ダンジョンに牙狼がいるのは間違っているだろうか (ザルバ)
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1話

 広大な地下迷宮、通称“ダンジョン”を中心に栄える迷宮都市オラリオ。

 今一人の若者がダンジョンに五階層を歩いていた。

 服装は上下とも黒い革に装飾が施された服、そして白いコートを羽織っていた。左手には髑髏の様な指輪を付けていた。

「しっかしダンジョンと聞いていたが・・・・・・・外にいるモンスターよりも弱いとはな。」

 指輪が口を動かし喋る。

「仕方ないよ。ここは上層なんだから。それにしても・・・・・」

 若者は違和感を感じた。先ほどまでの道中、モンスターは何十体も出てきた。ゴブリン、コボルトに出てくる基本的なモンスターは次々とその若者の手によって倒された。

 だが今いる五階層はあまりにも静かすぎるのだ。

「なんか嫌な予感がするな。」

「俺もそう思うよ、ザルバ。」

 直後、獣の様な雄叫びがダンジョンに響き渡った。

「これは……」

 若者の目の前に現れたのは膨らんだ筋肉に茶色い表皮、下半身は毛で覆われ尻尾が生え、片手に石の斧の様なものを持っている牛の様なモンスター、ミノタウロスであった。

「ちょっとは手ごたえがありそうだな。」

「油断しないでいくよ。」

 若者がそう言った途端、ミノタウロスは若者に向け斧を振り下ろした。若者は最小限の動きで身体を反らし、斧を回避する。そのことに呆気にとられるミノタウロスではあるがすぐに次の行動へと移った。

 ミノタウロスは我武者羅に斧を振るい若者へ攻撃をするがその攻撃は全く当たらず、全て見えているかのように若者は避けていた。

 ミノタウロスは斧を横に振るい若者の上半身と下半身を分けようとしたが若者は弧を描くようにミノタウロスの上を跳び回避する。若者は着地すると片足に掛かっていたコートを祓う。

「どうだ?もうパターンは覚えたか?」

「うん。大分ね。そろそろこっちも相手してあげないとね。」

 若者はそう言うとコートから剣を出し左手に持つと抜刀する。

「さて……行かせてもらうよ。」

 若者は嫌悪地肌を左手の甲に置き、ゆっくりと引く。

「ヴォオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!」

 ミノタウロスは雄叫びを上げながら若者へ接近する。

「ふっ!」

 若者はミノタウロスへ向かい駆け出し、そしてすれ違い様に剣を右へ振った。空中を何かが回転しながら地面へと落ちた。

 地面に落ちたのはミノタウロスの斧であった。

「ヴモッ!」

 ミノタウロスは驚きを隠せなかった。しかし若者はそんなことに気にも留めず後ろからミノタウロスの背中を突き胴体を貫いた。

「ふっ!」

 若者が剣をひねるとミノタウロスは体が一気に爆発するように消え、魔石とミノタウロスの角だけが残った。若者はその二つを回収する。

「そろそろ切り上げたらいいんじゃないのか?初日だぞ。」

「そうだね。」

 若者はザルバの言葉を聞き、地上へ戻ろうとするがその時視線を感じた。

「ん?」

 視線が感じる方へ若者は顔を向けるとそこには一人の少女がいた。

 気品と気高さを感じさせるオーラ、腰まで伸びた長い金髪、銀の鎧を身に着けていた。

「……ねえ、君名前は?」

「えっと……まずは自分で名乗るのは礼儀ではないですか?」

 若者がそう言うと少女は言った。

「……ごめんなさい。私はアイズ・ヴァレンシュタイン、アイズって呼んでいい。」

「アイズさんですね。僕はベル・クラネルです。」

「そう……聞いてもいい?」

「なんですか?」

「どうしてそんなに強くなれるの?」

 アイズの問いにベルは少し悩み、そして答えた。

「守りし者に、なりたいからかな?」

「守りし者?」

 アイズは首を傾げる。

「うん、誰かの笑顔を、未来を守れる存在。そんな存在になりたいからかな。」

 ベルがそう答えると、アイズは理解した。

「そう…………なれるといいね。」

「うん。」

 そんな話をしているとアイズを呼ぶ仲間の声が聞こえてきた。

「おっと。大事な仲間が呼んでるみたいだから行った方がいいよ。」

「うん。そうする。」

「それじゃあ。」

 ベルはそう言うと一礼して合図に背中を向け、歩き出した。

「ベル……」

 アイズはベルに興味を示した。

 




正直見切り発車みたいなものですのであまり期待はできません。
後、非難罵倒のコメントは受け付けません。


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2話

「ミノタウロスと戦った~~~~~~~~~~~~っ!?」

「はい。」

 ダンジョンから離れたギルドでベルは眼鏡を掛けた受付嬢のハーフエルフ、エイナ・チュールに報告をしていた。

「き・み・は!自分がどれだけ愚かなことしてるのかわかってるの!ましてやファミリアにも所属してなくて『神の恩恵』も受けてないのに!」

 エイナは眉間に皺を寄せ、ベルに顔を近づける。

「いや~、結構腕はあるかなーって思ったんですけどそこまでなかったですし、多分弱ってたんでしょーねー。」

「そう言う問題じゃなーい!」

 エイナは声を上げる。その光景に他の冒険者や受付嬢も注目する。

「で?」

「はい?」

「ミノタウロスよ。君はLv.1の冒険者並みだろうから、流石に敵わないと思って途中で逃げたんでしょ?」

「いえ、倒しましたよ。その証拠にほら。」

 ベルはそう言うと魔石やドロップアイテムを集めた袋の中からミノタウロスの魔石と角を出した。

「…………」

 エイナは口をパクパクさせる。もちろんその話に聞き耳を立てていた人たちも口をパクパクさせていた。

「あれ?僕なんか変なこと言いましたか?」

「お……」

「お?」

「大ありよ!なんでLv.1でミノタウロスが倒せるの!常識の範疇を超えているわよ!」

 エイナは大声でそう言うと肩で息をする。

「大丈夫ですか?なんだか呼吸が荒いですよ。」

「誰のせいだと思ってるの!だ・れ・の!」

 そんなエイナの反応にザルバは思った。

(このお嬢ちゃん、仕事人間だな。)

 ザルバが思う通り、エイナは仕事人間であった。

「それよりもこれを換金したいんですけどどこに行ったらいいですか?」

「うん……もうわかった。というか君はそう言う人間なのがよくわかった。」

 エイナは諦めたように呟くとベルを換金所へ案内をした。

 ちなみに今回ベルが獲得した魔石とドロップアイテムはというと…

・ゴブリンの魔石52

・ゴブリンの牙35

・コボルトの魔石44

・コボルの爪51

・ミノタウロスの魔石1

・ミノタウロスの角1

 ……である。そして換金額は合計20万4500ヴァリスであった。

「ダンジョンでこのくらい稼ぐのが普通なんですか?」

「ベル君、君は普通の十倍稼いでいるよ。」

 ベルの問いにエイナは額に手を置きながらそう答えた。

 

 ギルドを後にしたベルは町を散策した。どこもかしこも賑わっていて活気のある都市であった。

「ベル。そろそろ何か腹に入れたらどうだ?」

「うん、そうだね。」

 ベルはそう返事をすると近くにあった屋台の方へと歩き出した。

「すみません、これ一つください。」

「はーい。ジャガ丸くん一つ30ヴァリスだよ。」

「はい。」

 ベルは店員にお代を出す。

「毎度ありー。」

 ベルはジャガ丸くんを受け取ると少し離れた噴水のほとりに腰を掛け、食べ始める。

「うん、調味料もいい感じで食べ歩きにはいいものだね。」

 ベルはそう言うとジャガ丸を食べ終え、ごちそうさまと言った。

「っ!?」

 ベルはどこからか視線を感じだ。

「ザルバ。」

「ああ、間違いなくだれかお前さんを見てる。だが人間じゃない。おそらく神だな。」

「厄介な神もいたもんだ。」

 ベルはそう言うと立ち上がり、移動を始めた。

 

 バベルの最上階。そこに一人の髪が水晶越しにベルを見ている神がいた。その神は美の女神フレイヤ。

「あらあら、嫌われちゃったかしら?」

 罪悪感を全く感じない口調でフレイヤは言った。

「今まで見たことがないくらい好き取っててきれいな魂。……でも、その中に金色に輝くものがあるわね。貴方は何者なの?私に教えて。」

 フレイアは物を欲しがる子供のように微笑んだ。

 

 夜になるとベルは豊饒の女主人に来ていた。

「んにゃ!いらっしゃいにゃ!」

 ウェイトレスのアーニャ・フロメールがベルに気付き店へと招き入れる。ベルはカウンター席に座るとコートを脱いで掛けた。

「いらっしゃい。坊主、ちっこいけど冒険者かい?」

「はい。ベル・クラネルと言います。よろしくお願いします。」

 ベルは頭を下げる。

「ははは、若いのに律儀なもんだね。アタシはミア・グランドってんだ。ここのおかみだよ。うちの料理はおいしいからたんと食べな。」

「はい、そうさせていただきます。」

 ベルはそう言うとメニューを見る。

「じゃあ……これとこれとこれをお願いします。」

「あいよ。」

 ミアはベルの注文を受け料理に入る。

 そんな時、団体客が豊饒の女主人に来た。

「ん?」

 ベルは気になって団体客を見る。赤い髪の毛を後ろに纏めたいと目の女性を先頭に次々と入ってきていた。ベルは近くにいたウェイトレスに尋ねる。

「すみません。あの団体客は……」

「もしかしてお客さん、オラリオには初めてなんですか?」

「ええ、まあ。」

「そうですか。あ、申し遅れました。私はシル・フロ-ヴァと言います。シルって呼んでください。」

「これはどうも。僕はベル・クラネルです。ベルでいいですよ。」

 互いに自己紹介をするとシルは説明を始める。

「あちらの団体客様はロキ・ファミリアと言ってこのアラリオで知らない人はいないファミリアなんですよ。あそこにいる糸目の女性が分かりますか?」

「ええ。なんか他の人と違う感じがしますが……もしかして神なんですか?」

「その通りです。あの方は神ロキ様です。よくセクハラをする方なんです。」

「?」

 ベルはシルが言った意味をすぐには理解できなかったがダンジョンで出会ったアイズに後ろから胸を揉もうとするところを裏拳で吹っ飛ばされたのを見て理解した。

「おもしろいですね、神って。」

「ベルさん、間違っても全ての神があんな感じじゃないので。」

 シルはベルにそう言った。するとミアがベルが注文した料理を運んできた。

「はいよ、お待ち!そんでシル!早く仕事に戻りな!」

「は、はい!」

 シルは急ぎ足で仕事へと戻った。

「ここにいる人たちはみなさん元気があっていいですね。」

「そうかい?そう言ってもらえると嬉しいよ。」

 ベルはミアにそう言うと料理を食べ始める。

「おいしいですね!」

「そうあろ。ほら、どんどの食べな。」

「はい!」

 ベルは出された料理を口へと運ぶ。ベルが食べる中、ロキ・ファミリアの方から話声が聞こえてきた。

「そういやアイズ、五階層でミノタウロスを倒したんだろ?」

 ベート・ローガアイズに話しかける。

「ううん、違う。」

「は?じゃあ誰がやったんだ?」

「……ベルがやった。」

 アイズの言葉にロキが反応する。

「なんやアイズたん。もしかしてそのベルっちゅう奴が気になるのか?」

「………うん。」

「「「ぐはっ!?」」」

 アイズの言葉にロキ、ベート、そしてアイズを尊敬するレフィーヤ・ウィリディスが吐血して倒れた。

「面白いファミリアだな、ベル。」

「そうだね。」

 ベルはそう言うと出された料理を食べ終え、合唱してごちそうさまでしたと言った。

 ベルは書けていたコートを脇に抱えるとミアに挨拶をする

「ミアさん、僕はこれで。」

「おやそうかい。アンタいい喰いっぷりだったからね。また来な。」

「はい。」

 ベルは一礼するとレジの方へと足を勧めた。

「それじゃあお願いします。」

「はいにゃ。2500ヴァリスになるにゃ。」

「じゃあ丁度で。」

 ベルは2500ヴァリス出す。

「はい、ちゃんと受け取ったにゃ。また来るにゃー。」

 ベルは豊饒の女主人を出るとコートを着て下宿している宿へと足を進め始めた。

 

 ベルがいなくなった豊饒の女主人ではアイズにティオナ・ヒリュテが尋ねていた。

「ねえねえアイズ。アイズがさっき言ってたベルってどんな感じの子?」

「ベル・クラネル……見た目は私よりも少し背が低くて白いコートを着てる赤い目の少年。一見したらウサギみたいな子だよ。でも………」

「でも………なによ?」

 ティオネ・ヒリュテが尋ねる。

「彼はそんなんじゃなかった。ミノタウロスの攻撃を手を使わずに避けて、まるで遊んでいるかのように避けてた。そして何よりたった二振りでミノタウロスを倒してた。」

 アイズの言葉に二人は驚いた。

「そんなに腕が立つんだったら誰か名前やファミリアを知っているはずだよ。ねえ、リヴェリア?」

 ティオナがリヴェリア・リヨス・アールヴに尋ねる。

「すまない。ベルと言う名の少年は私も聞いたことが無い。」

「えー、リヴェリアでも知らないの?」

「ああ。だがもしかしたこの店に来てるかもしれないぞ。すまない、少しいいか?」

「はい。」

 リヴェリアはシルに声を掛ける。

「この店にベル・クラネルという冒険者は来ていないか?」

「ベルさんですか?あの人でしたら……あれ?」

 シルはカウンターの方を見るがすでにベルの姿はなかった。

「ミアお母さん、ベルさんは?」

「ん?ああ、あの坊やなら帰ったよ。なんだい、なんか話でもしたかったんかい?」

 ミアがそう言うとアイズは咳から立ち上がり、店の外に出た。だが右に左に向いてもベルの姿はなかった。

「なんやアイズたん。えろうそのベルっちゅう子にご執心やな。」

 店の中でジョッキを片手に持っているロキはそう呟いた。そんな時シルがあることを口にした。

「ベルさんのコート、背中の真ん中あたりに三画の装飾が施されてましたし、すぐにわかりますよ。」

「「っ!?」」

 その言葉を聞いた途端、ロキとリヴェリアは反応した。

(三角の装飾に白いコート、どっかで聞いたことあるな………)

(なぜだ?ベルと言う少年は知らないが私は彼ではない何かを知っている?)

 



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3話

「ふっ!」

 ベルは六階層でキラーアントの群れと戦っていた。

「やれやれ、こいつらのフェロモンは少し厄介だな。」

 ベルはそう言いながら剣を構える。キラーアントの持つフェロモンは仲間を引き寄せることから大抵の冒険者は倒したらその場からすぐにエスケープするのが定番である。

 が、ベルの場合はこれも鍛錬の一環と思い剣を振っていた。

「ベル、鍛錬もいいが少しは体を休ませろ。身が持たんぞ。」

「ああ、そうだね。でもどうする?正直言ってこいつらの死骸を放ってたら次の冒険者たちが襲われるよ。」

 ベルは話しながらキラーアントを切る。

「だったら燃やせ。魔導火だったら全て燃やせる。」

「そうする………よっ!」

 ベルは後ろから来るキラーアントを切った。

「さて……魔石を回収してっと。」

 ベルは倒したキラーアントの魔石を回収すると懐からライターを取り出し火を付け、息を吹きかける。火はキラーアントの死骸に燃え移り、そして全てを燃やし始めた。

「さっさと地上へ戻りますか。」

 ベルは駆け足でその場を去って行った。

 

「七階層ですって――――――――――――!」

「うおっ!」

 ギルドの受付でエイナの声にベルは驚き、声を出した。

「君は本当のバカなの!なんでよりにもよって一人でそんな場所に行くの!」

「まあまあ、エイナさん。落ち着いて。」

「これが落ち着いていられるくぁあ!」

 エイナは声を荒げる

「全く…昨日の話と言い、君の実力はわからないけど、命を危険にさらすような真似しないでほしいわ。」

「どうもすみません。」

 ベルは軽く頭を下げる。

「それに今朝は別のことで変なことあったし……」

「別のこと?」

 頭に手を置き溜息を吐くエイナにベルが喰い付く。

「ええ。なんでか知らないけどあのアイズ・ヴァレンシュタインが君を尋ねてきたの。」

「俺を?」

「ええ、そうよ。どこのファミリアだとか、どんくらいのレベルなのかだとか。ま、君はギルドに冒険者としては登録されているけど事実上無所属。なのにあの剣姫が興味を持つだなんて……君何かしたの?」

 そんなエイナの問いにベルはこう言った。

「エイナさん。」

「なに?」

「剣姫………って何ですか?」

 その言葉にキョトンとするエイナだが、ベルが昨日来たばかりのことを思い出し我に返った。

「そうだったわね。君はよく知らないんだっけ。」

「ええ、すみません。」

「まあいいわ。一応一般公開されている程度の情報だけどアイズ・ヴァレンシュタインさんはロキ・ファミリアに所属していてね。たった一年でレベルアップの偉業を成し遂げた人物よ。」

「レベルアップ?」

「そう。今はLv.5よ。そんなアイズ・ヴァレンタインに興味を持たれるなんて…何か心当たりはあるのかしら?」

 エイナにそう言われベルは顎に手を当て考え込む。するとザルバが口を開いた。

「ベル、お前さんがミノタウロスをたった二振りで倒したことにあるんじゃないのか?」

「ミノタウロスをたった二振りで!………て、へ?」

「ア゛……」

「ザルバ・・・・・・・」

 エイナはザルバが喋ったことに間抜けな声を出し、ザルバはそれに気づき、そしてベルは溜息を吐いた。

「ゆ……ゆゆゆゆゆ!」

「エイナさん、ストップ!」

 ベルは両手でエイナの口を押える。流石のエイナも口を押さえられて苦しそうになる。

「—――――ぶはっ!ベル君は私を殺す気!」

「まさか、そんな。でもここで騒がれたら注目の的になってしまうのでどこか二人で話せる場所はありますか?」

「こっち。」

 エイナはベルを応接室の方へと入れる。ベルトエイナは対峙するように座る。

「それで、その指輪は何かのマジックアイテムなの?」

「おいおい嬢ちゃん、俺をそこいらのマジックアイテムと一緒にされちゃ困るぜ。俺はザルバって言うんだ。よろしくな。」

「ど、どうも…」

 エイナはザルバに頭を下げる。

「ベル君。これって生きてるの?」

「ええ。ザルバは俺の家に代々伝わる指輪なんです。」

「ベル君の家に?でもなんで………」

「それについてはちょっと…でもいつか話せる機会があるかもしれないのでその時に。」

 ベルの言葉にエイナはしぶしぶ納得した。

 

 ベルはギルドを後にすると下宿している宿へ足を進めていた。その道中、あるポスターが目に入った。

「怪物祭?」

 ベルはポスターが気になり詳細を覗き込む。

「闘技場でモンスターを公開調教するのか…主催者はガネーシャ・ファミリア。…………て、明日なのか。」

 ベルはオラリオに来たばかりでよく知らなかったため、怪物祭のことも知らなかった。

「どうする、ベル?」

「う~ん、調教の方は興味ないけどお祭りには足を運んでみようかな?楽しそうだしね。」

 ベルはそう答えると下宿の宿へと戻った。

 

 翌日、町は活気に溢れていた。

「すごいね。こんなに活気がある。」

「そうだな。俺も正直ここまで活気がある光景は久しぶりだ。」

 下宿している部屋の窓からベルはザルバと話していた。

「じゃあ、俺たちも行きますか。」

 ベルはそう言うと白いコートを羽織り、祭りへと足を進め始める。

 ベルが祭りがおこなわれている道へ行く道中、豊饒の女主人の前を通った。

「んにゃ?そこの白いコートを着た少年。」

「はい?」

 聞き覚えのある声にベルは振り向いた。豊饒の女主人御店先でアーニャともう一人金髪のエルフが立っていた。

「えーっと…お名前窺っていましたっけ?」

「いや、私は教えてないにゃ。」

「アーニャ。」

 エルフの女性がアーニャにチョップを叩き込んだ。アーニャは頭を押さえてしゃがむ。

「申し訳ございません。私はリュー・リオン。こっちはアーニャ・フロメイルです。」

「これはご丁寧にどうも。俺はベル・クラネルって言います。どうぞよろしく。」

 ベルはお辞儀をするとリューもお辞儀で返した。

「ところでクラネルさん。一つ御頼みがあるのですがよろしいですか?」

「ええ、構いませんよ。それと俺のことはベルって呼んで構いませんので。」

「わかりました。では私もリューと呼んで構いません。それで一つの頼みがあるのですが、これを知るに届けてくれませんか?」

 リューはそう言うとベルに財布を渡した。

「財布?」

「はい。シルは今日休みのため怪物祭を見に行こうとしていたんのですが、私たち従業員からお土産を頼まれていたんです。ところが肝心お財布を忘れてしまっています。私たちはこれから仕事のため財布を届けにはいけませんのでどうしようかと思っていたところにベルさんが現れたのでアーニャが声を掛けたのです。」

 リューが分かりやすく説明する。

「そうだったんですか。分かりました。とにかく俺はシルさんにこれを届けますから。」

「ありがとうございます。」

 ベルはリューから財布を受け取った。

「それじゃあリューさんに渡しておきますね。」

「はい、よろしくお願いします。」

 リューはベルに一礼する。そしてベルはリューを探しに通りへと足を進めた。

 



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4話

 ベルは生き行く人たちの中を歩いていた。すれ違うのはカップルや風船を持った子供などであった。

(ほんと、平和な光景だね。)

 ベルはそう思いながらシルを探す。すると噴水に見覚えのある人が座っていた。

「あの人は確か・・・・・」

 ベルはその人に駆け寄る。

「すみません。」

「んっ!君はこの前ジャガ丸くんを買ってくれた子だね。」

「ええ。自己紹介がまだでしたね。俺はベル・クラネル。貴女は?」

「僕かい?僕はヘスティア。こう見えても神なんだよ。」

 ヘスティアはそう言うと胸を張って言った。

「神だったんですか?だとしてもなんでアルバイトを?」

「う゛っ!」

(あれ?なんか聞いたらまずかったか?)

 ベルはヘスティアの反応を見てそう思った。

「うう……実は………」

 ヘスティアは重い口を開いた。神界から地上に降りてきたはいいものの神友のヘファイストスの所で何もすることなくダラダラ過ごしていたら追い出された。それでも住むところがないと泣き付くと仕方なく廃れた協会を提供され、今はそこでアルバイトをしながら生活をしているそうだ。

「アハハ…とりあえず、何もしないヘスティア様が悪いと思いますよ。」

「君まで僕を!」

「こればかりは仕方ないかと。」

 ベルは苦笑いしながらそう言った。

「あ、すみません。ヒューマンの銀髪女性を見かけませんでしたか?」

「ううん、僕は見てないよ。もしかして彼女かい?」

「違いますよ。豊饒の女主人って店の従業員に頼まれて探しているんです。財布を忘れたそうなので。」

「そうなのか。早く見つかるといいね。」

「はい。それでは失礼します。」

 ベルは一礼するとその場を後にした。

「あの子から別の何かを感じたけど……僕の気のせいかな?」

 ヘスティアはゼルの背中を見ながらそう呟いた。

 

「こうまで見つからないか……だが財布がないのだとしたら他にどこに行く?」

「財布がないなら闘技場に行くんじゃないのか?あそこなら一般公開されているだろうし、金も要らんはずだ。」

「成程ね。」

 ザルバのこと奈にベルは納得すると闘技場の方へと足を勧めた。

 その頃闘技場からはアイズとティオナ、ティオネが闘技場から出てきていた。

「モンスターの調教すごかったね。さっすがガネーシャ・ファミリア。」

 闘技場での調教にティオナがはしゃぐ。

「でもアイズは興味ないみたいね。」

 ティオネが横目でアイズを見る。普段からあまり表情を出さないアイズだが、感覚的にティオネはわかった。

「アイズ、もしかして酒場で言ってたベルって子のこと気にかけているの?」

 ティオナがそう言うとアイズはうんと返事をした。

「そんなにすごかったの?」

「すごかった。正直、私でも太刀打ちできないと思った。」

「アイズがそう言うなんて…いったいどんな子なの?」

 ティオナが尋ねるとアイズは答えた。

「白いコートを着てて赤い目に白髪。」

「あんな感じの?」

「そうそう……て、あ!」

 ティオナが指さす方向にはこちらの方へと向かっているベルの姿があった。アイズはベルの姿を見るなり駆け足で近づく。

「ちょっと!」

「待ってよアイズ!」

 ティオナとティオネはアイズを追いかけた。

「ここか。結構人が出入りしているから探すのは至難の業だな。」

「だね。ん!」

 ベルが近づいてくるアイズに気付いた。

「アイズさん。」

「ベル、久しぶり。」

「久しぶりです。後ろのお二人は?」

 ベルがアイズの後ろを向くとアイズもベル同様後ろを向いた。後ろからはアイズを追いかけてティオナとティオネが駆け寄ってきていた。

「アイズってば、私たちを置いて行っちゃうんだから。」

「急に走らないでよね。て、その子がベルって子?」

 ティオネが注意し、ティオナが興味を持つ。

「えっと・・・・そちらのお二人は?」

「紹介する。私と同じロキ・ファミリアのティオネ・ヒュリテとティオナ・ヒュリテ。」

「ティオネ・ヒュリテよ。よろしく。」

「ティオナ・ヒュリテだよ!よろしくね、白君!」

「白君!?」

 妙なあだ名にベルは声を上げる。

「うん!だってコートも髪の毛も白だからね!」

「変なあだ名つけないの!」

 ティオナがティオネに拳骨を振り下ろした。ティオネは頭を抱える。そんな光景にベルは苦笑いする。

「そう言えば銀髪のヒューマンの女性を見ませんでしたか?少し頼まれごとがあって。」

「ううん、見てない。二人は?」

 アイズ首を横に振ってがティオナとティオネの方を向くと二人も首を横に振った。

「そうですか。それじゃあ……っ!?」

 ベルは闘技場の方に警戒心を出す。

「ベル、どうかしたの?」

 アイズが問うとベルは答えた。

「どうやら………今回のお祭りは和やかに終わりそうにないですね。」

 ベルはそう言うと懐から赤身の鞘の剣を取り出した。

「ベル?」

 アイズ同様、ティオナとティオネもベルの行動に疑問を持つが、その答えはすぐにわかった。

「グォオオオオオオオオオオオオオオ!」

 突如として聞こえてきたモンスターの雄叫びと共にベルの方へとモンスターが拳を振り下ろしながら迫ってきた。

「避けろ!」

 ベルがそう声を飛ばすと三人はその場から一斉に離れる。ベルも少し後ろへと飛び回避する。

 刹那、ベルのいた場所に真っ白な毛に覆われ両肩と両腕の筋肉に特化しているモンスター、シルバーバックが現れた。

「これは……俺目当てで間違いね。」

 ベルはそう言うと体の前に剣を持ってきてゆっくりと剣を抜刀する剣先をシルバーバックに向け構える。

「ベル、逃げて!」

 アイズがベルに向け叫ぶが、ベルはシルバーバックをじっと見ていた。

 シルバーバックが左の拳を振り下ろす。ベルは動きに合わせて剣の地肌を使いシルバーバックの攻撃を流すと一回転する。シルバーバックの拳は地面へと落ちる。ベルはシルバーバックの腕を伝い一気に頭部へ近づくと剣を横一線に振り払い、シルバーバックの後ろに立つ。

 ベルは剣先を鞘に入れると体の前で縦に剣を収め、柄まで収めた。

 その瞬間、シルバーバックの頭と胴体が落ち、身体はチリと化し魔石だけが残った。

「………………すごい。」

 アイズはベルの強さに感心した。

 だが通りの至る所から悲鳴が聞こえてきた。

「ちょっと穏やかじゃないな。誰か状況を分かってる人はいないのか?」

 ベルが探そうとすると聞き覚えのある声が聞こえてきた。

「ベル君!アイズさん!」

「エイナさん…どう追う状況なんですか、これは?」

「教えてください。」

 ベルとアイズが問うとエイナは答えた。

「実は闘技場からモンスターが何体か逃げ出したらしくて、それで大騒ぎなの。今は避難誘導をギルド職員がやっているところなんだけど…」

 エイナの言葉だけでベルは理解した。パニックになっている一般市民では逃げ遅れが出てもおかしくない。最悪、死者が出る可能性がある。

「わかりました。俺は出来る範囲でモンスターを倒します。」

「な、なに言ってるのベル君!君は神の恩恵も受けていない無所属の人間なのよ!」

『なっ!?』

 エイナの言葉に三人は驚いた。

「そんなことは今いいんです。一刻も早く助けないといけない状況ですから。」

 ベルはそう言うと騒ぎのある方へと跳びながら移動した。

「………ベル君、普通の人間はそこまでの脚力ないよ。」

 去りゆくベルにエイナはそう呟いた。そんなエイナにアイズが尋ねる。

「すみません。」

「は、はい?」

「今のって、本当ですか?」

「へ?」

「神の恩恵も受けていない、つまりどこのファミリアにも所属していないって話です。」

 アイズの質問にティオナとティオネも興味を示していた。

「え、ええ……彼はこのオラリオに来てまだ三日くらいよ。どうかしたの?」

『…………………』

 三人は何とも言えない表情になった。後に先程ベルがしたことを聞くなりエイナの声がこだましたが町に響き渡る悲鳴とモンスターの声で掻き消された。

 



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5話

「邪魔だ!退け!」

 ベルは次から次へと来るモンスターを切っては捨てるを繰り返していた。

「いったい何体いるんだ!」

 ベルはどこからともなく湧いてくる様なモンスターの数に終わりがあるのかと思った。

「ベル、急がないとおのお嬢ちゃんが危ないぜ。」

「わかってる。でも見つからないんじゃ………」

 ザルバとベルがそんな話をしていると向こうからヘスティアが開け寄ってきた。

「ベルくーん!」

「っ!ヘスティア様。」

 ベルはヘスティアに気付き歩み寄る。

「どうしたんですか?というか早くここから…」

「何を言ってるんだ、ベル君!確かに僕は何の力も持っていないがせめて避難誘導くらいはできるよ。こうして町の人が襲われているんだ。黙って見てられないよ!」

「ヘスティア様・・・・」

 ベルはヘスティアの思いに心を打たれる。

「……わかりました。でも俺この行く先々でモンスターがいるので出会ったらすぐに隠れてください。」

「もちろんだとも!」

 ヘスティアはベルと共に避難誘導をしながらシルを探し始める。

 

 その頃アイズ、ティオナ、ティオネは合流したレフィーヤ・ウィリディスと共に地面から生える触手に苦戦していた。

「こんなことなら何か武器もってくるんだった!」

「無い物ねだりするんじゃないの!」

 文句を言うティオネに対しティオナが言う。地面から生えてくる触手は硬く、アマゾネスである二人の腕力を持ってしても壊せるものではなかった。

【誇り高き戦士よ、森の射手隊よ。押し寄せる略奪者の前に弓を取れ。同法の声に答え、弓を番えよ。】

 詠唱するレフィーヤに向かい触手が伸びるがアイズがレイピアで触手を切る。

【帯びよ炎、森の灯火。撃ち放て、精霊の火矢。雨の如く降り注ぎ、蛮族どもを焼き払え。】

 レフィーヤの詠唱が終わるとティオナとティオネは触手から離れる。

「ビュレイド・ファラーリカ!」

 広範囲に渡り炎が触手を焼き尽くした。

「やった!」

「これでこいつは…」

 そう思ったのも束の間。地面が揺れ、触手が現れた。

「また出てきた!」

「なんなのよコイツは!糞!」

 触手にティオネとティオナは何度も出てくる触手にうんざりしていた。

 

「ふっ!」

 ベルは壁を蹴り、二首のモンスターの後ろに着くと剣を振り上げた。モンスターは盾真っ二つに斬られ、魔石だけを残して消滅した。

「す……すごい………」

 ヘスティアはベルの実力に驚かされた。

 ベルは剣を収めると未知の片隅で泣いている女の子に声を掛ける。

「大丈夫?」

「うん………ありがとう、お兄ちゃん。」

 ベルは泣いている女の子の頭を撫で、微笑んだ。そこへ女の子の母親がやってきた。

「冒険者のお方ですか?うちの娘を助けていただきありがとうございます。」

「お礼はいいので早く安全な場所に。もしくは建物の奥に隠れていてください。」

「はい!行くよ。」

「うん……お兄ちゃん、ありがとう。」

 女の子は母親に連れられその場を後にした。

 ヘスティアはベルに話しかける。

「すごいじゃないかベル君。あんな数のモンスターを倒すなんて。」

「どうも。でもまだ嫌な予感が……」

「ベル君!」

 ベルとヘスティアの元へエイナが駆け寄ってきた。

「アイズさん、そっちの避難はどうですか?」

「一部を除いて避難は完了したわ。」

「ベル君。この子は?」

「ギルドのエイナさんです。」

「成程。僕は神のヘスティアだ。アドバイザー君、さっき言ってた一部の方の避難にはどう対処しているんだい?」

「はい、神ヘスティア。ロキファミリアのアイズ・ヴァレンシュタインさんとティオネ・ヒュリテさん、ティオナ・ヒリュテさんと、レフィーヤ・ウィリディスさんが対処しています。しかし……」

 エイナの言葉にヘスティアは「ゲ!ロキの…」と言うが、ベルは違った。エイナはだんだん表情が曇ってゆくことに気付いた。

「手ごわいのですか?」

「…ええ。正直、Lv.5が三人とLv.3がいても勝てない状況よ。うち二人は獲物が無いから…正直不安だわ。」

「じゃあ俺が!」

「ダメよ!君はどこのファミリアにも所属していないじゃない!神の恩恵も貰っていないのに行っても足手まといよ!」

「えっ!君神の恩賞も受けないであれだけのモンスターを倒したのかい!」

 ベルを止めるエイナの言葉にヘスティアは驚いた。

「どうするベル?このお嬢ちゃんはてこでも動かないぞ。」

 ザルバが口を開いたことに頭が付いて行かないヘスティア。だがベルはそんなことは気にも留めずザルバに話す。

「こうなったら…アレだね。」

「アレって……正気か?こんな土壇場で。」

「仕方ないだろ?」

 ベルがそう言うとザルバは溜息を吐く。

「仕方ない。お前さんが決めた道だ。」

「ありがとう、ザルバ。」

 ベルはザルバにそう言うとヘスティアの前に立つ。

「ヘスティア様、お尋ねします。」

「な、何かな?」

「貴女のファミリアにまだ空きはありますか?」

「ベル君……まさか!」

 エイナは声を上げる。

「俺を、貴方のファミリアに入れてください。」

 



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6話

 ヘスティアはベルが持っていたナイフで指先を切るとベルの背中に血を垂らす。ベルの背中にヘスティア・ファミリアのエンブレムが刻まれる。

ヘスティアはベルが持っていた羊皮紙とペンで彼のステータスを書き写す。だたひたすら、気にすることもなく。

「はい、書き終わったよ。これで君は僕のファミリアの一員だ。」

「ありがとうございます、ヘスティア様。」

 ベルは礼を言う。そんな中エイナはベルの上半身に顔を赤くしていた。

 ベルの上半身には細身にもかかわらず引き締まった筋肉をしていた。一種の芸術の様なものであった。

「それじゃあ先にアイズさんたちの方へ行きますね。」

 ベルはそう言うと上着を着てコートを羽織る。

「ザルバ、気配はわかるか?」

「俺を誰だと思ってんだ?そのくらい朝飯前だぜ。」

「そうだったな。」

 ベルはザルバにそう言うと走り始める。

「ベル君…」

 ヘスティアは心配そうな顔でステータスを書いた羊皮紙を見る。

「ん?…………………んなっ!?」

 ヘスティアはステータスを見て驚く。

「どうしたんですか、神ヘスティア?」

「………サポーター君。」

「はい?」

「……………ベル君は、いつオラリオに来たんだい?」

「えっと………四日くらい前ですが………それが何か?」

「………君は今、歴史を大きく狂わせる存在を担当したことになるよ。」

 ヘスティアの言葉にエイナは首を傾げた。

 

 その頃、アイズたちは突如地面から出現した極彩色のモンスターに苦戦していた。モンスターが出す触手によりレフィーヤは掴まっていた。ティオナとティオネは触手からレフィーヤを解放しようと奮闘するが、全くモンスターは興味を示してはいなかった。

(このままじゃ…………誰か、助けて!)

 レフィーヤは目を瞑り、切にそう願った。徐々にモンスターの口へと運ばれるレフィーヤ。それを止めようと三人は近づこうとするが触手が邪魔をして近づけなくなっていた。

「諦めるな!」

 突如、彼女へ投げかけられた言葉と共にレフィーヤを縛っていた触手が切られ解放される。触手を切ったのはベルであった。ベルはレフィーヤを腕に抱えるとそのまま後ろに跳びモンスターから距離を取る。

「大丈夫ですか?」

「ええ……………痛っ!?」

 レフィーヤは痛めた腕を抑える。ベルは迷うことなくコートの中からハイポーションを取り出すとレフィーヤに渡した。

「これを飲んでください。」

「でもこれは!」

「いいから!」

 ベルはそう言うとモンスターの方を向く。

「ふっ!」

 ベルはモンスターに向かい跳ぶと剣を振り触手を切る。しかし触手は切っても切っても減りはしなかった。

「ベル君、やるじゃん!」

「でもコイツ、全くなんとも思ってないみたいけどね。」

 ベルの隣でティオナとティオネが言った。

「やっぱりコイツの魔石はあの胴体……だが………っ!」

 ベルはその時モンスターの後ろで動けなくなっているシルに気付いた。

「マズイ!」

「あっ!」

「ちょっと!」

 突如駆け出したベルに二人は声を掛けるが止まること無く突っ走る。

「ベル?」

 別の場所にいたアイズはベルの行動が理解できなかった。

「どけぇええええええええええええ!」

 いくつも迫りくる触手をベルは走りながら全て斬り捨てる。そしてシルの元へ辿り着いた。

「シルさん!」

「っ!ベルさん!」

「掴まって!」

 ベルはシルを腕でがっちり捕まえると後ろへ飛び始める。

 触手が後ろから来るがベルは身体を捻らせ回避、そして切るを繰り返す。

「………すごい!」

 アイズはベルの技量に驚かされる。並の冒険者でもあそこまでの技量は持ち合わせていなかった。

 そして同時にベルに抱えられているシルへ嫉妬していた。本人自身その感情が何なのかは理解はしていないが、それは嫉妬であった。

 ベルはシルをティオネとティオナがいるところまで運ぶと降ろした。

「シルさんはここに。後は俺が。」

 ベルはそう言うとモンスターの方を向く。そこへアイズが来て、目に入った。

「待ってベル。ファミリアに入ってない貴方じゃあのモンスターには勝てないわ。」

「大丈夫です。それにさっき入りましたから。」

 ベルとアイズが話しているとヘスティアとエイナが駆け付けてきた。

「ベルくーん!」

「はぁ…はぁ…速いですよ、ベル君。」

 二人はベルの元に着くと膝に手を置き肩で息をする。

「ベル君、き、君のステータスを見たけどあのモンスターを倒せるのかい?僕は今日ファミリアになった君を失うのは…」

「大丈夫ですよ、ヘスティア様。」

 ベルはそう言うとヘスティアの頭を撫でる。

「俺は必ず帰ってきます。それに俺は、いや俺たちは希望ですから。」

 ベルはヘスティアにそう言うとモンスターの方へとゆっくりと歩み始める。

 その背中は大きく、どこか安心させるものがあった。

「ザルバ、行けるか?」

「ああ。オラリオで初の召喚だ。気合入れろよ!」

「わかってる。」

 ベルは身体の前に剣を構えるとゆっくりと剣を抜刀。そして刃をザルバに擦り付けると火花を散らしながらゆっくりと引く。

「貴様のその命、俺が断ち切る!」

 ベルは剣先を天に向けると円を描くように振り、振り下ろした。空間を割いて画かれた円から光が溢れ、ベルを照らすと足、腰、胸部、腕、そして頭と金色の鎧が身に纏われる。顔は狼の形をしており、剣も赤みの剣から金の装飾が施された牙狼剣へと変わっていた。

 

 かつて世界に脅威と言われるモンスターたちを倒してきた“騎士”と呼ばれる者たちの中で最高位に立ち、希望の意味を持つ戦士。いくつもの伝説を残した者。

 その名は牙狼。黄金騎士・牙狼である。

 

 ベルの牙狼としての姿にアイズたちは言葉も出なかった。

 ベルは牙狼剣を構えるとモンスターに向かい直進。触手が襲い掛かってくるがベルはその触手を切裂き捌くと本体へ一太刀入れる。

 モンスターは悲鳴を上げる。前後左右からモンスターの触手が襲い掛かってくるが牙狼は上へと跳び回避する。触手は空中の牙狼へと伸ばされる。

「舐めるな!」

 牙狼は牙狼剣で迫りくる触手を次々と切る。

「ふっ!はっ!はっ!はぁああああああ!」

 牙狼は剣先を下へ向けるとそのまま地面へ降りると共に牙狼剣をモンスターへと突き刺した。

「ふっ!はぁあああああああ!」

 牙狼は牙狼剣を深く突き刺し、そして―――

「はっ!」

 一気に捻りモンスターを消滅させた。

 魔石だけが残り、そこには牙狼だけが立っていた。牙狼は牙狼剣の剣先を鞘に納めると縦にして柄まで収めた。その直後、鎧は召還された。

 ベルはシルの下へ行くとコートから財布を取り出した。

「ベルさん、これは?」

「授業員の人から頼まれていた物です。最も、こんなんじゃお土産も買えませんけど。」

 ベルは皮肉交じりに言った。そんなベルにアイズは尋ねる。

「ベル…あなたは何者?」

 その問いに対しベルはこう答えた。

「俺はヘスティア・ファミリア所属のベル・クラネルです。そして半人前ですけど、牙狼です。」

 



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7話

 怪物祭騒動の後、町の至る所にモンスターの爪痕は残されたものの、幸いにも死者は出なかった。けが人は何人か出たものの軽傷。まさに奇跡と言っても過言ではなかった。

 そんな日の夜、黄昏の館で一人アイズは湯船に浸かりながら考えていた。

(ベル……ベル・クラネル……)

 はじめて彼の戦う姿を見て、どこか普通の冒険者とは違う感じがしていた。そして今日、その確信が持てた。

 苦戦したモンスターを倒しただけでなく、戦いの中で第三者の救出も行っていた。おそらくあのモンスターを倒す前にも他のモンスターを倒してきたのであろうとアイズは推測する。

「……私は、強くなる。貴方を超える。」

 アイズは静かにそう呟いた。

 

 一方ティオナは食堂でボーっとしていた。

「おい、アイツどうしたんだ?モンスターの毒にでも侵されたのか?」

 いつものティオナじゃないことに誰でも気付く中、ベートがティオネに尋ねる。

「ああ、あの子?実は今日衝撃的なのを見たのよね。」

「衝撃的?なんだよそれ?」

「前にアイズが酒場で言っていたベルって子がいるでしょ?」

「……ああ。」

 ベルの話が出るとベートは不機嫌な顔になる。

「彼、今日私たちが苦戦したモンスターを倒したのよ。」

「それって弱ってたところを倒したんだろ?雑魚じゃねぇか。」

 そんなベートに対しティオネは言った。

「違うわ。私たちアマゾネスの力で殴っても結構硬いモンスターだったわ。アイズも魔法を使ってやっと切れる程のね。でも、彼は違ったわ。彼は魔法もなんも使わずに触手を切って避難に遅れた人を助けた。それだけじゃない、剣で空間を切って鎧の様なものまで出してモンスターを倒したわ。」

「なっ!?」

 ベートはその言葉に驚きを隠せなかった。アイズの実力を知っているベート。Lv.5のアイズが手を焼いた相手をベルが倒したのだから。

 そんな二人にロキとリヴェリアが近づいて来た。

「なんや、面白い話しとるな。」

「その話、私にも聞かせてくれないか?」

「ええ。」

 二人の言葉にティオネはそう答えた。

「ティオネ、そのベルっちゅう奴はどこのファミリアや?」

「確かヘスティア・ファミリアって言ってました。」

 その言葉を聞くなりあの「ドチビのか!」とロキは声を上げた。

「あ、そういえば……」

「どうかしたか?」

「確かあの時、未熟者だけどガロって言葉を口にしてました。」

 ティオネの言葉を聞くとリヴェリアは目を見開いた。

「どうかしたのか、リヴェリア?」

 ベートが問うとリヴェリアは言った。

「牙狼……たしか私がここに来るまでに何度か聞いたことがあるな。」

「なんなんだ、その牙狼ってのは?」

「牙狼とはあるところでは希望を意味する言葉らしい。

 その起源として過去に悪魔とまで言われてきたモンスターたちによっていくつもの国や町が滅んだ時代からだ。当時はダンジョンのモンスターとは比べ物にならないくらい酷いモンスターがいてな。国の選りすぐりの軍をもってしても倒せなかったそうだ。

 そんな矢先、ある一人の男が現れた。その男は剣と鎧を使ってモンスターを倒した。それがある国での伝説だ。その者たちは騎士と呼ばれ、至る所に同じような伝説はあれど、風貌が違うのが多かった。

だが一人だけ、数々の偉業を成し遂げた者がいた。その者は何代にもわたり偉業を成し遂げてきたそうだ。そしてその偉業を成し遂げてきたものには共通してこう呼ばれているらしい。

黄金騎士・牙狼と。」

その言葉を聞くとロキは顎に手を当て、考え始める。

(ドチビがベルっちゅう子が自分とこに入ったらあの席で自慢しているはずや。てことはその後にドチビの眷属になった。そう仮定したほうがええ。でも問題はそのベルがどんくらいの実力かや。まぁ、明日にでも分かるか。)

 ロキがそう思っているとティオネは爆弾発言をした。

「でも私たちが最初に会った時はどこのファミリアにも所属してなかったわ。なのに私たちの目の前でシルバーバックを倒したわ。」

 その言葉に食堂で意味を傾けていた全員に衝撃が走った。

 アイズの話ではベルはミノタウロスを倒した。つまり、神の恩賞も受けずにダンジョンに乗り込み、ミノタウロスをたった一人で倒したこととなる。

(どえらい奴がいたもんやな、こりゃ神会でえらく取り上げられるで。)

 ロキは一人そう思った。

 

 一方その頃ギルドではエイナは臨時の仕事をしていた。

 怪物祭による被害の報告や逃げ出したモンスターの詳細情報、怪我人の情報やモンスター退治に貢献した冒険者など、やることは山ほどあった。

 一通り終えるとエイナは背中を椅子に預け、一息つく。

「お疲れ、エイナ。」

 エイナの同僚のミィシャ・フロットが声を掛ける。

「そっちの進捗は?」

「それが……」

 ミィシャは目を泳がせる。

「……アンタはねぇ……」

 エイナは握りこぶしを作るが、すぐに拳を収め溜息を吐く。

「あれ?どうしたの?」

「半分はアンタに呆れてるのよ。で、もう一つが……」

 エイナは机の上に置かれているベルのステータスが掛かれた紙を見る。

「もしかして、そこに書かれてる子のステータス?」

「ええ、そうよ。もうあの子は……」

「あの子って、ベルって子のこと?白い。」

「ええ、そうよ。それで今日ファミリアに入ったのよ。」

「よかったじゃない。貴女、神の恩賞を受けていないあの子のこと気にかけてたから喜ぶべきことじゃないの?」

 ミィシャの言葉も最もであった。だがエイナは違った。

 

 その頃ヘスティア・ファミリアの拠点である廃教会……ではなくベルが止まっている宿。そこにヘスティアとベル、そしてザルバはいた。

 理由としてはヘスティアがあんなところで一人で住んでいるのが理由であり、ボロボロであったためさすがのベルも怒り、下宿している宿に今晩は止まらせている形である。

「ふ~ん。ザルバ君は千年以上生きているんだね。」

「まあな。最も、俺もいつ生まれたか長すぎて忘れちまったがな。」

 スタンドに掛けられているザルバとヘスティアが話しているとベルが話しかける。

「ヘスティア様、俺のステータスってどうなっているんですか?」

「ああ、それか。実は……」

 気まずそうな顔でヘスティアはステータスを書き写した紙を差し出す。あの時は無我夢中であったがため嘘偽りなく書いている。

 

ベル・クラネル

Lv:5

力:S 940

耐久:S 976

器用:S 965

敏捷:S 943

魔力・A 855

《魔法》 【】

《スキル》 【守りし者】

     ・仲間や守るもののためにステータスが上昇する。

     ・常時発動

 

「「ベル君、君は一体どうやったらこうなるわけ?」」

 ギルドにいるエイナとヘスティアは同時に言った。

 

 そして翌日、ギルドの掲示板に大々的に張り出された。

 書き出しは『新人冒険者異例のLv.5!』と。

 



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8話

 ベルの異様性はオラリオを一気に知れ渡った。

「こりゃ、迂闊に外に出てもゆっくり出来なさそうだな。」

「そうだね。」

 ザルバと話しながらベルは協会の修理を行っていた。流石にボロボロの床にボロボロの壁、窓もボロボロでは泥棒や蛮族に襲ってきてくださいと言っているようなものである。

 だが業者を雇おうにもどこが信頼できるのかがわからない。

 よって自分で治すという結論に至ったのだ。

 無論、簡単ではない。だがやるしかないのが現状である。金は怪物祭に貢献した冒険者へ倒したモンスターの数の分配分されたものを使っている。

 ちなみにご近所には朝早くから報告しました。

「しっかしよくこんなところに住んでいるよね。」

「住めば都って言うけど、無防備にも程があるわ。」

 ベルの言葉にザルバが相槌を打つ。

「流石にあの神様の嬢ちゃんにこれは無理だしな。」

「むしろバイトに行ってくれてた方が安心するね。」

 ヘスティアは最初手伝うと言い出したが金槌も持ったことのない素人が手伝うと悲惨な姿になるのは目に見えているためバイトの方へ行ってもらっている。

「さて……屋根は終わったね。」

「相変わらず手際いいよな、お前。」

 汗を拭うベルにザルバはそう声を掛けた。ベルは屋根から降り、着地する。

「さて…次は壁だがその先は流石に…」

「だな。水道はパイプの交換でよかったが床とかは流石に無理だな。草むしりでいいな。」

「しかないね。」

 ベルはそう言うとセメント材と水を混ぜ始める。

「にしても、あのロキ・ファミリアの嬢ちゃん。確かアイズと言ったか?お前をずっと見てたぞ。」

「多分同じ剣を使うものとして興味があったんじゃないかな?」

「そう言うもんか?」

 ロープを腰に固定したベルはぶら下がりながらセメントを塗り始める。

「そー言えばレベルアップするとその理由とか書けってハーフエルフの嬢ちゃんが言ってたな。なんて書くつもりだ?」

「ここに来るまでに外で修業を重ねた上に多くのモンスターを倒して経験を積み重ねたからって書いとこ。実際にそうだし。」

「そうだな。それよりもベル。」

「なに?」

「あの時お前は“未熟の牙狼”と言ったな。どうしてだ?」

 ザルバの問いに対しベルはこう答えた。

「内なる自分と向き合っていないから。」

 その言葉にザルバは納得した。騎士として、いつかは訪れる内なる自分と向き合う時が来る。ベルはそれがまだ訪れていないため、未熟と自分から口としたのだ。

「お前さんは内なる自分と向き合ってやっと黄金騎士と名乗れるって思ってるんだな?」

「うん。」

「俺からすればもう名乗ってもいいと思うぞ。」

「それでも納得してないんだよ。」

 ベルはそう言いながら作業を続ける。

 そんなベルに一人の訪問者が来た。

「ベルく~ん!」

「え、エイナさん!こっちでーす。」

「ああ、そこに…て、なんでそこにいるの!」

 エイナはツッコミを入れる。

「壁の修繕工事中です。ちょっと待ってください。此処終わったらすぐそっちに行くんで。」

 数十分してベルは作業を終えるとエイナの元まで降りる。

「それで来たのはギルドの仕事ですか?」

「ええ。それにしても驚いたわよ。町中ベル君のことで大騒ぎ。昨日の鎧のことは伏せておいたけど、私たちの主神ウラノス様には伝えておいたわ。一応、伝えておかないといけないからね。」

「お世話掛けます。」

 ベルはエイナに頭を下げる。

「そう言えばベル君、明日の予定は?」

「明日ですか?ヘスティア様から防具や武器を見ておいた方がいいと言われたんですけど、流石に防具は…」

「ダメよ!貴方防具も無しにあのコートだけ着て行っているじゃない。」

 心配するエイナにザルバは言った。

「安心しな、嬢ちゃん。こいつが来ているコートはちっとばかし特殊でな。並大抵の攻撃は防いでくれるぜ。」

「そうなの?」

「ええ。」

 エイナの問いにベルは答えた。

「それより俺は投擲用の武器がいります。」

「投擲用?」

 エイナは首を傾げる。

「牙狼剣で斬ってて気づいたのが普通の金属で投擲して倒せるモンスターが結構いたので投擲の武器があったらいいなーって思って。」

「上級冒険者みたいな発言しないで。私の胃が痛くなるから。」

 エイナは頭を抱える。

「まあ、そう言うのだったら一緒に行ってあげようか?」

「え?でもエイナさん予定は…」

「ううん、無いからベル君と一緒にどこか行こうかなーって思って。」

 若干頬を赤らめながら言うエイナにザルバは思った。

(こりゃ惚れちまってるな、この嬢ちゃん。)

 しかし当の本人は色恋に関しては鈍感であった。

「そうですか。ありがとうございます。」

 ベルは頭を下げた。

 

 翌日の噴水広場でベルはエイナを待っていた。

 予定の十分前に既にスタンバイしているベル。だが道行く人々からは注目されていた。

「おい、あいつって…」

「ああ、あのLv.5だ。」

「とてもそうには見えないけどな。」

「だがギルドの人間がちゃんと確認したんだから間違いないだろ。」

 ベルの威容性に信じられない人は多かった。

 そんな時エイナが声を掛けてきた。

「ベルくーん。」

「え、エイナさん。」

 ベルは立ち上がり、エイナの方を向く。

 エイナの服装は眼鏡を掛けておらず、胸元が少し開いた白い服に少し短めのスカートを穿いた姿であった。

 その姿を見て少しばかりベルは驚いた。仕事一筋の人からは想像がつかないほどのギャップがある。

「どうかな、ベル君?」

「似合ってますよ。それに可愛いですし。」

 ベルは正直な意見を言うとエイナは少し顔が赤くなった。

(こりゃそっちの才能があるな。)

 ザルバは一人そう思った。

「ベ、ベル君はその恰好なんだね。」

「ええ、まあ。」

 ベルは相変わらず黒い服に白いコートである。

「じゃあ、行きますか。」

「はい。」

 ベルはエイナに付いて行く。

「どこなんですか?」

「バベル。」

「バベル?あそこに何かあるのですか?」

「ヘファイストス・ファミリアが運営している店があるの。目当ては上の階だけど、下の階のも見てみない?」

「エイナさんがそうしたいのなら。」

「じゃ、行きましょ!」

 エイナはベルの手を引っ張り、バベルの中へ入る。

 

 エレベーターを少し上った階。そこは豪華に装飾され、高価な鎧や武器がガラス張りに展示されていた。

「結構高価ですね。とても上層でモンスターを狩ってても買えないくらいに。」

「初日にとんでもない額を稼いだ君が言うかな?」

 エイナは心底そう思った。

「けど…俺には縁がないですね。」

「そうなんだ。その剣ってどんなもので出来てるの?」

「ここではちょっと。人が多いですから。」

 ベルはそう言うと他の展示物を見始める。そんな姿にエイナは微笑んだ。

 

 そして上の階へ上る。そこはまだ名も売れていないヘファイストス・ファミリアの眷属たちが作った武器や防具が置かれていた。

「へー。名が売れてはいないけど、頑張ってるのが感じられる武器がありますね。」

「そうなんだ。でも下のとは違って甘いの?」

「ええ、まあ。重心が少し悪いのもありますから。」

 ベルは武器を手に取りながらそう言った。

「それよりもちょっと……ん?」

 ベルは束で置かれている投擲用の小型ナイフに目が留まる。

「これは…」

「どうかしたの、ベル君?」

「ええ、ちょっと…」

 ベルはナイフを念入りに見る。

(いい作りだ。投げやすくて隠しやすい。それに軽い上に使かっているのは普通の鉄。ここまでの物を作るとは……)

「どうだベル?目当てはあったか?」

「ああ。これにするよ。それに個人的に作った人物に会いたくなりました。」

「そこまで…そんなに良かったんだね。」

「ええ。じゃあ俺はこれ買います。」

 ベルはそう言うと会計へ向かった。因みにお値段は30本セットで7,500ヴァリスとお買い得であった。

 



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9話

 エイナとの買い物を終えたベルはファミリアへの道を歩いていた。

「ヴェルフ・グロッゾ……いつか直接会ってみたいな。」

「ああ、そうだな。」

 ザルバと話しながら話していると走っている小さな女の子とぶつかった。女の子は路地に倒れる。

「ごめん、大丈夫?」

 ベルが声を掛けると別の声が聞こえてきた。

「もう逃がさねぇぞ!この糞小人族が!」

 走ってきた男は女の子に剣を振り下ろそうとする。ベルは鞘に収めた牙狼剣を取り出し剣を受け止める。

「なんだテメェ、そいつの仲間か?」

「違うよ。」

「じゃあなんで庇う?」

「強いて言うなら……武器も持っていない女の子にしか手を出せない奴が許せないから。」

「んだとゴラ!」

 男は再度剣を振り下ろそうとする。

「はっ!」

 ベルは牙狼剣を抜刀し男の剣の刀身を半分の所で折った。折れた刀身は宙を舞い、そして地面へと落ちた。

「テメ…っ!」

 ベルは男の喉元に剣を突き立てる。

「今から逃げれば見逃してあげる。でもそうでない場合は…ギルドに突き出す!」

 ベルは殺気を込めた目で男に言い放った。

「ふ…ふざけるな!」

 男はベルに殴りかかろうとするがベルは袖から特殊な筆を取り出すと小さな陣を描き魔力を放つ。純粋な魔力であれど大砲並みの衝撃は与えられる。男は結構遠くまで吹っ飛ばされた。

「大丈夫……て、あれ?」

 ベルは後ろにいるであろう女の子に声を掛けるがそこにはもういなかった。

「いないか……ま、救えたからいっか。」

 ベルはそう言うと牙狼剣を鞘に納める。

「……今のはなんですか?」

「ん?貴女は…リューさん。」

 道にある階段の上の方からリューがベルに声を掛ける。

「お久しぶりです。」

「どうも。先日はシルを助けていただきありがとうございました。」

「いえいえ、当然のことをしたまでですから。」

 ベルはリューに軽い挨拶をする。

「それで今のは何なのですか?」

「今のは純粋な魔力の塊を放っただけです。ちょっとムカついたので。」

「成程。気持ちはわかります。でも、自分を大事にしてくださいね。」

「心配してくれてありがとうございます。」

「勘違いしないでください。貴女が傷つくとシルが悲しむので。では。」

 リューは一礼するとその場を後にした。

 

 翌日、ベルは自分で作ったソファーで目を覚ます。

「なんか身体が…ん?」

 ベルがベッドを見るとそこにはヘスティアがベルの上で寝ていた。

「寝ぼけたのかな?」

「うにゅぅ………」

 ヘスティアはベルの胸に顔を埋めるように眠る。

「全く、神って言いながらもこうしてみたらただの女の子じゃないですか。ヘスティア様。」

 ベルはそう言うと頭を撫でる。するとヘスティアは寝ぼけているのかベルに自分の胸を押し付ける。

「子供なんですから。」

 ベルはヘスティアを起こさないようにベッドから出るとシーツを掛け、服を着てコートを羽織りスタンドのザルバを嵌める。

「行ってきます、ヘスティア様。」

 ベルはそう言うとヘスティアのおでこにキスをした。

「ベル君…うみゅぅ/////////」

 ヘスティアは赤くなった顔をシーツで隠した。

 

 まだ霧が掛かっているダンジョン。早朝にも関わらず多くの冒険者やサポーターがダンジョンへと入っていた。

「サポーター……か。」

 ベルはサポーターがいる冒険者を見て考えた。

 冒険者と違いサポーターは魔石やドロップアイテムを回収する役割を担っている。反面、こき使われることもありひどい扱いを受けることが多々ある。

「俺もサポーターがいたらいいけど、まだ未熟だしな……」

 ベルがそう呟いていると後ろから声を掛けられた。

「おにいさーん、お兄さん!白い髪に白いコートのお兄さん!」

「ん?」

 ベルは後ろを振り返るとそこには背が低いわりに大きなカバンを背負っているフードを被った女の子がいた。

「初めましてお兄さん。突然ですがサポーターを探していませんか?」

「え?…ああ、うん。(この子、昨日の…)」

 ベルはそう思ったがあえて口には出さないようにした。

 

 場所が変わり噴水広場。霧は晴れ、一般の人や出店などが回転を始めていた。

「リリルカ・アーデと申します。」

「ベル・クラネルです。」

「えっ!あの―――!」

 リリは大声で口にしようとするがベルは口に指を立てた。

「ここじゃ目立つからダメだよ。」

「はい…すいません…」

 フードを脱いだリリの犬人としての耳が垂れ下がる。そんなリリを見てベルは頭を撫でる。

「そんなに落ち込まないで。」

「ありがとうございます!」

 リリの耳が上に伸び、喜ぶ。

「それでサポーターなんだよね?どこのファミリア?」

「ソーマ・ファミリアです。」

「ふーん。俺はこっちに来たばかりだから聞いたことないけど、ちゃんとファミリアに所属しているなら安心かな。」

 ベルはそう言うと立ち上がる。

「でもこっちはそっちのことをよく知らない。だからお試し期間てのを設けて貰っていいかな?」

「と、言いますと?」

「二週間。その期間俺は君と仮契約を結ぶ。魔石で得たヴァリスは二人で半分こ。仮に俺が契約を途中で切ったとしてもリリにはダンジョンで潜った期間、金が入る。俺はサポーターがそう言う物なのかよく知れる。お互いにとって損じゃないでしょ?」

「はい!じゃあベル様とその仮契約をリリと結ばせてください!」

「じゃあ、成立だ。」

 ベルが手を差しだすとリリはその手を握り、はいと返事をした。

 

「うじゃうじゃと…、全く懲りないね。」

 ベルは魔導筆で魔力弾を放つと投擲ナイフを手に取りキラーアントの急所に投擲する。

 キラーアントは表皮が固い。だが関節部は違う。関節部だけは柔らかいようになっていた。

 キラーアントは苦しむと糸が切れた様に動かなくなった。ベルは牙狼剣を取り出すと胴体を斬り、魔石を回収する。魔石を抜かれたキラーアントは消滅した。

「はい、リリ。」

「すごいですね、ベル様!」

 リリはベルを褒める。

「ベル様、その剣リリがお持ちしましょうか?」

「いや、これは女性には持てないんだ。」

「どういうことですか?」

 普通なら「リリには持てない」と言うところを「女性には持てない」と言った。リリならまだしもアマゾネスなら持てる筈である。

「ちょっとこれ持ってみて。」

 ベルは地面に牙狼剣を置く。ベルは一応「刃は切れるから触れないで」と忠告する。

 リリは牙狼剣を持とうとする。が、細い刀身には釣り合わない程あり得ない重さであった。

「なんですかこれベル様……これすっごく重いんですけど!」

 リリは顔を赤くしてベルにそう言った。

「これはちょっと特殊な金属でね。ソウルメタルって言うんだ。」

 ベルはそう言いながら牙狼剣を持ち上げる。

「これは男にしか扱えない上に、心で扱うんだ。」

「心、ですか?」

「そう。使いようによっては羽のように軽くなるんだ。」

 ベルはそう言うと牙狼剣を鞘に納める。

「さて…リリ、少し下がっててくれないかな?ちょっと数が多くなったみたいだから。」

「へ?」

 リリが間抜けな声を出すと壁に変化が起こった。壁が膨れ上がり、そしてキラーアントがいくつも生まれ始める。

「今日の獲得金は期待していいよ、リリ。」

 ベルはそう言うとキラーアントの群に向かって走り出し、牙狼剣を抜刀した。

 

 ベルはギルドで魔石を換金するときっちり半分リリに渡し、別れた。ベルはソーマ・ファミリアについて気になりエイナに尋ねる。

「う~ん、ソーマファミリアのサポーターかー。」

「やっぱり何かあるんですか?」

「うん。彼らは探索が中心のファミリアで少しだけお酒を売っているの。そこまでは普通なんだけど……」

 エイナは俯き、言った。

「皆どこか必死なんだよね。」

「おそらく何かを求めているんだろうな。金か、酒か。あるいは両方なのかもな。」

 エイナの言葉に対しザルバがそう言った。

「ベル君はどう思ってるの?」

「少し泳がせようかと。それに彼女……どこか悲しい目をしてたんで。」

 ベルはエイナに礼を言うとその場を後にした。

(ベル君は……きっと優しすぎる人なのかも。)

 エイナは去って行くベルの背中を見てそう思った。

 

「どうする、ベル?あの嬢ちゃん、手段は選ばないかもしれんぞ。」

「そうだね……でも少し気になるんだよねー。ソーマ・ファミリアの酒。」

「酒がか?確かに古来から金と酒と娯楽は人を狂わせるものだが……まさか!」

「かも……ね。」

 人気のない道でベルはそう答えた。

 



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10話

 リリと仮契約を結んでからと言うもの、ベルのダンジョンでの魔石の獲得率は飛躍的に上がった。

 ……が、それでもベルはリリに疑いの目を向けていた。本人は上手く隠しているつもりでも、ベルにはリリが会う度に体のどこかを怪我しているのが分かった。外見ではなく、仕草からである。

 人間は怪我をすると無意識にそこを庇う癖がある。それは日常生活を送っていてもだ。だがベルはそのことをリリに問おうとはしなかった。部外者であるベルが尋ねることでもないことでもあるが、絶対という確信がないためでもある。

 そんなことを思いながらベルはダンジョンで昼食をリリと共に取っていた。

「ベル様、明日一日お暇を頂けますか?」

「何かあるの?」

「ファミリアの集会があって、どうしても出席しなければならないのです。契約違反なのはわかっています。どんなペナルティーでも――」

「リリ。」

 そこから先を言おうとするリリをベルは止めた。

「俺は契約に、休暇を取ってはいけないとは一言も言ってないよ。それに仮契約だ。本契約なら書面していたけどこれは仮契約。つまり予定外のことが起きてもおかしくないと俺は思ってるよ。」

 ベルはそう言うとリリの頭を撫でた。

 

 翌日。人気のない城壁の上でベルは牙狼剣を手に精神を集中させていた。

 刀身からは黒い霧のようなものが出ており、一か所に集められていた。一か所に集められたそれは一つの球体となり、形となった。

「……ふぅ。」

 ベルはそれを終えると一息吐く。

「大分邪気が溜まっていたようだな。」

「あれだけ切ればね。」

 ベルが出していたのは倒してきたモンスターの邪気である。モンスターとは言えど感情はあり、そして死ねば怨みを持たれる。そんな邪気を纏っていれば病気や不運に見舞われることもある。そのためベルは浄化を行っていた。

「にしても、あれだけ切ってこの量とは、少ないな。」

 ザルバが口にするのも最もであった。

 ベルはダンジョンに潜って多くのモンスターを切ってきた。それも大量にだ。

 本来であればバレーボール程の邪気の塊ができてもおかしくないのに、出来たのは野球のボールサイズ。明らかに不釣り合いであった。

「何か起きないといいけどね。」

「だな。」

 ベルはそう言うと魔導火で邪気を燃やし、手を合わせ祈りを捧げた。

 

 ベルは帰り道豊饒の女主人の前を通っているとシルに声を掛けられた。

「ベルさーん。」

「ん?シルさん。」

 ベルはシルに呼ばれ豊饒の女主人の方へと歩く。

「先日は助けていただきありがとうございました。」

「いえいえ、冒険者として当然のことをしたまでですから。」

 ベルは軽くシルと会話をしていると店の奥からミアが出てきた。

「おや。アンタこの前のお客さんだね。」

「どうも、お久しぶりです。」

 ベルは律儀に頭を下げる。

「シルから聞いたよ。この間はうちの子を助けてくれてありがとう。」

「気にしないでください。こっちが勝手にやったことなので。」

 ベルがそう言ううとミアは少し笑った。何故笑ったのか分からずベルは首を傾げると汁が答えた。

「実は私もリューもベルさんガイアお母さんに言われたらそう答えるって思ってたんです。」

「そうですか。ん?」

 ベルは店に飾られていた本に目が留まった。

「すみません、それは?」

「これですか?興味あります?お客さんお忘れ物みたいなんですけど、取りに来る様子もないんです。」

 シルはそう言うとベルに渡そうとする。するとザルバが止めた。

「おいおい嬢ちゃん。そいつは魔導書だ。安易に人に渡していい物じゃないぜ。」

 ザルバがそう言った途端、二人は固まった。

「あの、ベルさん。今指輪が喋りませんでしたか?」

「あ、ああ……アタシにもそう見えたよ。」

 驚く二人にベルはザルバを紹介しする。

「すみません。こいつは相棒のザルバです。前もってお話ししておこうと思ったんですけど、タイミングが無くて。」

「ザルバだ。よろしくな。」

 二人は軽くザルバに頭を下げる。

「それよりザルバ、それって本当なのか?」

「ああ、間違いない。こいつからは魔力が感じられる。忘れたのは偶然か必然か、俺にもわからん。だが価格は一級品装備並みの値段だ。弁償とかは数か月掛かるな。」

 ザルバがそう口にするとミアが言った。

「取りに来ない奴が悪いんだからアンタが貰いな。」

「へ?」

 ベルは間抜けな声を出す。

「うちの娘たちを助けてくれたお礼も兼ねてだ。持ってきな。」

「こうまで言われると受けないわけにもいかないな。他人様のだが貰っておけ、ベル。」

「はぁ……」

 ザルバにも言われベルは魔導書を受け取った。

 

 ベルは協会に戻ると魔導書を詠み始めた。

(魔法には種族によって素質に備わる先天系と神の恩恵による後天系の二つがある。後天系の魔法は自己実現である。何興味を持ち、認め、憎み、憧れ、嘆き、崇め、誓い、渇望するか?引き金は常に自分の中にある?)

 ベルが心で読むと魔導書に描かれていた文章は消え始める。

『じゃあ始めよう。俺にとって魔法って?』

――守る力。弱者を強者から守る力。

『僕にとって魔法はどんなもの?』

――光。優しく包み込む、温かい光。

『魔法に何を求める?』

――癒し。怪我した身体を癒す。

『それだけ?』

――ああ、それだけだ。そして俺はその力と、今持っている力で本当に黄金騎士になりたいと思っている。

『子供だな。』

――ああ、それでもいい。でも、それが俺だ。

 

 その日の夜、ベルはステータスを更新した。

 

ベル・クラネル

Lv:5

力:S 955(+15)

耐久:S 978(+2)

器用:S 968(+3)

敏捷:S 955(+12)

魔力:S 900(+45)

《魔法》 【ディア】

     ・治療魔法

     ・軽傷の傷を癒す。

《スキル》 【守りし者】

     ・仲間や守るもののためにステータスが上昇する。

     ・常時発動

 

 魔法が発言したことにヘスティアは驚いた。ベルは魔導書を得たことを言うとヘスティアは気絶した。

 

 翌日、ベルは噴水に腰掛けリリを待っていた。

「今日が最後だな。ベル、答えは決まっているのか?」

「ああ。それよりも…お客さんみたいだね。」

 ベルがそう言うと前日街中で剣を振り回した男がベルに声を掛けてきた。

「おい!」

「アンタはあの時の……なんか用ですか?」

「ちっ!礼儀知らずのガキが。…まあいい。お前、あのガキとつるんでるのか?となると、何も知らねぇってわけじゃあるまいな。」

「何のことか知りませんけど、目障りなんで消えてくれますか?」

「んだっ!」

 男がベルに言おうとした途端、ベルは溝に魔導筆、喉に投擲ナイフを突き立てた。

「一応最終警告しておくよ。もし、リリに危害を加えたりこっちの邪魔なんかしたら、殺すから。」

「っ!?」

 明らかに殺気を込めて冷たくそう言ったベルに男は恐怖した。

「……ふ、ふん!どうせ口だけだろ、この糞ガキが!」

 男はそう言うと尻尾を巻いて去って行った。

「ベル、わかってはいると思うが……」

「ああ、証拠は残さないよ。」

 ベルは誰にも聞こえないように静かにそう言った。

 



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11話

「十階層に?」

「ええ、今日はそこまで行ってみませんか?」

 あの後来たリリと合流したベルはダンジョンのどの階層に行くかを話し合っていた。

 ベルの実力なら簡単ではあるものの、リリのレベルに合わせる必要があった。リリ自身は構わないとは言っていたものの、危険なことは避けたいのがベルの本心だ。

「だがまだ早すぎないかな?リリの安全を―――」

「リリの安全よりもベル様の方を心配してください。それに今日は最後の日なんですから行ってみたいんです。」

 リリにそう言われるとベルは根負けした。

「わかったよ……でも危なくなったらすぐに撤退する。いいね?」

「はい。」

 ベルの言葉にリリは元気よく返事をした。

 

 十階層。霧が掛かって見通しが悪い状態となっているダンジョン。ランドフォームが生え、冒険者の行く道を邪魔する。

だがベルはそんなランドフォームを避けながら進む。

「リリ、ストップ。」

 ベルは急に立ち止まりリリにそう言った。

「どうしたのですか、ベル様?」

「……モンスターだ。」

 ベルはそう言うとコートから牙狼剣を取り出し抜刀する。

 その直後奥からオークが姿を現した。

「待ってて。すぐに片づけるから。」

 ベルはそう言うと一瞬でオークの所まで近づき心臓に剣を突き刺し、続いて一気に抜いた。オークは苦しみながら息絶え、オークの皮だけを残して消滅した。

「終わったよ、リリ。……リリ?」

 ベルはリリの姿を探すが見当たらなかった。そしてベルの周りにあるものに気付いた。

「どうやら化けの皮を現したようだな。」

「被ってたのはコートだけどね。」

「上手いこと言うな。」

 ベルとザルバがそう言っている間にオークが集まってきた。

「さて……ひと暴れしてから叱りに行きますか!」

 ベルはオークに向かい走り出し、剣を振った。

 

 その頃リリは八階層辺りにまで逃げていた。

「ここらへんでいいかな?【響く十二時のお告げ】シンダー・エラ。」

 リリは解呪式を詠唱するとシンダー・エラが解除される。

(ベル様が悪いんです。ベル様が、アイツにさえ会わなければ……)

 リリは少しばかり後悔するがその感情を振り払った。

(ううん、これでいいんです。ベル様も、冒険者のなのですから。リリの嫌いな、冒険者なのですから。)

 リリはそう自分に言い聞かせダンジョンを出ようとする。すると突然足を引っかけられた。

「嬉しいじゃねぇか。大当たりだ。」

「っ!?」

 リリはその声に聞き覚えがあり反応した。その直後、腹を蹴られ仰向けにさせられる。そこにはベルに話しかけてきた冒険者がいた。「散々舐めやがって。この糞小人が!」

 男はリリの顔を何度も蹴る。

「いい様だなコソ泥、そろそろあのガキを捨てる頃合いだと思ったぜ。此処で網を張ってりゃ必ず会えると思ってな。」

 男はリリの髪の毛を引っ張り持ち上げる。

「網?」

「この階層でお前が使える道はそう多くねぇ。四人で手分けをしてたんだが、見事に俺のところに来るとはな!」

 男はリリのローブをはぎ取る。すると他の三人も集まってきた。

 その内の一人、カヌゥが男にある袋を渡した。男はその袋を開けるとそこにはキラーアントが入っていた。

「キラーアント! テ、テメェ! 何やってるかわかってんのか!?」

「ええ、キラーアントは仲間を集める信号を出す。冒険者の常識です。」

「しょ、正気か?テメェ…」

 男はそこから先の言葉を言おうとすると急に前のめりに倒れた。

「い、一体何が!」

 突然の状況に戸惑うカヌゥ。その時、ほかの二人も声を上げ倒れ始めた。

「い、一体何が!」

「俺がそいつらに毒入りのナイフを投げつけたのさ。」

「っ!お前は…二つ名の無いLv.5!」

「え!」

 カヌゥとリリは驚きを隠せなかった。先ほどまでオークの大軍がいたにも関わらず、今この八階層にいるのだから。

「な、なんでお前がここに!このガキがお前を…」

「あの程度の数で負けると思ったか?舐めんな。それと黒髪、お前に言ったよな?」

―――リリに危害を加えたりこっちの邪魔をしたら、殺すから―――

「あの言葉、今お前の仲間である他の三人にも当てはまるよな?だったらお前ら三人も同罪だ。リリは別件で。」

「ふ、ふざけるな!」

 カヌゥはベルに声を荒げる。

「お前なんか新人に、俺たちベテランが―――」

「ベテランと言いながら酒におぼれている奴に言われたくないよ!」

「なっ!?」

「知らないとでも思ったか?ある人に頼んで俺は情報を収集していた。何分、ギルドで騒ぎ立てられた身だからな。素性を隠してもすぐにバレる。そしてお前たちが失敗作の《神酒》に溺れていることも、そのためにどんな非道もやってのけることも知ってる。正直言うとな、俺はお前らみたいなやつらが大っ嫌いなんだ。仲間を見捨て、道具のようにするお前らがな。」

 ベルに言われ反論できないカヌゥはリリを人質に取ろうとする。

 だがその前にベルは毒を仕込んだナイフを投げ、カヌゥを動けなくする。

「な……ぁ……!?」

「喋れないだろ?ちょっと外に出れば生えてる毒植物から取った痺れ薬だ。濃縮しているから効き目は抜群だ。さて……これは少し相手をしないとな。」

 ベスはカヌゥたちを無視してキラーアントの大群を見る。

「リリ。」

「っ!」

「お前がやったことは本来ならば許されない。……が、俺は許す。」

「な、なぜですか!リリは、魔石をちょろまかして騙したことだってあります!ベル様の装備だって盗もうとしました!」

「知ってる。」

「……へ?」

 ベルは間抜けな声を出す。

「リリがそうしてたことも、全部知ってる。けど俺は目を瞑っていた。なんでか分かるか?一瞬だがお前に罪悪感を抱く表情を見せてたし…それにお前、いつも悲しい目をしてた。」

「……」

「俺はな、そんな目をしたやつを見たくない。リリの様に、俺より辛い人生を送っていても、希望を捨てないで、人を信じて生きて欲しいと思ってる。」

 ベルはそう言いながら牙狼剣を抜刀し、ザルバに刃を当て引く。

「もしお前に希望が無いと言うならば、俺が希望になる!俺は!」

 ベルは剣先を天に向け円を描く。円からは光りが溢れ牙狼の鎧が召喚される。牙狼の赤い目が光り、方向がダンジョンに響き渡る。

「希望の騎士、牙狼だ!」

「……黄金の……騎士?」

 リリは牙狼の姿に目を奪われる。

 牙狼はゆっくりと歩きながら剣を抜刀し、迫り来るキラーアントを一匹、また一匹と倒してゆく。決してリリには近づけないように、剣を振るう。

(なんて……大きな背中なのですか……リリは、こんな人を騙そうと…いや、そもそも出来っこない事をとしようとしていたんですか?)

 リリは牙狼の戦いように目を奪われた。

「ベル、一気に焼いちまいな!」

「承知!」

 ベルは魔導ライターを取り出すと剣に纏わせ一閃。魔導火の刃がキラーアントたちを消し炭に変え、魔石だけを残していった。

 その場にいた全てのキラーアントを消滅させるとベルは鎧を召還し、リリの方へと歩み寄る。

「っ!?」

 リリは殴られるかと思い、目を閉じた。しかしいつまで経っても痛みは来ず、顔の痛みが徐々に取れてきているのを感じた。リリはおそるおそる目を開けるとそこには【ディア】を使っているベルの姿があった。

「ベル……様?」

「もうちょっと待って。これで傷とか腫れとか、無くなるから。」

 ベルにそう言われリリはじっとする。

「はい、お終い。」

 ベルはそう言うとリリをお姫様抱っこする。

「ベ、ベル様!?」

「動かないで。治したけど、まだ体力は回復してないんだから。」

 ベルはそう言うとリリを少し離れたところに置き、ソーマ・ファミリアの四人の方へと足を進める。

「お、お前……」

 黒髪の男はベルを見る。

 ベルは牙狼剣ではなく、ランドウォールで作った杭を男の掌に突き刺した。

「ぐぁあああああああああ!!」

 男は悲鳴を上げるがベルは表情一つ変えることなくもう片方の手に突き刺すと今度は足に突き刺した。そして他の三人も同様に杭を突き刺す。

「こ、こんなことして許されると思ってるのか?お前、ギルドのブラックリストに入るぞ。」

 男がそう言うとベルは言った。

「証拠を残さなければいい。ただそれだけだ。」

 ベルはそう言うと懐から小瓶を取り出し、四人に掛けた。

「キラーアントのフェロモン。魔石を抜く前に前もって集めてたんだ。こんなところで役に立つとは思ってもみなかったけど。」

 ベルはそう言うと瓶を魔導火で燃やす。

「じゃ。」

「ま、待ってくれ!俺を…俺を助けてくれ!」

 慈悲を求める男に対しベルは言った。

「お前は俺の警告を無視した。もう遅い。俺に殺されようが、キラーアントに戦って食われようが、動けなくて喰われようが、死ぬことに変わりはないだろ?」

 ベルはそう言うとリリの荷物を回収してリリをお姫様抱っこで入口へと昇って行った。

 男は逃げようともがくベルの毒のおかげで満足に動けなくなっていた。そこへキラーアントの大群がじわじわと近づいてくる。男たちは助けを求めるが近くには誰もおらず。そして肉を食いちぎり、骨を砕く音と悲鳴がダンジョンに響き渡った。

 

 ベルは地上に出て人気のない広場でリリと対峙していた。リリは何も言わず、俯いていた。

「さて……あれだけのキラーアントに襲われればあいつらも死んだだろう。後はすべきことをすればすべて解決だよ、リリ。」

「……うして……」

「?」

「どうしてリリを助けたのですか?だってリリは…」

「俺を騙そうとした?」

 ベルがそう言うとリリは頷いた。

「知ってたよ。換金所のこともね。だから多めにモンスターを狩ってたんだ。それに…リリが悪いとは思わない。」

「……へ?」

 リリはベルの言っていることが分からなかった。どう考えても自分が悪いのに、ベルは悪くないと言っているのだ。

「確かにリリがしたことは悪い。けど原因は、ソーマ・ファミリアのソーマと、それに憑りつかれたファミリア全員だ。リリはまだ俺より年上でも、心は幼い。その時に時間が止まったままなんだ。」

 ベルはそう言うとリリを抱きしめた。

「もう……悲しまなくてもいいんだよ。苦しまなくてもいいんだよ。」

 その言葉を聞くと、リリの張りつめていた思いが一気に溢れ、泣き出した。

「う、うぁあああああああああああああ!」

 ベルは静かに、リリが泣き止むまで一緒にいてあげた。

 

 夜のソーマ・ファミリア。ソーマ・ファミリアの主神であるソーマが一人の骸骨と対峙していた。骸骨はこの世のものとは思えない程の肉体構成と神と対当するほどのオーラを放っていた。

「何の用だ? 私は忙しい。」

「そう言うな。お前はだた自分の趣味のために眷属を得ているクズ神だろ?」

「貴様……私に向かって……」

「おや、いいのか?なんならお前のこれまでにやってきた恥や罪、知られてないこと全ての神にバラしちまうぜ。」

 髑髏がそう言うとソーマは舌打ちする。

「何が望みだ?」

「簡単なことだ。お前の所にリリルカ・アーデって嬢ちゃんがいるだろ?そいつを解放してヘスティア・ファミリアに改宗させろ。」

「なんだと?ふざけるな!」

 ソーマは声を荒げる。

「ただ眷属を金稼ぎの道具に使っているお前にとって、たかが一人減るくらい、どうってことないだろ。」

「私の《神酒》づくりの邪魔をすると貴様は言ったんだぞ!ふざけるな!」

「どっちがふざけているかな?いいんだぜ、お前のことを、真実をアイツに話しても。ガジャリに」

「っ!?」

 ガジャリの名を聞いた途端、ソーマは表情が一変した。

「……わかった。ガジャリに絶対言わないのであればそいつの改宗を許す。もう十分だろ!」

「……ああ、十分だ。此処に血で刻みな。」

 骸骨はそう言うと契約が書かれた羊皮紙を取り出した。

「ゲッシュか……わかった。」

 ソーマは骸骨の言葉に従い血で名を刻む。

「これで契約は成立した、じゃあな。」

 骸骨はそう言うとその場から姿を消した。

「……クソッ!」

 ソーマは行き場のない怒りをものにぶつけた。

 後日、リリはソーマから改宗の許可をもらったことに驚いたがすぐに荷物を纏めてベルたちのいるヘスティア・ファミリアに改宗した。

 



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12話

 リリが正式にヘスティア・ファミリアに入った日の昼、ベルはギルドに向かっていた。

「ザルバ、ソーマを説得してくれてありがとう。」

「気にするな。それに俺の力じゃなくてガジャリの力だからな。」

「ガジャリ?」

 ベルはザルバの言った言葉が気になる。

「いいか、ベル。この世には神がいる。だがそれは一般の人が知っている神だ。だが神ですら恐れる存在がこの世に入る。それが神の力を持っていても恐れる存在だ。それがガジャリだ。」

「どういうこと?」

「ガジャリに勝てる者はいない。神ですらそう公言する存在だ。最も、古い知り合いじゃないとそのことは知らんがな。ガジャリは人間の味方でも、神の味方でもない。自分が気に食わない奴がいればその存在ごと消す。そんな奴だ。」

「その口調からしてきっとそんな神や輩がいたんでしょ?」

「その通りだ。」

 そうこう話している内にベルはギルドに着いた。

「そういやベル、なんで逃げるように去ったんだ?」

 ザルバが教会でのことを思い出した。

「なんか…あの状況に文字通り板挟みになるのが嫌で…理由はわからないけど。」

(それはお前が原因だ。)

 ザルバはベルに対しそう思った。

「ま、まあそんなことは部屋の片隅にでも置いといてエイナさん委報告しておかないと。俺の担当でもあるし。」

「……そうだな。」

 ザルバは呆れながら答えた。

「エイナさんはっと……」

 ベルがギルド内を見渡していると受付でない所にいるエイナの後ろ姿があった。

「あ、いた。でも今取り込み中か。」

 ベルは後にしようと思っとき出会った。エイナと話していたアイズがベルの存在に気付いた。

「ベル!」

「えっ!ホント!」

「あ、ベル君だ!」

「あの人が…」

 アイズの付き添いで付いて来たティオネ、ティオナ、レフィーヤもベルに気付いた。

 ベルは一礼すると近づく。

「今いいですか、エイナさん?」

「ええ、問題ないわ。」

 何故かエイナも同席の下六人は席に座る。

「おい、あそこにいるの戦姫じゃないか?」

「ああ。それに大切断もいるぞ。」

「怒蛇も一緒だ。」

「千の妖精もだぞ。」

「ちょっと待て、よく見たら二つ名の無いLv.5もいるぞ。なんなんだあの状況?」

 ベルの今の状況を見て冒険者たちは小声で言う。

(なんか周りが騒がしいけど、気にしないでおこう。気にするだけ無駄だろうし。)

 ベルはそう思い回りを無視する。

「あ、あの……」

「ん?」

 レフィーヤがベルに何か言おうとする。

「せ、先日は助けていただきありがとうございました。」

 レフィーヤは頭を下げる。

「ああ、あれ?別に気にしなくてもいいよ。俺が勝手にやったんだし。」

 ベルがそう言うとエイナはクスクスと笑った。

「そ、それで聞きたいんですけど……どうして助けたのですか?」

「……は?」

 ベルはレフィーヤの言葉に魔向けな声を出す。

「なんでそんなこと聞くんだ?」

「だって冒険者ですよ。他人ですよ!ダンジョンでも人を助けるなんてばかみたいじゃないですか!」

「あ~。」

 レフィーヤの言葉でベルは納得した。エイナの時に受けた講習でダンジョンでは他人を助ける人は大抵見返りを求める場合が多い。所謂ギブアンドテイクと言うものだ。だがベルはあの時、躊躇わずにハイポーションを使った。しかも知りもしないレフィーヤにだ。レフィーヤにはその意味が分からなかった。

「ぶっちゃけ言うけど、そんなこと普通聞く?」

「そ、そんなことって!」

「だってそうじゃん。人を助けるのに理由が無ければいけないなんて誰が考えた?よくいうでしょ。考えるよりも先に動いた。それはその一例に当てはまってる行動をしただけで、それで十分じゃないか。」

「でもわかりません!」

 頑固なレフィーヤにベルは頭を悩ます。

「じゃあ……もし目の前に迷子の子がいたら助ける?」

「助けます。」

「怪我人だったら?」

「助けます。」

「何故?」

「困っているからです。なんですか、そんな当たり前のことを聞いて?」

 レフィーヤは自分が試されているような質問について問う。

「簡単に言えば、俺がさっき言ったことを貴女は聞いた。」

「っ!?」

 レフィーヤは自分がベルに聞いたことをそのまま返されたことに今気づいた。

「それに、人に助けられたことに理由を求めるのはよほどのバカだぜ。お嬢ちゃん。」

 ザルバがそう口にするとアイズを除いた四人がザルバに視線が集中した。

「ベル君、今指輪が喋らなかった?」

 ティオネがそう言うと三人は頷く。

「ザルバ……その癖治せない?」

「すまんな。これは長年染み付いたもんだから抜けない。それと嬢ちゃんたち、俺はこいつの相棒のザルバだ。よろしくな。」

 ザルバが軽い挨拶をすると四人も挨拶をする。

「そういやさっき冒険者の連中が名の無いLv.5って言ってたが、どういう意味だ?」

 ザルバが問うとエイナが答えた。

「実は三か月に一度、神会と言うのがありまして、そこには各ファミリアの神が集まってLv.2になった冒険者の二つ名を決めるんです。さっきアイズさん達が言われていたのがいい例ですね。でもベル君だけはまだ決まってないんです。」

「ロキが言うにはどれもしっくりこないそうだよ。」

 エイナの説明にアイズが補足する。

「そうなんですか。」

「それより何か用があったんじゃないの?」

 ティオナがベルに尋ねるとベルは思い出し、エイナに言った。

「そうだった。これはヘスティア様が書いた書面なんですけど、正式に元ソーマ・ファミリアのリリが正式にうちのファミリアに入ったのでその報告をしておかないとって思って。」

 ベルはそう言うとコートの中からヘスティアが書いた書面を取り出し、エイナに渡した。

「……確かに、これは神ヘスティアが書いた書面ですね。分かりました。担当の者に報告しておきます。」

「じゃ俺はこれで。」

 ベルはそう言うと席を立とうとする。そんなベルをアイズは止める。

「待って、ベル。ベルに頼みたいことがあるの。」

「俺にですか?」

「うん。ベルにしかできないこと。」

 アイズの言葉に四人は反応する。

「私たちは今度遠征に行く。それまでの間に訓練に付き合って欲しいの。」

 アイズの言葉にティオナとティオネ、レフィーヤは驚く。

「いいですけど……ファミリアの人は?」

 ベルが尋ねるとアイズは首を横に振った。

「ベルの場合、剣の扱いや体術も心得ていると思う。同じ剣を使う者として色々学びたいって思ってる。」

「成程……ザルバ、どう思う?」

「そうだな……嬢ちゃんの言葉は一理ある。だが俺から一つ条件がある。」

「なに?」

「遠征の前日は必ず一日休みを入れろ。でないといざと言う時に戦えなくなる。」

「……わかった。」

 ザルバの条件を承諾するアイズにレフィーヤは頬を膨らましザルバを睨んだ。

(なんなんですかあの指輪は!指輪のくせに生意気です!)

 そんなレフィーヤの視線を無視してベルはギルドを後にする。

「さて……あそこに行くか。」

 ベルはバベルへと向かった。

 

「いや~、あってよかったよかった。」

 ベルはヴォルフが作った短剣を購入し、オラリオを歩いていた。

「しかしそいつの武器をえらく気に入っているな。」

「使いやすいし、手に馴染むからね。」

 ベルがそう話しているとある人物が話しかけてくる。

「お~い、そこの白髪に白いコートを着た少年。ちょっとええか~?」

 ベルはキョロキョロすると自分を指さす。

「そうや。自分以外おらへんやろ。」

 ベルに話しかけてきたのはロキであった。その隣にはリヴェリアがいた。

「貴女はロキ・ファミリアの主神、神ロキですね。はじめまして、ベル・クラネルです。」

 ベルはお辞儀をする。

「おお、これはご丁寧にどうも。改めてウチはロキや。」

「私はロキ・ファミリアのリヴェリア・リヨス・アールヴだ。先日はレフィーヤを助けてくれて感謝する。」

「ウチからもありがとうな。」

 二人から礼を言われるベルは少しばかり戸惑った。

「大したことじゃないですよ。それに、俺はあの場で自分が正しいと思ったことをしたまでですから。」

 ベルがそう言うとロキは微笑む。

「面白い子やな、そんな正直言う子は始めてや。ちょっとそこでお茶しようや。」

 ロキに誘われベルは二人と店に入る。オープンテラスでコーヒーを飲む三人。その姿に待ちゆく人の視線を集める。

「しっかし、まさかお前さんみたいなもんがまさか牙狼とはな。驚いたわ。」

「ご存じなのですか?」

「まあな。」

 ロキはそう言うとリヴェリアを見る。

「牙狼にはパートナーがいると聞いているが、紹介してもらえるか?」

「ええ。」

 ベルはそう言うとザルバを見せる。

「相棒のザルバです。」

「どーも。」

「ほー、こいつが逸話に出てくるパートナーか。よろしゅうな。」

「私からもよろしく頼む。」

 二人はザルバに挨拶する。するとリヴェリアが唐突にあることを聞いた。

「ティオネから聞いたのだが、君はまだ自分から牙狼とは宣言していないようだが、その理由を聞いても構わないか?」

「ええ、いいですよ。」

 ベルはリヴェリアの言葉を承諾する。

「牙狼の鎧はソウルメタルという特殊金属を使ってます。これは心で操る金属で、長い修行をしてやっと扱えます。」

「武器もそうなのだな?」

「はい。でも鎧は誰にでも身に着けられるわけではなく、鎧が使い手を選びます。」

「つまり君は牙狼に選ばれたというわけだね。」

 リヴェリアの言葉にベルは頷きながら「そうです」と答えた。

「しかしそれで何故君は自ら未熟者と言うのかね?」

「それには理由があります。騎士には皆、内なる自分と対面するときがあります。」

「内なる自分?」

「そうです。己の影を映し出す内なる闇と対峙する。俺はそこまでしか聞かされていませんがそれを乗り越えた時に始めて俺は牙狼と名乗れます。」

「成程な。」

 ベルの言葉にロキもリヴェリアも納得した。

「しっかし内なる自分か……なんか怖いな。ベルは他に怖いもんはないんか?」

 ロキが問うとベルは顎に手を当て考える。

「怖いとなると……あれですかね?」

「あれってなんや?」

「ザジと呼ばれる存在です。」

「ザジ?」

 ロキは聞いたことのない名に首を傾げる。

「牙狼は初代から俺に至るまで、数々のモンスターや悪魔と呼ばれるものを斬ってきました。そしてその者たちの怨や念と言った邪気を集めてしまいます。そんな邪気の集合体、それがザジです。」

「でもベルは過去の人間やないやん。」

 ロキがそう言うとベルは言った。

「そうですが、俺が牙狼としている限り、牙狼と言う存在がいる限りザジは何度でも蘇り、牙狼の血を絶やそうとします。」

「君はそのザジと戦う覚悟はあるのか?」

 リヴェリアが問う。

「あります。俺はその話も聞かされた上で牙狼になる事を決めましたから。」

 ベルの真っすぐな目を見てロキは微笑んだ。

(ホンマ真っすぐな瞳しとる……こんな純粋な奴、見たことあらへんわ。)

 リヴェリアもロキと同じ心境であった。

「それじゃあ俺はこれで失礼します。」

 ベルはそう言うと三人分のお代を置いてその場を去った。

「律儀な子やな。ホンマあのドチビには勿体ないわ。」

「勿体ないかはさておき、我が主神よ。間違っても変な二つ名を付けないでくれよ。」

「ママからそう言われるとは……こら気を付けんとな。」

「そうしてくれ。それと誰がママだ。」

 



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13話

 朝日がまだ昇っていない城壁の上でベルは準備運動がてらに剣を振っていた。

「ふっ!はっ!はぁっ!」

 ベルが声を上げると共に剣を振るう音が発生する。

「おおー、すっごい音。」

「確かに。」

 ベルの剣を振るう音にティオナが感心し、アイズが相槌を打つ。

「ん?来たんだ。」

 ベルは声に気付くと剣を鞘に収める。

「おはよう、二人共。」

「「おはよう。」」

 二人は軽い挨拶をする。

「どっちから始める?」

「私から。」

 ベルが問うとアイズが身を乗り出してきた。

「わかった。ティオナさんもそれでいい?」

「うん、いいよ!」

「じゃ、始めようか。」

 ティオナは少し離れた場所で見学することにし、ベルとアイズは自分の武器を構える。

 先に動いたのはアイズであった。アイズはサーベルを構えると一気にベルにまで接近し突くがベルは右に流すと足払いをする。アイズは軽く跳ぶと前転して回避する。

(初歩的足技は回避。まぁ、これくらいは出来て当然だよね。)

 ベルはそう思うと牙狼剣を鞘に納め、一気に振る。鞘はアイズまで飛ぶ。アイズは反転して鞘を弾く。その隙にベルは城壁の壁を蹴り、アイズがサーベルを振り払った方へと潜り込むと牙狼剣を振り上げる。

「目覚めよ」

 アイズはエアリアルを発動させベルを弾く。ベルは飛ばされるも牙狼剣を城壁に突き刺すと一回転して跳び、アイズの目の前に着地すると剣を構える。

(風の魔法か…ちょっと厄介だな。)

 ベルがそう思っているとアイズは風を纏ったままベルに接近しサーベルを振り下ろす。ベルは正面から受け止めるが、そこにアイズは拳を叩き込もうとする。だがベルは片方の手でそれを受け止めた。

「はっ!」

 ベルはアイズを押し飛ばすが、アイズは土煙を立てながら着地する。その瞬間をベルは逃さず、剣を振った時に生じる風圧をアイズにぶつけた。

「っ!?」

 アイズは咄嗟に腕を十字に組み、風を纏うがそれでもなおアイズは後ろによろめく。

 その瞬間ベルがアイズに飛ばした鞘が、アイズが目認できるほどの高さにまで降りてくる。

 直後、ベルが鞘を逆手で取り、アイズのサーベルを弾き飛ばす。そしてベルは牙狼剣を喉元に突き立てる。

「……俺の勝ちですね。」

「うん、そうだね。」

 ベルは牙狼剣を鞘に納めるとアイズに手を差し出す。アイズはその手を取り立ち上がる。

「すっごいね、ベル君!」

 二人の戦いを見ていたティオナが駆け寄ってくる。

「これでもまだ未熟だけどね。」

「へ~、天狗にならないのはいい所じゃん。」

 ティオナはベルに感心する。

「次はティオナさんがする?」

「いいの!じゃあ遠慮なくやるよ!」

 ティオナはそう言うと二つの大剣の柄が繋がっている大双刃を手に取る。

 二人は同時に駆け出し、そしてぶつかった。

 

 連日早朝にアイズとティオナの訓練をして昼にはリリと一緒にダンジョンに籠る。休みの日もあったが訓練は充実していた。ベルにとってもイメージトレーニング以上の訓練になっていた。

 そして最終日。ベルはティオネと訓練をしていた。

「うおりゃぁああああああ!」

 ティオナはベルに接近しながら八の字を描くように大双刃を振り上げ、接近していた。ベルはその振りに合わせ剣を振り上げていた。

(くっ!なんでこっちが力で押しているのに段々力が…)

(ティオナは気づいてないみたいだけどベルは徐々にティオナの力を奪ってる。今日が最後の日だけど、今日も勝てない……)

 ティオナの戦いを見ているアイズはそう判断した。

「ふっ!はっ!」

 ベルはティオナの大双刃を振り上げ脇を大きく開けるとティオナの胸に鞘を当て、手を放すと鞘に差し込む形で突く。

「かはっ!」

 ティオナは吹っ飛ばされ、地面を滑った。

「あり、やりすぎた?」

 ベルは心配してティオナに駆け寄る。ティオナは気を失っていた。

「やりすぎちゃったかな?」

 ベルは頭を掻きながら言うとアイズが歩み寄って言った。

「大丈夫だと思うよ。ティオナも満足そうな顔で気を失ってるから。」

「そうなの?」

 ベルが尋ねるとアイズは頷いた。

「でもこんな硬い所に寝かせるわけにもいかないよね?」

 ベルの言うことも最もであった。そんなベルにザルバが提案する。

「だったら膝枕してやったらいいんじゃないのか?それならこの嬢ちゃんも問題ないだろ。」

「あ、なるほど。」

 ベルは手をポンッと置き納得する。その時アイズは気づかれないくらいに頬を膨らましたのは余談である。

「んじゃ。」

 ベルは胡坐を掻くとティオナを太ももに乗せる。

「よく寝てるね。」

 ベルはそう言いながらティオナの頭を撫でる。アイズはその光景を羨ましそうに見ていた。

「なんだ、アイズの嬢ちゃん。疲れたのか?」

 ザルバはアイズに気を使ってそう語りかける。

「あっ!いや……」

 アイズは少しばかり恥ずかしそうな顔になる。

「そうなの?だったら休んでもいいですよ。」

「え……あ……はい。」

 アイズは戸惑いながらも返事をする。

「お邪魔します。」

 アイズはそう言うとベルの膝の上に頭を乗せ、寝た。ベルは二人の頭を撫でる。

(こいつもこれで少しは自覚を持ってくれると嬉しいんだがな……はぁ~、全くコイツは人の好意に気付かない分、一緒にいる俺がヒヤヒヤするぜ。)

 ザルバは内心愚痴をこぼした。しばらくしてリズムよく寝息を立てる二人。ベルは撫でるのを止め、魔導筆を取り出すと毛の部分を引っ込め笛にする。

 ♪~~~~~

 英霊たちの鎮魂歌を吹くベル。そんな笛の音色に二人は心なしか笑顔になっていた。

 

 二人が起きたのはそれから二時間も後であった。流石のベルも足が痺れ、すぐには動けなかった。

「お腹も空きましたし、なんか食べませんか?」

 ベルは二人と歩きながら話す。

「だったらジャガ丸。」

「アイズはジャガ丸が好きだね。」

 ジャガ丸を押すアイズにティオナが笑顔でそう言った。

「ジャガ丸ですか……いいですね。軽く口にするなら。」

 ベルも賛同して三人はジャガ丸を売っている店舗へと足を進める。

(待てよ、確かジャガ丸って…)

 ザルバはふとある事を思い出した。ベルのファミリアに大いに関係のあることを。

 そんなザルバを置いて三人はジャガ丸を売っている出店に着くと、アイズが商品を注文する。

「ジャガ丸くんの小豆クリーム味三つで。」

「あ……」

「いらっしゃいませー……えっ!」

 ベルはヘスティアが働いていることを思い出し、ヘスティアはアイズとティオナと一緒にいるベルに驚いた。ティオナも状況的に理解したが、アイズはそんなことに気付かず注文を続ける。

「クリーム多め、小豆マシマシで。……?」

 固まっているヘスティアにベルは首を傾げた。

 とりあえず注文を受けヘスティアの休憩の時間まで待った三人は裏路地で話をした。

「ふ~ん。つまり今日まで一緒に訓練をしていたって話なんだね?」

「はい。俺にとってもいい訓練になりますし、winwinってやつです。」

「な~にがwinwinだ!僕はちっともwinwinじゃなーい!」

「どうしてですか?」

 首を傾げるベルを見てティオナは気づいた。

(ベルって誰にでも優しくて強いけど、そっちは鈍感なんだ。てことは今はフリー?)

 ヘスティアに少しばかり同情するもティオナは笑みを浮かべた。

(ベルはいい神様に恵まれてる。けど…なんでだろう?他の女性と一緒にいると嬉しくないって思う。それに…私とベルは一つレベルの差があるのに、一度も勝ててない。私ももっと強くならないと。)

 アイズは一人そう思った。自分が抱いている感情に気付かず。

 



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14話

 アイズたちとの訓練の翌日、ギルドではあることが大きく報じられていた。

 アイズがLv.6にレベルアップしたことであった。

 しかしベルには関係なく、リリのレベルアップも兼ねてダンジョンに籠っていた。

「はっ!」

 ベルは十階層でインプにバットパッド、オークを狩っていた。数は大けれどベルの敵ではなかった。

「数だけは多い……ねっ!」

「頑張ってください、ベル様!」

 リリは少し離れた所でボウガンを手に援護射撃をする。

「あのリリの嬢ちゃん、大分腕を上げてきたな。お前と一緒ならレベルアップもするんじゃないのか?」

「どうかな?リリ次第だとっ!思うよっ!」

 ベルはモンスターたちを倒しながらザルバと話す。

 しばらくして群がってきたモンスターを倒し終えると、ベルは牙狼剣を鞘に納める。

「リリ、お疲れ。」

 ベルはリリに労いの言葉を掛ける。

「疲れましたよ、ベル様。」

 リリは地面に尻餅を着いてそう話す。

「魔石やドロップの回収手伝うよ。」

「そんな!ベル様がしなくてもリリがします!」

 リリはそう言い立ち上がる。

「ありがとう。でもこれだけの魔石やドロップアイテムをリリ一人に任せるのはちょっとね。だから手伝うよ。」

 ベルはそう言うとドロップや魔石を拾い始める。

 二人でドロップアイテムと魔石を拾っている中、リリが話しかける。

「ベル様。」

「なに?」

「ベル様はどうしてあの鎧を出して戦わないのですか?」

 リリは素朴な疑問をする。ベルの実力を知っている上であの鎧の防御力。二つを掛け合わせて戦えばダンジョンでは敵無しとリリは考えた。

「ああ、それ?ちょっと理由があるんだ。」

「理由……ですか?」

「そう。牙狼の鎧は確かに防御力はあるよ。でも無限ってわけじゃない。ある程度の攻撃を受けると自動的に召還されるんだ。それにこれは俺の個人的なもんなんだけど、傲り高ぶらないためってこともあるかな。」

「傲り……ですか?」

 ベルのことを知っているリリからは想像もつかないことであった。ベルは修業を欠かさない。だからこそ傲りをするとは到底思えなかった。

「俺もさ、人間だ。自分が強いって思うかもしれない時がある。でも上には上がいるし、俺には目標がある。だから奢らないように日々気を付けてるんだ。」

 ベルのその言葉を聞いてリリは驚かされた。ベルは常に上を目指し、日々精進していることに。そんな時ふと疑問に思った。

 一体何を目標にしているのかと。そしてリリはベルに尋ねるとベルはこう返した。

「誰よりも先に脅威に立ち向かった、初代牙狼を超えること。」

 

 翌日。ダンジョンに籠るのを午後に控えたベルはオラリオを歩いていた。

 そしてベルは町を歩いていた。

「やっぱ、レベルの差を付けられたってのは意外と来るんかもね。」

「かもな。」

 ベルの言葉にザルバが相槌を打つ。すると突然ベルにシルが駆け寄って来た。

「ベルさん!」

 突然腕に抱き付いたシルにベルは戸惑う。

「助けて欲しいんです!」

 突然のことにベルは首を傾げた。

 

 豊饒の女主人の内にある水場。そこには山積みにされていた食器がベルの目の前になった。

「サボって貯めた仕事があるから片付けて欲しいと?」

「えっと…はい。」

 シルはそう答えた。

「……ま、いいですよ。此処にはおいしい料理を振る舞ってもらいましたからね。」

 ベルはそう言うと椅子にコートを掛け、腕まくりをし、皿を洗い始める。

「お願いしますね、ベルさん。」

 シルはそう言うと接客の方へと戻って行った。

 ベルがしばらく皿を洗っていると従業員の一人が近づいて来た。

「この量は流石に至難だ。手伝います。」

 そう言ってきたのはリューであった。

 ベルが食器を洗いリューが水で流し水気を拭き取る。二人の共同作業であった。そんな作業をする中、ベルはふとあることを尋ねた。

「リューさん、二ついいですか?」

「はい、なんでしょう?」

「リューさんはもしかして冒険者だったのですか?」

「何故そう思ったのですか?」

 リューの問いにベルは答えた。

「身のこなしですかね?ウェイトレスとは思えないほど隙が無いですから。他の従業員もですけど。」

 その言葉にリューはハトが豆鉄砲を喰らった様な顔になった。

「……驚きました。ベルさんは観察眼が優れているようですね。」

「どうも。」

 ベルは軽く頭を下げる。

「もう一つ。レベルアップでどうするんですか?」

「何故そんなことを?」

「ちょっと修行をしていたアイズさんがLv.6にランクアップしたのを知ったので、どうやったらなれるのかな~って思って。」

「そうですか。簡単に言えば功績を上げる。具体的には強大な相手を打破することが必要です。」

「成程。」

 ベルはリューの言葉に納得する。

「ベルさん、ランクアップはいいかえれば冒険をすることです。貴方には貴方の冒険があります。」

「……確かに、俺には俺の冒険があります。そしてその終着点はわかっていてもいつかはわかりませんからね。」

「まるでダンジョンみたいですね。ですがそれもまた貴方の冒険です。貴方の冒険をしてみてください。」

「ありがとうございます。」

 ベルはリューに頭を下げた。

 

 そして午後、ベルはリリとダンジョンの階段を下りていた。

「ベル様、今日はどこまで潜りますか?」

「十二階層辺りかな?リリのレベルアップにもあそこまで行こうと思うから。」

 ベルはそう言いながら階段を下り、九階層に入った。

「ん?」

「どうかしましたか、ベル様?」

 突然足を止めたベルにリリが尋ねる。

「リリ、少しおかしくないか?」

「おかしい……ですか?」

「ああ。静かすぎる。」

「そう言われれば……」

 ベルの言葉にリリは納得する。どの階層でもベルに向かってくるモンスターは多い。だがいつもよりも静かすぎた。

「ちょっと静かにしててね。」

 ベルはリリにそう言うと耳を澄ませる。すると微かではあるがうめき声が聞こえた。

「っ!リリ、付いて来て!」

「は、はい!」

 走り出すベルにリリは必死について行く。ベルが声の方へと辿り着くとそこには重傷を負っている冒険者二人がいた。

「おい、しっかりしろ!何があった!」

 ベルは冒険者に耳を傾ける。

「強化……ミノ…ロス…」

「強化ミノロス?」

 ベルは聞きなれない言葉に疑問を抱くがその疑問をリリが解いた。

「もしかして……強化種のミノタウロス!」

「強化種?」

 ベルはリリに尋ねる。

「はい。その名の通り通常のモンスターを強化したタイプです。ベル様、ここから―――」

「……悪い、リリ。どうも相手は許してくれないみたいだ。」

「—――え?」

 ベルが向く方には左右対称的に角が折れている強化種のミノタウロスが二体、大剣を手に迫ってきていた。

「……リリ、鞄を置いてそこの二人を上の階層にまで逃がしてくれ。」

「ベ、ベル様はどうするんですか!」

「ここで食い止める。ま、倒すつもりだけど。」

 ベルはそう言いながら牙狼剣を抜刀する。

「ベル様はバカですか!どうした見ず知らずの他人まで助けようとするんですか!」

「そうだな。冒険者としては失格かもしれない。けど―――」

 右の角が折れているミノタウロスが右手に持つ大剣を振り下ろして来る。ベルは鞘で受け止めると持ち手の腕を斬る。ミノタウロスは大剣を手から落とす。

「人として、失格になりたくないからな。早く行け!」

「……わかりました。でもちゃんと生き残ってくださいね!」

 リリは救急道具を入れた小さいポーチを装備して冒険者二人を担ぎ、その場から去る。

「さて……ちょっとヤバイな。」

 ベルは手を斬ったミノタウロスを見る。ミノタウロスの手の傷は塞がり、何事もなかったかのように大剣を片手に持っていた。

「ちょっとは出来るみたいだな。相手してもらおうか!」

 ベルは牙狼剣を構え、強化種のミノタウロスに向かい走り出した。

 

 リリが冒険者二人を担いで上の階層へ向かっていると遠征をしているロキ・ファミリアと出くわした。誰よりも先にリリの存在に気付いたのはリヴェリアであった。

「ん?あれは……っ!」

 リヴぇリは急いでリリの方へ駆け寄る。

「君、仲間は大丈夫か?」

「あ、貴女はロキ・ファミリアの…」

「そんなことはいい!君の仲間は大丈夫なのか!」

「べ、ベル様はこの冒険者を助けるために一人で……」

「「えっ!?」」

 後からリヴェリアに追いついたアイズとティオネが声を上げる。

「ともかく、治療が優先だ。君、応急処置の道具は持っているか?」

「は、はい!ここに!」

 リリはポーチを見せる。

「よし。事情は治療しながら聞く。話してくれ。」

 リリはリヴェリアと共に冒険者二人の応急処置をしながら状況を話した。

「なに!ミノタウロスが出ただと!」

 リリの話にベートが喰い付いた。

「間違いないです。ベル様は一人で二体の強化種を相手にしていました。」

「まさか、あの時の生き残り?」

 ティオネが先日の遠征での一件を思い出すとリヴェリアが否定した。

「それは無いだろう。あの日以降、ミノタウロスの目撃情報は上がっていない。」

「でも彼なら大丈夫よ。だってあの鎧があるのだもの。」

 ティオネがそう言うとリリの表情が曇ったことにアイズは気づいた。

「何か知っているの?ベルのあの鎧について。」

 リリは答えるかどうか迷ったが、名高いロキ・ファミリアなら信用できると思い話した。

「ベル様の鎧は確かに強固です。ですが……一定のダメージを受けるとその鎧は解除されます。」

「「っ!?」」

 リリの言葉を聞いたアイズとティオネはベルの元へと駆け始める。

「ちょっとアイズ、ティオナ!遠征の途中よ!」

「アイズ!」

 二人を心配してティオナとベートが後を追いかける。

 

「くっ!」

 ベルは左の角が折れたミノタウロスの攻撃を正面から受け吹っ飛ばされていた。ベルは土煙を上げながら着地するとそこへ追撃するかのように右の角が折れたミノタウロスが大剣を振ってくる。

「ちぃっ!」

 ベルはナイフをミノタウロスの目に向け投げる。ナイフはミノタウロスの目に当たり、ミノタウロスは目を抑えながら叫ぶ。

「はぁああああああ!」

 ベルはミノタウロスの方に跳ぶと牙狼剣を力強く振り、ミノタウロスが体験を持っている右腕を斬り落とした。だがその瞬間、左の角が折れたミノタウロスが巻き込む形で大剣を縦に振って来た。

(まずい!)

 ベルはその場からすぐに跳び、避ける。左の角が折れたミノタウロスによって右の角が折れたミノタウロスは重傷を負うが、斬り落とされた腕以外の傷はすぐに修復されていった。

「こいつは厄介だな。腕を斬り落としたまではいいが、もう一体も倒さないといけねぇ。」

「どうする?鎧の召喚はしたいと思うけど…それじゃあ意味が無い。」

 ベルとしては鎧を召喚したくなかった。自分が目標としている人へ追いつくためにも、自分自身のためにも。

 右の角が折れたミノタウロスはクラウチングの態勢から一気にベルへ突進を仕掛けてくる。ベルはきりもみ回転をしながら宙を舞い回避するとミノタウロスの背中に取り付き、牙狼剣を心臓部に突き刺した。ミノタウロスは苦しみ、悶えるがベルは牙狼剣と手を放さなかった。

「うぉおおおおおおおおおお!」

 ベルは力強く捻る。するとミノタウロスは爆散するように消滅した。ベクが着地した後にはミノタウロスの角だけが残っていた。

「後は……あいつだ!」

 ベルは肩で息をしながら左の角が折れたミノタウロスに剣先を向ける。

 

 アイズとティオナは少し離れたところでベルの戦いを見ていた。ミノタウロスはアイズでも魔法を使って倒せる相手。ティオナもアマゾネスの身体能力の高さを利用して倒せる相手だ。

ましてや強化種ともなればそのレベルは上がる。それに加え二体と来る。一人ではまず勝てない状況だ。

なのにベルはその状況に立ち向かい、今一体を倒した。

(すごい……ベル。貴女はどうしてそう強うなれるの?)

(ベル君すごい……どんな状況でも諦めず戦う英雄みたい……この胸の傷といい、その戦いぶりといい……どこまで私の意識を向けさせてくれるの!)

 ティオナは先日ベルにやられて胸を押さえながらそう思っていた。

「おい、アイズ!ティオナ!勝手に…」

「……嘘。いくらLv.5って言ってもまだダンジョンに籠って一か月くらいでしょ?なのにもう倒したって言うの!」

 後から来たベートとティオネはベルの実力に驚きを隠せなかった。

 

 ミノタウロスは雄叫びを上げながら剣を振るってくる。ベルは左に受け流しながら逆手に持ち替えるとミノタウロスの脇を斬る。一瞬だけミノタウロスの動きが止まるとベルはすかさず順手に持ち替え牙狼剣をミノタウロスの胴体に後ろから突き刺した。

 しかしそれではミノタウロスは消滅しない。それはベル自身も理解していた。

「はぁああああああ!」

 ベルはミノタウロスの背中に両足を付け思いっきり蹴り、距離を取る。

「ザルバ!」

「あいよ!」

 ザルバは口を大きく開け魔導火を牙狼剣の刀身に纏わせる。

「うぉおおおおおおおおおお!」

 ベルはミノタウロスに向かい一直線に駆け出す。ミノタウロスはカウンターの一撃を食らわせるように構える。そして両者が剣を振り抜き、背中同士を見せ合う。

 しばらくの沈黙。誰一人として喋る者はいなかった。

 先に動きがあったのはミノタウロスの方であった。ミノタウロスの着られた口から魔導火が出てミノタウロスを燃やしていった。ミノタウロスはドロップアイテムと魔石だけを残して消滅した。ベルは刀身に付いた血を振り払うように剣を振る。刀身に纏わり付いていた魔導火も消えた。

「はぁ…はぁ…はぁ…はぁ…」

 ベルは肩で息をする。

「これで…っ!?」

 終わったかと思った瞬間であった。突然後ろから来る殺気にベルは直感で剣を後ろに構えた。刹那、ベルの剣を構えている剣に別の剣がぶつけられる。

『っ!?』

 その場にいたアイズたちや後から来たフィンにリヴェリア、リリも驚きを隠せなかった。そしてベル自身も驚いていた。

「ほぉ……やはり牙狼の後継者だけはあるな。これくらいは防いでもらわないとな。」

「お前は……」

「こいつはとんだ災難だな。」

 ベルもザルバも驚いていた。

 目の前には過去から現在に至るまでに牙狼に倒された者たちの怨年の集合体である、ザジであった。

 



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15話

 ベテランであるロキ・ファミリアですら戦慄していた。遠くからでも伝わってくる怨や念の邪気。気づかぬ内に冷や汗を掻いていた。

「お前が…ザジか…」

「そうだ。黄金騎士・牙狼の血を受け継ぐ者よ……今ここで貴様のその血と命を絶ってくれる!」

「くっ!?」

 ベルはザジを押し離すと牙狼剣を構え直す。

「はぁ!」

 ザジはベルに向かい走ると頭に向かい剣を振り払う。ベルは左へ牙狼剣を振り上げザジの剣を反らすと牙狼剣を振り下ろした。ザジは左の爪で受け止める。

「ちぃ!」

 ベルは左手を牙狼剣から放すと掌底をザジに叩き込む。ザジは地面を滑りながら離される。

「はぁあ!」

 ベルは地面を蹴りザジに近づくと突く。ザジは剣の地肌で受け止める。

「くぅ・・・」

「ふぅ・・・」

 互いの力のぶつかり合いによって互いの手から剣が離れ、地面に刺さる。

「ふっ!」

「はっ!」

 互いに右拳を突き出す。ぶつかった衝撃によって少し後ろに上半身が反ると互いに左腕を押し当て、鍔迫り合いになる。

「はぁ!」

 互いに押すと右、左、右と二弾蹴りを繰り出す。

「ふっ!」

 ベルはザジに右足蹴りを頭部に蹴り込む。ザジは左腕で受け止める。

「らぁあ!」

 ベルは右足を軸に回転しザジの頭に蹴りを叩き込んだ。ザジは弾き飛ばされる。

「やるな…だがここまでだ。」

 ザジはそう言うと剣の方へと走り出した。ベルも魔導筆を使い牙狼剣の元まで移動する。

「鎧を召喚しろ。此処は貴様の墓場だ!」

「違う!ここは貴様の邪気が消え去るところだ!」

「黄金の鎧を着ろ!牙狼の存在を永遠に消してやる!」

 ザジはそう言い身を抱きしめると一気に開いた。体からは無数のトゲが生えたかと思えば右腕、左腕が巨大化し、そして胴体までもが大きくなった。体から生えたとげは収縮し、羽へと変わった。

 ベルはザルバに刀身を当て引くと剣先を天に向け、円を描く。描かれた円から光が放たれ、牙狼の鎧が召喚される。

「消えるのは貴様だ!」

 牙狼はザジに向かい跳び、牙狼剣を振り下ろす。ザジは牙狼剣を右腕で受け止めると舌へ流し、裏拳を喰らわせる。牙狼は弾き飛ばされ柱へとぶつけられた。

「がぁっ!?」

 片膝を付く牙狼にザジは羽を羽ばたかせ接近し右腕を十字に振り攻撃する。牙狼は左手を刀身に当て攻撃を防ぐが、ザジの左アッパーフルスイングが牙狼を打ち上げる。

「ぐあっ!?」

 牙狼は宙を舞う。ザジは羽を羽ばたかせ牙狼の真上に位置するとそのまま拳を振り下ろし牙狼を地面へと叩きつける。

「くっ!?」

 牙狼は態勢を立て直し着地する。

「ファアアアアアアアアアアアア!」

 ザジは雄叫びを上げると牙狼へ接近し両腕を大きく振り、牙狼を追い詰める。牙狼は反撃しようと牙狼剣を振るうがザジにかわされる。

「ファア!」

 ザジの右腕が牙狼を押し飛ばした。

「ぐぁあああああああああ!」

 牙狼は柱を一本、また一本と破壊しながら吹っ飛ばされる。

 牙狼は吹っ飛ばされた威力が弱まったところで柱に打ち付けられ、背中を強打する。そこへザジが飛んでくる。牙狼は防ごうと剣を構えようとするがザジは牙狼の右腕を左腕で打ち、牙狼剣を柱に突き刺した。牙狼は急いで抜こうとするがすぐには抜けず、ザジの右腕が牙狼を貫こうとしていた。

「うぉおおおおおおおおおおお!」

 牙狼が雄叫びを上げ剣を抜こうとした瞬間、ザジの腕を別の牙狼剣が受け止めた。

 

 ザジの腕は消え、周りは白い空間。ベルは牙狼の鎧を纏っておらず、別のマントを羽織った牙狼がそこにいた。

「我が血を受け継ぎ、牙狼の称号を受け継ぐ者よ。」

「牙狼?」

 ベルは目の前の牙狼の姿に戸惑いを隠せなかった。しかし目の前の牙狼はそんなことに気にも留めず話し続ける。

「お前は大いなる力を召喚する資格を得た。」

「大いなる力?」

 その言葉に一瞬分からなかったベルだが、すぐにその答えはわかった。

「轟天?しかし俺は、内なる影との試練を受けていない!」

 ベルの言葉に牙狼は言った。

「牙狼は光りならば、ザジは闇。今この戦いが、お前の内なる影との戦いと言えよう。」

 その言葉にベルはなぜか納得してしまった。

「お前は俺を超えるのだろう?ならばこの試練を乗り越えて見せよ。」

「っ!貴方はもしや―――」

 ベルの底から先の言葉を牙狼は手を前に出し止めた。

「皆まで言うな。」

「……はい。」

 ベルは牙狼と向き合ってそう言った。そして牙狼は言った。

「ベル、強くなれ。」

「っ!……はい!」

 そして現実へと戻されるベル。

 

「はっ!」

 ザジの腕が引き抜かれた牙狼剣とぶつかり、ザジは弾き飛ばされる。

 ザジは光りの少ないダンジョンからでも輝く光に気付いた。そこには樋爪を火花を散らしながら鳴らし、雄叫びを上げる黄金の魔導馬・轟天に乗馬している牙狼の姿があった。

 牙狼は剣を構える。

「うう……うぁあああああああ!」

 ザジは雄叫びを上げながら牙狼へと向かう。牙狼は轟天の腹を蹴る。轟天は地面を蹴り、ザジへと跳ぶ。空中で牙狼とザジは跳ぶが牙狼が押し勝ち、ザジを弾き飛ばした。ザジは地面を転がる。そこへ轟天に乗った牙狼が接近し轟天を反転、後ろ脚の蹴りを食らわせた。

「ぐぁああああ!」

 ザジは柱を一つ、二つ、三つと破壊しながら吹っ飛ばされ、柱に埋め込まれる。

 轟天は雄叫びを上げながら反転し、前足を地面へ叩きつける。金色の波動が発生し、牙狼剣を牙狼斬馬剣へと変える。轟天はザジに向かい走り始める。

「ふっ!はっ!はぁっ!」

 牙狼は障害となる柱を破壊しながら確実にザジへと接近する。

「はぁああああああああああああああああ!」

 牙狼斬馬剣がザジを捕らえると牙狼は牙狼斬馬剣を押し、貫く。轟天は地面を蹴り上へと跳ぶ。牙狼斬馬剣はさらに深く突き刺さる。

「はぁっ!!」

 そして牙狼はザジを斬り、二つにする。轟天は地面へ着地すると火花を散らしながらザジの方へと反転する。牙狼は牙狼斬馬剣を振り、元の牙狼剣へと戻す。

「我らは何度でもお前らに挑むだろう。その度にお前らは思い知るはずだ。その称号を呪う者の存在を。」

 断末魔の言葉を投げかけるザジにベル、いや牙狼は言った。

「確かにそうだ!しかし俺も、注いてこの先もこの称号を受け継ぐ者たちの言うことは変わらない!」

「っ!?な、なにっ!?」

 驚愕するザジにベルは言った。

「我が名は牙狼!黄金騎士だ!」

「っ!うぉおおおおおおおおおおおおお!」

 ザジが消滅すると轟天はザジに背を向ける。ベルは轟天から降りながら轟天と鎧を召喚した。ベルは牙狼剣の先を鞘に納めると楯にして牙狼剣を鞘に納めた。

 すると一気に緊張が抜け、ベルは膝を付いた。

「ベル様!」

「ベル!」

「ベル君!」

 ベルにリリ、アイズ、ティオネが駆け寄った。アイスが駆け寄ったことにベートが持案句を言いそうになったがそこはティオナの三画固めで事無きを得た。

「ベル様、大丈夫ですか?」

 リリは瞳に涙を浮かべながら心配しる。

「ありがとう、リリ。大丈夫だよ。」

 疲労の色を見せながらもベルはリリの頭を撫でる。

「ベル、やっと黄金騎士って名乗ったね。」

 アイズがベルにそう言いうとベルはこう言い返した。

「やっと慣れたけど、まだ始まったばかりだよ。」

 そんな中ティオナは自身の身体が熱いことに気付いた。

(あれ?なんで熱いの?それにアイズや子の小さいこと一緒にいる光景を見ると胸がチクってするような……どうしよう……完全に惚れちゃった//////)

 ダンジョンで思いもよらぬことはあったが、ベルたちは今日も生き残った。

 

「あれが伝説に聞く闇を照らす希望か……長いこと生きていたがこんな光景を目にできるとはな。」

 少し離れたところでリヴェリアは微笑んでいた。

「僕もちょっと気になってたんだ。アイズやティオネが気になっているベルって子がね。彼、おもしろいね。」

 フィンはベルを見て微笑んだ。

 

 ベルとリリはその日ホームに戻るなり今日のことをを報告した。方擦るなりヘスティアはベルをきつく叱った。

 そしてステータスの更新を行った。

 ベル・クラネル

Lv:5

力:SS 1105(+150)

耐久:SS 1001(+23)

器用:S 999(+31)

敏捷:SS 1000(+45)

魔力:S 989(+89)

《魔法》 【ディア】

     ・治療魔法

     ・軽傷から中傷までのケガを治す。

《スキル》 【守りし者】

     ・仲間や守るもののためにステータスが上昇する。

     ・常時発動

「…………………」

「ヘスティア様?」

「どうかなさったのですか?」

 神聖文字が読めない二人に対しヘスティアは喜びながらこう告げた。

「おめでとう、ベル君!Lv.6にランクアップだ!」

「え?」

「ほぅ…」

「なっ!?」

 ベルは突然のことに間抜けな声を出し、ザルバは感心、そしてリリは驚いていた。

 そしてギルドではこう報じられた。

『二つ名の無いLv.5のベル・クラネル!過去最短のタイムレコード更新!』と。

 



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16話

 三か月に一回開かれる神会。そこの廊下をヘスティアは真剣な表情で歩いていた。

 そんなヘスティアに一人の神が肩を叩き話しかける。

「よう、ヘスティア。」

「なんだ、タケか。」

 話しかけてきたのはタケミカヅチ・ファミリアの主神、タケミカヅチであった。

「お前んところの坊主、Lv.6になったんだろ?それも一か月くらいで?」

「っ!う、うん……まあね。」

 ヘスティアは照れ臭そうに髪の毛を弄る。

「すごいな。あの剣姫ですら一年掛かったのに。ま、そもそもステータス最初に更新してLv.5って時点ですごいけど。神連中の間じゃ、その話題で持ちきりだぞ。」

「そう言えば今回はタケミカヅチ・ファミリアからも一人いるんだっけ?」

「ああ。ヤマト・命って子だ。今日の神会、俺は本気で行くぜ!アイツの二つ名が掛かっているからな。」

「そうだね。」

 タケミカヅチの言葉にヘスティアは共感する。

 そして二人は神会が行われる部屋の扉の前に立つ。

「お互いい二つ名を勝ち取ろう。かわいい子供たちのために。」

 そして扉は開かれた。

 

 その頃ベルは気分転換も兼ねてリリと木の下で昼食を取っていた。

「ベル様、どんな二つ名がもらえるんでしょうかね?」

「さあね。でもマトモなのが欲しいな……」

 ベルは切にそう願った。

「そう言うリリだってもう少しでレベルアップできそうじゃないか。」

 

 リリルカ・アーデ

Lv:1

力:B 800(+800)

耐久:C 750(+750)

器用:C 720(+720)

敏捷:A 912(+912)

魔力:B 842(+842)

《魔法》 【シンダー・エラ】

    ・変身魔法

    ・変身後は詠唱時イメージ依存

    ・模倣推奨

    ・詠唱式【あなたの刻印は私のもの。私の刻印は私のもの】

    ・解除式【響く十二時のお告げ】

《スキル》縁下力時

    ・一定時間以上の装備過負荷時のおける補正

    ・能力補正は重量に比例

 

「リリもステータスの伸びがすごかったよね。」

「リリの場合は前のファリアで一度もステータスを更新していなかったからね。」

「そうですね。」

 ベルとリリは茶を飲む。

「ベル様、この後はどうなされるおつもりですか?」

「ヴェルフ・グロッゾに会うつもりだよ。」

「グロッゾって……あの没落貴族のグロッゾですか!?」

「没落貴族?」

 ベルはリリの口からグロッゾの一族について話を聞いた。

 かつては魔剣を作るほどのスキルを発言していなかったヴェルフの一族であったが、代を重ねるごとに魔剣を打てれるようになり、何代目かが魔剣を王国に売り込んで貴族の地位を手に入れた。

 しかしその魔剣を使う者によって多くのエルフの国や精霊の住処も滅ぼしてしまった。精霊の怒りを買ったヴェルフの一族が作った魔剣は一気にすべて砕け散った。そしてその責任をヴェルフ一族に押し付けられ、没落した。加えて魔剣も作れなくなったという話である。

「でも聞く話では今のグロッゾは魔剣を作れるのに作らないそうなんですよ。私にはわかりません。」

 そんなことを言うリリにベルは言った。

「……みんなが魔剣を求めるからじゃないのかな?」

「どういうことですか?」

「リリはさ、もし冒険者であったらヴェルフの魔剣は欲しいと思う?ローンを組んでも。」

「それは欲しいですよ。自分の名を上げられますし。」

 そんなことを言ったリリにベルは自分の考えを言った。

 

 リリと別れたベルはヘファイストス・ファミリア本店があるバベルへ向かった。

「改めて来るが、すごいよなここの武器。」

「ああ、だが……ここにいるのはこれに頼ったばかりの奴らばかりだな。」

 ベルはザルバとそう話しながら本店に入る。

「すみませーん。ヘスティア・ファミリアのベル・クラネルと言います。ヴェルフ。グロッゾさんと少しお話があって参りました。」

 ベルがそう挨拶をすると店の奥から眼帯を付けた一人の神が出てきた。

「あら、ヘスティアの眷属が来るなんて驚きね。」

「えっと……ヘスティア様をご存じで?」

「ええ。私はこのファミリアの主神のヘファイストスよ。」

「貴女が……あれ?」

「どうかしたの?」

 突然疑問い持ったベルにヘファイストスは尋ねる。

「神様は今日は神会に行っているのでは?」

「あれは半分ふざけたものだから出席は自由なのよ。」

(いいのだろうか、神がそんなので……)

 ベルはそう思った。

「それで、彼に何の用なの?」

「これを作ってもらいたくて。」

 ベルはそう言うとヴェルフの作ったナイフを出す。

「ああ、これあの子が作ったものね。そう言えば上の方であの子の武器をえらく買ってくれる人がいるって聞いてたけど、貴方のことだったのね。」

「どうも。」

 ベルは頭を下げる。

「付いて来て、彼は今奥で休んでいるから。」

 ヘファイストスにそう言われベルは付いて行く。

 店の奥に入るとテーブルに一人休んでいる赤髪の男がいた。

「ヴェルフ、貴方に客よ。」

「ん?俺に?」

 ヴェルフはベルの方を見るなり嫌な顔になる。

「はじめまして、ベル・フラネルです。」

「おう、挨拶ありがとよ。だが一つだけ言っとくぞ。」

「はい。」

「魔剣は作らねぇ!」

 ヴェルフがそう言うとベルはヴェルフの目を見る。その眼には、覚悟が見えた。

 するとそこへ公房から椿・コルブランドが出てきた。

「なんじゃお主、またそんなことを言っているのか。手前にはわからん。」

 椿はそう言うと腕を組んで溜息を吐く。ヘファイストスも椿と同じ心境であった。

 そんな状況を見てベルは懐からヴェルフが作ったナイフと自身の牙狼剣を机の上に置いた。突然の行動に一同首を傾げる。

「どんなに強い武器を手にしても、人は弱い。武器を扱うということは、命を奪うこと。魔剣にしろ、普通の武器にしろ同じだ。それに……」

 ベルはヴェルフの方を見る。

「武器を作る方にも、その責任はある。それを誰よりも分かっているのは、貴方なのでしょ?」

「……ああ、そうだ。俺が会ってきた奴らは全員自分の名を上げたいばかりに魔剣を欲しがった。だがそうじゃないだろ? 武器は道具じゃない、使い手の半身だ。使い手がどんなに窮地に立たされたとしても、武器だけは裏切っちゃいけない。だから俺は嫌いだ、使い手だけを残して魔剣だけ砕けいっちまう。あれの力は人を腐らせる。使い手の享受も、鍛冶師の誇りも、だから俺は魔剣を打たない。」

 その決意を聞くなりベルは微笑んだ。

「その言葉、芯があると受け取りました。いい人ですね、ヘファイストス様。」

「え、ええ……」

「……」

 ヘファイストスも椿もヴェルフの思いを聞いて驚きを隠せなかった。

「ま、魔剣をなぜ打たないかって疑問に思うのは当然だ。気にすんな、ヘファイストスに嬢ちゃん。」

「「「は?」」」

 突然ザルバの声が聞こえたことに三人は驚いた。

「すみません。紹介が遅れました。相棒のザルバです。」

「よろしくな。」

 ザルバを見るなり三人は驚きを隠せなかった。

「驚いた……まさかこの目で魔導輪を見ることができるなんて。」

「魔導輪?」

「お主は知っておるのか?」

 ヘファイストスと椿がヴェルフを見る。

「ああ。誰が作ったかは知らないが。騎士をサポートする摩訶不思議な道具と聞いたことがある。指輪にペンダント、鏡やバッジと色々あるらしいが目にかかることはほとんどない。俺も噂では聞いたが本当にあったんだな。」

 ヴェルフはまじまじと見る。

「まぁ……俺のことは後にして、こいつの話を聞いてやってくれるか?」

「え?……あっ!?」

 ヴェルフは我に返った。

「それで、何を俺に頼みたいんだ?」

「これを少し多めに作って欲しいんです。」

 ベルはそう言いながらテーブルの上に置いたナイフを取り出す。

「そんなんでいいのか?」

「あと一つあります。俺と同じファミリアのリリって小人族のサポーターがいるんですけど、そいつのために護身用のナイフを作って欲しいんです。」

「護身用のナイフをか?」

「はい。」

 ベルはそう答えた。ヴェルフをヘファイストスを見る。ヘファイストスは頷いた。

「わかった、出来るのは二日後だ。その時に取りに来てくれ、それと俺から頼みがある。」

「頼み?」

 今日会ったばかりの人間に頼まれると聞いてベルは間抜けな声を出す。

「俺と専属契約を結んでくれないか?俺はお前の、冒険が見てみたい!」

 ヴェルフの真剣な目を見てベルは微笑む。

「いいですよ。でも、俺の行く道は危険ですけど、いいんですか?」

「構わない!」

「じゃあ、よろしくお願いします。」

 ベルはそう言うと手を差し出した。ヴェルフはその手を握った。

 ここにベルとヴェルフの契約が結ばれた。

 



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17話

 神会で次々と二つ名が決められる中、遂にベルの番が来た。

「次は・・・・・・おっ!ヘスティア、お前の所の奴じゃないか。」

 信仰を務めた神がヘスティアの方を向く。

「噂で聞いたけど神の恩恵を受けずにミノタウロスを倒したそうだな。」

「俺は怪物祭でLv.5相当のモンスターを倒したって話を聞いたぜ。」

「あの剣姫や大切断が倒せなかったモンスターを倒しただとか。」

「あの剣姫をLv.5に修行をつけてるって噂もあるな。」

 そんな話を聞いてヘスティアに視線が行く。

「最初のは僕は知らないけど、他は本当だよ。ロキ、君は最初の方の話に心当たりがあるらしい顔をしている気がするけど。」

 ヘスティアがそう語りかけるとロキは言った。

「ああ、本当や。うちのアイズたんがその現場を見たからな。」

 ロキは微笑みながらそう言った。

「ま、それ以外にもベルたんにはもっと重要なことがあるやろ、ドチビ?」

 ロキはわざとらしく言うとヘスティアは諦め気味に言う。

「……わかったよ。どの道、いずれは露見することだからね。ベル君は黄金騎士・牙狼の後継者なんだ。」

 その言葉を聞くなりピタッと神々の声は止まった。

「……ヘスティア、それは本当なのか?」

 最初に切り出したのはタケミカヅチであった。

「タケ、僕もこの目で見たから間違いない。どうかしたのかい?」

「いや……牙狼の伝承は古今東西と広く、そして多くある。極東の方にも伝わっている牙狼がいるんだ。」

「私も知ってるわ。でもまだ後継者がいたとは驚きだわ。」

 タケミカヅチの言葉をきっかけに神々が次々と牙狼について口を開いた。

 ――曰く、魔境の悪魔を倒した。

 ――曰く、魔竜を倒した。

 ――曰く、黄金の馬で戦場を掛けた。

 ――曰く、どんな国より、どんな戦士よりも先に脅威に立ち向かった。

 牙狼の伝説は数多く、そしてダンジョンの偉業を凌駕する偉業を成し遂げてきた。

「皆も分かってると思うけど、下手な二つ名は付けられへん。ましてや……ウチも一つしか思いつかんかった。お前はどうや?」

 ロキはヘスティアの方を見る。

「……うん、僕も同じ考えだと思うよ。」

 二人は口を揃えてベルの二つ名を口にした。

「「希望の騎士(ホープナイト)。」」

 ベル自身を意味する最もふさわしい二つ名であった。

 誰も他に言うことはなく、ベルの二つ名は希望の騎士ということになった。

 

「おめでとうございます、ベルさん!」

「おめでとうございます。」

「おめでとうございます、ベル様!」

 豊饒の女主事でベルはシルとリューに祝われていた。

「みんな、ありがとう。わざわざ祝ってくれて。」

「いえいえ、怪物祭で助けていただいたお礼も兼ねてますので気にしないでください。」

 シルとリューがそう言った。ベルも人の好意は素直に受け取っておくことにした。

「それにしても希望の騎士……ちょっと俺には大それた二つ名な気がします。」

 ベルがそう言うとシルは言った。

「そんなことないですよ!あの時私を助けてくれたあの姿、正に希望の騎士でしたよ!」

「リリも同じ思いです!ベル様に救ってくれたあの姿に、リリは希望を感じました!」

 ベルの二つ名に二人は自分のことのように喜ぶ。

「まぁ…俺はこれからその名に恥じないように頑張るんだけどね。」

 ベルがそう言うとリューはそんなベルの姿勢に感心した。

「ベルさんのそう言う姿勢は尊敬します。」

「俺には目標がありますから。」

「「目標?」」

 ベルの言葉に二人は興味を持つ。二人は聞こうとするがそこへ別の冒険者が来た。

「おい、お前。」

 突然出てきた冒険者にベルはキョロキョロすると自分を指さした。

「そうだよ。どんなイカサマ使ったか知らないが、あまり調子に乗ってんじゃないぞ。」

「いや、イカサマも何も使ってなく自分の実力で頑張っただけですけど。」

 ベルは素直にそう言うと冒険者は眉間に血管を浮かせる。

「俺はなぁ……お前みたいに調子乗ってる奴が大嫌いなんだよ!」

 冒険者はそう言うとベルに拳を振り下ろす。

『っ!?』

 その光景を見ていた誰もが驚愕した。

座っていたベルがいつの間にか立ちあがり、冒険者の拳を左手で受け止めていた。

「正直、あまりここで騒ぎたいとは思いません。穏便に済まさせていただきますね。」

 ベルはそう言うと右手で懐から牙狼剣を出し、手を放した。牙狼剣を手を放す際にベルは牙狼剣を鋼鉄よりも重いとイメージをした。その牙狼剣が冒険者の足に落ちる。

 ジュグキッ!

「イ゛ッ!」

 肉が潰れ、骨が砕ける音が一瞬聞こえる。

 キンッ!ゴッ!

 ベルが牙狼剣の柄を親指で上へ弾く。柄頭が冒険者の顎に直撃し冒険者は気を失う。

「テメェ!」

連れの冒険者が席を立ち、ベルに突っかかろうとするがベルは殺気を込めて睨みつける。

「っ!?」

 ベルの睨みに冒険者二人はたじろぐ。するとベル微笑み気絶させた冒険者を担ぎ、連れの冒険者二人の元へと運ぶ。

「酒は飲んでも吞まれるな……言いたいこと、わかりますよね?」

 ベルは笑顔でそう言うが全く笑っていなかった。

「帰り道はお気を付けて。」

 ベルはそう言うと冒険者二人の肩をポンポンと叩いた。冒険者たちは逃げるように豊饒の女主人を後にした。

「さて……ミアお母さん。」

 ベルはミアのいるカウンターの前に立つと三つの金の入った袋を差し出した。

「あの人たちの食事代と迷惑料です。俺は悪い子なんで。」

 ベルが微笑むとミアは笑った。

「ははは……全く抜け目ないね。本当に悪い子だ。」

 そうは言いながらも笑顔なミアにベルも微笑んだ。

 アクシデントはあったものの、ベルの二つ名を祝われた。

 

 そして数日後。ベルはリリとヴェルフと共にダンジョンの入り口にいた。

 ベルは白いコートに牙狼剣、懐にはポーション、ハイポーション、エリクサー、そして魔導筆が入っていた。

 リリは火精霊の護布に大きなバッグ、そして護身用のナイフを装備していた。バッグにはベル特性の痺れ薬に煙幕玉、閃光玉やキャンプ道具一式が入っていた。

 ヴェルフは着流しの上に火精霊の護布を着て、背中には大刀を装備していた。

「じゃあ、二人共。分かっているけど今回はまだ行ったことのない安全地帯の十八階層まで行く。正直、俺もどこまで戦えるかわからない。最悪ケガで済まないかもしれない。それでも俺と共に冒険する覚悟はあるか!」

 ベルの言葉に二人は言った。

「当たり前です!リリはベル様のサポーターなんですから!」

「あの時かわした言葉に嘘偽りはないぜ!」

 その言葉を聞くとベルは微笑む。

「よし…………じゃあ、行くぞ!」

 ベルを先頭に三人はダンジョンへと入って行った。

 



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18話

何とか新年元日に間に合わせることが出来ました。
これからもこの作品をよろしくお願いします。
・・・・・と言っても、アニメしか知らないのでそこまでの話なんですけど。


 ダンジョン一階層から四階層まではベルは手を出さず、二人にモンスターを倒させた。ヴェルフはまだダンジョンに潜ったことが無いので経験を積ませるということで戦わせた。リリもレベルアップも兼ねて経験させている。

「二人とも頑張るねー。」

「正直言うが俺結構辛いからな!てか、お前も戦えよ!」

「なんですがヴェルフ様。もう音を上げるのですか?」

「んだと!まだまだよ、リリスケ!」

 ベルはリリの挑発により活気を取り戻す。

 そして五階層から十二階層。ここからは出てくるキラーアントやゴブリン、コボルなどがいるため、ベルも少しばかり手を出す。と言っても魔導筆で魔力弾を撃ったり毒仕込みのナイフを投げたりと弱らせ、手柄を二人に譲るという形である。

 そして中層へ差し掛かる階段。ベルは足を止める。

「ここから先は俺が戦うよ。」

 ベルはそう言うと牙狼剣を手に取る。

「正直、いやな予感がする。ついてくる覚悟はある?」

 ベルが問うと二人はベルを見て頷いた。

「よし…行くよ。」

 ベルはそう言うと階段を降り始める。

 中層。別名最初の死線と言われている場所であり、モンスターの数も、レベルも桁違い。そしてランダムに出現する仮想へ繋がる竪穴もある。

 そしてベルたちは今十三階層に来ていた。

「ここが十三階層……正直、湿気が多いね。」

「だな。」

「食料にカビが生えないでしょうか?」

 緊張感がない三人。だがすぐにその緊張は無くなる。

「二人共、ちょっと構えて。」

 ベルはそう言うと牙狼剣を抜刀する。

「こりゃ……えらい歓迎のようだぜ。」

 ザルバがそう言った途端、アルミラージの大群がベルたちの前に出現する。

「中層で最初の相手……たしかアルミラージだっけ?」

「ええ。好戦的なモンスターです。気を付けてください、ベル様。」

 リリはベルにそう言った。

「うん。ヴェルフとリリはペアで行動して。そうでもしないと危ないから。」

 ベルは柄頭に右手を当て、剣先をアルミラージに向け走り出す。アルミラージは手斧でベルに向かってくるがベルは地面を蹴り、一瞬で通り過ぎた。

 ベルは牙狼剣を振り下ろす。直後、アルミラージは消滅し、魔石だけを残した。

「どうした、来ないのか?」

 残ったアルミラージはベルの放つ気迫に押され、身動きが出来なくなっていた。

「来ないなら……こっちから行くぞ!」

 ベルはそう言うとアルミラージの群へと走り出し、次々とアルミラージを切り殺していく。

「ふっ!はぁっ!」

 好戦的のアルミラージがベルに気迫に押され、やられるがままになっていた。

「すげぇ……俺らの出る幕も無ぇ……」

「アルミラージがベル様に釘付けです。下手に手を出したらベル様の邪魔になりますよ。」

 ヴェルフもリリも、ベルの邪魔をしないために動けなくなっていた。

 そんな時であった。下の方から駆ける音とモンスターの鳴き声が聞こえてきた。

「っ!ベル様、下から何か来ます!」

「っ!?」

 リリが声を掛けた時には既にアルミラージの群を一掃していたベルはリリが指出す方を見る。

「なんだ、この気配?」

「多いな……群よりも軍だ。準備しておけ。」

「うん。」

 ベルは気を引き締め直し、剣を構える。

 最初に取りすぎたのは他のファミリアの集団であった。先頭の男は仲間の障子を肩に担いで走っていた。

「ベル様、怪物進呈です!」

 他のファミリアが通り過ぎた後からヘルハウンドの軍が押し寄せてくる。ベルは剣先を天に向け空間を裂きながら円を描く。描かれた円から光がベルを照らし、ベルは牙狼の鎧を身に纏う。

「ふっ!」

 ベルは牙狼剣の刀身を手の甲で擦る。擦った刀身に魔導火が纏われる。

「はっ!」

 横一線に牙狼剣を振るい魔導火の刃を飛ばす。一直線に向かってくるヘルハウンドは避ける術もなく殺され、魔石だけを残し死んでいく。

 しかし一つの軍に引き寄せらせれる様に他のヘルハウンドの軍が現れる。

 ベルの飛ばした魔導火の刃がベルの元へ帰ってくるとベルはその魔導火を身に纏う。

「やれるか、ベル?」

 ザルバが牙狼に問うとベルはこう返した。

「当然だ!」

 牙狼は魔導火を纏った姿、烈火炎装の姿でヘルハウンドの軍へと突っ込む。

「ふっ!はぁっ!おおっ!うらぁああ!」

 ベルは牙狼剣を振り、突き、叩き付け、殴り、蹴るを繰り返しヘルハウンドの軍を倒していく。ヘルハウンドが放火魔を放つが牙狼の鎧により無力化される。

「うぉおおおおおおおおおおおおお!」

牙狼は雄叫びを上げながらヘルハウンドを倒していった。

「すげぇ……あれが、ベルの力なのか?」

「ええ、ヴェルフ様。あれこそがベル様のもう一つの姿、黄金騎士・牙狼としての姿です。」

 リリとヴェルフの目にはヘルハウンドの軍を一掃し、ダンジョン十三階層に君臨する牙狼の姿があった。牙狼は牙狼剣を立て、鞘に納めると牙狼の鎧を召還する。

「ふぅ……リリ、ヴェルフ。大丈夫?」

「ええ……と言うか、ベル様が相手を引き付けてくれたおかげでリリ達は全く眼中になかったみたいですけど。」

「リリスケの言うとおりだな。俺らにモンスター来なかったぜ。」

 二人のその言葉を聞いてベルは安心する。

「ところでここで一つ問題が発生しました。」

「「そ、それはっ!?」」

 二人は緊迫した表情で問う。

「ロキ・ファミリアと違って俺たちはダンジョンの構造を理解していない。どういうことか分かるか?」

 ヴェルフは腕を組んで考えるが全くベルの言っている意味が分からなかった。

「要するに……どこを通ったら縦穴があるかわからないって事ですか?闇雲に行っても行き止まりやモンスターに出くわすだけである、と言いたいのですね?」

 リリの言葉にベルは頷いた。

「だが安心しな。俺がいるからな。」

 そう口を開いたのはザルバであった。

「大丈夫なのか?」

 ヴェルフが問うとザルバは答えた。

「甘く見るな、坊主。俺は気配の探知や探索なんか朝飯前だ。」

 その言葉を聞くなり三人は安心する。

「じゃあザルバ、頼んだよ。」

 ベルはザルバにそう言うと先頭になり、ダンジョン十八階層へ向かい下へと降り始めた。

 



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19話

 十三階層からザルバを頼りにダンジョンを下へ下へと降りていた。途中何度もモンスターに出くわしたがベルが対処して被害を最小限に留めた。ポーションは主にベルが使うことになったが、ハイポーションや万能薬はまだ残っていた。

「こうまでモンスターが来ると冒険じゃなくて一種の作業って感じがしてきたよ。」

 モンスターを倒し、牙狼剣を鞘に納めたベルがそう口にするとザルバは言った。

「お前の場合は規格外だからな。そうなるのかもな。」

「ですがリリ達にとってはこの時点で冒険ですよ。」

「だな。」

 リリの言葉にヴェルフが頷きながら相槌を打つ。

「…と、どうやらお出ましみたいだね。」

 ベルがそう言うと目の前に三匹のミノタウロスの姿があった。

「おいおい……コイツは……」

 ヴェルフは冷や汗を掻く。しかしリリはそれに反し安心していた。

「さて……」

 ベルは牙狼剣を抜刀するとゆっくりとミノタウロスへ近づく。

「片付けるか。」

 ベルはそう言うとミノタウロスへと跳びまずは一匹を縦に切り裂く。残りの二体は突然のことに反応できなかった。

「ふっ!?」

 ベルは横一線に牙狼剣を振るい、二体同時に倒した。

「なっ!?」

 ヴェルフは驚き、リリは尊敬の眼差しでベルを見た。

 Lv.6の実力は伊達ではなかった。

 

 ベルたちは順調にダンジョンを降り、遂に階層主がいる十七階層にまで到達した。階層主がいるのが理由なのか、十七階層は虹が掛かったように明るかった。

「ベル様、ゴライアスは先に遠征に言っているロキ・ファミリアが討伐しているはずです。」

「……そうもいかないみたいだよ。」

「え?」

 ベルの言葉にリリは間抜けな声を出す。ソシエベルの言葉に応えるように壁からゴライアスが姿を現した。

「二人共、下がってて。」

 ベルはそう言うと牙狼剣を抜刀し、牙狼の鎧と轟天を召喚する。

 ゴライアスは右腕を大きく振るい牙狼と轟天を押しつぶそうとするが轟天は左に跳び回避するとゴライアスの左手の甲に乗り、頭に向かい走り出す。

「轟天!」

轟天は雄叫びを上げ、走りながら牙狼剣を牙狼斬馬剣へと変える。

「うぉおおおおおおおお!」

 ゴライアスに反撃する暇も与えず牙狼は牙狼斬馬剣を振る。

 一瞬で勝負は決した。牙狼は轟天と共に地面に降りると同時にゴライアスの頭が身体から切り離され、地面に落ちた。

 ベルは牙狼の鎧と轟天を召還する。

「てっきりもう少し手応えがあるかと思ったけど……やっぱ俺のレベルのあるからかな?」

 牙狼剣を鞘に納めたベルが二人に問うと二人は無言で頷いた。

 

 ゴライアスを倒し、ベルたちは安全階層と呼ばれている十八階層へ来ていた。

「本当に明るい……ダンジョンに大穴でも開けているんじゃないのかな?」

 ベルが天井を仰ぐように見る。そこには光り輝く水晶で埋め尽くされていた。

「確かにお前さんがそう思うのも無理ないな。てか、本当に冒険者になって日が浅いのか?俺にはさっきの実力でベテランみたいに見えるぜ。」

 ヴェルフがそう口を開くのも無理はなかった。

 異例のタイムレコードによるランクアップ。魔法を持っているわけでも、特別な種族でもないヒューマンのベルがほぼ一人でダンジョンのモンスター相手に無双をしていた。

「確かにヴェルフ様の言いたいことはリリにもわかりますが、事実です。ヘスティア様の証言も取ってますから。」

 その言葉を聞くなりヴェルフは一応納得した。

「ところでどうする?目的の場所はここだから少し休んでもいいけど……」

 ベルがそう言うとヴェルフは挙手をした。

「ちょっとヤボようがあるから個人的に行きたいところに行ってもいいか?」

「いいよ。でも下手に変なところに行かないでよ。俺も探すの困るから。」

「わかった。んじゃ。」

 ヴェルフは手を振りながらその場から離れた。

「リリは?」

「私はベル様が行きたいところに行きます。」

 リリの言葉にベルは頷きながら「わかった。」と答え、町の方へと足を運んだ。

 

 町は木の柵で囲まれており、入り口には「ようこそ同業者」と文字が大きく書かれていた。

 その町はリヴィラ。冒険者が作った町である。

 ベルたちは町の店を見て何かないかと物色をしてみるが店に置いているのはどれも良い品とは言えない物ばかりであった。ボロイ鞄や小さい砥石、香水などと言った物が売られているがどれも地上の値の倍は軽く超えているものばかりである。

「人の足元見ているばかりだね。まぁ、ここに来るまでに本来ならいろんなものが消費されるだろうからそうなんだろうけど。」

「けどこれは流石に……お腹が空いていてもここじゃ食べられませんね。」

 二人がそう話しているとザルバがある提案をした。

「だったら自炊したらいいんじゃないか?」

「「ああ。」」

 二人は手をポンッと叩き納得する。

「ここら辺に食べられそうなモンスターいるかな?」

「試してみましょう、ベル様。」

 二人はそう言うとリヴィラを後にした。

 



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20話

「あれ?」

「どうしたのよ、ティオナ。」

 何故か十八階層にいるロキ・ファミリアのティオナが気付き、ティオネが問う。

「あれ、ベル君じゃない?」

「え?」

 ティオナがそう言うとティオネはよく目を凝らして見る。白いコートに白髪のシルエットが見えた。

「そうね。確かにあのシルエットは……て、ティオナ!」

「ベールくーん!」

 気づけばティオナはベルと思われる人物の元へと跳んで行っていた。

「全く……あのバカは……」

 ティオネは溜息を吐きながらティオナの後を追いかける。ティオナはベルと思われる人物に抱き着く(という名のタックル)をした。当たり所が悪かったのかベルは悶える。

「だ、大丈夫ですか、ベル様!」

 ベルの側にいたリリが心配する。

「バカティオナ。少しは考えて行動しなさいよ。」

 追いついたティオネが注意する。

「うん、ゴメン。それとバカ言うな!」

 謝りながらも反論するティオナ。そんな時ベルが起き上がった。

「……やっぱレベルが上がっても痛いものは痛いね。てか、人間でもアマゾネスでもエルフでも構造上は同じだから痛いか。」

 ベルはそう呟いた。

「あはは、ゴメンねベル君。」

「あー、気にしなくていいよ。ティオナにティオネ、久しぶり。どうしてこの場所に?」

 ベルの問いにティオナが答えた。

「こっちのファミリアで予想外のアクシデントがあってね。それでこの階層で足止めに遭ってる状態なの。」

「成程。足止めって事はアイテムが予想以上に減ったの?」

「うん。それで今地上の方に買い出しに行ってもらってるの。それよりベル君、どうしてここに?」

 ティオナに問われるとベルはそのことに素直に答えた。

「そっか……で、今お腹を空かしているんだよね?だったらこっちのテントに来ようよ!」

「いや、流石にそれは……」

「いいから、いいから!」

 ベルコ言葉を聞かずティオナはベルを引っ張りロキ・ファミリアのテントへと連れて行った。

 残されたリリとティオナはその場に立っていた。

「えーっと……ゴメンね、妹が勝手な真似をして。」

「い、いえ………ベル様がまた無自覚に女性を落としているって思って。」

「……ああ。」

 リリの言葉にティオネは納得した。

 

 ロキ・ファミリアのキャンプ。幹部専用のテントにベルはいた。テントの中には団長のフィン、リヴェリア、ガレスがいた。

「まさか君がここに来るとはね。驚いたよ。」

「そうじゃのう。」

 フィンの言葉にガレスが相槌を打つ。

「同感だな。それに、こういった静かな場所で話したいと私も思っていた。」

 リヴェリアがそう口を開いた。

「でも皆さんもすごいじゃないですか。経験も多く、規模も大きい上に、異形の数々を成し遂げてきているのじゃないですか。」

「確かに……でも君は君で偉業を成し遂げているじゃないか。ランクアップ、しているんだろ?」

『っ!?』

 フィンの言葉を聞いたその場の全員が驚きを隠せなかった。

「……どうして、そう思うんですか?」

 わざとらしくベルが問う。

「僕の親指が疼くんだ。」

「親指?」

 フィンの言葉にベルは首を傾げる。

「ああ、君は知らないか。フィンの親指は危険を知らせる一種のスキルを具現化したものだ。もはやフィンの親指が疼くときは危機的状況だと私たちは認識している。」

「そいつはずげぇな……いろんな意味で。」

 ザルバが口を開くとフィンとガレスはザルバを見て驚いた。

「これは驚いた……こんなものを目にするとは。」

「ワシもじゃい。」

 ガレスは顎髭を撫でながらフィン言葉に相槌を打つ。

「しかし……牙狼であり、Lv.6。そしてこの短期間でもタイムレコード。アイズが知ったら嫉妬するだろうね。」

 フィンは他人事のように言う。

「まあ、硬い話はここまでにしよう。僕らはもう少し準備が整ったら遠征に行くつもりだ。それまでいてくれても構わない。」

「ありがとうございます。」

 ベルはフィンに一礼するとテントを後にした。

「……で、どういうつもりだ?」

「何がだい?」

 リヴェリアの言葉にフィンは恍けた様に答える。

「私が見抜けないとでも思ったのか?単にあの子に興味があるわけでもないのだろう?」

「……流石リヴェリア、わかっているじゃないか。」

 フィンはそう言うと両手を組み、手の甲に顎を乗せる。

「僕はね、出来ればあの時のような戦いを皆に見てもらいと思っているんだ。いい刺激になるだろうしね。」

 フィンはいたずらな笑みを浮かべてそう言った。

 

「なんだか落ち着きませんね。」

「だな。」

「このスープ美味しいね。」

「「ベル(様)は普段通りな反応しないで。」」

 ロキ・ファミリアのキャンプでベルたちは一緒に食事を取っていたが注目の的になっていた。因みにヴェルフは同じヘファイストス・ファミリアが一緒に遠征に来ていることもあって意気投合。ちゃっかり混じっていた。

「でもこうして一緒に食事できて私は嬉しいよ。」

「うん。」

 ティオナの言葉にアイズが反応すると、ベートが動き出そうとするがティオネが足払いからの首にエルボのコンボを決め鎮静させる。

「でも正直場違いな気が……」

「そんなことないって。私たちを強くしてくれているんだもの。」

「そんなことはないよ。二人が強くなっているのは二人が努力した結果なんだから。」

 ベルはそう言うと交互に二人の頭を撫でた。ティオナはわかりやすく微笑み、アイズは若干ではあるが微笑む。その光景にリリとロキ・ファミリアの男性陣は嫉妬する。

 レフィーヤに至っては……

(ああ!アイズさんの笑顔を見られてうれしいです!)

 もはやベルのことは眼中に入っておらず、アイズしか見ていなかった。

「そういやさ、あの日以来私たちベル君と戦っていないじゃん。」

「そうだね。」

「だったらさ、今日戦ってくれない?私今自分がどの段階にいるか知りたいから!」

 ティオナがそう言った途端、聞き耳を立てていた周りが騒ぎ始める。

「おい、どっちが勝つと思う?」

「やっぱティオナだろ。」

「だが意外性であの小僧ってのもあるぜ。」

「じゃあどっちが勝つか賭けてみるか?」

 周りは二人の戦いを賭けの対象とし始めていた。

「おもしろそうだね、その話。」

 そしてなぜか団長のフィンが乗り気であった。ベルはその顔をよく見ると、まるで予期していたかのような顔をしていた。

(ザルバ、あの人って……)

(ああ、食えない奴だな……)

 二人はフィンを見てそう思った。

 



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21話

「さて、ルールはさっき聞いた通り一つだけ。どっちかが気を失うかギブアップするまで……普段二人にやってる訓練と変わらないか。」

 ベルはそう言いながらコートの中から色々取り出す。

 が、周りはその光景に唖然としていた。どこをどうやればそんなに入るのかと思うくらいの量である。

「ベル様、リリの必要性ありますか?」

「ん?あるよ。リリがいてくれると保険医用意する者とか魔石の回収とか結構助かるから。」

 そんなたわいもない話をしていると奥から声が聞こえてくる。

「ん?なんだろう?知ってる気配だけど……」

「気配で探知できるのはおめぇだけだよ。」

 ヴェルフがベルにツッコミを入れる。

「皆はここに。ちょっと見に行ってくるから。」

 ベルはそう言うと声のする方へと跳んだ。

「速っ!」

「今一瞬ブレて見えました!」

 ベルの俊敏さにヴェルフとリリは驚く。少し遅れてアイズとティオナが後を追いかけた。

 

 ロキ・ファミリアから少し離れた場所で木々が照らす中、なぜかヘスティアがそこにはいた。

「ヘスティア様?」

 ベルは間抜けな声で彼女の名を口にする。

「ベルくーん!」

ヘスティアはベルに抱き着く。ベルはヘスティアを受け止める。

「ベルくーん!ベル君!ベル君!」

 ヘスティアはベルに泣き付きながら何度も名を呼ぶ。そんなヘスティアを見てベルは頭を撫でる。

「全く……心配したんだよ。僕を心配させて。」

 ヘスティアが少し離れると目には涙を溜めていた。ベルはヘスティアの涙を拭き取り言う。

「心配かけてすみません、ヘスティア様。それと……」

 ベルは後ろにいる人たちに目を向ける。そこにはフードを深く被っているリューの姿があった。

「貴女も一緒だったんですね。ヘスティア様を守ってくれてありがとうございます。」

 ベルはあえてリューの名を言わずに礼を言う。

 後から来たアイズとティオネが合流する。

「っ!ヴァレン何某君にティオナ何某君!なんで君たちがいるのさ!」

「少しワケがありまして。後から説明しますね。」

 ベルとヘスティアが話していると新たに二人、ベルに話しかけてきた。

「はじめまして、ベル・クラネル君。俺の名はヘルメス。どうぞお見知りおきを。」

「ヘルメス様の眷属のアスフィ・アン・アンドロメダです。アスフィで結構ですので。」

 代表してヘルメスが手を差し出すとベルはその手を握った。

「どうも。」

「なーに、神友のヘスティアのためさ。それに、感謝だったら俺以外の子たちにしてやってくれ。」

 ヘルメスはそう言うと後ろにいたタケミカヅチ・ファミリアの方へと手を向ける。

「あ………」

 ベルにはその姿に身覚えがあった。怪物進呈をした冒険者一行先頭を走っていた人物である。

 

「申し訳ありませんでした!」

 土下座をしたのはタケミカヅチ・ファミリアのヒタチ・千草であった。ベルは見下ろすのが性に合わないため同じ目線で正座をしていた。

「頭を上げてください。それに……責任は貴女じゃないです。」

 ベルはそう言うとカシマ・桜花の方を見る。彼の顔には悔いの表情すらなかった。

「少しあなた方の団長と話をさせていただきたいのですが、よろしいですか?」

「え、ええ……」

「わ、わかりました。」

 千草とヤマト・命はそう言うとテントを出た。

「さて……桜花さん、座っていただけますか?」

「……ああ。」

 桜花はベルの言葉に従い、ベルの前に座った。

「なぜあなたから謝ろうとしなかったのですか?」

「俺はあのことを後悔していないからだ。あの時、ああしなければ……」

「生き残れなかったと?」

 ベルの言葉に桜花は頷いた。するとベルは溜息を吐いた。

「確かに……俺もあなたと同じ立場ならそうしたでしょう。でも、だからと言ってあの時あなたが謝らない理由にはならない。」

「っ!?」

 桜花はその言葉に目を見開いた。

「俺は自分がやった判断を誰かに謝らせようとはこれっぽっちも思わない。自分が下した決断、行動は自分で責任を持つ。団長、いや上に立つものってのはそう言う覚悟がないといけない。違いますか?」

「………ああ、お前の言うとおりだ。だが俺は……」

「それでも間違っていないと?」

 ベルの言葉に桜花は沈黙した。

「……まぁ、責任を少しでも感じているのであればいいでしょう。俺はこれ以上貴方を咎めようとは思いません。そもそも、咎める気はないですからね。でも、今度謝る時は貴女から誤ってください。でないとほかの団員に示しがつかないでしょ。」

 ベルの言葉に桜花は「ああ。」と答えた。

 

 そしてキャンプから少し離れた場所でロキ・ファミリアの団員が円を作り簡易的な闘技場を作っていた。

「驚いたね。まさかロキ・ファミリアの【大切断】と【希望の騎士】が一騎打ちなんて。」

 二人の戦いを顎に手を当てながらヘルメスはヘラヘラと笑う。

「よかったね、アスフィ。これで君の気にしていた疑問が解決するよ。」

「ええ……ですがギルドに提出した内容が嘘でしたら彼は瞬殺です。」

「う~ん、それはどうかな?」

 ヘルメスはそう言うとベルを見る。

「ベル君……」

 ベルの実力を知っているヘスティアも不安であった。

「それじゃあこれよりロキ・ファミリアのティオナ・ヒュリテとヘスティア・ファミリアのベル・クラネルの一対一の試合を始める。武器は一つ、どちらかが気絶するか降参するまでだ!」

 フィンが審判を務める。

「ベル君、団長から聞いたけどLv.6になったんだって?倒し甲斐があるってもんだよ!」

「はは、お手柔らかに。」

 ティオナは自分の獲物の大双刃を手に取り振り回し、ベルは牙狼剣を抜刀し構える。

「それじゃあ……はじめ!」

 フィンの掛け声と共にティオナはベルに駆け出し、大双刃を振り下ろした。

 振り下ろした勢いのあまり突風が発生する。観戦していた者たちのほとんどは声を上げる。

「っ!やっぱりそう簡単言倒れないよね、ベル君!」

 ティオナの目の前には牙狼剣を片手で持ち、ティオナの大双刃を受け止めているベルの姿があった。

「ふっ!」

 ベルはティオナを押し返すと牙狼剣を肩まで持って行き、振り払った。ティオナは大双刃で受け止めながら後ろへと跳ぶ。ティオナは後ろに弾き飛ばされ、ベルから放される。

「くっ!…………流石だね、ベル君。」

「ティオナも腕を上げたようだね。」

 ベルは微笑みながら牙狼剣を構え直す。

「やぁあああああああああ!」

 ティオナはベルに接近し、大双刃を振り回す。

「ふっ!やっ!はっ!せいっ!やっ!はっ!」

 ティオナは大双刃を振り回すがベルはその攻撃を牙狼剣の地肌で受け流していた。

「ふっ!」

 ベルはティオナの大相場を右下へ押さえつけるとそのまま右反転回し蹴りを喰らわせる。

「ぐっ!?」

 ティオナは大双刃を手を離さないまま吹っ飛ばされる。

「まだ……まだっ!」

 ティオナは大双刃を杖代わりに立ち上がる。

「今度はこっちから行かせてもらうよ。」

 ベルはティオナに向け走り出すと牙狼剣を突く。ティオナは横に転がり避けると足払いをする。

「はっ!」

 ベルはきりもみ回転して避けるとその回転を活かし剣を振るう。

「やばっ!」

 ティオナは大双刃を盾に受け止める。ベルは攻撃を利用してティオナから離れる。

「やっぱすごいね、ベル君。」

「そっちもね。だから……」

 ベルはティオナに真正面から接近する。

「やぁっ!」

 ティオナは大双刃を横一線に振るうがベルはきりもみ回転をし、弧を描きながら回避。その際に空間を裂き円を描く。

「俺の本気で相手してあげるよ。」

 ベルはティオナの後ろに立つ。ティオナが後ろを振り向くと同時に牙狼の鎧が召喚された。

(嬉しいけど……悔しいな。最初からそれを使ってもらえないなんて。)

 ティオナは嬉しい反面悔しかった。ベルが牙狼の鎧を召喚したのは敬意を表してであった。ベルがその気であれば最初から鎧を召喚していた。

(もし……今度本気で勝負するときは最初から鎧を召喚するくらい強くなってるから。)

 ティオナはそう思い牙狼へ向かい走り出す。

「やぁあああああああ!」

「はぁあああああああ!」

 牙狼もティオナに向かい走り出す。牙狼は牙狼剣を少し下に傾け、すれ違いざまに振り抜いた。

「ぐ………」

「……言い一撃だったよ、ティオナ。」

 牙狼は剣を鞘に収める。それと同時にティオナは倒れた。ベルは鎧を召還するとティオナの元まで歩み寄る。

「お疲れ様、ティオナ。」

 ベルはそう言うとティオナをお姫様抱っこした。そしてテントへと運んで行った。

 

(………正直、アイツの力はあの戦いで一部しか見てなかった。だが……今の戦いで確信した。アイツの力は本物だ。認めざるを得ねぇ。)

 ベートはベルの強さを認めた。そして静かにその場から離れた。

 

「……やっぱりベルは強い。」

 戦いを見ていたアイズはそう口にした。

 市壁で訓練を行った最後の日、あの時アイズはLv.6であった。だがベルは一つレベルが違うにも関わらず自分を打ち負かした。そして何より自分よりも遥かに速い成長をした。

「私は、貴方よりも強くなる。」

 アイズは誰にも聞こえない声でそう呟いた。

 



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22話

ぶっちゃけ駄文です


 ティオナとの一戦があった翌日、ベルはアイズと訓練をしていた。

「ふっ!」

 アイズがサーベルを振るいベルに一撃与えようとするがベルは牙狼剣で捌いていた。

「ふっ!」

 ベルがアイズが振り下ろしたサーベルを牙狼剣で受け止めるとそのまま回して下へと抑える。そして右反転回しゲルをアイズへと叩き込もうとする。

「くっ!」

 アイズは右腕で受け止めるが吹っ飛ばされる。

「はっ!」

 ベルは剣の地肌を合図に向けると一気に振り抜く。剣の振りによって発生した突風がアイズのバランスを崩す。

「はぁっ!」

 ベルはアイズに向かい跳び、牙狼剣の鞘を突く。

「っ!」

 アイズは自分の身体を後ろに倒し、右足を蹴り上げる。アイズはベルの鞘を蹴り、ベルから一本取れると思った。しかしアイズの予想は外れ、ベルは鞘から手を放していた。

 そのためベルはバランスを崩すことなかった。そしてベルはアイズを押さえつけ、喉元に刃を突き立てる。

「………」

「俺の勝ちだね。」

 ベルはそう言うとアイズの上から退け、アイズに手を伸ばす。アイズはその手を取り立ち上がる。

「また負けた……」

「気にすることはないよ。俺だって何度も負けたことがあるんだから。それに負けてからじゃないと気付けないことだってあるしね。」

「……うん。」

 二人はそう話しながら歩く。

「「……………」」

 ヘスティアとリリはそんな光景に不貞腐れていた。

「ははは、昨日と言い今日と言い、彼はすごいね。ねえ、アスフィ?」

「ええ……」

 二人の訓練の様子を見ていたヘルメスはアスフィに話しかけていた。

「本当に面白いよ、牙狼ってのは。僕も一度だけあったことがあるけど、面白いね。」

「牙狼に会ったことがあるのですか?」

「ああ。あれは……確か初代だったかな?」

 

 昼となりベルは気分転換に散歩をしようと思ったがなぜかヘスティア、リリ、アイズ、ティオネ、リュー、アスフィが付いて来た。

「散歩じゃなくてこれじゃあピクニックだね。」

『……………』

 ベルが口を開くが誰もしゃべろうとはしない。

 が、ベルは気にしなかった。

「そういやザルバ、ザルバはここに来たことがあるの?」

「ああ、あるぜ。……あ!」

「どうかした?」

「悪いベル。少しワガママを聞いてもらってもいいか?」

「いいけど……なんで?」

 ベルが問うとザルバは答えた。

「少し墓参りにな。」

「わかった……で、なんでヘルメス様は後ろから追尾しているんですか?」

『え?』

 ベルが後ろを振り向くとそこにはヘルメスの姿があった。

「おっと、気づいてたのかい?」

「ええ、最初から。」

「あらら、こりゃとんだドジを……実はちょっと君とザルバが気になってね。面白そうになっているから付いて行ったんだよ。」

「面白そう?」

 ヘルメスの言葉にベルは首を傾げるとヘルメスはベルを少しばかり理解する。

「あー、なるほど。君って鈍い方だね。」

「鈍い、ですか?俺は敵の気配とか敏感な方ですけど。」

「いや、そっちじゃないんだよ。」

「???」

 ベルは首をかしベルトヘスティア、リリ、アイズ、ティオナ、リューは溜息を吐いた。

「まあ、君たちも疲れているだろ?ここを少し行ったところに温泉があるんだけど良かったら行くかい?」

『行きます!』

 ヘルメスの提案に女性陣は乗った。ダンジョンにいる間は当然風呂に入れない。風呂に入れないため特に女性の冒険者は香水を使い臭いを消す。風呂に入れるのであれば乗らないわけにもいかないのである。

「ベル君、君も来るかい?」

「混浴はマズイでしょ。」

「大丈夫。ちゃんと男女に分かれているから。」

「じゃあ入ります。」

 ベルもヘルメスの話に乗る。

「じゃあご一行温泉へごあんな―い。」

 ヘルメスの後に付いて行き、一同は温泉へと足を運んだ。

 

「あの神……騙しやがったな。」

 ベルは風呂に浸かりながらそう呟いた。即席で作られた入り口では確かに男女に分かっていた。だが、それは入り口だけであり結局は同じところに入っているのである。

「なっ!べ、ベベベベル君!なんで君がここにいるのさ!」

「べ、ベル様!」

 ヘスティアとリリは胸を隠しながら取り乱す。

「……よく鍛え抜かれている身体。」

 アイズは少し恥じらいながらもベルの肉体をよく見る。

「わー、すっごい筋肉。あんだけの力も納得できるね。」

「本当ね。」

 ティオネとティオナは至近距離ベルの身体を見る。二人は自分の身体を隠すことはしない。

「全くあの人は……」

 アスフィは頭を抱える。

「まぁ……あの神は余り悪戯が過ぎる様だな。ベル。」

「わかってる。」

 ベルはそう言うと風呂から上がろうとする。

「えー、一緒に入ろーよ。」

 ティオナはベルの腕に抱き付く。

「いやいや、流石にマズイでしょ。男一人に女性大勢って。まあ、それ以前に女性と一緒ってのも問題だけど。」

 ベルはそう言うとやんわりとティオナを離す。

「あ、それと……」

 ベルは近くにあった石を手に取ると木に向け投げる。

「覗きは犯罪ですよ、ヘルメス様。」

 バキッと枝が折れると共にヘルメスが落ちてきた。

「じゃ、後はご自由に。」

 ベルはそう言うとその場をそそっくさと去って行った。

「ベ、ベル君裏切ったな!あ、みんなちょっと待って。話せばわか……ギャァアアアアアアアアアアアアアアアア!」

 ヘルメスの断末魔の様な声をベルは小鳥の大合唱と頭の中で無理矢理変換させ、その場を後にした。

 

(そういやさっきリューさんの姿が無かったな。フードも深く被っていたし、何か理由があるのかな?)

 ベルはそう思いながら適当に歩いているとある場所に辿り着いた。そこは砂山にボロボロの旗が立てられ、大剣、剣、斧、弓、杖といろんな人が使っていたであろう武器が突き立てられていた。武器には錆が入っており、まともに使えない物ではあるが年期もあった。

「ザルバ……」

「ああ、墓だな。結構使い込まれていたところから見て、かなりのベテランだ。それに……」

 ベルは後ろを振り向く。そこには手にいっぱいの花を手にしているリューの姿があった。

「ベルさん……どうしてここに?」

「ちょっとありまして。それよりもリューさん、もしかして此処は……」

 ベルの言葉にリューは頷いて言った。

「私が所属していたファミリアの墓です。ミア母さんから時折暇を貰ってここに来ています。」

 リューはそう言うと武器一つ一つに花を手向けていく。そしてリューは語り始めた。

「昔、敵対していたファミリアの罠に嵌められ、私以外の団員は皆、殺されました。」

 リューは彼女たちに祈りを捧げるとベルも祈りを捧げる。

「ベルさん、聞いてもらえますか?」

「俺でよければ。」

「私は、ギルドのブラックリストに載っています。敵のファミリアを壊滅させたのです。」

 リューはそう言うと大剣の柄頭を握る。

「闇討ち、奇襲、罠。仲間たちの敵を討つために、手段を厭わず、激情のままに。そして私は力尽きました。全ての物に報復した後、誰もいない、暗い路地裏で。愚かな行いをした者にはふさわしい末路だった。けれど……ジルが私を見つけてくれました。」

「それで豊饒の女主人に……」

「はい。ミア母さんは全てを知った上で受け入れてくれました。耳を汚す話を聞かせて、すみません。」

「………そんなことないですよ。」

 ベルはそう言うと地面に胡坐を掻いた。

「ベルさん?」

「リューさん、俺はリューさんが間違ったことをしたとは思いません。」

「何故、そう言うのですか?」

 リューが問うとベルは言った。

「俺も過去に人を殺したことがあります。まあ、相手は悪人なんですけど。でも俺は許せなかったんです。でもそのことに後悔はしていませんが、罪の意識はあります。でも、それでも俺たちは生きていかないといけません。リューさんを生かしてくれた仲間のためにも、この手で殺めてきた者たちのためにも。」

「………」

 ベルの言葉にリューは驚かされた。まだ自分よりも若干若い子がこんなことを口にすることに。

 そんな時ベルは懐から魔導筆を取り出し、筆の部分を引っ込め笛に変えると“英霊の鎮魂歌”を吹き始めた。リューはその音楽を静かに聞いた。

 過去幾千もの戦いの中で散った者たちを称え、その魂が安らぐように祈りを捧げベルは吹く。

 ベルは吹き終わると懐に魔導筆を収める。

「俺に今できるのはこれくらいです。」

 ベルはそう言うとそこから立ち上がり、去って行った。

「………ありがとうございます、ベルさん。」

 リューはベルの背中を見ながらそう言った。

 

 午後になり、ベルはファミリアのメンバーとリューとアスフィ、ボロボロで顔にタンコブと青たんを作ったヘルメスと共にこの十八階層で最も高く、全てを見張らせる山に行く道を歩いていた。

「それにしてもザルバ君、君がベル君に頼んでまで行きたいのはどこなんだい?」

「ああ、神龍の所だ。」

「神龍だって!?」

 ザルバの言葉にヘスティアだけでなく全てのものが驚いた。

 神龍とは龍の祖たる存在と言われている龍であり、大昔に死んだ龍である。

 ベルたちは山の頂上にある小さな墓に辿り着いた。

「ザルバ、ここ?」

「ああ、そうだ。」

 ザルバがベルの言葉にそう答えるとアスフィが問う。

「ザルバさん、どうして神龍の墓がここにあることを知っているのですか?」

「ああ。少し大昔の話だが、神龍と当時の牙狼は共に戦ったことがあるんんだ。」

「何故共に戦ったことがあるのですか?」

「あの時まさに悪魔の化身と行っていいほどのモンスターがいてな、牙狼は一人で立ち向かった。だがあまりの強さに屈しそうになった。そこへ神龍が来たんだ。ともに力を合わせ、そのモンスターを倒したのを今でも覚えている。だが神龍はその時に負った傷が悪化し、そして死んだ。こいつが静かに眠れるように、モンスターも寄り付かないこの階層に墓を建てたんだ。」

 その言葉を聞くと一フォウは自然と祈りを捧げた。

 その時、突如ダンジョンが揺れた。

 



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23話

ぶっちゃけ最終話です。
こーんな感じでグダグダですけど許してください。


 ダンジョンは暗くなる。

「何が起こているんです?」

 アスフィがヘルメスに問うとヘルメスは答えた。

「ダンジョンが憎んでいるのさ。こんなところに閉じ込めている俺ったちをな。」

 そして十八階層の天井から黒い肌に白髪のゴライアスが降って来た。

 ゴライアスが雄叫びを上げるとその雄叫びをきっかけにモンスターたちが次々と誕生し、冒険者たちを襲い始める。

「マズイ!」

 ベルはすぐに助けに向かおうとする。するとリューが止めた。

「待ちなさい。」

「っ!」

「このパーティーで助けに行くつもりですか?」

 その問いにベルは間髪入れずに答えた。

「ええ、行きます。」

 ベルがそう答えるとリューは言った。

「貴方はリーダー失格だ。だが、間違ってはいない。」

 リューはいい顔でそう言った。

「俺が先に行きます。みんなは後から負傷人たちの手当てとかをお願いします。リリ、これ持ってて。」

 ベルはリリに回復用のアイテム全てを渡した。

「じゃあみんな、気を付けて。」

 ベルはそう言うと、そこから身を投げ出しながら牙狼剣で円を描き、牙狼の鎧を召喚する。

「轟天!」

 牙狼が轟天の名を叫ぶと轟天は岩肌を破りながら雄叫びを上げでてくる。牙狼は轟天に乗馬し、モンスターの大群へと向かって行った。

 

「うぉおおおおおおおおお!」

 牙狼は轟天を走らせながら牙狼剣で次々とモンスターを斬ってゆく。

「ふっ!はっ!はぁっ!」

 轟天は火花を立てながら急停止すると反転する。

「轟天!」

「ヒィイイイイイイイイイイイイン!」

 画廊は轟天から立ちアバルト跳び、轟天の後ろ脚蹴りで前へと蹴り飛ばした。

「ふっ!」

 牙狼は牙狼剣を投げモンスターに突き刺す。

「うぉおっ!」

 牙狼はモンスターを殴り消滅させるとモンスターに突き刺さった牙狼剣を引き抜き次のモンスターを斬る。

「轟天!」

「ヒィイイイイイイイイン!」

 轟天は前足を大きく上げ、樋爪を叩きつける。轟天の樋爪から波動が発せられ、牙狼剣は牙狼斬馬剣へと変わる。

「うぉおおおおおおお!」

 牙狼は牙狼斬馬剣を振り回し周りのモンスターを一掃する。

「轟天!」

 轟天は牙狼の元まで駆け付けると牙狼は轟天の手綱を掴み轟天に乗馬すると黒いゴライアスへと向かう。

「はっ!」

 轟天はゴライアスに向かい跳び、牙狼は牙狼斬馬剣を振り下ろす。

「はぁっ!」

 牙狼斬馬剣はゴライアスの腕によって防がれる。浅く刃が入るがゴライアスは腕を振り、牙狼と轟天を離す。轟天は態勢を立て直し着地する。

 ゴライアスは右腕を置きく振り牙狼を轟天語と弾き飛ばそうとする。

「轟天!」

「ヒィイイイイイン!」

 轟天は雄叫びを上げゴライアスの右腕に乗る。轟天の樋爪から発せられた波動により牙狼斬馬剣は更に大きくなる。

「ふっ、はっ!」

 牙狼は轟天の上に立つとゴライアスの頭部に向かい跳ぶ。

「うぉおおおおおおおおおお!」

 牙狼が牙狼斬馬剣を振り下ろす。ゴライアスは突然のことに反応できず一撃を喰らう。

「もう一撃!」

 牙狼はもう一撃叩き込もうとするがゴライアスは口を大きく開け、魔法を放った。

「ぐぁああああ!」

 牙狼は牙狼斬馬剣を手放し、吹っ飛ばされる。牙狼斬馬剣は地面に突き刺さる。

「くっ!轟天!」

 牙狼は轟天を呼び、回収してもらうと轟天を走らせ牙狼斬馬剣を回収する。その時ゴライアスが牙狼に向け拳を振り下ろそうとしていた。

「ベルさん!」

 そこへリューが胴体へアルヴス・ルミナを叩き込んだ。牙頼明日の表皮に傷は与えられたがすぐに回復してしまう。

「リューさん離れて!少し荒業使います!」

 牙狼はそう言うと轟天から降りる。

「轟天!」

「ヒィイイイイイイイイイイイイイン!」

 轟天は牙狼斬馬剣の上に乗る。牙狼はハンマー投げの要領で轟天をゴライアスへと飛ばす。轟天は魔導火を纏い、ゴライアスへ一直線に向かう。ゴライアスの胸部に一撃が入る。

「ふっ!」

 牙狼は烈火炎装でゴライアスへ飛び、拳を叩き付けた。爆発が起こり、牙狼は宙へ飛ばされる。

「ヒィイイイイイイン!」

 轟天が牙狼を回収し、牙狼は宙を舞っていたが狼剣を手に取る。

「やったか?」

 牙狼は轟天を止め、ゴライアスを見る。

 だがその時、爆煙の中から一筋に光が放たれる。

「ヒィイイイン!」

「轟天!」

 轟天は牙狼を弾き飛ばしす。轟天は光線を喰らい召還される。

「ぐっ!」

 牙狼は地面に着地する。爆煙が晴れるとそこには傷が修復されているゴライアスの姿があった。

「ならばっ!」

 牙狼は牙狼剣に地肌を左手の甲に擦り付け、魔導火を刀身に纏わせる。

「ふっ!はっ!はぁあああああ……」

 牙狼は十字に牙狼剣を振るう。魔導火の刃が十字に重なり空中で回転する。

「はぁっ!」

 そして牙狼は魔導火の刃をゴライアスヘ向け放つ。魔導火の刃はゴライアスの頭部をに直撃し、重なった刃は牙狼の元へと戻ってくる。

「はっ!」

 牙狼は牙頼明日の頭部に向かい跳ぶ。牙狼は戻って来た魔導火の刃を身に纏い、烈火炎装で牙狼剣を突き刺した。

「ぐぅぅ……うぉおおおおおおおお!」

 牙狼は牙狼剣を深く突き刺す。しかしゴライアスの口角は上に吊り上がっていた。

「っ!」

 牙狼はその笑みに恐怖した。

 その直後、ゴライアスは柄を掴み上へ投げ、そして光線を食らわせる。

「ぐぁあああああああ!」

 その瞬間、牙狼の鎧が召喚されてしまった。

 その光景を目にしたヘスティア、リリ、アイス、ティオネはベルの言葉を思い出した。

――鎧は無限の防御力を持っていません。ある一定のダメージを喰らうと強制的に召還され、俺自身は無防備になります――

 脳裏にベルの言葉が繰り返される瞬間、その時間は数秒と満たなかった。

 そしてゴライアスはベルへ向け裏拳を喰らわそうとする。

(しまっ!……やられる!)

 ベルは防御を取れぬまま倒されると思った。

 しかしそこへベルを助けるべく桜花が楯を手にベルを庇う。

(ダメだ!)

 ベルは咄嗟に魔導筆を袖から取り出すと魔力を桜花に纏わせた。

 二人は森へと吹っ飛ばされる。その際にベルの手から牙狼剣が離れ、地面に突き刺さった。

『ベル(様)!』

『桜花!』

 各々ベルと桜花の元へと走り始める。

 

「桜花、大丈夫ですか!」

「ああ……あいつが、ベルが俺を守ってくれた……」

 桜花はゴライアスの攻撃をくらったのにも関わらず軽傷であった。だがベルは違った。自身は防御も何もしなかったために深手を負っていた。

「しっかりしなさい、ベルさん!」

「ベル様!なんでこんな時に限って回復薬が切れるんですか!」

「ベル君!」

 リュー、リリ、ヘスティアがベルの側で声を荒げる。

 

 右も左も分からない空間でベルは一人漂っていた。

(あれ……なんで俺こんなところに?)

 ベルは自分の置かれている状況が理解できていなかった。

(そう言えばゴライアスは……みんなは?)

 ベルは辺りを見渡すが当然見つからなかった。

 そんな時、金色の光がが発せられ、大きな龍がベルの前に君臨した。

(君は……いったい誰なんだ?)

 ベルの言葉に龍は答えた。

(牙狼の称号を受け継ぎし者よ、我が名は神龍。)

(神龍!)

 ベルは神龍の名に驚く。

(ここはまだ貴様が来るには早い。お前がもし私と共に戦った牙狼を超えるのであれば、お前がいるべきところへ戻れ。歴代の牙狼たちも、それを望んでいる。)

(神龍……わかった。約束するよ。俺は初代牙狼を超える!)

 その言葉を聞くと神龍は微笑んだように見えた。

(若き牙狼よ、お前の力に私はなろう。そして約束しろ。生きてその先へ進め。)

 そこでベルの意識は途切れた。

 

「ん………」

 ベルは目を覚ますとリュー、リリ、ヘスティアは喜ぶ。

「ベルさん!」

「よかった……ベル様。」

「ベル君……」

 リリとヘスティアの目には涙が溜まっていた。

「すみません、皆さん……ゔっ!」

 ベルは立ち上がろうとするが傷が痛んだ。

「無茶をしてはいけません、ベルさん!あとは私たちに………」

「大丈夫です……それに俺は、必ず生きて戻ってきますから。」

 ベルはそう言うとゴライアスへ向かい歩き始める。

 

「大丈夫か、ベル?」

「ああ……何とか。結構痛いけど。」

 ベルはいたんだ身体に鞭を打ちながら牙狼剣の元へ辿り着く。それと同時にゴライアスは気づいた。

「ゴライアス、お前のその命!」

 ベルは牙狼剣を引き抜く。

「俺が断ち斬る!」

 ベルは剣先を天に向け、円を描く。

 神龍の祠から光が放たれ、牙狼へと注がれる。

「はっ!」

 ベルは上へと跳ぶ。

 そしてベルの身に牙狼の鎧が身に纏われる。

 胸部には龍の顔、両手両足は龍の足と手、背中には大きな羽、尻尾が装飾され、龍の顎を催した形の剣になっていた。

 

 牙狼・神龍である。

 

「ベル君が……」

「牙狼が……」

「変わった?」

 その光景を見ていた誰もが驚いた。

 ゴライアスは牙狼・神龍の姿を見た瞬間、雄叫びを上げモンスターたちを集める。冒険者たちはモンスターを止めようとするが、その時光の人型がモンスターたちの前に立ちはだかり、モンスターを倒していく。

「な、なんなんですかあれは?」

 アスフィは目の前の光景に疑問を持つ。すると近くにいたヘスティアが答えた。

「英霊の魂だよ。過去、偉業を残してきた冒険者やその魂が実体化したんだ。でもこれは……」

 ヘスティアは目の前の英霊の魂に奇異なるものがあった。姿がはっきりとは見えないが、牙狼に似ていた。

「もしかして手を貸しているのは………ベル君のご先祖様なのかい?」

 しかしヘスティアの疑問に誰も答えることは出来なかった。

 一方牙狼は羽を羽ばたかせ、俊敏な動きでゴライアスを追い詰めていた。

「うぉおおおおお!」

 牙狼はドロップキックをゴライアスに喰らわせ後ろに反らせる。

「はぁああああああああああ!」

 ベルは魔力の全てを剣に集める。

「我が名をその身に刻め!」

 牙狼は剣を上段に構える。

「我が名は牙狼!黄金騎士だ!」

 牙狼は剣を振り下ろす。ゴライアスは縦二つに切り裂かれ、魔石とドロップアイテムだけを残して消滅した。

 その瞬間、牙狼の戦いを見ていた冒険者たちからは拍手と歓声が浴びせられた。

 そんな中ベルはある気配に気付いた。

「あれは……」

 ベルが見る先には英雄の魂があった。

 徐々に姿がはっきりし、そこにはベルとは違う牙狼がいた。そして頭の部分だけ召還される。その顔が露になるとその英雄は微笑み口を動かした。ベルには聞こえなくても、何を言っているか理解した。

 

 その先へ進み、希望となれ。ベル・クラネル。

 

 その言葉に対しベルは「はい。」と返事をした。

 



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