カゲミ・ミツツキの島巡り冒険記 (ルヴァンシュ)
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冒険のプロローグ

 ふわっと、ゆるりと、息抜きを兼ねてやっていきます。よろしくお願いします。

○注意事項○
 ○何か (改訂等) あればここに書きます。


…………

…………

 

……ピロン! ピロン! ピロン!

 

「んっ」

 

 机の上に置かれている小型モニターから音が鳴った。のそのそと、部屋に散らばる小物を玩んでいた少女は手を止め、モニターをちらっと見た。

 

 =アローラ地方のククイ博士から連絡です=

 

「!」

 

 少女はがばりと立ち上がると、椅子に座った。応対ボタンを慌ててタッチする。

 

 そして映し出されたのは、白い帽子を被った男の顔だった。向こうの画面が傾き気味なのか、少々斜めに映っている。

 

「ちょっと待って……」

 

 そう言いながら、ククイ博士は画面を安定させた。

 わくわくを隠し切れずうずうずする少女は、安定するや否やすぐに、

 

「こ、こんにちは! ククイ博士!」

 

 と、手を振った。それに応え、ククイも手を振った。

 

「やあ、こんにちは! カゲミ、元気良いねえ!」

 

「はい! 元気です! 元気出ました!」

 

「ハハハ! その上擦りようから察するに、さっきまで、ちょこっとメンドーなことをしてたのかな?」

 

「あー、分かっちゃいましたか? えへへ……」

 

 カゲミはさっきから私物の整理をしていた。引っ越し用の段ボールに詰め込む作業――まだ11歳の少女であり、さほど多くの物を持っていないと言えども、辟易とする作業であった。

 

「分かるよその気持ち! 僕もそっち(カントー)に引っ越したことがあるけどさ、どれから手を付けていいのか迷うし、すぐ目移りしちゃうしで、全然進まないもんだよね」

 

「折角すぐそこに楽しいことがあるのに……お邪魔ったらないです」

 

「そういうものだよ! 楽しいことがあれば、同様に、面倒っちいことだってあったりするもんなのさ――けどその分、それから解放されるだけあって、楽しいことはより一層楽しくなるだろう?」

 

「ああ! なるほどですね! それもそうです」

 

「プラスに考えようぜ、カゲミ! そうすりゃ、人生楽しめる!」

 

「はい!」

 

 ここで、ククイは一度咳払いした。

 

 それはさておき。

 

「カゲミ!アローラに引越しする日がいよいよ近付いてきたね!」

 

「はい! もうすぐですっ!」

 

「良い声だねえ、こっちまで楽しくなってくるぜ――実際のところ、実際に体験した方がよっぽど良いけれど、その前に、アローラのことをちょこっとだけ紹介しようと思ってね。連絡した次第だよ」

 

 モニターに、別ウィンドウで地図が映し出された。四つの島と一つの人工島で構成された地方――アローラ地方だ。

 

「アローラは幾つかの島が集まってできている地方。それが理由なのか、珍しいポケモンばかりだぜ!」

 

「珍しいポケモン! えっと、カントーにはいないポケモンも、沢山居るって聞きました!」

 

「勿論さ! 例えばそうだね……この子とか!」

 

 そう言うとククイは、手の中の丸いボールを上に向かって投げた――モンスターボール。ポケットモンスター、縮めてポケモンを捕まえておくための道具である。

 ボールが開くと、中から光と共に、犬のような姿をしたポケモンが飛び出した。クリーム色の毛並みで、首元の毛には小さな岩が幾つも付いている。

 

「わあ!?」

 

 カゲミは目を輝かせた。

 

「可愛いポケモン!」

 

「イワンコだ。こいぬポケモンのイワンコ。可愛い見た目だけれど、ガッツあるヤツなんだぜ! 隙あらば……あいてっ!!」

 

「きゃうんっ!」

 

 尻尾を激しく振りながら、イワンコがククイの手に噛み付いた。けれどククイは満足げな顔。

 

「痛いなあ――でも、どうした、前より威力が上がっている! 良いじゃないか、ナイスな『かみつく』だぜ、イワンコ!」

 

「きゃうんっ!」

 

「え、えっと!? 博士、大丈夫ですか!?」

 

「おおっと! 要らない心配、掛けさせちゃった? 僕は平気、ほら、ピンピンしてる」

 

「いや、血出てますよ」

 

「いつもの事さ。何の問題もないぜ!」

 

「問題あると思いますが!?」

 

「カゲミには、言ってなかったかな? 僕はポケモンの技を研究しているんだぜ――技ってのは、観察も大事だけれど、それと同じく実際に体験して見るのも重要なのさ!」

 

「は、はあ……! なるほど!?」

 

 受け入れ難いが理解したカゲミ。少なくとも自分は技を受けたくないなあ、と思った。

 

 イワンコはぴょん、と、ククイの肩に乗っかった。

 

「と、このように、ここでしか見られないポケモンは沢山居るぜ! 楽しみにしててくれよな!」

 

「はい! 私、早く直に会いたいです、イワンコに! ……噛まれるのは、ちょこっと遠慮しますけれども」

 

「ハハハ! 僕たちみんな、君の到着を楽しみに待ってるぜ! 勿論、島のポケモンたちもね!」

 

「きゃん! きゃん!」

 

「はいっ!」

 

 ククイは頷き、ちょっと腕時計を見た。にやりと、悪戯っぽく笑う。

 

「あんまり話していると、より時間が掛かっちゃうね――カゲミ! 楽しみ、募らせておいてくれよな! それじゃあ、切るぜ」

 

「あっはい! さよなら!」

 

 ククイは手を振ってから、通信を切った。モニターのデスクトップには、南国的な画像が映し出されている。

 

「は〜〜〜〜」

 

 カゲミは、モニターの横にあるガイドブックに手を伸ばした。何となしに開いたページには、アローラ地方の写真と、ポケモン保護団体《エーテル財団》を特集した記事が……。

 アローラ地方……いったいどんなところなのだろう。カントーとは全然違う島国――豊かな自然に囲まれた南国――愉快適悦パラダイス! カゲミは遠い地に想いを馳せるのであった。

 

 ……しかしながら。

 

「カゲミ、そろそろ引越しの準備始めましょー!」

 

「…………あ」

 

 そのような余韻に浸る暇はあんまりなく――今は、楽しむための下準備に勤しむべきときである。カゲミはさっきとは裏腹に、より一層重い気分で、ごちゃついた床を見るのであった。




 ????????? ▼

 ――純白の壁に囲われた、とある研究所内。

 近未来的な雰囲気の充満する白い世界を駆ける一人の少女がいた。美しい金色の髪を持ち、白いワンピース、白い帽子をかぶっている。灰色のショルダーバッグは大きく膨らんでおり、その中で何かが胎動しているようにも見えなくもない……。
 汗をかき、駆ける少女。その様子は尋常ではなくただ事ではない。実際、彼女の背後からは――。

「待てーっ!!」

 白い服を着た男たちが、迫ってくる。

 少女は必死にリフトへ駆け込み、上昇した。その先は屋外であり、人工的な白とは対極の、しかしこれもやはり人工的な――作られた自然に囲まれたエリア。アローラ特有の月光が降り注ぐ空も、透明なドームで覆われている。

「はぁ――はぁ――――っ」

 少女はバッグの中を見た。中に居る何者かは、不安げな表情を覗かせた。
 追っ手は居ない。逃げるなら急いだ方がいいけれど、かと言って全速力で走っても、今の疲労では追いつかれる……少女は歩き出した。ゆっくりと……見つからないように……。
 しかし、見つからない訳はないのだ――暫く歩いたところで、後ろから。

「居たぞ! 盗っ人だ!」

「っ!!」

 背後から追ってくる二人の男たち。少女はまた走り出した。疲労は、ちょっとマシになった。出口まで走り切れば――!

「そこまでだぞ!」

 だが、そうは問屋が卸さぬようで、曲がり角を曲がった先に、白服の男が手を広げて立ちふさがる。

「ああっ……!」

 少女は振り返ったが――そちらにも、追っ手は居る。

「そんな……!」

 挟み撃ちにされてしまった……!

 ゆっくりと近付いてくる三人の男たち。けれど少女に打つ手はない。

「さあ……そいつを返せ」

「そいつは我々の保護下にある、大切なポケモンだ」

「っ……い、いや……」

 手すりに後退りする。最早逃げ場はない。

「だ、だめ……です……っ!」

 ああ、どうすれば。
 どうすれば逃げられるの。どうすれば、この子を逃すことができるの――!
 少女の、そんな思いに呼応したのか――或いは、純粋にバッグの中の何かが危機を察知したからなのか――突如、バッグから虹色の光が吹き出した。

「なんだ!?」

 光はどんどん大きくなり、眩いほどに明るさは増してゆく――男たちは目を伏せた。そして、光は少女を包み込むと――ほんの一瞬にして、その姿を消した。

「え!?」

「に、逃げられた!?」

 男たちは辺りを見回すが、どこにも居ない。逃げ場はなかった筈なのに?
 唖然として、男たちは空を見上げた。そこにあるのは人工的なガラスのドームと、それを物ともせず光を送る、まん丸い月だけであった。
 


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ウェルカム・トゥ・アローラ!

 それでは、ふわっと更新しますー。

○告知事項○
 何かあれば書きます ▼


【第1話】

 

 

3ヶ月後…… ▼

 

 

 煌々と輝く星々。豊かな海と自然に囲まれた南国パラダイス。そんなアローラ地方の南西部にあるこの島の名は《メレメレ島》。

 そのメレメレ島の北部に、まるで白いコテージのようで、そこそこ大きな家がある。最近建ったそこに、カゲミたちは引っ越して来たのである。

 太陽の隠れる夜であれども、南国的な雰囲気に一切の翳りはない。静かに光り、癒してくれる月は、新月ゆえに出ていないけれども、それはそれで違った趣があった。

 

 テラスに女性が出て来た。カゲミのママである。その後ろからは、ばけねこポケモンのニャースが付いて来る。額の小判が特徴的だ。

 

「ん〜! よく寝たわ!」

 

 両手を広げ、大きく伸びをする。

 

「よーし……っ! ママ、片付けるわよ〜!」

 

 テラスの傍に積まれた幾つかのダンボールを見て、気合いを入れ直したようだ。家具は配置済みであったけれども、まだ小物類などはダンボールの中にある。

 

「ニャース、カゲミ呼んできて!」

 

「ぬにゃあ!」

 

 

???????? ▼

 

 

 ――ここは、どこだろう?

 

 私は首を傾げた。ついさっきまで、私は部屋にいたはずなのに。周りを見回したところ、どうやら全然違うところに居るみたい。

 

「……あ、そうだ。私、寝ちゃったんだ」

 

 そうそう思い出した――アローラに着いてから、部屋にダンボールを運んで、それからどっと疲れに襲われちゃったから、一休みしようと眠っちゃったんだ……。

 ということは、これは、夢か。

 アローラに来て初めての夢! わあ!

 ……と、興奮したいところなんだけども。

 

「なにここ……気持ち悪い」

 

 変な……洞窟? みたいなところに私は居た。得体の知れない鉱石が壁に埋まっていて、綺麗に光っている。けれども、どことなく、空気がどんよりとしていて……重苦しい。

 

「…………」

 

 取り敢えず、進んでみることにした。どうせ夢だと分かっちゃったのだから、まあ、危険は無いよね。

 そこかしこに、捻じ曲がったような、奇怪な岩が……いや、植、物……? かな? 分かんないよ……ともかく、奇妙な物体が生えて、或いは突き出していた。不気味すぎる雰囲気。

 道幅は狭くないけれど、妙な圧迫感があった……いわゆるプレッシャーというやつ? こういう感覚のことを言うんだろうなと思った。

 暫く歩くと、上の方から光が射している場所に来た。行き止まり。

 

「あれ〜……?」

 

 変な場所。出口はどこなのだろう?

 もしかして、天井の穴が出口とか……ポケモンも居ないのに、どうやって出ろと。無理です。

 うーむ、とんでもない夢だ。目覚めを待つしかないだなんて。誰か早く起こしてくれないかな〜。

 

 座るのに適した石があったので、取り敢えず座ってみた。ずっと立っていても疲れるから。

 すると。

 なんと。

 

「っ!?」

 

 石がずぶりと沈んでしまったではないか――いや、石だけじゃあない、周りの景色が、光が、全て沈んでゆく。

 

「なにこれなにこれ……!?」

 

 重苦しくも綺麗だった世界は、ドロドロに混じり合い、ドス黒い泥のようになって、私を呑み込んでゆく。覆いかぶさってくる得体の知れない感覚が、ただただ不快だった。

 

「じぇるるっぷ「じぇるっ「じぇるるっぷ「じぇるっぷ「じぇ「じぇるるっぷ「じぇる――」

 何かが蠢くような音が聞こえた。ドス黒くなった世界はだんだんと暗闇に包まれてゆく。その中で、じゅるじゅるとでも言うような音ともに、私は真っ白い、不定形の影を見た。それは闇が深くなるとともに形を変え、真っ黒い、人型になっていった。

 

「じぇるる「…………「じぇるっぷ「…………「じぇるるっぷ「…………「………………

 落ちてゆく。黒い人型の影が暗闇に呑まれてゆく。

 怖い――いったいどこまで落ちてゆくのだろう? 落下する感覚だけがひたすらに続いているのだ。怖い。どうしてまだ目が覚めないの?

 

 早く起きて。

 早く起きたい!

 

「ぬにゃ!」

 

「ん!?」

 

 と、その時、思いが通じたのか、聞き覚えのある声がぼんやりと聞こえた。

 

「ぬにゃあ!」

 

 間違いない、うちのニャースだ!

 と思った瞬間、落下する感覚が一瞬にして消えた。その代わり、現実的な痛みが襲ってきた。

 

「たにゃあ!!」

 

 

カゲミの部屋 ▼

 

 

「あ痛っ!?」

 

 思わずがばりと起きた。慌てて周りを見たが、うん、見馴れた物ばかりだ――レイアウトはちょっと見馴れないにせよ。来たばかりだから。

 

「もー、ニャース……ひっかかないで〜」

 

「ぬにゃ」

 

 別に血は出ていないものの、ちろっと痛む腕をさすりながら、ニャースに注意した。

 じとっ、と私を見るニャース――あら、この様子だと、結構起こそうと奮闘してくれたみたい? なんてこと、さっと起きなかった私が悪いのでは。

 

「あー、ごめんね。ありがとう、ニャース……おはよう」

 

「ぬにゃ〜!」

 

 私は頭を掻きながらベッドから降りた。と、動いてみると何だか服がべたべたする。脱いでみると、汗でびっしょりになっている。うわあ……。

 

「お着替えしないと……」

 

 クローゼットから替えの服を取り出した。アローラに来たら着るつもりで買った新しい服だけれど、まさかこんな形で着ることになろうとは。

 ベージュ色で、花柄のカットソー。緑色のカジュアルなホットパンツ。ああ、アローラに来たんだ! って、感じがする!

 

「ねーねーニャース、似合ってる? 似合ってる〜?」

 

「ぬにゃあ!」

 

 表情から察するに、きっと似合ってるって言ってくれてるんだと思う。うん。そうだろう。

 

「あーっと……あ、もしかして、ママ呼んでるの?」

 

「ぬにゃ!」

 

「あー、きっと手伝いだぁ〜。服の洗濯は後回しかな」

 

 はぁ……初っ端からあんな怖い夢を見るだなんて、私ってばツイてない――なんて、もう殆ど内容覚えてないんだけどね。

 

 

一階・リビング ▼

 

 

「おはよう、ママ〜」

 

「ぐっすり寝てたわね。もう元気になったでしょ?」

 

「んー、まあまあ」

 

 楽しそうに鼻歌交じりで、ダンボールの風を剥がしているママ。えへへ、この分なら私が手伝う幕はなさそうだな。だといいな。

 

 元々このアローラ地方への引っ越しはママからの提案だった。どうやら長年の夢だったらしい――けれどうちは母子家庭だったので、アローラまで引っ越しするお金は無かった筈だった。

 が、なんとポケモンくじに運良く当選したこと、ククイ博士と知り合えたことなど、色々重なって、引っ越しが実現したのであった。ママはこの件について、一生分の幸運を使い果たしたと言っていた。そりゃあ……。

 

「ねえミヅキ、アローラのポケモン、楽しみ?」

 

「もちろん! カントーでは見られないポケモンがあちこちに居るんでしょ?」

 

「そうなの! あたしも早く会ってみたいわ――なんてったって、リゾートとしても有名なアローラ地方!暮らしてるポケモンたちも、みんなゴキゲンに決まってるわよ!」

 

「気合い入ってるね〜! ママ」

 

 とっても楽しそうで何よりである。かく言う私も、それに負けないくらい、楽しみなんですけどね!

 

 と、その時、ピンポーン、とチャイムが鳴った。

 

「あら、チャイム。きっとククイ博士だわ。ミヅキ、ちょっと出て」

 

「はーい」

 

 と言って、ドアを開けましょうと歩きだしたところ、なんとドアを勝手に開けて勝手に入って来た。

 

「アローラ!!」

 

 白衣を来たククイ博士は陽気にそう言って手を挙げた。いや勝手に入ってくるのは如何なもの? ちょっと動揺しながら、真似して手を挙げた。

 

「ア、アローラ〜!」

 

「こうして実際に会うのは、初めましてだね。カゲミ――改めて自己紹介を! 僕がククイです。よろしく!」

 

「あっはい! こちらこそ――カゲミです。よろしくお願いします!」

 

「アローラ地方への長旅、お疲れ様! 時差ぼけは大丈夫かい? アローラとカントーは遠く離れているからね――こっちは昼で、驚いただろ? なんて、今はもう夜だけど」

 

「ククイ博士! 今朝、到着しましたわ」

 

「たにゃ!」

 

 今度はママが挨拶した。ニャースも一緒に。

 

「ああお母さん!改めまして!ククイと申します。ようこそ、アローラへ!」

 

「カントー地方で見たジムリーダーとのポケモン勝負!今でも思い出せます!あれでアローラのポケモン好きになって、来ちゃいました」

 

「いやあ! ポケモンの技を研究するためとはいえ、ジムリーダーたちにいいようにやられましたけどね!」

 

 ママがアローラ地方に来たがっていた理由が、まさにこれ。私はまだ小さかったし、知らなかったんだけど、どうやらククイ博士、カントー地方へ一時期引っ越していたらしい。それで、カントー地方にある八つのジムに挑戦して――なんとポケモンリーグ出場まで行ったらしい。流石に、チャンピオンのワタルさんには負けたらしいけれど……それでも凄い。

 

「さて、カゲミ!」

 

 博士は私に向き直って言った。

 

「隣町に行こうぜ! そこで『しまキング』からポケモンを貰うんだ!!」

 

「!!」

 

 結構唐突だったので、一瞬言葉を失った。

 

「し――しまキングって」

 

「ああ! しまキングはね、ポケモンを戦わせたら敵なしのポケモントレーナーさ! リリィタウンでは、冒険する子供のために、しまキングがポケモンをくれるんだ」

 

「まあ! ポケモンをくださるの? しまキングって凄いのね!」

 

 ママが嬉しそうに手を叩いた。

 

「ほら! ミヅキ、準備をしなくっちゃ!」

 

「あ、えっ……」

 

「貴女の部屋のダンボールに帽子とバッグが入ってるはずよ。あと机の上に、お父さんの手帳、置いてなかった?」

「う、うん。分かった」

 

「おっ! どんな帽子か、僕も楽しみだぜ!」

 

 ククイ博士はにやりと笑った。お世辞とかではなく、心からそう思っているというのが雰囲気から伝わってくる。

 

 取り敢えず、私は部屋に帽子などを取りに行った。

 

 

カゲミの部屋 ▼

 

 

「ふぅ……」

 

 動転した気を鎮めるため、少し深呼吸した。ふう。

 

 ……ついに、私、ポケモントレーナーになるんだ〜っ! ちょっと気が早いけれど、はやる気持ちを抑えられない。全然気持ちが鎮まってない!

 

 10歳になると、子どもたちはみんな、自分のポケモンをゲットする事が許される。けれど、私は今までポケモンをゲットしたことはなかった。いわゆるキープというやつもしてもらっていない(因みに、ニャースはあくまで、ママのポケモン)。

 それは、私の希望でそうなっていた――私は、冒険の最初にゲットしたポケモンを、初のパートナーポケモンにしたい、と思っていたから。

 

 私は机の上の手帳を手に取って、パラパラとめくった。

 この手帳は、お父さんがくれたものだ――昔、お父さんも、カントー地方を冒険していたらしく、そこで得た旅に役立つ知識とかがメモされている。私は手帳をポケットに入れた。

 

「ふふふっ……!」

 

 ニヤニヤ笑いながら(我ながらこんなににやけるなんて、と思った)、赤いニットキャップとショルダーバッグをダンボールから出した。ママが選んでくれた帽子とバッグ。かわいい!

 そして装着! 似合ってるのかな? ニャースは一階に居るから、ちょっとどんな具合か、分からない。けど、大丈夫だよねきっと!

 後は、ポケッチよし、ホロキャスターよし。ママのセンスを信じて、私は下の階に降りた。

 

 

一階・リビング ▼

 

 

 一階では、ママと博士が談笑していた。私抜きで何を話してるのかなと、ちょっぴり仲間外れにされたような気分……になったけれど、よくよく聞いてみると、私が交じっても口を挟む幕がなさそうな話だったので、別にいいやって思った。

 

「あら、準備ばっちりね! 似合ってるわよカゲミ!」

 

「おっ、良い帽子だね!」

 

「ありがとう、ママ、博士」

 

 降りてきた私を見て、ママと博士が言った。ちゃんと似合ってるみたいで良かった……私が選んだわけじゃないけれど、似合ってなかったら、それはそれでやっぱりショックだからね。

 

「よーし、行こうぜ! リリィタウン! しまキングからゴキゲンなポケモンを貰うんだ!」

 

 ククイ博士は腰に手を当てて快活に笑った。気持ちのいい雰囲気の人だな〜って思う。

 

「いってらっしゃい! ポケモンが来る前に、ママ、ばっちり片付けておくから!」

 

「にゃあ!」

 

 やったあ! じゃ、なくて、ありがとうママ!

 ……どうしよう、自分だけ楽しんじゃうっていう罪悪感もあるけれど、掃除しなくていいから楽出来て嬉しいっ! っていう感情もあるよ……。

 なんて悪い子なの、カゲミ。

 

「ありがとう、ママ――じゃあ、いってきます!!」

 

 と思うものの、ごめんなさいも言わずに、ククイ博士を追って私は外に出た。ポケモンを貰えるのが嬉しくて、つい言い忘れてしまった――自分に都合のいいことばかり考えちゃう私はやっぱり、悪い子なんだろうな。




カゲミのポケモン紹介 ▼

「カゲミです!

「今回紹介するポケモンは、ばけねこポケモンのニャース! おでこの小判がチャームポイントのポケモンです!

「まあ紹介と言っても、私、あんまり本とか読まないし、詳しい生態とか、そういう期待には応えられないんだけど……とりあえず今回は、ママのニャースを見て思ったことをお話しします」


「えっと。ニャースって、光るものには目がないらしくて、一旦そういうものを見つけると凄いスピードで捕まえに行くの。昼間は殆ど寝てて、ヌオーみたいにぽや〜っとしてそうなんだけど、全然! あれは完全にハンターのそれだったよ。狩る側の動きだよあれは。止まってる間はじっと見てるんだけど、ちょろっと動いた瞬間に、バッ! って。見てて惚れ惚れするよね〜!

「あと、ニャースはコタツで丸くなるって言葉もあるように、あったかい所が好きなのかな? うちのニャースってば、全然自分の寝るところで寝ないで、ママの布団とか、私の布団とかにすぐ入って来ちゃうの! で、本当に丸くなって寝ちゃうの。でも、寝付くまでは布団を引っ掻いたりしてるから、ちょっと傷がついちゃうのが難点かな……。

「そうそう、私の部屋にメタモンのクッションがあるんだけどね、あれ、ニャースが頻繁に引っ掻く所為であちこち破けてるんだよね〜。あれってどういう意味なのかな? 爪を研いでるのかな? でも研いでるようにも見えないんだよなあ……。

「……こんなかんじかな。紹介になってないような気がするし、改良の必要性を感じるね、このコーナー。どうしたものやら。

「それに一人でやるのに、早速限界を感じたよ。誰か一緒にやってくれる人、居ないかな〜?」


「次回、『リーリエとほしぐもちゃん』。一応次回予告も兼ねてるからね、このコーナー。申し訳程度に」


「まあそんな訳で、手探り状態ですけれど、ふわっとやっていきまーす。次はもっとちゃんと出来ればいいなあ……なんてね!」


エンドイラスト ▼

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リーリエとほしぐもちゃん

 あくまでも息抜き代わりの作品なので、ふわーっと。

○注意事項○
・何かあれば書きます。


【第2話】

 

 

リリィタウン ▼ ポケモンに感謝するところ

 

 

「来たぜ!着いたぜ!!リリィタウン!!」

 

「わぁー!」

 

 ……と、感嘆したけれど――この反応から連想されるような大きい町ではなく、どちらかといえば、村と言った方が正しいようなところだった。

 お家の数は少なく、ところどころに木が生えている。ここまで結構歩いて、まるでなだらかな山みたいなところだと思ったけれど、ここもまた、自然のままと思わせるような雰囲気があった。

 岩を削ったような階段を上ると、そこにあったのは、結構大きなお家と、中心に大きな土俵のようなものが。何に使うのだろう? それこそ、相撲とか?

 

「ここではね、カゲミ。メレメレ島の守り神であるポケモン……カプ・コケコを祭っているんだ!」

 

 ククイ博士が言った。

 

「カプ・コケコ……守り神ってことは、伝説のポケモンなんですか? カントーで言う、サンダー、ファイヤー、フリーザー、のような」

 

 サンダー、ファイヤー、フリーザーというのは、カントー地方に伝わる伝説のポケモン。伝説と呼ばれるだけあってか、おとぎ話とかにも引っ張りだこ。だから知っている人は多いのだ。会ったことのある人は……居るのかどうか。

 

「そうだね。けれど、彼らほど姿を見せないって訳ではないんだ。特にカプ・コケコは気紛れだけれど、それ故に、割と現れるよ」

 

「へ〜。特に、ってことは、他にも守り神ポケモンは居るんですか?」

 

「4体だ!!」

 

「うぇっ!?」

 

 ククイ博士は語調を強めて、指を四本突き出した。突然だったので変な声が出てしまった。

 

「4つの島に、それぞれ守り神が居る――このメレメレ島に居るのはカプ・コケコ。アーカラ島にはカプ・テテフ。ウラウラ島にはカプ・ブルル。そしてポニ島にはカプ・レヒレ――といったようにね」

 

「成る程〜。……守り神、かぁ」

 

 会えるものなら、会ってみたいと思うけれど――まあまず、無理だよね。なんてったって神と呼ばれしポケモンだもの。会いたいと思って会える訳ないか……ああ、また分不相応なことを考えちゃって私ったら……。

 

「あれ? うーん」

 

 ククイ博士は周りを見回した。どうしたのだろう? 私も真似してみる。

 

「おかしいな……みんなここで待ち合わせなのに」

 

「待ち合わせ? あぁ、えっと、しまキングさんとですか」

 

「うん。その筈なんだけど――もしかしたら町の奥……マハロ山道にいるのかも。守り神カプ・コケコの遺跡があるからね」

 

「マハロ山道……」

 

 ククイ博士は土俵を挟んだ向こう側を指差した。

 

「カゲミ!しまキングを探してくれないか? 僕は行き違いにならないようこの辺りを探すからさ!」

 

「え!? いやそんな……いきなりそんなこと言われても!?」

 

 私、まだポケモンを貰ってないし! 私、ここに来たばっかりで何にも知らないし!?

 

「心配無用だぜ! 山道とは言ってもそんな急じゃあないし、ポケモンが飛び出てくるような草むらもないからね。入り組んだところでもないし」

 

「そ、そうですか……? 信じますよ」

 

「僕は嘘なんてついたことはない! カプ・コケコに誓ってね」

 

「は、はあ」

 

 神様に誓って、のアローラバージョン(というかメレメレ島バージョン?)。まあでも、嘘をつく理由もないし、博士だからその辺ちゃんとしてると思うし、うん。多分、大丈夫だよね! そうだよね!

 

「分かりました――あ、でも、私しまキングさんがどんな姿なのか知りませんけど」

 

「しまキングはね、見るからにしまキング!って感じだからね!」

 

「なんて曖昧な!」

 

「ま、この先は遺跡だし、殆ど誰も滅多なことでは近付かないからさ。誰か人が居たら、それは十中八九しまキングだ」

 

「うぅ……分かりました」

 

 曖昧すぎて何にも分からないけど……。

 まあ、なんとかなるよね! を合言葉として胸に刻み、ククイ博士と別れたのだった。

 

 

マハロ山道入り口付近 ▼

 

 

「……ん?」

 

 マハロ山道の入り口と思われるところ(不思議な置き物が両脇に置かれていたのですぐ分かった。こういうの、トーテムポールって言うんだっけ? 違うかな)近くで、私は足を止めた。誰か、知らない人がいる――山に登ろうとしてるのかな?

 それは女の子だった――私より、ちょっと年上っぽい子。金髪で、大きくて白いツバ付き帽子を被り、同じく真っ白いワンピースを着ている。肌も凄く白くて、綺麗だな〜って思った。

 

「……遺跡になにがあるというのです?」

 

 女の子の独り言。肩から下げたバッグに向かって話しかけている……何か入っているのかな? 何だろう。

 

「あっ」

 

 女の子はそのまま、マハロ山道へと歩いて行った。私も、ちょっとぽかんとしたけれど、あの子を追うように山道へと入って行った。

 

 

マハロ山道 ▼

 

 

「バッグから出ないで……誰かに見られたら、困ります」

 

「…………」

 

 やっぱり一人で何か言いながら登る女の子。……というか、本当に一人なのかな? バッグから出ないで、ってことは、あのバッグの中には小さいポケモンが居るのかな?

 

 マハロ山道は、博士の言う通り(別に疑っていた訳じゃないけれど)決して急ではなかった。心配はやはり杞憂に終わった。

 ところどころ道の端には、入り口にあったような不思議な置き物が置かれてある。なんだか見られているようで、ちょっと落ち着かない。だからなのか、雰囲気が独特で――或いは神聖とでもいうのか――どことなくプレッシャーめいたものを感じた。

 

「こんな感覚、さっきもあったような……いや、気の所為か」

 

 そんな独り言を言いながら歩いていると、同じく独り言(かどうかはちょっと怪しい)を呟く女の子をまた見つけた訳である。

 誰かに見られたら困る? いったい何を入れているのだろう? 気になるなあ……いやいや、人の秘密を詮索しようとするとか、悪い子すぎる……。

 

 ……もしかして、もしかすると、あの子がしまキングさんなのかなぁ?

 

 ふと、そんなことを考えた。だって、誰か人が居たら十中八九そうだって博士が言っていたし――でも、見るからにしまキング! ってえ雰囲気でもないんだよね。

 なんて考えつつ、だから確信も持てず只管気付かれずに付いていくと、吊り橋にまで辿り着いた。すると――

 

「ぴゅいっ!」

 

 ――と、女の子のバッグから、鳴き声と共に何かが飛び出した。

 それは、ポケモン……だと思った。けれど、見たこともない。本でも見ない(そもそもあんまり本読まないんだって)。まるでその小さな体は雲のようで、その夜色の体に煌めく光は星空を連想させた。だから雲というか――そう。宇宙だ。雲は雲でも星雲のようだった。

 

「ああっ……!」

 

「ぴゅぴゅう!」

 

「ダ、ダメ、です! そっちは危ないです……!」

 

「ぴゅ〜!」

 

 女の子は、星雲のようなポケモン? を再びバッグの中に戻そうと手を伸ばしたが、小さな星雲は言うことを聞かずに吊り橋の真ん中まで飛んで行ってしまった。

 

「も、戻って……戻ってきてください……!」

 

「ぴゅぴゅう!」

 

「もう……っ!」

 

 女の子とは反対に、楽しそうに鳴く謎のポケモン。なんだか見ていていたたまれなくなってきたんだけど……どうしよう?

 と、出て行くか出て行くまいか迷っていた、その時である。

 

「「「ピィィーーーッ!!」」」

 

「!?」

 

「ぴゅ!?」

 

「この鳴き声……っ!!」

 

 鳥ポケモンのような鳴き声が、突如響き渡る。なんとなくだけど、三匹分のような気がする!

 

「バ、バッグに戻って……早く、戻ってくださいっ!!」

 

「ぴゅ、ぴゅ――」

 

「ピィィッ!!」

 

「ぴゅぅ!?」

 

「ピピィィッ!!」

 

「ぴゅぴゅう!?」

 

「ピピィィーッ!!」

 

「ぴゅぴゅぅーっ!!?」

 

 な、なんてこった! 吊り橋の上の子が、鳥ポケモンに囲まれちゃった!?

 ポケモンの種類に疎い私でも、あのポケモンは知っている――あれは、オニスズメ! ことりポケモンのオニスズメだ!

 

「ピピッ!!「ピィィー!!「ピピピッ!!」

 

「ぴゅ……」

 

 翼をばたつかせながら取り囲む三匹のオニスズメ……ちょっ、これピンチだよ!? なんてこった、なんて状況に出くわしちゃったんだ私ー!?

 

「あぁ……っ!」

 

 呻き声をあげる女の子。怖いのか、足が震えている――ああ、絶対しまキングじゃないや――けど、このままじゃあ、あのポケモンがやられちゃう!

 

「ええい、ままよーっ!!」

 

「!?」

 

 もう自分でも何やってるんだとツッコミをいれたいのだけれど――思わず飛び出してしまった。びくりとしてこっちを見た女の子。

 

「あ、あなたは!? い……いつから……?」

 

「ごめんなさい! あなたのこと、ずっと尾けてました!」

 

「尾け……!?」

 

「ああいや、別に悪意も悪気もなくて、つい偶然そうなっちゃっただけで、とにかく敵じゃないからごめんなさいっ!!」

 

「っ〜〜!? っ……!?」

 

「え、えっと、そんなことより、今大変なんじゃないの!?」

 

「! そ、そうです……あのコが……ほしぐもちゃんが!」

 

「ほしぐもちゃん……」

 

「ぴゅ……」

 

 怖そうに震えながら、力なく"ほしぐもちゃん"が鳴いた。

 

「オニスズメさんに襲われ……でも……私、怖くて……足が、竦んじゃって……」

 

「ぴゅ……」

 

「ど……どうしたら……」

 

「っ……そ、そんなの、どうしたらって程の事じゃあないよね!?」

 

「え……?」

 

 全く、なんて頼りないのだろう。そんなことでポケモントレーナーが務まるとでも思っているのだろうか。

 トレーナーっていうのは、ポケモンの為ならどんな怖いことだって乗り越えられる人のことを言うのだ――私のお父さんは、そうだった!

 

「あ……ちょっと!?」

 

「わ、私が助けに行くから! そ、そこ動かないでよ〜! あなたも、ほしぐもちゃんも!」

 

 私は吊り橋に足を掛けた。ギィ、と音がなり、ぐらぐらと揺れた。

 か、風もないのにこんな揺れるって、大丈夫なのかな!? いや大丈夫な筈、大丈夫じゃなくてもまあ、なんとかなるよね!?

 

「ぴゅ……」

 

「うぅ〜……」

 

 どうしてこんなことに……ポケモンが貰えると思って舞い上がっていたのかな? どう考えても偽善過ぎるよ! バカ! 私のバカ!

 ぐらぐら揺れる度に、後ろの女の子が息を呑む声が聞こえる――元はと言えば、元はと言えば〜っ! いやでも出しゃばったのは結局自分だし、何より人を悪く思うとか屑の所業だよもう〜!!

 

 どんどん暗い気持ちになりながらも、なんとかほしぐもちゃんの所まで辿り着いた。羽を撒き散らしながらオニスズメたちはほしぐもちゃんの周りをぐるぐる回っている。

 

「ぴゅ……っ」

 

「ピ「ピピ「ピピィ「ピピピィッ「ピピィーッ!「ピピィィーーーッ!!」

 

「ほ、ほしぐもちゃん〜っ!」

 

 私はオニスズメの攻撃が当たらないように、ほしぐもちゃんに覆い被さった。自己犠牲精神とかなんかもう……ほんと……。

 

「ピィッ!」

 

「つっ!?」

 

 自己嫌悪から私の思考を逸らすかのように、オニスズメの爪が私の頰を掠めた。痛い、けれど、多分血が出るほどじゃあない。跡は付いたかも?

 

「ぴゅ……ぴゅう……」

 

「だ、大丈夫……多分」

 

 心配そうに私の顔を見るほしぐもちゃん。

 しつこいなオニスズメ――ああ、ポケモンが居ればいいのに! そしたら、少なくともこっちから反撃出来るのに〜っ! 歯痒いったらないよっ!

 

「ぴゅう……ぴゅう……!」

 

「! ほしぐもちゃん?」

 

 その時。なんとほしぐもちゃんが光りだしたではないか。なんだなんだ、何が始まったの?

 

「ぴゅ……ぴゅう……!!」

 

「これ、いったい――」

 

「ぴゅう――ぴゅうっ!!」

 

 ほしぐもちゃんの光はどんどん増幅し、目も開けていられないほどにまで――と思った瞬間! 謎の浮遊感が私を襲った!

 

「え?」

 

 眩しくなくなって、目を開けた――すると、さっきまで目の前にあった橋がなく、代わりにその下を流れていたはずの川が見えた。そして、再び眼を閉じたくなるほどの風圧が襲い来る!

 

 つまり……私たち、落ちてる!?

 

「えぇぇーーーっ!!?」

 

 うわっ、うわうわうわうわぁーっ!! なんで!? なんで私落ちてるの!? もしかして、橋が壊れたの!? さっきの光の所為――っていうか私死ぬの!? ここで死ぬの!? 助からないよねこれ!?

 

「ぴゅ、ぴゅぴゅぴゅっ〜!」

 

 私の腕の中でほしぐもちゃんが声を上げた――いつの間に私、抱いてたの!? いやそれよりも、どんどん川が近くなっている! つまりどんどん落ちてるってこと! ああ、もうこれは諦めるしかないのか……?

 

 あー、なんか昔の記憶が蘇ってきた。駄目だこれ走馬灯だ、これ駄目なやつだ……。これから、ようやくポケモンを貰えると思ったのに――ほら、なんか光が見えてきたよ……星なんかとは比べ物にならないほどの光が――?

 

 んん?

 

「――なにあれ」

 

「ぴゅっ……?」

 

 天地が幾度も回転し逆転する中、遠ざかっていく筈の星の中にどんどん近付いてくる光があった。光はオニスズメたちを弾き飛ばし、猛スピードで私たちに向かってくる――えぇ……?

 追い討ち……? 叩きつけられるだけでもういいでしょ、それだけで十分死んじゃうだろうしさ、これ以上はやめてほしいな……。

 光――いや、なんかバチバチいってるし、もしかすると電撃かも――が、すぐそこにまで迫ってくる。どうぞどうぞ、もう諦めました〜。焼くなり潰すなり好きにして〜。

 

「カプゥゥーーーッ!!」

 

「!!」

 

 電撃の中から甲高い鳴き声が聞こえた。電撃が先に到達し、私たちを包み込んだところで、その電撃の中に何かが居たことが分かった。ポケモン? 見たことがない姿をしている。鶏をどことなく連想させるフォルム、両手には大きな殻のようなものが付いている――。

 

 電撃の中の存在が私たちを捕えた、と思うと、今度はさっきとは逆の方向から風圧が襲いかかってきた。高速で上昇している――ま、まさか! このポケモンは私に完全なトドメを刺しにきたのではなく!

 

「た、た、助けに――!!」

 

「カプゥーコッコ!!」

 

「きてくrrぇぇっ!!?」

 

「ぴゅぅーーーっ!!?」

 

 結論から言うと、川への落下は回避できたのだけれど――このポケモン割と下ろし方が乱暴で、そこそこ激しくマハロ山道にぶつかった。ほしぐもちゃん共々。

 

「だ……大丈夫、ですか……!?」

 

 金髪の女の子が駆け寄ってきた。別に立てないほどの衝撃ではなかったので、ふらふらと立ち上がる。ただ動悸が凄い……どっくんどっくん言ってる。もっと言えば吐きそう。吐いた瞬間に心臓も一緒に出て来ちゃいそう。想像するととんだスプラッタだけども。

 

「大丈夫〜……あ、あのポケモンは?」

 

「ぴゅ……」

 

「あのポケモン……? あっ」

 

「!」

 

 助けてくれたポケモンは女の子の後ろにいた。電撃を纏う黄色い体。やはり鶏っぽい。

 

「あ、あの、えっと……助けてくれてあ「コケッコーーーーーッ!!!」!?」

 

 私の言葉を遮るように鳴くと、眩いほどの電撃を放出、そしてそのまま鶏めいたポケモンはまるで打ち上げ花火の如きスピードで浮上、そして空全体を覆いつくすほどの電撃を放ち――フッと消えた。

 

「……な、なんなの……?」

 

「……あの……ポケモンは?」

 

「ぴゅい……」

 

「! ほ、ほしぐもちゃん! 無事ですか?」

 

「ぴゅい……!」

 

「良かった……です……」

 

 女の子は安心したように胸をなでおろした。因みに私も無事だよ〜。

 

「あなた……また力を使おうとして――あのあと、動けなくなったでしょ……もうあんな姿、見たくないのです」

 

「ぴゅい……」

 

「……ううん、ごめんなさい……あの時あなたは私を助けてくれた……なのにあなたを守れなくて……」

 

 なんだか二人の世界に入り込んでいるね。私、ほっぽかれてるね。別にいいけどさ……。

 

「ぴゅう!」

 

「どう……したのですか!?」

 

「ぴゅぴゅう!!」

 

「光り輝く石……なんだか暖かい感じです」

 

 ほしぐもちゃんが光る石を見つけた様子。へぇ〜。

 と、ぼやっとしていると、

 

「あの……」

 

「…………あっ、私? ごめん」

 

 我関せずの態度を取っていたら急に振られたのでびっくりした。

 

「申し訳ありません……危ないところを助けてくださり、心より感謝しております」

 

「ああ、いやあ……ぶっちゃけ大したこと、してないし。寧ろ生意気な事言ってごめんなさいっていうか」

 

「これ……あなたの石ですよね」

 

「はい?」

 

 女の子は輝く石をくれた。いや別に私のじゃあないけれど……。

 

「……あの、これ」

 

「このコのこと……誰にも言わないで……ください」

 

「えっ? あぁ、そりゃあ、うん」

 

 誰かに見られたら困るらしいものね――ああ、つまりこの石って口止め料代わり? そんなのいらないのに。

 

「あの、こr」

 

「秘密で……秘密でお願いします」

 

「……うん。分かった」

 

 ……受け取っておこう。貰ったものを返すのも、あまりよろしくない行為だ。それにこの子の物でもないっぽいし。

 

「バッグに入ってください」

 

「ぴゅう……」

 

 ほしぐもちゃんは素直に――いや渋々だこれ――バッグの中に入って行った。モンスターボールの中には入れないのかな? ジョウト地方では親愛の証としてポケモンをボールから出して連れ歩くらしいけど、それみたいなものなのかな?

 

「……あのう」

 

「なぁに?」

 

「このコ……もしかしたら、また襲われるかもしれません。身勝手で申し訳ありませんが……広場までご一緒して下さい」

 

「あ、えっと……うん。分かった――私でよければ……何にもできないけど」

 

「……ありがとうございます。助かります」

 

 しまキングさんを探さなきゃだけど……吊り橋、壊れちゃったし、向こう側に渡れないのでどっち道打つ手なしだし、ここは帰るのが得策だよね。

 

「では、参りましょう」

 

 女の子は歩き出した。それを見て、私はふとあることを思い出したので、彼女を止めた。

 

「あ、待って!」

 

「はい? ……なんでしょう」

 

「な、名前――私、カゲミって言うの! あなた、なんてお名前?」

 

「私……ですか?」

 

 女の子はこっちを見て言った。

 

「リーリエです。……よろしくお願いします、カゲミさん」

 

「リーリエ……うん。よろしくね、リーリエ!」

 

 

「因みにこの子はほしぐもちゃんです」

 

「ぴゅい!」

 

「あっ、バッグから出ちゃ駄目……」

 

「いやそんな無茶な」




カゲミのポケモン紹介 ▼


「カゲミです! 流石に一人では無理と判断されたのか、今回からゲストが来てくれることになりました〜!」

「あっ、はい……リーリエと申します。ほしぐもちゃんも居ます」

「ぴゅう!」

「今回紹介するポケモンは、ことりポケモンのオニスズメ! カントー地方でもお馴染み、よく見かけるポケモンの一匹だね〜!」

「私は……少し苦手ですね。オニスズメさん」

「ぴゅい……」

「だよねー、襲われちゃってたもんね」

「本で読んだことがありますけれど、オニスズメさんは、同じくことりポケモンのポッポさんよりも気性が荒いとか……納得ですよね」

「ぴゅぴゅう!」

「しかもそれゆえか、ポッポさんよりも攻撃力が高い場合が多いそうです。速さも、オニスズメさんのほうが速いらしいですね」

「へ〜! 物知りだなあ、リーリエは」

「本を読むのが好きなだけです――どうやら、翼が小さめな所為か飛ぶのが苦手なようですね。飛ぶときは常に翼をバタバタさせていないとダメなんです」

「あー、だからあんなにバタついてたんだね。服に羽毛がいっぱい付いて……新品だったはずなのに〜!」

「す、すみません」

「ぴゅ……」

「いいよいいよ、私は悪いんだから……やっぱり、あれ? オニスズメも虫ポケモンとか食べるの?」

「えっと、はい。よく啄んでいますね。因みに、虫ポケモンさんに悩む農家の方達にとってオニスズメさんは益鳥らしく、大切にされているそうです」

「そうなんだ! 厄介ものってだけじゃあないんだね〜」

「ぴゅうぴゅう!」


「次回、『しまキングからの贈り物』。どんなポケモンが貰えるのかなあ! 楽しみ!」

「ですね。私も、楽しみです」

「ぴゅう! ぴゅう!」


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