もしもの世界を生きる彼女と (マーマレードタルト)
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0章【After the end】
A letter to “ ”


大好きな貴方。

 

 

貴方はいつも頑張ってるよね。

それにいつも誰かを助けてる。

 

私が記憶を失ってナベリウスで1人取り残されていた時、スクナヒメが【双子】の作った黒の民に追い詰められた時、シオンさんをルーサーが手に入れようとした時。

他にもアフィンさん、オーザさん、リサさん、クラリスクレイスちゃん、サラちゃん、ジグさん…困ってる人が居たら助けられずにはいられない、とってもお人好しさん。

 

実はね、最初は「あぁ、この人も私と一緒だ」って思ったんだ。

 

だって貴方は自分の事より他の誰かの為に戦う事の方が多かったでしょ?

 

そうじゃない時はドゥドゥさんの所でメセタを叩きつけながら強化していたり、新しい武器の練習だったりテクニックの調整だったりで、ずっとずっと強くなるために頑張ってる。

 

あ、でもお洒落の為にアクセサリーや服も買い込んでたよね。ふふっ、一緒にショッピングしたの楽しかったなぁ。

 

話が逸れちゃった……それでね、貴方も私と同じで“みんなの為に”戦ってるんだって思ってた。

 

でも貴方と同じものを見て、聞いて、感じて。そして一緒に戦ってるうちにそうじゃないんだって気付いたの。

 

確かに貴方はみんなの為に戦っていたけど、私みたいにふわふわと曖昧な誰かじゃなくて、その時に助けたい明確な誰かのために戦ってた。

 

それにみんなも貴方であったり、他の誰かの為に戦ってる。支え合ってる。それに頼る事を貴方は知っていたんだね。だから装備の強化とかクラフトとか、自分に出来ないことは他人に頼ってた。

貴方はほんの少し強かったから目立っちゃっただけで。

 

ふふっ、私その事に気付くのに凄く時間がかかっちゃった。

 

私を庇って【双子】からダーカー因子を受けた貴方を見た時にようやくその事に気付いたんだ。

 

今、他の誰でもない貴方を助けたいって。

 

だからあの時貴方からダーカー因子を受け取り、そして全てを抱えて死ぬ事に迷いは無かったよ。

 

ナベリウスの奥地で殺されるために待ってると、貴方が来てくれた。私がダーカーを殺すように貴方も私を殺しに来たんだって思った。

 

でも貴方は私を救うことを諦めてなかった。

 

嬉しかった。でも同時に悲しかった。

 

深遠なる闇は顕現してしまった以上、私は死ななくちゃいけない。

 

だからその優しさが他でもない貴方自身を傷つけてしまう事が辛かった。

 

貴方と戦ってる間もずっとごめんなさいって心の中で叫んでた。

 

 

そして武器を突きつけられた時。

これでようやく貴方に恩返しが出来るって思った。私が死ねことで貴方は平和な世界を生きていけるんだって。

 

 

なのに

 

 

何故私は貴方の居ない世界を生きているの?

 

 

 

 

 

 




マトイは仮面を被れません。


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1章【Not choose the world 】
掴んだもの掴めなかったもの


最近アークスシップに1つの像が出来た。

 

その人は身を賭して深遠なる闇の復活を阻止した、偉大なる英雄だと言う。

 

その英雄をみんな知っている。

それはその人にとってセンパイであったり後輩であったり、相棒であったりと様々だが、一貫して大切な仲間だった。

 

勿論最初は皆悲しんだ。それはもうアークスシップ全体のムードが暗くなり業務に支障をきたすくらいには悲しんだ。

 

だがその内の誰かが言った。その英雄が救った世界、私達が守らなくてどうする、と。

 

そんな意志はアークス全体に広がり、皆やる気に満ちている。

 

 

「彼は居なくなった後も皆にいい影響を与えるのか…ホント、凄いや」

 

ショッピングエリア中央、噴水広場でアークスの近況を振り返る青髪の少年。彼はシャオ。本人曰くシオンの弟であり子供のようなものらしい。

 

「あ、シャオくん」

 

そこへ白とも銀とも見える髪色を持つ少女が現れた。彼女はマトイ。

ダークファルスとの戦いを英雄と共に戦い抜いたアークスだ。

 

「やぁ、マトイ。調子はどうだい?」

 

「溜め込んでたダーカー因子も綺麗サッパリ無くなって絶好調だよ」

 

「それは良かった。あ、でもだからって出撃はダメだからね?」

 

「もう、わかってるよー。フィリアさんにも絶対安静を言いつけられてるし…今日の散歩だって……えへへ」

 

「まったく…マトイも英雄さまもいっつも無茶ばっかするからね。サポートする側にもなってほしいよ」

 

彼女の担当医が物凄く渋い顔で許可を出したのを思い出して思わず苦笑いするマトイを見て釣られて苦笑いするシャオ。

 

「ダークファルスも深遠なる闇も今は存在しない。その内ダークファルスは復活したり新たに生まれるかもしれないけど、とりあえず今は平和なんだ。マトイが戦わなくても大丈夫さ」

 

「うん…でもせっかく守ってもらった世界だもん。私も頑張らなくちゃ…」

 

「勿論そのうちマトイにも出撃してもらうさ。ダーカーはまだまだたくさんいるからね。」

 

でも、と一拍開けてシャオは続ける。

 

「マトイは頑張り過ぎだ。頑張り過ぎた結果がこの前の事件だ。少しは僕たちを信じて任せてはくれないかい?」

 

「そ、うだよね。もう一人で頑張る必要はないんだもんね」

 

「だから今のマトイの仕事はしっかり休むこと。わかった?」

 

「はーい」

 

「あ、そうだ。武器はともかく新しい服なんだけど、申し訳けどもうちょっと待ってもらえるかな?」

 

「うん、わかった。カスラさんに貰ったこのシャツ、着心地がいいから大丈夫だよ」

 

そう言ってその場でクルリと回るマトイ。

そのシャツにしまむらと書かれているのを彼女が知るのはまだ先の話である。

 

「あぁ、そう言えばハルコタンのスクナヒメが心配してたよ?こちらからだいたいの顛末は話したけど、やっぱり話さないと不安になるんだろうね」

 

「あ、そうだね。あとで連絡しておくよ。それじゃそろそろ戻るね」

 

また怒られちゃう、とシャオに笑いかけ去っていくマトイの表情は笑顔のはずなのに、何故か不安をシャオは感じたのだった。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

「そうか、あやつは逝ってしまったのじゃな」

 

「うん。最後に泣くな、笑えって言われたよ」

 

「なんともあやつらしい…」

 

通信ウィンドウに映る、半ば呆れながら笑みを浮かべるのは黒と白の髪を持つ惑星ハルコタンの神とも言える存在スクナヒメだ。

 

「それでマトイ、これからどうするのじゃ?マトイさえ良ければハルコタンで暮らさぬか?」

 

ハルコタンでダークファルスと戦っている時、同じ誘いを受けた事がある。多分それは凄く幸せな生活なんだろうな、とマトイは思う。

辛く厳しい戦いで心身を削る事も無く友達と過ごす楽しい毎日。

 

「ありがとうスクナヒメ。でもごめんね」

 

それでもマトイはその選択肢を取らない。取ることが出来ない。

 

「どうしてじゃ?もうダークファルスは居ないのじゃろう?無理してマトイが戦う必要はないだろうに」

 

「うん。でもやっぱり私この世界が好きだから守りたいんだ」

 

救える力を持つ者として、ただ見ているだけは他でもない自分自身が許せない、そうマトイは感じている。

 

「マトイよ。そなたは、なんのために戦うのじゃ?」

 

以前にも投げかけられた問いかけ。

あの時は守りたいから守る。そう答えた。何を守っているのか、何を守りたいのか…それさえあやふやなままに。

 

「私は……」

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

通信を切り、少しばかり暗くなった部屋でマトイは椅子にもたれつつ天井を見上げていた。

 

「私が戦う理由」

 

そっと呟き部屋を見回す。

一人で住むには少し広過ぎるように見えるこのマイルームは、元々マトイのものではなく別の人物のマイルームだ。

かつて、記憶も身寄りも何もなく困っていたマトイに、「拾ったのも何かの縁、ここに住めばいい」と言ってくれたのが始まりだ。

それから、マイルームの一室をマトイの為に用意してくれたり家具も調達してくれたりと凄く世話になったのをマトイは覚えている。

 

アークスになって稼げるようになってからは二人で家具を選んだり、模様替えしたりと色々な思い出がある。

 

だが、その部屋主も今はもう居ない。ここにはマトイしか居ない。

視線を手元に落とす。

その手には煤汚れたアークスカードがある。

 

「一番大切で大好きな人を守れなかった私に何が守れるんだろうね」

 

誰に言うでもないその言葉は、広い部屋にとけて消えていった。

 

 

 



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戦う前に始めること

マトイと自分の名前を呼ぶ声を聞いた。

 

同時にこれは夢なんだな、とふわふわした頭で理解する。

でなければ、もう居ないはずの人が私の名を呼ぶことは無いはずなのだから。

俯いた視界にあの人が歩み寄ってくるのが映る。

 

こんな夢を見る私は後悔しているのだろう。あの時救いを求めてしまった事を。寂しいと泣いた事を。

 

あぁ、ならばきっとこの夢は私を罰する夢なのだろう。

だから私は謝る事しか出来ない。ごめんなさい、と。

 

あの人の顔を真っ直ぐ見る事が出来ない。見る事が怖い。一番大切で大好きな人に嫌われるのがこの上なく怖い。

 

伸ばされた手を振り払い私は走る。

 

どこへ続くでもない薄暗い闇の中を。この道は途切れない。逃げ続ける限り。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

薄っすらと目を開ける。

ボヤけた視界に見慣れた天井が映る。何て事のないいつも通りのマイルームだ。

 

「ふぁ〜」

 

起き上がって軽く伸びをする。すると目からホロリと涙が溢れた。

 

「…??」

 

私、どんな夢を見てたんだっけ?そんな疑問が浮かぶ。

 

首を傾げているとメールが届いた。端末を操作してみると、差出人はシャオ。

 

「いつもなら通信だけど…朝だから気を使ってくれたのかな?」

 

開いて見れば武器と服の事で報告があるから後で来てくれとの事。

 

ベットから抜け出したマトイが向かうのは洗面所。

クラリスクレイスとして戦いに明け暮れてた時は最低限の身なりさえ整えておけば支障は無かった。でも今は1人の女の子として化粧をしたり髪を綺麗に整えたりしてるのだ。

最初こそ慣れなかったけど、フィリアやイオ、他にも色々な人に教えて貰ったおかけで何とか1人で出来るようになっていた。

 

そんな訳で手早く身なりを整えたマトイはクローゼットを覗く。

 

基本的にはいつでも出撃出来るように戦闘用の服がメインだ。

だがハルコタンで活動している時の戦闘用の服は予備含めてどこかしら痛んだりで使い物にならなくなってしまった。

連戦で補修が追いつかなくなってしまったのだ。

ならばいっその事新しいのを支給するよという話しだ。

そんな訳で現在服装は自由なのだ。

 

「ふんふ〜ん〜」

 

いつか着ようと思って買っていた服の中から、いいなと思ったものをベットに並べてみる。

 

「うーん…武器と服の件って言ってたよね……もしかしたら武器持つかもしれないし、動きやすい方がいいのかな……うん、これにしよう」

 

その中から気にいった物を身に纏う。それから必要な道具をナノトランサーに収納し準備完了。

 

「それじゃ行ってきます」

 

マイルームをロックされているのを確認して、シャオがいるであろう広場へ向かった。

 

 

 

ーーーーーー

 

 

 

「おはよう、マトイ」

「久方ぶりじゃの」

「シャオにジグさん、おはよう」

 

広場に向かったマトイを待っていたのはシャオと男性型キャストのジグだ。

 

「来てもらって早々で申し訳ないんだけど、新しい武器の原型が出来上がったってことでテストに付き合って欲しいんだ」

「うん、大丈夫だよ。私頑張っちゃうよ」

 

グッと気合を入れるポーズでアピールをするマトイ。

 

「あはは…そんなに気合い入れなくても大丈夫だよ?」

「まだ完成しておらんからな、あまり力を入れすぎるとお釈迦になってしまうかもしれんのじゃ」

「あ、そうなんだ…」

 

普通であれば専用の武器なんて作られないのだが、マトイの持つフォトンが強すぎるため普通の武器では五分と持たない。

そんな理由もあって白杖クラリッサという彼女の為に作られた武器があったのだが、それも先の騒動で失われている。

 

「白錫クラリッサ程では無いがかなり良いものになったと自負しておる」

 

ジグから手渡された杖を受け取ると同時にマトイは驚いた。

持った感じ、フォトンの伝わる感じ…手によく馴染んだ。それはかつて扱っていた白錫クラリッサを思い出させた。

 

「わぁ……ジグさん!これ凄くいい!」

「白杖クラリッサは修理したこともあってデータがあったのが幸いじゃった」

「それじゃマトイ、カリンに言って練習用のVRを用意してもらってあるからそっちにお願い。僕達はカリンのところでステータスをチェックするから」

「はーい」

 

武器のテストと言っても久しぶりの戦闘。その姿はやる気に満ちていた。

 

マトイが去った後、シャオがジグに話しかけた。

 

「アレは白錫クラリッサと比べてどうなの?」

「持てる全てを注ぎ込んだ。恐らくは彼女の全力にも耐えられる……はずじゃ」

「はずって……いやそうだね。彼女は、いやアークスは皆思いの強さで容易に限界を超えていく」

 

 

まったく頼もしいもんだよ、とシャオは朗らかに笑うのであった。



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Clarissa's return

マトイはゆっくりと深呼吸をする。

 

ダーカーを殺す為に生まれ、戦い、殺し、そして一度はその身を闇に食われた。だが今もこうして戦いを続けるための戦いをするために立っている。

 

マトイは迷わない。彼女に出来る事はシオンより与えられた力を振るうこと以外に無いのだから。

 

そうするしか彼女は彼女自身の価値を示す事が出来ない。

そうすることでしか彼女は報いれない。

 

それはある意味スクナヒメに問われた事への答えとも言えるだろう。

 

「うん、いつでも行けるよ」

 

「はぁーい、そんなにフォトンを漲らせてるところ申し訳ないんですけどー今日は武器のテストって事なんで大して難しくないですよー!」

 

と、カリンが言い終わるのと同時にステージにダガンとカルターゴ、ブリアーダが数体現れる。

だがどれもその場から動かずじっとしている。

当たり前だ。全て再現されたVRデータなのだから。

それでもマトイの杖を握る手には力が入る。

 

「でもでも!耐久性は本物と変わりませんので遠慮は入りませんよぉ〜?」

 

「元よりダーカーに容赦はしないよ。お願い…」

 

癖でクラリッサと言おうとして、ふと気付いた。この子の名前を聞いてなかった、と。

 

「あとでジグさんに聞かなくっちゃ……お願い今は力を貸して!」

 

振るった杖からイルグランツが放たれる。輝く軌跡を描く複数のそれはダガン、カルターゴ、ブリアーダ全てのコアを貫いた。

 

「一度のテクニック行使で全滅ですか……」

 

カリンが素直に驚きを表す。

ダガンはともかくカルターゴやブリアーダのコアは背後にあるのだ。倒せないとは言わないが別の方法を取るだろうと踏んでいた。

それが蓋を開けてみれば、イルグランツをコントロールし鎌のように後ろから攻撃したのだ。

それだけなら一部のアークスも出来るかもしれないがマトイはそれを複数同時にやってみせた。

 

しかしマトイもまた驚いていた。

普通の武器ならばコレを一度するのにも煙を噴いていた。

だがこの杖は自分のイメージ通りにテクニックが使える。もっともっと自分を上手く使え、そう言われているような気すらしてくる。

かつての白錫クラリッサと同じように。

 

手元の杖に視線落としているとカリンの嬉しそうな声がスピーカーから響く。

 

「まだまだレベルを上げても良さそうですねぇー」

 

たかが武器のテストと最初は期待していなかったが良いデータが取れそうだ、とカリンは舌舐めずりを抑えられなかった。

 

「……カリンの悪い癖が…」

「これで有能なのが厄介じゃ…」

 

頭を抱える二人は目に入っていないのであった。

 

「お次は動きますよー!!」

 

再現されたダーカーはかまきり人間のようなダーカー、プレディカーダだ。プレディカーダは姿を消し、マトイの死角へ移動する。

マトイは慌てずにロッドだけその場に残し、短いミラージュエスケープで横へ移動し攻撃範囲から逃れる。

同時に残されたロッドからナ・グランツが発動され、死地に飛び込む形になったプレディカーダが光に焼き殺された。

 

「うん、快調快調」

 

引き寄せたロッドを軽く回しながら、戦闘を振り返る。この分だと恐らく白錫クラリッサと同じように扱っても大丈夫だろう。

 

「いいですねぇいいですねぇ!!私も乗ってきましたよー!」

 

 

楽しそうな声とともに再現されたのは中型ダーカーのウォルガーダだ。

先ほどとは違い腕を振り回し明らかに敵意を振りまいている。

 

「カリン!今回は大きな戦闘は無しって言っただろう?!」

 

慌ててシャオがストップをかける。元々武器のテストの予定なので交戦は予定ではない。

だが止めるのが遅かったのかウォルガーダはマトイに向かって腕を振り上げていた。

 

「大丈夫だよ、シャオ君」

 

マトイ微笑み、半歩横にズレる。

振り下ろした腕はマトイの服を風圧ではためかせたものの、傷一つ付けられていない。

 

「私はダーカーを殺すために生きてるんだもん。この程度……」

 

マトイはそっと右手をウォルガーダの顔に当てる。

あの人は素手でダーカーのコアを貫いていた。全く同じ事は出来ないが似たような事は出来る。

 

瞬間手のひらから閃光の槍が放たれる。それはウォルガーダを貫きステージのバリアに直撃した。

 

「素手でも倒せるよ」

 

ウォルガーダに触れた手をハンカチで拭くマトイの後ろでウォルガーダは光になって消えた。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

結局テストはそこで終了した。

マトイの放ったラ・グランツがバリアに直撃した結果、軽度ながら機能不全を起こしたせいだ。

カリンはシャオに正座させられていたのはどうでもいい話だろう。

 

「ご苦労さん。武器の感じはどうじゃ?」

「あ、ジグさん。この子凄い。私のイメージした通りに動いてくれる!」

 

そこでマトイは一つ大事な事を思いだした。

 

「ねぇジグさん、この子の名前はなんて言うの?」

 

「おぉ、言い忘れておったな。名は明錫クラリッサという」

 

それが新しいマトイの力。ダーカーを殺す力だ。

だが願わくば白錫クラリッサのように大切なものを守る力に、とジグは思わずにはいられなかった。

 

 




タイトルはいつも雰囲気で決めてる。


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ハイボルテージ台風姉妹

最近アークスシップで風邪が流行ってる。

 

そんなフワッとした噂をマトイはパティエンティアから聞いた。

 

「そんなわけで何か知ってたら教えて欲しーな!パティだよ!」

「パティちゃん、相手はあのマトイ様なのに態度変えないんだね……どうもティアです。」

「うーん…確かに最近少し調子が悪そうなアークスは見掛けたかな…」

「あ、じゃあじゃあ体調の悪そうな一般の人は見た?」

「私は下の居住区にはあんまり行かないからちょっと分かんないや…ごめんなさい」

 

頭を下げようとするマトイをティアが慌てて止める。元々はただの噂なのだ。情報が無くても仕方ない。

 

「うー、アークスの調子が悪いって人は結構聞いたんだけど、アークスじゃない普通の人は全然聞かないんだよねー」

「そうだね。もしかしたらフォトンとかに関わってるのかな?最近みんなたくさん出撃してたし疲れてたのかも?」

「ハッ!わかったよティア!これはアークスだけを狙い撃ちにしたダークファルスからの“ばいおこうげき”に違いない!」

「あぁ!?パティちゃん!それでは失礼します!」

 

私がアークスを守るんだー!!と駆け出すパティ。それを追いかけるティア。まこといつも通りのパティエンティアであった。

 

「……行っちゃった」

 

相手を置いてけぼりなところも含めて。

 

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

先ほどの噂がなんとなく気になったマトイはフィリアのもとを訪れていた。

餅は餅屋、病は医者にというわけである。

なんのかんの言ってフィリアはとても優秀なスタッフでありマトイも信頼している。決してマトイお説教係りではないのだ。

 

「かくかくしかじかって噂があるんだけどフィリアさんは何か知ってる?」

「かくかくしかじかって、また変な事覚えてきたわね…まぁ、それだけ馴染んだって事なんでしょうけど……」

 

なんとなく複雑なフィリアである。

 

「えっと、そうね。私たちの所へ診察へ来る人は少ないけど、調子が悪いって報告は受けてるわ」

「みんなは大丈夫なの?」

「えぇ。調子が悪いと言っても風邪とかじゃなくて本当に身体がダルいとか、ちょっとフォトンが上手く制御出来ないと言った感じね。今のところ診た人たちにウイルスの類いは確認出来なかったし、恐らく疲労のせいじゃないかって言われてるわ」

 

でも、とフィリアは続ける。

 

「私はなんとなく違う気がするわ。勿論根拠もないし、ただの勘なのだけど…」

「大丈夫だよフィリアさん。もしも何かあったら私達がなんとかするから、ね?」

 

マトイは握り拳を作ってフィリアを励ます。

 

「あ、でも本当に病気とかだと私に出来ることあんまりないかも…?」

「うふふ、大丈夫。そういった時の為の私達よ。任してちょうだい」

「そっか、そうだよね。フィリアさんがんばって!」

 

そんな談笑をしつつもマトイは内心自分に嘆息していた。また自分一人でなんとかしようとしていたと。これではまるでフィリアを信じていないみたいで心底自分自身に嫌気がさしていた。

 

「それじゃあ私行くね」

「任務?」

「ううん、違うよ。今日はナベリウスに用事があるの」

「あんまり無理しちゃだめよ?」

「はぁーい」

 

フィリアと別れ、出撃ゲートへ向かった。

 

 



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People I (don't) want to meet

なんちゃって英語。


惑星ナベリウス。

緑生い茂る森林エリアや眩しいほど銀世界の凍土などの豊かな自然と多種多様な原生成物が暮らす星。

マトイにとって全ての始まりの地であり、同時に全てが終わった地でもある。

 

そんな広大なナベリウスの森林エリアにある、大樹もとにマトイはやってきていた。

 

「ここに来たらあなたに会えるかも…って思ったけどそんなわけないよね、あはは…」

 

ここは約束の場所。かつてクラリスクレイスとして戦っていた時、そしてマトイとして歩き始めた時。ここでまた会おうと約束した、そんな小さな小さな約束の地。

もちろん待ち人はここには居ない。いや、この世界どこを探しても見つからないだろう。

当たり前だ。他の誰でもないマトイの目の前でその生を終えたのだから。

 

「はぁー、辛いなぁ。私、あなたに会いたいよ」

 

誰も居ない静かな場所でマトイはポツリポツリと誰にも言わなかった心の内を吐き出す。

 

「あなたが居なくなってから、みんな凄いやる気出してね」

 

誰にも言えなかった、ではなく言わなかった本音。心配させまいと気丈に振舞ってきた。

 

「あ、みんなと仲良くしてるよ?たまに一緒に出撃したりもするもん。もう一人ぼっちじゃないよ」

 

「リサちゃんとか凄いよ?でもどうせならリサの手で逝ってほしかったって言った時はびっくりしたなぁ〜」

 

「イオちゃんはね、クールに振舞ってたけど人の居ないところで大泣きしてたよ」

 

「カトリさんとサガさんは静かに黙祷を捧げてたよ」

 

「アフィン君は凄く寂しそうに笑ってた。ユクリータさんは興味無さげにしてたけど目が潤んでた」

 

「みんなあなたの事を惜しんでた。でもただの1人も私を責めないの“お前のせいであいつは死んだんだ”って」

 

「優しいよね。その優しさが私にとっては苦しいよ…」

 

こうして吐き出さないと、潰れてしまいそうだった。誰もマトイを責めない。むしろマトイは悪くないと言ってくれる。それがマトイにとっては毒のようであった。

責めてくれた方が遥かに楽だった。 これではまるであの人を犠牲にした無力な私は一切悪くないみたいで

 

 

 

心底自分に吐き気をおぼえる。

 

 

 

それは口に出せない。約束だから。

大事な人との大事な約束。

マトイは自分で自分を無価値してはいけないのだ。

だから戦い続ける。ダーカー倒してみんなを護るチカラと自らを定義し続ける。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

一通り吐き出し心なし楽になったマトイはあの日と変わらぬ青空を眺めていた。

 

そんな時、何かが近づいてくる音を聞いた。それは確実にこちらへむかっている。近くを通っているというわけでは無さそうだ。

ここは原生生物もほとんど来ない隠れた場所とはいえ、たまに紛れ込んでくることもある。その類いかと思いクラリッサを手に取り音の方へ向ける。

 

だが音が近づくにつれ、それが人の足音だと理解すると同時に警戒度を上げる。しかし、その足音にはいやに聞き覚えがあった。顔しかめつつ気を張っていると、現れたのは…

 

『今の私に敵意はない。いや元々君に敵意など持っていないが…』

 

「【仮面】…」

 

黒のコートを身に纏い、仮面を被ったダークファルス【仮面】その人であった。

 

 

 

 

 

 

 




タイトルの意訳は『会いたくて会いたくない人』です。


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私ではない私の話し

アークスにとってダーカーは絶対的なる敵。あらゆる生命を侵し宇宙を滅ぼす存在だ。

だが、それらは眷属に過ぎない。ダーカーたちを総括する真の敵、それがダークファルス。

アークスが現在までに確認したダークファルスは【巨躯】【若人】【敗者】【双子】【仮面】の五体。様々な激戦を経て、今では【仮面】を除くダークファルスはすでに消滅あるいは封印されている。

それでも消滅した【巨躯】【敗者】【双子】の眷属は健在であるし、封印した【若人】も地中深くから抜け出そうと大きな抵抗をし、その度にアークスによる再封印作戦が行われるなど一筋縄に終わってくれない。

 

そんな圧倒的な力を持ちアークスの敵であるダークファルスだが唯一【仮面】だけは他のダークファルスとは大きく事情が異なっている。それゆえにシャオは積極的に捜索したり討伐を言い出すことはしなかった。加えてマトイが闇から救い出されたあの日を境にアークスに姿を見せなくなったこともあり、誰一人として【仮面】の行方を知る者は居なかった。今日この時までは。

 

『それが新しいクラリッサか』

「この子は明錫クラリッサ、シャオと協力してジグさんが作ってくれたんだ」

『やはりジグか…衰えないな、あの老人は』

 

その呟きに様々な意思が篭っていることにマトイは気付く。

きっと【仮面】になる前のまだ普通のアークスとして過ごしてきた日々。その中にはジグとの交流もあったのだろう。

その穏やかな様子を見て、クラリッサを構えている自分が酷く場違いな気がして急に気恥ずかしくなってくる。

クラリッサを待機状態に戻し【仮面】と向き合う。

 

「貴方に聞きたい事がたくさんあるの」

『フッ、そうだろうな。今日、私はその問いに答えるためにやってきた』

 

そう懐かしいものを見るように男のような女のような、老人のような若者のようなノイズ混じりの声で答えた。

 

 

 

ーーーーーーー

 

 

 

『何が聞きたい?』

 

【仮面】はマトイから少し離れた壁に腕を組んで背を預けていた。

 

「あなたは本当に“あの人”なの?」

『ほぼ間違いない。正確には別時間軸の同一人物だが』

 

訝しむマトイに対し、つまりと一呼吸置き続ける。

 

『“あの時”身代わりになることを選ばずに君を殺すと言う選択肢を取り、その後悔によりダークファルスに成り果てたのが私だ』

「後悔でダークファルスに……?」

『深遠なる闇の成り立ちを聞いた事はないか?アレは人の負の感情を受けてフォトンが変異したもの。それと同じで私は君を失った後悔と絶望によりダークファルスになったのだ』

 

そう自嘲気味に【仮面】は話した。

マトイは驚く。今自分の立場は【仮面】とほぼ同じと言っていい。だが、それでも自分の纏うフォトンは変わらず煌めいている。どれほどの絶望を抱けばこうも変わるのか…

同時にいかに自分が大切に思われていたのかを思い知る。

 

「それをあの人は知ってたんだよね?」

『無論。打ち明けて私の知る未来を語った上で救うには殺すしかないと誘いをかけたが、絶対に君を救うと一蹴されてしまった』

「ふふっ、なんだかとっても“らしい”な」

 

様子が容易に想像できてしまうマトイであった。語りはしないけど、恐らくは己の意思を通す為に戦ったんだろう。マトイを救う、ただその為に。

 

「あの人がああするって貴方は知ってたの?」

『いや、聞いていない。だが策があるとは言った事からそうするつもりではあったのだろう』

 

深遠なる闇を身に宿したまま死ぬ事で封じる。マトイがやろうとした事と同じだが、違うのはマトイが殺してもらうのを待っていたのに対して、マトイから闇を奪い即座に自害した事。

マトイを救う事は諦めなかったが、マトイとも共にある未来を諦めたのが今だ。

 

そう言えばと【仮面】が何かを思い出す。

 

『これを渡しておく。君が持つのがいいだろう』

 

そう言い懐から取り出したキラリと輝く物をマトイに渡す。何かの破片のようだがマトイはそれに見覚えがあった。

 

「もしかしてこれ……白錫クラリッサのコアの破片…?」

『その通り。今となっては何の力も持たないただの破片だが…』

「ううん、ありがとう。大切にする」

 

破片をギュッと胸に抱く。今はもう物言わぬ冷たい亡骸。しかし確かにあった意思を感じる。

 

「ねぇ、貴方はこの先どうするの?」

『分からない。だが君が笑えと言われたように、私も君を守ると約束したのだ。癪だが約束は守るつもりだ』

「よかったら…」

 

一緒に来てくれないかな、と続けようとしたところでピピッとシャオから通信が入る。チラリと【仮面】を見るが特に何も言ってこない。応答してもいいみたいだ。

 

「あ、ようやく出たねマトイ。どこにいるんだい?」

「えっと…今はナベリウスに居るよ」

「申し訳ないんだけどピクニックはお終いだ。至急ハルコタンに向かって欲しいんだ。要件は道中で話すよ」

 

そう言って通信が切れる。何かは分からないがシャオが至急と言うくらいだ。急いだ方がいいとマトイは判断した。【仮面】の方を見ると腕を組んだまま軽く頷きかけてくる。

 

『私の事は気にしないでいい』

「また会えるかな?」

『私はダークファルスだ。あまり私と居ると要らぬ手間が増える事になる。では達者でな』

 

そう言い残し【仮面】は何処かへ去っていった。それを見送ったマトイは一抹の寂しさを覚えつつもキャンプシップへ戻るのであった。

 

 

 

 

 

 




このルートへ行く為には
・【双子】戦後に気を失わずに自力でクラリッサを回収し帰還する。
・誰にも頼らない。
・『マトイと共にある未来を諦める』の三つが必要です。

マトイは救えてますが、幸せかと言われたらうーんと首をかしげるのでバッドエンドに近いノーマルかなーと言うイメージ。
さて、次回からは貴方の居ない世界で何かが起こります。もう居ない貴方に頼れません。


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【双子】の残したもの

ハルコタンにあるでっかい川の名前ってなんでしたっけ……


「シャオ、状況の説明をお願いしてもいい?」

「もちろん」

 

キャンプシップに帰還したマトイはアークスシップには戻らずにハルコタンへ直行し、現在はハルコタン上空で待機している状態だ。

 

「マトイはハルコタンの黒の民の事を覚えているかい?」

「うん。【双子】に食われて今居るのはみんな複製体だったよね」

「その通り。この黒の民なんだけど【双子】によって生み出されたものなのに、何故今も存在していると思う?」

「え?えぇと……確かになんでだろう。もう【双子】が居ない以上増える事は無いはずだし、そもそも存在を維持出来ないよね」

「【深遠なる闇】関連で色々あってそっちの調査は後回しになってたんだよねー」

「うぐっ……」

 

どこの誰達のせいとは言わないけど、そんな視線を通信モニター越しに受けて凄く気まずいマトイである。

 

「まぁ、過ぎた事は置いといて。調査結果なんだけどね、あの黒の民はもうほとんどダーカーと変わらない存在だったよ」

「ダーカーと変わらない?」

「順番に説明するよ。まず【双子】が生み出す複製体はダーカー因子で汚染したフォトンに複製の元なる情報……今回だと黒の民だね。それを入力して再現させたものなわけ。まずはこれが大前提ね」

 

そこで一度区切り話を続ける。

 

「まず【双子】に生み出された純粋な複製体。これを倒した時に霧散したダーカー因子が周囲のフォトンを汚染して“複製体の姿”をまた再現させるんだ。これは複製体の情報を持つダーカー因子が存在する限り再現され続ける、いわば自己増殖型のウイルスみたいな感じだね」

 

アークスにはダーカー因子やそれに汚染されたフォトンを浄化する能力を持っているが、その大半の者は倒したダーカーの全てを浄化する事は出来ない。例外を除きどうしても“漏れ”が出てしまうのだ。

その漏れが中心となって新たな複製体を再現するという訳だ。

 

「それを繰り返すうちに大元の【双子】から生み出された複製体の複製体が増えたわけ。今僕達が戦ってるのはこっち。仕組み的にはダーカーと一緒。もう“黒の民の姿をしたダーカー”が正しいかもしれないね」

「黒の民の姿をしたダーカー……でもなんで今この話を?」

「本題だね。現在惑星ハルコタンでは大軍勢の黒の民が白の領域に向けて進行中。救援要請が来てるからマトイを含めた適当なアークスに向かってもらう予定。その先は状況に応じて指示を出すよ」

「スクナヒメ達は無事なの?」

「大丈夫だよ。今は白の領域で防衛に向けて準備中みたい」

「よかった……」

「とりあえずマトイには下に降りて皆んなと合流してもらう」

「うん、分かった」

 

友人の無事が確認できたことで幾分か緊張も解けたところでキャンプシップの流体ゲートへ飛び込む。

視界が真っ白に染まり数瞬、再び目を開ければそこは惑星ハルコタンの地上、花が咲き乱れるここは白の領域だ。

『まずは座標を送るからそこ向かって』

「了解」

 

マップを開けば目的地は白の領域から少し離れた場所。どうやら白の領域と黒の領域の間くらいみたいだ。

それを確認してマトイは歩き始めた。

 

 




双子が居なかったら複製体って存在維持できるの?って言うのと、なら今いるのはなんで?の私なりの考察です。
分かりにくいですけど、双子が作った複製体の複製体だから純粋な双子産の複製体は既に存在していません。



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Looking to tomorrow

ハルコタンがまた舞台になったりしないかなぁ。スクナヒメとも会いたいです。EP4で目覚めてから一度もあってないし……


 

惑星ハルコタンには白の領域と黒の領域をわける大河が存在する。

その川を境にお互いに不可侵とする掟があったがそれも既に過去の話し。黒の民はダーカーと変わらぬ存在となり、玩具系ダーカーと共に攻め込んでくるのが現状だ。

とはいえ襲撃は統率されていない少数での散発的なものが大半であり、そのほとんどは白の民自身で対応する事が出来ていた。

しかし今回の襲撃はあまりに規模が違い過ぎた。川へ川へと続々と集まる黒の民はさながら黒い津波のようであり、一度侵入を許せば白の領域を飲み込み地獄を生み出すのは火を見るよりも明らかであった。

幸運であったのは、いち早く異常を察知したコトシロからの連絡でスクナヒメが、唯一お互いの領域を行き来する方法である“陰陽の繋ぎ橋”と呼ばれる大橋を結界で封鎖できた事だろう。これによって数日の間だが迎撃のための時間が確保された。

 

「コトシロ、状況はどうじゃ?」

「結界が張られた当初は延々と叩くばかりでしたが、破れないと分かったのか今は大人しくなっております。とはいえ数は膨らむ一方、楽観はできません」

「よい、あれはあくまで時間稼ぎじゃ。此度の異常は恥ずかしながら我らだけでは解決は困難。そのためにアークスと合流し準備ができさえすれば良い」

 

陰陽の繋ぎ橋から数キロ離れた所に急ごしらえの陣を構えたスクナヒメ達は、茶を啜りながらマトイ達アークスを待っていた。

 

「スクナヒメ様、どうやら来たようです」

「スクナヒメ!大丈夫?怪我してない?」

「阿呆。妾はハルコタンの神じゃぞ?そうホイホイ怪我なんぞせんわ」

「………【双子】の居る黒の領域に乗り込んだ時」

「カカッ、聞こえんのぉ」

 

慌てるマトイと軽く談笑していれば続々とアークスが到着してくる。その中にはよくハルコタンを訪れるサガとカトリの姿もあった。

 

「珍しいなカトリ。お前が自ら防衛戦などという泥臭いものに参加するとは」

「この美しいハルコタンの危機とあらばこのカトリ全力で手助けするつもりですわ!ところでサガさん、防衛戦ってなんですの?」

 

サガは思わず頭を抱えた。カトリは相変わらずカトリなのだと。同時にほんの僅か雀の涙ほどだが感心した自分を殴りたかった。

しかしサガはただでは転けない。だてにカトリとコンビを組んでいるわけではないのだ。

 

「良かろう。これを機にお前にも防衛戦の心得と言うものを叩き込んでやろう」

「あれ?サガさん目がマジになってません?なんというかこうスイッチが入ったみたいな?」

「防衛戦と言うのはその名の通り大多数の敵から防衛する戦闘だ。有名なのは惑星リリーパにおける採掘場防衛戦だな。あれは雪崩のように押し寄せるダーカーから複数の塔を守るものだ。今回の防衛対象についてはまだ聞いてはいないが恐らくはこれと同様で何かを黒の民から守るものと見ていいだろう」

「あのぉ、サガさん?わたくしの話を」

「案ずるなカトリ。確かにこの防衛戦は必然的にアークスでの連携や協力が不可欠になる。経験不足はまだしも知識不足による足手まといはひいては防衛戦失敗に繋がる。私が責任を持ってお前を防衛戦でも動けるアークスに鍛え上げると約束しよう」

「私はもう少しお茶でも飲みながらゆる〜く出来」

「そうと決まればまずはハルコタンの神との作戦会議に向かうぞ。目標を知らねば向かうことすらままならぬからな」

「私急に帰りたく…あぁ、サガさん!首根っこを、掴まないで、下さいまし!あぁ慈悲を!慈悲を〜!助けて下さいましあなた様〜!!」

 

ズルズルと引きずられるカトリで大笑いしたスクナヒメは咳払いを数回して真面目モードに入る。

 

「さて、では心強いアークスの強者も集まったところでぶりーふぃんぐとやらを始めようかの」

扇子でコトシロの頭をペシペシと叩き何かを促す。こっそり凄い憂鬱そうなため息をつきながらコトシロは大きな大きな地図を壁に張り出した。

 

「これは上空から見た現在のハルコタンじゃ。青く光るところが今いる場所で赤く光るのは結界維持の為の陣が張られている場所、黒くうねうねしているのが黒の民じゃ」

 

地図には戦場になるであろう陰陽の繋ぎ橋とその周辺が描かれており、何の術か現在地と敵の居場所などが表示されていた。

 

「現在はスクナヒメ様の結界により安全が確保されているが、黒の民もどきは今尚増える一方でありいずれ結界に限界がくるのは明白だ。これに対してスクナヒメ様はマガツに施したものを応用した封印陣を用いて黒の民もどきの封印をお決めになられた。今回の作戦目標はスクナヒメ様が封印を完成させるまでの結界維持の陣を防衛する事となる」

「ちょっといいですか?」

 

ここで手を挙げたのはキャストのフーリエだ。コトシロが続きを促す。

 

「まず黒の民の侵攻経路は、この陰陽の繋ぎ橋で間違いないんですか?」

「それに関しては問題ない。行き来の為の橋は他にもあったが、ここ以外は全て落とした。ゆえに敵はここを目指すはずだ」

「はいはいはい!リサからも質問なんですけどぉー川を泳いで渡る事は出来ないんですかぁ?」

「あなた方アークスが知らぬのも無理はないだろうが、ハルコタンを二分する大河の流れはとても強い。とてもじゃないが泳いで渡れないだろう。しかし比較的浅い場所があるのも確かだが、そういうポイントには見張りを置いてある。異常があれば即座に連絡がはいる手筈だ」

「なるほどなるほどー!ありがとございますー!!」

 

そんな風に質疑応答をしている最中カトリはサガにひっそりと質問する。

 

「サガさんサガさん。どうしてこの大きな橋も落としてしまわないんですの?落とせば浸入経路は無くなるのではなくて?」

「カトリにしてはいい着眼点だ。恐らくは浸入経路を一つに絞る事によって敵の誘導が目的だろう」

「敵の誘導?」

「そうだ。仮にこの橋を落とせば浸入経路は無くなり一時的に安全にはなる。しかしそうなると敵はあちこちから浸入しようとし、逆に動きが読めなくなる。それを避けるために、ここへ誘導しているのだろう」

「はぁ〜よく考えますわね〜」

 

とそんなやり取りをしているうちに作戦会議はほぼほぼ終わっていた。

 

「他に質問は無いようなのでブリーフィングは終了する。作戦は明日の明朝開始。それまでに各自準備は万全にしておいてもらいたい」

 

コトシロからブリーフィングの終了が宣言され、アークスは各々準備に入る。武器の点検やトラップの所持数確認、テクニックの調子を確かめる者もいればご飯を食べたり仮眠をとる事で英気を養う者など様々だ。

そんな様子をマトイは少し離れたところから眺めていた。

 

「そんなところで何黄昏とるんじゃ」

「あ、スクナヒメ。2、3人と組んだことはあるんだけど、こんな風に大勢の仲間と一緒に戦うのは初めてだから……上手くみんなを守れるかなって」

「お主……」

無言で扇子を振り上げマトイの頭に振り下ろした。ぺしんっ!といい音が響く。存外痛かったようで叩かれた場所を抑えながら涙目で抗議の目を向ける。

 

「お主は本当に阿保じゃの……」

「え、えぇ…?」

「ここに集まった皆はお主の信じるに値する仲間ではないのか?」

「信じてないわけじゃないよ?でもやっぱり私は他の人と違うから……」

「はぁ……これではあやつも報われんわ…」

 

呆れて空を仰ぎ見てしまうスクナヒメ。ついでに思わずここには居ない誰かに愚痴を言いたくもなってくる。お主共々本当に優しい愚かな阿保よ、と。

とは言えもうすでにあの世に逝ってしまった人に言っても仕方ない。

 

「良いかマトイ。確かにお主は強い。それはもう一騎当千と言っても過言ではなかろう。しかし、“強いだけ”じゃ。本当に皆を守りたいと願うのであれば、皆を信じて共に戦え。それがひいては皆を守る事に繋がるであろう」

「…………」

「1人では守りきれぬこともある、ということ。…まぁ、頭の片隅に置いておくことじゃ」

 

そう言ってスクナヒメは何処かへ転移していった。スクナヒメも明日に向けた準備があるのだ。

1人残されたマトイは、さっきの言葉を何度も噛み締める。

結局その言葉は食事の時も仮眠の時も頭にこびりついて離れなかった。




フーリエ、橋に発破は使うなよ!!

フーリエ「了解!発破ッァ!!!!!」
橋「アァァァァァァ!!!」
黒の民「アァァァァァァ!!!」
リサ「楽しいですねぇ楽しいですねぇ!!」

陰陽の繋ぎ橋と言うのはオリジナル設定です。そもそも橋があるかすら怪しいですが昔は交流もあったみたいだし、あってもいいでしょうよ。


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白の領域防衛戦 wave上

「どうもどうも皆さんおはようございますリサですよぉー!」

「あはは、リサさんは朝から元気ですね…」

「??そうですかぁ?リサはいつでもこんなリサですよ?」

 

翌朝、作戦開始を目前にしたアークスは陰陽の繋ぎ橋への転送装置で待機していた。

 

『こちら、ブリギッダ。今回の防衛戦のオペレートを担当します。よろしくお願いします』

『白の民との連携などの細かい部分を担当します、サブオペレーターのコフィーです』

「おはよう、ございます…ですわ」

『カトリさんが何故か少しやつれてますが…大丈夫でしょうか?』

「問題ない。少し遅くまで防衛戦の予習をしていただけだ。進めてほしい」

『あ、はい……それでは作戦の再確認をします。まず作戦目標ですがスクナヒメが封印陣を完成させるまでの結界維持が目的。作戦開始と共に黒の領域側の結界が解除され侵入可能状態になりますので順次対処してください』

『封印陣の進捗状況等は私の方から連絡します。』

『あーあー聞こえるかの?妾はこれより封印陣に全力を尽くす。その間は結界の維持は白の民に任せるが妾と比べるとどうしようもなく脆い。どうか守ってやってくれ』

「わかってるよ、スクナヒメ。みんなで守るから!」

『カカッ、なんとも心強い。では任せたぞ』

 

スクナヒメからの通信が切れると同時に転送装置が起動し、戦場へと送り出される。

眩い光で視界が数秒塞がれるが、目を開けばそこは大きな橋、それもだいたい中心付近だ。

 

『作戦開始です。皆さん、お気をつけて』

 

その言葉に背を押されるように各自が迅速に行動を開始する。

リサやフーリエといった後衛組を守るようにオーザ、カトリ達が前衛に立つ。

マトイはその強さから遊撃を任されているので、臨機応変に対応しなければならない。支援に向かう場所を間違えれば戦線が崩れる大事な役割だ。

 

「まずは足の速いのがくるはずだから……足止めしてから素早く仕留める…!」

「来るぞ!」

 

結界が解除された事でなだれ込むように押し寄せるが、橋は非常に長い。 マトイ達が待ち構える中心に辿り着くまでに種族による時間差が出来る。

真っ先に現れたのは輪入道のようなエネミーアンジャドゥリリが5体。

車輪は硬くその形状から射撃にのる攻撃も当てにくい、所謂“戦いにくい相手”だ。だがここにいるのはその程度で気後れするようなアークスではない。

 

その姿を確認するや、リサとフーリエ、アフィンのレンジャーは進行ルート上にアッパートラップを仕掛ける。

 

「わりぃ!トラップが足りないから二体はそっちで処理頼む!」

「一体は私が引き受けるよ」

「こっちはハンターの俺に任せろ!マトイ様に負けられないぞ!」

「……フォースの私も居るから大丈夫」

 

そんな少しのやり取りをしている間にアンジャドゥリリは目前に迫り

 

《汝に救いあr…んんっ!?》

 

トラップに引っかかり仰向けに転倒する。この瞬間厄介な車輪から本体は投げ出され完全に無力化された。即座にフーリエがウィークバレットを三体の胴体に発射。特殊弾により脆弱化した胴体に向けアフィンとリサがあらかじめ構えていたサテライトカノンを叩き込む。更にワンテンポ遅れてリサがもう一体にも撃ち込んだ。眩い光の柱を撃ち込まれたアンジャドゥリリは辞世の句を読む事すら許されずに一瞬でフォトンへ還る。

 

「ジワジワ痛めつけるのもいいですけどぉ、こうやって圧倒的な力でねじ伏せるのも悪くないですねぇ!」

「発破にも負けないくらいのインパクトですねーサテライトカノンって。でもやっぱり私は発破の方がいいかなぁ」

「ブレねぇな、この人達……っと、あっちは大丈夫かな?」

 

そう言って近接組を見てみると、そこにはシフタ、デバンド、ザンバースやら完璧に近いサポートを受けた近接組がアンジャドゥリリを蹂躙し終わったところであった。

マトイの方もイルグランツによって手足を撃ち抜かれて怯んだところをラグランツで胴体を貫かれていた。相性を物ともしない力技だ。

 

「うわぁ…ボロ雑巾みたいになってる…」

『アフィンさんぼーっとしてる暇はありませんよ。次が来ます!』

「おっと!そうだった!」

 

まだ遠くに、だが確実に見える黒の民の軍勢を見据えつつアフィンはグリップを握りなおした。

防衛戦はまだ始まったばかりだ。

 




ちょいちょいと手直しつつ投稿。フーリエさんもメイン武器がランチャーでもサブ武器としてライフル持ってると信じたい


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白の領域防衛戦 wave下

絶え間ない黒の津波。一つ一つは脆く容易い相手だが、それも群れになれば話が変わる。1+1も延々と繰り返し続ければ百にも万にも届き得る。

 

そんな一瞬でも気を抜けば飲み込まれる荒波の中、アークス達は巧みに舵を取り戦闘を続けていた。

 

「オーザ、アドオガルとアヌシザグリの集団が行ったよ!」

「この程度!!」

 

飲み込もうと迫る集団にパルチザンを横に一閃。スライドエンドにより敵が消え去るが、倒しきれなかった敵がパルチザンを振り切ったオーザに迫る。

 

「しまっ…」

「大雑把。だからハンターは駄目」

 

背後から飛んで来た多数のフォイエが次々と叩き落としていく。マールだ。

 

「やっぱり私が居ないと駄目ね」

「ぐっ…頼りするぞ」

「任せて。その代わりしっかり守って」

「おう、任された!」

 

軍勢をオーザが注意を引きつけつつ削り、後ろのマールがテクニックで的確に撃破して数を減らす。言葉にすれば単純だが2人はこれを高いレベルで成し遂げていた。でなければ、アンジャドゥリリ後すぐに飲み込まれていただろう。

と、マトイは他人事のように思う。いや実際他人事であった。

クラリッサから放たれるイル・グランツは相性など御構い無しに敵を食い破り、ラ・グランツに至っては白い絵の具をぶち撒けたかのように敵を白く塗り潰す。敵が多い所へ行き、ただテクニックを繰り返すだけの作業。誰の助けも協力も必要ない、むしろ足手まといになりねない。それほどまでにマトイという“兵器”は完成されていた。

 

「こっちは殲滅完了。次はイオちゃん達のところかな」

『こちらブリギッダ。ダーカーの反応を確認しました。十分に注意してください』

『コフィーです。スクナヒメの封印陣はもうすぐ折り返しと行った所です。結界の方はまだ余裕があります。この調子でお願いします』

「ダーカー…」

 

ちらりとイオとアザナミコンビの方を見る。敵の数は多いが、防衛戦不慣れなイオをアザナミの適確なフォローしていることもあって安定しているとマトイは判断し、先行してダーカーを減らすことを決める。

 

「私が先行してダーカーを減らすよ」

「此方はカトリを背負ってでも、なんとかしよう」

「わ、わたくしを舐めないで下さいっ!このくらいー!」

 

デュアルブレードをブンブン振り回しフォトンブレードを飛ばし続けるカトリ。そんな未熟ながらも精一杯を尽くすカトリに満足しながら、撃ち漏らした敵を蹴り殺して行くサガにクスリと笑いつつマトイは、クラリッサを伴い大きく跳躍。ダーカーの群れの真上を取る。

 

「ダーカーを倒すのが私の役目…この力はその為の…!」

先ほどまでの惰性のような振り方ではなく、強くフォトンを込めてクラリッサを一振り。

クラリッサから光の雨のようにイル・グランツが降り注ぎ、ピッタ・ワッダ、パラタ・ピコーダ、ボンタ・バクタのような小型ダーカーを片っ端から浄化していく。辛うじてボンタ・ベアッダやマーダ・トカッタと言った中型ダーカーはなんとか体を維持はしていたが、それらも既に死にかけ。わざわざテクニックを使わずともクラリッサの殴打で倒せるレベルだ。

無論、一体一体殴り倒して行くような手間がかかるようなことはしない。もう一度イル・グランツを放てばそれでおしまいだ。身の内には溢れんばかりのフォトンがあるのだから出し惜しみする意味はない。

 

「大きなダーカーの群れは殲滅したよ。でも左右で抜けられちゃったから注意するように連絡お願い」

『了解しました。それにしても流石ですね……イオさんとアザナミさんが大型のダーカーに手こずって居るようです。そちらの援護をお願いします』

「任せて」

 

その量ゆえに浄化が間に合わずあちこちで黒いフォトンを吐き出すダーカーの死骸をその場に残し、再び跳躍。

同時に上空から戦況を見る。

 

大部分のダーカーはマトイが殲滅したが、流石に戦闘エリア全域を殲滅することは出来ず戦場はダーカーの黒の民が入り混じり苛烈さを増していた。加えて開戦からほとんど休息無しという過酷な条件も加わりアークス側は少し押され気味のようだった。

「封印陣の進行状況は?」

『九割といったところのようです。あともう少し頑張って下さい』

 

移動中もイル・グランツを放ち続けて片っ端から倒しているが、減った側同胞の死骸を押し退けて現れる後続に補完され、減っている気がしない。

それでもマトイは弱音を吐かない、吐いてられない。全部守ると決めているから。

 

「イオちゃん!アザナミさん!」

 

おもちゃ箱を積んで人形にしたような中型ダーカー、コドッタ・イーデッタ相手にイオ達は苦戦を強いられているようだった。

 

「マトイさん!こいつら倒そうとしたらちっこいのが邪魔してきて……あぁ、もう邪魔!!」

「塵も積もれば山となる、って言うけど…流石に積もり過ぎかなーとお姉さんうんざりしちゃう」

 

 

イオの矢に四肢を破壊され一時的に無防備なコアを晒したコドッタ・イーデッタを守るように大量の小型ダーカーが壁のように2人に押し寄せる。アザナミがカタナの刃を閃かせ瞬く間に大半のダーカーを切り捨て、イオの放つ無数の矢が射抜くがその奥のコドッタ・イーデッタには届かない。文字通り矢が通る隙間すら無かった。

 

「私に任せて」

 

イオの隣に降り立ったマトイは2人にレスタを掛けつつ、フォトンを込めたクラリッサをダーカーに向ける。

 

「光よ」

 

短い言葉と共にクラリッサから放たれた眩いラ・グランツはダーカーの壁を貫き、その奥で復帰を果たそうとしていたコドッタ・イーデッタのコアを跡形も無く消しとばす。しかしマトイはクラリッサへ更にフォトンを込め、ラ・グランツを維持したまま光の剣のように辺りを薙ぎ払い周辺のダーカーも纏めて消し炭にする。

 

「ふぅ…」

「さ、流石マトイさん……助かったよ」

「ううん。気にしないで!私、これくらいしか出来ることないから」

 

あはは、と照れたように笑いつつ進行状況を確認する。もうあと少しで封印陣が完成するようだ。

 

「あと少しだし、大変だろうけど頑張ろうね」

「マトイさんも気をつけて」

「うん、ありがとね」

 

再びイル・グランツをばら撒きながら跳躍。行き先はオーザー達やカトリ達、前衛組が戦っている最前線だ。

 

『こちらコフィー。まもなく封印陣が完成します。カタパルトを転送しますので帰還の準備を』

 

「了解。私は帰還の援護に回るね」

 

帰還用のカタパルトが転送され、リサ、アフィン達後衛から順に本陣へと帰還していくのをマトイは1人で援護する。と言ってもやる事は今までと変わらない。テクニックを放ち敵を倒すだけだ。

そうして前衛組が帰還するのを見届けてようやくマトイ自身もカタパルトで本陣へ帰還しようとして、ふと周りを見回す。

辺りはダーカーや黒の民モドキの死骸で溢れかえり、浄化が間に合わずにあちこちから黒煙のような黒いフォトンが立ち上っている。それはさながら怨嗟の声のようであり、見方によっては地獄のようだった。

 

「…それでも私にはこれしかないから」

 

誰かに言い聞かせるでもない言葉を吐き捨て、マトイも本陣へと帰還した。

 

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

 

『皆の者、よくぞ耐えてくれた。なればこれに応えずして何がハルコタンの神か!見事果たしてみせようぞ!悪鬼を退ける封印陣……しかと刮目せよ!』

 

本陣に帰還したマトイ達がモニターで見たのは、黒の領域から大橋をも丸ごと囲む大結界だ。

 

『既に悪鬼どもは大結界にて捕まえた。後はこのまま封じるだけよ。此度の争乱はこれにて終い、とな』

 

スクナヒメが扇子をパタリと閉じる。瞬間、結界を叩く黒の民が、地を這うダーカーが、ことごとくが光に還り地に吸い込まれていく。

小型も中型も関係ない。そこにある邪悪なものを全て浄化していくスクナヒメの祝福だ。

 

惑星の外からハルコタンを見ているのなら、黒の領域全域が光輝いているのが観測できるだろう。

 

目も眩むほどの光も徐々に光量を下げて行き、遂に収まった時には全てのエネミーが消えていた。

シンと静まる本陣。

 

「終わった…んだよな?」

 

ポツリとアフィンが呟く。

まだ終わったという実感が無い者たちに対してスクナヒメが宣言する。

 

『此度の戦、我らの勝利じゃ!!』

 

勝鬨の声が上がる。

ホッとしたように座り込む者、感極まったのか踊り出す者、撃ち足りないと銃を撫でる者など様々だがその顔は笑顔が浮かべられていた。

 

 

こうして、これまでにも例を見ない程の大規模防衛戦はアークス・白の民の勝利に終わったのである。

 

 



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白の領域防衛戦 wave終

今回は幕間みたいなものです。


 

ダーカーに知性はあるのだろうか?

 

上位存在のダークファルスには明確な知性があり、理解し合えるかを別とすれば話し合いも成立する。個体によって性格も違うし、快楽や闘争といった各々望みを持って行動する姿はもはや人間に近しいとも言えるかもしれない。

 

だがそれらの眷属達は?

 

侵し食らうと言った目的はあるだろう。自分にダメージを与えてくる存在を危険視し真っ先に狙う判断能力もある。種類によっては複数で連携することもある。

さて、ここに意思や知性は……自我は存在するのだろうか?

もしかしたら、どれもインプットされた動きなだけで全く無いのかもしれないし、程度はあれど動物のような知性を持ってるのかもしれない。

私たちは生態こそ知れど、その中身までは知り得ない。ダーカーと言う敵のことは知っていても、ダーカーという存在に付いては意外と知らない事が多いのかもしれない。

 

 

 

とある学者の論文より

 

 

ーーーーーーーーーーーー

 

 

 

解けていく身体。辺りには自分と同様に身体を崩し解けて黒煙を上げる同胞の死骸がある。

そう、“自分も同胞も皆死骸”なのだ。

なんて事はない、いつものようにアークスと戦い敗れただけだ。

もうしばらくすれば思考すら維持出来なくなるだろう。

 

“いやだなぁ…”

 

だれかが、こぼす。

 

”きえたくない…”

 

だれかが、なげく

 

“いやだいやだいやだいやだ”

 

だれかが、だだをこねる

 

“だぶるさまがいれば”

 

だれかが、くやむ

 

“このままじゃずっとおなじ”

 

だれかが、きづく

 

”つよくならないと”

“でもどうやって”

“ほうほう、わからない”

“いんしもっとあつめる”

“だぶるさま、いんしたくさん”

“みんなのあつめる”

“それがいい”

“それがいい”

“それがいい”

“それがいい”

“それがいい”

“それがいい”

“それがいい”

“それがいい”

“それがいい”

“それがいい”

 

みんなが、どういする

 

 

黒煙がうねり一箇所へ集まりだす。

吹けば飛ぶような薄いそれは戦場となった大橋全域から集まり、徐々に量を密度を増やし続ける。遂には黒い泥のようなものへと変化していった。

もはや消えかけの存在はどこにも無い。ただただ深く濃密な存在感を放つ、光をも吸い込む漆黒の泥沼がそこにはあった。

 

瞬間、ズルリと沼から伸びる人の手。

 

白く細い手は震えながらも淵を掴み、全身を引き上げようと力む。

長い時間をかけて先ずは肩まで、続いて頭、腰、脚と順に這い出す。

 

「ーーーーahーー」

 

母から生まれた赤子が産声を上げるように、未形成な喉を震わせ唸りを上げる。

 

「ahーァーーー」

 

それはこの世に自分が居るぞと刻むためであり

 

「ーァーーアーーあーーー!!!」

 

それ以上に自分で自分を認識するために必要不可欠なことだった。

 

「アハ……あははは」

 

沼から這い出たソレは膝立ちのまま辺りに自分以外何も存在していない事を確認。そして何より空腹を確認した。

 

あぁ、腹が空いた。

 

ぺろりと舌舐めずりを1つ。自分生み出した事で体積を大きく減らした沼を見下ろし顔を近づける。スンスンと何度か匂いを嗅ぎニンマリと笑みを浮かべ一言こぼす。

 

「イタダキマス」

 

ジュルジュルと、スープを啜るように沼を飲み下していく。小さくなったとは言え、小さな池くらいはあった沼がみるみるうちに減って行き、遂には一滴も残さず無くなった。

満腹には程遠いが小腹程度は満たされたようだった。

だがしかし全然物足りない。全てを無くし空になった自分は飢えに飢えている。もっともっともっと食いたい。

 

その目は白の領域の方へと向けられていた。

 

でも、今はダメ。今の自分じゃ殺せない相手が居る。だからまずは力を取り戻す。それからだ。

 

「ウフフ、あははは……アハハハ」

 

そう言って、それは転移して立ち去った。

 

かくして、人知れず望まれぬ悪は望まれて生まれ帰ってきた。

 




今回で1つの区切りです。小説を書くのは難しいです。
いきなり大規模戦闘なんて書くんじゃなかったと後悔してます_:(´ཀ`」 ∠):

この後もお話しは続いていきます。面白くて魅力的な話しをかけるように頑張ります。、


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2章【The girl starts beginning here】
穏やかな日常


新章開幕……というほど派手なものではないですけども、ここからまた始まりを始めます。


「はぅ……」

 

少し熱めのお湯に肩まで浸かり、四肢を伸ばす。全身の疲れがお湯に溶けていくみたいだと思いつつ、マトイはガスを抜くように一息ついていた。

 

「あの人に拾われた当初はこんなに立派なお風呂なんていらないって思ってたけど………これは必要だよ……うん」

 

全身が脱力して疲れどころか身体そのものが溶けていきそうな快楽。そうでもなくても現在進行系でマトイはやや長めのバスタイムでふにゃふにゃにふやけていた。その脱力具合と言えば普段の12割増しと言えばわかるだろうか。盛り過ぎ?だが現実だ。

 

元の部屋主の趣味で設置された露天風呂はかなり広く、4人程度なら十二分に余裕を持って入れるほどだ。

まだ記憶を失ったばかりのマトイにはスペースを取るばかりの超絶無駄遣いと思われていたが、マトイを露天風呂に沈めること数度、ようやく露天風呂の素晴らしさを伝える事が出来たというのは余談である。

 

「広くて快適だけど、1人で入るにはちょっと広過ぎるよね…」

 

脚を伸ばしても反対側に届かないどころか、寝そべっても余裕がある。

元々は2人以上で入るものとして設置されているのだ、持て余すのは当たり前である。

 

「あ、そうだ!今度、サラとかクラリスクレイスちゃん誘ってみようっと!」

 

お風呂の中でポンと手を打つマトイ。我ながら最高のアイデアだと自画自賛したかった。

 

「あー、手がしわしわ…長風呂しちゃった……」

 

名残惜しくもお風呂から上がる事にする。3人で入るお風呂を想像してにこやかになるのだった。

 

 

 

ーーーーーーーー

 

 

 

さて、日付変わって次の日。防衛戦で多少疲れたのもあってか、いつもより少しだけ遅い時間に目を覚ましたマトイ。

 

「ふわぁ……あれ?メールが届いてる……誰からだろ?」

 

寝転がったままサイドテーブルの端末に手を伸ばす。

 

「これはクーナちゃんから?なになに…」

 

ベットでごろんごろんしながら、内容に目を通す。真っ白な髪が乱れ、シャツがひらりひらりとするせいで、シミひとつない白く透明感のある太ももがチラチラと見えるが今は誰の目も無いので気に留めない。

 

「今日の夕方、大きなライブイベントやるから仲の良い人と一緒に来てね、かぁ」

 

なんとも急な話であるが、いつもの事である。クーナはアイドルとして活動する裏で、六芒の1人としての仕事もしている。その都合、ライブはいつも急なもので大体1時間前に告知されるのだ。それでも毎回たくさんの人が集まる事からその人気ぶりが伺える。

実際マトイも観に行った時は熱気に驚いたものだ。

ともかく、そんな事情からライブは単独で観に行く事がほとんで、誰かと行くとなるとアークスは皆それぞれ任務があり急なライブとなると中々予定が合わないのだ。

「夕方…….私は暇だけど、サラとクラリスクレイスちゃんはどうだろう…2人ともお仕事忙しそうだけど」

ごろんごろんしながら思案する。が、結局マトイは彼女達の予定等知り得ない訳で、さっさと聞いた方がいいと気付く

 

「とりあえず……一緒にクーナちゃんのライブに行かない、っと」

 

それぞれにメールを送信して返事を待つ間に身支度を整えようと覚悟を決めてベッドから抜け出す。

 

顔を洗い、軽めの化粧、髪を梳いていつもの髪型になるように結う。あとはシャツを脱ぎ捨てて私服に着替える。

拾われた時なんかは、この身支度も慣れなくてドッタンバッタン大騒ぎして結局同居人やフィリアに整えてもらうみたいな事もあったが今では手慣れたものだ。

 

「今日はメディカルチェックに行かなきゃ……シャオ君もフィリアさんも心配症なんだから」

 

ダーカー退治に飛び回りたいのが本心だけども、マトイの事を心配している2人の気持ちを無下にすることは出来ない。無視したり忘れたりすると鬼の形相のフィリアがやってくるのをマトイは知っていた。

それにマトイは前科持ちなのだ。仕方ない。

 

「防衛戦でダーカーたくさん殺したし仕方ないよね」

 

ため息を吐き、メディカルルームへと向かうのであった。

 

 

 

 

 




具体的にマトイってどれくらい強いの?って感じなんですが、ウチのマトイはラ・グランツでカンスト出るくらいです。イル・グランツは1発あたり30万くらい?デタラメですね。どれくらい法撃盛ればそれくらいでるんでしょう。


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