FAIRY TAIL 〜Dの意志を継ぐ者〜 (fortissimo 01)
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妖精の尻尾編
妖精の尻尾


人口1700万人が住む永世中立王国ーー『フィオーレ王国』、魔法の世界。魔法は人々の日常に根付き、人々の日常を支えていた。そしてーー、そんな魔法の世界に魔法を駆使して生業とする者達が居た。人々はその者達をーー魔導士と呼んだ。魔導士達は様々なギルドに所属しており、人々からの依頼に応じて仕事をする。そして……とある街にとあるギルドあった。後々の時代に至るまで数々の伝説を残したギルド。

 

これはそのギルドに所属する魔導士達の物語ーー。

 

 

 

 

フィオーレ王国、ハルジオンの街。その街に止まっている列車の内部で駅員がオロオロしていた。

 

「あ、あの……大丈夫ですか? お客様?」

 

「はぁ……はぁ……はぁ……」

 

オロオロしている駅員の目の前では桜色の髪をして、首にマフラーを巻いている少年ーーナツが列車の壁に寄りかかった状態で目を回していた。

 

「まぁ気にすんな」

 

「あい、いつもの事なので!」

 

少年の代わりに黒髪に麦わら帽子を被っている少年ーールフィと青い二足歩行の喋る猫ーーハッピーが答える。ハッピーは少年に視線を向ける。

 

「ナツ〜はやく行こうよ〜」

 

「も、もう絶対……列車なんて……乗らねぇ……う、うぷっ」

 

「お前本当、乗り物弱いんだな」

 

「情報通りならこの街に火竜(サラマンダー)がいるはずだよ。はやく探しに行こっ!」

 

ルフィとハッピーは列車を降りた。ナツは少し休んだら追いかけようと考えたーーが。

 

ガタッ!

 

「え?」

 

「ん?」

 

「あ」

 

不運にも列車は次の駅に向かって動き始めてしまった。

 

「た、助けてぇぇぇぇぇぇ!!!!」

 

しかし現実は助けてくれず、ナツとルフィを乗せた列車はナツを乗せたまま走り去ってしまった……ルフィとハッピーをその場に残したまま。

 

「ハッピー駅弁食うか?」

 

「あい!」

 

ルフィとハッピーはルフィが大量に買った駅弁を食べて待つ事にした。

 

 

 

 

数分後ーー。再び乗りたくもない列車に乗って帰ってきたナツはハッピーとルフィと合流し、現在三人はナツを先頭に街の中を歩いていた。

 

「あの駅弁美味かったなぁ。また買おうかな」

 

「ルフィはよく食べるね」

 

ルフィとハッピーがそんな会話をしていると前で歩いていたナツが立ち止まり、こちらに振り返る。

 

「なぁ、ルフィ、ハッピー。火竜(サラマンダー)ってイグニールの事だよな?」

 

「火の竜ってイグニールしか思いつかねぇよ」

 

「そうそう」

 

「だよな! よっしゃ、なんか元気になってきたぞ〜!」

 

両手を空に向けながら叫ぶナツ。

 

「火の竜かぁ……」

 

ルフィは頭の中で自分が想像したイグニールの姿を浮かべていた。

 

「かっこいいなぁ!」

 

「おう! イグニールはかっこいいぞ!」

 

「おーし! 俺も元気になったぞ〜!」

 

ルフィとナツはイグニールを探す気力を取り戻した。早速探しに行こうと再び脚を動かそうとした時ーー。

 

『きゃあ〜! 火竜(サラマンダー)様〜!』

 

向かうの人だかりからそんな声が聞こえた。

 

「噂をすればなんとやらって奴だ!」

 

「あい!」

 

「あそこか! よっしゃあ!!」

 

ルフィはナツ達を置いてその人だかりに向かって走っていく。

 

「あ! ルフィずるぃぞ!」

 

「待ってよ〜!」

 

ナツとハッピーは急いでルフィを追いかける。ルフィは先に人混みを掻き分け、どんどん奥に進んでいく。

 

「火竜! 火竜!」

 

火竜をはやく見てみたい一心で人を掻き分け、ついに人だかりの中心に着いた。

 

「火竜イグニール!」

 

ルフィは下げていた顔を上げる。しかし視線の先にはドラゴンではなく一人の男性がいた。

 

「あれ?」

 

「イグニール!」

 

ルフィが微妙に固まっているとナツ達が追いついてきた。ナツもその男性を見て微妙に固まる。

 

「こいつお前の父ちゃんか? おっさんにしか見えねぇぞ?」

 

「俺もおっさんにしか見えねぇし、イグニールじゃねぇし、誰だお前?」

 

「お、おっさん……ゴホン! 火竜(サラマンダー)といえば分かるかな?」

 

ドヤ顔をしながらナツとルフィとハッピーに言う。すると三人は一斉にため息をつく。

 

「また嘘の情報だったな」

 

「クソ〜! 今度こそ見つけたと思ったのになぁ〜」

 

「あい」

 

そういいながらルフィ達は人混みを抜け、何処かに行く。

 

「はやっ!?」

 

「ちょっと! あんた達、失礼よ!」

 

「謝りなさいよ!」

 

『そーよ! そーよ!』

 

「お? なんだオメェら?」

 

ルフィ達は何処かに行こうとしていると野次馬の女性達がルフィ達を捕まえ、先ほどの場所まで引きずり戻された。

 

「ほら、謝れ!」

 

「まぁまぁ、彼らとて悪気はなかったんだから……許してあげよう」

 

そう男性が言うと何処からか3枚の色紙とペンを取り出し何かを書く。そしてその色紙をルフィ達に差し出す。

 

「僕のサインだ。受け取るといい」

 

「食いもんじゃねぇからいらねぇ」

 

「え!?」

 

「ちょっとあんた達〜!!」

 

ルフィの一言で野次馬の女性達がルフィ達に襲いかかる。すると男性が炎を出し、それに乗る。

 

「まぁまぁ、あまり虐めないであげてくれ。彼らはきっと田舎から来たんだ。じゃ僕は行くよ。夜は船上でパーティーをやるけど来てくれるよね?」

 

『行きまーす!!』

 

「ふふっ……ではレディ達また後で」

 

そう言い残し男性は炎に乗って何処か行ってしまった。野次馬の女性達はルフィ達を置いて男性を追いかけに行った。

 

「……なんだったんだ、あれ?」

 

「う〜ん、わからん!」

 

「あい」

 

取り残された三人は立ち上がりながらそう言う。

 

「ーー本当、いけすかないわよね」

 

「「「ん?」」」

 

すると知らない金髪の女性が話しかけてきた。

 

「誰だオメェ?」

 

「さっきはありがとね」

 

 

 

 

 

 

 

レストラン、店内。皆が静かに食べている中、ある一席は静かではなかった。

 

「ぼべぇ、びーばぶだば!(オメェ、いい奴だな!)!」

 

「ぼんぼ、ぼんぼ!(ほんと、ほんと!)!」

 

「うんうん」

 

ルフィとナツとハッピーはテーブルの上に満遍なく置いてある食べ物をどんどん食べていく。ルフィ達の反対の席では先ほどの金髪の女性ーールーシィが苦笑いしていた。

 

「はは……どういたしまして。それよりルフィとナツとハッピー……だっけ? もう少しゆっくり食べなよ……何か飛んできてるから」

 

「ばっでぶめぇからとばらねぇよ!(だってうめぇから止まらねぇよ!)」

 

ルフィの言葉に再度苦笑いをするルーシィ。するとルーシィは先ほどの男の事を話す。

 

「あいつ、魅力(チャーム)って魔法を使っていたの。この魔法は人々の心を術者に惹きつける魔法なの。私もかかっていたんだけど、あんたらが飛び込んだおかげで魅力(チャーム)が解けたって訳」

 

「へぇー」

 

「こう見えて私、魔導士なんだー」

 

「ぼうなのか(そうなのか)」

 

ルーシィを見ずにテーブルの食べ物を食べながら答えるルフィ。しかしルーシィは構わず語りだす。

 

「まだギルドに入ってないけどね……あ、ギルドって言うのは魔導士達が集まる組合でね、魔導士達に仕事や情報を仲介してくれる場所なの。魔導士ってギルドに入らないと一人前って言えないものなのよ」

 

でもね、でもね! とさらに話に燃え上がるルーシィ。

 

「ギルドって世界中にいっぱいあって、やっぱり人気なところはそれなりに入るのが難しいのよ。私の入りたいところには物凄い魔導士達がいてね……あ〜! でも入りたいけど難しいだろうなぁ〜! あ、ごめんね? 魔導士の世界の話とかわからないよね! でも私は絶対そこに入るんだぁ。そこなら大きな仕事ももらえそうだもん!」

 

「お、おうそうか……」

 

「オメェよく喋るなぁ〜」

 

「あい……」

 

三人は若干引き気味に言った。ルーシィはそんな事は知らなかったが。するとルーシィが何か思い出したように話をしだした。

 

「そういえばあんた達誰か探していたようだけど……?」

 

「あい、イグニール!」

 

「ここに来るって聞いて来たけど別人だったな」

 

「火竜って見た目してなかったもんな、あれ」

 

「見た目が火竜ってどうなのよ、人間として……」

 

「ん? 人間じゃねぇよ。イグニールは本物のドラゴンだぞ?」

 

「え?」

 

ナツの言葉にルーシィは固まる。そして思いっきり立ち上がり、テーブルを叩いた。

 

「そんなの街中にいるわけないでしょ〜!!」

 

ルーシィの言葉にナツとルフィとハッピーは互いの顔を見る。

 

「「「はっ!?」」」

 

「今気づいたって顔するな!!」

 

ルーシィは三人のバカっぷりに思わずため息をつく。

 

「はぁ……じゃあ私そろそろ行くね。助けてくれてありがと。ゆっくり食べてね」

 

そう言うとルーシィは荷物を持ち、テーブルの上に料理のお金を置く。

 

「「「…………」」」

 

ルフィとナツとハッピーはそのお金を凝視する。そして、席を立った。

 

「ありがとうございます!!」

 

「ごちそう様でした!!」

 

「でした!!」

 

涙を流しながらその場でルーシィに向かって土下座する。

 

「ちょっと! 恥ずかしいっ!! ……はぁ、それじゃ元気でね」

 

そう言い残し、ルーシィはレストランを出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

「いや〜! 食った食った〜!」

 

「腹いっぱいだぁ〜!」

 

「あい!」

 

ルフィ達がレストランを出た頃にはもう外は日が沈んでいた。するとルフィ達の前を女性達が横切った。

 

「見てみて! あの船、火竜(サラマンダー)様の船! あー私もパーティ行きたかったなぁ〜!」

 

そう一人の女性が海上に浮いている船を指差す。ルフィ達は構わずその場を立ち去ろうとしたーー。

 

火竜(サラマンダー)?」

 

「知らないの? この街に来てるすごい魔導士なの! なんたってあの妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士なんだって!」

 

「「「ん?」」」

 

立ち去ろうとしたルフィ達の脚が止まる。ルフィ達は海に浮いてる船を見る。

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)?」

 

「あのおっさんが?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃船ではもう事件が起こってしまった。

 

「ようこそ、奴隷船へ。君は今から商品になってもらうよ」

 

「くっ……!」

 

火竜(サラマンダー)と名乗っていた男性はルーシィを騙し、船に乗り込ませた。しかしその船の正体は奴隷船、つまりこの男の罠だったのだ。男はルーシィの腰についていた鍵が入っているホルダーを取り上げる。

 

「あ……返して!」

 

「ふっふっふ……ふん!」

 

男はそのホルダーを海に向かって投げた。

 

「あぁ!」

 

「さて、君の武器である門の鍵は捨てた事だし……まずは奴隷の烙印を押させてもらうよ」

 

「これが妖精の尻尾(フェアリーテイル)?……最低の魔導士じゃない!」

 

そして男がルーシィに近づいた瞬間、突如天井が破れる。

 

「え!?」

 

「何!?」

 

何事だとおっさんとルーシィは何かが落ちてきた場所を凝視する。

 

「ふぅ〜着いた着いた」

 

「…………」

 

そこには麦わら帽子を被った男、桜色の髪をしてマフラーを身に付ける男、ルフィとナツの姿がそこにはあった。

 

「ルフィ! ナツ!」

 

「う……やっぱ無理!」

 

「かっこ悪!」

 

ルフィは平気だがナツは乗り物に弱いのでその場に倒れこんでしまう。

 

「あれ? なんでお前こんなとこにいんだ?」

 

「えっとそれは……」

 

「まぁいいや。俺たち、こっちに用があるからな」

 

ルフィは拳をおっさんの方に向ける。

 

「昼間のガキ共!?」

 

「ハッピー!」

 

「あいさー!」

 

するとハッピーが羽を出しながらルーシィに近づいた。

 

「ハッピー! ……ってあんた羽生えてたっけ?」

 

「細かい話は後だよ! 逃げるよ!」

 

ハッピーはルーシィを掴んで飛んだ。そのまま陸のあるところまで目指す。

 

「えっ!? ナツとルフィは!?」

 

「三人は無理!」

 

先ほどのやり取りに固まっていたおっさんは正気に戻る。

 

「はっ! 評議員に俺たちの事がバレたらヤベェ! 逃すかぁ!」

 

男は炎の魔法をハッピーとルーシィに向けて放つ。しかしハッピーはその攻撃を全て躱す。やがておっさんの魔法の射程範囲を超えたのか魔法を放たなくなった。

 

「ちぃっ!

 

「やるじゃない! ハッピー!」

 

「ルーシィ、一つ言い忘れてた」

 

「何?」

 

「時間切れ」

 

ハッピーがそう言うとハッピーの羽が消失する。当然二人は海に向かって落下する。

 

「このクソ猫!」

 

「あい」

 

「あいじゃない!」

 

ルーシィ達がそんな会話をしている一方、船ではルフィとナツがおっさんとその幹部と対峙していた。

 

「相手はガキ二人! それに一人はノックダウンしている! お前らかかれぇ!」

 

『おう!』

 

おっさんの掛け声に幹部達はルフィに襲いかかる。一人の巨漢の男が拳を振り上げる。

 

「おらぁ!」

 

「ぐほっ!?」

 

「……え?」

 

ルフィは体格差をものともせずに巨漢の男を思いっきり吹き飛ばす。おっさんはその様子を呆然と眺めていた。

 

「へっ……こいよ」

 

ルフィの挑発に乗り数人の幹部達が攻撃をするが全員返り討ちにあった。

 

「くそ! なんだこのガキ!」

 

「あれ? 麦わら帽子……?」

 

幹部達がルフィとナツを取り囲むと急に船が陸のある方へ流される。

 

「な、なんだ!?」

 

そして船は砂浜に打ち上げられた。

 

「ルフィ〜! ナツ〜! 大丈夫ー!?」

 

ルフィが砂浜の方を向くとそこにはルーシィとハッピーの姿があった。

 

「大丈夫だ〜!」

 

ルフィは無事を知らせる為、大きく手を振る。すると隣で倒れていたナツが立ち上がる。

 

「揺れが……止まった」

 

すると崩れた船の中からおっさんと幹部達が出てきた。

 

「ちくしょう! やりやがったな、このガキ共!」

 

すると幹部がナツに襲いかかる。しかしナツは先ほどのルフィと同じ様に殴って吹き飛ばす。

 

「俺は妖精の尻尾(フェアリーテイル)のナツだ! お前なんて知らねぇぞ!」

 

「なにっ!?」

 

妖精の尻尾(フェアリーテイル)!?」

 

ナツの言葉におっさん達とルーシィは驚く。しかし固まっていたおっさんは炎を出す。

 

「へっ! それがどうした!!」

 

「!」

 

おっさんが放った炎はナツに命中する。ナツがいた場所は炎が燃え上がっている。

 

「へへ……大したことーー」

 

「ーー不味い……お前ほんとに炎の魔導士か? こんなまずい炎初めてだ」

 

「な、な、な、何!?」

 

おっさん達は目を見開いた。何故なら目の前で炎を()()()()()ナツの姿があったからだ。

 

「な、なにあれ!?」

 

「ナツに炎は効かないよ」

 

「不味いけど……食ったら力が湧いてきた」

 

「自らの体を竜の体質へと変換させる太古の魔法(エンシェント・スペル)。竜迎撃用魔法、滅竜魔法だよ!」

 

ナツはおっさん達に近づく。するとおっさん達の幹部が懐から銃

を取り出した。

 

「銃!?」

 

「死ねぇ!!」

 

複数の銃弾がナツに向かう。しかしルフィがナツの前に移動し、その銃弾を代わりに受けた。

 

「ルフィ!!」

 

ルーシィは悲痛の声を上げ、手で顔を隠す。

 

「大丈夫だよルーシィ。ルフィに銃弾は効かないから。ほら」

 

「え?」

 

ハッピーの声にルーシィは再度ルフィの方に視線を戻す。そこでは銃弾が当たった身体の部分が()()()()()

 

「へっ……効かーん!」

 

「ひぃっ!?」

 

ルフィは銃弾を放った男のすぐ顔の横に先ほどくらった銃弾を弾き飛ばす。

 

『何〜!?』

 

「の、伸びたー!?」

 

「ルフィには銃弾や物理攻撃は一切効かない。身体がゴムの様に伸び縮みする……それが悪魔の実《ゴムゴムの実》の能力」

 

「あ、悪魔の実!? ほ、本当に実在するんだ……」

 

「お、思い出した! 麦わら帽子に赤い服の男、桜色の髪に鱗の様なマフラーをつけている男。間違いねぇ! こいつら“麦わらのルフィ”と“サラマンダー”だ!」

 

おっさんの幹部がそう言うと周りの者達が動揺する。その隙にルフィとナツは一気に接近する。

 

「ゴムゴムの……」

 

「火竜の……」

 

ルフィの腕が後ろに伸び、ナツの手に炎が現れる。

 

「ピストル!」

 

「鉄拳!」

 

『ぎゃあぁぁぁ!!』

 

二人の攻撃におっさんと幹部達は吹き飛ばされる。

 

「すごい二人共! でも……」

 

ルフィとナツは暴れるのをやめず、どんどん街が壊されていく。

 

「やり過ぎよぉ!」

 

すると騒ぎに駆けつけた軍隊の姿が見えた。

 

「やべぇ! 逃げるぞ!」

 

「おう!」

 

「あい!」

 

ルフィの掛け声にナツとハッピーが答える。ルフィは腕を伸ばし、ルーシィを抱えながら逃げる。

 

「な、なんで私も!?」

 

「だってお前うちに入りたいんだろ? なら、来いよ!」

 

「!……うん!」

 

ルフィ達は妖精の尻尾に向け、走って行った。

 

 



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総長現る!

ハルジオンの港の一件後。ルフィ達は無事にマグノリアにあるギルド《妖精の尻尾》に着いた。

 

「わぁ〜! 大きい!」

 

「あい! ようこそ、妖精の尻尾へ!」

 

ハッピーはルーシィに歓迎の言葉を送る。そして四人はギルドの中に入る。

 

「ただいまー!!」

 

「飯ー!!」

 

ルフィはカウンターへ脚を運ぶ。

 

「あら、ルフィお帰り」

 

ルフィに声をかけた白髪の女性ーーミラジェーンことミラはにっこりとルフィに微笑む。

 

「ミラ! 飯!」

 

「ふふ、わかったわ」

 

ミラはすぐに料理の準備をする。すると近くに座っていた男性が新聞を読みながら笑う。

 

「ははっ! ルフィ、ナツ! また派手にやらかしたなぁ……。ハルジオンの一件新聞に載ってーー」

 

「てめぇ! 火竜(サラマンダー)の情報嘘だったじゃねえか!!」

 

「グホッ!」

 

ナツはその男の顔面に飛び蹴りをくらわせる。男は他のテーブルを巻きこみながら吹き飛んだ。それが火種となり、他のギルドメンバーも暴れ出した。

 

「ふふ、またギルドが壊れちゃうわね。はい、ルフィ」

 

ミラはルフィの前に大量の料理を出す。

 

「おー! 美味そう〜! いただきまーす!」

 

ルフィはミラの出した料理をどんどん食べる。そんな現在のギルドの活気溢れた様子をルーシィは歓喜しながら眺めていた。

 

「すごい……! 私本当に妖精の尻尾に来たんだ!」

 

「ああ!? ナツが帰ってきただと!?」

 

「!?」

 

ルーシィの目に飛び込んだパンツ一丁の黒髪の男ーーグレイ・フルバスター。極度の脱ぎ癖がある。グレイはパンツ一丁のまま喧嘩に参加しようとしていた。

 

「グレイ……服」

 

「あ! いつの間に!?」

 

「全く……これだから品のないここの男どもは嫌だよ」

 

そう言いながら酒が入っている大樽を飲んでいる黒髪ウェーブの女性ーーカナ。ギルド最強の酒飲みである。

 

「ふっ……くだらん」

 

「わっ!?」

 

ルーシィが振り返るとそこには巨漢の男ーーエルフマンが立っていた。

 

「昼間っからピーピーギャーギャーガキじゃあるまいし。漢なら……拳で語れぇぇ!!」

 

「結局喧嘩なのね」

 

エルフマンはナツとグレイに近づくーーが。

 

「「邪魔だ!」」

 

「しかも玉砕!?」

 

二人によってエルフマンは返り討ちにあう。他のギルドのメンバーも喧嘩に参加し、ますます被害が拡大する。

 

「全く騒がしいね」

 

「ん?」

 

声のした方にルーシィが振り返ると男が二人の女性を抱えていた。この男ーーロキ。彼氏にしたい魔導士ランキング上位者だ。そのロキが済ました顔で喧嘩を見ていると飛来するビンがロキのおでこに命中する。

 

「混ざってくるね〜! 君たちの為に〜!」

 

「「頑張って〜!」」

 

「はい、まともな人消えた! 何よこれ、まともな人が一人もいないじゃない……」

 

「あら? 新人さん?」

 

ルーシィに声をかけたのは先ほどルフィに料理を出したミラだった。

 

「み、ミラジェーン! ほ、本物だ〜!」

 

ミラは週刊ソーサラーのグラビアを飾る魔導士で有名だ。

 

「あ……これ止めなくてもいいんですか?」

 

「いつもの事だからほっとけばいいのよ。それにーー」

 

ミラがそこまで言うとぶっ飛ばされたエルフマンがミラに命中し、一緒に吹っ飛ばされる。

 

「た、楽しいでしょ? ……きゅー」

 

「いやぁぁぁ!? ミラジェーンさん!!」

 

気を失ったミラを見て恐怖がこみ上げてきたルーシィ。

 

「おら!」

 

ナツによってルーシィの近くにグレイが吹き飛ばされた。

 

「ぐっ! あ、俺のパンツが!?」

 

「ヘッヘッヘ!」

 

ナツはグレイのパンツを回しながら笑う。グレイはどうすればと考えていると視界にルーシィが映った。

 

「お嬢さん、よければパンツを貸してくれないか?」

 

「貸すか!!」

 

喧嘩はどんどん激しくなり、誰も止められない。

 

「ったく……落ち着いて酒も飲めやしない。あんたらいい加減にしなさいよ?」

 

するとテーブルに座っていたカナがカードを取り出す。

 

「くそっ! 頭にきた!」

 

グレイは左手の掌に右手の拳を乗せる。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

エルフマンは魔法で右腕を変化させる。

 

「全く……困った奴らだ」

 

ロキの指にはまっている指輪が強く光りだす。

 

「どっからでもかかってこい!!」

 

ナツは両手に炎を宿す。

 

「魔法!?」

 

「あい!」

 

「あいじゃない!」

 

ルーシィはハッピーを盾にして悲痛の声を上げる。するとーー。

 

「やめんかぁぁ!! バカタレ共!!」

 

突如出現した巨人の一喝にギルドメンバー全員はピタッと動きを止めた。

 

「デカーー!!?」

 

「あら、マスター。いらしてたんですか?」

 

「うん!!」

 

「マスター!?」

 

いつの間に起きていたミラの一言にルーシィは驚く。沈黙に包まれている中、ナツは高笑いをした。

 

「だっはっはっ! 皆してビビりやがって! この勝負俺の勝ーーぴっ」

 

そんなナツは虫を潰すかの様に足で踏みつける巨人。そんなナツを見てルーシィは恐怖に包まれた。すると巨人はルーシィの方を見つめる。

 

「む!? 新入りかな!?」

 

「は、はいぃ……」

 

完全に怯えた様子で答えるルーシィ。

 

「ふんぬぅぅぅぅ!!」

 

巨人は雄叫びをあげるとその身体がどんどん小さくなりーー。

 

「よろしくね!」

 

「ちっさ!」

 

ルーシィの膝したぐらいの背丈になってしまった。この男こそ妖精の尻尾のギルドマスター、マカロフ・ドレアーである。

 

「とう!」

 

マカロフは二階に向かってジャンプし、空中でくるくる回転する。しかしーー。

 

「あ痛っ!?」

 

体制を崩し、二階の床に激突する。

 

「はっはっはっ! じっちゃんダセーな!」

 

「うるさいわい!」

 

料理を食べていたルフィはマカロフに指をさしながら爆笑する。

 

「ゴホンっ! ま〜たやってくれたの貴様等、見よこの評議員から送られた文書の量を!」

 

マカロフは手に持っていた文書を読み上げる。

 

「まず……グレイ!」

 

「あ?」

 

「密輸組織を叩いたのはいいが……その後素っ裸で街を歩き、挙句の果て洗濯中の下着を盗み逃走」

 

「いや、だって裸でいるのはまずいだろ」

 

「じゃあまず脱ぐなよ」

 

グレイの返答に冷静に突っ込むカナ。マカロフはため息をひとつき吐くと再び読み始めた。

 

「エルフマン、貴様は要人護衛の任務中、要人に暴行」

 

「だって『男は学歴よ!』なんて言い出すからつい……」

 

マカロフは頭に手を当て首を横に振る。

 

「カナ・アルベローナ。経費と偽り酒場で飲む事樽15個。さらにその酒の請求先が評議員」

 

「バレたか……」

 

「ロキ。評議員レイジ老師の孫娘に手を出す。タレント事務所から損害賠償が来とる」

 

「はは……参ったなぁ」

 

「ナツ・ドラグニル。デボン盗賊一家を壊滅するが民家7件も壊滅。チェーリ村の歴史ある時計台倒壊。フリージア教会全焼。ハルジオン港半壊……」

 

「なっはっはっは!」

 

マカロフは次の文書を開くとがっくり項垂れる。

 

「そして……ルフィ」

 

「ギン盗賊一味を壊滅するが民家10軒も壊滅、さらに近くのレストランの料理を全て平らげ逃走。ルピナス城半壊。ナズナ渓谷観測所崩壊により機能停止。フーシャ村のシンボルの風車を破壊し、逃走。そしてナツと同じくハルジオン港半壊。そしてーー」

 

そこまで言うとマカロフはルフィを指差す。

 

「妖精の尻尾の食料の半分以上が貴様の胃袋の中とはどういう事じゃあ!?」

 

「あー悪りぃ悪りぃ」

 

「軽いっ!?」

 

ルフィの返答にしばし固まったマカロフは気を取り直し、ギルドメンバーと向き合う。

 

「全く、儂は評議員に怒られてばっかじゃぞ……」

 

皆は気まずそうに地面を見る。

 

「だがーー」

 

マカロフは突然笑い文書を燃やす。

 

「ーー評議員などクソくらえじゃ」

 

文書を空中に投げる。それをナツが食べる。

 

「よいか! 理を超える力は全て理の中から生まれる。魔法は奇跡の力なんかじゃねぇ。我々の内にある気の流れと自然界に流れる気の波長が合わさり始めて具現化されるのじゃ。それは精神力、集中力を使う。いや、己の魂を全て注ぎ込む事が魔法なのじゃ。上から覗いている目ん玉気にしてたら魔道など進まん。評議員のバカ共などに恐れるな」

 

そこまで言うとマカロフは人差し指を上に向ける。

 

「己が信じた道を行けぇ! それが妖精の尻尾の魔導士じゃぁぁぁ!!」

 

『おおおおお!!』

 

ギルドメンバーはマカロフと同じ様に指を立てて雄叫びをあげる。

 

 

 

 

「はい! これであなたもギルドの一員よ!」

 

「わぁ〜! やった〜!」

 

ルーシィは自分の手の甲につけてもらったギルドマークを見て喜んでいる。ルーシィは数々の依頼が貼られているリクエストボードの前にいるナツとルフィに近づく。

 

「ナツ、ルフィ、見て見て! ギルドマーク付けて貰った!」

 

「ふーん」

 

「よかったなぁ! ルイージ!」

 

「ルーシィよ!」

 

「ねぇねぇこれなんてどう?」

 

するとハッピーが依頼の一つをナツとルフィに渡す。

 

「盗賊退治で16万J!」

 

「決まりだな」

 

ナツとルフィとハッピーは早速依頼に行こうとするとーー。

 

「ねぇ、父ちゃんまだ帰ってこないの?」

 

ルフィ達は声の発信源の方を見る。黒髪の小さな少年ーーロメオとマカロフが喋っていた。

 

「くどいぞ、ロメオ。貴様も魔導士の息子なら親父を信じたおとなしく家で待っておれ」

 

「でも三日で帰ってくるって言ったのに……もう一週間も帰ってきてないんだよ!?」

 

「マカオの仕事は確かハコベ山じゃったな」

 

「そんなに遠くないじゃないか! 父ちゃんを探しに行ってくれよ!」

 

「貴様の親父は魔導士じゃろ! 自分のケツのふけねぇ様な魔導士はうちのギルドにはおらん! 帰ってミルクでも飲んだおれ!」

 

「くっ……」

 

ロメオは涙目になりながら俯く。

 

「バカーー!!」

 

「ぐおっ!?」

 

ロメオはマカロフの顔面に一発くらわせると涙を流しながらギルドを出て行った。

 

「厳しいのね……」

 

そんな様子を気の毒そうに言うルーシィ。

 

「ああは言ってもマスターも心配してるのよ」

 

ミラが皿を拭きながら呟く。ーーすると、リクエストボードから壊れる音がした。

 

「お、おいルフィ……」

 

「…………」

 

ルフィは無言でリクエストボードを破壊するとギルドを出ようと扉に向かう。ナツとハッピーもルフィに着いて行く。

 

「ど、どうしちゃったのあの二人……」

 

「ルフィとナツもロメオ君と同じだから……多分つい自分とだぶったかもね」

 

「え?」

 

ミラの言葉に首を傾げるルーシィ。

 

「ナツのお父さんも出て行ったきり帰ってこないのよ。お父さん……とは言っても育て親なんだけどね。しかもドラゴン」

 

「ど、ドラゴン!? ナツってドラゴンに育てられたの!?」

 

ルーシィは半信半疑でミラに聞くとミラは小さく頷く。

 

「小さい時そのドラゴンに拾われて……言葉や文化、魔法を教えてもらったんだって。でもある日、ナツの前からそのドラゴンが突然と姿を消した」

 

「! そっか……それがイグニール」

 

「ナツはいつかイグニールと会える日を楽しみにしてるの」

 

ナツの過去話にルーシィはしばし、呆然とする。するとルーシィの脳裏にもう一人の人物が浮かぶ。

 

「あ、じゃあルフィは?」

 

ルーシィの質問に少し暗い表情をしながらミラは口を開く。

 

「……ルフィはね、小さい時にお兄ちゃんを亡くしたらしいの」

 

「ぇ……」

 

ルーシィは絶句する。

 

「ルフィの昔の事は詳しくはよくわからないけどね……。多分、ロメオ君と昔の自分がだぶっちゃったのかなって思うの」

 

「そう……だったんだ、あいつ」

 

ルーシィは出て行ったルフィとナツを思う。

 

 

 

 

「うぅ……」

 

夕焼けに染まる街の小道でロメオはすすり泣きで俯きながら自宅に帰る。すると頭に何かを被らされた。ロメオは被されたものを取って見る。

 

「これ……」

 

それは身に覚えのある麦わら帽子だった。不意に正面を見るとルフィとナツとハッピーの姿があった。

 

「ルフィ兄……」

 

その後ろ姿をロメオは麦わら帽子を握りながら見ていた。

 

 

 

 

 



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火竜とゴムと猿と牛

しばらく投稿できず申し訳ないです……。


クエストから一向に帰ってこないマカオを探しに、ナツとルフィとハッピーは馬車に乗りハコベ山に行く事になったのだがーー。

 

「な、なんでお前がいるんだ?」

 

「いいでしょ別に?」

 

何故かルーシィも一緒に馬車に乗っている。ハッピーも何故と言わんばかりの顔でルーシィを見ている。ルーシィはそんな事お構いなしという雰囲気で座る。

 

「それにしても……」

 

ルーシィは自分の隣で現在爆睡中のルフィに視線を移す。

 

「ずっと寝てるわね」

 

「あい! 寝たい時は寝る、それがルフィですから!」

 

「ふぅ〜ん……あ!」

 

するとルーシィは何か閃いた顔をすると、ルフィの頬を引っ張る。

 

「うわぁ! ほんとルフィの身体、ゴムみたいに伸びるわね! おもしろ〜い!」

 

「ゴムゴムの実のゴム人間だからね〜」

 

ルーシィはルフィの頬を伸ばしたり縮めたりしている。そんな事をされている事に気づかず、ルフィはいまだ爆睡中。

 

ガタッ!

 

「ん?」

 

「痛ぇ!?」

 

突然馬車が止まったのでルーシィは思わず伸ばしていたルフィの頬を離してしまい、猛スピードでルフィに帰ってきた。その衝撃でルフィは目を覚ました。

 

「ん! 止まった!」

 

酔いが覚めたナツは歓喜する。

 

「すみません……ここから先は進めないです」

 

「え?」

 

ルーシィは馬車のドアを開けるとーー。

 

「え、え?」

 

目の前には激しい吹雪が吹き荒れる白銀の世界が広がっていた。

 

 

 

 

 

 

ルフィ達はマカオを探すため雪が降り積もる山道を歩く。

 

「な、何よこれ!? 山とはいえ今は夏季でしょ!? なのに何よこの吹雪……くしょん!」

 

「薄着だからだろ? お前バカだなー」

 

「うんうん」

 

「あんたらも似た様なもんじゃない!」

 

ルフィ達に指を差しながら叫ぶルーシィ。確かにルフィとナツの衣装は正直ルーシィよりも薄着だ。ルーシィは堪えられずナツが背負っている毛布を取ろうとする。

 

「その毛布貸してよー! いいでしょー!」

 

「うるせー奴だな」

 

「あい」

 

「うぅ〜……あ、そうだ!」

 

毛布で絡まっているルーシィは何か閃いたのか腰についているホルダーから銀の鍵を取り出した。

 

「開け! 時計座の扉、ホロロギウム!」

 

そうルーシィが唱えるとルフィ達の目の前に置き時計の姿をした星霊、ホロロギウムが現れた。

 

「うぉ! 時計だ」

 

「いっかす〜!」

 

「かっこいい〜!」

 

ホロロギウムを見てルフィ達は目をキラキラと輝かせる。ホロロギウムの中には毛布に包まったルーシィが入っていた。

 

「…………!」

 

「何言ってんだお前?」

 

「全然聞こえねーぞ?」

 

ホロロギウムの中で口を動かすルーシィ。何か言っていると思われるがルフィ達にはそれが聞こえない。すると唐突にホロロギウムの口が開いた。

 

「『私、ここにいる』……と申しております」

 

「何しに来たんだよ……」

 

「『マカオさんはこんな場所になんの仕事をしにきたのよ?』と申しております」

 

「知らねぇでついてきたのか? マカオは凶悪モンスター“バルカン”の討伐の為ここにきてんだぞ」

 

ナツが依頼の内容を話すと中に入っているルーシィの顔がさーっと青くなる。

 

「『私帰りたい!』と申しております」

 

「はいどうぞと申しております」

 

「あい」

 

「じゃあな〜」

 

嘆くルーシィを放って、ルフィ達はマカオを探すため雪道を進む。

 

「マカオー!」

 

「何処だーー!」

 

ルフィ達は大声でマカオの名を叫ぶ。雪道を歩いていると、ふとルフィ達の頭上から音が聞こえてきた。

 

「「ん?」」

 

ルフィ達が見上げると巨大な猿が襲いかかってきた。ルフィとナツはその猿の攻撃を躱し、距離を離す。

 

「バルカンだ!」

 

ルフィとナツはすぐさまバルカンを撃破しようと戦闘態勢に入る。するとバルカンは辺りを見渡すといきなりその場を離れた。

 

「あ!」

 

「どこ行くんだよ!」

 

バルカンはある場所に向け走り続ける。その場所とはーー。

 

「人間の女、みっけ!」

 

「ひっ!?」

 

ホロロギウムとルーシィがいる場所だ。バルカンはひょいとホロロギウムを持ち上げ逃走する。

 

「ほえ〜、あいつ喋れるんだなぁ〜」

 

「あいつに聞けばマカオの場所がわかるかもな」

 

「あい!」

 

「『てか助けなさいよぉぉぉぉ!!』 と申しております……」

 

「「「あ……」」」

 

「ウホホッーー!」

 

バルカンはホロロギウムとその中にいるルーシィを担いで雪の山に消えてしまった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ハコベ山、バルカンの住処である洞窟の真ん中でバルカンがホロロギウムの周りで踊っている。

 

「『なんでこんな事になってるわけ!? てか、この猿テンション高いし!』 と申されましても……」

 

ホロロギウムの中に入っていたルーシィは現在の状況を嘆いている。するとバルカンが中に入っているルーシィに顔を寄せる。

 

「人間の女〜!」

 

「ひぃ!」

 

ルーシィはどうする事も出来ない状況。しかしホロロギウムの中に入っておけば安心なのでは? などとそんな浅はかな希望は簡単に打ち砕かれた。

 

「すいません、時間です」

 

「え? ちょっ!?」

 

突如ホロロギウムが消え、毛布にくるまっているルーシィは外に出される。

 

「延長よ! 延長ー! ねぇちょっとー!?」

 

必死に助けを呼ぶがホロロギウムは完全に帰ったのか返答の声が聞こえない。そんなルーシィに目をギラギラとさせ、鼻息を荒くしたバルカンが近づいてきた。

 

「うほ!うほ! 女!」

 

「こうなったら……!」

 

ルーシィは鍵のホルダーから黄金の鍵を一つ取り出した。

 

「開け! 金牛宮の扉、タウロス!」

 

「MOooooo!」

 

雄叫びと共に現れたのは背中に斧を背負った巨体の牛が現れた。

 

「タウロスは私の持つ星霊の中で一番の怪力なんだから!」

 

「MO! ルーシィさん、今日もナイスバディですなぁ」

 

「しまった、こいつもエロかった……」

 

タウロスは目をハートに染めながらルーシィを見つめる。

 

「俺の女、奪うな!」

 

「俺の女? それは聞き捨てなりませんな!」

 

バルカンとタウロスは両者睨み合う。ルーシィはその様子を黙ってみるだけだった。するとーー。

 

「うおぉぉぉぉー!! 猿ー!!」

 

「え? あ、ルフィ!」

 

暗闇の中からルフィがこちらに向かって猛スピードで走ってきた。バルカンは思わず身構える。

 

「覚悟しろよ! ゴムゴムのピストル!」

 

「MO!?」

 

「そっちぃ!?」

 

ルフィの腕が伸び、バルカンではなくタウロスに命中し、タウロスは吹き飛ばされる。

 

「ん? 怪物増えてねぇか?」

 

「それ、味方! 私の星霊!」

 

「Mo〜もうダメみたいですなぁ……」

 

「弱っ!?」

 

ルフィに吹き飛ばされたタウロスはがくっと気を失ってしまった。

 

「ルフィ〜! ルーシィ〜!」

 

「ずりぃぞ! ルフィ!」

 

遅れて暗闇からハッピーとナツがこちらに向かってくる。ルフィがナツ達の方に意識を向けていると、背後からバルカンが迫ってくる。

 

「うほっ!」

 

「ルフィ!」

 

「心配ねぇよ、ルフィなら」

 

バルカンはルフィの頭上に拳を振り下ろした。まともに命中した事にバルカンは歓喜する。しかしーー。

 

「効かないねぇ……ゴムだから」

 

「うほっ!?」

 

ルフィはバルカンの方に振り返り、バルカンを殴り飛ばす。バルカンは天井に激突し、つららと共に地面に伏せる。バルカンは怒りを露わにするとルフィに無数のつららを投げてきた。それに対しルフィは両腕を素早く動かす。するとルフィの手が無数に現れているように見える。

 

「ゴムゴムの……銃乱打(ガトリング)!」

 

ルフィはつららを一つ一つ吹き飛ばす。地面を蹴り、腕を後ろに伸ばしながらバルカンの懐に入る。

 

「ぶっ飛べ! ゴムゴムの……銃弾(ブレット)!」

 

「ごほっ!?」

 

ゼロ距離からの攻撃に防ぐ事が出来ず、バルカンは氷の壁にめり込み気絶した。

 

「「やった〜!」」

 

「くぅ〜俺も戦いたかったなぁ」

 

ナツ達はルフィの勝利を喜ぶ。するとルーシィがある事に気付いた。

 

「そういえばこいつにマカオさんの居場所聞くんじゃなかったの?」

 

「あ、忘れてた!」

 

「完全に気絶してるわよ」

 

「悪りぃ、悪りぃ」

 

そんな会話をしていると突如、バルカンが光に包まれた。

 

「な、何!?」

 

「眩しいぃ!」

 

光が治るとバルカンがいたところに中年の男性が傷だらけで倒れていた。

 

「マカオー!?」

 

「サルがマカオになったー!?」

 

「え、この人がマカオさん!? さっきまでエロザルでしたけど!?」

 

「バルカンに接収(テイクオーバー)されたんだ!」

 

接収(テイクオーバー)?」

 

聞きなれない魔法にルーシィは首を傾げる。

 

「身体を乗っ取る魔法だよ。バルカンはそうやって生き繋ぐモンスターだったんだ!」

 

その後応急処置を施し、マカオを持って来た毛布の上に寝かせた。

 

「長い間、バルカンと戦っていたんだね……」

 

「おい、マカオ! 死ぬんじゃねぇぞ! ロメオが待ってんだぞ! 起きろ!」

 

ルフィは必死にマカオを呼びかける。するとそれに答えるようにマカオの瞼がゆっくりと開く。

 

「マカオ!」

 

「気がついたか!」

 

「よぅルフィ、ナツ……。クソ、情けねぇ……1()9()匹は倒したんだ……」

 

「え!?」

 

「20匹目でドジって接収(テイクオーバー)されちまった……情けねぇ。これじゃロメオに合わせる顔がねぇ……」

 

「んな事ねぇ! 19匹も倒せれば上出来だ! 帰ろうぜ、ロメオのところに!」

 

「へっ……おう」

 

ルフィはマカオの手を強く握りしめる。マカオは笑顔をルフィ達に向ける。

 

「(あの猿、一匹だけじゃなかったの……? あの猿を19匹倒すなんて……)」

 

ルーシィは改めて妖精の尻尾(フェアリーテイル)の魔導士の強さを実感する。

 

「(すごいなぁ……敵わないや)」

 

「ルーシィ、にやけてどうしたの? 怖いよ?」

 

「ヒゲ抜くわよ、猫ちゃん!?」

 

 

 

 

 

 

夕日が沈みかけ、オレンジ色に染まるマグノリアの街。そこでは麦わら帽子を被ったロメオの姿があった。マカオが帰ってくるまでずっと階段に座っていた。そんなロメオの脳裏にある光景が映される。それは街の少年達に妖精の尻尾の魔導士をバカにされた時。『酒臭い』『腰抜け』など様々な言葉を吐かれた。そんなロメオは父に難しい仕事に行ってきてと頼んだ。それがこのような結果を招いてしまったのでは? とロメオに罪悪感がこみ上げる。ロメオは麦わら帽子を深く被る。するとーー。

 

「ロメオーー!!」

 

「!」

 

自分の名前を呼ぶ声が聞こえ、顔を上げる。そこにはルフィとナツに肩を借り、申し訳なさそうな表情を浮かべる父、マカオの姿があった。

 

「父ちゃーーん!!」

 

「おおっ!?」

 

ロメオはマカオの胸に飛びつく。マカオは耐えられず後ろにこける。

 

「父ちゃん……ごめんっ! 俺……」

 

「心配かけてすまなかったな。ロメオ、今度クソガキ達にからまれたらこう言ってやれ。テメェの親父は化け物19匹倒せるのか!? ってよ」

 

「うん……うん!」

 

ロメオは嬉し涙をこぼす。すると被っていた麦わら帽子を取り、ルフィの前に来た。

 

「ルフィ兄、これ!」

 

「お、サンキュー!」

 

ルフィはロメオから麦わら帽子を受け取ると自分の頭に乗せる。そのままルフィ達はその場を立ち去ろうとギルドに向かった。

 

「ルフィ兄ーー!! ナツ兄ーー!! ハッピーーー!! ありがとうーー!!」

 

「おーう!」

 

「おう!」

 

「あい!」

 

「それと、ルーシィ姉もありがとーー!!」

 

ルーシィはロメオの言葉に振り返り小さく手を振った。

 

 

 

 

 



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チーム結成!

最近不定期更新で申し訳ないです……


私、ルーシィ! 今私が住んでいるここはマグノリア。古くから魔法が盛んな商業都市。街の中心にそびえ立つ『カルディア大聖堂』抜けるとそこにはこの街唯一の魔導士ギルド『妖精の尻尾』が見えて来ます。そしてここがわたしの今の家!

 

「七万にしては間取りも広いし、収納スペースも多いし! ちょっとレトロな暖炉まで付いてる!」

 

風呂から上がり、上機嫌に鼻歌を歌いながら自分の身体をタオルで拭く。そしてタオルを纏いながら家の中を移動する。

 

「そして何より一番素敵なのが〜!」

 

そう言いながらドアを開ける。

 

「邪魔してんぞ〜!」

 

「よう!」

 

「私の部屋ー!?」

 

そこにはソファに腰を下ろし、大量の菓子を頬張るルフィとナツと魚を咥えたハッピーの姿があった。

 

「なんであんた達がいるのよ!!」

 

「「「ごふっ!?」」」

 

ルーシィは見事な回し蹴りで三人まとめて壁叩きつける。

 

「だ、だってミラから部屋が決まったって聞いたから……」

 

「あい……」

 

「聞いたから何!? 親しき中にも礼儀ありって言葉知ってる!? あんた達のした事は不法侵入、犯罪なのよ!」

 

「おい、それは傷つくぞ……」

 

「傷ついてるのは私の方よ……」

 

「まぁそんな怒んなよ、煎餅食うか?」

 

傷ついてるルーシィにルフィは煎餅を差し出す。

 

「それ私のよ!!」

 

「す、すびません……」

 

ルーシィの逆鱗に触れ、ルフィはルーシィに顔面をグーで殴られる。

 

「いいとこだね、ルーシィ」

 

「爪研ぐな! 猫!」

 

「ん? なんだこれ?」

 

ナツはルーシィの机の上にあった大量の紙の束を拾い上げる。それに気づいたルーシィはすぐさまナツに近づく。

 

「ダメー!!」

 

「のわっ!?」

 

ナツを突き飛ばし、紙の束を奪う。

 

「気になるな、んだよそれ?」

 

「なんでもいいでしょ! というか帰ってー!!」

 

「せっかく遊びに来たんだから帰るのやだー!」

 

「超勝手……」

 

 

 

 

 

 

 

その後、落ち着きを取り戻し、私服に着替えたルーシィはルフィ達に紅茶を出し、テーブルの椅子に腰掛ける。

 

「引っ越したばっかだから家具も揃ってないのよ。遊ぶものなんてないからこれ飲んだら帰ってよね!」

 

「残忍な奴だなぁ……」

 

「全くだ!」

 

「あい」

 

「残忍っ……」

 

するとルフィが何か思いついた顔を浮かべる。

 

「あ、そうだ。ルーシィの持ってる鍵の奴ら、全部出してくれよ!」

 

「鍵の奴らじゃなくて星霊よ、星霊」

 

「ルーシィは今何人の星霊と契約してるの?」

 

「六体! 星霊っていうのは一体、二体って数えてね……」

 

ハッピーの質問に答えながら、ルーシィは六本の鍵を取り出し、それぞれテーブルに銀の鍵三本と金の鍵三本に分けて置いた。

 

「こっちの銀の鍵がお店で売っている奴。時計座のホロロギウム、南十字星のクルックス、琴座のリラ。 そしてこっちの黄金色の鍵が『黄道十二門』の超レアな鍵。 金牛宮のタウロス、宝瓶宮のアクエリアス、巨蟹宮のキャンサー」

 

「か、蟹かー!?」

 

「蟹ー!」

 

「また訳のわからない変なところに食いついたわね……」

 

「な、なぁルーシィちょっとキャンサー出してくれよ……ジュル」

 

「あんた食べる気満々じゃないの!」

 

「へぶっ!」

 

涎を拭きながら頼むルフィの顔面に拳を叩き込む。するとルーシィは何か思い出したようにぽんっと手を叩く。

 

「そういえばまだハルジオンで買った鍵の契約をしてなかったわ。特別に星霊魔導士と星霊との契約の流れを見せてあげる!」

 

「「「おおー!」」」

 

ルーシィの言葉に三人は興味津々だったが、三人は突如顔を青くする。

 

「血判とか押すのかな?」

 

「グロいな、それ……」

 

「痛そうだな……ケツ」

 

「何故お尻? それと全部聞こえてますが……?」

 

ビビる三人を放置し、ルーシィは契約の準備に入る。

 

「ゴホンッ! まぁ見てて。我、星霊界との道を繋ぐ者! 汝、その呼びかけに応え、(ゲート)をくぐれ! 開け、仔犬座の扉……ニコラ!」

 

詠唱すると鍵から光が溢れる。

 

「「「おおー!」」」

 

三人はどんなやつが出るんだと期待に胸を膨らませる。光はどんどん形になっていく。そして光が収まるとそこには真っ白な小さな体に、角のような鼻、二足歩行でプルプル震える小人? が現れた。

 

「プーン」

 

「「「ニコラーー!!?」」」

 

想像と全く違うニコラの姿に三人は叫ばずにはいられなかった。

 

「「「ど、ドンマイ……」」」

 

「失敗してないわよっ!」

 

「プン、プーン」

 

「あぁん、可愛い〜!」

 

ルーシィはニコラを我が子のように抱きしめる。

 

「そ、そうか?」

 

「ニコラは魔力消費が少ないから愛玩星霊として人気なのよ」

 

ルーシィの言葉に反応し、三人はまたコソコソ話を始めた。

 

「ナツ、ルフィ、人間のエゴが見えるよ〜!」

 

「ああ」

 

「全くだ、ヤベェ奴だなルイージは!」

 

「……ルーシィよ。それと全部筒抜けですけど? まぁいいわ、契約に移りましょう」

 

「プーン!」

 

ルーシィは近くに置いてあったメモ帳とペンを取るとニコラの前にしゃがみこむ。

 

「月曜は?」

 

「プン、プーン」

 

首を横に振るニコラ。すぐさまメモを取るルーシィ。

 

「じゃあ火曜?」

 

「プン」

 

今度は首を縦に振るニコラ。すぐさまメモを取るルーシィ。

 

「オッケー、オッケー、じゃあ……」

 

そんな契約をしている様子をルフィ達はテーブルの紅茶を飲みながら見ていた。

 

「なんか、地味だな」

 

「あい」

 

少し時間が経過し……。

 

「はい! 契約完了!」

 

「プン、プーーン!」

 

契約が終わった事に喜んでいるのかわからないがニコラが飛び跳ねる。

 

「案外、契約簡単なんだね」

 

「だな」

 

「そう見えるけど、結構重要な事なのよ? 星霊魔導士は契約……つまり約束ごとに重要視するの。だから私は約束は絶対破らない……てね!」

 

「へぇー」

 

「あ、そういえば名前決めなきゃ!」

 

「ニコラじゃないの?」

 

「それは総称でしょ? そうねぇ……」

 

うーんと顎に手を当てながら名前を考えるルーシィ。やがて思いついたようにぽんっと手を叩く。

 

「おいで、プルー!」

 

「プーン!」

 

「「「プルー?」」」

 

「なんか語感が可愛いでしょ? ねぇ、プルー?」

 

「プルー?」

 

ルーシィはプルーを抱きしめる。

 

「プルーって仔犬座なのにワンワン鳴かないんだね」

 

「あんただってニャーニャー鳴かないじゃない」

 

するとルーシィの腕の中を離れると、ルフィ達の前で踊りだす。

 

「何かしら?」

 

「プン、プーン!」

 

「おお! お前、良い事言うな〜!」

 

「俺お前大好きだ!」

 

「プーン!」

 

「伝わったの!?」

 

ルフィとナツはプルーのメッセージが伝わり、感動する。

 

「うーん……」

 

「な、何よ……」

 

するとルフィはルーシィの前に立ち、ルーシィの顔をじっと見つめる。すると何か思いついたかのようにルフィは笑みを浮かべる。

 

「よし! ここにいる俺たちでチームを組もう!」

 

「おおー! 名案だな、それ!」

 

「なるほどー!」

 

「チーム?」

 

ルーシィはそれがなんなのか詳しくわからずきょとんとしていた。

 

「あい! ギルドのメンバーはみんな仲間だけど、特に仲の良い人同士が集まってチームを組むんだよ。一人じゃ難しい依頼もチームでこなせば楽になるんだよ」

 

「いいわね! それ、賛成!」

 

「にっししし! これでチーム結成だな!」

 

ルフィは右手の拳を前に突き出す。

 

「契約成立ね!」

 

「おう!」

 

ルーシィとナツはルフィの拳に拳を当てる。

 

「よし! そんじゃあ早速仕事に行くぞー! もう依頼書持ってきたんだ〜!」

 

「もう、気が速いわねぇ〜」

 

ルフィが依頼書を取り出すと、ルーシィは早速依頼内容を見る為に依頼書を受け取る。その時、ルフィとナツの顔が不気味に笑っていた事にルーシィは気づかなかった。

 

「シロツメの街ねぇ……うそ! エバルー公爵って人の屋敷から本一冊取りに行くだけで20万J!?」

 

「な? すげぇだろ!」

 

「いいわねー! これ……ん? 注意、スケベで女好きで変態……ただいま金髪のメイド募集中……って!?」

 

ルーシィはゆっくり首をルフィ達に向ける。ルフィ達はニヤニヤした顔でルーシィを見つめていた。

 

「ルーシィって金髪だもんな!」

 

「メイドの服着せてルーシィに潜入してもらおうよ」

 

「あ、あんた達最初から……は、はめられたぁ!!」

 

ルーシィは頭を抱えながら床に伏せる。

 

「星霊魔導士は契約を大切にするのかぁ。いやぁ偉いなぁ」

 

「騙したなぁーー!!」

 

「じゃあとりあえずハッピーの事、ご主人様って言ってみろよ」

 

「ネコには嫌ー!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃、魔導士ギルド『妖精の尻尾』ではーー。

 

「あれ〜? 一冊20万Jの仕事……誰かに取られちゃったのかな?」

 

クエストボードの前でチーム『シャドウ・ギア』のレビィ、ジェット、ドロイの三人がボードを眺めていた。

 

「えぇ……その仕事ならルフィとナツがルーシィ誘って行くって」

 

「あ〜あ、迷ってたのになぁ……」

 

レビィは思わずため息をこぼす。するとカウンターに座っていたマスターマカロフが口を開く。

 

「いや、レビィ……行かなくてよかったかもしれんぞい」

 

「マスター?」

 

「その仕事の依頼主からたった今連絡があってな」

 

「キャンセルですか?」

 

ミラがマカロフにそう聞くとマカロフはニヤッと笑みを浮かべる。

 

「いや……報酬を2()0()0()万Jにつり上げる、だそうじゃ」

 

マカロフの言葉を聞いた者は驚きを隠せなかった。

 

「10倍!?」

 

「本一冊で200万だと!?」

 

「討伐系並みの報酬じゃねぇか……」

 

喧騒が増す中、カウンターに座っていたグレイがニヤリと笑う。

 

「へっ……面白そうな事になったじゃねぇか」

 

「グレイ、下」

 

「ん? あぁ!? いつの間に!?」

 

ミラの指摘にグレイが下を向くと又もやパンツ一丁になっていた。

 

 

 

 

 

 

 

そんな騒ぎがギルドで起こっているとも知らずにルフィ達は馬車で移動していた。

 

「乗り心地はいかがですか、ご主人様?」

 

「め、冥土が見える」

 

「ご主人様役はオイラだよー!」

 

「うっさい、猫!」

 

「腹減った〜。ルーシィ、飯」

 

「あんたさっき私の部屋で散々食ってたでしょ!」

 

ルーシィは三人の様子を見て思わず溜息をこぼす。するとルーシィは気になっていた事をルフィに聞いた。

 

「ねぇ、ルフィ? ナツはともかく、なんで私とチーム組もうと思ったの?」

 

「なんでって……お前いい奴だから誘ったに決まってんだろ」

 

「え?(なんだかんだで私の事認めているんだ……)」

 

「まぁ変な奴だけどな」

 

「(一番変な奴に変な奴って言われた!) んんっ! 私の最初の仕事だからしっかり行くわよ!」

 

ルーシィは気を取り直し、三人に喝を入れる。

 

「あれ? 最初は嫌がってたのに元気だね」

 

「相手はスケベ親父。私、こう見えても結構色気には自信があるのよ?」

 

ルーシィは頬に手を当て三人に向けて笑みを浮かべる。

 

「ふーん、そうか」

 

「猫には判断出来ません」

 

「こいつらぁ……」

 

ルフィは興味なさそうに鼻をほじくりながらルーシィを見る。ハッピーもまるで興味がなさそうな視線をルーシィにぶつける。ルーシィはこみ上げそうな怒りを何とか静める。

「言っとくけど! 今回の報酬の取り分、7ー1ー1ー1だからね!」

 

「ルーシィ、1でいいの?」

 

「私が7よ!」

 

そんな様子で馬車はシロツメの町に向かうのだった。

 

 

 

 

 



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日の出を探せ!

馬車で移動してから数時間が経過し、目的地のシロツメの街に無事辿り着いた。

 

「着いたー!」

 

「腹減ったな……」

 

「もう二度と馬車には乗らん……」

 

「ナツ、いつも言ってるよ」

 

四人はとりあえずルフィとナツが腹を空かせたのでレストランを探す事にした。しばらく街の中を進んでいくとレストランを見つけた。

 

「おい! ここ入ろうぜ!」

 

「メシー!」

 

「私ちょっとやる事あるから三人でどうぞ〜」

 

ルーシィはそう言うとルフィ達を置いて街の中に消えていった。

 

「行っちまった……」

 

「んだよ……皆で食った方が楽しいのに」

 

「あい」

 

ルフィ達は仕方なくレストランに入る食事をとる事にした。

 

 

 

 

「肉、うめぇ!」

 

「脂っこいのはルーシィに残しとくか」

 

「脂っこいの好きそうだもんね」

 

「これ、すげぇ脂っこい!」

 

ルフィ達はルーシィの分の食事をある程度残しながら食べていた。しかしルーシィの分の食事はどれも脂っこいものばっかりだった。

 

「私がいつ脂好きになったのよ!」

 

「おぅ、ルー……シィ?」

 

ルフィ達はルーシィの声がした方に視線を向けると、そこにはメイドの格好をしたルーシィの姿があった。

 

「やっぱり私って何を着ても似合っちゃうのよね〜」

 

「「「…………」」」

 

ルフィ達三人は呆気にとられる。ルフィは咥えていた肉をこぼし、ナツとハッピーは口の中のものをボロボロ落としていた。

 

「お食事はお住みですか、ご主人様?」

 

メイドに似せようと口調も少し変えてルーシィは言った。そんな様子を見たルフィ達は顔を合わせてヒソヒソ話を始める。

 

「ど、どうしよう〜! 冗談で言ったのに本気にしてるよメイド作戦!」

 

「今更冗談だって言えないしな……こ、これで行くか」

 

「ルーシィのあの格好面白いからこのままでいいや」

 

「聞こえてますがっ!?」

 

 

 

レストランで食事を終えた一同は依頼主の館に来ていた。

 

「立派な建物ね〜。ここがエバルー公爵の……」

 

「ううん、ここは依頼主の館だよ」

 

「まずは話を聞かねぇーとな」

 

「そうだな」

 

ナツは扉の前に行きノックする。するとドアが少しだけ開いた。

 

「どちら様ですか?」

 

「魔導士ギルド、『妖精のーー」

 

「! しっ! 静かに! ……すいません、裏口から入っていただけませんか?」

 

「「「「?」」」」

 

四人は疑問に思ったが深く追求せず、言われた通り裏口から入る事にした。入ると女性の人に依頼主の部屋まで案内された。部屋の扉を開くとそこには依頼主の老人が座っていた。

 

「魔導士の方々。どうぞ、そこに座ってください」

 

一同は言われるがまま老人の前のソファーに腰掛けた。

 

「先ほどは大変失礼いたしました……。私が依頼主のカービィ・メロンです」

 

「メロン!」

 

「美味そうな名前だな!」

 

「あい!」

 

「ちょっと、失礼よ!」

 

「あはは、よく言われるんですよ。それにしてもまさかあの有名な『妖精の尻尾』の魔導士さんに受けてもらえるとは……」

 

「そっか? こんなうめぇ仕事が今までよく残っていたと思うけどな?」

 

「(内容と報酬が釣り合ってないからきっと皆警戒してんだ……)」

 

「しかしこんなにお若いのに……ん? もしや君は『麦わらのルフィ』君か?」

 

「ん? そうだけど、おっちゃん俺の事知ってんのか?」

 

「おお、やはり! まさか麦わらのルフィが来てくれるとは……」

 

「それとここにいるナツは火竜(サラマンダー)って呼ばれているよ」

 

火竜(サラマンダー)! その名も耳にした事があります!」

 

「……で、こちらは?」

 

「私も『妖精の尻尾』の魔導士です!」

 

「その服は趣味……ですか? あ、いえいえ、いいんですがね」

 

「……なんか私帰りたくなってきた」

 

「ま、まぁとりあえず仕事の話をしましょう」

 

「おう!」

 

シクシクと悲しむルーシィを置いておき、カービィは苦笑いを浮かべながら仕事の話を話し始めた。

 

「私の依頼したいことはただ一つ……エバルー侯爵の持つ本、『日の出(デイ・ブレイク)』の破棄又は焼失です」

 

「焼失? だったら家ごと燃やせばすぐ片付くな」

 

「あい」

 

ナツは手に炎を宿しながら言う。ハッピーもそれに便乗する。

 

「そんな事したらダメでしょ! それになんで本を破棄なんか……」

 

「んな事どうでもいーじゃねぇか、20万だぞ、20万」

 

「いえ……200万Jお払いします。報酬は200万Jです」

 

「なっ!?」

 

「にぃ!?」

 

「ひゃ!?」

 

「くぅ!?」

 

四人は通常では考えられない依頼報酬に言葉を失う。

 

「おや? 値上がったのを知らずにおいででしたか」

 

「200万J!? ちょっと待て、四等分すると…………うおぉぉ! 計算できねぇ!」

 

「簡単です! オイラが100万、ナツとルフィが50万、残りはルーシィです!」

 

「頭いいな、ハッピー!」

 

「そんだけあれば、えっとえっと肉が一つ、肉が二つ…………数え切れねぇ!」

 

ルフィは涎を垂らしながら頭の中で肉に埋もれる自分を想像する。

 

「てか私の分が残ってないじゃないの!」

 

「よっしゃ! そうと決まれば行くぞ、野郎ども!」

 

「おう!」

 

「アイサー!」

 

「ちょ、ちょっとー!」

 

一同は意気揚々と屋敷を出て行く。

 

 

 

 

 

 

エバルー公爵の屋敷前にメイド姿のルーシィが立っていた。

 

「メイド募集のチラシをみて来ましたー! すいませーん、誰かいませんか〜!」

 

そんな様子を遠くからナツとルフィとハッピーは見守っていた。

 

「ルーシィ、頑張れよ〜」

 

「上手くやれよ〜」

 

「頑張れ〜」

 

三人は各々声援を送る。ルーシィは自分の容姿に自身満々だから必ず採用されると意気込んでいた。すると何やら地面から音が聞こえてきた。

 

「ん? 何かしら……」

 

ルーシィが不思議に思っていると突然地面からゴリラのようなメイドが飛び出て来た。

 

「メイド募集の広告を読んで来たの?」

 

「は、はい!」

 

「ご主人様! 募集広告を見て来たそうですが?」

 

メイドが大きな声でそう叫ぶと今度は地面から変な髭の男が飛び出て来た。

 

「ボヨヨーン! 我輩を呼んだかね?」

 

(き、来たー!)

 

ルーシィの前に現れたのはエバルー公爵だった。エバルー公爵は早速ルーシィに近づく。

 

「ふむ……どれどれ?」

 

エバルーはルーシィの身体を隅々までなめるように見る。

 

「よ、よろしくお願いしまーす(と、鳥肌が……! でもここは堪えるのよ、私!)」

 

ルーシィはエバルーの視線を必死に堪えながら作り笑顔を崩さない。するとエバルーは突然後ろに振り返り、溜息をこぼす。

 

「いらん、帰れ()()

 

「ブ……!?」

 

ルーシィは堂々とブスと言われた事にショックを隠しきれず項垂れてしまった。そんなルーシィをゴリラのメイドが抱える。

 

「という事よ、とっとと帰りなさいブス」

 

「ぐはっ!?」

 

又もやブスと言われ更にメンタルが壊されていくルーシィ。

 

「儂のようなえらーい男には……」

 

するとエバルーの周りの地面から次々とブサイクなメイド達が出て来る。

 

「美しい娘しか似合わんのだよ!」

 

「はぁ……!?」

 

ルーシィはそんなメイド達をみて終始口を大きく開けて呆然としていた。

 

 

 

 

ルフィ達の元に戻って来たルーシィは体操座りですすり泣きしていた。

 

「ルーシィ、使えねぇな」

 

「だな」

 

「違うわよっ! あのエバルーって奴、美的感覚がちょっと特殊なの!」

 

「言い訳だ〜」

 

「うぅ〜! 悔しい〜!」

 

ハッピーの言葉にルーシィは何も言い返せずただ悔しがるだけしか出来なかった。すると座っていたナツが立ち上がる。

 

「うし! こうなったら作戦Tに変更だ!」

 

「「おおー!」」

 

「えぇ! あの親父、絶対に許さん!……ところで作戦Tって?」

 

「突撃のT」

 

「それのどこが作戦よ!!」

 

 

 

 

エバルー邸内部に乗り込む為、ルフィ達は屋上から侵入する事にした。屋上の窓を熱で溶かし、窓の鍵を開けているナツは何処か不服だった。

 

「ったくよ……なんでこんなコソコソと。正面からぶっ飛ばせばいいだろ?」

 

「ダメよ、そんな事したら軍が動くわ」

 

「でもお前さっき許さんって言ったじゃねぇか」

 

「ええ、あいつは許さない! だからあいつの靴を片方何処かに隠しちゃうんだから! ふふふ……」

 

「うわぁ……ちっせ」

 

「やる事がきたねぇぞ、ルーシィ」

 

怪しく目を光らせながら不気味に笑うルーシィを他の三人は若干引いていた。その後、ルフィ達は窓を開け、屋敷内に潜入する。

 

「ここは……物置かしら?」

 

忍び込んだ部屋を見渡すとそこには色々な物が大量に置いてあった。ルーシィは部屋の出口を探す。

 

「うおおおおおおー!」

 

「ひっ!?」

 

すると突然ルーシィの目の前に骸骨を被ったハッピーが雄叫びをあげながら現れた。ルーシィは驚いた拍子に尻餅をついてしまった。

 

「ルフィ、ナツ、みてみて〜」

 

「おお! 似合ってる!」

 

「かっこいいぞハッピー!」

 

「遊ぶな!」

 

ルーシィは勝手に盛り上がる三人に喝を入れてから部屋の扉を少し開く。廊下を見渡し、誰もいないことを確認するとルーシィを先頭に四人は廊下に出た。

 

「なぁルーシィ、本を探すよりもあのおっさんを取っ捕まえて聞けばよくねぇか?」

 

「ダメ、さっきも言ったでしょ? あいつはあれでも伯爵、変な事をすれば軍が動くわ」

 

「めんどくせぇ……」

 

「それに見つからないように任務を遂行するのってなんだか忍者みたいでかっこいいでしょ? ニンニンって?」

 

「に、忍者……!」

 

「か、かっこいい!」

 

「ニンニン!」

 

そうルーシィは後ろの三人にニンニンと忍者のポーズをとると三人は目を輝かせながらルーシィと同じポーズをとる。そんなやりとりをしていると目の前の床が盛り上がった。

 

「侵入者発見ー!」

 

「排除します!」

 

床から目を光らせたゴリラのメイドを筆頭に次々とブサイク顔のメイド達が現れた。

 

「見つかったー!?」

 

「うぎぁぁぁー!」

 

『いやん! オバケ〜!』

 

いつの間にまた骸骨をかぶっていたハッピーが声をあげるとブサイクメイド達がそれに怯んだ。その光景はおぞましいものだった。

 

「「やかましい!」」

 

ルフィとナツはブサイクメイド達を吹き飛ばした。しかしゴリラメイドは空中に逃げて二人の攻撃をかわした。

 

「フライングバルゴアタック!」

 

「うおっ!?」

 

ゴリラメイドは自身の巨体を活かしてルフィを下敷きにする。しかしルフィは倒れずにゴリラメイドを受け止め、空中に放り投げた。

 

「ナツ!」

 

「おう! 忍者〜!」

 

マフラーで自分の顔を隠しながらナツは炎を纏った足でゴリラメイドを吹き飛ばした。

 

「まだ見つかるわけにはいかんでござるよ!」

 

「ニンニン!」

 

「ニンニン!」

 

「普通に騒がしいわよあんたら……。とにかく見つからないようにあそこの部屋に隠れましょう!」

 

ルーシィが指差した部屋に入るとそこには本棚がずらりと並んでいた。

 

「おおー! 本がいっぱいだ!」

 

「あい! でござる!」

 

「エバルーって意外にも蔵書家だったのね……」

 

「探すぞー!」

 

「おおー!」

 

「あいさー!」

 

四人は手分けして本を探すことにした。

 

「にしてもこの中から一冊を見つけるのは大変ね……」

 

「お、エロいの見っけ!」

 

「魚図鑑だー!」

 

ナツとハッピーは目的とは違う本で盛り上がっていた。

 

「おーい! かっこいい本見つけたぞ〜!」

 

するとルフィが金色の本を上にあげて言った。

 

「おお! 金色の本だ!」

 

「ウパー!」

 

「ウパー!? あんた達、真面目に探しなさいよ……って、え? 日の出(デイ・ブレイク)?」

 

「日の出……って!」

 

『見つかったー!』

 

こうもあっさりと四人は依頼にあった本を手に入れた。

 

「そうと分かれば燃やそうぜ!」

 

「おう!」

 

「簡単だったね」

 

ルフィはナツに本を渡し燃やそうとする。

 

「ちょっと待って!」

 

「んあ?」

 

するとルーシィはナツから本を取り上げるとまじまじと本を見つめる。

 

「これ書いてる作者ケム・ザレオンじゃない!」

 

「ケム?」

 

「魔導士でありながら小説家だった人よ! 私大ファンなの! 作品全部読んだと思ったけどこれってもしかして未発表作って事!?」

 

「いいから、速く燃やそうぜ?」

 

「だ、ダメよ! これは文化遺産、燃やすなんてとんでもない!」

 

「仕事放棄だ」

 

どうしても燃やされたくないのかルーシィはナツ達と距離をとる。

 

「じゃあ燃やしたって事にして〜! これは私がもらうから〜!」

 

「嘘は泥棒の始まりだぞ!」

 

「そうだ、そうだ!」

 

ルフィ達はジリジリとルーシィの距離を狭めていく。

 

「ーーなるほど、なるほど……お前らの目的は日の出だったか」

 

『!』

 

声が聞こえると床からエバルー伯爵が飛び出て来た。

 

「ルーシィがもたもたするからボヨヨのおっさんが来ちまったじゃねぇか」

 

「ごめ〜ん!」

 

「ふん、魔導士共が何を躍起になって探しているのかと思えば……まさかそんなくだらん本だったとはな」

 

「くだらん?」

 

「(依頼主が大金を出してまで破棄したい本を、所有者であるエバルーまでもくだらないって……)てことはこの本は貰っていいのかしら!?」

 

「ダメー! 吾輩のものは吾輩のもの!」

 

「ケチ」

 

「うるさい、ブス」

 

「ぐはっ!?」

 

「ははは、ブスだってよ! ははは!」

 

「笑うな!」

 

またもやブスと言われルーシィは心を痛める。そんなルーシィを追い討ちするかのようにルフィが腹を抱えて笑っていた。

 

「燃やせばこっちのもんだ」

 

「ダメ、絶対ダメ!」

 

「ルーシィ! これは仕事だぞ!」

 

「じゃ……せめて読ませて!」

 

「「「「ここでか!?」」」」

 

ルーシィの予想外の行動にこの場の全員がツッコム。

 

「ええい!気に食わん! 偉ーい我輩の本に手を出すとは〜! 来い、バニッシュブラザーズ!」

 

エバルーがそう言うと突如本棚から隠された扉が開き、そこから二人組の男性が現れる。

 

「なんだ?」

 

「グットアフタヌーン」

 

「こんなガキ共が妖精の尻尾とはママも驚くぜ」

 

二人組の服には狼のようなマークが付いていた。

 

「あれは傭兵ギルド! 南の狼だよ!」

 

「こんなやつら雇っていたのか」

 

「ボヨヨ! 南の狼はいつも空腹なんだ……覚悟しろ!」

 

互いに睨み合いが続く中、ルーシィが突然立ち上がった。

 

「ルフィ、ナツ。少し時間を頂戴! この本、なんか秘密があるみたいなの!」

 

「ん〜……よくわかんねぇけどわかった!」

 

ルフィがそう言うとルーシィは扉を開け、部屋を出て行った。

 

「娘はわしが捕らえる。小僧どもを消しておけ!」

 

「「イエッサー」」

 

エバルーはルーシィを追うため床に潜って行った。

 

「ハッピー、ルーシィを頼む。ここは俺とルフィで十分だ」

 

「アイサー!」

 

ハッピーはルーシィが向かった方向に飛んでいった。

 

「うし! やるか!」

 

「おう!」

 

ナツとルフィは戦闘態勢に入ると、向こうの二人も構える。

 

「カモン! 炎の魔導士」

 

「ん? なんで知ってんだ?」

 

「先ほどバルゴを倒した時足に炎を纏っていたからな」

 

「能力系の魔導士と見て間違いない。そちらの少年は能力はわからんが魔導士であることに変わりはない」

 

「だったら覚悟は出来てるよな?」

 

ナツは手に炎を纏って威嚇する。

 

「それは無理な話。なぜならミーにとって火の魔導士は最も得意とする相手だからだ。魔導士など我々にとって無力!」

 

「だったら俺が相手だ! ゴムゴムの〜……銃!」

 

「何!?」

 

ルフィの手が伸びた事に傭兵は驚きながら背中に背負っているフライパンでガードする。しかし威力を殺さずフライパンが破壊されてしまう。

 

「な、何ぃ!?」

 

「へ! どうだ!」

 

「あ、兄者!? お、お前まさか悪魔の実の能力者か!?」

 

「ああ、そうだ! これで終わりだ、ゴムゴムの〜……」

 

とどめをさす為にルフィは両手を後ろに伸ばしながら傭兵に近づく。

 

「兄者はやらせねぇ!」

 

「俺の事も忘れんな! 火竜の……」

 

「なっ!? しまっ……!」

 

ルフィに気をとられていた傭兵は近づいていたナツに気がつかなかった。ナツは拳に炎を纏う。

 

「バズーカ!」

 

「鉄拳!」

 

「「ぐはっ!?」」

 

直撃を食らった傭兵達はそのままエバルー屋敷を突き抜けていった。

 

「あんま強くなかったな〜あいつら」

 

「妖精の尻尾の魔導士をなめんな!」

 

「まぁいいや、ルーシィを探すか」

 

「おう!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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DEAR KABY

屋敷の下水道。そこでルーシィは魔法アイテム『風読みの眼鏡』をかけ、本の解読をしていた。そして本を読み終わったルーシィは本を閉じ、改めて本の表紙を見る。

 

「やっぱり……この本、日の出(デイ・ブレイク)は燃やせない。エバルーに気づかれる前に早くカービィさんに届けなきゃ!」

 

ルーシィが立ち上がると、後ろの壁から手が現れルーシィの腕を掴んだ。

 

「ボヨヨヨ……逃がさんぞ!」

 

「くっ!」

 

ルーシィは両腕を塞がれ身動きが取れない状態になった。

 

「さぁ言え、何を見つけた? その本の秘密とはなんだ?」

 

「あ、アンタなんて、最低よ……文学の敵だわ……」

 

「文学の敵だと!? ぐぬぬ……小娘が偉そうに! さっさとその本の中に書かれている秘密を話せ! さもなければ貴様の腕をへし折るぞ!」

 

「! 痛っ……」

 

怒鳴りながら掴んでいる手にさらに力を入れ、本当に腕を折ろうとしている。ルーシィも苦痛の表情を浮かべる。

 

「ルーシィ!」

 

「えっ?」

 

「ボヨ? ぐへぇ!?」

 

するとルーシィを追いかけていたハッピーが体当たりでエバルーを吹き飛ばす。その拍子に拘束されていた手が自由になった。

 

「ナイス! ハッピー!」

 

「あ、頭が〜……」

 

「ぐっ……おのれ〜!」

 

「これで終わりよ、エバルー!」

 

ルーシィは黄金の鍵を構えながらエバルーに言い放つ。

 

「ボヨヨヨ……誰が終わるものか!」

 

するとエバルーもルーシィと同じ黄金の鍵を取り出す。

 

「え!?」

 

「ルーシィと同じ魔法!?」

 

「開け! 処女宮の扉……バルゴ!」

 

鍵から光が溢れると、エバルーの隣にあのゴリラメイドが立っていた。

 

「お呼びでしょうか? ご主人様」

 

「こいつ、星霊だったんだ!」

 

「ボヨヨヨ! さぁバルゴ、こいつらを……ん?」

 

「「あっ!?」」

 

そこにいる者たちはバルゴの方をみて驚愕した。何故ならバルゴの両肩にナツとルフィが掴まっていたからだ。

 

「ナツ!」

 

「ルフィ!」

 

「な、なぜ貴様らが!?」

 

「あんた達、どうやって……」

 

「このメイドが動きだしたから後をつけてきたらいきなり……ってなんでルーシィとハッピーがここにいるんだー!?」

 

「それはこっちの……ってあれ? てことはあんた達もしかして星霊界を通過したって言うの!?」

 

「ば、バカな……ありえん」

 

ルーシィとエバルーはその事実に驚愕する。エバルーが呆然としているとルフィとナツはようやくエバルーの存在を認識した。

 

「あ! ボヨヨの奴!」

 

「ルーシィ、俺たちは何すればいいんだ!?」

 

「そいつをぶっ飛ばしちゃって!」

 

「おう!」

 

「よし!」

 

掛け声に合わせ、二人はバルゴから飛び降りる。バルゴの正面に立ち、二人は各々構える。バルゴは唐突の出来事に反応を遅らせた。

 

「ゴムゴムの銃!」

 

「火竜の鉄拳!」

 

「ぶほぉ!?」

 

バルゴは弓矢のごとく吹き飛ばされ、下水道の壁にめり込み、気絶した。

 

「なっ!? お、おいバルゴ!?」

 

「これでお終いよ! 開け! 巨蟹宮の扉……キャンサー!」

 

ルーシィはホルダーから取りだした一本の金の鍵が眩しく辺りを照らす。そしてルーシィの隣には背中にカニの足を生やし、両手にハサミを持ったサングラスの男性が現れた。

 

「「か、カニだー!!」」

 

「これ絶対語尾が『カニ』のやつだよ! そうに違いないよ!」

「はいそこ! うっさいっ!」

 

ルフィ達は涎を垂らしながらキャンサーの方を見る。キャンサーはルーシィの方に身体を向ける。

 

「ルーシィ、今日はどんな髪型にする……『エビ』?」

 

「「「エビー!?」」」

 

「空気よんでくれるかしら!?」

 

想像の斜め上をいった解答にルフィ達は驚愕する。そんな三馬鹿をほっときルーシィはエバルーに指を差す。

 

「まぁいいわ、戦闘よ! あのヒゲオヤジをやっつけちゃって!」

 

「い、いかん!」

 

身の危険を感じたのかエバルーはまた魔法で地面に潜ろうとする。しかし、ルーシィは腰にあったムチをエバルーに向けて放つ。

 

「ぐえっ!?」

 

エバルーの首を捕らえ、地面に潜れないようにした後ルーシィはキャンサーに命令する。

 

「これであんたは地面に潜れない。今よ、キャンサー!」

 

命令を受けたキャンサーはエバルーに素早く近づき、ハサミを向ける。するとキャンサーは目にも留まらぬ速さでエバルーの髪や髭を一本も残さず切っていく。

 

「カット完了……エビ」

 

「あ、あ……我輩の自慢の髭が……」

 

髭を切られた事があまりにショックだったのかエバルーはそのまま気絶した。

 

「卵みたいになったな、あのおっさん」

 

「あい」

 

「不味そうだ」

 

「そんな事言ってないで、はやくカービィさんのところに行くわよ!」

 

ルーシィ達は廃棄する予定だった本を手に、依頼主のカービィの自宅に向かった。この本の秘密を告げるためにーー。

 

 

 

 

 

依頼主の家に戻ってきた一行はカービィにあの本を手渡す。

 

「こ、これは……!? どういう事ですかな……私はこの本を廃棄してくれとーー」

 

「廃棄するのは簡単です。もちろん、カービィさんでもできます」

 

「な、なら、この本は燃やします! こんな本、見たくもない!」

 

カービィは懐からマッチの箱を取り出す。そんな中、ルーシィは話を続ける。

 

「カービィさん。何故あなたがこの本の存在を許さないのかようやくわかりました。父親の誇りを守るため……この本の作者であるケム・ザレオンは貴方の父親ですよね?」

 

「っ!」

 

「えぇ!?」

 

「なっ!?」

 

「パパー!?」

 

隠された事実に戸惑いを隠せないルフィ達。カービィはマッチを静かに降ろす。

 

「カービィさんはこの本はお読みに?」

 

「いえ、父から聞いただけですので……しかし、読むまでもない。『駄作』……父はそう言っていました」

 

それを聞いたナツはカービィに詰め寄る。

 

「だから燃やすのかよ! そりゃああんまりじゃねぇか!? 父ちゃんが書いた本なんだろ!?」

 

「落ち着いて、ナツ! 言ったでしょ、誇りを守るためだって」

 

「ええ……父はこの本『日の出』を書いた事を恥じていました」

 

カービィはルーシィ達に語る。31年前……突然帰ってきて、作者を辞めると言い腕を切り落とした事。その後、入院した父を恨み、罵倒を浴びせたこと、そしてその数日後に自殺した事。

 

「私の中の憎しみはいつしか後悔に変わりました……。私があんな事を言わなければ父は自殺しなかったんじゃないかと……」

 

再びマッチの箱からマッチ棒を取り出す。

 

「だから、燃やすのか。おっさん」

 

「そうです……。父への償いとしてこの本を……父の名誉の為にこの駄作を消し去りたいと思ったんです」

 

マッチ棒に火をつけ、静かに日の出の本に近づける。

 

「これで……最後だ」

 

本に火がつくーーその時、日の出から眩しい光が溢れてきた。その光と共に本が開かれ、中から無数の文字が飛び出す。

 

「えっ!?」

 

「っ!」

 

「文字が浮かんだー!?」

 

「これは一体……?」

 

ルーシィ以外の者はこの光景を見て、呆然としている。カービィがルーシィに聞くと、ルーシィは口を開く。

 

「ケム・ザレオン……いえ、本名はゼクア・メロン。彼はこの本に魔法をかけたんです」

 

「魔法……?」

 

するとタイトルである『日の出』の文字が浮かび、並び替えられる。そして本当のタイトルとしてカービィの前に現れた。

 

DEAR(ディア)……KABY(カービィ)!?」

 

「彼のかけた魔法は文字が入れ替わる『立体文字(ソリッドスクリプト)』一種。もちろん、タイトルだけでなく中身も、です」

 

ルーシィがそう言うと飛び出していた文字達が次々と並び替えられる。並び替えられた文字で語られる文はカービィに向けられた文だった。

 

「すげぇ!」

 

「綺麗ー!」

 

「おぉ!」

 

「彼が作家を辞めた理由……。それは最低の本を書いてしまった他に、最高の本を書いてしまったことかもしれません。カービィさん、あなたに向けた最高の手紙という本の……」

 

『日の出』から溢れた文字は次々と本に戻っていく。

 

「それがケム・ザレオンが本当に残したかった本です」

 

「父さん……私は貴方を……理解できてなかったようだ」

 

「よかったな、おっさん! いい父ちゃんじゃねぇか!」

 

にししと笑うルフィを見て、カービィは目から雫が溢れる。

 

「はい、父は……最高の父親でした」

 

父を抱きしめるかのようにカービィは『日の出』改めて、『DEAR(ディア)KABY(カービィ)』を抱きしめる。カービィは涙を拭き、ルフィ達に身体を向ける。

 

「皆さん、ありがとう。やはりこの本は燃やせませんね」

 

「そっか……じゃあ、俺たちは帰るわ」

 

「そうだな」

 

「あいさー!」

 

「えっ!?」

 

ルフィはそう言うとカービィに背を向け、出口に向かう。ナツとハッピーもそれに続く。カービィとルーシィは戸惑うことしか出来なかった。

 

「ちょ、ちょっと待ってください……報酬をーー」

 

「だって、依頼は『本の廃棄』だろ?」

 

ルフィがそこまで言うとカービィははっと気づいた。

 

「し、しかし……」

 

「いいんだよ! 目的を達成してないのに報酬なんて貰ったらじっちゃんに怒られちまう」

 

ルフィ達の慈愛にまたも涙が溢れそうになるカービィ。

 

「ありがとう……ありがとう、妖精の尻尾」

 

「じゃあな〜! メロンのおっさん!」

 

ルフィはカービィに手を振りながら屋敷を後にした。

 

 

 

 

 

帰り道の途中、ルーシィが少し機嫌が悪かった。

 

「もう、どうすんのよ! 200万が全部チャラになっちゃうなんて!」

 

「だって、依頼達成してないし」

 

「妖精の尻尾の名折れだ」

 

「うぅ……はぁ、わかったわよ」

 

ルーシィは降参と言わんばかりに手を両手にあげる。

 

「でも良かったな、あのおっさん」

 

「今頃、自分の()()の家で読んでるだろうな」

 

「え? 本当の家って?」

 

ルフィとナツの会話に疑問が生じたルーシィは二人に聞く。

 

「あいつらの匂いと家の匂いが違ったんだ」

 

「ナツって鼻がいいからよ」

 

「な、なにそれー!?」

 

じゃあ大金持ちじゃなかったって事!? ルーシィは心の中で落胆していた。

 

「あの小説家、すげぇ魔道士だな」

 

「あい、30年間も魔法が消えてないなんて相当な魔力だよ」

 

「昔は魔道士ギルドに所属していたんだって。そこで体験した冒険を小説にしてるの。はぁ、憧れちゃうな〜」

 

ルーシィはうっとりとした表情で空を見上げる。そんなルーシィを見て、ナツは悪い表情になった。

 

「やっぱりなぁ〜」

 

「ん? やっぱりって?」

 

「ルーシィの机の上にあった紙の束って自分が書いた小説でしょ?」

 

「えぇ!?」

 

図星だったのか顔を真っ赤になる。

 

「やたら詳しい訳だ!」

 

「おお、ルーシィすげぇな」

 

「他の人には誰にも言わないでよ!」

 

「なんで?」

 

「まだ下手くそだし……読まれたら恥ずかしいでしょ!」

 

手を振りながらルフィ達に懇願する。ルフィは何か思いついたのか悪い表情を浮かべた。

 

「うしっ! じゃあ今からルーシィの家に行こうぜ!」

 

「よっしゃ!」

 

「あいさー!」

 

「ぎゃああああ! あんた達、待ちなさーい!!」

 

顔を真っ赤にさせたルーシィはルフィ達を全力疾走で追いかける。ルーシィの初めての仕事はこうして幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 



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鉄の森と呪歌
鎧の魔道士


カービィからの依頼を終え数日後、少しずつギルドに慣れ始めたルーシィはクエストボードに貼ってある依頼書を眺めていた。

 

「えっと、魔法の腕輪探し……呪われた杖の魔法解除……占星術で恋占い……火山の悪魔退治!? 魔道士って色んな仕事があるんだなぁ……」

 

ルーシィは改めて魔道士に感心しているとミラが近づいてきた。

 

「気になった依頼があったら私に言ってね。今マスター、定例会だから」

 

「定例会?」

 

「地方のギルドマスター達が集まって定期報告する会よ。評議員とは違うの。うーん……リーダス、光ペン貸してくれる?」

 

「ウィ」

 

ミラは絵を描いていた大柄の男、リーダスから魔法アイテム光ペンを受け取る。光ペンとは空中に文字や絵を描く事が出来る代物だ。ミラは空中にわかりやすい図を描いた。

 

「魔法界で一番偉いのは政府との繋がりもある評議員10人。魔法界における全ての秩序を守るために存在しているの。犯罪を犯した魔道士をこの機関で裁く事ができるのよ。そしてその下にいるのがギルドマスター。評議会での決定事項を通達したり、各地方のギルドとの意思伝達を円滑にしたり、私達をまとめたり……まぁ大変な仕事よね?」

 

「知らなかったなぁ……ギルド同士の繋がりがあったなんて」

 

「ギルド同士の連携は大切よ? これをお粗末にしてるとーー」

 

「黒い奴らが来るぞぉぉぉぉ!!」

 

「ひぃぃぃぃぃ!? って、あんたかい!」

 

突然現れたルフィに情けない声を上げるルーシィ。

 

「はっはっはっ! 『ひぃぃぃ!』だっておもしれぇなルーシィ」

 

「ぷぷっ!」

 

「私は面白くないわよ……ってあれ? ナツはどうしたのよ?」

 

確かにルフィとハッピーしかおらずナツの姿が見当たらない。

 

「ナツならあそこです」

 

「ん?」

 

ハッピーが指をさした方向にはナツとグレイが口論していた。

 

「テメェ、ナツ! 今ダセェって言ったかこの野郎!」

 

「ダセェ奴にダセェって言って何が悪いんだ、氷野郎!」

 

「んだとゴラァ!?」

 

「やんのか!?」

 

とうとう口論から殴り合いに発展し、ギルドメンバーはそれをみて笑っている。

 

「いつもの喧嘩です」

 

「あらあら」

 

「あほね」

 

「ところでさっきの話、ルフィが言ってた黒い奴らは本当にいるのよ? 連盟に属さないギルド……闇ギルド。時には犯罪などに手を染める悪質な連中よ」

 

「うぅ、絶対そんな奴らに会いたくないな……」

 

「そんな事より早く仕事に行こうぜ、ルーシィ」

 

「……なんで私も一緒に行くのよ?」

 

「なんでって、俺たちチームだろ?」

 

「前回はおいら達で勝手に選んじゃったからね、今度はルーシィが決めなよ」

 

ルフィとハッピーがそう言うとルーシィはむすっとした顔で睨む。

 

「そんなのもう解消よ、解消!」

 

「えぇ!? なんでだー!?」

 

ルフィは意味がわからんと言わんばかりの表情を浮かべる。ハッピーも首を傾げ不思議そうにしている。

 

「だいたい金髪の女だったら誰でも良かったんでしょ!?」

 

「誰でもいいわけねぇよ、ルーシィだから選んだんだ。だってお前いい奴だしな」

 

「うっ……」

 

ルフィは純粋無垢な笑顔でルーシィに言うとルーシィは顔をほんのり赤くし、何も言わずそっぽを向く。

「もう、そんなストレートに言わないでよ……」

 

「どぅえきてるぅ〜!」

 

「巻き舌風に言うな!」

 

「オラァ!」

 

「ぐはっ!」

 

すると殴り合いをしていたグレイがナツをぶっ飛ばした。一息ついたグレイはこちらに近づいた。

 

「ふぅ……まぁ無理にチームなんて決める必要はないんじゃねぇか? 聞いたぜ、大活躍だってな。きっと嫌ってほど誘いが来るーー」

 

「スキあり!」

 

「ぐほぉ!? ナツ、テメェ!」

 

「仕返しだこの野郎!」

 

話している最中にナツに顔面を蹴られたグレイはまたもや殴り合いに発展する。ルーシィがその光景を見て呆れていると今度はロキが近づいてきた。

 

「ルーシィ、僕と愛のチームを結成しないかい? 今夜二人で……」

 

「イヤ」

 

即断るとロキはルーシィの肩に手を置き、至近距離でルーシィを見つめる。

 

「君ってほんと綺麗だよね……サングラスを通してもその美しさ。肉眼で見たら目がくらんじゃうな、はっはっ!」

 

「勝手にくらんでれば」

 

そう言われロキはまた口説こうとしたが、ルーシィの腰につけてる鍵の存在を知り、後ずさりする。

 

「き、君!? もしかして星霊魔道士?」

 

「え?」

 

「そうだよ〜。牛とかカニとか出てきたよ」

 

「なー!? なんという運命のいたずら!」

 

そういうとロキの目から涙が溢れる。そのままルーシィに背中を向けた。

 

「ごめん、僕たちはここまでにしよう!」

 

「何が始まってたのかしら……」

 

そのままロキは泣きながらギルドを飛び出していった。

 

「ロキは星霊魔道士が苦手なの。昔、女の子がらみでトラブルがあってね」

 

「ああ、やっぱり」

 

「ルーシィ、仕事行くぞ!」

 

「あんたはそれしか言わんのか。はぁ……しょうがないわーー」

 

「大変だー!!」

 

ルーシィの返答の途中でロキが息遣いを荒くさせながら帰ってきた。何事かと皆はロキの方を向く。

 

「あら、ロキどうしたの?」

 

「え、え、……『エルザ』が帰ってきた……!」

 

『えっ!?』

 

「「え、エルザぁ!?」」

 

「おおー! エルザが帰ってきたのかー!」

 

ギルドメンバーは皆『エルザ』と言う言葉に大きく反応した。皆のあきらかな反応にルーシィは首をかしげる。

 

「そのエルザさんって……?」

 

「今の妖精の尻尾では最強の女魔道士といってもいいわ」

 

「えぇ!? ものすごい人じゃないですか……」

 

最強……。つまりこのギルド内の女性で一番強いという事だ。一体どんな人なんだろう? ルーシィはそう心の中で呟くと遠くからズシィン、ズシィンと大きな足音が聞こえてきた。

 

「エルザだ……」

 

「エルザの足音だ」

 

「(皆の反応からしてエルザさんってすごく怖い人なのかな……)」

 

ルーシィはエルザがどんな人か想像してみる。巨大な女性が街を焼いている様子しか浮かばずルーシィはエルザという人物に怖がる。そしてドアが開くと綺麗な緋色の髪をし、鎧を纏った女性が巨大な何かを背負って入ってきた。

 

「今戻った、マスターは居られるか?」

 

「き、綺麗……」

 

予想を大きく外し、その美しさにルーシィは思わずエルザに見惚れた。皆がエルザにびびっている中ミラがエルザに話かける。

 

「おかえり、マスターは今定例会よ」

 

「そうか」

 

皆はエルザにビビっているのか率先して声をかけない。そんな中、ルフィはエルザに近づく。

 

「エルザー! 久しぶりだな! てかそれ何だ? すげぇでけぇな。食いもんか?」

 

「おお、ルフィか。久しぶりだな。これは食べ物じゃないぞ。これは討伐した魔物の角に地元の人々が飾りを施してくれてな。綺麗だったので、ここへの土産にしようと思ってな」

 

「へぇ〜!」

 

ルフィは他のメンバーと同じようにエルザと会話する。その様子を見てルーシィはぽかんとしている。

 

「皆がびびってる中あいつは平然と喋るのね」

 

「ルフィはそういう事はあまり気にしない子だから。それにエルザはルフィのことを気に入ってるのよ。エルザもルフィと久しぶりに話をして楽しそうだし」

 

そうミラがいいルーシィは二人の会話の様子をみる。そこではお互い笑顔で話しあっている姿があった。するとエルザが一度会話を止め、周りを見渡す。

 

「ところで……お前達、また問題ばかり起こしているようだな。マスターが許しても私が許さんぞ」

 

『うっ……!』

 

「カナ、なんという格好で飲んでる。ちゃんと服を着ろ」

 

「うっ」

 

「ビジター、踊りなら外でやれ。ワカバ、吸殻が落ちてる。ナブ、そろそろクエストボードの前をウロウロせず仕事にいけ」

 

「マカオ」

 

「は、はい!」

 

「…………はぁ」

 

「なんか言えよ!?」

 

風紀委員長か何かで? ルーシィはツッコミたかったが状況が状況で心の中でしか言えなかった。

 

「全く、世話がやけるな。今日のところは何も言わないでおこう」

 

「(色々言ってましたが……?)」

 

「ところでルフィ。ナツとグレイはいるか?」

 

「あぁいるぞ、そこに」

 

ルフィが二人のいるところに指をさすとそこでは震えながら肩を組んでいる二人の姿があった。

 

「や、やぁエルザ。お、俺たち今日も仲よし……よくやってるぜ」

 

「あ、あい……」

 

「ナツがハッピーみたいになってる!?」

 

「そうか……親友なら時には喧嘩もするだろう。しかし私はそうやって仲良くしているところを見るのが好きだぞ」

 

「い、いや……俺たち別に親友って訳じゃ……」

 

「あい」

 

「こんなナツ見た事ない……」

 

グレイとナツがここまでビビっている事に驚きを隠せないルーシィ。こっそりミラが教えてくれた。どうやら昔、ナツがエルザのケーキを食べナツをボコボコに、グレイは裸で外を出歩きボコボコにされたらしい。ちなみにロキはエルザと知らず口説こうとしボコボコにされたらしい。

 

「ルフィ、ナツ、グレイ。三人に頼みたいことがある。仕事先で厄介な話を耳にしてしまった。本来ならマスターの許可をあおぐ事だがなんだが、早期解決が望ましいと私自ら判断した。三人の力を借りたい、付いてきてくれるな?」

 

「「えっ!?」」

 

「仕事だー!」

 

ナツとグレイは驚愕しながらお互いの顔を見合う。ルフィは仕事ができ一人喜ぶ。他のギルドメンバーはエルザがチームを組もうと言った事に驚きを隠せない。

 

「出発は明日だ、いいな?」

 

そういうとエルザは三人に背を向け、ギルドを後にする。

 

「こいつと……」

 

「チームだと……」

 

「くーっ! ワクワクするなー!」

 

ギルドが再びガヤガヤと騒ぎ始める。そんな中ミラは手を顎に当て何か考えている。

 

「どうしたんですか、ミラさん?」

 

「エルザとルフィとナツとグレイ……。今まで想像したこともなかったけど……これって妖精の尻尾最強チームかも……!」

 

「!?」

 

 

 

 

 



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鉄の森

エルザが帰ってきた翌日、待ち合わせであるマグノリア駅では既にエルザ以外の者達が集まっていた。

 

「だぁぁぁ! なんでお前と一緒じゃなきゃいけないんだよ!」

 

「それはこっちのセリフだ! エルザの助けなら俺とルフィで十分なんだよ! テメェはさっさと帰れ! そしてエルザにボコられろ!」

 

「んだとぉ!?」

 

「やんのか!?」

 

ナツとグレイのいつもの喧嘩が始まる。そんな喧嘩をベンチに座って見ていたルーシィはため息をこぼしながら、手に持っている新聞で顔を隠す。

 

「他人のふり……他人のふり……」

 

「なんでルーシィがいるの?」

 

「だってミラさんが……」

 

それは早朝の朝の事ーー。ルーシィの家にミラが突然来たのだ。

 

「ルーシィ、エルザ達と一緒に行ってくれないかな? あの二人絶対エルザが見てないところで喧嘩するから止めてあげてね? あ、後これ! ルフィに渡しといて。あの子お腹が減ると手当たりしだいに食べちゃうから」

 

そういうとミラはルーシィにルフィ用の弁当を渡す。

 

「えぇ!? 私が!?」

 

「じゃあよろしくね〜!」

 

「え、えぇ……」

 

 

 

「止めてないし」

 

「だってぇ〜……ねぇルフィ! あいつらの喧嘩を止めてよ!」

 

ルーシィはハッピーの隣で早速ミラの弁当を食べているルフィに頼んだ。

 

「やっぱミラの弁当美味ぇな」

 

「きけぇい!」

 

ルーシィは無視した事を怒り、ルフィから弁当を取り上げる。

 

「あっ!? 何すんだよ、弁当食べてる最中に!」

 

「返してほしければ……あいつらの喧嘩を止めてきて!」

 

ルーシィはグレイとナツの方に指を指す。

 

「うおぉぉぉぉ! お前ら喧嘩はやめろー!!」

 

血相を変えたルフィは二人が喧嘩しているところに飛び込む。ルーシィはにやっと笑う。

 

「これでよし……!」

 

「ルフィがいいように利用されてる……!」

 

ルーシィの起点でなんとか喧嘩を止めることに成功した。ルフィが止めに入り数分が経過するとエルザが到着する。

 

「すまない、遅れたな」

 

「あ、エルザさ……ん!?」

 

ルーシィはエルザの方に視線を送るとエルザの背後には大量の荷物が荷台に積まれていた。

 

「荷物多!?」

 

「さぁ今日もはりきって行くぞー!」

 

「あいさー!」

 

「でたハッピー二号」

 

ナツとグレイはエルザが来たことにより先ほどと別人のように変わる。

 

「うむ、仲が良いのはいい事だ。で、君は?」

 

「こいつはルーシィだ! 牛とかカニとか出せてすげぇんだぞー!」

 

「ミラさんに頼まれて同行することになりました! よろしくお願いします!」

 

ルーシィはエルザに頭を下げる。エルザは顔を上げるように言う。

 

「ああ、私はエルザだ。よろしくな。そうか君か……傭兵ゴリラを小指一本で吹っ飛ばした魔道士というのは。力になってくれるならありがたい。よろしく頼むよ」

 

「は、はい……(なんか事実と異なりすぎてますがぁ!?)」

 

ルーシィが心の中でツッコミを入れているとナツが何か思い出したのかエルザの前に立つ。

 

「おい、エルザ! 付いて行ってもいいが条件がある!」

 

「お、おい……!」

 

「条件? 言ってみろ」

 

エルザがそういうとナツはにやっと笑う。

 

「帰ったら俺と勝負しろ!」

 

「ええ!?」

 

「お、おい早まるな!」

 

ハッピーとグレイは驚き、ナツにやめた方がいいと諭す。しかし、それに構わずナツは話を続ける。

 

「前やりあった時は確かに負けた……だけど今は違う。俺はあの頃とは違う! 今の俺なら……おまえに勝てる!」

 

ナツはまっすぐな目でエルザに言い放つ。エルザは少々驚くもすぐに心を入れ替える。

 

「ふっ……確かにお前は成長した。いささか自身がないがいいだろう……受けて立つ」

 

「よっしゃぁぁ! 燃えてきたー!!」

 

そう言いながら本当に燃えているナツ。ナツにとってはこの上ない報酬なのだろう。そして、目的地に向かう為列車に乗り、数分が経過した頃。

 

「う、うぷっ……」

 

さっきまでの威勢はどこへいったのか。ナツは乗り物酔いに襲われ、吐かないように必死に戦っていた。

 

「ったく……喧嘩を売った後がこれかよ」

 

窓の向こうの景色を見ながらグレイは呆れたように言う。

 

「毎度の事ながら辛そうね……」

 

「弁当でも食うか?」

 

「やめた方がいいと思うわ……」

 

ナツの隣にいたルフィはたくさんあったミラの弁当の一つを渡そうとするが、ルーシィに止められる。

 

「全く、しょうがないな。私の隣に来い」

 

「あい……」

 

ナツとルーシィを入れ替え、エルザの隣にナツを座らせる。そしてエルザは右手をナツの肩に置くと、左手で思いっきりナツの腹に腹パンをする。

 

「ゴフッ……」

 

「これで大丈夫だ」

 

「(やっぱりこの人も変だった!)」

 

目の前の光景にルーシィはまともな人は一人もいなかったと諦める。ルフィは構わず弁当を食べ、グレイとルフィの麦わら帽子の上にいたハッピーは見て見ぬフリをする。

 

「ところでエルザ……。そろそろ話してくれねぇか? 俺とルフィとこいつを連れてきた理由って奴をよ。ただ事じゃねぇんだろ?」

 

「うむ……。先の仕事の帰りだ。魔道士が集まる酒場へ寄ったのだが、少々気になる連中がいてな……」

 

エルザの話をまとめるとこうだ。

酒場で休憩していたエルザの後ろの席で酒を飲んでいたガラの悪い四人の男達が『ララバイ』と言われるものの話をしていた。その『ララバイ』には封印が施されているらしく四人組の一人である、『カゲちゃん』と呼ばれる人物が封印を解き、『エリゴール』という人物に届けると言っていたらしい。

 

 

「ララバイ?」

 

「ララバイ……子守唄……睡眠系の魔法か何かかしら?」

 

「まだそれはわからない……。しかし封印されてたとなるとかなり強力な魔法だと思える」

 

「だけどよ、それってそいつらが受けてた仕事かもしれねーじゃねぇか? ララバイの封印を解くっていうだけの」

 

グレイがそう言うとエルザは頷く。

 

「そうだ……だから私はあまり気にかけなかったんだ……『エリゴール』と言う名を思いだすまではな」

 

「エリゴール?」

 

「なんだそいつ? 悪い奴なのか?」

 

聞き覚えのない名前にルーシィとルフィは首を傾げる。

 

「ああ、闇ギルド『鉄の森(アイゼンヴァルド)』のエース。暗殺系の仕事ばかりを遂行し、ついたあだ名が『死神エリゴール』」

 

「暗殺!?」

 

暗殺という言葉にルーシィはぞくっとした。

 

「本来、暗殺などの依頼は評議員の意向で禁止されているのだが、鉄の森は金を選んだ。結果、6年前に魔道士ギルド連盟から追放された。しかし彼らは命令に従わず活動を続けている」

 

エルザの説明を聞いてたルーシィは冷や汗が止まらなかった。

 

「……なんだか私、ものすごく帰りたくなったんだけど」

 

「おい、ルーシィ。汁出てんぞ」

 

「汗よ!」

 

「不覚だった……。あの時エリゴールの名前に気づいていれば全員血祭りにして何をするか白状させたものを……!」

 

「怖っ!」

 

「なるほどな。鉄の森がララバイを使って何か企んでいる……どうせろくでもない事だからその前に阻止するってことか」

 

「そうだ、一つのギルドを一人で相手をするのは少々心もとない……だからお前達の力を借りたということだ」

 

エルザがルフィ達に頼んだ理由がようやくわかると弁当を食べ終わったルフィが拳と拳を合わせる。

 

「んじゃあ、とりあえずそのエリゴールと鉄の森って奴らをぶっ飛ばせばいいんだな? 任せとけ! 全員ぶっ飛ばしてやる!」

 

「ふふ、そうだな。頼りにしてるぞ、ルフィ」

 

「おう、まかせろ!」

 

「ルフィ、どっちが多く倒せるか勝負するか?」

 

「いいぞ〜!」

 

ルフィの一言で皆の士気が上がる。そんな中、ルーシィだけはまだ冷や汗が止まらなかった。

 

「うぅ、来るんじゃなかった……」

 

「ルーシィ、汁」

 

「汗よ!」

 

 

 

「かあぁぁ……」

 

数分後、腹が一杯になったルフィはいびきをかきながら爆睡していた。いびきがうるさいのでルフィは空いてる席に移動させた。

 

「やっぱり寝るのかよ……」

 

「さっきまであんな意気込んでたのにね」

 

「変わらないな、ルフィは」

 

「あい、それがルフィです!」

 

「そういえば、エルザさんってどういう魔法を使うんですか? 私、ギルドメンバーの魔法はナツ以外見てなくて……」

 

ルーシィは先ほど買ったサンドイッチを食べながらエルザに質問する。

 

「エルザの魔法は綺麗だよ。血がいっぱいでるんだ〜……相手の」

 

「それって綺麗なのかしら?」

 

「エルザでいい。私はグレイの魔法の方が綺麗だと思うぞ」

 

「グレイはどういう魔法を使うの?」

 

「ん? 俺は……」

 

そう言うと手のひらの上にもう片方の手で拳をつくる。するとグレイの手のひらから冷気が溢れる。手を開くとそこにはギルドマークの形をした氷が現れた。

 

「おおー!」

 

「氷の魔法さ」

 

氷を見たルーシィはふと何か思ったのか、ナツとグレイを交互にみる。

 

「あぁ! だからあんた達仲悪いんだ! 炎と氷だから!」

 

「そうだったのか」

 

「どうでもいいだろ?」

 

 

無事目的地に着いた一行は駅を出るため出口に向かう。

 

「まだ鉄の森はこの街のなかにいるのか?」

 

「わからん。それをこれから調べる」

 

「雲を掴むかのような話ね……てかナツ重い!」

 

そう言いながらナツを支えるルーシィ。酔いがまだ覚めないのか目を回している。

 

「うぷっ……気持ち悪りぃ」

 

「ナツ、大丈夫〜?」

 

「ん? そういえばルフィはどこ行ったんだ?」

 

「え? ルフィなら……」

 

グレイがそう言うとルーシィは周りを見渡す。しかし何処にもルフィの姿が見えなかった。するとそこにいた者達は何かを察したのか先ほど乗っていた列車に目を向ける。

 

「まさか……」

 

すると列車はもうスピードで次の駅に向かっていった。ーールフィを乗せながら。

 

「発車しちゃった」

 

「「「しまったー!?」」」

 

「なんという事だ! 話に夢中になるあまりルフィを列車に置いてきてしまった! あいつの眠りが深いというのにっ! 私の過失だ、誰か私を殴ってくれ!」

 

「まぁまぁ」

 

エルザは自分のせいだと嘆く。そんなエルザをなんとかなだめるルーシィ。とりあえずルーシィ達はルフィを追いかける為、駅内を走った。

 

 

 

 

「かあぁ……んが?」

 

目を開けると周りには仲間達の姿が見えなかった。ルフィは寝ぼけながらも周りを見渡す。

 

「みんな、どこいった?」

 

「お兄さんもしかして正規ギルド、妖精の尻尾の魔道士かい?」

 

するとルフィのすぐ近くに白い服を着た男性が笑顔で立っていた。

 

「ん? そうだけどお前誰だ?」

 

「僕はカゲヤマ……妖精の尻尾、羨ましいねぇ〜」

 

「なんだお前うちに入りてーのか? それなら歓迎ーー」

 

ルフィがそこまで言うとその男、カゲヤマはルフィの顔面を蹴った。

 

「んな訳ねぇだろ! 正規ギルドが調子こいてんじゃねぇ」

 

カゲヤマは先ほどの笑顔から人を見下すような表情に変わる。

 

「俺らがお前ら正規ギルドのことを何て言ってるか知ってるか? ハエだハ……ぐげぇ!?」

 

するとルフィはカゲヤマの腹を殴り、ぶっ飛ばす。腹を収えながらカゲヤマはルフィを睨む。

 

「て、てめぇ……」

 

「いきなり顔面蹴るなんて失礼な奴だな、お前」

 

ルフィの顔には全くダメージがなかった。それもそのはず、ルフィはゴム人間のおかげで物理攻撃は効かないからだ。

 

「くそっ……うおっ!?」

 

カゲヤマは魔法で攻撃しようとすると列車が急に停車した。その拍子にバランスをとれず転んでしまった。何故停車したかと言うとエルザが無理やりレバーを下ろして停車させたからだ。

 

「なんだ? 急に止まったぞ……ん? お前なんか落としたぞ?」

 

ルフィはカゲヤマの前にある三つ目のドクロの笛のような物に視線を向ける。

 

「くっ……見たな!」

 

「んあっ?」

 

『ルフィ〜!』

 

「お、皆の声だ!」

 

皆の元へ行くために荷物を持ち、ここから出る準備をするルフィ。そんなルフィにカゲヤマは激昂する。

 

「て、てめぇ待ちやがれ! 鉄の森に手ェ出したんだ! ただ済むと思うなよ!」

 

鉄の森という言葉にルフィは反応する。

 

「鉄の森……? エルザの言ってた奴らか!」

 

ルフィは再びカゲヤマの方に体を向けると、両手を後ろに伸ばす。

 

「う、腕が伸び……!?」

 

「お前こそ、妖精の尻尾を相手にしたことただで済むと思うなよ」

 

「くそっ! ガードシャドウ!」

 

まずいと思ったのかカゲヤマは目の前に影を集め、防御体制に入る。

 

「ゴムゴムの……バズーカ!」

 

「ぐはっ……!?」

 

ルフィの攻撃は影を粉砕し、カゲヤマに直撃した。カゲヤマは列車の奥までぶっ飛ばされた。

 

「よーし、ぶっ飛ばせた! 皆のところに行くか〜!」

 

ルフィはそう言うと窓を開け、エルザ達を探す。すると列車より少し離れたところに魔導四輪車で走っているエルザ達がいた。

 

「おおー! いたいた……よっ!」

 

ルフィはそれを見つけると四輪車に向かって腕を伸ばす。

 

 

 

「お、ルフィだ……ん?」

 

その時、こちらでは四輪車の屋根にいたグレイがルフィを見つけた。するとルフィがこちらに腕を伸ばし、屋根を掴む。そして次の瞬間、ルフィがこちらに飛んできた。

 

「とぉ!」

 

「いてぇ!?」

 

グレイを吹き飛ばしながらルフィは屋根に着地する。

 

「ルフィ、無事だったか!」

 

「はっはっは! 平気平気!」

 

「おいこら、ゴム野郎!」

 

グレイは屋根の端っこを掴み、なんとか落ちずにすんだ。

 

「なーにやってんだグレイ、なんかの遊びか?」

 

「お前に落とされそうになったからこうなってんだよ……!」

 

四輪車を止め、エルザはルフィに駆け寄る。

 

「無事でよかったぞ、ルフィ!」

 

「鎧硬ぇ」

 

エルザはルフィを自分の胸に引き寄せる。しかしエルザは鎧を着ているため硬い感触が頭に当たる。

 

「一体何があったんだ?」

 

「ああ、カゲヤマって言う鉄の森の奴をぶっ飛ばしてきた!」

 

「なに!? さっきの列車に乗ってたのか?」

 

「ああ、なんか変な物持ってたぞ? 三つ目のドクロの笛みたいな奴だった」

 

「なんだそれ、趣味わりーな」

 

ルフィは列車内で起こった事を話すとルーシィは何かを思い出した。

 

「私、その笛知ってるかも……ララバイ、呪いの歌……死の魔法!」

 

「なに?」

 

「呪いの歌、呪歌のことか?」

 

「うん、確か禁止魔法に呪殺ってあったでしょ?」

 

「ああ、対象者を死にいたらしめる魔法だな」

 

「ララバイはもっと恐ろしいの」

 

その一方、エリゴール率いる鉄の森のメンバーが先ほどの列車を占拠する。列車を確認していると最後尾のところにカゲヤマが倒れていた。

 

「おいおい、なんてザマだ? カゲヤマ」

 

「え、エリゴールさん……すみません、先ほど乗っていたハエにやられまして」

 

「ハエだぁ? てめぇ、そんな奴らにやられたのかよ……」

 

エリゴールは呆れたようにため息をこぼすと大きな鎌でカゲヤマの耳をかすめる。

 

「ひぃ!」

 

「勘付かれたところでどうにかなる訳じゃねぇが……邪魔されるのも癪だ。教えてやるよ、ハエ共……飛んじゃいけねぇ森があるってことをな……」

 

 

 

 

「エルザー! 大丈夫かー!?」

 

「飛ばしすぎだ、エルザ! いくらエルザでも魔力がなくなるぞ!」

 

屋根の上に乗っていたルフィとグレイはエルザに声をかける。エリゴールの目的を知ったエルザは先ほどよりも速く走らせる。

 

「構わん、いざとなれば棒きれでも持って戦うさ……それに今の私にはお前達がいるさ」

 

「だけど……」

 

「……わかった! だけど無理すんじゃねぇぞ!」

 

「ふっ、ああ」

 

 

猛スピードで走らせて数分、煙が上がっているオシバナ駅に着いた一行は駅員に近づく。

 

「皆さん! お下がりください、危険です!」

 

「君、中の様子は?」

 

「え? なんだね、君ーー」

 

「ふん!」

 

「ぐほっ!?」

 

「中の様子は?」

 

「え? ぐほっ!?」

 

エルザは次々と即答できない駅員を頭突きで沈めていく。

 

「即答できる人しかいらないって事かしら……」

 

「どうだ? だんだんエルザがどんな奴かわかったろ」

 

「分かってきたけどあんたが服を脱ぐ理由はさっぱりわかんないわ……」

 

「あれぇ!?」

 

ルーシィに指摘され、グレイは自分がパンツ一丁であることを認識する。

 

「おーい、ナツ。起きろ〜! 重いぞ」

 

「う、うぷっ……気持ち悪い」

 

ルフィは背負っているナツの頬を叩きながら言う。

 

「今回のナツは全く使い物にならないね」

 

「真顔でゲスい事言うわねこの猫ちゃん」

 

その後、ルフィ達はなんとか駅内に突入する。

 

「軍の小隊が鉄の森を捕らえにいったらしいがまだ帰ってこないらしい!」

 

「それって……! あぁ!?」

 

すると目の前には軍の小隊が全員地面に伏せてた。

 

「やはりか、相手は魔道士ギルド。軍では話にならなかったか」

 

「よぅ、会いたかったぜ。妖精の尻尾のハエ共」

 

声がした方に顔を向けると柱の上に鎌を持った男、エリゴールが座っていた。その後ろには先ほどルフィと戦ったカゲヤマとその他の鉄の森のメンバーがい。

 

「えぇ!? 何この数!」

 

「貴様がエリゴールだな! ララバイを使って何を企んでいる!」

 

「へっ、まだわかんねぇのか? ここは駅だぜ?」

 

するとエリゴールは柱からふわりと浮かぶ。

 

「飛んだっ!?」

 

「風の魔法だ!」

 

そして近くにある駅の放送機を軽く叩く。エルザはその行為にエリゴールが何をするか理解した。

 

「まさか、呪歌を放送する気か!」

 

「えぇ!?」

 

「その通り! この駅の周辺には何百、何千者の野次馬が集まってる。いや、音量を上げればこの街中に呪歌が響くな!」

 

「大量無差別殺人だと!?」

 

「これは粛清だ。権利を剥奪された者達の存在を知らず、権利を掲げ生活を保全している愚かな者達へとな……」

 

「何よそれ! そんな事したって権利は帰ってこないわよ! それに元々、あんた達が悪い事をし続けたからじゃない!」

 

「ここまで来たら権利なんていらねぇ……欲しいのは権力だ! 権力があれば過去を流して、未来を支配できる!」

 

「あんた、バッカじゃないの!」

 

ルーシィはエリゴールの言葉に怒りを抱く。するとそのルーシィに向かってカゲヤマが影で攻撃しようとしていた。

 

「残念だったな、ハエ共! 闇の時代を見ることなく死んじーー」

 

「ーーピストル!」

 

「まうっ!?」

 

カゲヤマが最後まで最後まで言う前にルフィは顔面に拳を入れる。

 

「カゲちゃん!?」

 

「あいつ、腕が伸びたぞ!?」

 

「何者だ、あいつ!?」

 

「テメェ、卑怯だぞ!」

 

「ハエハエってゴチャゴチャ五月蝿えな……。話は終わりか? じゃあ一人残らずぶっ飛ばすから覚悟しろよ、お前ら」

 

ボキッと手の骨を鳴らしながら威圧するルフィ。そんなルフィを見てエリゴールはにやっと笑う。

 

「ほぅ……威勢のいいガキだ。それに先ほどの攻撃、魔力を感じなかった……悪魔の実の能力者か」

 

「おい、鎌野郎! 待ってろよ、お前は俺がぶっ飛ばす!」

 

「はは、そいつは嫌だな。お前らここは任せたぞ」

 

エリゴールはそう言うと風を纏い、その場から姿を消した。

 

「うおぉぉぉ!! 待てー! 鎌野郎!」

 

ルフィはエリゴールを追いかけに行く。

 

「ルフィ!」

 

「ナツ、グレイ! ルフィと共にエリゴールを追いかけるんだ!」

 

「「む」」

 

「お前達の力を合わせればエリゴールにだって負けない」

 

「「むむ……」」

 

グレイと復活したナツはお互い嫌な顔を浮かべる。

 

「行ってくれるな!?」

 

「「あいさー!」」

 

エルザに言われ、グレイとナツは肩を組みながらルフィを追いかけにいった。

 

「あいつら、エリゴールさんを追いかけに!」

 

「任せろ!」

 

「俺も行く! あの麦わら帽子のガキ、許さねぇ!」

 

「待て、カゲ。あいつは俺が殺ろう。てめぇは残りの二人をやりな」

 

するとカゲヤマの背後にいた男がそう言う。その男は顔に鉄のマスクを付け、右手に斧が埋め込んでいる。

 

「モーガンさん! だけどよっ!」

 

「モーガン……?」

 

モーガンという名前に心あたりがあるのかその名前にエルザは反応する。

 

「なんだ? 俺に逆らうのか?」

 

「うっ……わかったよ」

 

カゲヤマは渋々了承し、影に入る。

 

「ふん……」

 

モーガンと呼ばれた男は後に続き、ルフィ達を追いかけに向かった。残されたエルザは鉄の森に剣を向ける。

 

「さて、向こうは任せてこちらも始めるか」

 

「ええ!? 女子二人でこの人数を!?」

 

ルーシィが戸惑っている中、エルザは先ほどの男のことを考えていた。

 

「(先ほどの男……あれは『斧手のモーガン』か。エリゴールと並ぶ鉄の森のエース……か。無事でいてくれ、ルフィ!)」

 

 

 

 

「どこだ、ここ?」

 

走っているうちにへんなところに来たのか、あたりを見渡すルフィ。

 

「くそっ! あの鎌野郎どこ行きやがった!」

 

「おーい、ルフィ!」

 

「ナツ、グレイ!」

 

するとグレイとナツが後に続いてきた。

 

「ったく、一人で先走りやがって。お前には計画性ってもんがねぇのかよ」

 

「はは、悪りぃ悪りぃ」

 

「そうだぞ! 俺にもエリゴールぶん殴らせろ!」

 

「そういう事じゃねぇよ!」

 

するとルフィ達の前に三本の分かれ道が現れた。

 

「ん? 分かれ道か」

 

「どっちだ?」

 

「道は三つだからそれぞれに進めばいいだろ」

 

「よーし、待ってろよ鎌野郎!」

 

「ぶっ飛ばしてやる!」

 

「まぁ、待て……いいか、ルフィ、ナツ。相手は危ねぇ魔法を放そうとしているバカヤロウだ。見つけ次第ぶっとばせ」

 

「それだけじゃねぇだろ? あいつらは妖精の尻尾に喧嘩を売ったんだ、くろコゲにしてやるよ」

 

「後悔させてやろうぜ、妖精の尻尾に喧嘩を売ったこと」

 

「「おぉ!」」

 

そう言い、ルフィとナツとグレイは互いに拳を合わせる。そして各々の道を進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 



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ゼレフ書の悪魔

遅くなりました!


「どこだぁ! 鎌のやつ!」

 

ドアを破壊しながら薄暗い通路を走りルフィ。目の前にある大きな扉を破壊し、中に入る。中に入るとそこには一人の大男が立っていた。

 

「見つけたぜ、ガキ」

 

「あ? 誰だお前」

 

すると次の瞬間、男はルフィに近づき斧を振り下ろそうとする。

 

「ふんっ!」

 

「いっ!?」

 

振り下ろされた斧をなんとか躱すことができたルフィ。斧が振り下ろされたところの地面は真っ二つに割れていた。

 

「あっぶねぇ……おいお前、危ねぇだろ!」

 

「ふんっ」

 

「なぁ、お前鎌の奴しらねぇか? 俺あいつをぶっ飛ばしてぇんだ」

 

「エリゴールを……? それは無理なことだ。何故なら、この斧手のモーガン様が貴様を殺すからだ!」

 

「っ!」

 

モーガンはそういうと再度斧を振り下ろす。攻撃のスピードが速くなり、ルフィはなんとか斧の攻撃を避ける。しかし、斧に気を取られモーガンの片方の腕に胸ぐらを掴まれる。

 

「やべ、捕まっちまった」

 

「ふんっ!」

 

モーガンはルフィを投げ飛ばす。投げられたルフィは壁に思い切り叩きつけられる。

 

「貴様ら正規ギルドの雑魚共がのうのうと生きてるだけで重罪だ! そうやって俺の前で這いつくばっていろ!」

 

勝った。そうモーガンが確信した瞬間、ルフィはすぐさま立ち上がり、汚れた服を叩く。

 

「なに……効いてないだと!?」

 

「雑魚雑魚うるせぇな。俺たちは雑魚じゃねぇよ、べぇー!」

 

モーガンに向けて舌を出す。そして次の瞬間、ルフィはモーガンに向かって猛ダッシュする。

 

「そんな斧で俺を殺せると思うな!」

 

「むっ!?」

 

ルフィの拳を斧で防ぐモーガン。ルフィの力が勝ったのかモーガンは少し吹き飛ばされる。吹き飛ばされたモーガンは怒りの表情を浮かべる。顔には血管が浮き出ている。怒りの表情を浮かべながらルフィに殺気を放つ。

 

「なめるなよ……クソガキが!! 雑魚にはこの俺に逆らう権利すらない! この俺は鉄の森、最強の『斧手のモーガン』だぁぁ!!」

 

「そっか。俺はルフィ、よろしく」

 

モーガンの気迫をもろともせず、ルフィは自分の名前を名乗る。その行為がモーガンにさらなる火をつけたか、斧で切りかかってきた。

 

「死ねぇ!」

 

「へっ、おりゃ!」

 

「ぐぅお……!?」

 

モーガンの攻撃をジャンプで避けるとルフィはモーガンの顔面を蹴る。その拍子にモーガンのマスクがバラバラに壊れる。

 

「クソガキが……死ねぇ!」

 

「やーだよ!」

 

モーガンは全力で斧を振り下ろす。しかしその攻撃をルフィは冷静に横に飛びやり過ごす。避けたルフィはそのまま片足を天井に向けて伸ばす。

 

「ゴムゴムの……戦斧(オノ)!」

 

「ぐはっ……!?」

 

ルフィは思いきりモーガンの脳天に足を振り下ろす。モーガンの頭が勢いよく地面に激突すると、その周囲の地面が割れ、そのまま崩れてしまった。そのまま気絶したモーガンとルフィは一階に落ちる。

 

「びっくりした……」

 

「お、ルフィ!」

 

「あ、ナツ!」

 

するとそこにはナツと気絶してるカゲの姿があった。

 

「そいつどうしたんだ?」

 

「何か襲ってきたからよ、ぶっ飛ばした」

 

「そっか」

 

「ナツー! ルフィー!」

 

すると急いだ様子でエルザとグレイがこちらに向かってきた。

 

「お、エルザー!」

 

「お手柄だ、二人共」

 

「え? なんで?」

 

「説明してるヒマはねぇが、俺たちはそいつを探してたんだ」

 

「へ、へへ……エリゴールさんの居場所は教えーー」

 

カゲがそこまで言うと耳の近くに剣が刺さる。

 

「ひぃ!?」

 

「四の五の言わず魔風壁を解いてもらおうか?」

 

エルザは手に剣を持ち切っ先をカゲに向ける。

 

「「お、おっかねー……」」

 

その光景を見たルフィとナツは冷や汗をかく。

 

「いいな?」

 

「くっ……わかっ……ぐはっ!?」

 

瞬間、カゲが突然血を吐いた。カゲが倒れるとそこには鉄の森のメンバーの一人が血のついたナイフを持っていた。

 

「カゲ!?」

 

「おい、嘘だろ!? クソ、唯一の突破口が!」

 

「っ!!」

 

エルザとグレイがカゲに駆け寄る中、ルフィは壁に潜むメンバーを睨む。

 

「ひ、ひぃ……ぐばっ!?」

 

怯んだ瞬間、ルフィは壁ごと殴り飛ばす。破壊された壁の向こうにいる男の胸ぐらを掴む。

 

「仲間じゃねぇのかよ!? ふざけんなぁ!!」

 

「これが……こいつらのやり方かよっ!」

 

ルフィとナツは怒りをあらわにさせる。そんな緊迫した状況にルーシィとハッピーが到着する。

 

「お、お邪魔だったかしら……?」

 

「あい」

 

 

 

 

 

 

「て事は、エリゴールの狙いは定例会!?」

 

エルザから聞いた鉄の森の真の目的にルーシィは驚愕する。鉄の森の目的は他の町で行われるギルドマスター達の集い、定例会でララバイを使った大量殺人だった。

 

「あぁ、けどこの魔風壁がある限り外に出られねぇ」

 

「こんなもん!」

 

ナツが魔風壁に突撃する。するとバチっとナツが風に弾かれた。

 

「ぐへぇ!?」

 

「な?」

 

「カゲ頼む、力を貸してくれ」

 

エルザはカゲを抱き起こし、呼びかける。しかしカゲは目を開けず、気絶したままだった。

 

「うおぉぉぉぉ!!」

 

今度はルフィが突撃するが結果はナツと同じ、弾かれてしまった。

 

「くそっ! もう一度!」

 

「やめろ、ルフィ! 力じゃどうにもできねぇんだよ」

 

グレイは忠告するがルフィは言うことを聞かず、魔風壁に突撃する。そして弾かれる。身体は風に切り裂かれ、ところどころ血が流れている。

 

「まだまだぁ!」

 

「ちょ、ちょっとやめてよルフィ! そんなことしたらあんたの身体が!」

 

そんなルフィをルーシィは腕を引っ張り、止める。

 

「離せ、ルーシィ! こんなもんぶち破ってやる!」

 

「だからやめなさい!」

 

「あの鎌野郎をぶっ飛ばさないといけねぇんだ!」

 

「だからって考えもなしにこの風に突っ込まないでよ!」

 

ルーシィの言葉を無視し、ルフィはどんどん魔風壁に近づく。するとルフィは何か思い出したようにルーシィの肩を掴む。

 

「な、何よ?」

 

「お前の星霊で何とかできねぇか? ほら、あのダルマみてぇな奴の時みたいに」

 

「その手があった! 星霊界? ってとこ行って向こう側に行けるんじゃねぇか?」

 

ルフィとナツは一度エバルー屋敷の時、星霊界を通ってルーシィ達のところに行けた事を思い出す。

 

「ダルマって……。あのね、星霊界は普通人間が入ると死んじゃうの、息が出来なくて。それに門は星霊魔導士がいる場所でしか開けられないの。だから出るとしても外に星霊魔導士が一人いなきゃだめなの! だからその提案は無理なの。わかった?」

 

「わかんねぇ! はやくやってくれ!」

 

「出来ないって言ってるでしょ!」

 

ルーシィはルフィの頭を軽く叩きながら言う。

 

「後一つ! 人間が星霊界に入ること自体が重要な契約違反なの。まぁあの時はエバルーの鍵だから良かったけどね」

 

「エバルーの鍵……? あぁーーーーっ!?」

 

ルーシィの言葉に何か反応したハッピーは突如大声を出す。

 

「ど、どうしたのよハッピー」

 

「ルーシィ、思い出したよ! おいらルーシィにこれ渡さないといけないんだった」

 

ハッピーはバックの中に一本の金の鍵を取り出した。

 

「そ、それバルゴの鍵じゃない!? ダメでしょ勝手に持ってきちゃ!」

 

「ちがうよ、バルゴ本人がルーシィへって」

 

「えぇ!?」

 

「こんな時にくだんねぇ話してんじゃねぇよ」

 

「バルゴ?」

 

「……あぁ、あのゴリラメイドか」

 

「でも今それを渡されても……」

 

「バルゴって地面潜れたでしょ? それで魔風壁の下を通って外に出られないかなと思ったんだけど……」

 

『それだ!!』

 

ハッピーの言葉にその場の全員は声は揃えて言う。そうと決まれば! ルーシィはハッピーから鍵を受け取る。

 

「よーし……! 我……星霊界との道を繋ぐ者。汝……その呼びかけに応え門をくぐれ! 開け! 処女宮の扉、『バルゴ』!」

 

鍵から光が溢れ、徐々に形が出来ていく。光が止むとそこにはピンク色の髪をしたメイド姿の綺麗な女性が現れた。

 

「お呼びでしょうか、ご主人様」

 

「あ、あれぇ!?」

 

「お前痩せたなぁ」

 

「元気だったか?」

 

バルゴの変化に驚くルーシィを置いて、ナツとルフィはバルゴに話かける。

 

「はい、あの時はご迷惑おかけしました」

 

「や、痩せたっていうか別人でしょ……。あんたその格好……」

 

「私はご主人様の忠実なる星霊。ご主人様の望む姿にて仕事をさせてもらいます」

 

「な、なるほど」

 

「おれ前の方がいいなー強そうだったし」

 

「そういう事でしたら……」

 

「わー! しなくていい、しなくていい!」

 

嫌な予感がしたルーシィはバルゴにやめるよう命令する。

 

「ごめんバルゴ! 契約は後! あんたの力で穴を掘ってこの風の向こう側に行ける!?」

 

「はい、可能です」

 

「じゃあ今すぐお願い!」

 

「わかりました……姫」

 

「姫、姫……悪くないわね」

 

姫と呼ばれ、ルーシィは何故かうっとりした表情になる。

 

「悪くないのか……」

 

「あれが自意識過剰って奴だよ、きっと」

 

「そこ、うるさい!」

 

ルフィ達はバルゴの力を借り、地面に穴を開け向こう側に行くことに成功した。

 

「出れたぞー!」

 

「急げ!」

 

「すごい風!」

 

「姫! 下着が見えそうです」

 

「自分の隠せば」

 

ルーシィのスカートを抑えるバルゴに向けてそう言い、役目を終えたバルゴを閉門する。するとナツが背負っていたカゲが突然笑い出す。

 

「ふ、ふふ……今からじゃ追いつけるわけねぇ。お……俺たちの勝ちだ」

 

「まだ決まった訳じゃねぇだろ! 俺達は絶対勝つ!」

 

ナツはカゲの胸ぐらを掴み、怒鳴るように言う。するとハッピーは辺りを見渡す。

 

「あれ? ルフィは?」

 

 

 

 

 

風を纏い、かなり速いスピードで飛行するエリゴールは本当の目的地である、ギルドマスター達が集う『クローバーの街』に向かう。

 

「待ってろよ、じじぃ共……!」

 

『ーーーー!』

 

「ん……? なんだ?」

 

エリゴールの耳に微かな声が聞こえてきた。しかしエリゴールは気にせず飛行を続ける。

 

『ーーーー!』

 

「……やはり何か聞こえる……叫び声?」

 

エリゴールは後ろから聞こえて来る声が気になり、停止する。すると声はどんどん近くなってくる。

 

「……つ……たぞ!」

 

「! ま、まさか……」

 

エリゴールは冷や汗をかきながらゆっくりと後ろに振り向く。するとーー。

 

「ーーみつけたぞ! 鎌野郎!」

 

「ごはっ!?」

 

振り向いた瞬間、エリゴールの腹にルフィが頭突きをくらわせる。そのまま二人は地面に落下する。ダメージをくらったエリゴールは腹を抑えながら立ち上がる。

 

「な、何故だ……! 何故俺がこの道を行くとわかったんだ!」

 

エリゴールがそういうとルフィは立ち上がり、エリゴールと向き合う。

 

「へへ……勘!」

 

ルフィは堂々と言い放つ。その言葉を聞きエリゴールは鎌を強く握りしめ、怒りを露わにする。

 

「か、勘!? ふ、ふざけた野郎だ…………いいだろう、教えてやる。俺の風魔法の恐ろしさをな!」

 

「っ!」

 

エリゴールはカマイタチをこちらに飛ばす。ルフィはそれを躱しながらエリゴールに近づく。

 

「消えろ!」

 

「うおっ!?」

 

エリゴールはルフィの方に手を向けると強い向かい風を起こす。ルフィは吹き飛ばされる。

 

「ははは! この間抜けが! ……ん?」

 

するとエリゴールは足に違和感を感じた。足を見るといつの間にかルフィの伸ばした手が足を掴んでいた。

 

「へへ、それっ!」

 

「いてぇ!?」

 

ルフィが足を引っ張るとエリゴールは体制を崩し、頭から地面に叩きつけられる。

 

「こ、このやろう……!」

 

頭を抑えながらエリゴールは風を止め、自身に風を纏い空中に逃げる。

 

「ゴムゴムの……スタンプ!」

 

「うおっ!?」

 

ルフィは空中に逃げたエリゴールに足を伸ばして攻撃する。想定外の攻撃にエリゴールは顔をかすりながらもかわす。手応えを感じたルフィは休まず攻撃を行う。

 

「(ちっ……空中にいてもあいつの攻撃範囲内だ、クソ! 厄介だぜ、悪魔の実の能力者!)なら、これでどうだ!」

 

エリゴールはそう言うとルフィの真下に魔法陣が浮かび上がる。

 

「ストームブリンガー!」

 

「うおぉ!?」

 

すると魔法陣から駅を囲んでいた風と同じぐらい大きい風が出現する。ルフィはその竜巻に飲み込まれ、地面から足が離れる。竜巻はルフィを崖のある方に飛ばす。

 

「ぎゃあぁぁぁ!! 落ちるー!」

 

「ははっ! そのまま崖に落ちて死にな!」

 

崖に落ちていくルフィを見て笑い声を上げるエリゴール。

 

「ぎゃあぁぁ……なんちゃって!」

 

ルフィは空中で体制を整える。両手を上に伸ばし、地面を掴む。

 

「ゴムゴムの……ロケットっ!」

 

両手に力を入れ、まるで弾丸のように崖からこちらに気づいていないエリゴールに向かって飛び出す。

 

「からの、ゴムゴムの……鎌!」

 

「何っ!? ぐわっ!?」

 

弾丸並みのスピードでエリゴールにラリアットを当てる。無防備の状態で攻撃を受けたエリゴールは血を吐きながら地面にそのまま落下する。

 

「こ、こいつっ!」

 

「にしし……どうだ、鎌野郎!」

 

フラフラと立ち上がりながらルフィを睨む。

 

「少々お前のことを見くびっていたよ……。だからここからは……本気だ!」

 

そう言うとエリゴールの方に風がどんどん集まっていく。エリゴールが何か仕掛け来る前にルフィはエリゴールに攻撃をする。

 

「ゴムゴムのピストル!」

 

腕が伸び、エリゴールに命中する……と思っていたがーー。

 

「ふん!」

 

「くそっ! ……って痛!?」

 

エリゴールは手を前に出し、ルフィの拳を弾いた。ルフィは痛みを感じながらすぐさま腕をこちらに戻す。

 

「はぁはぁ……全く手応えがねぇな」

 

「ふふ……自分の左手を心配したらどうだ?」

 

エリゴールにそう言われ左手に目を向ける。左手には無数の切り傷があり、地面に血が垂れる。

 

「わかったか、麦わら。テメェが攻撃をすれば俺の風がテメェを襲う。お前は物理攻撃が効かないが斬撃系は効くようだしな……くくっ」

 

「…………」

 

「お前に勝ち目はねぇよ。ここがテメェの『墓場』だ」

 

「墓場?」

 

ルフィは又もやエリゴールに向かって走る。

 

「やれるもんなら好きなだけやってみろ!」

 

「へっ、バカが! 逆上した奴ほど殺しやすい奴はいねぇ……。ここで死ね、麦わら!」

 

エリゴールはカマイタチを作り、それをルフィにぶつける。左肩に右腕、右足に命中し、そこから血が溢れる。命中したルフィは体制を崩す。

 

「ふっ……」

 

「ゴムゴムの……」

 

「何っ!」

 

ルフィは足に力を入れ、倒れないように踏ん張る。そしてエリゴールに近づきながら右手を後ろに伸ばす。エリゴールは一瞬驚くが、すぐさま自身に風の鎧を纏う。

 

「へっ、殴れるものなら……殴ってみろ!」

 

触れれば先ほどと同じダメージを受ける。エリゴールは攻撃を止めた瞬間に鎌で切り刻むと考え、にやっと笑みを浮かべる。しかしーー。

 

銃弾(ブレッド)!!」

 

「!!!?」

 

予想は外れ、ルフィは思いきり右手をエリゴールの顔面に当てる。風の鎧を突き破った右手はエリゴールにダメージを当てるが、同時に無数の切り傷ができる。エリゴールは吹き飛ばされ、ルフィは地面に膝をつく。

 

「はぁはぁ……ここが俺の墓場?」

 

ルフィは血を多く失い、ふらふらになりながらも立ち上がる。

 

「そんなんで……俺の墓場って決めるな。お前みてぇな仲間を大切にしねぇ奴に俺は負けねぇ!」

 

ルフィが立ち上がるとエリゴールも頭を抑えながらなんとか立ち上がる。

 

「ここは、俺の死に場所じゃねぇ!」

 

「はぁはぁ……それでこそ潰しがいがあるもんだ! いいだろう、本気で殺してやるよ。『ストーム・デスサイズ』!」

 

そう言うと風が鎌に集まる。鎌に風が纏われる。あの鎌に斬られれば確実に死ぬ。しかしルフィは恐れず、エリゴールに向かう。

 

「「うおぉぉぉ!!」」

 

エリゴールとルフィの激しい攻防が続く。鎌を振り下ろせば豆腐のように地面が切り裂かれる。ルフィはなんとか避け、エリゴールに攻撃を与える。エリゴールは激怒し、鎌を薙ぎ払う。ルフィはその攻撃をジャンプしてやり過ごす。

 

「……へっ!」

 

「はぁはぁ……このクソガキが!!」

 

まだまだ余裕だと言わんばかりの表情を浮かべるルフィ。それを見たエリゴールは顔に血管を浮かべる。

 

「いったはずだ……ここがテメェの!」

 

「!」

 

するとエリゴールは風の力で一瞬にしてルフィに近づく。

 

「死に場所だぁ!!」

 

エリゴールは全ての力を鎌に集中させ、振り下ろす。纏っていた風が爆ぜ、砂埃が舞う。そして徐々に砂埃が晴れていく。するとエリゴールの持っていた鎌の刃が粉々に壊れた。

 

「なぁ!? 俺の大鎌が!? テメェ、何をしやがった!?」

 

「へへ……()()()()()()()()()()()。お前の鎌、もうダメみたいだな?」

 

「なっ!?」

 

エリゴールが呆然と立ち尽くしているとルフィはエリゴールのローブを掴み、逃げられないようにする。

 

「覚悟しろよ……? ゴムゴムの……」

 

エリゴールは目を見開く。砂埃で気づかなかったが、右腕が捻れながら後ろに伸ばされている。

 

回転弾(ライフル)!!」

 

「!!!?」

 

ルフィの攻撃はエリゴールに命中する。エリゴールは数メートル吹き飛ばされ、地面に伏せる。

 

「お、俺が……負け……だ……と」

 

「はぁはぁ……へへ、俺の勝ちだ!」

 

エリゴールが気絶し、ふらふらになりながらもルフィは拳を上に向ける。

 

「ルフィーー!!」

 

「あ、ルーシィ達だ! おーい!」

 

ルーシィ達を見つけたルフィは手を大きく振る。ルーシィ達はルフィに駆け寄る。

 

「ちょっとルフィ! あんたボロボロじゃない! 大丈夫なの?」

 

「ルフィ、大丈夫?」

 

「おう、平気平気!」

 

「流石だな、ルフィ」

 

「ったく……おいしいところ全部持っていきやがって」

 

「やったな、ルフィ!」

 

「にしし……!」

 

ルーシィとハッピーはルフィの傷だらけの体を心配する。ナツとグレイとエルザは良くやったと肩を叩く。そんな様子を少し遠くからカゲヤマが見ていた。

 

「(こいつら……モーガンさんだけでなくエリゴールさんまで!? なんなんだよこいつら……これが妖精の尻尾!?)……ん?」

 

ふとエリゴールの方に視線を向けると近くに落ちていた禍々しい笛に見つけた。

 

「つかよ、お前服はどうしたんだよ?」

 

「ああ、風でバラバラになっちまった」

 

「なんか変態みたいだぞ」

 

「お前が言うなよ」

 

「んだとぉ! この炎! 俺が変態だとぉ!?」

 

「変態に変態って言って悪いのか!? 氷野郎!!」

 

「うーん、そうだな、ルーシィ服くれ」

 

「なんで私なのよ!?」

 

「痛ぇ!? 何すんだよ!」

 

「あんたが何すんのよ、変態!」

 

「ふふ……ともかく見事だ、ルフィ。これでマスター達が守られた。ちょうどいい、このまま定例会に行き笛の処分と今回の事件の処分についてマスターに指示を仰ごう」

 

「クローバーはすぐそこだもんね」

 

皆は魔導四輪車に向かうと、カゲヤマが魔導四輪車に乗り込み発進していた。

 

「カゲ!」

 

「あぁ、あいつ!」

 

「油断したな、ハエ共! 笛はここだ! ざまぁみろ!」

 

カゲヤマは笛をこちらに見せ、高らかに笑いながらギルドマスターがいるクローバーの町に向かった。

 

「あんの野郎ぉ!」

 

「恩知らず〜!」

 

「とにかく追いかけるぞ!」

 

文句を言いながらも全力疾走でクローバーの町に向かった。

 

 

空は日が落ちた頃、ルフィ達はようやくクローバーの町にたどり着いた。すると少し遠くの場所でカゲヤマとマカロフがいた。

 

「いたぞ!」

 

「よっしゃ!」

 

「ぶっ飛ばしてやる!」

 

ルフィとナツとグレイはそのままカゲヤマ達のところへ向かう。

 

「しっ、今いいところなんだから見てなさい」

 

「「「いいっ!?」」」

 

しかしそれをつるっぱげのオカマの者に止められる。

 

「なんだこのおっさん」

 

「おっさんとは失礼しちゃうわもう! でもあなた達タイプだから許すわ〜」

 

「な、なにこの人!」

 

「マスターボブ!」

 

「あらぁ〜エルザちゃん、大きくなったわね〜!」

 

「えぇ! この人が青い天馬(ブルーペガサス)のマスター!?」

 

「ほら、騒いでねぇで観なよ」

 

近くの木に寄りかかっている帽子を被った男性がいう。

 

四つ首の猟犬(クアトロケルベロス)のマスター!?」

 

「マスターゴールドマインさん!」

 

ゴールドマインはエルザ達に静かにするように人差し指を口に近づける。エルザ達は言う通り、静かにマカロフの様子を見ることにした。

 

「ん? どうした、吹かんのか?」

 

「ぁ……!」

 

カゲヤマはゆっくりと笛に口を近づける。

 

「(吹けば、吹けばいいんだ! ……それで全てが変わる!)」

 

「ーー何も変わらんよ」

 

「ぇ……?」

 

笛を吹こうとしたカゲヤマに優しく言うマカロフ。

 

「弱い人間はいつまでたっても弱いまま。しかし弱さの全てが悪ではない。元々人間なんて弱い生き物じゃ。一人じゃ不安だからギルドがある、仲間がいる。強く生きる為に寄り添いあって歩いていく。不器用な者は人より多くの壁にぶち当たるし、遠回りするやもしれん。しかし、明日を信じて踏み出せばおのずと力が湧いて来る、強く生きようと笑っていける。……そんな笛に頼らずともな」

 

にやっとマカロフはカゲヤマに笑ってみせた。

なんだ……全部わかってたのか。

カゲヤマは笑みを浮かべながら地面に膝をついた。

 

「……参りました」

 

カゲヤマが降参すると隠れていたエルザ達がマカロフに近づく。

 

「「じっちゃん!」」

 

「「マスター!」

 

「じーさん!」

「ぬおっ!? 何故お前達がここに!?」

 

エルザはマカロフを抱きしめる。

 

「流石です! 今の言葉、目頭が熱くなりました!」

 

「かたー!?」

 

「流石じっちゃんだな。はっはっはっ!」

 

「そう思うならバシバシやめぇい!」

 

ルフィはマカロフの頭をばしばしと叩きながら笑う。皆、勝利を喜んでいると笛から黒い霧が出て来た。

 

『カカカ……どいつもこいつも根性のねぇ魔道士どもだ』

 

「笛が……喋った!?」

 

『もう我慢できん、ワシが自ら食らってやろう……貴様らの魂をな!!』

 

黒い霧が笛を包みこむ。霧は広がりどんどんでかくなる。霧が晴れるとそこには木の巨人と化したララバイの姿があった。

 

「でかっ!?」

 

「怪物だー!?」

 

「な、なんだこいつ!? 知らないぞ、こんなの!」

 

「あらら……大変」

 

「こいつは……『ゼレフ書の悪魔』だ!」

 

『腹が減ってたまらん。貴様らの魂を食わせて貰うぞ』

 

「魂!? 魂ってうめーのか!?」

 

「知るか!」

 

ルフィはよだれを垂らしながらララバイに聞く。そんな呑気なルフィの頭にグレイはげんこつをくらわせる。

 

「一体どうなってんの? なんで笛から怪物が……?」

 

「あの怪物自体がララバイそのものなのさ。生きた魔法……それがゼレフの魔法だ」

 

ゴールドマインの言葉にルーシィ達は驚きを隠せない。

 

「生きた魔法!?」

 

「ゼレフって、あの大昔の!?」

 

「黒魔道士ゼレフ。魔法界史上もっとも凶悪だった魔道士。その何百前の負の遺産がこんな時代に現れるなんて……」

 

マスターボブは冷や汗をかきながら言う。するとララバイが顔を近づける。

 

『さぁて、どいつの魂から頂こうか?』

 

マスター達やルーシィとカゲヤマとハッピーはびくびくと震える。そんな様子を見たララバイはにやっと笑う。

 

『決めた、全員まとめてだ!』

 

「いかん! 呪歌だ!」

 

「ひっーー!!?」

 

ララバイが口を開き呪歌を吹こうとする。ギルドマスター達は聞きまいと耳をふさぐ。しかしそんな中ルフィはララバイに飛びかかる。

 

「ゴムゴムの……スタンプ!」

 

『んごっ!?』

 

ルフィの技がララバイの顎の部分にあたり、無理やり口が閉ざされる。ララバイはルフィを睨む。

 

『貴様ぁ!』

 

「……と、槍!」

 

『グハッ!?』

 

ルフィの攻撃がララバイの胸に直撃。ララバイはダメージを負い、後ずさりをする。

 

「足が伸びた!?」

 

「異様な力……まさかあれが噂に聞く悪魔の実の能力か!?」

 

ララバイは空中にいるルフィに向かって手を振り下ろす。

 

『小癪な!』

 

「危ない!」

 

「換装!」

 

するとエルザが黒い翼の生えた鎧を纏い、ララバイに近づく。

 

「はぁっ!」

 

『ぬおっ!?』

 

エルザに足を斬られ、ララバイは体制を崩す。

 

「おお、あれは黒羽の鎧!」

 

「対象の攻撃力を増大させるあの!」

 

「それになんだあの換装のスピードは!?」

 

「あれが妖精女王(ティターニア)、エルザ・スカーレットの騎士(ザ・ナイト)か!」

 

「まだまだ! 火竜の……」

 

倒れたララバイの顔に飛びかかりながら右手に炎を纏うナツ。

 

「鉄拳!」

 

『うおっ!?』

 

ナツに殴られララバイが後退する。

 

「拳であの巨体を!?」

 

「本当に魔道士か!?」

 

『調子に……乗るな!!』

 

ララバイはギルドマスター達に向けて口を開く。口に光が集まる。

 

「おっと!」

 

「こっちにくる!?」

 

『消えろ!』

 

「「ビームだ!」」

 

口から光線を放つララバイ。そんなララバイを見て興奮するルフィとナツ。そんな中、ギルドマスターやルーシィ達の前にグレイが立つ。光線が爆ぜ、砂埃が舞う。砂埃が晴れるとそこには無傷のギルドマスター達とルーシィ達、そして氷の盾を造形し防いだグレイの姿があった。

 

「アイスメイク……(シールド)!」

 

「おお! 氷の造形魔道士か!?」

 

「造形魔法?」

 

「魔力に形を与える魔法だよ。……そして、形を奪う魔法でもある」

 

ハッピーの言葉にゾッとするルーシィ。

 

『ぐぬぬ……貴様らぁぁ!!』

 

ララバイは怒り、グレイ達に向かって拳を放つ。

 

「はあっ!」

 

その攻撃をエルザは手を切り落として防いだ。

 

『グワァァァ!!?』

 

「今だ、お前達!」

 

エルザの掛け声と同時にルフィとナツとグレイはララバイに飛びかかる。

 

「右手の炎と左手の炎を合わせて……火竜の!」

 

「ゴムゴムの……」

 

「アイスメイク……!」

 

ララバイに接近した三人は瞬間、各々が持つ一撃を放つ。

 

「ーー煌炎!」

 

「ーー攻城砲(キャノン)!」

 

「ーー槍騎兵(ランス)!」

 

三人の攻撃が直撃し、ララバイは地面に倒れた。足から徐々に塵になっていく。

 

『ば、バカ……な……!!』

 

自分を倒した者達を見つめたままララバイは消滅した。それと同時に周りから歓声の声が上がる。

 

「見事! ようやったわい!」

 

「まさかゼレフ書の悪魔をこうもあっさりとは!」

 

「すごいぞ、妖精の尻尾!」

 

「皆、すごい!」

 

「これが……妖精の尻尾、最強チーム!」

 

「ほらぁん、アンタはお医者さん行かなきゃ‥…ね?」

 

「は、はい……」

 

抱きついてきたマスターボブに謎の恐怖を覚えたカゲヤマ。

 

「いやぁ、妖精の尻尾には借りができちまったなぁ」

 

「なんのなんのー! ふっひゃひゃひゃひゃ……ひ……は!?」

 

「ん?」

 

ふとマカロフが笑うのをやめ、固まる。その様子を見た者達はゆっくり振り返る。すると、そこには瓦礫の山とかした定例会の会場があった。

 

「ぬわあああっ! 定例会の会場が粉々に!?」

 

皆が気を取られている間、マカロフは忍び足でそっと離れる。そして皆がゆっくりこちらに振り向く。

 

『妖精の尻尾を捕まえろー!!!!』

 

その言葉と同時に妖精の尻尾のメンバーは逃走を始めた。

 

「にしし! 皆、逃げるぞ〜!!」

 

「あい!」

 

「ごめんなさーい!」

 

「お前の炎のせいだぞナツ!」

 

「あぁん!? テメェの氷のせいだろがグレイ!」

 

「マスター、申し訳ありません……」

 

「いーのいーの、どうせもう呼ばれないでしょ?」

 

ルフィ達は後ろを振り向かずただただギルドに向かって走るのであった。

 

 

 



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ナツvsエルザ

鉄の森の事件から数日が経過したある日。ギルドの前では大きな人だかりが出来ていた。その中心にはナツとエルザの姿があった。今日は約束の決闘の日なのだ。

 

「ちょ、ちょっと! 本気なの!? 二人とも!」

 

「あら、ルーシィ」

 

すると、人ごみを掻き分けてルーシィが出て来た。

 

「本気も本気。本気でやらねば漢ではない!」

 

「エルザは女の子よ、エルフマン」

 

エルフマンの言葉にすかさずツッコミを入れるミラ。そんな中ルーシィは心配そうに二人を見ていた。

 

「だって、最強チームの二人が激突したら……」

 

「ん? 最強チーム? なんだそりゃ」

 

「あんたとルフィとナツとエルザじゃないっ! トップ4でしょ」

 

「はぁ? 誰がそんなバカみたいな事言ったんだよ」

 

やれやれとグレイは手を振る。その近くにミラがニコニコと笑顔でグレイの方を見ていた。

 

「…………ぐすっ」

 

「あ……ミラちゃんだったんだ」

 

ミラを泣かした事に罪悪感を感じ、即座に謝るグレイ。

 

「あ、泣かした」

 

「泣かせたー」

 

「泣かせたー」

 

「あんた達いつのまに!?」

 

ルーシィにつられ、いつからいたのかルフィとハッピーもグレイを指差す。唐突に現れた二人に驚きを隠せないルーシィ。

 

「……確かにルフィとナツとグレイの漢気は認めるが、最強って言われると黙っておけねぇな。妖精の尻尾にはまだまだ強者が大勢いるんだ…………オレとか」

 

「最強の女はエルザで間違いないと思うけどね」

 

「最強の男になるとミストガンやラクサス、そしてエースと()()()()()だな」

 

上からエルフマン、レビィ、ジェットの順に最強候補の名を上げていく。

 

「エースって……あの『火拳のエース』!?」

 

「そうよ、今はクエストでしばらく留守にしてるけどね」

 

「そうなんだ〜! すごい人なんだなぁ……」

 

何故エースに反応したのかと言うとルーシィの憧れの一人だからだ。いつか会ってみたいと心に決めるのだった。

 

「エースは強ぇぞ〜! 昔なんてエースに一回も勝ったことなかったしな」

 

「え!? ルフィが一回も勝ててないの!? どんな化け物よその人……」

 

ルフィでさえ一回も勝ったことないと知り、驚愕するルーシィ。ルーシィは頭の中で巨大な大男を想像する。ちょっと怖い人なのかもと勝手に決めるのだった。

 

「まぁ今なら俺が勝つけどな、にっししし!」

 

「て言って何ヶ月か前にボコボコにされたじゃないか」

 

「あれ? そうだっけ?」

 

「おい、ルフィ。もうすぐ始まるぞー!」

 

エルフマンがそう言うと、ルフィはすぐさま決闘が見やすい位置に移動する。

 

「なんにせよ、面白い戦いにはなりそうだな」

 

「そうか? 俺はエルザの圧勝で決まると思うが」

 

「どっちも頑張れよ〜!」

 

皆からの歓声を浴びながらエルザとナツは睨み合う。

 

「こうしてお前と魔法をぶつけ合うのは何年ぶりかな……」

 

「あの頃はガキだったっ! 今は違うぞっ! 今日こそお前に勝つ!!」

 

「私も本気で行かせてもらうぞ、久しぶりに自分の力を試したい」

 

そう言い、エルザは魔法を使う。光が収まると赤と黒を強調した鎧を換装する。手にはいつもの剣が握ってある。

 

「全てをぶつけて来い」

 

「え、『炎帝の鎧』!? 耐火能力の鎧だ!」

 

「これじゃナツの炎が半減されちまう!」

 

「エルザの奴、ガチだぞ!?」

 

エルザの鎧を見て、皆は驚愕する。そんな中、ナツはにやりと笑う。

 

「炎帝の鎧かぁ……そうこなくちゃ! これで心置きなく全力が出せるぞっ!」

 

ナツは両手に火を纏い、構える。エルザも同じく構えるとマスターが二人に近づく。

 

「では、始めぇ!」

 

マスターの号令で二人はぶつかり合う。勝負の状況は五分五分。ナツの攻撃をエルザは紙一重でかわしていく。しかしナツもエルザの攻撃をかわし、すぐさま攻撃に移る。

 

「すごい!」

 

「な? いい勝負だろ?」

 

「どこが」

 

勝負が盛り上がり、ヒートアップして来たその時、パァン! と誰かが強く手を叩いた音が響きわたる。皆、その音を発した人物に注目する。

 

「全員動くな。私は評議員の使者である」

 

そうカエルの姿をした評議員の使者が中心に移動しながら言う。

 

「ひょ、評議員!?」

 

「使者だって!?」

 

「なんでこんなところに!?」

 

「あはは! カエルが喋ってる、おもしれぇ!」

 

「そうよね!? あれカエルよね!?」

 

ルフィはカエルのような評議員を見て爆笑し、ルーシィは目を何度も擦り評議員を見る。

 

「ごほんっ! ……鉄の森のテロ事件において、器物損害罪、他11件の罪の容疑でーーエルザ・スカーレットを逮捕する」

 

「え?」

 

「「な、なんだとぉぉぉ!!?」」

 

突然の逮捕宣言にナツとルフィの怒声が響き渡った。

 

 

 

『…………』

 

エルザが逮捕されて数時間が経過した。先程まで盛り上がっていた空気は既になく、ギルド内には沈んだ空気が漂っていた。二人、いや二匹を除いて。

 

「出せっ! 俺をここから出しやがれ!」

 

「じいちゃん、ミラ! エルザを助けに行く! だからここから出してくれよ!」

 

「だしたら暴れるでしょ?」

 

「暴れねぇよ! つーか元に戻せよ!」

 

ナツとルフィはトカゲに変えられ、瓶の中に閉じ込められるも大声を張り上げる。

 

「……今回ばかりは相手が評議員じゃ手の打ちようがねぇ」

 

「そんなの関係ねぇ! 間違ってるのはあいつらだろ!? エルザはなんも悪りぃ事してねぇじゃねぇか!」

 

「白いモンでも評議員が黒と言えば黒になるんだ。ウチらの言い分なんて聞くもんか」

 

「しっかしなぁ……今まで散々やってきた事が何故今回に限って?」

 

「あぁ……理解に苦しむね」

 

「絶対、何か裏があるんだわ……。証言をしに行きましょ!」

 

「まぁ待て」

 

ルーシィが立ち上がり、ドアに向かおうとするとマスターがそれを止める。

 

「これは不当逮捕よ! 判決が出てからじゃ間に合わないっ!」

 

「今からではどれだけ急いでも判決には間に合わん」

 

「でも……!」

 

「出せー!! ここから出せぇ!」

 

「はやく出せー!!」

 

「ーー本当に出しても良いのか?」

 

マスターはナツとルフィの方を見ながらニヤリと笑う。

 

「当たり前だー! はやく出せぇ!」

 

「ぅ…………」

 

それでも騒ぐナツと急に黙るルフィ。

 

「ルフィ?」

 

「どうした、ルフィ? 急に元気がなくなったな」

 

マスターが言っても返事をしないルフィ。するとマスターがルフィの瓶に魔法をかける。するとそこにはマカオの姿があった。

 

「マ、マカオ!?」

 

「「ええぇぇぇぇ!!?」」

 

「すまねぇ……ナツとルフィには借りがあってよぉ」

 

マカオは頭をかきながらギルドメンバーに言う。

 

「……じゃあ本物のルフィは?」

 

「まさかエルザを追って!?」

 

「シャレになんねぇぞ!? あいつなら評議員すら殴りそうだ!」

 

「全員、黙っておれ。静かに結果を待てば良い」

 

ルフィが暴れることに騒ぐギルドメンバーをマスターは黙らせる。皆はマスターの言う通り静かに待つ事にした。

 

 

 

評議会、裁判所。その中央に立たされるエルザ。エルザの目の前には評議員の者達がいた。そして中央に座っていた評議員の一人が判決を言い渡す。

 

「被告人、エルザ・スカーレットよ。そなたは……」

 

「ゴムゴムの〜……」

 

「ん?」

 

「バズーカ!!」

 

すると突然ドアが破壊される。裁判所にいた者達は呆然としていた。

 

「何事!?」

 

「お、エルザ! いたいた〜!」

 

「る、ルフィ!?」

 

ドアを壊し、入ってきたのはルフィだった。エルザと評議員達はルフィの姿を見て驚く。

 

「麦わら……麦わらのルフィか!」

 

「あ! お前らな、なーにが逮捕だ! 勝手にうちの仲間を連れてくんじゃねぇ! だからエルザは返してもらうぞ!」

 

「や、やめないか……」

 

「エルザからもなんか言ってやれよ! こいつら変な理由でお前の事逮捕しようとーー」

 

「やめんか!!」

 

「ぐへぇ!?」

 

エルザはルフィの頭を思い切り殴り、気絶させる。

 

「殴るぞ!?」

 

「もう殴ってますよ……?」

 

「何か言ったか!?」

 

「い、いえ何も! すいませんでした!!」

 

エルザはギロっとカエルの評議員を睨む。カエルの評議員は怯えた様子でエルザから距離をとる。呆然としていた評議員達はようやく我に帰る。

 

「……ふ、二人を牢屋へ」

 

 

 

「全く、お前にはあきれて言葉もない。これはただの儀式だったんだ」

 

「儀式?」

 

牢屋の中でエルザはルフィに事情を説明する。

 

「形だけの逮捕だ。魔法界全体の秩序を守るため評議会としても取り締まる姿勢を見せなければならない。わかったか?」

 

「いや、さっぱりわからん」

 

「はぁ……つまりだな、有罪にされるが罰は受けない。本来なら今日中に帰れたんだ、お前が暴れなければな」

 

「えぇ!? そうなのか!?」

 

ルフィはガーンと衝撃を受ける。そんな様子を見たエルザはクスっと笑う。

 

「……だが、嬉しかったぞ。ありがとう、ルフィ」

 

「……にしし、おう!」

 

エルザの言葉に笑顔で答えるルフィ。そんな二人が入っている牢屋を遠くから見ている青髪の男、ジークレインは不敵に笑う。

 

「モンキー・D・ルフィ……妖精の尻尾にいたのか。『D』の名を持つ者が……」

 

ジークレインはそう呟くと闇の中に消える。その言葉に一体どんな意味があるのか?

 

 

 



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魔導士狩り

翌日ーー。

 

「ただいまー!」

 

「ただいま戻った」

 

「おかえりなさい、二人とも」

 

あの後、ルフィとエルザは何事もなく裁判からギルドに帰ってきた。その二人をギルドのメンバーは安堵した表情で迎える。

 

「ミラー! 飯飯!」

 

「はいはい」

 

「結局形式だけの逮捕だったのね……期待して損しちゃった」

 

ルーシィは静かにほっと胸をなでおろす。ギルドの騒ぎにテーブルで寝ていたナツが目覚める。

 

「ルフィとエルザが帰ってきた!? よっしゃあ、この前の続きやるぞエルザー!」

 

「よせ、疲れてるんだ」

 

「んなもん知らねぇ!」

 

ナツはテーブルから椅子に座っているエルザに向かって飛びかかる。

 

「やれやれ」

 

エルザは静かに立ち上がり武器を取り出す。そのままナツに向かって一振りするとナツは天井に吹き飛ばされた。そんな事も知らずに武器を構えるエルザ。

 

「では、始めるか」

 

「しゅーりょー!」

 

ハッピーがベルを鳴らし、天井から落ちてきたナツは地面に激突し、ピクピクと痙攣しながら地面に伏せる。そんなナツをギルドメンバーは爆笑する。

 

「あっははは! ダセーぞナツ!」

 

「いっ、一発KO……」

 

「綺麗な終わり方だったな」

 

「あらあら、また壊れちゃったわね」

 

「がぁ……」

 

「あ、ルフィ? ご飯食べながら寝たらダメでしょ?」

 

食べながら寝るルフィを起こそうとするミラ。するとその隣にいたマスターも眠そうにあくびを出す。

 

「ふぬ……」

 

「マスターどうしたんですか?」

 

「うむ、眠い……奴じゃ」

 

「あっ……」

 

するとミラを始め、次々とギルドメンバー達が深い眠りにつく。次第にマスター以外のギルドメンバーが眠りにつく。するとギルドのドアが開かれ、深く帽子を被る謎の魔導士が入ってきた。

 

「ミストガン」

 

ミストガン、そう呼ばれた魔導士はクエストボードにある依頼を一つとりマスターの前にそっと置く。

 

「行ってくる」

 

「コレ、眠りの魔法を解かんか」

 

マスターがそう言うとミストガンは何も言わず振り返り、入り口に向かう。

 

「五、四、三、二、一……」

 

カウントダウンと共にギルドを出て行くミストガン。ドアが閉まるとギルドメンバー達は次々と目を覚ます。

 

「この感じはミストガンかっ!?」

 

「あんにゃろう、またか!」

 

「相変わらずすげぇ眠りの魔法だな……」

 

「んごご……」

 

「がぁ……」

 

「こいつらはまだ寝てんのかよ……」

 

眠りの魔法が解かれたにもかかわらず深い眠りに入るルフィとナツ。呆れるグレイをよそにルーシィは皆の言うミストガンに気になっていた。

 

「ミストガンって?」

 

「ああ、妖精の尻尾最強の一角の一人だ」

 

ミストガンを知らないルーシィにグレイとハッピーが説明する。

 

「ミストガン、どういう訳か知らないけど誰にも姿を見せないんだ。だから仕事を取る時はこうやって皆眠らせるんだ」

 

「何それすごい怪しい!」

 

「だからマスター以外、ミストガンの顔はしらねぇんだ」

 

「ーーいや、俺は知ってるぜ」

 

続きを言うように、二階からヘッドホンをした金髪の男が現れる。男の登場にギルド内はどよめく。

 

「ラクサス!」

 

「いたのか!」

 

「珍しい」

 

「あれって……」

 

「ラクサス、もう一人の最強候補だ」

 

ラクサスを知らないルーシィにこっそり教えるグレイ。

 

「ミストガンはシャイなんだ、あまり詮索してやんな」

 

「ラクサスー! 俺と勝負しろ!」

 

ラクサスの言葉を遮るように、いつの間に起きたナツは吠える。ラクサスはちらっとナツに顔を向ける。

 

「ナツか。無理無理、エルザごときに勝てねぇようじゃ俺に勝てねぇよ」

 

「なんだと?」

 

「お、落ち着けよエルザ」

 

ラクサスの言葉にカチンと来たエルザはラクサスを睨む。ギルドメンバーはそんなエルザを止める。

 

「俺が最強ってことさ」

 

「この野郎、降りてこーい!」

 

「めんどくせぇ、お前が上がってこいよ」

 

「上等だ!」

 

ラクサスの挑発に乗り、ナツは二階に上がる階段に向かう。だがその行く手を巨大な手が防いだ。

 

「まだ二階に行ってはならぬ、まだな」

 

「ぐえ……」

 

「はは! 怒られてやがるぜ」

 

「コレ、その位にせんかラクサス」

 

腹を抱えて笑うラクサスを叱るマスターマカロフ。

 

「へっ……まぁ戦う前から結果は決まってるけどな。それかルフィ! お前がやるか!」

 

ラクサスは標的をルフィに変える。ギルドメンバーはルフィに視線を向けると俯きながらも立っていた。

 

「お、やる気か?」

 

「………………がぁ」

 

『寝てんのかいっ!』

 

立ちながら深い眠りにつくルフィにギルドメンバーは思わずツッコミを入れる。ラクサスはため息を吐き頭をかく。

 

「はぁ……相変わらず調子狂うぜ。まぁ覚えておけ! 妖精の尻尾最強の座は誰にもゆずらねぇ! エルザ、ミストガン……そしてエースとあの親父にもだ! 俺が最強だ!」

 

高笑いをしながらラクサスは部屋の奥深くに消えてった。

 

 

「うめ、うめ……」

 

「あのミラさん、さっきマスターが言っていた二階に上がってはいけないってどういう事ですか?」

 

カウンターでジュースを飲みながらルーシィはミラに聞く。その横ではようやく目覚めたルフィが料理を食べている。

 

「ああ、そっかルーシィは知らないもんね。二階のクエストボードには一階とは比べものにならないクエストがあるの。その名もS級クエスト」

 

「S級!?」

 

「判断を間違えれば命を落とす依頼ばかりよ」

 

「うわぁ……」

 

笑顔で喋るミラとは反面、血の気の引くように青くなるルーシィ。

 

「S級クエストは危険だから決められたもの、S級魔導士しか受けられないの。資格があるのはエルザ、ラクサス、ミストガン、エースを含めて5人しかいないの」

 

「そうなんだ……」

 

「S級なんて目指すものじゃないわよ? ほんとにいくつあっても足りない仕事ばかりだから」

 

「はは、ですよね……」

 

ルーシィはぐっと手元にあったジュースを飲み干す。その時、隣にいたルフィが立ち上がる。

 

「ご馳走さま! 仕事に行くぞ、ルーシィ!」

 

「え? ちょ、ちょっと!? いきなりぃ!?」

 

「いってらっしゃ〜い」

 

ルフィはルーシィの腕を掴み、ギルドを飛び出す。そんな二人をミラは手を振り見送る。

 

 

 

 

 

 

 

馬車に乗り、目的地に向かう一行。依頼の内容は村を襲う山賊達の撃破。かなりの大人数らしく、更には手練れも多いと噂されている。ルーシィはそんな依頼書を眺め、ビクビクと震える。

 

「はぁ……なんで私まで」

 

「んなもん、チームだからに決まってるだろ? な、ハッピー」

 

「あい!」

 

ルフィは隣に顔を向けるとそこにはハッピーの姿があった。ルーシィは一人足りない事に気づく。

 

「ところでナツはどうしたのよ?」

 

「ナツはエルザに受けたダメージが遅れて来てまして……現在ギルドでのびてます」

 

「ああ……なるほどね」

 

ナツが燃え尽き、白くなっている姿を想像しルーシィは納得する。

 

「まぁ大丈夫だろ、この三人で。泥舟? に乗ったつもりでよ!」

 

「それを言うなら大舟だよ、ルフィ」

 

「あ、そうそう大舟大舟!」

 

「不安でしかない〜!」

 

今回の依頼に不安しかないルーシィは頭を抱えるが馬車は目的地までどんどんと進んでいった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

山奥に建つ山賊のアジト。その近くの草むらに三人は頭を出し、依頼場所を確認する。

 

「間違いないわね、ここが依頼された場所ね」

 

「でも外には誰もいないよ」

 

ハッピーの言う通り外には見張りの一人もおらず、更に全くアジトから声や音が聞こえずどことなく不気味な雰囲気を出していた。

 

「山賊達が建物だとしたらバルゴで地面から……ってルフィ?」

 

ルーシィはホルダーから鍵を取り出そうとすると、ルフィは草むらから出て行き腕を振り回しながらアジトに近づく。

 

「ゴムゴムの〜」

 

「ちょ!? 」

 

「ピストル!」

 

ルーシィは静止の声をかけるがルフィは扉を派手に破壊してしまう。呆然としてるルーシィにルフィは笑顔でこちらに顔を向ける。

 

「開いたぞ!」

 

「あぁやると思った……!」

 

「あい、それがルフィです」

 

大きくため息を吐き頭を抱えるルーシィとやれやれと言わんばかりのハッピー。ルフィを先頭にそのまま堂々とアジトに侵入する。

 

「あれ?」

 

建物の中に入るとそこは異様な光景が広がっていた。地面には山賊達であろう者達が倒れていた。一同は首をかしげる。

 

「全員、倒れてる?」

 

「一体誰が?」

 

「……あん? まだ仲間がいたのかよ……ったく」

 

突然声が聞こえ、三人は声が聞こえた方に顔を向ける。そこには倒れている山賊に座っている刀を持った男がいた。頭に黒手拭を巻いており、両手に刀が握られている。男は鋭い目つきでこちらを睨む。

 

「「ひぃ!?」」

 

「なんだ、あいつ?」

 

まるで肉食動物のような鋭い視線にルーシィとハッピーはビクビクと震える。男は刀を一本口に加え、残り二本を両の手で握ると地面を蹴り、自分に一番近かったルフィに近づき刀を振る。

 

「ふんっ……!」

 

男は刀を振るうとルフィの首から上が消え、麦わら帽子が宙に浮く。

 

「きゃあぁぁ!?」

 

「ルフィ……!?」

 

ルーシィは悲鳴をあげながら尻餅をつく。ハッピーは呆然と首がないルフィを見つめる。しかし切った男の顔は曇っていた。

 

「手応えがねぇ……」

 

「……なんちゃって」

 

突然首のないルフィが喋りだすと、にょきっと首が現れる。どうやら斬られる前に首を引っ込ませていたようだ。ルフィは宙に浮く帽子を手に取り、頭にかぶせる。

 

「「ルフィ!」」

 

「ルーシィ、ハッピー! 下がってろ!」

 

安堵した二人に下がるように言うとルフィは男に飛びかかる。

 

「ゴムゴムの〜、ピストル!」

 

「腕が伸びた!?」

 

突然伸びた腕に気を取られ、男は腹部に拳をくらってしまう。男はルフィを睨むと両の手にある刀を強く握る。

 

「三刀流、竜巻ぃ!」

 

「うおぉ!?」

 

それはまさに暴風。男が体を回転させると突如として周りに風が集まる。風はルフィの身体を宙に浮かせ、天井に向かって吹き飛ばす。ルーシィとハッピーはそれぞれ物にしがみつく。

 

「何あれ、魔法!?」

 

「あいつ、強いよ! ルフィ!」

 

「ゴムゴムの〜、銃弾!」

 

「ぐおっ!?」

 

壁に激突する前に腕を伸ばし、男の顔面命中する。そのまま男を吹き飛ばし、お互い壁に激突する形になった。

 

「いてて……」

 

頭を抑えながら立ち上がると刀の男も同時に立ち上がる。

 

「……てめぇもしかして悪魔の実の能力者か」

 

「おう、ゴムゴムの実を食べたゴム人間だ」

 

「ゴム人間? なるほどな」

 

納得したように男はにやりと笑う。その目は強敵を見つけた獣のそれだった。ルフィは拳を突き出す。

 

「そろそろ終わらせるぞ、山賊!」

 

「あ? 山賊はお前だろ! これで終わりにしてやるよ!」

 

ルフィの言葉に一瞬、顔を曇らせるがすぐさま表情を戻しルフィに斬りかかる。それをよそに男の反応に疑問を抱くルーシィ。

 

「上等だ! ゴムゴムの〜!」

 

「鬼……!」

 

「バズーカ!」

 

「斬りぃ!」

 

両者の技が放たれ、衝撃がアジト内を走る。近くに倒れていた山賊達はその衝撃で吹き飛ばされる。

 

「うぐぐ……!」

 

「て、てめぇ……!」

 

「ちょ、ちょっと待ってよ、あんた達!」

 

「あぁん!? うっせぇぞ、女!」

 

「そうだぞ、ルーシィ! 邪魔すんな!」

 

「じゃ……ま……?」

 

二人の言葉に止めに入ろうとしたルーシィは顔をふせる。心配そうにハッピーはルーシィの顔を覗く。

 

「ルーシィ? ……ひぃ!?」

 

何故かハッピーがビクビク震えていると、ドタドタと大勢の足音が聞こえてくる。すると外から大柄の山賊が部下を率いてアジトに入ってきた。

 

「な、なんだこの有様は!? お、おい、お前ら!」

 

倒れている部下に聞くとルフィと男の方を指差す。大柄の男は怒りの表情を浮かべ腰にある剣を抜く。

 

「あいつらがやったのか! 野郎共、行くぞ!」

 

部下達を率い、大柄の男は二人に飛びかかる。

 

「部下達の恨みぃ! この俺、サーベルト……」

 

「「ごちゃごちゃうるせぇなぁ!」」

 

ルフィと男はギラリと山賊達をひと睨みすると大男の顔面に拳を叩き込む。

 

「「勝負の邪魔だぁ!」」

 

『ぎゃあぁぁぁぁぁぁ!!?』

 

大男を殴り飛ばし、後ろにいる部下達をまとめて吹き飛ばす。

 

「……さてとケリつけるか」

 

「おう!」

 

ルフィは腕に力を溜め、刀の男は刀を握る力を強める。そして同時に自信の武器を思い切り振るう。

 

「「うおぉぉぉぉ!!」」

 

「やめんかぁ!!」

 

「「ぶっ!?」」

 

二人はルーシィに殴られ、地面に叩きつけられる。二人の戦いはルーシィの介入で幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「私達は山賊じゃないの、依頼されてここに来た魔導士なの。わかった? 」

 

ルーシィは目の前で座っているたんこぶだらけの二人に言う。二人は納得のいかない表情を浮かべる。

 

「ちぇ……なら、最初から言えよ」

 

「そうだそうだー!」

 

「……何か言った?」

 

「「いえ、なんでも……」」

 

ルーシィがひと睨みすると二人はルーシィに頭を下げる。その様子を見ていたハッピーは唖然とする。

ルーシィは男の破かれた服から露出する右肩にあるギルドマークを見て確信する。

 

「そのギルドマークに三本の刀、貴方、『蛇姫の鱗(ラミアスケイル)』のロロノア・ゾロ……でしょ?」

 

「ん? 知ってるのか、俺のこと」

 

「魔法を使わずに魔導士相手に三本の刀で戦い、その戦う姿はまさに猛獣、『魔導士狩りのゾロ』……結構有名よ」

 

「へぇ〜お前すげぇんだな」

 

「そうみたいだな」

 

呑気に会話をするルフィとゾロにこけそうになるルーシィだが、気を取り直しゾロに質問をする。

 

「で、あんたがここにいるって事は依頼されて?」

 

「いや、仕事帰りに寝床を探してたらここに来ただけだ」

 

「は? 寝床?」

 

「寝床を探してたらこんなところに来る普通?」

 

「あぁん? ……って猫が喋ってるぅ!?」

 

呆れたように言うハッピーを見たゾロは目が飛び出るほど驚いた表情を浮かべる。ルフィはハッピーの頭に手を置く。

 

「おう、こいつはハッピーって言うんだ、よろしくな!」

 

「あい!」

 

「珍しい生き物を連れてんだな、お前ら……」

 

妖精の尻尾はこういう奴らばかりなのか? と物珍しそうにルフィ達を見る。するとそうだ! とルフィはゾロに身体を向ける。

 

「俺は妖精の尻尾のルフィ! こっちのうるさいのがルーシィ!」

 

「誰がうるさいよ!」

 

「本当の事じゃねぇか!」

 

子供みたいな喧嘩をするルフィとルーシィにゾロは小さく笑うと突然立ち上がった。

 

「ゾロだ。一応『蛇姫の鱗』の魔導士だ、それじゃあな」

 

「ん? もう行くのか?」

 

「お前と戦ってたら眠気が覚めたからな、ババアがうるさいだろうから大人しくギルドに戻るとする……ルフィ、また会えたら喧嘩でもしようぜ」

 

「おう、望むところだ!」

 

にやっと笑うゾロに頷き、拳をならす。ゾロは正面を向き、歩みを始める。ゾロは右手を上げるとそれを小さく横に振る。

 

「じゃあな〜ゾロ!」

 

「じゃあね、ゾロ!」

 

「またね〜」

 

笑顔で見送るルフィ、ルーシィ、ハッピー。

 

「またなルフィ、ハッピー………………ルイージ!」

 

「ルーシィ!! それと出口はこっち!」

 

「何ぃ!?」

 

ゾロは慌ててルーシィの指差した方向に走って行った。

ルフィ達の仕事はゾロの介入により、迅速に終わらせたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おもしれぇ奴だったなぁ〜」

 

「可憐な乙女の名前を間違えるなんてどうかしてるわよ、全く!」

 

「可憐? 乙女?」

 

ギルドに報告し終えた三人は暗くなった夜道を歩く。どんどん歩いて行くとルーシィの家に着いた訳だったのだが。

 

「なんであんた達もいるのよ!?」

 

「飯食わせてくれ!」

 

「オイラもー!」

 

「何でよ!? ちょ、待てー!」

 

勝手に自分の家に上がる二人を追いかけるルーシィ。家に入るとリビングのドアが開けられており、ルーシィはリビングを覗く。そこにはルフィとハッピー、そして何故かナツがくつろいでいた。ルーシィの存在に気がつくと手をあげるナツ。

 

「おう、遅かったじゃねぇか!」

 

「きゃあぁぁぁ!? 不法侵入!!」

 

「ぐえっ!?」

 

ルーシィの回し蹴りを顔面にくらいソファに激突するナツ。その表紙にナツの懐から一枚の紙が地面に落ちる。

 

「なんだこれ?」

 

「依頼書?」

 

ルフィとハッピーが紙の内容を読もうとするとナツは紙を掴み、立ち上がる。

 

「おう! ルフィ、ハッピー、ルーシィ! S()()()()()()行くぞ!」

 

「「「……え?」」」

 

ナツの言葉にきょとんとする三人。

それは新たな冒険の始まりだった。

 

 

 

 

 



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呪われた島とデリオラ
呪いの島、ガルナ島


「うわぁ〜懐かしい! ここって私とルフィ達と初めて出あった街よね!」

 

無邪気な笑顔でここ、ハルジオンを眺めるルーシィ。その近くではぼーっとその様子を見ているルフィ、ナツ、ハッピー。

 

「そんなに懐かしいか?」

 

「そんな昔の事じゃねぇだろ」

 

「ルーシィばーちゃん……」

 

「つーかよ、お前最初この依頼反対してたじゃねぇか?」

 

ルフィは手元にある依頼書をルーシィに見せながら言う。それはナツがこっそり盗んだS級クエストの紙だった。

 

「しょ、しょうがないじゃない! 報酬に黄金の鍵があるって知らなかったし……」

 

図星をつかれたルーシィはほんのり顔を赤くし、そっぽを向く。そう、この依頼の報酬は黄金の鍵。それはルーシィが求める黄道十二門の鍵の一つ。これは見逃せないとルーシィは張り切る。

 

「コホン……いい? まずは『ガルナ島』へ行く船を探すの」

 

「船!? 無理無理! 泳いで行くに決まってんだろ!」

 

「そっちの方が無理だから」

 

ガルナ島。依頼書には呪いの島と呼ばれている島だ。ルフィ達がハルジオンに訪れた理由、それは船でガルナ島に向かう為だった。ナツの無茶な作戦に呆れるルーシィはルフィの表情が曇っている事に気づく。

 

「どうしたのルフィ?」

 

「俺、泳げねぇぞ」

 

「え? あんたもしかしてカナヅチなの?」

 

「悪魔の実の能力者は皆カナヅチになっちゃうんだ」

 

「へぇ〜あんたも苦労してるのね」

 

ハッピーの説明を聞き、悪魔の実の意外な弱点を知る事になったルーシィ。泳ぐという選択肢がなくなった一行は片っ端から島まで出してくれる船を探す事にした。

 

「ガルナ島に行きたいだ? 冗談じゃねぇ、あんな所近づきたくないね」

 

「勘弁してくれ、名前も聞きたくない」

 

「何しに行くか知らねぇけどよ、あそこに行きたがる船乗りはいねぇよ。海賊ですら近寄らねぇ」

 

しかし、船を持つ者達は誰一人ガルナ島に向けて船を出してはくれなかった。

 

「全滅……」

 

「決まりだな、泳いで行こう。ルフィは俺が背負う」

 

「泳ぐ? それこそ自殺行為だ。この海には凶暴なサメがうじゃうじゃいるんだ」

 

「そんなもん、俺の炎で全部黒焦げにしてやる!」

 

「海で火は使えないでしょ……」

 

意気揚々とする準備運動をするナツ。そんなナツに呆れていたルーシィ。するとルフィとルーシィの肩に突然手が置かれる。

 

「みーつけた」

 

二人は素早く後ろに振り返るとそこにはグレイの姿があった。

 

「グレイ!」

 

「ど、どうしてここに?」

 

「じーさんが連れ戻し来いって頼まれてな」

 

「げぇ!? もうバレたか」

 

「今なら()()もまぬがれるかも知れねぇ、戻るぞ」

 

「は、破門!?」

 

「いやだ! 俺たちはS級クエストをやるんだ!」

 

「そうだそうだ!」

 

連れ戻そうとするグレイに反対するルフィとナツ。そんな二人にため息をこぼすグレイ。

 

「ったく……お前らの実力じゃ無理だからS級なんて書いてあるんだよ。それに、今回は仕事でいねぇがもしこの事がエルザとかに知られたら……」

 

「「「え、エルザに知られたら……」」」

 

グレイに指摘され三人の頭にものすごい形相で睨むエルザが浮かぶ。三人は次第に血の気が引き、表情が険しいものになる。ただ一人を除いて。

 

「んなもん知るか、俺たちはあの島に行くんだ!このまま引き下がってたまるか!」

 

「ルフィ……! マスターの命令だ、引きずっても戻してやらぁ! 怪我しても文句言うなよ!?」

 

「上等だ!」

 

「ちょ、ちょっとあんた達……!」

 

ルフィとグレイはお互い戦闘態勢をとりながら睨み合う。険悪な雰囲気にルーシィは止めようとする。するとハルジオンに船を止めていた一人の船乗りが一行に近づく。

 

「魔法……あ、あんたら魔導士だったのか? もしかして島の呪いを解くために……」

 

「あぁそうだ! その呪いを解くのが俺たちの仕事だ!」

 

「行かせねーよ!」

 

ルフィの服を掴むグレイ。船乗りは少し考えるような仕草を取ると一行に背を向ける。

 

「……乗りなさい」

 

「やったー!」

 

「船ゲットー!」

 

「あいさー!」

 

船乗りの言葉に喜ぶルフィ達。グレイは表情を曇らせ、船に乗ろうとするとルフィ達の道を塞ぐ。

 

「ちょっと待て! そんな事俺が許すと……」

 

「あ、エルザ!」

 

「え!? エルザ!?」

 

「てい!」

 

「ぐえっ!?」

 

エルザに気を取られている隙にルフィはグレイの頭を思い切り殴り、意識を途絶えさせる。犯行の張本人は清々しい表情を浮かべる。

 

「ふぅ……」

 

「ふぅじゃない!」

ルフィは倒れているグレイを背負うと船に乗り込む。

 

「おっちゃん! 船出してくれ!」

 

「え? グレイも連れてくの!?」

 

「グレイが戻ったらエルザが来るかもしれないよ?」

 

「それは嫌!」

 

「うしっ! 出航だー!」

 

一行を乗せた船は目的地であるガルナ島に向けて海を走っていくのだった。

 

 

 

 

 

 

数時間が経過すると日はすっかり落ち、更に周りには濃い霧が視界を防ぐように立ち込める。しかし一行を乗せた船は迷わずまっすぐと目的地に向かうのだった。

 

「グレイのモノマネ! ……ぬわぁ! いつの間にー!」

 

「「あはは!!」」

 

「はは……うぷっ」

 

ルフィのものまねにお腹を抱えて笑うルーシィとハッピー。小さく笑うナツだったがほんの少し乗り物が揺れると気分を更に悪くし、バタッと倒れる。船の隅に縄で縛られたグレイは自分のモノマネをしたルフィを睨む。

 

「ルフィ、後で覚えとけよ……つーかおっさん! 何で船を出したんだ? いい迷惑だぜ」

 

矛先を船乗りに変えると船乗りの男は身体をこちらに向ける。

 

「俺の名はボボ……かつてあの島の住人だった」

 

「住人、()()()?」

 

「……逃げ出したんだ、あの呪いの島を」

 

「呪いの島!」

 

「はい、そこ目をキラキラしなーい」

 

「ねぇ、その呪いって?」

 

「……()()は君達にも降りかかる。島に行くと言うのはそう言う事だ。君達にその呪いが解けるかね?」

 

船乗りは着ているローブを取る。その男の片腕はとても人間とは思えない形と色をしていた。

 

「この()()の呪いを」

 

「おっさん、あんた……」

 

「の、呪いってまさかその……?」

 

「見えてきた、あれがガルナ島だ」

 

男の言葉に船の前方に目を向けるルフィ達。徐々に霧がはれると遠くに一つの島が見えてきた。

 

「ねぇ、おじさん……ってあれ?」

 

ルーシィは男に話かけようと振り向くが、そこには誰もいなかった。きょろきょろと辺りを見渡す一行。

 

「おっさん、落ちたのか!?」

 

「ど、どうしよう……!」

 

「ハッピー、どうだった?」

 

「あのおじさんいないよ!」

 

「どうなってやがる……」

 

皆で探しても見つからない男を心配するルフィ達。するとルフィの耳に何か音が聴こえてきた。

 

「なんだこの音……」

 

「音……?」

 

ルーシィも耳をすますと微かに聞こえてくる。しかも徐々にその音は大きくなっていく。聞こえる方に視線を向けると巨大な津波がこちらに向かってきていた。

 

『ぎゃあぁぁぁぁ!!??』

 

全てを飲み込まんとする大波に呆然とするルフィ達。

 

「でけー!?」

 

「ハッピー、この船持ち上げて!」

 

「無茶言わないでよ!」

 

「おぷっ……」

 

「グレイ! こいつを凍らせてくれ!」

 

「縄で縛られてるから無理に決まってんだろ!」

 

「なんで縄で縛られてんだよ!」

 

「お前が縛ったんだろうが! つか早くほどけ、死ぬわ!」

 

 

 

 

 

 

「ん……ここは?」

 

ルーシィが目覚めるとそこは砂浜だった。自分の周りには倒れているナツとハッピー、そして難破した船だった。状況整理をしているとナツが目を覚ます。

 

「着いたのか!? ガルナ島!」

 

「恐らくね、大波で海辺に押し寄せられたみたいね」

 

「あれ? ルフィとグレイは?」

 

ハッピーはキョロキョロと周りを見渡すが二人の姿が見当たらない。

 

「もしかして波に飲まれて!?」

 

「ここだよ……」

 

岩陰の方から声が聞こえるとそこには疲れきったグレイと砂浜に横になっている気絶したルフィがいた。

 

「ルフィ、グレイ!」

 

「無事だったんだ!」

 

「ったく、カナヅチのこいつ引っ張るのに苦労したぜ」

 

「ぐへぇ……」

 

やれやれと気絶しているルフィのおでこにデコピンをする。二人の無事を知ったナツ達は安堵するが、その端でルーシィは海を眺める。

 

「(それにしてもあのおじさん、一体何だったのかしら?)」

 

ルーシィは先程の船乗りの男の事が気になっていた。突然消えたあの船乗りに対して謎が深まる。そう考えていると先程まで気絶していたルフィが立ち上がる。

 

「復活! 野郎ども、行くぞー!」

 

「「おーう!」」

 

「……悩んでもしょうがないか」

 

ルフィ達はとりあえず依頼人がいる村に向かおうと足を進める。

 

「待ちな」

 

すると、座っていたグレイが服に着いている砂を落としながら立ち上がる。

 

「何だよ、ここまで来たらもう引き返せねえぞ」

 

「いや、俺も行く。お前らだけ先に二階に行くのもしゃくだし、破門になったらそれはそれでつまらねぇ……だから付き合ってやるよ、その依頼」

 

グレイの言葉に驚く三人だったが、次第とその表情は笑顔に変わる。グレイもにやっと笑みをこぼす。

 

「行こうぜ」

 

「にっしし、おう!」

 

 

 

 

 

依頼書を頼りに村に向けて歩いて数時間。目の前には巨大な門と立ち入り禁止の看板が立っている。

 

「でっけえ門だな〜」

 

「すみませーん! 開けてくださーい!」

 

ルーシィが大声で叫ぶと巨大な門の上から二人の男がにょきっと現れた。

 

「何者だ」

 

「あ、私達魔導士ギルド『妖精の尻尾』の者です! 依頼を見て来ましたー!」

 

「妖精の尻尾? 依頼を受理されたとの報告は来てないが?」

 

「何かの手違いで遅れてんだろ」

 

受理されてないと内心ドキッとしたがグレイのフォローで怪しまれずに話が進む。

 

「……全員、紋章を見せろ!」

 

そう言われルフィ達はギルドマークを見せる。

 

「おお、どうやら本物のようだ」

 

「よし、入りなさい!」

 

二人の男が頭を引っ込めると門である柵が上に上がり、中に入れるようになる。門をくぐるとそこには分厚いローブを着た人々がルフィ達の前に現れる。

 

「よくぞ来てくださった、魔導士の方々……ワシはこの村の村長です」

 

「おっさん達、そんなに着て暑くねぇのか?」

 

「ふむ……隠してもしょうがない、皆ローブを取るんじゃ」

 

男がそう言うとローブを着ていた者達は一斉にローブを脱ぎ始める。

 

「やっぱり……」

 

「うん……」

 

グレイとルーシィは村人達の姿に唾を飲む。その姿はあの船乗りの男と同じ、身体の一部が異形の物と化していた。

 

「驚かせてしまったかな? この島にいる者は皆このような呪いにかかってしまったのです」

 

「なぁ言葉を返すようだが何を根拠にそれを呪いって言ってんだ? はやり病だと考えねぇのか?」

 

「医者にも見てもらいましたがこのような病気はないと言われました……こんな姿になってしまったのは()()()()が関係しているのです」

 

「月の魔力?」

 

「元々この島は月の光を蓄積し、島全体が月のように輝く美しい島でした。しかし、何年か前に突然月の光が紫色に変わってしまったのです」

 

「紫? 白じゃなくて?」

 

「そんな月見たことねーぞ?」

 

「うん」

 

「月の光が紫に変わると私達の身体はこのようになってしまったのです」

 

「あ、皆見て!」

 

空を見ると雲で隠れていた月が現れる。その色は自分達が知っている白の月ではなく、不気味な光を放つ紫色だった。

 

「本当に紫!」

 

「これは月の魔力の呪いなのです……うっ!」

 

すると村長をはじめとする村の人々が突然うめき声を上げる。呻き声と共に村人達の身体が徐々に変わっていく。

 

「な、何!?」

 

「こいつは……!」

 

ルフィ達の目の前に人間とは思えない異形の者に変わり果てた村人がどんどんと現れる。村長も肌がすっかり青くなり、頭に小さな角を生やしている。

 

「驚かせて申し訳ない……これを呪いと言わずなんと言えばいいでしょう?」

 

「か……」

 

「「かっこいい!!」」

 

『……え?』

 

ルフィとナツの反応にきょとんとする一同。

 

「すげぇ角生えてる!」

 

「なぁ、俺たちの仲間にならねぇか?」

 

「え、えっと……?」

 

まじまじと村人達を見る二人。その頭上に鋭い拳骨が落ちる。

 

「「いでぇ!?」」

 

「少しは空気を読め!」

 

ルーシィの拳骨に落ち着きを取り戻す二人。村長は咳払いをし、話を続ける。

 

「……朝になれば皆元の姿に戻ります。しかし中には元に戻らず心まで失った者が出てきたのです。心をなくし魔物と化した者は殺す事に決めたのです」

 

「そんな……!」

 

「放っておけば皆がその魔物に襲われる。心を失った者は恐ろしく凶暴、幽閉しても牢を破壊してしまうのです」

 

「なるほど、だからこの村の柵をあんなに頑丈に作ってるのか」

 

村長は懐から一枚写真を取り出す。

 

「わしも息子を殺してしまいました……心まで悪魔になった息子を」

 

涙を流す村長の手に持っている写真に載っている男は自分達をここまで送ろうとしていたあの船乗りだった。

 

「その人……! でも昨日……」

 

「しっ」

 

それ以上言うなと指を立てるグレイ。

 

「あのおっさんが消えた理由がようやくわかったぜ。そりゃ、浮かばれねぇよな」

 

グレイの言葉に三人の脳裏に同じ言葉が思い浮かぶ。幽霊ーー。

暗い雰囲気が皆を襲うとルフィはパシッと拳を合わせる。

 

「うしっ! おっさん、俺たちが必ず解決してやる」

 

「ほ、ほんとですか……!」

 

「にっしし、任せとけ!」

 

「私達が必ず何とかしてみせます!」

 

「ありがとうございます……私達の呪いを解く方法は一つ」

 

村長は指を天にある月に向け、一呼吸する。

 

()()()()()()()()()()()()

 

 

 

 

 



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月の島の謎 封印されし悪魔

「にしても変な月だな〜」

 

「なんで紫なんだろうね?」

 

村長から小屋の窓から不気味に光る月をぼーっと眺めるルフィとハッピー。荷物を整理し終えたルーシィは二人の方に顔を向ける。

 

「ちょっとルフィ、ハッピー。はやく窓閉めてよ、呪われたらどうすんのよ」

 

「んだよ、もうちょっと見ていいじゃねぇか」

 

「そんな簡単に呪われないよ〜」

 

呪いの事を軽くみている二人にルーシィは呆れる。ふとルーシィは何かを思いつくと再び荷物を整理し始める。

 

「……もし肉や魚が食べれなくなる呪いにかかったら知らないわよ〜」

 

「ハッピー、窓全部閉めんぞ!」

 

「あいさー!」

 

ルーシィの言葉に反応し、二人は大急ぎで全ての窓を閉める。そんな二人のよそでグレイは依頼の事を考えていた。

 

「にしても参ったな」

 

「流石に月を破壊しろって言われてもねぇ……どんな魔導士でも不可能だわ」

 

「けど、できねぇじゃ妖精の尻尾の名がすたる」

 

「できねぇもんはできねぇんだよ。第一お前、どうやって月に行くか考えてんのか?」

 

「ハッピーに連れてってもらう」

 

「流石に無理だよ〜」

 

ナツの無茶振りに首を振るハッピー。ルーシィはうーんと腕を組み考える。

 

「月を壊せって言われたけど、もしかして壊さなくても呪いを解く方法がこの島にあるんじゃないかしら?」

 

「だといいがな」

 

「よっし! じゃあ探検だ!」

 

ルフィはいつのまにか手に持っている虫あみを上に掲げる。

 

「もう夜だから明日探検よ」

 

「わかった、じゃあ寝る!」

 

「おー!」

 

「あいさー!」

 

「本当にわかったんでしょうね……?」

 

ルーシィに言われるとすぐ虫あみを置き、秒で眠りに入るルフィとナツとハッピー。

 

「とりあえず考えるのは明日だ」

 

「そうね、私も寝よ……」

 

小屋の電気を消し、グレイとルーシィも眠る事にした。しかし、ルーシィの寝床は上半身裸のグレイといびきをかくルフィの間だった。

 

「って! こいつらの間でどうやって寝ろと!?」

 

がばっと起き上がるルーシィ。するとルフィは突然ルーシィの腕を掴む。ドキッとするルーシィはルフィに小声で話しかける。

 

「ね、ねぇルフィ?」

 

「ん〜肉〜……がぶっ」

 

「きゃあぁぁぁ!?」

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、出発よ!」

 

早朝、村の外に出たルーシィは張り切った様子で四人に号令をかける。

 

「ルフィ、お前顔どうした?」

 

「あ? 俺の顔になんかあんのか?」

 

「あ〜……いやなんでもない」

 

ルフィの片方の頬が誰かに平手打ちをされたのか赤く腫れている。ふと前を見ると頬を赤く染めこちら、ルフィを睨むルーシィ。そんな状況をグレイは察すると呆れたようにため息をこぼす。

 

「つか眠い」

 

「眠い〜」

 

「誰のせいで寝れなかったと思ってんのよ! ほら、行くわよ!」

 

ルフィ達は眠気がありながらも島の探検を行う。しばらく歩くとルフィの腹の虫がなる。

 

「腹減った〜……」

 

「昨日食ったじゃねぇか」

 

「けど腹減った!」

 

「ちょっとあんた達、何がいるかわからないから大声出さないでくれる? ……と申しております」

 

ルーシィは自身の星霊であるホロロギウムの中から二人に注意する。

 

「……どうしたお前?」

 

「お、いつかのカッコいい時計!」

 

「(カッコいい……?)」

 

「自分で歩けよ」

 

「だ、だって相手は呪いよ? 実体が無いものって怖いじゃない……と申しております」

 

ビクビクとルーシィが震えるとホロロギウムも震える。それを三人は首を傾げる。

 

「何が怖ぇんだよ、んなもん俺がぶっ飛ばしてやる」

 

「呪いなんか燃やせばいいだろ」

 

「それか凍らせちまえばいいんだ、ビビる事でもねぇな」

 

「バカの集まり……と申しております」

 

能天気な三人に呆れるルーシィ。するとガサガサと森がざわめく。一行は足を止めると何かが近づいてくる足音が聞こえてくる。そして一行の前に現れたのは何故か服を着た巨大なネズミだった。

 

「ちゅー!」

 

「でけぇネズミ!」

 

「こんなでかいネズミがいるんだな」

 

「感心してないで早くやっつけて! ……と申しております」

 

三人は構えるとネズミは頬を膨らませる。

 

「なんか吐く気だよ!」

 

「そんなもん俺の氷で……」

 

手に冷気を宿し氷の盾を作ろうとするとネズミは一行に大量の息を吹きかける。それを吸ったルフィ達はたちまち顔色を悪くさせる。

 

「「「臭えぇ!!?」」」

 

「ちょ、ちょっとあんた達!? と申して……ガクッ」

 

あまりの臭さに倒れるルフィ達。するとルーシィを守るホロロギウムもこの臭さに耐えきれず気絶してしまう。気絶した拍子にホロロギウムは消え、ルーシィは外に出される。

 

「え? ちょっと!? ……って臭ぁ!?」

 

「…………」

 

「おい、情けねぇぞナツ!」

 

「違うよっ、多分鼻が良すぎておいら達よりダメージがでかいんだよ!」

 

グレイは鼻を抑えながら気絶するナツに近づき背負う。

 

「しょうがねぇ! 逃げるぞ!」

 

グレイ、ルーシィ、ハッピーはネズミから全力で逃げる。しかしそんな中、ルフィは腕を組みじっとネズミを見つめる。

 

「うーん……」

 

「ちょっとルフィ! 早く逃げなさい!」

 

「ちゅー!」

 

首を傾げるルフィに襲い掛かるネズミ。するとルフィの口から涎が出てくる。

 

「ネズミって焼けば美味しかったような、じゅるる……」

 

「ちゅ!?」

 

目を輝かせ、涎を垂らすルフィにネズミは恐怖を覚える。ネズミは徐々に後ずさりをする。ルフィは持っていた虫あみを掲げる。

 

「待てぇ! 飯ー!」

 

「ちゅ〜!?」

 

虫あみを構えながら全力でネズミを追いかけるルフィ。ネズミは涙を流しながらルフィから全力で逃げていく。たちまちルフィとネズミはその場から離れていった。

 

「どんだけお腹空いてんのよ……」

 

「はぁ……まぁあいつの事は心配いらねぇだろ。俺たちはこのまま探検を続けるぞ」

 

呆れながらも探検を続けるグレイ達。しばらく進み、辿りついたのは古びた遺跡だった。

 

「広いわね」

 

「ボロボロじゃねぇか」

 

中は広く造られているが所々に大きな傷がつけられている。ルーシィは壁に描かれている壁画を見つける。

 

「ふむふむ……月の島に月の呪い、月の紋章ね。この遺跡、かなり怪しいわね」

 

「……はっ! ここどこだ? つかさっきのネズミは?」

 

「あ、ナツ起きたー」

 

「ようやく起きたか。起きたんだったらお前もこの遺跡を調べろ」

 

「何だこの床、ぼろっちいな……」

 

目覚めたばかりのナツは立ち上がるとそのまま強く地面を蹴る。

次の瞬間、地面は一気に崩れはじめナツ達の足場も崩れる。

 

『へ?』

 

一気に下に向かって落ちていくナツ達。最初は状況が読み込めないルーシィとグレイも表情が徐々に恐怖や憤怒の色に染まっていく。

 

「何でー!?」

 

「おいナツ! てめぇ何したんだ!?」

 

「知らねぇよ! 床を思い切り叩いただけだぞ!」

 

「「それが原因じゃねーか!」」

 

「すいません!?」

 

ルーシィとグレイは空中でナツの頭に拳骨を落とす。

 

「こうなったら、ハッピー!」

 

「…………」

 

「お前は何で気絶してんだ!?」

 

頭にたんこぶが出来たハッピーは何故か気絶していた。ナツ達はなすすべもなく下へ下へと落ちていく。

地面が見えるとそこには異常なデカさの草が茂っており、ナツ達はそれをクッションにする事に成功した。

 

「おい……皆大丈夫か?」

 

「なんとか……」

 

「ったく、考えもなしに行動しやがって」

 

辺りを見渡すと岩と岩の間に水晶のような綺麗な石が発光し、神秘的な光が暗い洞窟内を照らしている。

 

「ここは……遺跡の地下?」

 

「秘密の洞窟だーー!」

 

「おい、これ以上暴れんじゃねぇ!」

 

ナツは近くにあった穴に入り込み奥に進む。それを大急ぎで止めようとグレイ達も駆け出す。すると先に穴を抜けたナツは何かを見上げていた。

 

「な……なんだこれ?」

 

「あ? 何が……っ!?」

 

「何、これ?」

 

「デッケェ怪物が凍ってる!」

 

そこには氷漬けにされた悪魔のような巨人がいた。ナツ達はその光景に驚きを隠せない。そんな中グレイの顔色が突然悪くなる。

 

()()()()!?」

 

「デリオラ?」

 

「んだよ、グレイ。こいつの事知ってんのか?」

 

「ありえねぇ! こんな所にいるはずがねぇ! あいつは……あいつは!」

 

「ちょ、ちょっとグレイ落ち着いて」

 

頭を抱えて混乱するグレイを落ち着かせようとルーシィはとりあえずその場に座らせる。少し落ち着きを取り戻したグレイは呼吸を整える。

 

「ねぇ、グレイ。これは一体?」

 

「デリオラ、厄災の悪魔」

 

「厄災の……悪魔?」

 

グレイの目には困惑、そして激しい怒りの感情が伝わっている。すると遠くから足音が聞こえてくる。

 

「誰か来る! 隠れて!」

 

ナツ達はすぐさま近くにあった岩陰に身を潜める。すると氷漬けのデリオラの側から二人の男が現れる。

 

「人の声がしたのはこの辺りか」

 

「おおーん」

 

眉毛が濃い男と犬のような男がきょろきょろと辺りを見渡す。

 

「……誰もいねぇみたいだな」

 

「誰もいねーのかよ!」

 

「キレんなよ」

 

「……ユウカさん、トビーさん、悲しい事ですわ」

 

二人の男の後ろに赤い髪をした女性が近づく。ユウカとトビーと呼ばれる二人組は振り返りその人物を確認する。

 

「シェリーか」

 

「おおーん」

 

「アンジェリカが何者かの手によっていたぶられていました……」

 

「! ルフィか……」

 

グレイは先程のネズミ、アンジェリカを思い出す。自分達以外に相手に危害を加える事が出来るのはここにいないルフィしかいないと理解する。

 

「ネズミだよっ!」

 

「ネズミではありません、アンジェリカです。アンジェリカは闇の中をかける狩り人、そして愛!」

 

「強烈に痛い奴が出てきたわね」

 

「あいつら、この島の奴じゃねぇ……ニオイが違う」

 

岩陰で身を潜めていると三人は何事もなかったと元の道へ戻っていった。

 

「……行ったみたいね」

 

「とっ捕まえて色々聞き出せばいいじゃねぇか」

 

「そうだよ〜」

 

「ここはもう少し様子を見ましょ」

 

ルーシィがナツとハッピーを止めていると、グレイは氷漬けにされたデリオラを見上げ口を開く。

 

「あいつらデリオラを何の為に……つか、どうやって封印場所を見つけたんだ」

 

「封印……?」

 

「こいつは……俺に魔法を教えてくれた師匠、ウルが()()()()()封じた悪魔だ」

 

その言葉にグレイ以外の者達は驚愕する。

 

「氷の造形魔法の禁術……絶対氷結(アイスドシェル)。それはいかなる炎系の魔法でも溶けることのない氷だ。けどなんでこいつがここに……」

 

「もしかしてあいつら知らないのかも。それで何とかして氷を……」

 

「何の為だよっ!」

 

「わ、わからないよ……」

 

グレイの剣幕にルーシィは怯える。はっと我に帰ったグレイは座り込み頭を抱える。

 

「ちっ……くそ、調子がでねぇ。誰が何の為にデリオラを……」

 

「簡単な事じゃねぇか。さっきの奴らをぶん殴って聞き出すんだ」

 

「こればかりはナツに賛成ね」

 

「いや、ここで待つんだ。月が出るまで……」

 

 

 

 

 

 

 

グレイ達がデリオラを見つけて数時間後、地上では辺りは暗くなり森は闇で覆われていた。そんな暗闇の中を虫取り網を持ったルフィが駆け抜ける。

 

「くそ〜どこ行ったあのネズミ! 急にいなくなりやがって」

 

森を抜け広い場所に出たがそこには先程のネズミはいなかった。しかし諦めないとルフィは目を凝らし辺りを見渡す。するとふと紫の光が見えるとそこには光の柱が立っていた。月と同じ色をした光は不気味に森を照らす。

 

「変な光だな〜……あ!」

 

光の柱を眺めているとその近くに先程のネズミが何故か飛んでいた。

 

「あのネズミ、空にいたのか! ……あれ、ネズミって飛べたっけ? まぁいいや」

 

近くにあった大木を掴み、徐々に後ろに下がり木と距離を開ける。十分な距離に達するとルフィはにやっと笑いその手を離す。

 

「ゴムゴムの、ロケット!」

 

 

 

時を同じくして地上に出たナツ達の目の前には覆面を被った人達が呪文を唱えていた。

 

「何……あいつら?」

 

「ベリア語の呪文……月の雫(ムーン・ドリップ)ね」

 

そう説明してくれたのはルーシィの契約した星霊の一人、琴座のリラだった。

 

「月の雫?」

 

「そっか、そういう事ね……奴ら月の雫を使ってあの地下の悪魔を復活させる気よ!」

 

「そんなバカなっ! あの氷は溶けない氷なんだぞ!?」

 

「その氷を溶かすのが月の雫よ。一つに集束された月の魔力はあらゆる魔法を打ち消すの」

 

「そんな……」

 

「おそらく島の呪いの原因も月の雫だと思うわ。集束された月の魔力は人体を汚染するの。それほど強力な魔力なのよ」

 

「あいつら……!」

 

「待ってナツ! 誰か来る」

 

立ち上がろうとするナツの腕を掴み隠れさせると覆面の者達の近くに先程の三人とその後ろに仮面をつけた人が立っていた。

 

「くそ……昼起きたせいで眠い」

 

「おおーん」

 

「侵入者も見つからなかったな」

 

「本当にいたのかよ侵入者!」

 

「……」

 

「悲しい事ですわ零帝様。昼に侵入者がいたようですが取り逃がしてしまいました……こんな私では愛を語れませんね」

 

「侵入者……か」

 

「! 今の声……」

 

零帝と呼ばれる者の声にグレイは反応する。零帝と呼ばれた者は三人の前に立つ。

 

「侵入者の件だがこれ以上邪魔をされたくない……この島ははずれにある村にしか人はいない筈だ。お前達、村を消してこい」

 

「はい」

 

「おおーん!」

 

「了解」

 

「何っ!?」

 

「村の人は関係ないのに……ど、どうしよう!?」

 

ナツ達はどうにか止めようと試行錯誤する。

 

「ん? 何だあれは?」

 

すると三人のうちの一人、ユウカが空を見上げて呟く。その場にいた者はつられて空を見上げる。そこにはふらふらと飛んでいるアンジェリカの姿があった。

 

「アンジェリカ? でも何だか様子が……?」

 

シェリーは首を傾げるとアンジェリカは徐々にこちらに近づいてくる。そして祈りを捧げていた祭壇に墜落した。

 

「きゃ!? アンジェリカ!?」

 

「さ、祭壇がぁ!?」

 

「なんなんだよこれ!」

 

砂埃が舞う中驚きを隠せず慌てる覆面達。砂埃が徐々にやむとそこには気絶するアンジェリカの上に麦わら帽子の男、ルフィが立っていた。

 

「ちゅ〜……」

 

「にっしし! やっと捕まえたぞ、ネズミ!」

 

「何だこいつ……!?」

 

「ん? つか何処だここ?」

 

ルフィはようやく辺りに人がいる事に気づく。首を傾げていると殺気を放つ零帝がルフィの前に出る。

 

「貴様……何者だ」

 

「あ? お前こそ誰だよ?」

 

 

 

 



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零帝

「貴様……何者だ?」

 

仮面越しから鋭い棘のような視線がルフィを捉える。ルフィはその視線に臆する事もなく仮面の男と向き合う。

 

「俺はモンキー・D・ルフィ、妖精の尻尾の魔導士だ!」

 

「魔導士……そうかやはりあの村の奴らの仕業か」

 

魔導士と聞きどよめく信者達。その中、シェリーはルフィにビシッと指をさす。

 

「あ、あなた! 早くアンジェリカから退きなさい!」

 

「アンジェリカ? ……あ、このネズミお前のだったのか? 悪りぃ悪りぃ」

 

ルフィはすぐさまアンジェリカの上から降りるとアンジェリカを軽く叩き起こす。目覚めたアンジェリカは素早くシェリーの後ろに行き、ガクガクと震えながらルフィを見つめる。その様子を見たユウカはにやっと笑う。

 

「それにしてもこの人数を相手に随分と余裕だな」

 

「何で余裕なんだよ!」

 

「キレんなよ」

 

ユウカがトビーを抑えている様子を見てルフィは目を見開く。

 

「い、犬が二足歩行でキレてる!?」

 

「おおーん」

 

「照れんなよ」

 

キラキラとしたルフィの視線に照れるトビー。すると突然周囲に冷気が漂い始めると仮面の男が前に出る。

 

「……とにかく、魔導士に俺たちの計画の邪魔はさせん。お前達、さっさとあの村を消してこい」

 

「そうはさせるかぁ!!」

 

仮面の男の命令で移動しようとした三人の後ろから大声と共に炎が現れる。炎の中からはナツ、ルーシィ、ハッピー、グレイの姿があった。

 

「こいつら……あいつの仲間か!?」

 

「あ、お前ら! どこ行ってたんだよ」

 

「あんたが先にどっか行ったんでしょうが」

 

「んな事はどうでもいい、とりあえず良くやったルフィ」

 

グレイはゆっくりと仮面の男に近づく。

 

「リオン……てめぇ自分が何やってるのか分かってんのか?」

 

「ふふ……久しいなグレイ」

 

仮面の男は付けていた仮面を外し、露わになった鋭い両眼でグレイを見つめる。

 

「何ぃ!?」

 

「知り合い!?」

 

「何の真似だよこれは!?」

 

「村人が送り込んできた魔導士がお前だったとはな。知っててここに来たのか? それとも偶然か?」

 

「何の真似かって聞いてんだよ!」

 

怒りをあらわにするグレイは地面に氷を生やし攻撃する。しかし、リオンは片手を出すと氷が出現しグレイの氷を相殺する。

 

「あいつも氷魔法!」

 

「ここは俺一人で十分だ、行け」

 

命令を聞いた三人は素早い動きでその場を立ち去る。

 

「お前ら待ちやがれ!」

 

「ナツ!」

 

ナツはわずかな匂いを頼りにいなくなった三人を追いかける。それに気づいたリオンはナツに手を向けようとする。しかし突然伸びた腕により失敗に終わる。

 

「っ!」

 

「へへ、邪魔はさせねぇぞ」

 

「貴様……能力者か」

 

にやっと笑うルフィに身体を向けるリオン。ナツは止まらず走り続ける。

 

「あいつら任せたぞ、ナツ!」

 

「おう、任せろ! 行くぞハッピー、ルーシィ!」

 

「あいさー!」

 

「ちょ、ちょっと待ってー!?」

 

ナツと一緒に二人もこの場を去る。この場にはルフィとグレイ、リオンの三人だけになった。ルフィは拳を鳴らし、リオンを睨む。

 

「うっし! それじゃやるか」

 

「二対一……か」

 

「……ルフィ、悪い」

 

「ん? グレイ……?」

 

俯くグレイの顔を覗こうとするとドンっとグレイはルフィを押す。地面にはいつのまに氷の地面が広がっていた。

 

「どわぁぁぁ!?」

 

ルフィは高台から滑り落ち、下にある森に落ちていく。

 

「何のつもりだ? グレイ」

 

「これはウルの弟子である俺の責任だ、俺一人でケリをつける」

 

「っ……ウルの弟子、か!」

 

「ぐわっ!?」

 

腕を振るとグレイの足元から巨大な氷が造られ、グレイの身体を打ち上げる。

 

「よくそんな事が言えるなグレイ……忘れたとは言わせんぞ? ()()()()()()()()()()()

 

リオンの目には激しい怒りの感情が伝わってくる。グレイはその瞳を見て言葉を詰まらせる。

 

「っ! リオン……」

 

「お前がデリオラに挑んだからウルは死んだ!」

 

「くっ……アイスメイク、鉄槌(ハンマー)!」

 

リオンの攻撃をかわし背後に回ると氷の鉄槌を造形し、それをリオンに振り下ろす。しかしリオンからは避ける気配が全くしない。

 

(エイプ)

 

「っ!」

 

右手を上げると巨大な氷の猿が鉄槌を壊し、グレイを吹き飛ばす。

 

「お前は何も変わらないな、あの時と同じ弱い! アイスメイク、氷竜(スノードラゴン)!」

 

「うおぉ!?」

 

地面から昇る氷の竜の尻尾にグレイは地面に叩きつけられる。身体を動かせそうとも動かずにいるとリオンが側に行き、倒れるグレイを見下ろす。

 

「そのまま無様に地面に這いつくばれ。己の無力さをその身で感じていろ」

 

「ま、待て……リ、オン……」

 

静止の声も届かず、グレイはただただ遠くなる友の後ろ姿を最後に気を失った。

 

 

 

 

 

 

「っ……!」

 

気絶したグレイは目を開けると目の前には麦わら帽子があった。

 

「お、起きたか」

 

ルフィは顔を向けず、グレイが目覚めた事に気づく。何故自分はルフィに背負われているのか戸惑う。

 

「る、ルフィ……お前なんでここに?」

 

「ルーシィがいねぇと村の場所わかんねぇからここから村を見つける為に戻ったんだ」

 

「り、リオンは……」

 

「知らねぇ、俺が来た時はあの場所にお前しかいなかったぞ」

 

「そうか……ルフィ、さっきはすまなかった」

 

「いいよ、別に気にしてねぇし! あ、でも今度は俺にも戦わせろよ!」

 

にっししと笑うこちらに向けて笑顔で語るルフィは今のグレイにとっては眩しすぎた。グレイはルフィから目線をそらすとポツリポツリと口を開く。

 

「……俺は、助ける事が出来なかった。同じ弟子だった友を」

 

「弟子?」

 

グレイはルフィに自分にあった事を全て話す。この島の地下にデリオラという悪魔が封印されている事。それを自分の師であるウルが命と引き換えにして封印した事。そしてその封印を壊そうとする友であるリオンの事。

全てを話し終えたグレイは自然と涙を流す。

 

「ルフィ……俺は弱い! 自分が……情けねぇ……!」

 

目に手を当て、静かに泣くグレイ。ふとルフィは自身の足を止め、ため息をこぼす。

 

「ったく妖精の尻尾の魔導士がよ……そんな情けねぇ顔すんな!」

 

「っルフィ……」

 

「一度負けたくれぇでぐじぐじすんな。どんな時でも諦めずに走り続けるギルド、それが俺たち妖精の尻尾だろ?」

 

「……あぁ」

 

そう呟くとグレイは口元を緩め、静かに目を閉じ意識を手放す。

 

 

 

一方その頃、海では一隻の船が呪いの島ガルナ島に向けて進んでいた。舵を取るのは傷だらけの海賊の船長だった。

 

「あ、あの〜……この先は呪われた島って言われてて」

 

「構わん、船を進めろ」

 

「は、はいぃ!」

 

海賊はビクビクしながらも舵をとる。甲冑を着た赤髪の女性は先に見える島を睨む。

 

「さて……覚悟しろ、お前達」

 

 

 

 

ルフィはグレイを抱えながら走り続けるとようやく村の門が見えてくる。

 

「ふぅ〜やっと着いた!」

 

ルフィがそれを見つけると同時に村の門が開く。

 

「お、ちょうど門が開いた!」

 

ルフィはそのまま村に入ろうと森を走り抜ける。村の中に人影を見つけ、ルフィは両手を振りながら村に入る。

 

「おーい! お前らー! 大丈……」

 

ナツ達を見つけ近づくと突然地面がめり込み、誰が作ったかわからない落とし穴に落ちていく。ルフィは腕を伸ばし、穴を脱出する。

 

「誰だこんなところに落とし穴作ったのは!?」

 

「「こいつです」」

 

「あんた達も楽しそうに作ったでしょ!」

 

ナツとハッピーがルーシィを売るとルーシィはナツ達の胸ぐらを掴む。

 

「あー知らねぇ! あー知らねえ!」

 

「おいら記憶喪失になっちゃった。全然覚えてないです、はい」

 

「あ、あんた達……!」

 

ぷるぷるとこみ上げる怒りで顔を真っ赤にさせるルーシィ。しかしそんな状況ではないととりあえず怒りは内にしまうことにした。

 

「でも良かった、二人共無事みたいね」

 

「いや、グレイはさっきの仮面野郎にやられちまってこんな感じだ」

 

『雑だなおい』

 

片足を掴み、宙吊り状態でナツ達にグレイを見せるルフィに思わずその場にいたもの達がつっこむ。

 

「ていうかあの仮面野郎と一緒にいた奴らはいねぇのか?」

 

「ああ、あいつら追いかけてたら急にいなくなりやがったんだ。追いかけようとしたんだがルーシィが村が心配だって言ってな」

 

「うん……けど村を襲うって言ってたはずなのに遅いわね」

 

「う○こしてんじゃねぇのか?」

 

「ああ、う○こか。じゃあしょうがねぇな」

 

「平然と下品な事を言わないでくれる……?」

 

恥ずかしそうに顔を赤く染め、ルフィ達から少し離れるルーシィ。

 

「な、何だアレは!?」

 

村人の一人が空を指差す。そこには先程のネズミ、アンジェリカとその背中に乗る三人がいた。

 

「あ、あいつ!」

 

「何かバケツ持ってない?」

 

すると飛んでいるアンジェリカが持つバケツからゼリーのような物が落ちてくる。

 

「ゼリー?」

 

「危ねぇルーシィ!」

 

「きゃっ!?」

 

ゼリーに触れようとするルーシィをルフィは抱きとめて飛ぶ。触れようとしたゼリーが地面に落ちるとその場で茂っていた草が一瞬で溶けてしまう。

 

「ひっ!?」

 

「あれ絶対ヤベェ奴だぞ」

 

ルフィは空にいるアンジェリカ達を睨む。するとアンジェリカは先程とは違い、村に全体にゼリーをばら撒くようにバケツを振る。

 

「うわぁぁ!?」

 

「やめろぉぉ!?」

 

「助けてぇぇ!」

 

ゼリーは村の建物を溶かしていく。その光景に村人達は混乱する。

 

「は、墓だけは……!」

 

「おいじいさん、危ねぇ!」

 

村長は息子の墓を守る為墓がある方に向かう。その頭上にゼリーが飛んでくるのを見たルフィは腕を伸ばし、村長をこちらに引き寄せる。

 

「こんなのどうやって防げばいいのよ!?」

 

「ルフィ! 村の奴等を中央に集めてくれ!」

 

「おう、わかった!」

 

「ハッピー!」

 

「あいさー!」

 

ナツとハッピーはゼリーに向かって飛ぶ。

 

「右手の炎と左手の炎を合わせて……火竜の煌炎!」

 

右手と左手の炎が合わさり、強力な爆炎がゼリーに放たれる。ゼリーに命中するとゼリーを爆散させる。

 

「おお!」

 

「すげぇ!」

 

「何とかなった……けど村が」

 

ルーシィは辛そうに村の現状を把握する。家という家は全て先ほどのゼリーによって溶かされてしまった。するとアンジェリカに乗っていた三人はルフィ達の前に現れる。

 

「零帝様の敵は駆逐しなければなりません。慈悲として一瞬の苦しみだけを与えようとしたのに……どうやら大量の血を流したいそうね」

 

「あ?」

 

「村人、50……魔導士3……15分といったところか」

 

「おおーん」

 

「おいらもいるぞ! 4人だ!」

 

「お前らなんかに簡単に負けるかよ」

 

4人は戦闘態勢に入り、三人も構える。そんな中村長は三人に激怒する。

 

「よ、よくも……ボボの墓を!」

 

「村長! 危ないです!」

 

「俺たちはここから逃げましょう!」

 

「グレイさんは任せてください!」

 

「おう、任せた!」

 

村人はグレイを背負い、出来るだけ遠くに避難する。

 

「逃がしませんよ……皆殺し、そう決まっています」

 

シェリーがアンジェリカに乗るとアンジェリカは尻尾を回転させ、地面から離れるとルフィ達の真横を通り過ぎていく。

 

「あいつ、村の奴らを!」

 

「あれ、ルーシィは?」

 

「「ん?」」

 

三人はキョロキョロといなくなったルーシィを探す。もしやと思い真横を通り過ぎたアンジェリカを見つめる。

 

「何かしがみついちゃった〜!?」

 

「バカだ」

 

「うん、ありゃバカだ」

 

「バカだね」

 

涙を流しながら絶叫するルーシィに三人は呆れる。ルーシィは涙を拭くとアンジェリカの上に乗るシェリーを睨む。

 

「このぉ! 止まりなさいよ! 村の人に手出すんじゃないわよ!」

 

「おっほほ! あなた一人にこのアンジェリカは止められませんわ!」

 

「ふっふっふ……そうかしら? こちょこちょ……」

 

「ちゅ!?」

 

不敵な笑みを浮かべながらルーシィはアンジェリカの足をくすぐる。

 

「あ、アンジェリカ? きゃあぁぁぁ!?」

 

くすぐる事で平常を保てないアンジェリカはそのまま森に墜落していった。

 

「ありゃシェリーの奴キレるぞ」

 

「キレてねぇよ!」

 

「何でキレんだよ!」

 

「知らねぇよ!」

 

「知ってろよ!」

 

「「何でお前らがキレてんだよ!」」

 

ルフィとトビーがキレながら会話する光景を思わずナツとユウカが止まる。

 

「ハッピー、ルーシィが潰れてねぇか見てってくれ」

 

「うん、わかった!」

 

ナツの言葉にハッピーはその場を離れアンジェリカが墜落した方に飛んでいく。無事飛んでいくのを確認するとルフィとナツは敵と向き合う。

 

「んじゃあ俺たちは!」

 

「こいつらを!」

 

「「ぶん殴る!」」

 

ルフィはユウカを、ナツはトビーを殴りかかる。ユウカは後ろに飛びかわし、トビーは吹き飛ばされる。

 

「おぉう!」

 

「へぇ……凶暴な奴等だな。妖精の尻尾、麦わら、炎の魔導士……お前達、麦わらと火竜(サラマンダー)か」

 

「おおーん!」

 

ユウカが余裕そうにルフィ達を観察するとトビーはけろっと立ち上がる。

 

「ナツ! そっちの犬任せた! 俺は眉毛野郎をやる!」

 

「おう!」

 

ルフィはトビーをナツに任せ、ユウカに殴りかかる。

 

「波動!」

 

「っ! 何だ、この!」

 

ルフィの拳はユウカの前に現れた水色の壁のような物に防がれる。

 

「俺の魔法、波動の前ではいかなる攻撃も効かん」

 

余裕そうに語るユウカ。ルフィは今度は先程より威力を上げ、波動の壁に殴りかかる。

 

「お、すり抜けた……って痛っ!?」

 

貫通したかと思うと今度は貫いた腕に痛みが走る。

 

「波動の波に逆らうからだ、早く引かねば貴様の腕はバラバラになるぞ?」

 

「誰が、引くかぁ!」

 

「な!? こいつ!?」

 

ルフィは引くどころかむしろ身体全体を波動の壁に入り込ませる。ルフィは徐々に手を伸ばすとユウカの胸ぐらを掴む。

 

「捕まえた! ゴムゴムの……!」

 

ユウカを両手で掴み、動けなくさせるとルフィは頭を後ろに伸ばす。限界まで引き伸ばすとユウカに向けて頭を振る。

 

「鐘!」

 

「ぐおぉっ!?」

 

ユウカのおでこにルフィの頭が命中する。ごんっと鈍い音が響くと、ユウカは数メートル吹き飛ばされ気絶する。

 

「ふぅ終わった」

 

「ルフィ、終わったか?」

 

「おう……どうしたその犬?」

 

振り返ると地面にはビクビクと痙攣するトビーがいた。

 

「自分攻撃食らって勝手に痺れちまったみてぇだ」

 

「バカだな」

 

「ああ、バカだ」

 

痙攣するトビーを哀れむように見下ろすルフィ達。

 

 

 

一方その頃、ハッピーがルーシィを探していると砂浜で座り込むルーシィを見つける。

 

「良かった、ルーシィ潰れてなくて……え!?」

 

岩の陰で見えなかったがルーシィの前には赤髪の女性、エルザが立っていた。ハッピーの存在に気づくとエルザはギラッとそちらを睨む。

 

「……ハッピーか」

 

「え、エルザ……」

 

ずんずんとこちらに近づくエルザ。エルザがいる事に対する驚きと恐怖で動けないハッピー。エルザはハッピーに手を伸ばすとハッピーの悲鳴が島に響き渡る。

 

 

 



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氷の誓い

 

ここは村の跡地。アンジェリカが撒いた毒のゼリーによって建物はほとんど溶けてしまった。村人達は安全の為、その場にテントを張りその場に残っていた。そんな中、一つのテントの前には『立ち入り禁止』の印があった。

 

「……グレイは傷を癒すためテントで村人が治療中、ナツとルフィはその零帝と名乗る男を追って遺跡に向かった、そういうことだな?」

 

テントの中ではルフィ達を連れ戻す為ガルナ島に来たエルザが座っていた。その目の前にはしくしくと涙をこぼすルーシィとハッピーが縄で縛られ拘束されていた。エルザはその二人にこの島の事とルフィ達の現状を全て話させた。

 

「は、はい……」

 

「あぃ……エルザ様」

 

「(エルザ様!?)」

 

エルザが口を開こうとするとこちらに向かってくる足音が一つ。その足音はテントの前で止まる。エルザは警戒し、剣を持つ。

 

「……誰だ」

 

そしてテントの入り口が開くとそこにはルフィの姿があった。

 

「あれ、何でエルザがいるんだ?」

 

「ルフィ!」

 

「何でお前ら縄で結ばれてたんだ? 新しい遊びか!」

 

「「違うわ!」」

 

ルフィが来たことに安心するルーシィとハッピー。エルザは剣を降ろすとルフィに近づく。

 

「ルフィ、ナツが今どこにいるかわかるか?」

 

「ナツとははぐれちまったからわかんねぇ。道に迷ってたらここに来たんだ。あ、エルザも手伝ってくれよ! 一緒にあの仮面野郎を……」

 

「ナツを見つけ次第ギルドに戻るぞ、ルフィ」

 

「え?」

 

エルザの言葉に流石のルフィも固まる。固まるルフィにエルザは畳み掛ける。

 

「聞こえなかったか、ナツを見つけ次第ギルドに戻るぞ」

 

エルザの非常な言葉にルフィはむっとした表情を浮かべる。

 

「やだね!」

 

「何?」

 

きっぱりと言うルフィに、エルザは眉間にしわを寄せる。

 

「もう村の奴らの依頼を引き受けちまってるし、それにあの仮面野郎をぶん殴んねぇと!」

 

「そんなわがままが通ると思っているのか」

 

「ちょ、エルザ!?」

 

エルザは自身の持っていた剣をルフィに向ける。その目は本気の目だとルフィは気づくがルフィはニヤッと笑う。

 

「ああ、通すね」

 

「そうか」

 

次の瞬間、エルザが剣を振るとテントは一瞬で弾けた。

 

「ちょっと〜!?」

 

「テントがー!?」

 

縄で縛られている二人は縛られながらも吹き飛ばされ尻餅をつく。すぐさまエルザ達の方に視線を向けるとそこには黒い鎧を纏ったエルザとルフィが睨み合っていた。

 

「黒羽の鎧……エルザ、本気だ!」

 

「ちょ、ちょっと二人とも!?」

 

「最後の警告だ、ルフィ」

 

「俺は絶対帰んねぇぞ!」

 

「なら、動けなくするまでだ!」

 

黒羽の鎧の素早い動きでルフィに詰め寄るエルザ。

 

「ゴムゴムの……スタンプ!」

 

狙いを定めエルザに攻撃を放つ。しかし、その攻撃をエルザは剣を前に出し攻撃を弾き更に詰め寄る。

 

「この程度の力か、ルフィ!」

 

剣で攻撃してくるエルザに何とか避けるルフィ。しかし次第に剣の速度が上がり、躱すのが困難になる。

 

「くそっ!」

 

「甘いっ!」

 

「ぐぇっ!?」

 

剣ばかりに集中しているルフィの身体にエルザは蹴りを当てる。

 

「鞭!」

 

「っ!」

 

吹き飛ばされながらも足を伸ばしエルザに攻撃をする。エルザはそれに気づき上空に飛ぶ。攻撃を躱されたルフィはそのまま地面に倒れる。

 

「換装!」

 

「いっ!?」

 

鎧を変えたエルザは倒れているルフィに斬りかかる。そして無情にもルフィに赤い剣が振り下ろされ、衝撃で砂煙が舞う。

 

「ルフィ!?」

 

ルーシィは思わず声を上げ、エルザ達に近づこうとする。砂煙が晴れるとそこには剣を両手両足で白刃どりをして必死に耐えてるルフィの姿があった。

 

「あ、危ねぇ……!?」

 

「よ、良かった……」

 

ルーシィは安心したのか足の力が抜け地面に尻餅をつく。

ルフィは必死に耐えていると剣から徐々に熱が溢れる。

 

「熱ぃ!?」

 

「っ! 炎帝の鎧と炎帝の剣!」

 

「諦めろ、ルフィ」

 

高熱を宿した炎帝の剣に徐々に体を焼かれるルフィ。剣を離したら斬られる、離さなくても高熱で徐々に身体を焼かれるという状況。諦めるようにエルザはルフィに語りかける。

 

「諦める、かぁ! うぎぎ……こんなもん!」

 

ルフィは顔を真っ赤にさせて両手両足に力を込める。すると手で押さえていたところからピシッと亀裂が走る。

 

「っ! 換装!」

 

驚きながらエルザは剣をしまうと、ルフィから離れるように黒羽の鎧に換装しジャンプで遠ざかる。

 

「ふーっ! ふーっ! 熱かった……」

 

ルフィは立ち上がりながら自分の手を冷まそうと息を吐く。

 

「まさか両手両足で炎を宿す剣を受け止めるだけでなく、そこから剣を折ろうするとはな。今の状況を切り抜けたのはお前が初めてだよ」

 

「へへ……!」

 

「考えは変わらないか?」

 

「変わらねぇよ! 俺はこの島でまだやらなきゃいけねぇ事がたくさんあるんだ! 何より村の奴らも、仲間も傷つけられたんだ! 黙って引き下がれるかよ!」

 

ルフィは真剣な眼差しをエルザに向ける。そんな視線を向けられたエルザは表情を緩める。

 

「……お前らしいな、ルフィ。だが、私も考えを変えるつもりはないぞ!」

 

「ああ、上等だ!」

 

会話が終わると二人は同時に走りだす。

 

「ゴムゴムの!」

 

「黒羽……!」

 

ルフィは腕を後ろに伸ばし、エルザは剣を持つ力を強める。

 

「ブレッド!」

 

「月閃!」

 

二人の技がぶつかり合う……その時。

 

「な、何の騒ぎだ!?」

 

二人の間にひっそりと建っていたテントから治療中だったグレイが飛び出してきた。

 

「「えっ?」」

 

「ん?」

 

「「ぐ、グレイっ!?」」

 

ルーシィとハッピーは突然グレイが現れた事に目を点にする。ルフィとエルザも突然の事で技を止める事は出来ない。二人の技が徐々に真ん中にいるグレイに近づき……。

 

 

 

「ぎゃあぁぁぁぁぁ!!??」

 

 

 

 

 

「はっはっは! 悪りぃグレイ! はっはっは!」

 

「いつまで笑ってんだクソゴム野郎! ところで何でエルザがここにいるんだよ……」

 

腹を抱えて笑うルフィの胸ぐらを掴み怒りながらエルザがここにいる訳を聞く。ボロボロとグレイを見て思わずため息をこぼすエルザ。

 

「私はお前達を連れ戻しにマスターから命令されてな。お前もそうだったろ、グレイ?」

 

「うぐっ……」

 

ジト目で言い放つエルザにグレイは思わず視線を外す。

 

「……はぁ」

 

再びため息をこぼすと持っていた剣でルーシィとハッピーの縄を斬る。

 

「え、エルザ?」

 

「色々とありすぎて頭が痛い……まずはこの仕事を終わらせるとしよう」

 

『エルザ!』

 

エルザが仲間になったと喜ぶルフィ達。そんなルフィ達をギロッと睨みつける。

 

「勘違いするな、ギルドに戻ったら全員罰は受けてもらうからな。 さて……まずはナツと合流がしたいが」

 

すると会話を遮るように外から爆音が聞こえてきた。

 

「何この音? 外から?」

 

外に出て辺りを見渡すと島の中央にある遺跡が傾いて見える。

 

「ん? 遺跡が傾いてる?」

 

「何で傾いてんだ?」

 

ルーシィとルフィは思わず首を傾げながら遺跡を眺める。グレイは誰の仕業か何故かすぐわかったのかため息をこぼす。

 

「ナツの仕業だろうな、恐らく月の魔力を地下に当たらないよう遺跡そのものを傾けたんだ。頭が良いのか、ただのバカなのかわからねぇな」

 

「それがナツです!」

 

「だな! うっし、野郎共行くぞー!」

 

ルフィ達はデリオラが眠る遺跡に向かって走るのであった。

 

 

 

 

 

 

 

遺跡に向かって走る一行。ふかい森の中を走り抜けるとエルザは静止するようにルフィ達の前に手を出す。

 

「待て、誰かいるぞ」

 

一行は警戒すると森の奥から不気味な仮面を着けた集団がぞろぞろと現れた。

 

「見つけたぞ、妖精の尻尾!」

 

「仮面がいっぱい!」

 

「仮面野郎はこんな中にいるのか!」

 

「明らかに仮面違ぇだろ!」

 

仮面を着けた一人が魔法で攻撃をする。それをエルザは軽々と躱し、剣で斬りつける。

 

「ぐわっ!?」

 

「エルザ!」

 

「行け、ルフィ、グレイ。決着をつけるのだろ?」

 

「っ……あぁ、すまねぇ!」

 

「ありがとな、エルザ! じゃあそれなら、よっと!」

 

ルフィは近くにある木に片手を掴み、もう片方の手でグレイを掴む。

 

「ん?」

 

きょとんとするグレイを横にルフィは勢いよく後ろに下がり、掴んでいた木と距離を離す。その光景にグレイは寒気を感じる。

 

「ゴムゴムの……!」

 

「お、おいルフィこのパターンって……」

 

「ロケット!」

 

「やっぱりかぁぁぁ!?」

 

勢いよく飛んだ二人は空を駆ける。仮面の集団は呆然とその様子を眺めていた。絶叫しながら飛んでいると徐々に遺跡に近づく。そして二人は勢いよく遺跡に突っ込む。

 

「よし、着いた!」

 

「麦わら!? グレイ!」

 

「ルフィ! グレイ!」

 

着いた先にはナツと仮面を外したリオンの姿があった。

 

「お、ナツだ! 無事だったんだな! それと仮面野郎、今度こそぶん殴ってやる!」

 

「お、お前な……少しは加減ていうのをな……!」

 

「あ、悪りぃ」

 

たんこぶを生やしながらルフィの胸ぐらを掴むグレイ。

 

「ルフィ、今俺がこいつと戦ってんだ! 横取りはずりぃぞ!」

 

「いや、俺が戦う!」

 

ルフィとナツが揉めているとグレイはリオンを睨みつけ、二人の前に立つ。

 

「……ルフィ、ナツ。悪いがこいつとのケジメは俺につけさせてくれねぇか」

 

「グレイ?」

 

「お前、一度負けたんだろ?」

 

「あぁ……けど次はねぇからよ、頼む」

 

グレイの気迫に黙る二人。そんな中、リオンは笑みを浮かべる。

 

「……大した自身だな」

 

「10年前、ウルが死んだのは俺のせいだ。けどな、関係のない村を傷つけ、仲間を傷つけ、ウルの氷を溶かそうとするお前は許すわけにはいかねぇ。共に罰を受けるんだ、リオン!」

 

会話を切るとグレイは両腕を前に重ねる。その構えを見てリオンは目を見開く。

 

「そ、その構えは……絶対氷結(アイスドシェル)!?」

 

「絶対氷結って……あの氷の?」

 

「グレイ、お前……!」

 

「貴様、血迷ったか!?」

 

「今すぐ島の村人達を呪いを解け、そしてこの島から出て行け。これはお前に与える最後のチャンスだ」

 

グレイから強大な魔力が溢れる。真剣な眼差しでリオンを睨む。リオンは驚愕の表情を浮かべていたが徐々にそれは笑みに変わる。

 

「は、はは! 所詮脅し! お前に出来るはずがない!」

 

リオンは手を前に出し、グレイに攻撃しようとする。しかし、グレイから溢れる魔力が更に強まり、リオンを軽く吹き飛ばす。

 

「ほ、本気なのか!?」

 

「……さよならだ、リオン。絶対(アイスド)ーー!」

 

グレイは魔力を一点に集中する。グレイは目を見開き、魔法を放とうとする。しかし、グレイの前に突き出した両手が突然掴まれ、無理やり両手を下に降ろされる。グレイは両手を降ろした人物に思わず視線を向ける。

 

「る、ルフィ」

 

「お前それ、使ったら死ぬって言ってたじゃねぇか……!」

 

「っ……!」

 

腕を掴む力が強まり顔を歪ませるグレイ。ルフィは怒りが混じった視線をグレイにぶつけるとグレイは一瞬臆するがすぐさまルフィの胸ぐらを掴む。

 

「あいつとの決着は俺がつけなきゃならねぇんだよ! 死ぬ覚悟だって出来てる! 俺がここでこいつを止めなきゃウルに……っ!?」

 

そこまで言うとルフィはグレイの額に思い切り頭突きをする。

 

「な、何しやがるっ!?」

 

「死ぬことは恩返しじゃねぇぞ! そんなつもりで助けたんじゃねえ! 生かしてもらって死ぬなんて弱ぇ奴のやる事だ!」

 

「っ!」

 

ルフィの言葉にグレイは脳裏に師匠であるウルの最後を思い出す。絶望的な状況の中、涙を流すグレイにウルは振り返り笑顔を浮かべる。

それはまるで()()()と伝えているかのように。

グレイはルフィの胸ぐら掴んでいた手を離すと、ルフィはグレイに背を向け、リオンを睨む。

 

「誰も死なねぇし死なせねぇ。全員生きてギルドに帰る、だろ?」

 

「ルフィ……あぁ、すまねぇ」

 

グレイは罪悪感に軽く顔を俯かせる。するとパシッとナツはグレイの頭は叩く。

 

「何勝手な事しようとしてんだ、あいつを倒すのは俺だぞ」

 

「ナツ……」

 

「死ぬ事が決着じゃねぇだろ。だからもう勝手に死のうとすんな、グレイ」

 

「……あぁ」

 

ルフィとナツ。二人の後ろ姿を見たグレイは安心したのか、顔を緩め二人に並ぶ。

 

「けど、リオンを倒すのは俺だ。それは変えねぇ」

 

「何だとてめぇ!?」

 

「なんか文句あんのかよ、クソ炎」

 

「にっしし、こうじゃねぇとな」

 

二人が喧嘩をしていると突然、遺跡が揺れ始める。

 

「な、何だ!?」

 

「お取り込み中失礼」

 

「……ザルティか」

 

すると仮面をつけた知らない老人が部屋に入る。

 

「何だあのおっさん?」

 

「ほっほ、そろそろ日が落ちる頃。なのでこの傾いた遺跡を元に戻しておきましたぞ」

 

「はぁ!?」

 

ザルティの言葉に目を見開くナツ。

 

「どーやって戻した!?」

 

「ほほ、さーてと月の雫の儀式でも始めに行きますかな。トビー殿、行きますぞ」

 

「おおーん!」

 

トビーを連れたザルティは急ぎ足で部屋を出て行く。

 

「無視してんじゃねぇ! てめぇら!」

 

「待てお前らー!」

 

「ナツ! ルフィ!」

 

「俺とルフィはあいつら捕まえてぶん殴る!」

 

「その仮面野郎は任せたぞグレイ!」

 

ルフィとナツは逃げた二人を追いかけながらグレイに叫ぶ。グレイは初めはきょとんとした表情を浮かべるが、すぐさま頬を緩めるとリオンを睨む。

 

「……あぁ任せとけ!」

 

「別れの挨拶は済ましたか?」

 

「別れなんかじゃねぇよ、俺はあいつらと一緒に帰るんだ。けど、その前にリオン! テメェを止める!」

 

手のひらに拳を乗せ、魔力を高めるグレイ。兄弟子であるリオンを睨むその目に一切の迷いなし。今ここに決着をつけるため、仲間との誓いを胸にグレイは走る。

 

 

 

 



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決着

「「待てぇ!!」」

 

「ほほっ!」

 

「おおーん!」

 

部屋を出た二人を追いかける為、遺跡内を全力疾走するルフィとナツ。徐々に距離を詰めているとザルティは小声でトビーに話しかける。

 

「では、あの桃髪の少年は任せましたぞ」

 

「任せんなよ!」

 

トビーを無視し、ザルティはルフィ達と向き合うとルフィに向かって手をかざす。するとルフィの足元にある地面が突如腐敗し、崩れ始める。

 

「うわっ!?」

 

「ルフィ!? 落とし穴か!」

 

ナツはすぐさまルフィに向かって手を伸ばす。しかし、その瞬間地面は一瞬にして修復し、元通りになってしまう。

 

「何で閉じんだー!? 何しやがった仮面野郎!」

 

ナツは怒りをあらわにザルティ達を睨む。しかしそこにはザルティはおらずトビーだけがその場に立っていた。

 

「ど、どこ行きやがった!? おい、犬!」

 

「おおん」

 

怒鳴るナツに向かって舌を出し挑発するトビー。怒りを更に煽られ、ナツの顔から炎が溢れる。

 

「じゃあな〜」

 

「待てや犬!!」

 

トビーを捕まえる為、ナツは再び全力疾走で遺跡を走る。

 

 

 

 

 

「ここどこだ?」

 

ルフィはこの遺跡の最深部である地下まで落ちていた。あたりを見渡しているとそこには巨大な悪魔が氷の中に閉じ込められていた。その迫力にルフィは呆然とその悪魔を見上げる。

 

「な、何だこいつ……!?」

 

「デリオラ……ゼレフ書の悪魔が一つ、厄災の悪魔」

 

声が聞こえ振り返るとそこには大きな水晶に座るザルティの姿があった。

 

「あ、変な仮面のじじぃ!」

 

「ザルティです。私はね……このデリオラを復活させねばなりません。それが私の望みなのです」

 

「……そっか、じゃあまずはお前をぶっ飛ばせばいいんだな」

 

「ほほ、大した自信ですねぇ」

 

嘲笑うザルティにルフィは腕を伸ばしながら走り、ザルティに飛びかかる。

 

「ゴムゴムの……鎌!」

 

横に腕を伸ばしながら突進するルフィ。しかしザルティはこれを難なくかわす。ルフィは技をかわされると体制を変え、壁に足をつける。

 

「からの……ロケット!」

 

反動をつけ、速度を身につけた突進攻撃。それを見たザルティは両手を掲げると近くにあった石を一つに集め、厚みのある岩の壁を作る。

 

「固まった!?」

 

そのまま岩の壁に激突するルフィ。岩は崩れ、辺りに残骸が散らばる。激突したルフィにはあまりダメージを受けておらず、無傷のまま宙を浮くザルティを睨む。

 

「変な魔法を使うな、お前」

 

「ほほ、驚きましたかな? これが私の魔法、物体の時を操る『時のアーク』の力です。そしてそれを操ることもできる」

 

すると砕けた岩石の残骸が宙に浮き始める。それは一斉にルフィに襲いかかってきた。

 

「ゴムゴムの……」

 

ルフィはその場で拳を連続で突き出し始めた。それは徐々にスピードをつけ、腕が何本にも見える程になっていた。

 

銃乱打(ガトリング)!」

 

無数に放たれる拳は残骸を一つ一つ砕き割る。ザルティは感心したような笑みを浮かべる。

 

「ほほう、流石は能力者ですね。一筋縄ではいきませんか」

 

ルフィとザルティ。両者が睨み合う中、デリオラの頭上に謎の光が現れる。

 

「ん? 何だあの光?」

 

ルフィは突如現れた光を見つめる。するとその光が氷に当たると、当たった場所から徐々に氷が溶けていく。

 

「な、なんか氷溶けてんぞ!? おい、何しやがった!」

 

「月の魔力は既に満ちているのです……。大勢ではなく、誰か一人でもいれば月の雫は発動する。さてさて上にいる貴方の仲間達はこの儀式を止めることが出来るでしょうかね?」

 

勝ち誇った様子のザルティ。するとルフィもにやっと笑みを浮かべる。

 

「あいつらなら止めるさ、絶対な!」

 

「ほほ、随分と信頼してるんですね? まぁやれるものならやってほしいですね!」

 

ザルティは手に持っていた水晶を真っ直ぐ、ルフィに向かって飛ばす。

 

「こんなもんっ!」

 

ルフィは拳で水晶を破壊する。そのままザルティに向かって走るルフィにザルティはにやっと笑う。

 

「お忘れかな? 私の時のアークを」

 

すると破壊された水晶が徐々に元通りの姿に戻る。戻った水晶はそしてルフィの横腹に直撃する。

 

「ぐえっ!?」

 

体制を崩したルフィは地面に転がり、そのまま壁に激突する。ルフィは頭を抑えながらザルティを睨む。

 

「くそっ……鬱陶しいな、あの玉! 壊したらまた戻っちまう」

 

ザルティを守るかのように周りを飛び回る水晶。壊しても再生し、壊さなくても攻撃される状況に顔が歪むルフィ。

 

「ほっほ、この程度ですかな?」

 

「うるせぇ! 行くぞっ!」

 

立ち上がったルフィは再度ザルティに突進する。

 

「何度やっても無駄ですよ。私は過去だけでなく未来も操れる」

 

ザルティは水晶に手をかざすと水晶は先程よりも速く動き始める。

 

「速ぇ!?」

 

水晶の速さに戸惑いながらも必死に防御するルフィ。身体中に水晶が命中し、防戦するしかない状況。そして水晶はルフィの顔面に向かって飛んでいく。

 

「このぉ!」

 

ルフィは水晶を何とかかわすと、そのままザルティに向かって飛びかかる。

 

「ほっほっほ! 無駄です!」

 

ザルティはすぐさま水晶を手元に戻し、正面から水晶をルフィの腹部に当てる。ザルティは追撃しようと水晶に手をかざそうとすると急に足場が悪くなる。

 

「な、なんで揺れ……!?」

 

ザルティは自分が乗っている大きな水晶を見つめる。その水晶は両手でがっしりと掴まれていた。

 

「へへ、捕まえた!」

 

「なっ!? まさかあの時に……!?」

 

腹部に水晶が命中した際、ルフィは手を伸ばしザルティの足場である水晶を掴んでいたのだ。

 

「くらえっ!」

 

「ぐっ!?」

 

ルフィは巨大水晶をザルティにぶつける。当たる瞬間に防御していたザルティは大きなダメージは受けなかったが、無防備なその身を宙に浮かせる。ルフィは無防備となったザルティに今度は水晶を思い切り投げる。

 

「ま、まずい! 時のアーク!」

 

回避しようと時のアークを使い、巨大水晶を止めるザルティ。意識を水晶に向けた瞬間、ルフィはぐるぐるとひねった両足でザルティの身体をがっちりと固定する。

 

「し、しまっ……!?」

 

「これで終わりだ! ゴムゴムの……っ!」

 

身体をひねり、回転しながら両足で固定しているザルティを持ち上げる。ひねった両足は高速で回転し、それに合わせザルティの身体も回転する。

 

「め、目が回っ……」

 

「……大槌!」

 

「きゃあぁぁぁぁ!!??」

 

ザルティを掴んだ両足を地面に思い切り叩きつける。ザルティは上半身が地面にめり込んでいる状態になっていた。

 

「うっし、終わった! ……そうだ、光は!」

 

ルフィは麦わら帽子を被り直し、氷漬けのデリオラに視線を向ける。デリオラの上には先程の光は差し込んでおらず、氷は溶けずに残っていた。

 

「あ、あぶねぇ……。やったんだな、あいつら」

 

ナツ達が儀式を止めてくれたのだとルフィは笑顔を浮かべる。

その時、デリオラを包む氷にヒビが入る。

 

「っ!?」

 

氷はヒビから徐々に崩れ始め、デリオラの顔を覆う氷が崩れる。

 

【グオォォォォォォ!!!!】

 

「う、うるせぇ!」

 

それは厄災の咆哮とも言えるおぞましい雄叫びに思わず耳を塞ぐルフィ。氷は徐々に崩れ、デリオラを纏う氷が全て崩れ落ちてしまった。

 

「改めて見るとデケェ!」

 

「ルフィ!」

 

振り返ると傷だらけではあるが、地下の入り口のようなところにグレイが立っていた。

 

「グレイ!」

 

「はぁ、はぁ……デリオラ……ウル……」

 

再びデリオラと対面するグレイ。ふとデリオラの近くにある氷を見つけ、唇を噛みしめる。

 

「はは……やっと会えたな、デリオラ」

 

「! リオン、お前……」

 

グレイの背後には傷だらけになったリオンが立っていた。驚くグレイをよそにリオンは静かにデリオラに近づく。

 

「ウルが唯一勝てなかった怪物……。今俺がお前を倒し……俺はウル、アンタを超えるっ!」

 

リオンはグレイとの戦いで魔力を消費したのにも関わらず、デリオラに攻撃を仕掛けようとする。それを見たグレイはリオンの背後に近づき、首に一撃を入れる。

 

「がっ!?」

 

「もういい、リオン。お前はもう休め」

 

力なく地面に倒れるリオンの前に再びグレイが立つ。

 

「や、やめろグレイ! お前では奴には勝てん! 俺が……俺ならあのデリオラを……!」

 

「やってみなきゃ、わからねぇだろっ!」

 

「っ!」

 

両手を前に出そうとする構えにリオンは一早く気づく。

あれは絶対氷結の構えーー!

リオンはグレイを止めようと声を上げようとする。

すると、そのグレイの目の前に突然ルフィが立つ。

 

「ルフィ!?」

 

「こいつは俺がやる」

 

「ばっ……!? どけ、ルフィ! このまま戦ったらお前がっ!」

 

グレイはルフィに退くように叫ぶ。その声は恐怖からなのか少し震えていた。誰かを失う事への恐怖がグレイに襲いかかってきたのだ。するとグレイの前に立つルフィは静かに振り返る。

 

「心配すんな、俺は死なねぇ」

 

「っ! ウル……っ」

 

笑顔で言い放つルフィの後ろ姿が師匠であるウルと重なる。グレイは自然と両手を下に降ろし、その後ろ姿を呆然と眺める。

 

「俺たちは諦めねぇ!」

 

ルフィは拳を振り、デリオラを迎え撃とうとする。しかし、突然デリオラの動きが止まる。

 

「えっ……!?」

 

「何だ……?」

 

動揺するルフィ達。するとデリオラの身体が腕から徐々に崩れ始めていく。

 

「デリオラが……崩れ、て」

 

「デリオラはすでに()()()()()……?」

 

デリオラの身体が徐々に崩れていく光景にリオンは下唇を噛みしめる。

 

「10年間……ウルの氷の中で徐々に命を奪われ……俺たちが見ているのはその最期の瞬間、という事か……!」

 

「……すげぇな、お前らの師匠」

 

ルフィも全てではないが理解した。グレイとリオンの師匠は命をかけて厄災の悪魔であるデリオラを倒した事に。

 

「敵わん……俺には、ウルを超えられないっ!」

 

「…………」

 

ウルの強さに涙を流すリオン。そんな中、呆然と崩壊するデリオラを見つめるグレイ。その視線の端に氷が溶け、水が流れていた。グレイは水に近づき、手で掬う。

 

「ウル……」

 

10年間……ウルはその時間を使い(デリオラ)を永久に封じこめたのだ。

水を掴んだ手を目元に当てる。そこから一筋の雫が流れる。

 

「ありがとう、ございます……! 師匠っ!」

 

流れる雫が地面に落ち、因縁と共に厄災の悪魔デリオラは消滅した。

人知れず役目を終えた氷は徐々に溶け始め、母なる海へと帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「終わったー!」

 

「よっしゃあ!」

 

「あいさー!」

 

デリオラが消滅した後、遺跡を出たルフィ達は合流したナツ達と事件を解決した事を喜ぶ。

 

「ほんと、一時はどうなるかと思った」

 

「これで俺たち、S級クエスト達成だ!」

 

「やったー!」

 

「これで私達も2階に行けるかも!」

 

「コホン…………」

 

『あっ……』

 

エルザの視線に気づいたルフィ達は一気にテンションが下がっていき、自然と顔が青くなってきた。

 

「そういえばお仕置きがあった!?」

 

「ぎゃあぁぁぁ!?」

 

「はぁ……その前にやる事があるだろ」

 

「やる事?」

 

「悪魔にされた村人達を救う、今回の仕事の本当の目的を」

 

エルザの言葉にルフィ達は驚く。

 

「S級クエストは終わっていない」

 

「で、でもデリオラは死んで村の呪いだってこれで……」

 

「いや、あの呪いの現象はデリオラの影響ではない。恐らく月の雫の膨大な魔力が島の人達に影響を与えたのだろ。デリオラが崩壊したとて事態が改善することはない」

 

「そ、そんな〜」

 

厄災の悪魔であるデリオラが今回と関係ないと言われ、一気に力が抜けるルーシィ。

 

「よし、じゃあ皆で治しに行くか!」

 

「治すって、どうやってだよ?」

 

「知らね」

 

「お前なぁ……そういえばお前は何か知らねぇのか、リオン」

 

グレイは岩にもたれかかっているリオンに声を掛ける。呼ばれたリオンはため息を一つ吐く。

 

「……俺は知らんぞ」

 

「何ぃ!?」

 

「何だとぉ!?」

 

「だって、あんたが知らなかったら他にどうやって呪いを……」

 

「3年前、この島に来た時村が存在していたことは知っていた。しかし俺たちは島の奴らに干渉はしなかった。無論、向こうからもな」

 

「3年間一度もか?」

 

「遺跡から毎晩のように月の雫の光が降りていたはずでしょう? ここに来ないなんておかしいわ。それに月の雫による人体への影響、これにも疑問が残るわ」

 

「んだよ、今更俺達のせいじゃねぇって言いてぇのか?」

 

「俺達も3年間、同じ光を浴びていたんだぞ」

 

リオンの言葉に確かにと納得する一同。

 

「気をつけな、奴らは何か隠しているぞ」

 

「何かって?」

 

「そこまでは知らん、後はギルドの仕事だろ」

 

「そっか! 教えてくれてありがとな、仮面」

 

「リオンだ!」

 

「……とりあえず村に向かおう」

 

何か考えがあるのか、エルザは一同に村に戻るように言う。その場から立ち去ろうとする一行。そんな中、グレイは立ち止まり、リオンに顔を向ける。

 

「そうだ、リオン。一つお前に言いてぇことがある」

 

「……何だ?」

 

「お前も、どっかのギルドに入れよ」

 

「っ!」

 

グレイの言葉に目を見開くリオン。

 

「案外悪くねぇぞ。じゃあな」

 

笑みを浮かべた後、エルザ達を追いかけその場を立ち去るグレイ。一人になったリオンは自然と空を眺める。

 

「……ギルド、か」

 

 

 

 

「な、何これ!?」

 

村の跡地に着いた一行は目の前の光景に驚愕する。

 

「村が……」

 

「戻ってる!?」

 

毒毒ゼリーで壊滅した村が何事もなかったかのように綺麗に元通りになっていたのだ。

 

「どうなってんだ? まるで時間が戻ったみてーだ!」

 

「時間……あ」

 

ルフィは地下で戦ったザルティを思い出す。

 

「あの変な仮面か?」

 

「ルフィ、心当たりあるの?」

 

「確か地下で戦った奴が……」

 

「皆様ー!」

 

ルフィの声を遮るほどの大声で村長ボボがこちらに近づいてきた。

 

「村を直してくださったのはあなた方ですかな? それについては感謝しております……しかし、いつになったら月を壊してくれるんですか! ほがー!」

 

「ひぇ〜!?」

 

「月を壊すのは容易い」

 

「おい、今しれっととんでもねぇ事言ったぞ」

 

「エルザすげー!」

 

「あい!」

 

「しかし、その前に確認したいことがある。村の者達を集めてくれないか?」

 

「ほ、ほが……」

 

村長はエルザの言葉に従い、すぐさま村人達を村の中心に集める。集まった事を確認したエルザは一歩前に出る。

 

「まずは整理だ。お前達は紫の月が出てからそのような姿になってしまった。間違いないか?」

 

「は、はぁ……正確にはあの月が出ている間だけこの姿に」

 

「それは3年前からになる。しかしこの島では3年間毎日月の雫が行われていた」

 

エルザは考えながら腕を組み、辺りを歩き廻る。

 

「遺跡には一筋の光が毎日見えていたはず……つまり、きゃあ!」

 

突然説明をしていたエルザが消え、その場にいる者達はぎょっとする。

 

「エルザが消えた!」

 

「落とし穴まで復活してたのか……」

 

「きゃ、きゃあって言ったぞ……」

 

「あれ、あの位置たしかルーシィの」

 

「私のせいじゃない、私のせいじゃない!」

 

少し経つと何事もなかったかのようにエルザは落とし穴から上がる。頭にバナナの皮を乗せながら。

 

「つまり、この島で一番怪しいところではないか」

 

「な、何事もなかったように再開したぞ(バナナの皮……)」

 

「たくましい……(気づいてないのかな?)」

 

「え、エルザ……」

 

「(ダメだ、言ったら殺される)」

 

村人達やルーシィ達はエルザの頭の上にある物に気づかぬフリをする。

……この二人を除いて。

 

「ははは! エルザ、お前っ!」

 

「はっはっはっ! エルザ、頭にバナナの皮ついてんぞ! おもしれー!」

 

『(おいぃ!!??)』

 

「…………」

 

エルザは静かに頭にあるバナナの皮を取る。しばらくバナナの皮を眺めているとエルザはルフィとナツに近づく。その後の光景を見ていたルーシィはエルザを怒らせてはならないと心の中で誓った。

 

「ばい……黙ってまーず……」

 

「ずみまぜん……」

 

「「「……」」」

 

「……何故調査しなかったのだ?」

 

顔面がボロボロの二人をよそにエルザは村長に問いかける。

 

「そ、それが私達にもわからんのです。あの遺跡を調査する為に皆は慣れない武器を持ち、遺跡に向かいました。しかし、近づけなかったのです。歩いても歩いてもいつのまにか村の門の前。我々は遺跡に近づけなかったのです」

 

「近づけない?」

 

「でもおいら達普通に行けたよ?」

 

「ここから一直線だからな」

 

「ほんとなんだ! 何度も遺跡に向かおうとしたんだ!」

 

「けど、誰も近づけずに……」

 

「……やはり」

 

エルザは疑問に思っていた事が確信に変わる。

 

「ルフィ、ナツ」

 

「ん?」

 

「なんだよ?」

 

「これから月を破壊する、協力してくれ」

 

「「「何ぃぃぃぃ!?」」」

 

「おー! やるやる!」

 

「月壊すのか! 燃えてきたー!」

 

エルザの言葉に驚愕する一同と興奮する二人。どよめく中、エルザは魔法でゴツい鎧に換装する。

 

「方法としてはこうだ。

まず私は投擲力を上げる“巨人の鎧” 、闇を退ける槍“破邪の槍” に換装する。次にナツ、私が投げると同時に後ろから槍を殴れ。しかしこれではまだ不安定だ。だから最後にルフィ、飛んでいる槍に接近し槍を殴り更に火力を上げる。これだけすれば月までも届くだろう」

 

「うっし、いっちょやるか!」

 

「おう! いつでもいいぜ、エルザ!」

 

「うむ……では、行くぞ!」

 

言葉と共にエルザの手に一本の槍が現れる。エルザはそれを掴むと、投擲する為槍をかざす。

 

「今だ、ナツ!」

 

「火竜の鉄拳!」

 

ナツはエルザの持つ槍を後ろから殴る。それと同時にエルザは槍を投擲する。炎でブーストした槍は月にめがけ飛んでいく。

 

「よし、後は頼むぞルフィ!」

 

「おう! ゴムゴムの……ロケット!」

 

近くにある高台に手をかけ、槍に向かって勢いよく飛ぶルフィ。飛びながら体制を変え、腕を後ろに伸ばす。

 

「からの、ゴムゴムの……バズーカ!」

 

飛んでいる槍に更にブーストをかける。槍は速度を増し、凄まじい速度で月に近づく。

 

「届けぇぇぇ!」

 

槍はやがてどんどん遠くなり……そして、空にガラスのようなひびが入る。

 

『うそぉぉぉぉ!?』

 

「おおー! すげぇ!」

 

皆は口をあんぐりと開け、徐々にひびが広がる空を見上げる。そしてガラスが割れたような音を立てながら空が割れた。

 

「空が割れたっ!?」

 

「でも月が……!」

 

空には紫ではなく元通りの白い月が浮かんでいた。ルフィ達は首を傾げているとエルザが近づく。

 

「あれがこの島の呪いの正体だ。紫色の月はこの島を包む膜のようなものだ」

 

「膜?」

 

エルザの説明に耳を貸す一同。

あの月は『月の雫』の影響で出来た膜らしい。膜がある為、島の中から見上げる空は紫色に見えるのだ。

説明を聞いたルーシィはエルザに問いかける。

 

「でも……皆姿が戻っていないよ?」

 

ルーシィの言う通り、空の膜を壊したので村人達の呪いは解けるはずなのだ。しかし、ルフィ達の前にいる村人達は一人も姿が戻らず悪魔のままだった。

 

「いや、これでいいんだ。月の雫の影響は彼らの姿ではなく、彼らの記憶だったのだから」

 

「記憶?」

 

()()()()()()()()()()()()()()……という間違った記憶だ」

 

「ま、まさか……?」

 

「嘘だろ……?」

 

まさか……? とグレイとルーシィは冷や汗をかきながら顔を合わせる。

 

「彼らは元々()()だったのだ」

 

「何ぃー!?」

 

「お前ら本当に悪魔だったのか!?」

 

「う、うむ……まだ記憶が曖昧ですが……」

 

衝撃の事実に口を閉ざす事が出来ないルフィ達。村人達の記憶が徐々に蘇る中、一つの足音が近づいてくる。

 

「やはり君達に任せてよかった」

 

振り返るとそこには突然姿を消した船乗りの男が立っていた。

 

「きゃあぁぁ!? 幽霊!?」

 

「船にいたおっさん!」

 

「生きてたのか!? け、けどあん時船の上からいなくなって……」

 

「すまない、ほんとの事を言えなくて。俺は怖かったんだ。一人だけ記憶が戻ったと思ったら俺以外の皆は自分を人間だと思い込んでいてよ。それが怖くて……」

 

「ボボーーっ!」

 

すると涙を流しながら村長はボボに抱きつく。

 

「よ、よがっだ〜生きでて〜っ!」

 

「正気に戻って良かったよ、親父」

 

記憶が蘇り、悪魔である事を完全に思い出した村人達は翼で空を飛び、喜びを露わにする。

 

「にっしし、おっさん達嬉しそうだな」

 

「だな」

 

「あい!」

 

本当の月の光をバックに飛ぶ彼らの姿にルフィ達は惹かれる。笑顔を浮かべ喜び合う彼らは悪魔ではなく、天使のように見えた。

 

「今夜は宴じゃー! 悪魔の宴じゃー!」

 

「何か響きがすごいわね……」

 

「あい」

 

「よっしゃあ! 宴だー!」

 

その後、村中を上げての悪魔の宴は朝日が昇るまでつづいたのだった。

 

 

 

 

 

 

 



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帰還、新たな戦い

 

悪魔の宴から一夜が明け、翌日の朝。

 

「うーん……傷、残ってるわね」

 

グレイの額にある深い傷跡を覗き込みながら言うルーシィ。

 

「別にかまわねーよ、傷なんてどこに増えようが構わねぇ。目に見える方はな」

 

「おー……いい事言うじゃん」

 

素直にグレイの言葉に感心するルーシィ。そんな二人のもとに大量の肉を持ったルフィが近づく。

 

「傷できたのかグレイ、俺の肉やるから早く治せよ」

 

「ああ、すまね……ってそれ俺の分の肉じゃねぇか!」

 

「いでぇ!? 何すんだこの野郎っ!」

 

「元気ねーあんた達」

 

すぐさま肉の取り合いをするグレイとルフィ。そんな光景に慣れてきたのかルーシィはぼーっと眺めているだけだった。

 

「な、何と!? 報酬は受け取れない!?」

 

一方その頃、エルザは村人達に報酬は受け取れないと伝えていた。

 

「あぁ、気持ちだけで結構だ。昨夜も話したが今回の依頼はギルド側が正式に受理した依頼ではない。一部のバカ共が先走って遂行したものだ」

 

「うーん……それでも我々を救ってくれた事には変わりません。ギルドの報酬ではなく、友人のお礼として受け取ってはもらえませんかの?」

 

ふむ……と腕を組み考えるエルザ。すると観念したようにため息を一つこぼす。

 

「そう言われては拒みづらいな」

 

「700万J!」

 

「おお!」

 

「よっしゃ!」

 

エルザの後ろでルフィ、ナツ、グレイは喜びを露わにする。

 

「しかし、それを受け取ってしまうとギルドの理念に反する。追加報酬の鍵だけありがたく貰うとしよう」

 

「「「いらねー!!」」」

 

「いるいる!」

 

嘆く三人をよそにルーシィはジャンプしたりと喜びを露わにする。追加報酬である鍵を受け取ったルフィ達に村人が声を上げる。

 

「ではせめてハルジオンまで送りますよ」

 

「いや、船はもう用意してあってな」

 

『?』

 

 

 

海岸にやってきた一同の目の前には立派な海賊船が待っていた。

 

「おおー! 海賊船!」

 

「すげぇ!」

 

「な、何でぇ!?」

 

「エルザの事だ、どうせ強奪したんだろ……」

 

「あい……」

 

各々驚いているとひょこっと髭を生やした男性が現れる。

 

「姉さーん! お待ちしておりやした!」

 

「うむ、ご苦労」

 

「手懐けてるし……」

 

「諦めろ、あれがエルザだ」

 

「出航だー!」

 

船に乗った一同はすぐさま出発する。すると海岸には村の者達が立っており、手を振っていた。

 

「皆さん、ありがとうございましたっ!」

 

「また遊びに来てねー!」

 

「妖精の尻尾最高ー!」

 

「またねー!」

 

心優しき悪魔達に見送られながらルフィ達はハルジオンに帰るのであった。その様子を別の場所から見送る者達がいた。

 

「行っちまったな……」

 

「な、泣いてなんかないもんね! おおーん!」

 

「何故泣く……?」

 

「いいんですの? せっかく分かり合えた弟弟子さん……すなわち愛」

 

「いいんだ」

 

シェリー達の前に立つリオンの表情はどこか笑っていた。ふとグレイの言葉を思い出すとリオンはシェリー達の方に振り返る。

 

「なぁ……ギルドって楽しいか?」

 

 

 

 

 

 

「帰って来たー!」

 

「「きたー!」」

 

長旅を終え、マグノリアに帰還したルフィ達は高らかに叫ぶ。

 

「しっかし、あれだけ苦労して鍵一個とは……」

 

「あい、せっかくのS級クエストが……」

 

「しょうがないでしょ? 正式なクエストじゃないんだし、文句言わないの」

 

「顔にやけてんぞ」

 

不満気なグレイとハッピーに対し、ルーシィはにやにやと笑顔を浮かべる。その手にはガルナ島で手に入れた金色の鍵が握られていた。

 

「得したのルーシィだけじゃないか〜。ねぇ、その鍵売ろう〜」

 

「何て事言うのかしらこの猫!?」

 

むっと頬を膨らませ、金色の鍵をハッピー達の前に掲げる。

 

「あのね、この金色の鍵……『黄道十二門』の鍵は世界中にたった12個しかないの。つまりめちゃくちゃレアなんだからね」

 

「えぇ!? すげぇ!」

 

「ふふん、そうでしょ!」

 

興味津々に鍵を見つめるルフィに胸を張るルーシィ。するとルフィの口元から涎が溢れる。

 

「じゃあそれ売れば肉食べ放題……」

 

「やめんかっ!」

 

瞬間的にルフィから離れるルーシィ。ルフィに対して鍵をあまり近づけないようにしようとルーシィは心に決める。

ギルドに近づくと前にいたエルザは立ち止まり、振り返る。

 

「さて、わかっていると思うが……ギルドに戻ったらお前達の処分を決定する」

 

『!!』

 

ビクッと肩を震わせるルフィ達。

 

「判断を下すのはマスターだ。無論、私は弁護するつもりはない。それなりの罰は覚悟して……ん?」

 

ふとエルザは言葉を止める。辺りを見渡すと町の皆はこちらを見ながらひそひそと話している。

 

「なんだ?」

 

「どうしたんだろう?」

 

その様子に首を傾げるルフィ達。不思議に思いながらもギルドに近づいていく。

 

「何だ……? ギルドの様子がおかしい……」

 

いち早く異変に気付いたのは先頭にいたエルザだった。どこか不安が漂う中、ギルドに着いた一同の前に衝撃的な光景が映っていた。

 

「なっ!?」

 

「嘘……何これ?」

 

「これは……!?」

 

「そんな……!」

 

「何で……!」

 

そこには巨大な鉄の棒で貫かれ、半壊状態の妖精の尻尾のギルドがあった。

 

「誰が……こんな事!」

 

「ファントム」

 

怒りに震えているとギルドの近くにいたミラが声をかける。その表情は申し訳なさそうな表情を浮かべていた。

 

「悔しいけど……やられちゃったの」

 

 

それは新たなる波乱の幕開けだったーー。

 



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戦争

 

 

ここはフェアリーテイルの地下一階。そこにはいつものギルドメンバー達がいた。

 

「お、エルザ達が帰ってきた!」

 

「ルフィ達も一緒だぞ!」

 

帰ってきたエルザ達の存在に気づくといつも通りの歓迎をする者達。その光景になんともいえない気持ちになりながらも、奥で酒を飲んでいるマスターの前に立つ。

 

「よ、おかえり」

 

「じっちゃん! 呑気に酒なんか飲んでる場合じゃねぇだろ! 俺たちのギルドが……!」

 

「おーそうじゃった! お前達、勝手にS級クエストなんか行きよって!」

 

「え!?」

 

「はぁ!?」

 

ギルドが半壊してるにもかかわらず、ルフィ達がS級クエストに行った事を叱るマスターに驚きを隠せない一同。

 

「罰じゃ! 覚悟せい!」

 

マスターマカロフは魔法で手を伸ばし、ルフィ達の頭を軽く叩いていく。

 

「めっ!」

 

「何でお尻……?」

 

「マスター、ダメでしょ?」

 

そうじゃったとマカロフは豪快に笑う。それを見たエルザは我慢出来ず机を叩く。

 

「マスター! 今がどんな事態がわかっているんですか!」

 

「ギルドが壊されたんだぞ!」

 

「まぁまぁ落ち着きなさいよ……。騒ぐ事でもなかろうに」

 

マカロフの言葉に困惑するエルザ達。

 

「バカタレ共は誰もいないギルドを襲ったからの」

 

「誰もいない?」

 

「深夜に襲撃されたの、だから誰もケガ人はいないわ」

 

「……そうか」

 

怪我人が一人もいない事に安堵するルフィだが、自分達の居場所を半壊された事に複雑な表情を浮かべる。

 

「不意打ちしか出来ねぇ奴らに目くじら立てることはねぇ、放っておけ」

 

「俺は納得できねぇ! あいつらを潰さなきゃ気がすまねぇ!」

 

「この話は終わりじゃ、上が直るまで仕事の発注はここでやるぞい」

 

「仕事なんかしてられねぇよ! ファントムを潰すんだ!」

 

「ナツ! ええ加減にせんかっ!」

 

「だから何故お尻……?」

 

「あ、ちょっと待って……トイレ!」

 

マスターは立ち上がり、そそくさとその場を後にした。納得できないナツは拳を震わせていた。

 

「じっちゃん……なんでだよ」

 

「……悔しいのはマスターも一緒なの。けどギルド間の武力抗戦は評議会で禁止されてるの」

 

「先に手を出したのはあっちじゃねぇーか!」

 

「そういう問題じゃないのよ」

 

そう言うミラの表情を見て何も言えなくなるナツ。

 

「……これはマスターのお考えだ。仕方がない」

 

険しい表情を浮かべながらエルザがそう言うと皆は何も言わずただ無言で立ち尽くすのだった。

 

 

 

 

夜になり、皆と別れたルーシィは星霊のプルーと一緒に家に帰るのだった。

 

「なーんか大変な事になっちゃったなぁ……」

 

「プーン」

 

「ファントムって言えば妖精の尻尾と仲が悪いって有名だもんね。私、本当はどっちに入ろうか迷ってたんだ」

 

「プーン?」

 

「だってこっちと同じぐらいぶっとんでいると思うし……。けど、今はこっちに入れて良かったよ?」

 

プルーに笑顔を向け、家の扉に手をかける。

 

「だって、妖精の尻尾は……!」

 

扉を開け、中に入るとーー。

 

「よう」

 

「おう、おかえり」

 

「おかー」

 

「いい部屋だな」

 

「ルーシィ、肉ねぇか肉」

 

「サイコーー!?」

 

部屋の中ではエルザをはじめとするいつものメンバーが各々くつろいでいた。

 

「あんたは何勝手に食ってんのよ!」

 

「すみませんっ!」

 

冷蔵庫を漁るルフィの頭を殴った後、冷蔵庫から引き離す。すると紅茶を飲んでいたエルザが口を開く。

 

「ファントムの件だが、奴らがこの町まで来たという事は我々の住所まで調べているかもしれん」

 

「えっ?」

 

「一人の時に襲われるかもしれねぇだろ? だからしばらくは固まった方が安全……ってミラちゃんのアイデア」

 

「今日は皆お泊まり会をしてるんだよ」

 

「そ、そうなんだ……」

 

そう言う事ならと渋々納得するルーシィ。

 

「よしっ! お前ら遊ぶぞー!」

 

「遊ぶぞー!」

 

ルフィとハッピーはトランプを持ってはしゃぎ始める。するとグレイは静かにベッドの方に移動する。

 

「俺はパス。疲れたからもう寝るぞ……」

 

「それ私のベッドなんですけど!?」

 

ルーシィのベッドでもお構いなく寝ようとするグレイにルフィとハッピーはノリが悪いとブーイングする。何か閃いたのかハッピーはルフィの耳元で何か言うとルフィは笑顔で頷く。

 

「あー情けない奴だなー」

 

「ルフィ、グレイは負けるのが怖いんだよ」

 

「……」

 

「だな、ほーんと情けねぇ奴だ」

 

「…………」

 

「ハッピー、情けないグレイはほっといて俺たちだけでやろうぜー」

 

「あい」

 

「上等だっ! 覚悟しろよお前らっ!」

 

ベッドにある枕をルフィに投げつけるグレイ。ルフィは枕をキャッチしてグレイに投げ返すと二人はヒートアップして枕投げを始めた。

 

「ちょっと、暴れないでよ! エルザ何とか……」

 

「枕投げか……ふふん、燃えるな!」

 

「エルザまでっ!?」

 

いつの間にか鎧から可愛らしいパジャマに着替えていたエルザはそのままルフィとグレイの枕投げに参加し、更にヒートアップするのだった。

 

 

 

「ねぇ……何でファントムは急に襲って来たんだろ?」

 

一通り遊び終えた一同は落ち着きを取り戻し、ファントムの話になった。

 

「さぁな、今まで小競り合いはあったがこんな直接的な攻撃は初めての事だ」

 

「じっちゃんもビビってねぇでガツンとやっちまえばいいんだ」

 

「じーさんはビビってる訳じゃねぇだろ。一応、()()()()()の一人なんだぞ」

 

「聖十大魔道?」

 

聴き慣れない単語にルーシィは?を頭に浮かべる。

 

「魔法評議会議長が定めた大陸で最も優れた魔導士10名に付けられた称号だ」

 

「へぇー! すごい!」

 

「ファントムのマスター・ジョゼも聖十大魔道の一人なんだよ」

 

「ビビってんだよ、ファントムは数多いし!」

 

「だから違ぇだろ。マスターは二つのギルドが争ったらどうなるかわかっているからこそ避けているんだ……魔法界全体の秩序のためにな」

 

「……そんなにすごいの? ファントムって」

 

「大したことねーよ」

 

「いや、実際に争えば潰し合いは必然……戦力も均衡している」

 

エルザは真剣な表情を浮かべ、ファントムの戦力について話し始めた。

 

「マスターと互角の魔力を持つと言われているマスタージョゼ。そして向こうでのS級魔導士に当たる魔導士四人……通称エレメント4。そして最も厄介なのが二人。一人は鉄竜(くろがね)のガジル。今回のギルド強襲の犯人と思われる男……鉄の滅竜魔導士」

 

「滅竜魔導士!? ナツ以外にもいたんだ……」

 

「ふんっ……」

 

「炎の滅竜魔導士は炎を食べるから……鉄の滅竜魔導士は鉄を食べるって事かぁ……」

 

うわぁと鉄を食べるのを想像して顔を青くするルーシィ。

 

「……そしてハイエナのベラミー。実力はガジルと同格かそれ以上……。そして悪魔の実であるバネバネの実を食べたバネ人間だ」

 

「悪魔の実って……ルフィと同じ能力者!?」

 

「バネ人間?」

 

ルフィは身体中がバネになって飛びまわってる姿を想像する。

 

「バネとか面白い身体してんなぁ、そいつ」

 

「あんたがそれを言うんかい」

 

ゴムも十分面白い身体でしょとツッコむルーシィ。一通り説明をしたエルザは紅茶を飲み干す。

 

「とにかく考えても仕方がない……。今回は皆無事だっただけ良しとしよう。それでいいか? ナツ」

 

「ぐぬぬ……納得いかねぇ」

 

もやもやするナツを見てため息をこぼすエルザ。考えても仕方がないのでその後エルザ達はファントムロードの襲撃の防ぐ為、同じ部屋で寝ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

ここはファントムロードのギルド。

ファントムのギルドメンバー達が酒を飲んでる中、部屋の片隅で頑丈そうな鉄を()()()男がいた。一人で食べていると酔っ払ったメンバーの一人が近づく。

 

「ガジル聞いたぜ、フェアリーテイルに攻撃仕掛けたんだって? かぁ〜すげぇな!」

 

「…………」

 

「今頃あいつらすげぇブルーな気分だろうぜ、ざまぁみろ! お前もそう思うよな? ベラーー」

 

次の瞬間、男の顔面にバネのように伸びる腕から繰り出される拳が刺さる。男の身体は壁にめり込み、意識を失った。その様子を見たメンバー達はくすくすと笑い出す。すると金髪の男が酔っ払い男の前に立つと男の頭を足で踏みつける。

 

「うるせぇんだよお前、酒が不味くなるだろうが」

 

金髪の男ーーベラミーは酒を飲みながらそう呟く。

 

「おいガジル! そんな端っこで食ってねぇでお前もこっち来い。楽しく飲もうぜ?」

 

ベラミーは端っこで鉄を食べている男ーーガジルに話しかける。ガジルはそんなベラミーをギロっと睨みつける。

 

「飯食ってる時話しかけんなって言わなかったか? ベラミー」

 

「あぁ? そんな事忘れちまったよ」

 

「……けっ」

 

ギャハハと笑うベラミーと少し不機嫌そうにするガジル。そんな二人の元に謎の威圧感のある男性が手を叩きながら現れる。

 

「火種は撒かれた……見事ですよガジルさん」

 

「マスターか」

 

男ーーファントムロードのギルドマスタージョゼが笑顔でガジルに話しかける。

 

「あめぇよマスター。クズギルドを壊しただけじゃクズ共は動かねぇよ」

 

マスターの命令でギルドを半壊させたガジルはあれだけじゃ足りないと悪態をつく。それを見たジョゼはくすくすと笑う。

 

「大丈夫ですよ、ガジルさん。妖精の尻尾にはもう一つのプレゼントを用意してますから……ねぇベラミーさん?」

 

「ああ心配すんなマスター。とびっきりのプレゼントを妖精共に送っといたからよ」

 

「……ギヒッ」

 

この後の展開を想像したガジルは静かに笑みをこぼす。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

マグノリア南口公園。

普段は人が集まらない朝にやけに人が集まっていた。

 

「通してくれ、ギルドの者だ」

 

エルザ達は人をかき分け公園の真ん中にある木に向かう。そこにはーー。

 

「!!」

 

「れ、レビィちゃん!」

 

「ジェット! ドロイ!」

 

シャドウギアのレビィ、ジェット、ドロイがボロボロの姿で巨木に磔にされていた。

 

「ファントムか……!」

 

「…………」

 

ナツは怒りで肩を震わせる。ルフィは無言で巨木に近づくと、腕を伸ばして磔になった三人を下ろす。

 

「レビィちゃん! しっかりして!」

 

ルーシィはギルドメンバーの中で特に仲が良かったレビィのボロボロの姿を見て涙を浮かべる。次の瞬間、巨木から巨大な轟音が響く。

 

「る、ルフィ……?」

 

巨木に視線を向けるとルフィの拳が木にめり込んでいる。ルフィの表情は怒りで溢れていた。

 

「ボロ酒場までなら我慢できたんだがな……」

 

「マスター!」

 

その場にマスターマカロフが顔を俯かせながら現れた。ルフィはマカロフの前に立つ。

 

「じいちゃん、ファントムのギルドってどこだ?」

 

「慌てるな、ルフィ。ワシも同じ気持ちじゃよ……。ガキの血を見て黙ってる親はいねぇんだよっ!」

 

そう言うとマカロフは手に持っていた杖を握りつぶす。マカロフは顔をあげーー。

 

「戦争じゃ」

 

ファントムへの全面戦争を宣言した。

 



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開戦

ここはマグノリア病院

公園の騒ぎの後、急いで運ばれたレビィ達。病院に運ばれたもの意識はまだ戻っていない。

 

「ひどい事するんだなぁ……ファントム」

 

眠ったままのレビィの顔を見て苦悶の表情を浮かべる。レビィとはギルドに入ってから小説の事ですぐ仲良くなった親友。親友のボロボロになった姿を見て、拳を震わせる。

 

「許せないよ、アイツら……!」

 

 

 

ここは幽鬼の支配者のギルド。中ではファントムのメンバー達が上機嫌に酒を飲んでいた。

 

「最高の気分だ!」

 

「妖精のケツはボロボロだってよ!」

 

「流石ベラミーだな、やる事がえげつねぇ!」

 

妖精の尻尾を罵倒する声がギルド中に響き渡る。

 

「いけね、こんな時間だ」

 

一人のメンバーが時計を見て依頼に向かう為立ち上がり、ギルドの入り口に向かう。

 

「また脅して金を二倍にしなくちゃーー」

 

ドアに手をかけた瞬間、爆炎と共に扉と扉周りにいたメンバーが吹き飛ぶ。

 

「ぎゃあぁぁぁ!!??」

 

「な、なんだ!?」

 

爆炎が晴れるとそこには妖精の尻尾のメンバーがほぼ全員揃っていた。

 

「妖精の尻尾じゃああっ!」

 

マカロフが声を上げるとルフィがファントムのメンバーに向かって走る。

 

「ゴムゴムの……鞭っ!」

 

脚を伸ばし、複数のメンバー達を蹴り飛ばす。飛ばした後、ルフィは拳をパキパキと鳴らす。

 

「お前ら、骨も残らねぇと思え」

 

「ほ、骨まで!?」

 

「う、うろたえるな!」

 

「火竜の鉄拳っ!」

 

動揺するメンバー達をナツが炎の拳で吹き飛ばす。ナツはそのまま周りにいたファントムメンバー達を殴っていく。

 

「誰でもいい、さっさとかかってこいっ!」

 

ルフィとナツにつられ、妖精の尻尾のメンバーも次々と攻撃をしかける。

 

「な、なんだこいつら……!」

 

「ま、マカロフだ! マスター・マカロフを狙え!」

 

マカロフを集中狙いするファントムメンバー。狙われる中、マカロフは魔法で身体を大きくし、その姿はまるで巨人のようだった。

 

「ふんっ!」

 

「ぐあぁぁ!?」

 

マカロフは巨人化した手を薙ぎ払い、ファントムメンバー達を吹き飛ばす。

 

「ば、化け物……!」

 

「……貴様らはその化け物のガキに手を出したんだ。人間の法律でテメェを守れると思うなよ?」

 

鋭い眼光を飛ばすマカロフ。それを受けたファントムメンバー達は自然と後退りをしてしまう。弱気になったファントムメンバー達を妖精の尻尾のメンバー達がどんどん倒していく。

 

「ジョゼぇぇ! 出てこんかぁ!」

 

「どこだ! ガジルとベラミーとエレメント4はどこにいる!?」

 

身体を戻し、徐々に前に進むマカロフ。エルザも敵を倒しながらマカロフと共に前に出る。マカロフは辺りを見渡すと天井に視線を向ける。

 

「エルザ、ここはお前たちに任せる」

 

「マスター!」

 

「ジョゼはおそらく最上階……ワシが息の根を止めてくる」

 

「……お気をつけて」

 

任されたエルザはマカロフと反対方向に走り、妖精の尻尾のメンバーがいるところに向かう。マカロフは一人、ジョゼのいる部屋に続く階段を登る。そんな様子を天井で眺めている二人がいた。

 

「あれがティターニアのエルザか。ギルダーツ、ラクサス、ミストガン、火拳のエースは参戦せずか……舐めやがって」

 

「別にいいだろそんな事。今んところマスタージョゼの計画通りに進んでるんだ……さて」

 

ベラミーは下で起こってる戦いを眺め、舌舐めずりをすると不気味な表情を浮かべる。

 

 

 

 

「漢っ! 漢っ!」

 

妖精の尻尾のメンバー、エルフマンが魔法で変化した拳でファントムメンバーを倒していく。

 

「漢だぁぁ!」

 

「なんなんだよあいつ!?」

 

接収(テイクオーバー)だ! あの野郎、腕に魔物を接収してやがる!」

 

エルフマンの攻撃にビビるファントム達。エルフマンは攻撃を続けようとすると、何か変な音がする事に気づいた。

 

「ん? ……なんだ?」

 

風を切る音、それと同時に()()が跳ねる音が辺りを響かせる。そして次の瞬間ーー。

 

「スプリング狙撃(スナイプ)!」

 

「ぐわぁぁぁっ!?」

 

弾丸の如きスピードで腹を殴られ、エルフマンは壁まで吹き飛ばされた。

 

「エルフマン!」

 

「ハハハっ! 随分好き勝手暴れてるじゃねぇか、クズ共」

 

「ベラミー!」

 

男ーーベラミーの参戦にファントム達の士気が上がる。少し離れたところで戦っていたルフィはベラミーの存在に気づき、足を止める。

 

「あいつがハイエナのベラミーか……!」

 

レビィ達を襲った事を思い出し、拳を強く握る。すぐさまベラミーの方に向かおうと足を動かすとーー。

 

「どこみてんだ麦わらっ!」

 

「!」

 

上からもう一人の男ーーガジルが腕を鉄の棒に変え、ルフィに攻撃を仕掛ける。何とか避けたルフィはガジルと距離を取る。

 

「ゴムゴムの……銃!」

 

腕を伸ばしガジルに攻撃をするルフィ。ガジルは鉄に変えた腕をクロスさせ、攻撃を受け止める。

 

「かってぇ〜……鉄みてぇだな、お前」

 

「ギヒッ……! 鉄の滅竜魔導士ガジル様が相手になってやるよ、麦わら」

 

ガジルと聞いてむっと視線が鋭くなるルフィ。目の前の人物がギルドを半壊させた男だとわかると、ベラミーの方に行くのは諦め、ガジルに拳を向ける。

 

「鉄竜棍!」

 

「ゴムゴムの……銃弾(ブレット)っ!」

 

お互いの技がぶつかり合い、軽い衝撃波が起こる。しかし鉄を思い切り殴った事にルフィの拳から少し血が出ていた。それを見たガジルはにやっと笑う。

 

「お前の攻撃は鉄に効かねぇよ」

 

「……そりゃーどうかな?」

 

「あん?」

 

笑みをこぼすルフィ。ガジルは何故笑っているのか考えていると、鉄の棒にヒビが入り、そのまま砕けてしまった。

 

「何っ!?」

 

「にしし、お前の鉄より俺の拳の方が強ぇし硬てぇ!」

 

「ほぞいてろ!」

 

ルフィの言葉に激情するガジル。よりヒートアップする二人をベラミーは呆れながら観ていた。

 

「何やってんだガジルの野郎は……」

 

「ベラミーっ!」

 

よそ見していたベラミーにナツが飛びかかる。

 

「火竜の鉄拳っ!」

 

火を纏った拳を振るうナツ。しかしベラミーは足をバネに変え、素早い動きで攻撃を避ける。

 

「俺の相手はテメェがしてくれるのか、サラマンダーっ!」

 

「お前がレビィ達を……っ! ぜってぇ許さねぇっ!」

 

怒りで全身に炎を纏うナツを見て、ベラミーは高笑いをする。

 

「許さねぇか。……アイツらはただ弱ぇだけのクズだ。俺はクズがいるとむしゃくしゃするんだよ……」

 

「テメェ……っ!」

 

たったそんな理由で襲われた事に更に怒りの炎を上げるナツ。激情するナツを見て笑みを浮かべるベラミー。そんな中、ギルドが大きく揺れ始めた。

 

「あぁ? なんだ?」

 

「これは……じっちゃん!」

 

ナツはマカロフの魔力を感じ、天井を見上げる。突然の揺れに動揺を隠せないファントムメンバー達。

 

「な、なんだ!? 何が起きてんだ!?」

 

「やべぇーな、これは」

 

「マスターマカロフの怒りだ」

 

「覚悟しろっ! マスターがいる限り我等に負けはないっ!」

 

エルザのかけ声に一気に士気が高まる妖精の尻尾だったが次の瞬間、ファントム達と妖精の尻尾達の間に天井の一部と共に何かが落ちてきた。

 

「な、なんだ!? 上から何か……」

 

両者何が起きたか分からず混乱する。煙が晴れるとそこにはーー。

 

「あ……わ、わしの魔力が……」

 

弱々しい姿をしたマカロフが倒れていた。

 

「じっちゃん!?」

 

「マスター!?」

 

「マスター、しっかり!」

 

妖精の尻尾のメンバー達は戦いを中断し、急いでマカロフに駆け寄る。その状況を見たファントム達はにやりと笑う。

 

「チャンスだお前ら!」

 

「マスターマカロフがいねぇ今ならやれるぜ!」

 

動揺する妖精の尻尾にファントム達は意気揚々と襲いかかる。最初の勢いとかわり、徐々に押され始めていた。どんどん傷ついていく妖精の尻尾を見てエルザは悔しそうな表情を浮かべながら立ち上がる。

 

「……撤退だ! 全員ギルドに戻れぇ!」

 

「エルザ!?」

 

「何言ってんだエルザ!」 

 

「マスター無しではジョゼには勝てんっ! 撤退する、これは命令だ!」

 

「俺達ならまだーー」

 

「……頼む」

 

泣きそうな表情を浮かべるエルザに妖精の尻尾は納得は出来ないものの撤退を始める。その様子を天井に移動したベラミーとガジルは眺めていた。

 

「ギャハハ! 逃げろ逃げろ負け犬共っ!」

 

「ギヒッ……もう終わりか、つまんねぇな」

 

撤退する妖精の尻尾を馬鹿にするように笑うベラミーとガジル。そんな二人をルフィは怒りの表情を浮かべ睨んでいた。

 

「ルフィ、撤退だよ!」

 

「……あぁ」

 

ルフィを心配して来たハッピーがルフィの手を引く。渋々とルフィは二人に背を向け、ハッピーと共に撤退しようとする。その時、ベラミーとガジルの背後に大柄の男が一瞬にして現れた。

 

「よう、アリアか。うまくいったみてぇだな」

 

「全てはマスタージョゼの計画通り……素晴らしいっ!」

 

「いちいち泣くんじゃねぇよ、うぜぇな。……で? ルーシィとやらは捕まえたのか?」

 

「! ……ルーシィ?」

 

撤退するルフィはルーシィの名前を聞いて立ち止まる。すると撤退する入り口とは違う方に走り出すルフィ。

 

「ルフィ!? どこ行くの、そっちじゃないよ!?」

 

「悪りぃ、ハッピー。ちょっと俺行ってくる!」

 

走り出すルフィに混乱しながらもハッピーは後を追う。ルフィの走る方に一人のファントムメンバーがいた。

 

「よし、お前ついてこい!」

 

「へ? うわぁぁ!?」

 

腕を伸ばし、男の首根っこを掴んだルフィはそのままギルドの外に出て行った。

 

 

 

ルフィとハッピーはファントムの男を引きずりながら街の外れまで移動していた。しばらく歩くと立ち止まり、男の胸ぐらを掴む。

 

「お前、ルーシィがどこにいるか知らねえか?」

 

「ルーシィ? 誰だよそいつ」

 

男の返答にむっとしたルフィは男に思い切り頭突きをした。

 

「いでぇ!?」

 

「嘘つけぇ! さっきルーシィを捕まえたって言ってたぞ! 早く言え!」

 

「えぇ!?」

 

ルーシィが捕まったと聞いてハッピーは驚き、声を上げる。男の返答も待たずに今度は拳を振ろうとするルフィ。

 

「ひっ!? ほ、ほんとに知らねえんだ……ただこの先本部がある! そ、そこにいるかも知れねぇ!」

 

「そっか、わかった! 行くぞ、ハッピー!」

 

「あいさー!」

 

ファントムの男を置いて、ルフィとハッピーは全速力でファントム本部に走って行った。

 

 

 

「……ん?」

 

ここはファントム本部。暗い独房のような所で手を縄で縛られた状態でルーシィは目覚めた。

 

「ちょ!? 何コレ……てかどこ!?」

 

「お目覚めですかな? ルーシィ・ハートフィリア様」

 

「!……だ、誰!?」

 

男の声がする方、扉に視線を向けると扉が静かに開き一人の男が入ってきた。

 

「初めまして、私はファントムロードのギルドマスター・ジョゼと申します」

 

「ファントム!?」

 

目の前にいる男がファントムのギルドマスターに驚きを隠せないルーシィ。その時、ルーシィは自分の身に起きた事を思い出す。

 

「(そっか……私病院の外に出た時ファントムの奴らに捕まって)」

 

「このような不潔な場所に拘束してしまい申し訳ありません。大変失礼ですが捕虜の身であられる事をご理解いただきたい」

 

「これ、ほどきなさいよ! 何が捕虜よ……レビィちゃん達をよくもっ!」

 

「貴方の態度次第では捕虜ではなく、()()()()()としてもてなす用意もできてるんですよ?」

 

「最高の客人? 何それ、わけわかんないわよ! あんた達なんで私達を襲うのよ」

 

「私達? あぁ、妖精の尻尾の事ですか? ……ついでですよ、ついで」

 

「つ、ついで?」

 

不気味に微笑むジョゼに背筋に悪寒が走るルーシィ。

 

「私達の本当の目的は()()()()を手に入れる事です。その人物が最近妖精の尻尾に入ったので潰してしまおう……とね?」

 

「そ、それって……」

 

「そう、貴女の事ですよ? ハートフィリア財閥の令嬢、ルーシィお嬢様?」

 

ジョゼがそう言うと、恥ずかしくてなったのか徐々に顔を赤くさせるルーシィ。

 

「な、なんであんた達がそんな事知ってんの……?」

 

「理由は一つ、貴女を連れてくるよう依頼されたのでね」

 

「そんな事誰に……?」

 

「決まっているでしょ? 依頼されたのは他ならぬ、貴女の父親なのです」

 

その言葉に息が詰まるルーシィ。

 

「そんな……嘘……なんであの人が……」

 

「それはもちろん、可愛い娘が家出したら探すでしょ普通」

 

「わ、私帰らないから! あんな家絶対帰らない!」

 

「おやおや、困ったお嬢様だ」

 

「今すぐ私を解放して」

 

「それはできません」

 

ぐぬぬとジョゼを睨むルーシィ。すると何かを思いついたのか顔を少し赤らめる。

 

「……ねぇ、トイレ行きたいんだけど?」

 

「これはまた古典的な手ですね」

 

「いや……マジで、ほんと助けてー」

 

「ふむ……どうぞ」

 

少し考えた素振りを見せるとジョゼはルーシィの隣にバケツを置いた。

 

「ほっほっほ! 古典的故に対処法も多いんですよ」

 

「しょうがない……バケツかぁ」

 

「ってするんかい!」

 

もぞもぞと動くルーシィを見て、ジョゼは動揺しながら背を向ける。

 

「ぐぬぬ……なんてはしたないお嬢様なんでしょ!」

 

「あら、意外と紳士なのね……ありが、とっ!」

 

「ネパァーー!?」

 

背を向けたジョゼの股間に思い切り蹴り上げるルーシィ。謎の悲鳴を出しながら地面に伏せるジョゼ。

 

「古典的な作戦も捨てたもんじゃないわね! それじゃ、お大事に!」

 

股間を押さえ悶えるジョゼにウインクをし、ジョゼが入ってきた扉に向かうルーシィ。すると何か違和感を感じたルーシィは扉の前で立ち止まり、冷静に外の景色を見る。外に広がるのは空だった。下を見て、地面と今いる場所ではとても着地出来そうにないと理解する。

 

「高ぁ……!?」

 

「はぁ……はぁ……よくもやって、くれましたね」

 

先程の攻撃のダメージがある程度収まり、フラフラした状態でジョゼは立ち上がった。

 

「ここは空の牢獄……逃げる事はできませんよ。さぁお仕置きですよ……幽鬼の怖さを教えてやらねばなりませんね」

 

「ぐ……!」

 

ジョゼの言葉に後退りするルーシィ。このまま後ろに下がると扉から落下してしまう状態だった。ジョゼはにやりと笑い手をルーシィに向ける。

 

『……!!』

 

「!」

 

強い風と共に何か聞こえたルーシィ。少し考えた次の瞬間、目を閉じた状態で独房から飛び降りた。

 

「な!?」

 

動揺するジョゼ。慌てて行動しようとするが先程のダメージがまだ残っており、動けずにいた。

 

「(聞こえた、間違いない……助けに来てくれたんだ!)」

 

真っ逆さまに落下しながら、聞こえてきた声の主の名前を叫ぶ。

 

「ルフィーー!!」

 

「ーーうおぉぉぉ!!」

 

すると少し離れた場所から全速力で走ってきたルフィ。このまま走っていると間に合わないと思い、ルフィは思い切り手を伸ばす。

 

「ゴムゴムの……キャッチっ!」

 

伸ばされた手は見事ルーシィを掴んだ。

 

「ふー危ねぇ危ねぇ」

 

「ナイスキャッチ、ルフィ!」

 

一緒に来たハッピーはルーシィが無事な事に喜ぶ。その後、ルフィはルーシィを自分の方に引き寄せる。

 

「やっぱりいると思った!」

 

「急にルーシィが降ってきたからびっくりしたぞ。お前なんで空から落ちてきたんだ?」

 

「はは……色々とね……」

 

「? ルーシィ大丈夫か?」

 

「ルーシィ?」

 

手に縛られた縄をほどきながらルフィとハッピーは暗い表情をするルーシィを心配する。

 

「ごめん、ごめんね……全部あたしの、せいなんだ」

 

涙を流しながらルーシィは二人に謝る。

 

「な、なんで全部お前のせいなんだよ!? お前なんも悪い事してねぇだろ!」

 

「ごめんそれでも私、ギルドにいたい……妖精の尻尾にいたいよ」

 

「な、何言ってんだよルーシィ」

 

「ルフィ、戻ろうよ……」

 

ずっと涙を流しながら謝罪するルーシィ。動揺しながらもハッピーの言葉に従い、ルフィはルーシィを背負いギルドに戻った。

 

 



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