というところに来ていた。そこは、孤児が暮らす施設であり、様々な理由でここで住んでいる孤児がいる。

 そして、刀華と愛華も、その孤児の一人であった。東堂家は刀華と愛華を残し、亡くなった。

 そのすぐ後に、爛が来た。爛は血相を変えて、刀華と愛華を引き取るところを探した。

 そして、刀華と愛華を引き取ったのが、貴徳原財団が経営している若葉の家。

 そこには、若葉の家には泡沫が居たのだ。そしてこのとき、刀華たちは泡沫と知り合った。そして、カナタも。

 初めは、ここに慣れるのが大変であったと、爛は記憶している。刀華たちが若葉の家に住むようになってから、時々顔を見せに行っているからだ。

 ただ、問題があった。それは、若葉の家を狙っての事件。若葉の家に、親に見放された孤児がここに来ていたのか、それを狙って殺し屋が来たのだ。

 しかし、伐刀者(ブレイザー)として覚醒していた刀華と愛華は、若葉の家のみんなを守ろうと、その殺し屋と戦った。

 だが、現実はそこまで理想的なものではない。その殺し屋は拳銃を持っていたのか、死に間際に引き金を引き、その孤児の頭を貫いたのだ。

 それも幼い子供。一瞬にして生きることができなくなってしまったのだ。

 刀華たちは悲しみにうちひしがれた。爛は、その時居たのだ。だが、若葉の家のみんなが好むものを買いに行っていたため、爛が戻ってきたときには、若葉の家の前に、死体が二つあった。

 ・・・その時に、刀華が言った言葉は───、

 

「・・・ごめんね。爛君。守れなかったよ。」

 

 その言葉だけだった。爛は刀華の側に行くと、刀華を優しく抱き締めた。刀華は泣きじゃくった。涙が枯れるほどに。

 刀華の涙が止まると、爛は若葉の家で二人に話をした。

 

「・・・なぁ、二人に聞いてもらいたい話がある。」

「何?爛くん。」

「とある少年と、英霊の・・・生き残るための話だ。」

 

 爛は一息つくと、リラックスした状態で、その物語を話始めた。

 

「少年は、とあるものに憧れていた。

 それは、人を助けること。

 だけど、それは現実で言ってしまえば甘すぎる考え方だった。

 とある日、少年の住んでいるところで、戦争が起きた。神話なんてものを読んでるのならわかるだろうが、その戦争は、『聖杯戦争』・・・と呼ばれていたよ。

 その少年は、英霊と共にする、マスターと呼ばれる存在となった。だが、その少年に、魔術の才能なんてどこにもなかった。

 けどそれは、一時だ。少年は魔力回路という物を手にいれている。少年は、一から生成することで、魔術を手にいれた。

 それが、見たものの剣を再現、本物に近いものを剣製する魔術。

 だだ、それは自分を殺すようなものでしかなかった。一から生成する度に、自身の身を傷つけるようなものだからな。

 少年はそんな危機的状況でも、諦めずに戦い続けた。

 戦い続けていくなかで、少年は地獄を見た。いずれ必ず辿る、地獄を見た。

 そして、少年の前世である英霊は、その地獄を必ず辿ると。そう言った。このまま正義の味方を張り続ければ辿ることになる。」

 

 物語を語っている爛の顔は、何処か懐かしむように感じた。

 何故か、この物語を見たような言い方をして。

 

「けれども、少年は諦めることをしなかった。

 ・・・まだ、話は続く・・・。

 この後の話は、俺の過去と秘密、全てを知ったとき、俺は、この続きを話そう。

 ・・・(話すことなどなければいいが)・・・。」

「爛・・・くん?」

 

 爛は立ち上がり、若葉の家を出ようとした。

 刀華は爛が最後に呟いたことに、疑問を持った。

 

「待って。」

「ん?」

「その少年は、最後にどうなったの?」

「・・・・・・。」

 

 愛華が爛を止め、少年の最後について聞こうと爛に尋ねるが、爛は黙ってしまう。

 

「・・・・・・いつか話す。(本当に、そんなことがないといいが)・・・。」

「また何か言った?」

「いや、何でもない。とりあえず、話の続きは今度だ。」

 

 爛はそう言うと、本当に若葉の家から出ていってしまった。刀華と愛華は、爛の呟いたことが気になってしまった。

 

「爛くん、私は、どうすればよかったのかな・・・?」

 

 刀華は虚空に呟くだけであった。

 

 

「・・・まぁ、話についてはこの程度だ。他にも理由はあるけどな・・・。ただ、彼女を変えたのは、守れなかったことだ。誰よりも優しく、誰よりも強き者であろう。誰よりも、その考えを持ったんだろう。

 ・・・それが、東堂刀華の強さであり、その源泉でもある。だからこそ、去年の一輝が受けていた扱いには、気づけなかったんだろうな・・・。」

 

 爛は悲しい顔をしていた。彼女と同じような感情をしていたのであろう。

 ただ、爛は彼女と同じで、彼女のような考え方をした人間がすぐに散っていくのを見てきた。いや、知っている。

 

「彼女が心配なのは確かだ・・・。妹の愛華にも、気を付けろとは言っているが・・・、中々気づけないことも、姉妹の中である。」

 

 爛は必ず彼女の心配をしていた。表面上では何もないように見えるのだが、実際は物凄く心配している。遠い親戚の身ではあるが、彼女を思う気持ちもあるということだ。

 

「・・・そういえば、椿姫さんはどうしたんだ?見ていないが・・・。」

「あぁ、椿姫なら───。」

 

 爛は、暗い話題を変えようと、前々から疑問に思っていたことを口にした。

 確かに、椿姫は爛が救出されてからも、姿を見ていない。

 

「・・・いや、いい。」

「いいんですか?」

「あぁ、大丈夫だ。」

 

 爛は黒乃の言葉を遮るように前言撤回をする。

 爛は少し笑みを作ると、後ろを向く。

 

「話は終わりだ。特にないなら、俺は戻らせてもらう。」

「えぇ、もう大丈夫です。」

 

 爛は黒乃の声を聞くと、理事長室から出ていった。爛は理事長室を出ると、誰にも聞こえないような小さな声で、こう呟いた。

 

「・・・椿姫さん、もう準備できてるな・・・。」

 

 爛はそう言いながら、自室へと戻っていった。

 

 椿姫は、とある人物と共に、極秘裏の資料を読み漁っていた。

 

「本当に、情報が載ってるんですか?」

 

 とある女性は、そう言いながら資料を椿姫の元に持ってきていた。

 

「静かに。でも、間違いなく、その情報は極秘裏の物よ。・・・あった。これで間違いないはず・・・。」

 

 椿姫は手元にある紙を取り、それを開くと、読んでいた資料と照らし合わせた。

 

「当たりね。大正解よ。」

 

 椿姫は何かを書くと、自身の服のポケットの中に紙をいれた。

 

「それは本当ですか!?早く、早く見せてください!」

「まぁまぁ、まずは落ち着くことよ。『貴女』が『彼』に会いたいというのであれば、しっかりと協力してもらうからね。」

「えぇ、もちろんです!」

 

 女性は意気揚々としていた。それを見た椿姫は、微笑ましそうにその女性を見ていた。

 

「さて、すぐに退散しましょう。」

「撤退には任せておいてください!」

「元から、貴女に頼んでるの。よろしくね。」

「ええ!」

 

 椿姫と女性は、魔力の粒子となり、極秘裏の資料庫から居なくなった。

 

「彼も、大変な人よね・・・。」

 

 椿姫は、誰にも聞こえない声でそう言った。

 彼とは一体誰なのか、そして、椿姫と極秘裏の資料庫に居た女性は誰なのか。

 それは、物語を変えていくことになる。そして、爛たちが住んでいる場所で、とある争いの前兆が、起きようとしていた・・・。

 

 

 ーーー第47話IFへーーー

 




これで46話IF終了です!
いやぁ~疲れた・・・。

あ、それと、重要なお話について。
この小説の番外編、及びそれに関する物を消去させていただきました。
いやね。理由が、ね。

全くネタが思い付かないんですよ・・・。

そして、僕はとあることに気づきました。

そんなこんなら、誰かとコラボとかしてもよくね?と。

まぁ、誰かしてくれるって人がいれば、感想やメッセージでお知らせください。いなければやりませんけどね・・・。

次回・・・は、特に何も考えてませんね。通常ルート次第ってところでしょうか。
お楽しみに!


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第47話~急変!操られた一輝、爛の式神と英霊登場!~

久しぶりの投稿だ~!!

最近、リアル事情があって中々書くことができませんでした。申し訳有りません。それでは、どうぞ!




「くっ!」

「ハァ!」

 

 颯真は爛の槍、《突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)》を斬り伏せると、そのまま爛のところへと走り出す。

 

「っ、消えろッ!」

 

 爛はすぐさま剣を剣製。颯真へと射出する。

 

「ッ!」

 

 しかし、颯真はそれを切り払い、意にも返さず走り続ける。

 それが、たとえ巨大化した剣であろうと。

 

「ウォォォオォォオォォォォオオォォォォォオ!!!」

 

 颯真はエクソシストを突きの構えにする。爛は反応することができず───、いや、反応することは出来たのだが、返り討ちにすることをしなかった。

 

(───全くもって困ったものだ。そういえば、こういう男が居たんだな───。)

 

 そして、そのまま颯真のエクソシストは、爛の腹部を貫く。

 

「───俺の勝ちだ。爛。」

「あぁ───、そして私の敗北だ。」

 

 爛は過去を思い浮かべるように微笑むと、少しだけ───、残念そうにそう言った。

 

「負けてしまったのですか・・・。先輩には頼りにしていたというのに・・・。」

「ッ!?」

「手を抜けと言ったのは君だろう。何か不満でもあったか?桜。」

 

 爛の後ろに現れたのは、ピンク色の髪をした少女。爛は桜と呼んでいたため、名前は桜で間違いないだろう。

 

「丁度時間も稼げましたし、問題ありません。でも、いつまで操られた振りをするのですか。」

「ん、バレてしまったのなら仕方がない。だが、そちらも捨て駒は獲得できたのだろう?」

 

 爛はニヤリとした表情で桜に問う。桜は同じように爛に笑みを向けると───

 

「確かにそうですね。・・・ですから、殺ってしまいなさい。」

 

 桜がそう言うと、館の窓が割れる。そこから現れたのは、一輝であった。

 

「やはりな。一輝を操ったか。」

 

 爛はそう言うと、赤い剣を手に取り、一輝を迎撃する。

 

「どういうこと!?どうしてイッキが・・・。」

 

 ステラ達は疑問しかなかった。何故一輝が館の中から出てきたのか、操られているのか。その疑問がステラ達の頭を過る。

 

「・・・感化されたか・・・。」

 

 爛はそう呟くと、一輝との剣撃に集中する。

 

「っ、しまった!」

 

 爛は別のことを考えてしまったために、一輝からの蹴りを貰ってしまった。かなり力をためた蹴りであったために、爛は後ろの木に背中を強打した。

 

「ガッ・・・ハ・・・。」

 

 一輝は何も言わず、そのまま跳躍し、爛に止めをさそうとしている。

 

「くっ!」

(仕方がない・・・。『狐夜見』!頼む!)

『分かりました!すぐに迎撃します!マスター!』

 

 爛の体から、光が生まれ爛から少し離れたところに行くと、光は眩しくなり、ステラ達は自身の目を庇う。

 

「奏者が危険だと感じ、すぐさまこちらに飛んできたのだが・・・、大丈夫そうであったな、奏者よ。」

「私の出番を残しておいてくださいよ~!ま、それでもご主人様とまた会えたのは、嬉しいですけどね♪」

「遅れてすみません!大丈夫でしょうか?マスター。」

 

 三人の少女の声を聞いた。そう、全員が確実に。

 

「いや何、偶々狐夜見の出現と被ったが、大丈夫だ。心配かけたなネロ達。」

 

 光が収まり、爛の方に目を向けると、爛の周りに四人の少女が居た。

 一人目は二つの剣で一輝の剣を止めており、狐の耳と尻尾のような物を持ち、白の基調とした服を着ている。

 二人目は金髪で、赤を基調とした服を着ている。そして、爛が一輝の剣を止めたときに使った剣を持っている。

 三人目は一人目の少女と同じような姿をしており、青を基調とした服を着ている。そして、少女の周りには鏡が回っている。

 四人目は刀を持ち、空色の羽織をきた少女。爛と似たような髪型をしている。

 

「先輩のサーヴァント達ですか・・・。ここは撤退した方が良さそうですね。」

「何を言ってるんだ?桜。」

 

 桜の言ったことに爛は反応をする。しかし、どう考えても逃げられる。

 ───が、爛にとっては意味のないもの。遠すぎてなければ、爛はすぐに距離を詰められる。

 

「《第二段階・鬼神解放(きしんかいほう)》。」

 

 爛がそう言うと、爛の体から、赤いオーラが出てくる。

 そして、同時に魔力の量が増えている。

 すると、爛は姿を消し、桜の前に行くと、右腕で桜の胸を貫いた。

 

「先・・・輩・・・?」

「お前だって元々操られてただろうに。《(ゼロ)》。」

 

 爛がそう呟くと、桜から感じられていた黒いオーラが消えていき、桜は気を失ったのか、爛の方にもたれ掛かる。

 

「・・・さて、一輝の方もどうにかなってなるだろう。」

 

 爛が一輝の方を向くと、一輝は桜と同じように気を失っており、ステラが側に居た。

 

「奏者よ。久しぶりだな!」

「ご主人様、お久しぶりです。」

「マスター、お元気にしてましたか?」

「ご主人様、褒めてくださいよ~!」

「お、おいおい、いきなり全員して話しかけるのは止めてくれ。・・・俺は聖徳太子か・・・。」

 

 爛のサーヴァント達が爛に一気に話しかけてくる。爛は困った顔をして、話すのであった。

 

「とりあえず、学園に戻ろう。ステラ、一輝を頼めるか?」

「えぇ、分かったわ。でも、ランの周りにいる人は・・・?」

「・・・それに関しては、戻ってからでいいか?一輝も居た方が良いからな。」

「分かったわ。」

 

 爛は桜を抱え、ステラは一輝を抱えて破軍学園へと戻っていく。

 爛は破軍学園に戻っていく間に、自身のサーヴァント達、狐夜見、六花、リリー、明から嫉妬の目で見られていたのは言うまでもない。

 

 桜と一輝の意識が覚醒したとき、二人は操られていた記憶を持っていたのか、爛達にものすごい勢いで謝ってきた。

 

「ん、まぁまぁ事情はわかってるから、そんなに謝らなくても大丈夫だからな。」

 

 その爛の言葉により、止めることはできた。だが、爛にとっての地獄はここから始まる。

 爛の部屋にて

 

「こんなにお暇してしまうと、時間を弄んでしまいますね♪」

「も~、ご主人様~?もっと構ってくださいよ~。」

「奏者よ。余のことも忘れるな!」

「ご主人様、もっと褒めて褒めて~♪」

「マスター、私もお忘れにならないで、構ってください~。」

「爛、僕だって忘れないでよ。爛だって僕のこと大事でしょ~。」

「お兄ちゃん♪やっぱり、お兄ちゃんの体は温かいね♪このまま寝ちゃいそうだよ~。」

「・・・・・・」

(どうしてこうなったんだ・・・。)

 

 そう、サーヴァント達や狐夜見の話をする前に、サーヴァント達、狐夜見、リリー、六花、明にもみくちゃにされているのだ。

 因みに、最初に時間を弄んで~なんてことを言ったのは、爛と契約しているサーヴァント、新撰組で病弱である『沖田総司』。

 次に爛に構ってもらいたい。なんてことを言っているのは沖田と同じように爛と契約しているサーヴァント。『玉藻の前』。略してタマモ。

 次に、爛のことを奏者と言っているのは、またまた二人と同じように爛と契約しているサーヴァント。ローマ皇帝の王であるサーヴァント。『ネロ・クラウディウス』。

 次は、サーヴァントではなく、爛に契約しているのは確かではあるが、陰陽師の力を持っている爛は式神と契約しており、その彼女は爛の式神である。名前は『狐夜見』。先程から名前が出ている。

 

「爛が大変だね・・・。」

「そうね・・・。」

「あいつは何故か女運だけねじ曲がってるからな。」

 

 ネロ達にもみくちゃにされている爛を見ていた一輝達は苦笑いをしながらそういう。

 

「・・・なんか蔑まれてる気がするのは俺だけか・・・?」

「奇遇だね、僕も同じこと考えてた・・・。」

 

 そして、何故か二人して同じことを考えてしまう。

 

「おいおい!あんまりそんなことしてると、服がはだけるぞ~!」

 

 爛が全員の服がずれてきているということに気づき、指摘する。

 ───が、爛に好意を持っているネロ達からすれば関係のない話。しかもこれはある意味でチャンス。

 

「ならばもう服を脱いでしまいます!」

「ちょっ、バカ!止めろぉぉぉぉぉぉぉおおおぉぉぉぉ!」

 

 爛は叫びながら、もみくちゃにしてくるネロ達を振り払うと、部屋から走って出ていってしまった。

 

「あ、爛が出ていった。」

「ん~、まぁ、やりすぎは止めろってことだよな。爛だってそういうのはあんまり好きな訳じゃないからな。」

 

 二人は爛のことを話していると、六花達は爛を探しに部屋を出ていってしまった。

 

「ん?やっぱり、明も行ったのか。」

 

 颯真は爛が居た方向を見ると、本当に六花達が爛を探しにいったことを見た。そしてその中に、明がいると思ったのだ。

 

(ん、まぁ、頑張れ、爛。)

 

 これから親友の身に災難が降りかかろうとしているのにも関わらずに、颯真は他人事のように考えるのであった。結果にしろ、何かにしろ。爛ならば大丈夫だと考えているからである。

 爛の災難はこれからである・・・。

 

 ーーー第48話へーーー

 




やっと!やっと!狐夜見と!ネロ達を!登場することができたーーーーー!!!

ネロに関しては今日あげろと言わんばかりにfgoでネロブライドがガチャ一発で出てきたんで、急いで書き上げました!

それでは、次回をお楽しみに!



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第48話~再びの災難、また英霊、過去~

今回はIFはないんだな!




「待ってください!ご主人様ー!」

「待てるかぁ!服を脱ぐことに躊躇わないお前達がある意味怖いし、凄いからな!」

 

 爛を追いかけるタマモは、爛にそう言いながら、どんどんと迫っていく。爛は、反論しながら、全速力で走っていた。

 そう。逃げ続けるのか、捕まるのか、爛は追いかけてきている彼女達が何を仕出かすのかを分かっているからこそ、逃げているのである。

 

「よっと!」

「あぁ!ご主人様!」

 

 残念そうに言うタマモを放って、どんどんと走り続ける爛。休んでいる暇は、無いようだ。

 

(・・・これが彼女だったらな・・・。大変な目に遭ってそうだ。)

 

 爛は『彼女』という存在に苦笑いをしながら、そう思うのであった。

 

「ふぅ・・・。この辺りは安全そうだな・・・。まったく、あいつらは限度を知らないのか・・・。」

 

 爛はそう呟きながら、壁伝いに歩いていく。

 すると、爛は何かに気づいたのか、ぴたりと足を止めた。

 

(この感覚・・・、まさか彼女か?)

 

 爛は自分の中にある感覚と、先程感じたものが同じであることに気づくと、とある可能性に行き着いた。

 爛はそれを確かめるのか、感じている感覚を頼りに、歩いていく。

 

「・・・!」

(間違いない!彼女だ!)

 

 爛は距離が近づくにつれ、感覚の強さが増していく。自分の感覚に確信を持ち、爛は駆け足で彼女のところへと向かった。

 

「・・・居た!」

 

 爛が声に出しながら、目を向けた先には、青い衣と銀色の鎧を纏った女性。

 しかし、爛の中には、まだ警戒があった。自分が連れ去られたとき、彼女と同じものを身に纏っていた女性が居たからだ。だからと言っても、彼女と、同じような彼女は違う。それを信じて、爛は彼女に近づく。

 

「・・・ジャンヌ。」

「・・・!マスター・・・?」

 

 爛は彼女をジャンヌと呼び、ジャンヌと呼ばれた彼女は、振り返り、自分を呼んだ爛を見て、マスターと呼んだ。

 ・・・つまり、ジャンヌは英霊・・・つまりサーヴァントであり、爛と契約していると考えていいだろう。

 二人は顔を見合わせると、同時に笑みを浮かべる。

 

「久しぶり、ジャンヌ。」

「はい・・・、お久しぶりです。マスター・・・。」

 

 ジャンヌはそう言いながら、爛のところへと歩いていき、彼を抱き締めた。

 

「・・・!ジャンヌ?」

「あぁ・・・、マスターの体温・・・。私を、温めてくれる・・・。離れたくありません・・・。離したくもありません・・・。私は、マスターに触れられるだけで、幸せです・・・。」

 

 爛はいきなりジャンヌが抱きついてきたことに驚くが、受け入れており、ジャンヌは爛を体温を感じると、目のハイライトを消して、ブツブツとそう言うのであった・・・。

 しかし、爛にはまた、ジャンヌとは別の感覚が来ていた。それも、嫌な予感と共に。

 

「見つけましたよ、マスター!」

「嫌な予感だけは当たるんだな、俺!とにかくジャンヌ、離してくれないか!」

「あぁ、マスター。マスター、マスター・・・。」

(ダメだこれ!・・・仕方ない。実力行使だが・・・。)

 

 爛は手っ取り早くジャンヌから抜け出すために、乗り気ではないが、ジャンヌの頸動脈に向かって、チョップで強打し、ジャンヌを気絶させると、爛はジャンヌを担ぎ、そのまま走り出した。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!」

(まったく、こんなタイミングでジャンヌと会うとはね・・・。)

 

 爛はジャンヌと会ったことに、苦笑いをしながらも、自分を見つけて追いかけてくる狐夜見から逃げていく。

 

(・・・ん?窓が開いている・・・。)

 

 爛は奥に、開きっぱなしの窓を見つけ、後ろを見ると、相変わらず追いかけてきている狐夜見を見て、爛は奥の方へと走っていく。

 しかし、まだ爛は何も知らない・・・。その開いている窓が罠だということに・・・。

 

「これは好都合だな。じゃあ、ジャンヌをこう持って・・・、よっと!」

 

 爛はジャンヌをお姫さま抱っこに持ち変え、窓から飛び出すのだが・・・、それが悪手となった。

 

(げ、これはマズイ・・・。)

 

 爛が下を見たさきには、下で六花達が待ち構えていること。

 

(これはどうしようにもならんな・・・。仕方ない・・・、諦めるか・・・。)

 

 爛はすぐに諦めることにし、すぐに下に下りた。

 

「いつまで逃げてれば気がすむのさ~・・・。」

「何で私達から逃げるんですか~・・・。」

「分かってるって・・・、その・・・、悪かった・・・な・・・。」

 

 爛に迫ってくる六花達に謝ると、六花はジャンヌを抱えているのもお構い無しに爛の腕を掴み、自分達の部屋へと戻る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 気絶しているジャンヌは、とあるものを見ていた。普通ならば夢に出てくるようなもの。だが、ジャンヌが見ていたのは、別れだった。

 

「すまない・・・、俺はここで別れないといけない・・・。」

「え・・・?嘘・・・ですよね・・・?」

 

 これはジャンヌ主観の夢。第三者の目線ではなく、ジャンヌ目線のものである。そして、目の前に居るのは爛。自分達と契約してくれたマスター。

 しかし、爛は別れないといけないということを言い出した。・・・これは、ジャンヌ達にとって、傷をつけられたようなもの。そう・・・、一生残るものの傷を。

 

「だけど・・・、いつか会える・・・。俺はそれを信じてる・・・。」

「マスター・・・。」

 

 爛は涙を少し流していた。自分達と会えなくなることに、悲しんでいるのだろう。それは、ジャンヌ達もまた同じ。

 

「例え、───には戻れなくとも、お前達とは俺の世界で会える。」

「奏者・・・。」

「ご主人様・・・。」

「「マスター・・・。」」

「本来ならば、俺と総司は居ないはずの存在なんだ。でも、俺という異常な存在は、その居ないはずの存在。という因果を壊した。それが、総司にも影響を与えたんだ。だから、流石に次も壊したくない。総司だけならば問題ないんだが、俺がいるとどうしようもない。だから俺がここから出ていくんだ。」

 

 ───という場所は、本来ならば爛は入ることなどできないのだ。英霊である総司ならば何にしろ。爛は『アレ』に参加していない。つまり、爛はいらない存在であるのは明らかであることだ。

 それを知っている爛は、元居た場所へ戻ると決めたのだ。これ以上、彼女らに影響を与えないために。

 

「分かってくれるか?」

「余は分かることができぬ!どうして奏者でなければならないのだ!余のために契約してくれた奏者が!どうして・・・、こうなるのだ・・・。」

 

 ネロは爛を元の場所に戻したくないと思い、そう言うのだが、爛が戻らないといけなくなったことに、同じように悲しみ、膝から崩れ落ちてしまった。

 

「私も、分かることができません。ご主人様を手離すなんて・・・、どうなろうが、行かせたくありませんし、行ったとしたら、呪いますよ?因果であったのならば、それも呪います。絶対に・・・、ご主人様が遠くに行ってしまわれるのは、見たくないのです!」

 

 タマモでさえ、爛に対してそう言ったのだ。互いに、知ってしまっているのだ。同じものを愛しているが故に、その相手がどういう感情なのかを、知ってしまうことができるのだ。

 

「お前達の気持ちはわかる。でも、これもお前達のためなんだ。これで俺がここに居続けたのなら、消滅を開始し始めるだろう。だから、俺がここから離れることで、お前達に安全にここで暮らすことができる。」

 

 そう爛は説明をするが、爛もここに残りたいと思っているのだ。しかし、爛には他にも大切な人がいる。ここにいる間にも、ネロ達も、他の大切な人も危ないことは確かなのだ。

 

「・・・今、俺ができる能力の中では、一人だけしか元に戻ることができる。だが、それ以外になると、確率は0になる。・・・だけれども、俺はお前達を忘れることはしない。お前達にも、忘れてほしくない。」

 

 爛は自分の服のポケットから何かを取りだし、ジャンヌ達の前に差し出す。

 

「手を出してくれ。」

 

 ジャンヌ達は爛の言った通りに手を出すと、爛はそれぞれの手の上に青い結晶のようなものを渡す。

 

「これは?」

「それは、俺の神領への切符みたいなものだ。神領っていうのは、神力を持つ者だけが持てる世界のこと。それがあれば、その持ち主の神領へと入ることができる。興味があれば来るといい。まぁ、神領は俺が居ないことが多い。その結晶が光を放つのであれば、神領に俺がいる。」

 

 爛はそう言う。すると、爛の足下から黄金に輝くものが出てきていた。

 

「・・・そろそろ時間のようだ。今ここではお別れだ。またいつか会えるときがくる。・・・さよなら。」

 

 爛は笑顔で別れの言葉を言うと、サーヴァントが消える時と同じように、消えていった。

 

「マスター・・・。」

 

 ジャンヌは爛から貰った結晶をみながら、そう呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 現在、爛は自身の煩悩とひたすらに闘争中である。その理由はほとんど分かるだろうが、六花達が爛にくっついているからである。爛が思っていることはただひとつ。

 

(誰か助けてくれぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!)

 

 因みに、爛に好意を持っている組だけが爛の部屋に居り、一輝達はそそくさと自身の部屋に退散していったのだ。爛からすれば、これ以上にない拷問部屋。自身の声を聞いてくれることもなく、ただただ手錠をつけられた状態で六花達がくっついている状況。変態ならば喜んでいるのであろうが、爛は健全な男子だ。

 まだもうひとつだけ、爛には戦わないといけないものがある。それは恥ずかしさだ。くっついてくるのは自分に好意を持っている乙女であり、一人は恋人。自身もそれなりに好意を持っているのだが、爛の顔は今にも沸騰するかのように真っ赤に染め上がっているのだ。

 ・・・ただまぁ、彼がまだ良い方だな。と思っているのには訳がしっかりとある。それは───、

 

(うん。まだあの四騎が居ないだけ、マシな方なのか。あの四騎は・・・、下手するとヤバイことになってるから・・・。)

 

 爛は心の中でそう思いながら、煩悩と恥ずかしさに戦っていたのであった。

 その四騎をお目にかかることは出来るのであろうか?

 

 ーーー第49話へーーー

 

 




一週間たってしまいました・・・。ずんまぜん・・・。

因みに、爛があの四騎と心の中で言っておりましたが、一体誰なんでしょうか!

・・・意外と分かるものなのかもしれません。

それと、IFはどうしようにも、あのあと珠雫戦に入るので、通常ルートが珠雫戦に入るまでお待ちください!IFの日常は、ご自分の妄想でどうぞ♪

それでは、次回をお楽しみに!


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第49話~悪夢の始まり~

さあ!原作とは少しだけ順序を変えます!
今回は、爛と一輝とステラがあの合宿場へと向かいます。因みに、六花達が来れないことについては、理由を考えております。




「風が気持ち良いわね~♪」

 

 そう言いながら、爛が運転する車から窓の景色を眺めるステラ。

 因みに、爛が運転している車に乗り込んでいるのは、九人乗っている。車どころかバスに近いもので運転しているのだが。爛、一輝、ステラ、刀華、愛華、カナタ、泡沫、砕城、兎丸でとある場所に行っていた。

 その理由とは、突如、黒乃に呼び出された三人は、奥多摩の合宿場へも向かうことになった。そして、それには生徒会が同行するとのこと。そのことを知った爛は深くため息をつくと、行くことを承諾。そして、今に至る。

 

「自然を近くにすることはあまりないからね。あると言っても、学園の裏側の方だけどね。」

 

 一輝の言う通り、中々自然の景色を見ることなどない爛達。

 

「だな。そんなに見ることがないからな。俺の実家の方は雪景色が凄いけどな。」

 

 爛はそう言いながら、車の運転に集中する。その後も、特に何もなく、奥多摩の合宿場にたどり着くと、ある意味で大変なことが起きてしまったのである。

 

「セェェェェェヤァァァァァァ!」

「おいおい!打ち過ぎだろ!力ぐらいセーブしろ!」

 

 爛はそう叫びながらも、ステラと兎丸から襲いかかってくるバドミントンの羽根を打ち返す。

 それを穏やかにみている生徒会と、少しだけ困惑している一輝である。

 

「何だろう。あのバドミントンじゃない良い感じのスポーツ・・・。」

「いやぁ、何にしても助かる。某達が恋々の相手をせずに済むからなぁ。」

「ホント、体力バカは相手するのに疲れちゃうんだよね~。」

「そうですわね。」

「まぁ、爛君が相手してくれるから私たちも穏やかにいれるんだけどね。」

「お姉ちゃんに同意だよ。私は生徒会に入ってはいないけどね。」

「あれ?そうなんですか?」

 

 一輝は生徒会に入っているであろう愛華が入っていないことに、驚いていた。生徒会の人達と居るからか、生徒会に入っていると思ってしまうのだ。

 しかし、いまだに続いているバドミントンのラリー。だが、あれだけ全力で打っているのにも関わらず、バドミントンのラケットと羽根が壊れていないことに、矛盾さえ感じてしまうのだが、愛華から出た答えは・・・

 

「あぁ言うのはね。何も思わないことが大切だよ。」

 

 と、言われてしまったために、一輝は何もつっこむこともせずに、言われた通りにしたのであった。

 

「ふぅ~、汗はかいたが、中々にハードなものだったな。」

「あれだけやってまだ疲れてないとか・・・、どれだけだよ・・・。」

「でなければ50㎞はやっていけないからな。それなりに鍛えてるわけだ。」

「いや、それを鍛えてるとは言えるのかい?」

 

 爛は汗をタオルで拭きながら、刀華が差し入れてきたスポーツドリンクを飲みながらそう言うと、ステラは素直に爛の体力の多さに突っ込む。爛は平然とした様に答えるのだが、一輝までもが、その事に突っ込んでしまう。

 そして、爛達を奥多摩の合宿場に呼び出した訳・・・、それは───、

 

「合宿場の掃除・・・ですか?」

「はい。奥多摩の合宿場を選手の皆さんが使えるようにと、生徒会でやっていたのですけれど・・・、」

「案の定、人手が足りなくて困ってたんだよ~。いやぁ~、頼り概のある後輩で助かったよ~♪」

「そういうことだったんですね・・・。」

(あぁ~、そういうことなら、連れてこなくてよかったな。あいつらを。)

 

 合宿場の掃除だったのだ。

 何故爛達が呼ばれたのかを、刀華が説明を途中まですると、泡沫が続きを話し、爛達は呼ばれたことに納得をするのであった。そして、爛は六花達を連れてこなくてよかったと安堵するのであった。

 ・・・が、ここから、最悪の展開へと発展していくのであった。

 全員が話ながら、順調に合宿場の掃除をしていくと、誰かの生徒手帳が鳴った。

 

「・・・誰のでしょうか?」

「・・・これは、多分俺のだろう。」

 

 爛がそう言いながら、自分の生徒手帳を取り出すと、黒乃から電話が来ていたのであった。

 爛はなにかと思い、黒乃からの電話に応じる。

 

「黒乃?」

『・・・大変言いにくいことがあるのですが・・・、』

「?なんだ、言ってみてくれ。」

 

 黒乃が躊躇いがちに爛と電話をしている。爛は先程よりも疑問が深まり、黒乃から聞こうとする。

 ・・・それが、爛と一輝の悪夢の始まりであった。

 

『連盟がこちらに来て、貴方の義理の妹である敷波と、黒鉄妹を戦わせようとしているのです。』

 

 それを聞いた瞬間、爛は硬直し、顔を青ざめた。

 

「おい・・・、聞き間違いじゃないよな?桜と珠雫が・・・、戦う・・・?」

 

 爛は聞き間違いじゃないかと思い、黒乃からもう一度聞こうとするのだが、それは───、

 

『・・・嘘ではありません。現在、試合が開始されています・・・。』

 

 根も葉もない嘘。ではなく、本当のことであった。本当のことを知ってしまった爛は、全身から汗を流す。

 

「爛?」

「・・・黒乃、今すぐ試合を止めろ。その試合、必ず死者が出るぞ・・・。」

『無理です・・・。何度も止めようとしているのですが、止めることができません!』

「・・・っっっっっっっっっっっっ!!!!!!!」

 

 爛は奥歯を強く噛み締めた。爛の中で、最悪の展開が描かれようとしていた。

 

「黒乃!今からそっちに行く!絶対に・・・、絶対に桜を攻撃させるな!桜は元々、戦うことができないんだ!できたとしても、それは最悪の事態を招く!」

『分かりました!こちらも、できる限りのことはやらせていただきます!』

「あぁ、頼む!」

 

 爛は黒乃に叫ぶようにそう言うと、通話を切り、ジャージから制服へと着替える。

 

「な、何があったの・・・?」

「すまない。今から破軍に戻らなければならない。急用が滑り込んできた。砕城!俺が居ないときの車は頼む!俺はすぐに出る!」

「分かった。某に任せよ。」

 

 爛は砕城に車のことを頼むと、爛は合宿場から飛び出し、筋肉をフル稼働させて破軍へと目指す。

 

 

 

 ーーー破軍学園、訓練場ーーー

 

(嘘・・・。)

 

 自分は、どれほど目の前の少女を侮っていたのだろうと、珠雫は後悔する。

 目の前にいる少女は黒い刃で自分を引き裂き、圧倒的な力の差で自分を殺そうとして来た。

 なすすべのなく目の前の少女の思い通りに動かされ、そして痛め付けられてきた。何より、自分の兄の過去よりも孤独なものだと感じた。正直、ここまで恐怖を感じたことはないに等しかった。何故なら、自分はどんなことをしても、守られる立場であったからだ。

 覚悟をして来たのは当然だ。だが、それでも超えられないものがあると、このときに珠雫は知った。

 

(私、死んじゃうのかしら・・・。)

 

 迫り来る少女を見て、珠雫はそう思った。颯真達も駆けつけてくれたのだが、想像以上の力の前に、エクソシストを持った颯真でさえ苦戦。そして、そのまま少女の作る闇に落ちていったのである。

 自分もその闇に落ちるのかと思うと、全身から恐怖が込み上げてくる。

 すると、少女は珠雫とは別の方を向いた。

 

(・・・え?)

 

 珠雫は驚いていた。普通ならば、今はこの学園に居ない人物が居たのだ。

 

「爛・・・さん・・・!」

「声は出さない方がいいぞ珠雫。今の桜は、人間が相手を関知する能力・・・視覚・・・聴覚・・・まぁ、感じることはできるであろう嗅覚でさえ、彼女は索敵に使う。まぁ、あとは聴覚の発達のせいでこちらが少しでも動くと、動きがバレてしまうことが面倒だがな。」

 

 爛は珠雫を抱えており、少女───、桜の方を見ながら、冷静にそう言った。

 

「・・・珠雫、ここから離れることはできるか?」

 

 間を開けて言われた爛の一言。珠雫は頷くと、爛は抱えていた珠雫を降ろし、固有霊装(デバイス)を顕現させる。

 

「ここは、俺がやる。」

「・・・分かりました。気を付けてください。」

 

 珠雫は爛にそう言うと、フィールドから離れていく。爛は、珠雫が安全な場所までいったのを感じると、桜に切っ先を向ける。

 

「・・・・・・。」

 

 二人とも何も言わないまま、爛は桜に刻雨の切っ先を向けている。

 桜は、爛に黒い刃を向けていた。

 

「・・・大体分かっていたことだが、やはり仲間の識別ができないのか・・・。」

 

 爛は悲しい顔をすると、刻雨の切っ先を下ろし、地面に突き立てた。

 

「・・・いいや、それとも・・・、聖杯に支配されてい(・・・・・・・・・)るのか?(・・・・)

 

 爛は桜に向かって、そう問うのだが、桜からの返答はない。

 

「・・・答えは返ってこない・・・か。」

 

 爛はこれ以上の問いは意味のないことだと感じると、刻雨を手に取る。

 

「戦いで答えを知った方が早いのか・・・。行くぞ!」

 

 爛は腰を低く落とし、一気に踏み込み、桜に向かって走り出す。

 

 

 ーーー奥多摩の合宿場ーーー

 

 一輝達は爛が出ていってしまった後、掃除を続けていたのだが、話は続くことがなく、沈黙した状態が続く。ただ言えることは、全員して爛のあの焦りように驚いているということだ。

 

(一体・・・、爛はどうしてしまったのだろう・・・。最近はすれ違う程度になってきて、・・・何となくだけど、嫌な予感がする・・・。)

 

 一輝は、これから起きようとする出来事に嫌な感じがしていた。・・・決してそれは、間違いではない。

 

 

 ーーー???ーーー

 

 場所はコロコロと変わり薄暗い部屋。一人の男がナイフを一本手に持ち、ソファーに座っていた。

 

「・・・お前には苦痛が降りかかる。・・・あの事については、私がやってものではあるが・・・、彼女を操り、どれだけお前が揺れるのか・・・。楽しみにさせていただくぞ。」

 

 男は持っていたナイフを部屋にある的の真ん中に投げる。そのナイフは的の真ん中に刺さり、深く刺さっていた。

 

「どれだけ私と『ヤツ』を楽しませることができる?『前夜祭』を楽しみにしているぞ・・・。月影・・・。」

 

 男は不適な笑みを浮かべながらそう言った。そして、一瞬の内に、男はそこから姿を消してしまった。

 

 爛と一輝の本当の苦痛は、ここから始まる。この苦痛が、二人にどれだけの傷を与え、そして何を失わせるのだろうか・・・。

 

 ーーー第50話へーーー

 

 




久々の連続投稿!

これ書いたあとも続けざまに書いていきたいと思っております!はやく進めないと大変なことになりますから・・・。

次回!兄と妹の戦い!そして一輝たちのところでは・・・?

お楽しみに!

カナタ「・・・私、そんなに喋っていませんよね?」

ごめんよカナちゃん・・・。


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第50話~爛の怒り、連盟の策略~

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」

 

 爛は肩で息をしながら、桜の方を見ていた。桜はこちらに向かって歩いてきており、その周りから、黒い触手のようなものまで出てきている。

 

(もう・・・あれしかないのか?)

 

 爛は最終手段であり、最悪の手段であるものをしなければならないと、脳裏によぎる。

 

「っ!」

 

 爛は、はっとし、すぐにバックステップ、桜との距離を稼ぐ。

 

(・・・でも、それ以外で止める方法は・・・。)

 

 爛は思考を巡らす。最終手段を使わずに、桜を助ける方法を考え出す。

 しかし、桜はその隙を与えさせない。

 

「・・・!しまった!」

 

 桜の黒い触手は爛の足首を掴み、爛をそのまま壁の方へとぶつける。

 

「ガッ・・・ハァ・・・。」

 

 爛は口から血を吐き出してしまう。そのまま何度も触手に叩きつけられたりする。

 

「グッ・・・。」

「アハハハ!先輩、もっと耐えて!もっと叫んで!」

 

 桜は狂ったように、爛にそう言う。しかし、爛はその通りにはならない。叩きつけられてもなお、爛は思考を巡らす。

 

「・・・来い!ゲイ・ボルク!」

 

 爛は魔力を代償に血の色のように赤い槍を生成する。

 

「《突き穿つ死翔の槍(ゲイ・ボルク)》!!」

 

 爛は魔力を纏ったゲイ・ボルクを桜に投げる。

 ───が、それは効果的な攻撃にならず、避けられてしまい、逆に爛が傷つくことになる。

 

「グッ・・・ガァ・・・。」

 

 爛は触手に投げられ、壁にめり込むように激突する。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」

(これは・・・、想像以上だ。)

 

 ここまでの力を出すことは桜にはできない。

 ・・・であるとすれば、別のものに頼っていることであると、爛はすぐに気づく。となれば、それを破壊すればいい。それが二度と使えないものにすればいいのだ。

 

「・・・仕方ないか・・・。助けるために、幻想形態(刃引き)はしておかないとな・・・。」

 

 爛はゲイ・ボルクを手に取り、集中力を高めて、桜に向かって構える。

 

「すまない桜・・・。一度だけ・・・、お前を穿つ・・・。」

 

 爛はそう言うと、魔力を高めて、ゲイ・ボルクに纏わせる。

 

「突き穿て・・・!」

 

 爛はそう言うと、桜に向かって走り出す。桜は触手を用いて、爛を止めようとするが、爛はそれを見切り、次々と避けていく。

 ・・・そして・・・

 

「《内より出でし(ゲイ・ボルク)・・・」

 

 爛は突きの体勢のまま、桜を穿つ!

 

朱槍の槍(ロストミニゲル)》!!」

 

 すると、桜の身体から、ゲイ・ボルクが突き出てくる。それを受けた桜は、意識を失い、黒い気配が消えると同時に、床に倒れる。

 

「・・・・・・。」

(許さない!許すわけにはいかない!桜を・・・道具として扱ってきた貴様らには・・・、)

「絶対に・・・、許さなぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁい!」

 

 爛の怒りの叫びが木霊した。桜を道具として扱ってきたことを。爛は許せるわけがないのだ。いや、許すわけがない・・・!

 爛はすでに気配で察知していた。周りに連盟がいることを。

 だから・・・、ここで全てを殺す・・・!

 

「ガァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!」

 

 爛の叫びにより、爛の体は変わった。髪は黒から金に、纏った雷は赤と青に変わり、体の至るところにはチェーンのようなものが巻き付いていた。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・!」

 

 爛はゲイ・ボルクを手に取り、それを天へと投げた。そして、それは訓練場の天井をぶち破り、天へと向かっていく。それが、戻ってくるときは、なんと複数もの槍が、爛が投げたところに戻ってくる。

 

「詠唱なんぞ言わなくとも伐刀絶技(ノウブルアーツ)は使える!貴様らは・・・、死へと沈めぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 爛の叫びにより、槍はさらに強い魔力を纏い、急加速で落ちてくる。

 

「《刺し貫き穿ち全てを死へと沈ません(ゲイ・ボルク・レイン・デッドエンド)》ォォォォォォォォォォォォォォォォォォ!!!」

 

 槍は次々に訓練場に突き刺さる。爛の意により、意識を失っている桜たちには当たらないようにしている。

 ・・・爛が目を向けた先には、血だらけになって複数もの赤い槍に突き刺されているニンゲンであったものを見る。

 

「・・・ぁ・・・。」

(ここで、失うわけにはいかない・・・!)

 

 爛は膝から崩れ落ちるが、意識を失ってしまって行かないと、自分自身に鞭を打つ。

 

(〈鬼神・・・解放〉・・・!)

「《三度、生死の瀬戸際に立ち続けても》・・・。」

 

 爛は〈鬼神解放〉を発動し、解放することで使える特殊な伐刀絶技を発動する。

 すると、爛を緑色の光が包み込み、爛の体を治癒していく。

 

「クッ・・・、早く、桜たちを運ばないと・・・。」

 

 爛は自身の体を無理矢理立たせ、桜たちを抱える。

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・。」

(クソ!こんなときに黒乃は何をしている!)

 

 爛は、この事態をすぐに察知しているであろう黒乃が来ていないことを感じていた。

 

 

 ーーー理事長室ーーー

 

 黒乃はすぐさま動いていたのだが、連盟の言葉により、足止めを食らっていた。

 

「何故です!生徒が危険だと言うのに、我々を動かさないのです!」

 

 何度も黒乃が行こうとするのだが、相手も中々通そうとはしない。

 すると、理事長室のドアが開け放たれる。そこに立っていたのは、服が血に染まっており、赤い槍を持っている爛であった。

 

「散れ。《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》。」

 

 赤い槍から放たれる生命を必ず奪い取る。黒乃を通さないようにしていた連盟を刺し殺していく。

 

「・・・・・・。」

 

 爛は何も言わずに、ただ立ち尽くしていた。

 

師匠(せんせい)?」

「・・・黒乃、言ったはずだ。俺は、桜を止めろと。寧々達はどうしたんだ?」

「寧々は・・・。」

 

 黒乃が爛の問いの答えに詰まっているのに気づくと、爛はため息をつく。

 

「そうか・・・。何も言わなくていい、黒乃。俺はすぐに奥多摩の方に戻る。後始末、頼んだぞ。」

「・・・わかりました・・・。」

 

 爛は奥多摩に戻ると言うと、すぐに部屋から出ていってしまった。

 黒乃は、爛の気配が感じられなくなると、理事長室の床に座り込んだ。黒乃の額には、冷や汗が流れており、震えていた。

 

(・・・あれだけの殺意を放っている師匠は初めてだ・・・。一体・・・、どれだけの怨みを、連盟に持ってるのだろうか・・・。)

 

 黒乃は、震えていた。恐怖していた。あれほどの殺気を放っている爛に。一体どれだけの怨みを持っているのだろうかと、どれだけ連盟の人間を殺せば、爛の怨みが晴れるのだろうかと、考えてしまうと、自分が殺されるかのように生々しいものとなっていく。

 

「・・・とにかく・・・、こっちは後始末をしないとな・・・。」

 

 こうしていられないと考えた黒乃は立ち上がり、訓練場の修理などをしていく。

 

 

 ーーー奥多摩の合宿場ーーー

 

 一輝達は、奥多摩の合宿場の近くにあった山を登っていたのだが、途中で謎の岩人形に襲われ、合宿場まで戻ってきていた。

 

「はぁ・・・とんだ災難だったね・・・。」

 

 一輝は疲れながらも、合宿場の中に入ろうとする。

 ・・・が、また新たな災難が、一輝を襲う。

 

「黒鉄、客のようだ。」

 

 砕城が見た先には、黒い高級な車が止まっており、そこから出てきたのは、黒鉄家の分家の身であり、支部連盟倫理委員会委員長の赤座守。それを見た一輝と刀華と愛華は一瞬にして、内心で怒りに近いものを感じていた。

 それはなんといっても、爛の存在である。爛は、力というものだけで狙われ、そして妹を殺されたことを、それをやったのは連盟であると、三人は聞いていた。だからこそ、その感情が赤座へと向けることが出来るのだ。

 

「・・・何のようです?」

 

 刀華は怒りを覚えながらも、赤座に問う。

 すると、赤座は胡散臭い声を発すると、とあるものを見せてきた。それは、一輝とステラのことについて書かれている記事であった。

 しかし、全員して、このときに気づいた。この男が裏で策略を起こし、一輝を底辺へと叩きつけた一人の男であることを。

 

「・・・なんのためにここに来たのです?」

 

 刀華と愛華は、今すぐにでも、赤座を切り刻みたいと思っていた。しかし、そんなことをやってしまったら、学園を退学しなければならないことになる。連盟そのものを潰してしまわなければならなくなる。

 

「それは、一輝くんを連盟でお預かりするためですよ。ムッフッフ~。」

(このクソ男が・・・、爛君を・・・!)

 

 刀華は自身の掌を握りしめた。それこそ、爪が食い込んで血が流れてしまうほどに。

 ・・・すると、何処からか気配を感じることが出来る。それは・・・、空からだ。

 

「一撃で仕留める!」

 

 爛はゲイ・ボルクを構え、一気に赤座へと投げる。

 

「っ!」

 

 赤座はこれに気づき、すぐにそこから離れる。

 

「チッ!」

 

 爛は舌打ちをしながらも、ゲイ・ボルクが地面に突き刺さったことで赤座を離すことができた。

 爛はすぐに地に降り立つと、ゲイ・ボルクを構える。

 

「爛!」

「用事を早く済ませてきた!とにかく、一輝!ステラ!絶対に捕まるな!」

 

 爛はそう言うと、周りへと視線を向ける。一輝たちも同じように視線を向ける。

 すでに、一輝達は囲まれていた。

 

「おやおや、すぐに片付けてきたのですか。」

「俺が手加減(刃引き)するとでも言うのか?まぁいい。死んでも・・・俺は知らん。」

 

 爛はゲイ・ボルクを地面へと突き立てる。すると、爛たちを囲んでいた連盟の人間を串刺しにしていった。

 

「・・・六花ぁ!今だ!」

 

 爛は六花を呼ぶ。すると、雷鳴と共に、六花が上空から現れる。

 

「お待たせ!爛!それじゃ・・・行くよ!《雷よ、道を照らせ(プラズマジック・ネクト)》!」

 

 六花が伐刀絶技を使うと、辺りは閃光のように眩しく光る。

 

「よし!行くぞ!」

 

 一輝達は爛の気配が動いたのを感じ、爛の気配を頼りに、奥多摩の合宿場から離れていく。

 

 

 ーーー???ーーー

 

 爛とは別のところで、一人の男が動き出す。

 雷を纏い、海を渡る。

 それは、誰もが知っている人物である。

 常識はずれな行動を平然と起こす男は、一人しかいない。

 全てを雷で切り裂くことができる男。

 今、とある作戦のために動く。

 

 

 ーーー第51話へーーー

 

 




最近、ここに書くネタに困ってます。

あ、でも、一つだけ。fgoで十連ぶんまわしていたら、メルトリリス来ました!やったぜ!

以上です。次回、謎の男が動き出す。

お楽しみに!


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第51話~英雄と親子の和解~

「ふむ、まさか龍馬の息子に会いに行くとはな。龍馬も悲しんでいることだろう。孫が息子から虐待されていることをな。」

 

 謎の男は海を渡りながら、そう呟いた。因みに、船は使っていない。

 ならばどうやって渡っているのだろうか。

 男の足元を見てもらいたい。

 男は雷で足場を作り、それで移動しているのだ。

 男が地に足を降ろす。場所は近い。男はそのまま何事もなく歩いていく。誰にも気づかれることなく。

 

「旦那様、こちらでございます。」

 

 横から、女性の声が聞こえる。男は無言のまま頷き、その女性の方へと歩く。

 

「すまぬな。足となってもらって。」

「いえ、私の仕事はこれですから。何より、彼と彼女からのお願いですから。」

 

 女性は車に乗り込み、男も同じように車に乗り込む。それを確認した女性は車を走らせる。

 

「それで、あの二人は順調に進んでおるのか?」

「ええ、二人とも、しっかりと駒を進めています。」

 

 女性の言葉に、嬉しそうに頷く男。これほどの常識はずれな行動を起こせるのは、一人しかいないと言ってもいい。

 

「旦那様、そろそろでございます。」

「む、助かったな。であれば、奴の孫に会ってくるといい。奴の孫であれば、理解もしてくれるであろう。」

「了解しました。それでは、お気を付けて。」

「うむ。」

 

 男はとあるところで降りると、女性に礼を言う。女性は車のドアを閉め、また車を走らせる。

 男の目の前には、そびえ立つ大きなビル。いや、ビルというよりかは、連盟の建物と言った方が分かりやすい。

 男は躊躇することなく、建物のドアを素手で破る。

 それと同時に、やはり警報が鳴り響く。

 

「む、対応は速い方か。だが、儂相手では遅すぎるな。」

 

 男は固有霊装(デバイス)の刀を顕現すると、襲いかかってくる銃弾を、一瞬にして切り裂いていく。

 

「遅いな。」

 

 男はそう呟くと、雷を刀に纏わせ、相手に向けて刀を振るうことで、斬撃を発生させ、攻撃してくる連盟の人間を斬っていく。

 すると、連盟の人間が、撤退していく。それを見た男は、霊装を持ったまま、歩いていく。

 

「迎え撃つのであれば押しとおる。逃げるのであればこちらは何もせんがな。」

 

 

 

 

 

 

 

 支部連盟の支部長である黒鉄厳は、ここに誰が来ているのかを知っていた。

 

「赤座、早急に撤退させろ。」

「しかし・・・。」

「聞こえなかったのか。撤退させろ。」

「わ、分かりました!」

 

 赤座はすぐに厳の言葉を聞き、行動に移す。

 厳は焦りを感じていた。連盟に来たのは、どんなことをしても、来ないとも言っていいほどの男。しかし、その男が来たということは、誰かの伝を使って、来たということ。

 厳は、それが誰なのかを、分かってしまったからだ。黒鉄家とはなんの関係のないはずのところからであると。出来たとしていても、情報を送ることは不可能に等しいはずだと言うのにも関わらずに、だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 男はとある一室のドアの前で立ち尽くしていた。それは、待つ人物が居たからだ。

 

「あぁ、やっぱり。早いもんですね、『(みやび)』さん。」

 

 男を雅と呼ぶ少年───、爛は雅の方へと歩く。

 雅・・・、『葛城雅』は第二次世界対戦にて、日本を勝戦国に導いた三人の英雄の一人。雷の力にて常識を逸した情報伝達などを駆使し、敵国をボコボコにしたとの記述がある。

 因みに、雅が使う刀の霊装の名前は、妖刀『村雨』。爛のとは違い、実際の村雨である。

 

「そう言うお前の方こそ、早かったのではないか?」

「少し事情が変わりましてね。片付けなきゃ行けない優先度が上がったからですね。」

 

 爛は霊装を持ったまま、雅の方に近づく。雅は、爛が持っている霊装が、ほとんど持つことのない霊装であることに気づいた。

 

「『閃飛燕』ではないか。『雷白鳥』は使わんのか?」

「こんなところで本当の霊装を持ったところで、対策なんて立てないに等しいです。何しろ、この刀は、幻想の刀ですから。」

 

 爛は肩を竦めながら話す。爛の持っている『閃飛燕』と呼ばれた刀は、血が染まったかのように真っ赤な装飾しか塗られてしかいない。

 赤火刀(せきかとう)閃飛燕(せんひえん)は、爛の本当の霊装である。が、刀本体の力でさえ危険視されているほどであり、その一振りで三大属性である、火・水・雷全てを操ることができる。幻想の刀であるが、過去に存在していた刀でもある。しかし、その代償は計り知れなく、ただ危険であることしか分からない。

 

「む、では行くか。」

「分かりました。」

 

 雅と爛は雷を纏う。雅は黒い雷を纏い、爛は閃飛燕を持つことで発動できる赤い雷を纏う。

 

「では、先に行かせてもらいます。」

「うむ。」

 

 爛は扉の前に立つと、刀を振るう。すると、目の前の扉が粉々に刻まれていた。

 

 

 

 

 

 

 厳の方でも、扉が粉々になったことを見ていた。だが、そこから出てきたのが爛であることは、分かっていなかった。

 

「・・・・・・。」

 

 爛は無言になりながら、厳の前に歩いていく。その後ろ隣には、雅が歩いていた。

 

「・・・そう言うことか・・・。」

 

 爛がそう呟く。六花が足止めしていたはずの赤座が居ることに、何か気づいていた。

 

「・・・お前さんは分かっているのかの。」

「・・・・・・。」

「やっていることは、どうなっても自業自得の話だ。」

「えぇ、もちろんです。」

 

 厳は既に分かっていた。一輝を魔導騎士にさせないように妨害するためには、邪魔となる者は始末しなければならない。特に、爛は人ではないから。人でないことを公表さえすれば、爛は嫌われ者になる。しかし、それだけで折れる爛でもない。だからこそ、妹である沙耶香の狙ったのだ。

 ・・・それも、幼いときに。それが逆に、自分達を追い詰めることなってしまったのだ。それに関して、まだ話すべきではない。

 

「であれば、何故ここに爛がいるのか、儂が居るのかを知っておるか?」

「・・・・・・。」

 

 雅は厳に問うが、厳は黙ったまま何も言わない。

 

「分からんようじゃな。なら一言いってやろう。無能な人間はたくさんいるが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

お前さんはそれ以下の人間じゃ。」

「!!!」

 

 雅の一言により、厳は驚いたような顔をした。今まで黒鉄家のために走ってきた厳の人生全てを否定するように、雅はそう言った。

 

「どういうことなのですか!?彼のどこが違うというのですか!?───!?」

 

 赤座は雅に反論するが、それを遮るかのように、赤い刃が赤座を襲うのであった。

 

「黙ってろクソジジィ。今すぐ俺の前から消えろ。無愉快だ。吐き気がする。ヘドが出そうだ。今すぐに切り刻みたいぐらいにな。」

 

 爛は容赦なく赤座に向けて、赤い刃を振り降ろす。赤座は怖じけ、すぐにここから逃げ出していった。

 

「チッ、逃げ出したか。まぁいい。後で殺るだけだ。」

 

 爛は赤座の逃げていった方向を睨みながら、そう吐き捨てた。

 

「お前さんは、間違えている。それは絶対に言えることじゃ。人間性の欠片がないとも言える。親として、自分としての判断ではなく、家のことだけを考えた結果、それがこうなるのじゃ。お前さんは、過ちを繰り返しやっていたのじゃ。」

「・・・・・・。」

 

 厳は黙ったまま、雅の話を聞いていた。こればかりは何も言えない。言い返すこともままならない。

 

「・・・家や連盟、秩序の為に人を殺すということは、感情があったとしても、無いに等しい。あったとしたら、どこかの感情が消え失せてるはずだ。・・・俺のようにな。」

 

 爛は雅の言葉に付け足すように、厳にそう言った。

 ここで引っ掛かるのは、爛の感情が消え失せていると言うことだ。どう考えても、感情はあるはずだ。現に、怒りや悲しみ、喜びなどは、見ていたはずなのだから。

 

「俺の場合、少しずつ欠けている。ゆっくりと、時間をかけて。」

 

 爛は悲しむような顔をして話す。その話は、嘘ではなく、本当のことであると、爛の顔や言葉の重さから分かることだった。

 

「それにしても、家の名誉とかだけで一輝の夢を阻むのか?親子の喧嘩にしては、馬鹿馬鹿しいぞ。」

 

 爛は厳のことを睨み付けながら問う。

 

「・・・どう言うことだ。」

 

 厳は、爛のいっていることがまったく分からず、爛に問うような形となった。

 

「親子の喧嘩よりも馬鹿馬鹿しいのはな。なんで気にしなくてもいいことを、どれだけ重く見てるんだ?

 親は自分の決めた道を子に行かせようとする。だけれども、子はそれを拒む。親の決めた道を歩くもんかってな。

 そして、喧嘩になったら親子の殴り合いになるだけ。そんな、どこにでもあるような喧嘩を、お前は家が危ないとか思いながら行動を起こす。

 その結果、人を殺そうとするはめになった。自分を追い詰めることにもなるんだよ。

 どうだ?話を聞いて。こんなことをやっている自分達が恥ずかしいと思わないか?正直に言ってしまえば、これが世間にバレたら、逆に黒鉄家の名誉に傷がつくと思うぞ?一輝が騎士の世界で活躍するというのであれば、それは、黒鉄家の名誉にも繋がると、俺は思う。」

 

 爛の言っていることに、反論なんて出来るわけがなかった。まったくもって、考え直してみれば、こんなことをやっている自分が恥ずかしいと思うほどに。

 

「・・・確かにそうだな・・・。俺は馬鹿馬鹿しいことをしていたのか・・・。」

 

 厳は、爛の言ったことが分かったのか、そう呟いた。

 爛はそれを聞くと、ニヤリとした笑みを浮かべ、口を開く。

 

「言ったな?厳。お~い、聞こえてたか?一輝。」

「!?」

 

 爛の言った一言により、厳は驚いたような顔をした。

 

『あぁ、聞こえていたよ。爛。』

 

 爛の肩に、一羽の烏が止まった。その烏の足には、カメラがついていたのだ。

 爛は烏からそれを取り外す。

 

「・・・やっぱり、この烏は使いやすいな~。」

 

 爛は窓を開け放ち、烏を外に飛び立たせた。そして、持ってきていたノートパソコンにカメラを接続させる。すると、目の前のパソコンの画面に、一輝とステラが映っていた。

 

「よ~し、見えてるか~?」

 

 爛はパソコンに向けて話す。それが聞こえているのか、一輝とステラは返事をしながら、頷く。

 爛はパソコンを厳に向ける。

 

「お前の言いたいことを、言えばいい。お前の考えが変わったのか、変わらなかったのか。お前の口で、一輝とステラに伝えるといい。ステラは一輝のルームメイト。一輝との関係はある。無いとは言わせないからな。」

 

 爛はそう言うと、厳の部屋から出ていってしまう。雅も、なにも言わずに出ていく。

 

「・・・一輝・・・。」

『何?父さん。』

「すまなかったな・・・。」

『・・・!』

 

 厳の謝罪の言葉に、一輝は驚いた表情をした。それもそうだろう。厳が一輝に謝ることなど、天地がひっくり返ってもないようなものであるからだ。

 

「どこにでもあるような喧嘩を、俺は勝手な解釈をして、お前を邪魔していた。」

『・・・・・・。』

「ただ、これからはしないことが言える。祝えるようなこともなにもできない。認められないこともあるかもしれない。・・・お前は、そんな親でいいのか?」

 

 厳から言った言葉は、一輝との和解の言葉であった。黒鉄家の一人の人間として見てくれるというのであれば、それは、一輝にとっては嬉しいことでもある。ならば、彼の答えは一つだけだろう。

 

『うん。僕はそれで、構わないよ。』

 

 彼の答えは、その一言だけであった。

 

 

 ーーー第52話へーーー

 

 




原作でもあった厳と一輝の和解です!少しはやめ&新キャラ登場の匂いが・・・!?

次回は、なんと!六花と明が戦うのかも?


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第52話~譲れない戦い~

 厳と一輝の和解から、次の日。爛にとって、ある意味で辛いものが待ち構えていた。

 それは、六花が戦う相手のことについてであった。その相手は、何と自分の妹である明であったのだ。

 やはり、その時も爛はベンチに座り、生気を感じさせない瞳で空を見ていた。

 

「・・・・・・。」

 

 隣には、六花達が座っていた。生気を感じさせない爛を心配して、六花達は寄り添っていた。

 

「爛・・・。」

 

 まだ試合前ではないため、六花は爛のことが心配になっており、ギリギリまで爛の傍にいることにしたのだ。

 

「・・・六花・・・。お前は・・・、俺のことをどう思う・・・?」

 

 爛は突然に六花に問う。六花は一瞬だけ、驚いた表情をすると、覆い被さるように、爛を抱き締めた。

 

「何を言ってるんだい?僕は爛のことが大好きだ。僕の中にあるものまで、受け入れてくれたんだから・・・。」

「そうか・・・。」

 

 中にあるものまで、と聞くと、爛と六花は悲しい表情をした。一体何があるのだろうか。爛にとっては、いつあれが起きるのかが不安であった。

 

「・・・六花、そろそろ試合だ。・・・行ってこい。俺も行くから。」

 

 爛は六花に笑みを見せると、そう言った。六花は無言のまま頷き、訓練場に向かっていった。

 

「・・・先に行っててくれ。少し用事がある。大丈夫だ、俺もすぐに後で行く。」

 

 爛はベンチから立ち上がると、訓練場とは反対の方を向いて歩き始めた。

 

「・・・奏者・・・。」

「ネロさん・・・。今はマスターをそっとしておくことです・・・。」

「・・・・・・。」

 

 ネロは離れていく爛をみて、追いかけようとするが、リリーは爛の心情を知り、ネロを止める。

 リリー達の心は、もやがかかったようにスッキリはしなかった。

 

(俺は・・・どうしたらいいんだ・・・。ニンゲンとは言えない俺が・・・、まだニンゲンの体を半分は持っている六花達と・・・俺は本当の意味で繋がることができないのか・・・?六花達と居るだけで、体は震え上がる・・・。どうしようもないくらいに・・・。それこそ・・・、もう耐えられないかもしれない・・・本当に・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ココロガコワレルカモシレナイノニ・・・ドウシタライインダ・・・?)

 

 爛はそう思うしかなかった。ニンゲンからかけ離れた自分が、ニンゲンとしての部分を多く残している六花達と、親密な繋がりを、もっと深めるべきなのか、断ち切るべきなのか。どうしようもないくらいに、爛の心を揺さぶっている。

 

「・・・とにかく、六花達の試合に行こう。・・・明が暴走されちゃ困る・・・。」

 

 爛はそう言い、破軍学園の方を向いて歩いていく。

 

 

 

 

 六花達のところでは、六花は既に待機室におり、リリー達は会場席に座っていた。

 

「マスター・・・、来るのでしょうか・・・?」

 

 ジャンヌは爛が本当に来るのかと心配になっていたのか、そう言ってしまう。

 

「今は・・・、来ることを信じるしかありません・・・。」

 

 総司も割りきっていっているが、爛のことが心配なのかは明らかにわかるほどだった。

 

『さぁ!ここからは注目の戦いです!この戦いの選手は、どちらも七星剣武祭代表の候補!激しい戦いが予想されます!』

 

 アナウンスが入る。そろそろ戦いの始まりのようだ。

 リリー達は、まだ爛が来ていないことを無理矢理隠すかのように、フィールドの方に目を向けていた。

 

『まず赤ゲートから出てきたのは、あの天才騎士、ステラ・ヴァーミリオン選手に次ぐAランク騎士!七星剣武祭優勝者が居る武曲学園から遥々転校してきた騎士。その雷は避けることは叶わず、攻撃を与えることすら叶わず、そのAランク騎士の正体は、『雷撃の女王(ミョルニル)』!葛城六花選手です!』

 

 六花がフィールドに上がるだけで、会場の歓声が沸き上がる。

 しかし、六花の顔はまだ爛が来ていないことによる不安であった。

 

『次に出てきたのは、あの『鬼神の帝王(クレイジーグラント)』の妹であり、今までの敵を涼しげに倒してきた選手!その実力は、正しく兄と同じものなのか!?それとも、それよりも下なのか!?今、それを見せつけるためにと、葛城選手を倒すために、フィールドにたちます!『砂の戦姫(サンドヴァルキリー)』宮坂明選手!』

 

 明も、六花と同じようにフィールドに上がるだけで、さらに会場の歓声が沸き上がる。

 武曲学園で活躍することはなく、七星剣武祭に出ることがなかった六花も、今は自分の意思で立っている。

 対する明も、兄・爛と共に七星剣武祭に出るためにフィールドに立っている。

 どちらも有名であるのは間違いない。

 ステラに次ぐAランク騎士である六花。

 選抜戦にて強敵を凪ぎ払い、一目置かれる存在となった、爛の妹である明。

 激戦になるのは間違いないと、リリー達は感じていた。だが、明と六花の差は歴然であると考える生徒も少なくはない。

 

「・・・・・・爛は・・・、来るのかな・・・?」

「分からないよ・・・、でも・・・、来るって思うしかない・・・。」

 

 二人は悲しい顔で話す。声も暗い。消えてしまうかのような声は・・・、二人にしか聞こえない。

 

「とにかく、僕たちがこんな状態じゃ、爛にも心配をかけてしまうよ。」

「だよね・・・。だからこそ・・・。」

 

 二人は真剣な表情へと変わり、辺りの空気を変えた。

 

「「譲ることはできない・・・!」」

 

 二人はそう言うと、固有霊装(デバイス)を顕現する。

 

「遡れ、撃剣・龍(げきけん・りゅう)。」

「佇め、蓮花(れんか)。」

 

 龍、砂から精製された霊装を手に取り、二人はすぐに構える。

 しかし、やはり真剣な表情だとしても、二人はまだ不安を隠しきれなかった。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 試合開始の音が鳴ると共に、先に明が動く。

 

「っ!」

 

 短期決戦を仕掛けにいった明。だがそれは、間違いであった。それはなぜか?その答えは、六花の霊装にあった。

 

「唸れ、《龍雷(りゅうらい)》。」

 

 六花が左手に握っていた拳銃の銃口を明へと向け、魔力を弾へと集中させ、引き金を引く。その銃口から発射された弾は雷を纏った龍のように、明に襲い掛かる。

 

「!」

 

 明はすぐにそれを避ける。ただ単に突撃していた訳ではない。迎撃するであろうことは分かっていた。

 クロスレンジの領域に入る。どちらとも、刃が届く位置にいる。

 この場合、銃より刃物の方が圧倒的に強い。つまり次に六花が動く行動は見えている。

 

「ハァッ!」

「っ!」

 

 六花は横振りに刀を振るう。しかし、それが見えていた明は屈むことでそれを避け、反撃に出ようとする。

 ───が、何か嫌な予感がした。

 

「っ!?」

 

 すぐに体を右側へと動かす。六花の持っていた銃から、引き金が引かれており、弾が明の左頬を掠めていった。

 流石はAランクの騎士。そう易々とは勝たせてくれないのは当然だ。

 

「こうするしかないかな・・・。」

 

 明はそう呟いた。蓮花を手から離すと、蓮花は弧を描くように六花の側面を狙ってくる。

 それと同時に、明も走り出す。

 

「っ!」

 

 六花は弧を描くように側面を狙ってきた蓮花を、跳躍しながら避けるが、とあることに気づく。

 

(あれは、刀の柄糸!)

 

 明の指先に少しだけ黒く見えたものは、蓮花の柄糸だということだ。

 そして、六花が跳躍している間に、明はすぐに蓮花を手元へと戻し、追い打ちをかける。

 

「くっ!」

 

 六花は追い打ちをかけてくる明に応戦するが、剣撃の途中で明がエルボーを仕掛け、飛ばされてしまう。

 

「っ!」

 

 六花はすぐに動く。目に見えないほどの速さで、明の背後を取る。

 

「《閃光撃神(せんこうげきしん)》。」

「っ!?」

 

 明の心臓を狙うかのように、六花は伐刀絶技(ノウブルアーツ)で突き刺す。普通ならば避けることは叶わないはずの攻撃。

 しかし、明はそれを避けて見せた。

 

「何時の間にそれを使っていたんだい?」

「さっき居なくなったところで、だね。こうなってくるともう、短期決戦しかないし。」

 

 六花は、自分の最速の攻撃を避けることができた明に、なにかを察していた。

 しかし、まだ明のすべてを知っているわけでもない。それは、リリーたちも同じだ。無論、爛も知らない可能性がある。

 

「今のは・・・?」

「何をしたのでしょうか・・・。」

 

 リリー達のところでは疑問に包まれていた。最速であろう攻撃を避けることができたということに。

 

「あれは《戦の乙女よ、全てを蹂躙せよ(エレネクト・ヴァルキリー)》。一輝の《一刀修羅(いっとうしゅら)》と同じように、一分間のブーストに近い。」

「!!」

 

 リリー達の後ろで、明のことを話したのは、紛れもなく爛であった。リリー達は、爛が来ないのかと心配していたが、驚いた表情をすると、ホッとした表情に変わった。

 

「少し用事を済ませてきただけだ。本来なら試合が始まる前に手短に終わらせるつもりだったんだけどな。」

 

 爛はそう言いながら、リリーの隣に座る。用事とは一体なんだったのか。そう聞こうとするリリー達だが、次の瞬間、目のハイライトを消した。

 

「ま・す・た・ぁ・♡」

「「「「「「・・・・・・。」」」」」」

 

 それは後ろから爛に抱きついてきた存在だ。

 

「・・・清姫・・・。」

「何ですか?」

「ここは公の場なんだ。場所をわきまえてくれ。それに、お前たちとは契約を切ったんだ。今はマスターじゃない。」

 

 普通ならば、サーヴァントと契約すると、右手の甲にとある赤い模様がつく。

 その模様は令呪と呼ばれるもので、それでサーヴァントに命令をすると、強制的にそうされることになる。つまり、サーヴァントを生かすも殺すも、契約したマスターの手の内なのだ。

 しかし、爛の右手の甲には令呪はついていない。つまり、サーヴァントとの契約はしていないのだ。

 

「そんなことより、今は六花と明の戦いだ。部屋で言いたいこととか聞くからな。」

 

 爛がそう言うと、リリー達は目のハイライトを元に戻した。

 

 六花と明の対決・・・決着は如何に!

 

 ーーー第53話へーーー

 

 




やっと六花が戦ったぁぁぁぁぁぁぁあぁ!

なんかこれだけで満足してしまいそうですw

次回、自分の気分次第では決着は分からないかも・・・!?(まぁそんなことは全然ないんですかねw)


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第53話~貫く思い~

このあとに大切な話が二つあるから見てくださいね。

三点リーダーって、プレビューで見ると(私のスマホですが)下の部分に現れるんですよね。(何でだろ…)



「ハァ……ハァ……。」

 

 拮抗していた戦況は一転し、明が優勢となった。

 六花は明が使用した伐刀絶技(ノウブルアーツ)、《戦の乙女よ、全てを蹂躙せよ(エレネクト・ヴァルキリー)》により、圧倒的な速さで翻弄されている。

 

(あれを……切った方が良いかもね……。想像以上だよ………明……。)

 

 六花はそう思った。六花の想像を遥かに越える明の伐刀絶技(ノウブルアーツ)。六花は自分も切り札を切らなければいけないと感じていた。

 

(……六花。考えているとは思うが、本能で鳴っている警鐘は……極めて正しいはずだ……。明……、引き出すなよ……あれを……!)

 

 観客席から二人の対決を見ていた爛は、そう感じ取っていた。

 爛の感じ取っていたことは、極めて正しかった。

 

「っ!?」

 

 目の前にいたはずの明が消えた。

 一体何処に?

 六花は前後左右を見渡す。

 右も居ない。

 左も居ない。

 後ろも居ない。

 なら、答えは───、

 

「上!」

 

 上を見た先に居たのは、上空にいる明は体を捻らせていた。

 

「ハァァァァァァァァァ!」

「っ!せぇぇぇぇぇぇぇぇい!」

 

 体を捻った反動で威力は上がっている。そのままの体勢で受け止めたらほぼ負けてしまう。それも、身体能力強化されているというのであれば。

 

「っ、くうっ!」

 

 六花は体勢を崩し、明に吹き飛ばされてしまう。

 

「っ!まだまだ!」

 

 明はすぐに、体を六花へと向け、伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使用する。

 

「《砂鉄絶槍(さてつぜっそう)》!!」

 

 明はそう叫ぶ。蓮花に纏われる槍は砂鉄の槍となり、六花を貫かんとする。

 

「《嘆きの扉(なげきのとびら)》!!」

 

 六花は魔力を手に纏わせ、地面に着ける。すると、灰色の扉に鎖が巻き付かれた物が地面から出現し、明の《砂鉄絶槍(さてつぜっそう)》を受け止める。

 

「ググググ………。」

「っっっっっっっ……………!」

 

 二人の力が拮抗する。二人の伐刀絶技は、相殺される。

 

「「ハァ……ハァ……ハァ……。」」

 

 二人は肩で息をする。何処をどうしても押し返されるか、相殺される。六花が劣勢であるのは間違いなく、それも徐々に、押され始めていた。

 

「…………っっっっっっ、ああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!!」

 

 六花が叫びだす。その叫びにより、六花の異能である雷が暴走し、六花自身へと落ちる。

 

「っ!?六花ぁ!」

 

 爛は六花の力が暴走したことにより、焦った表情で六花の名前を叫ぶ。

 六花の周りに、黒い力が現れ、そして六花を包み込む。

 

「……まさか……、六花……、お前にも…。その心が……、あるのか……?」

 

 次に姿を見せた六花の姿は変貌していた。肌は人形のように白く、黒の衣服を纏った姿だった。

 

「ふ~ん。まさか、自由になれるなんてね。」

 

 変わり果てた姿になった六花は、涼しい笑みをし、撃剣・龍(げきけん・りゅう)を構える。

 それを見ている爛は、怯えたような顔をした。

 

「……あり得ないだろ……。何でだ……?六花……、お前も……反転化(オルタ)になるような切っ掛けが……っっっっっっ!!」

 

 爛は疑問を口にするが、すぐにそれに切っ掛けとなるものを感じ取った。

 

「………まさか…、『あれ』が原因で……なったのか…?」

 

 爛は『あれ』と言った。六花の過去に、一体何があったのだろうか。

 

「…………。」

 

 爛は悲しい表情で俯いた。

 六花がオルタというものになると、戦況は一変、六花が優勢となった。

 

「ホラホラ、どうしたの!?その程度かい?」

「くっ……!」

 

 六花は挑発するように、明に攻撃を加える。

 性格も何もかも、変わったような感覚がした。

 

「六花……、どうしたの!?」

 

 六花は微笑みを見せるが、すぐに狂気の笑みを見せる。

 

「アハ?」

「え?」

 

 六花の発した言葉に、呆気をとられる明。

 

「アハ、アハハハハハハ、アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 狂気の笑みは潰えぬことをしらなかった。六花の瞳は紅く滲み始めた。その姿は、その会場の全員が恐怖した。

 

「サァ、アソボウヨ。ネェ、アソボウヨ。アハ?アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!」

 

 狂気の笑みで明に迫っていく。明はその恐怖を押し殺し、蓮花を構える。

 

「っ!?」

「ナァンダ、コンナモノナンナラ、ハヤクコワシチャオウカ。」

 

 六花は明を蹴り飛ばす。すぐ瞬時に移動し、明を追撃する。

 

「アァ!」

 

 明はすぐに体勢を戻し、動き出す。

 

「アハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハハ!ワタシノシッテルオモチャヨリカタイネ!コワシガイガアルモノダネ!」

 

 六花は左手に持っている拳銃に最大級に魔力を込める。

 

「ナラ、コレデモシナナイノカナ?キニナルカラゾンブンニヤッテミヨウカ!」

 

 六花は明に照準を合わせ、引き金を引く。

 魔力を込めた弾は瞬間的に明の目の前に現れる。

 

「!?」

 

 明は避けきれず、右腕に銃弾を受けてしまう。

 

「ア~ア、アタッチャッタノカー。コレデモウヨウズミダネ。」

 

 六花はそう言うと、指を鳴らす。

 その音と共に、明の右腕から刃が飛び出してくる。

 

「ア、アァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!」

「あ、明ぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃぃい!」

 

 明は右腕から血を吹き出して倒れる。意識は完全に失っている。

 爛は叫びながら、観客席から飛び出す。その右手には、固有霊装(デバイス)を持って。

 

「この血の量……、早く止めないと…!早くしないと…明が死ぬ!」

 

 爛は自分が使える回復系の伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使用して、明の右腕からの出血を止めようとする。

 

「クソ!早く……止まれよ!」

 

 出血の量は少しずつ止まってきているが、このままのスピードで出血が止まらなければ、確実に明が死ぬ。

 

「アハ、マダオモチャガイタンダ。アソボウヨ。」

「っ!?」

 

 爛は明を抱えて、六花から離れていった。底知れない何かを感じ取ったから。

 

「明!しっかりしろ!くっ…リリー達!六花を止めてくれ!」

「はい!」

 

 リリー達も観客席から飛び出し、リングの方へと行く。

 

「これは、どういうことだ!?」

「分かりません。ですが、理性を失っているのは確かですね。」

「マスター、これは一体…?」

 

 ネロは六花の変わり果てに驚き、タマモは冷静に六花の様子を言っていた。ジャンヌは爛に説明を求める。

 

「あぁ……、確信はないが、多分今までの負の感情が爆発したせいで、反転化(オルタ)になったんだろう……。」

 

 爛は確信のない状態で説明をする。それを聞いたリリー達は悲しい表情をした。

 

「とにかく、今はリッカを止めましょう。」

 

 リリーの言葉で、ネロ達は武器を構える。

 

「頼む・・・。六花を殺さないでくれ!」

「分かってますよ。」

 

 六花のことを大切に思っている爛は、リリーたちに頼む。リリーはそれを知っている。だからこそ、殺すことはしない。

 

「行きますよ!皆さん!」

「あぁ!」

「「「えぇ!」」」

「「はい!」」

 

 リリーはそう言うと、走り出す。

 

「カリバー!」

 

 リリーは右手に黄金に輝く剣を顕現し、跳躍する。

 

「私たちも行きますよ!」

 

 ジャンヌは円を描くように動きだし、剣を握る。

 ネロ達も走り出し、各自の武器を持つ。

 

「援護します!」

 

 タマモは自身に魔力を高め、足元から術式が現れる。

 

「出雲に神在り。是自在にして禊ぎの証、神宝宇迦之鏡也。《水天日光天照八野鎮石(すいてんにっこうあまてらすやのしずいし)》……なんちゃって☆ 」

「…なんちゃってはないでしょう。助かることは助かりますが……。」

 

 タマモのいい加減な詠唱に清姫がツッコミを入れる。

 

「とにかく……、ハァ!」

 

 清姫は魔力で火球を作り出し、六花へ向ける。

 

「オソイ!」

 

 六花はそれを易々と避ける。

 

「行きます!」

 

 跳躍したリリーが体を捻った状態で、六花の真上から現れる。

 

「ッ!」

「ヤァ!」

 

 リリーは捻らせていた体を戻し、その反発で威力を上げる。六花はそれを見切り、体勢を低くすることでそれを避ける。……が、

 

「一回だけだと思いましたか!」

 

 リリーは捻った体を戻した影響でもう一回体を回転させ、剣を真一文字に振るう。

 

「ソレクライ、ワカッテルヨ!」

 

 六花は刀に魔力を纏わせ、剣に対して縦に振るう。

 

「威力の違いぐらい分か……なっ!?」

 

 六花が刀に纏わせていた魔力が爆発し、リリーを吹き飛ばす。

 

「爆発する魔力……!?」

 

 リリーは壁に打ち付けられ、伐刀者用に作られている壁でさえ、めり込むように打ち付けられた。

 

「ぐ……あぁ……。」

「マズハコイツカラ……!」

 

 壁にめり込むように打ち付けられているリリーを狙い、六花は走り出す。

 

「ヒトリ、オワリ……!」

 

 六花は刀を真上へと振り上げ、そのまま降り下ろす。

 

「……っ、ジャンヌ!?」

「く……重い……!」

 

 ジャンヌは二人の間へと割り込み、剣ではなく、槍で受け止める。剣ではすぐに折れてしまうと判断したのか、槍で止めていた。

 

「ジャマスルナ……!」

「退くことなんてできません……!タマモ!」

 

 六花は憎悪の瞳でジャンヌを睨む。ジャンヌはその瞳に怯えることなく、言い返す。そして、タマモの名前を呼ぶ。

 

「はい!」

 

 タマモはそう言うと、術式のついた札を六花に投げつける。すると、術式が輝きだし、炎が六花を焼く。

 

「グゥ!?」

 

 六花は背後から突然攻撃を受け、片側の膝をつく。

 

「ジャマヲスルナトイッテイル……!!!」

 

 六花は一瞬にして、タマモの前へと行き、一蹴にて吹き飛ばす。

 

「きゃっ!」

 

 タマモは吹き飛ばされ、リングを転がる。

 

「総司!余達も行くぞ!」

「分かりました!六花さん、行きますよ!」

 

 ネロと総司が走り出す。

 

 二人が六花に猛威をふるう!

 

 

 ーーー第54話へーーー




大切な話1
新たな小説を書き始めました!
偽物を作るだけだけど、とりあえずやる
という小説です!

大切な話2
この物語の番外編?なのか?
正妻編を書くつもりです。正妻じゃないな、嫁回か…。これに関しては気分で書きます。とりあえず全員1話は書きます。
ヒロイン各以外も書こうかなぁ…と思っていたり。


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第54話~覚悟と恥じらい~

「シッ!」

 

 総司が一瞬にして六花の背後に回り、刀を振るう。

 

「ジャマダァ!」

 

 六花は刀を振り向き様に振るい、総司を斬ろうとするのだが、総司は六花の刀よりも低い体位でやり過ごすと同時に刀を振るう。

 

「遅い!」

 

 総司は刀を振るうとバックステップで距離を取る。

 

「そこだ!」

 

 ネロが総司と入れ替わりで六花を攻撃する。

 

「ジャマダッテェ!」

 

 六花は地面に刀を突き刺し、魔力を高める。

 

「イッテルンダヨォ!」

 

 六花の叫びにより、辺りは一瞬にして崩れる。

 

「ッ!?」

「えぇ!?」

 

 リリーたちは落ちることはなかったが、周りにいた総司とネロが巻き込まれてしまい、落ちてしまった。

 

「コワセナイノナラ…………サキニコイツカラコワシテヤル…………!!!」

「ッ!六花……。」

 

 六花は意識を失って倒れている明の方を向く。爛は己の体が戦慄したのを感じると、明を抱き締めたまま、神経を集中させていた。

 

(いや、これは先にやった方がいい。でないと、ネロたちが……)

 

 明を横にさせ、爛が立ち上がろうとしたとき、崩れた穴から二つの影が出てくる。

 

「二人とも!無事だったか!」

 

 爛は二人が戻ってこれたことに、安堵したが、暴走している六花やその六花と戦っているリリーたちのことも心配していた。

 

(俺は……どうすれば……。)

 

 爛が迷っている間、ネロたちは明のところへと行かせないように、六花を止めていた。

 次の瞬間、ネロと総司が動き出す。

 

「我が才を見よ!万雷の喝采を聞け!」

「一歩音超え…、二歩無間…、三歩絶刀!!」

 

 ネロは詠唱する。総司は一歩ずつ進み、詠唱する。そして、三歩で六花の目の前に辿り着く。

 

「《無明(むみょう)…………三段突き(さんだんづき)》!!!!」

「座して称えるがよい……黄金の劇場を!」

 

 総司が宝具を使用し、六花を穿つ。ほぼ同時ではなく、まったく同じタイミングで突きが三回六花を襲う。

 穿つと、ネロの詠唱が終わったのか、周りの景色が変わり、赤と黄金の劇場が見える。

 

「すぐに決めるぞ!」

 

 ネロは赤い剣を構え、六花に向かって突撃する。

 

「《童女謳う華の帝政(ラウス・セント・クラウディウス)》!!」

 

 交錯すると同時に、ネロは赤い剣を振りきり、六花を切り裂く。そしてそのあと、六花の下側から、炎が吹き出る。

 

「アァァァァァアアアアァァァァァァァ!!!」

「六花………!」

 

 爛はこれ以上、六花が傷つくのを見ていられなくなってしまっていた。

 そして、爛は決心する。自分の手で、六花の暴走を止めると。

 

「明……、少し、待っててな。」

 

 応急処置で腕を傷を抑えた爛は、明の頭を撫でると、横にさせ、立ち上がる。

 

「みんな!時間をとらせてすまない。ここから先は、俺一人でやる!」

『ッ!?』

 

 爛から発せられた言葉に、全員が驚く。

 

「マスター、本当に大丈夫なのですか?」

 

 リリーは爛の辛さを知っている一人でもあるため、爛を心配する。だが、爛はリリーに笑みを見せて話す。

 

「大丈夫だ。……でも、辛いと思ってるよ。だけど、俺はやらなくちゃいけない。」

 

 爛は真剣な表情になり、六花の前に立つ。

 

「なぁ、六花。俺はお前に刃を向ける。お前は……いや、聞いても意味がない……か……。まぁ、いいさ。来てくれ、ゲイ・ボルク。」

 

 爛はゲイ・ボルクを顕現させると、それを握り、体勢を低くする。

 

「その心臓刺し穿つ………。」

 

 爛はそう呟くと、魔力を高める。ゲイ・ボルクに魔力を送り込む。その瞬間、ゲイ・ボルクが赤黒く光る。

 

「《刺し穿つ死棘の槍(ゲイ・ボルク)》!!」

 

 爛はゲイ・ボルクを握り込み、一瞬にして六花を穿つ。しかし、幻想形態で突き刺したため、六花は意識を失うこととなった。真っ白な肌は元に戻り、黒い力は消えていった。

 

「六花……。次…目が覚めた…ときは、いつもの…六花だと…いい…な……。」

 

 爛はそう呟くと、魔力切れを起こして、六花と同じように意識を失い、倒れる。

 

「マスター!」

 

 リリーが一目散に駆け出し、爛の状態を見る。

 

「良かった。意識を失ってるだけですね。」

 

 リリーは爛が死んでいるわけではないのを知ると、爛を抱きかかえる。

 

「とにかく、ここから出ましょう……。」

 

 リリーは周りからの視線が気になっていた。……いや、気になっていたと言うよりも、イライラするように感じていた。

 周りからの目線…、それはやはり、ランクだけで人を見下すような目線でしかなかった。

 好意を寄せているリリーたちからすれば、本当にイライラする目線でしかなかった。

 

「えぇ、早く行きましょう。私…ここにこれ以上居ると、人を殺してしまいそうです…。」

 

 ジャンヌは六花を抱えると、暗く重い声でそう言った。

 この感情はジャンヌだけじゃない。ネロもタマモも総司も…誰もがそう感じた。

 総司が明を抱えて、訓練場から出ていく。

 

「……マスター……、貴方は、どうして私たちを庇うのでしょうか?苦しいことも、悲しいことも、様々な負のものを貴方は背負ってきました。ですが、どうして貴方だけなのですか?私たちは、どうしたらいいのですか?マスター……。」

 

 リリーはそう呟き、涙を流す。その涙は抱きかかえた爛の胸に落ちていた。

 

「……え!?」

 

 明を運んでいた総司が驚く。リリーたちは総司の方を見るが、全員が明の状態に驚いていた。

 

「右腕が……!」

 

 右腕が、もとに戻っていたのだ。切断されていた訳でもなく、薄皮一枚すらないような状況なのに、右腕がもとに戻っていると言うことはほぼあり得ない。

 

「もしかして……。」

 

 タマモは明の右腕が治ったことに、何か分かっているようだった。

 

「とにかく、マスターたちをベッドに寝かせないと…。」

 

 リリーたちはすぐに自室の方へと向かい、爛たちを横にさせる。

 爛たちをベッドに寝かせてから、三時間後。

 

「ぅ……ぁ……。」

「マスター!」

 

 爛が目を覚ます。ジャンヌはそれにいち早く気づき、爛の側に行く。

 

「ジャン…ヌ…?ここは……。」

「マスターの部屋ですよ。」

「あぁ……、そうか……。」

 

 爛は目を覚ますと、まだ意識がはっきりとしていないのか、自分がどこにいるのかが分かっていなかった。近くにいたジャンヌの存在に気づくことができたため、ジャンヌに場所を聞く。

 場所を聞くと、爛は安堵したような顔をした。

 

「ありがとう………。」

 

 爛は小さな声でジャンヌに礼を言う。

 

「マスター?何か言ったんですか?」

 

 爛が呟いたことに、ジャンヌは聞き返すが、爛はジャンヌに微笑むと、何も言わなかった。

 

「…………。」

 

 爛はジャンヌをじっと見つめる。

 

「マスター?」

「ん……ジャンヌ。」

 

 爛は両手を広げる。その姿は可愛らしく、顔を赤くしながらジャンヌを待っていた。

 

「マ、マスター?一体、どうしたんですか?」

「ん…ジャンヌたちに構ってなかったから…、今ぐらいなら、構ってやれるから………。」

 

 爛は消えてしまいそうな声で、理由を話す。その理由を聞いたジャンヌは、爛と同じく顔を赤くする。

 

「じゃあ…お言葉に甘えて……。ん……。」

 

 ジャンヌはベッドの上へと上がり、爛を抱き締める。爛も同じようにジャンヌを抱き締める。

 

「やっぱり、マスターの上に上がっても、まだ低いのですね……。」

「ん、まぁ、それだけ身長の差はあるからな……。」

 

 ジャンヌの言っている通り、ジャンヌの身長は159㎝。爛の身長は174㎝。結構な差があるのは確かだ。

 

「………………。」

「……………あの…、マスター?」

 

 爛が何も言わずに、ジャンヌを抱き締めていることに、ジャンヌはその事に驚きと疑問が隠せなかった。

 

「……ん?」

「どうして……、強く抱き締めるんですか?」

 

 ジャンヌはその事を聞くと、爛は先程よりも強く抱き締める。

 

「マ、マスター……。」

 

 ジャンヌは驚いているが、爛が自分を構っていてくれていることで、幸福感を感じていた。

 

「だって………。」

「?」

 

 爛が小さく呟く。ジャンヌは至近距離に居たため、聞こえていた。

 

「失う夢を見たんだよ………。ジャンヌたちを失う夢を……。だから、現実で失いたくないから……。」

 

 爛の声は消え入りそうな声で、悲しい声だった。

 

「マスター。」

「ジャンヌ………?」

 

 ジャンヌは爛を強く抱き締めた。

 

「私たちはここにいます。確実とは言えなくても、私はここにいます。」

「あぁ………うん……ありがとう。」

 

 ジャンヌの言葉で、爛は安心したのか、抱き締める力を弱めた。

 

「ジャンヌ……やっぱり……、まだこのままで……。」

 

 爛は弱めた力をまた強くした。ジャンヌは何も言わずに、爛を抱き締めた。

 

「ジャンヌ…、ありがとう……。」

 

 爛は自分の体をジャンヌに委ねた。ジャンヌは爛が自分に体を委ねて、眠ってしまったことに気づく。

 

「寝てしまいましたか……。私ももう少し、このままで。」

 

 ジャンヌはしばらく爛を抱き締めることにしたため、着けていた鎧を外す。

 鎧を外すと、爛を抱き締め、ベッドに横になる。

 

「お休みなさい。マスター。」

 

 ジャンヌは爛の額にキスをすると、そのまま眠りについた。

 

 ーーー第55話へーーー

 

 




題名を考えるのが……w

コラボ回のネタが辛い……。

次回はほのぼのしたのかな?


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第55話~欠けてしまったもの~

 爛がもう一度眠りについたあと、爛は起きることもなく一日が過ぎる。

 六花たちが、眠りについた真夜中。

 

「……寝たか……。」

 

 そう呟く爛は、自室から出る。右手に赤い槍をもって、破軍学園から出ようとする。その時……

 

師匠(せんせい)!!」

「…黒乃か……。」

 

 爛を追って黒乃が爛を止める。爛は振り向き、黒乃の方を見る。

 黒乃は固有霊装(デバイス)を持って来ていた。

 

「俺を止める気か?……こうしている間にも、一人の命が無くなってるぞ。」

「どういうことです……か……?」

 

 爛はニヤリとした笑みで黒乃を見る。黒乃は何も理解できず、爛に尋ねる。

 

「桐原の命が無くなったな。あぁ。今この瞬間に。俺に協力した者にな。」

「っっっっっっ!!!!????」

 

 爛が非道な笑みを見せながら、嘘を言わずにそう言ってきた。

 それを見た黒乃は全身から汗が吹き出てきた。

 

「一体、どういうことですか!?」

「フッ、何を考えてるんだ?俺に協力した者は『恐怖』って言う感情がないんだわ。それに、俺もそれが欠けてるしな。」

 

 黒乃は驚きを隠せることなどなく、爛は笑みを浮かべたまま話す。

 

「正直、あいつを殺すのは俺の方がいいがな。それより、あいつの方が感情的に強いからな。俺はその後始末だな。後は俺の私情だ。お前には関係ない。人間としてクズの奴には死んでもらったからな。」

「……………………………。」

 

 爛は黒乃に背を向け、破軍学園から出ていく。黒乃は爛の行動に驚きが隠せず、動くことができなかった。

 

「ねぇ………もう、死んでくれない?」

 

 その一言で、桐原は貫かれ、投げ飛ばされる。もう桐原に叫ぶと言う行為は不可能だ。

 

「返して……、沙耶香を返してよ!返して!」

 

 桐原は体を切り離され、皮一枚すらないような冷酷で残酷に切り裂かれていく。

 

「ま、アイツなら容赦なく殺すからな……。沙耶香との仲は、誰よりも強かったからな……。」

 

 爛はそう呟きながら、真夜中の街を歩いていく。

 

「……この辺りでいいか……。」

 

 爛は真夜中の街の裏路地に行き、地面に魔力を使い、何かを描く。

 すると、その描いたものから、一筋の光が一直線に空に向かって上がる。

 

「……来たか。」

 

 爛がそう呟くと、描いたものを消す。そして、建物の上へと跳躍すると、目の前に青い装束と赤い槍を持った男が佇んでいた。

 

「随分と遅かったじゃねぇか。」

「すまないな。少し足止めを食らってな。」

 

 爛は建物の屋上に座り込み、煙草を吸う。

 

「……んて、今日は何のようで呼んだんだ?」

「今回ばかりはお前に頼むことだ。……『あれ』がもう来ているかをな。」

 

 爛から言われた単語に、男は反応した。回していた槍を止めたのだ。

 

「奴と殺るつもりか?」

「……俺の未来は、俺自身の物だ。考えもこのまま行けばの話だろう。俺は偽善だっていいさ。奴の考えと俺の考え。全く違うものだ。俺は俺で、やるべきものがある。だからこそ、奴と殺らなければならないんだよ。」

 

 爛は笑みを見せながら男にその事を話す。その理由を聞いた男は同じように笑みを見せた。

 

「なるほどな。お前がそう言うんなら、俺も協力させてもらうぜ。」

 

 男はそう言うと、吸っていた煙草を投げ捨てる。

 

「……他にもあるが?」

「んだよ他にもあんのかよ。さっさと終わらせてくれ。」

 

 もう終わりかと思っていた男に、爛は間を開けて言うと、男はがっくりしその場に座り込む。

 

「…あいつらたちの特訓相手になってはくれないか?」

「…ハァ?そりゃどういうことだ、おい。」

 

 爛から言われたことに、男は疑問を持ちながらそう言った。

 

「奴等とあいつらでは差が開きすぎているからな。俺だけでは手に負えないからな。」

 

 爛は立ち上がり、槍を回す。男はため息をつくと、槍を爛に向ける。

 

「まぁいいが。俺と手合わせして弱すぎたら、やらねぇからな。素人野郎に教える筋合いなんぞないからな。」

「あぁ、分かっている。」

 

 男は条件をつけて爛に話す。爛はその条件を呑む。

 

「…俺は行かなきゃ行けないところが二つほどある。お前は先にいって事情を話し、あいつらを鍛えてやってくれ。時を見計らい、奴を探してくれ。」

「また面倒な物を使ってきやがって。まぁ、仕事が生き甲斐だからな。いいぜ。」

 

 爛はそう言い、男が返事をすると、爛はそのままおくじょうから飛び降り、居なくなってしまった。

 

「ったく、久しぶりに会ったって言うのによ……。まぁ、アイツもあの身だしな。」

 

 そう言うと、男は姿を消す。

 

 

「……思っていたよりも、早く見つけられたぞ。エーデルワイス。」

 

 森の中を歩いていた爛は後ろの方を向く。そこには、私服姿でいた最強の剣士が立っていた。

 

「気づくの早いですね。」

「あまり俺を舐めない方がいいぞ~。何せ抜き足を作り出した人物から教えてもらったからな。」

 

 エーデルワイスは何も敵意はなく、爛の側に行く。

 

「……あまり言いたくもないが、貴女はそろそろするべきではないのか?」

 

 爛から言われたことに、エーデルワイスは一瞬にして暗く遠い目をした。

 

「冗談だ。からかってすまないな。貴女の好きなようにすればいいと俺は思うがね。」

「できれば、私の知っている方の方がいいですからね。例えば、貴方とか。」

 

 爛は遠い目をしたエーデルワイスを見た瞬間に、からかったことに爛は謝罪する。

 すると、エーデルワイスは爛が質問してきたことに答えを返す。

 

「俺には手の余る人になるな。」

「それは、どういうことで言ったのですか?」

 

 爛が言った一言に反応したエーデルワイスは、どう言うことなのかと爛に問う。

 

「別に年齢的な意味じゃないからな。俺には似合わないくらい貴女はいい人だからな。」

「…………///」

 

 爛は笑みを浮かべながらエーデルワイスに問われたことの答えを返す。その事を聞いたエーデルワイスは爛の答えに顔を少しだけ赤くする。

 

「ん?どう……って、何を!?」

「何をって、貴方に本当に手に余るのかと思いまして。今こうしてくっついてるわけです。」

 

 爛はどうしたのかとエーデルワイスに問おうとするが、エーデルワイスは爛にくっついていた。

 

「………今回、あれはいいか……。」

「?何か言いましたか?」

 

 爛が呟いたことに、一部だけ聞くことができたのか、爛に問う。

 

「いや、何でもないよ。」

 

 爛はくっついてきたエーデルワイスを拒むことなく、逆に寄り添う形でエーデルワイスの側に居る。

 

「優しいですね……。貴方は。」

「ん?そう感じるのか?」

 

 エーデルワイスはそう呟いたのを聞いていた爛は、不思議に思いながらもそう言った。

 

「……貴女は寝る場所無いんじゃないのか?貴女の住んでいるところは遠いだろう。」

「確かにそうですね……。」

 

 爛は思っていたことをいうと、エーデルワイスは困ったような顔をして言った。

 

「どうする?野宿でもしてみる?」

「いや、結構です……。」

 

 爛が笑顔で野宿と言う単語を言った途端、エーデルワイスは汗を流して拒否をした。

 

「ま、言うと思ったよ。俺は別に野宿でも何でも良いけどな。」

「貴方は様々なところを旅してましたからね。野宿なんてお手の物かと。」

 

 爛は上を見ながらそう言った。爛の視界に映るのは星の数々。様々な星座が見えていた。

 エーデルワイスは笑みを溢しながらも、爛と同じく空を見上げる。

 

「どうするんだ?エーデルワイス。」

「…私は帰ることにします。良かったら、来ます?お菓子もありますよ。」

 

 爛はもう一度どうするのかとエーデルワイスに問う。エーデルワイスは笑みを浮かべ、爛に来ないかと誘う。だが、爛は首を横に振った。

 

「いや、俺はいい。また行くことになるからな。」

 

 爛は立ち上がり、槍を持つ。

 

「俺は戻る。貴女も早めに行った方がいい。狩ろうとしているやつは俺が始末しておくからな。」

 

 爛は歩いてきた道を戻る。それを見たエーデルワイスは同じように立ち上がり、爛とは反対の道を歩く。

 

「……来たな。」

 

 爛はそう呟く。遠くに見えるのは、最強を狩りにここまで来た腕に覚えのある伐刀者(ブレイザー)だ。

 

「………お前ら、ここに何のようだ。」

「あぁ?ガキに関係ねぇ。俺達は『比翼』を倒しに来たんだ。」

 

 爛はそれを聞くと、持っていた赤い槍を向ける。

 

「だったら、俺を倒してからにしな。そうしなければ、彼女に敵わんぞ。」

 

 爛は笑みを向けて話した。確かに腕に覚えのある伐刀者たち。だが、エーデルワイスの弟子として戦ってきた爛にとっては、百人程度苦でも何でもない。

 

「いい度胸だ!数で勝れるって言うのか!?」

 

 伐刀者たちは、固有霊装(デバイス)を展開する。爛をそれを見ると、槍を構える。

 

「威勢が良いものだ。俺を一人で超えることができるのであれば、彼女には勝てるんだがな。一人じゃ面倒くさい。全員で来い。それでも勝てないがな。」

 

 爛は挑発する。子供が大人に挑発されてしまえば、プライドが傷つくものだ。だからこそ、全員が動く。

 

「ハッ!だったらやってみろよ!」

「来い。真の英雄は目で殺すことができるぞ。」

 

 爛は元々出していた殺気を強くする。その殺気で、人を切ることもできる。いや、その感覚を負わせることができる。

 

「っ、行くぞ!」

「フン。やってみろ。俺を追い込んで見せろ。」

 

 爛は槍を真一文字に振るう。それだけで、赤い閃光が伐刀者たちを襲う。

 

「だが、動くのが遅すぎる。」

 

 爛はそのまま瞬時に動き、伐刀者たちを槍で穿つ。

 

「っ、ハァ!」

 

 爛は容赦なく穿つ。ただ、幻想形態で槍を振るっていた。恨む相手でもなく、自分自身から始末をすると言ったのだ。それなりのことはしておくと。

 

「終わらせないとな。早く。」

 

 爛は跳躍する。赤い槍を構える。

 

「行くぞ。〈抉り穿つ分死の槍(ゲイ・ボルク)〉!」

 

 爛は槍に魔力を込め、投げる。その槍は複数に分散し、伐刀者たちを穿つ。

 

「フン、こんなんだったら彼女には勝てんな。」

 

 爛はそう吐き捨てる。そう言った途端、爛に頭痛が襲う。

 

「ぐ………、なんだ…この痛みは……。」

 

 爛の頭のなかにフラッシュバックが起こる。そのなかには、見たこともない少女がいた。

 

「誰……だ……?」

 

 爛のフラッシュバックで見た少女とは誰のなのか。

 

 

 ーーー第56話へーーー

 

 



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第56話~魔術師の少女~

最近、最弱無敗の神装機竜を書きたいと思うことごろ……どうしようかな……。


 突然のフラッシュバックに、爛は頭を抑える。その中に出てきた少女に、爛は見覚えがあった。

 

「………もしかして………『聡美』……?」

 

 爛はそう呟くと、意識的にとある方向に歩いていった。

 爛が向かった先にあったのは、とあるビルの屋上。爛が屋上にかけ上がると、屋上に一人の少女が佇んでいた。

 

「………マスター。」

 

 爛がそう言うと、少女は爛の方を向く。

 いつ見ても、久し振りに見たとしても、爛は忘れることがなかった。

 誰もが恐れる災厄と契約を結んだ、爛の拠り所の一つ。

 

「待ちくたびれたわ………。セイバー。」

 

 マスターと呼ばれた少女は、爛のことをセイバーと言った。

 

「………久し振り………か……。」

 

 爛はそう言うと、少女の方へと歩いていく。少女は何も言うことはなく、拒むことはしなかった。

 

「そうだろう?マスター。」

 

 爛はそう言いながら、少女の頬に触れた。繊細な手使いは、少女に優しく接する。

 

「そう………ね………。」

 

 少女は爛に会えたことに、嬉しいのか涙目になっていた。

 

「ねぇ……セイバー………。」

「ん?どうした?マスター。」

 

 少女は頬に触れていた爛の手に自分の手を添えると、嬉し涙を流す。

 

「また……あの時みたいに、優しく抱き締めて……。」

「……あぁ。分かった。」

 

 少女がそう言うと、爛は承諾し、少女を優しく包み込むように抱き締めた。

 

「フフ………♪」

「?どうかしたのか?」

 

 爛の体温を久し振りに感じたのか、自然と笑みが溢れたようだ。

 

「貴方と会えたことが嬉しくて、体温を感じることができて、嬉しいのよ♪」

 

 少女は爛のことを強く抱き締める。

 

「マスター、俺は帰らないといけないところがある。………マスターも来るか?」

 

 爛は少女と顔を見合わせると、笑みを浮かべて話す。

 

「ええ。行くわ。もう離れ離れは嫌だもの。」

 

 少女は爛と同じように笑みを浮かべてそう言った。爛は抱き締めるのを止めると、手を差し出す。

 

「それじゃあ、行こうか。」

 

 少女は爛の手を握る。爛は少女の手を握り返すと、少女と肩を並べて歩き始める。

 

 

 

 

 明け方。破軍学園にて。寝ていた六花たちは、一番始めに起きたジャンヌが、爛がいない事に気づく。

 ───が、六花たちは何かに反応する。

 

「むぅ……。また、女の誰かを連れてくる気だね……。爛は……。」

「マスターはいつも……、誰かをつれてきて……。私たちの気持ちも考えてくださいよ……。」

 

 六花たちは爛が女性を連れてくると感じとり、目のハイライトを消す。

 

「ただい………うぉぉ!?」

 

 噂をすればなんとやら。爛がドアから出てきた瞬間に、六花たちは爛の目の前に現れる。

 

「……やっぱり連れてきたんだ………。」

 

 六花はジト目になり、爛の後ろを見る。その後ろには、爛が連れてきたであろう少女がいた。

 

「仕方ないだろう。俺の………マスターなんだから。」

「えっ………、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 嘘!?」

 

 爛から言われたことに、リリーは驚いて目を疑った。

 

「本当だ。」

 

 淡々と答える爛を見て、嘘はついていないと見えてしまう。

 

「………誰ですか?」

 

 タマモはすぐに連れてきた少女が誰なのかを尋ねる。

 

「あぁ、彼女は『曙 聡美(あけぼの さとみ)』。実質、俺のマスターだ。」

 

 聡美は爛の腕に抱きつくようにする。それを見た六花たちは嫉妬のオーラを放つ。

 

「………………(じぃ~)」

「どうした?」

「………………(じぃ~)」

「だから、どうしたんだ?皆して。」

「………………(じぃ~)」

「いや、言ってくれないと分からないんだが………。」

「………………(じぃ~)」

「……俺にくっつくか?」

「うん。」

 

 爛が六花たちに屈した時であった。

 六花たちは爛をベッドに座らせると、全員で爛を囲んでくっつく。

 

「~~~~♪」

 

 六花たち(聡美込み)は機嫌を良くして、爛に抱きつく。爛は、自分の招いた事であることが分かっていたため、何も言うことはなく六花たちに体を委ねていた。

 

「………ひゃぅ!?」

 

 次の瞬間、爛は誰かに首筋を噛まれる。爛は女性っぽい言い方で驚くと、首筋を噛んでいる人を見る。

 

「………狐夜見?」

「……ご主人様………。」

 

 爛は首筋に甘噛みをした狐夜見を見る。狐夜見は首筋から唇を離す。

 これで終わったと思った次の瞬間。

 

「んっ………。」

「ん、んん!?」

 

 狐夜見が身を乗りだし、爛にキスをする。爛は驚いて、狐夜見の肩に手を置いて離そうとするのだが、何故か力が抜けて、上手く離すことができない。

 

「ん、ちゅ……、んんっ。ちゅる……、んはぁ………。」

「ハァ………ハァ………ハァ………。」

 

 ディープキスをされた爛は蕩けたような顔をして、力のない目で狐夜見を見つめる。

 

「ご主人様ぁ……。大好きですぅ……♪愛してますぅぅ…………♪」

 

 狐夜見は同じように蕩けながらも、爛を抱き締めて爛への愛を耳元で囁いていた。

 

「………!!!!」

 

 爛は狐夜見からの甘い息が耳にかかり、体を震わせる。

 

「……あれ?もしかして、ご主人様って………Mなんですか?」

「な訳ないだろ!」

 

 タマモから言われたことに、爛はすぐに反論する。

 

「冗談ですよ~。ご主人様がそんな訳ないのは知っていますから♪」

 

 タマモはクスクスと笑いながら爛の耳を舐める。

 

「ひゃっ……、止めてくれ……。」

 

 爛は快感から逃れるために体を捻らせる。だが、六花たちに体を抱き着かれているため、体を捻らせようとしても満足にすることもできず、六花たちは動く爛をがっちりと止める。

 

「ひぁ……くすぐったいって……言ってるじゃないか………。」

 

 爛はそう言うものの、六花たちは赤面しながらそう言う爛が可愛くて仕方なく、止めることができない。

 

「ぁぅ……。止めてくれよ………。ひゃぁ……。」

 

 爛は何度も六花たちを止めようとするが、六花たちは止まることを知らずに、どんどんとエスカレートしていく。

 

「ひゃっ!?」

 

 爛は六花たちの行動に驚く。服の中に手を入れられ、その感触に驚く。

 

「爛の体って温かいよね♪」

「そうだな!奏者はいつも優しいからだろうな!」

「それ、どういう意味だよ!?」

 

 六花がそう言うと、同じように爛の体に触れているネロも六花に同意して言うと、爛はネロの言ったことに、意味がわからずにツッコミを入れる。

 

「もう、いいか?………流石に、朝なんだから、朝食とらないと……。」

 

 時間を見れば、今は朝の七時。ほぼ一日起きている爛にとっては空腹であるのは確実だ。

 

「そうですね。マスターにもあまり苦労かけるわけにもいきませんし………。」

 

 総司は爛から離れ、ベッドから立ち上がる。それと同じように、六花たちも爛から離れていく。

 爛から離れていくと、爛はそのままベッドに倒れ込む。

 

「ハァ……、今日の朝食は頼むよ。眠いし……、俺は寝る。」

 

 爛はそう言うと、ベッドに横になったまま、寝息を立てて寝てしまった。

 

「あ、先輩も寝てしまったので、私たちは先輩がいつ起きてもいいように食事は作っておきましょう。」

 

 桜はそう言うと、タンスに片付けてあったエプロンを取り出すと、それをつける。

 

「じゃあ、私も手伝います。」

 

 タマモも桜とは違ったエプロンを取りだし、それをつける。

 二人がつけているエプロンは買ったものではなく、爛が編んだものである。この二人以外にも、欲しいと言った人には要望を聞いたあと、一日で編んでしまうほど、爛は裁縫が得意であるのだ。実際は魔力の糸をを使い、魔力制御の練習としてやっていたのが裁縫であり、いつの間にか得意になっており、様々なものまで編むようになったのだ。

 

「それでは、作りましょうか。」

 

 桜とタマモはその一言で料理を作り始めた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 とある夢を見た。

 酷く、既視感のある夢だった。

 海の底での聖杯戦争。

 英霊として、サーヴァントとして呼び出された自分は、セイバーのクラスとしてマスターから呼び出されたからこそ、参じたが、彼がそこで見たのは思っていたのはまったくといっていいほど違う風景だった。

 目の前にいる自分を呼び出したマスターはそれほどの年齢ではない少女。

 

「貴方が、私のサーヴァントなの?」

 

 少女から聞かれたのはその事だけだった。彼が答えられるのはただひとつだけだった。

 

「あぁ。私は君のサーヴァントだ。君の身に令呪が有る限り、この身は君の剣であり、また盾でもある。そして、私はセイバーのクラスで召喚された。」

 

 彼は、そう答えた。いや、サーヴァントとして召喚された以上、彼はマスターには従うと決めていた。彼が嫌うことがなければの話だが。

 

「そう。なら、セイバー。頼みたいことがあるの。」

「何だ?マスター。」

 

 少女から頼みたいことを引き受けようとする彼は、少女からの頼みを聞いて絶句した。何故ならそれは───

 

「父さんと母さんを……殺して。」

 

 少女の家族を殺めなければならないということだからだ。

 

「……一つ尋ねるが、君はあの聖杯に何をかける?」

 

 彼は少女にそう尋ねた。聖杯は何でも叶う願望器。この聖杯戦争に参加すると言うのは、それほど聖杯を欲しいと思っているからだろう。

 だが、彼の思っていたこととは、違うものだった。

 

「妹が、幸せになってほしいと思っているの。」

 

 ただその一言だけだった。

 次の瞬間、光が放たれて、その夢は終わりを告げた。

 

 

 ーーー第57話へーーー

 

 



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第57話~隠されたものと超えた限界~

爛がチートになってきた……。
まぁそれなりに代償は払うけど……。


 聡美との再会から、一週間半。

 選抜戦は次々と進み、ついに七星剣武祭代表者が決まる戦いの始まり。

 参加している六花はすぐに試合を終わらせ、一輝が戦う会場へと急いでいた。

 

「爛!」

「来たみたいだな。」

 

 六花は一輝の試合を見に来た爛たちの所へと行き、席に座る。

 右側の方には試合の終わったステラたちも座っていた。

 

「仕事はどうしたの?」

「……ん?あぁ、投げ出してきた。」

 

 六花の言っている通り、爛はとある仕事を頼まれていた。……が、爛はそれを投げ出して一輝の試合を見に来ていた。

 

「報道も来ているみたいだ。連盟も居るな。」

 

 颯真は空を見ながらそう言った。上空にはヘリが何機かあり、連盟もいることから、報道になると考えていいだろう。

 

「仕方ないよ。だって、『雷切(らいきり)』と『戦鬼の剣帝(アナザーワン)』が戦う訳だし。」

「そうですね。……ご主人様は如何様にお考えですか?」

 

 明が訳を話すと、タマモは納得するようにそう言い、爛にどのように戦いが進んでいくかを尋ねる。

 

「どうだろうな……。刀華の《雷切(らいきり)》は、一輝の第七秘剣をも超える速さ。

 一輝が自分自身の限界を超えなければ、刀華の《雷切(らいきり)》の速さには敵わないだろうな。」

 

 爛は腕を組ながら、冷静な目付きでそう言った。

 

「?マスター?」

 

 総司は一輝の試合での事を冷静に言った爛を見ると、何故かぼうっとしている様子に見受けられ、爛に声をかける。

 

「………あ、いや、何でもない。……少し考え事をしていてな。

 ………席を外す。ここには戻らないだろうが、一輝の試合は見ている。」

 

 爛はそう言うと、席から立ち上がり、会場から出ていってしまった。

 その言葉には、微かな違和感を持っていた。

 

 

 

 

「………………………………。」

(何だ。一体、何が俺の中に?俺の知っているものとは、全く違うもの。………一体、俺の体に何が起きている?)

 

 爛は会場の外にいるなか、自身の体に疑問を持っていた。

 

「行くぞ、刻さ………っ!?」

 

 爛は自身の右手を見た。固有霊装(デバイス)を顕現する解きに現れる、右手の光が消えていたのだ。

 

(どういうことだ……?霊装を顕現できない。まさか………、俺の中に何かが本当にあるのか………?)

 

 爛の疑問は、深まっていくばかりだった。

 霊装の顕現が不可能になっている今、一輝が戦ったあとに控えている戦いが不可能になる。そうなれば、七星剣武祭に出れるものも出れなくなってしまう。

 

(…………すまん。俺は………出れないかもしれない………。)

 

 爛はそう思うが、すぐに首を横に振り、その思いを振り払う。

 

(………いや、俺は……出なくてはいけないんだ。例え、物理であろうと……戦って勝ってみせる!)

 

 爛はそう誓うように右手を握りしめると、木に向けて拳を当てようとする。

 

「無駄ァ!」

 

 爛の声とは違う声で、木は何も施していない爛の拳で崩れ去っていった。

 

「……………………っ!?」

 

 爛は背後の居る者に異質なものを感じた。

 ニンゲンとは違うもの。操り人形のように爛の背後に佇んでいる。

 爛はそれを気配で感じとると、背後の方を向く。

 

「っ、こいつは………?」

 

 背後に居たのは、爛に宿っているように背後から現れていた。その姿は、黄金に輝き、ニンゲンとは似ているものがあるが、違う形をしていた。

 

『私は『ゴールド・エクスペリエンス』。貴方のスタンド。』

「ゴールド・エクスペリエンス……?スタンド……?」

 

 爛の背後に居たものは『ゴールド・エクスペリエンス』というスタンド。

 爛は聞いたこともないことに、疑問を持った。

 

『そして、貴方に伝えなければいけないことがある。』

「俺に、伝えなければいけないこと?」

 

 ゴールド・エクスペリエンスは機械音のような声で、淡々と爛に話す。

 

『貴方の中には、もう一つの力がある。』

 

 爛は何も言わずに、ゴールド・エクスペリエンスの声を聞いていた。

 

『それは『波紋』。』

「波紋………?」

 

 爛は同じように疑問を持った。

 

『波紋は生命エネルギー。生命エネルギーを力としたもの。貴方にはそれも備わっている。』

 

 波紋の生命エネルギー。莫大な生命の力を持っている爛には、最高の力となるだろう。

 

「………俺は……、本当に宮坂の子供なのか?」

 

 爛は聞いていたことに、根底のものを疑ってしまう。だが、爛が宮坂の子であることは間違いない。

 

『貴方は宮坂の子だ。そして、宮坂はジョースターの血筋であり、誰にもわからないものだ。』

 

 ゴールド・エクスペリエンスから話されたことに、爛は目を疑う。

 

「まさか……、父さんたちは……、黙っていたのか!?」

 

 爛はそう言うと、顔を俯かせた。

 

「いや、そんなことはどうでもいい。自分の中にあるものに気づくことができたことは良しとしよう。」

 

 爛はそう言うと、俯かせていた顔をあげる。

 

「戻ってくれ、ゴールド・エクスペリエンス。」

 

 爛はそう言うと、ゴールド・エクスペリエンスは爛の体内に戻っていく。

 

「………まさか………な……。」

 

 爛は何か思うところがあったのか、そう言いながら会場の方に戻っていく。

 

「………ちょうど始まったみたいだ。」

 

 爛が戻ってくると、一輝と刀華が霊装を展開しており、今にも試合が始まるようだった。

 

Let' s Go Ahead!(試合開始)

 

 試合開始の合図と共に、一輝が動き出す。

 

「《一刀修羅(いっとうしゅら)》ァァァァ!!!」

 

 それを見た爛は、一瞬だけ驚くと、一輝の行動に笑みを溢す。

 

「お兄様!?」

「無謀すぎるよ!?」

 

 爛から離れている席のところでは、一輝の行動に驚いた珠雫と加賀美が驚いていた。

 

「フフッ……。」

「ステラちゃん?」

 

 ステラは爛と同じように笑みを溢す。それに気づいたアリスはステラに尋ねる。

 

「小細工は使わない。それがイッキとなれば……」

 

 ステラは笑みを浮かべながらそう言う。

 

「絶対にこうするだろうな。」

 

 爛も分かっていたように独りでに呟く。

 その声は、一輝も同じだ。

 

「「「真正面から切り伏せる……!!」」」

 

 三人の声は図ったように同じタイミングでそう言う。

 

(逃げ続ければ……この戦いは私が勝つ……。)

 

 確かに、《一刀修羅(いっとうしゅら)》を発動した一輝は、一分もすれば倒れてしまう。

 

(それだけは……できるわけがない!)

 

 刀華は雷の出力を全開にし、刀を構える。その構えは、刀華の二つ名にもあるもの《雷切(らいきり)》。

 一輝は刀を構えると、一気に踏み込み、フルスピードで翔る。

 

 自分の限界を超える………!

 雷よりも速く………!

 光よりも速く………!

 振るのは一刀で充分だ………!

 必要なのは………!

 彼女を超えるという一心だけだ………!

 それ以外必要なものはない………!

 支配してやる………!

 極限の一瞬を………!

 己の全てを………!

 この時のために振り絞る………!

 駆け抜けろ………!

 この全ての一瞬を………!

 極限を………!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空白の時間が流れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 パキィ………!!

 

 その音と共に、誰かが倒れる音がした。

 その音は、刀華が倒れたものによるものだった。

 

『き、決まったぁぁぁぁぁぁ!たった一瞬の交錯!たった一振りで!《雷切(らいきり)》が!鳴神が!粉砕されました!リングに佇む勝者は、『落第騎士(ワーストワン)』!いや、『戦鬼の剣帝(アナザーワン)』!黒鉄一輝選手!』

 

 試合結果を聞いた爛は笑みを浮かべる。一輝が自身の限界を超えたことに、爛は嬉しく思っているのだ。

 

(……そろそろ行くか。)

 

 爛は待機室に入ると、その後ろから気配を感じとる。

 

「どけぇぇぇ!」

 

 後ろから聞こえてきた男の声は、赤座のものだ。刀華が負けたことに焦るものがあったのだろう。だからといって行かすわけにもいかない。

 

「……ゴールド・エクスペリエンス。」

 

 爛がスタンドを呼び込むと、ゴールド・エクスペリエンスが姿を現し、赤座の顔面を殴る。

 

「無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄無駄ァァァァァァ!!!!」

 

 死んでしまうかもしれないほどに殴り続ける。それ故に、爛の黒い感情は刻々と表に出てきている。

 

「……生命エネルギー……、完全消滅を確認。地獄へ堕ちな。赤座。」

 

 爛は赤座が死んだのを確認すると、ゴールド・エクスペリエンスを戻す。

 

「お疲れ様。一輝。」

 

 爛はそう言うと、リングの上へと向かっていった。

 

「……あ、爛………。」

 

 全身から血を出している一輝は、刀を杖代わりにしながら立っていた。

 

「全く……。ちょっと立ってろ。」

 

 爛はそう言うと、波紋を右手に貯め、一輝に胸に手を当てる。

 

「……これは……!?」

「俺の生命エネルギーをお前に与えた。傷も治すように細工しておいたから、早くステラのところに行ってこい。」

 

 爛は生命エネルギーで傷を治した一輝の背中を押す。

 

「………………。」

 

 爛は何も言わずに、会場から出ていった一輝の背中を笑みを浮かべながら見ていた。

 

「………やれやれ………。」

 

 爛は笑みを浮かべながらもそう言うと、リングの中央の方を向く。

 その中央には、爛の姉である香が居た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「イッキ!」

「ステラ………!」

 

 ステラは一輝に飛び込むようにして抱き締めようとする。一輝も飛び込んできたステラを優しく受け止めた。

 

「お疲れ様、イッキ。」

「あぁ、ステラの方こそ。」

 

 二人はしばらく、お互いの体温を感じあっていた。

 

「ステラ。」

「何?」

 

 しばらくしてから、一輝はステラの名を呼ぶ。

 

「ステラ。………僕の家族になってくれないか?」

 

 直接聞かれた一輝からの言葉。

 一輝からの告白。ステラは一瞬驚くも、それと同時に涙ながらに答えを出す。

 

「はい。アタシをイッキのお嫁さんにしてください!」

 

 それが、告白されたものの答えだった。

 分かるものには分かる。ただ、知らぬものが多い。二人は、一つめの幸せを貰うのであった。

 

 

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第58話~姉と弟と妹~

「……待て、聞き間違いか?」

 

 爛は黒乃にそう問う。その顔には無機質な表情があるが、内には焦りなどがあるだろう。

 何故、このようになっているのか。それは一輝と爛の最終選抜戦が始まる一週間前。爛は最終選抜戦の対戦相手を指名されていた。

 

「いいえ、連盟本部からの指示です。香と師匠(せんせい)で戦えと。」

 

 そう。爛は最終選抜戦の相手が姉である香なのだ。だが、爛の中には別の焦りがあった。

 

「………………………チッ。」

 

 爛はしばらくすると、苦虫を噛んだような顔になり、舌打ちをする。

 

「黒乃。香姉はそれを了承したのか?」

「はい。彼女も師匠(せんせい)と居れるなら、と。」

「あの姉は………。」

 

 何をやっているんだと突っ込んでしまいそうだが、何とかそれを堪えるものの、頭を抱えてしまう。

 

「………ハァ………分かった。やるよ。」

 

 爛はそう言うと、理事長室から出ていく。爛からすれば不本意だろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く………。香姉は………。」

 

 爛はそう呟く。リングの上には、香が立っている。

 

「仕方ない……。」

 

 爛は何かの力を発現する。

 

「サーヴァント憑依。クラス、アヴェンジャー(復讐者)。真名、ラロル。これが、英霊の俺だ。」

 

 発現された力は、サーヴァントのものだった。ただ、聡美からすれば、それは謎でしかない。セイバーのクラスとして来たはずなのだが、それが違うクラス。今まで信じてきた味方が復讐者。信じがたいごとだ。

 

「……………………………。」

 

 香は黙って爛を見ていることしかできなかった。

 

「どうした?来ないのであれば、こちらから行くぞ。」

 

 爛は二本のナイフを逆手で持つ。そのナイフの刃は鋸の刃のように出来ており、深く斬れるように出来ていた。

 

「さぁ、行くぞ!」

 

 爛………、いや、復讐者のラロルは走り出す。

 香はすぐに自身の固有霊装(デバイス)を顕現する。

 

「白く輝く銀は、陽光を反射する雪のように。出番よ、白銀(しろがね)。」

 

 香はその名の通りの霊装(デバイス)白銀(しろがね)を顕現する。

 

「フン、霊装(デバイス)白銀(しろがね)。逸話では確か悪の者を有利に裁くことができるもの……。だが!このアヴェンジャー(復讐者)には!生温い物だ!」

 

 ラロルは持っているナイフを雨霰のように香に投げる。

 

「フッ!」

 

 香はラロルのナイフに反応し、次々と切り落としていく。

 

「その程度か?その程度でそれを落とそうと思っているのか!?」

 

 ラロルがナイフを投げていくなか、落ちていたはずのナイフが宙に浮かび、香に向かって突き刺さろうとしていた。

 

「ッ!?」

「フン、今のを避けたか。だが、それはまだ序の口に過ぎない。」

 

 ラロルの背後から、何かが顕れる。黄金に輝くもの。それは霊のように。

 

「こいつをも使って、これを避けられるか!?」

 

 黄金に輝き、ラロルの後ろから顕れたものは、ラロルのナイフを握り、香に向かって凄まじいスピードで投げる。

 

「ッ、くっ!」

 

 香は後ろに下がりながらも、さらに多くの量のナイフを落としていく。

 

「貧弱貧弱ゥ………!そら、前だけだと思ったのか!」

 

 ラロルは三つのナイフを投げる。二つは一つのナイフを弾き、香の後ろへ、もう一つは弾いて向かってきているナイフに当たり、弾かれたナイフはそのまま香の背中を刺そうとしていた。

 

「《星屑(スターダスト)》。」

 

 香の周りに、星の屑が展開され、襲いかかるナイフを次々と落としていく。

 

「待ってたよ。………それを。」

 

 香に向かって話したのはラロルではなく、英霊の憑依を解いた爛だった。

 

「さぁ、この刃を……防げるかな?」

 

 爛は高く振り上げる。その振り上げられた右腕は、『星の聖剣』の様に輝いていた。

 

「《一閃せよ、銀の腕(デッドエンド・アガートラム)》!!」

 

 逆袈裟斬りで右腕を振るう。その力は黄金に輝く奇跡となり、空間を切り裂いていく。

 

「ッ、《虚無空間(きょむくうかん)》!」

 

 香はすぐに動き出す。無が作り出す空間を作り出し、黄金に輝く奇跡を凌ぐ。

 

「遅いぞ!」

「なッ!?」

 

 だが、逆にそれは囮であり、香が作り出した空間は徐々に凍り始めていた。

 

「ラロルが持つ『空間凍結』。その名の通り、空間、結界を凍らせてしまうものだ。」

 

 そう言うと、爛はその凍り始めた空間に入り込む。

 

「ッ………………。」

「無駄なんだ。無駄無駄………。」

 

 香に向かってそう吐き捨てる。ナイフを手に持ち、何も抵抗してこない香を突き刺す。

 そのまま、…………香は倒れた。

 

「…………終わった…………。」

 

 爛はそう呟くと、香を抱えてフィールドから居なくなってしまう。

 

「………香姉。」

 

 爛は悲しい表情になりながらも、香の側に居た。

 爛は香の部屋へと運んでおり、爛は自分の姉のことで頭が一杯になっていた。香のベッドの隣に座り続けていた。

 

「なぁ………、俺は………、『人間』………なのかな………。分かんなくなってくる………。自分が誰なのか………、たまに………恐ろしいほどに不安なときがある………。恐怖……じゃない………。ただ………、とてつもない喪失感が………、襲ってくるんだ………。」

 

 爛は涙を流しながら、香の手を握る。

 その暖かさは、爛の心を暖めていき、そして、爛に安らぎを与えていく。

 

「………これだけの力を持っていながら………、俺はここで戦う理由が見つからない………。六花たちのために振るってきた思いが………、俺を惑わしていく………。何処に向かっていけばいいのかも………、俺には分からないんだ………。」

 

 爛は思いは、よく知っている香であれば、痛いほどに分かることだろう。

 爛の過去を知って………、痛みを知って………、隠したものを知って…………。

 それでもなお、彼は力を振るい続けた。守りたいものを守るために。

 

「……香姉………。俺は………、今まで何を求めてここまで来たんだ………?ここまで…………振るってきたのは………、間違いだったのか…………?傷を生んでしまっていることで………、俺はもう…………、道を外しているのか…………?分からない…………。俺には全く分からない…………。どれが正しいのかも………。何が善で…………、何が悪なのかも………。」

 

 爛は迷い始める。頭を抑え、今にも泣き狂いそうになる。今までの自分は何だったのかを、問おうとしてしまう。

 

「爛は………悪くないの………。」

「ッ!?」

 

 背後から、暖かいものが包み込んでくれる。そして、

 

「うん………。お兄ちゃんは………、全然悪くない…………。」

「明………、いつの間に………!?」

 

 正面からは、気づかない内に入ってきていた明が抱き締めてくれていた。

 

「爛は……苦しいことになっても………頑張ってくれていた………。」

「私たちを守ってくれていた………。それだけで……嬉しかった………。」

 

 二人の声が、左右の耳から入っていく。甘いその声は、爛を、爛の何もかもを溶かしていく。ゆっくりと………ゆっくりと………。

 

「私たちがお兄ちゃんのことが好きなのは………。」

「爛が可愛くて………、それでいて、頑張ってくれていて………。」

 

 爛は涙を止めようとしていた。見せたくなかった。強くなくてはならないから。そんな理由でしかなかった。

 

「「私たちは、そんな姿に恋をしたの………。」」

 

 二人の言葉が重なった。二人の思いが、伝わった。何故こんなにも自分のことが好きだったのか。それが、やっと分かることができた。

 

「あ、でも、他にもあるんだよ?笑顔を見せてくれたり、優しかったり。色々と好きだった。」

「でも、それを見ていたら、いつの間にか爛を意識していた。」

 

 二人が爛を抱き締める力は強くなっていた。

 

「………二人………とも…………ッ!」

 

 爛が正面で抱き締めていた明を逆に抱き締める。

 

「……ありが………とう………!!」

 

 涙を流して、自分の言える最大限の言葉で、爛は二人に礼を言った。

 

「ね、だから………。」

「?」

 

 頬を少し赤くさせている明を見て、爛は首を傾げるものの、少しずつ明の顔が近づいてきていることに気付く。

 

「明………?何を……。~~~~~~~~~~~ッッッッッッ!!!!????」

 

 明の唇が、爛の唇と重なり、爛は驚きの表情をするが、明はお構い無く舌を強引に爛の中に入れる。

 

「……ちゅ………んっ………お兄………ちゃん………好きぃ………。」

 

 明は爛の舌を舐め回す。爛は六花とは違うキスの仕方に目が虚ろになっていた。

 

「………んん………ぷはぁ………。美味しかったよ、お兄ちゃん♡」

 

 明は満足したように、笑顔を見せるが、爛は気持ちよさに意識が掠れていた。

 

「私も……して?爛……………ちゅ。」

「か、香姉……まで………んん!」

 

 明に嫉妬をしたのか、香が背後から身を乗り出して爛の唇と重ねる。

 

「………んん……か……おり……ねぇ………ちゅ………んんっ!」

 

 爛は必死に抵抗するが、香の思うようにされてしまい、抵抗でさえ無駄なものとなっていた。

 

「……ぷはっ………。確かに美味しかった……爛…。」

「ハァ………ハァ………ハァ………。」

 

 香も満足したように笑顔でいるが、爛は今までとは違う快感に完全に脱力しきっていた。

 

「爛!見つけたよ!」

 

 突然開け放たれた扉から出てきたのは、爛を探しに来ていた六花とリリーだった。

 

「……あ……、六花……?リリー……まで………?」

 

 脱力しきった顔で六花を見つめる。その顔は六花とリリーにとっては、愛しい爛の顔でしかなかった。

 

「爛~~~~!」

「マスター~~~~~~~~!」

 

 二人は爛の左右に行き、爛を抱き締める。

 

「ふぁ………。誰か助けて………。」

 

 囲まれてしまった爛は抵抗するが、四方を既に囲まれ、そして抱きつかれている時点で、爛は逃げれないとしか考えられない。

 

「爛……♡」

「お兄ちゃん………♡」

「マスター………♡」

「らぁん………♡」

 

 四人とも、目がハートになって爛を抱き締めていた。

 

「だ……………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 誰か助けてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!」

 

 このあと、爛の叫びが響いたのは言うまでもない。

 

 

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黒の章~暁学園襲撃~憎しみと暴走と絶望
第59話~選抜戦終了、動き出すもの~


何か最近、他の作品のネタが多いよなぁ………。
因みに、今回も他作品の要素があります。あれをやっている方なら多分。レタスの店長さんとか分かると思いますよ。はい。


 選抜戦が終わり、団体戦となるため、人数が足りないのを確認していた黒乃は余っている席を埋めるために、一発勝負のトーナメントを開催した。

 爛、一輝、ステラ、六花、アリス、颯真、この六人の他に、あと二つの席を埋めなければならなかったのだ。その席を埋めたのは、完全な実力から一発勝負に強制に近いが、参加することになったリリーが一つ目を埋め、次に埋めたのは破軍学園最強と謳われた刀華だった。

 

「……まさか、強引にリリーを引っ張るとはな。黒乃。」

 

 爛はタバコを吸いながら、理事長室で黒乃にジト目になりながらそう言った。

 爛の目の前には、一発勝負に強制に近い方法で参加することとなったリリー。

 

「それはそうでしょう。星の聖剣、カリバーであり、しかも師匠(せんせい)の折り紙つき。これはもう出さない手は無いですよ。」

 

 完全な実力主義者でもある黒乃であればそうかと、爛は納得してしまう。リリー本人には了承を得ているらしく、本人も出たいと言っていた。

 

「まぁ、リリーが出たいって言ってたならいいが……。」

 

 爛は納得をしていないような顔をしながらも、本人が言っていたならと、渋々納得をする。

 

「アハハ………。」

 

 リリーは苦笑いをするしかなかった。悪巧みをするような笑みをしている理事長の黒乃と、それに振り回されるマスターである爛。どう考えても爛が苦労人としか考えられなかったからだ。

 

「……分かったから、良いとして。………俺は戻る。」

 

 爛はリリーに一言だけいい、理事長室から出ていく。

 ただ、爛は一つだけ引っ掛かっていることがあった。

 

(あの時………、アリスがいなかった。そして、あの時から感じ始めた殺気……。感じ慣れていた気配もその一つ………。………そういうことか………。)

 

 爛は自分の部屋に戻ろうとしているなか、突然立ち止まる。

 

「マスター?」

 

 リリーは突然立ち止まった爛を見て、疑問に思い尋ねる。

 

「すまない。用事があったのを思い出した。リリーは先に部屋に戻っていてくれ。」

 

 爛はそう言うと、リリーが尋ねようとしていたことを聞かずに、要件だけ伝えると、一瞬にして姿を消してしまった。

 

「……要件だけなんですかマスター………。」

 

 急いでいるように見えたため、何も言わないでいたが、走る様子もなく、能力で姿を消して居なくなったことで、言わなかったことをつい口にしてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 爛は破軍学園の外に出ると、人気のつかない所へと行った。

 人気のつかない所につくと、爛は常人では気を失うほどの殺気を放つ。だが、爛にとってはまだ序の口でもあり、この程度の殺気でも怖じ気づくことはないだろうと感じていた。

 

「いつまで俺の跡を追っている。そうまでして六花と俺を殺したいのか、『葛城翼(かつらぎつばさ)』。」

 

 爛は冷静な口調で、しかし感情的な行動には走らなかった。

 爛の後ろには、翼と呼ばれた男と、アリスが立っていた。

 

「あぁ、そうさ。俺はお前と六花を殺す。絶対にな。そして、お前はなんで、六花を生かし続けて(・・・・・・)いるんだよ!」

 

 翼は感情的になってしまったのか、爛に対してどう言うことなのかと怒鳴る。

 だが、爛はそれを聞き流しており、涼しい顔をしていた。

 

「そうだな。俺は六花を生かし続ける。人としての生を、彼女が終えるまでな。」

 

 爛は笑みを浮かべながら、翼とアリスの方を向いた。端から見れば、邪な笑みでしかない。だが、それは爛が隠し続けている歪んだもの。

 

「……正直な、俺は別にいいんだよ。彼女が幸せであれば、俺という人間が不必要であるというのならば、俺は彼女の目の前から消える。」

 

 彼の自分の本望がわかり始めた。彼は、自分のためになんか動いてはいなかった。全て自分が愛している彼女のためのものでしかなかった。

 六花が爛に依存しているのは爛によるものではく、彼女自身のものであるのは間違いない。だが、爛はそれ以上に六花に依存していた。それが、爛の歪んだもの。歪んだ愛情そのものだった。

 

「可笑しいと考えるか?結構、何とでも言うといいさ。俺は変わらない。それだけは貫き通す。そうするほどの覚悟がなければ、六花を助けられない……。」

 

 爛は今まで以上に殺気を放つ。感じ取れるのは憤怒。どこまで苦しめるのかという怒りでしかなかった。

 

「何故、俺があそこまで六花に拘るのか……。あそこまでやっているのには意味がある。あぁ。……あの繋がりがあったからこそ、俺はそこまでやっている。」

 

 爛の悲しい顔は、嘘偽りではなく、本当のものであった。あの繋がりとは何なのか。そして、あそこまでの六花に対する歪んだ愛情は、その繋がりから来ているものと考えられた。

 

「あまりにも遠い………。今ここで失えば、それも全てが崩れていく………。遠い………。遠すぎる道だった……。誰かに助けを求めるわけでもなく、ただ一人で、歩き続けるのは、疲れてくる……。だけど……、やっと見つけられたんだ………。」

 

 爛は闇の力を持つ左目を発現させる。黒い剣は爛がよく使うものではなく、見たこともない剣だった。

 

「……だから……、今ここで……、脅かすものは殺す……!」

 

 爛は駆け出す。一つの思いだけで、刃を向ける。

 

「…………!」

「今は逃げるわよ!」

 

 翼はアリスに襟首を掴まれ、爛の目の前から消えていく。

 

「逃げるなぁ!」

 

 黒い剣に闇の力を注ぎ込むと、可視された闇の刃が形成される。

 

「っ、今は影のあるところに!」

「…………………。」

 

 アリスは影のあるところにと駆け出していた。翼は何も言わずにアリスについていく。

 

(……それが、本当にあった。お前と俺の妹の繋がりなのか………。あまり、認めたくはない。ただ………、今のでわかった。お前は黒だ。闇だ。そして、邪悪だ。……けど、それでもお前は白を持っている。光をつかむ者だからこそだ。………それを、六花は知っているのか………。六花はそうなると白だ。光だ。そして、希望でもある。それだけだ。)

 

 翼の頭の中では、最悪の展開が描かれていた。もし、あの力が既に発現していたのであれば……。自分たちには勝機がない。そう、既に感じていた。

 

(急いで、計画を始めるようにと伝えておかないと………。)

 

 翼はアリスの影の中にはいると、アリスと翼は影の中に沈んでいく。

 

「……………遅かったか………。」

 

 爛はそれを呟く。剣を解除すると、左目から一筋の血が流れ出る。

 

「………………………。」

(黒と白の伝承には、確か………。あぁ、そうだった。あの時と同じように自分の身を犠牲にしたのか………。)

 

 爛の思考の中にあった黒と白の伝承。そこには、こう書かれていた。それが、爛の昔から続く………償うことの叶わない………たった一つの罪だ。

 

「……………っ!?」

 

 爛に頭痛が襲う。頭の中で、何かが蘇る。

 

(これは……、記憶………?)

 

 黒髪の少年が、爛と同じ黒い剣を持っていた。そして、たった一言だけ、言った。空にある………『光の王国』に向けて。

 

『それで、みんなを救えるのなら………。』

 

 黒髪の少年はそう言うと、そこで、映像が停止したかのように止まり、そこで、蘇った記憶は終わった。

 

「……終わった……?」

(でも、今のは……。この記憶は……?まさか、あれは黒の………)

 

 爛が黒の先を言おうとしたとたん、全身が痺れる。

 

「ぐっ……!?」

(な、なんだ今のは……。言わせまいと力が抵抗してるのか…………。)

 

 爛は自分に起きたことを冷静に判断する。だが、力が抵抗しているのではなく、『黒の』、その先を言おうとした時に起きたことだった。

 それだけしか起きなかった。それだけは事実だ。

 

(これからは禁句だな……。多分、あっちの方にも………。)

 

 爛は破軍学園の方を向いた。爛は自身の右手を握りしめる。

 

(あの時みたいに………、ならないようにな。)

 

 その手には、償えることのないたった一つの罪と、僅かな希望を感じながら。

 

 

 ーーー第60話へーーー




はい、他作品要素がわかった人は感想で教えてください。まぁ、当てられると思いますよ。はい。


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第60話~代償なるものと少年の望み~

今回も全然原作とは違いますね。うん。


「で、何でアンタがついてきてるのよ……。」

「あ?嬢ちゃん、俺じゃ不足だってか?」

 

 不満な顔をあからさまにしているステラと、その後ろに青い装束の男が歩いていた。

 

「まぁ、仕方ないよ。爛が言ってたんだから……。」

 

 だが、これには理由があったのだ。

 爛がこの男に一輝とステラの稽古をつけてくれと頼んでいたのだ。爛からの説明もあったが、彼は槍の達人でもあり、爛の友人に近いのだ。何故、近いという表現なのかは訳ありだ。

 

「仕方ないと言われても………。」

 

 ステラはそれでも不満な顔をしていた。多分、自分が想像していたものとは違ったことだろう。

 

「これでも、槍の達人なんだ。まぁ、犬みたいなものだかな。」

「誰が犬だ!」

「お前だよ。」

「あぁ!?」

 

 爛は彼のことを話しているが、最後に猟犬といったことで、男がそれに食いつき、爛に言い返すのだが、爛はそれを簡単に返してしまった。

 

「ここだ。ここ、ここ。」

 

 爛が指を指した先には、森。その一言につきた。

 

「えっと……、ここで?」

「全力を出すには等しいところ。何せ、ここは俺の家の敷地だからな。まぁ、簡単に言えば、キャンプ場。と言ったところだ。」

 

 爛が別に指を指した方には木製の一軒家が建っていた。

 

「心技体……よくそんなことを聞くとは思うが、俺たちが事前にできるのは『技』だけだ。心と体は実際にやらなければ意味がないからな。」

 

 爛は快晴の空を見上げた。雲ひとつないような空は青く、海のようだった。

 

「……先に、荷物を置きにいくぞ。」

 

 爛は木製の一軒家に向かって歩き始める。一輝たちは何事もなく爛についていくが、六花だけは何か引っ掛かっていた。

 

(…………?何か引っ掛かる……。爛の体に何もなければいいけど……。万が一の場合もあるし……。爛に聞いてみるしか……ないのかな……?)

 

 六花はどうにも爛が隠し事をしているのではないかと思い、本人に聞いてみるしかないと考え、爛についていった。

 

「……爛……。」

 

 六花は爛に声をかける。

 一輝たちは自分達の力を強化するために、爛が連れてきた男と手合わせをしていた。六花は時間を見て、家の中に戻ると同時に、爛の部屋に向かったのだ。

 

「ん、あぁ……六花……か……?」

 

 明らかに、爛の反応が可笑しかった。六花の方を向いているのに、目を開けているのに、ボヤけているわけでもない。そこから、導き出せるのはひとつしかなかった。

 

「ねぇ、爛……。話があるんだけど……、」

「あぁ。」

 

 六花が爛の反応が可笑しかったことは気づいていた。だからこそ、六花は爛に問う。爛を愛する者だからこそ。

 

「………爛は…………もう………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼が見えなくなっちゃったの?」

 

 穏やかだったはずの爛の顔が一変した。真剣な顔となり、六花の瞳を見つめる。だが彼に、六花の顔を見ることは許されていなかった。

 

「気づいていたのか?」

 

 言葉一つ一つから感じられる感情。それは困惑、絶望……様々な感情が爛を襲っていた。

 

「……爛の視線を、全くといっていいほど、感じなくなったの……。爛がこれほど僕のことを見つめているのに、爛の視線を感じられなかったから……かな。」

 

 六花は爛に理由を言った。

 何故だろうか、六花は話そうとしてきていたのに、重くなるのは分かっているのに、今更になって、体が震えてくる。今すぐにここから逃げろとも本能が伝えている。

 だけども、もう退くことはできない。爛の中に入り込んだ以上、この迷路から出るためには、爛の協力が必要なのだが、爛を見つけることができない。

 永久に広がっているような暗闇のなかを、手探りで探し続けていた。

 

「……そうか……。もう、気づかれていたんだな……。」

 

 爛は悲しい顔をした。少しずつかけていたものが、崩れ去ろうとしていたからだ。

 

「……あの時……、どんな気持ちだったんだろうな……。なぁ……?」

 

 爛はもう一度、六花を見つめる。六花は爛の眼がいつもと違うことに気づいた。

 

「……爛……。眼が……。」

 

 爛の眼ははもう輝きを失っていた。濁ってしまったのだ。あの時の輝きはもう元には戻らない。それが、あれから続く罪と、取り繕うことのできない二人の約束なのだから。

 

「………もう。何も見えないと……言えてしまう。真っ黒な世界に白があるだけで………誰かを判断しているのだから。」

 

 爛の声はとても考えられないほどに弱々しいものだった。

 

「……なぁ、六花……。今お前は、どんな顔をしてる……?やっぱり……、悲しいのか……?それとも……、別のものか……?」

 

 爛は六花に手を伸ばす。その手は温かいとは言えない。ただ、爛が必ず六花に伸ばす手は、左手だ。

 

「ねえ、どうして爛は右手で僕に触れてくれないの……?何かあるの……?答えてくれる……?」

 

 六花は悲しい顔で爛の左手に触れる。

 

「……こんな真っ黒な手を……、誰が好むんだ?誰が……、こんな俺を……、こんな………化物……を……誰……が……望……───」

 

 爛の濁りきってしまった瞳から濁った涙が溢れだしていた。

 どうして、こんな自分に構う。

 こんな自分を、どうして捨てない。

 どうして、こんな自分を好きになってくれる。

 どうして、こんな自分についてくる。

 爛は誰にも考えられず、そして、誰も耐えられない過去を通し、彼は人殺しを必ずしていた。それも、六花たちのために、自分の手を汚した。なのに、六花たちは自分に構ってくれた。避けるわけでもなく、蔑むこともしなかった。彼は隠れようとした。表に出たくなかった。自分を見捨ててほしかった。だけど、六花は爛を捨てようとはしなかった。だからこそ、爛が六花に対する歪んだ愛情を持ってしまった。

 

「ダメだよ……爛。そんなことを言ったら……。」

 

 爛が言おうとしていたことを遮り、爛を抱き締める。

 

「……離れてくれ。こんな俺を……捨ててくれ……。いつか、お前にとって……、俺は要らない存在になる……。」

 

 爛は六花から、離れようとし、腕に力を入れて六花の体を押し退けようとするのだが、六花は力を入れて爛から離れない。

 

「………嫌だ。絶対にそんなことはない。あり得ない。僕は爛のことが大好きだから………。」

「六花……、止め、んんっ!」

 

 六花は少し拗ねた顔をし、爛に唇を重ねる。爛はいきなり六花が顔を近づけてきたことに驚き、六花の唇に重なってしまう。

 

「ちゅ……んん……ちゅる……れろ……ら……ん……。」

「んん……ちゅ……ん……んぁ……りっ……か……。」

 

 二人の唇が離れる。その唇からは銀色のアーチが描かれ、二人を繋いでいた。

 

「……ダメ、爛……。捨ててなんて言わないで……。僕は、爛のことが好きで、それを分かってて、それでも、爛から離れたくない……。僕はもう、爛のことしか考えられないから……。」

 

 六花は涙目で、消えて無くなってしまうような声で、爛にそういった。爛は躊躇いがちにも、右手で六花の頬に触れる。

 

「言わないでくれ……。俺が……、悲しくなる……。」

 

 爛は六花を心配し、六花の瞳を見つめる。

 だが、そんな時間も、すぐに無くなる。

 

「っ、六花……。離れて……くれ……。」

 

 爛がそう言う刹那、爛の左半身が黒く覆われる。

 

「コイツ……!六花……早く……離れろ!オルタだ!逃げないと……俺はお前を殺しに来る!何を……している!六花!早く……!チッ!」

 

 呆然とし、固まってしまっている六花を押し退け、爛は離れていく。

 

「すまない……。俺は……、一旦……お前たちから姿を消すよ……。」

 

 爛はそう言うと、建物から出ていき、森の中へと消えていった。

 

「爛……。」

 

 六花は爛を止めることなどできず、ただただ、静まったしまったこの時を、呆然としていることしかできなかった。

 

「ハァ……ハァ……ハァ……。」

 

 爛は森の中を駆ける。殺すことなどできない。ましてや、自分の意思ではなく、偶発的に出てきてしまう殺意で殺してしまうのが。

 

「ここまで……行けば……。……ぐっ!?」

 

 安堵のせいか、爛は黒く覆われてしまう。覆われていたものが無くなると、爛の姿は変わっていた。

 焦げ茶色に肌は変わり、服装も黒の物へと変わっていた。

 

「ったく、めんどくせぇ。」

 

 爛から発せられた言葉は、その一言だった。

 

「そこにいるんだろ?久しぶりに会うな。『雪蓮』。」

 

 

 ーーー第61話へーーー




いやぁ、急な展開でした。原作とは随分とかけ離れてきました。

因みに、また新しいの書こうかなぁ~。と思っています。というか書いてみます。無理だったら消します。はい。

あ、それと爛に対する好感度(ヒロインたち)
爛曰く、歯止めがきかなくなると全員して手がつけられないとのこと。
十段階で決めます。

六花:好感度:10 爛に対する好感度は異常。ときたまヤンデレ化(重度)

リリー:好感度:10 六花と同じ。六花よりはヤンデレ化しない。ただし、一度ヤンデレ化すれば、最悪六花を超えるものが………。

ネロ:好感度:9 好き好き状態。嫉妬深い

玉藻の前:好感度:9 デレッデレの状態。余り嫉妬深いというわけではなさそう。

ジャンヌ・ダルク:好感度:9 聖女がこれで良いのかと言うほどの好き好き状態。爛曰く、幼児退行すると一番手がつけられないとのこと。

沖田総司:好感度:9 中々にデレる。うむ、眼福なり。

清姫:好感度:10 驚異のデレ率。サーヴァントのなかでは誰よりも積極的なため。ただし、嘘をついてしまうと、焼き殺されるのではなく、別の意味で生命の危機に陥るらしい。

明:好感度:9 一番まだマシとのこと。ただし、爛に引っ付くことは誰よりも優れている。

香:好感度:8 姉として、ということから余り爛には引っ付くことはしない。が、たまに、その歯止めがなくなると、幼児退行に入る。

桜:好感度:9 後輩としての力を遺憾なく発揮し、爛の傍にいる。

聡美:好感度:7 やはり、暗い過去を送ってきているせいか、爛に対する気持ちは隠している模様。実際は結構好き好きなのだとか。

次は多分、サブヒロイン……か?


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第61話~再会 呉編~

今回は再会!再会した話だけだ!

後遅れてしまった。本当に申し訳ないと思っている。


「よく分かったわね。爛。」

 

 褐色肌の薄い赤色、赤い服装をしている女性が感心したように爛の前に現れる。

 

「まぁな。気配でわかるんだよ。雪蓮。」

 

 彼女は『雪蓮(しぇれん)』。現代より、遥か昔の中国。つまりは三国志とでも言ったところだろうか。しかし、彼女がいるのはその平行世界。魏、呉、蜀。その武将らが女の子の世界。わかるものもいるだろうが、恋姫†無双という世界から、こちらに来ている。

 爛は、彼女がどういう方法で来ているかは分かっている。

 

「呉のほうはどうした?気配で分かるけど、全員いるんだろ?」

 

 爛が荒い口調でそう言うと、やはり雪蓮は感心した顔をする。

 

「正解よ。皆して来たんだから。」

 

 雪蓮がそう言うと、後ろの木から現れる。

 

「………おい、シャオはどうした。」

 

 爛が現れた全員を見ると、シャオというものが居ないことに気づく。

 

「シャオはこっちだよ!」

「うぉ!」

 

 シャオは爛の背中に抱きつき、爛の左肩から顔を出す。

 

「後ろに居たのか。居ないと、どうしたのか考えるからな?そう言うのは、止めといた方がいいぞ。」

 

 爛はシャオの頭を撫でながらそう言い、シャオは嬉しそうに爛の顔で頬擦りをする。

 

「むぅ………。」

 

 すると、雪蓮の隣にいた同じような肌と髪色をしている女性が、不満そうな顔をする。

 

「妹に嫉妬か?『蓮華(れんふぁ)』」

 

 爛はニヤニヤしながら、蓮華の方を見る。

 

「そ、そんなことはない!………(羨ましい)

 

 蓮華は、爛に反論をするが、やはり爛に抱きついている妹が羨ましいのか、小声でそう言うのだった。

 

「なら、私も───」

「待った。雪蓮、呉はどうした?」

 

 雪蓮も爛に抱きつこうとするが、爛が待ったをかけ、聞こうとしていたことを尋ねる。

 

「あぁ。それなら、桃香と華琳に任せたから大丈夫よ♪」

「おいおい………、ってか、雪蓮も抱きつくな。あんた大人だろう……。」

 

 雪蓮は爛の待ったを気にすることもなく抱きつき、爛は呆れた顔で雪蓮にそう言う。

 

「それでも、心は乙女よ?」

 

 雪蓮は笑みを浮かべてそう言うと、爛はため息をつく。

 

「………それより、明命(みんめい)は………?二人が寄りかかっているとはいえ、さすがに重い気がするぜ……。」

 

 爛は明命が同じように居ないということに気づき、尋ねる。

 

「明命なら、お主の前に張り付いておるぞ……。」

「はっ?(さい)。本当か………って、本当だったし………。」

 

 爛が祭と呼んだ女性は明命は爛の前に張り付いていると言うと、爛は下の方を見る。

 すると、黒髪の少女、明命が祭の言っていた通り、抱きついて張り付いていた。

 

「………………………。」

「…………み、明命………?」

 

 明命は何も言わず、抱きついた力を強くする。爛は、どういうことなのかが一切分からず、尋ねるだけだった。

 

「………………………。」

「……何か言ってくれねぇと分からんねぇぞ………。」

 

 明命は沈黙を貫き、爛は困った顔をする。とにかく、爛は明命が気がつかなかったことに不満だったはずだと思い、明命の頭を撫でる。

 

「………………………。」

「…………な、なぁ。明命?な、何か言ってくれよ…………。」

 

 それでも、沈黙を貫き通す明命を見て、爛はお手上げの状態だった。

 

「…………け。」

「………え?」

 

 明命は何かを呟くが、爛の耳には一部しか入っておらず、素っ気ない声を出す。

 

「………口づけ………してください………。」

 

 明命は顔を赤くしながら、爛の瞳を見つめ、そう呟いた。それを聞いた爛は少し顔を赤くする。しかし、爛の近くにいたシャオこと、小蓮(しゃおれん)と雪蓮は聞き逃さなかった。

 

「ちょっとちょっと!明命!爛は私と………!」

「それより、爛。私としましょうよ♪」

「爛さんとは私がするんです!」

「ちょっ!お前ら!揺さぶんじゃねぇよ!」

 

 シャオが爛を揺さぶり、雪蓮は体を爛に傾け、爛の前に顔を持っていこうとする。明命は逆に体重をかけ、爛を前のめりにさせようとしている。

 

「ふふ♪もーらい♪」

 

 雪蓮は二人が争い、爛が無防備になっているところを狙い、爛の唇と重ねる。

 

「んんっ!!??」

「なっ!?」

「えっ!?」

「あっ!?」

 

 気づいたときには既に遅かった。雪蓮が爛を貪り尽くそうとしていた。

 

「~~~~~~~~っ!!??んぐぅ~~~!んんん!!~~~!!!!」

 

 爛は必死に離れようとするが、雪蓮は爛の頭をがっしりと掴んでおり、左腕は雪蓮が動かせないように胸の間に挟めており、右腕にはシャオと明命が占拠し、動かせないため、抵抗など出来ない状態だった。

 

「~~~~~っ。ぷはぁ……♪美味しかったわ♪ら・ん♪」

「ハァ…………ハァ………容赦ないな………雪蓮……ハァ………。」

 

 満足な笑みをする雪蓮と、荒くなった息を整えている爛。

 

「私も~~~~~!」

「んがっ!?」

 

 いつの間にかシャオは爛の前に回り込み、息を整えている爛の唇を塞ぐ。

 

「~~~~~っ!!んんん!!ん~~~~!むぅ~~~!」

 

 爛はやはり抵抗をするが、雪蓮が未だに腕を拘束し、シャオは爛の頭をがっしりと掴んでいる。

 離れることは叶わない。彼女が満足するまで、と。爛は諦めた。

 

「…………はぁ……♪美味し♪」

「………そいつは何より。」

 

 シャオは重ねていた唇を離し、爛の瞳を見つめる。爛は呆れた顔をしながら頭を撫でる。

 

「むぅ……………。」

 

 明命は自分には口づけをしてもらえていないため、不満顔をする。

 

「………ったく。明命。」

「はい?」

 

 爛はため息を一つ吐き、明命に声をかける。明命はどうしたものかと爛に顔を向ける。

 

「…………ん………。」

「………んんん!!??」

 

 明命の唇を自身の唇で塞ぐ。明命は驚くが、すぐに爛の舌を絡める。

 

「ん…………んぁ………んん………んむぅ………。」

 

 爛も抵抗はせず、諦めているのか。逆に舌を絡めてきていた。

 

「………はぁ……、ここまでだ明命。」

 

 爛は明命の唇に人差し指を当て、そう言った。

 

「…………んで、まさか俺と居るなんて言わないよな?」

 

 爛は雪蓮に向かってそういった。図星なのかそうなのか、雪蓮は焦ったような顔をする。

 

「……そ、そんなわけないじゃない……。」

「話には入ってきてねえが、他のやつも居るからな。素直に答えてくんねぇとわかんねぇぞ。」

 

 間を置いて、更には目を泳がせた雪蓮を見た爛は、苦笑いをする。

 

「……ハァ………。本当は、居たいんだろ……。」

「………………………。」

 

 爛がそう呟くと、雪蓮は爛を見て黙り始める。

 

「…………あぁ、ったく。別に来てもいいぞ。」

 

 爛は渋々そう言うと、雪蓮たちは目をキラキラさせる。

 

「本当に良いのね?」

「………あぁ……。」

 

 雪蓮は爛に迫りながらそう言うと、爛は間を置きながらも頷く。

 

「やった!やっと爛と一緒にいれる~~~!」

 

 ぴょんぴょんと跳ねるシャオを見て、爛は微笑むも、別のことを考えてしまう。

 

(……六花たちに何か言われるだろうな。………面倒だな………。)

 

 爛は六花たちに何か言われそうだと思い、苦笑いをする。

 

「ね、早く行こ!」

 

 シャオは爛の腕を引っ張り、早く行かせようとする。

 

「待てって!」

 

 爛はそう言うと、目を閉じる。すると、今度は光が爛を包み込み、オルタを無くしていく。

 

「あ、元に戻った!」

「そう言えば、お前たちにはオルタを見せたことがあったんだっけ……。」

 

 シャオがそう言うと、爛は思い返すようにそう呟く。

 

「じゃあ、行こうか……。」

 

 爛はそう言い、六花たちの方へと戻っていく。

 

 一方……。

 六花たちの勘が囁く。

 

「むぅ………。また爛は……。元に戻ったのかな………。にしても、女の人連れてきすぎだよ………。僕が爛の恋人だと言うのに……。」

 

 爛がまた女性を連れてくるという予感がしていた六花たちだった。

 

 

 ーーー第62話へーーー

 




息抜きで何か書きたい……。日常系は無理だ。バイオハザードでも書いてみるかな……。

それに、これからこれだけのキャラをどうしたらいいんだ……。話させるのが大変だぜ……。シャオと明命は爛をめぐってこういうのがあるんです!通常は主従関係は成り立っております。

爛「それはお前のキャラ管理が甘すぎるんだよ……。」

でも、ネタバレだと何人かは帰していくよ。

爛「あ、そうなのか……。ってか、どさくさに紛れてシャオと明命をだな……。できれば、そういう関係がなく、対等だといいのだけれど。」
 (できれば、彼女たちを入れないでそのまま何人かを返してほしいな……。うん。あの三人は通常でも手がつけられないというのに……)


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第62話~二人の師と颯真の恋人~

少年と青年の一つの過去。
同じ影の師の弟子だった二人の過去。
二人は、力を求めていた。

双子は双子でも、性格は真逆。そんな二人に振り回されている少年。


「むぅ………。」

 

 どうしたものかと頭を悩ます爛。

 

「………………………。」

 

 その理由は何も言わずに、ただただ爛に抱きついてきている六花たちが離れてくれないからだ。

 オルタを解除した後に、六花たちのところへと戻るのだが、六花と会ったときに、六花は何も言わずに、爛の手をつかみ、六花の部屋へと連れられ、ベッドの上に押し倒され、抱きつかれているのだ。

 

「……………爛………。」

 

 六花が小さな声で爛の名前を呼ぶ。

 

「ん?」

 

 爛はそれに反応し、何を言ってくるのかと考える。

 

「………爛はどうして、そんなに力を持っているの………?」

「………そう………きたか………。」

 

 六花が今まで謎に思っていたこと、爛が何故そこまで力を持っているのか。

 

「………う~ん、どう話したら良いものかな……。」

 

 爛はそう呟き、頭を悩ます。何故そこまでの力を求めていたのか。それをどう話せばいいのかと。

 

「私も、気になります。」

 

 リリーが隣で爛の腕をずっと離さないまま、気になっていたことを言った。

 

「余も気になるのだ。どうして奏者がそれほどまでなのか。余はすっごく気になるのだ!」

「大声を耳元で出さないでくれ。耳が痛くなる……。」

 

 ネロは空いている爛の右腕を抱き締めたままそう言う。

 ただ……、爛にとっては、それを話すことは別に平気なのだが、どうしてもこの状況を何とかしたいのだ。

 

「……どうにもこの体制が辛い………。」

 

 そう、体制が爛にとってキツいのだ。何故なら、体を抱き締めている六花と、腕を離すことなく抱き締めているリリー、ネロ。それだけならば平気なのだが、タマモか爛に膝枕をし、清姫が爛の下に居るのだ。それでいて抱き締めている。

 

「この状態じゃ、とても普通に話せるようには思えないしね……。」

「他人事のように聞こえるけど実際、俺も同じようなやつが居るからな。」

「颯真は既に恋人持ってるだろう。確かに、あれは辛いからな。最悪、俺よりもな。」

 

 一輝が苦笑いをしながらそう言うが、颯真は爛の状態を見て、爛から視線を外してそう言った。爛は苦笑いをしながらそう言う。

 

「というか、何とかしてくれ。清姫が潰れてしまう。六花、抱きついてもいいから、普通に座らせてくれ………。」

「……………ん………。」

「後、リリー達も。」

 

 爛は話題を変え、六花たちに退いてもらうようにそういうと、六花は爛から離れる。

 

「………ん………。」

「はいはい。」

 

 六花は爛に両手を広げると、爛は六花を持ち上げ、自分の膝の上に乗せる。

 

「……清姫、大丈夫か?」

「はい。大丈夫ですますたぁ♪私のことを思ってくれてありがとうございます♪」

「ハハハ……。」

 

 清姫の隣に座っている爛は、先程まで体重がかかりやすいところに居たため、爛は心配だった。

 

「それにしても、颯真の恋人って……?」

「ん?あぁ、双子。」

「ちょっ……、それを言うなよ……。」

 

 どういう人なのか、そう一輝が聞こうとしたときに、爛がすぐに答えると、颯真は苦虫を噛んだような顔になり、爛にそう言った。

 

「……結構性格が違ったよな。」

「あぁ………。」

 

 爛が確認するかのように聞くと、颯真は重く頷く。

 

「誰なの?その人って。」

 

 ステラが颯真の恋人である双子に興味があるのか、誰なのか尋ねる。

 

「……妹の方だったら、颯真に何かあると飛んで来るよな……。」

「あぁ……。それで、姉の方は妹を連れ戻しに来るから、結果的に皆して来るんだよな………。」

 

 爛と颯真は頭を抑えながらそう言う。どうやら二人は、その双子に振り回されているのだろう。

 

「彼女たちのこと?」

 

 六花が爛に抱きつきながらそう言う。どうやら六花も知っているらしい。

 

「あぁ。名前はまだな。」

 

 爛は人差し指を六花の唇に当てる。六花は察したのか、口を閉ざす。

 

「……それに、あの二人だし……。特に、ステラ辺りの性格だと……。」

「あぁ……そうだな……。特に、姉の方に関係するだろうな……。」

 

 二人は苦笑いをしながら、ステラの方を見る。

 

「え?どういうこと?」

「姉に色々と言われそうだ……。」

「……何かある度に、俺たちは二人に振り回されて……。」

(き、気の毒すぎて何も言えない……。)

 

 ステラは何も分からず、二人はがっくりと項垂れていた。一輝は、そんな二人が気の毒すぎてしまい、何も言えない状態だった。

 

「因みに、その双子の特徴は?」

 

 一輝は嫌な予感もしていたのか、話題を変える。

 

「………確か、誕生日に関係のある名前だったな。」

「……それで、二人とも14歳で……。」

「姉は冷徹って言葉が似合って………。」

「妹は元気って言葉が似合って………。」

「二人とも颯真に素直になれなくて……。」

「二人ともお互いに素直になれなくて……。」

「「ちょっと仲が悪いように見える……。」」

 

 心を失いながらあげていく二人を見ていると、こちらが悪いことをしてしまったと考えてしまう。

 

「……まぁ、仕方ないと思うよ。俺は。」

「……まぁな……。そうだよなぁ………。」

 

 爛は颯真の方を見ると、颯真は思い返すように、爛に返す。

 

「…………で、爛………。」

「………分かった。分かったって。しっかりと話すよ。………それには、アイツが居ないとな……。」

 

 六花が爛の顔を見ると、爛は苦笑いをしながら返す。

 爛は真剣な表情となり、一つの名前を呼ぶ。

 

「来てくれないか?『クー・フーリン』。」

「……え……?」

「……嘘……でしょ……?」

「………………。」

 

 爛が呼んだのは、英雄の名そのもの。その名を聞いた一輝たちは、それぞれ反応を見せる。ただ、存在を知っているものたちは、驚くことはなかった。

 

「真名で呼ぶなって。ったく、呼んだと思ったら、それかよ。」

 

 青い装束を着ていた男、クー・フーリンは諦めた顔をして、一輝達の前に姿を現した。

 

「いいじゃないか。お前のこともいつかは話さないといけない。……俺に、協力してるならな。」

「……わかったよ。」

 

 爛が言ったことを察したのか、クー・フーリンは渋々頷く。

 

「と、言うわけで話そうか。一つめをな。」

 

 爛は六花の頭を撫でながら、そう言った。真剣な表情となっていた。一輝達も、真剣に聞こうとした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ま、一つ目だかな。俺とアイツが同じようにこの赤い槍を持っている理由だ。」

 

 爛は赤い槍を顕現し、突き立てる。

 

「突き立てて大丈夫なの?」

「大丈夫だ。爛の家って、華楠さんが建ててるものだからな。直してもらえるのさ。」

(まぁ、母さんも何かと世話好きな人だからなぁ……)

 

 ステラが謎に思っていたことを話すと、颯真がそれを返す。それを聞いていた爛は華楠のことを考える。

 

「……こいつは、俺と……あいつの師が持っていたものだ。」

 

 確かに、クー・フーリンも爛と同じような槍を持っていた。それが、二人の師の槍だった。

 

「と、こいつの名前はゲイ・ボルク。そこまで聞いて、何か思い当たるところはないか?」

 

 爛は赤い槍の名前を出し、思い当たることはないかと問う。

 

「………もしかして……、ケルト神話にある。確か、クー・フーリンにしか使えない槍としか……。」

 

 一輝が爛の問いにそう答える。その答えを聞くと、爛は頷く。

 

「あぁ、確かにケルト神話に出てきた槍だ。けど、それは伝えられている話でしかない。どういう形でこの槍があったのかは謎だ。」

 

 爛はゲイ・ボルクを一輝に渡す。

 それを持った一輝は驚くことがあった。

 

「………そんなに重くないね……。」

 

 そう。クー・フーリンにしか扱えないと言われているゲイ・ボルク。

 その理由は重さにあった。

 だが、爛が持っているゲイ・ボルクは異様に軽い。

 

「そうだろうな。俺の師の槍も軽かった。となると、重さはどうにも考えられない。」

 

 爛は「それに………」と続けていく。

 一輝は槍を爛に返すと、爛はゲイ・ボルク置いた。

 

「………俺とクー・フーリンは、この槍でやることがあるんだ。」

「………………………。」

 

 爛が重く言うと、クー・フーリンは俯く。

 二人の師には何があったのか、爛が重く言っているということは、余程のことがあったと考えられる。

 

「…………それは?」

 

 今まで口を開かなかったアリスが口を開き、爛に尋ねた。

 

「………師を……この槍で……。」

 

 それ以上は言えないのだろうか。爛は何も言わなかった。

 

「……そう……。」

 

 アリスは察することができたのか、その一言だけを言うと、同じように黙りこむ。

 

「………まぁ、俺たちの師は、これだけ話せばわかるだろう。」

 

 爛達の師。それは、ゲイ・ボルクを完全に操り、武術に長けているもの。

 また、クー・フーリンと関係のあるもの。

 答えは行き着く。

 颯真と一輝が口を開く。

 

「「………スカサハ………。」」

 

 二人が出した答えは同じだった。

 それを聞いた爛は、驚いた表情をした。

 

「まさか、二人同時に出るなんてな。正解だ。俺とクー・フーリンの師はスカサハ。影の国の女王だ。」

 

 スカサハ

 クー・フーリンにあらゆるものを教えたとされる人物。影の国と呼ばれる死霊が徘徊する国の女王。

 死霊が徘徊する影の国は、冥界に一番近いため、人間などが入れば生命が吸いとられる。

 二人がその影の国に居られたのは、超人的な力があったからだろう。

 

「……俺には力が色々とある……。」

 

 爛が真剣な表情でそう言った。何かを決意した顔だった。

 

「この辺りで、俺の力を話そうと思うけど……。」

 

 爛が全員の顔を見る。何かを聞こうとしているのだろうか。

 

「どうする。聞くか、聞かないか。最悪、俺に対する見方が変わる。………それでも聞くか。地獄をな……。」

 

 爛は力を話そうとしている。爛の近くにいる以上、知らなければならない。それも、自分達を巻き込むことになるかもしれないからこそだろう。

 こちらが返す言葉は決まっている。

 

「あぁ、僕は聞くよ。爛の友達だから。」

「えぇ、アタシも。」

「私も聞くわ。」

 

 一輝、ステラ、アリスの返した言葉は聞くことだった。

 爛は六花を見る。

 酷く、心配をしている目だった。

 

「大丈夫。何時かは言わないといけないから。それぐらい、覚悟はできているよ……。」

「…………分かった。僕は爛を信じるよ……。」

 

 爛は笑みを浮かべて六花に返した。

 六花はやはり心配していたが、爛を信じることにした。

 

(話している間………、気を付けておかないとな……。何時また、あんなことにならないように、な……)

 

 

 ーーー第63話へーーー

 




さぁ、颯真くんの謎の一つであろう。恋人がいるのかどうか。

実はいました。しかも双子。

知ってる人は知ってるだろうな……。

あ、オリキャラじゃないです。ゲーム……ですね。しかもスマホアプリゲーム。

さぁ、これがわかる人がいるのかどうか!多分わかる人はいる。
そのゲームをやっている人ならば!


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第63話~力~

待たせたな!(スネーク風に)

モンハンやってましたぁ。楽しいぜ!まぁ、持ってるのは4と4gにxとxxだがな。


「それで、どんな力があるの?」

 

 ステラがどのようなものがあるのかと、爛に尋ねる。

 その瞬間、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 空気が凍った。

 爛のことをよく知っているであろう人物は全員、顔を伏せ、爛から目をそらしている。

 

「………教えるとは言ったが、それで俺に対する見方が変わっても知らないからな。」

 

 爛は釘をさした。それもそのはずだ。爛の力のほとんどが、人が持つべきではない力なのだから。

 

「……もう一度、俺から聞こう。

 ……俺は、話す覚悟はできている……。

 そちらは、できているか……?」

 

 爛は鋭い目付きでステラを見る。

 その眼光は獲物を狙う獣の目でもある。

 けれども、ステラは他に感じていることがあった。

 

(……ラン……。アンタ、どういう人生を送ってきたというのよ……。)

 

 ステラは爛の今までに疑問を感じていた。

 

「えぇ、出来ているわ。」

 

 それを知ることができるのは、これきりかもしれない。

 

「……そうか……。聞くのか……。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 俺の送ってきた地獄の日々をな………。」

「え………?」

 

 爛が放った言葉に目を見開く。

 

「………俺の力の一つ……。この左目と、右目……。これは、突然変異だ。」

 

 爛は眼帯をはずし、両目を見せる。

 真っ黒に染まっている左目と、黄金に輝き続ける右目。

 

「俺の、一番下の妹……、沙耶香が死ぬまでは、この目じゃないんだ。」

 

 爛は少し、苦笑いをしながらそう言って、自らの右手を見る。

 

「前までは、青みがかった黒い目をしていてな。その時から、異常な目でもあったよ。」

 

 爛は何も感じさせずに、淡々と話していく。

 まるで感情のない機械のように。

 

「その時はまだ、俺に力はない。

 嫌われるだけの存在だったよ。

 何もできない、異質な存在だったけどな。」

 

 爛は嘘は言っていない。

 これは、全て事実であることを、誰もが分かっていた。

 

「けどな………。俺はある一人の死を見た………。」 

 

 爛の重い声が、部屋のなかで響く。

 

「誰が……死んだんですか……?」

 

 爛のとなりに座っていたリリーは、爛に尋ねた。

 

「……正確には……、この世界で起きた死じゃない……。

 別世界のだ。」

 

 その事に、全員が唖然とする。

 今、爛が言っている話は、リリーたちも知らない。

 正確に知っているのは、今話している爛と、六花と颯真だけだ。

 

「……おい、爛。それは………。」

 

 颯真は爛を止めようとした。……けれども、止めることができなかった。

 爛の目が、輝かなくとも、颯真は感じていた。

 彼の目が、その死を悲しんでいる目であったと。

 

「……こんなのは初めてだったよ……。

 初めて見た人の死が、まさか別世界の『自分』だったことにな。」

「っ……!?」

「え……!?」

「そんな……!?」

 

 唖然とするリリーたち。顔を伏せていたのは、六花と颯真だけだった。

 

「そこからだ。俺は……、別世界で死んだ自分を見て、伐刀者(ブレイザー)として覚醒した。」

 

 爛はそう言った。とても見てられない顔で。

 

「………なぁ、ステラ……。」

「何?」

 

 爛は悲しむような顔で、ステラを見つめる。

 

「……お前は……、大切な人たちから……、捨てられると考えると……、どう思う……?」

 

 爛が、ステラに尋ねたことは、誰もが答えられるようなものだった。

 でも、これをステラに尋ねたのは、爛が確かめたいことだったから。

 『異質な自分』の存在を認めてくれている意味も、彼の言葉にはあった。

 

「……そんなの、悲しいに決まっているじゃない。

 アナタ、そんなの、何のためにアタシに聞いたのよ?」

 

 逆にステラから尋ねられた。

 しかし、爛の答えはたった一つだ。

 

「ハァ……。」

(爛……大丈夫だよ……。僕がいるから……)

 

 しかし、勿体ぶるように爛はため息をつく。

 六花は何か感じたのか、先程よりも抱き締める力を強くした。

 

(ステラ……。爛が聞いているのはその答えじゃない。

 ………何時のまにステラを試した。爛……。)

 

 颯真は、ステラの答えが爛の尋ねていることと違うことに気づいていた。

 そして、爛がステラを試したことも。

 

「ステラ。……俺と模擬戦をしろ。」

「爛……!」

(やっぱり、こうなるんだね……。)

(止める準備だけしておくか……。)

 

 爛は尋ねたことに関しては何も触れずに、ステラに模擬戦を挑んできた。

 

「……教えてやるよ。別世界の俺が使ってた技をな。」

 

 爛はそう言うと、六花を抱き上げ、そのまま外に出てしまう。

 

「爛……。これでいいの……?」

「あの皇女さんには丁度いいのさ。」

 

 爛はそう言うと、六花を下ろす。

 

「………来たみたいだね。」

 

 六花がそういうと、爛は振り返る。その先には、固有霊装(デバイス)を顕現していた。

 

「準備は出来ているようだな………。」

「もちろんよ。」

 

 爛はステラが既にトップギアになっていた。

 短時間でそこまでできるというのに驚きはするが、焦る要素は何一つない。

 

「じゃあ、見せてやるよ。」

 

 爛は目を閉じる。

 思い出すは、彼の呪文。

 

「───我、鬼神なり。

 ───操りしは最強の剣。

 ───汝を死へと導く。

 ───我が魂は剣と共に。」

 

 爛の詠唱は終わる。

 すると、爛の前には、一本の刀が突き刺さっていた。

 

「魔術なんて捨ててかかってこい。」

 

 完全な挑発。

 それは、ステラは気づいていた。

 

「上等よ!」

 

 爛は構える。しかし、その構えは、爛の剣術ではある得ないような構えだった。

 

(あの構えは、まさか……!)

 

 一輝は聞いたことがあった。

 爛の構えを。

 最強の剣技。

 それは、比翼を上回る力だったと。

 

「《無我の境地(むがのきょうち)》!」

 

 爛は思い出す。鬼神の技を。

 

「《サムライ・ドライブ》!」

 

 全てを一刀両断する技。力など無力。技など無力。

 彼の能力は、全てを切り捨てる能力。

 その極みの一つが、この《サムライ・ドライブ》。

 

「っ!?」

 

 ステラは後ろに下がる。だが、その衝撃は大きく、ステラは踏みとどまることができなかった。

 

「笑ってる……?」

 

 ステラは爛の表情を見て唖然とした。

 爛が笑っていたからだ。

 

「一体、爛に何が……?」

 

 溢れでる爛の力。それは、蒼光を纏っていた。

 

「それが、何なのよ……!」

 

 ステラは魔力を高める。

 

「本気で来るといい!」

 

 爛はそれを見て、笑みを浮かべながら、刀を構える。

 

「蒼天を穿て、煉獄の炎!」

 

 最大にためる。その炎は、全てを焼き尽くす力となる。

 

「焼き尽くせ!《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》ァァァァァァァァ!」

 

 煉獄の炎を纏った竜が、爛に襲いかかる。

 

「へぇ~。それで勝てるとでも?」

 

 爛は刃に魔力をのせる。いや、正確には刀自体に魔力を流し込む。

 爛は一歩踏み込み、刀を大きく構える。

 

「《サムライ・エッジ》!」

 

 そして、真一文字に振るう。

 爛が振るった刃は、ステラの《天壌焼き焦がす竜王の焔(カルサリティオ・サラマンドラ)》に当たると同時に、煉獄の炎を纏った竜が消えていった。

 

「嘘っ!?」

 

 後ろに下がろうとした瞬間には、爛は目の前に来ていた。

 

「《サムライ・スラッシュ》!」

 

 爛の放った斬撃は、ステラを切り裂いていった。

 

「そん……な………。」

 

 ステラは致命傷を受け、そのまま倒れる。

 

「やってみるか?一輝。」

 

 爛は間髪入れずに、一輝に尋ねる。

 

「うん。その前に、ステラを寝かせないとね。」

「はいはい。」

 

 一輝も笑みを浮かべながら、そう言った。

 

「ステラさんは、私が運んでおきます。」

 

 リリーはステラを抱えて、家の中へと戻っていく。

 

「ま、リリーがやってくれたからいいか。」

 

 一輝は、霊装(デバイス)を顕現し、構える。

 

「なら、始めようか。」

 

 爛は彼が使っていた刀を構える。

 

「ッ。」

 

 爛が踏み込んだ瞬間、姿が消える。

 一輝は全方位を警戒する。

 

「ハァ!」

 

 一輝が後ろに刀を振るうと、そこに火花が飛び散る。

 あまりの早さに、視認はできなかったが、爛の刀に当たったのを感じた。

 しかし、これでは防戦一方。何てしても攻勢に出なければ負ける。

 

「《一刀修羅(いっとうしゅら)》!!」

 

 一分間で決着をつける。

 それしかない。爛の速度についていくには、一輝の最高速を叩き出せる《一刀修羅(いっとうしゅら)》でなければならない。

 

「ッ!」

 

 爛は一輝の覚悟に戦慄する。

 より一層楽しめると、爛はそう感じた。

 

「じゃあ、ギアをあげるとしようか!」

 

 爛を包んでいる蒼光が、白光に変わった。

 

「《天衣無縫の極み(てんいむほうのきわみ)》!!」

 

 ーーー第64話へーーー




はーい、これで第63話は終わりです。

あ、そうだった。FGO。水着ネロ来たよぉ。嬉しいね。

模擬戦をちょっと入れましたが、次回も力の説明になりますね

次回、~天衣無縫の極み~お楽しみに!


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第64話~天衣無縫の極み~

力の説明があるといったな、

あれは嘘だ

次回になりそうです。

後書きにて、重要なのかな?お知らせがあります。


 《天衣無縫の極み(てんいむほうのきわみ)》を発動した爛は、動体視力が常人を超えている一輝の目を持ってしても見えることがなかった。

 

「速いッ───!」

 

 速いのには代わりない。

 だが、使用者の爛に、何も害がないというわけではない。

 

(クソ───!《無我の境地(むがのきょうち)》を使った後だから、体への負担が大きいッ!

 短期決戦じゃないと、こっちが持たない!)

 

 体への大きな負担が、爛にはかかっていた。

 減速せずに走り続け、一輝を翻弄はしている。

 だが、ここぞというときに限って、この男はしぶとさを出してくる。

 

「チッ───!」

 

 爛は体への負担を持ちつつも、一輝に剣を振るう。

 

「フッ───!」

 

 一輝は刃先に爛の刃を当て、そこから回転し、剣を真一文字に振るう。

 

「しまっ───」

 

 体を戻そうと足に力を入れようとするが、力が入らない。

 体への負担が大きすぎた。

 このままでは、一輝の刃に当たる。

 

「第三秘剣《(まどか)》!」

 

 一輝のオリジナルの秘剣、《(まどか)》。

 相手の力を自らの刃先に乗せて振るう。

 

(余り、あれを見せることはしたくない!

 幸い、腕なら力が入る!)

 

 真一文字に振るってきていると言うのであれば、上に軌道を変えることができる。

 それなら、下から衝撃を加えればいい。

 

「ハァ───!」

「ッ───!?」

 

 右拳を上へと打ち上げ、一輝の刃に当てる。

 一輝の刃は、爛の頭上を通る。

 

「ッ───」

 

 一輝はバックステップし、爛から距離をとる。

 

「ハァ、ハァ───」

 

 肩で息をしている爛を見て、一輝は絶句する。

 爛の体に異変が起きていたからだ。

 

「爛ッ!それは───」

 

 六花が声を荒くして言った。

 今の、爛の体の異変について知っているようだった。

 

「『神力』を解放したのかッ………!」

 

 同じく、颯真もそう言った。

 爛の今の姿は、髪の色が金色へと変わっており、赤と青の雷を纏い、鎖のようなものが巻き付いていた。

 

「《無我の境地(むがのきょうち)─での体の負担が大きかったのでな。

 此方の姿へとならせてもらった。

 《天衣無縫の極み(てんいむほうのきわみ)》の技を見せてやろう。

 構えておけ。一輝。

 この技を見切ることはできるか?」

 

 爛が踏み出すと同時に、その姿が消える。

 踏み出しただけなのに、超加速で姿が消えた。

 

「行くぞ!一輝!《サムライ・エッジ=β(ベータ)(ソニック)!》」

 

 加速の力によって、ただの剣の振りで斬撃が生まれる。

 その斬撃は生半可なものでは切り捨てられる。

 化物であろうとも、その斬撃を操るものが人を超えた者なら、化物であろうが切り捨てる。

 

「ッ───!?」

 

 その斬撃は速い。

 そう感じた瞬間には、斬られている。

 だが、これくらいで倒れる男ではないと言うのを知っている。

 

「───!」

 

 避けた。

 あの斬撃を男は避けて見せた。

 普通の人間なら、斬撃すら見えていない。

 なら、もう切られていて当然。

 動体視力が常人を超えている一輝は、避けることができた。

 

「一回ならまだしも、複数こられたらどうだ!」

 

 爛は斬撃を放つ。

 

「ッ───!?」

 

 逃げる先を潰すように、斬撃が放たれている。

 

「くっ───!」

 

 大体の斬撃の想像が出来るのだが、その全貌が分からない。

 幸い、上空に斬撃は来ていなかった。

 なら、そこに向かって跳ぶだけ!

 

「ッ───!」

 

 上空へと行ったが、そこに爛が瞬時に現れる。

 

「やぁ───!」

「あ───」

 

 一瞬の刹那に振るわれた刀。

 止めることはできず、そのままブラックアウトで、一輝が倒れる。

 爛はそれを抱え、地面に着地する。

 

「ハァ、ハァ───やっと、か───」

 

 爛はそう言うと、仰向けで倒れていく。

 

「爛───!?」

「お兄様───!?」

 

 六花の珠雫は、二人の傍へと駆け寄る。

 体力がなくなった二人は、家の中へと六花達が抱えていくのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

「う、う~ん………」

 

 目が覚める。

 目の前がボヤけてはいるが、赤い色の服が目に入る。

 雪蓮だろうか。

 目を擦り、視界をしっかりと確保する。

 

「あ、起きた?」

「雪蓮──────うがっ!?」

 

 起き上がり、ここはと言おうとした瞬間、爛の体に重みが掛かる。

 

「ダメよ。

 そんなに時間は経ってないし、六花から聞いたけど、『神力』を解放したんだから、安静にしてないと死ぬわよ」

 

 雪蓮が倒れ込んできた。

 それで、爛はまた横になる。が、よくよく感じると、何か柔らかいものが頭に当たっている感覚がした。

 それがどう言うものなのかと、爛が頭を上へと向ける。

 

「………冥琳(めいりん)か?」

「あぁ……。」

 

 爛に膝枕をしていたのは、冥琳と呼ばれる女性だった。

 冥琳は、雪蓮と同じく呉に居り、軍師として居る。

 病に侵されている身であったが、医者としての知識を持っていた爛に、病を治してもらっている。

 

「ここは……?」

「ここは空いている一室だ。

 本当なら爛の部屋で寝かせようとしたのだがな。

 六花達が五月蝿いのでな。

 そうなってくると、爛の眠ってられないと思ってな」

「だから、この一室を使わせてもらったって訳よ」

「そうか………」

 

 爛は冥琳と雪蓮が言ったことに苦笑いになりながらも納得する。

 

「っと!ちょっと待った。雪蓮」

「何よ」

 

 爛の耳に顔を近づけている雪蓮を見た爛は、それを止める。

 

「いや、何で俺の耳に顔近づけてるの?」

「何でって言われても………」

 

 爛は焦った顔をしながら雪蓮に尋ねると、雪蓮は少しムスッとした顔で───

 

「いいじゃない。別に」

 

 そう言い放ってしまった。

 

「いやいやいやいや!それはおかしいから!」

 

 爛は反論をするが、雪蓮には効果がないとしか言えない。

 爛の耳に、息を吹き掛ける。

 

「ひゃっ!?」

 

 爛は体を震わせる。

 

「フフフ♪爛って本当に反応が可愛いわよね。

 ねぇ?もっと見せて?」

 

 雪蓮は爛の耳に唇を当てる。

 

「やぁ………。雪蓮ぅ………。そんなこと……しないでぇ……」

 

 まるで女性かのごとく声に出す。

 

「……………………」

 

 雪蓮のことを羨むように見ている冥琳。

 それが目にはいった雪蓮は、笑顔で冥琳を見て、

 

「冥琳もやるかしら?」

 

 たったその一言ですませてしまった。

 

「私もやらせてもらおうか♪」

 

 同じく、冥琳も一言ですませてしまった。

 

「いやぁぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 余りの出来事に、爛は叫んでしまい、家全体に響き渡った。

 

「爛!?どうしかしたの!?」

 

 六花が一足早く、爛がいる部屋へと行く。

 

「「「あ」」」

 

 三人の声が揃う。

 爛にとっては一番来てほしくなかったとも言えるし、雪蓮や冥琳にとっても来てほしくなかったとも言える。

 

「……………………爛?」

 

 目のハイライトを消し、押し潰すような殺気を放つ六花。

 

「………………………!」

 

 体を震わせながら、六花を見る爛。

 

「僕が恋人なのに……どう言うこと……?

 もう限界だよ………?リリーも同じみたいだし……」

「マスター…………」

「ぅ………………」

 

 六花がそう言うと、ドアから顔だけを出したリリーも押し潰すような殺気を放っていた。

 爛はガタガタと震えながら、少しずつ下がっていく。

 

「爛?逃げずに……来てくれるよね?」

「アッハイ」

 

 爛は雪蓮と冥琳からするりと抜け出すと、六花の方に行く。

 

「ふぇっ?」

 

 その瞬間、爛の肩が掴まれる。

 

「一輝くんたちに言わなくていいの?」

 

 六花は先程とは違い、心配するような表情で爛を見つめる。

 

「…………続きを話さないとな……」

「神力を解放したんだから、流石に話さないと疑われちゃうよ?」

 

 爛は頷きながらそう言うと、六花が爛の力の事で疑われてしまうと言う。

 

「分かってるよ……。見せた時点で、あいつらも共犯射的存在だもんな………」

 

 爛はそう呟くと、ステラとの模擬戦をする前に話していた部屋に戻る。

 

「………もう起きていたのか……」

 

 一輝とステラがベッドから身を起こしていることに爛は少し驚く。

 

「ついさっき、二人して起きたばっかりだけどね」

「そうか……」

 

 一輝は苦笑いをしながらそう言うと、爛は一言だけで済ました。

 

「ところで……ステラとの戦いで使った《無我の境地(むがのきょうち)》と、僕の時に使った《天衣無縫の極み(てんいむほうのきわみ)》、そして、僕の剣を払ったときに全身に纏っていたあれは………」

 

 一輝は先程での戦いで使った《無我の境地(むかのきょうち)》と《天衣無縫の極み(てんいむほうのきわみ)》と、最後に一輝の秘剣を払ったときに溢れでていた力について聞こうとする。

 

「……ま、話そうとは思っていたよ。特に、最後に見せたあれを、お前達が見た時点で、共犯者に近いからな」

「─────!」

 

 爛は椅子に座り、真剣な目でそう伝えると、ステラは驚いた表情をする。

 

「どう言うことなの!?リッカとソウマから話は聞いていたけど、二人は何も話さないし、いきなり話してきたと思ったらそれなの!?」

 

 ステラは非難の声を出す。

 爛はただ何もせずに、ステラの言葉を聞き続ける。

 

 本当ならば、『ノヴァの騎士』でさえ危険だというのに、一輝との戦いの最後に見せたあれは、それを上回るほど危険なものだ。

 

「どれだけ危険なのか、あの時の模擬戦で知った!

 アンタは!本当に人間なの!?普通ならあり得ない力を持って!

 知ることがないようなこともすべて知って!

 アンタは、本当はなんなの!?

 まさか、バケモノだなんて───!」

 

 一輝も爛も止めることはしない。ただ聞き続ける。

 

「ステラ、爛は───」

 

 バケモノじゃない。

 そう言おうとした瞬間、肌を逆撫でするような寒さがした。

 

「一輝、少し静かにしててくれ。

 言いたいことがあっても言わないでくれ。

 六花とリリーは他のみんなを読んできてくれ。

 これに関しては、俺から真剣に話させてもらう」

 

 六花とリリーは何も言わずに、部屋から出ていき、他のみんなを呼びに行く。

 一輝は顔を俯かせ、何も言わない。

 それから、数分がたつ。

 

「爛、呼んできたよ………」

 

 六花が暗い一言でそう言う。

 

「入ってきてくれ」

 

 爛は、その一言で返す。

 

「すまないな。

 本当なら、出来るだけ温厚に済ませたかったが、これだけは知ってくれ」

 

 爛は全員に目を向ける。

 ほぼ全員が、爛から目を背けない。

 ただ、目を背けていたのは、ステラと颯真と六花だけだった。

 

「これから話すことは全て………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『国家機密』のものだ」

 

 爛から放たれた言葉。

 国家機密の情報を爛は持っている。

 

「そして、これを知ったお前たちは、俺と同じ

『犯罪者』だ」

 

 告げられた一言。

 ただ、それを言って学園にいることができると言うのは、『犯罪者』として知られていないということになる。

 

「ですが、爛さんが犯罪者なら、どうして連盟が動かないんですか?」

 

 珠雫は気になったのか、爛に尋ねてきた。

 

動かないんじゃない。(・・・・・・・・・)動けないんだ。(・・・・・・・)連盟は動くことができない状態にあるんだ」

 

 爛はそう言い放つ。その存在が、連盟を動かさずに爛を守り続けているということになる。

 

「世界最高の犯罪者って知ってるよな?」

 

 爛は確かめるかのようにそういう。

 ただ、世界最高の犯罪者となれば、その名は知れているだろう。

 

「確か、比翼のエーデルワイスと片翼の赤き翼を持つ光黒の騎士─────

 

 

『ヘルベルティア』」

 

 ヘルベルティア。

 エーデルワイスと同じく世界最高の犯罪者。

 北海道の大半が死の領域と化している。その領域を作ったとされているのがヘルベルティアだ。

 それ以外の情報は極一部の者しか知らないという。

 

「でも、それが爛くんと何の関係が………」

 

 刀華が疑問に思ったところはそこだ。

 爛にしろ、ヘルベルティアにしろ。

 ただ、修行に各地を旅したという事実を知っていれば、彼が誰と繋がっているというのかは、話を聞けばわかることでもある。

 

「俺と彼女は知り合いだとなれば、話は変わるだろう。

 彼女にも指導してもらっていたんだ」

 

 爛は笑みを浮かべながらそう言うと、全員が驚いた表情をする。

 

「─────?

 何か、変なことでもいったのか?」

 

 何故全員して驚いているのかとキョトンとした表情で爛は首をかしげる。

 

「最強とまで言われているエーデルワイスさんは前に聞いたけど、まさかヘルベルティアさんもだなんて…………」

「意外か?」

「意外だよ!」

 

 一輝は驚いた表情をしながらそう言うと、爛はまるでこれが普通かのように思いながらそう尋ねると、颯真からツッコミを受ける。

 

「意外だよな。

 まぁ、彼女のお陰で、俺はこうして居られるってわけだ。

 彼女には感謝しているよ」

 

 爛の言ったことは嘘ではない。

 嘘であったなら、既に焼き殺されているだろう。

 

「ま、しっかりと話すよ。

 まぁ、理解できないだろうがね」

 

 ーーー第65話へーーー




お知らせになりますが、このヘタレな火神零次、完全なオリジナルストーリーを書こうと現在意気込んでいます。

題名もなにも決まっていませんが、十月の終わりまでには、それを出したいと思っています!

これを投稿すると、書いているのが三つになりますね!

失踪なんてしてたまるか!俺はこの物語を完結するんだ!の勢いで頑張っていきたいと思います!


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第65話~悪魔を取り込んだ人~

最近、題名を考えるのに苦労するw
本文書いてからの方がいいかなぁ……
あ、あと、久しぶりだなぁ!
爛「遅いんだよ!」
えぇ……趣味でやってんだからいいじゃんかよぉ……


「話が変わるんだがなぁ」

 

颯真が話を切り出してくる。

 

「何だい?颯真」

 

颯真の方を向いて尋ねる。

とても言いにくそうな顔をしている。

 

「……そういうことか」

 

爛は察した顔をすると、颯真を見て言った。

 

「悪魔の力だろ?」

「……あぁ」

 

颯真は暗い顔になり頷いた。

 

「悪魔の力……?」

 

繰り返す様にそう呟く。

どういう様な力なのだろうか。

あいにく、今のところではそのような力はない。

 

「爛と同じだよ。人じゃない力のことだ。俺と爛、それに六花や明からしたら、伐刀者(ブレイザー)の力なんて弱い部類に入ってしまうんだ。

だからこそ、それらが相手だと何だかなぁ。本気で戦えないというかなんというか」

 

颯真は苦笑いをしながらそう言った。

だがここで分かるのは、彼らが本当に全力で戦えば、伐刀者(ブレイザー)など相手にならないということだ。

 

「どうして、そこまでするんですか?」

 

珠雫はそう尋ねた。

どうしてそこまでする動機があるのかと。

人を捨てることが出来るのかと。

 

「そこまでする、か……」

 

颯真はそう呟く。

何故、ここまですることが出来るのかと尋ねてきたことは、余り聞かれることは無かった。

 

「誰かを救いたい。誰かを助けたい。大切な人を守りたい。

自分の思いを駆り立てる人が居るから、俺は例え人じゃなくても戦えるんだよ」

 

爛はそう答えた。

守りたい人が居るからこそ、助けたい人がいるからこそ、自分を強くさせてくれる思いだと。

 

「ま、それに関しては人それぞれだから、俺の言ったことが全てだとは言えない。

けど、俺の場合はそれだってことだけだ」

 

爛は自らの右手を見つめる。

力を求めるからこそ、人としての体を失う。

手に入れられるのは甚大なものであったとしても、それを持つものが耐えられなければ意味がない。

 

「あぁそれと、俺は颯真の逆で神の力がある。一輝、お前の剣を拳で弾いた時がその力だ」

 

爛が一輝の《(まどか)》を拳で弾いた時に爛の体に起きていたのは神の力を使っていたからだ。

 

「納得。だから強い力で持っていかれたんだね」

 

一輝は分かったように頷きながらそう言う。

爛はそれを聞くと同じように頷く。

 

「自分の命を力に変えてるからな。常に火事場の馬鹿力さ」

 

まぁ、その分負担も半端ないがな。と苦笑いをしながらそう言った。

一輝の《一刀修羅(いっとうしゅら)》を強化したものだと思える。

 

「じゃあ、やろうと思えば誰でも出来るの?」

 

雪蓮が爛に尋ねてくる。

同じように生存本能(リミッター)を壊すようなことをしているため、やろうと思えば出来るのではないのかと聞いてきたのだ。

 

「死ぬ気か阿呆。

一輝の《一刀修羅(いっとうしゅら)》より負担が大きいんだ。それよりも自分の命を使ってるんだから、人の寿命じゃ足りないぞ」

 

爛からジト目を向けながらそう言う。爛が神の力を解放できるのは、常人離れした生命力がある体だからだ。

 

「阿呆は酷くない?」

「自分の命を力に変えていると言ったはずだ。それをやろうとするのは阿呆としか言えないだろうに」

 

頬をプクーと膨らませている雪蓮を受け流し、爛は毒舌とも言っていいほどに言う。

その後、爛は苦笑いをしながら、

 

「まぁ、流石に言い過ぎたな。悪い雪蓮」

 

そう言って、雪蓮の頭を撫でる。

雪蓮は撫でられたからか、嬉しそうに笑みを浮かべる。

 

「ああ!雪蓮ズルい!爛、僕にもしてよね!」

「マスター、私にも……」

「余にもするのだぞ!奏者よ!」

 

雪蓮の頭を撫でたことでやいのやいのと騒がしくなっていく爛の周り。

それを見て微笑ましく見ている颯真たちは、慌てている爛を見るのであった。

 

「颯真〜。何とかしてくれ〜」

 

困り果ててしまった爛が助けを呼ぶ。

だが、颯真は何もしない。結局、爛一人でどうにでもなってしまうのだ。

 

「ま、頑張れ。爛」

「嘘ぉぉぉぉ!」

 

颯真は爛の求めてきた助けを拒否し、笑みを浮かべて爛を見る。

爛は驚いた顔をして、六花たちに揉みくちゃにされていく。

 

「話だと人じゃないって言うのは分かったけど……これに関しては人じゃないって思えないわ……」

「そうだろうな。人じゃなくても、俺たちは人として生きようと思ってるから、心のない怪物でもなんでもない。

同じなんだよ。人間でありながら、悪魔やら何やらの力を持っていても、な」

 

ステラは驚いた表情をしながら爛たちを見つめている。

颯真は同じように爛たちを見ながら、笑みを浮かべてそう言った。

 

「他に、爛さんはどんな力を持っているのかしら?」

 

アリスが颯真に尋ねてきた。

颯真は意外なものを見たような顔をする。

 

「意外だな。まさかお前が聞きに来るとは思ってなかったよ」

「あらそう?」

 

颯真はアリスが聞きに来るとは思っておらず、苦笑いをする。

 

「ま、神の力とノヴァの騎士。後は英霊を憑依する力に、後は二つ三つあったかな」

「多くない……?」

 

颯真が言った数に、ステラは驚いた顔をして言った。

 

「いや、爛に関しては規格外だから」

 

颯真は肩を竦めながらそう言う。

悪魔の力を持っていながらも、規格外だと言わせるほどのものだった。

 

「ふ、ふにぁ……」

 

ドサッという音とともに倒れていたのは、六花たちに揉みくちゃにされている爛だった。

 

「だ、大丈夫!?」

 

一輝は爛に駆け寄ろうとするが、それは出来なくなる。

 

「さぁ、爛。こっち来て」

 

そう言われながら、爛は立花たちに引きずられていく。

 

「─────────────」

 

一輝は言葉を失い、引きずられていく爛を見るしかなかった。

 

「ま、爛なら大丈夫だろうな。

あぁ、そう言えば昔、俺と爛と六花で危険なポーカーをしたことがある」

 

颯真は笑みを浮かべてそう言った。

危険なポーカー?その言葉に疑問を持つ。

 

「負ければ、賭けた人間の魂がなくなるという賭けをしたポーカーだ」

「なっ──────」

 

それを聞いた途端、誰もが息を呑む。

そして言葉を失った。

負ければ賭けた人間の魂を失うというポーカー。

それほど危険なものを、三人はすでにやっていた。

 

「それは、どんなものだったんだい?」

 

一輝はその話に食らいつく。

負けていたならば、三人の内、誰かが居ないはずだからだ。

 

「あれは丁度、十二歳の時だったか」

 

颯真はその出来事を思い出す。

 

──────────────────────

 

いつもの通りに遊んでいた三人は、誰も知らぬ男たちに誘拐され、いきなり魂を賭けたポーカーをすることになった。

 

「さて、誰が私の相手をするかな?」

 

目の前のテーブルに座っている男がそう言った。

 

「爛、僕怖いよ……」

 

六花は爛の後ろに隠れて、周りの様子を窺うように見ていた。

 

「颯真、六花を頼む」

 

爛はそう言うと、六花の頭を一回だけ撫でると、男と対面するように椅子に座る。

 

「君か。では、ゲームをするとしよう。何をする?」

 

男が笑みを浮かべて尋ねてくる。

 

「待て」

 

爛が止める。

その目は、疑問の目だった。

 

「賭けるものはどうしたらいい」

 

そう尋ねてきたのだ。

 

「そうだね。君たちの内、どれか一つの魂。と言ったところか。あぁ、そうだ。君の名前をここに書いてもらいたい。

そして、君たちの内、誰か一人でも私に勝ったら、君たちの勝ちだ」

 

男はそう言った。

魂を賭けなければいけないゲーム。

三回の内、どれか一回に勝たなければいけない。

爛は渡された紙に自分の名前を書き込む

 

「分かった。それが聞きたかっただけだ」

 

爛はそう言うと、書かれているゲーム名に一通り目を通す。

 

「なら、ポーカーで勝負だ。そのカードを使ってな」

 

爛は指をさしながらそう言った。

その先にあるのは、男の一番近くにあるトランプ。

 

「ククク、良いだろう。ポーカーは得意な方でね。後で後悔しても知らんぞ」

 

男はそう言い、トランプを取ろうとする。

 

「カードを配ってもらうのは、そうだな。あの少年にしてもらおうか」

 

爛はポーカーのカード配りに、男の側に居た少年を選んだ。

 

「良いだろう。さて、トランプをシャッフルしたまえ」

 

男は手に取ったトランプを少年に渡し、少年はシャッフルを済ませる。

 

「因みに、その白いチップが、君の魂だ。六枚全てが取られれば、君の負けとなる」

「分かってるよ」

 

爛の前にある白い六枚のチップ。それが爛の魂。

それが全て無くなれば、爛は魂が抜かれる。

 

「さて、ゲームを始めよう」

 

ーーー第66話へーーー




やっと終わったぜ!
因みに、このポーカーで爛はある能力を使います!だからこそ、この話がちょうど良かったんですよ。

あ、因みに、元ネタはわかる人がいる!

次回もお楽しみに!


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第66話〜神の技〜

 一枚チップを出す。

 五枚のカードが配られ、それぞれカードを手に取る。

 

「二枚チェンジだ」

 

 男がチップを一枚出し、二枚捨てる。

 それを確認した少年は、二枚カードを配る。

 

「───────────」

 

 爛は手札を見る。

 八が二枚。この時点でワンペアは確実。

 だが他が六、十、二を一枚ずつしかない。

 賭けで三枚を交換するか、それともどれか一つを残し交換するか、二つ残して交換するのか。

 どの可能性にしろ、二つ残して交換はないだろう。

 

「三枚交換」

 

 爛は三枚手札から捨てる。

 同じように三枚配られる。

 手札は、八が二枚、五が二枚、七が一枚。

 それを見た爛は男を見る。

 

「お〜、怖い怖い。その目を見ると、何かいい手が揃ったのかな?」

 

 男はそう言いつつ、自身の手札を見ていく。

 

「そうだな。ここは様子見で、コールだ」

 

 チップを一枚出す。

 

「同じくコール」

 

 爛もチップを一枚出す。

 

 降りない限り、チップは三枚も消費するのか。これはよく考えなければ意味が無いぞ、爛!

 

 颯真はチップの数を見てそう思った。

 六枚手元にあったチップも、今は三枚になっている。

 

「いいだろう。勝負」

 

 男は手札を表の向きにして、自分の手で覆った。

 

「八と五のツーペア」

 

 爛はそう言って、手札を表にしながら、テーブルの上に出した。

 

「お〜確かにいい手だが。残念だ」

 

 男はニヤけた顔で手札を広げていく。

 そこに見えるのは、ジャックとクイーンのツーペア。

 

「私も同じくツーペアだ。だが、私の方がカードが強いな。私の勝ちのようだ」

 

 男はそう言い、チップを取っていく。

 爛の残りチップは三枚。

 次のゲームに負ければ爛の魂は取られる。

 

「NEXT,GAME」

 

 爛はそう言って、チップを出す。

 

「これがラストゲームにならないことを祈るがね」

 

 男はそう言いながらチップを出す。

 それを確認した少年は五枚二人に配る。

 

 ククク、甘いな。少年よ。カードを配っている少年も、見ている全員も、全て私の仲間。イカサマは既に始まっていたのだよ。

 

 男はほくそ笑んだ。全て思い通りに行っているような笑みだったのだ。

 だが爛は全く動じない。寧ろ、のんびりしている。

 

「? 何をしている。さっさと手札を確認しろ」

 

 男は爛にそう言った。

 だが、爛は手札を確認しない。

 

「確認しなくていい。このまま全てのカードを交換だ」

 

 チップを一枚出し、驚くようなことを言い放つ。

 手札の中身を確認もせずに、全てのカードを交換する。それがどれほど危険なものなのか。

 

「ん? 聞き間違いかな? さっき、このままでいいと聞こえたのだが」

 

 男はもう一度尋ねる。

 

「同じことを言わせるな。確認しなくていい。このまま全てのカードを交換だ。そうと言ったはずだが?」

 

 爛はそれでも変わらない。

 自信のある目でそう言った。

 

「早く変えろ」

 

 少年を急かすようにそう言うと、少年は急いで五枚を配る。

 

「何故そんなことが出来る!?自分の魂がかかっていると言うのに!」

「ところで颯真、六花頼みたいことがある」

 

 男は叫びながら言うが、爛は気にもせずに颯真と六花に話をする。

 

「あぁ、何だ?」

「お前達の魂を賭けに出す。俺の魂もな」

 

 爛はそう言い放った。

 だが、爛の意図が分かった二人は頷いて、爛に全て任せることにした。

 

「ついでにレイズで俺の魂のチップを上乗せ、そして六花と颯真の魂のチップ十枚を賭けに出す!」

 

 爛はそう言うと、十枚のチップと自分のチップを前に出す。

 

「なっ──────!」

 

 男は驚く。

 するべきではないことを口にしたからだ。

 

「どうした?早くしろ。手札をチェンジするじゃないのか?それとも、このままやるのか?」

 

 余裕の笑みで爛は挑発をする。

 その笑みはハッタリとしか言えないだろう。

 手札も見ていないのに、余裕な笑みを浮かべていることは出来ないはずだ。

 

「く、いいだろう。その挑発に乗ってやる!三枚チェンジ!」

 

 三枚を捨て、配られた三枚を見る。

 手札はキング四枚、クイーンが一枚のフォーカード。エースではなかったのが残念と言ったところだ。

 

「そして、レイズ!私も同じように全てを賭けよう!」

 

 男はチップ全てを前に出す。

 その数は二十五枚。

 爛の方がチップの量が足りない。

 

「たったのそれだけか」

 

 爛はそう吐き捨てると、新たなチップを出す。

 

「──────────!」

「俺の家族全員の魂を賭ける!」

 

 爛はそう言うと、家族全員の名前を紙に書き始める。

 

「おい!良いのか爛!?ここにいない人の魂なんて……」

「俺は、それを賭けても負けないという自信がある。手札は伏せてあるが、俺には手に取るように分かる。貴様の手札もな」

 

 爛は椅子の背にもたれ掛かり、言っていることを変えようとする気はないように見えた。

 

「カードの中身が分かるだと?ハッタリは止せ!」

「ハッタリでもなんでもない。貴様の言うハッタリはイカサマのことかな?」

「────────────!」

 

 男はテーブルを叩きながらそう言うが、爛はような笑みを浮かべて、肩をすくめながらそう言うと、男は何も言えなくなる。

 

「んじゃあ、さっさと終わらせようか。

 俺はコールだ」

 

 爛はそう言いながら、手札を表にするが、自らの手で隠す。

 

「爛、そのカードを信じていいんだな?」

「────────────」

 

 颯真はそう尋ねるが、爛は答えない。

 

「俺と六花は信じてるからな」

 

 颯真はそれだけを言うと、六花のそばに行く。

 

「いいだろう!コールだ!」

 

 男も手札を見せれるようにする。

 

「私のカードは、キングのフォーカードだ!」

 

 そう言いながら、男は手札を見せていく。

 それを見た瞬間、爛は体を震わせる。

 

「爛?」

 

 体の震えを抑えるように体をうずくまる爛を見た颯真は、恐る恐る肩に手をかけようとする。

 

「ア、アハハハハハハハハ!」

 

 爛は狂ったような笑みをする。

 

「キングのフォーカードォ?確かにいい手だな。だが残念!」

 

 爛は手札を広げる。

 そこに写るのは、エース四枚にジョーカーが一枚。この役は。

 

「エース四枚にジョーカーが一枚!ファイブカードだ!」

 

 爛は大きくカードの役を言った。

 それを聞いた瞬間、男は絶望した。

 

「な、な、な、何故だ!?何故、私より強い役を揃えたのだ!?」

 

 確かにそうだ。五枚変えて、役が揃う確率は低い。それも、ファイブカードとなれば。

 

「神の技といったところか。貴様なんぞには到底分かり得まい」

 

 爛は椅子から立ち上がる。

 

「貴様は賭けたな。自身の全てを」

「──────────」

 

 男は息を呑んだ。

 そして、苦汁を飲まされた。

 

「貴様の賭けたものは返す。だが、代わりに一つだけ聞きたい」

「な、何だ?」

 

 男は酷く怯えた目で爛を見る。

 正に蛇に睨まれた蛙。逆らえば爛の手が動くだろう。

 

「ここから帰る方法は?」

 

 爛は剣を取りだし、男に切っ先を向けながら尋ねる。

 

「ヒッ!そ、そこに入ってランダムに出てくる出口を探せばいいです!」

 

 男はそう言うと、爛の剣が動こうとする。

 

「そうか。分かった。ご苦労。精々、あの世で魂を抜き取ったものに謝るんだな」

 

 爛はそう言うと、剣を横に振るい、男の首を撥ね飛ばす。

 

「行くぞ。二人とも」

「あぁ。分かった」

「爛~………」

 

 爛はそう言うと、剣を背負いながら歩き出す。

 颯真はその跡を追うように走りだし、六花は爛の背中に抱きつく。

 

「うわっ!六花!?」

「怖かったんだよ~!爛~僕は怖いの!」

 

 突然重さがかかり、爛は何とか六花を落とさずにバランスを保つが、六花は離れる気がなさそうだ。

 

「仕方ない……よいしょっと」

 

 爛は仕方ないと割り切ると、六花を背負う。

 

「大丈夫か?」

「大丈夫、大丈夫。なれてるからな。姉とか妹とか背負わなくちゃいけなかったりするから」

 

 颯真は爛のことを心配するが、爛は笑みを浮かべながらそう言うと、六花をしっかりと背負いながら歩き始める。

 

 爛の背中、やっぱり暖かい……♡

 このまま寝ちゃおうかな?

 

──────────────────────

 

「最後のやつ、いらなくない?」

 

 一輝は苦笑いをしながらそういう。

 

「いやまぁ、爛がそれだけ六花に愛されてるのは、分かっての通りだと思うけど、この頃から愛されていたって言うのは知らないと思ったからな」

 

 颯真は肩をすくめながらそう言う。

 

「ま、続きの話を聞いてってくれ。

 アイツが伐刀者(ブレイザー)として覚醒する話でもある。

 その時に、ファイブカードが成功した種明かしがされるから」

 

 ーーー第67話へーーー




続けて投稿しました!意外とぬるぬると書けたので。


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第67話〜異世界〜

お久し振りです。久しぶりすぎて自分のスタイルを忘れております。
二ヶ月近く投稿ができず申し訳ないです。
既に一周年経ってますね。クリスマスと一緒にして書いておきます。


「ここは……?」

 

 辺りを見回す。

 灰色の雲が空を包み込んでいた。

 

「これって……もしかして……」

 

 背中に張り付いている六花が驚きの声を出していた。

 それもそうだろう。辺りに見えるのは、発展していたはずの街が、廃墟と化しているからだ。

 

「こんなところを通っているって言うのか。あの男たちは……」

 

 辺りの光景に、唖然とするしかない。

 ここから、手探りで出口を探していくしかない。

 

「……なぁ、爛。神領に行くことはできないのか?」

 

 颯真は手探りで出口を探すより、爛の神領を通り、元の場所へと戻った方が早いのでは。と考えて提案をするが、爛は首を横に振った。

 

「いや、神領に行けない。さっきから、門を呼び出しているが、いっこうに来ない。

 もしかしたら、移動した際に、何らかの原因があって呼び出せないのかもしれない」

 

 未だに混乱している頭を振り絞りながら、状況判断するために周囲を見ている爛は冷静に話す。

 

「とにかく、ここで立ち止まるわけにはいかない。

 手当たり次第、進んでみるしかない」

 

 爛はそう言うと、一歩踏み出す。

 その一歩を踏み出し、地に足をつけたとき。

 

 ピチャ……

 

 水溜まりに一粒の水が落ちたような音がした。

 

「爛、あれって……」

 

 六花が指をさす。

 その先には、赤いものが滴っていた。

 

「廃墟と化したのは、何かが起きたからだろう。

 そして……それに巻き込まれた人達は数えきれないほどいる可能性がある。

 ……この見渡す限り廃墟のこの場所ではな」

 

 滴っていた赤いものは人の血(・・・)

 この見渡す限りの廃墟の山では、巻き込まれてしまったであろう人達は、数えきれないほどいる。

 これがどのようにして起きてしまったのかは、爛の頭の中では二つほど浮かび上がっていた。

 

 それは災害。災害は、この突発的に起きたりする場合もある。そう考えるならば、これに巻き込まれてしまった人達は、

 逃げることができなかった。(・・・・・・・・・・・)

 或いは、逃げていた(・・・・・・・・・)が逃げ切れなかった。(・・・・・・・・・・)

 ということが考えられる。

 

 もうひとつは、誰かによる無差別な爆破。

 ありとあらゆる建物に、爆弾などを仕掛け、同時に爆破していたならば、この廃墟が出来上がり、尚且つ人が死ぬということがあり得る。(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

「……どうしてこんなことに……」

 

 六花も考えられる可能性を導きだしたことで、疑問に思ったことがあったのだろう。

 そう言うしかなかったとも、言えるだろう。

 

「……この世界は、俺たちの知っている世界じゃないはずだ……。

 ……こんなところ、俺たちはなにも知らない」

 

 颯真はそう言い切った。

 確かに、こんなところは知るはずもない。

 

「ッ!」

 

 爛が何かに気づいたのか、足を止める。

 

「どうした?爛」

 

 颯真は爛の方を向いて尋ねてくる。

 

「……何だ……」

 

 爛は自身の感覚を研ぎ澄ます。

 足音を耳で聞く。その足音は、此方に歩いて来ていた。

 

「……誰か来る……」

 

 だが、その足音とは別に聞こえる物がある。それは、爛が誰が来ているのかと見ようとしたときだった。

 

「グォォォォォォォォ!」

 

 マズイ。本能的に爛はそう感じ取った。獣に近い雄叫び。

 足音が聞こえてきた方向とは逆の方だ。

 雄叫びで消されている足音は、徐々に音の出るテンポが速くなっていき、此方に走ってきている。

 

「ッ、颯真。走り抜けるぞ!絶対に振り返るなよ!」

 

 爛はそう言うと、六花を背負ったまま走り抜ける。颯真もまた、遅れながらも走る。

 

「何……あれ……」

 

 六花が振り返った先に見たものは、人を軽く超えている化物と、それに立ち向かう人間。

 考えられる可能性を全て消し去り、新たな考えが生まれる。だがそれは、本当なのかは分からない。

 

「爛……!」

 

 六花は目を背け、爛にしがみつく。

 

「大丈夫だ……!俺が守る……!」

 

 爛は走りながら、そう言うしかなかった。

 爛たちは振り向かずに走り続け、森へと入った。随分と走り続け、二人は疲れてしまう。

 

「ここまで来れば……」

 

 爛は六花を下ろし、木へともたれ掛かる。

 

「……あれが、廃墟になった原因だろう……」

「だろうな……」

 

 爛と颯真は冷や汗をかいていた。あれほど巨大な獣はいない。

 

「これから……どうするの?」

 

 六花はあんな化物が他にも居たりするのであれば、ここも安全とは言えない。早く出口を見つけなければ、自分達は死んでしまう。

 

「……出口を探すしかないだろう。……いや、ここを知らない俺たちには、誰か案内人的なのが欲しいな」

「と、なると……」

 

 爛の言いたいことは、二人とも察した。他に人が居ると言う確証が無い。

 先程、獣に立ち向かっていった人間が生きているかどうか。

 つまり、爛は───

 

「もし、あの人が生きているのであれば、その人を頼りにするしかないだろう」

 

 その事を考えたのであった。

 一応、三人には対抗することはできるだろう。六花と颯真は既に伐刀者(ブレイザー)なのだ。それに、爛は伐刀者(ブレイザー)ではないが、対抗する策はある。問題はない。

 

「……また、戻るのか?」

 

 颯真は分かっていながらも、確認をしてきた。爛はそれに頷き、肯定する。

 

「それしかないだろう。さっきは逃げることしかできなかったが、分かってしまえば、此方も対抗することはできる。それに賭けるしかない」

 

 爛は瞳を閉じて、自身の中にある力に集中する。自身の中にあるのは力の塊。その塊は動くことを知らず、揺らぐこともせずに、どっしりと腰を下ろしたようにいる。そして、主を認めているかのように、暴走をすることもない。

 

「よし、行こう」

 

 颯真がそう言うと、爛は何も言わず、六花は爛の背中にしがみつこうとはしない。

 

「怖かったら、無理しなくていいからな」

 

 爛は一言だけ言っておくと、微かに六花の返してきた言葉が聞こえる。

 

「それはもう無いもん」

 

 爛はそれを聞くと、笑みをこぼすだけだった。

 

 

 ーーー第68話へーーー




短めとなりましたが、一つだけ報告をします。
色々とやるやらないと言っている自分ですが、本気でやろうと思っているものがあるので、楽しみにしていてください。
これから、執筆を全力で頑張っていくので応援お願いします。


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第68話〜二人の鬼神と一匹の帝王~

お久しぶりです。
この話はあるゲームをやったことがある人は帝王の方がわかるかな?


「……居た!」

「数が増えてないか…!?」

 

 六花は化物と戦っている人を見つける。

 颯真は辺りを見回すと、化物の数が増えていることに驚きの声を出す。

 

「やるしかないだろう……。俺だって、六花を危険に晒したくないさ……」

 

 爛は剣を手に取る。既に、爛は殺気を向けている。

 

「それは分かってるけどさ……でも、やるしかないのか…」

 

 颯真は顔を俯かせるが固有霊装(デバイス)を顕現すると、顔をあげて真剣な表情になる。

 それもそうだろう。油断すれば殺される可能性がある。

 

「僕も戦うよ……爛に守られてばかりじゃ、強くなれない。怖いけど……やるしかないから」

 

 六花も同じように霊装(デバイス)を顕現する。

 

「……行くぞ……!」

 

 爛は一言だけ二人に言うと、一気に加速して化物たちの中に切り込んでいく。

 

「六花、あんまり無茶をするなよ。爛が悲しむからさ」

「分かってるよ。僕だって、爛や颯真が傷ついてほしくないし」

 

 颯真は六花を気遣うようにそう言うが、六花は首を横に振って走り出す。

 

「ッ、退けぇ!」

 

 爛は化物たちを斬り伏せながら、駆け抜けていく。鮮血が飛び散り、爛を汚していき、赤く染め上げる。

 

「チッ!邪魔するなぁ!」

 

 自分を狙って走ってきた化物を、一瞬にして切り刻み、化物が倒れる。

 

「消え失せろ!」

 

 爛は周囲にいる化物たちを一掃するために、剣に力を溜める。

 

「オオオォォォォォ!」

 

 爛の加速は光の速さと同等となり、周囲の化物たちを確実に、絶命させる。

 

「ハァ!」

 

 颯真も化物を斬り進めていく。その目には慈悲など無く、彼は既に恐怖という概念をなくし、機械が決められたことを何も考えずにやることと同じように、ただ化物たちを殺すためだけに『殺す』という概念だけを残して、そこにすべてを注ぎ込む。

 それが出来ないというのは、爛と六花、颯真にとっては有り得ない。

 何故なら、元々感情という概念を無くすことができるからだ。

 これが、元々の存在であるかのようにできる。

 

「ッ、せい!」

「シッ!」

 

 足を止めるということはしない。時間はかけないのだ。かければかけるほど、数で不利である爛たちは最速で助け、この場を離れることが、今の状況で最善だからだ。

 

(あと少し………!)

 

 爛はここで戦っている人物が、近くに居ることを察知した。

 彼方も完全に戦いに集中しており、此方に気は止めていないようだ。

 化物たちから鮮血が飛び散り、その影響で服が赤く染められていくが、気に止めることなどしない。

 

「ぐっ!?」

 

 突然現れた黒い何かが、爛の目の前に振るわれる。

 咄嗟に剣の腹で直撃を防ぐが、下からすくいあげられるように体は地面から離れ、まだ崩れていない建物へと吹っ飛ばされる。

 

「ガッ…ハァ…!」

 

 爛は打ち付けられた衝撃で吐血するものの、衝撃を受け流すことで最小限のダメージで済ませる。

 爛が睨んだ先には、黒い獣。顔は人の顔に近いものの、到底人とは思えないような顔だ。

 黒い外郭に、黄金のマントのようなもの。そして、虎のような尾をもつ。

 

(正に『帝王』……か……)

 

 爛は地面へと降りるが、黒い化物から目は離さない。

 一瞬でも隙を晒せば殺されるからだ。

 

「……ッ!?」

 

 黒い化物は爛の目の前に現れる。爛の動体視力を超えたのだ。

 

「チッ!」

 

 爛は潜るように黒い化物の下を通り、壁を背につけないように立ち回る。

 

「……おいおい、何だよ……あれ……」

 

 爛は目を疑った。黄金のマントのようなものは無くなり、そこからは翼のようなものが生えてきていた。

 しかし、翼というには言い難いものの、攻撃に特化していることは見てとれる。

 

「……っ……っ……」

 

 爛は後退るものの、化物にとっては数歩でしかない。

 

「ッ!」

(怖じ気づくなァ!この程度で怖じ気づいて何を守るって言うんだよッッ!!)

 

 爛は恐怖を拒絶し、その概念を殺す。

 一気に駆け出し、距離をつめようとする。

 

「……ッ!」

(もっと速く……もっとだ!)

 

 化物は後ろに下がり、距離をとるが、爛はそのまま距離をつめていく。

 

「ッ!?」

 

 何処からか視線を感じる。

 殺意を向けられている。

 直感でそう感じ取った爛は即座に、足を止めて後ろに下がる。

 

「ふざけるなよ……こんな量、俺が捌ききれるか……」

 

 目の前に現れたのは、先程まで対峙していた化物とは違い、青いマントのようなものに、女性のような顔をした化物が10匹、守るかのように爛の前に居た。

 

「チッ、おい、逃げるぞ!此方にこい!」

 

 その声を聞くと、爛は六花と颯真が声のした方にいるのを確認すると、警戒をしながら走り出す。

 追いかけてくるのを感じた爛は、あるものをひとつ投げる。

 

「前向いて走れ!」

 

 3人に届くように叫び、それを聞いた3人は爛と同じ方を向いて走り出す。

 後ろの方では光が発せられ、化物たちは呻き声をあげ、あらぬ方向を向いている。

 

 化物たちの姿形が見えなくなるほど走り続けると、爛の先を走っていた3人は爛を待っていた。

 

「よくあの中を生きられたな……驚きだよ」

「あんたは……」

 

 ひとりの男のような人物は爛に手を差し出す。

 爛は男の顔を見ながら、誰なのかと問う。

 

「俺か?俺は、『爛』だ。『宮坂爛』」

「なっ……!?」

「えっ……!?」

「………………」

 

 男のような人物は、爛と同じだったのだ。

 颯真と六花は知らなかったのか、驚きの声をあげて、『爛』の方を見る。

 爛は何かを察していたのか、顔を俯かせて『爛』の顔を見ようとはしなかった。

 

「お前さんは、何となくわかってるようだな」

「あぁ、あんたも分かっていただろうに。居るとは信じたくもなかったし、こんな世界があることも知りたくはなかった」

 

 『爛』は笑みを浮かべて、爛の方を見つめてくる。

 爛は差し出された手をつかみ、『爛』の顔を見つめて、何かを考え始める。

 

「……世界が違うから、必ずしも俺が居るとは限らない」

「何か言ったか?」

「いや、何も」

 

 爛は『爛』の存在に疑問を持つが、そのような世界もあるのだと思い、微笑をして『爛』から尋ねてきたのをやり過ごす。

 

「そうか。なら、話がある。長く話さないといけないから、ついてきてくれ」

 

 『爛』の話に3人は頷き、彼の後ろをついて歩く。

 3人は彼の話を聞き、そして、この世界の絶望を知る。

 

 ーーー第69話へーーー




なんか、ほぼクロスオーバーだよねw
一番長くしてるのはfateだけど。
今回は短め。
次回への伏線みたいなものです。


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第69話〜この世界は非情だった〜

題名から察した人もいるだろう。そう!
今回もGOD EATERだ!


「ここが、俺たちが生きていけるスペースだ」

 

 『爛』に紹介された人が生きていく場所。それは、どう見ても小さく、また自分たちがいるところと全く違った。

 

「ヘリからでも見せてもらったが、こんなにも少なくなったのか……」

 

 颯真は人が住んでいる地域をヘリから見ていた大きさを思いだしていた。

 

「何で、こんなに人が減ったの?」

 

 答えは見つけているだろう。しかし、『爛』に聞けば確実なはずだから、六花は聞いているのだった。

 

「お前たちも先程に見ただろう。あの化物を」

「となると、やはりあの化物が原因か?」

 

 『爛』は答えとなるものは言わずに、ヒントのようなものを出すと、爛がすぐに答えを出した。

 確かに、あの時に見た化物が数多く何十種類も多種多様に別れていれば、可能性はあるだろう。

 

「その通りだ。お前たちの見たやつや、ミサイル撃ってくるやつとか、電気纏ったりとかするやつもいるんだぞ?」

 

 自分が体験したのだろう。例をあげてきてくれたお陰で、どういうものなのかが何となく予想ができている。

 

「さて、先ずは博士に報告だな。よし、ついてきてくれ」

 

 言われるがままについていき、乗り込んだ先にはエレベーター。とりあえず、この世界には自分達と同じようなものがあるというのが分かっただけでもいい情報だ。

 まぁ、元の世界に戻れるのであればその情報はまた来たときに活用できるだろうが、多分来ることはもう無いだろう。

 

「博士、居るか?」

『もちろん居るとも。入ってきたまえ』

 

 博士と呼ばれた男の声が聞こえてると、『爛』はすぐに扉に向かって進み、自動反応する扉は開かれる。

 

「おや?今日は一段と愉快な人たちを連れてきたねぇ」

「愉快でもなんでもない。博士、この後ろ3人に、『アラガミ』の討伐を可能にさせてくれないかな」

 

 博士と呼ばれた男は糸目で、どのような表情をしているかは見てとれるが、その目から放たれているのは爛たちに対する興味。

 しかし、『爛』は興味を示すということを既に察知していたのか。別の話題に切り替えるものの、爛たちにとって聞き慣れない単語が耳に入ってくる。

 

『アラガミ』

 

「ふむ、それは何故かね?」

「俺は、あの3人に助けられた。兵器じゃ傷ひとつつけられないアラガミに傷をつけて尚且つ『コア』すら破壊や回収もせずに消したんだ。それに、相当戦いなれている。化物が相手なんてことはそんなにないから慣れないだろうが、対人とかなら最強な近いほどじゃないか?」

 

 博士は理由を求めると、『爛』はその理由を話した。自分が爛たちに助けられたこと。またアラガミと戦い、傷をつけていたことや、消滅させることが出来たこと、また戦いなれていることから話したのだ。

 

「しかし、彼らはどう見ても幼い。彼らに非情な部分見せるわけには───」

「この世界はどうせアラガミで一杯だ。結局は非情なところ見せるわけになる。なにも知らずに裕福に育つやつは今の時代にいるわけがないだろう?」

 

 博士は戦わせないように弁解をするものの、『爛』はそれを遮った。

 確かに、非情さは既に分かっていた。人が生きられるのであらば、即戦力も惜しまずに使わなければならない。しかも、爛たちがいる場所にも理由があるのだから。

 

「───わかった。ただし、『爛』くん。ミッションになれてもらうために、暫くは君が教えるんだ。いいね?」

「もちろんだとも。それと、此方の協力をしてもらう代わりに、あっちの方の協力もすることにする」

 

 また面倒な単語が増えた増えたと思いながらも、生きるために覚えなければいけないと颯真は感じつつも、誰かが自分たちに襲いかかってこないかと、五人しかいない部屋なのに対し、警戒心を高めていた。

 

「それも承知した。では、三人のメディカルチェックをしたい」

 

 博士は三人の状態を確認するために、メディカルチェックをしたいと言ってきた。別にそれをしなくとも、平気なのだがと爛は思っていた。

 

「了解、メディカルチェックが大事だって言うんであれば、受けるよ」

 

 爛はそう提案した。郷に入っては郷に従え。その通りにしようとしたのだ。六花や颯真も頷き、同じようにメディカルチェックを受けようとした。

 

「それじゃあ、ゆっくりとソファに横になって」

 

 言われている通りに動き、爛は横になる。

 

「予定だと13867秒に起きることが出来る。ゆっくりとお休み。ここに来てからなにも休憩をしていないだろう。体に疲労がついていると見える」

 

 言われた通りだ。爛たちも体の疲労が比べ物にならないほどになっている。

 

「それじゃあ、君たちも横になって、彼と同じように眠ってくれ。君たちの体の状態を見るだけだ。解剖なんかしないよ」

 

 不安になるような言い方をしているが、『爛』が居るから大丈夫だとは思う。

 

「まぁ、爛が居るし問題はないか……」

 

 渋々横になり、言われた通りにする。

 すぐに眠気が襲い、六花と颯真はすぐに眠ってしまった。爛は既に眠りに入っており、爆睡に近いだろう。三人とも声をかけても起きる気配は完全にない。

 

「……彼らも大変だね」

「そうだな……」

 

 二人して悲しい表情をしながらも、爛たちを見守っていた。

 この世界をことを一握りしか知らない爛たちを見て、『爛』は後悔をすることになることをまだ知らない。



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第70話~襲撃~

伏線?知らんな。
遅い?知らんな。

冗談ですごめんなさい。リアルで死神は今日も笑うのことを書いていたのですガチですごめんなさい本当にごめんなさい刃物持って殺しに来ないでくださいお願いします何でもはしません。

ということで今回は落第騎士の方に戻っていきます。


「……と、続きを話したいところなんだがな」

 

 颯真が沈黙を破り、話の途中で止めてしまう。

 

「どうしたの?」

 

 一輝はどういうことなのか尋ねる。その瞬間、話していた部屋のドアが開け放たれる。

 

「大変なことになったぞ、一輝……!」

 

 焦った顔で爛が部屋の中に入ってくる。

 

「どうしたの?何か、あったの?」

 

 焦っている爛に驚きつつも、冷静に聞いてくる一輝。しかし、ただ事ではないと誰もが感じていた。

 

「破軍が、襲撃されている……!!」

「なっ!?」

「えっ!?」

「…………………」

 

 あり得ないような言葉に、言葉を失う一輝たちだが、アリスだけが、何かを知っているように黙り込んでいた。

 

「知っているなら、話してもらうぞ。有栖院凪」

 

 爛はアリスの方を向きながら、鋭い目付きで見詰めている。

 

「えぇ、知っているわ。襲撃の件もね」

「どういうことだ」

「アリス……!?」

 

 潔く話を始めようとするアリスに、睨むような目線をぶつける颯真と、どういうことか知らない珠雫。

 しかし、全員がアリスに向けている目線には、個々で違う考えが出ていた。

 

「アタシは元々、その襲撃のメンバーに入っていたの。貴方たちを確実に殺すためにね」

 

 アリスの口から放たれたものは、予想外のものだった。

 ……正直にネタバレをするが、急展開すぎて追い付けていないだろうか?

 

「どうして…!?どうしてなの…!?」

 

 珠雫が泣き崩れる。今まで信用してきた友人が、裏切り者だったということだ。

 しかし、アリスはそれを否定することになった。

 

「違うわ。貴方たちに、それを断ち切ってほしいの」

「信用ならないな。ならなんで、俺を殺せたはずの時に殺そうとはしなかった」

 

 アリスは首を横に振りながら話すものの、爛は信用に足るものではないとすぐに判断し、アリスに尋ねた。

 

「それは、その時には既にやる気はなくなっていたからよ」

「………………………」

 

 アリスは爛にその理由を言うものの、受け入れてもらえるなどと考えておらず、また爛も、受け入れようとは考えなかった。

 しかし、爛にとっては、手を出してこなければ、基本的になにもしない。

 

「信用に足る確証がほしい。一つ条件だ」

「何かしら?」

 

 爛は既に敵対していることに気づいていたため、確実に安心をすることを出来なかったのだ。

 

「相手の情報と、襲撃してきた意味を話してもらう」

 

 敵を裏切るのであれば、その情報を貰いたい。と、爛の中にも、敵に対する策を練り始めているのだ。

 

「いいでしょう。でもね、どうしても情報を集めることができなかった奴がいるのだけど」

「そいつは構わない。大体、予想がつくからな。全く、こういうときにあいつを動かさないようにしてて良かったと思うよ」

 

 アリスはそれを快諾する。情報を集められなかった者が居るが、既に爛は予想ができているのか聞こうとはせず、苦笑いをした。

 

「っと、こんな話をしてる場合じゃないな…!」

「でも、ここから破軍までどうやって……」

 

 颯真は破軍に戻ろうと意気込むが、リリーが言っている通り、破軍に帰る術を爛たちは持っていないのだ。

 

「いや、その辺は大丈夫だよ」

「え?」

「そうだな。爛がその術を持っているからな」

 

 六花と颯真は既に気づいている様子で話しており、明も二人の言っていることに、頷いているため、気づいている様子だ。

 

「ほら、さっさと行くぞ!」

 

 爛は既に玄関前に立っており、一輝たちが気づくように声を出していた。

 一輝たちが爛に続くように外に出ると、真っ黒な車があった。

 

「ささっと乗れ!全員が乗れるようになってる!」

 

 爛は運転席に座り、既に発進できる状態になっていた。

 

「皆、乗って!」

 

 六花が助手席に乗り込み、一輝たちは後ろの席に乗り込む。

 

「全員乗ったな!出るぞ!」

 

 爛はブレーキを掛けずに、アクセルを踏み込む。急いで行かなければ、大惨事になりかねない。

 

「見た目より広い……」

「俺が改造したからな。こんな人数を乗せるつもりは全然なかったけどな」

 

 リリーがそう呟くと、爛が説明を始める。

 

「全く、車に境界を作るなんて考えがつくわけないだろう……」

 

 先ずこんな発想はないだろう……。

 そう思いつつ、急いで破軍学園へと行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「なっ……!?」

「嘘………!!」

 

 前に座っている爛と六花が見たのは、可笑しな光景だった。

 

「絢瀬ッッ!!」

「折木先生ッッ!!」

 

 絢瀬と折木が倒れていたのだ。あり得ないはずだ。倒れている場所は校門前とも言ってもいい。

 爛と六花は急いで降りて二人の安否を確認しに行く。しかし、爛はここで、車の扉にロックをかけ、一輝たちが出られないように施す。

 

「ちょ!?ラン!」

 

 ステラはそのことに気づいたのか。扉を開けようとする。

 

「ダメよ」

「どうしてなんですか!?」

 

 ステラと同じく出ようとする珠雫は聡美が言い放ったことに叫びながら尋ねた。

 

「彼には、考えている展開がある。私たちは、彼に従った方が良いの」

「だからって………」

 

 決して開けることのできない扉と、聡美の言葉により、ステラと珠雫の刃が納まる。

 

「絢瀬!折木!」

 

 二人のところへと

 気を失っているのか、二人は起きる気配はしなかった。死んでいるわけではないため、気絶させられたか幻想形態で斬られたかのどちらかだろう。

 

「ッ……!六花、下がれ!」

 

 爛は絢瀬と折木を抱えると、何かに気づいたのか、六花にそう叫んだ。

 

「…………!」

 

 六花は爛の言った通りに急いで下がると、六花と爛が居たところに、何かが降ってきていた。

 

「ッ、お前たちか…!」

 

 爛が睨んだ先には、破軍を襲撃したであろう人物が煙の中から出てくる。

 

「…………………………」

 

 黒い長髪の男が、爛を見詰める。その隣には、とても見覚えのある少女がいた。

 

(沙耶香か………!)

 

 それが沙耶香だと気づいた爛は少しずつ、下がっていく。

 

「……お前たちが、二人をやったのか……?)

 

 爛は悟られぬよう下がりながらも、絢瀬と折木を幻想形態でやったことを尋ねる。

 その質問に、答えたのは───

 

「そうですよぉ?」

 

 道化(ピエロ)だった。

 

「……道化(ピエロ)気取りか?」

 

 爛は敢えて全力で威圧はせず、小さな殺意を向ける。道化(ピエロ)はその殺意に気にも止めなかった。

 

道化(ピエロ)気取りだなんてお酷い方ですねぇ」

道化(ピエロ)だって言うのなら、切り札(ワイルドカード)はあるはずだろう。特に、俺に対してのな」

 

 爛は既にわかっていた。アリスからの情報で、自分を捕まえることを。

 そのためには、捕まえるための切り札(ワイルドカード)が必要になる。

 

「ッ、六花!絢瀬と折木を連れてここから逃げろ!」

「でも、爛!」

「いいから早くッッ!!!」

「………………!!!」

 

 六花の側まできた爛は絢瀬と折木を渡し、刻雨(こくさめ)を顕現する。

 六花は戻ることに躊躇うが、怒りを含めた声が響き渡り、六花をおさえつけた。

 

「………ッッ、気を付けてね!」

「─────分かってるよ」

 

 六花は車へと向かって走り出す。

 爛は最後に、とても優しい声で六花に聞こえるようにそう言うと、鋭い視線を沙耶香たちに向ける。

 

「どうせ、全員できたんだろう?ならば来い。俺が全てを相手にしてやる。せいぜい、どこまで俺を本気にさせてくれるのか───楽しみだぞ」

 

 闘争本能を剥き出しにして、笑みを浮かべる爛は、戦いの中へと身を沈める。

 復讐の機会が訪れていることを知らずに。

 

 

 ーーー第71話へーーー




急展開ですが、爛が六花を車へと戻した理由は次回わかることになります。
ほぼやりたい放題のように進めているように見えますが、ご了承ください……このようになっているのです……。
過去に関しては、完全なオリジナルとして入れるところがあるので予想してくださると嬉しいです。
因みに、ゴッドイーターのところに関しては、原点関連です。



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第71話~矢を放つは星座~

待たせたな!
今回は短めでござる。


「─────────」

 

 相対する敵は多く、また一人で戦う。

 実力も高く、注意が分散する以上、不意打ちには気を付けなければならない。

 真っ直ぐ突っ込んでくる敵だとは思ってもいない。だがしかし、爛にとって、赤い刃を向けることはしたくないのだ。

 赤い刃は自分を引き換えにするのと同じ。自分が封じ込めてきたものを武器にすること。あの時のように、狂いたくはない。

 

 けと───

 

「刃引きをしておく。だから───」

 

 けど───

 

「沙耶香を返せ」

 

 沙耶香を奪ったのだけは───

 

「……それはできませんねぇ」

 

 許すことができない。

 

「そうか。……なら」

 

 刻雨を構え、封じ込めている殺気を解放する。

 

「奪い返すまでだ」

 

 もう、止めることができない。

 爛は地を蹴り、一気に駆け抜ける。

 

「ッ!」

 

 道化(ピエロ)の男は何も変わらないが、何かに気づいたのか。一気に駆け抜けてくる爛から逃れようとする。

 

「逃げれると思うな」

 

 とても低く、優しさを捨てた爛が放った一言と共に、爛は一つの斬撃を飛ばす。

 真っ直ぐ進んでいくその斬撃は今まで放ってきた斬撃とは違い、どす黒く、何かを含んでいるかのような斬撃だった。

 

「ッッ────!」

「────────」

 

 長髪の男が斬撃を止める。

 爛は動じることはなく、雷を纏い突き進む。

 

「《雷足(らいそく)》」

 

 爛の異能である雷は縮地を倍加し、加速する。

 

「チッ─────!」

 

 何かを感じた。その瞬間、爛の足は石に引っ掛かる。

 前のめりに倒れるのを、左手を前にだし、基点とすることで足を前に出し、対応する。

 

(これは、何か働いてるな───)

 

 あり得ないエラーに爛は何かを勘づき始める。

 目の前に、刀を持つ沙耶香が居た。

 

「────────」

「《幻想斬(げんそうざん)》!!」

 

 刀を振るう。だがその刃は届かないが、爛は既に気づいていた。

 

「すまない。沙耶香────」

 

 爛の刻雨が青い雷光を放つ。天下無双の剣を振るい、王として名を馳せた英雄───

 

「《天下無双の剣の使い手(ヤマトタケル)》」

 

 沙耶香の刀の前で同じように振るう。爛の刻雨が何かにぶつかる。

 しかし、何かは爛の技には敵わず、糸が簡単に切れていくように、沙耶香の刀は切れた。

 

「ッ──────!」

 

 切り返し、振り上げた刻雨は沙耶香の体を深々と切り裂き、意識を奪う。

 

(あの男は逃がせないな。しばらくそこで眠っていてくれ)

 

 爛は長髪の男と対峙する。

 本当ならばあの道化(ピエロ)を追い、身ぐるみを切り裂いてやりたいほどだが、目の前の男は追わせてくれなさそうだ。

 

「───黒鉄王馬(くろがねおうま)か」

 

 黒鉄王馬、黒鉄家の長男。六花やステラと同じくAランクの騎士。

 強さは折り紙つき。一輝曰く、旅に出たとしか聞かされていないが、その強さが今となっては分からない。

 

「ッッ!」

 

 動かなければ意味はない。逃げられてしまう。

 それだけはさせない。

 

「《月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)》」

 

 風が圧縮を始め、刃となって爛の首元に牙を向く。

 

「その程度か?」

 

 爛の瞳が本来の力で牙を向く。

 

「敵の魂を狩り尽くせ」

 

 闇の鎌となり、圧縮された風を一閃する。

 

「《十六夜の絶対覇者(ツクヨミ)》」

 

 圧縮された風を断ち切り、王馬に刃を向ける。

 王馬は真正面からそれを受けて立ち、刀で受け止める。

 

「チッ───!!」

 

 刃を引き、一気に攻勢に出る。

 

「フッ!」

 

 刻雨を振るい、首を刈ろうとする。

 しかし、王馬はこの程度で負けるような男ではない。やり返す男だ。それを、爛は知っている。

 

「ハァ!」

 

 刻雨は弾かれる。手元には何もない。しかし、爛はそれでも退くことはしない。まだ手の内が残っているからだ。

 右手を握りしめると同時に、爛の中から魔力が波動のように広がった。

 

「──────ッ!!」

 

 王馬は目を見開く。

 右手が黄金に輝き、その光は剣へと変わっていく。

 だが、こちらが早い。怖じ気づくことなく、王馬はこのまま爛の首を刈ろうとする。

 しかし、それはできなかった。

 

「甘いっ!」

 

 魔力を感じることはできなかった。

 左手に握られていたのは、黒く輝く剣だった。

 

「星の聖剣よ、哀れな子羊に輝きを!」

 

 爛は叫んだ。その声に反応するように、黄金に輝く星の聖剣は光を纏う。

 

「─────!」

 

 王馬は後ろに下がる。何が来るかは分かったのだろう。しかし、その距離ではまだ爛の射程圏内!

 振るわれる聖剣は魔力の波動を放つ!

 

「《未来を切り開く最強の聖剣(エクスカリバー)》ァァァァァ!」

 

 逃げることも、防ぐことも不可能な状態で、手札を切った爛は、更に追い討ちを行う。

 その追い討ちは、既に放たれていた。

 矢は蒼天の空から落ちてくる。

 確実に獲物を射抜く弓兵(アーチャー)の理想。掴めてすらいない者たちすら射抜く。

 

「自らが放つことなく、宇宙(ソラ)から放つ。複数の矢ではなく、一本ずつの矢で、お前たちを射抜かせてもらう」

 

 夜じゃないから射抜くのには時間がかかるだろうけど……。

 そんなことを思いつつ、爛は空を見上げる。それに呼応するかのように何処かで何かが光った。

 

「さて、追うとするか」

 

 王馬は意識が朦朧とするなか、爛の姿を見ていた。何も敵わなかった。力の差は歴然だった。年齢に差があると言うのに、彼はそれを覆した。いったいどれほど、彼は自分を追い詰めたのか。それが、彼の疑問となった。

 

「……といっても、建物の中か。まぁ、あいつを探しても、見つけることはできない。残念だったな、お前たちは射抜かれて終わりだ。なのに、俺を止めようとする。

 ……いや、殺しに来たと言う方が正しいか」

 

 爛は微笑む。

 思っていた通りだと。やはり、仕組んでいたのだと、気づくことができたから。

 爛は走り出す。戦いへと誘う彼は、人のためではなく、己のために戦いに走った。

 

 

 ーーー第72話へーーー



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第72話~爛と巴、積み上げられた復讐心~

遅れていてすまない。
FGOのコラボイベントが終わり、虚月館が終わり、復刻が始まり~で忙しかったです。後、リアルでもこのあと忙しくなるので投稿が遅くなっていく……


 爛が辿り着いた先、それは───

 

「やっぱり、そうか」

 

 破軍学園の裏にある山の中。標的は、そこにいた。

 

「会いたかった。君に───」

 

 標的は、女。傷つけることを好まない相手だが、今は違う。

 

「お前……いや、貴様が───」

 

 爛はあの時、謎の人物が襲いかかったとき、あれは沙耶香なのだと、否定をしながらも気づいていた。

 それに続き、沙耶香を操っている正体らしきものを掴んでいた。

 体型は女性。魔力を隠せるほどの上級者、扱いもAランクと同じかそれ以上。

 ステラは手も足も出ずに負けるだろう。目の前にいる彼女は、最悪自分よりも強い。

 爛の額からは冷や汗が流れ出ていた。気を保ちながら集中していないと、彼女の姿を見失ってしまうほどに、爛は精神的にも追い詰められている。

 

(……だからなんだって言うんだ。こいつは沙耶香を操っている奴で間違いない。

 集中していないと見つけられない───)

 

 爛の目からは光が失われていく。

 今、必要のない機能の全てを削ぎ落とし、目の前の標的に全てを集中させている。

 

「今ここで───」

 

 爛が踏み込もうとした。その瞬間───

 

「……………ッ!?」

 

 目の前にいたはずの女性は消えていた。

 爛は今まで以上に集中させる。血眼になって彼女を探す。今ここでやらなければ、奴を倒さないと。沙耶香が帰ってこない。

 

「─────爛!」

「ッ!? 六……花……?」

 

 隣から声をかけられる。居ないはずの六花が、爛を呼んでいた。

 その声で我に返った爛は、六花を見詰める。冷や汗を流しながら、警戒網を張り巡らし、奴を見つけるために、警戒を解くことはしない。だが、六花の相手をしなくてはならない。

 奴は自分の索敵から逃れ、今は隠れたのだろう。肩で息をしている爛を見て、六花は不安な表情を浮かべる。

 

「爛、大丈夫……?」

「大丈夫だ……大丈夫……心配しないでくれ……」

 

 肩で息をしながらも、不安に刈られる六花を安心させるために、爛は笑みを見せる。

 

「でも、そんなに疲れているようじゃ……」

「平気だ。大丈夫、俺は普通だ……」

 

 すぐにいつもの表情へと戻っていく。

 しかし、六花の不安な表情は変わらない。それを見た爛はため息をつく。

 

「不安か?」

「……うん」

 

 六花は爛が尋ねたことに頷き、顔を伏せる。爛は苦笑を浮かばせると、六花の頭を撫でる。

 

「大丈夫、俺は帰ってくるから」

 

 渋々頷いた様子を見せた六花を見て、爛は六花を置いて先程までいた女を、魔力感知を頼りに走り出す。

 

「ごめんね、爛。約束、破ることになって───」

 

 六花は、爛が持っているはずの神領の扉を開けるための鍵を使って、神領の扉を開け放つ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「───居た」

 

 魔力を感知しながら、止まったところまで走ってきたは良いものの、やはり彼女は居ない。

 集中をし、無意識を無くす。先程は急なことだったが、今では冷静に対処ができている。問題なく彼女を見つけることに成功した。

 

「見つかっちゃった♪」

 

 見つけたことに気づいたのか、彼女は笑みを浮かべて爛の目の前に現れる。

 

「君に会いたかった。さっきは彼女が出てこようとしたから、すぐに逃げさせてもらったの」

 

 敵対する意思はないことを示しながら、爛の隣に立つ。しかし、爛はそれを信じることができなかった。沙耶香を操っているのは間違いなく彼女なのだと。そう実感することができたから。あの時に感じた魔力と一緒なのだ。

 爛にとって見れば、大切な妹を操っている敵。倒さなければならない存在でもある。

 

「貴様は、沙耶香を操っていたな……?」

 

 爛は眉間にシワを寄せ、彼女を串刺しにするかのように鋭い視線をぶつける。

 しかし、彼女はそれを何もなかったかのように爛にすり寄るように、動かない爛の耳元で囁く。

 

「えぇ、そう。私が彼女を操っていた。……もう、君は私の正体を死っているはず」

 

 そう。彼女の言う通り、爛は彼女の正体を知っている。

 

「貴様が、上織 巴(かみおり ともえ)か」

「正解♪」

 

 当ててほしかったことが叶ったかのように満面の笑顔で巴と呼ばれた女性は頷いた。

 

「ねぇ……私のものになって?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、爛の中で何かが切れる。固有霊装(デバイス)を顕現させ、巴を切り払おうとする。

 

「───ハァァァ!」

 

 答えを返さずに溢れでてきた爛の思いが爆発したかのように、巴に追撃をする。

 必死の形相で今ここで殺さなければ気がすまないと言うほどに、爛は怒りの表情を浮かばせていた。

 

「そんなにも、彼女が大切なの?」

 

 爛の霊装(デバイス)の一刀を物ともせずに避け、爛がそれほどまでに沙耶香が大切なことに驚きの表情を浮かべるものの、彼女にとってはそれが好都合。

 爛の此方のものにするには、彼女を利用してしまえばいいと、すぐに巴は閃くのだ。

 

「じゃあ、交渉。彼女を返す代わりに、君が私のところに来て。そうすれば、彼女も君も傷つかずに済むから」

「………ッ!」

 

 爛は交渉の内容を聞くに、彼女を斬ろうと地を駆けようとする。

 だが、すぐに斬らせることを許す巴でもない。既に対処はされている。

 爛でさえ動くことができない鎖のなかに閉じ込めるだけですむ。

 

「クソ……ッ!」

 

 動くことはできない。体に絡められた鎖は、爛を封じ込め、力を発現することすらできない。

 今、優位に立っているのは巴なのだ。一つの言葉で沙耶香の首が飛ぶ。爛を斬ることはないだろう。彼女が求めているのは自分だ。飛ばすとしたら妹である沙耶香の首なのだ。

 爛は今、沙耶香の命を握っている。

 

「分かると思うけど、君の答え方ひとつで彼女の首が飛ぶ。今、君が思っている通りだよ」

「────────」

 

 彼女のとなりに、沙耶香が現れた。それも、暁学園の者たちを連れて。

 

「……無様だな」

 

 意識を刈り取ったはずの王馬が、鎖で縛られている爛を見て発した一言だった。

 

「おやおや、捕まってしまったのですかぁ?」

 

 道化の男が不愉快な声で爛に尋ねた。いや、見てもわかることを聞いてきたのだ。

 

 [黙レ……]

 

 全員が聞こえたこの声は、巴たちを睨み付けている爛から発されたものだ。

 しかし、いつもの爛とは違う。黒い影が爛を包む。

 

「ッ!」

 

 全員が目を剥く。それは、負の感情に囚われた爛が自我を失い、暴走を始めていくものだった。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 声にすら叫びにすらならないものが、響き渡る。目の前にいるのは爛ではなく、ナニカだった。

 だがそれはゆっくりと、沙耶香に向かって進みつつあった。少しずつ歩み寄るような、寄り添うような歩みを見せた。

 

「────────」

 

 言葉がでない。誰も、発することができない。ナニカは睨むわけでもなく何かを思うわけでもなく、沙耶香に向かって進むだけだった。しかし、ここで沙耶香を失うことは、巴たちにとって見れば、不都合でしかない。爛を釣るための大切な存在。交渉する切り札になる彼女を失うわけにはいかないのだ。

 それは、全員が脳裏に浮かび上がったことだった。何としても、目の前にいるナニカを止めなくてはならない。歩みを止め、これから逃げなければならない。王馬でさえ、生命本能が訴えていた。

 

 ───これから逃げろ。

 

 さもなくば死ぬぞ。と、訴えているのだ。根底からの恐怖、圧倒的な存在。逃げろと駆り立てる生命本能が感じ取っている恐怖が、巴たちを動けなくさせている。

 

「《月輪割り断つ天龍の大爪(クサナギ)》……ッ!」

 

 王馬から放たれた伐刀絶技(ノウブルアーツ)はナニカを真一文字に斬ろうと横凪ぎに払われた。

 しかし、それは無意味となる。

 

「■■■■■■■■■■■■■■」

 

 ナニカの力なのか、いや、そうとしか言えないだろう。伐刀絶技(ノウブルアーツ)を意図も容易く弾き返す。

 そのままの力が倍増され、圧倒的な風の力で王馬たちに迫っていく。

 

「《完全反射(トータルリフレクト)》!」

 

 少女が前に出て、弾き返した王馬の伐刀絶技(ノウブルアーツ)を同じように弾き返した。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 又もや、叫びにすらならないものをあげ、今度は弾き返すのではなく、取り込もうとする。

 元々が強大でそれを倍増させた技なのにも関わらず、何事も無かったかのように取り込む。

 

「なんだと───!」

 

 驚嘆の声があげられる。想像もしていないことを平然とやってのけるこれは、怪物だ。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■────」

「ッ!?」

 

 声が小さくなっている。黒い影が灰色に変わりつつあった。

 感じ取れる魔力も微弱になっていく。このタイミングで倒せなければ、何が起きるか分からないが、今、この影を倒すことができるのは今だけだろう。ならば、全力をぶつけるのみ!

 

「■■■■■■……」

 

 影が小さくなっていく。ここから消えようとしているのだろうか。こちらを攻撃もせずに沙耶香へと近寄ることも止め、小さくなっていく。

 

「───そこだ……!」

 

 王馬が突っ掛ける。速い、伐刀者(ブレイザー)からしても、とてつもない速さだ。

 弱まっている最中、追撃を仕掛ける王馬に、一筋の矢が貫く。

 

「ガッ……!?」

 

 とてつもない威力。鍛え上げている体でさえ、簡単に貫かれる。貫かれた場所は、人間が守らなければならない場所である、心臓。常人ならば貫かれて即死だ。

 貫かれた王馬は矢のスピードに吸われるように吹き飛ばされていく。既に衝撃を防ぐ術は奪われている。ほぼ死に至っている体を、どうこうする術は持つことができないのだ。

 風穴が開けられている王馬は木へと叩きつけられ、貫いた矢は消えていく。

 

「■■■■■───!!!」

 

 叫ぶ。何も伝わらないものを伝えるかのように、ぶつけていく。

 黒い影から赤い刃が切り裂く。

 

「…………………!」

 

 次の瞬間、黒い影から赤い閃光が現れた途端、道化の男、伐刀絶技(ノウブルアーツ)を弾き返すことができる反射使い(リフレクター)の少女、巴を吹き飛ばす。

 

「───────────」

 

 沙耶香は立ち尽くした。目の前にいる存在が、自分の兄だと信じることができなかったから。操っている巴が手放したことで、沙耶香は自我を取り戻したのだ。

 赤い閃光の正体は爛だった。しかし、爛は完全に自分の自我を失っている。根底の思いを実行するために力を振るうだけの存在になったのだ。

 大切な妹である沙耶香を守るだけの狂戦士と化したのだ。

 

「爛……兄さん……?」

 

 沙耶香は、爛の姿に目を疑った。肌は焦げた茶色になり、着ていた服は真っ黒で違うものになっていた。持っている刀は赤く、血を帯びたような色をしていた。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■───────!!!!」

 

 そして、激昂の獣が天に吼えた。

 

 

 ーーー第73話へーーー



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第73話~渇望、そして絶望~

 激昂した獣が天に吼えた。

 それと同時に、雨が振りだす。灰色の雲が空を包み、悲しみに雨が降り注ぐ。

 彩りを失い、モノクロのように変わった世界に、赤色という彩りが残っている獣が、モノクロ世界に残っている。

 獣の本体である爛は暗闇の中に閉じ込められていた。

 

「──────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────」

 

 抗わない。

 吹きあられる狂風に。

 苦しまない。

 叫ぶようにぶつけてくる凶風に。

 人の叫びであるかのように、爛の耳に届いているのは、地獄の叫びと言っても過言ではないのだから。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 黒い影の叫びが木霊する。ここから逃げ出そうと、何処かに走り去っていく。

 その影を、爛は理性のない目で見つめるしかなかった。何かをどうしようという気にはなれず、同じ自分であるというのに、爛は黒い影を見つめた。何もできない自分だと、爛は絶望し、だからこそ何かをしようとはしなかった。

 自分は初めからいなければよかった。居なければ、あの時から、彼女は罪を背負わずに生きていけた。幸せな日常を過ごすことができた。

 それを───

 壊したのは──

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

自分だ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 自分に生きる権利なんてものは無かった。

 あったのは、罪を償う命の分だけ。それが終われば、宮坂爛という存在は確実に消滅する。

 この命も、罪を償うためだけの命。この命で償うことができたなら、彼女はどれだけ幸せになれるのか。そんなことをずっと思いながら生きていた。

 ここで死ねば、罪は次の世代へと移るし、最悪、すぐに生き返ることになる。そして、彼女は悲しんだままになる。

 できることは、ここで罪をなくすこと。

 彼女には申し訳ないが、もうしばらく、自分の罪に付き合ってもらいたい。

 すぐになくなる罪ではないが、この生で、今までの罪を償いたい。

 

「───────────────────────────────────────────────────────────仕方ないな」

 

 立ち上がった。出口を見つけるために。体は拒んでも、心が動き出したのだ。なら、体はついてくればいい。横にならんで歩けとも言わない。ただついてきてくれればいい。

 この絶望した世界を変えるために、この闇から抜け出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 獣が睨む。殺してくる視線は、絶対的な恐怖だ。それを、克服しようなんてことはできない。誰もが、死への恐怖を持つ。

 

(───これは)

 

 純白の気配が、獣を感じ取る。ここまで来るのは視線。死への恐怖を植え付ける視線だった。

 

(───あの時と、同じ)

 

 剣を持つ手が、震えている。

 あの時に感じた、死の恐怖を見た。止めなければ。彼女たちが危ない。そして、大切な弟子が、壊れてしまう。

 行かなければ。

 

「■■■■■■■■■■───!!」

 

 巴に向かって駆け出す。彼女を殺そうとしている。剥き出しとなった本能が、殺意が、溢れだしている。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

 雄叫び。それらが狂風となり、巴たちにぶつかっていく。

 

「ッ……!!」

 

 死ぬ。

 殺される。

 圧倒的な存在が今、目の前にいる。まだ、爛自身の力量を見極めきれていない。この獣が、世界を壊すのか、地球を壊すのか、果てには宇宙を壊すのか。それを知ることはできない。

 

「なっ……!」

 

 目を疑った。

 駆けながらも、赤い刃を展開し、それを放ってくる爛を見て、知能ではなく、戦いの本能、爛自身に根付いたものが行動となって表れている。

 

「■■■■■■■■■■■───!!」

 

 放つ。放つ。放つ。放つ。

 何度も何度も繰り返し放つ。駆けながら、距離を積め、確実に復讐をする。

 

「速い……!」

 

 今までよりと桁違いの速さ。総司の縮地に及ぶほどの速さ。常人の動体視力、基本的な伐刀者(ブレイザー)でも見えないだろう。

 

「■■■■■■■■■■■■■」

 

 大振りな一閃。しかし、その速さはまさに伐刀者(ブレイザー)でさえ追い付けないほどの速さ。

 破壊力は充分でありながら、可笑しなほどの速さ。隙と言うものが見つけることができない。

 

「逃げるしかないみたい。ここまで狂うのは思ってもなかったけど、ね。こうなったら、彼女を回収するか、殺しておくか、まぁでも、爛を私のものにしてしまえばいいから、彼女を殺しても問題ないよね」

 

 巴が動く。爛の鋭く、魔力で防御をしていても簡単に崩されるような強烈な一閃を意図も容易く避けてしまう。

 しかし、暴走した爛は、殺すために何度も繰り返す。例え、避け続けられるとしても、巴だけは殺さなければならないほど、爛は沙耶香のことを想っていた。妹という大切な存在に、巴は手をつけた。それが、許せない。許せるはずのないものだ。

 

 許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない。許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せない許せな許せな許せな許せな許せな許せな許せな許せな許せな許許許許許許許許許許許許許許許許許許許許許許許許許許許許許許───────!!!!

 

 

許せないッ!!

 

 例え刺し違えても、彼女だけは殺す。今、爛を駆り立てている衝動は彼女を殺すことだけ。それだけを考え、抑えられなくなった自身の気持ちに、歯止めをかけることが出来ていない。

 

「■■■■■■■■■■■■■────!!」

 

 目の前の殺すべき対象にしか目が行っていない爛は、周りの様子など見ることができない。正に、狂戦士(バーサーカー)。必死の形相で殺しに来ている。

 巴は逃げる速さを上げていく。ただ、爛が素直に真っ直ぐ突っ込んでくることで、巴の策の中に嵌まっていることにさえ、爛は気づいていないだろう。

 彼女が向かっていた先は、沙耶香が立ち尽くしている場所。周りが見えていない爛に対して、沙耶香を連れていくことや、始末することは容易なのだ。

 

「ごめんね。でもこれは、君のためなの」

 

 悲しそうな、何処と無く喜びのあるような表情は、爛にとっては不気味なものだった。何をするかも分かっていない爛は、素直すぎるとも言えるほど、真正面から突っ込んでいく。

 しかし、巴が剣を握り、その剣の切っ先の向きが見えた爛は、歯止めの効いていない暴走状態であるのにも関わらず、何をしようとしているのか。それが、分かったしまった。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■──────────!!!!!」

 

 止めねばならない。自分がどうなろうとも、沙耶香にだけは触れさせてはならない。もう失いたくはないと、誰も、傷つかないでほしいと、自分自身から思い、力をつけ、守るための力を持っていた自分が、目の前で、沙耶香が刺されるところなど見たくないのだ。守らなければ、守らなければ!

 

「■■■■■■■■■■■■■■─────!」

 

 雄叫びをあげる。此方の方が十分だ。間に合う。止めることができる。沙耶香が刺されるよりも前に、此方の剣が巴を切り裂く。例え、王馬辺りから妨害が入ったとしても、沙耶香を守ることができる。

 

「遅いね。私が対策もなしに、馬鹿正直にこんなことはしないよ」

 

 刃が───止められた。

 沙耶香に───剣が刺さった。

 目の前が───暗闇の中に包まれる。

 絶望に、叩き落とされる。

 叩き割れると思っていたものも、自分自身で全てできるために、何もかもを取り入れて、誰よりも強くなって、大切な人を守る力がほしかった。

 渇望し続けたその力は、まだ、足りなかった。展開された魔力障壁の質が段違い過ぎる。本来、障壁を形成している魔力の質がいいほど、魔力障壁の力は大きくなっていく。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■■────!!!」

 

 暴走をしてもなお、目的を見失わないために、動いていた爛の最後の理性が失われた。簡単に枝を折るかのように、ポッキリと。

 最後に残ったのは後悔と、絶望。

 叶えられた思いは、復讐すべき相手に折られてしまった。

 爛に考える力は今持っていない。戦おうと思う力はない。───を助けようとする思いも、ない。──も、──も、─も、─も、─も、──も、───も、──も、────も、──も、────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────────

 

 

 

 

 

 もう何も、分からない。

 記憶が混じり合う。大切な人たちの名前がひとつひとつ消えていく。記憶のなかで、全てがなかったこととされるように、恐怖を消そうとしている。

 

 嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ。嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ、嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ嫌だ。

 これが例え独り善がりな愛であろうとも、この一生だけは、目の前で失わないと、沙耶香が居なくなってから、決めただろう。

 なら立ち上がれ。己の全てを振り絞って、助け出せ。この独り善がりの愛を、彼女たちは受け入れてくれた。沙耶香も同じではないか。それで、彼女たちを振り回して、死なせるのか? 死んでいくのか? それだけはさせない。まだ、彼女たちは満足していない。こんなことをさせている自分だ。最後まで彼女たちに付き合わないとじゃないか。譲れない。誰にも邪魔をされてはいけない。

 だが、爛の振り絞った最後の気力は、空を切った刀のように、力のないものだった。

 

「アアアアアアアアァァァァァァアァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァアァァァァァァァァァァ───────!!!!」

 

 爛の咆哮は、悲しみに濡れた獣の咆哮だった。それを呼び声に、雨は、赤い雨に変わっていく。爛を濡らし、赤く染め上げていく。

 

 その声は、時を同じくして、爛の神領から出た六花たちにも聞こえた。

 

 

 ーーー第74話へーーー



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第74話~欠片~

こちらの方は二ヶ月も投稿ができず申し訳ありません。
中々、この話を書くのに四苦八苦しており、とても大変でした。

活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


「爛ッ!!」

 

 爛の叫びを聞いた六花は走り出す。それは、六花だけじゃない。リリーや明、爛に思いを寄せている者たちが一斉に走り出した。

 

「僕たちも行こう!」

 

 一輝も六花たちに続く。赤い雨が降り頻る中、独りだけその場に立ち尽くす颯真は、六花たちの背中を見つめていた。

 

「………………………………」

 

 ただ立ち尽くすその姿には、悲しみが込められていた。

 瞳には悲しみの心が表れ、何もできない自分にはどうすればいいのだろうかと、颯真は頭の中で何度も最悪の展開を想像していた。

 

「ならないためにも、行った方がいいのか……?」

 

 それとも、逆か。

 爛の圧倒的な力を知っているからこそ、迷いが生まれる。自分が生きるためには、爛を放置しておくのがいい。爛から離れていればよかった。それだけで、爛の脅威から自分を守ることができる。

 

「あぁ……そうか……」

 

 こんなことを考えるのは。

 自分がまだ、心の何処かで爛を信じきれていないからだ。

 

「…………………?」

 

 ふと、白い花弁が舞っていることに気がついた。

 一枚、颯真の足元に落ちる。余りにも美しく、そして儚い願いのように叶わなかったものは、それでも輝きを失わずに在り続けている。

 背中を、押される感覚がした。

 

「でも、まだ……」

 

 颯真の意思が変わっていく。今まで、積み重ねてきた爛との日常は、自分にとって大切なものだ。

 だからそれを捨てるわけにはいかない。

 

「───お前に、賭けてみる」

 

 信じよう、爛を。

 爛が、自分をいつも信じてくれているように。

 颯真の瞳に、迷いはもうない。力強く踏み込み、走り出す。

 

 

 

 

 

 

「爛! 何処に居るの!?」

 

 六花の声は、悲しみに濡れていた。

 爛の叫びと考えていた最悪の展開が被さっていなければ、まだ、爛は助けられるはず。

 そんなことを願いながらも、六花はただひたすらに走り、爛を探していた。

 

「爛!?」

 

 木が倒れ、広場のように何もないところに、爛が立ち尽くしていた。爛の目の前には、血を流していた沙耶香が、倒れていた。

 

「爛! 良かった……無事なんだね」

 

 爛を見つけられ、そして無事であるということに安堵する。

 

「────────────」

 

 爛に近づこうと、一歩踏み出した瞬間、声にもならない悲鳴を上げそうになった六花は、足を踏み止めた。

 異様に感じる、爛の殺気。まるで、復讐のために怒りに燃えている人間のものだ。

 そして、それは間違いなく、自分に向けられている。

 

「爛……?」

 

 不安が募っていく。踏み出すことができないほど、爛は警戒している。そして、それは多分、目の前に倒れている沙耶香が原因だろう。

 しかし、六花には……沙耶香が爛にとってどういう存在なのかは分からない。

 

「……沙耶香」

 

 爛は座り込み、沙耶香を抱き上げる。まだ、息はある。助けなければならない。

 自分にとって、今彼女に与えることができる回復魔術を施す。

 

「……〈女王が求めし完全無欠の理想郷(アヴァロン)〉」

 

 沙耶香の傷は塞がり、出血を抑えることができた。しかし、これはまだ一時的な処置に過ぎない。しっかりとした効果を得ることできていないのだ。

 

「────────────」

 

 爛は意識を取り戻していない沙耶香を抱き締める。沙耶香は無意識ながらも、爛の体に手を回していた。

 

「………………………え?」

 

 六花にとって、意外だった。爛と沙耶香が抱き締めあっている。六花は沙耶香のことを知らない。見知らぬ人物といってもいい。

 

「……………………………」

 

 爛の瞳が六花を映した。その瞳と表情には絶望というものではなく、どの感情でもない無表情だった。

 

「■■■■■■■■■■■■■───!!!」

 

 声にならない雄叫びが響く。爛は黒く埋め尽くされ、沙耶香はそのまま地に倒れる。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■────」

 

 立ち上がる。ふらふらとした覚束無い足取りで六花に近づいてくる。

 六花はそれを、喜んで受け入れることができない。

 向けられているのは、正しく殺意。爛の瞳には、目の前にいる六花が誰なのか、その認識すら出来なくなっている。

 

「爛! 僕が、分からないの!?」

 

 認識ができていないことに気づいた六花は、爛を呼び起こそうと必死に声をかける。

 だが、爛にはその声が届いていない。

 

「爛!!」

 

 爛の足は、止まらない。真っ直ぐ、六花に向かって進み続けている。

 爛が近づいてくるほど、爛から感じてくる殺意を濃く感じてしまう。

 体が震える。恐怖で埋め尽くされていく。目の前にいる大切な人が、自分に刃を向ける。そう思うだけで、体が震え、恐くなっていく。

 

「■■■■■■■■■■■■■■■■■■」

 

「─────────ッッ!!??」

 

 ザーッというノイズ音が耳に響く。聴覚というものを無くしたいほどに響き、耳を押さえていても、それが止む気配はない。

 

「六花ちゃん!」

 

 明たちが追い付いた。しかし、二人に近づこうとする明たちも足を止める。

 爛から感じ取った殺気に、足を止めてしまったのだ。しかし、明は爛の後ろにいる沙耶香に気づく。

 

「沙耶香!?」

 

「──────っ!!??」

 

 後からやって来た颯真が沙耶香を呼ぶ明の声に反応をした。

 沙耶香が居る。爛はそれを守るはずだ。敵味方の区別ができない以上、大勢で来れば爛を刺激し、最悪の場合、六花たちが死ぬことになる爛が我に返ったとき、彼は絶望するはずだ。

 

「沙耶香………!!」

 

 倒れているのを見つけた颯真は息を飲んだ。爛が沙耶香に手を出すはずがない。

 では誰がやったのか。しかし、それを考える時間はない。目の前にいる爛は理性を失っている。沙耶香を守るという本能だけで動いている。

 今、この状況は非常に不味い。

 

「下がるぞ!」

 

 颯真の声が響く。この状況を良く理解している。

 

「でも、どうして!」

「今、あいつに俺たちを区別することはできない。大勢でいる以上をあいつを刺激するだけだ! 俺たちは爛には敵わない。今は、下がるべきだ!」

 

 六花が抗議の声を上げる。しかし、颯真のいっていることは正しい。今、爛を刺激している中で、敵わないと知っていながら近づく訳には行かないのだ。

 

「……六花、颯真のいっていることは正しい。今、彼が攻撃してこないのは、僕たちがなにもしていないから。これ以上近づけば、彼は刃を向けてくる。君を……殺すかもしれないんだよ?」

 

 一輝が声をかけた。颯真の言っていることを助けるように、六花に促した。今は下がるべきだと。

 それでも、六花は下がろうとはしなかった。寧ろ、爛に近づいていった。

 

「六花!!??」

 

 颯真は目を剥いた。あり得ない行動を、彼女は起こしたのだから。

 近づけば、誰であろうと爛は殺す。手遅れになる前に、止めないといけない。

 颯真は走り出す。その横で、一輝も走り出していた。

 

「爛! 僕が分からないの!? ねぇ、爛!!」

 

 六花の声に、爛は答えない。ふらふらと覚束ない足取りのままで、六花に近づいていく。

 恐怖を感じながらも、それを圧し殺しながら、爛に声ぶつける。

 

「答えてよ! 爛ッ!!」

 

 今にも張り裂けそうな声音で爛を何とかしようとしている。

 それでも、爛は何も答えない。ただ近づいていくだけ。それも、明確な殺意を向けながら。だが、そんな明確な殺意は今にも消えそうな蝋燭の火のように揺らめいていた。

 迷い始めている。元に戻るかもしれない。それを感じた六花は更に思いを爛にぶつける。

 

「爛は、そんなことで僕のことが分からないなんてことないでしょ!? 今まで、悲しいことはあっても、爛が、殺意を向けてくることはなかった!! だから、戻ってきてよ! 僕は、信じてるからッ!!」

 

 単なる願望だと言うことはこれをいっている六花本人も分かっている。叶わないことだろうと、僅かな可能性に賭けている。

 

「爛…………!!」

 

 六花の表情が悲しみに変わっていく。爛が戻ってこない。必死になってやっているのに、答えてくれない。どうすれば、爛は答えてくれるのか。

 六花の中で、疑問が浮かぶばかりだ。その疑問が消えることはなく、ただ迫ってくる爛に言葉で気持ちをぶつけるだけでは、効果がないのではないのか。

 なら、覚悟を決めなければならない。最悪、爛の心を完全に折ってしまうかもしれない。

 自分のせいで爛が別の意味で戻ってこないとなると……迷いが生まれてしまう。

 だが、六花は考えるのが遅かった。爛は既に刃が届くところにいた。爛の握っている刀が振り上げられる。間に合わない。恐怖が勝り、逃げることができない。

 もう……ダメなのか。

 

『諦めるな! 六花!!』

 

 聞きなれた声と共に、六花の視界に、白い花弁が舞っていることに気づいた。雨が降っているなかで、花弁が舞うことなどない。

 だが、その花弁は、とても聞き覚えのある声と共に、舞い上がっていく。

 

『諦めるな! まだ、希望はある!』

 

 それは、幻想なのかもしれない。でも、それが本当なら……

 

『俺に、賭けてくれ! 六花!!』

 

 あぁ、分かったよ。君に───賭けてみる。

 

 

 ーーー第75話へーーー



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第75話~スターオブベツレヘム

嫁編~桜1~と平行して書いていました。
嫁編~桜1~は投稿しました。

活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


 精神世界で未だに暗闇の中を進んでいる爛は、迷路のような場所で出口を探していた。

 

「どこだ……どこにある……!」

 

 出口が見えない。どこにあるのかも分からない。けれども、この迷路がどれだけ広いかも分からない。

 

「…………………?」

 

 微かに、光が見えた。もしかしたら、あれが出口かもしれない。ただ、光が見えているだけであれは出口ではない可能性がある。

 だが、可能性に賭けてみるしかない。少しでも、この迷路からの脱出ができるのであれば、それに賭けるしかないのだ。

 光が見えた方に爛は走り出す。

 

「あれ……?」

 

 光が消えた。周りを見渡しても何処にも光はない。ここが終わりという訳でもないことは、爛は感じていた。

 

「……どういうことだ?」

 

 今度は別の場所に光が見えた。だがその光は、何かに呼応するかのように、輝いている光の強さが変わっている。

 

「……………………………」

 

 光の方にいっても何の変化も起きない。この迷路を攻略しているという気にさえならない。

 どうやったら抜けられる。この絶望に近い迷路を攻略するためには、どうすればいい。何を信じればいい。見ているものが全てとは言えない。考えろ、何かを見つけなければならない。

 

「……………………え?」

 

 暫くして、光も何も現れなくなった。周りを見ても、光も何もなくなった。また、暗闇に戻った。道標も何もない絶望的な状況。どうしようもできない。もう、お手上げかと思われたその瞬間、爛の耳にある声が届く。

 

『爛!!』

 

 六花の声だ。全体に広がるように伝わった声は、何処からしているのか全く分からない。

 

「六花!? 何処だ、何処にいるんだ!」

 

 爛の声が響くものの、六花からの返答は来ない。ただの幻聴なのか。爛には、それが幻聴ではないと気づいた。

 次の声はないのかと、爛は心配なりながら待つ。

 

『爛、どうすればいいの……?』

 

 響いてきている。六花の疑問が爛の耳に届いている。それが、心の声でもあると気づいた。

 実際には言っていない。暴走した爛を戻そうと、必死に声を出している。

 だがその中で、どうすれば爛が戻ってくるのかという疑問があった。心の中で思いながらも、声を出していたのだ。その声ではなく、心の中の声が、この精神世界に伝わったのだ。

 それに答えることは、爛にはできない。答える術ではなく、答えを伝える方法がないのだ。

 

「気持ちを……伝える……?」

 

 六花の気持ちは、不安でもありながら、希望があった。爛が戻ってきてほしいという願いでもあるものがあったのだ。爛の気持ちは今、どう言うものなのだろうか。

 

「……不安……なのか。俺は、六花を傷つけてしまうのではないかという不安があるのか。そうか……」

 

 ただ、このままでは彼女を心配させるだけだ。結局は何も変わらない。何か、この状況を引っくり返すようなものがあれば、何とか出来るのだが。

 

「………あれは」

 

 片隅に咲くように一輪の花が咲いていた。白い花、とても美しく、心を穏やかにし、誰かに贈るにはピッタリな花。それを、爛は知っている。その花の名前を。

 

「オオアマナか……」

 

 オオアマナという白い花は、爛がよく知っている花だった。爛が思い出したのは、沙耶香が死んだと思っていたときに、彼女の墓参りに持ってきた花だったのだ。

 

「………………………」

 

 こんなにも綺麗な花を、大切に人にでも渡せたら、とても喜ばれそうなものだと重いながら、オオアマナを見つめた。

 ふと、風が吹いた。オオアマナも風に煽られ、花弁が舞っていく。

 

「あ………」

 

 オオアマナの花弁を取ろうとしたときに爛は止まった。オオアマナの花弁が道標のようにならんで落ちていることに気づいた。

 暗闇の中で真っ白なオオアマナはとても分かりやすい目印だ。

 

「こっちにいってみるか……」

 

 落ちたオオアマナの花弁を道標に歩き出す爛は、その道中に、六花の心の声をもう一度聞く。

 

『僕は、爛と一緒にいたい………!!』

 

 その心の声に呼応したのか、光が見えた。それは、オオアマナの花弁が落ちている先だった。

 道標なのは間違いないはずだ。それを信じた爛は、走り出した。

 爛の後ろでは、彼を見守るように、後ろに落ちていたオオアマナの花弁が遥か高く舞い上がっていく。

 

(俺を信じてくれ……! 六花!)

 

 一心不乱に走り出している爛に声にするということはなく、ただ六花を信じて走り出すことだけにあった。心の中で、六花の無事を願いながらも、信じてほしいという心があった。

 

(諦めるな! 六花!!)

 

 光が弱くなっているのが見えた。六花の心の声が弱くなっているのに気づいたのだ。

 彼女を奮い立たせるために、爛は心の中での声援を送った。

 

(諦めるな! まだ、希望はある!)

 

 爛の思っている通りだ。希望を見つけることができたのだ。爛は、この状況を何とかする方法を得た。

 

(俺に、賭けてくれ! 六花!!)

 

 後はそれを、彼女たちに信じてもらうだけ。それさえあれば、何とか行ける。

 

「ここは………」

 

 オオアマナの花が咲き乱れている場所についた。そこにいたのは、自分ではなく、沙耶香だった。

 

「爛兄さん……」

「沙耶香……」

 

 オオアマナの花が咲き乱れている中心の場所に、沙耶香は立ち尽くしていた。

 爛に気づいた沙耶香は、視線を向けて、笑みを浮かべた。

 

「爛兄さんは今、暴走しているよ」

「知ってる。何とかしないといけないんだ」

 

 分かりきったことを言った沙耶香は「知ってるんだね」と苦笑した。爛は、暴走している自分を止めようとして、歩き出そうとする。

 

「待って」

「何だ?」

 

 そんな爛を、沙耶香は呼び止めた。振り返った爛は、沙耶香の顔を見た。

 

「私、止める方法を知ってるよ」

「知っているのか?」

 

 真剣な表情で伝えられたことは、爛に関わるものだった。この暴走を止められる方法を知っているのであれば、それは爛自身も知っておくべきものなのだ。

 

「うん。教えても……いいよ」

 

 都合のいいような話になっているが、今は沙耶香を信じるしかない。

 

「教えてくれないか? 沙耶香、その方法を」

「いいよ……でも、暴走が止まったら、この世界じゃなくて現実で、私が戻ってきたことを歓迎してくれる?」

 

 沙耶香は爛の頼みに快く頷いた。その代わりに、現実の方での沙耶香を受け入れてほしいのが、精神世界での沙耶香の願いだった。

 だが、それは爛も望んでいること、頷いた爛を見て、沙耶香は涙を一筋だけ流した。

 

「うん、止める方法を教えるね。止める方法は───」

 

 自分を受け入れ、自分のことを思ってくれている人たちの想いを受け止めること。

 爛には少しだけできなかったことだった。後少しのところだったのだ。心を穏やかにし、自然のように豊かにすることで、しっかりと受け止めることができると、沙耶香は言った。

 爛は、深呼吸をした。先ずは、外側を落ち着かせるために。そして次に、瞳を閉じ、感覚を鋭くする。今感じ得ることができる全てを感じ、受け入れるのだ。

 

「うん、もういいよ。これで、暴走は収まった。六花ちゃんのお陰でもあるけどね。」

 

 沙耶香の声をを聞くと、爛は瞳を開ける。

 沙耶香は既に、足元が光っていた。沙耶香は、六花のお陰で止めることができたと言った。

 

「私は、爛兄さんがこうなったときのためにあったもの。ペンダントがこの効果を持っていたの」

 

 沙耶香が渡してくれたペンダントには、精神世界に潜り込むことのできる沙耶香の特殊な魔力が込められたペンダントなのだ。

 彼女からそれをもらったとき、絶対に無くさないでという言葉があったのを、爛は思い出した。

 

「ねぇ、爛兄さん」

 

 沙耶香が何かを渡してきた。

 爛はそれを受けとるが、首をかしげる。

 

「現実の方にも影響があるから、現実の方で確認してね!」

 

 足元の光が強くなり、爛は目を守るために、手で覆った。

 光が収まり、目を開けると、沙耶香はいなくなり、オオアマナの花の色は赤くなった。

 

「───綺麗だな、沙耶香」

 

 誰もいない場所で、爛は呟いた。言ったことが、返ってくるわけではない。だが、爛の耳には、しっかりと沙耶香の声が聞こえた。

 

 ───そうだね。爛兄さん……いや、にぃに。

 

 爛は光を受け入れた。ここから帰ることができる。爛の手には、沙耶香からもらったものを持って、精神世界から、爛本人の自我が戻っていく。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「爛…………?」

 

 爛の動きがピタリと止まったまま、動くことはなかった。六花たちが声をかけても、何をしても反応を示さない。

 

「ッ!?」

 

 爛から光が放たれる。六花たちは光から目を背け、警戒をしながらも、その光を見ていた。

 

「ぁ…………六………花……」

 

 爛の声が聞こえた。爛の体は膝から崩れ落ちて倒れた。

 

「爛!!」

 

 六花がすぐに駆け寄る。爛の脈を測ると、爛はまだ生きている。爛は、気絶していた。

 

「……良かっ………た……」

 

 六花は安心をしたのか、張り積めていた糸が緩んだのか。そのまま眠ってしまった。

 

「全く……二人して……」

 

 颯真は笑みを浮かべ、沙耶香の方を見る。

 

「あれは………花?」

 

 珠雫が沙耶香の周りに咲いている白い花に気付く。

 

「オオアマナね」

 

 聡美が花の名前を言った。オオアマナの花が爛と六花の周りにも咲き乱れていた。

 

「綺麗ですね……オオアマナ」

 

 総司がオオアマナの花をまじまじと見ている。

 

「……爛、傷が多いな。沙耶香も多い。iPS再生槽(カプセル)に入れよう」

 

 颯真の言葉に頷いた一輝たちは爛と六花、沙耶香を抱える。

 

「これは………?」

 

 ジャンヌが、爛が持っている箱の存在に気付く。それと同時に、察した彼女は箱の中身を空けずに、持っていく。

 黒乃に事を話した颯真たちは、爛、沙耶香をiPS再生槽(カプセル)にて治療。治療後は三人を同じ部屋に入れて、目覚めるまで待つということになった。

 眠っている爛のとなりには、箱が置かれてあった。

 暁学園の襲撃は失敗というよりも、爛の暴走が起きたことにより、参加が認められ、破軍学園に被害はなかったものの、赤い雨、そして、破軍学園の裏にあるところに多くの木が倒れ、オオアマナが咲いていたということは、メディアに報道された。

 未だに起きない爛のところに飾られていた花は、白い花───オオアマナ。又の名を

 

 『スターオブベツレヘム』

 

 

 ーーー新章・第76話へーーー




新章に突入。詳しいことは活動報告を確認すると分かります。

───────────────────

「紹介するよ、一番下の妹、沙耶香だ」

「えぇ、恩を仇で返させていただきますよ」

「望むところや、黒鉄」

「巴は何処にいる……! 答えろ!」

「俺からすれば、お前もペテンだよ。黒鉄王馬」

「僕は、君とは違う。一緒にしてほしくない」


















「爛を煽るのだけは止めといた方がいい。これは、嘘ではなく、お前らの命を考えた場合だ。命知らずであればやればいい。お前らは生きることはできなくなる。一度、お前らに恨みは持ってるからな、あいつ。






 俺の未来視(ビジョン)は絶対に起こる。考えろよ。親切に教えてやってんだ。でなきゃ、面白くない」


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本戦の章・前編~七星剣武祭団体戦~飛び立つ翼と落ち行く翼
第76話~精神世界からの贈り物~


最近、フリーな時間が多くなっていたので、執筆に力を入れて書いています。休憩にFGOのイベントなどもちょくちょくやっています。タマモ(キャスター)が来ないのなんでぇ…?

活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


 目覚めた六花は、未だに眠っている爛の側にいた。眠っているときの爛は人形のように動かなくなっていた。そんな爛が動いた。

 起きたのかと思った六花は、爛の近くまで体を近づけた。すぐにでも抱きつこうとしている様子だった。

 だが、爛は起きなかった。仰向けから横向きに体を動かしただけだった。意外だった。爛が寝返りを打つことなどなかったからだ。見たこともなかった六花は驚いた。まだ、見たこともない爛がいることに、六花は少しだけ不安を持ちつつも、興味も持ったのだ。

 起きる気配を見せない爛は、規則正しく呼吸をしていた。ぶれることないその呼吸は、意識してやっているかのような様子を見せる。

 六花が爛を呼び掛けても、揺すっても起きる気配は全くない。いつもなら相手をしてくれている爛がなにもしてくれないことに少し悲しい思いをする。爛はどうしたら起きるのだろうか。六花が起きてから、今までずっと考えてきたことだ。

 

「爛……起きてよ……」

 

 六花が起きてから、十二時間も時が経っている。爛のことを心配し続けているからなのだろうか。食事もろくに取っていない。リリーたちが食事を持ってきても、六花はそれを食べようともしなかった。爛の作ったものしか食べないというわけではない。食欲がないというのが本音だ。

 未だに爛を心配して、側に居続ける六花を心配する者もいる。破軍学園の理事長の黒乃と二人の友人である颯真だ。何かあってもいいように、特殊な部屋に入れられている爛と六花を窓越しから二人が見ていた。

 

「葛城はいつまであの調子だ、音無」

 

 珍しく煙草に手を出していない黒乃は颯真にあの様子がいつまで続くのかという質問をした。颯真の返す質問は一つだ。それは勿論、黒乃も知っての質問だということに颯真も気づいている。

 自分の答えを返さないというのも変だと思った颯真は、目線を爛たちのいる部屋に向けながら、自分の答えを口にした。

 

「まぁ、爛が起きるまででしょうね」

 

 颯真の返答にそうかという声を溢した黒乃は煙草に手を伸ばそうとする。その行動に気づいた颯真は、溜め息をつき、苦笑を浮かべながら、黒乃に注意をする。

 

「煙草を吸おうとしているのはいいんですが、ここは禁煙ですよ?」

 

 煙草を吸おうとした直前に言った颯真の言葉に黒乃はそうだったなと返事をし、煙草を箱に戻した。どうやら、禁煙ということをしっかりと言っておけば、黒乃は煙草を吸うことはないらしい。であれば、このまま禁煙してほしいと思った颯真だが、そんなことは口が裂けても言えないと感じた。

 颯真は六花が起きるよりも前から既に部屋の前でずっと椅子に座って二人の様子を見続けていた。その時間は十二時間を超え、既に二十時間へとなろうとしていた。

 食事は忘れずにとっているものの、睡眠時間を削っているように見えた黒乃は颯真に質問をする。それは、颯真にとって愚問だった。

 

「音無、寝なくてもいいのか?」

 

 黒乃からの質問を聞いた颯真は、笑いを溢した。盛大なものではない。微笑むようなものの声だった。黒乃の質問は可笑しいことはない。だが、颯真の睡眠時間は常人では倒れている時間なのだ。

 颯真は理由は話さないものの、黒乃に答えだけを返した。

 

「俺は一時間、寝れたら良いですから。そんなに睡眠時間はなくてもいいんですよ」

 

 人じゃないな。と颯真自身が黒乃に返した答えに内心で苦笑をした。表には出さずに、誰にも悟られないようにしていた。

 

「音無、お前の見立てでは師匠(せんせい)はいつになったら起きる」

 

 もうひとつ、黒乃は颯真に質問をした。それは、颯真でもわからないものだった。どう答えを返そうかと颯真は考え始めた。あくまでも、自分の見立てを通し、爛が起きるのは何時になるのかと考える。

 黒乃は、答えが分からない。というものが正解に近いだろうと考える。起きるタイミングなんて誰もわからないのは当然だ。それが分かるのは未来を見ることができることぐらいだと、黒乃は内心で苦笑した。

 五分ぐらいして、颯真が口を開いた。

 

「爛自身にもなるでしょうが、六花が冗談半分でキスした時にでも起きるんじゃないですかね?」

 

 颯真が言ったことは、的確なものに近い。分からないという答えではなかった。思っていたのと全く違うことに、黒乃は内心、驚愕していた。

 颯真は余りにも的確すぎたことに、やっちゃったかなと思いながら、黒乃の方に視線を向けることはなかった。

 

「的確だな」

 

 その一言が返ってくるであろうということは颯真は予想していた。他の言葉が来ることは予想しなくてもいい。何せ、自分が言った答えがほぼ的確だったからだ。黒乃が言った一言が来るということを予想することは容易い。

 

「ま、こういうのは得意ですからね」

 

 颯真と黒乃の二人が会話をしている最中、六花は爛をずっと見つめていた。

 六花が考えていることはやはり、爛を起こすことだった。一食もせずに考え続けても、爛を起こすには効果的なものはない。

 爛は変わらず眠っている。六花が一食もせず、颯真が一睡もすることもなく心配しているというのに、爛は起きようとはしない。

 

「……キスでもしたら起きるかな……」

 

 冗談半分で思い付いたものだった。爛の無防備な寝顔にキスでもしたら目覚めるのではないかというなんともロマンチックなものだった。

 いや、六花にとってはそんなロマンチックで幻想(ファンタジー)的なことは一切起こらないだろうと思っていた。

 六花の唇は、そのまま無防備な爛の唇に合わさろうとしていた。そして、唇同士が軽く触れ合い、そこで止まった。

 何の手応えも感じなかった。やっぱりダメだったのかと、六花は溜め息をついてしまった。

 何か方法はないかと考え始めた次の瞬間、微かに六花の耳に届いたものがあった。

 

「ん………んん……」

 

 爛の声だ。六花は少しだけ希望をもった。もしかしたら、これで爛が起きるかもしれない。小さなものでも、今の六花はすがりたい思いだった。

 

「んぅ……六……花………?」

「爛………!!」

 

 爛が瞳を開けた。六花はすぐに、爛が起きていることを確認した。瞼は上がっており、爛の瞳が六花を映していた。爛が起きたのだ。六花はその事実に、涙を溢した。六花はそのまま、爛に抱きついた。力強く、今まで溜めてきたものを吐き出すように抱き締めた。

 

「六花………」

 

 爛は笑みを浮かべた。彼女がどのような思いをしているかは何となくだが、爛にもわかる。だから、何かをいうつもりはない。

 六花は爛の名前を呼び続けながら、爛の胸に顔を埋めた。それを受け入れている爛は、六花の頭を撫で続けた。

 

「お前の言う通りになったな、音無」

 

 颯真の答えた通りに、六花が冗談半分で爛にキスをしたあとに、爛が目覚めた。的確に答えたことが、その通りになったのだ。黒乃はその事実に驚きながらも、それらは内心で抑え、表には出していなかった。

 

「そうですね。これで、俺は失礼させてもらいますよ。甘ったるいものを見せられるかもしれないのでね」

 

 颯真は二人の様子を一度だけ見ると、それでは、とだけ言い残して、出ていってしまう。颯真の言ったことに返事をしなかったものの、無言で頷いた黒乃も、部屋から出ていく。今は、爛と六花の二人っきりの空間にしようと、颯真と黒乃は邪魔をしないようにしたのだ。

 

「ずっと起きてたんだよ……爛が起きてくれないから」

 

 涙を流しながら、六花は不安な声音で爛に言った。とても不安だったのが、爛に伝わったのか。爛は何も言わないまま、六花を包むように抱き締めた。

 

「すまなかった……」

 

 爛は謝ることしかできない。自分の心が弱かったせいで暴走することとなり、挙げ句の果てには六花を傷つけようとしたことを、爛は覚えている。だから、爛は謝ることしかできないのだ。それは、六花もよく知っている。爛は謝らなければならない立場なのも。

 六花は、爛の謝罪に顔を横に振った。

 

「良いの……爛が戻ってきてくれただけでも、僕は良いの……」

 

 すぐにでも消えてしまいそうな声は、爛の耳にしっかりと届いている。そこまで、六花を心配させていたことに、謝らなければならないとは思いながらも、爛はそれだけでは六花がこんなにも消えてしまいそうな様子は見せてこない。怯える子猫のように六花は、爛に体を寄せ、震わせるだけだった。

 

「六花……ごめんな……何もできなくて……」

 

 六花に伝えられる言葉は謝罪の言葉だけだった。今、爛には他の言葉が伝えられない。罪の意識を持ち続けている爛は、謝ることしかできないのだ。自分の罪の悪戯に六花をずっと振り回し続けている。

 

「いいの………いいの……僕だって、何もできなかった……!」

 

 六花は苦し紛れに言葉を紡いだ。爛にはその苦しさがよく分かる。分かっているからこそ、何も言わずに六花の言葉に耳を傾け、静かに聞き続けた。

 

「大事なときに限って……僕は何にも……!」

 

 分かっている。六花の言いたいことも、謝りたいことも何もかも、爛には分かっている。だが、それを口出しはしない。苦し紛れに紡ぎだしている言葉だ。

 

「そんなことはない」

 

 それでも、六花の言葉を爛は否定した。何にもできなかった。そんなことを言わせるつもりなどない。爛にとっても苦しいのだ。六花が自分に傷を負わせるような言い方は許せないし、苦しくもなる。

 

「俺は、お前から大きなものを貰ってる」

 

 それは、愛だ。爛が六花の頬に手を当てて言った。愛というものを知らなかった爛に、それを教えてくれたのは六花だった。それだったら、香や明でも愛を教えることは出来るだろう。でもそれは姉や妹という見方での愛でしかない。本当に、大切な人を思う愛を教えてくれたのは六花なのだ。

 爛にとって、それは感謝しきれないものとなっている。返しきれない恩にもなっている。爛はそれを言葉にして表すには小さすぎるものだと感じるほどに。

 

「だから、そんな辛い顔をしないでくれ……こっちも辛くなる」

 

 沢山の愛をもらえている爛にとって、六花はかけがえのない存在だ。無くすことができないのだ。六花にとっても、爛の存在はとても大きい。

 

「……ほら、泣かない。六花は笑ってる方が良いんだぞ?」

 

 爛は六花の涙を拭いた。泣いてほしくない、笑っていてほしいというのが、爛の願いでもある。優しい笑みを浮かべた爛に、六花は甘えたくなる。

 

「うぅ……爛ぅ……」

 

 六花は爛の上に乗り、爛に抱きつく。それを受け入れている爛は六花の頭を撫で、体を委ねてくる六花の体をしっかりと受け止める。

 

「……………………………」

 

 爛は隣に置かれていた箱に気づく。取ろうと手を伸ばし、その箱をとった。精神世界からの贈り物……沙耶香からもらったもの。箱の中身を見るために、箱を開けてみる。

 

「贈り物がこれかい? 沙耶香」

 

 爛はひとりでに呟いた。箱から取り出したのは、眼鏡。眼帯は既に外され、箱のとなりに置いてあった。そのまま眼鏡をかけると、爛の瞳にとある変化が起きる。

 

「こいつは……!」

 

 嬉しい贈り物じゃないか。笑みを浮かべながらそう思った爛は、未だに眠っている沙耶香の方に視線を向ける。

 ふと、ペンダントはまだあるかと、視線は自分が首にかけているものに視線を向けた。ペンダントはまだ首にかけられてあり、欠損も何もなかった。

 

「良かった……」

 

 安堵の表情をした爛に、六花が尋ねてきた。それは、ペンダントのことについてだった。六花からすれば、会ったときからずっと首にかけているペンダントは気になり続けているものだろう。

 

「そのペンダントは誰かからもらったの?」

 

 尋ねてくるのも無理はない。そう思いながら、爛は六花に答えを返した。

 

「沙耶香からだよ……一番下の妹さ」

 

 隣のベッドで眠っている沙耶香に視線を向けた。六花も同じように沙耶香の方を向いた。未だに眠っている彼女には二人の声は届いていない。

 とてもいい贈り物だった。ありがとう沙耶香。良い妹を持てたな、俺は。

 兄一人が感じることのできる幸せを、爛は少しだけ六花と共有し、後は独り占めにしたくなった。出来ることなら、幸せを独り占めにできた方が良いのだろうけれど……それは、まだもう少し先のことになりそうだ。

 

 

 ーーー第77話へーーー



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第77話~一番下の妹~

今回は、六花に意外な一面が……!?

活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


 暖かな夢を見ている。大切な家族と楽しく暮らす夢だ。双子の姉とひとつ上の兄、兄の二つ上でもう一人の姉。そして優しい両親。いつも大切にしてくれている家族だ。

 でも、それはある事件を通して、家族と離ればなれになってしまった。兄は自分のせいだって言ってるけど、本当は違う。元々、宮坂家には特別な力が備わっていた。それは個人差があって覚醒するものは少ないが、兄は特に力を強く、その力を持っていることも兄は自覚していた。

 私は家族と離ればなれになり、追われるように身を隠す生活をしなければならなくなった。

 家族から離れたことをいいことに、解放軍(リベリオン)がその力を欲して、躍起になって探していたのだ。私ではなく、兄の方がとても強いのだけれど、私を探して、兄を場所を吐かせようとしていたみたい。

 私は解放軍(リベリオン)に所属している女性に捕まった。体は操られ、意志を介入が出来なかった。でも、記憶はあった。兄を襲ったことも。正直に言って、私のことを兄は許してくれないだろうと思っている。

 最初は意志まで操られたから、精神世界にいる私も操られていた。精神世界での兄は、凄く怒っていた。暫くすると、意志の自由が表れた。

 そして、破軍学園襲撃……私は巴という人物に操られ、兄と戦った。私じゃ敵わない相手だ。それを承知で、彼女は私を使った。

 その後は巴に刺され、残っているのは兄の精神世界にいる私だった。

 兄の暴走を止めるために動いた私は、兄の精神世界から居なくなることになりそうだけど……それは、兄次第になりそう。

 夢は終わりを告げようとしている。視界が暗闇に染まっていく感覚がする。

 起きたら、何処にいるんだろう。

 

「……香、…耶香、沙耶香」

 

 とても聞き覚えのある声がした。沙耶香にとって一番会いたい人で、恐れている人でもある。

 それは、沙耶香の兄、爛だ。彼女を心配していた爛は沙耶香が眠っているベッドのとなりにある椅子に座っていた。

 

「……爛兄さん……じゃない、にぃに」

 

 爛は驚いた。精神世界で沙耶香が消えたあとに聞こえてきた言葉に、自分の呼び方が変わっていたことに気づいたが、本当に現実(こっち)にも影響があった。

 沙耶香は体を起こし、爛の方を向くが、少し恐がっている様子を見せる。

 

「どうした? 沙耶香、何かあるのか」

 

 爛は首をかしげた。爛には全くわかることのないものだが、察することはできるだろう。沙耶香から感じる恐怖が、自分に向けていられることに、爛は異様な気配として感じた。

 

「……恐いのか」

 

 爛の言葉に沙耶香は震えながら頷いた。爛の瞳が真剣なものへと変わり、沙耶香を射抜くように見詰めているからだ。

 溜め息をついた爛は沙耶香の頭に手を伸ばし、優しく頭を撫でる。

 

「恐がらなくていい、お前の思ってることはわかる。俺を襲ったことは、覚えているんだろう? それで、自分の意思で体が動かせるようになって、怒られるんじゃないかって思ったんだろ」

 

 爛の言った通りだった。沙耶香は爛から何か言われるんじゃないかとビクビクしていたのだ。

 

「俺はお前をこの事で怒ったりしないよ」

 

 爛は笑みを浮かべながら、沙耶香の瞳を見詰めた。その目には優しさがあった。沙耶香の目には、そう映った。そして、改めて沙耶香は爛のことを思い出した。

 

 そうだった。この人は、大切にしてくれる人を愛する人で、私の兄。誰もが欲しがるって自慢の兄なんだ。

 

 沙耶香は自然と笑みを溢していた。瞳からは涙が溢れ、心が安らいでいく。

 爛は涙の意味を知って、沙耶香を抱き締めた。

 

「……ねぇ、にぃに」

 

 暫くして、沙耶香は爛に声をかけた。爛は彼女の言葉に耳を傾ける。

 沙耶香は、少し言いづらいのか、何とも言えない表情をした。爛は、沙耶香の言葉を待った。早く言えとも何も言わない。ただ、安らかな表情をして、彼女を待ち続ける。

 

「……大好きだよ」

 

 沙耶香からの突然の告白に驚くものの、爛も沙耶香の言葉に返すものがあった。

 今まで、彼女に伝えることのできなかったもの。当時は、その事に気づけない自分がいたが、今ではしっかりと自分の気持ちがわかる。彼女に対して、自分がどんな気持ちを抱いていたのか。彼女が、自分から気持ちをいってきてくれたことに、嬉しさを感じた爛は、自分も伝えようと、口を開いた。

 

「俺もだ。好きだよ、沙耶香」

 

 沙耶香は、爛からの告白に顔を赤くする。兄も、自分と同じ気持ちでいたことに、驚きがありながらも、それと同時に嬉しさもあった。

 

「嬉しい……」

 

 爛を抱き締める力が強くなる。爛の温もりを感じていたい。爛の近くに居たい。その気持ちがどんどんと強くなってくる。今まで会えなかった反動が、沙耶香の気持ちを強くさせている。

 

「もっと、一緒に居たい……!」

 

 沙耶香は、心の中に溜め込んでいた言葉を言った。会えていなかった分、その気持ちはとても強いだろう。やっと会えた。会いたかった人に、やっと会えた彼女は、欲を出してしまうのは仕方ないだろう。

 爛は、沙耶香の言葉が溜め込んでいたものであったということを察する。会えなかったら、この言葉は言っていないだろうし、こんなにも、力を強めて抱きついてくることもないだろう。

 

「あぁ、いいよ」

 

 爛はそれを受け入れた。大切な妹に、会いたかった妹に会えたのだ。爛も同じように、彼女と一緒に居たいだろう。

 

「ありがと……」

 

 沙耶香は爛の胸に顔を埋める。幸せで胸が一杯になっている沙耶香は、爛の胸のところで頬擦りをする。

 

「……ん、眠ったのか」

 

 沙耶香から、微かに寝息が聞こえる。体重がかかり、爛に体を委ねる形となって沙耶香は眠っていた。

 爛は彼女をベッドで横になるようにして、背凭れに寄りかかるように座り直した。

 

「……結局、何にもしてやれなかった……」

 

 自分は弱いじゃないか。妹の方が、何にもしてやれない兄よりも強いじゃないか。顔が見せられないなんて言うような顔をしてるけど、こっちが顔を見せられないほどだ。

 部屋の天井へと顔を上げ、手で視界を覆った。口角を上げなからも、口から出てくるのは後悔の言葉ばかりだ。

 

「なんて、言ってられないな……」

 

 溜め息をついた爛は、沙耶香の方へと視線を向ける。幸せそうな顔をしている沙耶香に、爛は心が安らぐ感覚がした。

 やはり、大切な人が幸せであると、自分も幸せになる。この幸せが続くといいのだが。

 沙耶香が起きたあと、爛は黒乃に部屋に戻ると伝え、沙耶香を連れて、自室へと戻る。

 六花は既に自室へと戻っており、爛を待っていた。

 部屋のドアを開けると、ドタドタと急いでくるような足音がした。

 

「お帰りなさい! マスター!!」

 

 リリーが飛び込んできた。部屋に戻ってくると、すぐに来てくれるのは彼女だ。いつもは確かに抱き締めに来るが、飛び込んでくるほどのものではない。

 それだけ、彼女が爛を心配していたことがよくわかる。

 

「良かった……起きられたんですね……」

 

 爛を強く抱き締め、消えてしまいそうな声音で言った。どうしようにもないほどに体が恐がっているのが分かった。

 リリーは、爛が消えてしまったらどうしようかと思っていたのだ。

 

「マスター……マスタァ……!」

 

 涙が溢れているリリーを抱き上げ、もうひとつドアを開ける。

 

「ただいま、みんな」

 

 その一言だけで、六花たちは誰が帰ってきたのかはすぐにわかる。それは、いつものことだ。だが、

 

「お兄ちゃん! 良かった……」

 

 明はホッとした顔をして、胸を撫で下ろす仕草をし、

 

「帰ってきたんですね、先輩……」

 

 桜は自分が暴走したあと、戻ってこないのかと思っていたのか、無事にいることに、涙を流し、

 

「奏者、無事か? 無事だな?」

 

 ネロは平気なのかと何度も尋ねてきたり、

 

「ご主人様、体は病み上がりみたいなもんなんですから、ごゆっくりしてください」

 

 タマモは普段通りに接してきているものの、心配していることがよく分かる。目に出やすいのがタマモだ。

 

「あの、マスター? その人は……」

 

 ジャンヌが爛の後ろに隠れている沙耶香に気づく。気づかれたことに沙耶香は体をビクッと震わせる。沙耶香は、彼女たちにも爛を襲っていたということは知っているはずだと思い、何かされるんじゃないだろうかと思っているのだろう。

 

「紹介するよ、一番下の妹、沙耶香だ」

 

 爛はリリーを離れさせ、隠れている沙耶香を前に出した。そのままにしておくと、怯えてまた隠れそうなので、爛は後ろから沙耶香を抱き締めた。

 

「そんな怯えなくていい。何かあっても、俺が……な?」

 

 爛は沙耶香を安心させるために声をかける。爛は沙耶香を守ると決めている。それで死んでしまっても、沙耶香を守れるのならばそれでもいいと決めてしまっている。

 

「っ……うぅ……」

 

 爛の腕を掴んで離さない沙耶香は、六花たちの顔を見ることができずに、爛の顔ばかりを見る。

 

「ほら、六花たちは怒らないから。怒っても俺が何とかするから」

 

 爛の言葉に沙耶香は、渋々頷いたものの、不安はまだ取り除けていない。後は、六花たちに任せるしかない。彼女たちの反応が、沙耶香の不安を取り除いてくれるものになるはずだ。

 

「……さ、沙耶香です。にぃにの言う通り、一番下の妹になります……よ、よろしくお願いします」

 

 心が痛くなるような声音だった。消えていく儚いもののように。

 リリーたちは笑みを浮かべた。そして、沙耶香に声をかけようとした時、不意に六花の声が聞こえる。

 

「君は……爛を───」

 

 次に何を言うのか。爛も沙耶香もすぐに気づいた。とてもキツく当たるような声で、六花が次の言葉を紡ぎ出す。

 

「襲ったよね」

「六花ッ!!!」

 

 六花の目付きが変わった。殺すような目だ。何も許してくれない目だ。沙耶香は顔を伏せる。六花の言った通りなのには変わりないのだから。

 爛がすぐに叫ぶように六花の名前を呼ぶ。爛の目は、怒りの感情が含まれていた。爛の怒声が部屋の中に響き、リリーたちは爛から一歩引くような形になり、沙耶香は自分の目の前に立った爛に視線を向けた。

 

「沙耶香は自分の意思でやってるんじゃない。それをよく知っているのは俺だ。沙耶香はあんなことをやるような妹じゃない。それに、ただ目の前で起きたことの事実に捕らわれて、それでいて人を責めるのは可笑しい」

 

 爛は六花の言葉に反論のしようがないほどに言った。爛のいっていることは正論だ。沙耶香は自分の意思ではない。六花は沙耶香が爛に襲ったという事実しか知らない。

 

「でも、僕は……また爛が傷つくのは嫌なんだ!」

 

 六花の心の声が出てきた。爛をとても心配していた。沙耶香が爛の妹とはいえ、確かに沙耶香は爛を襲った。大きな傷は負ってはいないものの、爛は暴走を起こした。それは、沙耶香が大きな傷を負い、それを自分のせいだと追い詰めている爛を、六花は見ていられないのだ。

 その六花の心が分かったのか。爛は溜め息をついた。

 

「……分かった。ただ、沙耶香に関しては───」

「分かってる、僕だって歓迎するつもりだよ……ごめんね、追い詰めるようなことを言っちゃって」

 

 分かってもらいたい。そう言おうとしたときに、六花はそれを遮った。

 言いたいことは分かっていたのだ。それは、長い付き合いがあったからだ。

 六花は沙耶香を歓迎する気持ちはあった。でも、彼女の意図が読めなかった六花は追い詰めるようなことを言い、意図を知りたがった。六花は頭を下げ、沙耶香に謝った。

 

「あ、いや……別に……大丈夫」

 

 まだ恐怖が残っているのか。やり過ぎたかと六花は考えた。沙耶香には、六花を恨むつもりなど微塵もない。寧ろ、感謝をしなければならないと思うほどだった。忘れようとしていた過ちを、逃げようとしていた罪を、背負う覚悟の切っ掛けを作ってくれる。

 逃げようとしていた自分が間違いだった。結局、自分は大切な兄を傷つけたことには変わらない。変えること出来ないものだ。その罪から何故、逃げていくのか。背負わなければ意味がない。同じことを繰り返すようなものだ。

 

「本当に、大丈夫?」

 

 六花が顔を俯かせていた沙耶香のことがまだ心配だったのか、もう一度尋ねた。

 沙耶香は六花に向けて、瞳を向けた。その瞳を間近で見た六花は、沙耶香の瞳が先程とは違うことに気づいた。力強さがあるというよりも、何かが見つかり、目的を見つけることができたような瞳だった。

 

「うん、大丈夫だよ。六花ちゃん♪」

 

 笑顔を浮かべた沙耶香は頷いて、六花に飛び込んだ。

 

「えっ、ちょ、ちょっと!?」

 

 爛ではなく自分なのかという驚きと、いきなり飛び込んできたことに驚き、沙耶香を受け止めつつも、床に倒れる。

 沙耶香は笑顔のままで六花を抱き締め、六花は自分が沙耶香に抱きつかれていることに顔を赤くした。それを見ていた爛はニヤニヤする。

 

「へぇ、六花は自分よりも小さい子とかが好きなんだ」

「そ、そんなこと……!」

 

 ニヤニヤしている爛に反論しようとするが、既に耳まで真っ赤にしている時点で、否定できないだろうと考えた爛の通りに、六花は何も言えなくなってしまった。

 

「でも私はにぃにの方が好きだから、六花ちゃんには負けないもんね~」

「むっ、それは聞き捨てならないね。僕の方が爛のことが好きだもん!」

 

 さっきまで一触即発みたい感じだったのに……こんなに仲良くなってねぇ。

 そんなことを思いながら、爛は二人の仲睦まじさに笑みを浮かべ、煙草を吸おうとベランダの方へといく。が、桜にその事がバレて煙草を取り上げられ、六花と沙耶香の中に放り込まれ、二人に揉みくちゃにされたそう。

 

 ーーー第78話へーーー




六花と沙耶香は、姉妹といってもいいほどに仲良くなっていきます。
後の詳しいことは活動報告にて……


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第78話~片翼の赤き翼を持つ光黒の騎士~

新キャラの登場時間が全然ないというのが現実だった。まぁ、後から出てくるし問題ないか!

活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


 沙耶香が来たその日の夜。爛は六花たちが眠っているなかで、一人だけベランダに出ていた。

 桜に取り上げられた煙草を手に取り、火をつけた。

 煙草を口に加え、空を見上げる。星がよく見えるものの、月明かりが全くない日だった。

 今日はちょうど新月の日、月は見えない。爛は沙耶香のことで考え始める。

 六花たちには受け入れてもらえたものの、少なくともまだ彼女たちのなかで少し、不安に思っている者もいるだろう。

 爛本人が信じ、沙耶香は六花たちに仲良くなろうとしていた。それでも、沙耶香が襲ってきたということは事実だ。それを受け入れきれないと感じるのは仕方ないだろう。それを、何とかしなけらばならない。

 ベランダにあった椅子に座る。

 

「いつまでそんなところにいるつもりだ、エーデルワイス」

 

 爛は夜空を見上げたまま、エーデルワイスの名を呼ぶ。彼女は壁のところに背を預けていた。爛に居ることがバレたことが分かると、爛の方へと視線を向ける。

 

「気づくのが早いですね……流石、爛です」

 

 笑みを浮かべたエーデルワイスは、爛のとなりにある椅子に座る。

 エーデルワイスは何も話さずに、座ったままだ。爛は彼女が先程、暴走したことに気づいているのであれば、ここに来る他に選択肢はない。

 

「来たのはいいけど、特に振る舞えるものは何もないぞ……」

 

 爛は苦笑を溢しながらも、コーヒーをエーデルワイスに振る舞った。

 コーヒーを飲む前に、エーデルワイスは砂糖を入れようとするが、それを爛が止める。

 

「甘いぐらいに入れておいてあるから、そのまま飲んでくれ」

 

 通りで砂糖が入っているものがないわけだ。エーデルワイスがいつも飲んでいるコーヒーには何故か砂糖の量が多いのだ。苦いのが苦手なのだろう。

 

「ありがとうございます」

 

 カップを取り、コーヒーを飲む。爛の言う通り、コーヒーは甘く、とても飲みやすい。

 そういう爛は、ブラックを飲んでいた。カフェオレなども飲んだりしている爛が、ブラックを飲んでいた。エーデルワイスは見たことがなかったのか。爛に尋ねてくる。

 

「貴方はブラックも飲むんですね?」

 

 エーデルワイスの質問に苦笑を浮かべながら、爛はカップを置き、答えを返す。

 

「俺は基本、ブラックだぞ」

 

 爛の質問に、エーデルワイスは意外だと思った。

 確かに、エーデルワイスの居る前では砂糖をいれたりしているものの、彼女ほど入れるわけではなく、少しだけいれていただけ。それを、彼女は見ていたのだ。

 

「砂糖をいれているところを見ていましたが……」

 

 やはり、エーデルワイスはその事について言ってきた。

 

「あの時は微糖にハマっていたんだ。ただ、目を覚ますのにブラックは飲んでいたけどな」

 

 そういえばとエーデルワイスは思い出す。爛が修行の目的で共に過ごしていたときに、彼が朝にブラックを飲んでいたのを思い出す。微糖の時があったのを覚えているが、甘くしているところは見たことがない。

 

「それに、コーヒーを飲むのはいいが、甘くしないといけないのであれば、ココア辺りでもいいと思うんだが?」

 

 エーデルワイスが苦いのは飲まず、コーヒーを甘くしていて飲んでいることは知っている。無論、飲むなどは言うわけではないが、甘いのを飲むのであれば他にもあるのではないかと思ったのだ。

 しかし、彼女は爛の質問に、横に首を振りながら答えた。

 

「コーヒーを飲めないと大人とは思えないじゃないですか……」

 

 エーデルワイスの返してきた答えに、爛は唖然とした。それは、彼女が持っている偏見だ。別に、コーヒーは飲めなくても、大人と言えるし、ビールとかが飲めないからといってバカにされることもない。なのに、彼女がそういうことを言っているのは、偏見を持っていると言えるのだ。

 

「そういう偏見は持たない方がいいぞ……飲めなくたって、貴女は大人じゃないか。ま、菓子作りでもしているときは子供っぽく見えるけどな」

 

 誤解されてしまうと思いつつ、エーデルワイスに偏見だということを言っていると、彼女は少し怒っているような表情をした。

 

「………偏見を持っているつもりはありません。ただ、私としてはコーヒーを飲めた方が大人っぽいと思っているだけです」

 

 それが偏見なんじゃないのかと思いながらも、爛は彼女が怒っている表情を見た。見たことのない顔で少し可愛いと感じた爛は、微かに笑んだ。

 

「何を笑うんです……?」

 

 どうやら、彼女は真面目に怒っていたようだ。地雷を踏んだなと内心で苦笑を浮かべた爛は、エーデルワイスから視線を外し、コーヒーを飲む。

 

「いや、貴女が怒っているのは初めて見たものでね。それに、貴女でも可愛いところは出てくるものだと思っただけだ」

 

 爛の言葉に意外だと思いながらも、同時に恥ずかしいと感じたのか。顔を赤くして伏せた。

 彼女にとって、可愛いと言われることはなかった。爛には何もこのようなことは言われたことはない。元より、自分にはこのようなものがないと思っていたものだから、その手の類いには疎いのだ。

 

「!! 隠れろ」

 

 爛とエーデルワイスのところに来る気配を感じとる。それも、爛の部屋から感じ取った爛は、エーデルワイスを無理矢理隠し、誰が来るのかと待った。いや、爛からしたら、誰が来ているのかは分かっている。

 

「どうした、六花」

 

 六花が来ていたのだ。どうして起きたのか、少し気になった爛は、彼女に尋ねた。

 

「……爛は寝ないの……?」

 

 爛が寝ていないということに気づいていたのか、心配していた六花は、眠そうな顔をしながらも尋ねてきた。

 

「大丈夫、心配してくれてありがとう。でも、今日は少し起きてなきゃいけないんだ」

 

 爛の言葉に六花は少し悲しいのか、不安な表情を浮かべながら、爛に抱きついた。六花にとっては、爛と一緒に眠りたいという気持ちがある。

 

「爛と寝たいのに……」

 

 六花の気持ちはよく分かる。爛でも六花と同じように寝ていたいという気持ちがある。しかし、爛にはやらなければならないものがあるのだ。だから、今日だけは分かってほしいのだ。

 

「ごめんな……俺も一緒に寝てやりたいけど、やらなきゃならないことがあるから」

 

 爛の言葉に渋々頷いた六花は、それでも抱きつくことを止めない。少し疑問を持ちながらも、爛は六花に尋ねた。

 

「ベッドには戻らなくていいのか?」

 

 爛の質問を聞いた六花は、爛のことを強く抱き締めた。この事から察するに、このままでいたいということだ。それに気づいた爛は、何も言わないまま、六花の言うことを待つ。

 

「……このままで寝かせて」

 

 六花は爛に抱きつきたいまま眠りたいということだ。別に問題はないわけではないのだが、それは眠ってくれなければ意味はない。ただ、このまま来ると、六花は頑固になる。彼女の言う通りにするとしよう。

 

「分かった」

 

 爛は六花を抱き締め、彼女が寝れるように軽く揺れる。程良い爛の揺れに、六花はすぐに眠ってしまうものの、爛から離れることはなさそうだ。

 

「無理矢理隠してすまなかったな」

 

 爛は隠れているエーデルワイスに、声をかけた。顔を出した彼女は隠れるのを止めて、爛を抱き締めて眠っている六花のことを爛に尋ねる。

 

「彼女は?」

「目線がキツい気がするんだが、まぁいい。六花だよ、幼馴染み。今じゃ、恋人だけども」

 

 爛の答えに、少し考え始めたエーデルワイス。今のところ、爛が異性に興味を示すことなど無いに近い。ただ、その事を尋ねたときに心を開いた相手にしか興味は示さないと聞いたことがある。そう思い出したエーデルワイスは六花が幼馴染みで恋人であるということに、爛は六花に心を開くことのできる相手なのだと分かった。

 

「そうなんですね……少し、羨ましいです」

 

 エーデルワイスの言葉に、爛はそうだったと思い出した。彼女は今、一人で暮らしている。身近に爛と六花のように繋がっている人がいないのだ。

 

「……すまないな」

 

 爛はエーデルワイスに謝罪した。一人でいる彼女にとってみれば、とても羨ましい存在だろう。

 

「いえ、貴方が謝ることではありません。それに、私が欲したら、貴方は応えてくれるのですか?」

 

 エーデルワイスの言う通り、爛が謝る必要はない。彼女は確かに繋がりというものを求めているものの、爛は求めているものには応えてはくれないだろうと彼女は思っていた。

 

「別にいいとも。求めるのなら」

 

 爛が返してきた答えに、エーデルワイスは驚愕した。冗談でいっているわけではないと気づいている。爛の目は真面目だ。本当にエーデルワイスの求めるものに応える気だ。その心意気にエーデルワイスは笑みを溢した。

 

「フフ、別にいいのです。兎に角、貴方が無事で何よりでした」

「暴走には気づいていたんだな。通りで心配してたわけだ」

 

 エーデルワイスは爛が暴走をしていたことに気づいていたものの、既に爛は学園内にいた。魔力感知で爛の場所を確認して追いかけていた。

 

「心配はしていましたよ」

「今もしてるじゃないか」

 

 エーデルワイスは爛が無事なことにホッとしているのは確かだが、未だに心配をしていると爛は言った。

 しかし、そんなことは思ってもみなかった彼女は、首をかしげた。

 

「無意識にしているんだろうな。心配で仕方がないような目線を向けているのに、気づかないわけないだろう?」

 

 彼女の不安な目線は爛を心配しているものだった。本人は全くその気はなかったのだろう。しかし、無意識にしているものは、本人も気づくことはない。

 

「……そうだったんですね。弟子のことを心配するのが師匠の性ですかね」

「さぁ……どうだろうな」

 

 二人とも、どのようなものなのかは分からない。

 爛が立ち上がり、部屋のなかに戻っていく。エーデルワイスはそれを見ているだけだった。ふと、思い出すか彼女はとある人物のことを思い出す。

 

──────────────────────

 

 とある人物とは色々と縁があるものの、戦うこともなく、共に過ごすことがあるだけ。

 エーデルワイスとは似ている部分が多く、姉妹とも言われたぐらいに。爛とは会ったことがあるらしく、一時期は師事していたと聞いた。

 ただ、その人物の強さは計り知れない。剣術勝負なら互角なのだが、魔術系に関してはとても強い。

 エーデルワイスと同じく狙われている身であるものの、捕まえることを放棄された者でもある。

 確か、名前は───

 

『ヘルベルティア』

 

 二つ名というものはないが、『片翼の赤き翼を持つ光黒の騎士』と聞いたことがある。確かに、ヘルベルティアは黄金のような右目と漆黒のような左目を持っている。爛と目のところでは酷似している。

 ヘルベルティアの二つ名を聞いて思ったのだが、何故、『片翼』と『赤き翼』が入っているのだろうか。別にどちらでも問題はないはずだ。なのに、意味もなくつけるのだろう。二つ名というものは他人からつけられるものだ。

 

「何か考え事ですか? エーデルワイス」

 

 あの時の会話を思い出す。今でも鮮明に残っている。考え事をしていた自分に、ヘルベルティアは飲み物を渡しながら尋ねてきた。特に何かを考えていたというわけではない。

 

「いえ、特に考えてないですよ」

 

 当時、エーデルワイスはただひたすらに世界を渡り、鍛えていた爛を拾っている。

 ヘルベルティアは勿論知っている。ただ、爛とヘルベルティアは会うことはなく、避けているようにも思える。

 

「貴女も爛に会ってみたらどうですか?」

 

 その事をヘルベルティアに訪ねてみるものの、彼女は首を横に振った。

 

「いえ、会わなくて大丈夫です」

 

 彼女は隠している悲しみも寂しさもなかった。本当に会わなくても平気だということなのだろうか。

 

──────────────────────

 

「エーデルワイス」

 

 爛の呼ぶ声でエーデルワイスは我に返る。爛が部屋に戻っていたのは見たところ、六花にかけられているタオルケットを持ってくるためだろう。

 

「何か思い出していたのか?」

 

 爛の言葉にエーデルワイスは頷いた。それ以上詮索をしない爛に少し感謝をしつつ、思い出していたことを話し出す。

 

「ヘルベルティアのことを思い出していました」

 

「そうか。ヘルベルティアか……」

 

 爛は懐かしむように言った。以前にもあったことがある爛にとってみれば、また会って話してみたいという気持ちはあったりするのだが。

 

「少し居すぎました。元はといえば、顔をちょっと見るだけだけだったのですが」

 

 エーデルワイスは立ち上がり、笑みを見せた。爛は彼女と同じように笑みを浮かべる。

 

「それでは、また何処かで」

「あぁ、また会おう」

 

 さよならとは言わない。また会えるからだ。エーデルワイスはベランダから飛び降りる。彼女であれば、別に飛び降りても問題ないだろう。

 

「ふぅ、エーデルワイスなら行ったぞ。ヘルベルティア」

 

 爛の言葉を聞いてきたのか、ヘルベルティアが姿を表した。エーデルワイスに似ており、髪は腰ぐらいまで長さがある。

 

「………………………………」

 

 ヘルベルティアは何も言わない。二人が感じ取っているエーデルワイスがこちらの動きに気づかれない距離まで離れると、ヘルベルティアが消えてしまった。それに、何も感じていない爛は、独りでに呟く。

 

「へぇ……そういうことか」

 

 顔をしかめながらも、考え事を始める爛に、電話がかかってくる。

 こんな時間に誰からかと、生徒手帳を取り、電話に応じる。

 

『ルウです。爛さん』

 

 ルウという名前を聞いた爛は、少し安堵した表情をした。知らないものからの連絡ではないことから警戒を解くが、どうしてこのような時間に電話をしてきたのかと思った。

 

「ルウか、どうした」

『作戦の件ですが、爛さんに頼んであるものは回収しましたか?』

 

 ルウの言葉に表情を変えることもなく、爛は顔をしかめたままで頷いた。

 

「あぁ、回収は済んでる」

『では、作戦について決まり次第連絡させてもらいます』

 

 返事だけをすると、ルウの方から通話が終わる。要件だけ言うのは彼女らしいが。と思いつつ、爛は星が煌めく夜空を見つめる。

 

「さて……七星剣武祭、どうなることやら」

 

 爛の呟きは、誰にも聞こえずに消えていくだけだった。

 

 

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第79話~弱者に化けたもの~

此方の方は先週ぶりといったところですね。最近、前書きに書くものの題材がなくなってきました。あ、あったわ。台風22号が発生してましたね。台風だらけじゃないか。北海道では被害が出ていると言うのに……と思いながらテレビを見ていました。皆さんも台風には気を付けてください。

活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


「え、ステラは来れないの?」

 

 ステラに尋ねる声が、一輝の部屋から聞こえてくる。彼女にはある思いがあるのだ。

 爛が暴走をしたとき、あれほどの強大さを見たことがなかったステラにとって、あれは壁であり、あれを超えなければならない存在になっていた。

 正直にいって、爛本人の力を測りきれていない。それに、あれほどの強大さを持っているのは暴走しているからと言えるとは思うものの、ステラは爛がどこまで進んでいるのか(・・・・・・・)、それが分からないのだ。

 

「えぇ、ごめんなさいイッキ。アタシは強くならないといけないの」

 

 ステラの目は本気だ。それは、ステラの側にいるからこそ、すぐにわかるものだ。口先だけじゃない。それは彼女は絶対言わない。強くなるために、七星剣武祭の団体戦はしないとも彼女は言ってきた。

 

「個人戦で、アタシは来るから。団体戦は、お願い……」

 

 普通ならば受け入れてもらえないはずのお願いだ。だが、それは一輝も分かっている。空いた穴を埋めることのできる者がいることも知っている。それでも、お願いをしてくるということは、自分たちが対等の存在であり、彼女が好き勝手にしていない証拠でもある。

 

「分かった。爛たちには僕から話しておくよ」

「ありがとう……! イッキ」

 

 一輝は快く承諾した。話を聞いていない爛たちには、自分から伝えておくと言うと、ステラは感謝の言葉を贈った。自分の好き勝手に付き合ってくれる相手など、幾らでもいる。でも、ステラは対等な存在に頼むことなどそれほどないはずだ。ステラを大切に扱ってくれる家族やヴァーミリオン皇国の国民たち。しかし、一輝や爛のように大切に思ってくれるものの、対等な存在というものがステラには戦う者の中でいなかったのだ。

 自分が、誰よりも強かったからこそ、国民は讃え、敬われるようになっていた。そんな日常を壊した一輝たちは皇女と別の国の人という関係ではない。ルームメイト、それでいてライバルだ。立場が同じであることは、一輝にとってもありがたいことだ。しかし、政治ではそんなことは関係がない。その事は、分かっている。しかし、政治でも何でもないこの時間が、同じ立場であると分かる時間だ。

 

──────────────────────

 

「へぇ、力をつけたいと……」

 

 後日、爛はステラに呼び出されて、学園の裏に来ていた。爛は目を細め、ステラを見据える。彼女は本気で力を持ちたいと言っているのだ。以前にも黒乃と寧々に師事していたとはいえ、強くなっているところを間近で感じるのはとても嬉しいことだ。出来ることならば、ステラも見たいところだが、簡単に教えるわけにはいかない。元より、あの二人にも簡単に教えていない。

 

「教えてほしいの。アタシには何が足りないのか……!」

 

 真剣だ。彼女の様子に、その一言に尽きてしまった爛は溜め息をついた。

 

「……ステラ……そう簡単に教えると思うか?」

 

 爛の言葉に、ステラは意外だと思ったのか、目を見開いて驚く。ステラはそのところに気が回っていない。

 師事をすることに黒乃と寧々で馴れている爛は、一輝ほど簡単に教えてくれない。一輝は自分よりも技術のない者に師事するため、簡単に教えてくれる。技術を教えるのは同じとはいえ、格というものが違う。ステラは育てることができればとても強くなる。それこそ、師を超える可能性も持っているのだ。

 

「分かってるわ。どれだけ辛くても……アタシは絶対にやってみせる……!!」

 

 気持ちが昂っているのだろう。それだけの気持ちがあるだけでも、嬉しいところはある。しかし、彼女が真の力を引き出せていないのは爛も分かっている。だがそれが、どれほどの強大なものとなるのかが分からない。

 

「その心意気はいい。だが、師事して貰おうとしている相手を間違えているとだけ言っておくぞ」

 

 爛はそれだけ言って、学園に戻ろうと歩き出す。爛の言葉にステラはまだその意味を知らない。

 

「どういうこと? ラン、教えて───」

 

 ステラが言い切る前に爛は鋭い視線をステラを向けた。殺気とも言えるその視線を感じたステラは、息を飲んだ。喉元が冷たい。暖かいはずのところがとても冷たく感じる。

 これが、世界最強の剣士を師に持ち、世界時計(ワールドクロック)夜叉姫(やしゃひめ)に師事していた者の眼光だと。

 

「寧々に勝ってから言ってくれ。勝てなくても、物好きなあいつなら教えてくれるんじゃないのか?」

 

 爛は、断った。

 その瞬間、ステラの目の前が暗闇のなかに放り込まれたようになった。今まで、自分の強さを引き出してくれるのは、爛であると思っていた。いつか、大切なものを教えてくれる存在であると思っていた。

 

「ちょっ、ちょっと、どういうことよ!」

 

 ステラは爛を問い詰める。言葉に込められている爛の思惑はステラには伝わらない。直接、言わなければ伝えられないのか。

 ステラに必要なのは自身の評価を見直すこと。ステラの強大な力は認めつつも、それが本当にステラの力ではないことは知っている。

 

「……お前は本当に、その力で物足りてるのか?」

「えっ……」

 

 爛の質問に、ステラは唖然とする。

 爛の目はステラを射抜いている。今、下手に動けば何をされるのか分かったもんじゃない。

 

「その力だけで満足しているか、と聞いている」

 

 その質問に、ふざけてなどいない。まだまだ伸びることができるステラを生かすことも殺すこともできる爛からすれば、本人の意思で決めるものだと感じている。ステラの可能性はどこまであるかは爛でさえ知らない。

 

「いいえ、満足はしてないわ。寧ろ、足りない」

 

 ステラの回答に、爛は頭を悩ました。その心意気は良いのだが、行き過ぎると自分の身を滅ぼしかねない。爛は、それで後悔をしたことがあった。

 

「……まぁ、満足をしていないのであれば、寧々に教えてもらえ………俺はもう行く」

 

 爛は切り捨てたように言い放ち、学園へと戻っていく。

 後日、ステラは寧々に戦いを挑むも、圧倒的な力の差に敗北。爛に師事してもらうことは叶わず、寧々に師事してもらうことになった。

 爛は七星剣武祭が行われる大阪へと行く。既に六花やリリー、一輝たちは大阪に入っているものの、爛は遅れながら七星剣武祭二日前に着く。

 そこからは、ゆっくりもしていられず、選手たちが招かれ、立食パーティがされる。その催しの参加を余儀なくされている爛は、自身の格好を整える。

 

「まさか、こんなところでこういうのを着るとは……」

 

 爛が着ているのは、巫女服にも似ているものだが、着物のであり、これは宮坂家の正装となる。女性のような見た目をしている爛でさえ、これを見れば誰でも女性だと見間違うほどのものだ。

 

「父さんも母さんも、可愛いからって女性用のものを渡して……でも、男性用って父さんの分しか無かったっけ」

 

 こうなってくると、少し口調を変えなければならないか。というか、何故こんなものを渡してきたと問い詰めたいが、今ここに居るわけではなく、電話で問い詰めたところで意味はない。

 

「まぁ、こういうのも、たまにはいいか」

 

 姿見で自分の着たものに変なところはないかと見るが、特に気になるところもなく、問題はないだろう。

 柱時計の重い鐘の音が鳴る。午後六時、パーティの時間を知らせる音だ。

 

「んー、行くとしよう」

 

 普段の口調がでないように気を付けつつ、いつも通りにしていればいい。

 沙耶香は爛が大阪に行く前に、行くところがあるとだけ言い残して居なくなった。無事だろうかと思うのも兄の性だろう。

 情報上では爛はFランク。出来れば何事もなく終わってほしいものだが、六花たちが居るのだ。何事もなく終わることは別の意味で無いだろう。

 楽しくざわめきが漏れて聞こえている扉を押し開く。

 

「…………………………………」

 

 爛は自分のところに視線を向けてきた者たちを一通り見る。静かだ。とても、沈黙が流れているなかで、爛は一通り見ただけで興味を無くした。何も興味はないという表情を浮かべながら、爛は歩き出す。

 待っていると言われた場所に向かっているなかで、ざわめきが取り戻されている。

 

『『予測不能の騎士(ロスト・リール)』……いや、『鬼神の帝王(クレイジーグラント)』か。凄いな、これは』

 

 その声に爛は気を付けていなかったものに気づく。

 

(やれやれ、気配の方には気を遣っていなかったか)

 

 爛から放たれているのは剣気。それに興味を持つ者はほとんどだ。にしても、肩書きはFランク。興味を持たれることがないだろうと思っていた爛にとって、このような視線が向けられているのは予想外と言ってもいい。だが、これだけの剣気を無意識に放っていたとなると、周りからすれば、弱者に化けたものなのだ。

 どうにも気になるものがある。爛は感じているのは異様な気配。近寄らせないように威嚇しているが、どうも止まる気はないらしい。

 

「この場で暗殺でもする気ですか? 『多々良幽衣(たたらゆい)』さん。バレバレですよ」

 

 後ろを振り向いて、笑みを見せた。爛に気づかれていないと思っていたのか。しかし、爛の鋭さには勝てない。

 

「気づくたぁ、良い勘してんじゃねぇか。お遊びでやっただけだよ」

 

 少女とは思えない口調で話している彼女は、多々良幽衣。爛の記憶が正しければ、反射使い(リフレクター)の少女だ。

 

「今日はお互いにオフだろ? だったら、楽しもうぜ」

 

 彼女は皿を取り、幾らか料理を乗せて渡そうとした。その時、爛の冷徹な視線が刺さる。襲撃の時に向けられていた視線ではない。軽蔑するような視線だ。

 

「何か、するつもりでしょうか?」

 

 わざと、取り繕った笑みを見せた。それはすぐに彼女も気づいた。弄ばれている、その事にも分かっている。しかし、それに気づいていないふりをしながら、皿を渡してきた。

 

「えぇ、そういうのは、刺激的なスパイスはいりませんし、貴方も食べないでしょう? 人に食べさせるのだから、毒をいれるのはどうかと」

 

 爛は受け取った皿から毒の入ったものを取り除く。消えていった。そう判断するのが良いだろう。

 

「今日はオフでしょうに。だからこそ、殺したいんですか?」

 

 皿を置いた爛に対し、多々良は笑みを浮かべていただけだった。

 多々良から感じていたのは悪意。それしか汲み取れていなかった爛は、警戒をしていたのだ。無論、それに気づいている者たちは多い。気づかない方が可笑しいとも言えるほどだった。

 爛は気配で威嚇をする。軽くするのではない。彼女はこの中では強者であることは間違いないからだ。かといって、この中にいる誰よりも強いというわけではない。

 

「ったく、簡単には殺らせてくれねぇのかよ」

 

 面白くないような顔をした多々良は爛と同じように殺気をぶつけてくる。

 それに動じることはない。あれ以上のものを幾つも受けてきたのだ。彼女の殺気は爛を動じさせるのには不十分(・・・)過ぎるのだ。

 

「その辺りで止めといた方がいいよ。多々良」

 

 

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第80話~パーティの裏で~

お久しぶりです。
今回は中々書けなくて、何度か書き直しをしていたら三ヶ月も経ってた!
ということで、チマチマと書いていたものになりましたが、第80話と行きましょう!(タイトルは少し悩みました……)

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


 多々良を止める声が聞こえた。その声を聞いた爛は、顔を強張らせる。

 

「チッ……てめぇか」

 

 多々良は舌打ちをしながら、巴の言う通りにした。少しイラついているのだろう。彼女から揺らぎを感じる。

 

「………………………………」

 

 爛はただ沈黙し、巴を見据える。その瞳には、殺気でも何でもない。感情を消し去った視線を向けていた。

 

「爛………」

 

 爛を見つけた六花が近付いてくる。それに気づいた巴は、笑みを浮かべた。

 

「邪魔者は早くいなくなることとするよ。それじゃあ、良いパーティを」

 

 悪意を感じることはできなかった。もう一度、微かに舌打ちをした多々良も、巴と共に別のところへと行った。

 

「ふぅ………一触即発……ってところだったね」

 

 安堵した息を吐いた六花は、爛の側まで歩み寄る。六花の姿をやっと見ることができた爛は内心、ホッとしていた。

 

「………………………………」

 

 すぐに話そうとしたがっている六花に対し肩をつつき、小さな声で六花に話す。

 

「悪いな。この姿じゃ、いつものように話せないから、敬語になる」

「分かった。爛もいつもの口調に戻らないようにね」

 

 爛の今の姿では、いつものように話すことはできない。六花たちだけであればいつもの口調になっても問題は無い。しかし、他の目があるなかで、いつもの振る舞いは行えない。

 それを理解した上で、爛に接することになる。このパーティだけなので、これさえ終わってしまえば、いつもの爛に戻ってくれる。

 

「………爛?」

 

 一輝が今までとは姿の違う爛に、戸惑いながらも本人かと尋ねてくる。

 

「はい。そうですよ」

 

 一輝の方を向いて、爛は笑みを浮かべる。

 

「……とても綺麗だね。いつも見てきた爛とは思えないよ」

 

 一輝から素直な感想が聞こえた。女性ではないことを知っている一輝だが、今の爛の姿を女性ではないと言い切れる自信が、今の一輝にはないのだ。女性ではないのに、化粧などをする必要がないほど、爛の姿は男性ではなく女性を彷彿とさせる。

 

「私はこのようなパーティには無縁でしたから。これを着るのは久しぶりなんですよ?」

「そう……なんだ」

 

 いつものように接するが、一輝は今までとは違う爛に、少し戸惑いが残っている。

 それを見た爛が、一輝の側に近寄った。

 

「ら、爛?」

「今の私に慣れてもらわないと困ります」

「いや、困るって言われても……」

 

 今の爛の姿は、次にいつ見ることになるのか分からない。もうないのかもしれないが、慣れてもらわないと困るということは、今日の内にそれなりに慣れてないと彼が困るのだろう。

 本当にもう一度、この姿を見るときは来るのだろうか?

 そんな疑問を持ちつつも、一輝は爛の言葉に流されてしまう。

 

「ちょ、ちょっと爛さん? お兄様に何を!?」

 

 爛の行動に驚いた珠雫は彼に尋ねるが、爛はクスクスと笑みを浮かべながら答えた。

 

「だって、このような姿をするのは、余りないのですよ? と、言いたいところですが、これ以上貴方をからかうとステラや珠雫から色々と言われるかもしれないので、この辺りで……」

 

 爛は一輝から離れて、六花たちが居る方へと向かう。

 六花は、爛と一輝の会話に口を出さないようにするために、元々いたテーブルのところへと戻っていた。

 

「むぅ、爛」

「どうしましたか?」

 

 少し不機嫌な様子を見せてきた六花は、頬を膨らましていた。

 その顔も可愛らしいものだが、どうしてそのような顔をしているのかは、爛は分かっていなかった。首を傾げた。

 

「……何でもない」

 

 顔を背けた六花は爛から離れようとするが、爛に肩を掴まれる。

 

「……………何?」

 

 不機嫌な表情をしたまま、六花は爛に顔を向ける。それを見た爛は、少し悲しそうな表情を浮かべた。

 

「そんな顔をしないでください。私が悲しいです」

 

 爛の言葉に、六花は胸に何か鋭利なもので刺されるような感覚に陥った。

 心ない言葉ではなく、本当にそう思って言っている言葉であるから、そのような感覚に陥った。

 

「う~……そんなこと言われたら、何も返せないじゃないか……」

 

 顔を俯かせ、唸っている六花に笑みを浮かべながら見ていると、気になるものを感じた。

 パーティの空気に馴染むわけでもなく、爛を見つめている視線があった。

 その視線に含まれている感情は不思議だ。喜んでいるか、悲しんでいるのか、怖がっているのか。何とも言い難い感情を感じ取った。

 視線の方に顔を向けると、見覚えのある顔が周りでパーティを楽しんでいる者たちよりも、はっきりと浮かんで見えた。

 一番下の妹、沙耶香だった。

 沙耶香は六花たちと共に大阪に行っていた。六花たちが集まっていたテーブルのところには居なかったから、少しだけ心配をしていた爛は、ホッとしていながらも、警戒をしていた。

 爛にとっては疑問でしかないのだ。何故、彼女が周りから浮くような気配をしていたのか。六花たちと居ないのか。

 爛が視線に気づき、此方を見つけたことに驚いたのか、すぐに視線を逸らした。

 

「ちょっと待っててくださいね」

 

 六花に一言だけ断りを入れて、沙耶香のところへと足を進める。

 それが見えたのか。沙耶香は逃げるようにパーティから離れていった。

 一体、どうしたというのか。だが、爛は沙耶香を逃がさない。彼女の気配を追い、彼女が逃げる真意を問い質す。理由によっては、看過できない物となる。手遅れになる前に、打てる手は打っておくに超したことはない。

 

「沙耶香、待ってください」

 

 沙耶香の耳に届くように、爛は声をかける。しかし、沙耶香は足を止めることはなかった。どうやら、無理矢理にでも止めなければ、此方の話を聞く様子は無い。

 足が進むスピードが速い。だが、追い付かないわけではない。爛もスピードを上げ、沙耶香を追いかける。ここで止めなければ、後々後悔することになるだろう。

 

「沙耶香───」

「止めないでッ!!」

 

 沙耶香から怒声とも言えるような声が聞こえた。

 その声を聞いた爛は、足を止めてしまう。

 それでも、追いかけるのを止めるわけではない。沙耶香の肩を掴む。

 此方の話を聞いてもらおうと、爛は口を開こうとした。

 

「止めないで……! お願い………!!」

「ッ、沙耶香……」

 

 涙を流し始めた。涙で声が掠れ、絞り出すような声音で懇願するように言った。

 沙耶香を押さえつけている爛の力が緩んだ。逃げている沙耶香であれば、これを逃す手はない。

 

「ッ!!」

 

 爛を押し退け、走り去っていく。

 沙耶香の真意を問い質すことは失敗に終わった。

 走り去っていった沙耶香の背中を見ながら、爛は悲しむような表情をした。

 今まで、彼女は相談を持ちかけていた。自分で判断もしていたが、爛にも判断をしてほしいと言っていた。それは、大阪に旅立つ前にも。

 嫌な予感が当たるとするならば、七星剣武祭で当たること。既にマッチングは決まっていたはずだ。

 七星剣武祭は、学園ごとの団体戦と、個人戦のトーナメント。個人戦のマッチングはまだ選手には明かされていない。団体戦で特定の選手の長所、短所を見られるわけにはいかないという、運営側の判断だ。

 まだまだ甘いものだと、爛は判断していた。騎士はスポーツマンなのではない。『戦士』であると理解していたからだ。元より、不利な戦いをしてきた爛は、この仕組みに関してはどうでもよかった。

 何れにせよ、命のやり取りに公平も公正もない。文句のつけようがないものに、理不尽な文句をつけることは、七星剣武祭に参加する『戦士』である学生騎士たちを愚弄することになる。

 沙耶香が心配だが、彼女の言葉が爛の胸を刺していた。追いかけることはできない爛は、とある場所へと向かった。

 

「─────────────」

「……おぉ、宮坂くんか。滝沢君が世話になっているようだね」

 

 滝沢君。

 爛を目の前にした男がそう呼んだ。

 爛はこの男を知っている。

 色の入った眼鏡の奥で瞳を細めるロマンスグレーの男を。

 

月影(つきかげ)さん……いや、今は月影総理と呼んだ方がよろしかったでしょうか。それと、今の黒乃の苗字は新宮寺です」

「あぁ、そうだった。今は滝沢くんではなく、新宮寺くんだったね」

 

 あの時から変わっていない。

 その顔も、声も、言葉も、情も、何もかもがあの時から変わっていない。その事に、喜ぶべきなのか、それとも悲しむべきなのか。

 しかし、黒乃からすれば、月影は変わったように見えるはずだ。その容姿や声音は変わらずとも、その瞳に映るものが変わって見えるだろう。

 

「新宮寺くんはどうかな。今でも変わらずに元気かい?」

「元気ですとも。出産も無事に終わったと言っていました。貴方とは結婚式以来、会っていないと」

 

 月影と黒乃は、教師と生徒の関係だった。

 爛はそれを彼女から聞いていた。無論、そこには寧々も居た。教師と生徒の関係が、今は敵同士の関係になっている。黒乃や寧々もこのような形で再会することは不本意なはずだ。

 

「宮坂くんとは、あの時以来だね」

 

 やはり変わっていない。

 だからこそ、同時に恐ろしいとも思えてしまう。

 あの時以来、爛は月影には会っていない。

 

「えぇ、貴方は本当に何も変わっていない。初めて私と会ったときも、私から姿を消したときも。……こうして、不本意な形でありながら、このように再会して会話しているときも、貴方は変わっていなかった」

「さて、本当にそうかな?」

 

 変わっていないからこそ、爛はそう言った。

 爛の言葉に、月影を微笑みを浮かべた。

 

「いえ、少し違いましたか……。貴方とは、あの時以来ではありますが、それは『宮坂爛(・・・)』だけでの話です。もし、私が別の人であれば?(・・・・・・・・)

 

 爛は気になる言葉を口にした。

 別の人であれば(・・・・・・・)、月影と出会うことはできるかもしれない。

 到底、信じられるものではない。不可能なものだからだ。

 

「……まさか、そんなことが可能なのかい?」

 

 月影がその様に言うのは無理もない。

 魔力量がそれを物語るのだ。運命によって決められているものであり、魔力量は変わることはない。つまり、どれだけ変装をしていようが、魔力量を変えない限り、それは不可能なのだ。

 

「さぁ? それはどうでしょうか?」

 

 笑みを浮かべながら、首を傾げ、何のことかとしらばっくれる。

 爛も、月影も、どういう意味なのか分かっている。そして、それを言い合うことでもないことも。爛の言っていることは、不可能でありながら、可能である。それは、爛だけが出来ることだ。

 

「随分と賑やかなものです。これが明後日から戦い合う者たちとは思えませんね」

 

 二人が居たのは、レセプションルームの隣にある喫煙ルームだった。

 月影は何も言わずに頷いた。

 もうここに居る理由はない。

 そう確信して、喫煙ルームから出ようとドアノブに手をかける。

 爛を止めるように、月影が言った。

 

「期待しているよ。……暁の良い引き立て役になってくれることをね。特に……宮坂くん。君と……君の妹に、ね」

 

 やはりそうだったか。

 沙耶香は暁学園の方に入っていたか。

 爛は握り拳を作った。そして、強い口調で、月影に返した。

 

「それはどうでしょうか? 暁学園は打ち砕かれる。私たちの手によって、優勝には至らない。いいえ、至ることなど出来はしません。出来るのであれば、彼女を倒してからにしてもらいたいものです」

 

 キッパリと言い切った爛は、喫煙ルームから出ていった。

 

 

 ーーー第81話へーーー



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第81話~二人きり~

お久しぶりです。モンハンワールドにハマっていて執筆をちょっとずつですがしてた結果、こんな遅れてしまいました。やっぱり、クリスマスとか、あんまりかけない……

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


「ふぅ……」

 

 パーティが終わり、選手が止まるホテルの一室にやって来た爛は一息つく。

 いつもの生徒服に戻っていた爛は、部屋の中へと入った。

 

「おかえり~♡」

 

 中に居たのは六花だった。

 爛の帰りを待っていた彼女は爛の胸に飛び込む。

 

「っと。危ないぞ? こうやって受けて止めてるからいいかもしれないが、受け止めなかったらそのまま落ちるぞ?」

「爛が受け止めてくれるって分かってやってるもん。爛だって、受け止めないっていう選択はしないでしょ?」

「確かにそんなことはしないが……」

 

 苦笑を溢した爛はそのまま六花を抱えて、ベッドの上に座る。

 暫く、六花は爛に抱きついたまま、温もりを感じていた。爛は眉間にシワを寄せて、難しい顔をしていた。それを見た六花は、人差し指を爛の額に当てる。

 

「あんまりそういう顔しちゃダメだよ?」

 

 少し驚いた顔をした爛は、顔に出ていたのかと六花に尋ねると、何も言わずに頷く。

 

「考えるのはいいけど、抱え込まないでね。相談くらいなら聞いてあげるから」

「あぁ……ありがとう」

 

 心配をしている六花の頭を撫でる。

 幸せそうな表情を浮かべ、そのまま撫でられている六花を見た爛は、とても愛しいと感じた。

 爛はあの日から誓っていた。

 六花のこの笑顔を守ると。守るためには、如何なることでもすると。そのためならば、この命を捧げることができる。

 いつのまにか、爛は六花を力強く抱き締めていた。

 

「爛?」

「もう暫く……このままにさせてくれ」

 

 爛の言葉を聞いた六花は頷き、身を委ねることにした。

 十分ほどすると、爛は抱き締めている力を弱めた。

 

「……終わり?」

「あぁ」

 

 六花が尋ねると、爛は頷く。六花も渋々抱き締めるのを止めた。

 

「そういえば、団体戦の相手は何処だろ?」

「まだ見てなかったのか?」

「うん」

「………………………」

 

 何故、対戦相手の学園を知っていないのか。いや、六花らしいと言うべきなのか。

 まぁ、それでも良いか。

 爛はそう割り切った。

 

「初戦は暁だぞ?」

「……嫌だなぁ」

 

 爛が言った対戦相手に、六花は苦笑を浮かべるのは尤もだと爛も思っていた。七星剣武祭、強者たちが集うなかでも、戦闘技術、異能の扱い、戦いに関しては一流といってもいいだろう。

 

「まぁ、何とかなるだろ」

「その辺は変わらないね」

 

 爛の軽い言葉に、苦笑を浮かべていた六花は笑みを溢した。いつもと変わらない爛に、少し安心したのだろうか。

 爛はだけど───と言葉を続けた。

 

「だけど……一輝とかステラは恐ろしいと感じるな」

 

 その表情は苦虫を噛んだような顔になっていた。

 六花は分かっていた。爛が一輝とステラを恐ろしいと思っている理由を。

 魔力の乏しい一輝が、体術と剣術だけでここまで登り詰めるのを間近で見ている。そして、魔力を振り絞る伐刀絶技(ノウブルアーツ)、《一刀修羅(いっとうしゅら)》。生存本能(リミッター)を意図的に破壊し、一分に絞り込むことで何十倍にも身体能力を上げるもの。言葉だけを聞けばただの身体能力強化だが、そこに一輝が持つ照魔鏡が如き洞察眼に加え、超人的な体術と剣術を組み合わせると、凶悪なものとなる。

 逆に、魔力を大量に持っており、十年に一度の天才と言われるほどのステラは、伐刀絶技(ノウブルアーツ)は勿論のこと、幼い頃から磨いてきた剣術。爛が一度、ステラに伝えた真の力。竜───ドラゴンを体現する能力。もし、真の力がこの短い期間に寧々の手によって開花されていたら、元々脅威があるステラは、更に脅威になる。体現する力なために、竜の膂力、生命力を持つことになるはずだ。パワー比べでは確実にステラが勝つことになるほど、彼女は強くなるはずだ。

 

「颯真は?」

「────────────」

 

 追撃かの如く、六花は颯真の名前を口にした。

 名前を聞いた爛は苦笑を浮かべ、六花から視線を逸らした。

 

「颯真は?」

「同じことを言わないでくれ……分かってるから」

 

 ニッコリとした可愛らしい笑顔で六花は、爛の視線を入ると、爛は参ったようにため息をついた。

 

「颯真は……固有霊装(デバイス)が変わっているから、何とも言えない。それに、異能が変わってるように見える」

「爛もやっぱりそういう風に見えたんだね」

 

 難しい表情をしながら、爛は考え込む様子を見せた。異能が変わっているように見える、という爛の言葉に六花も頷いた。

 霊装(デバイス)が変わっているのは魂の在り方の変化によって、対応するように変わるのは分かっているのだが、異能が変わるということはないはずだ。生まれ落ちたその瞬間から、運命によって決められているからだ。

 

「……困ったなぁ」

 

 爛にとって、颯真の情報が少ないのは困るのだ。颯真は爛との戦いにおいて、一番苦戦する相手であると思っているからだ。

 颯真は異能の風と剣術で、ステラほどの魔力量、珠雫ほどの魔力制御が出来るわけではない。

 しかし、颯真には一撃必殺の技がある。油断をすれば即負けてしまうほどの技があるのだ。

 

「顔と言葉が合ってないよ」

 

 六花の言う通り、爛は笑み浮かべながら言っていた。

 

「まぁ、楽しみではあるんだ。全力で戦える相手は、あまり居ないからな」

 

 確かに爛が言ってる通り、全力で戦える相手は少ない。全力を出してしまえば、周りに被害が及びかねないのだ。爛は全力を抑えながら戦わないといけない。

 

「それじゃあ、僕と当たったら?」

 

 爛が考えたくもないことを言った。爛にとって、六花は七星剣武祭で当たりたくない相手の一人なのだ。

 

「そうしたら……俺は……」

 

 爛は六花を傷つけることはしたくない。

 

「そんなに心配しなくてもいいよ。決勝戦になれば、話は変わるけど、ね」

 

 肩を竦めながら言う六花に、その通りだと頷く。

 

「とにかく、今日はもう寝ようか」

 

 爛が提案すると、六花は頷く。

 それぞれ寝間着に着替えて、ベッドへと入る……が、爛があることに気づく。

 

「……あれ、六花って俺と同じ部屋だったか?」

「何言ってるの? 理事長にそう頼んだでしょ?」

「いや、俺の記憶にはないんだが……」

 

 確認をとってみるしかないかと考えた爛は、生徒手帳を開く。

 

「……黒乃より颯真に聞いた方が早いか」

 

 颯真は頼りになる親友だ。割りと仕組みについても詳しいから、部屋の割り振りを知っていても可笑しくはないだろう。

 早速、颯真に電話をかけてみる。

 

『もしもし?』

「爛だ。颯真」

『どうした?』

 

 電話をかけて、颯真が返事をしてくれた。

 すぐに電話に出たことから、暇でもしていたのだろうか。

 

「参加生徒の部屋の割り振りって分かってるか?」

『一人につき一部屋だったはずだ』

「やっぱりそうか……」

 

 一人につき一部屋ということは、六花の部屋もあることになる。

 それを、颯真がしっかりと説明をして否定をしなければ、六花の部屋もあるはずだ。

 

『話の内容から察するに、お前の部屋に六花が居るんだな?』

「あぁ……」

『爛と六花の部屋は同じだ……理事長の話を聞いてなかったのか?』

「連絡は何も……完全に遊んでたなあいつ……」

 

 してやられた。というわけではないが、黒乃のちょっとした悪戯をしだすようになったのはいつからなんだと本人に聞きたいところだ。

 

「まぁいい。ありがとな、颯真」

『礼を言われるほどか?』

「いつも頼りにしている親友だからこそ、ちゃんと礼はしないとな」

『ハハッ、違いない』

 

 爛は教えてくれたことに礼を言うと、颯真は言われるほどではないと思っていたようだ。爛が颯真を頼りにしているということを話すと、颯真は少し笑いを溢して肯定した。

 

『もう時間になるから切るぞ』

「あぁ、おやすみ。颯真」

『おやすみ、爛。いい夢を見ろよ』

 

 寝るときの決まり文句だったかなと爛は颯真の言葉の意味を思い出す。

 寝る前に話すことは無くなってきたからか忘れていたか。と思いつつも、別に覚えなくてもいいと言われたような気がする。

 

「ま、とりあえず、寝るか」

「うん、そうだね」

 

 今度こそ寝ることができると思いながら、爛は二段ベッドの下の方のベッドへと入る。

 

「それじゃあ、僕も寝るね?」

 

 そう言いながら、六花は二段ベッドの上の方のベッドに入る。

 

(……あれ? いつもの六花なら、同じベッドに入るはずだが……)

 

 いつもと違うことに戸惑うが、たまには一人で眠りたいのだろう。勝手な解釈だが、教えてくれなければ分からない。そう納得しておこう。

 

「おやすみ、爛」

「おやすみ、六花」

 

 今日はよく眠れそうだと思いながら、爛は重たくなった目蓋を閉じる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

──────────────────────

 

 ゴソゴソとした物音が聞こえる。

 ぴったりと密着し、背中付近に当たる二つの柔らかいもの。

 この部屋には二人しかいない時点で誰かはすぐに分かる。

 

「ん……六花……?」

「あ……ごめんね?」

 

 六花がベッドの中へと入ってきており、背中から抱きついていた。

 

「一人じゃ、眠れなかったの……」

「……そうか」

 

 罪悪感のこもった声音が耳に届く。

 

「六花……」

「……何?」

「そっちを向きたい……いいか?」

 

 爛がそう言うと、抱き締めている六花の腕が外れていく。

 

「ありがとう」

 

 爛は六花に礼を言うと、背中の方にいる六花に、体を向ける。

 

「…………爛」

「謝らなくていい。別に、一人じゃ眠れなくても怒ることじゃないからな。最近は二人で一緒に寝ることが多くなって───」

「二人一緒じゃないでしょ」

「まぁ、確かにそうだが、こうやって寝ることがおおかっただろう?」

「……そうだね」

 

 二人は一緒に寝ることが多くなっていた。破軍学園に六花が来てから、六花が一緒に寝たいからと、爛のベッドに入ってきているのだ。

 爛はそれを拒んではいない。が、温もりを感じていたいと思うこともあったからか、何も言わずに受け入れていた。

 それもあってか、六花と爛は一緒に寝ることが当たり前になっていた。

 

「……ぎゅー」

 

 六花が爛を強く抱き締める。

 爛はそれを受け入れ、六花を抱き締める。

 

「顔、少し赤いよ?」

「………………………」

 

 爛の顔が少し赤くなっていることに気づいた六花は、爛に尋ねるものの黙り込んでしまった。

 

「ね、教えて?」

 

 六花は更に強く抱き締め、あるものを押し付ける。

 

「そ、その……」

「ん~? 何~?」

 

 爛の顔が更に赤くなっていく。

 爛も言いたくないだろうというのは分かっているが、反応が可愛いからこそ、意地悪をしたくなる。

 

「そ、その胸が……」

 

 そう。六花は豊満な胸を爛に押し付けていたのだ。意図的にやっているから、爛はそれに反応してしまったのだ。

 

「も~、ぎゅーってしてるから当たっちゃうのは仕方ないよ。そんな可愛い反応してると、もっと意地悪とか悪戯しちゃうよ?」

「そ、それは、止めてほしい……」

 

 うぅ~と唸っている爛を見て、笑みを溢す。

 やっぱり可愛い。もっと悪戯をしたくなってしまうのは、爛の反応が可愛いのが悪いと思いながら、爛の頭を撫でる。

 

「あうあうあぅ~~……」

 

 六花に頭を撫でられ、耳まで真っ赤になり、顔を見せられないと俯く爛に、これでもかと撫で続ける。

 

「り、六花ぁ………」

 

 顔が見せられないからか。六花に密着するように抱きつく。

 

(これ以上悪戯したら、爛が怒っちゃうか……)

 

 爛を怒らせるのは良くないと考えた六花は、爛の頭を撫でるのを止めた。

 

「ごめんね、悪戯しちゃって。おやすみ、爛」

「うぅ~……今度こそおやすみ、六花」

 

 二人は今度こそ、深い眠りについた。

 

 

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第82話~作戦会議~

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。
新年、早々の投稿となり、この勢いにのって投稿していきたいです。

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。

追記
文曲学園を見落としてしまっており、書いていなかったのを確認しました。文曲学園の編成を追加しました。また、活動報告にも同じように報告いたします。


「あれ? 黒鉄くんは?」

 

 七星剣武祭団体戦前日、爛たちは刀華の部屋に来ていた。

 暁学園の襲撃の件もあってか、暁学園に加担していたアリスは辞退。代わりとして、珠雫が抜擢された。

 

「七星剣王に呼ばれたそうだ。珠雫もそっちの方に行った」

「問題はないだろう。二人なら、対処が出来るしな」

「確かに、そうだけど……」

 

 六花は苦笑を浮かべた。

 

「それで、作戦会議は団体戦のことですよね?」

 

 リリーが確認を取る。

 その確認に、刀華は頷いた。

 

「……爛だけで良いんじゃないか?」

「いや、そうなると集まった意味がなくなるから止めてくれ……」

 

 颯真が爛だけでもいいという本末転倒なことを言い出す。爛は苦笑を浮かべ、反論をする。

 

「コホン、とにかく、ちゃんと決めていきますからね?」

 

 刀華は咳払いをしながら、話題を戻した。

 

「とはいえ、初戦は暁。ステラがいないこの状況で、最高戦力で行かなければ無理だぞ?」

 

 どこから情報を仕入れていたのかは分からないが、颯真は相手と此方の戦力を既に比較していたようだ。ここまで的確だと、何も言えなくなる。

 

「……となると、爛は確実だね」

「そうですね。この中では、確実にマスターが強いですし」

 

 六花とリリーの判断は肯定をするしかなかった。この中で、最も強いと言えるのは爛だ。

 

「そう言うのは簡単なんだがな……俺だけ出るにしても相手は三人、荷が重いぞ」

 

 爛の言っていることも間違いでない。暁学園は此方の最高戦力で行くしかないほどなのだ。爛だけで戦うにしても、同じリングに三人も敵がいるとなると、流石に爛でも捌ききるには荷が重い。

 

「そうだな。あっちに沙耶香もいる。いくらお前でも、沙耶香を斬るってことは出来ないだろ?」

「…………………………………」

 

 颯真は沙耶香を知っている。暁学園の情報を仕入れていたのであれば、沙耶香が暁学園の方にいるという情報は既に彼に渡っているのは当然だ。

 

「……沙耶香は、やっぱりそっちにいるのか」

 

 爛も薄々だが感じてはいたのだ。巴に操られていたからというのもあるが、七星剣武祭の時は此方に戻ってこれないと。

 

「爛が団体戦に出ることを想定して、メンバーは組まれているはずだ。となれば、沙耶香も出てくる可能性は残ってる」

「あぁ………」

 

 颯真の考えはあり得ない話ではない。十分にあり得る。相手側も、爛の強さを知っているはずだ。六花やステラも、対策をしなければならない相手ではあるが、最優先で考えるのは爛のはずだ。

 ただし、リリーは全く情報がない。情報がない選手には、警戒をしないといけないのは定石。実際の能力を隠す選手も少なからずいるのだ。警戒しないというのは、愚策でもある。

 

「それでも、俺は爛が出ることに賛成するよ」

「え?」

 

 掌を返すように颯真は、爛が団体戦に出ることに賛成の意を言葉にした。

 てっきり、個人戦には必ずでるのだから、奥の手として団体戦には出さない。という手を言ってくると思っていた爛は、素っ気ない声を出す。

 颯真の言葉に、ここにいる全員が頷く。

 

「うん! 爛は強いし、問題はないと思うよ!」

「はい。マスターなら問題なく団体戦、個人戦を突破できるはずです」

「爛くんは頼りになるし、私個人としても、問題はないかな」

「……どうだ? 一輝たちも、賛成してくれると思うけど」

 

 爛は考え込むような仕草をして、何かを決めたような雰囲気を漂わせて頷いた。

 

「あぁ、団体戦に出ることにするよ。ただ……」

 

 爛は少し躊躇う様子を見せたが、首を横に振って───

 

「暁学園との団体戦だけには、俺一人で戦わせてほしい」

 

 とんでもないことを言い出した。

 颯真を除き、全員が驚く。

 

「そんな、ダメだよ! さっき颯真が言ってたよね!?」

「マスター。それは、本当なんですか!?」

「音無くん言ってくれた通りなら、爛くん一人でも危ないんだよ!?」

 

 六花、リリー、刀華から、それぞれ反論が返ってくる。

 爛も三人は反論をしてくると思っていた。

 

「ふざけたことを言っているのかもしれない。でも、これは俺一人で決着をつけたい。三対一だろうがどうだっていい。ただ、俺は───」

 

 爛には最初から決めていたことがあった。それは、暁学園が七星剣武祭に参加すると決まったその日から、これだけは自分の手でやると。

 

「暁学園を、完膚なきまでに叩き潰す!」

 

 爛の鋭利な視線が、冷徹な剣気が、怒りの感情を含んだ言葉と共に周囲に放たれる。

 

「それほど……俺は、奴等が許せない……」

 

 暁学園に、沙耶香を操っていた巴がいる。沢山の人々を不幸へと陥らせた、解放軍(リベリオン)に関係のある者もいるのだ。

 それに、暁学園はほとんどテロリストといっても過言ではない。解放軍(リベリオン)とも絡んでいるのではないか、という噂話まであるほどだ。

 

「沙耶香が出る可能性があるのにか?」

 

 颯真が単純な疑問を爛にぶつける。爛は沙耶香を傷つけることを望まない。傷つけようともしない。だからこそ、手を出さない妹が、団体戦に出る可能性がある以上、初戦を爛だけというのは、無理なのだ。

 

「出た場合のことも考えてないとか言うなよ? そんなこと言ったなら、俺も出るぞ」

 

 颯真は爛が沙耶香を傷つけることはできないということを知っている。何も考えてないというのであれば、沙耶香を倒すことができる誰かを、タッグとして出すしかないと考えていたのだ。

 

「大丈夫だ、そこも考えてある。沙耶香にだけ、幻想形態(刃引き)をするつもりだ」

「結局は、斬るということに変わりはないんだぞ?」

「分かってる。でも、本当に傷つけるよりはいいさ」

 

 颯真の質問に、爛は冷静に答える。

 爛の答えを聞いた颯真は、そこまで答えられるのであれば、問題はないと判断した。

 

「そこまで言えるのなら、俺はもう口出しはしない。良いだろう。初戦は、爛だけで良い」

「でも、ルールには触れないのかな」

「そこは大丈夫。三対三とはなっているが、必ず三人にしろとは言われていない。そこは、黒乃にも確認を取っている」

 

 団体戦はある意味、挑戦という意味もあるのだ。今まで個人戦だった七星剣武祭が、団体戦を採り入れたことで、団体戦と個人戦の戦いが、どのように変わっていくのかも確認する目的で組み込まれている。

 前代未聞の挑戦だ。学生騎士の祭典と言われている七星剣武祭で、団体戦を採り入れることは、情報上での戦いが発生すると考えたのだろう。

 より多くの情報を手に入れたものが、個人戦を突破できる。ある意味、弱者が一方的に強者を狩ることができる可能性がある。油断が命取りとなるはずだ。

 ただ、今回の団体戦はちゃんとしたルールが確立されていない。だから、爛が言った通り、三対一が可能なのだ。

 

「ちゃんと確認を取ってるのなら良いんだけど……やっぱり、爛が一人で戦うのは心配だよ?」

「だからといって、六花と二人で戦うのは、爛に負担が増えるだけだぞ?」

「む~……そう言われたら、言い返せないのが辛い……」

 

 颯真の言っていることは正しいため、六花は頬を膨らませて唸る。

 

「まぁまぁ、心配してくれるのは分かるが、俺一人でやらせてくれ、な?」

 

 爛は優しい笑顔を浮かべ、六花の頭を撫でる。

 

「……分かった。正直に言って、不安なんだからね!」

 

 六花は爛に抱きついて離そうとはしない。

 そんなのを堂々とされては、爛に好意を抱いているリリーも黙ってみているわけにはいかない。

 

「リッカばっかりズルいです! マスター、私にも構ってください……!」

 

 リリーは背中から爛に抱きつき、爛の背中に顔をグリグリさせる。

 

「……対応に困るな……」

 

 颯真は溜め息をつきながら呟く。

 

「……颯真、刀華、編成は任せる。俺は、この二人の甘えん坊の相手をしてるよ」

「「……うぅ~……」」

 

 爛は苦笑を浮かべる。

 六花とリリーは言い返せないのか、唸っていた。

 

「別にいいが、条件はあるのか?」

「できればでいいんだ。六花とリリーが出る試合には、俺かお前のどちらかがいればいい。それさえ守ってくれれば、文句は言わない」

「……心配性だな」

 

 言わないでくれ。自分でも分かってるんだから。

 そう言いながら、爛は六花とリリーの二人を抱えて部屋から出ていく。

 

「二人きりになっちゃいましたね」

「そこで何で敬語になるかなぁ……生徒会長さんや」

 

 爛がいなくなったからか。急に口調が変わってしまった刀華に颯真は頭を抑えた。

 

「ま、さっさと決めよう。時間もあまりかけたくないだろう。七星剣武祭のこともあるし、コンディションを整えておきたい」

「そうですね。早く決めましょう」

 

 颯真の提案に、刀華は頷いた。

 ステラは団体戦には参加しない。ある意味、破軍学園の奥の手でもある。そして、技の引き出しが少ない一輝も、出すべきではない。という判断をした二人は、颯真が集めた選手の資料を元に、編成を考える。

 そして、決まった───

 

 暁学園、編成:爛。

 武曲学園、編成:颯真、六花、刀華。

 貪狼学園、編成:爛、リリー、珠雫。

 廉貞学園、編成:颯真、一輝、リリー。

 禄存学園、編成:爛、六花、刀華。

 巨門学園、編成:爛、一輝、珠雫。

 文曲学園、編成:颯真、リリー、珠雫。

 

 後は準備を整えて、万全にするだけだ。

 

 

 ーーー第83話へーーー



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第83話~七星剣武祭団体戦開始!~

どうも。体調を崩しながらも書いてきました。頭を痛いです。インフルエンザとか流行る時期なので気を付けていきたいですね。皆さんもお気をつけて、自分みたくならないように気を付けてください。

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


 七星剣武祭が始まる日、爛は暁学園戦のために朝から湾岸ドーム近くにある日本国内(ナショナル)リーグが所有する訓練場で体の動きを確かめていた。

 七星剣武祭期間中は開放されており、選手たちはここを使うことができる。

 

「…………………………………」

 

 己の固有霊装(デバイス)である刻雨を握り、基本的な動作を確認していた。

 唐竹割り、片手水平、片手袈裟、片手逆袈裟、水平、袈裟、逆袈裟───斬るという一つの行動に全神経を集中させてイメージトレーニングをしながら体を動かす。

 理想の動きを頭の中でシミュレートし、再現する。しかし、理想と現実とは違うもので中々思うようには行かない。少しでも理想の動きになるようにと、神経を尖らせて動いている爛の額には汗が滲み出ていた。

 確認を終えたのか。爛は丁寧な手付きで刻雨を、顕現した鞘に収める。

 

「ッ……ハァ……ハァ……」

 

 基本的な動作を確認しただけなのに、爛の額には大量の汗が流れていた。

 暫く床に正座をしたまま荒くなっている呼吸を整えるために深呼吸を繰り返す。ただ呼吸を整えるだけが爛じゃない。この瞬間でも、七星剣武祭団体戦の開幕戦ともいえる暁学園戦のために極限まで牙を研ぎ澄ませる。

 何しろ、七星剣武祭は油断ならぬ戦い。個人戦で一度でも負けてしまえば一輝やステラ、颯真とも戦うことができない。それはあってはならないことだ。無論、爛とて負けるつもりはない。全力でやるだけだ。

 呼吸を整え、続きを始めようと刻雨を持って立ち上がる。それと同時に訓練場の扉が開かれた。扉を開いたのは誰なのか、大体の予想はつけていた……が、どうやら予想外の人物が、爛の元へと訪れていた。

 

「励んでいるな、爛」

「頑張ってるね」

「えっ……………!?」

 

 思わず困惑の声を出す。来るとは思っていたが、まさかここまで早く来るとも思っていなかった。

 何故なら、ここに来た人物は、爛が知らないとは言わない人物であり、関係の深い者だからだ。

 

「父さん、母さん……!?」

 

 ここに来たのは、爛の父親と母親だ。

 予想外の来客に爛は困惑の色を隠しきれていない。

 慌てている爛に、二人は思わず笑いを溢す。

 宮坂双木と宮坂華楠。この名前を聞いて、知らない者は居ないはずだ。それほどの有名人であり、実力者であることも。

 

「どうして、ここに?」

「それはもちろん爛や六花ちゃん、颯真くんの姿を見るため。テレビとかで見るよりも実際に見た方がいいもの」

「まぁ、あとは……華楠が……な?」

「……………………?」

 

 意味の分からない爛は首を傾げる。しかし、双木の言ったことは、すぐに分かることになった。

 それは、華楠が次にとった行動にある。

 

「ら~ん♪ 会いたかったのよ~♪」

「ちょっ、待って……!」

「ダ~メ♪」

「いや、汗かいてるから!」

「別にいいのよ~。私はそれでも」

 

 汗をかいていることを気にせず、華楠は爛に抱きつく。親として子を思う気持ちもあるだろうが、ここまで息子にデレデレになる母親は居たものかと思う。それも、夫の目の前で。

 

「華楠、爛は開幕戦があるんだ。その辺にしておけ」

「分かったわ。それじゃあ、頑張ってね~♪」

「うん。頑張るよ」

 

 双木と華楠は、爛の様子を見に来ただけのようだ。しかし、お陰で体が少し軽くなったような気がした。

 嵐が去ったので続きを始めようと刻雨を握って、同じように基本的な動作をし、次の確認をしようと体を動かす。二人に会ってからか、体に変化があったようだ。

 

「……どうやら、緊張していたみたいだな」

 

 体が本当に軽くなっている。大会は初めての経験でもあり、強張っていたようだ。

 様子を見に来てくれた両親に感謝をしつつ、爛は体を動かす。特訓の最中は体が軽くとも、実践で元に戻っては意味がない。リラックスをして団体戦に挑むとしよう。だが、リラックスを強要してはいけない。逆に疲労してしまうからだ。

 

「………ふぅ。これで、終わりだな」

 

 やるべきことを終えた爛は霊装(デバイス)の顕現を解除し、持ってきていたタオルで汗を拭く。

 団体戦の開始までもう少し。最高のコンディションで白星を取り、一輝たちの士気を上げていきたいところだ。

 

「………………………………………」

 

 彼女たちが心配だ。いつも隣にいるのが当たり前だったからか、誰もいないと少し寂しさを覚える。とはいっても、この時間と試合の時だけだ。出場しない試合では彼女たちが甘えてくるため、それを相手にすることになるからだ。

 今は自分のことに集中しよう。でなければ、自分を信じて一人にしてくれた彼女たちに顔向けできない。

 

「……よし、行くとしよう」

 

 後は出番を待つだけとなり、爛は訓練場を後にする。

 

「……あ、爛」

「六花? どうしてここに……?」

 

 訓練場を後にした先にいたのは六花。ずっと爛を待っていたようでどうしてここにいるのかと爛は尋ねる。

 すると、何かを躊躇うように顔を俯かせ、暫くしては爛の顔色を窺うように視線を向けるものの、すぐに顔を俯かせてしまう。

 

「どうした? 何言いにくいことがあるなら詳しくは聞かないが───」

「そうじゃないんだ。……ちょっとね、自分の体に───」

 

 違和感があるんだ。

 そう言った六花の表情は不安の色に染め上げられていた。どういうことなのか、爛にも分からない。ただ、六花が感じている違和感は少なくとも影響を与えるものだとしたなら……そう考えるとどうやって動けばいいのか。既に爛の中で答えが出ていた。更には、その違和感の正体を直感だが察している様子を見せた。

 

「ちょっと良いか?」

「う、うん」

 

 爛は六花の体を触る。違和感の正体を察したとはいえ、直感的なものだからこそ、確信を得たいという爛の考えもある。

 そして、確信を得ることが出来たのか。爛は触れるのを止めた。

 

「何か……分かった?」

 

 様子を窺うように尋ねてきた六花に爛は微笑む。

 

「一言で言えば、六花は覚醒した」

「えっ……!?」

 

 何をいっているのか分からない。頭が一瞬で真っ白になった六花は、爛の言葉を意味を理解しながらもどうなっているのかが分かっていないのだ。

 

「頭が追い付かないのは分かる。俺だって気づけなかった。どうやら、あの時に覚醒したみたいだな」

「あの……時……? いつのこと?」

 

 六花の頭の中は未だに真っ白。しかし、思い出したかのようにとある記憶が鮮明に甦る。

 青い空、緑の大地、隣にいるのは見覚えのある少年。少女はこの幸せを失いたくないと願った。その少年と少女は、きっと───

 

「あ───────」

「思い出したか」

「思い……出したよ」

 

 笑みを浮かべた六花を見た爛は嬉しそうに頷いた。

 そして、六花は覚醒をした理由さえも、理解することかできた。

 

「……説明は不要だな」

「……うん。行こう、皆が待ってる」

 

 爛と六花は二人並んで歩き出す。

 

──────────────────────

 

『闘争は悪しきことだと人は言う。それは憎しみを芽生えさせるから。

 平和は素晴らしきことだと言う。それは優しさを育むから。

 暴力は罪だと人は言う。それは他人を傷付けるから。

 協調は善だと人は言う。それは他人を慈しむから。

 良識ある人間ならば、そう考えるのが当然のこと。

 

 しかし、しかしそれでも人は、強さに憧れる(・・・・・・)

 

 誰より強く! 誰より雄々しく!

 何人も寄せ付けない圧倒的な力!

 自分の自己(エゴ)を思うままに貫き通す、絶対的な力!

 憧れなかったと誰が言えよう!

 望まれなかったとどの口で言えよう!

 この世に生まれ落ち、一度は誰もが思い描く夢、

 いずれはその途方もなさに、誰もが諦める夢、

 

 その夢に、命を懸け挑む若者たちが今年もこの祭典に集った!!

 

 北海道『禄存学園』

 東北地方『巨門学園』

 北関東『貪狼学園』

 南関東『破軍学園』

 近畿中部地方『武曲学園』

 中国四国地方『廉貞学園』

 九州沖縄地方『文曲学園』

 そして───新生『日本国立暁学園』

 

 日本全国計八校から選び抜かれた精鋭たち!

 いずれも劣らぬ素晴らしき騎士ばかり!

 されど、日本一の学生騎士《七星剣王》になれるのはただ一人!

 ならば、その剣をもって雌雄を決するのが騎士の習わし!

 

 若き高潔なる騎士たちよ。

 時は満ちた!この一時のみは、誰も君たちを咎めはしない!

 思うまま、望むまま、持てる全ての力を尽くして競い合ってくれ!

 

 ではこれより、第六十二回七星剣武祭を開催します───ッッッ!!』

 

 演出に呼応するように、会場は一気に盛り上がる。

 そんな中、悲しむように爛は周りを見渡していた。

 

「力……か……」

 

 『力』という言葉に反応した爛は、自分の右手を見つめる。その視線には怒りの感情が含まれていた。

 

「……暴力だろうが何だろうが結局、力は身を滅ぼす。人も自分も大切なものも……失うんだ。そして……力を持ったことに絶望する」

 

 力を持っていなければ世界は安定しない。力を持つものが居なければ統制は出来ないのだ。力を恨みながらも力に固執するしかない自分に、爛は吐き気がするほど殺してやりたくなる気持ちに苛まれる。

 それでも、力を持たなければならない理由があるのだ。

 

「爛? もうすぐだよ?」

 

 六花が暁学園戦を控えている爛に声をかける。

 

「ん、もうそんな時間か……ありがとう。行ってくる」

 

 爛は六花の頭を撫でると、控え室へと向かう。

 団体戦の開幕戦は破軍学園対暁学園となっている。

 爛一人に対して、相手は三人であることは確実。名誉を必要としていない勝利だけを求める暁学園。

 爛のように感情で動くことはない。颯真は既に気づいているのだ。爛が一人で戦おうとしている理由は理由もあるが、感情もあるのだと。

 

「………………………ハァ」

 

 溜め息をつく。

 切り替えよう。今は力のことを気にするのは止めよう。戦いはそれに頼らなければならないのだから。

 控え室にアナウンスが流れる。どうやら、試合の開始時間になるようだ。

 

『控え室の選手にお知らせします。団体戦、第一試合を開始いたします。破軍学園代表選手、暁学園代表選手は入場ゲートへお進みください』

 

 さぁ、始めよう。

 待ち続けていた戦いを。

 

 

 ーーー第84話へーーー



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第84話~対決! 暁学園戦~

投稿スピードが落ちてますね……まぁいつものことですけどね。できるだけ投稿ができるように頑張っていくのでよろしくお願いします。

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


『皆さん、お待たせしました! 七星剣武祭団体戦の開幕です! 今回の七星剣武祭では団体戦に挑戦しています。今回の反響次第では、次回にも続いていきます。

 ある意味、気になる試合にもなるはずです。開幕戦の選手に出場してもらいましょう!』

 

 実況の飯田アナウンサーの声と共に、入場ゲートの柵が引き上げられる。

 団体戦に挑む選手が入場ゲートから現れた。

 

『赤ゲートから姿を現したのは、新生・日本国立暁学園の選手たち! 『不転』多々良幽衣選手、『魔獣使い(ビーストテイマー)』風祭凛奈選手、『血塗れのダ・ヴィンチ』サラ・ブラッドリリー選手です! 暁学園の力量を測りかねている我々からすれば、団体戦は情報を集めるのに適していると言えるでしょう! 一体どのような力を見せつけ、存在感を引き立たせてくれるのでしょうか!』

『暁学園の選手たちは相当な実力者であることは間違いないはずです。相手側の学園にも頑張っていただきたいですね』

『それでは、暁学園の選手たちの相手をする選手が今入場してきました』

 

 リングに向かって歩いている少年に、観客たちは視線を向ける。

 

『青ゲートから出場してきたのは、破軍学園の選手! 団体戦だというのに一人で暁学園の選手たちを相手にするという根性を持って出てきたこの男! 『鬼神の帝王(クレイジーグラント)』宮坂爛選手!』

『破軍学園の選抜戦を見る限り、伐刀絶技(ノウブルアーツ)の引き出しは多く見受けられます』

 

 三人に対して一人。団体戦と題されていながらも、一人を選んだ少年、爛の表情は余り良いとは言えない。観客や学生騎士たちからすれば爛の行動は異常とも思える。とはいえ、三人チームというルールにはされていない。

 

『どう言えば良いのでしょうか。宮坂選手、余り良い表情とは言えませんが、それほどこの試合に集中しているということでしょうか』

『何とも言えませんね。仰る通り、集中しているとも言えますし、何か思いを馳せていることも考えられます』

 

 爛の顔に浮かんでいる表情について話している実況と解説に合わせ、カメラの方も爛の表情を映すためにアップにしている。

 確かに、何とも言えない表情となっている。この表情の理由を知っているのは本人のみ。

 

「何ともまぁ……戦いにくい人たちを出してきたねぇ……」

 

 面倒だと思いながらも団体戦で相手となる暁学園の選手を見て苦笑を浮かべた。

 戦いにくいと言った理由は相手となる選手たちにあった。爛が一番戦いたくない女性ということ。破軍学園を襲ったとはいえ、特に何もせずに退いていた者たちだったこと。

 

「一人で出てくるたぁ、良い度胸してんじゃねぇか。あの時と同じだな」

「あの時と同じではあるが……今回の俺はあの時とは違う」

「ギギギ。確かにあの時とはちげぇな」

 

 相手と軽く会話を済ませるがどちらも警戒を解くことはない。どちらも相手の顔色を窺うようにスタートラインに立つ。

 

『では! これより七星剣武祭団体戦第一試合、暁学園 対 破軍学園の試合を開始します!

 Let' s Go Ahead(試合開始)!』

 

 試合開始の合図が鳴り響くと同時に、暁学園側の選手全員が霊装(デバイス)を展開する。それに対し、破軍学園側の選手、爛は霊装(デバイス)を構えることなく、ただ瞼を閉じていた。

 

(舐めてんじゃねぇぞ……!!)

 

 多々良は戦意を持ってない様子を見せつけている爛を見て、苛立っていた。しかし、既に試合開始の合図は鳴り響いている。容赦をする必要はない。

 

(シャ)ァァァァァァ────!!」

 

 迷いのない突撃。チェーンソー型の霊装(デバイス)、地擦り蜈蚣の刃を引き摺り、リングを砕きながら爛に接近する。

 爛は瞼を開け、格闘術の構えを取っていた。

 

『物凄い勢いで宮坂選手に突撃する多々良選手! 対して、宮坂選手は霊装(デバイス)を展開することなく格闘術の構えを取っています!』

霊装(デバイス)を展開しないのは何かしらの意図があるはずです。もし意図があるのであれば、このまま真正面から突っ込めばとんだ返り討ちに合うはずです』

 

 実況席で話している内容は既に多々良の頭の中に描かれている。どんな意図があってもそれを崩すことはできる。今、爛は多々良に気を取られている。背後から一気に崩すことができる。

 とはいえ、まだ攻撃もなにもしていない。攻撃をして此方が脅威であることを目の前の男に示さねば崩すことはできない。

 

「ギャギャギャァ────!」

 

 力任せに無茶苦茶に己が思うままに振るう。技も優雅も関係ない子供がチャンバラ振るうような太刀筋。

 だが、チェーンソーという凶器であれば話は別。回転する刃は技を必要としない。

 

『多々良選手、防御を度外視して攻めまくる! チェーンソーを振り回し、手数で攻めていく!』

 

 力任せとはいえ、乱舞のように振るわれてしまえば応戦せねばならない。

 それでも爛は剣を抜こうとはしない。

 

(アァ───?)

 

 多々良は違和感を感じた。格闘術の構えを取っていた爛は多々良の攻撃を避けながら、太刀筋を全て目で追っていることを。爛の視線は常に多々良の地擦り蜈蚣の回転する刃に行っている。多々良自身の行動を見ていない。

 

(とんだことをしてくれるじゃねぇか!!)

 

 完全に多々良にエンジンがかかった。それでも、爛は速度が増していく刃を落ち着いて、冷静に次々と避けていく。

 

「あっ───」

 

 爛が声を出す。予想外のことが爛に起きたのだ。後ろに逃げる力が甘かったのだ。これでは後ろに逃げることはできない。完全に多々良に捕捉された。多々良の次の一撃は霊装(デバイス)を即座に展開して防ぐしかない。対して、多々良はそれよりも速く刃を振るえば良いだけ。これで致命傷を負わせることができたら、勝利へと一気に近づく。

 

「もらったぁぁぁぁ───!」

 

 力を込めて踏み込み、地擦り蜈蚣の間合いに爛を入れる。ここで振るえば良い。それで勝負が決まる。

 そう確信した多々良は容赦なく地擦り蜈蚣を降り下ろした。

 もう間に合わない。爛は斬られるだけだ。これで終わり。呆気なく終わってしまうと誰もが確信したその瞬間───

 

「ガッ───!?」

 

 多々良が吹っ飛ばされた。真っ直ぐに飛ばされ、リングの上を砕きながら転がる。

 

『こ、これは一体どういうことでしょうか!? 多々良選手の刃は完全に宮坂選手に届いたと思った瞬間、逆に多々良選手が吹っ飛ばされた!』

 

 一番焦っているはずの爛は、狙い通りと言わんばかりに、平然と立ち尽くしている。

 何からある。誰もがそう考えた。だが、誰も爛がとった行動が分からない。

 しかし、どういう原理なのか。それが分かっているのはその技を知っている者だけ。

 

「なるほど、《空蝉(うつせみ)》か」

 

 颯真は多々良が吹っ飛ばされた方向と砕かれているリングを見て呟いた。

 

「どういう原理なんですか? 見る限りではカウンターのようですが」

 

 行動が見えていても尚、原理は分からない。珠雫は頷いていっていた颯真に尋ねる。

 同じように一輝たちもリングの様子を見ながら、颯真の声に耳を傾ける。

 

「カウンターで間違いない。違うところと言えば、相手の力を三倍以上にしてぶつけているというところかな」

「三倍以上………!?」

「赤い彗星かな?」

「それは元のスペックがちゃんと出せているから、他と比べると三倍なだけで元のスペックの三倍ってわけじゃないから違うと思うぞ」

「あ、そっかぁ」

 

 三倍以上に引き上げるカウンター。《空蝉(うつせみ)》はステラとの相性はとても良いだろう。元々のパワーが桁違いのステラの剛剣を三倍以上に引き上げ、そのまま打ち込む。防いでも場外に吹き飛ばされる可能性もある。

 余りの出来事に観客たちもどよめいていた。実況席も困惑している。

 唯一、爛や颯真以外で気づいたのは、直接爛から攻撃を貰った多々良だけだった。

 

「てめぇ……何しやがった」

「お前は分かっているだろうに。答える必要性があるか?」

 

 爛は弄ぶように笑みを浮かべた。多々良も分かっている。どのようにして自分を吹き飛ばしたのか。

 

「三倍以上に引き上げて吹っ飛ばすなんざ、道化(ピエロ)でも考えねぇぞ」

道化(ピエロ)じゃないから考えられるのさ。それじゃあ、今度は此方から行くぞ」

 

 爛は霊装(デバイス)を展開する。

 刻雨を構える。力強く踏み込み、リングを砕くほどの力で駆ける。

 

『は、速い! 宮坂選手、リングを砕くほど力強く突っ掛けて駆け出した!』

 

 一歩リングにつけるだけで砕けるほどの力。しかし、裏を返せばそれは無駄な力が多いのだ。

 真っ直ぐに駆ける爛に対して、三人で対抗する。

 

「竦めェェ! 《獣王の威圧(キングスプレッシャー)》!!」

「ゴォオオオオオオオオオ────!!!」

「───────────」

 

 威圧により足を止められる。

 だがそれは避けることをしようともしなかった爛にはその威圧はあってないようなものだ。

 止められたのは一瞬。誰にも把握できないコンマの世界だけで《獣王の威圧(キングスプレッシャー)》を乗り越える。

 コンマの世界で乗り越えられた威圧は小さな隙にすらならない。乗り越えられたというよりかは、相手にされていないという想像が相手の脳内を過る。

 青電を刀に纏い、ありとあらゆる物を両断する雷の刃となる。

 

「《天下無双の剣の使い手(ヤマトタケル)》」

 

 見ているだけで感電してしまうかのような青電は、降る下ろされると同時にその出力を更に上げる。

 狙うはただ一人、機敏な動きを可能とする少女───風祭凛奈。

 しかし、モーションがでかすぎる技では簡単に避けられてしまう。《天下無双の剣の使い手(ヤマトタケル)》は一刀にのみ宿すことができる絶対破壊の青電。無残にも空を切ってしまえば、大きな隙ができてしまう。

 横に回避されたと同時に、反撃をする三人はそれぞれの技を繰り出す。

 

「《色彩魔術(カラー・オブ・マジック)》───赫炎のファイアーレッド」

「《獣王の行進(キングスチャージ)》!!」

(シャ)ァァァァァァァ!!!」

 

 凛奈と多々良の攻撃。爛は壁に打ち付けられる。追撃として、ペンキバケツをぶちまけたかのような量のインクを爛にぶつける。

 そのインクは、たちまち爛とその周辺を火だるまにした。壁が溶解した勢いで、壁の素材が瓦礫となって爛の上に降ってくる。

 

『三人の攻撃が宮坂選手にクリーンヒット! 更には瓦礫が降りかかって姿が見えません!』

 

 審判によるカウントが始まる。十回のカウントの間に戻らねば、場外負けとなる。

 爛が負ける。それはいらぬ心配にすぎない。

 次の瞬間、瓦礫が粉々となって弾け飛ぶ。悠々とした様子で戻ってきたのは───

 

「採点は済んだ。これだけで十分だろう」

 

 スーツのような黒い服を纏い、左右の手に六本もの長剣を持つ爛だった。

 

 

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第85話~対決! 暁学園戦2~

今回で暁学園戦が終わると思った?
残念、終わらないんだな。

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


『な、なんと宮坂選手、あれほどの攻撃が無意味であったかのように悠々とした様子でリングに戻っていきました! 先程までの刀は消え失せ、両手に六本もの長剣を持っています!』

『装いも新たに戦いに臨むようですね。心なしか、彼の表情も変わった気がします』

「まぁ……自分の肉体は晒す気はないし……晒してもなぁ」

 

 あれほどの攻撃をものともせずに戻ってきたことに、会場の温度が上がる。

 三人に対して一人で戦うという大口を叩いている爛にとってこの戦いは負けることなどできない。他にも理由があるわけだが、この団体戦に臨む前、両親がここに来ているのを知った。どうやら、戦いは見ていくらしいので、情けない姿は見せられない。

 

「始めよう……採点は既に終わってる」

 

 審判が試合続行の合図を出すと、爛が即座に右手の長剣を全て投げる。

 防がれるか避けられるか。何れにせよ、それは爛の計算の内だ。次の手札を切る。爛は小さく呟いた。

 

「───告げる(セット)

 

 空中に長剣を展開する。

 逃げ道を潰すように展開された長剣を放つ。その数、実に三十本。魔術行使が成されていない長剣程度であれば簡単に防げるがこの長剣は違う。

 防ぐことができないことを察したのか。避けることに専念をする。それを確認できたのはたった二人。もう一人は伐刀絶技(ノウブルアーツ)で既に長剣が届かないところにいる。

 

「甘い、甘すぎる。ドロドロに溶かされた砂糖を果物につけて食べるほど甘い」

 

 そんな詳しく言わなくても良かったかと思いながら、爛は魔術行使を加える。

 

「───告げる(セット)……殺せ(オン)

 

 三十本もの全ての長剣が微かに赤く光る。魔力を纏い、二人の少女に襲う。もう一人の少女は爛が既に捕捉していた。二人の少女を襲わなかった長剣はリングに突き刺さろうとしていた。

 

「チッ────!」

「くっ────!」

 

 ギリギリの隙間を掻い潜って避けきった二人は、彼女がこの場から居なくなったことに気づいた。

 

「───────────」

 

 爛は何も言わず、リングのあちこちを見ている。

 動いている。それに気づいているからだ。

 突き刺さろうとしていた長剣はリングをすり抜け、伐刀絶技(ノウブルアーツ)を使って潜んでいるサラに向かって飛んでいる。

 

「───……来たか」

 

 爛は眉一つ動かすことなく何かを待っている。

 そして、爛が見据えているところから、姿を隠していた少女───サラがリングから出てきた。

 掠り傷すら負っていないところを見る限り、全て避けられたと見える。

 

「───何なのだその剣は」

 

 凛奈が尋ねてきた。爛の左手に握られている三本の長剣と凛奈たちの周りに突き刺さっている長剣のことだ。

 爛はこれに答える義務なんぞないが、教えてやったところで苦になるものでもない。

 

「───『黒鍵(こっけん)』というものだ。先端の方が重さがあってな。斬るよりは投げる方に適している。魔術行使をしやすいように改良して貯めておいたものだ。使ったところで精製が出来る以上、作り手の魔力の量に依存する使い捨ての護身用の剣と言ったところか」

 

 西洋の剣のレイピアの類いに見える黒鍵は細身の刀身を持つわけではなく固い上に太いという、可笑しな改良をしているのだ。

 素人でもそれなりに扱えるように。というコンセプトで精製をしていた爛は達人だろうと扱える黒鍵を作り上げた。

 

「四年間の修行中に身に付けたものだ。奇襲にも反応できるように、展開するまでの時間で殺されないようにするために作ったものだったんだが……今では色々と出来るようになっていてな。無意識の内に作れるようになったお陰で、今では三十万本ほど黒鍵を持っている」

 

 三十万本という想像もつかないような量の黒鍵を爛は作り続けていた。毎日毎日、飽きることなく作り続けた結果がこれだ。

 

「それに、可笑しな改良を繰り返していたことで様々な用途に使えるようになったのさ。魔術行使も三回使えるようにしている」

 

 爛は黒鍵を投げた。それはそれぞれ三人の前に落ちた。まるで使っても構わんというように黒鍵の柄が上になっていた。

 

「好きにしろ。壊したところで何も変わらん」

 

 挑発のつもりか。爛はまた新しく三本の黒鍵を握る。しかし、ゆっくりと此方に進み続けている。

 

「チッ───おらぁ!」

 

 多々良が黒鍵を投げる。頭を狙った投擲。真っ直ぐに飛ぶ黒鍵を、爛はそれを左手で人差し指と中指で挟むようにして黒鍵を取る。

 

「先ずは一本」

 

 足を止めることなく進み続ける爛。

 

「我を忘れてないか? 《獣王の威圧(キングスプレッシャー)》!」

 

 威圧が飛んでくる。爛はこれを待っていた。多々良だけに的を絞って歩いていたが、黒鍵ではなく自分の伐刀絶技(ノウブルアーツ)を放ってくるタイミングを待っていた。

 

「────────────」

 

 何もない虚空の目が『魔獣使い(ビーストテイマー)』が操る黒いライオンに向けられる。

 底が見えないような絶望を見せつけるかのように、吸い込まれていきそうな黒い目を向ける。

 そして、警告した。

 

 ───ここから先は死だぞ───

 

 一歩でも踏み込もうとした瞬間、お前は死ぬぞと威圧する。その威圧は、《獣王の威圧(キングスプレッシャー)》すら押し返して更なる威圧をぶつけられる。

 

「~~~~~~~~~~!!??」

 

 自分すらも超越する相手を見せつけられた野生の獣は、死から逃れるためにはどうするのか。

 誰もが予想できることだ。この続きはいらない。

 主人を振り落として尻尾巻いて逃げる獣を追い討つほど、爛も非情ではない。ただ、手札を持っている可能性のある主人は違うが───

 黒いライオンが居なくなったことにより、攻撃も防御もできない凛奈に左手に持っていた黒鍵を投げる。その剣は凛奈の体を貫き、意識もそこで終わる。

 

「───やはりな」

 

 他に手札がなければの話になるが。

 此方に返ってくる剣はないというのに。黒鍵が爛の心臓目掛けて飛んでくる。それを難なく左手でもう一度、取るものの。

 意外なのは、それをやって来た者だった。

 

「いやはや、意外だな。《隷属の首輪》は人にも効果があるんだな」

「……夢にもおもわなんだぞ。黒の騎士よ。よもや余興で我が漆黒の右腕(マイフェイバリットアーム)、暗黒の力、邪王呪縛法の恩恵を一身に受け、罪の色にその身を染める暗き刻印の騎士の力をみせることになるとはな!」

「お嬢様は『たすかったよ! ありがとうシャルロット!』とおっしゃっています。いえいえ、なんのこれしき。私はお嬢様の専属メイドにして、《剣》であり《盾》なのですから」

「……その発言、何とかならんのかねぇ」

 

 これまた、面倒な敵が居たもんだと思いながら苦笑を浮かべる。エプロンドレス姿の少女が凛奈の目の前にいる。彼女こそ、凛奈の真打ちだろう。

 

「にしても、真打ちさんのご登場か」

「シャルロット・コルデーです。以後、お見知りおきを」

「どうもご丁寧に……なるほどなぁ。『彼女』と同じ名前を持つのかぁ……」

 

 爛は考え込むように空を見る。

 暫くしてから、また苦笑を浮かべながら言った。

 

「シャルロットじゃあ、俺の知っている人と一緒になってしまうんでね。コルデーで構わないか?」

「どうぞ。お好きなように」

「そうかい。それは助かる」

 

 シャルロットという名前には縁がある。『彼女』がその名前だったから、そっちの顔が思い出されるのだ。

 

「っ───!」

 

 持っていた四本の黒鍵を投げる。狙うは凛奈。それを見てシャルロットの能力は何なのか。それを判断する。それぞれ、眉間、胸、腕、足の一本ずつ。

 

(それでどうするのか。なにもしなければ当たるぞ)

 

 どのような行動をとるのか。

 

「咲け。《一輪楯花(いちりんじゅんか)》」

 

 掌を広げただけで四本の黒鍵を弾いた。

 本当に面倒な敵らしい。とはいえ、これで面白くなるもの。楽しみでしかない。

 

「障壁使いか、面白い」

 

 笑みを浮かべた。楽しめる相手が居たのだと思いながら、爛はシャルロットの方に歩き出した。

 

「───告げる(セット)

 

 数百もの黒鍵を展開する。しかし、爛が持つ黒鍵の数あるなかの一握り。とはいえ、魔術行使が可能なのだ。

 

「───殺せ(オン)

 

 黒鍵がシャルロットと凛奈に襲い掛かる。

 魔術行使による一斉掃射。展開し、黒鍵を飛ばすだけで魔術行使を一回使っている。残り二回。

 

「咲け。《一輪楯花(いちりんじゅんか)》」

 

 同じようにシャルロットは凛奈を障壁で守る。それは既に分かっている。その障壁は今の爛には壊せない。《一輪楯花(いちりんじゅんか)》を使い続けるのが正解かと言われれば、それは違う。黒鍵は三十万本という数を誇り、魔術行使を三回使うことが出来る。例え弾かれたとしても、魔術行使も含めれば、三回相手に飛ばすことが出来るのだ。

 自分の手で黒鍵を飛ばせば四回になる。その間に、必ず《一輪楯花(いちりんじゅんか)》の展開ができなくなり、魔力が底を尽きる。

 そこまでの確信を持てているのは、黒鍵に宿っている魔力だ。黒鍵は微かに魔力を纏っている。それは既に、シャルロットも気づいているはずだ。その魔力は、他者の魔力を食らうということも。回数が増せば増すほど、黒鍵は強さを持って牙を向く。

 爛がシャルロットに夢中になっていると確信した多々良とサラは動き出す。

 

「そっちばっかに夢中になってんじゃねぇ───!!」

 

 降り下ろされるチェーンソーに対し、爛は既に動いている。

 バックステップで多々良から離れ、黒鍵を投げる。数は三本。左手に持っていた黒鍵を投げ、爛本人は多々良に突撃。残り三本の黒鍵を右手に持つ。

 地擦り蜈蚣の刃は空を切り、迫る三本の黒鍵が多々良の視界に映る。

 避ける、防ぐといった行為は魔術行使がなければ不可能な体勢だが、多々良はそれを可能とするものを持っている。

 それは───《完全反射(トータルリフレクト)》。

 全ての攻撃を跳ね返す。文字通り、完全反射をする。黒鍵をこれを使うことで弾き、爛に対処する。

 

「ケッ───!」

 

 《完全反射(トータルリフレクト)》により、弾かれた黒鍵はリングに突き刺さる。ただし、あり得ない軌道によって突き刺さったため、爛の魔術行使が絡んでいるのは明らか。次に爛が打つ手は何かと思考しながら、横薙ぎで一閃する黒鍵を同じく《完全反射(トータルリフレクト)》で弾く。

 弾かれたことに驚くことなく、爛は弾かれた勢いをそのまま蹴る力に変えた。体を捻らせ、踵落としをするように横薙ぎで右足を振りきろうとする。

 多々良はそれに顔に浮かばせることなくほくそ笑んだ。思惑通りに動いてくれる爛に挑発したくなるものの、不規則な動きを可能とする爛はそれを見てからでも行動を変えられる。

 

 ───取った!

 

 爛の攻撃の軌道を読み、《完全反射(トータルリフレクト)》を展開。

 多々良の読み通り、爛は右足を振りきり、《完全反射(トータルリフレクト)》によって反射されるその足は───

 

 反射の効果が及ぶギリギリのところでピタリと右足を止めた。

 手応えが何も来ないということに横目で確認をする。

 

「なっ───」

 

 驚いたときにはもう遅い。すぐさま体勢を切り替えた爛は左足を多々良の腹部に当てる。

 それだけではない。驚愕することはまだあった。

 あれだけの勢いがあったのにも関わらず、腹部を蹴られた多々良は吹き飛ばされることなく空中に浮かされた。

 

「────────」

 

 そのまま、三本の長剣による斬撃を食らった。深々と切られたが、爛の女を切りたくないという思いもあるからか刃引きされていたため、重傷を負うことなく気を失った。

 

「先ずは一人……不規則な動きをすると分かっていても、どのように動くか分からなければ意味はない」

 

 多々良はそのままリングに沈み込むように倒れた。

 

「さて……次はどっちをやろうか」

 

 とはいっても、残り一人が見当たらない。視界の外にいるのではなく、意識の外にいるかのように。

 爛の意識の外に逃げることはほとんどの不可能。

 

(───見つけた)

 

 ギロリ、と爛は何もいない其処に目をつけた。

 会場から聞こえる声。そこにぽっかりと浮かんでいる人形のものを見つけた。

 何もないところに向かって走り出す。

 爛の視界には、周りからは見えないサラの姿を捉えていた。

 

「────────────」

 

 サラから魔力の昂りを感じる。何かしらのヤバイことが起きるかもしれない。

 先に潰す。そう決めた爛は駆けるスピードを上げる。

 

「ハァ───────!」

 

 黒鍵を振り上げろうとする。その瞬間、見てはいけないような純白を二つ。

 爛の戦いの第六感が叫ぶ。

 ───避けろ。

 

「ッッッッッ────!!??」

 

 形振り構わず、爛はバックステップした。自分があの状況で取れる最大距離。

 

「参ったなぁ……それが本来の力か? 『血塗れのダ・ヴィンチ』」

 

 爛は苦笑を浮かべるものの、その額には汗が流れていた。完全に予想外。そんな力があったとは思えなかったからだ。それは今、この目の前にいる二人の女が理由だ。

 

「エーデルワイスにヘルベルティアか……骨が折れるな」

 

 

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第86話~対決! 暁学園戦3~

まだ、終わらないのだぜ!
長いけど仕方ないのよ。だって、色々とややこしい能力持ちの人たち出しちゃったから。
でもちゃんと書いてあげたいから、エクスカリバーとかで終わらせろよとか止めてね。本当に。

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


「───勘弁してほしいな……その二人の相手は骨が折れるんだ」

 

 爛は戦闘特化とも言える多々良を倒した。

 3対1で圧倒的不利な状況は覆され、爛が優勢をとっていた。しかし、その状況も二人の女によって変わろうとしていた。

 苦笑を浮かべながらも、額には冷や汗を滲ませていた。

 

「貴方がどれだけの実力を持っていても……この二人には勝てない。私の魔力をほとんど使って描いた」

 

 サラの言う通り、サラには簡単な自己防衛しかできないほどの魔力しか残されていない。出来るのであれば、それを利用したいところだが、目の前にいる二人に邪魔をされてしまうだろう。

 

『な、なんということだぁぁっ!? 世界的に有名な犯罪者にして、剣の世界の最高峰に立つ『比翼』のエーデルワイスと『片翼の赤き翼を持つ光黒の騎士』ヘルベルティア! サラ・ブラッドリリー選手、まさか、まさかの超大物を具現化してみせたぁぁっ!』

『お、驚きましたね……まさか、こんなことができるなんて……!』

『……あんなん……反則やろ……!』

『こんなの……勝てっこないで……!』

 

 会場全体がどよめく。

 無理もない。最高峰の実力を持つ二人が相手なのだ。流石の爛でも勝機が無いに等しいと誰もが思っている。

 

『もし、『比翼』と『片翼の赤き翼を持つ光黒の騎士』の能力が、本人と遜色ないのであれば、勝機はもう……無いでしょう……』

 

 言葉の通りだ。間違いはない。

 だが、そんな絶望的な状況でも、苦笑を浮かべ、冷や汗を滲ませていた爛は、汗を拭い、笑みを浮かべた。

 

「続けるつもりなのですか?」

 

 シャルロットの声が爛の耳に入る。

 エーデルワイスとヘルベルティアに対しての警戒は解かず、二人を見据えたまま言葉を返す。

 

「あぁ、勿論だ。もし、この二人が本人と遜色のないスペックを持っているのであれば、流石の俺でも少しばかりかけていた制限(リミッター)を解かなくちゃいけないがね。それでも……

 勝てない相手ではないさ(・・・・・・・・・・・)

 

 あくまでも、勝てない相手ではないと爛は強気でいった。その精神の強さは評価に値するだろう。だが、そこまで。そうとしか言えない。

 何故そこまで、爛が強気になっているのかが分からないシャルロットは呆れたような溜め息を吐いた。

 

「そこまで貴方が言うのであれば、見せてもらいましょう。決着がつくまで手出しはいたしません」

「この戦いでは傍観者を気取ると。なるほど、それは助かる」

 

 ───こっちの戦いに集中できるからな。

 そう言って、爛は黒鍵を握り直した。

 

「? 何故そこまでして戦おうとするの? 貴方では勝てない」

「言っただろう? 勝てない相手ではないと。厄介な相手ではあるが、「勝てない」とは言ってないぞ?」

 

 サラも疑問に思っていた。勝てないはずの相手なのに、勝てない相手ではないと言えるその精神が分からない。

 

「それに……自分がどこまで強くなっているのか。それを確かめるのにもいいかもしれないからな」

 

 バチバチと爛の周囲に雷が鳴る。魔力をたぎらせていつでも動けるようにしている。

 

「さぁ……行くぞッ!」

 

 深く踏み込み、強く蹴り込んだ。

 先手必勝。

 電光石火の如く駆け、一撃の元に斬ることでサラの魔力によって作られている二人は意味をなさなくなる。スピードにのって二人を置き去りにすれば、ワンチャンスある。

 

『宮坂選手、一気に駆け抜ける! は、速い! 先程とは比べ物にならない速さで全てを置き去りにしようとしている!』

 

 閃光はサラの目の前まで来て───

 

「何……?」

 

 白雷によって止められた。

 動きの止まった爛に、白雷の如く降り下ろされる剣と赤い閃光の如く駆け抜ける刀が閃光を切り裂こうとする。

 

「フッ!」

 

 爛は蒼電を身に纏い、両手に一本ずつ握った黒鍵で剣と刀を防ぐ。更には、足元に黒鍵を展開し、足で蹴り上げるようにして黒鍵を腹に向かって飛ばす。

 

「ッ!!」

 

 それに反応した二人は、すぐさま後退。

 サラは既に後退して、爛とは一番距離が離れた場所に立っていた。

 

(チッ、先に二人か……)

 

 骨の折れる相手はできるだけしたくないのだが、この二人が許すわけじゃない。どうにかして、二人を倒してサラを斬る。その方向しかなさそうだ。

 

「シ───!!」

『宮坂選手、蒼雷を纏い、剣の世界の最高峰に立つ二人を相手に真正面から突貫!』

 

 先に狙うのはエーデルワイス。

 左手に握った黒鍵を腹部に向かって突き刺そうとする。

 

「──────────」

 

 防がれた。

 突きと突き。黒鍵の先端に合わせるように剣の先端をぶつけてきた。

 

「フッ!!」

 

 すぐに切り返す。

 黒鍵を縦に持ち、剣の上を滑るようにして斬りかかる。

 

 ───が、それを黙ってみてるだけの二人ではない。

 

「ッ───!!」

 

 ヘルベルティアが側面から斬りかかってきた。

 脳天を割る赤い刀が爛に迫る。

 更に、エーデルワイスのもうひとつの剣が爛の脇腹を狙って放たれていた。

 

「グッ………!!」

 

 すぐにバックステップをする爛。しかし、避けきれずに二つの斬撃が爛に傷をつける。

 傷を押さえている暇など、この二人の前では無いに等しい。後ろに下がった後隙を狙うように駆け出している。

 すぐさま黒鍵を四本展開、先程持っていた二本の黒鍵は残りの黒鍵を持つことができるように持ち方を変えていた。

 合計、六本もの黒鍵を投げるが意味をなさなかった。軽々と避け、更にスピードを上げて迫っていた。

 

「チッ───!!」

 

 勘弁してくれ。そう思いながらも、爛は動き出す。悪態をついている暇があったら戦うしかない。

 

「───ふぅ………」

 

 軽く息を吐いた。

 

 ───構える。

 

 その瞬間、二人の動きが止まった。

 しかし、それも一瞬。すぐさま爛に向かってくる。

 だが、それで構わない。

 詠唱を開始する。

 今振るうことかできる最大の攻撃をするために。

 今一番、信頼の置くことができる常軌を逸した英霊(もの)の力を借りよう。

 

「───投影(トレース)開始(オン)

 

 一秒。

 爛は即座に思考する。

 剣の最高峰に立つ二人には、生半可な攻撃は通じない。寧ろ、自分に反撃が返ってくるといっていい。

 生半可な攻撃をしない剣を投影する(作り出す)

 一撃では超えられない。一撃より二撃、二撃より三撃。数は多ければ多いほどいい。

 それを可能とする方法を検索し、それを再現する。

 

「───投影(トリガー)装填(オフ)

 

 二秒。

 標的は止まっている。

 脳内でイメージをするのは九つの斬撃───

 

(ッ!?)

 

 思考が止まる。

 九つ目の斬撃をイメージすることができない。

 しかし、八つの斬撃でも十分ではある。いらぬ考えは止め、八つの斬撃の位置を把握する。

 

「ッ……ハァ……」

 

 三秒。

 息が乱れる。

 更に、斬撃を重ねる。それを可能とする宝具(剣技)を使う。

 その斬撃を二人にぶつける。

 一瞬の交錯でこの攻撃を全て食らわせる。

 

「───《鬼神解放》、全工程投影完了(セット)……」

 

 四秒。

 赤いオーラが爛を包む。

 十個あるなか、一個だけ枷を外す。

 溢れる魔力を留める。

 

『な、何だぁ!? 宮坂選手、赤いオーラのようなものを纏ったことで魔力が増幅している!?』

『……本来、魔力は増えることのないものです。 それが増えているということは、彼自身、制限をかけているといって良いでしょう。彼が自身の力を抑えるために制限をかけているというのは破軍学園の代表選抜戦で血縁関係にある『無の火力(レミントン)』が言っていましたね』

『では、宮坂選手はこれで全力を出したということでしょうか?』

『何とも言えませんね。彼がどれだけの制限をかけているかは分かりませんが、霊装(デバイス)にまで制限をかけているほどなのです。全力とは言い難いでしょう』

 

 言っていることに間違いはない。爛は十個あるなかの一個を解き放っただけにすぎない。だがそれが、抑えるには考えられない量だったからだ。

 迫る。

 爛は赤いオーラに加え、更に蒼雷を纏う。

 次元を屈折させ、斬撃を重ね、音速を超え、閃光を超える斬撃を放つ。

 彼が剣技の中で最強とも言えるであろうと考えられる全てを重ねたもの。

 

 これは、彼にしか放つことのできない───最強の必殺技

 

「《是、射殺す百頭(ナインライブズブレイドワークス)》」

 

 一人に対し、二十四もの斬撃を繰り出す。

 計、四十八。神速とも言える速度で繰り出された斬撃は一瞬の交錯で二人を切り刻み、紙屑に変えた。

 

『き、決まったぁぁぁぁぁぁぁ! 一瞬の交錯で! 偽物とはいえ、世界最強を一刀の元に叩き割りましたぁぁぁあ!』

「う、そ……!」

 

 あり得ないものを見たかのような驚愕の表情を浮かべ、爛を見るサラ。

 しかし、それが当然だとわかっている爛は表情ひとつ崩さず、口を開く。

 

「剣を持たない者が、剣を持っているものの最大のスペックを引き出すことはできない。それに、偽物程度で俺を止められると思ってる方が間違いだ」

 

 左手が握っている大剣をサラに突きつける。

 

「ッ……………」

 

 ゆっくりと爛が迫ってくる。

 サラの手は震えていた。

 世界最強すら超える一撃。

 誰もが恐怖さえ覚える姿をサラはあの一瞬で見てしまった。

 

 ───鬼神───

 

 目に見えず、耳にも聞こえず、超人的な能力を持つと言われている鬼神は、霊的な存在と言われている。

 目の前にいる少年は、まさにそれを体現したかのような存在だ。

 神速の剣は目に見えず、音も聞こえない。それでいて、人の身長を超える大剣を平然と持っている。

 

 誰が呼んだか。少年はこう呼ばれた。

 

 ───鬼神の帝王(クレイジーグラント)───

 

 少年───爛はそれに等しい存在と言えるだろう。

 圧倒的な力の前に蹂躙される他しかないのか。

 いや、違う。

 サラにはまだ対抗できるものがある。

 描き出せ。彼を。

 

「《幻想戯画(パープル・カリカチュア)》───鬼神の帝王(クレイジーグラント)ッッ!!」

 

 比翼の剣技よりも速く、筆を振るう。

 目の前にいる少年を本物と遜色なく描き出す。

 その数、実に四人。

 

「ッ──────」

 

 足を止めることなく、歩き続ける爛は体勢を低くし、一気に駆け出す。

 描き出された偽物の爛が、爛に襲い掛かった瞬間、爛の姿が消える。

 

「ハァァァ!」

 

 一人を一刀の元に斬り、続いて三人を切り捨てる。

 

「ッ…………!」

 

 爛は止まらない。爛を止めることができない。

 サラには、止めることができないのか。

 

「ふぅ───」

 

 足を止める。ここで確実に倒す絶対の一撃を───!!

 

「何ッ!?」

 

 咄嗟に大剣を突き立てて、何かから自分を守る。

 固い衝撃。しかし、それは重くはない。

 今、残っているのはあの二人しかいない。

 

「ハァ……そうだったな。目の前のことに集中しすぎた」

 

 自分の失態に呆れ、溜め息をつく爛。

 突き立てた大剣の先にいたのは───

 

「忘れてたよ。悪いな、対戦相手だと言うのにな。コルデー」

 

 シャルロットだった。

 

「………………………………」

「……ハァ。だんまりしないでくれるか?」

 

 とても緊張した面持ちで爛を見据えるシャルロットは、既に構えていた。

 対する爛は大剣を握り、ニヤリと笑った。

 

「パワーゲームはお好きかい?」

 

 そう言って、爛は大剣を振り上げて、リングを軽々と斬った。

 

 

 ーーー第87話へーーー



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第87話~対決! 暁学園戦4~

お久しぶりです! 色々とリアルが忙しくなっていまして、こんなに遅れてしまいました。ちょこちょこ書いていたんですが他の作品の話も書いていましたから、今まで以上に遅れてしまいました。
ということで、やっと決着になります。

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


 リングを易々と切り取った爛は、人が簡単に押し潰されて死んでしまうような瓦礫を平然と持った。

 

「なるほどな。『ヘラクレス』か」

 

 余りにも異様な光景に、颯真は納得したような表情で呟いた。

 ヘラクレス、ギリシャ神話に登場する大英雄。

 神から与えられた十二の試練を乗り越え、強靭な体を持つ男。

 だが、颯真が知っているヘラクレスは狂戦士(バーサーカー)

 爛曰く、他のクラスにも適性を持つサーヴァントらしい。

 狂戦士(バーサーカー)のヘラクレスは爛が今持っている大剣を易々と振り回し、圧倒的な強さを誇るサーヴァントだ。

 

「となると、お相手は相当キツいな」

 

 ただでさえ、まだ本気すら出してない爛相手に手こずってるんだからな。

 そう思いながら、颯真は結果が見えているような眼差しで爛たちを見つめていた。

 

「ほーら、そーれ!」

 

 瓦礫をシャルロットに対して、容赦なく投げる。

 ヘラクレスを憑依している爛の膂力は強化され、瓦礫を持って投げることなど簡単なことなのだ。

 

「くっ、《一輪楯花(いちりんじゅんか)》!!」

 

 わざと斜めに障壁を展開し、瓦礫を上へとずらす。

 そのまま飛んでいった瓦礫は───

 

「ハァァ!」

 

 誰よりも速く動いた颯真がそれを叩き落とした。

 叩き落とした際に、爛に視線を送った。それは爛も感じ取ったのか。

 

「───颯真も動くなら安心してできそうだ」

 

 周りのことを気にしなくて済む。

 そう思うと、爛の中にある枷がひとつ外れた。

 

「まだまだ行くぞ!」

 

 大剣を降り下ろし、リングを斬る。

 リングは爛が大剣を降り下ろしたのを中心に、リングが崩壊。

 これぐらいで動揺することはないだろうが、驚きはするだろう。たった一振りでリングを崩壊させる伐刀者(ブレイザー)はそれほどいない。

 

「ッッ!!」

 

 崩壊が続く中、爛はすぐに動き出す。崩壊し、揺れて安定しない足場を軽々と移動する。

 爛はシャルロットの背後に接近。移動する際に取っていた瓦礫を投げる。

 

「ッ、お嬢様ッッ!!」

 

 背後に来たならば狙いはシャルロットに《隷属の首輪》をつけている凛奈のはず。

 だが、爛が狙っていたのは───

 

「主人を守ってる暇はないぞ! コルデー!」

 

 シャルロットだった。

 次々と瓦礫をシャルロットに向けて投げる。

 

「くっ……うぅ……!」

 

 すぐさま障壁を展開し、爛が投げてきた瓦礫から自分の体を守る。

 瓦礫が止んだ瞬間、障壁を解除して凛奈を守ろうと走り出した。

 

「───甘い」

 

 悪寒が背筋を這った感覚がした。

 視線を後ろに向ければ、そこには大剣を既に降り下ろす構えを取っていた爛がいた。

 障壁の展開は間に合わない。すぐにそれを察したシャルロットは凛奈を抱えて、爛の攻撃を辛くも避ける。

 

「お嬢様には、傷ひとつ付けさせません!」

 

 凛奈の前に立ったシャルロットを見て、爛は感嘆する。

 その心意気や良し。

 ならば、此方もその心意気に答えようと。

 だが、その前に片付けるべきものがある。

 

「ならば───」

 

 爛は大剣を手放し、弓を手に取る。

 右手には剣を持つ。

 

「───我が骨子は捻れ狂う」

 

 狙うは一点。

 この距離であれば、数秒足らずで射抜くはずだ。

 

「《偽・螺旋剣(カラドボルグ)》」

 

 爛が放った螺旋剣はあろうことか、シャルロットを射抜くことはなく、誰も居ない空で爆発した。

 

「くっ、うぅぅ……!!」

 

 爆発に吹き飛ばされたのは、姿を隠していたサラだった。

 最初から分かっていたのだ。サラがそこに居ることに。だから、爛は《偽・螺旋剣(カラドボルグ)》を使った。

 しかし、意識を刈り取るところまでは行かなかった。

 そこまでで終わるほど、爛は甘くはない。

 

「ッッ!?」

 

 今度は空に向かって矢を放つ。

 矢は五本に分裂し、縦断爆撃のように矢は爆発した。

 

「なんて……馬鹿げた威力……!!」

 

 主である凛奈を爆発から守る。

 傷ひとつ付けないと豪語したのだ。それに恥じない守りをしなければならない。

 

「───《赤原猟犬(フルンディング)》」

 

 ろくに狙いもつけずに放たれた赤い矢は、シャルロットが張った障壁をないところから、凛奈を穿とうとする。

 

「ッ、───!!」

 

 すぐに気づいたシャルロットは障壁を展開して、凛奈を守ろうとするが───

 

「嘘!?」

 

 まるで意思を持っているかのように、障壁が展開されると、直ぐ様、矢は軌道を変えた。

 まさに猟犬。

 このままではこの猟犬に振り回されるだけで埒が明かない。

 避けるのが無難だろう。

 だが、この赤い猟犬の狙いは凛奈。凛奈の機動力は今は無いに等しい。

 

(この男……それをわかっていて)

 

 してやられたとシャルロットは感じていた。

 あのライオンに向けた虚空の瞳。ぽっかりと空いてしまった穴の中にある深淵を覗いているようでとても恐ろしい。

 

(なら……打ち落とすしか、方法はない!)

 

 それに怖じ気づいていられない。

 自分は凛奈を守る盾である。

 どんな攻撃にも屈することはしない。

 そんな───最強の盾に。

 

「いいな───そういうの」

 

 その声が聞こえたのは背後からだった。

 本当に羨ましそうで、悲しそうな声音で、よくわからない。何一つ分からない感情。

 そんなことを考えることを放棄したシャルロットは自分のするべきことをする。

 

「───お嬢様ッッ!!」

 

 凛奈を抱えて、爛から距離を取る。

 降り下ろされた剣は空を切る。

 直ぐ様、弓と剣を投影。

 剣をつがえ、放つ。

 追撃だと言わんばかりに爛は何十本にも及ぶ剣を放つ。

 

(───サラが反応をしないな)

 

 

 爛はすぐに殺気を感じ取る。

 シャルロットを相手にしていたのを利用し、魔力を回復していただろう。

 

(やば───)

 

 そんな思考をしている最中、爛の背後に迫る何かに気づく。

 目の前に現れた白い筒のようなもの。

 だがそれは人を殺すには余りにも度が過ぎたものだった。

 

「《幻想戯画(パープル・カリカチュア)》───トマホーク!!」

 

 至近距離まで近づいた巡航ミサイル(トマホーク)は直撃し、爆発を起こす。

 閃光と爆音、そして灼熱がリングを渦巻いた。

 

『じゅ、巡航ミサイル直撃ィィ!! 観客の皆さんは魔導騎士の方々が守ってくれましたが、直撃した宮坂選手は無事なのでしょうか!?』

『巡航ミサイルは人を倒すには余りにも度が過ぎたものです! 直撃を免れても防御する体勢に入れていなかった宮坂選手は無事とは言えないでしょう……!!』

 

 爆煙により、リングを見ることができない。

 爛が無事なのかは分からない。

 

『あんなん直撃したら死んじまったんじゃ……』

 

 観客の誰かがそんなことを言った瞬間───

 

「ハハハ───」

 

 全員の耳に、爆煙に包まれたリングから、笑い声が聞こえる。

 

「ハハハハハハハハ!! 巡航ミサイルとは驚いたぞ」

 

 爆煙が空に登り、リングが見えるようになる。

 巡航ミサイルが直撃した場所には、桜色の花弁の障壁が爛を守っていた。

 

『な、なんと!! 宮坂選手、巡航ミサイルの直撃を桜色をした障壁を展開して防いでいた!!』

『動きが素早いですね……! 攻撃に置いては手数や宮坂選手自身のスピードに惑わされ、防御は不可能と思える体勢からでも防御することができる……こういった攻防を兼ね備えた選手を攻略するのは大変ですよ……!!』

 

 称賛の声が爛に送られる。

 その言葉により、会場は一気に盛り上がる。

 

「それでは、さっきの礼と行こう。《赤原猟犬(フルンディング)》も粉々になってしまったからな」

 

 赤い猟犬は巡航ミサイルが爛に直撃するギリギリにそれに目標を変え、突っ込んで粉々になった。

 

「4本目の刀。《雷白鳥(らいはくちょう)》」

 

 鞘に白い刀───《雷白鳥(らいはくちょう)》を納める。

 爛が踏み込んだ瞬間、姿を消した。

 いや、姿を消したというのは間違いか。と颯真は視野を広く持つ。

 颯真の視界には堂々と接近している爛の姿が見えている。

 しかし、それをリングの上にいる彼女たちも、観客たちにも見えないだろう。

 爛は今、大軍レベルでの抜き足を使用しているのだから。

 彼女たちが気づくとしたら、その時は───

 

「《拾の剣・五輪の極意(ごりんのごくい)》」

「えっ───」

 

 斬られた瞬間だろう。

 斬られたことに気づいたのは自分が倒れる瞬間。余りにも一瞬の出来事だったが故に、彼女たちが気づくのは遅かった。

 そのままブラックアウトした三人はリングに倒れ込み、爛は雷白鳥を鞘に納めた。

 

『け、決着ーーーー!!! あの一瞬の交錯だけで三人を一気に切り捨てた宮坂選手! 圧倒的不利な状況を覆したその姿は正しく、鬼神の帝王です!』

 

 喝采が巻き起こる中、爛は息を吐いた。

 

(《幻想戯画(パープル・カリカチュア)》……厄介だな。描いたものが俺だから───いや、彼女だから……か。やれやれ……)

 

 倒れている彼女たちが担架に乗せられ、運ばれていくのを見届けた爛は、そのままゲートの方へと向かって、リングから退場した。



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第88話~颯真の思惑~

お久しぶりです。
中々、文が思い付かず、スランプ気味で時間がかかってしまいました。
今回は短いです。

活動報告にて次回の話などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


「ふぅ……」

 

 一回戦を乗り切った。

 その実感が、一息つかせてくれた。

 会場の外にあった自販機で飲み物を買う。

 だが、心境はあまり良いとは言えなかった。

 

「………………………………………」

 

 壁に背を預けて、買った飲み物を飲む。

 こうして、一人でいる時間はどれくらいになっただろうか。今では、彼女たちと過ごしている時間が限り無く多い。

 どれだけ───彼女たちのために走り回っているのだろうか。

 そんなことが頭の中を巡る。

 あの日から背負い続けている罪と罰。

 限り無く続く呪いにも似た悪運が付きまとい、罪が昇華され、消えることはない。

 だからだろうか、平凡な毎日なるはずのものがこうして非日常な毎日と化しているのは。

 それは恐らく───俺という存在(かこのいぶつ)がある以上、消えることを知らないだろう。

 宮坂爛(かこのいぶつ)はこれからの世界には不必要なもの。

 多くの罪を犯してきた罪人が地獄へ堕落せず、この現世にいること事態が間違いなのだ。

 消えるべき存在なのだ───と世界から、星から疎まれている。

 そんなことは百も承知。しかし、ここでなければ意味がなかった。

 

 あぁ───もう

 

 いっそのこと、投げ出してしまえばいい。

 だがそれは、今まで歩みを全て無駄にする行為。

 『宮坂爛』の今までを───宮坂爛に宿る『魂』を全否定することと同じだ。

 それはしたくない。今までを全否定することは自分には出来ることではないのだから。

 どんな結末になろうとも、俺は───

 

「『六花』を幸せにする───だろ?」

「颯真……」

 

 声に出ていたのか。

 俺と同じように飲み物を買いに来ていたようで、自販機に小銭を入れていた。

 考え込んでいたせいなのか、颯真がどこから来たのかさえ目にも入っていなかった。

 飲み物を買った颯真は俺の隣に並んで、壁に背を預けた。

 

「お前がどれだけ六花のことを大事に思っているかはよくわかる。でも、それは六花の方も同じだ。勿論、リリーや明たちも」

 

 ドクン───と心臓が跳ねるのを感じた。

 六花たちが大事に思ってくれている。それだけで、罪悪感が沸いてくる。

 どう言葉を返したらいいかも分からなかった。

 逃げるようにして、俺は颯真から離れていった。

 颯真は最後に───

 

「あぁ、六花たちならホテルの方でお前を待ってるよ」

 

 姿を消そうとしていたことを察したのか、六花たちの居場所を教えてくれた颯真に心の中で一言だけ言っていた。

 

 ありがとう

 

────────────────────────

 

 宮坂爛には夢がない。

 これはあくまで、音無颯真である俺の見解だ。

 爛には『六花たちを幸せにする』という目的(・・)がある。

 爛は夢のような言い方をするが、実際には夢ではなく、目的として認識している。

 夢のような言い方をするのであれば『六花たちを幸せにしたい』という言い方になるが、爛は『六花たちを幸せにしなければならない』という認識なっている。

 爛が変わらない限り、幸福な終わり(ハッピーエンド)は存在しない。

 このままでは必ず誰かが犠牲になる。

 あのときに見えたのは数ある終わりの一部。他にもたくさんの終わりが存在するだろう。

 俺も腹を括らないといけなくなるだろう。

 あぁ、彼女に伝えなければな。

 スマホを取り出して電話をする。

 

『もしもし?』

「颯真だ」

『珍しいね。颯真の方から電話なんて』

「六花の方からも電話は滅多にないからな」

『間違いないね』

 

 はっはっは。

 確かに、俺の方からも六花の方からも電話をかけることはない。

 お互いに話すことはないし、話すことがあったとしても、直接あって話すことが多い。

 まぁ、そんなことより。

 

「六花、爛を見守ってて欲しい」

『一体、どういう風の吹き回しだい?』

「いつも一緒なのは分かるが、爛を止めるために見守ってて欲しいんだよ」

『どういうときに?』

「あぁ、そうだなぁ……」

 

 今のところ、考えられることはひとつぐらいか。

 

「あいつが生き急いでるように見えたら、意地でも止めておいてくれ」

『何がなんでも?』

「そうだな。そうしてくれると助かる」

 

 俺でもできることで爛が動くのであれば、俺が代わりにやるだけだからな。

 そう難しい話でもない。

 俺なんかよりも、六花たちが引き止めやすい。

 それだけのことだ。

 

『分かったよ。でも……颯真も彼女たちの相手をしてあげてね?』

「あぁ、分かってるさ。それじゃあな」

『うん。ありがとね』

 

 礼を言われるのはやはり馴れない。

 爛の家で爛の両親から言われて、多少は馴れたとはいえ、まだ申し訳無さがある。

 六花は家族を解放軍(リベリオン)に殺された。だから、爛の家にいる。

 そして俺も、爛の家に居た。ほとんど、同時期に爛と六花と共に過ごすことになっていた。

 解放軍(リベリオン)に殺された、という話ではない。

 そんなのよりもっと非道なものだった。

 本当に有り得ることなのか。そう考えれば、必ずこう言える。

 確実に有り得ることではない、と。

 じゃあ、何だって話になる。

 耳を疑うようなものだから、あまり他人には言いたくないものだがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 父親が愛する家族を殺すことがあり得るか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 答えはNOだ。

 頭がイカれてなきゃ、そんな行動は起こさない。

 だが、どうやら俺の父親は本当にイカれていたようだ。

 思い出すだけでも反吐が出る。

 少なくとも、あの日まではイカれていなかった。

 

「あの日からか……何もかも変わったのは」

 

 何もかも変わったことで、何もかもを失った。

 家族という大切なもの。

 そして───壊れた。

 

「ま、それすらも分からないがな」

 

 あの日を迎えたことで性格が豹変したと自分でも思う。

 絶望を知ったからこそ変わったのか───

 本来の目的を知ったからこそ変わったのか───

 どちらにせよ、そうなることは避けられなかっただろう。

 

「いつか、清算の時が来る。その時がいつの人生(・・・・・)になるのかは誰にも分からん」

 

 その時はその時だ。

 

「───お前はどんな選択をするだろうな? 爛」

 

 楽しみにするとしよう。

 

 

 ーーー第89話へーーー



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第89話~懸念と決意~

お久しぶりです。
リアルが落ち着いたと思った……そんな風に考えていた時期が自分に
もありました。

というわけで、滅茶苦茶遅れました。(しかも短め)


「あ、おかえり!」

「ただいま。六花」

 

 戻ってきた爛に抱きつく六花。

 だが、彼女は爛をジーッと見つめていた。

 

「……六花?」

 

 爛が尋ねても、六花は何も言わない。

 何がして欲しいのか──彼女が何を考えているのか分からない爛は眉をひそめる。

 

「分からないの?」

 

 しばらくしても、爛からは何もなかった。

 痺れを切らした六花は爛に尋ねた。

 

「あぁ……」

 

 考えが及ばないことに申し訳なさがあった爛は、少ししょんぼりとしていた。

 

「一人で戦うからだよ……」

「それは──」

「分かってるよ。全部僕の我が儘なのは───でも、爛が傷つくのは見たくないよ……爛は僕の大切な人なんだよ?」

「……すまない。不安な思いをさせてしまったな」

 

 六花がどれだけ爛のことを思っているのか、それは爛にも痛い程伝わっている。

 だからこそ、爛は謝るしか出来なかった。

 

「不安にさせた分、いっぱい甘えるからね♡」

 

 嬉しそうに頬擦りをする六花。

 爛はピッタリと抱きつく立花を拒むことはせず、そのまま受け入れた。

 

「……く、くすぐったい」

「我慢して」

 

 六花の吐息が首を擽る。くすぐったいと感じるが、六花は抱きつくのを止めることはない。

 

「ら~ん♡」

「り、六花?」

 

 甘い声で囁く。

 甘い刺激、軽い電流が背中を駆けていくように、爛は体を震わせた。

 

「あ、今ビクッてした」

 

 元々、耳が弱いことは六花も知っていたが、ここまで弱いとは思っていなかったようで、少し意外そうな声音で言った。

 

「……六花。前々から、お前が耳を弄るからだろう……」

「そうだっけ? 最近は相手にしてくれないから、爛にしたいことも出来なくなったし……これを機に、もうちょっと弄ろうかな~?」

 

 ジト目を向ける爛を尻目に、何処吹く風と知らん顔をしている六花を見て、爛は溜め息をついた。少なくとも、一時間は離してくれないという予測が爛の中にあった。

 

「六花。やりたいことがあるから、少し移動していいか?」

「やだ」

 

 駄々を捏ねる子供と同じようなことを言う六花。爛にしがみついて離れることはないだろう。それに、爛は無理矢理引き剥がすなんてことをはしない。六花を傷つけたくないという爛の思いが、彼の行動を制限している。

 

「ただパソコンを弄るだけだ。六花を離れさせようとはしていない。それに……」

「それに?」

「この大会で気になることがあってな。それを調べておきたいんだ」

 

 爛の声音は真剣そのものだった。六花は爛の言っている事の大きさ、または危険性を秘めているということを、爛の声音から察した。

 

「分かった。でも、僕も見てもいいよね」

「あまり見ても楽しくないものだし、ただ淡々と俺が作業するだけになるかもしれないぞ」

 

 別にいいよ。と涼しいような表情をしながら言った。

 爛としては、見られること事態に何一つ問題はないと思っているのだが、たったひとつの懸念だけが爛の頭を離れないでいた。

 

(翼……お前が生きていることを六花は喜ぶはずだ。だが、それと同時にお前のしていることに絶望するはずだ。もし、六花のことを大切に思うのであれば、手を引くことが必要だ。

 お前に、それが出来るのか……? 六花のためだと言い聞かせ、自分の身を犠牲にしていないか……? 理由はどうであれ俺は今、六花と翼は会わないようにしなければな……)

 

 六花の兄、翼に対する漠然とした思いを胸の内に秘めておきながら、爛は七星剣武祭に参加する各校の選手について調べだした。

 

「ねぇ、爛」

「なんだ?」

「各校の選手を調べて、何を探そうとしてるの?」

「気になることがいくつかあってな。特に……暁学園には気になることが多い」

 

 安心できることはないだろうと舌打ちをしたくなる現状に、爛は不満がありながらも、自分自身でどうにかするしかない状況を嘆きたくなっていた。

 七星剣武祭に参加する選手たちの情報は基本的にネット上で出回っている。出回っているといっても、公式サイトと掲示板だけにしか出回っていないが、マスコミがどれだけの収集力があるかが分からない。

 自分たちの情報を念入りに確認する。

 どこの学園の選手なのか、何年か……能力の開示はしないため、隠しておきたい能力は隠しておけることになっている。一輝のようにまともに使えるものが少ないと、開示されてしまうと強力な手札を開示するということになってしまうのだ。その辺りの格差が起きないようにするための運営側の配慮といったところだろう。

 

(特に、問題になるようなものは出ていないか……)

 

 出ていたら直談判しに行くところだった。

 知られたところで痛手になるようなものはほとんどないのだが、万が一ということもある。

 一抹の不安はできるだけ持ちたくなかった爛は、安堵の溜め息をついていた。

 暁学園のことを調べても、特に記述されているものはなかった。

 当てが外れたというわけではない。もとより開示されている情報は全く当てにしていなかったのだ。別に気にすることではない。

 

(平賀玲泉……一体何者だ? 思い当たる節があるが……可能性がないわけではないか。あり得ない話でもない)

 

 爛が一番警戒しているのは平賀玲泉という男だ。奴は道化師のような格好をしていた。

 あの男からは悪意しか感じられなかった。

 何か仕出かす前に壊す(・・)ぐらいしてやらないと何か嫌なことが起きる予感がする。

 

(気のせいであればいいんだがな……)

 

 そう。

 気のせいであれば、警戒する理由はない。

 だが、気のせいと一言ではすませられない何かがある。

 予測することしか出来ない爛は、平賀を相手に後手に回るしかない。

 

(先手は取れない……か。圧倒的に不利だな。だが……)

 

 してくるであろう手を予測し、対策することしか出来ない。

 しかも、思考を読めない道化師を相手に。

 

(六花……)

 

 爛の手は自然と六花の頭を撫でていた。

 

(……必ず、守り抜いてみせる)

 

 爛の瞳には決意の色が滲んでいた。

 絶対に失うものかと食って掛かりそうな勢いが彼にあった。

 

 もう二度と、彼女に置いていかれないように。

 

 

 ーーー第90話へーーー



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第90話~交わる黒鉄の妹と宮坂の兄~

「珠雫、本当に大丈夫?」

 

 珠雫を心配するアリスが顔を覗き込むようにして尋ねてきた。

 それもそのはず。

 珠雫の瞳には決意が灯っているのだが、体は震えているのだ。珠雫ほどの人間が震えているのはとても珍しい。

 それ以上に、彼女はやらなければならないことがあるのだ。

 

「……大丈夫」

 

 ホテルの一室を前にして、珠雫は大きく息を吸った。

 そして、扉をノックした。

 

「……………………………………………………」

 

 珠雫の懸念は既にここからあった。

 まず、自分が求めている彼がここに居るのか──それが何より必要なことだった。

 しばらくの間が空いた後、扉が開かれた。

 

「誰かと思えば、珠雫とアリスじゃないか。どうしたんだ?」

 

 背中にしがみついている六花を、そのまま引き連れて二人の前に爛が現れた。

 何をしに来たのかと尋ねる爛だが、珠雫の瞳に宿る決意のような何かを感じ取ると、それに気づいていない振りをする。

 

「……爛さん、私に戦い方を教えてくれませんか?」

 

 深々と頭を下げながら、そう懇願した。

 

「……何のために?」

「えっ……?」

「何のために、お前は戦う」

「それは……」

 

 珠雫の目的を知らない爛は、そう尋ねる。

 質問に質問を返された珠雫は言葉が詰まった。

 

「……守りたい人を守れるように、です」

 

 不安を抱えながらも、必死に訴えかける珠雫の瞳。

 

「……分かった。いいだろう」

 

 珠雫はステラとは違う。

 突き放すようにステラの頼みは断ったが、彼女には彼女に合った師がいるはずだ。思い当たる人物は一人だけいる。自分なんかよりも、ステラを成長させることが出来るはずだ。

 

 だが、珠雫は?

 ステラのように魔力が飛び抜けて高いわけではないが、代わりに魔力制御において彼女の右に出る者は少ない。それは、彼女が唯一ステラに勝てる能力だ。

 繊細な魔力制御と防御力を巧みに扱えば、持久戦は負けなしのはずだ。

 爛に出来ることは、彼女の長所をさらに伸ばすこと。

 

「ただし、ひとつだけ条件がある」

「なんですか?」

 

 その理由を聞こうとすると、爛は困ったような表情をし、言いづらそうに口を動かして答えた。

 

「……まぁ、なんだ。気にしないかもしれないが、六花が嫉妬の目を向けても気にするなよ」

 

 爛が心配する理由が何となく分かるのは、彼女と同じように、ステラに嫉妬の視線を向けたことがあるからだろう。

 

「大丈夫ですよ」

「ならいい。

 時間があるなら今からでも教えることはできるが、どうする?」

 

 爛の問いかけに、珠雫は反射的に生徒手帳を開いた。

 今の時間は十五時。見ておきたい試合も、今日はない。

 

「お願いします」

「分かった。それじゃあ、行くから六花は降りてくれ」

「……やだって言いたいところだけど……分かったよ」

 

 爛の背中から降りることを渋々だが選んでくれた六花に内心、感謝をしつつ、爛と共に併設されている訓練場に向かう。

 その道中は不思議なほど静かだった。

 誰も口を開かず、喋ろうとはしなかった。

 

「珠雫」

 

 訓練場にあるリングの上で対峙した。

 爛の言葉に、珠雫は目で頷く。

 

「俺は攻撃はしない。

 逃げ続けるから、俺に一太刀でも、掠り傷でもいい。傷をつけろ」

 

 爛の言葉は果たして本当に戦い方を珠雫に教える気かと疑うほどに、適当に近いものだった。

 

「……それで、本当に珠雫の為になるの?」

「為になるかどうかは本人次第だ。この鍛練にはどんな意味があるのか──自分で考えて動いてみろ」

 

 あくまで、爛はヒントを提示するつもりはないようだ。

 それ以上、彼は答えようとしない。

 

「……ひとつ、聞いてもいいですか?」

「なんだ?」

「何故、私を突き放すことをしなかったのですか? ステラさんには自分よりも適任がいるといって突き放したようですが」

「適材適所だ。ステラは俺が鍛えてやるよりも、同じように最初から化物級に才能があった奴が教えるのがいい。その点、俺は才能が少ないからな」

 

 謙遜を……と言いたくなるが、彼が嘘をついているようには思えない。

 第一、彼女に似た才能の持ち主を爛が知っているからこそ、その様に出来たのだ。

 

「さぁ、始めよう。俺はいつでもいいぞ」

 

 攻撃をすることはしないと宣言している爛は、霊装(デバイス)を顕現せずに珠雫が動くのを待っている。

 

「行きます……!」

 

 爛の声に背中を押されるように、珠雫は霊装を顕現する。

 ──瞬間、訓練場の空気が凍えた。今は夏だというのに、寒い。その原因は珠雫にあった。珠雫の周りには冷気が立ち込めており、それを常に放っているのだ。冷気が霧へと変わっていき、視界が段々と悪くなっていく。

 珠雫から攻撃は飛んでこない。爛の視界に入らなくなった時に動くつもりだろう。霧が濃くなっていく中、互いに目を合わせたまま立ち尽くす。

 

「────────────────」

 

 ほどなくして、爛が跳んだ。彼がいた足元は凍っていた。

 地上を見ている爛にひとつの大きな影が出来ていた。影に気付いた爛が視線を上に向けると、人ひとりを潰すには余りにも大きすぎる氷塊が落ちてきていた。

 

「ッ……!」

 

 足裏に雷を展開し、地面を形成する。横向きに作り出し、高度を維持したまま平行に移動する。

 氷塊が着弾したことで立ち込めていた霧が吹き飛んで晴れていく。視界は良くなり、珠雫の攻撃が見やすくなるが、それは珠雫の方にもメリットがある。

 

「ハァ!!」

 

 短刀を構えた珠雫が、地面に落ちていく爛に目掛けて距離を詰めて振るう。空中で体勢を変えることは困難を極める。中途半端に動いてしまえば、それこそ珠雫の短刀から逃れられない。

 

「なっ!?」

 

 変に逃げるよりもいなす形が一番安全だと判断した爛は、珠雫の短刀をしっかりと捉え、掌を合わせるようにして刀身を捕らえた。

 

「……む」

 

 左右から飛来する水牢弾。体を反らしながら珠雫の背後に回り、水牢弾を避ける。

 珠雫との距離を離しながら、次々の飛んでくる水牢弾を避け続ける。

 

(ここまで制御する量が多いのか……流石、珠雫だ)

 

 軽く見ただけでも二桁はある。

 水牢弾に気を取られていると、別方向からの魔術の行使に気付けず、肝を冷やされかねない。

 

「ッッ!!」

 

 水牢弾を躱し続け、やっとリング上にに落ち着くことが出来ると思っていた爛に、氷の槍が襲い掛かる。

 リング上は薄く水が張られており、急速に冷却することで氷の生成を速めているのだ。

 避けるだけでは捌ききれない。

 

「フッ!!」

 

 氷槍を刀で打ち払いながら、リング上を駆ける。

 

「くっ!」

 

 珠雫は攻撃を思うように当てられず、四苦八苦している。

 到底、簡単に当てられるとは思ってはいない。苦労するとは思っていたが、ここまで難しいものだとは思わなかった。間違いなく、爛は実戦において珠雫を相手にしたときを想定して避けている。

 真剣になって彼は攻撃を避け続けているのだ。

 

「どうした? 攻撃の手が止まっているぞ」

 

 珠雫の攻撃を捌くことだけに集中できている爛は、攻撃が止み始めている珠雫に挑発の言葉を投げた。

 

「……いえ! まだまだこれからです!」

 

 諦めるわけにはいかない。

 大切なものを守るために、強くなるのだ。そのためにここから逃げることなんて出来ない。

 兄は自分の限界を超えてまで、高みを目指している。

 

 こうして、一時間にも及んだ鍛練だが、珠雫は爛に掠り傷一つ与えることは出来なかった。

 

 ーーー第91話へーーー



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番外編~嫁との生活~
嫁編~六花1~


よーーーーーーめーーーーーへーーーーーーんーーーーーでーーーーーすーーーーーー!!
はい!ということで、嫁編です。
嫁編に関しては、まったくもって、本編に関係がありません!(これ重要)ということで、嫁編に関しては、作者の気分次第でキャラを書きたいと思ってます。
因みに、婿は絶対に爛だからな!?

あまあまにできたならなぁなんて思いながら書きました。あんまり上手くできないよぉ……。


「はぁ~、今日も疲れたもんだ……。最強に近いからって、こき使いまくりだぞ……、ブラック企業か連盟は……。」

 

 宮坂爛はぐったりとした表情で歩く。魔導騎士として働き始め、愛人もできている。

 

「あ~、いつもより遅くなったな……。また玄関前に居そうだな……。」

 

 爛は苦笑いしながら、とある一軒家の玄関前に立つ。玄関のドアノブに手をかけ、玄関のドアを開ける。

 

「爛~~~~~~~~~~~~~~!!!」

「どわぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!」

 

 目の前から抱きついてきたのは、愛人である葛城……じゃなくて、宮坂六花。元服している二人は、学園を卒業後、六花が宮坂家に嫁として行き、爛と結婚することになった。

 

「遅いよ~~~~~~~!!!いつまで待ってたと思ってるんだ~~~~~~~!」

 

 六花は少しだけ涙目になりつつも、爛をポカポカと叩く。

 

「痛い痛い!いつもより仕事が長引いたんだって!俺だって早く帰りたかったよ。」

 

 爛はポカポカと叩き続ける六花に反論する。それを聞くと、六花は叩き続ける手を止めた。

 

「……………ホント?」

「ホント。」

 

 六花は間を空けて本当かどうかを聞くと、爛は即答で言った。

 

「……分かった。信じるよ。」

「って言うか、そろそろ離れてくれない?汗だくだったからさ。」

 

 六花は爛の言ったことを信じる。爛は離れてくれないかと六花に問う。

 

「………あ、確かに離れた方がいいよね。外だし。」

 

 六花は爛の言ったことを受け入れると、爛から離れ、家の中に入っていく。

 爛は立ち上がると、家の中に入っていく。すると、六花は立ち止まり、爛は疑問を持つ。すると………

 

「ねぇ爛。ご飯にする?お風呂にする?それとも……」

「止めろ!それともからは言わせないからな!それと、今は風呂だ!」

 

 六花は笑顔で振り向き、爛に甘い声でそう言うが、爛はずくに六花の発言を止める。

 にしても、六花の問いに答える爛も爛なのだが……。

 

「やっぱり、止められちゃうかぁ……。まぁいいや!一緒に入ろ!上着とカバン貸して。」

「あぁ。」

 

 爛は着ていたスーツとカバンを六花に渡す。っていうか、お前サラリーマンかよ……w魔導騎士として働いてるのにさ……。

 

「それに関してはお前の設定だろ!?」

 

 な、何故この話が聞こえる!?

 

「何故って、そりゃそうだろ!お前がこう書いてるんだからさ!」

 

 な、何も言い返せねぇ……。

 

「……ねぇ、爛。」

「ん?」

「この写真、ずっと持ってるんだね。」

 

 六花が見せてきた写真は、花嫁姿の六花と花婿姿の爛の写真だった。

 

「ん……まぁな……。大切な写真だし……、何より……、お前の綺麗な姿が見れるからな……///」

「爛………///」

 

 爛は恥ずかしさで赤面しながら、写真をずっと持っている理由を話す。

 その理由を聞いた六花は、嬉しさで赤面し、キュンキュンしていた。

 

「と、とにかく、風呂に入ろう。」

「うん、そうしようか。」

 

 甘い空気を断つように、爛はそう言った。

 六花はコクンと頷き、スーツをかけて、カバンを元に戻しにいく。

 爛は追い焚きしてあった風呂に入り、仕事の汗を流していく。

 

「はぁ~~~~~~~、やっぱり仕事終わりの風呂はいいねぇ………。」

 

 爛はそう言うと、何も言わずにぼんやりとしていた。すると、風呂場の外から声が聞こえる。

 

「ねぇ……爛……。入ってもいいかな……?」

 

 六花の声だった。いつも一緒に入ってるのに断り入れる必要…、あ、あるね……。そんなことを考えつつも、爛は六花の問いに答える。

 

「ん、あぁ、良いぞ。」

 

 爛はそう言うと、風呂の入り口が開き、バスタオルに身を包んだ六花が現れる。

 

「…………///」

「……どうした……、六花……///」

 

 お互いに顔を見合わせると、恥ずかしさで赤面する。

 

「だって、夫婦になって一緒に入ってるけど………こればっかりは慣れないんだもん…///」

(何だこの可愛い生き物は…///)

 

 六花は赤面し、モジモジしながらも爛にそう言った。それを見た爛は、更に顔を赤くし、六花の姿を見てそう思った。

 

「と、とりあえず体を洗うからこっち見ないでね……///」

「結婚してから、そう言うことが多くなったな……。まぁ、見るつもりなんてないけどさ……。恥ずかしいから…///」

 

 そのあと、六花は頭と体を洗い、爛と同じ浴槽に入る。

 

「温かい……///」

「そっか。ならいいな。」

 

 恥ずかしながら言う六花に、爛は笑顔で六花にそう言う。

 

「……ん……。」

「六花……。」

 

 六花が爛に抱きつく。爛は突き放すことなく受け入れ、六花は爛のことをきつく抱き締めた。

 

「ねぇ……キス……しよ……///」

「………あぁ……。」

 

 爛は赤面状態のままの六花の提案を受け入れる。

 

「ん……ちゅ……あ……ら…ん……すきぃ……大好きぃ……も……う…離し………たく……な……いよぉ……。」

 

 六花は爛とのキスをしているなかで、爛への気持ちが抑えられなくなり、声に漏れていた。

 

「んんん……、ハァ……。」

「ハァ……ハァ…ハァ………。いつもより、長かったな……六花………。」

 

 いつもより長いキスに息切れを起こしている爛。六花は蕩けたような瞳で爛を見つめる。

 

「だってぇ……、爛のことがぁ、大好きだから、嬉しくてぇ……。」

 

 爛を弱々しい力で抱き締める。キスをした影響で、六花の感覚が少しだけ麻痺していた。その影響があったせいで、六花は爛にしがみつくのが精一杯だった。

 

「……時々、お前は本当に可愛いところが出てくるな……。」

 

 爛はそう言いながら、力が弱くなっている六花を抱き締める。

 

「あ……。ありがとう……。」

 

 六花は弱々しい声で爛にそう言う。

 その六花の姿、声、それだけで爛の抑えはきかなくなってきていた。

 

「とりあえず……あがろうか。」

「う、うん。」

 

 爛は六花を抱きかかえたまま、風呂からあがり、二人は背中合わせで着替える。

 二人はリビングに行くと、六花が作った料理を盛り付ける。

 

「なぁ……。」

「何……?」

 

 爛は何か思ったのか、六花に尋ねる。

 

「何も入ってないよな……?」

「何か入れてるわけないよ。」

 

 爛がそう言うと、すぐに六花が答える。魔も空けていないため、嘘ではないと爛は信じて、盛り付けられ、並べられた料理を食べる。

 

「……どうかな……?」

 

 六花は自分が作った料理が爛の口になったのか気になり、爛が六花の作った料理を食べると、六花は爛にそう尋ねた。

 

「あぁ、美味しいよ。」

「……良かったぁ……!」

 

 六花は、爛が美味しいと言ってくれたことに安堵し、笑顔になる。

 そのあとも、爛はいつもの量を食べ、夕食を取り終える。

 

「ごちそうさま。今日も美味しかったぞ。」

「お粗末様です。ありがとう、爛。」

 

 六花は立ち上がり、食器を片付けようとする。

 

「いや、食器の片付けぐらい俺にやらせてくれ。いつも家事を任せているし、仕事が終わったあともやってるからな……。」

「じゃあ……お言葉に甘えて……、ありがとう。」

 

 六花は爛に食器の片付けを任せると、家にあるソファに座る。

 

「いつも世話になってるからな……。これくらいはさせてくれよ…。」

「でも、爛だって仕事があるわけだし。そんなにやらなくても……。」

 

 爛は食器を片付けながらそう言うと、ソファに座っていた六花が心配そうに言った。

 

「支えて、支えられてこの生活が成り立ってるんだ。倒れられちゃ困るし、無理してるところなんて見たくもないよ。」

 

 爛は笑顔でそう言う。その姿に六花は見惚れてしまった。

 

「……?どうした?六花。」

 

 いつのまにか片付けを終わらしていた爛が六花のとなりで声をかける。

 

「っ、いや、何でもないよ。じゃあ、これから片付けとかお願いしようかな。」

「あぁ、そうしてくれ。」

 

 六花の言ったことに、爛は笑顔で頷きながらそう言った。

 

「ねぇ……今日ぐらい……いいよね……爛。」

「………?」

 

 六花の言っていることにまったく分かっていない爛を押し倒す。

 

「何を……?」

「もう……抑えられないんだもん……。爛があんなに嬉しくさせることを言うからぁ……。」

 

 六花は目をハートにさせて、息を荒くしていた。

 

「はぁ……一回だけだぞ……?」

 

 爛はため息をつくと、苦笑いをしながら六花にそう言う。

 

「うん……。それくらい分かってるよ……。明日も仕事だしね…。」

 

 六花は自分の服と爛の服のボタンを外していく。胴体部分をさらけ出し、六花は爛を襲った。

 

 このあと、愛の巣にて夜戦をすることになった。




どうでしたか?

正直余り上手くかけてないと思ってます。

次回は、……多分リリーだな。うん。


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嫁編~リリー1~

嫁編!リリーです!さぁ!番外編を待っていたみんな!待たせたな!甘く書いて見せる!(フラグ乙w)


「ん……んん……。」

 

 ベッドに横になっていたリリーは眠りから覚める。

 

「ん~!」

 

 眠りから覚めたあと、リリーは背伸びをし、ベッドを見る。

 

(おはようございます。マスター♡)

 

 リリーは爛の額にキスをすると、リビングの方へと歩いていった。

 

「~♪~~~♪~~♪」

 

 鼻唄を歌いながら身支度をし、料理を作り始める。

 

「え~っと、マスターは白米で……、これと、あれを使って……。」

 

 リリーは確認しながら次々と料理を作っていく。

 

「これで完成と……♪じゃあ、マスターを呼びに行きましょうか。」

 

 リリーは着けていたエプロンを外し、爛が寝ている寝室に向かった。

 

「マスター♪朝ですよ~…♪」

 

 リリーは小声でそう言いながら、爛の寝ているベッドに横になる。

 

「ん………リリー………。」

 

 爛は寝返り、寝返った先にリリーが居り、リリーと体がピッタリとくっつくようになった。

 

「……………!!」

 

 リリーは突然のことに顔を真っ赤にする。

 

「マスター、朝ですよ~♡」

 

 リリーは爛の上に跨がり、爛にキスをする。

 

「ん……んんんん!!!???」

 

 爛は目を大きく見開く。リリーは爛が起きると、キスをやめる。

 

「おはようございます♪」

「あ、あぁ…おはよう。」

 

 リリーは爛に抱きつき、挨拶を交わす。

 

「…で、どうして俺の上に跨がってこんなことを……?」

 

 爛は疑問だったことをリリーにぶつける。リリーは爛の体を触りながら話す。

 

「だって、マスターが起きなかったから……。」

 

 恥ずかしながら爛に抱きつく。

 

「ん~…。まぁ、いつもよりは遅いもんな。」

 

 爛も抱きついてきたリリーを抱き締める。

 

「…因みに、朝食は…?」

 

 爛が尋ねると、リリーは顔を更に赤くし、爛から離れる。

 

「…も、もう、作ってあり……ます…。」

 

 リリーは細切れになりながらも、作ってあると言う。

 

「ん、じゃあ、早く食べようか♪」

 

 笑みを見せて爛はそう言った。

 

「いただきます。」

「はい♡召し上がれ♡」

(マスターがあんなに正しく…、そして可愛いものです♡)

 

 爛はしっかりと手を合わせて食べるものに感謝をし、食事に入る。それを見ていたリリーは爛が手を合わせている姿が可愛らしく見惚れていた。

 

「ん?どうした?」

「いえ、何でもないです♡」

 

 爛が白米を食べながら何も食べておらず自分を見ているリリーを見て、首をかしげながら話す。

 

「ふ~、御馳走様。リリー。」

「お粗末様です♡」

 

 爛は食事を終えると、しっかりと手を合わせて食べたものに感謝をした。リリーはまたもや爛の姿に見惚れていた。

 

「今日は……、何もないな。」

 

 爛は手帳を開き、日程を確認していた。今日はなにも仕事がなく、休日である。

 

「お休みなのですか?」

 

 爛が何もないことを言ったことに、リリーは爛に尋ねる。

 

「…ん?あぁ。そうだ。」

 

 爛は何か考えことをしていたのか少し間が空いて反応する。

 リリーはその事を聞くと、爛の膝の上に乗る。

 

「……………どうした?」

「マスター、しましょうよぉ……。」

 

顔を赤くし、体をモジモジさせながら爛に上目使いでそう言う。

 

「いやなぁ……。」

「嫌でしたらしませんからぁ……。」

 

リリーからの言葉の追撃に、爛の理性が折れかかる。脳の神経、自分がフル稼働できる理性を使い、保っていた。

 

「………もぅ、ガマンなりません!今すぐにでもします!」

「ちょっ!?ま、待って!」

 

リリーは我慢することができず、爛の制止を聞かずに爛に襲い掛かった。

 

 ーーー夫婦、朝から夜戦に突入すーーー

 

「ハァ………ハァ………ハァ………。」

「ウフフ、マスター………♡」

 

 息を切らしながらも、汗を流している爛と、爛に目がハートの状態で抱きついているリリー。

 

「……シャワー浴びてくるよ。」

 

 爛がそう言うと、リリーは何も言わずに爛から離れる。爛はその事に疑問を感じながらも、シャワーを浴びる。

 

「……………………………。」

 

 爛がシャワーを浴びているなか、風呂場のドアの奥から声が聞こえる。

 

「マスター、私も入りますね……。」

 

 リリーの声が聞こえてきていた。リリーは風呂場のドアを開けると、バスタオルを体に巻いた状態で来ていた。

 

「いや、いきなり入ってこられたらビックリするからな?………別にいいけどさ………。」

 

 爛はシャワーを浴びているなか、突然リリーが来たことに驚き、そう言った。

 

「私もシャワーを浴びようと思って。」

 

 リリーはそう言いながらも、シャワーを浴びている爛の側に行く。

 

「な、ならどうしてこんなに近くに。」

 

 爛はいきなり側に来たリリーに驚きながらも尋ねる。

 

「いいのではないですか?こんなにもマスターを愛しているというのに。」

 

 すると、リリーの目からハイライトが消え去り、爛を抱き締める。

 

「もし……目移りして浮気なんてしてしまったら……どうなるか分かってますよね?」

 

 爛はその事を聞くと、汗を流した。リリーの言葉の本気に命の危険を感じてしまったからだ。

 

「……あぁ。分かってるよ。というか、お前から目が離れないよ。」

 

 爛はリリーを抱き締めると、優しい声音でそう言った。それだけで、リリーの心は温まっていた。

 

「フフ……♪」

 

 リリーはハイライトを戻し微笑む。

 

「ん?どうした?」

 

 爛はリリーが微笑んだことに、疑問を持ち尋ねる。すると、リリーは目のハイライトをハートにし、爛の体に触れる。

 

「だって………こんなにも体が素直で……♪興奮してしまいます♡」

 

 リリーはそう言いながら、爛の体を指でなぞっていく。

 

「……………………!!!」

 

 爛はリリーがそう言ったことを聞くと、顔を赤くしてしまう。

 

「では、もうしてしまいましょうか♡」

 

 リリーは息まで荒くしてしまう。

 

「いや、待って!待って!もう充分だから!」

 

 爛は必死に反論するが、リリーは聞く耳を持たない。

 

「早く♡早く♡」

(あ、無理だこれ……。諦めよう。)

 

 リリーがやる気満々な状態を見て、爛はすぐに諦めた。

 

 ーーー夫婦、朝風呂で夜戦に突入すーーー

 

「ハァ………ハァ………もう……限界………。」

「私は嬉しいです♡マスターのーーー」

「それ以上やめろ!制限かかるから!」

 

 爛はゲッソリとしながらも、リリーが危ない発言をしようとしたことに、ツッコミを入れる。

 

「ま、まぁ………あがろうか。」

「はい♡」

 

 爛は苦笑いをしながらも、リリーの頭を撫でる。リリーは爛にくっつくと、素直に返事をする。

 

「…………………………………。」

「マスター?どうかしたのですか?」

 

 爛はまったく体を動かさないまま、リリーを見詰めていた。それに疑問を持ったリリーは爛に尋ねてきた。

 

「いや………、膝の上からリリーが動かないから……………。」

 

 椅子に座っている爛の膝の上にリリーが鎮座しているのだ。

 

「………マスターは嫌なのですか?」

「うっ………。」

 

 リリーが涙目になり、爛に上目使いで尋ねる。異性に興味がないとはいえ、蔑ろにするのには気が引ける爛は合わせていた視線を外す。

 

「マスター………。私は、要らないのですか………?」

(ヤバイ。本当に泣いてしまいそうだ……。要らない訳じゃないけど………。)

 

 涙が溜まりに溜まり、本当に泣き出してしまうと考えた爛は焦り始める。

 

「い、いや、嫌じゃないし、要らない訳じゃないよ?」

「ですよね♪マスターは私を嫌うなんてことはないですよね♪」

 

 爛がリリーを泣かせないように言うと、リリーは笑顔を浮かべ、爛に抱きつく。

 

「わっ!………まったく。」

 

 爛は微笑むと、抱きついてきたリリーを抱き返し、頭を撫で始める。

 

「マスター………♡大好きです。本当に♡」

 

 リリーは爛に体を委ねると、爛の体温を感じながら、眠ってしまった。

 

「………寝たのか。ふわぁぁぁぁ………。俺も眠くなってきたな………。ベッドに行くか……。」

 

 爛はそう言うと、リリーを抱き抱え、ベッドの方へと行き、同じように横になり、眠りに入る。

 

「………お休み、リリー。」

 

 爛はリリーの唇に、そっとキスをすると、リリーを抱き締めたまま、眠る。

 次の朝、同じようにリリーが爛が起きるときにキスをしていたのは言うまでもない。




………やっと書き終わった……。次回は………、fateキャラではなく、明になりそうです。兄妹愛はどのようなものになるでしょうか。

甘くかければいいのですが………


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嫁編~明1~

久しぶりの嫁編だ!そして妹だ!あまあまに書ければいいと思います。はい。そして、今回は例外でちょっとだけ本編に関するネタバレが入っているかも。探さなくても読んでれば分かります。はい。


「お・に・い・ちゃぁぁぁぁぁぁん♡……とぉぉぉぉぉ!」

 

 明は爛の方へと走っていき、飛び込むように爛に抱きつこうとする。

 

「っ、と、飛び込むなって!危ないって!」

 

 爛はそう言いつつも、飛び込んでくる明をしっかりと受け止める。なんだかんだ言いつつ、明のことは好きなのだ。

 

「えへへ♪別にいいじゃ~ん♡やっと、帰ってきたんだからぁ~♡何なら、一緒にお風呂にでも入る?」

 

 爛に抱きついて頬擦りをする明は、甘い声で爛にそう言う。

 

「ま、まぁ、別にいいけど……。」

「それじゃ、決まりだね!」

「って、おい!」

 

 爛は渋々そう言うと、明は爛の手を引いて風呂場の方へと向かっていく。

 

「で、やっぱりこうなるのか………。」

 

 湯船に浸かりながら、爛は苦笑いをしながらそう呟く。

 

「嫌なの?お兄ちゃん……。」

「嫌な訳じゃないけどさぁ………。」

 

 シュンとした声で爛に尋ねると、苦笑いをして爛は返す。

 

「だって、私は六花ちゃんやリリーちゃんと違って、そんなに胸ないし………。」

「あ、あのなぁ………。」

 

 明は自分が気にしているところを思いっきり爛に暴露してしまい、爛は頭を抑える。

 

「別にな?人それぞれの物ってあるもんなんだ。別に、気にするほどでもないぞ。」

 

 頭を抑えながらも、爛は明にそう言う。

 

「ホント!?」

「………まぁな。」

 

 明は目をキラキラさせて、爛の方を向くと、爛は別の方へと視線を向けながら明にそう返した。

 

「えへへ♪やっぱり、お兄ちゃんのこと大好き♡」

 

 明はそのまま爛の首に腕を回し、恥ずかしがることもなく爛に抱きつく。

 

「………そうか……///」

 

 爛は少しだけ恥ずかしがりながら、明を抱き締める。二人とも素肌を晒して抱き合っているため、お互いの体温を感じやすかった。

 

「……もう、あがろっか。」

「まぁな……。のぼせるからな……。」

 

 先に明からあがることになり、後から爛があがり、寝間着に着替える。

 

「ね、お兄ちゃん。」

「ん、どうした?」

 

 明は何かをしたそうに、自分の後ろに手があり、何か隠しているように感じられる。

 

「……耳掻きか……?」

「そ、そう。でね、お兄ちゃんに耳掻きしてもらいたいなぁ……って、……良い?」

 

 隠していたのを見ると、そこには綿棒が入っている箱だった。

 

「ん、……まぁいいぞ。」

 

 爛はベッドの方に移動し、明が横になっても落ちないようにベッドの上で正座をし、ポンポンと膝を優しく叩く。

 

「じゃあ、やろうか。」

 

 明は綿棒が入った箱を爛に渡すと、爛の膝に頭をのせる。

 

「先ずは……、耳の縁から。」

 

 爛は綿棒を手に取ると、明の耳の縁に綿棒を入れ、掃除を始める。

 繊細な手つきで耳掃除をする。女性だと間違われても仕方ないほどの爛は巫女服で耳掻きも合うかもしれないと明は顔を赤くしてそう思った。

 

「……どうした?顔が赤いが……。」

 

 爛が手を止め、明の顔を見ようとしたとき、明がそれを止める。

 

「だ、大丈夫だから!続けてくれる?」

 

 明は顔が赤くなっていることを知ってほしくないのか、爛を止める。

 

「……あぁ。」

 

 爛は特に何もないか、何か考えているのかと感じたが、明のことでもあるから、爛は深く追求することはなかった。

 

「……ちょっと待ってろ。」

 

 突然爛から放たれた言葉。明は爛の膝から離れる。

 

「少し目を瞑っててくれ。俺がいいと言うまでな。」

「うん。わかった。」

 

 爛はそう言うと、ベッドから降り、別の部屋の方に入っていった。

 

(何をするのかな……。もしかして…、やっと私に……!)

 

 爛が離れていったことで明は目を瞑りながら良からぬことを考えていた。

 

「……目を開けても良いですよ。」

 

 突然、敬語で言われた言葉。明はそれに驚き、目をすぐに開ける。

 

「…………………………。」

「…………………………///」

 

 女性がいる。それしか言葉になかった。それくらいの美貌だ。つい、見とれてしまう。明の目の前にいる女性は顔を赤くし、視線をそらす。

 

「………お兄ちゃん?」

 

 明は目の前にいる女性にそう尋ねた。それを聞いた女性は明に笑みを見せた。

 

「はい。」

 

 黒髪の巫女服の女性は爛であった。いつもの話し方とは違い、敬語になっていた。

 

「いつもその姿だと白髪なのに……。」

「それは、魔力によってそうなるだけです。意図的に髪の色を変えることもできますよ。」

 

 爛は微笑みながらそう話し、ベッドの上で正座をする。

 

「さあ、続きをしますよ。」

「あ、うん。」

 

 明は爛の膝に頭をのせ、爛は耳掻きを再開する。いつもよりも優しく、耳掻きが爛にされることにより、いつも以上に快楽が明を襲っている。

 

「……自分で耳掻きをしていますか……?」

 

 爛から指摘されてしまったところ。どうにも、明の耳が掃除されていないようだった。

 

「ごめん。最近、忙しくてやってる時間がなかったの……。」

「確かに、それでしたら誰だってあるものですね。」

 

 明の理由に爛は納得しながら、明の耳を優しく掃除していく。

 

(あ、気持ちいい………。癖になっちゃいそぅ……♡お兄ちゃん、気を付けて優しくしてくれるから、自分でやるより気持ちいいよぉ……♡)

 

 明は既に瞼が落ちかけていた。余りの快楽に眠ってしまいそうであった。

 

「はい。片方は終わりましたよ。では、反対の方を見せてください。」

 

 そのまま眠りにはいると思いきや、爛の優しい声が明を覚醒させる。明は爛の方を向いて、左耳を見せる。

 

「左耳の方をしていきますね。」

 

 爛はそう言うと、縁の方から耳を綺麗にしていく。

 

「~♪~~♪~♪~~~♪~♪~~♪~~~♪~~~♪」

 

 爛は鼻唄を歌いながら、丁寧に、優しく掃除をしていく。

 明は、爛のその歌に聞き惚れていた。

 

「………はい。終わりましたよ。」

 

 縁から丁寧に奥の方まで綺麗にすると、爛は同じように優しい声音で話す。

 

「ありがとう。お兄ちゃん。」

 

 明はそう言いながら、爛の膝から起き上がる。

 

「さて……、それではいいですね?」

「え?」

 

 爛が笑みを浮かべながら明に尋ねるが、何のことだが分かってはおらず、素っ気ない声をあげてしまった。

 

「忙しい。というのは嘘ですよね?私に耳掻きをしてほしいという理由だけでしてなかったのですね。」

「ギクッ。」

 

 爛は明の嘘を既にお見通しだったようだ。明は焦り始め、苦笑いをする。

 

「ということで、罰として抱き締めます♡」

 

 普通は入るはずのないものが入っていた。それは♡。♪ならまだしも、流石に爛で♡が入るとは思ってなかった。というか、明自身、爛がこれほどに可愛い声で言うことがなかったため、少しだけ唖然としていた。

 

「では。……ぎゅー。」

 

 爛は明の傍で思いっきり抱き締める。

 

(罰というより、これはご褒美だよね!?え!?罰が何でご褒美みたいな抱きつきなの!?私を虜にしようとしてるのお兄ちゃんは!?)

 

 明は、爛が思いっきり抱きついてきたことに驚いているが、これが本当に爛の罰なのかと疑うほどに、明からすればご褒美に値するものだった。

 

「ん~♪」

「わっ、お兄ちゃん。スリスリしないで、くすぐったいって♪」

 

 爛は満足そうな顔をして頬擦りをする。明は目をハートにしながら、爛の頬擦りにくすぐったさを感じていた。

 

「駄目です~♪私が満足するまでずっとこうです♪」

 

 爛は満面の笑みでそう言い、明に抱きつきながらも押し倒す。

 

「眼、見えてるよね?」

「ええ。まだ、変える時ではありませんが。」

 

 爛の目は両目とも黒と黄金の色ではなく、少しだけ灰色に近い色だった。

 

「でも、本当によかった。眼が見えなくなる何てことがなくなって。」

「あぁ。また、お前たちの顔が見えてよかったよ。」

 

 明は爛の目のことについて心配をしていると、元に戻った爛が自分の手を見つめながらそういった。

 

「いきなり戻るなんて……、驚くよ?」

「ハハハ、悪いな。」

 

 明は頬を膨らまし、爛にそう言うと、爛は抱きついていながらも、笑みを浮かべて言った。

 

「……一輝さんの顔が見れて良かった?」

 

 明は爛を見つめて頬に触れる。爛は頬に触れた明の手に覆い被さるように自分の手で触れると、嬉しそうな笑みを見せた。

 

「あぁ、良かった。いい顔だったよ。あの時から、気になってたんだ。髪の色は?眼の色は?顔立ちは?髪の形は?その眼差しは?そう。気になり続けていたよ。」

 

 爛は一輝の顔を本当に見るまで(・・・・・・・)そう思い続けていた。そして、一輝の顔を見たある日、爛は本当に、心の底から満足した。

 

「まぁ、この話は置いておこう。追加の罰、な?」

「え?」

 

 爛はニヤリとすると、追加の罰と言い放ち、明はまたもや素っ気ない声をあげる。

 

「……なぁ、久しぶりに……するか?」

 

 爛の甘い声が明の理性を崩していく。というか、耳掻きの時点で崩れかけているのだが、止めと言わんばかりに、爛の甘い声で、明の理性が完全に崩れた。

 

「もう……、今日は寝かさないよ?」

「それはこっちの台詞だ。今日は逆にこっちが寝かしてやらないからな。」

 

 二人は愛の思いを重ねながら、二人の体は重なりあう。

 

 明日。明が何故かツヤツヤしており、爛がキラキラしていたのは言うまでもない。何故か、爛までもだ。




爛が甘くなった……だと?まぁ自分が書いているのでなんとも言えないのですが?次回は……、香か沙耶香のどっちかでしょう!


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嫁編〜香1〜

久しぶりの嫁編じゃあ!


「すぅ……すぅ………」

 

 爛は自分用の寝室にて、体を休めて眠っていた。

 だが、後ろの方から、物音が聞こえてくる。

 

「んむぅ……香姉?」

 

 寝惚けながらも、後ろから物音がした方に顔を向け、その音を出した人物の名を言う。

 

「あ、起きちゃったんだ。ごめんね?起こす気はなかったの」

 

 物音をたてた人物は香だった。

 香は謝りながらも、爛の布団の中に入る。

 

「待った。何で入ってくるの?」

 

 爛は香の方を向き、尋ねた。

 

「何でって。そんな事言わないでよぉ」

 

 香はしゅんとした顔でそう言うと、爛は溜め息をつきつつ、香から顔を背ける。

 

「何でこっちに顔を向けてくれないの?」

 

 香は尋ねるが、爛は何も答えない。

 

「むぅ~。なら、こうしよっと!」

 

 すると、香は爛を背中から抱きつく。

 

「か、香姉!」

 

 爛は顔を赤くさせ、離れようとするが、力がとても強く、離れることができなかった。

 

「撫で撫でもしてあげる~♡」

 

 香はそう言うと、爛の頭を撫で始める。

 

「あぅ……」

 

 爛は香の手のちょうどいい暖かさに大人しくなる。

 

「ふふふ、可愛いっ♡」

「あぅぅ〜……」

 

 何も言い返すことができない爛は、香にされるがまま。

 香はそんな愛しい弟を可愛がり続けるのだった。

 

「因みに余談ですが、お姉ちゃんは愛しい爛からの夜這い希望ですよ?」

「ちょっ!香姉!」

 

 耳元で囁くように言ってきたのを聞いてしまった爛は、顔を赤くさせて香の方を向く。

 

「もらい!」

 

 そう言うと、こちらを向いた爛を思いっきり抱き締める。

 

「香姉、そんなに力強く抱き締めなくても……!」

「だって、爛がこっちを向いてくれないからでしょ!」

 

 香は爛が自分の方を向いてくれないため、そっぽ向かれないために、力強く抱き締めていた。

 

「……分かった!分かったって!」

 

 爛は折れて、香にそう言った。

 

「えへへ~♪じゃあ、爛もギュッてしてくれる?」

 

 嬉しそうな表情で香はそう言うと、爛は何も言わずに抱き締める。

 

「これで満足なのか?香姉」

「うん!」

 

 爛が香に尋ねると、満足そうな顔でそう言ってきた。

 

「………………」

 

 爛は悩んでいるような顔をしている。

 

「どうしたの?」

「あ、いや。最近、六花たちに会ってないから、どうしてるのかなぁ、と」

 

 爛がそう言うと、香は不満そうな顔をする。

 

「むぅ……」

「ど、どうしたの?」

 

 爛はどういうことなのかが分からずに、驚いた顔をする。

 

「……私が居るのに、何で他の子のことを考えるの?」

「か、香姉?」

 

 低い声でそう言ってきた香に、爛は驚くしかなかった。

 

「何で?何で私のことを見てくれないの?どうして?魅力がないから?六花ちゃんたちの方が魅力があるの?あのときにいってくれたのは嘘だったの?それとも興味が私にはなかったの?爛を満足させることができなかったの?不満があったの?見捨てるの?私から離れていくの?自分が満足してただけだったの?もしそうなら私はどうすればよかったの?ねぇ、爛。教えてよ。私はどうすれば爛とずっとずーーーーーーーーっと一緒に居ることが出来るの?教えて?私わからないから教えてもらえないと何もできないの。こんなに爛を愛しているのに、爛に見捨てられたら私、生きていくことなんて出来ないの。だからお願い。六花ちゃんたちじゃなくて、私を見て。私だけを見つめて。私の声だけを聞いて。私のことだけを愛して。私だけを触れて。そうしてくれたら、私は何だって出来るの。愛してくれている爛のためなら、私は何だってするの。命だって捧げることが出来るの。だって、爛の一番が私だって言うんだったら、私はそれだけでも嬉しいの。私、爛を触れるの好きなんだよ?私だってずっと爛のことしか眼中にないし。真っ黒な髪の毛。真っ直ぐな瞳。微笑む顔は可愛いし、体を触れていても飽きない。色々としている手は綺麗だし、体の隅々が好きなの。これは爛だからだよ?」

「━━━━━━━━━━」

 

 目のハイライトを消して、爛の耳元でずっと呟き続ける香に、爛は唖然とするしかなかった。

 

(あ、愛が重たい……。

 六花たちにでも感化されたのか……?)

 

 爛は、ここまで香がこうなるとは思っていなかった。嫉妬程度ならばいいのだが、それを通り越したが故に、爛は驚いていた。

 

「ねぇ、爛。爛は……私を愛してくれるよね?」

 

 香はハイライトを消した状態の瞳を爛に近づける。爛は、今の香の状態を六花たちから今まで感じることがなかったため、すごく焦っていた。

 

「う、うん。愛してるよ」

 

 こういうしかなかった。としか言えないだろう。もし、愛していないなどと言った日には、殺されているか、彼女が自殺をするかもしれない。できれば、そのようなことは避けておきたい。 

 それを聞いていた香は、花が咲いたような笑みで此方を見ている。

 

「えへへ~♪ありがと~♪愛してるよ。爛」

 

 そう言うと、香は爛に顔を近づけてくる。

 

「あ、あはは……ッッッ━━━━━!!??」

 

 爛はいきなり唇を塞がれたことに驚く。

 香が爛にキスをしたのだった。

 

「ん……ちゅ……ぢゅる……んぁ……♡」

 

 ただわかることは、いつもよりも積極的であること。

 頭の中が徐々に白くなっていく。ぼーっとしていく。甘ったるい電流が頭の中に流れていく。

 何も考えられなくなる。弱いところを、全て舐められていく。

 快楽に呑み込まれていく。キスは長く、もうしばらく続けられれば、完全に快楽に堕ちてしまう。

 

「……ご馳走さま、爛♡」

 

 香はそう言うと、未だにぼーっとしている爛の胸に顔を埋める。

 

「香姉……」

 

 爛は小さな声で香を呼ぶ。

 

「どうしたの?爛」

 

 埋めていた顔を上げて、爛を見つめている。

 

「いや、さっきのキスが……病み付きになっちゃって……」

 

 爛は顔を赤くさせながら、香を見つめる。

 

「……!可愛い!やっぱり爛は可愛い!」

 

 香はそういって、爛は仰向けにさせて、馬乗りになる。

 

「うぅ~……余りにそういうことを言わないで……恥ずかしい……」

 

 目線を外して、顔を背ける。

 とても見せられないような顔だ。

 だが、それは関係ない。もう香を止めることはできなさそうなのだ。

 

「もぅ!爛は天使!このままいただきます!」

「か、香姉~~~~~~~~~~~~~!」

 

 歯止めが効かずに、香はそのまま爛を襲った。

 結果、爛は隅々まで香に食べられたのだった(意味深)



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嫁編~桜1~

息抜きでこちらを書きにきました。

活動報告にて次回の話などの方針などが書かれていますので、気になる方は活動報告を確認ください。


「先輩、起きてください。先輩」

 

 爛のことを揺さぶっている桜は、眠ったままの爛を起こそうとしていた。

 

「ん……桜……」

 

 重い瞼を何とか開けた爛は、桜に抱き締められながらも、起き上がる。

 

「先輩、今日はどうしますか?」

「ん~? あぁ、もう朝だったんだな……すまない。寝過ごしていたな……」

 

 まだ、完全に目が覚めきっていないのか。少しボーッとする爛を見て、桜を胸を高鳴らせた。何故なら、爛の無防備な顔は見てきているのだが、やはり、爛の顔の無防備に出てくる何とも言えない可愛さに負けてしまうのだ。

 

「……このまま二度寝しよ~」

 

 爛が桜を抱き締めて、ベッドに横になった。

 驚いた桜は、爛に抱き締められたままだ。

 

「せ、先輩?」

「今日は暖かいし、別に二度寝ぐらいしても罰は当たらないだろ?」

 

 爛の言う通りだ。今日はとても暖かい。寝てしまえそうなほど、暖かいものだった。

 爛が眠たそうにしているのも、今までのことを考えれば納得のいくものだった。

 

「先輩は、毎日お仕事で忙しくしていましたからね。二度寝、しましょうか」

 

 桜も爛を抱き締め、温かさを感じている。爛も桜も体温はそれなりに高く、人肌で温かくすることができるのだ。それが二人となると、とても暖かくなり、爛は既に眠りに入っていた。

 

「もう寝たんですか?」

 

 爛から返事はない。眠ってしまっている爛には、この声は届いていないのだから。

 

「眠ってしまったんですね。先輩」

 

 桜は爛を仰向けにし、そこに覆い被さるようにして、爛を抱き締めた。

 爛の温かさを感じ、欠伸をしてしまう。

 

「私も、眠くなってきました……」

 

 段々と睡魔が襲い、最終的には、桜も眠ってしまう。二人とも、抱き締めたまま離さない状態だった。

 

「んん……」

 

 爛が目覚め、目の前にはまだ眠ったままの桜がいた。桜を抱き締めたまま起き上がった爛は、あることに気づく。

 

「はぁ……はぁ……先、輩……!」

 

 桜がうなされていたことだ。汗をかき、辛そうな顔をしている。

 タオルを持ってこないといけないと考えた爛は、桜を横にしようとするが……

 

「ダメ……!」

 

 ぎゅうっと桜が強く抱き締めてきたことで、桜を横にさせることができないことだ。

 今、桜を安心させなければならない。タオルの準備ができないため、爛のとった行動は───

 

「大丈夫、俺はここにいるよ」

 

 桜を抱き締め、頭を撫でることだった。桜が一番、安心する方法だった。

 

「はぁ……はぁ……」

 

 少しずつ、収まっていくのを感じた爛は、このまま頭を撫で続けた。

 汗が止まり始めた頃、桜が目を覚ました。

 

「はぁ……はぁ……先輩……?」

「目が覚めたんだな。うなされていたぞ」

 

 まだ苦しいのか。息を荒くしたままで、桜は少し汗を流した。

 

「タオル持ってくるから、少し───」

「嫌です……このままでタオルで拭いてください」

 

 待っててくれと言おうとした爛を遮り、桜は足まで使って爛を抱き締めた。

 

「……分かったよ」

 

 頷いた爛は、桜を抱えてタオルを取りに行く。

 タオルを濡らして、桜の顔を拭く。

 

「大丈夫か?」

「はい……大丈夫です」

 

 桜は爛に拭かれながらも爛の尋ねてきたことに答えた。

 首回りを拭くと、爛が手を止めた。

 

「……………………………」

「?」

 

 手を止めて、顔をジーっと見てきた爛に対して、桜は首をかしげた。どう言うことなのか、分からないようだ。

 

「……なぁ、このまま全部拭くのか?」

 

 少し顔を赤くした爛が桜に尋ねた。その質問のことに、何を言いたいのか分かった桜は嬉しそうな表情で頷いた。

 

「はい、拭いてください」

 

 桜の答えを聞いた爛は、少し困った表情を浮かべた。しかし、桜にはその事など気にもしない。

 

「先輩になら、見られてもいいんですよ?」

 

 爛の耳元で囁く。その事を聞いた爛は、更に顔を赤くした。耳まで赤くしたことに、桜は可愛いと重いながら、更に囁いていく。

 

「二人っきりなんですから、先輩も大丈夫ですよね?」

「うぅ……それは……」

 

 恥ずかしいのだろう。目線を逸らし、「うぅ~……」

と呻いている。

 

「早く決めないと脱いじゃいますよ?」

 

 服に手をかけた桜を見て、爛は更に焦っていく。

 

「わ、分かった! 拭く! 拭くから!」

 

 爛は勢いでやるしかないと、恥ずかしいと思いながらも、やると言った。

 

「じゃあ拭いてください♪」

 

 抱きついたまま拭けと言うのか。背中の方とかは拭けるかもしれないが、前の方は拭けないだろう。

 

「降りてくれないか? 拭きづらいからさ」

 

 爛は桜の頭を優しく撫でながら、桜を降ろそうとする。

 

「分かりました……」

 

 寂しそうな表情をした桜は、爛から降りる時にまだやってほしい。物足りないという目を向けた。

 

「後でしてあげるからな。今は、我慢してくれ」

「絶対してくださいね」

「はいはい」

 

 タオルを持って、桜の体を拭きながら言うと、桜は爛のことをジーっと見つめた。

 苦笑を浮かべながらも拭いていく爛は、服を脱がせることなく、自分の手を桜の服の中に入れることで解決した。

 柔らかい感触がし、恥ずかしい気持ちになりながらも、すぐに終わらせてしまえばいいと考え、拭き続ける。

 

「ふぅ、吹き終わったぞ……」

 

 顔が赤くしながらも、爛はタオルを洗濯機に入れる。服を着替えた桜は、爛の背中から抱きつく。

 

「……どうした?」

「もう、忘れちゃったんですか?」

 

 プクーッと頬を膨らませた桜は、背中に顔を埋める。

 

「そこじゃ、埋めることはできないんじゃないか?」

 

 爛が苦笑を浮かべながらも、桜の方へと体を向ける。

 

「分かってるよ、忘れてないってば」

 

 桜を抱き上げ、ベッドの方へと歩いていく。

 窓の方で咲いていた花を爛と桜は一度見る。綺麗に白い花が咲いていた。

 

「先輩、好きですよね。オオアマナ」

「あぁ、あの色合いが好きなんだ。花言葉とかも素敵なんだぞ?」

 

 爛はオオアマナの花を好んでいる。昔から縁のある花で、花を手向ける時などはオオアマナを持っていくのだ。

 

「花言葉……純粋、潔白とかでしたっけ」

「あぁ、そうだ。あれだけ綺麗な花にはそれなりの花言葉が込められている」

 

 桜はオオアマナの花言葉を言うと、爛は満足そうに頷きながら言った。

 ベッドにつくと、桜は爛を強く抱き締め、爛は桜の頭を撫でる。

 

「先輩、肌柔らかいです……♡」

 

 桜は、爛の肌をツンツンとつついたり、撫でるように触ったりしていた。

 

「ッッッ!!」

 

 爛は桜の触り方に、ゾワッと来る感覚を味わった爛は体を震わせた。

 

「どうしたんですか? 先輩♡」

 

 爛の耳に息を吹きかける。

 

「や……止めてぇ……」

 

 顔を真っ赤にした爛は、桜の顔を見ながら、懇願するものの、それを止めることはできない。

 

「嫌です♡」

 

 桜は爛の耳にもう一度息を吹きかける。爛は体をビクッと震わせ、桜はその様子を楽しんでいた。

 

「桜ぁ……」

 

 爛は目元に涙をためて、桜から離れようとするものの、桜は爛をガッチリと抱き締め、離れられないようにしていた。

 

「ダメですよ? 先輩。先輩は私が満足するまでこのままですからね」

 

 桜は爛を強く抱き締め、爛の首元に唇を近づける。

 

「~~~~~~~~ッッッ!!??」

 

 桜は爛の首にキスマークをつけるために、爛の首元に唇を近づけたのだ。爛は、顔を更に赤くする。桜を離そうと必死になっているが、離れることはできずに、桜の思うがままにされている。

 

「………綺麗につけられました……♡」

 

 うっとりとしたような表情で、桜は爛の首につけたキスマークを見ていた。

 

「これで、先輩は私の物ですね♡」

「いやいや、これが印なの!?」

 

 桜にとって、このキスマークが自分の物であるという印なのだろう。爛にとっては考えられないもののため、桜に尋ねてきた。

 

「えぇ、そうですよ。先輩は、私の物……♡」

 

 爛の頬を撫でながら、桜は撫でている反対側の頬に唇を近づけた。

 

「ちょっと待って! 桜!」

「待ちません、このままさせてもらいますね♡」

 

 桜は爛の頬に唇をつけ、キスマークを作る。

 

「さ、桜ぁ……!!」

 

 爛は離れることも押し退けることもできずに、桜は爛の頬にキスマークをつける。

 

「……また、綺麗につけられました……♡」

「うぅ、桜。キスマークをつけるのはいいけど、見えやすいところにつけるのは……」

 

 桜がキスマークをつけていた場所は頬と首。見えやすいところにつけられた爛は、顔を赤くした。

 

「見えやすいところじゃないと、私の物だって分からないじゃないですかぁ……」

 

 桜は何故かシュンとした表情となり、爛の胸元を指先で触っていた。

 

「私の物って……俺は桜の側にいるんだからさ、そういうのはつけなくても、ちゃんと桜の側に戻るからさ」

 

 爛が笑みを浮かべて、桜を安心させるように言った。聞いていた桜は安堵の表情を見せた。

 

「……先輩、先輩」

「何?」

「……寝ませんか?」

「またか?」

「はい、休みなんですから、寝ましょ?」

「……そうだな」

 

 桜はベッドに横になり、ポンポンとベッドを叩いた。爛は呆れる様子を見せず、笑みを浮かべたまま、桜のとなりに横になった。

 

「キスマークは消しにいかないんですか?」

「家にいるだけだからねぇ。別に消さなくてもいいかなって」

 

 頬と首に残ったままのキスマークを見た桜は爛に尋ねると、爛は別にいいと答えた。

 確かに家であれば見られることもなく、二人しかいないため、問題はないだろう。

 

「取りあえず、寝ようか……桜」

「何ですか?」

 

 爛は桜の頬に触れた。とても柔らかく、少しでも押したら、潰れてしまうような肌を、爛は優しく撫でた。

 

「愛してるよ、桜」

「……私も、愛しています」

 

 二人は自分の想いを、大切な人に向けて、言葉にして表した。

 眠りについていく二人の心は、幸せに満ちていた。

 キスマークの件については、洗い落としたものの、桜にまたつけられたという。



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〜番外編〜
Sky Blue Grandprix後日談


蒼空の魔導書さん!コラボありがとうございました!
今回は、その後日談!爛と六花が元の世界に戻ってきたあとのお話です!
因みに、題名の部分は貸してもらいました(許可も勿論取りました)
また、一話終了の番外編の枠にこの話が入ります。季節ごとの行事の投稿も、一話終了にし、この番外編枠に入れるつもりです。


「ふぅ、改めてお疲れ様、六花」

 

飲み物での好物である初恋ジュースを飲みながら、爛は車を運転する。

 

「よく、それを飲めるね。

 僕には無理だよ………」

 

 六花はそう言いながらも、爛の飲んでいる初恋ジュースの甘さを抑えた失恋ジュースを飲んでいた。

 

「そういえば、爛。

 あのDVDはどうしたの?」

 

六花はそう言いながら、バッグに手を伸ばす。

あのDVDとは、Sky Blue Grandprixに招待された爛たちは、その様子を撮ったDVDが贈られているのだ。

因みにSky Blue Grandprixとはカーレースのことである。

 

「ねぇ、爛」

「抱きつくのは帰ってからな」

 

言おうとしていることがバレてしまったことで、六花は頬を膨らませて爛を見つめる。

 

「いいもん。帰ったらジャンヌに言うもんね〜」

「それだけは勘弁して欲しいね……」

 

苦笑いをしながら、爛はそう言い放つ。

彼女の説教は刀華よりも長い。

正座には慣れているから良いにしても、同じように座っているジャンヌが足をシビらせて手伝ったほどだ。

 

「あぁ、それと。DVDはそのバッグの中だ。っていうか、本当にみんなで見るのか?」

 

恐る恐る聞いてみる。

正直に言うと、彼女等には見せたくない事がある。

 

「うん。僕と爛のラブラブっぷりを見せつけるためにさ!」

「何でこう自信満々に言うかな……」

 

ついつい頭を抑えてしまう。

 

「さて、そろそろ着くぞ」

 

もうすぐで爛たちの家だ。

どうしても爛の部屋に入るには人数が多いため、一軒家を買い、そこに住むことになったのだ。

因みに、食費などの管理は全て爛がしている。

 

「ん、じゃあ降りるぞ」

「分かった〜」

 

爛がそう言うと、六花もすぐに降りて玄関の方に向かう。

駆け足で行っている限り、早く見せたいのだろうと思っているはずだ。

 

「全く、六花は」

 

苦笑いをしつつ、爛は六花の跡を追う。

 

「ただいま〜」

 

その一言をいれる。

帰ってくれば、待っている人がいる。

 

「お帰りなさい、マスター」

「あぁ、ただいま。リリー」

 

温かい笑顔で迎えてくれる。

それだけで心は一杯だ。

誰もがそのはずだ。

 

「今日もお疲れ様です。皆さんは、中で待ってますよ」

「リリーの方もお疲れ。さて、今日は何を作ろうか。何か、要望はあるか?」

 

何気ない会話。

爛からの質問に、リリーはこう答えた。

 

「今日は、和食でも食べたいですね」

「そうか。そっちも良いなぁ」

 

今日はどんな感じの夕食にしようかと、爛はメニューを考えながら、皆が待っている部屋へと向かう。

 

「ただいま。皆」

 

みんなが待っている部屋に行き、帰ってきたことを話すと、皆して返してくれる。

 

「さて、今日はどちら様が座っていますか、と」

 

爛はいつも座る席に行くが、そこには必ず誰かが座っている。

さて、今日は誰が座っているかというと。

 

「あ、爛君」

「今日は刀華か……」

 

刀華だった。

意外と言うかなんというか、言葉に表せない感じになっている爛。

 

「ん」

 

刀華は此方に両手を広げて待っている。

 

「はいはい」

 

察した爛は刀華を抱き上げ、席に座る。

 

「ん〜♡ やっぱり、爛君の匂いは落ち着く♡」

「それは何より」

 

爛は刀華の頭を撫でていると、何かから声が聞こえてくる。

その声を聞くと、爛は冷や汗を流しながら身の危険を察知した。

 

「マ・ス・ター?」

 

後ろから声が聞こえた。恐る恐る顔を向けると、凄くいい笑顔で見てくるリリーが居た。

 

「あれは?一体?どういう?ものなのですか?」

 

口を開くことが出来ない。

可憐で美しい金髪の少女の後ろに、悪魔と呼んでも等しい者がいることも気づいた。

彼女が放っている気は、ぶつけている者に幻覚とも言えるものを見せる。

 

「とにかく、こっちに来てください。もうこれ以上、そういう事が無いようにしっかりと、調教させてもらいますね?マスター♡」

「━━━━━━━━━━」

 

何も言えない。言うことが出来ない。

彼女に連れていかれる。

 

「ちょっと待ってください。リリーさん」

 

いいタイミングで刀華が間に入ってきた。

 

「爛君を、どうするつもりですか?」

 

固有霊装(デバイス)を顕現させる準備は出来ている刀華。

リリーの返答次第では、刀華の刃がリリーを襲う。

 

「大丈夫ですよ♪刀華さん。戻ってくる頃には、マスターは私たちに堕とされるんですから♡」

(とんでもないことを言っちゃったよこの子!何!?一体どうなったらこうなるの!?)

 

リリーの口から出された言葉は完全に、危ないものだった。

今すぐにでも逃げ出したい。

だが、それが出来るわけでもない。

 

「えぇ、なら良いですよ♪」

(ええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!?)

 

刀華はそう言うと、爛の膝から降りて、リリーは爛の手を引っ張る。

 

「考え直して!お願い!お願いだから!ねぇってば!」

「マスター♡私との愛を育みましょう?」

 

爛は必死に抵抗するが意味が無い。

リリーは爛の抵抗を気にもせずに引っ張っていく。

 

〜翌日〜

 

ピンポーン

 

インターホンの音を鳴らす。

余ってしまった果物を渡しに来た颯真は、爛の家によっていた。

しばらくすると、玄関のドアが開けられる。

すると、死んだ人のような顔で、生気のない目をし、颯真を見てくるのは、爛だった。

 

「お、おい爛。どうした?」

「いや、大丈夫……どころで……何用だ……?」

「あ、いや、果物が余ったから、渡しに来たんだけど、また一週間後位に来る……」

「あ、ぁ……分かった……」

 

颯真は冷や汗を流しながら、爛の問いに答えるが、すぐに立ち去っていった。

そして、爛の状態から察した颯真は、しばらく爛をそっとしておこうとしたのだった。




次は、ハロウィンかぁ……


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主に呼ばれた剣霊

ハロウィンだと思った?ねぇねぇ、ハロウィンだと思った?残念!
劇場版Fate/staynight heaven'sfeel 第一章ロードショーを記念して!

この小説を書かせてもらいました!

かなりのシリアスのはず……


 ある夢を見た。

 とても、見たことのある夢だった。

 だがそれは、災厄の戦いの夢だった。

 主は黒いものに飲み込まれ、私も飲み込まれた。

 そして、飲み込まれた主と私は、彼に刃を向けた。

 マスターであったはずの彼に。

 刃を向けるしかなかった。

 冷酷な主は、彼を殺そうとした。

 それは間違いない。

 だが、その刃は折れてしまった。

 何故か?

 それは、彼に協力している彼女が、私たちを倒してくれたから。

 そして、彼が止めをさしてくれた。

 主は元あるものへと還り、私も同じように還った。

 だがそれは、突如として防がれた。

 飲み込まれたはずの私の体は、元の体へと戻っていて、そして、今のマスターが居た。

 元ある場所へと還る方法がない以上、私はマスターの剣となった。

 そして、幾度の夜を越えて、マスターと共に過ごしてきた私はいつの間にか、永遠に彼の剣であることを思ったのだった。

 彼はそれを、受けていれてくれた。

 彼が主を認めてくれたように。

 マスターもまた、同じように認めてくれた。

 このまま、幸せな日々が続けばいいのに。

 そう思っていた。

 だがそれは、この日を境に打ち消された。

 魔力の一部が消えていく。

 それを防ぐことはできない。

 何故ならそれは、主が私を呼んでいるのだから。

 マスター。私は、もう戻れないのかもしれません。

 貴方に愛された分、私は彼方で戦わなければならないのかもしれません。

 貴方と離れてしまうと考えると、近くにいるのにも関わらず、夜も眠れません。

 完全に消えていってしまう。

 彼方の方へ戻っていくことになる。

 あぁ、マスター。

 私が戻ってくるまで、待っていてもらえませんか?

 涙を流さないでください。

 戻ってきますから。絶対に。

 どんな状態になっていようと、私は戻ってきます。

 だからその時は、私をいっぱい愛してくれますか?

 この心を、満たしてくれますか?

 主よ、私はすぐに参ります。

 もうすぐで、私はここから居なくなります。

 戻ってきますから、待っていてください。

 愛しています。マスター。

 

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

 

 あぁ、行ってしまった。

 彼女は、主の元へと戻っていった。

 あの日から、剣として戦ってくれた彼女は、もうひとつの戦いに、身を投じていく。

 傷つくこととなると、どうしても悲しく思ってしまう。

 どうせ行くって言うのなら、俺も行きたかったなぁ。

 彼女を守ってやりたい。

 彼女がいなくなったことで俺の心に、ポッカリと穴が開いたような感覚に陥った。

 いつも後ろについてきてくれていた彼女は、今はもう居ない。

 帰ってくるとは言ったが、彼女があるべき場所へと還ることがないわけではない。

 あぁ、とても悲しきことかな。

 死なないなんて約束はできないだろう。

 彼女の事だから、無理をしてでも戦うだろう。

 彼女の主がそうだったから。

 泣かないで。なんてことを言っていたけど、彼女だって泣きたかったはずだ。

 あ~あ、とても見ちゃいられない顔になってるんだろうな。俺は。

 こんなことはしていられない。

 彼女は帰ってくるって言ってきたんだ。

 なら、俺はマスターとして、彼女の帰りを待つ。

 きっと………いや、絶対に。

 帰ってくるって言ったんだ。

 帰ってきたら、いっぱい愛してやろう。

 心を満たしてやろう。

 それが、俺に出来ることなんだから。

 だから頼む。帰ってきてくれ。

 俺が愛した剣霊よ。

 また、俺の元へと帰ってきてくれ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 リリー・アイアス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




以上で第一章ロードショーを記念しての小説を終わります!
自分はこの日、四時近くからの上映を見てきます!
え?舞台挨拶を見ないのかって?
そんな金はないよ……


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ハロウィン

ハロウィン編や!さて、六花達はデンジャラスビーストになるのだろうか!?


『ハッピーハロウィン!』

 

 その声と共に、破軍学園でハロウィンイベントが始まった。

 その直後に、三人の男が走り出す。

 

「「「おおおおおぉぉぉぉぉぉぉ!!!」」」

 

 爛と一輝、颯真が叫びながら学園内を走る。理由は簡単、好意な女子生徒や恋人が三人めがけて走ってきているからだ。

 

「待て~~~!」

「マスター~~~!」

「奏者~~~!」

「爛~~~!」

「お兄ちゃん~~~!」

「ご主人様~~~!」

「ますたぁ~~~!」

「待ってください~~~!」

「チョコください~~~!」

「先輩~~~!」

 

 爛に好意を持っている六花たちは、爛を狙って追いかけている。

 

「イッキ~~~!」

「お兄様~~~!珠雫にチョコを~~~!」

 

 ステラと珠雫は、一輝が爛に教えてもらったシンプルなチョコを作っており、それを求めて追っている。

 

「颯真~~~!」

「チョコちょうだい~~~!」

 

 颯真の恋人である冬樹イヴと冬樹ノエルは颯真とチョコを狙って追う。

 

「なぁ!チョコって作るべきじゃなかったのかなぁ!」

 

 颯真が叫ぶように横を走っている爛と一輝に尋ねる。

 

「黙って走れ!性的に喰われたくなければな!」

「チョコを作ってなくても、僕たちは多分同じように走ってるよ!」

 

 二人もそれぞれで答えるが、叫ぶように言っている。

 

『まぁてぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!』

 

 三人の背後から、恋人たちの叫びが聞こえる。それを聞いた三人は恐怖で体を震わして、それらを振り切るように全速力で走り出す。

 

「「「イヤァァァァァァァァァァ!」」」

 

 息なんてしてられない。とにかく、逃げ続ける。捕まれば何をされるか分からない。

 最悪、爛の言っていた通り、喰われるかもしれない。それだけは避けたいのがこの三人。

 恋人たちからすれば、それができれば嬉しい限りなのだろうが。

 

「捕まってたまるかぁ!全員個別に動いてくれ!」

「「あぁ!」」

 

 爛がバラけて動くことで、行動範囲を広めようと考えたのを察すると、一輝と颯真は階段をかけ上がる。

 爛は階段をおり、六花たちから逃げ続ける。

 

「ステラさん!上ですよ!」

 

 ステラたちは上の方へと逃げていった一輝と颯真を追いに。

 

「待ってよ~~~!爛~~~!」

 

 下の方に逃げていった爛を六花たちは追う。

 

(もう捕まりたくない!仕方ない、あれをやるしかないか!?)

 

 爛は階段をかけ降りたすぐとなりにある教室に飛び込み、すぐに窓を開けてとある場所を目指す。

 

「むぅ……。見つかりませんね……」

 

 爛がかけ降りた先は一階。一階の全てを見て回ったのだが、どこにも居らず、扉や窓を開けた形跡はない。

 

(ふぅ……。どうやら、まけたみたいだな)

 

 爛は屋上のフェンスに手をかけて、一階の方をみていた。

 爛は窓を開け放ち、感知されないほど微弱な雷で空を跳び、雷の分身で窓を閉めたのだ。

 ステラたちにも見つからないよう、窓がある場所を避け、屋上まで跳んだのだ。

 

「ま、なんとかなるか。来たら来たで対策はあるし」

 

 独りでに呟きながらフェンスを登り、中に入る。

 

「よ、爛」

 

 颯真と一輝が屋上に上がる階段の屋根の上に座っていた。

 

「お前たちもか。まけたのか?」

「何とかね……。颯真が居なければ、今頃捕まってたと思うよ」

 

 爛は二人の様子から見るに、まけたとは言えるが、完全にまけたとは言えないように見える。

 もう少ししたら来るだろう。

 

「さて、俺は準備をしておくよ」

 

 爛はそう言うと、英霊を憑依させるために、詠唱する。

 

「サーヴァント憑依。クラス・アーチャー。真名・ロビンフッド」

 

 爛はロビンフッドを憑依させる。準備は完了した。六花たちを完全にまくには、ロビンフッドの力が必要なのだ。

 

「まだ、来ないかな?」

 

 爛はそう呟く。その瞬間、背後から聞き覚えのある声がする。

 

「もう来たわよ?」

 

 声を発した者の左手が、爛の頬を触れる。

 爛の体温は、急激に下がっていき、凍りついたような体温となる。

 

「あら、どうしたの?爛」

 

 蛇のようにまとわりついているとしか考えられない。触れられている手を振り払い、一輝と颯真を抱え、屋上から飛び降りる。

 

「ちょっ!爛!?」

(どういうことだ!?虎じゃないの彼女は!?全く気づかなかった……。アサシンの域を超えている!)

 

 爛は何も答えないが、誰が触れてきていたのかは分かっている。

 だからこそ、信じられなかったのだ。

 存在感は強いはずの彼女が、自分の警戒の網を通り抜け、自分に触れたことに。

 

「あら、逃げられちゃった。あっちには、彼女たちがいるから、逃げられないでしょうけど」

 

 爛に触れていたのは、雪蓮だった。

 虎と呼ばれ恐れられている彼女が、蛇のように静かに動き、爛の警戒網を突破した。

 

「ハァ、ハァ、ハァ、ハァ」

 

 酸欠状態に陥ったかのように呼吸をしている。

 

「だ、大丈夫?爛」

「な、何とか……」

 

 一輝は爛を心配し、颯真は周りを警戒する。

 すると、颯真の耳が何かの音を聞く。風を切るような音。それは徐々に、大きくなっていく。

 

「爛!一輝!そこから離れろ!」

 

 颯真は二人にそう叫ぶと、爛が動けない状態のため、一輝が抱えて避ける。

 爛の立っていたところに、矢が放たれていたのだ。

 

「す、すまない一輝」

「別にいいよ。でも……正直に言っちゃうと女の子を抱きかかえている感じで……」

 

 爛は一輝に感謝すると、一輝は今まで何も言っていなかったことを口にする。

 確かに、ほぼ女性とも言える爛を、美少年とも言える一輝が抱えているとなると、恋人のように思われても仕方ないと言うかなんと言うか。

 

「そ、そうか?」

「うん」

 

 爛は顔を赤くさせてそう言うと、一輝は即答する。

 

「まぁ、それより。颯真、来てくれ」

「ん、分かった」

 

 颯真は警戒は解かずに、矢が放たれてきた方向を見ながら、爛の方に近づく。

 

「よし。じゃあ、〈顔の無い王〉!」

 

 ロビンフッドの能力とも言える〈顔の無い王〉を発動し、一輝と颯真、自分の姿を消す。

 

「それをしても意味がないよ?」

 

 またもや、聞き覚えのある声に、姿が見えないはずの爛をしっかりと捕まえる。

 

「り、六花!?」

 

 しかし、〈顔の無い王〉を解くわけにも行かず、声を出す。

 

「解かなくてもいいけど、逃げられないよ?それに、ステラちゃんたちもそこにいるの分かってるから」

 

 六花に全てを見透かされている。

 そう察した爛は〈顔の無い王〉を解く。

 

「はぁ。負けだよ。負けだ。俺たちの負け」

 

 爛は苦笑をしながらそういう。

 

「そうだね」

「まぁ、楽しかったな。……別の意味で」

 

 一輝と颯真も負けを認め、自分の恋人の方に戻っていく。

 

「さぁ……爛、行こ!」

 

 六花は爛の手をとり、走り出す。

 爛は六花に続いて走り出す。

 

(全く、六花には敵わないなぁ……)

 

 爛はつくづくそう思うのだった。こういうのに関しては、負けるしかない、と。

 自室に戻った爛を待っていたのは、露出度の高い服を着ているリリーたちがいた。

 

「……はい?」

 

 爛は素っ気ない声を出すしかなかった。

 ここまで大た……あぁ、大胆だったか。と思ってしまうが、今回のは流石にその大胆を通り越していた。

 

「マスター……♪」

 

 吸血鬼のような見た目をしているリリーが爛に近づいていく。

 

「リ、リリー?」

 

 爛は後ずさりをしようとするが、後ろは扉のため、後ろにいくことができない。

 

「行かせませんよ?だって、もう鍵閉めましたし。………ですからぁ」

 

 他のみんなが爛の方へと近づく。怖い。何をされるのかは予想できてきたが、今回ばかりはゲッソリするどころか、次の日はずっと寝てなきゃいけないかもしれない。

 

「一緒に……しましょう♡」

 

 リリーたちに抱えられて、ベッドに連れていかれる。ベッドに強制的に寝かされると、動けないように掴まれる。

 

「イヤ……」

 

 爛は涙をためる。その事にリリーたちは驚いてしまう。

 

「イヤ……酷いこと、しないでぇ……」

 

 今にも泣きそうな顔をしている爛を見て、リリーたちの胸はキュンと締め付けられるようになった。

 

 そして、そのまま爛は喰われたとさ(意味深)。

 後日、動けなくなった爛を六花たちは介護することになった。




ハロウィンでした!最後にデンジャラスビーストと化した六花たち。
まぁ、爛は喰われるのは確定でしたねw

次回もお楽しみに!


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クリスマス

クリスマスです!(まさか三日も遅れるだなんて……)
意外、いつの間にか一周年になってたw



 一般的に『クリスマス』と呼ばれている日がある。クリスマスと言うのは、イエス・キリストが生まれた日でもある。

 それを祝う日とも言われている。だが、それは国によって違う。

 ここ日本では、大切な人と過ごしたり、友人と宴会をしたりとやるのは様々だ。

 爛たちのところでも、クリスマスの宴会が始まろうとしていた。

 

「爛が来ないね~……」

 

 六花は宴会が始まろうとしているのに、来ていない爛を探していたが、それでも居なかったために、頬を膨らましていた。

 

「何かあったのでしょうか?」

 

 リリーは不安になる一方で、そわそわしていた。

 

「う~ん、お兄ちゃんなら遅れてでも来るはずだから大丈夫だとは思うけど……」

「それで、爛が本当に遅く来たら、リリーちゃんが大変なことになりそうね」

 

 明はキョロキョロとしながら爛を探している。香は爛を探してはいないが、爛が来ないことでリリーが大変なことになりそうなため、そちらが心配になっていた。

 そこに、司会が入る。

 

『ではこれから、破軍学園にてクリスマス回を始める』

 

 司会をしているのは黒乃。理事長であるがゆえに、そこはやらなければならないのだろう。

 

『自由に楽しんでくれて構わない。ただ、一つだけあるとすれば……』

 

 黒乃がそこまで言うと、巨大な扉が開く。

 そこから出てきたのは、女性の姿をした爛でサンタコスチュームを着ていた。

 

「なぁっ!?」

「マスター……!?」

「お、お兄ちゃん!?」

「強制的に着せられたのでしょうか?」

 

 六花とリリー、明は驚きの声をあげて、タマモに関しては冷静に爛の姿を見て強制的に着せられたのかと考える。

 

(……この服は着たくないって言ったじゃないですかぁぁぁぁぁぁ!)

 

 爛は恥ずかしい思いとなり、運んでいる巨大なケーキを叩き潰したい気分だった。

 爛が先程までいなかったのは、このケーキに果物を乗せたりするために、居なくなったのだ。

 そこで、椿姫が爛に女性の姿に変えさせ、ミニスカサンタコスチュームを着るはめとなったのだ。

 

『このケーキがあるということだ。話は以上だ。みんな、今日は楽しんでくれ』

 

 黒乃が最後の言葉を言うと、爛は一礼をし、すぐに姿を消す。

 

「セイバーがあんなに可愛いなんてね。流石といったところかしら」

 

 聡美は笑みを浮かべてそう言うと、ケーキを取りに行った。

 

「爛が来る前に僕たちもケーキを取りに行こうか」

 

 六花の提案に全員が頷き、爛のケーキを取りに行った。

 爛が戻ってくるだろうと待っていたものの、爛は戻っては来なかった。

 どうしたものかと六花たちは爛の部屋に向かう。そこには……

 

「あぅぅ~…………」

 

 赤い紐で体が絡まっている女性の状態の爛だった。

 

「……………………」

 

 それを見た瞬間、全員が固まった。見てはいけないものを見てしまったかのように。

 

「み、見てる暇があるなら紐を解いてください〜!」

 

 赤面をしながらも、紐を解こうとしている。

 だが、六花たちにその思考はなかった。

 

(か、可愛い……)

 

 赤面で涙目になりながら必死に見られないようにしている爛がとてつもなく可愛いため、紐を解いてあげようという考えは一つも起きないのだ。

 

「ベッドに行こうか、爛」

 

 六花が動き出すと、紐で絡まっている爛の体を持ち上げ、ベッドに向かう。

 

「い、嫌です!私は……ひゃん!」

 

 爛はそれを拒むが、六花はそれを聞かずに女性の姿になっている爛の豊満な胸に触れる。

 敏感に感じるため、気持ちよくなってしまう。

 

「ダメだよ、爛。嫌だって言うんなら、お酒飲ますよ?」

「うぅ……」

 

 六花は爛が酒に弱いというのを知っているため、酒の話を持ち出して、爛を抵抗させないようにする。

 爛は酒を飲まされたら何を仕出かすか分からないため、縮こまるしかなかった。

 

「な、何をするんですか……?せ、せめて服を着させてください〜……」

 

 爛は少し怯えながらも、服を着させてほしいと六花にベッドの上で押し倒された状態で言う。

 

「分かった。でも、下着とシャツだけだよ?」

 

 服装まで限定されてしまったが、とりあえず、シャツを着れるため、ほっとした爛。

 

「二つ選択肢をあげよう」

 

 六花はそう言うと、顔を爛の右耳に動かす。

 

「一つはこのまま僕と愛し合うのか。それとも……」

 

 今度は左耳の方に動かす。

 

「もう一つは爛をコスプレさせて皆で愛でるかのどちらか」

(どっちをとっても大変じゃないですかぁぁぁ!)

 

 六花の出した二つの選択肢を聞いて、爛は心の中で盛大なツッコミを入れる。

 確かに、どれをとっても爛にとっては大変なものである。

 

「ど、どちらも、お断りさせていただきます……」

 

 爛は恐る恐る断ると、六花は「そっか……」と呟き、何かを口に含む。

 

「り、六花?何を……ッ!」

 

 そして、爛にキスをする。

 

「っ!?」

(これってもしかして、お酒!?)

 

 爛はキスしたときに流し込まれた液体を口の中に入った瞬間、酒であるとすぐに気づき、六花を離そうとする。

 

(だ、駄目です。もう、酔いが……)

 

 爛は次第に酒に酔っていき、自分を制御することができなくなってきていた。

 

「ぷはぁ。残念、もしどちらかをやっていたら、お酒は飲まさせなかったんだけどなぁ……」

 

 でもまぁ、仕方ないか。と六花はそう思い、リリーたちを呼んでこようとベッドから降りようとした瞬間、

 

「ッ!?」

 

 何かに引っ張られた。

 ベッドに押し倒され、六花に馬乗りの状態でいるのはいつもの姿に戻った爛だった。

 

「りっかぁ……♡」

 

 とろんとした瞳で少し赤面をしている爛は、押し倒している六花を見つめる。 

 

「ら、爛……?」

 

 意外な出来事に、六花は驚いてしまう。六花は爛が酒に弱いことはしっているが、爛が酔ってしまうとどうなるかまでは知らなかったのだった。

 

「はぁ、はぁ……♡」

 

 どんどんと息が荒くなっていっている。

 完全に六花が知らなかった爛だった。しかし、自分を求めてきているのは間違いない。が、どうなるかは分からない。

 

「りっかぁ♡りっかぁ♡」

 

 甘い声を発しながら、体を倒してくる。

 

「ら、爛?どうしたの?ねぇ……っ!」

 

 六花は爛が自分に向かって倒れてくるため、どうしたものかと尋ねるが、次の瞬間、爛が力強く抱き締めてきた。

 

「りっかぁ♡だいすきぃ♡すきすきぃ♡」

 

 爛が完全に壊れた。(意味深)

 そうとしか考えられなかった六花は、幸せと混乱で全く反応ができないまま、意識を放り投げてしまった。

 

「んむぅ?りっかぁ?」

 

 爛は六花が反応していないことに気づき、頬に触れるが全く反応を示さない。

 

「リッカ?マスターとは今……っ!?」

 

 リリーは六花の声が聞こえたのか。部屋の中に入ってきていた。

 

「あ、りりぃ♡」

「マスター!?」

 

 爛は六花から離れてリリーに向かって飛び付き、抱き締める。

 リリーは突然の出来事に驚くものの、爛をしっかりと抱き締める。

 

「だいすきぃ♡」

「私もマスターのことが好きですぅ♡」

 

 爛の甘い声により、脳の思考回路がショートしかけるが、愛があるためにショートしないままでいる。

 

「あいしてるぅ♡しあわせなの♡」

 

 甘い声。愛している自分の主。可愛い姿。

 これらの三拍子が揃ってしまったため、リリーの思考はショートし、反応を示さなくなった。

 

「お、お兄ちゃん!?どうしたの!?」

「あかりぃ♡たいせつなたいせつなあかりぃ♡」

 

 リリーが反応しなくなると、すぐに明に抱きつく。

 

「お、お兄ちゃん、もしかしてお酒飲んじゃったの?」

「んにゅう?飲んでないよぉ?」

(絶対飲んだよね……でもいいや♪こうやって甘えてきてくれるし♪)

 

 明はこのような行動を起こすはずない爛がしているため、酒を飲んでいるのかと尋ねるものの、爛は首をかしげながら飲んでないと否定をする。しかし、飲んでるというのは確信が得られている。明は爛が甘えてきてくれているため、幸せに感じている。

 

「だいすきぃ♡すきすきぃ♡ぎゅ~~♡」

(か、可愛すぎる~♡)

 

 明を離さないようにと、懸命に抱きついてくる爛を間近で見ていると、明はこのままの状態でいいと思ってしまうほど爛が愛しく感じている。

 

「あかりぃ♡」

「なに?………っ!?」

 

 爛は甘い声で明を呼ぶと、明は口を開く。その瞬間を見逃さずに、キスをする。

 

「んちゅ……♡」

「んん……♡」

 

 爛は明とのキスを懸命にしており、終わらせまいと積極的にキスをする。

 

「お、お兄ちゃん……んんっ!」

「んむ♡だめぇ♡」

 

 明は離れようとするが、爛は明の頭を抑えて、キスを続けようとする。

 

「お姉ちゃん早く来てぇ♡」

 

 明はこれほどまで爛が暴走をすることを予想にもしていないため、香を呼ぶ。

 

「どうしたの?明……えぇ!?」

 

 香はすぐに部屋の中に入ってくると目の前で起きている出来事に驚く。

 

「お姉ちゃん、お兄ちゃんってお酒飲んじゃうとこんなに可愛くなるのぉ♡」

 

 明はそう言うと、爛の顔を香の方へ向ける。

 

「あ、かおりねぇだぁ♡」

 

 トロンとした瞳に香は一瞬にして思考回路を持っていかれる。

 

「お姉ちゃん!?んんっ!」

「だめぇ♡まだ終わらせないのぉ♡」

 

 明は香が一瞬にして反応を示さなくなることに驚くと、爛はそのままキスを続けるために、明の顔を自分の方へと向け、キスを続ける。

 

 その後、ネロたちも来るのだが、酒で暴走した爛の餌食となり、六花たちは爛に食されたのだった。

 最後に爛が残した言葉は、

 

「めりーくりすます♡とってもおいしかったよぉ♡」

 

 その一言だけだった。

 次の日、六花たちは爛に迫るものの、爛は酒を飲まされてから記憶が全くないのを知ると、六花たちは内心でホッとしていた。

 その意味は爛には全く分からないものだったが。




ごめんなさい!こんなにも遅れてしまって!
しかも、話してない人もいて本当に申し訳ないです!
新年はしっかりと全員一言は書きますので、お許しください!


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台風が来た

最近、台風ラッシュなので、台風が来た日は爛たちはどうしてるかなぁと思い立ったので書いてみました。番外編は思い付いたらテキトーに書いてあげときます。
一応、この手に関しての活動報告はあげていないので、この話を書いてあげたときに、活動報告でしっかりと書いておきます。とりあえず、注意すべきことはテキトーに書いていることですかね。

あ、皆さんも、台風はお気をつけて。


 台風が来た。風は吹き荒れ、雨は絶えず降り続け、時には雷が落ちてくる。

 爛は買い出しに行こうとしても、六花たちに外出をすることを禁じられ、室内で過ごしている。実際には爛のことを案じてのことなのだ。

 それも、爛が室内にいる理由のひとつなのだが、最も、六花たちが爛から離れたくないのは、雷が落ちてきているからだ。特に、明は雷が誰よりも怖く、いつも爛に抱きついていないと不安で仕方がないのだ。

 

「お兄ちゃん……」

「大丈夫だって。不安になりすぎだ」

 

 明は爛に抱きついて不安な表情をするものの、爛は頭を撫でながら苦笑を浮かべた。

 それにしても、雷が異能の爛は落ちてくる自然の雷も平気なのだが、明は異能は平気でも自然に起きる雷は苦手なのだ。以前、小さいときには明は爛から一日中くっついたままで過ごしたこともあるのだ。

 それが、今になっても無くならないというのは、困るものなのだが、どうもそれが嬉しくもなる。兄の性なのだろう。妹からは好かれていたいという気持ちがあるのかもしれない。

 爛のことを強く抱き締めてくる明には、微かに震えていた。

 

「そんなに体を震わせなくても、大丈夫だから」

 

 爛は明を優しく包むように抱き締めた。明としてはとても嬉しいのだが、それでも雷の恐怖は消えない。

 

「………六花、どうした?」

 

 後ろから抱き締められている感覚がした爛は、それが六花だと分かったのか、六花に尋ねた。

 

「………怖い」

 

 六花から聞こえてきた言葉に、爛はどれなのか考え始めた。元々、彼女の異能は雷。雷に怯えることはないはずだ。となると、荒れ狂って吹き続けている風なのだろうか。

 

「何が?」

 

 どうも考えにくいと判断した爛は、彼女に何が怖いのか。それを尋ねてみた。彼女から返ってくる答えに唖然とすることとなる。

 

「………雷」

 

 雷が怖いと六花は答えた。異能が雷であって、一番馴れているはずなのだが、彼女は体を震わせている。離れようとする気はないらしい。

 どうしたものかと爛は考えるが、いつもとあまり変わっていないことに気づいた爛は、暫くこのままにしておこうと決めた。

 

「……………………………」

 

 明の震えが無くなるようにと頭を撫で続ける。六花は爛の背中に張り付くように抱きついていた。

 

「こっちに雷は落ちてこないのですから、そんなに怯えることもないですよ」

 

 リリーが爛に寄り添うようにして隣に座る。確かに、リリーの言う通り、破軍学園は備えをしっかりとしている。雷は此方に落ちてくることはないのだが、それでも二人はまだ怯えている。どうやら、雷が鳴るのを止めるまで怯え続けるのではないかと、爛は思い始めた。

 

「リリーは雷は怖くないんだな」

 

 リリーは雷に怖がる素振りは見せず、いつも通りに過ごしている。

 

「はい、雷には馴れていますから」

 

 リリーは笑みを浮かべて、爛に寄りかかるように体を寄せる。爛は拒まずに受け入れると、リリーは嬉しそうな表情をした。

 

「そうか。雷を怖がってるよりは馴れてた方がいいよな」

 

 爛は明と六花を見ながら言うと、外の方へと視線を向けた。

 爛は顔をしかめた。いつも降る雨も、今ではあの時と同じような雨に感じる。思い出したくもないものが、呼び起こされる。守ることができたのは少ない、数えるほどしかない。だからこそ、もう失わないように、守るしかないのだ。

 

「そんな怖い顔をしない方が良いわよ」

「……雪蓮」

 

 爛が顔をしかめていたのを見ていたのか、それが良くないものだと感じていた雪蓮は、爛の額を指先でつつくと、爛はしかめていた顔を元に戻した。

 

「そうだな、お前の言う通りだ」

 

 爛は雪蓮に優しい笑みを向け、明を見た。まだ震えている明に、爛は苦笑を浮かべた。

 

「こっちに落ちてくるわけじゃないから、そんなに怯えなくても大丈夫だ」

 

 爛は明に対して、安心させるように言うが、それでも明は不安そうな表情をして、爛に抱きついたままだった。

 

「実際、雷よりも怖いのは風だぞ? 飛ばされてしまうかもしれないからな」

 

 爛の言う通り、雷は高いところに居なければ問題はないだろう。しかし、台風の前では風の方が厄介だ。とても強い風が吹けば、飛ばされてしまうかもしれない。

 

「うぅ、そうなると、風の方が怖いかも……」

 

 後ろの方で聞いていた六花は、雷よりも怖いと思ってしまった。

 

「ま、部屋にいれば、雷だろうが風だろうが、平気だと思うけどな」

 

 台風のせいで外が暗く見える。雨は横殴りに降り続けている。外に出れば、傘を持っていても濡れるだろう。そういえば、買い出しに行こうとしていたのを止められ、ジャンヌと総司が買い出しに行った。この雨だ。濡れて帰ってくるだろう。

 帰ってくる彼女たちのために、タオルとかを用意しておきたいのだが、立ち上がれない。

 

「この雨のことだから、買い出しに行った二人が濡れて帰ってくる。タオルとかを用意しておきたいんだけど……立たせてくれないか?」

 

 リリーは分かってくれるだろうが、六花と明に関しては、離れてくれないだろう。怯えて抱きついている二人は、爛から離れればそれこそ不安で仕方がないはず。爛としても、それは出来るだけ無い方がいい。

 

「………寝るときは一緒に寝てやるから、な?」

 

 二人に向けてそう言うと、渋々、離れていった。

 立ち上がった爛は、タオルを取り出しにいく。その時、外で雷が鳴り、そして落ちた。

 

「お兄ちゃんッ!!」

 

 爛を呼ぶ声が聞こえる。とても大きな声で誰が呼んでいるのかはすぐに分かった。

 

「ん、どうした」

 

 爛を呼んだのは明だ。今にも泣きそうな顔をしている彼女は、爛に抱きついて来た。

 

「落ちたよね、落ちたよね!」

 

 ぐわんぐわんと爛を揺さぶりながら、雷が落ちたことを確認する。

 

「落ちたな。っていうか、揺さぶるの止めてくれ」

 

 爛は明を落ち着けようとする。しかし、雷が落ちたことにより、パニック状態に近い彼女は、落ち着くことができない。

 爛は何とかそれを止める。

 

「明、落ち着け。大丈夫、大丈夫」

「う、うん………」

 

 優しく、包む込むように明を抱き締め、頭を撫でる。爛の言うことに従い、頷くと深呼吸をする。

 明が落ち着くまで待っていると、玄関のドアが開く音が聞こえる。ジャンヌと総司が帰ってきたようだ。

 

「二人が帰ってきたみたいだから、俺は行くよ」

「うん…………」

 

 何処かに行くわけでもないのに、明は居なくなってほしくないという表情をした。

 

「そんな顔をするな。後で相手をしてやるから、今は我慢な」

 

 爛はもう一度、明の頭を撫でると、玄関の方へと向かった。

 

「おかえり、二人とも。って、傘を持っていったのに随分と濡れたな」

 

 爛はタオルをもって、ジャンヌと総司の元へと行った。二人は傘を持っていったが、びしょびしょに濡れていた。爛はすぐに二人にタオルを渡した。体を拭こうと思った二人だが、その手を止め、爛に視線を向けた。

 

「どうした?」

 

 二人の視線を感じた爛は首をかしげた。爛は拭くところを見ようとしているわけでもなく、二人が買ってきてくれたものが入っている袋を持っていこうとしていただけだ。

 

「………マスターが拭いてくれませんか?」

 

 顔を少し赤くした総司が爛へと近づいて、上目遣いで言ってきた。爛の視線は総司の方へと向く。爛は目のやり場に困り、果てには顔を赤くしてしまう。

 雨で濡れているため、服はぴったりと肌について、濡れた服が体の形を象っていた。総司の豊満な胸が視線にチラチラと入ってくる。

 

「………自分で拭いてくれ」

 

 何とか紡ぎだした言葉でそう言うと、濡れた服のまま体をくっつけてくる。

 

「……ダメなんですか? 沖田さん悲しいです……」

 

 悲しい表情をして顔を伏せてしまう。その表情を見た爛は、悩んでしまった。総司か求めていることに答えるのか、それとも、自分のやることを優先するのか。

 

「私はどちらでもいいですけど……できれば、マスターに……」

 

 最後まで言えないのか、顔を赤くして目を泳がせる。

 

「………分かった。けど、さっさとやるからな」

 

 爛はタオルを貰い、急いで二人の体を拭く。このままじゃ、二人とも風邪をひいてしまう。サーヴァントは風邪をひかないはずなのだが、何故か、爛がマスターだと通常の人並みの免疫力しか無いらしく、特別、インフルエンザ等にはかからないものの、風邪だけはひくのだ。爛でさえ、その理由は分からない。

 恥じらいが捨てきれない爛は、顔を赤くしたままで、二人の体を拭いている。必死になってやっている爛を見て、二人は笑みを溢した。

 二人の体を無事に拭き終えたときには、爛は顔を真っ赤にしており、耳まで赤くなっていた。

 

「可愛いです……♪」

 

 終わったあとに、総司は爛の耳元で呟くと、爛は更に顔を赤くし、手で顔を隠してしまった。

 その後、ジャンヌと総司にシャワーを浴びてもらい、明と六花に抱きつかれたまま過ごした。

 爛にとって、台風が来る日は面倒な日に変わっていった。



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