流星のロックマン -アルファ彗星- (風並将吾)
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序章 アルファ彗星

注意書き

この作品にはオリジナル要素が含まれています。
それらが苦手な方はブラウザバックされることを推奨します。
大丈夫です!という方は、是非とも読んで頂ければと思います。


「あれが醜い人間が巣食う美しき地球か……」

広大なる宇宙を彷徨う一つの巨大彗星。暗闇に包まれた静かなる空間の中で一際輝くその中に、電脳空間が広がっていた。

かつて地球を滅ぼし、リセットしようと企んでいた彗星―――デューオ。人類の可能性を見出した結果、消滅を免れた地球。

幾度となく広げられる攻防を、この彗星もまた見届けていた。

彗星―――アルファは、目の前に広がる青い星を見て、呟く。

「守る為には……殲滅しなくてはならない」

地球に住む人間が滅びを迎えるまでのカウントダウンを、一つの電波体が呟いていた。

 

 

「な、なんだこのシグナルは?」

日本国内で有数の設備を誇る、刑事組織―――通称サテラポリス。

そこに勤務する一人の青年、暁シドウは、モニターに映し出されたシグナルを見て、驚愕した。

 

―――HUMAN PERISH.

 

明らかなる戦線布告に、彼は思わず身震いを隠しきれなかった。

「これは、どうにかしなければならない……出来れば、彼らを巻き込みたくはない」

シドウは呟く。

恐らくこれは、全世界に発信されているものであるだろう。

誰が何の目的で発信しているのかは不明であるが、諸悪の根源がいる以上、サテラポリスとして見逃すわけにはいかない。

平和の為、彼は戦うことを決意する。

 

―――強大過ぎる敵であるとも知らずに。

 

 

 

22〇X年。

その日、世界各地のメディアが彗星の話題で盛り上がった。

『ごらんください! 青く輝いている彗星は、千年に一度、地球に近づくと言われているアルファ彗星です!』

テレビからは、女性リポーターによる彗星の話題が告げられている。

その番組を見ている少年―――星河スバルは、目を輝かせながら食いつくように見つめていた。

「おいスバル。そんなに彗星に夢中なのか?」

彼の手にしている携帯端末―――通称ハンターVGより、低い声が聞こえてくる。名前を、ウォーロックという。

バトルウィザードとして潜り込んでいるが、元を辿ると彼の正体はAM星人という宇宙人である。とある事件をきっかけとしてスバルと出会い、過去に三度地球の危機を救っていた。

一度目はFM星人との戦い。

二度目は科学者オリヒメと、古代遺跡ムーを巡る戦い。

三度目はノイズの集合体である巨大隕石、メテオGとの戦い。

これらの戦いにおいて、青い戦士―――ロックマンとなって、幾度となく地球を救ってきた。

とはいえ、争い事が起きなければ彼も普通の小学生。それも、星を見ることが好きな少年。テレビから流れている彗星の話題に喰いつかない筈がなかった。

「もちろんだよ! 千年に一度だよ? 僕も本の中でしか見たことなかったけど、こんな機会が訪れるなんて夢みたいだ!」

弾んだ声でスバルは力説する。

その様子に気圧されながらも、ウォーロックはスバルの感情の変化を優しく見守っていた。

かつて星河スバルの父親である星河大吾が行方不明となり、感情を閉ざし、人との交流を遮っていたスバル。孤独の周波数を発するスバルの元に、ウォーロックが訪れたのだ。

当初は引っ込み思案もいいところで、自分に自信がなく、とにかく暗い少年だったスバル。

幾度となく訪れた地球の危機、そして最愛の父親が帰ってきたことにより、彼の心は大きく成長した。

仲間との絆、家族との絆、自身の心の成長。

これらはスバルに大きな影響を与えたと言っても過言ではないだろう。

「ケッ! これからいつもの場所に行こうってか? あそこに行くと数時間はずっといることになるから、やめようぜ!」

「そんなことないよ! ちょっとだけだからさ、ね?」

「んなこと……って、おい待てよ、スバル!」

 ウォーロックが静止する声を無視して、スバルは外に出る支度にとりかかる。

「スバル? これから外に行くの?」

 そんなスバルを見て、母親であるあかねが声をかけてきた。皿を洗っている手を止めているようで、手にはタオルが握られていた。

「うん! ちょっと彗星を見てくるよ!」

「そう……もう夜遅くだから、早く帰ってくるのよ!」

「オフクロ! そんなこと言ってスバルはなんじ……」

「分かった! いってきます!」

「って、おい、スバル!」

 母親からの許可が下りたことで、スバルはすぐさま玄関へと向かう。その足取りはとても軽く、遠足に行くような感じすらあった。

観念したウォーロックは、大人しくスバルの進行を見守るしかなかった。

 

 

「わぁ……!」

コダマタウンの展望台。そこから見える光景に、スバルは素直に胸を打たれた。

光輝く星空の中に見える、一筋の彗星。静かに燃え上がる星の流れは、心を射抜くようだ。

「すごい……これが、アルファ彗星……」

幻想的な光景に、スバルは言葉を発することを忘れていた。

息を呑む程の光景とは、まさしくこのことを指すのだろうと彼は頭の中で考えていた。

だが、そんな時、突然隣に青い獣の電波体が姿を現す。

「おいスバル!!」

ウォーロックだ。

彼は自身でウィザードONにして、実体化したのだ。

「うわぁっ! び、びっくりしたじゃないか……」

「ビジライザーをかけて、あの彗星を見てみろ」

「ビジライザーを? ……う、うん」

言われるがままに、スバルは頭にかけているビジライザーを降ろし、彗星を眺める。

この道具は、本来人間の目には見えない電波体を可視化させるものだ。

これをかけることにより、現実世界に広がる電脳空間や、張り巡らされているウェーブロードを見ることが出来る。

そして、それを通した世界の中で、彗星の周りには。

「これは……ノイズ?」

思い出されるのは、メテオG。

あの時も、世界各国でノイズによる被害が拡大していた。

日本を除く全世界のネットワークはシャットダウンされ、大騒動を招いた巨大隕石。

もし、それの再来だとすれば、地球は再び―――。

「よくわからねぇが、なんか嫌な予感がするぜ。多分、よっぽどのことがない限り、大丈夫だとは思うが」

「また……地球が狙われるのかな?」

「さぁな……けど、そん時は俺らが大暴れすりゃいいってことよ!」

自分の鋭い爪で空中を斬り裂きながら、ウォーロックは興奮したように言う。

「駄目だよウォーロック。それってつまり、色んな人が危ない目に遭うってことじゃ……」

「だからこそのロックマン、だろ?」

「もぅ……」

多少の不満こそあったものの、目の前の光景が美しいのも事実だし、ロックマンが何度も危機を救っていることも事実であった。

今はその言葉を飲み込み、スバルはもう一度空を見上げ―――ようとして、

「……あっ」

人の声を聞いた。

「……え?」

その方向を振り向くのは当然の反応だろう。

背後から聞こえてきた声に対して、スバルは首を後ろに向ける。

そこに立っていたのは、蝶型の髪飾りを付けた、スバルと同じくらいの年齢の少女だった。

 

 




みなさんお久しぶりです。
今作が実質リハビリ作品となると思われます。
ハーメルンで連載されている作品や、実況動画などを見ている内に、何故か今頃熱が再発し、思わず小説書いてみてしまいました。
やり始めた以上、完結させなければなりませんね……!
併せて、私が「ransu521」名義で書いていた作品、「流星のロックマン ~after day~」の方も掲載しようと思います。
完結まで長い道のりになると予想されますが、応援よろしくお願いいたします!


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序章2 暗躍する影

随分長いことお待たせしてしまい、申し訳ございませんでした。
やっっっと次の話を投稿することが出来ました。
何とかこの話は完結させたいので、これから頑張っていきたいと思います……。


「君は……?」

思わずスバルは尋ねる。

目の前に現れた少女は、今にも折れてしまいそうなほどの繊細さを感じさせる。長い髪は風に流されて静かに揺れている。一目見て、スバルは彼女のことを美しいと感じていた。

そんな少女は、スバルの顔をじっと見つめたまま、それ以上言葉を発することはない。

「……キズナはとても、大切。だけど、人の心がその力を左右する」

「え……?」

答えの代わりに返ってきたのは、その言葉。しかし、不思議とスバルの心の中に強く残る言葉だった。

「人の心は善意だけじゃない……悪意だって存在する……キズナは、その人の心によって、その価値が大きく左右される」

「ひとの、こころ……」

「……負けないで。あなたはとてもやさしい人。あなたのやさしさは、心の闇を払ってくれる。だけど、あなたもまた、心の闇に負けないで」

「心の闇って……あっ」

その時、空に流れる彗星から、青白い光が発せられる。夜の闇をかき消す程の強い光は、スバルの目を容赦なく突き刺した。

あまりの眩しさに目を閉じたスバルは、光が消えたことを確認して、そっと目を開いた。

「いない……」

そこに、先ほどまでいた少女はいなかった。

「キズナ……人の心……心の闇……」

「妙な奴だったな……スバル」

「うん……でも、あの子が言ってることは、大切なことなんだっていうことは伝わったよ」

少女に言われた言葉を思い出し、スバルは拳を握り締める。

キズナを左右するのは人の心。その心が闇に囚われてしまった時、強固だったキズナは脆く崩れ去ってしまう可能性がある。

だが、それでもスバルは信じている。

「だからこそ、僕はこれからも信じるよ。父さんの言葉を、母さんのことを、ブラザーバンドのことを……そして、ウォーロックのことを」

「へっ! 当たり前だ! オレもお前のこと信じてるぜ、相棒」

かつて地球を三度救った彼らのキズナは、そう簡単に突き崩せるものではないのだろう。人と宇宙人という差はあれど、その二人に結ばれたキズナは、誰よりも強いのかもしれない。

 

 

「かつて私の先祖は、闇の力によって世界を支配しようとした。しかし、それらの計画は全て失敗に終わっている……何故だか分かるかね?」

某所。

何かの研究室のような部屋。部屋中に設置されている機械の中には、黒色に統一されたバトルカードのようなものが液体の中に浮かんでいる。部屋の最奥には巨大なスクリーンが広がっていて、世界中のあらゆる場所が映し出されていた。

そんな空間にて、白衣を身にまとい、左目に髑髏の眼帯をつけている男性――Dr.リーガルは、目の前にいる男に尋ねる。

男は乱雑に切られた黒い髪に、鋭い目つき、冷酷な表情をリーガルに向け、答える。

「邪魔者がいたのだろう。それくらい容易に想像がつく」

「その通り。その邪魔者によって、本来混乱に陥るはずだった世界は救われてしまっている。それ故に、私は考えた」

革靴独特の足音を部屋中に響かせて、リーガルは歩く。男--バレルは、ただじっと眺めていた。

「邪魔者は先に消してしまえばよい。だが、かつての我らには、そうする為の力がなかった……そして今も尚、十分であるとは言い切れない。そこで編み出したのが、シャドウカードだ」

「……ただのバトルカードと何が違うというのだ」

バレルは興味なさげに尋ねる。

リーガルは、自らが纏っている白衣のポケットより、この部屋にあるのと同様のカードを取り出す。絵柄はなく、ただ漆黒に染められたカードだった。

「このカードは莫大なる力をもたらす。その力とは、人とウィザードの融合……電波変換だ」

「電波変換?」

「そう。このカードはそれを可能にする。サテラポリスとディーラーの力を利用したものだ」

ハンターVGには、ウィザードと人間を電波変換させる機能が元々組み込まれている。しかし、一般には公開されておらず、また、身体にかかる負荷も相当なものであるため、実質不可能とされていた。

しかし、リーガルは自信満々に語る。

「君は既に電波変換が可能となっているからあまり興味はないかもしれない。しかし、このカードで電波変換する条件こそ、私が目的としていることの一部でもあるのだ」

「……その方法はなんだ?」

「人、ウィザードのココロを利用する。闇に支配されたココロを利用することにより、その力を増幅させる。そして、身体への負荷を無視した電波変換……カオス変換が可能となる」

かつてリーガルの祖先は、ダークチップを利用した。それもまた、闇の力――ココロの闇が関係していたものであった。彼もまた、それを利用する。祖先が用いた力を昇華させて、自身の計画を確実に遂行する為に。

「ココロの闇、か」

「絆というものもまたココロの力によるもの。私は絆が憎いわけではない。むしろ、人のココロが持つ可能性を信じてさえいる。それ故に、このカードを開発した。すべては、人のココロがどれ程醜いものなのかを証明する為に……そして、人間が如何に闇に染まりやすいかを示すことが出来てば、流れる彗星も目が覚める筈だ」

「『HUMAN PERISH.』。確か彗星から流れてきたメッセージだったな」

「そうだ。恐らく今頃サテラポリスやWAXAが血眼になって探しているが、私にはその正体が簡単に分かった」

リーガルは口元を歪ませる。己の有能さを誇っているのではなく、公的機関の無能さを嘲笑っていた。人員の数も絶対的な差があるにも関わらず、人為的なものであることを疑わない。シグナルが発せられた段階で、宇宙からの襲撃者を疑うべきであると言うのに、それを行わない。ある意味、先んじて発生したメテオGに関係する事件が、彼らの思考を惑わせているのかもしれない。

その点、リーガルは余計な思考を省いている。あれは紛れもない宣戦布告。彗星が、地球を目がけて落ちてきていることの証明であると感じ取っていた。

 

――かつて地球を滅ぼそうと襲撃した彗星、デューオ。

 

祖先が残した研究記録に書き記されたものを、リーガルは持っていたのだ。

それ故に、彗星にも電波空間が広がっていることを即座に察知した。

正確に言えば、彗星や惑星などの星に電波空間が広がっている可能性があることは既に証明されている。FM星人とコンタクトを取ろうとした「きずな」――即ち、星河大吾がそれを証明している。ただし、彗星そのものに意思が込められている可能性は限りなく少ないと考えているのも事実。

「私は為さねばならない。生温くなってしまった地球を、リセットするのだ」

「……」

スクリーンを見つめながら笑い続けるリーガルを、バレルはただじっと眺めていた。

 

 

 



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