なんとなくFate (銀鈴)
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Fate/zero編
始まりのフェイト


あらすじ通り分離したものです。
本編最終話までの内容が含まれています。


閉じよ(みったせー)閉じよ(みったせー)閉じよ(みったせー)閉じよ(みったせー)。繰り返すつどに四度――アレ、五度?」

 

 縄で縛られて猿轡をされた私の目の前で、オレンジ色の髪の男の人が爪先を使って所謂魔法陣の様な物を描いていく。陣を書く塗料は、ほんの少し前まで私の家族だったモノから溢れ出た血液。

 何か間違えていた所でもあったのか再度繰り返される詠唱と連続殺人事件のニュースがBGM。死臭の満ちたリビングルームは劇場なんだろう。私は大きくため息を吐こうとして、鼻に入ってきた臭いで咳き込んで涙目になってしまう。

 

(ほんと、家出してでも冬木になんて居るんじゃなかった)

 

 肩辺りまで伸ばした黒髪に、まだ9歳ではあるけれど整った方と言えるだろう顔立ち。そんなどこにでもいそうな幼女たる私こと銀城(ぎんじょう)愛鈴(あいり)は、俗に言う転生者である。ほんの少しの魔術回路と前世の記憶が残っているだけの、別にホムンクルスでもフルブリンガーでも無いただの女の子だ。

 

「君さ、本当に悪魔っていると思う?」

 

 反応しないと即座に殺される気しかしないので、この短い人生の時間を伸ばすためにも必死に首を振る。

 話は戻るけど前世の記憶のおかげで、この余った血で壁に気持ちの悪いアートを書いた後、こんな質問をしてきた青年の名前だって…これからの展開だって知っている。

 

 青年の名前は雨生龍之介(うりゅうりゅうのすけ)。Fate/zeroという小説でキャスターのマスターとしての登場人物だ。そして私の立ち位置は、言わずもがな青髭のダンナにこの後殺される可哀想な女の子である。前世を合わせても20年と少し、合わせたとしても短い人生だった。

 

「うーん?なんか君の反応って演技っぽいんだよねー」

 

 その言葉に内心ギクっとした私を余所に、アニメは覚えてないけど原作にはあった古文書やら悪魔がどうのという事を龍之介はとてもいい笑顔で話していく。あんまり詳しくは無いけどこれでも前世は読書が大好きだったのだ、読み直した本の内容はかなりの割合で覚えている。

 住んでいる場所が冬木って時点でロクな人生は送れないと覚悟してはいたけど、海魔なんて触手の塊よりは龍之介の持つナイフで一思いにやってもらった方が苦しくないかも知れない。

 

「と言うわけで、もし本物の悪魔が出てきたら1つ殺されてみてくれない?」

 

 超COOLな青髭のダンナはそろそろ来ますね(諦め)ひょっとしたら助かるかも…なんて希望はもう無いけど、最後の抵抗として暴れてみる。自分でも笑えてくるこの行動に、龍之介も笑い始める。

 

「あは、あははははははっ!! どんな気分なんだろうねぇ! 悪魔に殺されるのって! まあどちらにせよーーーーん?」

 

 風が湧いた。血で描かれた魔法陣が燐光を放ち始め、強烈な風が室内を蹂躙する。それを手品を見る子供のように見ている龍之介と違って、私はどこか冷めた思考でそれを見つめる。うん、もう『超COOLだよアンタ!』を聴けたら…無理だね(察し)

 そんな心底下らない事を考えている私を雷が落ちた様な轟音と光が包み込む。

 

(まあ、サーヴァントが見れるだけマシな人生だった)

 

 聖杯の泥に飲まれるよりはまだ幸せだろう。閃光のせいで掠れる視界の中、青髭さんの登場を待つ私の手に鋭い痛みが走る。何かの破片でも触っちゃったんだろうか? まあどうせこれから死ぬ身、気にする意味なんてないか。

 

「問おう。あなたが私のマスターか?」

 

 聞こえてきたのは青髭のダンナの声とは似ても似つかない高く幼い声。という事は、別の鯖が召喚された?でもキャスターならメディアリリィ位しか…

 

「サーヴァントキャスター、召喚に従い参上した」

 

 完全に戻った視界の中、それらの予想とは全く違った人?がそこには立っていた。

 先ず目に入ったのは、背負った7つの棺桶と身の丈を大きく超えるヒビ割れた大鎌。腰ほどまである銀髪が風にたなびいており、黒いコートを翻し、四肢とその下には鎧の様な銀灰色の金属が見え隠れしている。何? なんなの? 私こんなロリロリした鯖知らない。

 

「なあ、あんt」

「えいっ」

 

 絶賛大混乱中の私の目の前で、龍之介の首が飛んだ。体勢が変わってるから、多分あの大鎌で†斬首†したのだろう。ちょっと待ってニュアンスがおかしかった。

 

「とりあえずヤッちゃったけど、まあいいよねうん。大海魔は見たかったけど仕方ない仕方ない」

 

 そう言ってこっちを向く、私より身長が低い長い銀髪の女の子。その紅と蒼の双眸に射抜かれるだけで、訳のわからない恐怖が込み上げてくる。

 

「あ、いや、私マスターには何もしないから! うぅ、助けてティア!」

「マスター、先ずは棺桶と大鎌を仕舞う」

「それだ!」

 

 這って逃げようとしていた私の前で、棺桶・大鎌と共に謎の恐怖が消え去った。安心して脱力した私の拘束を、改めて見ると普通に可愛らしい幼女が次々と外してくれる。あとさっきの声ってどこから聞こえたの?

 

「これでよしっと。全部がよかったねっては言えないけど、無事でいられてよかったねマスター」

 

 というか私がマスターって事は聖杯戦争参加しないとダメって事? あんなテロリストやら愉悦神父やら優雅(笑)がいる中に? 冗談じゃない。プリヤ時空に逃げたい(切実)癒し担当がウェイバー君しかいないじゃないか!

 

「と、とりあえず宜しくキャス、ター…」

 

 魔力の使い過ぎだったのか疲労なのか安心なのかは分からないけれど、その言葉を言い終わる前に私の意識は闇に沈んでいった。

 イリヤといちゃいちゃしてればどうにかなるかな…あいんつべるんってどこだろ…

 



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何故か続いたフェイト

とりあえず本日中にやらねば


「ふわぁ…あふ」

 

 今時珍しいレトロな目覚まし時計が鳴らすジリリリンという音で、私は目を覚ました。

 目に入った机の上には、魔力が込められないか試してみている安い宝石、強化できないかやってみてる干将・莫耶(ペーパークラフト)、そしてイルカのぬいぐるみ。見慣れた自室に、窓から見えるのも何ら変わらない日常の風景。とは言っても、まだ6時半だからそんなに人は多くない。

 

「んみゅ…うるしゃい」

 

 ベッドの上から手を伸ばし、未だに鳴り続けていた目覚まし時計を止める。ベッドから降り、フワフワとしたスリッパを履いて背を伸ばす。全身が怠いけど、桃色の寝巻きにも血なんてどこにも付いてない。

 うん、そうだよこんなに今までと変わらないんだ。昨日の夜の事は、きっと不安に駆られた私が見た悪夢に違いない。現に、朝ごはんのいい匂いだってする。

 

「おなかしゅいた…」

 

 寝惚け眼を左手で擦りながら、パタパタと手摺りを持ちながら一階に降りていく。今更だけど、名前も定かじゃない前世の記憶じゃ自室が無かったからか、未だに少し嬉しかったりもする。

 リビングに繋がる扉に手をかけた瞬間、何故か身体が一瞬動きを止めた。この先には何時もの日常が広がってるはずなのに、そう、そのはずなのに…

 ま、冬木市だからそんな事もあるか。そろそろ時期だろうし、イジメられてる事を親に言って転校手続きをして貰いたいなぁ。お父さんもお母さんも優しいから、それくらいは考えてくれるはず。お姉ちゃん? ちょっと喧嘩してたし、朝練行ってる時間だもんしーらない。

 

「おかーさーん、今日の朝ごはんはー?」

「…ごめんねマスター、お母さんじゃなくて。でも、朝ごはんだけは用意しておいたから……できれば食べて欲しいな?」

 

 視界に踊る銀色の綺麗な髪、それと同時に認識した右手の甲に浮かぶカッコいい紋章。つまり()()。それを認識した瞬間、私は全てを思い出した。聖杯戦争、雨竜龍之介、一家惨殺、召喚、魔力切れ、マスター、ダンナはいない、誰もいない。

 

「あ、あぁ、あぁぁ……は、ははっ、そういえば、そうだったね()()()()()

「あー…ごめんね嫌なこと思い出させちゃって。龍之介は刻んで魂も消し飛ばしたし、ご家族は…その、悪霊化しかけてたから勝手だけど火葬して祓っておいたよ」

 

 バツの悪そうな顔をして、エプロン姿の銀髪の幼女が言ってくる。

 そう、冬木市に生まれた以上覚悟はしてたんだ。原作に関わらなくても、自分か家族の何れかは死んじゃうって。大海魔か聖杯の泥とか、私に限っては龍之介とか。考えられるのは沢山あるけど、色々麻痺してた昨日と違ってやっぱりそれに直面すると…

 

「ごめんキャスター、しばらくそっとしといて…」

「ん、分かったよマスター。ご飯だけは食べておいてね」

 

 そう言ってキャスターは霊体化して消え、離れて行く気配を感じた。もう誰も見てないし、今くらいは……いいよね?

 

「お母さん、お父さん、お姉ちゃん……」

 

 2度目のこの人生。9年なんて短い間ではあったけど、それでもあったかい私の心の拠り所だった事には違いない。それが一瞬で奪われて、危険人物しかいない戦争に巻き込まれる?

 溢れ出るぐちゃぐちゃでよく分からない、けど凄く強い感情に身を任せ、私は2度の人生の中で初めて声を上げて泣いた。

 

 

「よいしょっと」

 

 手頃な場所にあった椅子に登って、私は台所に立った。洗剤よし、スポンジよし、お湯もよし。さっきまで食べてた朝ごはんの乗っていたお皿も、ちゃんと割らずにシンクの中にある。あ、スリッパはちゃんと脱いだよ?

 

「それじゃあ、洗い物をーー」

 

 最近冷えてきたし、お湯に逃げる私は悪くない。そう言い訳をしながら、始めますかと自分に気合を入れようとした瞬間、後ろから私に声がかかった。

 

「ちょっと待ってマスター、私の見間違いかな? 少し前まで声を上げて泣いてたマスターが、今平然とした顔で洗い物をしようとしてる光景が見えるんだけど…」

「キャスターの目はいたって普通だよ? あとご飯すっごく美味しかった! ありがとうございました」

 

 お湯を止めて、そのままじゃ危ないから椅子からも降りてペコリとお辞儀をする。闇の帝王の著書にも古事記にも、オジキは大切って書いてあるからね。

 

「どういたしまして…なのはいいんだけど、マスター、あなたは一体何なの?」

「何なのって?」

 

 思ったより床が冷たかったからスリッパを履き直す。何なの?って言われても私は私としか…

 

「自分以外の家族が全員死んじゃった事に泣いてたと思ったら、いつの間にかご飯を食べて洗い物をしようとする。魔術師の家系でもなさそうな…というか、絶対に無い筈なのに魔術のことも聖杯戦争の事も理解してる様に見える。挙げ句の果てには、グランドオーダー案件でも無いと出番はないと思ってた私を()()()でゼロの世界に呼び寄せる。サーヴァントのくせにって思うかもだけど、確実におかしいよ?」

「そんな事、言われても…」

「言ってくれないと私、勝手に死ぬまで魔力を持ってくから」

 

 私とさして変わらない幼女と、じっと見つめ合う。せっかく生き延びたんだから、こんな所で死にたくない。聖杯の泥に巻き込まれるか、火災で焼かれるかは知らないけど、サーヴァントの助けがあるに越したことはない。それには信頼関係が必須だし……グランドオーダー案件ってなんで知ってるのか分からないけど、知ってるっぽいし隠す事でもないからいいか。

 

「信じてくれるかは分かんないけど、私は前世の記憶?みたいなのを持ってるだけのきゅーさいの女の子だよ。それで、最初と最後の問題以外は解決。だって、Fateの事を覚えてるんだもん」

「なるほど、私の同類だったんだ。それなら、私を召喚出来たのもおかしくないか」

 

 同類って…ダメだ、転生を経験した英霊とか全然分からない。教えてもらうまで、我慢するしかなさそうだ。

 

「元が男だったのか女だったのかは分かんないかな。それで、1個目の性格に関してはね、これが私の素だよ?」

「そこは分からないんだ…え、素?」

 

 何か納得してなさげなキャスターが、ピシリと固まる。似た様な経験をしたなら、もしかしたら分かるかもって思ったけど…残念。

 

「前世からなのか、転生なんて事を経験したからなのか、私って元々どこか壊れちゃってるみたいなんだよね」

 

 あはは、と笑みを貼り付けながら私は言う。

 何かを楽しいと思っても、そのすぐ後には周りに合わせるだけになってる。悲しい事があっても、1分もあればすぐに切り替わる。猫を被って普段は隠してるけど、「どこにでもいる普通の幼女」としてはこれだけは変な点だと思う。

 

「それじゃあ私からも質問。あなたは何の英霊?どんな力を持ってて、聖杯にはどんな望みをかけてるの? 私の事は殆ど全部話したんだから、できれば答えてくれると嬉しいな」

 

 まだ一応魔術使いを目指してたり、強化魔術とか宝石に魔力を込められるかやってみてる事は話してないけどそんなのは些事だろう。魔術回路? 希望的にみて数本あるかないかじゃない?

 

「うん、なんか親近感を感じるしいっか。そもそも私、誰も知らない英霊だろうし」

 

 なにやらボソボソと呟いた後、1人納得した様でキャスターが私をしっかりと見据える。なんだろう、ちょっとドキドキする。

 

「それじゃあ改めて。サーヴァントキャスター、真名は無銘って言えたらカッコよかったんだけど、イオリ・キリノって名前。簡単に言うとここから並行世界の未来で、ついでに異世界の英霊だよ」

「へ?」

「聖杯にかける望みは特にないかな? 強いて言うなら、他の英霊と戦う事。色々便利で強めだとは自信を持って言えるけど、鯖としてはバサカレベルの魂喰らい(ソウルイーター)だから死なないように頑張ってね」

 

 花の綻ぶような笑顔でキャスターは、私の予想とは360度違う答えを告げてきた。違う、180度だ。歴史的馬鹿者になっちゃう。

 でもこれあれだ、ダメだ私死んだ。末路は雁夜おじさんだ(確信)

 プリヤ時空という幸せは何処? ない? そんなのってないよぉ…あんまりだよ…でも魔法少女ならデバイスか愉悦型魔術礼装でどうぞ、ファヴとQBは大人しく蜂の巣になっててください。




どうしてだ、どうしてこんなキャラになったんだ…書きやすいけど。

fgo?とりあえずプレゼントは最後まで取り切ったし、サンタオルタ終わらせましたよー。次の邪ンヌサンタリリィとかなにそのご褒美。


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まだ回らないフェイト

シルヴァリオ・ヴェンデッタをクリアしたせいか何かが再燃して投稿。
fgoでギフト持ち円卓に勝てないので初投稿です。



「私は自己紹介したし、マスターの事も教えてくれると嬉しいな」

 

 最悪な燃費という現実を叩きつけられて意識をどこかへ飛ばしかけていた私は、そんなキャスターの声に引き戻された。あぁうんそうだよね、私個人情報ちょびっとしか明かしてないもんね。

 

「えっと、名前は銀城愛鈴。リューノスケの代わりにマスターになっちゃった、前世の記憶があって、ほんの少しだけ魔術回路のある一般人だよ。フルブリンガーでもホムンクルスでもないよ」

 

 そう言う私の目にはハイライトなんて無かっただろう。だって覚えてる限りFate/zeroには救いなんてない。いや、ウェイバー君だけはギリギリ例外か。私にも素質は米粒くらいならあるのだし、桜ちゃんの事も知ってる以上原作介入とやらをしてみたいと思った事も勿論あった。

 だけど相対しなきゃいけないのは、テロリストと元祖セイバー顔アルトリアさん、麻婆神父と確か百貌のハサン、優雅と慢心王、ウェイバー君と征服王イスカンダル、ケイネスと輝く(自害の)貌ディルムッド、雁夜おじさんとランスロさん、後は今はいないけど狂気ペア。

 五次よりは良いけどそんなのに一介の幼女が介入なんて不可能だ。大災害から生き残るが限界だろうし、もしそれでもと思うなら鯖に頼るしかない。だけど目の前にいるのは謎だらけの鯖。沖田さんとか小次郎とかならまだしも、バサカレヴェルの魔力が必要? 詰みですね分かります。そして干物エンドへ。

 

「あの、マスター大丈夫? さっきから黙っちゃってるし…その、凄く絶望って感じの顔してるけど…」

「大丈夫ダイジョウブ万事おっけー。断じて私≒雁夜おじさんなんて思ってナイナイ。神様なんで転生特典をくれなかったの?」

 

 普通デフォルトだろう記憶すら曖昧だし、士郎ですら26、7本くらいあった魔術回路がギリギリ二桁あるかどうかだし、よりにもよってzero世界だし。ごめんなさいやっぱ転生だけで十分なので一に還る転生(アミタ・アミターバ)とか撃たないでください消えてしまいます。

 

「一応、冬木だから魔力に関してはマスターに頼る事はあんまり無いと思うんだけど……」

「マジ?」

「まじ」

 

 真剣な表情で言ってくれてるから、一応干物エンドだけは避けられるっぽい。それなら生き残る希望だけは見えてきた。ならもう少しと欲望を持ってしまうのは多分人間の(さが)的サムシングなんだろう。

 よくないよくないよくないなぁ!って内心唾吐いてたそんな考えを私のサーヴァントは見抜いたように言った。

 

「まあその方法は追い追い説明するとして、この聖杯戦争に参加するにあたっての目標、決めよっか?」

「そんなの、私が持ってもいいのかな?」

「勿論! 私をサーヴァントとして召喚したんだから、それくらいの事はどんとこーいなんだよ!」

 

 そう私と同じくない胸(大草原)を張ってキャスターは言ってくる。そんなに言うなら、私にだって願いはあるし言いたいけど…勿論、聖杯に願わない方の願いだよ?

 

「うーん…じゃあ、まずは大前提として生き延びる事。その次がここを特異点Fにしない、ないし人理焼却の時に生き延びるかカルデアに居られる様にする事」

「それは私にだって分かってるよ。けどこう、もうちょっと踏み込んだ答えが私は欲しいんだけど…」

 

 自分じゃこれでも精一杯の考えだったのに、もっと個人的なお願いを教えてってなんでさ(困惑)まあ、何か意味はあるんだろうし考えるけど……

 

「そうなると、考えつくのは雁夜おじさん救済とまではいかなくても、桜ちゃんの蟲蔵からの救出と臓硯の消滅だけど…」

 

 アレがいなくなっても、ワカメの出番が消えるくらいで人理焼却まではいかないだろう。せいぜいかIFルートって所で。だけどキャスターの戦闘力も分からない以上、あんな魔窟に突撃するのは鯖的にもマスター的にも無謀極まりない願いな訳であって…

 

「りょーかい。私の目的地も同じだったし、喜ぶといいマスター、君の願いはようやく叶う」

「その麻婆のセリフ確か未来だから、まだ愉悦を得てないから!」

 

 アッサリと言い放ったキャスターにツッコミながら、ここまで気を抜いて本音で喋ることが出来ることに気づいた。なんだろう、やっぱり他人に感じないからだろうか? 凄い非常(識)事態に巻き込まれてるはずなのに笑えてくる。

 

「マスター、気でも振れた?」

「ううん、なんかキャスターの言ってた通りだなって思って」

 

 なんでか目の端に滲んでいた涙を拭って、私はちゃんとキャスターに向かい合う。これから一切のバトルは任せる事になるだろうし、そんな相手に召喚した時の気絶しかけの挨拶じゃ申し訳ない。ならやる事は一つだろう。

 

「三流というか三下マスターだけど、これからよろしくね?」

 

 私はそう言って手を出す。聖杯戦争を勝ち抜くなんて気はない、でも最大限楽しんで糧にはしたい。こんな考えで参加するのは失礼かもしれないけど、やっぱり自分が大切なのだ。

 多分英霊(キャスター)相手には見抜かれちゃうだろうこんな浅ましい考えを分かった上でこの手を取ってくれるっていうなら、無いなりに全力を尽くして戦う事を私は誓おう。一種のケジメだね。

 

「うん、これでちゃんと契約したって感じになったよ!」

 

 なんの躊躇いも無く、キャスターは私の手を取ってくれた。確か第六特異点辺りで、三蔵ちゃんが限界できた事が既に奇跡って言ってたからあんまり関係ないのかもだけど…やっぱり嬉しいものは嬉しい。

 

「そ れ じ ゃ あ …」

 

 そんな感情に胸打たれてる私の前で、キャスターの紅眼がピキュイーンと十字に光った様に見えた。いや、どこぞの神星の一枚絵みたいに普通に光ってる。途轍もなく嫌な予感がする、逃げなきゃ…握手してる無理だ(察し)

 

「一日くらいしか時間はないけど、私を運用して耐えられる様にがっちり鍛えてあげるから覚悟してね!」

 

 そう(悪魔の)笑顔で言うキャスター背後に半透明の門が浮かんだ瞬間、倦怠感が襲って来た。宝具の展開だけでこれって、つくづく私ってショボいなぁ…じゃなくて!!

 

「改造ってなに!? ショッカー?魔星?鬼虫?吸血鬼?それとも天魔でも合成されるの?型月…人形…禁忌人形(バンドール)か!」

「よくそんなマイナーな作品ばっかり…それにマスターにそんな事はしないよ? でも、ねぇ?」

 

 可愛らしい八重歯を見せて笑うキャスターの手を振りほどいて、思いっきり後ずさる。そうだよ!お皿まだ洗ってないし学校だっていかなきゃ!! それに相手はサーヴァントなんだ、私には最大最強の武器がある!

 

「我が手に輝く令呪をもって命ずーー」

「はいティアgo!」

「Jawohl!」

 

 令呪を使う前に、後ろから冷んやりした手で口を塞がれてしまった。と言うか、なんでドイツ語っていうか濡れてるし洗剤の匂いがするって事はお皿洗っててくれたのか!(錯乱)

 

「んー!!んー!!」

「大丈夫だよマスター。ちょっと色々魔術回路を植え付けたり、竜種の幼体とバトって貰うだけだから」

 

 それちょっとって言わない!特に後者死ぬから!竜種って幼体って言ったって絶対死ぬから! 後今更だけど私の口を押さえてるの誰!?

 

「大丈夫、マスターはスパルタだけど、効果は覿面」

「テルモピュライ・エノモタイア!!出てくるのはクトゥルフだけどね!」

「耐性付けるのには、手っ取り早い」

 

 スパルタはスパルタでもそっちですかいな。でもモウヤメルンダァッ!あ、でも、竜種=龍之介:ジル=クトゥルフ…って考えるとそこそこ似てる?似てるな(諦め)というかこれじゃなんかおかしい比率じゃないか、ちゃんとしろ私の頭。

 

「朝ごはん食べた時点で、もう改造は始まってたのさ! 神代の食材なんて、普通は食べれないんだからね!」

 

 その時点でもう手遅れだったのか(絶望)混迷を極める頭のまま行ったじたばたという最大の抵抗もむなしく、私はあっけなくキャスターの宝具の中に連れ込まれてしまった。

 

 拝啓、前世と今生のお父様お母様姉ちゃん。思った以上に早く私もそちらに行きそうです。




もうやだ、暴走モーさんも不夜ガウェインも辛い。
HPと攻撃力はカットしました。何に影響されたからお察し。
このイオリは配布鯖に違いない。

Fate/Grand Order風にしてみたステータス

活動報告のステータスを参照

レア度 ☆4
Cost 12

所有カード
Buster ×2
Arts ×2
Quick ×1

保有スキル
高速神言 A(9T)
・自身のNPをものすごく増やす
刈り取る者 B(8T)
・敵単体のチャージを中確率で減らす
・スターを獲得
永劫破壊(擬)B(7T)
・自身の弱体耐性をアップ(3T)
・自身のHPを中回復
・自身の防御力をアップ(3T)
・自身の攻撃力をアップ(2T)

クラススキル
陣地作成 B
・自身のArtsカード性能をアップ
道具作成 EX
・自身の弱体成功率アップ
神性 B
・自身に与ダメージプラス状態を付与

宝具『幻想世界(スヴァルトアルフヘイム)戦乱の剣(ダインスレイフ)
ランク B+
種類 Arts
種別 対城宝具
効果
敵全体の攻撃力ダウン(5T)防御力ダウン(5T)クリティカル発生率ダウン(5T)〈オーバーチャージで効果UP〉
&自身に回避状態を付与(1回)


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フェイトの始まる日

獅子王様を令呪でクラレントブラッドアーサーしちゃったので、初投稿です。オジマン様もベディウェールさんもハサン達もかっこよくてステラァァァァァァッ!!
イシュタル?お迎えできませんでした。


「どうして、こうなったんだろう…」

 

 キャスターに教え込まれた使い魔(サーヴァント)との視界の同調。それで戦場を見ながら、私は思わずそんな事を呟いてしまう。

 

『あっはははは!!強い、楽しいなぁ!』

『◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!』

 

 ひび割れた禍々しい大鎌と、黒い葉脈の様なものが走る鉄柱が火花を散らす。元は蟲蔵だったこの場所には既に1匹たりとも蟲はおらず、それどころか互いの武器がぶつかり合うたびに上の屋敷だった物が吹き飛んでいく。

 

「ほんとに、どうしてこうなったんだろう…」

 

 キャスターの持つ賑やかすぎる異界の中から魔術を使い、真正面からバーサーカー(ランスロット)と打ち合ってる自らのサーヴァントを見て、やっぱり私はそう呟くのだった。

 

 どうしてこんな事になってしまったのかは、数十分前に遡る。

 

 

「おはようマスター!だけど夜だからこんばんは? どっちにしろもう聖杯戦争の時間だよ!!」

「あの、キャスター? 今の私の状態分かって言ってる?」

 

 私はジト目でキャスターに話しかける。

 無理やり増やされた(してくれた)魔術回路が定着してないらしくズキズキ痛むし、オジマン様の砂漠でもあった様に濃過ぎる魔力のせいで息もしづらい。士郎式自殺修行よりはマシだけど、そんな中でみっちりキャスターに魔術を仕込まれた直後なんですがそれは。

 

「もちろん。なんてったって、ついさっきまでマンツーマンで教えてたし」

「それじゃあ!」

「だから、市民会館の龍脈から直接魔力を吸い上げて、そのままマキリの家に突撃してゾォルケン爺さん倒しに行こう?」

「……ふぁっ!?」

 

 ちょっとまって。確かに市民会館は近くにあるけど龍脈に直接干渉?それって英霊ができる事じゃないよね!?よしんば出来たとしても、そんなの霊基がぐっちゃぐちゃになっちゃう気しかしないんだけど。

 

「大丈夫大丈夫、生前もやった事あるし! まあ、マスターにはここから一旦退去してもらう事になるけど…」

「生前もやったって…」

 

 このキャスター、ほんとに大丈……ああうん。そういえば狂化持ってたっけこの子。納得。

 

「まあ、こんな事を話してる間にもう到着してるんだけどね!」

「問答無用かぁぁ!!」

 

 渾身の叫びも虚しく、私は本来の世界に排出されてしまった。ついさっきまでの真っ白な世界から一転、夜の暗闇に包まれて浮遊感。だけど一向に地面にぶつかる痛みはない。なんで?

 

「全く、マスターは大マスターをもう少し大事にする」

「ごめんごめん」

「だ…れ?」

 

 視界に映るのは金色…じゃなくて、虹色の髪。キャスターと色が左右反対のオッドアイ。そして、何故かこの子を見てるだけで心の奥底から湧き上がってくる謎の恐怖。

 

「マスターと契約した精霊、ティア。元は邪神ヨグ=ソトース。コンゴトモヨロシク、大マスター」

「副王様じゃないですかやだー」

 

 それなら、キャスターとかこの子を見たときに浮かんだよくわからない恐怖も納得だ。ニャル子さんが (」・ω・)」うー(/・ω・)/にゃー なアレなんだから、私をお姫様抱っこしてるヨグ様が幼女だっておかしくないかもしれない。違うかもしれないけどそういう事にしておこう。

 

「さてと、準備も整ったしこれから二個ほど宝具の真名解放するけど、倒れないでね?」

「シャキッと立つ」

 

 そう言ったティアさんに私は降ろされ、夜の街にパジャマのままスリッパで降り立った。これは…寒いし、誰かに見られたらかなりマズイかも。補導されて1発おじゃんの可能性が極大な気が。

 そんな風に思う中、キャスターは召喚したての頃の大鎌を持ったタナトス(ペルソナ)のような服装に戻っていく。2回目だからか途轍もなく気持ち悪い感覚に襲われるだけで済んでるけど、悪霊とかがもれなく寄ってきそうな気配をしてる。

 

「それじゃあいくよー!」

「え、ちょっ」

 

 心の準備ができてない。そう言おうと思った瞬間、メイン40サブも30という凛・桜レベルまで増やされた魔術回路が唸りを上げて魔力を生成し始めた。けど、今までの私を圧倒的に上回る量の魔力が吸い上げられるなんて事に、定着もしてない魔術回路と身体が耐えられる訳もなく…

 

「ーーぁっ」

 

 爪の間に針が刺さった感じの痛みが全身に走り、思わず地面に倒れ込んでしまう。痛いという感覚が頭の中を駆け巡り、声を上げようにも口から洩れるのは声にならない悲鳴。涙で視界を滲ませながら、汚れるのも無視してアスファルトの上を転がり回る。

 

「真名解放ーー形成(Yetzirahーー) 刈り取る者(ヴィターエトモルテ)

 

 そんな中聞き取ってしまったキャスターの宝具名。次の瞬間、龍之介のせいで我が家を襲った惨劇の夜を圧倒的に上回る濃密な血の臭いが周囲一帯に満ちた。

 ねえ、今聞き間違えじゃなかったら形成(Yetzirah)って言ってたよね?それって確か、エイヴィヒカイトで聖遺物の使徒的サムシングだったと記憶してるんですが。最終的には流出しちゃう系の。

 

「よし。ティア、あれやるから合わせて」

「了解。真名解放ーー◽︎◽︎◻︎=◽︎◽︎◽︎◽︎」

 

 多分私の脳が聞いてはいけないと判断したのだろう、ティアさんの宝具の真名は書くことができなかった。けれどしっかりと宝具は発動し、一瞬の後に明確な変化が訪れた。

 

「きゃあっ!」

 

 私が悲鳴をあげちゃったのは、多分震度に換算すると3くらいの揺れが発生したからだけじゃない。その瞬間から、キャスターとのパスを通じて私に魔力が逆流してきたからだ。流石にこれは異常事態だろう。

 

「全部の起動を確認、よし! マスターはもう私の門の中に戻っていいよ。というか危ないから戻ってて?」

「外が気になるなら、共感知覚で盗み見れば良い」

「…うん、分かった」

 

 暑くもなく寒くもないただ真っ白な布団くらいしか無い不思議な空間。自分が足手まといで弱点になるのは分かってるから、そこに私は再び足を踏み入れる。正直音もないから共感知覚使わないと発狂しそうだなぁと思っていたのだが、視界に広がったのは予想外過ぎる光景だった。

 

「…へ?」

 

 よく見れば、質素な武具から絢爛豪華な武具まで詰まっているビルくらいの高さの立体駐車場っぽい大量の建物。よくわからないけど、なんらかの生物の残骸で作られている小山。なんでか森、そして川と滝。やたらメタリックな超巨大ピラミッドが数個。その付近は砂漠。ちくわ大明神の社。明らかに起動してるヘヴィーなオブジェクト。戦車。窓のないビルっぽい建物。自由の女神。キャメロット風の城。天空には燦然と輝く発光体が座して世界を照らしており、色とりどりの巨大な水球が浮かぶ空を何かが気持ち良さげに飛行している。

 パッと見ただけで(異常に)賑やかになっていた異界の中は、自分の頭がおかしくなったのかとおもうくらい混沌とした状態になっていた。さっきまで何も無かった筈なのに。

 

『ようこそマスター、私の真の工房へ』

「ツッコミどころが多過ぎるわ!」

 

 どこからか響いてきたそんな声に、私は全力でツッコミを入れるのだった。というか、

 

「というか、間桐の家にいってヒャッハーするって話だったけど、私蟲蔵の場所とか地下って事しか知らないよ? 家の場所は知ってるけどどうするの?」

『そんなの、上の屋敷を吹き飛ばしてみるに限るよ!! 後で元通りに立て直せば済む話だし!!』

 

 うちのサーヴァントぇ…

 




冒頭にモドレナカッタ…
ここのイオリは本編のその後、および多少のIFルート後の状態です。


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フェイトの始まる日 そのに

前作含め過去最大の文字数になってる…


 異界の中が異常に賑やかになるアクシデント?はあったけど、あれから数分、私達は今間桐邸の目と鼻の先まで来ていた。ティアさんは魔力消費が無駄と言って、霊体化している。

 

『それで、ここまで来たのはいいけど具体的にどうするの?』

 

 共感知覚(という名のキャスターが上書きした別のナニカ)で感覚を共有している私は、見た目は完全お化け屋敷だけど結構な広さを持つ間桐邸が見えている。魔術師の家だし、真名解放でもしない限り完全に吹き飛ばすのは出来ない気がする。

 

「まあまあ、そこは私のサーヴァントとしての腕の見せ所かな!」

 

 そう言って私/キャスターは、手に持った大鎌を地面に突き立て左の腕を天に掲げた。それに呼応して間桐邸の上空に、銀色の魔力で紡がれた魔法陣が描き出される。

 

「せっかくの栄えある聖杯戦争。たとえ終わり(zero)に続く未来でも、第一戦が偽装じゃつまらないでしょ! 開け銀鍵の門『もう一つの世界(アナザーワールド)』!」

 

 莫大な魔力の後押しによって巨大な魔法陣が完成し、私の居る異界に繋がる穴が現出する。本来ならあくまでそれだけの『王の財宝(ゲートオブ・バビロン)』と違って中身の射出は出来ない宝具らしいけど、ただ落下させるだけなら話は変わってくる。

 

「天より降れ、我が作品(けんぞく)よ!!」

 

 私/キャスターが手を振り下ろし号令をかけた瞬間、虚空に開いた門から数多の武具が地上に向かって殺到した。その全てが最低ランクであるけれど紛れもない宝具。けれどまあいくら神秘を溜め込んだ宝具とは言え、それだけじゃ無論大きな屋敷の完全破壊なんて出来やしない。けれど、どんな物事にも例外というものはある。

 あれ?私の考え方ちょっとおかしくなってきてる気がする…

 

「閉門完了。それじゃあせーの」

 

 私が考えたそんな事が伝わってしまったのか、門を閉じ口の端を吊り上げてキャスターが宣言した。やっぱりうちの鯖バーサーク・キャスターなんじゃ…でも合わせる!

 

「『壊れた幻想(ブロークンファンタズム)!!』」

 

 壊れた幻想。それは自らの象徴たる魔力の詰まった宝具を壊して魔力を暴発させ、ミサイルや爆弾のように使う本来なら最終手段たる禁じ手。

 エミヤの投影とは違うけど幾らでも()()()()なおかげで、うちのキャスターも何度だって使用可能なそれ。たとえ低ランクでも大量の宝具が一斉に起爆すれば、それは想像を絶する破壊力を発生させる。

 つまり何が言いたいのかと言うと…

 

「いやっほー!! あとみーつっけた」

 

 間桐邸は完全に、跡形もなく、木っ端微塵に消し飛んでいた。キャスターがいとも簡単に(半壊してる)地下への入り口を見つけられたのは、そのおかげに違いない。

 そんな事を私が考えている間にキャスターは、大鎌を携えて蟲蔵に嬉々として突撃していった。私としては、途中色んな蟲がキャスターに向かって突撃しては見えない壁にぶつかっては潰れていくのは、見たくなかったけど。

 

「かーりーやくん、あっそびーましょー」

『今やってるの戦争だからね!?』

 

 そんな事を叫びつつ、私/キャスターは蟲蔵の最深部へと辿り着いた。今ここにいるのは誰と誰なんだろう?そう思った瞬間、キャスターと繋がっている私の感覚が爆発的に拡大した。見ているのは前だけの筈なのに、左右背後上下だけじゃなく蠢く蟲の数や形までハッキリと分かる。加えて妙に視界が明るく…ってそうじゃない!

 

「奴を殺せ! バーサーカー!!」

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」

 

 私が意識を目の前に戻した時には既に、バーサーカーはキャスターに対し手に持った宝具の影響下にある物を振り下ろしていた。どう考えても回避は間に合わない。

 

『っ』

「はぁっ!!」

 

 恐怖で咄嗟に目を瞑っても遮断されない映像の中、黒銀の魔力を迸らせ跳ね上がった不気味な大鎌が、擬似宝具となっている鉄柱をいとも簡単に両断した。それを見てか大きく飛び退いたバーサーカーを見て、キャスターが幼い声で高らかに言い放った。

 

「サーヴァントキャスター、マスターの命令により推参。その首置いてけぇ!」

 

 撒き散らした黒銀の魔力が漂う中、ようやく私も落ち着いて周囲を確認できる。ここに存在するヒトガタは、パーカーを着た白髪の男…雁夜おじさん、和服を着た蟲ジジイ、蟲の海の中【見せられないよ】な状態の私と同じくらいの幼女…桜ちゃん。そして最後に、短くなった鉄柱を剣のように構えるバーサーカー。

 うちの子が薩摩に侵食されてたり、スキルに無いと聞いてた魔力放出を使ってたり。この光景を見た私には、そんな事よりも先に怒りが湧き上がってきた。【見せられないよ】な事をしていいのは、創作物の中だけと決まってる。これだから魔術師って奴らは…

 

「フン、雁夜よ。面妖なサーヴァントではあるが、所詮クラスはキャスター。姿を現した時点で彼奴に勝ち目なぞありはせんわ。さっさ始末せんか!」

「武具接続、No.U002。能力起動」

 

 キャスターからも怒ってる気配が伝わってくる。そして呟かれたよく分からない言葉が私の耳に届いた瞬間、遠くに見えていた蟲ジジイの背中が気がついた時にはすぐ目の前にあった。

 多分縮地でもしたんだろうと理解を放棄する私の前で、キャスターが何も気づいていない臓硯の背後で大鎌を振り被る。

 

「『模倣(イミテーション) 人世界・終焉変生(マッキーパンチ)』」

『ヴォルスングサガじゃないんかい!』

 

 全力でツッコミを入れる私の前で大鎌が黒銀の軌跡を描いて振りぬかれ、臓硯を臓/硯に分割した。仮にも人の魂の限界と言われる200年を超えて生きた怪物。本体は桜ちゃんの心臓にいるはずだし、本来ならこの程度の事で殺せる訳は無いのだが……その姿は既にどこにも無い。ただ魂の腐ったジジイとして全てを終わらせられた。何せさっきのは正真正銘……

 

「……一撃だ」

『一撃だ』

 

 なぜ被ったし。まあいいか。

 使える理由も原理も不明だし理解は諦めるけど、今キャスターが使った技の原典は知ってる。簡潔にまとめると、歴史ある存在を問答無用で終わらせる攻撃。曰く「幕引きの一撃」一部の厨二が辿り着く作品の…陳腐な言葉になるけど必殺技だ。

 

「ぐ、があ゛ぁ゛あ゛ぁぁ!!」

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」

「やぁっ!」

 

 そんな私の思考を遮ったのは、雁夜おじさんの絶叫とバーサーカーの突撃だった。バーサーカーと打ち合っているのはあくまでキャスター、自分にそう言い聞かせて頭を回す。

 雁夜おじさんが死にかけてるのは…あっ臓硯が死んだせいで起きた際の暴走か、あとバーサーカーがハッスルしてるのもってそれはまずい。あくまで私の偽善になるかもしれないけど、例え数年程度であっても雁夜おじさんには桜ちゃんと幸せに過ごして欲しいのだ。

 

『ティアさん!』

「了解、大マスター」

 

 キャスターはバーサーカーとの戦いで目一杯なので、ティアさんに頼んで分と保たずに雁夜おじさんを治療してもらう用に頼む。けれどまだやらなきゃいけない事が一つある。

 

 それは暴走する蟲の海に呑まれた桜ちゃんの救出。

 

 キャスターはバーサーカーと戦っているし、抑え続けてもらわないとだから助力は期待できない。ティアさんにはそもそも命令できる訳じゃないし、たった今頼み事をしたから却下。よって動けるのは私だけ。

 

「これが無窮の武練! これが円卓最強! セイバーじゃないし、獅子王のギフトもないくせに超強いじゃん!」

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」

 

 バーサーカーの怨念の様に黒く濁った負の魔力と、キャスターの煌めく黒銀の魔力の軌跡が交わり火花を散らす。一瞬だけ見えたバーサーカーの武器は、『無毀なる湖光(アロンダイト)』に変わってるしこっちが押されてるっていうのにうちのサーヴァントは……こんなに笑顔で楽しそうとかどうかしてるよ。

 

『キャスター、桜ちゃん助けに行くから適当な礼装見繕って!』

「やだ!」

 

 秒と経たずに即答された。え、あぅ、こうなったら自力で見つけ出して助けに行くしか…けどそうなると時間が…

 

「でも私の使い魔は付けてあげる、5秒待って。感覚共有カット」

 

 感覚が突然元の自分に帰還する。こうなると、外の様子が分からないから出ようにも出れないんだけど…

 

『来てフロー!』

「え?」

「きゅうっ!」

 

 そう疑問に思った私の上からまさかの生命体が現れた。真っ赤な甲殻に包まれた強靭そうな腕、立派な翼、猛々しい牙、雄々しい尻尾、くりんとした眼。まだ幼体ではあるけれど、全身に武具を身に纏ったそれは、幻想種の頂点『竜種』に違いなかった。でも可愛い。

 

「マスターの起源とか特性は分からないけど、元々の属性はノーマルな火。私の改造も相まって相性はいいはずだよ!」

 

 自分じゃそこは調べられなかったけど、やっぱり属性は火だったのか。まあ1番多いって話だったし……え、改造? ナニカサレタヨウダ。

 呆然としてる私の背中がコンコンと叩かれた。振り向くと、フローと呼ばれてたドラゴンが伏せて何かを待っていた。

 

「えっと、乗ればいいの?」

「きゅ」

 

 恐れ多いけど、それ以上になんだかドキドキする。だって神話の生物に乗れるんだよ?SAN値直葬系はノーサンキューだけど、こういう系ならもっと来ても問題ナッシンだ。

 

「よいしょっと」

 

 頑張ってドラゴンさんの上に跨った瞬間、私の全身を焔が包み込んだ。パジャマの上を舐める様に焔が伝っていき、新たな衣装を形成する。瞬きの間に完成したそれは不思議と熱くない、焔でできた巫女装束。意味はもう考えないけど、多分外に出るのに必要なんだろう。

 

『3秒後に門を開くから、早くでて救出して戻ること!』

「りょうかい、フローちゃん、お願いね?」

「くるあっ!」

 

 私はそう言いつつフローちゃんにしがみつく。3、2、1、今!

 門がゆっくりと外に向かって開かれ、そこから私は凄まじい速度で外に出撃した。途端に嗅覚を支配する腐臭やらなんやらが入り混じったゴミの様な臭い。そんな空気を焼き焦がしながら、私達は無残に砕かれた蟲蔵内を飛翔する。

 

「お願い、見つかって」

 

 視界の端に打ち合うサーヴァント達とぐったりしてる雁夜おじさんを入れながら、私は眼下に広がる蠢く蟲の海に目を凝らす。気持ち悪いその中に探すのは肌色、心臓の蟲は消滅してる筈だから今助けだせれば間に合う筈。

 

「いた! お願いフローー!!」

「きゅるぁぁ!」

 

 痛みを発しながら魔力回路が駆動し、吸い上げられた魔力が魔術を発動させる。それは所謂ドラゴンブレス。圧倒的な火力が蟲の海から見えた幼い手の周りを除いて焼却し、一塊の蟲だけを残して中断された。

 

「突撃ー!」

「きゅう!」

 

 初歩の初歩、強化の魔術を自分の脚にかける。グングン迫る桜ちゃんのいる(であろう)蟲塊。暴れる蟲が気持ち悪いし、脚だって痛いけど知ったもんか!

 

「捕、まえた!」

 

 多少の蟲ごと桜ちゃんの手を掴んで引っ張り出し、どうにか抱きとめる。その際未練がましくへばり付いていた1匹の蟲が、火傷を負った桜ちゃんの肌を這い私の頭に飛びかかって来た。

 回避不能迎撃不能、牙が見えた多分淫蟲、死んで、たまるか!!

 

「へ…?」

 

 走馬灯が見える寸前、淫蟲が業火に包まれた炭と化した。

 私がその事を不思議に思う間もフローちゃんの動きは止まらない。本来の主人の命に従って、開かれた門の中に最高速で飛び込んだ。そして徐々に減速しながら着陸、停止する。

 

「そうだ、桜ちゃんは!?」

 

 私が未だ抱きとめている助けたかった人物、その容態を確認する。全身についた暴れた蟲による大量の切り傷、ブレスの余波で受けたと思われる火傷、それらが日袴と同じ色の焔に包まれて治っていっている。

 

「この巫女服のおかげ…?」

「きゅうきゅう」

 

 フローちゃんがコクコクと頷いている、どうやら本当にそうだったらしい。それなら全身の傷に対応してて遅々として進んでない回復も、私が全力を出せば早くなる筈。

 

「せめてこういう怪我だけは治す!」

 

 肥大化する魔力消費。全身に走る痛みも増大したけれど私は、自分が掲げていた目的の達成を確信し……限界を迎えてパタリと倒れるのだった。




転移とかいう魔法レベルの魔術を使ったり、宝具やら魔力放出(もどき)をバンバンつかってるけど、真工房さえ起動しちゃえば魔力供給が半自己完結するからね、仕方ないね。

途中の謎の番号はユニーク装備の二個目って意味でした。



そして、マッキーパンチとランスロさんが出てるからって、あの超良作とは比べないで下さいお願いしますm(_ _)m


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フェイトの始まる日 そのさん

分離後特有の連続投稿。
深夜帯に書いてたので初投稿です。


「へぇ、マスターも中々やるじゃん」

 

 マスターとフローが宝具になった『もう一つの世界(アナザーワールド)』に戻ったのを確認して、私はマスターの評価を結構上げた。私の補助があったとはいえ、元は一介の幼女がちゃんと桜ちゃん助けてるのは凄いと思う。

 

「まあ、今はこっちが優先なんだけどねっ!」

 

 一瞬だけ安否確認に割いた思考を目の前の戦闘に引き戻す。いくら狂化してて聖杯のギフトが無いとは言っても、相手は『無毀なる湖光(アロンダイト)』を抜いたランスロット。幾ら私でも、慢心してたら余裕で負ける。

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」

「わ、ちょっ、まっ!」

 

 そんな無駄な事を考えてたせいか何度か被弾しかけた。ここで負けたら、いつのまにか雁夜おじさんに成り代わって魔力供給してるティアとか、門の中で倒れてるマスターに申し訳がたたない。といかティアさんほんとあなた何してるんですか?

 

「それじゃあもう一段、ギアを上げていきますかぁ!」

 

 私本来の銀色の魔力と、ナノゴーレムの混じった黒銀の魔力放出を更に増やす。切り上げ、薙いで、振り下ろし、突いて、フェイント気味に蹴りを入れる。爆発的に速度が上がったそれに難なく対応してくれるのは流石円卓最強と言ったところか。

 なんて真面目な事を考えてみるけど、今の私の本心は結局「楽しい」という気持ちに占められている。だって生前私が戦っていたのは大半が人外の化け物。私の全力と拮抗して、なおかつ武器が壊れず死合える人なんて(ロイド)しかいなかったんだもん仕方ないじゃん。

 

「しっ!」

「◼︎◼︎ッ!」

 

 剣と大鎌が幾度となく打ち合わされ、火花と魔力と衝撃波が撒き散らされる。ああ、楽しい。本当に楽しい。だけどそろそろ決着をつけないといけない。私は悲しい(ポロローン)

 

 ここまで騙し騙しヒャッハーしてたけど、相手はバーサーカーで私はキャスター…この前提だけはどうやったって覆せない。クラスの相性は悪く、さっきから単調になった私の攻撃が躱され始めているのが私の押されてる証拠だ。だから名残おしいけど、勝負を決めさせて貰う。私は魔法使い、小細工は得意だからね。

 

「魔力過剰供給(オーバーロード)、内側から爆ぜろ!」

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎ッ!!!」

 

 剣戟の最中、ランスロットの鎧からくぐもった破裂音が轟いた。隙を狙って降った大鎌をアロンダイトで塞いで、しかも距離を取ったのは流石としか言いようがないけど……もう詰みだ。

 こんな事が起きた原理はいたってシンプル。超常の現象たるサーヴァントであっても戦闘時の呼吸は必須。ならそこにナノサイズのゴーレムを散布、体内に取り込まれた後に暴走爆発させれば一丁あがりだ。対魔力?そんな物は関係ない。だって私が散布していたのはあくまで機械、呪いとか魔術ではないのだから対応外だ。まあ、今回みたいに相手が鎧にでも包まれてないと大ダメージは期待できないけど。

 

「結構自信あったけど、やっぱりダメかぁ…」

 

 果たして、バーサーカーは生き絶えていなかった。体内が大爆発、それが全身鎧の中を駆け巡ったというのに現界を保っている。しかもフラついてこそいるものの、立ち上がり剣を構えなおした。

 

「本当なら、真名解放した全力の宝具で決めたいんだけど…ごめんね?」

 

 ここまで派手に、しかも時間のかかった戦闘をしたんだからきっとハサンが来てる。全壊した蟲蔵の中にいないのは確実だけど外にはいると考えて、本来の私の全力は見せず偽装に徹した方が良い。

 大鎌を銃形態に変形させて背負い、魔力を飛ばし再びナノゴーレムを爆発させる。再度の爆発でも壊れない地に伏したバーサーカーの鎧に感謝しつつ、私は門に手を突っ込みある物を取り出した。

 

「闇の力を秘めし鍵よ、真の姿を我の前に示せ、契約の元イオリが命じる、封印解除(レリーズ)

 

 私が取り出したのは、ピンクや白の可愛らしい衣装が施された小さめのバトンくらいの杖。追い討ちとして弱々しい動きしか見せないバーサーカーをもう一度爆発させつつ、杖に魔力を込めて接近する。

 

「……Ar(アァ)……thur(サァ)……」

 

 度重なる爆破で限界を迎えていた兜が砕け、その素顔が露わになった。それは私やマスターの記憶に色濃く残る、憎悪によって堕ち悪鬼とかしたランスロットの顔。セイバーとして召喚されてる青王様の事を察知してたのだろうか? 恨めしいという念が嫌という程に伝わってくる。

 

「だけどすまない…本当にすまない。私だって、マスターの望みは叶えてあげたいもん」

 

 加えてマスターのお願いは、私だって少なからず共感できる。だから、ここでバーサーカーを倒さないと言うのはあり得ない選択肢になる。でも、そうだね……最後は派手にいきますか。

 

「燃え上がれ、呪いの炎よ!」

 

 邪ンヌの炎をイメージしつつ、この部屋にこびりつく蟲を焼却すべく極めて派手にただの黒い炎を発生させる。これでハサンに対するクラスの誤解、宝具の真名の隠匿、派手な葬送っていう条件が全て整った。

 

「何時の在るべき姿に戻れ、クラスカード!」

 

 振り下ろした杖の先から魔法陣が広がり、バーサーカーの姿が魔力の光となり消えていく。だけどこれでも私はキャスター、このまま終わらすだなんて事はしない。

 空気に溶けて消えるはずの魔力の光が魔法陣の上で収束する。魔法陣を起動、魔力を走らせて金に輝く3つの円環を形成、一旦広がった円環が収束し、そこには一枚の金色に輝くカードが出現していた。

 

「マスター、サーヴァントになっても、演出好きは治らない?」

「だって、やるんだったらこういう方が楽しいじゃん」

 

 瀕死の雁夜おじさんを引きずるティアに私は反論する。英霊になっても変わらず隣にいてくれた事は嬉しいけど、その、もうちょっとロマンに対する理解を…

 

「それ、どうするの?」

 

 私の心を読んだのかちょっとムッとしたティアが、私が手に持つ金色のセイントグラフを指差して言う。五次のメディアさんみたいにマスターするのも考えたけど、バーサーカーじゃ正直手に余るし…

 

「うーんと、食べる…かな?」

「そう。私は消える、好きにするといい」

 

 何かを察した様に、雁夜おじさんを捨ててティアは霊体化した。まあ、実体化してても魔力を食うだけだしね。私に呆れて帰ったなんて事は信じない。

 

「さてっと。落ち着いた事だし、いただきます」

 

 大丈夫、これは紙じゃない。魔力の塊、種火と思えば怖くない。手を合わせて、そう思い込みセイントグラフを頬張る。……無味無臭で歯ごたえもなし、けれど狂った魔力が身体に満ちた。まあ、私もバーサーカー適正あるからあんまり問題はない。

 

「ごちそうさま。後は雁夜おじさんを起こして、桜ちゃんを返してトンズラするのが1番かな?」

 

 杖を門の中に放り捨て、戦闘態勢は解かずに考える。時間制限は私の黒炎が鎮火するまでだから、そんなに長くはない。流石にこればかりはマスターの意見を聞かないとだし…あ、起きた。

 

 

『マスター、これからどうする? 流石に意見が欲しいなー』

「きゃすたー、私おきぬけなんだけど…」

 

 怠い身体に鞭打って起き上がり、ようやく私はそう呟く。えっと、気絶する前は確か…

 

「あぁ、確か桜ちゃん助けたんだっけ」

「きゅう」

 

 少し周りを見てみると、一糸纏わぬ無傷の桜ちゃんが寝息を立てていた。私は焔でできた巫女装束のままだし、そんなに時間は経ってないのかな?あとフローちゃんに癒される。

 

「そういえば、バーサーカーはどうなったの? キャスター」

『倒して食べたよ! 美味しくはなかったかな』

「あ、うん」

 

 もちつけ私、ウチのサーヴァントに常識なんて通用しない。多分アレだろう魂喰いってヤツだろう、聖遺物の使徒なら不思議じゃナイナイ。

 

「それで、意見が欲しいなってどーゆー事?」

『えっと、まず今の状況を説明するね。バーサーカーは撃破して雁夜おじさんも身体から蟲は完全に除去、桜ちゃんも見た限り無事で蟲の反応も無いし、今は蟲蔵自体を焼却中』

「うんうん」

 

 そこまではいたって順調じゃないの?早々に目的達成できちゃったから、私としてはそこそこ満足だし。

 

『今は炎で目隠ししてるけど、外には多分ハサンが待機してるから尋常な手段でのここから脱出は不可能。おんなじ理由で上の屋敷は直せないし、雁夜おじさんと桜ちゃんを放っておく訳にもいかないよ? 時間制限は私の炎が鎮火するまで。マスターの意見が欲しいな』

「……キャスター、転移とか距離の置換とか出来たりしない?」

『どっちもできるけど、それでどうするの?』

「一旦、全員連れてマイホームのマイルームに帰る」

 

 私が出した答えはそれだった。事件発生からまだ1日、ギリギリ家に警察は来ていないだろうし、私の私物で持ち出したい物が数個ある。とりあえず桜ちゃんに着せる服とか、ご飯とかの問題も1日くらいは解決するだろう。

 

『でもマスター。確実に警察のせいで家は使えなくなるし、おじさんと桜ちゃんはどうするの?』

「事情説明するしか…ないでしょ」

 

 運が良ければ…いや、最悪2人を助けた代償って言えばホテルの予約くらいはしてくれるだろう。勿論冬木ハイアットホテルは除く。2人に関しては私の手に負える事じゃない、本気で助けたいなら正真正銘最後までってやつだ。だから現状打破には手を貸すけど、それ以降は雁夜おじさんに丸投げする。

 

『それでダメだったら?』

「知らない。逃げる」

 

 結局はそこに落ち着く。キャスターの持つ力なら聖杯戦争中町を逃げ回る事は可能だろうし、割り切ろう人間自分が1番大切だ。

 よくよく考えたら今回の襲撃で私達は原作キャスター同様神秘の秘匿とかしてないから討伐対象入りするかもだし、拠点はない方が良いのかもしれないね。私が前世の知識を可能な限り書き留めてロードワークの情報も追加した数冊の大学ノート、あれさえ手元に戻れば少しはマシな考えも思いつくだろう。

 

『ふっ』

「むぅ、何かおかしな事でも言った? キャスター」

『ううん。私のマスターをするなら、やっぱりそう言う人の方が良いなって思って。いいね、それでこそ私のマスターだよ』

 

 そんな嬉しそうな声が聞こえて数秒、ボロボロの雁夜おじさんがこの世界に落とされてきた。

 私にとっての運命(フェイト)が始まった日は、まだ終わらないみたいだ。あ、桜ちゃんに服着せとかなきゃ。

 




サーヴァントをセイントグラフに戻して、しかもそれを食べたのはウチの子が初めてな気がする。自己改造でも持ってるんじゃないだろうかウチの子は…


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フェイトの始まる日 そのし

fgoでバビロニアの開催予告が来たので初投稿です。



「かーりーやくん、あっそびーましょー!」

 

 それが忌々しい我が家に襲撃をした謎のサーヴァントが発した第一声だった。背に鎖で繋がれ浮かぶ7つの棺桶、手にはヒビ割れた不気味な大鎌を持つ死神を彷彿とさせる謎のサーヴァント。ソイツの正体が桜ちゃんと然程変わらない年頃の女の子と気づいた瞬間、俺の全身を気持ちの悪い感覚が突き抜けた。それどころか訳のわからない恐怖まで浮かび上がってきて…

 

「奴を殺せ! バーサーカー!!」

 

 そんな短絡的な命令をバーサーカーに下してしまった。俺は半死人ではあるけれど自分の心はまだ人であると思ってる。だからバーサーカーに無残に殺されるであろう謎のサーヴァントを想像し、後悔が胸に浮かんできたのだが…

 

「◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎!!」

「はぁっ!!」

 

 俺の想像を覆しあっけなくバーサーカーの攻撃を受けきったソイツは、バーサーカーが退いたのを見て年相応の幼い声で高らかに言い放った。

 

「サーヴァントキャスター、マスターの命令により推参。その首置いてけぇ!」

 

 そこからはもう理解が追いつかないほどの急展開だった。不完全ながらも不老不死の臓硯がアッサリと殺され、刻印蟲の齎す激痛の中、助けると誓っていた桜ちゃんを奪われ、頼みの綱となったバーサーカーも敗北した。

 それによって俺は、桜ちゃんを助ける事も遠坂時臣に対する復讐の手段も失ったはずだった。そう、全てを失ったはずだったというのに…

 

「と、言うわけで。身寄りも信用もお金もツテも無いので、どうか助けて下さいお願いします」

 

 何故俺は今、真っ暗な子供部屋で幼女に土下座されているのだろうか? ああ、全く意味がわからない。

 

 

「はふぅ…良かった良かった」

 

 キャスターの魔術によって帰ってきた我が家には、まだ警察さんやマスゴミ共は来ていなかった。それは物凄く不思議だったけど、キャスターが原因だった。なんでも、車やらなんやらをあの異界に収納して夜逃げした風に偽装していたらしい。超感謝。

 

「後はこれとこれと…」

 

 そう言いながら私は、暗い部屋の中自分の私物を傍らに浮かぶ黒い平面に次々と投げ入れる。お気に入りの服やパジャマ、ヌイグルミや今までの魔術関連の実験に使ってた道具、そして黒歴史(前世知識)ノート。

 因みにこの黒い背面はキャスターから植え付けられた《アイテムボックス》とかいう謎の魔法。便利だから詳しい事は無視することにした。『分類するなら虚数魔術なんじゃない?』とかキャスターが言ってたし、封印指定とか怖いし。なんて事を思ったのと同時に、キャスターから念話が入った。

 

『マスターマスター。雁夜おじさんが起きたけど、暴れそうだったから拘束したよ。どうする?』

『とりあえず私の部屋まで連れてきて欲しいな。桜ちゃんが寝てるのはここだし』

『りょーかい』

 

 そう言えば、小学校の友達も部屋に上げた事はなかったっけ。そうなると、私の自室に来る親族以外って雁夜おじさんが2人目だったりするのか。そんな事を考えているうち上がってきた雁夜おじさんに、私は色々と事情を説明する。

 

・自分は巻き込まれた一般人だという事

・あくまで魔術師じゃない事

・一家惨殺されてるから身寄りも何もない事

・キャスターの情報で知った桜ちゃんを助けたかった事

・2人に植え付けられてた蟲はキャスターが除去した事

・臓硯は存在ごと消し去った事

・今回の無茶でこれから死ぬ確率が増える事

 

 そして、助けて欲しいと土下座した。顔が半分ゾンビなおじさんに土下座して懇願した。一部嘘が混じってるけどきにする事じゃないだろう。悔しくないのか?プライドは? そんなのに拘ってても死ぬだけだからとっく質屋に売りました。あと、霊体化したキャスターが笑ってるけど気にしない。

 

「とりあえず寝床だけでいいんです。聖杯戦争が終わったら、勝手にどこぞの孤児院に行くのでお願いできないでしょうか」

「とりあえず顔を上げてくれないか? 流石にそこまでされたら断るに断れない」

 

 雁夜おじさんの言葉で私は顔を上げる。これで暗闇の中半ゾンビに土下座する幼女という猟奇的な絵面は解除された訳だが、雁夜おじさんはまだ私をジッと見つめていた。

 

「第一、そこまでしてもらって頼み事を断る方が筋違いだ。けれど1つ聞かせて欲しい、君たちはそこまでして何がしたいんだ?」

「聖杯戦争の全てが終わってからも、私が無事に生き延びる事。最低でも2016年までは」

 

 そんな雁夜おじさんの質問に私は即答した。雁夜おじさん達の救出が叶った以上、結局私の目的なんてそれくらいしかないのだ。

 大聖杯が汚染されてる事は知っている。それから溢れた泥が大災害を起こす事も知っている。ケリィもアイリも、ケイネスもソラウも、優雅家も、ほぼどのサーヴァントにも不幸が訪れる事も知っている。勿論その先の未来も知っている。それらをどうにか回避したい気持ちも持ち合わせてもいる。けれどそれを成そうとするただ『知っているだけ』の私には、何もかもが致命的に不足している。

 大聖杯の破壊?二次小説のオリ主じゃないんだ、そんなの出来っこない。大災害の被害範囲の縮小?

聖杯の泥(アンリマユ)相手に何をすればいいのさ。他の陣営に幸せを?鯖もマスターも幼女な陣営の話を聞く人がいるなんて思わない。

 

 それを無駄に理解しちゃってるから私は、この小さな両の手に収まりきるくらいので良い、自分だけの些細な幸せを掴みたい。掴んで引き寄せ抱き締めて、絶対に離したくない。これが私の抱く願い、とてもちっぽけな渇望だ。

 

「その2016年までっていう理由は?」

「乙女の秘密です」

 

 流石にそんな考えを知られる訳にはいかないので、人差し指を立てポーズを決めて誤魔化す。お願いキャスターそれ以上笑わないで、私のぽーかーふぇいすも限界きちゃうから。

 桜ちゃんの寝息だけが聞こえる部屋の中、バックバクの心臓で見つめ合う事数瞬。先に折れたのは雁夜おじさんの方だった。

 

「はぁ…分かった。とりあえず宿を取ればいいんだな?」

「はい! 警察のお世話になる訳にはいきませんし、私の年齢じゃ部屋を取る事は出来ませんから」

 

 魔術を使うのは論外だ。そんな事をしたらケリィに探知されて、爆破されて劇的びふぉーあふたーされちゃうのが目に見えてる。その点雁夜おじさんと一緒なのは利点が多い、ホテルに泊まっても不審がられないし、私はケリィの目から外れる……かもしれない。雁夜おじさんの令呪はキャスターが既に摘出済みだし、時間の問題だろうけどね。

 

「そうだろうな。とりあえず、手近なホテルなら冬木市ハイアットホテルになるがそこでいいか?」

「あ、そこはランサーのマスターが拠点にしてるので無しでお願いします」

「えっ」

 

 雁夜おじさんの驚愕した顔が、半ゾンビなせいか笑える。まだ、まだぽーかーふぇいすは保つ。ここで笑ったらシリアス気味な空気があぼんして一巻の終わりだ、がんばれ私。

 

「そんな情報、なんで…」

「キャスターが調べてきてくれました」

「幾ら何でも早すg」

「キャスターが調べてきてくれました」

 

 会話が続けられない?結構。そんな時はやはりこの手に限る。1番気に入ってるのはサーヴァント、OK?

 

『おーけー。ズドン』

 

 自分で落ち着くために言ってた言葉に介入してきたキャスターは無視し……どうしよう、なんたかすごく眠くなってきた。

 

「…話を続けたいのは山々なんですけど、正直眠いので寝てもいいですか?」

「あ、あぁ」

「ありがとうございます。雁夜おじさんはリビングを自由に使ってください」

 

 そう言って私はしっしと追い出すように手を動かす。…今更だけど、私もキャスターに少し似てきちゃったかもしれない。

 

「最後に1つだけいいか?」

「はい、なんでしょう?」

「君は、どうしてそんなに落ち着いていられるんだ?」

「目の前で、両親も姉も残虐に殺されましたから。少しくらいは心もおかしくなりますよ」

 

 感情を出来るだけ殺して、事実の1つを言ってみる。それを聞いた雁夜おじさんの表情は、その、なんとも言えない感じだった。

 

「まあ、戯言だよなぁ…」

『とりあえず、寝て休めばいいんじゃないかな? マスター(いーちゃん)

 

 ちょっと待ってキャスター、今絶対に変な意味込められてた。そんな事を思いながらも、精神的な限界なのか分からないけど、私の意識はプツンと途切れたのだった。

 私の運命(フェイト)が始まった日は終わる。だけどこれは、やっぱり終わり(ゼロ)に向かう始まりだった。




ただ話し合っただけの話。雁夜おじさん難しいつらい。
因みにこの主人公、敬語を使う接待モードでもハイライトは無いです。無いです。

邪ンヌサンタリリィとレベルフォウマと、ついでに邪ンヌの最終再臨も終わりました。さて、フレンドに頼ってストーリーしなきゃ。


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フェイトの針は回る

ギル様が書けずに第七特異点で遊ぶ日々。
ごめんなさい遅れました。特異点修復してきたので初投稿です。


 冬木市の一角に広がる倉庫街。普段ならなんの変哲も無いその場所が、今日に限り常人にとっては死地となっていた。無論そんな事が起きている原因はただ1つ、私も参加している聖杯戦争だ。

 

『マスター、一応飛ばしたけどちゃんと見えてる?』

「うん。見えないけど見えてるよ、キャスター」

 

 雁夜おじさんがとってくれたありふれたホテルから、私達は夜を待って出発していた。街中を自害さんが気配剥き出しで動いてたから、多分今日だろうと予想してたけどそれが見事に的中したらしい。

 

 そして私は例によってキャスターの異界の中、原作の第一戦となる戦いを見物している。音の無い映像の発信元兼今映像を私の前に映し出しているのは、どこからか現れてキャスターが使役し始めた金属製の蜂。それ自体はありがたいし原作を垣間見れた感動もあるんだけど……

 

「やっぱり、何も見えないや」

 

 昨日のバーサーカー戦の時みたく認識まで同調してないから、今の私にはセイバーとランサーがどう戦っているのかが全く見えてなかったりする。加速度的に増え続ける破壊の跡を追うのが精々だ。

 

『よし! マスター音声も入るよ』

「ありがとー」

 

 そう呑気に私たちが話している場所は、倉庫街にほど近い市街地の道。私もキャスターも一騎打ちに水を差すつもりはないし、イスカンダルの呼びかけで登場しようって事になった。

 そんな私の思考に冷や水をかける様な言葉が、映し出された映像から響いた。

 

『戯れ合いはそこまでだ。ランサー』

『ランサーの…マスター!?』

 

 奇妙に響くケイネス先生の声と、立ちながら周囲を見渡すアイリスフィールの声。私が見えていない間に思った以上に話が進んでいた。これならそろそろイスカンダルさん登場かもしれない。

 

『ねぇねぇマスター』

「ん? どうかしたの?」

 

 『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』で『風王結界(インヴィジブル・エア)』が解除されたりなんだりする自害さんが1番輝いてた映像を見てる私に、キャスターが質問を投げて来た。何かあったのかな?

 

『今更だけど、マスターも愛鈴(アイリ)でアイリスフィールもアイリだから凄くめんどくさいね』

「キャスター、折角人が目を逸らしてたっていうのに…」

 

 アサシンを発見とかそういう報告かと思ったら、本当にしょうもない質問だった。いや、私だって自分の名前を知った時に思ったよ? だからってやってみたしゅ、しゅとるナンタラっていう針金の鳥の再現はできなかったけど。大人しく針金工作にしました。

 

『今のマスターなら、修行すればできると思うよ?』

「改造されちゃったもんね…」

 

 それこそ、この型月の世界じゃありえないレベルで。魔術回路や属性やらをグチャグチャの混ぜこぜにされたらしいしね。やったね愛鈴、捕まったらホルマリン漬けコース確定だよ!(白目)

 そう私が1人絶望スパイラルに入る直前、映像から猛々しい雷鳴が轟いた。それは物語が進む証。なら未来の悲観はやめるべきだね、最悪人理焼却なんて事が起こるかもなんだし、目先の事は後回し後回しっと。

 

「よし。キャスター、昨日は私の我が儘に付き合ってくれてありがとう。だから、今日は目一杯暴れていいよ!」

『合点しょーち!』

 

 昨日と違い(マスター)の出番はない。それなら、1視聴者・読者として見てきた光景を全力で楽しもう! 私は密かにそんな決意をするのだった。

 

 

「双方、武器を収めよ。王の御前である!」

 

 話のわかるマスターとの会話を打ち切り、私は現実世界に意識を戻す。ついでにもう必要もないから霊体化を解除し、肉眼で状況を確認する。

 私のセンスにびしびしくるカッコいい戦車(チャリオット)と、それに乗る筋骨隆々な大男とウェイバーくん(メインヒロイン)。今の所私達しかイレギュラーはなさそうだし、遠慮なく楽しめそう。

 

「我が名は征服王イスカンダル。此度の聖杯戦争ではライダーのクラスを得て限界した」

 

 ライダーが続けて言ったその言葉に誰しもが絶句する中、私のマスターが門の中で笑うのを感じた。普通英霊が真名を明かす事は〜って言うのも重要だけど、私にとってはマスターが楽しそうに笑ってくれた方が重要だったりする。だって、召喚されてから一度もマスターは本音で笑っていなかったから。流石の私も、マスターの目が死んでいて様子もそんなじゃ心配になる。

 

「ま、杞憂だったみたいだけどね」

 

 コンテナの陰から現場を覗き見る私の前で、会話は原作通りに進んでいく。ライダーが戦う前にセイバーとランサーに恭順を要求して、どちらからも断られた。デコピンされるウェイバーくん。食い下がるライダー、けど「「くどい!」」で一蹴されて、ウェイバーくんが文句を言う。

 やっぱりここまで原作どおりだなんて、フェイトって題名だけあって運命の力って凄いみたい。いや、生前から女神様のせいで運命力については認めてるけども。

 

『そうか、よりにもよって貴様か。ウェイバー・ベルベット君』

「逆探知開始」

 

 今すぐにでもあの場に乱入したい欲を抑えて、暇潰しにケイネス先生の居場所を探る。某ゲームの☆5礼装には助けられたけど、今は現実だから容赦は無しだ。

 生前作るだけ作って滅多に使わなかった機械蜂を展開、同時に次元魔法をそれらに伝播させて探索の精度を上げて……たったそれだけで見つけてしまった。ついでにケリィと舞弥さんの居場所も。悲しいけど、暇潰しにはなったしいっか。

 

「おいこら! 他にもおるだろうが。闇に紛れて覗き見をしておる連中は!」

「どう言う事だ? ライダー」

 

 ついに、ついにマスターと約束した出撃の時間が来た。座にいては味わえない懐かしい戦場の空気。隣にロイドがいないのだけはほんっとうに残念だけど、昨日のバサスロットさんとの戦いからバチバチの興奮が消えてないのだ。残念なら再召喚すればいいって?ロイドは多分、セイバーか大穴でライダーでしか召喚出来ないからパスに決まってる。

 とまあ、そんな事は置いておいて。マスターから許しも貰ったし、盛大に暴れますか!

 

「それはね、セイバー。あなた達の一騎打ちに惹かれて出て来たサーヴァントはライダーだけじゃないって事だよ。例えば、私みたいにね!」

 

 そんな戦場には余りにも不釣り合いな、高く幼く舌足らず気味な声が響いた瞬間、どこからか出現した黒い靄が一点に凝縮しとても小柄なヒトガタを形成した。

 夜の闇の中輝く束ねられた銀の長髪、紅と蒼の色彩の異なる瞳、少々特殊な形状ではあるがシンプルな意匠しか施されていない黒く長いコート、その下に見える銀灰色は鎧だろうか?だが、何よりも目を引くのはその背に負った7つの巨大な棺桶と、手に携えた巨大なヒビ割れた大鎌。

 

「死、神?」

「全く、女の子を見て一言目が死神とか酷いよ。ウェイバーくん」

 

 頭の中で説明口調を展開している間に、

我らがヒロイン(カルデアの過労死担当)ウェイバーくん(孔明さん)からそんな評価を受けてしまった。まあ、生前散々言われてるから気にしない。

 

「さて。クラスも真名もマスターの方針で言えないけど、これでもれっきとしたサーヴァント。子供だからって甘く見てると、その首刈り取っちゃうぞ」

 

 ペロリと唇を舐めて、私はそう宣言する。

 そしてそれとほぼ同時に、視界の端にあった街灯の上に黄金の光が現れた。

 




設定してなかったこっちが悪いけれど、突然の☆0評価にはたまげたなぁ…理由をメッセージで聞いても返信ないし。既読ついてるのにーブーブー。

書かなければ延期すればいいじゃない! と言う事で、ライダーって枠がガバガバですよね(唐突)


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フェイトの針は回る そのに

今だから告白しないと…元々深夜テンションが9割の作品だから、マトモさを求めちゃいけない。
あ、キャスガメッシュ様お迎えしました。ついつい聖杯も1つ献上しました。


 視界の端にあった街灯のポールの頂上に現れた黄金の光、それは輝く甲冑の立ち姿となって限界した。それっぽく言っては見たけど、簡単に言えば慢心王様が乱入してきた。

 今まで黄金のタレとか言って馬鹿にしてたけど、実際に相対して実感する。存在感が違う、プレッシャーが違う。確かに英雄王は、別格のサーヴァントだ。優雅がセイバーを望んでたとか聞いた覚えがあるけど、これでもう十分じゃん。

 

「我を差し置いて“王”を称する不埒者が、一夜のうちに2人も湧くとはな」

 

 冷や汗が垂れる。どうしよう…楽しもうと意気込んでたのは良いけど、我様だけはちょっとマジになっても勝てない気がする。まあ、セイバーライダーにも宝具使われたら怪しいし、大鎌と『破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』の相性は最悪だし…あれ? もしかして私ってハサンくらいにしか勝てない?

 

「難癖つけられたところでなぁ、イスカンダルたる余は世に知れ渡る征服王に他ならぬのだがなぁ」

「戯け。真の王たる英雄は、天上天下(おれ)ただ独り」

 

 あとは有象無象の雑種と言うのも、正直第七特異点を知ってる身としては否定し難い。イスカンダルが好きってマスターの意見も分かる。だって、私が地味に固まっちゃってる圧に対して問いを投げかけれるのだから。そしてキレた英雄王の殺気を真正面から受け止め、『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』を向けられても依然とした態度でいられるのだから。

 

『ちょっとキャスター、もうヒトヅマニアさんはいないんだからどうにかしないと。ん? これはこれで続きが気になりはするかも?』

『大丈夫だよマスター、ちょっとビビってたけど…もう抑えない。だから、そこも今から危険域になるけど許してね?』

『え、嘘なにそ』

 

 突然入った念話を切り、気合を入れなおす。下手したらここで敗退、けど楽しみは増大。聖杯戦争に戦いたいから参戦したんだし、やるなら後者に全額賭けるに決まってる。

 

「我が拝謁の栄に浴してなお、この面貌を知らぬと申すのなら、そんな蒙昧は生かしておく価値すらない」

「そうは言うけどさ、バビロニアの英雄王。私としては、あなたがそんな状態で召喚されて…しかもマスターに騙されてるのにも気づいてないとかがっかりです」

 

 私は心底落胆した態度で、イスカンダルと英雄王の会話に介入する。私としては正直、第七にいたキャスター我様の方が好きだもん。この場にいる誰もが私の行動に息を飲むのを感じる。まあこれでこんな鯖がキャスターだなんて思う輩はいなくなるだろうし、今の私の限界を試すのにも丁度良いだろう。

 

「ほう、時臣がこの(おれ)を騙しているとな。なぜ貴様の様な雑種にその様な事が分かる」

 

 どうやら優雅さんの事に惹かれてこっちに気を向けてくれた様だった。バビロンから顔を出す宝具と一緒に。まあ、これでバサスロさんの役割は果たした。ならば後は好き勝手に言わせてもらおう。優雅め破滅するが良い。

 

「だってこの左眼、あなたの大っ嫌いな神からの貰い物ですし。あ、イシュタルではないですよ」

「……続けるが良い」

 

 神って言葉を出した瞬間、一段と殺気が強まった。多分つまらない事を言った瞬間バビロンから顔を覗かせてる宝具が斉射されるだろう。イシュタルじゃないってのがプラスに働いてくれたのを祈る。

 でもこれはアレだね、ティアにはアサシンの駆除に動いてもらっていて正解だった。もし隣に出てきてたら問答無用で殺しに来られてた。

 

「それにお宅のトッキー、『英雄王ギルガメッシュ』を尊敬してはいても、サーヴァントのあなたに対しては精々が美術品程度の尊敬しか持ってませんし。それにトッキーの願いはこの世の内で完結しないから、最後にはあなたを令呪で自害させるつもりですよ? 魔術師なんて基本、サーヴァントを道具や奴隷としか見ていない」

 

 今頃トッキーは必死に弁明でもしてるのかな? いや、我様が凄く良い感じにニヤついてるからきっとそうなんだろう。このままじゃトッキー破滅計画は頓挫しちゃうし、もうちょっと頑張ろう私。

 

「かと言ってサーヴァントである身の上、マスターからの魔力供給が途切れてしまえばひとたまりもない。けれど、サーヴァントのいないマスターがいれば問題はないです」

 

 そこまで言ったところで、ティアから終わったと連絡が入った。うん、百貌さんはどっちにしろ早めに潰しておきたかったし是非もないネ。

 

「今、トッキーの隣にいる麻婆神父がそれになりました。英雄王の眼鏡に適うかは分かりませんが、中々に面白い男の筈ですよ?」

 

 言い切った。これ以上はケイネスさん辺りが痺れを切らすだろうし、多分丁度良い具合に決まったと思う。多分、こうした方が絶対楽しい事になる。聖杯戦争を楽しまない? なにそれエリクサー病ですか?

 

「中々に面白い話を聞かせて貰った。だが、王の会話に断りもなく割り込み、あまつさえ我を侮辱するなど万死に値する」

 

 英雄王の左右に浮かぶ宝剣と宝槍が、完全に射出体勢に入るのが見えた。あ、これ、まず

 

「しかし今の我は気分が良い。これで許してやろう、雑種」

 

 そう言い捨てると共に、私に向かってなんらかの宝具の原点が射出された。私もあんまり言えたことじゃないけど、宝具の使い方が雑すぎる。一応、英霊を象徴する武器の原点だっていうのに。

 だけどその威力は、間桐邸を襲撃した私の壊れた幻想(ブロークンファンタズム)と同程度か上回る。しかも防ぐだけなら門の中にしまっちゃうおじさんで良いけど、それを今したら余計な怒りを買う事になるから迎撃するしかない。

 

「やぁっ!」

 

 

 問答の(すえ)発射された、アサシンを抹殺した宝具の投擲。その有り余る威力は、穿たれたクレーターと木っ端微塵に砕け散り粉塵となっているアスファルトが証明している。

 

「雑種ども。次までに有象無象を間引いておけ。我と(まみ)えるのは真の英雄のみで良い」

 

 それを見届けてから、アーチャーは実体化を解いた。黄金の甲冑姿が空気に溶け消え、それと同時に舞い上がった粉塵も落ち着きを見せ始める。

 

「あの童、確かに本人の言う様に油断をしてると首を取られかねんな」

「クラスが分からないとはいえ、あの年でえらい使い手よのぅ」

「いやいや、私はあなた方に褒められるような使い手じゃないですよ」

 

 本当はもうちょっと隠れていたかったけど、褒められるのは正直恥ずかしいので渋々実体化する。

 そして私のやった事は至って簡単だ。飛んできた宝具を多重次元屈折現象(キシュア・ゼルレッチ)っぽく大鎌の刀身の可能性を呼び寄せ、2つとも真っ二つにして地面に叩きつけただけだ。ついでに霊体化。うん、魔力がゴッソリ削れたけど生き残れたから御の字だね。

 

「こんなちびっこが生きてる!? そんな馬鹿な!」

「馬鹿なって言うけど、出来ちゃうもんは出来ちゃうんだから仕方ないじゃん。ウェイバーくん」

 

 私は大鎌を担ぎ、ちょっとムッとした表情で言う。キャスターが近接戦してなにが悪いって話だよ。この世には…いや、座には? 殴ルーラーとかセイバー殺すセイバー(アサシン)とか、殴るキャスターとか宝具が殴りのバーサーカーとか殴り合うランサーとか、殺してでも直すバーサーク婦長だっている……あれ? みんなステゴロじゃん。

 そしてなんだろうか、その人達を思い出すだけでちょっと胸が熱くなる。我様と話したせいでちょっと冷めてた闘争の熱が再燃する。

 

「だからまあ、一丁派手にドンパチやろうよ征服王。私は騎士の一騎打ちに割り込む程無粋じゃないから、あっちに混ざる気はさらさらないし」

 

 そう言いつつ、青王と自害さんをチラリと見る。まあ、そっちはそっちで仲良くやっててくださいな。

 一旦そこで言葉を切って、切れかけていた戦意に再び火を灯し殺意を爆発させる。 一応私なりの宣戦布告だ。もし宣戦布告しないで奇襲したらパールハーバーだからこっちが殲滅されても文句は言えないからね、仕方ないね。

 

「なにより、マスターが尊敬できるっていう王様と、一度本気で殺り合ってみたかったんだよね。いざ、参る!!」

 

 そう言って私は、マスターとの約束も完全に忘れライダー組に突撃したのだった。私が現界した目的、果たさせてもらう!




銀「ライダー組は出来るだけスルーね、お願いだよ?」
イ「りょーかい了解」
↓現実
イ「ヒャッハー」
銀「 」


そして分裂してた人格1つ1つがSAN値0になり、それが本体に戻ったせいでちゃっかり脱落した百貌さんに敬礼( ̄^ ̄)ゞ。ダンスしか見せ場はなかった模様。



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フェイトの針は回る そのさん

あんなに沢山のフレンド申請ありがとうございます。
そして☆5が邪ンヌのみとか…うわ、うちのカルデア、ショボすぎ?


 門の中で生み出される無尽蔵の魔力を、キャスタークラス故の精密な魔力操作で全身に回し身体強化。更にそこから青王様のやつを見て覚えた魔力放出(偽)で加速、瞬時に距離を詰めて大鎌を振るったのだが…

 

「ふふっ、そうだよね。筋力Dが筋力Bに勝てるなんてありえないよね」

 

 案外あっさりとライダーの剣に受け止められていた。真名解放して能力を使ってないとはいえ、私の大鎌を受け止めるとは流石英霊って感じかな。

 

「ああもう、薄々分かっとったがお前さんには堪え性というものがないのか!」

「ある訳ないじゃん! まだ子供なのだから!」

 

 そう言いつつも私は後退し、宙返りを決めて着地する。牛さんは怖いけど、やっぱり戦いってのは白兵戦でなくちゃ。魔術ばっかりの殲滅戦なんて戦いって認めない。

 

「どうするんだよライダー! この馬鹿!」

「どうするもこうするも、戦うしかないであろうに」

「あっちの騎士2人は勝手にやってるだろうし、言い忘れてたけど征服王の軍門に下るとか嫌だしね! だって私、誰かの下につくとか嫌だもん!」

 

 聞こえてきた会話に割り込んで私は言う。隣に立ってくれるならいいけど、誰かの下について道具になるのは絶対に嫌だ。だからハートが震えて燃え尽きるようにヒートする戦いをしようじゃないか。

 

「あやつもああ言っておろう。というか坊主よ、あやつのクラスくらいは見えんのか? 呼びにくくて仕方ないわい」

 

 一度英霊と契約してマスターになった人は、他の鯖の能力を読み取る力が与えられる。アイリみたいに代理マスターだったり、バサスロットさんみたいな幻惑能力がない今の私じゃそれを防ぐことは出来なくて…

 

「嘘だろ…あいつのクラス、どこからどう見てもキャスターだ!」

「バレちゃったんなら仕方ない。我が名はいおりん! 生前の世界では随一のまじゅちゅ使いにして、ロマン武器を操る者!」

 

 コートをバサリと翻し、良い感じに左眼を光らせてカッコよく宣言する。噛んだとか言わないで、魔術って言いづらいんだもん! 真名がバレてる?何のことか分かりませんネー。

 ついでにドヤ顔も決めていた私の名乗りを聞いて、嫌な感じのしない大笑いの後ライダーが答えた。

 

「そうも堂々と名乗られちゃ、余も答えねばあるまいて。我が名はイスカンダル!」

「お前はやらなくていいんだよ馬鹿ライダー!!」

 

 そう言ったウェイバーくんがテレフォンパンチを放ち、逆にデコピンを受け撃沈する。でもそのおかげで、変にウェイバーくんを巻き込む事が無くなった。大鎌も魔術も自由自在、加減なしの二戦目だ。

 

「それじゃあライダー。お互いマスターを巻き込む事もないし、ROUND2といきましょか!」

「応とも! 征くぞ神威の車輪(ゴルディアスホイール)

 

 今まで止まっていたライダーの宝具が動き出し、私も全身に雷火を纏って運動性能を更に上げる。馬鹿で結構子供で結構、シリアスなんて壊すに限るんだよ!

 

 

 ウェイバー君がライダーに撃沈させられると同時、私も段々と息苦しくなってきてる異界の中思いっきり叫んでいた。

 

「キャスターのばかぁぁぁっ!!」

 

 なんでわざわざ隠してたらしい情報バラしてるの?物理型キャスターなのは良いけど魔術使おうよ!そもそもなんでライダー組と戦ってるのさ…

 だけど私のそんな声は、映像の中には届かない。念話を着信拒否されてから、感覚同調も切られてしまって私は何も出来なくなっていた。

 

「ほんと、あなたのマスターはずっとこうだったの? フローちゃん」

「きゅう?」

 

 戦闘が始まってから、私の癒しは隣のフローちゃんだけになっていた。うん、確かにzeroのキャラが現実にいて動いてるのに感動はしてるよ? けどうちの子はメチャクチャだし、多少流れが変わるのは良いけどうちの子がメチャクチャだし、あんな名乗りに乗ってくるイスカンダルはやっぱり好きだけどうちの子が結局メチャクチャだし…

 

「縁召喚って言ってたけど、なんであの子が呼び出されたんだろう……私、あんなに酷くないと思うんだけどなぁ」

 

 多少、今生の数年はやんちゃだったけど、あの型破りというか莫迦というか…あそこまでぶっ飛んでるサーヴァントを縁召喚出来るとは思わない。そして色々おかしいサーヴァントに、私はこの聖杯戦争が終わるまで振り回される事になる。

 

「先が思いやられるなぁ…」

 

 あれ? よくよく考えたらこの工房が健在な限り、現界し続けられたりするのかも。それだったら聖杯戦争が終わってからも付き合いは続くだろうし…

 

「あぁ、お腹痛い…」

「きゅっ」

 

 違うフローちゃん。心配してくれるのは嬉しいけど、別に胃薬は今要らないんだ。

 

 

「武具接続、能力起動。破段・顕象!」

 

 何度目かの武具接続。自分が今まで作った装備の能力を憑依させ出力を上げ使用する。選択するのは2つ、某ゲームの破段とそれに似た某漫画の技!

 

「ファントム・レイザー!」

「蹴散らせぃ!」

 

 私が作った残留する26もの大鎌の斬撃を、

神威の車輪(ゴルディアスホイール)を引く神牛がどういう原理か蹂躙し粉々にする。その迸る紫電は私が纏うものとは文字通り桁が違い、対軍宝具にふさわしい物だ。

 そして場所は既に空中、デリッククレーンくらいの高さで私とライダーは交錯する。

 

「あはは、さっすがゼウスに捧げられた神牛! こんなのじゃ障害になりもしないか!」

「お主こそ、けったいな技を使うでないか。形の見えぬ設置できる斬撃とは、危うく1度目は引っかかりかけたわ!」

「それで倒せればよかったんだけどね!」

 

 そう言いつつ靴の力で空を馳ける。まあキャスターだし空飛んでもおかしくないよね! なんて冗談もあんまり言えないくらい、実は追い詰められている。やっぱり空飛んでるライダーは強かった。

 

「だけど、まだまだぁ!」

 

 そう言って全身に回す魔術の強度を跳ね上げる。けどそれだけじゃ勝ち目ない。だからライダーと再び交錯する少し前、宝具を使って良いかマスターとの念話を開いた瞬間その声は聞こえてきた。

 

『きゃす…たー………や…め、し……ぬ』

「マスター!?」

 

 そんな言葉だけ残して念話はプツンと切れてしまう。それに私は意識を持っていかれてしまいーーー戦闘中にそうしてしまった結果は、致命的に、かつ迅速に訪れた。

 

「AAAaLaLaLaLaLaie!!」

「え、きゃぁっ!」

 

 咄嗟に魔力放出(偽)で下降、それでも間に合わず振り下ろされた神牛の蹄が棺桶の張る結界と衝突する。滾る電気の紫電を纏った四本の前肢が硬く作った筈の結界を一撃で粉砕し、続く後肢が甚大なダメージと共に私を地面に叩きつけた。

 

「ッ、かは」

 

 この聖杯戦争が始まってから初めての直撃。砕けたアスファルトに身体が埋まっている、視界が明滅して魔力を含めて力の操作が安定しない。こんな紙耐久の私には、対軍宝具の直撃は致命傷に値する。

 だけど今へばってたら、マスターが死ぬとかいうサーヴァントとして最悪は事を引き起こしてしまう。そう思って、大鎌を杖代わりに私は立ち上がった。

 

永劫破壊(エイヴィヒカイト)(擬)起動。霊基、急速、復元…」

 

 有り余る魔力と、蟲蔵で回収した怨霊の魂を焚べて急速に霊基を修復する。それは代償はあるけど、代わりにありえないレベルの回復を私に齎す。

 しかし、不幸は連続する。この乱戦状態、弱った者が集中的に狙われる事こそ真理だった。

 

『ランサーよ、令呪を持って命ずる【ライダーと協力し、キャスターを討ち取れ】』

 

 他にも何やら言ってたが、私の耳に届いたのはそれだけ。だけど、それで情報は十分だった。霊基が戦闘に耐えるまで回復するのは、凡そ5分後。無論そんなに待ってくれる訳もなく、ランサーとライダー…あとケリィの事だからセイバーも来るだろう。

 

「お恨みします、我が主よ…! 済まん、キャスター」

 

 そんなに待ってたら、今見たら倒れて苦しそうに顔を歪めてるマスターは力尽きちゃうだろう。なんだかんだでこのマスターは結構好きなのだ、それを殺してしまうなんてありえない。

 だったら、少し手札を明かしてでもこの窮地を脱するのを優先すべきだろう。

 

「煩いよ…こっちは今、それどころじゃないんだからさぁ!!」

 

 私は正直に言うと、もっと隠しておきたかった『もう1つの世界(アナザーワールド)』を衆目に晒す。丁度私くらいの大きさの半透明の門が3対、こちらに向かって来るライダーと、セイバーと、ランサーに向けて開かれる。

 さあ準備は整った。刮目せよ、気絶してるマスター。これが私のキャスターとしての真価だよ!

 

偽造呼出(コール)人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)】!!」

 

 甚大なダメージが残る身体で、全てを視界に収めて私はそう叫ぶ。その言葉をスイッチとして門が帯電、電撃の円環を形成。

 刹那、ライダーの物とは違う雷鳴が、主神の雷霆が世界を蹂躙した。




マスターの危機(自分の不注意)にちょっとだけキャスターとして真面目になりました。
魔力過多な空間に常人(マスター)が耐えられる訳なかった。

-追記-
誰からもツッコミがないけど、最後のイオリが使ったやつニコラ・テスラの宝具って気づいてる人はどれくらいいるのだろうか…?


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フェイトの針は回る そのし

ケリィは効果範囲から離れていたので暗視スコープが壊れるだけで済みました。
明日からソロモンかぁ…


偽造呼出(コール)人類神話・雷電降臨(システム・ケラウノス)】!!」

 

 1人の発明家によって技術に降ろされた神々の雷霆が門から溢れ出し、地上を蹂躙する。莫大な閃光が世界を灼き尽くし僅かな間ではあるが、全ての監視が機能しなくなる。

 これが私の切り札。有り余る魔力と魔力操作での別の英霊の宝具(ノウブル・ファンタズム)の再現。勿論今の私は万全じゃないから威力は知れたものだけど、今のこれの目的は目眩しだから問題ない。

 

「跳ばして、ティア!」

 

 莫大な魔力のノイズと雷電の光。アサシンがいない今、そんな劣悪な環境で私の宝具を…と言うか、霊体化したティアの使う転移を見分けられる筈がない。

 

『了解』

 

 光に染まる世界の中私は、一瞬の浮遊感に包まれ倉庫街から姿を消した。雁夜おじさんには悪いけど、一応今日くらいは身を隠した方がいいかも知れない。

 斯して私は聖杯戦争の第二戦から撤退した。ん?第三戦だったかも。

 

 

 キャスターが大魔術を放ち逃走した後の倉庫街には、圧倒的な暴虐の跡が確と刻まれていた。粉微塵となったコンクリート、デリッククレーンやコンテナを始めとした金属類には未だに雷電の余波が宿り、絶縁体である筈の大気すら十分に絶縁出来ていない。

 それもその筈。本人は万全でないと断じているが、キャスターが再現し放った宝具は規格外(ランクEX)の対城宝具。サーヴァントを仕留めるには足りずとも、傷を与え、現代の世界を蹂躙し破壊するには有り余る威力だった。

 

「アイリスフィール! 無事ですか?」

「ええ、セイバーのおかげでどうにか」

 

 『風王結界(インビジブル・エア)』という空気を圧縮する宝具の存在とキャスターから1番離れていた事もあり、雷電の暴虐をセイバー陣営は殆ど無傷でやり過ごしていた。

 

「それにしても、随分と滅茶苦茶なサーヴァントね、あのキャスター」

「そうですね。正直どんな相手だったか読みきれませんでした」

 

 そうセイバーが判断するのも決しておかしくはない。なにせ登場の仕方は派手、同時に現れた英雄王を会話で退かせた後、今度はまるでバーサーカーの様にライダーを強襲、そして最後にはキャスターらしく大魔術を放ち撤退。訳がわからないにも程がある。

 

「ですが、宝具を使ってくれたお陰で真名が推測しやすくなったのは僥倖です」

 

 セイバーの持つ『約束された勝利の剣(エクスカリバー)』のように、宝具の名前が判明してしまえば真名の推測は容易となる。そして今回キャスターが叫んだ宝具名は【システム・()()()()()】。ギリシャ神話の主神の別名、またはその武器である雷を示すその名は、キャスターがギリシャ神話に関連している事を表しているように思えた。

 そして、それが事実であるならば征服王に襲いかかった事も道理が通る。神霊が召喚される事はありえない筈だが、その眷属たる英雄というだけだったとしても、途轍もない脅威に違いない。

 

「とりあえず、一度帰りましょうセイバー。いつまでもここに居たって、いい事は1つもないわ」

「ええ。キリツグなら情報を掴んでいるやもしれません」

 

 そう言い帰路に着いたセイバー陣営は気づかない。キャスターが放ったのは本人の宝具でない事を。実際にはギリシャ神話どころか、どの神話にもキャスターは関係してない事を。

 

 

 気絶から立ち直ったウェイバーが見たのは、世界を埋め尽くす雷電だった。事情が全く分からない故に出した頭は、次の瞬間には自らのサーヴァントによって押し戻されていた。

 

「ちっと頭を下げておれ坊主! 死ぬぞ!」

 

 そんな事を自らのサーヴァントが告げた瞬間、搭乗するチャリオットに途轍もない衝撃が走った。だが、あくまで攻撃に使われていた物は雷。それ以上の変化はなく神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)は攻撃の効果圏内を逃れる事が出来た。

 

「い、今のはなんなんだよライダー! サーヴァントの宝具か? それともまたあのキャスターがなんかやったのか?!」

「おお! 坊主にしてはよく気づいたではないか。確かに先の雷撃はキャスターが放ったものであるが…まあ、宝具ではないだろうなぁ」

「はぁ!?」

 

 ライダーの言葉にウェイバーは驚愕する。先程のこの戦車を揺らした雷電は、明らかに宝具の域にある威力でなかったか? だというのに、キャスターの宝具はアレではない?

 そう疑問の表情を浮かべるウェイバーに、ライダーは続けて言う。

 

「なんせなぁ…仮にも主神の雷霆(ケラウノス)という名が付く宝具があるなら、この程度の威力のはずがないわい」

 

 どこか遠くを見つめて言うライダーに、何故かウェイバーは黙ってしまっている。ライダーの出自を思い出しているのか、ケラウノスという名前に何かを思っているのか。

 そしてそのまま、彼らも電気の灯らぬ街の空を駆け拠点のマッケンジー家へと帰還していった。

 

 

「主よ!!」

 

 そして今回の不意打ち、大打撃を受けたのがランサー陣営だった。ランサーの敏捷値はA+という驚愕の値だが、雷電の速さには遠く及ばない。そしてその速さ故に、サーヴァント中最も近距離で再現された宝具の直撃を受けてしまっていた。

 更に、マスターであるケイネスが隠れていた場所は再現宝具の効果範囲内のコンテナの影。サーヴァントであれば大怪我で済む雷電も、生身の人間にとっては致命傷になりうるものだった。

 

「あ、が、かぁ」

「くっ」

 

 月霊髄液(ヴォールメン・ハイドラグラム)だった物が飛び散る中心で、呻き声を漏らしながらガクガクと痙攣するケイネスを抱き抱上げランサーは疾走する。

 自慢の礼装のお陰でどうにか一命を取り留めてはいるようだが、このままでは死に向かって一直線だろう。令呪の命令は既に無効、騎士王との戦いは惜しいがマスターの命が優先である。

 

「主よ、どうか……」

 

 故にランサーは夜の街を疾走する。マスターの身体に無理な力がかからないよう加減しながら、自らのマスターの妻が待つ拠点のビルに向かう。どうか、再びマスターと共に戦える事を祈って。

 

 

 一瞬の浮遊感の後、私が転移した場所は原作キャスター陣が使用していた例の下水道というか貯水槽的な場所だった。とはいっても、あのコンビが根城にしていた訳でもないのでいたって普通…寧ろ、ティアの手で少し整備されているので簡素ではあるが工房と化している。

 

「マスター、起きてマスター!」

 

 門の中に入り救出したマスターにそう呼びかけながら、私はこうなってしまった原因が分かってしまった。

 ちょっと考えてみればすぐにわかる事だった。原因は大気中の魔力過多。私が張り切って戦闘を始めたせいで門の中に充満する魔力の濃度が急激に上昇、私にとってはなんでもないそれはただの人間にとっては猛毒だ。

 

「ど、どうしようティア! 私こんな状態の人の対処法とか知らないよ!?」

 

 私は物を作るのは得意だし、魔術も近接戦も大好きだけど回復関連の事に関しては詳しくない。まあ普通の怪我とか病気ならどうにかできるけど、魔力過多で死にかけの人間なんてどうすればいいのか全く見当がつかない。

 

「マスター、とりあえず落ち着く。深呼吸。ひっひっふー、ひっひっふー」

「ひっひっふー、ひっひっふー……ってこれラァァマァァズ!!」

 

 マスターを背負ったまま私は全力で叫ぶ。全身痛いけど知った事じゃない、シータ実装はよ。何今の電波。

 

「冗談は置いとく。マスター、まず大マスターをそこに寝かせる」

「分かった!」

 

 そう言って私は、背負っていたマスターを周囲より少し高く濡れていない場所に寝かせる。今も苦しそうな顔のマスターには、正直悪い事をしたと思う。

 

「そしてマスター、これからもこの戦い方を続けるなら、同じ事は何度も起きる。神代レベルの魔力濃度は、どう足掻いても現代人には耐えられない」

「うん。でも、この中が1番安全だし…」

 

 それは分かっている。だけど、この中が1番安心安全なのに違いはないのだ。というか、その前にマスターを助けなきゃすぐにでも死んじゃうような気がするんだけど…

 

「そう。だから、今すぐマスターを強化するのを勧める」

「どういう事?」

「今のマスターの身体には、十二分に魔力が浸透している。それこそ、放っておくと暴走して死ぬくらい。だったらそれに耐え得る様、私達を運用できる様改造しちゃえばいい」

「えぇ…」

 

 些か以上にマッドな意見だなぁ…と思いつつ、実は私もおんなじ事を考えてたりする。マスターが最初に言っていた「人理焼却の際にカルデアにいられるか、生き延びられる力」にも繋がるし……その、正直このままじゃマスターは真っ当な魔術師にはならない。回路だけは私が増やしたけど、その全力稼働の負荷に本人は耐えられないだろうし…当たり前だけどそもそも才が平凡だ。

 という事はつまり、このまま聖杯戦争を生き抜いても魔術協会からは逃げられないし、捕まってホルマリン漬けコース一直線って事になる。だから、そういう風にならない為に色々と弄っちゃえばいいんだけど…

 

「マスター、怒らないかな? 自害とか命令されたらちょっとやだなぁ…折角気の合うマスターだし」

 

 いくら転生者とは言え、自分のサーヴァントにそんな事をされたら怒るし嫌うだろう。そして私はランサーでもないのに自害とかしたくない。いや、ランサー適性はあるにはあるけどそんな結末は嫌だ。

 

「やり過ぎなければ多分平気。どっちにしろ、溜まりに溜まった魔力を吸収するか、無理にでも適応させるかしか助けられないよ?」

「えぇ…なにその衝撃の真実」

 

 どっちも一応出来はする。安全に助けて平々凡々な力を手に入れさせるか、嫌われて自害させられる覚悟で改造して助けるかの二択。

 

「うん、なら後者だね。まずは最低限だけど」

「了解。結界展開、準備は出来ている」

 

 まあ一気に色々やるのは無理だし、最初は魔術回路のテコ入れだけかな。そこから本人の返事次第で段々改造していけばおっけーでしょ! 嫌なら仕舞ってるヤバイ物を渡せばいいし、最後にさいきょーに便利なキャスターたる私が魔術を教えていけばなんとかなる筈!




セイバー陣営 : 鯖・マスターほぼ無傷
ライダー陣営 : 鯖・マスター無傷
ランサー陣営 : 鯖ダメージ中・マスター重症(感電)
キャスター陣営 : 鯖ダメージ大・マスター気絶(魔力過多&改造)

あれ…?実はキャスター陣営被害大きい…そしてこの後、ケイネスさんにはまだビル爆破が待っている。


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フェイトの針は回る そのご

fgo二部が楽しみで仕方ない…
バルバトスさんはバルバトスルプスになって復活してどうぞ


「んぅ…」

 

 また、気絶しちゃったのか。そう思って私は身体を起こす。えっと、確かキャスターの異界の中で息が出来なくなって…

 

「ふぇ…? 何処ここ」

「原作キャスターの居城だよ、マスター」

「ふぁっ!?」

 

 それを聞いた途端なにか恐ろしくなって、動こうと手をついた瞬間全身に炎が這ったような痛みが走って倒れ込んでしまう。え、ちょっ、ナニコレ。ほんとナニコレ。

 そんな疑問ばかりが頭をよぎり、ジタバタと暴れ…るのは痛いからグッタリとしている中、私の視界に目を逸らして口笛を吹けてないキャスターの姿が入る。よし、分かった。

 

「キャスター、今すぐ私に何をしたのか吐いて。ハリー」

「分かった。けど、先ずは倉庫街の顛末から話してもいい?」

「いいよ、それじゃあライダーと戦い始めた辺りからお願い。勿論、私をこんな状態にした理由もあるんだよね?」

 

 金属的な感じのする場所に倒れたままという情けない格好だけど、笑顔を作って私はそう言った。大丈夫、今は冷静だから令呪の存在も忘れてない。そう覚悟して、私はキャスターの話を書き始めるのだった。

 

 ・

 ・

 ・

 

「つまり、イスカンダルと戦うのが楽しくて、私の事を忘れて魔力を生成していた。それで私が死にかけてるのに気がついて、大ダメージを負って、不完全だけど再現宝具を放ってここに逃げてきた…って事でOK?」

「うん、簡単にまとめるとそんな感じだね」

 

 私はどうにか座った状態で話を聞き終わった。映像付きで見せてもらった戦いは、本当に凄かった。キャスターが紅魔族してたり、ライダーもそれに乗っかりそうだったり。極め付けはニコラ・テスラさんの宝具の再現とかいう尋常じゃない真似。

 

「でも、それがどうなったら今の私の状況に繋がるの?」

「いやー、その、ね? マスターが倒れた私の異界の中って、大体神代と同じくらいの魔力濃度だったんだ。それで、マスターは人理焼却の時に生き残れる力が欲しいって言ってたでしょ?」

「うん」

 

 私は素直に頷く。だって私のいるココがどの次元かは分からないけど、ありすぎる厄ネタに対して対応できるように力をつけるのは何にもおかしな事じゃない。

 

「それでね? 魔術回路を私が弄ったせいで、ちょっと前までのマスターは、一般人がいきなりエレファント・ガンを持たされたみたいな自爆寸前の状態だったんだよね…」

「おいキャスター」

「だから、神代の空気に耐えられる様に魔術回路だけじゃなくって魔術刻印も作って色々刻み込んだんだけど…ちょっとやり過ぎちゃったみたい」

 

 てへぺろ☆という文字が見えそうな笑顔でキャスターは言った。よし、マテ落ち着こう私。私は幼女、相手も英霊だけど幼女。おててつないでなかよくしましょが普通の筈だ。やり過ぎちゃったのは子供の悪ふざけ、ならそれを許せるようになるのがオトナのれでぃへの第一歩。

 

「ふぅ…よし。キャスター、私はまだ人間?」

「ま、まだ人間で魔術使いだよ。私の事、自害させたり…しない?」

「うん。別に令呪使って、自害させて霊基修復して最後にもう一回自害させるなんて事はしないよー」

 

 私は、どっかのもっ先さんレベルの極冷気スマイルに乗せてそう言いきる。キャスターが顔を青くしてるけど知ったことか。遺伝子改造とか人体実験は七つの大罪なんだぞ。

 

「まあ、私の知らないうちに改造されてたけど過去は過去だもん。覆せない以上、まだ人間らしいし、重大な欠陥でもない限り受け止めるよ」

「…」

 

 ちゃんと私はそういった筈なのに、キャスターは冷や汗をかきながらブツブツ何かを呟き始めた。うん、絶対何かしてるね。

 

「令呪を以て命ずる、キャスターよ」

「わー!ちょっと待った! カルデア式じゃないんだから令呪はもっと大切にして! 話すから、ちゃんと話すから!」

 

 パタパタと駆け寄ってきたキャスターに口を塞がれる。くっ、キャスターでも英霊なだけあって手を退かせない。どうにか手を退かせなかもがいてる私の前で、キャスターがゆっくりと話し始めた。

 

「えっと、さっきのマスターを改造しちゃえって話の続きなんだけど、回路だけは用意したけどどう足掻いてもマスターの魔術の才能が足りなかったんだ」

「?…!」

 

 なるほど。まあ私は知識があるだけの一般人だし、いくら外付け・後付けの物が優秀でも本体のスペック不足と。例えるなら、超高性能コンピューターがあっても、部屋の主が幼女じゃ意味が……あれ? 的確すぎない?

 

「だからそれをどうにかする為に、私の宝具を一個マスターに埋め込んじゃいました。それのせいで起源とか魔術の属性とか変わるかも知れないけど、多分死にはしないから大丈夫!」

「ぷはぁっ、なにそれ…」

「名付けるなら雷炎の複合鎧衣(ドレスアーマー・オブ・ヘパイストス)とかかな? 詳しい事は面倒だから後にするけど、桜ファイブ的な私の複合神性から少しづつ引っ張ってきた逸話を、マスターに合わせて継ぎ接ぎして作った宝具だね」

 

 そうあっけからんと言ったキャスターの言葉を理解して、私は言葉を失い呆然としてしまう。桜ファイブとか複合神性とか気になる言葉はあったけど、マスターの人間の為に宝具を作った? つくづくおかしいって思ってたけど、作家系鯖だったり皇帝特権を持ってる訳でもないのに…って、今更気にする方が無意味か。

 

「それで? 聞く限り致命的な欠陥があるようには思えないんだけど」

 

 そう首を私は傾げる。聞く限り十二分な性能だし、宝具が埋め込まれてる(未来)のは士郎もだし無視してもいい。でもそんな私に、申し訳なさそうな顔をしてキャスターが言い始める。

 

「うぅ…鍛治師として恥ずかしい事だけど説明するね。欠陥その1、マスター専用なのに宝具展開はできるけど真名解放はまだまだ出来ない。その2、色々な燃費が凄く悪い。その3、真名解放しても多分高位の英霊とじゃ戦いにならない」

 

 ダメダメだよ…キャスターでこんなレベルだから、他のクラスじゃお察しかなぁ。そうキャスターは続けたけど、それは全部問題点って言えないような気がする。

 

「ダメダメって言うけど原因は殆ど私にあるみたいだし、キャスターとしては最高の仕事を出来たんだじゃないの? 唯の人間にそんなのを使える様になるするだけで、尋常じゃない成果だと思うんだけど」

「ううん。鍛治師なら相手に見合った、相手が使いこなせる物を渡すべきだもん。私はその点じゃ失格だよ」

 

 そう言ってキャスターはしゅんとしてしまった。むぅ…なんか私が虐めてるみたいで嫌だ。というか、この子鍛治師だったんだ。鍛治師なのに魔術師で、しかも大鎌を使う戦闘狂(バーサーカー)で…考えるのはやめよう。何か深みに嵌っちゃう気がする。

 

「ああもう! それなら私が使いこなせる位まで成長すればいいんでしょ!! キャスターなんだから教えてくれない?」

「言質取った」

 

 私が迂闊にそんな事を言った瞬間、キャスターの紅眼がピキュイーンと十字に光った様に見えた。あ、これマズイ。選択間違えた。dead or hellな感じになる予想しかできない。

 

「それじゃあ、イオリちゃんのスーパーまじゅつ教室始めよっかー! 私みたいにキャスターの英霊目指して頑張ってね!」

「宝具展開!」

 

 私は自分のサーヴァントから逃げるために、埋め込まれたという宝具を展開する。瞬間私を雷の走る炎が舐め回し、瞬きが終わる頃には例の巫女服を形成していた。

 一応宝具という神秘の塊を纏ったお陰か、多少身体の痛みも引いてくれた。これならいける!(錯乱)

 

「必殺、鮭飛びの術!」

「はい、捕まえた」

 

 全力での飛び上がりに魔力の制御をわざとミスって足元を爆発、痛みを感じない事を不思議に思いながら、それを含めても異常に吹き飛んだ私だったけど一瞬で捕まえられてしまった。キャスターだろうと英霊は英霊、逃げられるわけがなかった。というか、そもそも魔力放出で近接戦するキャスターでしたねウチの鯖。

 

「大丈夫だよマスター、難易度くらい選択させてあげるから」

「えっ!」

「ケルト式とスパルタ式、ハートマン風と異世界式、どれがいい?」

 

 上げて落とすとはこの事か(絶望)

 ケルトは却下で、スパルタも地雷臭がするから無しでハートマンは私の精神が死ぬ。とすると、最後の異世界式しか選べるのはないじゃないですかやだー。

 

「い、異世界式で」

「はいはーい! 一名様ごあんなーい」

 

 後に私は語った『ハートマン風が1番優しかったなんて、詐欺だよ…あんまりだよ…』けれど、今の私はそんな事を知る由もないのだった。




雷炎の複合鎧衣(ドレスアーマー・オブ・ヘパイストス)(暫定)』
 ランク : 不明 種別 : 対人(自身)宝具 
 レンジ : 0 最大捕捉 :1人
 キャスターがノリで製作したマスター専用の宝具。自身の保有する様々な神性より引き出した防具の逸話を少しづつ抽出し、自身の作り出した無名の宝具の因子もパッチワークした規格外の防御性能を持つ雷炎で形作られた巫女服。
 所持しているだけでCランク相当の対魔力性能を発揮する。展開すればランクがBに上昇、相応の物理防御力も得ることができる。
 真名解放はまだ出来ない。


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始まる宴

遂にサブタイにフェイトが入れられなくなった…
※カニファンとは一切関係はありません



 暗闇の中を私は走る。さっきキャスターには捕まった鮭飛びの術擬きも使って死に物狂いで走り続ける。まず最初にこれをやろう、とか言ったキャスターはやっぱり頭がバーサーカーだと思う。

 

「ほらほらマスター、頑張らないと死んじゃうよー。習うより慣れろなんだよ!」

 

 真っ暗な貯水槽的な場所の中、キャスターの声援を聞き流しながら私は全力で移動する。拙い強化の魔術を全身に巡らせて、礼装の効果と私に施された改造の力もフルに使って私は逃げ続ける。

 

「bbtu? bbtu?」

 

 刹那、私が直前までいた場所に黒光りする尖った何かが突き刺さる。否、それは脚。キャスターが訓練用とか言って取り出した、()()()()()()()()の一部だ。キャスターが操るそれは、私を殺しはしないだろうけど瀕死くらいまでなら余裕で追い込むだろう。

 

「やぁ!」

 

 そんなのはごめんなので、私は逃げながら反撃する。襲ってきたソイツに向かってキャスターから送られてくる無尽蔵の魔力を使い、目眩しとして炎の魔術を放つ。こんな場所で魔力を使いまくって良いのかなんて疑問は知らない。だってアレ相手にそんな事を気にしてたら即hageする事になるから。

 もう声すら出せなくなるほど走り続けて、疲れきって死にそうだけど、キャスターにこれだけは言いたい。

 

「なんで、なんでラフムなのさ!!」

「nz:q!」

 

 大声を出した事でせっかくの目眩しが無意味と化し、よく分からない事を叫びながらラフムが私に飛びかかってきた。魔術での迎撃…威力不足。逃走…時間が足りない。諦める?…論外。

 自分でも馬鹿だ、やる必要なんてない、諦めろって分かっている。それでも私は、結末の分かりきった戦闘行為(予定調和)に身を投じた。

 

「つぁ!」

 

 まずは1回目。振り下ろされた鋭い脚を、右腕についてる巫女装束特有のヒラヒラとした部分で受け流す。視界に炎が散り、けれど完璧に攻撃を受け流してこの宝具の防御能力の高さを私に教えてくれた。

 

「ぁあっ!」

「2]?」

 

 続いて2回目、2つ目の脚を今度は左腕で逸らす。ここ1時間、無駄に異世界式トレーニングなんて物を受けた訳じゃない。ほんの少しだけ…英霊に比べたら塵芥のような経験だけど、積み上げた戦闘経験的なサムシングがちゃんと働いてくれてる事に感謝する。

 

「ひぁっ」

「qkde? qkde!」

 

 3回目、使われることの無いと思っていた後ろの二脚からの刺突を、脇に掠らせながら前進して回避する。でもこれでもう先が無い。

 

「炎よ、巨人に苦つうぐっ」

 

 4回目、付け焼き刃の限界が訪れた。一か八かで魔術を発動させようとした瞬間、回転したラフムの腕が直撃し私は野球ボールのようにホームランされてしまう。

 

「けほっ」

 

 何かに叩きつけられて水の溜まった地面に落下。それでも私に傷が無い事に驚愕してる中、起き上がった私の目の前いっぱいにあの縦に裂けた口が広がっていた。

 あ、詰んだ。

 

「はいしゅーりょー!」

「……tzs@4d(4l)4.」

 

 そんなキャスターの声が響いた途端、先程まで暴威を振るっていたラフムがどろりと液体になって溶けた。これで、終わり…?

 

「お疲れマスター、多分これで竜牙兵くらいとなら戦えるかもだよ!」

「これでまだ、竜牙兵なんだ…」

 

 少し前のサーヴァント戦を見てなんとなく察してたけど、元一般人が戦うなんて無理があり過ぎる話じゃないだろうか? そんなコトを考えながら、もう出してるだけで疲れる巫女装束を消しキャスターの手を借りて立ち上がる。

 

「大丈夫だよマスター。私がいなくなる時までには、防御に徹すればサーヴァントとも戦えるくらいまでにはしてあげるから」

「それって、どこの「両義式」さんなのよさ…」

 

 一体私はどこまで改造されるんだろうか。そうどこか遠い所に目を向けていた私の近く…正確にはキャスターの隣に、今日一日中姿を見ていなかったティアさんが実体化していた。

 

「どうティア? 頼んでた事、確認できた?」

「抜かりはない」

 

 キャスターの肩を借りたまま、私が頭に?マークを浮かべてるとティアさんはちゃんと確認してきたって事を説明してくれた。

 

「まずは冬木ハイアットホテルの爆破解体を確認。ランサーの霊基は感じる、だから多分ケイネス達は、生きている」

「ふむふむ、他には?」

「やっぱり爆破されたんだ…」

 

 雁夜おじさん達にとってもらったホテル、ハイアットじゃなくて本当に良かった。そういえば、あっちにも帰らないと心配され……るかは分かんないけど顔見せくらいはしなきゃ。

 

「次に、遠坂邸が爆発した。多分トッキーが、ギルガメッシュの怒りに触れた」

「軽く煽っておいてなんだけど、我様の行動早いなぁ…」

「……」

 

 私は今聞いた事実に、ポカーンと口を開けて固まってしまった。遠坂邸が爆発?staynightまで続くのかなこれ。爆発の理由…無駄な弁明を続けた挙げ句、なんらかの理由で令呪使ったとか?

 

「そして、私達には厳重注意だって。使い魔を飛ばして確認したから間違いない」

「「厳重注意?」」

 

 ティアさんのその報告に、私とキャスターの声が重なった。倉庫街でやったって事は、特に何もないはずだし…

 

「原因は、間桐邸を吹き飛ばした際の、神秘の隠匿がどうのこうの。次は無い、だそう」

「あー…ハサンが来てたから逃げたけど、アレが原因かぁ…」

「えっと、キャスター? 多分これって、あと一回でも何かやらかしたら原作キャスターみたいに令呪一個分の賞金首にされちゃうんじゃない?」

 

 頭によぎった嫌な予想を、私はキャスターに尋ねてみる。もしそうじゃなくても、何かペナルティー的なのが科せられる気がするんだけど…

 

「なったらなったで、英雄王以外とはちゃんと戦いたいし私は構わな…ってそうか。勝ち残ってもマスターに問題が出るんだ」

 

 こくこくと私は首を縦にふる。そんな事になったら、今まで静観してたケリィとかがマスター暗殺に動くに違いない。アサシンがいない分マシだけど、難易度がただでさえhardなのにlunaticまで一気に上がるのと同義だ。

 

「でもそれならどうする? ジルがいない以上アインツベルンへの襲撃は起きないし、大海魔も出てこないよ?」

「そうなんだよね〜…」

 

 その状況で、私達の行方が多分どの陣営にも分かってない以上ストーリーが進まない。原作なんてもう捻じ曲がったと信じてるけど、最終的には大災害が起きてもらわないと色々と不都合がある。

 となると、私達キャスター陣営がどこかに攻め入るのが一番手っ取り早い。ならば攻める陣営は、セイバーか、ランサーか、アーチャー…は無しで。ライダー陣営は正直邪魔したくないし、バーサーカー&アサシンは既に脱落済み。

 

「うーん…」

「よしマスター、分からないなら身体を動かそう!」

「へ?」

 

 何かに納得したように頷くキャスターに、嫌な予感しか感じない無意識にジリッと一歩下がった私は悪くない筈だ。

 

「そうだよね、マシュが宝具を使えるようになった時はキャスニキと戦ってたんだし、ラフムもどき程度じゃぜんぜん甘いよね!」

 

 全身を苛む倦怠感と酷使しすぎた脳が発する痛みを無理矢理押し殺して、私は宝具の巫女装束を再展開する。だめだこのキャスター(バーサーカー)早くなんとかしないと。

 

「ほ、ほらキャスター。私今さっきまでラフム擬きと戦ってたんだよ? もうヘトヘトで、お腹も空いて動きたくないんだけど…」

「へぇ…ならティア、押さえて」

「了解」

 

 気がついたら私はティアさんに羽交い締めにされていた。キャスターが私にした改造、宝具による強化、魔術によるブーストを完全に無視して押さえ込まれている。

 そんな私に向かって、キャスターが謎の液体と丸い物が入った2つの小瓶を持って近づいてくる。

 

「マスター、口開けて?」

「んー!!んんー!!」

 

 せめてもの抵抗として、私は口を固く閉ざし顔を目一杯横に逸らす。そんな怪しげな物食べたり飲んだりしてたまるか!

 

「全く、マスターはワガママだなぁ…」

「い、いやぁ」

 

 そんな私の些細な抵抗も虚しく、頭はガッチリと固定され、閉ざした口は有り余るサーヴァントの膂力によってこじ開けられてしまった。 

 

「大丈夫だよマスター、毒とかは入って無いから」

 

 開けられた口内に無味の球と甘ったるい液体を入れられて、口の中の味覚が崩壊する。キャスターの目が無言でこれを飲み込めと言っている。断ったら何されるか分からないし……ええいままよ!

 

「んくっ……!?」

 

 もうどうにでもな〜れって感じで、私はそれらを飲み込んだ。そして数秒後、お腹がカァッと熱くなったように感じた。しかも全身の疲労とか空腹感まで吹き飛んだ気がする。

 

「何、したの?」

「異世界産の、カロリーメイトみたいなやつを食べてもらったんだよ。体力と魔力を回復して、お腹の減りも気にしないようにしてくれる素敵な物だね。生前は半ダース銀貨1枚…地球に合わせると1000円で売ってたよ! 生産者は私」

 

 一応商品として売ってたなら安心していいの…かな? 毒では無いみたいだし、無駄に高いけどそれなら…

 

「需要は?」

「栄養バランスもバッチリ取ってるから、一部の女性に人気だったよ」

「未来で異世界でもそこは同じなんだね…」

 

 そこで気を抜いてしまったのが私の過ちだった。なんで、直前までの話を忘れちゃったんだか…

 

「それじゃあマスター。問題は全部解決したみたいだし、今度はティアとやろっか」

「え」

 

 私の前に、見覚えのある半透明の門が開く。それはあの異界へ続く扉で、おそらく加減がなくなった事の証明だった。

 

「宝具の真名開帳まではいかなくても、仮装宝具の展開までは今日中に持ってこうねマスター」

「………はい」

 

 もう諦めて、私は渋々門の中へと連行されるのだった。目に光が無くて変って昔友達に言われたけど、今はそれ以上なんだろうなぁ…あははは、はぁ。

 




マスターの現在の改造された点
魔術回路
よくて10本→凛・桜レベル
魔力量
平均→平均
宝具
無し→防性宝具
身体能力
普通の幼女→???
令呪
残り3画 ?


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始まる宴 そのに

新年だし、チラ裏解除しようかなと思い始めるアホ作者。
それにしてもfgoのアニメ、ランサーが成長したアナだったのにも驚きだけど、ライダー……誰あれ?


 夢を、見ていました。

 夢の中の私は、心と身体、2つを襲う激しい痛みに耐えていました。

 こんな事したくない。逃げたい。死にたくない。みんなと笑って、楽しく過ごしたい。夢の中の私は、そんな考えでいっぱいでした。

 でも、その状況を打開できるのは自分しかいない事にも気づいたのです。

 たがらそんな自分の事は些事と押し殺し、自分が勝てる見込みもない◼︎◼︎◼︎◼︎◼︎に刃を向けたのです。これを打倒しても次の、更に次の次の次の次のと続く困難へと立ち向かうのです。

 傷だらけになり、ボロボロになり、壊れる寸前まで達しているのいうのにその人は諦めません。その自分の望みが達成されるまで、神すらもその刃にかけるまで。

 そんな生き様を見せつけられて、私は、私はーー

 

 ・

 ・

 ・

 

「やっぱり英雄なんて、化物で狂人じゃん…」

 

 見慣れないホテルの天井に、片手を広げて伸ばしながら私は考える。カッコイイとは思うし尊敬だってできる。だけど決して、それに成りたいとは思わない。それが、目を覚ました私の正直な感想だった。

 キャスターが『特訓して、食べて、寝ればいいんだよ! 塵も積もれば山となる!』とか言って寝かしてくれた、雁夜おじさんのとったホテル。雁夜おじさん達が見当たらない第二のハイアットが秒読みなここは、変な夢を見るくらい寝心地は悪かった。気持ち的に。

 

「やっぱり、出るしかないのかなぁ…」

 

 愛用してるフワフワのスリッパを取り出して履き、洗面台に向かう。顔を洗ってサッパリしようと向かう途中も、さっき見た夢が頭にこびりついて離れない。

 詳しい事を思い出そうとすると酷い頭痛に襲われるけど、一度死を経験してる以上、英雄なんて存在は、概念はキチガイにしか思えないのだ。血反吐を吐いて戦い、祭り上げられ、程のいい道具として利用され、最後には不要也と味方に殺されるか、不条理に押しつぶされる。そんな物を目指す意味なんて一片たりともありはしないじゃないか。

 

「まあ、私みたいな一般人が言っていい事じゃないか」

 

 これ以上は度が過ぎる独り言になると判断して、踏み台に乗って顔を洗う。私はあくまで一般人。キャスターのせい(お陰)で逸般人になりかけてるけど、まだ一般人なのだ。本来なら何もかも傍観で満足する、凄くつまらない人間なのだ。

 思ったよりバサバサしてるタオルで顔を拭き、痛んでる…というか毛先が白くなってきてる髪の毛を、ママの使っていたヘアゴムで1つに縛る。

 

「キャスター、いる?」

「ん、いるよー。おはよ、マスター」

 

 ぺちぺちとほっぺを叩く私の隣に、キャスターが実体化する。ちょっと煤けた臭いがするのは気になるけどまあいいや。このキャスターに、常識なんて求めちゃいけないって私覚えた。

 

「昨日後回しにしたこれからの事、決めたよ」

「へぇ、どうするの?」

 

 途端にぽわぽわしていたキャスターの雰囲気が、戦人のそれに切り替わる。後で、どんな人生だったのか聞いて見るのもいいかな。今はそれは置いておくとして。

 

「ケリィがここを突き止めてハイアットする前に、雁夜おじさんにお礼を言って逃げる。行き先はあの貯水槽ね」

「うんうん、それで?」

「その後は、行き当たりバッタリで」

「へ?」

「だから、行き当たりバッタリで」

 

 これが悩んだ末私が出した結論だった。そもそも策士でも奇策士でもない、2回目の人生を歩んでるだけの小娘が作戦なんて考える方がおかしかったんだ。ちぇりお!

 既に原作からも外れているから、知識を過信は出来ない。なら、行き当たりバッタリしかやれる事はないと思う。幸い、サーヴァントの能力は覚えてるから対応できない事はないだろう。

 

「ぷっ、く、あはははは!」

「むぅ、何かダメな所あった? キャスター」

 

 結構一生懸命考えて出した答えなのに笑うなんて酷い。いや、出した答えが答えだから笑われてもおかしくない? でもとりあえずイラっときたので、ほっぺを膨らましながらキャスターを睨む。

 するとキャスターはお腹を抱えて、目に涙を溜めながら答えた。

 

「ううん、違う違う。つくづくマスターと私って、すっごい似てるなって思って。ああうん、愛鈴みたいなマスターは大好きだよ!」

「うわっ、ちょっ、キャスターやめ」

 

 何故かキャスターに抱きしめられた。率直に言って煙たい、なんか煤けた感じの臭いがする。だけど何か、全く違う筈なのにお母さんに包まれた様な気配がして……ハッ!

 キャスターの抱擁から逃げ出し、一歩私は後ろに下がる。危ない、まさかそういう事だったとは。してやられた。

 

「キャスターはやっぱりバーサーカーだったんだね」

「え、なんで?」

「サーヴァント、母、ゲンジバンザイ。胸は別物だけどね、分かるとも!」

 

 第1種戦闘配置だ。どっかの源さんと似た様な鯖だとは全く思ってなかった…そうかそうか、君はそういうやつだったのか(エーミール並感)

 

「ぐぬ、どこから突っ込めばいいんだろう…確かに私、バーサーカー地味てる実感はあるし、一児の母だったりするけど…」

「…へ? 一児の、母?」

 

 嘘、でしょ? 

 

「ううん、本当だよ? 流石にこの身体の歳じゃなくて、十年後くらい後になってからだけどね」

「なん……だと」

 

 ジャンジャジャーンと今明かされた衝撃の真実に、私はBLEACH的反応をする事しか出来ないのであった。このキャスターが、結婚?しかも子供?相手の人、一体どんな酔狂だったんだろう…

 

 

「さてと、それじゃあ行こうかキャスター!」

「実感するのは2回目だけど、その切り替えの早さは尊敬に値するよ…マスター」

 

 ホテルに『今まで短い間だったけどありがとうございます。ここが第二のハイアットになる前に私達はいなくなります』ってメモは残したし、私物は例の謎空間に仕舞ってある。別に必要な物はもうないね!

 という事で、私達は既に大通りに出ている。流石の私も、こんな真昼間でも幼女が2人大通りを歩いてたら、警察に補導されちゃうって事くらいは分かる。だけど、久々の日光の下で嗅いだジャンクなフードの臭いには逆らえなかったのだ。

 

「ねえねえキャスター。キャスターの作ってくれる神代の料理もすっごく美味しいんだけど、偶にはジャンクな食べ物も食べたいな!」

「ウチのマスターは自由だなぁ…でもどうするの? 保護者いないと多分買えないよ?」

 

 そうキャスターが首を傾げて聞いてくる。ふっ、今生におけるパパママと結構ここら辺は来てたし、多分問題ない。お金もあるから基本的には大丈夫だろう。あの頭文字Mなハンバーガーショップに突撃したって、問題ないに決まっているのだ。

 

「それに『お使い』って切り札もあるもん」

「いや、その前に隠蔽性とかそういうのを…はぁ。うん、まあいっか」

 

 そんなキャスターの愚痴を聞きながら、私は軽く幼女らしく駆け出す。全力で走ると変な目で見られるからセーブしてるけど、やっぱり日光を浴びるのはいいね!

 

「わぷっ」

 

 そんな感じて少し浮かれてたせいか、ボスンと誰かにぶつかってしまった。ちょっとはしゃぎ過ぎてたみたいだ、ケリィがいる以上気を引き締めないと。と、それはそれとして。

 

「ぶつかってごめんなさい」

 

 一先ずペコリと頭を下げる。相手が分からなくても、謝るのは大切な事、イイネ?

 

「おう、気にせんで良い。許す」

「ありがとうござい…ま……す」

 

 お辞儀から顔を上げた私の目に映ったのは、丸太の様な太さの足だった。見上げていくと、格好はピチピチのシャツにズボンで胸元には大きく大戦略の文字。大きく見上げるほど大柄で赤毛を持ち、彫りの深いその顔は……

 

「征服王、いす、かんだる?」

「おお、この時代で余を知る子がいるとは思わなんだ」

「さ、サインいいですか?」

「署名か? 宜しい」

 

 ポケットから引っ張り出したハンカチにサインして貰ってる間、私は足りない頭を必死に巡らせる。

 征服王がここにいるって事はウェイバーくんも一緒にいるだろうし、キャスターが出て来たらマズイ。できればこのまま、イスカンダルを知っていた謎の女の子って事で立ち去りたい。でも魔術を使ったら間違いなくバレるだろうし…

 

「ありがとうございました」

「礼節も弁えているとは、近頃の童は中々に立派よのぅ。ところで1つ質問なのだがーー」

 

 イスカンダルが次の言葉を発する前に、私が予想していた最悪の事が現実に起きた。起きてしまった。

 

「こら、ライダー! 勝手に彷徨くんじゃない!」

「マスター、好きに動くのは良いけど警察に見つかったら面倒な事になるんだから、ちょっとは気にしてよね…」

 

 そう言いつつ、人混みの中から現れるウェイバーくんとキャスター。それによってライダーとキャスター陣営、そのマスターとサーヴァントが揃ってしまい…

 

「げぇっ、キャスター!」

「あー…こうなっちゃうんだ。ハロー、ライダーにそのマスター」

 

 キャスターが一旦諦めた表示を浮かべ、次の瞬間にはニヤリとしながらそう言った。その後は勿論、キャスターにマスターと呼ばれた私に視線が集中するわけで…

 

「お察しの通り、私がそこのキャスターのマスターだよ。それはそれとしてお腹が空きました。日本円渡すから、適当にハンバーガー買ってきてよウェイバーくん」

 

 努めて無表情で、舌足らずな言葉だけどふてぶてしく私は言い放つのだった。はぁ…ここからどうしよう。

 




うっかりが発生


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始まる宴 そのさん

ウェイバー君が喋ってるのは英語の筈なのに、銀城ちゃんが理解出来てることに突っ込んじゃいけない。


「きゃー! すごーい、高ーい!」

「ふはは! そうであろうそうであろう!」

 

 ウェイバー君を半分パシリにした買い物を終え、私達は人混みの中を歩いていた。極小規模の人払いの結界を張ってるこっちの身にもなってほしいけど、うちのマスターが征服王に肩車して貰って、本当の子供みたいにはしゃいでて楽しそうだからまあ良い。

 

「という訳で、冬木の連続殺人犯にマスターは一家全員を皆殺しにされて、その時に偶然マスターになったって事。そのままじゃ私に魔力を絞り取られて干からびるから、魔術回路を開いたりなんだりはしたけどね」

 

 はしゃぐマスターから数歩下がった所で、私はウェイバー君と話している。マトモに話ができる唯一のマスターなんだから、こういう機会が出来たなら活用する他ない。

 

「キャスターお前、案外マトモな英霊だったんだな。僕はてっきり狂化でもしてるのかと思ってたぞ」

「失礼な、私だってマスターの事は考えますー。狂化はしてるけど」

「うわぁ…」

 

 目が死んだまま笑顔を浮かべるマスターに、ウェイバー君が憐れみの目を向けた。だが、はしゃぐ幼女(マスター)の姿に毒気を抜かれたのかこちらに向き直って話を続ける。

 

「それで、結局お前らが僕達に接触してきた理由ってなんなんだよ」

「接触したのは全くの偶然。でも今は、1つだけお願いはあるかな」

 

 そこで私は一旦言葉を切り、隣を歩くライダーのマスターを見上げて言う。約束守って貰えそうなマスターのうち、勝ち残ってる最後の1人だしね。

 

「もし私が敗退しても、マスターは殺さないであげてね」

「それくらいなら構わないけど、なんでそんな事を僕に言うんだ?」

「だって、サーヴァントを無力化するならマスターを殺すのが一番手っ取り早い方法だもん。しかも残ってるマスターは、君を除いて全員それをしてくるし」

 

 外道麻婆、テロリスト、ケイネスに、ウェイバーくんちゃんに私のマスター。あ、いや、ティアからの報告だとケイネスじゃなくてソラウにマスターは変わったんだったかな? まあどうなってるにしろ恋は盲目、寝取られた人だからアウトだろう。改めて、なんて絶望的なメンツなんだろコレ。

 

「なっ、それは…」

「アサシンが脱落したとはいえ、君も気をつけるんだね。特にテロリストな衛宮切嗣とか」

 

 今も見張られてるのかもしれないよ?とは言わないでおく。流石に、真昼間からこんな人混みの中狙撃してくるような………あれ、してこないって否定できない。

 つい魔術を使って安全を確認しようとした私に、マスターを乗せたままライダーが振り返り何か言いかける。

 

「キャスター、お主酒は飲め…ぬよな。むぅ、流石の余も幼子を酒宴に誘った経験などないぞ」

 

 なにやらライダーが難しい顔をしている。えっと、これはつまり聖杯問答のお誘いって事でいいのかな? アインツベルン襲撃イベントはキャンセルですかそうですか。

 

「結局何が言いたいんだよライダー!」

「聖杯は、相応しい者の手に渡るという。だが、それを見定めるのが何も闘争だけというのはありえんだろう。お互い英霊同士、互いの格に納得がいくまで語り合えば、自ずと答えは出る」

 

 つまり、なんだ。とそこで区切り、ライダーは自らのマスターに堂々と、頭がおかしいと思われても仕方のない提案をした。

 

「今さっき思いついたのだが、此度の聖杯戦争に招かれた英霊を集めて酒宴でも開こうと思うてな。じゃが、そこなキャスターは見ての通りであろう? 誘うに誘えなくてなぁ」

「何を考えていやがりますかこの馬鹿はぁッ!」

 

 そう叫んだウェイバーくんちゃんがデコピンで撃退される。あぁ、あんなに大きいタンコブ作って…南無。それを横目で見ながら、私は誘いについて考える。

 

「私はこの歳から結構宴会には行ってたし、そも英霊だし飲めない事はないよ? でも、うーん…」

 

 別に行くのは構わないけど、ギル様が多分来るせいでちょっと気乗りしない。私自身特に聖杯に願う事なんて無いし、無駄にマスターを危険に晒すだけにも思える。

 

「マスター、どうする?」

「キャスターの好きにしていいよ!」

 

 マスターが無表情で、声だけは楽しそうにそう言った。マスターは分かってるんだろうか?ハサンがいない以上聖杯問答は面倒な事になるだろうし、自分は自分で危険に晒されるって事。私のあげた宝具でも、ヘッドショットは防げないんだよ?

 でもまあ、私の好きにしていいって言うんなら…

 

「かの征服王のお誘いだし、受けないわけにはいかないかな? お酒はあんまり得意じゃないから別の役割でいいなら、だけど」

「えらく物分かりがいいのぅキャスターよ。余はきっと『そんな事より戦だ』とか言うと思っておったぞ!」

「なんでみんな、こんな可愛い女の子をバーサーカーにしたがるかなぁ…今回のバーサーカー、ランスロットだったのに」

 

 ぶーぶーと私は文句を漏らす。本当に、なんでみんな私をバーサーカーにしたがるかなぁ…確かに昨日の夜は楽しかったし、もっと殺り合いたいけどさぁ。

 

「して、その別の役割とは?」

「料理人。せっかくの宴会なのに、料理がないなんてつまらないじゃん? まあ、満足させられるかは分からないけどね」

 

 (ロイド)に食べてもらおうと思って、座に行ってからのメル友に教えてもらった料理とか色々あるのだ。料理の腕はあの人には及ばないし、レパートリーも負けてるけどね。バトラーは強かったよ…

 

「ほう、そりゃあいい。では当日はよろしく頼んだぞ」

「場所はどこでやるの?」

「この街の郊外にアインツベルンの城があるだろう? あそこは中々に良いと思うのだが…」

「確かに、庭園とかもあるだろうし決まりだね!」

 

 いい感じに話がまとまったので握手…は上手く出来なかった。大きすぎでしょライダーの手。流石征服王。

 

「うぅ、そうじゃないだろライダー…」

「あ、復活したんだ」

 

 デコピンの衝撃から復活し、ユラァと立ち上がったウェイバーくんちゃんが私に指をさしながら聞いてくる。

 

「バーサーカーがあのランスロットだって!? 円卓の騎士最強、湖の騎士が?」

「うん、今回マキリが召喚したサーヴァントはサー・ランスロットだったよ。バーサーカーなのに凄く強かった」

 

 だってナノゴーレムって切り札は切る事になったし。無窮の武練は伊達じゃなかった。ヒトヅマニアなあの人だけど、バーサーカーでアレならセイバーだったら…恐ろしい。きっと栗星吸って100%クリティカルからのアロンダイトをオーバーロードされるんだ。そう言うのは魔神柱(うまい棒)にやってどうぞ。

 

「な、なあキャスター。僕の聞き間違いじゃなければ、お前がバーサーカーを倒したって言わなかったか?」

「うん? 聞き間違いじゃないよ。マキリの屋敷を吹き飛ばして厳重注意もらったの私だし」

「うわぁ…マジかよ」

 

 ウェイバーくんちゃんがマスターに向ける憐れみが強まったように思える。私、そんなに酷い事はしてないような…寧ろマスターを鍛えてる分いいサーヴァントなんじゃないかな?

 

「とりあえず、お互いの要件はこれで終わりみたいだし、さよならでいいかな? 征服王、宴会っていつやるの?」

「そうさなぁ…今から呼びかけに回るとして、明日の22時辺りが丁度いい時間かのぅ」

 

 なるほど、なら私はその時間までに腹ペコ王が満足するくらいの料理を揃えればいいわけか。マスターを鍛えるのと並行してやるとすると、中々に苦行だね。

 

「りょーかい。ほら、降りてマスターもう行くよ」

「えー、ここ楽しいのに…」

「【炎、神をも灼き尽くせ(シウ・コアトル)】擬きの準備は、いつでも出来てるんだよ? ま・す・たぁ?」

 

 楽しんでるところ悪いけど、このままずっとライダーの上に乗ってるつもりならこっちだってやる事をやらなきゃいけない。マスター曰く、この時の私はケツ姉さんの如き凄まじい笑顔だったらしい。

 

「ひぅ、い、今すぐ降ります…」

「あいたたた、髪を、髪を引っ張るでない小娘よ」

 

 スルスルとライダーからマスターが降りてくる。ライダーにライドしたマスター…うん、何か強そう。仮面ライドゥ…いや、何でもない。最終フォームが遺影でイェイな世界の破壊者ライダーなんて知らない。

 

「それじゃあねライダーとそのマスター。宴会が終わったら存分に殺り合おうね!」

「ううむ、やはりお主はそうなるのかキャスター」

 

 ライダーが頭に手を当ててるけど、こればっかりはどうしようもない。そもそも私が今回の聖杯戦争に参加した目的が、名高き英霊達との闘争なんだし。

 

「またねー!!」

 

 マスターがパタパタと手を振り、私がマスターを引っ張って移動していく。そしてライダー達が見えなくなった所で、マスターが私に話しかけてきた。

 

「キャスター、イスカンダルの髪の毛とサイン付きハンカチって触媒に使えないかな?」

「打算ありありじゃないですかやだー」

 

 とか言いつつ、固定化の魔術をかけてる私も私か。もしここがfgo時空だったとして、私と征服王の組み合わせって何それヤバい(確信)

 

「ところで、マスターはどこまでが本音でどこまでが嘘だったの?」

「7:3かな。打算ありでも楽しかったし」

 

 そう言うマスターは嘘をついてる様子はない。いや、3割しか嘘ついてないんだから当たり前か。でも、うちのマスターの考えが正直読めなくて困る。

 

「ねえマスター、今日は元々こんな事するつもりは無かったんだし、マスターの不注意で起きた分のペナルティーは覚悟してるよね?」

「え」

 

 まるで石化の魔眼でも食らったかの様にマスターが固まる。真面目に対応するのは、私にとってかなり疲れる事なのだ。本当はライダーの言う通り、今すぐファイッ! ってしたかった。

 

「何回かに一回は仮装宝具展開は出来るようになったんだし、ティアだけじゃなくてフローも今日から追加ね」

「え」

「安定して展開出来るようになったら、私も混ざるから」

「え」

 

 顔を真っ青にするマスターを引きずって、私達は例の貯水槽へ帰還するのだった。そろそろ、ティアに任せてた偽装も終わったかな?




生き残れるかも分からないのに触媒、ゲットだぜ!してる謎マスター。


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王のUTSUWA

※作者にUTSUWAが決まり始めた末のサブタイ。あとstay night 買いました。
なんだか最近、術じゃなくて讐で召喚した方がイオリの戦闘力は高い気がしてきた。


 征服王が手綱を取る戦車の上で、私から見ても明らかにウェイバー君は疲れ切っていた。頭を抱えていた。ライダーの破茶滅茶な行動に慣れてないっていうのもあると思うけど、今に限っては確実に他の事が原因だった。

 

「いやー、風が気持ちいいねマスター」

「そうだね! あららららーい!」

 

 そう、どう考えても私達が原因である。走る戦車の後方の空間に浮かぶ幼女×2が片方はこの状況に興奮して叫んでおり、もう片方はキャスターのサーヴァントだ。平常心でいられる訳がない。

 マスターがこんなにはしゃいでるのは、本人曰く4次の中で一番イスカンダルが好きな鯖だからだろうし、昨日やらかした私が止める事は無い。寧ろ私は思いっきりサポートしている。

 

「普通の幼女だと思ってた僕が馬鹿だったんだ…偶然とはいえ、何せあのキャスターのマスターなんだぞ? マトモな訳がなかったんだ…」

「よく分からないけど、うちのマスターが征服王の事を凄く気に入ったみたいでね。正直この魔術使うのって疲れるから、マスターだけでもその戦車に乗せてあげてほしいよ」

 

 私はため息を吐いてそう言う。別に魔力が減る訳じゃないけど、集中力は削られるのだ。高ランクの気配遮断をもってる鯖なら、多分私の警戒網を抜けて来られるくらいには。

 

「バカな事言うなよキャスター!この戦車はライダーの宝具なんだぞ? それに敵のマスターを乗せる訳ないだろう!」

「ま、そうだよね」

 

 誰しも自分の切り札を晒したくはないだろう。かく言う私も『もう1つの世界(アナザーワールド)』を隠すために、わざわざマスターの隣で行動してるんだし。

 

「そのわけ分かんない魔術でついて来れてるんだから問題なんてないだろう! そもそも、敵のサーヴァントが疲れるなら僕としては大歓迎だ!」

「わけ分かんなくないよ。ただ自分と対象にした物体との距離を固定してるだけだもん。そーたいきょりって言うんだっけ? 簡単でしょ?」

「キャスターのサーヴァントが疲れるっていう魔術が、現代の魔術師がそう簡単に使える訳がないだろばかぁ!」

 

 この微妙な雰囲気をどうにかしようと話しかけても、常識のズレからこの有様である。多分うちのマスターなら、もう少し鍛えれば使える様になると思うんだけどなぁ…この魔術。

 

「近づいてきおったぞ」

 

 その言葉で私達3人は正面を向く。勿論見えてきたのはアインツベルンの森。原作にあったジルの襲撃が無かったからか万全の結界が張り巡らされ、正直ライダー単騎での突破は簡単ではないように見える。

 

「征服王ー、多分ケリィが対戦車地雷仕掛けてるからこの戦車浮かばせた方がいいよー」

「おおう? それは真かキャスター」

「うん、ほらそことか」

 

 そう言って私は、この前征服王に見せた飛ぶ斬撃を地面に放つ。瞬間、その場所が大爆発を引き起こした。ライダー組は戦車の力場に守られてるし、私も自爆なんて愚は犯さないけど、これで危険性は十分に示せただろう。

 なんかマスターはエキサイトしてるけど、ウェイバー君はそうはいかなかったらしい。ライダーの背中に掴みかかり叫ぶ。

 

「やっぱりアインツベルンでやるなんて無理だったんだよ! あんな大結界に地雷なんて、いくらお前でも無茶だぁ!」

「だがなぁ坊主、地雷とやらは飛べば無いのだろう? それに見ろ、例の大結界はそこのキャスターが壊してしまったぞ?」

 

 そうライダーが指差す通り、数瞬前まで万全を誇っていた大結界は見るも無残に弱体化してしまっていた。そもそもああいう大きな魔術って精密機械みたいなものだし、取り敢えず砂かけとこうぜ!ってノリで誤作動は引き起こせる。そして誤作動が起きれば、必然的に結界は弱体化する。

 まあ、そういう風に干渉する事が難しいんだけど。そこは私のキャスターとしての腕の見せ所だ。

 

「えへん」

「なんなんだよお前達はー!!」

 

 そんなウェイバー君の半ば以上に悲鳴と化した声を響かせながら、結界に侵入し戦車は駆けていった。

 

 

「おぉい騎士王! わざわざ出向いてやったぞぉ。さっさと顔を出さぬか、あん?」

「ぐーてんもるげーんセイバー、面白そうだから付いてきたよー!」

 

 ケイネス先生が来てなかった事により無事だった正門をぶち壊し、ホールまで侵入したライダーとそれに便乗したキャスターがセイバーに向かって呼びかける。

 恐らく切嗣による近代的なトラップを神秘の塊である戦車が蹂躙し、魔術的なトラップはキャスターが鼻歌交じりに無効化していく様は圧巻だった。柄にもなく興奮しちゃうくらいには。

 

「ーー」

「ーー」

 

 少ししてからこの場を一望できるテラスに現れたセイバーとアイリスフィールは、何かを言おうとしてたのだろうが言葉を失っていた。

 まあ、酒樽を担ぐライダーと口からエクトプラズムを出してるそのマスター。その後方に浮かぶキャスターと、顔を火照らしている謎の幼女がいれば普通そうなる。加えてライダーの服装は大戦略Tシャツにウォッシュジーンズ、キャスターはイリヤコス。私達マスター陣は普段着なせいで、頭痛が痛くなるレベルの混乱がセイバー陣営を襲ってる事だろう。

 

「城を構えていると聞いて来てみたのだかーー何ともシケた所だのぅ、ん?」

「ライダー、貴様はここに何をしに来た?」

 

 気色ばんで呼びかけるセイバーではあったが、この混沌とした光景に眉を顰める。そして無視されたキャスターが若干拗ねている。自業自得だろうに。

 

「おいこら騎士王。今夜は当世風の格好(ファッション)はしとらんのか。なんだ、そののっけから無粋な戦支度は?」

 

 さっき挙げた私たちの服装に対して、甲冑を纏ったセイバーは確実に浮いている存在だった。王は人の心が分からない(ポロローン)

 

「もう一度問うぞ、ライダー。ここに何をしに来た?」

 

 ライダーの性格はこの前の戦闘で思い知っただろうし、この雰囲気と格好、そしてライダーの持つ酒樽を見て分からないなんて、やはり王は人の心が(ry

 

「見てわからんか? 一献交わしに来たに決まっておろうが。ーーほれ、そんなところに突っ立ってないで案内せい。どこぞ宴にあつらえ向きの庭園でもないのか?」

 

 そのライダーの言葉を聞き、セイバーは諦めたような疲れ切ったようなため息を吐く。そしてアイリスフィールと何かアイコンタクトして、キャスターに向き直る。

 

「ライダー、貴様の目的は分かった。だが少し待て。キャスター、ならば貴様が来た理由はなんだ? よもや好奇心のみという事はないだろうな?」

「そりゃ勿論。折角の宴なのに、料理が何1つ無いってのは寂しいからね。美味しい料理を作りに来た」

 

 効果音をつけるならドヤァッ! って顔をしてキャスターが宣言する。アイリスフィールが既に疲れた顔をし始めている。この程度で疲れてたら、キャスターの相手なんて無理だよアイリさん。愛鈴(あいり)ちゃん覚えたもん。

 

「セイバーがあの騎士王っていうなら、

アインツベルン(ここ)での食事以外は美味しいご飯なんて食べた事ないでしょ? だから作りに来た。という事で私は厨房に案内して欲しいな」

 

 もうセイバーが最初に放っていた覇気は見る影もない。完全に戦意は静まってるように見える。アーサー王のUTSUWAを持ってすれば、キャスターが嘘を付いてないのは分かるだろうしね。

 

「あの、ちょっといいかしら?」

 

 丁度いい機会とみてか、アイリさんが恐る恐るといった感じでこちらに質問してくる。というか、私を見つめて話しかけてきた。

 

「という事は、もしかしてあなたがキャスターのマスター…なの?」

「はい、まあ成り行きでなっただけですけど」

 

 取り敢えず真面目に私は返答する。成り行きっていうのは間違いじゃないから、セイバーの直感には引っかからない筈である。

 

「はぁ…分かりました。その挑戦、受けて立とうライダー。アイリスフィール、あなたはキャスター達を厨房へ案内してもらえますか?」

「えぇ、別に構わないわ…」

 

 やれやれといった感じでアイリさんが頷く。セイバーのアホ毛がピコピコ動いてたのは見なかったことにしたい。

 そして、このまま聖杯問答の起きる宴会に移行するのかと思った刹那、キャスターが虚空を睨みつけて言った。

 

「多分盗聴器とかがあるだろうから、あらかじめ言わせてもらう。衛宮切嗣! そして久宇舞弥! あんた達がこの宴会の意味を無視してマスター達に手を出した場合、大聖杯ごと冬木も滅ぼすし、全て殺す。そも()らせはしないが、もし実行する気なら相応の報復があると知れ!!」

 

 いつもの舌足らずな見た目相応の言葉使いでなく、敵意と殺意を剥き出しにして放たれたその言葉によって、ロビーが完全に静まりかえる。

 

「なっ、キャスター! 人のマスターを「アイリスフィールさんなら分かるよね? こんな効率の良い敵の排除手段、衛宮切嗣なら見逃す訳がないって」

 

 顔を憤怒に染めるセイバーの言を遮り、キャスターがアイリさんに問いかける。そして、それを否定するそぶりがアイリさんには一切見えない。

 

「まあ何もしてこなかったら、ただの王達の宴になるから心配は要らないよ。私みたいな英雄になることから逃げた奴は、後は大人しく料理人にでも徹するから」

 

 そう言ったキャスターの手元に魔力が集まり、フライパンとフライ返しが出現する。服装もいつのまにか、クマさんのプリントされたエプロンに変わっている。

 でも、王達の宴でセイバーさんのメンタルはメタメタになるよなぁ…一触即発の空気の中、そんな事を考えられるようになった私もそこそこ図太くなってるのかも知れない。

 

「えっと、あの…アイリスフィールさん、厨房に案内してもらっても…良いですか?」

「え、あ、そうね! それが良いわ!」

 

 このままじゃ折角話がまとまったと言うのに、キャスターが大歓喜の状況になりそうな事を察してくれたのか、アイリさんが私たちを手招きする。

 いつ英雄王が爆誕するのか分からないけど、既に雲行きが怪しい。でもこういう時こそあれだろう。常に余裕を持って優雅たれだ。嫌だめだ、トッキーは(多分)死んだ!もういない。

 ならば言う台詞はこうだろう。きっとネタ元の本人が聞いてるけど。

 

「お手並み拝見だ、可愛いキャスターさん」

 

 これから少し後、肋骨を起源弾にされそうになるだなんて事、私は全く考えもしてなかった。

 




チョロっと名前だけ出した複合神性、うちのキャスターさんに組み込まれた神性が10と1つで笑う。ワラウ。0o4(ラフム化)


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王のUTSUWA そのに

食費は全額アインツベルン持ちな!
あと子供の供って字は動詞の意味があんまりよろしくないから使いたくないスタ……あれ、境遇的に平気か?


 王達の宴の場所として通されたのは、原作通り城の中庭の花壇だった。2人のサーヴァントが差し向かいにどっかりと胡座をかき、悠然たる居ずまいで対峙している。だけど、現状原作とは違う点が多々ある。

 

「キャスター、おかわりです!」

「ちょっと待って知ってたけどこの速さは予想外ぃッ!」

 

 キャスターが置いた大皿の料理を数十秒でセイバーが平らげ、皿を持ってうちのキャスターが厨房へと全力で走っていく。ライダーも料理の美味しさなのかセイバーの食べる速さなのかは分からないけど、驚きながらも料理を突ついている。

 セイバーはご満悦の様子で、アホ毛も元気に揺れ動いている。その姿は王だ英霊だ関係なく、ただ美味しい物を食べて満足してるただの少女だった。

 

「どうしよう、僕の中のアーサー王のイメージがどんどん崩れてく…」

「大丈夫よライダーのマスター、私もだから」

「あぁ、美味しい…」

 

 隣でアイリさんとウェイバーくんが揃って頭を抱える中、私はもっきゅもっきゅと料理を食べ続ける。拠点で作って貰ってる神秘マシマシ魔術カラメ魔力ゾウリョウ、しかも素材が魔眼や幻想種だったりするとかいう私の身体を改造する気マンマンの料理と違って、思いっきり普通の美味しい料理だからここで食べなきゃ損だ。

 

「それにしても美味しいですね、アイリさん!」

「そうね、愛鈴(あいり)ちゃん」

「うぐぐぐ…」

 

 名前が似てるのと厨房に行く間に話した事によって判明した同年齢という事もあって、何故かアイリさんとは意気投合できた。この事を知らないウェイバーくんはもう唸ってるけど、ちゃんと料理は食べている。美味しいからね、仕方ないね。

 

「和洋中全対応な上、よく分からない美味しい料理まで…一体キャスターはなんの英霊なんだよ…」

「ウェイバーくん、幾ら私が子どもだからってゆーどーじんもんとかは効かないよ? というか私自身知らないもん」

「だよなぁ…一体僕は何やってるんだか。あ、これは美味しい…」

 

 キャスターに埋め込まれた宝具によって、発動されたっぽい魔術が完全にレジストされた。それが無くてもまあ、魔術師には通じない程度の魔術だったけど。

 

「へいお待ち! 今度は鍋ごと持って来たよセイバー、これで少しは」

「この米とやらをおかわりです、キャスター!」

「チクショウメェ!」

 

 この様に大食い選手権と化しているサーヴァント陣営と違って、マスター陣はいたって平和だ。一児の母、その子どもと同年代の幼女、そして我らがヒロインが揃ってるんだからそうなるのはほぼ必然だった。

 

「喰らうがいい、セイバーにライダー! これが現代のブリテンが生んだ狂気の産物、スターゲイジーパイとハギスである!」

「ふっ、キャスターよ、私を舐めすぎたな。栄養は、ゲテモノ料理でも、変わりません!」

 

 三歩で厨房と宴会場を往復するキャスターが持ってきた冒涜的な造形のパイ、それをセイバーがなんの躊躇もなく喰らっていく。

 

「このハギスとやら、中々美味いではないか」

「マケドニアも、そういえばヨーロッパだった…」

「キャスター、デザートを要求します!」

 

 キャスターが所謂orzの体勢のまま高速でバックしていくのを見て、口に含んでいた食べ物を吹き出しそうになった。何危ない事してくれてるのさうちのサーヴァント。

 

「でも、本当に良かったわ」

「何がですか?」

 

 そんな混沌が煮詰まったような空間で、アイリさんがポツリと発言した。

 

「セイバーよ。あの娘らずっと不機嫌そうにしていたのに、ようやく笑ってくれたんだもの」

「その点、うちのキャスターは最初からずっと楽しそうですよ…なんでも英霊として自分が召喚されるのが、もう1度あるか分からない奇跡だとかなんとか」

「そりゃあ、幾万といる英霊の中から狙ってあんなのを呼び出そうとする酔狂はいないだろうな…」

  

 ウェイバーくんの至極真っ当な意見に私は頷く。キャスターを呼ぶなら、孔明先生とか玉藻の前とかメディアとかアンデルセンとかキャスニキとか色々いるもんね。マーリンは人理焼却でもされてないと無理だからパスで。

 マーリンって単語を思い浮かべた瞬間、こちらを睨んできたセイバーに戦々恐々としてる中、両手にお盆を持ったキャスターがゆっくりと帰ってきた。

 

「とある(やつがれ)現人神の作った物を食べてから嵌ったザッハトルテと、軽めに作ったワッフル。どっちがいい?」

 

 ちょっと待ってキャスター、その組み合わせは流石に頭がおかしい。特に前者はこんなに色々食べた後に出すような物じゃない気が……食べるけど。

 

 

「ふん、『王の宴』と聞いて来てみれば、なんだこの茶番は」

 

 出されていた皿があらかた片付いた時、ソレは現れ吐き捨てる様に言った。

 たったそれだけの行為で、場の空気が一変する。しかしそれは必然だろう、何せ黄金の光から実体化したのはアーチャー…英雄王ギルガメッシュなのだから。

 

「遅かったではないか、金ピカ。まあ、歩行(かち)なのだから無理もないか」

 

 甲冑姿のアーチャーがこちらに歩を進めると同時、マスター陣はジリと後ろに下がった。ここから先は、謂わばサーヴァントのみが入れる領域だしあながち間違ってはない。まあ、王じゃない私も入れるかは怪しいけど。 

 

「ふん、貴様がこの様な鬱陶しい場所を選ぶからだ」

 

 そうライダーを一瞥した燃える紅玉(ルビー)のような双眸が、次の瞬間私を射抜いた。ビクッてなって固まっちゃったけど『私は悪くない』

 

「癪だが礼を言ってやるぞ雑種。綺礼は時臣なんぞより実に面白いマスターだ」

「えと、ありがとうございます」

 

 まさかお礼を言われるなんて思ってもなかったので、そんな曖昧な返事しか返すことができなかった。それを最後に私には興味を失ったようで、ライダーとセイバーと同じように座った。

 どうすればいいのか分からず戸惑っていると、4つの目が座れと促してくる。私、王じゃないんだけど……なんて思ってると、アーチャーにまで睨まれた。諦めよう。

 

「ようし、これでようやく揃ったな。キャスターには2度目となるが、許せ」

 

 私がここに座ってること自体が予想外なんだし、文句は言わずにコクリと頷く。

 

「聖杯は、相応しき者の手に渡る定めにあるという。それを見定めるための儀式が、この冬木における闘争だというがーーなにも見極めをつけるだけならば、血を流すには及ばない。英霊同士、お互いの『格』に納得がいったなら、それで自ずと答えが出る」

 

 ライダーがいかつい拳で樽の蓋を叩き割ると、芳醇なワインの香りが中庭の夜気を染め上げる。私がいつだったか料理用に自作して、開けずに放置してたのを提供した。

 そして取り出した竹の柄杓で、掬い取ったワインを一息で飲み干しこちらに差し出してくる。

 

「……なるほど、では我々と“格”を競おうと言う訳か、ライダー」

「然り」

 

 それに誰よりも早く反応したのはセイバーだった。差し出された柄杓を受け取り、ライダーと同様に一息で飲み干した。

 私が言えた事じゃないけど、よくそんなに飲めるよね…

 

「お主らも飲むがいい。全員が飲み干した所で『聖杯戦争』ならぬ『聖杯問答』を始めようぞ!」

「それじゃ、謹んで」

 

 私も柄杓を受け取り、樽の中身を掬い取って一気飲みする。大人の時ならともかく、こんな事をしたら今の身体の年齢じゃいつかの宴会の二の舞になるだけだけど、今の身体はサーヴァント。事前に霊基を弄ったから、今は少しだけ大人ばーじょんなのだ。

 そしてアーチャーの番に回り、柄杓を干した時予想通りそれは起きた。

 

「ーー不味くはない、がそれまでだ。英霊の格を量るには役不足が過ぎるわ」

 

 原作の様に嫌悪感を剥き出しにしてはいなかったが、不愉快そうに顔を歪めアーチャーは吐き捨てる。知ってた。

 

「そうかぁ? キャスターが提供してくれたこれ、少なくともこの土地の市場の物とは比べ物にならん逸品だぞ」

「だろうな。これは間違いなく神代の酒だ、この時代の酒に負ける訳がなかろうよ」

「英雄王に褒められるとか、作り手としては照れます…」

 

 セイバーが信じられないといった目で私を見てくる。というか何このマイルド英雄王? 噂に聞いたザビ子とかカルデアとかとの経験があったりする方ですか?

 

「何をどう解釈したら褒めるなどと解釈できるのだ雑種めが」

 

 そう嘲りに鼻を鳴らすアーチャーの傍らに

王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』による門が開く。つくづく、私の門と似た様な能力だよなぁ…

 

「見るがいい。そして思い知れ。これが本当の酒というものだ」

 

 アーチャーが取り出したのは、眩い宝石で飾られた一揃いの酒器だった。重そうな黄金の瓶は、澄んだ色の液体がたっぷりと湛えられている。

 聖杯問答はここからが本番、はてさてどうなるやら。というかギル様の酒、どこぞの出会いを求めてる世界の神酒(ソーマ)よりはマシ…だよね?

 




中華料理は別口で習っていた模様。
そしてマスター陣同様に緊張でガチガチになるキャスター…


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王のUTSUWA そのさん

まさかうちの小説にも、大手さんのところみたいにBad評価ネキが出没するとは…色んな小説に出没する全てが同一人物だとしたら、向上心のある暇人だぁ…


 何時ぞやのダンまち世界の神酒(ソーマ)(ソーマ神手作り)を思い出して躊躇する私と警戒心で躊躇するセイバーを追い越して、最初にお酒を呷ったのはライダーだった。

 

「むほォ、美味いっ!!」

 

 目を丸くして喝采するライダーによって好奇心が勝ったようで、それでようやくセイバーも杯を呷った。私も参加してる以上、呑まないわけにはいかないので杯を傾ける。

 

(確かにコレは、戦争が起きるね…)

 

 正直この子供の舌だと分かるとは言えないけど、記憶の中の神酒(ソーマ)(神)と同等か上回る美味しさだった。多分。

 どこのファミリアにいたか?ベル君と同じく門前払いされたから、ティアを神様にして作りましたが何か。

 

「凄ぇなオイ! さっきのワインも美味かったが、こりゃぁ文字通り格が違うわい」

「流石に、本職には勝てないなぁ…うん」

 

 私の得意な事で並べると、鍛冶<魔法使い<戦士=家事で超えられない壁があって酒造とかそこら辺になるのだ。この時代のお酒には完勝できても、神代の本職さんには勝てる訳が無かった。

 それでも多少悔しくてガックリしてる私と惜しみない賛辞を送るライダーに向けて、アーチャーは悠然と嘲笑する。そういえば、いつのまにかアーチャーは上座にいる。愉悦な顔をしてるし流石に英雄王。

 

「当然であろう。酒も剣も、我が宝物庫には至高の財しかあり得ない。これで王としての格付けは決まったようなものだろう」

「ふざけるな、アーチャー」

 

 喝破したのはセイバー。この和み始めた、悪く言えば馴れ合いじみてきた場の空気が気に入らなかったみたいだ。私はこういう雰囲気の方が好きなのに。

 

「酒蔵自慢で語る王道なぞ聞いて呆れる。戯言は王でなく道化の役儀だ」

「さもしいな。宴席に酒も供せぬような輩こそ、王には程遠いではないか」

「こらこら。双方とも言い分がつまらんぞ」

 

 セイバーの剣幕を鼻で笑って一蹴する英雄王。それに更に苛立って言い返そうとするセイバーを、苦笑いのライダーが遮る。

 

 そして、積極的に私が関わらなかった事もあって原作通りの掛け合いが始まった。そも聖杯とはという会話に一度介入しただけで、セイバーの機嫌は露骨に悪くなっている。

 そして話は進んで行き、破裂寸前の爆弾のように感じるセイバーが遂に口を開いた。

 

「そうまでして何を聖杯に求める、ライダー」

 

 そう問いかけられたライダーは、杯を呷り、言いづらそうに口をもごもごさせ、なんだか照れくさそうにしている。若干頬も赤くなっているように見える。

 ……ふむ、型月世界だしイスカンダルが女として召喚される可能性があるとして、イスカンダル×ウェイバーくんちゃん……あり、か? ってそうじゃない。危ない思考に落ちかけてた。

 

「受肉、だ」

 

 それは、私とマスターくらいしか予想できていない返答だった。どっかのケンホロウみたいな声を上げるウェイバーくんを見て、マスターが笑っている。シニタクナ-イとは続かなかったけど、この素っ頓狂な答えにウェイバーくんはこっちに詰め寄ってきてしまった。

 

「お、おおオマエ! 望みは世界征服だったんじゃーーむぎゃっ!」

 

 原作より増量されてるだろうデコピンで、ウェイバーくんは黙らされてしまった。

 

「馬鹿者、たかが杯なんぞに世界を獲らせてどうする? 征服は、己自身に託す夢だ」

「雑種……よもやそのような瑣事のために、この(おれ)に挑むのか?」

 

 呆れ顔のアーチャーの質問に、ライダーはあくまで真顔で答える。

 

「倉庫街でお前さんにそこのキャスターが言っていた通り、所詮我らはサーヴァント。マスターからの魔力供給がなければ、僅かの内に消滅する亡霊だ。貴様らはそれで満足できるか? 余は不足だ。余は転生したこの世界に、一個の生命(いのち)として根を下ろしたい」

 

 ライダーが言った言葉の中に含まれていた『転生』という単語に、私もマスターも意図せず反応してしまった。死の記憶が曖昧な状態のマスターはわからないけど、ある意味2度の死の経験とサーヴァントとしての記憶がある私には、ライダーの言ってる事がとてもよく分かった。

 ロイドも娘もいなくなった今は振り切ったけど、あの娘が生きてた頃は何回ティアの単独顕現に引っ付いて現世に行こうとしたことか。誰にも言ってないけど、私の全開の工房を何日かフル稼働させれば受肉程度余裕でできる魔力は作れるし。

 なんて事を考えてる内に、話は随分進んでしまっていた。

 

「決めたぞ。ライダー、貴様はこの我が手ずから殺す。十全の状態の貴様を潰してやろう」

「ふふん、今更念を押すような事ではあるまい。余もな、聖杯のみならず、貴様の宝物庫とやらを奪い尽くす気でおるから覚悟しておけ。これ程の名酒、征服王に教えたのは迂闊すぎであったなぁ」

 

 からからと大きな声で笑うライダーの声に、私は現実に引き戻された。割り込む余地がないから黙ってたけど、ここの聖杯の事英雄王なら分かってるんじゃないのかな? ああ、あり得ないって一蹴するか。

 

「ふむ、この順番だとしたら次はキャスターか。お主は聖杯に何を願う?」

 

 そんなくだらない事を考えていた私に、ライダーが話を振ってきた。確かに私が一番下座だから、時計回りだと私が話す事になる。でも正直、私の願いなんて有りはしないし…

 

「ちょっと待って征服王。あくまで私は王っては言えないし、ここは騎士王に聞いてあげたほうがいいと思う」

「ふむ、まあそれもそうさな。ならばセイバーよ、貴様の懐の内を聞かせてもらおうか」

 

 一応納得してくれたのか、ライダーの質問はセイバーに対象が変わった。私の『ただ戦いだけ』と『マスターの人並みの幸せ』なんてショボい願いを聞いたら、それこそセイバーがプッツンしそうだから順番は譲る。

 セイバーの願いを私も認めはしないけど、言ってもらわないと仕方がない。

 

「順を譲ってくれた事、感謝するキャスター」

 

 そう一言私にお礼を言った後、真っ向から2人の王を見据えてセイバーは切り出した。

 

「私は、我が故郷の救済を願う。万能の願望機をもってして、ブリテンの滅びの運命を変える」

 

 セイバーが毅然として放った宣言に、しばし座は静まり返った。まあ、どう足掻いてもこうなるよね。覇道と覇道は100%相容れない、それこそ黄昏の女神でもいない限り。

 

「なあ、騎士王。もしかして余の聞き間違いかもしれないが…貴様は今“運命を変える”と言ったか? それは過去の歴史を覆すということか?」

「そうだ。例え奇跡をもってしても叶わぬ願いだろうと、聖杯が真に万能であるならば、必ずやーー」

 

 断言しようとしていたセイバーの言葉尻が宙に浮く。漸くセイバーは、自分ライダーとギル様の間に横たわる微妙な空気、そして私の放つ呆れと苛立ちの混ざった空気に気づいたらしい。

 

「えぇと、セイバー? 確かめておくが……そのブリテンとかいう国が滅んだというのは、貴様の時代の話であろう? 貴様の治世であったのだろう?」

「そうだ。だからこそ、私は許せない。だからこそ悔やむのだ。あの結末を変えたいのだ。他でもない、私の責であるが故に……」

 

 必死にセイバーがそういう中、不意に弾けるほどの哄笑が轟いた。

 どうしようもなく、尊厳を踏みにじるような遠慮の欠片もない笑い。そんな事をできるのは、この場ではギルガメッシュのみだった。

 これより酷い笑い方なんて、それこそどっかのべんぼうくらいかもしれない。

 

「……アーチャー、何がおかしい?」

 

 許容量を超えた屈辱に、表情を怒り一色に染めたセイバーが吼えた。それに未だに笑いの余韻収まらぬ英雄王が応じ、ライダーは憂いの面持ちを深め沈黙する。

 ここに私は、王ではなかった私が口を挟む事は出来ない。否、許されない。王でもない、臣下でもない、ただの民に区分される私にはそれ以外の気持ちなんて分からないから。だから今は、私が意見を挟める時まで少しだけ時間を潰してくれるよう、このお酒に頼ろうと思う。

 

 

 思った以上にお酒に飲まれ、かなりの時間が経った。

 

「貴様は臣下を“救う”ばかりで“導く”ことをしなかった。『王の欲』の形を示すこともなく、道を見失った臣下を捨て置き、ただ1人で小綺麗な偶像に縛られていただけの小娘にすぎん」

「私は……」

 

 ライダーの言葉に、セイバーは俯いて何も答えられなくなってしまう。まあ、アレだけ言われたんだから仕方ない。心の支えをへし折られ、もう心はボロボロの筈だ。

 そして彷徨うセイバーの目が、私の目と交差する。メトメトガアウ-じゃなくて、藁にも縋る思いなのが見てとれる。

 

「それじゃあ私も、ちょっと思うところがあるし発言しても良いかな?」

 

 だけどセイバー、私だって1人の英霊。貴方の願いについて、言いたいことはあるんだよ? 




\カット祭り/

そして、キングハサン! 貴方はキングハサンではないですか!! でもどうせ来てくれないんでしょう?知ってる。
-追記-
無事爆死


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王のUTSUWA そのし

キングハサン「首を出せい!」
島津の妖怪「首置いてけ!」
!?メトメガアウ-?!
\YU-JYO/

という夢を見たんだ…


「ふむ、まあ民の意見という物も必要よな。良いぞ、思うがままを話すがいいキャスター」

「ありがとね、征服王」

 

 一言お礼を言い、私もセイバーに向かい合う。あんな眼をされたから、流石に初めから否定はしたくない。

 

「一市民の私としては、別にセイバーの願いを否定はしないよ。その平穏への祈りは崇高な物だと思うし、セイバーの治める国を一度は訪れてみたいとも思う」

「ほほう、ではキャスターはセイバーの願いを認めるという事か?」

 

 私の渇望とも似通った部分があるし、そこは否定はしない。結局私が知ってるのは獅子王の治めるキャメロットだけだし。

 

「いいや全然。セイバーよりも圧倒的に下の、見下げ果てた王を知ってるからそれよりはマトモだと思うだけ。どっちかといえば、英雄王とか征服王みたいな王道の方が個人的には好きだよ」

 

 生きてた頃に旅した人間界の、世界の危機でも自分の私腹を肥やすだけのクソ王よりはセイバーの方が100万倍マシだ。

 でもセイバーの目から光が消え、私のマスターと同じような目に変わる。あまり言い過ぎると、多分セイバーをもう王とは見てないだろうライダーに怒られそうだけどギリギリまで攻める。

 

「でも過去に戻ってやり直したいなんて願い、年頃のヒトとしてはありふれた願いだもん。それにセイバーは認めないかもだけど、一部の例外を除いて王だって1人の人間。たった1人、王になる事を強制された女の子の妄想くらい、聞き流してあげようよ」

「ううむ、それはそうではあるが…」

 

 難しい顔をして考え込むライダーと、背後に大々と愉悦の文字を背負ってる様に幻視できる英雄王。気まずい沈黙の中ほんの少しだけ立ち直ったセイバーが、再燃した怒りを込めて私に問いかける。

 

「貴様は、貴様も私の願いを小娘の妄想と愚弄するのか、キャスター!」

「しないよ。さっきも言った通り、願いを認めはしないけどその根幹までは否定しないよ。一市民としてはね」

 

 時代がブリテンを殺しにきてたらしいし、マーリンも死ぬほどウザかったと思う。円卓はギスギスだし、人間関係には同情しよう。とりあえずマーリンはぐだーずの下で過労死してどうぞ。

 

「でもそんな願いが叶ったら人理が崩壊するって理屈は抜きにして、1人の英霊、1人の戦士として言わせて貰うなら……今の貴方が王なのは絶対に御免だよ、セイバー」

 

 騎士王の治世がどんなのだったかは分からない。それこそ民にとっては良いものだったのかもしれないし、どこぞのアーサー王が100万人いたり、傭兵だったり富豪だったり盗賊だったり歌姫だったりする世界線みたいにおかしなものだったのかもしれない。

 でも、あくまで今の青王様が王様の国は御免だ。

 

「征服王の焼き増しになっちゃうから深くは言わないけど…仮にも王が臣下と歩んだ過去を、自分が助けた人の事を書き変えたいなんて願うのは、私にはただの逃げにしか思えない。王ってのは背後で堂々と踏ん反り返ってるか、背中で全てを語るものだと思うから」

 

 私の場合前者が魔界を治めてた魔王、後者が獣人界を治めてた獣王様だ。そのどちらも人間界より環境が悪かったというのに、確実に安定しているいい国だった。人間界は察して。

 上げて落とすなんてサイテー?私の思ったままを言ってるだけだから、何も私は悪くない。って、ああそういえば。

 

「よいしょっと」

 

 また死んだようになってしまったセイバーの前で、私は自分の身体に腕を突っ込む。えっと、確かここら辺に吸収したバサスロットさんの霊基の情報があったはず…

 

「キャスター、お主何をしておるのだ?」

「ん? 今回の聖杯戦争に円卓の騎士が居たって事は言ったでしょ? ちょっとその意思だけは関係もあるし伝えたいと思って」

 

 っと見つけた見つけた。でもまあ能力を完全に再現なんて出来ないから、見た目だけを完全にコピー。私の手に現れた長剣を、身体から抜いて俯くセイバーの目の前に突き刺す。

 

「セイバー、顔を上げて。この聖剣…いや、魔剣を見て。これが、貴方が理想の王であろうとし続けた結果だよ」

「っぁ、……嘘、だ」

 

 セイバーのメンタルが更に崩れていく音が聞こえる。こんなに心が死にかけでも、自分に仕えた騎士の事を忘れはしなかったらしい。

 私が突き刺したのは『無毀なる湖光(アロンダイト)』を見た目は完全に、性能はほぼ再現できてない物。だけどそれは円卓に関係する者でもなければ作ることはできず、しかし誰にでも呪いに歪んだと分かる物。これを知らないとか抜かしたら、全力で殴ってただろう。

 そんな事を思いつつ、私の知る知識と霊基から読み取った知識を合わせてセイバーに告げる。

 

「今回の聖杯戦争に参加したバーサーカーの真名は、湖の騎士ランスロット。聖杯戦争に参加した動機は、発狂できるから。そんな願いを抱くようになった原因は、セイバーが理想の王を貫き過ぎて彼の不忠の罪を許してしまったから」

「違う、私は…」

 

 絶望の底といった感じのセイバーに、私は淡々と本を朗読するように続ける。誰にも止められないし、バサスロットさんの事だけは言っておきたい。さしずめ今の私は†処刑人†いや、やっぱりなんでもない。どっかのアサシンと私は違う。

 

「自分の中で決着をつけられぬまま問題を片付けられ、そのせいで彼は『良心の呵責に苛まれ続ける』っていう最悪の生き地獄に晒された。多分、私が倒さず放っておいたらーー」

「キャスター、もうやめてやれ。見ていて余りにも哀れだ」

 

 セイバーの目の前で、バサスロットさんの事を語る私の肩に大きな手が置かれた。その手の持ち主は、勿論ライダー。蹲るセイバーに向けて、憐れみの目を向けている。

 

「そうだね…ごめんなさい、少し言いすぎたかも。でも私の意見は兎も角、彼を下した者としてこれだけは伝えておきたかったから…」

 

 そう言いつつ、もう帰るとマスターに念話で伝える。何か抗議の念が帰ってきたし、マスターがアイリスフィールに謝ってるけど今更だろう。

 というかこんな状況でもセイバーを視姦してる英雄王さん、貴方流石に趣味が悪くないですか? ほんとロリコンって怖い。助けてロイド。

 

「しかし、これはもう宴という雰囲気ではないなぁ…」

「ですねぇ…」

 

 何かよく分からない言葉を口から漏らしながら、蹲りマインドクラッシュを受けたようになってるセイバー。そのセイバーを視姦してる英雄王。元凶の私。主催者のライダー。うん、もう宴とか続行できないね。

 

「そういえばキャスターよ、なんだかんだで流れておったが、お主の願いを聞いておらんかったな」

「あ、そういえばそうだったね」

 

 側からみたらセイバー虐めに発展しちゃったせいで、私の聖杯にかける願いを言っていなかった。うん、まあ汚染された聖杯にかける願いなんてありはしないけど。

 

「私は、聖杯にかける願いなんて存在しないよ。叶えたい事はあるけど、それは聖杯じゃ絶対に叶えられない物だから」

「はぁ? いや、うむ。納得した」

 

 ニヤリと笑って言った私の答えに、征服王はなんとなく察してくれたようだった。

 

「私は、この地に現界して聖杯戦争に集まった英雄豪傑と、武を競い合えるだけで十二分に満足だもん。それにもう1つの願いは、マスターの人並みの幸せ。聖杯なんかが関わったらその時点で破綻するからね」

「後者は予想外ではあるが、やはりお主はそうか。望みは至極単純、それ故に話す意味がありゃせんわい」

 

 ライダーは大きく溜め息を吐き、ボリボリと頭を掻く。そんなにおかしいことかな? というか、話す意味がないって…いやそうだけども。

 

「最後はどうにも締まらない感じになってしまったが、お互い言いたいところも言い尽くしたよな? 今宵はこの辺でお開きとしようか」

 

 とても残念そうに、杯の中のお酒を飲み干してライダーは言う。そしてキュプリオトの剣を抜き、

神威の車輪(ゴルディアスホイール)』を具現化させた。

 

「さあ坊主、引き上げるぞ」

「え、あ、うん」

 

 ウェイバーくんが戦車に乗り込み、雷鳴と共に去って行くのを見ながら私も残ってたお酒をグイッと飲み干す。さて、私はマスターを呼ぶ前に色々やらないと。

 

「英雄王、今宵の宴に参加させていただき誠にありがとうございます。いつか、飲ませていただいたお酒に迫る物を作れるよう、励みたいと思います」

「ふっ、雑種程度には到底辿り着かぬ領域だろうよ」

 

 ペコリと頭を下げる。一応、こうしておかないと後が怖い。超怖い。でも組み込まれてる神性の中に、酒造関連の神もある以上頑張りたい。

 

「セイバー、私もお酒が入ってて言い過ぎた。ごめんね」

 

 そう言ってから、私もマスターを呼び寄せる。転移魔術は疲れるけど、この状況から逃げるには一番だと思う。アロンダイトのコピーは置いていく。

 

「それじゃあ、色々とお騒がせしました」

「うちのサーヴァントがごめんなさい」

 

 そう形だけ謝って、私達は例の貯水槽に転移した。だけど、うん。今日は流石にマスターの特訓とかはお預けかなぁ。流石に、あんまり気分が良くない。

 帰り際に、窓から銃口が覗いてたのは見なかった事にしようそうしよう。

 




本編の方の続編とか何を書けばいいのか分からなかったけど、イオリの子供の話とかもあり…か?


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幕間の物語

シリアスもどきが続いたからトコトン巫山戯る回。
※本当にお巫山戯です。
※本当に走り抜けるお巫山戯です。
-追記-
Badネキが、まだ居るだとぉっ!?


「うぅ…あぁ…」

「ねえキャスター、起きて」

 

 王の宴が終わった翌日の朝、私は異界の中で唸り毛布に籠っているキャスターを揺すっていた。

 

「オォォォ……オォォォォォォ…」

「キャスター、せめて料理したいから食べ物がある場所教えてよ」

 

 キャスターが何故か動かない以上自分で料理をするしかないのだが、ここは広すぎて何がどこにあるのか全く分からない。だから是が非でも起きてもらうか、教えて貰いたい。

 というかそんなバルバトスみたいな声出してると、素材貯まるまで延々と殴るよ?

 

「無意味なり……無意味なり……」

「……」

 

 仮装宝具を展開、両手にできる限界の強化魔術をかけキャスターをシェイクする。食料のある場所を吐け、吐くんだ。もっとだ、もっと(素材を)吐き出すがいい。

 

「何故、ここまでの力をぉぉ…」

「…ソイヤッ!」

 

 なんだかエセ魔神柱ごっこが楽しくなってきた頃、毛布を剥ぎ取る事に成功した。そうして出てきたキャスターは、顔を真っ青にして何かに必死に耐えてる様だった。

 それは非常に見覚えある表情で、もう無理限界という考えがとても良く見てとれた。

 

「光が、光が途絶えるぅ…」

 

 そう言い残して霊体化したキャスターは、どこからどう見ても二日酔いしているのであった。

 その後の事は、色々と乙女の尊厳に関わるので忘れる事にする。

 

 ・

 ・

 ・

 

「マスターの鬼、悪魔、ちひろ!」

 

 涙目のキャスターが、サーヴァントとしての力を全開でポカポカと殴ってくる。勿論そんなのを受けたら、私なんかは骨折は免れない。つまり今こそ練習した残影拳を披露する時!

 

「イイゾ!イイゾ! 後それはちひろさんによる風評被害!」

「…よし、そんなマスターにはここにあるコンテンダーをプレゼントしよう」

 

 そういうキャスターの手に、どこからか見覚えのある銃が飛んできて収まった。トンプソン・コンテンダー、ここはzero世界だしキャスターなら似た様な魔術を作っててもおかしくない。それなら私が出来ることなんて一切ない。

 

「はい降参! いました降参しました! 白旗、白旗振るから! ほら『我が神はここにありて(リュミノジテ・エテルネッル)』!」

 

 宝具のお陰で何故か使える様になって、日々扱かれてる事もあって何とか使える炎を出す魔術(色はある程度自由)。それで旗の様な物を作り出して左右にバタバタ振る。

 他に使える魔術は、自分にだけ使える強化と治癒魔術。練習中なのは宝石魔術というか、金属というか…とりあえず転換?だったかな。とりあえずそれだけだ。でも詰め込みなのにこれだけ使えるっていうのは、流石キャスターのサーヴァントといったところか。

 

「よろしい、ならば徹底抗戦だ。」

「何でイデオン!?」

 

 そんな私の疑問を無視して、笑みを浮かべたキャスターが銃の引き金を引くのが見える。なるほど、これがキャスターのマスター殺し…そう思って目を瞑った私の耳に聞こえたのは、10万ドルが置かれそうなポンッという軽い音だった。

 

「どう?マスター驚いた? ばんばーん!」

 

 目を開けると、そこに広がっていたのは花束。いつの間にかキャスターもう片方の手にもコンテンダーが握られており、私の視界一面を花束が埋め尽くしている。二丁拳銃、ばんばーん…

 

「ジー…」

 

 ちょっと思い出した事があったので、キャスターの身体の一部を凝視する。うん、かなりまな板だねコレ。

 

「?」

「フッ」

「おいちょっと待てマスター今何を笑った」

 

 全く違う事が分かって鼻で笑った瞬間、真顔のキャスターに肩を掴まれた。痛い痛い痛い、サーヴァントの筋力で握らないで下さい。私壊れちゃいます。でも言いたくなる人間の不思議。

 

「胸だね!」

「なんだ、それならマスターだって同じじゃん」

 

 なんだか安心した様なキャスターの言う通り、私も絶壁で寸胴腹のロリロリしてる体型だ。だけど、キャスターとは決定的に違う点が1つだけある。

 

「でもねキャスター。英霊の貴女と違って、私には成長期があるんだ…」

「呪いました」

「野郎オブクラッシャァァァァッ!」

 

 高校生とかの思春期になってから『胸ロリ』とか『ちっパイprpr』とか言われるのは御免なのだ。

 そんなこんなで、わーわーぎゃーぎゃーキャスターと揉みくちゃになるまで喧嘩している中、ゴホンと咳払いの音が聞こえた。

 

「繁栄はそこまでだ」

 

 そう言うティアさんの手には、一振りの剣(三色ボールペン)があった。そして頭には、何かそれっぽいベール。大王様ですねわかります。

 

「ティアさんも乗るんかい!?」

「冗談。頼まれてた事、全て終わらせた。ギルガメッシュはいないし、もういてもいいよね?」

 

 剣とベールを適当に投げ捨てつつ、ティアさんはそう言った。そういえば、神様らしいからね……しかもヨグ様。なんで私ダイス振ってないんだろう。

 

「うん、ありがとうティア。ギル様の前にティアといると、神は死ねになるからね…もうおっけーだよ!」

 

 そうキャスターは、戻ってきたティアさんにサムズアップする。確かに神様はいない方がギル様の場合は良いよねって、頼まれてた事?

 

「ねえキャスター、頼まれてた事って?」

「あ、マスターには言ってなかったね。マスターの家族が、リューノスケに皆殺しにされた事件の後処理だよ。遺灰とか、マスターがいない事をこじつけしたりとか」

 

 その言葉を聞いた瞬間、ドクンと一際大きく心臓が脈打った。落ち着け私、取り乱しちゃいけない。頭痛もこれくらいなら問題ない、震えはない。だからまだセーフセーフ。

 

「途中、警察がきて焦った」

「それで、結局どうしたの?」

「軽く頭を弄って、増援を要請させた。その隙に工作、無事脱出」

「アッハイ」

 

 さっきまでの不安も何処へやら、私はただの案山子めいたぎこちない返事しかする事が出来なかった。というか頭を弄ったって…

 

「うーん、それじゃあ暫くマスターは出歩かないか、科学と魔術の両面で変装させるしかないかな?」

「それが良い。じゃないと、すぐに保護される。聖杯戦争が終わるまでは、それはマズイ」

 

 2人が私を見てそんな事を話している。そっか、多少気をつけないとダメなのか。捕まったら警察署ごとケリィに爆破される。あんな脅しをかけたから、ますますケリィはテロリストになる。

 

「後、ケイネスが多少回復して、廃工場を拠点にしてた」

「あ、退院したんだ」

 

 そしてどうやら、キャスターの再現宝具を喰らって入院していたケイネス先生(意識不明の重体)が退院してたらしい。

 

「全身包帯で車椅子、炭化か壊死でもしたのか、服の右腕の部分が垂れてた。切断したと思われる。そして、ソラウの腕に令呪を確認。切嗣の餌」

「うわぁ…」

「ケリィが見つけたらセイバーをぶつけるだろうし、黒化まったなしだね!」

 

 私が昨日のセイバーを思い出して呟いた言葉に、とてもいい笑顔でキャスターが返事をした。なにそんな顔で言っちゃってるの元凶さん。セイバーがアホ毛を引き抜くのを幻視したじゃないか。

 

「でも、どうやってそんな情報を知ったんですか? ティアさん」

「使い魔をばら撒いただけ、新都にも深山町にも。よく話を聞いてくれるいい子、ほら」

 

 そう言うティアさんの手には、玉虫色をしたコールタール状の物体が。そしてそこに、ギョロリとした1つの目が浮かび…あ、これあかん奴や。

 

「テケリ・リ」

「きゅぅ…」

 

 そんな声の輪唱が聞こえたと思った瞬間、私はアッサリと意識を手放したのだった。神よ、いつから冬木市は劣化アーカムになってしまったのですか? 召喚したときからですかそうですかこんちくしょー。違う来るな黒い人お前じゃない。

 

 

「うぅ…あぁ…メギドラオン」

 

 ティアが取り出したショゴスを見た瞬間、マスターが気を失って倒れた。唸ってる上に魔法の名前言ってるけど、まあこうなるよね。普通SANチェック入るし。

 

「情けない。案外、可愛いのに」

「ちょっと待とうかティア、それはおかしい」

 

 手に持ったミニショゴスをツンツンしてるティアに、私は思い切りツッコミを入れる。そんな玉虫色の球体に目とか口が付いてるやつのどこが可愛いのさ。

 

「ひどい」

「ひどくない」

「マスターの代わりに、娘の親代わりになった事、忘れた?」

「うぐっ」

 

 そう言われると私は何も言い返せない。確かにティア単体の単独顕現で行ってもらって、お願いして任せてたけど…

 ぐぬぬぬ…と唸る私の前で、ティアがポンと手を叩く。

 

「そういえば、さっきのマスターと大マスターとの喧嘩だけど」

「なにかあるの?」

「マスターって、娘が出来ても胸、無かったはず」

 

 その時、空間が凍りついた。無限大紅蓮地獄とか、私の擬きでも流出したのかと思うくらい、完璧に凍りついた。

 

「おーけーだティア、ショゴスなんて捨ててかかってこい」

「別に、ロイドが気にしてなかったから、いいんじゃない?」

 

 ………

 

「逝けやヴァルハラぁぁぁっ!」

「残念、私が帰るのは、マスターか本体の下のみ」

 

 そんな嬉しい事を言ってくれたのはいいけど、それはそれ、これはこれ。マスターが起きるまでの小1時間、私たちは殴り合ってたのだった。

 




結果
冬木市は暗闇に神話生物の蔓延る超劣化アーカムになりました*\(^o^)/*

元はセイバー・オルタにしようと思っていたけど、書きづらいのでオルタ化という逃げ道を潰されたセイバーさんであった。


次回の半分嘘予告

「これぞ我が至宝! 我が王道! 
王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』なり!」

「いくよマスター! 憎悪の空より来たりて!」

「正しき怒りを胸に!」

「「我等は魔を断つ剣を執る!!」

「「汝ーー無垢なる刃、デモンベイン!」」

「残念、マスター達。来たのは私」\デェェェン/

「「なん…だと」」


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幕間の物語-キャスター

※本編読んだ人じゃないと、中盤の大規模カットの部分が意味不明になります。


「うーん…」

 

 キャスターが作ってくれたサンドイッチ片手に、賑やかな異界で私は唸っていた。

 

「行き当たりばったりなつもりだけど、準備もなしにギル様とかは即死間違いなしだし…」

「海魔がいないから、ストーリーも進まないしね」

 

 バスケットの中に入ってるサンドイッチをパクつきながらキャスターと見るのは、何か蠢いている(ショゴスで造られた)冬木市の地図。そこに今把握している情報を書き込んで、改めて見てみたけど動きにくいったらありゃしない。

 

 セイバー陣営は、何故か現在の居場所は武家屋敷。意気消沈してハイライトの消えた目のセイバーと、それを心配するアイリさんが目撃されたらしい。

 ランサー陣営は、変わらず廃工場。令呪をゲットしてはしゃぐソラウと、苦い顔をしてるランサーが目撃された。

 アーチャー陣営は、正直よく分からない。でも、教会付近にショゴスが近寄った瞬間消し飛ぶらしいから多分居場所は教会。

 ライダー陣営は、多分マッケンジー夫妻の家。こっちも遠距離でもないと監視は出来ないらしく詳細不明。

 そして我等がキャスター陣営は、原作でのキャスターペアが隠れていた貯水槽。未だにどの陣営にも察知されてる気配はない。

 

 なお彼らの報告は、全てティアさんとティアさんのばら撒いた神話生物によるものである。まあそれを簡潔にまとめると、戦局は見事に膠着状態に陥っていた。

 

「キャスターはどうすればいいと思う?」

「ライダー陣営と全力全開でバトr」

「却下。戦いの後ケリィが怖すぎる」

「ぶー」

 

 ブーイングされようが却下は却下です! だってライダーだよ? イスカンダルだよ?

王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』だよ? どう考えても無事に勝てないし、そもそもそれじゃアーチャーとライダーの最終決戦が見れない。

 

「でも、ライダーと戦うって約束みたいなのしたもん」

 

 なんだかんだでうちのキャスターさんは、王の宴の前にライダーと戦う約束をしていた。それを果たさないわけにはいかないし、キャスターの顔には戦いたいと思いきり書いてある。だからまあ、そうしたいのは山々だけど…

 

「けど王の軍勢とマトモにぶつかり合って、キャスターが消耗した時に襲われたら、勝ち目どころか逃走も危ういだろうし…」

 

 せめてランサーとセイバー辺りが戦ってくれればいいのに…と思った時、今の今まで忘れていた事を思い出した。自体に変化がないなら待たないといけない、それで待つ時のネタは1つあった。

 

「ねてキャスター」

「どうかしたのマスター? もしかしていい戦い方が思いついたとか!?」

「ううん。とりあえず思いついた事はあるけど、どうせすぐには動かないからさ…キャスターの話を教えて欲しいな」

 

 目をキラキラと輝かせていたキャスターが、完全に普段の雰囲気に落ち着く。そしてそのまま、頭に?マークを浮かべて聞いてきた。

 

「それってどういうこと?」

「よく考えたら私、全くキャスターの事知らないなって。未来の話とか、英雄譚みたいなお話を聞かせて欲しいなって」

 

 そう言った私に、あぁとキャスターは嘆息して頬を掻いた。偶にはこういう子供っぽいお願いをしてもいいだろう。

 

「なんか自分の話を紹介って、恥ずかしいね。だけどまあ、偶にはこういうのもいっか」

「大マスター、映像もある」

 

 今までどこかを漁っていたティアさんが、もう見た目が完全に未来のビデオカメラを持って帰ってきた。なんで映像なんてあるのさ。

 

「それは出さないでティア。でも、確か歴史書みたいなのなかったっけ?」

「ある。持ってくる?」

「うん、お願い」

 

 それだけ言うとティアさんはどこかへ走って行き、キャスターはその場に女の子座りになる。私もキャスターも、座布団の上だから暫くは座っていられるだろう。

 

「さて、それじゃあちょっと長くなるけど、私の物語を話し始めようか。

 愛する者達を守るために戦い散った、ごくありふれた英雄の話を。

 最後に自分を犠牲にする事でしか守る事のできなかった、最低の母親の物語を」

 

 そう言ったキャスターの目は、ほんの少しの誇らしさと郷愁、愛情。そしてそれらを塗り潰すほどの、圧倒的な慚愧の念に満たされていた。

 

 

「まあそういう訳で私は神を殺して、代償として1ヶ月くらい生死の境を彷徨ったけど無事生還しましたとさ」

「おぉー!」

 

 話が始まってから、途中休憩を挟んで大体1時間半。途中かなりの惚気話も混ざったけれど、それは確かに英霊になるに足る英雄譚だった。

 でも、言うなれば今の話は言わば幼少期の話。言いづらそうにしてるし、多分ここからが本編なのだろう。

 

「まあ、この霊基(からだ)での逸話のメインはここまでだね」

「なん…だと」

 

 予想が思いっきり外れた。確かに今のロリぼでぃな状態だとそうなのかもしれないけど、拍子抜けした。

 なんて思った瞬間、キャスターが先程までより重くなったように見える口を開いた。

 

「さて、それじゃあここからは私が死ぬまでだけど…」

「残念ながら、重要な部分になるまで大幅にカットする。マスターに任せると、惚気話で何時間もかかる」

「あ、うんなんとなくわかる」

 

 さっき終わった話だけでも、無駄に甘い惚気話がガンガン入っていたのだ。新婚の頃なんかになっちゃったら、きっと一日じゃ終わらないだろう。

 私の見立てだと、ロイド君の方は多分最初の頃からキャスターに惚れてたね。キャスターの方は、多分義手を作ってあげた時だと思う。…まだ口の中が甘い気がしてきた。

 

「うっ…確かになりそうだけど、折角だから説明させてよティア。簡単に纏めるから」

「ならやるといい」

 

 ちょっと引いてる私の前で、あっさりとティアさんが引く。そうして、キャスターが苦虫を噛み潰したような顔をして、ゆっくりと語り出した。

 

「それでその後、色々割愛するけどロイドと結婚して、新婚旅行で色んな次元の世界を巡って、なんだかんだ幸せの中にいられたんだ。暫くは」

「暫くはって事は…」

「うん、大問題が起きた」

 

 キャスターが忌々しそうに語る。

 

「娘の◼︎◼︎◼︎を産んでから、大体1週間くらい経ってからだったかな? 例の駄女神様から緊急の連絡が来たんだよね」

「その内容は?」

 

 何かノイズが走って聞こえなかったけど、今はそれより内容が気になった。何か変な気がしたけど、今の私にはそれが一切気にならなかった。

 

「『このままだと地球含めたその世界に隣接する世界全てが、10年弱で滅亡します。まじヤバイ。元凶は今あなたのいる世界に現れます、私達も協力するからヘルプ』」

「うわぁ…」

 

 幸せの絶頂だろう時にそれは酷い。やっぱり神様クソだね。私も転生させてくれた事は感謝しかないけど、何も知らない一般人だったらリューノスケに殺されるだけの人生になってたし。

 

「その1週間後くらいから、3つの大陸の真ん中に気持ちの悪い造形の城が乗った島ができて、そこから出てきた謎生物が全大陸に侵攻してきた感じだね」

「……」

 

 主役の条件が神様の玩具って台詞は知ってたけど、本当に最悪じゃないか。私は口を挟まず、じっと話を聞く。

 

「それで私は子育てしつつ、家を襲ってくる謎生物を夫と一緒に迎撃していったんだよ。ロイドだけに任せてはいられなかったし」

「マスターは、確かあの頃ほぼ寝てなかった」

「でも、それじゃあ最低じゃないんじゃ…」

 

 子供云々は(今生)(前世)も恋に縁のない私には分からないけど、最低っていうほどじゃない気がする。

 

「それはここから。長くなりすぎるから省くけど、色々あって全大陸の種族が団結してその島を攻めていったんだよ。5回くらい」

 

 まあその内4回は負けてるんだけどね、なんて事をあっさりとキャスターは言った。進軍の為の橋を建設してて、キャスターは最後以外は一切戦いに参加しなかったらしい。

 

「こちら側の戦力は、人族・獣人・魔族の精鋭が、相手の兵力とほぼ同等。飛び抜けた実力者が、約500名。これが、最終戦の兵力」

「その500人の内100人は、私が他の次元から連れてきた血気盛んなチート転生者と元勇者が数名だね!」

「……それで、どうなったの?」

 

 唾を飲み込み、私は聞く。ここまで聞いたからには、バッドエンドだろうと最後まで話を聞きたい。

 

「最後にはそれくらいしか残らなかったけど、向こうも消耗してたからね。かなりの犠牲は出しつつ、ちゃんと私達含む七人は玉座に着いたんだ」

「でも、その親玉が化け物だった」

 

 キャスターの逸話を振り返ると、その到達した時の力に達していないのに地形破壊を起こしてた気がするんですがそれは。

 

「こっちからの魔法は際限なく吸収、弓とか銃の遠距離攻撃は矢避けの加護でもあったのか当たらない。異常な回復能力を持ってて、向こうの攻撃で負った数はほぼ回復不能」

「向こうは魔法を使い放題、戦士としても超人級の悪魔だった。大体身長は2m」

「勝ち目、ないじゃんそれ」

 

 キャスターの武器は大鎌、乱戦じゃ実力を完全に発揮出来ないし、サポートに回ってもジリ貧。詰みじゃない?それ。

 

「畸形のない波旬よりはマシ。けど、軽く半分が死ぬか戦闘不能になった」

「残ったのが私、ロイド、ティア。後はタクだけになってから、私もなりふり構わず戦ったんだー」

「もしかして、勝てたの?」

 

 話す雰囲気が軽くなったので、もしかしてと思い聞いてみる。というか(∴)なんかと比べちゃ何もかも格下です。

 

「いや、全滅した」

「相手の必殺技を防いだタクが蒸発して」

「次に私が、封印に動き出したマスターを庇って、蒸発」

「それで、最後に残った私とロイドであいつに剣を突き刺して擬似流出。永遠の停滞の中に取り込んで終わり」

「え、終わり?」

 

 なんだか畳み掛けるように告げられた終わりに、私は置いてけぼりにされた感じがした。え、本当にそれで終わり?

 

「うん、ここからは私の娘の物語になるからねー」

「そして、私達は英霊の座に引き上げられた。そのまま私は、マスターに頼まれ単独顕現。終わりまで、親の代わりをしていた」

「最低の母親って言ってたけど、それって何も悪くないんじゃ…」

 

 重ねて言うけれど、何も悪いとは思えない。確かに戦いに巻き込んだとかはあるかもしれないけど、それは仕方なかったんじゃ…

 

「たった9年」

「へ?」

「私が、母親としてあの娘といられた時間」

 

 いや、私も今9歳で家族が消え去ったんだけど…なんて事を考えたけど、私は純粋に9歳じゃないから例外か。

 

「それに、私は結局封印しきれてなかった。だから母親として最低だなって。だって自分のやり残した事に、一番守りたかった自分の娘を巻き込んじゃったんだもん」

 

 沈黙が広がった。私はなんて声をかければいいのか分からないし、キャスターも新たに何かを語ろうとはしない。ティアさんもじっと口を噤んでいる。

 

「さて、暗い話はここまで! ここからは作戦考えようよ、マスター!」

「え、あ、そうだね。うん」

 

 キャスターがそう言ってくれたお陰で、金縛りにでもあったかの如く動けなかった私は解放された。

 自分から聞いておいてなんだけど、逸話は逸話。今にはそこまで関係がないもんね。今を生き残る為に、私もどうにかしなくちゃいけない。

 

「でもキャスター。私はキャスターのやった事、間違ってなかったと思うよ」

「そっか。少しでもそう思ってくれたなら、よかったよ」

 

 そう言ったキャスターの顔は、悲しんでるような嬉しがってるような、なんて言えば良いのか分からない顔をしていた。

 




書くか分からない続編の設定を出して自分を追い詰めるスタイル。

-追記-
すまない…◼︎◼︎◼︎はまだ名前が決めてないだけですまない…


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王の覇道、人の覇道

お月見なのに、団子じゃなく金林檎を齧り走り回るマスターとはこれ如何に。そしてロマンの登場に泣きそう。



「大マスター、セイバーが動いた」

 

 セイバーの生前の話を聞いた翌日の(多分)朝、フローちゃんとキャスターの魔術に追い回される私にそんな声が届いた。

 

「え? 何!?」

 

 だけど今の私にそんな声を理解する余裕なんてありはしない。

 今の気を逸らした時間で近づいてきたフローちゃんを展開した仮装宝具のヒラヒラとした腕の部分で闘牛士の様に回避し、反対の手で炎の壁を即興で作り出す。そのまま身体は回転に任せ、後続の魔術に備えて自分も魔術を組み立てる。選択したのは単なる爆発を起こすだけの物、どうせマトモにやり合うなんて出来ないから回避を選び…

 

「わぷっ、けほっけほっ」

 

 当たり前の様に失敗した。炎壁を抜けてきた水球が私に直撃し、仮装宝具の下に着ていた服がびちゃびちゃに濡れてしまった。

 これが非日常に生きる私の日常、正直な事を言うともう辞めたい。でもやらなきゃ軽く死ぬから特訓する。やっぱり生きるのはままならないものである。

 

「ねえティア、セイバーが動いたって本当!?」

「本当。アイリスフィールを連れて、車で廃工場に移動中」

 

 水が滴る頭を魔術で乾燥させつつ、今聞こえた話をどうにか理解する。という事はまたも本編はカット。ここからはバンバン人が死んでいく展開になる。そういうのは、ちょっとヤだな。

 

「ねえキャスター、あなたはライダーとセイバーのどっちと戦いたい?」

「そりゃあもちろんライダー!」

 

 満面の笑みを浮かべてキャスターは言った。その顔と昨日のキャスターとが重なり、それを私は振り払う。何をどう感じても良いけど、それに囚われちゃいけない。踏みとどまったら、私が死ぬ事になるのだ。

 

「それじゃあ、ケリィの目がソラウに向いてる内に戦いに行こっか。ある意味初の原作介入、加減なしの全力でいくよ!」

 

 私も覚悟を決めないといけない、いつまでも静観を決め込んでいるわけにはいかないのだ。キャスターがここまで残ってる事はイレギュラー、いつ運命(Fate)が殺しにきたって不思議じゃないのだから。

 

「了解だよマスター! 一丁ド派手に行きますか!」

「マスター、私も出ていい?」

「勿論! 2人で『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』を引きずりだしてやろうよ!」

「「おー!」」

 

 あの…盛り上がってる所悪いけど、ライダー倒しちゃったらダメだからね? 多分エルメロイⅡ世が生まれなくて、剪定事象?とか言うのに分岐しちゃうかもだからね?

 

 

「この道を真っ直ぐ進んで、左手に見える筈の廃工場。そこが、ランサーたちの拠点らしいわ」

 

 助手席のアイリスフィールに指示されるがまま、目に虚無を湛えたセイバーがメルセデス300SLを運転していく。セイバーからの返事はない。このどこか壊れてしまったような様は、あの王の宴の後から続いているものだった。

 

「ねえセイバー、あなた本当に大丈夫なの? あの宴が終わってからずっとそうだけど…私は心配だわ」

「えぇ、問題ありません、アイリスフィール。私はこれでもブリテンの王、あの程度の事で屈したりはしませんとも」

 

 そうセイバーは、傍の黒い長剣を触り答える。それはキャスターが置いていった『無毀なる湖光(アロンダイト)』の模造品。規格外のランクの道具作成スキルを使って製造されたそれは最早宝具に片足を突っ込んでいるのだが、今は武装としてではなく専らセイバーの精神安定の為に使用されていた。

 

「アイリスフィール、貴女こそ大丈夫なのですか? やはり、あの土蔵の中で休んでいる方が良かったのでは…?」

「大丈夫よ。この不調は、私の構造的欠陥とでもいうべきものだから。貴女さえ隣にいれば大丈夫だけど、本当に駄目になったら、お願いするわね?」

 

 そう言うアイリスフィールの顔色は蒼褪め、しきりに額の汗を拭う様はどう見ても普通ではない。だがセイバーの精神もギリギリのラインで安定している現状、それ以上の追求は無かった。

 

「あ、見て。あの建物。多分あれが問題の廃墟よ」

 

 それから双方無言のまま進むこと数分、開発の波に取り残された廃墟に車は到着した。一般人から見ればただそれだけの場所であるが、微かに残る魔術結界の跡からここが拠点として使用されていた事が見て取れた。

 開け放たれた門から敷地の中へと乗り入れ、セイバーは車のエンジンを停止させる。既に疲れ切った様子のアイリスフィールを車の中に待機させ、セイバーが運転席から降りると同時、この場所に居を構えていた槍兵が忽然と姿を現していた。

 

「よくぞこの場所を見破ったな。セイバー」

 

 一昨日開かれた『王の宴』に不参加だったランサーは、多少の疲労は窺えるものの万全と言って差し支えない状態であった。それ故であろうか、瞬時にセイバーの異常をランサーは察知していた。

 

「それにしても、どうしたセイバー。今のお前からは、覇気のはの字も感じ取れんぞ? よもやそんな状態で俺と競い合おうと言うのではあるまいな?」

「やはり貴方には見抜かれてしまうか。だがすまない、そのつもりで私は来ている」

 

 虚無を湛えた目でランサーを見つめるセイバーの全身に魔力が纏わりつき、纏う雰囲気とは正反対に輝く甲冑を形成する。

 

「ここ暫くは、誰も彼もが穴熊を決め込んで動こうとしていない。たが、私の直感が囁くのだ。この先に、我ら2人が心置きなく雌雄を決する好機はありはしないと」

 

 ランサーには知る由もないが、セイバーの直感スキルのランクはA。未来予知にも匹敵するそのスキルは、これから起こる未来の事を確かに言い当てていた。

 

「頼むランサー。この胸の内に涼風を呼び込んでくれるのは、今はもう、貴方の曇りなき闘志のみだ」

「多少腑に落ちないところはあるが…いいだろうセイバー」

 

 そう言い切りランサーは、己が宝具たる

破魔の紅薔薇(ゲイ・ジャルグ)』と『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』をまるで翼を広げるかのように大きく掲げる。セイバーもまた腰に佩いた黒い長剣はそのままに『風王結界(インヴィジブル・エア)』に包まれた宝剣を構える。

 

「いざ尋常にーー」

「勝負!」

 

 そして、夜の倉庫街から預けられたままだった両雄の激突が、ここに果たされた。

 

 

「ちょっと待てよライダー! いきなり進路を変更して、どこに行くつもりなんだ!」

 

 雷鳴を轟かせつつ空を駆ける戦車の上で、ウェイバーはライダーに食ってかかっていた。うん、そりゃ怒るよね。私のマスターみたいに、なんでもなんでも許してくれるマスターの方が珍しいのだ。

 

「いやなに、どうやらセイバーとランサーがやり合い始めた様だからな。見に行かなきゃ損であろう」

「お前はまたそんな理由でーー」

 

「調整開始、通常モードから特化モードへ。キラー設定。対神性及び対獣性、対神秘を上限。過剰能力の為、対竜及び対悪魔を下限に設定」

 

 大鎌の設定を変更して、話すライダー組2人より更に高高度から大鎌を振り上げ急降下し、気合を込めて戦車を引く神牛に振り下ろす。

 

「ワッショイ!!」

 

 表示こそされていないけれど私は神殺しの英霊で、さっきの調整の通り大鎌(武器)にもその効果は宿っている。更に不意打ちという事もあり…結界、私の相棒はあっさりと神牛の首を断ち切った。

 

「おおう!?」

「うわぁぁぁぁっ!!」

 

 神牛が片方居なくなった程度では制御に問題は無いらしく、ライダーは巧みに神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)を新都郊外にある廃墟に降下させて行く。その間響いていたウェイバーくんの悲鳴は、うん。マジヒロイン。

 そして無事に着地したのを見計らって、私もライダー組の近場に着陸する。アイサツ前のアンブッシュは一回まで。それ以上は、スゴイ=シツレイ。なんちゃって。

 

「さあライダー、約束を果たしに来たよ。邪魔は入らないだろうし、存分に殺り合おっか!」

「警告。ライダーのマスター、死にたくなかったら、離れるかライダーに守ってもらうといい。私達は、直接貴方を狙わない」

 

 まだ誰にも知られていなかった、私というサーヴァントの全力戦闘態勢。私とティアはライダーの前に、その状態で降り立った。

 












ケリィ「実はスタンバってます」


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王の覇道、人の覇道 そのに

最後は決まってるのに、書き進められないもどかしさ。過程を全く決めてないからなぁ…


「さあライダー、約束を果たしに来たよ。邪魔は入らないだろうし、存分に殺り合おっか!」

「警告。ライダーのマスター、死にたくなかったら、離れるかライダーに守ってもらうといい。私達は、直接貴方を狙わない」

 

 突然現れ攻撃を仕掛けて来たキャスター()にウェイバーは動揺を隠せないでいた。それは走行中のライダーの宝具を一撃で破壊した事もあるが、棺桶を背負うキャスターの隣に立つ、長杖を持った虹髪の幼女が原因だった。

 

「クラスの無いサーヴァント、だって?」

「今日は本気だからね。それに、宴が終わったら存分に殺り合うって約束したじゃん!」

 

 子供が約束をすっぽかされた時の様にぷんぷんと怒るキャスターだが、その手の死神が持つ様な大鎌とキャスター自身から発せられる異常な密度の魔力によって印象は台無しである。

 

「ああもう! 戦ってやるから少し待て!」

「え、本当に? イェーイ!」

 

 幼女と言える年齢の2人がハイタッチしている光景は微笑ましいのだが、一旦その事は追い出しウェイバーはライダーに問いかける。

 

「ライダー、宝具の様子は?」

「残念ながら『神威の車輪(ゴルディアス・ホイール)』はここで打ち止めになるのぅ。あの大鎌に斬られた所から、連鎖的に崩壊が始まっておる」

 

 嘘だろと言い返したいところであるが、現在進行形で魔力に解けていく現物を見せられてしまっては何の反論もできない。外れクラスと言われるキャスターであるが、目の前のサーヴァントはやはり色々と規格外の様だ。

 

「勝算はあるか? ライダー」

「分からん。他の奴らと違い、キャスターに関しては情報があまりにも足りんわ。だがまあ、そうさなぁ…」

 

 ニヤリと笑って、征服王は言い切った。

 

「余のもう一つの宝具であれば、十分に、ある」

 

 

「あ、やっと準備終わった?」

 

 ウェイバー君に待ってと言われたから待つ事数分、ようやくライダーが前に出てきた。そろそろ待ちくたびれでこっちから仕掛ける所だった。

 

「キャスターよ、お主も宴会にて王を語っておったよな?」

「うん、私が知ってる王様の例を出しただけだけどね」

 

 私がそう返答する直前、一陣の旋風が吹き込んだ。

 それは、こんな夜の廃墟ではあり得ないはずの焼けつくような風だった。

 この現象を私は知っている。元々知っているイスカンダルの宝具ってだけじゃなく、私の夫の宝具も固有結界。だから何よりも親しんだ宝具であり、何よりもその強さを知っている宝具。

 だからこそ、今からそれに挑むという事に心が踊る。

 

「ならば問おう。王とは孤高なるや否や?」

「いいや、例外はいるにしろ王は孤高じゃない!」

「民や臣に慕われてこそ、王」

 

 勢いを増して逆巻く熱風の中、マントを翻し立つライダーに即答する。ティアってそういえば副王だったよね…正直アザトースには関わり合いたくないけど。

 

「フハハハ! どうやらセイバーよりは話が分かるではないかキャスターよ。ならばしかとその目に焼き付けるが良い、真の王たる者の姿を!」

 

 吹き寄せる熱風が、ついに現実を侵食し、覆す。

 照りつける灼熱の太陽。晴れ渡る蒼穹の彼方、吹き荒れる砂塵に霞む地平線まで、視野を遮るものは何もない。

 

「固有結界、だって?」

『カッコイイ…』

 

 ありふれた廃墟から一瞬で変転したここには、今は私達とライダー達の4人(+門の中に1人)しかいない。だけどここからが本番。ウェイバーくんの驚愕も、マスターの感嘆も一切気にならない。さあ、来るぞ無双の軍勢が。征服王の朋友が!

 

「ここはかつて、我が軍勢が駆け抜けた大地。余と苦楽を共にした勇者達が、等しく心に焼き付けた景色」

 

 足音が聞こえた。一つじゃなく、二つ、四つと倍々に音は数を増しながら隊伍を組んでいく。実際に目のあたりにすると、エクストラクラスって言われても間違いない宝具だね、これ。私の宝具と比べて、死ぬほどかっこいい。

 

「この世界、この景観をカタチにできるのは、これが我ら全員の心象であるがゆえに」

 

 軍神がいる。神がいる。英雄がいる。王様がいて、その誰もが掛け値無しの大英雄。両腕でその軍勢を振り示す征服王は、まさに真の王だった。

 

「彼らとの絆こそ我が至宝! 我が王道! イスカンダルたる余が誇る最強宝具ーー『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』なり!」

「納得した。大マスターが、惚れたと言ってた訳が」

『でしょでしょ! やっぱり、すごーくカッコイイよね! ね!』

 

 人の頭の中で会話しないでほしい。私は征服王の演説を聞いてるんだから。ほら現に我慢しようと思っていたのに、どうにも口の端が釣り上がり笑顔になってしまう。

 

「さて、では始めるかキャスターよ」

「そうだねライダー。だけど私は、一方的な蹂躙なんて受けないよ?」

「同意。たかが2対数万。あの戦いよりは、マシ」

 

 ティアと顔を見合わせ、改めて戦闘態勢をとる。魔力は十二分。ここからじゃブケファラスに乗ったライダーと目を合わせられないので、2人して中に浮かぶ。

 最後の戦いは別だけど、どうあっても強敵と戦うのはニヤニヤが止まらない。ライダーは別の意味でニヤついてるのか分からないけど、そんな事より戦だ戦!

 

「蹂躙せよ!」

「やるよティア!!」

「合点承知」

 

 征服王がキュプリオトの剣を振り下ろし、私達を蹂躙すべく突撃してくる。目には目を歯には歯を…ではないけど、覇道には覇道だ。

 私はまっすぐに持った大鎌をギュッと握りしめ、最初の一句を詠む。

 

 

Wenn Sie eine Ansiedlung fordern,(あなたが和解を求めるのならば) werde ich sie erhalten(私はそれを受け入れよう)

 

Weil ich dieses(私はまだ)Schwert noch nicht gezogen habe(この剣を抜いてはいないのだから)

 

 

 私を中心に無色透明の波紋が広がり、ほんの僅かに世界が停滞する。このままじゃあと十数秒後にライダーの軍勢が私達を蹂躙するだろう。でも、私の『創造』を舐めてもらったら困る。

 

 

Dieses Schwert, das mit dem(魔の血で) gefährlichen Blut geschmiedet wurde(鍛えられしこの剣は)

 

Ich steuere etwas zu Tode auf alle Fälle einmal,(ひとたび抜けば必ず) wenn ich Sie entkomme(何かを死に追いやる)

 

Deshalb ohne Bitte mein Imstandesein,(だからお願い) ein Schwert auszulassen(私に剣を抜かせないで)

 

 

 あと数秒でライダーが私に届く。その時になって、漸く詠唱が完了した。この身体だった時より遥かに強度の増した覇道創造、座の本体じゃないからかなり弱体化はするけど受けるがいい。

 

創造(Briahーー) 幻想世界・戦乱の剣(Svartalfheimr Dainsleif)

 

 詠唱が終わった瞬間、目に見えて世界が停滞する。砂埃や熱風がコマ送りの様な速さとなり、ライダーに付き従う軍勢の6割程も同様に極めて停止に近い停滞に陥った。

 巻き込まれていないか効き目が薄いのは、軍略スキルでも働いているのか征服王本人と、対魔力が高そうな親衛隊(ヘタイロイ)。流石チートだね。

 

「ティア、サポート任せた!」

「はいはい」

 

 引き続き響き轟く鬨の声の中、私は移動や防御を全てティアに任せて呪文を唱える。流石に世界一個を巻き込む『創造』を使いながら他にあれもこれもと並行して作業するのは、生前なら兎も角サーヴァントになった今ではスペック不足だ。魔力があっても、こればかりはどうしようもない。

 だからこそ役割を分担する。魂まで同化してる、長年連れ添った相棒だからなんの心配もせずに全てを任せられる。連れ添ったとは言ってもティアとはキマシタワーもカ・ディンギルも立たない健全な関係なのであしからず。

 

最果ての地に住む熾凍の古龍よ 汝が息吹 今ここに再臨せん!

 

 ティアの魔ほ…魔術で移動させてもらいつつ、飛んでくる槍を防いでもらう私の目の前に、5つの魔法陣が形成され輝き始める。スペック不足なせいでこんな詠唱をしないといけないのは恥ずかしいけど、今は気分がノッてるから無視無視。

 

「轟け『熾凍の咆哮(ディス・フィ・ロア)』!!」

 

 目の前に浮かぶ魔法陣が収束し、そこから私1人分程度の紫色をした光線が軍勢の中に放たれた。それが中空で7つに枝分かれし、低出力なせいで狭い範囲内で炎と氷の竜巻を発生させた。

 

「改めて始めよっかぁ! 2対万での大戦争を!! アハ、はハハ、あははハははッ!!」

 

 我慢の限界で狂ったように笑う私の前で、竜巻の範囲内に巨大な氷柱が発生、それを落下してきた一発の隕石が砕き貫き炎の地獄を作り出した。まあ親衛隊(ヘタイロイ)の1割2割程度は削れただろう。

 

『…ティアさん、なにこのキャスター』

「お薬もとい、IKUSAガンギマリ状態。偶に、鍛冶しててもこうなる。狂化スキルを持つ所以(ゆえん)。気にしたら負け」

『アッハイ』

 

 ウェイバーちゃんからも征服王からも、挙げ句の果てにはマスターとか親衛隊(ヘタイロイ)の人たちからも変な目で見られてると、ティアから情報が入る。

 あ、そうなんだ。で? それが何か問題? 




相手の固有結界で書き換えられた世界を、書き換えられた後の原型を完全に残しつつ自分の宝具で別の世界法則に塗り潰すキチった行動。そしてガバガバなドイツ語…だったかな?読めません。

でもサーヴァントだからかなり弱体化してる模様。


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王の覇道、人の覇道 そのさん

サーヴァントのマテリアル、活動報告あたりに纏めました

-追記-
相変わらずいるBadアンチネキ…


 狂ったようにケタケタ笑い、キャスターが大鎌を振り回して魔術を乱れ撃つ。その後ろを妙に現代風な格好のティアさんが、同じく魔術を使いながら追従する。

 

『あははは、楽しい楽しい! 私は今、生きている! 死んでるんだけどね!』

『はぁ…これだからマスターは』

「なぁにこれぇ?」

 

 映像越しに見るキャスター達の戦いに、私はそんな声を漏らす事しか出来なかった。

 開始直後の宝具と大魔法を使ってた時の様な派手さはなりを潜めて、だけど逆にキチ度が秒単位で上がっている。ブケファラスに乗ってるライダー本人はやりにくいからか、ただ単に遠いからか避けてるみたいだけど、そのほかの親衛隊(ヘタイロイ)と相対する時は、我慢ならないって感じで軍勢の中に飛び込み大鎌で斬って斬って斬って斬って斬って斬って斬りまくっている。

 

『開け銀の門、全砲門開錠! 吹き飛ばせ

もう1つの世界(アナザーワールド)』!!』

『宝具開放。いあ、アトラク=ナチャ。蹴散らせ、ショゴス、狩人』

 

 並み居る英霊の攻撃を避け、掻い潜り、槍を両断し、キャスターが反撃として自身の大鎌で首を刈り取る。その間にも、背負う棺桶に展開した門から顔を覗かせる銃剣やら重機関銃やらパンツァーファウストやらが、一切の容赦なく周り全てを吹き飛ばしていく。神秘の込められたその現代兵器群は、1つ1つがサーヴァントであろうが一撃で重傷に十分な破壊力を持っていた。

 そんな鉄の暴虐を生き残った親衛隊(ヘタイロイ)は、ティアさんの呼び出した神話生物が残さず追い討ちを掛けていく。

 どこからともなく現れた巨大な蜘蛛の巣が兵士たちを絡め取り、どこからか染み出した玉虫色の何かが奇怪な声を上げながら這いずりまわり拘束し、動きの止まった者から門から発進した羽の生えた黒い大蛇の様なモノが食い散らかしていく。

 

 どう足掻いても余裕のSAN値チェックですねわかります。というかさっきからダイスを振って見てるけど、2分くらいでSAN値が0になった。酷い。

 

『アハハハ!! いーいじゃん! 盛り上がって来たねぇ!』

『あ、マズイ』

 

 キャスターの背後を守りながら戦っていたティアさんが、キャスターの狂気の混じった声が聞こえた瞬間急激に距離を取った。その理由が私には分からなかったけど、数秒後に否が応でも理解させられてしまった。

 

 ーー不明なユニットが接続されましたーー

 ーー霊基(システム)に深刻な異常が発生していますーー

 ーー直ちに使用を停止してくださいーー

 

「うそん」

 

 今私のいる異界の中に響いたノイズ混じりの音声は、正直聞き間違いであって欲しかったものだった。それは全てを焼き尽くす暴力の起動した合図、OW(オーバードウェポン)とかいう紅茶ガンギマリのイギリスが開発したパンジャンドラム並みにぶっ飛んだ兵器が使用された事に他ならなかった。

 

『ヒャッハー!! ファンタスティーック!』

 

 キャスターの背負う棺桶の周りを覆う様に展開された、2つの13×5列のパルスキャノンユニット。つまり合計130門の砲門から一斉に光が射出された。

 威力? あぁ、キャスターを中心に一定範囲が綺麗に消し飛んだよ? まだ『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』は解除される気配はないけど。

 

『んん? 壊れた? まあいいか! そぉれ『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』!!』

 

 キャスターが自らの背負う7つの棺桶の内、一つを遠く離れた敵陣へと投擲した。そして巻き起こる大爆発。もう全部キャスター1人でいいんじゃないかな? いやこれは喋っちゃいけない。いったら最後、艦載機も飛ばし始めてキャスターがレ級になる未来が感じ取れた。

 

「うわぁ…何この時代を先取りした兵器祭り」

 

 そう呆れる私の前で、反動でか分からないけれど動きの止まっていたキャスターへ親衛隊(ヘタイロイ)の1人が近づき…

 

『いあ、くとぅるふ』

 

 地面に滲み出た大量の水の中から出現した、ヌラヌラした鱗に覆われた巨大な鉤爪のついた腕が貫いた。神話生物というか旧支配者を呼び出せるのはティアさん以外この場にはいない。なんというか、凄い連携だと思いマスヨ。

 

『マスター、聞っこえるー?』

「え、うん。どうかしたの? キャスター」

 

 唐突に素面に戻ったキャスターが、大鎌を振り回しながら私に話しかけてきた。何か問題でもあったのだろうか?

 

『とりあえず、前渡したお札は持ってるよね?』

「うん、いつ何があるか分からないからね!」

 

 私の無理矢理覚えさせられた物を仕舞っておける空間を作り出す魔術。それで生み出した空間の中に、私は色々なものを仕舞ってある。愛用のスリッパとかヌイグルミだったり、前世の知識ノートだったり、今キャスターの言ってた呪符だったり。でもそれがどうか……あ、なんだろう私の直感が逃げろって言い始めた。

 

『そっか、ならマスターも混ざろっか! 仲間ハズレは良くないしね!』

「キャスター、ちょっまっ、何をする気!?」

『いやいやぁ、ちょっとお手伝いをねぇ!!?』

 

 急いでこの場所を離れようと立ったけど、時既に遅し。足元に開いた門から私は、戦場の真っ只中に放り出された。

 

 …はい?

 

 

 場所は変わり新都郊外の廃工場。時を同じくして、こちらでも激戦が繰り広げられていた。

 セイバー原作と違い左手を取り戻していないというのにその状況は拮抗していた。がしかし、その内容は初戦の再現には程遠く、より苛烈な力と力のぶつかり合いの様相を呈していた。

 

「どうしたランサー、攻め手が甘いぞ!」

 

 幾ばくか生気の戻り始めたセイバーが、片手には重すぎる筈の長剣を振るう。普通であれば軽く鈍くなる筈の剣戟であるが、今のセイバーが振るう剣には両の手で扱う時と同様かそれ以上の力が込められていた。

 

「見破ったぞセイバー。その膂力の源はその黒い長剣だな!」

「そうだ、置いていった相手こそ癪に触るが、我が友の剣が今の私に力を与えてくれている!」

 

 ランサーの推察通り、キャスターが置いていった『無毀なる湖光(アロンダイト)』が効果を発揮しているお陰でセイバーはランサーと打ち合う事が出来ていた。本来の通り全てのパラメーターが1ランク上昇にまでは届かずとも、魔力放出無しで片腕の不利を補う事は出来ていた。

 宝剣と魔槍が鎬を削り百花繚乱の火花を散らし、ただの踏み込みや空振りが廃工場を荒廃させていく。一合、二合、四合、八合…最早肉眼では捉えきれぬ程剣戟を交わし、両者は距離を開け互いの間合いから離脱する。

 

「やはり貴方との手合わせは心が踊る。此度の聖杯戦争に呼ばれてから、これ程心が晴れやかなのは初めてだ」

「かの騎士王にそう言われるとは、どうやら俺の槍はまだまだ捨てたものではないらしい」

 

 そう言うランサーの言葉にセイバーの顔が少し歪む。ランサーとしては、キャスターの不意打ちにより使えるべき主を守れず、瀕死の重傷を負わせてしまった事への自嘲であったが、セイバーにとっては不快な事であるようだった。

 

「ランサー、何もそう自分を卑下する事はないだろう。貴方の槍の冴えは素晴らしいものだ」

「いいや、俺は既にマスターを刃に晒してしまった。幾ら不意打ちだったとは言え、これは看過出来ない失態だ」

「ここでも、キャスターが関わるのか…」

 

 セイバーは虚空を見つめそう呟く。あり得ないほどの矮躯に煌めく銀の長髪。ただの女の子のような死神のような、どうにも掴み所のない…簡単に言えば訳のわからないサーヴァント。

 そんなキャスターが色々な状況を引っ掻き回している事を思い出し、そのような些事を頭から追い出しセイバーは剣を構え直す。

 

「さあ、お喋りはここまでだ。構えろランサー」

「ふっ、それもそうだな。元より我らに会話など必要あるまい」

 

 双方とも己が宝具を構えなおし、互いに微笑を浮かべる。そして、あと数秒で剣と槍が再び舞い踊る寸前、パンパンパンパンと計4回のくぐもった破裂音…即ち銃声が夜の空気を震わせた。

 

「ケイネス殿! ソラウ殿!」

 

 次に響いたのはランサーの叫び。焦燥の顔で背後の朽ち果てた工場を見た事から察するに……たった今、余りにもあっけなくランサーのマスターの命は散らされ、時計塔の天才魔術師とその許嫁は帰らぬ人となったようだった。

 






ケリィ「やったぜ」


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王の覇道、人の覇道 そのし

あートリニティ買いたい…PCない…
あ、活動報告の方にサーヴァントのステータスは纏めておきました。


 理解不能意味不明、訳がわからないどうしてこうなった。

 それが安全地帯(キャスターの異界)から放り出されて、最早条件反射的に仮装宝具を展開した私の頭を占める全てだった。

 

「何するのさキャスター!!」

「アッハハハ、なにぃ? 聞こえなーい!」

 

 少しは小さくなったけれど鳴り止まない鬨の声の中、私という小さな子どもが張り上げた声は掻き消されてしまったようだった。意図的に無視してたんだとしても、そういう事にしておいてあげる。

 

「ああもう! ひっ」

 

 軽くキャスターにキレていた私に向かって、親衛隊(ヘタイロイ)の1人が向かってきていた。多分私が仮装宝具なんで物を纏っているせいだろう、今私は確実に敵と認識されている。

 嫌だ嫌だ怖い怖い怖い。キャスターもティアさんも訓練の時は私に全力の殺気を向けてくるけど、今迫ってきている()はレベルが違う。身体は私の倍はあるし顔は怖いし殺気だって本物だ。

 リューノスケの時はどうしたって?あれは事前に起きる事を知ってたし、殺気は向けられなかったからどうにか平常心だったの!

 だけど今は予想を外れた唐突な実戦。怪我が怖い、治らないかもしれない、助けなんて間に合わない、嫌だ、私はまだ死にたくない。

 

「神火清明、急々如律令ーー唵!」

 

 自分の中で何かがカチリと嵌り、動揺する私の内心とは別に身体が勝手に動いた。魔術で作り出した空間の中に手を突っ込み、呪符を片手に10枚程度ずつ挟み取り出しそのまま魔術を併用し投擲、その全てが1人に殺到し過剰な火力で爆殺した。

 

「はぁ…はぁ…」

 

 キャスターの異世界式教育のおかげでどうにか身体は動いてくれた。次からもこう動いてくれるとは思うけど、慢心はいけない。

 それに英霊だけど、今私は人を1人花火にしてしまっている。その事を受け止めると、流石に手足が震えてくる。だけどそう考える頭の中で別に、敵陣のど真ん中でこれはマズイと冷静に考えてる私もいる。私、どうすればいいの…?

 

「大マスター、やるじゃん」

 

 混乱してスイッチが切れたように動きを止めていた私に、そんな声がかけられた。そしてそのまま、軽く抱きしめられ頭を撫でられる。花の香りが私を包み、なんだかすごく安心する。薔薇の匂い…かな?

 

「ティア、さん?」

「まあ、今回はマスターが悪い。けど、貴方にも実戦経験が必要だった。許して」

 

 とりあえず震えが落ち着いてきた。確かにこんなんじゃ、いつかいざって時に私は動けなくなって死んでただろう。視界の端に映る神話生物さえいなければ、すごく安心でした。キャスターと違ってティアさんは凄く良い人かもしれない。

 

「落ち着いた?」

「うん、まあ、なんとか」

「それじゃあ、続けられる?」

 

 そう思った私がバカだった。ティアさんも、私に平然と戦闘の続行を要求してきた。でもまあ、問答無用で放り出して放置するキャスターよりは確実に優しいのは確かだ。

 気合を入れよう。気を引き締めよう。今ここは私が成長できるかもしれない数少ない場になっているのだから。

 

「うん。頑張る」

「護衛は付けておく。存分に腕を磨くといい。幸い、ここなら相手には事欠かない」

 

 私の視界外に、何かが現れたのを感じる。テケリ・リなんて声は知らぬ知らぬ聞こえぬ見えん。

 全身に魔力を巡らし、宝具への魔力供給を強化する。そのお陰で燃え上がる雷炎に更に白くなってきた髪が靡き、今度こそ自分の意思で攻撃の為に呪符を掴み取る。

 

「神火清明、唵!」

 

 またも迫って来ていた数名の敵に、炎の尾を引く呪符が襲いかかる。そして私の命じに従い、大輪の炎の花が咲き乱れた。

 さっきと違い一体に大量の呪符を使っている訳ではないので倒せはしないが、爆発時の衝撃だけは十二分な効果を発揮してくれる。有効打にはなり得なかったけど、吹き荒れる焔の烈風が迫っていた数名を吹き飛ばした。

 

「火神招来!」

 

 そして私は追撃として呪符を数十枚展開し、手元にそのまま留まらせる。そして頭の中にクトゥグアがコンニチハ-してるイメージで呪符に魔力を流し込み、私の身の丈を大きく超えた大剣状になった焔を形成。それを持って私は、敵を射程圏内に収める為に距離を詰める。

 

「我が剣は緋炎! フランブレイブ!」

 

 何故か重いこの大剣状の焔を、回転しながら遠心力に任せて振り切る。そして一切の抵抗なく剣は振り抜かれ、大爆発を引き起こした。ただ記憶にある技を再現しただけだけど、火力的には十分だったらしい。

 

「ふぅ…よし! 力尽きるまでやってやらぁ!」

 

 幸い呪符の在庫はまだまだある。キャスターが勝つにしろ負けるにしろ、運が良ければ戦いの終わりまで生き残っていられると思う。

 そう思って私は、強化魔術を全身に限界まで掛けながら軍勢から逃げ出した。うん、逃げ出した。戦うとは言ったけど、さっきみたいなギリギリのまぐれはもうやりたくないんだもん!!

 

 

「ひゅー、マスターも中々やるぅ!」

 

 そんな事を言いながら、あえて通常モードに戻した大鎌で私はライダーに斬りかかる。空中からの斬撃をさも当たり前のように逸らされたのは不満だけど、そもそも武器を壊すのは気が引けるからね仕方ない。

 まあそんな事は置いておいて、放り出したマスターも中々上手くやってるみたいだね。魔力の吸われ具合とチラッと見えた炎から察するに、とりあえず親衛隊(ヘタイロイ)の人達とはやりあえてるみたいだし心配は要らないかな。

 

「うちのマスター、どう思う征服王?」

「あやつ、本当に人間か? 生身で余の精鋭らと敵対しておきながら、生き残るどころか返り討ちにしておるとか、そうでもなければ信じられないのだが」

「人間だけど、私の弟子だからね!」

 

 そんな事を言いつつ、至近距離で取り出したショットガンを放つが、湧き出た雷で全部防がれてしまって効果が無かった。雷の征服者かな?残念。

 あと今更だけど、マスターが私にとって初めての弟子だったりする。愛する我が子…アヤメにはずっとお母さんとして接してたから弟子じゃないし…うん、一番弟子になるのか。ふふ、そっか。一番弟子だし愛弟子かぁ…

 

「ソイヤッ!」

「ぬぅっ!」

 

 少しにやけていた私に突進してきたブケファラスを受け流し、そのまま回転しつつ大鎌を振り抜く。予想はしていたけど、クラス補正と相性もあってかダメージは通らず、簡単に弾かれてしまった。

 つまんなくなるからキラーを乗せてないとは言え、ちょっとこれはヤバイかも…

 

「どうしようライダー、私マスターに託せる奥義とかないんだけど!?」

「いや、英霊の奥義なんて物、現代の人間が使える様になるとは思えんのだが…」

「あれを見てもそう言える?」

 

 私は一旦ライダーから距離を取って、先程からチラチラ見えていたマスターを大鎌で指し示す。いやぁ、マスターがここまではっちゃけるとは思ってなかった。嬉しいけどね。

 

「いやぁぁぁ! 炎よ、舞い踊れ、踊れ、踊れ!」

 

 下級の英霊に迫る程の速さで地表を駆けるマスターが、振り向きざまに巨大な炎の龍を迫る親衛隊(ヘタイロイ)に放つ。しかしそれらは盾で受け止められ、十分な効果を発揮できていない。

 

「ああもうやだぁ! 炎よ、乱れて爆ぜよ!」

 

 それを見たマスターは、半泣きで呪符を投擲して魔術を発動させた。瞬間、親衛隊(ヘタイロイ)の足元で巨大な火球が発生して大爆発を起こした。漫画の様に人が吹っ飛び、またマスターが逃走を開始する。

 

「ああ、うむ。あれなら出来んこともなさそうだな」

 

 ライダーが呆れたように私に言ってくる。ライダーにすら呆れられるってなにそれ悲しい。でも折角の固有結界なんだから、マスターにはもっと成長してほしいんよなぁ…まあ、もう時間切れだけど。

 

「さて、長々話したけどライダー。この固有結界、そろそろ限界じゃない? 見た所召喚した全員で支えてる世界みたいだけど、半分くらい私達が薙ぎ払ったから出力が足りないと思うけど」

「むぅ、キャスターというのはそこまで見抜けるものなのか。厄介な」

「多分キャスターじゃなくて、私のスキルが原因だと思うよ?」

 

 半分嘘で半分本当だ。知識として覚えてるってのもあるし、魔眼が思いっきり性能を暴いてもいる。

 

「まあそれは置いといて。一つ提案なんだけどさ、次の一撃で決着にしない? ダラダラ戦うのは嫌だし、それで恨みっこなしで」

 

 大鎌を担いで、私はライダーに提案する。実を言えばもっとこの現実に被害を出さない空間で、隕石やらなんやらで遊びたかったけどジリ貧だしね。あと何よりクラス相性が予想以上に問題だった。だからこれは、結構賭けになるんだけど…

 

「よかろう。戦の最後に一騎打ちを望むとは、中々風情があるではないかキャスターよ」

「正直、物量で圧殺されるのは2度とゴメンだからね。後はまあ、決着を付けるのはタイマンが一番だもん!」

 

 ライダーが乗ってくれて助かった。

 私とライダーの距離は十分。ライダーが私を斬るのが先か、私の諸々がライダーを捉えるのが先か。いやぁ、後先気にしないでできる戦いって楽しいね!

 




マスターが戦えてる理由
敵方
親衛隊(ヘタイロイ)の鯖+キャスターのお陰で弱体化
マスター
キャスターによる魔改造+道具作成EXの呪符+キャスターからの魔力逆流+ティア様の保険


そして漸く決まったイオリンの娘の名前をちゃっかり出す人


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王の覇道、人の覇道 そのご

よく考えると、私ハーメルンにいるの2年目か…そのくせこの駄文とは。
あ、エドモンさん呼び符単発でお迎えしました


「ケイネス殿! ソラウ殿!」

 

 ランサーの叫びが夜の廃墟に木霊する。ランサーが焦燥の顔で見つめる廃工場には、2つの倒れている人影があった。片方は赤系統の髪の女性、もう一方は横転した車椅子のすぐ隣で倒れる金髪の男性。ランサーのマスターであったその2人組は血の海に沈み、どこから見ても既に生き絶えていた。

 2人の遺体がある場所に落ちている空薬莢、先程の銃声、騎士の信念を踏み躙る悪辣な手段となれば、情報のある者ならばすぐにでも犯人に辿り着く。

 

「おのれ、衛宮切嗣ーー」

 

 その端麗な顔を悪鬼の様に歪め、既に人の気配が消え去った廃工場を見つめるランサーであったが刹那の後、踵を返し茫然自失の状態にあるセイバーに向かいなおった。

 

「ラン、サー?」

「安心したぞセイバー。どうやらその反応を見るに、我が主を討った者とは関係が…いや、この行動は予想外だった様だな」

 

 そう言うランサーの身体からは金色の粒子が立ち上り、徐々に空気に解けていく。現世との繋がりが途切れ、魔力が急速に減少しているが故の現象だ。

 

「2度も主を御守りする事が出来ず、主を害したキャスターを討伐する事も聖杯を献上する事も出来なかった俺が言って良いのか分からないが…セイバー、お前に頼みがある」

 

 自身の宝具たる『必滅の黄薔薇(ゲイ・ボウ)』を折り砕きながら、ランサーいたって真剣な表情でセイバーに告げる。

 

「このまま自然消滅するなど、屈辱の極みだ。この死合い、最後まで付き合ってくれ」

「だがランサー、貴方のその身体では…」

 

 そう逡巡するセイバーの目の前で、折り砕いた黄色の単槍から溢れ出る膨大な呪力がランサーへと吸収されていく。1人の英霊が築き上げた伝説の象徴は、一時の間ランサーの消滅を引き留めた。

 

「問題ない。我が宝槍を1つ犠牲にしたのだ、一合程度ならば難なく保つだろうよ」

「請け合おうランサー。我が最高の一刀で決着をつける。風よ!」

 

 秒刻みで崩壊し続けるランサーと相対したセイバーが、風圧の護りから自らの宝剣を解き放った。轟風を巻き上げて姿を現わす黄金の剣。それは例え担い手が絶望に塗れていようとも、勝利を言祝ぐかの様に燦然と闇を照らしていた。

 

「感謝するぞセイバー。フィオナ騎士団が一番槍、ディルムッド・オディナーー推して参る!」

「応とも。ブリテン王アルトリア・ペンドラゴンが受けて立つ!」

 

 振り上げられたセイバーの剣に光が集う。

 ランサーが瞬時に間合いを詰めてくるが、貴き宝剣の柄がその手の中にある限りセイバーは自らの必勝に迷いはない。振りかざす黄金の輝きに、謳うべき真名はただ1つ。

 

約束された(エクス)ーー勝利の剣(カリバー)ッ!」

「見事なり」

 

 光が解き放たれ、咆哮し迸った。加速された魔力の奔流は閃光と化し、短い賞賛の言葉を残してランサーを飲み込んだ。そしてそれだけに留まらず、閃光は廃工場を僅かに逸れはしたが、道中にある廃墟を悉く蒸発せしめた。

 そして、宝具の発動が終わり全てを消し去った聖剣の光が収まった時、セイバーが膝から崩れ落ち手から宝剣が零れ落ちた。

 

「あ、あぁ、ぁああぁああ!!」

 

 ここに1つの決着が訪れた。

 ランサーは脱落し、セイバーは勝ち抜き駒を進めた。

 だがその勝利は望みからは程遠く、誰もいなくなった廃墟にセイバーの慟哭が悲しく響く。そんな状態であったためか、車の中にいたアイリスフィールの急変にも、視界の端に踊る黄金の痕跡にも気づく事はなかった。

 

 

 ジリジリと場の緊張感が高まってゆく。不思議と私とライダーの付近だけ誰も近寄って来ない中、私は無駄にある魔力を門の中で色々な物に分配する。今のこの身(霊基)はキャスターなんだから、やっぱり最後は遠距離で決めるのが一番だろう。

 

彼方にこそ栄え在り(ト・フィロティモ)ーー征くぞブケファラス!」

「ははっ!」

 

 それに合わせて、私は背負った棺桶をパージして砂の地面にめり込ませる。そして全ての棺桶に付いてる窓の内、一つだけ開いて光が溢れ出て私が生前作った中でもとびきりヤバイ装備の一つを形作っていく。

 パージした棺桶の代わりに顕現したのは、サブアームなどの付いたバックパック。左肩付近に私の背と両手を広げた既に展開済みの巨大な円柱型のジェネレーター。右肩付近からは、こちらも展開済みの銀色のタンクが沢山付いている長大な主砲が出現した。

 

「私に見せてよ、征服王の力をさぁっ!」

 

 詰まる所、展開したのは主任砲。遠距離で決めるって言ったから魔術オンリーだと思った? 残念! 近未来兵器でした!

 

「ファイヤー!」

 

 ハイテンションで私は引き金を引く。瞬間、多薬室砲塔から相変わらず核ではない弾頭が打ち出され、衝撃波が拡散する。反動で私自身もダメージを負ったが、ガバガバエイムの筈の弾頭は征服王に向かって光となって直進して行く。が、

 

「こりゃ流石に、無茶が過ぎるわ!」

「ふぁっ!?」

 

 私の身長からくる射線の低さが災いして、軽くブケファラスに飛び越えられてしまった。訳がわからない。けれどその跳んだ巨体は勿論着地が必要で、その着地点には衝撃で固まってる私。あ、これいつかゲームで見たモーション。

 

「歯を食い縛れい!」

 

 そんな言葉と稲妻を纏う蹄が、今回の現界で私が見た最後の光景となった。

 

 

 私の耳に、何か巨大な爆発音が聞こえた。と言っても、さっきから自分でも爆発させなりなんだりはしてるせいで、特に気にならない。今はウェイバーちゃんの所まで逃げ切るのが最優先!

 無論逃げ切る為には反撃による足止めが必須で…

 

「そろそろネタが…いいやもうメラゾーマ!」

 

 呪符が小さな火球に変化し、追っ手の部隊に向かい発射される。そして、今までと比べてとても小さな爆発を起こして消滅した。え、嘘ナニコレ。

 

「い、今のはメラゾーマではない。め、メラだ!」

 

 絶望的な筈なセリフだったものを捨て台詞にして、私は余りの低火力に固まってくれた親衛隊(ヘタイロイ)から距離を取るべく逃走を再開する。

 そして自分に強化魔術を掛けたところで気づいた。自分が扱える魔力が目に見えて激減してる事に。よくよく辿ってみれば、キャスターとの繋がりも無くなってるように感じる。え、もしかしてキャスター負けた? クラス相性的に不利とは思ってたけど、あんなに自信満々で?

 

「キャスターのばかぁぁぁぁっ!!」

 

 青空で笑顔でサムズアップしているキャスターの幻影に、単純な罵倒を飛ばす。

 無尽蔵な魔力が無くなったから、さっきみたいに魔術回路を限界まで酷使した攻撃は数回しかできなくなるし、身体強化も肉体の限界まで強化してダメになったら即再生って強行手段が使えなくなる。

 こうなった上に停滞から解放された人達が集結し始めてる今、100mくらい先のウェイバーくんちゃんに辿り着くのは至難の技だろう。そして滅多刺しの戦死エンドへ。

 

「ええい、ままよ!」

 

 もうどうにでもな〜れという気分で、キャスターが『やっちゃった。テヘペロ☆』って言ってた私の身体を弄って付けてくれやがった能力を使う。因みにその後、キャスターの事は全力で殴ったからこれ以上文句は言わない。

 

重反応加速(アクセル)ッ!」

 

 まだ上手く制御できない能力を発動させた瞬間、景色が凄い速度で流れ始めた。人体改造とかいう魔術に拠らない力は嬉しいけど、これを私に施した本人が消えた以上何がある分からないから地味に怖い。

 話が難しくて半分以上理解でなかったけど、原理は『ATP(アデノシン三リン酸)』の極大生成による運動能力の向上と、全神経系における神経衝撃(インパルス)の伝導加速による認識・対応能力向上とか言っていた。

 まとめると『マスターはスーパーモードをゲットしたけど、集中しないと事故るし、終わったらすっごくお腹が空くよ!』って事らしい。

 

「はぁっ!」

 

 駆け出してから1秒。今までの強化魔術がなんだったのかと思う速度で、私は空気を切り裂きウェイバーくんちゃんのいる(多分)安全地帯に直進する。

 駆け出してから2秒。踏み込んだ足が砂の地面を爆発させ、もう一度加速する。けど、目の前に集結し始めてる親衛隊(ヘタイロイ)に気を取られ、完全に踏みきる事が出来ず躓いて姿勢を崩してしまう。

 そして、駆け出してから3秒。

 

「へぶっ」

 

 躓いてバランスが取れなくなった私は、ウェイバーくんちゃんの手前の地面に着弾した。胸があったら即死だった…例え宝具があっても、胸のせいで綺麗に砂に埋まれなかったら首がポキッといってたと思う。でも100m3秒、グレートですよこいつはァ…

 そんな事を思ってる間にも、砂の中にいるせいで息が出来ないせいで苦しくなってくる。流石にこんなので死ぬのは馬鹿らしいし、自分の身体の周りで小さな爆発を起こす。

 

「けほっけほっ、うぅ…酷い目にあった…」

 

 パンパンと砂を払いながら、宝具を展開したまま立ち上がる。ウェイバー君が呆気にとられてるけど、投げ槍が怖いもん解く気はない。うわっ、服の中に結構砂入ってる…

 

「酷いよライダーのマスター…私みたいな女の子を虐めて楽しい!? すっごく、すっごく痛いんだよ!?」

 

 主にずっと酷使してた魔術回路とか、肉体的な限界まで強化して血が出ようがなんだろうが回復させながら使ってた両足とか。後は普通に頭も痛い。

 

「ぐすっ、ひっく、ふえぇぇぇん」

「ちょっ、泣くなよ。お前あんなに凄い魔術、楽しそうに撃ってたじゃないか!」

「あんなの、好きで、やる訳ないじゃん…ぐすん」

 

 身体の任せるがままに私は大泣きする。そんな私を目の前にウェイバー君はオロオロし始め、歪んだ視界に映る私を追っていた親衛隊(ヘタイロイ)の人達にもなんだか気まずそうな雰囲気が漂い始める。

 やっぱり、困った時はこの手に限る。

 

「大マスター、何を泣いてる? まだ、何も終わってはいない」

「ふぇ?」

 

 内心勝ったと思っていた私のすぐ隣に、空気から溶け出てきたかの様にティアさんが出現した。途端に、ティアさんごと私も殺気に晒される。

 

「全く、マスターも何を簡単に、負けて退場してるのやら」

 

 やれやれといった感じでティアさんがため息を吐いた瞬間、固有結界内に瞬く間に霧が発生した。心音の様な音が何処からか発生し、空間が絶叫する様に軋む怖気の走る音まで聞こえ始めた。

 

「お、おおおいお前! 何がどうなってるのか知らないのか? こいつのマスターなんだろ?!」

「し、知らないよぅ…」

 

 今度は演技じゃなく本当に怖くて涙が出てきた。いや正体知ってるからコズミックなホラー的サムシングだろうって予想はできるけどさぁ!

 口を噤み首を振り内心恐怖で動転してる私の眼の前で、ティアさんの目の前に門が出現した。それは銀色で精緻な細工が施されており、完全に実体化出来ていないのかノイズが走る様に揺らめいている。

 

Acta est fabula(芝居は終わりだ)。さあ、逆襲(ヴェンデッタ)を始めよう」

 

 その台詞を聞いた瞬間、今のティアさんが纏う魔王然とした雰囲気も、おどろおどろしい周囲の気配も一気にバカらしくなった。

 もうオープニングで変なダンスしてたり、お酒に入り浸ってればいいと思うよ、うん。覚醒したらカッコよくなっちゃうからダメね。

 




果たして、またもや大量に詰め込んだネタの元が分かる人はいるのだろうか…

【吉報】
ランサー、満足して逝く
銀城ちゃん、イキキル
【悲報】
ケリィ、無事離脱
アイリ、中身が溢れる…高まる…
【速報】
ギル様、愉悦
ティア様、愉悦


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王の覇道、人の覇道 そのろく

豆撒きの代わりに銃弾をばら撒くイオリンの話があったけど、頑張っても2000文字に届かなかったから没になりました。
-追記-
代わりにバレンタインのは用意終わりました。


 誰もがこの状況に注目する中、今まで煩いほど鳴っていた音が突然ピタリと止んだ。

 周囲に満ちていた濃霧が中途半端に限界している門へと収束し、杖を掲げるティアさんの姿に、一瞬だけボロを纏った影絵の様な男(コズミック変質者)の姿が重なった。おいちょっと待てニート。

 

「えぇ…なにこの演出」

 

 私がため息を吐き半眼で見つめる中、門がバンッと内側から弾け飛ぶ様に開かれた。その奥に広がる宇宙からは、明らかに見ちゃいけないと判断して即座に目を逸らす。この奥を見た馬鹿は、きっとSAN値が一瞬で消えるんだろうね。

 

「凄くカッコよく蘇生してもらって悪いんだけど」

 

 門の奥から、不思議に反響する女の子の声が聞こえた。

 

「今夜はもう戦うつもりはないんだよね……まあ、安全は確保しておかないとだから、少しだけやるけど」

 

 その声が聞こえた瞬間、切れていた自分のサーヴァントとのリンクが回復した。その事に安心感を覚える間も無く、固有結界の空に幾つもの歪みが出現し…その全てから鋭い銀光が出現する。それらは全て武具であり、低ランクではあるが紛れも無い宝具。つまり、それは間桐邸を壊滅させた攻撃の再現であった。

 

「天より降れ、我が作品(けんぞく)よ」

 

 その宣言が聞こえた瞬間、鋼の雨が大地を襲った。剣、槍、斧、槌、鎌、刀、十手…宝具属性を持ったそれらが幻想の大地に突き刺さり、何もかもを巻き込み大爆発を引き起こした。

 そしてその閃光が収まった時、全てが泡沫の夢であったかの様に、景色は元の夜の廃墟へと立ち戻っていた。

 

「いやぁ、座からとんぼ返りってこんな気分なんだね」

 

 そして、すぐそばの門が存在した空間に、どこかスッキリした顔のキャスターが出現していた。なくなったはずの棺桶も、感じる魔力も万全のものである。

 

「な、ななな、なんでキャスターが復活してるんだよ!」

 

 その事に何の感慨も覚えず、服を軽く引っ張っえ覗き込み下着にまで入り込んでいた砂が消えてる事に驚く私の隣で、ウェイバー君が叫んだ。

 まあ、叫びたくなる気持ちも分かる。自分のサーヴァントが倒した筈の敵サーヴァントが、無傷で復活とか叫ばないとやってられないよね。

 

「私の宝具で蘇生させた。以上」

「インチキ効果もいい加減にしろぉ!」

 

 ティアさんとウェイバー君が言い争ってる中、横目で見て私の安全を確認したキャスターは、ほんの少し前に自分を殺したライダーに向き直る。

 

「さっきぶりだね征服王、まさか躱された上に踏み潰されるなんて思ってなかったよ」

「思ってもみなかったというのは余の方だぞキャスターよ。決着をつけたと思っておったら復活するとは、正直洒落にならんわ」

 

 そう話すライダーにもキャスターキャスターにも殺気は無く、互いに武器を納めている。そんな事言ったら、12回は復活するヘラクレスなんて化け物もいるんだけど…と、それは置いておいて。

 よく分からないけど、これはもう停戦って事でいいのかな?

 

「それでまあ確認するけど、私は一度負けたわけだし今日はもう戦うつもりはないんだけど…そっちはどうする?」

「今の状態からお主を相手にもう1度事を構えるとなると、今の余は些か以上に消耗し過ぎておる。そちらが引くというのなら、引き留める理由はないわい」

 

 はぁ…とライダーがため息を吐く。普通に消耗してるライダーと、パスから繋がってる感じだと万全のキャスター。よっぽどの馬鹿じゃなきゃ、この状態で事を構えようとはしないよね。

 停戦を確信して安心した瞬間、私のお腹が可愛らしいくぅ〜という音を鳴らした。シリアスな空気漂うこの場に良くその音は響き、鏡を見ないでも顔が真っ赤になったのがわかった。

 

「それじゃあ、ウチのマスターも限界みたいだしお暇するとしますかね。ほらマスター、こっちこっち」

 

 そう言って、戦闘時のキチガイぶりが鳴りを潜めているキャスターが私を手招きする。正直行きたくないけど、帰るにはいかないといけないし…

 

うん

 

 目に溜まった涙を拭い、消え入りそうな声で返事をしてキャスターの元へと向かう。そしていつもの如く異界にレッツゴー。そしてそのまま、私はパタリと地面に倒れた。

 お腹すいたし、全身筋肉痛だし、魔術回路はズキズキ痛むし、仮装宝具を全力展開してるのももう限界だったりする。さっきみたいな嘘泣きじゃなくて、もう本当に泣きたい。

 

『あ、そうだ。私としたことが、負けたのに何もせずに帰るところだった』

 

 私の意識が夢の世界へと落ちていく中、現実世界でキャスターがそんな事を口にした。何か良くないことな気がする。

 

『絶対に分からないと思うけど、私の真名教えとくよ。我が名はイオリ、姓はキリノ。しがない未来の神殺しだよ。この格好から、生前は不死ちょ…こほん、死神の通り名が有名だったよ。どうぞお見知り置きをってね』

「それ、ひびき、じゃん…」

 

 キャスターの名乗りに、銀髪なのもあってか棒ゲームの艦娘が思い浮かんだ。というかモロだった。バーサークキャスターで、フリーダムキャスター…だと。鍋被せなきゃ(使命感)

 そんなしょうもない事を考えながら、今度こそ私は夢に堕ちて行った。すぴぃ…

 

 

「それじゃあね、征服王とウェイバー君。次相見えた時は、遠慮なく潰しにいくからー」

 

 そう言って私は手を振り、ティアに任せて例の貯水槽へと転移する。戦ってる時に私がやった行動とか、消滅してからほんの少しだけいた聖杯内とか話したい事はいっぱいあるけど、今はそれよりも先にしないといけない事がある。

 

「『もう1つの世界(アナザーワールド)』」

 

 ティアの宝具の特性のお陰で、真工房が起動したままの異界への扉を開く。これからの事を話すよりも先に、先ずはマスターに謝らないとね。

 

「マスター、さっきはいきなり放り出してゴメンね。マスターごと消滅するのは、何が起きるか分からないから…って、あらら」

 

 そう言って異界に足を踏み入れた私を迎えたのは、弱々しく燃える宝具を纏いグッタリとしているマスターの姿だった。どうやら疲れ切って寝ちゃっているらしい。

 

「よいしょっと。凄い軽いなぁ…って、ロイドも私をこうした時に言ってたっけ」

 

 懐かしく愛しい記憶を思い出しながら、マスターをお姫様抱っこして布団へ運んでいく。ついでに《クリーン》の魔法…じゃなくて魔術を使って、マスターを軽くシャワーを浴びた程度まで清潔にする。

 幼女が幼女をお姫様抱っこという頭のおかしな光景だけど、サーヴァントのぱぅわーを舐めちゃいけない。そのまま難なくマスターを布団に寝かせ、毛布をかけてあげようとした時に気付かされた。

 

「ママ…パパ…」

 

 何やら魘されているマスターが、そんな言葉を漏らしていた。小さい頃のテンションのせいとはいえ、凄く悪いことしたなぁ…

 

「マスターの本当のお母さんじゃなくて悪いけど…お疲れ様、愛鈴。また大変な事に巻き込んじゃうけど、今は、今だけはゆっくり休んでね…」

 

 魘されるマスターの隣に座り、優しくゆっくりとしたリズムでポンポンとマスターを叩く。少しの間続けていると、マスターの寝顔が苦しそうなものから安心した様に変わった。後はマスターの無限収納からお気に入りっぽかったイルカのぬいぐるみを取り出し、マスターが抱きつける様に置く。うん、これで良し。目が醒める時は、少しは気分が良くなっていることだろう。

 

「さて。それじゃあマスターは寝ちゃったけど、これからどうするか話そっか、ティア」

「了解。こっちも聞きたかった事がある」

 

 マスターのすぐ隣に座る私の前に、霊体化していたティアが出現する。ああうん、やっぱりかなり消耗してる。

 

「気にする事じゃない、あの宝具はそういうもの。それよりも、間に合った?」

「うん、問題なく。きっと聖杯が表面張力か何かで踏ん張っててくれたのと、ティアの蘇生が早かったのもあるしね」

 

 私とティアが心配してたのは、この時点で聖杯が溢れちゃう事だ。原作で泥がどばーしたのは、残りがセイバー、アーチャーの二騎になった時。そう考えると一騎分余裕があったから平気に思えるけど、キャスター枠の私は自分で言うのもなんだけど規格外だ。

 霊基は私とティアで1.5騎分だし、聖杯に匹敵する魔力炉心も確保している。だからまあ、さっきは中々にギリギリだった。アイリスフィールに効いてた早めのアヴァロンと、ティアによる高速蘇生のお陰で溢れなかったに過ぎない。

 

「それで、霊基に異常は?」

「あるわけ無いじゃん。バーサーカーの適正も、アヴェンジャーとしての適正も持ってる私が、たかだか聖杯の泥に触れただけで汚染されたら笑い者だよ」

 

 ケイオスタイドに触れた場合、どう頑張ってもダメになっちゃうだろうけどね。ビーストは例外中の例外だ。

 

「マスター、バーサーカーじゃなかったの?」

「れっきとしたキャスターだよ!」

 

 アッサリと掌をクルーテオ卿したティアに、精一杯抗議する。

 こんな和気藹々とできるのは、多分これが最後になっちゃうんだろうなぁ…なんとなく、そんな気がするのだった。

 



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喪失までのカウントダウン

シンフォギアとは一切関係ありません。コミュ回的な何かになってるといいなぁ。


「ふぁぅ…」

 

 大きな欠伸をして、目をこすりながら私は体を起こす。

 ぐっすりと寝れたお陰で、私は気持ちよく目を覚ます事ができた。それはそれとして、なんで布団で寝てたんだろう? えっと、確か昨日はライダー陣営と戦って…

 

「そうだった、私、限界で倒れたんだった…」

 

 その事を自覚した瞬間、ぐぅ〜と私のお腹が盛大に音を鳴らした。それと同時に私を襲う途轍もない空腹感。あぅ…もうダメ。

 

「あ、おはようマスター! 昨日はゴメンね」

「ううん、別にもういいよ。それよりも、ご飯食べたい…」

 

 もしもキャスターがライダーに負けるって分かってたら、何があるか分からないここからは絶対に脱出したと思うから良い。それよりも、お腹が空いて動けないこの状況をどうにかしたい。

 

「うーん、それじゃあ何か食べたいものある? よっぽど変なのじゃなかったら作れるけど」

「じゃあオムライス食べたい!」

 

 目を輝かせて私はキャスターにお願いする。材料に関してはこの際何も言わないから、美味しいオムライスを食べたい。今なら私は、セイバーとも張り合える自信がある。

 

「いいよ、とびっきり美味しいの作ってあげる。それまでは…メロンパンとかストックしてあるけど、食べてる?」

「うん! いただきます」

 

 キャスターが渡してくれたメロンパンに、ちゃんといただきますを言ってからかぶりつく。何故か焼きたての様で、外はサクサク中はふわふわで凄く美味しい。取ってくれた牛乳を飲みつつ食べてるけど、本当に今まで食べた事が無いくらい美味しい。

 そんな私をキャスターは少しだけ見てたけど、すぐにエプロンをつけてキッチンがある方へとパタパタと走っていった。ティアさんの姿が見当たらないのはいつもの事だし、とりあえずご飯だご飯。

 そしてしばらくの間、キャスターの異界には料理と私がパンを食べる音だけが響くのだった。勿論、いつもの賑やかさをバックにではあるけれど。

 

 

「ごちそうさまでした」

「お粗末様でした」

 

 手を合わせてごちそうさまをした後、食べきったいっぱいオムライスが乗っていた数枚の皿をキャスターに渡す。

 

「ぷはー、食べたー」

 

 ゴロンと布団に転がって、リラックスして全身の力を抜く。ちょっとした自分へのご褒美のつもりだったけど、漸く余裕が持ててきた頭に1つの疑問が浮かんできた。

 

「ねえキャスター、なんで今日はこんなに優しいの?」

「ふぇ?」

 

 キャスターが振り返って、訳がわからないといって感じの顔で首を傾げる。私としては、これからヤバイ何かが待ってるんじゃないかって気が気じゃないんだけど…

 

「んっとね、単に昨日のお詫びっていうのと…多分、あと2日で聖杯戦争終わっちゃうからその分かな」

「そっか…」

 

 そのキャスターの説明は、思ったよりも簡単に納得する事ができた。そうだよね…あと数日で私、ほんのちょっぴり魔術が使えるだけの孤児だもんね。そうなれば、こんな豪華な食事とは暫くおさらばになるからか。

 

「それで、これからどうするの? 多分私が寝てる間にも、色々起きたんでしょ?」

 

 台所っぽい場所に食器を置いてきたキャスターが、私の隣にペタンと座って話し始める。

 

「うん。私達が帰った後、ライダー陣営は無事離脱して召喚場所で魔力回復。セイバー陣営は、ランサーを倒したセイバーが心を失った者並みに生気が欠けてて、アイリスフィールが麻婆に誘拐された。その際、舞弥さんが死亡。ギル様の行動は分かんないけど、変な事はしないと思う」

「一気に最終局面って感じだね」

 

 トッキーが既に灰燼に帰してるからアインツベルンと遠坂の同盟も、トッキーのアゾット昇天も発生しない。麻婆が愉悦部を創設したらしいから、ここら辺はあったのかもだけど。

 多分ケリィはアイリさんを探してるけど…

 

「あれ、今って何時?」

「朝の9時くらいだよマスター」

「ありがと」

 

 多分もう、今頃は首をポッキンされて聖杯になっちゃってる事だろう。ほんの少しだけとはいえ、優しく接してくれた(同じ歳だけど)お母さんみたいな人と、もう話す事も会う事も出来ないって事実に少し悲しくなる。

 閑話休題。アイリさんの事は割り切って、足りない頭で戦況を少し考えてみる。

 

 現状生き残ってるのは、セイバー、アーチャー、ライダー、そして私達キャスターの4つの陣営。ライダー陣営が回復に入ってるって事は、原作が息をしてるなら事が起こるのは明日。してなかったら今日か明後日辺りにズレるだろう。

 ああ、成る程。キャスターが言ってた事に得心がいった。

 

「麻婆父はどうなった?」

「死んでたよ。下手人は分からないけど、多分麻婆かケリィ。大穴でギル様じゃない? 勿論、預託令呪は麻婆の腕に」

「うちのサーヴァントが、キャスターなのにアサシン並の諜報能力でビックリだよ…」

 

 既にここ冬木が劣化アーカムになってる事は知っている。けどそれにしても、情報が伝わってくるのが異常に早い。キャスター兼バーサーカー兼アサシンって、もうこれ訳わかんない。

 

「それで、マスターは今日1日どうしたい? できる限り私は、それに応えるよ」

「私って、何がしたいんだろうね…」

 

 聖杯に願う祈りはない。死にたくないって言ってるのに、未だに聖杯戦争から降りていない。悲劇は嫌い、かと言って聖杯の解体なんて望んでない。寧ろ原作という記憶に頼って聖杯の泥を溢れさせようとすらしている。矛盾だらけだ、反吐がでる。

 だから多分、前世の記憶が残ってるせいとは言っても友人がいないし、色んな人から変な目で見られてたんだと思う。他者と違う者…よく分からない奴は怖い、だから排斥する。実に分かりやすい人間の考えだよね。って話が随分脱線しちゃった。

 

「そういうキャスターは何かしたい事ってある? 折角の現界なんだから、やりたい事の1つや2つはあるんじゃない?」

「うーん…マスターと楽しくできるなら文句はないかなー」

「それって、私がキャスターの娘さんと同い年だから?」

 

 少しだけ意地悪な質問をしてみた。妙にキャスターが私に優しいのは、この前の話を聞いちゃった時からそんな気がしていたのだ。私のこの質問に、キャスターがピシリと固まる。

 

「ごめんキャスター、変な質問しちゃった」

「別にいいよマスター。少しだけだけど、重ねて見てるのは事実だし」

 

 キャスターが困ったように笑いながら言う。そして若干照れたように顔を赤らめながら、ゆっくりと理由を語ってくれた。

 

「前にも言った通り、この幼少期の私が召喚されるなんて、マスターはぐだ男かぐだ子、もしくは何も知らない一般人だと思ってたからね。大体士郎程度の年齢の。だけど召喚されてみれば、目の前にいるのは龍之介と震えるマスター…しかも話してみれば、私が死に別れた時の娘と同い年って言うじゃん? もう戻らない日常で、ただの死者の我儘って分かってるんだけど、少しは…ね」

 

 キャスターが語った理由に、なんて反応していいのか分からず黙ってしまう。確かに並行世界の未来の英雄の幼少期とか、普通どうあっても召喚される事なんてないよね。あるとしたら特異点で縁を結んだ後、ガーチャーと化したぐだーずに呼ばれる位だろう。

 

「その娘さんと私って、どこか似てたりするの?」

 

 ふと、頭に浮かんだ疑問をそのままキャスターに投げてみた。そう考えると私がキャスターを呼べた理由も不明だし、もしかしたらそっちで共通点があるのかもしれない。

 

「私の娘って事からわかると思うけど、アヤメとマスターの見た目は全然違うかな。親が死んじゃったって部分は同じだから、その分だけ性格は似てると思うけど。後名前は…こじつけに近いからなしだね。結論を出すと、似てないね」

「似てたら似てたでビックリだけどね。でもどうしよう、もし似てたらお母さんって呼んでからかおうと思ってたのに…」

 

 どうやらそれは中止する方がいいみたいだった。そもそもロリお母さんって時点で若干無理があったし、不謹慎だったかもだからその方がずっと良いだろう。あと、なんとなく誰かに甘えたかった。

 

「それならやってみる? 家族ごっこ。好きなだけ甘えていいよ!」

「な、ナチュラルに心読まないでよキャスター…」

 

 でも、カモーンって感じで両手を広げるキャスターの誘いを断るのは悪い気がして、後やっぱり少しだけでも甘えたくて…

 

「これでいい? お義母さん(キャスター)

「ふふふ、存分に甘えるといいよ愛鈴(マスター)

 

 聖杯戦争中、平和に過ごせる最後の日はそんな感じの家族ごっこで終わったのだった。でも、こういうのも悪くない…寧ろ、懐かしくて楽しかったから良いかな。

 




愉悦部の描写は難しすぎたためカット入りました。


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zeroに至ってほしい物語

気がついたらチョコ礼装が20ほど…もうゆっくりやろう。


 ーー渺。ーー渺。ーー渺。

 吹き荒ぶ風が、熱波と共に巫女服の裾が翻る。

 

「冬だっていうのに、随分と暑いね。キャスター」

「そうだねマスター」

 

 キャスターと一通り家族ごっこをした翌朝、異界の外に出た私達を出迎えたのは季節外れの熱気だった。陽炎さえ生むこの熱波は、私の覚えている限り聖杯戦争最終日に起こるものだった。どうやらキャスターの予想は的中していたらしい。

 

「終わりの始まり…か」

「やり残した事はある? マスター」

 

 私が零した言葉に、キャスターがそう問いかけてくる。この無茶苦茶だけど頼れるサーヴァントとも、今日でお別れになるんだよね…そうなれば私は本当に天涯孤独。カルデアにでも就職しないとやってられない身の上になる。

 

「ううん。昨日、やりたかった事はやり尽くしたから」

「そっか、それなら良かった」

「それじゃあ、夜に起きてられる様に私は寝るよ。壊れる前の冬木も、結構満足に見れたからね」

 

 そう言って私は、今まで立っていた大橋のアーチ状の鉄骨の上で身を翻す。私がこれまで育った新都も、遊びに行った深山町も存分に見た。また新しい人生がある…なんて思いはしないけど、今夜勝つにしろ負けるにしろ、生きるにしろ死ぬにしろ、もう悔いはない。

 色素抜けが7割程まで達してかなり白くなってしまった髪を靡かせ、私はキャスターの異界にある布団に直行した。右手の甲が痛いけど、多分これも寝れば治ると思う。準備は終えたし、後は時が来るのを待つだけだね。

 

 

 夜の空気を、小さな魔力の波動が揺らす。それはこの聖杯戦争で初めて上げられた狼煙で、おそらく麻婆の上げた最終戦開始の狼煙でもあった。

 

「符丁を知らないから意味は分からないけど、市民会館の上空に光を確認。間違いなく始まったよ、マスター」

『分かった。私からは何も言わないから、思う存分にやっていいよ!』

「そう言ってくれるのは嬉しいけど、暫く動く気は無いかなぁ」

 

 そこそこ高めのビルの縁に腰掛け、足をブラブラさせながら私は答える。マスターのその姿勢は嬉しいけど、私もライダーが決着をつけるまで動く気はないんだよね。だからこそ大橋が見えるここに座ってるんだし。

 

「ギル様にはバレてるだろうし、どっちにしろ決着はつかないといけないけど…それは、ライダー達の物語を見てからでも十分だしね。マスターも見たいんじゃないの?」

『うん、それは勿論! 固有結界内の動きが見れないのは残念だけど、それでも十分だしね!』

 

 というか、マスターがライダー陣営に手を出すなって言ってたのは、ここのシーンを見るためだった様な気がしないでもないし。本当に、マスターはライダー陣営の事が好きなんだろう。

 

「頭も下げたし、変に手出ししなきゃ大丈夫でしょ」

 

 そう言って私は、現界してから1度も成っていなかったケモロリモードに移行する。銀色の毛に覆われた狼の耳と尻尾が生え、五感が研ぎ澄まされる。これで魔術を併用すれば、音は確実に拾う事ができるだろう。

 

『え、嘘何それ。キャスター、モフモフしたいんだけどいい…?』

「くすぐったいからヤダ。それよりもマスター、どうやら始まるみたいだよ?」

 

 こんな他愛もない話をしている間に、見つめる大橋に征服王の姿が現れた。駆けるブケファラスに乗るのは、征服王と覚悟を決めた顔のウェイバー君。つい一昨日戦った時とは、表情がぜんぜん違う。

 

「さてマスター、それじゃあ私達は優雅に観戦と行こっか」

『そうだね、絶対に邪魔しちゃいけないもんね』

 

 ティアに出て来るのは待ってもらって、私は音を収集する魔術を発動させる。私自身も好きだったシーン、許される限り見物したい。you are my kingが流せないのは残念だけどね。

 

「って始まっちゃったか」

 

 ここからは黙って観戦する事にする。流石に遠く離れた所の会話を聞いとるのに、自分の声なんて邪魔でしかない。

 大橋の上にて、ライダーは愛馬の背を降り地面に立ち、悠然と待ち受ける的に向かい步を進めた。アーチャーも示し合わせたかの様に、傲岸に踵を鳴らしながらライダーに歩み寄る。

 

「ライダー、自慢の戦車はどうした」

 

 開口一番、アーチャーが不機嫌さを露わに言い放った。

 

「ああ、それな。つい一昨日、キャスターのやつが豪快に両断してくれてなぁ」

 

 呑気にライダーが、肩を竦めて返す。よくもまあ、不機嫌なギル様相手にあんな事出来るよね。

 

「そうか、あの雑種の仕業か。(オレ)の決定を妨礙し、あまつさえ王の決着に水を差すとは…よほどの痴愚らしい」

 

 その言葉を聞き取った瞬間、英雄王の血色の目が遠く離れた私に向けられた。瞬間、私を恐ろしい程の殺気が包み込む。…今風に言うならマジやばくね?

 

「そうかっかするでない英雄王。彼奴に宝具を破壊され、武装を消耗させたのは余の落ち度よ。だが侮るなよ、今宵のイスカンダルは、完璧ではないが故に完璧以上なのだ」

 

 庇ってくれたライダーのおかげで、ギル様の視線が私から外れ殺気も消え去った。遠くの雑種より目の前の王って事かな? 後で絶対何かあると思うけど。

 なんて事を考えていた私の視線の先で、ライダーに向き直ったギル様が、鋭利な眼差しで切り刻む様にライダーの総身を見渡した。

 

「成る程。確かにその充溢するその王気(オーラ)、いつになく強壮だ。どうやら何の勝算もなく我の前に立ったわけではないらしい。不愉快な雑種の事は、一時忘れるとしよう」

 

 魔眼で視てみる限り、ギル様の言う通りライダーの魔力は宝具を1つ壊され2つ目も相打ちにされたと言うのに、全快どころかその数段上に達している。きっとサーヴァントの意に添う形で使われた3画もの令呪、効き目の薄い使い方をされてたとしても、十分な効果を発揮している様だった。有り体に言えば、ライダーは過去かつてないほどに絶好調だった。

 

「そういえば、私のマスターも全画令呪残ってるんだよなぁ…」

『確かに、私キャスターに一回も使ってないね』

 

 軽い酒盛りを始めた王様達を眺めながら、最後になるマスターとの平和な会話を始める。

 マスターにはなんだかんだ言って令呪を温存してもらってきた。多分冬木式じゃ、霊基修復とかは出来てもコンティニュー的な使い方は出来ないけど……その分応用は効く。だからもう復活手段を失った私が負けた時、殺される事になるであろうマスターを守る切り札になってくれる。

 

「まあ、その点は感謝だよね」

『なにが?』

「ううん、まだマスターには関係ないよ」

 

 そう、私が聖杯が溢れるまで時間を稼ぐか、可能性はほぼないけどギル様を倒せればマスターにはなんの関係もない話になるのだ。もしもの場合の備えはした、だけどあれは可能な限り使用されてほしくない物だからね。

 何もしないまま待つと言うのも暇だから、少し霊基を弄り、取り出したお猪口にお酒を注ぎ私もそれを呷る。

 

『キャスター、見た目的にアウトだよ…それ』

「中身は成人してるから大丈夫だよ」

 

 ライダー達に提供したのと違って、(ロイド)と一緒に飲むためだけに作った日本酒っぽいやつだ。最後になるかもしれない時に飲むには、まあ相応しいと思う。

 

「ね、ティア」

「まあ、文句は言わない」

 

 いつのまにか隣に座っていたティアに聞いてみたけど、流石に呆れたようにそう言われるだけだった。あ、そういえば…

 

「抜かりはない。市民会館付近を除き、神話生物は全て回収した」

「ありがと、私達が消えてからも劣化アーカムじゃアレだからね」

 

 神話生物が回収された事によって、私達が消えた後もこの街は安泰だ。だけどティアと一緒に戦う、か。また目の前で消えられるのは御免被るし、何より…

 

「分かってる。マスターの邪魔には、ならない」

「呼んでおいてごめんね」

「気にしない。この身は、永遠にマスターと共に在る」

 

 そう言ってティアが大鎌を通じて私の中に還り、魔力が増大する。目の前で消えてほしくないって理由以外にも、勿論こうしてもらった目的はある。私が戦闘スタイル的に共闘が苦手だって事もあるが、ギル様対策でもあるし、これはこれで切り札でもある。切れる札はいくら持ってても損はないしね!

 

「集えよ我が同胞! 今宵、我らは最強の伝説に雄姿を印す!」

 

 なんてらしくない事を考えてる内に、向こうの展開は佳境に入っていた。莫大な魔力が大橋を包み、数秒前までそこにいた征服王とギル様が消え去った。戦いの場は、あの砂漠に移行したのだろう。マスターがさっきから黙ってたのは、きっとこれが理由かな。

 

 残ってたお酒を飲み干し、お猪口を門の中に捨て中天に座す月に手を翳す。

 

「相手は万夫不当の英雄王、相手にとるには余りある。なれば加減は必要なし、我が全力をもって相対せん……なんちゃって」

 

 一拍置いて、左手薬指に光るシンプルな結婚指輪に私は問いかける。

 

「ねえロイド、私、今度は勝てるかな…?」

 

 返事なんてある筈がない。

 そんな事は分かっている。

 だけど最愛の人に問いかける事は止められず、束の間の静寂を取り戻した夜の街に、私の声だけが虚しく響いた。

 




銀城ちゃんはケリィの眼中になかったりする。


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zeroに至ってほしい物語 其之弐

今生き残ってる人の半分が目に光が無い件について(ケリィ・麻婆・セイバー・銀城ちゃん)


 闇の帳の降りた新都を、1人の男装の麗人…セイバーが死人のような表情で歩いていた。その足の行く先は冬木市民会館。そこから上げられた狼煙は、アイリスフィールを捜し彷徨うセイバーの目にも留まっていた。

 その信号の意味こそキャスター達同様分からなかったが、持ち前の直感により聖杯戦争に関連する出来事と確信していた。絶望をその顔に刻み覚束ない足取りで進むセイバーには、かつての騎士王としての面影は殆ど消え去っていた。

 

「アイリスフィール…」

 

 セイバーは元々新都で捜索を行っていたため大橋に陣取るアーチャーに迎撃される事もなく、セイバーを捕捉していたキャスターからも放置されているため、こうやって無防備に彷徨う事が出来ていた。

 セイバーが未だに現界を保ち行動しているのは、自らを召喚した方ではないマスターへの思いもあるが、何より聖杯へ託す願いがあっててこその物だった。

 明かり1つ灯らぬ市民会館まで後少し、騎士王は進んで行く。そこで待つものがさらなる絶望だと知る事もなく。

 

 

「王の話をするとしよう」

 

 月光に照らされて、ビルの淵に腰掛けたまま、私はポツリと呟く。征服王が固有結界を発動させてからまだ数秒、ギル様がエアを抜くまでまだ少しだけ時間はあるだろう。

 

『どうしたのキャスター、過労死したくなった?』

「違うよマスター。ただ、今の私達って傍観者だから、先達に倣ってみようと思ってね」

 

 誰も好き好んで過労死なんてしたくない。ただなんとなく思い浮かんだだけだ。いやまあ、これも後に過労死するニートは見てるんだろうなぁとは思ってるけどね。

 

(つわもの)どもの夢を束ねて覇道を示し、見果てぬ夢を目指す征服の王。勝利して尚滅ぼさず、制覇して尚辱めない。その精神は本当に素晴らしいと思うよ。だからこそ、彼の王に触れた者は誰しも憧憬を抱き、その宝具に参集する。征服面積が2位なのは内緒だね」

『え、何それ初めて知ったんだけど』

「因みに1位はチンギス・ハーンね」

 

 夜の風を身体に受けながら、誰に聞かせる訳でもない事を呟いて行く。マスターには少しだけ解説したけども。

 見つめる先の大橋には、未だなんの変化もない。けど、案外未来視が出来る私の眼と原作知識が相まって、ほぼ起こる事が確実な未来が私の中には浮かんでいる。

 

彼方にこそ栄え在り(ト・フィロティモ)…か。ウチのマスターが好意を持って、私自身も憧れた貴方の最後。見届けさせてもらうよ、ライダー…ううん、征服王イスカンダル」

 

 私がそう言い切ると同時、雷光と共に王様達が現世に帰還した。互いの位置関係は変わらず、ぱっと見では戦いは冒頭へと巻き戻ったようだった。

 けど、私の目には大きな変化は2つ映っている。1つはライダーの『王の軍勢(アイオニオン・ヘタイロイ)』の消失、これは『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』が直撃したんだろう。もう1つは、ギル様の手にある何か。そこに乖離剣があるっていう事は知ってるけど、何故か見る事ができない。多分私にはまだ、抜く価値がないから見せてもらえないんだろう。

 

「さてマスター、あなたも魂に刻み込みなよ? あれだけ望んでた決戦なんだから」

『うん、勿論だよ』

 

 そうマスターに念押しした瞬間、最後の決戦の火蓋が切られた。

 

 

「すごい…」

 

 かつて画面の奥に見た決戦をキャスターと同調された感覚で見て、私が言う事のできた言葉はたったそれだけだった。

 ウェイバー君がイスカンダルの臣下になって、イスカンダルがブケファラスと共にギル様の『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』の弾幕の中を疾走し…

 

『ーーまったく、キャスターも大概であったが……次から次へと珍妙なモノを……』

 

 そして今、天の牡牛すらも捕らえる天の鎖(エルキドゥ)に拘束されてしまった。その手のキュプリオトの剣はギル様に届く事は無く、ギル様の持つナニカ(乖離剣)はイスカンダルの分厚い胸板を貫通していた。なのにその顔には後悔は少しもないように見えて…何故か、頭の奥がズキリと痛んだ。

 

『ーー夢より醒めたか? 征服王』

『ああ、うん。そうさな…此度の遠征も、また……存分に、心踊ったのぅ……』

 

 解らない、分からない、もし理解ができても共感なんてできそうにない。なんでそんなに簡単に死を受け入れられる? あれはもっと、暗くて、怖くて………あれ? 私、今何を考えて…

 

『また幾度なりとも挑むが良いぞ、征服王。

 時空(とき)の果てまで、この世界は余さず(おれ)の庭だ。故に我が保証する。世界(ここ)は決して、そなたを飽きさせることはない』

『ホォ……そりゃあ、いい、な……』

 

 カリスマA+のギル様と消滅して行く征服王を見つめる中、私の頭は半分恐慌状態に陥っていた。今のよく分からない感覚は何? 追求したいけど、ここから先は地獄を見る気配しかしないから動けない。手足が震えて、ナニカ悍ましい気配が私の背中をなぞる。冷や汗が出てきて、段々身体が冷えていき…

 

「落ち着いてマスター。ほら、私がいるから」

「ぁ…」

 

 甘い少女のものに煤けた匂いが混ざった香りが、私をフワリと包み込んだ。目の前にはサラサラとした銀髪が踊り、落ち着かせるようにポンポンと背中を摩られ、ギュッと抱きしめてもらった。

 

「きゃす、たー…」

「なにがそんなに怖いのかは分からないけど、だいじょーぶ。もう時間はあんまりないけど、私がいるから」

 

 優しくそう言ってくれるキャスターのおかげで、どうにか精神が通常の状態に戻ってくる。

 そうだよ、今私が取り乱してどうする? 仮にもマスターである私がこんな状態じゃ、キャスターは戦いに集中出来ないだろうし、必然的に英雄王に勝つのも時間稼ぎも出来ない。

 よし、落ち着け私。切り替えろ。さっきのは何かの幻影、気の迷い。憧れの人物の死に影響されただけ!

 

「そう、だよね。うん。キャスターが居てくれるもんね」

「あんまり、私に依存はして欲しくないんだけどね…」

 

 キャスターがそう苦笑いで言ってくる。むぅ、私そんなにキャスターに依存なんてしてないもん。1人で生きられる…とは言えないけど、寂しくなんてないもん。

 

「はいはい。わかったからそうむくれない」

「むぅ…」

 

 私の頭を軽く撫で、いつのまにかこの異界の中に来ていたキャスターは、再び外へと出陣して行った。その背中にどこか諦めたような気配を感じて、謎の不安が少しだけ蘇る。

 

『忠道、大義である。(ゆめ)その在り方を損なうな』

 

 それと同時、復活したキャスターの感覚で英雄王がウェイバー君の前から立ち去ったのを感じた。

 そしてそれを確認した途端、感覚の同調が一段階低下した。それに疑問を浮かべる間も無く、私の周囲の空間が唸りを上げる。仮装宝具を展開、異常な魔力から防護準備完了。

 

『魔力炉制限解放。全兵装起動。バックアップ開始。1京231兆と、2939億8362万5283個の全武装の正常駆動を確認。うん、今日もぜっこーちょー』

「……は?」

 

 キャスターを濃密な魔力が包み込み、その武装を形成していく中聞こえた言葉に、私は耳を疑った。明らかに数の単位が狂っている。逸話を聞いた限り、40代にすら届いていない年齢で死んでしまっている筈なのに、自分で作ったと思われる数としては狂気の域に達している。狂気…? あ、だから狂化持ってるのか。

 そんな事を考えている間に、キャスターの立つビルの屋上の対角状に金色の光が現れ…つい先程まで大橋にいたギル様が顕現した。

 

『こんばんは、英雄王。

 あの決戦の後に戦うのがこんな雑種で悪いけど…今回の宴の決着、つけてもらうよ』

『ふん、何故雑種風情が仕切っているのだ。だが、神そのものと共に在る以上、(おれ)が貴様らを叩き潰す事は必然であろう』

 

 画面越し?でも分かる程の殺意が私達に向かって叩きつけられる。A+の神性がBにまで低下する程の神への敵意、ティアさんがいるからそれを相手にしなきゃいけないのは分かっていたけど、やっぱりギル様は色々と規格外だ。うちの子も大概だけど。

 

『あはは、そう簡単に叩き潰されるとは思わないでよね。これでも私、神殺しなんだから』

『雑種如きが、吠えるではないか』

 

 その言葉を皮切りに、キャスターから埒外の魔力が放出され、ギル様の背後に『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』による黄金の波紋がいくつも現出する。

 

 多くの悲劇を見過ごして保った平穏。

 それが失われる運命(Fate)のレールが私には見えた。

 明日への希望はなく、全てを失う可能性を抱きながら、終局の戦いが始まったこの夜。

 私達の最後の時間が、始まった。

 




既に完成されてるのに手を加えたくなかった末の大胆なカット。
なおセイバーはここから聖杯を破壊させられる模様。ケリィ外道。
本人達は仲良く倍速愉悦time


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zeroに至ってほしい物語 其之参

冬木市の復興予算? あぁ、多分生き残れるさ。



 そう言い終わった瞬間、半分以上暴走させている魔力放出を全開、身体能力を無尽蔵の魔力で無理矢理に強化、空中をも足場にして私は疾走する。

 

「特効設定。対神・人・神秘・男性上限! 対称性質下限!」

 

 その最中、限界まで加速させた思考で大鎌の特効設定を対ギル様用に急速変更する。

 ギル様を倒せる可能性があるとしたら、慢心させたまま勝負を決める事。長引いたら神性がBもある私に勝ち目はない。だからこの一撃で、倒すまではいかなくても重症くらいは負ってほしい。

 そう願いつつ、三歩で私はギル様の背後に到達した。

 

「シ、ぁぁァアアーー!!」

 

 今の私ができる最大最強の一撃。全身全霊を以って振り下ろした大鎌は、黄金の波紋から生じた幾つかの盾によって、それらを何枚か斬り裂いたものの完全に防がれてしまっていた。が、衝撃が完全に消え去る訳は無く、足場のビルの上層階が内から弾けるように爆散する。

 この結果を多少残念に思いつつもそのまま空中を蹴って、空中に浮遊しこちらを睥睨するギル様から距離をとる。

 

「どうした雑種。吠えた割には、随分と温い攻撃ではないか」

「そりゃあ私、キャスターですからね!」

 

 そう叫びつつ、飛来した数個の宝具をステップで避ける。

 物理型キャスターなんて色物はいるけど、本来キャスターは陣地を構えて魔術戦をするサーヴァント、断じて接近戦でヒャッハーするタイプじゃない。だから私の筋力パラメーターだってエミヤと同等のDランク、同じ幼女のジャックとか邪ンタリリィにすら届かない残念ぱわーだ。だから幾ら強化があるとはいえ、本来魔術で戦うべきなんだけど…

 

「ティアごめん、早速お願い」

『了解、マスター』

 

 リュートさんのパチモンとは違い、本物の『王の財宝』を持ってる英雄王にはAランクの魔術は余裕で防がれる。Aランクってのがどれくらいかは忘れたけど、いつもの小手先魔術じゃ通じない事は明らかだ。

 だから、魔術はティアに完全に任せる。比翼連理とはまでは言わないけど、以心伝心の大切な相棒(かぞく)である事に間違いはない。2人で一体のサーヴァントの本領今ここに見せてやる。

 

虚空回廊(ヴォルドール)

 

 『王の財宝』から射出された宝具の第二陣が届く寸前、私は軽く大鎌で空間を斬り裂きその中に潜り込む。このただ魔力消費が抑えられるだけの転移魔術で移動する先は、英雄王の背後ではなく高度を落としに落とした地表。

 そこで私は、自分の切り札の1つをあっさりと発動させる。

 

「束ねるは影打の聖剣、約束された勝利は齎さず、されどその命の本流は、輝く本物(エクスカリバー)にだって劣らない!」

 

 英雄王の『王の財宝』と似たように、私の隣の空間に開かれた半透明の門。そこから顔を覗かせる()()()()()()()()()()全てに、崩壊寸前まで魔力を注ぎ込み上空の英雄王を照準する。勿論聖剣は全部自作だ。

 こちらを補足し向き直った英雄王が一瞬だけ驚愕した様に感じ、それは即座に愉悦っぽい笑みに掻き消されていた。麻婆でも食べてろコンニャロー。

 

「真名開帳ーー集積宝具(アキュムレイト・ファンタズム)栄光に至れ煌炎の剣(カレトヴルッフ)】ッ!」

 

 限界を超え溜め込んだ魔力が解放され、紅混じりの黄金の閃光が迸った。英雄王の背後にあった暗転しているビルの一部を貫通蒸発させながら、収束・加速された極大の魔力斬撃が空へと昇って行く。

 無論、あの英雄王がこんな程度で負ける訳がないから更に魔力を供給して照射を続けるけど、こんな高出力はそんなに長く保たない。具体的には後17秒。その間に次の一手を考えなきゃ、殺られる。

 

『準備完了』

 

 加速した思考の中でアレコレ手を考えてる時に、丁度ティアから合図が入り発動しようとしている魔術の情報も叩き込まれた。効くかは知らないけど、やってみるだけやらないとね!

 

「セーフティー解除、魔力解放!」

 

 動力炉の安全装置を解除し、溢れ出る魔力によって大気を圧縮。積乱雲を形成。それによって気圧が急激に変動する。

 これによって発生するのは、1つの嵐そのもの。全盛期のロイドが固有結界内でよく使ってたけど、教えた私に出来ない道理はない。

 ただでさえ天変地異じみている冬木市の夜空に、雷雲と暴走渦巻く大嵐球が、凄まじい内圧を帯びて螺旋を描く。さあ準備は整った!

 

「『風伯、雷公ーー天降りて罰と成せ

  神威招来(かむいしょうらい)級長津祀雷命(シナツノミカヅチ)ィィッッ!!』」

 

 咆哮と共に解き放った魔術が、通常の何百倍にも増幅された疾風迅雷を天より降らせた。その軌道には勿論英雄王がいた空間が含まれており、並のサーヴァントなら掠っただけで甚大なダメージを負う魔術が空間を蹂躙した。

 付近建物の窓ガラスが全て割れ、地面に引かれたアスファルトは蒸発して燃え盛る煙と化し、それが有害な感じのする臭いを発し立ち込める。

 

「ここまでやれば、少しは…」

 

 先程の大魔術の余波で次々と電気が消え、闇に閉ざされた冬木の町並みを眺めつつ、荒い息を整えながら私は警戒を続ける。

 全力全開の専用調整した大鎌での一撃、魔力を過剰に供給した『栄光に至れ煌炎の剣(カレトヴルッフ)』、トドメにキャスターとして全開の大魔術。そのどれもが、マトモに直撃さえすればルーラー以外は消滅させられるだろう一撃ではあるのだけど…

 

(おれ)が真に戦うべきは、()()の内の神のみだと認識していた。だが今宵の我は気分が良い、貴様もこの我が手ずから滅ぼしてやろう」

 

 濛々と立ち込める煙の中から、予想通りではあるけど最悪の事実を告げる声が私に投げかけられた。これ以上は、街が死んじゃうからそんなに力は出せないんだけど…

 そんな私の心配を他所に、煙のカーテンを吹き飛ばし現れたのは、先程とは比べ物にならない量の黄金の波紋。そして、黄金の鎧をボロボロにした英雄王。身体に傷が見えないのは、エリクサーでも使ったんだろう。ふざけるなチートめ。

 しかも英雄王の顔は愉悦感溢れる笑みに歪んでおり、乖離剣こそ握られてないものの結構やる気になっているようだった。

 

「もうやだいおりちゃんおうちかえる」

『馬鹿なの?』

『キャスター…』

 

 小声で呟いた言葉に、マスターとティアから一斉にダメ出しされた。アッハイダメですかそうですか。

 

「精度を上げてゆくぞ、存分に足掻くがいい!」

 

 そんな楽しそうな声と共に、計六十八丁の宝剣宝槍が私に向け発射された。直撃は大鎌で防げる、でも至近弾でのダメージを負う事は必至。そんな隙を晒したら、ズッ友チェーンでぐるぐる巻きにされて串刺しだね、分かるとも!

 

「だったら、こう!」

 

 色々な系統をチャンポンした魔術を発動、地面に片手をつき錬金術で組成を組み替えて足場を整えつつ『もう1つの世界(アナザーワールド)』から呼び出した物を結合させてゆく。作り出したのは黄金の壁、縦横2m厚さ40cm程のオリハルコンの塊だ。多分これなら少しは耐えてくれるだろう。

 

「ナノゴーレム展開、準備完了!」

『術式展開も完了、サポートは任せて』

 

 金属と金属がぶつかり合う轟音の中、隠れる私の全身から黒い靄が発生し、背負った棺桶がギチギチと軋む不気味な音を響かせる。私の全部を振り絞って、最低でも聖杯が溢れるまでは戦い抜く。

 

攻性転移(アサルトジャンプ)

 

 ティアに発動してもらった魔法によって、壁の裏から刹那の内に内に英雄王の右隣に転移する。その際に撒き散らした衝撃波で体制を崩す隙だらけの英雄王に、私はスキル等で限界まで加速した回し蹴りを叩き込み魔術を発動する。

 棺桶に貯めていた衝撃エネルギー、歪曲させていた時空間の反発エネルギー。それらを、きっと大量の運動エネルギーを秘めた私の右脚で叩き込み解放。桁違いのエネルギーが爆発した。

 

「アトランティス・ストライクッ!」

「ぐっ!」

 

 負荷に耐えきれず膝から先が爆散したけど、代わりに直撃したギル様を新都の建造物群を貫いて、甚大なダメージの手応えと共に()()()()のある方向へと吹き飛ばした。

 




さりげないエミヤへの風評被害。み、見せ筋じゃないから。
Dies的オリ詠唱を出した分、オリ宝具程度じゃもう恥ずかしくないのダァーッ!はぁ…


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zeroに至ってほしい物語 其之肆

遊戯王再開しようと思ったけど、新ルールを見てやる気を無くした人。


 予想通りではあったけれど、右脚が砕けてしまったので左足だけで血溜まりの中に着地。バランスを崩しそうだったので、大鎌を杖代わりにして身体を支える。勿論、危ないから刃の方が下だ。

 

「あーいったいなもぉー!!」

 

 バチャバチャと壊れた蛇口の様に血を噴き出す右足にとりあえず回復魔法を掛けて止血しつつ、英雄王を蹴り飛ばした方向を見つめる。

 手応えは十二分。けどどうせエリクサーで回復してるから十分なダメージにはなっていないだろう。つまり私の足は完全に無駄死に。禿げろ英雄王。

 

『また、髪の話してる…』

「まだ1回目だからね!?」

 

 ベタなネタを入れてきたティアに対応しつつ、本格的にどうしようか悩む。このまま削り合いをしてもいいけど、その場合100%冬木市新都は聖杯の泥より深刻な被害を受けるだろう。それは、このほんの少しの戦闘で吹き飛んだ建物が物語っている。勿論そんな事は望んでないから、やるとしたら手段が限られるんだけど…

 

『きゃ、キャスター、足が……』

 

 そんな事を考えていた私に、マスターが凄く心配そうな声音で話しかけてきた。…流石に、目の前で自分のサーヴァントの足が血とかをばら撒きながら爆散したらそうなるか。

 

「安いもんだよマスター、ギル様にあそこまでダメージ与えたんだし。私は全然気にしてない…っていうか、寧ろこの元自分の右足を素材に何か作りたい」

『シャンクスの真似してる場合じゃないでしょ!』

 

 そう言うマスターの声は、まだ若干震えている。私としても足はどうにかしないと戦えないし、何か場を和ませる良いネタを…よし思いついた。無言で展開していたナノゴーレムを集結、形成し私は自分の右足にある物を纏わせた。

 

「マスター見て見てー。じゃーん、右足だけメルトリリス!」

『…心配して損した。ダメだこのキャスター』

 

 足を高く掲げた私だったけど、マスターにはどうやら不評だったらしい。仕方なく元の自分の足の形に形成し直し、余った部分で自分の身体だった物を回収させながら門内に撤収させる。

 

「まあいっか。それより性能確認しなきゃ」

 

 ガンガンと足を道路に打ち付け、指だった部分をぐーぱーと動かしてみて動作を確認する。硬度は十分、操作性も良いし、感覚もある。うん、これなら問題無さそうだね。

 

「後はこの中に門を開いて…よし、これで完成!」

 

 飛び散ったり攻撃に使って消耗しても問題ない様に門を繋げ、即席の義足が完成する。光を吸収する黒色の義足と銀灰色の防具のコントラストは、見てるとなんだかロイドを思い出して懐かしい気分になる。

 

「義手義足でお揃い…イイネ」

『ひぇっ』

 

 何かマスターが悲鳴を上げて逃げたけど、私だって別に理由もなく切断とかはしない。どこぞのクリミアの天使(狂)でもあるまいし。寧ろそんな事にならないよう手を尽くす側だ。物の作り手としても、癒し手としても。

 

「さてと、マスター。私がもう戦えなくなったら、遠慮なく令呪で例の命令出してね?」

 

 そう言って私は返事を聞く前に再び全身を強化、一目散にこの場から逃走する。瞬間、降り注いだ黄金の雨が、寸前まで私がいた道路を灰燼に帰した。

 

「ふはははは! 先程の一撃は良かったぞ! だが(おれ)があの程度で倒れると思ったか!」

「ああもう! やっぱりこうなるの!?」

 

 続いて私を追って飛来する黄金の宝具の雨。少し目線を上げれば、そこには上半身裸の英雄王が『天翔る王の御座(ヴィマーナ)』に乗っているのが見えた。空中から一方的に爆撃とか狡いと思います。

 

「ティア、詠唱お願い!」

『了解』

 

 道路にこれ以上被害を出すのもアレなので、空中を蹴りビルの屋上付近まで上昇、ある一方を目指して私は逃走する。そしてそれと同時に、私は自分の宝具の詠唱を、ティアは魔術に堕とした魔法を詠唱してもらう。

 

 

Wenn Sie eine Ansiedlung fordern,(あなたが和解を求めるのならば) werde ich sie erhalten(私はそれを受け入れよう)

 

Weil ich dieses(私はまだ)Schwert noch nicht gezogen habe(この剣を抜いてはいないのだから)

 

 

 私が唄いあげるのは、自らの渇望をこの世に流れ出す為の祝詞。幾万と唱えたこの言葉に被せて、この作戦の肝となる詠唱をティアが初める。 

 

その男は墓に住み あらゆる者も あらゆる鎖も あらゆる総てをもってしても繫ぎ止める事が出来ない

 

 ドクンと世界が脈打ち、世界が書き換えられる予兆が感じ取れた。ティアが唱えるのは、獣殿の創造の詠唱。覇道共存は出来ない? だからさっき言っただろう。私のは創造だけど、ティアのは魔術に堕としたパチモンだって。

 

「逃げるばかりで、先程までの勢いはどうした!」

 

彼は縛鎖を千切り 枷を壊し 狂い泣き叫ぶ墓の主

 

 英雄王が何か言ってきてるけど、今はハッキリ言ってそれに対応する暇が一切ない。目的地が効果範囲内に収まるまであと少し、そこまで行けば少しは私に勝ち目も出てくる筈だ。

 

 

Dieses Schwert, das mit dem(魔の血で) gefährlichen Blut geschmiedet wurde(鍛えられしこの剣は)

 

Ich steuere etwas zu Tode auf alle Fälle einmal,(ひとたび抜けば必ず) wenn ich Sie entkomme(何かを死に追いやる)

 

 

 宝具の雨が、道路や建物を粉微塵に破壊していく。私も踏み込むたび壊してはいるけど、それに比べたら微々な物だ。

 

この世のありとあらゆるモノ総て 彼を抑える力を持たない

 

 直撃コースにあった宝具に停滞の波動を浴びせ、大鎌で斬りはらい回避する。そして漸く見えてきた冬木市市民会館。上空に聖杯の穴は確認出来ず、セイバーの姿も確認出来ない。ならそろそろ頃合いだろう。

 

 

Deshalb ohne Bitte mein Imstandesein,(だからお願い) ein Schwert auszulassen(私に剣を抜かせないで)

 

ゆえ 神は問われた 貴様は何者か

 愚問なり 無知蒙昧 知らぬならば答えよう

 我が名はレギオン

 

 完全に同じタイミングで詠唱が終わる。市民会館、射程範囲。英雄王ギルガメッシュ、射程範囲。魔力、十分。術式に綻びなし!

 

創造(Briahーー) 幻想世界・戦乱の剣(Svartalfheimr Dainsleif)

偽造呼出(コール)至高天・黄金冠す第五宇宙(Gladsheimr―Gullinkambi fünfte Weltall)

 

 私の貯蓄を全て吹き飛ばす程の魔力が膨れ上がり、停滞の世界と共に苛烈な黄金の光が世界を侵食した。

 別に私は獣殿じゃないから、この場には戦死者の城は存在しないし、誓約・運命の神槍(ロンギヌスランゼ・テスタメント)も見た目だけのレプリカしか持ってない。だから広がるのは、法則の再現すら出来ていない只のがらんどうな黄金の世界。

 

「くはは! 貴様程度が新たな世界を流れ出そうと試みるか! たかが1柱の神の寵愛を受けている程度で、思い上がるでないぞ!」

 

 何かが癇に障ったのか、弾幕の様な勢いで降り始めた宝具の中私は英雄王に反論する。

 

「別に私は世界を流出させようなんて思ってないよ。けど、ここでもないと全力で戦えないからね!」

 

 そう、私がこの魔術を使ったのは「全力を出したい」それ一点のみ。この願いにおいて、この魔術以上に適切な物があるわけがない。だって、ここでなら何をしたっていいのだから。

 ああ、そうか。アレを言うなら今しかないね。

 

「いくぞ英雄王ーーー武器の貯蔵は十分か?」

 



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zeroに至ってほしい物語 其之伍

fgo、エミヤオルタかぁ…
というかエドモンが出てくるとはいい文明。


「いくぞ英雄王ーーー武器の貯蔵は十分か?」

 

 降りしきる宝具の雨の中私は足を止め、門を開いて反転する。この台詞を言った以上もう逃走は許されないし、今この場所この空間なら『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』程度恐れるに足らない。

 

「我が財の底は、人の知識の底だ。貴様程度が気にかける事ではないわ!」

 

 もしかして、私が作った物も収蔵されてたりするのだろうか? 下手しなくても宝具クラスの物は沢山作ってきたけど。迫る宝具を見つつ、そんな事を考えてみる。

 それはそれとして、折角こんな場所を用意したんだから、一回くらい本物の真似をしてみるのも許してほしい。私だって、少しははしゃぎたいのだ。

 

「第十——SS装甲師団(フルンツベルク)

 

 私が開いた門の中から、大量のパンツァーファウストが宝具の雨に向かって発射された。それらは残念ながら髑髏の群勢じゃなくて生前私が手ずから製作した物。だから神秘は詰まってるけど、ただそれだけだ。

 けれど威力は十分。打ち出される宝具を迎撃しつつ、数発は英雄王に向かって攻撃する事が出来ていた。有効打にはなってないけど。

 

「至高の天はここにあり! なんちゃって」

 

 絶え間なく発射される宝具とパンツァーファウストが奏でる轟音の中、ちょっとだけカッコつけてみたけど言ってて恥ずかしくなったからやめる。流石にこのままじゃジリ貧だし。

 手に持った大鎌で地面をコンコンと叩き、大きめの門を展開する。そこから出現するのは、本体は出せないので一部であるバカでかい砲身。これは現実世界じゃ絶対に使えない兵器、でも生前は大活躍だったから威力は間違いがない。

 

「砲身の展開と魔弾の装填完了。ドーラ&グスタフ擬き、てー!!」

 

 その正体は2両の列車砲。都市の区画を1つ消し飛ばせる砲弾を発射可能な陸上の戦艦。それらから頭のおかしい大きさの砲弾が2つ、衝撃波を撒き散らし発射され『天翔る王の御座(ヴィマーナ)』に向かって一直線に飛翔して行く。

 

「何ッーー!?」

 

 即座に上昇して回避しようとした英雄王だけど、2つの魔弾はそれを追尾する様に宝具を蹴散らしガクンと曲がった。

 思考と同じ速さで動くとか物理法則に範疇にないとかいう触れ込みの『天翔る王の御座』だけど、本来の搭乗者じゃないから性能は中途半端にしか発揮できない。だったらこの、ありふれた必中の効果を与えただけの砲弾でも、落とせないことはない!

 

「ばーんっ」

 

 左手を銃の形にし英雄王に照準。口でキーワードを唱えたのと同期し、『天翔る王の御座』の付近で2つの砲弾が極大の爆発を引き起こした。爆炎が発生した直後から宝具の雨が止み、刺す様な殺気も消え去った。

 だけど油断なんて出来はしない。だって私の知る限り、あのバビロニアの英雄王が、ギルガメッシュがたかがこの程度で倒れるなんてありえないから。

 

「ティア追撃!!」

『イエス、マイロード』

 

 半分以上返事はふざけているけど、やってくれた仕事は一流だった。銃火器の制御をしてる私の背後に発生する5つもの巨大な魔法陣、魔力炉のバックアップを受けて十全に作動するそれらが、私が銃火器を撃つ事を止めた瞬間炸裂した。

 

熾凍の咆哮(ディス・フィ・ロア)五重奏(クインテット)

 

 魔法陣が収束し、五条の紫色の閃光が爆煙の中に放たれる。そして内側から煙を吹き散らすように、合体した炎と氷が合わさって最強に見える竜巻が発生した。なぜだか切実にサメを投入したい。

 とりあえずその欲を振り払い、吹き荒れる竜巻を私はじっと見つめる。グチャグチャになった黄金の破片が竜巻の中に見える。これはどうなったんだろうか? ギル様は気絶したのか、或いは消滅したのか。

 分からないから、とりあえず追撃して確かめる事にしよう。

 

「天廊守護せし毒の龍……ここに。星のように来て! 壊毒の彗星(ドゥレムディラ)!」

 

 マルタ姐さんの宝具を意識した詠唱で発動した魔術によって、暴れる大竜巻を押し潰す様に、上空から黒紫色の巨大な結晶体が落下してくる。あれは私の世界の神様なら殺せる劇物、こっちでも通じるかは分からないけど、効かない事はないはず。

 だからこそ、トドメを刺すべく壊毒の彗星の上に転移、空中で一回転し右足を伸ばして落下する。

 

「ライダー、キィィィック!!」

 

 無機物と化した右足で流星を後押しし、魔力放出で更に加速して落下する中、刺す様な殺気が復活したのを感じた。あ、マズイ。

 そんな考えが頭を過ぎった瞬間、流星が異音を発し内側から爆発した。見覚えのありすぎる金色の宝具群がその破片を破壊し、竜巻を吹き飛ばし、私が引き起こした災害を全て跡形もなく吹き飛ばす。

 

「天の鎖よ!」

 

 やる気を出させちゃった事に数瞬固まった私に、ぐるぐる、グルグルと虚空から現れた金色の鎖が巻き付いていく。手首に、肘に、肩に、首に、胴に、膝に、足首に巻き付いた天の鎖(エルキドゥ)が私を締め上げ、空中に縛り付ける。

 

「この我を相手にここまで持ち堪えた事、まずは褒めてやろう」

 

 私の魔術の残骸を吹き払い現れたのは、上半身裸の英雄王。相変わらず『王の財宝』から武器を出してるし、普通に無傷でイラッとする。全回復してくるラスボスとか、あいつ思い出すじゃんこんにゃろー。

 

「だがこれにて終いだ。良い祭だったぞ」

「ははっ、ここまでやっても戦闘じゃないのかぁ…」

 

 こちらを見上げる英雄王に対して、私もくっ殺的な感じで睨み返す。勿論口が裂けてもそんな事は言わないけどね。

 そんなしょうもない事を考えつつ、一縷の望みを掛けて『天の鎖』を千切ろうと力を込めて見たけど…やっぱりダメだった。千切れる気配が微塵もしない。神性がBもあると余裕のアウトだね? 分かるとも!。バサクレスさんが千切れたのは、バサクレスさんだったからみたいだった。

 

『当たり前。悪いけど、今のマスターとヘラクレスじゃ、格が比べ物にならない』

 

 それもそうだ。というか、この事に関してはほぼ無理と思ってたから案外どうでもいい。それよりも、ティアだけでも脱出したりする事は出来そう?

 

『無理。思った以上に、天の鎖の拘束がキツイ』

 

 このティアの言葉を聞いて、私は切り札が1つ無くなってしまった事を確認した。いざとなった時、私から不意打ちでティアを出して2対1にしようと思ってたんだけど、この手段はもう使えない。

 だから、諦める?それはない。最後の最後まで抵抗するに決まっている。

 

末期(まつご)の祈りは済んだようだな。ならば、疾く失せるがいい」

 

 そう英雄王が言い、私を取り囲むように『王の財宝』が展開された。そこから覗く宝具は全て私を照準しており、これらが解き放たれた場合私は即座に挽肉になるだろう。そう、あくまで撃たれたらだけど。

 

「詰めが甘いよ、英雄王」

「何?」

 

 全身を拘束されたまま私が言い放った言葉に、ギル様が不快そうに眉を顰める。

 私はセイバー等の三騎士でも、ライダーでもバーサーカーでも…多分ない。力で抑えられる他のクラスと違って、私のクラスはキャスターだ。魔術師を、たかが身体的に拘束しただけで満足するとか、不十分にも程がある。こういう事があるから、慢心王って言われるんだろうね。

 

「真の英雄は目で殺す! ブラフマーストラ!」

「ぬぅっ!」

 

 あの不愉快な顔ではなく、英雄王の右肩を狙って私は不完全な宝具もどきを放った。私の左眼から放たれた熱線が、狙い通りに着弾・貫通し爆発を引き起こした。

 なんて仰々しい事を言ってみるけど、私のこれは本来の対国宝具たるブラフマーストラの、極めて劣化した搾りかすみたいな出来損ないだ。戦に明け暮れてはいたけど明確な武の師はおらず、スキルなんてモノに頼っていたから何か武術を極めてもいない。だからカルナやラーマのモノと違って漢字でルビ振りも出来ないし、ただの爆発するビームに成り下がっている。

 

「我の決定に反するか! 不敬であるぞ!」

 

 右肩を抑えた英雄王が一歩後退し、左手で合図を下した。震えだす宝具群と、私の拘束を天の鎖が強化する中、私も笑って答える。

 

「生前から、偉い人って気に食わなくてね!」

 

 右足のナノゴーレムを解放。自分の周囲に、足を起点に幾千幾万の斬撃として再構成して迎撃する。今の私が操作できるゴーレムの射程圏外に英雄王がいるのは残念だけど、今はそんな贅沢言ってられない。こんなショボい物じゃ、時間稼ぎがせいぜいだろうから。

 

「やるよティア!」

『承知した』

 

 迎撃仕切れてない原初の宝具が全身に突き刺さり、段々と動かなくなっていく身体で私は最後の魔術を使う。発生させたのは、魔術での探査も肉眼での確認も妨害するナノゴーレムの煙幕。自分の勝ちじゃなく、次に続く者を支援する魔術だ。

 

「さて、後は任せたよ…愛鈴(マスター)

 

 結局今回も私は、最後の最後に勝つ事が出来なかった。だけど今回に関しては、ロイドと一緒に死んだ最後みたいな後悔はない。確かにマスターは心配だ。けれど、ここまで来れば私達の勝ちは疑いようもない。

 

「あの英雄王に、目にもの見せてやって!」

『……分かったよキャスター』

 

 マスターの中のスイッチが切り替わったのを感じた。これでもうどうとでもなるだろう。崩壊していく霊基で、私は私達の勝利を確信した。

 

『我が手に輝く、全ての令呪を以って命じる。

 ーーーー貴女の総てを私に継承して! キャスターッ!!」

「『是非もなし』」

 

 私とティアの声が重なり、令呪によって供給された莫大な魔力による全能感が全身を包み込む。

 そして、次の刹那には私の意識は光に溶けて消滅していた。

 




7割くらいネタの次回予告

「「『すべては、勝利をこの手に掴むためッ!!』」」


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zeroに至ってほしい物語 其之陸

fgo新章楽しい。
新宿の邪ンヌと黒王様の差分下さい。
そしてホームズじゃねえか!知ってたけど


「我が手に輝く、全ての令呪を以って命じる。

 ーーーー貴女の総てを私に継承して! キャスターッ!!」

 

 キャスターによって致命的な部分が切り替えられた私は、葛藤の果てに言ってしまった。キャスターと事前に打ち合わせてた事ではあるけど、あらゆる意味での恩人を消滅させ、取り込む最悪の宣言を告げてしまった。

 

「『是非もなし』」

 

 令呪という聖杯からマスターに与えられる、サーヴァントに対する3度の絶対命令権。それを全て消費した事によって、私とキャスターを桁外れの魔力が包み込む。納得した様に頷いたキャスターが、銀色の魔力に解け私に吸収され、それによって何でもできる様な気分がどこからともなく湧き上がり……

 

「あ、が、ぁあ゛ア゛あ゛あ゛あ゛ア゛ぁぁァァァッ!!!」

 

 全身を灼く激痛が私を現実に引き戻した。

 キャスターの霊基を取り込んだせいで、私の細胞の1つ1つが元の自分ではない何かに書き換えられていく。当たり前だ。幾ら神代のキャスターが手ずから調整していたとはいえ、所詮私はただの人間。英霊を受け止めるには、器が些か以上に足りていなかった。

 

 勝手に魔術が暴走し自分の観測を始め、明らかに私が変貌する様を見せつけてくる。

 まず叫ぶ私の髪の毛から、ストレスか魔力の暴走かは分からないけど色素が完璧に抜け落ちた。更にそこに魔力が充填され、キャスターと同じ綺麗な銀髪(プラチナブロンド)に色が変化する。

 次に左眼の視界が赤に染まった。黒い日本人らしい目に魔法陣が刻まれ、明滅しながら鮮やかな紅に変色する。

 そしてこの黄金の世界を維持する為に不完全な身体から魔力が搾り取られ、異界からそれ以上の魔力が供給され訳のわからない感覚が私を犯していく。

 

「くだらん。ただの茶番ではないか」

 

 そんな最悪な状態の中、私の耳にギル様の声が聞こえた。声の聞こえた方向を見ると、明らかに不機嫌な顔のギル様が『王の財宝』の波動を背負いこちらを睥睨していた。

 どうやら私はいつのまにか、異界から弾き出され戦場に投げだされてしまった様だった。

 

「しばし様子を見ようと思っていたがやめだ。見るに耐えん。消え去るがいい、雑種!」

 

 侮蔑を帯びた目でこちらを見るギル様が、痛みに絶叫する私に『王の財宝』から原初の武器群を投射する。これは今の私にはどうしようもない。こんな激痛を受け続けるくらいなら、もういっそ殺されちゃえば楽かもしれない。

 そう諦めに絡めとられ早々に命を散らそうとした私の前に、見覚えのない筈なのによく知っている障壁が発生し宝具群を弾いた。

 

『うん、これならいけそう。ティアの方はどう?』

『問題ない。むしろ調子がいいくらい』

 

 続いて発射された第二波、第三波も同じ薄紫色の障壁が受け流し私を守ってくれた。今聞こえたのは幻聴かもしれないけど、それでも少しは気力が湧いた…かな。

 そう納得した瞬間、私の変異が加速した。

 

「…へ?」

 

 溢れ出る魔力で髪が編まれ、一気に腰ほどの長さまで成長した。

 バキバキと人体から鳴っちゃいけない音が発生し、身体の中身が破壊され、結合され、発狂しそうな激痛と共に新たな物体として再構成される。

 更に変貌は身体的なモノだけに止まらず、精神的な部分にまで侵食してきた。私の知らないキャスターの記憶が流入し、私の記憶に継ぎ足され、それによって壊れ燃え尽きそうになる精神が無理矢理に継ぎ接ぎされ再生させられる。

 それが繰り返される事、都合27度。再生される頭の中で、何かが致命的に狂って再生されたのがわかった。

 

「マ、ズイ」

 

 地獄の様な責め苦の中、私が発する事のできた言葉はそれだけだった。このままじゃ「私」が壊れるという確信が私を貫く。

 けれど、考え事をする余裕がないほど辛く苦しいのに、私の頭は勝手に記憶を再生し始めた。

 

「なに、こ、れぇ……」

 

 暗転。

 次の瞬間目一杯に映し出されたのは、現代ならばどこにでもありそうな路地。時間は夜なのか、異様に世界が暗い。

 自分の精神が引き返せと絶叫するけれど、この記憶の再生は止まらない。

 そして私はある事に気づいてしまった。今私が見ている光景は、とてもとても高さが低い。それこそ、寝転がっているみたいに。

 

『73zs、ztj5q#…』

 

 よく分からない声が聞こえた方向に、記憶の中の誰か何故か目だけを向ける。

 そこに立っていたのは、明らかに目がイッている中年の男性。これといった特徴は見受けられないけど、その手に持った()()()()()()が異様に目についた。……血塗れの包丁?

 

『vz』

 

 記憶の中の誰かが掲げた震える手は、恐らく自らの血で真っ赤に染まっていた。上手く力が入らない様で這って逃げる誰か。その視界に横転した自転車と、血の池が映りこむ。そしてゆっくりと、こちらに恐怖を与える様に歩いてくる中年を視認した時、私は強制的に理解させられた。

 

「これ、もしかしなくても、私の記憶…?」

 

 言葉には言霊が宿っていると聞いた事はあったけど、まさにその通りだった。そんな事を言ってしまったせいで、忘れていたかった私の記憶が完全に蘇った。学校、部活、遅くなった帰り、連続殺人、犯人、黒魔術に傾倒、女子供を好んで襲う、寄り道、激痛、血血血血、そして訪れた結末。

 これは遠い遠い昔の記憶。今の今まで私が忘却の彼方に追いやり、目を背け封印していた、前世の私の死の記憶。

 

「やめて」

 

 スカートから伸びる白い足を斬り裂かれ、記憶の中の私が絶叫する。これ以上見たくなくて目を背けるけど、この記憶の再生は未だ止まらない。

 この記憶は、私が死んだその瞬間まで止まる事はない。

 

「やめてやめてやめて」

 

 身体をひっくり返され、頭を道路に強く打ちつけた。嫌だ嫌だと首を振り逃げ出そうとしても、意識しかないこの状況じゃ何も出来はしなかった。

 それと同時、私がまだとても小さかった頃の記憶も蘇る。この焼きついた記憶のせいで、いつも怖くて怖くてお母さんにしがみついて泣いていた記憶。

 

「やめてやめてやめてやめてやめて」

 

 脂ぎった中年の顔と、その手の凶刃が街灯の光を反射してキラリと光る。

 だけどここに頼れるお母さんはいない。私が取り込んだから、お義母さん(キャスター)も存在しない。だから1人でこのトラウマに立ち向かわなければいけない。いけないんだけど……そんなのは無理だ。私なんかがこれに堪えられる可能性は、どう考えても0だった。

 

「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめて!」

 

 崩壊へと全力疾走する精神だったけど、混ぜ込まれ一部同化した英雄(バケモノ)の魂がそれを許さない。この程度で壊れてどうすると、無理矢理に気力で持ち堪えさせられる。

 

「やめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてやめてッ!!」

 

 そして記憶の中の私に凶刃が振り下ろされ、振り下ろされ、振り下ろされ振り下ろされ振り下ろされ振り下ろされ…プツンと映像が途切れる。記憶に焼き付いているのは、下卑た中年の笑みと鮮明な死の記憶。

 いつだったか、身体が生きてても心が死んだと認識したら、人は身体の動きをも止めるって話を聞いた事がある。それが本当か、迷信かは知らないけど、もしかしたら私はここから帰る事は出来ないんじゃなかろうか? 嫌だ。怖い。誰か、誰でもいいから…助けて。

 

『マスターッ!!』

 

 そんな不安に押しつぶされる寸前、聞き覚えのある大声がガンと頭に響き、私の意識が戦闘中の現実に引き戻された。

 

「ぅ…ぁ、きゃすたー?」

『そうだよマスター。いきなりマスターの意識が消えたから、すっごく心配したんだよ!』

『おかえり、大マスター。意識のサルベージ、苦労した』

 

 私の頭の中で、2つの声が別々に響いた。その不思議な感覚に戸惑い、けれど今最も聞きたかった声が聞けた事による安堵が口から漏れそうになり…

 

『だけどもう、限界。避けて、マスター!』

 

 キャスターの警告が頭に響き、カシャンと何かが砕ける音を私の耳が捉えた。そして突然私の左眼に文字が踊り、半透明の赤い線が私の全身を貫いた。

 

===《宝具/威力 高/範囲 大/王の財宝/脅威度 大》===

 

 その表示を認識した時、私の身体が反射的に動いた。

 自らの宝具たる大鎌を展開……できなかったので、異界からスペアの大鎌を呼び出し装備。身体に染み付いた動きで回避しつつ、その全てを斬り伏せた。

 

「半端者の雑種風情がっ!!」

 

 その事が癪に触ったのか、ギル様が更に宝具を射出してくる。それをヒラヒラと躱し、大鎌で斬り払いつつ私はキャスターに問いかける。

 

「キャスター、なんで宝具使えないの!?」

『アレは特別性だから…その、調整中』

「コンマイかっ!!」

 

 そして何個か原初の宝具を斬り払いったところで、使っていた大鎌が砕けた。即座に別のスペアに切り替えるけど、成りたての半端者がいつまでも保つ訳がない。

 

「英霊を取り込み、自らを無理矢理に押し上げた存在など、存在するだけで不愉快だ。潔く逝くがいい!」

「煩いんだよ金ピカ!」

 

 私は英雄王の言葉に、敬意とか全てを忘れて怒鳴り返す。

 そう、アレを思い出して私は確信した。私は、絶対にあんな死に方はしたくない。あの感覚は2度と味わいたくない。なのに英雄王は、私を殺そうとしてくる? アレよりも酷い殺し方で?

 

「私が目障りなら、貴方が消え去ればいいんだよ!!」

 

 巫山戯るな。傲慢も大概にしろ。私はお前達(英霊)みたいに強くないただの子供なんだ。そんな事を言うならお前が消えればいい。死に絶えろ、死に絶えろ、全て残らず塵と化せ。絢爛たる輝きごと、一切合切滅んでしまえ。

 

「痴れ者が……。雑種如きが、王に死ねと吼えるか!」

「幾らでも言うよ英雄王。貴方は人類の裁定者らしいけど、そんなの知るか! 今ここ、この瞬間じゃ、貴方が消えればいい!」

 

 裂帛の気合いと共に振り抜いた大鎌で、迫る宝具を薙ぎ払う。そのせいでまた大鎌が砕けたけど、その残骸を投げつけ壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)。その隙に新たな大鎌を取り出す。

 

『うわぁ…マスター、狂化入ってる?』

『マスターマスター、頭にブーメラン刺さってる』

 

 頭の中でどこか漫才じみた会話が聞こえたけど、とりあえずそれは意識から追い出し私はギル様に意見をぶつける。

 

「確かに私は成り立ての半端者(擬似サーヴァント)で、どうしようもない雑種で、救いようもない転生者(死に損ない)だよ。けどね、だからこそ死にたくない。よしんば死ぬにしても、無残に殺されるなんて事だけは、真っ平御免なんだよ!!」

「ふん、この時代にしては珍しいが凡庸な理由よな。今ひとつ面白みに欠ける。なれば、我が失せろと言ったのだ、疾く果てよ!」

 

 魔眼が示す未来の攻撃予測を大鎌でなぞり迎撃しながら、私は自分に新しく埋め込まれた知識を探る。キャスターの戦い方のままじゃ、同じように英雄王に負けるだろう。だから生き残るためには、新しい方法を探さないといけない。だけど今の私が使えるモノで、英雄王に対抗できる魔術なんて…

 

『そこは気にしないでいいよ、マスター。なんてったって私の身体だもん、多少の無茶ならどうとでもなるから』

『それに細かい制御は、大マスターだけじゃなくて、私達もサポートする。心配無用』

「分かった。ありがとう…キャスター、ティアさん」

 

 そう言う事なら話は早い。自分に掛かる負荷さえ無視できる覚悟があれば、対抗手段はそれなりに捻出できる。こんな英雄(バケモノ)と同じような思考をしている自分自身に途轍もなく気持ち悪さを覚えつつ、最後の一線を私は踏み越えた。

 

「第四宝具、解放『雷炎の複合鎧衣(ドレスアーマー・オブ・ヘパイストス)』」

 

 溢れ出る魔力によって暴れまわる、腰ほどの長さの銀髪(プラチナブロンド)。生気がなく虚ろな生来の色の右眼と、反対に戦意と生きる意志が満ち溢れた紅の左眼。キャスターと瓜二つの幼い身体、それが今の私の姿だった。

 

「第二宝具、接続『もう1つの世界(アナザーワールド)』」

 

 私が発動しようとしてる魔術によって、生来のもの、キャスターに増設されたもの、そしてキャスターを取り込んだ事で激増した魔術回路が焼き切れる寸前まで稼働する。

 

「天昇せよ、我が守護星ーーー鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため!」

 

 そして私は、空間が歪んで見えるほどの魔力と燃え盛る巫女服を纏い、満を辞して戦闘に身を投じたのだった。

 転生者(死に損ない)の書き綴る、出来損ないの英雄譚を歌いあげよう。




Q.つまりどういう事?
A.覚醒銀城ちゃんが、ガチバトル参戦しました。


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zeroに至ってほしい物語 其之漆

【BGM:星を掲げる者】かな?やっぱり


「天昇せよ、我が守護星ーーー鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため!」

 

 元にした神星と英雄の様な正義や大義(プラス)なんて物は、私の中には一片たりとも存在しない。私にあるのは恐怖で振り切れた負の精神(マイナス)だけだ。正規の英霊であるキャスターにはあるかもしれないけど、生粋の邪神たるティアさんはその存在事態がマイナスに振り切れている。

 

『あっははは! マスター頭おかしいよ! よりにもよってこれを選ぶとか!』

『マスター、まだ頭にブーメラン刺さってる』

 

 絶大なプラスの重ね掛けが出鱈目な新生を顕現させるなら、暴論だけど振り切れたマイナスの重ね掛けでも出力は劣らないプラスになる筈だ。もし劣っていたとしても、そこにプラスが重ねられるのだから資格はギリギリ満たしている。

 ならばやる事はただ1つ。自らが望む未来を目指し駆け抜けよう。

 

「おお、輝かしきかな天孫よ。葦原中国(あしはらのなかつくに)を治めるがため、高天原より邇邇藝命(ニニギノミコト)を眼下の星へ遣わせたまえ。

 日向(ひむか)の高千穂、久士布流多気(クジフルタケ)へと五伴緒(イツトモノオ)を従えて。禍津に穢れし我らが大地を、どうか光で照らしたまえと恐み恐み申すのだ」

 

 これは天津の果てから響き渡る、光を讃えて祝う詠唱(こえ)

 本来私みたいな異分子(エラー)が唱えちゃいけない、極限まで凝縮された歓喜、喝采、正の賛歌。

 けれど自分を騙し世界を欺き、掲げられた太陽の輝きが、爽快に一つの未来だけを見据え輝く決意を撒き散らす。

 

「鏡と剣と勾玉は、三徳示す三種宝物(みくさのたから)。とりわけ猛き叢雲よ、いざや此の(くび)刎ねるがよい――天之尾羽張(アメノオハバリ)がした如く。

 我は炎産霊(ほむすび)、身を捧げ、天津の血筋を満たそうぞ。国津神より受け継いで焔の系譜が栄華を齎す」

 

 幼すぎる声で唄われる再誕の祝詞に淀みはなく……されど本来奏でる事の許されない旋律は、一句毎に肉体と魂を焼却せんと私を侵食する。

 扱うための魔力は十分。けれど騙し欺くだけでは、中身(こころ)が絶望的に力不足。いつか光の英雄に憧憬を抱いただけの人間じゃ、不合格として焼き尽くされるだろう。

 

『『天駆けよ、光の翼ーー炎熱()の象徴とは不死なれば。

 絢爛たる輝きにて照らし導き慈しもう。

 遍く闇を、偉大な雷火で焼き尽くせ』』

 

 それがどうした? その程度、本家本元に倣って私は気合いと根性で苦痛に耐えよう。そうしたら、(キャスター)が最後の壁は乗り越えてくれるのだから。頭に響く輪唱がその答えだった。

 (半人前)には出来なくとも、(キャスター)になら超える事ができる。なにせ、そもそも彼女達は英霊という神秘の塊かつ、自ら世界の(ことわり)を流出させる者。この程度の事が出来ずしてどうすると、物理法則(あたりまえ)をねじ伏せる。

 

「ならばこそ、来たれ迦具土神(カグツチ)。新生の時は訪れた」

 

 今は、私たち3人で1人の人間。資格は示した。ならば主導権を握っている私も自分を振り絞らないと、情けないにも程がある。だから今、私は寿命(いのち)を燃料にして擬似的に限界を超えていく。

 

『「煌く誇りよ、天へ轟け。尊き銀河を目指すのだ」』

 

 だってそうしなければ、自分の魔術か英雄王かに食い潰されてしまうから。

 私の本質は混沌・狂(マイナス)、幾ら擬似サーヴァントとなったところでそこに一切の変化はない。だからこそ生み出せる《逃げ出したい》《死にたくない》《戦いたくない》《恐ろしい》《もう嫌だ》といった負の感情を、爆発させ纏めて恒星と為す。その負の太陽が邪神と関わり性質が反転し、英雄の助力によって完成する。

 

『「ーーこれが、我らの英雄譚」』

 

 故に生まれるのは、歪な太陽に照らされた出来損ないの英雄譚。筋書きはありきたりで、役者だって役不足は否めない、面白みのない路傍の石ころみたいな物語。

 運命の車輪に巻き込まれた私の限界にして、いつか終点に至る事の確定した出発点。

 ただの少女が、ただ生きたいが為天に奏で奉ずる、空想の物語。

 

超新星(Metalnova)ーー

 大和創世 日はまた昇る 希望の光は不滅なり(Shining Sphere Riser)

 

 なんとなく運命(Fate)に流される事を辞め、生ききる為に確固たる意志を持って英雄王(最悪の敵)に立ち向かう。まるで物語の主人公みたいな決意で、私は魔術を完成させた。

 だから、今一時だけ私は星を掲げる者(スフィアライザー)

 自分の掲げた星で自分を焼き焦がしながら、遂に空想を現実に反転させた。

 

「待っててくれるだなんて、随分と余裕だね英雄王」

『それとも、自慢の財宝が蒸発するのが嫌だったのかな?』

 

 今使える最高峰の魔術の発動には成功した。けれど油断も慢心も、これからしちゃいけない。なにせ魔術に喰い殺される危険も、英雄王に勝てる可能性も僅かにしか変動してないのだ。だからこそ、挑発してペースを崩そうと試みた。

 

「細部まで見通す事は叶わなかったが、雑種が不遜にも何処かの神をその身に降ろそうとしているのだ。降ろされた神ごと粉砕せねば意味がなかろうが。

 故にだ。その程度の挑発に乗るほど、今の我は安くないぞ? 雑種」

 

 が、挑発は意味をなさず逆にこっちが挑発される結果になってしまった。万物見通す千里眼に、数多の財宝が納められた蔵、極め付けには乖離剣エア…タダでさえ精神が未熟なこちらが、ちょっと覚醒しただけで太刀打ちできないのも納得だ。

 これじゃあもう、正面突破しか手段はない。脳内で会議する事コンマ数秒、そう確信し焔で形成した大鎌を英雄王に向ける。

 人類の裁定者たる黄金と、ただの転生者(死に損ない)が溢れ出させる魔力が不気味な色彩を描き、両者の魔力が高まっていく。

 

「だったらもう、加減なしでいかせてもらうよ英雄王!

 私の人生(みち)に、貴方の存在は邪魔なんだよ!」

「粋がるなよ雑種。この我を相手に神などの力で挑んだ事を、冥府の底で後悔するがいい!」

 

 次の瞬間、異界に爆音を轟かせ私の最終決戦が始まった。

 

 

 煉獄の如く燃え盛る炎の中、セイバーは歩みを進めていた。

 原作と違い魔力の消耗こそ軽微であるが、膚は血の気が失せ白蝋の様に青褪め、目には虚無が湛えられ足元は覚束ない。いっそ反転(オルタ化)してしまえれば楽なのだろうが、それも不可能だった。

 ふらつきながら、躓きながら、それでもセイバーは進むのを止めなかった。

 理想を否定され、狂化した友の遺品を突きつけられ、外道に好敵手を奪われて。それでも彼女には、遂げるべき責務があった。王として果たさねばならない誓いがあった。それらを完遂する為の最後の手段は、万能の願望器たる聖杯を手中に収める事だけだった。だから進んだ。折れそうな心のままで。

 ついに一階に辿り着き、エントランスを抜けて両開きの扉を開け放つ。眼前に、広大な吹き抜けのコンサートホールが開けた。そして正面の舞台の中央には、燦然と輝く黄金の杯が、炎に囲まれ浮いていた。

 

「あぁ…」

 

 一目で知れた。紛れもなくあれこそが目指す聖杯だと。

 本来の筋書きと違って、ここに黄金のアーチャーは現れない。故にあと少し、ほんの少し足を進めるだけで願いは成就する。

 だがそれを知らないセイバーは、はやる気持ちを抑えゆっくりと一歩を踏み出した、そのとき。

 

 ーー衛宮切嗣の名の下に、令呪を以ってセイバーに命ずーー

 

 セイバーの魂の根幹そのものに働き開ける声が響いた。

 声の主は2階席の高さにある壁面から、テラス状に張り出したボックス席にいた。

 今この状況で、何をと計りかねるセイバーに

 

 ーー宝具にて、聖杯を破壊せよーー

 

 最後に残った全てを壊す命令が下された。

 




ちょっと外の様子を入れたら始められなかった(´・ω・`)


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zeroに至ってほしい物語 其之捌

シルヴァリオ・ヴェンデッタ成分多めでお送りいたします。


「ハァァァァッ!」

「どうした、何かしてみせよ」

 

 私が振るった大鎌の軌跡をなぞり爆炎を発生させ、桁違いの熱量で原初の宝具達を蒸発させる。しかしその爆炎の向こうから新たな宝具群が飛来し、続いてこちらも迎撃するというイタチごっこに現状は陥っていた。

 自分で使っておいてなんだけど、そもそもの話「英雄王ギルガメッシュ」との相性自体が元々最悪なのだ。こちらが死因を持つ英霊である以上、宝具群の中にあるそれに繋がる物により撃破され、神性がある以上神殺しには勝ち目は薄い。

 だからこそ、こちらが何倍もの出力で相対しなければいけない。奇をてらった使い方なんてした場合、私はこの魔術に問答無用で焼き尽くされるだろうしね。この魔術を使ってるうちは、私たちは王道しか歩ませてもらえない。

 

「そんな事を言うなら、貴方本人が、手ずから私の命を摘めばいい! この慢心王が!」

「慢心せずして何が王か! 貴様程度、全力で相手するに足りんわ!」

 

 毎秒上昇していく出力で放った大火球が、マシンガンの様に放たれる宝具の雨を蒸発させ英雄王に迫るが、突如『王の財宝』から出現した盾によって打ち消され消失する。

 いくらこの魔法が、王道を選ぶ限り出力を天井知らずに…それこそ私の命をも顧みず上昇すると言っても、今みたいに炎を打ち消す宝具なんて使われたら最悪の一言に尽きる。だからこそ、

 

『斑の衣を纏う者よ、AGLAーー来たれ太陽の統率者。

 モード失楽園より、ウリエル実行!』

 

 限界を超え上昇した出力でキャスターが放った数億度に達する劫火が、炎の打ち消す宝具をそんな効果を無視して蒸発させる。いくら打ち消すとか消滅させるといった宝具でも、所有者でしかない以上英雄王には太陽の直撃は防げない。そして、発生した光熱の余波が英雄王を襲い焼き焦がし、次の瞬間にはその爛れた皮膚が再生した。

 王の玉体がどうのって話なんだろうけど、果てしなくウザい。消えてしまえと願う気持ちが増大したお陰で、私の限界を超えて更に出力は上がっていく。

 

「ちぃっ、天の鎖よ!」

 

 舌打ちしながら展開される対神性の最終兵器、天の鎖(エルキドゥ)。確かにそれは、今の私にも有効だろうね。一度捕らえられたら、多分2度と脱する事は出来ないだろう。あくまで捕らえられたら、の話だけど。

 

「それはもう知ってるんだよ! 開け『もう1つの世界(アナザーワールド)』」

「なにっ!」

 

 射出された黄金の鎖を私に届く前に異界に呑み込み、即座に門を閉じ固定、無力化に成功した。キャスターの力を受け継いで、更にその当人から直接のサポートを受けているお陰で出来る芸当だった。

 自信満々に繰り出したズッ友チェーンを破られた事で、一瞬ではあるが英雄王の動きが止まり…その十分な隙に私は大魔術を組み上げた。

 発動し続けているこの魔術の真骨頂は炎じゃなく、()()()。命も魔力も演算能力も酷使するけど、それさえ厭わなければ戦略兵器の真似事だって問題なくできる!

 

創生(フュージョン)純粋水爆星辰光(ハイドロリアクター)ーー消し飛べぇ!」

 

 それは重水素と三重水素の核融合第一段階から生み出される、前世の私からしても今の私からしても未来の戦略兵器。放射能を発生させない、清潔(クリーン)な虐殺の火。因みにキャスターの知識そのままだから、意味はあんまり分からない。

 けれど、解き放たれた大熱量は絶望的なまでに巨大。この展開している異界すら消し飛ばさんとする炎の波濤が、私たちごと英雄王を呑み込んだ。

 

「キャスター、ティアさん!」

『はいはいっと』

『全く、邪神使いが荒い』

 

 勿論、これに何の対策もしなければ私だって骨まで残らず焼滅する。だから戦闘する私とキャスターと、術式を制御してくれてるティアさんとで最大の防御魔術を行使する。

 元々のスペックも考えて、十分に耐えられる。そう確信した私の目の前で、全力に近い炎が忽然と消え去った。

 

「おのれ…雑種如きが、我に財を使い捨てさせおって!」

 

 そんな声と共に飛来した氷の斬撃、炎の刀身、弓矢が防御に使っていた炎の壁に当たり蒸発した。攻撃から察するに、1個目のは知らないけど、2個目は『万海灼き祓う暁の水平(シュルシャガナ)』、3個目は…『真・射殺す百頭(ナインライブズ)』…だったらいいなぁ。違ったら恥ずかしいね

 

『まあ、うん。無駄遣いは良くないよね。うっ、家計簿を作った時の悪夢が…』

「偶には無駄な浪費くらいいいでしょうが!」

 

 内にも外にも半ギレで返答する私に飛来したのは、山すら斬り裂けそうな頭のおかしい大きさの刀身。流石にこれは蒸発させる事は出来ない。ならば使うモノは、威力の不足した集圧(ベクター)ではない。

 

 異界の中に存在する魔力を放出する太陽の様な発光体を中心に、色とりどりの巨大な水球たちが星雲の起動を描き銀河のように動き出す。人知れず異界の中で発生したのは小型の太陽系、魔術に当てはまるなら触媒だ。キャスターのあまりの準備の良さに舌を巻きつつ、私は魔術を発動する。

 

再結合(ユニオン)惑星間塵(コズミックダスト)!」

殺塵鬼(カーネイジ)、並びに氷河姫(ピリオド)私の霊基(マスター)の下に掬べ!』

 

 刹那、発生した物体は、数多の漆黒の瘴気を塗り固めたような凍気に煌めく氷の結晶。どこか矛盾に満ちた、けれど殺意に満ちた物だった。

 接触すれば最後、森羅万象形あるものを原子単位まで分解する赫黒の霧。それが凍結という特性を得て、飛来する『千山切り拓く翠の地平(イガリマ)』に襲いかかった。

 

「けほっ」

 

 そして、瞬く間にそれを漆黒の氷が覆い尽くして消滅させたのと同時、私は口から血の塊を吐き出す事になった。

 

『マスター、大丈夫?』

「うん、まだへーき」

 

 いかにキャスターとティアさんのサポートがあって、肉体も英霊を継承した物になっているとはいえ、私は所詮未熟者。大魔術を継続行使しながら大魔術を乱発するという無茶を、自分の限度を知らず行ってる以上こうなる事は必然だった。

 

「貴様のような雑種が無理を重ねれば、すぐに限界を迎えるのは必定であったな。

 だが、この我にここまでの傷を負わせたのだ」

 

 氷晶の壁の向こうから、英雄王が傲岸不遜にそう言ってくる。

 その背後に展開される砲門は、ゆうに500丁を超えていた。その全てから私/キャスターの知識の何処にもない宝具が覗いている。今それを展開するって事は、炎も氷も突破できる自信のある物なのだろう。そして今の私にそれらが直撃した場合、奇跡的なバランスで保たれている魔法が乱れる事が予想され、そうなれば汚い花火になる事が確定だ。

 

「その事は誇るがいい雑種! そして失せよ!」

 

 その程度の事を恐れてどうする。そもそもの話、力を受け継いだばかりの一般人が、戦術みたいな事を考える事自体間違っている。限界なんて意地で超えて、史実ジャンヌみたいに突撃突撃更に突撃で戦えばいい。

 

『いいねマスター、気に入った。お説教は最後にしてあげる!』

「やめてくれ大佐ァ!」

 

 同化してる以上、私の思考はキャスター達には読み放題だ。そしてそれを読んでなお同意してくれるっていうなら、覚悟を決めて最後まで突っ走るのみ!

 

『ゆえに邪悪なるもの、一切よ。ただ安らかに生き絶えろ!』

『鍛冶司る独眼よ、我が手に炎を宿すがいい』

「手を貸して、愛に破れた錬金術師(アルケミスト)! 後でなんでもしてあげるから!」

 

 キャスター・ティアさん・私の詠唱を合わせて、3つの大魔術を重ねて発動させた。

 無限に発生する炎をブースターのように展開、そして周囲に極限まで硬化させた炎を纏い、磁力操作によって宝具群を逸らしつつ、更に私と英雄王の衝突を確定させる。

 3つの大魔術の行使によって全身をズタズタに割かれ焼かれながら、私は宝具の雨の中を最速で、最短で、まっすぐに、一直線に突っ切った。

 それによって、最短まだ私には使えない転移もかくやといった速度で英雄王に肉薄する事に成功した。そしてもう、こんなゼロ距離まで接近したなら決め手はこれただ1つのみ!

 

「ぬっ!」

「ハァァァッ!」

超新星(Metalnova)ーー

 色即絶空空即絶色 撃滅するは血縁鎖(Dead end Strayed)!!』

 

 驚愕を顔に浮かべた英雄王に、私は衝撃操作の魔術を併用しつつ、盛大にロケット頭突きをブチかました。

 




シリアルな話を書いてるせいか、ふとしょうもないVRMMOモノが頭に浮かんだりする今日この頃。

-追記-
友達がSAOの映画をクソ映画って言ってたけど、そんな事言うなら実写版デビルマンとか、デビルシャークとか、トランスモーファーとか、恐怖!キノコ男とか見てみろよ…
個人的にシャークネードはオススメしたい。シャークネードはオススメしたい(大事な事なので二回言った)


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zeroに至ってほしい物語 其之玖

アラフィフ紳士お迎えしました


 私が頭突き共に放った衝撃操作の魔術、アレは簡単に言うならば一撃必殺の必殺技である。というか、頭突きよりこっちが本命だ。

 名前の通り、通常は波紋の様に対象に伝達される衝撃を自在に操縦できる…と聞くと弱そうに聞こえるけど、実態はその真逆だ。ダメージを対象の一箇所に集める事も、受けた衝撃を任意に逸らす事だってできる。

 

「が、はっ…」

 

 私の頭突きを受けて、微動だにしない英雄王の胸板が内側から爆散した。つまりこういう事もできたりするって事だ。

 勿論代償は安くない。直前までの無茶で魔術回路は痛めつけられてるし、口の中は鉄の味しかしない。それに相手はあの英雄王。言うのが何度目かは分からないけど、これで終わる訳がない。たかが致命傷程度で動きが止まらないのは、遠い記憶の彼方にある第七特異点の賢王様が実証済みだ。

 このままここにいたら死ぬという直感も信じて、炎を推進力に変えて大きく距離をとった。そしてトドメを刺すべく天に手を掲げーー自分の意思に反してがくりと膝が折れた。

 

「げほっ、ゴホッゴホッ」

『マスターっ!』

 

 そして私の口から、次々に血反吐がぶちまけられる。キャスターが回復魔術を掛けてくれてるけど、焼け石に水でしかなかった。限界点での無茶に無茶を重ねた魔術行使。魔術回路が焼き切れてもおかしくない真似をして、これだけの被害なのは幸運なのかもしれない。

 ()()()()()()()()()()()()()()()。やはり致命傷程度で行動を止めるはずもなく、血に染まった私の視界の中で何かをしている。アレをやらせてはいけない。そう警鐘を鳴らす直感に従って、私はもう1つ無茶を重ねる事にした。

 

「まだだッ! 宝具、展開!」

 

 魔力が凝り現出させたのは、私の宝具でもキャスターの宝具でもない。ティアさんの宝具であるカドケウスを象った杖を左手に握り締め、それに動力炉からの莫大な魔力を導いた。

 ティアさんの宝具は、死の事実を無効化し時を巻き戻して再生させる効果を持っている。だからまあ、時間に干渉できるなら空間にも干渉できるだろう。出来なくても気合いでする。

 

『大マスター、まさか』

『えっ、ちょっ、マスター!?』

 

 私のやろうとしている事の意図を察した2人が驚愕する中、私は大幅にカットした詠唱で応えた。何、これくらい気合いと根性でどうにかする!

 

 汝、三大の言霊を纏う七天!

 抑止の輪より来たれ 天秤の守り手ーー

 

夢幻召喚(インストール)!!!」

 

 魔術を発動させた瞬間、私たちの意思が二重になった様に感じ…気合いでそれをねじ伏せて取り込んだ。やった事は簡単。つまり限界を超えられないなら、並行世界の私たちを取り込めばいいじゃない!って事だ。呼び出した私たちを喰らえば、全部が解決する。

 一気に壊れかけの魔術回路が強化され再生する。再活性化した魔術回路が唸りを上げて魔術を発動、身体を治癒し万全の状態にまで巻き戻した。

 

『マスター、その先は地獄だよ?』

『こんな無茶、厳禁』

「でもこれくらいしないと、倒せそうにないからさ…」

 

 愚痴るキャスター達に対応しつつ、強化再生した魔術回路をフルに活用し中断していた魔術を高速で構築。何かこちらにとって致命的な事をしようとしている英雄王を照準する。

 発動直前の魔術の余波で、まだ解除していなかった錬金術師(アルケミスト)により発生していた磁界が乱れる。徹底的に潰す。その覚悟を持って、私は魔術を解放した。

 

「いざ、鋼の光輝はここに有りーー」

 

 最後を飾る星の魔術は、あらゆる意味でこれしか有りえない。顕現するのは今私が発動している能力とは対極の能力、核分裂。もう1つの切り札たる、万象すべてを滅亡させる死の閃光。

 

『「浄滅せよ、霆光・天御柱神(ガンマレイ・ケラウノス)ッ!」』

 

 刹那、吹き荒ぶのは爆光の嵐。()()()()()()()()()()()という訳のわからない産物が、比類なき暴力をここへ一気に解放する。

 魔眼が観測する先に出現したのは、この黄金の世界でなお輝く天へと昇る光輝の柱。壮大な輝きはある種の神聖さに満ち溢れており、英雄王を滅するべく破滅の魔光が唸りを上げる。

 

『これでっ』

「消し飛べぇぇぇっ!!」

 

 これでもまだ足りないとばかりに魔力を放出し、この黄金の世界にヒビを入れるほど天霆(ケラウノス)の出力が跳ね上がる。あと数秒これを照射し続けていられれば勝てるだろう、そう思った矢先に私の魔眼が全力の警鐘を鳴らした。

 

===《◼︎律▼バ◼︎=◼︎ル/威力 測定不能/範囲 測定不能/乖◼︎剣エ▲/脅威度 測定不能》===

 

 そして、光輝の柱は渦巻く赤い旋風によって削り飛ばされた。

 伝承の再現というものがある。例えば、すまないさんことジークフリートは、呪いによって背中を晒さなければいけないし、アキレウスは踵をやられない限り、それこそ無敵とも言える能力を発揮する。

 この世界に存在しない物語で些かズレてるもはいえ、これが私にも適応されたらしい。あ、やっぱりこの推論は無しで。そんな事言ったら私も勝てないって枠に嵌っちゃうから無しで!

 

 そんな呑気な事を考えている間に、土壇場のどんでん返しで消え去った確殺の魔術の奥から、ぱっと見で重症と分かる英雄王が姿を現した。

 手足の所々は炭化し、エリクサーを被ったのか髪は濡れて水も滴る良い英雄王と化している。その顔は赫怒の念に染まり、だらりと下げた右腕には3つの円筒が重なるランスのようなナニカが握られていた。

 それらの円筒はそれぞれ「天」「地」「冥界」を表し、合わせて「宇宙」を体現している。

 

 ーー曰く、真実を識るもの

 ーー曰く、原初の地獄

 

「よもや我にエアを抜かせるとはな、雑種。我にも見通せぬとはいえ、腐っても神を降ろしていると言うことか。全く忌々しい」

 

 本来は無名の剣。正真正銘、英雄王だけの宝具。バビロニア神話の知恵の神・エア名を冠する対界宝具。所有者たるギルガメッシュがそれに名付けた銘は…

 

「乖離剣、エア…ッ!」

『っべー、まじっべー』

『マスター、巫山戯ない』

『あいたぁっ!』

 

 それは、抜かれたら私たちは絶対に勝てないから、必死に攻撃して使われるのを妨害していた宝具だった。乖離剣から発せられるオーラ…王気(オーラ)?だけで冷や汗が流れる。知ってた、やっぱりこれ無理。今ばっかりはキャスターと全く同じ感想だ。っべー、まじっべー。

 

「ほう、この剣を視たか。ならば解ったであろう、最早貴様には滅びしかあり得ぬ」

「さてね。まだ分からないよ、英雄王」

『いやマスター、死ぬ。死ぬから』

 

 乖離剣の回転が速まり、紅い暴風が荒れ狂い、空間を掻き回して時空流が発生する。まだ完全開放すらされてないというのに、この黄金の固有結界擬きが削られ消滅していく。

 今はまだ修復ができるけど、マズイ。本当にマズイ。多分開放された場合、即座にこの空間は消えるだろう。そうなると、私は十全に動く事が出来なくなる。というかキャスターうるさい。

 

「ハッ、貴様には過ぎた一撃だがな。切り裂いてくれる!」

 

 もしそうならないよう魔力を注いでも、まずエアの一撃には耐えられない。エルキドゥみたいな力はないし、『全て遠き理想郷(アヴァロン)』並の防御力もありはしない。噂に聞くアルティメット・ワンなんて化け物は論外だ。

 ならば火力で勝負する? アレと撃ちあえるのは、エルキドゥの『人よ、神を繋ぎ止めよう(エヌマ・エリシュ)』とかゲーティアの人理装填ビームくらいの物だけだって言うのに?

 

「あはは…だったらやめてほしいなぁ…」

『本当だよねー、マスター』

 

 右腕を高く掲げる英雄王をみながら、軽くキャスターと愚痴りつつ対手段を考える。諦めてたまるか。

 実を言えば、火力勝負なら勝てるかもしれない術が2つ程あったりはする。だけどどちらも、それこそ人理装填ビーム級の魔力が必要になるだろうし…それは気合いで乗り越えられたとしても、結果私が『流星一条(ステラ)』する事となんら変わりがないから意味が皆無だ。

 逃走は許されない。敗北も出来ない。それでもどうにかする手段を考えて、考えて、考えて…

 

「裁きの時だ」

 

 時間は待ってくれなかった。

 

「最大、防御ぉぉぉッ!!」

『ああもう、調整終わってないのに!

 創造(Briahーー) 幻想世界・戦乱の剣(Svartalfheimr Dainsleif)ッ!!』

『了解』

 

 現象の停滞を確認。

 思考最大加速。

 防御魔術検索、発見。

 

吐菩加身依美多女(トホカミニミタメ)

『祓い給え清め給え――』

寒言神尊利根陀見 (かんごんしんりそんだけん)

 

 7、24、24の合計55の次元断層を展開。衝撃の相転移、及び最高硬度の付与完了。

 防御系宝具検索、僅かでも効果が見込める防具を多数発見。

 真名開放『叡智の福王の棺桶(コフィン・オブ・ヨグソトース)』、真名開放、原典『蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)』、真名開放『偽・遥か遠き理想郷(アヴァロンⅡ)』、真名開放、真名開放、真名開放、開放開放開放開放開放開放開放開放ッ!!

 

「死して拝せよ、」

 

 焼き切れそうな脳と魔術回路を、気合いと根性で限界突破。

 魔術、及び攻性宝具による威力軽減を実行。効果は僅かでも見込めると思われる。

 真名開放『栄光に至れ煌炎の剣(カレトヴルッフ)』、真名開放『自由の女神砲』、開放開放開放開放ッ!!

 近代兵器群の魔力開放、同時射出。

 幾万の魔術を自身に掛かる負荷を無視し、限界を超えて平行発動。

 

「『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)!!!」

 

 そして、かつて混沌の世界を天地に分けた究極の一撃が振り下ろされた。










あと何話かで完結だったり


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zeroに至ってほしい物語 其之拾

次に何か書くとしたら、何も考えないパーっとしたやつがいいなぁ…

あ、銀城ちゃん版キャスターのステータス、頼まれてもないのに書きました。


 ガリガリガリガリと何かの削れる音と、次々に物体が砕け散っていく音が連続して響いていた。そして、死力を振り絞ってはいるお陰で、未だ私には何も到達していない。

 

「ーーーーッ!!!!」

 

 最早自分でも何を言っている分からない程絶叫しながら、自分を燃やし尽くす勢いで魔力を流し続ける。それによる奇跡的な拮抗のおかげで、ギリギリ自分の身だけは守れている。けれど最初の数瞬から、すでにこの黄金の世界は破綻に向かってゲイボルカー並の速度で突き進んでいた。

 

 自動修復の効果を超えて世界が削れ、ヒビ割れ、見上げた天には夜空が広がっていた。そして夜空が見えると言う事は、破綻まで秒読みのこの世界にアレな流れ込んでくる事を意味している。

 

『炎による自律防御実行。でも、大マスター、そうは保たない。生存可能時間は、推定17秒』

 

 この世界を汚染する様に、上空からこの世全ての悪(アンリ・マユ)に染まった泥…全ての生命を焼き裁く破滅の力が、滝の如き怒濤となって降り注いでくる。

 

「わか、た!」

 

 だけどそれらの泥は私たちにも、英雄王にも近寄る事さえ出来ていない。天の理か地の理かは知らないけど『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』によって英雄王に寄る泥は大部分が消滅させられ、私に近寄る泥は数億度の炎によって完全に蒸発している。

 だけどこれは、私の狙っていた泥で押し流すという勝ち筋が潰えた事も意味していた。

 

「でも、まだ、まだァッ!」

 

 そう都合良く覚醒なんて起きなかった。けれど、気を抜いた瞬間死ぬ事になるからだろうか? 頭の回転だけは早くなる。文字通り1秒が1分に引き伸ばされた時間の中で、さらに頭の回転が早まっていく。

 魔術…防御に精一杯で不可。

 宝具…既に全開、不可。

 体術…論外

 それらの相乗効果…防御で精一杯だっつってんだろコンニャロー。

 なら、作った物ならば…?

 1つだけ、勝てるかもしれない手を思いついた。

 

「キャスター、どう思う?」

『不可能じゃ…ないかも。でも、時間もマスターの負荷も…』

「なんとか、する、から!」

 

 私が張った7枚+3枚の次元断層が完全に消滅した。防御系宝具も、攻勢宝具も、過負荷で段々と融解を始めていて長くはない。このまま削り負けて死ぬよりは、乾坤一擲の大勝負に出て生きる希望に賭けたい。

 

『分かった。10…いや、7秒で作るから、私の抜けた穴を保たせてね?』

「りょう、かいっ!」

 

 キャスターが離脱した瞬間、私への負荷が信じられないほど増大した。頭が壊れそうな程の情報量が、私を押し流さんと暴れ回る。

 

「あは、はハはは、あヒはハははッ!!」

 

 次元断層がヒビ割れるその被害を相転移で分散する紅い旋風を魔術で中和する第十二肋骨が抜きとられた銃弾が分解される宝具が融解した抜きとられた肋骨部分に何かが転移したくっ付いたもう1つの世界内で作業開始乖離剣の回転速度が低下した黄金の世界が崩壊していく破壊力は変わらない泥が溢れる英雄王が嗤っているアンリマユ冬木の空が見える呪い星が見える呪い燃えている呪い燃えている呪い壊れた街衛宮切嗣ここに建てたちくわが逃げた!ポウッ!つまりはニンジンだ、ますたぁが和菓子の餡子で殺菌しなきゃいけない!アッセイ者には叛逆の時ダァッ!いあ!アァサァァァ!いあ!ネロォォォォッ!!

 

『む、マズイ。精神分析』

「っはぁ!」

 

 ティアさんの声のおかげで、意識が混沌とした空間から帰還した。危ない…三途の川の向こうで、旧支配者がフォークダンスしてた。しかもその上で、ニャル様を足場にして外なる神がマイムマイムしてた。全くもって意味不明である。そんな私はSANチェック。

 

『大丈夫。それはただの、同窓会』

「ノンフィクション!?」

 

 口では驚きを表しつつも、さっきの負荷に耐えられるようになってしまった頭で全てを処理していく。鼻血が出て血涙が流れて、まあ絶唱しちゃった感じの顔になってるけど今は気にする事じゃないだろう。でも過負荷で頭がフットーしそうだよぉっっ(物理)アタシいま体温何度あるのかなーッ!?(物理)

 そしてこの時点で、展開していた対抗策の6割が消滅。キャスターが約束して離脱してから、5秒程しか経過していなかった。例のブツが完成するまで残り2秒、生き残れる時間はたったの10秒。

 

「っ、ハアァァァァッ!!」

 

 全てを削り取らんとする紅い旋風によって、55の次元の断層が全て粉砕された。それによって負荷が増大、製作者権限で真名開放していた宝具の半数が消し飛んだ。

 よって、私を護るものは残り2つの宝具と多数の魔術。製作者権限によって強制発動させた大盾の宝具『蒼天囲みし小世界(アキレウス・コスモス)』による極小の世界そのもの。そしてその背後に控える『叡智の福王の棺桶(コフィン・オブ・ヨグソトース)』によるダメージの吸収・放出結界。底が見え始めた魔力を更に注ぎ込み、1秒でもいいから時間を稼ぐ。

 

 そして、ようやくその瞬間がやってきた。

 

『マスター準備できたよ…って女の子がしちゃダメな顔してる!?』

「そんなの、いい。はやく!」

『そんなじゃ、良い人見つけられないよマスター…』

 

 そんなのキャスターに心配させる事じゃない。私だって、ロイド君と同じくらい素敵な人見つけてやるし。

 

『はいはい。マスター、この魔弾はたった2発しかないからね。失敗したら、死ぬよ』

「もんだ、ない!」

 

 キャスターが作り出した切り札の情報が頭の中に入ってくる。キャスターが復帰した事によって、一気に自由に使えるようになったリソースをそっちに回す。

 私が取り出したのは、調整が終わったらしい第一宝具と()()()()()()()()起源弾。それを銃形態の大鎌に装填、片手で笑みを浮かべる英雄王に照準する。残り7秒。

 

 キャスターの起源も私の起源も、そこら辺の知識に明るくない私/キャスターには詳しくは分からない。それでも神代の魔術師であるキャスターには、何となく察する事は出来ていたた。

 自分のは多分「書き換え」かな?とか言ってたキャスターが識別した私の起源は、「スイッチ」やそれに類するナニカ。日常生活に支障はあんまりないとの事だったけど、これを起源弾として使うならそれなりの効果が発生する。

 これらの素材は、回収してあったキャスターの右足と、ついさっき摘出された私の第十二肋骨。道具作成EXのお陰で即座に起源弾に加工され、起死回生の一手となっていた。

 

「我、ここにあり」

 

 勿論、これらの弾が英雄王に届かなければ何の意味もない。

 だから、また他人(ヒト)貴い幻想(ノウブル・ファンタズム)を再現して使う。それが、この霊基(キャスター)の1番得意な事だから。

 

『「(とも)に天を(いただ)かざる智の銃先(つつさき)を受けてみよ」』

 

 詠唱の声がキャスターと重なった。

 英雄王も乖離剣を使用している以上、起源弾の効果は最大限に発揮される。そして、私たちも英雄王も共に未来を視ている。つまり未来が見たいという思いを抱いている。

 ここに強制協力の条件は整った。型に嵌った以上、如何な英雄王と言えども、自身の力すら利用されたこの魔弾からはもう逃れられない。

 

「『急段・現象ーー犬坂毛野胤智』」

 

 そこまでカッコよくはない術名を唱え、引き金を引く。

 刹那、時間を跳躍し過去から飛来した魔弾が、英雄の心臓を貫いた。同時に私を護っていた大盾が溶けて消え去り、結界が乖離剣と張り合い始めた。というか、今更だけど何で私の魔術は起源弾の効果受けなかったし。

 

「ぬうっ、小癪な!」

 

 キャスターの起源弾によって、英雄王の耐性が書き換えられその防御性能が著しく低下する。そして乖離剣の出力が上昇、黄金の世界が完全に崩壊した。私の生存可能限界まで、後4秒。

 

「『行っけぇぇぇっ!!』」

 

 そして放たれた2発目。私の起源弾が再び時間を跳躍し英雄王の心臓を貫いた瞬間、全てが切り替わった。

 そんな中、英雄王から溢れ出していた魔力が、まるでスイッチが切れたかの様に消滅した。それによって、起動していたエアが急速にその勢いを衰えさせていき…

 

「う、ぐぅぅぅっ!!」

 

 『天地乖離す開闢の星(エヌマ・エリシュ)』の残滓が結界を突き破り、遂に私に到達した。防御も回避も意味をなさず、私という存在を削り斬り裂き滅茶苦茶にして、それを私の魔術と宝具が無理矢理に再生させる。

 そして固有結界擬きから弾き出された私達は、聖杯の穴付近に現出した。

 

「貴様、我に何をした!!」

「乙女の秘密だよ、慢心王!」

 

 地表へと落下しつつそう捨て台詞を残し、もはや搾りかすの様な力で炎を球形に操作する。身体のダメージは酷いけど、その中に私は逃げ込む事くらいなら簡単だ。

 

 そして最後に見えた視界では、閉じつつある聖杯の穴から、この世全ての悪(アンリ・マユ)が未だ滝のように溢れていた。つまり…

 

「私たちの、勝ちだ!」

 

 散々実感した運命の強制力と、この世全ての悪こそが私の切り札。

 ギリギリの防御が間に合った私たちと違い、英雄王は原作と同じように泥を被り…即座に分解吸収され消滅したのだった。









明日も投稿するよ!


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至った始まりと続く夜

fgoのレビューに「原作から離れすぎててつまんねぇ」ってあったけど、そもfgoの原作とは一体なんなのだろうか…うごご


 泥を蒸発させる炎を纏い、地表に私は墜落していく。

 視界は炎で埋め尽くされているけれど、自分の身体がまるでスイッチが切れたかの様に、順次危険な状態に移行しているのがわかった。普通にデミ鯖として戦うなら兎も角、笑顔でその限界を踏み越えて踏み越えて全部を焚べて戦ったのだ。その反動があるのは必然だった。

 目が霞む。身体に力が入らない。魔術回路が激痛を発している。息をする度に喉が、肺が痛む。泥が蒸発する音が煩い。頭が痛い。頭の回転が段々と鈍っていく。

 

 そんな状態では、幾らサーヴァントの身体と経験を継承していても、受け身なんて取れるはずがない。そうして私は、なす術もなく瓦礫の中に落下したのだった。

 

「あ、ぐっ…」

 

 強い衝撃。激痛。

 意識を手放してしまいたい気持ちを抑えて上体を起こすと、太ももをセイバーに渡した筈の『無毀なる湖光(アロンダイト)』が貫いていた。加えて胸の奥が酷く痛む。肋骨でも折れているのかもしれない。

 

「きゃ、すたー」

『分かってる!』

 

 多くの宝具の真名開放と魔術の同時使用をやめたことで、かなり増えてきた魔力で私に回復魔術が施される。

 それに、ここにこの剣がある以上、きっとセイバーは泥を被って消滅しちゃったんだろう。言うだけ言って、私は何もしてあげられなかった事に今更ながら後悔を感じる。いや、ある意味私に復讐を果たしたって事なのかな…

 

「せーのっ!」

 

 そんな考えを追い出し、私は私で鈍い頭を駆使し魔力を手に収束、そのまま強化して柄を握り一気に引き抜く。痛みは麻痺してしまったのか薄く、けれど当然の様に血が溢れ出る。徐々に再生しているとはいっても、このままでは失血死は免れないだろう。

 だから、英霊としての記憶を信じて傍に落ちていた第一宝具である銃に変形している大鎌を握った。

 

「あ、はは…確かに、これは呪いだね…」

 

 銃形態の大鎌を掴んだ途端、出血が止まった。更にキャスターの魔術を超える速度で身体が再生されていく。致命傷を受けても、即死じゃない限り取り込んだ魂を消費して再生するのがこの第一宝具。疲労までは無くならないあたり、何だか擦り切れるまで戦い続けろって言われてる感じがする鬼畜宝具だった。

 身体が再生したのを確認し、疲労困憊の身体を休めるべく宝具を仕舞う。

 

『マスター、一応それ私の魂そのものなんだけど…』

「怒りの日基準の聖遺物なんて作るからだよ…もう」

 

 そんな風にクスクスと笑いあっていると、段々頭の中にいたキャスターの気配が薄くなっていくのを感じた。

 ティアさんはそういう宝具であるため例外だけど、1つの身体に同時に2人の別人の意識があるなんて事は許されない。いくら魂が半ば同化しているとはいえ、キャスターの意識は3画分の令呪によって無理矢理現れていたもの。聖杯戦争が終わり令呪の効果が切れた今、その意識が消滅するのは必然であった。

 

『うーん、気の利いた別れの言葉とか出ない…どうようマスター?』

「魂まで同化してるから、消える訳じゃないだろうし……うん、軽くでいいんじゃないのかな?」

『気楽だなぁ』

 

 キャスターがやれやれといった感じでため息を吐く。その気配は、もう限りなく薄い。もう僅かな時間しか残ってはいないだろう。その事をキャスターも分かったようで、一気に声が真面目さを取り戻した。

 

『それじゃあ…またね、マスター。いい人生を』

 

 その言葉最後に、キャスターの意識は泡沫の夢だったかの如く消滅した。それは炎の中の別れで、2回目のお母さんとの別れだった。心に酷い悲しみと喪失感が広がり、心が軋む。

 そして私の頭に、もう1人の声が響いた。

 

『大マスター、付近からこの世全ての悪(アンリ・マユ)の反応が消えた。もう、魔術を解いて大丈夫』

「うん、そうだね…」

 

 ティアさんの報告を信じて、ずっと展開していた天奏の魔術を解いた。

 瞬間、眼前に顕現したのは紅蓮の地獄。耳に届くのは風に運ばれる阿鼻叫喚の声。炎の壁が舞い踊るここは、尋常な人間では生きる事の出来ない死地と化していた。

 

『大マスター、酷い顔してる』

「うん、そうだね…」

 

 先程と寸分違わぬ返事をして、私はフラフラと大橋の方面に向かって歩き始めた。そんな中ぼんやりと考える。今の私は本当に酷い顔だろう。絶唱した感じで血だらけだった筈だし、今だって…

 

「大マスター、泣かないの?」

 

 瓦礫に躓き転びかけたところを、実体化したティアさんが支えてくれた。ありがとうと思いつつ、肩を借りてそのまま歩いていく。疲労は限界を超えている。支えだった心も折れかけ。幾ら身体が無傷でも、中身が死にかけであるせいで万全に動く事なんて出来なかった。

 

「今は、泣いてる暇なんて、ないもん。いつ、ギル様と麻婆が、復活するか分かんないし」

「そう」

 

 その一言を言っただけで、ティアさんは口を噤んでくれた。私の震えてしまっている声には一切触れずに。

 トラウマを思い出し、新しい家族を失い、今の私はいつ壊れてもおかしくない精神状態だった。キャスター…イオリと話してる時の態度だって、あの場限りの我慢に過ぎない。

 自分で自分を騙す事が増えたのはいつからだったっけ?

 

「水よ」

 

 時折ティアさんの使う水の呪文を除き、無言のまま歩いていく。瓦礫の山を越えて、炎の壁を越えて。途中でケリィを見かけた気がするけどきっと気のせいだろう。ここはもう市民会館だった場所からはかなり離れている。こんな所にまだ到達している訳がない。

 

「あっ…」

 

 そしてまだ火の手が回っていない住宅地へと到達した時、気合いと根性ではどうにもならない限界が私に訪れた。

 

 魔力で編まれていた髪の毛が解け、色を失い元の長さの白髪へと戻った。

 左眼の魔眼のサポートが失われ、視界が一気に悪くなった。

 炎の巫女服の展開が解除され、服装がただの普段着へと立ち戻る。

 そして、サーヴァントとしての力が十全に使えなくなったせいでティアさんが霊体化した。

 

「うぐっ」

 

 ティアさんという支えを失った私は、当然の如く道路に叩きつけられる。

 消防車と救急車の音が聞こえる。風にはもう悲鳴などは乗っておらず、士郎とケリィを除き人が全滅した事が分かった。道路はとても冷たく、私の意識を連れ去ろうとしていた。

 

 あぁ、もう、いいや…

 

 そうやって意識を投げ出す直前、私の耳に1つの聞き捨てられない音が入ってきた。

 

(足音…1人)

 

 多分男の人。そこまで若くはない。少し変な動き。

 そこまで思考が巡った瞬間、私のトラウマ(前世の死に様)が敏感に反応した。怖い怖い嫌だ嫌だ死にたくない巫山戯るななんで私ばっかりこんな目に!!

 恐怖によって無理矢理心に暗い火を灯す。全身に魔力を回し、変質者(クソ野郎)を消しとばす算段を整えた。

 

「こ、ろ…す!」

 

 魔力放出によって身体を起こし、ピンと構えた右手を引きしぼる。雷炎を纏わせたそれを振り抜けば、並の人間なら爆発四散、魔術師でも致命傷、シャドウサーヴァントあたりならこちらが死ぬだろう。

 もう止める事はないと思いつつ標的の姿を目視した瞬間、そうした意志も、算段も、魔術も全てが霧散した。

 

「雁夜、おじ…さ、ん?」

 

 視界に移ったのは、私と同じく髪が白に染まったおじさん…つまり、雁夜おじさんだった。聞こえていた足音は、雁夜おじさんが歩いている音だったらしい。桜ちゃんがいないのはわかる。でも何をしに来た?なんでここにいる?そんな疑問が湧いてくるけれど、意識が遠のいて行く私にはもう何も出来ない。

 情けない事に、安心したせいか緊張が解けてしまったらしい。ボスンと抱きとめられた事も、少しは影響したのかもしれない。なんでか、人肌がとても恋しいのだ。誰かの温もりが、いつになく欲しかったのだ。

 

「…い! ………ちゃ…! し……り…ろ! お…!」

 

 何かが聞こえて、身体を揺さぶられるけど、意味が何も分かりはしない。でも、雁夜おじさんなら、悪い様にはしないだろう。

 桜ちゃんも雁夜おじさんもイオリのお陰で寿命は伸びてるけど、多分トッキーとか葵さんへの気持ちは微妙に収まってないだろう。もし暴走しそうなら、私が鉄・拳・制・裁でもすればいいかな。いや、桜ちゃんがいるから、そんな事をしなくても、へーきなら、いい…なぁ…

 

 そんな未来の事を考えた所で、私の記憶はスイッチでも切れたかの様にプツンと途切れた。




次回エピローグ
明日投稿するよ!


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なんとなくフェイト

昨日見た
人の悪意って計り知れない→なんでそんな事が分かる→マスゴミ見ろよ
の流れで1人で爆笑してる作者であった。



 草木も眠るウシミツアワー。ニンジャの如く闇の中を疾駆し、()()()()()()()()を纏った私は再建された間桐邸に来ていた。魔術迷彩を解いて勝手にお邪魔し、そして目的の人物を見つけると、その前に立っていいところのお嬢様みたいにスカートを摘む方の礼をしてみる。

 

「こんばんは、雁夜おじさん。この制服どうですかね、似合ってます?」

「ああ、似合ってると思うよ。愛鈴ちゃん」

「それなら良かったです」

『残念。目が死んでるせいで、台無し。やり直し』

 

 ティアさんに酷いと反論しつつ、私はデミ・サーヴァントとしての力を解放する。銀の髪が伸び、世界が広がり、神代のキャスターの力が制限を解かれた。それから、目の前の雁夜おじさんを観察する。

 

「それじゃあ、あんまり効果はなくなってますけど延命治療を始めますね。でも、言いづらいけど…正直もう長くは生きられないと思います」

 

 私はそうキッパリと断言する。見た感じ、雁夜おじさんは長く見積もって後1年くらいだろう。ギル様と戦った時、寿命(いのち)を燃やして戦った私が言うんだから間違いない。と言うか、天奏の反動で私の寿命もアラフィフに到達出来るか分からないくらいには減少してるし。

 

「やっぱりそうか。でも蟲どもに滅茶苦茶にされた身体で、あれから3年も生きられたんだ。心残りはあるけど、感謝してるよ」

「こっちこそです」

 

 そう短く返事をしてから、私は最早習慣になっている雁夜おじさんへの魔術行使を開始した。

 今の会話で分かったかもしれないけど、あの聖杯戦争からもう3年の時間が流れている。

 ケリィが養子を取って衛宮士郎が生まれ、けれどまだ月夜の誓いが立てられていない微妙な時期。そして、私はちゃっかり中学校へと進学する事が決定した…そんな時期だった。

 

◇ 

 

 3年前、雁夜おじさんに保護された私は、翌日見慣れたホテルで目を覚ました。話を聞くと、とりあえずあのまま放置は出来ないと私をホテルに連れて帰ったらしい。犯罪ですおじさん。

 目が覚めた私は、雁夜おじさんに事の顛末を所々ぼかして話した後お礼を言い、ティアさんとの脳内会議を経て警察へと向かった。前日にあんな大災害が発生していたから、保護してもらうにはなんだかんだで都合がとてもいいと思ったのだ。

 

 そして、事実それはその通りだった。

 家族を失った可哀想な女の子をしているだけで、事はトントン拍子で運ばれていったのだ。そして、どんな経緯を辿ったのかは難しくて分からなかったけど、祖父祖母が他界している私は親戚に引き取られる事になったようだった。某妖怪アニメの主人公みたく。妖怪に狙われる遺品なんてなかったけど。バレれば私自身が魔術協会に追われる身ではあるから同じか。

 

 けど、ここで1つの大きな問題が発覚した。

 それは冬木市からは離れた、1軒目の引き取ると言ってくれたお宅に行った時だった。そこはまあまあ居心地は良かったのだが、そこの子供から化け物が来たように怯えられてしまったのだ。

 仕方なく話を(脅して)聞いてみると、この真っ白な髪と死んだような目、後無駄に落ち着いてる精神が気にくわないらしい。出ていけと言われた。

 だからその日の夜、私はそこから家出した。引き取られてから大体1週間目の夜だった。私は悪くない。

 

 それからなんだかんだあった2軒目。そこはもっと酷かった。

 迎えに来た夫婦の内お母さんの方が、一瞬だけではあったけど私を見て嫌悪感を露わにしたのだ。デミ・サーヴァントの知覚を舐めないで欲しい、バレバレだ。勿論そんな場所には行きたくないので、その場でその事を言い、問い詰め、論破し、その場で話自体をご破算にした。相手が悪い。

 

 3軒目ではそもそもマトモに扱われなかったから、素知らぬ顔をしてまた1週間で家出した。ここ辺りで、デミ・サーヴァント化してなくてもティアさんと脳内で会話する事が出来るようになった。いつギル様とバトるか分からないから、訓練を怠ったりはしない。

 

 そして4軒目、5軒目と続いていく内に、1つのことに私は気がついた。どうにも、どの家庭でも誰か1人は私の事を受け入れず、その家庭の元あった空気を壊す原因になってしまうらしい。当たり前だね。家出を繰り返した事がここで響いたのかもしれないけど。

 それに、転校した学校でも軽く虐めが発生する。最初は転校生という事でワラワラ寄ってくるのだが、冬木市出身と知られた瞬間離れていく。そして、親なしやらなんやらと虐めが始まるのだ。あと何故か避けられる。強制ボッチだ。

 

 それなの上手くいかない原因を纏めると、冬木市出身、親がいない、真っ白な髪、死んだ目、落ち着きすぎた精神と、どれも変えられるようなものでない事が判明した。髪色も、例え染めても翌日には白くなってる不思議仕様だからね。

 そして1年近くたらい回しにされた果てに辿り着いたのが、今私のいる冬木市の孤児院だった。他の場所とは違って「引き取られた先で虐められたので戻ってきましたー(棒)」と、盛大に元の小学校に復帰もできた。

 

 孤児院に来た夜、私は結局ここに戻ってくるのかと軽く絶望しつつ、復興が始まった冬木市新都を魔術で隠れながら散策していた。その時に出会ったのが、寿命が幾ばくも残ってない雁夜おじさんだった。

 

 今のような関係になったのは、ここら辺からだ。

 私はお金ごと聖杯の泥に家を押し流されてるから、現金はない。遺産があるかもだけど、こんな子供には任せられる訳がないからパス。現状はよく分からないんだけどね。

 それでもって、おしゃれを含め色々な物に手を出してるせいで、お小遣いじゃ全くお金が足りない。だから、多少将来も見て、私はお金が欲しい。

 雁夜おじさんは、桜ちゃんと過ごす時間が欲しい。

 だから、雁夜おじさんのツテで私の作った魔術礼装(神秘控えめ)とか工芸品を売ってもらう代わりに、私が封印指定とかそんなのを無視した延命治療を施すというwin-winな関係を築く事ができた。

 

 これが、夜な夜な幼女と密会し、良い事をしてもらってる死にかけのおじさんが誕生した経緯だったりする。字面だけみると、雁夜おじさんからかなり犯罪者臭が漂ってるなコレ。

 因みに、今も私が自分を幼女と表したのは成長が微妙に止まった身体が理由だ。少し前から身長は145cmから伸びなくなり、体型もどれだけ食べてもほぼ変化しなくなった。胸だってつるーんぺたーんだし、このままじゃいつかガチロリ先輩とか呼ばれそうで困る。キャスター…イオリの最後がこのくらいの身長だったらしいって話を聞いて、ここだけは文句を言いたくなった。

 

 ここまで書いた他、それからの2年に特筆すべき事は特に何もない。異常な事に、非常に平穏な2年間を私は過ごす事が出来た。多分麻婆にはバレてるし、ギル様の襲撃があってもおかしくないと思っていたのに、それらが一切無かった。

 そして、それらを疑問に思いつつ今…stay nightかGrand Orderへと繋がる未来へと辿り着いた。

 

 

「っと、これで終わりですね。向こう1週間くらいは大丈夫でしょう」

 

 長い回想と命を繋ぐための魔術を終え、雁夜おじさんの背中を両手でパンと叩く。勿論加減はしているから、一般的な女の子程度の力しか出てないはずだ。

 もう一度魔眼で確認してから、私はデミ・サーヴァント化を解除する。この深山町で、長時間大きな霊基の反応を出していられる程私の肝は座ってない。

 

「いつも悪いね、こんな時間に来てもらって。門限とか、大変だろう?」

「大丈夫ですよ。私、悪い子ですし」

 

 ウインクして、ミステリアスになるようにそう言ってみる。事実、私は結構悪い子だから間違ってない。昼間は学校のせいでロクに動けなかったから、門限を笑って無視して夜になってから街に出かける事が多いしね。

 おい、誰だ薄い本になりそうな設定とか言ったの。

 

「それはそれで置いておくとして、そういえば桜ちゃんは近頃どうですか? メンタルのケアは私じゃ出来ないから心配で…」

 

 2人の体を蝕んでいた蟲達は、3年前にキャスターが完全に除去した。体もその時回復させたし、今は私が偶にこうやって来てはアフターケアにつとめている。

 だけど、心に関しては何も出来ることはない。私の死の記憶(トラウマ)は、底をマイナスに突き抜けた後英雄(イオリ)の魂で保護され、無茶苦茶に克服したから参考にならない。それに心が壊れちゃった人なんて、そもそもどうすればいいのか私/キャスターには分からない。

 それこそ、親しい人物に任せるくらいしか手法を思いつかないくらいには。

 

「みんなが揃っていた時とは比べられないけど、それでも随分と笑ってくれるようにはなったよ。折角だし会っていくかい?」

「いえ。こんな時間に起こすのは悪いですし、大丈夫です」

 

 かぶりを振って私は、雁夜おじさんにそう告げた。深夜帯は、良い子はねんねの時間です。起きてて良いのはイオリ(鍛治キチ)とかティアさん(人外)とかそういう人達だけだもん。

 

「それに、ちょっと深山町にはあんまり長居したくなくて…」

 

 あははと苦笑いを浮かべながら私は言う。だってこっちは、ケリィとか士郎とか麻婆とかギル様とか遠坂邸(再建)とかの、目に見える地雷が埋まりに埋まった地雷原なのだから。迂闊に転移も使えやしない。

 

「そういえばそうだったね。それじゃあもう帰るのかな?」

「はい。私も眠いですし帰ろうかと思います。お邪魔しました」

 

 ペコリと一礼して、私は間桐邸から脱出する。

 そして、隠蔽と強化の魔術を全力で使い新都に向かって走り始めた。

 ふぅ…こんな危険な町にいられるか! おうちかえる!

 

『そう言う割に、大マスターは、しょっちゅうこっちに来てる』

「そりゃあ、雁夜おじさんとは約束してるしね?!」

 

 被っていた猫を捨てて、本音でティアさんに反論する。一応、私は約束は守りたい主義なのだ。これが元の私の気持ちなのか、キャスターと混じって生まれた気持ちなのかは知らないけど。

 

『そう。じゃあ、これからはどうするの? 雁夜おじさんは、もう長くない。そしたら、深山町に行く必要はない』

「いや、一応高校は出たいからなぁ…学年が2つ上だから問題ないだろうし、穂群原学園の高等部には行く事になるから暫くは来るかな」

 

 というか、実は通ってた小学校もこれから通う中学校も、穂群原学園系列だったりする。なんとなくおかしな気もするけど、私という異物がいるんだからそれくらいは誤差の範囲だろう。

 

『それじゃあ、その後は?』

「その後って?」

 

 走りながら私は首を傾げる。その後?

 

『バレたら魔術協会に追われ、逃亡生活になる。マスターの力があるから、生きるのには困らない。けど、平和とは程遠い事になる』

「あー…やっぱりそうなるよね…」

 

 ティアさんの言ってる事は私だって理解している。せかんどおーなー?が、いつまでうっかりしてくれるかも分からないしね。

 

「まあ、そうなったら海外に行ってヒマラヤでも登るかなぁ」

『何故にヒマラヤ?』

 

 そりゃあ、カルデア(建設途中)が見つかるかもしれないし、月に行けるかもしれないし。アルジュナを召喚してガチバトル出来るかもしれないし。もしくは影の国を目指してみるのも良いかもしれない。高跳び(物理)してイギリスの方に行って、アヴァロンを探して3000里するのも楽しそうだ。

 

『…大マスター、だいぶマスターに似てきた』

「うん、今自分でもそう思った」

 

 まあそれも不思議ではない。何せ、()()()()()()()()()()()()()()()のだから。

 マシュと融合したギャラハッドと違って、私達は双方合意しての融合だったお陰か、ジギルとハイドみたく裏表の関係になってるらしい。だから専用の霊薬を使えば反転できるし、無茶をすればまた話す事は不可能じゃない。

 話が逸れてしまったけど、まあ要するに今もイオリからの影響を受け続けてるって事だ。最近、鍛冶作業が異様に楽しく感じるようになってきたし間違いない。

 

「でも、」

『でも?』

「そんななんとなくしか見えない未来より、目の前にある手の届く範囲の問題をどうにかしたいと思うよ、私は」

 

 簡単に纏めると、死亡フラグ除去を最優先で。死んでしまうのなら、不意を突かれて頓死とかじゃなく満足して死にたい。ただでさえ寿命が削れてるんだしね。

 

『そう。それも、大マスターらしいね』

 

 そう、鉄面皮なティアさんが笑ったように感じて…

 

「あ、今ティアさんがデレた!」

『気の所為』

「いや、今のは確実にデレだった!」

『デレてなんかない』

 

 少しシリアス気味だった雰囲気を吹き飛ばし、私達はギャーギャーと(脳内で)騒ぎながら夜の街を駆けていった。そんな私達を、イオリが楽しそうに見ている感じがしたのは、きっと間違いじゃなかったと信じたい。

 

 斯くして、私の物語は一応の終幕を迎える。

 

 今までの様な「なんとなく生きる」事は止めたけど、成長したなんて口が裂けても言う事は出来ない。だけど、それでもこのなんとなく違う世界(Fate)を生きて行こうと、ただの女の子である私は決めたのだ。今も自分の中にいる、もう1人のお母さん(キリノ・イオリ)に誓ったのだった。

 たとえその末路が、()()なんて者に辿り着くのだととしても。

 

 

 

Fin...

 

 

誓い(ゲッシュ)? 大マスター、それはしない方がいい』

「違うから、これただの宣誓だから!!」

 

 こちらを指さして、イオリが大爆笑してるイメージが直接頭に投影された。ねえちょっと待って、そんな笑わないで。

 これじゃあ締まらないとは思ったけれど、よくよく考えれば私達らしい終わりだったと反省する。

 月は雲に隠れてるけど、代わりに星が綺麗な夜だった。

 

Fin...?




少し気になる後輩の男の子(士郎)の為に
「さあ英雄王、10年前の決着をつけようか。あの聖杯戦争の終わりを、今ここで!」
って感じで過去の因縁(ギル様)と命を削って決着をつけるstay night編が頭に浮かびかけたけど、セイバールートすら終わってないので却下になりました。今度は深山町が壊滅するし。



と言うわけで、一応の完結です。
リクエストだった単発ネタを、ノリと勢いでここまで書けたのは一重に読者の皆様のおかげです。本当にありがとうございました。

…唯一の心残りは、ギルガメッシュ戦で
邪竜戦記 英雄殺しの滅亡剣(Sigurdbane Dainsleif)』を使えなかった事。


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Fate/grand order編
アバンタイトル


なんだかんだで始まったgrand order編

けど他の鯖との絡みが辛いので、始まりはガバガバです。寧ろ全体的にガバガバです。
あ、終章までのネタバレあります。

本編はzeroだったから、こっちは読まなくても大丈夫だよ!
本当に読まなくても大丈夫だよ!




 七つの特異点を巡り、数多の英霊と絆を結んだ人類最後のマスターよ。

 

 あなたのおかげで魔術王の企みは潰え、人理焼却による滅亡は回避された。

 

 あなたの行いは正しい。間違ってるだなんて誰にも言わせない。けれど…特異点で死した人は決して蘇らないのもまた事実。

 

 謝れとは言わない。償えとも言わない。あなた達を手伝えなかった私に、そんな事を言う資格なんて一片たりともありはしない。

 

 けれど、私の親友は、仲間は、大切な人達は、その尽くが命を失い歴史の闇へと消え去った。 

 

 さあ、人理継続保障機関フィニス・カルデア。あなた達には、私の八つ当たりに付き合って貰おう。

 

 これより特異点を彩るは、異界の法則、異界の英霊、私しか知り得ない世界の記憶。

 

 あなた達を、私は最大の敵意を以って迎えよう。

 

 だが、どうか半ばで死んでくれるな。

 

 この特異点に清い聖杯はなく、魔神柱も存在しない。

 

 特異点を形成するのは、我が身が放つ魔力のみ。

 

 だから願う、私を殺せ。満足の出来る死を寄越せ。

 

 それが不可能と言うのなら、

 

 ただ惨たらしく死に絶えろ。

 

 

 人理継続保障機関フィニス・カルデア、魔術だけでは見えず、科学だけでは計れない世界を観測し、人類の決定的な絶滅を防ぐ為の各国共同で成立された特務機関。

 魔神王ゲーティアとの戦いが終わり、冠位時間神殿を攻略したカルデアには、人理焼却中とは違い物寂しさが湛えられていた。一部の物好きを除きサーヴァント達は座に帰り、空白の1年の対応に追われ、人材を含め未だに復旧がままならない状況であったからだ。

 

 猫の手も借りたい程の忙しさと少しの空虚感。けれど確かに平穏で、平和だったこの状況を壊したのは、なる筈のない緊急警報とダ・ヴィンチちゃんからの呼び出しだった。

 

「特異点の位置、特定しました! え、嘘…なんで!?」

「状況は正確に報告! 観測した結果をそのままでいいから!」

「りょ、了解しました!

 観測した特異点は、特異点Fと80パーセント相似! 更に、人理定礎の揺らぎが30パーセントを上回っています! 七つの特異点とほぼ同じーー」

 

 カルデアの管制室は、その場にいる全員が忙しなく動いていた。

 ある筈のない特異点の際発生、観測、更にはレイシフトの準備…誰1人として手を抜ける状況でない事は明らかであった。

 

 久しぶりに見るこの光景に懐かしさを覚えつつ、気を引き締め到着した事を伝える。

 

「マシュ・キリエライト到着しました!」

「立香君! マシュ!」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが俺達が部屋に入ってきて早々に告げたのは、特異点の際発生というあり得べからざる事実だった。

 

「そんな…!?」

 

 聖杯はもう全て回収した筈だ。それに、元凶だった魔術王だって…

 

「ああ、分かっている。

 これは確かにあり得ない出来事だ」

 

 続けてダ・ヴィンチちゃんは語る。

 そもそも特異点が発生した時点で危険だという事。七つの特異点を修復したからといって、ゆらぎはそう簡単に収まる物じゃないという事を。そして、魔術協会の連中は未だにカルデアに到着していない事を。

 

「つまりーー」

「……その通り! 立香君、キミに特異点修正を頼むしかない」

 

 国連や協会にも、既に話は通してあるらしい。色々とある制約も、データを送れば問題ないだろうという事だった。

 

「つまり、もう一度軽い気持ちで世界を救ってくれ、という訳だよ、立香くん!」

「そんな…また先輩が戦わなければいけないんですか…!!」

 

 そう食い下がるマシュを手で制する。

 

 大丈夫、居残ってくれたサーヴァントもいる。マシュとは一緒に行けないけど、オレしかマスターはいないんだから。

 

「先輩…」

 

 大切な後輩の心配そうな目を受け、なんだかとても申し訳ない気持ちになる。そして、どうやらマシュが、ロマンの様にバックアップをしてくれるらしい。

 

「それは心強い。何の心配もいらないね」

「離れても、私の心は先輩と一緒に戦い続けます。

 だから、先輩も……帰ってきてくださいね!」

 

 それは勿論だ。マシュを置いて逝くなんて出来ない。

 

「けふんけふん。

 それはともかくとして、だ」

 

 漂い始めていた甘い空気が、ダ・ヴィンチちゃんによって霧散させれた。確かに、急がないといけない現状、こんな事をしている場合ではなかったと反省する。

 

「これからキミがレイシフトする先は、2004年の冬木市。つまりは特異点Fと同じ年代同じ場所だ。

 何らかの要因で再活性化したのかもしれないし、全く関係のない要因で特異点と化したのかもしれない。

 釈迦に説法、ダ・ヴィンチちゃんに絵画指導みたいなものだが、立香君には慎重を期して欲しい」

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、そうオレに忠告をしてくれた。

 

 今までの特異点で、一つだって慎重じゃなかった場所はありません。

 

「アッハッハ、それもそうだね。

 それじゃあ、準備はいいかい立香君?」

 

 少しだけその姿がロマンに重なり、目に涙が滲んだ。でも、今悲しみに囚われている様じゃ、彼にあまりにも申し訳が立たない。

 

「大丈夫です!」

「オッケー、それじゃあコフィンへ搭乗だ!

 サーヴァント達も同時に到着出来るようにするから、安心してくれたまえ!」

 

『アンサモンプログラム、スタート。

 霊子変換を開始 します。

 レイシフト開始まで あと3、2、1…

 全行程、完了。

 アナライズ・ロスト・オーダー。

 人理補正作業 検証を 開始します』

 

 

 変貌特異点F 異界戦役都市 冬木

 『幻想の太陽』

 A.D.2004  人理定礎値 --




レイシフトまではダイジェストでお送りしました。

-追記-
オルガショックで筆が進まない…


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第1節

勢いで書いたfgo編なので初投稿です。


『……ター!!』

 

 ?

 

『……ター!? ……ださ……ター!』

 

 ださっ!?

 

『マスター……! おきて……ください!』

 

 マシュ?

 

『マスター! しっかりしてください!』

 

 マシュの声で、朦朧としていた意識がしっかりと覚醒する。

 けれど足元に地面の感触はなく、身体は終始浮遊感を伝え、耳は風を切る音で満たされている。

 つまりオレは、またレイシフト直後に強制スカイダイビングをさせられていた。

 

「まーたー落ーちーてーる!?」

 

 そしてそう叫んだところで気づく。息が、呼吸が異常なまでにし難い。そう、これはまるで…

 

『嘘…特異点の魔力濃度、バビロニアと同等です!』

『更に、同行した筈のサーヴァントの反応がありません!

 レイシフトの際、何処かへ弾き飛ばされています!!』

 

 狂乱する管制室からの音声を聞き周りを見てみると、確かに落下しているのは自分1人だった。あの時と違いマシュは居らず、現代の人間には毒となる魔力濃度の空間で、安全装置も何もないたった1人でのスカイダイビング。

 

「あれ、もしかしなくても積んだんじゃ?」

 

『そんなことはありません!

 マスターを呼び戻して下さい、ダ・ヴィンチちゃん!』

『駄目です、強制レイシフト受け付けません!』

『特異点においては、時代の修正を行わない限り、帰還は不可能です!!』

 

 例え万策尽きたとしても、一万と一つ目の手立てはきっとあると、この前見たアニメで言っていた。アニメと現実は別だけれど、最後まで諦める何てことをしてはいけない。

 そう思い体勢を整えようとしたオレの耳に聞こえたのは、更に突き出された絶望だった。

 

『高魔力反応多数接近! ワイバーンです!』

『なんだって、初めから殺意高すぎじゃないかこの特異点!?』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの悲鳴ももっともだ。バビロニアも、あの冠位時間神殿さえ、ここまで積極的にこちらの命を狙ってはいなかった。

 前言撤回、こういう時に出来ることはもうただ一つ。

 

「もうだめだー!!」

『諦めないで下さい、先輩!』

 

 

「…令呪を持った黒髪の少年を確認。

 一応聞いておく、あんたがカルデアのマスターか?」

 

 大声を出したところで、聞こえる筈のない声が聞こえた。聞き覚えのない男性の声、姿も見えないけれど、聞かれたのだから返事はしなければならないだろう。

 

「そうですけど、あなたはどちら様ーー!?」

「元気なようで何より、だけどそれは後回しだ。あんな奴らがいたら、落ち着いて話もできやしない」

 

 そうだった、ワイバーン!

 落下するオレの目にも見える、自分を狙う十数体のワイバーン。それに加え、身体を蝕む神代の大気が…って、あれ?

 

「息が、苦しくない?」

「特注の礼装だ。嫌なら外してもいいが、後数秒だけは着けててくれ! それくらいあれば、あの程度の奴らは片付けられる!」

 

 左手に重みを感じ掲げてみると、無地の銀色の腕輪が着けられていた。これが特注の礼装という奴なんだろう。

 

『立香君、その腕輪に特に変な点は見当たらない。着けていて問題ない筈だ。けど、落下までもう時間がないぞ!?』

 

 そう報告してくれたダ・ヴィンチちゃんにお礼を言う。

 それはそれとして、多分この人はサーヴァントなんだろうけど…

 

「助けてくれてありがとう! でも、1人であの数を相手にするのは無茶です!」

『そうです! 幾らあなたが英霊でも…』

「あまり時間がない。すまないが、勝手にやらせてもらう!」

 

 触られた左肩から魔力が盗られ、次の瞬間風が爆発した。

 そしてそれに流される視界の中、宝具開放も無しに、緑色の風がワイバーンの首を半数ほど両断した。

 

「…へ?」

『は…?』

『はい…?』

「焼き尽くせ、アーチャー!」

 

 カルデアの面々が呆気にとられる中、オレをキャッチした薄い緑髪の青年がそんな事を叫んだ。どうやらもう1人サーヴァントが存在するらしい。

 

「はいはーい。真名封鎖、擬似宝具かいほー!」

 

 文字にするなら「ふぉいあー」となりそうな、気の抜けた声が聞こえ…起立した光の柱が残存ワイバーンを全て焼き尽くした。この途轍もない出力の魔力砲は、本人?の言う通り宝具なのだろう。

 

「あー…牙が、逆鱗が…」

「安全になった途端そんな事言えるって、ある意味すごいよな…」

 

 ()()()()()()()()に降ろしてもらい、蒸発したワイバーン達のいた場所を見て思わずそう呟いた。

 ん…? 緑に覆われた地面? 確かレイシフト先は、2004年の冬木市だった筈だ。これはおかしい。

 

『見てください先輩、冬木市が!』

「これ、は…」

「やっと気付いたのか、カルデアのマスター」

 

 2人の声に促される様に周囲を見渡すと、そこには明らかな異常が見て取れた。

 

 街が緑に飲まれていた。

 元が道路であっただろう道は、背の短い草が生い茂る獣道となり、信号は蔦が絡まり奇怪な植物のオブジェと化している。巨大な木々が散在するビルを取り込み、青々とした葉を茂らせている。家だったであろう場所は、草の生えた丘や更地の草原となっている。

 

「ここは、元は冬木市新都と呼ばれていた場所だ。まあ、今はアイツに書き換えられて、神代と同等の空気が流れる魔獣の巣になってるがな」

 

 やれやれといった感じで、薄緑髪のサーヴァントが説明をしてくれた。視界には見渡す限り自然が広がっており、街を飲み込んだそれな異様さが先程より際立っているように感じた。

 

「安心するといい。この特異点の範囲は、冬木市新都と深山町を囲うくらいしかない。今までの特異点より、移動は楽だろう」

「えっと、それは嬉しい情報だけど…アーチャーさんは放っておいていいんですか?」

 

 宝具で砲撃をしてくれたアーチャーの人を、合流もせず放っておくのは間違っている気がする。

 

「ああ、それなら…」

「セイバー、無事? 魔力足りてる? 供給する? 勿論1番効率良いやつで!」

「大丈夫だから! 大丈夫だから離れてくれアーチャー、折角のシリアスが台無しになるから!」

 

 突如現れた、ガラスの嵌ったメカメカしい巨大な筒を背負った銀髪蒼眼の女性が、セイバーの背中に抱きついていた。一つ縛りにされた髪が、ポンポンと跳ね回っている。

 うん、もう色々と台無しである。

 

『セイバーさん、もう遅いです…』

『どう考えても手遅れだね』

 

 マシュとダ・ヴィンチちゃんの言葉にオレも頷く。真面目な空気が一気に吹き飛んでしまった。

 

「ほらやっぱり…」

「私たちに、シリアスなんて似合わないからいいじゃん!」

「俺たちは良くてもさぁ…」

 

 目の前で、唐突にラブコメが始まった。銀髪のアーチャーは心底幸せそうな笑顔だし、薄緑髪のセイバーも本心からは嫌そうにしていない。なんて砂糖空間だ。もしかしなくても、オレがいる事を忘れているのかもしれない。

 そんな事を考えていると、不意に銀髪のアーチャーが地面に降りこちらに向き直った。

 

「さてと、魔力供給も終わったし、ここからは真面目にしますか。

 ようこそ、カルデアのマスター。あなただけのための地獄へ」

「オレ、だけのため…」

 

 その言葉に、思わず固まってしまう。今までの特異点は、どれも歴史を変えたいという願いから発生したものだった。故に、オレという個人の為だけに特異点が生まれるなんて、予想の遥か外を行っていた。

 

『ちょっと待ってくれたまえ』

 

 そんな静寂を、ダ・ヴィンチちゃんの声が破った。

 

『その話はとても気になるのだけど、そろそろあなた達が何者か、教えてはもらえないかい?』

『あっ…』

 

 そう言われて気づく。確かに、未だ名前を教えてもらってはいない。

 けれど銀髪のアーチャーは、はぁ…と溜息を吐いて手を額に当てる。

 

「ここからは予習かな。

 サーヴァントは本来、真名は伏せて戦うものなんだよ、カルデアのマスター。どんな大英雄でも、神話通りの弱点は持ってるからね。有名どころだと…ほら、アキレウスとか」

 

 アキレウスの話は確かに有名だ。その弱点を突けるかは置いておくにしても。

 

 まあ人理修復の時には、そんな事気にしてられる状況じゃなかったとは思うんだけどね…と、前置きしてから銀髪のアーチャーは続ける。

 

「だからまあ、普通の聖杯戦争だとクラス名で呼び合うんだよ。

 ダ・ヴィンチちゃんなら分かってると思ったんだけどなぁ…だって万能の天才って自称してるんだし…」

『うぬぬ…言われるまで失念していたよ…というか、何で私の真名を知ってるんだい?』

「企業秘密だね! でも、アーチャーさんの目には丸っとお見通しなのだー」

 

 悔しそうなダ・ヴィンチちゃんの声を聞くのは、随分と久しぶりな気がした。

 

「だから私たちの呼び名は、簡単にアーチャーとセイバーって呼べばいいよ。詳しい理由を説明には、この特異点を説明してからが楽なんだけど……あちゃー、囲まれてるや」

「絶対このマスターを狙ってるよな…」

 

 アーチャーがあちゃー…いや、なんでもない。

 

『すみません先輩、落ち込んでるダ・ヴィンチちゃんが面白くて目を離してました! 先輩の周囲を、大量の熱源が囲んでいます!』

 

 双剣を構えたセイバーと、背負っていた筒を担いだアーチャーの背後で耳を澄ませると、獣の唸り声が確かに聞こえる。

 

「さてと、カルデアのマスター。仮契約で悪いけど、一応あなたをマスターとして考えるから。指示は任せた!」

「上手く俺たちを使えよ?」

「はい!」

 

 そして、この特異点に来てから初めての戦闘が始まった。




次回
拙者にときめいてもらうでござる






アーチャーの詳細設定(知名度補正全開)

・銀の長髪
・背は高くない。寧ろ低い
・その胸は、平坦であった
・メカメカしい、ガラスの嵌った巨大な筒を持っている。バズーカ砲みたいな感じの持ち手

【ステータス】
 筋力 : D 耐久 : C 敏捷 : C 魔力 : A++
 幸運 : D 宝具 : EX

【クラス別スキル】
 対魔力 : B
 単独行動 : EX

【保有スキル】
 万里の魔眼 : A
 千里眼:A と 魔術:A と 魔眼:A の複合スキル

 天賦の叡智 : B
 並ぶ者なき天才の叡智を示すスキル

 心眼(真): C

 道具作成(偽) : A

 大◼︎◼︎◼︎ : A
 ーlockedー

 神性 : C

 無限の魔力供給 : B

【宝具】
 ーlockedー
 ーlockedー


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第2節

 やっと、カルデアがこの場所を見つけてくれた。

 

 邪魔なサーヴァントの排除にも成功した。

 

 元からいる4人は仕方ない。

 

 それくらいの戦力は無くてはならない。

 

 それに、アイツらを味方にできれば、ちゃんとあなた達にも勝機はある。

 

 だから、魔獣(再臨素材)程度で死なないでよ?

 

 そこはただの、ボーナスステージなんだから。

 

 心臓も、頁も、種も、逆鱗も、歯車も、毒針も、胆石も、全部景気良く大盤振る舞いしてあげる。

 

 だから、私にトドメを刺して人類最後のマスター。

 

 私は、他の誰でもないあなた達にしか、

 

 殺されてやる気は無いのだから。

 

 

 戦闘は、なんの盛り上がりもなく終わった。

 草の中に潜んでいたワーウルフをアーチャーの担ぐ巨大な円筒から発射されたビームが焼き、ヤケになって襲ってきた者はセイバーの神速の斬撃が斬り裂いた。

 

「うーん…ダメだね」

「?」

 

 どこか遠くを見た後、そう呟いた銀髪のアーチャーにオレはそう問いかける。もしかして、何かミスをしてしまったのだろうか?

 

「マスターに話をしようと思ったけど、思った以上に魔物が向かってきててね。カルデアでも観測できない? 誰でもいいから」

『え、あ、はい! アーチャーさんの言う通り、大量の熱源が全方位から接近しています!』

 

 なんですと。この特異点、何でこんなにもオレに対する殺意が高いのだろうか? その辺りを説明してもらえると、ものすごく助かるのだが…

 

「多分このままだと、ファヴニールクラスのも出てきそうだよなぁ…」

「アレくらいの竜、あっちの世界じゃゴロゴロいたしな」

「……何か手があったり?」

 

 そんな話を聞いたんじゃ、逃走を優先するに決まっている。オルレアンで戦ったファヴニールは、色々な人の力を借りてようやく倒せたのだ。同格の竜がゴロゴロ出てくるだなんて、冗談でも恐ろしい。

 

「勿論。あなたを、私たちの拠点に案内してあげる」

「移動は俺に掴まっていればいい」

『ちょっと待って下さい!』

 

 トントン拍子で進みかけていた話を、マシュが制止した。

 

『この際、あなた達の名前は置いておきます。

 ですが、何故あなた達は先輩にここまで手を貸してくれるのですか?』

「それは簡単だよ。この特異点は、私たちの不始末だから」

「それと、そこのマスターがいないと、この特異点は絶対に修復する事が出来ないからだな」

 

 返答は即座に帰ってきた。オレのためだけに作られたって話だから、確かにオレがいなければ話にならないのだろうけど…

 

「その辺りは、拠点に来てくれたら包み隠さず話すよ。

 あなたの大切で、大好きな先輩を傷つけない事は神…は信用ならないから、亡き魔術王に誓う」

『そんな、お似合いのカップルだなんて…』

「心を読まれた!?」

 

 驚くアーチャーが放った言葉に、顔が赤くなるのを感じる。どこからどうその結論に行き着いたのから知らないけれど。

 そんなオレたちを見て、溜息を吐いてセイバーが言う。

 

「俺が言うのもなんだが…早く決めてくれないか?」

 

 居たたまれない沈黙が広がる。

 そうだ、確かに今は一刻も早く行動しないといけない。

 

「それで、どうするんだ?」

 

 既に魔物達の上げる土煙が、オレの目でも視認できるまでの距離になっている。逃げるのであれば、もう一刻の猶予もない。普段の皆ながいるなら兎も角、今この状況では…

 

「行きます!」

 

 三十六計逃げるに如かず。死力を尽くしての戦闘をするより、逃げた方が圧倒的に良いだろう。

 

「わかった。じゃあアーチャーは…」

「私はここ!」

 

 アーチャーが、勢いよくセイバーの背中に飛び乗った。それは、所謂だいしゅきホールドと呼ばれる抱きつき方だった。頼んでおいて何だけど、なんだかとても混じりにくい。

 

「ちょっと待ってアーチャー。そこマスターの場所だから」

「えー…」

「お姫様抱っこ」

「分かった!」

 

 その言葉で即座に霊体化したアーチャーは、次の瞬間にはセイバーの腕の中に収まっていた。すぐそこに魔獣が迫ってると言うのに、何故ラブコメを見なければいけないのだろうか?

 

「それじゃあマスターは、軽くしがみついててくれ」

「アッハイ」

 

 諦めて言われた通り、大人しくセイバーに背負われる。左腕でアーチャーを支え、右腕ではオレを支えてる辺りは流石英霊だと思う。そしてこの感触からして、義手…なのか?

 

「刃翼開放…」

「うわっ!」

 

 オレの胴の脇辺りから、機械仕掛けの翼が実体化した。これも宝具なんだろうか? そして必然的に見えるアーチャーの顔は、なんだかとても満足そうで…

 

「もしかして、あなた達の関係って…」

「「ん?(へ?)夫婦だけど?」」

『ああ、それで。得心がいきました。

 それでもちょっと狡いです…』

 

 マシュと同様に納得した途端、オレの意識は殺人的な加速によってブラックアウトしたのだった。

 

 

「うん、大丈夫大丈夫。視たところ、ただの気絶だから!」

『全然大丈夫じゃないじゃないですか!』

 

 声が響く。

 

「すまない、マスターが現代の人間だって事を忘れていた」

「ヘラクレス相手に逃げ切ったり、幼女3人を抱えて逃げたり、女神相手に200mプランチャーかますマスターだから、大丈夫だと思ったんだけど…あとアーラシュ空を飛ぶ事件」

『なんでそんな事まで知ってるんですか?!』

 

 和気藹々と話す声が聞こえる。

 

「あ、セイバーはコーヒー入れててー」

「おう」

『私の真名もそうだけど、キミは一体何をどこまで知ってるんだい?』

「特異点Fから冠位時間神殿まで全部。縁が無かったから行けなかったけど、全部見てたよ? スタンバッてたのに召喚してくれないんだもん…ぶーぶー」

『えぇ…』

 

 鼻腔をくすぐるコーヒーの匂いに目が覚めた。

 

「ここは…」

 

 上体を起こして周囲を見渡すと、目に入ったのは何の変哲も無い幼稚園の中の様な場所だった。そこに安置されたベッドに、オレは寝かされていたらしい。

 

『あ、おはようございます先輩!』

「寝起きのヒーコーをどうぞ、マスター。インスタントだけど」

「ありがとう」

 

 そう言って渡してくれたコーヒーのお陰か、段々と頭が冴えてくる。

 それを確認して、どこからか取り出された大きめの椅子にセイバーが座り、その膝の上に満足気なアーチャーが座る。

 

「それじゃあカルデアの諸君、ここの安全は保証するから、先送りにしてたこの特異点の話をしよっか。マスターも起きた事だしね」

 

 威厳も何も無いのに、ドヤ顔のアーチャーがそう言った。

 

「多分そっちでも観測出来てると思うけど、この特異点は、神代の自然が溢れ魔獣の跋扈する冬木新都と、完全に焦土と化した深山町から構成されてる」

 

 コクリと頷く。

 

「そして、召喚されてるサーヴァントは()()()()()()4()()()()。聖杯によるカウンターで召喚されたサーヴァントなんて、1騎たりともいないし、増えない事は覚えておいて」

『それはどういう事だい? 特異点は、聖杯か存在しなければ構築出来ないはずだ。故に対応して召喚されるサーヴァントはいる筈だ』

 

 ダ・ヴィンチちゃんがそれはおかしいとツッコミを入れた。色々と謎の多いこの特異点だが、それは大前提の筈だ。

 

「違うんだよ、ダ・ヴィンチちゃん。

 この特異点はソロモンの聖杯じゃなくて、たった1人の女の子の暴走と、それを叶えた穢れきった聖杯によって出来ているんだよ」

『それじゃあ、あなた達はどうやって…』

 

 マシュの疑問に同意して頷く。ならば、あなた達はどうやって現界したと言うのだろうか?

 

「そこら辺を説明すると、私の真名がバレるから嫌だ。カルデアに敵対しないって事は約束するけど」

「ちなみに俺は、アーチャーに連鎖して召喚された」

「うむむ…」

 

 じっと見つめるが、アーチャーはどこ吹く風といった感じで受け流す。こうなれば根比べだと思った矢先、セイバーが続きを話し始めた。

 

「そしてこの特異点最大の特徴は、俺とアーチャーの生きた時代が完全に再現されている事だ。誰も知らない世界の逸話だが、大気中の魔力濃度は神代と同様で、化け物だって溢れている」

「だから私達は、カルデアを見習ってこの特異点を『異界戦役都市 冬木』と呼称してる。さしずめ、変貌特異点Fとかかな?」

「異界戦役都市、冬木…」

 

 こちらがその言葉を噛み締めていると、ピョンッとセイバーの膝上からアーチャーが降りた。

 

「さて、堅っ苦しい話はここまで。

 時間も時間だし、私は晩御飯作ってくるよ」

『ええっ、これで終わりですか!?』

「そーなのだー」

 

 いつのまにかエプロンを実体化させていたアーチャーが、そのままこの拠点らしい場所の奥へパタパタと走っていく。

 そんな英霊とは思えない家庭的な姿を見て、オレはセイバーに尋ねる。

 

「アーチャーは、いつもああいう風に?」

「まあな。自慢の嫁さんだ」

『いつか私も、先輩と…』

 

 観測しているカルデアにまで、この惚気た雰囲気は伝わってしまっているらしい。

 こうして、そこはかとなく残念臭の漂う特異点1日目は終了した。

 因みに夕飯のカレーライスは、エミヤ(オカン)並みに美味しかった。

 




まだこっちでは平和。超平和。バスターズではない。


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第3節

アニメ版DiesのPVヤバイ。ニヤニヤが止まらない。
熊本先輩にときめいてしまった…ぐふっ


 1日目が終わった。

 

 カルデア陣は、あの人達と一緒に動くらしい。

 

 都合がいい。あの人達との相対は、避ける事は出来ないから。

 

 準備が整うまで、こちらは待とう。

 

 幸い、こちらもまだ片付いてない因縁がある。

 

 だけど、そこまで私の気は長くない。

 

 さあ、ボーナスタイムだ人類最後のマスター。

 

 力を合わせて、私の所まで辿り着け。

 

 

『おはようございます先輩。

 よく眠れましたか?』

「うん、普通のベッドだったから」

 

 むしろぐっすりと眠る事が出来た。昨日あった一連のドタバタで、予想以上に疲れていたのだろう。用意してくれていた朝ごはんも美味しかったし、調子はかなり良い方だろう。

 

「あ、いたいたマスター。朝ごはんは…食べてくれたみたいだね。

 それじゃあ、ちょっと外に来てくれない?」

 

 少し疑問に思いつつも、持っていたお皿を置き了承の意を伝える。慣れない建物に迷いつつ外に出ると、そこでは戦闘態勢をとったアーチャーが空を見上げていた。

 釣られて空を見上げると、そこでは大量のワイバーンとセイバーが戦闘を繰り広げていた。

 

「助けなきゃーー」

「いやマスター、空はセイバーに任せて私達はこっちこっち」

「え?」

 

 オレの服の裾を引っ張り、アーチャーが指差した方向には土煙が上がっていた。どうやら地上からも攻めてくるらしい。

 

『多数の熱源が接近中…魔力パターンから、バビロニアで遭遇したムシュフシュやウガルと思われます。気をつけてください、先輩!』

「分かった!」

 

 そうして気を引き締めたオレに、アーチャーが話しかけてきた。

 

「気張る必要はないよ、マスター。とりあえず瞬間強化…はないか。じゃあ全体強化をくれれば大丈夫だから」

「えっと、はい」

 

 言われた通り、礼装を通じてアーチャーに全体強化を掛ける。

 

「それじゃあマスター、ご照覧あれー。

 真名封鎖、擬似宝具展開」

 

 アーチャーから感じる魔力の圧が跳ね上がる。初日にみた光の柱は一体どんな宝具だったのか期待して…しかし見た目にはなんの変化も起こらない。

 

恒星(カミ)の光よ、宇宙(ソラ)の果てより降り注げ。ふぉいあー!!」

 

 そして、魔力が開放され光の柱が起立した。そしてそれが、土埃をなぞるように移動していく。

 

『バカな、熱圏付近からの魔力砲撃だって?

 浪漫はあるけど、効率が悪すぎないかい!?』

「倒せればいいんだよ倒せればー」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの疑問を適当に流したアーチャーが、その宝具を操作し魔獣達が現れた方向を更に焼き払う。

 

「よし、これで多分マスターにも見えるでしょ」

 

 そう言ってアーチャーは宝具の開放をストップした。

 そうして焼き払われた大地の先に見えたのは、荒廃した世界。あの特異点Fを、更に2回り程滅茶苦茶にした様な光景だった。

 

「これは…」

『ひどい…』

「マスター、ここからだよ。

 あなたが討たないといけない敵の力、その目に焼き付けて」

 

 アーチャーに対して、オレが何か疑問を呈する直前…世界を引き裂く様な異常な爆音が、空気を劈いて轟いた。

 

『魔力の計器が、一気に異常な値になったぞ!』

『映像断絶…一体何が置きてるんですか、先輩!』

「あれ、は…」

 

 それは、世界自体が悲鳴を上げているのが分かる光景だった。その証拠に、様々な魔獣達がアレから僅かでも距離を取ろうと逃げ出している。

 

()()()()()()()()()()。あれが、多分この特異点が広がり続けてる最大の原因だね」

 

 頭が狂ったかと思うほどの爆炎が天から一点を目掛け降り注ぎ、地上から放たれた赤と黒の暴虐の嵐がそれと真っ向から衝突している。

 炎は知らないけれど、もう1つの宝具は見た事がある。そう、あの宝具の使い手は…

 

「ギルガ、メッシュ…?」

「よく覚えてたねマスター。

 この特異点で生き残っている最後のサーヴァントは…ううん、それじゃあ語弊があるか。英雄王ギルガメッシュとあの子の2騎が、この特異点の始まりの英霊だよ」

 

 アーチャーがそう言い切ると同時、炎と嵐が弾ける様に消え、それきり昨日と同様の静けさが戻ってきた。

 

『映像回復しました! 何があったんですか先輩!』

『見覚えのある魔力波形が見えた気がしたけど…』

「特異点の、原因を見てた…」

 

 カルデアには来てくれていないけど、あの宝具の力はウルクで身をもって体験している。あんな相手と、オレは戦えるのだろうか?

 

「ん、そういえばマスターは、アレを見るのは初めてだったか」

「おーい、大丈夫? マスター」

 

 降下してきたセイバーが納得した様に言う。そして、そうアーチャーが心配してくれる言葉によって、オレは気持ちを締め直す。それを見たアーチャーが、真剣な顔をして言う。

 

「私達は、マスターがギルガメッシュと共闘を望んでも、一切無視して私達だけで戦う選択をしてもいい。どんな選択でもいいよ」

「だけどアイツは、マスターと戦う為だけに自分を削り続けている。こんな事言いたくはないんだが……有り体に言えば、アイツを救えるのはマスターだけだ」

『んー…その「あの子」とか「アイツ」って言うのは、具体的には誰なんだい?』

 

 ダ・ヴィンチちゃんが、ずっと気になっていた問題を口にした。あの子や、アイツという代名詞ばかりで分かりにくい。

 それを聞き、とても言いにくそうに口ごもってから、アーチャーが口にした。

 

「あの子の事は、『冬木のキャスター』…そう呼べばいいと思うよ。

 本当にごめんなさい…知っているけど言えない。そういうものだと思ってほしいな」

『ならセイバーさんは…』

「俺か? 俺はアーチャーの手伝いをしてるだけだから、詳しい事は知らないぞ?」

『ダメですか…』

 

 通信から聞こえるマシュの声音は、明らかにガッカリしている事が伝わるものだった。だけどここまで情報を伏せられると、なんというか胡散臭さが出てくる。若干懐疑的な眼差しでアーチャーを見つめる。

 

「う〜…やっぱりこうなるよね。知ってた」

「だけどさっきも言った通り、俺たちはマスターの意見にはよっぽど悪い事でなければ従う。それを違える気はない」

 

 ショボンとしたアーチャーの頭を撫でるセイバーが、こちらを見てそう言う。

 悪い人じゃない事は知っているし、信じているけれど…

 

「方針は今日1日カルデアと話し合って決めればいいと思うよ、マスター。元々今日は、アレを見てもらいたかっただけだし…うん、何か悪いし私は再臨素材集めてくる…」

 

 そう言い残し、アーチャーはフラフラと背の高い草の中に消えていった。

 というか、1日話し合えばいいと言ってくれたのは嬉しいんだけど…

 

「あの、まだ朝なんだけど…?」

『丸っと1日時間を渡されても、正直持て余してしまいます』

 

 全くもってマシュの言う通りだった。幾ら何でも時間が余りすぎるだろう。

 

「アーチャーはやると言ったら絶対にやる。だから、当分戻っては来ないな」

「そんなー…」

 

 本当に再臨素材を集めて来てくれるなら嬉しい事だけれど、その間に襲撃があると思うと少しだけ怖い。今までと違い、マシュが一緒にいないからだろうか?

 

「もしこれから向こう側へ行くと決めたのなら、適度に運動して身体を休めておくといい」

『一体それはどうして…』

「生前、何度狂った強行軍に付き合わされた事か…思い出したくもない」

 

 哀愁を漂わせ、何処か遠い場所を見つめるセイバーに、誰も何も言う事が出来なかった。

 

「こちらに聞かれたくない事もあるだろうから、俺はここに魔獣が来ない様に暫く狩っている。

 もし危険が迫ったら、令呪を使って呼んでくれ。まあ、この孤児院に近づける魔獣なんてそうそう居ないが」

 

 そう言ってセイバーも、例の機械の翼を展開し消えてしまった。

 

『どうしますか? 先輩』

「とりあえず、孤児院の中に戻ろうと思う」

 

 話し合いは、それからでも十二分に間に合うだろう。

 

『そうだね、それがいい。

 その孤児院、キャスタークラスの製作した神殿と同じ位の要塞だ』

「えぇ…」

 

 アーチャーはお昼には律儀に帰って来たのだが、お昼ご飯を作ったらまた何処かに出かけてしまった。

 

 こうして、安穏とした特異点2日目は終了したのだった。

 




アーチャーの成果
万死の毒針 34 竜の逆鱗 19
竜の牙 48 原初の産毛 13
呪獣胆石 4 世界樹の種 21
蛮神の心臓 2 隕蹄鉄 14


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第4節

全く関係ないけれど、本編が正史とIFに分岐する明確な点は軽く書いた大晦日の番外編だったりする。


 カルデアが来てから3日目。

 

 分かっていた事だけど、英雄王との決着がつかない。

 

 折角の機会が、このままじゃ棒に振られてしまう。

 

 私の自殺/旅路に、貴方の役目はありはしない。いや、あるんだったっけ?

 

 まあいいや、長く続いたこの戦いを終わらせよう。

 

 どうせ終わり/始まりはすぐそこだ。

 

◇ 

 

「アーチャー」

 

 特異点3日目の朝、昨日と同じような朝を過ごしたオレは、アーチャーを呼び止めた。勿論昨日の話し合いの結果を伝えるためだ。

 

「ん? どうかしたマスター」

 

 エプロン姿で茶碗を洗っていたアーチャーが、その作業をやめてこちらへ来てくれた。なんでこんなに家庭的なんだろうか。

 

「オレ、行くよ」

「んっと、それって向こうに? それで、あの子と戦いに?」

 

 その質問に無言で頷く。

 

『どのみちこの特異点を修復するには、『冬木のキャスター』を倒さなければいけないのだろう? それならば反対する理由がない』

「だから、助けに行く」

 

 ダ・ヴィンチちゃんがそう続ける。話し合うとは言っても、そとそも反対する意味がないので即座に方針は決まった。

 

「本当!? こっちの都合につき合わせちゃった感じだったのに…ありがとうマスター!」

『ああ! 離れてくださいアーチャーさん! 狡いです!』

 

 目を輝かせ、抱きついてきたアーチャーを見てマシュが悲鳴を上げる。なんだろうか、セイバーアーチャー夫妻に影響されて、マシュまでとても感情を表に出しているように感じる。きっとそれは、とてもいい事だと思う。

 

「よし、そうと決まれば今すぐGoGo! Grand Orderだけにね!」

「うわぁ!」

 

 抱きついた体制から、アーチャーがそのままオレを肩に担ぐ。サーヴァントの筋力には勝てなかった。

 

「まあ大丈夫。大橋にはファヴニール級のドラゴンが陣取ってるけどへーきへーき、マスターによって得意な事は違うから!

 マスターはガンドが得意なフレンズだもんね! 人類悪にも効くなんてすっごーい!」

 

 オレを担いだ事でそこまで速くはないようだが、それでも人外の速度で孤児院からアーチャーは飛び出す。

 そしてそのまま、焼き払われた道を走り出そうとして…

 

「わーはー!」

「こらアーチャー、マスターの準備とかが出来てないだろ!」

「ふぎゃっ」

 

 急降下してきたセイバーのチョップを喰らい停止した。そしてその勢いで吹き飛びそうだったオレを、セイバーがキャッチして地面に降ろしてくれた。

 危うくとんでもない目に遭うところだった…

 

「俺はちょっとアーチャーと話をしてくるから、マスターはちゃんと準備をしておいてくれ。聞いての通り、化け物がいるからな」

「むぅ〜…えへへ」

『自分の奥さんを、まるで猫のように…!』

 

 驚くマシュの言う通り、セイバーはアーチャーの服の襟首を掴み猫のように持ち上げている。何処と無く嬉しそうなアーチャーは、中々危ない一線を超えてしまっている様に見える。

 

『まあ、アレも一種の愛の形…なんじゃないかな?』

 

 ダ・ヴィンチちゃん、それはないと思う。

 

 

「さてマスター、今更だけど言っておくよ」

 

 頭に大きなたんこぶを作ったままのアーチャーが、オレ達が隠れている林の陰から大橋と呼ばれていた場所を見て言う。

 そこに堂々と君臨しているのは、話に聞いていたとおりファヴニール級のドラゴン。ただしその竜は全身を金色の鱗で覆っており、ドラゴンの象徴とも言える翼が存在していない。そして前脚は退化しているのかとても小さく、代わりに後脚は異様に発達し足踏みだけで橋を落とせそうな程だ。

 つまり何が言いたいかと言うと…

 

「恐竜だ!」

『あの竜の外見は、所謂ティラノサウルスに酷似してます。けれど、オルレアンで遭遇したファヴニールと何ら変わらない神秘を纏っています!』

 

 ファヴニールの様な西洋風の竜とも、清姫の宝具の様な東洋風の竜でも無く、見た目は金ピカのティラノサウルスだった。寝ている姿ではあるが、とてもレアモンスター感が溢れている。

 

「因みにアレからはオリハルコンが採れる…ってそうじゃないそうじゃない。戦闘中は、私から離れないでねマスター。セイバーは兎も角、私はこの霊基じゃ勝てるか怪しいから」

『そんな状態で勝負を仕掛けるつもりなのかいキミは!』

「だって、魔術のダメージ全然通らないんだもん。そのくせ物理にも強いし」

 

 生前だったら一撃だったのになーとぼやくアーチャーだが、そんなのを相手に勝てるのだろうか?

 

「そんな心配そうな顔しないでよマスター。幾ら何でも、勝機がないまま来たりはしないよ。というか、私の夫がいる限り100%勝てるし。なんてったって、必殺技だもん!」

「えぇ…アレをやるのか」

 

 なにやら2人で納得している様だけど、こちらには一切分からない。

 

『必殺技…なんだか凄く良い響きです。それで何をするのでしょうか!』

ハメ殺し

『え…?』

 

 興味津々に聞いていたマシュの声が、一瞬にして疑問に彩られる。ハメ殺しって…何それ酷い。

 

「相手に一切の行動をさせず、マスターに傷もつけず、魔力消費だけで決着がつく。いい事尽くめだね!

 どんな手を使っても! 最終的に! 勝てばよかろうなのだァァァァッ!」

『見た目の割に、言ってる事が相当だよその英霊!

 属性はきっと混沌・悪…秩序・中庸だって!?』

 

 寝ている竜の目の前だと言うのに、一気に大騒ぎである。

 セイバーがため息を吐きたくなるの気持ちもよく分かった。

 

「ふう。まあそういう風に戦うに当たって、一つ伝えておく事がある」

『テンションの落差が凄いねキミは!?』

「伝えておく事…?」

 

 ダ・ヴィンチちゃんのツッコミを完全に無視し、こちらを見据えてアーチャーが言った。

 

「セイバーの真名。宝具の真名開放するから、ちゃんとしないと」

「えッ!?」

『あれだけはぐらかしてたのに、こんな簡単に明かしていいんですか!?』

 

 オレも驚きつつ頷いて同意する。あれだけ真名は大切だと言っていたのに、バラしてしまうのはいいのだろうか?

 

「うん。改めて考えてみれば、私達の逸話を知ってる人なんていないしね。知ってる人なんて、千里眼:EX持ちとか私が直接話した人だけだし」

『よくそれで、英霊になれたよね…』

「私達は仮にも神を殺してるし、世界も、救って、は…………うん、まあ神殺しだからね!」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの質問に、ハイテンションなアーチャーの顔に一瞬だけとても暗い影が宿った。けれど、それを一瞬で吹き散らしてアーチャーは無い胸を張る。きっと、今の話はアーチャーの中の何か触れてはいけない部分だったんだろう。

 

『えっと、それではセイバーさんの真名は何なのでしょうか?』

 

 それを察したのかマシュが話を進める。

 

「俺の真名は、キリノ・ロイド。姓はアーチャーの結婚するまでなかったから、呼ぶならロイドでいい。無論、今まで通りセイバーでもいいがな。改めてよろしくだ、マスター」

「はい、ロイドさん!」

 

 そう返事したオレを、アーチャーがとても難しい顔をして見ていた。顔に何か付いてたりするのだろうか? この林にも、恐らく虫はいるだろうし。

 

「うん? マスターが女の子だったら多分呪ってたなぁって。

 あれ? 私ここまで重い女の子だったっけ…?」

 

 心底分からないといった風に首を傾げるアーチャーを見て、オレが男だった事に安堵する。今のオレには、多分その呪いは普通に通ってしまうだろうから。

 

「ぐだ子だったら危なかった…だって私からして凄く可愛いし。それを呪うとして、そうしたら彼氏面が来たりするのかな? それならそれで楽しめそう。なるほど、これが『待て、しかして希望せよ』…」

「いやちょっと待てアーチャー。その理屈はおかしい」

 

 ブツブツと呟くアーチャーの頭をセイバー…ロイドさんがぐしゃぐしゃとかき乱す。それを受けて、やはり嬉しそうにアーチャーは騒ぎ始める。

 この状況は、あーもう滅茶苦茶だよとでも言うべきだろうか? 今までの特異点の様な緊迫した空気が発生する度に、ロイドさんとアーチャー夫妻のイチャイチャで打ち砕かれている。

 今も目の前で夫婦漫才を見せつけているし、率直にいって砂糖を吐きそうな光景だ。非常にブラックコーヒーを飲みたい。

 

『まあ、それくらいは許してあげようじゃないか。

 英霊の座に戻れば、話す事は可能かもしれないけれどこういう風に触れ合う事は出来ないんだ。折角の身体を持って触れ合える機会なんだから、優しく見守ってあげるといい』

『こうダ・ヴィンチちゃんは言っていますが、1人だけブラックコーヒーを用意して飲み始めています先輩!』

有罪(ギルティ)

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言っている意見はそうなのだろうが、ブラックコーヒーはアウトだ。レギュレーション違反だ。そんなのは没収してしてしまえマシュ。

 

「あー、ダ・ヴィンチちゃん。残念ながら私達、座の本体でもこんな感じだよ?」

「一時的に世界法則を塗り替えたとか言って、アーチャーが3人分の空間を繋げてだな…」

『サラッととんでもない事を暴露してくれるねキミ達は!?』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの悲鳴が響く。1人だけブラックコーヒーを堪能していたからだ。

 

「それじゃあ、ぐだぐだしてるのは本能寺だけで充分だし、そろそろ竜退治と行きますかー!」

「「「おー!」」」

 

 右手を突き上げるアーチャーとロイドさんに倣って、オレもなんとなく同じようにしてみた。

 竜退治(ハメ殺し)が、始まる。

 




ー真名判明ー
変貌冬木のセイバー
真名:キリノ・ロイド

まあ、もうどっちもバレバレだけどね!
隠す気がない2人が悪い…


座での一コマ

「ロイドと会えない…? 座の仕様…?」
「ふざけるな。そんな事は認めない。会えて当然だろう!」
「異論は認めん」
「断じて認めん」
「私が法だ」
「黙して従え」
ーーAtziluth

「え? なんでここに?」
「逢いたかったら、来ちゃった♡」


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第5節

自分の文才の無さに時折死にたくなる。誕生日なのにね!


 竜退治。

 本来それは、英雄譚の一節に綴られるような大偉業。

 呼吸するだけで魔力を生成し強大な力を持つ化け物を討ち滅ぼす事は、それ故に難しい。

 現代の人間に、ベオウルフやジークフリートの様な真似をしろと言うのも酷な話だ。

 現にオルレアンでは、マシュやジャンヌ、ジークフリートを始めとした多くのサーヴァントの助けがあって初めて、邪竜ファヴニールの討伐に成功した。

 だから、本当ならば決して、軽い気持ちで挑めるような相手ではないのだが…ないの、だが…

 

「私じゃ足止めくらいしか出来ないから、ロイドは絶対に失敗しないでね!」

「応!」

 

 先程までの甘い空気から一転。総身に戦意を滾らせ、戦装束となったアーチャーの声に、ロイドさんがそう返事をする。

 

「マスターは、ガンド撃つ準備だけして私の後ろに! 離れないでね?」

「はい!」

 

 仮でもマスターであるオレを含めて、たった3人。たったそれだけの、ちっぽけな戦力で竜に挑もうとしている。しかもそのサーヴァントは、誰もが知る神話の頂点では無く、未だどんな逸話かも定かではない英霊。普通なら、勝ち目はとても薄いだろう。

 だけど、この2人なら出来るという確信が何処かにあった。

 

『こんな、緩い感じでいいのでしょうか…?』

『諦めようマシュ、この2人にそんな雰囲気を求めるだけ無駄だよ』

 

 確かにこれでは、モニターしている皆んなも拍子抜けだろう。けれど、そんな空気を壊す様にアーチャーは真面目な顔をしてこちらを振り返る。

 

「マスター、煩くなるけど、気絶はしないでね?」

 

 問題ないと首肯する。

 

「それじゃあ一丁、始めますか!」

 

 そしてそれを契機に、戦闘の火蓋が切られた。

 無言で眼を閉じるロイドさんに莫大な魔力が収束していく。それは宝具解放の事前段階。そして勿論、竜がそんな兆候を見逃す訳もなく眼を覚ました。

 

 ガァァァァァッ!

 

 目覚めた金色の竜が放った大咆哮が、空気をビリビリと震わせる。いつも隣に存在した大切な少女はいないけれど、それでも心を強く保つ。

 

「アーチャー!」

「分かってる。それそれそれー!!」

 

 アーチャーの持つ円筒から放たれる光線が、竜の顔面に連続して照射される。けれどそれは、聞いていた通りロクな効果を発揮していなかった。不機嫌そうな唸り声を漏らすだけで、竜には何らダメージが入っている様には見えない。

 その足止めの中、ロイドさんの詠唱が始まった。

 

Canite(吹き),fiunt horrida(荒れろ),Mors(死の) Ventus(風よ)

 

 何処からか、凍りつく様な冷たさの風が吹き込んで来た。

 それは生命を否定する様な冷気を纏い、人を弄ぶ様な怖気の走る暴風だった。

 

 グルル…グルァァァァッ!

 

 この宝具を発動させたらマズイと感じ取ったのか、鬱陶しい光線を浴びながら竜が疾走してくる。

 それでも眼を狙い光線を放つアーチャーの後ろから、逃げてしまっては終わりだ。信用も、護りも何もかも無くなった1人の人間として立ち向かわねばならなくなる。

 

「真名開帳ーー『イタカ(Ithaqua)果ての蒼穹(Aerospace)』ッ!」

 

 条理ならざる(ことわり)のもとに逆巻く凍風が、ついに現実を侵食し、覆す。

 そしてロイドさんの()()()()が現出した瞬間、オレの足元から地面が失われた。いや、この空間にはそもそも大地が存在していない様に思える。

 消失する安定感と、発生する浮遊感。この何処までも続いてそうな空へ落ちていく自分を幻視し…

 

「あれ? 落ちて、ない?」

 

 以前浮遊感はあるものの、落下することはなくアーチャーの背後に立ち続ける事が出来ている。

 

「私もちょっとは魔術を嗜んでてね。マスターを浮かせる事くらいは余裕のよっちゃんなのだ! まあ、離れられると流石にああなっちゃうけど」

 

 そう言うアーチャーが指差す先には、物凄い速度で落下して行く金色の光があった。天に燦々と輝く太陽の光を反射するそれは、間違いなく此方に向かってきていた金色の竜だった。竜は眼下に広がる雲海を突き抜け、おそらくどこまでもどこまでも墜落していく。

 

『なるほどね、これは確かにハメ殺しだ。

 空を飛ぶ手段の無い相手は、この空間では落ちる事しか出来ない』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの説明に納得しかけ…一つ疑問が浮かぶ。落ちながらでも、飛び道具で攻撃出来る英霊はいるんじゃないだろうか?

 

「マスター、今あんたは寒さを感じているか?」

 

 疑問符を頭に浮かべていたオレに、ロイドがそう質問を投げかけてくる。寒さ…改めて考えるとそこまで感じていない。

 

 少し肌寒いくらいだとロイドに伝える。

 

「そうか、なら説明する。アーチャーが守ってくれてなければ、人ならば数秒で氷像になる暴風がこの世界には吹いている。そんな状態じゃマトモに狙いは定められないし、それを操って妨害もできる。よっぽどの大英雄でもなければ、封殺してみせるさ」

「まあ、固有結界なんて総じてそんなものだよね。まあ、ロイドのはちょーっと特別だけど」

『特別な固有結界…? 私気になります!』

 

 違うマシュ、それは別のアニメだ。

 そんな事を口に出そうとした瞬間、空中にいるというのに地を揺らす様な轟音が轟いた。

 

「今のは…?」

「まあ、これにて竜退治はお終いって事だね。

 ロイドー、結界解除していいよー!」

「応」

 

 そんな曖昧な答えのまま、固有結界が解除された。

 そうして現実空間に戻り、しっかりと地面を踏みしめたオレの眼前に現れたのは、ヒビ割れ砕けた大地とその中心地でひしゃげた金色の物体だった。

 

『ああ、なるほど落下死したんだね』

『落下死する竜種……飛べない竜とは、ここまで残念に思えるんですね…』

 

 いつかの本能寺の様にぐだぐだとした空気が漂い始める。

 そんな中、1人だけ無邪気に竜の素材を回収しに行くアーチャーの姿は、ある意味英霊と言って良いかもしれない。

 

「マスター、ここに転がってる金属って全部オリハルコンだから、持って帰ったら喜ぶサーヴァントは多いんじゃないかな? あ、勿論真鍮なんかじゃないからね!」

『ぐぬぬ…だからキミは、なんでそんな面白そうな事をポロっと…』

 

 唸るダ・ヴィンチちゃんの声を聞きながら思う。

 やはり、こんな緩みきったまま過ごすのは良くない。

 

 

 自分だけでも気を引き締めねばと見上げた空の先に、赤い点が見えた。

 

「ん?」

「どうかしたのか、マスター?」

「向こうの空に、赤い何かが…」

 

 その言葉を発した瞬間、空気も雰囲気も全てが切り替わった。

 

「アーチャー!」

「っ! うっそでしょ!? 

 カルデア、早く観測して!」

 

 ロイドが指差した赤い点に向けて、半透明の空間にオリハルコンを放り込んだアーチャーが、構えた円筒から光線を乱射する。しかしそれは、そもそも着弾すらしていない。全て回避されてしまっているようだ。

 

『確認しました!

 かつて遭遇したキングゥさん程ではないですが、かなりの速度ーー観測していた反応、突如ロストしました!』

「ちっ、間に合わない! マスター動かないで! ロイドはマスターをお願い!」

 

 顔を歪めるアーチャーの周囲に半透明の歪みが現れ、そこから射出された何かがオレの足元に六芒星を描く様に突き刺さる。そしてその杭が青ガラスの様な結界を作り出し、その前にロイドが立ち塞がる。

 

「いきなり何がーー」

 

 

 そう口にした次瞬、目の前に太陽が顕現した。

 

 否、そうとしか思えない程の爆光が炸裂し、鉄すら蒸発させかねない熱が爆音を伴い撒き散らされた。結界がそれを減衰させたがそれでも苦しく、付近の草木は炭化し遠方では炎上が始まった。

 

「へえ、人類最後のマスターって、ぐだ男の方だったんだ」

 

 出現した焔の塊の中から聞こえたのは、こんな状況で聞こえる筈もない()()()()()()()()

 

「うん、いい。凄くいい! こんな状況でも諦めが見えないし……これなら、殺されたっていいや」 

「ぐ、う…」

 

 焔のカーテンが吹き払われる。

 たったそれだけの動作でアーチャーの貼った結界が悲鳴をあげ、オレを庇うロイドが苦しそうな声をあげた。

 

 そうして現れたのは、ジャックやナーサリーと同様に幼女と言える姿をした1人のサーヴァントだった。

 燃え盛る巫女服を身に纏い、()()()()がその焔に踊っている。しかし、何よりも目を惹いたのはそのサーヴァントの眼であった。一般的な日本人の様に黒い右目は、虚無と混沌が入り混じり一片たりとも光が見て取れない。対称的に周囲の焔の如き紅の左眼は、戦意と好奇心に爛々と輝いている。

 

「ん? 何か不思議そうな顔をして……ああそっか、まだ自己紹介すらしてなかったね!」

 

 こちらが何かを言う暇もなく捲したてるサーヴァントが、大仰に手を広げて言い放つ。

 

「私はキャスター。

 あなた達が昨日話していた『冬木のキャスター』! 

 この特異点を作り出してる原因にして、マシュちゃんと同じデミ・サーヴァントの英霊だよ!」

 

 そう言う冬木のキャスターは、どこかアーチャーに似ている気がした。




思いついたよっぽどの大英雄(注:空を飛ばない者限定)
アーラシュ
アルケイデス(ヘラクレス)
アタランテ
アルジュナ



後、ようやくストーリーが動く…


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第6節

連続更新、はっじまるよー


「私はキャスター。

 あなた達が昨日話していた『冬木のキャスター』!

 この特異点を作り出してる原因にして、マシュちゃんと同じデミ・サーヴァントの英霊だよ!」

 

 アーチャーと印象が重なる冬木のキャスターが宣言した言葉に、通信しているカルデアから悲鳴にも似たマシュの声が返ってきた。

 

『あり得ません! 私以外に、デミ・サーヴァントが成功した例はない筈です!』

「想像力が足りないよ。

 私が書き換えたとは言っても、ここは冬木だよ? 貴女みたいに造られた訳じゃないけど、それ以外のアプローチの仕方はあるんだよ」

「どういう…事?」

 

 冷ややかな目で言った冬木のキャスターの言葉に、オレはそう疑問を返す。前所長が、とても酷い実験を繰り返していた事は聞いている。逆に言えば、そうでもしないとデミ・サーヴァントという存在は生まれなかったと言う事だ。

 他の方法なんて、思いつきもしないし考えたくもない。

 

「そうなんでも教える訳ないじゃん。

 

 

 だって今私は、あなた達と戦いに来てるんだからね!」

 

「起動して、結界柱! マスターを守れ!」

 

 アーチャーが射出した宝具群が色ガラスのような結界を形成するのと、冬木のキャスターが無造作に腕を振るったのはほぼ同時だった。

 僅差で攻撃より早く障壁が展開されーーしかし、焔に耐える事が出来ず、元から張られていた物を含め全ての結界が砕け散った。

 

「っ、風よ!」

 

 更にロイドが行使した風の魔術、そして庇うロイド自身すら突破して紅蓮の波濤がオレに直撃した。

 

「あ、あぁァぁアぁッ!!」

『先輩!!』

 

 焔を浴びた部分が焼かれる。僅かにあった無傷な部分も熱に炙られ灼かれた。ヒトの焼け焦げる臭いが鼻腔に入り、息をしようと口を開けた瞬間喉が熱傷を負った。

 痛いとか最早そういう次元の話ではなく、ただただ苦しい。辛い。息が出来ない。

 

『ーー! ーーーーーーッ!!』

 

 遠退く意識の中、マシュの声が聞こえた気がして…

 その事を気にする間も無く、オレの意識は闇の底へと沈んでいく。

 灼熱に焼かれながら、落ちて、

 落ちて、沈んでーー

 落ち、て……

 

 

『先輩! 先輩ッ!!』

『ちょっ、コレは本気で不味いよ!?』

 

 押し寄せた爆炎の中、マスターが地面に倒れるのが見えた。

 開かれたままの無線から、マシュの悲鳴とダ・ヴィンチちゃんの声がダダ漏れになっている。

 

「マズっ!」

 

 幾ら結界10枚で減衰させて、ロイドが風の魔術で散らして庇ったとは言っても、今のキャスターが纏ってる(使ってる)モノは太陽と同等かそれ以上の焔だ。そんなものに晒されて、ただの人間であるマスターが耐えられる訳がない。

 新宿のアーチャーみたく、本当はもっと楽しみたかったけど仕方ない。私の遊びとマスターの命じゃ、後者の方が確実に重い。

 

「解錠『もう1つの世界(アナザーワールド)』!」

 

 自分の部屋兼兵器庫兼etcの宝具を躊躇いなく解放する。そして同時に異界内の回復系のアイテムを捜索、見つけたポーション類を開いた12の門から全て射出する。

 アーチャーとして現界したお陰で、異界から物を射出出来るようになったのは不幸中の幸いだった。

 

「天空の十二連!」

 

 そしてマスターの回復を邪魔をされないよう、キャスターに私は攻撃を仕掛ける。

 私の担ぐ巨大な望遠鏡から一条の閃光が放たれ、空中で12の光に別れて冬木のキャスターに殺到する。

 

「温い温い。そんな攻撃、本当に効くとでも思ってたの? アーチャー」

「いいや、全く。でも、時間稼ぎは出来るから、ね!」

 

 効かない事は初めから分かっていた。光線は全て、キャスターに近づいただけで歪みあらぬ方向へと飛んでいく。あんなキチガイみたいな熱を纏ってるんだから、不思議じゃない。

 反撃として飛来した焔を取り出した無名の宝具で打ち消しながら、私はそう反論する。どうせバレるから言ったけど、私の目的は時間稼ぎに他ならない。

 

「時間なんて稼いで、誰か援軍が来るとでも思ってるの?」

「それこそあり得ないよキャスター! 私が狙ってるのはーー」

 

 炎の弾ける音の中、カシャンとガラスの割れる音が私の耳に届いた。それは射出したエリクサーが砕ける音に他ならず、狙いが一先ず達成された報知であった。

 

「なんてことない、マスターの回復だよ!」

 

 そう言い切り、望遠鏡からの魔力砲撃と共に炎を封じ鎮める無名の宝具を多数射出する。()()()()()()のそれらは流石に脅威なのか、キャスターが大袈裟に回避行動を取った。

 それこそが私の真の狙い。この召喚されているサーヴァント全員が対界宝具を持ってる異常な特異点の中で、1番範囲の狭い対界宝具の効果圏内にキャスターを誘導する事。

 炎の所為で分かりにくいが、私の魔眼にはキャスターがその全身を影の中に投じた姿がハッキリと見えた。

 

「『愛する者の贈り物(ギフト・オブ・リーブン)』!」

「っ、そういう!」

 

 キャスターが気づいたけどもう遅い、1発は受けてもらう。

 そう吐き捨てる自分とは別に、キャスタークラスには一歩届かない魔術を魔眼を起点に組み上げる。

 使うのは勿論、生前散々使った回復と再生の魔術。『もう1つの世界(アナザーワールド)』から汲み上げた阿呆らしい魔力を注ぎ込み、息をしていないマスターを対象にそれを発動する。

 

「ヒールリザレクション!」

 

 ()()()()()()マスターの周囲に、優しい緑色の燐光が発生する。

 それは生前なら、HPが0になった人でも復活させた回復魔法。今は四肢欠損を即時回復する程度まで弱体化してしまっているけれど、即死していないマスターを癒すには不足してない魔術だった。

 だけど、まだだ。まだやる事は終わってない。冬木のキャスターに対応しなければ、なんの解決にもなりはしない。

 

「収束、収束収束収束収束収束収束ッ!」

 

 マスターが息を始めたのを確認し新たな手を打とうとした私の前で、キャスターが詠唱と化した声を上げる。

 結果、起きる現象は詠唱通り収束。キャスターが無限に撒き散らす業炎があり得ない密度で圧縮され、掲げられた右腕に一振りの剣となって顕現した。

 

 それを見た瞬間、嫌な予感が走った。忘れるな、今のキャスターは、1人だけそもそもジャンルが違う。覚醒に次ぐ覚醒で、際限のないインフレが起きている。

 

「違っ、ロイド逃げてぇ!」

 

 咄嗟に悲鳴をあげるが、もう間に合わない。

 並列して8つ同時に動いている思考のうち、酷使していない4つを全力で稼働させ、最悪の結末を避けるための手を打つ。

 

()()()()()()()()()?」

偽造呼出(コール)ーー

森羅超絶 赫奕と煌めけ怒りの救世主(Raging Sphere saver)】!」

 

 キャスターが振り下ろした圧縮された恒星の様な剣が、発生した別世界へと弾き飛ばす空間を両断した。

 ロイドは驚愕して固まっているようだけど、完全に再現できていない事に私は安堵する。気合いで因果律を崩壊させたりなんてされた日には、どう足掻いても勝ちようがない。

 

「そっか、ティラノがやられたのはロイド君の宝具か。

 流石にそれ、邪魔だよね」

「刃翼よーー」

「遅い!」

 

 ロイドの宝具の真名解放よりも、キャスターが恒星剣を横に薙ぐ方が圧倒的に早い。確かにこのままなら、確実にロイドは脱落する事になるだろう。けどっ!

 

「はぁっ!」

真名開帳(コール)ーー

天霆の轟く地平に、闇はなく(G a m m a・r a y K e r a u n o s)】!」

 

 巨大な望遠鏡の実体化を解除し、代わりに『もう1つの世界(アナザーワールド)』から2振りの軍刀を引き抜く。そうして自壊が始まる程の身体強化を自身に掛け、ロイドより前に辿り着いた。

 そして私は、真名解放によって絶滅光(ガンマレイ)を纏った軍刀を、三騎士としての補正込みで恒星剣に叩きつけた。

 

「弓も射撃武器も使わないなんて、随分とらしいアーチャーになったんじゃない?」

「うるっ、さい!」

 

 ロイドと、その背後に控えるマスターを守るために打って出たけど、やはり無謀だった。即座に消し飛ばされる事はないけれど、完全に力で押し負けている。

 魔術師(キャスター)弓兵(アーチャー)、一刀と二刀、ガチロリと微ロリの体格の違い。全てこちらが上回っている風に見えると言うのに、魔力量もほぼ同等だと言うのに、私が全力で力を込める二刀をキャスターは片手間程度の力で受け止めている。

 同じ土俵に上がらないと勝負が成立しすらしないのに、上がっても勝ち目が一切ないという虚しさが広がる。

 

「よくもまあ、そんなグチャグチャな霊基で頑張るよね…イオリ。

 バアルの技術もないのに自分に幻霊を混ぜるとか。そんな自殺行為をした所為で、見た所自分の意識を保つので精一杯じゃん」

「あなたに大半の霊基を使われてるから、こうでもしなきゃ現界出来なかったんだよ、愛鈴!」

 

 カルデアへの通信は開きっぱなしだから、ダ・ヴィンチちゃん辺りにはもう分かっただろう。

 冬木のキャスター(銀城 愛鈴)は、キャスターとしての(キリノ・イオリ)のデミ・サーヴァントだ。そしてこれが見えてしまえば、万能の天才には全てが見通せるだろう。

 

「ロイドお願い!」

「あぁ!」

 

 愛鈴と斬り結びながら、私は一言だけロイドに声をかける。特に主語は言ってないけど、そこは長年連れ添った相手だから一切問題ない。

 私の意思を汲んで、ロイドが未だ重症のマスターを助けに動き始めた。

 

「私がそんな事、させるとでも思うの?」

「だからこそ、まだだッ!」

 

 本気で恒星剣を押し込んでき始めたキャスターを相手に、私も鋼の英雄に倣って限界を突破する。溜め込んだ素材を使っての、強制霊基再臨。それによって、どうにか拮抗を取り戻した。

 

「ほう、今の行為は中々に小気味好い物であったぞ、雑種。

 だが、今すぐそこを退くが良い。

 そこな魔術師(キャスター)は、(おれ)の獲物だ」

 

 その声が聞こえた瞬間、私は絶滅光(ガンマレイ)を解き放ちキャスターから大きく距離を取った。代償として胸元を軽く斬られ、堪え難い激痛を発し始めるが安い物だ。

 

 なにせ、直前まで私がいた場所に赤黒い旋風……つまり乖離剣エアの一撃が直撃したのだから。

 

「この我を殺すと宣ったのだ、もっと我を楽しませろ魔術師(キャスター)よ!」

 

 そう言いつつ空中に浮遊するのは、既に半裸(第3再臨)の英雄王。右手には既に乖離剣を持ち、その顔は愉悦に歪んでいる。

 有難い偶然の援軍ではあるけれど、状況が更に混沌とした方向へ進む事は確実だった。




ー真名判明?ー
キリノ・イオリ

fgo的に表すなら、ゴルゴーンとかエミヤ[オルタ]戦みたいな耐久戦ですかねこれ。


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第7節

連続投稿2日目
感想、いつもありがとうございます。


 英雄王の言葉に反応して、乖離剣の直撃により発生していた粉塵が、内から焔に焼き尽くされた。やっぱり、全開じゃない乖離剣じゃあの子を仕留めきる事は出来ないらしい。

 

「なんでこういつもいつも、お前は私の邪魔になる事しかしないのさ、英雄王!!」

 

 怒りによる炎で髪を棚引かせ、その爆炎の中からキャスターが姿を現した。両手に例の劣化恒星剣を携え、本気モード(激昂状態)に入っている様に見える。狂化ランクがAもあるからか、私達は一時的に眼中にない様にも見える。

 

「王たるこの我が、なぜ貴様程度の事情を斟酌してやらねばならんのだ?」

 

 キャスターの怒りを的確に増幅していく英雄王。雑種には出来ない事を平然と…そこに痺れないし憧れもしないけどね。

 って、違う。今はそんな事考えてる場合じゃなかった。何か行動を起こすなら、今しかチャンスはない。

 私は胸の傷で戦闘不能が秒読み。ロイドは戦えるだろうけど、キャスター相手じゃ決め手にイマイチ欠ける。その上マスターという今はお荷物が同行……取れる手なんて一つしかないじゃないですかヤダー。

 

「ロイド、逃げるよ! マスターお願い」

「分かった!」

 

 そう言って私達が逃げる方向は大橋。これまで整備してきた孤児院ではなく、完全に破滅している深山町の方向であった。

 普段の私なら間違いなくロイドには追いつけないけれど、天賦の叡智で無理矢理に魔力放出を再現して、マスターを抱え先行するロイドに追従する。軍刀はとっくに仕舞ってある。

 

「逃げるなカルデア!」

「我を無視するとは、良い度胸をしているな、魔術師(キャスター)!」

「煩い慢心王、友達なんて一人しかいない癖に! ボッチなんだね? 分かるとも!」

「貴様、我を侮辱するかぁッ!」

 

 何か後ろで、しょうもない事が原因で大戦争が始まった気がするけどとりあえず思考から放り出す。

 深山町へと全速力で逃走する私達に、カルデアのダヴィンチちゃんから通信が入った。

 

『なんであの孤児院には逃げないんだい? あちらの方が逃走先としては優秀に思えるのだけど』

「あの2人の戦いに巻き込まれたら…いや、余波でもあんな施設秒で木っ端微塵になるんですけど!?」

 

 ほら、今だって後ろから世界が割れる様な異音が連続して響いてくる。これだから対界宝具同士の激突は…また特異点の揺らぎが悪化したんじゃない?

 

『でも、拠点はどうするのですか? マスターが安全に休める場所は、こちらには…』

「私の真名も半分はバレちゃったから、そっちの宝具を解放すればなんとかなる!」

 

 マシュの質問にもそう即答する。真名がバレちゃったからには、もう『もう1つの世界(アナザーワールド)』の使用を制限する必要もない。私だって、この胸の傷をどうにかしないと軽く死ぬし。侵食してくる絶滅の焔とかたまったもんじゃない。

 

「だから、聞きたい事とかは全部後回し!」

 

 と、大きな声を出してしまったせいか、キャスターにやられた胸の傷が激痛を発し大きくバランスを崩してしまった。そしてそのまま転倒しかけた時、ロイドが私の腰付近をガッチリとホールドしてくれた。

 

「あーごめん、ロイド。このままお願い。魔力放出は合わせるから」

「元からそのつもりだ!」

 

 自分で走る事を諦め、私の身体の自由をロイドに完全に任せる。

 そして2人分の魔力放出によって、世界の砕ける異音をBGMに大橋を渡りきった。次は拠点の確保だけど、どうせあの眼がある以上どこに居てもバレるし…

 

「行き先は、穂群原学園跡地で。カルデアは文句ある?」

『文句はないよ。どうやら、私達よりキミの方が土地勘がある様だしね』

 

 カルデア側の言質は取った。なら、少しはやらかしても文句を言われる事はないだろう。説明責任は生まれそうだけど。

 

「それならごー! 私、そろそろ気絶しそうだし早めで。門開けなくなっちゃうから」

「了解した!」

 

 私たちの移動速度が一気に上昇し、一直線に目的地へ向かった。

 こうやって私達は、一応の逃走に成功したのだった。

 

 

 何か、暖かい場所に寝かされているのを感じた。

 カルデアのベッド? いいや違う。特異点にレイシフトしている以上、それはあり得ない。そしてなにより、品質が段違いだ。

 この寝具は、いつまでもここで寝ていたくなる様でーー違う、そうじゃない。オレはレイシフトして特異点の修復に来た。そして、あの冬木のキャスターが放った炎で焼かれて…

 

「ッーー!」

 

 そこまで記憶が蘇り、オレは荒い息でガバリと状態を起こした。そして、周囲の状況確認より先に自分の身体を触って確認していく。

 

「何も、ない?」

 

 文字通り焼きついた最後の記憶では、オレはなす術もなく炎に包まれ焼かれた筈だ。それなのに、触った感じなんの傷跡も残っていない。鏡などがないので見た目は分からないが、声が出せた以上そちらも問題ないだろう。

 

「よしよし、目は覚めたし無事みたいだね。

 だから言ったでしょマシュちゃん? 最高品質のエリクサーを使ったから、特に問題ないって」

『だって先輩が、先輩があんな事になったんですよ!

 安心できる訳ないじゃないですか!』

 

 その声に振り向くと、明らかに風呂上がりの様に見えるアーチャーが、ロイドに髪を拭いてもらいながらマシュと話していた。

 そして、それと同時に気がついた。この空間には、およそ風景と呼べるものが一切存在していなかった。空も白、地面も白、壁も白、白白白白白。ここは、自分の今座っている布団と、キャスター達以外何も存在していない空間だった。

 

「どこ、ここ?」

 

 なんでこんな場所に!?

 

「狩りごっkもご…ここはジャパリpもご…ちょっ、ロイドやめっ。ひゃん、ここは健全な世界だから!」

「こらっ!」

「ひぁっ、ふぇぅ、本当に、やめっ。それ以上やられると、んっ、切なくなっちゃうから…」

 

 何か喋ろうとしたアーチャーが、何度もロイドに髪をかき回されて、人に見せちゃいけない様な顔に変わっていく。

 混乱に陥りかけたオレの頭は、目の前で繰り広げられた唐突なイチャラブで強制的に沈静化させられた。

 

『見ちゃいけません先輩! お父さんの様になってしまいます!』

「大丈夫、分かってる」

 

 オレとキャスター達の間にマシュのホログラムが立ち上がり、視界を塞いでるけど言われるまでもない。ランスロットやトリスタンの様な、特殊な性癖をオレは持っていない。

 

『円卓最強の騎士が、まるで変態の代名詞みたいに扱われる日が来るなんてね…』

「仕方ないよ、ダ・ヴィンチちゃん」

 

 だって、キャメロットでもハロウィンの時のお城でも、かばい立てできない程にやらかしていたのは覆しようもない事実だから。

 そして、オレの服も別の物に変わっていた。カルデア戦闘服ごと、あの炎に燃やし尽くされてしまったらしい。ジャージ姿な自分を見て、つい1年前までよくこういう格好をしていたのに、今では懐かしく感じる事に驚いた。

 

『それはそれでいいとして、立香君も起きた事だし、現状の整理をしたいと思っていたんだけど…』

「今は真面目な状況なんだぞ? もう冗談とかおふざけで茶化さないか?」

「わ、わかっは。らいじょーぶ」

 

 立ちはだかるマシュの向こう側から、厳し目にアーチャーを話をするロイドの声と蕩けきったアーチャーの声が聞こえてきた。

 これじゃあ、楽に話なんて出来やしないのは目に見えて明らかだ。

 

「それじゃあ、残りの髪を乾かすからなー」

「ひゃ、ひゃい…」

『おお! まさか魔術をこんな風に使うなんてね!』

 

 そんなダ・ヴィンチちゃんの実況によって、なんだか少しだけ覗いてみたくなってくる。好奇心に身を任せ立ち上がろうとした時、マシュのホログラムがずいと近寄ってきた。

 

『むぅ、先輩は絶対に見たらダメなんです! 

いまは遥か理想の城(ロード・キャメロット)』です!』

 

 そして頬を膨らませ、両手を大きく広げオレの視界を目一杯塞いでくる。ここまでされたなら仕方がない、気になってはいたけどやめよう。再び布団の上にオレは座り直す。

 

「ほへ〜」

「相変わらず、イオリは髪長いよな…」

「嫌い?」

「いいや、好きだぞ?」

「えへへ…」

 

 あの2人の準備が終わるまで、気長に待つとしよう。恐らくここら、危険な場所ではないのだろうし。

 あぁ、巌窟王のコーヒーが恋しい。




イオリの融合した幻霊のヒント、出揃いました。


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第8節

連続投稿3日目
シリアスにしきれない悲しさ


 アーチャー達の準備が終わり落ち着きを取り戻した白い空間で、地面?に座り向かい合っていた。

 アーチャーの格好が、パーカーにホットパンツなんて物に変わってる時点で警戒心は捨てている。加えて胡座をかくロイドに抱き抱えられているのだから、警戒を保てという方が無理な話だ。

 

「それじゃあ気を取り直して、マスターも起きたし、現状の整理と行きますか!」

 

 コクリとオレは頷く。途中からの記憶がないから、話をしてもらわないと何が何だか分からない。

 

「えーと、じゃあまず私の真名と冬木のキャスターについて。マシュちゃんもダ・ヴィンチちゃんも知ってるからね。

 私の真名は、半分はイオリ・キリノ。そして冬木のキャスターは、キャスターとしての私のデミ・サーヴァントだよ」

「それは…」

『自分の力を託した人と、争っているという事ですか…?』

 

 通信越しに、マシュが驚愕した様な声音で聞いてくる。

 それもそうだろう。自分と同じデミ・サーヴァントが特異点を発生させている原因で、尚且つかつて力を託した英霊がその相手を排除すべく現界しているのだから。

 

「そうだね。だから、この特異点は私の不始末なんだ。あの子に背負わせちゃって、ちゃんと助けてあげれなかった私達のね」

 

 でもそれは…/すごく悲しい事じゃ

 

「それは、マスターが気にする事じゃないよ。それに、いけない事をしてる子供を止めるのは、親の役目だから」

「まあ、そんな俺たちの個人的な事情は置いておいてだ。まずは、マスターが気絶してからの事を話すとしよう。補足は頼むぞ? カルデア」

『勿論、ダ・ヴィンチちゃんに任せなさーい』 

 

 子供とか親とか気になるフレーズはあっものの、地雷な予感がするのでスルーする。

 そうして、ダ・ヴィンチの補足込みで聞いた話は中々に驚く物だった。オレが気を失った後、アーチャー…イオリが単独で冬木のキャスターと戦闘を続行。押し負ける直前にギルガメッシュが乱入し、そのまま巻き込まれない為に深山町側に逃走。今はオレ達がいるこの空間は、イオリの『もう1つの世界(アナザーワールド)』という宝具の中らしい。

 そこに逃げ込み一先ずの安全が確保出来た為、こうしてゆっくりと話が出来ている。

 

「それで、私がお風呂に入ってたのは半分受肉してるからで…めう」

「ほら、また話がズレてるぞ」

「ほんほは…ありがとうロイド」

 

 膝の上にいるイオリの頬を摘み、ロイドが話の軌道を修正する。見ているだけで砂糖が生産できそうな空気と距離感…1番しっくりとくる言葉は、本人達の言っていた通り「夫婦」だった。

 

「コホン。じゃあ本題に戻るとして…

 

 マスター。あなたはまだ、あの子と戦える?」

 

 そしてなんとも締まらない体勢のまま、真剣な表情をして2人がオレに問いかけてきた。

 

「あんたは一度、冬木のキャスターに焼かれて殺されかけてる。だから逃げたいって言っても文句は無い。守りきれなかった責任もあるしな」

「だからもし帰りたいって言うなら、今すぐには無理だけど早めにどうにかするよ。あの子に大半の霊基を持っていかれてるせいで全部宝具は持ってかれちゃってるけど、手がない訳じゃないし」

 

 それはなんて悪魔の提案だろうか? 逃げてもいい。助けてあげる。とても魅力的で、けれどそれに頷いてはいけない。それを知っているオレは、無言でかぶりを振った。

 

「それは、まだ立ち向かう意思があるって事?」

「勿論。マシュにそんな情けない姿は見せられないし、ここで逃げ出すなんて恥ずかしい。それに、最初に約束したから」

 

 冬木のキャスターを助けると約束したのだ。男に二言はない。

 そうイオリ達を見つめると、2人とも何故かとても驚いたような表情をしていた。

 

「これが、人類最後のマスターか…何か、凄いねロイド」

「そうだな…これは確かに、俺たちより英雄だ」

 

 自分はそんなに凄い人物ではないと思うのだけれど、ややこしくなるだろうから否定はしないでおく。

 

「カルデアとしては、マスターの決断に文句はない?」

『先輩が決めた事なら、私は賛成です

 けど…先輩の事、よろしくお願いしますね?』

「それは勿論! 今度こそ、ヘマはしないよ」

 

 そうイオリが胸を張って答えた。

 そう簡単な事じゃないっていうのに…とロイドがぼやいているけれど、それでも場の雰囲気は一気に明るいものとなっていた。けれど、そこにダ・ヴィンチちゃんが水を差した。

 

『良い感じに纏まってきたところ悪いんだけど、勝算はあるのかな? あんなサーヴァント相手にこの戦力じゃ、かなり厳しいと私は思うんだけど?』

「寧ろ余計な英霊がいる方が勝率は下がるよ、ダ・ヴィンチちゃん。それに、あの子は私だもん。戦い方も、宝具も何もかも熟知してる」

 

 イオリの蒼眼が、ホログラムのダ・ヴィンチちゃんを射抜くように見据える。

 

『ん、それなら良いんだ。存分にやってくれたまえ!』

「それじゃあ行こうか! この特異点のもう一つの面、深山町へ」

「はい!」

 

 

 そうやって意気揚々と謎の門から出た先には、完全に死んだ町…いや、町だった物の残骸が延々と広がっていた。

 特異点Fの時のように町を火の手が覆っておらず、建物も8割方瓦礫になってしまっている。元はこちらも緑で覆われていたのか炭の様な物が地面に転がり、周囲を広く見渡す事が出来ていた。

 

「どうマスター? 新しい礼装は」

「問題ない…というよりも、寧ろ動きやすいです」

 

 そういうオレの格好は、出発前から更に変化していた。

 見た目だけで言えば、バイクに乗る人が着けるプロテクターの付いた、カルデア戦闘服。燃え残った元の服と、あの白い異界の中にストックしてあった諸々をパッチワークして作り上げた礼装らしい。一体どこにストックしてあったのだろうか?

 

「よかったよかった。使える魔術は、1つは引き継いでガンド。残り2つは、弱体化の解除・瞬間強化になってるよ。

 後はまあ、プロテクターのお陰で物理的なダメージに少し強いかな? 勿論動きは阻害してない筈だよ」

『奇襲してきたスケルトンの攻撃を無傷で耐えたっていうのに、少し強いなのか。やっぱり神代は頭がおかしいね!』

 

 ダ・ヴィンチちゃんの言う通り、あの異界から出て少し経ってから大量のスケルトンの襲撃があった。

 その数が余りにも多く、数体ではあるが2人を抜けてオレにまで到達したのだ。ガンドでの迎撃も間に合わず、あわやと思い頭を庇って……腕のプロテクターに当たったスケルトンの剣がひび割れた。そして、目の前のスケルトンと同じく固まってる間に戦闘は終了した。骸骨なのに、困惑した雰囲気のまま光の中に消えていったスケルトンには合掌するしかなかった。

 

 その事を思い出しているオレを見て何を思ったのか、安心させるような優しい声音でイオリが話しかけてきた。

 

「大丈夫だよマスター、私だって男の浪漫は理解してる。

 そう…そのプロテクターはパージして、高機動型に変身可能なんだよ! 移動速度がアップして、ガンドがある程度連射可能になるんだ!! だ!! だ!!

「貴女が神か」

 

 セルフエコーをしてドヤ顔を決めているアーチャーの前に跪き、伸ばされた手をしっかりと握り返す。

 

『まさしくプロの犯行だね。一見なんでもない様に見えて、最先端から失伝してるだろう技術までもが完璧に組み合わさっている。一体、キミはなんの英霊なんだい』

「鍛冶師…かな? だよね、ロイド?」

「そうだな。魔法使い…いや、この世界風に言うなら魔術使いでもあったけど、イオリはずっと鍛冶師だったな」

『絶対に詐欺だ!』

『防御を捨てた攻め…なるほど、そういう考えもあるのですね』

 

 色々とツッコミたい所はあるけれど、マシュはちょっと待って欲しい。マシュがアーマーパージなんてしたら、去年のハロウィンの時の様にデンジャラス・ビーストが爆誕してしまう。それはマズイ、非常にマズイ。

 

「そういえば、何処に向かってるんですか?」

 

 話の流れを変えるべく、オレは行き先を訪ねた。もう、安心できないマイルーム生活は嫌なのだ。

 

「ん? 言ってなかったっけ? 英雄王の寝所だよ。」

「え」

「ほら、もう見えてきた。後、戻ってきてるね英雄王」

「え」

 

 そう言われ前を向くと、この荒れきった世界の中不自然なほど限界を保っている協会とその敷地が目に入った。上空には、小さな雷を纏う複数の円盤が浮遊していた。

 

「さてマスター、楽しい愉しいコミュの時間だよ。

 あ、賢王様とは全然違うから注意ね!」

「え」

 

 呆気にとられるオレの前で、アーチャーは鉄柵の門を開けてさも慣れているかの様に協会へ侵入していった。

 




竹箒でもう、ダメ…涙が…卑怯すぎるよFgogo…


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第9節

当てて欲しくて公開するイオリの取り込んでる幻霊のヒント
宝具
手持ちの武器
千里眼:A
近接戦闘
天賦の叡智


「良し、さあさあ、レッツらごー」

 

 1人だけノリノリで、アーチャーは奥に見える教会へと突き進んで行く。その後ろ姿を見て固まっているオレの方に、ポンと軽く手が置かれた。

 

「なんだかんだ言ってるが、この特異点での時間が楽しくて仕方ないらしくてな。なるべく許してあげてくれ」

「別に、それはいいんですけど…」

 

 イオリが言うには、この先で待つのはバビロニアであった賢王たるギルガメッシュでなく、英雄王ギルガメッシュっていう話だった。それならばきっと…

 

『話をしてくれるかどうかも怪しいよね』

『寧ろ、一蹴されてそのまま戦闘に発展すると思われます』

 

 マシュやダ・ヴィンチちゃんの予想とオレの予想は完全に一致している。どう考えても助力どころか、マトモな会話すらしてもらえるか怪しい。

 

「いや、それなら問題ない……多分。

 今の英雄王は、魔力が足りない上に疲労困憊だからな。その分不敬な真似をしたらアレだが、話くらいはしっかりと聞いてくれる」

「多分って?」

「機嫌が悪ければ、その限りじゃないって事だ。まあ、今日は多分問題ないだろう。いきなり攻撃されないし」

 

 その多分というのが、不安で仕方がない。普段より何割か話を聞いてくれる賢王ギルガメッシュですらアレだったのだ。英雄王となると、何が起こるか分からない。

 

「あれ、来ないの? 用があるんだから、早く行かないと怒っちゃうと思うんだけど…」

「行かなきゃーー」

 

 ただでさえ低い成功率を、更に下げる理由はない。

 会話を一旦切り上げ、イオリの後を追う。そう急ぐオレに、カルデアからマシュが話しかけてくる。

 

『この先で待っているのは、間違いなく英雄王ギルガメッシュです。それと……何故か、聖杯と同等の魔力炉心も確認できます』

 

 それは確かに気になる事だけど、そこまで重要でない様に思える。だってあの王様は、ウルクの大杯を…聖杯を持っているのだから。

 

『それと、なんだか嫌な胸騒ぎがするんです。

 イレギュラーだらけのこの特異点、何が起こっても不思議じゃありません。どうか、気をつけて下さい、先輩』

「分かった、気をつけて行動するよ」

 

 この特異点に来てから、ずっとこの2人に振り回されっぱなしだったけれど、気を引き締めねばなるまい。忘れかけていたけれど、この特異点はあの7つの特異点と同規模のものなのだ。気を抜いたまま修復できるほど、甘いものである筈がない。

 

「ん、マスターも準備できたみたいだね」

 

 扉の前で待っていてくれたイオリが、こちらを見てそう呟いた。そして満足そうに頷き、教会の扉を勢いよく開け放った。

 

「やっほー! 英雄王。元気してるー?」

 

 そして、そんな事を大声で言い放った。絶対これは怒る。オレだって、疲れてる時にこんな声をかけられたら怒る。

 つまり、イオリはこちらの覚悟を一瞬で灰燼に帰しにきていた。

 

「何用だ、弓兵(アーチャー)風情が。今の我に、貴様なんぞと戯れている暇は…」

 

 教会の奥に鎮座する謎の玉座に座っているのは、相変わらず半裸で苛立ちがMAXといった雰囲気の英雄王。その燃える紅玉(ルビー)の様な双眸が、こちらを無遠慮に睨め回す。そしてその視線がオレに到達し、ピタリと静止した。

 

「ふむ、そういう理由(わけ)か。理解した」

「さっすが英雄王。話が省けて助かるよ」

 

 そう言ってこちらを一瞥した英雄王が、はしゃぐイオリに心底面倒そうな目を向けて吐き捨てた。

 

「それ以上巫山戯た事を喋ろうものなら、魔術師(キャスター)よりも先に貴様を潰すぞ弓兵(アーチャー)。口をつぐむが良い、次はないぞ」

「は〜い!」

 

 そう子供がしそうな返事をして、後ろでずっと黙って待ってくれているロイドの元にパタパタと走っていった。これで英雄王との矢面に立つのはオレただ1人。この身この心1つで立ち向かわなければならない。

 

「さて、天文台の魔術師よ。我も当事者故に、凡その事情は把握している。貴様の願いも予想はついた。普段であれば即打ち首にするところだが……良いだろう、話だけは聞いてやる」

 

 あまりに予想と違う態度に困惑する。オレの知ってる英雄王とあまりに違いすぎる。けれど固まっている暇はない、早く言えと急かされているのだ。待たせてしまったら何が起こるかわからない。

 

「どうか、貴方の力を貸して欲しい。英雄王ギルガメッシュ」

 

 押し寄せるプレッシャーの中、英雄王と眼を合わせてそう言い、オレは頭を下げた。もしかしたら、今ならば話を聞いてくれるかもしれーー

 

「断る。予想通りのつまらん願いである上に、我が力を貸す利益がないわ!」

 

 なかった。力を貸してくれるなんて事はなく、ある意味予想通りの結果に終わった。そして、こちらに興味を失ったかのように眼を瞑ってしまった。

 

『そんな…』

『まあ、普通はこうなるよね』

 

 通信機から残念そうな2人の声が聞こえてくる。だけど、1つだけまだ切ってない手札がある。イオリとロイドだけでは、本人達の言う通り冬木のキャスターに勝てるか怪しいのだ。だから、どうしても助力が欲しい。だから、これを言うしかない。

 

「バビロニアで見せてくれた、凄くカッコイイ英雄王の姿、また見せて欲しかったんだけどなぁ…」

 

 玉座に座る英雄王の眉がピクリと動く。

 

「ティアマト神すら討滅した王様が力を貸してくれたら、あの冬木のキャスターとも互角以上に戦えると思ったんだけどなぁ…」

 

 玉座に座る英雄王が、目を開けた。

 

「でも、分かりました。オレ達は、オレ達の力だけで挑む事にします。お邪魔してすみませんでした」

 

 もう一度頭を下げて、オレは踵を返し入り口へと向かう。やはり、オレ達だけで戦うしかないのだろう。英雄王の助力が得られない以上、勝算は低くなるけれど仕方がない。

 

「待つがいい、天文台の魔術師よ」

 

 そうして数歩歩いた時、後ろから声をかけられた。振り向くと、目を開いた英雄王が立ち上がりこちらを見ていた。

 

「そこまで言うのであれば仕方ない。賢王(オレ)に出来て、(オレ)に出来ぬ道理もあるまいしな」

『それって!』

「だが、勘違いはするでないぞ。貴様の頼みで動くのではない。いかな我も、あの魔術師と同時にカルデアと敵対しては力尽きるのみだからだ」

 

 嬉しそうに返事をしたマシュを、英雄王はキッパリと否定する。

 

「それは、一緒に戦ってくれるという事ですか?」

「違う。我と彼奴の戦に巻き込まれれば、貴様らなど木っ端の如く砕けるであろう。故に供に戦う事は許さぬが、邪魔はしないでやる。貴様らは勝手に問題を片付けるがいい」

「ありがとうございます」

 

 最大の感謝を込めてそう言い、頭を下げる。

 

「どうせ彼奴は、明日も我に挑みにくるであろう。

 その時にでも仕掛けるのだな」

「はい!」

 

 元気よく返事をし、今度こそ教会を後にする。

 

 教会から離れ、例え英雄王でも音を聞き取れない様な距離まで来た時、漸くアーチャーが口を開いた。うん、分かっている。言いたい事は分かっている。

 

「英雄王、ツンデレ…まじツンデレ…」

『いやぁ、見事なまでにテンプレを踏襲していたね!』

 

 くつくつと小さく笑うイオリの背中をロイドが優しく撫で、大笑いしているダ・ヴィンチちゃんをマシュが宥めている。

 これ、凄く失礼なんじゃないだろうか?

 

「あー、でも、うん。マスターのお陰で、どうにかなりそうだよ。本当にありがとう」

 

 目尻に涙を浮かべたイオリが、どうにか落ち着いて言ってくる。オレにとっても死活問題だから、精一杯頑張った。

 

『ですが先輩、どうやってあんな事を思いついたのですか?』

「いや、なんとなく?」

 

 そう、なんとなくアレが最適解な気がしただけだったのだ。

 

「さてと、それじゃあよかった…って言いたいところなんだけど。マスター、良い知らせと悪い知らせ、どっちを先に聞きたい?」

 

 この数瞬で完全に素面に戻ったイオリが、そう問いかけて来た。まだ笑っているダ・ヴィンチちゃんは総スルーされている。

 

「それじゃあ、良い知らせから」

「おっけー。じゃあ簡単に纏めて言うよ。

 ギル様が助けてくれるお陰で、こっちの勝ち目がかなり出てきた。あの子と、少なくとも戦えるくらいには」

 

 つまり、今までより圧倒的に良い状況になったと言う事か。それなら、頑張った甲斐があったって事だ。

 

「それじゃあ、悪い知らせは?」

「あの子が本気になったら、逸話的に英雄王じゃ何があってもに勝てない。結局あの子をどうにか出来るのは、私達だけだね」

『『なっ』』

 

 通信機の向こうから、2人の驚く声が聞こえた。けれど、オレはなんとなく納得している部分があった。あの炎を直に受けたからだろうか?

 

「後、最終決戦まで数日の猶予もないね。私の眼に始まりが見えるくらいだし」

「そんな…」

 

 ついででトンデモナイ事を言いやがった。それじゃあ、準備も何もできやしないじゃないか。眼に見えるとは、千里眼の効果だろうか?

 

「それとーー」

『まだあるんですか!?』

「うん。

 

 

 今日の、宿がない」

 

「なん……だと」

 

 一気に問題の脅威度は下がったけれど、重要度はさして変わらない。こんな瓦礫の中じゃおちおち眠れないし、それでは明日に支障が出る。

 

『キミの宝具の中って言うのはダメなのかい? アーチャー』

「有りだけど、最初からは提案できないよ…あくまでアレは宝具なんだし。まあ、マスターとカルデア側が文句ないなら良いけどさぁ…」

 

 ダ・ヴィンチちゃんの質問に、アーチャーが溜め息を吐きながらそう答える。

 

「マスターはいいの? あんな空間で」

「問題ない」

「カルデアは?」

『マスターが決めたのなら、文句はないです』

「はぁ…なんで皆、こんなお人好しなのさ…」

 

 アーチャーが、もう一度大きく溜め息を吐いた。

 

「もうやだぁ、疑ってた心が痛い。助けてロイドぉ…」

「ほら、よしよし…」

 

 涙目のイオリが、ロイドに抱きついて頭を撫でられ始めた。

 ちょっと気を抜いた途端にこれである。いつか、ひとりでに口の中がジャリジャリとしてくるんじゃないだろうか? 勿論砂糖で。

 

「今日の晩御飯は竜骨ラーメンにしてやるー!!」

 

 それはそれで、凄く楽しみだ。

 こうして、とても長く濃密だった3日目が終わりを告げた。

 




「し、仕方ないわね。別の私に出来て私に出来ない筈がないんだから、助けてあげる!」
「で、でも勘違いしないでよね。あなたが頼んだから助かるんじゃなくて、敵対したら疲れるだけだからなんだから!」
「あなた達じゃ、私の近くにいたら壊れちゃうもん。けど、一緒に戦いはしない代わりに邪魔はしないであげる! そっちも勝手になんとかしなさいよ!」


疲れてるんだな…私。


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第10節

私この特異点終わったら、頭を空っぽにしてVRMMOモノ書くんだ…リアフレがいつまで経っても書かないから。


「ふんふんふ〜ん♪」

 

 どったんばったん大騒ぎはあったけれど、晩御飯も終わりマスターが眠りについた頃、私は異界の中に置いてある台所で洗い物をしていた。多分、明日こそがこの特異点の分水嶺だから。そして、明日こそがーー

 

「手伝うか?」

「ううん、大丈夫だよロイド」

 

 話しかけてくれたロイド(最愛の人)の言葉で、ぐるぐると回っていた考えを断ち切ることに成功した。そうだよね、そうなると決まってても今から考える必要はないか。

 

「分かった。でもあんまり無理はするなよ? 何せイオリは受肉してるんだからな」

「ん、分かってるよ。もうちょっとで終わるし、大丈夫大丈夫」

 

 睡眠こそしなくても良いけれど、今の私はこの異界に抱えてる物のせいで強制的に受肉させられている。まあ、無理に無理を乗算した現界だから文句は言わないけど、不便なものは不便なのだ。

 何てことを考えている間に、手元にあった洗い物は全て無くなっていた。ならばもうやる事はない。濡れた手をエプロンで拭き、それを遠くに見える洗濯カゴに投げ入れる。

 一息ついた事だし、久しぶりにロイドとお酒でも。そう思った私の前に、ダ・ヴィンチちゃんのホログラムが立ちあがった。どこから出てきたし。

 

『落ち着いた様だし、ちょっといいかなアーチャー?』

「ん、別に構わないよ」

 

 何を聞かれるかは知っている。わざとマスターの前では話さずボカした所があるし。ロイドを手招きしつつ、私は地面に座る。

 

「あ、でも1つこっちも聴きたいんだけどさ、隣にマシュが居たりはしないよね?」

『いないけど、それがどうかしたのかい?』

「多分ダ・ヴィンチちゃんの聴きたい事は、ダ・ヴィンチちゃんしか知らない方がいい事だから」

 

 ロイドが座布団を持ってきてくれたので、その上に座りなおす。

 

『今こちらにいるのは、私と一般職員だけだよ。マシュは少し前に交代したばかりだから、暫くは戻ってこない』

「ん、それならいいや。ドンと聞くがいいさ」

 

 マスターにもマシュにも余計な知識を与えずに済むなら、少しは原作知識を喋ってもいいだろう。ダ・ヴィンチちゃんなら言いふらしたりはしないだろうし。

 

『なら聞かせて貰うけど、 昼間冬木のキャスター…愛鈴だったっけ? あの子が言ってた『バアルの技術もないのに自分に幻霊を混ぜる』ってどういう事なんだい?』

「どっちを先に聞きたい? バアルか、幻霊を混ぜるか」

 

 一度に説明するのは面倒なので、ダ・ヴィンチちゃんに私はそう聞き返す。

 

『まずはバアルの話だ。バアルとは、()()()()7()2()()()()()の序列1位の悪魔の名前だ。何故、今そんな名前が出てくる?』

「それは簡単だよ。魔神柱は、まだ生き残りがいる。冠位時間神殿で、全てが終わった訳じゃない。これからカルデアは、それに纏わる問題に巻き込まれる。私から伝えられるのはそれだけだよ」

 

 要点は説明して、数とかはボカして伝える。私は新宿で起こる出来事も知っているけれど、それは説明する様な物じゃないしね。

 ロイドに寄りかかり、安心する暖かさを感じながら私は息を吐く。

 

『何故、キミにそんな事が分かるんだい?』

「EXまではいかないけど、千里眼を持ってるからね。未来予知くらいは…ね」

 

 実際は原作知識という産物のお陰でもあるけれど、言う必要は皆無だ。千里眼で見てるのも嘘じゃないし。

 

『それじゃあ、幻霊との融合についてだけど…そもそも、幻霊ってなんなんだい?』

「んー…簡単に言うと、都市伝説とか民間伝承、創作書物とかが原典の、極めて架空に近い英霊に届かない存在かな。もし呼び出しても、作家系キャスター以下の戦闘力しか持ってない霊体。普通なら、だけど」

 

 確か、幻霊はそんな感じだった気がする。私が頼み込んで手を貸してもらった幻霊(ヒト)は、時代的に神秘が足りてなくて英霊に届いてない感じだったけど。

 

『普通ならって事は、融合がその特例なんだね』

「そ。特異点みたいなグチャグチャな状況じゃないと出来ないけど、英霊に幻霊を融合させる事で霊基の強化ができる。代わりに、原点とはかけ離れた存在になっちゃうけどね」

 

 グリフィン博士…だったっけ?その幻霊を融合すれば透明になるし、ドッペルゲンガーを融合すれば化けられる。スレンダーマンを融合すれば、ワープが出来るかもね。

 つまりどこぞの神星をその身に取り込めば、その意思が確立しないまま聖杯の泥で汚染してしまえば、その力を思うがままに操れるという事だ。愛鈴はマジキチだね、絶対。

 

「その融合には、本来特別な手段が必要なんだが……反対を押し切って、イオリが消えかけだったキャスターとしての力で無理矢理に合成してな…」

『ふむ…』

 

 ロイドが優しく私の頭を撫でてくれるのを、目を閉じて堪能する。

 実を言うと、私が正気を保っていられるのはロイドが居てくれるからだったりする。無茶な融合で意識がぐっちゃぐちゃになって、けれど抱き締めてくれたロイドのお陰で私が主導権を握ることが出来た。

 

「ま、観察してくれれば分かるけど、私の霊基は混沌と滅茶苦茶の愚呪愚呪になってるんだよね。そうでもしなきゃ現界出来なかったんだけど、凄い無茶だったよ」

 

 そして、一息ついて私は目を開く。そして、ダ・ヴィンチちゃんをしっかりと見つめ問い掛ける。

 

「そうやって、私の混ぜ込んだ幻霊は1人。

 これまで散々ヒントは出してるんだし、もう分かってるんでしょ? 万能の天才さん」

 

 熱圏付近からの魔力砲撃。望遠鏡を使っての攻撃。千里先まで…いいや、万里先まで観測できる眼。近接戦闘。射撃と経験からくる心眼。そして、天賦の叡智。ここまで出しているんだから、分かる人には分かるだろう。

 

『勿論、とは言えないけれどね。キミが融合した幻霊はーーエドウィン・ハッブル博士……で、あってるかい?』

「正解」

 

 その咒を呼ばれた事で、分離しそうになった意識を無理矢理に抑え込む。私はキリノ・イオリだ。それ以外の何者でもない。

 

「それで、後は何か聞きたいことはある?」

『それじゃあ、キミがわざわざ現界している理由だ。なんでキミは、この特異点に現界しているんだい?』

 

 成る程そうきたか。まあ確かに、自分の力を託した人間を倒す為に現界するなんて、馬鹿げてるか。

 

「まあ、これは私があの子をデミ・サーヴァントにする原因になった、前回の聖杯戦争にも関係してるんだ。軽く説明すると、私を偶然召喚したあの子は、その時既に家族を殺人鬼に皆殺しにされてたんだよ。あっ、その時のあの子の年齢は9歳ね」

『なっ…』

「それでまあ、流れで少しお母さんをやってたんだ、私。ちゃんとそう接したのは1日だけだけど、これでも一児の母だしね」

『嘘だろうっ!?』

 

 それはお母さんとして接した事なのか、それとも私が一児の母という事なのか。まあ、あまり重要じゃないので軽く流す。

 

「だからまあ、橋で言った通りかな、私があの子とは別の存在として無理に現界してるのは。つまり……私は、子供の間違いを正しにきたんだよ。仮にも親だったんだしね」

『……成る程ね。人理焼却中でもないのに記憶を持ち越してるとは驚いたけど、そういう事ならば納得だ』

 

 それなら良かった。まあ、この私の気持ちはきっと凄く特殊なんだろう。英霊なんて死者の夢みたいなものが、現実の、自分の子供じゃない子に親として接しようとするなんてね。

 改めて説明すると、何か凄く恥ずかしいな…これ。

 

「それじゃあ、他に聞きたい事は?」

『『冬木のキャスター』について、知ってる事を話してもらいたいけど…』

「それは本人から聞かなきゃ。どうせ明日、この特異点は決着がつくんだし。私達が勝つか、それとも負けるかは知らないけど」

 

 あの子…愛鈴の事は、自分の事と同じくらいには理解している。けれど、ここで私が全てを話すのは最低最悪の手段だ。理不尽にキレられて、全てを灰にされかねない。

 

『まあ、そうだよね。

 けれど、明日にはってずっと言っているけれど、それはどこまで正確な予知なんだい?』

「それに関しては、100%だな」

 

 ロイドが自信満々にそう答える。えっと、そんなにはっきりと断言させると照れる…えへへ。

 

「何回視ても、見えるのは焔に沈んだこの特異点。そして、私達とマスターだけが生き残ってる映像。どうなるかは知らないけれど、明日で蹴りがつくのは間違いないね」

 

 ほっぺが熱いまま、私はそう言い切る。

 何度魔眼単体で予知しても、水晶玉占いだべ!しても、それ以上の未来は観測出来なかった。きっとそれが、キャスターじゃない私の限界なんだろう。

 

「ふわぁう…後、これ以上聞きたいことが無いなら、私は明日に備えて寝たいな…」

『分かった。それじゃあ、残りの詳しく部分はセイバー君に聞くとするよ。キミもゆっくり休んでくれ』

「はいはーい。ろいど、膝枕…」

「はぁ…仕方ないな」

 

 適当な毛布を引き寄せ、胡座をかくロイドの太腿に頭を乗せる。うん、やっぱりこれが1番安心する。この特異点最後の、幸せな思い出としては至上の部類に入るだろう。

 

「おやすみ、ロイド。愛してるよ」

「応。おやすみ、イオリ。俺も愛してるぞ」

 

 最愛の人に愛を告げて、私は最後の眠りについたのだった。

 

『うわ、深夜になんて物を見せるんだい。口の中がじゃりじゃりしてくるじゃないか』

 

 そんな言葉は聞こえてない。聞こえてないったら聞こえてない。きっと眠りかけの意識が見せた幻だろう。




ー真名判明ー
変貌冬木のアーチャー
真名:キリノ・イオリ
   エドウィン・ハッブル

【ステータス】
 筋力 : D 耐久 : C 敏捷 : C 魔力 : A++
 幸運 : D 宝具 : EX

【クラス別スキル】
 対魔力 : B
 自身の弱体耐性を少しアップ

 単独行動 : EX
 自身のクリティカル威力をアップ

 無限の魔力供給 : B
 自身に毎ターンNP獲得状態を付与

 神性 : C
 道具作成(偽): A

【保有スキル】
 万里の魔眼 : A
 自身のスター発生率をアップ(3T)
 自身のArts性能をアップ(1T)

 天賦の叡智 : B
 自身に様々な効果をランダムで付与
 ガッツ(3T)
 自身の防御力をアップ(3T)70%
 自身の宝具威力をアップ(1T)70%

 大望遠鏡 : A
 熱圏付近に存在し、宇宙を観測する《ハッブル宇宙望遠鏡》に由来するスキル。
 星属性サーヴァントに特効状態を付与(1T)
 自身のスター集中度をアップ(1T)
 無敵貫通を付与(1T)

 心眼(真): C

【カード】
 B A A Q Q

【宝具】
 ー世界の果ての観測者(スターゲイザー・コスモロジー)
 Arts
 自身に必中状態を付与&敵全体に強力な攻撃
 +敵全体の防御力ダウン(3T)
 〈オーバーチャージで効果アップ〉

 もう1つの世界(アナザーワールド)
 第2宝具。ある意味万能だが、宝具カードはこちらではない。

 ☆4のスペックじゃねえよこれ…


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第11節

ガバガバさが浮き彫りになる回


 特異点5日目の朝、オレ達は一通りの準備を終わらし出発の準備をしていた。

 

「うん、まだ何もない。マスター、外出た大丈夫そうだよ!」

「周囲に敵はいないな」

 

 門と言うらしい出入り口から外の様子を除いていたイオリが、振り返りサムズアップした。それと同時、索敵に出ていたロイドも戻ってきて情報を伝えてくれた。

 

『イオリさんが言うには、今日がこの特異点の分水嶺だそうです。気をつけてください、マスター』

「勿論。それじゃあ、しゅっぱーつ!」

 

 おー!と掛け声が重なり、オレ達は荒廃した深山町へと繰り出した。目的地はどこか?そんな場所はない。けれど、これから始まる英雄王と冬木のキャスターの戦いを見届けるために、出発したのだった。

 いや、出発というのには語弊があった。

 

「うん、ここからならきっとよく見える」

「あんなに頼み込んだんだから、しっかりと目に焼き付けろよ? マスター」

「言われなくても」

 

 そう話し合う私達がいる場所は、元は学校の校舎であったのだろう大きな瓦礫の山。どこもかしこも似たような状態なので、教会も、燃え続けている対岸の新都もよく見える。

 

「あ、そうだマスター。これからあの子と戦う事になるだろうけど、少しだけアドバイス」

「?」

 

 アドバイスとは一体なんだろうか?

 

「自分を信じて。迷わないで。振り向かないで」

「ーー」

 

 分かった。

 そう言おうと口を開いた瞬間、世界が激震した。そして同時に熱波が吹き付けられる。寂しそうなイオリの表情に疑問を抱きつつも、首肯してから教会の方向に向き直る。

 

 案の定そこでは、炎の瀑布と原初の地獄が衝突し互いが互いを削りあっていた。この光景を見るのは2度目だけれど、桁が違う魔力に圧倒されてしまう。オレは本当に、冬木のキャスターと戦えるのだろうか?

 

「あんまり心配するな、マスター。英雄としては失格な俺達だが、あんたの事を害させはしない。自分が信じる事を、貫き通せばいい」

「はい!」

『そうです! 私が隣にいれないのは不満ですけど、マスターなら、きっと大丈夫です!』

「ありがとう、マシュ」

 

 ここまで応援されている。だったら、自分も覚悟を決めなくてはいけないだろう。

 

 

「くはは! 来たか、忌々しい魔術師(キャスター)よ」

「ああもう! 不意打ちしたのに、なんで余裕で対応してくるのさ! 知ってたけど!」

 

 激突するは、太陽の核熱と原初の地獄。

 激突するは、創世の焔と創界の剣。

 双方共に、創世という類似性がみられる宝具が全力で衝突していた。

 数億度に達する劫火が原初の地獄を焼却し、それと同等の勢いで地獄が劫火を破壊する。

 つまり、キャスターと英雄王の一撃は完全に拮抗していた。

 

「というか、なんでそんなにやる気なのさ!

 昨日までは、乗り気じゃなかった癖に!」

「ハッ、わざわざ貴様に語るとでも思ったか!」

 

 よって、始まるのは強化に次ぐ強化。

 意志力によってキャスターは自分の霊基を自壊させながら覚醒し、数多の財によって英雄王の力も天井知らずに上昇していく。

 この世界の環境は神代。

 けれど神は1柱足りとも存在しない。

 つまり…この世全ての悪(アンリマユ)とウルクの大杯の違いはあるものの互いに聖杯を所有し、魔力の上限が撤廃されたこの戦いはどちらがが力尽きぬ限り止まることは無くなっていた。

 

「どうした、力の使い方がおざなりだぞ魔術師!」

「うるっ、さい!」

 

 そこに差をつける事柄は1つだけ。絶望的な経験の差だけであった。

 万全を超えた状態のトップサーヴァントと、万全ではあるが英霊を継承しただけのデミ・サーヴァント。連日連夜の戦闘があったとはいえ、その差は歴然だった。

 

「創生、収縮、融合、装填――」

「ちィッ!」

 

 しかしそれを、()()()()()()()とキャスターは、英雄の全てを受け継いでしまった少女は踏み躙る。

 

 そんな差がどうした。私は既に英雄(バケモノ)に堕ちている、あの子の総てを受け継いでいる。だったら、だからこそ、英雄(バケモノ)がこの程度で負けるなんてありえない。逆境で輝いてこそ、1つの神話の主役だろう!

 

 大暴走する意志(狂気)によって、自分の霊基の限界を超えて崩壊させながら自身を覚醒させていく。

 出力上昇、出力上昇、出力上昇ーー大熱暴走(オーバーヒート)

 崩れ去っていく自分の存在を穢れた聖杯で再生させながら、恒星の光が炸裂した。

 

「灰燼滅却、極・超新星(ハイパーノヴァ)ッ!」

 

 創造された大爆発が、サーヴァントとしての枠すら振り切って自身ごと金色の英雄を焼き尽くした。

 その出力、実に先の数十倍。本来の使い手に影響され真正面から馬鹿正直にしか戦えないキャスターの、見た目相応な子供の理屈での突破であった。

 

「クハッ、その様な大技で我を仕留められると思っていたとはな。慢心が過ぎるのではないか? 魔術師(キャスター)よ」

「あんたにだけは、言われたくないわ!」

 

 しかし、その様な力技では英雄王には一歩及ばない。

 燃え盛る巫女服からは紅炎(プロミネンス)が吹き上がり、一歩一歩着実に限界へ進むキャスターが、怒りも露わに劫火を撒き散らす。

 コンクリートが、瓦礫が、地面が、何もかもが蒸発する様な熱量が吹き荒れる中、英雄王の声が止む事はない。

 

「無差別な攻撃ならば、我に当たるとでも思っていたのか? 思い上がりも甚だしいわ!」

「きゃあっ!」

 

 無防備なキャスターに乖離剣の一撃が直撃し、宝具の護りを容易く貫いて半身を消しとばした。錐揉み回転でキャスターは地面に墜落する。しかしその傷は穢れた聖杯によって即座に修復され、何事もなかったかの様にキャスターは起き上がった。

 

 ここまでが、若干の差異こそあれ普段通りの予定調和。

 

 今まで通りであれば、ここからキャスターが逃走して決着となる。けれど、今日に限っては事情が違っていた。人類最後のマスターとの遭遇(ぐうぜん)英雄王が乗り気(ぐうぜん)が重なり、更に様々な要因が影響して悪い方向へと傾いていた。

 例え偽物でも、Aランクの狂化が感情のブレーキを全てぶち壊してしまっていた。

 

「折角、折角見つけたんだ……

 だから、あんたなんかに、殺されてやるもんかぁッ!」

 

 裂帛の気合いと共に、穢れた聖杯が答え無限の魔力が湧き上がる。

 ブレーキの壊れた加速し続ける暴走列車に、走るレールと動力を与えた結果がこれだった。

 

創造(Briah)ーー幻想世界・戦乱の剣(Svartalfheimr・Dainsleif)!!」

 

 聖杯という炉心を得た事で、限りなく上昇した宝具の出力が世界法則を書き換える。

 そして、借り物の渇望で書き換えられた領域であろうと、そこは既に自らの領域。僅かな魔力の乱れさえ検知可能な、自身に絶対的な優勢を齎す空間が創造された。

 

「そこッ!」

 

 キャスターが無尽蔵に湧き上がる焔を凝縮させ二刀を創造、見失ってしまっていた英雄王にへと投擲した。

 ソレはあくまで魔力操作によって刀と化しているだけの焔であるので、所有者の手を離れても何ら威力も安定性も変わりはしない。

 結果、導き出されたのは突然の結論だった。

 

「おのれッ!」

 

 英雄王の駆る『ヴィマーナ』が、自動迎撃宝具を役立たせる事なく溶断された。そして、展開された神々の盾を斬り裂いたところで一本目の焔刀は限界を迎えた。

 そしてそこに、2本目が飛来する。残りの盾は容易く溶断され、しかし乖離剣によって破壊された。極限まで凝縮された焔程度では、神造宝具を相手取るには些か以上に役不足である。

 

「山を抜き、水を割り、天高く飛翔しろ焔の翼!」

 

 だけどそれが2本でなく3本なら、4本なら……。数を増やせば問題ないだろうという子供の暴論が実行され、弧を描いて計6本の焔刀が回転しながら英雄王に迫る。

 

天地乖離す(エヌマ)ーー」

「偽・鶴翼ーー」

開闢の星(エリシュ)ッ!」

「三連!」

 

 悠々と待ち構えていた英雄王の放った宝具は数瞬前までキャスターがいた空間を削り飛ばし、英雄王の背後に瞬間移動したキャスターの最早限界が残ってない程魔改造された術技は、英雄王の背中に大きな十字傷を残した。

 

「これで、終わりっ!」

 

 そしてキャスターの手に現出するのは、替えが利く焔刀ではなく正真正銘キャスターの宝具たる大鎌。ヒビ割れ壊れかけている様に見えるが、濃密な死の気配が漂う死神の鎌。

 魔力放出で無理矢理に体勢を変え、体勢が崩れたままの英雄王にそれが振り抜かれた。

 

「カハッ…」

 

 これぞ大鎌の面目躍如とでも言うかの如く、見事に英雄王の頸部を切断して大鎌の実体化は解除された。

 打倒された英雄王が、キャスターの眼前で魔力へと還っていく。

 

「ハハハ! 喜ぶが良いキャスター、貴様の望みは叶うだろう」

「ふぁっ!?」

 

 落下する英雄王の生首が、生首のまま言葉を発する。魔力の光を纏い、無駄にキラキラとした生首にキャスターは硬直する。酒呑童子でも無いのだから無理もない。

 

「そして、この我が前座として踊ってやったのだ。再び相見えた場合は覚悟するが良い、()()()()()。失敗は許さぬぞ!!」

「わかってるよ、王様!」

 

 そんな声と共に放たれた数多の武器が、呆然としているキャスターに殺到した。




気がついたら、こんな事になっていた…(´・ω・`)
これだからジャンル違いは…(・ω・`)


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第12節

誰なんだろう、皆さんの感想にBadを1つずつ付けてくニンジャは。
いっそgood/Bad廃止すべき…?


「分かってるよ、王様!」

 

 飛び出していったイオリが、たった今ギルガメッシュを倒した冬木のキャスターに全力で攻撃を仕掛ける。

 オレでは、あんな神話の戦いに巻き込まれたら…いや、余波だけで死んでしまうだろう。事実、橋で一度死にかけている訳だし。

 

「あははっ! そういう事だったんだねイオリ。まさか英雄王を本命として使わないなんてね!」

「そりゃあそうじゃん愛鈴。ザビ子でもなきゃ、英雄王をお願いどうりに動かせる訳ないんだしさ!」

 

 武器の雨が、焔の爆発で掻き消された。

 そして、その中から飛び出した無傷の冬木のキャスターと、イオリが激突した。双方の手に握られるのは、灼熱の閃光を纏った双刀と黄金の爆光を纏った双剣。そしてそのどちらの光からも、人間が触れてはいけない様な気配を感じた。

 

『え? えぇ!? 嘘、でもこれって…』

 

 そんな謎の感覚に戦々恐々としていると、オレの耳にマシュの驚愕する声が飛び込んできた。

 

「何があったの、マシュ!?」

『はい! えっと、キャスターさんから聖杯の反応が検知されました! ですが…』

『何故かは知らないけど、アーチャーからも同等以上の魔力が観測されたのさ!』

 

 なんですと。それじゃあ、この特異点に聖杯はない云々は嘘で、2つも聖杯は存在していたという事に…?

 

「いや、それは違うぞマスター」

 

 そんなオレの疑問を見透かしたかの様に、隣に立っていたロイドが訂正を入れた。

 

「確かに冬木のキャスター…愛鈴が持っているのは聖杯だ。ただし、過去にアインツベルンが召喚したこの世全ての悪(アンリ・マユ)に汚染された、願いを捻じ曲げて叶える最悪の杯だ。

 そして、イオリは聖杯なんて所持してはいない。だが、マスターも入った異界の中に、1つで聖杯と同規模の魔力炉を20機抱え込んでいる。ただそれだけだ」

 

 目線の先では、空を舞う2人が何度も何度も交差して戦闘しているのが見える。それは、バビロニアで会った神霊すら凌駕する魔力を常時放出しながら戦うという、十分に頭のネジが外れた戦いだった。

 

『嘘…アーチャーさんの放出する魔力量、未だに上昇し続けています!』

『確かに凄いけど、こんな力を出し続けられる筈ないぞ!?』

「そうだ、出し続けられる訳がない。このままじゃ、すぐにでもイオリの霊基(からだ)は自壊するだろうな」

 

 苦虫を噛み潰した様な顔をしてロイドが言う。自分の大切な人が、自分の分身とも言える存在と、自殺紛いの方法で殺し合っているのだから。

 

『それじゃあ!』

「俺だって、助けに行きたいさ。

 でも、イオリが1人でやらせてくれって言ったんだ。何を言っても曲げない事は分かってるし、こうしなきゃ戦えすらしない事も理解している」

 

 爆音と共に、衝撃波が駆け抜けた。

 目を向ければ、イオリが焔に焼かれながらもキャスターとの戦闘を続けていた。オレの目には見えない速度だけど、次元が違うというのは分かる。

 

「だったら、信じてそれにトコトン付き合ってあげてこそ、男だろう」

 

 そしてオレ達は、その余波が届くことのない地上で待機している。手を貸したい。それは事実だけれど、アーチャーの頼みを聴かない訳には行かずこんな状況に陥っていた。

 

 

「ねえマスター。キャスターとの戦いだけどさ、最初は私1人にまかせてくれない?」

「え?」

 

 空で神話の様な対戦が起きる中、イオリがふとオレにそう言ってきた。カルデアの通信は、過剰な魔力の嵐で一時的に途切れている。

 

「見ての通り、ギル様でもあの状態の愛鈴には勝てない。あの子は自分の中の英雄を、幻霊として取り込んでるからね。先ずは、それを剥がさないとそもそも勝ち目がないんだよ」

「幻霊…?」

 

 いきなり初めて聞く単語が飛び出してきた。幻霊とは一体なんなのだろうか? 首を傾げるオレに、イオリは言葉を続ける。

 

「そこはダ・ヴィンチちゃんにレクチャーしてもらってね。

 話を戻すけど…勝ち目を作る為に、始めは私1人に任せてくれないかな? あの子と私が地面に落ちたら、来てくれればいいから」

「でも、それじゃあアーチャーは…」

 

 勝ち目を作る為に、勝ち目のない戦いに挑む事になる。それじゃあ、どうあがいてもイオリは…

 

「うん、負けて消えるだろうね。だけどまあ、私の逸話的にも会ってるし文句はないよ。ロイドからもOKは貰った」

「本当に?」

「ああ。またこうなるのかと思うと、凄く嫌な気分だがな」

 

 そういうロイドは、とても嫌そうな苦しそうな顔をしていた。

 そうしてウジウジと迷っている間に、上空の戦いは佳境を迎える。なんらかの魔術が発動され、焔が暴れまわっている。

 

「あー…こうならない様に、あんまりマスターと仲良くしてなかったのに…」

 

 そう言ってアーチャーは、半透明な門から取り出した歪な形の短剣を自分自身に突き立てた。突き立てたままの短剣から稲妻が発生し、何かがプツンと途切れる感覚がした。

 

破壊すべき全ての符(ルールブレイカー)と悪刀・鐚を混ぜた混合宝具、上手くいったみたいだね。これで私は野良サーヴァント。あなたの指示を受ける必要は無くなった」

 

 そう言いつつイオリは、全ての武装を実体化させた。

 博士風なローブ、腰には巨大な望遠鏡、そして左眼に片眼鏡。1つに纏めた銀の長髪が、溢れ出す魔力の奔流で踊っている。

 

「最終再臨完了っと。じゃあね、元マスター。もう行かないと間に合わないから」

 

 そして、その姿のままロイドへと近づき…

 

「んっ…多分、これで問題ないね。行ってきます」

「応。じゃあな、イオリ」

「なっ…」

 

 目の前で、新婚さんみたく行ってらっしゃいのちゅーをして出撃して行った。それには色んな感情がごちゃ混ぜになっていて、甘いは甘いのだけれどオレは何も言うことが出来なかった。

 

◆◇

 

「うぉおおおおぉっ!!」

「はぁぁぁぁっ!!」

 

 始まりから終わりまで、共に全力全開。様子見なんて彼方に放り投げた。加減や躊躇は欠片もなく、出し惜しみなど一切ない。狂った魔力の込められた双刀が、衝突し爆発する。

 私が顕現させるのは、断罪の絶滅光(ガンマレイ)

 今の私が使える宝具の中で、唯一愛鈴の纏う太陽を突破できる放射能を模した輝き。ついでに莫大な熱量も発生しており、それを収束させてギリギリのラインで打ち合う。

 愛鈴が顕現させるのは、その後継である無敵の灼閃。

 本家本元や私やロイドも並べても幼稚な剣閃ではあるけれど、文字通り触れれば終わりの1閃は、こちらに余裕を持たせない。

 どちらも同じ狂った出力、同じ土俵に立ったこの勝負。一合打ち合わせる度に覚醒が起きる為、経験の問題も排除される。

 

「なんで、なんで邪魔するのお義母さん(イオリ)! 私の気持ちは分かるでしょ!?」

「分かるよ、痛い程にね!」

「それなら!」

「だけど、こんな大事にしちゃダメでしょうが! ちゃんとそれくらい認識して!」

「うるさい!」

 

 愛鈴が放った三連続の灼閃光が、私の振るう2本の軍刀を粉砕した。けど、この宝具は全部で7本。残骸を壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)して投げつけながら、背後から新しい二刀を抜いて斬りかかる。

 狂気染みた破壊力の4刀が再び衝突し、世界が割れる異音が鳴り響く。交差する刀の先に見えた愛鈴の顔は、涙に濡れていた。

 

「というか、なんでお義母さん(イオリ)が『もう1つの世界(アナザーワールド)』を使えてるのさ! この宝具は、私がちゃんと受け継いだ筈なのに!!」

「私の宝具は、元々1つじゃないからだよ!」

 

 私の放った光の極撃が、恒星の如き二刀を粉砕し愛鈴を斬り裂く。ガンマレイで斬り裂かれた以上、桁違いの激痛が細胞を焼き尽くす筈なのに、聖杯でその傷はすぐに再生される。

 そして、お互い距離をとった。デミ・サーヴァントとサーヴァント、同じ存在であるが故の鏡合わせの様な行動だった。

 

「「開け、『もう1つの世界(アナザーワールド)』ッ!!」」

 

 よって、選ばれる戦い方もまた同じ。

 私と愛鈴双方の背後に半透明の門が多数展開され、様々な宝具が顔を出す。この宝具は、元々私のとティアの物の2つある。今私が使っているのはティアのやつというだけの話だ。

 

「「一斉射撃ッ!!」」

 

 宝具群のぶつかり合いが始まり、鋼の驟雨の中を私と愛鈴は虚空を蹴って疾走する。1秒もかからず再接近、振るわれた4刀が衝突した。

 

「イオリィィィィッ!!」

「愛鈴ィィィィィッ!!」

 

 共に名前を叫びながら、全力で刀を振るう。

 斬って斬って斬って斬って斬って、斬られて斬られて斬られて斬られて斬られて、衝突する度に砕ける世界の音をBGMに、私たちの戦闘はヒートアップしていくのだった。

 




術 Lv90
銀城 愛鈴
➖➖ーーー(120,841/346,350)
◆◆
▶︎▶︎▶︎▶︎>

なに書いてるんだ私は…


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第13節

日輪の城の交換は終わった。後は素材を回収するのみ…
え、ガチャ?直流とエレナが来ました。新撰組に付いたのに、副長は来てくれなかったよ…


 剣が舞う。

 火花が踊る。

 鋼の大合奏が空気を揺らし、魔術の光が世界を彩っている。

 砕ける武具の欠片は焔を反射し煌めいて、即座に溶けて消滅した。

 

偽造呼出(コール)ーー」

真名開放(コール)ーー」

「「ロッズ・フロム・ゴォォォッドッ!!」」

 

 同じ宝具。同じ出力。別側面だけど同じ英霊。

 限りなく同等の条件で放たれた一撃が、私と愛鈴の丁度中央で衝突した。アーチャーとして力任せの魔術で落とされた神の杖と、魔術で下から打ち出された神の杖の激突は、頭のおかしい衝撃を発生させて私達を吹き飛ばす。

 

「ーーッ!!」

「きゃあっ!!」

 

 回転する視界と全身を苛む激痛の中、こちらを真っ直ぐと射抜く愛鈴の目が見えた。ああそうだよね、私ならこんな弾かれただけで終わる事なんてしないもんね!

 

「真名開帳ーー集積宝具(アキュムレイト・ファンタズム)栄光に至れ煌炎の剣(カレトヴルッフ)】ッ!!」

真名開放(コール)ーー【自由の女神砲】ッ!!」

 

 そして、お互いの持つ門が大きく開かれ、双方から巨大な閃光が放たれた。そしてまたも爆発を起こし対消滅。

 

「ああもう! 私と戦うのがこんなに面倒なんて知らなかったよコンチクショウ!」

 

 空中で、宝具の力を借りてどうにか体勢を整えた。莫大な魔力の爆発で起きた煙は未だ晴れず……背筋に、悪寒を感じた。

 自分の行動だから、何をやったのかは即座に分かった。この感覚は間違いなく転移。それもおそらく《攻性転移(アサルトジャンプ)》。だけどあの魔術は、転移完了まで一瞬のタイムラグがある。

 

「既知の相手には、それは悪手だよ愛鈴!」

 

 転移の予兆がある空間に、残る5本中4本の絶滅光(ガンマレイ)を纏った軍刀を投げつける。そして残る1本の軍刀を両手で構え、いつでも真名開放が出来るように魔力を込めつつ衝撃に備える。

 

「《攻性転移(アサルトジャン)ーーッ!?」

 

 術名を言い切る事も出来ず、転移直後の愛鈴は私の宝具に襲われた。転移直後は隙だらけだからね、対応出来なくても分かるとも!

 

「ーーまだだァッ!」

 

 そんな私の予想を、愛鈴は想像通り覆した。

 諦めてなるものかという一声と共に、太陽の焔の乗った衝撃波が吹き荒れた。それによって2本の軍刀は溶解し、残り2本は愛鈴の双刀によって弾かれた。

 

「それくらい、知っている!」

 

 けど、その程度で驚いてちゃ何も始まらない。ジャンル違いの神星を取り込んでるんだから、ここまでは全部が予想通りだ。

 

真名開放(コール)ーー

天霆の轟く地平に、闇はなく(G a m m a・r a y K e r a u n o s)】!」

 

 この特異点にきてから、幾たびも繰り返した真名開放。かつて鋼の英雄に憧れて作った、

放射能分裂光(ガンマレイ)に非常に酷似した破滅の爆光を、自分以外に影響が出ない程収束させる軍刀。その最後の一刀を、力任せに振り切れた(ランク : EX)魔力放出で加速しながら愛鈴に振り下ろした。

 

「う、そっ…!!」

 

 衝突。

 恒星の双刀、粉砕。

 魔術結界、貫通。

 焔の魔力防御、両断。

 私が作った巫女服、破壊。

 

「届い、た!」

 

 そして、私の全力全壊の一刀は、愛鈴の心臓(霊核)を間違えようもなく貫通した。

 けれど、この程度で勝負が終わることがあるだろうか? その答えは否である。どうしてかは知らないけど、あんな光の英雄(バケモノ)を取り込んだ愛鈴がこれで終わる事なんて、絶対にあり得ない。

 

「だから、落ちろォォぉぉぉぉぉッ!!」

 

 叫んだと同時、私は霊基の自壊すら厭わない突撃を敢行した。

 魔力放出、全開。

 音の壁を軽く突破し、私達は一条の流星へと変貌した。

 

 

 焔の塊が恐ろしい速度で墜落し、天地を揺るがす大轟音が響き渡った。空には悍ましい程の魔力の嵐が吹き荒れ、墜落した地点はヒビ割れ巨大なクレーターと化している。

 

「行くぞ、マスター!」

「はい!」

 

 その地点に向かってオレとロイドは駆ける。

 約束事を破るなんてことは出来ないし、イオリの言い分の通りであれば、まだ戦いは終わってすらいない。さして遠くない場所だ、少し走ればたどり着く。

 

『先輩!?』

「約束したから!」

 

 困惑するマシュに走りながらそう返答する。

 確かに説明する暇はなかったけれど、きっとマシュなら怒っても許してくれる。

 そう信じて走り、たどり着いたクレーターの淵。

 

 そこから見えたのは、大の字で地面に仰向けに倒れる冬木のキャスターと、その心臓に怖気の走る光を纏った軍刀を突き刺した今にも消えそうなイオリの姿だった。

 

「あぁ…随分速いね元マスター。いや、ロイドがいるんだからそりゃ速いか」

 

 そうこちらを見てイオリが言う。そしてそれと同時に1つの光景が頭に蘇った。自分と同じ存在に、自分の存在と引き換えに一撃をかます……今になってやっと、イオリの気遣いがわかった気がする。

 

「ッハ、気にする必要は無いよ元マスター。元から私は、自分の死を以って後に繋ぐ英霊。生前と似た道を辿ってるだけだから」

「カルデアの、マスター…?」

 

 そう呟いたイオリに組み敷かれるキャスターが、ピクリと動いた。

 

『幾ら聖杯があっても、あんな状態で行動が出来る訳がない!! 霊核が完全に壊れてるんだぞ!!』

 

 そう叫ぶダ・ヴィンチちゃんを無視して、髪の色以外とても似ている2人の会話は続く。

 

「そうだよ愛鈴。あなたはカルデアのマスターに殺されるつもりらしいけど、看取ってもらうだけでも十分なんじゃないの?」

「看取ってもらう……看取って、もらう……」

 

 そううわ言のように呟くキャスターの目に、段々と光が宿ってくる。それは終わりを認めた様には、どう考えても見えなくて……ぞわりと悪寒が走った。

 

『魔力反応、急激に増大!

 逃げてください、先輩ッ!!』

『この状態でこの魔力量……聖杯があるとは言っても、控えめに言って化け物だよ!?』

「それじゃあ、何の意味もありはしないんだよ!!」

 

 キャスターの感情の大爆発と共に、爆炎が吹き荒れた。

 逆境でこそ輝き、諦めない事こそ主人公とでも言うかの如く、先程までの弱々しい声と正反対な声が響き渡る。

 

「天昇せよ、我が守護星ーーー鋼の恒星(ほむら)を掲げるがため!」

 

 そして轟くのは、一音一音に正の輝きが見て取れる詠唱(ランゲージ)。胸に刺さった輝く軍刀が焔に包まれ蒸発し、そのままイオリの腕まで焼き焦がした。

 

「はぁ…そっか、やっぱりこうなっちゃうか。使いたく無かったんだけどなぁ…」

 

 それを見てイオリは何処か諦めた様に、寂しさを漂わせてそう呟いた。

 

「天墜せよ、我が守護星ーーー鋼の冥星(ならく)で終滅させろ」

 

 そして聞こえたのは、キャスターとは真逆の性質が見て取れる詠唱(ランゲージ)。この場にいる誰よりも死が目前に迫っていると言うのに、イオリの魔力量も桁違いに増大していく。

 そして、発生した暗黒の輝きが溢れ出る焔を喰らって相殺していく。それは余りにも現実離れした光景で、キャスターにとっても完全に予想外な光景の様だった。

 

「嘘だ! 今のイオリじゃ…ううん、キャスターのイオリでもそれは使える訳ない!! 使えちゃいけない筈なんだ!!」

「ちょっと時間差があるけど、原典通り言い返してあげる。想像力が足りないよ、愛鈴」

 

 そう儚げに話す間にも、暗黒の輝きが広がる焔を喰らい消滅させていく。その会話に混ざる事は誰にも出来ず、そこには只々2人の世界が展開されていた。

 

「私が取り込ませてもらった幻霊の咒は、エドウィン・ハッブル! 私が得た宝具は、深宇宙すら観測したハッブル宇宙望遠鏡が元になった物!」

「まさか!?」

「今更気づいてももう遅いよ。どうあってもその力が振るえないなら、観測して、願って、祈りを捧げて、力を貸して貰えばいい。なんたって対象は星なんだから。

 その為の宝具。その為の幻霊。冥王星(ハデス)を観測し続けて、あなたに対してだけメタを張った私の選択!」

 

 相殺しきれない焔に焼かれながら、してやったりと言う顔でイオリは続ける。

 

「あなたが、ジャンル違いの英雄譚(そんなもの)を持ち出してくるから、私だって逆襲劇(こんなもの)に頼らなきゃいけなくなったんだよ?」

 

 こふっと、イオリの口から血の塊が吐き出された。消えかけの状態で、延々と極大の魔術を発動し続けているのだから、素人に毛が生えた程度のオレでもそうなる事は理解できた。

 

「ダメだよお義母さん、そんな事したら…」

「アーチャーとしての霊基は、暫く使い物にならないだろうね。

 けど、そんな事知ったもんか。子供の間違いを正すのが親の仕事、その為に払う犠牲がそれっぽっちなら勘定に値しない!」

「けどっ!!」

 

 なおも食い下がるキャスターに、イオリはとても優しい顔を向けた。そして抑え込むキャスターの頭を撫で、敵ではなく親として言い聞かせる。

 

「全く、いい歳なんだから駄々を捏ねないの。

 私は、あなたのやる事のぜんぶを否定はしないよ。だけどね、こんなジャンル違いの力に頼ってるんじゃダメ。私の霊基はあげるから、身体1つで戦ってみせてよ。あなたが、私の事をお義母さんって呼ぶのなら」

 

 そう言うイオリに、銀色の毛並みの耳と尻尾が出現した。周囲に踊る漆黒の輝きと合わせて、それは何処か地獄の入り口の様にも見えて…

 

「それでも私は、諦められない!

 超新星(Metalnova)ーーー

 大和創世 日はまた昇る 希望の光は不滅なり(Shining Sphere Riser)

「聞き分けてよ…それは私が連れていく!

 超新星(Metalnova)―――

 狂い哭け、呪わしき銀の冥狼よ(H o w l i n g K e r b e r o s)

 

 やけくそ気味に爆発した太陽の様な輝きを、漆黒の虚無が喰らい尽くした。だけど、それでもと、キャスターが消えかけの焔を揺らめかせる。

 それを満足気に見届けてから、初めてこちらを見てイオリが話した。

 

「これでもう、この子を邪魔する物はない。

 ここから先、英雄譚や逆襲劇(こんな物たち)運命(Fate)には必要ないんだ。用済みの奇跡(まじゅつ)は、退場する事にしよう」

 

 最後に、こちらに優しい笑顔を向けて言った。

 

「それじゃあ、後は任せたよ」

 

 そして、爆発する魔力が1つの形を持って解放される。

 

「現在、過去、未来、我が眼は全てを観測する。星の世界は果てなく続き、人の可能性(ゆめ)は潰えない。

 真名開帳ーー世界の果ての観測者(スターゲイザー・コスモロジー)!」

 

 漆黒の輝きが広がる地獄の大地に、天空の遥か彼方から極大の光が降り注いだ。その優しくも激しい光は使用者も敵も等しく巻き込み、けれどオレ達には決して届く事なく闇の大地を灼き続けた。

 




術 Lv90
銀城 愛鈴
➖➖➖➖➖ (173,175/173,175)
◆◇ Brake!
▶︎▶︎▶︎>>


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第14節

今期アニメ、ひなこのーとが中々に良いなぁ。
終末何してますか?(ry がアニメ化すると、昨日の深夜CMで初めて知った…期待はしないでおこう。
クロックワークプラネット…原作買おうかな…

-追記-
今年も、午後ローでコマンドーがやる時期が遂に来た…とんでもねぇ、待ってたんだ
\デェェェェン!!/


『アーチャーさんの霊基反応、完全に消滅しました…』

 

 未だに光が大地を灼き続ける中、通信からそんなマシュの声が聞こえた。こんな終わり方、決着のつき方で良かったのだろうか…?

 

「心配するな、マスター。少なくともイオリは、後悔せずに逝ったよ」

 

 それよりも、だ。そう言ってロイドは続ける。

 

「構えろマスター。まだ何も終わってない…いや、漸く始まった。イオリに託されたんだ。対話くらいはさせてやるから、愛鈴の事は頼んだぞ」

永劫破壊(エイヴィヒカイト)(偽)発動。霊核修復、霊子再供給、魔力最大循環……」

 

 その言葉に疑問に思う間も無く、細くなってきている光の柱の中からそんな声が聞こえてきた。

 

『そんな……キャスターさん、健在です。でも、先程までとはちょっと反応が違うような…』

『幻霊を剥がす事には成功したんだろうね。でも、それでデミ・サーヴァントとしての能力が失われる事はない』

「それはつまり…」

 

 その答えは、既に目の前に現れていた。

 

「肉体の修復、完了」

 

 光の中から現れたのは、今までとは様相がガラリと変わったキャスターだった。

 長い黒髪が魔力の光を纏った銀髪に変化し、元あった巫女服も黒いコートに変化している。四肢と胴体には銀灰色の鎧が見え、1番目を引くのは背負う7つの棺桶と、ヒビ割れた巨大な大鎌。

 その姿を見ただけで、得体の知れない寒さがオレを襲った。なんだろうか、この見てはいけない禁忌に触れたような気配は。自分の存在自体を冒涜する様な視線は。

 

「マスター、落ち着け。呑まれるな。

 アレが、キャスターとしてのイオリを受け継いだアイツの常態だ。というか、これでまだ優しい方だな」

 

 ポン、と肩に置かれた右手のお陰で平静を取り戻す。

 これで優しい方…? ちょっと待って、これで優しい方だなってどういう!?

 

「さて、カルデアのマスター。

 第二ラウンドと行きたいところだけど、その前に1つ提案」

 

 そう絶賛大混乱中のオレに、その元凶が話しかけてきた。

 そしてオレを庇って立つロイドの足元に、半透明の門から何本かの剣が発車され突き立てられた。

 

「私を殺してよ、藤丸立香。

 そこに出した剣でも、それが信用できないならロイドさんの剣でもいい。貴方がその手で、私の事を斬ってよ」

 

 一体、何を言ってるんだ?

 

「ああ、安心して。その全部がイオリの製作物だから、貴方でも私みたいな幼女の首は一太刀で切断できるし、その間私は一切の行動をしない。そこは自己強制証明(セルフギアス・スクロール)を作ったって良い」

 

 その、あまりにぶっ飛んだ提案に固まってしまう。つまりはオレが、オレ自身の手で殺せという事か? まだ、生きている人間を?

 

「そんな事、出来ない」

「というかお前、今何もかも分かった上で聞いてただろう。性格が悪いぞ?」

 

 オレの返答を待って、ロイドも睨みつけながら言い放つ。全部分かっていたって、何だよそれ。

 

「あはは…それでも、期待するのが人間だよ。まあ無理みたいだけどね」

 

 それを境にニヤリと口元が裂けた様な笑みを浮かべ、大鎌を肩に担ぎ宣言した。

 

「一戦始める前に名乗らせてもらうよ。私は一応第四次聖杯戦争の勝者にして、キャスター:キリノ・イオリのデミ・サーヴァント。名前は銀城 愛鈴。

 さあ、殺ろうかカルデアのマスター」

「マスター、気をつけろよ」

 

 殺気をぶつけ合ってる2人から、頷いて少し下がる。いつでもサポートが出来るように集中してーー

 

『ちょっと待って下さい!』

 

 一触即発の雰囲気の中、マシュの声が衝突を止めた。

 

「何?」

『何故、如何して貴方はそこまでして先輩の事を狙うんですか!!』

 

 それを聞いた途端、キャスターはお腹を抱えて笑い出した。そして、目尻に浮いた涙を拭って喋り出した。

 

「はっ、如何してと聞いたかマシュ・キリエライト。いいよ、同じデミ・サーヴァントのよしみで教えてあげる。私が狙う理由? そんなものは決まってる、徹頭徹尾人理焼却事件だよ!」

 

 先程までの様子とは違って、キャスターの声は負の感情がごちゃ混ぜになった物だった。

 

「名乗った通り、私はデミ・サーヴァント。こんななりでも人理焼却事件中、特異点未満の歪みをその時代に飛んで解決していた! 私の世界も焼却されてたからね!

 そして藤丸立香はゲーティアを打倒し、人理焼却は回避された。ああ、それは認めるよ。素晴らしい偉業だ。たとえ誰であろうと否定なんてさせない。諸手を挙げて祝福するよ、ありがとうってね!」

 

 自力で時代を飛んで力を貸してくれていた事実に衝撃が走った。けれどそれは、吐き捨てる様に、憎悪を込めて言われた祝福にかき消される。

 そして、キャスターが指を弾いた瞬間世界の色が切り替わった。

 

「幻術!?」

「みたいだな。やっぱり対魔力は意味ないか」

 

 ロイドと確認し合っている間に、見える世界が完全に切り替わり安定した。弱体解除の魔術を使ってみたけれど、悲しい事に効果がなかった。

 

「だけど、全てが終わって私が帰ってきた自分の街には、この世界には、人なんて誰1人として残っていなかった!」

 

 まず映し出されたのは無人の商店街。陳列してある品物は新鮮に見えるのに、人の気配が全く感じられない。メアリー・セレスト号という単語が頭に浮かんだ。

 

「存在しているのは、私と、私の宝具であった英霊と、英雄王の3人だけ!

 あなた達に分かるか! その怖さが! その寂しさが! その虚しさが!」

 

 風景がまた切り替わった。今度はまだ崩壊してない冬木、深山町の教会だった。今度は3人だけではあるが人の姿が見えた。今より少し背の高いキャスター、その隣に立つノイズのかかった小さい人物、そして英雄王ギルガメッシュ。

 

「友達も、同僚も、仲間も、知り合いも、家族も、何もかもが人理焼却によって、歴史の闇へと消え去った!

 私が悪い?知っている 私が間違っている?理解している。だから謝れとは言わないし、償えとも言わないよ。

 だけどね、八つ当たりをして何が悪い!」

 

 キャスターの絶叫と共にまた風景が切り替わった。

 今度映ったのは、かつて入った事もある円蔵山の大空洞。そこで、黒い液体の溢れる聖杯を掴んで取り込むキャスターの姿だった。

 

「私はデミ・サーヴァントだよ! 人理焼却に抗えた存在(英霊)だよ! カルデアに手助けをしてない時点で、クソ程にも役に立ってない時点で、糾弾する権利も存在しないよ! 全部知ってるから、どれだけの綱渡りだったかも理解してるからね!」

 

 そして、世界が緑に侵されていく。全身に焔を纏うキャスターを中心に、黒い泥が溢れそこから緑が芽吹いていく。無人の街が森になり、魔獣が現れ世界が特異点と化していく。

 それと同時に泥がキャスターを覆い、それが晴れた時には今の姿へと変化していた。変化はそれだけでは無い。少し前までいたノイズのかかった人物が消え、今まであった温かみのようなものが消えていた。

 

「それでも、貴方達がもう少し早く終わらせてくれれば、私の世界は滅びなかったかもしれない! 日常が続いてたかもしれない! 暖かく見守ってくれていた2人を、座に帰らせる事が無かったかもしれない!

 そう幸せを願う事の何が悪い! そんな、生きる価値を奪われた世界なんて、私の自殺の道連れにして何が悪い!

 そうだよ藤丸立香、これは私の八つ当たりだ。他の特異点とちがって、崇高な願いも思いもありやしない子供の癇癪だ!」

 

 最後に浮かんだ笑顔の映像ごと、幻術がヒビ割れ砕け散った。

 戻ってきた現実世界は、相変わらず瓦礫と炭の山で…キャスターは涙を流して叫んでいた。

 

『でも、それは早合点に過ぎるんじゃないか? 世界中のどこかには、生きている人間がいたかもしれない』

「ないよ、万能の天才。可能性がありそうなアトラス院、魔術教会、インド。1年かけて他の地方も調べたけど、人間は存在しなかった。流石に、世界の裏側までは知らないけどね」

 

 赤いばつ印が大量に刻まれた世界地図が映し出された。所々に神霊やら聖仙やら不穏な単語が書かれている事には突っ込まない。

 

「カルデアは、私の世界を修復するんでしょ? この冬木の特異点を修復して、人間のいない世界に巻き戻すんでしょ?」

 

 世界地図が焼け落ちて、ごく小さな日本だけが残った。そしてそれが拡大され、また焼け落ちる。そうして映し出されたのは、現在の冬木市の全貌だった。

 

「それは別に構いやしないさ。私っていうイレギュラーの所為で、いつか滅びる事が確定してる剪定世界だろうからね。おめでとう、この特異点は修復された。けれどいつか世界は滅びるよ、骨折り損でご苦労様でしたって笑ってあげる。

 だけどその最後に、(子供)子供()らしく我儘を言わせて貰う!!」

 

 蜃気楼の様に空気が歪むほどの魔力がキャスターから放出される。それはもう、会話が戦闘に移行する合図だった。

 

「貴方は間に合わなかった。私の世界(幸福)は2度と帰ってこない。だから貴方を殺す。自分の間違いは理解してるけど、刺し違えてでも貴方を殺す!!」

 

 降ろされていた大鎌が構え直された。そこから漏れる怪しい光は、今のキャスターの気持ちが表されている様に思えた。

 

「だから私を殺せ、藤丸立香。

 私を地獄に叩き墜とせ!

 世界を救った大英雄なら、小さな子供の1人くらい、救ってみせろぉぉぉぉっ!!」

 

 絶叫と共にキャスターが動き出し、気がついたらオレの前に大鎌の刃が迫っていた。咄嗟に動く事も出来ず、呆然とそれを見つめて…

 

「させるかよ!」

 

 ロイドが放った右腕のアッパーによって、大鎌の一撃は空振りに終わった。そして、右腕からカランと薬莢が排出された。何それかっこいい。

 

「イオリの勝手とはいえ、一応俺から見ても義理の娘だしな。来いよ愛鈴、お義父さんが気が済むまで遊んでやる」

「ばっ、なっ、ふざけるなぁっ!」

「いくぞマスター! 気張れよ!」

「はい!」

 

 こうして、本当に最後の決戦が幕を開けた。




狂化(偽): Aが大活躍の話。

Q:つまりどういう事だってばよ?
A:八つ当たり&ダイナミック自殺。それを止めようとした親子喧嘩。
Q:愛鈴がイオリの事をお義母さんと呼ぶようになった理由は?
A:大元はzero編での1日。泥被って幻霊を取り込んだ時、内側の大混乱で2人が消えたから。大事なものは失ってから気づく。



敵情報に変化はないので投げ

変貌冬木のセイバー
真名:キリノ・ロイド

【ステータス】
 割愛

【クラス別スキル】
 対魔力 : B
 騎乗 : B
 自身のQuickカード性能をアップ

【保有スキル】
 無窮の瞬足 : A+
 自身にスター集中状態を付与(3T)

 魔力放出(風): A
 自身のQuickカード性能をアップ(1T)
 
 豪嵐の加護 : A
 自身にガッツ状態を付与(3T)
 自身に回避状態を付与(1T)

 自己改造 : C

【カード】
 B A Q Q Q

【宝具】
ーイタカ 果ての蒼穹ー
Quick
自身のQuick性能をアップ(1T)敵単体に超強力な攻撃
+スターを大量獲得
〈オーバーチャージで効果アップ〉


これで単騎だよ!(白目)


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第15節

終わりが、終わりが見えた…


『気をつけてくれ立香君。アーチャーのお陰で霊基は通常サーヴァントの物に戻ったが、それでもキャスターの聖杯は健在だ』

「分かってる!」

 

 先程激突があった場所から数歩下がり、通信に耳を傾ける。

 というか、さっきからダ・ヴィンチちゃんしか喋ってないけれどマシュは大丈夫なのだろうか?

 

『はい、大丈夫です先輩。ですが、さっきのキャスターさんの言葉に少し思うところがあって…』

「それじゃあ、オレが帰ったら一緒に考えようかマシュ」

『はい!』

『2人とも、キリノ夫妻に影響されすぎじゃないかい…?

 いや、それよりもだ。立香君は、戦闘の真っ最中だよね!?』

 

 一度吹っ切れてしまえば後は楽(羞恥心的な意味で)と、イオリとロイドを見ていて学んだのだ。だったら実践してこそ学習だろう。

 それに話しながらでも、戦闘からは片時も目を離してなんていない。

 

「ほらどうした。イオリならこれくらい、鼻歌交じりで避けてたぞ? それとも……本当に遊んで欲しいのか?」

「そんな訳、あるかッ!!」

 

 ワープじみた高速移動でロイドがキャスター…愛鈴に攻撃し、その動きに追いつけないキャスターが無茶苦茶に大鎌を振り回す。けれどそれはロイドに掠りもせず、ロイドの攻撃も何かに阻まれて有効打にならない。

 

「大鎌の振りが甘い。刃筋が立ってない。重心がズレている。これじゃあ本当に遊びになるぞ?」

「邪魔するなぁぁっ!!」

 

 完全にブチキレている愛鈴が魔術を乱射する。雷が、火炎が、爆発が、カマイタチが、氷の槍が、水の瀑布が、毒々しい煙が、レーザーが、全方位に乱射される。

 

「ほら、制御が甘いぞ。()()()()()()()()()?」

「くぅ…」

 

 そしてその全てが、ギュガッという異音と共に消え去った。そして、右腕の義手から薬莢が排出される。あの義手、浪漫がこれでもかと詰め込まれている気がして、すごく…良いと思います。

 

「うぅ……こうなったら。パパ臭い! 近寄らないで!!」

「がはっ…」

 

 ロイドが血を吐いて距離を取る。それを見て愛鈴が満足そうな顔をし、魔術の狙いを定める。そして放たれた大魔術を、ロイドが殴りつけて粉砕した。

 シリアスとコメディが同居した、奇妙な戦闘がここに繰り広げられていた。

 

「実の娘にも言われた事がない言葉、流石に効いたぞ…」

「突破口はそこか! 洗濯物、パパと一緒に洗わないで!」

「洗濯だけは俺は手出ししてなかったからな、その文句は効かないぞ。イオリに直接言え!」

 

 よくある父親への悪口と共に放たれた魔術が、意外な反論と共にかき消された。それによって大鎌を構え突進していた愛鈴は無防備になり、ロイドの一閃によって大きく体勢を崩す事になった。

 

「ああもう!」

 

 苛立ちを露わにして、そのまま愛鈴は空中へと移動した。そしてそのまま、空を覆う程の魔法陣が展開され…

 

「ガンド!」

「きゃっ」

 

 オレが放った北欧に伝わるルーン魔術が、愛鈴の行動を一瞬だけ硬直させた。あんなに動き回られたらどうしようもないが、空中で止まってくれるならオレでも当てられる。

 そしてその一瞬は、サーヴァントにとっては途轍もないチャンスとなる。

 

「なあ、知ってたか愛鈴? セイバーっていうクラスはな、基本ビームを撃つものらしいぞ?」

「ふぁっ!?」

 

 そんな事を言いつつ、ロイドは双剣を合体させて愛鈴に向け……そこから、一直線に青白い光線が放たれた。光線は硬直していた愛鈴に直撃し、その場所から凍結が始まった。そして、それの解除を優先したのか空を覆っていた魔法陣が消え去った。

 うん、紛れもなくセイバーの仕業だね。

 

『いやいや、普通のセイバーはビームなんて撃たないからね!?』

『えっ、ビームを撃つのが普通なんじゃないんですか?』

『そうだった…円卓の騎士は、大体ビームを撃つんだった…』

 

 後はほら、ジークフリートとか武蔵ちゃんとかも。

 そんな事話している間に、合体して槍のようになっている剣を持ったまま、ロイドが魔力を高めて言った。

 

「それに、そもそも(そこ)は俺の戦場(ばしょ)だ」

 

 またも、ロイドの姿が掻き消えた。

 一瞬の後、現れた場所は回復魔術を使う愛鈴の背後。背中の金属翼からは光の刃が展開されており、どこまでも本気なんだと察する事が出来る。

 

「なっ!?」

 

 魔力放出を伴い突き出された槍が、魔術の障壁を軽く突き破り棺桶へと突き刺さった。

 

「マズっ、パージ!」

「ちゃんとイオリの記憶は、引き継いでるみたいだなっ!」

 

 愛鈴が棺桶を慌ててパージし、次の瞬間鎖で繋がれた7つの棺桶は翡翠色の結晶に覆い尽くされ砕け散った。双剣で、合体して、ビームが撃てて、謎の結晶爆散もできる。もうなんだかわからない。

 

「こうなったら!

 創造(Briah)ーー幻想世界・戦乱の(Svartalfheimr・Dain)ーー」

イタカ(Ithaqua)果ての蒼穹(Aerospace)

 

 距離を取るためか敢えて落下する愛鈴から放たれた透明の波動が、ロイドから放たれた薄緑の波動とぶつかり消え去った。そのよくわからない光景を見て、ダ・ヴィンチちゃんが絶叫する。

 

『固有結界の発動を固有結界で相殺だって!? まるで意味がわからないよ!』

「覇道の共存は出来ないとか、確かそんな事を言ってたな!」

「それでも普通、こんな事できないよ!!」

 

 槍から戻った双剣とヒビ割れた大鎌が衝突する。先程までの様に何かが砕ける異音は鳴らないし、激突の瞬間しか目で追えないけれど、そのどちらもが全力とハッキリ分かった。

 

「というか、なんでそもそも拮抗出来るのさ! 幾らイオリに魔力を分けて貰ってても、聖杯があるこっちとは出力が違いすぎる筈なのに!」

「分かりきった事だろ? 俺はイオリの夫だ。ティアさんと比べると怪しいが、誰よりもイオリと一緒に過ごした人間で、誰よりもイオリと戦った人間だ」

 

 弾幕の様に放たれる愛鈴の魔術を薄緑の風で逸らしながら、鍔迫り合うロイドは続ける。

 

「模擬戦で、夫婦喧嘩で、欲求不満で、新作の装備の実験で、何か気分が乗ったからって理由で、とりあえずって理由で。細かい事をあげるとキリがないくらい俺はイオリと戦っている。

 だから、イオリの力を受け継いだって言うなら、あの焔の力みたいな馬鹿みたいな力がなければ、動きも癖もまるっとお見通しだ! 全盛期じゃないのなら尚のこと!」

 

 ロイドが双剣を払い、鍔迫り合いが終了した。

 なんと言うか、思ったより殺伐とした家庭環境に何も言うことが出来ない。いや、ある意味想像通りではあるのだが。

 

「えっと、その、ごめんパパ。義理の娘風情が踏み込んで良い領域じゃなかった」

 

 戦闘中だというのに、あの愛鈴ですらなにか躊躇してしまっている。緊迫感が、一瞬だけ緩む。

 

「気にするな。俺もイオリも幸せだったし、この場で口を出していいのはお前しかいない」

「そっか、それなら良かった。

 じゃあ死んじゃえ」

 

 笑顔のまま、大鎌が振り抜かれた。緊迫感は、微塵も緩んでいなかったらしい。

 そこは明らかに間合いの外にある筈で…しかし、その刃は確かにロイドに届いていた。大鎌の刃の部分に透明な揺らぎが発生し、巨大な刃の部分のみがロイドに到達していた。

 

「だから、全部分かってるって言ったろ?」

「わっ、ちょっ、離して!」

 

 けれど、その刃は右腕一本で止められていた。寧ろガッチリと掴まれて固定されていた。両腕で必死に奪い返そうとしている愛鈴がいい証拠だ。

 

「それと、この大鎌はお前の魂とリンクしている。それ故に絶対的な威力を誇っているが、同時に最大の弱点でもある」

「だから、離せ!」

 

 より一層力を込めて動かそうとする愛鈴を見ながら、笑みを浮かべてロイドは語り続ける。そして、その腕から6個の薬莢が排出された。

 

「自由を!」

 

 その言葉をトリガーに、大鎌の刃を掴む義手に赤い線が走った。そして、どんな原理なのか想像もつかないけれど大鎌が砕け散った。そしてその砕けた破片も、落下する最中に風に溶けて消えていく。

 

「あっ、かはっ」

 

 それが原因か、地面に膝をつき愛鈴が盛大に血を吐いた。その吐血は沖田さんの様なものではなく、何かしらの大きな怪我によるものだというのは明らかだった。

 

「さて、これでようやく対等だ。遊びは終わり、最終幕といこうじゃないか」

 

 それを見て、ロイドがそう宣言する。

 終わりの時間は、確実に、一歩一歩近づいてきていた。




術 Lv90
銀城 愛鈴
➖➖➖➖➖ (107,329/107,329)
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第16節

「そう、だね。そろそろ、終わらせないとね」

 

 ひとしきり血を吐いた後、取り出した長い杖を支えに愛鈴が立ち上がった。膝はガクガクと震え、もう立っているだけで精一杯の様に見える。

 

「宝具が殺されたからもう(霊核)も治せないし、まだ消滅はしないけど、ロクに戦えないしね。全く、メタ張りすぎだよイオリ…」

『キャスターの霊基は、本人の言う通り崩壊が始まっているね。きっと聖杯が無ければ、もう生きてることすらままならないと思う』

『キャスターさんは、そこまでして…』

 

 そうマシュ達が驚くのも無理はないと思う。だって、ここまでボロボロになっているのに愛鈴の目から光は消えてないのだから。元から片方はハイライトが無いのだが。

 

「気をつけろよマスター。多分、まだ愛鈴は諦めてなんかはーー」

「あはは、ロイドさんにはやっぱりバレちゃうか。

 でももう遅い! 安全装置起動、暴走し自壊せよ!」

「まずっ!」

 

 少し離れた場所に立っていたロイドが、突然大爆発に飲み込まれた。それはつまり、こちらを狙う愛鈴に対してオレが無防備になると言うことで…

 

「マスターの首、貰った!」

「あっ…」

 

 これ、死んだ。

 瞬きの間に、目の前に愛鈴が迫って来ていた。その手に杖は無く、けれど引き絞られた右手には淡い光が集まっていた。

 

『先輩ッ!!』

「ーーッ!」

 

 そんなマシュの声が聞こえた瞬間、全身に強い衝撃が走り…

 

「がはっ」

「あ、はは…流石イオリ。

 抜かりは、無かったかぁ…けほっ」

 

 吹き飛ばされ地面に叩きつけられ、けれどオレはまだ生きていた。頬に生暖かい液体がかかり、目を開けると、口元を血に染めた愛鈴に押し倒された状態になっていた。心臓を狙って放たれた抜き手はプロテクターで止まり、どうやらそこで力尽きた様だった。

 

「あーあ、後少しだったのに。今度こそ限界か…カルデアのマスター、折角だし、あなたがトドメを刺してよ。救ってくれるんでしょ?」

「……ごめん」

 

 オレにそんな事は出来ない。甘いと言われるかもしれないけれど、人の命を奪うなんてことはしたくなかった。例え、それが本当に救いなのだとしても。

 

「さっすが善・中立だね…って、ちょっと、何してるの!?」

 

 崩れ落ち魔力が消え初めている愛鈴を、直感に任せて抱き締めていた。

 

「オレに、貴女の気持ちを分かったなんて口が裂けても言えない。トドメを刺してあげることも、殺されてあげることも出来ない」

「じゃあ、この手は何さ」

「だけどもう、休んだって良いんじゃないかな?」

「え…?」

 

 愛鈴が戸惑った様な声を漏らした。

 

「だって、貴女はアヴェンジャーじゃない」

「それはっ…」

 

 オレに対して憎悪や復讐心は抱いていても、愛鈴はまだ巌窟王やジャンヌ・オルタ、ゴルゴーンの様にアヴェンジャーにはなっていない。

 

「だったら、行き着く先は擦り切れて壊れてしまうだけじゃない。立ち止まって、休んだっていい筈だよ」

「あっははは! その程度で、私の事を説得出来るなんて思ったの!?」

『先輩ッ!』

 

 そんな高笑いと共に急激に魔力が溢れ出す。制御なんて考えられていない魔力が、暴走して爆発を起こすまで秒読み段階に突入した。まさか最後に自爆!?

 

「……なんて、言えたらよかったんだけどね。柄付き針の先くらいでも、考えちゃった時点で負けか」

 

 けれどその一言で、目の前で爆発しかけた膨大な魔力が霧散した。解放される寸前の魔力が風を巻き起こし、それだけで全てが過ぎ去った。

 

「聖杯があるっていうのに、私がアヴェンジャーにならなかったのはきっとそういう事なんだろうね。私の憎悪は、アンリマユにも、巌窟王にも、ジャンヌ・オルタにも、ゴルゴーンにも、◼︎◼︎◼︎◼︎・◼︎◼︎の足元にも及ばない」

 

 最後の言葉に、不自然なノイズが走った。

 

「貴方を許す気なんて更々ないけど、殺される覚悟だけで、殺す覚悟は無かったんだろうね…ここまでやったのに」

 

 腕の中に感じる温かみが、急激に失われていく。

 

「全く情けない。これじゃ、デミ・サーヴァント失格だよ。微塵もイオリを受け継げてない」

「いや、それは違うぞ」

 

 そんな声が聞こえ見上げると、右腕が無くなりボロボロになったロイドが戻ってきていた。

 そして、そのまま隣にどっかりと座って話し始めた。

 

「お前はちゃんとイオリを受け継いでいるよ、愛鈴」

「うっそだー…」

「いや、本当だ。自分のやりたい事に周りを巻き込むところ、手段を選ばないところ、そしてただの自殺を選ばなかったところ。他にも色々、ちゃんと全部受け継げてるさ」

「そっか、お義父さんが言うんなら、きっとそうなんだろうね…」

 

 それは見事にイオリに当て嵌まる特徴だけれど、受け継いで良いところ…なんだろうか? いや、オレが口出ししていい問題じゃないか。

 

「独りになって、イオリと出会って、戦って、戦って、戦って……辿り着いた幸せを壊されて。初めて親子喧嘩をして、失敗して、最後は大英雄の腕の中…か。あはは、すっごい変な人生。でもまあ、いい気分だねーーいや、悪いのかな?」

 

 そして最後にフッと笑い

 

「あぁーーやっぱり、誰かに抱き締められるのって、安心、するなぁ…」

 

 その言葉を最後に、愛鈴の身体から完全に力が抜けた。最早ピクリとも動く気配がなく、こんな距離で触れた死にやっぱり何も言葉が出てこなかった。

 

『キャスターさんの生命反応、完全に途絶しました…』

『そして、時代の歪みも修正された。いつでも帰還レイシフトは出来るよ』

「そう…だね」

「さて、マスター。感傷に浸ってるところ悪いが、愛鈴の事は任してくれないか?」

 

 決着がついた時そのままの格好で固まっていたオレに、不意にロイドが話しかけてきた。その失った筈の右腕には、喪失前とは比べ物にならない程メカメカしい義手が付けられていた。

 

「それは…どういう?」

「どういうって、埋葬して弔ってあげるに決まってるだろう。マスターは長くここには居られないだろうし、イオリの2人目の愛娘だ」

 

 そう言って、ロイドは愛鈴の事をお姫様抱っこで持ち上げた。

 そして、起き上がって居たオレに金色の杯をこちらに飛ばしてきた。なんとなく受け取ってしまったけど、こんな適当に渡された物体は聖杯だった。聖杯だった。

 

「ほら、マスター。これが愛鈴の取り込んでた冬木の聖杯だ。カルデアで調べれば、アインツベルン…だったか? そこの秘奥みたいな物でも分かるんじゃないか?」

『サラッと渡しといて、とんでもない厄ネタを増やさないでくれるかい!? ただでさえ、今のカルデアは危険な立ち位置にいるんだよ!?』

「ああ、元はこの世全ての悪に汚染されていた物だから、それこそアンリマユにくらいしか使うなよ?」

『危険度で言えば、剥き出しの核弾頭じゃないか!!』

『先輩それを離してください! 超級の危険物です!』

 

 聖杯は聖杯でも、とんでもない危険物だった。オレは聖杯を慌てて手放す。全く、なんで物を渡してくれるんだ…

 

「いや、持ってるだけで影響はないぞ。それで、俺はもう行ってもいいか?」

『ああ、それは構わないんだが…』

「ロイドさんも、この後退去してしまうんじゃ…」

 

 そうなったら、愛鈴をこのまま1人で放置してしまう事になる。ここまで関わった以上、それは絶対に避けたい。

 

「俺はまあ、暫く退去したりはしないさ。イオリの残していった物のお陰で、魔力切れもないしな。それに……」

 

 そうロイドが言って空を見上げた瞬間、通信が繋がったままのカルデアからけたたましいアラート音が聞こえてきた。

 

『新たなサーヴァントの出現反応確認!』

『この霊基パターンは……えぇっ!?』

「ふぅ、ようやく邪魔な干渉が消えた。状況は?」

 

 そんな音を背景にしながら目の前の空間が歪み、そこから1人のサーヴァントが現れた。

 虹色の髪の毛に、先ほど愛鈴が握っていた巨大な杖、小さな体躯に、深淵に覗き込まれている様な名状しがたい存在感。微かに聞こえる恐らくフルートの冒涜的な音色が、オレの正気をガリガリと削っていく。

 その姿が例え幼い女児のものであろうとも、それになんら変わりはない。そして、その空間の歪みから漏れ出た宇宙的な光が目に焼きつき……

 

「精神分析。ここで狂うな、カルデアのマスター。マスターと縁を結び、大マスターを打倒したあなたが倒れちゃ、意味がない」

「はっ!」

 

 よくわからない場所に飛んでいってしまっていた思考が、現実に帰還した。危なかった…あのまま放置してたら、きっと戻れなくなっていたに違いない。そう言えば、何か大騒ぎになってた様な気が…

 

『ちょ、ちょっと待ってください。ここまで来てビーストなんて、洒落になりません!?』

「心配する必要はない。マシュ・キリエライト、レオナルド・ダ・ヴィンチ。私は、主を弔いに来ただけ」

『それでいいのか、人類悪…』

「この通り、ティアさんが来てくれたしな。なんの問題もなくなった」

 

 カルデアの大騒ぎを馬耳東風と受け流し、その仮面の様に表情変化のない顔でオレの事をジッと見つめてくる。無言でこちらを、魂の奥まで観察する様な目に言い知れない怖気が走る。

 

「ありがとう。私からは、それだけ」

「え、あ、はい」

「ん」

 

 そう言って、踵を返してロイドの方は歩いて行ってしまった。ビーストって言ってたけど、普通に話が通じるのかも知れない。

 

「それじゃあな、マスター。短い間だったが、中々楽しかったぞ」

「後は、大マスターの事、カルデアで召喚してあげるといい。ずっと、行くのが夢って言っていた」

「それは勿論!」

 

 あんな最後に立ち会って、しかもそういう望みがあったんだったら、こちらも出来る(聖晶石の)限り答えてあげたい。

 

「まあ、いつかは俺達を呼んでくれ。ここ程ではないが、力にはなれるだろうからな」

「はい!」

 

 その言葉を最後に、オレはレイシフトの感覚に包まれた。

 




※立香君は血塗れのままです


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最終節

ハッチャケたって
いいじゃないか
ガチャだもの

がちゃを


「エミヤさんエミヤさーん。いつだったか理想の職場って言ってたけど、ケリィとアイリさんとか、凛ちゃんとか藤ねえとかイリヤとかクロエとか、大量のアルトリアさんとか……気がついたら職場に身内ばっかりいる状況をどうぞ!」

「抑止力は、やはりブラック企業だった…」

「因みに、今度桜ちゃんも来るらしいですよ? この先、更に地獄ですね!」

「なんでさぁ!」

 

 カルデアの厨房では膝をついてエミヤ(おかん)が項垂れ、トレーニングルームはお茶会に占領され、回収された未知の神代の素材によって残ってくれていたキャスターの人達は大騒ぎになり、視察に来ていた時計塔の人は持ち帰った聖杯を見て殺到した。

 

「なんだか一気に賑やかになりましたね、先輩」

「そうだね。でも、オレはこっちの方が好きかな」

 

 これら全てが、あの特異点から帰ってから起きた事だった。多少無理を言って新たに英霊召喚(ガチャ)をし、取り戻した日常だった。

 

解体聖母(マリア・ザ・リッパー)!」

「ふふふ、私はキャスターだから相性的にうぎゃー!!」

「きゃー! 凄い量の血が出てるのだわー!?」

「我が生涯に、一片の悔い……ダメだ結構あった。ガクッ」

 

 もうちょっと、静かでも良いとも思うけれど。

 こんな状況にカルデアが陥ったのは、数日前に遡る。

 

 

英霊召喚(ガチャ)を、しようと思う」

 

 特異点から帰還して2日、ようやく落ち着いたオレは集まってくれたみんなにそう言い放った。

 ロマニを失い、どうにもそういう気分になれず貯まりに貯まった聖晶石30個。それが、最後に聞いた愛鈴の願いを叶える為に用意できた触媒(軍資金)の全てだった。

 

「そうですね先輩。何としても愛鈴さんを呼んであげたいです!」

「大丈夫、許可は取ってあるよ立香君!」

 

 ぐっとサムズアップするダ・ヴィンチちゃんに、俺もサムズアップを返す。 こうしてやってきたサーヴァント召喚室には、今はオレ・マシュ・ダ・ヴィンチちゃんの3人だけが集まっていた。

 人数が少ない理由は、現在の時刻が深夜2時である事が起因している。何故こんな時間に召喚するのか? それは今までの経験としか言いようがない。

 

「最初で最後の10回、行きます!」

 

 深夜のハイテンションのままに、聖晶石を投げ入れた。礼装の概念が抽出されるか、サーヴァントが召喚されるか、それは(運営)だけが知っている。今ルビがおかしかった気がするが、気にしない。

 

 聖晶石が分解され、高密度の魔力がシステム・フェイトを起動させる。サーヴァントを呼べるかどうかは、運と縁が握っている!

 1回目の召喚が始まり……出現したのは1つの円環。この時点で、礼装なのは確定であった。

 

「ライオンの人形…ですね」

「大丈夫、まだ、まだ1回目だ…」

 

 2回目……よく分からない手袋。

 3回目……謎の薬。ダ・ヴィンチちゃんに処分してもらわなければ。

 4回目……謎の仮面群。

 5回目……寺。どっから降ってきたし。

 

「マズイよ立香君、これは……」

「まだ、まだだよダ・ヴィンチちゃん。まだ5回目残っている…だからまだ、爆死じゃない!」

 

 そんなオレの叫びに応えてか、3つの円環が金色に輝きながら回転していく。

 そしてオレの手元に、同様に金色のセイントグラフが現れた。その絵柄はセイバー、そして眼前で光る魔力の輝きが人の形を形成した。

 

「サーヴァント、セイバー。

 まあ、脚には自信があるから存分に使ってくれ」

「久し振り、ロイドさん。よろしくお願いします」

「ああ、よろしくなマスター」

 

 そう会話している間にも起動していたシステム・フェイトは、謎の羊用紙を吐き出していた。これで残るは4回、微爆死か、成功か。

 ロイドに待機してもらいつつ、起動した7回目。これは拳銃と銃弾だった。きっと強力な礼装だろう。

 けれど続いて吐き出されたのは、また謎の薬。ダ・ヴィンチちゃんに処分してもらう物だ。

 9回目は、謎の竹刀が抽出された。これは、オレが使ってみるのも良いかもしれない。

 

「あ、マスター。来るぞ」

「えっ」

 

 ロイドが注意を促し、最後の召喚陣が3つの円環を紡ぎ出した。けれど、オレの手の中に現れたセイントグラフは銀色。それは今までに召喚したサーヴァントの強化に当てられる物になり…ん?

 

「避けないと、きっとうだうだ文句を言われるぞ、マスター」

 

 手の中のセイントグラフの色が書き換えられていく。そんな事は認めない、断じて認めない、私が法だ。そんな言葉が耳に聞こえる様な、頭のおかしい塗り替えだった。

 描かれている柄はアーチャー、最早誰が来てくれたかなど明らかだった。オレはさっとロイドの近くから離れる。

 

「ローイードッ!」

 

 光が形成した人型が、恐ろしい勢いで射出された。オレの隣に立っていたロイドに向かって。

 

「ロイドと一緒にカルデアに来れた……これはもう、運 命 だ ね ! まさにFate!」

「いや、まずは落ち着こうなイオリ。ほら、挨拶挨拶」

「ふぇ? あ、そっかそっか」

 

 パンパンとローブに付いた埃を払い、とても似合わないお上品な礼をしてイオリが言った。

 

「サーヴァント、アーチャー。ロイドの気配を辿って参上したよ。よろしくマスター」

「うん、よろしく!」

 

 とりあえず、全く体裁を保ててはいないけれど握手を交わした。あの特異点で、2人には散々お世話になったのだ。会えて嬉しい事には違いない。

 

「凄い、全く威厳がありはしないぞぅ」

「えへへ、ローイドー」

 

 自分の夫に抱きついてスリスリとしているこの光景は、うん、とても懐かしく感じる砂糖空間だ。

 

「ですが先輩、愛鈴さんを呼ぶ事は出来ませんでしたね…」

「そうだね……」

 

 そう、2人が来てくれたのはとても嬉しいのだけど、肝心な愛鈴を呼ぶ事が出来なかった。くっ、軍資金が足りなすぎる…

 

「あ、そうそう。その事なんだけどねマスター」

 

 ポイっと、イオリが何処からか取り出した袋を投げつけて来た。開けてみれば、その中に存在したのは聖晶石。数は合計で17個、5回分と少しであった。

 

「向こうじゃ忙しくて渡せなかった分。愛鈴を呼ぶなら、これくらいのボーナスは有っても良いでしょ?」

「やっぱり、あなたが神か…」

 

 礼装の件といい今回の石の件といい、イオリのタイミングが完璧すぎる。流石スキルで千里眼:Aを持っているだけはある…のだろうか?

 

「よし、行け、行くんだマスター!

 タイムテーブル教に単発教、そして触媒教がオーバーレイしている今なら行ける!」

「高レア宗教が3つ…来るぞ、マスター!」

「そうだね……真の決闘者(デュエリスト)は、ドローカードすら創造する!」

 

 ダ・ヴィンチちゃんとマシュ呆れた様な目に晒されながら、3つの聖晶石を投げ入れた。

 形成されたのは、3つのリング。手に現れたのは銀のセイントグラフ。それは人の形を形成する事なく、カルデア内のどこかへ飛んで行った。誰かが強化サレタヨウダ…

 

「単発は5回から!」

「イエッサー!」

 

 続く2回目、これもまた同じ。サーヴァントの誰かが強化された。

 

「衝撃の?」

「ファーストブリットォォ!」

 

 1発目の銃弾が3回目とはこれ如何に。概念が抽出され、銀色の液体が現れた。これは、確か時計塔のろーど?って人の礼装だった気がする。

 疑問に思うオレの手の中に、金色のセイントグラフが現れた。この感じ、狙いとは違う存在を引き寄せたっ!

 

「アサシン、ジャック・ザ・リッパー。よろしく、マスター(おかあさん)

「よろしくね、ジャック」

「奇跡はあった」

 

 感動しているイオリを置いておいて、来てくれたジャックと握手をする。オレの事をおかあさんって呼ぶのはいいけど、解体はしないでほしいかな。ナーサリーが、確かお菓子を用意して待ってたよ?

 

「さて、これが最後だよマスター…」

「奇跡を見せてやろうじゃないか!」

 

 ナーサリーの元へ走って行ったジャックを見送り、残る聖晶石を、全力で投げ入れた。

 瞬間、虹色に光輝く召喚システム。

 これは間違いない、圧倒的なサーヴァントの予感!

 

「デミ・サーヴァント、キャスター。さあ、私の終わりを始めよう……なんちゃって」

 

 光が形成したのは、見慣れた人影。

 みんなに目配せをし、もし来てくれた時のために考えていた言葉で出迎えた。

 

「「「ようこそ、カルデアへ!」」」

「うん! 末長くよろしくね、マスター」

 

 そう言って、満面の笑みを浮かべた愛鈴がカルデアに迎えられた。

 




終わり

変貌冬木のキャスター
真名 : 銀城 愛鈴/キリノ・イオリ

【ステータス】
 割愛

【能力値】(初期値/最大値)
 HP 1,986/13,469
 ATX 1,709/12,293

【クラス別スキル】
 
 道具作成 : EX
 自身の弱体成功率をアップ

 複合神性 : B−
 自身に与ダメージアップ状態を付与

 狂化(偽): A
 自身のBastarカード性能アップ

【保有スキル】
 高速神言 : A
 自身のNPをものすごく増やす

 永劫破壊(偽): B
 自身にガッツ状態を付与(2回)
 自身のHPを回復

 うたかたの夢 : B
 自身のBastarカード性能をアップ(1T)
 自身に無敵状態を付与(1T)
 自身のHPが減少【デメリット】

【カード】
 B A A A Q

【宝具】
ー二発の銃声ー
Buster
敵単体の防御力をダウン(3T)
〈オーバーチャージで効果アップ〉
+敵単体に超強力な攻撃&強化解除

fgoの方じゃ発動出来なかった悲しい宝具


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