親馬鹿な加賀さんが着任しちゃいました (銀色銀杏)
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第一作戦 鎮守府までは何マイル?
一、夢への旅立ち


初投稿
 こんな苦労を
   するとはな
       By銀色銀杏

はい、第一話です。なんとかかんとか書き上げられました、まぁ細かい前置きは省いてとりあえずどうぞ~


朝、起きたら顔を洗い畑仕事のために外へ出た。外へ出て空を見ると見事な朝焼けだった。こんな空をみると思いだす、私がかつて「艦娘」として「加賀」として戦いそして迎えたあの運命の日を―――

 

 

あの日は大規模作戦が終わり、全員がボロボロの状態で帰還した時のこと。ちょうど今のような朝焼けだった。皆が入渠した中で旗艦で損傷が一番軽微だった私は執務室で報告をしていた。私はその戦闘で練度が九十九になったにもかかわらず暗い顔をしていた。

 

「提督、第一艦隊帰投しました。」

 

静かな執務室に二人の声が響く、今は二人っきりだ。

 

「そうか、それで作戦結果は?」

「大破3、中破2、小破1です。」

「わかった、轟沈が一人も出なくて何よりだ。」

 

しかし、その提督も顔は暗い。当然だ、人類史上三回目となる大規模反撃作戦が失敗に終わったのだから。が、私は今はそんなことよりも気になることがあった。

 

「提督、()()命令は何の意味が―」

「加賀」

 

しかし、私の言葉は提督によって遮られる。彼は天才的なセンスを持つが、かなり個性的で悪く言えば変態の部類に入る。だが艦娘に対してはかなり優しかったので、多くの艦娘からは好意を寄せられている。因みに認めたくはないが私もその一人である。しかし、発言を遮られた私は少しムッとした。が、続いて発せられた言葉に私は凍りついた。

 

 

 

 

 

「結婚しよう」

「、、、、、、、、は?」

 

意味が分からなかった。確かに近々ケッコンカッコカリをするらしいという噂は聞いていたが、対象はもっぱら金剛や赤城さんの上に提督は駆逐艦好き、いわゆるロリコンである。しかも大規模作戦が終わった直後、それに結果は失敗、どう考えてもいまその話をするのかがわからない。ましてや、相手が私など――――――

 

「結婚してくれ。」

 

なおも提督は言う。内心うろたえながらも私は反応する。

 

「、、、なぜ今、このタイミングで?それに私以外にも相応しい人がいるのでは?」

「今だからこそ言うんだ、加賀、俺は()()命令のせいでおそらくもうすぐ軍法会議にかけられるだろう。」

「ッ!」

 

確かにそうだ、あの大規模作戦の終盤にあんな命令を下したのだ当然とも言える。だが知っている、あの場にいた私達は知っているのだ()()命令の本当の意味を。だからこそ私は反論した。当然だ、真実を知っている私達現場はあの命令は仕方なかったと言えるからだ。

 

「、、、なぜです。今すぐ()()事実を大本営に伝えられれば――」

「すまんがそれはできない。現状では上を納得させられるだけの証拠がない、それに報告しても()に感づかれて裏で手を回されてもみ消されるのがおちだ。」

 

絶句する。皆が知れば納得しないだろう。当然だ、なんだかんだで彼は軍人としてどうなのかというほど優しいのだから。真実を知っている者たちからすれば尚更だ。私だって納得できない。

 

「ですが!」

「しかたないんだ、納得してくれ。それとも何かいい案でもあるのか?」

 

歯がみをする、いい案など無い。彼の言う通りだからだ。しかし、このままでは彼がどんな処罰になるかわからない。最悪、銃殺刑になりかねない。 ならいっそのこと逃走させようかなどと考えていた時だった。

 

「、、、だが俺も軍法会議なんて御免被る。だから、、」

「?」

 

 

 

「俺は軍を抜ける。」

「なっ!?」

 

驚愕した。だがそれでは何の解決にもなっていない。たとえ軍からぬけたところで罪が消えるわけではないからだ。しかし次の提督の言葉でさらに驚愕する。

 

「俺が犯した罪については大丈夫だ。こちらも俺の親友と先輩が手を回してくれるからな。現場の方はアイツが、上に関しては先輩が何とかしてくれるようだからな。」

 

もはやただ驚くしかなかった。それもそのはず、彼の親友もまた提督を務めているし先輩という人物に関してはあまり知らないがかなり上に顔が利くと言われているのは知っている。故に疑問がわいた。

 

「提督、そこまでするのなら軍を抜ける必要も無いのでは?」

「そうだな、だがあの二人でも完全に罪を帳消しにできる訳では無い。ケジメとして俺がキチンと辞めなければならん。それに今回のことで軍には愛想がつきた。」

「そうですか、、、、」

「というわけで加賀、結婚してくれ。」

 

意味が分からない。そもそも話の関連性が見えない。それに軍を抜ければ罪に問われないのならば良かったが、軍を退役するのならケッコンカッコカリしても意味が無いのではと思った。

 

「しかし提督、軍を抜けるのならケッコンカッコカリをしても意味が無いのでは?」

「何を言っているんだ、正式な結婚だぞ!ガチの方だ!」

「、、、、、、、はぁ?( ゚Д゚)」

 

思わずすっとんきょうな声がでた。ますます意味が分からない、とりあえず理由を聞いてみることにした。

 

「なぜですか?」

「俺が退役したとしても罪からは逃げられるが、()の手の者が来るかもしれん。だから護衛が一人欲しいなと思ってな。」

 

なるほど、もっともな理由だ。しかし、ならば私よりも適任な艦娘がいるはずだ。例えば伊勢型戦艦の姉妹ならば屈強で格闘技もできる。ならば、、、

 

「それで本当は?」

「単に一人で抜けるのが寂しいし、ならこれを機に好きな艦娘とケッコンカッコガチしちゃおうかな~なんて。」

 

即答である。しかしやはり腑に落ちない、なぜ提督は私を選んだのか?

 

「、、、何故私なのですか?」

「一目惚れしたからだ。覚えているか?初めて会ったあの時。当時駆逐艦にしか興味が無かった俺がお前が着任の挨拶に来た時、俺は雷に打たれたように感じた。今でもハッキリ覚えている、俺はあの時にお前に惚れたんだって。だから―」

 

提督はそこで一旦言葉をそこで区切り、かがんで机から何かを取り出した。それは小さい箱だった、彼はその箱を開いて私に言った。

 

「加賀、好きだ、愛してる。結婚してくれ、そして俺の生涯の伴侶として俺のそばにいてくれ。」

 

一目惚れなどという単純な理由には呆れるしかない。だがここまで私を思う気持ちに心を打たれた。私には断る理由など無かった。私はなんだかんだで自分も提督のことを愛していたのだと気づき苦笑しながら言った。

 

 

 

 

「一航戦加賀、その申し入れ喜んでお受けいたします。」                       私は重ねて言った                   

「私も愛しています、提督。これから末長くよろしくお願いいたします。」

 

この時の私がどんな顔をしていたのか、その後提督がなんと言ったのかはよく覚えていない。だが私達は二人揃って軍を退役した直後に結婚、そしてその年に娘も産まれた。それから知り合いの艦娘からは親バカと言われるようになった。全くもって不本意だが、それでもあれからなんだかんだで十五年がたち―――

 

 

 

 

 

 

 

 

「――――さん!母さん!母さん!」

 

私の意識は戻ってきた、隣を見る。娘の水華がいた、今は十五歳だが今年で十六歳になる。普段ならまだ熟睡している時間だったはず。手伝いに来てくれたのだろうか?

 

「どうしたの、あなたが手伝いにくるなんて珍しいこともあるものね。」

「当然じゃない、今日から会えなくなるんだから。」

 

そうだった。今日からこの愛しい愛娘にはもうしばらく会えない。私は断られるだろうとわかってながらも言ってみる。

 

「あの事、考え直す気はないの?」

「何を言ってるのよ、やっと夢が叶うのに。」

 

やはりだ、考え直す気は無いらしい。どうしてこんなことになってしまったのだろうか。ことの発端は四、五年ほど前に遡る。当時十歳だった娘が突然こう言ったのだ。

 

 

 

 

 

「私、艦娘になりたい!」

 

当然私達は大反対した、私達は娘のことを溺愛しており、大抵のことは許してきた。が、今回ばかりは話が別だ。許すわけにはいかない。それは私達が娘には隠しているが、かつて二人とも現場の人間として戦場を駆け回り、そのたびに凄惨な光景を見てきたからだ。私達が生んだ子には平和な生活をして欲しいと思っていたが、どういう因果なのか。

 

「私はみんなを救うの!みんなの助けになりたいの!」

 

しかし、齢十歳ながらにしてでたこの発言に、私の夫で元提督のT督が折れた。そしてそのT督に説得される形で私も折れた。しかし次の争点で私達は一歩も譲らなかった。それは―――

 

 

 

 

 

寮生活か通学かである。

 

 

娘が通おうとしている艦娘養成学校は寮生活か通学のどちらかを選べる。学校から家までは少し遠かったので娘は寮生活を選ぼうとしていたが私達は断固として通学を選んだ。その私達の執念に今度は逆に娘が半ば呆れる形で折れた。何故私達が通学を選んだか、理由は一つ。

 

 

娘がいなくなるとめっちゃ寂しいからである。

 

 

私達夫婦の生活において娘は重要なポジションにいる。それはもう重要で半日に一回は顔を見ないと心配してしまう。娘が小学校の行事で三日間家を空けた時は一緒について行こうとした位である。(その時は娘に断固拒否されてしばらく心神喪失状態だった)故に私達は通学を押した。

まぁ、実を言うと私達は娘があの超高倍率を誇る学校に受からないと心のどこかで思っていたのだ。だが娘は私達に宣言した通りに受験を突破してしまった(?)のである。こうして、娘の夢への第一歩が踏み出された。もちろん通学である。

 

 

 

しかし、通学を選んで引き伸ばした娘との別れもとうとうどうしようもない形でやってきた。

 

娘の卒業である。艦娘養成学校を卒業したものは各地の鎮守府へとそれぞれ配属されて行くのである。そして今日こそがその日であった。

 

「、、、頑張りなさい。」

 

娘と二人、無言で畑仕事をしていく中、私はそう言った。

 

「、、、、うん。」

 

そして畑仕事は私の長い回想と共に終わり、私は娘と二人家に戻った。遅れて起きてきた夫も加えて朝食を取る。いつも通りの会話があった、いつも通りの午前中を過ごした、しかしいつも通りの時間もとうとう終わりを告げる。出発の時間である。

 

「荷物は持った?書類は?時間は大丈夫?」

「もう、母さんは心配性ね。」

 

何度も確認をする。それは夫が声を発するまで続いた。

 

「水華、いつでも連絡するんだぞ。」

「そうよ、いつでも連絡しなさい。」

「わかったわよ、暇があったらね。」

 

そして娘はこう言った。

 

「じゃあ、行ってきます。」

 

「「行ってらっしゃい。」」

 

そうして娘は呆気なく出ていき、扉はパタンと閉められる。普段の私達ならここで号泣し、一ヶ月は娘の幻影を求めさまよっていてもおかしくはない。しかし、今回ばかりは違った。私達は静かにこう言った。

 

「行ったか?」

「ええ、確かに。」

 

そして私達は口を歪めて笑い否、嗤いこう言う。

 

「そうか、ならば、、、、」

「かねてよりの計画を実行に移しましょう」

 

そう、私達は娘と離れるという運命を受け入れるわけがなかった。

 

ここに、「娘の夢を応援しよう大作戦」というなんとも可笑しな作戦が開始されたのである。

 

私の心は艦娘の頃のように気分が高揚していた。

 

「流石に気分が高揚します。」

「ああ、そうだな。」

 

全ては私達の愛しい愛娘のために―――

 

 

 

 

 

 

 

「しばらくサヨナラ、私の故郷。絶対に立派になって、戻ってくるんだから!」

 

両親がトンデモナイことを考えているとはつゆ知らず、夢と希望を持って少女は旅立つ。

 

 

 

 

 




第一話終了です。いかがでしたか?自分はもうちょいうまく出来たのではないかという気がしてなりません、これから書く内にだんだんと直していければと思います。
そしてこの作品に関する設定ですが、近日中に投稿しようと思います。
それではまた(o・・o)/~


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二、着任in横須賀鎮守府

とりあえず二話目を無事に仕上げられました!
劇場版艦これ早く見に行きたいなぁ、、、予定が空いてないけど。
スパロボ新作発売が待ちきれない!


side 瑞鶴

 

「いよいよ今日から、、、夢が叶う。」

 

私はその言葉をかみしめるように呟く。今日は自分にとって記念すべき日になる事だろう。ようやく夢に向けて、第一歩が踏み出せるのだから。ここまで来るのにどれだけの苦労をしたことか。親に大反対されながらも無理矢理に反対を押し切って進むと決めた道、その為に艦娘養成学校の狭き門を潜り抜け、卒業して、ここまできたのだから。母さんたちにあんな啖呵をきった以上、絶対に成し遂げなければならない。

 

「よーし!やってやるんだから!!」

 

まずは配属先に着いたら「建造」を受ける、これは在りし日の艦艇の魂をその身に宿す儀式だ。これを受けて、艤装をつけることで艦娘となる。

 

「『瑞鶴』かぁ、、」

 

「瑞鶴」、これが私の適正艤装の名であり、これからの私の名前でもある。建造後、自分がどのようになるのかには少し興味がある。しかし、いま最も気になるのは――

 

「提督さん、どんな人なんだろう、、、」

 

提督、それは艦娘を指揮する立場の人間である。そのため高度な状況判断能力がいるだけでなく、先天的な適正も必要だと言う。まぁつまり、私水華―もとい、もうこれからは瑞鶴のほうがいいか、の直属の上司である。これは大変重要なことだ、もし配属先の提督が艦娘をこきつかう、いわゆるブラック鎮守府の提督ならば即座に憲兵に報告しなければならない。そうでなくとも、提督の存在が艦娘のコンディションに大きな影響を与えるのは本当だ。

 

「どんな人かなぁ、、、、」

 

そんなことを考えている少女を乗せて、電車は進む。

 

目的地は、瑞鶴が配属された「横須賀鎮守府」だ。

 

 

 

 

 

遡ること数時間前、瑞鶴が家を出た少し後。

 

side美加(加賀)

 

 

娘が出てから少し、私は旅支度を整えて夫と共にある人物を待っていた。だが――

 

「、、、遅いな。」

「そうですね。」

 

来ない。約束の時間はもう過ぎているというのにくる気配すら見せない、そろそろ表に出て探そうかと思った時、

 

ピンポーン

 

と玄関のチャイムがなった、私と夫は玄関の戸を開け、きた人物を見た。

 

「よっ、二人共~この前の相談以来じゃん♪」

 

そう言って家に入ってきたのは夫の親友である。夫であるT督とは訓練学校からの付き合いで、T督が軍を若くして退役した後も実績を積み重ね、今では少将となりあの横須賀鎮守府の提督である。

 

そう、娘が着任する予定の鎮守府である。

 

「まぁ、外で話すのもなんだ、中へ入れ。」

 

T督のその一言で私達はリビングへ、そして早速例の計画について話し出す。

 

「それでだ、T督さん。あの話、本当にやる気なのか?」

「当然だ、娘のためなら例え火の中水の中だ。」

 

そう、私達の計画には彼の協力が必要不可欠なのである。別に私達は「娘を頼む」とか「説得してくれ」とかそういう事を頼む為に彼を呼び出した訳ではない。

私達が彼を呼び出した本当の目的、それは――

 

 

 

「お前の奥さん、美加さんをもう一度『加賀』としてウチの鎮守府に入れる。か、よくもまぁこんなことを思い付くなぁ。」

「まあな、もともとカイタイカッコカリ状態だったし。それにあの強さだからな、先輩に話したらすぐにOKが出た。」

 

そう、元々一時退役扱いだった私がもう一度前線へ復帰するためだ。そしてこれが「娘の夢を見守り、陰ながら応援しよう大作戦」の実態。つまり私が再び加賀となり、娘を陰ながらサポートするのだ。

 

「しっかしなぁ、どうにも納得できない。自分の親だぞ、普通気づくでしょ。」

「いや、それはない。艦娘の正体と容姿は国家の最重要機密の一つだ、私達は娘には海軍の大本営の事務課で出会ったってことにしてる。それに、もう一度艦娘に戻ったらかなり若返る、流石に気づかないだろう。」

「若返り、ですか。思えばもう十五年も経っているんですね。」

 

思い出話に花が咲く、まだ私が現役だった頃の話だ。しかしずっとそんなことばかりもしていられない。

 

「じゃあ、そろそろ行くか。しかし、本当にいいのかT督さん?もうかなり奥さんとあえなくなるぜ。」

「ああ、かまわんさ。この家を無人にするわけにはいかんしな。」

「ならいいんだが、、、たまには連絡してやれよ、でないと俺が寝取っちまうよ?」

「やめとけ、そんなことをしたらどうなるか、一番よくわかってるのはお前だろう。それに一応はお前よりかなり年上なんだからな。」

 

他愛のない言葉をかわし、私は荷物を持つ。提督は何としても娘より早く鎮守府へ帰らなければならないし、私は一時退役しても弓道の訓練などは怠らなかったが(娘には趣味と言っていた)それでも艦娘に戻った後、暫くは勘を取り戻す為に訓練をしなければならない。その為、私が横須賀へと行くのは少し後なのだ。提督と私は玄関で見送りに来たT督と別れた。別れ際、T督はこんな言葉をかわした。

 

 

「またな美加、いや『加賀』。二度目の前線、楽しんで来い。そして娘は任せたぞ。」

「ええ、任しておいてください。」

 

そうして私は二度目の艦娘としての生活を始めることとなった。

 

 

 

 

 

キィィィィ、、、パタン

 

 

 

 

「さて、、、俺も動くか。」

誰も聞いていない中、T督は一人呟く。心底楽しそうな笑顔で。

 

 

 

そして話は現在へと戻る

 

side 瑞鶴

 

 

「ここが横須賀鎮守府、、、、、」

 

家から色々な交通機関を使って三時間半ほど、私は支給された地図を頼りに横須賀鎮守府の前に立っていた。第一印象は「デカイ」の一言だ、養成学校の教本に載っていた写真を見たことがあるが実際に見るとではまるで違って見える。まぁそんなことは置いといて、と思ったが。

 

「まずは、、えーと、、、、どうすればいいの?」

 

わからん、とりあえず誰かに話しかけて見るか、、、と思っていた矢先だった。

 

「あの~。」

「ひゅい!?」

「今日から新しく配属された子がいると聞いたんですが、、、貴女ですか?」

 

後ろを振り返って見るとそこにはとても綺麗な女性が立っていた。髪を頭の後ろで一つにまとめており、和風の日傘を差した人で、同性の私でも一瞬見とれてしまった。と、思い出したように返事をする。

 

「は、はい!本日付けでここに配属されました!」

「やっぱり!私ここの鎮守府の提督の秘書艦を務めています『大和』と申します。どうぞ宜しくお願いします。」

 

「大和」、どこかで聞いたことがあるな~と思っていた私は三秒後にその答えに行き着き愕然とする。

 

「大和って、、、あの大和さんですか!?」

「ええ、私をご存知なのですか?」

「当たり前です!知らない人なんて居ませんよ!!」

 

「大和」それはかつて日本が誇る超弩級戦艦の名であり、いま目の前にいる艦娘の名前でもある。この大和型は現在世界で確認されているどの艦娘よりも高性能なのだが、その数はたった二隻である。その理由は二つ、まず一つは運用コストの重さである。大和型は超高燃費なので、数が多いとたちまち資源を食い尽くしてしまうのだ。しかし大和型の数が少ない本当の理由は、二つ目の艤装適正者の数だ。大和型の艤装適性が有り、尚且つ実際に艤装を装備できるほど高い適性を持つ者は現在何と二人しかいないのである。その為艦娘の最後の切り札とされていたのだ。その存在が今、目の前にいる、、、

 

「お会いできて光栄です!!」

「いえ、そこまでの事はしていませんよ。///」

 

実際に会った彼女はとても落ち着いていて、とても素敵な人だった。すごい人だなぁと感じていたが、本題を思い出た。

 

「わざわざ迎えに来てくれたんですか?」

「はい。初めてここに来て戸惑うかもしれないと思いまして。」

 

凄い、やはり歴戦の艦娘。振る舞いの端々からも気品と優雅さが窺える。それに新人である私のためにここまでしてくれる。と、密かに憧れを抱いていると、、、、

 

「え~っと、、、」

「『瑞鶴』です!よろしくお願いします!」

「はい!では瑞鶴さん、私についてきてください。まずは建造を受けてから提督に挨拶です。」

「わかりました!」

 

大和さんに連れられて私は鎮守府の中へ入って行った。

 

 

side加賀

 

瑞鶴が鎮守府へ入って三十分後、鎮守府正門前にて。

 

 

「どうだ?この門の前に立つのも久しぶりだろう?」

「ええ、本当に、、、」

 

私は娘と同じルートを通ってここに来ていた。私はこれから再建造をされた後、一週間の訓練を行い編入されることになっている。一週間もの間訓練をするのは、一時退役しても毎日鍛錬は欠かさなかったが流石に艦娘になった後では勝手が違うからだ。まぁその他、まがいなりにも「白加賀」とも称される身なのであまり無様な事も出来ないからというのもある。

 

「じゃあ俺はこれで行くけど、、もし娘と会ったらどうすんだ?」

「大丈夫ですよ、少なくとも一週間は会いませんし。それにもし会ったとしても仲良くはしないつもりです。」

「へぇ~お前ほどの親バカが珍しいな、、ってやめろ悪かったから無言で拳を構えるな!」

 

私は今回娘を近くで見守る為に次のルールを自分に課した。

一、自分の正体はなるべく秘匿する

 

一、娘とは決して仲良くしない、甘やかさない

 

一、もし娘と同じ艦隊に所属したら何が何でも娘を守る

 

以上の三つである。

個人的には二つ目のルールが一番辛いのだが、これにはちゃんとした理由が有る。正体がばれないようにというのももちろんだが、結局は自分の実力で生き残れるかが決まるので、娘を厳しく徹底的に指導していくつもりだからである。

 

「それではこれで。」

「ああ、一週間後を楽しみにしているよ。」

 

そう言って私は工房へ行こうとしたが、その前にやることがある。この横須賀鎮守府には私の現役時代からの古参が五人ほどいるというので、そこへ挨拶と口止めへ行くのだ。その一人で秘書官の大和にはもう話を提督を通じて通してあるので心配ない、最初は親友である赤城さんの部屋だ。部屋の前でノックをする。

 

「はぁーい、どうぞ。」

 

中では驚いたことに、赤城さんの他に日向、高雄という私の現役時代からの戦友がさらに二人もいて何やら話していた。同室なのだろうか?とにかく中に入る。

 

「久しぶりですね。」

「ああなんだ、加賀さんですか少し待っててくd、、、、って、え?加賀さん?」

「はい、お久しぶりです赤城さん。」

「えぇぇぇぇぇ!!!」

 

室内に響きわたる赤城さんの絶叫、なのに二人は落ち着いていた。とりあえず赤城さんを落ち着かせることに。そして数分後、、、

 

「びっくりしました、、まさかまた加賀さんに会えるなんて、、けどどうして?それに日向さんに高雄さんもこのことを知っていたんですか?」

「いや、提督から近々とても驚くことがあると聞いていたが、、なるほど加賀の復帰か。」

「ええ、本当に驚きましたわ。」

 

私は皆に事情を説明し、協力してもらうことを快く約束してくれた三人にお礼を言い部屋を出た。残る最後の一人金剛に会おうとした時、事態は起こった。

 

 

「すいません、まさか工廠が一杯だったなんて、、」

「いいですよ!あと五分くらいなんですし、それにこうして鎮守府をみて回れたんですから」

 

十字路になっている廊下の角から忘れもしない娘の声、そしてもう一人は大和だろうか。と、そこまで考えた私は思った。

マズイ、かなりマズイ。

このままでは娘に見られなぜ私がここにいるのかということになる、そうすれば私の計画は始まる前に終わってしまう。何とかしなければ、、、、、!!!

 

 

こんなところでは、、、終わらせない、、、!

 

 

 

瑞鶴から廊下の角まで残り十メートル

 

 

 

           

            

 

 

 

 

 

 




加賀さん、いきなりのピンチです!
このあとの展開どうしよう((((;゜Д゜)))
行き当たりばったりほど恐いものは無いですね、、、
ではまた次回


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三、建造

つなげられた、、、!少し強引かと思いますが何とか話をつなげられました、はやく更新ペースを上げよう!
(後ろを振り返る)
つみプラ「、、、」
ポケモン(ムーン)「、、、」
アニメの録画「、、、」

(´Д`)
駄目だこりゃ、、、


side加賀

 

 

瑞鶴から廊下の角まで残り十メートル

 

マズイ、このままではバレる!そう思った私はすぐに退避ルートを構築する。天井の通風口、、、はダメだ、ジャンプしても届くかわからないし大きな音が出る。ならば十字路であることを利用して何かしらで気を引いた隙に反対側へ行くか、、何かしらってなんだ!何もない!詰んだ、という言葉が頭の中で響く。いよいよ壁をぶち破るか、、、と思っていた私に奇跡が起きた。

 

瑞鶴が廊下の角まで残り五メートル

 

「ふぁぁ~良く寝た~さあ今日も鎮守府の事件を取材です!、、、って誰?」

 

向かって右側の扉が開き、中から艦娘が出てきた。顔も名前も知らない艦娘と目が合う。

 

瑞鶴から廊下の角まで残り三メートル

 

「んぎゃぁ!何をす――ムゴォ!」

一か八かだ、私は有無を言わさずに口を押さえつけて部屋へ転がり込む!

 

瑞鶴から廊下の角まで残り一メートル

 

そのまま扉を閉めて鍵もかける。

 

バタン!!

 

「あれ、大和さん何か物音が聞こえませんでしたか?」

「まさか~気のせいですよ~」

 

 

ツカツカツカ、、、、、、、

 

 

 

「だから何をするんd―――」

「少し黙って、うるさい。」

「はいぃぃ、、、」

 

どうやら行ったか、一安心だ。どうやら最悪の事態は免れたようだ、そこで私はこの部屋の住人である者を見る。彼女はさっきの私の声を聞いてから、怯えた目でこちらを見ている。

「ごめんなさい、どうやら驚かしてしまったようね。名前は?」

「は、はい。青葉型一番艦、重巡洋艦の青葉です。しかし貴方は、、?見たところ民間人のようですがここまで入ってこれるわけがありませんし、それにさっき一瞬みせたあの圧迫感は、、、?」

 

娘が鎮守府内を回っているとわかったいま、グズグズ事情を説明している暇はない。私は詳しい事情は提督に聞いてくれと言い、その場を後にした。思いがけず私の秘密を知る者が一人増えてしまったがそれはこの際仕方ない、今優先すべきは娘が私より先に金剛に会いその金剛が余計なことを喋らないようにしなければ、、、!そうと決まれば急がないと。確か娘が向かったのは逆方向、しかし何があるかわからない、急ごう。

 

数分後、私は金剛の部屋の前にいた、またもノックをする。

 

「Hey!少し待つネ~!」

 

そういって出てきた金剛はやはり提督からある程度の話は聞いていたのか、驚きながらも私の話を聞いてくれた。その他にも他愛ない話をしたり私は久しぶりにあった友人との会話を楽しんでいた。

 

「つまり、加賀が瑞鶴の母親だという事をsecretにすればいいんですネ?」

「ええ、お願いするわ。」

「しかし加賀のdaughterデスカ~、どんな子なんですかネ~」

 

と、その時。

 

「へぇ~ここがあの、、」

「ええ、金剛型高速戦艦一番艦の金剛さんの部屋です、金剛さ~ん入りますよ~?」

「「!!!」」

 

まただ、神様は余程私の邪魔がしたいと見える。ここは狭い一人部屋、ベッドの下は幅が足らない、クローゼットの中は厚みが足りない。このままでは、、、、

 

(加賀!こっちデース!!)

(!!)

 

 

 

side瑞鶴

 

 

 

 

「どうゾー狭い部屋だけどネー。」

「いっいえ!そんな、、」

 

ここは金剛型高速戦艦、一番艦の金剛さんの部屋だ。工廠がいっぱいだったので、私は大和さんの案内で鎮守府内を回る中ここへ来た。中はこぢんまりとしていたが、可愛らしい部屋だった。ベッドに冷蔵庫、テレビもある!壁際には小さいながらもクローゼットもある。元々鎮守府内の寮は基本共同生活なので一人部屋を持つというだけで、かなりの精鋭であることが窺える。それもそのはず、ここの鎮守府に所属している金剛さんは今まで撃沈した深海棲艦の数は三百隻を超え、「金剛石の矛」と言われる超がつくほどのベテランだからだというのを大和さんに教えてもらった。

 

「凄い綺麗です!いいなぁ、、」

「そんなことないネ~///」

 

私も何時か一人部屋を持てたらなぁ~、と思いながら窓から景色を見ていると、、

 

『瑞鶴さん、建造の準備ができました。至急、工廠の第三ドックへ向かってください。』

 

「あ、、、」

「行きましょうか瑞鶴さん、金剛さんお邪魔しました。」

「そんなことないヨ~いつでもきてネ!!」

 

 

キィィィィ、、パタン

 

 

 

side加賀

 

「行ったみたいネー、もう出てきていいですヨ加賀。」

「ええ、そのようね、、、」

 

危なかった、、、そう思いながら私はでてくる。窓から。そう私は窓にずっとぶら下がっていたのだ、窓から横に飛び出ていた僅かなスペースへと足を乗せていた。幸運だったのは下を通る艦娘が誰もいなかったということだろう、流石に娘が窓を覗いた時はかなりひやひやしたがどうやらバレずに済んだようだ。

 

「助かったわ、ありがとう。」

「別にいいデース、それよりも加賀、ドックが空いたということは、、、、」

「ええ、私も時間のようね。」

 

今のアナウンスは実は私のドックも空いたということを意味している、つまり私も行く時間になったという訳だ。サポートしてくれたお礼を言い、部屋を出た。  

 

 

 

 

 

金剛以外誰もいなくなった部屋に声が響く。

 

「あれが加賀のdaughterですカー、ふーん、、、」

 

その呟きを聞いた者は誰もいない。

 

 

 

 

 

 

数分後、私は工廠の近くの茂みに身を潜めていた。いや、わかっていた、「二度あることは三度ある」と言うし目的地も一緒なのだ、会わない訳がない。しかし、流石にこのタイミングはないだろう。何で工廠の前で説明を聞いているのか、中でやればいいだろう、しかも長いし、嫌がらせか!?

だが、呑気に説明が終わるのを待っている時間もない。何故なら私の建造予定時刻はもうとっくに過ぎているのだ。気を利かせて妖精さんが探し始めたらかなり厄介だ、つまり私は娘はもちろん妖精さんにも見つかるわけにはいかない。

 

「さて、どうしたものかしら、、、」

 

目下一番の目標は工廠内への潜入である、しかしその為には娘と大和を突破しなければならない。使えそうなものはないかあたりを見まわしてみた、するといいものが目に入った。これなら、、、!

 

「あっれー?どこやったっけ?」

「どうしたんすかー?天龍さん?」

「ああ望月か、遠征に使ったドラム缶を工廠に返さなくちゃならねぇんだけどよ、どっかいっちまってさ。」

「あれですか?」

「おお!ソレだソレ!あんがとな!」

 

ガラガラ、、、ゴトン

 

「うーん、こんなに重かったけか?まあいいや、報告報告っと、、」

 

 

 

 

 

バゴン!!

 

「悪かったわね、重くて、、、!」

 

怒りもそこそこ、あたりを見まわす。どうやら首尾よく工廠内に入れたようだ、ここまでくればこっちのもの、あとは一直線に通路を進めばつける。私のドックは一番奥だ、もうあと十メートルも無い、よし早く行こう。

 

 

 

 

 

 

 

しかし、そうは問屋が卸さない。

 

ギィィィ、、、

 

「ここがドックですか!」

「はい、ここで艦娘の建造や装備の開発、改修もやっているんです。」

 

またか、またなのか。いやもう一度言うがわかっていた、だがホントにこのタイミングは無いだろう!!どうする、ドアからここまでは三十メートル、道幅二メートル、天井の高さ同じく二メートル。とここまで考えて思いついた策が一つ、ここまでの必死の回避劇をぶっ壊すようなものだがこれしかない。

 

 

十秒後

 

「さあここですよ、瑞鶴さん。」

「は、はい!、、ってあれ?」

 

ヒュゥゥゥゥゥ、、、、

 

 

 

同時刻

 

「やっと着いた、、、」

 

私はドック内にいた、これでやっと安心できる。そう思った瞬間、体中から疲れが出てきた。数秒前、私が取った作戦は至極単純なものだ。ただ、窓から外へ出ただけである。工廠の窓から外へと出て、少し荒っぽいが自分のドックの窓を割って侵入した。しかし、これでやっと建造を受けられる、思えば艦娘だったのは十年以上前なのだ。光陰矢の如し、と言うが正にその通りである。また今日から艦娘としての日々が始まる、そう思うと興奮と共に不安も頭をかすめる。だが、思っていても始まらない、取り合えず建造を受けて訓練をし、それから考えよう。まだ娘の夢への物語はまだ始まってもいないのだから。そして私は数時間のレクチャーを受け、建造を受けた。薄れゆく意識の中、私は初めて建造を受ける娘のことを案じていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

これは夢、なのだろうか?しかし少し違うようだ、この夢ともしれないものを見るのは二度目になる。大海原の中で奮闘する航空母艦を私はみていた、次々と発艦していく艦載機、それと同じくらい落ちていく戦闘機。その船は戦場を渡り歩き、敵艦が轟沈する瞬間そして自軍の艦が轟沈する瞬間を見てきた。

戦うための船として生みだされたそれらは、等しく海へと還る運命にある。それは今見ている航空母艦とて例外ではない、私が見ているうちに()()にもその時がやってきた。敵艦載機の爆撃を受け、爆発を起こしゆっくりと沈みはじめた。やがて完全に沈んだソレからは、その艦と運命を共にした人々の思いが小さな光となり出てきた。それらが一つ一つ私に近づいてきた、そして私は光に包まれ―――

 

 

 

 

 

 

 

そして私は、再び艦娘になった。

 

 

 

 

同時刻、side瑞鶴

 

 

 

ここはどこだろう、確か私は建造を受けて、、、そこまで考えた時私の耳に爆音が飛び込んできた。周りを見渡すと、、、、、、

 

 

そこは戦場だった。どこまでも続く海の上で戦っている船、私が見ているのは何なのだろうか?そうしている内に一隻、また一隻と船が沈む中、巧みに敵の攻撃を避けている航空母艦の姿が目に入る。少ない艦載機を飛ばして必死に攻撃をかいくぐっている、私はそれから目が離せなくなった。次々に落ちていく戦闘機それでも懸命に攻撃を避け続ける船だったが、

 

「あ、、、、」

 

敵の爆撃が直撃、直後にその船は進めなくなり段々と傾いていった。そして艦を放棄することが決まったのか飛行甲板に乗組員が集まり始めた、乗組員の退艦が進む間も傾斜は進みやがて完全に沈没した。だが―――

 

「そんな、、、ひどい、、」

 

それでも敵の爆撃は止まらなかった、退艦した乗組員も爆撃を受け海に散っていく、運よく他の艦に救助されてもその艦ごと沈んだ者もいて、結局生き残ったのはほんの少しだった。そして、不思議なことが起こった。海の底から小さな光が上ってきたのだ、そして海の底に沈んだあの船から一際大きな光が上ってきた。海から上がってきた小さな光は同じく上ってきた大きな光に集まっていき、こちらへ近づいてきて体の中に入っていった。

 

 

 

 

瞬間、私の中に「何か」が流れ込んできた、それは思いなのか、願いなのか、はたまたただの勘違いなのかはわからなかった。だがそれはとても暖かく安心できる心地よいモノだった。そして、その記憶、いや魂が流れ込んだ。その空母は仲間の空母が次々と沈むのを見ていく中その幸運故か最後に沈んだ。その空母は熱い乗組員を乗せていた、一航戦と比べられながらも懸命に戦った海の漢達を。その空母の名は――

 

「、、、、『瑞鶴』、これはアナタの記憶なの、、、、?」

 

答える者は誰もいない。そして辺りが輝き始め、それに合わせ私の体も輝き始めた。そしてその輝きが限界を超え、辺りを白一色に染め上げて―――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして私は、艦娘になった。

 

 

 

 

 

 

数時間後、ドック内にて

 

「瑞鶴さん、建造おめでとうございます!」

 

私はその声で目を覚ました、時計を見てみるともう六時間も経過していた。建造を受ける前と身体はあまり変わらない、だが心にはあの光景、記憶そして魂が焼き付いている。あまり実感は無い、だが私はなったのだ、艦娘に!まずは提督に挨拶をして、そこから始まるのだ、私の夢が!

 

 

 

 

同時刻

side加賀

 

「久しぶりの艦娘の身体はどうですか、加賀さん?」

 

目が覚めたら隣に赤城さんがいた、どうやら無事に建造できたようだ。身体のあちこちを触ってみる、肌のツヤやハリも若いころに戻っている、鏡を見てみるとそこには若いころの私がいた。そして心の中にある空母「加賀」の記憶と魂、高揚感。

 

「いい気分よ、食堂に行って何か食べましょう。」

「いいんですか!?やったー!」

 

そんなやりとりをしているとあの頃の日々を思い出す、艦娘に再びなったのは娘を守るためだが、T督の言葉どおり少し楽しんでもいいかもしれない。私はそう思った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

この日、二人の艦娘が同時に建造された。この二人が進む水平線の向こうには何があるのか。

それはまだ誰も知らない、何せ物語は今始まったばかりなのだから。

艦娘親子の茶番、戦い。時々悲しみ、時々笑う。そんな日常の始まり始まり、、、

 

 

 

 

 

 

 

???「あれ、私の出番は?まぁいっか、まだまだ時間はあるしね。」

 

 




え~皆さんこんにちは、今回からここを任された大和です。
えっ?何で私が、、、ですか?えっと~それは~(汗)
提督「これから出番が暫く少ないからだろ~」

メシャァ、、、

後書きを任せられるなんて光栄です!大和、推して参ります!
とは言ったものの、今回はここまでみたいなのでこの辺でお開きとしましょう。
それでは皆さん良い日を~

提督「、、、大和ホテル」ボソッ

グシャァ、、、







おまけ(リアルに昨日あった)

作者「早く艦これの映画見に行きたいな~」
知人「見てきたよ~」
作者「ガチで!?」
知人「それで「あっやm」内容が~」

数分後

知人「どうだった~?」ゲス顔
作者「てめえの血は何色だぁぁぁ!!」

ネタバレされました、もう死にたい、、、
orz 


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四、邂逅 提督

もうすぐ年末か~そろそろクリスマスですね。
新しいグラフィックも追加されたらしいし、年末を楽しみますか!

パソコン「オイ、仕事しろよ」
伝票「金払えや」
部屋「大掃除やれ」

逃げるんだよォー!!
ΞΞг(;゜Д゜)」



〈悲報〉
12月10日20時
キス島沖にて
駆逐艦 暁 

轟沈


海へと還った魂に黙祷を、、、


side瑞鶴

 

執務室前

 

建造が終わった後、私は大和さんと共に執務室前に来ていた。

 

「提督には友達のような感覚で接するほうがいいですよ。」

「は、はい、、、」

 

そう言われてもなぁ、、と思いながら廊下を進んで行く、提督は仮にも直属の上司にあたる人である。そんな接し方上手く出来るだろうか、、、

 

「そこまでかしこまらなくても大丈夫ですよ、ほらあんな風に。」

 

そう言って執務室前を指差す大和さん、すると目の前の艦娘と提督らしき人の声が聞こえた。

 

「提督~今日ちゃんと潜ってよ、もうすぐでイベクエ終わるんだから~」

「るせぇ!こちとらガチャ券をあつめにゃならんのだ!俺はもう全難易度クリアしてるし野良と行けや。」

「ケチ~!最高難度が鬼畜だから手伝ってって言ってるんでしょ!」

「や~だね、他を当たりな。」

 

、、、とてもフレンドリーな鎮守府のようで安心した。

 

んなわけあるかぁぁぁ!どういうこと!?司令官ってもっとこう、、なんかできる人っていうカンジじゃないの!?ここってあの横須賀鎮守府よね?なんでゲームの話をしているの!?もっと厳かで日々の鍛練を欠かさない「精鋭部隊」というイメージがあったんだけど、何かの間違いだったの!?

 

「驚かれましたよね、、、で、でも真面目なとこもあるんですよ!」

 

苦笑しながらも正直なことを言う大和さん、はい、その通りです。あと色々な意味で安心しました。とは口が裂けても言えない。代わりに愛想笑いで精一杯のフォローを試みる。

 

「そ、そんなことないですよ!艦娘ととても仲が良さそうで良いじゃないですか!」

「はぁ、、、少し待っててくださいね、直ぐに終わらせますので。」

 

そう言って大和さんは執務室に入って行った。数分後、拳に何か赤い液体をつけて大和さんと白目を剥いた艦娘が出て来た。あれは血ではない、そう思いたい、いやそうであってくれ。

 

「お待たせしました、いきましょう。」

「はい、、、」

 

少し、いやかなり心配だがそんなことを考えても仕方ない。とにかく執務室の前に立つ、さっきのやり取りから俗に言う体育会系なのか?そんな想像をしながら気持ちを落ち着かせてドアをノックする。

 

 

コンコンコン

 

「入っていいぞ」

 

ガチャ、、、

 

提督の第一印象は、、、はっきり言ってあまり良くはない。髪はボサボサで姿勢もクデ~っとしている、全体的に無気力なイメージだ。しかし、そこそこ引き締まった体つきに何を考えているのかわからないが強い光を宿した瞳、やはり横須賀鎮守府の提督はただ者ではない、と考えていた私に眼光をぶつけながら提督は開口一番こう言った。

 

 

「君は駆逐艦の子達は好きかね?」

 

 

ああ、やっぱりダメだおしまいだぁ、、、と心の中で泣きながら、笑顔のまま目を閉じてフリーズしていると、

 

メッシャア、、、

 

何か聞こえてはならないような音が響いたような気がした、ゆっくりと目を開けるととそこには拳を顔面にまるで漫画のようにめり込ませた大和さんがあくまでも()()で言った。

 

「提督~、さっき言いましたよね『真面目』にやってくださいって」

 

そう言って拳を引き抜く、するとあり得ないことに即座に復活した提督が言い返した。提督は体の作りどうなってんの!?

 

「あぶなかった、、、妖精さんがくれたダメコンが無ければ即死だった。それに大和、俺にとってそんなことはフリでしかないことを覚えておけぇ!」

「じゃあもう一度殴れば死にますね。」

「悪かった真面目にやろう。」

 

変わり身早いな!と思いながらもなんだかんだでちゃんと話ができる、私は早速着任の挨拶をする事にしようとしたが、またしても提督が先に口火を切った。

 

「航空母艦『瑞鶴』、翔鶴型二番艦で第五航空戦隊に所属していた艦。最後の機動部隊が壊滅するその日まで生き残ったという幸運艦か、ようこそ横須賀鎮守府へ、歓迎するよ。」

 

、、、なんだこれは、まるでさっきまでのやり取りが嘘のように感じる、これが本当の姿なのか。だとしたらさっきの眼光も本物なのか?ギャップに戸惑いながらも言葉を返す、アドバイス通りフレンドリィに。

 

「はい、翔鶴型航空母艦二番艦、妹の瑞鶴です、それに幸運の空母なんて、、、一生懸命やってただけよ。」

「そうか、ウチに空母が来るなんて久しぶりだからな。しばらく慣れないかもしれないが宜しく頼む。」

 

なんだ、普通じゃん。と思いながら必要事項の確認、訓練学校でのこと、深海棲艦などについてなど色々なことを聞かれた。少々質問が多いような気がしたが特に気にもせず、話は出撃や任務、戦闘に関することなったのだが、、、

 

「い、いきなり第四艦隊に入る!?」

「ああ、ウチの鎮守府は空母が殆どいなくてな、今いるのは赤城、翔鶴、蒼龍、飛龍そしてお前の五人しかいないし軽空母に至っては一人しかいない。一応もう一人空母が来る予定なんだがな。」

 

おかしい、空母が五人しかいないなど。一見主力艦隊が四つしかないことから十分な数に見えるが実際はそうではない、まず第一に主力艦隊は確かに四つだがそれ以外にも遠征艦隊、警備艦隊、それに民間船舶の護衛艦隊など深海棲艦との戦いだけが艦娘の仕事ではない。

しかもよしんば主力艦隊だけで使われていたとしても空母は少しの損傷でもかなりの入渠時間を要する、とても手が回らないはずだ、そのための軽空母なのだが、、、こちらは一人しかいないという始末、だがあとから来る予定の艦娘を含めても六人、これならなんとか足りるとは思う。

しかしそうなると今までどうやって空母を運用してきたのか、もし損傷をほったらかしにして出撃を繰り返していたのならブラック鎮守府として憲兵を呼ばなければならないがここはあの横須賀鎮守府だ、そんなことはないと思いたい。

 

「あの、なぜ空母をもっと増やすようにしないのですか?」

「ここは国内だから遠洋の鎮守府に比べれば危険はあまりない、ならここに艤装適正者の少ない空母や軽空母を配置するよりか遠洋の鎮守府の最前線の方がいい。」

 

嘘だ。確かに提督の言う通り空母系統の艤装適正者の数は少ない、私の適正艤装である瑞鶴はその空母系統の中でも適正者が殆どいない。私がここに来れたのもその稀少性故と言っても過言ではない。しかしそれならば尚のことここに空母系統の適正者を配備し、精鋭として鍛え上げた方がいいのではないか?

と、多少の違和感が残るものの提督の決めたことだ、しかもいきなり主力艦隊の一員に加われるとなれば反論する事は何もない。

 

「了解しました。」

「よし、それじゃあ今日はこれまでだな、その他の詳しいことに関しては明日。部屋の鍵を渡すからそこに書いてある部屋に向かってくれ、何か分からないことがあったら同居人に聞けばいい。」

 

そう言って鍵を渡してくる、受け取るとタグがついていてそこに部屋番号らしきものが書いてあった。

 

「同居人はついてからのお楽しみだ、荷物はもう運びこんであるとのことだ。」

「ありがとうございます。」

 

そうして私と提督の初対面は終わった、ただ気になる点がひとつ。空母を配置しない他にあの提督、艦娘ととてもフレンドリィだがどこか影があるように感じるのは考えすぎだろうか?

 

 

 

キィィィ、、、パタン

 

 

 

執務室内

 

提督と大和は暫く無言だった、しかし。

 

「行ったか、、、大和、あの艦娘どう思う?」

「どう思う、とは?」

「お前の目でからはどう見えたか、だ。」

 

唐突にそんなことを聞く提督、何か意図があるのかと最初大和は思ったが考えても詮無きことと思い、問われるがまま答えた。

 

「訓練学校で優秀な成績を修めていると聞いています、確かに状況判断能力は高そうですが、、、」

「ああいうタイプは実戦に弱い、だろ。」

「はい。」

 

そう、提督の言う通り瑞鶴は確かに横須賀鎮守府に配属されるだけあってかなり優秀な成績を修めている。が、そういうタイプは総じて実戦に弱い、大抵は初戦闘で心をやられてしまう。

 

「そうか、、、お前はどう思うよ、いるんだろ。」

 

あれ、と大和は思った、いま執務室にいるのは私と提督の二人だけのはず、独り言にしてはおかしい。なら提督は一体誰に話しかけてるのか?そしてその答えは直ぐにでた、相手の返事という形で。

 

「そうだね~確かに実戦に弱いかもしんないけど、あの洞察力だけでもかなりのものだよ。提督も見たでしょ。」

「ああ、初対面なのにもう空母の有用性とここの重要性を重ねあわせて早くも違和感に気付いた、流石アイツの娘だよ。」

「うん、しかもあの人の娘が戦闘に弱いなんて思えるの?」

 

まあな、と提督は答える。空母は私情から少し反対だったがアイツの頼み、断るわけにもいかない。話相手は依然姿を見せなかったが提督は気配からなんとなく察していた。

 

「それより、お前が来たってことは()()()方面のことでなんかあったのか?」

「いんや、オモシロそうだったから来てみただけ、んじゃね~」

 

なんだそりゃ、と思った瞬間には声も気配も忽然と消えていた。まるで最初から何も無かったかのように。

執務室に再び静寂が訪れる中で今度こそ提督は独り言を呟く。

 

「アイツの娘、か、、、」

 

 

 

 

 

 

 

「同居人かぁ~どんな人なんだろう?」

私はある部屋の前にいた。そう、今日から私の部屋になるところだ!やはり一番気になるのは同居人、つまるところルームメイトだ。やはり同じ空母で姉妹艦の翔鶴さんかなぁ?それとも同じ部隊の人かなぁ?そう胸を踊らせながら私は部屋の鍵を開けた。

 

「失礼しま~す、今日からこの部屋d」

「」

「えっ、、、」

 

まず目に飛び込んで来たのは白い犬の顔、、、とそれを被っているらしき人の体がある。一瞬、本当に一瞬だがあの某会社CMを思い出してしまったのは気のせいだと思いたい。

 

「それって、、、お〇さん?でs」

「だまれ小僧!!」

「私は女です!」

「そっちかいっ!?」

 

と言って突っ込みを入れながら相手はようやく顔を出した。銀色の髪を緑色のリボンでとめた女の子で私と同い年に見える。

 

「え~っと、私は軽巡洋艦の夕張よ。今日から宜しく!!あっ堅苦しくしなくても呼び捨てでいいわよ!」

「じゃあお言葉に甘えて、空母瑞鶴よ。宜しくね!」

 

よかった明るそうな人で、これなら楽しく過ごせそうね。と、思いながら部屋を見渡すと壁一面にアニメのDVDがずらりとならんでいた。内容もアクションからラブストーリーなど多岐に渡っていた。

 

「私は見ての通りオタク!!特に新型の兵器とアニメには目がないわ!!」

 

とても明るい同居人、なんだかんだあったがこれなら楽しくなりそうだ。と、私は考えるのだった。

 

 

 

 

side加賀

 

スパコーン、、、

 

夜、誰もいない弓道場に乾いた音が響く、ここは鎮守府内の一角にある施設である。

 

「やはり、、、少し鈍ったようです。」

 

やはり艦娘になると勝手が違う、私の腕は現役の頃と比べるとその八割程まで落ち込んでいた。まぁこの調子でやれば予定通りに一週間で腕は思い出すだろう、下手をすればあの頃よりか上達するかもしれない。私は娘に会いたいという流行る気持ちを抑えつつ間違っても他の艦娘に見られないように開放時間外で練習をしていた、ちなみに寝泊まりもここでする事になっている、少し肌寒いがまぁ一週間の我慢だ。あぁ早く娘に会いたい。

 

「流石です加賀さん、現役の頃と比べても遜色ありません。」

 

はっ、と思い後ろを見るとそこには赤城さんが立っていた、一体何時からいたのだろうか。

 

「いえ、まだまだです。それより赤城さん、何時からそこに?それとご用件は?」

「さっき来たばっかりですよ、それに用という程でもなくてただ顔を見に来ただけですよ。」

「そうですか、、、」

 

正直少し、いやかなり嬉しい。ずっと一人でいたためにちょっと寂しく感じていたのだ、それに、、、

 

「あともう一人いますよね、赤城さん。」

「えっ?」

 

そう言って真後ろの天井と壁の境目に視線を向けて続ける。

 

「そろそろ姿を現したらどう?さっきからその気配バレバレだから、それとも私に何か後ろめたいことでもあるのかしら?」

 

 

 

、、、、、、、、、

 

 

 

「いや~お見事!流石加賀さん!やっぱり加賀さんだけは騙せないや!」

「あなたは、、、!」

「やっぱり、、、」

 

そう言いながら姿を見せたのは私にとって見覚えのあるもの、頭の横にお稲荷さまのお面を着けた艦娘だった。しばらく前にここの鎮守府に配属されている艦娘で私と面識のあるのは五人と言ったが、あれは嘘だ。今目の前にいる艦娘を含めて六人だ、彼女の名は「川内」ここ横須賀鎮守府の提督と私の夫であるT督とはかなり長い付き合いだ。それは彼女がある特別な事情を持っているからだが、その話は次の機会にするとして今は、、、

 

「あなた今回は何が目的?まさか挨拶ってわけでもないでしょうに。」

「いんや、そのまさかだよ。ただ挨拶に来ただけだから。じゃあね~」

 

そう言ってこちらが拍子抜けしている間に彼女は夜の闇に紛れて消えていく、あれはあれで根は優しくて無邪気なのだが、抱えている事情が事情なだけになんとも言いがたい。と、赤城さんが声をかけてくる。

 

「あ、あの加賀さん、そろそろ就寝しては、、、」

「そうですね、今日はここまでにしておきます。」

 

もう時間も時間だ、もう少しやっていたいがまだ一日目だ、焦らなくても時間はたっぷりとある。私は指定された部屋へ行こうとしたが、また赤城さんから声をかけられる。

 

「加賀さん、ここで寝るのではなく私の部屋で寝ませんか?」

「いいのですか?たしか赤城さんは一人部屋では?」

「いいんですよ、加賀さんが戻って来るにあたって今日から二人部屋に移動させてもらったんです。」

 

胸がつまる、やはり彼女は変わらない。現役の頃から、何も。

 

「すいません、私なんかの為に。」

「謝らないで下さい、私はまた加賀さんと生活できるのが楽しみなんですから!」

「、、、ありがとうございます。」

 

そう言って私は笑う、赤城さんも笑う。赤城さんのことを変わらないと言ったがそう言う私も変わってない、娘のこともあるが私は私なりに楽しんでみよう。そう思い赤城さんと共に弓道場を出る、目指すは私の、いや赤城さんと私の部屋だ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「やっぱり加賀さんは変わらないなぁ~久しぶりに会えたから嬉しくなっちゃった!」

 

鎮守府の屋根の上、欠けた月を背にして川内は呟いた、どこか影のある顔には似合わないこの上なく無邪気そうな笑みを。

 

 




皆さんこんにちは、大和です。

気温も下がってきて寒い中で皆様いかがお過ごしでしょうか?
私はこの時期になるとこたつが欲しくなりますね、けど家具コインがなかなかたまらなくて。
さて、瑞鶴さんが本格的に着任です!
作者が少しはっちゃけたようですが大丈夫でしたか?
何かあれば言って下さいね、物理的にシメておきます。
後、作者曰く加賀さんと瑞鶴さんが交わったら第三者視点から書くのもいいな~と言っていたんですが、どうですかね?

提督「大和~ご飯だぞ~」

はーい、今行きますね。
さて今回もいかがでしたか?

次回 初陣の汽笛 

次回も瑞鶴さん初戦闘です!

ご飯~♪ご飯~♪


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五、初陣の汽笛

第五話投稿です!ただこれで書き貯めたものが無くなったので、一週間に一本になりそうです。
その投稿期間も変化するかもなのでその辺もよろです。


まだ暁を轟沈させたショックから立ち直っていません、今年は駆逐艦を愛でることは無理そうです、、、
暁 ゴメン、、、、

映画艦これ観てきました!!

分かったこと

一、良かった、救いはあったのだ
二、深海棲艦カワユス、あらたな「何か」に目覚めそう
三、大和さんはやっぱりかわいい
四、そして加賀さんガチ天使だわ
五、二期を所望する

注意!!
この話から作者の考えたオリ武器などが多数登場します、無理ですという人はお戻りを、おけな方だけどうぞ




side瑞鶴

 

 

「はぁ~疲れたよ~」

「そんなこと言わない!まだ一週間も経ってないのに!」

 

私がここに着任してもう五日、ちょうど昼時の食堂でおもいっきり愚痴る私、それを向かいの席で聞いてくれている夕張にツッコミを入れられる。ふてぶてしく私は反論する。

 

「だって~最初の頃は経験不足だからって演習も納得できたんだけど、いい加減に実戦に参加してみたいよ~」

「だ~か~ら~そんなこと言わない!深海棲艦の進行がここ一週間ないのは久しぶりなの!それだけ海が平和ってことなんだから!」

「わかってるよ~けど~」

 

そう、私が着任した瞬間から全く深海棲艦の侵攻がないのである。最初の頃は実戦経験がない私はいきなり戦闘をするのかと戦々恐々としていたが、演習ができる期間があり嬉しいと思ったがこうも出ないと流石に、、、はっきり言って暇なのである。もう演習だって後は実戦で覚えることしか残っていない。

 

「私も行きたいな~遠征。」

「だ~め、遠征は遠征部隊に任せて私達はここで待機なの。一応主力艦隊でもある私達が鎮守府に居なくてどうするのよ。」

 

そんなやり取りをしていると食堂の時計が鳴る、演習の時間が来たようだ。この鎮守府に限らない話なのだそうだが艦娘の一日は最低限の演習と座学さえすれば後は自由というかなりフリーな日常なのだということを私はここに来て知った。まぁその()()()がかなりの量なのだが。

 

「もうこんな時間か、そろそろいかなくちゃ。」

「頑張っているようですね二人とも。」

「あ、翔鶴姉、、、」

 

そう言って来たのは私の姉妹艦である翔鶴型一番艦の翔鶴、ここに来て間もない私に優しく接してくれ、たった数日で本当の姉妹のような仲になったのだ。

 

「これから演習?」

「うん、日向さんたち第一艦隊とで。」

「ウチの主力じゃない!?大丈夫なの?」

「正直厳しい、、、」

 

そう、今回の演習相手は外部の鎮守府ではなくウチの鎮守府の第一艦隊が相手なのである。ここ横須賀鎮守府の最高戦力だけあって練度がずば抜けて高い、普通に戦ったらまず勝ち目はない。本当だったらあまり戦いたくない相手である、、、が、みすみす負ける訳にもいかない。

 

「まぁただ負けるるつもりはないわよ、空母としてのベストを尽くす!!」

「頑張って!!」

「いよっ!幸運の五航戦~♪」

 

そんなに言わないでよ~///と照れたりしていた時だった。

 

ピンポンパンポン

 

『え~第四艦隊の隊員は本日予定していた第一艦隊との演習を中止し、本日13:00に執務室へ集合。繰り返す、、、』

 

「ねぇ瑞鶴、これって、、、」

「ええ、行ってくる。」

「頑張れ~ずいっち~」

 

現在の時刻は12:37だ、こんな急に主力の一端である第四艦隊に提督自ら集合をかける理由はやはり深海棲艦以外にないだろう。ついに実戦なのか、いままでの演習とは違う本物の戦場に心を震わせる。ここから執務室までは少し距離があるが今から行けば余裕で着くだろう。そう思って二人と別れると執務室へ向かい、着いたのは集合時刻の五分前であった。

もう流石に他の子達も着いてるだろうな、と思いつつドアを開ける。

 

「第四艦隊所属、瑞鶴です。失礼しま――」

 

目の前に広がっていたのは、、、

 

「うわっ!?榛名お前トゲソー投げるなよ!!」

「いや~ご主人様マジメシウマですわ~www」

「榛名!全力で投げます!」

「はわわ、トゲソーにかすっちゃったのです!」

「私の計算によると、まもなくキラーがするはず、、」

「トリキノきたわ!これで追い付いてやるんだから!」

「緑コウラよく狙って、、、発射!!」

 

提督と大和さん、そして第四艦隊の面々がマ〇カー8をやっている場面だった、、、

 

三分後

 

「チッ、二位かよ。トゲソーさえなければ、、、!」

「フッ、私のヨ〇シーに勝てる者など居ないんですよ。」

「頑張ったのに、、、五位なんて、、、」

「やったのです!三位なのです!!」

「私が最下位なんて、、、!計算が狂っていたの!?」

「六位か~ちょっと残念だけど、おめでとう電!」

「四位ですか、、、まだまだ修練がたりませんね。」

 

そう言ってくつろいでいるのは提督と大和さん、そして第四艦隊である霧島、榛名、漣、電、雷である。何故か参加している大和さんの代わりに私がツッコミを入れようとした時、提督がこっちを向いて言った。

 

「よし!次はサン〇ャインくうこうだ!」

「会議始めろぉぉぉぉぉ!!!!」

 

 

 

 

 

また数分後(結局やった)

 

 

 

「それでは会議を始める。と言っても皆集まった理由は察しているだろう。」

「提督、やはり、、、」

「ああ、そうだ。遂に久しぶりのお出ましだ。」

 

そうそう、この感じ、この雰囲気だ。これこそあるべき姿だ、と思っていたが流石に気持ちを改める。今は作戦会議中なのだ

 

「深海棲艦、その艦隊が鎮守府付近の海域に出現したのが今から約一時間前の11:57に確認された。」

「それって、、、!」

 

その言葉に息を飲んだ私を含む第四艦隊の面々、それもそのはずここは仮にも国内の鎮守府だ、その付近の海域と言ったら国内ということになる。これは大問題だ。

何故大問題かと言うと艦娘が配備されはじめて数年間、これまでの戦いによってここ日本付近の海域はやっと安全が確保されつつある、しかしそこに深海棲艦のお出ましだ、普通ならここまで接近される前にもっと外洋の鎮守府が気づいて撃退しているはずなのだ。事と次第によってはまた日本付近の制海権を失うかもしれないのだ。

 

「ご主人様~ちょっと質問おけ?」

「いいぞ」

 

ここでいち早く冷静になった漣が手を挙げる。

 

「まぁ百歩譲ってここまで接近された理由については置いとくとして、、、何故ゆえワタシ達?」

「何故か、とは?」

 

途端、漣の目付きが別人のように鋭くなる。

 

「だ~か~ら、なんで()()艦隊なの?ここまで来たってことは相手は防衛網を突破してきたかなりの手練れ、今日演習ってことでフリーのはずの第一艦隊のほうが安全確実じゃないの?あくまでも私達は主力の支援が主な任務なのよ?」

 

その通りだ、ここまで接近されたということは同時に外洋の鎮守府の防衛網を突破してきたということだ。外洋の鎮守府だからと言って決して練度が低い訳ではない、実際にここに接近される上で必ず通る「八丈島鎮守府」はかなりの練度を誇る。これを突破するということは少なくともそこ以上の練度があるということだ。

 

「それについてだが、、、今回第一艦隊は出撃させられない。」

「どうしてなの!」

 

かなりの剣幕で捲し立てる漣、だんだんと険悪な雰囲気になってきてそろそろ不味いなと思った時、霧島が漣を遮って手を挙げた。

 

「ちょっとよろしいですか、司令?」

「なんだ?」

「敵の数と艦種は?」

「すまん、まだ確認中だ。」

 

だったらなおさら、と漣が捲し立てる中で霧島は提督の話を聞いて少し考えこんでいたようだが、少したちこう言った。

 

「なるほど、そういうことですか、、、」

「どういうことなの、霧島?」

 

その場にいる全員の目が霧島に集まる霧島はあくまでも予想ですが、と前置きをして話始めた。

 

「司令、ここまで接近されたのは突破されたのではなく『くぐり抜けられた』と考えているのではないですか?」

「そうだ、それが今回の理由だ。」

「わかりました。」

 

そう言って下がる霧島、私もそのやり取りを聞いてようやく理解した。そう、改めて考えてみればそちらの方が確率がずっと高い、なぜ考えつかなかったのだろう。

 

「ど、どういうことなのです?」

 

どうやら霧島以外の第四艦隊の面々は漣を含めまだ理解できていないらしい、私は事情を説明するために解説を加える、なるべく簡単に。

 

「くぐり抜けてきたって事はレーダーや電探に反応しない、これが何を意味するかわかるでしょ。」

「、、、!つまり敵は潜水艦の可能性が高い!」

「そう言うこと、私達の鎮守府の第一艦隊は戦艦と空母しかいない。だから潜水艦だとしたら手の打ちようがないの、ギリギリ対応出来るとしても日向さんの瑞雲ぐらいね。」

 

そう、私達の鎮守府の第一艦隊は正に大艦巨砲主義を体現したような編成なのだ。そのため殆どの戦闘ではほぼ無傷で勝てるのだが如何せん爆雷を装備できないために、潜水艦にはめっぽう弱く対抗手段がないのだ。

納得した漣が謝罪し引き下がることでこの諍いは終わった、続いて詳しい作戦内容が伝達される。今回の旗艦は霧島、陣形については未だ敵の艦種不明だが潜水艦の可能性が高いため単横陣で出撃。第四艦隊の出撃メンバーは例によって霧島、榛名、漣、雷、電そして瑞鶴である。

 

「それでは各員健闘を祈る!解散!」

「「「「「「了解!!」」」」」」

 

 

 

 

全員が執務室を出ていきそして全員が出て行った後、大和は提督に話かけた。

 

「加賀さんにお伝えしなくてもよろしいんですか、提督?」

「ああ、こちらから言わなくても、、、ほら来た。」

 

提督が言った次の瞬間、提督の机に設置されている内線のベルが鳴った。提督は驚く素振りも見せずに受話器を取った。相手は案の定加賀であった。

 

「やっぱり来たか、んで要件は?」

「戦闘区域のレーダー映像のデータが入っていてリアルタイムで戦況を伝えられる何かを持ってきて。」

「どっから襲撃の情報を仕入れたかは聞かないとして、そんなに娘が心配か?」

「ええ、親が子供の心配をして何が悪いことでも?」

「わかった、わかったから。今すぐ赤城の部屋まで持って行ってやるよ。」

「ありがとう。」

 

そう言って電話は切れる、提督は受話器を置いてふぅ、とため息をつくと。棚からかなり大きい薄い板を取り出した、そしてそれの電源を入れると鎮守府周辺の海図及び敵艦隊、自軍の艦隊が簡易的に映し出された。

これは提督のみが持つことを許されるもので、作戦海域の様子を簡易的にだがリアルタイムに表示できる便利アイテムなのだ。

 

「大和、俺は今から赤城の部屋に行くから敵艦隊の事が分かったら報告よろ。」

「了解しました。」

 

そう言って提督は部屋を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

鎮守府内 第二抜錨ハッチ

 

 

六人の少女達を乗せたリフトが降りていく、やがて最下部まで来ると今度は前に動き出す。

 

「いよいよ出撃ね、、、!」

 

私は興奮していた、これから始まるのは訓練学校やここでやった演習のような「お遊び」ではない、本当の戦闘が始まるのだ!

 

リフトが遂に波打ち際までくる、潮の香が肌を擦る。そして足元周辺のハッチが割れて足に艤装を取り付けていく、すると足元が窪んだかと思うと水が流れこんできた。しかし私達の足は濡れない、私達は水の上に文字通り「浮いて」いた、それと同時に側面の壁に設置されたパネルが回り始め、「霧島」、「榛名」、「漣」、「雷」、「電」、「瑞鶴」と表示されたパネルになって止まる。次の瞬間に側面の壁が開き中から多数のアームが伸びてくる、それらは私たちの全身に艤装を装着すると元の場所へ引っ込んでいった。そしてここの鎮守府の放送担当である大淀さんのアナウンスが流れる。

 

 

『皆さん艤装の装着は完了しましたね?』

 

私達が答えた後大淀さんから簡潔に報告がある。

 

『今回の敵の艦種は未だ不明ですがかなり近くまで接近されました、迅速に会敵するためにカタパルトシステムを使います。』

 

カタパルトシステム、それは艦娘を迅速に現場へ投入するために開発されたシステムの一つ。艦娘の足に使い捨ての高速艤装を装着し、超高速で戦場へと迎えるのだ。しかしこの高速艤装はコントロールがほとんど効かないのだ、本来は艦娘の機動性を底上げする計画だったのを再利用したらしい。

そう思っている間に全員の足の艤装の上から更に分厚い艤装が取り付けられる、ローラースケートに少し似ているが少し違う、実は私はこのシステム初体験なのである。少し緊張していたのが表情に出たのか、霧島から声をかけられる。

 

「そういえば瑞鶴さんはこのシステム初体験でしたっけ?」

「は、はい、、、」

「なら一つアドバイスを、このシステムを使用している時はあまり喋らない方がいいですよ。」

 

え?それってどういうことですか?と聞こうとしたが、、、

 

「前方に異常なし!第四艦隊旗艦、霧島出撃します!」

 

と言った瞬間にはもう霧島の姿は遥か彼方だった。え、、、と思う暇もなく、次々と出撃していく第四艦隊の面々。

 

「電の本気を見るのです!」

「榛名、全力で参ります!!」

「雷、続いていきまーす!!」

「漣、目標を駆逐する!!」

 

これらも声が聞こえた時には姿が見えなくなっていた、どんだけ早いのよこの艤装、、、と思う間もなく無慈悲にも大淀のアナウンスが聞こえる。

 

『瑞鶴さん?行かないならこちらから強制出撃させますね。』

「えっちょ待っt、、、」

 

そこまでだった、体が急加速を感じた瞬間にはもう大海原だった。

 

「ぎゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?」

 

およそ女子とは自分でも思えない悲鳴を上げながら何とか仲間と合流、予想会敵箇所まであと少しだ。

 

 

うん、次からこのシステムは使わないようにする。

 

 

 

 

side加賀

 

「、、、、、、」

(やべぇ、加賀の顔がめっちゃ怖い((( ;゚Д゚))) )

 

今私はパッドに表示されている点の動きから目が離せないでいた、恐らく一番後ろから来た点が娘の物だろう。遂に娘も実戦デビューだ、こんな気持ちは私の初陣以来だ、私はまるで自分のことのように緊張していた。それにしても敵にここまで接近されてしまうとは、ここ数年でレベルが落ちたとは思いたくない。

 

「、、、今回は接近した敵艦隊の迎撃らしいけど、ここまで接近されるなんて八丈島鎮守府は何をやっているのかしら。」

「さあな、今その八丈島鎮守府とやらに確認をとっているが、全く気づかなかったそうだ。」

「やはり潜水艦を主力とした編成なのかしら?」

「今確認中だが、その可能性もある。というか普通に考えればそれ以外考えられない。だが、、、」

 

だが、なんなのだろうか?気になった私は提督に先を促す。普通というかそれ以外にあるのだろうか。

 

「これはあくまで推論の域を出ない話だが、、、」

 

続いた言葉に私は言葉を失った、当然だその話はあり得ない。即座にそう判断されるほど()()は突拍子もない話だった。しかしそうだとしたら今向かっている娘たちが危険だ、一応第四艦隊の戦力なら撃退出来なくもないが、流石に初戦である娘にそこまで出来るとは思えない。

 

「その話、本当なの?だったらすぐに第四艦隊に撤退を指示しないと。」

「今からやっても無線封鎖で無理だ。それに娘が信じられないのか?」

「貴方の話が本当なら根性論でどうにかなる問題じゃない。」

「そりゃそうだ加賀、もしも何かあったら出撃を許可する。もうカンは戻っただろ。」

「もちろん、言われなくても。」

 

提督が予想する最悪の事態、それにだけはなってほしくない。そう願う私だったがその願いは脆くも息を切らして部屋に入ってきた大和の声で崩れさる。

 

 

 

「大変です提督!!急ぎ報告が!」

「落ち着け大和、何があった?」

「敵艦隊の艦種が判明しました、空母一、軽空三、重巡二です、しかも空母は、、、eliteです!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

提督の最悪の予想、空母艦隊の襲来が的中した瞬間であった。

 

 

 

 

 




皆さんこんにちは、大和です。

今年の冬はかなり冷え込みますね、こういう時はやっぱり鍋料理!大和もいま執務室でしゃぶしゃぶをしてま~す。

提督「こっちは頑張って仕事してんだ、飯テロやめい。」

も~そんなこと言って、本当は食べたいんですよね提督?ほら、あ~んしてあげますから。

提督(マジか!?しかしがっつくと引かれそうだな、、、よーし)

提督「いいや、いま仕事中だし。」

あら、そんなこといわないで~食べましょうよ!

提督「そ、そうか?なら、、、」((゚∀゚)キタコレ!!)

けど仕事の邪魔したら悪いですね、じゃあ隣で食べてますね。

提督「あ、ちょっ――」

残念ですねーせっかく美味しいのにしたのにー
皆さんも寒い時は鍋料理!オススメです!


次回 最強の親 抜錨ス

ついに彼女がやって来ます!




提督「しゃぶしゃぶが、、、したいです、、、」


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六、最強の親、抜錨ス

今年最後の投稿です、コミケ行きた~い。
けど何処の本屋行ってもカタログがな~い。
後三日なのにどうしよう、、、


祝!夕立改二記念!

これでキス島での暁の仇をとってやる、、、いくぞ夕立!!


初戦
《旗艦大破!》
旗艦の夕立改二が大破しました、鎮守府へ撤退します。

あっれぇ~?(;゜∀゜)





side瑞鶴

鎮守府を出て十分程

 

 

 

「一体どうなってんのよ!?」

 

大海原に響く声、艦載機からの通信を理解するのに数秒を要した。仲間が怪訝な顔で振り向くのも構わずに私は先を促す。続いた報告に遂に私は言葉を失った。

 

「瑞鶴さん、どうしたのです?」

「偵察に飛ばした艦載機の報告によると、、、敵艦は軽空母三隻、空母一隻、重巡二隻です。内空母はeliteの個体です!」

「!?」

 

目に見えて動揺が走る、私だってまだ驚きが収まらない。提督の予想では潜水艦を主力とした艦隊ではなかったのか?それにこの周辺でeliteの個体が見つかったなんて情報は来ていない。

皆がうろたえる中で旗艦である霧島が指示をだした。

 

「落ち着いて下さい!あくまで潜水艦が主力であるという可能性が大きかっただけです、こういう時のために私達戦艦や空母が配備されたんです!」

 

霧島の的確な指示により一応は冷静になった、急いで各自の行動をとり始める。駆逐艦は電探による確認、空母は艦載機発進の用意、戦艦は砲撃用意である。

 

「敵艦隊との距離およそ十キロ!この速度だと三分程で接触します!」

「相手に気づかれる前に艦載機発進!偵察及び攻撃を開始して!」

「了解!」

 

腰につがえた矢を弓に構え、引き絞る。これが実戦での初の発艦だ、私は斜め上に向けて矢を放った。

放たれた矢は少し飛んだ後、たちまち数機の艦載機に変わり飛んで行く。

 

 

今ここに瑞鶴の初陣にしてかなりイレギュラーな戦闘が始まった。

 

 

 

side加賀

 

「空母艦隊か、、、まさか本当に来るとはな。」

 

そう漏らす提督、しかし事態は切迫している。ここで悠長に話している暇など無い、しかし今から私が全速力で出撃して到着するまで持つかどうか、、、いや、やるしかないのか。

 

「加賀、軽空母三隻と空母一隻対瑞鶴では航空戦で互角にまで持ち込めないのか?」

「無理よ、もしも私なら互角あるいは優勢まで持っていけるでしょうけど。それは私の艤装だからこそ、瑞鶴の艤装の搭載数では足りない。」

 

即答する、しかもこれは艦載機の練度を無視した場合である。まだ着任して間もない娘の艦載機の練度が高いとは思えない、もしも同じ状況だったら私でも制空権を失ってしまう。

 

「今すぐ出るわ、艤装とカタパルトシステムの準備をお願い。」

「ソレなんだが、いいモノがあるぞ、、、?」

 

ニヤリと不敵に笑う提督に若干、いやかなり不信感があるが背に腹は代えられない、私はそれをすぐに準備するように言った。

 

 

そして三分後

 

 

「これはどういう事かしら、、、」

 

若干苛立ちを含んだ声で呟く、鎮守府中に四つある抜錨ハッチのどれでもないハッチ、いわゆる隠しハッチに私はいた。

 

『大丈夫!それはウチの明石が作った試作機、名付けて《スクランブルシステム》!!説明はさっき言った通りだ。』

「本当に大丈夫なのかしら、コレ、、、?」

 

そう言って私は下を見る、すると私にコレ呼ばわりされたモノが表れる。

私の腰から下、つまり下半身をすっぽりと覆った縦長の艤装、そして横についている巨大な燃料タンクとバーニア。しかもそれらは私の下半身を覆ったものだけではなくそのさらに先にもついていた、さながらソレはまるでバーニアのスカートを着ているようだ。

 

「スクランブルシステム、ねぇ、、、」

 

このシステムは提督曰く「スクランブルシステム」と言うそうで、なんでもここの明石が既存のカタパルトシステムの艤装のスピードをなんとか制御できるようにしようとした結果、逆にとんでもないスピードを誇る化け物ができたらしい。

 

『お前の使うヤツは試作第一号機だ、今回はデータ採集の為に最高速度で行くぞ。』

「要するに体のいい実験台ということね、、、」

 

なお、私の体には艤装が既に装着されている。もちろん弓も持っているが、いかんせん下半身を固定されているのでバランスがとりづらい。鎮守府からの遠隔操作があるので大丈夫だとは思うが。

なんでもこのシステムはデンド〇ビウムというモノを参考にしたらしい、将来は武装も着けたいそうだ。

 

『加賀さん、帰投したら感想お願いします!!』

「、、、生きて帰ってこれたらね。」

 

これを製作した明石からの言葉が終わると同時に目の前の隔壁が開いていく、やがて全て開き終わり蒼い海原が見えた。

 

「今いくわよ、、、」

『進路上に障害無し、エネルギー充電率九十八%、バーニア温度上昇、目標座標入力完了、いつでもいけます。』

『加賀、発進から五分で自動パージされるからそのまま進行して援護に向かえ。』

「了解、一航戦加賀、抜錨!!」

 

刹那、視界がぶれ冗談ではなく本当に一瞬だが意識が飛んだ。再び目を覚ますと周りはもう大海原だった、懐かしい潮の風やカモメ、流れる雲を見ながら遠い昔に思いを馳せる、、、、、、暇があればどれだけよかったことか。

 

「~~~~~ッ!?」

 

想像以上だ、まさかこれ程とは。昔だがカタパルトシステムを使っていて、ある程度のスピードに慣れている私でも目を開けていられない程のスピードだ。恐らくカタパルトシステムの二、三倍のスピードがある、確かにこれなら間に合うだろう。

 

「間に合いなさい、、、!」

 

 

 

加賀は一陣の風となり戦場へ向かう―

 

 

 

鎮守府内

 

「なぁ明石、あの簡易艤装は使用後はどうなるんだ?」

「そのまま深海棲艦に向かうように設定してあります、あれほどの質量ですよ、当たったら大☆爆☆発です!」

 

(どうしよう、、、あれ使ってよかったのか(汗)?)

 

今さら後悔しても後の祭りである。

 

「で、加賀に渡したって言う新装備は大丈夫なのか?」

「大丈夫だ、問題ない。」

 

不安だ、、、と呟きながら提督は海を見つめていた。

 

 

 

side瑞鶴

 

「間もなく接触!航空戦用意!!」

「了解!!」

 

旗艦である霧島からの指示を受けて艦載機をだす、しかし皆の表情は重い。そうだろう、まだ艦載機の練度や数でも劣っているのに加えて私は初陣だ、航空戦には期待は出来ない。

それでもダメ元で艦載機を飛ばして出来るだけのことはやってやる!

見えた、正面にうっすらとだが敵艦隊が見えた。私は雪矢を構えて放つ、同時に敵艦隊からも何かゴマ粒のようなものが放たれた。それらは段々と大きくなり私が発艦させた艦載機とぶつかった。

 

「嘘、でしょ、、、」

「やはり厳しいですか、、、!」

 

結果は散々な物だった、始まってものの数秒で私の艦載機は殆どが落とされた。そして敵機はそのまま私達の方へ向かって来る。寸前、漣が指示をだす。

 

「駆逐艦全員!敵艦隊へ突っ込むわよ!!」

「さ、漣さん対空は、、、?」

「この数よ、やるだけ無駄。兎に角敵艦隊に突っ込んで撹乱させるわよ!」

 

言うが早いが言葉通りに突っ込んでいく漣、それについていく形で突撃する電と雷。その後ろ姿を見ながら霧島は指示を飛ばす。

 

「榛名、私と砲撃用意して!瑞鶴はなんとか隙を作るから艦載機の発艦用意して、全部艦爆で!」

「わ、わかりました!」

「り、了解!」

 

私達が準備を完了するのと駆逐艦が敵艦隊に突っ込んだのはほぼ同等だった、もう陣形も何もあったものではないが気にしてはいられない。兎に角私は隙を待った。

 

「漣、突貫しま~っす!」

「なのです!」

「撃ち方始めぇ~!」

 

漣達が敵陣の中で攻撃を始めると予想通りに敵艦隊の陣形は乱れていくが、さすがは空母elite個体である。何と重巡と共に軽空母を庇ったのだ。

これは予想外だった漣達は軽空母の艦載機の全機発艦を許してしまう、慌てて攻撃対象を変更したが時既に遅し。今度は軽空母が重巡と共に空母eliteを守り始めたのだ。

 

「ゴガァァァァァ!!!」

「なんてヤツら、、、!連携が上手すぎる!」

「ッ!かすったか、これはメシマズですわ~」

 

雷、漣が小破状態に陥る中で遅れて戦艦からの援護が来た。その砲撃により重巡一隻大破、軽空母一隻轟沈したが既に軽空母の艦載機は全て発艦しているので意味は無い。それどころか逆に脅威と感じたのか艦載機の群れが霧島、榛名に殺到した。

 

「きゃああぁ!!」

「クッ!やられましたが計算通り、今です!」

 

その言葉に答えるより先に矢を放つ、私は二人から離れた位置で戦況を確認していた。ここまでは霧島の計算通り、後は私がどこまでやれるか、、、

 

「残りの艦載機全機発艦!!」

 

霧島に言われた通りにその殆どを艦爆で構成した残りの艦載機が全て飛び立っていく。

 

「!!」

 

敵艦が上を見上げるが、もう遅い。艦爆から切り離された爆弾は狙い違わずに落ちていく、辺りに爆炎が立ち上る。

 

「グギャアアアァァ、、、!」

「全艦、一斉射!」

 

敵艦隊から戻ってきた駆逐艦と共に一斉射を放つ、確実に全弾命中した。敵が挙げる断末魔の悲鳴の中、私は張り詰めていた空気が霧散するのを感じた。意外と呆気なかったな、と思ながらも初陣を勝利で飾れて嬉しく思った。

 

「帰投します、全艦警戒を厳に」

 

と言ってもやはり勝利した直後、皆は「勝利の余韻」というモノに浸っていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

それがいけなかった。

 

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォンン!!!!

 

「!?」

 

突如辺りに鳴り響いた轟音、突然のことに驚いた私達は一斉に後ろを振り向く。

 

「、、、、、、!」

 

鋭い目をした敵旗艦が此方を睨む。

 

「馬鹿な、、、!直撃のはず!」

 

しかし続けて起こる事態に私達は更に言葉を失う、何と重巡二隻も共に健在だったのだ。確かに一隻は大破していたがそれは戦艦の援護の傷であって一斉射の傷ではない、ならば何故無事なのか。

その答えはすぐに示される、空母と重巡の手から黒いモノが落ちる。それは軽空母()()()モノであった、何と敵艦は全て艦載機を放ち用済みになった軽空母を文字通り()に使ったのだ。

 

「なん、、、だと、、!」

「分が悪いです、撤退しましょう!」

 

敵艦隊は残り三隻とは言え重巡一隻と空母eliteはほぼ無傷、対して此方は大破一隻、中破一隻、小破三隻で無傷なのは私だけ。しかも私は艦載機がもう無い、数でごり押せなくもないが無傷のelite個体を前にそれは危険すぎる。最悪の場合、誰かが轟沈する可能性だって十分にある。

 

「グギャアアアァァ」

「なっ!全艦回避!!」

 

まるでそれを嘲笑うように敵艦は艦載機を発艦させる、慌てて回避を始めるが既に遅かった。敵の無慈悲な爆撃が次々と命中していく。

 

「きゃあ!?直撃ってマジすか!」

「電、危ない!!」

「あっ、、、!」

 

敵の急降下爆撃が電に直撃するコースをとる、私は半分反射的に動いた。結果、寸前で電の前に立つ。

 

ドムッ!

 

「きゃあああぁぁぁ!!」

「瑞鶴さん!」

「本格的に不味いね、、、!」

「いまそちらへ行きます!!」

 

咄嗟に飛行甲板を盾替わりに使って最悪の事態は避けたが、中破状態のダメージを負ってしまう。流石に普段飄々としている漣が焦りを見せ始める。

少し離れた所から霧島を始めとした面々が駆け寄って来るのが見えた。

しかし焦っていて視界が狭くなっていたのか、それとも混乱した状況のせいで確認が遅れたのか、誰も気がつかない内に敵機は瑞鶴の直上に迫っていた。

 

「―――瑞鶴さん!直上!!」

「!!」

 

誰かが気がついたがもう遅い、瑞鶴に向かって爆弾が切り離される。駆逐艦の速力でも追い付かない、私も避けようとするが上手く体が動かない。

 

――あぁ、もう少し早く気付いたらなぁ、、、

 

迫り来る危機を目の前にして出てきた感想はとても呆気なかった、それでも本能が、意識が、そして何より自分自身が生きようと必死にもがく。

 

――まだ夢も叶えていないのに、こんな所で、、、死ねない!!

 

しかし現実は無情だ、敵機から放たれた爆弾は遮るモノもなく真っ直ぐに私の方へ落ちてくる。

それを見て私も悟った、ここまでなのかと。まだ初陣なのに、なにもしてないのに、、、

 

――ここまでなの?まだ初陣なのに、私、カッコ悪かったなぁ、、、母さんと父さん、ゴメン。やっぱり私は艦娘に向いていなかったのかもね。

 

落ちてくる爆弾、私はせめて最期まで目を閉じまいとじっと爆弾を見ていた。

 

 

 

「!」

 

 

 

 

艦隊の誰もが目を閉じる、敵空母は愉悦の笑みを浮かべながらとても冷たい目を瑞鶴に向けていた。

誰もが瑞鶴の最期を覚悟した。

 

だがこの世にはこんな諺がある。

 

「親より先に逝く子供なんて私が許さない」

            (by加賀)

 

 

 

この時その場にいた全員、無論敵艦隊さえもが瑞鶴に気をとられ過ぎていた。そのため、誰もが後ろから迫る大きなバーニア付きタンクに気がつかなかった。

 

そしてその後から迫ってきた一隻、いや一人の艦娘の姿にも、、、

 

 

 

その艦娘は矢を構えた、何の変哲もない艦載機に変わる訳でもない文字通り「ただの矢」を。

もしこの場面を端から見ていた者が居れば目を疑っただろう、何故ならその艦娘は落ちていく爆弾をピンポイントでしかも百メートル以上離れた位置から狙撃しようとしていたのだから。

砲撃でも弾のブレを正確に推測しなければ出来ない、それにしても難しい芸当だ。それを風の強い海上で風の影響を受けやすい矢でやろうなどと、それは最早無茶や無謀を通り越して絶対不可能と言える。

 

 

 

 

――だが

 

 

「、、、、、、」

 

 

無茶、無謀、絶対不可能を「可能」にする、それくらいのことが出来なければ彼女は「伝説」とは言われない。

 

ヒュッ、、、

 

そして矢は放たれた。と、三つの事が同時に起こった。

まず矢が爆弾を射ぬいた。

次にバーニアが重巡二隻にぶつかりどちらも轟沈した。

そして敵の艦載機がバーニアの爆発の余波で全て撃ち落とされた。

これらの事が終わり、煙が薄くなる、、、

 

 

 

 

今私は何が起こったのかわからない、爆弾が着弾する前に急に爆発して思わず目を閉じた。そして目を開けて見たら、敵の重巡が消えていた。そのかわり、私の目の前には見知らぬ艦娘が背を向けて一人立っていた。

 

「貴女は、、、誰?」

「、、、、、、」

 

その艦娘は振り返ることも喋ることも無く手に持った矢を構えた。

 

 

今ここに伝説が再臨した。

 

 

誰にも聞かれない声でその艦娘「加賀」は言った。

 

「頭にきました、死にたい船―と言っても一隻ですか。とりあえず、沈んで下さい。」

 

「伝説」による蹂躙が始まる――

 

 

 

 

 




皆さんこんにちは、大和です。
もう年末ですね、クリスマスはどう過ごしましたか?

提督「やめて、何も言わないで。」

はぁ、、、また提督は落ち込んでるんですか?
いい加減にクリスマスになったらトラウマがフラッシュバックするその癖、どうにかなりませんか?

提督「クリスマス、ぼっち、、、うっ、頭がぁ!」

提督は放っておいて次回予告をしますね

ついに娘の前に姿を表した加賀さん、はたしてこのピンチをどう切り抜けるのか?
、、、実は一番心配なのは正体がばれることだったり。

次回 加賀参上

それでは皆さん良いお年を~


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七、加賀、参上!

皆さん、明けましておめでとうございます!
新年一発目の投稿です!

戦闘シーンって書くの難しい、、、特に圧倒的な蹂躙する所なんてもう心が、、、

キス島撤退作戦、もうそろそろ半年たつなぁ、、、暁の
仇を討ちたいけどクリアできん。時雨を改二にするかぁ、、、
あ、あと後書きで詳しく触れますが次回から少し番外編っぽくなりますので。


それではどうぞ~


side加賀

 

間に合った、その事実を確認した瞬間に私は今までの生涯で初、泣きそうになった。だが泣けない、これからのためというのも勿論ある。しかし、もう一つの理由は別にある。

どうして後ろに護るべき者が居るのに泣く必要があるのか?

 

「貴女は、、、誰?」

 

困惑した娘の声が聞こえる、だが私は何も言わない。

その前にやるべきことがあるからだ、それは敵を倒すこと。安心が収まると同時に静かに怒りが鎌首をもたげる

教えてやろうと思った。

人様の子に手を出すとどうなるかを。

 

「キシャァァァァァ!!!!」

「五月蝿いわ、さっさと沈みなさい。」

 

僚艦を殺られた恨みか、それとも不意討ちされた怒りなのかはわからない。が、敵旗艦は咆哮を上げて襲いかかってきた。

後はもう簡単だった、艦載機を使う必要も無い。私は矢筒から一本の矢を取り出す、そして射掛ける。

放った矢は寸分違わずに敵旗艦の額を撃ち抜く、艦載機に姿を変える前に。

 

矢を掴んでから相手に当たる――ここまでで僅か五秒と少し

 

これが「伝説」と呼ばれし艦娘の真の力だった。

 

 

 

side瑞鶴

 

「何が起こったのよ、、、!?」

 

私は全く状況が掴めずにいた、煙が晴れたと思うと目の前に謎の艦娘が居た。そしてその艦娘が矢を掴んだと思ったら敵旗艦が倒れていた、訳がわからなかった。

 

「瑞鶴さ~ん!無事ですか!?」

 

やがて一部始終を見ていた第四艦隊の面々が駆け寄ってくる、どうやら轟沈した者は居ないようだ。

私達は互いの無事を喜び合うのもそこそこに目の前の艦娘を見据える、彼女は未だに背を向けたままだった。

 

「失礼ですが、貴女の所属を聞かせてもらえませんか?」

 

霧島が謎の艦娘に向かってよびかけると謎の艦娘はゆっくりと此方を向く。

その艦娘は髪を横に纏めて青い弓道着のような物を着ていた、肩に飛行甲板の艤装があることから私と同じ空母系の艦娘だと思われた。

そしてその艦娘の目を見た瞬間、その場の空間が凍った。その艦娘から発せられる威圧感によってその場の空気が止まるように感じる、絶対的な強者がそこにいた。

 

「、、、、、、」

「答えられないのでしたら、私達と一緒にきてもらえませんか?」

 

話し掛けられても全く表情を変えない彼女にこの威圧感でもなお話し掛けられるとは、流石は旗艦の霧島である。

その時だった

 

『あ~聞こえるか、第四艦隊。此方は横須賀鎮守府、返事をされたし。』

「提督!?」

『おっ!無事だったか、良かった良かった。』

 

場違いなくらい呑気な声を出す提督、いつもと変わらないペースに少し安心しながらも報告をする。

 

「それなのですが、、、現在、所属不明の艦娘と接触しました。どうされますか?」

『あ~それか、大丈夫だよ。その艦娘はウチの所属だから。』

「!?し、しかしそんな話は一言も、、、」

『詳しい話は帰投してから話そう、とりま帰ってこい。』

「は、はぁ、、、」

 

こうして私の初陣は終わった。

 

 

 

 

数時間後、鎮守府内

 

「第四艦隊、帰投しました。」

「うん、無事で何より!」

 

帰投した私達は、出迎えにきた提督に増える報告をする。続いて損傷が激しい艦は直ちに入渠しにドックへ向かう、改めて全員が執務室に集まる頃には日は暮れていた。

今私達の目の前にはあの謎の艦娘と提督がいる。

 

「本日付でここに配属された、空母の『加賀』だ。」

「よろしくお願いいたします。」

 

初めて口を開くその艦娘、しかし表情は一切変わらない。まるで能面でも着けているようだ。

なんでもウチの航空戦力の補強の為に回されてきたようだ、まぁこれで確かに不足していた航空戦力が少し回復するかなぁ、、、と思ったのだが。

 

「加賀さん、よろしくお願いします。」

「はい。」

 

この加賀、何を聞かれても最低限の返事しかしない。おまけに全くの無表情、かなり取っつきにくい。

この人正直言って苦手なタイプだわー、と思っていると

 

「航空戦をやっていたのは貴女?」

「は、はい。」

 

急に白羽の矢が立てられた私は戸惑いながらも頷く。

 

「お粗末なものね、航空互角にも持ち込めないんて。」

「なっ、、、!」

 

全員が驚く、やはり見た目からも少しわかるがプライドがかなりありそうだ。

 

「で、ですがまだ瑞鶴さんは着任したばかりで練度も低く、、、」

「だから沈んでも仕方ないと?百歩譲ってそれはいいとしても、飛行甲板を盾に使うなんて雑ね。」

「な、何よ!」

 

霧島のフォローも虚しく険悪な雰囲気が漂い始めた、二人の口論は段々と苛烈になっていく。

 

「貴女こそ今日からの癖に!」

「あら、貴女よりかはずっと強いと思うけど。」

「なんですって~ 」

 

と、提督が止めに入る

 

「やめておけ瑞鶴、確かに加賀の方が強い。」

「何よ、艤装でも経験でも今日着任の人より劣ってると言いたいの?」

「ああ、両方共にお前の負けだ。」

「なんでよっ!?」

 

思わず机を叩きつける、提督が加賀の方のフォローに回ったことに驚きを隠せない。

 

「加賀はこれでも一航戦所属で大規模反抗作戦に三回参加して生還している猛者だ。」

「えっ、、、!」

 

その言葉に私だけではなくその場に居る殆どの者が驚く、あの激戦と言われる戦いを三回も潜り抜けたというのだから当然だ。

提督のその言葉を受けて加賀の毒舌はエスカレートしていく。

 

「話は終わり?全くこんなずぼらに育てるなんて親の顔が見てみたいわ。」

 

ブチッ

 

その一言でギリギリ保っていた()()が切れるような音が体の中でした。

 

「訂正しなさい、、、!」

「?何か言ったかしら?」

「訂正しなさいって言ってるでしょうがぁ!!」

 

そう言って加賀の胸ぐらを掴み思いっきり睨みつける、だが相手は僅かに驚く素振りは見せたものの全く表情が崩れない。

 

「何をしてる!?霧島、榛名止めるんだ!」

「は、はい!」

「わかりました!」

 

直ぐに引き剥がされる、しかし目は加賀を睨みつけたままだ。

その後は提督からの簡単な労いの言葉があり、とりあえずその場は解散となった。加賀は話があるので残るそうだ、いつか後悔させてやると悪態をつきながら退出した。

どうにもモヤモヤした気持ちだけが残る。

 

 

 

side加賀

 

「また派手にやったなぁ、、、」

「、、、、、、」

「?どうした、まさか娘に嫌われて泣いたか?」

 

私は何も言わない、提督は勘違いしたのか気を使って何も話し掛けて来なかった。因みに提督の言葉は何一つ当たっていない、むしろ逆だ。

 

メチャクチャ嬉しい!!

 

なんていい娘を持ったんだ私は、最近避けられているように感じたがやはり気のせいだ。

まさか親に対する非難であそこまで怒るとは、、、

確かに嫌われたのは悲しいが、そこは想定の範囲内だ。

いい子に育ったなぁ、、、(つд;*)

 

「なんでもないわ、それより、、、」

「なんだ?」

 

返事もそこそこに本題へ入る、今回提督と二人て話したいと思ったのは他でもない今回の襲撃の件だ。

 

「今回のスクランブルシステム?の準備が嫌に早すぎた気がして、貴方今回の襲撃艦隊が空母主体ということに気づいていたんじやないのかしら?」

「さぁ、なんのことだか?」

「しらばっくれないで、普通じゃ考えられない。今回の艦隊が空母主体だなんて、何処からの情報?」

「、、、、、、」

 

黙り込む提督、黙りを決め込むつもりか。仕方ないがこの状態になると本当に何も話さなくなる。まぁこの人の事だ、悪いことではないだろう。その辺は信用している。

 

「加賀」

「?」

 

そう思っていると提督から話し掛けられる、珍しいこともあるものだ。

 

「今回の事は川内の方から回ってきたんだがな、どうやらそろそろ真剣味を帯びてきたらしい。」

「何が?」

「それはな、、、」

 

 

 

 

side瑞鶴

 

「ホントに信じらんない!私は兎も角として親もバカにするなんて!」

「まぁまぁ瑞鶴、押さえなよ。」

「漣、けど、、、」

 

食堂で一息つく第四艦隊、愚痴をこぼしていた私は目ざとく聞いていた漣に言われる。

 

「ま、あの艦娘も何か事情があるんでしょ。」

「あの艦娘もってどういうこと?」

「あ~そっかまだここに来て日が浅いんだっけ、瑞鶴は気づいたの?ここの違和感に。」

 

違和感か、確かにここにきた初めは違和感を感じはしたが特に考えもしなかった。それほどまでに航空戦力が重要なのだろうか?

 

「違和感って、、、空母の少なさのこと?」

「ん~まぁそれもあるけど、それ以外かな。」

 

それ以外のこと?首を傾げる、航空戦力の少なさ以外に何か目立った違和感は無かった気がする。

興味深くなってきた、話を続けて欲しいと察したのか漣が話を始める

 

「ほら、ウチの鎮守府は並みいる鎮守府の中でもかなりの実力じゃん?それは強い艦娘が配属されているからだと普通思うわけよ。けど少し違うんだな~」

「と言うと?」

「ウチの場合は強いけど色々と()()ありな艦娘が、「自分」たちからやってくるの。」

「それ、、、本当なの?」

 

にわかには信じがたい話だ、しかしその話が本当だとするとここには強い艦娘が自分達から来るように感じる。

まあ実際その通りなのかもしれない、まだ実戦を一度しか経験していない自分だが、あの戦場をずっと潜り抜けてくれば心の傷の一つや二つくらいできるかもしれない。

と、その時

 

「瑞鶴さん、ちょっといいですか?」

「赤城さん、、、」

 

 

side加賀

 

「その話は本当なの?」

「川内からの報告を見る限りではな、詳しい調査はすぐにさせる。」

「信じられない、、、」

 

ため息をつく、全くここに来てから何回も驚かされている。だが今の話はその中でも一番だ、もし本当なら制海権云々ではなく日本という国そのものが不味い。

 

「一応心の隅にでも置いといてくれ、後正体を隠す為とは言えどこれからの為にちゃんと瑞鶴と仲直りしとけよ。」

「それは命令かしら?」

「命令だ。」

「、、、了解しました」

 

確かに提督の話にも一理ある、素直に仲直りしておいた方がいいか。

しかしそうなると、表情筋が癖なのか殆ど動かないこの顔でどうやって仲直りするか、、、

考えてもきりがないのでとりあえず瑞鶴を探す為に執務室を後にした。

 

 

 

執務室内

 

加賀が去った後には提督が一人残されていた、室内には誰も居ない――ように見える。

 

「いるか、川内?」

「もちのろん!提督の居るとこ何処にでも!」

「加賀との話は聞いていたな、至急で頼むわ。」

「いいけど、、、上からの許可は出たの?」

「あぁ、昨日出た。」

 

会話を続けて行く二人、やはり川内は声こそすれど姿は見えない。しかし提督はただ一点を見つめて話続ける。

まるでそこに居るのが分かっているように。

 

「今回の仕事、私だけで行ける?」

「厳しいだろうな、だからアイツらの出撃を許可する。」

「りょ~かい♪」

 

少しの静寂、おもむろに提督は口を開く。

 

「すまない、毎度こんなことに付き合わせて。」

「構わないよ、提督達には私を救って貰ったんだし。」

「、、、、、、」

 

それっきり川内の気配が消えた、提督はその事が分かっているのかはわからないが、それっきり何も話さなかった。

 

 

 

side瑞鶴

 

「すみませんね、急にこんな所へ連れ出して。」

「い、いえそんなこと、、、」

 

鎮守府の端、赤城さん曰くここは一部の艦娘にしか知られていない秘密の場所だそうだ。景色がきれいでとても心が落ち着く場所だ。

食堂で赤城さんに呼ばれた私は彼女に連れられてここへ来ていた。

 

「聞きました、加賀さんが不快にさせてしまったようですいません。」

「赤城さんが謝る必要なんて、、、」

「ですが分かって欲しいんです、加賀さんは何も悪口を言いたかった訳ではないことを。」

「ですけど、、、」

 

思い出す、あの時の加賀さんは本当に悪口を言っていたようにしか思えない。それに私の親をバカにしたのだ、あまりいい気持ちはしない。

 

「加賀さんは口は厳しいですがそれは仲間を想っての事で本当はとても優しいんです、ですが加賀さんにも色々ありますから、、、」

「そうなんですか?」

 

漣の言っていたことが頭をよぎる、「ワケありの艦娘」加賀さんも何か事情があるのだろうか?

詳しいことを知りたい、そう思った。何か事情があるのならそれを知りたい。

 

「何が、あったんですか?」

「それは、昔、、、」

「赤城さん」

 

声のした方を振り向く、そこにいたのは案の定加賀だった、加賀は私の方を見向きもせずに会話を続ける。

 

「何処にも居なかったので探していました、もうすぐ消灯です部屋へ行きましょう。私は先に行っています。」

「はい、ありがとうございます。」

 

そう言って立ち去ろうとする加賀、気が付いたら私はその背中に向けて声をかけていた。

 

「待ちなさいよ、一航戦。」

「まだ何か言うつもり?」

「、、、、、、」

 

何も言えない、何か言おうとすると罵声が飛んでしまいそうだ。

私が何か言う前に背中ごしに加賀が先に口を開く。

 

「あの執務室でのこと、あれはあの場では不適切だったわ。それに関しては謝罪する。」

「!?」

 

息を飲む、まさか向こうから先に謝ってくるとは思わなかった。加賀はそれだけ言うと再び立ち去ろうとする。

 

「待って、」

「はぁ、まだ何か、、、」

「こっちも悪かったわ、ごめんなさい。」

「、、、、、、」

 

少しの間黙る加賀、相変わらず振り向きはしないが返事が飛んでくる。

 

「分かっているなら自分をもっと鍛えなさい、それと先輩を呼ぶときはさん付けを忘れないように。」

 

それだけ言った加賀、、、もとい加賀さんは今度こそ立ち去って行く。赤城さんともその後直ぐに別れた。

加賀さん、やはり何かあるのだろうか?

 

 

 

 

side加賀

 

私と赤城さんは部屋に戻り床についていた。時刻はもう十時を回った。

あの子が素直に謝った、これは人類にとっては小さな一歩だが親にとっては大きな一歩だ。

やはりここへ娘についてきてよかった、、、

そう思っていた私に赤城さんが声を掛けてきた、少し眠たそうだ。

 

「加賀さ~ん、寝ましょ~う。」

「赤城さん」

「?」

「さっき瑞鶴と何を話していたんですか?」

 

さっき赤城さんと瑞鶴が話している所をみて、赤城さんを疑う訳ではないが余計なことを言っていないか少し心配になったのだ。

 

「少し昔の話をしようと、、、」

「ならいいけど、昔の話ですか、、、」

 

私が経験した昔話などとるに足らないものばかりだ、その殆どが凄惨な戦いの話、常に命の削り合いの日々である思い出していいことなど一つもない。

思い出したくもない、、、!

 

「じゃあ加賀さん、おやすみなさ~い」

「おやすみなさい」

 

そう言って眠りにつく、しかしその前に執務室で提督から聞いた話が頭をよぎる。

 

 

 

 

 

 

 

 

『内通者?』

『ああ、誰か八丈島鎮守府の哨戒パターンをリークした厄介者がいる。』

『けどそんなことして何になるの?確かに問題だけど実際来たのは撃退できた。』

『いや、相手の真の目的はそこじゃない。真の目的、それは――』

 

 

 

 

 

 

 

 

「首都制圧、ねぇ、、、」

 

 

 

 

 

 

数時間後、午前一時

 

皆が寝静まった横須賀鎮守府、その宿舎の屋根の上に人の気配があった。

あたりは月が出ているが雲に隠れていて見えない、従ってあたりは真っ暗闇だった。

 

「皆、準備万端?」

 

声が響く、何を隠そう川内である。

誰もその声に返事はしないが川内はそれを肯定の意と取った、他の五人の顔は見えない。

 

「じゃあ行こうか、横須賀鎮守府所属第零艦隊――クナイ、抜錨。」

 

 

その瞬間、川内を含めた全員の気配が一瞬にして消える。

 

彼女らこそ横須賀鎮守府所属に所属しているが公式には出ていない存在の第零艦隊、通称「クナイ」である。

 

 

 

闇夜の中を彼女らは走る。

 

 

 

 

 

―――車で

 




皆さんこんにちは、、、青葉ですぅ!!
ねぇ大和さんだと思った?残念、青葉でしたぁ~!
何故私がこのコーナーに居るかというと、前書きでチラッと触れたと思いますが次回から番外編のようなものに入るからです。
何故かと言うと「気分だから」それ以外言う事が無いんですよね、、、ホントすいません、作者は後でしばいておきます。
そんなこんなで次回から二話に渡り、私達クナイの活躍をお送りしますね!
あと次回はクナイのメンバー紹介になりますので!

それではなんのひねりも無い次回!


横須賀鎮守府所属第零艦隊 前編

デュエルスタn(自主規制)





こんなかんじですが今年もよろしくお願いいたします!




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八、横須賀鎮守府所属第零艦隊 前編

おっしゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!
キス島突破ァーーーーーー!!!!
\(^_^)/

、、、、はい、すんません。キス島突破記念です。

暁、仇はとったよ、、、、!


あ、ありのまま今起こったことを話すぜ!

俺いまこの話を一話で終わらそうと思っていたらいつの間にか二倍になっていた!
何を言っているk(以下略







午後九時

 

 

 

 

某県 某市 銚子鎮守府

 

いきなりだが、この鎮守府は価値がない。しかしこの鎮守府には何故か高練度の艦娘、比較的に新しい設備が配備されている。それは何故か?

大多数の海軍関係者の中でこの疑問は長らく謎とされていた、その事実を知るのは海軍の上層部の者達のみだった。

しかし、勿論それ以外にも理由を把握しているものは居る、そう裏の者達である。その裏の者の一部である横須賀鎮守府所属 第零艦隊 ――通称「クナイ」は件の銚子鎮守府へと向かっていた。

 

「その銚子鎮守府に今回の事件の証拠があるということなの、川内さん?」

 

クナイのメンバーの一人である時雨が話しかける、ちなみに今は同じくメンバーである北上の運転するワゴン車の車内である。

 

「そう、そしてそこの鎮守府の提督が今回の下手人ってわけ。」

「でもなんで?そんな弱小鎮守府の提督がなんで深海棲艦と繋がっているってわかったぽい?」

 

独特な語尾の艦娘、無論夕立である。彼女もクナイのメンバーの一人である。

 

「あー、その辺は青葉よろしく。」

「はいはーい、今回清く正しいこの青葉が調べたところ、この一ヶ月で親類への電報を何と五十件も送っているんです!」

「でもー、それだけだったらただの親思いで済むんじゃないかしらー」

 

おっとりと話すのは龍田、彼女はこのクナイの副リーダー的なポジションである。

 

「そうなんですよ龍田さん、しかしここの提督に親類は殆どいないんです。いたとしても関係が薄い人ばかりです、そして何より送られた電報が全て暗号化されているというのが怪しすぎます!」

「確かに、僕だったらそんなことはしないよ。わざわざ暗号化するメリットもないし、それにその電報の中身を話していないって事は青葉でも解読できなかったって事でしょ?」

「その通りなんです時雨さん、以上の点からここの鎮守府がクロだと言うことです。」

 

フンス、と自慢げに鼻を鳴らす青葉、そこに運転席から間延びした声が掛かる。

 

「でもさー私達が出るって事はもっと決定的な証拠とそれなりの理由があるんでしょ。」

 

彼女の言うことは正論である、このクナイは海軍の中ではゴ〇ゴ13並みの都市伝説となっている。それ故に海軍でも正式に実態を把握している人物は数えるほどしかいない、なので彼女らが行う仕事はどれも絶対に表に出てはいけないレベルの仕事ばかりなのだ。

 

「まぁ実際そうなんだよね、そこら辺については今からこの川内さんが説明しちゃおう。」

 

そう言って車内の窓ガラスが情報端末の画面となる、このワゴン車はただのワゴン車ではない。横須賀鎮守府の明石の自信作「スパイワゴン」、そのまんまである。

窓ガラスに次々に追加されていく資料、それを補助に川内が説明をしていく。

 

「まずは証拠、これに関しては内部からのタレコミよ。」

「つまり内部告発ってことかしら?」

「そう、一週間ほど前に私達の提督へ直で来たの。中には真っ白な紙とUSBが一つ。」

「その中に証拠があったぽい?」

「うん、ちなみに事件に関係ない艦娘は今夜は居ないから安心して。」

 

続いて自分たちの出動理由について話し始める、今度は青葉が事情を説明する。

 

「ここの鎮守府の提督実は二代前の海軍大将であり、その能力と影響力は今もなお健在で迂闊に今の海軍大将も手が出せないんです。」

「けどなんでそんな人がここにいるの?」

「簡単に言うと俗に言う「天下り」ってやつで、その大将は元からかなり強欲だったようなんです。」

「けど~二代前なら流石に憲兵を黙らせることはできないんじゃないかしら~?」

「それは二つ目の理由である銚子鎮守府にあります、あそこは関東の物資輸送の要なんです。」

 

ここでやっと話は冒頭に戻る、確かに銚子鎮守府は価値がない―――それはあくまでも()()()に見れば、である。

銚子鎮守府の本質は関東への物資の運搬ルートの監視である、関東へ艦娘に護衛されてやってきた海上物資の大部分は必ずここ銚子鎮守府を通らねばならない、つまりここの鎮守府の提督の気分次第では関東に物資が来なくなる可能性もあるのだ。

銚子鎮守府を経由しない経路もあるにはあるが、それらはどれもコストが重い。従ってここの鎮守府は関東でのみ圧倒的な権力を誇るのだ。

そのことを青葉が一通り話し終わったと同時に目的地へと着いた。既に鎮守府を出てから一日が過ぎていた。

 

 

午後十時

 

「じゃあ行ってくる、車をよろしく」

「行ってくるっぽい!」

「シー!駄目だよ夕立、静かにしないと。」

「あらあら~元気ねぇ~」

 

銚子鎮守府の三百メートル手前、そのパーキングエリアに車は止まっていた。ここからは二手に別れる、車をまもる北上とナビの青葉そして実動隊の川内、夕立、時雨、龍田である。

 

「行ってらっしゃーい」

「お気をつけて」

 

見送られながら徒歩で銚子鎮守府を目指す川内達、ものの五分で目的地の目の前に着いた。

 

「とりあえず、、、入ろうか。」

 

と言っても流石に正面から入る事はしない、一行は裏手の物資搬入口へと移動した。川内は耳に着けたインカムで連絡を取る。

 

「青葉、位置に着いたよ。」

『了解です、今から十秒間監視カメラの映像を切り替えますその間に侵入を。』

「オーケー」

『3、2、1、、、今!』

 

と同時に川内達は駆け出す、艦娘の身体能力は人間のそれを遥かに上回る。彼女らはものの数秒で侵入に成功したがそこで終わりではない、目指すは入口から約百五十メートル先の監視室である。

いくら艦娘といえどその距離を十秒で走り切るには骨が折れる、しかし伊達で裏の仕事を引き受けている川内達ではない。彼女らは苦もせずに監視室のドアの前へ立つ、ここでジャスト十秒である。

 

「おっ邪魔しまーす!!」

「!?」

 

中には警備員が二人、川内の声に驚いたのか首をこちらに向けた。

 

 

そしてそのまま首が落ちる。

 

 

首を失った胴体はそのまま床に崩れ落ちる、血液が床を濡らし独特な異臭を放つ中時雨がおずおずと言い出す。

 

「あの~つい条件反射で二人とも殺っちゃったけど、大丈夫?」

「大丈夫!上と提督からは好きにやれって言われてるし。」

 

そう言ってそそくさと二つの死体を片付ける川内、同時進行で龍田が内部情報を青葉に送っていく。青葉の情報処理能力はとても高い、瞬く間にハッキングが完了した。

結果、目標としている証拠の保管場所の候補は二つ、一つは鎮守府北側二階の機密書類保管室、二つ目は真反対の南側一階の工廠技術室だ。

そして対象者である銚子鎮守府提督は四階の執務室にいるようであった。

 

「北には龍田、南には夕立と時雨、提督は私が殺りにいく。」

「了解」

 

指示を出していく川内、仲間もそれに従い行動しようとした時青葉があることに気が付く。

 

「あれ、川内さんちょっといいですか?」

「ん~なに?」

「ちょっと警備員の頭を見えるように向けるのと、ネームプレートを見してもらえますか?」

「あいよ、こんなカンジ?」

「そうです、少しお待ちを、、、むむむ」

 

しばらくして少し上ずった声が響く、彼女にしては珍しい。

 

「せ、川内さんこれを、、!」

「そんな慌てないの、どれどれ、、、」

 

そう言いながらモニターに目を移す川内、その川内は少し感心したようにため息をつく。

 

「ほーう、、、」

 

 

 

 

 

 

午後十一時

 

 

機密書類保管室

 

そこは文字通り物資輸送の日程や海軍と民間業者の法的重要書類が保管されている部屋で、その部屋の扉はまるで銀行の金庫のように重く堅い金属の扉で閉ざされていた。

この金属は艦娘の技術の副産物で、艦娘の攻撃でも戦艦がゼロ距離で主砲を撃ちでもしないと破壊できない、加えて提督しか知らないパスワード、日ごとに変更される秘書艦の指紋が必要であった。

このセキュリティを信頼してかは分からないが人的警備は扉の前に二人の警備員が常駐しているだけ、その道のプロが見れば一発で改善を要求するほどのいわゆる「ザル」であった。

更にはその警備員すらも雑談に耽るという有様、もっともここを襲撃してくる輩がいるとも思えないのでそこは仕方ないと言うべきか。

 

「お前さ、ここにいる艦娘の中では誰が好み?ちなみに俺は天龍。」

「何だよ急に、比叡だよ文句あんのか?」

 

あーだこーだと好きな艦娘トークに花が咲く、しかしそのせいか二人は横からかけられた声に反応できなかった。

 

「あらあらー私は入ってないのかしらー?」

「「!!??」」

 

腐っても警備員、咄嗟にあたりを見回す二人だが姿は見えない。そんな彼らを嘲笑うように声は響く。

 

「うふふ、そんなに驚かなくってもいいじゃないー。」

 

ふと一人が上を見上げる、そしてそのまま固まった。怪訝に思った片割れが声をかける、するともう一人は崩れ落ちた。

 

その頭から脳漿をぶちまけて。

 

もし声を聴いた時に即座に通報をしていれば彼らは助かったかもしれない、しかし平和ボケした者が常に戦場に身をおく者に勝てるほどこの世界は甘くない。

つられて上を見た男が人生最後に目にしたのは獰猛に笑っていた口と、目前に迫る薙刀の刃だった。

二人の警備員を即座に始末した張本人、龍田は扉の目の前に立つと、胸元からハッキングツールを取り出し接続する。

するとすぐさま重々しい扉が呆気なく開いた、その中へ龍田は歩を進めていく。

 

 

 

 

 

工廠技術室

 

ここの惨状もほぼ機密書類保管室と同様だった、敢えて違う点を挙げるならば殺され方が二つある事だろうか。

一つはナイフのような物でめった刺しにされている、もう一つは急所を寸分の狂い無く撃ち抜かれていることだろう。

その惨劇の中心点たる二人の艦娘は危機に立たされていた、それは、、、

 

「お腹すいたっぽい~」

「よく仕事をこなした後で言えるね、、、」

(;´・ω・)

 

、、、、空腹である。

とても技術者たちを皆殺しにした者とは思えない態度、空腹を感じて駄々をこねる姿は年相応の少女そのものである。

相棒が職務放棄する中でも時雨はめげずにパソコンを操作し続ける、カタカタとキーボードを叩く音がしばらく響いた後、目的のファイルを見つけた時雨はそれを開く。

 

「これは、、、」

「見つけたっぽい?」

 

二人で画面をのぞき込む、暗闇の中に光るモニターに文字が出力されていく。その情報を見た二人は顔を見合わせた。

 

 

 

 

執務室前

 

もうそろそろ日付が変わろうとする中、椅子に座って作業をしている白鬚の男が一人。彼こそがここ銚子鎮守府の提督、前々代の海軍大将である。

 

コンコン

「?」

 

消灯時間はもうとっくに過ぎている、こんな時間に何事かと思いながらも返事をする。

 

「こんな時間な何だ?」

「はっ、緊急の輸入物資が届きました。」

「そんなことは聞いておらんぞ。」

「つきましては責任者がお会いしたいと言っています。」

「よかろう、通せ。」

 

ドアが開く、がしかし誰も入ってくる様子が無い。不思議に思った提督はドアの方を覗きこむ、次の瞬間には首筋にクナイが突き立てられていた。

 

「貴様、何者だ?」

「へぇ、驚かないなんてやるじゃん。簡潔に言うと貴方を殺しに来た、大人しくすればすぐ終わるよ。」

「ほう、、、ならば殺されないようにしなければな。」

「?」

 

困惑する川内、だが何かを感じたのだろう、素早く身を引こうとする。が、それよりも速く後頭部に何か筒状の物体が押し当てられる。川内は当たっている面積の広さから物体の正体を12センチほどの連装砲と推測する、そしてこれを扱えるということは――

 

「貴女、艦娘ねそれも恐らく駆逐艦。」

「ご明察、流石はクナイの隊長といったところですか。」

 

後ろから聞こえる声を聴きながら川内は状況を整理する、ここは狭い執務室の中だ咄嗟に動けてもすぐに当たってしまう、相手の艦種は駆逐艦だが名前は不明、判明している武装は12.7センチ連装砲だ。

この12.7センチ連装砲は駆逐艦の標準装備で威力も一番低い、しかしゼロ距離で頭部に向けられているとなると話は別である。いくら低威力といえどゼロ距離では頭ぐらい余裕で吹っ飛ぶ、それに改修されているかも不明。

 

総じて言うと――かなり不味い。

 

どうしたものかと考え、一応手を挙げる。とりあえず仲間と連絡でもとるかと思った所に提督から声が掛かる。

 

「仲間のことなら心配するな、お前と同じような状態だ。」

 

――川内はふと思う、この男はどこまで知っている?まさかとは思うがあの事まで知られていたら「詰み」だ。そんな川内の疑問はすぐに解消した、提督が自己満足か知らないが話し始めたのだ。

 

「まずは機密書類保管室だが、、、」

 

 

 

機密書類保管室

 

 

「あらあら~これはどういうことかしら~」

 

部屋に入った龍田を待っていたのは黒い装甲服に身を包んだ兵士達、その数およそ十人。男達は油断なく龍田の周りを取り囲む、龍田はあくまで笑みを絶やさずに話す。

 

「艦娘はね~人数で押し潰されるほどヤワじゃないのよ~♪」

「ごあいにく様だな、こちらは試作型だが対艦娘用のパワードスーツと武器を装備している。いくら艦娘でも一人では限界があるだろう?」

 

隊長らしき人物が勝ち誇ったように話してくる、それでも視線が逸れたりする事はない。扉の前を守っていた警備員に対し、こちらは慢心している様子もない。

 

「ずいぶんと舐められたものね~なら、その試作型のスーツと武器の性能を見させてもらいましょうか~♪」

 

相変わらず笑みを絶やさない龍田、しかし目は笑っていなかった。敵に囲まれて尚且つ武器を向けられていて、殆ど動けないのにそれでも龍田は薙刀を構える。

男達は改めて銃口を龍田に合わせ、何時でも指示さえあれば撃てる状態に保つ。

 

「大人しく艤装を解除すれば殺しはせん、賢明な判断を希望する。」

「申し出はありがたいけど~この程度で音をあげてたらこんな事やってないのよ~」

「そうか、、、残念だ。」

 

 

 

 

 

 

静かな部屋に銃声が一発鳴り響いた。

 

 

 

工廠技術室

 

こちらは不意討ちだった、パソコンでデータをコピーしていた時雨と夕立、だが真面目にやったのは時雨のみで夕立はふてくされていた。

が、今回はそれが功を奏したのだろう。何かに反応した夕立が咄嗟に時雨を押し倒す、時雨が文句を言おうとした次の瞬間には轟音と共にパソコンが粉々に砕かれていた。

 

「、、、ありがとう夕立、今回ばかりは助かったよ。」

「どうやらお客さんがいらっしゃったっぽい。」

 

目の前には人影が五つ、さっきの轟音から察するに恐らく全員艦娘。それも確実に一人は戦艦級、しかし暗がりのせいで顔はよく見えない。

 

「驚いたな、完全に貰ったと思ったんだがな。」

「実際、夕立がいなきゃ殺られてたよ。」

 

軽口を叩きあう、しかし油断も隙もない。敵は全員武器を構える仕草を見せ、こちらの夕立も威嚇をする。

ここは工廠内、ある程度の広さはあるもののその殆どが機材や資材で埋め尽くされている。

 

「この数の差を埋められるとは思えん、素直に投降すべきだ。」

「お約束通りに言うけど、それは出来ないっぽい。」

 

半ば理解していたのか敵の艦娘は手を挙げる、それが合図だったのか砲塔がこちらを向く音がする。身構える夕立と時雨、誰の目にも絶体絶命に見えるだろう。

実際にその通りであった、しかし――

 

 

 

その二人は笑って、否「嗤って」いた。

 

 

午前零時

 

 

 

執務室

 

「、、、というわけだ、もう諦めろ。情報はとっくに漏れていたんだ、お前達の負けだ。」

 

ゲス顔で笑う提督、この男は二代前だとしてもかつての海軍大将だったのである。情報網もかなり広いのだ、その中でクナイの実体までいかなくとも存在くらいは把握できる。

故にクナイがどの様な時に来るか知っていた、そしてそれに値することをしたのだ、対策をしない馬鹿がいるだろうか。

 

「お前が隊員全員に投降を指示すれば私の部下として扱うことも考えよう。」

 

この提督はこれが言いたかった、クナイは極秘部隊であるのでもし行方不明になってこちらの手に堕ちても表側から攻められない。正に理想の手駒だった。

 

「本当に私達を部下にしてくれるの?」

「ああ、報酬も今の五倍は出そう。」

「、、、、、、」

 

墜ちたな、提督はそう思った。

 

 

 

 

しかし提督は知らなかった、クナイは単なる金の為だけに動く部隊では無いことを。そして川内が最も好きな行動を。また古今東西、そんな言葉はお決まりのパターンで返されるものだと。

 

提督は知らなかった。

かくして川内はそのセリフを言う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だが断る。」

 

 

 




調査報告書

横須賀鎮守府所属第零艦隊「クナイ」について

実体
あくまでも裏の仕事のみをうけもつ特殊部隊、その存在はトップシークレットとされている。しかしそのメンバーは普段仕事が入る以外は普通の艦娘として生活していることを確認。メンバーは六名、以下に詳細あり。

メンバー
川内
クナイの実質的リーダー、提督と何か深い仲のようだが詳細不明。
また出自に関しても全く情報なし、戦闘能力高し要注意
普段は自室でニート状態
夕立、時雨
こちらに関しては出自判明、恐らくあの「ラバウルの悲劇」の生き残りであることが判明。証拠隠滅のために処分することを薦める。
普段は二人共に周辺海域の警備が主な仕事
北上
こちらも出自判明、元大本営技術科所属のメカニックである。しかしその知識と技術だけでなく戦力としても大きく評価できる天才である。
こちらも要注意、普段は貿易船の警護任務に従事。
青葉
大本営技術科で北上の部下であった、生粋のハッカーである。彼女の情報処理能力はとても高い、電子機器の更新を至急されたし。
普段は予備部隊の第六艦隊に所属している。
龍田
要注意人物、こちらの調査でも詳細が全く不明。ただ一つ判明したのは彼女がクナイの副リーダーであることのみ。





提督(横須賀)「あぶねぇ、これが銚子鎮守府にわたる前に回収できてよかったぜ。」






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九、横須賀鎮守府所属第零艦隊 後編

UA10000突破!これも読んで下さった皆様のおかげです!評価バーにも色がつき、感想も送られて来るようになり、とても嬉しいです!これからもこの物語をよんでいただければ幸いです!

最近は次章の目玉である都内の戦闘シーンの舞台があまり思い浮かばず苦心してて、、、もっとがんばらないと!


午前零時

 

 

「だが断る。」

「何を、、、言っている?」

 

もはやお決まり、知る人から見ればやっぱりという気持ちだろう。しかしそんなことは露知らず、提督は困惑していた。

 

「わかっているのか、貴様は私の命令一つで死ぬのだぞ!」

「フッわかってないなぁ~この川内さんが最も好きなことの一つは絶対優位な立場にいる人間の頼みをNOと断ってやることだぁ!!」

 

ビシッ!

 

それっぽいセリフを言う川内、と同時に挙げていた手の内のクナイを連装砲の砲塔の一つに突き刺す。そして瞬時に身を屈める。

 

「っ!?小癪なぁ!」

 

反射的に撃とうとするが屈まれた為にこのまま撃つと提督に当たってしまう、慌てて砲塔を下に向けるが遅い。川内は驚異的な速さで執務室を脱出した、だが提督は慌てない。

 

「馬鹿が、、、仲間の命はこちらの手の内だと言うのに。」

 

 

 

 

タッタッタッタッ、、、

 

 

「生憎、多分仲間の命はこちらの手の内とか思ってるだろうけどそんなの意味無いっつーの。まあ、分が悪いから一時引くかな。」

 

そう言って廊下を走り去る川内、確かに提督の取った手段と方法は何ら間違っていない。

 

 

ただ「クナイ」のという者への認識が――甘い。

 

 

 

午前一時

 

機密書類保管室

 

一発なった銃声、隊長は困惑していた自分はまだ発砲の指示は出していない。ならば誰が撃ったのかという答は明白、龍田である。

彼女は常人には視認不可能な速さで副砲である25ミリ単装機銃を撃った、パワードスーツは確かに艦娘のレベルまで力を上げられるかもしれない。

が、五感まで艦娘並みにすることには対応していなかった。

 

「、、、、、、」

 

ドサッ

 

隊員の一人が無言で崩れ落ちる、すでに脳幹を正確に撃ち抜かれているので息はない。

隊長が慌てて発砲指示を出すが、時すでに遅し、今度は正確に撃つことは考えられていないが高密度の弾幕が近距離でばらまかれる。

 

「撃t、ぐがぁ!?」

「隊ちょ、うわぁぁぁぁ!?」

「くぎゃぁぁぁぁ!」

 

次々に倒れていく男達、いくらパワードスーツとは言え所詮は人間の科学だ、いくら束になったって「本家」には敵わない。

仰々しく待ち伏せたわりには呆気なく、所轄「噛ませ犬」のような存在になってしまった男達。

しかし男達は悪くない、ただ彼らは運が無かった。

これが普通の艦娘なら勝てただろうが。龍田を、いやクナイのメンバーを相手にする時点で彼らの運命は既に決していたようなものだった。

 

「あらあら~情けないわね~」

 

そういって男達の死体が転がる中、龍田は棚から目当ての書類を見つけ出して目を通す。

その後少し考える仕草をするとその書類をカメラに納め、そしてそのまま去っていく。

 

「あら~少し汚れちゃったわ~帰ったらシャワー浴びなきゃ~」

 

 

 

提督が仕掛けた罠の一つが無効化された。

 

 

 

 

工廠技術室

 

全艦娘の砲塔が夕立と時雨に火を吹こうとしたとき、それは突然に起こった。

 

 

ジリリリリリィィィンンン

 

「!?」

 

突如なり響くサイレン、突然の出来事に否が応でも気を取られる。その隙を見逃す二人ではない、たちまちふた手に別れる。

 

「なっ、追え!」

 

その声に従い追跡が開始される、五人の内三人は夕立、リーダーを含めた残り二人は時雨の方をそれぞれ追っていった。

 

「ここまでおいでっぽ~い!」

 

半分余裕な表情で敵を煽る夕立、奥へと進んでいく。しかし、すぐに追い詰められる。

敵が撃とうとした瞬間、夕立が何かを投げつける。咄嗟に撃とうとしたが、夕立の意味深な笑みを見て危険と判断し、回避する。

 

びちゃっ

 

「「「!?」」」

 

足元に水気を感じ、下を向く。するといつのまにか床に液体が撒かれている、それは艦娘にとって最も馴染み深いもの。燃料である。

 

「最初からこれを狙って、、、!」

「今更気付いても遅いっぽい」

 

言うが早いが三人に突っ込む夕立、このまま砲を撃つと発火の危険がある、むやみやたらに撃てない。仕方なく三人で取り囲もうとするが夕立は完全に三人の動きを見切る。

 

「くっ、馬鹿な!?こちらは三人なのに!」

「数だけあったって!」

 

信じられないことだった、高練度の艦娘三人を相手どって尚余裕を見せる夕立。

正面から殴りにくる一人を右手でガード、後ろから蹴りを放つもう一人の足を左手で掴む。最後の一人が横から殴りかかる、しかし夕立は掴んでいる二人を引き寄せて頭をぶつける。

殴りかかった艦娘が拳を引こうとするが遅い、逆に懐に潜り込まれて首を締められてそのまま倒れる。

同じように頭を押さえている残り二人を首を締めて無力化する。

 

「意外と呆気なかったっぽい。」

 

そういって撤退する夕立、時雨のことは気にしていない。あの程度ではやられないというある種の信頼があるからである。

 

 

同じ頃、時雨は工廠を出ていた。後ろからは艦娘が二人、月明かりで露になったその姿は長門と山風だった。

建物の間を駆け抜けていく時雨、後ろからは機銃の嵐だ。

 

「くっ!?何故当たらない!?」

 

機銃掃射の間を縫うように駆ける時雨、長門は歯噛む。

既に相手は主砲の射程内、この距離なら確実に当てられる。尚且つ主砲の砲弾の威力を考えれば一瞬で相手の身体は吹き飛ぶ、しかし使えない。

 

それは何故か?

 

「やっぱり、いくらなんでも僕一人の為に建物を吹き飛ばすなんて出来ないよね、、、!」

 

そう、時雨は建物の壁にぴったりと沿って移動していた。これでは主砲を撃ってしまうと傍の建物まで吹き飛ぶ、しかもここは物資が保管されている倉庫密集地帯、中には何が入っているかわからない為、迂闊に撃つことができないのだ。

そして時雨は監視室で念のため調べておいた倉庫に入る、追手が来る前に倉庫内に仕掛けを施す。

腰から魚雷を一本抜くとリモコン式にセット。作業が終わると同時に長門達が倉庫内に入ってくる。時雨はこの仕掛けに気づかれない様に壁際へと誘導していった。

 

「何を考えている、、、?」

 

時雨を追いながら長門は考えた、さっきから同じ倉庫の中や外を行ったり来たりしている。しかも全て窓から飛び降りるという荒業、そうこうしているうちにいつの間にか時雨を見失う。

しまった、と思い手分けして探すか一瞬考えた時だった。

 

ぱすっ、ぱすっ、ぱすっ

 

何か乾いた物を叩くような音が連続して聞こえる、音源へ近寄り探すが見つからない。そのうちまた同じような音が響いてくるが、やはり姿は見えない。

また霧のような物も出てきて視界も悪くなってくる上に二人の体力も限界になってくる、一回ここを出るかと考えた時にそれは起こった。

 

「やぁ、鬼ごっこも飽きたろう。」

「また声だけ、、、姿を見せろ!」

「やだね、それと話は変わるんだけど、、、」

「?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「粉塵爆発って知ってるかい?」

 

 

長門と山風が最後に見たのはその声の後の閃光だった。

 

 

 

 

チュドドドドドドォォォォォォォォン!!!

 

 

「少し強すぎたかな、まぁ仮にも艦娘だし死にはしないでしょ。」

 

少しも悪びれずにいう時雨、爆音を背後に聞きながらその場を立ち去る。

 

―――が

 

「待て、、、!」

「!、、、へぇ、まだ動けるんだ。」

「ビッグ7の力、侮るなよ、、、!」

 

振り返るとそこには、全身傷だらけになりながらも立っている長門がいた。しかし本当にかろうじてだ、艤装は最早大破どころではない。

 

「困るなぁ、これじゃぁまるでこっちが悪役だ。」

「深海棲艦のスパイがよく言うな、、、!」

「あ~なるほど、騙されているのか。」

「何を言っt――がはぁ!?」

 

最後まで言わすことなく容赦無く長門を気絶させる、確かにここで長門に事情を説明する暇もないし必要も無い。

読者諸兄には何が起こったのか分からない人もいるだろう、順を追って説明する。

まず粉塵爆発に必要なのは、適度に散布された上に乾燥した粉塵、充分な量の酸素と風通しのいい場所、そして発火元である。

まず時雨は魚雷を仕掛けた、この魚雷、所轄酸素魚雷にはある仕掛けが施してあった。それは内蔵している酸素を放出することだ、これによって倉庫内に酸素が充満する。

そしてその後長門達の前に現れてわざと逃げる、この時窓から逃げることにより風通しを確保、しかし酸素が段々と放出されて行くのでここからはスピード勝負。

一旦姿を眩ましたあと、倉庫内にある袋をナイフで破って行く。

乾いた音はこの音である、そしてこの中身が小麦粉であることは事前に監視室のデータから把握済み。

中身の小麦粉が充満してくる頃には時雨は既に入り口付近に待機、長門達は充満した小麦粉を霧と勘違いした。

そして一声掛けた後に全力でダッシュ、そして適度に離れたらスイッチをぽちっとな。

 

 

その爆発音は車で待機中の北上と青葉にも届いた。

 

「うっわー派手にやってるねー」

「青葉興奮します!」

 

相変わらずの緊張感のなさである。

 

 

 

 

同じ頃、銚子鎮守府の出撃ハッチにモーターボートが一隻。提督のみに許された非常用の脱出ハッチである、そこに銚子鎮守府提督はいた。

 

「奴等がここまでとはな、まぁ想定の範囲内だ。」

 

そう言いながらも提督は考える、最初から機密書類保管室に向かわせた部隊にはあまり期待していなかったが、まさか工廠に向かわせた艦娘の部隊も駄目だとは思わなかった。

ここでもし提督が何故迎撃要員が異常に早く敗れたのかを考えればここが危険だという判断が出来ていたのかも知れない。

 

「さて、そろそろだが、、、何故ハッチが開かん?」

「ハッチだって開きたくない気分なんじゃないの?」

「なっ、貴様!?」

 

振り向いた先にいたのはご存じ川内、後ろで自分を護衛していたはずの艦娘はすでに気絶している。

馬鹿な!あり得ない!提督はそう考えた、ここに来るまでは一本道なのですれ違わなかったということは、、、

 

「貴様!何故ここを知っている!?」

「この川内様は何でもお見通しなのだ!」

 

キラッ

 

少々ムカつくが全て当たっている、見も蓋もないようだが川内達は侵入直後からこの事に気づいていた。それを問題なしとして待ち伏せされているのを承知でのり込んだのだ、何故気付いたかは侵入直後に監視室に乗り込んだ時に遡る。

 

 

 

午後十時

 

「名前と顔が一致しない?」

『はい、そうなんです。これを見て下さい!』

 

監視室のモニターに表示された顔は首だけになった監視室の警備係の者達とは似ても似つかない優男だった、しかし名前は一致している、ラ〇ザップにでも行ったのだろうか。

 

「これはつまり、、、」

『警備係が入れ替わっています、恐らくここの提督の私兵でしょう。』

「はぁ、、、どっから漏れたのやら、至急詳しく。」

『え~と、この三日間で警備係の入れ替えが異常に多いです、どうやら来るのを見越していたようですね。』

「さすがは元海軍大将か、、、、」

『どうしますか、一旦区切り直しますか?』

「大丈夫だ、問題ない。」

『あかん、それフラグや。』

 

それでも二人共に焦りは無い、こんなに証拠隠滅の手口が雑なら何処かに罠に関する情報も含まれている可能性が高いからだ。

はたしてその情報はあっさり見つかった、逆にこれこそ罠ではないかと疑ったがそんなことはなく、その情報を元に対策を考えた、ただそれだけである。

だから逆にこのことを知られていたら「詰み」なのである。

 

 

 

時は巻き戻る、、、!

 

 

 

「くっ、金はいくらでも出す!今よりも厚待遇にしよう!」

「出た、おきまりのセリフ。毎度思うんだけどそんなんで心動く人いるのかね?」

「私を憲兵につきだす気か!」

「んにゃ、アンタにはその価値もないね。」

 

押し問答を続ける二人、焦る提督だが川内は取りつく島もない。そう言って腰から自分の得物を取り出す、それはこの第零艦隊の通称ともなっている苦無。

そして川内は銚子鎮守府提督に問いを投げ掛ける。

 

「ねぇ、何故私達がクナイと呼ばれるかわかる?」

「な、何だ!?」

 

かまわず、川内は続ける。

 

「敵を苦しみ無く殺すため、そして全ての艦娘の苦しみを無くすためよ。」

 

そう言って一閃、提督の頸動脈を確実に一瞬で切り裂く。

声を上げる暇も無かった、ただただ目を見開いた形で提督は倒れる。物言わぬ死体となった提督を見下ろしながら言う、

 

「ざまぁ見ろ、、、くっクックッ、」

 

 

 

 

「きゃははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!」

 

 

狂ったように笑う川内、その目は暗い暗い深淵が写しだされていた。普段の川内を知る者はもちろん、同じクナイのメンバーでさえもこれを聞けば驚くだろう。

 

「はははは、、、はぁ、はぁ、はぁ、、、」

 

笑い終わった川内の目は元に戻っている、まるでさっきのことなど無かったように。そこへ通信が入る。

 

『川内さん、今大丈夫ですか?』

「いいよ~ん」

『時雨さん、夕立さんペアが目的物を回収しました、撤退しますよ。』

「OK今から向かう。」

 

そう言って通信を切る、そして立ち去る前に提督の死体を一瞥する。

 

「、、、、、、」

 

ぺっ

 

提督の死体に唾を吐いたあと、今度こそ川内はその場を立ち去る。ここの提督に何か怨みでもあったのか、それとも他に何かあるのか、それを知る者は少なくとも今この場には居ない。

 

 

 

午前二時

 

川内達は銚子鎮守府から離れ、パーキングエリアで休憩を取っていた。追手の心配は無い、それどころかまだ混乱しているだろう。川内達の手口はそれほど鮮やかだった。

皆がパーキングエリアの名物「水戸納豆」を買いに走る中、川内は一人車内で自身の提督へ報告を入れていた。

 

『そうか、、、やはり送られてきた報告書類を見る限りやはり敵の目的は首都圏陥落なのか。』

「十中八九そうだろうね、大丈夫なの提督?今回ばかりはちっとヤバイんじゃないの?」

『いや、この情報を見る限りではまだ時間がある。それにつけこむ隙が無いわけでもない、行けるだろう。』

「そう、、、ならいいんだけど。」

『いつもすまんな川内。』

「別にいいんだけどね、じゃあ。」

『ああ。』

 

そう言って通信は切れる、暗い車内の中で彼女は一人呟く。

 

「別に、いいんだよ、本当に、私の命はあの時からずっと提督の所有物なんだから、、、」

 

 

 

 

執務室内

 

川内からの情報により裏付けがとれてしまった、恐らく私の予想はほぼほぼ的中するだろう。そう思う提督は机から二つの書類を取り出す。

 

「こっちは元から考えて居たが、こちらに関しては龍田がいいものを持ち帰ってくれた。」

 

 

 

提督の出した書類の一つ目の題名は

 

「全鎮守府合同大規模演習について」

 

そしてもう一つは、、、

 

 

 

 

 

 

「人間男性装着型艤装開発資料」

 

 

提督は窓から海を見据えて言う、

 

「そろそろ、日本の海を返してもらおうか、、、」

 

深夜、降り注ぐは月の光のみ。それでも提督はまるで何かが見えているようだった、、、

 

 

 

 

 




皆さんお久しぶりです、大和です。
明けましておめでとうございます!皆さんお年玉はいくら貰いましたか?
「そもそもお年玉をもらえる年齢なのかね?」
いいんです!提督は静かにしてください、夢があっていいじゃないですか~!
夢と言えば初夢は皆さん何を見ましたか、一富士二鷹三茄子をみられましたか?
「ど~せ覚えてないんだろ?」
提督、そろそろ黙らないと殴りますよ。
(-_-#)
「す、すんません……」
ちなみに初詣で引いたおみくじは大吉でした!提督はどうでしたか?
「いいもん、凶でも気にしないし………」
んも~提督ったら可愛いな~!
「大和」
はい?


「…………………今年もよろしくな」
提督~~~~~~~!!!!




あっと忘れていました!


次回 手紙


久しぶりの茶番回です!!


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十、手紙

ほう、正規空母の胸部装甲の中で加賀さんのは二番目位なのか。じゃあ一番は……蒼龍か欲しいな~

翌日
「航空母艦、蒼龍です。空母機動部隊を編成するなら、私もぜひ入れてね!」
((((;゜Д゜)))

神は俺の下心を読んでいるというのか……!

久しぶりの茶番回兼伏線回収回です!


後第二章の戦闘部隊はどこの川がいいんでしょうか?良ければオススメなどを教えて下さ~い!お助けを~!
という訳で来週はお休みしますが、その代わりにがばかばなこの物語の設定を投稿します。理由は筆者の事情と前述のアイデア不足のためです。

お待たせしました、どうぞ~


拝啓 母さん

 

 

いかがお過ごしでしょうか、こちらは横須賀鎮守府に着任して早くも一週間が経ちました。最初は緊張していましたが、優しい先輩や友人に囲まれて意外と充実した日々を送っています。

写真を同封しておきますが建造を受けて私は見た目が少し変わりました、髪が薄い緑色になったんです。

写真で私の右隣に写っているのは同型艦で私の姉の艦に当たる空母の翔鶴さんです、とても優しい人で私は翔鶴姉ぇと呼んでいます。本当の姉のように思っています、私に基本を手取り足取り教えてくれました!

写真の左隣に写っているのはルームメイトの夕張です、とても明るくて色々なことを教えてくれました。しかし時々明らかに必要ないだろってことも教えてくれているような気がするのは、気のせいだと思いたいです、、、

それより聞いて下さい!最近私より後に着任した加賀さんという空母がいるのですが、その人がとても無愛想な人で反りが会わないんです。そのせいで仲良くできずいつもケンカばかりしてしまうしてしまうんです、けど加賀さんも私が何度話し掛けても厳しく返して行ってしまうんです。どうしたらよいでしょうか、私的には仲良くなりたいと思っているんですが…

まぁそんなこんなで私の近況報告です、また手紙を送りたいと思っています。母さんは私がいなくて大丈夫ですか?何か会ったらすぐに連絡下さいね、ではお身体にお気をつけて。

あ、あと提督はとてもいい人でしたよ!

 

       水華改め空母「瑞鶴」より

 

検閲部閲覧済み 提督許可受領済み

 

 

 

この手紙を検閲として提督が読んだとき「俺の扱いって…」(´;ω;`)と泣いていたという。

 

 

 

 

「……………」

「どうしたんですか、加賀さん?」

 

ごそごそ、と加賀さんは自分の机からあるものを取り出す。それは大きなファイルだった、表紙は金縁で彩られておりとても優美だった。

そこには縦書きの行書体で

 

「水華の軌跡」

 

と書かれていた、気になる赤城は中を覗くが…まぁ予想通りのものだった。それは加賀さんの娘の今までの成長を記したアルバム、しかし驚異的なのはその量だった、それとなくアルバムの背表紙に赤城は見てしまったのだ。

 

「第一〇八巻」

 

一応補足しておくが瑞鶴はまだ今年で十六歳である、なのに第一〇八巻である。計算すると一年に約十二巻、つまり一ヶ月に一冊のペースでうまっていることになる。

これを読んでドン引きしている画面の前の読者諸兄の皆さん、いま加賀がそっちに向かったので逃げるように。

そんなことはさておき、もらった手紙を大事そうに、本当に大事そうにしまう加賀。しかしやはりただの仕舞いかたではない、何処から取り出したのか分からないがプリンターのような機械が机の上に置かれる。

そして加賀さんは手紙をその中に入れる、しばらくして出てきた手紙ははたして、ラミネート加工されていた。

そしてそれはそれは丁寧にアルバムの中に入れる加賀さん、そして満面の笑みを浮かべる。

(*´ω`*) この顔である

 

「あの、加賀さん?大事なのはわかりますがそこまd―」

「赤城さん何か?」

「いえっ!何でもありません!」

 

言い掛けた言葉を途中で飲み込む赤城、加賀の目を見た瞬間に何も言えなくなった。加賀の顔は笑っていたが、目は全く笑っていなかった、もし何か言おうもんなら数秒後にはあの世でしたというオチが本気で有りそうな次元の目だった。

 

「また、大事な思い出が増えました…」

「………ふぅ」

 

それでも結局は親である、親は皆子供の成長の記録を取って置きたいものなのだ。

 

(加賀さんはそれが少し強いだけ、なんですね。)

 

赤城はしみじみと思った、私もいつか加賀さんの気持ちが理解できるのかな、と。艦娘と言えどもやはり女性なのだ、こんな気持ちなるのだ。

とはいえ、加賀さんのようにになるとしたら少し嫌かな…と思う赤城であった。

 

「赤城さん、出撃の時間です。行きましょう。」

「ふふっ、そうですね。」

「?何かついてますか?」

「いいえ、何でもありませんよ。」

(いつか私もこんな家庭を築きたいものです。)

「?」

 

首を傾げている加賀を横目に笑い続ける赤城、全鎮守府の中でもトップクラスの戦力の横須賀鎮守府、しかしそこには鎮守府の外とあまり変わらない日常がそこにはあったりする。

 

 

 

 

 

 

 

ところかわって同じ頃

 

都内某所の喫茶店内に男が二人

 

「……………」

「大丈夫、今日は俺の奢りだ。」

「ヒャッハー!食って食って食いまくる!!」

 

そう言って食事にがっつくのはT督、そう瑞鶴の父親である。若干ドン引きしながらももう一人の男――横須賀鎮守府提督は話を切り出す。

 

「なぁ、今現在の艦娘に関する世論の動きはどんな感じなんだ?」

「ふぉうだな……ふぃまふぇんふぁいは」

「とりあえず飲み込んでから話せ。」

「んぐっ、ぷはぁ~~。いまんとこ…っていうか今までもだが相変わらず艦娘擁護派が圧倒的多数を占めてる。まぁ殆どは若者達に感化されたからだがな、職業としての女性からの憧れと男性からの容姿に関しての絶賛が合わさった結果だな。」

 

T督は軍を退役した後は軍人時代にためた金額と退職金を合わせると一生遊んでも困らない金額だったので株でもしようかな~、と当時思っていたのだが………

 

『娘の親がニートって何処の星の王子かしら(笑顔)』

 

と加賀さんに言われて、渋々いや喜んで有名新聞社に入ったのだが、ここでも天才性を発揮し瞬く間に昇進を重ねて今の地位にいる。今の地位とコミュニティそしてこの男の天才性を発揮すればある程度ではあるが世論の方向を操作できる、やはりT督はT督、その天才性は全く衰えていない。

 

「それで今回呼び出した理由だが………」

「それっぽい情報はもう入手済みだ、………首都に関して、だろ?」

「!!………ったくどっから漏れたんだよ。」

 

T督が一気に声を潜めて放ったセリフに提督は驚きを禁じえなかった、このことを知っているのは今のところ私と大本営にいる先輩だ、しかも先輩に関してはこの後に訪ねる予定だったので実質的に知っているのは私だけのはず、やはりこの男には常識は通用しない。

提督は観念して全てを話した。

 

「つーわけだ、………お前に頼みたいことは、もうわかるだろ?」

「ああ、ここまで言われれば嫌でもわかるよ、今の世論がこの状態で良かったな。」

 

今の世論、それは艦娘擁護派が大多数を占めている現在の世論の状況である。艦娘は日本において憲法第九条だなんだと言われているが、意外と国民の男女共に大多数に賛成されているのだ。

その理由としてはまず女性からの圧倒的な人気だろう、若年層からはテレビや写真(と言っても顔が映っている物はないが)で見る艦娘にアニメのヒーローや魔法少女のような憧れを抱き目指すものが殆どだ。

またある程度年を重ねた女性からも志望者が多い、それはひとえに美への憧れだ。加賀さんの建造時に知っていると思うが建造を受けると容姿が変わるのだ、しかもそれは個人差や個性が少しでるもののどれも見目麗しいものばかり。しかも肉体の若返りと解体を受けるまで老化が止まるというオマケつき、これに乗らない手は無い。ちなみにこのせいで見た目幼女や十~二十代なのに実際は五十~六十代という事態が起こりちょっとした社会問題になっている、だが肉体年齢は見た目と変わらないのとかつて戦場に身を置いていたということで大きい問題には発生してない。

次に男性からの支持の理由だが………まぁお察しの通り下心である、ああ男とは悲しい生き物である。

まず提督になりたいという男性が多い、このパターンは三つ。

 

一、平和な海を取り返し、英雄になってやる!

 

二、お国のためにこの身を捧げよう

 

三、艦娘とハーレム作りてぇーーー!!!

 

次に提督志望の男性以外の男性からの支持の理由だが………出回らない艦娘の顔を妄想し、一目会ってみたいと言うオタクやマニアなどが急増中なのだ。一部のアクティブなオタクは戦闘区域に単身乗り込んでくることもある、まぁそれで生きて帰ってこられたかはお察しの通り。

 

 

まぁそんなこんなで今世間は全体的に艦娘を援助する姿勢なのである。

 

その後その頼みの具体的な方法を話し合った後に二人は別れた。

 

「そういえばお前なんであんなに金のことを気にしてたんだ?」

「加賀さんに家族の銀行の口座の暗証番号を変えられて、クレジットカードもストップされた。だから次の給料日まで一文無し…………」(´・ω・`)

「ドンマイ………」

 

 

 

 

 

数時間後 東京六本木

 

ここには防衛省がある、だが深海棲艦の出現に伴い同地に別に大本営が建てられている。その大本営の建物の中の一室で提督はある男を待っていた、やがてそのに男は唐突に現れる。

 

「おう、待ったか?」

「いえ、全然。お変わりないようですね、先輩。」

 

その男は顎に無精ひげをはやした男だった、大柄で引き締まった体つき、しかしその目は深い知性を感じさせた。隣には秘書艦と思われる不知火が控えていた、この男こそT督と提督の両名が尊敬する唯一の人物である先輩、本名「海田 源十郎(かいでん げんじゅうろう)」である。

 

「さて、今日の要件は二つだったな。」

「ええ、ですがそのうち一件はオマケのような物ですのでささっと済ませましょう。」

 

そう言って懐から一束の書類を取り出す提督、それは銚子鎮守府から失敬してきた書類「人間男性装着型艤装開発資料」であった。その書類を見た瞬間、僅かに海田の目が見開かれたのを提督は見逃さなかった。

 

「単刀直入に言います、これの開発と試験及び実装をウチでやる許可が欲しいんです。」

「………面白いな、いいだろうこちらからは言っておく。好きにやれ。」

「先輩………!!ありがとうございます!」

「世辞はいい、本題に入れ。」

 

つれないなぁ、と思いながらも言われた通りに本題へ入る提督。同行させてきた大和から分厚いA4サイズの封筒を受け取り、その中身を取り出す。出てきたのはホッチキスで止められた三束ほどの書類だった。

 

「………?これがどうかしたのか?」

「順を追って説明しましょう。」

 

まず提督が取り出したのは「深海棲艦出現記録」と書かれていた書類束だった、これは文字通りここ数ヶ月の深海棲艦の出現日数の記録とその進路と予想される敵の目的だ。

 

「この資料の中では、最近の深海棲艦はなぜか日本の排他的経済水域内での活動が沈静化してきています。」

「それは逆に日本近海から深海棲艦が居なくなってきている、ということではないのか?」

「しかし、その少ない深海棲艦の動きが妙です。」

「妙、とは?」

「この資料内では二種類の動きしか見られないのです、一つは大艦隊で日本から離れるルート、もう一つは四隻以下の艦隊で日本に向かうルートです。」

「確かに、だがこれだけではな……」

「そこで、次の資料です。」

 

そう言ってまた大和から封筒を受けとる提督、こちらの封筒は前の物より薄い。取り出した資料には「深海棲艦艦種割合」と書いてあった、この資料は深海棲艦の艦種及びその詳しい種類と近年確認された鬼級や姫級の出現記録を記した物で、現在も更新されている。

 

「この資料でここ一ヶ月の出現艦種を調べた所、先程言った日本から離れるルートを通る艦隊には必ず輸送ワ級が四隻以上も含まれています。逆に日本に向かうルートには潜水カ級、ヨ級、ソ級で編成された艦隊が向かっています。」

 

ここで補足しておくが輸送船は人類にとっても深海棲艦にとっても戦力になり得ない、深海棲艦側はelite個体になると別だが。そのelite個体も日本から離れるルートには含まれて居ない、つまり戦力にならない個体を四隻も引き連れているのだ。

 

「それはただ撤退の為に資源を移した、と考えられないのか?」

「確かに、ですがこう考えればどうでしょうか?」

 

鋭い目をする先輩にもうわかっているくせに……と思いながらも続ける。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「艦隊決戦の為に資源を集中させている、と」

 

 

 

「ほぅ……面白い考えだ、だが根拠が弱いな。」

「そこで銚子鎮守府からの資料です。」

 

そこで提督は最後の資料を取り出す、それは「全鎮守府合同大規模演習 鎮守府別行動割り当て」と書かれた書類。

 

「なるほど、これなら決定的な証拠だな。」

「ええ、先輩は上を動かす為のブツが欲しいのならこれで大丈夫なはずです。」

 

全鎮守府合同演習、それは日本が国外の要人を招待して全鎮守府による大規模演習をみせるというものだ。これにより各国に艦娘の重要性を理解させ、日本の艦娘を自国の護衛手段として選んでもらうという目的がある。

銚子鎮守府の提督がこれを持っていても何の違和感も無いように思えるが、実はこの割り当ての資料は大本営の上層部のみが知ることを許されているのだ。

というのもこのイベントはテロなどを防止する為に直前まで日程と開催地が知らされないのだ、それを深海棲艦にリークされたということはかなりマズイ。

なぜかというとその合同演習時には全ての殆どの上位鎮守府がもぬけの殻になるということなのだ、その時は各国の要人を守る手はずはあるが東京を守る手はずなど考えられてもいない。

 

「だがそれが分かったところで大規模演習は中止にできん、それに今回の開催地は佐世保だ、距離が遠すぎる。」

「ですので、逆にこちらは小規模の艦娘部隊で応戦しましょう。」

「対応できるのか、深海棲艦の大部隊相手に?」

「そのカギは先日の事件です。」

「と、いうと?」

 

提督は東京の地図、それも湾岸地帯の物を取り出した。東京に住んでいる読者諸兄はわかるかもしれないが東京は湾岸に限らず都心部にも川が入り乱れている、それこそ「迷う」ぐらいに。

そして深海棲艦、艦娘は共に水の上で活動できる、そう海の上だけではなく川でも活動できるのだ。本物の軍艦ならば無理だろうが人間と変わらないサイズの艦娘には容易である、しかしそのことと対応できる根拠に何の関係があるのか、そこはわからない先輩だった。

 

「先日は本島の近くに空母主体の艦隊が出現、これを我が横須賀鎮守府が殲滅しました。」

「それは聞いている、それがどうしたのか?」

「恐らくあれは東京の地形を調査する為の部隊だったのでしょう、しかしそれは阻止された…」

「なるほど、考えたな貴様も………」

 

提督達は理解が出来たが、出来てない人の為に説明する。先日瑞鶴の初陣となった空母部隊、それは入り組んだ東京の地形を調査するための艦載機を搭載した者だった。しかしそれはご存知加賀さんと瑞鶴所属の横須賀鎮守府第四艦隊が撃破、つまり東京の地形情報はまだ敵に知られていないのだ。

それならば地形を熟知した精鋭を集めれば対応できる、そう考えたのだ。

 

「だが周辺の住民はどうする……と言ってもそれが俺への頼み事なんだろう?」

「察しが良くて助かります、先輩には上層部に掛け合い避難の手筈をお願いします。」

「よし分かった、まかしておけ。それと横須賀だけでは心許ないだろう、呉のほうにも打電しよう、『彼女』とも会いたいだろう?」

「お心遣いに感謝します、首都が侵攻されることに関してはT督が世論を調整してくれるように頼んでおきました。」

 

そう、避難の際に深海棲艦が現れると知った一般人がパニックを起こさないとも限らない。なので提督はT督に深海棲艦が攻めてくるかもしれない、という事をそれとなく世間に浸透させてもらうように頼んだのだ。

そして呉からの増援についてとのことを話し合い、二人は別れた。

 

 

 

 

 

 

 

全鎮守府合同大規模演習及び深海棲艦の東京襲撃まであと一ヶ月………

 

 

 

 

 

第一章    完

 

 

 

「久しぶりね、提督。」

 

「そうか、あの子がか……」

 

「貴女、不幸と不運を間違えてない?」

 

「三、二、一……来ます!!」

 

「隅田川に敵艦隊ですって!?」

 

「一航戦の実力、魅せてあげる。」

 

「俺は勝てる賭けしかしないんだ。」

 

「フフ、ミ~ンナ消シテアゲル……」

 

「戦闘は司令室で起こってるんじゃない!現場で起こってるんだよ!」

 

 

次章 踊る大規模作戦~東京湾を封鎖せよ!~

 

 

 

 

 

 




皆さんこんにちは、大和です!
ついに一章も終わりです、まだまだ謎が多いこの物語ですが飽きずに最後まで読んで下さると幸いです!
………こんな感じでいいんですか?

「ああ、お疲れさん。」

わかりました、それでは準備を始めますね。

キィィィ………パタン

「これで、とりあえずは終わったな。後は明石にあれを頼んだら一区切りだ。」




次回、作戦会議




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がばかばなこの世界の設定

すいません!てっきり投稿予約していると思っていたのですが、してませんでしたぁ~!
お待たせしました、申し訳ありませんでした!!

それではどうぞ~!


美加(加賀) 元艦娘の一航戦「加賀」で呉鎮守府所属だった。カイタイカッコカリをして前線を一時引きそして同時期に退役した元呉鎮守府の提督、T督と結婚(ガチ)した。艦娘時代に立てた功績の数から他の鎮守府の加賀とは一線を画していたこと、また髪留めの百合の花の色が白だった事もあり「白加賀」の二つ名で呼ばれた。(現在はその髪飾りはつけていない)結婚した年に娘が生まれすっかり親バカになった。

練度は勿論百五十。

 

T督  加賀と同じ元呉鎮守府提督。本名は寺牙 撫明(てらが なであき)。的確な艦隊指揮そして艦娘のケアができる完璧で理想的な提督……と言えば聞こえはいいが実際にはかなり個性的な提督である。元々は駆逐艦好きだったが着任した加賀さんを見て一目惚れし、密かに恋心を抱いていた。退役直前に告白し、めでたく結婚。夫婦仲は良好で加賀と同じく娘を溺愛している。基本的にボケているが娘の事になるとその天性の才能を無駄に発揮する。提督とは長い付き合いで共に伝説とまで詠われたがはたして……

 

 

水華(すいか)(瑞鶴) 美加とT督の娘、現在15歳、少し勝気な所がある。艦娘に憧れを抱いていてこの度「瑞鶴」として横須賀鎮守府に着任した。成績は優秀で横須賀鎮守府に配属されるだけのことはがあるがまだ実戦経験は無い。最近過保護な親を煩わしく思っており離れられるのが少し嬉しい。とは言ってもまだまだ親には甘えてしまうお年頃(加賀さん談)

 

 

提督 横須賀鎮守府の提督でT督とは訓練学校からの付き合いでとても仲がよく、年が離れていても親友のような間柄。本名は日卸 憲賀(ひおろし けんが)。T督と同じく驚異的な能力を持っているがやはりかなり個性的で、暇さえあればボケていく。十歳年下という妹がおり、歳の差を気にせず可愛がっていたが何故かもう十年も連絡が着かない。もう秘書艦の大和とケッコンカッコカリしているが本当の夫婦のような関係である。現在階級は少将とかなり高いため海軍内でも顔がきく。ちなみにT督と提督は昔一緒に憲兵のご厄介になっている。T督と並び伝説と言われていた……らしい

 

 

艦娘

在りし日の艦艇の魂を持った少女たちのこと。突如現れた深海棲艦に対抗できる唯一の存在であり、妖精さんたちとともに日々戦っている。日本が先駆けて技術の確立に成功しその後、ヨーロッパ、アメリカなどに配備されている。艦娘という名前は民衆に知られているが素顔、容姿などは最高機密とされている。しかし国や世界を守るという立場から民衆、特に少女達から憧れの的、希望の象徴とされており艦娘養成学校への受験希望者は多く毎年倍率は20倍を超える。しかし大事な子供を、しかもまだ若いうちに戦地に送り出すわけにはいかないと反対する親も多い。艦娘養成学校への狭き門をくぐり抜けた少女たちは3年間の課程を終え、正式に艦娘として各地の鎮守府に配属される。また配属先も様々であり殆どは海外に配備されるので国内に配属されるものは成績優秀なごく一部である。

 

 

日本海軍

突如現れた深海棲艦の迎撃に出動し、壊滅させられた海上自衛隊を艦娘の運用に適した形へと再結集させた組織。旧日本帝国海軍の階級制を復活させたりしている。日本各地そして日本を中心とした海域に鎮守府と艦娘を配置し、それを束ねる大本営がある。また鎮守府の中でも呉、横須賀、舞鶴、佐世保は精鋭中の精鋭であり、この鎮守府に所属出来ることは誇りであるとされる。しかし軍という名を冠することやかなり遠方の海洋にも鎮守府を配置していることもあり一部から批判の声が上がっている。また、その考えに同調する内通者や様々な派閥もあり、決して一枚岩とは言えない。

 

 

深海棲艦

突如として数年前に世界各地の海に出現、瞬く間に全世界の制海権を掌握した。既存の兵器が殆ど通用せず、艦娘が現れるまで人類を恐怖と絶望のどん底に叩き落した。艦娘が登場し約二割の制海権を奪還されたが、依然としてその勢いと脅威は衰えることを知らない。種類も様々で駆逐艦や空母、戦艦のような種類もあるが、姫級と呼ばれる知性を持ち一体にして超弩級の戦力を持つ個体も確認されている。出現当初はロシアやアメリカによる核兵器でのごり押しで撃退させていたがだんだんと核兵器が通用しなくなっていったことから進化をする可能性もある。一部では海に沈んだ人間の怨念が生み出しているという説もあるが定かではない。

低級の個体は知性を持たないが、鬼、姫級は高い知性を持っている。

 

 

艦娘養成学校

その名の通り、深海棲艦との戦いの要であり花形でもある艦娘を養成する国内唯一の女学校である。通学と寮生活の好きなほうを選べ、12歳~15歳までの間に艦娘としての知識を習得したり軽い演習をしたりする。入学後すぐ艤装適性検査を受け、適性艦種別にクラス分けされる。艤装適性値には差がありもちろん高い方が有利だが低い者も努力次第で十分に伸びる可能性があるので一概には言えない。そして卒業間近に最終試験を行い、順位付けをする。そして、艦艇の魂をその身に宿す儀式を行う(これを俗に「建造」という)と同時に各地の鎮守府に正式に配属される。尚艦娘となり常人を遥かに超えた力に耐えうるために座学、実技共に生半可なレベルではない。

例えば座学は最低でも高校の内容を、実技は格闘術などを教わる。

 

 

艦娘採用試験

海上自衛隊改め海軍が実施しているシステムで、艦娘養成学校に通わない又は通えない人々の中で高い艤装適正を持った人を見つけ出すための試験。この試験で一定以上の適正を示せば艦娘となれる、対象年齢はないので何歳だろうと試験を受けられるが筆記試験がそれなりの難易度なので実質的には艦娘養成学校に落ちた人々への救済策とも言える、まぁそれでもかなり倍率は高い。

しかし例外的に、艤装適正値が異常に高い者は問答無用で受かる。海軍も常に人手不足になっているということが伺える。

 

 

徴兵について

現在は艦娘の数はある程度足りているのでそのようなことはしていない。しかし金に困った親が金の為に我が子を海軍に預けてお金をもらうという事案も過去に発生しており、この募集を止めるかどうかで議論が交わされているが明確な答えはまだ出ていない。

 

 

カイタイカッコカリ

長期休暇、又は一時退役した艦娘などに取られる特別な措置の俗称である。これは艦娘を完全に艤装と共に常人に戻す解体とは違い、力は常人まで落ちるが艤装を保存しておくことで戦力が不足した場合に少ない資源で迅速に艦娘としての戦力を得られるものである。

 

 

艦娘と人間の交配

艦娘となり、艦の記憶を宿した後、食生活や体組織にかなりの変異が見られるが基本的に元々は人間なので事実上交配は可能である。そのせいか、ケッコンカッコカリをした後に正式に入籍する提督も多い、しかも艦娘との間にもうけた子供は男子女子共に優秀であると言う。例えば男子であれば提督の適正があり、女子であれば艦娘の適正が高いなどである。

 

 

現状の戦闘区域

世界に艦娘の配備が進んだ影響で全制海権を掌握された状況から約二割もの奪還を成功させている。だがその開放された海域の殆どが日本周辺の海域であり、未だに殆どの国の制海権は依然として掌握、封鎖されたままである。尚且つその日本周辺の海域も残存する深海棲艦からの抵抗や奪還を目論む深海棲艦からの攻撃に日夜さらされており、お世辞にも完全開放とは言えない。

 

鎮守府

日本海軍が艦娘の効率的な運用をする為に設置している施設、ある程度の艦娘と一人もしくは場合により複数の提督により運営されている。一般人の立ち入りは厳禁であり、世にも美しい艦娘を見ようと侵入しようとしてくる勇気ある変態紳士も居るが、近くに常駐している憲兵によりもれなくお縄についている。設置されている箇所は国内外にあり国内には約四十程度で、国外にある遠洋の鎮守府は約三十くらいある。規模も様々だが、大抵が中~大規模である。前線の簡易的な基地も含むとその数は大きく増える。

 

艦娘の出産

深海棲艦との戦争が始まり艦娘が現れて少したった後、日本では合計特殊出生率がはね上がっている。これは引退した艦娘が次々と結婚したからである、このように加賀さんと瑞鶴のような親が艦娘であると言うケースはかなりメジャーである。だが引退した艦娘には政府から正体を明かさないという厳重な箝口令がしかれている、なので自分の母親が艦娘であると言う事実を知るものは殆ど居ない。

 

FGES

正式名称《Fleet Girls Evolution System》、明石の最高傑作であり人類の希望。横須賀鎮守府に所属している艦娘だけでなく、全ての艦娘の戦闘経験をフィードバックしている。その蓄積された戦闘経験から場面ごとに最適な装備を生み出す、これにより瞬時に様々な兵装を作れるようになった所轄「AGEシ〇テム」である。

開発理由は明石曰く「考えるのがめんどくなった」

だがこのシステムの真価は兵装を進化させることではなく………

 

その他の登場人物

 

横須賀鎮守府

 

大和

提督の秘書艦、現在の練度は百三十であり現時点では最強の戦艦。実はリズムゲームの猛者であり全国制覇もしている、提督の善き妻でありツッコミ役。一隻で敵艦隊約六艦隊を殲滅したこともある、一対多では圧倒的な火力でねじ伏せる。

 

赤城

加賀さんの相棒、同期であり付き合いも長い。練度は加賀さんと同じ位の百三十五、しかし元のキャラと天然の性格から本来の強さを出す機会がない。だがやるときはやる。

 

日向

提督が最初に出会った戦艦、練度は百。だが長年の戦闘で積み重ねた経験は大和よりも上、場合によっては大和をも下す技量の持ち主。艤装を使うよりも腰の刀を使った方が強いと言う噂がある。ちなみに伊勢は呉鎮守府所属。

 

翔鶴

瑞鶴の姉妹艦、物腰柔らかくて誰にでも好かれる。練度は六十、一応瑞鶴が来るまでは一番新しくきた艦娘だった。影で先輩たちに追い付こうと頑張っている。趣味はギター

 

秋雲

提督のマヴダチ、練度はそこそこの四十。提督とオタク談義にはなを咲かせている、安定して絵が上手い。コミケには常に参加(サークルとして)無論艦娘であることは秘密、最近は提督とあることに打ち込んでいる。

 

夕張

瑞鶴のルームメイトでオタク、ただしただのオタクではない。明石の補佐として様々なものを生み出す、最近ハマっているものは『宇宙戦艦ヤ〇ト』。

 

明石

誰が呼んだか通称「横須賀のドラえ〇ん」、しかしその名は伊達ではない。明らかに作れなさそうなものもここの明石にかかればできる、提督からは時々「始まりの一人」と言われているが………

 

???

ここの鎮守府で最強の艦娘は誰かと聞くと殆どは大和と答えるが、提督と長く付き合った艦娘と提督そして大和自身はこの名を上げる。練度は最早測定不能、その艦娘は一人で駆逐棲姫を三体倒したと言う公式戦の記録を持っている化け物。

 

金剛

言わずと知れた高速戦艦金剛型一番艦、練度は日向と同じ百。元々はT督の鎮守府に所属していたがT督の退役に伴い妹の霧島と転がり込んできた、「金剛石の矛」と言う二つ名で尊敬されている。高速と書いてあるが実際は超速と言っても遜色ない、その速度は「通常の艦娘の三十倍の速度」………らしい。

 

高雄

高雄型重巡一番艦、こちらも元T督の鎮守府に所属していた。練度は九十で横須賀鎮守府の精鋭には練度は及ばない、そう「練度は」。彼女の真の力はその類稀なる洞察力と判断力、現場で即興で作戦を立てて実行させる司令塔のような役割を担う。




それではまた一週間後に!


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第二作戦 踊る大規模作戦~東京湾を封鎖せよ!~
十一、作戦会議


先週はすいませんでした~!

さて、今回から第二章です、少しいやかなり戦闘まで間がありますが辛抱づよく待っていただければ幸いです!

さて、最近筆者は皆にオッサン呼ばわりされております。同じ提督からは艦これおじさんとも、いやいくら多趣味で四十年ほど前のネタが通じるからってまだ十代のつもりなのにそれはないだろ~!

Wii fit
「貴方の身体年齢は三十六です。」
(`;ω;´)

挙げ句のはてに艦これやりだして戦艦に詳しくなったら「戦前生まれ」と揶揄されるように……どうしてこうなった。


横須賀鎮守府 食堂

 

 

 

 

「初めましてやな、ウチが軽空母の龍驤や。気軽に呼び捨てで構わへんで!!」

 

 

そう言って自己紹介するのは軽空母の龍驤、彼女はここ横須賀鎮守府に所属している唯一の軽空母である。一ヶ月の間長距離輸送船を護衛していたのだがこの前任務完了とともに帰還してきたのだ、それ故に瑞鶴とは初対面となる。

 

「こちらこそよろしく、龍驤!」

 

そう言って握手をかわす二人、龍驤は誰に対しても愛想がよかった。しばらく談笑した後、瑞鶴は常々思っていた質問をしてみた。龍驤はここの提督が横須賀鎮守府に来る前からの付き合いなのだ、その龍驤ならばここの提督の過去と最近気づいた()()()について何か知っているかもしれないと思ったからだ。

 

「あのさ、少し質問があるんだけどさ……」

「なんや?ウチが答えられる範囲ならええけど。」

「ここの提督ってさなんか空母を避けてるような感じがするんだけど気のせいかな?」

「なんやそんな事かいな、たぶん消費資材が重いからとちゃうんか、な~んてな!」

 

流石コテコテの関西弁とギャグスキルで上手くその場を流す龍驤、瑞鶴はさらに違和感を感じて次の質問をぶつける。

 

「じゃあさ、何で執務室に壊れた腕時計が大事そうに飾ってあるの?」

「!!」

 

最近気づいた違和感、それは執務室に飾ってある壊れた腕時計だ。少し前に執務室に報告をしに行った時に見つけた。勿論その場で聞いてみたがうまく提督にごまかされた、しかしあそこまで大切にしているなら何か提督の過去に関係あるはず。実際これまで飄々としていた龍驤の顔が初めて凍った、さっきも無理して笑っていたような気がしたがやはりか。

 

「……アンタ、それを聞いてどないするつもりや?」

「別に何も、ただ興味があるだけよ。」

「ほなら教えることはなんもない、他を当たるんやな。」

 

すげなく断られた、まぁ予想はしていた。だがこれで確信できてしまった、あの提督には何かがあるそれもとても重いことが。

その時アナウンスが流れた

 

『瑞鶴さん、至急執務室まで来てください。提督がお呼びです、繰り返します…』

「呼ばれとるみたいやな、行ったほうがええんちゃうか?」

「そうね、ごめんねなんか変な質問して。」

「ええってええって、気にせんといてかまわへんよ!」

 

そう言って瑞鶴は執務室に向かった、一人になったテーブルにまた一人の来訪者が来る。

 

「龍驤、少しいいか?」

「……なんや、日向か。ウチになんか用事かいな?」

「いや、さっき瑞鶴と何を話していたのかと思ってな。」

「流石は提督が最初に出会った戦艦やな、何もかもお見通しかいな。」

「はは、私より提督と長く付き合っている艦娘なんてまだいるよ。」

「瑞鶴に提督のことを聞かれた、勿論提督の過去に関しては何も言ってないで。あの人は色々ありすぎたんや………」

「無理もない、むしろあそこまでのことを体験して正気でいられる提督はやはり天才だ。」

 

提督の過去を知るもの同士思う事があるのだろう、二人はそろって瑞鶴の去って行った方向を見添えていた。

提督の過去に何があったのか、今となってはそれを知るものは数えるほどしかいない。

 

 

 

 

 

執務室

 

「わ、私が秘書艦!?!?」

「ああ、今現在空母の中で一番練度が低いのはお前だ。だから早急に鍛える必要がある、よって瑞鶴を本日付で第四艦隊旗艦及び横須賀鎮守府の秘書艦として任命する。」

「は、はぁ……」

 

いきなり言い渡された秘書艦任命、しかし理由も納得できる。艦娘には「練度」と言う概念がある、「艤装適正値」、「艤装同調率」と合わせて艦娘にとっての常識だ。

まず「艤装適正値」これは数値が高いほどその艤装の力を引き出せるつまり練度が上がりやすい、しかしこれは先天的なものももちろんあるが努力次第で何とでもなる。

逆に「艤装同調率」はそのときの艦娘の精神状態によって左右される、下手をすると暴走し兼ねない。これは艤装に宿る艦艇の記憶との同調率ともいえる。

最後に「練度」これは艤装に蓄積されていく戦闘経験の事をさす、艦娘の強さを図るのにつかわれる一般的な単位だ。これが上昇することにより「改」という新たな段階に到達できる。

また稀に艤装によってだが「改二」と言う状態に一時的になれる者たちもいる、その状態の艦娘は正に規格外の強さを誇る。

そしてその中でもさらにごく一部が常時改二状態になれる、彼女らは生ける伝説とまで謳われ艦娘の最終到達点とされている。

ちなみに艦娘の練度は三十が平均、四十あればエース、五十あれば主力になれると言われている。

(ちなみに言うと加賀さんの練度は文句なしの百四十である、もはや限界を突破している。この練度にまで到達している者は歴代で加賀を含め十人いるかどうか。)

瑞鶴の練度は……十一である、横須賀鎮守府の平均練度が他よりも遥かに高い六十と言うのもあるがそれでもこれでははっきり言って雑魚だ。しかし秘書艦となった艦娘は経験値の蓄積が他の艦娘より速いと言われる、これなら早期の育成が可能だ。

 

「しかし、大和さんはいいんですか?」

「私は丁度用事が入って三か月ほどここを空けなければならないので、大丈夫です。」

「と、いうわけでこれからよろしく。」

「りょ、了解しました。」

「さて、初仕事だが重大発表の手伝いをしてもらおうか。」

「いいですけど、重大発表って?」

「それは後のお楽しみだ。」

 

 

こうして瑞鶴は秘書艦になった、この後東京襲撃についての事が艦娘達に発表され、大騒ぎになるのだがそれはここでは省く。

深海棲艦の東京襲撃まで残り二十と五日のことだった。

 

 

 

 

そして数日後、瑞鶴がやっと慣れ始めたころ。

「なんで……加賀さんが一緒に仕事してるんだろう?」

「あなた如きにまかせるのは心許ないからよ、わかった?」

「誰が心許ないですって!?」

 

瑞鶴は加賀さんと喧嘩していた、その理由はと言うと……

 

 

三日ほど前

 

ガチャ

 

「加賀です、入ってよろしいでしょうか提督?」

「げっ……」

「入ってから言うなよ……あと瑞鶴、げっ、なんて言わない。それで何の用だ?」

 

執務室に唐突に現れた加賀さん、何故か眼鏡をかけている。んでもって加賀さんが入ってきた瞬間に嫌そうな顔をする瑞鶴。

 

「はい、瑞鶴が秘書艦をしていると聞いて代わりにやろうかと。全くダメダメでさぞかし大変でしょうから。」

「何ですって……!」

「じゃあ、この前の書類の漢字はなんて説明するの?」

「うぐっ……!」

 

実は瑞鶴、秘書艦になって早々にある間違いをやらかした。

『基地航空隊設置許可についての報告書類』を

『基他航空隊投直許可についての報告書願』と書いて送ったのだ、これは酷い。

 

「提督、こんな小学校の漢字も書けないような頭幼稚園児よりも別の艦娘にしたほうがいいのでは?」

「誰が頭が幼稚園児よ!!」

「でもなぁ、早く瑞鶴の練度も上げたいしな……そうだ!」

「「?」」

 

 

 

 

……………こうして異例のダブル秘書艦体制で執務をこなすこととなったのだ。

話を巻き戻して執務室、もはやテンプレとも言える加賀さんと瑞鶴の喧嘩が終わった(提督が治めた)後のことだった。

 

「来客、ですか?」

「そうだ瑞鶴、相手はあの呉鎮守府の提督だ。」

「呉鎮守府って超精鋭じゃないですか!?」

「提督、それはまさかあの件についてですか?」

「流石加賀だな、そうだ今回の件は呉と合同で進めることになっているのは聞いているな、今日はその為に来てもらった。」

 

呉、それは艦娘の原型となった多くの艦の故郷。第二次世界対戦や太平洋戦争において日本の軍港として活躍、現在は国内における鎮守府の中でも一、二を横須賀鎮守府と争う文字どおりの精鋭だ。

今回は提督の言うように、深海棲艦の東京襲撃に関して詳しい作戦と動きを確認しに来たのだ。電子機器が発達した昨今、しかし面と向かって話すほうが都合が良いことは未だに多いのだ。

 

「呉鎮守府の提督はどんな方なんですか?」

「それは来てからのお楽しみだ、そうだろ加賀?」

「そうですね。」

 

コンコン

 

「来たようですね、今開けます。」

「来たか………」

 

ガチャリンコ

 

「一年ぶりね、元気?」

「まあな、そっちは元気そうだな。」

「えっ……呉鎮守府の提督って女性なんですか!!」

「あら……貴女は彼の秘書艦かしら?」

 

ドアを開けて入って来たのは髪を後ろで纏めた所轄ポニーテールにした女性だった、惚れ惚れするほど鮮やかな黒髪で同姓の瑞鶴でさえ一瞬引き込まれた。

彼女は扶山 桑子(ふやま そうこ)呉鎮守府の提督で巷では珍しい女性の提督である。

 

「は、はい!瑞鶴です、よろしくお願いいたします!」

「元気そうな娘ね、扶山よ、よろしく。」

「ふっふっふっ……瑞鶴、彼女にはな大きな秘密があるんだよ。」

「もう……もう少し秘密にしたっていいじゃない。」

「秘密ですか?」

「今見せるわね………艤装、装着。」

 

カチッ

 

何かが入る音がした瞬間、執務室の中に光が走った。猛烈な光は扶山を中心にして発せられており、思わず飛び出そうとした瑞鶴を加賀さんが手で制する。

光が収まった後には…………

 

「えっ、扶山提督ってまさか!」

「ああ、彼女は提督にして艦娘という特殊な立場なんだ、だがちゃんと海軍の訓練学校は出てるぞ。」

 

背中に巨大な艤装を背負った艦娘がいた、後ろで纏められていた髪はストレートになり、服装も白い着物になっていた。

形からして彼女の艤装は戦艦「扶桑」、艦娘艤装の中では一番適性者が多い艤装だ。俗に言う量産型のような物だがその性能は低くない、それどころか戦艦としてのステータスが高水準で纏まっており決して侮っていい物ではない。

もちろん、この艤装も努力次第で強化されていくので逆に戦力の要として据える提督も多い。

 

「驚きました、まさか提督で艦娘の人がいるなんて。提督はこのことは知っていたの?」

「もちのろん、なんてったって同期だもん。」

「そうね、私と貴方とT督はいつも一緒にいたわね。まぁT督は年上だったけど。」

 

今話に出てきた通り、扶山いや扶桑は提督の同期いわゆる同級生でありT督と共に悪ふざけする提督をいつも止めていた。(主に物理で)

 

「あれ?いつか資料で見た扶桑型の艤装とは姿が違うような……?」

「ああ、それか。扶山いや扶桑は常時改二状態でいられるんだ。」

「ええぇぇぇぇ!!??」

 

改二状態、それは艦娘が途方のない鍛錬と戦いの末になれる形態。その能力は改状態の比ではなく他と比べ圧倒的な力を得る、その改二状態を常時維持できるとはそれは練度が少なくとも八十以上であることが窺える。てっきり提督の仕事のみで殆ど戦場にはでないのかと思っていたがどうやら違うようだ、それどころか積極的に現場で指揮を執っているそうだ。

意外な事実に驚きつつも横須賀鎮守府の提督と呉鎮守府の提督による「対深海棲艦東京侵攻」の会議が始まった、最初に口火を切ったのは提督(以下呉の提督は扶桑と表記)

 

「まず民間人についてだが……幸運なことに一ヶ月もの猶予期間がある、この期間中にしなければならないことは……

 

一、戦闘地域の住民の避難

二、各方面の損害への対応

三、都内各地へのトラップ設置

以上の三つだ。」

「現状最優先は戦闘地域の住民の避難ね、恐らく砲撃戦だけでなく最悪は市街地での白兵戦にもつれ込む可能性もあるわ、どの範囲の住民を避難させるの?」

「川が最も入り組んでいる湾岸地帯を含んだ東京二十三区の住民を全面避難だ、T督の世論操作であまり混乱は起きないだろうが……一応もう避難作業に着手はしてもらってる。」

「でもそう上手くいくかしら?」

 

扶桑の指摘は尤もだ、まだ比較的開発地区である区は円滑に避難が進むだろうが、東京湾から離れた下町に行くにつれてその土地に愛着を持ち避難を断固拒否する住民もいる。提督もそこが問題だった、別にもう一生来れないわけでもないのにとも思うのだがそれは酷と言うものだろう。

しかし提督はこの問題にたいして一つの解決策を見出していた。

 

「対策済みだ、避難を拒否する人には艦娘が訴えに出かける。」

「「「はぁ!?」」」

 

瑞鶴や加賀さんだけでなく扶桑まで声を荒げる、それほどに提督の案は常軌を逸していた、軍事機密の塊である艦娘を公共の場に出すなどあってはならない。

 

「ちょっと提督、どういうつもりなのかしら?」

「うちの駆逐艦の艦娘に行ってもらって泣き落としさせるんだ、勿論正体は明かさないしこれなら大丈夫だろう。」

「貴方は相変わらずゲスい事を考え付くわね……」

 

駆逐艦は容姿が幼い、それを利用して人の良心に訴えかけるのだ。いわゆるクレ〇ンしんちゃんのまなざしキラキラ光線である。汚い流石提督汚い。

方法はともかくこれで一個目の課題はクリアだ、次は各方面への損害への対応である。これは国が払うことにはなっているが、勿論それだけで納得しない人もいる問題はそこだ。

 

「次は損害の対応だが、これは大丈夫だろう。」

「どうして?」

「何言ってんだ東京は首都とはいえ元々海に近い、だから常に深海棲艦の危機に晒されているのに今まで発展してきたのが不思議なくらいだ。だからもし損害費を政府が払ってなお文句を言う奴がいたらこう言えばいい、自己責任だってな。」

「もう突っ込まないわ、次行きましょう次。」

 

次は都内に設置するトラップだ、こちらは既存の建造物を破壊してしまう可能性があるが前述した通り被害がでても負担は政府だ。つまり「やりたい放題」なのである、ここの提督がそんなことを見逃すはずもなく……

 

「トラップは明石監修の元で色々と作っている最中だ、いや~すごい気合の入りようだった。わざわざ休暇まで取って現場の下見に行ったんだからな、期待できるぞ。」

「あの明石さんに任せていいのかしら……」

「扶桑さん、私も同じです。」

「珍しく意見が合ったわね瑞鶴、私もよ。」

 

同席している全員からの全否定を受けるが提督はどこ吹く風、まぁそれでも明石を信じよう。きっと大丈夫、きっと……

これで話すことは一通り話したが、ここで扶桑が声を上げる。

 

「ちょっといいかしら、相談があるんだけど。」

「何だ、相談って?」

「私に実の妹がいるのは知っているでしょ、その子についてなんだけどね……」

「あ~いたな、確か美城(みしろ)ちゃんだっけ?何回か会ったよ、よく一緒に遊んであげたっけ。確か最後に会ったのはあの子が小五の時か、もう何年も経っているんだな。」

「その子なんだけどね、山城って言う艦娘になったのよ。しかも艤装適正値が元から五十って言うとんでもないもの引っ提げて。しかも練度六十で改二になれるっていうのよ、本来ならもっと上の練度でなれるはずの改二にね。」

「おいおい嘘だろ………!」

 

絶句する提督、だがそれも無理はない。艤装適正値とは言うなれば練度の上がりやすさである、普通ならば最初期の時点ではおよそ三十あればいいとされる。これのマックスは百、しかも一般人や艦娘になる前の女性は十あれば天性の才能と言われる。何故三十が標準だと言われるかと言うと、この数値を超えると艦娘をサポートする存在である「妖精」が見えるようになるのだ。

しかし話にあるように美城の適正値は五十、もはや天性などと言う話ではない正に「運命」に選ばれた存在だと言えるだろう。

 

「すげえな!そんなんだったら即戦力になるだろう。」

「けどねあの子今ある問題のせいで心を病んじゃってるの。そのせいで改二になれたのも一回きり、あの子はうちの大事な戦力なのに……」

「相談っていうのはそれか……どうしたもんか。」

 

解決した問題と新たに立ちはだかった問題に頭を抱える提督であった、大規模作戦に向けて少しでも戦力が欲しい今、はたして山城を戦線復帰させることが出来るのか?

 

 

 

 

 

深海棲艦の東京襲撃までのこり十八日……

 

 

 

 

 

 




皆さんどうも~!青葉ですぅ~!
大和さんがしばらく居ないのでこの私が担当になりましたー!
大和さんが「私の出番……」と言って涙目になっていたの可愛かったなぁ~!

「お前飛んでもないドSだな。」

げぇ、日向さん。でもいいじゃないですか、どうせもう殆ど出番ない大和さんなんて空気ですよ空気。

「げぇって……それにそんなこと言ってるとバチがあたるぞ。」

またまた~!あんなアマの話なんて

「ほぅ……俺の嫁がどうかしたのか?」(ガチギレ)

て、提督、いやちがいます、大和さんことを言っていた訳では、ねっ日向!

(((・・;)

「さぁ行こうか青葉……」

まってお慈悲を!やめてあれだけは――――

バタン

「まぁそうなるな、あぁそうだ。」


次回 行列のできる艦娘相談所

さて、提督はどするのかな?


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十二、行列の出来る艦娘相談事務所

これを書く内に山城が欲しくて堪らなくなって来ました、あの凛々しい顔にふくよかな胸部装甲に柔らかそうな胸部装甲に白くて大きい胸部装甲に……

え?結局は胸部装甲のことしか言ってない?
…………………

所詮男はそんなもんだぁ!!

しかし私は加賀一筋です、決して胸部装甲に引かれたわけではありません。決して。

それでは本編どうぞ~


「山城を戦線復帰させるのはいいんだが、何で心を病んでしまったんだ?」

「あの子は艤装適正値が高いから身につけている艤装の影響を受けやすいのよ。ここまで言えばわかるでしょ。」

 

合点がいく提督、読者諸兄はご存じであるかもしれないが扶桑型艤装、特に山城の艤装には一つだけ欠点がある。

それほ「装着者の運気を著しく下げる」と言う物だ、それだけ聞けば大したことないと思えるだろう。実際山城の艤装のデメリットであるこの効果が発揮される場面はないと言っても過言ではない、しかし稀に(これはどの艦娘艤装にでも言えることだが)艤装適正値がまた艤装同調率が高いがためにとんでもなくその艤装の影響を受ける艦娘がいるのだ。

件の山城はその影響によりトコトン不幸になっているのである、たかが不幸と侮るなかれ、例えば百分の一でハズレのあるくじがあるとする、普通ならばそうそうハズレは引かない。が、山城の場合は確実にハズレを引くしじゃんけんでも必ず負ける、とにかく運が絡む事象は必ず負け続けてしまうのだ。

これが日常でおこるいわゆる茶番劇のような物に留まればいい、しかし事はそう簡単ではない、艦娘は戦うその中には必ず命中率や敵の艦隊の動きの予測など運に絡む事象がたくさんある、これに負け続けるとしたらどうだろうか?

また自分だけが傷つくならまだいいが、艦隊の他の仲間が巻き込まれるとしたらどうだろうか?

 

誰だって心を病んでしまうだろう

 

「しっかしよりにもよって何で俺なんだ?他にもこういう事が得意な人や艦娘はいるだろ。」

「あら、ここの鎮守府の特性を見れば貴方ほど適任な者は居ないと思うけど?」

「わ~ったよ!やりゃいいんだろ!」

「それに、『妹』の扱いは慣れているはずでしょ?」

 

瞬間、提督の目から笑い、楽しみ、優しさと言った正の感情が一切消え、代わりに深い負の感情が顔を覗かせる。比喩などと言うレベルでなく本当に空気が「凍った」、今までに見たことがない提督の雰囲気に瑞鶴は純粋に恐怖を感じた、ここにいてはいけない早く逃げろと本能が叫んでいるように聞こえた。

しかし扶桑はそんなのどこ吹く風、そのまま話を続ける。

 

「悪かったわね、今度なにかご馳走するからそれでチャラにして頂戴。」

 

その瞬間今までの空気が嘘のように霧散し、いつも通りの対応を始めた提督。扶桑の妹という言葉が提督にとっての地雷だったのか、しかしこれ以上この件に関わっていいことはなさそうなのでこの事は速やかに忘れようと瑞鶴は思った。

 

「冗談と本気の境目を意識しとけよ、山城の件は了解だ何とかしてみる。」

「助かるわ、不甲斐なくて世話をかける妹だけどお願いね。」

 

 

 

 

 

 

そんなやり取りから早一週間超、運命の日まであと七日……

 

「無理だ……できるわけがないよぉ……」

「貴方までネガティブになってどうするのよ……」

 

提督は完全に再起不能(リタイア)になっていた、理由は簡単で山城の放つ負のオーラに飲まれてしまったのだ。

提督が予想していた以上に山城の病みレベルは半端なく、その負の感情の海に問題を抱える艦娘のケアをしてきた提督といえど撃沈してしまったのだ。

問題となっている山城は自室に引きこもることはせず、最低限の仕事のみ済ませたら後は一人でぼっーとしていた。そこを見計らい提督が声を掛けてみたものの凄まじい負のオーラに飲み込まれ今に至る。

それを聞いていた加賀だったが………

 

「で、何で私が呼ばれたのかしら?」

「見ての通り俺はもう駄目だ、つー訳であとは頼んだ。」

「はぁ…………」

 

しかし時期も時期なので戦力が欲しいのは事実、何とかして山城を戦線復帰させたいのだろう。それに同じ女性しかも艦娘同士となれば話が通じるかもしれない、そんなこんなで加賀は山城を訪ねることにした。提督の話によれば山城は仕事の後は鎮守府の港の端っこで海を見ながらぼーっとしているようだ、そこに行ってみたところ山城は確かに提督言う通りぼんやりしていた。

 

「隣、いいかしら?」

「……加賀さんですか、何の用です?」

 

深海棲艦の東京進行を防衛する役目を担う横須賀鎮守府と呉鎮守府、そのため呉の艦娘たちは全員一時的に横須賀鎮守府に移っている、そのため山城と加賀は面識があった。しかしそれでも明らかに歓迎していない態度とともに充満する負のオーラ、しかし加賀は気にしたら飲み込まれてしまうのを知っているので極力気にせずに話を続けた。

 

「今度の作戦、参加しないようだけど?」

「そのほうがいいですよ、私が参加しないほうが上手くいきます。」

「けど貴女は類稀な艤装適正と技術を持っている、貴女がいるかいないかだけでも結果は変わるかもしれない。」

「皆は艤装適正、艤装適正って何もわかってないんです。」

「提督からそのことは聞いているわ、さっき言ったように貴女がとても高い艤装適正を持っていることも。けれど……」

「?」

 

すぅと息を整える加賀、ここからが正念場だ。ここで彼女を上手くのせられるかで今後の展開は変わる、息を吐くと共に一気に言う。

 

「貴女が本当に強いのか試させてくれないかしら?」

「挑発すれば乗っかってくると思ったんですか?」

 

即座に切り替えされる、加賀の言動に何か怪しい物があると敏感に感じ取ったのだろう。しかしここまでは予想の範囲内だ、それを聞いた加賀は懐からある物を取り出す。それは一枚の紙きれで「間宮期間限定スイーツ引換券」と書かれていた、そしてそれを見た瞬間に山城の目が見開かれる。

 

「そ、それはぁ!!」

「数量限定の期間限定間宮スイーツの引換券よ、これならどう?」

「くっ……!」

 

実は山城は甘い物が大好物なのだ、そして一日に最低限の仕事をするのはスイーツの食べ過ぎで太らない為とスイーツの入手が主な理由なのだ。しかし間宮の期間限定スイーツは超人気であり、通常の艦娘にとっても確実にそれが手に入る引換券はプラチナチケットと化しているのにただでさえ半引きこもりの山城には縁のない物のはず……だった。

この情報を加賀は事前に実姉の扶桑から聞いており、また横須賀の間宮が古い付き合いだったこともあり、一枚譲ってもらうことに成功した。(決して職権濫用ではない、決して。)

 

「……本当に勝ったらくれるんですね?」

「無論よ、その代わり私が勝ったら大規模作戦に参加してもらうわよ。」

「そういうことだったんですね、けれど良いわ。演習場に行きましょう、海が私を呼んでいるわ。」

 

そうして二人は颯爽と去って行った。

 

 

 

 

 

一時間後

 

 

「……………」

「わかってたのよ……勝てるわけないって、ふふふふ……」

(どうしてこうなった。)

 

こうなったのは勿論演習の結果が山城の負けだったからである、しかしこの展開は加賀にとっても予想外であった。加賀はもう少し苦戦するだろうと思っていたが……この理由は山城の不運が予想以上に深刻だったからである。

何しろ山城の打った砲弾は不思議な風が急に吹いてきてそれ、逆に加賀がダメ元で放った爆弾がこれまた不思議な風によって山城に着弾という、もはや何か言い訳のないほどの不運っぷりであった。

しかし山城の動きは同練度の艦娘の中では最高峰いや最強であり、今回加賀が勝ったのは不運と経験の差によるものが大きい。事実、加賀が今の山城と同練度の頃に勝負したら恐らく手も足も出ないだろう。それにその本来の実力を不運と言い訳し、本来の実力を出せないでいる恐らく改二になれないのもそれが原因だろう。

仕方なしに加賀は母として知っている「人のやる気スイッチの押しかた」を行動に移した、これは加賀の子育てテクニックでどんな人もやる気にさせてしまう方法である。

 

「加賀さんももう分ったでしょう、どうせ私は伊勢型の下位互換なんですよ……」

「そうね、所詮は扶桑型ね。きっと姉のほうもたいしたことないんでしょうね。」

「……なんですって?」

「所詮扶桑型の艤装適正者なんて雑魚ばっかりだと言ったのよ。」

「……それは私だけじゃなく扶桑姉様まで馬鹿にしていると受け取っていいのかしら?」

「別にそう受け取ってもらっても構わないわ。」

 

乗ってきた、と加賀は思った。これも姉からの情報なのだが、山城は重度のシスコンで姉をものすごく慕っているのだ。加賀はこれを利用して瑞鶴の時のように挑発しやる気をだせないかと考えていたのだが、見事に当たっていたようだ。加賀は攻撃いや口激の手を緩めずにさらに煽っていく。

 

「……見過ごせない発言ですね、撤回してください。」

「何故かしら?私に負けた者の言うことなんて聞く必要があると思う?」

「ならもう一勝負といきましょう、私が勝ったらさっきの発言の謝罪と間宮券ですから。」

 

加賀の思惑通りに乗っていく山城、加賀はこの連戦の中で何か答えが見つかればいいなと思っていた。今回の目的は山城を戦線復帰させればいいので、「加賀に負けて仕方なく作戦に参加」でも構わないのだが、なるべくならその自分の不幸を克服するか割り切るかして戦線に復帰させたいと思っていたからだ。

 

「いいわ、けれど勝てたらね。」

「減らず口を………!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

さらに数時間後、日没

 

「くっ何で!?何でなんですか!?」

「…………」

 

あれら二人は演習場を貸し切り、戦い続けていた。加賀に敵うことなく日没を迎えてしまったが、加賀はこの演習の中でやっと山城の実力を出す方法を思いついた。しかしそれにはやはり山城が作戦に参加して、自分で気が付かなければならない。なのに肝心な参加させるように説得するのはできなさそうだったが………まぁ勝ったので結果オーライであるが。

 

「貴女は大事なことを忘れている、それが解らないかぎり私には勝てないわ。」

「この不幸さえなければ……こんな……姉様……」

「ほらまた、もう一度貴方は不幸の意味をよく考えてみることね。約束通り、大規模作戦に参加してもらうわよ。」

「くっ……………」

 

去っていく加賀の後ろ姿を山城は黙って見ていることしかできなかった。

 

 

 

 

時は少し遡って同日の朝、食堂にて

 

「ふぁふぁひにききらいことかある?」

「とりあえず飲み込んでから話して下さいよ赤城さん……」

 

瑞鶴は赤城と食堂で朝食を取っていた、瑞鶴は焼き鮭とご飯と味噌汁という至って普通のメニュー。赤城も同じものを頼んだのだが……量が違った、恐らく瑞鶴の三倍以上の量を物凄い勢いで平らげていく。

因みに何故瑞鶴が赤城と共にいるのかと言うと、ある相談事があったからだ。

 

「んぐっ、それで何の話でしたっけ?」

「赤城さんみたいに強くなるにはどうしたらいいですか、っていうはなしですよ。」

「また唐突ですね、何かあったんですか?」

 

実は瑞鶴は秘書艦として出撃や演習を続けた結果、練度が二十五に到達し「改」になれるようになったのだが

 

「改になれない、ですか……何か心当たりは?」

「いえ……明石さんには恐らく精神的なことが作用しているんじゃないか、と言われたんですけど。」

「もしかしたら私の練度不足かもしれないからもっと強く成りたい、と。」

「はい。」

 

そう、瑞鶴は何故か改造可能な練度に達しているにも拘らず改になれないのだった。明石曰く艤装との同調に問題は無いので何か他に原因があるのでは、と言う話なのだが……

 

「強さと言ってもですね~、純粋な強さはひたすら経験を積む以外ありませんし。恐らく原因は最もっと外の、貴女の心にあるんじゃないんですか?」

「心、ですか……」

「ええ、私が見る限り瑞鶴さんは実力的にはなんら問題がないと思いますし。」

「そう、ですか。」

「時に瑞鶴さん、何故貴女は艦娘に成ろうと思ったのですか?」

「もちろん、皆を守り世界の海を取り戻す為です!」

 

これは瑞鶴が幼い時に艦娘に憧れるキッカケになった出来事の時に深く心に刻みこまれた言葉、それを瑞鶴は目標として今まで頑張ってきた。事実、その目標に向かって努力は怠らなかった。そのお陰でいまこうしていられるのだから、いつからかその言葉は瑞鶴の心の柱となっていた。しかし、

 

「悪くない目標です、しかし少々綺麗すぎますね。」

「え?」

「今まではそのような目標でも特に問題はなかったのでしょう、しかし現実は厳しいものです。貴女の理想ではいつか限界がきますよ、その時あなたはどうなるのか、今一度目指す所を考え直してみればどうでしょうか?」

「限界……」

 

かなりの衝撃を受けた瑞鶴、今まで信じていたものが急に不安定になっていく。瑞鶴は漠然とした不安にかられた、自分が思っているほど現実は甘くないと知った瞬間だった。だがこれでよかったのかもしれない、もし瑞鶴がそれを知らずに理想の限界に直面したなら壊れていたかもしれない。

 

「私から話せることはこれくらいですね、朝食ご馳走様でした。」

「は、はいこちらこそ。」

 

そういって赤城は席を立った、しばらく赤城の言葉の意味と新しい目標のことを考えていた瑞鶴だったが、いつまで考えてもわからずテーブルに突っ伏した。その直後に重要な事実に気づく

 

「あ~~!!赤城さんお金払わずに出て行った!」

 

瑞鶴のテーブルには長い伝票が置かれていた……

 

 

 

 

 

時間は戻り日没後、執務室

 

「……そう、山城は参加してくれるのね。けれど立ち直ってはいないと。」

「すいません、力及ばずに。」

「いいのよ、気にしないで。」

 

執務室には瑞鶴、加賀、提督、扶桑の四人が対面していた。扶桑は加賀からの報告を受け、安堵と共にやはりかと思った。しかし山城に参加させるようにさせられたのはよかった、もしかしたら今度の大規模作戦で答えを見いだしてくれるかも知れないからだ。

 

「さて、今回の編成だが敵が東京湾に来た時にそれを迎え撃つ第一連合艦隊、そして東京内に入った敵を殲滅する遊撃艦隊に別れる。扶桑、加賀の方は?」

「燃料、弾薬は横須賀と呉の遠征部隊をフルで回しているわ、そのお陰でかなりの量はたまった。」

「提督、明石からですがまだ完全にトラップ、迎撃装置及び簡易泊地の設置が終わっていないそうです。」

「了解した、後どれくらいかかるかは?」

「あと四日ほど有ればなんとか、だそうです。」

 

扶桑と提督の間に緊張が走る、ここまで設置に時間が掛かるとはいったいぜんたいどんな物を作っているのか?頼むから大量破壊兵器とかは勘弁してくれと思う扶桑と、どんな物ができんのかオラワクワクすっぞ!な提督であった。

 

「瑞鶴、避難経過は?」

「東京都二十三区及び千葉、神奈川の沿岸都市の避難は九割完了しました住民は殆ど鎌倉に。公共交通機関、空港共に閉鎖、サポート部隊の陸自も配置完了まであと少しです。」

 

今回の作戦では沿岸都市だけでなく周りの都市や最悪砲撃が内陸の都市まで飛んでいく可能性があるので、陸自に待機してもらっているのだ。住民の避難も殆どが完了した今、後は明石達を待つばかりとなっていた。

 

「最後に艦娘達の編成だが明石達の作業が終わってからにする、それまで出撃などは控えて休息を取るように言っておけ。」

「わかったわ。」

「「了解」」

 

それぞれの思い、問題、それらが各々交差する中で運命の日は着々と近づいていく……

 

 

 




うぃ~ん 

ガッチャンコ

「ここをこうして……」

よっ明石!例のもんの調子はどうだ?結構な無茶ぶりだけど大丈夫か?

「あっ提督!時間を見つけてはやっているんですが厳しいですね……」

まぁこんな時期だしな、けど出来れば急いでくれ。

「FGESにデータを入れてるんですけど、いかんせん操縦系統がマッチングしなくて。」

最悪、手作業でやる、か。間に合うか?

「がんばります、私を誰だとお思いで?それより提督。」

おっとそうだった、次回

運命開始の五秒前

衝撃?の事実が明らかに……!




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十三、運命、開始五秒前

皆さん、光作戦は進んでいますか?筆者はまだ新人のレベル四十前なので第一海域は乙で行けましたが、第二海域は丙で行ってます。(言えない…札の存在忘れてたなんて…)あとこんな事がありまして……

バレンタインの不思議な事件(筆者命名)

あれは第一海域のゲージ破壊後、空母ヲ級改flagshipと相対した時でした。此方の艦隊は空襲マスにより運悪く北上改が軽めの中破と同艦隊の赤城が小破でしたが行けると判断、空母ヲ級改flagshipのいるMマスへと進行しました。
空母ヲ級改flagshipの攻撃により北上が大破し、撤退しようとした時に事件はおきました。

「あ」

何ということでしょう夜戦ボタンを間違って押してしまうという余りにも初歩的なミスをしてしまったのです、これも徹夜でやって来たツケか。

「沈むなよ!頼む!」

しかし、その祈りは聞き届けられませんでした。

「次生まれる時はやっぱ戦艦でおねがいします、ガクッ」
「北上ぃー!」

パソコンの前で思わず絶叫しました、自分が間違ったばかりに……仇は川内がとってくれましたが、かなり落ち込んでいました。そんなとき、

《新しい仲間を発見しました!》

「どうせ北上さんのかわりなんか……」
「アタシは軽巡、北上。まーよろしく。」

(゜ロ゜)

(゜ロ゜)

( ;∀;)

(;▽;)b

その時北上がこう言った様に思いました。

「沈むの避ける為に大事な魚雷捨てちゃったし、改造前に戻っちゃったけど…ただいま、提督。」

泣きました、君の名はを見たとき以来に泣きました。
そしてその後、初詣で買った安全お守りが無くなっていました。北上の身代わりになってくれたのでしょうか?





これ、随分美化してますが北上が沈んで戻ってきたのとお守りの話はマジです。
皆さんの作戦、ご武運を祈っています!



日本国首都東京、そしてその中枢である二十三区。そしてその中でも常に活気があり人々が行きかう銀座、しかし今そこは普段の様子とはかけ離れた様子であった。まず人が居ない本当に人っ子一人居ない、そして明かりが無い、オフィスビルの明かりは勿論信号や電光掲示板の光さえも無い、つまり電気が通っていない。また各種ライフラインも止まっている。

そんなゴーストタウンと化した銀座を走るワゴン車が一台、勿論それに乗っているのはただ民間人ではない。そんなワゴン車のなかで……

 

「ふぎゃー!!ピヨったクマ!誰か蹴ってクマ~!」

「球磨、そんなんレバガチャすりゃ治る!」

「そんな事より明石さん、閃光玉はよう。」

「そう言う夕張さんは後ろで薬草笛だけ吹かないでください!このゆ〇た、地雷!」

「ねぇ運転してるんだから静かにしてくれない!」(#^ω^)

「「「「(´・ω・`)」」」」

 

球磨、明石、夕張、青葉そして車を運転する北上は横須賀鎮守府と呉鎮守府が誇る技術班である、と言っても殆ど明石が中心で他はそのサポートという色合いが強いが。しかしてその五人はなぜモン〇ンをやっているかと言うとぶっちゃけ暇だから、である。実は決戦まであと三日となった今、明石達がしているのはトラップが正常に稼働するかを確認する作業であり、またそのトラップは都内各所に設置されていると言う都合上、移動に時間がかかるのでこうして暇をつぶしているのだが……

 

「何かこんなことしていていいのかな?」

「何だ、そんな事きにしてるクマ?別に気にすることじゃないクマ、例えば秋雲なんか…」

 

 

 

 

 

秋葉原 神田川周辺

 

「くぉら~!!まてぇーい!!」

「ひぃぃぃぃ!!」

 

人気の無い秋葉原その周辺の神田川近くの裏路地で海軍所属のムキムキマッチョな憲兵とヒョロヒョロのオタクもやしが追いかけっこするという、誰得だよ…な光景が繰り広げられていた。しかし所詮は民間人でしかも普段は運動などしないもやしっ子、すぐに憲兵に腕を掴まれるいや逆にここまでよく逃げおおせたと言うべきか、その能力をもっと他に生かせないのか……

 

「ほら、大人しく我々とくるんだ!」

「いやだー!生の艦娘の素顔が見られるなんて一生に一度あるかないかなんだ!」

「四の五の言わずにこい!」

「畜生めぇ~~!!!」

 

今の会話にあったように只今秋葉原では絶賛潜伏オタク狩りが進行中である、首都全域に艦娘が来るという一大チャンスを誇り高きオタク達が見逃すはずもなく、こうしてこっそり潜伏して一枚パシャリ……という魂胆だったり、自分の嫁が入ったフォルダと運命を共にと言う者や果ては戦闘を実況しようと言う者まで出てきた。しかも普段から引きこもっている故に隠れる精度がものすごく高い、そうでなくともただでさえ入り組んだ秋葉原に散らばったオタク達を見つけるのには時間が掛かった。

 

「見つけたぞ!」

「アイエエエエエ!?憲兵サンナンデ!?」

「こちらも発見、息がいいのが一人!」

「嫁と一緒に死ぬまでここを動けるかぁぁぁ!!!」

「こっちもだ!秋雲さんは凄いな!」

 

しかし、そこに同じ穴のムジナもといオタクである提督、秋雲、夕張、明石によって大体の場所は把握されていた、なぜわかったかと言う理由は簡単でただ「自分たちならどうするか」を考えて地図に書き込んだだけなのだから、要するに「考えることは皆同じ」なのである。

秋雲の指揮によってまた誇り高きオタクが一人、回収されていった……

 

 

 

場所は戻って車内

 

「ふ~ん、秋雲はそんな事を……」

「てゆーかあとどれくらいで着くクマ?球磨はもう疲れてきたクマ~」

「う~ん後五、六分ってトコロかな?」

「もうそろそろですね、明石さん。」

「にしてもこの車どこに向かってるクマ?」

「あ、それ聞いちゃうんだ。」

 

内心ガクッとする明石、着いてきておいて目的地知らないってどういうことよ……と若干呆顔になりながらも説明を始める。

 

「今は第三簡易泊地に向かってるの、そこで最後だから終わったら横須賀に帰るわよ。」

「やったー!次で終わりクマ!なら球磨ちゃん頑張っちゃうクマ!」

 

そんな風に後部座席でわいわい四人が話す、話題は徐々に思い出の話題へ。それぞれ皆が知らなかった事をカミングアウトしたり、鎮守府の噂を話したりと他愛のない話が続いていった。事件が起こったのはお正月の過ごし方を話していたときだった。

 

「それで~母ちゃんがお年玉くれなかったんだクマよ~!」

「へ~そうなんですか。」

「ホントなんでくれないクマ、母ちゃ~ん!」

「駄目に決まってるじゃん、もうお年玉って年でもないでしょ。」

「クマ~、でも何で初詣も一緒に行ってくれないクマ?」

「予定入ってたの!ホントごめんって!」

 

家族の微笑ましいやり取りを聞いていた夕張、しかし何か引っかかる。もう一度会話を思い出してみよう、球磨が自分の母の愚痴を言っている、これは普通だ。しかし何故その愚痴に明石が謝る必要があるのか、続いて導きだされた結論に自分で驚き声が漏れる。

 

「え」

「「え?」」

「まさか球磨さんと明石さんって……親子?」

「い、今更……?」

「いや私初耳ですけど!?」

 

今明かされる衝撃の真実、なんと呉鎮守府所属の球磨と横須賀の明石は親子だった!……がじつはこの事実はある程度の古参組なら知っていることであり、別段隠すつもりも無かったのだが横須賀と呉という位置関係で会う機会も少なく、知っている者もあまり居なかった。そのことを問いただしていく夕張、それに答えていく明石と球磨であった。しかしそのうち状況を飲み込めおちついたころ……

 

「クマー!クマクマー!飽きたクマー!」

「クマクマ恥ずかしいから止めてよ……」

「これは艤装の影響クマ、強いられているんだクマ。」

「北上さん、姉妹艦がそんな口癖持つのって恥ずかしいんですか?」

「いやー自分の母がこんな口癖ってなんかいやじゃん。」

 

 

 

 

 

 

 

…………………………え?

 

いやまて落ち着こう、こんな時こそ素数を数えて落ち着くんだ。1、2、3、5、7、11…よし落ち着いた、状況を整理しよう。今北上さんは自分の母親の口調を恥ずかしいと言った、このセリフから推測するに球磨さんは北上さんの母ということになる。あれ、待てよ、球磨さんのお母さんが明石さんで北上さんのお母さんが球磨さん、ということは北上さんにとって明石さんって……

と、夕張が頭でそこまで考えた時だった。急に背筋に走る寒気、その発生源は明石、明石は無言で笑いながらこちらを見つめていた、顔では笑っていたが目はあからさまにこう言っていた。

 

「それ以上考えてみろ、殺すぞ。」

 

と、早急にこの疑問を頭から振り払った夕張は必死に話題を切り替えんとする。が、そこに北上が爆弾発言を投下、そしてそれに続く球磨たちの追撃。

 

「あ~今多分おばあちゃんがガンを飛ばしているんだろうけど気にしなくていいよ、何時ものことだし。」

「お、おば……」

「そうクマ、せっかく艦娘になって老化が止まったのに歳をきにするなんて、だからおばあちゃんって言われるクマ。」

「ぐふっ……」

「それに自分で言ってましたよね、最高の若作りは艦娘になることだって。」

「……………」

 

と、同時にチャララランというBGMと共に明石達が持っているゲームにこんなテロップ。

 

《 アイテム屋 が力尽きました 報酬金が0zです》

 

リアルでもバーチャルでも力尽き、白い灰となった明石を乗せて車は走る。そんな中誰に話すでもなく北上はポツリと呟いた。

 

「そういや加賀さん、今日はやけに機嫌よかったけどなんでだろう?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数時間後、何処かの公園

 

夕方、海が見える公園に加賀はいた。わざわざ私服姿だった、勿論人は誰も居ない。それでも加賀は公園のベンチに座ると水平線に沈む太陽をぼっーと見ていた、そしてそのまま過去に思いを馳せようと――

 

「よう、相変わらずだな加賀。」

「貴方は本当に雰囲気をぶち壊すのが得意ね。」

「開口一番辛辣な毒舌ぅ!」

 

そこに来たのはT督、加賀の夫にして現在は家で一人寂しくもとい自由な暮らしを満喫している。

 

「貴方から電話が来たときは驚いたわ、どうやって憲兵の監視をくぐり抜けたか知りたいわね。」

「お前の夫だぞ、何てことはない。」

「意味が解らないわ……」

 

そう言いながら隣りに座るT督、二人揃って静かに夕日を眺める。これだけ聞けばロマンチックに思えるだろうが、実際はそんな物など欠片もない。何故ならば話す内容が何の変鉄もない世間話や、痴話話だったからだ。

 

「それにしても、貴方からこんなタイミングで呼び出すなんてどうしたのかしら?」

「いや、瑞鶴の様子を聞きたくってな。」

「あの子は元気よ、色々な悩みもあるけど乗り越えられる。そう私は信じてる。」

「そうか……」

 

会話が止まる、恐らく瑞鶴のことを聞くのが目的だったのだろう。そのせいかさっきまで下らない話を話していた口が急に閉じられる、何も言い出せない無言の空気の中で数分が経過した頃、T督が口を開いた。

 

「本当に若返ったんだな、加賀。」

「ええ、白髪もしわもなくなったわ。」

「なんか、昔を思い出すな……」

 

また無言になる二人、しかし今度は気まずい空気ではない。それぞれの思い出、昔の鎮守府の皆との思い出、結婚してからの思い出そして愛する娘との思い出。色々な思い出が二人の頭を走り抜ける、けれどもT督は心配であった。自分の娘と嫁が戦場に行ってしまう、それも自分の目の届かない遠いところで。この瞬間にT督はやっと自分の娘を艦娘として送り出すことを反対する親の気持ちがやっとわかった気がした。

 

「……死ぬなよ、加賀。」

「当たり前よ、娘の婿を見るまで死ねないわ。……………それに貴方は自慢の嫁も信じられないほどに、寂しさでおかしくなったのかしら?」

「よせやい、しっかし相変わらず艦娘になると表情が動かなくなるな。」

「表情筋を動かすことをあまりしてないだけよ。普通に笑えるわ。」

 

そういって顔を動かす加賀、しかしわずかに口角が上がっただけでお世辞にも笑ったようには見えない。だが鼻で笑っているようには見える、つまり見下しているように見える。

 

「結局、お前のその姿での満面の笑みを見るにはあれしかない、か。」

「なによあれって?」

 

するとT督は息を吸い込んでいきなり言った

 

 

 

 

「愛してる、加賀。」

 

 

「ほぇ?」

「ふっははは!あいっかわらず不意打ちには弱いな!」

「きゅ、急に何を言っているのよ……」

 

そう言って恥ずかしがる加賀の顔は果たして、さっきの顔とは打って変わった花をも恥じらう最高の笑顔が輝いていた。言っていることと表情が一致しない加賀、しかもそのことを本人は気が付いていないようだ。ニヤニヤするT督と意味が分からずとも一緒になって笑ってしまう加賀。

 

「………いってらっしゃい、加賀。」

「行ってくるわ、………アナタ。」

 

 

 

 

 

 

 

正反対に歩いていく二人、けれども目指す志は同じ。絶対に死なない、娘も守って見せると決意を新たにする加賀。もう軍人を引退し祈ることしかできない自分を少し情けなく思ってしまうT督。この二人の行く末は何処か、それは正に神のみぞ知る。

 

 

 

私服姿の加賀が青い弓道着に、T督が白い提督の制服に身を包んでいたように見えたのはきっと風が見せた幻影だったのだろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そしてその夜、執務室

 

 

提督は右手に書類、左手にマイクを持っていた。その場には瑞鶴、加賀、扶桑といつもの三人と大淀がいた、ここに集まった理由は勿論大規模作戦についてだ。やがて鎮守府全体に放送する準備が整った時、大淀が手でGOサインを示す、提督は頷き話始める。

 

『えー提督だ、事前に通知した通り今この放送を横須賀と呉の艦娘全員が聞いていると思う。』

「始まった……!」

「シッ!」

『ついさっき明石達から全てのトラップの動作確認が終わったという連絡がきた。これにより戦闘前の全ての準備が終わった、後は敵さんが来るのを待つだけだ。だがその前に皆が気になっている編成を発表しようと思う。』

 

食堂

「始まったな、さーてウチは誰と組むんかな~日向?」

「さあな龍驤、だが大規模作戦は久しぶり、久しぶりに特別な瑞雲の出番のようだ。」

 

『まずは一番最初に接触、そして敵の数を減らす第一軍だが、これは数が多いので指揮権限を与える艦娘のみ発表とする。またどれにも名前を呼ばれなかった艦娘もここの所属とする。』

『第一軍、横須賀からは霧島改二、蒼龍改二、飛龍改二、天龍改、利根改二、長門改を。呉からは比叡改二、陸奥改、五十鈴改二、木曽改二、伊勢改、初月改を出す。』

 

「やった!同じ現場です、頑張りましょう霧島!」

「はい、比叡姉さん!」

「私は第一軍か、にしても、これにそれぞれ後最低五隻の艦娘か……どう見る日向?」

「私はまだ発表されてないから何とも言えん、だが第一軍だけで合計七十二隻以上とはな。」

 

『続けて第二軍、これは第一軍の防衛ラインを越えてきた敵の殲滅だ。これは多摩川、荒川、中川及び江戸川、そして隅田川の計四つの川をそれぞれ二艦隊別れて防衛。つまり計八艦隊に別れてもらう、多摩川班を【セイバー】、荒川班を【ランサー】、中川及び江戸川班を【アーチャー】、隅田川班を【キャスター】と呼称する。』

 

「ねぇ、北上、この班のネーミングって……」

「十中八九、夕張と明石さんと提督が絡んでる。」

 

『まずセイバー班、第一艦隊、扶桑改二、球磨改、夕立改、龍驤改二、筑摩改二、睦月改二。続いて第二艦隊……』

 

「ありゃ日向とは別艦隊かいな、お互い頑張ろな~!」

「お前こそ無理はするな。」

 

『次にランサー班第一艦隊、日向改、時雨改、神通改二、鈴谷改、熊野改、衣笠改二。続いて第二艦隊……』

 

「やった!同じ艦隊だね熊野!一緒に頑張ろう!」

「ええ、私たちの力を見せて上げましょう。」

 

『アーチャー班第一艦隊、赤城改、榛名改二、摩耶改二、江風改二、那智改二、山城改。続けて第二………』

 

「それにしても内陸の第二軍には必ず空母と航空戦艦か巡洋艦か……」

「提督はよほど航空戦力を警戒しているのですね。」

 

『最後にキャスター班第一艦隊、瑞鶴改、天津風改、島風改、鳥海改二、足柄改二、長良改。続いて第二艦隊加賀改、那珂改二………』

 

「私は隅田川か…あそこらへんはあんまし行ったことないなぁ……」

「やりました。(よっしゃぁ、娘と同じ現場ァ!提督に脅迫もとい根回しをした甲斐がありました。)」

 

『最後に第三軍、これは横須賀及び呉に所属する全潜水艦娘で構成された戦況報告の部隊だ。そしてこれから読み上げる駆逐艦娘は独立遊撃部隊として集まるように。えーまずは………』

 

「山城、ちょいと話があるクマ。」

「球磨さん…何ですか?」

 

 

 

『以上にて放送を終了する、詳しい作戦は三十分後にそれぞれの部屋に書類が届くのでそれを参照にしてくれ。またそれぞれの艦隊毎に会議室をとってある、自由に使用してくれ。』

 

ガチャ

 

「提督、お疲れ様でした。」

「正直もう肺活量限界だから後御願いね~」

「はい、おやすみなさい。」

 

提督が休むのを誰も止めようとはしない、何故ならば今の今まで提督はなんやかんや言いながらも不眠不休でこの編成を考え出したからだ。決して呆れているわけではない、それに三日後には総数百二十隻以上が参加する文字通りの総力戦だ、休める時に休まねばならない。

 

 

 

 

 

かくて三日後、時は矢のように過ぎ去り日の出。水平線の向こうに現れる黒い陰、深海からやって来た彼らを人は「深海棲艦」と呼んだ。

 

 

今ここに東京都を舞台にして、負ければ首都陥落、勝てば日本の全制海権獲得という一大決戦が始まる…!

 

 




皆さんおひさしぶりです!大和です!今任務の最中ですがそこから送っていまーす!
さて皆さん、バレンタインです。そしてバレンタインと言えばチョコです、というわけで私もチョコを作ってみましたー!

???「変な物でも作ったのか?」

失礼な、チョコですよチョコ!提督が私のチョコを食べたいとおっしゃったのでその練習ですよ、自信作です!

???「しかし…大和が作ったこれは…」

どうです!私の一/百スケールのチョコですよ!ほらこの辺の砲塔とか良くできてませんか?これなら提督も喜ぶはず……!

???「なるほど、確かによくできている。だが大和。」

?なんでしょうか?

???「軍艦の大和チョコを作ってどうする……提督が欲しかったのは大和が作ったチョコ、という意味ではないのか?」


~~~っつ!///

バタバタ!!   バタムッ!


???「行ってしまったか……可愛いな。次回」


燃える東京 

いよいよ戦闘開始だ、腕がなるな!




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十四、燃える 東京

筆が進んだので投稿です!


東京湾、それは千葉、神奈川、東京によって囲まれた海だ。海と繋がっていながらも地形的に殆ど切り取られた形になっている様はさながら「箱庭」、加えて言うが東京湾はさほど広くない、もしも艦娘が在りし日の姿のまま出現したらすぐさまパンクするだろう。

そしてその東京湾に面する横須賀鎮守府は全ての艦娘が出払ってもぬけの殻、しかしその地下シェルターに提督と大淀はいた。

 

「提督!偵察に飛んでいた明石特製長距離偵察機との通信途絶!」

「あわてるな、最後に反応を確認した地点は?」

「大島沖、東京方面二十キロです。」

 

大島、それは八丈島を含めた伊豆七島で最も東京都寄りの島。八丈島鎮守府からの偵察情報が来た時間を考えればちょうど頃合い、提督の予想通りならば会敵まで後一時間といった所か。

 

「敵の総数を艦種も含めて、概算で構わない。」

「て、敵総数凡そ七百!?か、艦種は駆逐艦、戦艦、重巡、軽巡そして空母まで多数!しかも後方にはさらに増援も!?」

「うっわ~本当に総力戦じゃん、でもこれを撃破すれば日本の制海権は完全掌握確実かな?」

「しかしこんな大規模戦闘……どれだけ沈むか……」

 

目を伏せる大淀、当然だ、こんな大規模戦闘では死者が出ないほうがおかしい。ましてや精鋭とは言え敵の数は此方のゆうに五倍、こんな失い難い戦力をどれだけ無くすのか。それに戦力としてだけでなくこんな理不尽な戦闘に駆り出す罪悪感か。たがしかしっ!提督は!

 

「何言ってんの?誰も死なねぇよ。」

「なっ!この期に及んでそんな希望論にすがるのですか!?」

「大淀、お前ここ長い癖に何も知らないんだな。」

「わかってないのは提督です!確かにここに着任してから誰も轟沈させてないですが今回は……!」

「大淀、こんな理不尽ごときで死ぬようなら俺らはもう生きてねぇよ。俺らはそれ以上のもん積んできてんだ。」

 

そう言われて提督の目を覗き込んだ大淀は理解する、本気だ、と。提督の目は今までのギャグ的な物ではなく、全てを把握し対処しきる正しく「司令官」としての目だった。

腐っても鯛という言葉がある、この変化を見た大淀は即座にこの諺を思い出した。たがしかし、この諺は間違っている、いや適切でないと言うべきか。何故ならば提督は最初から腐ってなど居ない、いや腐る暇などない。あの時から提督は本当の修羅と化したのだから、負けることなどは……許されない。

 

「全艦娘に通達しろ、接敵まで後一時間と。それと各人持ち場に付くように、あと明石に粒子の散布を開始するように伝えて。」

「り、了解!」(粒子……?)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方海上では

もし誰かがこの状態を上から見て、瞬時に把握できる者はいないだろう、もっとも上から見ようとすればたちまち蜂の巣になるだろうが。

簡潔に言うと大海原にまるで太陽の黒点のように真っ黒な点が一つ、しかもその大きさはおよそ直径三キロはあろうかというサイズだった。その点はゆっくりと移動しながらかくてに東京へと近づいて行った。

そしてその中心で大きな尻尾を携えた少女と大きな黒い塊に腰を下ろしている女は体面していた。

 

「戦艦棲姫サマ、上空ニ敵ノ偵察機ヲ発見、撃墜シマシタ。」

「ソウ、ヤットボンクラナ人間共モ慌テテイルデショウネ。………ソレヨリレ級、アノ件ニツイテハ……」

「ヌカリアリマセン戦艦棲姫サマ、アノ人間ナドニコチラノ真ノ目的ナドヲ見抜ケルハズアリマセン。」

 

目を細める戦艦棲姫、その口には獰猛な笑みが浮かんでいた。最近この島国の艦娘共に押され制海権を奪還されはじめている、その為今回この一帯(日本の排他的経済水域)の深海棲艦を集め攻勢に出た。

 

「フフフ、ワタシタチヲ倒セバココノ海ヲ取リ戻セルト思ッテイルンデショウケド……」

「エエ、コノ戦力デハドウシヨウモアリマセン。戦イハ数デス戦艦棲姫サマ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

一時間後

 

戦いとは突発的な物から計画的に始まる物まで幅広くある、今回は後者でありその場合は静かに始まるのが常であった。しかし今回は違った、始まりは……

 

「提督、敵先陣が明石型機銃の射程に入ります。」

「まだだ、まだ打つな。」

『ちょ!もう敵は視認できる距離まできてるんじゃぞ!?』

「まだだ!お前達は全砲門を構えて待機だ。」

「提督!敵の第一陣が全て入るまで三、二……」

「打ち方用意!」

『了解じゃ!』

 

そして、その時は呆気なくやって来た。

 

「一……今です!」

「全砲門発射!」

 

 

 

 

 

 

 

東京湾 

 

『一……今です!』

『全砲門発射!』

「全軍、一斉射じゃ!」

 

 

ドゴガッ!

 

 

凄まじい音と共に発射された砲弾、それと共に明石製の機銃が一斉に唸りをあげる。遅れて着弾の音がする、巨大な水柱のみならずここからも視認できるほど大きな爆炎が立ち上った。

 

「着弾確認!」

『止まるな!航空戦力発艦始め!』

 

提督が予期したように煙の中から現れたのは黒い飛行物、深海棲艦の空母が搭載している艦載機だ。しかもそれだけではない、続くように出てきたのは白い球体の形をした物、それらは後から出てきたのにもかかわらず最初の黒い艦載機を抜かし此方に向かって来た。

 

「あれは……!提督!」

『わかってる長門!此方でも確認した、あれがあるということは姫、鬼級がいるということだ。総員、気を抜くなよ!』

「百も承知!全艦、砲撃の手を緩めるな!」

『こちら陣左翼の蒼龍、艦載機第一陣が敵艦載機と接触します!』

 

瞬間、空一面に火花が広がった。次々に落ちていく両陣営の艦載機、しかし……

 

『ちっ!やっぱ数が多いか……』

「ああ、このままでは制空権を取られるのも時間の問題だ。どうする提督?」

『明石!例の奴はどうなっている?』

『いま操縦系統を既存のゼロ戦ベースの物に置き換えています!後二十…いや十分待ってください!』

 

数で押し殺しに来ている深海棲艦の艦載機、しかも通常の艦載機ならともかくeliteやflagship級になると艦載機自体のスペックにも差がつく。此方は無人のあちらに比べて有人、しかも熟練度は最上級の艦載機の妖精達が乗っている。が、それでも限界はある、いかに一対一なら圧勝できる艦載機といえど数が違いすぎる。

あちらの艦載機の数の予測は此方の約八倍に加えて横須賀鎮守府の空母の数の少なさが痛い、これを打開する為に提督は明石にあるものを頼んでおいたが……

 

『皆聞いたとおりだ、後十分持たしてくれ!』

「簡単に言ってくれちゃって…!」

「仕方ないですよ飛龍さん、っと来ましたよ…!」

 

そういって深雪が指差した先には駆逐、軽巡、重巡そして戦艦の深海棲艦達、しかもちらほらelite個体も交じっている。それが視認できる距離まで近づいていた、と同時にチカチカと光が迸る。

 

「砲撃来るよ!全艦回避して!」

 

ドゴッ!ドドドドドドドドド!!

 

 

 

直後、先ほどまでいた場所に水柱が立つ。間を置かずに今度はこちら側からの砲撃が始まる、それを尻目に空母達は一旦後退する。そして艦載機による支援を行おうとしたがその手を止める、このままでは爆撃すると味方まで巻き込んでしまう。

 

「構わねぇ!そのまま撃て!」

「でも天龍!」

「いいから!」

「どうなっても知らないよ!」

 

言うが早いが艦載機を放つ飛龍、そして放たれた艦載機達は両軍入り乱れた戦場に機銃と爆弾の雨を降らす。この味方まで巻き込みかねない攻撃は確かに効果はあった、しかしそれも一瞬のことだ、すぐに次の深海棲艦達が向かってくる。いまは幸い一隻も抜かれていないがそれも時間の問題か。

 

「だが、こういう戦いこそ燃えるってもんよ……!」

 

そう天龍は不敵に笑って言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

深海棲艦本陣

 

「レ級、戦況ハ?」

「ハッ!タダイマ敵ノ第一次防衛線ヲ突破シヨウトシテオリマス、敵ハ味方モ巻キ込ム攻撃デ押サエテイマスガ突破ハ時間ノ問題デショウ。」

「フフフ……」

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府

 

「これじゃ突破されるな、だが予想済だ。何のために第二軍を配備したと思ってるんだ、しかしこのままみすみす突破させない、もう少し数を減らす。明石!」

「最終作業完了!これで操縦方法は同調できました、妖精さんが乗り込めばいけます!」

「大淀、全軍に呼びかけ!」

「はい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『こちら提督!やっと準備が完了した、妖精さんが乗り込み次第順次発艦!』

「準備ってなんだよ初月!?」

「わからない!けど戦況がこっちに傾くのは確か!」

『こちら右翼の飛龍!いま妖精さんが登乗し終わって矢が出てきたけど……何これ?』

『左翼蒼龍!えーとこれただの艦載機だよね?ほんとに大丈夫?』

 

会話にも出てきているように空母達の矢筒や手元の出てきたのは通常の艦載機の矢、しかし色が青や赤、黄色と色々な色があった。特に変わったとこが見られないこの矢、しかし明石がぎりぎりまで時間がかかる物など早々ない。それにこの土壇場で提督が導入してくるなら何らかの意思があるはず、ととりあえず飛ばしてみる空母達。

 

そしてその直後、空母達は信じられない光景を目にする。

 

「何……あれ……!」

 

それは

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

大空を舞う歌姫たちの守り手、俗に「バル○リー」と呼ばれる戦闘機だった。

 

「ナンダ……アレハ?」

「うっそでしょぉぉぉ!?」

『落ち着け伊勢、あれは明石特製の戦闘機、通称《アカキリー》だ。』

「いや、色々と大丈夫なんですか……?」

 

しかし提督も遊びでこんな物を出したのではない、事実発艦したバル…もといアカキリーは次々と深海棲艦の艦載機を落としていく。それもそのはず機体性能は通常の八倍以上、人間では耐えられないアクロバット飛行でも妖精なら耐えられる。

そして特にサイズがデカイ、どれくらい大きいかと言うと艦娘と同じくらい、つまり人間ほどの大きさである。

そしてアカキリー達はとんでもない機能を見せる。

 

「ほら余所見しない!敵雷撃来るよ!」

「五十鈴!危ない!」

「へっ!?」

「……………!!」

 

敵の酸素魚雷の直撃を受けそうになった五十鈴、しかしそれを見たアカキリーの一機が急降下、瞬時に足と手を変形させてその場から抱き抱えて離脱させる。所轄「ガウォーク」と呼ばれる形態である。

 

「あ、ありがと……」

「…………///」

(意外とわかりやすい。)

 

そしてアカキリーの機能はこれだけではない、読者諸兄の一部は薄々感づいているだろうが。

 

「霧島!右舷後方!」

「しまった!?」

「シズメェ!!」

 

ちょうど死角だった箇所からの砲撃、発射したのは重巡リ級、いくら戦艦の砲撃ではないと言えど無防備なこの体制では轟沈の可能性がある。咄嗟に腕を交差させて衝撃に備える霧島、おそらく腕が二本とも持ってかれるだろうが入渠すれば治るので構いはしない。無慈悲な砲弾が霧島を襲おうとしたとき、一機のアカキリーが躍り出た。

無茶だ、傍から見た比叡はそう思った。まさか自身と引換に霧島を守ろうとしているのか、止めようと思ってももう間に合わない。そう思った時、その影は大きく形を変える。

 

「…………!!」

「ナッ!?」

「変形した!?」

 

霧島達の目の前で戦闘機から瞬く間に人型へ姿を変えたアカキリー、通称「バトロイド」である。そしてそのまま手に持った携行型マシンガンを掃射、迅速に砲弾を撃ち落とした後、即座に反撃に移る。

 

「………!」

「何ダコイツハ?ハヤイ!?」

「!」

「ナニガオコッ――」

 

敵の副砲が至近距離で発射されるがそれを軽々と避けるアカキリー、やがて逆に土手っ腹を撃ち抜かれたリ級は沈んでいった。それを放心状態で見ていた二人、アカキリーは此方を一瞥すると再び変形して大空へ飛び立っていった。

 

「提督はこんな隠し玉を持っていたのね、これなら行ける!」

「いやまだだ綾波、むしろ少し不味い。」

「天龍さん?」

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府地下

 

「これをもってしても制空は五分が限界か……!」

『すみません提督、私がもっと生産できていれば。』

「しゃーない明石、それよか大淀、戦況は?」

「戦力損耗率が三割です、轟沈は……まだ出ていない!?」

「どうよ!」

 

戦闘開始から早くも四時間が経過、戦闘は圧倒的な戦力差にもかかわらず、ほぼ五分の戦いをしている鎮守府側だったが…

 

「とはいえ三割か…潮時だな、第一軍に撤退指示!」

「了解!」

 

撤退を指示する提督、確かに今は互角の戦いをしている、そう「今は」。このままだと直に突破されるのも時間の問題だ、ならば損傷が少ない内に撤退させて新たに防衛線を張るのが得策だ。

 

『蒼龍!提督からの通信よ!』

「そのまま話して!」

『現時点を持って中破、大破の艦娘は付近の小破の艦娘を臨時旗艦として撤退、小破以下の損害艦はその撤退を支援せよ。』

「私はまだ大丈夫!損傷艦の避難後は?」

『敵の防衛を潜り抜け敵空母を可能な限り撃沈せよ、但し轟沈しないこと。』

 

それを聞いた蒼龍他各指揮権を与えられた艦娘達は撤退を指示、撤退戦が始まった。ここは東京湾、幸いにも艦娘が上陸出来る港や波止場などはふんだんにある。事前にその中から分かりにくい場所を選定、撤退時の避難港としていた。そしてその各港には陸自の装甲車が待機しており、傷ついた艦娘を簡易泊地まで移送する手筈となっていた。簡易泊地は五箇所あり、艦娘の入渠と補給、そして建造はできないが装備の改修や開発はできるという正にその名の通り簡易的ではあるが立派な泊地だ。

 

 

「木曾さん!担当範囲内の艦娘全員避難完了したよ!」

「よっしゃ!睦月、お前もただちに退け!」

「でも木曾さんが!」

「お前がいると撤退できねぇんだよ!」

「っ!わかりました!」

 

そう言って退いていく睦月、比較的損傷が少ない木曾はまだ戦闘を続行できる状態だった。連絡によると第一軍で戦闘続行可能つまり小破以下の艦娘は全体のおよそ四割ほど、カウンターで逆に攻めて行くならば人数が少ないのは逆に有利だった。

 

「ここはもう抜かれるか…だがただじゃ抜かせねぇ!」

 

そう言うと木曾は身を翻して敵陣に突っ込んでいった。

このすぐ後第二軍に戦闘体制の伝令が伝わり、東京決戦は第二ラウンドに突入していった。敵はまだ二軍、三軍、四軍と戦力を残している、一番数が多い一軍は殲滅出来たがそれはただの数の部隊、寧ろ数は少ないがeliteやflagshipなどの精鋭が揃う後方艦隊が危険だった、つまり本番はこれからなのである。

そして提督の指示通りに適度に陣中に突っ込んで後方の敵第二軍の空母をある程度撃沈し戻ってきた艦娘達、幸いこの昼戦では轟沈者は誰も出ずに終わる、しかし負傷した艦娘が消費する資材は相当になってしまった。

 

 

 

深海棲艦本陣

 

「戦艦棲姫サマ、第一軍ガ戦闘不能ニナリマシタ。後方ノ第二軍モ三割ホドノ被害ガ出テオリマス。」

「アノヘンチクリンナ艦載機ノセイデ滞空ハ五分マデ持ッテイカレタケド、マダ目的ニハキヅカナイノネ……」

「ココハ間髪入レズニ第二軍ヲ投入シサラニ押シコムベキカト。」

「フフフ、許可スルワ。セイゼイ踊ッテモライマショウカ、愚カナ人間ドモニ……」

 

 

 

 

第二軍 セイバー班

 

「扶桑~提督から通信でもうすぐくるらし…どうしたクマ?」

「いえ、少し違和感がね?」

「クマ!?」

「ああ、些細なことだから気にしないで。」

「びっくりさせるなクマ~」

 

扶桑の違和感の理由、そして正体はもう少し先で明らかになる。間もなく日没、今度こそ入り組んだ川で夜戦が行われることとなる。

実働部隊の艦娘達だけでなく、それを指揮する提督と戦艦棲姫の駆け引きも含め、戦況は益々わからなくなって行く………

 

 




激化する戦い
自分の運命を嘆く者
だが運命をうけいれてしまうかは己次第
その決断を迫られたとき貴方ならどうする?

受け入れるか?

無駄かも知れないとわかっていても尚抗うか?

次回

「不幸を胸に抱きし者」

その決断は貴方の決意だ。



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十五、不幸を胸に抱きし者

《燃料 0 》

(゜ロ゜)

もうダメだ……
筆者、第E2にて燃料切れのためリタイア。無念……松風や伊14が欲しかったなぁ……やっぱりまだレベル40には厳しいんですね、春に向けてバケツとレベリングやらねば(使命感)
艦これ劇場番を4DXでみてきました!二回目だったんですが、凄く…感動します…
とにかく迫力と臨場感が凄かったです!
それでは本編どうぞ~



何かがおかしい、扶桑はそう思った。この戦いが始まって早くも半日以上が経過した、第一軍は撤退しもうすぐ此方にも敵が押し寄せてくる。多摩川を守るセイバー班が第二艦隊を砲撃支援、第一艦隊が敵に切り込むという陣形に展開する中で扶桑の何ともしがたい違和感は広がっていった。

扶桑は提督でありながら艦娘という極めて特殊な立場上直接現場にでて艦隊を指揮することが多い、そのような経験を重ねていく中で彼女は深海棲艦の動きを直感的にではあるが把握できるようになっていた。しかしその直感が何故か声高に「危ない」と叫んでいた。

 

「……さん!扶桑さん!」

「!ごめんなさい、今はそれどころじゃないわね…」

「もうすぐ敵艦隊が来ます、第一軍の一部が修復を終えて各班の援護に向かうという通信がありました。」

「それが来るまで持ちこたえる、と。」

「はい。」

 

頭の中の違和感を振り払い目の前の戦場に集中する扶桑、慎重な考えが己を救うとわかってても余計なことに気を取られては元も子もないというのも彼女は知っていた。そして間もなくセイバー班(仮称S班)第一艦隊の筑摩が飛ばした艦載機が戻ってくる、筑摩は此方を見て首を振り敵艦隊が見つからなかったということが伝わる。

 

「おかしいわ……」

 

一人ごちる扶桑、それもそのはず第一軍が撤退してから早一時間、ここの詳細な地形は敵に伝わって無いことから迷ったという可能性も考えられる、がそれにしても敵の一隻も確認出来ないのはおかしい……

なら次に考えられるのは他の河川に集中しているのか、そこまで扶桑は考えて他の班に通信するように指示しようとした瞬間に事態は動いた。

 

「緊急通信!アーチャー班敵潜水艦に奇襲を受けり!」

「っ!そういうことね、やられた!」

 

 

 

 

 

 

 

 

江戸川

 

「っ!?魚雷確認!全艦回避ー!」

「きゃっ!」

「榛名さん!ちっきしょう!」

 

中川と江戸川を防衛するアーチャー班、しかし守備範囲が広いため艦隊を分けて行動していた。提督もその事実を考慮して比較的練度の高い艦娘を配置していたのだが、江戸川を守備していた艦隊が潜水艦の奇襲を受けた。これにより二隻が中破となりそこから一気に深海棲艦が現れたのだ。

提督と扶桑はここに来て一つの事実を知ることになった、それは深海棲艦は艦種に関係なく潜水出来るということだ。もちろん、索敵には引っ掛からない潜水艦に見つかればただの的だが、それに海中から上がり武装を展開するまでは完全に無防備になってしまう。しかし潜水艦に奇襲を受けパニックになった彼女達は呆然と海中から深海棲艦が現れるのを見ているしかなかった、結果的に敵艦隊に包囲されてしまった。

 

「くっ!打電はしたのか江風!」

「はい那智さん!けど今から向かうって!」

「あきらめるな!もうこれは防衛とかの話じゃない、絶対に援軍が来るまで死ぬな!」

(また私のせいで不幸になっていく……)

 

すでに第一艦隊の赤城、榛名、摩耶、江風、那智、山城の内でまず赤城が中破、その後那智そして榛名が中破に追い込まれた。今無傷なのは江風と摩耶のみ、第二艦隊は唯一の空母である飛鷹が艦載機を中川から飛ばしているが夜間のため厳しい状態が続く、妙高を始めとする艦娘も砲撃支援を行っていたが焼け石に水。しかも第二艦隊の艦娘が一人行方不明という有様、四面楚歌とはまさにこの事だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

多摩川

 

「提督から通信は!?」

「最寄りの簡易泊地から援軍を出すようですが……」

「それじゃ間に合わない、敵は一つ一つ守備艦隊を叩くつもりよ。」

『そうだ、それなら話は早い。』

「提督!?」

「わかってる、つまりそこには敵がここに()ける戦力が集結している。」

『そう、これは逆にチャンスだ。』

 

提督と扶桑の考えは一致、つまり攻撃を受けてない艦隊から増援を編成して送ると言うものだ。聞くともう他の艦隊には打電し終わっているらしい、流石提督、手が早い。

 

「そうと決まれば早速増援に……」

「いや、どうやらそう上手くはいかないみたいだクマ。」

「これは…!」

 

扶桑の視界に移った小さい黒い点、しかしそれだけでもその黒い点が深海棲艦だと判断するには十分すぎた。そして続いて伝わった敵艦隊の情報に愕然とする、空母ヲ級elite、戦艦ル級flagship二隻、駆逐イ級elite二隻、そして―戦艦レ級。江戸川の敵艦隊が数による波状攻撃で相手を殲滅させるタイプならばこちらは少数で敵を足止めするといったところだろうか、奇しくも少数精鋭という考えはこちらも相手も持っていたようだ。

加えて旗艦である戦艦レ級、これは姫、鬼級と共に近年確認された艦種だ。砲撃、航空、雷撃に対潜まで全てをこなし尚且つ未だ確認されている通常個体の時点で同時期に発見された姫、鬼級と同じ実力を持つ正に化け物、「もうこいつ一人でいいんじゃないか」という言葉が最も似合う深海棲艦である。

 

「どうするクマ、もしかしたら他の班も似たような状態かもしれんクマ。」

「わかっています、第二艦隊とそれを誘導する球磨を援護に回します。」

「………」

「ここは一本道、私達が道を開けます、その間に―――」

「待つクマ。」

 

迅速に分配し、行動に移ろうとした扶桑だったが寸前で球磨に止められる。訝し気に球磨の方を見る、球磨はやれやれと言った感じでこういった。

 

「無理すんのも大概にしろクマ。」

「何を言って―――」

「第二艦隊、私のアレ持って来るクマ。あと第二艦隊の北上、龍田、隼鷹は扶桑に付いていくくクマ。」

「ちょっと!」

「私が行くよりも提督として指揮に長けたお前が行くべきクマ。」

「でも!」

「ギャアギャア五月蠅いクマ、さっさと行くクマ。」

 

扶桑が必死に反論するがそれさえも遮られる、納得がいかないと扶桑はさらに反論しようとした。そこに第二艦隊の艦娘が布に包まれた巨大な物体を持ってきた、球磨はそれを片手で受け取り布を開いた、出てきたのは球磨の身長の一.五倍はあろうかと言う巨大な大剣だった。

これは剛剣「山卸(やまおろし)」球磨が愛用している得物で深海棲艦の装甲を素材とし、それをわざわざ横須賀の明石に作らせたという業物、こんな武器を持っている球磨も普通の艦娘ではない。こと接近戦に関しては全艦娘中トップクラスでありその実力は味方を撤退させる為に姫、鬼級を含む敵主力艦隊と単独で相対してほぼ無傷で生還する腕前、その為呉という精鋭に所属しているのだが彼女の強さは群を抜いている。

そして大剣を肩に構えて球磨は扶桑だけに聞こえる声で言った。

 

「妹が心配なんだろ、さっさと行って助けてやるクマ。」

「私はそんな事別に――」

「私とお前の付き合いの長さをなめるなクマ、不安さが顔に出ているクマ。」

 

上述したように球磨の練度は高い、その為扶桑とも昔からの付き合いであり互いに思っていることが相手が思っていない事でもわかるのだ。それほどに二人は長い付き合いだった。

無論それだけではない、球磨にはわかるのだ、北上と言う自身と同じ艦娘の家族がいる球磨には。「家族がピンチならばすぐに行って助けたい」そんな当たり前のことを気が付けないほど浅い付き合いでもない、それを邪魔するなど―――無粋だろう。

だからここは引き受けた、娘の北上も信用できるからついていかせる。

 

「私が切り込んで穴開けるクマ、その間に四人はその穴通っていくクマ。」

「……礼は言わないわよ。」

「家族として当然の権利を行使するのに何で礼が必要クマ?」

 

そして球磨は地をいや水を蹴った、眼前には戦艦レ級と多数の強個体達、しかし球磨は動じることなく彼らの前で自らの決意を示すように大剣を降り下ろした。ただそれだけだった――

そして川が割れた、余りにも呆気なく簡単に。原理は単純、球磨の降り下ろした大剣の風圧により水が一時的にへこんだ、ただそれだけである。だがそれを剣の長さの八倍以上に伸ばすことなど出来はしない、それを球磨は息をするようにやってのけた。

 

「行ってくる。」

「行ってこいクマ。」

 

その短いやりとりの中で数々の思いが二人の間を行き交っていった、そして扶桑は北上達を連れてそこを全力で駆け抜けていった。

 

「オノレェ!イカセル――」

「つれないクマなぁ、お母さんと一緒に遊んで行くクマ。」

「コノォ!」

 

背後の尻尾を思い切り振り抜くレ級、それを球磨は片手でいなす。そしてそのままカウンターで大剣を振り抜いた、その大剣を誰も捕らえられなかった、それはレ級を掠めただけだが逆にそれがレ級を怒らせた。

 

「貴様ァ!」

「さぁ、躾の時間クマ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

江戸川

山城達は江戸川から本郷用水を通り中川に撤退し第二艦隊と合流、そして旧江戸川から新川を通り荒川の艦隊と合流しようとしたのだが、そこで初めて状況を知る。

 

「隅田川に敵艦隊ですって!?」

「ああ、どうやら他の艦隊も同じような状況らしい。」

「那智、第一軍の救援が来るまでどれくらいだと思う?」

「時間からして、三十分かそこらだな。」

「そこまでは耐え――」

 

そこまで言ったとき第二艦隊の菊月が半ば悲鳴になった声で叫んだ。

 

「電探に反応!此方に着ます!」

「ちっ!もう来るか!」

「後少しだ、頑張れ!一度敵が視認できたら発射だ。」

 

そうして本郷用水を曲がった敵が見えた瞬間に戦いは始まった、今回は体制を整え第二艦隊も共に居るため幾らかは戦況を保てると那智は思った。

東京湾側に下がりながら砲撃を繰り返すアーチャー班、対して深海棲艦は物量に物を言わせて駆逐艦を突撃させ、それに砲撃が集中している間に背後の戦艦級が遠距離から砲撃する、そして駆逐艦が全て沈んだらまた別の駆逐艦を突撃させるという戦法。

此方の駆逐艦と深海棲艦の駆逐艦が近距離で砲撃雷撃戦を繰り広げていたが戦艦級の砲撃で削られていく、elite個体が一隻もいなかったとしても数が多いのでかわらない。

 

(私のせいで…私のせいで…)

「きゃあっ!」

「菊月ぃー!」

「!」

 

自責の念に囚われていた山城、しかしその思いも目の前のピンチの仲間を見ることによって吹き飛ぶ。彼女は無我夢中で菊月を突飛ばした、それは自責の念からきていたのかは分からない、ただ分かるのはもう自分の不幸のせいで誰も傷ついて欲しくないという思いだった。

 

(姉様、先立つという不幸をしてしまう不出来な妹をどうかお許し下さい。)

 

突飛ばした菊月が何か言っているが聞こえない、周りの仲間達も何かを言っているようだ、きっと心配してくれているのだろう。こんな私でも心配してくれるなんて自分はなんて―――、なんて、何なんだろう?私は今何を思ったのか、この気持ちは何なんだろう?

それでもこの疑問も私も数秒後には消えているだろう、感覚が加速し長く感じる時の中でそう山城は静かに終わりの時を待った。

 

 

そして弾丸は彼女を――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

貫かなかった

 

「………………え?」

 

いくら待てども終わりが来ない、不思議に思った彼女は瞼を開く、そこには先程別れを告げたはずの愛する者がいた。

 

 

唯一無二の、姉がいた。

 

 

その姉―扶桑は何処かの高速戦艦の様に弾丸を腕で弾くなどという真似はしない。弾き飛ばさず「掴んで」いたのだ、それは弾丸に追い付く速度と回転を止める握力、そして手を離さない勇気が必要だった。

それを扶桑はぶっつけ本番でやってのけた、深海棲艦も味方も何が起こったかわからずにぼうっとしていた。

 

「山城、無事なのね…!」

「姉様…何でっ…何で不幸な私を……!」

「不幸なのはね、貴女だけじゃないの。」

「え……」

 

ガツン!

 

世の中に自分より不幸な人間が居るのだろうか、そう山城は思った。その瞬間、受け止めた時の風圧により折れた川岸の街灯が扶桑の頭を直撃した。重いがとてもいい音がした。

 

「扶桑型はね、山城に限らず扶桑も不幸なのよ。」

「そんなこと今まで…一度も…!」

「当然よ、だって不幸じゃないもの。」

「どういうこと…何ですか?」

「愛する妹が何時も側にいて、信頼出来る仲間もいる。確かに私は『不運』かもしれない、けど決して『不幸』ではないわ。」

 

山城の頭に衝撃が走った、いや実際に扶桑の頭に当たった街灯が半ばで折れたのが山城に当たり物理的にも衝撃が走ったのだが、精神的にも衝撃が走る。

彼女の頭は昨日の球磨との会話を思い出していた。

 

 

 

 

『今日は加賀と演習してボロ負けしたらしいクマな。』

『仕方ないですよ、私は不幸なんです……』

『………なーるほど、そりゃ加賀に負ける訳クマ、お前は大事なことを忘れているクマ。』

『何なんですか!大事なことって!?加賀さんにも言われましたけどサッパリわかりません!!』

 

激高した山城に球磨は少し黙った後、「大ヒントクマよ」と付け加えて言った。

 

『お前は鎮守府の皆とお姉さん…提督が嫌いクマか?今の生活がイヤクマか?』

『とんでもない!私は姉様が大好きです!それにこんなに不幸で害しかない私でも好意的に接してくれる鎮守府の皆も好きです!』

 

球磨はニッと笑って、こう一言残し去っていった。

 

『ならそれが答えクマ。』

『ちょっ!』

 

 

 

 

 

今なら球磨の言葉の意味がわかるし、さっき抱いた感情にも合点がいく、私は不幸を言い訳にしていた。そんなことをしていたら改二にも成れないし弱くなって当然だろう、悔しいが加賀さんや球磨の言う通りだった。

 

私は確かに「不運」だ、けど姉様がいて皆がいて私は幸せだ、決して「不幸」ではない!

 

そう決意した山城であった、そして姉様に言葉を伝えようとし――

 

その時、不思議な事が起こった。

 

山城の身体を光が包み、彼女の身を包む艤装の形を変えた。そして光が収まったあとには手に飛行甲板を持つ艦娘、「山城改二」がそこにはいた。着いてきた扶桑の艦隊と共に陣形を組み直す艦隊、二人も気合いを入れて深海棲艦を見据える。

 

「行くわよ、山城!」

「圧倒的に不利でも、姉様となら!」

「あら、私だけじゃないわよ。」

「え?」

 

そう口にした時、辺りを照らしていた探照灯よりも明るい光が辺りを照らす。そして見えたのは艦載機、夜には発進できないはずの艦載機だった。そして深海棲艦の後方から無数の砲撃が降り注ぐ。そしてその戦闘に立っていた艦娘が飛び上がりビルの壁を蹴り、深海棲艦の艦隊を越えてきた、そしてその艦娘は扶桑達を見て言った。

 

「わりぃにゃ、遅くなったにゃ。」

「た、多摩姉!?」

「北上の知り合い?」

「はい…叔母です。」

「積もる話は後にゃ、今はこっちに集中するにゃ。」

 

流石は球磨の妹か、奇襲を受けたという報告が入った時に迅速に判断し救援艦隊を誘導、より効率的に再編成して逆に奇襲をし返すという斬新な発想をしてのけたのは何を隠そう多摩である。

普段は「魚に眼がない変人」と呼ばれているが、そんな者も今の多摩を見れば考えを改めるだろう。

 

「さあ、反撃タイムだにゃ。」

「うそ、これが多摩さんなの……」

「認めない、認めない……」

 

余りの変貌ぶりにある意味現実を見れない者が現れたが、そんなこは意にもとめずに多摩は声高らかに反撃を宣言する。

 

 

 

 

 

 

やられっぱなしの時間は終わった、このままというのは性に合わない。

さあ、今度は此方の番だ。

 

 

 

「姉様!」

「山城!」

「「全艦、突撃!!」」

 

 

 

二人の掛け声と共に反撃は開始する……

 

 

 




皆さんこんにちは、大和です!
今どこかと言いますと……

「大和!」

ああ、そうでした。すいません、ちょっと言えないんですよね~。今私は「表向き」は別任務という扱いになっているんですけど。

「……大和、そんなにお仕置きしてほしいのか?」

いえ、すいません流石に言い過ぎました。私はMではありませんので、それでは次回

「counter attack」

文字通り、反撃開始です!





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十六、counter attack 

はぁ……お金が~足りない~

SAOの映画にモンハンXXにスパロボV、何でこんなに欲しい物が一斉にくるんだ~。
…………ん?

《かれんだー》

期末テスト

母 ( ^∀^)


筆者(;゜∀゜)

緊急のお知らせ
筆者、期末テストが終わるまでお休みとなりました……
誠に申し訳ない…
この埋め合わせはいつか必ず………!

では、本編どうぞ~


「てりゃぁぁぁ!」

「撃てぇ!」

 

扶桑達の他艦隊救援部隊と多摩が牽引する第一軍救援部隊、この二つの艦隊が敵を挟む形で急襲し戦況は何とか有利に傾き初めていた。

そして明石が設置した砲台から絶え間なく照明弾が発射されることにより夜間でも艦載機の発艦が可能になっていた、それにより航空戦はほぼ一方的な展開だった。

 

「提督、救援艦隊が間に合ったようです。」

「あらかじめ第一軍から予備艦隊を編成した甲斐があったな。」

「ええ……」

(しかし救援部隊の編成はまるで奇襲を読んでいたかのようだった、まさか提督はこのことを予想して?)

 

大淀はその考えを頭の中から振り払う、と同時に設置されたレーダーに反応があった。数は三百ほど、おそらく深海棲艦の艦載機であると予想された。提督がとった照明弾を絶え間なく撃ち続けて艦載機の発艦を可能にするという戦法は同時に深海棲艦側の艦載機も発艦可能にしてしまうという欠点も抱えていた、しかしそんなことも提督には織り込み済みだった。

 

「レーダーに反応!」

「来たか…!機銃の発射用意、敵は夜目が効かないから落ち着いて当てていけ。」

「了解。」

「ここでなるべく数を減らすぞ!」

 

 

 

 

 

 

 

中川上空で大規模な航空戦が始まる中、中川上でも激しい戦いが繰り広げられていた。救援に来た北上による空密度の魚雷群が敵を殲滅、それでできた穴を突く形で救援部隊長の川内率いる駆逐艦達が突っ込んでいく。これにより懐に入り込まれた深海棲艦は大きく陣形を崩すことになった、しかし突撃のどさくさに紛れて深海棲艦からも後方支援の戦艦に突撃する個体も現れた、つまるところ混戦状態である。

 

「キシャァァァァァァァ!!!」

「夜戦、キター!!」

「グルガァァァ!!」

「姉さん危ない!」

 

決め台詞を言っている間にも容赦なく敵艦隊の砲撃は続く、爆炎に包まれた川内だが煙が晴れるとそこには何もいなかった。

 

「残像だ。」

「!?」

 

と同時に背後に現れた川内に反応できず、そのまま急所を突かれ即死する駆逐イ級。周りの深海棲艦が慌てて砲塔を川内に向けるがそのころにはもう彼女は次の深海棲艦の背後に回っている。改二になり第二水雷戦隊に所属し「鬼の神通」と呼ばれるようになりもはや川内などとは比べ物にならないほどに強いと言われていた神通であったが、今の川内の動きはその彼女をもってしても捉え切れない速さだった。内心では姉をとっくに超えたと思っていた神通であったが、夜戦のプロとなった本気の姉を見てはその認識を改めざるを得なかった。

 

 

 

 

 

 

その少し後方、戦艦へと群がる深海棲艦を食い止める役割を担うのだが、若干一名やる気のない艦娘がいた。

 

「こんなにいるなんて…メンドクサー。うわまた抜かれたし。」

「邪魔にゃ北上。」

「ちょっ!」

 

北上と多摩である、北上は魚雷を半分ほど打った後は仕事終了と思って余裕ぶっこいていたのだが、あれよあれよとこちらにくるのでただ突っ立ってると当たって痛いのでテキトーに撃ちながら反撃していた、片手にP〇vitaを持ちながら。多摩は救援艦隊を率いてかっこいいセリフで士気を上げた……までは良かったのだが、その後は自分の仕事は終わったと言わんばかりに持ってきた裂きイカをつまみ始めた、やっぱり多摩は多摩であった。

 

「多摩のご褒美タイムを邪魔するなにゃ。」

「多摩叔母さんはさっきから一発も撃ってないよね!?ただ裂きイカ食べてるだけだよね!?」

「北上こそさっきから目立たない場所でゲームしているだけにゃ!あと叔母さんは余計にゃ、まだ二十歳にゃ。」

「多摩さんに言われたくないね、あと年齢考えろ。」

「ああん?」

「やんのか?」

「どっちも早く参加しろ!ニート共が!」

 

摩耶の突っ込みが入る中、奇妙な深海棲艦が三隻向かってきていた。艦種はどれも重巡リ級のelite個体、そしてなぜか一直線の綺麗な単縦陣で向かってきていた。迎撃に出る江風と摩耶、二人は砲弾を当てにくい反航戦に突入する前に正面から撃ちあいケリをつけようと思い正面から撃った。直撃と確かな手ごたえ、二人はやったかと思った、しかしそれは立派なフラグである。

 

「コノ程度ッ!」

「ワレラニハ!」

「キカナイッ!」

「何…だと…」

「江風!余所見すんな!」

 

慌てて身を躱す江風、至近距離で見て分かったのだが、三連で並んでいるリ級の内一番前の個体は両腕のシールドが異様に発達しており続く二番目は通常の個体よりも砲塔が太く長くなっていた、そして三番目は砲塔の数が二倍になっていた。このリ級達はそれぞれの長所を生かす為にこのような策に打って出たのである。

わかりやすく言うとあれ、「ジェットス〇リームアタック」である。そしてその文字通り黒い三連星?はなんと引き返してきた。

 

「うっわまた来た!」

「怯むな、いくぞ!」

「何度ヤッテモ同ジダ!」

 

そういって両者ともに先程と同じ形で相対する、江風が砲を撃ち前方のリ級がそれを防御、そしてその影響で出来た煙に紛れて飛び上がる二番目のリ級、しかし同じ手は食わないと摩耶が主砲を上部に連射した。が、それさえも読んでいたように二番目のリ級は前のリ級の肩を踏み台にさらに上へ飛んだ、そしてそこから狙いをつけリ級は引き金を引いた。

 

「あっぶねぇ!」

「チッ……運ノイイ奴メ。!何ダ!?」

「これは…殺気?」

 

しかしかなり上空から撃ったので狙いが甘く、難なくよけられた江風達。しかしお忘れではないだろうか、彼女らの後ろでゲームしてたり裂きイカを食べてたりしていた者達のことを。

 

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

そんな擬音似合いそうなオーラをまとった多摩の手には果たして、破れた裂きイカの袋の先っちょだけが握られていた。一方北上の手には無残にも画面に向こう側が見えるほどの大穴が開いたP〇vitaが握られていた。蛇足かもしれないが二人共満面の笑みだった。

 

「多摩さん、殺ろうか。」

「うん、殺るにゃ。」

「「「 」」」

 

言うが早いが二人同時に飛び出す、何とか意識を戻したリ級達は再び隊列を組み直して正面から迎え撃つ。実はこの陣形、一見ネタの様に思えるが実用性が高く、息が合ったコンビネーションが必要とされるものの、それが出来たこの陣形を破るのは容易ではない……はずだった。

 

「多摩さん。」

「おけにゃ。」

 

ガスッ 

 

北上はあえて背を向けて多摩に手を突き出す、多摩はそれを踏み台に高く飛ぶ。しかもただ高く飛ぶのではない、二番目のリ級と同じ高さになるように飛んだのだ。空中で正面から向かい合う多摩とリ級、双方の上昇が止まり一瞬静止する、その瞬間多摩は背中の艤装に装備された主砲を撃つ――背後に向かって。

 

「?……!?」

「遅いにゃ。」

 

するとどうだろう、砲撃の反動で多摩の体は前に押し出されリ級とほぼゼロ距離まで接近する。さすがの反応速度を見せるリ級だったが多摩のほうが早かった。いつの間にか手に持っていた魚雷をリ級の腹部に押し当てる、上空で起きる爆発と中から落ちてくる二つの影、無論多摩とリ級である。

しかしリ級は、いやリ級だった物は下半身のみを残して消えていた。呆気にとられる残りの二隻、しかし上空からこちらに向かって落ちてくる多摩を見て砲撃を再開する。上空にいる多摩は避けようがないが先ほどと同じように、つまり砲撃を明後日の方向に向けて撃つことでその反動で自身の位置を調整、すべての砲弾を寸前で回避していった。そして多摩は二隻の手前五メートルほどに着地、その期を逃さずに接近する二隻目。

 

「モラッタァ!」

「………」

 

だがリ級仲間をやられていて怒っていたのか焦っていたのか気づかなかった、多摩のちょうど又下を潜り抜けてきた一発の酸素魚雷に。

 

「ナッ!?」

 

そしてその魚雷はリ級の足下で爆発、為す術もなくリ級は沈んだ。この一連の行動、一見簡単そうに見えるが実際は多摩の着地位置とタイミング、そして向かって来るリ級と丁度交わる位置で爆発するように設定しなければならない。この高度な精度も北上の強みである、伊達に頭が良いわけではない。

 

「てなわけでー」

「落とし前の時間、にゃ。」

「クソガァァァ!」

 

この三秒後、最後のリ級は沈んだ。

 

 

 

 

 

「姉様!敵、突っ込んできます!」

「迎え撃つわよ!」

 

北上達のラインを抜けて来た敵は扶桑姉妹が迎え撃っていた、航空戦艦になり火力は落ちたがそれでも急所を狙って撃てば一撃で沈む。山城は初めて扱う筈の水上偵察機を自分の身体の一部の様に動かし、敵集団に突っ込ませて攪乱させるという離れ業も見せていた。

 

「姉様!敵機直上!」

「くっ!?」

「そこはやらせません。」

「加賀さん!?」

 

隅田川のキャスター班から臨時救援艦隊を丸々率いて来ていた加賀は真っ昼間の様に明るくなった夜の東京でその圧倒的な搭載数を用い、制空権を確保していた。艦載機はもちろんアカキリーである。

 

「大事なこと、気付いたようね。」

「加賀さん……」

「御託は後よ、上は任せなさい。」

「はい!」

 

そう言って次々に艦載機を飛ばす加賀、赤城が大破した今、この場に正規空母は自分しかいないはずなのに数の不利をものともせずに敵機を撃墜していった。アカキリーのとの性能差もあるがそれに乗ってまだ一日も経っていないのにそれを乗りこなす艦載機の妖精の腕も確かなものだった。

 

(瑞鶴はうまくやっているかしら。)

 

それでも頭の中ではやはり瑞鶴のことを考えている、それほどまでに加賀にとってこの状況は余裕なものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

隅田川 

 

「十三話ぶりの出番ネー!」

「金剛、メタイわよ。」

「静かにしてください。」

 

襲撃してきた深海棲艦を意外とあっさり殲滅(主に加賀が)し、第一艦隊と第二艦隊の一部を加賀が持っていった後、瑞鶴を旗艦として臨時の艦隊を編成した。その結果、瑞鶴、足柄、金剛、島風、那珂、鳥海で構成された臨時艦隊が出来上がった。そして瑞鶴は今、とある場所を目指している。それは救援艦隊を向かわせるように本部から通信があった後、名指しで救援艦隊を率いるよう言われた加賀が瑞鶴にこう言ったのだ。

 

『瑞鶴、私が向かって戦闘が中川で始まったら偵察機を飛ばしなさい。』

『え?何でですか?』

『わざわざ私が名指しで呼ばれるということは航空戦を想定してるということ、つまり敵の艦載機が飛んでくるということよ。』

『でもこんな夜中に……』

『いいから、もしそうなったら貴女は敵の航空隊を叩きなさい。』

『は、はぁ……』

 

というわけで少々癪だが加賀の言いつけ通りにいつでも艦載機を発艦できるように用意していた、するとどうだろうか、加賀が行ってから数十分後に空に何かが打ちあがった音がしたかと思うと急に空が明るくなった。これならば艦載機が発艦できる、そう思うのと深海棲艦の艦載機が頭上を通り過ぎるのは同時だった。

深海棲艦の艦載機が通り過ぎるのを待った瑞鶴はすぐさま反対方向に偵察機を発艦させた、反応はすぐに自分達のいる隅田川と今戦闘が行われている中川の間から出た。しかしそこは少なくとも六本の川が地図にのっているほどに入り組んでいる、しかしそこに行って空母部隊を叩かなければ戦況はかなり厳しくなる、そう思った瑞鶴は艦隊をつれて移動していた。

実際に中川で戦っている加賀さんは艦載機の量と性能によりたった一隻で深海棲艦の艦載機群を圧倒している、瑞鶴も加賀さんに限って深海棲艦に遅れをとるようなことはないだろうと思っているのだが一応元を叩いておくことにこしたことはない、と思った。実際今は互角に持ち込めている加賀だがさらに増援が来たらどうなるかわからない、その点で瑞鶴の判断は正しいと言えた。

 

「それにしてもなんでこんなに遅く進んでるんですカー?」

「敵に余り気づかれたくないんですよ、まぁ気休めですけどね。」

「なるほど!流石は艦隊のflagshipネー!」

 

しかし音を立てないという瑞鶴の判断は正しかった、何故ならばおよそ一日前つまり今日の早朝の戦闘前に散布した粒子、これ実は明石特性「AKA粒子」と言って電探の機能を著しく下げるという効果を持っているのだ。味方は事前に明石が対AKA粒子用特殊コーティングを施していたので効果は半減している、しかし明石がそれ用に作った対策を施しても半減であることを見るとその効果の大きさが伺える。

そして到着したのは北十間川の支流手前に到着した、この北十間川はすぐ近くに東京スカイツリーを望む墨田区を流れる堀川だ。二回目になるが墨田区および江東区にはこの北十間川に限らず多くの川が流れている、どれも川幅はあまり広くはない。

 

「偵察機発艦始め……」

「quietにネー。」

 

京成橋の辺りで再び艦載機を飛ばす瑞鶴、夜戦仕様に黒く塗られている偵察機は発見される可能性が低く、この状況にはうってつけと言えた。しばらくして敵空母部隊のさらに詳しい情報が入ってくる、それによると横十間川のちょうど中間地点にいるようだ、さらに目的の空母部隊は上位個体を旗艦とした二つの艦隊に両側から挟まれる形で護衛されており、これをどうにかしなければ目的は果たせなかった。

 

「私が艦載機を放ったら金剛さんたちは突撃を、敵が混乱している最中に敵空母部隊を急襲し殲滅後離脱します。」

「OKデース。」

 

そう言って構える金剛達、瑞鶴は頷き矢をつがえて撃った。空母に効果的な打撃を与える為にアカキリーではなく艦爆を使った、すぐさま艦爆に変わり無防備な敵の直上へ到達し急降下爆撃を開始した。

 

「………!?」

 

ドォォォォォン!!

 

「浅い……!」

「その穴は私達が埋めマース!follow me!」

 

しかし思ったより当たりが浅い、空母ヲ級を筆頭とした空母群に打撃は与えられたがまだ艦載機を発艦できる状態だ。しかし敵が混乱している間に瑞鶴を含め金剛を先頭として突撃していく、前方の護衛艦隊はスルーして空母群に接近し砲雷撃戦を開始する。

 

「足柄とワタシで敵は抑えマース!その間にeveryoneは空母を撃沈してくだサーイ!」

「了解!」

 

足柄と共に後方、前方に砲撃を開始する金剛、混乱している敵艦隊はそれにより更に浮き足だつ。そして近距離戦闘は駆逐艦の十八番、抵抗する間もなく沈んでいく空母群、瑞鶴も副砲を那珂から借りて砲戦を行っていた。

 

「砲を撃つなんて訓練生以来だけど……!」

「クキャァァ……」

「すご~い!空母なのに上手いよー、那珂ちゃん出番なくなっ…」

「niceです!瑞鶴!」

(´;ω;`)

 

そんなこんなで残りは艦隊を率いていた空母ヲ級一隻のみ、しかしこの空母ヲ級はさすが旗艦と言うべきか明らかに他の空母と動きが違った、だがそのヲ級も満身創痍でもう動けない。その空母ヲ級と交戦していた瑞鶴はトドメとばかりに零距離で副砲を撃とうとし――

 

 

 

「コンナトコロデェ……死ネルカァ!」

「なっ…!」

 

カアッ

 

突然叫び光りだすヲ級、その光は艦娘が改二実装するときや近代化改修のような暖かい光ではない。寧ろ冷たく、まるで血のように鮮やかな深紅だった。

そして光が収まった後には傷が癒え目を赤くした空母ヲ級が立っていた、一見目の色合いが変わっただけに見えるがオーラが違う、瑞鶴は何が起こったのか瞬時に悟るが冷静な頭がそれを否定する。

 

「上位昇華!?でもこんな土壇場で!」

「貴様ァ……ヨクモォ、ヨクモォ!」

「くっ!?」

 

上位昇華、それは艦娘が経験を積んで改、改二になれるように深海棲艦も経験を積んだ個体がelite、flagshipに変化する現象、そして深海棲艦の中でelite個体などの力が強い艦は知性を持つのだ。

上位昇華が目の前で起こり、反撃に転じた空母ヲ級。先程までとは段違いのスピードに焦りを感じる瑞鶴、そして今まで抑えていた護衛艦隊の統率も戻ってきた。

 

「不味いデース…」

「ええ、このままじゃ囲まれるわ。一旦撤退よ!」

「でも簡単には行かせてくれないようですね…」

「力付くで突破シマース!」

 

しかし統率の取れた護衛艦隊により挟撃を受けている今、壊滅するのは時間の問題だった。必死に逃げようとする瑞鶴たちだがその隙も与えてくれない、絵にかいたような形勢逆転だった。

 

「不味いわ……でも!」

「セメテ沈ンダ仲間ノタメニ……アナタ達ダケデモ沈メテヤル!」

「敵砲戦きます!」

「しまっ……キャア!」

「足柄さん!」

「マズハ一隻ィ!」

 

eliteになったことで頭部に追加された砲で足柄にトドメを刺そうとする空母ヲ級、大破状態の足柄は次に当たったらアウトだ、何とかして庇おうとする瑞鶴達だったが――

 

 

 

 

 

 

ブウン……ズバッ!

「キシャァァ…」

「グギャ」

「ゴガァァァァ」

 

 

 

 

 

 

「!?」

「やーっと此方が片付いたから向かおうと思ってたクマが……どうやら砲雷撃戦の音を聴いて此方に来たのは正解だったクマね。」

「球磨さん!」

 

突如水面に響く衝撃音、そして身体に大剣を突き刺された死体が流れてくる。直後瑞鶴達の後方から聞こえて来たのは球磨の声、球磨は襲撃してきた敵艦隊を退けた後、多摩川の防衛を残りの艦娘に任せ単独で援護に向かっていた、その途中で戦闘音を聞きつけやって来たのだ。

たった一振りで不意打ちとは言え深海棲艦を三隻同時に撃沈させた球磨はものの数秒で前方、瑞鶴から見れば後方の護衛艦隊を殲滅した。

 

「チィ……撤退ダ!」

「待ちなさい!」

「待つクマ瑞鶴、深追いは危険クマ。」

「……わかりました。」

 

追う気持ちを寸前で堪える瑞鶴、自分の艦隊が痛手を被った今は追うべきではなきと判断したのだ。背を向け去っていくヲ級、しかし不意に止まると油断なく砲を構えたまま此方を振り向き言った。

 

「アナタ、名は?」

「……瑞鶴」

「ズイカク、ワタシハアナタヲ殺ス。」

「上等よ。」

 

そして撤退していくヲ級達、これにより敵の航空支援は停止した。

そしてその後戦闘は無事終了、幸いにも大破が多いものの轟沈は出ていなかった。

 

「おっ夜明けクマ!」

 

そんな球磨の声も瑞鶴には聞こえていない、「皆を守る」という目標を甘いと断じられ、現に旗艦を任されても味方にかなりの損害を負わせた。

自分は本当に皆と戦えているのだろうか、これからは何を、何処を目指せばいいのか?

瑞鶴の迷いなど関係なしに時は進み、夜は明けていく。

 

 

 

 

 

 

 




皆さんこんにちは!大和です!
もうすぐ卒業シーズンですね、今までお世話になった人とのお別れや親友との別れ。そして新たな人物との出会い、正反対の事が同時に起こるこの季節に皆さんは何をお思いでしょうか?

「お前は何を言っているんだ。大和?」

いいじゃないですか~!たまにはこういうのも、それより三月は……雛祭りですね!

「何を……私たち艦娘には関係ないだろう。」

雛祭りは女の子のためのお祭り!私たちだってやる権利はあります!

「いやお前はもう女子っていう年じゃ………」

何か言いましたか?(笑顔)

「い、いや何でもない……」

ならいいんです!貴女も一緒に雛祭りを楽しみましょう!


次回 その道のりは長く

いよいよ決戦開始です!


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十七、その道のりは長く

し、試験終わった……これでやっと再開できる!
えーっと………
《お気に入り 200件》

(・∀・)

(・∀・)

(;・∀・)

(;゜∀゜)

((((;゜Д゜)))

うっそだろぉ!?
はい、お気に入り200件突破です。これも日頃からご愛読してもらっている皆様のお陰とおもいます、これからもこんな者ですががんばっていまーす!

ちなみに試験は、粉砕☆玉砕☆大喝采でした!けど全速前進DA!!

はい、それではお待たせしました!
※微グロ注意!



モノクロの景色はある街を写し出している、その街は軍港がありいつも活気に満ちていた。そしてその街は今お祭り騒ぎになっている。人々がいつもより忙しなく行き交っていく、彼らが向かったのは軍港だ、どうやら新しい艦の進水式があるらしい。

集まった人々はその港に泊められた船に目を奪われる、巨大な甲板と艦載機が発着艦する様は正に「空母」だった。

人々は歓喜しこれこそが私達の国の明日を担うと信じて疑わず、そしてその艦自身も自分が期待されていることを自覚し、暁の水平線に勝利を刻むと誓った。

やがてその空母は自身の姉妹艦と出会う、多くの作戦を共に乗り越えて船員の仲もよい、稀に見るほどに二隻の仲は良かった。

やがて二隻には先輩がいることを知った、自分達よりも洗練された動きと乗組員、敵わないと思ったが同時に追いつきたいとも思った。

 

そんな日常がいつまでも続く、そう信じていた。

 

だが現実は非情だった、自分達が連勝していたのも最初の内で次第にジリ貧となって行った。そしてまず憧れの先輩が逝った、余りにも呆気なく。そして次々と味方が居なくなっていく中でその空母は姉と共に少しでも守ろうと思った、もはやその空母が最初に思っていたお国のためとかという目標はどうでもよくなっていた。

しかし尚も味方は消えていく、しかしその空母は中々沈まなかった。いつからだろうか、幸運艦と呼ばれるようになったのは。その空母はそんな肩書など欲しくはなかった、むしろ仲間が沈むくらいならば自分が沈んだほうがいいとさえ思った、そんな空母に姉艦は静かに寄り添っていた。

そして運命の日、その空母の姉艦が沈んだ。最後にして最愛の艦をなくした空母はその後の戦いでまるでその後を追うように沈んでいった。

最後の時、意思を持たぬはずの空母が思ったのはただ一つの簡単な願いだった。

それは――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「っ!!!はっ、はっ、はぁ、はぁ、はぁ……」

 

瑞鶴は簡素な寝袋の中で目を覚ます、呼吸は乱れており不快な汗を全身にかいていた。必死に呼吸を落ち着かせる。

 

「また、この夢…………」

 

瑞鶴は少し前からこの夢を見るようになっていた、自分ではない何か懐かしい物を見ているような。暫くしてやっと呼吸が落ち着いた後周りを見る。

 

彼女がいるのはテントの中、両隣にはまだ寝袋で眠っている夕張と翔鶴姉。と、その時。

 

ぱらっぱっぱっぱー

 

と陽気なラッパの音がした、するとまだ寝ていたはずの二人がのっそりと目を覚ました。

 

「ん~もう朝かー」

「そうね~」

 

二人が目を覚ますのを待ってテントを出る瑞鶴、寝袋から出た彼女の服装は艤装を装着した姿だった。

そして瑞鶴の目の前に広がったのは多くのテントが並び、離れた所にそれらの五倍はあろうかと言う大きなテントが二つある所であった。

 

「どけどけ!急ぎの負傷者だ!」

 

と、瑞鶴達の目の前を担架が通る。陸自の隊員達が運んできたのは利根であった、だがそれは余りにもグロテスクな状態だった。

まず頭の右がかけている、そこから何やらピンク色の物が見えている。そして右腕が肩から無くなっていた、そして腹からは―――

瑞鶴はそこで目をそらす、これ以上は見れない。朝食を食べる気が失せてしまう、利根をのせた担架は大きいテントの一つに入っていった。

 

「利根さん、大丈夫かな?」

「大丈夫だよ瑞鶴、まだ心臓は動いてたみたいだし。修復材に浸かれば欠損とか内臓損傷は元の状態に戻るから。」

 

瑞鶴達がいるのは第四簡易泊地、深海棲艦との東京防衛に備えて明石主導で作った物である。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

東京を防衛せんとする横須賀、呉の合同艦隊と深海棲艦との戦いは既に四日間もの時間が経過していた。

朝、昼、夜と時間を問わずに襲い掛かってくる彼等に対して提督は艦娘達を交代で出撃させていた、そして明石が作ったトラップの助けもあり戦況はいまだ互角から動かずだった、唯一の救いは何とか前線を横浜の辺りまで推し進められたことだろうか。

 

「先輩、そちらの状況は?」

『今日で全日程が終わる、プログラムが終わり次第()ける全ての戦力をそちらに向かわせる。だが速くても一日かかる、最速で明後日だ。』

「わかりました、では。」

『ああ………………すまない。』

 

ガチャ

 

受話器を置く提督、隣では大淀が心配そうな表情をしていた。

 

「提督、ご報告します。昨夜午前二時に襲撃してきた敵水雷戦隊は哨戒に出ていた部隊では抑え切れず援軍を打診、救援に向かった艦隊が負傷者を多数出しながらもこれを撃破しました。」

「ちっ……もう水雷戦隊程度に苦戦するようになったか。」

 

心のなかで頭を抱える提督、長期戦になっている今では数の少ない此方はジリ貧になりかけていた。

 

ピロリン

 

『失礼するわよ、提督。』

「扶桑か…どうだ皆の様子は?」

『頑張ってくれてはいるのだけれど……皆疲労が大きいわ、間宮や伊良湖をフルで使ってるけど厳しくなってきてる。でもそれより深刻なのは……』

「わかってる、資源だろ?」

 

提督の言葉に頷く扶桑、彼女の言う通り皆の疲労は既に限界に達しようとしている。だがそれで戦闘不能になっては精鋭の名が泣く、何とか心を振り絞り戦闘を継続しておりあと四、五日は戦える状態だった。

しかしそれ以上に深刻なのは資源、特に燃料とボーキサイトが底を尽きかけている。事前にこの作戦に備え遠征及びオリョール海への出撃を多めにしていたのだが予想以上に艦載機の撃墜率が高くまたアカキリーを使う燃料分が消費を後押しした、これではあと全艦隊が二回総出撃すれば無くなってしまう。このまま資源が尽きればあとはなされるがままになる、それだけは断固避けたかった。

これだけの問題を目の前にしても提督は落ち着いていた、まるで何かを待っているかのように。と同時にドアが慌ただしくノックされ、扉が開き入ってきたのは一旦出ていた大淀だった。

 

「提督、超長距離偵察機からの情報が入りました!」

「どうした?」

「今までにないほどの精鋭です、恐らくこれが本隊かと。」

『じゃあこれを殲滅すれば東京防衛成功と共に日本の制海権は奪還完了ってこと?』

「そうですが……そう上手くはいかないようです。これを。」

「この反応は……」

 

大淀が差し出してきたのは東京湾の海図データ、そこには小さな赤色の点とそれに囲まれるようにある黄色の点と更にそれに囲まれるように黒色の点があった。

赤色の点はeliteを黄色の点はflagshipを、そして黒色の点は姫、鬼級を表している。ということは、

 

「敵本体は此方に接近中、しかも全てがelite以上ときた。」

『でも後一回なら……』

 

と、その時また慌ただしく通信回線が開かれる。コールもせずに入ってきたのは高雄だった。

 

『提督!』

「どうした?」

『今の敵本隊の強襲です!既に迎撃を開始していますが、戦線をレインボーブリッジの辺りまで押し込まれました!』

「そうか、総員に出撃命令!全力出撃だ!」

『はい!』

『提督、私もいくわね。』

 

そう言って通信を切ろうとした扶桑、しかし提督に呼び止められる。

 

「まて扶桑、お前の言っていた違和感のことだが……」

『今はそんな暇ないわ!また後で、』

「お、おう。だが……」

 

提督が反論しかけた時、またしても通信が入ってくる。

 

『提督!』

「今度はなんだ!」

『八丈島鎮守府から緊急通信です、我港湾棲姫ヲ確認セリ!』

『なんですって!あれは地上型の深海棲艦じゃ!?』

 

港湾棲姫、それは近年確認された姫クラスの中でも要注意すべき存在である。姫、鬼クラスの名に恥じぬ火力と装甲を持つ、だがそれ以上に特筆すべきなのはその役割である。

その役割とは深海棲艦の基地の前衛となること、つまりこの港湾棲姫のいるところは深海棲艦の泊地になってしまうということなのである。つまりこの港湾棲姫が来るということは……

 

『やつらまさか……東京を深海棲艦の基地にするつもり!?』

「思ってたよりも早いな、出撃を急がせろ!」

『了解!』

 

 

 

 

 

 

 

簡易泊地に鳴り響くサイレン、本来ならば順番に出撃するように決められているゲートもこの時に限ってはそのルールを破り皆出鱈目に艦隊を組んで出撃していた。スピーカーからは絶え間なく提督の声が響く、この緊急出撃では時間が大きな鍵を握っている、少しでも救援が遅れればたちまち前線を戻されてしまう。

 

『現在襲撃してきている深海棲艦は数だけの寄せ集めで一日目と一緒だ。後方から接近中の本隊に合流される前にどちらも殲滅する、だがそれ以上に警戒すべきは現在接近中の港湾棲姫だ、これを最終目標として行く。』

 

「えらいこっちゃ!艦載機搭乗急いで!」

「入渠中の艦もバケツ使って上がってこい!」

 

『作戦は単純、港湾棲姫を目指して進む、これだけだ。幸い襲撃部隊と本隊そして港湾棲姫を含む部隊はほぼ同一の直線上にある、これを前から順次撃破するだけだ。これが恐らく最終戦になる、気合い入れて行けぇ!』

 

「あーっ!私のセリフ!」

「比叡、そんなことやってないでscrambleデース!」

 

 

 

皆が慌ただしく準備して次々に出撃していく中、瑞鶴も一人で出撃しようとしていた。と、そこに声がかかる。

 

「貴女だけじゃ心許ない、私も行く。」

「加賀さん、心許ないってどういう意味?」

「まあまあ、私も行くからさー。」

「戦艦がいなければ心許ないだろう、私も行く。今なら瑞雲も付いてくるぞ。」

「待ってよ日向~」

 

そう言ってついてきたのは北上と日向と伊勢の三人、彼女達もまだ艦隊を組んでいない者達であった。今のような非常事態でも艦隊を組まなければ危険だし、何より不安なのだ。結果、瑞鶴、加賀、北上、日向、伊勢、そしてこのやり取り後にやってきた球磨を含めた艦隊で出撃することになった。旗艦は瑞鶴、これは加賀さんが押しきった。

 

「瑞鶴、抜錨します!」

「一航戦加賀、行くわよ。」

 

 

 

 

 

 

 

出撃してすぐに彼女達が見たのは、水面の上に上り立つ煙と濃厚な血の匂い、正に戦場の匂いであった。通信回線も錯綜しており、そこから何とか拾えた情報によるとここを襲撃してきた敵艦隊を迎撃しているのが丁度ここ簡易泊地の目の前なのだそうだ。ここまで押し込まれていることに焦りを感じる瑞鶴、とそこに提督からの通信が入る。

 

『全艦隊に告ぐ、ここを襲撃している敵艦隊は初期防衛艦隊により瀕死状態だ。だがまだ旗艦が残っている、だからここに残るのは四艦隊だ。今から個別に通達を送る、それが来なかった艦隊は引き続き目標の敵本隊を目指せ。』

 

そういって提督からの通信が切れる、直後に混戦状態だった艦娘の動きが統率をとった動きに変わる。これが提督の指揮能力、この泥沼の状態からここまで統率を取り戻したのだ。

 

通信の来なかった瑞鶴の艦隊は敵になるべく接敵しないように台場のあたりを大きく迂回する航路をとった、そしてちょうどレインボーブリッジを過ぎて安心したころに事態は動いた。

 

「電探に艦影ありー、数六、恐らく敵艦隊だね。」

「やっちまうクマ?」

「どうせ今攻めてきてる勢力の一部、どうせもう回避できないんならここで沈める。」

「そうね……総員戦闘準備、瑞鶴は艦載機の発進を。」

「わかってる。」

 

そう言って偵察機を飛ばす瑞鶴、しばらくして送られてきた偵察機から情報に瑞鶴は耳を疑った。その敵艦隊の構成は戦艦レ級flagship、空母ヲ級elite、戦艦タ級elite、軽巡へ級flagship、そして駆逐イ級eliteというどう見ても旗艦クラスの構成だった。瑞鶴達は知るよしもないがこの戦艦レ級は戦艦棲姫の隣にいて、今回の作戦を任された指揮官でもあった。情報を急いで伝える瑞鶴、その報告を聞いた加賀達は渋い顔をした。

 

「恐らく雑魚を突っ込ませて自分たちは高みの見物、そして敵が弱った所を強襲して殲滅。という腹づもりだったのでしょうね。」

「ここまで来たらもう戻れないクマ、言いだしっぺは球磨クマ、だから先陣はこの球磨が切るクマ。」

 

言うが早いが水面を蹴って突撃する球磨、艦載機は既に発見されているため此方の場所も把握されていると考えていいだろう。

瑞鶴達も球磨を追って戦闘を開始した。

 

「ズイカクゥゥゥ!!!」

「またアンタ!?しつこいわね!」

 

そう言って突っ込んで来たのは初日に目の前で覚醒した空母ヲ級、空母同士と言うこともあってか出会うことが多く、そのたびに仲間の仇と言って瑞鶴を付け狙ってきたのだ。

 

「お前達如き瑞雲を使うまでもない!」

「撃って撃って撃ちまくる!」

 

ドゴッ、ガゴッ

 

航空戦艦となっている日向と伊勢は火力こそ劣るものの経験と狙いさえあればいくらでもカバーできた、そのうえヲ級の相手を瑞鶴がしている内に加賀が艦載機を飛ばしてほぼ一方的に相手を攻撃している。これならば行ける、と思った瑞鶴。

 

 

 

 

しかし、その慢心が仇となる。

 

 

 

空母ヲ級の相手に気をとられていた瑞鶴は気づかなかった、自身の背後から迫る一本の魚雷に……

 

「危ないクマ!」

ドンッ

「球磨さん!?」

 

球磨に突き飛ばされる瑞鶴、ここに至ってようやく自分に魚雷が向かっていることを理解した瑞鶴は必死に叫ぶ。しかし寸前までに迫っていた魚雷が避けきれるはずもなく、水面に水柱がたつ。

 

「球磨さん!大丈夫ですか!?」

「うーい、まだ小破だクマ。まだやれるクマ。」

「チッ、悪運ノ強イヤツメ!」

 

ほっと安堵する瑞鶴、しかしどこから魚雷が……と考えていた時に思い出す。確認できた艦影は五隻、これだけで瑞鶴は終わりと思ってしまった。しかし通常艦隊は六隻で組むもの、なら確認できなかった艦はなにか?

答えは簡単、潜水艦だ。瑞鶴の艦載機に引っ掛からなかった潜水艦はまんまと背後に回り込み不意打ちを仕掛けたのだ、球磨が気づいていなければ危なかった。と、そこに加賀が呼び掛ける。

 

「不味いわ……さっきの水柱のせいで回りの深海棲艦が寄ってきてる、囲まれると厄介だわ、味方が此方に来るまで時間が掛かるしここは先を急ぎましょう。」

「了解よ、なら……」

「なら、球磨が足止めするクマ。敵さんもそう簡単には行かせてくれないみたいクマ。………ってなんかデジャヴクマ。」

 

そう言って前に出る球磨、確かにどのみち小破の球磨は一旦戻らなければならない、だが味方の救援が来るまで球磨をここに残すなどとできるはずもなかった。

 

「そんな無茶言わないで!なら私も!」

「駄目クマ、瑞鶴はこの艦隊の旗艦クマ。それに今は少しでも戦力を前に送った方がいいクマ。」

「でも……北上もなんか言ってよ!」

「んー、球磨は一度言うと聞かないからねぇ。任せるしかないっしょ。」

「つーわけクマ、さっ速く行くクマ。」

 

苦悶の表情で立ちすくむ瑞鶴と背を向けて行く日向達、瑞鶴はまだ立っていたが加賀に連れられる形で去っていった、そして最後に北上が残った。

 

「何してるクマ、まさかお前も残る気かクマ?」

「いや、球磨の覚悟を止めるなんて野暮な真似はしないよ。んじゃ」

「だったらなんで残るクマ……」

 

若干呆れ顔で漏らす球磨、しかし北上はそんなの意にもかいさず去って行こうとして立ち止まった。

 

「?どうしたクマ?」

「向こうで待ってるから、ついてきなよ………………母ちゃん」

「!!」

 

そのまま全力で離れて行く北上、呆けた顔をした球磨はそのまま暫くぼおっとしていた。

 

「逃ガスカァ、追エ!」

「ズイカク、逃ゲラレルト思ッテイルノカ!」

 

そしてそのまま球磨の横を通り過ぎようとした瞬間、勢いよく大剣がつきだされる。それは剛剣「山卸」、それをだした球磨の目は輝いていた。

 

「オノレェ!邪魔ヲスル気カ!」

「ダガコレダケノ戦力、スグニ貴様ナド沈メテズイカクヲ追ウ!」

 

対する球磨は不適に笑って言った。

 

「残念クマ、いつもなら諦めるクマが………今日の球磨ちゃんは一味違うクマ。」

 

敢然と大剣を振り抜き言うその背中はまさしく、「親の背中」であった。

後ろに伸びる五本の航跡、それを守るように球磨は立ち向かう、艦娘として、親として。

 

 

 

 




みなさんこんにちは!大和です!

筆者が試験というのを言い訳にしてしまいすいません!今後はこのようなことがないようにしっかりとシメて置きました、今後もよろしくお願いいたします。

「大和さん、ありがとうね~」

いいんですよお婆ちゃん、避難してるからストレスがたまるとおもいますけど頑張ってください!
え?今私は何処かってそれは……

「大和、何度言えばわかる。これは極秘だろう?」
「おや、そうなのかい?」

はぁ…それを一般人の目の前で言うのもどうかと思いますよ。それにまだ提督からの連絡はありませんし、ゆっくりしてもバチは当たらないでしょう?

「わかったわかった、それより次回予告は?」

あっ!そうでした!
次回

「海に生きる戦士」

球磨の覚悟をその目に………!


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十八、海に生きる戦士

なん………だと………
もう前書きに書くネタがない!ならこれで終わり!

………………………はっ!?お、俺は何を?

すいません、取り乱しました。
では、本編どうぞ~


「球磨さん……」

「大丈夫よ、彼女はそこまで弱くない。」

 

球磨の足止めにより何とか襲撃部隊の本隊からの追跡を逃れた瑞鶴達、そのまま接近してきている戦艦棲姫のいる場所へと進んでいた。球磨と別れてからもうすぐ一時間が経とうとしていた、そろそろ救援が来てもいい頃だが……

 

「それより瑞鶴。」

「なんですか加賀さん?」

「貴女、注意力が散漫になっていないかしら?」

「そんなこと!」

「でも現に球磨がいなければ貴女は沈んでいた、違うかしら?」

「………じゃあ」

「?」

「じゃあ何をすればいいんですか!私は皆より練度が低くて足を引っ張って、こんな、こんな出来損ないに何を期待するんですか!」

 

これは今の瑞鶴の素直な気持ちだった、空母に限らず鎮守府の皆と比べて練度が低い彼女は出撃でもよくミスを犯していた。その度に仲間達に気にするなと言われていたのだが、瑞鶴は少しずつ自分と周りのズレを自覚なく感じるようになっていた。赤城に強さの秘訣を聞いたのも同じ理由だ、しかし返ってきた答えは自分の理想の否定。

いまならばわかる、確かにこんな弱い自分には皆を守る理想なんて大きすぎる、もっと身の丈にあった理想を立てるべきだろう。だが、何を立てればいい?理想という大事な大黒柱を失った瑞鶴の心は揺れ動いていた。

焦っていたのだ、力を求める余りに瑞鶴は「自分」を見失っていた

 

「こんな私に守れるものなんて、ないんですよ。旗艦は加賀さんに……」

「瑞鶴」

 

パシッ

 

不意に呼びかける加賀、振り向いた瑞鶴の頬に容赦なく平手打ちを食らわす。驚いた顔で加賀を見る瑞鶴、加賀はその目に静かな怒りを込めて言い放つ。

 

「貴女は球磨の覚悟まで無駄にするつもり?」

「何を…」

「球磨は貴女を信頼して先に行かせた、貴女がここで自分を卑下するならそれは覚悟を込めて貴女を送り出した球磨の覚悟を否定することになる。」

「………」

「それだけは絶対に許さない、あの覚悟に泥を塗る行為だけは、絶対に。」

「まーまー二人とも、ここは先を急ごう。ね?」

 

険悪な雰囲気の加賀と瑞鶴、そんな二人を見るに見かねて北上が仲裁に入る。険悪な雰囲気のままそっぽを向く二人、艦隊の空気が少し悪くなり始めた。

 

 

 

 

 

 

 

一方、その頃球磨は……

 

「いい加減に……沈むクマ!」

「グッフゥ!」

 

大上段に構えた大剣を振り下ろす球磨、直撃を受けたイ級はひとたまりもなく沈む。これで何隻目なのだろうか、四十から数えるのをやめた球磨は新たに迫ってくる敵に向かっていった。

瑞鶴達と別れて恐らく一時間は経過している、もう此方の艦隊が来ていてもいいだろう。だがくる気配は一向にない、いや向かってきてはいるのだろう。しかし多数の敵艦隊に阻まれてここまで到達できない、といった所か。

 

「沈メェ!」

「それはお前クマ。」

 

ぶしゅり、という不快な音と共に目の前の軽巡ヘ級eliteの胸を貫通する。だらりと腕が下がるのを確認した球磨は山卸を引き抜いた、そして先ほどから後方にこもっているはずの旗艦に向けて話しかける。

 

「そろそろ出てきたらどうクマか?雑魚だけじゃ飽きるクマ。」

「ククク……ソレハ残念、ナラ楽シモウカ。ヲ級、手出シハ無用ダ。」

「シカシレ級サマ……」

「上等クマ、かかってくるクマ。」

「デハ…イクゾォ!」

 

と次の瞬間にはレ級の姿はそこにはない、しかし同時に背後に大剣を回した球磨の腕に鈍い衝撃が走る。見るとレ級の尻尾にも似た艤装がしたたかに球磨の持つ山卸を打ち据えていた、レ級は感心したように言う。

 

「ホォ、今ノヲ防グカ。」

「こういう時は大体背後からくるって決まってるクマ。」

 

涼しい顔で話す球磨だがその頬には一筋の汗が垂れていた、数年ぶりに、恐らくあの姫、鬼級を含む艦隊を相手どった時と同じくらい球磨は戦慄していた。

 

(今の動き…まったく見えなかったクマ、流石はflagshipクマね。)

 

戦艦レ級、少し前に説明したとおり並み居る深海棲艦の中でも特異な存在である。通常個体ながら姫、鬼級に匹敵する力を持ち、そしてその万能さでかなりの数の艦娘を恐怖のズンドコに落とした艦。

今まではeliteまでしか確認されて居なかったが今回球磨が対峙しているのはflagship、つまり初めて確認された階級である。通常個体で既に姫、鬼級と並ぶスペックを持つレ級がeliteになった時の強さはお察し、しかし今回の相手はそれを超えるflagshipだ、正に未知数の敵、十分に注意していた球磨だったがその能力は予想を超えていた。

 

(けど今ので目が慣れたクマ、これなら互角クマ。)

「ドウシタ?コナイノナラモウ一度コチラカライクゾ!」

 

目が慣れた、それでも互角である。それほどまでに強い相手だった、もしレ級が手出しを禁じてくれなければまず間違いなくタコ殴りだったろう。

襲い掛かってくるレ級、得物は持っていないがその尻尾を巧みに操って攻撃をしかける。対する球磨は大剣で防いで隙あらば反撃する形だった、球磨の予想通り戦いは互角であった。

 

「フンッ!」

「クマッ!?」

 

と、レ級が尻尾型の艤装を真横に振り抜く。大剣でガードする球磨だが不意に背後から衝撃を受ける、振り替えると……

 

「か、艦載機クマかっ……」

「フフ、ドウダ爆弾ノ味ハ?」

 

トリックは簡単、事前に発艦させていた艦載機に攻撃的させただけ。しかし録に構えもせずに受けた衝撃は中々抜けない、少しの間体が硬直する、そしてレ級はその少しの隙を見逃さなかった。

 

「シャッ!」

ドゴッ

「かはっ……」

 

腹部に向けて発射される副砲、もろに直撃した球磨は吹っ飛ばされる。幸い副砲だったために貫通はしなかったが、かなりダメージを受ける。目が慣れてからたった数合、しかしその間僅か十秒足らず。

火を見るよりも明らかな戦況、パワーバランス、だがしかしっ!球磨は、笑っていた!

 

「クマ……クーマクマクマ!」

「何ガ、オカシイ?遂ニ頭ガ狂ッタカ?」

「イヤー感謝クマ、感謝感激雨霰クマ。」

 

意味が分からずに困惑した顔をするレ級、大剣を肩に構えて荒かった息を落ち着かせる球磨。そして球磨はレ級の方を見据えて言った、それはもう楽しそうに。

 

「いやーこんなに手数を見せてくれたことへの感謝クマ、お陰でもう見切ったクマ。」

「……戯レ言ヲ。」

 

静かにそう言ったレ級は今度は主砲を構える、さっきの攻撃で球磨は中破状態、次当たれば間違いなく沈む。そして球磨が動く勢いよく右に、そして急ターンして左に。

 

(砲撃ヲブレサセテ避ケルツモリカ、ダガスピードハ変ワラン。…………愚カナ、コレダケノスピードデハ急ニトマレマイ。)

 

そう考えてレ級は直ぐに砲塔の動きを球磨に合わせる、勿論同じスピードで。激しく反復横跳びのように動く球磨をレ級の砲塔は容易く捉えた。

そして球磨の移動ルートを予想したレ級はその動線上に発射する、寸分の狂いもなく発射された砲弾はそのスピード故に止まれない球磨の頭に重なり―――

 

 

 

 

 

 

直後、球磨は音速を超えた。

 

「…………!!!!」

 

瞬時に身構えるレ級、気配を探すが一向に現れる気配は無い。もしや逃げたか、と思い気を抜いた、それと同時にまるで狙ったかのように球磨が現れた。完全に背後をとって、寸前で気づき避けようとするが遅い。

 

「うりゃぁ!!」

「クッ!」

ズガッ

 

この戦いが始まって始めての手応え、直ぐに距離をとる両者だがレ級の左腕は肩から先が失われており、青い血が吹き出している。虚を突かれたような顔をするレ級、だが直ぐに顔を引き締める、流石にflagshipである、恐慌したり狼狽えたりはしない。

と、響く砲撃音。続いて球磨を呼ぶ声が複数、恐らく向かってきた救援が到着したのだろう。レ級は回りを見渡し、静かに言った。

 

「ヲ級、残存艦ヲ連レテ撤退ダ。オ前ガツレテイケ。」

「レ級サマハ?」

「時間ヲカセグ、イケ!」

「…………了、解!」

 

振り替えるヲ級、何かを口早に言うと一目散に駆け出す。それを見送った球磨は口を開こうとする、が、それよりも速くレ級が話始める。

 

「全クツイテイナイ、()()通信機ガ壊レテシマッタ。」

「…………………」

『球磨さん!大丈夫ですか!?今そちらに―――』

「いや、此方はもう終了した。残存艦隊の殲滅を優先するクマ、わかったらさっさと行くクマ。」

「!!!」

『了解』

 

そう言って通信を切った球磨、驚いた顔をしているレ級に向かってイタズラ小僧のように無邪気な顔をして言う。

 

「なーに驚いてるクマ、ここには敵は居ないクマ。居るのは―――ただの戦闘馬鹿が二隻だけだクマ。」

「私ヨリ強イ者ヲ求メテ戦艦棲姫ノ下ニツイタガ――ドウヤラソノ甲斐ハアッタヨウダ。」

 

そう言って静かに構えるレ級、同じ球磨も構える。

 

「敬語ヲ使ウノモ疲レタ、ソノ分タノシマセテクレヨ、下等デ、勇マシイ人間風情。」

「娘にあんなこと言われた手前、負けらんないクマ。…………アンタとは味方として会いたかったクマ、どうクマ?今からでも寝返らないかクマ?」

「戯レ言ヲ、私ハ戦士ダ。ソンナニ仲間ニシタクバ、力ズクデヤッテミロォ!!」

 

激突する二人の戦士、組織や上下関係など―――下らない。ただ、己をぶつけ合うのみ。

すべてのしがらみから解放された二匹の獣は、遂にその全力を持って衝突する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして場所は戻り、横浜沖

 

ドンッ

 

「うわっ!?危な!」

「大丈夫か、伊勢?」

 

瑞鶴達は丁度戦艦棲姫との交戦区域の先端に到達したところだった、ここでも先に進む艦隊と残る艦隊が分けられており、やはり瑞鶴達はここでも呼び止められず、港湾棲姫が目標であることが確定した。

と言ってもこの激戦区を潜り抜けるのは容易ではなく、流れ弾が時々飛んできてはかすって行く。全く持って気を抜けない状態だった。

 

「日向さん達、大丈夫?」

「扶山、いや扶桑か。大丈夫だ、ところでそちらは戦艦棲姫の方か?」

「いえ、私達は港湾棲姫の方よ。」

「私達もだ、どうだ?一緒に行くのは?」

「良いわよ、そろそろ提督も動くだろうし。そしたら多分行きやすくなる。」

 

そう言って意地悪そうな笑みを浮かべる扶桑、瑞鶴は若干身震いしながらも聞いた。

 

「何が、あるんですか?」

「うふふ、それは後のお楽しみよ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府 地下

 

「大淀、戦況は?」

「敵主力の先端とこちらの突破部隊の先端及び激突部隊の先端が衝突しました。」

「そうか……このままだとどこで主力同士が衝突する?」

 

主力と主力が激突する場は激戦区になる、そうなれば、周りへの被害も甚大になる。そのため激突する場所を把握しておこうと思った提督であったが、返ってきたのは震えた大淀の声だった。

 

「て、提督。激突ポイントはB―ヒトフタです!」

「え、それって………」

「鎮守府正面海域…つまりここの真ん前です!」

「うっそだろぉ!?」

 

珍しく驚く提督、無理もない、ここまで深海棲艦の動きを全て読んできた提督がここにきて初めて読み違えたのだから。そして提督の頭に浮かぶのは何も話さずにここまで動いてもらったかつての同期の顔、そう扶桑である。

彼女はここまで何も言われずに提督の手の中で踊らされていたせめてもの意趣返しに戦場を横須賀の海域のなるように誘導したのだ、提督には扶桑がお返しだと言わんばかりに得意げな顔をしているのが目に浮かんだ。

 

「あっのクソアマァ!」

「提督、どうされますか?」

「鎮守府を基地形態からアサルトモードへと移行しろ、それと明石!」

『はいはーい、こちら明石。もう鎮守府の工廠に到着してまーす、言われた通りに支援兵装を絶賛開発中!』

「急げよ!」

「りょーかい!」

 

場所を移して横須賀鎮守府工廠、ここに明石とお付きの工廠妖精さん達が急ピッチで作業を進めていた。明石はひたすらFGESに現在の戦況のデータを打ち込んでいた。これによりFGESがその戦況の最適解とも言える兵装を開発し、それを工廠妖精さんが組立てて形にしていっていた。

 

「ふむふむ。妖精さんが頑張ってくれたので少し時間に余裕ができますね……そうだ!たしか北上さんから依頼が……」

 

余裕綽々で準備をしていく明石、工廠のモニターには何やら筒状の物体が並んだデータが映し出されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして鎮守府正面海域

 

「くっ!敵多すぎ!」

「鎧袖一触ね、他愛も無い。」

 

必死の形相で応戦する瑞鶴と涼しく余裕のある表情の加賀、ここでも二人の練度の差が垣間見える。戦闘区域に突入してからかなり経った、しかしそう易々には突破できず足止めを食らっていた。しかも扶桑の艦隊とは混戦の中ではぐれてしまっている、このままでは港湾棲姫が来てしまう。

瑞鶴の艦隊の進みを遅くしている要因は二つ、まず瑞鶴の練度が低い為に速力に任せて強引に突破という戦法が取れない。

そしもう一つの要因は……

 

「ズイカクゥ!」

「しっつこい!!」

 

そうもはや瑞鶴の永遠のライバルとも言えてしまうほど瑞鶴を倒すことの執念を燃やす空母ヲ級、彼女はレ級の命により撤退した後ひたすら瑞鶴を追っていのだ。(そこ、ストーカーとか言わない!)

 

「いたしかたない……ここは私が食い止めよう、なーに戦艦棲姫を討つついでだ。」

「日向が残るなら私も!」

 

そう言って後ろに立ったのは日向、伊勢。確かに二人が残れば戦艦棲姫を討つこともできるだろう、そして瑞鶴はまた自分のせいで迷惑がかかると思ってしまう。だが意外なところから待ったがかかった、北上である。

 

「ちょっとー戦艦が抜けると火力が足りないよー、港湾棲姫を倒すにはせめてどっちかが残らないと。」

『その問題、私明石にお任せを!』

「うわっ、明石。」

『うわ、とはなんですか?うわっ、て!』

 

どこから聞いていたのか急に割り込んでくる明石、北上の言う火力不足を補う手があるのだろうか?通信機越しに明石は北上にしきりに何かを言っていたようだがやがて了承したように頷いた、そして瑞鶴たちに今すぐ北上と共に離れるように連絡があった、しかし瑞鶴は悩んだ、また自分のせいで、と。

 

 

 

 

 

その頃横須賀鎮守府工廠では。

 

 

「今週のビック○ドッキリメカ発進!何てね♪ポチットな!」

 

ゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴゴ……

 

物々しい音と共に横須賀鎮守府の出撃ゲートが二つに割れる、その割れ目から出てきたのは大きい砲塔。側面には「FGES」と書かれてある、そしてその根元は工廠に繋がっている。

ここまで言えばお分かりだろう、これは製作した兵装を迅速かつ的確に送る為の砲台である。その正確さと射程はこの日本の遠洋でも誤差三メートルで送れる優れもの、これさえあれば工廠で製作した物を直ぐに戦場で使用可能になる。

 

「着水地点は戦場だとヤバイから……この戦闘区域を抜けた所で。タイマーセット完了、後は待つだけ~」

 

鼻歌を歌うほど余裕な明石、それを工廠妖精達は「お前も働けよ」という目でみていたのは内緒。

 

 

 

そして鎮守府正面海域では

 

「瑞鶴、日向達に任せて。」

「でも!」

 

歯噛みする瑞鶴、その歯は砕けんばりに食い縛られていた。またか、またなのか。これは己の無力が招いた事態、もっともっと力があれば………!

そんな瑞鶴に声、と共にある物が放り投げられる。

 

「瑞鶴!これ持っていきな!」

「伊勢さん!?――――っと、これって!」

「御守りよ、貸してあげる!必ず回収しにいくからね!」

「―――――っ!」

 

そして瑞鶴は振り向く、加賀が言った通りだ。この二人もまた覚悟を決めた、それを揺るがしてはならない。そう悟った瑞鶴は心に無力感を抱えながらその場を後にする、迫るヲ級を前に日向が伊勢に言った。

 

「良いのか?あれはお前の大事な物なのに?」

「後輩一人の成長に役立つならあれも本望でしょ。」

「ふっ………その通りだ!」

「ドケェェェ!」

「日向、これは私が相手する。貴女は戦艦棲姫を。」

「了解した。」

 

鬼の形相で肉薄するヲ級、そして離れる日向。一人ヲ級と対峙した伊勢は主砲を構えると駆け出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分後、何とか戦闘区域を抜けた瑞鶴達。だが、瑞鶴の表情は重たい。程無くして扶桑達とも無事に合流、さぁこのまま抜けてくる艦隊を待ちながら戦おうと前を向いた瑞鶴達を迎えたのは――――絶望だった。

 

「うそ………」

「もうこんな所まで……!どうやら悠長に味方を待つ時間は無さそうね。」

 

遥か彼方、と言ってもギリギリ視認できる距離に目標としていた港湾棲姫はいた。が、その周りには有象無象の深海棲艦達、決して特殊個体が混じっている訳ではない。しかしやはり数は暴力とは正にこの事、瑞鶴達の前にいる深海棲艦は推定、それも低く見積もっても――――およそ二百隻。

このまま味方を待てば決して勝てない訳ではない、寧ろ楽に勝てるだろう。だがここはもう相模湾である、実質上ここが最終防衛ラインになる。

 

つまり何が言いたいかというと―――

 

 

 

 

 

 

 

 

扶桑の艦隊6隻と瑞鶴、加賀、北上の九隻で二百隻に挑まねばならないと言うことだ。

 

誰もが諦めかけたその時、文字通り天からの贈り物が落ちてくる。

 

『ちわーす!横須賀鎮守府の宅急便でーす!』

 

そんな明石の声と共に送られてきたこの兵装が、この戦闘の切り札(ジョーカー)になることを誰も知らない………

 

 




皆さんこんにちは!大和です!

「またこのコーナーか、いい加減に飽きてきたんじゃないか?」

そうでしょうか?でもこの間は貴女楽しみにていたんじゃないですか~!そわそわしながらね!

「ちっちがうぞ!あれだからな、早く終わらせたいってだけだからな!」

あ~テンプレテンプレ、それより……

「?」

貴女、そろそろ正体を明かしてもいいんじゃないですか?何時から登場していると思ってるんですか、地味に出番多くないですか?

「それはお互い様だろう、お前だってここが何処なのかを結局言ってないじゃないか。」

だってー、提督から言うなっていわれてるんですよ。それにまだその時じゃありません、時が来れば言いますよ。

ピピッ

《充電率100% 代替コアを用意して下さい》

「終わったか、替えのコアを頼む。」

はい、では予備の砲身も持ってきますね。これだけの放出量じゃ一回で砲身が融解しますし、貴女も艤装とのリンクを確認しといてください。

「ああ、にしても全く明石はとんでもない物を作るな。」

本当です、しかしそれよりも提督の方が凄いです。こんな事態を想定するなんて出来ません、ですが早いとこ終わらせたいですね。

「予想が当たるとも限らないのに……お熱いことだな。」

ふふっ♪誉め言葉ですよ、そうだ


次回 二百対九


ジョーカー、本当に切り札たるのは兵器かそれとも……


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十九、二百 対 九

サイバンチョ「被告人、投稿が遅れたことに対して弁明は?」

筆者「仕方なかったんですよ!だって…!」

サイバンチョ「いくらスパロボとモンハンが同じ日に届いたからってその日にやりまくる貴方が悪い!」

筆者「同じ日に届くなんて知らなかった!」

サイバンチョ「被告人に有罪を言いわたす!」

筆者「すいませんでしたぁ!!!」

サイバンチョ「それで、楽しかったですか。」

筆者「めっちゃオモロイです!」



………はい、投稿が遅れたことに対して深く謝罪申し上げます。

それではどうぞ~


『ちわーす、横須賀鎮守府の宅急便でーす!』

 

そんな能天気な明石の声と共に送られて、いや落ちてきたのは丁度人一人が入れそうなくらいの大きさの黒いボックスだった。

 

『北上の生態データは既にインプット済み、その箱を触れば何時でも装着できるわよ。』

「いやーベストタイミングだよ、婆ちゃん。あんがと、じゃあ早速……」

 

そういって北上は黒いボックスに触れる、と同時に艤装を装着する時と同じ光が北上を包みこむ。そして光が収まった後にいたのは――

 

「重雷装艦北上改二、ンでもってあえて言うなら『超重雷装艤装装着型』かな?」

 

そこに立っていたのは、両手両足に魚雷管を背負った北上。北上改二にとっては代名詞とも言える魚雷をふんだんに装備している、が、今北上が装着している艤装は明らかに通常の北上改二の艤装ではない。

まず肩に空母が装着するはずの飛行甲板をもっと分厚く、幅広にしたものがついている、それも両肩に。そして背後の機関部の両側にもウイングのように魚雷管がついている、正に過剰なほどに魚雷を装備した「ロマン」がそこにはあった。

 

『これこそ一対多を究極なまでに追及した「超重雷艤装シリーズ」です!』

 

これこそ北上が必要性と若干のロマンを込めて明石に発注した局地型装備、仮称「参式雷装鎧(さんしきらいそうがい)」である。

これは言うなれば「全身に魚雷を内蔵した鎧」である、これを着けることで北上の持つ魚雷の四十門などという生易しいレベルではない。およそその七倍、つまり二百と八十の魚雷が撃てるのだ、しかも撃ち尽くせば鎧をパージして戦闘を続行できる。

しかしデメリットも大きい、先ず機動力が低いので援護無しではただの的である。そしてもし当たろうものなら全身を包む魚雷が誘爆、一気に大破まで追い込まれる。

 

「さーて、どれだけ居ようとこの数なら!」

「北上が魚雷を発射すると同時に突撃、目標は港湾棲姫よ、撃破し次第戦線を全速力で離脱。」

「「「了解!」」」

 

魚雷の有効射程は広い、だがそれ故に当てにくい。しかし今回の目標は前方から向かってきている、それに相手は二百以上、つまり―――

 

「数撃ちゃ当たるってね!」

 

二百四十門の魚雷、その凡そ半数が一斉に発射される。計百二十発の魚雷は敵集団目がけて殺到し、やがて大爆発を起こした。そして駆け出す九隻、目指すは港湾棲姫である。

ここで改めてメンバーを振り返る、まずは瑞鶴率いる艦隊のメンバーである加賀、北上、そして扶桑率いる艦隊のメンバーの赤城、山城、初霜、叢雲、夕張である。作戦としてはとにかく駆逐艦を先頭にし、軽巡、空母、戦艦の順で続く。駆逐が前方の敵を排除し、空母が両舷及び撃ち漏らした敵艦の排除、そして戦艦が後方から追ってくる敵艦を足止めもしくは排除を担当する。

港湾棲姫を中心とした輪形陣をくんだ敵艦隊は広く展開しており、到達までに時間がかかるものの、この方法ならば比較的に損害軽微のままで港湾棲姫にたどり着ける。

 

「今度こそ、私は……!」

 

瑞鶴の目は敵艦を見つめていた、だがその目は深海棲艦だけではない暗いナニかを見つめていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府地下

 

「提督、先行した二つの艦隊が港湾棲姫の艦隊と交戦を開始しました!」

「アイツら……!此方の増援、それと今の戦況は!?」

「最初に襲撃を受けた簡易泊地は殲滅完了と球磨より報告が、後はここの戦艦棲姫ですが、思っていたよりも展開が早いので突破は困難、先行した二艦隊に追い付くのは……………不可能かと。」

 

苛立ちを感じる提督、コンソールを叩くようにして工廠と通信を開く。慌てふためいてきた明石が応じる、あれから鎮守府の防衛に回っている明石は疲労困憊しながらも気丈に応じる。

 

『提督!どうされました!』

「先行した二艦隊が敵艦隊と交戦中、ハッキリ言って望み薄だ。悪いが最悪の場合は………()()を使う、準備を頼む。」

『もう加賀から言われて準備完了してます、それに北上には頼まれていた物を送ったので大丈夫でしょう……多分。』

「了解したが……前に言っていた大和との通信は?」

『万全で――おっと!?では私はこれで!』

 

激しい音と共に揺れる地下、それに呼応して同じく揺れる工廠、それっきり通信はノイズを送るばかり。

工廠がやられたか…、と思う提督だが明石はそんなことでは死なないので心配はしない。それより問題なのは工廠がやられたことで鎮守府の防衛能力が下がること、だがこの際かまってられない、今は目標に集中しなければ。

と、執務室に残してきたHDを思い出して血の涙を流す提督であった。

 

 

 

 

 

舞台は戻り相模湾

当初は比較的順調に進んでいるように見えた瑞鶴達だったが次第にジリ貧になり始めた、それでも進み続けられるのは赤城の七十二機、加賀の八十六機、そして瑞鶴の七十五機のという空母による高密度の爆撃により隊列は維持されていた。

瑞鶴はその空母の中の一人であった、しかし強烈な疎外感を感じていた。理由は目の前にいる一航戦の二人だ、加賀の実力は承知していた。だが何より信じられないのが……

 

「発艦始め!」

 

ズビシッ

 

その隣のいる赤城の存在だった。赤城は空母いや「食う母」と揶揄されているほどに大食いなのだ、そのくせ出撃は殆どせず毎日麻雀にふける日々、自堕落な生活を送っている彼女を皆は歴戦の空母(笑)と言ってネタ要員として見ていたのだが……今目の前にいる彼女は本当に赤城なのか?

艦載機の数を補う為に磨かれたであろうその発着艦の作業のスピードは加賀を軽く上回る、それはまるで発艦する機体と着艦する機体が重なって見えるようだ。

 

(そんなのと比べて、私は………!)

 

そして、突入してから約三十分、港湾棲姫が含まれる艦隊との交戦が目前に迫る。幸いにも護衛艦隊とはかなり距離をつけている、このまま有利な方向へ持ち込む。

そして遂に交戦を開始した、そして瑞鶴は港湾棲姫と対峙し、自分の予想が甘かったことを思い知らされる。

病的なまでに白い肌、そして同じ色の髪の毛。一般的に見れば絶世の美女と言われるだろう、しかし額から生える一本の角と凶悪な形になっている巨大な手を間近で見れば答えは変わる。

その身体から発せられる威圧、そして見るものを深海はと導くような赤い目は正に「姫」に相応しかった。

 

(っ!落ち着きなさい……あれを倒せば私だって!)

「行きます!攻撃開始!」

「瑞鶴!?」

 

そして港湾棲姫を視界に捉え直ぐ様艦載機を発艦させる瑞鶴、先制で発艦された艦載機は狼狽える随伴艦の対空を潜り抜けて港湾棲姫に殺到し―――

 

直後

 

ドゴッ、ドガガガガッッッッ!!!

 

「―――――え?」

 

瑞鶴の発艦した艦載機が全て漏れ無く文字通りに、「凪ぎ払われた」。相手はただ対空砲を一回掃射しただけ、それも本来の実力が出せないはずの海上で。

艦隊の中では最低の練度とは言え、他の鎮守府へ行けば第一艦隊の旗艦になれる程の練度はある瑞鶴。当然、その艦載機も練度は高い、それがあの有り様である。

目の前で起こった現実を認識できずに放心状態になる瑞鶴、そしてそれを見逃すほど姫級は甘くない。

 

カチャン

 

「!!」

「瑞鶴避けなさい!」

 

ゆったりと、しかししっかりとした動作で構えられる砲塔。その砲塔の向く先は勿論瑞鶴、あの主砲が直撃すればまず間違いなく消し飛ぶ。

避けろ、と必死に理性が訴えかける。だが身体が動かない、まるで港湾棲姫に包容されているように。

そして動かない瑞鶴を狙い砲塔は―火を吹いた。

直撃コース、もう間に合わない。そう悟った瑞鶴は意識を手放した、そして。

 

ドゴッ

 

鳴り響く轟音、しかしまだ感覚があることに違和感を感じた瑞鶴はまぶたを開ける。

そして見たものは――

 

「え………………」

 

目の前で佇んでいる赤城の姿、瑞鶴が庇われたという事実に気付くと同時に赤城は倒れた。

 

「赤城さん!!!」

 

その声を発していたのが誰なのかそれは解らない、だがそんなことなど目の前の光景によって吹き飛ぶ。

無慈悲にも引き裂かれた左半身、飛行甲板を盾にして庇ったのであろうがそんなことなど無力。直撃した砲弾により左腕、左足、そして脇腹が抉れていた。

言うまでもなく即死、つまり轟沈。瑞鶴が何かを喋る前に赤城は沈んでいく、そして少しも掛からずに沈んだ。

そして――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「殺す」

 

 

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺す殺すコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロスコロコロコロコロコロコココココココ」

 

狂ったスピーカーのような声を上げる瑞鶴、その目からはハイライトが消え失せ、口角が上がり終始笑っぱなし。

そして肌は病的なまでに白くなり始め、髪の毛の色も薄くなり始める。

 

そう、「深海棲艦」のように

 

それを見た加賀は叫ぶ

 

「止めなさい瑞鶴!魂を飲み込まれるわ!」

「殺すコロスコロス――――!!!」

 

艦娘、それは在りし日の艦の魂を持つ女性。しかし彼女らと共にある艦の魂は艤装に宿る、そしてその魂と如何に同調できるかが強さの秘訣である。そしてその同調率こそが「艤装同調率」である。

だが、この同調率が急激に上昇したり下降したりすることがある。これは極めて艦娘の精神状態が不安定な状態にあり、通常よりも圧倒的な性能を発揮するが敵味方を見境なく襲う。これは俗に「暴走」呼ばれる。

これは最悪の場合、艦娘の魂が艤装に飲み込まれて植物状態になったり、深海棲艦と似たような姿になり自ら轟沈していくという事例が報告されている。

 

「っ!不味いねこりゃ!」

「加賀さん、私達が敵艦隊を押さえます。今のうちに瑞鶴さんを!」

「ありがとう山城、それより………」

 

加賀は赤城が沈んだ方向を見て言い放つ。

 

「その辺で演技は止めたら?確かに人様の娘をあんな風にしたのに責任を感じて出るに出られないのは解るけど、このままって言うのは無いんじゃないかしら?」

 

「赤城さん」

 

ザバッ

 

という音と共に片手が出てくる、ホラーだ。前に垂れた髪が水に濡れて顔に張り付いている顔が出てくる、そして上半身がズズズ……という音と共に出てくる。

 

「きっと来る~きっと来る~♪」

「潜水カ級ですかそうですか、なら沈め。」

「スミマセン加賀さん赤城です。」

OTL

 

と歌いながら出てきて加賀にキレられて土下座してるのは赤城、あの沈んだはずの赤城である。あの時におった深い傷も再生しており、五体満足だった。

何故生きているのか、理由は少しばかり前の文章まで遡ってほしい。こう書いてあるはずだ、「赤城の七十二機」と。赤城の登載数は八十二機、十機分つまり丁度一スロット分空いている。

さてここで艦これに親しむ読者諸兄に問題、一スロットを消費して轟沈を回避し尚且つ全回復させる装備、いやアイテムと言えば?答えは簡単、

 

 

「応急修理女神」

 

である。

実は横須賀鎮守府、ある程度の練度に達すると提督から応急修理女神を支給されるのだ。そして支給された艦娘はそれを装備するのが通例となっている、勿論義務は無いが装備するに越したことはない。

そしてそれを装備していた為に赤城は轟沈を免れ、見事復活を果たしたのだ、これを装備していなければ瑞鶴ごと突き飛ばしていた。

 

「いや~応急修理女神始めて使いましたけど、キモいですね。何てったってなくなった筈の腕や脚がニョキニョキ生えてくるんですから、正直言ってかなりグロいです。」

 

とあっけらかんに言って、瑞鶴の方を見て目を見開く。

 

「なんじゃありゃ!?………って言っても私のせいですよね。」

「ええ、どうにかできないかしら?」

「あの状態になってしまったら後は拳で語りあうのみです、瑞鶴さんの精神を信じましょう。」

「それは、貴女の経験からかしら?」

 

それを聞いた赤城の目は一瞬伏せられる、そして開かれたその目には少しばかりの後悔と懺悔の念が込められているような気がした。

 

「……………ええ、強さばかりを求めれば何かを失う。そんな事にも気づけない愚か者は強さだけが全てじゃない、そんな簡単なことにも気づけないんです。」

 

赤城は自嘲するように加賀に呟く、それを聞いた加賀はただ一言「そう」と返しただけだった。と、横から声が響く。

 

「お二人さん!思い出に浸るのはいいけど制空権がヤバイから速く艦載機お願いします!」

「瑞鶴はあのままでいいのかしら加賀さん?」

 

と焦りを含んだ初霜の声と少し皮肉を含んだ叢雲の声、それに対して加賀は答えた。

 

「今の瑞鶴に話しかけても反撃を喰らうだけ、この囲まれた状態でそれを受ければほぼ詰みよ。艦載機を今から飛ばすわ、先ずは回りを片付ける。」

 

言うと共に艦載機を発艦させまくる加賀、それに続く赤城。これにより制空権を奪還、再び押し返しはじめた。

 

「よっしゃー!残りの雑魚を一掃するよ、私の後ろに!」

 

北上の号令を聞いた一同が後方に下がる、それと同時に打ち出されたのは補給、予備の分を含めた全魚雷の多段発射。その数圧巻の二百!

 

ズドドドドドドォォォォォォォォォンンンン

 

そして驚異の全弾命中、宣言通りに回りの護衛艦隊を一掃した北上。そして丸裸になった艦隊に向かって進んでいく加賀達、加賀は自分の娘を信じ、その名を呼ぶ。

 

「瑞鶴!」

 

しかしその言葉は戦闘音によって掻き消される、自分達の目の前では正気を失った瑞鶴と港湾棲姫による激戦が繰り広げられていた。

 

「殺す殺す殺す殺す殺す殺す――――!!!!!」

「殺意ニコウモ容易ク飲ミ込マレルトハ………ヤハリ人間トハ何ト愚カナノ?」

 

表情一つ変えずに言う港湾棲姫、瑞鶴は耳を貸さずに艦載機を放つ。放たれた艦載機は狂気に囚われたかのように港湾棲姫の対空砲撃をものともせずに進んでいく、そしてその動きは瑞鶴によって直接コントロールされている。

狂気に囚われながらも正確なその動きはまるで「狂戦士(バーサーカー)」、瑞鶴の練度からはあり得ない動きだった。

 

「フフフ……可愛イワァ、連レテイキタイ。」

「殺す殺す殺す殺す殺す――――!!!!!」

 

瑞鶴の並外れた動きに追い詰められつつある筈の港湾棲姫、しかし全く余裕の表情を崩さない。それが正気を失った瑞鶴の癪にさわったのかより一層激しさを増す爆撃、そして艦爆から切り離された爆弾が複数直撃し立ち上る煙。さしもの姫級も無傷ではいられまい―――そう思った直後だった。

 

「イイワァ、実ニイイ!モット、モット堕チナサイ!」

「!!!!!!――――シャァー!」

 

煙の中から表れたのは無傷の港湾棲姫、あれだけの攻撃を受けたのにも拘わらずむしろ瑞鶴が堕ちていくことに喜びを感じている。またも逆上して獣のように飛びかかろうとする瑞鶴、しかしそこに割ってはいる声。

 

「駄目よ、自分をしっかり持ちなさい!」

「!!!」

「アラァ……?」

 

凛とした声で呼び掛けるは加賀、とたんに瑞鶴なの動きが止まる。そして楽しみを邪魔された港湾棲姫は不愉快そうに声の主の方を向く、尚も声は続く。

 

「今貴女の命は貴女だけの命じゃない、球磨が日向が伊勢が、貴女を信じて託した命よ!せめて貴女が責任を感じているのなら、正気に戻りなさい!」

「瑞鶴さん、加賀さんの言うとおりです。そして謝罪します、いつかあの時に言った『貴女の理想は綺麗すぎる』という言葉。貴女はそれから悩んでいたのでしょう?」

 

凛とした加賀の声の後に続くのは静かながらも芯の通った声、赤城であった。

 

「あの時私は新しい目標を見つけろ、と言いました。しかし焦る必要はないんです、貴女には時間があります。だからこそ、ゆっくりと着実に仲間と強くなって行く途中で目標を見つければいいのです。…………今ならまだ間に合います、帰ってきてください!」

 

そして加賀は叫んだ

 

「だから………戻ってきなさい!瑞鶴(すいか)!!!」

 

その言葉を聞いた瞬間、痙攣するように震えていた瑞鶴の身体がその震えを静めていく。そしてゆっくりと此方を振り向いた。

 

「瑞鶴……………!」

 

戻ってきたのだ、その事実に感極まる加賀。そして皆も瑞鶴の方へ集まろうとし―――隙が生まれた。

 

「随分ナコトヲヤッテクレルジャナイ……!」

 

そう恨みがましく言う港湾棲姫の主砲が静かに加賀にむけられる、しかし誰も気づかない。そして何の前触れもなく、発射された。

 

ドムッ

 

「!」

 

反応が遅れた、回避はできない、せめて少しでも耐えて見せる。―――まだ死ねるか!!

先刻の赤城のように飛行甲板を盾にする加賀、しかしそこに割って入る影が一つ。

 

「何をするの!?瑞鶴!」

 

割って入った影―――瑞鶴は加賀を守るように前に立ち加賀にだけ聞こえる声でいった。

 

「今の私にはこれくらいしかできないから。」

「!!ずいか――――」

 

ドムッ

 

直後、直撃の衝撃が加賀を襲う。目を開けることはさえできない、そして恐る恐る目を開けると―――

最悪の光景が広がっていた。

ボロ布のように焦げて変色した肌、艤装どころか服も殆ど消し飛んでいる。そのまま崩れ落ちる瑞鶴、彼女には応急修理女神は登載されていない。

最悪の予感が頭をよぎる、そこへ鬼のような形相で走ってきたのは意外にも北上だった。

 

「もう私の前では誰も、誰も死なせない!」

「何を――」

「アタシこれでも防衛医大卒だ、応急処置の心得ぐらいはある!」

「北上、港湾棲姫は私達で押さえる、その間に。いくわよ山城!」

 

そう言って応急処置を始める北上とそれを守るために前にでる扶桑達、しかし瑞鶴の身体は沈み始める。諦めずに処置を続ける北上と瑞鶴の手を握る加賀、しかし――

 

「クッソォ!戻って!戻って!戻れ!」

「北上……」

 

それでも沈んでいく瑞鶴の身体、そして加賀が握っている手も徐々に引っ張られ始める。必死に手を繋ぐ加賀、しかし次第に重く、強くなっていくその力はまるで何かが瑞鶴を深海へ連れていこうとしているかのようだった。

そして――――

 

「あっ…………」

 

遂に加賀の手から離れる瑞鶴の手、瑞鶴の身体は完全に海に沈んでいった。

 

「嘘……でしょ……」

スック

「加賀さん?」

 

実の娘を失い、平静を崩しても可笑しくないはずの加賀はむしろ普段よりも冷静になっていた。その目はただ港湾棲姫のみを捉えている、その射抜くような眼光に北上は身震いする。

 

「加賀さん、瑞鶴が……」

「まだ、戦いは終わっていないわよ。」

 

そして何処から出てくるのか解らない自信で言う。

 

「それに、私の娘がそんな簡単にくたばるわけない。」

 

その目に絶望はなく、ただただ希望のみを写していた。

 

 




希望、それは絶望の裏返し。
そして嘘と真がごっちゃになった物。
まるで最高のスパイスだ。
それだけを見て現実逃避してしまえばその後の人生は(から)く、(つら)くなるだろう。ましてやそれが偽の希望であれば尚更。
だがまわりの真実を見て尚、希望を捨てずにいるのならば――その人生はスパイスの効いたおもしろい物になるだろう。
たとえそれが苦難の人生だとしても、そしてそんな状況でも変わらないものこそが真実の希望だろう。
その希望は人それぞれ、金の場合もあれば物の場合もある。
それは勿論――――――家族の場合も。


次回 「少女と戦艦」


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二十、少女と戦艦



魂、とはなんでしょう?

色々な考えがあります。

曰く、
己の信じる物。
曰く、
自分の在り方。
曰く………

そしてこの「魂」の概念は世界にもあります、魂の救済や安寧、そして転生を信じる宗教などです。
しかしこれは、意志のある人や動物に向けられた物。
そう考えると命を持たぬ無機物に魂が宿るという考えをする日本は少し珍しいのかもしれません。(あくまで筆者の主観です)
ならば、艦娘が持つ魂は………




不思議な空間にいた。

暗い海の底、所々に見える岩々。うっすらと遥か上に輝いて見えるのは水面か。その水面から光が帯状に差し込み海底をほんの少し照らしている、しかしそれでもまだ薄暗い。

通常の風景にしては余りにも幻想的過ぎる、時々頭上を通る魚の鱗に光が反射して目を照らす。海流もあるのだろうか、その身体の髪は揺れていた。

その身体の主―――瑞鶴は緩慢な動作で仰向けに寝ている状態で首を動かす、ここは海の底なのか。ならば何故、呼吸ができる。

 

――――でもそんな事、どうでもいいや、

 

そう、瑞鶴は思う。と、その時。

 

サァァァァ…………

 

瑞鶴の丁度真上、少し離れた所に光が集まり始める。その光は徐々に人の形をかたどっていき、遂にはその顔まで視認できるほどにはっきりとした人それも女になった。

その女は髪を左右二つに結い、輪郭の柔らかい顔をしていた。彼女は瑞鶴とは対照的に水面の近くに浮かんでいた、しかし瑞鶴と同じような体勢で瑞鶴を見つめていた。彼女は瑞鶴よりも白い肌の中に血の色が程よくさして、唇の色はほんのりとしたピンク色であった。

瑞鶴は思う、そっくりだ、と。確かに柔らかい表情をしているとはいえその女は瑞鶴と(うり)二つであった、その時その女は口を開けて何かを喋るような動作をする、しかし何も聞こえない。それでも瑞鶴は彼女が何を言っているのか自然と理解することができた、彼女はこう言っていた。

 

――――何をしているの?

 

静かに瑞鶴は答える

 

――――待っているのよ

 

――――何を?

 

――――迎えが来るのを。

 

すると彼女はこう言った

 

――――それで、いいの?

 

と、彼女は上から覗き込むようにして聞いてくる。瑞鶴はええ、と答えながら薄く開いていた目をパッチリと開けた。その瞳は澱み、その暗い瞳の中には上に浮かぶ彼女が鮮やかに浮かんでいる。

浮かぶ彼女は暫し瑞鶴を見つめた後に言った

 

――――貴女は何があったか、憶えてる?

 

――――ええ、それは嫌というほど鮮明に。

 

そう言って瑞鶴は思い出す、自分に何があったかを。

色々な人に託された思い、それが却って私には重みだった。それでも何とかして強くありたい、皆の思いに答えたいと私は願った。いや、焦っていたのかもしれない。

その結果が、あれだ。焦るあまりに自分の危機に気付けず、赤城さんに庇われた。そしてその赤城さんが沈んだとき、私の中で何かがキレた。

 

もう、どうでもいいや。

 

それから先は簡単だった、強さを求める兵器となった私はただ我武者羅に戦った。それでもかなわなかった、そして散々傷つけたはずの仲間によって正気に戻された。

そして狙われた加賀さんを庇って自身は轟沈した。

ああ、全く情けないばかりだ。

でも、それでいいのかもしれない。

 

―――本当に?

 

再びかけられる声、瑞鶴は水面から差し込む光とはまた違った光を放つ彼女を見て、彼女は本当に何者なのだろうと思った。

故に瑞鶴は問いかけた、貴女は誰?と。すると彼女は目を眠そうに、優しくひらいたままに静かな声で、誰でしょう?と意地悪に言った。

この問答に興味が失せたのか、目を閉じる瑞鶴。そしてまた誰に言うでもなく、一人ごちた。

 

―――私は、何がしたかったんだろう。

 

―――それはこれから決めるべきこと。

 

と、すかさず上から声が入る。少々煩わしく思った瑞鶴、だがここで少し違和感を感じた。

 

―――これから?

 

―――ええ、これから。

 

彼女は畳み掛けるように言った、何処か懐かしい感じで。

 

―――貴女がこれからどうしたいかは、貴女自身がこれから決める。けれど、目標、目的なんて人それぞれ。ほら、例えばこんな風に………

 

そう彼女が言って手をふった瞬間、瑞鶴の目の前に様々な景色が写しだされる。

 

 

 

 

レインボーブリッジ周辺

 

「クマァァァ!」

「ウラァァァァ!」

 

スガゴッ!

 

ぶつかり合う球磨とレ級、二人の衝撃により回りと比べて水面が少し下がっている。端からみれば命をかけた戦い、しかしその目は二人とも笑っていた。

 

 

 

 

横須賀鎮守府

 

「ドケェェェ!」

「何貴女、そんなに瑞鶴ちゃん追いかけ回して?まさか貴女、ストーカー!?」

 

軽口を叩きながらもしっかりと攻撃をいなしていく伊勢、その目に微塵の恐れもなかった。

 

 

 

 

同地、沖合

 

「ウフフ、ココマデ来レタノヲホメルベキカシラネ。」

「それは光栄、では私と一緒に躍りでも?」

「イイワネェ………曲ハ貴女ヘノ鎮魂歌(レクイエム)デドウカシラ?」

「ふっ、レクイエムを自ら歌うとは………潔いものだな!」

 

未だに所々から昇る水柱と戦闘音をBGMとして激突する両者、されど日向の目に迷いはなく、ただ勝利のみを見据えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして、場所は再び不思議な海の底へと戻る。

 

 

二人とも、何も言わなかった。だが暫くして彼女は瑞鶴にこう言った。

 

―――己が楽しむ為に戦う者、他者の為に戦う者、自らの信念に基づいて戦う者。戦う目標は人それぞれ、けっして決まったことなんてない。

 

瑞鶴は黙ったままだった、そして彼女は今一度瑞鶴に問う。

 

―――貴女は何故、艦娘になりたがったの?

 

何も言わない瑞鶴、ただその目にはうっすらと涙が浮かんでいた。思い出されるのは昔の記憶、モノゴコロつく前に覚えているたった一つの思い出。そして瑞鶴の、いや水華の全ての始まりとなった記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

まだ背が小さく、見上げるしかなかったその人物の顔は、よく見えなかった。ただ瑞鶴はその人物が自分を救ってくれた、ということしか覚えていない。

 

『おねーちゃん!ありがとう!』

『大丈夫、貴女は強いから。』

『強くない………全然だよ。』

『ううん、貴女がいるだけで助けられる人がいる。それは貴女の「強さ」よ。』

 

そう言って幼き瑞鶴の頭を撫でる手、その主に瑞鶴はどうしようもなく憧れた。自分の関係も何もかも忘れて決意した、自分もいつかおねーちゃんみたいになる、と。

 

『私、いつかおねーちゃんみたいになる!』

『え?あ、ああ、うん。待っているわよ!』

 

自分が覚えているのはそれっきり、だけれどもいつまでも色褪せることのない記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やがて瑞鶴は口を開いた、いつも勝ち気な彼女からは想像できないほどに静かな声だった、だが声には瑞鶴の覚悟が含まれていた。

 

―――私は守りたい、皆を。

 

―――赤城さんに否定されたのに?

 

重ねてくる彼女、その言葉は確かに自分の中で引っ掛かっていたもの。その言葉に瑞鶴は目を見開いて答える。

 

―――たった一人に否定されたぐらいで何をくよくよしてたのか自分でもバカらしい、そんなの………

 

―――そんなの?

 

開かれたその目にはもう澱みはなく、その目には瑞鶴本来の輝きである翡翠色であった。そして、瑞鶴はいい放つ、自分を全てのしがらみから解き放つ言葉を。

 

―――「私」、らしくない。確かに甘い理想かもしれない、けれどそれはその理想を諦める理由にならない!

 

―――けれどその理想に見合う力は貴女にあるの?

 

確かめるように問いかける声、それに対して瑞鶴は始めて喉を震わせて声を出す、一言一言自分に言い聞かせるように。

 

「確かに今はないかもしれない、けどだからこそ、私は強くありたい!ううん、あってみせる!」

 

―――ふうん……………

 

そして最後に瑞鶴が言った言葉は奇しくも、母である加賀の台詞と似通っていた。

 

「そこは………譲れない!」

 

決然と自分の意思を言った瑞鶴、その言葉を受け止めたのか彼女は少しの間、黙っていた。

そして、

 

―――や~っと気付いたぁ!

「………へ?」

―――びえ~ん!遅いよ~疲れたよ~鈍感過ぎるでしょ!

 

急に今までのミステリアスな雰囲気を崩し脱力し始める彼女、瑞鶴は拍子抜けしてしまう。

 

「私を試すようなことをして今度はその態度……改めてだけど一体貴女何者?」

―――私?私はずいかく、もう一人の貴女。

「はぁ?」

―――正確に言うと、「空母瑞鶴」の魂ね。

 

そこまで言ったことでようやく瑞鶴にも合点がいった、「建造」それは自分の体に在りし日の艦艇の魂を宿すこと、それはつまり自分の魂と艦艇の魂を一体させることなのだ。

つまり今目の前にいる「ずいかく」はあの「五航戦瑞鶴」そのものなのだ、それならば彼女が自分に似ているのも頷ける。しかし………

 

「何でこんなときに出てくるの?それに艦艇の魂が出てきて会話するなんて聞いたこともないわ。」

―――だってぇ~瑞鶴ちゃん焦ってばっかでちっとも本当の強さに気づかないんだもん、そりゃ出てきて世話の一つや二つはしたくなりますわ。それに……

「それに?」

―――私も、願ったのよ。皆を守りたい、絶対に。私は同じ思いを持つ貴女となら力を貸せる、貴女なら私の力を使える。だからここで死んじゃ困るの。

「なるほど、確かにあんたのお陰で本当の強さに気づけた………と言ってももう遅いけど。」

 

少し沈んだ声で瑞鶴は言った、改めて自分の回りを見渡す。相変わらず海の底、水面は遥か上にある。轟沈した艦娘が復活するなんてそれこそ聞いたこともない、そんな都合のいい話あるわけがない。

 

―――あれれ~?まだ気付いてないの?

「?」

―――いや?じゃないでしょ、気付きなよ!そもそも、貴女沈んでたら意識なんてないよ。

「じゃあ、これは一体?」

―――しらん!けどどうせあの工廠の人でしょ。

 

二人は全く知るよしもないがその通りである、明石は今回の大規模作戦の際に全員の艤装に「状態維持要員」と言うものを仕込んでいたのだ。それは応急修理要員のように治せはしないが沈んまないようにすることはできる、つまり仮死状態を作り出せるのだ、尤も潜水艦に見つかればイチコロだが。

 

「でも、今更戻っても私の力じゃ、それに殆ど艤装は壊れてるし。」

―――だ~か~ら~、何のために私が出てきたと思ってるの!?

「え、私の迷いを取るため?」

―――それが阻害していたことは何!?

「あっ…………!」

―――そう、今なら使えるはず、私の力の一端を!

「そうと決まれば!」

―――這い上がるのみ!

 

二人の思考はリンクし、それと共に艤装同調率も上がる。水面へと上がって行く瑞鶴、それを追うずいかく。いつしか二人は重なり瑞鶴の身体が輝きだす、そして同じく輝く水面に触れたとき、瑞鶴の意識は今度は白い白い、温かい光に飲み込まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ご都合主義?  上等だ

 

甘すぎる、偽善?  だからどうした

 

弱いくせに?  これから強くなってやる

 

 

 

 

 

そんな無理、私の道理で押し通す―――――!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして舞台は相模湾へ

 

「加賀さん!いいの!?」

「いいのよ」

 

激昂する北上、それでも親なのか。親という者はいつだって自分勝手なのか、少なくとも加賀はそう見えなかった。

 

「…………失望したよ、加賀さん。」

「まだ、早いわ。」

 

しかし、北上の皮肉も最後まで続かなかった。何故ならば……北上と加賀の背後から突如として光の柱が立ち上った。

そしてその中心から出てきたのは―――

 

「マジで………!?」

「ふふっ………」

 

相変わらず二つに結わえわれた薄緑色の髪の毛、砲弾が直撃して負った傷は無くなっている。身に纏う艤装は純白とは対照的な濃い迷彩色、そして瞳に宿るは勝ち気な意識。そして彼女は口を開く。

 

「正規空母瑞鶴いや、『瑞鶴 改』只今帰還しました!」

「うっひゃー!瑞鶴だ!よかったー!」

「話は後よ、北上。瑞鶴、状況は解ってるわね?」

「ええ、行きましょう!」

 

頷く瑞鶴、そして瑞鶴を戦闘に進んでいく北上と加賀。瑞鶴の後ろ姿を見て、加賀は大きくなったわね、と一人思った。しかしその心の殆どは………

 

(ずいがぐぅぅぅ~!よがっだぁ~!心配したんだがらぁ~!)

 

と半分涙目であった、幸い提督から明石が装備させた状態維持要員の話を聞いていた為に取り乱さなかったが、もし聞いていなかったら…………考えただけでも恐ろしい。

そして再び相対するは港湾棲姫、扶桑達が攻撃を続けているが未だに決定打は与えられずにいた。その要塞に匹敵するほどの重厚な装甲により攻撃が殆ど通じていない、しかしそれでも港湾棲姫はゆっくりと進んでいた。

もう既に陸地が視認できてしまっている、あまり時間はない。

瑞鶴は思考する、考えろ、今ある武装、人員、そして可能な戦略を駆使してこの状況を切り抜けろ。今更であるがこれでも一応瑞鶴は養成学校の時点では優秀な成績を残している、加賀にあれこれ言われてはいるが本当はできる子なのである。(当たり前ですby加賀)

その時、瑞鶴はふと腰を見る。その瞬間、瑞鶴の頭の中にまるで天啓のような閃きが走る。

 

「扶桑さん、加賀さん!考えがあります!」

「なにかしら!?」

「実は……」

「……なるほど、確かに行けるかもしれない。けど、」

「ええ、正直に言って賭けです。」

 

瑞鶴が扶桑達に示した作戦、それは確かに効果的な打撃を与えられて轟沈も狙える作戦であった。しかし、それが通じるのは一回きり。しかも希望的観測が多く、余りにも不確実であった。そして何よりも………

 

「私は反対よ」

「加賀さん!?どうして?」

「その作戦、貴女の負担が大きすぎる。そしてとても危険よ、失敗すればただの犬死によ、それでもやるの?」

 

そう、その作戦は瑞鶴が中心的な役割を担っているのだ。しかしまだ実戦経験が皆と比べ少なく、必ず成功させるという確証が持てなかった。

それは先輩というより親として危険なことはしてほしくない、という考えでもあったのだ。しかし、

 

「いえ、私に任せて下さい。……一度だけ、信じてくれませんか。」

「!………いいわ、やってみる価値はある。」

 

そうだった、自分の子供を信じずに何を信じるのだ。娘が提案した無謀とも取れる作戦、ならばそれを完璧に遂行して魅せるのが親としての努め。

なれぱこそ、この作戦は絶対に成功させる。

 

「では、指揮権を瑞鶴さんに委譲しますね。」

「わかりました、それでは……行きます!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府地下

 

「瑞鶴のバイタル、持ち直しました!」

「ふぃ~、何とか持ち直したか。」

 

鎮守府地下、ここで引き続き戦況を把握して指揮をとっていた提督だった。しかし、ここに来て先行して港湾棲姫と交戦していた艦隊の瑞鶴の同調率に異常が発生。そして轟沈、いや状態維持要員の為にそれは免れたのだが意識不明の状態になっていた。

しかし何があったのか急に復活、戦線に復帰していた。

 

「瑞鶴からは何か通信は?」

「我、自身ノモウ一ツノ魂ト向キアエリ。と。」

 

その一言で提督はある程度を察する、自身のもう一つの魂とは恐らく在りし日の艦艇の魂の方だろう。それも踏まえて、提督は疑問を口にする。

 

「在りし日の艦艇の魂、か。」

「にわかには信じがたいです、私はそんなこと一度も……」

 

瑞鶴より遥かに艦娘歴が長い大淀でも瑞鶴の話は非現実的なようだ、ならば何が彼女をもう一つの魂と引き合わせたのだろう?

 

「呼んでないけどじゃじゃじゃじゃーん!」

「明石さん!?鎮守府の防衛の方は!」

「あ~それね、艦娘宿舎だけは死守してるけどそれ以外は殆どやられた。それよりも、今の疑問に答えましょう!」

 

ばんっ!と扉を開いて現れたのは明石、その服装は所々焦げ付いていたり破れていたりと、満身創痍だった。それでも声とその眼差しだけは何時もの調子であるとわかる、そして自信満々に解説を始める。

 

「そもそも、建造をしている時点で適性者の魂はもう艦艇の魂と融合しているので厳密には別の魂になってはいるんです。」

「そこは俺も知っている、だが建造をしてもベースとなるのはあくまで適性者の魂だ。だから別の魂と言ってもベースの魂にオマケがくっついている、と俺は認識しているが。」

「しかしですねぇ、条件は不明ですが時々艦艇の魂が主人格と対話をしたり入れ替わったりすることがあるんです。」

 

飄々と話す明石だが提督はそんなことは聞いたこともない、これでも艦娘の関しては専門家とタメをはれる位には知識がある提督、しかしそんなことは初耳であった。

 

「お前はそこをどう考える、『始まり』?」

「はははっ、どんなに研究しても謎は多いんですよ。――――だから止められない。」

 

それまで笑っていた明石の目が提督の「始まり」という言葉を聞いた瞬間に冷める、だがそれも一瞬のこと、すぐに何時もの調子を取り戻す。

 

「提督、私は私です。『始まり』、そんな名前はありません。」

「そういうことにしておこう、後は瑞鶴達の援護か。各員、状況を逐次知らせ!大和との通信の確保も急げよ」

(お前がどう思おうと、所詮は人。業からは逃れられん、そうだろう?「始まりの歪み(かんむす)」。)

 

瑞鶴の考えた作戦、そして提督の思惑、艤装の謎、これらの要因は複雑に絡みあっていく。

 

 

 




皆さんこんにちは、大和です!
え?なんですか?時間がない?わかりましたよ~、それよりチャージ率は?……120%ですか、そのままでお願いします。
ん?ああ、こっちの話です。
それより瑞鶴さん、復活です!いや~、ほんとに良かったですよ!こんな所で沈んじゃただの噛ませ犬ですよ。
ただ、瑞鶴さん達が港湾棲姫を撃ったらそれで終わり……なんでしょうか?
いや、もうひと悶着ある気がするんです。
あ!?時間がじk――


次回 「親馬鹿な加賀さんが着任しちゃいました」


最終回じゃないですよ!?


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二十一、水平線の向こうで

タイトルがそのままサブタイに成るってなんか最終回っぽくありませんか?


春イベに向けてオリョクル!………のために潜水艦を集めよう!

方法一、1-5周回

結果
「那珂ちゃんだy」カーンカーン

方法二、建造

結果
「那珂ちゃんだy」カーンカーン


オリョクル……( ;∀;)



対峙する九隻と港湾棲姫、彼女達の回りに他の艦は居ない。恐らくであるが此方に向かっている艦隊と交戦しているのだろう、現に遥か向こうから微かにだが戦闘音が聞こえている。

対照的にここは全くと言っていいほど無音、聴こえるのは時々艤装に当たる波の音と海鳥の音。ここが戦場でなければ優雅な常夏の島を連想するであろう、しかしこの場でそれは異常な事である。

どちらも動かない、どれくらいたったのか。一分、十分、それ以上か。

 

(早く……早く動きなさい!)

 

刹那、風切り音と共に飛来する砲弾。流れ弾、幸いにも誰にも当たらないコースを辿る。

そして――――

 

バッシャァァァン!!!

 

まるで神が痺れを切らしたかのように砲弾は両者の丁度中間地点に着弾した、とてつもない水柱を上げながら。

 

「「―――!!!!」」

 

そしてそのタイミングを両者は逃さなかった、瑞鶴と港湾棲姫はほぼ同時に叫ぶ。

 

「行くわよ!」

「死ニ恥サラセェ!!!」

 

先制は港湾棲姫、普段確認されている静かで戦闘にあまり積極的ではない様子とは裏腹に、まるで何かが吹っ切れたように容赦がない。躊躇なく砲撃を始める、狙いは勿論瑞鶴。しかしその前に散開し扶桑、山城姉妹が立ちふさがって反撃を開始した。

 

「山城!」

「はい!」

 

戦艦と要塞級の戦い、並みの艦娘が当たれば即死の攻撃を続ける両者。その間に駆逐艦達と北上は港湾棲姫を囲むように展開する、しかし港湾棲姫の注意が扶桑姉妹に向いているとは言えど時折流れ弾が飛んでくるので気は抜けない。

そして瑞鶴と加賀そして赤城は少し離れた場所に陣取る、そして弓を構えた後に通信を送る

 

「扶桑さん!」

 

その一言ですべてを理解した扶桑は即座に三式弾を装填、港湾棲姫に向けて発射した。だがそれを予想してか大きな手の艤装を利用して身を守る港湾棲姫、半端ではない硬度の艤装をシールドにしてダメージを無力化したのだ。直後、空中で分散した三式弾が港湾棲姫の周りに降り注ぐ。

 

ここからの事は全てたった少しの間に起こったと言う事を最初に明記する。

 

 

 

 

まず三式弾が降り注いだことで回りに水柱が立つ、しかも断続的に撃っているので絶えることがない。そこに

 

「突撃!」

 

初霜を始めとした駆逐艦の一部が一斉に突っ込む、三式弾が降り注ぐ中でも果敢に突っ込んでいく。瞬時に距離をほぼ零まで詰められた港湾棲姫は鬱陶しそうに巨大な手で薙ぎ払う、がそこまで突っ込むほど横須賀と呉の駆逐艦は甘くない。攻撃の前動作を見切ってギリギリのタイミングで回避する、それこそ殆どすれすれに。

回避しようとするならばもっと安全に回避できる、が敢えてそうはしない。持ち前の技術と根性でまるで煽るように回避していく、そう「煽る」ように。

 

「忌々シイ雑魚ガァ……!」

「来いよ港湾棲姫…艤装なんて捨ててかかって来いよ!」

「野郎☆オブ☆クラッシャァァァァ!」

 

すると、コケにされていると「勝手に思い込む」。するとどうだろうか、確かに怒りによって攻撃はより激しく、強力になっていくが目に見えて動きが単調になってくる。

その期を逃さずにより接近していく駆逐艦、次は一斉に主砲で薙ぎ払おうかと思った港湾棲姫の視界に映り込む数本の白い筋。

 

「――――――っ!!」

バシャッ!

 

それを見た港湾棲姫は駆逐艦の砲撃を防御するのも忘れて即座に退避する、直後に通り過ぎる物を見てここ迄の狙いを看破した――――つもりになった。

 

(今ノハ魚雷カ、ナルホド。攪乱シテ注意ヲ水面ニ向ケサセナイヨウニシテイタノカ。)

(気づかれた、けど!)

 

直後、港湾棲姫を中心として起こる大爆発。それは港湾棲姫が確かに回避したはずの魚雷によるもの、大きくはないがここにきて初めての目に見えたダメージを与えられた事に港湾棲姫は困惑する。

 

 

 

 

ここまで一分弱

 

 

(ナッ!?確カニ回避シタハズ!)

(かかった!)

 

港湾棲姫の回りに立ち上る水柱を見て思わず手を握る瑞鶴、ようやく効果的な一撃を加えられた。

回りを見渡す港湾棲姫、そして見つけたのは北上。瞬時に北上を脅威と認識した港湾棲姫は北上に襲いかかる。

だがこれだけで終わりにするつもりはさらさらない、まだ瑞鶴の策は尽きていない。

 

 

 

と、ここで何故魚雷が当たったのか。それは簡単、港湾棲姫が魚雷の航跡を見逃したから。これだけ聞けば、今さっきの港湾棲姫の回避行動はなんだと思うだろう。

確かに港湾棲姫は魚雷を避けた、だが避けた物で全てでは無かったのである。魚雷を発射したのは港湾棲姫を包囲していた艦隊、そのメンバーを今一度思い出して見てほしい。そして今までの行動を。

「駆逐艦達と北上」、そして「初霜を始めとした一部の駆逐艦」。恐らくもう察しの良い、もしくは艦娘に詳しい提督は気付いているだろう。これらの言葉が何を意味するか、駆逐艦と北上の自慢の装備は?突撃しなかった残りの駆逐艦は何をしたのか?

北上と駆逐艦の自慢の装備は魚雷、そして突撃しなかった残りの駆逐艦と北上は魚雷を発射したのだ。

では港湾棲姫は何を回避したのか?勿論魚雷だ、「駆逐艦」の。当たったのは「北上」の魚雷だ。ここまで来ればお分かりだろう、強いて付け加えるとすれば駆逐艦が装備しているのは「旧式」の魚雷であり北上は「酸素」魚雷を用いていることだ。

やることは簡単、まず駆逐艦が魚雷を発射しその後に北上がタイミングをずらして発射。つまり重ね撃ちである。

目立つ魚雷の航跡、しかし目立つものがあれば自然とそちらに目がいく。それ故に港湾棲姫は駆逐艦の魚雷は回避できた、しかしそれよりも航跡が薄い酸素魚雷の方には気づかなかったのだ。

 

 

 

少し長かったが閑話休題

 

 

 

 

北上に襲いかかろうとする港湾棲姫、だがその前に上空から機銃の斉射が足を止める。

 

「ッ!小癪ナァ!」

「攻撃の手を緩めないで、北上さんは早く下がってください!」

「わかってますよ~っと!」

 

赤城の発艦した航空隊が押さえている間にさっさと逃げる北上、遅れて加賀と瑞鶴の艦載機も到着する。

港湾棲姫の装甲を前に機銃程度では傷一つつかないがそれでも足を止めるのには十分、そして足さえ止めれば……

 

「急降下!」

「!!」

 

港湾棲姫が見たのは真上から落ちてくる無数の爆弾だった、そして巻き起こる爆発。それを見ながら瑞鶴達空母は艦載機の操作をオートに切り換える、その手には矢が握られている。

三人同時に放つ艦載機はアカキリー、港湾棲姫に直撃した爆弾の余波が冷めやらぬ内に距離を詰める。そして爆煙の中からでてきたのは――

 

「やはり……硬い!」

「加賀さん、コントロール渡します!」

 

頭上で手を交差して、ダメージを防いでいた港湾棲姫であった。手の艤装は艦娘を貫く矛であると同時に、身を守る盾でもあるのだ。

顔を憤怒の表情に歪めた港湾棲姫は標的を空母達に変更する、しかしそれを阻むのは扶桑姉妹の砲撃と駆逐艦の撹乱戦法。

遅々として進まない敵の排除に痺れを切らしたのか港湾棲姫は遂にその全武装を展開、一気に攻勢に出てきた。

狙われた艦載機が次々に撃墜されていく中、今まで直接的にコントロールされていたアカキリーだけが残る。

当然、港湾棲姫は最後に残ったアカキリーを落とそうと躍起になる。そして、それを待っていた。

 

「加賀さん!扶桑さん!北上!」

「「「応!」」」

 

 

 

ここまで三分

 

 

 

 

合図に答えた扶桑姉妹は再び砲撃を開始する、駆逐艦達は離れているので今度はより広範囲に。そして生じた水柱の間を縫うようにして港湾棲姫に向かうのは、砲弾に当たらないように神がかった精度で角度調整された魚雷群。それらの一斉攻撃が襲いかかる。

しかし分厚く、当たっても損傷が起きない所に当たれば只の無駄弾。そしてそうなるように港湾棲姫は上手く立ち回っていた、それこそその巨体からは考えられない速度で。

それ故に意識は自然と攻撃に集中される、そして疎かになった所を狙うのが――

 

「加賀機、瑞鶴機、突撃!」

「赤城機援護します、そのまま突っ込んで!」

 

漸く此方に気付く港湾棲姫、だが遅い。手を交差して胴体を守ろうとする、しかし本当の狙いは底ではない、そうアカキリーの狙う場所は――――

 

ガション!!!

 

「ナッ!?グッ……離レロォ!!」

「全発射口展開、至近距離で喰らいなさい!!」

 

その自慢の手、そこにバトロイドに変型したアカキリーが二機同時に取りついた。そして各部のハッチを開く、そこから見えたのは無数の円筒。

これは明石に言わせれば「必殺技」である、MM(マイクロミサイル)。そのサイズによって機体の各所に設置されたミサイルは圧倒的な物量を有しながらも小型とは名ばかりの爆発量を持つ、ただ発射するために燃料を多量に使用する。よって当たれば文字通り必殺、しかし一発限りの切り札なのである。

それがほぼ零距離で全弾撃ち込まれる、そしてそれらはただ一点を狙って放たれる。手の艤装ではなく、その胴体を。

 

「ナッ!?」

「追撃!」

「………押さえる!」

 

赤城のアカキリーが突っ込んでくる、全く見当違いのほうを狙われたことで放心しかけている今が好機。しかし本能からか咄嗟に手を交差させようとする港湾棲姫、加賀はそれを止める為に同時操作している自機と瑞鶴機を使って両腕を押さえ込む。

 

(防御不可能カ、ダガソレガドウシタ。)

 

迫る赤城機を前に押さえ込まれているにも拘わらず動揺を全く見せない港湾棲姫、それだけ装甲には自信があった。

 

ズダダダダダン!!

 

全弾命中、そして立ち上る煙。その中で港湾棲姫の装甲には……傷一つ付いていなかった、この三連撃がもしも顔面などの装甲が薄い箇所を狙ったならばダメージは入っただろうがそれでも、彼女を仕留めることは出来なかっただろう。

 

何故なら彼女の装甲は衝撃に対しては無類の防御を発揮する、砲弾は基本的に衝撃によるダメージなのだ。

勿論、どれかに特化すれば何かに弱くなる。これは港湾棲姫も例外ではない、徹甲榴弾が良い例だろうか。

あれは貫くことで装甲を突破し、内部から爆発させることでダメージを与えている。

しかし彼女の装甲の真の弱点は「斬撃」だ、彼女は砲弾に耐えうる為に衝撃耐性に特化し、尚且つ徹甲榴弾にも耐性をつけるためにある程度の「貫」に対する耐性を得た。

これにより港湾棲姫は要塞と同等かそれ以上の防御を誇るようになった、彼女は正に生きる要塞なのだ。

だがしかし、ただでさえ斬撃に弱い装甲をさらに「貫」にも対応させた為に益々斬撃に対する耐性は下がった。それこそ切られればそのまま内部器官に致命傷を負ってしまうほどに。

無論、港湾棲姫も考えていないわけではない。いくら艦娘との戦いの殆どが砲雷撃戦とは言え、龍田や天龍に日向や伊勢など斬撃の得物を持つ艦娘も多いのだ。

だがそれは接近されたらの話、元々陸上で泊地を纏める彼女からすれば、まず陸にいる此方にその得物が届く距離までこられる訳がないのだ。

実際、艦娘が陸に上がっても常人とはかけ離れた力を有するとは言えども、それではただの的だ。そんなことは海上であって初めてできることなのだ。

 

かなり長くなったが閑話休題

 

(サアテ、邪魔ナ艦載機を落トスカ。)

 

そう言って艦載機を振り払おうとしたとき、急に艦載機が港湾棲姫の腕を左右に引っ張りだす。

 

「無駄ナマネヲ……少シ狼狽エタノガ馬鹿ミタイダ。」

 

そう言って左右に大きく開かれた腕を戻そうとする――――その時だった。

 

フウッ………

 

「ナン――ダニィ!?」

「これを……待っていた!!!」

 

そう言って煙の中から出てきたのは瑞鶴、いつの間にか迫ってきたのか。そんな状況、だがそれでも港湾棲姫は動じない。

 

(距離ヲツメテモ無駄ダ!貴様二近接戦闘用ノ武装ハナイ!)

 

そしてその思いは瑞鶴が懐から取り出した物によってすぐに壊れる、懐から取り出したのは伊勢からもらった「お守り」すなわち―――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「刀」である

 

(これを待っていた……!)

 

そう瑞鶴は思う、瑞鶴が思いついた作戦は至ってシンプル。ただ「接近してぶった切る」、それだけである。先程話した装甲の弱点などの事は瑞鶴達は知る由もない、つまり推測の域をでない「懸け」なのだ。

そして接近する為にはいかに意識を集中させないかが重要だ、その為に瑞鶴が考え出したのは姫、鬼級にのみ見られる特徴である「人間並みの知性」を逆手に取った作戦。

人間とは元は感情的な生き物だ、それを理性によってコントロールすることで他者との関りが保たれる。そのため人間は感情に流され難くなるのだ、しかしそれは社会という手本があってこそ。その手本がない深海棲艦達に感情を抑えるほどの社会性があるのか、いや、ないだろう。

瑞鶴はそれを利用した、北上の魚雷二段撃ちや駆逐艦の攪乱戦法により港湾棲姫を煽り、冷静な判断能力を無くす。

そして艦載機を操作して胴体をがら空きにした後、ミサイルの煙に紛れて接近する。全てはこの瞬間の為に用意された前座にすぎないのだ。

そしてその展開の速さ、いくら高練度の艦娘が集まっているといえどここまで五分もたっていない。その短い時間でタイミングを逃さずに、それでいて最短のルートでここまで運んでみせた瑞鶴はやはり天賦の才を持つのかもしれない。

 

「クソォォォォッ!!」

「はぁ!!」

 

ズバシャッ!

 

伊勢や日向の様に剣術の訓練など瑞鶴はしていない、だがこの場においてはそのような技術は必要ない。必要なのはただ刀を降りおろす力のみ、それだけあれば――

 

「グ、ギ、ガァァァァァ!!??」

 

左肩から袈裟懸けに切られた箇所から青い体液が勢いよく吹き出す、刀身とその身を蒼く濡らしながらも瑞鶴は更に横に凪ぎ払おうとし――――

 

バスッ……ガシッ

 

「!?」

「ヤ、ラセル、カァ……!」

(まずっ…!抜けない!)

 

あろうことか港湾棲姫は艦載機に押さえられていた手の艤装をパージ、そのまま素手で刀を掴んだのだ。真剣白刃取りのような物ではない、腕には刃が食い込み絶えず体液を流し続けている。

流石に手の艤装が外れるということは考えていなかった瑞鶴、刀を手放して後退しようとするがそれを許すほど港湾棲姫は甘くない。

 

「ユルサン、ゾォ……!!」

(間に合わない!)

 

左肩から深く切られ、人間の内臓のような物が少し見えている状態にも拘わらず、瞳に憤怒の炎を灯した港湾棲姫は砲台を全て瑞鶴に向ける。

無駄だとわかっていても飛行甲板に盾にしようとする瑞鶴、怒りのままに撃たれようとする砲撃の衝撃に備えて身構える。

 

「シネェェェ!!」

「っ!!」

 

と、その時。

 

 

ビュン――――――スパコーン!

 

 

「ナニ…………グッ!?」

 

 

そんな音が聞こえてきそうな程に綺麗に矢が飛んできて、見事に胸の位置を、つまり心臓を貫いた。

その矢は港湾棲姫の目の前に立っていた瑞鶴の真横を髪の毛数本と共に通り抜け、正確に寸分の違いもなく貫いていた。

一歩間違えれば瑞鶴の耳が持ってかれたかもしれない危険なコースを易々と、かつ咄嗟に選び成功させたのは――勿論加賀である。

 

「ガッ……ゴッ、ボッ……」

「…………」

 

最初は何がおこったが解らず、不思議そうに自身の胸を見ていた港湾棲姫。しかし漸く状況が飲み込め、叫ぼうとした口から出てきたのは声でなはなく、青い体液。

そのまま自身の胸を掻き毟る様にさわっていた彼女は、やがて大量の青い体液を海に溶かしながら膝をつき、そのまま倒れるとゆっくり沈んでいった。

 

「………………」

 

誰も喋らなかった、聞こえるのは瑞鶴達の荒い息づかいのみ。やがて扶桑がポツリと言った。

 

「……状況終了」

「…………やっ、た?」

 

 

「やったぁぁぁぁ!!」

 

港湾棲姫、撃沈――それは瑞鶴が接敵してから二時間のことであり。港湾棲姫と対峙してから僅か十分足らずのことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府地下、司令部

 

「港湾棲姫を中心とした別動隊の反応、消失しました!」

「球磨が戦艦レ級を鹵獲しました!これにより、鎮守府襲撃部隊の全滅を確認!」

 

大淀と工厰から避難してきた明石から次々に上がるのは終息していく戦いの報告、提督は予想しながらも改めて安堵の息を漏らす。

と、明石と大淀が雑談を始める。本来ならば叱るべきだが、殆ど勝利確定の状態なのでなにも言わない。

 

「球磨が勝手にレ級を捕獲したのにも驚きましたが……まさか深海棲艦がこんな搦手を使って来るなんて。」

「奴らだってアホじゃないですよ、ちゃんとした目的があって行動を…………」

 

と、ここまで言って明石は不意に言葉を止める。そして顎に手を当てて考える仕草、それを見た提督は大淀に一言。

 

「大淀、第零簡易泊地に連絡。大和に繋げ。」

「第零って、あそこですか?…………いいですけど、いまだに何であそこに簡易泊地を作ったのか私わからないんですよ。」

 

少々訝しみながらも通信を繋ぐ大淀、間もなく「繋がりました」という声と共にピコン、という可愛らしい音。そして正面モニタに写ったのは大和の姿だった。

 

「提督、全ての準備が完了しました」

「ご苦労様、そのまま指示があるまで待機」

「了解」

 

短いやり取りで会話を終えた提督は通信を切る、はたしてこれだけのために通信する必要はあったのか?という大淀の疑念を余所に明石が声を上げる。

 

「やっぱりおかしい……」

「どうしたの明石?」

「扶桑さんも言っていたんですが、この戦いなんか妙です。」

 

妙とは、どういうことだろうか。大淀が明石に呼び掛けようとし――――

 

 

 

 

ファンファンファン!!!

 

 

 

「「!!!」」

 

鳴り響く警報、これは深海棲艦が確認された時の警報だ。

しかし、確認された深海棲艦の艦隊は全て把握している。この警報がなるのは新手が来たときだ、ならば来たのだろう「新手」が。

流石にこのままいかないと予想されていたので、敵の出現自体は余り驚くべきことではない。

が――――

 

「て、提督!」

「何だ?」

「敵艦隊出現です!」

「こ、こちらもです!」

「狼狽えるな、場所は?」

 

慌てる二人をよそに、落ち着いている提督。しかし二人は同時に叫ぶ。

 

「場所は……三浦半島沖三十キロです!」

「此方はそちらから三十キロ東に出現!」

「数は?」

 

突如として現れた増援の位置に衝撃を受ける二人、そして更に艦種と数を確認する。

 

「両方とも特殊個体はなし、駆逐艦と巡洋艦のみ。」

「数は……うそ!?に、二百と四百、先程の港湾棲姫の艦隊とほぼ同規模とそれ以上です!」

 

ここまできて、二人はほぼ同時に結論にいたる。

 

「ねぇ明石、これって……!」

「ええ、やっと扶桑さんが言っていた『違和感』の正体がわかりましたよ……!奴等の真の目的、それは――――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「東京からの避難民を皆殺しにすることです……!」

 

深海棲艦は基本的に知能を持たない、しかし異常に力を持った個体は例外的に知能を持つ。それにも優劣があり、幼稚園児並の知能しか持たない個体から、天才的な作戦を建てる策士もいる。

しかしそんな時でも深海棲艦には変わらぬ行動原理がある、それこそが深海棲艦の存在理由にして最大の目的、即ち――――

 

「人類の抹殺」である。

 

 

 

 

 

相模湾

 

「やられた……!だから、だから……!」

「まんまとやられたね……!」

「ど、どういうことですか北上さん!?」

「私達はまんまと嵌められたってことよ、瑞鶴。」

 

そう、今までの作戦行動は全てブラフ。思えば妙だったのだ、人類を一人でも多く殺すことが目的の深海棲艦が今は人っ子一人居ない東京を襲う意味など無かったのだ。

それこそが違和感の正体、扶桑が通常の深海棲艦との行動パターンとの間に見えたズレである。

 

 

 

 

横須賀鎮守府周辺

 

「フフフ……今更キヅイテも遅イワ、モウ貴女達ニハトメラレナイ!」

「…………」

 

日向との戦闘と周辺艦の援護によりもはや轟沈も時間の問題となっている戦艦棲姫、それでも彼女は余裕な表情を崩さなかった。

そして後方からオドロオドロしい叫び声が幾重にも重なって聞こえたとき、彼女の笑みは頂点に達した。

 

「キャハハハハ!!!コレデ人間ハ全テ皆殺シ!」

「…………なるほど。」

 

ひたすら笑い続ける戦艦棲姫を日向は冷静に見つめて、一言だけ言った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それでアイツに勝ったつもりか?」

 

 

 

ほぼ同時に、横須賀鎮守府の地下で提督は獰猛に笑って言った。まるでそう、何処かの新世界の神(笑)のように。

 

 

 

「…………計画通り、か。」

 

 




ただ今、応答者が不在のため、自動プログラムが対応しま――――

「ちょっと待った!」

ガタッ

「やっと、やっと、正体が明かせる……!」

思えば初登場からずっと後書きで大和と絡ませられ、正体も明かせてもらえない日々。
それもやっと次回で終わる、これで……!
その前に、

次回 「砲撃の余韻は誰が為に」

やっと私の正体が――――











ガチャ

「行くわよ、武蔵。」

……………………………………………………………大和ォォォォ!!!




プツッ


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二十二、砲撃の余韻は誰が為に

ま、間に合った~!!


皆さんこんにちは、大和です!いま私は……

 

「御託は後だ、もう奴らは来るぞ。」

 

わかってますよ武蔵、貴女こそ兵装の換装は済んだの?

 

「無論だ、弾薬も燃料も満載だ。」

 

わかりました、ではプランBに移行。海岸線に置いてあるあれを取りに行きましょう、ついてきてください。

 

「承知した」

 

 

 

 

 

 

 

 

突如として現れた二つの深海棲艦の大軍勢、一方は東京湾の入り口を塞ぐように陣取っており、もう一方は鎌倉に設置された東京住民の避難地域に向けて進行していた。

 

「深海棲艦尚も進行中!予想到達時間はヒトロクマルマル、後二時間です!」

「東京湾の前に出現した軍勢も進行を開始!このままじゃ……!」

 

この二つの軍勢はそれぞれ東京と鎌倉を目指していた、鎌倉には避難民約一千三百万人が詰め込まれている。お世辞にも広大とは言えない鎌倉にいる影響で避難所はある程度内陸に位置しているがそれも気休め程度、戦艦級の砲撃は余裕で届くだろう。

一応艦娘は配備されているが僅か三艦隊のみ、それも練度は高くない。(まあ横須賀と呉が異常に高いだけだが)陸自も配備されており、そこそこの数はいるが精々一艦隊分の働きをすれば奇跡と言ったところか。

それに対して敵は二百隻、いくら特殊個体が居ないとはいえ持ちこたえきれない。たとえ駆逐級一隻でも避難区に侵入を許せばたちまち数多の死人が出る、たとえ艦娘にとっては造作もない相手でも生身の人間では十二分に脅威足りうるのだ。

東京から今すぐに全速力でいけばタッチの差で間に合うが、そこに約二倍の数の深海棲艦が立ちふさがる。しかも積極的に東京湾に侵入しようとするのだから見過ごせない、否が応でも戦う必要がある。

普段通りの彼女達ならば横須賀と呉とのコンビネーションで特殊個体の居ない軍勢など文字通り瞬殺、それから行っても十分間に合うのだが……

今の彼女たちは弾薬及び燃料を半分以上消費、加えて重度の疲労だった。それでも選り抜きの精鋭達である、倒すことなど造作もない。だが時間がかかる、それこそ普段の倍くらい。それでも稼げる時間は僅か十分ほどである、しかしそれだけあれば深海棲艦にとっては十分なのだ。

唯一間に合う可能性があるのは出現した深海棲艦のちょうど後方にいる瑞鶴たちであるが、彼女達は今さっき圧倒的に不利な戦いを終えたばかり。とてももう一戦できる状態ではない。

 

「東京湾にいる全艦隊を今出現した艦隊の防衛にあたらせろ、両方のだ。東京湾を封鎖、防衛線を構築しろ。」

「だめです!間に合いません!」

「こちらも……東京湾封鎖できません!」

 

まさに絶対絶命、そしてここで提督があり得ない発言をする。

 

「そうか……ならば現時点を持って鎌倉防衛を放棄、同地に駐留している陸自と艦娘を下がらせろ。東京湾に出現した艦隊はこちらにいる艦娘を総動員して殲滅だ。」

「!?」

「正気ですか提督!!」

「ああ、俺は至って正常だ。」

 

こんな時でも憎たらしいほどに落ち着きを見せている提督、それどころかこの状況を楽しんでさえいる。その証拠に口は三日月を描き、目は大きく見開かれている。

当然である、なぜならばここまで全てが提督の予想通りなのだから。

 

「ダメです、その指示は聞けません。」

 

毅然として言い放つ大淀、彼女もまた提督とは長い付き合いだが、だからこそ聞き入れられないという意見ある。だがそこに明石が割って入る。

 

「……わかりました、全軍に通信します。」

「明石!?」

 

驚き叫ぶ大淀、それでも尚淡々と各艦隊へと通信をしていく明石。最初は戸惑っていた大淀も次第に後には引けない状態だということを自覚、すぐさま明石の手伝いに入った。

 

「瑞鶴達にはそのまま八丈島鎮守府に行くよう伝えろ、くれぐれも見つかるんじゃないぞ。」

「了解」

「提督、日向から通信『我、戦艦棲姫ヲ見失エリ』」

「わかった、日向は一旦補給に下がらせろ。親玉を逃がしたのは痛いが、今はそんな場合じゃない。」

 

すぐさま指示を飛ばす提督、ものの数分で東京湾の防備は完全なものとなった。だがそれはあくまで東京湾、肝心の鎌倉周辺の防備は手薄、それどころか提督からの指示で艦娘と陸自が撤退してしまったので丸裸なのだ。

 

「明石、大和と通信回線を開け。傍受の恐れはあるがこの際気にするな。」

「り、了解。」

 

急いで通信を開く明石、程なくして大和と通信が繋がる。

 

『此方大和、どうされましたか提督?』

「もうすぐそちらに敵さんがわんさか来る、準備は出来ているのかと思ってな。」

 

その言葉を言われたとき、大和は頬をぷくーっと膨らませた。

 

『心外ですよ提督!準備は全て滞りなく完了しました。』

「そうか……なら合図と共に発射、武蔵も同様だ。」

 

了解、と返答した大和の全身が映った時に明石の顔が強張る。

 

「な、なんで……!」

「?どうしたの明石?」

 

声を震わせて言う明石、そしてプルプルと話し始める。その視線の先には大和の大きな艤装……に取り付けられた大きな砲身だった。

その砲身の長さは大和の身長の1.5倍はあろうかという長さで、それは某宇宙戦艦のような形をしていた。

そのまま構えるとちょうど大和の腰辺りにくるその砲の後方からは長いケーブルが繋がれており、その先は沿岸に続いていた。

 

「あれは私が提督に頼まれて開発していた……波動砲(予算殺し砲)!?」

「…………何それ?」

「かなり前に提督に『大規模作戦用の決戦兵器』というコンセプトで開発を依頼されたんだけど……色々と問題が重なって作成中だったけど放棄してたのよ。」

「それを少しばかり流用させてもらった。」

 

正式名称「明石工廠製12㎜口径プラズマ粒子波動増幅発射熱線砲改三式」、通称「波動砲」。

前述の通り明石が作成中で放棄したものを提督が密かに工廠で妖精と共に完成させていた物、本来では明石が完成させるつもりだったのだ。

勿論、単に彼女の技術力不足ではない。寧ろそんな物を完成させるのは造作もない、だがそれでも数々の問題を抱えているのだ。

まずはその性質、大規模作戦用に開発されたとだけあってその破壊力は桁違い。だが艤装の上から装着する為、各々の艤装とリンクを確立させないと機能しないのだ。当然一人ずつそんな作業をさせるほど暇じゃない、それにそもそも艤装に合う合わないもあったのだ。

またそれだけに留まらない、他には2つほどあるのだが……

 

「確かに、これなら殲滅できるかもしれません。」

「だろ?」

 

感心した様子の明石に満足気に答える提督、しかしそこで明石は一旦言葉を切る。

 

「ですが、駄目です。知ってるじゃないですか、私達があれの配備を諦めた最大の理由。」

「ああ、あれか。勿論把握済みだ、元々これ一発で十分だしな。」

「ならいいです…………提督、全深海棲艦の座標をスキャン完了。」

 

提督は頷き、大和に指示した。

 

「チャージ開放、開始しろ。」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『チャージ開放、開始しろ』

 

背には鎌倉、目の前に広がるは海。普段ならば絶景として人気の観光名所になるここ一帯は異様な雰囲気を醸し出していた、人っ子一人居ないどころか海鳥は消え魚は姿を現さない。

それもこれも全ては彼等のせい、目の前に迫る黒い異形達。

そんな海に立っている人影が二人、日本を代表する戦艦にして今現在適正者が一人ずつしか居ない艦娘。

名を「大和」、「武蔵」という。

 

「大和」

「ええ、わかっているわ。」

 

背に背負っていた砲身を腰だめに構える大和、彼女の艤装の中では妖精さんが上へ下へと大忙し。

対する武蔵も通常の艤装に加え、全身に箱の様な物を取り付けている。

やがて大和の右目にス○ウターの様な物が装着される、そこに標示されたデータを確認して準備が完了したことを知る大和。

 

「提督、準備完了」

『発射と同時に45度だけ取り舵を取れ、それで深海棲艦は纏めてお陀仏だ。』

『大和さん!提督がどうにか実戦に耐えうるように改修したからと言っても、その熱量に砲身が耐えられるのは十五秒です、その間に切り離しを。』

「わかったわ。」

 

これが提督と明石がこの兵装の使用を断念した残り二つの理由の内一つ、即ち「耐久性」だ。

この兵装は莫大な威力を誇るが自身が発する熱量に砲身や兵装そのものが耐えられないのだ、そのため使い続ければ爆発して大ダメージ、寸前で砲身をパージしてももう使えなくなる。

要は「消耗品」になってしまったのだ、一本を作るだけでも大型戦艦艤装を作るのとほぼ同じ資材を消費するのだ。とても量産などできない、できて一本か二本だ。

 

「此方武蔵、同じく準備完了した。」

『そちらも終わった後は兵装をパージ、通常砲撃に移行しろ。』

「「了解」」

 

着々と進んでいく発射準備、迫る黒い異形達を前にそれはまるでそう、獲物に食らいつくのを待ちきれんばかりとする猛獣の口。

いや、今からその異形達を食らいつくすその兵装に其の表現は正鵠を射ているのだろう。

 

「全艤装の動力を波動砲に、総員対衝撃、ショック閃光防御。」

 

故にその猛獣はアギトを開く

 

「ターゲットスコープ、オープン。電影クロスゲージ、明度25(フタゴー)。」

 

そのアギトは只のアギトに有らず

 

「セーフティ解除、目標距離7500(ナナゴーマルマル)。」

 

今鎌首をもたげ、その閃光の先は黒き異形を捉える

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府地下

 

「なぁ明石、一ついいか?」

「はい?」

 

画面越しに迸る閃光が大きくなっていく中でふと、提督はたずねた。

 

「あれ、頓挫して放棄されていた……筈なんだが。わざと途中で放棄されている用に見えてな、実際あんな問題はお前ならすぐにでも解決出来たはずだが?」

「………………」

 

目を伏せ、少し黙り混む明石。暫しの間を経て、ポツリポツリと話始める。

 

「あれはまだ、ヒトには過ぎた『神の火』です。ふと、思ったんですよ。私はまた、同じ過ちを犯してしまうのかな、と。」

「それが始まりを作った者の思い、か。――もし、俺があれを量産しろと言ったら?」

「……提督と言えども、その命令は聞けません。精々抵抗させてもらいますよ。」

 

キッパリと答える明石、それを半ば予想していた提督はフッと笑みを漏らす。

 

「そう言うと思って、あれの資料は全部破棄してきた。なに、横須賀鎮守府が壊滅したんだ、資料の一つや二つほど無くなるのは当たり前だ。」

「提督…………ありがとうございます。」

「礼はいい。それより始まるぞ、その波動砲の最初で最後の発射が。」

 

そう言って、提督は視線をモニターに戻す。

 

 

 

 

 

 

 

 

相模湾

 

「上下角誤差修正、25(フタゴー)。」

 

同時に背後からアンカーが射出され、直ぐ様海底に突き刺さる。これにより体勢を維持できるようになり、大和は目を細くする。

 

「エネルギー充填100……120……150……180」

 

迸る閃光はもう臨界を当に越え、砲身は赤く染まり悲鳴を挙げている。

 

「発射十秒前、圧縮弁開放、艦内妖精は安全区画に退避。」

 

その閃光は最早目標である深海棲艦からも視認でき、それを見た彼らが困惑の意を示す。

 

「五…四…三…二…一…!」

 

 

 

 

そしてアギトは開かれる

 

 

 

 

 

 

 

 

『波動砲、発射!!』

「てぇーーー!!!!!」

 

 

 

 

 

 

カッ!

 

 

 

 

余談ではあるが、この波動砲を時折提督は「予算殺し」と呼称する。

それはこれの量産が見送られた最後の理由、即ち「消費する資材」である。

現在の技術レベルではこのような兵装を開発することは不可能である、明石と言えどもそう易々と覆せるものではない。ならば、どうするか。

明石は現在の技術では不可能な所に艦娘の技術を応用したのだ、これにより波動砲が完成した。

だが艦娘の技術を利用したが故にその兵装は艦娘と同じ資源を使うのだ、問題はその量。

 

その数、一秒に凡そ燃料を一万。

同じく、弾薬を同じ秒で一万。

 

砲身の限界時間まで発射したならば、およそ一五万。両方あわせて三十万である、提督諸兄にはお分かりいただけただろう、これがどれだけ化け物か。

瞬く間に敵だけでなく資源をも食いつくすその姿は正に、予算殺しである。

 

閑話休題

 

 

 

そして、燃料一万分の兵装は発射される。

それは呆気になく敵陣に届くと、射程線上にいた敵艦を文字通り「消し飛ばした」。

圧倒的な熱量により爆発する間もなく蒸発した深海棲艦、大和はそれを確認すると腰を踏ん張り砲身を動かし始める。

 

「ううっ!くぅぅ……!」

 

先端部をたった45度動かしただけ、それだけでも射程は大幅にぶれる。

結果、まるで光の剣のように振り払われたことにより全ての海上の深海棲艦が消え失せる。すると……

 

「キシャァァァァ!?!?!?」

 

苦悶の声を上げながら出てきたのは潜水艦、敵艦最後の生き残りである。

海上に浮上していなかった為に直撃は免れたが、急激な海水温度の上昇によって驚き浮上してきたのだ。

 

「待っていたぞ……そこか!」

 

待ち構えていたように武蔵の艤装に追加された箱の様な物が一斉に開く、中からでてきたのはマイクロミサイル。

それが一斉に潜水艦に殺到する、急速潜航しようとしているが時すでに遅し。

 

「クキャァァァ……」

「状況終了」

 

断末魔の雄叫びを聞きながら提督に報告する大和、僅か五分の作戦であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府地下

 

「これで幕切れか、呆気ないものだな。」

「「………………」」

 

明石と大淀は同じポカンとした顔をしている、それほど迄に信じられない光景だったのだ。

本来ならば大規模艦隊を投入すべき艦隊をたった二隻でそれも五分で殲滅してみせたのだ、これを驚異的と言わずしてなんと言おうか?

 

「…………少し行ってくる、明石、暗号電文『鹵獲艇第105号』発令しろ。」

「り、了解!」

 

それだけ言うと、提督は何処へとさっていった。

 

 

 

 

どうやらこの戦い、まだ終わってないらしい。

 

 

 

 

 




「勝って兜の緒を締めよ、か。」

次回
エピローグ「フェイク・ユートピア」


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二十三、フェイク・ユートピア

えー、お久し振りです皆様。銀色銀杏です。
今更どの面下げて帰って来たんだコノヤローと言う方には申し訳ないです、体調管理が行き届いてませんでした。

……ここまでいいですよね?正式で誠心誠意の謝罪は活動報告でしましたからね?

そして大変言いにくいことなのですが…………来週、定期テストがあるので休載します。
「またかよ」、そう思った人。貴方は間違っていない。
本当に申し訳ないです…………



謝罪はここまで!では本編をどぞ~


やっと設定の「???」を出せた…………
エピローグです!



日本領海内、沖ノ鳥島付近

 

ここにはかつて日本最南端である沖ノ鳥島とそれを監視する観測所があった、そう「かつて」は。

それも今は昔の話、既に観測所は廃墟となっており、沖ノ鳥島は辛うじてその先端を出しているのみだった。とは言っても人間のいない場所に深海棲艦は用はなく、無視されている。

 

「ク……クククッ、ククククククッ!」

 

そこに深海棲艦が一隻、ボロキレのような姿でやってきていた。艤装は大破し轟沈寸前、体も所々深手を負っている。

それでも尚身体から発するその迫力は姫と呼ばれるに相応しく、随伴艦を一隻も連れて居ないのも関係ないように思える。

しかしその迫力は相手を圧迫するものよりも、相手を呪うような物になっていた。

 

「コレデェ、コレデアノ方モオ喜ビニナル!」

 

誰も見ていない海、それでも彼女はまるで多くの観客に見守られているかのように振る舞う。

 

「今頃ハ皆殺シニサレテイルハズ……フフフッ、脳ガ、脳ガ震エルゥ!!」

 

最早その瞳に仲間を率いた知性は宿されておらず、ただ狂気によって彼女は突き動かされていた。

ひたすらに高笑いを上げた後、再び進み始める戦艦棲姫。

 

「今ハ引イテアゲル、デモ私ハ必ズ帰ッテクル!アノ方ニコノ海ヲ全テ捧ゲルマデ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「いや、テメェに次何てねーよ。」

「!?」

 

突然聞こえる声、当然周りには誰一人としていない。辺りを入念に見渡してみても声の発信源のようなものは確認できない、それどころか物陰すら見当たらない大海原だ。

ならば、空耳か。

きっと疲れたのだろう、体もこんな状態だし、一度本拠地に帰還して報告を終えたら休もう。そう戦艦棲姫は思って踵を返そうとし―――――

 

 

 

「つれないな、悪いがもう少し付き合ってもらうぞ。」

 

再び聞こえた声に今度は躊躇なく活きている砲を辺り一帯に向けて放つ、声がして即座に放たれた砲撃は声がした辺り一帯を薙ぎ払った。

それでも死体やスピーカーの類は浮かんでこない、ならば一体どこから?その時自分の電探で捉えた反応が一つ、高速で此方に迫ってきている。

そしてその反応は戦艦棲姫に迫っていき、突然消えた。まるで蒸発したかのように、こつ然と。

本来掻かないはずの脂汗が自身の背中にじっとりとする気配を肌で感じながら、必死に辺りを見回す、先ほどよりも念入りに、目を皿のようにして。

 

やがて気づく、消えたのではない。重なっているのだ、自分の反応に。

 

それの意味するところは――――

 

「上カ!」

 

勢い良く上を見上げた彼女の目に写ったのはなんの変鉄もない青空、考え過ぎたか?ならどこに――

 

「下だ」

 

その疑問に答えるように海面から出てきた人物は浮上した勢いのままに戦艦棲姫の顎を殴り飛ばす、戦艦棲姫は人形であるためその衝撃には耐えられない。直ぐ様浮いてしまった体勢を立て直し、距離を取った。

 

「貴方、ナニモノ?」

「別に、通りすがりの偽善者(せいぎのみかた)さ」

 

出てきたのは白い外套を纏った者、顔は出ているが覚えはない。

対峙するその者は果たして、戦艦棲姫の気配に圧倒されることもなく、飄々とした調子で話続けていた。

 

「…………」

「戯れ言はここまで、少し付き合ってもらおうか。」

「断ったら、どうすr――」

「答えは聞いてない、強制だ。」

 

相手が誰か解らない以上迂闊に手は出せない、だがそこでふと戦艦棲姫は気付く、声が男であることに。つまり、それの意味する所は――

 

「貴様、艦娘デハナイナ。」

「それがどうした?」

「ナラバ、死ネェ!」

 

此処で艦娘に会ってしまえば終わりだ、しかし相手が男ならば話は別だ。何故水面上に立っていられるかは疑問であるがそれはこの際関係ない、さっさと捻り潰す。

そうして彼女は手を伸ばして、謎の男を掴もうとして――

 

 

「アレ?」

 

次の瞬間、すっとんきょうな声をだす。

状況が理解出来ない、今自分はこの男の首をつかんで絞め殺そうとしたはず。それが、それが何故――

 

 

“腕がなくなっている?”

 

 

無理もない、自分の気付かぬ内に、それこそ痛みさえも感じずに腕が、それも両方無くなっているなど理解しろと言うのが無理だ。

 

「ナッ――ギャッ!?腕ガァ!腕ガァァァ!!」

「うるせぇな、少しだまらせろ。」

「ナニヲ……ヒッ!?」

 

最早理解が追い付かない戦艦棲姫の首もとに寄せられたのは錨、それの丁度棘の部分。無論、刺されば死ぬ。

そしてその錨を首に着けたのは今まで一切の気配を感じさせなかった第三者、此方は同じく白い外套を纏うが、顔は見えない。

 

「ナニ……モノ……?」

「…………アラヤット」

 

その者は小さくそう名乗ると、直ぐ様押し黙った。

それを確認すると、男は静かに話し出す。

 

「どうだい、敗軍の将になった気分は?」

「クククッ……ソレヲ聞クトイウコトハ、サテハ人間ノ頭ダナ?」

「流石、だな。」

 

戦艦棲姫は自然と笑い始める、今からこの男の絶望の顔が見られると思うと。

 

「ワザワザ頭自ラデムカエトハナ……イイコトヲ教エテヤル、今頃貴様ラノ――」

「鎌倉を襲撃した部隊なら、さっき消えたぞ。文字通り、な。」

「ナ……」

 

今、こいつはなんと言った?消えた?そんな馬鹿な、アレだけの数をそんな簡単に出来るはずがない。

さも当然のように答えた男は、それよりも、と言って訪ねる。

 

「聞きたいことがある、拒否権は無しだ。」

「貴様ニ答エルコトナド!」

 

間髪入れずに答える戦艦棲姫、だがそれと同じくらい間髪入れずに男は問うた。

 

 

 

 

 

「“角なし”、これに心当たりはあるか?」

「…………」

「アラヤット、やれ」

「ゴガッ!?ナ、ナンダコレハ――――ギ、ギャァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァァ!!!!!!!!!!!」

 

男がアラヤットとやらに命じた瞬間、戦艦棲姫の中に黒い物体が流し込まれる。

次の瞬間、身体が悲鳴を上げた。本来痛みを余り感じない深海棲艦がここまで悶え苦しむとは、人間が飲んだら恐らく即死、いや触れただけでも命の危険がある。

その名は「対深海棲艦用内部融解液(比叡カレー)」。

 

「中が少しばかり溶けたが、まだ喋れるだろう?」

「人間ドモニ……白状スル情報ナド……」

「原液を流し込め」

「ゴボッ!?#&&**#○#**◎●&@@◇◎@@◇◆◆〒〒@@*▽〓●▽▲▲▽◎◇◇*●!!??」

 

最早声にもならない声を上げる戦艦棲姫、およそコップ一杯ほど流し込んだあとに再度訪ねる。

 

「言うか?」

「ィゥ……」

「のどにだけ高速修復剤をやれ」

「グフッ、ハァ……ハァ……」

 

内臓は恐らく全て溶け、あと少しすれば身体が内側から溶け始める。もう放っていても死ぬであろうその身体に少しの高速修復剤がかけられる、これで辛うじてではあるが会話が成立する。

 

「アノ、オ方ハ、真ニ、海ヲ、統ベルオ人。」

「そんな安っぽい事を聞いたんじゃない、何処にいる?」

「シルカ、イッカイノ、統括デアル、私ナンゾ、ガ、シル、コト、ナ、ド………」

「おい……?おい、おいっ!」

 

提督が異変に気がついた時には遅く、もう戦艦棲姫は事切れていた。

ただ、その表情は後悔や憤怒にまみれた物ではなく、寧ろ残虐に笑っていた。

 

「…………結局、わからずじまい。」

「いやアラヤット、そうでもねぇ。」

「?」

「仮にも艦娘の本拠地近海の司令を勤めていたコイツでも知らない、と言うことはそれなりの重要人物だ。」

「……………………」

 

押し黙るアラヤット、言外に「希望的観測だ」と言っている。まぁ実際の所はそうである、今まで深海棲艦が組織だって行動していると言うこと自体が有り得ないのだ。

もしそんなことが知れたら大変な事になる、深海棲艦が単に憎悪のみで動く獣のような存在から、悪意を持って人を侵略する生命体へとなるのだ。

そうなればもう手段を選んでいられなくなる、恐怖にかられた各国はこぞって核という最終兵器を使用。どっかの暗殺拳法の世界のように、世界は核に包まれて崩壊するだろう。

 

「もう、こんなこと…………」

「なら、降りてもいいんだぜ?むしろ頼んでもいないのに、ここまで付き合ってくれたことに感謝だ。」

「………………ずるい、そんなこと言われたら……」

 

アラヤットは男――提督に抱きつく、そして絞り出すようにそう言った。

それを見て提督は顔を伏せる、そこに少しの謝罪と感謝を込めて。

 

(待ってろ「角なし」、アイツと***の恨みを……)

「……………思い知りやがれ。」

 

そう言って顔を上げた提督の表情は、修羅の如く何者をも恐れない覚悟であった。普段ならば絶対に見せない、復讐の鬼の顔。

が、それも一瞬。

 

「帰るか、流石にこれ以上は大淀も誤魔化せん。」

「……………うん」

「付き合ってくれてあんがとな、い―アラヤット。」

 

いつもの顔に戻ると、提督は優しくそういった。

 

「帰るぞ」

「はい」

 

そういって踵を返す提督の脳裏には明石とのやり取りがよぎる、ここに来る前の短いやり取りだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

数十分前 横須賀鎮守府地下

 

 

 

 

『提督、球磨が鹵獲したという戦艦レ級についてですが……』

『殺せ』

『……お言葉ですが、情報源として活用できるのでは?すぐに殺すと言うのは聊か早計かと』

『深海棲艦はすべて殺す、一片の慈悲も無く』

 

提督は考えを改めなかった、頑なに。たとえ明石の進言だとしても彼は深海棲艦を深く恨んでいる、表に出していないだけであって事実、彼は鹵獲などを一切行わず皆殺しにしている。

 

『待つクマ』

『……すまんが球磨、お前の頼みでもそれは聞けんぞ』

『奴は深海棲艦に何の未練もないクマ、ただ強さを求め続けた球磨の同類クマ』

『だが――――――』

 

これは決定事項だ、と続けようとしていた所に明石が割って入った。

 

『提督』

『何だ、お前が頼んでも――――』

『その深海棲艦の身柄、私に預けてもらえないでしょうか?』

『駄目だと言っている』

『彼女で実験をすれば、提督の望む研究の成果と成功率は格段に上がるかと』

『…………』

 

 

黙る提督、今彼の頭の中では感情と理性が天秤に掛けられていた。そこへ球磨が追撃をかける、提督の精神の大部分を占めることを言った。

 

『私の目的もあるクマが、提督自身の目的もこれなら達成できる。一石二鳥クマ。』

『俺の目的、か』

『クマ、扶桑――いや、提督から聞いたクマ。提督はいつもこう話していたって、それは――――――』

 

続いて出てきた言葉に思わず苦笑する提督、それはこのやり取りの中で初めて本心から見せた笑みであった。

 

『……明石、成果は出せよ』

『はっ!必ず』

『んじゃ、行ってくる』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

提督は今一度、球磨に言われた言葉を反芻した。

 

「艦娘の楽園、ユートピア。まさかそんな昔の言葉を覚えているなんてな」

「……でも、偽物だった」

「ああ、そうだ。俺が守ろうとしていたのは偽りの楽園、言うなれば『フェイク・ユートピア』か」

 

アラヤットの言葉に賛同した提督は、懐かしむような顔をしていた。そして少し言葉を切った提督はそれでも、と続けて言った。

 

「俺は今目の前にあるものがフェイクだったとしても、それを守り続ける」

「どうして?」

「偽物が本物に劣るとは限らない、からな」

「………フフフッ」

 

潮風を一身に浴びながら、提督とアラヤットの反応は次の瞬間にはレーダーから消失していた。勿論、視界的にも。

この一連の単独行動を知っている者は、当事者たち以外では数えるほどしかいなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

所変わって(?)横須賀鎮守府

 

既に最終決戦が終わってから早三時間、東京湾全域に広がっていた艦娘達も続々と戻って来ているのだが……

 

「…………なぁにこれぇ?」

「うわ~こりやまた派手に……」

 

瑞鶴達がまず目にしたのはほぼ更地となった鎮守府、港もかなりの損傷があり、かなり激戦だったことが伺えるがまさかこれ程とは。

だが続けて目にした光景に瑞鶴達は更に言葉を失う。

 

「うっそ……」

「……………マジで?」

 

そこに有ったのは艦娘寮、しかも周りがやけ野原にも関わらず全くの無傷。

と、そこに

 

「ふっふっふっ…………!」

「あ、明石さん!?」

「我が横須賀の技術力はぁ!世界一ィィィィィ!!」

 

と、何処かの軍人のような台詞を言いながら出てきたのは明石。聞けば何やらバリアで艦娘寮を守っていたらしい、どうやって作ったのかはついぞ聞かせてくれなかったが。

 

「おーい瑞鶴、ちょっと来い」

「提督!?なんでこんなところに?」

「戦闘結果の報告だ、秘書艦のお前も来てくれ」

 

と、つれてこられたのは仮設テントの中。中には既に加賀と扶桑と大淀が来ていた、本来の執務室はもうないので使えないのは仕方ないが、それでも五人も入ると手狭だ。

 

「まずは人的被害、加賀」

「はい、大破艦二十五、中破艦四十、小破艦百二、轟沈艦ゼロ。お見事です」

 

加賀が珍しく手放しで褒めている、当然だ。このレベルで轟沈艦を出さないということができるのは相当に優れた者のみ、提督はそれを聞いて安堵の表情を浮かべた。

 

「被害がなくて何より、次は建物の被害を扶桑」

「ええ、まず横須賀鎮守府は艦娘寮以外は全滅。ただデータは無事よ。それと民間の建造物及び公共物の損害は予想よりも大分少ないけど……それでもかなり出たわ。」

「最後に資源、大淀」

「はい、単刀直入に言うと…………横須賀、呉の鎮守府全ての資源が底をつきました」

 

それを聞いた瞬間、提督と扶桑が崩れ落ちた。

 

「わかってはいたが……キツイな」

「もうオリョクルは勘弁して……光のない眼をした潜水艦はこれ以上見たくないわ」

 

資源は毎週大本営から一定量が送られてくるのだ、その中には定期任務達成分も含まれている為、それなりに量はある。が、提督たちの資源最大保有量が三十万に対して定期分は僅か五千。

足りない、圧倒的に。単純計算で約六十週間、約一年分なのだ。

そして大淀の申し訳なさそうな声と同時に、更に追撃が襲いかかる。

 

「大変申し上げ難いのですが…………今回の建造物の修繕は此方の資源を使用するようにと大本営から……」

「それって、つまり……」

「はい、搬入された物はそのまま修繕に」

 

( ^∀^)( ^∀^) 終わった……

 

提督と扶桑が死んでいる中で、瑞鶴が素朴な疑問を口にする。

 

「と、言うより私達が活動できなくなるって大丈夫なの?」

「その点はご安心を、海田大将から大規模演習に参加した艦隊が丸々防衛に回るようです。」

「なるほど、それより資源だけど……」

「遠征をフル活用、オリョクルもするが先輩にも定期資源の搬入量を増加してもらう。」

「そうね、今回は首都防衛に排他的経済水域の開放までついてきた。ある程度の融通が利くはず、いや利かせるわ。」

「あ、生き返った。」

 

即座に打開策を提示する二人、だがまたしても横槍が入る。今度は加賀からだ。

 

「それなんだけど、ウチの各艦種の筆頭艦娘が休暇願を出してる。」

「マジで!?」

 

筆頭艦娘、それは人数が多い鎮守府でとられる手段。それぞれの艦種ごとにリーダー艦を設置、細かい指導などをさせるという物。

筆頭艦娘に選ばれるのはその艦種でトップクラスの実力者、それが軒並み休むと言うことは……

 

「あー、完全に機能停止だなこりゃ。」

「どうするの?」

「明石からここの修繕にどれくらいかかるか聞いているか?」

「最短で二ヶ月、遅くても二ヶ月半で。」

「うっし、ならアレだな。扶桑、ちょっと耳貸せ」

「…………そうね、仕方がないわ。そうするのが一番ね」

「?」

 

提督と扶桑以外にその意味はわからず、三人はただ首を傾げた。

そして会議終了後、鎮守府に待機していた艦娘全てに収集がかけられる。

彼女達は最早瓦礫の山となった鎮守府本館の前に整列していた、そこへ提督が登場。

 

「えー、とりあえず……有難う!皆死なずに帰って来てくれて本当に嬉しい、お疲れ様!」

 

提督はメガホンを使って話しており、声が届くのだが如何せん踏み台がないので逆に声しか聞こえない。

 

「さて、皆疲れているから率直に言おう。皆には重大発表がある、それは…………」

 

ざわ……ざわ……ざわ……ざわ……と、ざわつき始める艦娘達。鬱陶しいほど溜めた提督は満を持して、言葉を発する。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ただ今から二ヶ月間、全員に休暇を言い渡す!!」

 

 

 

……………………………

 

 

 

「「「「えええええええええ!?!?!?」」」」

 

突然の発表に驚く艦娘達、そんなとき

 

「一体どういうことよ……」

「あ、そうだ瑞鶴。」

 

いきなり名指しで呼ばれてギクリとする瑞鶴、どうしよう、何故か物凄く嫌な予感がする。

 

「お前、高校行ってこい」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「はぁぁぁぁぁぁ!?!?!?!?!?」

 

先程の倍に達する絶叫と共に、驚きを瑞鶴は感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やあ、少し良いかい?

 

ん?僕は誰かって?そんな些細な事は気にしないでくれ、そんなことより……

 

 

 

 

 

 

話をしよう

 

 

 

アレは何時だったか?今から五年、いや六年か?

 

まぁいい

 

あの事件は幾つも名前で呼ばれていたが……たしか一番有名なのはたしか…………そうだ、

 

「ラバウルの悲劇」

 

あの事件は悲惨だった、何人もの艦娘が犠牲になった。だが今でも原因は不明、公式では深海棲艦の奇襲だと報じられているけど。

 

え?そんなことが何で今出てくるのかって?

 

なんとなくだよ、なんとなく。

 

瑞鶴だって突然高校に行けなんて大変だな~僕だったらすぐに逃げるね。

 

?、だからそれとこれと何の関係があるのかって?

 

だから、なんとなくだよ。まぁ、記憶の片隅に止めて置いてくれればいい。

 

皆が覚えているだけで、幸せだろうから。

 

 

 

たとえ皆が忘れても僕だけは忘れない、あの光景を。

 

…………そろそろ時間だ、付き合ってもらって悪かったね。

 

じゃあまた、いずれ何処かで。

 

 

 

 

 

次章

 

「フレートガールズ・パニック」

 

 

 

一見関係のない事でも、全ては繋がっている。

 

高校に行くことになった瑞鶴

かつての悲劇、過ち

 

はたしてこれらにも当てはまるのか?

 

 

 

次回

 

「瑞鶴、高校入るってよ」

 

お楽しみに!




テスト怖い…………

因みに次回からここは「突撃!艦娘の休日!」をお送りします、お楽しみに!


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第三作戦 フレートガールズ・パニック!
二十四、瑞鶴、高校行くってよ


お、ま、た、せ、しました~!
遅れた理由を簡単に言いますと

赤点×3教科

筆者( ;∀;)

親(# ゜Д゜)

先生(# ^∀^)


こんな感じ…… です、はい。正直笑い事じゃないので、これから投稿が不定期になります……すいません。
ですが、この章は完結させますのでご安心を!
せめてこの物語が完結するまで、筆者が留年しないようにがんばります!
では、新章をとうぞ!



東京決戦から一週間後、東京

 

人々はついこの間までの危機など忘れ、すっかり日常に戻っていた。何時もどおりの光景、何時もどおりの喧騒、そこに何時もは居ない人物が一人。

 

「どうしてこうなった……?」

 

彼女――瑞鶴は一人語散る、その呟きは雲一つない青空に吸い込まれ、行きかう人々には聞こえない。

 

「まさか高校に行くなんて……」

 

瑞鶴は歩道で一人つぶやく。人々は絶え間なく且つ忙しく歩いている、それも当然今は朝。彼女はそこを普段の勝気な性格が嘘のようにトボトボと歩いている、某戦艦の言葉を借りるなら「空はこんなに青いのに…」と言ったようなかんじだ。

その瑞鶴の服装も普段の弓道着風の服装でもなければ、私服姿でもない。駆逐艦娘が身に纏うようなセーラー服を着ている、もちろんサイズは違うが。その制服はら○☆すたの制服に似ており、場所が場所ならばコスプレと思われているだろう。

だが残念(?)なことにこれはある学校の正式な制服だ、よって着ないという選択肢は存在しない。

 

「はぁ~~~~」

 

どうしてこうなったんだっけ?、瑞鶴は頭の中で再度愚痴りながら事の始まりを思い出す。

あれはそう、東京決戦から数時間後のことだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

遡ること一週間前

 

唐突な長期休暇を全体に言い渡した後、提督は詳しくは追って伝達する、とだけ言い残して去っていった。

全艦娘が混乱する中で、瑞鶴は大和から執務室に来るようにと言われた。

 

「まぁ、色々言いたいことはあると思うが――」

「当たり前ですよ!?長期休暇の件は執務室で話を聞いていたので納得ですが……休暇中の過ごし方は自由なのでは?」

「まぁ、その点も含めて最初から説明する」

 

と、提督は暫定執務室であるテントの中で話を始めた。

まず、彼は簡易的な机から封筒束を取り出す。その封筒の束は表に「休暇願い」と書いてあった。

 

「これは各筆頭艦娘からの休暇願いだ、一般の艦娘からも出ている」

「それはもう聞きました、私は何故高校に行かなければならないんですかと言う話をですね……」

「最後まで聞け、この休暇願いの数が全体の三分の一を越えてな、艦娘全員に長期休暇を与えたんだ」

 

約二ヶ月の長期休暇、艦娘からしたら願ったり叶ったりである……が、勿論有給休暇ではない。普段ならば出せなくはないのだが、艦娘達の給与も鎮守府の復興費用に消えた。

ただでさえ大規模作戦で倒した数の分の給与を用意しなければいけないのに、有給休暇などだした日には破産確実だ。

短い間の無給休暇ならば不満が残る、ならばその不満が残らないほどの長期休暇を与えればいいのだ。

 

「……それを踏まえてもう一度聞きますが、それとこれに何の関係が?」

「お前、漢字書けないだろ?」

「まさかそれだけの理由で!?」

「じゃあこれはなんだ?お前の鎮守府内のテスト結果だが?」

「うっ!」

 

提督が出したのは鎮守府内で定期的に行われるテストの結果、艦娘に成ったからと言って勉強しなくてもよいと言うわけではない。むしろ学生から艦娘になる方が割合的に多いのだ、なので鎮守府ではおよそ高校二年生位の学力を目安としたテストを行っている。

 

「まぁ流石は国内配属組だな、英語、数学二分野、その他教科もほぼ満点。……ただ一つを除いてな」

「………………」(((((゜゜)

「おい、逃げるな。」

 

提督は再び懐に手を入れると一枚のテスト用紙を取り出す、因みに提督のポケットが猫型ロボットみたいだと思った人は忘れるように。

そしてそのテストにはデカデカと書かれていた、

 

 

 

 

 

 

 

 

…………………「十点」と。

 

言っておくがこれは百点満点である、決して五十点満点ではない。ちなみにこのテストの平均は六十点である、まぁよくある点数だろう。

しかし、瑞鶴がとったのは十点。記述はもちろんの事、選択はおろか漢字などの知識問題さえ間違っている。とれた十点は記述の部分点、それも狙ったかのようにきれいに一点ずつばらけている。

 

問 次の漢字を書きなさい

 

こううん   辛運

せっち    設直

ぐうぜん   遇然

 

……つまりあれだ、その、弁明のしようがない。

 

 

「つーわけで、お前には高校に行ってもらう。」

「一人でですか?」

 

もう断ることは諦めたようで、素直に疑問を口にする……わけもなく、誰かを道づれにしてやるという気持ちが瑞鶴にはあった。

提督も人数には迷っていたようで、悩みながら口にする。

 

「なるべくお前が目立たないように、キャラが濃いやつを二、三人ほど連れていきたいんだよなぁ……」

「でもそんな濃いキャラなんてそうそういるはずが……」

 

ガチャ

 

「提督、明石さんからの報告あがったよ」

 

と、その時時雨が書類を持って入ってきた。それはもう示し合わせたかのようなタイミングで、完璧に。

 

「…………」

「…………」

「ど、どうしたのさ提督?」

 

自分が入ってきたその瞬間に会話が止まり、なおかつ注目されるという異常事態。明らかに不穏な空気を感じた時雨、その感覚は耳に入ってきた言葉によりさらに加速する。

 

「薄幸、ロリ巨乳………」

「僕っ娘、クーデレ………」

「…………」

 

グルッ……ダッ!

 

「あ、逃げた」

「まてぇ!時雨、なぜ逃げる!」

 

なにか本能的な危機を感じ取ったのか視線が合うや否や踵を返して逃げ始める時雨、それを追う提督。艦娘の身体能力なら普通の人間などすぐに撒けるはず、なのに振り切れない、やはり提督は人間であるかどうかが怪しくなってきた。

 

「待て時雨、悪いようにはしない!」

「提督がそう言っていいことなんて今までなかったよ!」

「なぜ信じられない!おれはそこまでのことをしたか!」

「いや、普段の活動や指揮は逆に信用しかしてないよ!」

 

なら何故、と提督が続けようとした瞬間であった。走りながら時雨は顔を後ろに向け、「でもね」と続けた。

 

「秋雲と明石さんと共謀して、僕をコ○ケのエロ同人の主人公にするのはどうかと思う!」

「仕方ないだろ!あれメチャクチャ売れたんだぞ!三百以上だったんだぞ!」

「そのお礼にって自分が主人公のエロ同人を渡された僕は、どんな反応をすればいいんだ!?」

「………×××ーでもしてろ!」

「この……変態が!」

 

卑猥な口喧嘩を繰り広げながら、鎮守府内を走り回る二人。当然ながらこの猥談は周囲の艦娘達に全て聞かれており、それで弄られた時雨が提督を殺しに行くのはまた別の話。

やがて、痺れを切らしたかのように提督が叫ぶ。

 

「もういい!行け、川内!」

「ドーモ、時雨サン。川内=サン、デス」

「アイェェェェ!?川内、川内サンナンデ!?」

「捕縛!」

「ふんぬっ」

「うわぁぁぁぁ……」

 

川内のキンバク・スキルによって縛られた時雨の姿は……ヒワイ!カメのように縛られて身動きの取れない時雨が必死に動くたびにナワは肢体に食い込み、更に体の凹凸を際立たせて………

 

(以下自主規制)

 

「と、いう訳だ。」

「なんで僕が瑞鶴の尻拭いを……」

「是が非でも行ってもらうぞ、何しろお前暇なんだから」

「でも!」

「ドラム缶背負って四六時中輸送任務とどっちがいい?」

「提督、どこの学校に行くんだい?いい友達はいるかな?」

 

流石の変わり身の早さを見せる時雨、断っておくが彼女は見た目通りの年齢ではない。正確にはわからないが本人によると大学は卒業してしているらしい、よって二十代前半と判断できる。

だがしかし時雨は駆逐艦、見た目は非常に幼く見えるがあくまでパッと見た感じ。身長も高校一年生の小さいほうと言い張れなくもない、それに身長に見合わない立派な胸部装甲も持っている。

断じてそれが理由ではないが、それでも時雨は(なし崩し的にではあるが)瑞鶴と高校に行くことになったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そして時間は再び戻る

 

「時雨さ――――」

「時雨でいいよ、敬称を付けられたことが無いし。それにどうも慣れないんだ」

「じゃあ時雨、どれくらいできるの?その……勉強」

「そうだね、少なくとも小学生レベルの漢字を間違えるほど馬鹿じゃないよ。」

「うぐっ…………」

 

自然と毒を吐いていく時雨、若干巻き込まれた恨みもこもっている。

と、二人の横からは色々な声が聞こえる。

 

「何だあの二人……めっちゃかわいい!」

「あの子達、お人形さんみたいね!」

 

ザワザワ……

 

何故かは解らないが艦娘とは皆美人である、それこそ地域のミスグランプリにでもなれそうなほどには。それ故に大衆の目に晒されれば十人中十人が「美少女、美人」と答えるだろう。

 

「時雨~もう私帰りたい……」

「そんな君のために僕は付き合わされているんだけど……」

 

とぼとぼと歩いていく二人、鎮守府から電車を乗り継いで五十分。そこから徒歩で十分ほど、立派な校門の前につく。

そこには「海安(かいあん)学園」と書いてある、その門の大きさは二人の身長のゆうに二倍はあろうかという門であった。

海安学園、国内有数(艦娘養成学校を除き)の進学校の一つ。

国公立大学の合格者を多数排出、またその後の就職や人生も国家公務員から芸能人まで多岐にわたる。そのため倍率はかなり高い、だが倍率の高さにはもう一つの理由がある。

それは艦娘養成学校から落ちた時の保険、つまり滑り止めである。

勿論滑り止めになるほど低い学校ではない、この学校は艦娘採用試験の合格率が全国トップなのだ。

艦娘採用試験の難易度はどの資格試験よりも難しいと言うのがもっぱらの認識であり、事実合格者は百人に二、三人くらいだ。

 

「でも合格率の高さの理由があんなのだとはね……」

「本当に上手いこと考えたよ」

 

全国トップの艦娘採用試験合格率を誇る理由は単純なものだった、ただ単に校長及び理事長がかつての海軍関係者なのだ。

もちろんそんなことを口外すれば機密漏洩ですぐさま捕まるだろう、しかしわざわざそんなことを言う必要はないのである。

艦娘採用試験の内容を把握している以上、カリキュラムを違和感の無いように調整しているのだ。もちろん授業内容も調整することにより各々の持つ適正を伸ばすことができる、そもそも適正は案外簡単に伸ばすことができ、学校の授業を「対艦娘採用試験専用カリキュラム」にしてしまえば合格することなどさして苦労はない。

 

「けど、その校長が天下りの罪滅ぼしなんてね」

「もう海軍って大丈夫なのかしら……?」

 

そんなこんなで警備員のチェックを通過、無事に学園内に入る二人。

二人は一応同じクラスに所属する手筈になっている、まぁ今回の目的はあくまで瑞鶴の国語力を上げることであり、そこまで警戒する必要もない。

 

「僕達のクラスは1ーAだね、偽名はもう覚えた?」

「確か……私が寺牙 水華で、時雨が――」

雨寺 時美(あまでら ときみ)だね」

 

瑞鶴の方は本名であるが、時雨は解らない。そこは気にもしないし、聞きもしない。この手の話題、つまり艦娘になる前のプロフィールについてはタブーとしている人もいる。安易に聞かないのは常識、それくらいは艦娘になって日の浅い瑞鶴でもしっている。

無事に職員室で先生と対面、とても優しそうな女の先生だった。因みに瑞鶴達が艦娘であることを知っているのは事前に話を通した校長のみであり、勿論担任の先生は知らない。

長期休暇のような扱いとは言え、解体はされていない。つまり瑞鶴達の身体はまだ常人を遥かに越えた膂力を持っている、別に解体されても格闘技などの武術の経験は積んでおり、その辺の有象無象には負けない。

そうこうしている内に、朝のHR。教室の手前で待っていてくれ、と言われ挨拶を考えながら待っていた。

 

「えー、皆さん。今日から急遽転校生がくることになりました」

 

 

ザワザワ……ザワザワ……

 

クラスに走る激震、それもその筈ここは全国有数の進学校。当然編入試験も難しく、また受けようとす者もいない。何よりここは私立、加えてこの時期に転校生などとは、完全に常軌を逸している。

完全に検討違いの期待を一身に浴びた二人を、担任が呼ぶ。

 

「転校生のお二人!どうぞ!」

 

ガララッ

 

「な、なんだあれは……!」

「かわいい……!」

「俺生まれて初めて三次元に興味を持った……」

「…………惚れてまうやろ~」

「はいはい、そこまで。では水華さん、自己紹介を」

 

先生に言われて自己紹介をする瑞鶴、予め経歴は頭に叩き込んである。

 

「えー、水華と言います。神奈川から転校してきました、趣味は―――――」

 

こうして瑞鶴の自己紹介はつつがなく終わる、終わったのだが……

「では次に、雨寺さん。……雨寺さん?」

「ちょっと……雨寺?ねぇ雨寺!」

「…………………………………」

 

怪訝な顔をした担任と瑞鶴、そしてクラスメイト。普段と同じくポーカーフェイスを保ったまま固まったように見える。

担任とクラスメイトの位置からでは見えないほどの変化、それこそ顔見知りである瑞鶴がすぐ隣りにいて多少解った程度。

滅多に感情を表に出さず、出しても少しかすぐ収まる程度の時雨が――狼狽えている?

明らかな異常事態、動向は明らかに開き、完全に正気を失っている。まるでそう、幽霊にでもであったような――。

ここで瑞鶴は初めて時雨が何処を見たかを考え、そちらへと視線を動かす。

そこに座っていたのは――――「ただの女生徒」

ただ異質なのは、髪が白い、ただそれだけである。

 

 

ここまで時間にして三秒、だが瑞鶴にとっては何分間にも及んだ気がした。そして、気がつけば。

 

「――と言うのが僕の経歴です、これからも宜しくお願いします」

 

時雨の自己紹介は終わり、先程までの動揺がまるで無かったかのように思える。

いや、実際に思い違いだったのか?

瑞鶴がそんなことを考えている内に、二人の席は指定される。

予想はしていたが席は別々、まぁ文句はない。それより時雨か注目していたあの生徒、何処かで見たような気がするが気のせいか。

その間も、担任の話は続く。

 

「なんと、今日から二ヶ月限定で副担任がつくことに成りました!」

 

おや、奇遇なことで。と思う瑞鶴、そしてもう一人の新人物の発表に再びざわつくクラスメイト。

またもや担任が呼びにいった、その時であった。

 

 

 

 

 

何かが、瑞鶴の頭を貫いた。

 

 

 

 

 

 

物理的な話ではない、感覚の話だ。それは決してよい感覚ではなく、背中がざわつく感覚。まるでそう、何処かの宇宙世紀の新人類にありそうな感覚だ。

そして、得てしてその感覚は正確であり、それを瑞鶴は数秒後に知る。

 

ガララッ

 

入ってきたのは切れ長の目、サイドテール、そして青っぽい服装という出で立ちの女。

 

「どうも、この度副担任になりました、一美と言います。」

 

 

 

 

 

つまり、どういう事かと言うと

 

 

 

親馬鹿な加賀さんが、学校で、教鞭をとっちゃいました

 

もっと簡単に言えば

 

 

親馬鹿、学校に降臨

 

である。

 

 




今回の艦娘

神通
彼女は姉である川内の実力を改めて目の当たりにする、その上で来たのは山。
駆逐艦の指導もほっぽらかしてただ己を鍛えるのみ、姉を再び越える。それを魂に刻み、神通は今日も修行に励む。

次回「かん☆むす」


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二十五、かん☆むす

半年以上間が空きまして申し訳ありません!!
まだ病状があまりよくなく、インターネットの使用も余りできません……
次の更新はいつになるかは……自分の気力次第です。
ですが、頑張ります!筆者は大丈夫です!(目回し)
完結、させたいなぁ……



――――――――ありえない

 

この感じ、あり得るはずがない。この気配は久しく感じることなく、またもう二度と感じることの無いはずなのに。

何故、どうして?

そんな疑問が頭の中を駆け回る、こんなことは初めてだ。

亡霊、なのか?それとも僕が死んでいるのか?

 

「――――寺!雨寺!」

 

僕を呼ぶ声が聞こえる、途端に現実に引き戻される意識。

そう、ここは()()()じゃない。僕はここにいる、生きているんだ。

そして僕は口に出す、偽り、でも今の自分の名前を。

 

「僕は……僕は雨寺 時美と言います、これからよろしくお願いします。」

 

そう、僕は雨寺時美。そして駆逐艦時雨、ただの時雨だ。

崩れそうな心を必死に抑え、僕は自己紹介をする。クラスのみんなに、そして自分に言い聞かせるように。

 

――――――ああ、僕は何も変わっていない、あの夜から何も。

 

僕は何故生きるのか、本当は死んでいるはずの僕が。ここに居るべきはあの人なのに、何故僕はここに居る?

決まっている、逃げたからだ、見捨てたからだ。

艦娘は強さこそ全て、そう思っていた。だからどこまでも強くなった、守るために。その為ならなんだってした、激しい訓練に無謀とも思える作戦、その全てに耐えて打ち勝った。

その果てに僕は手に入れた、駆逐艦の頂とも言える地点に到達したのだ。僕は思った、これがあればどんな壁だって乗り越えられる、皆を守れると。

事実、その力は圧倒的だった。姫、鬼級でも条件さえ整えばサシでやりあえる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――――――そしてその力はある夜、呆気なく燃え尽きた。「守るべきもの」、という強さの理由と共に。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

海安学園 屋上

 

瑞鶴は怒っていた、激オコぷんぷん丸であった。休み時間、クラスメイトからの質問への返答もそこそこに屋上へ。

隣にいるのは時雨、もうどこか達観したような笑みを浮かべている。そして目の前にいる人物こそ――――――――我らが加賀である!

 

「それで?何か用かしら?」

 

涼しい顔で言う加賀に対し、瑞鶴はまず一言言った。できるだけ、それはもう冷静に。

 

「何故此処に?」

「それを貴女に話す必要が?」

「ありますよ!仮にも私達は軍事機密なんですよ、それなのに……!」

 

結局、五秒と持たなかった。そのまま捲し立てようとする瑞鶴を加賀は手で制し、続けてこう言った。

 

「大丈夫、提督には言ってある。」

「そんな証拠……大体加賀さんは教員免許持っているんですか?」

「証拠なら提督に連絡しなさい、それと教員免許なんて持ってるに決まっているでしょう?」

「いや、違うよね?てか二人とも落ち着いて!」

 

思わず、だがやっと時雨がツッコミを入れる。

それより読者諸兄も何故ここに加賀がいるのか気になるだろう、まぁ大方予想はできているだろうが。

あれは一週間前、瑞鶴が執務室から退室してから僅か十秒後の出来事であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一週間前、横須賀鎮守府 執務室

 

瑞鶴の説得及び詳細説明が終わり、提督が一息ついた直後、彼女は来た。

 

ガチャ

 

「提督、加賀です。宜しいでしょうか?」

「入ってきてから言うなよ……」

 

いきなり入って来た加賀、用件は皆さんご察しの通りである。瑞鶴の状況は把握済み、なんてったって扉の外で聞いていたのだ。だんだんと行為がストーカー染みてきたが、気にしたら負けだ。

 

「提督、私を瑞鶴のお目付け役としてくれませんか?」

「駄目だ、いい口実がない」

「と、言うと?」

 

提督は瑞鶴達を行かせるのは特例であり、そうそう他の艦娘に許せることではないと言うこと。そしてどういう形で加賀を送り込むかと言うことを話し、加賀に諦めるように言った。

それに対し、加賀は全てを聞いた後返答した。

 

「ならば、少し後塵の教鞭を取ってきます」

「?、どういうとこだ?」

「一応、教員免許くらいは取っているので」

「…………」

 

提督は絶句する、加賀がそんなに万能なんて話聞いていない。そもそも加賀は艦娘養成学校からの艦娘のはずだ、教員免許を取る暇なんてないはずである。

ならばいつ、どのような理由で……?

 

(……いや、理由なんて一つしかないか)

 

そう、加賀がここまでするに足る理由など娘のこと以外にありはしない。彼女はいつ何が起こってもいいように準備していたのだ。

とは言え、どんな理由をつけようとそれが付いていくのを許可する理由にはならない。

 

「因みに、提督が承諾しなかった場合は……」

「なんだ?言っておくがこれでも俺は横須賀の提督だぞ、生半可な脅しなどに屈するわけが――――」

「T督から聞いた貴方の学校時代の黒歴史、鎮守府に掲示するわよ」

「よし行って来い、話はつけておく」

 

まさに即堕ち二コマ、綺麗にフラグを立ててからの鮮やかな回収。最早芸術の域にまで達していた、流石加賀さんである。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……と、言うわけよ」

「何さらっと脅迫をしてんのよ!」

 

このやり取りはチャイムが鳴るまで続いた、不毛な水掛け論を展開する中で瑞鶴と加賀の精神年齢は地に落ちた。そんな状況の中、提督からのお目付け役が自分だけではないと分かったが、その人物が新たなトラブルしか起こさない人物だと知った時雨はやがて、考えるのを、やめた。

 

 

 

 

一時間目 数学

 

やっている範囲は基礎的な式の計算、字面だけみれば簡単そうだが、この範囲は因数分解も含んでおりさらに艦娘採用試験の対策の為に、新たな範囲も追加されている。

 

(流石に言うだけのことはあるわね……でも!)

「はい、ではこの方程式を…寺牙さん」

「はい、x=十五分の三十八です」

 

流れるように答える瑞鶴、式を見てノートに写す、暗算で出来るところは暗算で。これが瑞鶴が昔から好んでやっている授業スタイルだ、無論初見の授業ならばもっと真剣にノート制作に取り込む所である。

が、今日から一ヶ月習うのは既習範囲。それに今は仮にも全艦娘が休日なのである、瑞鶴だって色々としたいことがあるのだ。

だからと言って提督の言うとおり国語の成績は洒落にならない、だが逆に言えばそれ以外の授業を真剣に受ける気は更々無かった。

 

(こちとら折角の休日を返上してるんだから、少しくらいいいわよね……)

 

実際瑞鶴の頭は艦娘艦娘養成学校でも上位に入る、よって何ら問題は無い――はずなのだが……

 

(私がこんなんだから時雨なんてモロ暇でしょうね、寝ちゃお―――――!?!?)

 

 

キュピイン!!!!

 

 

その時、瑞鶴に電流走る!それは時を越えた人類の可能性が為せた技か、とにかく瑞鶴は感じた、明確な視線とそこに含まれる「殺気」を。

 

(何処から!?)

 

辺りを見回す瑞鶴、そして視線が後ろから来ていることに気付き後ろを向く。

そこに居たのは――――

 

 

 

ドドドドドドドドド

 

 

 

 

加賀である、だが本当に加賀か?後を見た瑞鶴はそう思う、何しろ纏う雰囲気は勿論画風が違う。

具体的に言うと世紀末に出てきたり、後ろに幽霊(スタンド)が見える一族っぽい画風だ。

 

そしてその加賀が一言

 

「授業、受けなさい♪」

「イエス、マム!」

 

こうして時は過ぎていく、だがそれは瑞鶴に取っては異様に長く感じられた。主に後ろからのせいで。

だから昼休みのチャイムが鳴ったときに瑞鶴は一目さんに駆け出した、食堂に行きたかったからのと言うのもあるが兎に角加賀さんから離れたかったのだ。

 

「逃~げるんだよぉ~!」

 

端から見れば怪しまれる程の速度、人間が出せる限界を明らかに超えているが瑞鶴は気にしない。

そして後ろを振り返り、着いてきてないことを確認して安堵する。……というテンプレフラグを立てる。

 

「成る程、三十六計逃げるに如かずか……けれど甘いわね瑞鶴」

「!?…ってか本名だしちゃダメでしょ!」

 

そんなことは加賀さんにとって些細なことである。

そして瑞鶴は察する、加賀からは逃れられないと。

こうして泣く泣く加賀さんに引っ張られていった瑞鶴はお昼を加賀さんのもとで過ごすのであった、また昼ご飯は加賀さんの手作り弁当であり、何故か懐かしさを覚える味だったことを明記しておく。

 

 

 

 

午後の授業を満腹からくる眠気に耐えながら乗り切り、やっとのことで終礼。

 

「はーい、今日の連絡はこれまで。あと文化祭が迫っているのでアイデア等を考えてくること!」

(文化祭……か)

 

文化祭、高校にもよるが秋に多いイベント。クラスごとに出店や出し物をして楽しみ、クラスの結束を高めるという趣旨である。

ちなみに一部の高校の特定のクラスなどでは出し物ができず、研究発表などということをするところもある。楽しみかどうかは……察してください。

瑞鶴や時雨が通っていた艦娘養成学校にはその手の催しもあった、あったのだがなんせ国家機密を育てる場である、来ようにも厳しい身分調査が必須であり尚且つ生徒の親族しか入れない。

そのような七面倒くさい理由もあってか、艦娘養成学校の文化祭は殆ど内部……生徒向けのイベントだった。

 

「面白そうね……」

「でしょでしょ!特にうちの高校の文化祭は規模が大きいんだ!」

 

自然と口をついて出た言葉に反応したのは前の席にいた女子、しかし瑞鶴はロクにクラスメイトの顔も覚える暇がなかったので返答に詰まってしまう。(主に誰かからのプレッシャーにのせいで)

 

「え、えーっと……」

「あー名前わかんない?そっかーそういえば真っ先になんか新しい先生に連れて行かれたもんね、なにかあったの?」

「う、うん色々と……」

 

言えるわけがないであろう、知り合いどころか上司であるなどと……

 

「あ、私は三須丸 百合香(みすまる ゆりか)。このクラス

のことなら何でも知っているから!」

「あ、ありがとう……」

「じゃあ一緒に帰ろうよ!帰り道で色々聞かせて!」

 

あって初日でこの会話、クラスによくいる中心人物なのだろう。なぜ自分に声をかけてきたのか、自分の友達とすることで自分のコミュニティの拡大を……と思ったところで思う。

 

(だいぶ毒されているわね……)

 

艦娘養成学校では皆がライバル同士、クラスの関係一つとってもあまりホンワカした雰囲気ではなかった。

故にこういう感覚は久しぶりだと感じていた、と共に改めて自分と同年代とは住む世界が違うことに気付いてしまう。

きらきらと目を輝かせる彼女はそのような邪気を一切感じさせず、ただ純粋に好奇心からきていることを示していた。

 

「あ、そこの転校生さんも一緒に帰ろう?」

「僕のことかな?」

「うん!」

 

目線だけをこちらに向ける時雨、瞬時に瑞鶴と同じ考えをしたのであろう。苦笑しながらうなずくと、帰り支度を始める。

帰り道は途中まで一緒だった、と言っても瑞鶴と時雨は近くに拠点を取り共通の家に暮らしている。(ちなみに家賃、電気代、水道代、ガス料金その他諸々はT督持ちである)

道すがらでの話はやはりクラスについて、特に瑞鶴が聞き流していた交友関係についてが中心だった。

 

「雨寺ちゃんと寺牙ちゃんは誰か興味のある子はいた?」

「あんまりいないかな……まだ来たばっかりだし」

 

まぁあんまり長居もしないしね、と考えながら答える。言っちゃあ悪いが彼らとは短期間しか付き合わないのだ、あんまり仲良くなってもいいことはないだろう、私たちは艦娘で彼女らは一般人なのだから。

 

「じゃあ聞いてもいいかな?」

「雨寺ちゃんはだれか気になる子がいたの?」

 

あら珍しい、と思った。時雨にたいしての瑞鶴の感想として他人にあまり興味がない、というのがあった。時雨は自分の姉妹艦以外とは(所属していた艦隊の艦娘を除き)殆ど交流がなかったのだ。

 

「教室に白い髪の娘がいなかった?」

「ああ、木目ちゃんね……」

「木目……木目さんっていうんだ、どんな子なのかな?」

 

その言葉をいう時雨はどこか悲しそうで、瑞鶴は初めて時雨の素の感情を見たような気がした。それ程までに気になるとは、艦娘になる前に交流でもあったのだろうか?

 

「あんまり関わらないからな~よく知らないんだ、ゴメンね」

「大丈夫、全然いいよ」

 

積もる話もあるのかもしれない、(偶然とはいえ会うなんて機会中々無いからね)などと瑞鶴は思った。

兎にも角にもこれからしばらくお世話になるのだ、問題を起こさないようにしていこう。そう考えながら黄昏時の中、三人は帰っていった。

 

 

 

 

 

…………その日、帰宅時間帯に青い服を着てマスクとサングラス着用のサイドテールの不審者が、三人の女子高生をストーキングしているのを目撃され、緑のおばさんとおじさんのパトロールが若干強化されたのは余談である。

 

 

 




次回予告
















…………すると思った?

次回「日常(艦娘)」


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日常(艦娘)

お久しぶりです、皆様。
活動報告で書いていた病気は無事完治いたしました、これから投稿ペースを戻したいな…と思ったのですが……
これまた作者の身勝手な都合によりまたかなりの期間更新が滞るかと予想されます。
ですがどんなに時間がたってもエタらないようにするので(できるとは言ってない)長い目でみていただけると幸いです。
投稿間隔が広くなってしまったことを、ここに深く謝罪申し上げます。

それではお楽しみください!


文化祭

 

中学、高校、大学などで、生徒・学生が中心になって展示、演劇、音楽界、講演会などをすること

 

(某辞書を参考に一部改編)

 

「文化祭……かぁ。」

 

某所のマンション、その一角が瑞鶴と時雨の今期長期休暇の拠点(以下自宅)となる場所である。専門知識…というより不動産のことなどわからないし興味もない時雨にとっては何LDKかはわからない、まぁ二人が暮らすには十分な広さなのだが。

家具は備え付け、それも各々がかなり質の高い物、俗に言うブランド品である。

それらが今回の為だけに用意されていると考えると贅沢なことだ、かかった費用?そんなの聞きたくもない。

まぁそんなことは置いといて、その自宅の一室、一応時雨の私室となっている部屋で時雨は辞書を読みふけっていた。

もちろん暇なのではない、時雨にとって文化祭は楽しむべき学校行事の一つであり数少ない息抜きとなりえる時間だったのだから。

もっとも『楽しむべき』といっている時点でどこか義務感のように感じているところがあるが、まぁそこは艦娘養成学校という特殊な状況下ゆえの思考だろう。

辞書を置いた時雨はわきに置いておいたカバンからプリントを取り出す、プリントには「文化祭実施に関して」と書いてあった。

 

「『開催は三週間後、二日間にわたって行われる。模擬店及び食品を出す団体は企画書を生徒会に提出の上で審査、展示に関しては各団体自由に風紀を乱さない程度に認める。』と、どこもそんなに変わらないんだね。」

「そりゃそうよね、学校毎に特色があるといっても基本は変わらないわ」

「……瑞鶴、入るときにノックくらいしてくれないかな?」

「ごめんね、けど時雨なら気配察知くらいは余裕でしょ」

「そこまで人間やめてるつもりは無いけどね……」

 

それでも強く否定はできない、仮にも戦いの中に身を置く彼女達からしてみれば、気配をある程度察知できないような奴は初戦で死ぬ。ましてや彼女達は横須賀所属という精鋭集団の一員であって、それこそ敵味方をそれとなく気配のみで区別できるのだ。

一説には電探を始めとした各種レーダーを装備していた時の感覚が艦娘の身体に残っており、それによって第六感が人間と比べ良くなっているらしい。そもそも、身もふたもない話をすれば艦娘である時点で人間ではないのだが。

またどうでもいい話ではあるが、時雨は現拠点内くらいの範囲ならば瑞鶴の位置は常に感じられる。よって入ってきたのは分かっていたが、大して気にもしなかっただけでもある。

 

閑話休題(それはそれとして)

 

「ねぇ時雨、学校で何か気になることでもあった?」

「どうしたんだい急に、加賀さんが居たことには驚いたけどそれ以外は特に何もなかったよ」

「………ふーん、ならいいわ」

 

怪しい、根拠はないがとにかく怪しく感じる。とはいえ時雨は(瑞鶴の知るよしは無いが)これでも第零艦隊に所属している艦娘、汚れ仕事をこなす彼女はこの程度で動じるはずもない。

数秒間無言で見つめあった二人だが、先に瑞鶴が話を切り上げた。これ以上の詮索はいけないとそれなりに鋭いと自負している自身の直感が囁いていた、白いLEDライトの無機質な光が床に反射し、二人の顔を照らし出していた。

 

「…………ごめんね、瑞鶴」

 

誰もいなくなった部屋で時雨は小さく、それこそ艦娘でさえも聞き取ることが難しいくらいの音量で呟いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

夢を見ていた…………いや、今も見ている

 

 

 

俗に言う明晰夢と言う奴なのだろう、普段は夢など見る体質でもないのでどこか新鮮だ。

だが、何故だろう?周りの風景ははっきりしているのに記憶に残らない、まるで入ってきた情報がそのまま流れ出ているかのようだ。

感覚で理解はできる、海だ、青い海、どこまでも晴れ渡って広がり続ける海。艦娘である自分にとって一番身近な場所であり、艦娘や深海棲艦を含めた全ての命が生まれた始まりの場所でもあり、そして―――――――――――――――

 

 

………………………そして、なんだ?

 

 

 

 

 

 

 

『ねぇ』

 

 

 

 

 

 

 

何だ、今のは?何かが聞こえたが、気のせいか?

 

 

『ねぇ』

 

 

違う、気のせいではない!この声ははっきり聞こえている、――――っ!何だ、本当に何なんだ。何か、この声が聞こえるたびに頭が震える。僕の頭の中の何かが訴えている、何なんだ、本当に、キミはっ!?

 

夢の中にいる少女――――――時雨はもはやこれが夢か現実か区別がつかなくなっていた、最初は正常だったのだ、いくら夢とは言え彼女はこれくらいで取り乱すような人物ではない。

彼女らしからぬミスだ、どんな時でも冷静に物事を判断して行く時雨がこの時だけはこの「声」の事に心を取りつかれていた、それほどに彼女の心をつかむ何かがその「声」にはあった。

 

 

『ねぇ』

 

 

尚も声は呼びかける――――――

 

 

何処に居るんだ、誰なんだ!?君は、一体、誰なんだ!!

 

 

『…………わかるでしょ?』

 

 

不意に時雨の耳元で声がする、本当に不意打ちであった。そして彼女は()()()()()()()()()、それがなにを意味するのかも知らずに。

 

 

 

 

 

 

なっ―――――

 

 

 

 

 

 

次の瞬間に僕の視界は変わった、いや隠されていた視界があらわになっただけなのかもしれない。

それは悍ましい景色だった、有無は赤く、周りが業火が渦巻いていた。頭の中で最後に残ったわずかな理性が考察する、この赤は血液だと、そして海で燃えているのは艤装だと、僕の理性が結論をだす。

 

そして――――――何かが、立っていた。声の主だろう、先ほどの理性とは真逆の本能がそう告げている。

そしてその顔を見た、凝視した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

そこにハ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

()()()()

 

 

 

 

 

 

 

 

刹那、視界がいや世界が歪ンダ。アカいアカい海と業火の境界線が曖昧にナッテいく、世界が縮マル。だんだんと迫ってくるその光景を前にシテ僕は―――――――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………………れ!……ぐれ!……時雨!!」

 

!?

 

目が覚めて周りを見渡せ学生服の瑞鶴、そして前を向く学生たち。どうやら眠ってしまったようだ、らしくないな。平和ボケというやつなのかもしれない、まぶたに居座る睡魔を擦り取りながら思った。

何を見ていたんだろう、僕は。何を見ていたかといえば夢だ、それはわかっている、見たという自覚もある。

だけど何を見たのかは覚えていない、見たはずのものを覚えてないのだ。

 

「…………このように、現状の世界各国では艦娘を保有している国家を中心とした連合を形成しており………」

 

六時間目、歴史だったか。再起動した頭で教師の話を聞きながら、思い出す。艦娘養成学校だったら追加課題出されるだろうな、と思い苦笑した。

自然と、口からため息がもれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

横須賀鎮守府 執務室

 

ところ変わってこちらは横須賀鎮守府、そこでは二人の人物が人類未踏峰である山を前に唖然としていた。

その名も「報告書類山脈」、全国の提督を日夜苦しめる執務室に聳え立つ山脈だ。

 

「………なぁ大和」

「はい、何でしょう提督」

「これはなんだ」

「提出義務のある書類です」

「「………………………」」

 

即答、そして沈黙。両者ともに目が死んでいた、具体的にいうと死後三日たった魚の眼である。(わかりにくい)

それにしてもこの量は異常であり、おそらく提督の人生の中で五指には入るほどに多い。

とにもかくにもやらなければ終わらない、現実逃避する暇があるくらいなら仕事しよう、そう思うくらいには二人とも冷静であった…………が。

 

「なぁ大和」

「デジャヴですねその言い方。で、なんです?」

「さっきから同じことしか書類に記載されてないんだが、やれ先の都市戦闘で使用した艦載機についての詳細を求めるだの、沖合で使用された非質量兵器である戦略級兵器についての詳細だの………どれもこれも使用兵器の詳細なスペックを求めるものばかり、少しは経済的被害や物的損害についてのものはないのかねぇ?」

「仕方ありませんよ提督、今の今まで太平洋戦争当時の技術レベルの艦載機だったのに、今回の戦闘で使用されたのはニュートンも腰を抜かすぐらい変態軌道を可能に、いや実際に披露していた明らかにSFチックな艦載機ですよ」

「まぁ戦闘記録から多少もれることは予想したが……いろいろとイレギュラーが多かったからな」

「がっつり写っちゃいましたね、アカキリー」

 

事前に明石謹製のAKA粒子(通信遮断粒子、わかりやすく言うとミ〇フスキー粒子)を戦場にばらまくことで情報漏れも防ごうと画策した提督たちだったが、流石にすべて隠せるわけもなく、むしろかなりの数の資料が戦後報告という形で外部に流出してしまったのだ。

なぜ隠そうとしたかというと、理由は簡単、面倒くさいからである。

現在の世界情勢は海路を寸断されたことにより陸路を有するロシアが覇権を狙い、それを指をくわえて見ているわけにも行かないアメリカがあの手この手で権勢している状態なのだ。

なぜこのような勢力図でアメリカの同盟国である日本にお鉢が回ってこないかというと、日本が艦娘を大量保有しているからに他ならない。現状で世界で一番艦娘を保有しており、関連技術もはるか先に行っている日本とはなるべく関係を良好に保ちたいのだろう………あくまで()()()()だが。

 

「それで提督、詳細は本当に出すんですが?」

「バーカ、出すわきゃねぇだろ。そもあれはウチの明石以外には作れないし、万が一作れたとして費用対効果が合わない。それに今後実戦に投入する予定はない、妖精さんの負担も考えないとな」

「ますますウチの明石さんが何なのか分からなくなってきました………あの人だけ世界観が違いませんか?」

 

実際、今回投入されたアカキリーは現段階の艦載機を発展させたものであるため(あくまで()()()()明石談)、このまま技術が発達していけば開発可能にはなるのだ……………かかる時間が100年単位ということに目をつむれば。

そうなるとどんな手を使ってでも手に入れようとする輩が出てくる、まだ来てはいないが時間の問題だろう。唯一の救いは国内にそうした気配がみられないということか。

 

「そもそも提督、一応艦娘の建造などの基本的な技術はもう世界に公開しているんですよね、なら自国の艦娘を増やして戦力増強をはかればいいじゃないんですか?」

「…………それは少し込み入った話になるがいい機会だ、一区切りついたし休憩しがてらでもいいか?」

「ええ、勿論」

 

話しながらでもそれなりに進んでいた書類仕事を一時中断し、部屋を後にする二人。机の上にはまだ半分ほどの書類がそびえたっていた。

 

 

 

横須賀鎮守府 提督私室

 

 

「なんで提督の部屋なんですか、下手したら私刺されるかもしれないんですけど。」

「ウチにそこまで俺のことを好きなやつはいないし、いたとしても俺は大和一筋だ」

「……………いいから提督、さっきの続きを早く」

「?、まぁいいか。そもそも艦娘を建造するためには大前提として艦船の魂が必要だ、勿論資材も必要だがな」

 

提督の言うとおり艦娘、正確には人を艦娘にするために必要なのは「艤装」である、そして艤装を作るには資材、艦船の魂の二つ、そして妖精さんと専用の設備があることで初めて建造可能になるのだ。

 

「資材に関して日本は輸入する体制で行っている、それもこれも艦娘がいるからだけどな。艦娘がいなきゃりゃ海路を使うなんざわざわざ深海棲艦に餌を与えるようなものだ」

「それとこれと何の関係が?」

「大和、各国の艦娘関連の技術状況に関して言ってみろ。確か艦娘養成学校の現社で習ったはずだ、勿論この部屋なら傍聴対策もしてあるからそれなりのお前が握っている情報も話していい」

「え、ええ………まずはアメリカ、アイオワを筆頭とした艦娘の建造に成功しており、尚且つ艤装性能が此方と同等かそれ以上です。ただ極度の人員不足により自国の領海を完全にカバーするには至らず、未だに軍と共同していると。またかなりの練度不足により一戦闘ごとの損害も激しく、それが出撃回数の減少につながる悪循環を生み出すしているとか。次は………」

「そうか、もう充分だ」

「え?」

 

大和は困惑する、今話した情報は一般に出回ってないとはいえ、防衛関係の者にしてみれば周知の事実だ。故に彼女は突然話を途切れさせられたことに驚いたのだ。

 

「今アイオワと言ったが、何故艦娘が太平洋戦争当時ないしはその前後の時代の艦が元になっているかわかるか?」

「確かそれは……深海棲艦に対抗できる艦の魂の中で最も強いからじゃないんですか?」

「違うな、ここで重要なのは『艦の魂を拾いあげられる艦』というのは()()()()()()()()()()()ということだ」

「つまり、それは……」

「早い話、タンカーだろうが漁船だろうがそれこそイージス艦さえも人が乗っているか乗っていた艦ならば、艦の魂をサルベージすることは可能だ」

 

事実だ、そも艦の魂とは乗船していた人間の思念の集合体という考えがなされており、船として運用されてさえいれば魂の抽出は可能なのだ。

 

「まぁ、これから最新鋭のイージス艦の艦娘を建造しようとしたって今回のアカキリーみたいに資材と予算と国際関係の都合上面倒になる未来しか見えないんだがな」

 

大きな騒乱を起こすと分かっている火種を誰が好き好んで投げるだろうか、だからこその機密扱いなのである。この事実を列強各国が知れば、さらなる艦娘技術の開示を日本に求めるだろう。半形骸化してしまったとはいえ未だに国際連合や国際グループなどはあるのだ、もし各国に迫られたら交渉事を進めるのが他国に比べて下手な日本は押し切られてしまうかもしれない、ならそもそもそういう状況にしなければよいと提督は思っているのだ。

と、その時

 

 

~~~~~~♬

 

 

「ん?着信か、すまん大和、少し外すぞ。終わったらまた仕事のするから、先に執務室に戻っといてくれ」

「了解しました」

 

着信音であるバジリスクを連想する曲を聴きながら呼び出し人を確認する提督、呼び出し人は「瑞鶴」と書いてあった。

今回は曲がりなりにも提督が学校に行かせているので(また某青い親の脅h…もとい嘆願もあって)、一応

自分に直接つながる携帯の電話番号を教えているのだ。

とは言えいまは午前中、授業中のはずの瑞鶴が電話をかけてくるということに違和感を感じたが、緊急の案件である可能性を考慮して応答した。

 

「もしもし、どうした瑞鶴?」

『提督、少し報告することができたわ』

「その声は……加賀か?」

 

少女達の穏やかな日常の裏で、ある艦娘の過去と陰謀が渦巻くとき、物語の歯車は動き出す。

 

 

 

 




こんな終わらせ方してるのに間隔空くとか、作者最低だな!(自虐)


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