東方紅転録 (百合好きなmerrick)
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日常編
日常編その1、「次女の普段通りの一日」


書くのに結構時間がかかってしまった()
約13時間遅れだけど、無事投稿出来てよかった()

まぁ、とにかく、総合評価が100以上になったので、日常編を投稿します。
閲覧者の皆様、ありがとうございますm(_ _)m

因みに、総合評価が100ずつ上がる事に誰か一人の日常を書きます。どれだけの人数を書けるか全く分かりませんが、よろしくお願いしますm(_ _)m


 side Renata Scarlet

 

 ──夜 紅魔館(フランの部屋)

 

「お姉様ー、早く起きてー。もう起きる時間だよー?」

 

 この数百年間、ほとんど毎日フランの部屋で寝ている。理由はフランが一緒に寝たいと言っているのもあるが、私自身も、フランを一人にしたくないからだ。まぁ、たまに自分の部屋で寝ることもあるけど、その時は、いつの間にかフランが私の部屋に来ている。そして、怒られる。まぁ、可愛いから怒られてもいいんだけどね。

 

「んー......後一時間だけ......」

「無理。早く起きて。それに、一時間も無駄にしたら、お姉様と遊ぶ時間が無くなっちゃうじゃん。二時間後には咲夜の料理の練習に付き合うんでしょ?」

「まぁ、そうですけど......眠たいですので......」

「むー、お姉様は私と遊ぶよりも、寝る方が大切なんだ。それならいいもん。一人で遊ぶから......寂しくなんてないからいいもん......」

 

 フランが涙目になってそう言った。

 

「え......あ、じ、冗談ですよ! 冗談! だから、泣かないで下さい、ね? フラン、今すぐ遊びましょう。いいですよね?」

「うん、いいよー。何して遊ぶー?」

「......あれ? もしかして、うそな──」

「え? お姉様、何か言おうとした? 」

 

 フランが悪魔じみた笑顔でそう言った。まぁ、悪魔なんだけど。

 

「......いえ、何もありません」

「それならいいよ。で、何して遊ぶ?」

「そうですね......『弾幕の当て合い』でもします? 勿論、食事の時間ギリギリまでやるわけにはいかないので、一回当たったら終わりにしますけど」

「んー......それにしよっか。じゃ、早速始めるから、頑張って避けてね?」

 

 そう言って、フランがまだ1メートルも離れていない距離から、紅い大玉の弾幕を放った。

 

「え、え!? 卑怯ではありませんか!? うわっ! あ、危なかったです......」

 

 私はその大玉を飛ぶことで、ギリギリ避けることが出来た。

 

「アハハハハ! 凄い! お姉様、この距離で当たらないなんて、とっても凄いよ!」

「フラン、そんな卑怯な手を使うなら、本気で相手しますよ?」

「うん! そっちの方が私もいい! お姉様が本気で遊ぶなんて、初めてなんだもん!」

 

 フラン......楽しそうだなぁ。まぁ、本気でやるって言っても、無意識に手加減してしまうんだろうなぁ。そうなったら、ごめんね、フラン。

 

「はぁ......では、その前に一つだけ。フラン、『アゾット剣』って知っていますか?」

「? 知らないけど......いきなりどうしたの?」

「『アゾット剣』とは、中世の医者にして錬金術師として有名だったパラケルススが持ち歩いていたと言われる剣です。ちなみに、名前の由来は剣の柄にある宝石に『Azoth』と刻まれているからと言われています。」

「あ、あの? お姉様? 長いなら、攻撃してもいい?」

「あ、勿論、いいですよ。喋りながら避けますので。今から話すのは、先に手のうちを知ってもらってから、避けて貰おうと思ったので」

「ふーん......あんまり舐めてると、すぐに終わっちゃうよ? ま、いいや。ちゃんと避けてね?」

 

 そう言って、フランが幾つもの色鮮やかな弾幕を放った。赤、黄、青、緑......他にも幾つかの色の弾幕を放ってきた。

 うわぁ......綺麗だなぁ......って、量多くない!? あまりにも鬼畜過ぎない!?

 

「お姉様、ちゃんと話しながら避けてね?」

「うっ、は、はい。コホンッ、『アゾット剣』は柄の宝石に悪魔を封じていて使役できたとか、実は剣ではなく危なっ!? どこからでしたっけ......あ、そうでした。って、また!? あ、すいません。剣ではなく杖だったとか、柄に賢者の石を入れていたといった話も伝わっています」

「......お姉様、無理して言わなくてもいいんだよ? と言うか、よく話しながら避けれたね、この量を」

 

 本当に......よく避けれたね、私。

 

「本当にそう思います。まぁ、取り敢えず、どうしてその剣の話をしているかと言うと、今からその剣をモチーフにした私の弾幕を受けてもらいます。ちなみに、モチーフにしたのは、『悪魔を封じていて、使役できる』と言う部分です」

「ふーん......じゃ、もう一回、同じのやるよー! 避けてねー」

 

 フランがそう言って、さっきと同じような弾幕を放った。

 

「あ、せめて最後ま、おっと、危なかったです。まぁ、全部魔力で作ったモノなので、本当の悪魔は使役出来ないんですけどね」

「本当に喋りながら避けているのをを見ると、結構うざいなぁー」

「うっ、すいません......。ですが、これを見たら、フランは喜ぶと思いますよ?」

「......え? どうして?」

 

 私はそう言って、魔法で『アゾット剣』を模した物を創り出した。

 

「この剣に封印している悪魔は、二体います。今回は、片方だけにしますけどね。では......召喚されて下さい。悪魔の写身として、私が愛する悪魔としての姿で......」

 

 私はそう言って、『フランと全く同じ姿をした魔力の塊』を創り出した。ちなみに、召喚とか言ってるけど、それっぽく言いたいだけなんだよね。

 

「......え? もしかして、私?」

「はい、そうですよ。ちなみに、姿形を全く同じにしたので、結構魔力を使ってしまいます。まぁ、とにかく、仕返しタイムですね。次は貴女が避ける番です」

 

 そう言って、私と、フランと全く同じ姿形の使い魔的な存在で一緒に攻撃を始めた。私は普通にばら撒くだけだけど、フランに似た使い魔は、先ほどフランが使った弾幕と全く同じのを放った。

 

「え!? お姉様の方が卑怯じゃん! あ、危なっ! って、痛っ!?」

 

 フランはしばらく弾幕を避けていたが、避けたところに弾幕があり、それに当たった。

 

「ふふふ......これが姉の力ですよ! どうです、凄いですよね?」

「ただ卑怯なだけじゃん! お姉様の卑怯者! 馬鹿! 絶壁!」

「いやいや、最後のはフランも変わらグハッ!!」

「お姉様やレミリアお姉様よりもマシだもん!」

 

 そう言って、フランが飛び蹴りをしてきた。

 うぅ......本当のことなのに......。まぁ、お姉様よりもマシだけどね。

 

「うぅ......痛いです......」

「私のことを絶壁とか言った罰だよ。っていうか、お姉様よりも全然あるから......うん、絶対に」

「......まぁ、そういう事にしておきましょうか」

「え? なんか言った?」

「い、いえ、何でもありません」

 

 どうしてお姉様もフランもこの話になったら、怒るんだろう......。全くもって謎だ。

 

「妹様方、失礼いたします。お食事の準備が出来ましたので、食堂にお集まり下さい」

 

 いつの間にか咲夜が入って来て、そう言った。

 もしかして、聞いてたのかな? まぁ、いっか。

 

「あ、分かった」

「はい、分かりました」

「では、失礼いたしました」

 

 そう言って、いつの間にか咲夜は何処かへと消えていった。

 咲夜は本当に神出鬼没だなぁ。

 

「じゃ、行こっか。早く『抜け道』作って」

「はい。......出来ましたよ」

「いつも思うけど、早いよね、作るの。あ、それと、次、絶壁とか言ったら、どうなっても知らないからね」

「......本当のこと──」

「あ? 今、なんて言ったのかな?」

 

 フランがそう言って、私の首を握りしめながら、持ち上げた。

 

「ぐっ、うっ、す、すいません......でした」

「よろしい。はぁ、本当に、お姉様達にだけは言われたくないからね」

「はぁ、はぁ......殺す気ですか......まぁ、私の方が悪かったんですけど」

「さ、そんな話は置いといて、行くよ。レミリアお姉様も食べないで待ってくれてると思うから」

「はい、それもそうですね。では、行きましょうか」

 

 こうして、私達は食堂へと向かったのであった──

 

 

 

 ──紅魔館(食堂)

 

「あー、美味しかった」

 

 食堂に着くと、いつも通り、お姉様と咲夜と美鈴が居た。まぁ、パチュリーはいつも通り、自分の部屋で食べているんだろう。

 

「こらっ、フラン。『ご馳走様でした』くらいは言いなさい」

「はあーい。ご馳走様でしたー。じゃ、お姉様、私は部屋に居てるから、用事が全部終わったら来てね」

 

 そう言って、フランが自分の部屋へと戻っていった。最初の頃はフランも練習していたが、飽きたのか、最近はたまにしか来ない。

 まぁ、それでも料理のレベルは今でこそ咲夜に劣るが、私よりも上手にはなった。フランと咲夜は覚えるのが早くて助かる。まぁ、お姉様もそれなりに早いけど、飽きるのがフランよりもかなり早いからなぁ......。

 

「はい、分かりました。では、咲夜、料理の練習に行きましょう」

「はい。......お嬢様、行く前に、何かありますか?」

「んー......紅茶だけもってきてくれないかしら?」

「はい、分かりました」

 

 そう言って、咲夜は一瞬のうちに消え、再び現れた時には、紅茶を持っていた。

 やっぱり、時止めって、便利だなぁ。まぁ、流石に、魔法では再現出来ないだろうけど。でも、いつか出来たら、やってみたいなぁ。

 

「お嬢様、どうぞ」

「仕事が早くて助かるわ。さ、もう行ってもいいわよ。何もないから」

「はい、分かりました」

「では、お姉様、行ってきますね」

「えぇ、また食事の時に会いましょう」

「あ、お嬢様、私も仕事に戻りますね」

「えぇ、頑張ってね、美鈴」

 

 こうして、私はお姉様達と別れた。

 今日は何を教えようか。だんだんネタが無くなってきたけど、まぁ、まだ残ってるから大丈夫かな。

 などと考えながら、厨房へと向かった──

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

 咲夜に料理を教えるのも終わり、図書館で魔導書を読み漁った後に、二度目の食事をした。美鈴は流石にもう寝ている。門には誰もいないが、まぁ、大丈夫だろう。たまに誰か侵入してくるけど、パチュリーがすぐに分かるからね。

 そして、今はと言うと、食事をした後、暇だったので、フランの部屋に来ている。お姉様の部屋に行くことも考えたが、忙しかったら迷惑だろうから、今日はやめといた。

 

「お姉様......ここに来てからずっと、ぼーっとしてるけど、大丈夫?」

「え? あ、大丈夫ですよ。全然大丈夫ですので、心配しなくてもいいですよ」

「ふーん......それならいいけど」

 

 ほとんど毎日、フランと遊んでいるから、やることが思い付かなくなってきた。まぁ、数百年も同じようなことを繰り返してるんだし、思い付かないのも当たり前だよね。まぁ、フランと遊ぶのは飽きないけど。......本当だから、うん。

 

「お姉様、また寝る前にでも遊べるんだし、今はレミリアお姉様のとこにでも行ってみない? 私も今から行こうとしてたから、ついでにお姉様も行かない?」

「んー......まぁ、暇ですし、そうしますか」

「じゃ、『抜け道』作って」

「地味に魔力消費する量多いんですよ? あれは。まぁ、寝たら回復しますけど」

「つべこべ言わずに早く作って。早く」

「は、はい。分かりましたよ。......はい、出来ましたよ」

 

 そう言って、地面に『抜け道』を作った。

 

「音も無く作るって今更だけど凄いよね」

「ふっ、そうでしょう?」

「あ、なんかウザかったから、今の言葉取り消し」

「え、うぅ......」

「じゃ、私から先に行くね」

 

 そう言って、フランが『抜け道』へと落ちていった。

 さて、私もすぐに行くか。と言うか、すぐに行かないと、フランに怒られる。

 そう思い、急いで『抜け道』へと落ちていった──

 

 

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「......せめて扉の前に作ってから来なさいよ。どうして部屋の中に作るのよ」

 

 部屋の中に作ったからか、お姉様が少し不機嫌そうな顔をしていた。咲夜はいないみたい。多分、掃除か食事の準備中だろう。

 

「あ、すいません」

「まぁ、いいわ。なんの用かしら? もう少ししたら終わるから、遊ぶのは少し待ってなさいね」

 

 今、お姉様は何か書類のような物に何かを書いていた。紅魔館の主の仕事とかは、お姉様に任せっきりだから、何をしているか全然分からないや。

 

「えー、今すぐ遊ぼうよー」

「我が儘言わないで。本当にもう少しだけだから。数分程度で終わるから」

「むぅ......少ししか待たないからね」

「レナ、フランが癇癪起こさないように見てて」

「はい、分かりました。フラン、これを見てください」

 

 そう言って、フランそっくりな魔力の塊を作り出した。『アゾット剣』を使っている時のフランよりも小さな手のひらサイズだけど、あれよりもかなり正確に作り出した。まぁ、量よりも質の方を取った時と同じように、結構魔力消費するんだけどね。

 

「へぇ......凄いね、お姉様。翼とか全く同じ。まぁ、顔とか似ているかは全く分からないけど。私達、鏡に写らないし」

「まぁ、そうですね。でも、凄く可愛いですよね? これが貴女の顔ですよ」

「ふーん......お姉様って、私よりもレミリアお姉様に似てるんだね。まぁ、別にいいけど」

「え、そうなんですか?」

「うん、そうだよ」

 

 へぇ......私って、お姉様に似てるんだ......ちょっと嬉しいかも。いや、普通に嬉しいや。

 

「私からして見れば、貴方達二人も似ているとおもうんだけどねぇ。あ、レナ、フラン。終わったわよ」

「あ、本当に早かった。レミリアお姉様、何して遊ぶー?」

「何も考えてないわよ。この数百年で、遊べることは大体やってきたし」

「えー、何も思い付かないの?」

「何も思い付かないわね。レナ、何かない?」

 

 え、何かない? って言われても......流石に、ネタが尽きてる。前世の記憶がまだ少しだけあると言っても、全然思い付かないなぁ。と言うか、前世の遊びもほとんど全部遊び尽きたと思う。

 

「んー......すいません。全く思い付かないです」

「えー! 同じ遊びは一日に二度もしたくないしなぁ......」

「特に何も思い付かないなら、適当に話でもして時間を潰しましょうか。と言うか、レナ。飛行と魔法の練習はどうしたのよ?」

「今日は乗り気じゃないので、やめときました」

「......は? 乗り気じゃなくても、毎日、怠らないように練習しなさいって前も言ったでしょ? 貴女、私との約束を破るつもり?」

 

 あ、久しぶりに本気で怒ってる。これはやばい。かなりやばい。返答を間違ったら、殺される......。

 

「うっ、すいません......今すぐ行きます」

「えー! お姉様、行っちゃうのー?」

「すいません、フラン。また後で遊びましょう」

「うー......うぅ、分かったよぉ......お姉様と遊べるって思ってたのに......」

 

 フランが今にでも泣きそうな声でそう言った。

 ......本当にごめんなさい、フラン。

 

「......はぁー。レナ、今日だけ特別よ。フランが可哀想になってきたから、今回だけ休んでもいいわ」

「え、本当ですか?」

「本当よ。だけど、次は無いから。それだけは憶えておきなさい」

「お姉様、ありがとうございます」

「感謝はフランにすることね。はぁ、本当、私って妹に弱い気がするわ......」

「レミリアお姉様、ありがとう! 大好き!」

 

 そう言って、椅子に座っていたお姉様に飛び付いた。

 ......いいなぁ。私もお姉様に飛び付きたい。それか、フランに飛び付かれたい。まぁ、フランにはいつも飛び付かれてるけどね。力が強くて痛いけど。

 

「っ!? い、いったぁ......ふ、フラン。椅子から落ちちゃったんだけど」

「あ、ごめんなさい。でも、いいでしょ?」

「何がよ。そんなことを言われても、痛いのは変わらないわよ」

「え? お姉様は痛みがなくなったとかいうけど」

「気にしてはダメよ。それは、ほとんど自己暗示のようなものだから」

 

 まぁ、確かにほとんど自己暗示だけど......フランが可愛いから、痛みも忘れると思うんだけどなぁ。

 

「ふーん......まぁ、何でもいいや。レミリアお姉様、好きー」

「っ!? ちょ、ちょっと、痛いんだけど。と言うか、レナはいつもこんなに強く抱き締められてるの? よく無事だったわね......」

 

 本当に自分でもそう思う。いつか骨でも折れそうだ。

 

「レミリアお姉様、私のことが好きなら、ここは『私も好きだよ』とか言う場面だよ?」

「いや、痛いから。そんなの言えるような生易しい痛さじゃないから」

「え、そんなに痛いんだ。まぁ、いっか」

 

 

 

「よくないわよ! 痛いから、もう離しなさい!」

「うぅ......分かったよ。レミリアお姉様のいじわる」

「え......はぁ、仕方ないわね......まだ抱き締めててもいいわよ」

「やったー!」

 

 ......あれ? お姉様? フランに甘すぎない?

 

「お姉様、私も後でいいですか?」

「はぁ、いいわよ。でも、力は緩めなさいよ。フラン以上に強かったら、怒るから」

「まぁ、それは大丈夫ですよ。......と言うか、ギシギシ言ってません? 本当に大丈夫なんですか?」

「だ、大丈夫よ。これくらい。何も心配いらないわ」

 

 ......痛そうだなぁ。まぁ、私も毎日同じことをやられてるんだけどね。痛みに慣れてきちゃったから、今は痛みをあんまり感じないけど。

 

「お姉様、無理はしないでくださいね。フランは少しくらい、手加減してください」

「大丈夫。これくらいじゃ、骨は折れないと思うから。爪で怪我するくらいはしそうだけどね」

「怪我しないくらいの力にしなさいよ」

「はーい。あ、お姉様。順番変わってほしい?」

「え、まぁ、はい」

「なら、もういいかな」

 

 そう言って、フランがお姉様を離した。フランの翼が嬉しそうに揺れているし、結構嬉しかったのかな?

 

「ふぅ......痛かったわ。さ、次はレナね」

 

 お姉様がそう言って、お姉様から抱き締めてきた。

 

「え、あ......お姉様にこうやって、抱きしめてもらうのは、久しぶりな気がします」

「えぇ、そうね。私もそんな気がするわ」

「お姉様達、好きー」

 

 そう言って、フランが私達に向かって、飛び込んできた。

 

「え、あ、ちょ、痛っ」

「っ!? ちょっと! フラン!」

「いやー、暇だったから、ついね。それと、もう離さないからー」

「いやいや! ついじゃないでしょ!? それに、離しなさいよ!」

「いやー」

「お嬢様、失礼いたし......失礼いたしました」

 

 咲夜がいつの間にか、部屋に入ってきてそう言った。

 って、どうして帰っていこうとしてるの!?

 

「え、ちょっと! 咲夜、助けてよ!」

「ですが、お嬢様。楽しそうに見えるんですが」

「楽しくはあってもフランをどけるのを手伝いなさいよ! この娘、全然離してくれないんだけど!」

「楽しいのは認めるんですか......。お二人の力で離せないのなら、私の力で離すことは出来ないと思いますよ?」

 

 まぁ、私はあんまり力を入れてないんだけどね。力を入れ過ぎると、フランが怪我しそうだし。と言うか、私とお姉様が抱き合っている時に、フランが飛び込んできたから、変な体勢になってる。だから、力を入れたら、お姉様も怪我しそう。

 

「それでも、出来るかもしれないでしょ!?」

「しかし、お嬢様」

「『しかし』じゃないでしょ! 早く助けてちょうだい! と言うか、フランは早く離してよ! かなり痛くなってきたんだけど!」

「無理ー。お姉様が嫌がる姿って珍しいから、もう少しだけ我慢しててー。あ、勿論、嫌がりながらね」

「性格悪いわね! 貴女! と言うか、咲夜は早くしなさい!」

「ですが、お嬢様」

「だから、『ですが』でもないでしょ!?」

「されど、お嬢様」

「もういい加減にしなさい! と言うか、貴女、楽しんでやってるでしょ!?」

 

 お姉様......いくら何でも慌て過ぎだよ。もっと冷静になればいいのに......。

 

「はぁ......仕方ありませんね。お嬢様方、少し失礼いたします」

 

 そう言って、咲夜が時を止め、いつの間にかフランと私達を離していた。

 

「ふぅ......助かったわ」

「ちぇっ、もっと楽しみたかったなぁー」

「こっちはクタクタよ。さぁ、食堂に行きましょう。時間を潰しすぎたわ」

「はーい。じゃ、お姉様、『抜け道』作ってー」

「魔力消費が激しいとさっきも言ったはずなんですけど......まぁ、いいです」

 

 そう言って、地面に『抜け道』を作る。それにしても、フランに抱き締められたせいか、まだ身体中が少し痛むなぁ。まぁ、痛むと言っても、本当に少しだけだから、いいんだけどね。

 

「はい、出来ましたよ」

「本当、貴女の魔法って、早いわよねぇ......毎回言ってる気もするけど」

「毎回言われている気がします」

「じゃ、私から行くねー」

 

 そう言って、フランが抜け道へと落ちていった。フランって、いつも最初に行きたがるなぁ。......いつか、行き先を天井にでもしてみようかな。......いや、やめとくか。後で怒られるだろうし。

 

「じゃ、行きましょうか」

「はい、そうですね」

 

 そう言って、お姉様達と一緒に『抜け道』に落ちて、食堂へと向かった──

 

 

 

 ──紅魔館(食堂)

 

「ご馳走様でしたー」

「ご馳走様でした。それでは、先にお風呂に入ってきますね」

「あ、お姉様と一緒に入りたーい」

「......後で、お姉様と一緒に入ったらどうですか?」

 

 フランとは昔、一緒に入ったこともあるけど、だんだん恥ずかしくなってきて、最近は全く一緒に入っていない。まぁ、フランは妹だけど、私の前世は男だった気がするからねぇ......ほとんど憶えてないんだけど。まぁ、それだけでも、抵抗がある。

 

「お姉様、最近そればっかじゃん。またお姉様と一緒に入りたいんだけどなぁー」

「すいません。最近は一人でゆっくりしたいので」

「ふーん......まぁ、それならいっか。ってことで、レミリアお姉様。後で一緒に入らない?」

「いいわよ。でも、私も最近、レナと一緒に入ってないわねぇ」

 

 どうしてお姉様も一緒に入りがるんだろうか......まぁ、ただ単に、一緒に居たいだけなんだろうけど。

 

「お姉様まで......」

「服は風呂場に既に用意してありますよ。三人分を」

 

 なぜと言うか、いつの間に用意したんだろう......。咲夜が最近怖い気がする。まぁ、口に出しては言わないけど。

 

「咲夜もなぜ手伝っているんですか......まぁ、今日だけなら、いいですけど......」

「やったー! じゃ、早速行こー!」

「お食事の片付けは、私に任せてください」

「ありがとう、咲夜。じゃ、行きましょうか」

「はぁ......分かりました」

 

 こうして、私達は食堂を出た。

 それにしても、何百年ぶりだろう......まぁ、いいや。多分、百数年とかそんなものだろう。フランが何百年も我慢するとは思えないしね。

 そう考えながら、大浴場へと向かったのであった──

 

 

 

 ──紅魔館(大浴場)

 

「あ〜、いい湯だな〜」

「......そうですね」

「ふぁ〜、眠くなってきたわ......」

 

 今はお風呂に浸かっている。それにしても、本当に久しぶりだなぁ......いや、三人で入ったのは初めてかな?

 紅魔館の大浴場はかなり広い。十人くらいで入っても、まだまだスペースがあるくらいだ。

 最初の頃は苦労したよねぇ......吸血鬼は流水が無理だからね。最初の頃は誰かに拭くのを手伝ってもらっていたけど、最近、特に一人の時は、自分で拭かないとダメだからねぇ。まぁ、そう言っても、時間かかるだけなんだけどね。

 

「ほっ......やっぱり、お姉様達よりはマシだよね。私って」

 

 フランが私達の目よりも少し目線を下に向けて言った。

 え? どこ見て言ってるの? と言うか、どうして安堵してるの?

 

「......フランも変わらないと思うけど?」

「レミリアお姉様、負けず嫌いなのはいいけど、現実は受け止めた方がいいよ?」

「ぐぬぬ......で、でも、将来はもっと......」

「ないない。絶対ない。お姉様よりもないと思う」

 

 あれ? 話についていけてないのって、私だけ?

 

「えーと......何の話ですか?」

「どうして貴女は気付かないのよ......まぁ、いいわ。先に出るわね」

「あ、私も出ます」

「えー! もう少しだけ入ってようよー」

 

 そう言って、フランがお湯をバシャバシャと叩いた。

 ......え、ちょ、それ当たったら痛いやつじゃない? いや、飛んだ水はいいのか? まぁ、触ろうとは思わないけど。

 

「もう充分入ってたでしょ?」

「むぅ......それなら、明日また入ろうね」

「考えておきますね」

「それ絶対入らないやつじゃん!」

 

 まぁ、そうだけど。

 

「いえいえ、入りますよ。多分」

「......まぁ、いいや。また明日言おっと」

 

 そんな話をしながら、私達は大浴場から出ていった──

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「ふぁ......今日も一日終わったねー。まぁ、本当はまだ一日は終わってないけど」

「ふぁ〜......今日も色々あったわね」

「そうですね......一つだけ聞きたいんですが、どうしてお姉様が居るんですか?」

 

 風呂場から出て、そのまま部屋へと私達は向かった。そして、その時に何故かお姉様までついてきた。

 

「特に意味はないわよ。ただ、強いて言うなら、明日は何もないから、暇潰しね」

「暇なら、ずっと遊べるね!」

「はい、そうですね」

「まぁ、レナは今日サボった分の練習をしてもらうけどね」

 

 うっ、結局はそうなるのか......。

 

「わ、分かってますよ......あ、眠たいのでもう寝ますね。おやすみなさいです」

「明日になっても絶対憶えてるから、覚悟しなさいよ。じゃ、おやすみなさい」

「おやすみー」

 

 ......明日、疲れそうだなぁ......。

 そんなことを考えながら、私は瞼を閉じた────




ついでに、これが大まかなレナータの基本的な一日です。
18:00 起床
19:00 食事
20:00 咲夜の料理練習
22:00 図書館で魔導書の読み漁り
24:00(0:00) 食事
1:00 暇な時間帯
2:00 外で飛行、魔法の練習
3:30 食事とお風呂など
4:30(自分orフランの)部屋に戻る 少しだけフランと遊ぶ(フランに遊ばれる)
5:00 睡眠

時間はそれっぽく、設定しただけなので、毎日同じ時間にやったりはしない模様。
因みに、幻想入りする前の時間帯です


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日常編その2、「美鈴の平和な一日」

間違えて最新話に投稿していたので、再投稿です。


 side Hoan Meirin

 

 ──紅魔館(門前)

 

 十月のとある日の朝。まだ秋だというのに、木枯らしが吹き付ける寒い日。

 

「ふぅ〜......今日も寒いですね〜」

 

 今日も門の前で仕事......と言うよりも、ただ、突っ立ていた。

 まぁ、これはいつものことで、そこまで苦痛じゃないからいいんですけどね。

 お嬢様からは、門から離れないこと、怪しいものは中に入れないこと、しか言われてないからね。

 鍛錬出来るし、バレなかったら寝ることも......あ、それは咲夜さんに怒られるからダメかな。

 いつの間にか寝てたらいつの間にか怒られてるからね。......どうしてバレるんだろう?

 

「......はぁ〜、それにしても暇だなぁ」

「あら、美鈴。珍しく起きてるわね」

「あ、咲夜さん。って、まだ来てから間もないのに、そんなすぐ寝ないですよ!」

「寝てたから言ってるのよ」

「え、マジですか?」

「貴女、覚えてないの? 一昨日寝てたじゃない。それも、行ってから十秒も経たないうちに、ね」

 

 え、んー......全く思い出せないけどなぁ。咲夜さん、勘違いしてるんじゃないかな? ......まぁ、私が覚えてないだけかもしれないけど。

 

「......あぁ、覚えてないのね」

「え!? 咲夜さん、どうして心を読めるんです!?」

「え、いや、貴女、うーん、って唸ってたから」

「あぁ、なるほどー」

「貴女、本当に分かってなかったのね......まぁ、それよりも、ちゃんと仕事しなさいよ。定期的に見に来るけど、その時寝てたら......分かるわよね?」

「あははー、寝る訳ないじゃないですかー」

「......そう、それならいいけど......寝てたら、明日のご飯抜きだから」

「えぇ!? さ、咲夜さん! そ、それだけは! ......あぁ、行ってしまいました......」

 

 まさか、ご飯抜きと言われるなんて......これから私は、何を目標に生きてきたらいいんだ......。

 まぁ、寝ないようにすればいいよね。......毎日寝てる気がするけど大丈夫なのかな?

 

「はぁー、鍛錬でもしていますか......」

 

 

 そんなことを呟き、まずは腕立て伏せから始めた──

 

 

 

 ──数時間後 昼頃 紅魔館(門前)

 

「美鈴ー......美鈴ー!」

「はっ! え、な、何ですか!?」

 

 目が覚めると、目の前には日傘をさしたフラン様が居た。......あぁ、私、寝ちゃってたのかな? 咲夜さんにバレてなければいいけど......。

 

「美鈴、また寝てたよ? ま、それよりも、咲夜から、昼ご飯の時間だから美鈴を呼んで来て、って頼まれたのよ」

「あ、そうですか......。フラン様、咲夜さんに寝てるのがバレてると思いますか?」

「んー、まぁ、バレてると思うよ? でもまぁ、怒られるとは思わないかな〜」

「え、バレてるんだ......い、いや、それよりも、どうして怒られないと思うんです? バレてるなら、絶対に......」

「ふふ、咲夜が私に呼んできて、って頼んだわけだしね。いつも咲夜が美鈴を呼んできてるし、そこまで忙しそうにしてなかったのに、呼んできて、なんて言う理由は一つしか無いでしょ?」

 

 んー......もしかして......。

 

「......咲夜さんは、私を安心させてから怒るという、ドSな性格だったからですか!?」

「うん、もう怒られていいよ」

「えぇー!? フラン様だけは、私の味方だと思っていたのにですか!?」

「私が味方するのはお姉様達だけよ。......ま、別に貴女や咲夜とか、紅魔館に住んでる人の味方はしてもいいけどさ......。

 それよりも、本当に分からないの?」

 

 ま、まぁ、 確かにさっきのは半分冗談だったけどね。......半分は本気で思ってたなんて、口が裂けても言えない......。

 

「私を怒らないようにする為、とかですかね?」

「ま、それだと思うよ。聞いたところによると、寝てるのバレたらご飯抜きなんでしょ?」

「うっ......はい、そうですよ。フラン様も酷いと思いませんか!? 寝ているだけなのに、ご飯抜きなんて!」

「ううん、全然思わないよ。だって、美鈴っていつも寝てるでしょ? 自業自得よ」

 

 うぅ、言い返せない......。

 お嬢様に言われるならともかく、フラン様にまでこう言われる日が来るとは......やっぱり、成長してるんですね......。そう思うと、少し嬉しい気持ちもあるなぁー。

 

「えぇー! た、確かにいつも寝てますけど......」

「ほら、認めた」

「え? あ、あははー......」

「ま、別にこの話はこれ以上広げなくてもいいよね。......日傘持つのもしんどくなってきたし、そろそろ行こっか。お姉様達も待ってるだろうしね」

「あ、はい。そうですね」

 

 こうして、私は昼ご飯を食べる為に、紅魔館へと戻ることにした──

 

 

 

 ──紅魔館(食堂)

 

 食堂に入ると、既にお嬢様達が席についていた。ここに居ないのは、パチュリー様と小悪魔、ミア様、妖精メイド達だ。まぁ、パチュリー様と小悪魔はいつも図書館で食べてるし、ミア様や妖精メイド達は各々別の場所、時間に食べてるから、いつも通りなんだけどね。

 

「あら、貴方達、遅かったわね。何かあったのかしら?」

「あ、お嬢様。......ま、まぁ、特に何もありませんでしたよ」

「うん、そうだね。ただ、ちょっとだけ美鈴とお話してただけよ」

「......そう、ならいいわ。さ、早く食べなさい」

 

 ふぅー、お嬢様にこれ以上、追求されなくて良かった。追求されると、咲夜さんにご飯抜きにされるからね。本当に良かったわ。

 

「はーい。あ、ルナ、お姉様の横の席、渡してくれない?」

「ん、無理。私の横ならいいよ?」

「ルナのケチ。ま、今日はそれでもいいよ。今の私は機嫌いいからねー」

「......何かあったの?」

「ヒミツー」

 

 いつもレナ様かお嬢様の横を争って言い争いしてるのに......珍しいこともあるのね。

 

「美鈴、何ボサッと突っ立てるのよ。早く食べなさい。貴女はこれから門番の仕事があるのよ? 食べないと、とっさの時に動けなくなるわよ?」

「あ、はい。......って、咲夜さんが寝てたらご飯抜きとか言ってたのに......」

「美鈴、何か言った?」

「い、いえ、何でもありません......」

 

 咲夜さん......顔が笑ってるのに怖い......。

 

「咲夜、何かあったの? 顔が怖いけど......」

「いえ、何もありませんよ。お嬢様はお気になさらずに」

「そ、そう。貴女がそう言うならそうするわね」

「お姉様、食べ終わったので、私は戻りますね」

 

 レナ様が席を立って、そう言った。

 いつものことだけど、レナ様は食べるの早すぎません? お嬢様は少食だから早くてもおかしくはないけど、レナ様はお嬢様よりも量が多いのに......まぁ、別にそこまで気にすることはないですね。

 

「えぇ、分かったわ。それじゃぁ、また後でね」

「あ、オネー様! 待って!」

「あ、まだ食べ終わってないのに......。ま、後で行けばいっか。お姉様、ルナ。先に遊んでてねー」

「うん、フランも早く来てね」

 

 そう言って、レナ様とルナ様が出ていった。......私も早く食べて、仕事に戻らないとね。

 それにしても......平和だなぁ。やっぱり、こっちに来たのはお嬢様達にとっても、私にとっても、良かったことなんだ、と改めて思う。

 こんな平和な日がずっと続くように、私がしっかりと門を守っていないとね。

 そんなことを考えながら、私は食事をとった──

 

 

 

 ──数時間後 紅魔館(門前)

 

「おう、美鈴! 今日もそこを通らせてもらうぜ!」

 

 昼ご飯を食べてから数時間経った夕暮れ時。しばらく鍛錬に励んでいる時に、嫌な人の声が聞こえた。

 

「げっ、魔理沙......」

「おいおい、そんな顔をしなくてもいいだろ?」

「貴女を通すと、咲夜さんに怒られるのでね。......帰っていただくことは......」

「勿論、無理だぜ。さ、大人しく退いて貰おうか! 大人しくしているなら、怪我だけですむかもしれないぜ?」

「結局怪我はするんですか!?」

「ん? まぁな。マスパ撃つつもりだからな。怪我しない方がおかしいぜ」

「それ大人しくして得ないですよね!? まぁ、通すつもりは元からありませんけどね」

 

 通すと、咲夜さんに怒られるし、ご飯抜きにされることもあるからね。絶対に通すわけにはいかない。......止めれたことないけど。

 

「それなら仕方ないな。行くぜ! マスター......スパ、いてっ!? な、なんだ!?」

「ま、魔理沙のミニ八卦炉が......ナイフで!? ま、まさかあのナイフは──」

「昼寝してないか見に来たら、毎日のように見るこそ泥が一匹......いつも逃がしますが、今回はそうはいきませんよ?」

 

 そう言って、咲夜さんが急に私と魔理沙の間に現れた。

 やっぱり、こうやって見ると、頼りになるなぁ。......ちょっと怖い時あるけど。

 

「げっ、咲夜かよ。......二対一は分が悪いな。仕方ない。今日は止めとくぜ! それと、こそ泥じゃ──」

「あ、魔理沙。泥棒はダメだよ」

「え、あ、フラ、ン......?」

 

 いつの間にか、妹様達が魔理沙の背後に現れ、フラン様が魔理沙に何らかの魔法を使い、気絶させた。

 魔理沙は地上に落ちそうになったが、ギリギリのところでレナ様に捕まり、助かることが出来た。

 

「妹様方、ご協力、ありがとうございます」

「ううん、泥棒は悪いことだしね。後で魔理沙には、ちゃんと言わないとね」

「じゃ、もう遊びに行ってもいい?」

「はい、勿論いいですよ。レナ様、フラン様とルナ様をお願いしますね」

「はい、分かりました。お姉様に心配をかけないように頑張りますね。まぁ、フランもルナもいい娘だから大丈夫でしょうけどね。

 あ、魔理沙は預けますね。私の体格だと、ちょっと持ちにくいですし......」

「はい、仰せのままに」

 

 そう言って、魔理沙は咲夜さんに引き渡され、妹様達は外へと遊びに出られた。......あれ、緑の髪の人が横に......いや、気のせいかな。

 

「咲夜さん、ありがとうございます。私だけでは、おそらく突破されてましたし......」

「いいわよ、それくらい。今日はこそ泥は捕まえたから、もう休んでいいわよ。......それと、今日は起きてたみたいだし、明日はちゃんとご飯あるわよ。まぁ、明日も頑張りなさい。門番としては、貴女ほど頼れる人はいないと思ってるしね」

「咲夜さん......はい、ありがとうございます!」

「あ、ついでに、運ぶの手伝ってくれない? 起きるまで、客室に寝かしておこうと思うから」

「はい! 勿論手伝いますよ!」

 

 こうして、門番としての仕事が終わり、今日も平和な一日が過ぎていった────



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日常編その3、「魔女の憂鬱な一日」

なぜかパチュリー関連の話が思いつかないので、かなり短い模様(すまない)
話が思いつき、時間があれば編集して追加します。

いつの間にか、総合評価が400超えていたので、次回の咲夜編もあるという()


 side Patchouli Knowledge

 

 ──朝 紅魔館(図書館)

 

 紅葉の美しい季節。

 ──読書の秋。私はその言葉に従うように、本を読んでいた。

 

「パチュリー様〜、紅茶を持ってきましたよ〜」

「ありがとう、小悪魔。そこの机にでも置いておいて」

「はーい。......今日も静かですね」

「えぇ、そうね。あの姉妹や白黒の魔法使いがいないと、本当に静かでいいわ」

 

 

 やっぱり、本を読む時は静かな方がいいわね。

 前にレナも言ってたけど、本を読む時は誰にも邪魔されず、自由でなんというか......救われてなきゃダメね。

 独りで静かで──

 

「呼ばれた気がするぜ!」

「あ、魔理沙さん! また本を盗りに来たんですか!?」

「......はぁー、呼んでないわよ......」

 

 終わった。静かな時間がものの数分で終わった。

 今日は厄日だったかしら? いつもはこんなに早く来ないのに。

 

「盗ってないぜ。借りてるだけだぜ? 一生な!」

「......完全に悪役みたいになってるわね。その言い方と顔が」

「あはは、ちょっとやってみたかっただけだからな。気にすることはないぜ。

 さて、本題に入るが......パチュリー、本を借りいくな」

「その前に、今まで貸していた分を返しなさいよ。

 貴女、もう百冊を優に超えてるでしょ?」

「えーっと......」

 

 私達が起こした『紅い霧の異変』が終わってから、魔理沙は毎日のようにここに来るようになった。

 もちろん、本を盗るためにだ。

 

「確か、その二分の一ほどじゃなかったか?」

「そんなわけないでしょ。貴女、一度に十冊以上は持っていってるし、ここのところ、毎日来てるし。

 さ、とっとと帰って持ってきなさい」

「そうだな......明日、気が向いたら持ってくることにするぜ。というわけで、借りていってもいいか?」

「良いわけない」

 

 本当にこの魔法使いは......。

 まぁ、たまにレナやミアに頼んで、密かに奪い返してもらってるけど、一向に全てが戻る気配がないのよね。

 

「ちっ、仕方ないか。なら、力ずくで貸してもらうぜ!」

「貴女、貸してもらう時の礼儀くらいはちゃんとしなさいよ。さ、小悪魔。行きなさい。私はまだ紅茶を飲んでいるわ」

「はい! ......って、えぇ!? 私一人でですか!?」

「もちろんよ。貴女、私の使い魔でしょ?」

「た、確かにそうですけどぉ......」

 

 まぁ、本当のことを言うと、最近喘息が激しいからあまり動きたくないのよね。

 調子がいい時はいいけど、悪い時は死にそうなくらいやばいからね。だから、こういう時は使い魔である小悪魔に任せてなんとかするしかないのよね。

 まぁ、最悪、レミィ達を呼べばいいしね。

 

「おっ、小悪魔一人が相手か? なら勝てる気しかしないな」

「パチュリー様〜、負ける気しかしないんですけど〜!?」

「頑張りなさい。貴女ならできるわ」

「できるわけないですよ〜!」

 

 まぁ、実際に私も勝てるとは思ってないけどね。異変の時には数分で倒されていたし。

 

「じゃぁ、始めるか。マスパで倒れるか、マスタースパークで倒されるか。どっちがいい?」

「どっちも同じじゃないですかー」

「小悪魔、頑張ってね。さて、その間に私は......」

「よし、じゃぁ、やるか。何分持つか......見ものだな」

「魔理沙さん、めちゃくちゃ悪い顔になってるんですけど......」

 

 こうして、魔理沙と小悪魔の弾幕ごっこが始まった。

 私は小悪魔が時間を稼いでいるうちに、魔法の詠唱を始めたのだった──

 

 

 

 ──数分後 紅魔館(図書館)

 

「『マスター......スパークッ!』」

 

 結局、前と同じように倒されてしまった。

 まぁ、前よりも時間は稼いでいたし、スペルカードを使われたんじゃ、スペルカードを持っていない小悪魔はかなり不利だったんだけどね。

 

「ぶはっ! ぱ、パチュリー様〜、お助けを〜」

「私は無理よ。ちょっと理由があってね」

「ふっ、私の勝ちだな。パチュリーも諦めたみたいだし、これで本を──」

「盗らせるわけない。魔理沙、めっ」

「え──」

 

 そう言って、背後から現れたルナが魔理沙の首を「ストン」と叩き、飛んでいた魔理沙を墜落させた。

 

「ありがとう、妹様方」

「パチュリーが知らせてくれたからですよ。それにしても、そんな漫画みたいに首を叩いて気絶なんて......」

「オネー様も、やってあげようか?」

「遠慮します。下手すると、首の骨が......って、魔理沙は大丈夫でしょうか? 首の骨が折れたから落ちたなんてことは......」

「大丈夫よ。流石に、吸血鬼でも本気じゃなければ──」

「ごめんなさい。......本気だった」

 

 やっぱり、ルナはまだ力加減が下手ね。フランが上手だから、いつかは上達すると思うけど。

 それにしても、吸血鬼の本気の手刀を受けて、無傷でいられる人は、なかなかいないんだろうねぇ。

 いやまぁ、魔理沙は大丈夫みたいだけど。

 

「ルナ、大丈夫だよ。気絶しているだけ。ルナが当てる前に、魔力弾を飛ばして、できる限り威力は抑えたからね。

 ほんと、これからは気を付けてよね。貴女の力加減、私の昔並に下手だから」

「ごめんなさい......」

「いいよ。魔理沙は無事だったし、そこまで怒ってないから。

 じゃ、パチュリー。私達は魔理沙を咲夜に引き渡しに行くから」

「......あれ、私、抜け道を作るためだけに呼ばれたのですか?」

「まぁ、そうね。貴女がなんとかするかと思ってたけど、妹様方がなんとかしてくれたみたいだし」

 

 本当はレナの魔法に任せて、もっと穏便にすませようと思ってたけど......まぁ、結果だけ見れば穏便にすんだわね。

 結果だけ見れば、だけど。

 

「うぅ、いらない子扱い......」

「はいはい。お姉様、魔理沙持って」

「しかも雑用係に......」

「オネー様、大丈夫。行こっ?」

「......はい、そうですね。はぁー、ルナだけが優しい......」

「お姉様、早く。それと私も優しいよ?」

「あーはい、そうですね」

 

 いかにも信じていないような言葉を返し、レナ達は魔理沙を連れて部屋を出ていった。

 

「......さ、小悪魔。傷を癒してあげるわ」

「あ、忘れられてなくて良かった......。ありがとうございます」

「それじゃぁ、動かないようにしてね」

 

 そう言って、小悪魔に手を触れ、できる限り自分の身体に影響がないように魔法を詠唱する。

 

「......ふぅ、終わったわよ。これで痛みも傷もないはず」

「おぉ、本当にないです! ありがとうございますね、パチュリー様」

「別にいいわよ。貴女も頑張ってくれたんだしね」

 

 本当に小悪魔には色々と助けてもらっているわね。......やっぱり、使い魔って便利ね。

 

「あ、あれ、なぜか、道具として見られているような......」

「気のせいなんじゃない?」

「パチェ〜、さっき魔理沙がレナ達に連れられていってたんだけど......何かあったの?」

 

 小悪魔と話をしていると、レミィが眠そうな声を出しながら入ってきた。

 

「レミィじゃない。あの娘達が起きてるのはいつも早いからだとして、貴女はいつも寝ている時間よね?」

「今日は偶然起きてただけよ。それより、小悪魔、私にも紅茶を」

「えぇ!? ま、まぁ、いいですけど〜」

 

 机の上に置いてあったカップを見て飲みたいとでも思ったのか、レミィは小悪魔にそう告げ、小悪魔は再び紅茶を容れに行くことになった。

 

「で、さっきの続きだけど......」

「えぇ、魔理沙がいつものように侵入して、捕まっただけよ。気にする事はないわ」

「そう。あいつも懲りないわねぇ〜」

 

 他愛もない話をしているうちに、今日も短い一日が過ぎていった────




次回の日常編は1週間後の水曜日の予定です。

それまでに、この話の文字数を増やしたい()


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日常編その4、「メイドの大変な一日」

遅れてずびばぜん(#)'3`;;)・;'.、グハッ
今回も短いです。というか、番外編の字数が短くなってきた気が()


 side Izayoi Sakuya

 

 ──紅魔館(咲夜の部屋)

 

 メイド長()の朝は早い。

 

「......五時、よね?」

 

 毎朝、私は同じ時間に起きる。一秒の遅れも許されない。いや、お嬢様は「それくらい問題ないわよ」と許すだろうが、私が許さない。

 

「......今日も間に合ったみたいで良かったわ。それじゃぁ、早速......」

 

 私は服を着替えて、部屋を出た。そして、足早に厨房へと向かった。

 いつも通りの時間に起きて、いつも通りの仕事をする。そして、たまにお嬢様の我が儘(命令)を聞いて、それをこなす。

 これが私の一日。そう、いつも通りだから、何も苦は──

 

「ん? あ、咲夜」

 

 厨房へと急いでいると、偶然同じタイミングで部屋から出てきたフラン様とバッタリ出会った。

 

「......フラン様? 早起きですか? 珍しいですね」

「んー、まぁ、そうね。自分でも珍しいと思うよ」

 

 それにしても、こんなところで何を......。あ、ここミア様の部屋だ。

 まぁ、妹様達が一緒に寝るのはいつものことだし、別に不思議なことではないわね。

 

「咲夜って、いっつもこんな時間に起きてるんだね」

「えぇ、まぁ......私はメイドですので」

「ふーん、メイドって大変なんだね。あ、そうそう。咲夜はさ、レミリアお姉様にプレゼントをあげるとしたら......何がいいと思う?」

 

 プレゼント? ......そう言えば、お嬢様にプレゼントなんて考えたことなかったわね。......私も何かプレゼントした方がいいかしら?

 するとしたら、やっぱり誕生日にでも......。

 

「あ、プレゼントですね。えーと......いつもお嬢様が使っている物とかはどうですか?」

「レミリアお姉様がいつも使ってる物? ......んー、例えば?」

「そうですね......ティーカップとかどうでしょうか?」

「ティーカップ?」

 

 いつも、お嬢様はお食事の時には、自分専用のティーカップを使っている。別に、それは特別な物ではなく、そういうのが欲しいからそれっぽく使っている、というだけだ。ちなみに、たまに妖精メイドが使っているのを見たりする。

 

「はい、いつも朝食の時や、ティータイムの時に使っていますので......。普段使っている物は古いですし、別に特別な物ではありませんので、新しく買った物をプレゼントしてみてはいかがでしょうか?」

「ふーん......そっかぁ、そういうのも......あ、ありがとうね、咲夜。おかげでレミリアお姉様達にプレゼントする物決まったから」

「いえ、お役に立てたのなら私も嬉しい限りです」

「咲夜はお硬いねぇ。いつも霊夢や魔理沙と喋っている時みたいに、砕けた口調でいいのよ?」

「いえ、そういうわけには......」

 

 私はメイド。主人の妹であるフラン様に、砕けた口調なんて......。

 

「......ま、いいや。じゃ、また後でねー」

「え? フラン様、そろそろお食事の時間ですよ? そちらは食堂ではありませんが......」

「ん、お姉様達を起こしに行ってくるの。お姉様、お寝坊さんだしねー」

「あぁ、なるほど。では、貴女様が帰ってくるまでには作り終えていますね」

「うん、お願いね」

 

 そう言って、フラン様は自分の部屋へと飛んでいった。

 最初、フラン様とバッタリ出会った時は面倒事に巻き込まれるかとヒヤヒヤしたが......そんな心配も必要なかったみたいだ。

 まぁ、今はそれよりも──

 

「──さて、急いで作りに行かないと......」

 

 そろそろお嬢様を起こしに行く時間だ。急いで朝食を作らないとね。

 まぁ、それこそ、時間を止めてでも間に合わせてみせるけど──

 

 

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「お嬢様、朝ですよ。今日は博麗神社に行く予定ですよ? 早く起きましょう?」

 

 時を止め、何とかお嬢様を起こす時間までに間に合わせることができた。今は、妖精メイド達に食事の準備を任せている。

 調理も任せていい気がするが......まぁ、あの娘達は少し雑なので仕方ない。

 いつもは自分で起きるが、今日は博麗神社に行く予定なので、起きる時間が早い。お嬢様は吸血鬼が故に朝が苦手なので、こういう時は私が起こすことになっている。

 

「うーん......あら、咲夜? ふぁ〜......起こしに来てくれたのね、ありがとう」

「いえ、これが私の仕事ですので。お嬢様、朝食の準備はできています。さぁ、早く食堂に行きましょう」

「えぇ、そうね......ふぁ〜......やっぱり、朝は嫌ねぇ。眠いし、太陽が出てるし。霊夢も夜に起きればいいのに......」

「お嬢様、それは人間なので仕方ありません」

「えぇ、分かってるわよ。冗談だから気にしないで」

「はい、分かりました」

 

 時々、お嬢様は突拍子もなく冗談を言ったりする。こういう時は本当にどうすればいいんだろうか......。

 

「......貴女、もうちょっと砕けてもいいのよ?」

「いえ、そういうわけには。私はメイドなので」

「......はぁー、分かったわ。それじゃぁ、着替えるから先に行ってなさい」

「別に、そのままでもいいのでは? 朝食を食べ終えるとまたここに戻ってきますし、館に変な輩や不審者が居るわけでもないですし」

「貴女、それどっちも変わらないわよ。それに......このネグリジェ姿で館内を歩くのも恥ずかしいわよ」

 

 夜はいつもその格好で館内を歩いている気が......。

 

「お嬢様、ここにはメイドや妹様方しか居ませんが......」

「いいから、早く行きなさい。というか、その妹達に見られるのが恥ずかしいのよ......。

 って、言わせないでよ」

「お嬢様、今自分から......いえ、何でもありません。では、先に行っています」

 

 そう言って、ネグリジェ姿のお嬢様を置いて、私はひと足早く、食堂へと向かうのであった──

 

 

 

 ──紅魔館(食堂)

 

「──ごちそうさまでした」

 

 お嬢様が遅れてやって来て、みんなが揃ったところで、私達は朝食を食べ始めた。

 

「ごちそうさま。では、博麗神社に向かいましょうか。美鈴、留守番お願いね。しっかりここを守りなさいよ」

「えぇ、お任せ下さい!」

「美鈴、寝ないでよ? 寝たら頭に角が生えるわよ。綺麗な銀色のね」

「あ、あれ、咲夜さん? いつもよりも辛口な気が......」

「残念。いつも通りよ。では、お嬢様。行きましょうか」

「この差、酷くないですか?」

「そうだね。いつも寝てる美鈴も悪いけど」

 

 まぁ、いつも言ってることなんだけどね。いつも言ってるのに寝ているけど。

 

「フラン様まで〜」

「自業自得。あ、お姉様。今日もこいしと遊びたいなぁ」

「普通に言ってください。どうしてそんな甘えて言うのですか。いやまぁ、いいですけど、まずは探すところからですね......」

「あ、咲夜。手土産にワインを持っていきたいから、用意してくれない?」

「お姉様、霊夢ってワインとか喜ぶのですか?」

「さぁ? 知らないけど、何か持っていかないと失礼でしょ? だから、適当に持っていきたいのよ」

「お嬢様、それを絶対に霊夢の前で言わないで下さい」

「えぇ、もちろん分かっているわよ。絶対に言わない」

「......それなら、いいですけど」

 

 そう言って、私は食堂を後にした。そして、博麗神社への手土産にと、ワインを用意するのであった──

 

 

 

 ──紅魔館(エントランス)

 

「あ、咲夜さん、お嬢様。お帰りなさーい」

 

 博麗神社で長い時間遊んだ後、いや、遊ぶのに付き合わされた後、紅魔館へと帰ってきた。

 

「美鈴、誰も通してないわよね?」

「今日は大丈夫ですよ!」

「......今日『も』できるように頑張りなさいよ」

「は、はい、頑張ります!」

 

 気迫だけはいいんだけどね。まぁ、美鈴はそこら辺の妖怪や妖精よりもかなり強いから、美鈴を倒して入ってくる奴なんてかなり少ないけど。

 

「では、お嬢様。私は夕食の支度があるので、これで」

「えぇ、任せたわ。あ、美鈴。今日はもう休んでいいわよ。たまには早めに終わってもいいでしょうし」

「いえいえ、大丈夫ですよ。というか、暇ですし」

「暇だからって寝ないでよね。まぁ、いいわ。

 それでは、お嬢様。また夕食の時間に」

「えぇ、またね」

 

 こうして、私はいつも通り、夕食の支度を済ませ、いつも通り、館の掃除をしに行くのであった────



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日常編その5、「末妹が告白した一日」

最早誰得の今回。
書いているうちにこなったんだ......許して欲しい()

ちなみに、日常編は番外編よりも番外編なので、本編に影響するかは微妙です()


 side Frandre Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「ひまー」

「ねー。ほんと、退屈ー」

 

 外に出るだけで憂鬱になりそうなジメジメとした暑い日。

 お姉様達は神社に行き、ルナ以外、遊び相手がいない一日のことだった。

 

「フランー、何かして遊ぼー」

「何か、って言われても、何も思い付かないよ。ルナが考えて」

「遊び尽くしたのしか思い付かない。だから、フランが考えて。私よりも長生きしてるしー」

「それ、精神年齢と肉体年齢......って、そう考えれば本当にルナって年下なのね」

 

 元々、私の人格の一つだったルナ。そのせいか、いつも同い年の娘として見てきたし、扱ってきた。

 けど、改めて考えるとルナは私よりも精神的にも、肉体的にも年下だったんだ。

 

「当たり前。いつも、フランが主導権持ってたから」

「そうだったね。......怒ってる?」

「別にー。あれは、仕方ないことだったしー」

 

 そうは言われても、頬を膨らませてるせいか、怒ってるようにしか見えないんだよね。

 それにしても、怒っても可愛いんだね、ルナって。

 なんだか自画自賛してるみたいだけど、お姉様似だからね、可愛いのは仕方ないよね。

 

「そっか。じゃ、質問変えるね。ルナって、私のこと嫌い?」

「......昔は嫌いだった。けど、今は嫌いじゃない、かな......」

「そっかぁー。あ、私は好きだよ、ルナのこと。今も昔もね」

「え!? ふ、ふーん......」

 

 あれ、どうして赤くなってるの?

 好き、って言われただけで赤くなるなんて、なんだかお姉様みたいで可愛いなぁ。

 

「あ、そう言えばさ、ルナの本命って誰なの?」

「えっ!? ど、どうして聞くの!?」

「そんなに驚くこと? 別にいいでしょ? 私しか聞いてないし」

「嫌。教えたくない。フラン、絶対に言いふらすから」

 

 あれ、私ってそんな風に思われてるの? 別に言いふらして得なんてしないから、やらないのに。

 ま、恋が叶うように手伝ったり、私と被ってたら邪魔したりするけどね。

 

「言わないよー。ほら、指切りげんまんするから、ね? 教えて?」

「むぅ......指切りげんまん。嘘ついたら、バラバラに引き裂く。絶対に」

「そんなに嫌なの? どうせ、いつかはバレるのに?」

「嫌なの! とにかく、絶対に言わないでよね。......それと、私が教えたらフランも教えて」

「うん、もちろんいいよ」

 

 というか、私ってみんなにバレてない? 絶対にバレてる自信あるんだけど。

 いっつも一緒に居てるし、居なくてもついて行こうとしてるし。

 

「す、好きな人、本命は......」

「うんうん、本命は?」

「......や、やっぱり恥ずかしい。言いたくない......」

「もぅ、指切りげんまんまでしたのよ?ルナってそんな性格だっけ?」

「いや、いや......恥ずかしすぎて死にそう......」

 

 なんだか恋する乙女みたいで嫌いだわ。

 っていうか、悪魔なのに約束破れるの? 絶対に破れないよね?

 

「なら、バラバラに引き裂いていいの?」

「え!? ど、どうして!?」

「だって、約束破ろうとしてるでしょ? ほら、さっきの指切りげんまん。

 あれ、貴女が本命を言うことが前提なのよ? それ、破ろうとしてるじゃん」

 

 まぁ、どうせ破ろうとしても破れないんだけどさ。

 悪魔だしね。しかも、ルナ()のことだし、破ろうとするわけないし。

 

「うー......」

「ほらほらー? さっさと諦めて言っちゃえば? 大丈夫。私は絶対に言わないからさ」

「ほ、本当に?」

「本当よ。私を信じて、ね?」

「うぅ......フラン......」

「はい?」

「誰が一番かと言われたら、フランが一番好き......」

 

 ......え? 今、え? る、ルナってお姉様が本命じゃないの?

 え、ちょっと待って。こ、こういう時ってどういう反応すれば......。

 

「......うぅ、ごめん。やっぱり、なんでもない......」

「い、いやいや! もう手遅れだからね!? え!? っていうか、どうして私!?」

「フラン、顔赤い......」

「そ、そんなの、当たり前じゃん! ふ、不意に好きって言われたら誰でも......」

 

 お姉様に言われたら嬉しいだけなのに、どうしてルナに言われたらこんなに恥ずかしく......。

 もしかして、私って攻めに弱い? で、でも、お姉様相手なら全然だし、ルナだから?

 

「そ、そう、だよね」

「う、うん。そうだよ......」

 

 あぁ! もぉ! わ、分かんないよぉ......。こういう時って、どう受け答えすればいいのぉ......?

 

「......やっぱり、言わなきゃよかった」

「あ、そ、そんな暗い顔しないで! 別に、嫌いになったりとかしてないから!」

「ううん、そうじゃなくてね。フラン、困ってるでしょ?」

「え? そ、それは、うん。困ってるっちゃ、困ってるかな......」

 

 逆に、困らない人の方が少ないと思うんだけど。

 今まで恋のライバルと思ってた人が、実は私のことを好きだったとか、どうすればいいの?

 こんなこと、ほとんど無いと思うし......全く何も思い付かないんだけど。

 

「......さっきも言ってくれたけど、フランはまだ私のこと好き?」

「まだ、って......。どうして嫌いになんかなるのよ。今も相変わらず、ルナのことは、す、好きだよ......」

 

 はぁー、口にするだけで恥ずかしくなっちゃったじゃん。

 ほんと、これからどう接していけばいいのやら。

 

「でも、本命は違う、でしょ?」

「え? そうだけど......知ってるなら、どうして教えて欲しいなんて言ったの?」

「ちゃんと、フランの口から聞きたかったから。大体は誰か分かるけど」

「......そっか。なら、言うね。......私はお姉様が一番好き。多分、これは一生変わらないと思う」

「そう......やっぱり、そうだよね」

 

 そ、そんな悲しそうな顔にならなくてもいいじゃない......。

 どうして世界の終わりみたいな顔に......。

 

「ねぇ、ルナ。悲しい? 怒ってる?」

「悲しいけど、怒ってはない。ただ、羨ましい。オネー様のことが......」

「そう。なら、まだマシだね。昔のルナなら、お姉様、殺してたかもしれないし」

「それはない、と思いたい。昔は殺したいほど好きだったけど......」

 

 それ、変わらないじゃない。お姉様も結構大変ね。こんな妹を二人も持つなんて、罪作りな人。

 ま、今日から私もそうなるみたいだけど......。

 

「ねぇ、ルナはどうして私が好きなの? 普通はお姉様を好きにならない?」

「創ってもらえたから?」

「なんか言い方悪いけど、そうだね」

「確かに、最初は好きだった。けど、フランの方が好きになったから......」

「え? く、詳しく教えて」

 

 お姉様よりも私を? 妬んだり、羨ましがるなら分かるけど、それでも好きになるものなの?

 

「オネー様って、レミリアオネー様のことが大好きでしょ?」

「う、うん。誰の目にも明らかなくらいね」

「だから、一度も私を見てくれないなぁ。って思うことがあった。それでもオネー様のことが好きだったけど」

「......諦めた、とかじゃないよね? もし、それだったら、もう一度大好きにさせるけど」

「大丈夫。そうじゃないよ。オネー様よりも貴方の方が好きになっただけで、オネー様を嫌いになったわけじゃないから」

「そう、ならいいけど......」

 

 諦めるとか一番つまらないし、嫌いなことだから、そうじゃなくてよかったわ。

 ライバル増えるより、誰かの、特にルナ()の諦めた姿を見る方が嫌になっちゃうしね。

 

「今までフランがどんな気持ちでオネー様と一緒に居たか分かった。

 今まで、オネー様はレミリアオネー様以外を好きになったことがない。もちろん、恋の方で。

 それなのに、今まで頑張ってたフランを見て、可哀想にも、一途で可愛くにも見えた。

 そう思い始めた頃からかな。す、好きになっちゃったのは......」

「......ルナってさ。単純で可愛いところあるよね。良い意味で」

「むぅー、か、からかわないでよ......」

「ふふっ、ごめんねー」

 

 それにしても、一途な人が好きなんだね、ルナって。

 今後の参考にでもしようかなー。ルナ以外に使うことになりそうだけど。

 

「あ、それ以外にも──」

「あ、まだあるのね。なになに?」

「フラン、オネー様よりもずっと一緒に居てくれるし、私のわがままを聞いてくれて、私を助けてくれるから」

「......それは、責任を感じてるだけだよ。何十年も、何百年も、私が閉じ込めてたようなものだし......」

 

 幻想郷(ここ)に来るまで、ずっとルナのことを無視してた。気付かないフリをしていた。

 今となっては、後悔してるけど......それでも、私が悪いのは変わらないから......。

 

「責任を感じるだけなら、普通は何もしない。責任以外の感情を持ってるから、何かしてくれるんでしょ?」

「それでも、私は──」

「それでも責任を感じるなら、今まで通り、私と接して。今まで以上でもいいのよ?」

「......さっきまで顔を赤くしてたくせに......ほんと、私にそっくり。

 今まで通り接するけど、今まで以上はちょっと考えちゃうかな。お姉様がいるし」

 

 振り向かれることがないとしても、私は──

 

「そっか。なら今はいいや。問題はこれからだね。

 気持ちを伝えれてスッキリしたし、これからも、改めてよろしくね。フラン」

「......うん、よろしくね。ルナ」

 

 ──諦めない。何があったとしても、絶対に。

 だからこそ、私はお姉様と一緒にいたい。

 

「じゃ、ルナ。いつも通り、遊ぼっか。お姉様が帰ってくるまでね」

「うん、そうだね」

 

 できるなら、これからも、変わることがない毎日を送りながら、ね────




そう言えば、最近吸血描写ないなぁ......(←おい)
まぁ、なかなか描写する機会ないけど()

次回の日常編は、レミリアのお話。本編とネタが被りそうなネタが多すぎて、何するか考え中。


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日常編その6、「長女の看病する一日」

最初に言います。今回の話、かなり誰得な気がします()

妹がわがまま。姉も意外とわがまま。
看病する時は、自分も伝染らないようにしよう()

これらが大丈夫な方は、暇な時にでもゆっくり読んでくださいませm(_ _)m


 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

 今朝。部屋に来たレナが突然倒れた。

 

「むにゅ......」

「ねぇ、本当に大丈夫なの?」

 

 近付いて触れてみると熱だと分かったので、今は私のベッドに寝かしている。

 

「りゃ、りゃいりょうぶ」

「もう何を言ってるのかさえ分からないんだけど......。

 昨日は何とも無かったわよね? 何があったの?」

「昨日、部屋に帰ってから頭がぼーっとして......。朝起きて、今日はお姉様と遊ぶ約束があったから急いでここに来たら、こうなってました」

 

 確か、昨日最後にあったのは食事の時。

 あの時は、何とも無かった気がするけど......。もっとしっかり見ていれば良かったわ。

 そうすれば、こうはならなかったはずだし。

 

「ねぇ、どうしてこうなるまで放っておいたのよ」

「だって、おねーしゃまと遊びたかったから......」

「あぁ、なるほどね。それだけのためにここまで放っておいたと。

 控えめに言って馬鹿。こうなる前に治す努力をしなさいよ!」

「だ、だってぇ......」

 

 私がそうやって叱ると、レナは今にも泣きそうな顔で私を見つめてきた。

 

 はぁー、そんな顔されると、叱れないじゃない。

 私、自分でもたまに思うけど甘い気がするわ。特に妹に。

 

「はぁー、もういいわ。今日はこれ以上何も言わない。だから、今は治すことに専念しなさいよ」

「はぁい......お姉様。ずっと、私の傍に居て......」

「えぇ、今日は居てあげるわよ」

 

 まぁ、とは言っても、食事やら、汗をかいた時の着替えとか、色々と用意しないとダメね。

 あ、咲夜を呼べば解決するわね。咲夜って、とっても便利。

 

「お姉様......ありがとう、ございます」

「ん、あぁ、お礼なんていいわよ。どうせ、今日は貴女と遊ぶ日だったから」

「......ごめんなさい、お姉様。私から遊ぼう、って言ったのに......」

「気にしないで。貴女のせいじゃないんだから。っていうか、早く寝なさいよ」

「......嫌です。目を離すと、お姉様が何処かに行きそうな気がして......」

 

 あら、珍しく我が儘になってるわね。いや、いつもこんな感じだったかしら?

 さて、どうするべきかしら。やっぱり、今日くらい、この娘の我が儘に付き合っても......。

 

「......まぁ、いいわよ。ただし、今日だけよ」

「おねーしゃまぁ......ありがとう......」

「だからお礼はいいって。それよりも、熱のせいでやばくなってない? 大丈夫?」

「だいりょうぶですっ」

 

 顔が真っ赤になってるし、呂律が回ってないし、大丈夫ではないよね?

 っていうか、熱で呂律が回らないって、かなりやばくない?

 私、熱になったことないから、よく知らないけど。

 

「そう、ならいいけど。......あっつ!? え、熱すぎない!?」

「えっ、そうにゃんです?」

「割と真面目に喋らないで寝なさい。本当にやばい気がするから」

「......もっとおねえしゃまとお話したい......」

 

 そんな、上目遣いで言われても......って、何この娘。可愛すぎるんだけど......。

 だ、ダメよ。この娘、呂律が回らないくらい衰退してるし、早く寝かせないと。

 でも、可愛いし、あの医者に見せればすぐに治るだろうし......。

 だ、ダメ! 悪魔の囁きに耳を傾け......あ、私は根っからの悪魔じゃない。

 

「お、おねえさまぁ?」

「......咲夜」

「はい、ここに」

「今すぐ永遠亭に行って、レナに合う薬を貰ってきて。一応、二人分ね。症状は......」

「説明しなくても大丈夫です。既に把握していますので。

 お嬢様方。無理はなさらず。では、数時間ほどお待ちを」

 

 咲夜はそう言って、現れた時と同じように一瞬で消えてしまった。

 

 これで、大事に至る可能性は低くなった。とはいえ、危険なのは変わりない。

 後は、この娘が安静にできるように......。

 

「レナ。横、失礼するわね」

「え? ......えっ!?」

「よっ、と。レナ、静かにしなさい。悪化するわよ?」

 

 そう言いながら、私は寝ているレナの横へと入っていく。

 そして、レナの首に手を回し、顔を近づけた。

 

「え、で、でも、熱が伝染るかも、しれないのに......」

「大丈夫よ。貴女と違って病気には強いしね。それに、こっちの方が安心するでしょう?」

「そう言う問題じゃ......まぁ、確かに安心はしますけど。なんてバカなことを......」

「馬鹿で結構。貴女が安静にできて、早く治るならそれでいいのよ」

「だ、だからといって、他にやり方があるでしょうに......嬉しいけど......」

 

 レナは何かぼそぼそと喋っているが、近いのによく聞き取れない。

 熱のせいで、余計にレナの声が小さくなっているせいなのか。それとも、わざと聞こえにくくしてるのかは分からないけど。

 

「さて、もう喋らないでよ。これ以上話していると本当に酷くなりそうだから」

「......はい、分かりました。......その代わり、なにか、話して。おねえさまぁ......」

 

 この娘......どんどん弱々しくなってきてるわね。一緒に寝るのは逆効果だったかしら?

 いや、一緒に寝るだけで悪化するなら、前にも同じようなことがあったわよね。

 それが無かったということは......まぁ、もっと安静にさせないとダメね。

 

「いいわよ。さて、何を話しましょうか。......適当な雑談でもする?」

「うん、お願い。......おねえさまぁ。聞こえにくいから、もっと近付いてもいい?」

「これ以上近付くって、抱きしめ......あぁ、うん。仕方ないわねぇ」

 

 そう言って、妹の背に手を回し、ゆっくりとその体を抱きしめた。

 そして、耳元で囁くように──

 

「これでいい? あ、声に出す必要は無いから。頷くだけでいいわよ」

「うん......いいよ」

「話聞いてた? まぁ、いいけど......」

「......おねえさまぁ?」

 

 そう言葉に詰まっていると、レナが突然、抱きしめるのを止めた。

 そして、私の目には、心配そうな顔をして顔を覗き込むレナの顔が映っていた。

 

「え、あ、大丈夫よ。気にしないで。だから、安心して抱きしめていいのよ?」

「......分かりました」

 

 レナはそう言って、再び手を私の背に回して抱きついた。

 目前に見えるレナの顔は、熱のせいか、はたまた恥ずかしいからなのか、真っ赤に染まっていた。

 

 とは言っても、何を話せばいいのか思い付かない......。

 レナに何か質問するような話はダメだし、他に何か......そうだわ!

 昔話とか独り言を......独り言は変な姉に見られそうね。けど、この娘なら分かってくれるわね。

 

「そうねぇ......じゃ、幻想郷(ここ)に来て思ったことでも話しましょうか」

 

 私がそう言うと、レナはこくりと頷いた。

 

 こうやっていると、なんだかこっちが恥ずかしくなってくるわね。

 私が姉なんだから、しっかりしないと......。

 

「私ね。こっちに来て本当に良かった、って思ってるのよ。人間に忘れ去られないからとか、力が元に戻ったからとか、じゃ無くてね。

 あっちに居た時よりも、貴方達が、みんなが楽しそうに見えるの。嬉しそうに見えるの。

 あっちに居た時は安全では無かったから。いつ襲撃されても、いつ忘れられても、おかしくなかったから......」

「............」

 

 顔が赤くて分かりにくかったが、レナの顔をじっくり見ると、静かに目を閉じて聞いていた。

 

 あらま。疲れきって眠っちゃったかしら?

 まぁ、安静にできてるならそれでいいんだけどね。

 

「ふふっ、可愛い寝顔ね」

「......一応、まだ起きてます......。眠いですけど......」

「あ、ごめんなさい。続きを話すわね」

「あ、その前に......もう一度、さっきの言葉を......」

「え? ......可愛い寝顔ね?」

「......ありがとう、ございます」

 

 無意識なのか、レナの抱きしめている力が少しだけ強くなった気がした。

 

「それくらい、いつも言ってるのに......。で、話の続きね」

「え、ちょ、ちょっと待って。いつも、言ってくれてるの......?」

「驚き過ぎ。っていうか、喋っちゃダメだって言ってるでしょ?」

「あ、ごめんなさい......」

 

 この娘ったら、本当におしゃべりな娘ねぇ。

 それにしても、さっきから口調が昔のに戻ったりしてない?

 熱のせい? それとも驚いてたから?

 

「......まぁ、何だっていいわね。

 ここに来てから、危険なんてものは無くなった。いや、異変の時は危険、なのかしら?

 まぁ、それ以外は特に危険は無いからね。だから、みんな、安心して暮らせている。

 本当に有意義な時間だわ。ここに来てからずっと......」

 

 けど、だからこそ怖いこともある。

 もしかすると、いつか、この平和な時間を潰されるのでは、と。

 表面上は平和でも、水面下で危険が迫っているかもしれない。こんなこと、レナ()の前では言えないけど。

 もし、そんなことが起きれば......私が守らないと。この娘達を、みんなを......。

 

「......何故でしょうか。おねえさまの考えてることが、分かる気がする......」

「え? って、だから喋っちゃダメだって──」

「これだけ。これだけは言わせて......。お姉様は、私が守るから。絶対に......」

 

 そう言うと、本当に無意識かと疑うくらい、私を抱きしめる力が強くなった気がした。

 

「貴女が? 私を守る? ......本当にできるの?」

「できる、できないじゃなくて、絶対に守ります。何があっても」

「......ふっ、ふふっ!」

「え、そ、そんな......笑わなくても......」

 

 ふと顔を見ると、レナは今にも泣きそうな顔になっていた。

 

「あ、違うわよ? 面白おかしいから、とかじゃないのよ?」

「だ、だったら、どうして......」

「成長したなぁ、って思ってね。つい嬉しくて。

 貴女は守られる子供って思ってたけど......気付いた時には、人を守れるくらいに成長してるものなのねぇ」

「わ、私、子供じゃないもん......」

「ふふっ、その言い方が子供じゃないの。全く、変わった妹だこと」

 

 もしかすると、フラン達もこれくらい成長してるのかしらね。

 あの娘も、もう子供じゃないのね......。

 

「......え? 次は、どうして泣いているのです? な、何か悪いことでも......」

「あぁ、違う違う。これも嬉しいからよ。っていうか、少し元気になったわね」

「お、お姉様が笑ったり泣いたりするから......。もう、疲れて眠くなってきちゃいました」

「あら、それは逆に良かった......ふぁ〜。私もなんだか眠くなってきたわ」

 

 もう、一層の事このまま一緒に寝ちゃおうかしら。

 何かあれば、咲夜が起こしてくれるだろうし。帰ってきてからになるけど。

 

「ふぁ〜......お姉様、一緒に寝よっ?」

「......なんだか貴女、フランに似てきたわね。悪魔らしい、誘惑するようなその顔とか」

「え!? べ、別に、誘惑とかそんな気は......」

「知ってるから慌てなくていいわよ。じゃ、一緒に寝ましょうか。あ、抱きしめる力、強かったら言いなさいよ?」

「......大丈夫。お姉様なら、どれだけ強くても......」

 

 レナがそう言うと、私はできる限り弱く、しっかりとレナの体に手を回し、抱きしめた。

 熱で温かい体は、吸血鬼である私には心地よく感じる。

 

 結局、無駄に多く喋らしてる気がするわね。......悪化したら、私のせいよね。

 悪化したらちゃんと謝っとこ。

 

 そう考えると、私はレナが目を閉じていることを確認してから、静かに目を閉じた────




この後、長女は伝染りませんでしたが、メイドに厳しく注意されましたとさ()


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日常編その7、 「もう一人の私の振り回す一日」

久しぶりに九千文字という長さです()
それでも大丈夫な方は、お暇な時にでもどうぞー


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レナータの部屋)

 

 ある冬と勘違いするほど寒い季節の日。

 寒いのが苦手な私は、自分の部屋の毛布から出ずに一日を過ごそうとしていた。

 

 しかし、その浅はかな考えも、朝起きてすぐのノックによって崩されることになる。

 

「フラン? それともルナですか? 今日は寒いから外出たくないのです......」

 

 最初は居留守でもしようかと思ったが、もしもフランだと後々後悔するのが目に見えていた。

 だからこそ返事はしたものの、故意なのか聞こえなかったのか返事が返ってくることはなく扉が開かれた。

 

「勝手に開けて......ということはフラン? ノックした後も返事がなければ──きゃっ!?」

 

 何も喋らず、毛布にくるまっている私の上に乗ってきた。

 

 急に乗られて痛みはあるも、これくらいの悪ふざけならいつも通りなので、逆に可愛らしいとさえ思っている。

 

「もう......フラン? 一体何を......」

「残念でしたー! ミアだよーっ!」

 

 毛布から顔を出すと、自分と鏡写しの顔が目に入った。

 

 フランのように悪戯じみた顔もなく、ただ純粋に面白がっているだけの自分そっくりの顔だ。

 

「......なんだ、ミアですか。何か用ですか?」

「うわー、ひどくなーい? フランじゃないと分かった時の対応がー。

 別にいいけどさぁ。ほんっと、レナってフランのこと好きだよねー。私も好きだけど」

「可愛い妹ですからね」

「ふふっ、そうだね。でさ、私と一緒に出かけない?」

「先ほども言いましたが嫌です」

 

 そう答えると改めて毛布を顔まで被った。

 それほどに今日は外に出たくない気分なのだ。

 

「うーん、それって寒いからだよね? 私が暖めてあげるから行こうよー」

「......どうせ、無理と言っても諦めないのでしょう?」

「もちろん。......言わなくても分かるって凄いよね。

 やっぱり私のことを一番知ってるだけあるなぁ」

 

 ミアはどことなく嬉しそうな顔でそう言った。

 

 ──最初は嫌だったはずなのに......。やっぱり、一緒にいるうちにミアも心変わりしているのかな?

 

「はぁー......今回だけですよ?」

「ふふっ。話が早くて助かるよー。じゃあ、早く用意してね。待ってるからー」

「ここで待つのですね......。別にいいですけど」

 

 寝巻きから厚着に着替え、準備が終わるとミアと一緒に外へと出た。

 

 

 

 外は寒いとはいえ雲は薄いらしく、少しだけ日が差していた。

 私達はいつも通りにフードを被って日から身を守る。

 

「あ、妹様方。......今日も仲がいいですね〜」

「寒いからしているだけですよ」

「でも仲がいいのは合ってるよねー」

 

 確かに暖めてあげるから、とは言われた。だが、何故かミアは魔法で暖めることはせず、腕を組んで寄り添うという古典的な方法で暖めにきていた。私が魔法を使ってもよかったのだが、確かに暖かいし何か意図があるのだろうと使うことは無かった。

 

「......まるで恋人同士みたいですね」

「そう言われるなら、できればお姉様がいいです......」

「左に同じー。でも、レナなら悪い気はしないなぁ」

「あははー。妹様方は、今日も山の方に行くんですか?」

 

 幻想郷で山といえば妖怪の山のことだろう。しかし、ミアがそんな場所まで行ってるとは知らなかった。

 あそこは天狗が縄張りとしている。そして、吸血鬼異変の時に色々とあったらしく、私達にとっては危険らしい。

 

「そこも行くけど他の場所も行くよー」

「へぇー、楽しみですねー」

「......そう言えば、何処へ行くか聞いていなかったのですが......」

「まずは近場の湖に行って、次に山。その後は夜になったら竹林とか回るのー」

「......? そ、そうですか」

 

 湖に山に竹林......。全く以て繋がりが見えない。どうしてそれらを回るのか、そして目的は一体なんなのか。

 聞いてみてもいいが、おそらく答えてはくれないだろう。そもそも、何も目的はなく、ただ単に最近遊んでいないから遊びたいだけなのかもしれない。

 

「じゃあ、行ってくるね、美鈴」

「行ってきます」

「はい、お気を付けてー」

 

 疑問には思うもそれを頭の片隅へ置くと、ミアに連れ添られて紅魔館を後にする。

 

 

 

 ものの数分ですぐ近くの湖、霧の湖に着く。そこは普段通り濃い霧が現れており、薄らと見える水面が凍り始めていた。

 

「チルノー。大ちゃーん」

 

 湖の中心い着いたと同時に、ミアは私から離れて聞いたことのある名前を呼び始めた。

 

 おそらく待ち合わせでもしていたのだろうが、姿が見えずに心配しているミアの顔がちらりと見えた。

 

「チルノー! ......レナも探してよー」

「え? あ、はい。......ミアはチルノ達妖精と知り合いなのです?」

「うん。友達なんだよー。昔、ここら辺で飛び回っている時にチルノが見かけない顔だからって勝負を仕掛けてきてね。まぁ、それはもちろん勝ったんだけど、その後に色々あって仲良くなったの」

「その色々が大切そうなのですが......」

 

 省略された部分は気になるも、長い話になるからと思って言わなかったのだろう。

 ──また今度、二人の時にでも話を聞くとしようかなぁ。

 

「あ、レナ。ルーミアだよ、あれ」

「え? あぁ、本当ですね。それにしても分かりやすいですね......」

 

 ミアの指差す方向には、黒く丸い物体がふらふらと宙を浮いていた。

 

 雲で日が隠れていたり、霧が濃いとはいっても、朝にその黒い球体は霧の中ではよく目立っていた。

 

「ルーミア、おひさー」

「この声は......ミアかー?」

「そうよー」

「そーなのかー」

「知り合いなのですね、ルーミアも」

「友達よー。こっちに来て初めての友達ー」

 

 偶然会ったはずのルーミアも友達だったと知り、驚きと同時に悲しくも思った。

 理由は、フラン達とばかり遊んでいたこともあり、古明地姉妹以外にちゃんとした友達がいない自分のことを思ってのことだった。

 

 ──やはり、友達を作るならミアのように積極的に行かないとなぁ......。

 

「んー......わっ!? ミアが二人!?」

 

 ルーミアは自身の能力を解いて姿を現すと、ミアと私を見比べて驚いていた。

 

「前に言ってたレナだよー。私の双子の妹のー」

「なるほどー。レナもよろしくねー」

「よろしくお願いします。あ、一つ訂正すると、私が姉ですね」

「レナ嘘つかないでよー」

「本当のことですよ?」

「え、えぇっ?」

 

 ルーミアがどちらを信じればいいのかと悩んだ顔になる。

 

 私もミアも、本当はどちらが姉かなんて今はどうでもよくなっていた。それでもからかいがいがある子の前では面白半分でいつもやっているのだ。

 

「全く、レナってばー。あ。でさ、可愛いでしょ、ルーミア(この娘)

「ふふっ。そうですね。容姿がフランに似ているのもあり、小さい時のフランを見ているようです」

「今も充分小さいけどね、私達」

「あ、なるほどー。からかってたのねー」

 

 意外と早く気付くと手をポンと叩き、納得した表情へと変わる。

 

 能天気なのか温厚なのか、からかわれていたと分かっても何とも思っていないようだった。

 ──そもそも、笑って許してくれそうな人にしかこういうことはやらないけど。

 

「ミアは今日何をしに来たのー?」

「チルノ達と遊ぶ約束があったから来たのー」

 

 ようやく目的を知れたが、やはり遊びたいだけのようだ。もしかしすると、本当はお姉様でも誘っていたが無理だったため、代わりに私を誘うことにしたのかもしれない。

 

「でね、ルーミアはチルノがどこにいるか知らない?」

「それならさっきぶつかったよー。案内するー?」

「うん、お願ーい」

「ぶつかったことに対しては何も言わないのですね......」

 

 ルーミアに案内してもらい、しばらく霧の中を進むうちに段々と冷えてきた。

 そしてさらに、まだ少し早い湖が凍っている部分も見えてくる。

 

「あ、声が聞こえてきたね。もうすぐかな?」

「やっぱり吸血鬼は耳がいいんだね。私はまだ何も聞こえないよー」

「私もまだ......あ、聞こえてきましたね」

 

 霧の奥から騒ぐ声とそれを制する声が聞こえてくる。

 おそらくはチルノと大妖精なのだろう。

 

 しかし、チルノ達と遊ぶとは言ったものの、これから竹林や山も行くというのに何をするつもりなのだろうか。

 

「居たよー」

「あー、見えた見えた。チルノー! 大ちゃーん!」

「あっ、ミアさん!」

「遅い! ミア遅すぎたぞ!」

 

 ルーミアに案内された場所には、暇だったのか湖を凍らせて遊んでいたらしいチルノと大妖精が氷の上に立っていた。大妖精のホッとした様子から、チルノに苦労させられていたのだろうと察せられる。

 

「なっ、だ、大ちゃん! ミアが二人いる!」

「チルノちゃん。多分、双子のレナさんだと思うよ。ほら、前に言ってた......」

「なんだレナかー。よろしくな!」

「ち、チルノちゃん......!」

「よ、よろしくです。......元気ですね、この娘」

 

 元気というよりも、吸血鬼である私相手にタメ口......なんてお姉様のようにはならないが、怖いもの知らずなのだろうか。実際、横にいる大妖精はチルノの言動を聞いて慌てているようなのに当の本人は気付いていないようだ。

 

「元気は大切だよ。大丈夫よ、大ちゃん。レナはお姉ちゃんと違って吸血鬼だからー、とかは無いからね」

「お姉様は冗談半分であって、本当に種族で差別なんてしてないですけどね」

「あ、ごめん。お姉ちゃんだからー、はあったわぁ」

「ミアだってそうでしょう?」

「そうだけど......。普通そこは否定......しないかぁ。レナだもんね」

 

 何故かとても失礼なことを言われている気がする。

 しかし、不思議と嫌な気分はしない。

 

「それで? 何して遊ぶつもりなのです? ミア」

「え? そんなの決まってるじゃん」

「レナ! あたいと弾幕ごっこで勝負だ!」

 

 一瞬、ほんの一瞬だが、全ての時間が停止したように見えた。

 ──どうして、初対面ということは置いといても、私となのか......。

 

「......ミア、手短に説明を」

「チルノにね、レナに勝ったらレナを舎弟にしてもいいって言ったんだー」

「舎弟って......。いえ、もうそれはいいです......」

「それよりも、どうして許可なんてしたか、でしょ? それはもちろん私の妹だから、かな?」

「フランやルナがいるでしょう? いえ、力加減しないでしょうから危険ですか......」

 

 要するに、チルノと遊びやすいから私が呼ばれたのだろう。

 ──......なんだかなぁ。

 

「うちの妹、特にルナはねぇ。フランはまだ上手な方だけどさぁ」

「あの娘も上手になってきてますよ。今では能力を自在に操るくらいはできてますから」

「おーい、 カードは何枚にするー?」

「あぁ、すいません。できれば三枚でお願いします」

 

 三枚というのも、力加減しやすいのがその三枚なのだ。とは言え、相手が本気で来るのに手加減するのも失礼なので、最後の一枚だけはチルノの強さを見て本気でやるかどうか決めるのだが。

 

「大ちゃん見ててー! あたい、勝つぞー!」

「が、頑張ってね!」

「とりあえず......ミア。帰ったら勝手に言ったことについて話しましょうね」

「だが断るー」

 

 こうして私達は少し距離を置き、弾幕ごっこを始めた。

 

 

 

 弾幕ごっこが終わってしばらく遊んだ後、チルノ達と別れて現在は妖怪の山へと向かっていた。

 

「はぁー、ちょっとくらいピンチになりなよー」

 

 結局、弾幕ごっこは私の勝ちで終わった。チルノは妖精にしてはかなり強い部類には入るが、それでも(吸血鬼)に勝つには千年早かった。ピンチらしいピンチは無く、圧倒的な力によって勝った。

 しかし──

 

「チルノの諦めの悪さは私よりも上でしたね。気迫に負けそうでしたよ。......あのまま諦めずに頑張って修行でもすれば......いつか吸血鬼と並ぶほど強くなりそうですね」

「ふふん。でしょ? 私も見どころあるなー、って思ってるのよー」

「......私が言ったことは一概に良いこととは言えませんけどね」

 

 あのまま強くなるということは妖精という枠から抜け出すことに等しい。映姫様が同じようなことを言っていたが、私にはあのまま強くなって良いことになるのか悪いことになるのか、それは分からない。おそらくは『一回休み』をすることもできなくなるだろうが......それくらい強くなれば死ぬことが無いかもしれない。

 

 しかし、万が一、億が一ということも......。

 

「レナ、顔怖いよ?」

「色々と考えていただけですよ。さて、山が見えてきましたが?」

 

 話をしているうちに気付いたが、もう山の近くまで来ていた。

 やはり幻想入りした本当の八ヶ岳なのだろうか、富士山よりも高い気がする。気がするだけかもしれないが。

 

「射命丸と会う約束してるから、降りて探そっか。文々。新聞屋さん」

「思ったのですが、普通にワープゲート作って行ったほうが良くないですか?」

「歩いて行ったほうが色々な出会いがあるのよ?」

「飛んでましたけどね、今までずっと」

 

 話をしながら妖怪の山の麓へと降り立つ。

 

 それからは、木々をかいくぐりながら、山の頂上へと向かっていた。

 

「あの、ミア? 本当に何処か知らないのですか? む、虫がいそうで......」

「虫とか聞くだけでも嫌なんだけどー......」

 

 話している通り、私達は虫が苦手だ。お姉様達も苦手だが、私達ほどではなく一緒にいると心強い。

 

「......なんかさー。話していると出てきそうだよね? 出てきたら私、自分を抑えることが......」

「やめてください。後で天狗達に怒られるようなことは本当に」

「だ、だって虫だよ!? ......あ、あぁ! あっ!」

 

 突然、ミアが指を指して声にならない声をあげた。

 

 話をすれば何とやら、と言うこともある。

 ──ということは......。

 

 そう思い、恐る恐るミアの見ている方向を見た。

 

「......。ミア。あれはリグルです。リグル・ナイトバグ。妖怪です」

「で、でも、むむむ、蟲......」

「妖怪です。蟲の妖怪とかではなく、ただの妖怪です」

 

 目が危ういミアに対して、そして自分にも対して必死に言い聞かせる。

 しかし、ミアは全く話を聞いていないようだった。

 

 私はと言えば、今では全く問題ない。初めて会ったときはダメだったが、今は頭の触角を見なければ大丈夫なのだ。

 しかし、おそらくミアは虫という言葉を連想させるだけでダメなのだろう。

 

「リグルー! 超逃げてくださーい!」

「わっ!? な、何!? あ、貴方は......えーっと......?」

「レナです。えー......昔会いましたよね。ほら、レミリアとか咲夜という言葉に聞き覚え──」

「あー! あの時の失礼な! ......が二人? あ、双子?」

 

 多少驚いたものの、自分の中で納得できる答えを導き出したようだ。

 

 ──はぁー、初対面の人には毎回同じ反応をされるのかなぁ。

 

「っていうか、そっちの人、大丈夫?」

「れ、レナ! 虫が喋ってる!」

「あ、また失礼なタイプー。レナ......だっけ? 虫は怖くない、とか教えてなさいよ!」

「いえ、悪くないとは言いますが怖くないとは言えません。絶対に」

「あう、相変わらずだった......」

「それは貴女も......って、ミア?」

 

 ゆっくりと横で高まる妖力と魔力に、疑問と同時に危険を感じた。

 ──あぁ、嫌な予感しかしない。

 

「り、リグル!逃げてー!」

「えぇ? あ、なるほど。わ、分かった。......でも、釈然としないから、今度話を聞きに家にお邪魔するねー!」

「おもてなしはしますが、できればミアがいない時にお願いしますね!」

「ぁ、ぁぁ......はっ! ......もう、行った?」

 

 分かっているから聞いているはずなのに、ミアが恐る恐る聞いてきた。

 

 ただ苦手なだけならいいのに、この娘は苦手にも程がある。が、私も昔は似たようなものなので多くは言えない。

 

「もう行きましたよ。安心してください」

「う、うん......。怖かったぁ......」

「見た目はただの少女なのですけど、あの人......」

「で、でもぉ......」

「侵入者ですか?」

 

 騒ぎのうちに近付いていたのか、上空から声が聞こえた。

 

「ふぁっ!? な、なんだ、椛かぁ......」

 

 見上げると、そこには白い犬耳と尻尾を持ち、剣と盾を構えた天狗、椛がいた。

 ミアの高まった妖力か魔力に気付いて来たのか、千里眼で見つけて来たのかは分からないが、武器を構えているということは敵だと思って来たのだろう。

 

「......ミアさん? ふぅー。ビックリしましたよ。大妖怪並の妖力を感じて、千里眼で探って来てみたから、吸血鬼がまた襲撃しに来たのかと......」

「ご丁寧に説明ありがとうございます。理由はミアの勘違いによるものなので、気にしないでくださいね」

「はい。......吸血鬼!? あ、じゃなくて、貴女がレナさん? 文さんが噂していましたよ!」

 

 武器を出したり納めたりと、緊張してるのか忙しない。

 しかし、前世とは言え知っている人が来てくれたのは良かった。もしも知らない人なら、運が悪ければ戦闘になっていたかもしれないからだ。

 

「へぇー、文さんに......嫌な予感しかしないのですが?」

「気のせいですよ。文さんはちょっと変わり者......あ、皆さん! 文さんの友人なので大丈夫です!」

「へっ? ──わぁ!?」

 

 椛の一声とともに、周りの木々の動く音が一斉に聞こえた。

 

 どうやら気付かなかっただけで、本当は椛以外も来ていたようだ。

 

 ──私が気付かないなんて......やっぱり、天狗は相手にしたくない種族だなぁ。

 

「......いつの間にです?」

「私が話しかける数秒前に集まって、それから私が率先して行きました。危険そうな時は、私が一番に行くと決めているのです」

「凄いですね......」

「そ、そうですか? えへへ......。あっ。文さんのところに案内しますよ! 多分、仕事場にいるので!」

「ありがとねー」

 

 椛に案内され、山を登っていく。しかし、懲りていないのか頑固なミアは空を飛ばないので、必然的に歩いて向かうことになっていた。

 

「着きましたよ。ここが文さんの仕事場です」

 

 そこは人里でも稀に見る高価そうな平屋だが、名刺の代わりに看板に大きく『文々。新聞』と書いてあった。それがあって初めてここが文の職場だと実感できる。

 

「文さーん。ミアさんとレナさんがいらっしゃいましたよー」

「あやや? 椛じゃない。あ、これはこれは。ようこそ文々。新聞へ。既にご存知かもしれませんが、私が責任者の射命丸文です」

「レナです。よろしくお願いします」

「ささっ、立ち話もなんですし、中にどうぞー」

 

 ご丁寧に礼や握手まですると、中へと誘われた。

 

 中は新聞を刷る機械らしき物や、沢山の記事が置かれた机。そして、壁にかけられた幻想郷の地図と主な場所など書かれた物があった。

 こうして見ると、なかなか努力しているのが伺える。

 

「ミアさんにみたいに驚かれていますねぇ。私が仕事を始めてから集めた情報です。かなり時間もかかりましたが、やりがいのある仕事ですよ」

「へぇー......って、ミアは来たことがあるのですか?」

「うん。紅魔館の内部事情とか、色々聞かれてね」

「いやぁー、あれは参考になりましたよー」

「......貴女、吸血鬼としての威厳ないですよね」

 

 とは言え私も無いのだが。それでもお姉様に内緒で紅魔館の内部事情を話すのはどうかと思っている。

 

「あ、お姉ちゃんには許可貰えたよ。お姉ちゃんったら、天狗に私のカリスマ性を......とか何とか言って可愛かったのー」

「お姉様ェ......。というか、そう話しているということは......いえ、お姉様の威厳のためにもここまでにしましょうか。話は。

 それで、私に聞きたいこととは? 話せる範囲なら答えますよ」

「おぉ、その気前の良さ! 流石吸血鬼ですねぇ。実は、『紅霧異変』に加えて『春雪異変』と『永夜異変』に関わっているというお話を耳に入れましてねぇ」

 

 その話を聞きながら、ちらりとミアを見る。すると、口笛を鳴らしながらミアが顔を逸らしたのが見えた。

 

 ──......あからさますぎてなんと言えばいいのかなぁ。

 

「要するに、霊夢や魔理沙には話してもらえないから、私に話を聞きたいと?」

「えぇ! もちろん、それなりの見返りは用意しますよ?」

「......ミアから聞いたお姉様のことを全て話してくれるなら」

「え? そ、それはミアさんから許可を......」

「いいよー。全部話しても。変なことは言ってないしねー」

 

 珍しく怪しい笑みを浮かべたその顔は、フランの悪戯じみた顔にも見えた。

 改めて思ったが、フランと私はよく似ている。

 

「言ってくれるなら、話しますね。まずは、お姉様の異変から......」

「えぇ、お願いしますね」

 

 少しミアに嵌められた気分になるも、丁寧に、一つずつ思い出しながら文に話をした。

 

 

 

 話を終えて山を降ると、そのまま竹林へと向かっていた。

 理由はもう夜も遅くなり、丁度いい時間になっていたからだ。

 

「はぁー......今日はミアに嵌められて散々でしたよ......」

「別に悪いことはしてないでしょー。それに......楽しかったでしょ? 少なくとも私は楽しかったよ。レナと一緒に出かけれてね」

「......楽しかったことを否定はしません。たまにはいいですね。外に出るのも」

「なんか言ってることが引きこもりみたいよー? ......今日は付き合ってくれたお礼に、最後はご馳走するよ。もう着いたみたいだしね」

 

 竹林の入り口には、『焼き鳥撲滅』と大袈裟に書かれた旗を掲げ、のれんに『八目鰻』と書かれた屋台があった。

 流石にここまで大袈裟だと気付く。十中八九ミスティアの屋台だ。

 

「てんちょー。私が来たよー」

「いらっしゃいませー。予約してたミアさんとレナさんですねー」

「ここ、予約もできるのですね......」

「予約と言ってもどこで店を開くか程度ですし、常連さんなんで予約も許可しただけですけどね」

 

 素で人脈が広いミアに対して驚いた。

 まさか、ここまで広いとは思っていなかったし、親しい友達が多いのも意外だった。

 

 ──見た目が人間のようだから親しくできるのかな? いや、それでも私が来たら驚いて......。

 

 色々と考えてみるも、やはり性格の問題という答えにたどり着く。

 館から出てもフランやルナとしか遊ばない私に比べて、ミアは凄いなぁ、と改めて尊敬できた。

 

「では、ご注文は何に致します?」

「もちろん、八目鰻定食を二人前ね。あと......レナ、日本酒飲む?」

「帰るとき、二人とも酔っ払ってしまえば大変なことになりますよね......」

「うん。だからレナだけ飲まないかなぁ、ってね」

「えぇ......」

 

 凄いとは言ったが、前言撤回しよう。やはり、性格は変わっていない。

 しかし、尊敬できることには尊敬できる......と思う。

 

「ふふっ。冗談よ、冗談。てんちょー。コーラを二つー」

「いやそこは水でしょう。というか、あるのですか?」

「こ、コーラ......?」

「やっぱり無いじゃないですか......。ミア、困らせちゃダメですよ」

「ふふん。ごめんね、てんちょー。じゃぁ、水貰いまーす」

 

 静かな竹林。その近くにある屋台で私達は夕飯を食べながら一日を過ごした────




次回はおそらくTwitterの方で募集します()


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番外編
番外編「七夕の夜」


今回から、番外編を一つに纏めることにしました。
以前からある番外編はそのままにしますけど()

記念日なので、普段通りのほのぼのです。
時間がある時にでもゆっくりお楽しみくださいませ。


 side Renata Scarlet

 

 ──七夕の夜 紅魔館(パーティーホール)

 

「この部屋を使うのは久しぶりねぇ」

「誕生日は大食堂を使っていますしね。

 まぁ、七夕用の竹が入らないからここにしただけで、本来なら大食堂を使っていたでしょうね」

 

 今日は七月七日。七夕の日だ。

 昨日、知らなかったらしいお姉様にそのことを伝えると、暇つぶしにと、パーティーホールを使用した大掛かりな催し物を始めた。

 催し物とは言っても、集まっているのは紅魔館の住人だけだが。

 

「お姉ちゃん達、短冊書かないのー?」

「書いたわよ。もう竹に付けてあるから、見たかったら見てもいいからね」

「はーい。ねぇねぇ、レナはー?」

 

 好奇心旺盛な声で、無邪気な子供みたいな顔をしたミアがそう聞いてきた。

 ──毎回思うけど、本当に子供の時みたいな反応をする時があるよね、ミアって。可愛いからいいけど。

 

「私も書きましたよ。ですが、私のは見ないで下さいね。恥ずかしいですし」

「えー、いいじゃなーい。レナが書いたことは、ミア()が書いたも同然だしー」

「なら何を書いたか分かりますよね?」

「むぅー......まぁいっか。その代わり、私と久しぶりに遊びましょー」

「久しぶり、って言うほど経ってないと思うのですが......」

 

 確か、前に遊んだのは二週間ほど前だったし......。

 吸血鬼である私達にとって、二週間なんてあっという間だし......。

 

「まぁ、いいんじゃないの? 私と遊ぶよりも、自分(ミア)と遊んだ方が楽しいと思うわよ?」

「何言ってるの? お姉ちゃんも遊ぶんだよ?」

「え? あ、そうなの。でも、夕食までもう時間が......」

「あー......できれば、体を動かすことがしたかったけど、トランプゲームでもいっか。

 レナ、トランプ出してー」

「まぁ、それくらいはって、自分で出せばいいじゃないですか。......ほら、トランプですよ」

 

 具現化魔法でトランプを作り出し、私はミアに手渡した。

 ちなみに、この魔法、作った物は一時間ほどで消えるから、こういう時にしか使えないのだ。

 

「ありがと。そう言えば、フランとルナは?」

「さぁ? 何処に行ったのかしらね」

「あぁ、あの二人ならまだ短冊を書いていますよ。願い事は一つだけにしなさい、と言ったら、かなり悩みながら考えていました」

「あら、願い事って一つだけなの?」

「そんなことはないんじゃない? 自分で努力して叶えれるんだったら、何個でもいいと思うけど」

 

 あれ? そうなの?

 前世の記憶の中に、願い事は一つしか書いてない記憶があるから、てっきり......。

 そうなれば、フラン達に言いに行かないと。間違いだったと知れば、怒るかな?

 いや、流石に怒りはしないか。

 

「すいません。フラン達に訂正してくるので、先に始めていて下さい」

「先にって言われても......って、あら? もう行っちゃったの?」

「お姉ちゃん。待ってよっか」

「えぇ、そうね」

 

 

 

「フラン、ルナ。すいません」

「オネー様? どうしたの?」

「え? お姉様? 急にどうしたの?」

「いえ、願い事は、別に一つじゃ無くてもよかったらしいので......」

「あれ、そうなの? なら──」

「──いっぱい書いちゃおー」

 

 私の妹達は、息の合った会話をしながら、次々に短冊へと願い事を書いていった。

 

「あ、それと......お姉様達とトランプゲームをするのですが、しませんか?

 夕食までなので、短い間ですけど」

「もちろんするー! もちろん、ルナもするよね?」

「するー」

「......本当に仲良しですよね、貴方達って。嬉しいです」

 

 まぁ、この娘達やお姉様は、たまに言い争いをしているのを見かけることもあるけど、それでも姉妹。仲が良いのは変わらないから嬉しいや。

 あれかな? 喧嘩するほど仲が良い、っていうやつなのかな。

 

「ま、姉妹っていうか、双子みたいなもんだしね」

「うん。フランの気持ち、言わなくても大体分かることあるし」

「感覚共有? まだ残っていることってあるのですね。いや、私とミア、フランとルナでは少し......」

「え? どうしたの?」

「いえ、何もありませんよ。ささっ、願い事を書いて早く遊びましょう?」

「急かさない、急かさない」

「すぐに終わるから、ちょっと待ってて」

 

 私は「分かりました。先に行ってますね」とだけ答え、お姉様とミアが居る方へと戻っていった。

 

「あら、あの娘達はやらないの?」

「いえ、もうすぐしたら書き終わるらしいので、先に戻ってきました」

「そう。じゃぁ、早速──」

「お嬢様。お楽しみの最中に申し訳ございませんが、お食事の準備ができました」

「......まだ楽しいんでないわよ。はぁー、仕方ないわね。先に食べましょうか」

「むぅ......すいません、お姉様。私がもっと早くしていれば......」

「貴女のせいじゃないわよ。それに、もっと早くしていれば、している最中に来ていたと思うわよ?」

 

 あ、そっか。確かに、している最中に来て中断するよりは、する前に来た方がいいね。

 

「じゃぁ、行きましょうか」

「......え? 何処にです? ここで食べるのではないのです?」

「テラスに行くのよ。今日は晴れてるから、天の川を見ながら食べたいじゃない?」

「あぁ、なるほど。そういうことですか」

「七夕とかじゃないと、なかなか天の川なんて意識して見ないからね。新鮮な感じがするよね」

 

 そう言えば、本当は天の川って一年中見れるんだっけ?

 結構長い間生きてる気がするけど、あんまり見たことないから本当にそうなのか知らないけど。

 

「レナ。悪いけど、もう一度フラン達を呼んできてくれない? 私達は先に行ってるから」

「あ、私が呼ぶよー。だから、レナはお姉ちゃんと先に行って、ね?」

「なら、先に行ってるからね。レナ、行きましょう」

「え、あ、はい。分かりました」

 

 なんかミア、面白そうに笑みを浮かべてたけど、何か企んでいるのかな?

 なんか怖いなぁ。

 

 そう思いながらも私はお姉様と共に、テラスへと目指した──

 

 

 

 ──七夕の夜 紅魔館(テラス)

 

「......遅いですね」

「そうねぇ。天の川はこんなに綺麗に見えるのに。......道にでも迷っているのかしら?」

 

 テラスに着いて十分くらい経った。それなのに、未だにミア達が来ない。

 短冊を書いてるにしろ、五分もあれば余裕で追いつくはずなのに......。

 

「自分の家で迷うことなんてあります?」

「......レナ、頭にブーメラン刺さってるわよ」

「え? ......何も刺さってないですけど......」

「いや、そういう意味じゃ......まぁ、いいわ」

 

 一体どういうこと? 月は紅くないのに、変なお姉様。

 まぁ、紅くなくても変な時あるけど。

 

「それにしても、綺麗ねぇ。そう言えばどの星だっけ? 織姫と彦星の星ってのは」

「えーっと......あの上の方でかなり光っているのが織姫星ですね。

 彦星が天の川を挟んで下の方にある星、ですかね?」

「聞かれても分からないわよ。それに、星が沢山あり過ぎて分かりづらいわ」

「うぅ、ですよね......」

 

 やっぱり、都会と違ってここは暗いから星が沢山見えるから、分かりづらいのも無理はないかぁ。

 はぁー、もっとしっかり調べてればよかった......。

 

「あ、べ、別に貴女のせいじゃないわよ! だ、だからね、安心して?」

「そ、そんな必死に言わなくても大丈夫ですよ。そんな顔に見えます?」

「え、えぇ。かなり悲しそうな顔を......」

 

 ただ単に、落ち込んでただけなんだけどなぁ......。

 そんな顔になってたんだなぁ。心配かけないように、これからは気を付けないと。

 

「まぁ、大丈夫ですから安心して下さい。それにしても、星の数凄いですよね」

「外の世界にいた頃とあまり変わらないと思うわよ?」

「......いえ、かなり違いますよ。えぇ、とても......」

 

 前世のことはあまり憶えていないけど、空に星が見えなかったのは憶えている。

 こうやって綺麗な空、綺麗な星を見るのも新鮮だなぁ。

 やっぱり、幻想郷(ここ)に、この世界に来れてよかったなぁ。

 

「? まぁ、貴女がそう言うのならそうなんでしょうね。

 ......咲夜も遅いわね。いつまで待たせるのかしら?」

「そう言えば、夕食を持ってくるはずなのに、遅いですよね。いつもなら一分で来るのに」

「おっと、すいません。少し道に迷っていまして」

「きゃっ!?」

「わっ!? ちょ、ちょっとぉ......」

 

 話をしていると、料理を手に持った咲夜が、突然目の前に現れていた。

 ──いつものことなのに、未だにこれは慣れないや......。

 

「おや、驚かせてしまいましたね」

「あ、お姉ちゃん! お待たせー。あっれー、咲夜も今来たところ? 良かったー、タイミング良かったのねー」

「......本当にタイミング良すぎない? ねぇ、本当にタイミングが良かっただけなのかしら?」

 

 なんだろう。ミアの顔、明らかに嘘をついてる顔のような......。

 

「あははー、やだなぁー。本当だよ。ね? フラン、ルナ」

「え、う、うん。本当だよ」

「ちぇっ、美味しい展開に期待してたのに......。やっぱり、二人だけの時に......」

「フラン。心の声漏れてるわよ?」

「え? ......あっ! な、何でもないからねー」

「大体分かったわ。......貴方達ねぇ......!」

「キャー、お姉ちゃんが怒ったー」

「ちょっ、待ちなさい!」

 

 ......賑やかだなぁ。夜空を見ながら食べる、って話は何処に行ったんだろうか。

 でも、こういう時があってもいっか。楽しいし。

 

 織姫と彦星が出会える一年の中で唯一の日。

 今日も、私達は賑やかに過ごすのであった────




次の記念日はいつぞやら。本当にいつなんだろう()

後、投稿時点でお気に入り者数が500を超えたので、日常編を来週か再来週辺りに投稿します。


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番外編「夏だ! 海はないからプールだ!」

番外編です。やっぱり雑談中心の模様。
ちなみに、番外編は平行世界とかそんな感じなので、本編には影響はありません。

次からはレナ以外の番外編でもしようかと悩み中()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(パーティーホール)

 

「夏ねぇ......」

「だな。でもなぁ、室内で泳ぐのもどうかと思うぜ? いや、周りを見てもそう思えないんだが」

 

 とある夏の日。最近は、昼は外に歩く気さえ起きないほどの暑さだが、夜になるにつれてどんどん冷え込んでくる。

 

 そんな夏の、太陽が出るいつも通りの日。お姉様はいつも通りの気まぐれにより、知り合いの人間、妖怪達をパチュリーがパーティーホール内に作った擬似的な海、もといプールで泳ごうと誘ってきた。

「そうかしら? 魔理沙(貴女)は平気で泳ぐと思っていたわ」

「まぁな。室内でも関係ない。しばらく休んだらまた泳ぐぜ」

「それならよかった。せっかく呼んだもの。泳いでもらわないと勿体ないわ」

「あ。いたいた。お姉様ー。お待たせしましたー」

 

 私が水着選びに手間取っている最中、お姉様は魔理沙と会話していたようだった。

 

 お姉様は私が来たと同時に私の方を振り返り、待ち望んでいたと言わんばかりの笑顔を見せる。それを見れた私はほんの少し、いや、とても嬉しい気持ちになった。

 

「遅かったじゃない。何かあったの?」

「水着を選ぶのに手間取っていまして......最終的にフランに選んでもらった中で、納得したのを着てきました。タンキニも可愛いと思うのですけどね......」

 

 フランにはスク水を選ぶと子供っぽいと怒られ、タンキニを選ぶともっと大胆にしよ、と却下される。

 最終的にお姉様と同じようなフリル付きのビキニにはなったものの、何度か小さなマイクロビキニなどを着させられそうになっていた。

 

 ──ほんと、フランっていっつも変な服ばっかり着させてくるんだから......。それでも私のためだろうし、悪くは言えないけど。

 

「私もそう思うわ。で、その問題のフランは? 一緒じゃないの?」

「次はミアの服を選んでましたよ。その次はルナの服も決めるとか」

「ふーん。あの娘ってそういうの好きなのねぇ。次があれば私のも選んでもらおうかしら」

 

 お姉様は目線を僅かに逸らし、何か考え事をしている風にそう話す。

 一体何を考えているかは定かではないが、おそらくフランに選んでもらった時のことでも考えているのだろう。

 

「フラン達を待ってから泳ぐ? それとも......」

「先に泳いでましょうよ。フラン達には悪いですが、待つよりもお姉様と遊ぶ方が楽しいですから」

「そうかしら? いえ、待つよりは遊ぶ方が楽しいのも分かるわね......」

「でしょう? ささっ、早く泳ぎましょうっ!」

 

 悩んで優柔不断になっている姉の手を導くように引っ張り、プールへと向かう。

 

「あ、そんなに慌てなくたって......! はぁー......ふふっ。まぁ、いいわ」

 

 背後で呆れた声と同時に嬉しそうな声がしたが、気にせずみんなが泳ぐプールまで引っ張ってきた。

 

「あ、お姉様。飛び込みます?」

「泳いでいる人の迷惑になるからダメ。それに、下手に飛び込んで、お返しに流水でも貰うと泳げなくなっちゃうわよ。せっかくのプー、いえ。海だもの。楽しみましょう?」

「......それもそうですね。では、普通に泳ぎましょうか。あ、でも私泳ぐのが苦手なので、できれば泳ぎ方を教えて欲しいです」

「......えっ? あ、貴女、泳げないの!?」

「うふふっ。冗談ですよ。二十五メートルくらいは泳げますからご安心を」

 

 久しぶりにお姉様の驚愕した顔を見れた私は満足する。

 

 それがバレたのか、「もぅ......」とお姉様は呆れていた。

 

「早く泳ぎたいのなら、そんな嘘は付かないの。それにしても、二十五って微妙ね」

「そうです? 結構普通だと思いますよ。そんなことよりもお姉様。まずは準備運動をして──」

「え? 体操が先なの? もう入っちゃったけど......」

 

 目を離したほんの僅かな隙にプールの中へと入っていた。

 お姉様は申し訳なさそうな顔で、こちらを見つめてくる。

 

「あ、いえ。大丈夫ですよ。足がつっても、私の魔法で治しますので!」

「あら。頼もしい妹だこと。でも、せっかくだからするわね」

 

 そう言うと、プールから上がり、一から準備運動を始めた。

 

「ではこれくらいでいいですね。......よっ、と。あぁ、やっぱり冷たいですね」

 

 準備運動が終わるとともに、無言でプールの底へと足を付ける。

 

「温かいとお風呂になっちゃうから、パチェに頼んで冷たくしてもらったのよ」

「流石パチュリー。何でもできますね」

「それ、貴女が言うの?」

 

 褒め言葉というよりは、若干皮肉が混じった言い方にも聞こえる。お姉様の顔には優しそうな笑みを浮かべているのだから、別に皮肉などは混ざってはいないのだろうけど。

 少しお姉様のことに対して、気を張りすぎているかもしれない。

 

 ──いや。それよりかは、嫌われたくない、好かれたいという気持ちが大きくなり過ぎているのかな。......うん。嫌われるのは想像したくないなぁ。

 

「レナ? ぼーっとしてないで、一緒に泳がない? みんなの邪魔にならない程度に、一緒に泳ぎ回りましょう」

「え。あ、そうですね。......お姉様。やはり泳げるかどうか心配なので、手を繋いでもらえます?」

「心配しなくても、背の低い私達の足がギリギリでも付くのよ? でも......ふふっ。可愛い娘。いいわよ。手を繋いであげる。有り難く思いなさいよ?」

 

 珍しく高慢な態度を取る。こういう時のお姉様は、何かいいことがある時だけで、機嫌もすこぶる良い。何故そうなったか理由は分からないが、何かしら嬉しいことがあったのは確かだ。

 

 ──やっぱり、擬似だけど太陽の下で擬似の海を泳げるから機嫌が良くなっているのかな。

 

「はいっ! ......お姉様の手はいつも温かいですね」

「レナもね。さぁ、エスコートしてあげるわ。ゆっくりでいいから、頑張って泳ぎなさい」

 

「分かりましたー」

 

 こうして、他のみんなと同じように広いプールの中で泳ぎ、楽しむ。

 

「......いいわね。こういうのも。特に、日光に当たっても平気なのが一番嬉しいわ」

「偽物の太陽ですからね」

「そうね。でも、いつかは本物の太陽の下で走り回りたいわ......」

 

 どこか遠くを見つめてお姉様は小さな声でそう呟く。どこか寂しげな、悲しげな顔をして。

 

 ──私も人間だった頃は太陽なんて平気だった......というよりは、そんなこと気にしていなかったのになぁ。今となっては凄く恋しく思う。

 

「ですね。......お姉様。私、いつかお姉様に太陽の光を見せれるように頑張ります」

「えぇ? ねぇ、レナ。太陽は吸血鬼の弱点なのよ? そんなの、魔法でもなんとかできるわけがないわ。だから、無理して実行に移そうとしないでよ?」

 

 お姉様の返事から、心配と驚愕の気持ちが伝わってくる。だが、その言い方は私にとっては逆効果だった。

 

 ──できないわけがない。私の魔法で。この幻想郷で。

 

「大丈夫です。絶対に大丈夫です。だから心配しなくても大丈夫ですよ」

「大丈夫ばっかり言われても安心できないから。貴女、絶対に実験と称して自傷行為に走るじゃないの」

「え? いえ、流石に自傷なんてしませんよ? 痛いのは嫌いですし」

「それならどうやって日光を浴びても大丈夫だと確認するわけ?」

 

 その言葉に私は「あっ」と言葉に詰まる。確かに不完全な魔法をお姉様にかけるわけにはいかない。しかし、本当に安全かどうかは、試してみないと分からない。それならば、私は絶対に自分にかけてから試すだろう。

 

「分かった? なら今はそんなこと気にせずに泳ぎましょう。ほら、こっちに来なさい。今日はちゃんと泳げるようになるまで泳ぐわよ?」

「え、で、でも、泳げるか心配なだけで、別に泳げないとは......」

「何言ってるの。油断すると大変な目にあうわよ?」

「お姉様ー、レミリアお姉様ー。あれ? 魔理沙もまだ泳いでないんだね」

「ん。フランか。そろそろ泳ぐところだぜ」

 

 魔理沙が居る場所からフランの声が響く。そして、そちらを見ると魔理沙と会話するフランとルナ達が居た。フランもルナも、私のと色違いの水着を着ていた。

 

 ──やっぱり、結局はそれにするのね......。

 

「ちょうどいいところに来たわね。どうせならみんなで一緒に練習しましょうか」

「......そうですね。そうしましょうか」

 

 私達はフラン達を誘うために、魔理沙が居る場所へと近づいて行った────



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番外編「末妹の吸血衝動」

幻想郷へ行く前のお話。番外編。ただ、次女と末妹が戯れるだけの模様。

無性に書きたくなったから書いた。反省はしても後悔はしない()
本編以上のR15要素(微エロ+微グロ?)があるので読むさいにはご注意ください。


 side Renata Scarlet

 

 ──フランの部屋

 

 その日、フランの部屋に一人で来た。

 理由はなく、いつも通りの日常と化していただけの行動だった。

 

「おはよ。今日も来てくれたの? うふふ、ありがとね」

 

 最近、お姉様に会いに行くよりも、フランと遊ぶことが多くなっている。

 それは姉よりも妹が好きだから、という訳ではない。ただ単に、(フラン)を一人にするのが怖く、安心できないのだ。私はこの娘が一人で強がっていても、本心では寂しがっていることを知っている。一人でいるのが怖いことも知っている。一人で孤独に苛まれ、狂気に身をゆだねかねない心の弱さも知っている。

 だからこそ、フランの姉として、フランを一人にはさせたくない。

 

「おはようございます、フラン。毎日来るのは当たり前のことですよ。私は貴女のお姉ちゃんですから」

 

 人間にしては遅く、吸血鬼にしては少し早めの挨拶を交わす。

 フランの部屋にはいつも来る時間はバラバラだ。寝る直前の日が差し始める頃もあれば、起きてすぐの日が落ちる頃にも来る。

 今日は、後者の方だった。

 

「レミリアお姉様でも毎日は来ないんだよ? お姉様も自分のこと優先していいからね?」

「お姉様は忙しいですから毎日来れないだけで、本当は毎日来たいと思っているのですよ? ですから、いつも暇を持て余している私が代わりに来るのです」

「別に代わりにお姉様が来る必要はないと思うけどなぁ。食事の時に会うし。ま、来てくれるのは素直に嬉しいけどねー。お姉様。そんなところで立ってないで、早く座ってよ。また面白そうな本を持ってきてくれたんでしょ?」

 

 私が持っていた本が目に入ったのか、フランに好奇心に満ち溢れた顔で期待の眼差しを向けられる。

 そして、フランが座っているベッドの横に手招きされた。

 

 昔は魔導書など難しい本ばかりを持ってきていたが、流石につまらなかったのか読んでいる途中で寝ることが多くなっていた。だから代わりにと、最近は漫画など年相応の物を持ってきている。フランもそれは面白いから好きみたいで、途中で寝てしまうことはなくなった。

 そもそも、フランは子供だから魔導書なんて難しい本を持ってくるべきではなかったのだが。

 

「はいはい。持ってきましたよ。この本は、子供になった探偵の──」

「ん? お姉様、それ前に見せてもらったよー?」

「あらま。そうでした?」

「うん、そうだよ。確か、一ヵ月くらい前だったかな? その時に持ってきてたよ」

 

 ──これは失態だった。まさか、一ヵ月前のことを忘れるとは......。

 

「ま、別にいいけどね。一緒に読もー」

「いいのです? すぐに変えてきますよ?」

「いいの。お姉様と一秒でも長くいたいからね」

「そ、それなら......一緒に読みましょうか」

 

 可愛い妹の願いなら、どんなことだって聞いてやりたい。

 そういう気持ちが強くなり、流されるままに本を開けた。

 

「最初の方は飛ばしいっ......!?」

「え? あ、血が......」

 

 本をペラペラとめくっていると、右手の人差し指に痛みを感じる。

 見てみると、どうやら紙で指を切ってしまったらしい。紙で指を切ることは今までも何度かあったが、今回は深く切ったのか、指の上ですごく小さな血の水溜りができていた。

 

「お姉様、血が出てるけど大丈夫?」

「これくらい大丈夫ですよ。舐めていればすぐに治りますから」

「ふーん......それってさぁ......」

「はい?」

 

 フランの目はまるで正気が失ったかのように、虚ろになっていく。

 

「私が舐めても、すぐに治るよね」

「ふ、フラン? どうしわっ!?」

 

 急にどうしたのか、フランは私を押し倒し、馬乗りになって怪我をした方の指だけを手に取る。

 

「最近お姉様の血、飲んでないのよね。欲求不満って言うのかな? 血を見てたら......無性に飲みたくなったの。だからさ。今日くらい、いいよね?」

「え、ちょ、ちょっと待っ......ぁ、もぅっ!」

 

 返事を待たずに指を口にくわえ、限り少ない血を一生懸命飲もうとする。

 血がそれ以上飲めないと分かれば、フランはさらに血を出すために少しだけ牙で傷を付け、そこからさらに血を得ようとしていた。

 

「あぁっ、ふりゃん! か、噛みゃなくても......」

「......あ、ごめんね。ごめんね、お姉様。でも、ちょっと美味しいから、もう少しだけ......」

 

 私の血は依存性でも高いのか、フランを虚ろな目にさせ、吸血衝動を駆り立てているようだった。

 

 ──もうこれ、はたから見たら危ない光景なんじゃ......。

 

 そうは思うも、当の私も吸血による魅惑や快楽の影響で抵抗する気にはなれなかった。逆に、ずっとこのままでいたい、という気気持ちになってしまう。

 

「ふ......フランっ。はぁ、指ばっかり吸わないで......はぁ、今日は、許しますから......あぁっ、首から、ちゃんと吸血してください......」

「えっ? ......い、いいの? 多分、私は自分を抑えきれないよ? だから、必要以上に......」

 

 その言葉に驚いたのか、先ほどまで一生懸命吸血していた指を口から離し、私の目の前へと顔を移動させた。

 

「既に必要以上吸われていますし......後で吸われた分だけ返してもらうので大丈夫です」

「......それ、私の方が大丈夫なのかなぁ。でも、いいよ。お姉様に吸血されることってあんまり無いし......いつも吸血されるお姉様の気分を味わえるんだしね」

 

 断られる前提で言ってみたのだが、予想外の答えが返ってきたことに少し混乱する。

 

「い、いいのですね......。で、では、先に首から......」

「うんっ! それにしても、ふふっ。こんなお姉様初めて見るなぁ。私を求めてくれてる感じがして、とっても嬉しいよ」

「そ、そうです?」

「そうだよ。じゃ、失礼して」

 

 フランは噛むのに邪魔な髪をどけ、首元へ顔を持っていくと、ゆっくりとその皮膚に牙を立てた。

 

「あぁっ! や、やっぱり少しだけ痛いです......あっ!」

 

 そして、血の吸う音とともに、フランは吸血を始めた。

 

 最初は鋭い痛みがあったものの、次第に和らぎ、逆に段々と吸血の魅惑が強くなる。

 私は、気付かぬ間に快楽の渦へと引き込まれていった。

 

 

 

 それから何時間。いや、何分経ったのだろうか。

 

「ふ、フラン......」

「うぅん......もう少し。もう少しだけ......」

 

 もはや時間の感覚すら無くなるほど長い間血を吸われ、頭の中が真っ白になってきていた。

 

 それでも少ない自我を振り絞って、フランに声をかけ続ける。

 

「あ、あぁっ......ふ、フラン......!」

 

 気付いた時には、私は快楽を必死に抑えようとしてか、それともそれを少しでも発散させようとしたのか、今出せる精一杯の力でフランを抱きしめていた。

 

「......ぷはぁ。はぁ、はぁ、はぁー......何? もしかして、もうダメになっちゃった?」

「は、はい......。貧血気味です......。フラン、ちょ、ちょっとだけ......このままでいさせてください......」

「いいけど、もしかして魅惑で私の虜でもなっちゃった? ......うふふ、なんて冗談。吸血って人間以外にも痛みと一緒に魅惑の影響を与えたり、快楽を与えるんだって。知ってた?」

 

 悪魔らしく、口を歪めて話しかけてくる。

 本当に、はたから見れば危ない光景に見えてきそうだ。

 

「ふ、ふらん? もしかして、知ってて吸血を?」

「ま、さっき聞いたくらいだし、それは知ってたよ。でも、許したのはお姉様でしょ? 私、てっきり知ってて言ってるんだと思ってたわ」

 

 ──あぁ、だから、さっき驚いて......。でも、何気に自分を抑えて止めれてる。フランも成長してるんだね......あぁ、まだもう少しこのままでいたい。できればお姉様とも......。

 

「そ、そうなのですね。私、知らなかったです......」

「そうなんだ......。よかったね。また知識が一つ増えたよ」

 

 そう耳元で囁きながら、私を受け入れるようにして、フランは私の背中へと手を回した。

 

「あまり嬉しくないですけど......」

「あははー。ま、私はもう充分飲めたし満足したよー。

 もうすぐしたらご飯だろうし、上に行こっかー」

「......はいぃ? フラン? 自分だけ何もされずに行けるとでも?」

「ふぇ? お、お姉様、どうしたの? か、顔が怖いきゃっ」

 

 抱きしめながらも、私は転がってフランとの位置関係を逆転させる。

 

「最初に言いましたよね? 吸われた分は返してもらうと」

「た、確かに言われたけどっ! ......はぁー、やめて、って言っても聞いてくれないよね?」

「はい。貧血気味ですし、血を今すぐ補給したいのです......。姉妹ですし、結構合うと思うのですよね。それに、姉として、やられっぱなしって......ねぇ?」

「むぅ......はぁー、いいよ。別にいいから、やるなら早くしてよね。誰か来て見られても恥ずかしいし......」

 

 珍しく頬を赤らめながら、顔を逸らして話される。

 

 あまりの女性らしい可愛さに理性が飛びそうになる。

 

「わ、分かりました。では、失礼します」

「うん。......できれば痛くしないでね?」

「それは無理では......できる限り努力します」

「ありがと。じゃ、やって」

 

 フランに許可を貰うと、私はゆっくりと自分の妹の首元に噛み付いた────




ちなみに、小説内でケガをして傷口をなめる描写がありましたが、それはフラン達が清潔だったからできたことです。
口の中の雑菌が傷口から入ったり、逆に傷口のばい菌を口に入れてしまう可能性があります。ので、実際にはやらないでください()
いやまぁ、それを言うと吸血行為も(ry


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番外編「聖夜前のプレゼント」

本日は番外編。クリスマスイブでのお話です。
けどまぁ、いつも通り姉妹中心という()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

 今日は十二月二十四日。

 言わずと知れた聖夜の前日、クリスマスイブである。

 

「オネー様。いい子にしてたら、サンタさん来る?」

「来ますよ。ね、フラン」

「うん。ルナはいっつもいい子だから絶対に来るよー」

 

 どこでもそうなのかもしれないが、紅魔館(ここ)では決まってクリスマスイブの夜中にプレゼントを渡すことになっている。

 もちろん、見た目限定で子供は私達姉妹だけなのだが、私やミアやお姉様、そしてフランまでもがサンタの正体を知っている。唯一知らないのは生まれて間もないルナシィくらいだ。

 と言っても、ルナ以外にも美鈴や咲夜にもプレゼントを渡す予定だ。私達から見ればこの二人も子供のようなものなのだ。

 

「なら、悪い子のフランには来ない?」

「むっ。失礼な。私にも来るもーん。ねぇ、お姉様?」

「......怖い顔で見つめないでください。多分来ると思いますよ」

「多分ってひどーい! 悪い子にもプレゼント欲しいー!」

「悪い子という自覚があるのですか......」

「自覚ないよりはマシだからねー」

 

 毎年プレゼントを貰っているフランと違い、ルナは今年初めてなのだ。

 だからこそ、ルナには今日という日をいい思い出で終わらせてほしい。

 悪魔が敵である聖者の誕生日を祝うのもおかしいが、お姉様曰く遊ぶのに利用できるから、らしい。

 ──結局一番楽しんでいるのはお姉様だから利用されているようにも見えるが......。

 

「ねぇ、ルナー。サンタさんには何をお願いしたの? 妹とか?」

「無茶言い過ぎです......。もう手紙に書いてましたね、ルナは」

「あら。私、出遅れちゃった感じ?」

「書いたけど、どうするか分からないからまだ持ってる。頼んだのは、寒さしのげる物」

「普通ー。ま、そっちの方がサンタさんとしても用意しやすいんだろうけどねー」

 

 フランがこちらを見て問いかけるように笑ってくる。

 今になって思うが、この娘だけにはバレてほしくなかった。

 

「レナー! ここなのー?」

 

 と、その時だった。お姉様がノックもせず、部屋へ入ってきた。

 

「え、お姉様? どうしました?」

「部屋に入る時はノックして、っていつも言ってるでしょー?」

「ちょっと急いでて......ごめんなさいね、フラン。でね、ちょっといいかしら、今」

「私、ですよね? いいですよ」

「オネー様。すぐ戻ってきて、ね?」

 

 クリスマスイブは一緒に寝るという約束をしたのもあり、心配そうな顔でルナが語りかてくる。

 ──相手がお姉様と言えど、約束を破ったりしないのに......。心配性なのは誰に似たんだか。あ、フランか。

 

「もちろん、すぐに戻りますよ」

「レミリアお姉様! あまりお姉様を束縛しないでね!」

「束縛って人聞き悪いわね。ちょっと借りるだけよ。

 じゃぁ、時間もないし......レナ。行きましょうか」

「はいです」

 

 フラン達と別れ、お姉様に付いていった。

 

 

 

 廊下を歩きながら考えてみたが、急ぎでの用事と言えばクリスマスプレゼントかクリスマスパーティーのことしかない。

 クリスマスプレゼントは今日の夜中に渡すことにしている。クリスマスパーティーは明日、クリスマスの日に幻想郷中の住民達も呼んですることになっているのだ。

 もちろん、何人が来てくれるかは分からないが。

 

「......お姉様。もうルナも聞こえないと思いますよ」

「あら。やっぱり何か分かった? でも、幾つかあるのよね。あ。プレゼントの準備は出来てるのよね?」

「もちろんです。咲夜に手伝ってもらいながら、昨日のうちに作っておきましたよ」

 

 私一人で作っても良かったのだが、できれば完璧な物にしたかった。

 それで咲夜に助けを求め、作るのを手伝ってもらったのだ。

 

 ──我ながら良い出来だと思ってる。......けど、何故か嫌な予感も......いや、そんなことないよね。

 

「咲夜にもプレゼントあげる予定じゃなかったかしら?」

「咲夜にはお姉様からなのでいいのです」

「バレている前提でいいのね。......あの娘と美鈴へのプレゼント、本当にあれで良かったと思う? いつもお世話になってるのに簡単過ぎると思わない?」

「お、お姉様からのプレゼントなら咲夜は何でも喜ぶと思いますよ?」

「そうだといいんだけど......」

 

 とは言ったが、実は咲夜達が何を頼んだかは知らない。

 ──せっかくだし、聞かないで明日(クリスマス)のお楽しみにでもしておこうかなぁ。

 

「それにしても、どっちも簡単なお願いで良かったですよね。売り切れ中のゲーム機とか頼まれてもあれですし」

「幻想郷にゲーム機が入ってくること自体少ないわよ。香霖堂で手に入れた赤いおじさんのカーゲームも、ゲーム機本体が無いからできない、って貴女嘆いてたくらいだし」

 

 香霖堂へはよく行くが、ゲームを見つけたのはあの時だけだ。

 外の世界が今何年かは分からないが、そう簡単にゲームが幻想入りすることは無いらしい。

 

 あったとしても、珍しいこともあり、霖之助さんが譲ってくれること自体少ないのだが。

 

「そう言えばあの時泣いてたけど、そんな悲しかった?」

「な、泣いてないです。それに、お姉様達と遊びたかったから......」

「レナ......。あ、ところでお願いがあるんだけど、いいかしら?」

「あれ、思ったより......。まぁ、いいですよ。お姉様の頼みなら」

 

 お姉様の頼み事は簡単な多いものが多い。それは私への配慮なのか、自身のプライドなのかは分からないが、だからこそ私は簡単に受け入れられる。

 

「じゃぁ......ルナって初めてのクリスマスでしょう?」

「はい、そうですね。明日のパーティーも含めて楽しみにしていますね」

「えぇ、そうみたいね。そういうことだから......ルナにサンタさんを見せてあげたいの。レナ、やってくれるわよね?」

「......はい?」

 

 簡単なお願い事は多い。だが、稀に難しい頼み事をするのがお姉様だ。

 あまりにも想定外で、今見ていることが全て夢なのでは、と疑うほどだった。

 

「いや、ちょっと待ってくれません? サンタさん? え? 私、吸血鬼ですよ。悪魔です。どちらかというとサタンさんですよね?」

「そういうのいいから。私の頼み事だから......ね? お願いっ!」

 

 お姉様は私の手を握り、懇願する。

 

 本当に見せてあげたいという気持ちが伝わってくる。が、それでも無理なものは......。

 ──でも、お姉様のために......。

 

「......分かりました。今回だけですからね?」

「やってくれるのね!」

「でも、ただ変装するだけではバレると思いますよ。変身魔法も翼とかを変えることしかできませんよ」

「貴女には能力があるじゃない。それを使って正体だけ有耶無耶にして、サンタのコスプレをすればきっと大丈夫よ!」

「心配しかないです......。でも、ルナに楽しんでほしいのは私も同じですし、本当に今回だけですから」

「優しい妹で良かったわ! ありがとう、レナ!」

 

 と、余程嬉しかったのか、お姉様が勢いよく抱きしめてくれた。

 

「あっ、ぅ......うん......」

 

 温もりを感じるお姉様の肌。

 しばらくそれを感じていたかったが、すぐにその時間も終わる。

 

「じゃぁ、せっかく着替えてみましょうか。あの服可愛いから、きっとレナも気に入ると思うわ」

「き、着替えるって、もう服はあるのです?」

「えぇ、用意してあるわよ。咲夜に作ってもらったから」

「咲夜、万能ですね......」

 

 このイベントでも咲夜に頼りっきりだ。

 私も何か、咲夜へお返しをした方がいいかもしれない。

 

「咲夜は私のメイドだからね。私の部屋に置いてあるわ。早く行きましょう!」

「え、お、お姉様の部屋で着替え......っ!」

 

 有無も言わせず、お姉様は私の手を引っ張ると意気揚々と走り出した。

 

「珍しく乗り気ですね......」

「今日は目出度い日よ。乗り気じゃない方がおかしいわ」

「お姉様ほど乗り気なのも考えものですけどね」

 

 お姉様は私を連れ、真っ直ぐと自身の部屋へ向かった。

 

 

 

 部屋に着くと、お姉様は一目散にクローゼットをあさり、赤い服を二着取り出す。

 

「肩出しとマント付きがあるんだけど、貴女はどちらがお好みかしら。それとも、似合う方を着てみる?」

「......私は着せ替え人形か何かですか?」

「ち、違うわよ。ただ、どっちが好きで、どっちが似合うか分からないから......」

 

 私のことを知っているからか、悲しそうな目を向けられる。

 こういう風なことをされると、私はどうしても強くは言えない。

 

 私のことを知ってくれてる、ということは素直に嬉しいが。

 

「それならいいですけど......。では、まずは肩出しの方から着てみますね」

「えぇ。......」

「......お姉様?」

 

 お姉様は何かを待つように、じっとこちらを見つめていた。

 

 その視線がくすぐったくて、着替える手を止めてまで気になってしまった。

 

「......えっ!? な、何かしら?」

「どうしました? 何か気になることでもありました?」

「いえ、そういう訳じゃなくて......。な、何でもないわ」

「? それならいいですが......。できれば恥ずかしいので、見ないでくれるとたすかるのですが......」

「そ、そうね。恥ずかしがり屋だもんね、貴女。でも、着替え終わったら見せてね」

 

 そう言って扉を開け、外に出ていった。

 ──別にそこまでしなくて良かったのに......。後ろを見るとか、そんな簡単なので......。

 

 と少し残念に思いながら、私はサンタの赤い服へと着替える。

 

 

 

「お姉様ー。二着目も終わりましたよー」

 

 両方とも着替え終わると、外にいるお姉様へと声をかける。

 

「え、二着目? ち、ちょっと! 私一着目見てないわ!」

「必死ですね......。大丈夫です。一度着替えた服は変身魔法で再現できますから」

「あれ? 貴女、さっき変身魔法は翼しかできない、って......」

「翼()()、ですよ。服装くらいは変えれます」

 

 それに、冬だというのにあまり肩を出して冷えたくない。

 お姉様の部屋は来たばっかりで暖房も付けていない。だから部屋の中でも少し肌寒いのだ。

 

「それなら......うん。それにしても可愛いサンタさんねぇ」

「......じろじろ見ないでください。恥ずかしいです......」

 

 今着ている服はサンタでお馴染みの赤い帽子に、赤いミニスカートと長袖の上着。そして、肩を覆うように小さな赤いマントを羽織っている。

 ──サンタさんとは言え、こんな寒い服を着るものだろうか。

 と、疑問にしか思わない。

 

「清楚な感じはするから、レナはこっちの方がいいかもしれないわね......」

「私のイメージ的には、ですね」

「えぇ、そうね。次行きましょうか。次は肩出しね。あれ、肩出し?」

「あってますよ。最初に肩出し着ましたので。では、魔法使いますね。......やっぱり魔法が一番便利だと思うのですよね。私のは想像力が力となるものですし」

「そういうのはまた今度ね。あまり長い間借りているとフラン達に怒られるわ」

「むぅ......。はいはい、分かりました」

 

 と、少し反抗的になりながらも変身魔法を唱え、服装を変化させた。

 

 次のサンタ服は、ほとんどマントと同じだが、こちらはマントが無く、胸から上の肩の部分が全て出ている。

 フラン辺りが着そうな服だ。

 

「......なんて言うか......色っぽいわね。でも好きよ、貴女のそういう服も。

 というか......ふふっ。何を着ても可愛いわねぇ」

 

 お姉様は何を思ったのか、私の頬からなぞるように髪を撫でる。

 

 耳が熱くなり、触らなくても赤くなっていることが分かった。

 

「うぅ......か、からかわないでくださいっ」

「からかってないわよ。......で、貴女はどちらを着たいの? もちろん肩出しよね?」

「マントの方がいいです!」

「ふふっ。冗談よ。さぁ、恥ずかしいなら早く行って、早く終わらせてきなさい」

「は、はい。もちろんです!」

 

 と、勢いよく扉を開け、外へと──

 

「......吸血鬼が写真にでも写るなら一生収めていたのになぁ」

 

 ──出ようとした時に、背後で小さな声が聞こえた。

 

「え? 何か言いました?」

 

 私は何か忘れ物でもしたのかと振り返り、声をかけた。

 

「い、いえ......プレゼントを忘れないようにね。あれを渡さないと、サンタさんとは思われないでしょうから」

「は、はい」

 

 お姉様の助言を受け、私は自分の部屋にプレゼントを取りに行った後、フランの部屋へと走り出した。

 

 

 

 フランの部屋の前に着くと、まず初めに自分の存在と服以外の姿を有耶無耶にする。

 これで私の正体は有耶無耶になり、姿で識別も困難となった。

 

 だが、あくまでも有耶無耶にしただけだ。

 いつ正体がバレるか分からないから、できる限り早くした方がいい。

 

「......やっぱり、緊張する。......スー、ハー......よし」

 

 深呼吸をして落ち着くと、扉をノックする。

 

「はーい。開いてるよー」

「レミリアオネー様かな?」

 

 存在をも有耶無耶にしているせいか、私のことも有耶無耶になっているようだ。

 ──ここまでは作戦通り。後は、なるがままに......。

 

「え? 違っ......あっ」

 

 と、覚悟を決め、扉を開けた。

 

「......ふぉ、ふぉっふぉっふぉっ。私はサンタクロース。い、いい子のところへやってくる......えーっと......」

「あ......。る、ルナ! サンタさんだよ!」

「サンタさん? ......でも、白いお髭が付いてない。どうして? 偽物?」

「そ、それは......」

 

 鋭い眼で私を睨みつけ、理由を聞いてくる。

 ──サンタさんの特徴で、白い髭のことを言わなければよかった。

 

「そ、それは......」

「ほら、前にお姉様が話してたでしょ? サンタさんもいっぱいいるって。

 あのサンタさん、女性のサンタさんだからお髭は付いてないんだよ」

「あ。そっか。......もしかして、その大きな袋がプレゼント?」

「よく気付きまし......気付いたね。そうだよ。これがいい子へのプレゼント。......えーっと、もう渡していいです?」

 

 今まで密かにプレゼントを渡すことはあったが、サンタさんになってプレゼントを渡すことは無かった。

 だから手順が全く分からない。どう渡せばいいのか、もう渡していいのかさえも。

 

「うん。プレゼント、ちょーだい」

「は、はい。では......どうぞ。寒さをしのげる物ですよ。これで寒い日でもいっぱい遊べますね」

 

 と、紅い手袋とマフラーを手渡した。

 最後まで色で悩んでいたのだが、好きな色ということで紅い色にした。

 

 ──姉妹揃って紅が好きなのは吸血鬼だからだろうか。

 

「......フランには? フランもいい子だよ?」

「もちろんありますよ。フランも根はいい子ですからね。

 結局今の今まで聞いてなかったのでルナとお揃いの物ですが......」

「それで充分だよ。ありがとうね、お......サンタさん」

 

 ──......ん? 何かおかしく......気のせいかな。

 

「よかったね。フラン」

「うん。ルナとおそろだよー」

 

 同じ物だと言うのに、フランとルナは互いに見せあって嬉しそうにしている。

 

 私としても、やりがいがあって嬉しい。が、サンタさんに対してのリアクションが少し薄いのが残念だった。

 ──私も恥ずかしいというのに......。今度、逆にこの二人に着させて......。

 

「では、私の役目は終わりましたので......」

「待って。まだお礼言ってない」

「え? 別にお礼なんていいですよ。これが私の役目ですから」

「でも、プレゼントを貰ったらお礼を言うのは当たり前。

 ありがとう......サンタさんっ」

 

 ルナは子供特有の満面の笑みを浮かべ、頭を下げた。

 ──......毎年やってもいいかもしれない。

 

「......サンタさん。早く戻った方がいいんじゃない? ほら、他の子供達が待ってるよ」

「そ、そうですね。......では、次に会うのは来年ですね。ではまた!」

 

 張り切って声を上げ、私は報告と着替えのためにもお姉様の部屋へと戻る。

 

 そして、今日という楽しい日を終えた────




明日も番外編でクリスマスのお話がある予定です。
明日はクリスマスパーティーということもあり、姉妹以外にも焦点が当たる模様。けどやっぱり姉妹が多そう()


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番外編「聖夜の晩餐会」

書きたいことを書いていたら題名の話が半分しかなかった()
そして短い()
それでもいいよという方は、ありがとうございます()

まぁ、お暇な時にでもお読みくださいm(_ _)m


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

 クリスマスの日。吸血鬼に似合わない聖なる日。

 

 今日、紅魔館(ここ)はクリスマスパーティーの会場となる。

 年に一度のイベントということもあり、お姉様主催で盛大なパーティーをするらしい。

 もちろん人数は多い方がいいとお姉様が霊夢達、館の外の住人も呼んでいる。

 だが、お姉様だけでは心配とミアも親しい仲の人を呼んでいるらしい。

 

 そして、その朝。

「ふぁ、ぁぁ......?」

 

 いつものように、フランの部屋で目が覚める。

 

 私は起きたらすぐに左右どちらかに手を回す。

 こうすると、抱き枕のようにフランかルナを抱きしめられるのだ。

 

 しかし、今日に限ってはいつもの柔らかい肌の感触ではなく、何か固い感触が手に触れた。

 

「......えっ? 箱?」

 

 重いまぶたをゆっくりと開けると、そこには私と同じくらい大きな箱が置かれていた。

 

 私達子供が三人で寝ても広々と寝れる大きなベッドだ。だが、さらにそこへ私達と同じくらい大きな箱が置かれると、流石に狭い。

 しかし、いつも両隣で寝ているはずのフランとルナは、何故か私の右隣で一緒に寝ていた。

 

 ──昨日寝た時は、いつものように両隣で寝ていたはずなんだけど......。

 

「......何が入っているのでしょう?」

 

 しかし、そんな小さな疑問はすぐに消えた。疑問よりも、箱の中身という好奇心が勝ったのだ。

 

「......っと。さて、気になる箱の中身は......」

 

 ベッドから降りて、箱を包む紙を破る。

 

 そして、恐る恐る箱を開け──

 

「っ!? ......え?」

 

 ──すぐに閉じた。

 

 理由はいつも見ている青い髪のようなものが見えたからだ。

 

 もしやと思い、また恐る恐る箱の中身を確認する。

 

「......はぁー、びっくりした......」

 

 中に入っていたのはお姉様......ではなく、お姉様の形を模した小さな人形だった。

 中には他にもたくさんの人形があり、全てが紅魔館の住人を模した人形だったのだ。

 

 偶然お姉様の人形が一番上に置いてあり、それを見て私は驚いてしまったようだ。

 

「誰が置いた人形でしょうか......それにしても可愛いお人形さんですね」

 

 アリスに作ってもらったルナとミア人形よりも精密ではないが、まるでそのまま二頭身にしたかのように小さく可愛い。

 ──これほど上手に作れるのはアリスか咲夜しか知らない。アリスがわざわざここへ来てクリスマスプレゼントを送ることも考えにくいし、多分咲夜からのかなぁ。

 

「お姉様......? 落ちちゃったの......?」

 

 箱の中身を漁っていると、ベッドの上からのぞき込むようにしてフランが顔を出していた。

 

 眠たそうにまぶたを擦っている。

 

「あ、フラン。おはようございます。落ちてはないですよ」

「おはよ、ぉ......ふわぁー......」

「まだ眠たいのなら寝ててもいいですよ?」

「ならお姉様も上に......何それ?」

「サンタさんからの贈り物みたいですよ。みんなの人形が入っていました」

 

 と、中に入っていた自分の人形をフランに見せた。

 

 すると、あまり興味無さそうに「ふーん」とじっとそれを見つめていた。

 

「その細い首で頭支えれるんだ......」

「着眼点おかしくないです? いえ、そういうことよりもですね。可愛くないです?」

「うん、可愛いとは思うよ。じゃ、早く寝よ?」

 

 本当に興味が無いらしく、一緒に寝る方を優先してくる。

 

「......分かりました。一緒に寝ましょうか」

 

 流石にこれ以上何を言っても無駄だと判断し、フランの要望を受け入れた。

 そして、深い眠りにつく。

 

 

 

「妹様、失礼致します」

 

 次に目が覚めたのは、咲夜が扉をノックして入ってくる時だった。

 

「咲夜......? あっ! もう時間です!?」

「はい。ミア様のお声により、思ったより人が来てしまったことが原因で、予定よりも早く始めています。レナ様達も、早くお出でに......とのことです」

「は、はい! フラン! ルナ! 起きる時間ですよ!」

 

 と、両隣で寝ている二人の妹の体を揺さぶる。

 すると、二人は同じようにまぶたをこすりながら起き上がった。

 

「なぁにい......」

「ふぁ......っ」

「起きる時間ですよ。ほら、クリスマスパーティーです」

「では、私はこれで。お食事の用意をしてきますね」

「ありがとうございますね。咲、あっ。そう言えば、起きた時にクリスマスプレゼント? があったのですが、これって咲夜が用意してくれた物です?」

 

 戻っていこうとする咲夜を引き止め、質問する。

 

 本来は聞いてはダメなのかもしれないが、知的好奇心が抑えられなかった。

 

「プレゼント? いいえ、私ではありませんよ。私は貰った方ですから。今朝もお嬢さまから、お暇を二、三日貰いましたし。......もちろんお断りしましたけど」

「流石ですね......というかお姉様のチョイスおかしいですね。

 ......咲夜じゃないとすれば、一体誰でしょう......」

「......言っていいのか分かりませんが、おそらくお嬢さまではないでしょうか」

 

 悩んでいると、咲夜が助言をくれた。

 

 お姉様だとすれば隠れてプレゼントを送ったことは納得できる。

 だが──

 

「ですが、お姉様の手先は不器用ですし......。あ、引き止めてすいません。答えてくれてありがとうございますね」

「いえいえ。お力になれたようで良かったです。では」

「あっ、ばい......早っ......」

 

 と、瞬きをする間も無く咲夜は姿を消した。

 

 時止めを使って移動したのだと思うが、いつもびっくりさせられる。

 

「ではフラン、ルナ。服着替えて行きましょうか。パーティー用の服ですからね?」

「オネー様、いつも真っ黒だから変わらない?」

「変わらないよね。お姉様。私達は普段着で行くから。堅苦しいの嫌いだし」

「あっはい。まぁ、うん......お姉様に何か言われても、私に振らないでくださいよ。どうしても、って言うなら別にいいですけど......」

「ふふふ。優しいお姉様で良かったね。ほんと。......ルナ。それ私のだよー」

 

 妹達の愉快な会話を聞きながら、パーティーへ行く準備を進めていった。

 

 

 

 パーティー会場は百人以上が入っても広々とできるほど広い造りになっている。

 中央には巨大なクリスマス・ツリーが置かれ、至る所に丸いテーブルと食事に加え、飾り付けがしてある。

 

 中には妖精メイドを除き、会場にはすでに二十人近い人間や妖怪達がいた。

 ほとんど全員が顔見知りで、妖怪が主催するパーティーということもあり妖怪が多い。

 

「ようやく妹様達のお出ましか。先に食べてるぜー」

 

 と、吸血鬼相手に気安く話しかけてくるのは魔理沙だ。

 もちろん堅苦しく話すよりは、そっちの方がこちらとしても会話しやすい。

 

 そのお陰か、フランは魔理沙と友達になっていた。

 

「あぁ、魔理沙。やっぱり来てたんだね」

「どうだ? フラン達も一緒に食べないか?」

「うーん......お姉様、いい?」

 

 先に遊んでいてもいい、という意味で訪ねているのだろう。

 私がお姉様に会いに行くことを知っているから、質問したのだとすぐに分かった。

 

「いいですよ。楽しんできてくださいね」

「はーい。ルナも行こー」

「うん。分かった!」

 

 楽しそうに友達の場所へ向かう二人を見送り、私は姉を探しにパーティー会場をさまよい始めた。

 

 

 

「おっ、レナ。一緒にお酒飲みやしないかい?」

 

 それから数分としないうちに声をかけられた。

 相手は鬼の四天王が一人、伊吹萃香だ。

 

「あら〜。吸血鬼の妹さんじゃない。貴女は姉の方よりも親しみやすそうだわ〜」

「萃香さんの他に、幽々子さんも......皆さん、楽しんでいるようで何よりです」

 

 会場の中心、クリスマス・ツリーの下では、シートを引き、萃香と幽々子、そして紫が一緒にお酒を嗜んでいた。

 その近くでは藍と妖夢が主のために、料理を運んでいる。

 

「だから萃香でいいって」

「では、萃香。せっかくのお誘いですが、私はお酒を飲めません。そして今はお姉様を探しているので......」

「むぅー......まぁいいやぁ。じゃあ後で来てくれよー?」

「パーティーの終盤辺りで、ジュースでもいいなら......いいですよ」

「おぉ! もちろんいいぞー。約束だからなー!」

 

 会話の最中も瓢箪(ひょうたん)型の酒器をごくごくと飲み干す。

 ──いや、無限にお酒が湧き出るのだから、飲み干すことはないか。

 

「私は今一緒に飲みたかったわ〜......」

「幽々子。あまり無茶を押し付けないであげなさい」

「は〜い。レナちゃん。また後でね〜」

「はい、また後で、です」

 

 と、何気に今回一番の難所を超え、再びお姉様探しを再開した。

 

 

 

 改めて辺りを見渡すと、妖怪の賢者と呼ばれる紫のように強力な妖怪から、ルーミアやチルノのような妖怪まで、様々な妖怪がいる。

 クリスマスパーティーとは言え、こんなに様々な人が来てくれるのはとても喜ばしいことだ。

 

 ──......これは、お姉様やミアに感謝しないといけないなぁ。

 

「ここに居たのね、レナ」

 

 物思いにふけていると、背後から声がかけられた。

 

 その声に反応し、振り返ると、そこにはお姉様の姿があった。

 

 お姉様はいつもとは違い、パーティー用の黒いドレスを着ている。帽子もドアノブのようなモブキャップではなく、シルクハットのような黒い帽子になっていた。

 

「え? あ、お姉様。......お揃いの服ですね」

「えぇ、そうね。似合ってるわよ、レナ」

「あ、ありがとうございます......。お姉様も似合ってますよ!」

 

 会ったのはいいが、何を話していいのか全く分からない。

 何故か緊張してしまい、会話を成立させれないのだ。

 

「ふふふ。ありがとう。まだ来たばかりかもしれないけど、楽しんでる? 楽しめそう?」

「は、はい。もちろんです。......お姉様、一緒に飲みません?

 わ、私も多少のお酒なら飲めるようになってきてますし......」

「無理してお酒なんて飲まなくていいわよ。血の(ブラッディ)ジュースにしましょう」

「そ、そうですね......」

 

 吸血鬼だから血液、私は特にAB型の血液は美味しいと思えるのだが、ジュースで出てくる血液だけの状態は未だに馴れない。逆に見るのも苦手なほどで、お酒の次くらいに苦手だ。

 

「咲夜ー。ブラッディジュースー。私とレナの分ねー」

「お持ちしました」

 

 お姉様が大声で話すと、咲夜が突然現れる。

 手にはすでに、ブラッディジュースが二つ、握られていた。

 

「早いですね......。あ、ありがとうございます」

「ありがと。料理や掃除の最中だったのにごめんね」

「いえ、私はお嬢さまのメイドですから。では、何かありましたら、またお呼びください」

 

 と、言い残しては、現れた時同様、忽然と姿を消した。

 

「じゃあ......乾杯しましょうか」

「はい。......今日という、聖なる夜。素敵で無敵な奇跡の一瞬に......乾杯です」

「ふふ、何それ? 面白いわね。......乾杯」

 

 グラスのぶつかる小さな音が響く。

 しかしまだ、パーティーは始まったばっかりだ────




ちなみにモブキャップとは、18世紀の西欧で流行した、モスリン製の頭をすっぽりと覆う縁に襞の付いた婦人帽の一種、らしいです。ナイトキャップよりもこちらの方がしっくりきたので、これにしています。

レナにプレゼントを渡した人は謎のままで終わらせています。
もしかしたら、幻想郷にはあの赤い人が......なんてことも、ね。


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番外編「お正月の食卓」

明けましておめでとうございます。
今年もよろしくお願いします。

さて、今回は短めの雑談回です。それでもいい方は、どうぞー


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(キッチン)

 

 今日はお正月。年が明けた今年初めての日。

 

「レナ様。後はお任せいただいても......」

「いえいえ。咲夜だけに任せてはいられませんから。

 私もお料理は得意な方ですし、任せてください!」

 

 現在、お正月に食べるためのおせち料理を咲夜と一緒に作っている。

 どうして私が手伝っていたかと言うと、妖精メイド達はお正月休みを与えられ、咲夜一人しか家事をする者がいないのだ。

 流石に大変だと思い、私が手伝っている。

 

 最初、お姉様が手伝おうとしていたのだが、少し不安だったので代わりを申し出た。

 

「そういう訳ではなく......。レナ様。貴方様はお嬢様の妹様なのですよ?

 お嬢様の妹様に手伝わすなんて、メイドとして恥ずかしい限りです」

「ぐっ......。で、ですが、私としても咲夜一人に家事全般を任すなんて......」

「いつものことです。妖精メイド達はあてになりませんから」

「そ、そうですか......。で、でも、もうすぐ終わりますし......最後までやりますよ?」

「お先にお戻りください。お嬢様が待っていますよ?」

 

 まるで心を見透かしているように咲夜は微笑む。

 

 確かにお姉様と一緒に居たいとは常日頃思っていないこともない。

 だが、それでも一人に任せることはできない。

 

「その手には乗りません。咲夜、終わるまで手伝いますよ」

「......はぁー。分かりました。こうなってはテコでも動きませんでしょう。

 最後までお付き合いくださいね、レナ様」

「もちろんです」

 

 こうして、私は咲夜を手伝い、料理を食堂へと運びに行った。

 

 

 

 食堂では、待ちくたびれている妹達に、普段は食堂で食べることがないパチュリー達もいる。

 流石にお正月というだけあって、全員が集合しているのだ。

 

「咲夜、レナ。お疲れ様。ありがとうね」

「いえ。仕事ですから」

「私は善意とかそんな感じですので」

「そ、そう......。遠慮しなくてもいいのに。......みんな揃ったわね」

 

 お姉様は辺りを見回し、全員が揃ってることを確認する。

 

 私達姉妹、咲夜、美鈴、パチュリー、そして小悪魔。

 同じ家だというのに、広すぎるせいかあまり集まることのない家族が全員揃った。

 

「まず初めに、新年明けましておめでとう。これからもよろしくね。

 さ、食べましょうか」

「早いです。もっとこう......新年の有り難みとか......」

「私達は吸血鬼よ? そんな堅苦しい風習なんか無視していいわ。それにね......」

 

 ならクリスマスパーティーをやったのは何なんだ、と突っ込みたくなる衝動を抑え、お姉様の言葉を待った。

 

「こうして家族がみんな集まれるだけで有り難いわよ。

 それとフラン達がもう待ちきれなさそうだから」

「ううん。吸血鬼なのに久しぶりにオールしたら辛かったの。だから食べたいとかよりも早く寝たい」

 

 フランは私やルナと一緒にカウントダウンのために深夜まで起きていた。

 私が寝てからも、テンションの高いフランはルナと一緒に夜通し起きていたらしい。

 

「私もよ。昨日からぶっ通しで魔法の研究してて......」

「パチェまで......。はぁー。いいわ。早く食べましょうか。

 じゃ......いただきます」

 

 お姉様の合図とともに食事が始まる。

 

「咲夜ー。これがおせち料理? 和食なんて珍しいね」

「フラン様は和食料理はあまり食べませんでしたね。お嬢様はよく注文されますが」

「え? レミリアお姉様よく食べるの? いいなぁ。私なんてお正月(今日)くらいよ」

「ミア。それ、取って」

「これお酒だよ? というか誰置いたのこれー!」

 

 もちろん静かな食事になることはなく、賑やかな食卓になる。

 

「え? これ伊勢海老? 幻想郷って海ないんじゃ......」

「スキマ妖怪から貰ったものですね。レナ様からのご提案で今回の料理に使いました」

「おせち料理と言えば伊勢海老あるような気がしますしね」

「美鈴ー。眠いー」

 

 食事中にも関わらず、フランが隣にいる美鈴にもたれかかった。

 

 吸血鬼と言えど、一日中起きているのは本当に辛いらしい。

 

「ふ、フラン様。お食事中ですよ? またお嬢様に......」

「あぁ、いいわよ。今日くらい。でもちゃんと食べなさいよ?」

「うん。分かってるよー......」

「美鈴。フランが寝たら部屋まで運んであげてくれない?」

「はい、分かりました」

「......フランはああだけど、ルナは大丈夫なの?」

 

 二つ横で寝そうになるフランを見ながら、ミアは隣のルナに聞いていた。

 

 その間も、私やパチュリー、小悪魔は黙々と食べていた。

 話すことがなく、パチュリー達の方は夜通し起きていたのもあり疲れているのだろう。

 

「大丈夫じゃない。今、半分は寝てる」

「いつも通りすぎて分かりづらいね。ルナが寝たら私が運んであげよっかー?」

「大丈夫。オネー様に運んでもらう」

「私です? 私も朝早くから起きて辛いのですが......。いえ、妹の頼み事ですし、いいですけどね」

 

 それに、夜通し起きていた二人の妹の横で寝ていたせいか、寝た気があまりしない。

 

 二人とも可愛いから構わないが。

 

「ルナもレナ好きねー。なら私は......お姉ちゃん。私が寝たら頼むよー」

「仕方ないわねぇ。というか、まだ羽根突きとか初詣とかあるのに......」

 

 霊夢から許可を貰っていないが、博麗神社に行くらしい。

 怒られるのは目に見えているが、どうせ私達以外も妖怪がたくさん来るだろう。

 

「そうだわ。レナ。見てほしい魔導書があるのよ。後で見に来てくれない?」

「いいですよ。今日のうちに見に行きますね」

「こあ。食べ終わったらあの魔導書探してて」

「え? あ、はーい。分かりましたー」

 

 この賑やかな食卓を見ていると、なんだか幸せな気持ちでいっぱいになる。

 

「咲夜ー。緑茶ー」

「お嬢様。紅茶でなくてよろしいのですか?」

「今日はお茶の気分なのよ。あ、緑茶ねー」

「紅茶もお茶よ、レミリアお姉様」

「あ......。言葉のあやよ。気にしないで」

 

 やはり、こういう平和な日常が長く、永く続いてほしいと思う。

 

「レナ? どうしたの?」

「......いえ、何でもないですよ。さ、早く食べて神社に行きましょうか」

 

姉の言葉に、私は笑って答える────



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序章「前世の記憶」
「俺が死んだ日」


初投稿です。誤字報告や感想などをいただけたら幸いです。


 ──今日は私が死んだ日。それと同時に、生まれた日でもある──

 

 

 ──日本 都内

 

 俺は都内に住む普通の高校生。なんの特徴もなく、普通に生きている。そして、俺はこの世界は退屈だ...と思うことが多い。しかし、満足はしている。何故なら友達がいて、恋人が出来て、けど、別れてしまう。たまに悪いこともあるけどいいこともある。そんな平和な日常だからだ。そして、どうせ今日もいつも通りに時間が過ぎて明日を迎える。

 

 そんなことを思っていた。いつもこうだからどうせ今日もこうだ、とか考えてた。テレビとかで何か事故や事件が起きたのを見た時も「あぁ、可哀想に。でも、俺は関係ない、どうせ俺にはそんなことが起きるわけがない。」とか他人事のように考えてた。あの事故が起きるまでは......。

 

 

 

 ......俺は後悔した。でも、もう遅い。あの子のことで考え事をしなければ......、あいつの声にもっと早く気がつけば......。そんなことを考えながら俺は最後に目を閉じた。目を閉じた時に聞こえたのは誰かの泣き叫ぶ声と悲鳴だった。

 そして......次に目を開いた時に聞こえたのは─────

 

 

 

 ピピピピ、ピピピピ、ピピピピ……。

 いつも通りの朝、秋だからか少し冷える日。俺は何かの夢を見た。そして、いつも通りに耳障りな音が聞こえる。かなりうるさい。やっぱりもっと音が小さいのにしたらよかった。でもこのくらいじゃなきゃ起きないか......。そう思いながら音の発生源を探す。

 音の発生源......ピピピとうるさく耳元で甲高い音を発生させているのは、単針を六の位置に合わせて鳴る目覚まし時計だ。無論、用途は遅刻防止。学校が遠いので殆どの同級生よりも三十分早くに合わせて、毎日セットしている。同じクラスでも同じ時間に起きなければ遅刻するのは数えれるくらいしかいない。......と言っても三十数人だから数えれることには数えれるか......。さっきのは訂正、両手で数えれるくらいだ。.....大体三分の一くらい......あれ? 結構居たわ。

 

 まぁ、それは置いといて......音の発生源を見つけて手を伸ばし、音を消すためにボタンを押そうとした。

 しかし、頭の中は半睡眠状態にあるらしく思い通りに言うことを聞かない。いつもよりも遅いペースでそのボタンを押した。

 

「ん......あれ?......あぁ、夢か.....ふぁ〜、にしても、朝早いしうるさいし......本当に......あ、今思いだしたけど今日休みだから目覚まし時計いらなかったわ......二度寝しよ」

 

 と独り言を言ってまた寝る。いつも遅く寝ては早く起きるの繰り返しだ。折角の休みだしもう一度寝よう。というか寝たい。

 だが、また起きることになるのには時間はかからなかった。

 

「早く起きなさーい! 友達が来てるわよー!」

「......はぁ、分かったー!」

 

 なんでこんなに早く来るんだ。そう思いながら時計を見ると二度寝してから10分しか経ってない。

 こんなに早く来るなんて、あいつしかいない。

『あいつ』というのは俺の親友のことだ。家が近く、学校も同じなのであいつも目覚まし時計を早めに設定してる1人だ。

 とにかくあいつは短気な方だし急ごう。にしても、学校休みなのに何かようなのか? そう言えば昨日何か言ってた気もするが......あいつに聞けば分かることか。そう思ってすぐに私服を着て外に出る支度をする。

 外に出るとあいつが待っていた。勿論、私服だ。学校が休みなのにわざわざ制服を着る人も少ないだろう。あいつも俺も休みの日に制服を着ることはない。そもそもあの制服動きにくいし.....。そんなことを考えてると親友が話しかけてきた。

 

「おいおい、まだ寝てたのか?」

「折角の休みだろ?ゆっくり寝させてくれよ」

「お前は相変わらずだな。ま、それより早く行こうぜ!」

「えっ?行くって何処にだよ?」

「......えっ? 昨日話しただろう? 関西にあるインテックス大阪だよ! 東方紅楼夢を見に行くんだよ! 忘れてたのか? 昨日言ったことなのに?」

「あ、あぁ、そう言えばそうだったな。今思い出したよ」

 

 そう言えばそんなこと言ってたな。というか結構前から言われてたのに忘れてた......。俺はボケてきたのかな?

 そんなことを考えてる俺を尻目に話し続けている。

 

 そう、俺たちは東方ファンだ。と言っても原作を少しやっているくらいだ。キャラの設定は大体知ってるし漫画とかなら大体は見てるから......まぁ、大丈夫だろう。多分。というか何が大丈夫なのか分からないけど。

 親友も俺と同じくらいだ。でも、親友の兄はかなり知っているらしい。たまに会っては一緒に遊ぶこともある。その時に色々と教えてもらってるが…...話についていけないこともしばしばある。

 

「おーい? 聞いてるのかー?」

 

 色々と考えてたら話を聞いていないと思ったのか親友が聞いてきた。まぁ、聞いてなかったけど。

 

「あぁ、聞いてるよ。じゃ、早速行こうよ。ま、早めに行ってもどうせそれ以外にも色々見て回るんだろう?」

「おい、絶対聞いてなかっただろ。まぁいいや。関西とかなかなか行かないから楽しみだなー。よし、行くかー」

 

 こんな話しをしながら俺たちはインテックス大阪に向かって行った。

 

 

 

 ──インテックス大阪

 

 駅を降りて徒歩で数分...何事もなく、無事に俺たちはインテックス大阪に着いた。そこに着くと親友は「よし、ここから自由行動な。」と言ってすぐに何処かに行った。

 あれ?一緒に来た意味なくない?と思いながらも見て回る。

 

 俺自身も色々と見て回り、色々買った。そんなことをしているといつの間にか夕方になってた。やっぱり楽しい時間はすぐに終わるな。と思いながら親友を探そうとした。

 

「もしかして......ねぇねぇ、そこの貴方。お名前は?」

 

 探そうとした時、不意にそんな幼い声が聞こえてきた。

 

 後ろを振り返るとそこには濃い黄色の髪をサイドテールにまとめ、頭にはドアノブカバーに似た独特な帽子を被っている。こんな帽子は初めて見たが...既視感があるような気がする......。

そして、 瞳の色は真紅。服装も真紅を基調としており、秋なのに半袖とミニスカートを、スカートは一枚の布を腰に巻いて二つのクリップで留めている。 足元はソックスに赤のストラップシューズを履いている。 見た目は10歳未満の少女だ。

 

 外国人かな?と思ったけどそんな考えはすぐに消えた。何故ならその少女の背中には翼が生えていたからである。一対の枝に八色の色とりどりの宝石が付いていた。それは妙にリアルで自然に動いたりしている。しかし、俺以外の人は見ていないみたいだ。こんなにリアルなら誰か見たりはするはずなのに誰も見ようとはしてない...というか気付いていないみたいだ......。それにしても何処かで見たことがある気がする。思い出そうとしても記憶に靄がかかってるみたいに よく思い出せない。

 

「あれ?おーい、聞こえてる? 貴方のお名前はなんですかー?」

 

 そんなことを考えてるとその少女は再度聞いてきた。

 

「え、あ、すいません。俺の名前は──です」

「あれれ? よく聞こえなかったけど......もう一度言ってくれる?」

 

 聞こえない?やっぱり外国人の人だからか?英語は苦手だし...発音が下手だったのかな。ただのコスプレイヤーにしてはかなりリアルだし.....そもそも、何のコスプレなんだ?

 

「? ......俺の名前は――です」

「......おかしいなぁ......やっぱり聞こえないや。......ごめんね。引き止めて」

「え、は、はい」

 

 俺は訳も分からずその少女と別れた。その少女が何処かに歩いて行くのを見ていると何故か心にポッカリと大きな穴が空いてしまった気がした。初めて会ったはずなのに......別れるのが嫌だ。もしも、ここで追いかけなかったら、一生会えないような......そんな気持ちが頭の中で渦巻いている。だが、追うことはなかった。すぐに見失ったというのもあるが......俺には追う勇気がなかったのだ。

 

 

 

 ――それからしばらくした後、そろそろ帰る時間帯になった頃、俺は親友を探して駅まで行ったらその途中に案の定、親友がいた。と言っても見つけたのは親友だが......。その親友が横断歩道を歩いた先で待っていた。

 今更だが、よく、待ち合わせ場所も決めないで会えたな...…。携帯電話を持ってたから電話は使えるけど。

 

「おーい、遅かったなー」

「お前が早いだけだろー!というか集合場所も決めてないのに会えるわけないだろ!今、横断歩道渡るから待っとけー」

 

 そう言って信号が青になった時に横断歩道を歩いた。

 にしてもあの子は何処かで、そう言えば東方のキャラに.....そうだ!思い出した!なんで今まで忘れてたのだろうか。.....あ、名前が思い出せない。

 俺が好きなキャラだった、はずだ。多分。本物みたいだったのに、追えばよかった。追ったところで何をすればいいのか分からないけど。.....にしても、やっぱり記憶に靄でもかかっているか? 名前が全然思い出せない。

 なんだったかな? えーと、確か名前は────

 

「おい! ──!聞こえてるのか!? ──!今すぐそこから───」

「えっ?」

 

 考えている最中に親友が叫ぶ声がした。だが、遅かった。俺は何かにぶつかった。そして目の前が真っ赤になり、全身が痛む気がした。──意識がはっきりしない......。俺は何にぶつかったのか? 俺は、何故意識がはっきりしないんだ? 俺は.....どうなったんだ?身体が動かない。あれ? 腕の......足の感覚がない。あ、車のブレーキ音が聞こえた。

 やっと理解出来た。

 ......あぁ、きっと俺は車かなんかにぶつかったのかな......。

 

 そう気付いた時にはもう遅い。あの子のことで考え事をしなければ、あいつの叫び声にもっと早く気がつけば......。そんなことを考えながら俺は最後に目を閉じた。目を閉じた時に聞こえたのは誰かの泣き叫ぶ声と悲鳴だった。

 

 ──今日は......俺が死んだ日だ───

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして......次に目を開いた時に見え、聞こえたのは─────

 

 誰かが俺をのぞき込む姿、誰かの産声。.....その産声が俺.....いや、私の声だと気付くのはそう遅くなかった。.....気付いたことで理解した。

 

 

 

 ──今日は......私が生まれた日なんだ......と──




短いのでこれからはもう少し増やせるように頑張ります。


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1章「スカーレット家の次女」
1、「そして、私が生まれた日」


前よりは少し長め。毎回6000文字をキープできたらな...って思ってますので頑張ります。


 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館

 

 とある少女が紅魔館──吸血鬼が住む館──の廊下を歩いていた。姿は2、3歳の子供、水色の混じった青髪に真紅の瞳。ナイトキャップを被っており、色は白の強いピンクで、周囲を赤いリボンで締めている。結び目は右側で、白い線が一本入っている。 衣服は、帽子に倣ったピンク色。それには細い赤い線が幾つか入っている。両袖は短くふっくらと膨らんでおり、袖口には赤いリボンを蝶々で結んである。左腕には赤線が通ったレースを巻いている。 それに小さなボタンで服を真ん中でつなぎ止めている。腰のところで赤い紐で結んでいる。その紐はそのまま後ろに行き、先端が広がって体の脇から覗かせている。 スカートは踝辺りまで届く長さ。これにもやはり赤い紐が通っている。

  その少女が人間ではないことはひと目でわかる。何故なら、その少女の背中からは大きな蝙蝠のような翼が生えているからである。ここは紅魔館、吸血鬼が住む館......要するにこの少女も吸血鬼だ。

 

 

 今日ほど嬉しいことはこれから先もないだろう。...少し言い過ぎかな。でも、そのくらいのことが今日にある。

 何故なら今日はレミリア・スカーレット(わたし)の3回目の誕生日。それと同時に.....私の初めての妹が産まれる日だ!

 起きてからすぐに部屋に執事長がやって来て

 

「レミリアお嬢様、妹様がもう少しで産まれるとのことなので、私に着いて来てくださいませ」

「え!?いよいよなのね!わたし、たのしみだわ!」

「えぇ、そうで御座いますね。」

 

 と言われてから今は執事長と一緒にお母様がいる部屋に向かっている。

 

 こんなに嬉しいことは今までなかった。......と言っても三年しか生きてないのだけど。

 ......この三年間、私は今まであまり楽しむことが出来なかった。何故なら、同年代の友達がいない。......人間なら同年代でも見たことあるけど、とても人間とは友達になれるとは思えない。......なれるなら、人間とだって友達になってみたいけど。

 それと...私は長女、姉はいない。だから姉妹が出来るのも初めてで、姉妹と遊ぶことも出来なかった。

 

 ......だから、そのせいで不安もある。

 姉としてしっかり出来るか...妹と私は仲良くなれるか......私のことを嫌いになったりしないか...姉としてしっかり出来るか…という不安が...。

 ......そう考えているうちにどんどん部屋へと近付いていく......。

 

「......お嬢様、大丈夫ですか?」

「だ、だいじょうぶよ」

 

 そんな時に執事長が話しかけてきた。......やっぱり、顔に出てたかな。

 

「.....あまり思い詰めてはいけません。お嬢様、今日産まれる妹様はお嬢様の妹です。

 おそらく......いえ、間違いなく仲良くなれるでしょう」

「も、もちろんよ。わたしが、あねなんだから......あねとして、しっかりやるわよ。」

「......頑張ってください。困った時は私に何でもご相談ください。」

「......しつじちょう、ありがとうね」

 

 本当に、姉として......スカーレット家の長女として、しっかり妹の面倒を見れるかな......。

 

「レミリアお嬢様、着きました」

「.....えぇ」

 

 そんなことを考えてるとお母様が居る部屋に着いた。......お母様とお父様の声がする。......もう、産まれているのかしら?

 それにしても.....考え事をしていたせいか、不安のせいか......そのせいで緊張する。緊張して、部屋の扉を開けることが出来ない.....。

 

「......私がお開けしましょうか?」

「......すぅ〜、はぁ〜.....いえ...だいじょうぶよ。わたしがあける」

 

 ......不安と一緒に.....私を慕ってくれるかもしれないという期待もある。.....だから、大丈夫。きっと大丈夫。妹は私と仲良くなってくれる。そう思って一度深呼吸した。

 それに......まずは、会ってみないと始まらないわよね。

 

 色々と不安はある.....けど、最終的には勇気を振り絞って、私はその扉を「コンコン」と叩いた。

 

「わたしよ。レミリアよ。」

「おぉ、レミリア、早く入ってくるんだ! お前の妹が産まれたぞ!」

 

 すると、嬉しそうなお父様の声が聞こえてきた。

 

「えっ!? もう!?」

「ん? どうしたのだ?」

「...いえ、なんでもないわよ。いまはいるわ」

 

 ......それにしても、もう産まれたのね。産まれる瞬間って見たことないから少し見たかったけど......そんなことより早く入ろう。そう思い、ようやく扉を開けた────

 

 

 

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──時間は少し遡って紅魔館

 

 ......どういうことかよく分からない。ここは何処だろう?自分らしき産声に、多分、親らしき顔を見た......。というか現在進行形見えてる。というか産まれたばっかりって......殆どボヤけて形も確認出来なかった気が......でも、形はある程度見えるし......うーん......まぁ、いいや。

 それにしても......多分、転生......?というのをしたのだろう。そのせいか、記憶が殆ど無いけど......確か、車に轢かれて......死んだはずだ。でも、何か考えてたはずなんだけど......なんだったかな? それに......死んだ記憶? 以外には殆どなにも思い出せないし......。というか好きだったゲームとかは思いだせるってなに!? 他にも重要そうな記憶とかあるでしょ!? ......はぁ、誰に怒ってるんだろう......。まぁ、いいや。

 

「レナータ、お母さんですよー」

「おや、結局名前はレナータにしたのか?」

「えぇ、女の子ですしね」

 

 あ、やっぱり名前違うね。名前からしてここは外国なのかな? それと転生したのは......あれ? 女の子? マジですか?.....あっ、うん。本当みたいだけど別にいっか。というか記憶もそうだけど、前世の名前も性別も曖昧だしね。一人称が俺だった気がするけど......俺っ娘っていう可能性も......ありそうだけどないか。名前に至っては全然思い出せない。なんか靄がかかってるみたいに......。

 

「んー......やっぱり跡継ぎのことも考えて男の子が良かったが......」

「あらあら、それはレナータに失礼ですよ?」

「あーうー」

「ほら、レナータもそう言ってますよ」

「あ、あぁ、ごめんな、レナータ」

 

 あ、やっぱり普通には喋れないみたいだね。それにしても跡継ぎってことは......社長かなにかかな?でも、外国だし他の可能性もあるか......。

 

「それにしても......髪や翼が血を浴びたみたいに真っ赤だな。翼は端にいくにつれて俺達みたいな色になっているが...…。まぁ、綺麗だからいいか......」

「私達の髪色は黄色と青なんですけどね...。あ、そうだわ。ずっと昔...私達の先祖の方に赤色の髪の方でもいたのでしょう」

「あぁ、きっとそれだな」

 

 へー、真っ赤なのかー。それにしても髪や翼が真っ赤とか珍しいなー......って、翼ってなに!?確かに背中になんかある気がしてたけど! え? 本当に人間だよね? もしかして鳥かなんかなの!? え、でも手足の感覚はあるし......人間の突然変異かなにかなの!?

 ......はぁ......さっきからツッコミすぎて疲れるわ......。そもそも私は誰に言っているのだろうか......。

 

「コンコン」

 色々と考えている時に扉を叩く音がした。

 

「わたしよ。レミリアよ」

「おぉ、レミリア、早く入ってくるんだ!お前の妹が産まれたぞ!」

 

 あ、私って姉いるのね。......って、え?レミリア?......いや、まさかねぇ......。

 

「えっ!? もう!?」

「ん? どうしたのだ?」

「...いえ、なんでもないわよ。いまはいるわ」

 

「ガチャ」と音がして、二人分の足音が聞こえる。......二人分? レミリアって人と......誰だろう? ま、いいや。

 ......にしても、赤ちゃんって足音聞こえるくらいに耳がいいのね。知らなかった。

 

「あ、執事長、もうすぐしたらパーティーの用意をしてくれないか?今日はレナータが産まれた日、それと......レミリアの誕生日記念だ」

「はい、承知しました」

「え!? パーティー? やったー! わたし、たのしみー。

 あ、わたしのいもうとはどこ?」

「良かったわね。

 そうそう、レミリア、この子がレナータよ。レナータ、この子がレミリア......貴女の姉よ」

「レナータ!わたしがレミリア、あなたのあねよ!よろしくね!.....カワイイわね。それと......わたしとちがって、かみがまっかなのね。あ、つばさも。カワイイからきにならないけど...。」

「あぁ。赤い色とか不思議だろ? レミリアや私達は普通なんだけどな...。」

 

 

 うん、翼の説明が欲しいです。レミリアに翼......あれはゲームのはずだし......やっぱり違うよね。なんだろう......。それにしても喋り方や声的にレミリアって五歳いってないくらいだよね? そのくらいって普通に血を浴びたみたいとか言うものだっけ?......もしかして、本当にあのレミリア?

 

「うー...あーうー」

「あ、しゃべってる。......カワイイね」

「レミリアの時はあまり喋らなかったんだけどな......」

「たまたまこの子がよく喋るってことでしょう?」

 

 まぁ...一応、前世の記憶があるしね...。

 

「レナータ、わたしをみてるみたいね」

「お姉ちゃんが好きなんじゃないかしら」

「え! レナータ、ほんとう!?」

「うー」

「うん、ってことかな? ......ふふふ」

 

 あ、なんかめっちゃ喜んでいる気がする。嬉しかったのかな? ......前世に兄弟とかいなかったから分からないけど。......でも、嬉しそうで何よりだね。

 

「御主人様、準備が出来ました」

「流石だな。...レナータと初めての食事だな」

「そうね。レナータ、じゃあ、行きましょうね」

「わーい。わたしはレナータのよこね!」

「えぇ、いいですよ」

「あまり騒ぎすぎな.....いや、折角だからいいか」

「やったー!」

「良かったわね」

 

 パーティーか......多分、料理って血が入ってるよね? というか絶対吸血鬼だよね? レミリアとか翼って...ここは別次元って解釈でいいのかな......。

 

 こうして、そんなことを考えている私に誰も気付くはずもなく、この世界で初めて生を受けた一日は終わった────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館

 

「ガチャ」と音をならして部屋に入って行った。

 

「あ、執事長、もうすぐしたらパーティーの用意をしてくれないか? 今日はレナータが産まれた日、それと......レミリアの誕生日記念だ」

「はい、承知しました」

 

 部屋に入るとお父様がそう言った。パーティーかぁ......私が産まれた時にもやったらしいけど......小さかったからかあまり憶えていない。だから、初めてやるのと変わらないから楽しみだ。......あ、私の妹は何処だろう?

 

「え!?パーティー?やったー!わたし、たのしみー。

 あ、わたしのいもうとはどこ?」

「良かったわね。

 そうそう、レミリア、この子がレナータよ。レナータ、この子がレミリア...貴女の姉よ」

「レナータ!わたしがレミリア、あなたのあねよ!よろしくね!.....カワイイわね。それに......わたしとちがって、かみがまっかなのね。あ、つばさも。カワイイからきにならないけど......」

「あぁ。不思議だろ?レミリアや私達は普通なんだけどな...。」

 

 真っ赤な目に髪は血みたいに濃く、翼の赤い部分はまるで正面から血を浴びたみたいに付け根の部分が真っ赤で、翼の先にいくにつれて私と同じような色になっている。だが、同じような色でも、所々に血が飛び散ったみたいに赤い斑点がついている。......それにしても、真っ赤な髪ね......綺麗だわ。私達、吸血鬼は鏡に写らないから自分の姿は分からないけど......私に似ているのかな?

 

「うー...あーうー」

「あ、しゃべってる。......カワイイね」

 

 もしかして...私を見てるのかしら?

 

「レミリアの時はあまり喋らなかったんだけどな......」

「たまたまこの子がよく喋るってことでしょう?」

「レナータ、わたしをみてるみたいね」

「お姉ちゃんが好きなんじゃないかしら」

「え! レナータ、ほんとう!?」

「うー」

「うん、ってことかな? ......ふふふ」

 

 嬉しい......そして、良かったと思った。これで不安が消えた。後は......姉としてしっかりお手本になるように頑張らないと......。

 

「御主人様、準備が出来ました」

「流石だな。......レナータと初めての食事だな」

「そうね。レナータ、じゃあ、行きましょうね」

「わーい。わたしはレナータのよこね!」

「えぇ、いいですよ」

 

 レナータに嫌われたくない。そんなことよりも......レナータが好きという気持ちが大きいから横に居たかった。可愛いし、赤い髪が綺麗だし......何より、私のたった一人の妹......だから、レナータが好き。

 

「あまり騒ぎすぎな.....いや、折角だからいいか」

「やったー!」

「良かったわね」

 

 今日はレナータが産まれた日...そして、私の誕生日。

 ......今日は今までで一番楽しい日になった。




いよいよ、始まった本編。序章は短すぎたね。


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2、「姉妹の不安と決意」

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館

 

 私がこの世界に生まれてから一年半経つ。まだしっかりと喋ることも出来ないし、満足に飛ぶことも出来ない。ま、道具とかを使わないで飛ぶなんて普通出来ないけど。やっぱり、吸血鬼って凄いなー、なって良かったなー。

 ......食事に絶対人間の血が入ってることを除けば...…。やっぱり、前世が人間だったせいかまだ抵抗がある。......美味しいけど。自分でもビックリするほど美味しかったよ。人によって血の味って変わるんだね。はぁ......多分、人間と吸血鬼の味覚とかって違うんだろうなーって思った。もう、前世に戻っても普通に暮らすことは出来なくなったわ......。血液依存症とかになってると思う。まぁ、味覚変わるだろうからすぐに無くなるだろうけど。

 

 それにしても、この一年半で色々と分かった。まず初めにやっぱりここは東方Projectの世界だと思う。私の前世に吸血鬼とかいなかったし、何よりも、姉があのレミリア・スカーレットだ。レミリアの服装とか殆ど同じだし、顔も完全に同じだった。見た目はまだまだ子供だったけど......今世では一歳と半年しか生きていない私が言えることでは無いけど。

 

 レミリア・スカーレットとは東方Projectの登場人物でwin版での初めての異変......「紅霧異変」を起こした張本人で紅魔館の主。妹が一人、フランドール・スカーレットがいる。......あ、私が生まれたから妹が2人になったけど。能力は「運命を操る程度の能力」......あまり原作で使ってなかったと思うからどんなことが出来るかは知らないけど。確か、紅魔館に隕石が落ちるのを知って、フランに壊させたってことがあったと思うから......未来予知的なことが出来るのかな?まだ本人から能力については聞いていないから詳しいことは分からない。

 それと、性格は優しい。あれ? 天使かな? って一瞬勘違いしたくらいだ。まぁ、悪魔なんだけど。

 妹である私の部屋──隣の部屋だけど──にほぼ毎日来るし、面倒をずっと見てくれるし......とにかく優しい。

 

 他に分かったことと言えば......私には妖怪が持つ妖力以外にもほぼ同じくらいの魔力を持っているらしい。フランも吸血鬼だけど魔法少女らしいからあまり凄いと思わないけど。......もう少し大きくなったら魔法の研究でも始めようかな。幸いにもここには大きめの図書館があるし。多分、魔法関連に書物があるだろう。それに、魔法が使えたら色々と便利だろうし。......紫の「スキマ」みたいな感じのが欲しいから研究してみよう。

 

 それと......わたしが今世に生まれたことによってフランが生まれないとかの可能性はなくなった。今のレミリアは四歳と半年......五歳の時にフランが生まれるはず。そして、今、今世のお母様のお腹の中には赤ちゃんがいる。おそらく......というか絶対フランだろう。それを初めて知った時──妹が出来るというのもそうだけど──フランが生まれない可能性がなくなって本当に嬉しかった。......私が生まれた代わりに生まれないとか最悪だしね。

 ......でも、最近、お母様の体調が悪いみたい。フランがお腹の中に出来てかららしいけど......フランとお母様、大丈夫なのかな......。

 

 ちなみに、今は私の飛ぶ練習をしている。今世のお父様とレミリア(お姉様)が練習に付き合ってくれてる。お母様は体調が悪いので休んでいるみたい。お姉様は既に飛ぶことが出来るらしいから練習に付き合ってくれてるらしい。......やっぱり、お姉様は偉大です。今まで..というか前世には兄弟や姉妹がいなかったと思うからより一層、嬉しく感じる。

 それにしても......

 

「レナ、飛ぶ時は翼に妖力を集めることをイメージするんだ。そして、自分は飛べる! って思い込むことが大切だ。やれるか?」

「うん...…」

 

 ......一つだけ言わせてください。まだ私は一歳と半年しか生きていないんですが。それに、飛ぶ練習を始めたのは一歳だったし......。いや、歩きはじめたのは8ヵ月くらいと早めだったけど。それでも1歳から飛ぶ練習をするものなの!? 早くないですか!? なんか全員当たり前みたいな顔をしてるからそうなんだろうけど! ......それにしても妖力がまだ分からないですわ。なんか身体中に力っぽいのが巡ってるみたいな感じなのは分かるけどさ。

 ちなみに、レナと呼ばれているのはただ単に呼びやすいかららしい。まぁ、レナータよりはレナの方が確かに呼びやすいかな。

 

「大丈夫よ、レナ。レナは私の妹だから絶対に飛べる。......ね? そうでしょう? だから、自分を信じて飛んでみて」

「おねーさま...うん!」

「お、おや? 俺の時よりも返事が良くないか?」

「きのせいー」

「そうね。お父様、気のせいよ」

「な、なら、いいのだが......」

 

 お姉様の言う通りに自分を信じないと......え? お父様? 知らない。

 ふぅ......冗談は置いといて取り敢えず一回やってみるか。

 ......目を瞑ると自分の中にある妖力が翼にも流れているのを感じる。翼に力が巡るのを感じる。

 

「すぅー......はぁー......」

 

 一度、深呼吸をしてから翼を動かしてみる。上に......下に......それを繰り返し行う。あ、地から足が離れたのが分かった。......あれ?もしかして飛べてる?

 

「おぉ! 良くやったな! レナ!」

「流石私の妹ね!」

「と、とべてる?」

「そうよ。下を見てみなさい」

 

 お姉様にそう言われて下を見てみる......。あ、3mくらい浮いてるわ。......翼を動かすのをやめないでおこう。この高さからでも落ちたら1歳半の私は怪我をするだろうし。.....あ、もっと高くなったわ。

 

「れ、レナ? 飛びすぎよ?」

「ま、まさか、降りる時のことを知らないのか? 少しずつ翼に流している妖力を下げるだけだ。それか、翼をゆっくり動かせばいいんだ。大丈夫......空を飛ぶことが出来たレナなら大丈夫だ」

「う、うん!」

 

 言われた通りにやってみる......けど下がるどころか上がっているんですけど! めっちゃ怖いんですけど! もう15mくらい上に上がっているんですけど!

 

「はぁ......仕方ないわね。レナ! 今から行くから少し待ってなさい!」

「う、うん!」

 

 そう言った後、すぐにお姉様がすぐ隣まで飛んできてくれた。......流石、私のお姉様。私のためにここまで飛んできてくれるなんて、優しすぎる。

 

「大丈夫よ。私を信じて。私の翼の動きに合わして貴女が翼を動かせば大丈夫だから」

「......うん」

 

 そう言ってお姉様は自分の翼を動かしてみせた。......真似をしたらゆっくりと地面に近付いていく。......さすがお姉様! 私達にできないことを平然とやってのけるッ、そこにシビれる! あこがれるゥ!

 ......本当に言いそうになった。それくらい凄いです。お姉様。

 

「ね? 大丈夫だったでしょう?」

「うん! ありがとー! おねーさま!」

「ふふ、どういたしまして」

 

 地面に降りれた時にお姉様が言ってくれた。......本当にありがとう、お姉様。

 

 

 

 

 

 ──それから少し経ったある日──

 

 飛ぶことが出来てから約半年が経った......。あれからも飛ぶ練習は続けている。と言っても、そこまで上手くはなっていないけど。お父様よりもお姉様に教えてもらう方が上達するのが早いらしく、最近はずっとお姉様に手伝ってもらいながら空を飛ぶ練習をしている。

 

 それと......もうすぐするとフランが産まれるらしい。......それと同時に、お母様の体調も悪くなっている......。お父様はお母様を心配してか、最近はずっとお母様と一緒にいる。

 お姉様もお母様のことを心配して、少し元気がない。......私がどうにかしてお姉様の元気を取り戻さないと......。

 と言ってもどうするか全然思い付かなかったから今はお姉様の部屋に来てお姉様の能力......「運命を操る程度の能力」について教えてもらっている。......お姉様が能力について話している時は少し元気が戻っている気がするからお姉様の部屋に来て正解だったと思う。

 

「......で、分かったかしら?」

「うーん......もういっかいおしえてー」

「はぁ......仕方ないわね」

 

 説明している時は少し嬉しそうだからこっちも嬉しくなってもう一度聞いてしまった......。でも、仕方ないわね......と言いながらも嬉しそうに話してくれるから良かった......。

 

「もう一度、一から説明するわよ。......私の能力はね、運命を操る程度の能力なの。運命を操ると言っても......そうねぇ。例えば勝負をした時に私が絶対に勝つなんて運命にすることは出来ないわ。操るためには一定以上の確率が必要なの。それに、操っても確率を上げることくらいしか出来ない。だから、絶対に勝つというのは出来ないわ。

 ......その代わりに、例えば一週間後、ここに人間が攻めてくるとして、その人間の運命を操り、来させないことは出来なくても、遅くすることは出来るの。少し運命を弄って二週間後に変えるってことは出来るわ。絶対に来ないことは無理でも、遅らせることは出来るってことね。

 他にも、他人の運命を見ることで少し先の未来を擬似的に見ることが出来るわ。…と言っても未来には幾つもの運命...可能性があるから必ずしも見た未来になるとは限らないし、未来は選択した行動で変わるから毎回見ようとする度に見ることが出来る未来は変わるの。

 ......今度は分かったかしら?」

「うん!ありがとー、おねーさま!」

「......ふふ、どういたしまして。」

 

 ふむふむ......なんとなく分かったけど結構難しいのね。それにしても...嬉しそうに微笑むお姉様ってカワイイ......はっ! 危ない危ない......理性がとびかけていた...。流石に、今はお姉様の部屋でお姉様と二人っきりだと言っても......ねぇ?

 

「?......そう言えばレナ、貴女は自分の能力は分かったのかしら?」

「え?わたしの?」

 

 ちょっと考え事をしているとお姉様が話しかけてくれた。......あ、最初に首をかしげてたからさっきの顔に出てたかも。

 

「そう。貴女の能力よ。私はなんとなく......こういうのが出来るってことが分かったから貴女にも分かるはずよ。......もう少し時間がかかるかもしれないけど。」

「んー......」

 

 んー、私自身の能力か......。そう言えば考えてなかった。自分にも何か出来るのかな?

 

「慌てなくても大丈夫よ。私もこの能力が分かったのは最近だのも。貴女もいずれ分かる日が来るわ」

「うん! 分かった!」

 

 あ、お姉様も最近分かったのね。......私の能力......か。一体どんな能力なんだろう? まぁ、無いって可能性もあるけどね。お父様には無いみたいだし......。現時点で能力を持ってるって分かったのはお母様とお姉様だけ......。

 ちなみに、お母様の能力は何かを代償として何かを制限することが出来るらしい。能力とかにでも使えるけど能力を制限するのに必要な代償は結構大きいらしい。だから、あまり使わないとか。

 

「コンコン」

 

 お姉様と話をしていると誰かが扉を叩く音が聞こえた。

 

「レミリアお嬢様、私です」

「あら? どうかしたの? 入っていいわよ」

 

 そう言って入って来たのは執事長だった。この執事長は私やお姉様が産まれるよりも前から仕えているらしい。今年で30年くらいになるとか。

 

「失礼します。おや、レナータお嬢様もこちらに居ましたか。

 レミリアお嬢様、レナータお嬢様。もう少しで妹様が産まれるとのことなので私についてきて下さい」

「あ、もう産まれるのね!」

「いもうと!?」

「そうよ! レナ、私達の妹よ! レナも今日から姉になるのよ! 良かったわね!」

「うん!」

 

 そう言って私達はお母様がいる部屋に向かって行った。

 それにしても、やっとフランが産まれるんだ!楽しみだなー。......でも、大丈夫かな? フランって確か......情緒不安定で気がふれているからとかいう理由で495年間......というか産まれてからずっと地下に閉じこめられていたか閉じこもっていたんだよね......。

 それに......お母様の体調も最近悪いし。そのせいか最近......お母様とあまり会えないし。

 ......でも、私がこの世界に生まれたから未来も変わっているはず......。フランが495年間も閉じ込められることがなくなるかもしれない......。

 

「レミリアお嬢様、レナータお嬢様。着きましたよ。この部屋で御座います」

「あら? 案外早く着いたわね。レナの時はもう少しかかったと思うけど」

「前の部屋は改装中で御座いますので......」

「あら? そうなのね」

 

 ......あ、誰かの声......多分、お母様とお父様の声が聞こえる。あ、赤ちゃんの声もだ! よし! やっとフランに会える!

 ......あれ?でもなんで小声なんだろう? 産まれたのなら喜んで大声の方が多いはずだし、小声はあまりないよね? ......何かあったのかな?

 

「コンコン」

 

 そう考えているうちに執事長がノックした。

 

「ご主人様、入ってもよろしいですか?」

「ん? 執事長か? ......レミリアとレナータはいるか?」

「はい、勿論でございます」

 

 ......え?どうしたのかな? ......明らか雰囲気が普通じゃないよね。......え? フランは大丈夫だよね?

 

「......そうか。執事長、レミリアとレナータに話があるから先に俺の部屋に連れて行っててくれ」

「...承知しました」

「え? 私達の妹は?」

「......大丈夫だ。その前に話をする必要があるのだ。だから、俺の部屋に行っておくんだ」

「......分かったわ。レナ、行こっか?」

「う、うん......」

 

 ......やっぱり、何かあったみたいだ。大丈夫って言ってるけど......本当に大丈夫だよね?

 

「......レナ、大丈夫よ。心配なのは分かるけど......お父様の言う通り、部屋に行きましょう?」

 

 顔に出てたのかな? お姉様に不安なのがバレちゃった......。お姉様も心配なはずなのに......私のことを心配してくれるなんて......。

 

「......うん、わかった」

 

 それでも......やっぱり、お姉様も私みたいに不安がいっぱいなんだと思う。......私と違ってこの先の出来事が分からないから......。能力を使って見ることが出来ると言ってもまだあまり使いこなせていないみたいだし。

 

 私が......お姉様とフランを守らないと。この先......「紅霧異変」までに何があるかは知らないけど......。それでも大体のことは察しがつくと思う。だから......だからこそお姉様とフランをこれからも守っていかないと。

 

 私は......そう心に誓ってお父様の部屋に向かった────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

「コンコン」

 

 レナと話をしていると誰かが扉を叩く音が聞こえた。

 

「レミリアお嬢様、私です」

「あら?どうかしたの?入っていいわよ」

 

 そう言って入って来たのは執事長だった。......レナが産まれた時もこんなことがあったような......。あ、ってことはいよいよ...

 

「失礼します。おや、レナータお嬢様もこちらに居ましたか。

 レミリアお嬢様、レナータお嬢様。もう少しで妹様が産まれるとのことなので私についてきて下さい」

「あ、もう産まれるのね!」

 

 やっぱり、私にとっては二人目の......レナにとっては初めての妹が出来るんだ! お母様が体調を崩したって聞いた時は不安でいっぱいだったけど、妹が産まれたらお母様も元気になるだろう。

 

「いもうと!?」

「そうよ! レナ、私達の妹よ! レナも今日から姉になるのよ! 良かったわね!」

「うん!」

 

 レナも喜んでいる。やっぱり、初めて出来る妹は誰でも嬉しいみたい。私もレナが産まれるって聞いた時は凄く嬉しかったし。レナが返事をした後......私達はお母様の部屋に向かって行った。

 

「レミリアお嬢様、レナータお嬢様。着きましたよ。この部屋で御座います」

「あら? 案外早く着いたわね。レナの時はもう少しかかったと思うけど」

「前の部屋は改装中で御座いますので......」

「あら? そうなのね。」

 

 改装中なんて初めて聞いたけど......。それにしても...中から喜んでいる声とか全然聞こえない......。小さな声はするから絶対、中にお父様とお母様はいるはずなんだけど......。

 

「コンコン」

 

 そう考えているうちに執事長がノックした。

 

「ご主人様、入ってもよろしいですか?」

「ん?執事長か? ......レミリアとレナータはいるか?」

「はい、勿論でございます」

 

 ...嫌な予感ってなんで当たるのかしらね。レナ......大丈夫かしら?

 

「......そうか......執事長、レミリアとレナータに話があるから先に俺の部屋に連れて行っててくれ」

「......承知しました」

「え? 私達の妹は?」

「......大丈夫だ。その前に話をする必要があるのだ。だから、俺の部屋に行っておくんだ」

「分かったわ。......レナ、行こっか?」

「う、うん......」

 

 レナの方を見ると顔が不安でいっぱいになっていた。......私がしっかりしないと......。でも、私も不安でいっぱいになりそう。

 レミリア! レナが産まれた時に姉としてしっかりするって決めたじゃない!

 自分にそう言い聞かせてレナに言った。

 

「......レナ、大丈夫よ。心配なのは分かるけど......お父様の言う通り、部屋に行きましょう?」

「......うん、わかった」

 

 ......まだ不安は残っているみたいだけどレナの顔から少し......本当に少しだけど不安が消えた気がした。

 ...これから何があってもレナは傷付けさせないようにしないと......。レナは......繊細な子みたいだし。

 私が......姉として、何があってもレナを──出来ればもう一人の妹も──守る。

 

 私は今日......そう心に誓って、お父様の部屋に向かった────




ちょっと今の投稿ペースではクリスマス等の話をクリスマス等の記念日に番外編として投稿出来そうにないので更新ペースを上げます。
ということで投稿予定は毎週日曜日に一つ。それと月~土曜に不定期で一つ以上にします。

追記
編集して思ったこと。こんなネタあったんだと思いました。そして、何故か恥ずかしくなった()
それと、またネタ多めにしたいなぁ、と思いました。

そして、誤字報告ありがとうございますm(_ _)m


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3、「狂気の妹と一つの希望」

いよいよ分かるかもしれないレナータの能力。
因みに毎日一時間くらい飛ぶ練習をしてるらしい。


 side Renata Scarlet

 

 お姉様と一緒にお父様の部屋に来た。...執事長はお父様のところに行ったみたい。

 

「おねーさま、わたしのいもうととおかーさまはだいじょうぶかな......?」

「......レナ、大丈夫よ。だから、そんな顔しないで。私がついているから......ね? 心配しないで」

「おねーさま......うん、わかった。わたし、だいじょうぶ」

 

 やっぱり、私って感情とかが顔に出やすいのかな......。お姉様にはすぐにバレちゃう。でも、やっぱり、姉妹だよね。お姉様のこともだいたい顔で分かるよ。私に心配をかけないように強そうに振舞ってるけど......お姉様もやっぱり心配なんだよね。

 

「......おねーさまも、むりしないで」

「レナ......私は大丈夫よ。......心配してくれてありがとうね」

 

 少しはお姉様も元気が戻ったみたい。と言っても本当に少しだけみたいだけど......。お母様や妹......フランに会えないし、お父様の部屋に来たってことは何か話があるに決まっている。......多分、フランとお母様のことで......。

 

 お父様の部屋でしばらく待っていると、「コンコン」と扉を叩く音がして、お父様がやってきた。......お母様と私の妹(フラン)はいないみたいだ。

 

「レミリア、レナ......居るみたいだな。お前達に話がある。分かっていると思うがお前達の妹と母のことだ」

 

 案の定だった。お姉様も私も口を挟まずに聞こうとする。

 ......多分、その話とはフランがこれから495年間もの間......地下に閉じこもるか閉じ込められることに関係するんだろう。

 

「......お前達の妹はとてつもない能力を持って産まれてきた。その能力とはおそらく全てのものを『破壊』することが出来る能力だ。......お前達に実際に見せることは──危険すぎるから──出来ないがな。

 そうだな。まず初めにお前達の妹......フランドールについて話そう」

 

 やっぱりフランだ。......ここまでフランと思ってたのに違ったらビックリするどころか私のせいで生まれなかったってことで発狂して死にそう。

 ......フランドール・スカーレット。原作でも出てくるキャラだ。悪魔の妹と言われ「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」を持っている。情緒不安定で気がふれているという理由で495年もの間......地下にいたらしい。

 原作での出番は少なく、あまり情報がない。だから性格とかもあまり知らないキャラだ。と言っても人気は結構あるみたいだけどね。

 

「勿論、フランドールというのは今日生まれたお前達の妹だ。......今はあいつ、お母さんと一緒にいる」

「......お母様とフランは何処にいるの?」

「今は二人とも地下にいる。......今のフランドールは幼すぎるせいか、能力が制御出来ない状態だ。だから......母さんの能力で能力を使うことを制限しているんだ。地下にいるのはフランドールの能力がいつ暴走してもいいように......だ」

 

 お母様の能力、「何かを代償として何かを制限する程度の能力」......確かにそれならフランの能力を抑えれる。それに、お母様の能力の範囲は一つか一人の代わりにお母様が生きている限りは自分で能力を切らない限り永続する。

 ......でも、あれを能力に使うのは代償が大きい。しかも、フランの能力は「ありとあらゆるものを破壊する程度の能力」......人一倍強力だろう。そんな能力が暴走なんてしたら代償は......おそらく自分自身の命とまではいかなくても......かなり膨れ上がるだろう。

 

「......大丈夫なの? お母様は......」

「......今は大丈夫だ」

「いまは?」

「あぁ。今は......だ。......お母さんがフランドールの能力を制限しているのに使った代償は......自分の寿命と健康だ。

 それも、能力はフランドールがお腹の中にいる時くらい──正確に言うと半年以上前──から使っている。お母さんの能力は使うと対象の大体の能力が分かるからな。......使うのにも代償がいるから普段は使わないが......フランドールがお腹の中にいる時に嫌な予感がしたらしい。それで使った結果がこれだ......。まぁ、生まれた時に分かるよりかはマシだがな......」

 

 確かに生まれた時にお母様やお父様......それにお姉様の誰かが「破壊」されて分かるよりかはいいよね......。

 私に何か出来ることはないだろうか...…。少しでも力になれることはないだろうか......。あるとしたら......一つだけあるかもしれない。それは......私の能力を使うということだ。

 

「最近、お母様の元気がなかったのもそのせいだったんだ......」

「レミリア、レナータ......あいつは......お母さんは自分が長く生きるよりも娘が......フランドールが生きる道を選んだんだ。......俺もそれでいいと思っている。親よりも子が先に死ぬなんて見たくないからな。だから......分かってくれるか?

 フランドールが俺達()よりも長く生きて......フランがこれから先、能力を制御出来る可能性があるのはこの方法だけなんだ」

「そ、それでも......他に方法はないの!?」

 

 ......でも私の能力でどちらも......片方でさえも助けれる可能性はかなり低い。......自分でもどんなのか分からないし。そもそも無いかもしれない。だから出来る可能性はかなり低い......。

 

「......おそらく、ないだろう。それに、もし、能力を制御出来るまでにお母さんが死んだら......もし、制限するのを止めたら......フランドールを殺さないといけなくなるだろう。だからこそ、これしか方法がないんだ。フランドールが長く生き、能力を制御することが出来るかもしれない未来は......」

「そ、そんな......お母様は.....い、いつまで生きれるの?」

「長くて50年。短いと......10年くらいだろう。お母さんの能力は何を代償にするかは分かっても......どのくらい代償に必要なのかは分からない......。だから、詳しい時間は分からない......」

「10年......? な、なんでそんなに......うっ、うぅ......グスッ......」

 

 お姉様が泣きそうになっている。そうだよね。お母様が普通よりも早く死ぬかもしれないんだし......。

 ......私だって、もっと長くお母様と一緒にいたい......。それなのに......あ、あれ? 私も泣いてるのかな......目の前が......霞んで見え──

 

「う......うっ......うわぁぁぁぁん!!」

「あっ......れ、レナ......大丈夫よ。大丈夫......」

「グスッ......お、おねぇさまぁ!」

 

 お姉様は私を抱きしめながら頭を撫でてくれた。......お姉様、いい匂いがする......。ありがとう、お姉様......もう大丈夫だよ。

 何故か前世と違って感情を制御するのが苦手らしい。お母様がいなくなることを考えてしまい......胸の中が不安でいっぱいになった。そして、泣いてしまった。

 ......でも、お姉様がいるからもう大丈夫。そう自分に言い聞かせて泣くのをやめようとする。......でも、やっぱりすぐに泣き止むことは出来ないみたいだ。

 

「レナ......安心して、私がいるから。それに、お母様はすぐに死ぬわけではないのよ? ......少なくても10年は一緒にいれる。だから、安心して......ね?」

「グスッ......うっ、うん」

 

 お姉様のお陰で少し気分がマシになった。...…今の私は、お姉様がいないと私って何も出来ないかもね......。お姉様のためにも、フランのためにも......もっと頑張らないと...。

 

「......そうだわ。お父様、お母様とフランに会えないかしら?」

「会えることには会えるが......危険が付き纏うぞ? ......いや、もう少し成長してからの方が危険か......。

 そうだな......いいだろう。ただし、俺が危険だと思ったらすぐに戻すからな。いいな?」

「大丈夫よ。......それに......フランには姉として、家族として一度は会わないと」

 

 ......フランに会いにくかどうか。勿論そんなことは決まっている。......もし、それで私が死んだとしても......これから先の未来......「原作」にさほど影響は無いだろう。と言ってもまた死にたいとは思わないけどね。......お姉様やフランの身代わりにならなるつもりあるけど。まぁ、お姉様が多分、運命(未来)を見て会いたいって言っているんだろうし、大丈夫だとは思うけど......。

 

「おとうさま......わたしもフランにあいたい」

「......よし、分かった。俺についてくるんだ。......もしも、お前達が死にそうになったら俺が守る。だが、あまり無茶はするなよ」

「大丈夫よ。ここにいる全員......死ぬ運命なんてないわ。」

「あぁ、そう言えばレミリアは運命を操り、見ることが出来る能力があったな。余計な心配だったか......」

 

 やっぱり、お姉様は運命を見てたのね。......でも、どこか悲しそうな表情をしてたけど、どうしたのかな?

 

 そんなことを考えて......私達はお父様と一緒に、お母様とフランがいる地下に向かった───

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ......さっきはレナ達を安心させるために「ここにいる全員に死ぬ未来なんて見えない」と言ったが......お父様とレナと一緒に地下に向かっている時、私は一つの不安を感じていた。

 その不安とは......レナの運命(未来)が見えにくいことだ。見えることには見えるし、操ることも多少は出来る。が、レナの運命は── 一定数以上の確率がないと操れない私の能力では──限りなく100%に近いことしか操れない。

 例えばコインを投げ、表か裏かの50%でもレナの運命を操り、どちらかにすることも出来ない。見ることも...まるで靄がかかっているみたいに見えにくい。......一度でも実際に会った人の運命は操ることも見ることも出来るのに......レナの運命だけ操りにくいし見にくい。

 ......最初はレナが意図的にそうしている......と思っていた。でも、この数年間、一緒に暮らして分かっていることがある。......あの子は感情が顔に出やすい。それこそ初対面の人でも何を考えているか分かるくらいにだ。だから、意図的にそうしている可能性は無い。

 

「......おねーさま? どうしたの?」

「え? あ、何もないわよ。」

「ふーん......」

 

 あれ?顔に出てたのかな?ってそれよりもレナ、私の顔をジロジロ見すぎよ。

 

「......れ、レナ? どうしたのかしら?」

「なにもー」

「そ、そう......。ならいいんだけど......」

 

 それにしても......一体何故見えないのか......考え付く可能性は幾つかある。

 一つは誰かがレナか私に何らかの能力を使っている可能性。だが、私に使っているなら他の人の運命(未来)も見えないはずだから私に使っている可能性は無い。それに、本当にレナに能力を使っているとしたら理由が分からない。だからこの可能性はかなり低い。

 次の可能性は......レナ自身が能力を使っているということ。でも、レナは顔に感情が出やすいから、わざと使っているとかいう可能性は無い。それに、自分に能力があるかも知らないみたいだ。おそらくは...勝手に発動しているのだろう。

 私の能力をほぼ使えなく......まるで「制限」するような能力......お母様みたいな能力なのかしら? でも、お母様の「能力」とは少し違う気がする。多分、お母様と違って自分に対しての能力しか「制限」出来ない能力なのだろう。......もしも、レナが自分の能力に気付けば......完全に「制限」出来るようになるのかしら? そして、その能力に......もしも代償が無ければ。......もし、そうなら......お母様に代わってフランの能力を「制限」出来るんじゃ......。

 でも、完全に気付いても今の状態のままなら......意味は無い。自分に対する能力にしか使えないなら他の人を守れない。それに、制限出来る範囲も運命(未来)が見づらいだけだからフランの「能力」にはあまり意味は無いかもしれない。フランの「能力」は全てのモノを「破壊」出来る能力らしい。だから強力で、お母様の「能力」でも完全に制限出来ないのではフランの「能力」は制限出来ないかもしれない。

 

「......おねーさま。ほんとーにだいじょうぶ? さっきからかおがこわいけど......」

「え!? そ、そうかしら? ......そうだわ。レナ、今日は私と一緒に寝ない?」

「え? ......うん!」

 

 考えていても始まらない。まずは行動しないと......レナに私が分かったことを伝える。......まずはそれからだ。

 

「レミリア、レナ......着いたぞ。この扉の先だ」

 

 お父様に連れられて地下に来た......。ここは紅魔館にある図書館よりも地下深くにある部屋......私達はここに初めてきた。何故なら特に行く理由も無いし、ここに来るまでの道のりが長いし迷路のようにいりくんでいるから。それにしても......この扉、かなり分厚そうね。今の私とレナじゃ壊すことも出来なさそう。

 

「おとーさま......このとびら...ぶあつすぎない?」

 

 レナも同じことを思っていたのかお父様に質問した。

 

「あぁ、元々ここは避難用の部屋なんだ。この部屋は例え紅魔館が爆発しても残るだろう」

「爆発するのはごめんね。......開けるわよ?」

「いや、俺が開けよう。......もしものことがあっては大変だ」

「はぁ、お父様は心配性ね......」

 

 こうして、お父様が重い扉を開けた────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 お父様が重い扉を開けた。......扉を開けた先は窓が──そもそも紅魔館自体、窓は少ないが── 一つも無く、中はテーブルとイスとベッド、それに物を置くための棚くらいしかない。お母様とフランは......今はベッドに横になっている。

 

「随分と質素な部屋なのね......」

「あ、おかーさま!」

「レナ、レミリア......やっぱり、来たのですね。まぁ、危険と分かっていても来るだろうとは思っていましたが......」

「すまないな......止めることは出来なかったんだ」

「はぁ......別にもういいですよ。......レミリア、レナ......こっちに来てください。この娘が貴方達の妹......フランドールですよ」

 

 そう言われてお母様の方に行くと......黄色い髪をした赤ちゃんがいた。顔立ちはお姉様や私に似ている。そして、お母様やお姉様みたいな翼で......あれ? 翼が普通の吸血鬼と同じだ。そう言えばお父様が翼のことを何も言わなかったけど......。あれれ?フランの翼って八色の宝石みたいのが付いてたような......。もしかして後からあんな感じになったのかな?

 

「あら、私に似て可愛いわね。ねぇ? レナ。......レナ?」

「......ん!? そ、そうだね!」

「......大丈夫? 何か考え事でもしてたの?」

「だ、だいじょうぶ」

 

 考え事をしている時にお姉様に話しかけられた。にしてもお姉様、さらっと「私に似て」って付けてるのはあざとくない? ......でもまぁ、お姉様もかなり可愛いけど......。

 

「そう。......何考えてたかは部屋に帰った時に聞くわね」

「えっ!?」

 

 流石に転生してきたからフランの翼が変わるだろうことが分かってるなんて言えない。どうしよう......。お姉様に嘘をつくのはちょっと抵抗があるけど......仕方ないよね。適当に嘘をついて誤魔化そう。

 

「......まぁ、それは後でいいわ。

 フラン、私が貴女の姉、レミリアよ。......これからよろしくね」

 

 お姉様がフランに微笑みかける。美しく、可愛いお姉様......はっ! 危ない危ない。少し見惚れてしまった。お姉様達は......どうやら気付いてないようだ。もしも、お姉様に気付かれたら恥ずかしくて死にそう......。

 

「フラン !わたしもあなたのあねのレナータだよ! これからよろしくね!」

 

 フランはまずお姉様を見て、次に私を見た。......私を見た時だけ目をパチくりしているけど......髪が赤いから気になるとかかな?

 

「......フラン? どうしたの?」

「ずっとレナの方を見ているわね。もしかして......」

「? おねーさま、どうしたの?」

「......いえ、後で言うわね」

「......? うん」

 

 どうしたのかな? お姉様。

 

「ゴホッゴホッ」

「おかーさま、だいじょうぶ?」

「だ、大丈夫か?」

「ゴホッゴホッ......えぇ、大丈夫ですよ」

「お母様、無理しないでね」

「大丈夫ですよ。......無理はしてませんから」

 

 ......絶対無理してる。

 

「お母様...嘘でしょ?」

「おかーさま、うそダメ!」

「あら? 本当に無理はしてないですよ?」

 

 あ、絶対嘘だ。お母様もお姉様みたいに顔に出やすいから分かりやすい。というか嘘をつくのになれていないのだろう。

 

「むー......ぜったいうそ!」

「レナの言う通り、嘘だよね? ......無理はしないで。分かった?」

「......はぁ、分かりましたよ」

 

 お母様、一応は分かった......のかなぁ。

 

「......それならいいけど」

「レミリア、レナ。そろそろ戻るぞ」

「え!? はやくない?」

「レミリアが運命を操れると言っても用心に越したことはない。だから、出来るだけお前達が死なないように早めに戻るんだ」

「むー......そうだけど......」

 

 ......確かにお父様の言う通りだ。

 

「......次はお母様とフランにいつ会いに行っていい?」

「お前達を一緒に連れて行けるのは一週間後だな。俺には紅魔館の主としてやる事があるし、それにレナはまだ飛ぶ練習や魔法の練習もしたいのだろう?」

「まぁ、うん......」

「...あら、結構先なのね。もっと早くならないの?」

「無理だが......まぁ、フランドールが大きくなるまでの辛抱だ。大きくなったら能力を制御出来るようになるだろうし、そもそも、能力を『制限』するのは近くなくてもいいからな。フランドールが十歳になったらお母さんには部屋に戻ってもらう。......その時には体調がもう良くはならないくらいになってるだろうしな」

 

 ......フランは能力を制御出来るかもしれない。でも、フランが地下に居たのは能力に加え......情緒不安定で気がふれているからだ。姉として......どうにかしないと......。その為にも......何かフランの役に立つための魔法を学ぶ。元々、魔法を学ぶ理由の一つはフランの為だ。お姉様の「運命を操る程度の能力」に私の魔法を組み合わせることで......何とかなればいいんだけど。

 

「......まぁ、そうね。お母様、フラン......また来るからね」

「私も......また、くるからね」

「えぇ、楽しみにしていますからね」

 

 私達はそう言って地下を後にした────

 

 

 

 ──少し時は過ぎて レミリアの部屋

 

 お姉様から誘われて、今日は初めてお姉様と一緒に寝ることになった。......正直に言うと緊張してるし少し恥ずかしい気持ちがある。ただ一緒に寝るだけなのに......。やっぱり、前世が──多分だけど──男だったからなのかな? ......今の私の前世の記憶は東方についての記憶を除いて殆ど消えてきてる。普通に前世の記憶が無くなっていくのに東方の記憶だけある理由は分からないけどね。

 

「あら? レナ、どうしたの? さっきから顔が少し赤くなったりしてるけど......。もしかして熱かしら?」

「だ、だいじょうぶ! そ、それよりも──」

「『それよりも』じゃないわよ! 熱があったら大変よ。ほら、おでこを見せて」

「うっ、うん......」

 

 お姉様の言われるがままに額を見せる。そして、お姉様の暖かい手が額に触れた。

 

「......熱はないみたいね。」

「ね、ね? そうでしょ?」

「......でも、どうして顔が赤く──」

「そ、それで、おねーさま!どうしてきょうは、いっしょにねようっていったの?」

 

 理由を聞かれたらどう誤魔化していいか分からないし別の話題に変えないと......。

 

「先に聞きたいことがあるのだけど......まぁ、いいわ。実はね。レナ、貴女の能力が分かったかもしれないの。それで......折角だし、話すついでに久しぶりに一緒に寝ようかな〜、って思ってね。」

 

 え? ......私の能力? ......自分の能力が分かるっていうのは確かに嬉しいけど......何故か、お姉様......少し怖い顔してるけど、一体、私の能力はどういう能力なんだろう?

 ......にしても、私とお姉様って一緒に寝たことあるの? そっちの方も結構気になる......。

 

「......おねーさま、わたしと......いっしょにねたことあるの?」

「えっ!? 最初に聞くことがそれなの!? 能力の方が気にならないの!?」

「え、えーと......そっちもきにはなるけど......」

 

 普通に気になったから聞いただけなのに......お姉様めちゃくちゃ驚いている。

 ......能力ってそこまで重要なの?今まで私は能力なんて持ってなかったから分からないけど。

 

「はぁ......貴女って時々何を考えているのか分からないから少し気味悪いわ......」

「えっ、そ、そんなぁ......(泣)」

「......ふふ、冗談よ。貴女が0歳の時も、1歳の時にも一緒に寝たことあるわよ。貴女が憶えていないだけ」

「んー......そうなの?」

「そうなのよ」

 

 お姉様と一緒に寝ることなんてないから絶対に憶えてると思うんだけどなぁ。......嘘は言っていないみたいだから本当なんだろうけど。

 

「......おねーさま、わたしののうりょくってどんなの?」

「多分、お母様に似ている能力よ。......それと、レナ、ごめんね。貴女に一つだけ隠していたことがあるの」

「......おねーさまがそうしたほうがいいとおもったなら、かくしててもいい!」

「レナ......ありがとう。......私ね。レナの運命(未来)が見えにくいの。」

 

 ......え?私の......運命(未来)が? どういうこと?

 

「......やっぱり、これだけじゃ分かりにくいよね。

 ......貴女が知っている通り、私は自分を含め全員の運命を操り、見ることが出来るわ。そして、私の能力が使えなくなるのは......他の人の能力によって私の能力が封じられる時や対象の能力によって私の能力が遮られる時よ。

 多分、貴女は後者...貴女自身の能力によって私の能力が遮られ、貴女の運命(未来)が見にくく......そして、操りにくくなっているの。そして、多分、フランの能力も貴女には効かないと思うわ。」

 

 そう言えば......フランが私を見た時に目をパチくりしてたけど......それって私が破壊出来ない......私の『目』が見えにくいか見えないからだったのね。

 

「それと......もしかしたら、他の人を対象にして......その人も能力の対象になることを防げるかもしれないわ。

 もしも......もしもそれが出来たらお母様も......いえ、今のは聞かなかったことにして」

「......うん。わかった」

 

 多分、お姉様は他の人......お母様達に使って、フランの能力の対象にならないように出来るかもしれないことを言おうとしたんだろうね......。でも、もしも出来なかったら......希望を持ってしまった私が悲しむだろうと思って......言わないでおこうと思ったんだよね。やっぱり、お姉様は優しいよ。けど......遠慮せずに言ってくれてもいいんだよ。

 

「おねーさま......わたし......ほかのひとにたいして、フランののうりょくを......むこうかすることってできるのかな......?」

「......レナ、大丈夫よ。......そうだわ! 魔法や空を飛ぶ練習が終わった後とかに能力を使えるように勉強しましょう! 私も付き合うから...ね?」

「おねーさま......うん!」

 

 ......明日からは魔法の練習に加え......能力を使う練習もしよう。......私はそう決意した。

 

「さぁ、レナ。もう夜が明けるわ。......そろそろ寝ましょう?」

「うん! そうだね!」

 

 そう言って私はお姉様のベッドでお姉様の横に寝た。

 

「また明日......おやすみなさい......レナ」

「おやすみ、おねーさま......」

 

 私は最後にそう言って目を閉じた────




追記:指摘があったので、『違うかった』から『違った』に訂正しました。
見つけた場所は一つだけでしたが、他にも「訂正した方がいいのでは?」と言う場所があれば、
教えてくださいm(_ _)m

それと、毎週日曜日に1話ずつ、ゆっくりと編集していますが、こういった見落としとかがあるので、見つけたら、教えてくださいm(_ _)m

それにしても、シリアス(?)場面のせいか、『......』多いなぁ()


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4、「魔法少女の吸血鬼」

魔法って便利だよね!()
はい、今回はタイトルからでも分かる通り、魔法関連のお話です。


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「ふぁ〜......あ、おねーさま......」

 

 目覚めた時にお姉様の寝顔が見えた。......寝顔も可愛い。そう言えば昨日はお姉様の部屋で一緒に寝たんだっけ? んー......寝ぼけてよく思い出せないけど一緒に寝てるからそうなのかな...…。まだ眠いし、二度寝しようかな......。

 私はそう思い......ついでにお姉様を抱きしめて目を閉じた。

 お姉様......いい匂いがする。......お姉様と一緒に寝ることなんて殆どないから、昨日、お姉様が一緒に寝ようって、言ってくれた時はとても嬉しかった。......フランが大きくなって、能力を制御出来るようになったら......姉妹三人で一緒に寝たいなぁ。

 

「......おやすみ、おねーさま」

 

 私はお姉様にそう言って、もう一度寝ることにした────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「ふぁ〜、おは......あ、あら? レナ? ......ふふ、可愛い子ね」

 

 朝起きるとレナが私を抱きしめて寝ていた。......可愛いけど、少し抱きしめる力が強いわね。多分、吸血鬼じゃないと骨が一本くらい折れても不思議じゃないくらい......いえ、流石にそれは言いすぎね。

 

「でも......レナ、少し痛いわ。起きて」

「むにゃむにゃ......おねーさま......だいすき」

「寝言......よね? はぁ、仕方ないわね。......レナ、私も貴女のことが大好きよ」

 

 寝言でも大好きと言われたら無理に離そうとは思えなくなる。......それに、もう少しこのままでもいいかもしれない。

 私はそう思い、レナを抱きしめ返した。

 

「......たまには、こうやって一緒に寝るのも悪くないわね。......フランとも、いつかは一緒に......」

 

 いつかは......フランとレナと私、姉妹全員で一緒に寝たいわね。

 ......それにしても、レナって寝顔も可愛いわね。まぁ、レナは私に顔が似ているらしいから当たり前なんだけど。

 

「ふぁ〜......少し、眠くなってきたわ......。おやすみ、レナ」

 

 私はそう言ってもう一度寝ることにした。

 

 

 

 ──数十分後 紅魔館(レミリアの部屋)

 

 次に目を開けた時、まだ寝ているレナの寝顔が見えた。

 

「レナ、おはよう。......あらあら、まだ寝ているわね。レナ、起きて。もう起きる時間よ」

 

 はぁ......全く、この娘ったら。魔法や飛ぶ練習があるっていうのに......何時まで寝るのかしらね。

 私はレナを引き離しながらそう思った。

 おそらく、まだ執事長らが起こしに来ていないから時間はまだなんだろうけど。それでも時間が来るまでずっと寝させるわけにもいかない。

 

「レナ〜、起きなさ〜い。......はぁ、起きないわね。こうなったら......」

 

 私はそう言って、抱き締めていたレナの腕を外し、レナの上で馬乗りのような状態になる。

 

「三秒数えるまでに起きないと......くすぐるわね」

 

 レナはどれだけ深く寝てようが......脇をくすぐると絶対に起きる。......くすぐったくて少し辛そうだけど。まぁ、死なないし見てて楽しいからいいかな。

 

「3、2、1......はぁ......さっさと起きなさい! こちょこちょー!」

「ん? ひゃっ!? お、おねーひゃま!? やめっ! ひゃはははは!」

 

 私はそう言って、レナの脇をくすぐった。

 案の定、すぐには起きたけど......面白いからもう少しだけ続けようかな。

 

「レナ、そんなに叫んでもやめないわよ? もう起きるかしら?」

「お、おきてるよ! だ、だから、ひゃめ、ひゃはははは!」

 

 ......ちょっと楽しいわね。レナもどことなく嬉しそうだしもう少し続けても......。

 

「お、おねーさま! ひゃ、ひゃめて!」

「あっ、ごめん。......少しやり過ぎたわね」

 

 私はそう言ってくすぐるのをやめた。......レナの目が涙で溢れている。

 

「はぁ、はぁ......グスン......おねーさまのバカ。やめてっていったのに......」

 

 ......レナの目から涙が零れ落ちた。......本当にやり過ぎたかも。いつも私にバカとか非難するような言葉を使わないレナが今日初めて言ったのだから......もしかしたら、嫌われたかもしれない。

 

「ご、ごめんなさいね。......少しやり過ぎたわね。もう、やらないから......ゆ、許してくれるかしら?」

「うん......わたしからも、ごめんなさい。おねーさまのことをバカっていって......」

「レナ......別にそんなこといいのよ。全部やり過ぎた私が悪いから。本当に......貴方って優しい子なのね」

 

 本当に.....バカって言われたことくらいどうでもいいのに......。

 

「? おねーさま、ないてる? だいじょうぶ?」

「......嬉し泣きよ。貴方みたいな優しい子が妹で本当に良かったわ......って思ってね」

「おねーさま......わたしも、おねーさまがおねーさまでうれしい! おねーさま、だいすき!」

 

 そう言って、レナが私を抱き締めた。そして、私もレナを抱きしめた。

 

「......さ、レナ。そろそろ魔法と空を飛ぶ練習に行きましょう。先ずはどっちがいいかしら?」

「んー......まほうがいい!」

「そう。なら図書館からね。じゃ、準備をしてから行きましょうか」

「うん!」

 

 レナが返事をしてから、私達は服を着替えて図書館へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(図書館)

 

 お姉様と一緒に魔法の練習をするために──途中、執事長に会って挨拶した後に──図書館に来た。因みにお父様は部屋に居なかった。

 ここの図書館には魔導書等の色々な本がある。だから魔法の練習にここに来た。

 

「さぁ、まずは魔導書を探すところからね。レナ、貴方には妖力と同等の強力な魔力があるわ。だから魔導書とかの魔力を放つのは分かると思うの」

「でも、おねーさま。わたしがつかいたいまほうをさがすのに、じかんかからない?」

「確かに時間はかかるわ。でも、大丈夫よ。短縮する方法があるから。......確率は低いけどね」

 

 時間を短縮する方法? 一々本を全部見なくても大丈夫なような方法なのかな?

 

「ふむぅ......おねーさま、おしえて」

「えぇ。......まず貴方が魔導書を集めてきなさい。それを一箇所に集めるの。集めるのに時間はかかるけどそれから先は楽になるかもよ。貴方が適当にその中から本を選び、それを読むだけですもの」

 

 え? 適当に? それで本当に私が使いたい魔法とか見つかるのかな?

 

「......え? てきとうに?」

「そうよ。私の能力を使うのよ。貴方の運命を操り、貴方が必要になるであろう魔導書を選ばせる。

 ......でも、魔導書はこの図書館にどれだけあるか分からないわ。だから、毎日ここに来て、探して、適当に選ぶを繰り返していたら......いつかは必ず見つかるはずよ。『いつか』くらいじゃないと貴方に運命が効かないから、私に思い付く見つかる可能性を高くするのはこれしかないわ」

「おねーさま、わたしのために......ありがとう!」

 

 私だけのためにこんなことを手伝ってくれるなんて......本当に嬉しいよ、お姉様。

 

「どういたしまして。......さ、早く始めましょう」

「うん!」

 

 私はそう言って探すのを始めた。お姉様は私についてきてくれている。多分、運命を操りながらなのかな。でも、近くじゃなくても大丈夫らしいし。もしかして、やることがないからついてきて......。

 

「......レナ、どうかしたかしら?」

 

 お姉様が怖い笑顔で話しかけてきた。

 

「な、なんでもないよ?」

「なら、どうして疑問形になってるのかしらねぇ。......後で私の部屋に来なさい。こちょこちょしてあげるわ」

「えぇー! でも、おねーさま! さっきみたいにやりすぎるでしょ!」

「大丈夫よ。できる限りやり過ぎないようにするから」

「だいじょうぶじゃないっ!」

 

 お姉様、あれほど嫌って言ったのにまだするつもりなのかな......後で仕返しにこちょこちょでもしよっと。

 

「......あら、貴方が私にこちょこちょしようとして、それを私が返り討ちにする運命(未来)が見えたわね」

「えっ! うー......そのみらいをかえる!」

 

 うー......全部バレてる。でも、仕返しはしたいし、未来を変えることが出来れば......。

 

「......そんな顔をしても駄目よ。それと、見えにくい貴方の運命(未来)でもそれだけははっきりと見えたわ。......それがどういう意味か分かるかしら?」

「うっ、おねーさまにしかえししようなんてやめます......」

 

 私はどんな顔をしていたんだろう? ま、いいや。

 見えにくい私の運命(未来)ではっきり見えたってことはほぼ100%の確率で失敗する......。うーん、何か他に方法は......。

 

「ないわよ。他に方法は無い。私に仕返しなんて出来ない......そういう運命よ」

「ぐぬぬ......おねーさま、こころよまないで」

「あら、読まれるくらい分かりやすい貴方が悪いのよ。さ、早く探しなさい」

「むぅ......はーい」

 

 そう言われてようやく探し始める。

 

「んー、これと......これもかな?」

 

 集中して魔力を放つ本......おそらく魔導書であろう物を感知して、集めていく。

 

「あら、やっぱり、分かるのね」

「え? もしかして、きたいしてなかった?」

「期待はしてたわよ。ただ......私には魔力とか分からないから、本当に分かるかが心配だっただけ」

 

 ......本当に期待してたのかなぁ?

 

「さ、どんどん集めていくわよ。......まだまだ多いみたいだけど」

 

 この図書館はかなり広いし本棚もかなりの数があるから特定の本だけを探すのは大変だ。

 ......それにしても、魔導書ってこんなにあるんだ。まだ五分くらいしか経ってないのにもう十冊以上はある。

 

「結構あるものなのねぇ。......そう言えば、たまに人間が攻めてくることがあるらしいけど、その人間の中に魔導書を持っているやつがいるらしいわよ。多分、その魔導書もこの図書館に置いてるのでしょうね」

「へー......あ、おねーさま、あのほんをとって」

「ん? あぁ、これね。はい、どうぞ」

「ありがと」

 

 人間が攻めてくる時とかあるんだ......。元は同じ人間だったから少し可愛そうと思う気持ちがあるけど......お姉様達に被害が及ぶなら仕方ないか──

 

 

 

 ──時間は少し進み 紅魔館(図書館)

 

「レナ、今日はこれくらいにしましょうか」

 

 お姉様が一時間程経った時に話しかけてきた。本は百冊以上集まった。

 

「さぁ、適当に選びなさい。私が貴方の望む魔導書を『いつか』見つけれるように運命(未来)を操るわ」

「......おねーさまはそのあいだどうするの?」

「私? そうね......貴方が本を読んでいる姿でも見ているわ」

「......え?」

 

 お姉様...やることがないのは分かるけど......それはそれで暇じゃないかな?

 

「あら、どうかした?」

「おねーさま、むりして、わたしにつきあわなくてもいいんだよ?」

「どうしてかしら?」

「おねーさまには、いろいろとてつだってもらってるし......おねーさまがしたいことをしてもいいんだよ?」

「なら問題ないわね。私がしたいのは貴方が本を読んでいるのを見ることよ。

 それに......魔導書はなにも安全な物だけとは限らないわ。だから、貴方に危険が及ばないように見とくのよ」

 

 なんか今、理由決めた気もするけど......お姉様の優しさが伝わったからいっか。

 

「それならいいけど.....。わたしになにかあっても、おねーさまは、じぶんのいのちをだいじに──」

「断るわ。私は貴方の姉よ。妹を守るのが姉の役目ってものでしょ?」

「うー......そうだけど......」

 

 確かにお姉様の言う通りだけど......お姉様に何かあったら私も困る。

 

「......さ、時間はどんどん進んでいくわ。後で飛ぶ練習もあるから早く決めなさい」

「はーい。えーと......じゃ、これにする!」

 

 そう言って私は適当に本を手にした。

 

「......それにしたのね。えーと......『妖蛆の秘密』? 変なタイトルね」

 

 あれ? どこかで聞いたことがあるような.....。んー......気のせいかな?

 

「どうかした? 読まないの?」

「......だいじょうぶ。いまからよむよ」

 

 そう言って私は本を開けた。

 

「......なんてよむんだろう?」

 

 何語なのか分からない。何処かで見たことはある気がするけど......。それにしても、なんか冒涜的な感じがする。

 

「......これはラテン語じゃないかしら」

「ラテンご? おねーさまはよめるの?」

 

 お姉様が横から見て言ってきた。

 

「私には読めないわ。前にこういう文字を少し見て、お父様に聞いただけよ。......だから、もしかしたらだけど、お父様が読めるかもね」

「......でも、おとーさまって、いまどこにいるんだろう?」

「そうねぇ......お父様、お父様の部屋にも、ここ(図書館)に来るまでこの館(紅魔館)の中でも見なかったもんね......」

「いるとしたら......どこだろう?」

 

 部屋を全部見てまわったわけじゃないから別の部屋に居る可能性もあるけど、外に居る可能性もあるからね......。

 

「......探すのは後でにしましょう。先に他の本を選んでみたら? ......それか、可能性は低いけど貴方にでも分かる言語で書かれているページがあるかもしれないわよ?」

「んー......ま、そうだね。」

 

 私はそう言って本のページをペラペラとめくった。

 

「......あ、あった。よめるようにしているかみがあったよ」

「そう、あったのね......え!? あったの!?」

 

 お姉様が驚いている。......やっぱり、お姉様も本当にあるとは思ってなかったみたい。

 私達に読めるように訳してあるってことは、お姉様が言っていたように、紅魔館に攻めてきた人達が自分達に読めるように書いてたってことなのかな?

 それか、紅魔館にあったこの本を誰かが訳したとか? それだとしたら誰なんだろう? ......まぁ、可能性は低いけどね。

 

「......ま、まさか本当にあるとわね...。レナ、なんて書いてあるの?」

「えーとね......『ふかしのしもべのかくせい』ってかいてる。......それと、これのつかいかたみたいなのもかいてる」

 

 使い方は呪文を唱えてこの魔法陣を書くだけみたい。...もしかして...これって...。

 

「? 『不可視の下僕』? 何かしらね?」

「......おねーさま、たぶんこれ、『しょうかんまほう』だとおもう」

「『召喚魔法』? 本当に?」

「うん、たぶんだけど......」

 

 多分、『不可視の下僕』ってのを覚醒......何処からか召喚させる魔法だと思うけど。

 

「......それなら使うのはやめときましょう。召喚しても、戦い慣れていない私達じゃ、最悪、召喚されたモノが言う事をきかないで私達が死ぬかもしれないわ。

 せめて、『狩り』を完全に覚えるまではやめときましょう」

「う、うん......」

 

 お姉様が真剣な顔で言ってきた。......もしかして、能力で召喚したら自分か私が死ぬ未来でも見えたのかな?

 

「さ、他に何もなかったら、次の本を見ましょう」

「うん」

 

 私はそう言って、本のページをめくり始めた──

 

 

 

 

 

 ──二時間後 紅魔館(図書館)

 

「レナ、今日はそれで最後にしましょう」

 

 二十冊くらい読め終え、次の本を開けようとした時にお姉様が言った。

 

「うん。......おねーさま、このあとはなにをするの?」

「飛ぶ練習よ。その後にお父様を探しに行きましょう。......居なかったら執事長にでも聞いてみましょうか」

「うん、わかった」

 

 そう言った後に本を開ける。この本は表紙には何も書いていない。魔力もうっすらと感じるくらいの本だ。だから、そこまで期待はしてないけど適当に取った本がこれだったから......お姉様の能力を信じているから......どんな本でも最後まで読む。

 それにしても、ノートみたいな感じな本だね。もしかしたら──

 

「......あ! あった!」

「? レナ、何があったの?」

「わたしがほしかったまほう! 『しゅんかんいどう』のまほう!」

「『瞬間移動』? ......貴方、そんなのが欲しかったの?」

「うん! これがあれば、いどうするのもらくになるから」

「貴方って、そんなに面倒くさがり屋だったの? っていうか魔力を使うからあまり変わらないと思うわよ?」

 

 あ、確かにそうか。......それに、この魔法は厳密に言うと瞬間移動ではなさそう。でも、元々、私が欲しかったのは『スキマ』のような移動方法。それを魔法で使えたらなーって思ってたから瞬間移動のような魔法でも充分なんだけどね。

 瞬間移動と言うよりは......指定した場所をテレポート出来るようにする魔法みたいだね。ま、充分だけど。

 

「うー......それでも、あったからうれしい!」

「ふーん......本当に嬉しいのね。こんなにも嬉しそうな顔をしてるのだから。それにしても、フランを見た時くらい嬉しそうな顔ねぇ」

「え? そうなの?」

 

 フランが生まれた時くらいに嬉しいのかな? ......自分のことなのに少し分からない。

 

「じゃ、その魔法は後で練習するとして......次は飛ぶ練習をしましょうか。早くしないと夜が明けそうだわ」

「はーい。あ、先に部屋に持って行ってもいい?」

「いいわよ。その代わり、早くしてね」

「はーい」

 

 私はそう言って部屋に本を持って行った────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──時間は少し経ち紅魔館(庭)

 

「そこはもっと早く避けなさい! 次行くわよ!」

「えっ!? はやくない!」

「大丈夫よ。貴方は私の妹でしょ?」

「それはだいじょうっ!? あ、あぶなかった......」

 

 今は紅魔館の庭で空を飛ぶ練習を終え、レナの攻撃を避ける練習をしている。私が妖力で作った弾幕を放ち、それをレナが避ける。......そんな簡単な練習だ。これは『狩り』で人間に反撃された時のための練習でもある。もしも、銀の武器で攻撃されると、吸血鬼と言えど、再生力が遅くなり、それで死ぬこともある。

 私達が『狩り』をするのはまだまだ先だけど...…最近は他の吸血鬼達の縄張り争いや人間の襲撃があるから今から練習しても無駄になることはないだろう。

 

「はぁ、はぁ......おねーさま! まだおわらないの!?」

「まだよー! 後五分くらい我慢しなさーい!」

「ご、ごふん!? な、ながいよぉ......」

「大丈夫よ。当たってもそこまで痛くはないわ。......多分」

「いま、たぶんっていったよね!? お、おねーさまのあくま!」

「あら? 吸血鬼は元から悪魔よ?」

「うー......あっ! あぶなかった......」

 

 私達は話をしながら避ける練習を続けた。......たまにレナが当たるが、それでも止めずに練習を続けている。......流石私の妹ね。

 そう思いながら練習を続け、私達は空を飛ぶ練習を終えた────




終わりが微妙だけど...レナータが二歳での話は次で終わる予定なので...前後半的な感じと思ってください。お願いします。


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5、「狩りと幸せな日」

ただ、こんな幸せな日々が続いて欲しい────


 side Renata Scarlet

 

「おねーさま、おとーさまいないね」

「えぇ、何処に行ったのかしら…...仕方ないわ。執事長の場所に行きましょう。多分、今の時間は部屋に居るでしょうから」

「うん」

 

 空を飛ぶ練習......もとい回避練習が終わった後に私達は紅魔館の部屋を全て探しまわった。しかし、どれだけ探しても見つからなかったので今は執事長の部屋に向かおうとしていた。

 

「......おねーさま、フランの所にはいないのかな?」

「......さぁね。行けないから分からないわ」

 

 全ての部屋を探したと言っても行ってはいけない言われて、探せていない部屋もある。その部屋の一つがフランの部屋(地下)だ。

 フランはいつ能力が暴走してしまうか分からない。だから、お父様が一緒じゃなければ行ってはいけないと言われている。だから、地下にお父様がいた場合はどうすることも出来ない。例え、執事長とかと一緒に行っても怒られてしまうだろう。......逆に言えば怒られてもいいなら行けないこともない。

 

「あ、この部屋ね。レナ、着いたわよ」

「うん......おねーさまがあけてくれる?」

「え? ......まぁ、別にいいけど。どうしたの?」

「ううん、とくにりゆうはないよ」

 

 執事長の部屋に着いて、私はお姉様に開けてもらおうとした。......いや、開けてもらうのに本当に理由は無いよ。あるとしたら、お姉様の少しでも困った顔が見たかったってことくらいかな。

 

「執事長、居るかしら?」

 

 お姉様がコンコンとノックして聞いた。

 

「レミリアお嬢様? はい、居ますよ。......おや? レナータお嬢様まで.....。どうかされましたか?」

 

 そしたら、執事長が扉を開けて、聞いてきた。

 

「お父様が何処に居るか知らないかしら?」

「御主人様なら...『狩り』をするために何人かの従者達と出掛けたかと」

「『狩り』? あら、今年は随分と早いのね」

 

『狩り』......本来の意味とは少し違うと思うけど...短くて言いやすいから全員こう言っている。

 吸血鬼の『狩り』は勿論、人間を食料として『狩る』ことだ。『狩る』と言っても殺すことはせず、生かして紅魔館に連れて帰る。確か、普通に連れて帰ると暴れるから先に吸血して大人しくさせるとか......。

 ちなみに吸血には幾つかの種類がある。まず一つ目、食事のためにする吸血。これは吸血鬼だとしたら誰でも知っている方法で、やり方も簡単。噛んだ時に出た血を飲む......ただそれだけだ。

 二つ目は、吸血された人をした本人に対して魅了させる吸血。これのやり方はよく知らない。大人になったら教えてくれるらしい。......吸血鬼の大人って何歳なんだろう? 500歳では無いことは知っている。──現在進行形で薄れつつある前世の記憶の中で──お姉様が500歳になっていても、まだ10歳になってないくらいの姿だったことを知っているからだ。1000歳くらいでも20歳くらいの見た目なのかな? いや、見た目で決めては駄目か? まぁ、それは置いといて、吸血の効果は魅了させることによって、どんな指示にでも従わせるようにするらしい。使い道は『狩り』の時に大人しくさせることくらいらしい。

 三つ目は吸血鬼の眷属にする方法。そのままの意味で、吸血鬼の眷属......吸血鬼の劣化版みたいな感じにするらしい。吸血鬼になった時に命令に従わせるために、二つ目の吸血と一緒に使うことが多いとか。これも大人になったら教えてくれるらしい。......本当に吸血鬼の大人って何歳なんだろう?

 

「御主人様は......奥様を心配して、いつもよりも早く『狩り』を行うことになさったとか」

「......そう、分かったわ。聞きたいことはそれだけよ。ありがとう。さ、レナ、次は部屋で魔導書に載っている魔法を練習するのでしょ? 行きましょう」

「......お嬢様方、お待ちください。一つだけ御主人様に伝言を預かっています」

「ん? 何かしら?」

 

 そう言って執事長が私達を引き止めた。

 

「今日からしばらく『狩り』で紅魔館を空けることになるから奥様とフランドールお嬢様を頼んだ......と」

「そう......しばらくって具体的な日数は?」

「一週間程でございます。ここの近くの町は殆ど人間が住んでいないため、遠くの町に行くんだとか......」

「え? 何で人間が少ない場所は襲わないの?食料が沢山いるとか?」

 

 お姉様、さらっと人間を食料に変えるのはおやめください。いやまぁ、間違ってはないけど......。

 

「それもあるらしいですが、遠くの町の人間、同族の勢力も見てくるついでだとか」

「あぁ、なるほどね」

 

 そう言えば、前にお父様が言っていた。近くの人間、同族......もとい吸血鬼の勢力はそこまで脅威にはならないらしい。しかし、最近は遠めの場所で吸血鬼ハンターとか、夜の帝王とか言われている吸血鬼の勢力が拡大していて、私達にとって脅威となるかもしれないらしい。

 

「では、私は夕食の準備をしてきますので。また後でお会いしましょう」

「えぇ、分かったわ」

 

 そうお姉様が言って私達は執事長と別れた──

 

 

 

 ──それから少し経って紅魔館(レナータの部屋)

 

「ふぁ〜......もうねないと......」

 

 執事長と別れてから、自分の部屋でお姉様に見守られながら魔法の練習をした。流石に、一日じゃ魔法を使うことが出来なかったから今日は諦めて明日にするとお姉様に言ったら.....

 

「そう。じゃあ、明日に続きをしましょう。今日はもう寝なさい」

 

 と言って、お姉様が自分の部屋に戻っていった。そして......

 

「......おねーさま、どうしてわたしのへやにきたの?」

「あら? 姉が妹の部屋に来るのに理由なんて必要かしら?」

「うーん......ないけ...ど...」

 

 お姉様が寝巻きを着て、私の部屋に戻ってきたのである。

 

「じゃあ、問題ないわね。さ、明日も早いわ。早く寝ましょう」

「うん。......おねーさま、いつでていくの?」

「明日よ」

「......きょうはいっしょにねたくない。」

「え!? れ、レナ......私のことが......姉のことが嫌いになったの?」

 

 ......そんな震えている声で言われても答えは変わらない。......変える気が全くない。

 

「......おねーさま、きのう、なにしたかおぼえてるの?」

「昨日? さぁ、憶えてないわね。そんな過去のことなんて忘れて一緒に寝ましょう?」

 

 白々しい......。しかも、さっきの震え声は何処にいったの! って、いつの間に私の隣で寝ようとしてるの!?

 

「......おねーさま! わすれたとはいわせないよ! あれはほんとうにいやだったんだから!」

 

『あれ』とは勿論、くすぐられたことだ。......どうやら、前世と違って私は脇がとても弱いらしい。脇をくすぐられると自然に涙が出て、力も入らなくなってしまう。

 

「忘れたわ。さ、早く寝ないと明日にひびくわよ」

「うー......そうなったら、おねーさま! おもいだすまでゆるさないんだから!」

 

 そう言って私はお姉様の脇をくすぐろうとした。が、

 

「あら、私に何かしようとしたのかしら?」

「あ、あれ!?」

 

 いつの間にかお姉様が背後に回っていた。

 

「レナ、勿論、私をくすぐろうとしたのだから......失敗した時の覚悟はあるわよね?」

「ちょっ、ちょっとま、ひゃはははは!」

「あらあら、ここがくすぐったいのかしら? それともこっち?」

 

 そう言ってお姉様は私の脇以外にもお腹、首をくすぐっていく。

 

「お、おねーひゃま!」

「あぁ、ごめんなさいね。......今日はもうしないわ。代わりに一緒に寝てもいいかしら?」

「きょうもあしたもこれからはずっとだめ!」

「分かった分かった。で、一緒に寝てもいいかしら?」

「こちょこちょするおねーさまはいや!」

 

 お姉様は本当に反省してない。......先にやり返そうとした私も悪いけど。そう言えばやり返しても無駄ってお姉様が言ってたっけ......。

 

「一緒に寝てくれるならしないわよ」

「......はぁ、わかった。......ほんとうにしないよね?」

「勿論よ。......ちゃんと私の言う事を聞いてくれるならだけどね」

「うー、なんかいやなよかんがす...る...」

 

 本当に大丈夫なのかな? なんかこれからはずっと、お姉様の言いなりになりそうな気がする......。

 

「大丈夫よ。......さ、早く寝ましょう。もう眠たいわ」

「...おねーさまのせいで──」

「レナ、何か言ったかしら?」

「うー、なにもないです......」

 

 やっぱり、これからはずっと言いなりになりそうだ......。

 

「よろしい。......レナ、貴方は私が守るから安心してね」

「ん? おねーさま、なにかいった?」

「......いえ、何も言っていないわよ」

 

 一緒に横になった時にお姉様が何か小さな声で言った気がしたけど......気のせいなのかな?

 

「......おやすみ、レナ」

「おやすみ、おねーさま」

 

 そう言って私は目を閉じた────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(レナータの部屋)

 

「うー、そうなったら......おねーさま! おもいだすまでゆるさないんだから!」

 

 そう言ってレナが私の脇をくすぐろうとした。......勿論、何をするかは私の能力で既に見ているから私にそれをしても意味は無いとレナも分かっているはずだけど......感情的になっているせいか忘れたみたいね。

 

「あら、私に何かしようとしたのかしら?」

「あ、あれ!?」

 

 そう言って私はレナの背後に回った。

 

「レナ、勿論......私をくすぐろうとしたのだから......失敗した時の覚悟はあるわよね?」

「ちょっ、ちょっとま、ひゃはははは!」

「あらあら、ここがくすぐったいのかしら? それともこっち?」

 

 そう言って、レナの脇を──ついでにお腹とかも──くすぐる。

 

「お、おねーひゃま!」

「あぁ、ごめんなさいね。......今日はもうしないわ。代わりに一緒に寝てもいいかしら?」

 

 一緒に寝たいというのに特に理由はない。ただ...妹の可愛い寝顔を見たいだけだ。

 

「きょうもあしたもこれからはずっとだめ!」

「分かった分かった。で、一緒に寝てもいいかしら?」

「こちょこちょするおねーさまはいや!」

 

 うっ......それを言われると地味に傷つくわね。

 

「一緒に寝てくれるならしないわよ」

「......はぁ、わかった。......ほんとうにしないよね?」

「勿論よ。......ちゃんと私の言う事を聞いてくれるなら。」

 

 逆に言えば言う事を聞かないとこちょこちょはする。......レナが私を嫌いにならない程度に。こちょこちょをするのはされている時のレナが可愛いからだけど......私を嫌いになるくらいならやめようとは思う。でも、可愛いからやっぱり、やりたい気持ちもある......。

 

「うー、なんかいやなよかんがする......」

「大丈夫よ。......さ、早く寝ましょう。もう眠たいわ」

「......おねーさまのせいで──」

「レナ、何か言ったかしら?」

「うー、なにもないです......」

「よろしい」

 

 すぐにその言葉に反応するとレナは誤魔化した。......そんなレナも可愛いわ。......もしも、レナが死んだら私はどうなるんだろう? 後を追って自殺とか?でも、私にはフランという妹もいる。......そうだ。それならレナを死なさなければいい。何があってもレナを、フランも......妹達を守ればいい。

 

「......レナ、貴方は私が守るから安心してね」

「ん? おねーさま、なにかいった?」

「......いえ、何も言っていないわ」

 

 声が出てしまったみたいだ。レナに聞かれたと思うと少し恥ずかしいけど......どうやら気付いてはいないみたい。

 

「......おやすみ、レナ」

「おやすみ、おねーさま」

 

 そう言って私は目を閉じる。

 ......しかし、お父様がいないこの紅魔館を守ることが出来るだろうか。そんな不安のせいでなかなか寝付けない。......執事長も結構強い方だし、大丈夫だとは思うけど......。もしも......もしものことがあったら私は......。

 ......そんな不安はレナの寝顔を見て消えた。何があってもこの娘は必ず守る。......例え、私が死んでも。家族として、たった一人の姉として......この娘を守ればいいんだ。

 そう思いながら寝ているレナの頬に触れる。

 暖かくて柔らかい......。触れていると安心する。大丈夫。私はやれば何でも出来る。私はレミリア・スカーレット......スカーレット家の長女だ。それなのに妹を守れないわけがない。

 そう思いながらもう一度目を閉じた。......明日もいつも通りに暮らせる。私には能力があるから大体のことは分かる。先のことが見えるとレナもフランも絶対に死ぬことはない。

 ......そう自分に言い聞かせてようやく私は眠った──

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レナータの部屋)

 

 お父様が『狩り』に出掛けてから一週間くらい経った。。そして、ようやく今日の日の出頃にお父様が帰ってくるらしい。

 一週間の間、特に事件らしい事件は無かった。......この一週間の間、お姉様と毎日寝ている。......勝手に私の部屋に入ってきて、こちょこちょすると脅されて、一緒に寝ている。まぁ、お姉様の寝顔が可愛いからいいんだけどね。どっちかっていうと一緒に寝れて幸せ。

 ......でも、私よりも早く起きた時に毎回こちょこちょするのはやめてほしい。しかも、お姉様はいつも私が笑い過ぎて死にかけるまでやるから本当に嫌だ。......一回だけ、お姉様よりも早く起きてお姉様にいつものお返しとして、こちょこちょしたことがある。が、しかし.....

 

「おねーさま、きょうこそは......」

 

 そう言ってお姉様の上に馬乗りになってこちょこちょしたけど......

 

「ひゃっ!? れ、レナぁ! ひゃ、ひゃめて! な、何でもっ! 何でもするから!」

「や、やった! おねーさまにかった! ......おねーさま、ほんとうになんでもする?」

「も、勿論......するわけないでしょ!」

「えっ? ひゃ、ひゃっ!? ひゃはははは! お、おねーひゃま! ひゃ、ひゃめて! ゆ、ゆるして!」

 

 している最中に逆にやり返されて、先にこっちがこちょこちょの快感に負けてしまい、こちょこちょをするのをやめてしまう。更に、いつの間にか逆に馬乗りをされる状態になってしまい、いつもの状態になってしまうのだ。

 

「レナ、先に手を出したのは貴方なのよ? ......勿論、やり返される覚悟もあったのよね?」

「ひゃはははは! ご、ごめんなひゃはははは!」

「あら? 笑いながら謝るなんて......ちゃんと謝らないと駄目でしょう? ちゃんと謝るまで許さないわ」

「ごめんなひゃぁ! ご、ごめんなさい! おねーさま! もうしません!」

「ちゃんと謝れたから今回は許してあげるわ。でも、もしも、次したら......分かってるわね?」

「はぁ、はぁ、はぁ......わ、わかってます。もうしません......」

 

 これを機に、もうお姉様に歯向かうのはやめたのであった...…。

 

 ちなみに、一週間の間、魔法の練習も続けて、ようやく一つだけ魔法が完成した。

 それは『ディメンジョン・ゲート』という名前らしい。これは直径一kmの目に見える範囲にワープが出来る抜け道を作る魔法だ。その抜け道は壁か地面に作らないといけないみたいだから外ではあまり使えなさそう。だが、好きな時に作れ、そして消せるから便利ではある。

 でも......今の私では2、3回使うと魔力がからになってしまうくらい燃費が悪い。年をとり、成長するにつれて魔力も同じように成長するみたいだから将来的には大丈夫だと思うけど......。

 他にも、この魔法を研究して、燃費を良くする方法もあるみたいだけど......今の私には無理っぽいからこれもいつか練習しないと......。

 

 そして、今日もお姉様と一緒に寝て、起きて、今は魔法の練習をしている。その魔法は最近魔導書を読んでいる時に見つけたやつだ。人や動物に化けることが出来る魔法らしい。

 その魔法を練習をしている時に、執事長がやって来た。

 

「レミリアお嬢様、レナータお嬢様。御主人様がお帰りになられました」

「おとーさまが? もう?」

「......ようやく帰ってきたのね」

 

 私は思ったよりも早くこっちに着いたから少しびっくりしている。だが、お姉様は能力を使っていたのか驚いていない。

 

「後で......フランお嬢様の部屋で御主人様が帰ってきたお祝いにパーティーをするとのことです」

「フランのへやでパーティー? やったー! フランにひさしぶりにあえる!」

「良かったわね。レナ。......今日はもうここまでにしましょう。続きはまた明日」

「おねーさま、ありがとう! おねーさま、だいすき!」

「ふふ、どういたしまして」

 

 そう言って、私達は練習を終え、フランの部屋でパーティーをした。......久しぶりに会ったフラン、お母様、お父様はいつもと全然変わりなく、皆で楽しい時間を過ごすことが出来た。

 

 ......その後はいつも通り、私の部屋でお姉様と一緒に寝ることになった。

 こんな幸せな日がずっと続けばいいのに。そう願いながら......私は次の日をむかえた────




レナはその願いだけが叶って欲しかった。他の願いよりも、ただ、幸せな日々を暮らすことだけを────


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番外編 5.5、「聖夜の吸血鬼姉妹 姉のプレゼント計画」

クリスマス一日遅れとなってしまい本当に申しわけないです(´・ω・`)
なお、この作品は完全に茶番です。本編とは一応、繋がっています。と言うか本編でも良かったかもしれなかった。
ちなみに、話の時期的には一章の5と6の間の出来事です。


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「...貴女が言いたいことは分かったわ。」

 

 今日は私が17歳になって初めてのクリスマスイヴ。...と言っても、クリスマスもイヴも悪魔にとってはどっちかと言うと好きではない方けど...。

 でも、それでも今日はクリスマスイヴと言う記念日なんだし何かしたいと唐突に思い、今はお姉様の部屋に来てそのことついて相談している。

 

「...お姉様、何か案はありませんか?」

「...そうねぇ...さっき貴女の話に出てきてた...サンタだっけ?それをしてみたら?」

「え?サンタさんですか?」

「えぇ、貴女がサンタになってフランにでもプレゼントをあげたらいいじゃない。あの娘もきっと喜ぶわ。」

 

 私がサンタになってフランに...そう言えばフランにプレゼントをあげる機会なんて殆ど無かったし...たまにはいいかもしれない。

 

「...さ、まずはフランに会ってサンタの話をしましょう。じゃないとフランが急にプレゼントを貰っても訳が分からないだろうし。」

「そうですね。では、早速行きましょう!」

「...そうね。行きましょうか。」

 

 そう言って私達はフランの部屋へと向かった。

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「あら、お姉様。...レミリアお姉様も...。どうしたの?今日は早いけど...。」

「今日は...ほら、クリスマスイヴですから...。」

「...お姉様、理由になってないよ。...でも、お姉様達が来てくれて嬉しいわ。今日は何して遊ぶ?」

「そうねぇ...あ、そう言えばフラン。サンタって知ってるかしら?」

「...サンタ?何それ?」

 

 あ、やっぱり、フランもサンタ知らないのね...。ここは私が教えたいけど...やっぱり、ここはお姉様に任してみようかな。お姉様って私よりかは話すの上手いだろうし。

 

「サンタって言うのはね。クリスマスの日に『いい子』にしてる子にプレゼントをあげる人のことよ。でも、逆に『悪い子』にはプレゼントをあげないの。だから、フランも『いい子』にしてたらプレゼント貰えるかもしれないわね。」

「...でも、レミリアお姉様...。私...プレゼントなんて貰ったことないよ...。私って『悪い子』なの?」

「そ、それは...違うけど...。」

「なら、どうして?なんで私は『いい子』にしているはずなのにプレゼントが貰えないの?」

 

 ...あれ?雲行きが怪しいぞ?

 

「...あ、貴女は『悪い子』じゃ無いわ。だけど...あ、あれよ。確かサンタって手紙で欲しい物を書かないとプレゼントをあげれないから...。」

 

 あ、お姉様、それさっき相談している時に言ったのに今まで忘れてたでしょ。

 

「レミリアお姉様、今考えたみたいな話し方だったけど...。」

「気のせいよ。ほら、今日はサンタに欲しい物を考えて手紙を書きましょう。何か欲しい物はないの?」

「欲しい物?んー...お姉様達かな。」

 

 そう言ってフランが私達を指さした。

 

「え?私達...ですか?」

「?...フラン、どういうこと?」

 

 私とお姉様の頭には『?』が浮かんでいた。...どういうことなんだろ?

 

「だってお姉様達...いつも会える時間が少ないじゃない。毎日ずーっと...一緒に居たいの...。こんな暗い地下で来てもらうんじゃなくて...私がお姉様達の部屋に行って...それでずーっと一緒に...居たいの。」

 

 フランが目に涙を浮かべながら話した。...やっぱり、フランも私達と一緒に居たいのね...。

 

「...フラン...大丈夫よ。それは願わなくてもいつか絶対に叶うから...。私が能力を使っているんだから絶対に...絶対に叶うわ。」

「そうですよ、フラン。いつか...絶対に貴女の願いを叶えさせてあげます。だから...今は安心して他に欲しい物を願って下さい...。」

「...お姉様達、絶対にその約束...破らないでね?破ったら...ただじゃおかないんだから。」

 

 最後にフランが口を三日月のように歪め、そう言った。...勿論、私達はフランとの約束を破ることなんて絶対にしない。...絶対に...。

 

「勿論、破りませんよ。...貴女との約束は絶対に...。」

「絶対に破らないわよ。...それに、私が約束を破ったことなんてあったかしら?」

「それはあったわ。」

「はい、ありました。」

「無かったでしょ!...え?本当にあったの?」

 

 そう言ってお姉様が私達に聞いてくる。

 ...勿論、冗談のつもりだったけど...お姉様は心配そうな顔をして話しかけてきた。

 

「冗談ですよ。お姉様は多分、約束を破ったことはないですよ。」

「そうよ、冗談よ。...多分ないから。」

「...貴方達、多分ってどういうことよ。...レナ、フラン。貴方達は後でお仕置きね。」

「...レミリアお姉様、お姉様を一緒にお仕置きするから...私のはやめてくれる?」

「...そうねぇ...フラン。一緒にレナをこちょこちょするってのはどうかしら?」

「あ、いいわね。お姉様を一回、くすぐってみたかったのよ。」

 

 そう言ってお姉様とフランの口が三日月のように歪む。

 

「え!?じ、冗談ですよね?勿論、フランも一緒に...あ、ちょっと待って下さい!フラン!なんで無言で押し倒してるんです!?お姉様も逃げれないように手を固定しないでくだひゃっ!?ふ、ふりゃん!ひゃ、ひゃ、ひゃはははは!」

 

 私はお姉様に手を固定され、フランに馬乗りになられて脇をくすぐられた。

 

「お姉様、ここがいいの?それとも...ここかしら?」

「ひゃはははは!ど、どっちもい、ひゃ!?ひゃはははは!」

「あら?どっちもいいって?ならどっちもするわね。」

「フラン、やり過ぎないようにしなさい。レナ、死ぬから。」

「え?お、お姉様...死んじゃうの?」

 

 そう言ってフランがくすぐるのをやめた。...フラン、心配しすぎです。

 

「...冗談よ。...ただ、やり過ぎたら嫌われるから...。」

「え...お姉様に嫌われるのは嫌よ!お、お姉様...わ、私のこと嫌いになった?」

 

 そう言ってフランが震える声で聞いてきた。

 

「はぁ...はぁ...ふ、フラン...。...私はお姉様もフランも嫌いになんてなりません。...例え、どんなにくすぐられても...お姉様とフランのことは嫌いになんてなりません...。」

「...そう...良かった...。その言葉を待っていたわ。...勿論、もっとやってもいいわよね?」

「...えっ?」

 

 そう言ってフランの口がまた三日月のように歪んだ。

 ...え、もしかして...今までの全部演技?

 そう思った瞬間、フランがくすぐるのを再開した。

 

「ほら、ここがいいんでしょ?クスクス...お姉様、本当に面白いわ。こんな演技に騙されるなんて...。...ま、お姉様に嫌われるのは本当に嫌なんだけど...。」

「ひゃ!?ひゃはははは!」

 

 最後にフランが言った言葉は聞こえず、私は数分間くすぐられ続けた。

 

 

 

 ──数分後 紅魔館(フランの部屋)

 

「はぁ...はぁ...はぁ...。お姉様、フラン...。もうこんなことはやめてください...。死んでしまいます...。」

「ふふふ、お姉様、面白かったわ。...私のこと...本当に嫌いじゃないよね?」

「...嫌いじゃないですけど...。もうやめてください...。」

「あ、それは約束出来ないわ。ねぇ?レミリアお姉様。」

「ふふ、えぇ、そうね。」

 

 そう言ってお姉様とフランが笑いながら話す。...うー...絶対やめる気がない顔をしている...。

 

「...程々にして下さい。お願いします。」

「仕方ないわねぇ...。」

「...お姉様で遊ぶのは楽しいのに...。でも、やり過ぎてお姉様に嫌われるのは嫌だから...あまりしないように注意だけしとくわ。」

「...あまりしないなら...。それに...お姉様やフランと一緒に居れるなら...これくらいは...。」

 

 ...あっ、これは了承したみたいな言い方──

 

「そう、なら毎日一緒に居てあげるから...毎日してもいいわよね?」

「あ、私も一緒に居るからこちょこちょしたい!」

「...い、今のは...その...言い間違いと言うか...なんていうか...。」

「レナ、言い訳は無用よ。...それよりも、フラン。何か欲しい物は決まったかしら?」

 

 あ、お姉様が話をそらした。...これ以上私に否定をさせないつもりなのかな...。

 

「...欲しい物...。そうだわ...熊さんのぬいぐるみが欲しいわ。...私が抱きしめても壊れないくらいのぬいぐるみが...。」

「...貴女の力でも壊れないぬいぐるみねぇ...。まぁ、サンタに頼んだら大丈夫かもね...。」

 

 お姉様がそう言って私をちらりと見た。

 ...フランの力でも壊れないぬいぐるみか...。フランはまだ力の制御が出来てないし...能力で間違って壊してしまうことが多いから...フランの力で壊れないぬいぐるみなんて殆ど無い...。一体どうしよう...。

 

「...お姉様達...顔が暗いけど...大丈夫?」

「...大丈夫ですよ。ね、お姉様?」

「え、えぇ。大丈夫よ。」

「...そう、ならいいけど...。...あ、お姉様。何して遊ぶ?...お姉様で遊んでもいいけど。」

 

 フランがそう言って話題を変えた。...やっぱり、私達が暗いの気にしてるのかな...。

 

「フラン、私で遊ぶのはやめください。お願いします。」

「...はぁ...そうね。レナで遊ぶのは一日一回だけにしなさい。レナの身体がもたないわ。」

「...お姉様、ありがとうございます...?」

 

 ...言ってから思ったけど...これはお礼を言うところなのかな...。

 

「...何故疑問形なのかは聞かないでおくわ。...で、フラン。何かしたいことはないのかしら?」

「んー...そうだわ。お姉様、魔法を教えてくれないかしら?」

「...魔法...ですか?いいですよ。どんな魔法を教えて欲しいですか?私が知っている魔法なら...教えることが出来ますよ。」

 

 フランが魔法か...。そう言えばフランって魔法少女らしいし...魔法は教えたらすぐに使えそう。

 

「そうねぇ...お姉様達の位置をずーっと知れるような魔法か...お姉様達が生きているか分かる魔法が欲しいわ。」

「...一応、聞きますが…どうしてですか?」

「だって...お姉様達がいつ来るか知りたいじゃない。...それに...生きてるかどうか分かるなら安心するでしょ?」

「...フラン...。...一応、似たような魔法を知っていますよ。その魔法は...一日しか効果が続かないですけど...何処にいても生きているか分かり、対象者の同意のもと、術者の近くに呼び寄せることが出来る魔法です。」

 

 これは私が12歳の時に覚えた魔法だ。名前は『レスキュー』。元々は一人にしか使えない魔法だったが、何人でも使えるように改良した。じゃないとお姉様やフランを守れないからね。そして、一回呼び寄せるとその魔法は消えてしまう。だけど、もう一度かけ直すことも出来るから案外優秀な魔法だ。

 

「...それを教えて。何かあった時に...お姉様達を助けたいから...。」

「勿論、いいですよ。...お姉様も教えて欲しいですか?」

「そうねぇ...覚えれるか分からないけど...教えてもらおうかしら。」

 

 そして、私はお姉様とフランに魔法を教える...前に、フランにどうしてもさっきくすぐられた仕返しがしたい...。と言うかフランをくすぐってみたい。...どういう反応をするのか興味があるし...。

 

「...少し待って下さいね。......はい、この魔導書に書いてあるので一度読んでみて下さい。」

 

 そう言って『ディメンジョン・ゲート』を応用した魔法で魔導書を引き寄せた。この応用した魔法は物限定で取り寄せることが出来る。勿論、一度見たことがある物にしか使えないけど...。

 

「この本に...。お姉様、どのページなの?」

「えーと...ここですね。」

 

 そう言ってその魔法が書かれているページを開けた。...そして、フランとお姉様がその本を読み始めたと同時に、私は能力で『存在』を有耶無耶にして、認識されないようにした。

 ...あ、お姉様が笑みを浮かべている。...お姉様は能力で私が何をするか気付いているんだ...。でも、フランには気付かれていないみたいだし...大丈夫かな。

 そう思ってフランの背後まで回り込んだ。

 

「...あれ?レミリアお姉様、お姉様が居なく...ひゃっ!?」

 

 フランがそう言った瞬間に私が背後から脇をくすぐった。

 ...フランも反応は私とあまり変わらないんだ...。

 そう思いながら能力を解いて、フランをくすぐり続ける。

 

「フラン!さっきのお返しです!」

「お、おねーひゃま!?れ、レミリアおねーひゃまも笑ってないで止めひゃっ!ひゃはははは!」

 

 そう言ってくすぐり続けているうちにフランが倒れ、逃れようと転がり始めた。しかし、私も簡単に逃す訳がなく、馬乗りになってくすぐり続ける。

 

「...ふふふ、レナもフランも反応は変わらないのねぇ。面白いわ。」

「レミリアお姉様!後でひゃっ!ひゃはははは!」

「ふふふ...姉を舐めているとこうなっひゃ!?ひゃはははは!ふ、ふりゃん!?」

 

 私がくすぐっている時にフランが手を伸ばしてくすぐり返してきた。そして、その一瞬のスキをついてフランが逆に馬乗りになった。

 

「はぁ...はぁ...お姉様...油断したら...こうなっちゃうよ。」

「...はぁ...私の負けです。」

 

 そう言ってフランがくすぐるのをやめて、手で私の手を掴み、動けないようにした。...フランは両手を私の手を掴むことに使っているから...くすぐることは出来ないだろうけど...。一体どうしよう...。

 

「さ、二人とも、そこまでよ。...もうそろそろしたら戻らないといけないし...続きは明日にしなさい。」

「...そうね。...お姉様、明日は覚悟して。」

「それはこっちのセリフです。...フラン、明日は油断しませんよ。......それよりも...勢いでやってしまいましたが...私のことを嫌いになってませんよね?」

「お姉様...ふふ。私はお姉様達のことは絶対に...嫌いにならないわ。むしろ大好きよ、お姉様。」

 

 そう言いながらフランが私を抱きしめた。

 

「...ありがとうございます。フラン...私も大好きです。」

 

 そう言って私も抱きしめ返す。

 

「...これで仲直り...と言うか元々仲はいいけど。さ、魔法の続きをしましょう。レナ、教えてくれるわよね?」

「えぇ、勿論です。」

 

 そう言って私達は魔法の練習を再開した────

 

 

 

 ──時間は遡り...紅魔館(フランの部屋前)

 

 あの後、魔法を教えているとフランは使えるようになった。流石、魔法少女のフランだ。...でも、お姉様は苦戦して、結局使うことが出来なかった。

 あれからお姉様と相談して...フランの能力で壊れないぬいぐるみを作った。原理は簡単。このぬいぐるみの綿等に私の血を混ぜただけだ。勿論、普通に混ぜても意味がないので魔力を込めた私の血を、魔法を使って中に混ぜた。

 だけど...フラン自身の力では壊れてしまうかもしれない。流石に、そこまで耐久性があるぬいぐるみをこの短時間に作れなかったけど...能力だけでも無効化出来るぬいぐるみを作れたからよしとするか。

 そして、今はもう寝る時間。私がサンタとして、フランにプレゼントを渡す時間だ。

 

「...フラン...起きてないですよね...。起きてたらどうしましょう...。」

 

 一人でそう呟きながら部屋の前まで来た。...フランも魔力を持っているから近くなら何処に居るかは大体分かるけど...これ逆にフランも私の大体の場所分かる気が...。存在だけでなく魔力も有耶無耶にしとかないと...。

 そう思って魔力も有耶無耶にした。

 ...気付かれていないよね?これ気付かれていたら全て水の泡だからね...。

 そう思いながら扉を静かに開け、部屋に入った。そして、ゆっくりとフランに近付き顔を見る。

 

「...フランは......寝ていますね...。良かった...。」

 

 ホッと安堵し、プレゼントをフランの頭元に置いた。...それにしても、フランの寝顔も可愛い...。

 

「...フラン...何があっても私は貴女を守りますからね。」

 

 そう言い残し、私は部屋を後にした────

 

 

 

 

 

 side Flandre Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

 もう時間も遅いから寝ようとしていた時に部屋の外から魔力を感じた。

 

「...この魔力は...お姉様?...どうしてこんな時間に?」

 

 ベッドに寝転びながらそう呟いていると、突然お姉様の魔力が消えて扉が開かれた。私はビックリして寝たふりをする。

 ...いきなり開いたから寝たふりをしたけど...あれ、誰もいない?

 少し目を開けて見たけど...誰もいなかった。不思議に思いながらまた目を閉じる。

 

「...フランは......寝ていますね…。良かった...。」

 

 目を閉じている時にそんな声が聞こえた。

 ...この声はお姉様?...能力を使っているのね。でも、どうして能力を使ってまでこんなことを...?

 

「...フラン...何があっても私は貴女を守りますからね。」

 

 そう不思議に思っていると、お姉様がそう言いながら何かを頭元に置いた。

 そして、その後すぐに部屋の扉が閉まった。

 

「......お姉様...何かあったとしても...私の為に死なないで...。私はお姉様が大好きだから...お姉様には長生きして欲しいの...。...お姉様の為に...私も強くなるわ。だから...絶対にお姉様は死なせないわ。」

 

 誰もいない空間にそう呟き、頭元に置かれた何かを手に取った。それは、両手で持たないといけないくらいの大きなサイズの箱だった。

 

「...お姉様が...これを置いていったのかな?...これは...どうやって開けるんだろ?...ま、いいや。...きゅっとして...ドカーン。」

 

 私がそう呟いた瞬間、箱が『破壊』され、中からぬいぐるみが出てきた。

 

「え?...熊さんの...ぬいぐるみ?...もしかして...お姉様...。」

 

 中に入っている物を手に取り、触ってみる。やっぱり、普通のぬいぐるみだ。...でも、一つだけ違うことがある。それは物には必ずあるはずの『目』が無いことだ。

 

「...これは...お姉様の血の臭い?そのせいで『目』が見えないのね。...やっぱり、お姉様が...サンタの代わりにプレゼントを?」

 

 お姉様がサンタの代わりにプレゼントを...。と言うよりかはサンタがお姉様ってこと?...うーん...どういうことか分からないけど...お姉様から貰ったプレゼントだから...大切にしないと...。

 そう思いながら私はぬいぐるみを抱きしめた。

 

「...凄い...初めて壊れなかった。」

 

 いつも...私が抱きしめた物は...私の力に耐え切られなくなり壊れてしまう。材質とかは普通と変わらないみたいなのに...。

 

「...お姉様...ありがとう。」

 

 そう呟いて、ぬいぐるみを抱きしめた。

 

「...明日...お姉様にお礼を言わないと...。」

 

 そう呟き、私は寝た────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「お姉様、ありがとう!」

 

 お姉様と部屋に入ると、いきなりフランが私に飛び込んできた。

 ...あれ?もしかしてバレてた?

 

「え、えーと...何がですか?」

「...レナ、無駄よ。全部バレてるわ。」

「...フラン...起きてたのですか?」

 

 お姉様にそう言われ、諦めてフランに聞いた。

 

「うん。起きてたわ。...お姉様の魔力を感じて...寝ようとしたけど目が覚めたの。」

「うー...やっぱり、魔力も有耶無耶にしとくべきでした...。」

「はぁ...貴女っていつも詰めが甘いわねぇ...。」

「レミリアお姉様、お姉様が泣きそうな顔をしているからそれ以上はやめてあげて。」

「泣いてません!」

 

 フランがそう言ってからかってきた。

 ...でも、詰めが甘いのは認めるしかない...。

 

「お姉様、そんなに怒らないで。...それよりも、ぬいぐるみ...ありがとう。このぬいぐるみ...能力でも壊れないし...抱きしめても壊れなかったし...。こんなに嬉しいプレゼントは初めてよ!」

 

 フランが嬉しそうな顔でそう言った。

 

「...フランのその顔が見れて私も嬉しいです。...何か欲しい物があったら何でも私に言ってください。」

「うん!ありがとう、お姉様!」

 

 そう言ってフランが私に抱きついてきた。

 

「あ、そうそう。...お姉様、昨日のこと覚えてる?」

 

 そう言ってフランが笑いかけてきた。...昨日のこと...やっぱり、フランも憶えていたんだ。勿論、私も憶えていたけど...。

 

「...フランも憶えていましたか…。どうします?この状態だと...貴女は抱きしめている手を離しているうちに私がくすぐれますが。」

 

 昨日のこと...勿論、昨日のくすぐりのことだ。あの時は油断したけど...今日は絶対に油断しない。

 

「...そうねぇ...お姉様、勝負しない?」

「勝負...ですか?いいですよ。何をしますか?」

「勿論、いつもお姉様がレミリアお姉様と一緒にやっている弾幕の当て合いよ。私もたまに練習しているからお姉様に簡単に負けはしないわよ。」

「私も毎日、お姉様とやっているから負けません。...本当に...私に有利な勝負なのに...いいんですか?」

 

 毎日やっている分、こちらの方が有利だ。それはフランも分かっているはずなのに...。どうしてなんだろう?

 

「勿論よ。...私も...強くなりたいから...。...だから、お姉様!手加減はしないでよ!」

「...はい、勿論です。...フラン、姉に勝つなんて...千年早いです!」

 

 そう言って私とフランは空を飛んだ。この地下は弾幕ごっこが出来るくらいに広いから、この弾幕ごっこもどきもすることが出来る。

 それにしても...フランも強くなりたいんだ。...やっぱり、私と同じ理由なのかな。

 

「あら、レナ、私のセリフでもパクったのかしら?」

「お姉様、それは言わないで下さい。かなり恥ずかしくなりますから。」

「ふふふ、やっぱり、お姉様は面白いわ。そうだわ。...お姉様、勝負の前に...勝ったらどうするか決めましょう。

 ...私が勝ったら...お姉様に毎日この弾幕の当て合いと魔法の練習に付き合ってもらうわ。...お姉様はどうしたい?」

 

 そう言ってフランが私に聞いた。...フランは本当に強くなりたいんだね。...フランの本当の狙いが分かったし...手伝わない手はない。

 そう思って私はフランの質問に答えた。

 

「...フラン...。...そうですね...私が勝ったら貴女には、毎日弾幕の当て合いと魔法の練習をさせますね。」

「...ありがとう、お姉様。...それじゃあ、始めましょう!楽しい時間の始まりよ!」

「えぇ!...今日から毎日...この楽しい時間を過ごせますよ!」

「...二人とも...楽しそうね。...明日から私も手伝おうかしら。」

 

 私が言った後に、お姉様の声が聞こえた。...この三姉妹で...今年も楽しく過ごせたらいいなぁ...。

 そう思いながら今日も楽しく一日を終えた────




本編よりも長くなったっていう不思議。
次回の番外編は正月の予定。


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番外編5.7、「年明けの吸血鬼姉妹」

あけましておめでとうございます。
そして、今年もよろしくお願いします。
今年中に五章まで終われるかな...。


side Renata Scarlet

 

「お姉様、今日はフランの部屋で一緒に寝ませんか?」

「...急にどうしたの?」

 

十二月三十一日、今年最後の日に起きて、すぐにお姉様の部屋に向かった。...と言っても隣の部屋だけど。

 

「いえ、今日は今年で最後の日なので...最後の日くらい三姉妹で一緒に居てもいいかなー...って思いましたので。」

「今年最後の日はもう数分程度で終わるわよ?」

「あっ...それもそうでした...。」

 

前世が人間だったせいか少し時間とかの感覚がおかしくなってる。

 

「それに、今までそんなことやってなかったでしょ?どうして今日はそうしようと思ったの?」

「んー...フランが恋しくなったので。」

「毎日会ってるでしょ。...でも、まぁ...一緒に寝るのはいいわよ。その代わり、本当の理由を教えてくれないかしら?」

「え、ほ、本当の理由ですか...?...えーと...特に理由は無いですよ?」

 

本当は最近、お姉様が忙しそうだから息抜き程度に...って思ってるんだけど...お姉様...プライド高い方だし、言わない方がいいよね。ちなみに忙しい理由は次期当主としての勉強とかがあるかららしい。結局、次期当主として長男が欲しいと言っていたお父様だが...長女であるお姉様を次期当主にするらしい。

 

「...言い方を変えるわ。本当の理由を言わない限り一緒に寝ることは許可しないわ。...まぁ、許可とか言ったけど本当は私が許可しても駄目なんだけど...。」

 

まぁ、それは私も知ってるけど...お姉様の能力を使った方がバレにくいし...お父様達と違って許可してくれやすいし...。

 

「うー...ほ、本当に理由とか特にないですよ?」

「そう。じゃあ、この話は無かったこと────」

「ま、待ってください!...本当は...お姉様が最近忙しそうにしてたから...息抜き程度になればいいなー...って思ったんです...。」

「...そうね...本当の理由を言ったみたいだし...フランの部屋で一緒に寝てもいいわよ。...それと、心配かけてごめんね。心配してくれて...ありがとう、レナ。」

 

よし!!お姉様から許可もらえたからこれでフランとも一緒に寝れる。フランの部屋で寝る理由は...私としては...出来るだけフランが一人で居させたくないから...フランとも一緒に寝ようと思ったのだ。それに、三姉妹一緒に居るだけで楽しいし...。

 

「...お姉様、お礼とかいらないですよ。さ、そうと決まったら早くフランの部屋に────」

「レナ、貴女...まだ起きてから数分程度しか経ってないと思うんだけど...魔術の練習とかしてないのに行ってもいいと思ってるのかしら?」

「あ...少し急ぎすぎました...。...お姉様、絶対に約束は守って下さいね。」

「勿論、守るわよ。さ、そろそろ練習に行きましょうか。...あ、もう来年...いえ、今年になったわね。」

 

お姉様と話しているうちにいつの間にか年を越していたようだ。んー...やっぱり、年を越したって感じがしないなぁ...。

 

「え...あ、そうみたいですね。お姉様、あけましておめでとうございます。そして、今年もよろしくお願いします。」

「えぇ、今年もよろしくね。さ、早く終わらせてフランに会いに行きましょうか。」

「はい!」

 

そう言って私達は練習へと向かった────

 

 

 

──数時間後 紅魔館(フランの部屋)

 

「フラン、入るわよ。」

「フラン〜、入りま...わっ!?」

 

私達がそう言って入ろうとしたらフランが私に飛びついてきた。

 

「おねーさまぁ...大好きぃ!」

「え、あ、ありがとうございます。」

「...ふ、フラン?いつもと様子が違うくないかしら?」

「レミリアおねーさまも大好きだよぉ。」

 

そう言ってフランがお姉様にも抱きついた。

...お姉様の言う通り、本当にいつもとフランの様子が違う...。どうしたんだろう?

 

「レミリアおねーさまぁ...レミリアおねーさまで遊んでもいい?」

 

そう言ってフランの口が三日月のように歪み、お姉様を押さえつけた。

...あ、これ駄目なやつだ...。

 

「!れ、レナ、早くフランを止め────」

「どうしたのぉ?勿論...私と一緒に遊んでくれるよねぇ?...私と遊んでくれないお姉様なんて...消しちゃおうかなぁ?」

「大丈夫よ!ふ、フラン、一緒に遊んであげるわ!でも、私では遊ばないで!多分、私が死んじゃうから!」

「...フラン、元に戻って下さい。」

 

そう言って私はフランに触れた。

 

「え?...あ、あれ?レミリアお姉様?お姉様?...どうしてレミリアお姉様は私につかま...あ...ご、ごめんなさい。...また私...やっちゃったんだね...。」

「...フラン、大丈夫よ。まだ怪我とかしてないし...貴女のせいじゃないから。それに...運命を見てなかった私も悪いわ。...見てたらフランにこんな思いをさせずにすんだのに...。」

「ち、違うわ!私が悪いの!だから...れ、レミリアお姉様のせいじゃないわ!」

 

フランが今にも泣きそうな顔でお姉様に言った。

 

「フラン...お願いだから...そんな顔しないで。」

「だって!...だって...レミリアお姉様を傷付けそうになったんだよ!?だから────」

「フラン!...誰のせいでもないですよ。貴女の意思でお姉様を襲ったわけではないですから。...それに、お姉様も...運命を見なかったとしても止めれるかどうか分からなかったんですし...お姉様も自分を責めないで下さい。」

「...そうね。誰も悪くないわ。...フラン...泣かないで。それに、私は何ともなかったわけだし…。」

「...レミリアお姉様、お姉様...う、うわぁぁぁん!」

 

そう言ってフランが完全に泣いてしまった。

...多分、安心して泣いたのと同じ感じなのかな。...まぁ、いつも気が狂って戻った時は泣きやすいけど...。感情が不安定になっているのかな?

 

「え、ふ、フラン...。...フラン、大丈夫だから...泣きやんで?...あ、そうだわ。今日はレナの提案で一緒に寝ることになったのよ。ね?レナ。」

「はい、そうですよ。フランも嬉しいですよね?」

「グスッ...嬉しいけど...本当に...?またお父様達に怒られないの?」

 

たまに私だけでフランの部屋で寝ているけど...お父様にそれがバレたことが一回だけある。その時は結構怒られた...。

 

「大丈夫よ。今回は私がいるから...私が能力を使って出来るだけお父様達にバレないようにするわ。」

「それに...フランと一緒に寝て怒られたとしても...後悔はしないです!」

「はぁ...反省はしなさいよ。あの時...姉なのに何故ちゃんと見てなかったのかって怒られたんだから。」

「うっ...すいません...。」

 

そう言えば確かにお姉様も怒られてたような...。

 

「...レミリアお姉様、お姉様...ありがとう。」

 

泣き止んで落ち着いたフランがそう言った。

 

「別にいいのよ。」

「そうですよ。...さ、もうすぐで夜が明けます。早く寝ましょう。...あ、その前に...フラン、今年もよろしくお願いします。」

「?...今年もよろしく、お姉様、レミリアお姉様。」

「えぇ、よろしくね。」

 

そう言って三人一緒にベッドに入った。...やっぱり、狭い。二人でギリギリだから...三人だとかなりきつい。まぁ、まだ私達は子供だからマシなんだけどね。

ちなみに、寝ている場所は右からフラン、私、お姉様だ。最初に寝た時からこうだったけど...そう言えば理由は知らない...。

 

「...お姉様、フラン...そう言えばどうしてこの順番なんですか?」

「お姉様、順番ってなんの順番?」

「寝ている場所の順番です。いつもこの順番ですけど...。」

「さぁ、特に理由はないわよ。」

「そうね。特にないと思うよ。」

 

私が聞くと二人共同じような反応をした。

 

「...それなら...いいですけど...。...あ、フラン。あまり強く抱き締めないで下さいね。貴女の力は私達の中でも一番強いですから...。私では抵抗出来ません。」

「え、レナなら魔法使えば大丈夫でしょ?」

「いえ...フランに対してはあまり魔法を使いたくないのです。」

「?お姉様、どうして私にはあまり使いたくないの?」

 

フランが私を抱き締めるついでに聞いてきた。

 

「...フラン、言っている早々強く抱き締めないで下さい。血が出てる気がします。

...まぁ、それは置いといてですね...。どうしてかと言うと私の魔法は対象に悪影響を与えるものが多いのです。そして、力でフランを抑えるとしたら...自分の能力を爆発的に上げるしか...。そうしたらフランを傷付ける可能性もあるので...。」

 

今度...対象を眠らせる魔法でも覚えてみたいなぁ...。

 

「...お姉様って本当に私達に優しいよね。」

「えぇ、そうね。...後、血は出てないから安心しなさい。」

「...それならいいですけど...。」

「ほら、やっぱりお姉様って優しいよね。...まぁ、私達姉妹にだけみたいだけど...。」

「...私には...お姉様やフランほど仲が良い同年代の人とかいないので...。それに......いえ、やっぱり、何もないです。」

 

...前世の記憶を持っている私としては...『原作』に出ているキャラには...出来るだけその『原作』から踏み外してほしくないと思っていても...お姉様と...特にフランには...もっと幸せに生きてほしいと思っている。...495年も地下で暮らすなんて思いを...して欲しくないからね...。

...それ以外にも...自分には分からない...何かがある気がするけど...まぁ、分からないしいいや。

 

「...お姉様、最後の気になる。...教えてくれないの?」

「はい、教えません。...いつか...分かるかも知れません。...いえ、きっと言うと思います。...でも、今は教えないです。」

「無理。」

「はい...って、え?」

 

フランの私を抱き締める力が強くなる。

...あ、これ本当に血が出てる気がする!って言うか絶対出てる!めっちゃ痛い!

 

「お姉様...教えてくれないと...このまま強くなるよ?」

「あ、レナ、血が出てるわよ。言うのを急がないと死ぬかもね。」

「お姉様!縁起でもないこと言わないで下さい!って、痛っ!!」

「お〜ね〜え〜さ〜ま〜!早く言わないともっと痛くなるわよ?」

 

そう言ってフランが力をどんどん強める。

...これは...最終手段しかない...。

 

「そ、それなら...フラン、ごめんなさい。」

「え?お、お姉...様?...あ、あ...れ...。」

 

私はそう言ってフランの『意識』を有耶無耶にして気絶させた。...と言っても離すと元に戻ってしまうから抱き締められたままだけど...。だから、少し爪がくい込んでいる気がする...。

 

「...フランを力以外で抑えれる方法が他にもあったじゃない。」

「まぁ...そうですけど...これは最終手段です。それに...これを今みたいな時に使うと...こういう風に爪がくい込んでいるままとかになるので...。」

「...確かにこれは痛そうね。...うわっ、血がかなり出てる...。まぁ、すぐに治るからいいと思うけどね。」

 

お姉様がフランの爪がくい込んでいる背中を触れながら言った。

フランに抱き締められてフランの顔しか見えないけど...喋り方的に絶対お姉様笑ってる...。

 

「...仕方ないですから...もうこのまま寝ます。お姉様、おやすみです。」

「...おやすみ、レナ。」

 

そう言ってお姉様は寝た。

...明日...フランが起きた時...大丈夫かな?

そう思いながら私も寝た────

 

 

 

 

 

side Remilia Scarlet

 

「お姉様!昨日のこと許さないから!」

「ふ、フラン!?それは止めてください!それはシャレにならないです!」

 

レナとフランのその声によって私は起きた。レナとフランはいつの間にか空を飛んでいる。...起こしてくれても良かったのに...。

 

「ふぁ〜...レナ?フラン?...どうしたの?」

「レミリアお姉様!お姉様が昨日私に能力を使って気絶させたのよ!」

「そ、それはフランが力を入れすぎたから仕方なく...。」

「言い訳無用!大人しく切られなさい!」

 

そう言ってフランが炎の剣を振り回しながらレナに向かって突進してきた。

 

「...こうなっては仕方ないです。...フラン!姉に対して剣を向けると...どうなるか思い知らせてあげます!」

 

そう言ってレナが光り輝く剣...『クラウ・ソラス』を作り、手に取った。

これはレナがフランが生まれた時に作った剣らしい。私に合わして槍を作ったり...フランに合わして剣を作ったりとレナは色々な武器を使う。まぁ、腕はそこそこなんだけど。

 

「...二人共、止めなさい!まだ起きたばっかりなんだから早く戻らないと駄目でしょ?」

「うっ...お姉様...。仕方ないですね。勝負は後でやりましょう。」

「...そうね。お姉様、魔法を教えてもらった後にやるわよ。」

「はい、そうしましょう。...また後で来ます。...フラン、待っていてくださいね。」

「えぇ、待っとくわよ。」

 

フランとレナがそう言っている最中に私は部屋を出る準備をする。

 

「...レナ、行くわよ。...フラン、絶対に今日も来るから...しっかりと我慢してね。」

「...はい、レミリアお姉様。...じゃ、バイバイ。」

「フラン...バイバイです。」

 

そう言って私達はフランの部屋を出た────

 

 

 

──紅魔館(廊下)

 

「...お姉様、もしもフランが暴走した時に...私が死んでもフランを恨みませんか?」

 

部屋に戻っている最中にレナが話してきた。

 

「えぇ、勿論フランは恨まないわよ。...でも、貴女を恨むわ。」

「えっ...私を恨むんですか?」

「えぇ。...姉よりも先に死ぬなんてことがあったら...死ぬまで恨むから。」

「...ふふ、そうですよね。...私は死なないです。...お姉様とフランが死ぬ十分前くらいまでは...絶対に生きます。」

「...そう言ってくれると頼もしいわね。」

 

そう言って私達は部屋に戻り、新たに始まった年の初めての日も...いつも通りに終わった────




なお、本編は諸事情により明日、月曜日に投稿させていただきます(´・ω・`)
やっぱり、1日は忙しかった(´・ω・`)


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6、「崩れ始める日常その1──妹の狂気と姉の誓い」

ここから次章までほぼシリアスになる予定です。


 side Renata Scarlet

 

 お父様が『狩り』帰って来て、フランの部屋でパーティーをしてから15年...私が17歳になった時、あれからも魔法、空を飛ぶ練習を続け、ようやくお姉様に『召喚魔法』を使用することを認められた。

 そして...あれから色々と分かったこと、変わったことがある。

 まず、分かったことは...私の能力が分かったことだ。きっかけはお姉様と一緒に寝ている時...お姉様が寝ぼけて私の首を噛んでしまったことだ。

 

「お、お姉様! 痛い!」

「え?......あっ! ご、ごめんなさい。レナ、大丈夫?」

「うん、私も吸血鬼だから、大丈夫。すぐに治るよ」

 

 そう言ったと同時に、私は吸血鬼の再生力で傷を治していく。......そこまでは何も分からなかったけど、お姉様が私を噛んだ時に、誤って吸血してしまったことで私の能力が分かった。

 

「あ、レナ。貴女の血......少し飲んじゃった。」

「大丈夫だよ。それよりも......私の血って美味しいの?」

「......えぇ、とっても美味しいわよ」

 

 ...…これは、普通に気になったから聞いただけで、別にまた吸血されたいとかは思っていないからね。吸血されると地味に痛いし。......本当のことだからね。

 

「なら、良かった。お姉様に不味い血を飲ませた、なんてことがあったら嫌だからね」

「貴女の血が不味いわけ......あ、あれ? ど、どういうこと?」

「え? お、お姉様? どうしたの?」

 

 私の血を飲んだ後に......いきなりお姉様が震える声で何かを言い始めた。

 

「だ、大丈夫よ。い、いつも通りに......あれ?いつも通りって、いつもはどうやっていたのかしら...…?」

「お姉様! 声が震えてるよ!? 本当に大丈夫なの!?」

「わ、分からない......何が起きたのか分からないわ! どういうこと!? どうして、どうして私の能力が......」

 

 お姉様が混乱しすぎて......会話が殆ど成り立たない。本当にどうしちゃったの?

 

「......お姉様、能力がどうしたの?」

「能力が使えないのよ! 貴女にも! 私自身にも使えないの! 今までどうやって使ってたのか......それが分からないの!」

「わ、分からない? 能力の使い方が?」

「えぇ! 今までどうやって使ってきたのか! どうやったら使えるのかが分からないの!」

「お、お姉様!......落ち着いて。大丈夫、私が居るから。安心して......ね?」

 

 取り敢えず、お姉様を落ち着かせないと......。大丈夫......私ならお姉様を正気に戻せるはず。

 そう思いながら、お姉様を抱きしめて言った。

 それにしても...…こんなにも感情が不安定なお姉様は初めて見た。まるで......感情を抑制出来ていないみたい。

 

「レナ......大丈夫。ごめんね、心配かけて。もう大丈夫よ」

「......お姉様、私からも......ごめんなさい。もしかしたら私のせいかもしれない。私の血を飲んでから使えなくなったみたいだし......」

「レナ、誤って飲んでしまったのは私だし......貴女は悪くないわ。......それに、もう能力の使い方も思い出したわ。確かに、貴女の血の影響かもしれないけど、これで貴女の能力も分かったし......大丈夫よ」

 

 え? 私の能力が分かったの? ......そんな顔をしているとお姉様が説明してくれた。

 

「多分、貴女の能力は誰かの能力を......いえ、能力以外にも理性とかも『分からなくする』みたいだわ。......さっきの私は感情を抑制する『理性』が欠けていた。......と言うよりはそれを『忘れていた』。今まで普通に使っていたことを『忘れさしてしまう能力』......貴女の能力は何かを分からなく......いえ、どちらかと言うと、『何かを有耶無耶にする能力』みたいだわ。

 貴女の血を飲むことで発動するみたいだけど......常時でも微弱ながら発動しているみたい。貴女が貴女自身を分からなく、有耶無耶にして、貴女に対する能力は効きにくくするみたいだわ。......だから、私の能力が効きにくく、フランの能力で貴女の『目』を見つけにくいの。

 それと、貴女が私を抱きしめてくれた時に理性も、能力の使い方も思い出した。......貴女自身が対象に触れることでも発動、解除が出来るみたい。

 とまぁ、私に分かったことはこれくらいね。」

 

 やっぱり、私のせいで......。

 

「お姉様、怒ってる?」

「え? どうして?」

「だって、私のせいで......」

「あら? 誰も貴女のせいとは思わないわよ。私が勝手に噛んで吸血しただけよ。それに、もう元に戻ったしね」

「......お姉様、ありがとう」

「どういたしまして」

 

 この能力が分かってからはお姉様と一緒にこの能力を使い方を練習した。

 そして、他にも分かったことがある。生物以外にも、無機物に対して使えることが分かった。無機物に対して使えると言っても、『存在』を『有耶無耶』にして自分以外からその無機物を認識しずらくすることくらいしか出来ない。他にも、血での効果は時間制限があるらしい。詳しい時間は分からないけど......量によって差が出るみたい。

 それと、自分にはどんなことでも能力を発動、解除することが出来るが、他の生物に対しては触れている時じゃないと発動、解除が出来ない。

 この能力の使い方を覚えて良かったことがある。それは、フランにいつでも会いに行けるようになったことだ。まぁ、自分の『目』を『有耶無耶』するという条件付きだけどね。

 ......でも、この能力が分かるのがもっと早かったら良かったと後悔している。お母様はもう手遅れらしい。能力を使用し過ぎて......生きても後1年だとか。お母様は今、自分の部屋で安静にしている。

 だから......今のフランは独りぼっちだ。お姉様と私が能力を使って部屋には毎日行っているけど......それでも私達が居ない時は......独りぼっちだ。だから、少しでも独りにしないように毎日行っている。ただでさえ、フランは精神状態が不安定。もしも、一日中独りで過ごすとなると......もしかしたら狂気に染まって、手遅れになることもあるかもしれない。そうならないように、姉である私達が何とかしないと......。

 ......だから、今日も魔法と空を飛ぶ練習が終わったら行くことにした。

 

「お姉様、今日こそは勝たせてもらいます!」

「あら? 妹が姉に勝てると思っているのかしら?」

 

 今はお姉様と一緒に空を飛ぶ練習......と言うよりかはお姉様と勝負をしている。勝負の内容は『弾幕ごっこ』とあまり変わらない。しかし、『弾幕ごっこ』と違い、美しさを重視してない。相手に当てる為だけに弾幕を放っている。ルールも簡単、先に相手と数メートル離れて、その相手に一発でも弾幕を当てたら勝ちだ。

 ......私が15歳の時からやっているけど、未だにお姉様には勝ったことがない。と言うか遊ばれている気もする。

 

「姉と言っても三年しか変わらないです! だから、今日こそは!」

「三年しか変わらないのに毎回負けているでしょう? 私に勝とうなんて.....千年早くてよ!」

 

 お姉様がそう言ったと同時に槍状の妖力の塊(グングニル)を放った。私も負けじと同じような槍状の妖力(ブリューナク)を放つ。

 私のブリューナクはいつかするであろう『弾幕ごっこ』のためにお姉様のスペルカード『神槍「スピア・ザ・グングニル」』を真似して作ったスペルカードだ。勿論、この勝負では威力を重視にしているから本来のスペルカードとは少し違うようにしている。本来は天に向かって投げてから効果を発動させるのだが......これは槍に力を込め、普通に相手に向かって投げる。

 そして、投げた槍はお姉様の『グングニル』によって相殺された。

 

「あら、レナ、昨日よりも強くなったのね」

「えへへ。ありがとう、お姉様」

「レナ、褒められたからって照れて油断しては駄目よ」

 

 あ、やっぱり、褒めてくれてるのね。それにしても、お姉様に褒められると凄く嬉しいなぁ。

 

「はぁー、今日も貴女の負けね。レナ、後ろも注意しなさい」

「えっ? ......えぇ!?」

 

 後ろを振り向くとそこには、無数の弾幕があった。え? いつの間に!? っていうか、容赦なく弾幕を張りすぎじゃない!? めちゃくちゃあるけど!?

 さらに、後ろを向いている最中にお姉様が前でも弾幕を張り......その全てが私に襲いかかった。

 

「い、痛い! お、お姉様! 負けでいいから! 痛っ! も、もうやめて!」

「あらあら、私に勝つんじゃなかったの?」

「お姉様に勝つなんて痛っ! 千年早かったです!」

「よろしい。レナ、私に褒められても照れずに集中してたら避けれたかもしれないのよ。......私は貴女が油断している時に弾幕を張ったのだから」

 

 お姉様はそう言いながら弾幕を消した。

 

「うー......今日も勝てなかった......と言うか、お姉様。私の性格を知って褒めたでしょ......」

「あら? 何のことかしら?」

「うー......悪魔!卑怯者!」

「レナ、何か言ったかしら?」

 

 お姉様の目が私に鋭く刺さる......。絶対聞こえてるのに聞いてくるあたり、やっぱり悪魔だ。

 

「......何でもないです」

「そう、ならいいわ。さ、早くフランの部屋に行きましょう。......あの娘もそろそろ我慢出来ないみたいだし」

「......そうだね」

 

 そう言ってフランの部屋へと私達は向かった────

 

 

 

 

 

 side Flandre Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「......お姉様達、遅いなぁ......」

 

 いつもより一時間以上遅い。......私、嫌われたのかな? ......でも、嫌われることは何もやっていないはずだし。きっと......魔法の練習とかがいつもより長引いているだけに決まっている...…。

 そう思っても、やっぱり心配だ。

 ......私の能力は危険らしい。前まではお母様が能力で抑えてたらしいけど、今はお姉様が能力を使えるようになったり、お母様の体調が悪くなったりして......今の私の能力は自由に使うことが出来る。

 私の能力は『ありとあらゆるものを破壊する能力』......全ての物には『目』と呼ばれるものがあり、私はその『目』を手に移し、握り潰すことでその物を破壊することが出来る。

 ......今もいたるところに『目』が見える。今、私が持っている人形にも、手が届かない距離にある人形にも......全ての物に『目』が見える。

 そっと......私が持っている人形の『目』に触れてみる。すると、人形があっけなくバラバラと壊れた。

 

「......また壊れちゃった。お姉様に怒られるかな......」

 

 物をあまり壊さないように言われてたのに、また壊しちゃった。

 ......何故壊そうと思ったのか、私にも分からない。たまに......自分が自分ではなくなってしまい、近くにある物を全て壊そうとしてしまうことがある。

 もしかしたら、近くにある物なら......お姉様達でさえも壊そうとしてしまうかもしれない。

 ......絶対にお姉様達は壊さない。もしも、壊そうとしてしまったら......私自身を壊す覚悟もある。......お姉様達は、こんな私を受け入れてくれた優しいお姉様達だ。何があっても私を守ろうとしてくれてる。そのお姉様達を......もしも、私自身が壊したら。そう考えるだけで胸が苦しくなる。何があってもそれだけは止めないと......。

 もしも、私が狂気に染まって、お姉様達を壊そうとしたら......私自身が止めないと。何をしてでも......。

 それにしても...…お姉様達遅いなぁー。

 独りぼっちは寂しい。......本当はこんな場所に独りで居るだけでも嫌だ。でも、私はまだ自分を止めれるか分からない。ここに私が居るだけで......お姉様達に危険が無いならそれだけでいい。

 

「独りぼっちは寂しいよ。早く来てよ、お姉様......」

 

 そう呟いてみる......勿論、返事は──

 

 ──貴女、お姉様達に嫌われたんじゃない?──

 

 返事が......どこからともなくそんな言葉が返ってきた。

 

「わ、私は! 嫌われるようなことは何も......」

 

 ──貴女が嫌われるようなことをしてなくても......貴女には忌み嫌われる能力があるじゃない。貴女の存在自体が嫌われる原因なのよ──

 

「ち、違う! お姉様達はそんな私でも......」

 

 ──それは貴女が勝手に思っているだけ。本当はお姉様達にとって貴女は...邪魔でしかない存在よ──

 

「う、嘘よ! 私はお姉様達にとって......あ、あれ? わ、私って、お姉様達にとって......必要なの? 本当は邪魔なんじゃ......ち、違う! 私は......い、いらない? 違う! 違う違う違う!」

 

 ──やっと気付いたのね。貴女は必要ないの。消えても誰も悲しまない──

 

「違うって言ってるでしょ! そもそも、貴女は誰なの!? 私のことなんて知らないくせに...」

 

 ──全て知っているわ。私は貴女......貴女自身よ。全て知っているから言っているのよ。貴女は邪魔だと...…ね──

 

「貴女の方が邪魔よ! 貴女の方がイラナイ! お前ナンテ......キエロ!」

 

 そう言って私は能力で『全て』を消そうとした。......そこから先の記憶が無い。

 ......次に目が覚めた時は...お姉様の微笑む顔が見えた────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「違う! 違う違う違う!」

 

 フランの部屋まで後もう少しという所でフランの部屋からそんな声が聞こえた。

 

「お姉様! 先に行きます!」

「れ、レナ! 待ちなさい!今、貴女が行ったら!」

 

 そんなお姉様の静止する声も聞かずに私は急いでフランの部屋に向かった。

 そこには、笑顔で叫び続けるフランと......『破壊』された玩具がいたるところに転がっていた。

 

「フラン! 大丈夫......っ!? ふ、フラン?」

 

 私がそう言って部屋に入ると......フランが私に向かって飛び込んできて、私を倒して馬乗りになった。

 

「ゼンブ......キエテシマエ。オマエモ、ゼンブ......」

 

 そう言ってフランが私の首を絞める。首を絞めている手の爪が私に突き刺さり、そこから血が出ている。

 

「ふ、フラン。大丈夫ですよ......。私です......お姉ちゃんですよ?」

「......オネエサマ? ......チガウ。オネエサマハ、ワタシナンテ......」

 

 フランに語りかけるも...話を聞いてくれない。

 

「フラン......どうし、ましたか?」

 

 あれ? どんどん息が......出来なくなってきた......。

 

「オネエサマハ、ワタシナンテ......イラナ──」

「いります! ......フラン、貴女は......私の、たった......たった一人の、妹です......よ?」

 

 そう言ってフランに微笑みかける。

 ......あぁ。息が......もう、もたな.....

 

「......オ、オネエサマ? ホントウニ、ワタシハイルノ? ......ヒツヨウナノ?」

「......勿論です。貴女は......私達......に、とって......必要です......」

「そうよ、フラン。貴女は私達にとって......大切な妹なのよ」

 

 そう言ってお姉様が入ってきた。はぁ......遅いですよ、お姉様......。

 

「......フラン、そろそろ離してあげなさい。レナが苦しがっているわ」

「......え? お、お姉様? あっ......ごめん......なさい。......ごめんなさいごめんなさいごめんなさい......」

 

 正気に戻ったフランが首を絞めている手を離し、泣きながら私を抱きしめて言った。

 

「はぁ、はぁ、はぁ......大丈夫ですよ......それよりも、フランが元に戻って良か──」

「お、お姉様!」

 

 私がそう言ったのを最後に、私は気絶してしまったらしい。

 最後に聞こえたのは......フランの泣いているような声だった────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「お、お姉様!」

 

 フランがそう言った時、レナが気絶した。......さっきまで首を絞められ、さらにそこから血も出ているから気絶するのは仕方ない。

 

「大丈夫よ、フラン。レナは気絶しているだけ」

「あ......レミリアお姉様......レミリアお姉様も......私のこと嫌いじゃない?」

「勿論、貴女のことも、レナのことも大好きよ。だって、私の妹なんですもの。好きじゃない方がおかしいわ」

「......そう、良かった。......お姉様、私のこと怒ってないかな?」

 

 そう言って、フランが私に聞いてきた。

 

「レナがさっき言ってたでしょ? 大丈夫......ってね。レナも貴女のことが大好きなのよ。首を絞められたくらいじゃ怒らないわ」

「......それが、殺そうとしてても?」

「あれは貴女の意思じゃないでしょ?」

「そ、そうだけど......」

「なら、大丈夫よ。......さ、フラン、レナをベッドに運ぶのを手伝って。いつまでも床に置いとくわけにもいかないわ」

「......うん、分かった」

 

 そう言って私とフランでレナをベッドに運んだ。

 不意に、レナがフランの部屋に急いだ時に見えた運命(未来)を思い出した。.....あの時、フランがレナを殺す運命(未来)が見えた。

 ......でも、本当は違っていた。本当は『殺そうとする運命(未来)』だった。あの後、すぐに気付けたから良かったけど......あのまま勘違いしていたら、フランを......大切な妹を殺していたかもしれない。......その後、後悔するのは私なのに。

 

「......フラン、約束してくれる?」

「? ......何を?」

「......もしも、貴女がまたレナを殺そうとしたら、私は......レナを見捨てるわ。もし、そうなったとしても...…貴女は前を向いて生きてくれる?」

 

 ......これが、一番の方法だろう。レナは自分よりもフランを、私達姉妹を優先する。......そんな優しい娘なのに......フランの代わりに生きるなんてことがあったら、普通の精神状態ではいられなくなるだろう。......そうなったレナを私は見て生きるなんて......。

 

「......無理よ。お姉様が死んだら......私は前を向いて生きるなんて出来ない」

「フラン......」

 

 ......そっか、フランも同じなんだ。フランもレナと同じ、優しい娘なんだ。......姉なのに、気付いてなかった。本当......最低な姉ね。

 

「......レミリアお姉様、貴女こそ約束して。......もしも、私がお姉様達を殺しそうになったら、私を殺してでも生きるってことを......」

「フラン......私は誰の指図も受けないわ。そんなことは絶対に私が許さない」

 

 フランも、レナもどちらも傷つけはさせない......。そうすればいいんだ。『どちらか』じゃない......『どちらも』救えばいいのだ。

 妹二人を常に救う為には、そんな我が儘じゃないと......駄目なんだ。

 

「で、でも、それじゃ......」

「フラン! 貴女の意見は私も......レナも同じなのよ。姉よりも妹に長く生きて欲しい。......姉はそう思っているのよ。だけど、貴女も自分よりも姉に生きて欲しいって思ってるのは分かったわ。だから......私は姉として、妹を二人とも見捨てないと誓うわ。

 ......例え、どちらかが絶対に死ぬかもしれない状況でも、私は貴女達を見捨てない。私は両方とも救えるように強くなるわ。

 ......だから、貴女も......もうこんなことにならないように強くなりなさい」

「レミリアお姉様......。分かったわ。私は強くなる。......もう、こんなことを繰り返さないように」

 

 フランがそう言った。......流石、私の妹ね。目を見れば本当に決心したってことが分かるわ。

 

「......それでこそ私の妹よ。さぁ、今日はもう遅いわ。三人で一緒に寝ましょう」

「え? い、いいの? お父様に怒られないの?」

「大丈夫よ。私の能力を使えば......一日くらいなら一緒に寝てもバレないわよ」

 

 私の能力を使えば一日や二日大丈夫......のはず。まぁ、バレたら私がどうにかすればいっか。

 

「......ありがとう、レミリアお姉様。」

「別にいいわよ、それくらい。さ、明日は早いし......早く寝ましょう。」

「うん!」

 

 私達はそう言って、レナの寝ているベッドで一緒に寝た。右から順にレナ、フラン、私だ。......あれ? ちょっとおかしくない?

 

「......フラン、どうして私がこっちなのかしら?」

「私はお姉様の横がいいのよ。レミリアお姉様は我慢して」

「さっきも言ったけど、私は誰の指図も受けないわ。だから、私がレナの横で──」

「私もレミリアお姉様の指図は受けないわ! 私はお姉様の横がいいのよ!」

 

 フランがなかなか譲らない。こうなったら......。

 

「......仕方ないわ。フラン、レナを真ん中に移動させましょう。そうしたらどっちも横に寝れるわ」

「はぁー、仕方ないね。......レミリアお姉様は本当に子供みたい」

「あら? フランにだけは言われたくないわ」

「れ、レミリアお姉様よりは子供じゃないわよ!」

 

 レナを真ん中に移動させながらフランと話す。

 やっぱり、必死に否定しているフランも......レナみたいに可愛いわね。

 

「......さ、これでいいわね。寝ましょうか」

「うん......おやすみ、お姉様、レミリアお姉様」

「おやすみなさい。レナ、フラン」

 

 勿論、レナからの返事は返ってこなかったが......私達はそれを気にせずに目を閉じた────




レナさんの能力がようやく分かりましたね。まぁ、裏(ry


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7、「崩れ始める日常その2──来訪者と襲撃」

最初の方、微エロ? 注意して見てね!()
因みに「崩れ始める日常」は次で終わりとなります。


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「んー......え、これはどういう事ですか?」

 

 朝、起きたらお姉様とフランが私を抱きしめながら寝ていた。......二人に抱きしめているせいか、全く動けない。

 というかフランがとても強い力で抱きしめているんですけど......。しかも、ちょっと血が出てる気がする......。

 

「......フラン、少し力を緩めて下さい。流石に少し痛いです」

 

 ......フランもお姉様も返事をしない。二人とも、深く寝てるのかな。

 そもそも、どうしてこうなったのか思い出せない。

確か、昨日はフランの部屋に行って......そこから確か、フランが狂気に染まって......そして、元に戻って......そこで気絶したのかな? それにしても、元に戻ったところから記憶がない。

 

「......お、お姉様、起きてください」

 

 ......やっぱり、深く寝ているのか全く起きない。どうにかして起こさないと......。

 

「すぅー......お姉様! フラン! 起きてください! って、フラン! なんで力が強くなっているんですか!? 絶対もう起きてるでしょ!」

「はぁ......お姉様うるさい」

「うっ......すいません。じゃなくて! 力が強くなっていますよ! ......少し力緩めて下さい。」

「仕方ないなぁ......はい、これでいいでしょ?」

 

 やっぱり、フランは起きてた......。っていうかフランの手に血が見えるんだけど。やっぱり、血が出てない?

 

「......ふ、フラン。その手についている赤いのは何ですか?」

「え? あっ......ご、ごめんなさい、お姉様」

「い、いえ、大丈夫ですよ。すぐに治りますし......」

 

 やっぱり、血だったんだ......まぁ、大丈夫だけどね。吸血鬼の身体は便利だし、すぐに傷が治るし。......でも、流水とか日光には弱いけどね。

 

「お姉様の血......ペロッ......美味しい」

「あっ、フラン! ......まぁ、今は私が触れているから大丈夫ですけど......不用意に飲むとお姉様みたいに能力が使えなくなったりしますからね。気を付けて下さい」

「へぇ〜、なら、お姉様が近くにいる今は飲み放題ね」

 

 そう言ったフランの口が半月の形に歪んだ。

......あれ? 嫌な予感が......。

 そう思った時には、既に遅かった。フランが私の首に牙を突き立てた。

 

「痛っ!? ふ、フラン! あっ、あぁ......だ、だめです......そ、そんなに吸っちゃ、ああぁぁぁ!」

 

 『ぢゅうううう』と音を立ててフランが私を吸血した。

 

「ぷはぁ〜......美味しかった。......ごめんね、お姉様。でも、抑えられなかったの。......あまりにもお姉様の血が美味しかったから」

「うー......そんな理由で飲んだのですか......」

 

 フランはいつも血を飲むのを制御出来ずに飲み過ぎるけど......何気に今回、初めて制御して飲めている。

偶然なのか、それともようやく制御出来るようになったのか......それは分からないけどね。普段通りならいくら吸血鬼といえど、血がなくなって死んでいただろう。

 それにしても......まだ痛い。

 

「......レナ、私も飲んでいいかしら?」

 

 そう言って、お姉様が起きた。......いつから起きてたんだろう?

 

「お、お姉様まで!? だ、駄目です! いくらお姉様が小食といえど、流石にこれ以上は死にます!」

「ちっ......仕方ないわね。明日にするわ」

「あっ、レミリアお姉様ずるい! 私も明日飲む!」

「あら? フランは今日飲んだでしょ? だから、明日は私よ」

「明日も駄目です! と言うか、私の血ってそんなに美味しいのですか?」

 

 毎日、吸血されると、私が吸血鬼でも流石に危険だ。流石に、お姉様達に吸血されると言えど......やっぱり、毎日は嫌だ。まぁ、たまにならいいけど......。

 

「えぇ。吸血鬼なのに、人間みたいな味がするからね」

「お姉様は人間よりも美味しいよ!」

「美味しいからと言って、姉妹を吸血するのはやめてください!」

 

 人間みたいな味......。やっぱり、前世が人間だったからそんな味がするのだろうか?......でも、今は前世の記憶は殆ど無くなっている。多分、幻想郷に行くであろう500年後には全く憶えていないだろう。......『東方project』の記憶以外は。

 東方projectの記憶だけは何故かはっきり思い出すことが出来る。何故なのかは分からないけどね。ここがその世界だからなのか......神のいたずらとかなのか。全くもって謎だ。

 

「さ、それは置いといて早く行きましょう。そろそろ、行かないとお父様達にバレてしまうわ」

「えぇー! もう行っちゃうのー!?」

「大丈夫ですよ、フラン。今日も来ますから。安心して待ってて下さい」

「......分かった。お姉様、今日も絶対来るって約束してね」

 

 そう言って、フランが小指を前に出してきた。前にフランに教えた『指切り』だ。よくフランと約束する時にこれをやる。

 私も小指を前に出し、フランのフック状に曲げた小指に私の小指を引っ掛ける。

 

「ゆ〜びきりげ〜んまん嘘ついたら針千本飲ます〜。......お姉様、これで絶対に約束破っちゃ駄目だからね」

「勿論です。......では、行ってきますね」

「うん......行ってらっしゃい」

 

 そう言って私は部屋を出ようとした。

 

「......私、空気になっているわね。ま、それはいいわ。......フラン、私も来るからね」

 

 私が出ようとした時に後ろからお姉様がフランに言った。

......そう言えばお姉様のこと、いや、わ、忘れてなんかいませんけどね! ......本当だからね?

 

「あら、レミリアお姉様、居たのね」

「最初から居たでしょ!」

「冗談よ、冗談。......レミリアお姉様も絶対に来てね。......独りぼっちは寂しいから」

「フラン......絶対に来るわよ。安心しなさい。私達、悪魔は契約(約束)を破らないから......絶対にここに来るわ。今日も、明日も、この先ずぅーっと、ね」

 

 あれ? お姉様って、約束破ったことがある気が......。

 

「......レナ、約束はいつも守っているわよねぇ?」

「え!? どうして考えてることが分かったの!?」

「はぁ......貴女が考えそうなことを言っただけよ。それに、自分からバラしちゃってるし......」

「あっ......お、お姉様は約束をいつも守ってますよ」

「はぁー、遅いわよ......」

 

 うー......勢いで自分から言っちゃってた......。

 

「レミリアお姉様! お姉様をいじめちゃ駄目だからね!」

「はぁー......フランの頼みなら仕方ないわね。分かったわ。......じゃ、そろそろ、行くわね」

「うん。レミリアお姉様も行ってらっしゃい」

「また後でね。フラン」

 

 お姉様がそう言った後に...私達はフランの部屋を出た────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(図書館)

 

 フランと一緒に寝た後、私達はバレずに部屋まで戻ることが出来た。そして、今はいつもみたいにレナの魔法の練習で図書館に来ている。

 

「......バレなかったですね」

「えぇ。私が能力を使っていたのもあるけど......やっぱり運が良かったわね。それに、貴女の能力のおかげでもあるわね」

 

 部屋まで誰にもバレずに来れたのはレナの能力のおかげだ。レナの能力で私達の『存在』を有耶無耶にして、他の人から認識されないようにしていたのだ。

 

「......ありがとうございます。お姉様」

「お礼を言うのはこっちよ。レナ、ありがとうね」

「えへへー、いえいえー」

 

 レナが顔を赤くして言った。......私にお礼を言われるといつも顔が赤くなっているけど、そんなに嬉しいの?

 

「......レナ、お礼を言われるのがそんなに嬉しいの?」

「はい。特にお姉様やフランに言われると......凄く嬉しいです」

「そう......レナが嬉しいと言ってくれて良かったわ。......さ、早く魔導書を読みなさい。またフランに会いに行くのが遅くなるわ」

「......そうですね」

 

 そう言ってレナが魔導書を読み始めた────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──数時間後 紅魔館(図書館)

 

「......レナ、そろそろ終わりましょう。......お客様が来たみたいだわ」

「え? お客様?」

 

 お姉様がそう言った瞬間、扉をノックする音がして、執事長が入ってきた。

 

「失礼します。レミリアお嬢様、レナータお嬢様。御主人様から伝言で御座います。

 お客様がいらっしゃいましたのでフランお嬢様を連れて、御主人様の部屋まで来るように......と」

「フランを連れて? ......珍しいわね」

「はい。それと......フランお嬢様の能力はレナータお嬢様の能力で封じておくように......とも」

 

 フランを地下から出す時はいつも私かお母様が一緒だったから別に不思議ではないけど......フランをわざわざお客様のところに連れて行くなんて、今まで無かったのに......。そのお客様って一体誰なんだろう?

 

「そう言えば、お客様とは誰かしら?」

「......バートリ・エルジェーベト様で御座います」

「エルジェーベト......なるほどね」

 

 バートリ・エルジェーベト? 誰だろう? ......それにしても、お姉様の顔が暗い気がする。そんなに嫌な奴なのかな?

 

「そう言えば、レナは知らなかったわね。......フランを迎えに行った後にでも話すわ」

「はい。......お姉様、大丈夫ですか? 顔が暗いですけど......」

「大丈夫よ。あ、執事長はもう戻ってもいいわよ。後は私達だけでも行けるから」

「お言葉ですが、御主人様から貴方達から離れないようにと言われておりますので」

「そう......ならいいわ。さ、部屋まで行きましょう。申し訳ないけど、執事長はフランの部屋の前で待っててくれるかしら? あの娘が暴れた時に守れるかどうか分からないし」

「かしこまりました。それくらいならば、御主人様も許してくれるでしょう」

「じゃあ、早速行きましょうか。......レナ、早く行った方がいいみたいだから『ゲート』を使いましょう」

 

 お姉様が私に言った。

『ゲート』とは私のお気に入りの魔法の一つのことだ。本来の名前は『ディメンジョン・ゲート』。簡単に言うとワープが出来る抜け道を作ることができ、一度でも見たことがある場所なら何処へでも繋げれる便利な魔法だ。

 

「はい、お姉様」

 

 私はそう言って、頭の中で呪文を唱え、地面に触れる。

 

「......お姉様、出来ました」

 

 私がそう言った時には地面に人ひとりが入れるくらいの大きさの『抜け道』が出来ていた。

 

「あら、前よりもかなり早くなったわね。さ、行きましょうか」

 

 そう言って私達は中に入った。そこは、いつも見るフランの部屋の扉の前だ。

 

「じゃ、執事長はここで待っていて」

「はい、かしこまりました」

「フラン、入っていいかしら?」

「レミリアお姉様? ......入っていいわよ」

 

 お姉様がそう言ってお姉様と私が部屋に入った。

 

「......あ、お姉様! お姉様も来てくれたのね!」

「はい、私も来ましたよ」

「......フラン、私が来たって分かった時とレナが来たって分かった時との反応が違いすぎない?」

「だってレミリアお姉様よりもお姉様の方が好きなんだもん。......勿論、レミリアお姉様のことも好きだからね。レミリアお姉様、泣かないで?」

 

 そう言ってフランはお姉様を慰めようとしてる。お姉様......本当に泣いてるの?

 

「泣いてないわよ! ......はぁ、もういいわ。フラン、お父様にお客様が来たらしいから私達に着いてきて」

「お客様? ......それにしても、私が地下から出ても良いって......珍しいこともあるのね」

 

 ......確かに、フランは地下から出ることを禁じられている。......フランの顔が少し暗くなっている。やっぱり、地下にずっといるのは嫌だよね。いつか外に出れるように......私が何とかしないとね。

 

「......そうね。さ、早く行きましょう」

「うん、そうだね」

「はい、分かりました」

 

 そう言って私達は執事長と合流してから、『ゲート』で図書館に戻り、そこからは徒歩でお父様の部屋に向かった。因みに、フランは能力を使用出来ないように、部屋から出たらずっと私と手を繋いでいる。

 そして、向かっている最中に、お姉様がエルジェーベトについて教えてくれた。

 

「......確かフランも知らないはずよね。丁度いいわ。レナ、フラン。エルジェーベトって言うのはね......吸血鬼の中で最も力を持っている一家の名前なの。そして、私達、スカーレット家と昔から協力関係の吸血鬼。でも、今ではその協力関係もあんまりだわ」

「え? お父様が一番強くなかったのですか? ......それに、今ではあんまりって?」

「お父様はせいぜい二番辺りよ。ま、それは置いといて......今の家主のバートリ・エルジェーベトなんだけどね、とても残虐で外道な吸血鬼として有名なのよ。だから、お父様との関係もあんまり良くないの」

 

 お父様って吸血鬼の中でも二番くらいに強いんだ......初めて知った。それにしても、残虐で有名って......それでお姉様の顔が暗かったんだ。

 

「......なんでそんな奴がお父様に?」

「さぁ? お父様は同じ吸血鬼の中で力が結構強い方だし、昔から協力関係だったし......それで何かの協力を頼まれた......とかかしら。ま、お父様に聞けば教えてくれると思うし、後で聞いてみましょうか」

「......そうですね」

 

 やっぱり、残虐で外道な吸血鬼として有名って言われたから少し会うのが心配だ。流石に、同じ吸血鬼には何もしてこないと思うけど。......でも、お姉様の顔を見るかぎり......もしかしたら、その可能性もあるのかもしれない、と思ってしまう。

 お姉様達に危険が及ばなければいいけど......。

 

「レナ、心配しないでいいわよ。お父様もいるし、私の能力である程度は未来を見ることが出来るわ。......だから、心配は無いわ」

「そうよ、お姉様。何かあったら私が守るから」

 

 そう考えているとお姉様が話してきた。

 

「......お姉様、フラン。ありがとうございます。......でも、やっぱり心配はします。それに、何があっても無理はしないで下さい」

「それはこっちのセリフよ。貴女こそ何があっても無理はしないで。貴女はいつも無理をし過ぎるから」

「え? そうですか?」

 

 んー......そんなに無理したことあるかなぁ? 全く以て見当がつかない。

 

「はぁー......やっぱり、自覚が無かったのね。まぁ、その話は後ででいいわ。......着いたわよ」

 

 話をしているうちにいつの間にかお父様の部屋に着いていた。

 

「はい、そうですね......」

「......お嬢様方は私の後からお入り下さい」

「えぇ、分かったわ」

「? ......分かりました」

「うん、分かった」

 

 何故執事長がこう言ったのかは分からなかったけど......何か考えがあるのかな?

と思い私達は執事長の指示に従った。

 

「失礼します。御主人様、お嬢様達を連れて来ました」

「......そうか。入ってくれ」

 

 お父様の声が聞こえ、私達は部屋に入っていった。

 部屋にはお父様、お母様......そして、知らない大人の吸血鬼が一人と私と同じくらいの年の子が三人いた。

 それにしても......お母様、体調が悪いはずだけど......無理して来てるのかな?

 

「紹介しよう。この娘達が俺の娘のレミリア、レナータ、フランだ。そして、皆、この人がバートリ・エルジェーベトとその息子達だ」

「私が長女のレミリア・スカーレットよ。よろしくお願いするわ」

「私は次女のレナータ・スカーレットです。......よろしくお願いします」

「私は三女のフランドール・スカーレット。よろしくね」

 

 私達がそう言って挨拶を済ませる。......お姉様が両手でスカートの裾をつまみ、軽くスカートを持ち上げ、頭を深々と下げるような挨拶をしたから私達もそれに続いた。

 その後にバートリ達が挨拶を返してきた。

 

「俺がバートリ・エルジェーベトだ。そして、こいつらは長男からフリッツ、ルネ、ジョンだ」

「......よろしく」

「僕はルネ・エルジェーベトです。よろしくお願いします」

「よろしく」

 

 そう言ってバートリの息子達が挨拶を終える。......ルネって言う人以外は結構そっけないね。

と言うか、フリッツに至ってはめっちゃ敵意が凄い気がするんだけど? めっちゃ睨まれてるんだけど?

 

「......君達を呼んだのは少し息子達と会わしたくてな。スカーレット家は昔から仲良くさせてもらっている一家だからな。これからも仲良くさせてもらおうと思っている一家の娘達と俺の息子達を一度は会わせた方がいいと思って今日はここに来たんだ」

 

 そんな理由だけでここに来るんだ。

 

「......そう、これからもよろしくお願いするわね」

「あぁ、こちらこそよろしく頼むよ。......では、用事が終わったから今日は失礼するとしよう」

「あ、あぁ......帰りの手配はこちらでしよう」

「いや、大丈夫だ。......では、また会おう」

 

 そう言ってバートリ達が帰って行った。......それにしても、バートリが最後笑ってた気がするけど......どうして──

 

「失礼します! 御主人様、敵襲です!」

 

 そう言って妖精メイドがバートリと入れ違いで入ってきた。

 

「な、なんだと!?」

「......敵襲?」

「はい! 人間達が......かなりの数でこちらに向かって来てます! 十分後には門まで辿り着くと思われます!」

「......レミリア、レナ。フランドールと一緒に地下に隠れているんだ。そこなら人間が辿り着くことは殆ど無いだろう」

「......お父様達はどうするの?」

「大丈夫だ。人間ごとき、吸血鬼の相手ではない。」

 

 ......お姉様がずっと黙ってるけど、ど、どうしたんだろう?

 

「......レナ、フラン。行きましょう。レナは『ゲート』を作ってすぐに閉じるように」

「え......ど、どういうこと?」

「わ、分かりました。」

「早くしなさい。時間は殆ど無いわよ。......お父様、お母様。......死なないように頑張って。後、あのエルジェーベトには気を付けて」

「......あぁ、分かった」

 

 お姉様達が話をしているうちに『ゲート』を作った。

 

「......お姉様、出来ました」

「さ、フラン。入りなさい。次はレナが入って」

「......う、うん」

「は、はい」

 

 そう言ってフランが先に入り...そして、続いて私、お姉様が入った。

 私達はゲートを通って地下に来た。

勿論、これから私達は何が起きるのか知らないで.....後悔することになるとも知らずに────




最後らへんまで出番がないオリキャラが出た瞬間であった()


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8、「崩れ始める日常その3──悪魔の死と姉妹の決意」

次で1章は最後の予定です(番外編除く)


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「......お姉様、お父様達は大丈夫なんですか?」

「......えぇ、今は大丈夫よ。まだお父様達の運命(未来)が見えるから......」

「ふぅ......良かったです」

 

 今は人間の襲撃があり、お父様に言われて地下に来てからまだ三十分程しか経っていない。しかし、お姉様の暗い表情が気になり、お父様達の安否を確認した。

 

「レミリアお姉様、外に出ちゃ駄目なの?」

「駄目よ。危険すぎるわ。......特にレナ、貴女は絶対に外に出ないで」

 

 ......私は外に出たら駄目......か。お姉様の能力は......私に対しては100%に近い運命(未来)しか見ることが出来ない。多分、見た結果として出るなと言っているのだろう。......やっぱり、私が外に出て死ぬ運命(未来)でも見えたのかな。

 

「......はい、お姉様」

「え? お姉様、どうしたの? 顔が暗いけど......大丈夫?」

 

 私がそう言うと、フランが心配そうな顔をして聞いてきた。......そんなに暗い顔してるかな?

 

「大丈夫ですよ。心配はいりません」

「それなら...…いいけど......」

「あ、お姉様、魔法を使ってお父様達の様子を見るのはいいですか?」

「えぇ、それならいいわよ。......でも、何が起きていても絶対にここから出ないで、絶対よ」

 

 お姉様が真剣な顔でそう言った。

 やっぱり、行ったら私に危険なことが起きるんだ......。

 

「......はい、分かりました。お姉様」

「......一応、言っておくけど、もし、行こうとしたら力ずくでも止めるから」

「お姉様......その時があったら、力ずくでも行かせてもらうかもしれません」

 

 もし、お父様達が殺されそうになっていたら、何がなんでも助けに行こうとするかもしれない......。それで、お父様達が助かるなら......。

 

「そう......まぁ、その話は見てからでもいいわね。さ、レナ。頼むわよ」

「はい......出来ました。これを今からお父様達の所に向かわせます。お姉様、今は何処にいるか分かりますか?」

 

 そう言われて呪文を頭の中で唱え、『眼球』を作り出す。『眼球』というのは魔法で作った眼球のことで、これは私の右目と視覚を共有している。しかし、速度は人間の歩くスピードと変わらないからあまり使い物にはならないが......まぁ、今は仕方ない。それをお父様達の所に行かせ、状況を見ようと考えているのだ。

 

「......流石に分からないわ。でも、多分、ここからは遠いと思うわ。私達を助けるために......囮となって出来るだけここからは離れている場所に居ると思うの」

「そうですか.....。なら、まずは探さないといけないですね」

 

 そう言いながら私は魔法で作った抜け道から『眼球』を図書館に出した。理由はここから近いというだけだ。

 

「......図書館には誰もいないですね。お姉様の言う通り、ここら辺には誰もいないみたいです......」

「お姉様、盗られた本とかも無いの?」

「......はい、何も盗られてはいないみたいですよ」

「ほっ......良かったわ」

「そうですね。フランにはまだ色んな魔法を覚えて欲しいですし」

「うん、私もお姉様に色んな魔法教えて欲しいわ。だから、盗られてなくて本当に良かった」

 

 そう言ってフランが安堵した。

 もしも盗られていたらフランに魔法を教えるのが難しくなるから盗られてなくて良かった。......まぁ、後で人間が来て、盗られる可能性もあるんだけど。

 

「......あ、誰か来たみたいです」

「え? 誰か来たの?」

「はい。......今、扉が開かれました。これは......人間ですね」

「そう、人間が来たのね。......もしかしたらこっちに来るかもしれないからレナ、フラン。準備だけはしときなさいよ。

 それで? レナ、人間の数は?」

「......四人ですね。この数なら不意打ちすれば殺れると思いますが、お姉様、どうします?」

 

 普通の人間が四人程度ならまだ若い私達でも殺れないことはない。それに、いざとなればフランの能力もある。......でも、出来ればフランには能力を使って欲しくないし......もしも、普通の人間でなく魔術師とかだったら、少しやばいかもしれない。

 

「......フラン、貴女はここで隠れてなさい。そして、レナ、貴女はここでフランを守りながら私の援護とかをお願い」

「お姉様、それは出来ません。お姉様が行くなら私も──」

「駄目よ。......貴女は絶対にここから出ちゃ駄目なの。......私なら大丈夫よ。私が死ぬ運命(未来)は見えないから」

 

 お姉様が私を安心させる為に微笑んでそう言った。

 

「......本当ですか? 本当にお姉様は......死んだりしませんか? ......私達を置いて、先に死にませんか?」

「勿論よ。もしも......もしもだけど、お父様、お母様が死んで、私も死んだら貴方達の面倒を見る人がいなくなっちゃうじゃない。だから私は死なない......いえ、死ねないのよ」

「そう、ですか......。なら、行ってもいいです。......でも、お姉様が危険になったらすぐに行きますからね」

「レミリアお姉様、私も貴女が死にそうになったら助けに行くからね」

「はぁー、貴方達は本当に心配症ねぇ。......でもまぁ、お礼だけは言っておくわ。ありがとう、心配してくれて」

 

 お姉様が微笑みながらそう言った。

 

「うん......お姉様、その人間はまだ図書館にいるの?」

「はい、まだ図書館に居ますね。......あ、お姉様! こっちに近付いて来てます!」

「そう、なら急がないとね。さ、レナ。『抜け道』を作って」

「はい......出来ました。お姉様、これに入るとすぐに人間が居ます。気を付けて行ってください。」

 

 私は人間の近くへ繋げた『抜け道』を幾つか作った。その中の一つはお姉様が通る道だ。他の『抜け道』はそこから魔法を飛ばしたりしてお姉様を援護するのに使う。

相手に魔術師とかの魔力を見れる人間がいなければいいんだけど......。

 

「ありがとう。レナ、フランのことをよろしくね」

「はい、お姉様」

「レミリアお姉様、気を付けてね」

「大丈夫よ。本当に心配症ねぇ。......じゃ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃいです」

「行ってらっしゃい!」

 

 そう言ってお姉様が『抜け道』を通って図書館へと行った。

 

「......行っちゃったね」

「そうですね。フラン、今から援護に回るので......手伝ってくれますか?」

「うん! 勿論、手伝うよ。私は何をすればいい?」

 

 そう言ってフランが嬉しそうな顔で聞いてきた。

 

「念のための魔法を準備するので......フランは私の代わりにお姉様の援護と私の手伝いもお願いします。

 あ、このことはお姉様に内緒にして下さい。一応、許可はされていますが......まだ使ったことないので。」

レミリアお姉様に言って、後でお姉様がお仕置きとかされてるのを見たいけど......今回はお姉様との約束は守る。レミリアお姉様には内緒にするね」

「ふふ、そう言えばフランも悪戯とか好きな方でしたね。......ありがとうございます」

「いいよ。お姉様は優しいし面白いし、それに......ね」

「それに? ......何ですか?」

「ふふ、お姉様には秘密よ〜」

 

 そう言ってフランが悪魔じみた笑みを浮かべる。......いや、吸血鬼だから悪魔だけど。

 

「え、気になります」

「だ、だから、秘密よ。秘密。それよりもお姉様は大丈夫なの?」

 

 フランが顔を赤くしながらそう言った。

 何か怒らせるようなことを言っちゃったのかな......?

 

「え、は、はい。今のところは大丈夫です。まだ話をしているだけみたいなので」

「え、話をしている? レミリアお姉様......結構余裕なんだね。」

「ふふ、流石お姉様ですよね。......フラン、準備をして下さい。そろそろ始まりそうです。今から私が見ている景色を貴女にも見えるように視覚を共有させます。......準備はいいですか?」

「うん、大丈夫よ。人間に向かって弾幕を当てるだけなら簡単だし、いつでも準備は出来ているよ」

 

 そう言ってフランは両手に妖力を集め始めた。

 

「では、あっちも始まったみたいなので......こちらも始めましょう!」

「うん!」

 

 そう言って私とフランは援護を始めた────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

──紅魔館(フランの部屋)

 

「大丈夫よ。本当に心配症ねぇ......。じゃ、行ってくるわ」

「行ってらっしゃいです」

「行ってらっしゃい!」

 

 そう言って私はレナが作った『抜け道』を通って人間が居る図書館へと行った。

 

「え、きゃっ!? ......あ、あの娘、どうして天井に......危なかったわ......」

 

 抜け道を出た瞬間、上下が逆さまになっていた。すぐに飛ばなかったら真っ逆さまに落ちていただろう。

 レナったら、あの娘......天井に繋がっているなら言ったら良かったのに......。後でお仕置きしないとダメね。

 

「さて、人間は......あれね。確かにレナが言った通り四人だわ」

 

 図書館の扉前......フランの部屋に繋がる廊下の扉を開けようとしている人間が四人いた。

 このままでは、不意打ちをする前にフランの部屋に行きそうね......。もしかしたら、不意打ちが成功しても......逃げられるかもしれない。まぁ、あの人間の中に魔術師とか居たら危険だけど......仕方ないわ。

 そう思い、私は人間の近くに行った。

 

「......私達の館で何をしているのかしら?」

「なっ!? き、吸血鬼!? お、おい、話が違うぞ!」

 

 私が話しかけると振り返り、驚いた顔でそう言った。

 吸血鬼の館なんだから吸血鬼が居てもおかしくないのに.....人間ってどうしてこんなに驚くのかしら。

 

「お、落ち着け! よ、よく見ろ。吸血鬼とは言ってもまだ子供だぞ。子供なら俺達でも何とか出来る。それに、俺達には街で一番の吸血鬼ハンターがついている。最悪、そいつの所に逃げればいい」

「お、おい、だが今、そいつは別の吸血鬼を相手にしてるんじゃ......」

 

 人間が小声──と言っても私達吸血鬼にとっては小声と言い難いが──で話し出した。

 他の吸血鬼......お父様かお母様のことかしら?

 

「な、なら外に逃げれば──」

「あら、この私に会って逃げれると思っているのかしら? それに、貴方達人間は客人でもないのよ。そんな奴らが勝手にこの館に入ってきて無事に帰れるとでも思っているのかしら?」

「う、うるせぇ! お前を殺せばいい話だ! おい、お前ら、殺るぞ!」

「はぁー......人間って本当に愚かねぇ。私は子供と言っても吸血鬼よ? 人間が......それもたった四人でかなうわけがないのに......。

 さ、今なら見逃してあげるわ。今から自分のお家に帰りなさい。家族も待っているでしょ?」

 

 本当......初めて生きた人間に会ったけど......これじゃ、ガッカリだわ。もっと面白い人間はいないのかしら?

 

「......俺の家族を連れ去り、家を壊したのはお前ら吸血鬼どもだろうが! お前らに......全て奪われたんだぞ!」

 

あ、地雷踏んじゃった? ......まぁ、いいわ。

 

「あら、貴方達人間も同じようなことをしてるでしょ? 貴方達はいつも何を食べているの? 貴方達が食べているのも生きているのよ? ......生き物は全て、何かの生き物を食べないと死んじゃうわ。だから、それで命を奪われても文句は言わないで。自然の摂理っていうやつよ」

「吸血鬼が......屁理屈を言いやがって......おい、皆で一斉にかかれば吸血鬼の一人や二人殺れるはずだ!」

「お、おう!」

 

 そう言って人間が武器──剣や槍──を持ち、一斉に向かってきた。魔法使いは居なさそうだし......レナ達の援護なんて要らなかったわね。

 私は空を飛んで回避する。やっぱり、魔法使いとかが居ないと倒すのなんて簡単ねぇ。

 

「お、おい、当たらないぞ!」

「銃だ! 銃を使え! いくら吸血鬼と言えどそれなら当たるはずだ!」

 

 そう言って人間の一人が銃というものを持ち、こちらに向けてきた。

 これは......避けた方がいいかしら。

 

「よし、これなら当たるは──」

「おい! 気を付けろ! 横から何か飛んで来るぞ!」

「な!? ぐはっ!!」

 

 他の人間がそう言った瞬間、銃を持っている人間の手が弾幕に当たり、当たった手と銃が消えて無くなった。

やっぱり、危険なやつだったのかしら。レナが当ててきたし......でも、今の弾幕はフランのだった気がするけど......まぁ、いいわ。

 

「な、わ、罠か!?」

「お、おい! 気を付けろ! そっちからも来ているぞ!」

「な!? こっちからもだ! あ、これぐっ! あ、て、手が......手がァ!」

 

 私の妹ながら恐ろしいわね......。と言うかやっぱり、この弾幕はフランのよね? あの娘......サボっているのかしら?

 

「私もサボってないで攻撃しないとね。人間なら......これでも当たるかしら…...はっ!」

「お、おい! あいつが槍を投げてきたぞ! 気を付け──」

「......え? ひ、ヒィィィ!」

 

 私はそう思いながら『グングニル』を作り、近くにいた人間に向かって投げた。......すると、うまい具合に頭に命中し、首から上が吹っ飛んでいった。

 

「ば、化けも......ぐっ! い、痛てぇ!」

 

 人間が何か言おうとした時に、フランの弾幕がその人間の足に当たり、その人間の足が一部弾け飛んだ。

 フランの弾幕の力は相変わらず強いわね。私でも当たると当たった場所が弾け飛ぶかもしれないわ。

 

「このくらいのレベルなら私一人でも良かったわね。......これ以上やっていてもレナ達に心配かけるし、さっさと終わらせましょうか!」

 

 私はそう言って再びグングニルを構えた──

 

 

 

 ──数分後 紅魔館(フランの部屋)

 

「さぁ、レナ。私に何か言うことはないかしら?」

「え、えーと......お疲れ様でした?」

 

 今は人間の殲滅が終了し、レナにフランの部屋までの『抜け道』を作ってもらい、フランの部屋に戻ってきたところだ。

 

「違うわよ! 貴女、フランに弾幕を任せっきりで何もやってなかったでしょ!?」

「うっ......お、お姉様、それには訳がありまして......」

「そうよ! レミリアお姉様、お姉様を怒らないで!」

 

 レナがしょんぼりした顔でそう言った。

 本当に何か理由があったみたいだけど、それでもフランに任せっきりだったのは許せない......けどフランが『怒らないで』と言っているなら話は別だ。

 

「......はぁー、フランがそう言うならもういいわ。......でも、レナ、どうして任せっきりだったの?」

「そ、それは......もしもの時の為の魔法の準備をしていたので......」

 

 もしもの時の為の呪文ねぇ......。まぁ、さっきの人間には全然必要無かったみたいけど。

 

「ふーん......どんな魔法かしら?」

「え!? え、えーと......極大消滅呪文?」

「どうして疑問形なのよ! ......はぁ、分かったわ。召喚魔法ね」

「え!? どうして.......あっ」

 

 やっぱり、レナは嘘が苦手ね。と言うか、自分から言っちゃったし......。

 

「レナ、召喚魔法は前に許可したから別に隠さなくてもいいのよ?」

「そうですけど......一度も使ったことがなかったので......」

「レナ、さっきも言ったけど貴女は心配しすぎよ。......もうこの話は終わりにしましょう。レナ、引き続き魔法でお父様達をを探してちょうだい」

「......はい、お姉様」

 

 私はそう言ってレナにお父様達を探させた──

 

 

 

 ──数時間後 紅魔館(フランの部屋)

 

「あ......お姉様、少しお話が......」

「ん? どうかしたの?」

 

 私が帰ってから数時間後、なかなかお父様達が見つからず──なかなか見つからない理由はレナが使っている魔法は速度が遅いかららしい──、人間もあまり見なくなってきた時にレナが私を呼んだ。......それも、フランに聞こえないくらいの声で。

 今、フランはレナの魔導書を読んでいる。多分、気付いてはいないだろう。

 

「グスッ、お、お姉様......お、お父様達を見つけました。でも、お父様達は既に......」

「そう......やっぱり、運命は変えることが出来なかったのね......」

「......お姉様、これから私達は、どうしたらいいんでしょうか......?」

 

 レナが静かに泣きながらそう言ってきた。

 ......私は最初から知っていた。お父様やお母様が死ぬことを......そして、二人を絶対に助けることが出来ないことを......。

何故知っていても止めなかったのかと言うと......これは私の能力でも変えることが出来ない運命であり、これが一番の最善策だったからである。もしも、これを変えるために私やレナ、フランがあの時残っていたら......間違いなく全員死んでいた。お父様とお母様が犠牲にならないと私達三姉妹は生きることが出来ない運命だった。だから、お父様とお母様の命を引き換えに......私は私達、三姉妹が生きる道を選んだのだ。

 

「......大丈夫よ、レナ。私がなんとかするわ。私がこの館の当主となって......貴方達を守るわ。だから......心配しないで。ね?」

「お姉様......うっ、ひっく、うぅぅ......」

 

 レナが声を殺して泣き始めた。......勿論、フランに聞こえないようにするためだろう。

 

 もうこの館の中には人間はいない。何故ならお父様とお母様が自分の命と引き換えにこの館に攻めてきた全ての人間を殺したことを知っているからだ。

人間が戦力を今回で殆ど使ったことも知っている。前にお父様が『狩り』で得た情報を聞いたことがあるからだ。お父様を殺すために殆どの戦力を人間は使った。だから、当分ここが攻められることはない。......それに、あいつらも私達を脅威と思っていないだろうから、しばらくは大丈夫のはず......。

 ......この館に住む殆どの執事、メイドは死んだだろう。幸い、メイドの殆どが妖精だから死んでもまた生き返ることが出来る。しかし、この館の当主だったお父様も含め、殆どの住人は生き返れない。

 

「レナ、大丈夫よ。私がいるから......。それに、そんなに泣いているとフランに気付かれるわよ? フランに心配かけないためにも泣きやみなさい」

「グスッ......はい、すいません。......お姉様は知っていたんですか? お父様達が死ぬことを」

 

 レナが泣き顔でそう聞いてきた。

 

「えぇ、知っていたわよ。どうして分かったの?」

「お姉様、お父様達と別れた時に少し泣いていました」

「......そう。やっぱり、覚悟はしていても泣いしまうものなのね」

 

 私はお父様とお母様を犠牲にして、今から生きることを......レナとフランが生きることを選択した。お父様とお母様の犠牲があったからこそ、私達は生きている、これからも生きることが出来る。

 ......お父様、お母様。今までありがとう。そして、犠牲にしてしまってごめんなさい。

でも、私は後悔しないわ。レナとフランを救うためには、これしか方法が無かったから......。

 

「......お姉様、泣いて当たり前です。私達のお父様とお母様なんですから......」

「そうよね......当たり前よね......」

「お姉様......一人で何もかも抱え込まないで下さい。......私とフランがいつでも助けますから」

「そうよ、レミリアお姉様。......それと、お母様達が死んだことを隠さなくてもいいわよ。全部知っているから」

 

 フランがそう言って横から飛んできた。フランの顔には涙が流れた後があった。

フランも知っていたのね。お父様達が死んだことを......。

 

「ふ、フラン......いつから聞いていました? それに、お父様達が死んだことをどうして.....」

「昔、お姉様に教えてもらった魔法を別れる時に使ったのよ。だから、お母様達が死んだのも知っているわ。それと、お姉様達の声なんて全部聞こえているわよ。声がデカすぎるもの」

「フラン......本当に、貴方達って子は......。レナ、フラン、聞いてくれる? 私は貴方達が生きる運命を選択したわ。......お父様達を犠牲にしてね。

私は全て知っていてこうしたのよ。お父様とお母様が死んで、私達、三人が生きるように運命を操った。私は......親を捨てたのよ。私達が生きるために......。そんな姉とこれからも......一緒に居てくれるかしら?」

 

 私は妹を生かすために親を捨てた。親を見捨てる子供なんて、 本当に良いのかしら......。

 

「お姉様、私が知っていてもそうしたと思います。だから......一人で悩まないようにして下さい。顔に出てますよ?」

「そうよ、レミリアお姉様。貴女も、お姉様も一人で何もかも抱えすぎなのよ。たまには私にも相談してほしい。......姉妹なんだから」

「レナ、フラン......そうね。これからも、私達三姉妹で一緒に......生きていきましょう」

 

 この選択が本当に正しいかどうかなんて分からない。だけど、今はレナとフランが生きることを考えなくちゃ。

 そう思い、私は平和な日常が去ったこれからを妹達のために生きることにした────



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9、「崩れた平和な日常 そして始まる新たな日常」

ようやくこれで1章が終わった( ´ ω ` )


side Renata Scarlet

 

──紅魔館(とある部屋)

 

「ふぅ......この部屋が最後ですね」

 

お父様達が死に、館に残っていた人間の残党を全て消した後、お父様達を弔い、そして、お父様達の墓を建てた。......まぁ、殆どやったのはお姉様なんだけどね。

そして、今は『一回休み』が終わった妖精メイド達と一緒に館の後始末......と言うか掃除をしている。

 

「......お姉様ぁ、一気に掃除出来る魔法とかないの〜?」

「流石にそんな便利な魔法はないですよ。さぁ、ここが最後なんですから頑張りましょう」

 

予め場所を決め、妖精メイド達、私はフランと、お姉様は一人で掃除をしている。

ちなみに、私とフランが一緒の理由はフランの能力が暴走しても止めれるようにだ。

フランの能力はまだいつ暴走してもおかしくない。......いつか、フランの能力の暴走を抑えれるような魔法を作れたらいいんだけど......。

 

「はーい。......私達二人でもこんなに大変だったし、レミリアお姉様は一人で大丈夫かな?」

「んー......お姉様のことですから、きっと大丈夫ですよ。......早く終わらせて、お姉様が居るであろう場所に行きましょう」

 

多分、お姉様なら何とか頑張っているだろう。それに、お姉様がこの分け方をしたんだ、きっと大丈夫のはず......。

 

「うん、そうだね。......よし、今から本気出すよー!」

「さっきまで本気じゃなかったんですか?」

「あ、さっきから本気だったけど......今からもっと本気出すって意味よ!」

「......無理はしたら駄目ですからね」

 

まぁ、吸血鬼だし掃除程度なら大丈夫だとは思うけどね。

 

「無理をしても大丈夫よ。掃除くらいで倒れるわけないわ」

「......本当に倒れませんか?」

「倒れないわよ。それよりも、お姉様。早くしないとレミリアお姉様のところに行けないわよ。早くしましょ」

 

まぁ、確かにこれ以上話を続けていたら、お姉様の加勢にいけないかもしれないね。

 

「それもそうですね。それにしても、話逸らされた気がするんですけど......」

「気のせいよ。お姉様、そっちやっといて」

「......まぁ、いいです。分かりましたよ」

 

そう言って私達は掃除を再開した──

 

 

 

──数分後 紅魔館(とある部屋)

 

「......フラン、遅くないですか?」

「お姉様が早すぎるのよ! まだ始めてから数分しか経ってないじゃない!」

「こ、これが姉と妹の差ですね。私は姉として、家事などは一通りやったことがあるのです」

 

まぁ、本当は今世ではやったことないんだけどね。

前世でもちょっとしかやってないし......本当は綺麗になっているかあんまり自信ない。

でも、フランの前では姉として、見本を見せてあげたい。いやまぁ、何か間違ってる気もするけど......。

 

「お姉様、絶対適当にやってたでしょ!」

「て、適当にはやっていません! ほ、ほら、これを見てください。かなり綺麗でしょう?」

「お姉様、慌て過ぎ。......で、本当に綺麗なの、かしら......って、えぇ!? 本当に綺麗......。

お、お姉様、本当のことだったの!?」

「え、は、はい。本当のことでしたよ」

 

ふぅー、良かった。ちゃんと綺麗になってたみたいで......。

 

「んー、それにしても、なんか嘘っぽい気がするけど......」

「ほ、本当ですよ? さ、さぁ、終わったことですし、早くお姉様のところに行きましょう!」

「......まぁ、いいや。行くのはいいけど、そう言えば、レミリアお姉様は何処にいるか知ってるの?」

「え? 私は知りませんよ? フランが知ってるんじゃないのですか?」

 

誰が何処を掃除するとかは決めてあるけど......今、お姉様が掃除している部屋は知らない。

この館は結構広いし......一体、何処に居るんだろう?

 

「はぁー、お姉様......やっぱり、知らなかったのね。まぁ、私もお姉様にあの魔法かけてなかったから知らないけど......」

「んー......仕方ないですね。普通に探しましょうか」

「ま、それしかないよね。お姉様、レミリアお姉様も待ちくたびれてるかもしれないから急いで探そっか」

「えぇ、そうですね」

 

そう言って私達はお姉様を探しに行った──

 

 

 

──数十分後 紅魔館(図書館)

 

「後はこことフランの部屋ですね」

「うん。......でも、入れ違いとかになってないかな?」

「そう言えば、その可能性もありましたね......。まぁ、例え見つからなかったとしても、寝る時には部屋に戻っているでしょう。取り敢えず、こことフランの部屋を探してみましょう」

「うん。......お姉様、そう言えば、どうしてレミリアお姉様と一緒に寝れないの?」

 

図書館内を探している時にフランが聞いてきた。

 

「お姉様はこの館の当主としての......いえ、長女としての役目があるので」

 

この館の当主として、私達、姉妹の長女として私達を守るためにフランの部屋、要するに地下には居れないらしい。

なんでも、一緒に居ると必要以上に私達を庇おうとするからとか。それだと庇って怪我をした時に私達に心配をかけるから出来るだけ、この館に侵入者が入らないようにしたいらしい。そのために入口近くの部屋で寝ることにするらしい。

 

「ふーん、レミリアお姉様も大変なのね。......お姉様、もうレミリアお姉様と一緒に寝ることや遊ぶことって出来ないの?」

「大丈夫ですよ。たまに私がお姉様の代わりをします。......まぁ、お姉様はプライドが高いですし、私達、妹に迷惑かけたくないみたいですから、無理かもしれませんが......」

「ま、レミリアお姉様が決めたことなら、無理なら無理で仕方ないよ。......それにしても居ないね」

「そうですね。んー......ここは広いですし、入った時は見えてないだけかと思っていましたが......どうやら本当にここには居ないみたいですね」

 

フランと話をしているうちに、私は魔法でこの図書館内に生命体の反応が無いか調べてみた。その結果、ここには居ないことが分かった。ちなみに、この魔法の範囲は限られているので、図書館内しか探せない。

本当に、一体何処に居るんだろ?

 

「そっかー......最後は私の部屋だね」

「はい、そうですね。まぁ、フランの部屋はお姉様の担当場所ではないですから可能性は低いですけど......」

「あ、確かにそうだよね......」

 

フランの部屋は私とフランが最初に掃除した場所だ。まぁ、そこまで汚くないからあんまりやってはないけど。

 

「そう言えばさ、お姉様にとってレミリアお姉様ってどんな人なの?」

 

フランの部屋に向かっている最中、フランがそんなことを聞いてきた。

私にとってお姉様は......んー、急に言われてもなぁ......優しくて、頼りがいがあって......。

 

「え、えーと......」

「......あ、やっぱりいいよ。それよりもお姉様、もう着いちゃうよ?」

「え、あ、そうですね」

 

フランから話を振ってきたのに......一体どうしたんだろう? ま、別にいっか。

それにしても、中から生命体の反応が無い。まぁ、一応、開けてはみるけど。

 

「お姉様、居ますか? ......やっぱり、居ないですね」

 

扉を開き、中を確認してみる。やはり、お姉様は中には居なかった。

 

「んー、レミリアお姉様、何処に行ったんだろ?」

「やっぱり、さっきフランが言ったみたいに、すれ違っているのかもしれません。

今日はもう寝ましょう。明日、お姉様も起きた時に来るでしょうし。」

「...それもそうだね。お姉様、寝る前に一つ魔法を教えてくれない?」

「いいですよ。どんな魔法ですか?」

「うーんとね......回復魔法を教えて欲しいの。......私の能力で『破壊』しても治ってしまうような魔法が......」

 

フランが少し悲しいそうな顔でそう言った。

回復魔法......一応、それはあるけど、フランの期待に添えるようなものはない......。

まぁ、無機物限定ならあるんだけど......。

 

「......無機物限定なら完全に直す魔法がありますよ。ですが、フランの能力で『破壊』された生物を治す魔法は......流石にありません。フランの腕力でならある程度は大丈夫かもしれませんけど......」

「あるのね! それでもいいよ! お姉様、その魔法教えて!」

 

フランの目がキラキラしている。......嬉しそうで良かった。

 

「えぇ、勿論、いいですよ。その魔法は『パッチワーク』と言ってですね。人間サイズの物なら『破壊』されても十分で元に直せる魔法で──」

「お姉様! それだけ分かれば充分よ! 早く早く!」

「え、は、はい。......まずは──」

 

そう言って私はフランに魔法を教え始めた──

 

 

 

──数十分後 紅魔館(フランの部屋)

 

フランに魔法を教えている最中、フランがうとうとし始めたので今日はもう止めて寝ることにした。

私はお姉様のことが気になるから、フランが寝た後にお姉様の部屋に行こうと思いながら、フランと同じベッドに入った。

そして、しばらくして、フランが眠り、お姉様が寝ているであろう部屋に行こうとした時に、部屋をノックする音が聞こえた。

 

「......ようやく寝たみたいね。レナ、少し話があるから一緒に来てくれない?」

 

返事を待たずにお姉様が扉を開けてそう言った。

 

「お姉様? ......いいですよ。それにしても、今日は何処に居たんですか? 紅魔館全体を探したのに居なかったですけど......」

「すれ違ってただけよ。......まぁ、最後の方は運命を操って、貴女とだけ話が出来るようにしてたからね。

会わなかったのはそのせいよ」

「......話の続きは部屋を出てからにしましょうか」

「えぇ、そうね。......フラン、おやすみなさいね」

 

寝ているフランにそう言って、私とお姉様は部屋を出て、歩き始めた。歩き始めた理由はお姉様が先に歩いたからだ。多分、お姉様はフランに絶対に聞こえないようにしたいのだろう。

 

「お姉様、話ってなんですか?」

「貴女には知ってて欲しいと思う話があってね。......レナ、貴女は『お父様達が人間に殺された』って聞いて本当にそうだと思ったのかしら?」

「......お母様は能力のせいで弱っていたと言っても、吸血鬼の中でも一二を争うと言われていたお父様が......簡単に死ぬわけないとは思っていました。でも、実際は違っていました。お父様は、人間に──」

「違うわ。......お父様達は人間に殺されたわけではないの。

レナ、私がお父様達と別れる時になんて言ったか憶えてる?」

 

お姉様が、お父様達と別れた時に何か言ったか? そう言えば、何か言ってたけど......なんだったっけ?

 

「どうやら、憶えてないみたいね。......私は『あのエルジェーベトに気を付けて』、そう言ったの。......これを言った意味が意味が分かるかしら?」

「......もしかして、お父様達は人間ではなく、あのエルジェーベト家の人達に殺されたと言うわけですか?

でも、一体どうして......。いくら残虐で非道な連中だからと言っても......同種族を殺すものですか?」

「あいつらが何を考えているか私にも分からないわ。ただ......自分達を脅かすような勢力は先に潰したかった、とかかもね.....」

 

......まぁ、私にもあいつらが何を考えてるか分からないけどね。一回しか会ってないし。

 

「......お姉様、あの連中が殺したってどうして分かったんですか?」

「私の能力で見たのよ。止めることが出来ない未来を、ね......」

「......そう、ですか......私を外に出したがらなかったのはそいつらに殺される未来でも見えたからですか?」

「それだと半分正解ね。『そいつら』ではないわよ。『そいつ』よ。あのバートリ・エルジェーベトだけがお父様達を殺したのよ。......そして、貴女を殺していたかもしれないやつよ......」

 

お姉様が『貴女を殺していた』の時に拳を強く握っていた。そして、妖力を垂れ流している。

普通は自分で制御して相手を威圧する時とかにするけど.....多分、怒りでそうなっているのかな......。

 

「お姉様、怒りを鎮めて下さい。私は無事でしたから......」

「あ、そ、そうね。......少し頭に血がのぼっていたみたいね。ごめんなさい。

で、話の続きなんだけど......もし次に会うことがあっても、殺そうなんて思わないで、何も知らない振りをして。......無意味に敵対していても意味無いから。それに、今の私達には勝てないわ。だから......お願い。絶対に守って」

 

お姉様が真剣な顔でそう言った。

 

「......いいですよ。お姉様の命令なら...何でも聞きます」

「そう、何でも聞くのね。なら、その何でも聞くのを止めなさい。......レナ、自分の意思で決めて」

「......はい、分かりました。お姉様に言われたことなら、仕方ないです。

でも、お姉様がさっき言ったことは守ります。......少なくとも、お姉様達を何からでも守れるように強くなってからにします」

「あら? 私を守れるくらいってことは、私よりも強くなるってことかしら? レナ、姉よりも強くなれると思っているのかしら?」

 

お姉様が微笑み、またもや妖力を垂れ流してそう言った。

 

「お姉様よりも強くなってみせますよ。だから、私に負けないくらいお姉様も強くなって下さい」

「勿論よ。......さ、話はここまでね。そろそろ、フランの元に帰ってあげて。あの娘を長い間一人にさせるのは、可哀想だしね」

「はい、お姉様」

 

私はそう言ってお姉様と別れ、フランの部屋へと戻ってきた。

 

「良かった、まだ寝てますね。......フラン、貴女も私が守ってみせます。たった一人の......私の妹ですから。

......では、おやすみです」

 

そう言って私はフランと一緒に寝た。

これから、私は何人もの人と出会い、幾つもの危険に遭遇する。

しかし、今の私はまだ、そんなことは知らない────




次回からは二章の始まりです。因みに三章で幻想入りする予定なので二章では...まぁ、お楽しみにして下さい。
次回は金曜日に投稿予定


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2章「吸血鬼として生きる数百年」
1、「初狩り 残虐な吸血鬼の最後の日」


今回は狩りの話+α。


 side Renata Scarlet

 

「レナ、着いてきてくれないかしら?」

「お姉様? ......何処にですか?」

 

 朝、図書館に行った時にお姉様がそう言ってきた。

 お父様達が死んでから、お姉様は忙しそうで一緒に練習や遊びずらくなり、一人かフランと魔法の練習をすることが多くなった。そして、今日は一人で図書館に──最初にお姉様が提案していた本を探す方法はしなくなったが今でも魔導書を漁りに──来ていた。

 そして、そこに行くとお姉様が待っていて話かけてきた。

 

「『狩り』によ。私一人で行って、連れ帰るのも少し大変なのよ。......まぁ、大変なのはあの吸血の方法を知らないせいでもあるんだけど」

 

 そう言えば『狩り』で使う吸血の方法を教えてもらわずにお父様達は死んでしまったから無理矢理連れてくるしかないのかな...。

 

「いいですけど......フランを一人で残しても大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫よ。フランは私達の妹よ? 一日くらいなら一人でも大丈夫よ。それに、地下なら襲撃があっても誰も来れな......はぁー、それでも不安なのね?」

 

 何を言っても無駄だと思ったのか、お姉様は話を途中で切り、聞いてきた。

 

「はい、やっぱり不安です。......フランを長時間一人にするのは嫌です」

「んー、それなら、レナ。『狩り』をする街まで着いてきてくれない? それなら数時間程度しかかからないだろうし、そこから紅魔館までの『抜け道』を作ってくれたらいいだけだから......ね? お願い!」

 

 そんな、頭下げられて言われると......うん、やっぱり、私はお姉様に弱いや。

 

「......それなら、いいですけど......」

「レナ、ありがとうね。......準備が出来たら、門前に集合ね。それじゃぁ、また後で会いましょう」

 

 そう言ってお姉様が返事を待たずに何処かに歩いていった。

 まぁ、話を聞かないのはいつものことだし......お姉様は優しいから気にしないでおこう。

 

「準備......一応、フランに危険が及ばないように、何か罠でも仕掛けておきますか......」

 

 私はそう呟き、フランの部屋へと向かった後に、お姉様の──

 

 

 

 ── 十数分後 紅魔館(門前)

 

「準備は出来たみたいね。それじゃぁ、行きましょ!」

 

 フランの部屋の扉にフラン以外が近付くと私の目の前にワープするようにした罠を張っておいた。

 フランに気付かれないように能力を使ったり、魔力で気付かれないように私の血で魔法陣を描いたりと結構大変だった。

 

「いつになく元気ですね。お姉様」

「あら、そうかしら?」

「そうですよ。......そう言えば初めてですね。お姉様と一緒に外に出かけるのは。......まぁ、出かけること自体初めてですけど」

「そうね。......私は初めて貴女と一緒に出かけるから嬉しいのかもね」

 

 その外に出かける理由が『狩り』だから少し変な感じだけど......。やっぱり、人間と吸血鬼の思考回路は違うんだなぁ......。

 

「お姉様が嬉しそうで良かったです。最近、お姉様は私やフランと一緒に居れませんし......」

 

 まぁ、それでも、お姉様が嬉しそうだからいいんだけどね。

 

「大丈夫よ。いつか......また三人一緒で居れる日が来るから。さ、その話は置いといて早く行きましょ」

「出来るだけフランを待たしたくないですしね」

「えぇ、そうね。町までは飛んで行くから、置いていかれないようについてきなさいよ」

「私には魔法がありますし、逆に置いていきますよ? ......場所知りませんけど」

 

 まぁ、本当は自分の身体能力を上げる魔法とか知らないけど。いつか覚えたいなぁ。

 

「ふふ、それなら私を追い抜かすことは出来ないわね。それじゃぁ、レナ、行くわよ」

 

 そう言ってお姉様が空に飛び上り、紅魔館とは逆の満月が出ている方向に飛んで行った。

 そう言えば今日は満月だったね。......だから、この日にしたなのかな? って、あれ? お姉様がどんどん遠く......。

 

「あ! お姉様! 置いていかないで下さい!」

「だから言ったでしょー! 置いていかれないようについてきなさい......って」

「お姉様! それはフライングです! 反則です!」

「言い訳はいいから急ぎなさい。本当に置いていくわよー!」

「はぁー、もういいです......。すぐに行きますよ!」

 

 そう言って、私はお姉様について行った────

 

 

 

 ── 約一時間後 とある町の近く

 

「レナ、あそこに見える町が『狩り』をする町よ」

「へぇー、結構広い町なのですね」

 

 紅魔館から一時間程度でお姉様が『狩り』をする町に着いた。その町は思ったよりも広く、夜遅いせいか家の殆どに灯りはなかった。

 『狩り』って...静かにするものだよね? ......うん、何故だか、お姉様が少し心配だ。

 

「レナ、折角ここまで来たし、思ったよりも早く着いたんだし......やっぱり、手伝ってくれない?」

「早くフランに会いたいところなんですけど......お姉様が心配になってきたので、早く終わらせるならいいですよ」

「あら? 心配なんてしなくても大丈夫よ?」

「なら、帰りますね。帰りの──」

「や、やっぱり心配して! ......一人で『狩り』って、寂しいし......疲れるからレナに手伝って欲しいの......」

 

 お姉様......たまに子供みたい──いや、吸血鬼だから私達はまだ子供かもしれないけど──になるけど......まぁ、可愛いからいっか。

 それに、私達姉妹以外には見せないみたいだし、お姉様のプライドに傷はつかない......よね?

 

「それならいいですよ。......最初からそう言えば良かった気もしますけど......」

「うっ......そ、それは置いといて早く行きま......っ!? れ、レナ! 今すぐ貴女の能力で貴女と私の存在を有耶無耶にして!」

「え? は、はい!」

 

 私はそう言って、青ざめた顔をしたお姉様の手を握り、能力を使った。

 それにしても、いきなりどうしたんだろう? ......何かあったのかな?

 

「お姉様、使いましたよ。......何があったのですか?」

「......今日、ここに来ることは間違いだったわ。昨日に行けばよかったわ......」

「お、お姉様? 大丈夫ですか?」

「......えぇ、大丈夫よ。レナ、運悪くエルジェーベト家の奴らが来たわ。......さっき、町に行くあいつらが見えた。それも、かなりの軍勢よ。......前に館に来たバートリ・エルジェーベトのやその息子達もいるわ。

 多分、レナが居なかったら死んでたかもしれないわ......」

 

 エルジェーベト家......お父様達を殺した奴らか。

 まぁ、後でお姉様に聞いた話だと殺したのは父のバートリ・エルジェーベトだけで、後の息子達は全員先に帰ってたみたいだけど......。

 

「お姉様、どうしますか?」

「......朝になるまで居ましょう。変に動いて、貴女の能力が解除されたら大変だわ。それに、紅魔館の食料の在庫も切れかけてるしね」

「はい、分かりました。......もしも見つかりそうになったら、攻撃してもいいですか?」

「駄目よ。逃げましょう。何故能力を使えばバレることが無い貴女を紅魔館の地下に引き留めていたか分からない?」

 

 お姉様がエルジェーベト達を警戒しながら言った。

 あ、そう言えば......何でだろう?

 

「それは、貴女が何も出来ずに死ぬからよ。勿論、一発や二発なら攻撃を当てれると思うわ。

 でも、それだけじゃ死ぬわけない。貴女の能力は攻撃を無力化するような能力じゃないのよ。だから、透明にでもなってると思われて、適当に攻撃をされたら、どうなるか分かるでしょ?」

「最悪、一発で致命傷になるかもしれませんね。それで、集中力が切れ、能力が解除されて殺される......そういうわけですね?」

「そうよ。......だから、何があっても逃げましょう」

 

 今更だけど、普通に帰ってもいいような......一回聞いてみようか。

 

「お姉様、一回帰って戻って、また来るってのはどうでしょうか?」

「......あ、そう言えば、貴女は能力を使っている状態でも使えたわね。......どうして思いつかなかったのかしら? まぁ、いいわ。さ、レナ、作って。」

「はい。少しかかりま......え? ...お、お姉様、あの、誰か一人だけ、こちらに近付いて来てませんか?」

 

 魔法を使おうとした時、エルジェーベト家側に居た誰かが、一人でこちらに向かって飛んで近付いて来ているのが見えた。

 

「え? ......誰も近付いて来てないわよ?」

「お、お姉様! ほら、あそこで空を飛んでいる......吸血鬼? バートリ・エルジェーベトの息子の......誰でしたっけ? じゃなくて、その息子の一人が近付いて来てます!」

「え、え!? ......って、レナ。誰も居ないじゃない。それに、その息子ってどっちよ? いえ、それよりも一人で来るわけないじゃない」

「ど、どっちって......お姉様、えーと......あ、次男の人です! ほら、一人だけ礼儀正しい人が居ましたよね? その人です」

「次男? そいつは全然礼儀正しくなかったでしょ? それに、そもそも居たかしら? 礼儀正しいやつなんて......」

 

 お姉様......完全に忘れてるのかな?

 

「それに、もし居たとしても、貴女が能力を使っているんだから気付かれるわけないじゃない」

「で、でも、すぐそこに──」

「そんなに大声を出したら父に気付かれるかもしれませんよ? レナータさん......ですよね?」

「えっ、や、やっぱり、見えてる......」

「え!? 嘘、いつの間に、こんなに近くに......」

 

 お姉様に説明するのに夢中で全然気付けなかった。

 それに、やっぱりお姉様も気付いてなかったみたいだ。......何かの能力なのかな?

 

「えーと......憶えていますか? 僕のことを」

「......お姉様、憶えています?」

「......確か、ルネ・エルジェーベト......だったかしら? 私達に何の用?」

 

 お姉様が警戒しながら話しかけた。

 

「あ、そうでした。......こんなに目立つ場所に居たら危険です。バレてないうちに逃げて下さい」

「......貴方、エルジェーベト家の次男よね?」

「え......まぁ、はい」

「......もしかして、私達のお父様が死んだ理由を知らないの?」

「......いえ、知っています。だから、警戒している、信用していないのも......」

 

 ルネが暗い顔でそう言った。

 

「なら、どうして私達に会いに来たの? それも...バートリに見つからないようにして......」

「貴方達に死んでほしくないから。......ただ、それだけです」

「......いいわ。今回は信じてあげる。ただし、今回だけよ」

 

 能力でも使って先を見たのかな? ......それで、この人は信用出来ると思ったのかな?

 

「それと、今日、父は兄のフリッツに殺されるでしょう」

「......え? ど、どういうことかしら?」

「父は残虐な人です。そして、子供のことを何とも思っていない人で......虐待も日常茶判事。

 だから......兄はそんな父が嫌いなのです」

「あぁ......大体分かったわ。でも、そんな簡単に殺せるかしら? あのバートリは私のお父様をも殺したのよ?」

「殆どの確率で殺されることでしょう。父は、前よりも力が弱っています。老化のせいもあると思いますが......兄が何かしらやっているみたいなので、おそらくそのせいもあるでしょう」

 

 試したことないから分からないけど......吸血鬼に毒とかって効くのかな? まぁ、毒以外の可能性もあるけど。

 

「そう......。そう言えば、私に気付かれずに近付いて来たけど、あれは貴方の能力かしら?」

「はい。具体的にどんな能力なのかは分かりませんが......自分や物を他人から認識されなくすることが出来ます」

「......私と似ていますね」

「そうね。それと、貴方にもう一つ聞きたいことがあるわ。どうしてこんな大勢でここに来たのかしら?」

「前に住んでいた場所が人間の襲撃を受け、その際にそこが住めないくらいに壊れたので......。

 父が、直すよりも奪う方が楽だから......と言う理由で、この町に来ました」

 

 やっぱり、酷い人なんだね。まぁ、吸血鬼とか妖怪はそんなもんなのかな...…。

 

「なるほどね。......で、貴方はどうするの?」

「え? 僕ですか? ......僕はここに居るつもりですけど......どうしてですか?」

「......いえ、何でもないわ。さ、レナ。帰りましょう」

「......でも、お姉様、食料は?」

「また明日にでも近くにある村に行くわよ。まぁ、何ヶ所か行かないと駄目だけど......」

 

 お姉様......大変そうだし明日も手伝ってあげようかな......。

 そう思いながら、魔法で紅魔館までの『抜け道』を作った。

 

「あ、丁度あっちも始まりましたね。では、僕は戻ります。......そろそろ戻らないとバレそうですしね。

 ......の前に、レナータさん。」

「あ、レナータでもいいですよ。何ですか?」

「......ちょっとこっちに来てください」

「え? ......いいですよ」

 

 そう言って私はルネに近付いた。

 

「私は貴女だけ知りません。なので......『紅霧異変』、この言葉を知っていますか?」

「えっ? ......ど、どういうことですか?」

「ふむ、なるほど......おそらく、僕と貴女は同じでしょう。......では、私は戻ります。また会いましょう」

「え、あ、ちょっと待っ......行っちゃいましたか」

 

 ルネはそう言って飛び去った。

 紅霧異変って、もしかして......いや、考えすぎなのかな? それとも......。

 

「レナ? どうしたの?」

「あ、いえ、何もありません。大丈夫です」

「そう。......さ、レナ。帰りましょうか」

「はい、お姉様」

 

 そう言って私達は『抜け道』を通り、紅魔館へと帰った────



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2、「訪問者と長女の思い」

遅くなって本当にすまない(´・ω・`)


 side Remilia Scarlet

 

 初めてレナと一緒に『狩り』に行ってから数日が過ぎたある日、ルネ・エルジェーベトが紅魔館に訪ねてきた。

 

「紅魔館にようこそ。ルネ・エルジェーベト様」

「お邪魔します。それと、ルネでいいですよ」

 

 私は能力で来ることを知り、門の前まで会いに来た。会いに来た理由はどうしてここに来たのか気になったし、この男がフランの部屋まで間違ってでも行ったら死んで騒ぎになるかもしれないからだ。

 

「そう、ルネ、今日はどうしてここに来たのかしら?」

「今日は父が死んだと言う報告とレナータと話がしたくて来ました」

「レナと? ......私は居たら駄目?」

「すいません、レミリアさん。レナータと二人きりで話をしたいのです」

 

 レナータと......二人きりで話? これは、姉として......どうすればいいんだろうか?

 大切な妹だし、まだレナも子供なんだし......いや、でも違うかもしれない。それに、レナがいいならいいのかな......。

 

「......レナに聞いてくるから応接間にでも少し待ってなさい。それと、レミリアでもいいわよ。こっちが呼び捨てなのに、さん付けされるのは嫌だからね」

「はい、分かりました。......それと、ありがとうございます」

「いいのよ。私が当主になってからの初めての客人だしね」

 

 私はそう言ってレナの部屋へと向かった──

 

 

 

 ──紅魔館(図書館)

 

 レナの部屋に行っても居なかったから、魔法の練習でもしてるのかなと思い、図書館へ来た。すると、案の定、レナが魔導書を読みながら片手で魔法陣を書いていた。

 

「レナ、ここに居たのね」

「あ、お姉様。珍しいですね、お姉様がここに来るのは」

 

 レナが嬉しそうに微笑みながらそう言った。

 

「......もしかして、邪魔したかしら?」

「いえ、大丈夫ですよ。それでお姉様、今日はどうしましたか?」

 

 レナが魔法陣を消し、魔導書を閉じながら言った。

 

「......貴女にお客様よ」

「お客様? この紅魔館に来るお客でも珍しいのに......私にお客様なんて初めてですね。それで、誰なんですか?」

「ルネ・エルジェーベトよ。エルジェーベト家の次男の。......それと、バートリが死んだらしいわ。出来れば、そのことについて詳しく聞いてくれない?」

「ルネが......。はい、分かりました」

 

 レナが少し考えたような顔をしてからそう言った。少し心配だけど......まぁ、私の妹だし大丈夫だろう。

 

「じゃ、用事はそれだけだから......ルネは応接間に居るはずよ。場所は分かるかしら?」

「はい、大丈夫ですよ。......では、長く待たせるのもなんですし、今から行ってきますね」

 

 そう言ってレナは『抜け道』を作り、そこに入った。

 

「......『行ってらっしゃい』くらい言わせなさいよ。まぁ、いいわ。......レナの代わりにフランに会いに行った方がいいかしら」

 

 今は、後二時間で夜が明ける頃だ。...いつレナ達の話が終わるか分からないし...。行ってみようかしら...久しぶりに。...能力使ってから行ったほうがいいかしら?まぁ、何かあってもレナが気付いてくれるでしょうし、能力使ってから行きましょ。...そう言えば、どうしてこんな時間に来たのかしら?...まぁ、いいわ。

 そう思いながら、フランの部屋へと向かった────

 

 ──数十分後 紅魔館(フランの部屋)

 

「......大丈夫そうね。......フラン、入ってもいいかしら?」

 

 運命を見た結果、少なくとも、今は大丈夫そうだ。

 そう思いながら私はフランの部屋をノックし、フランに聞こえるように大きい声でそう言った。

 

「レミリアお姉様!? 勿論、いいよ! 入って!」

「そう、入るわね。って、きゃっ!? ふ、フラン......部屋に入った瞬間に飛びつくのはやめてほしいわ......」

「えへへ......だって、レミリアお姉様が久しぶりに来たから嬉しいんだもん。......あれ? そう言えばお姉様は?」

 

 嬉しそうな顔をしていたフランが、少し残念そうな顔になってそう言った。

 

「あぁ、レナならお客様が来たから話をしているわよ」

「ふーん......まぁ、いいわ。それよりもレミリアお姉様、遊びましょ!」

「いいわよ。何して遊びたいの?」

「『弾幕ごっこ』がいいわ!」

 

  『弾幕ごっこ』......名前が無かったこの練習にレナがふと呟いた名前を付けた。

 それをレナに言った時、この名前は嫌だから、するなら別の名前にしようとか言っていたから言ってたけど......これ以上に合う名前をレナが思い付かなったから結局これになった。

 それにしても、フラン、これは遊びじゃないんだけど......。

 

「いいわよ。一回当たったら終わりでいいかしら?」

「えー、もっと遊びたいわ! せめて、三回がいい!」

「はぁー、仕方ないわね。でも、フラン。手加減してよね。貴女の弾幕はかなり痛いから......」

「大丈夫だよ。私も色んな練習をお姉様に教えてもらってるの。その練習の中に力加減もあるから前にお姉様と遊んだ時よりも痛くないはずよ」

 

 ......初めてその話を聞いた。やっぱり、レナにフランのことを任しすぎているのかしら? 私も姉として何かした方がいいわよね......。

 

「......フラン、何かあったら私に言って。私に出来る範囲なら何でもしてあげるわ」

「? 急にどうしたの? レミリアお姉様」

「......いえ、どうもしてないわよ。さ、『弾幕ごっこ』を始めましょう!」

「うん! レミリアお姉様、私負けないから!」

 

 そう言って私は『グングニル』を、フランは『レーヴァテイン』を作り、手に持つ。

 

「あら、私に勝てると思っているの?」

「え、まぁ、お姉様にも勝てないから無理かもしれないけど......それでも私はレミリアお姉様に勝つために頑張るわよ!」

「ふふ、いい心構えね。そうねぇ......貴女から攻撃してきなさい。私はしばらく受けるだけにしてあげるわ」

「レミリアお姉様、手加減しないで、本気でやって!」

「あら? いいのかしら? すぐに終わっちゃうわよ?」

 

 私はレナ相手にも本気でやることがない。その理由は長くやることで、レナの持久力、集中力を鍛える為にだ。まぁ、多分レナも本気は出していないだろう。だから、私はレナ相手に本気を出さない......と言うよりは本気を出せない。手加減しているあの娘に本気で相手をすると、吸血鬼と言えど、大きな怪我をするかもしれないからだ。まぁ、傷はすぐに治るだろうけど......。

 何故、本気を出さないのかの理由も知っている。

 あの娘は私達相手には優しすぎて、自分で意識せずとも手加減してしまってるのだ。当たっても痛いだけで傷はすぐに治るのに......本当に優しい妹を持ったと思う。でも、その優しさがいつかレナ自身を苦しめるような気がする。

 だから、そんなことがあってもレナが傷付かないように......私が強くなってレナを......フランも守らないと。何があっても私が守れるように......。

 

「大丈夫よ。本気でやっても私はすぐには負けないから。......って、レミリアお姉様? 大丈夫? 少し上の空になってたみたいだけど......」

「え、あ、大丈夫よ。......なら、本気でするわね。その代わり、貴女も本気でしなさいよ。怪我するかもしれないから」

「勿論、本気でするわよ! えいっ!」

 

 フランがそう言いながらレーヴァテインを振った。そして、レーヴァテインの炎が私のところまできた。

 ...って、えっ?

 

「え!? 流石に早す...危なっ! フラン! 話している途中に攻撃は卑怯じゃない!」

 

 間一髪で私は避ける。流石に不意打ちはひどいわ......。

 

「え? レミリアお姉様が本気を出しなさいって言ったんじゃない。私はそれに従っただけよ」

「うー......フラン! 覚悟しなさい! 今すぐ倒してあげるわ!」

「あら、レミリアお姉様。こんなことでムキになっちゃって......妹として恥ずかしいわ」

「 フ ラ ン !もう、怒ったわよ!」

 

 そう言って、フランに突撃する。

 本当はこれくらいじゃ怒らないけど......フランは私を怒らして、注意力でも鈍らせようとしてるみたいだから、その手に乗ってみた。

 

「ふふ、レミリアお姉様、遅いわよ!」

 

 そう言ってフランがレーヴァテインを振り回して、私に当てようとする。

 上、右、左、また左......太刀筋が単純ねぇ。

 そう思いながら私は避けてフランに近付いて行く。

 

「え!? う、嘘でしょ!? 全く当たらないなんて......。それなら、やぁっ!」

 

 そう言ってフランがレーヴァテインを振りながら弾幕も一緒に出した。

 

「あらあら、フラン、どうかしたって、あっ、痛っ!?」

 

 私が油断して、喋っている最中に弾幕の一つが当たった。

 レーヴァテインの炎に隠れていて、当たるまで気付けなかった...。

 

「ふふふ......レミリアお姉様! 油断はしたら駄目よ! ...っ!? な、何が...えっ!?」

「...フラン、油断をしているのはどっちかしらねぇ?」

 

 フランは、私がフランの『後ろ』から放った弾幕に当たった。

 今、フランの後ろには数百の弾幕を張っている。怒ったふりをしている時からフランの後ろに目に見えるかどうかの小さな弾幕を霧のようにして設置していた。そして、それをフランに気付かれないように徐々に集め、少し小さめの弾幕を張っていた。

 

「い、いつの間に!? どうして、私に気付かないようにこんなに弾幕を張れるの!? 普通にやっても私は気付くはず......あっ! レミリアお姉様! 怒ったふりを──」

「捕まえた。......これで負けを認めるしかないようね?」

 

 そう言って、私は後ろに気を取られていたフランの両手を握り、動けないようにした。

 すると、観念したのかフランがレーヴァテインを消した。

 

「はぁー......確かにこれは負けても仕方ないわよね。でも、まだ当たってないから負けてはないわよ! えいっ!」

「よっ、と。フラン、負けを認めなさい。じゃないと、この弾幕を全て当てるわよ?」

 

 そう言ってフランがのあたりを蹴ろうとした。それを私は上に飛んで逃げ、握っている両手の力を強めた。

 

「痛い! レミリアお姉様、離して!」

「駄目よ。貴女が負けを認めるまで離さない」

「痛っ! レミリアお姉様、そう言いながら力を強めないで!」

「早く負けを認めないとやばいわよ?......骨が折れるかもしれないわねぇ」

 

 流石にそこまでしないけど......こうまで言わないと負けを認めないだろうし仕方ない。

 

「うー......レミリアお姉様の悪魔! 鬼! 負けを認めるから離して!」

「私達は吸血鬼だから悪魔だし鬼です。って、レナの口調が移っちゃったわね。まぁ、いいわ。はい、離したわよ。弾幕も消しといたから」

「うー......お姉様はこんなことしないのにぃ......。レミリアお姉様なんて嫌い!」

 

 フランが泣いた顔でそう言った。

 

「そ、それは貴女が負けを認めなかったから......」

「あら、お姉様、何をしているんですか? ......お姉様、フランが泣いているのですが?」

 

 そう言ってレナが突如床に現れた『抜け道』を通り、部屋に現れた。

 

「うわぁぁぁん! お姉様ー! レミリアお姉様がいじめる!」

「え? ......お姉様? 一体どういうことですか?」

 

 レナがフランを抱きしめ、私を睨んでそう言った。

 

「え!? わ、私は......私は悪くないわよ!」

「でも、お姉様、フランが泣いていますよ」

「わ、私は、うっ、うー......。わ、悪く......悪くないわ。うぅ......うわぁぁぁん!」

 

 レナに初めて真剣に怒られ、少しやり過ぎたと言う感情もあり、泣いてしまった。そして、私はレナに飛びついた。

 

「えっ!? お、お姉様!? え、ちょっ、あっ!ぐはっ!」

「あ、レミリアお姉様! お姉様が倒れたじゃない!」

「私悪くないもん! 私、私は悪く......うーっ!」

「悪いのはレミリアお姉様でしょ! 私の方が悪くないもん!」

「......フラン、お姉様。落ち着いて下さい。それにしても、お姉様? しばらく......と言っても数日ですけど...会わないうちに変わりすぎてません?」

「だって、グスッ、レナやフランに会えなくて......ずっと一人で寂しくて......普段は皆の前で強がってはいるけど、本当は寂しいのよ......」

 

 本当は、レナとフランとずっと一緒に居たい。でも、私は紅魔館を守らないといけない。

 今まで我慢していたけど、本当は我慢したくない。レナやフランとずっと一緒に遊びたい。

 ......まだ、私も子供なんだなぁ......って、そう考えて思った。

 

「お姉様......大丈夫ですよ。でも、これじゃあ、どっちが姉か分からないので......お姉様、いつもの貴女に戻って下さい」

「うっ......もう大丈夫よ。レナ、フラン、さっきはごめんね。」

「......いいよ。許してあげる」

「私もいいですよ。......お姉様、本当に大丈夫ですか? まだ、涙が......」

「え、大丈夫よ! そう言えば、そろそろ夜が明けるわね......」

「レミリアお姉様、話逸らすの下手ね」

 

 うっ、確かに今のはそうだけど、言わなくても......。

 

「いいのよ、別に! ......レナ、フラン。今日は一緒に寝てくれない?」

「レミリアお姉様......そんなに寂しかったのね。うん、いいよ」

「私もいいですよ。でも、お姉様......もう、一人で居ることを我慢しないで下さいよ。また泣かれても困りますから」

「うっ、分かったわ......。もう泣かないし、我慢しないわ」

 

 と言うか、泣いて恥をかきたくない......。今でも、凄く恥ずかしいし......。

 

「では、お姉様。もう寝ましょうか。......今日は色々と疲れたので」

「あ、レナ、ごめんなさいね」

「私も......お姉様、ごめんなさい」

 

 そう言って私とフランはベッドに向かって行ったレナに謝った。

 

「別にいいですよ。さ、早く寝ましょう......眠いです」

「そうね。おやすみなさい、レナ、フラン。」

「おやすみなさい、お姉様、レミリアお姉様。」

「おやすみです......」

 

 こうして、私は久しぶりに、姉妹達と一緒に寝ることにした────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──時間は少し遡り 紅魔館(応接間)

 

「で、なんの用ですか?」

「どうも。......勿論、この世界についてです」

 

 お姉様に言われ、私はルネに会いに来た。

 

「やっぱり、貴方もこの世界に転生した人なんですか?」

「やっぱり、貴方もなんですね。良ければ、詳しく話してくれませんか? ...貴方のことについて」

「はい、と言っても......殆ど憶えてないんですよね。私が16歳になる頃にはもう殆ど憶えてなかったです。ただ......この世界が『東方project』の世界と言うことだけ知ってます」

「......そうですか。僕はトラックに轢かれて、気付いたら赤ちゃんになって、この世界に居ました」

 

 トラックに轢かれて、って......うわぁ、痛そうだなぁ。

 

「その......えーと、お気の毒に......」

「いえ、心配しなくても大丈夫ですよ。それは置いといて、レナータ、貴方はレミリアとフランと暮らしているんですよね?」

「はい、そうですよ。......それがどうかしましたか?」

「あ、いえ、何でも......おっと、時間的にそろそろバレそうなので帰りますね。では、また来ます」

「え、あ......まだ聞きたいことがあったんだけど......まぁ、別にいいですか」

 

 ルネがまた返事を待たずに外に出ていった。......まぁ、また来るらしいし、大丈夫だよね。

 そう思いながら私は『抜け道』を作り、フランの部屋へと繋げた。そして、私はフランの泣いている姿を見つけた────




次回は水曜日に投稿予定。因みに、次の次にようやくあの人が......?


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3、「血に染まった悪魔」

遅れて本当に申し訳ないです(´・ω・`)
次は遅れないように投稿出来る...はず...。


said Renata Scarlet

 

──紅魔館(フランの部屋)

 

ルネが初めて紅魔館に来てから...百数年の時が過ぎた。その百数年の間にもルネは何度か紅魔館に来て、転生のこと、エルジェーベトのことなど、色々話してくれた。

前にお姉様から言われて、聞くのを忘れていた話も聞いた。バートリは町を奪っている最中、正確に言うと、もう少ししたら町を落とせると言う油断するであろう時に殺されたらしい。実は、バートリを殺すことは兄弟全員知っていたらしい。それでも止めなかった理由は、バートリが虐待するからとからしい。まぁ、私達からしたら親の仇だし......お姉様を殺してたかもしれない奴だからどうでもいい。

そして、今のエルジェーベト家の当主は長男のフリッツ・エルジェーベトになった。ルネ曰く、バートリ並に残虐で非道な吸血鬼らしいから、出来るだけ関わらないようにした方がいいらしい。

 

因みに、初めて『狩り』に行ってから、数年後にまた『狩り』をお姉様と一緒にした。まぁ、その時はお姉様に頼りっきりだったけど......。それからは何回も『狩り』に行っており、その時にお姉様は吸血している時に、少食のせいで吸いきれない血をこぼした姿を見られて『スカーレットデビル』と言う二つ名が人間の間で付けられた。お姉様はそれが気に入っているらしく、『狩り』で町に言った時はわざわざ自称している。

そして、私は偶然赤い服で『狩り』をしている時に、暗いせいか『狩り』の前から血に染まっていたと思われ、『血に染まった悪魔』とか言われた。正直、それを聞くと普通に怖いからやめてほしい。別に、私は全身血を浴びるとかみたいな変な趣味は持ってないし......。まぁ、お姉様にその二つ名を聞かれ──

 

「あら、いいじゃない。私はその二つ名好きよ」

 

──って言われたから、今は悪く思ってないけど......。

 

百数年の間に、変わったことは殆どない。

まぁ、何かあるかと言われれば、一度だけ、フランに魔法を教えるついでに図書館まで連れてきたことがある。フランはお父様が死んだ後も地下から出ようとはしない。私達を傷付けることがあるかもしれないのと外にそれほど関心が無いのが理由らしい。

『幻想郷』に行ったらこれも変わるのかな? ......と言うか変わって欲しいかな。フランにも外の世界を見せてあげたいしね。

他に変わったことはお姉様の手伝いをよくするようになった。フランも一人にしない方がいいけど......お姉様も一人にしない方がいいと、前に分かったからだ。

まぁ、私もまだ吸血鬼で言っても、子供だから一人で居ると寂しさで押し潰されそうになる、っていうお姉様の気持ちも分かるけどね。......それでも廊下で会うと悲しそうな顔で見るのはなんか私も悲しくなるからやめてほしいけど......。

 

「お姉様? 上の空だけどどうしたの?」

「いえ、大丈夫ですよ」

「そう、ならいいけど......。お姉様、何か悩み事でもあったら私に相談してよね。心配になるから」

「......本当に大丈夫ですよ。......でも、ありがとうです。さ、もう少ししたらお姉様も来るし、始めましょうか。」

 

今はお姉様を待っている。何故かと言うと、『召喚魔法』を使うからだ。結局、百数年の間は『召喚魔法』を使うことが無かった。と言うか、すっかり忘れていた。

だけど昨日、『召喚魔法』が書かれた本......『妖蛆の秘密』を見つけた。久しぶりに見て思い出したし......今日、やってみようということになった。

それで、念の為にお姉様とフランも一緒にいる。もしも、精神攻撃系の魔物が召喚されたらフランが危険だからフランは私と手を繋いでいる。

 

「お姉様、レミリアお姉様がもう少しで来るみたいだから魔法の準備をしたら?」

「ん、まぁ、そうですね。では、フラン。少し離れて下さい。......終わったらすぐに手を繋いで下さいね」

「勿論、分かってるよ。じゃ、お姉様、頑張って」

「はい、頑張りますね」

 

そう言って私は頭の中で魔法陣を描き、呪文を呟く。

 

「......よし、これで今すぐにでも呼べるはずです。フラン、お姉様は何処にいますか?」

「んー、もう近いんだけど......階段で転けて、頭を打ったみたい。頭を抑えて痛がってる」

「......お姉様は一体何をしているのでしょうか?」

 

フランには、お姉様が何処にいるか魔法を使って教えてもらっている。

それにしても、お姉様、吸血鬼なんだし飛んできても良かったんじゃ......。

 

「......待たせたわね!」

 

お姉様が、ガチャ、と扉を開けて入ってきた。

 

「いえ、そこまで遅くなかったので大丈夫ですよ。......それよりも、お姉様、怪我はないですか?」

「え!? ど、どうして知ってるの!? ......あ、いえ、べ、別に? 何も無かったんだから、怪我なんてしてないわよ」

「レミリアお姉様、私見てたよ。勿論、魔法を使ってね。魔法って便利よね」

「うっ、うー......分かったわよ。認めるわよ。でも、さっきは痛かったけど今はもう大丈夫よ。それに、怪我なんてすぐに治るんだし......。そ、それよりも、レナ。もう召喚は出来るのかしら?」

 

すぐに怪我は治るっていっても、心配だから言ってほしいけど......まぁ、お姉様が大丈夫って言うなら、もう何も口出ししなくていっか。

 

「はい、大丈夫ですよ。......では、もう召喚してもいいですか? 私にも『不可視の下僕』というのが召喚されると言う以外、何も分かりません。私の命令を聞くのか......聞かないのかも全く分かりません。

ですので......充分に気を付けて下さい」

「大丈夫よ。ここに居る誰も死ぬ運命(未来)なんて見えないから」

「......レミリアお姉様の言う事だから、あまり信用出来ないや」

「ちょ、ちょっと、フラン!? それってどういうことよ!? 私の能力が嘘だと思うの!?」

「うん。だって、レミリアお姉様の能力って、適当に言うだけでいいじゃない。私やお姉様と違って。」

 

あぁー、また始まった。たまにお姉様とフランは喧嘩をする。......まぁ、私もする時はするけど、お姉様とフランの喧嘩よりは回数がかなり少ないし、短い。......やっぱり、『本当の姉妹』だからなのかな?

でもまぁ、本気で喧嘩はしてないって分かってるからいいんだけどね。

 

「そんなことないわよ! 私の能力はこれ以上ないほど便利な能力よ!」

「お姉様、それは言い過ぎです。世界中を探せばもっと凄い能力も......あっ」

 

あ、これはやばい。

 

「い、今のは、なんと言うか......口が滑ったと言うか、なんというか......」

「れ、レナ! 貴女もそう言うのね! もういいわ! 後で覚悟しなさい、二人まとめてお仕置きよ!」

 

そう思い、言い訳したが既に遅かった。お姉様は顔を真っ赤にして怒った。

逆鱗に触れたっぽいね。完全に怒ってるや。

 

「えー、私は嫌よ。レミリアお姉様、本当のことを言われたくらいでそんなに怒らないでよ」

「ほ、本当のことじゃないわよ! もう知らない! レナとフランの馬鹿!」

「むー......馬鹿じゃないもん! レミリアお姉様の方が馬鹿じゃない!」

「はぁ!? 貴女よりは馬鹿じゃないわよ!」

 

あ、これは止めないとやばい気がする。絶対に巻き添え食らう。

 

「二人共、喧嘩はやめて────」

「もういいわ! レミリアお姉様、覚悟して!」

「フラン! 覚悟するのは貴女の方よ!」

 

そう言ってお姉様は『グングニル』を、フランは『レーヴァテイン』を出した。

こうなったら気が済むまでか、力ずくでしか止めることが出来ない。

私にお姉様とフラン相手に力ずくなんて出来ないし......こうなったら......。

 

「はぁー、もういいです。好きにしてください......」

 

私は喧嘩を止めることを諦め、しばらくお姉様とフランの喧嘩を見守ることにした──

 

 

 

──数十分後 紅魔館(フランの部屋)

 

「はぁ、はぁ、もう......無理、しんどい......」

「はぁ、これが、はぁ、姉の力よ......」

 

しばらくお姉様とフランが斬りあったり、弾幕を当てあったりした後に、フランが先に剣を下ろして諦め、お姉様が続いてそう言った。

 

「あー......もう疲れたー! レナ! 『召喚魔法』は明日にしましょう!」

「さんせーい! お姉様、もう戦えないから明日にしましょ! それにしても......レミリアお姉様、手加減してよね。本気だったでしょ?」

「本当なわけないじゃない。そもそも、フランだって本気でしてないでしょ? 妹が本気じゃないのに本気を出す姉が何処にいるのよ」

 

うん、まぁ、私達は姉妹同士であんまり本気で戦うことないしね......。それでも、喧嘩は止めて欲しいけど。

 

「ま、それもそうね。......お姉様、喉が渇いたから紅茶が欲しーい」

「あ、レナ、私のも頼むわ。動きすぎて疲れちゃった......」

「え、まぁ、いいですけど......と言うか話を勝手に進めないで、って言ってもどうせ聞いてくれないですよね。はぁー、今すぐ、取りに行ってきますよ」

 

そう言って私は『抜け道』を作り、紅茶を取りに行った──

 

 

 

──次の日 紅魔館(フランの部屋)

 

「今日は......出来るんでしょうか?」

 

昨日、結局出来ずに、全員でフランの部屋で寝ることにした。あの後、お姉様とフランは喧嘩なんか無かったかのように機嫌が良く、仲良く一緒に寝ていた。

絶対遊び感覚でやってたんだろうけどっっz...本気でやってるんじゃないかと、ひやひやするからやめてほしい......。

 

「私達が喧嘩をしなければ大丈夫よ」

「そうだね。お姉様、安心して。多分、今日は大丈夫だから」

「『多分』なら安心出来ません。......では、始めますよ。魔法陣は昨日の状態で置いてあるので、すぐに出来るはずです。......準備はいいですか?」

「えぇ、いいわよ」

「私も大丈夫!」

「では、始めますね」

 

私はそう言って呪文を唱え始めた。......すると、魔法陣が光り始め、一瞬だけ轟音が響き渡った。

 

「うるさい! お姉様、こうなるなら教えててよ!」

「......フラン、静かに。......何か聞こえます」

 

何処からか、クスクス、と笑うような音が聞こえる。これは『不可視の下僕』の声か何かなのかな?

 

「え? ......本当だ。......あ、何も無いところに『目』が見えるよ」

「多分、それね。レナ、何か命令でもしてみて」

「はい。『不可視の下僕』さん、私の命令を聞いてくれるなら......私の前まで来てください」

「お姉様、もしも、命令を聞かなかったら..,...あ、お姉様、近付いてきてるよ」

「ふむ、聞いてくれているんでしょうか......?」

 

今更だけど...聞いているかどうか分かりにくい質問をしてしまった......。まぁ、下僕って言うくらいだから大丈夫でしょ。多分だけど。

 

「レナ、一回止めてみて。それなら分かるはずよ」

「あ、はい。『不可視の下僕』さん、止まって下さい」

「......お姉様、止まったみたい」

「ふぅ......これで一先ず安心ですね」

「えぇ、そうね。......レナ、これを退散させる方法は知っているの?」

「はい、それは大丈夫ですよ」

 

召喚させた後はしっかり、退散もさせないとね。じゃないと、危険なことになるかもしれないし。とか思って、退散の魔術だけはしっかりと憶えている。

 

「じゃ、実験は終わったし、もう退散してあげなさい。......姿を見ようなんて考えなくていいわ。また今度にしなさい」

「え? まぁ、はい、分かりました」

 

お姉様......結構真剣な顔だったけど、姿を見ない方がいいってことなのかな?

 

「では、『不可視の下僕』さん。ありがとうございました」

 

そう言って。私は『不可視の下僕』を退散させる呪文を唱えた。

 

「へぇー、凄いね。お姉様、『目』が消えたわよ」

「ふぅ......成功したみたいですね」

「良かった。じゃ、レナ、フラン。私はそろそろ部屋に戻るわね。また明日会いましょ」

「うん! レミリアお姉様、バイバイ!」

「お姉様、また明日、です」

「えぇ、またね」

 

そう言ってお姉様は部屋に戻って行った。

 

「お姉様、今日も一緒に寝てくれるよね? 一人だと寂しいし......」

「はい、いいですよ。毎日一緒に寝てもいいくらいです。......フラン、明日、お姉様と少し約束がありますので、早めに出ますけど......いいですか?」

「......うん、いいよ。その代わり、明日も一緒に寝てくれる?」

「まぁ、今までも殆ど毎日、一緒に寝てる気がしますけど......いいですよ」

「それは気にしたら負けよ、お姉様。......じゃ、おやすみなさい、お姉様」

「はい、おやすみです、フラン」

 

そう言って私達は目を閉じた──

 

 

 

──次の日 紅魔館(門前)

 

「ふわぁ......お姉様、用事って何ですか?」

「レナ、眠たそうね。まぁ、私も眠いんだけど......」

 

まだ日が落ちて数分しか経っていない時間帯、お姉様に言われた時間通りに私は門前に来た。

 

「用事はね、今からここに人間が攻めてくるのよ。それを止めるのをレナにも手伝ってほしいの」

「へぇー、人間が......って、え!? 人間が攻めてくるんですか!?」

「そうよ。まぁ、少ないから、そこまで苦戦はしないはずだけどね」

「んー......お姉様がそう言うなら大丈夫なんでしょうけど......まぁ、フランのためにも頑張ります」

「え? レナ? わ、私のためには、頑張ってくれないの......?」

「え、あ、い、いえ! お姉様のためにも頑張りますよ!」

 

急に、お姉様が泣きそうな顔で──

 

「なーんてね。さ、もうそろそろしたら来るわよ。準備しなさい」

「......え? お、お姉様? 嘘泣き......ですか?」

「勿論よ。これくらいで泣くわけないじゃない。さ、後五分くらいで来るわよ?」

「......お姉様、私帰りますね。後は一人で頑張って下さい」

「え、あ、ちょっ......ご、ごめん! レナ、私が悪かったから戻ってきて!」

 

お姉様って......案外ちょろいよね。まぁ、私もさっき騙されてたけど。

 

「はぁー、いいですよ。でも、今回だけですからね」

「ほっ、良かったわ......。貴女がいないと少し面倒だし......え? あ、レナ! 危ない!」

 

そう言ってお姉様が私に飛び込んで、私を後方へと突き飛ばした。

 

「っ!? ......お、お姉様? 一体どう......え? お、お姉様!」

 

地に倒れているお姉様の背中には…....四、五本の矢が刺さっており、そこから血が出ていた。

 

「痛っ......だ、大丈夫よ。これくらいな......っ!? この矢......銀で......」

「お、お姉様!」

 

お姉様の顔は苦痛で歪んでいたが...私に心配をかけまいと無理をして笑っていた。

でも、銀の矢で攻撃を受けたみたいで......吸血鬼と言えど、早く抜かないと再生は出来ないみたいだ。

 

「よし! 『悪魔』は一体、仕留めたぞ! もう一体も殺っちまえ!」

 

そう言って矢を放ったらしい人間達が近付いて来た。

数は......八、九、十......十人か。半分はまた弓で狙っているみたいだけど、このくらいなら......。

でも、今はお姉様を優先しないと。

そう思い、能力で私とお姉様の存在を有耶無耶にした。

 

「お姉様、この矢を抜いてもいいですか? 抜かないと再生出来ないみたいですし......」

「だ、大丈夫よ。レナ、私はいいから......すぐに人間を片付けなさい。紅魔館に......フランに近付かせないようにして。あの子に会わしたら絶対に駄目」

「でも、この傷を放っておくってのも......」

「レナ、早くしなさい。貴女、今、能力を使ってるでしょ? あいつら、なかなか弓で狙ってないし......どんどん近付いて来てるわよ? 今ならチャンスだし......早く殺しなさい。貴女なら出来るはずよ?」

 

確かに、殺すのは簡単だけど、能力切った瞬間に......あ、このままで殺ればいっか。

そう思い、近くの人間に弾幕を放つ。

 

「ぐはっ!」

「お、おい! 大丈夫か!? くっ!? い、一体何処から!?」

 

放った弾幕が弓を持っていた人間の一人に当たった。

 

「お、おい! 今すぐ矢を放て! 『何か』がいるぞ!」

 

どうやら......この能力で存在を有耶無耶にしている間は本当に存在自体も有耶無耶になるみたい。

私とお姉様の記憶が無いのか、『悪魔』から『何か』になってるし......。さっきお姉様に矢を放ったのは憶えているのかな? ......まぁ、どうでもいいや。そんなことよりも......。

 

「お姉様を傷付けた。という理由で、貴方達を殺します。一人も逃がさず、命乞いも聞きません。......まぁ、音も有耶無耶にしてますので、聞こえていないでしょうけど......一応、言っときます」

 

そう言い放ち、私は人間を『食べる』という目的以外で、初めて殺した──

 

 

 

──数分後 紅魔館(門前)

 

「レナ、大丈夫? うあっぱり、私が殺った方が良かったかしら......。でも、いつかは......まぁ、いいわ。レナ、戻りましょうか」

「はい、大丈夫です。......これもお姉様とフランのためですから......」

 

結局、人間が10人程度集まったところで私達吸血鬼には敵わなかった。あの後、弾幕で弓を持っている人間を狙い撃ちにし、存在を有耶無耶にしたまま、近くの人間の喉を狙い、爪で切り裂いていった。そして、すぐに片付き、お姉様に刺さっていた矢を抜いて、お姉様に治療魔法を使った。まぁ、治療魔法は吸血鬼で再生力高いし、使わなくても良かったかもしれないけど......銀での傷って再生するの遅いらしいし......まぁ、いっか。

 

「レナ、無理しないでね。......私達のためって言うなら、絶対に......」

「はい、勿論無理はしません。お姉様達を守るための力は常に残しておく必要がありますから」

「そういう意味じゃないんだけど......今日はもういいわ。この話はまた今度にしましょうか。......さ、早くフランのところに行ってあげなさい。私はまだやることがあるから。多分、会うのは明日になるかもしれないわ。......じゃ、また明日ね、レナ」

「はい。お姉様、また明日です」

 

そう言って、私はフランの部屋へと向かった。

そして、この一週間後......私には新たな出会いがあった────




次の投稿日は日曜の予定。これは絶対に遅れないように頑張ります。
因みに、次の話でようやく一人目...。二章は3月までには終わるかな...。


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4、「東洋の妖怪と吸血鬼姉妹」

戦闘の描写が難しいです...。もっと上手く書けるように頑張ります。


 side Remilia Scarlet

 

 人間が襲撃してから、一週間ほどたったある日。私は一つだけ、気になっていることがある。

 それは、この間、私が怪我を負ってレナが襲撃した人間を殺してから......レナの元気がない気がすることだ。私達、姉妹の前では元気そうに振舞っているけど、レナは表情が表に出やすいからすぐに分かる。

 はぁー......本当にどうしたらいいんだろうか? レナから相談してくれた方が簡単でいいんだけど、相談してくれそうにないし......。

 

「はぁー......もう、どうしたら......」

「レミリアお姉様? どうしたの?」

「お姉様......元気なさそうですが、大丈夫ですか?」

 

 あ......レナとフランを部屋に呼んでたのをすっかり忘れてたわ。考え事をしていたせいか、目の前にいるのに気付かなかった......。

 と言うかレナ、それは私のセリフなんだけど......。

 

「大丈夫、何もないわよ。......で、貴方達をここに呼んだ理由なんだけどね。もうすぐしたら、妖怪がやってくるから、貴方達に相手をして欲しいの。まぁ、襲撃とかそんなに野蛮じゃないけど、戦うことになるわ。あ、戦うのは私がやるわよ。その後、貴方達に話してて欲しいの。......多分、仲間になってくれる妖怪よ。

 ......多分だけど」

 

 本当は、フランには地下で待っててもらおうと思ってたけど......レナの能力があるし、大丈夫のはずよね? まぁ、死んじゃったら死んじゃったで仕方ないか。......いや、それはダメだけど。

 

「......お姉様、どんな妖怪なんですか? それと、何故、戦う前提なんです?」

「さぁ、私にも分からないわ。昨日、運命(未来)を見てたんだけど......なんか結構長いことここに住むみたいなのよ。で、レナ、フラン。貴方達とも仲良くなれそうだから仲間になるかもしれない、って思ったのよ。

 後、戦う前提なのはそういう運命(未来)が見えたからよ。私の能力が高性能なのは知ってるでしょ?」

「......お姉様、どうする? 私は、レミリアお姉様が勝手に妄想しているだけ、って思ってるけど」

 

 フランが胡散臭そうに私を見てそう言った。

 

「ちょっ、ちょっと! フラン!? それはどういうことよ!?」

「お姉様、フランはお姉様の能力を信じていないだけですよ。

 フラン、私は例え嘘でも......お姉様の娯楽に付き合います」

「れ、レナ! それはそれで酷いわよ! それも信じていないってことでしょ!?」

「はぁー、お姉様がそう言うなら私も手伝うわ。......私はどうせ暇だし」

 

 フランが諦めたような顔でそう言った。

 え? 私の能力って、妹に信じられてないの? 普通に悲しいんだけど......。

 

「あれ、お姉様? どうしました?」

「な、何でもないわ......。さ、私は行ってくるから、貴方達はここで待っていて。すぐに連れて来るわ」

「逆に言うと、すぐに倒す、って言うことですよね? 一人で本当に大丈夫なんです?」

「レナは心配しすぎよ。私達は吸血鬼よ? 吸血鬼がそう簡単に殺られるわけないじゃない」

「お姉様、それは相手が吸血鬼じゃなかったらの話ですよね? もしも、吸血鬼だったらどうするんですか?」

 

 あ、その可能性もあったわね。でも──

 

「私が死ぬ運命(未来)なんて見えないわよ。安心しなさい」

「はぁー......お姉様、レミリアお姉様はこう言ったら止めれないわよ。『運命を操る』なんてただ言ってるだけなのに......どこからこんな自信が出てくるんだろう?」

「だ、だから! 本当のことだってば! ......まだ戦ってもないのに疲れるわ......」

「あら、これくらいで疲れるんじゃ、勝てないんじゃないの?」

「フラ......いえ、もういいわ。話してたらこっちが疲れるし。じゃ、私は行くわね」

 

 そう言って、私は部屋を出ようとする。

 それにしても、レナは大丈夫かしら。元気そうにはしてるけど......いや、私かフランと一緒にいる時はいつもこんな感じか。

 

「お姉様、行ってらっしゃいです。......気を付けて下さいね。」

「.....ほんと、優しいのはレナだけね。......フランとは大違いだわ」

「あら、レミリアお姉様? 今なにか言ったかしら?」

「別に〜、何も言っていないわよ〜」

「ふーん、ならいいわ。......レミリアお姉様、死んじゃ嫌だからね。生きて帰ってきてね」

「......あら、素直になったじゃない。

 私が生きて帰ってこないことなんてあったかしら? 大丈夫よ。私は死なないから」

 

 私が死ぬ運命(未来)なんて見えない。......だから、大丈夫なはず。それに、今から会うのはレナやフランとも仲良くなれそうな妖怪。そこまで心配する必要はないだろう。

 

「それならいいけど......本当に気をつけてね。レミリアお姉様」

「ありがと、フラン、レナ。じゃ、また後でね」

 

 そう言って私は部屋を出た──

 

 

 

 ──紅魔館(門前)

 

「そろそろ来るはず......よね。それにしても、今日は満月か。こんな日に吸血鬼の館に来る妖怪ってどんな奴なのかしら?」

 

 満月、綺麗ね......。そう言えば、前にレナに教えてもらったことだけど、月は太陽の光を反射してるらしい。

 それなのに、どうして私達は大丈夫なのかしら? とレナに聞いたら

『反射してるからだと思います。反射は威力を無効化し、効果を反転させるとか何とか......』

 とかわけのわからないことを言っていた。

 

「あの〜、吸血鬼が住むと言う館がここにあると聞いて来たんですけど......もしかしてここですかね?」

 

 そう私に訪ねてきたのは、東洋の服らしい淡い緑色を主体とした衣装を着た妖怪だった。 髪はレナよりは薄めの赤で、腰まで伸ばしている。そして、目は青く、側頭部を編み上げてリボンを付けて垂らしていた。

 服を見ても分かる通り、おそらくは東洋の妖怪なんだろう。

 それにしても──

 

「貴女、私が何の妖怪か分からないわけ?」

「え? もしかして、貴女が吸血鬼!? こ、ここには『紅い悪魔』と『血に染まった悪魔』がいるって聞いたんだけど......え!? もしかして、貴女がそのどっちかなの!?」

 

 そう言って東洋の妖怪が驚き、ガッカリした。

 

「どうして貴女がそんなにガッカリしてるのかは知らないけど......そうよ。

 私が『紅い悪魔』、レミリア・スカーレットよ。『血に染まった悪魔』は私の妹......って、どうしてさらに落ち込んでるのよ?」

「い、いえ......。実は私、武術を極める為に、旅に出ていて......強くなるために色々な場所を回っているんです。そして、人間の村にいる時に、貴方達、悪魔の噂を聞いたので......。

 近くだったので、少し寄ってみて、手合わせしたいなぁ、って思ったのです」

「あぁ......もしかして、私の姿を見てガッカリしたわけ?」

 

 今の私達、姉妹の見た目は人間で言うと、十歳にも満たないくらいの幼い姿だ。

 色々な場所を回り、手合わせをしてきたこの妖怪にとって、見た目が十歳に満たない子供の私達とはやりにくいのだろう。ま、それも『見た目だけ』と言うことを思い知らせた方がいいわね。

 

「まぁ、失礼ですけど......そうですね」

「へぇー、これを見ても、そう言えるのかしら?」

 

 そう言って私は妖力を垂れ流しにする。やっぱり、格下の妖怪に対してはこうした方が手っ取り早い。

 

「......ふむ、なるほど。本当に噂通りの方みたいですね。......一度、手合わせお願い出来ますか?」

 

 思ったよりも効果が薄い。......面白い奴ね。

 

「そうねぇ......もし、私が勝ったらここのメイドか門番になる、っていうならいいわよ?

 ここには仕事もちゃんと出来ない妖精メイドしかいないし、朝は門番が務まりそうな奴はいないからね」

「え!? そ、そうですね......。メイドは中華料理くらいなら出来ますけど、掃除とかは出来ませんから......やるとしたら門番の方がいいですね。そっちの方が手合わせも出来そうですし。......もし、私が勝ったら何かしてくれるんですか?」

「何でも願いを叶えてあげるわ」

「......本当に出来るかどうかは置いといて、まぁ、いいでしょう。その代わり、本気で来てくださいよ」

 

 これで朝は楽になるわね。侵入者とか来て、朝に起こされるとイラつくし、面倒だからね。

 門番と言う紅魔館の住人が増えるのは嬉しいわ。

 

「勿論よ。......そう言えば、どうして夜に来たのかしら? 私達吸血鬼は朝が、太陽が弱点なのよ? 朝の方が勝つ可能性があるのに......知らなかったのかしら?」

「あ、いえ、知っていましたよ。しかし、相手が弱っている状態で勝負するなんて......それは卑怯者のすることですから。私は正々堂々と勝負して、勝ちたいのです」

「ふーん......面白い奴ね。ますます気に入ったわ。貴女、名前は?」

「あ、申し遅れましたね。私は美鈴......紅美鈴です」

 

 紅美鈴......名前の響きからして、東洋の妖怪ね。

 

「そう、美鈴ね。じゃ、早く始めましょうか。妹達を待たせてあるのよ。すぐに終わらせて紹介してあげるわ」

「おや、私が来ることでも知っていたんですか? ......まぁ、それは終わってから聞くとして、ルールはどうします?」

「先に一発当たった方が負け......そう言うルールでいいかしら?」

「あら、それなら私の方に分がありますよ? 本当にいいんですか?」

「私を舐めすぎよ。それに、私が負ける運命(未来)なんて見えないわよ」

「? ......まぁ、貴女がいいならいいですけど......。では、行きますよ!」

 

 そう言って美鈴が一気に距離を詰め、正拳突きを私に腹部に狙って放った。

 思ったよりも早いけど......これくらいなら──

 

「なっ!?」

「っ! お、思ったよりも強かったわね」

 

 私は正拳突きを片手で受け止めた。両手でやった方が良かったわね。思ったよりも痛かったわ。

 

「そ、そんな......渾身の一撃が......。でも、これなら! せいやっ!」

 

 そう言って、美鈴がもう片方の手で顔を狙って殴ってきた。しかし、私達、吸血鬼の動体視力ではそれを見切るのは難しいことではない。

 それを避け、美鈴のもう片方の手を掴み、拘束する。

 

「これで動け──」

「はっ!」

 

 美鈴がそう叫んで、ブンッ、と音を出し、顔を狙って回し蹴りをしてきた。それを私は首を傾け、何とか避ける。......だが、回った時の反動で手の拘束が解けてしまった。

 

「せいっ! やっ! はっ!」

 

 美鈴が顔や腹部、手や足を狙い、蹴りや拳を放つ。私達、吸血鬼の動体視力、身体能力さえあれば、これを避けるくらい、そう難しいことでもない。私は顔が狙われたのは頭を傾けたりして避け、腹部のは少し後ろに下がったり、手や足を受け止めて直撃しないようにする。手や足を狙ったものは、当たる前に他の手足で関節の部分を抑え、当てれないようにする。

 

「よっ、と。これで終わりかしら?」

「くっ......はぁっ!」

 

 美鈴がまた最初の正拳突きのような重たい一撃を放った。......これを待っていたわ。

 私はその一撃を受け流しながらその手を掴み、足を使って美鈴の足を払い、投げ飛ばす。そして、間髪入れずに美鈴の首に向かって手を、爪で切り裂くようにして振り下ろし、すんでのところで止めた。

 

「ぐっ! ......くっ、私の......負け、ですね」

「えぇ、そうね。さ、悪魔との約束は破れないわよ。貴女は今日から門番ね」

「はい、勿論です。それと......元から破るつもりはありませんでしたよ。勝てないと分かっていても......強い相手には挑みたいものです」

「ふーん......本当に面白い奴ねぇ。最初から門番になるつもりだったわけ?」

「あ、いえ。それは違いますけど......強い人の元についてみたい、とは思ったことがあるので」

「なるほどね。さ、早く入りましょう。妹達が首を長くして待っているわ」

 

 そう言って、私は門を潜り、紅魔館へと入って行った。

 

「......はい、分かりました。......お嬢様」

 

 そして、美鈴がそう言って、私の後ろについて来た────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

 フランとお姉様の部屋にあったチェスで遊んでいる時──チェスでフランに負け続けていた時──お姉様が華人服とチャイナドレスを足して二で割ったような淡い緑色をした衣装の女性と一緒に部屋に戻ってきた。私には前世の記憶のおかげで見覚えがあった。

 彼女は紅美鈴......『気を使う程度の能力』の持ち主で、紅魔館の門番をすることになる妖怪だ。

 

「......レミリアお姉様、その人は?」

「今日からこの紅魔館で住みこみで門番をすることになった紅美鈴よ」

「ふーん......私はフランドール・スカーレット。レミリアお姉様の妹でスカーレット姉妹の三女よ」

 

 フランがそっけなく答えた。やっぱり、地下に長いこといたせいか少し人見知りが激しくなっているみたいだ。まぁ、そのうち仲良くなれるだろうし、大丈夫......だよね?

 

「私はレナータ・スカーレット。お姉様の妹で、スカーレット姉妹の次女です。よろしくお願いしますね」

「えーと......レナータお嬢様とフランドールお嬢様ですね。

 私は先ほど、お嬢様の紹介にもありましたけど......紅美鈴です。これから門番として、貴方達を守ることになるので、よろしくお願いします」

「あ、レナでいいですよ。お嬢様も付ける必要はないです」

「私もフランでいい。名前は......フランドールよりかはフランの方が好きだし......」

 

 フラン、何か嫌なことでも思い出したのかな? 少し暗い表情だけど......。

 でもまぁ、フランは話したくなさそうだし、別にいっか。

 

「あ、いえいえ。私はここに勤めさせていただくわけで......そんな、同じ目線で話すなんて......」

「美鈴、いいのよ。この娘達の言う通りにしなさい。主の命令よ」

「え、で、ですがお嬢様」

「美鈴、レナとフランの言う通りにしなさい」

「......は、はい、分かりました。ですが、敬意を払わないわけにはいきません。なので、『様』は付けさせて下さい。そう言うわけで、せめて、レナ様とフラン様にさせて下さい」

 

 んー...よく分からないけど...まぁ、そう言うなら...。

 

「仕方ないですね......。いいですよ」

「私もフランドール以外なら別に何でもいいよ」

「ありがとうございます。レナ様、フラン様」

「紅美鈴さん......いえ、美鈴はどういう経緯でここまで来たんですか?

 おそらくですけど、東洋に住む妖怪ですよね?」

「あ、私は武術......その中でも『中国武術』の修行のために、国を出て、色々な場所で手合わせや修行をしているのです」

「『チュウゴク』? 美鈴、『チュウゴク』って何?」

 

 フランがそう言って美鈴に聞いた。そう言えば、魔導書ばっかりで他の本はあんまり見せてなかったっけ......。明日、別の本......漫画みたいのがあれば持っていこう。

 

「『中国』と言うのは、私が住んでいた国のことです。......よければ、私の国のことをお教えしましょうか?」

「うん! お願い!」

 

 あ、フランに興味が湧いたみたい。目がキラキラしてる。この調子なら......仲良くなるのも早いかな。

 そう思いながら、私とお姉様はフランと美鈴の会話を聞くことにした────




次回は美鈴が中心の話の予定。次回投稿日は水曜です。


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5、「紅魔館の色鮮やかな門番」

風邪を引いて、こんなに短いのに長引いてしまった...本当に申し訳ないです。

今回は美鈴が中心のお話。なお、レナータの出番がない模様()


 side Hong Meirin

 

 ──紅魔館(門前)

 

 一週間前、私はここの館のお嬢様に雇われ、ここの門番になった。

 門番になった理由は簡単。強い人と手合わせをしたいが為に『賭け』をして負けた。

 でも、私は後悔をしていません。お嬢様達は『悪魔』とは言われていますけど......言うほど怖くはないですし、門番の仕事も三食ついていてそこまでブラックな仕事ではないから、逆にお嬢様達に仕えることが出来て嬉しいです。

 門番の仕事はとても簡単で、お嬢様達がお休みになる太陽が登る時間から、お嬢様達が起きる太陽が沈む時間まで門で侵入者を入らせない。それだけの簡単な仕事。それで私は手合わせも出来るし、食事も三食取れる。今まで食事をまともに食べることなんて少なかったから......普通に嬉しい。

 

「お疲れ様、美鈴。後は私に任せて休んでいいわよ」

 

 日が暮れてから数十分くらい経った時、お嬢様がそう言いながら門に居る私に近付いて来た。

 

「あ、もうそんな時間ですか? やっぱり、一日は早いですねー」

「あら、今日も侵入者はいなかったのかしら?」

「まぁ、はい。案外来ないものなんですね」

「あら、そんなに毎日のように来られても困るわよ。さ、もう寝なさい。明日もあるんだから」

「ははは、そうですね。お嬢様、また明日、お会いしましょう」

「えぇ、またね」

 

 そう言って私は紅魔館へと戻り、私自身の部屋に帰る。私の部屋は門番らしく、門に近い場所にある。中は割と広めで、かなり快適な部屋だ。

 

「ふぅ......今日も何も無かったな〜。

 このまま続けていたら何かあるんでしょうか......。まぁ、考えてても仕方ないから今日はもう寝ましょうか」

 

 私はベッドに直進し、そのままダイブする。

 はぁ〜、温かいなぁ......こんなにふわふわなベッドで寝るのはここに来る前までなかったから......本当にここの門番になれて良かった。

 お嬢様達は優しいし、ここにいれば食事にも、寝床にも困らない。こんな生活は今まで出来なかったから......ここで門番して、手合わせもして、一生暮らしてもいいかも......。

 そう思いながら、いつしか私は深い眠りへと落ちていた──

 

 

 

 ──十数年後 紅魔館(門前)

 

 お嬢様達に仕えてから十数年が経った。明日はお嬢様とレナお嬢様のお誕生日で、準備のために準備のために、妖精メイド達が慌ただしく紅魔館内を走っている。私も、こんなに目出度い日の前日に襲撃が無いように門番を務めている。

 この十数年の間、人間や妖怪が攻めてくるのは一ヶ月に2、3回で数も多くて十人程度と、大規模な襲撃は無かったが......どうやら、今日は違うらしい。

 

「......珍しいですね。こんなに来ることがあるなんて」

 

 お嬢様達に仕えてから十数年が経ったが......珍しく、それも運悪く、お嬢様達のお誕生日の前日と言う日に三十人程の人間が紅魔館に攻めてきた。夜中ならお嬢様達が居て、早く片付けることも出来たんだろうけど......今は日中、それに、明日が誕生日だと言うのに、お嬢様達に人間の襲撃の防衛を手伝わせるわけにはいかない。

 

「はぁー、こんなに来るのは何も無い日にして欲しいですね......」

「俺達はなぁ、ここの『悪魔』に用があるんだが......ここを通してくんねぇかな?」

「残念ですが......この館には一歩も入らせません。ここに入りたければ、私を倒してみなさい!」

 

 私はそう言って、人間の集団へと突っ込んだ。

 

「せいっ! やっ! はっ!」

 

 そして、息をつかせる間もなく、人間に突き、蹴りを食らわせ、倒していく。人間を倒すことくらい、今まで修行を積んできた私にとっては簡単なことだ。

 そう思いながら、人間を倒していく時に「ヒュン!」と言う音がした。そして、腹部辺りから何か暖かい液体が流れた。

 って、え? これは......?

 油断していたせいもあり、刺さるまで気付けなかった。腹部には銀で出来ているらしい対吸血鬼の矢が刺さっていた。

 

「っ!? ......こ、これは銀の矢ですか。これくらいなら......くっ!?」

「油断したな! この馬鹿め!」

 

 人間が無数の銀の矢を私に向かって放った。そして、怪我のせいで避けそこねた私に、幾つかの矢が当たった。

 幾ら私がお嬢様達みたいに銀が弱点ではないと言っても、矢で受けた傷で行動が遅くなる。それに、十本とはいかないが、もう幾つもの矢が私に刺さっている。

 

「くっ......油断大敵とは、こういう時に使うのですね......」

 

 これは......手合わせなんて生温いものじゃなかったのを忘れてた。最初から、人間達にとっては命の奪い合いだ。どんな卑怯な手でも使ってくるだろう。

 ただ、今までの襲撃が優しかっただけだ。それなのに......私は油断して、敵から一撃をもらうことになってしまった。

 

「今だ! 放てっ!」

 

 人間達が私に向かって無数の矢を放った。さっきの攻撃で避けるのが......いや、もう避けれない、か。

 怪我、油断、目の前まで

 

「まさか......人間に殺られることになると──」

 

 ──ビュン!──

 

 そう言いかけた瞬間、何か赤いものが横を通った。その赤いものは無数の矢を巻き込みながら敵に向かって行った。

 

「あら? 美鈴。まだ殺られてないでしょ?」

 

 その声が聞こえ、私は声の主の元に振り返った。

 その声の主は穴が空いた門の先に居た。そして、私は何があったのかをようやく理解した。さっき、私の横を通った赤いものはお嬢様の武器──グングニル──であり、それは勿論、お嬢様が投げた物だと。

 

「お、お嬢様!」

 

 お嬢様は日が当たらない紅魔館の中にいた。お嬢様はそこから、閉じている門を破って、槍を投げたらしい。

 って、この門、絶対私が直すんですよね......まぁ、助かりましたし、それでもいいですけど......。

 

「情けないわねぇ。たった30人程度の人間相手に......ここまでやられるなんて。ここの門番なんだからもっとしっかりしなさい」

「す、すいません! ちょっと油断してしまいまして......」

「言い訳は後でにしなさい。今はこいつらを倒すことだけ集中しなさい!」

「はい!」

 

 そう言って人間達を倒していく。最初は優勢だった人間も、お嬢様の登場により、手も足も出なくなった。

 この十数年、お嬢様に仕えることは本当に私にとって良いことだったのか? と悩むこともあったけど......今はもう、仕えることが出来て良かったとしか思えないです。

 そう思いながら、しかし、油断することはせずに、私達は人間を倒していった────

 

 

 

 ──数分後 紅魔館(門前)

 

「いやー、助かりました。あ、お嬢様、どうしてこんな時間に起きていたのですか?」

「偶然よ。なんだか眠れなくなったから館の中を歩いてたの。そしたら、外が騒がしかったから見に来たってわけよ」

「わ、私は偶然で助かったんですね......。また油断しないようにしないと......」

「あら、油断しちゃったの? 気を付けなさいよ。いつも誰かが助けてくれるってわけじゃないんだから」

 

 あはは......確かにそうだ。今回は運が良かったからだけど、本当は死んでたかもしれない、のかな?

 

「明日、いよいよね。まぁ、明日......って言っても、もう5、6時間くらいしかないけど。私達の誕生日なんだから。仕事に戻ったら、誰も侵入させないようにしなさい。......今日はいつもよりも早く呼ぶわね」

「はい、お嬢様。では、私は今すぐにでも戻りま──」

「待ちなさい。まだ傷の手当が終わってないわよ?」

 

 あ、そう言えば......。でも、吸血鬼と違って強い再生力はないけど、私も妖怪だ。

 これくらいなら......って、あれ? 傷が......治ってない?

 

「貴女、ただの銀の矢だと思ってたのかしら? まぁ、私もレナに魔法を教えてもらわなかったら分からなかったかもしれないし...仕方ないわね。あの矢には魔法が込められていたのよ。魔法と言っても、呪いの方が近いかもね。傷が治るのを遅くする呪い......まぁ、吸血鬼が相手だし、このくらいやっていても、おかしくないわね」

「の、呪いですか? 私にはさっぱり分からないですけど......この傷はいつ治るか分かりますか?」

「そうねぇ。多分、一日は治らないかもしれないわね。まぁ、この魔法を使った術師にもよるけど」

 

 一日......そ、それじゃぁ、お嬢様達の誕生日の時もずっと傷があるままなのか。

 まぁ、痛みは殆ど無いからいっか。

 

「まぁ、安心しなさい。レナなら治せると思うわ。今すぐ呼んで来るから待ってなさい」

「あ、お嬢様。痛みはないですし、このままでも大丈夫ですよ。後でレナお嬢様に治してもらえさえすれば......」

「駄目よ。今すぐ治しましょう。貴女、油断してそうなったんでしょう? 次はないわよ?」

 

 お嬢様がそう言って、妖力を垂れ流した。うん、やっぱり怖い......。

 

「ま、まぁ、はい。そうですけど......」

「なら、呼んで来るわね。あぁ、そうそう。ここから離れたら明日、丸一日、門の前で立っててもらうから」

「ふふふ、お嬢様。丸一日くらい、耐えれますよ?」

「あぁ、勿論、ご飯抜きでね」

「え!? そ、それは嫌です!」

「なら、大人しく待っとくことね」

 

 そう言ってお嬢様がレナお嬢様の元──今はフランお嬢様の部屋で寝ているらしい──に向かって行った。

 そして、レナお嬢様がやって来て、呪いを解いてもらい、門番の仕事へと戻った。

 それから、数日間、レナお嬢様に心配されたのはまた別の話──

 

 

 

 ──数時間後 紅魔館(美鈴の部屋)

 

「美鈴、用意が出来たから来なさい」

「ふぁ〜、あ、お嬢様。もうそんな時間ですか......早いですねー」

 

 門番の仕事が早く終わり、部屋で寝ていた時、お嬢様がやって来た。

 

「まぁ、寝てたら早く感じるものよ。さ、早く行くわよ。レナとフランが待っているわ」

「はい、行きましょうか」

 

 そう言って私達はレナお嬢様とフランお嬢様が待っている部屋に向かった。

 そして、お嬢様とレナお嬢様のお誕生日会が始まった。私は、お嬢様達のお誕生日以外にお嬢様達と一緒に食べることが全くない。だから、久しぶりに一緒に食べることになった。

 最初に会った時よりは、レナお嬢様やフランお嬢様とも仲良くなることが出来た。......昨日みたいに襲撃があった時は、お嬢様達を守る為にここを守ろう。

 私は心でそう誓い、お嬢様達のお誕生日会を楽しく過ごした────




次回は今回の二倍くらいの字数にしたい(願望)

投稿は日曜の26時頃です()


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6、「末妹の狂気 七曜を操る魔女」

結局遅くなってしまうという。すいませんね()

今回はタイトルから見ても分かる通り、あの人の登場です


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

 私が約350歳になった時......その事件は起きた。

 それは、いつものようにフランの部屋に行っている時だった。

 

「ふぁ〜......今日はフランに会いに行くのが遅くなってしまいましたね......」

 

 魔導書を読み漁っていたら日の出近くなっていた。いつも、部屋に行くのが遅れると、フランに怒られる。だが、こんなに遅い時間となったら、もう寝ているだろう。まぁ、起きた時に怒られるからあんまり変わらないけど......。

 

「痛い、痛いよ、誰か......お姉様、レミリアお姉様......助けて......」

 

 フランの部屋に近いているうちに、そんな声が聞こえてきた。

 

「え? ふ、フラン? ......! い、急がないと!」

 

 嫌な予感がした私はフランの部屋へ走って行った。そして、扉を開け、フランの部屋へと入った。

 

「......お姉様、レミリアお姉様......助けてよぉ......」

「......ふ、フラン? ......フラン!?」

 

 そこには、眼が狂気に染まり、『自分で自分の翼を捥いでいる』フランの姿があった。そして、フランの周りにはフラン自身の翼、手、足が落ちていた。

 私は目の前の光景に唖然としたが、正気を取り戻すとすぐにフランの傍に行き、能力を使った。

 そして、フランの眼から狂気の色が消えていった。

 

「......あ、あれ? お姉さ......っ!? 痛っ!」

「あ、大丈夫ですか!?」

「......う、うん。大丈夫だよ。でも、どうして私のつば、さが......え? もしかして、私自身が?」

 

 フランが自分の手に握られた翼と周りに落ちているモノを見て言った。

 

「お、お姉様? わ、私......またなの? またお姉様を傷付けちゃったの?」

「いえ、大丈夫ですよ。......本当に私は大丈夫なので、自分の心配をして下さい。フラン、怪我は今すぐ治すので、少しじっとしてて下さいね」

「う、うん。分かったよ」

 

 私はフランの怪我を魔法で治した。

 それにしても、フランの狂気は、まだ治ってなかったんだ......。

 最近、フランは狂気に染まることがなかったから油断していた。......いや、もしかしたら私が見ていないだけで、フランが一人で悩んでいたのかもしれない。もし、私がいない時に狂気に染まり、悩んでいたのだとすると......フランには申し訳ない気持ちしかない。私が気付けたら、すぐに戻すことが出来るのに......。

 

「......ありがと、お姉様。もう痛くないから......手、離してもいいよ?」

 

 フランの狂気を戻した時からずっと握っていた手を離した。

 

「あ、すいません。もしかしたら、強く握っていたかもしれませんが......痛くなかったですか?」

「大丈夫。全然痛くないよ」

 

 フランが無理をしているような笑顔でそう言った。

 

「......ごめんなさい、フラン。」

「え? ど、どうして? お姉様は何も悪くないでしょ? 悪いのは私の方だよ?」

「いえ、貴女は何も悪くないですよ。悪いのは来るのが遅くなってしまった私の方ですから......」

 

 そう、悪いのは私の方だ。妹よりも魔導書を読むことを優先してしまった私が悪いんだ。もし、いつも通りの時間に来ていたら......フランがこんなに傷付くことなんてなかったのに......。

 

「だから! お姉様は悪くないでしょ! そんなの......何が起きてるかなんて分からないでしょ?」

「うっ......それはそうですけど......でも──」

「『でも』じゃない! もうこの話は終わり! いいね!」

「うー......分かりましたよ、もういいです」

 

 フランの気迫に押され、言い負かされてしまった。

 私......お姉様にもフランにも言い負かされることが多い気がする......。

 

「レナ、フラン。お邪魔するわよ。......あら? どうしたのかしら? 喧嘩でもした、のかし......えっ!?

レナ、フラン、どうしたの!? 何があったの!?」

 

 お姉様は入るなり、フランの捥がれた翼や腕を見て叫んだ。

 

「あ、レミリアお姉様。ま、これは、えーと......まぁ、気にしないで。なんでもないから」

「気にしないわけないじゃない! フランが教えてくれないならレナに聞くわ! 一体何があったか教えなさい! 敵襲とかならそいつを今すぐにでも殺しにいくわよ!」

「......お姉様、こんなに深い場所に敵なんて来ませんよ。それに、夜でも美鈴なら侵入者なら気付くと思います」

「うっ......それもそうね。じゃあ、何があったのかしら?」

「......それは──」

「お姉様!」

 

 言いかけた瞬間、フランが私を睨んでそう言った。

 

「......レナ、話を続けなさい。レナに言わせたくないなら、フラン。貴女が言いなさい」

「......はぁー、分かったよ。私が話す。レミリアお姉様、私、また狂気に染まってしまったの......」

「......そう。だから、こんなに腕や足があるのね......」

 

 お姉様はその一言で全てを察したのか、暗いが納得した表情でそう言った。

 

「はぁー、レミリアお姉様が来る前に片付ければよかった......」

「フラン、聞こえているわよ? それと、片付けるって言っても、どうするのよ?」

「んー......能力で破壊する」

「下に残った血は片付けれないでしょうけどね」

「それはお姉様に任せるんだよ? お姉様ならそう言う魔法があるでしょ?」

「魔法......レミリア、この娘が魔法を使えるって言う貴女の妹さん達?」

 

 お姉様の後ろから長い紫髪の先をリボンでまとめ、ドアキャップに似た帽子を被った女性が喋った。服は少しボロいが、おそらくこの人は──

 

「レミリアお姉様、誰この人?」

「あぁ、そう言えば言い忘れてたわね。この人は──」

「レミリア、私から言うわ。私はパチュリー・ノーレッジ。近くの町に住んでいた魔女よ。よろしくね。妹様方」

 

 そう、パチュリー・ノーレッジ。前世の記憶に出てくる『この世界のキャラクター』の一人だ────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(門前)

 

「ふぁ〜......暇ねぇ。何か起こらないかしら」

 

 今は、当主としての仕事が終わり、美鈴の仕事も終わっていたので、暇潰しで門前に来ていた。

 

「......美鈴はいつもこんな感じなのかしら? ......もう少し時間短くした方がいいかもしれないわね」

「た、助けてちょうだい!」

 

 そんなことを呟いていると、紫色の髪をし、少しボロっちい服を着た女性が話しかけてきた。

 

「......ここは私達、吸血鬼が住む館と知りながら言っているのかしら?」

「えぇ! 勿論知ってるわ! それを承知で言ってるのよ! 私は......魔女狩りから逃れる為にここに来たのよ」

「魔女狩り? あぁ、最近人間の間で流行っているやつか。あ、と言うことは貴女は魔女ってことかしら?」

 

 魔女か......レナやフランみたいに魔力が分かるなら見た瞬間に気付けるのかしら?

 

「え、えぇ。そ、それよりも早く中に入れてちょうだい! 私を追ってきてる奴らが来るかもしれないわ!」

「はぁ......来るわけないじゃない。ここは私を含め、三人の吸血鬼が住む紅魔館よ? 人間で来るのはよっぽどの自信家か馬鹿くらいよ」

「た、確かにそうかもしれないけど......」

「『そうかもしれない』じゃないわ。実際にそうなのよ」

 

 今まで、吸血鬼ハンターを名乗る者が現れても、すぐに私か美鈴が片付けるからここに入れる者はいなかった。その噂を聞いたのか、こいつは一番安全だと思ってここに来たんだろう。

 

「......そ、それなら、中に入れてくれないかしら? 」

「そうねぇ......ただ庇う為だけに入れるのもねぇ」

「そ、それなら、私が今まで集めてきた魔法の知恵を貸すわ。それならいいでしょ?」

 

 確か、魔法使いにとって魔法の知恵は一番大切なものってレナが言ってたわね。それを差し出すくらいに切羽詰まっているのかしら?

 

「レナの方が長く生きているでしょうし、ここには魔導書も沢山あるからいらないとは思うけど......まぁ、レナ達に聞いてみましょうか」

「レナ? その人も魔法を使うの? それに、魔導書も沢山あるって......」

「あぁ、レナは私の妹よ。もう一人妹がいるけど、そっちも魔法が使えるわ。それと、ここには大きな図書館があってね。そこには魔導書以外にも沢山の本があるのよ」

「......私よりも長く生きている魔法使いには会ったことがないから会いたいわね。会わしてくれないかしら?」

 

 目をキラキラ光らせてそう言った。

 ......あれ? 目的が変わってないかしら?

 

「えぇ、勿論会わしてあげるわよ。あぁ、レナとフラン次第で貴女をここに匿うかどうか決めるから」

「いえ、匿わなくていいわ。それよりもここで住ませてくれないかしら? その図書館に興味が湧いたわ」

「はぁ......それもレナとフラン次第ね。二人がいいなら私もいいわ」

「一応、先に言っておくわ。ありがとうね。......あ、自己紹介が遅れたわね。私はパチュリー・ノーレッジよ。貴女の名前は?」

「レミリア・スカーレット。レミリアでいいわ」

「そう、それなら私はパチュリーとでも呼んでちょうだい」

「えぇ、分かったわ。じゃ、部屋まで行くからついてきなさい」

 

 そう言って紅魔館へと入ろうとする。

 

「ちょ、ちょっと待って。 門番とかはつけなくていいの? ここには門番がいるんでしょ?」

 

 しかし、入る前にパチュリーが話しかけてきた。

 

「はぁ、大丈夫よ。これから誰か来るっていう運命は無いからいいのよ。それに、美鈴は朝からずっとやってるから疲れているでしょうしね」

「......それならいいけど。それにしても、どうしてここまで追いかけて来なかったのかしら?」

「そんなの決まってるじゃない。私達『悪魔』が怖い。それだけの理由でしょ」

「......それもそうね。私も最初はここに来るのが怖かったわ。『紅い悪魔』と『血に染まった悪魔』の噂は私の町でも有名だったし、私がいた町からここに来て帰ってきた人間はいなかったから」

「あら? ここに来て、帰った人間もいるわよ? 私と美鈴は逃げる相手に攻撃なんてしないから」

 

 まぁ、私は襲いかかってきたら一瞬で殺すから、逃げる間もないんだけどね。

 

「本当かしら?」

「本当よ。間違いなく、絶対にね。さ、早く行きましょう。もう寝ているかもしれないわ。寝ていたら今日は泊まって、また明日聞くことにしましょう」

「......貴女、本当に悪魔なのかしら? 少し優し過ぎない?」

「あら、そうかしら?」

 

 レナもフランも悪魔だけど、いつもこのくらいなんだけどなぁ。まぁ、私以外だと美鈴くらいしかちゃんと会話してないから、他の人に対しては知らないけど。

 

「そうよ。とてもじゃないけど、噂とは違う人にしか見えないわ」

「一体どんな噂なのかしら? まぁ、いいわ。さっきも言ったけど、早く行かないと寝ているかもしれないわよ」

「あ、そうだったわね。じゃ、案内をお願いするわ」

「何故か上から目線で言われている気がするけど......まぁ、いいわ」

 

 そう言って紅魔館へと入って行った────

 

 

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「こ、ここが......凄いわ! こんな量、今まで見たことないわ!」

 

 パチュリーが目を輝かせながら、そう言った。

 

「そんなに珍しいの?」

「えぇ! それに、あらゆる場所から魔力が流れているわ! 本当に凄い! 今までゴホッゴホッ! ゴホッ!」

「え!? ちょ、だ、大丈夫!?」

 

 パチュリーのテンションが最高まで上がった瞬間、凄い勢いで咳をし始めた。

 

「ゴホッゴホッ! だ、大丈夫よ......生まれた時から病弱で、喘息持ってるだけだから......」

「私達は病気に強いからよく分からないけど、無理はしない方がいいわよ」

「え、えぇ、死にはしないから大丈夫よ......ゴホッゴホッ!」

「はぁ、レナは回復系の魔法にも精通しているから、会って話をした方がいいかもね......」

「ゴホッゴホッ......ふぅ。えぇ、早く会ってみたいわ。でも、生まれついての病気は流石に治せないと思うわ。まぁ、出来る可能性もあるんだけどね」

 

 ......生まれついての病気か。フランのあれは......いや、気にしないようにしないと。最近は全然無いし、もう大丈夫のはず......。

 

「まぁ、それはレナに聞いてみないと始まらないわね。さ、もうすぐしたら着くわよ」

「......えぇ、確かにもう着くみたいね。かなり強い魔力を感じるわ。なんて言うか......吸血鬼らしく、邪悪な感じがするのと同時に、不思議と優しい感じがする魔力が......。それと、もう一つ、さっき言ったのよりは弱いけど、今の私よりかは強いわ。多分、強い魔力の方に魔法でも教えてもらっているのでしょうね。」

「ふーん、魔女から見るとそんな感じなのねぇ。......で、二つ目の魔力の方は他に何か感想はないのかしら?」

「そうね......邪悪な気がするのはさっきと同じよ。でも、優しいと言うよりかは......純粋で、でも、どこか不思議な感じがするわね。まるで、二重人格のように、全く逆の感じがするわ」

「......そう、教えてくれてありがとう」

「? え、えぇ。どういたしまして」

 

 ......もしかして、まだ......いや、あるわけない。絶対に......だって、最近は全然無いし、なる前兆もない。だから、大丈夫。それに、レナもいるから、フランが傷付くことはないはず。

 

 そう思っているうちに、フランの部屋に着いた。

 

「あ、着いたわよ。貴女は私の後ろに隠れて着いて来なさいよ。じゃないと、最悪死ぬから」

「結構物騒なのね。まぁ、覚悟はしていたし、大丈夫よ。死にたくないから、言いつけは守るけど」

「それならいいわ。ふぅ......レナ、フラン。お邪魔するわよ」

 

 そう言って私は入った。そして、あの現場を見ることになったのだ────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「よろしくね。妹様方」

 

 そう言いながら、パチュリーが私とフランの前に歩いてきて、握手を求めてきた。

 

「ん、私はフランドール・スカーレット。フランでいいよ。よろしくね」

「私はレナータ・スカーレットです。よろしくお願いします。」

 

 そう言って私とフランをパチュリーと握手した。

 

「それにしても、大丈夫なの? それは」

 

 そう言ってフランの捥がれた翼や手足を指した。

 

「え? あ、うん。今は大丈夫。吸血鬼だからすぐに回復するし、お姉様のお陰でもっと早く治って、痛みもないから」

「お姉様? レナのことね。と言うことはレミリアが一番上で、レナがその次、フランが末っ子なのね」

「うん、そうだよ。分からなかったの?」

「逆に分かる方が凄いわよ。貴方達、背が全然変わらないじゃない」

 

 そう言えば、私もお姉様もフランも、背が違うと言っても1cmくらいしか変わらないから、初めて見た人は全く分からないか。でも、お姉様は頼りになってかっこいいから姉って感じが、フランは可愛くて守りたいって思えるから妹って感じがすると思うんだけどなぁ。

 

「んー......私がお姉様のお姉ちゃんに......ね。いいわね、それ。お姉様! 明日一日だけ私の妹になって!」

「駄目です。フランは一生、私の妹でいて下さい。......可愛い妹がいるのは嬉しいですから」

「......そ、それならいいけど」

 

 フランが顔を赤らめて言った。

 え? もしかして、怒ってる!? ど、どうしよう......。

 

「え、えーと......フラン、ごめんなさい」

「え? な、なんで!? 急にどうしたの!?」

「え? 怒ってないんですか?」

「......お、怒ってないよ!」

「え? なら、どうして顔が赤く......」

「え!? 赤くなってたの!? って、お姉様鈍感過ぎ! いや、気付かない方がいいから、別にいいんだけど!」

 

 気付かない方がいい? 一体どういうことなんだろう?

 

「? ど、どういうことですか?」

「レナって鈍感よねー。まぁ、その話は後ででいいわ。貴方達に話があるの」

「ん? どんな話? 」

「パチュリーがここに住みたいらしいの。それと、魔法使いとして先輩である貴方達に色々聞きたいことがあるらしいわ」

「先輩? お姉様みたいな感じってこと?」

「んー......まぁ、そんな感じでいいと思いますよ。パチュリーが住むのに文句なんてないですよ。逆に魔女と一緒に住めるのは魔法の勉強にもなりそうですし、一緒に住みたいくらいです」

「私はレミリアお姉様とお姉様がいいなら何でもいいよ」

 

 んー......フランは自分で何か決めること少ないから、もっと自分で決めた方がいいと思うんだけどなぁ。

 

「そう、それなら決定ね。パチュリー、今日から貴女はここの住人よ。改めてよろしくお願いね」

「えぇ、よろしくお願いするわね。レミリア、レナ、フラン」

「ん、よろしく」

「よろしくお願いします」

 

 そう言って、もう一度、私達はパチュリーと握手を交わした────




次回はパチュリーの話とフランの翼についての話。

次回は金曜日に投稿予定。......間に合うといいなぁ()


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7、「賢者の石とフランの翼」

ギリギリアウトだったぜ()
今回は前半に少しパチュリー、後半に三姉妹(主にフラン)のお話。
そう言えば、バレンタインデーがもうすぐなんだなと知った()


 side Patchouli Knowledge

 

「ふぅ......やっぱり、これだけの数は疲れるわね」

 

 ここに来てから一年もの年月が過ぎた。私は今、図書館内に放置されていた一室を借りている。勿論、自分の部屋はもらえたのだけど、図書館に居ることが多く、そのままここで寝ることが多いからここにあった使われていない部屋を交換でもらうことになった。

 

「お邪魔するわね。あら、終わったのかしら?」

 

 そう言いながら部屋に入ってきたのはレミリアだった。

 

「えぇ、貴女に頼まれたのはとっくの昔に終わってるわよ。今は別の種類の魔導書を読み漁ってたところ」

 

 ここに住み始めてからレミリアからある話を聞いていた。そして、一週間くらい前からそれを治す、というか無くす方法を探して欲しいと頼まれた。

 

「ふーん、思ったよりも早いのね。で、どんな方法なのかしら? 出来るだけ早く、簡単であの娘が苦痛に思わないのなら何でもいいわよ」

「そんなの、私よりも長く生きているレナにも出来なかったんでしょ? 私に出来ると思うの? それに生まれついて持っているモノは何をしても無くすことは出来ないわよ」

「まぁ、確かにそうかもね。でも、必ず何か方法はあるはずよ。それに、レナは治せなかったというよりは......治す方法があっても、それがフランに苦痛を与える方法だったからやらなかった、って、私は思うんだけどね。......で、貴女も見つけたのは見つけたんでしょ? どんな方法でもいいわ。教えてちょうだい」

 

 頼まれていたのはフランの狂気を無くす方法だ。でも、普通に無くしただけでは──それこそ、生まれついて持っているものを消すのは──人格を崩壊させかねない。そうならないような方法を私は探した。そして、見つけることは出来た。運が良いのか、材料は既に持っている。

 しかし、私が見つけれたくらいだ。生まれてからずっと一緒にいて、魔法使いでもあるレナが同じ方法を見つけていないわけはない。......この方法では苦痛が伴う。それも、おそらくかなりの苦痛だろう。

 

「......いいわ。教えてあげる。でも、とても苦痛が伴うわよ。馴染むのに少なくても数十年はかかるわ。その間も苦痛に悩ませることがある。それでもいいの?」

 

 でも、私はここに住まわせてもらっている身だ。ここの当主の妹がどうなるか決めるのは私ではない。ここの当主だ。

 

「いいわよ。吸血鬼にとって数十年くらい......きっと、あっという間に過ぎるわ」

「......はぁ、貴女、きっと妹に恨まれるわよ? 本当にそれでもいいの?」

「え......あ、いえ、それでもいいわよ。私が恨まれようが殺されそうになろうが別にいいわよ。フランがこの先、狂気で悩ませることがないならね 」

「ふーん......立派な家族愛ね。まぁ、そこまで言うなら教えてあげる。はい、これ」

 

 そう言って私は棚にしまってあった箱を取り出した。

 

「......これは?」

「その中には八色の『賢者の石』が二つずつ入っているわ。それをフランの翼にでも付けなさい。それを付けると数十年後にはその狂気もマシになってるわよ。でも、これから数十年、マシになるまでその石の魔力の影響で苦しみ続けるかもしれないけど......本当に付けるのかは貴女が決めなさい」

「え、ちょっと! 話が違うじゃない! 数十年? マシになる? 私は狂気を一刻でも早く狂気を無くして欲しいのよ!?」

「だから、その数十年が一番早いのよ。それと、最初にも言ったけど、生まれついて持っているモノは無くすことは出来ないわよ。それなりの対価が必要になるわ。それこそ、実の姉である貴女の命......それくらい必要になるわよ」

 

 無くす方法は幾つかある。しかし、何事にもそれに対する『思い』は必要だ。それこそ、対価にもだ。だから、他のモノでは駄目だ。他人の命などでは『フランの狂気を無くすという思い』が全然足りない。

 

「......フランがこれから幸せになるならなんでも捧げるわよ。私の命でも、私に出来ることならなんでもね」

 

 はぁ......異常過ぎるかもしれないわね。この家族愛は。

 

「そう。それなら今はやめときなさい。貴女は今、死ぬべきではないわ。今死んでもフランやレナ、私にも迷惑がかかるからね。だから、今は出来ることだけにしなさい」

「......それもそうね。今は諦めるわ。......でも、いつかは必ずやるわよ?」

 

 レミリアが口では諦めていると言いながらも表情は諦めていない様子でそう言った。

 

「死ぬ間際くらいにしなさいよ。フランやレナを悲しませたくないならね」

「はぁ、分かったわよ。さ、具体的にフランの翼に付けるってどうするのかしら?」

「フランの翼の膜を取って代わりにこの『賢者の石』を全部付けるだけよ。吸血鬼だし、付けるのはなんとかなるでしょ?」

「貴女も簡単に言うわね。まぁ、それだけなら私とレナがいればいいわね。貴女はもう待ってていいわ」

 

 用済みになったら捨てる......流石は悪魔ね。まぁ、巻き込まれたくないから最初からここに居るつもりだけど。

 

「そう、気を付けなさいよ。痛みや『賢者の石』の魔力の影響で苦しむフランもだけど......それを見て貴女も苦しむかもしれないから」

「あら? 私はフランとレナの為なら嫌われ者でもなんでもなるのよ? それくらいなら大丈夫よ」

「ふーん......後で一人でひっそりと泣くんでしょうね〜」

「ちょ、何で知ってるのよ!? ......あっ」

 

 あ、本当に泣くんだ。と言うか自分でも既に泣く前提で行くのね。割と精神面は弱いのねぇ。

 

「ま、妹様達には教えはしませんよ。お 嬢 様」

「うー......もう行くわ!」

 

 そう言って音を大きく立てて扉を閉めて出て行った。

 

「はぁ、レミリアって見た目通りなのね。まぁ、あの姉を見た限りじゃ、妹様達も変わらないと思うけど。さ、続きでも読みましょうか。『下級悪魔の召喚』......気になるわね〜」

 

 そう言って私は魔導書を読む作業に戻った────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

 先にレナの部屋に行ってフランの部屋まで来た。あいにくとレナは留守だったが、おそらく、フランと一緒に居るのだろう。

 

「フラン! レナ! 入るわよ!」

「ん、レミリアお姉様? 大声を出してどうしたの?」

「お姉様、今からフランに絵本でも読んであげようかと思っていたんですけど......」

「あ、ごめんなさいね。でも、今すぐやりたいことがあるの!」

「お願い、またレミリアお姉様の気まぐれが始まったわよ」

「フラン、声に出して言っては駄目ですよ。いつも言ってるみたいに聞こえますから。......まぁ、いつもですけど」

 

 ちょ、真剣な話のつもりなのにいつも気まぐれで何かやってるから......って、誰がいつも気まぐれでやってるのよ!? あれでも結構真面目なのに! ......いや、今はそんなことはどうでもいいか。

 

「レナ、フラン。よく聞いてちょうだい。今からフランの狂気を無くす......と言うかマシにさせるから協力して」

「......私の......狂気を? そんなことが出来るの?」

「......お姉様、フランに危険は無いんですか? あるなら私は反対ですよ」

「危険はないわ。その代わり痛みが伴うらしいわよ」

「お姉様、それを知りながらするんですか? それなら死んでも止めますよ?」

 

 やっぱり、レナはそう来るわよね。まぁ、分かってたけど。

 

「あら? 貴女に私が止めれるの? なんて冗談はしても意味がないわね。貴女が痛みを有耶無耶にすればいい話でしょ?」

「......フランはいいですか?」

「んー......いいよ。このままだとお姉様達、喧嘩しそうだし、レミリアお姉様は諦めるつもりなんてないでしょ?」

「あら、フランは私のことをよく分かっているのね」

「うー......フランがいいならいいですよ。でも、お姉様。危険だと思ったらすぐにでも止めますからね」

 

 まぁ、姉としてのその気持ちは私にも分かるわね。でも、ごめんね。能力でこの先どうなるかは大体分かってるからこうしたいのよ。まぁ、それで私が死にかけたとしても心配してくれるんでしょうけどね。ま、死にかけたりしないけど。

 

「あらあら、心配症ねぇ。まぁ、それがレナの良いところなんだけどね。......じゃ、始めるわよ。レナ、フランの痛覚を有耶無耶にしてちょうだい。フラン、準備はいい? それと、貴女の翼の形が変わるけどいいかしら?」

「え? 形変わっちゃうの? お姉様達と同じ形の方がいいんだけど......」

「大丈夫よ。今よりもずっと綺麗になるから」

「......本当に? 嘘じゃない? 嘘ならレミリアお姉様でも許さないよ?」

 

 あ、これ綺麗じゃなかったら死んでたかもね。まぁ、殺しはしないから多分、大丈夫でしょ。痛覚はあるからショックで気絶くらいはしそうだけど。

 

「本当よ。これを見てみなさい。綺麗な宝石でしょ?」

「......ふーん、確かに綺麗ね。レミリアお姉様、お姉様。もう準備はいいわよ。さっさと終わらせて寝ましょう。もう日が登る時間でしょ?」

「あ、えぇ、そうね。......レナ、もう能力は使った?」

「はい、使ってますよ。お姉様、フランの言う通りさっさと済ませて下さい」

「なんかあたりが強い気が......まぁ、いいわ。じゃ、まずは翼をも......取るわよ」

 

 そう言って私は翼の膜の部分を爪で切り裂いていく。すると、案の定血が出てきた。しかし、フランは痛がっている様子はない。

 

「やっぱり、レナの能力は便利ね。まぁ、分からないだけで実際は痛いわけだし、早くするに越したことはないけど」

「ん、血は流れてるのは分かるんだね。ま、痛みはないけど」

「フランが大丈夫そうなら良かったです。さ、お姉様。早く終わらせて下さい」

「大丈夫、もう終わるわ」

 

 そう言って私はフランが再生する前に『賢者の石』を付けていく。付けると言っても、近付けると勝手にフランの翼に引き寄せられて付いていくから楽な作業だ。

 

「それにしても、凄いですね。その石は。魔力を凄く感じます」

「ふーん、私にはよく分からないけど、貴女が言うのならそうなのね。あ、終わったわよ。レナ、もう魔法で治してもいいわよ。治しても膜が出ることはないわ。......それにしても、綺麗な翼ね」

「はい、確かに綺麗ですね......あ、フラン、もう治したので離しますが、痛くないですか?」

「ん、痛くないよ。全然平気。......わぁ〜、本当に綺麗な宝石ね〜」

 

 そう言ってフランが宝石に、いや、自分の翼に触れた。

 

「お姉様、お話があります」

「え? ど、どうしたの? なんか真剣な感じだけど......」

「お姉様、これから何かあっても急には言わないで下さい。先に相談して下さい。じゃないと、私も色々と困ります」

「う、ご、ごめんなさいね。でも、今日のは許してちょうだい。ほら、フランも元気そうだし......ね?」

「あ、私もレミリアお姉様の我が儘に付き合わされるのはごめんよ。いつも疲れるし、面倒だし」

 

 フランが自分の翼に触れながらそう言った。

 

「え.....あ、貴女もそうなの? レナ」

「まぁ、そうですね。面倒なのも疲れるのも同意します」

「うー......貴方達も楽しそうだからやってたのに......」

「それはお姉様が一人だと泣き叫ぶから......」

「な、泣かないわよ! っていうか、なんで知ってるのよ! あ、い、今のは嘘だからね」

「レミリアお姉様が泣くのはいつも通り。姉妹なんだし私達は気にしないよ? 誰かに泣かされたとかなら泣かした奴は殺すけど、そんなことは一度もないでしょ? いつもお姉様が私達に相手にされなくて泣いてるでしょ?」

 

 うっ、普通にバレてた......と言うか、私の妹怖過ぎない!? 殺すの!? あ、でも私でもレナかフランを泣かした奴は殺すって決めてるし変わらないか。

 

「うー......バラさないでよー」

「だから、私達は知ってるって。ね? お姉様」

「まぁ、知ってますね。お姉様も分かりやすいですし」

 

 レナにだけは言われたくない......。けど、本当っぽいから何とも言えない。

 

「も、もうこの話は終わりにして寝ましょう! ほら、フランも痛むかもしれないから早く寝なさい!」

「ん、レミリアお姉様は今日ここで寝るの?」

「えぇ、そうよ。嬉しいでしょ?」

「ん、全然? 別にお姉様と一緒に寝れるからどっちでもいい」

「え、えぇ!? れ、レナは嬉しい......よね?」

「......フランも正直ではないですよね。まぁ、いいですけど。私もフランも嬉しいですよ。フランなんて毎日のようにお姉様のことを聞いてきますし」

「ちょ、お姉様! あれだけばらさないでって言ったのに! 怒るわよ!?」

「あ、これはやばいですね。......じゃ、私は自分の部屋で────」

「逃 が さ な い わ よ ?」

 

 そう言ってフランがレナへと近付き、レナを力ずくでベッドまで連れて行った。

 

「あ、お、お姉様! 助けて下さい! このままじゃ死んじゃいます! フランに殺され......あ、死ぬ時はお姉様かフランに殺されるなら後悔はしませんけど」

「なら、別にいいわよね? お 姉 様 ?」

「あ、フラン。今日はやめて、明日にしてくれませんか? じゃないと、フランの翼の傷が開いちゃうかもしれないですし」

「ん、別に大丈夫よ。じゃ、次の夜まで遊びましょ?」

 

 そう言ってフランがレナに馬乗りになって、口を三日月のような形に歪めた。

 

「あ、や、やめ、キャハハハハ!」

 

 それからしばらくレナの笑い声が館中に響いたのは言うまでもない。しかし、フランは翼を新たに付けたのが疲れたのかこちょこちょの途中でレナに抱きつきながら寝てしまった。そして、レナもフランの容赦のないこちょこちょのせいか、気絶してしまった。

 そして、私もそんな妹達を見たあと、静かに目を閉じ寝ることにした────




次の投稿予定日は日曜日(また遅れる模様() おそらく、火曜になりそうです。申し訳ない())。次回は銀髪の人が出るかもしれないし出ないかもしれない


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8、「時を止める少女と悪魔達」

遅れて申し訳ないです(´・ω・`)

今回の後半は銀髪の少女の話。


 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

 それは......私が500歳まで後数十年になると言う日のことだった。この日、『私』は死にかけた。その事件は、日が昇る前に起きた。

 この日の日の出頃、私は自分の部屋でこの館の主としてこの館──紅魔館──の勉強をしていた。

 

「レミリアおねーさまー、あーそーぼー」

「あ、フラン。手を離さないで下さい」

「あ、ごめんなさい。でも、レミリアお姉様と早く遊びたかったから......」

 

 そう言って、フランとレナが入ってきた。フランの翼が変わってから、能力をある程度制御出来るレナの付き添いがあれば紅魔館の中を自由に歩き回っていいことになった。しかし、フランは外に殆ど興味を示さないから私の部屋か図書館にしか行かないみたいだ。

 

「......ま、まぁ、それならいいですけど」

「レナ、貴女なんかちょろくなってない?」

「え? そうですか?」

「そうよ。フラン、貴女も姉を騙さないの」

「あ、レミリアお姉様、今の言葉は本当だよ。本当に遊びたいって、お姉様は分かってるからちょろくなってるだけだよ。多分。

 それと、忙しいなら別に今度でいいからね。......今日は我慢してお姉様と遊ぶから」

 

 いや、そんな悲しそうな目で言われて遊ばないとか私には出来ないんだけど......。フランって私よりも悪魔よねぇ…...。まぁ、それでも可愛い妹の一人だからいいんだけどね。

 

「はぁ、別に忙しくないからいいわよ。さ、ここでは遊ばないでしょ? 何処で遊ぶのかしら?」

「ん、ここで遊ぶつもりだったよ」

「え? ここで遊ぶの? それなら暴れないでよね? いつも貴方達は暴れて部屋をメチャクチャにしてるから」

「えー! メチャクチャなんかにしてないよ! それに、いつもお姉様が先に手を出してるし」

「え!? フランの方が先ですよ!? いつも先にこちょこちょするから、私はやり返してるだけです。正当なる防衛です!」

「ふーん、お姉様は私が悪いって言うんだ。姉なのに、妹に罪をかぶせるんだ」

「罪をかぶせてません! 本当にフランが悪いから悪いって言ってるだけです!」

 

 レナがそう言っている最中にフランはレナに近付いて行く。そして、少し私を見た。

 はぁ、どうしていつも喧嘩しようとしてるのかしら?

 

「へー、そんなこと言っちゃうんだ。お姉様は。......ここで喧嘩してもレミリアお姉様に後で怒られるし、場所変えよっか」

「まぁ、お姉様に怒られるのは嫌ですし、賛成です。出来るだけ広い場所で誰にも迷惑にならない場所にしましょう」

「なんで貴方達は喧嘩する方向で話してるのよ......それと、喧嘩する時点で本気で怒るわよ?」

「むー、お姉様、レミリアお姉様が本気で怒りそうだけど、どうする?」

「あらら、では、お姉様を困らせるのはやめましょう。多分、お姉様も演技って気付いてますでしょうし」

 

 あ、演技なのか。よく、レナとフランは理由なく喧嘩と称して遊んだり、本気で喧嘩して部屋をメチャクチャにするから違いが分かりずらい。まぁ、どっちでも結局は私が怒って終わるんだけど......。

 

「ま、まぁ、気付いていたわよ。さ、そんなことは置いといて何して遊ぶのかしら? この部屋で遊ぶなら、暴れないような遊びにしてよね」

 

 この部屋はフランの部屋よりもかなり狭い。と言うか、『弾幕ごっこ』が出来るフランの部屋は広すぎるくらいだけど。さらに、この部屋には大切な書物が沢山ある。そう言えば、昔、レナとフランがここで暴れそうになって本気で止めたことがあったんだったかな......まぁ、余計ひどくなったんだけど。

 

「お姉様、前言ってた『チェス』をしない? 楽しそうだし」

「え? チェスですか? と言うかフラン、チェスとか好きなんですか? フランはもっと体を動かす方が好きだと思ってましたけど」

「ん、私は体を動かす方が好きだよ? でも、頭を使うのも好き。と言うか、遊びなら大体好きだよ」

「レナ、フラン。チェスって二人でするゲームじゃなかったかしら? それをするなら、私の部屋に来た意味が無くなるわよ?」

「あ〜、そう言えばそっか。じゃ、お姉様、案出して。それを聞いて私とレミリアお姉様が決めるから」

「私が案を出すのですか......まぁ、いいですけど。んー、お姉様、思い付かないので決めて下さい」

「え!? 諦めるの早すぎない!? ま、まぁ、いいけど」

 

 とは言ったものの、最近──と言っても、数十年程度だが──あんまり遊べてないし、レナとフランの方が遊びとか知ってそうだけど......あ、この娘達、遊び尽くしたのね。だから、私のところに来たってわけか。

 

「そうねぇ......レナ、昔、トランプってので遊んだでしょ? それはまだあるの?」

「え? お姉様とトランプで遊んだことってありましたっけ? まぁ、ありますし、お姉様が憶えているなら遊んだことがあるんでしょうけど」

「レミリアお姉様、お姉様。私知らないんだけど、『トランプ』って何?」

「あ、そう言えばフランはやったことが無かったかしら? トランプって言うのはね、簡単に言うと、一から十三までのカードが四枚と『ジョーカー』って言うカード二枚の合計五十四枚のカードで遊ぶゲームのことよ。まぁ、そのトランプで遊べるゲームは色々あるから、楽しめるとは思うわよ」

「ふーん、まぁ、別にいっか。さ、早く遊びましょう。どのトランプのゲームをするの? 私は楽しいならなんでもいいよ」

 

 フランが少し怒ってた気がしたけど......今は普通の表情だし、気のせいか。

 

「んー、レナ、トランプで遊ぶなら何がいいと思う? 人数が少ないならパチェか美鈴を呼ぶわ。だから、三人から五人で出来るゲームはないかしら?」

「三人でも問題ないですよ。『七並べ』にしましょう。ちなみに、理由は特にないです。強いて言うなら、楽しめそうだからです」

「理由なくてもいいよ。私は楽しかったら全然いいから」

「まぁ、私も楽しいならなんでもいいわよ。さ、ルールを教えてちょうだい。私もやったことないと思うし」

「はい、まずは────」

 

 そう言って、レナがゲームの説明をし始めた。そして、ゲームが始まり、私達姉妹は日が昇る寸前まで楽しく遊んだ────

 

 

 

 ──数時間後 紅魔館(レミリアの部屋)

 

「あ、また私の勝ちね。ふふ、お姉様達弱すぎない? 今度は20回やって15勝だよ?」

 

 七並べを数回した後、色々なトランプのゲームをした。その勝負の結果、最初はルールを把握していたレナが勝ち続けていたが、途中からフランが勝ち続けた。はぁ、フランはこういう勝負事が強いのを忘れていた。

 

「うー......フランは強すぎます。あ、でもお姉様は弱すぎますね。一体どうして姉妹でこんなに変わるのでしょうか......」

「うっ、レナだって途中から負けてたじゃない! それと、次は勝つわよ!」

「レミリアお姉様、いい加減負けを認めたら?貴女は弱すぎるわよ。まぁ、能力を使ってないからなんだろうけど、それでも弱すぎるよ?」

「だ、だから、次は勝つわよって......」

 

 そう言っている私自身の声が小さくなっていくのを感じた。

 

「れ、レミリアお姉様、もう一回だけしてあげるから、ね? だから、泣かないで」

「どっちが姉か分からない状況になってますよ。それと、お姉様はいつも負けず嫌いですよね」

「う、うるさいわね! それと、別に泣いてないから! 」

「あ、もうそんな時間ですか。フラン、戻りますよ」

「えー! もっとレミリアお姉様と遊びたい!」

「フラン、また明日遊んであげるわよ。だから、今日は早く寝なさい」

「むー......まぁ、明日遊んでくれるならいいよ。でも、約束は破らないでね」

「勿論、破らないわよ。明日は何も予定いから安心して」

 

 まぁ、急に何かあるかもしれないんだけどね。その時はその時で仕方ないから、レナもフランも分かってくれるでしょ。......いや、フランは怒るか。

 

「では、お姉様。また明日会いましょう」

「また明日ー」

「えぇ、また明日ね」

 

 そう言ってレナとフランが部屋から出て行った。

 その時、ふと、紅魔館の廊下を歩く人間の少女が見えた。

 

「......あら? 侵入者かしら? まぁ、美鈴はこの時間いないから珍しくはないか」

 

 たまに能力が自分の意志とは関係なく、自動で発動することがある。自動で発動するのは、たいていの場合、何か重要な時だ。前に発動した時は、美鈴の時だったかしら。まぁ、どっちにせよ、こうして見えたわけだし、行かないわけにはいかない。

 そう思い、私は部屋を出て行く────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──同時刻 紅魔館(図書館)

 

「あ、レナ。少し話があるの。出来ればフランは本でも見て待っててくれないかしら?」

 

 フランの部屋に行くために、図書館を通った時だった。突然、パチュリーが話しかけてきた。

 パチュリーは最近、お姉様と仲が良いみたいだ。お互いのことを『パチェ』、『レミィ』と呼んでいた。私には何があったのかは知らない。まぁ、フランの翼が変わってからそうなったみたいだし、それが最初のきっかけなのかな。

 

「ん、お姉様、私は待ってるから話してきていいよ」

「......フランはいいのですか?」

「別にいいよ。お姉様はいつも私と遊んでくれてるし、今話してくれなくても、いつか話してくれると思うし」

「まぁ、フランがいいなら私もいいです。では、パチュリーと話してくるので、待ってて下さいね」

「うん、あ、出来れば早く終わらせてね」

 

 そう言ってフランが少し離れた場所に行った。そして、私はパチュリーの近くに行った。

 

「話とは何ですか? 出来れば、フランが待ってるので早めに終わらせて下さい」

「さっきの話は聞こえてたから大丈夫よ。で、話なんだけど......レナ、貴女はフランを止める時っていつも能力を使っているのよね?」

 

 フランを止める時? あぁ、狂気に染まった時のことか。

 

「まぁ、そうですけど、それがどうかしました?」

「単刀直入に言うわね。次からはその止め方はやめた方がいいわよ。貴女の為にも、フランの為にもね」

「え? ど、どうしてですか?」

 

 今までフランが狂気に染まった時はその止め方をしてたけど、何か問題でもあったのかな? ......今まで、長い間──もう490年くらいの間──ずっとその止め方で、何も問題は無かったはずなんだけど......。

 

「貴女、自分の能力を勘違いでもしてるの? 貴女の能力は『有耶無耶にすること』でしょ? フランの中に潜む狂気を一時的に消すわけでは無いのよ? ただ、一時的に『分からなくする』だけよ。それがどういうことか分かる?」

「え、え? どういうことですか?」

「分からなくするだけで、消すわけではない......要するに、狂気を『抑え込んでる』のと同じなのよ。このまま続けていたらいつか、今まで抑え込んでいた狂気が爆発するわよ? もしも、それを有耶無耶にしたらどうなるか分かる?」

「......一時的にでも、フランを支配しているから......フランの意識を有耶無耶にするのと同じってことですか?」

「大体合ってるわね。そう思ってくれても大丈夫よ。おそらく、気絶するでしょうね。最悪、記憶とかを失うわよ。いくら貴女の能力が触れた時にしか効果がないと言ってもね」

 

 ......もしかしなくても、今までやってたことは間違っていたってことだよね。知らなかったとは言え、フランを苦しめてたのかな......?

 

「パチュリー、狂気を止める方法は、他にないですか?」

「あるわよ」

「......どんな方法ですか?」

「簡単なことよ。普通に発散させればいいだけよ。私には無理でしょうけど、貴女なら、同じ吸血鬼なら簡単なことでしょ?」

「? え、えーと......どうやって発散させればいいのです?」

「少し危険な遊びをすればいいのよ。私や美鈴なら死ぬかもしれないけど、フランよりも強い貴女かレミィならそれでも付き合えるでしょうよ」

 

 危険な遊び? ......弾幕ごっこみたいな? それとも、人間を殺す時と同じくらいのかな? あ、フランに合わせればいいのか。危険でも、吸血鬼である今の私なら、すぐに再生するから大丈夫かな。

 

「ふむ......でもまぁ、前よりは狂気に染まることはないでしょうし、なってもフランと遊べばいいだけなら、問題ないですね。パチュリー、ありがとうございます」

「いいのよ。私まで巻き込まれたくないから。じゃ、吸血鬼の貴方達はもう寝るんでしょ? おやすみなさいね」

「はい、おやすみです」

 

 そう言って、フランの近くまで急いで戻った。

 

「フラン、お待たせしてすいません」

「大丈夫だよ。言うほど時間は経ってないから。じゃ、戻ろっか」

「はい、戻りましょう。......あ、フラン」

「ん、何?」

 

 ふとあることを思い、フランを呼んだ。

 

「何があっても、私は貴女を守りますからね」

「......ふふ、大丈夫だよ。それと、逆に私がお姉様を守ってあげるよ?」

 

 フランが口を三日月のように曲げてそう言った。

 

「フランが? 私をですか? ふふ、面白いことを言いますね」

 

 でも、嬉しいよ。ありがとうね、フラン。

 

「もうっ! 本気にしてないでしょ! いつか私も頼りになるって思わせてあげるんだから!」

「ふふ、期待していますよ」

「お姉様! 私を子供扱いしてるでしょ! ......あ、子供か」

「子供ですね。まぁ、私も子供ですけど」

 

 人間だったら大人を通り越してるくらいだけど、私達は吸血鬼だから、まだまだ子供だ。まぁ、1000歳くらいになったら大人になるんだろうけど。まだまだ半分くらいか。いや、本当は何歳になったら吸血鬼での大人なのかは知らないんだけど。

 

「むー......まぁ、いいや。いつか分からせるから。じゃ、もう眠たいから早く戻ろっか」

「さっきも同じことを......あ、私のせいですね。はい、戻りましょう」

 

 そう言って私達はフランの部屋にへと、足を進めた────

 

 

 

 

 

 side ???

 

 ──同時刻 紅魔館(門前)

 

 私は生まれた時から吸血鬼を殺す為だけに生きてきた。生まれた時からこの能力のせいで忌み嫌われてきた。

 そして、今日は初めての実戦だ。

 

「......門番はいないみたいね。丁度いいわ」

 

 そう呟き、吸血鬼が住むと言われる『紅魔館』へと入って行った。

 ま、門番が居ても、私が生まれた時から持っていたこの能力があれば、他の人に忌み嫌われたこの能力があれば、問題ないけど。

 

「......随分と悪趣味な館」

 

 中は『紅魔館』の名前の通り、床一面に赤い絨毯が敷かれていた。それだけじゃない。館の外観も赤一色だった。

 

「......こんな館に住んでいる奴の気がしれないわね」

「あら? そうかしら? 素敵な館だと思わない?」

 

 そう呟いた時、後ろから声が聞こえてきた。

 私が振り返ると、そこにはもしくは水色の混じった青髪に真紅の瞳を持ち、私よりも大きいが、人間で言うと10歳にも満たないくらいの女の子がいた。しかし、人間ではないことはひと目でわかる。背中に大きな翼があったからだ。

 

「......貴女は吸血鬼?」

「疑問文を疑問文で返さないでくれない? まぁ、別にいいわ。そうよ。私は吸血鬼にして、この館の主、レミリア・スカーレットよ。」

「......そう、なら死んで」

 

 そう言い放ち、『時を止め』私は吸血鬼に向かって銀のナイフを投げた────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──同時刻 紅魔館(廊下)

 

 私は能力で見た少女を探し、門近くまで来ていた。そして、そこには能力で見た少女が居た。『私』はその少女に話しかけていた。

 そして、気付いた時には、『私』に無数の銀のナイフが刺さっていた。

 

「え? な、何が起きたの?」

「......まだ生きていたの? まぁ、次で終わらせるからいいわ」

 

 そう言って少女が銀のナイフを手に取った。

 

「これは......やばいわね。......どうしましょう」

 

 そう言えば、前にもこんなことがあったわね。あの時はレナがいたから助かったけど、今はいないからかなりピンチだろう。それに、普通のナイフならまだしも、銀のナイフなら話は別だ。あの少女は吸血鬼の弱点をよく知っているみたいだ。

 

「死ねばいいんじゃない? それと、 もう終わったわよ?」

「え? ……あっ、痛っ......」

 

 まただ。気付いた時には『私』に銀のナイフが刺さっていた。あれを受けていたら、どんどん視界が暗くなってきそうだ。

 

「死んだかな? 確か、この館には吸血鬼が二人いたのよね」

「えぇ、そうよ。まぁ、もう貴女には会えないでしょうけど」

 

 そう言って、私は少女に組み付いた。多分、目にも止まらないくらいのスピードで動いていたのか、ナイフだけ瞬間移動でもさせていたのだろう。後者なら当たるかもしれないが、前者なら組み付いてしまえば動けないはずだ。

 

「えっ!? な、ど、どうして!? 貴女はさっきから銀のナイフで......え!?」

 

 そう言って、少女は銀のナイフを無数に刺され、床に転がっていた『私』を見た。

 

「あぁ、あれね。あれは私の妹から貰った人形よ。凄いでしょ? とても私に似ていて、私の命令通りに動いて、喋るのよ。まぁ、本当に喋ってたのは私なんだけどね。中にある『スピーカー』ってやつとこの『マイク』ってやつのお陰なのよ」

「に、人形!? 嘘でしょ!? そ、そんなわけないわ! だって、さっきまで!」

「だから、さっきから言ってるでしょ? まぁ、別に後ででいいわ。じゃ、おやすみなさい」

 

 そう言って、人間の少女の首を緩く締め、気絶さした。やるのは初めてだから、失敗する可能性もあったけど、まぁ、大丈夫みたいだからいっか。

 そう思いながら少女を私の部屋へと連れて行った────

 

 

 

 ──数十分後 紅魔館(レミリアの部屋)

 

「ん、あ、あれ? ここは......はぁ!? ちょ、ど、どうして!?」

「あ、起きたみたいね。って、そんなに騒いでどうしたの? 何も悪いことはしないわよ?」

「そう言ってるけど、手足を縛ってるじゃん! 絶対食べる気でしょ!? 食べられるくらいなら死んだ方がマシよ! 早く殺しなさい!」

「だから、何も悪いことはしないわよ。手足を縛ってるのは能力を使われたくないだけよ。貴女、超高速で動くとかそんな感じなんでしょ? じゃないと、私の拘束から逃げれなかった説明がつかないわ」

「......はぁ、違うわ。私は時を止めることが出来るの。だから、他の人間から忌み嫌われ、吸血鬼なんかを殺す為に育てられてきたのよ」

 

 え? 人間って時を止めるくらいで忌み嫌うの? と言うか、その能力欲しいわね。

 そんなことを顔に出して思っていたのがバレたのか、人間の少女が答えた。

 

「あんた達とは価値観が違うのよ。どうせ、あんた達も利用出来そうとかしか思ってないんでしょ?」

「えぇ、よく分かったわね。その通りよ。その能力が欲しいわ。そうねぇ、貴女、ここでメイドとして働かない? 一日三食付けるわよ? それに、望むなら普通の人間よりも長く生かすことが出来るわよ? いい話だと思わない?」

「......え? メイド? 時を止める能力よ? そんなことに使わせるつもりなの? それと、あんた達化け物みたいに長く生きたくないわよ。......でもまぁ、面白いわね。あんた」

「あんたじゃなくてお嬢様と言いなさい。今日からメイドとして働く身なのよ? 私には敬語を使いなさい」

 

 ......まぁ、美鈴は敬語を使ってるけど、別に強要はしようと思わないから、いいんだけどね。

 

「だから! まだやるとは言ってないって!」

「え? そうなの? でも、やるつもりなんでしょ? 一日三食で普通よりも長く生きれるのよ?」

「はぁ......どうせやるって言わないとここから離さないんでしょ? なら別にいいわよ。いや、いいですよ、お嬢様。その代わり、長く生きるつもりはありません。」

「あら? どうしてかしら?」

「化け物にはなりたくないので。でも、毎日忘れずに三食は付けて下さいよ」

「勿論よ。私は悪魔、約束(契約)は破れないから安心しなさい」

 

 まぁ、破れなくても、破るつもりは無いけどね。

 

「あぁ、それと、名前を聞いてなかったわね。なんて名前なの?」

「......名前なんてないですよ。私は生まれた時から、吸血鬼を殺す為だけに、そうですね、例えるなら『道具として生きてきましたから』」

「あぁ、なるほど、本当は戻っても居場所がないから、どうせなら毎日三食食べれるこっちに住もうと思ったのね」

「うっ、まぁ、当たりですよ。......お嬢様、貴方様が私の名前をお決めください。どんな名前でも文句は言いません」

 

 どんな名前でも......ねぇ。まぁ、流石に人の名前を決める時はふざけようとは思わないけど。

 

「ふーん......どんな名前でもねぇ。まぁ、ちゃんと考えてあげるわよ。......そうねぇ、貴女、月は、特に満月は好きかしら?」

「満月......ですか? まぁ、どっちかと言うと好きですよ」

「なら、貴女は今日から『十六夜 咲夜』よ。『十六夜』と言うことは満月の次の夜、そして、『咲夜』は昨夜と言う意味で、十六夜の前の夜......要するに満月の日よ。どう? いい名前だと思わない?」

「......はい、いい名前でございますね。......お嬢様、ありがとうございます」

 

 咲夜がそう言って涙を流した。名前を付けられるのって、そんなに嬉しいのね。まぁ、嬉しそうで何よりね。

 

「お礼はいいわよ。さ、明日から本番よ。今日はもう寝なさい。......あ、言い忘れてたけど、私達は夜に行動するから、合わしてもらうわよ?」

「......お嬢様、それは先に言ってください。ですが、何も問題はありません。......それよりも、問題は、私は料理など一切出来ないのですが......」

「レナや美鈴に教えて貰えばいいのよ。それなりに出来るみたいだから」

「それなら、いいですけど......」

「じゃ、外したら寝るから。あぁ、ナイフは全部隠してるから、殺すのは諦めなさいよ」

 

 捨てても良かったけど、それだとなんか可哀想だったから隠すだけにしておいた。まぁ、この部屋からは結構遠い場所に置いてるけど。

 

「お嬢様、私は別に殺すつもりなんてありませんよ。ですが、部屋は用意して下さい。出来れば、一緒に寝たくはありません」

「駄目ね。部屋なんてまだ用意してないし、監視する役目もあるから、一緒に寝るわよ」

「......はぁ、仕方ないですね......ですが、明日は部屋を用意して下さいませ」

「んー......まぁ、別にいいわよ。じゃ、外しておいたから、おやすみなさいね」

「......はい、おやすみなさいませ、お嬢様」

 

 そう言って、私は眠りについた。

 だが、しばらく咲夜は部屋を歩き回り、ナイフを探していたみたいだった。まぁ、すぐに諦め、寝たみたいだったが。

 こうして、『私』が死にかけた一日は終わった────




次回は金曜日の予定。次こそは遅れない(願望)

いつの間にか、お気に入りの数が40を越えてた。閲覧者の皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m
50以上になったら番外編やります()


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9、「咲夜と紅魔館の住人 美鈴の災難」

次こそは遅れないはず......()

今回は咲夜と紅魔館の住人が会うだけの話。

※最終的に可哀想な美鈴


 side Sakuya Izayoi

 

「咲夜、そろそろ起きなさい。もう日が沈んだわよ」

「ふぁ〜......あぁ、そう言えばそうだった。失礼ですが、お嬢様。人間は昼に活動する生き物です。出来れば、日が昇った時に起こして欲しいのですが」

 

 昨日、捕まったんだった。それで、メイドになれって言われて受けたんだった。ま、食事が不味かったら逃げよう。人間一人くらい、追いかけてこないだろうし、未練なんて全くないからね。

 

「え? 無理よ。貴女は私の従者、私の命令に従いなさい。それに、すぐに慣れるわよ」

「はぁ......分かりましたよ、お嬢様。で、今日は何をすればいいですか? 今の私は掃除くらいしか出来ませんよ? 出来れば、料理とかも教えて欲しいです」

 

 どうせここで反発しても、意味がないんだろうなぁ。この吸血鬼、結構わがままみたいだし。まぁ、今までまともにご飯なんて食べれなかったし、ちゃんとしたご飯さえ食べれれば文句ないけど。

 

「そうねぇ、まずは料理の練習から始めたいけど、先にこの館の住人に会った方がいいかしら。フランもレナがいれば大丈夫だろうし、パチェも問題はない。美鈴も大丈夫かな。......じゃ、私について来なさい。まずは図書館から行きましょう」

「はい、分かりました、お嬢様」

 

 そう言って、私は吸血鬼について行った。

 それにしても、これから毎日夜に起きないと駄目なんだ......まぁ、今までも夜に起こされていたから大丈夫か。

 

「あ、貴女、私を殺そうとしたことを私の妹達に言わないでよ? 貴女が死んでもいいなら言ってもいいけど」

「......さらっと、怖いことを言いますね。絶対に言いません。まだ死にたくないので」

「そう、命を大切にする方でよかったわ」

 

 命を大切にしない奴なんているわけないでしょ。

 それにしても、『妹達』? ここにいる吸血鬼は二人だけだと聞いてたけど、『達』ってことは妹が二人、こいつも含めて吸血鬼は少なくても三人はいるということ? やっぱり、逃げてた方が良かったかしら? ......でも、逃げたとしても吸血鬼を殺すのが失敗したと町の連中にバレれば、殺される可能性もあるか。例え殺されなかったとしても、食事なんて与えてはくれないだろう。......まぁ、それは元からだから関係ないか。

 

「咲夜、どうかしたの? 顔が暗いけど」

「いえ、何でもありませんよ。それよりも、お嬢様の妹様達はどのような人達なのですか?」

「そうねぇ......名前は次女がレナータ、末妹がフランドールっていってね。レナは悪魔にしては優しい方で、魔法が得意なの。ちなみに、あの人形を作ったのもレナよ。

 フランは悪魔らしく、悪戯が好きだけど、寂しがり屋で可愛い子なのよ。後、怒ったら一番恐い子だから、気を付けなさいよ」

 

 ふーん......レナって奴があの人形をねぇ......。吸血鬼は誰が怒っても恐いだろうから、常に気を付けるに決まってるじゃない。

 ......それにしても、こいつ、妹のことなのに嬉しそうに話すわね。

 

「ふむ、では、先ほど言っていたパチェと美鈴という方は? その方達も吸血鬼なんですか?」

「いえ、美鈴は妖怪だけど、吸血鬼ではないわよ。パチェ、もといパチュリーは魔女よ。パチェは毎日魔法の実験をしてて、あまり話すことはないわね。でも、根はいい奴だから安心して。それに、知識も豊富で色々と教えてくれるから、何か疑問でもあったら聞きなさい。

 美鈴はここの門番をしているわ。まぁ、時間は日が昇っている時間だけなんだけどね。料理も大体は出来るから、料理は美鈴にでも教えてもらいなさい」

「はい、分かりました」

 

 そう言ってから少しした後、少し大きめの扉の前で吸血鬼が止まった。

 

「あ、着いたわよ。ここが大図書館。ここには、さっき言ったパチェがいるわ」

 

 パチェ......魔女か。ほとんどの魔女は魔女狩りで死んだって聞いたけど、まだいたんだ。

 

「パチェー、居るかしらー?」

 

 そう言って、吸血鬼が部屋に入って行った。

 

「夜なのにうるさいわね。あ、あんた達、吸血鬼は夜に行動するんだったわね。で、そこの娘は誰?」

 

 すると、奥からパチェと思われる人物が歩いてきた。眠そうにしているけど、寝てたのかな?

 

「パチェ、紹介するわ。この娘は『十六夜 咲夜』よ。昨日から、ここでメイドをすることになった人間よ」

「人間? 貴女、どうして人間なんかメイドにしようと思ったの? まぁ、別にいいわ。私はパチュリー・ノーレッジ。よろしくね、咲夜」

「はい、パチュリー様、よろしくお願いします」

 

 人間『なんか』......ね。まぁ、この館に人間はいないみたいだし、ここに来る人間の目的は大体が襲撃とかだろうから、そう思われても仕方ないか。

 

「パチュリー様ー。レナ様とフラン様がこちらに来るみたいですよー。あ、お嬢様。あれ? そちらの方は?」

 

 そう言って、赤い長髪で頭と背中に悪魔のような羽、白いシャツに黒色のベスト、ベストと同色のロングスカートで、リボンを着用した女性が近付いてきた。

 こいつが美鈴? でも、妖怪と言うか、悪魔だし、違うか。

 

「『十六夜 咲夜』よ。昨日からこの館のメイドになった人間よ。咲夜、こいつは小悪魔。パチェがレナに教えてもらった召喚魔法を使ったら、何故かこいつが召喚され、そのままパチェの使い魔になった下級の悪魔よ」

「そうですか。小悪魔様、よろしくお願いします」

「え、あ、よ、よろしくお願いします。......様付けされたの初めて......」

 

 なんかうっとりしてるけど、この人、大丈夫なの?

 

「それよりも、小悪魔。レナとフランが来たのね?それなら丁度いいわ。咲夜を紹介したかったし」

「あ、もうここに来るは......え!? ちょ────」

 

 小悪魔が言い終わらないうちに、何かがどこからともなく飛んできて、小悪魔に当たった。そして、小悪魔が飛ばされてしまった。

 

「ふぅ......あれ? なんか当たった? ま、いいや。やったー! お姉様に勝ったー! ......あれ? レミリアお姉様?」

 

 無邪気な笑顔を見せ、そう言って入ってきたのは、濃い黄色の髪をサイドテールにまとめ、その上からナイトキャップを被っている少女だった。 瞳の色はレミリア......お嬢様のように真紅で、服装も真紅の半袖とミニスカートを着用している。 またその背中からは、一対の枝に八色の結晶がぶら下ったような奇妙な翼が生えている。

 まぁ、少女と言っても──年齢はともかく──見た目も今の私よりかは上なんだけど。

 

「フラン、小悪魔を飛ばしちゃってるわよ。まぁ、生きてはいるから大丈夫でしょうけど」

「フラーンー。館の中で急いで飛ぶと危ないですよー。あ、お姉様? ......と人間?」

 

 そして、フランと呼ばれた吸血鬼の後ろから入ってきたのは、濃い赤色の髪をして、お嬢様のような色の服装をした少女だった。瞳の色はお嬢様やフランと呼ばれた吸血鬼のように真紅で、背中からは、お嬢様の翼に血を塗ったかのような真っ赤な翼が生えている。

 こっちの少女もお嬢様やフランと同じくらいだから見た目も年齢も上なんだけど。

 

「あぁ、レナ、フラン。この娘は『十六夜 咲夜』、昨日からこの館のメイドになった人間よ。仲良くしてあげてね」

「ふーん......私はフランドール、フランでいいよ。それと、スカーレット姉妹の三女だよ。よろしくね」

「......私はレナータです。呼び方はレナでいいですよ。私はスカーレット姉妹の二女です。よろしくお願いしますね」

「はい、フラン様、レナ様。よろしくお願いします」

 

 三姉妹ってことでいいのかな? まぁ、何でもいいか。それよりも、見た目の歳はは私よりも少し高いくらいなのに、勝てる気がしないわね......。これが吸血鬼と人間の差なのかしら。

 

「レナ、貴女、デザート以外の料理も出来るわよね?」

「? まぁ、簡単な物なら出来ますよ。それがどうかしましたか?」

「明日でもいいから、咲夜に料理を教えてあげて。この娘、掃除は出来るけど、料理は出来ないらしいから」

「料理が出来ない? ......ふむ、まぁ、いいですよ」

「......お姉様、ついでに私も教えてくれない?」

「え? フランもですか? まぁ、一人くらい増えても大丈夫でしょうし、いいですよ。それにしても、どうして急に?」

「え、いやぁ、何でも別に理由なんてないよ? 将来、役に立つかなぁって思ったから」

 

 ......いや、目が泳いでるし、冷や汗みたいのかいてるし、絶対嘘でしょ。

 

「あぁ、それなら勿論いいですよ」

 

 そして、レナ様は本当に騙されてるっぽいんだけど!? え? 嘘って分からないの? なんで『あぁ、なるほど』的な顔をしてるの!?

 ......もしかして、この二人、知っててやってるの? わざと嘘っぽくしてる? それを分かって、信用した振りをしている? ......いや、何でもいいや。こんなことで騒いでも仕方ないし。

 

「あ、咲夜、ちょっと話があるの。来てくれる?」

「え? いいですが、どうしました?」

「いいからいいから......。じゃ、レミリアお姉様、咲夜をちょっとだけ借りるからね」

「えぇ、いいわよ。でも、殺したら駄目だからね」

 

 そう言って、フラン様が私を引っ張って少し離れたところに行った。

 っていうか、お嬢様、『殺したら駄目だからね』とか簡単に言いますね......。

 

「でね、咲夜。お姉様になにかしたら殺すから。レミリアお姉様にもね。全部知ってるからね。お姉様に内緒でレミリアお姉様人形に魔法をかけてたの。それで、全部見てたから。後、逃げて人間達に情報を流されても困るから、逃げようとしても殺すから。じゃ、戻ろっか」

 

 子供のように、無邪気な笑顔を見せ、私にそう言った。

 ......え? 何? どういうこと? バレてるって......え!?

 

「ふ、フラン様! す、少しお待ち下さい!」

「え? 何?」

「あ、あの......このことはお嬢様やレナ様に言いませんか?」

「うん! 勿論言わないよ。まぁ、これから一緒に住むわけだし、仲良くしよっ!」

 

 そんな悪魔みたいな笑みで言われても......いや、悪魔か。それにしても、本当に悪魔みたいだ。......私はこの館で生きていけるのだろうか?

 

「......はい、これからもよろしくお願いします......」

「ふふ、それと、私は今すぐにでも貴女を殺す能力を持ってるの。凄いでしょ? まぁ、お姉様達の為に生きていくなら、何も手は出さないから、安心してねっ」

「うぅ......嘘じゃないと大体分かるから困る。......フラン様、私と約束してくれませんか? それと悪魔は約束、と言うか契約を破れないと聞きましたが、本当なんですか?」

「ん、本当だよ。じゃ、私と契約する? 勿論、破ったらただじゃおかないけど」

「えぇ、契約します。私がお嬢様達に一生仕え......お守りすることを。そして、その代わりに仕えている間は、何があっても私を殺さないことを守ってください」

「うん、いいよ。私はお姉様達に危害が加えられなければ何でもいいから」

 

 姉思いの妹......いや、少し異常な気もするけど、私も死ななければ何でもいいか。

 

「じゃ、お姉様達のところに戻ろっか」

「はい、そうでございますね」

 

 そう言って、私とフラン様はお嬢様達のところに戻った。

 

「戻ったわね。さ、最後は美鈴のところよ。行きましょう」

「あ、レミリアお姉様、私もついて行っていい?」

「えぇ、いいわよ。レナはどうする? 貴女もついてくる?」

「んー......フランが行くならついて行きます」

「そう、なら寄り道しないようについて来なさいよ」

 

 そう言って、お嬢様が大図書館を出て、歩いて行く。勿論、私達はついて行った。

 それにしても、早速お嬢様の忠告の意味が無くなったけど、これからどうなるんだろうか......。あ、そう言えば、飛ばされた小悪魔もどうなったんだろう? ......まぁ、無事だろうからいっか。

 そう思いながら、私は足を進めた────

 

 

 

 ──紅魔館(美鈴の部屋)

 

「美鈴ー、開けるわよー」

 

 そう言って、お嬢様が返事を待たずに扉を開けた。そこにはレナ様よりは薄い赤色だが、レナ様よりも長い髪を持ち、寝巻きを着た女性がベッドに横になって眠っていた。

 

「あら、やっぱり寝てたわね。まぁ、昨日もずっと門番として働いてたし、疲れているから仕方ないわね......じゃ、レナ、フラン。美鈴を起こしてちょうだい」

 

 ......え? 自分で疲れているから仕方ないと言っておきながら、結局起こすの? ......別にいっか。私には関係ないし。

 

「はーい。美鈴ー、起きてー。起きないと食べちゃうぞー?」

「フラン、それくらいじゃ起きませんよ。と言うか、起こし方が雑過ぎます」

「えー、お姉様に言われたくないよー。お姉様っていつも私を起こすの遅いじゃない」

「それは優しく起こそうとしているからですよ。それに、フランの寝起きは機嫌が悪いことが多いですし」

 

 どうしてこの二人は言い合いしているんだろうか。それにしても、どんどん声が大きくなってるから、

 

「それはお互い様でしょ? お姉様も機嫌が悪い時多いから。私よりも──」

「んー......あれ? レナ様、フラン様? それに、お嬢様まで。一体どうしたんですか?」

 

 そう言って、美鈴とか言う妖怪が目を覚ました。やっぱり、この二人の声が大きくなってきたから起きたのかな。これで起きない人は少ないだろうし。

 

「ようやく起きたわね。紹介するわ。この娘は『十六夜 咲夜』。昨日からここでメイドをすることになったわ。けど、まだ料理は苦手らしいから、この娘に教えてあげてくれないかしら?」

「勿論、いいですよ。それと、咲夜さん、私は紅美鈴です。よろしくお願いね」

「はい、よろしくお願いします」

「さ、あっちで言い争いしている二人はほっといて、次はこの館の案内をするわね」

 

 あぁ、起きたのも気付かずにまだやってたのか。......え? なんか言い争いと言うか、取っ組み合いになってない?

 

「お、お嬢様、あの方達を放っておいても大丈夫なのですか? 吸血鬼ですよね? 喧嘩なんてし始めたら、この部屋がかなりやばいことになるのでは?」

「大丈夫よ。放っておいてもね。あの二人もここが美鈴の部屋って分かっているでしょうし、そこまで酷いことはしないと思うわ」

「そ、それならいいのですが......」

「あのぉ、お嬢様。昔、そんなことも気にせずに喧嘩して、部屋を壊された気がするんですが......」

「......大丈夫よ。後で怒るから。じゃ、行きましょうか」

「それ壊される前提になってるじゃないですか! って、待ってくださいよ〜」

 

 美鈴って妖怪、可愛そうだなぁ......。

 そう思いながら、お嬢様について行き、部屋を出た。この後、美鈴の部屋を壊した二人がお嬢様に怒られたのは言うまでもない────




おそらく次の日曜日に投稿するはず()

多分、次の次で幻想郷の話になりそう


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番外編 9.5「吸血鬼達の双六大会」

お気に入り登録者50人突破記念!
登録者の方、閲覧者の方々、ありがとうございます!

そして、今回は紅魔館の住人達のお遊びの話。
次回やるとしたら、100人だけど、まだまだ先の話だね()
100人記念のはまだ決めれてないので、何か案がある方は教えてください。お願いします()


side Renata Scarlet

 

──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「さ、始めましょうか。第一回、紅魔館双六大会を」

「レナ、司会進行は私がやるって言ったでしょ。じゃ、改めてまして。第一回、紅魔館双六大会を始めるわよ。あ、それと、私は司会進行をやるって言ったけど、参加もするからね」

 

特に何のイベントもない日だったけど、お姉様の気まぐれで双六大会をすることになった。

参加者は私、お姉様、フラン、美鈴、パチュリー、小悪魔、咲夜の七人だ。門は妖精メイド達に任してある。

 

「レミィ、貴女のことだから、優勝者には何かあるのよね?」

「えぇ、勿論よ。優勝者した人には、最下位、要するに一番最後までゴール出来なかった人に何か一つだけ命令出来るわ。断ることは出来ないわよ。私でもね」

「ふーん、レミリアお姉様、どんな命令でもいいの? 例えば、お姉様なら、一日中、何でも言う事を聞いてもらうとか」

「フラン、そこでどうして私の名前が出てきたんですか?」

「気にしない、気にしない。別に悪意とかは全くないから」

「はいはい、二人とも、ルール説明の途中で違う話をしないの。

で、さっきの続きだけど、一つだけだから、今、フランが言った、『一日中、何でも言う事を聞く』とかは無理よ。あくまでも一つだけだから。それだと、命令出来る数が増えちゃうでしょ? だから、命令される側が実行できる範囲で、あくまでも一つだけ命令するのよ。それと、危険な命令も駄目よ。私達姉妹なら、腕の一本くらいなら、多分、大丈夫だけど」

 

いや、痛いのは変わらないので、危険と変わらないと思うんですが。......まぁ、いいか。

とにかく、誰かに命令って言われても、お姉様とフラン以外思い付かないし、出来れば一位を取らずに、最下位にならないように頑張らないと。

 

「じゃ、順番を決めるわよ。みんな、この十面ダイスを振ってちょうだい。大きい出目の人からスタートよ。あ、双六は六面ダイスでやるからね。で、私の出目は......8ね」

「ん、あ、10だ」

「フランはこういう時いつも一番ですよね......私は4でした」

「コロコロっと、やったー! 私は9ですよー!」

「美鈴、うるさいわよ。私は4、レナと同じ出目ね」

「レナとパチュリーは後でもう一度振ってちょうだい。それにしても、出目高い人多いわねぇ」

「そうですね。お嬢様、私は7でした」

「あ......1でした......」

 

この後、連続で私は4を出し、パチュリーは5を出したので、順番はフラン、美鈴、お姉様、咲夜、パチュリー、私、小悪魔となった。

そして、双六大会が始まった──

 

 

 

──双六大会開始

 

「じゃ、私からねー。コロコロー、あ、6出た」

「また最大値ですね。止まったマスは......姉妹にデコピン? ......お姉様、誰がこれを痛っ! ふ、フラン、話している最中にしないで下さい!」

「え? いいじゃん。このマスに書かれていた命令に従っただけだよ?」

「これを作ったのは私とパチュリーよ。このマスを作った理由はレナにこれをや痛っ! ちょ、ちょっとフラン! デコピンはさっきしたでしょ!?」

「姉妹にって書かれてるから、お姉様達にするのが普通じゃない?」

「そうね。フランの言う通りよ。はぁ、だから、やめなさいって言ったのに......」

「うー、パチェに裏切られたわ......」

「いや、元から味方じゃないでしょ。これを一緒にやってる時点で」

 

それにしても、私にするだけの為にこれを作ったのね......。何か恨まれるようなことでもしたのかな?

 

「では、次は私ですね! 出目は4です! どんなマスかな〜......って、え? 何も無し?」

「はい、次の方ー、って私か」

「え!? 酷くないですか!? それに、自分の順番を忘れないで下さいよ!」

「だって何も無いじゃない。それと、思い出したんだから、いいでしょ?」

「美鈴、諦めなさい。それと、レミィに言っても無駄よ」

 

まぁ、お姉様だしねぇ。それにしても、美鈴可哀想に。何も無いマスって地味に嫌だもんね。

 

「出目は......6! ふふふ、レナ、フラン。覚悟しなさい!」

「お、お姉様! 私はまだ何も痛っ! うー......フランよりも痛いです......」

「痛っ、お姉様、強すぎない?」

「フランのはさっきの仕返し。レナのは特に何もないわ」

「うー......お姉様、ひどいです」

 

お姉様とフランに仕返しするためにも、6を出さないと。

そう心に決めた瞬間だった。

 

「次は私ですね。私は3です」

「マスの効果は…...『五マス進む』ね。何気に一番良いマスね」

「あ、咲夜に抜かされちゃった」

「まぁ、ゴールするまで分かりませんけどね」

 

「次は私ね。出目は2。マスの効果は『三マス進む』ね」

「パチュリーも良いマスに止まったわね」

「ま、私の方が進んでるけどね」

「さっき咲夜に追い抜かされましたけどね。あ、次は私ですね」

 

「出目は5です。あ、『二マス戻る』ですか......」

「結果的に、三マス進んだことになるのね。まぁ、普通に三マス進んだ方が良かったみたいだけど」

「うー......まぁ、切り替えて次から頑張ります」

「お姉様、頑張っても意味無いよ。双六は運だから」

「うっ、言い返す言葉もないです......」

 

「最後は私ですね! 行っきますよー! えいっ! あ、4でした......」

「美鈴と同じマスね。まぁ、頑張るとこうなるって事ね」

「お姉様、こっちを見て言わないで下さい」

 

 

 

「これで一周したわね。さ、日が昇る前に終わらせたいから、ここからは急いでやるわよ」

「お姉様、レミリアお姉様っていつも自分勝手だよね」

「フラン、お姉様に聞こえますよ。そう言うことはお姉様がいない時に言って下さい」

「レナ、フラン。そう言うことは私がいない時でも言わないでくれる? 後で憶えておきなさい」

「ごめん、私憶えられそうにないから、お姉様憶えてて」

「私は憶えたくないので無理ですよ」

「あんた達、その話は後でにしなさい。次はフラン、貴女の番よ」

「はーい、じゃ、振るよー」

 

 

 

──ここからはダイジェストでお送りします──

 

二週目 フラン

 

「あ、また6だ」

「また最大値ですか......マスの効果って、え? 『誰か好きな人にこちょこちょ』? ......お姉様、何か私に恨みでもあるんですか?」

「え? 恨みなんて何もないわよ。ただ、可愛い妹を弄りたいだけ。それに、フランが誰を選ぶかなんてまだ分からないでしょ?」

「そうだよ、お姉様。私はまだお姉様に決めたなんて言ってないよ」

「うっ、それもひゃっ!? きゃははは! お、おねえひゃま! ふりゃん! やっぱり、私じゃないきゃははは!」

 

「パチュリー様、止めなくてもいいんですか? あのままだと、笑い死にしそうですが」

「大丈夫よ。いつものことだから」

「はぁ、それならいいのですが」

「コロコロっと、出目は5ですね。あ、また何も無いマスだ......」

「そして、貴女は勝手に進めないの。まぁ、もう振ったなら仕方ないから、仕方ないけど」

「くっ、これでは何も起きずに終わってしまいます......」

「私も5を出さないようにしないと......」

「何も無くても、最下位じゃなかったらいいじゃない。あぁ、そう言えば、小悪魔も同じマスだったわね」

 

三週目 パチュリー

 

「出目は3、マスの効果は『特技を披露』ね。はい、私の特技は魔法ね。誰か受けてみる?」

「パチェ、私を見て言わないで......出来れば攻撃以外の魔法にしてくれない?」

「じゃあ、これね。雨を降らす魔法」

 

そう言って、パチュリーはお姉様の真上に雨雲を作った。

 

「ちょ、ちょっと! それも吸血鬼からしたら攻撃魔法だってば! だ、誰か助けギャー!!」

「あ、あれはやばいですかね?」

「あれは止めた方がいいのでしょうか......?」

「ん、パチュリーも死ぬまではやらないだろうし、レミリアお姉様は放っておいていいと思うよ。次はお姉様、振っちゃって」

「フラン、絶対お姉様にデコピンされたこと根に持ってますよね? まぁ、私もフランにされたことは根に持っているんですけどね。

ダイスは4。マスの効果は『誰か好きな人にこちょこちょ』......さっきフランが止まったマスですね。では、フラン、こっちに来てください。勿論、何をするかは分かりますよね?」

「......お姉様、提案なんだけどさ、レミリアお姉様にそれしない? 私にするのはまた今度ってことで」

「勿論、無理です。さ、覚悟して下さい!」

 

そう言って、私はフランにこちょこちょし始めた。

 

「ひゃっ! きゃははは! お、お姉様! ごめん! 私がわるかきゃははは!」

「え? 何を言ったか聞こえませんよ? なんて言いました?」

「きゃははは!ご、ごめんなさい! 私が悪かったから! きゃははは! もうやめてって!きゃははは!」

 

「美鈴さん、これは止めた方がいいのでしょうか?」

「いえ、やめた方がいいですよ。止めると、レナ様に怒られるどころか、フラン様にも何故か怒られますから」

「......不思議な姉妹なんですね。お嬢様達は」

「えぇ、全くです。数百年一緒に居ますが、私にもお嬢様達の考えることは少し分かりません」

「パチュリー様も、まだやってますね......流石にこっちは止めましょうか......」

「小悪魔さんも大変なんですね」

 

五週目 咲夜

 

「ふむ、出目は6ですね。ふむ、マスの効果は『一回休む』ですか......」

「そう言えば、咲夜は最近、少し頑張り過ぎてるし、休んでもいいのよ?」

「確かに、レミリアお姉様の言う通り、休んだ方がいいよ? 私よりもお姉様に料理を教えてもらってること多いでしょ? あまり仕事に夢中になったら駄目だよ。お姉様も大変だろうし」

「フラン様、少し私怨が混ざっている気がしますが?」

「気のせいだよ。ねぇねぇ、お姉様も大変でしょ? お姉様も休んでいいんだよ? 美鈴もいるし、料理を教えるのは美鈴に任せればいいから」

「フラン、それは出来ませんよ。美鈴は門番の仕事もありますし、私は暇なので、これくらいはしないと駄目ですから」

「ふーん......それなら、別にいいよ。......私が優勝すればいいだけだし」

「? フラン、何か言いました?」

「ん、気のせいじゃないかな? さ、どんどん次の人振っちゃってー」

 

七週目 美鈴

 

「ふぅ......次こそは! えいっ! ......ダイスは5、マスの効果は、『二マス進む』! お嬢様! 見てください! ようやく効果ありのマスに止まれましたよ!」

「そ、そう。良かったわね」

「お姉様、美鈴、嬉しそうだね。普通のことなのに」

「はい、そうですね。まぁ、今までずっと効果あるマスに止まりませんでしたからね。よっぽど嬉しいんでしょう」

「それにしても、少し喜びすぎですけどね。美鈴さんは」

 

七週目 レナ

 

「ほいっと、あ、1ですね」

「何気に初めて出たわね。1は」

「お嬢様、私が一番最初に出しましたよ......」

「あぁ、そう言えばそうだったわね。まぁ、あれは順番決めだから少し違うけど」

「あ、マスの効果は『六マス進む』ですね」

「結構進むわねぇ。まぁ、貴女は遅い方だから、順番に変わりないけど」

「今はぶっちぎりで私が一番だもんねー」

 

ちなみに、今の順番は一位から、フラン、咲夜、パチュリー、お姉様、美鈴、私、小悪魔だ。

 

「フランが一位になるなら、最下位は絶対に嫌ですね」

「ちょっと、お姉様? それどういうこと?」

「さぁ? どういうことでしょうか?」

「むー......まぁ、いいや。お姉様かレミリアお姉様が最下位になったらいいなー」

「さらっと私も入れないでくれない?」

 

八週目 小悪魔

 

「さぁ! 最下位を脱出しますよ! ほいっ......やったー! 6だー!」

「フラグ回収しませんでしたか......あれ? でも何も無いマスなので、最下位のままですね。私よりも三マス後ろですし」

「あっ......次の番には最下位を脱出してみせます!」

「意外と負けず嫌いな子を召喚したのねぇ、私って。まぁ、そっちの方がいいけど」

「咲夜も一生懸命、仕事に取り組んでくれるから嬉しいわ」

「......私も従者とか欲しいなぁ」

「フラン、私を見て言わないで下さい」

 

九週目 レミリア

 

「そろそろフランがゴールしそうねぇ。まぁ、ぴったりゴールしないと駄目っていうルールなんだけどね」

「レミリアお姉様、それは初めて聞いたけど?」

「あれ? 言ってなかったかしら?」

「初めてお聞きしました」

「そうね。レミィ、ルール説明の時に言ってないからそれは無効よ」

「え!? 言い忘れてた!?」

「言い忘れてた自分が悪いのよ。さ、早く振りなさい」

「うー......ま、一位にはならないだろうけど、最下位にならなければ問題ないわね。あ、出目は2ね。マスの効果は『次の順番の人とマスの位置を変わる』ね」

「......あ、私ですね。フラン様ではなくて残念でしたね、お嬢様」

「んー......でも前に進めてはいるから得はしているわね。じゃ、次の人振っちゃってー」

 

十週目 フラン

 

「後五マスでゴールね」

「ずっと6しか出してないからもうゴールしそうねぇ......」

「いえ、ここは6以外を出してゴールしないはずです! まだフランが一位にならない可能性も──」

「あ、お姉様、6出たよ。ゴールしちゃった」

「......最下位にならなければ問題ないはずです......」

「ふふ、えぇ、そうねぇ」

「どうして笑っているのですか、お姉様は。......何故か嫌な予感しかしないんですが」

「気のせいじゃないかしら? じゃ、次は美鈴ね。それにしても、私もさっさとゴールして終わらせたいわねぇ」

「ゴールしない方がこちらとしては嬉しいんですけどね」

 

十一週目 レミリア

 

「3! これでゴールして二位ね」

「フラン様に続き、お嬢様もゴールしちゃいましたね」

「この姉妹、運が良いのね。一人を除いて」

「このままだと最下位になりそうです......」

「レナ様、安心して下さい。まだ私もいますから......」

「次は私ですね。出目は1、マスの効果は『八マス進む』ですね。......あ、ゴールしました」

「お姉様、おかしくないですか?」

「え? 何が?」

「普通、マスの効果でゴールなんて駄目なのでは?」

「普通って言っても、今回が初めてだし、いいでしょ? それとも、ゴール出来ないからって何か不満でも?」

「......すいません、ないです」

「それならよろしい」

 

十三週目 パチュリー

 

「3、ゴールしたわね」

「これで残りは私とレナ様と小悪魔さんですか......」

「美鈴、レナ、小悪魔の順番ね。と言っても、美鈴も含めて差はほとんどないから、誰が最下位になるか分からないわねぇ」

「誰が最下位になるのかなー」

「フラン、私を見ながら言われても困ります......」

「みんなに何を命令するかは決まってるけど、一番聞いて欲しい命令はお姉様に対してだからねー」

「うー、嫌な予感しかしません......」

 

十七週目 美鈴

 

「5! ようやくゴール出来ました!」

「レナはゴールまで後5マス、小悪魔は9マス。これはレナが有利かしら?」

「お姉様に負けて欲しいんだけどな〜」

「私は負けたくないですけどね。コロコロっと、あ、1でした......。マスの効果は何もありません......」

「あ、私も1ですね。マスの効果は......あ、『八マス進む』ですね」

「......あ、あれ? さっき咲夜が止まったマスと同じですよね?」

「あ、やったー! ゴール出来ましたー!」

「やったー! お姉様に命令出来るー!」

 

うっ、勝てると思ったんだけどなぁ。......でもまぁ、紅魔館のみんなと一緒にこういうのが出来て楽しかったからいっか。

 

「一位フラン、二位は私、三位は咲夜、四位はパチュリー、五位は美鈴、六位は小悪魔。そして、最下位はレナね。さぁ、フラン。どんな命令でもしていいわよ」

「うー......フラン、出来れば、優しい命令にして下さい。お願いします」

「お姉様、大丈夫だよ。全然難しくないから。ただ、明日だけ、一日中私と一緒に居るだけでいいから」

「......え? それだけですか?」

「うん、それだけだよ。ね? 全然難しくないでしょ?」

 

......どういうことだろう? 毎日一緒に居ると思うけど......いや、咲夜に料理を教えたり、図書館に一人で行ったりしてるから、確かに一日中ではないけど。

 

「えぇ、まぁ、そうですけど......何か裏がありそうです」

「裏なんてないよ。ただ一緒に居るだけ。それだけだよ」

「むぅ......まぁ、拒否権は無いですし、命令を聞くしかないですね」

「ふふ、ありがとう。お姉様」

 

そう言って満面の笑みを見せるフランの顔は、久しぶりに見た気がした────

 

 

 

 

 

side Remilia Scarlet

 

──少し時間は過ぎて 紅魔館(レミリアの部屋)

 

「レミィ、少しいいかしら?」

「あら、パチェじゃない。どうしたの? 双六大会の後片付けならもう終わってるから、手伝いならいいわよ?」

「私が手伝うと思うの? まぁ、それはいいわ。それよりも、どうして『フランを勝たせた』のか聞きに来たのよ」

「......あら、いつ気付いたの?」

「あまりにも出来すぎてる気がしたから、そうなのかなって思っただけよ」

「流石私の親友ね。その通りよ。フランを勝たせた理由は簡単よ。最近、レナも忙しくてね。フランの相手を出来てなかったから、フランが寂しそうにしてたのよ。あの娘は人一倍寂しがり屋だからねぇ」

「ふーん......意外と優しいのね。貴女って。でも、代わりに貴女が居ればいいなじゃないの? 貴女もあの娘の姉でしょ?」

「それもそうなんだけどね......私よりも、レナに懐いている気がするから......やっぱり、一緒に居る時間が短いからかしら?」

「......違うと思うわよ。はぁ、あんた達姉妹って本当に鈍感というか、馬鹿というか......。懐いている懐いていないの問題じゃないわよ。貴女も明日、フランと一緒に居なさい」

「え、でも──」

「でもじゃない。さ、今からでも行きなさい。じゃ、私は寝るから。また明後日」

 

そう言って、パチェは部屋に戻って行った。

 

「......まぁ、今日も遊んだだけだし、一日や二日くらいいっか......」

 

そう思い、私はフランの部屋へと足を運んだ────




なお、本編は火曜日に投稿します()


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番外編9.7「バレンタイン 次女のプレゼント」

少し遅れたけど、無事に投稿出来てよかった()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(厨房)

 

「咲夜、今日はここまでにしましょう」

「え、レナ様、まだ十一時にもなってませんよ? 早すぎませんか?」

「いえ、今日はこれから用事があるので......」

「あぁ、なるほど。そういう事でしたら仕方ありません。......もしよければ、その用事を手伝いましょうか?」

「あ、いえいえ。大丈夫ですよ。なので、咲夜はもう休んでも大丈夫です」

「ふむ......分かりました」

 

 流石に、咲夜にはバレてるかな? いや、でも咲夜が来てからは忘れてて出来なかったから大丈夫かな。

 

「では、失礼します」

 

 そう言って、咲夜は厨房から出て行った。

 

「......明日まで後一時間程ですか。まぁ、これだけあれば、間に合いますよね」

 

 明日は二月十四日。そう、明日はバレンタインデーだ。咲夜が来てからは初めてだけど、来る前は、憶えていたらお姉様やフラン達に渡していた。そして、今回は憶えていたからすることにした。去年まで忘れていたから、また忘れると思ってたけど、案外憶えていることもあるものなんだなぁ。

 

「感知魔法で見る限り......周りに人はいないみたいですね。これでようやく始めれます」

 

 出来るだけ他の人にバレて欲しくはないから、周りに人がいないことを最初に確認した。

 あ、ついでに誰か来た時に分かる魔法をかけとこう。昔、フランにバレたことがあり、みんなにバラされたことがある。サプライズとして渡した方が面白いし、フランだけにはバレないようにしないと......。

 

「渡す人は......お姉様、フラン、美鈴、パチュリー、小悪魔、咲夜の六人ですかね。妖精メイド達は多いですし、また今度作るとして......お姉様とフランはブラッドチョコレート。美鈴、小悪魔、咲夜は甘めのチョコレート、パチュリーは甘い物があまり好きではないらしいですから、カカオ多めでしたよね」

 

 あ、そう言えば、ブラッドチョコレートの材料あったかな? ......今から『狩り』とかめんどくさいですし、ある分だけでいっか。......足りなくなったら、私の血でもいいよね?

 

「カカオは......ふぅ、良かった。ありますね」

 

 無かったら、今回は中止にするところだった。あ、型はどうしよう? ......まぁ、丸とかハートとかでいっか。

 

「さて、まずは普通のチョコレートから作ってみましょうか。まぁ、作るのは久しぶりでも、大体憶えてるから大丈夫ですよね」

 

 そう思い、私はチョコレートを作り始めた──

 

 

 

 ── 一時間後 紅魔館(厨房)

 

 まさか、普通のチョコレートを作るのにここまでかかるとは思ってなかった。

 作り始めてから一時間、もうバレンタインデーになってしまった。そして、出来たチョコレートは美鈴、小悪魔、パチュリー、咲夜の四つだけだ。まだお姉様とフランのを作れていない。

 それに、ブラッドチョコレートの材料も殆どなかった。

 

「......仕方ありません。私の血も混ぜますか......お姉様達、気付きませんよね?」

 

 お姉様とフランに吸血されたのは結構昔ですし、流石に憶えていないですよね。うん、憶えていないに決まってる。

 そう思い、爪で手首を切り裂いた。

 

「うっ......やっぱり、痛いですね。......一応、能力は消した方がいいですよね。近くにいる時に食べるとは限りませんし」

 

 最近、血の能力を消すことが出来るようになった。と言っても、結構時間がかかるから、吸血されたらどうしようもない。まぁ、吸血される時は、近くにいるだろうから大丈夫だよね。

 

「うわぁ......やっぱり、この量は未だに見るのは慣れませんね......」

 

 お姉様は少食だしお姉様が飲む量なら見慣れているから大丈夫だけど、お姉様とフランが飲む量は未だに見慣れない。特に、フランの飲む量凄いからなぁ......。ちなみに、私が飲む量はお姉様とあまり変わらない。前世が人間だったせいか、ただ少食なだけのどっちかだろう。

 

「......あ、やばっ、もうすぐしたら出来るのに......」

 

 誰かが厨房に向かって来てるのが魔法で分かった。

 

「うーん、まぁ、私とこれを隠せばいっか」

 

 そう思い、出来た分を全て冷蔵庫に隠し、今作っているお姉様とフランの分だけを残した。

 そして、魔法を唱え、自分と残した分を透明にした。

 

「お姉様! あれ? ここでもないんだ。うーん......どこに行ったんだろう?」

 

 丁度魔法を唱え終わった時に「バタンッ!」と大きな音を立てて、フランが部屋に入ってきた。

 あぁ、そう言えば、遊ぶ約束したんだった。......あ、これ後でお仕置きされるわ。やばい、かなりやばい。どうしよう......お姉様と違って、フランは容赦ないし、ひどいし、チョコレートを渡しても機嫌が直らない気がする。......いや、流石に、フランでも機嫌が直るか。

 

「もうっ、お姉様ってどうして約束を放ったらかしにしてどこかに行くんだろう。......これは、後でお仕置きしないと」

 

 そう言いながら、フランは厨房から出て行った。

 あ、絶対無理だ。明後日が無駄になった。......ま、まぁ、フランに会うのは最後にすれば、みんなには渡せるよね。

 

「......フラン、ごめんなさいね。後で必ず会いに行きますから」

 

 そう呟き、私は作るのを再開した──

 

 

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「パチュリー、小悪魔ー。いますかー?」

 

 全て作り終わり、最初に図書館に来た。最初にここに来た理由は、フランに見つかる前に、一人でも多く渡すためだ。図書館なら、パチュリーと小悪魔は絶対に居るし、お姉様や咲夜もたまに来る。

 

「あ、レナ様、どうしました?」

「いるわよ。どうしたの?」

 

 が、どうやら今日はパチュリーと小悪魔しかいないみたいだ。美鈴は部屋か門にいるとして、お姉様と咲夜は何処だろう? ......まぁ、部屋に行けばいっか。

 

「あ、今日はバレンタインデーなので、チョコを渡しに来ました」

「あぁ、そう言えばそんなのやってたわね。数年ぶりかしら?」

「......私は貰った覚えがないので、十数年ぶりな気もします」

 

 え、そんなに長い間忘れてたの? ......まぁ、来年も忘れないようにすればいっか。

 

「ま、まぁ、それは置いといて、どうぞ」

「ありがとうございます! いやー、私、こういうのは初めて貰いました! じゃ、早速。パクッ......あまーい! レナ様、美味しいです!」

「あ、ありがとうございます」

 

 凄く嬉しいけど、少しオーバーリアクションな気も......。

 

「ふむ、確かに美味しいわね。甘さも控えめだから、丁度いいわ」

「ありがとうございます。......では、今日中に他の人にも渡したいので、行ってきますね」

「行ってらっしゃーい」

「またね」

 

 こうして、無事に二人の分は渡し終えた。

 次は......大体の場所が分かる美鈴にしましょうか......フランに会う前に、他の人達に渡し終えたいですね......。

 そう思い、美鈴の部屋へと歩き始めた──

 

 

 

 ──紅魔館(美鈴の部屋)

 

「ふぅ......無事に着いてよかったです......。美鈴ー! 居ますかー?」

「え、あ、レナ様? あ......は、入っていいですよー」

 

 そう言って、扉を叩いた。すると、美鈴から返事が返ってきた。......何かおかしい気がするけど、まぁいっか。

 

「お邪魔しm──」

「捕まえたー! やっと見つけたー」

 

 部屋に入ると、美鈴と......フランが居た。フランは私が扉を開けたと同時に私に飛び込んできた。

 

「あ、ふ、フラン。......き、奇遇ですね。こんなところで会うなんて」

「そうだねー......お姉様、どこ行ってたの? ずっと探してたんだよ?」

 

 怒ってる。完全にこの顔は怒ってる。頬を膨らませて、可愛いけど、絶対怒ってる......。

 

「すいませんでした。......今日はバレンタインデーだったので、チョコレートを作っていたんです」

「それならそうと言って欲しかったなぁ。......お姉様、約束を破った罪は重いよ?」

「はい、すいませんでした......。ですが、先に全員にチョコを渡していいですか? お仕置きはその後でいくらでもやっていいですから......」

「んー......まぁ、いいよ。その代わり、後でどうなっても文句はなしね」

「はい、勿論です......」

 

 はぁ......まさか、美鈴の部屋に居たとは。予想外だった。

 

「えーと、もういいですかね?」

「あ、すいません。はい、これをどうぞ」

「あ、これって私の分ですか? いやー、久しぶりに食べますねー」

「お姉様、美鈴に渡したんだし、もう次行こっ」

「え、私の感想とかは......」

「美鈴、後でにして」

 

 フランが口を三日月のように歪め、美鈴にそう言った。

 

「えぇー、そんなぁ......」

「あ、美鈴ー、明日、いや、明後日また来ますねー!」

「え、明日は......あ、あはは、そうでしたね......」

 

 こうして、私とフランはお姉様を探しに行った──

 

 

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「レミリアお姉様! 入るわよ!」

 

 フランがそう言って、部屋を思い切り開けた。部屋には、お姉様と咲夜が居た。

 

「うわっ!? ちょ、ちょっとフラン! 紅茶を零しちゃったじゃない!」

「あ、お姉様、咲夜。バレンタインデーなので、チョコを私に来ました」

「あ、ありがとう。じゃなくて! フラン!」

「あ、ごめんねー。じゃ、私の部屋に行こっか。お 姉 様」

 

 フランが悪魔じみた笑みを浮かべ、そう言った。

 

「はぁ、レナ、また何かやったの? 貴女、いつかフランに殺されるわよ?」

「うぅ......明日にでも殺されそうです......」

「じゃ、頑張りなさいよ。私は助けないから。あ、チョコはありがとうね。明日にでも感想を言いに行くわ」

「レナ様、ありがとうございます。そして、生きて帰ってください」

「え、どうして最後の別れみたいな感じになってるんですか!?」

「さ、お姉様、部屋に行こー」

「あ、ちょ、た、助けてください!」

 

 そう叫ぶ私を引きずって、フランは部屋へと連れて行った──

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「さぁ、お姉様。お仕置きしてあげるー......の前に、チョコレート食べていい?」

「はい、勿論いいですよ。もう逃げれないと分かっているので......」

 

 フランの部屋に連れて来られ、今は拘束されてないし、逃げることも簡単だろうけど、後が怖いから出来ない。

 

「お姉様って物分りいいよねー。ま、約束は破っちゃうけど。じゃ、いただきまーす。パクッモグモグ......」

 

 うー、最近フランに舐められてる気がする......。いや、一緒にいれたらなんでもいっか。

 

「お姉様、凄く美味しいわ。......それにしても、どこかで食べたことある味ね......お姉様、何か知ってる?」

 

 あれ? まさかバレた? いや、そんなはずはない。絶対にバレてないはず......。

 

「い、いえ、何も知りませんよ? 人間の血なんてどれも同じだと思いますけど......」

「やっぱり、これって血だよね。......お姉様、ちょっと痛いかもしれないけど、ごめんね?」

「え? それってどう痛っ! ふ、フラン? ど、どうして?」

 

 どうして分かったの?

 フランが私の首筋を吸血した。まさか、憶えてるなんて......。フランって記憶力結構いいんだ。

 

「ジュウウウウ! ぷはぁ! あぁ、美味しかった。やっぱり、同じ味だし、お姉様の血だよね?」

「はぁ......よく分かりましたね。最後に吸血されたのは、数百年くらい前ですのに」

「お姉様の血って結構美味しいんだよ? だから、どれだけ昔でも憶えてるよ。それに、お姉様が眠ってる時に吸血することもあるし」

「え......せめて、言ってからにして下さい」

「うふふ、次からは言うね。......じゃ、今日のお仕置きは血を全部吸っちゃおうか!」

 

 そう言って、フランが私に飛びつき、首に噛み付いてきた。

 

「あ、あぁ......ふ、フラン。全部吸われたら、死んじゃいます」

「ジュウウウウ! ぷはぁ、美味しい! あ、大丈夫。加減は出来ると思うから、じゃ、お姉様が気絶するまで飲んじゃうねー」

「え、ちょ、や、やめ痛っ! っ!? ふ、フラン!」

「はぁ、美味しいわ。毎日飲みたいくらい。あ、お姉様、次何か言ったら、もっとひどいことになるからね?」

 

 フランが悪魔のような笑みを浮かべてそう言った。いや、悪魔だけど。

 そして、私は何も抵抗せずに、一日を終えた────




本編は金曜日に投稿予定。
番外編はホワイトデーかな

因みに、レナータはMではありません(真顔)


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番外編9.75「長女と末妹のホワイトデー」

一日遅れてホワイトデー!()
予約投稿を忘れるという......すいません()

気を取り直して、今回は番外編。9.7の一ヶ月後のお話です。


 side Flandre Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「レミリアお姉様ー、入るねー」

「フラン、それは入る前に言うのよ。入りながら言うものじゃないわ」

「はーい」

 

 お姉様から『バレンタインチョコ』と言う物を貰ってから一ヶ月が経った。

 今日は『ホワイトデー』と言って、そのお返しを渡す日らしい。

 

「で、レミリアお姉様。そう言うわけで、お姉様にお返し渡すの手伝ってくれる?」

「......どういうわけか分からないんだけど。一から説明してくれない?」

「今日は『ホワイトデー』って言う日らしいよ。一ヶ月前に『バレンタインデー』って言う日にチョコ貰った人がね、お返しにキャンディとかあげる日なんだって」

「ふーん......結構貰ってるのに、初めて知ったわ」

 

 毎年ってほどじゃないけど、お姉様には結構貰うからねー。

 どうしてこんなことをやってるか本で調べて、偶然知ったからね、『ホワイトデー』のことは。それにしても、その本......なんか近未来な感じがしたけど......どうしてだろ? ま、何でもいっか。

 

「ねぇ、そう言うわけだからさ、今年こそはお姉様に渡さない?」

「いいけど、今日中に作れるかしら? 私、料理は下手よ? 咲夜にいつも任せきりだし」

「うん、知ってる。でも、レミリアお姉様もお姉様にお返ししたいでしょ?」

「ま、まぁ、そうだけど......」

「大丈夫。私がいるから。それに、咲夜も手伝ってくれると思うし」

 

 咲夜もバレンタインチョコは貰ってたからね。忙しくなかったら手伝ってくれるはず。

 

「それもそうね。で、何を作るつもりなの? やっぱりキャンディ?」

「うん。ま、正確に言うとイチゴ飴ってやつなんだけどね。お姉様、イチゴ好きらしいし」

「へぇー、初めて知ったわ......フラン、どうしてレナが好きな物とか知ってるの?」

「レミリアお姉様よりも長くお姉様と一緒に居るから」

「そ、そっか......」

 

 レミリアお姉様は少し悲しそうにそう言った。

 

「......レミリアお姉様、羨ましい? お姉様と一緒に居れる私が。私と一緒に居れるお姉様が」

「えぇ、羨ましいわ。でも、大丈夫よ。パチェや咲夜も居るし。咲夜達が居ない頃は、貴方達と一緒に居れたから......」

「ふーん、それならいっか。......残念だなぁー、レミリアお姉様をいじるネタが増えたと思ったのに」

「......貴女、性格悪いわね」

 

 レミリアお姉様が呆れた顔でそう言った。

 お姉様にもたまに言われるんだよね。ま、お姉様はそんなことを言った瞬間に黙らせるけどね。物理的に。

 

「さ、そんなことは置いといて早く行こっ? 一日なんてすぐに終わっちゃうしね」

「え、えぇ。そうね。あ、咲夜はどうするの? 先に呼ぶ?」

「うーん......そうしよっか。じゃ、先に咲夜の部屋に行こー」

「ちょ、ちょっと! そんなに引っ張らないでよ! まだ寝巻きなのよ? 外に出るなら、せめて着替え──」

「家の中だからいいじゃん。別に客人が来る予定なんてないでしょ?」

 

 ま、この数百年、客なんて、あんまり見たことないけどね。私が下に居て知らないだけかもしれないけど。

 

「そ、それもそうだけど......」

「それに、ネグリジェ姿のレミリアお姉様、可愛いよ?」

「そ、そうかしら? じゃなくて! 着替えくらいさせなさい! 汚れたら洗わないとダメなのよ? 大変なのよ? 咲夜には自分で汚したなら自分でやれって言われるし......」

 

 ちっ、照れたからいけると思ったのに......ま、いっか。それにしても、咲夜もレミリアお姉様のことを簡単にあしらうようになったねぇ。やっぱり、誰にとっても、レミリアお姉様ってめんどくさいんだね。

 

「じゃ、待ってるからね。早く着替えてねー」

「えぇ......貴女は外に出ないの?」

「出ないよ。別にいいでしょ? 姉妹なんだし」

「......まぁ、それもそうね。なんか嫌な予感するけど」

「ふふ、気のせいじゃないかなー」

 

 レミリアお姉様って勘がいいよねぇ。ま、気付かせないし、気付く事なんて無いんだけど。

 

「......何よ、そのニヤニヤ顔は」

「うふふ、さぁねー」

 

 こうして、私はレミリアお姉様の着替えが終わるまで、しばらく待つことになった──

 

 

 

 ──数分後 紅魔館(咲夜の部屋)

 

「咲夜、居るかしら?」

 

 レミリアお姉様の着替えが終わり、今は咲夜の部屋に来ている。

 

「はい、居ますよ。どうなされましたか?」

「ちょっと料理を手伝って欲しいんだけど、大丈夫かしら?」

「大丈夫ですよ。それにしても、珍しいですね。お嬢様が料理をなされるなんて......」

「そうだよねー。絶対こんな日じゃないと料理しないもんねぇー」

 

 ま、気まぐれで料理しよってなる時もあるだろうけどね、レミリアお姉様は。

 いつも気まぐれで何かやろうとするし。

 

「あら、フラン様も居たのですね。レナ様はご一緒ではないのですか?」

「お姉様は寝てるよ。それに、お姉様には秘密にしたいしからねぇ」

「レナ様が寝ている......珍しいこともあるのですね」

「そうね。もう起きててもおかしくない時間帯なのに......珍しいこともあるのね」

 

 ま、本当はお姉様に教えてもらった魔法をお姉様に使っただけなんだけどね。多分、起こしに行くまで起きないんだろうなぁ。......好き邦題に出来るけど、今日は我慢しないとね。

 

「さ、お姉様が起きてこないうちに早く厨房に行こー」

「えぇ、それもそうね。咲夜、行きましょう」

「はい、分かりました」

 

 こうして、私達は厨房へと向かった──

 

 

 

 ──紅魔館(厨房)

 

「そう言えば、お嬢様。何を作るつもりですか?」

「イチゴ飴よ」

「それですと、私が居なくても作れるかと」

「え? そうなの?」

「イチゴと水と砂糖さえあれば作れますよ。作り方も簡単です」

 

 ま、飴は水と砂糖を小鍋で焼くだけだしね。それで、その飴の中にイチゴを入れて、形を作ればいいだけだしね。

 

「ま、そう言うことだから、レミリアお姉様が作ってみる?」

「え、えぇ。やってみるわ」

「フラン様、嫌な予感がするのですが、手伝ってもいいでしょうか?」

「ダメー。絶対面白いことになるからー」

 

 レミリアお姉様の料理下手は酷いを通り越して尊敬するレベルだからねぇ。絶対見てて面白いことになるはず。ま、そのせいでお姉様に渡すの遅くなりそうなんだけどね。

 

「......フランでもいいわ。手伝って」

「無理。咲夜も手伝ったらダメだからね」

「はい、分かりました」

「いや、咲夜は私の従者でしょ!? どうしてフランの指示を聞いてるのよ!?」

「お嬢様の妹様ですから」

「私はレミリアお姉様よりも偉いから」

「なるほど、分かったわ。貴方達、表に出なさい。誰が一番偉いか教えてあげるわ」

 

 もぅ、本当にレミリアお姉様って、挑発に乗りやすいんだから。ま、それが子供っぽくて可愛いんだけどね。

 

「きゃー、こわーい」

「フラン、姉を舐めているのかしら?」

「レミリアお姉様、どうしたの? 怒気が凄いよ?」

「貴女のせいでしょ!? ......はぁー、もういいわ。今日は許してあげる。早く作りましょう。レナが起きてしまうわ」

 

 ま、起きないんだどね、絶対に。今日は絶対に起きない自信があるよ。

 

「では、まずは材料を用意しましょうか。咲夜、何処にあるの?」

「自分で探せばいいのにね」

「その通りですね。イチゴは冷蔵庫、砂糖は上の棚に置いてありますよ」

「そう、分かったわ。......それにしても、メイドにまで舐めている気がするわね。まぁ、今は気にしないようにするけど......」

 

 珍しい。レミリアお姉様が耐えるなんて。明日は雨が降るのかな? ま、外に出ないからどうでもいいけど。

 

「それにしても、結構色々揃ってるのね。冷蔵庫とか、レナが作ったの?」

「うん、そうだよ。ま、そんなことは置いといて、水と砂糖をその鍋に入れて焼いて、それから......」

 

 こうして、私達のイチゴ飴作りが始まったのだった──

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋前)

 

「上手に出来たかしら?」

「大丈夫だと思いますよ。それなりには出来てたと思いますので」

「そ、そう。それなら大丈夫ね」

 

 料理が完成して、今はお姉様が寝ている私の部屋に来ている。

 

「それにしても、なかなか上手かったね、レミリアお姉様。ま、簡単な料理だったってのもあるけど」

「ふふん、そうでしょ? やれば出来るのよ、私は」

「......なんかウザいんだけど」

「そんなストレートに言われたら、傷つくんだけど......」

 

 あ、本当に傷ついてるみたいだ。しょんぼりしてる。こういうレミリアお姉様も可愛いんだね。

 

「うふふ、冗談だよ。冗談。ごめんね、レミリアお姉様」

「べ、別にそこまで傷ついてないし、冗談って分かってたから大丈夫よ。そ、それよりも、着いたわよ」

「うん、着いたね。じゃ、先に入るね。お姉様ー」

「あ、ちょっと! ......まぁ、いっか。咲夜、私達も入りましょう」

「はい、お嬢様」

 

 中に入ると、ベッドの中に包まっているお姉様が居た。

 やっぱり、お姉様はまだ寝ているみたいだね。

 

「お姉様ー、もう起きる時間だよー! 起きないなら、それ!」

「うっ!」

 

 そう言ってお姉様に飛び込むと、痛そうな声が聞こえた。

 ま、そこまで痛くないから大丈夫だよね。私、お姉様達よりも体重軽いはずだし。

 

「え、ちょっとフラン! 飛び込んだらダメじゃない!」

「えー、いいじゃーん。お姉様は私のものなんだしー」

「いやいや、それは違うでしょ。それにしても、起きないわね」

「うん、起きないね」

 

 魔法の力が強過ぎたのかな? でも、飛び込んで痛めつけたしなぁ。もっと痛めつけたら起きるのかな? それとも、一定時間が過ぎたらとか? これだったら、お姉様に起こす時の魔法も聞くんだった。

 

「レナー、起きなさーい! レナー! ......起きないわね」

「お嬢様、これは流石におかしいのでは? お嬢様と違って、いつもレナ様達は時間通りに起きますし。起きる時間なんて、もう三時間も過ぎてますし......」

「なんか失礼なことを言ってる気がしたけど、確かにおかしいわね。......フラン、何か知らない?」

「え、どうして私? 知らないよ?」

「本当に? レナを魔法か何かで寝かして、起こす魔法忘れちゃった。とかじゃないの?」

 

 どうしてそんな正確に当てれるの!? いや、もしかして、能力使ったのかな?

 

「はぁー、バレたのならいっか。そうよ、私が今レミリアお姉様が言った通りのことをしたんだよ」

「そう......どうする? どうやったら起きるか本当に分からないの?」

「うん、分かんない。でも、痛めつければ......えいっ」

 

 そう言って、お姉様を殴ってみた。

 

「ちょ、今凄い音聞こえたけど!? と言うか、よく悪びれもなくそんな行動出来るわね!?」

「んー......ふりゃん? あふぇ? おねーひゃまも......」

「あ、本当に起きた。それにしても、寝ぼけ過ぎじゃない? それとも、フランのパンチで壊れた?」

「むぅ、もう一回殴れば......」

「ふぁ〜......眠いです......」

 

 魔法の副作用? それとも、ちゃんとした方法で起こさなかったせいかな? ま、何でもいっか。起きたんだし。

 

「ま、大丈夫そうだしいっか。それよりも、お姉様。はい、これ、バレンタインデーのお返しね」

「あ、いつの間に盗ってたの!? あ、作ったのは私達だからね。フランだけじゃないから」

「うふふ、ま、そう言うわけだから、いつもありがとうね、お姉様」

「......涙が出そうです。あ、勿論、嬉し涙ですよ。フラン、お姉様、咲夜。こちらこそありがとうございます」

「いえ、私は従者として、当然のことをした迄です。それに、ほとんど頑張ったのはお嬢様達ですので」

「えぇ、そうね。結構疲れたわ」

 

 なんだろう......咲夜がお母さんみたいになってる。

 それにしても、お姉様が嬉しそうでよかった。

 

「あらま、お姉様も作ったのですか? いえ、作れたのですか?」

「失礼ね、作れるわよ。と言うか、ほとんど作ったのは私だからね。まぁ、作り方は教えてもらったけど......」

「それでも、成長しましたね、お姉様」

「そ、そうかしら? ......とりあえず、ありがとう......」

 

 レミリアお姉様、羨ましいなぁ......。

 

「......お姉様、私には?」

「フランもお姉様を手伝ってくれてありがとうございますね」

 

 そう言って、お姉様は私を撫でてくれた。

 

「えへへー。あ、早く食べてみて。イチゴ飴、好きでしょ?」

「はい、好きですよ。まぁ、お姉様達が作った物は何でも好きなんですけどね。では、いただきますね」

「えぇ、どうぞ」

 

 そう言って、お姉様は私達が作ったイチゴ飴を食べ始めた。

 それにしても、赤い物なら血じゃなくても好きなんだね、お姉様って。ま、辛いのはダメみたいだけど。

 

「......美味しいですね、お姉様が作ったにしては」

「全く、本当に失礼な妹ね、貴女は。でも、『美味しい』って言ってくれたことは素直に嬉しいわ」

「じゃ、お姉様、早く起きて上に行こー」

「はい、食べ終わったら行きましょうか」

 

 ......お姉様にはいつもより長く寝てたのは言わないでおこうかな。絶対怒るだろうしね。

 そんなことを考えながら、お姉様が食べ終わるのを待つのであった────




次の番外編の予定はない模様()
何かのお祝い事とかの日に投稿するかも。


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番外編 9.9「吸血鬼ごっこ」

お気に入り登録者数が100人達成した記念で、小説投稿します。
閲覧者の皆様、色々と、ありがとうございますm(_ _)m


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「みんなに集まってもらったのは他でもないわ。今から鬼ごっこならぬ吸血鬼ごっこをする為よ」

 

 いつも通り、お姉様の気まぐれで集められた。本当、お姉様ってわがままだよね......まぁ、別にいいけど。

 

「いつものことですけど唐突ですね。で、『吸血鬼ごっこ』とは、どんなルールですか?」

「ほとんど鬼ごっこと変わらないわ。ただ、捕まったらそこで終了。鬼は最初から固定よ」

「ふむふむ、鬼は誰がやるのですか?」

「私かレナかフランね。吸血鬼だし」

「そんな簡単な理由で......いやまぁ、遊びだからそれでもいいのでしょうけどね」

「あ、はいはい! 私が鬼やりたーい!」

 

 フランが勢いよく手を挙げてそう言った。

 私はどっちでもいいから、フランが鬼でいいとは思うけど......何か企んでそうで怖いんだよねぇ......。

 

「ならフランで決まりね。レナもそれでいいわよね?」

「......え? あ、はい。いいですよ」

「やったー! みんな捕まえたいなー」

「あ、言い忘れてたけど、パチェは不参加よ。理由はパチェの体調的な問題よ。だから、逃げる側は私、レナ、美鈴、咲夜、小悪魔ね」

 

 そう言えば、パチュリーって病弱なんだっけ? たまにしか会わないけど、そんな風には見えないんだよねぇ。まぁ、魔法行使した時とか体を動かす時とかはやばいんだろうけどね。

 

「お嬢様、逃げれる範囲はどうしますか?」

「この館の中なら何処に逃げてもいいわよ。制限時間は3時間よ。それと、能力を使うのは禁止よ。と言っても、使っても分からないんだけどね。まぁ、その辺りは信じると言うことにするわね。それと、捕まったらここに来なさい。さ、ルール説明はこれで終わりね。フランは今から60秒数えて。そのうちに私達は逃げるから」

「はーい! いーち、にーい、さーん......」

 

 うん、テンポ早いね。まぁ、いいや。私も早く逃げよっと。

 

「......それにしても、フランにずっと見られている気が......」

 

 そんなことを呟きながら、私は図書館から出ていった────

 

 

 

 

 

 side Flandre Scarlet

 

 ──残り三時間 紅魔館(図書館)

 

「ろくじゅうー! さーて、みんなは何処に行ったのかなぁー?」

 

 確か、お姉様はあっちから出ていったよね。で、美鈴はあっちからか......お姉様からでいっか。お姉様の魔力は強いし、見えなくても大体の位置は分かるしね。魔力は見ようとしなくても、見えちゃうし仕方ないよねー。

 そんなことを考えながらお姉様が出ていった扉から廊下へと出た。

 

「何処かなー? お姉様は何処に居るのかなー? あっちかなー、こっちか......な......あ、みーつけた!」

「え!? あ、ふ、フラン様!? まだ一分しか経ってないのに見つかるの早くないですか!?」

 

 廊下に出たら、十数メートル先にこあが居た。

 いやー、運がいいなー。まだ逃げれてなかったんだなー。

 

「こあは逃げるの遅いねー。そんなんじゃ......すぐに終わっちゃうよ? ま、終わらせるの私なんだけどね、っと!」

「ぐぁっ!」

 

 そう言いながら、こあに突進して行って、タッチした。すると、こあは床に倒れ込んだ。

 首に当たったせいかな?

 

「......それとも、強過ぎたせいかな? ま、何でもいっか。次はお姉様かなー」

 

 どうせ後で起きるだろうし、ほっといてもいいよね。

 そう思いながら、お姉様の魔力が感じる場所へと向かっていった──

 

 

 

 ──残り二時間半 紅魔館(フランの部屋)

 

「入るねー! ま、私の部屋なんだけどねー」

 

 お姉様の魔力を辿っていくと、私の部屋に着いた。

 

「あれれ? ここだと思ったんだけどなぁー」

 

 魔力はここから感じる。......何処かに隠れてるのかな? 隠れれそうな場所って言っても、ベッドの後ろか大きめのクローゼットくらいだけど......。

 

「あ、え? もしかして......」

 

 少しクローゼットが動いた。......これ、本当にお姉様だったら、妹として恥ずかしいんだけど......。どうしてこんな子供みたいに......ま、いいや。

 

「......お姉様、そこに居るのは分かってるよ?」

「え!? ......あ」

 

 クローゼットの前まで来てそう言うと、中からお姉様の声がした。

 ......いや、本当に妹として恥ずかしいんだけど。お姉様ってたまにバカになるよね......。本当、レミリアお姉様もお姉様も肝心な時に......ま、今は肝心な時でも無いんだけど。

 そんなことを考えながら、クローゼットを開けた。

 

「......本当にお姉様じゃん。魔法で囮とか使ってるのかな? って少しでも思った私がバカだったよ。はい、タッチ」

「うー......まさかバレるとは思いませんでした......」

「いや、動いてたからね? クローゼット動いてたからね!? お姉様、貴女の妹とか恥ずかしいんだけど。色んな意味で」

「うっ、酷いです......」

 

 いや、こんなお姉様は見てて......もういいや。こんなこと言ってたら、疲れる。

 

「じゃ、私は他の人達を探すから......お姉様は自分で図書館まで行ってね。......一人で行けるよね?」

「い、行けますよ!」

「うん、それならいいけど......じゃ、また後でね」

「なんでそんな可哀想な人を見るような目で見るのですか!?」

「お姉様、分かってるなら聞かないで」

「えぇっ!?」

 

 

 一人で騒いでるお姉様を無視して、私は他の人達を探しに行った──

 

 

 

 ──残り一時間半 紅魔館(食堂)

 

「はぁ、流石に広過ぎて見つからないなぁー......」

 

 お姉様を見つけてから一時間経った。だが、一通り見て回ったはずなのに、誰も見つけることが出来なかった。

 

「誰もいないなー......」

「ガチャ」

 

 そんなことを呟いていると、食堂の扉が開き、咲夜が入ってこようとしていた。

 

「......失礼致しました」

「え、うん......あ! 見つけた!」

 

 ようやく見つけた。やっぱり、動き回っていたんだ。それにしても、運がいいんだね、咲夜って。今まで見つからなかったし。

 

「くっ、このままでは......っ!」

 

 扉を開け、逃げて行く咲夜を追いながら、弾幕を放つ。しかし、それを避けてどんどん距離を広げていく。

 

「ちっ、待てー!」

 

 それにしても、結構速いなぁ......ま、吸血鬼に敵うわけないけど。

 

「逃がさない!」

「なっ!? うっ!」

 

 全速力で咲夜に突進した。流石に、突進は予想してなかったのか、避けることが出来ずに咲夜と衝突してしまった。

 ......今更なんだけど、咲夜、大丈夫かな?

 

「あ、咲夜、大丈夫?」

「だ、大丈夫です......少し、骨が折れた気もしますけど......」

 

 お姉様の背骨が複雑骨折した時は、叫んだり、もがいたりしてた から......大丈夫だよね?

 

「喋れてるから大丈夫なのかな? 一人で図書館まで行ける?」

「は、はい......大丈夫です」

 

 腰の方を抑えて痛そうにしてるけど、本当に大丈夫なのかな......?

 

「......ご、ごめんね?」

「いえ、謝る必要はありません。大丈夫ですので、フラン様は引き続き、探すことに専念された方が良いかと......残り時間は一時間ほどですので......」

「あ、う、うん。分かった。じゃ、行ってくるね」

「はい、お気を付けうっ!? 少し痛みますね......」

「む、無理だったら言ってね?」

 

 やっぱり、大丈夫そうではないよね......。

 

「すいません、心配をかけてしまいましたね。本当に大丈夫ですので、お嬢様と美鈴を探しに行った方が......」

「......うん、分かった。咲夜、本当にごめんね!」

 

 そう言って、レミリアお姉様と美鈴を探しに行った。

 後ろで、「気にしないで下さい」と言われた気もするけど、普通は気にするよね......。

 そんなことを考えながら、逃げるようにして咲夜から離れていった──

 

 

 

 ──残り五分 紅魔館(図書館近くの廊下)

 

「......居ないなぁ」

 

 咲夜から離れて一時間以上経った。未だにレミリアお姉様と美鈴は見つからない。

 

「......灯台もと暗し。確か、お姉様がそんなことを言ってたよね。もしかしたら......」

 

 不意にそんなことを思い出し、図書館に向かっていた。

 

「......あ、レミリアお姉様」

「あら、フラン。遅かったわね」

 

 図書館の扉を開けると、そこにはレミリアお姉様と捕まった人達が居た。

 よかった、咲夜も居る。大丈夫そうでよかったよかった。

 

「ここに居たんだね」

「えぇ、ここに居たわよ。後五分しかないけど、どうする?」

「レミリアお姉様だけでも捕まえるよ。美鈴は見つからなかったからほっとく」

「あら、可哀想な美鈴。確か、貴女の部屋に隠れてたはずだけど......見つけれなかったの?」

 

 え? ......まさか、ベッドの後ろに? もしかして、お姉様......いや、まさかねぇ。囮とかそんなことをしようとしてた感じには見えなかったから違うんだろうね。多分。......でも、囮になってたって思いたいなぁ。

 

「......お姉様が囮になったせいで、気付かなかった」

「あらま。バレてしまいましたか」

「あ、本当にそうだったんだ」

「えぇっ!? 適当に言ってたのですか!?」

 

 まさか、本当にそうだったとはね。お姉様が可哀想な人じゃなくて良かった......。

 

「うん、適当だった。それよりも、レミリアお姉様、大人しく捕まってくれる?」

「いやよ」

「じゃ、無理矢理捕まえるね」

「やれるものならやってみなさい!」

 

 そう言って、私とレミリアお姉様は飛び上り、私は『レーヴァテイン』を、レミリアお姉様は『グングニル』を手に持ち構えた。

 

「......これ、吸血鬼ごっこでしたよね? どうして二人とも、武器を構えてるのですか?」

「レナ、知ってる? 吸血鬼ごっこ、すなわち、鬼ごっこの必勝法を」

「い、いえ、知りませんけど......」

「それはね......捕まる前に鬼を倒すことよ!」

「それは絶対におかしいです!」

「ちなみに、私はそんなレミリアお姉様から身を守る為に、レミリアお姉様を倒す!」

「だから、それもっ! ......いや、もういいです......」

 

 こうして、私とレミリアお姉様の戦いが始まった。

 

「せいっ!」

「遅いっ!」

 

 キンッ! カンッ! と金属のような物がぶつかる音が響く。

 攻撃をしても、避けられるか武器で止められ、なかなか致命傷を与えれない。

 

「レミリアお姉様、避けないで!」

「避けないと死んじゃうでしょ!?」

 

「......レナ様、止めた方がいいかと」

「私、怪我したくないです」

「しかし......」

 

「はぁ!」

「くっ! レミリアお姉様、ちょっとは手加減してよ!」

「嫌よ! 早く倒れなさい!」

 

「あ、みなさ〜ん! 勝ちましたよ〜」

「美鈴、遅い」

「もう終わってから十分くらい経ってますからねぇ......」

「......え、えーと、あのお二人は、何をしているのですか?」

 

「ちっ、後少しで当たったのに!」

「まだまだ私に勝てるとは思わないことね!」

 

「ただ、終了時間になったのも気付かないで、遊んでいるだけですよ。私は部屋に戻るので、後でフランを部屋に呼んでて下さい」

「はい、分かりました。美鈴、貴女はもう門番の仕事に戻ってて」

「あ、はい! 分かりました!」

「......多分、今日には終わらないですよね......」

 

 しばらくレミリアお姉様と勝負をした後、私はお姉様からの伝言を聞き、部屋へと戻った。

 後で終わってから一時間くらい勝負をしてたと聞いた時は驚いたけど......まぁ、楽しかったからいっか。

 そんなことを考えているうちに、今日もまた、一日が終わったのであった────




次回は200人の時かな…...
長い道のりだなぁ()


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10、「吸血鬼の訪問者 幻想のお話」

毎度遅れてすいませんね()
二章も後1、2話で終わると言う今日このごろ。時間って経つの早いですよね()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(美鈴の部屋)

 

 咲夜が来てから数年の年月が過ぎたある日。

 今日は久しぶりにルネ・バートリが来るらしい。ルネとは、私と同じ転生者らしい吸血鬼だ。ルネの親はお姉様のお父様やお母様を殺した奴だから、恨んではいるけど、その殺した張本人は死んだし、ルネには罪はないからもういいんだけどね。

 それにしても、何百年振りだろう? 最後に会ったのは、美鈴が来る前だったはず。......あれ? 美鈴が来てからも来たっけ?

 

 と、疑問になったので、今は美鈴の部屋に来ている。

 

「では、そのルネさんに会ったことがあるのか聞きに来たんですね」

「はい、会ったことありましたか?」

「んー......おそらく、会ったことはないはずです。ですが、私は昼以外には出ませんし、私が居ない夜に来た可能性もありますから、私が来てからも来ていた可能性はありますよ」

「あ、そう言えばそうでしたね。ふむぅ......お姉様もどうせ憶えていないでしょうし、ルネに聞いた方がいいかもしれませんね。まぁ、ルネも憶えていない可能性はありますが」

 

「お姉様ー、あ、ここに居たんだ。レミリアお姉様が『レナを私の部屋に呼んでくれないかしら?』って言ってたから、呼びに来たよ」

「お姉様が? もう来たんでしょうか? あ、フラン。ありがとうございます」

「別にいいよ。あ、美鈴も来てって言ってたよ」

「え? 私もですか?」

「うん、そうだよ。後、パチュリーも小悪魔も咲夜も居たよ」

「みんな呼んで何をするつもりなんでしょうか? ......お姉様のことですから、どうせ碌でもないことでしょうけど」

 

 お姉様はいつも気まぐれで何かするし、今回もその気まぐれだろう。......でも、何か忘れているような......そう言えば、お姉様はもう少しで500歳だっけ? それに何か関係してた気がするんだけどなぁ。何か思い出せないや。

 

「お姉様、どうしたの? 早く行こっ?」

「あ、すいません。今行きます」

「あ、私も行くんで待ってくださいよ〜」

 

 こうして、三人でお姉様の部屋へと向かった。

 

 

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

 お姉様の部屋に着いた時、そこには五人の人物が居た。勿論、さっきフランが言った、お姉様、パチュリー、小悪魔、咲夜に加え、もう一人。

 青い髪をして、お姉様と同じ吸血鬼独特の翼を持った男性の吸血鬼が居た。歳の見た目は私と同じ十代前後で、黒い服を着ている。久しぶりで顔は少し忘れているが、ルネで間違いないだろう。

 

「あ、三人とも来たみたいね。さ、さっきの話をもう一度お願いするわね。ルネ」

 

 私達が来たことを確認して、お姉様がそう言った。

 

「はい、分かりました。の前に、久しぶりですね。レナータ、フランさん。それと、初めまして、美鈴さん」

「数百年振りですかね? お久しぶりです」

「あ、初めまして。ルネさん......で合ってますよね?」

「はい、合ってますよ」

「......ちょっと待って。どうしてお姉様だけ呼び捨てなの? どんな関係? それと、私こいつ知らないんだけど」

 

 フランが少し怒ったような顔でそう言った。

 ......どうして怒ってるんだろう?

 

「あ、憶えていませんか? 僕は──」

「お前には聞いてないけど? 私はお姉様に聞いてるのよ。で、お姉様。どうなの?」

「ほら、結構前に会いましたでしょう? ルネ・バートリですよ。あ、一応、言いますが、いい人ですよ」

「......バートリ? まぁ、今はいいわ。それよりも、お姉様、こいつとどういう関係なのよ!?」

「え、あ、あの......どういう関係と言われても困るのですが。ただの知り合いなんですけど......」

「なら、どうして呼び捨てだったの? お姉様が言ったの?」

「はい、そうですよ。......どうして怒っているのかは分かりませんが、落ち着いて下さい、フラン」

「あ、そうだった。お姉様はこんな人だったんだ......もういいや。さ、話って何なの? 早く始めて」

 

 え? 何故か飽きられているんだけど、どういうこと? ルネも頭にはてなマーク出てるし、全く以て、どういうことか分からないんだけど......。

 

「では、話ですね。皆さんは、自分の力が弱まっていると思ったことがありませんか? それか、吸血鬼、まぁ、妖怪ですね。その存在が、人間達に忘れ去られてきた感じがしたこととか」

「んー......私はないよ。お姉様は?」

「そう言えば、最近、魔法のキレが無くなってきてる気がします」

「私も、最近力が出にくいですね。......あ、そう言えば、最近人間の襲撃が全くないですね。最後にあったのは、十数年も前の話です」

「実はですね。僕達、妖怪の恐怖が薄れてきたのが原因か、人間達に忘れ去られようとしているのです」

「......で、それがどうしたの? 人間に忘れられて、何か悪いことでもあるの?」

「はい、あります。僕達、妖怪が人間に忘れ去られることで、僕達の力が弱まるんです。そして、最後には僕達が消えてしまうでしょう」

 

 あ、そうだ。思い出した。もう少しでお姉様の500歳の誕生日だ。そして、お姉様が500歳、フランが495歳になった頃に──

 

「ふーん、信じ難いけど、お姉様や美鈴は力が弱くなってるのを感じてるらしいし、本当っぽいね。で、何か対策はあるの?」

「はい、実はですね。『日本』という東洋の島国に、『幻想郷』という場所がありましてね。そこは、妖怪達が人に忘れられず、普通に暮らしているらしいのです」

 

 ──幻想郷に行くんだった。

 

「へー、そんな場所があるんだ。で、どうやって行くの? 普通に歩いたり、飛んだりして行くのは無理でしょ?」

「そこは大丈夫ですよ。その『幻想郷』では、こっちの世界──あ、幻想郷はこことは別の世界らしいです。まぁ、異空間とでも考えていいかと──で『忘れ去られてたモノ』が入りやすくなっているらしい特性......ですかね? まぁ、それを利用して、移転魔法で入り込む予定です。おそらくですが、パチュリーさんやレナータになら、転移魔法くらいなら出来るはずです」

「えぇ、確かに出来るわよ。レナが使っていた移動魔法を改良すれば、すぐにでも作れるはずよ」

「あ、私も手伝いますね」

 

 まぁ、私が居なくても普通に作れるんだろうけど、協力した方が早く終わるだろうから、手伝って損はないよね。

 

「で、本題なんですけど......」

「え? 妖怪の力が弱くなってるから、一緒に移動しようって話ではないんですか?」

「えぇ、まぁ。実は、兄がその『幻想郷』を支配しようと考えているのです。だから、ここに来た目的は協力して欲しいからって言う理由もあるのです。兄は、貴方達以外にも、現代に生きている吸血鬼達を集めています。おそらく、国の一個くらいなら、崩壊させることも出来るかもしれない戦力になるでしょう」

 

 ......え? マジですか? そうなの? え、幻想郷に攻め入るつもりなの? ......あ、思い出した。『吸血鬼異変』ってやつか。詳しくは知らないけど、なんか聞いたそんな異変があるって、前世で聞いた気がする。吸血鬼が幻想郷に攻めるっていう異変なのかな? まぁ、幻想郷はその後でも普通にあったはずだし、失敗するってのは分かった。

 

「その話までは私達も聞いたわね。それで、その話の続きもあるんでしょ? わざわざそれを言うってことは、協力して欲しいとかが」

「はい、近いですね。で、話の続きなんですが......現在、吸血鬼達のリーダーは兄と言うことになっているんですが、今は、貴方達の方が人間達に知れ渡って、吸血鬼で強いと言ったら、レミリアが一番よく言われていますし、出来ればレミリアにリーダーになって欲しいと思っているんですけど、それでもいいですか? 勿論、無理なら無理でいいですよ」

「ふむ......そういうことらしいけど、貴方達はどっちの方がいいと思う?」

 

 お姉様がそう言って、私達の方を見た。

 

「私はお嬢様の命令に従います」

「私はどっちでもいいわね」

「あ、私はパチュリー様と同じ意見で」

「リーダーと言う響きはいいですけどねー。でも、私はお嬢様の命令に従いますよ」

「ふーん、今のところはリーダーになる派の方が多いわね。と言っても、一人しか意見言ってない気がするけど。貴方達、もっと意見を言ってもいいのよ?」

「私は本当にどっちでもいいのよ」

「私はお嬢様の従者です。お嬢様の命令に従うのが筋というものです」

「いや、従者でも、主人がおかしいことしてるって思ったら言ってよ? まぁ、いいわ。最後は貴方達ね。レナ、フラン。どう思う?」

 

 お姉様が私達の目を見て言った。なんか、かなり真剣みたいだけど、どうしたのかな?

 

「んー......私はお姉様と同じ意見にする。なんか、そっちの方がいい気がするから」

「ふーん......で、最後はレナね。貴女は、どうしたいのかしら?」

「......私は、吸血鬼のリーダーになって、もしも負けた時にお姉様が責任を負いそうですし、リーダーじゃない方がいいです。お姉様が責任を負って、死ぬなんてのは嫌ですから」

「......ふむ、分かりました。後、多分ですが、兄もレナータと同じ意見なのでしょう。会った方達全員に頼んでいるみたいですから。あ、なんか騙しているみたいになりましたけど、お許しくださいね」

 

 え、ルネ、酷くないですか?

 

「別にいいわよ。そもそも、負ける要素なんて無さそうだけどね。でも、先に言っておくけど、私達は戦力にならないわよ?」

「え? どうしてですか? 貴方達は結構強い方だと思うんですけど......」

「戦う気がないからね。私一人だけなら、戦おうとは思えるけど、妹が二人もいるし、大切な友人も、従者も、門番もいるからね」

「......優しいんですね。レミリアは。まぁ、そういう事なら仕方ないでしょう。では、私は戻りますね。あ、後、僕達が転移するのは今からちょうど一ヶ月後の予定です。他の吸血鬼も一ヶ月後に転移するでしょうから、出来れば同じ時間に来てください」

「えぇ、戦わない代わりに、それは守るわ。じゃ、またね」

「はい、次に会うのは一ヶ月後でしょうね。では、またお会いしましょう」

 

 そう言って、ルネが部屋から出て行った。

 それにしても、幻想郷か......これからが本番か。お姉様やフラン、美鈴、パチュリー、小悪魔、咲夜。みんなが死なないように頑張らないと。私が来たせいで、未来が変わるなんて嫌だからね。

 

「じゃ、パチュリー、早速始めてちょうだい。あ、紅魔館ごと転移出来るようにしてくれないかしら? ......出来る?」

「はぁ......出来るわよ。でも、疲れそうね......。レナ、それとフラン。貴方達にも手伝ってもらうからね」

「え? 私も手伝うの?」

「文句は貴女の姉に言ってちょうだい。紅魔館ごと転移となれば、少し難しいのよ。だから、出来るだけ紅魔館が転移出来る時間を少なくして、出来るだけ転移の成功率を上げるためには、人手がいるのよ」

「はぁ......まぁ、お姉様も一緒ならいっか。じゃ、お姉様、行こっか」

「はい、分かりました。では、行ってきますね」

「えぇ、みんな頑張ってね。じゃ、美鈴はもう夜だし、寝ていいわよ。咲夜は紅茶を入れてくれないかしら?」

「はい、分かりました」

「......レミリアお姉様っていつも楽してる気がする......まぁ、いっか」

 

 そして、私達は転移魔法への準備へと移り、一ヶ月後までに完成させるように頑張ったのであった────




次回は、金曜日に投稿予定


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番外編10.5「次女のデート とりあえず追いかける姉妹達」

お気に入り者数300人記念とリクエストの小説です。
まぁ、気軽に読んでくださいな


 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「お姉様、外出許可を貰ってもいいですか?」

「ふぁ〜......唐突ね」

 

 おそらく、日が暮れる時間よりも少し早い時間。

 誰かに体を揺らされたと思ったら、レナに起こされていた。

 そして、開口一番にそう言ったのだ。

 

「唐突ですいません」

「いえ、別にいいのよ? それよりも、何処に行くの?」

「ちょっと人間の街まで」

「......それ、大丈夫なの?」

「人間に化けるので大丈夫ですよ。太陽は流石に防げないので、もう少ししたら、日が暮れてから行きますけど」

 

 まぁ、それなら大丈夫かしら。レナももう子供じゃないんだし、少しくらい自由にさしてもいいわよね。

 ......でも、心配ね。隠れてついて行こうかしら?

 

「......気を付けなさいよ? バレたら大変なんだから」

「その時は、助けてくださいね?」

 

 レナは冗談半分で言ったのか、ニコニコと笑みを浮かべながらそう言った。

 

「当たり前じゃない。すぐに助けに行くわよ」

「サラマンダーよりもずっと早く助けてくれますか?」

「え、えぇ。そのさらまんだー? よりも早く助けに行くわよ」

「むぅ......可哀想に......。あ、お姉様のことじゃないですからね。お姉様、ありがとうございます」

「え、あ、うん」

 

 たまに、レナはよく分からないことを話す。けどまぁ、本人は楽しそうだからいいわよね。

 

「それじゃぁ、行ってきますね」

「えぇ。......あ、レナ」

「はい? なんですか?」

「一応聞くけど、一人で行くのよね?」

 

 もしも、フランが一緒に行くなら、私も行きたい......。三人一緒に遊びに行くのが最近の夢だし。

 留守番は美鈴や咲夜が居るから大丈夫だろうしね。

 

「いえ、ルネと行ってきますよ」

 

 一瞬、世界が停止した気がした。

 えーと......レナが? ルネ()と? ......い、いえ、聞き間違いよね。

 そんな、私の妹(レナ)が......私よりも早く男と出かけるなんて、あるわけ無いわよね。

 

「レナ、ごめんなさい。もう一度だけ、言ってくれないかしら?」

「え? ルネと行ってきます。人間の街に」

 

 ......やっぱり、聞き間違いじゃない。こ、これってどうすれば......。

 

「れ、レナ? 私も、ついて行ってもいいかしら?」

「駄目です。お姉様はここでゆっくり待っていてくださいね。では、行ってきます」

「え、あ、ちょっと! ......行っちゃった......」

 

 ま、まぁ、こうなるわよね。これって、あれでしょ? デートってやつでしょ?

 デートに姉なんか連れて行かないわよね。......これ以上、無理矢理止めようとしたら、流石にレナも怒るわよね?

 

「......咲夜ー!」

「はい、こちらに」

 

 いつも思うんだけど、名前を呼んだだけで目の前に現れるって、どういうことかしら?

 声が聞こえる範囲にでもスタンバってるのかしら?

 いえ、今はそれよりも......。

 

「咲夜。今日、ちょっとだけ家を空けるから。留守番は任したわよ」

「はい、分かりました」

 

 これで留守は大丈夫っと。後は......あの娘も呼びましょうか。

 多分、暇してるだろうし、あの娘もレナがデートと言ったら、付いてきてくれるわよね。

 

「咲夜、ついでにフランもここに呼んでちょうだい」

「はい、仰せのままに」

 

 パチンっと指を鳴らしたと思ったら、目の前から咲夜が消えていた。

 おそらく、今頃はフランの目の前に──

 

「え、いったぁ!?」

「お嬢様、連れてきました」

 

 と思っていたのだが、どうやら無理矢理連れて来たみたいだ。

 空中で放り出されたフランは、尻もちをついて痛がっている。

 咲夜も案外無茶苦茶なところがあるわね......。

 

「んー......あれ、レミリアお姉様? ここってレミリアお姉様のお部屋?」

 

 連れてこられるまで寝ていたのか、眠そうな顔をしているわね。

 まぁ、私もレナが来るまで寝てたんだけど。

 

「では、お嬢様。私は失礼いたしますね」

「あ、逃げた。まぁ、いいわ。

 フラン。今日、レナが外にお出かけすること知ってる?」

「え? 聞いてないよ。っていうか、今日って言っても、お姉様はいつお出かけするの?」

 

 確か、日が暮れてから......ん? それってもう過ぎてる気が......。

 

「あ、やばい。フラン!」

「わっ!? ちょ、ちょっと、急に大声出さないでよね」

「今から行くわよ! さぁ、早く支度して!」

「えぇ〜! まだ眠いんだけど〜?」

「フラン。レナがデートするんだって」

「......え? ご、ごめん。もう一回言ってくれないかな?」

 

 フランが驚きのあまり、目を白黒させている。

 やっぱり、フランにも信じられないわよね。

 

「レナがデート。ルネと」

「......レミリアお姉様、それ本当?」

「本当よ。レナが、ルネとお出かけするって言ってたのよ」

「......よし、今すぐ行こう! とりあえず、引き裂こう!」

 

 あれ、フランの目が本気......あ、これやばいやつだ。

 

「え、ちょ、ちょっと待って! と、とりあえず落ち着きましょう? ね?」

「落ち着いてたら、間に合わなくなるかもしれないよ!? 私はすぐに着替えてくるから、レミリアお姉様は先に行ってて!」

「え、ちょっと! ......はぁー、どうしてみんな、最後まで話を聞かないのかしらねぇ」

 

 まぁ、いいわ。先に行きましょうか......。レナを見失ったら元も子もないし。

 そう考え、私はエントランスの方へと歩を進めた──

 

 

 

 

 ──人間の街

 

 急いで紅魔館から出ると遠くにレナが見えたので、付いていくと紅魔館から一番近い人間の街に着いた。

 そして、私達はレナ達にバレないように少し離れた位置に降りた。

 

「あれね」

「......お姉様......それに、あいつ......」

 

 降りた場所からは、レナが見える。そして、レナ(私の妹)と仲良く話しているルネ()も......。

 それにしても、どうしてかしら? 私の隣から、凄い殺気が......。

 

「ね、ねぇ、フラン?」

「何? 今、お姉様と、お姉様を誑かした奴を見てるんだけど?」

「殺気が凄いから、気付かれるかもしれないわよ?」

「大丈夫。それも気にならないほどいちゃいちゃしてそうだし」

 

 確かにレナとルネは笑顔で話しているから、いちゃいちゃしてるようにも見えるけど......。

 あれはそういうのじゃない気が......。

 

「あ、移動するよ!」

「フラン、もう少し静かに行きましょうね。気付かれるから」

「あ、そうだね。気付かれたら、殺る前に逃げるかもしれないしね」

「......私、貴女も止めないといけないのね......」

 

 どうしてこの娘は、こんなに殺気が高いのかしらねぇ......。

 まぁ、いいわ。今はそれよりも、レナを追わないと。

 

「ん、あ、お店の中に入っていった」

「服屋、かしら? どうして......」

「あ、ウェディングドレスを買うため、とか? ......自分で言ってから何だけど、お姉様、あのお店燃やしていい?」

「やめなさい。燃やしたら騒ぎになるし、まだそうと決まったわけじゃないでしょ?

 まぁ、もしも、それなら、燃やしていいけど」

 

 まぁ、そのドレスって、私達の敵の服のようなものだし、流石にないとは思うけど......。

 でも、あの娘ってそういう事に結構疎いからなぁ。

 

「......あ、出てきたよ」

「早いわね。......あら?」

 

 よく見てみると、レナは小包を手に、店から出てきた。

 

「んー......中に何が入っているんだろう?」

「服だとは思うけど......あ、また移動するみたいだし、行くわよ」

「うん、そうだね」

 

 私達は、レナとルネの後を追って、数分ほど歩いた。

 そして、レナ達が着いた場所は......。

 

「......指輪専門店?」

 

 だんだん嫌な予感が......。ん、あれ、なんか熱い気が......。って、フラン!?

 

「ちょっと!? 無言でレーヴァテインを構えないで! バレるから!」

「......ちっ、仕方ないね。レミリアお姉様、次は止めないでよ」

「いや、絶対止めるから......」

 

 止めないと、絶対に騒ぎになるじゃない。そうなったら、レナに嫌われる自信があるわ。

 勝手について行った挙句、騒ぎを起こすなんて。ここに来れなくなるだろうし......。

 

「ん、あれ? また早いわね」

「......レミリアお姉様。もしかして、お姉様って前にも何回か外に出たりしてる?」

「まぁ、何回か出てるわね。......あっ」

 

 もしかして、予約でもしてたのかしら? ということは、ルネとデートするのは今回が初めてじゃないと?

 姉として、帰った後に問い詰めようかしら。

 

「レミリアお姉様も分かったみたいね。なら、突撃してもいい?」

「それはやめて。帰った後にしなさい」

「むぅ、分かったよ。けど、帰ったら......うふふ」

 

 何を企んでいるのか、フランはいたずらっ子のような目つきで笑っている。

 ほんと、この娘って生粋の悪魔よねぇ。レナとは全然違うのに、どうしてこの娘達は仲が良いのかしら?

 まぁ、仲が良いのはいい事だけど。

 

「あら、次は何処に行くのかしら?」

「......レストラン、かな?」

 

 再びレナ達が歩を進めた先にあったのは、小さなレストランだった。

 そして、レナ達は中に入ると、食事を取っていた。

 そう言えば、まだご飯食べてないわ......。帰ったら食べないと。お腹が空いたし......。

 

「いいなぁ。お姉様達、ご飯食べてる......」

「帰ったら咲夜に何か作らせるから我慢しなさい」

「はーい......」

 

 それにしても、楽しそうに食べてるわね。

 これって、もしかして本当に......。

 

「ねぇねぇ。レミリアお姉様」

「何かしら?」

「あの二人、仲良さそうだよねぇ......」

「そ、そうかしら? 私には、ただの友達にしか見えないけど?」

「ふーん......そっかぁ」

 

 まぁ、本当のことを言うと、友達以上の関係に見えなくもないんだけど......。

 

 それからは、しばらくレナ達の様子を見ていたが、特に何も起きなかった。

 そして、レナ達が帰る前に、私達は紅魔館へと急いだのであった──

 

 

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「お姉様? 何か用です?」

 

 レナが家に帰ってきたと同時に、私はレナを部屋に呼び出した。

 もちろん、街でのことを聞くために。

 

「ちょっとね。聞きたいことがあったから」

「まぁ、丁度よかったですけどね。はい、お姉様。誕生日プレゼントです」

「......え?」

 

 レナがそう言って、先ほど街で買っていた小包を二つ、手渡してきた。

 

「どうしました? ほら、お姉様の誕生日プレゼントですよ。何年も生きているせいか、イベントとかって忘れがちですけど、お姉様の誕生日は絶対に忘れませんよ。まぁ、私の誕生日でもありますしね」

 

 も、もしかして、人間の街に行ってたのって、私のため? で、でも、服屋に指輪専門店って......。

 そう思って、小包を開けて見ると、中には薄いピンク色の帽子と赤い指輪が入っていた。

 

「この帽子、お姉様の服に合うように、服屋さんで聞いて買った物なのですよ。

 それと、この指輪。こっちはルビーが付いた宝石ですが、ルネに手伝ってもらって、災いから身を護ってくれる魔法が込められているのです! どうです? 気に入ってくれました?」

 

 私......勘違いしてたんだ。......あれ、目の前が霞んで見えないわね......。

 

「あれ、お姉様? 大丈夫ですか? 泣いているみたいですけど......」

「ふふ、大丈夫よ。ただの......嬉し泣きだからね。それよりも、ありがとう。私のために、ここまでしてくれて......」

「いえいえ、お姉様のためなら何だって頑張りますよ。まぁ、ひとまずは、嬉しそうで良かったです」

 

 そう言えば、いつもレナはこの時期になったら、私に誕生日プレゼントをくれるわね。

 当たり前のようになっていたから、忘れていたわ......。ほんと、姉としてどうなのかしら。

 

「......レナ、欲しい物があったら、私に言いなさいよ」

 

 まぁ、無くても何か、お返しのプレゼントを考えるんだけどね。

 

「え? 欲しい物、ですか? ......私は、お姉様達と一緒に居れればそれでいいですよ。

 えぇ、ただ、それだけでいいですから......」

「そうなの? ......まぁ、いいわ。ありがとうね、レナ」

「お姉様が嬉しそうで私も嬉しいですよ。......あ、朝ご飯食べてきますね。咲夜も用意してくれてたでしょうし......」

 

 私は、そう言って部屋を出ていくレナを見送った。

 ......あれ、そう言えば、何か忘れてる気が......まぁ、何もないわよね。

 

 こうして、今日も一日が過ぎていく。この後、フランが勘違いしてレナに詰め寄るのだが、それはまた別の話────



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11、「幻想入り──迷子の姉妹──」

久しぶりに間に合った気がした(←おい)

この小説を書き始めてから、二ヶ月。ようやく幻想郷に来た紅魔館組。これからどうなるのか......お楽しみ下さい。


 side Renata Scarlet

 

 ──とある森 夜

 

 目が覚めた時、辺りは変な雰囲気がする森だった。そして、近くにはフランしか居なかった

 

「ん、あ、あれ? え、ど、どういうこと?」

「あ、フラン。起きたみたいですね」

「あ、お姉様。......お姉様だけなの?」

「......はい、辺りを探しましたが、私と貴女だけでした」

 

 どうしてこうなったんだろうか?

 

「え、えーと......お姉様?」

「......おそらく、成功はしてます。魔力も前よりは強く、いえ、これは元に戻っていると言った方が正しいでしょうか。まぁ、今までよりも強いので、絶対に成功はしています。取り残されたわけではないでしょう」

「でも、お姉様達が取り残された可能性は無いの?」

「......それは分かりませんが、近くにいないのは確かでしょう」

「......お姉様、どうする? レミリアお姉様達を探す?」

 

 魔法でも間違えたのかな? それとも、別の何かのせいなのかな?

 

「んー......まずはお姉様を探すよりも、日をしのげる場所を探しましょう。死んだら元も子もないですし」

「ま、確かにそうだね」

「あ、フラン。出来るだけ私達が吸血鬼であることをこっちでバラしたくないので、今から魔法をかけます。少しだけ、動かないで下さいね」

「ん、分かった」

「はい、出来ましたよ。それと、手も繋いで下さい。魔力、妖力を『有耶無耶』にします」

「え、早すぎない? ......あ、お姉様の翼が消えてる。あ、私のもだ。あ、うん。分かったよ」

 

 まぁ、とにかく、どうしてこうなったのかを一から振り返ってみよう

 

「では、行きましょうか」

「うん。......そう言えば、お姉様と一緒に外に出たの始めてだよね」

「そう言えばそうですね。まぁ、こういう時に外に出たくはなかったですけど」

「まぁ、そうだけど。でも、私は嬉しいよ。こっちに初めて来て、初めてお姉様と外に出れたから」

「......ふふ、フランが嬉しいなら私も嬉しいです」

 

 確か、ここで目が覚める前は──

 

 

 

 ──時間は遡り 紅魔館(エントランス)

 

 ルネが来てから一ヶ月も経たない日の出来事だった。

 

「ふぁ〜、レミィ。みんな集まったみたいだけど?」

「あ、そうなの? ......あ、本当だ。こほん、みんな集まったみたいね。じゃ、早速だけど、今から『幻想郷』に行くけど、質問はある?」

 

 目が覚めた時、お姉様に急に呼ばれ、こんなことを言われた。......まぁ、もう慣れたから急にこう言われても何とも思わないや。

 

「え、お嬢様。もう出来たんですか? それと、結構急に言いますね」

「はい、もう出来ましたよ。それと、お姉様が急に言うのはいつものことです」

「レナ、いつもじゃないでしょう? まぁ、いいわ」

「いつものような......あ、お嬢様。一応、聞きますが、危険はありませんよね?」

「ないと思うわ。多分」

「いやいや、多分だと怖いんですけど......」

「仕方ないわねぇ。パチェ、レナ。どうなの?」

 

 そう言って、お姉様がパチュリーと私を見た。

 お姉様、分からないなら先に聞けばよかったのに......。

 

「ちょっと、レミリアお姉様? 私も手伝ったんだけど?」

「そう言えば、そうだったわね。で、貴女には分かるの?」

「......お姉様、聞かれてるよ?」

「やっぱり知らないんじゃない。一応、聞くけど、レナは分かる?」

「はぁ......まぁ、フランにはまだ魔法の難しい部分は教えてないですし、仕方ないですね。

 危険はありませんし、失敗する可能性はかなり低いはずです。......ですよね? パチュリー」

 

 正直に言うと、そこまで私は詳しくない。ほとんど作ったのはパチュリーだし、私とフランは主に補助の部分しか手伝っていないからだ。

 

「えぇ、その通りよ。でも、危険は少なからずあるかもしれないわ。特に、咲夜。貴女にね」

「え? 私に......ですか?」

「ちょ、ちょっと、それはどういうことなの?」

「レミィ、慌てないの。メイドよりも主人が慌ててどうするのよ。それに、『幻想郷』に入る時に、私達とは別の場所に飛ばされる可能性があるって言うだけよ。勿論、『幻想郷』の中の何処かに飛ばされるだろうから安心しなさい」

「いや、安心出来ないわよ! 他の吸血鬼がそこの住民相手に戦争するって言ってたでしょ! それに巻き込まれたら大変よ!」

「お嬢様、心配いりませんよ。私には時を止める能力があります。何処かに飛ばされても、すぐに戻ってきますよ」

 

 ......本当に大丈夫なんだろうか? 幻想郷には『鬼』などの強力な妖怪がいたはずだ。人間なら、一発でも攻撃が当たれば瀕死になるだろう。でもまぁ、咲夜なら本当に大丈夫そうだけど。

 

「......咲夜が言うなら、心配ないわね。......パチェ、どうしてそんな危険があるのか教えてくれない?」

「それは、咲夜が人間だからよ。普通、人間では持っていない能力を咲夜は持っているとしても、咲夜が人間だと言うことは変えれないわ。そして、『幻想郷』は『人間』に忘れられた私達が行くような場所。同じ人間で、人間を超える能力を持っている咲夜は入れたとしても、別の場所に飛ばされる可能性があるってわけよ」

 

 それは対処のしようがないか。咲夜は人間のまま一生を終えることを望んでいるし、お姉様もそれを了承しているからね......。

 

「......咲夜、何処かに飛ばされても、私がすぐに助けに行くから安心しなさい」

「お嬢様、お言葉ですが、それをすると見知らぬ土地ですし、すれ違う可能性が高いです。お嬢様はゆっくり部屋で待っていて下さい」

「ま、まぁ、それもそうなんだけど。でも、心配だし、探すくらいはいいじゃない」

「パチュリー様、レナ様、フラン様。お嬢様が本気で探しに行こうとすれば、止めれるのは皆様しかいません。その時は、お願いします」

「まぁ、私は力ずくならレミリアお姉様よりは強いからね。出来る限り止めるよ」

「あら、フランに私が止めれるとでも? 力ずくなら私の方が強いわよ?」

 

 あ、また始まりそう。......止めたら怪我しそうだし、止めるのはやめとくか。

 

「へぇー、姉だからって私に勝てると思ってるの?」

「姉なんて関係ないわ。同じ歳でも私の方が強いに決まってるじゃない」

「お姉様、能力的にもそれはフランの方が強いと思います」

「あら、レナも私よりもフランの方が強いって思ってるのね。なんなら、ここで試してみてもいいのよ?」

「いえ、そうは言ってませんけど......」

「レミリアお姉様、いいの? 恥をかくことになるけど」

「あら、それはこっちのセリフ──」

「やめなさい。ここに転移魔法の魔法陣を描いてあるのよ? それに傷が付けばまた最初からやり直しだから。せめてあっちに行ってからにしてちょうだい」

 

 結構大変だったからね。それに、今からやり直したら、時間が間に合わなくなるだろうし。

 

「......分かったわ。フラン、後で決着をつけましょうか」

「そうだね。まぁ、結果は目に見えてるけど」

「へぇ、言うじゃない。でも、私に勝とうなんて千年早いわよ?」

「千年早いのはレミリアお姉様の方だけど? そうだわ。お姉様、私とレミリアお姉様、どっちが勝つと思う?」

「え、ど、どうして私に聞くんですか?」

「それは私とフランと一緒にいる時間が一番長いのはレナだからでしょ? で、どっちなの? 勿論私よね?」

「え? 私だよね?」

 

 これはわざとやってるんだよね? どっちを言っても言わなかった方に殺される気しかしないんだけど。と言うか、誰か助けて......って言っても無駄か。パチュリーは諦めて、可哀想な子を見る目で見てるし、咲夜と小悪魔は見て見ぬふりをしてるし、唯一頼れそうな美鈴は吸血鬼を二人相手ではすぐに負けるだろう。

 

「......保留ということでは駄目ですかね?」

「勿論駄目よ。今すぐ決めなさい。じゃないと、後でどうなっても知らないわよ?」

「お姉様、私って言わないと知らないから」

 

 いや、そんなストレートに言われても困るんですけど。あれ? 私の人生ってここまでなのかな? これ究極の選択だよね? お姉様に殺されるか、フランに殺されるかを選べって言ってるようなもんだよね?

 

「こらっ、フラン。それだとレナが貴女って言うじゃない。......いや、私も言えばいっか。レナ、私って言いなさい。言わないと明日からどうなっても知らないから」

 

 なんで!? どうしてそうなるの!?

 

「......あのぉ、パチュリー様、あれは止めた方がいいのでは?」

「大丈夫よ。レナが明日、死んだようにぐったりしてるかもしれないけど、明後日には普通に生き返って動いているから」

「そ、それは......大丈夫なんでしょうか?」

「パチュリー様、魔法の準備をした方がいいかと」

「そうね。あの姉妹は放っておいて、早速始めましょうか」

 

 いやいや、止めてよ! って言うか、この状況で始めるの!?

 

「お姉様! どっちか早く言ってよ! じゃないと......きゅっとしちゃうよ?」

「フランがそれを言うと普通に怖いです......はぁ、フランにしますよ。お姉様、お仕置きとかはあっちに行った時にして下さいね」

「......え? 本当に?」

「本当ですよ」

「あら、意外だったわ。このままどっちも決めないで、どっちからも怒られるっていう予想をしてたんだけどねぇ。まぁ、お仕置きはちゃんとするけど、殺しはしないから安心してね。それにしても、どうしてフランにしたの? もしかして、私が嫌いになった?」

「安心出来ません。それと、お姉様は好きなままですよ。......た、ただ、フランにあのお仕置きをされると、次の日を完全に無駄にするので......」

 

 フランと一緒にいるのは嬉しいけど、フランのお仕置きは嫌だ。もう、あんな目にはあいたくない......。

 

「え、ど、どうしたの? なんか目から光が消えたんだけど。え、フラン? いつも貴女はレナに何をしてるの?」

「さぁ? 何をしてるんだろうねー。......それよりも、お姉様、ありがとうね。......それと、出来ればあのことはレミリアお姉様に言わないでほしいなぁ」

 

 最後の一言を、フランはお姉様に聞こえないように私の耳元で呟いた。

 お姉様に言ったらフランに殺されそう......。

 

「......はい、分かりましたよ。ですが、もうしないで下さいよ? まぁ、フランと一緒にいれますから、別にいいんですけど......」

「ふふ、それなら良かった。......お姉様、大好き」

「私も大好きですよ。フラン」

 

 パタパタと嬉しそうに翼を動かして、フランが私を抱き締めた。

 

「お嬢様方、なんか良いところで悪いけど、もう準備は終わったから、今すぐにでもあっちに行けるわよ」

「あ、ごめんね、パチュリー」

「何が? いつも通りの光景だし、いつも通りの行動にしか見えないわよ?」

「あ、あら、そうなのね。あ、もう転移魔法を使ってもいいわよ。みんなここに居るし、妖精メイドも紅魔館内に全員いるはずだから」

「そう。なら詠唱を始めるわよ」

 

 そう言って、パチュリーが詠唱を始めた。もう少しで、『幻想郷』に行くのか......これからが本番だ。頑張らないと。

 それにしても、フラン、強く抱き締めすぎでは? 地味に痛いです。......それにしても、どうしてなのかな? 少し懐かしい気がする。昔にもこんなことあったっけ?

 

「あ、ごめんなさい、お姉様。強く抱き締めすぎちゃったよね......」

「......いえ、大丈夫ですよ。全然痛くないです」

「お姉様って結構強がりだよね。まぁ、それがいいんだけど」

「おーい、妹様方ー、もう転移魔法が発動するから、何処かにつか──」

 

 パチュリーが何かを言っていたが、その後は聞こえなかった。おそらく、転移魔法が発動したのだろう。辺りは光で包まれ、抱き締めていたフラン以外は何も見えなくなった──

 

 

 

 ──時間は戻って とある森

 

 ......あれ? もしかして、違う場所に飛ばされたのって、元人間の私のせい? フランは転移魔法を使った時に、私が触れていたから?

 もしかしたら、元人間と言う理由も含め、私の能力──有耶無耶にする程度の能力──のせいでもあるのかな? 吸血鬼と言う存在が有耶無耶になっていて、人間と言う要素が強くなっていたとか? ......でも、どうしてそうなっていたのかは説明がつかないし、違うかもしれないか。

 

「お姉様、どうしたの? 顔が暗いけど、何かあった?」

「え、い、いえ。何もありませんよ」

「ふーん、何か隠してるみたいだけど、まぁ、紅魔館に帰ってからでいっか」

「......どうしてバレたのかは分かりませんが、そっちの方が助かります」

「私にはどうしてバレないと思ったのかが分からないけどね。あ、お姉様。何か家が見えてきたよ?」

 

 家? あ、本当だ。......そう言えば、さっきから何か変な気がしてたけど、もしかして、ここは『魔法の森』?

 もし、そうだとしたら、この家は......あれ? 誰だっけ? さっきまで憶えてた気がするんだけどなぁ。

 

「お姉様? どうするの? 誰か居るなら、泊めてもらえるかもよ?」

「......そうですね。誰か居るか訪ねてみましょう」

「じゃ、お姉様。頼むね」

「え、まぁ、いいですけど、手は離さないで下さいよ?」

「......うん、絶対に離さない」

 

 そう言って、フランがさっきよりも強く私の手を握った。......どうしたんだろ?

 

「すいません。誰か居ませんか?」

「はーい。......って、え? 子供?」

 

 私は「コンコン」と扉を叩いた。

 すると、一人の少女──と言っても、見た目では私達よりも上の女性──が二体の人形を従えて出てきた。その少女自体も一見すると人形のような姿をしているが、喋ってるし、本物の人間だろう。......多分。

 容姿は金髪に瞳の色は青。青のワンピースのようなノースリーブに、ロングスカートを着用していて、その肩にはケープのようなものを羽織っており、頭にはヘアバンドのように赤いリボンが巻かれている。手にはリボンで結び、鍵がかけられた一冊の本を持っている。

 

「えーと......こんなところでどうしたの? 危ないわよ?」

「え? そうなの?」

「そうなのよ。ここは『魔法の森』、普通の人間、妖怪にとっても居心地の悪い場所なのよ? よく化物茸の放つ瘴気に耐えれるわね。......あ、もしかして、私と同じ魔法使い?」

「あ、はい。そうですよ」

「へぇ、小さいのに凄いわねー。あ、私はアリス・マーガトロイドよ。よろしくね」

「あ、自己紹介がまだでしたね。私はレナータ。こっちは妹のフランです」

「よろしくー」

 

 アリス......あぁ、思い出した。『原作』で出てたキャラだ。人形を使う魔法使いってのは憶えているけど、詳しいことは知らないなぁ......。

 

「それにしても、まだ小さいのにここまで来れるなんて、本当に凄いわね。どうしてこんなところまで来たの?」

「んー......お姉様、どうしてだっけ?」

「え、あ、それはですね......実は私達、日光に当たると、灰になってしまうという呪いをかけられたのです。そして、この森まで魔法で飛ばされてしまい、ここがどこか分からないので、日をしのげる場所が無いかと探していたのです」

 

 とっさに考えた嘘だけど、大丈夫かな? 嘘をついた罪悪感はあるけど......魔法の部分以外は嘘を言ってないから......いいよね?

 

「あらあら、それは大変だったわね。もう少しで日が昇る頃でしょうし、貴方達さえよければ、今日は私の家に泊まっていきなさい」

「え? いいんですか?」

「本当にいいの?」

「えぇ、勿論いいわよ。ただし、本当のことを教えてくれたらだけどね」

「え!? お姉様、嘘ってバレてるよ!」

 

 あ、フラン、それは言ってはダメなセリフです......。いや、もうバレてるなら変わらないけど。

 

「やっぱり、嘘だったのね。貴方達、妖怪よね? 少し分かりにくいけど、妖力を感じるわ。それに、魔力を分かりにくくするくらいの技量を持っているから、結構長く生きている妖怪?」

「......お姉様、有耶無耶にしてもバレるものってバレるのね」

「まぁ、分かりにくくしているだけですし、相手に触れないと最大限の力を出せないみたいなので、仕方ないですよ」

「で、貴方達は何者? 流石に、正体が分からない人を家に入れるわけにはいかないからね。例え、子供だったとしてもね」

「むっ、私は子供じゃないもん! お姉様よりは大人だもん!」

「フラン、言い方が完全に子供ですよ。それと、私はフランよりは大人です。絶対に」

 

 ......それにしても、フラン可愛い。子供扱いしたらこうやって怒るんだね。後でお姉様に言って一緒に弄ろっかな。

 

「......先に言っておくけど、姉妹喧嘩なら別の場所でやってよね」

「あ、すいません。私達は吸血鬼と言う種族です。最近、と言うか今日幻想郷に来たばっかりの妖怪です」

「吸血鬼ねぇ。知らないけど、結構強そうな種族ね。貴方達を見る限りは」

「あ、そうでした。私達は移住目的でここに来ましたが、ここを侵略して、自分のものにしようとしている吸血鬼もいるので、気を付けて下さい」

「......お姉様、それを言ったってバレたら、他の吸血鬼に狙われるよ? まぁ、お姉様を狙った吸血鬼は全員殺すけど」

 

 あ、完全に忘れてた。まぁ、他の吸血鬼にバレなかったらいっか。

 それにしても、フランも頼もしくなったね。まぁ、出来れば、能力は使ってほしくないし、フランには誰も殺してほしくはないけど。

 

「あらあら、それは大変なことになりそうね......。教えてくれてありがとう。それにしても、ここまで嘘をついているかどうか分かりやすい人達には初めて会ったわ」

「え、そうなの?」

「顔に全部出てるわよ。でもまぁ、本当のことを言ってくれたし、責めはしないわよ」

「......お姉様、優しい人でよかったね」

「本当にそう思います」

 

 嘘が完全にバレてしまうのか......次からは表情とかでも有耶無耶にした方がいいのかな?

 

「さ、もう言うことはないかしら?」

「あ、実は、私達は住んでいる館ごとこっちに来たんですが、その館が何処にあるのか分からないんです。何か知りませんか?」

「館? んー......知らないわね。明日はどうするの? その館を探すなら、森から出た方がいいわよね......。よければ、森の出口まで案内するわよ?」

「あ、ありがとうございます」

 

 アリス......いや、アリスさんって、本当に優しい人なんだね。

 

「明日は館を探すとして、大丈夫ですか? 私達は夜にしか行動出来ないので、夜に移動することになると思いますが、危険ではないですか?」

「大丈夫よ。森の中までならね。流石に、森の外までは案内出来ないけどね」

「いえいえ、そこまで案内して頂ければ、大丈夫ですよ」

「ふぁ〜、もう眠い......」

「あ、入ってちょうだい。私はソファーで寝るから、ベッドを使ってくれていいわよ」

「ありがとうございます」

「お姉様......おんぶしてー」

「......どうして急に甘えてきたのでしょうか......まぁ、いいですけど」

 

 そう言って、私はフランをおんぶした。全然重たくはないけど、背の高さがほとんど同じだから、少しおんぶしにくい。

 たまに、フランは急に甘えん坊になることがある。まぁ、可愛いからいいんだけどね。

 

「仲が良い姉妹なのね。じゃ、重たいでしょうし、早く入りなさい。」

「色々とありがとうございます。アリスさん」

「いいのよ。困った時はお互い様だからね」

 

 こうして、幻想郷に来て、初めての一日が終わった。

 明日からは館を探さないと。......流石に、他の吸血鬼が明日に来て、いきなり襲撃とか始まらないよね? まぁ、流石にそんなことはあるわけないか。

 そう思いながら、フランをベッドに連れていった。

 

 そして、私の予想は当たることになるのだが、まだこの時の私は気付くことなんて出来なかった────




次回から3章に入ります。なお、次回の投稿日は日曜日の予定。


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3章「幻想入り 『吸血鬼異変』」
1、「姉の捜索と決意」


はい、毎度遅れて、申し訳ございません()

今回から3章が始まります。3章は紅霧異変までの出来事になりますので、原作の主人公が出るのはまだ先な模様()


 side Remilia Scarlet

 

 ──幻想郷(紅魔館)

 

 目が覚めた時、目の間には深刻そうな顔をして覗き込む咲夜が見えた。

 

「んー......あ、咲夜。転移魔法は成功したの?」

 

 咲夜、どうしてそんな顔をしているの?

 

「はい、成功はしました。ですが......お嬢様、落ち着いて聞いてください」

「ん? どうしたの? ......咲夜、レナとフランは何処にいるの?」

 

 辺りを見回した時、パチェが深刻な顔していた。小悪魔が忙しそうに動いていた。美鈴が慌てていた。

 ......そして、レナとフランがいなかった。

 

「そ、それは......」

「どうしたの? ......どうしてそんな顔をしているの? どうしてレナとフランがいないの?」

 

 そう聞いても、咲夜は何も答えなかった。と言うよりかは、答えることが出来ないみたいだった。

 

「......咲夜、どうしてか答えなさい! レナとフランはどうしたの!? どうしていないのよ!?」

「お、お嬢様! 落ち着いて下さい!」

「レミィ! ......落ち着いて聞いて。レナとフランは転移魔法を使った時に、この世界の何処かに飛ばされたのよ。この世界には来ているはずだから、安心しなさい」

「安心なんて出来るわけないじゃない! レナもフランも吸血鬼なのよ! 他の吸血鬼が来て侵略を始めたら、あの娘達も巻き込まれるじゃない!」

「だから、落ち着きなさい。もう日が昇るわ。今、貴女が探しに行ったら、貴女が死んでしまうわよ? それに、まだ私達以外の吸血鬼は来ていないわ」

「だからなに? 日が沈むまでここで大人しく待ってろって言うの!? 日が昇っているからなによ!? そんなの日傘で防げるじゃない! 私は今すぐにでも探しに行くわ!」

 

 早く探しに行かないと、レナとフランが危険かもしれない。怪我をするかもしれない。最悪の場合......死んでしまうかもしれない。

 そう思うと、今すぐ探しに行く以外の選択肢は考えられなくなる。

 

「はぁ......何を言っても聞いてくれないのね。本当、貴方達姉妹には悩まされるわ。咲夜、紅魔館は私と美鈴に任せて、レミィと一緒に行ってあげて」

「え? いいのですか?」

「どうせ何を言っても無駄よ。出来る限り早く見つけて帰って来てちょうだい」

「......はい、分かりました」

「レミィ、多分だけど、他の吸血鬼達もすぐに来ると思うわ。だから、危険だと思った時はすぐに帰って来なさいよ。と言っても、見つけるまで帰って来ないんでしょうけど」

 

 確かに、私はレナとフランを見つけれるまで帰るつもりはない。

 よく分かってるわ。流石、私の親友。何百年も一緒にいるだけあるわね。

 

「大丈夫よ。すぐにあの娘達を見つけて帰ってくるから」

「では、行ってまいります」

「気を付けるのよ。二人とも。......絶対に死なないでよ」

 

 私は日傘を持ち、咲夜と一緒に、日が昇ろうとしている外へと出た────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──少し時間は進み 幻想郷(アリスの家)

 

「ふぁ〜、よく寝たー。あ、お姉様、おはよう」

「フラン、おはようございます。あ、アリスさんもおはようございます」

「えぇ、おはよう。......まぁ、私からしたらおやすみって言う時間なんだけどね。昨日は朝まで起きてたけど」

 

 幻想郷に来てから、アリスの家に泊めてもらったお陰もあり、無事に二日目を迎えることが出来た。

 最初は、妖怪とかに襲われたらどうしようかと思ってたけど、これなら案外大丈夫かな。まぁ、襲われても、逃げるか殺せばいいだけなんだけどね。

 

「で、今日から館を探すのよね?」

「はい、そのつもりですよ」

「......よければなんだけど、手伝わせてくれない?」

「......え? いいんですか?」

「いいのよ。貴方達が寝た時にね。貴方の能力かしら? まぁ、それが解除されたみたいでね。貴方がもの凄い魔力を持っていることが分かったのよ」

 

 アリスが私を指差してそう言った。

 え? 私って、そんなに凄い魔力を持ってたの? いや、それよりも、寝て能力が解除されたの? 昔、フランに寝ながら使ってた気がするけど......。もしかして、意識しないで寝たから? それとも、能力が弱まったのかな? ......まぁ、帰ってから実験すればいっか。

 

「うふふ、ま、私のお姉様だしねー」

 

 フランが誇らしげに、そして嬉しそうにそう言った。

 フランが言われているわけではないんだけど......フランが嬉しそうだし、いっか。

 

「えーと......それがどうして手伝う話に繋がるのですか?」

「それほどの魔力よ。使ってないわけないよね? 使っているなら、館に魔導書がある可能性が高いかもって思ったのよ。で、本題なんだけどね。手伝う代わりに、あるならでいいんだけど、魔導書を幾つか貸して欲しいのよ」

「確かに、魔導書はありますし、手伝ってくれると言うなら、何冊でも貸しますよ」

「ありがとうね。じゃ、早速行きましょう。日なんてあっという間に昇っちゃうからね」

「『ありがとう』を言うのは、こちらの方ですよ。本当にありがとうございます」

「別にいいのよ? 館を探すのを手伝うだけで、魔導書を読めるならね」

 

 アリスって優しい人なんだね。まぁ、どこに紅魔館があるかは知ってるけど、どうやって行くかが分からないから、幻想郷に住んでいるアリスがいればすぐに見つかりそうだね。

 

「そう言えば、アリス。その人形はなんなの?」

「あぁ、この子達は私が作った人形よ。私の指示に従って動いてくれるのよ」

「へぇ、それも魔法なの?」

「えぇ、そうよ。少し操作が難しいけど、もしかしたら、貴方達でも出来るかもしれないわね」

「おぉ! アリス、後でやり方教えて!」

「えぇ、いいわよ」

 

 そんな和やかな会話をしながら、森を抜けた。

 

「え? 何これ? ......あ、もう来たの?」

「......思ったよりも早かったですね」

「あぁ、これが昨日言ってたやつね。それにしても、酷いわね......」

 

 森を抜けると、空には軽く百を超える吸血鬼達が飛んでいた。その吸血鬼達は木を焼き払い、人間達を襲い、吸血鬼以外の妖怪達と殺し合いをしていた。森が燃えていき、吸血鬼が人間を襲う、その光景はまさに地獄絵図だ。

 同じ吸血鬼だから襲われないだろうけど、この戦場に巻き込まれたくはない。

 

「私もです......アリスさん、手を繋いで下さい。見つかったら、攻撃されると思うので」

「あぁ、貴方の能力ね。それにしても、面白い能力ね」

「......結構気楽なんですね」

「まぁ、どうせ明日には終わっていると思うからね」

「え? どうして? ここが侵略されて終わってしまうってこと? それとも、吸血鬼が全滅するってこと?」

「吸血鬼が全滅する方ね。ここには、昼と夜の境界を操れるやつがいるのよ。だから、貴方達も急いだ方がいいわよ? 」

「境界? どういうことか分からないけど、凄いやつがいるのね」

 

 境界を操る......『八雲紫』か。出来れば、見つからずに紅魔館まで行きたいなぁ。

 

「えぇ、見つかったら終わりと思った方がいいわね。さ、そんなことは置いといて、早く行くわよ。この戦況を見る限り、吸血鬼達はまだ来てばっかりのはず。今ならまだ間に合うはずよ」

「はい、分かりました。さぁ、フランも手を繋いで下さい」

「あ、うん。......そう言えば、お姉様達、大丈夫なのかな?」

 

 あ......お姉様のことだから、私達を探しているかもしれないのか......。大丈夫なのかな? 私達を探して、無理してないかな? ......今考えても仕方ないし、今は紅魔館に戻ることだけ考えるか......。

 

「それと、お姉様、移動魔法は使えないの?」

「あ、言い忘れてましたが、使えませんでした。おそらく、ここに来たことにより、紅魔館へ繋げれるはずの道が途切れてしまったのでしょう」

「ふーん、よく分からないけど、分かった」

「どっちかはっきりしないわねぇ。あ、そう言えば、何処に行くか決めてないわ」

「アリスさん、移動しながら決めましょう」

「あ、ごめんなさいね。......あ、空を飛んでもいいかしら?そっちの方が、探しやすいと思うし」

「えぇ、勿論いいですよ」

 

 紅魔館は結構目立つ色をしてるし、空を飛んだらすぐに見つかるかな?

 

「じゃ、飛びましょうか。あ、流れ弾には気を付けてね」

「危ない時は、壁を作るので、大丈夫ですよ」

「防御魔法? へぇ、結構器用なことも出来るのね」

 

 そう会話しながら、私達は空へと飛びたった────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──少し時間は遡り 幻想郷

 

「レナー! フラーン! 何処にいるのー!」

「お嬢様、どうやら、この辺りには妹様達はいないようです」

「そう......分かったわ。次の場所に行きましょう」

 

 日がもう少しで沈む頃のことだった。

 私はレナとフランを探すために、日傘を片手にこの幻想郷を手当り次第探し回っていた。

 

「あらあら、そんなに急いでどうしたの? 吸血鬼のお嬢様」

「え!? いつの間に!?」

「お、お嬢様! 後ろに下がってください!」

 

 声に驚き、後ろを振り返るとそこには、紫にフリルのついたドレスを着て、リボンの巻かれた帽子をかぶり、大きな日傘と扇子を持った女性がいた。

 

「今来たのよ。それと、そんなに警戒しなくてもいいわよ」

「いきなり現れてそう言われても、信用されないと思うけど?」

「まぁ、それもそうね」

「で? 貴女は私達に一体何の用なの?」

「あぁ、そうだったわ。吸血鬼達がここを侵略するとか言う噂を聞いたけど、何か知ってる?」

 

 ......どうしてこの妖怪は知っているのかしら? 裏切り者でも出たとか? いや、それなら幻想郷にいた奴しか出来ないか。外に協力者でもいるか、この妖怪自身が外に自由に出入り出来るからとかの方が確率は高いか。

 

「......えぇ、知ってるわよ。でも、同じ種族を売るわけにはいかないし、何も教えないわよ?」

「あら、残念ですわ。......そう言えば、赤い髪と翼を持つ子と金髪で奇妙な翼を持っている子を見たけど、貴女の知り合いなのかしらね?」

「なっ!? どうして知ってるの!?」

「あ、本当に知り合いなのね。おそらく......二人とも貴女の妹ってところかしら? あぁ、安心しなさい。今は安全だから」

「『今は』ってどういうことよ!? あの子達に手を出したら、ただじゃおかないわよ!」

「手を出すか出さないかは貴女次第ですわ。それと、私を殺しても、あの二人が死ぬのは変わらないわよ? ま、貴女に私は殺せないでしょうけど」

 

 こいつ......レナとフランを人質に取っているからって見下してやがって......。あの子達が無事に帰ってきたら、絶対に後で殺してやる。

 

「......私次第ってどういうこと?」

「あら、意外と物分りがいいのね。簡単なことよ。貴女......『紅い悪魔』に仲間を裏切って欲しい。それだけですわ。流石に、あの数は疲れるからね」

「私に......仲間を売れって言うの?」

「えぇ、その通りよ。貴女達にはこっち側について欲しいのよ。まぁ、元々貴方達が参加する気はないって知ってるけど、味方に付けた方が楽だからねぇ」

 

 ......裏切っても、こいつが約束を守るとは限らない。でも、今約束をしないと、レナとフランが殺されるかもしれない。......レナとフランの為なら、他の吸血鬼を敵に回してもいいわ。あの子達さえ帰ってきてくれれば......。

 

「......裏切ったら、妹達の安全を保証すること。ついでに、ここに住むことも許可しなさい」

「貴女はそんなことを言える立場じゃないんだけど......まぁ、いいわ。安全も保証するし、ここに住んでも文句は言わないわ。......まぁ、元々、貴女がここに住むことを誰も文句は言わないわよ」

「え? 何を言ってるのかしら? ここに攻めてくる妖怪と私は同じ種族なんだし、絶対誰かが文句を言うに決まってるじゃない」

「幻想郷は全てを受け入れるのよ。それはそれは残酷なことですわ」

「へぇ、それは初めて聞いたわね。......で、裏切るって言っても、何をすればいいの? 他の吸血鬼を全員殺すなんて、流石に出来ないわよ?」

 

 おそらく、弱い吸血鬼なら、50体くらいなら余裕で殺せるだろう。しかし、私と同じくらい力を持つやつもいるにいる。そういう奴を相手にすると、流石に連戦はキツくなる。

 

「いえいえ、簡単なことですわ。貴女の館に来た吸血鬼は全て殺すだけ。勿論、貴女と貴女の妹は例外でいいわ。それと、このことは他の吸血鬼には誰も教えないで、この戦争に手を出さないこと。......それだけですわ」

「......え? 私はそれでいいけど......本当にそれだけでいいの? それだけなら、同族を殺す以外、貴方達に得があるとは思えないけど?」

「本当にそうかしらねぇ。まぁ、言うつもりはありませんが」

「でしょうね。......一応、聞くけど、レナとフランは無事で返してくれるわよね?」

「えぇ、勿論ですわ。と言うよりも、勝手に無事に帰ってくるでしょう」

 

 ......もしかして、今は捕まってるとかじゃないってこと? それなら、約束しなくてもよかったんじゃ......でも、もう約束したから、破れないのか。......もしかしてこいつ、それを知ってて?

 

「あらあら、そんな顔をしてどうかしたのかしら? まぁ、それはいいわ。さぁ、貴方達は館に戻ってていいわよ。貴女の妹達は私が見守っていてあげるから」

「......約束は絶対に守りなさいよ」

「破れないことは貴女が一番知っているでしょ? ......では、そろそろ来る頃なので、私は行きますわ」

「えぇ。......レナとフランの安全を守りなさいよ。守らなかったら、許さないから」

 

 私の言葉を無視して、妖怪は空間に裂け目を作り、何処かへと消えてしまった。

 

「......咲夜、戻りましょう」

「いいんですか? 正直言いますと、あの妖怪は信用出来ないと思いますが......」

「いいのよ。私との契約は決して破れないわ。......勿論、私もね。だから、紅魔館に戻ってもいいのよ。と言うよりは、戻らないと駄目なのよ」

「......分かりました」

 

 そして、私達は日が沈む前に、紅魔館へと戻っていった────




次回は金曜日の予定。と、久しぶりな気がしないでもない番外編をバレンタインデーの日にあげるつもりです。


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2、「吸血鬼の侵略 裏切り者の吸血鬼」

今回は、大変短くなっております。すいません()
次回からは、また戻す予定です()


 side Renata Scarlet

 

 ──月が綺麗に見える夜 幻想郷(上空)

 

「うわぁ......酷い光景ですね......気分が悪くなってきました......」

「お姉様、さっきからそれしか言ってないよ? それに、顔もどんどん真っ青になってきてるし......大丈夫?」

「......貴女、本当に妖怪なの?」

 

 正直に言おう。グロイのは苦手だ。少量の血程度なら毎日飲んでるし、もう慣れたけど......それでも、バラバラ死体みたいなグロ過ぎるモノを見ると、気絶しそうになる。

 

「だ。大丈夫ですし、妖怪ですよ......うわっ、あ、フラン、私は目を瞑っているので、手を引っ張って連れて行ってくれませんか?」

「え、無理。もし流れ弾が来たらどうするの? お姉様避けれなくなるよ? まぁ、もし来ても、私が庇ってあげるけど」

「......フランが傷付く可能性があるなら、やめます。でも、出来る限りみたくはないです......」

「......貴女、結構ちょろいのね。いや、妹に弱いだけかしら?」

 

 え? ......まぁ、フランに弱いのは認めるけど、ちょろいのは流石に認めないよ? 流石に、詐欺とかには引っかからない......はず。

 

「ふむ、ここでもないみたいね。次は湖の方にでも行ってみましょうか」

 

 まだ日が昇るまで結構時間はあるけど、それでも時間をかけすぎている気がする。お姉様、大丈夫なのかなぁ......。

 お姉様って心配症だから、私とフランが急に居なくなったら、驚きすぎて気絶とかしそう。それか、無茶とか言って私達を探しに行きそうだなぁ。まぁ、パチュリーとか咲夜が居るから大丈夫かな。

 

「......ねぇ、お姉様。誰かに見られてる気がしない? 森を出た時から、ずっと視線が感じるの」

「え? ......そうですか? 周りに私達の方を見ている人はいませんし、魔法で見えなくなってるっていう人もいないみたいですけど......」

 

 魔法で透明になっても、魔法使いには魔力で分かる。私も魔法使いだし、よくフランと隠れんぼしているから、この手の魔法はすぐに察知出来るはずだ。だから、目に見えない魔法を使っているやつが近くにいるなら、すぐに分かるはず。そんなやつの気配は感じないし、多分、フランの気のせいなのかな。

 

「んー......ならいっか。あ、お姉様、湖が見えてきたよ!」

「あ、本当ですね」

「あれが霧の湖よ。いつも霧がかかっているからそう言われているわ。後はここと妖怪の山くらいだから、こっちから先に探しましょう」

「へー......『妖怪の山』ってどういうところ?」

「妖怪の山は主に天狗達が住んでいる場所よ。出来れば、入らない方がいいわ」

「? 分かったー」

 

 こうして、私達は霧の湖周辺を探し始めた。

 前世の記憶では、この湖の何処かに必ずあるはずだけど......霧が濃いせいか、なかなか見つからないなぁ......。

 

「結構広いんだね〜」

「そうね。......あら? あの赤い建物かしら? 貴方達の館って」

 

 探してから、しばらくした後、アリスが指差して言った。そこには、霧に隠れて見えにくいが、確かに赤い建物があった。

 

「あ、あった! あったよ、お姉様!」

「え、あ、本当ですね。良かったです......」

「あれが貴方達の館で間違いないみたいね。さ、行きましょうか」

「良かった〜。もう見つからないかと思ってたよ〜」

「......本当に見つかって良かったですね」

 

 こうして、私達は紅魔館へと向かった──

 

 

 

 ──紅魔館(門前)

 

「あれ? 美鈴居ないね」

「おそらくですが、館の中に居ると思いますよ。元々手を出さない予定でしたし、美鈴が間違って攻撃される可能性もありますしね」

「あぁ、なるほど」

「......ねぇ、血の臭いがしない? しかも、結構な量の」

「......え?」

 

 その言葉を聞いた時、頭の中に最悪な考えが浮かんだ。

 そして、その考えに辿り着いた途端、私はいつの間にか、紅魔館の中に向かって走っていた。

 

「あ、ちょ、ちょっと!」

「あ、お姉様ー! 待ってー!」

 

 アリスとフランの声を無視して、私は紅魔館の中に入って行った────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(館内 出入り口前)

 

 あの妖怪に言われた通り、この館に来た他の吸血鬼達を殺している時のことだった。

 まさか、これほど多いとは思っていなかった。あの妖怪、何かしたのか?

 

「......はぁ、ここまで多いとはね。全く、どうしてかしら?」

「ぐはっ! くっ......き、貴様! 裏切ったのか!?」

 

 今、目の前には死にかけの吸血鬼が一人いる。そして、周りには、二十人くらいのの吸血鬼達の死体が転がっている。

 

「私は元から仲間なんて思ってないわよ。私の仲間はこの館の住人だけ」

 

 ごめんなさいね。貴方達、同じ種族よりも、この館の住人......レナとフランの方が大切なのよ。

 

「覚えてろよ! 俺を倒したところで、他の仲間達が必ず、貴様を殺すだろう!」

「あっそ。話はそれだけ? じゃ、先に死んでいった他の仲間達に伝言でも頼もうかしら? 『私達の為に、犠牲になってくれてありがとう』ってね。まぁ、貴方達のことなんてすぐ忘れるけど」

「き、貴様ァァァ! 必ず、必ずなか──」

 

 他の吸血鬼なんてどうでもいい。私はレナとフラン、パチェに美鈴に咲夜......紅魔館のみんなが居れば、後はどうでもいい。

 

「あら、最後まで聞いた方が良かったかしら? まぁ、どうでもいいわ。......私はあの娘達さえ助かれば......」

 

 その時、門を開く音が聞こえた。

 また来たのかしら? まぁ、いいわ。不意打ちで槍を投げれば、すぐに死ぬでしょう。

 そう思い、私はグングニルを構えた────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(館内 出入り口前)

 

「はぁっ!」

「え!? うわっ!?」

 

 中に入ると、声と同時に、槍が飛んできた。それを、私は間一髪で回避する。

 あ、危なかった......。って、あれ? 今のはお姉様のグングニルじゃ......?

 

「え!? れ、レナ!? レナなの!? よ、良かったわ......私、心配で心配で......もう、会えないかとまで思ったわ! ......でも、また会えて良かった。本当に、生きてて良かったわ......」

 

 お姉様が半分泣きながら、私に飛び付いて来た。

 

「......お姉様、私も──」

「あ! お姉様、ずるい! レミリアお姉様に抱き締めてもらってるなんて!」

「フラン! 貴女も無事だったのね! 良かったわ!」

 

 そう言って、次はフランに飛び付いた。

 ......まぁ、フランだしいっか。

 

「え、あ......うん。私もレミリアお姉様にまた会えて嬉しいよ」

「あ、あの、お姉様。この死体は......?」

「......あぁ、気にしなくていいわよ。昔から私が嫌いで、私の命を狙ってた連中らしいわ」

「へぇ......え、命を狙われたんですか!? お姉様、怪我はありませんよね!? 他にも命を狙ってるやつはいませんか? いたら私がすぐに殺しに行きます。私の能力さえあれば、誰にも気付かれることなく、暗殺出来ますから!」

「レミリアお姉様、私も狙ってるやつを殺しに行くわよ。私の能力なんて、一発で殺せるからね。だから、狙ってるやつは全員教えて。全員殺しに行くから」

「......頼もしいけど、物騒すぎるわね。それに、二人とも、殺気が強過ぎるわよ。......今は大丈夫よ。もう全員殺したから。貴方達は何も心配することはないわよ」

 

 ......お姉様が大丈夫って言うならいいのかな......。

 

「......もういいかしら?」

「あら? レナ、フラン。この方は?」

「あ、この人はアリスさん。私達をここまで案内してた人です」

「そう......アリス、妹達をここまで案内してくれて、ありがとうね。よければ、今夜は泊まっていくといいわ。外はまだ戦っているでしょうし」

「ありがとう。でも、遠慮しとくわ。ここまで案内したのは、魔導書を読ませてもらう為だけであって、泊まりに来たわけじゃないから。これ以上何かを貰ったり、何かをしてもらったりするのは、対価としては、多すぎると思うから」

「そ、そうなのね。分かったわ」

「あ、レミリアお姉様、美鈴やパチュリー達は?」

 

 あ、そう言えば、誰も見かけてない。妖精メイドも辺りには居ないみたいだし、どうしたんだろう?

 

「あぁ、今は寝てるわよ。夜中だしねぇ。今起きてるのは、私とパチェくらいよ」

「あ、なるほど、そういうことね」

「さぁ、レナ、フラン。アリスを図書館に連れて行ってあげなさい」

「えー! もっとレミリアお姉様と一緒に居たい!」

「フラン、我が儘言わないの。明日から、ずっと一緒に居れるから、安心しなさい。私はまだ、仕事があるから。寝るわけにはいかないのよ」

「むー......分かった。でも、絶対に明日はずっと一緒に居てよね。こっちに来たんだし、これからはずっとみんなと居たいから......」

「フラン......えぇ、勿論よ。さ、早く行きなさい。......あ、レナは少し待ってて」

 

 え? 私? ......真剣な顔になってるし、何かあるのかな?

 

「お姉様だけずるい気がする......ま、いいや。じゃ、アリス、行こー」

「え、えぇ。って、痛い痛い。強く引っ張り過ぎよ!」

「あ、ごめんね」

 

 そして、フランとアリスが図書館に行って、見えなくなった時に、お姉様が口を開いた。

 

「レナ、何も聞かないで、フランを図書館から出さないでくれない? 勿論、貴方も出ないで欲しいわ。私が貴方達に会いに行くまでは、絶対に貴方達、二人は図書館を出ないで」

「......分かりました。お姉様、何があったかは知りませんが、気を付けて下さい」

「ふふ、ありがとうね。......レナ、魔法を使って私の様子を見ようとしても駄目だからね。絶対に」

 

 お姉様がいつもフランがするような悪魔みたいな笑みを浮かべてそう言った。いやまぁ、悪魔なんだけど。やっぱり、姉妹って似るんだなぁ......。

 

「あ、バレてました? まぁ、バレては仕方ないので、やめときます。お姉様、死にそうになったら、絶対に呼んで下さいね」

「あら? 私が死ぬわけないでしょ? ......じゃあ、また明日ね。フランを止めるの頑張ってね」

「えぇ、また明日です。フランは......まぁ、なんとかして見せます」

 

 こうして、私は図書館へと向かった────




次回は日曜日の予定。
レミリアの出番の方が多いと思って、フランとオリキャラが主人公の小説を書いていたけど、フランの出番が思ったよりも多かったと言う()
まぁ、作ったものを消すつもりはないので、この小説が終わる頃に投稿するかもです


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3、「次女の災難 賢者の訪問」

少し遅れて投稿()
すいませんm(_ _)m

3章が短くなりそうな予感しかしない()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(図書館)

 

 お姉様との話を終え、私は約束を守るためにも、フランに会いに行くためにも図書館に来た。

 

「あ、やっと来た。お姉様、何の話をしてたの?」

 

「ガチャ」と音を立てて扉を開くと、本を読んでいたフランが走ってきて、こう言った。

 

「さぁ? 何でしょうね。それよりも、アリスさんは?」

「......まぁ、いいや。アリスはパチュリーと話してるよ。魔導書の貸し出しについては私が許可したから、今はどれにするか二人で決めてるんだって」

「へ〜......フランは何をしてたのですか?」

「ん、私は本読んでただけだよ。なんか大人が子供になるっていう推理もののやつ」

 

 ......あれ? どこかで聞いたことがある気が......いや、気のせいか。

 

「......一度、読んでみたいので、後で貸してくれませんか?」

「いいよー。あ、でも、まだ読み始めたばっかだから、後でね」

「はい、分かりました」

「あ、レナ、ちょっと来てくれない?」

「あ、はい! フランまた後で話しましょう」

「うん、また後でね」

 

 パチュリーにそう言われ、私はパチュリーの方へと行った。

 

「レナ、ちょっと教えてほしいことがあるんだけど」

「はい、何でしょうか?」

「貴方が使っている魔法ってどの魔導書に載ってたかしら?」

「私が主に使う魔法が載っているのは......黒い背表紙に青白い月が描いてある本です。魔力が他と比べて、強めなので、すぐに分かると思いますよ。それにしても、どうしてその本を?」

「アリスに貸すためよ。貴方がよく使う魔法って、便利なものが多いでしょ?」

「まぁ、移動魔法とか......移動魔法とかよく使いますしね。あ、そう言えば、移動魔法が使えなくなってたんでした。ちょっとフランの部屋に行くので、フランを頼みますね」

「移動魔法しか思い付かなかったのね。っていうことは置いといて、私一人じゃあの娘が暴れた時に対応出来ないわよ? それに、フランの部屋に行っただけで治るの?」

 

 あ、まぁ、確かに。......でも、数分程度だし、大丈夫だよね。

 

「......魔法の方は治るはずですよ。おそらく、隔離されていたこの世界に来たのが問題でしょう。私の移動魔法は見たことがある場所に飛ばされるので、本来は元の世界に飛ばされるはずなんでしょうが、私一人の力では、元の世界からこちらに来ることは出来ても、こちらから元の世界に戻ることは出来ないんだと思います」

「ふむ......なるほどね。あ、でも、今じゃなくてもいいでしょ? 今はここに居なさい」

「ま、まぁ、それもそうですけど......今行かないと、忘れそうなので」

「はぁ......仕方ないわね。フラン! 貴方の姉が、貴方に秘密で何処かに行こうとしてるわよ!」

「あ、ちょ──」

「お姉様ー! 何処に行くのー?」

 

 そう言って、フランが後ろから飛びついて来た。

 パチュリー......そんなに嫌なのか......。

 

「べ、別に、秘密で行こうとなんてしてませんから、離してくれませんか?」

「ん、無理ー。お姉様、何処に行こうとしてたの?」

「ふ、フランの部屋ですよ。移動魔法を再び使えるようにするためにです」

「へー、どうして私を置いていこうとしたの?」

「え、そ、それは......まぁ、特に理由はありませんよ?」

「どうして疑問文なのかなぁ? おかしいねぇ?」

「ギャーッ! ちょ、誰か助けてください!」

 

 フランがそう言いながら、骨が折れそうなくらいの力で抱き締めてきた。

 ......お姉様、フランを外に出しても、怒らないでください......。あ、でも、お姉様に見つからなかったらいいのかな?

 

「......ねぇ、いつもあんな感じなの? あの姉妹は」

「えぇ、いつもあんな感じよ。あれでも、仲は良いのよ。おかしいと思わない?」

「仲が良くていいじゃない。ま、私に姉妹はいないから分からないだけで、姉妹ってあんなものなのかもしれないけどね」

「確かにそうかもね。私もいないからよく分からないわ」

 

 ちょっと、話してないで止めてよ! フランを止めて! と言うか止めて下さい! お願いします! 骨が折れそうです!

 

「ふ、フラン! 骨が折れそうです! 離してください! この強さは人間なら折れるくらいの力ですよ!?」

「大丈夫だよ。人間なら抱き締めた瞬間に折れてるだろうし、吸血鬼だから、よっぽど強くしない限り折れないと思うから」

「人間で折れるくらいの力で抱き締めたのですか!?」

「うん、そうだよ。私、力加減とかお姉様達ほど出来ないから......」

「......そうですか。......今からでも遅くありません。外の騒ぎが落ち着いたら、力加減の仕方を練習しましょう」

「......うん! お姉様、ありがとう!」

「────ッ!?」

 

 そう言って、フランが私を強く抱き締めた。その瞬間、「ボキッ!」と何かが砕けるような鈍い音がした。そして、背中に鋭い痛みが広がった......。

 私は声にもならない悲痛な叫びを上げた。

 

「うっ、うぅ......ううぅー......」

「お、お姉様!? 大丈夫!?」

「あー......背骨をやっちゃったかもしれないわね。多分、下半身は動かなくなってるかもね。安静にさせときなさい。吸血鬼だから、すぐに治るはずよ。まぁ、複雑骨折なら、すぐには治らないかもしれないけど」

 

──骨は出てないから粉砕骨折のような気も......。

とは思ったが、それを声にして出すほど元気ではなかった。

 

「え!? ......お、お姉様、ごめんなさい......」

「うぅぅぅ......だ、だい、じょうぶ......です」

 

 フランが半分泣きながらそう言った。

 私はフランに心配されないように、笑いながら答えようとした。

 

「お姉様! 顔が笑えてないよ! 無理してるの分かっちゃうよ!? ......本当にごめんなさい。わ、私のせいで......」

「だ、だから、大丈夫です......って......フラン、何も心配することは......うぅぅぅ......」

「お姉様!」

「フラン、安静にさせなさい。レナももう喋らないようにしなさい。喋ると余計に、身体に負担がかかるみたいだから」

「う、うん......」

 

 私はコクリと頷いた。

 痛みは引いてきたし、もう治ってきたみたいで良かった。本当、吸血鬼の身体って凄いなぁ。

 それにしても、骨が折れるなんて......。今まで、爪がくい込んで血が出るくらいならあったけど、骨が折れるなんて初めてかも......。んー......もっと身体を鍛えた方がいいのかな? 吸血鬼って元々身体能力高いから、今まで何もやってなかったけど。

 

「それにしても、凄いわね。姉のレナよりも、妹のフランの方が力が強いのって」

「まぁ、歳は三歳しか変わらないからね。それに、フランは三姉妹の中でも一番力が強いし、何よりも、加減が出来ないから」

「うん......でも、少しくらいなら出来るよ。お姉様に貰ったぬいぐるみ、まだ壊してないし......」

「ぬいぐるみ? そんなの貰ってたの?」

 

 ぬいぐるみ......懐かしいなぁ。クリスマスの時に、フランにプレゼントしたやつだったっけ......。

 

「あ、パチュリー達は知らなかったね。まだお母様達が生きてた時に貰ったの。私の能力でも力でも壊れにくいぬいぐるみなの。今は私の部屋に置いてるよ」

「へぇー......凄いのを作ってたのねぇ」

「......能力? 貴方の能力ってどんな能力なの? あ、先に言うわ。私は『主に魔法を扱う程度の能力』よ」

「あ、私の能力は、『ありとあらゆるものを破壊する程度の能力』だよ」

「へぇ、凄い能力なのね。それに、それを壊れにくくするレナの能力も凄いわね。吸血鬼って凄い能力を持っているものなのかしら?」

「んー......どうなんだろ? レミリアお姉様は自分は『運命を操る程度の能力』を持ってるって言ってるけど......正直、よく分からない能力だし」

 

 まぁ、確かにお姉様は分かりにくい能力だけど......本当に持ってるんだからね? フランはあんまり信じてないみたいだけど......。

 

「ふーん......そうなのね」

「......ふぅ、もう大丈夫みたいです。心配をかけましたね、フラン」

 

 そう言って、私は起き上がった。

 もう痛みはほとんどない。本当に凄いね、吸血鬼の身体って。背骨が折れても、すぐに戻っちゃうなんて。

 

「あ、本当に良かった......。お姉様、ごめんなさい。もうしないから......許して......」

「許すも何も、最初から怒ってないから大丈夫ですよ。フランはわざとやったのではないのでしょう?」

「う、うん......そうだけど......。でも、お姉様を傷付けたのは本当のことだし......」

「......え? そうでしたっけ? もう治ったので、憶えていませんね」

「お姉様......お姉様!」

 

 そう言って、フランが私に抱きついてきた。さっきよりも弱い力で、だけど、力強く抱き締めてきた。

 

「......やれば出来るじゃないですか。まぁ、それでも、人間の骨は折れそうですけどね」

「お姉様......うっ、ううう......本当に、グスッ......大好き......」

 

 フランが泣きながら、さらに強い力で抱き締めてきた。

 ......さっきよりは弱いし、大丈夫だよね?

 

「フラン、私も大好きですよ。......まぁ、お姉様も大好きですし、この館の住人は全員好きなんですけどね」

「......グスッ、お姉様、一言余計だよ。まぁ、いいけど」

 

「本当、おかしな姉妹ね。さっき骨を折られたっていうのに、もう仲直りしちゃって。まぁ、喧嘩とかはしてないし、誤って折ったわけだから、当たり前なのかしら?」

「いや、当たり前ではないと思うけど......まぁ、いいわ。部外者の私が口を出すようなことじゃないしね」

「......それを言ったら、私も部外者なんだけど。......今はあの二人だけにしてあげましょう。確か、向こうの方に、まだ魔導書があったはずよ」

「分かったわ。じゃ、貴方達、また後でね」

 

 そう言って、パチュリーとアリスは魔導書を探しに、別の場所へと行ってしまった。

 

「はい......フラン、そろそろ離してくれませんか? 少し苦しいので」

「あ、ごめんなさい」

 

 そう言って、フランが離した。

 それにしても、どうしてどっかに行っちゃったんだろう? まぁ、何でもいっか。

 

「フラン、お姉様が来るまで、一緒に本でも読んどきます?」

「うん! あ、さっき言ってた本読もう!」

「......ふふ、そうですね」

「え?どうして笑ってるの?」

「フランが嬉しそうなので、私も嬉しくなっただけですよ」

「ふーん......まぁ、私もお姉様やレミリアお姉様が嬉しそうにしてる時は、私も嬉しいからねぇ。さ、読もっか」

「はい、そうですね」

 

 こうして、私とフランはお姉様が来るまで、本を読むことにした────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(門前)

 

「ふぁ......もう終わりかしら?」

 

 帰ってきてから夜明け近くの今までずっと、同族を殺している。気分が悪くなってきたけど、レナとフランのためと思えば、少しはマシになる。

 

「終わりでいいと思いますわよ? 貴方は充分頑張りましたから」

「......貴方、背後に現れるのやめてくれない? 心臓に悪いわ」

 

 そう言って、胡散臭い妖怪が後ろに現れた。

 

「あら、ごめんあそばせ。少しお話がありまして来ました」

「ようやくね。どんな話かしら? レナとフランは帰ってきたし、同族殺しとかはもうごめんだからね?」

「えぇ、もう充分ですわ。四十も倒してくれるなんて、想定外でした。それよりも、貴方にはまたお願いがあるのです」

 

 想定外......ね。本当にそうかしら? 私には、全てこいつの計算通りと思えるんだけど......。

 

「何かしら?」

「簡単なことですから、そう身構えなくてもいいですわよ?」

「貴方が言う簡単なことって、信用出来ないんだけど」

「あら、失礼だわ。今回は本当に簡単よ。ただ、この館から出ないで欲しいのよ。明日、貴方達以外の吸血鬼は死ぬでしょう。まぁ、地底とかに逃げるやつもいるかもしれないんだけど。幾つかの例外は置いといて、ほとんどは死ぬと思いますわ」

「あら、そんなに簡単に殺せるとでも?」

「えぇ、思ってますわ。明日、昼と夜が逆転します。そしたら、日の光が弱点の吸血鬼はどうなると思いますか?」

 

 昼と夜が逆転する? 一体どういうこと? 私の能力でもそんなこと出来ないわよ? なんたって、そんなことが起きる確率なんて無いんだから......。

 

「......本当にそんなことが起きるなら、外にいる吸血鬼は全滅するでしょうね。それにしても、どうしてそんなことを私に教えるの? そんなことが出来るなら、言わない方が私達を殺せると思うけど?」

「いえいえ、貴方達には、今後とも協力してほしいのですわ。だから、生かしているのですよ」

「へぇ、言うじゃない。まぁ、今敵対しても意味無いから、何も言わないとしましょうか」

「その方が、こちらとしても助かりますわ。では、また明日来ますわ。それでは、ご機嫌よう」

 

 そう言って、胡散臭い妖怪は空間に裂け目を作り、何処かへと消えてしまった。

 

「えぇ、また明日......まぁ、出来れば、会いたくないんだけどね。さて、会いに行かないとね」

 

 そう思い、私は図書館へと向かった──

 

 

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「レナー、フランー居るかしらー?」

「あ、レミリアお姉様! やっと来たー!」

「ふぁ、あ、お姉様......」

 

 図書館に来た時、レナとフランが一緒に本を読んでいた。フランはまだまだ元気そうだけど、レナはかなり眠そうだった。まぁもう日が昇るしねぇ。

 

「待たせてごめんなさいね。明日は客人が来ることになったけど、それまではずっと一緒に居れるわよ」

「やったー! お姉様、レミリアお姉様とずっと一緒に居れるよ!」

「あ、はい。良かったで、ふぁ〜......お姉様、フラン。もう眠たいので、部屋に行きましょう」

「あ、お姉様、大丈夫? ふらふらしてるけど......」

「よっぽど眠たいのね。さ、早くフランの部屋に行きましょう。......そう言えば、パチュリーとアリスって人は?」

「多分、まだ魔導書選んでると思うよ」

 

 まぁ、朝なら一人でも帰れるだろうから、別にいいか。

 

「そう、分かったわ。それじゃ、行きましょうか」

「うん!」

「ふぁ〜、はい......」

 

 こうして、私達はフランの部屋へと向かった──

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「着いたねー」

「......お姉様、フラン。すいませんが、眠たすぎるので......私をベッドに運んで......パタッ」

 

 部屋に着いた途端、レナがそう言って倒れた。

 いや、それほど眠たかったの!? 普通倒れるほど眠たくなんてならない思うんだけど! ......はぁ、仕方ないわね。

 

「フラン、レナを運ぶのを手伝って」

「うん、分かった」

 

 フランの協力もあって、無事、レナをベッドまで連れて来ることが出来た。

 ......そして、レナの背中に触れた時に、赤い何かが手についた。これは......血?

 

「じゃ、私達も寝ましょうか。......フラン、レナの服は黒いから分かりにくかったんだけど、この娘、背中に血が付いてるけど、何か知らない?」

「え、あ......もしかして、折れた時に骨が背中に当たって......あ、わ、私は何も知らないよ?」

「......怒らないから、正直に言いなさい」

「......私が、お姉様を抱き締めた時に、骨を折っちゃったの......」

 

 吸血鬼でも、抱き締めただけで骨って折れるんだ......。いや、それよりも、レナのことだし、もう許してるよね。......フランに嫌なことを思い出させたわね。

 

「......嫌なことを思い出させたかしら? ごめんなさいね」

「ううん。大丈夫だよ。お姉様も許してくれたし......」

「それなら、良かったわ。......さ、もう寝ましょうか」

「うん、おやすみなさい」

「えぇ、おやすみ」

 

 そう言って、私とフランはレナを抱き枕のように抱き締めて、目を瞑った────




次回は金曜日。最近、忙しくて、予定通りに投稿出来なくてすいません()


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4、「一時の休息 動き始めようとする『異変』」

少し遅れたけど、無事投稿出来た()

それと、後2話で3章が終わりそう()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「おはよう......あ、お姉様、フラン。......フラン、起きてください」

 

 起きると二人に抱きしめられて動けなかった。お姉様はそこまで強く抱き締めてないからすぐに抜け出せるだろうけど、今はフランが居る。フランの力が強過ぎて抜け出せないのだ。

 

「んー......あ、お姉様。おはよう」

「おはようございます。フラン、力が強過ぎるのですが、離してくれませんか?」

「無理。絶対に離さないよ。......ふぁ〜、眠たい」

「寝てもいいのですが、その前に、離してください。少し痛いですので」

「え〜、いいじゃん、少しくらいなら。それとも、お姉様はわたしのこと嫌いなの? だから、離してほしいの?」

 

 フランが悲しそうな顔をして、そう言った。

 

「い、いえ、嫌いじゃないのですが......むしろ、大好きですけど......」

「なら、別にいいよね?」

「......はい、いいです......」

 

 駄目だ。フランには勝てない。と言うか、逆らえなくなってる......。

 

「よかった。分かってくれて。お姉様、大好きだよ!」

 

 そう言って、フランが私を強く抱き締めた。

 流石に、骨が折れるほど強くは抱き締めてないけど、それでも結構痛いなぁ......。

 

「ん、おは......あ、フラン! レナを取らないでよ!」

 

 フランが私を強く抱き締めた時に、同じく私を抱き締めていたお姉様の手から私が離れたのが原因か、お姉様が起きてそう言った。

 

「えー! 別にいいじゃん! お姉様は私のものだしー」

「ちょっと、フラン? 今聞き捨てならない言葉が聞こえたんですが」

「そうよ! 私のものでしょ!?」

「お姉様、便乗しなくてもいいんですよ? その言葉、嘘ですよね? と言うか、嘘と言ってください」

「お姉様、ちょっとうるさい」

「そうね。レナ、少し黙ってなさい。フラン、ここは勝った方がレナの所有権を得るってことにしましょう」

「いいよ。じゃ、早速だけど......始めましょ!」

 

 そう言って、お姉様とフランが宙に浮き、弾幕ごっこを始めた。

 ......一つだけ言わせて欲しい。

 

「......解せ──」

「レナ! 黙ってなさいって、言ったでしょ!」

「レミリアお姉様、よそ見してたら負けちゃうよー?」

「あら? 貴女に負けるほど弱くないわよ」

「へぇー、言うじゃない」

 

 お姉様とフランは会話をしながら、弾幕ごっこを続けた。

 取り敢えず、心の中だけでも言おう。......解せぬ──

 

 

 

 ──数十分後

 

「はぁ、はぁ......はぁ〜、引き分けか〜」

 

 お姉様とフランが勝負をし始めてから十数分後、弾幕が同時に当たったことで、勝負は引き分けに終わった。そして、フランが疲れたのか、勝負が終わるとすぐにベッドにダイブした。一方で、お姉様はまだ元気だったのか、ゆっくりと地面に降り立ち、歩いてフランの傍まで近付いた。

 それにしても、こんなに長い時間よく続けれてたなぁ。

 

「強くなったわね。フラン」

「......まぁ、いいや。強くなったって思ったのは本当のことだろうし」

「あら? どういうことかしら?」

「さぁ? 自分に聞いてみたらいいんじゃない?」

「? えーと......話が全く読めないのですが......」

「お姉様ってやっぱり馬鹿だよね。それと鈍感。......まぁ、別にそれでもいいんだけど。それにしても、勝負しなくてもよかった気がするなぁー」

 

 さらっと悪口をいれるのはやめて欲しいなぁ。まぁ、本気で言ってるわけではないと思うし、別にいいんだけどね。

 

「え? どういうこと?」

「だって、お姉様って二人になれるでしょ? それを別ければ......あ、レミリアお姉様は知らなかったっけ?」

「フラン、それとか言ってはダメですよ。お姉様、簡単に説明すると、私の魔力を全て使って、もう一人の私を作る魔法です」

「へぇ、フランみたいに分身出来るってことね」

 

 厳密に言うと、少し違うと思うのだけど、まぁ、いいか。

 

「 まぁ、はい。フランよりは数は少ないのですけどね。その代わり、精度はフランよりもいいですけど」

「えぇっ! 私の方がいいじゃん! 四人だし、全員攻撃出来るし!」

「......ふふ、そうですね」

「お姉様、頭撫でないでよ! 子供扱いしてるの!?」

 

 あまりにも可愛かったから、つい、フランの頭を撫でてしまった。そしたら、フランが頬を膨らませてそう言った。

 いつも私が寝る前にしてるのになぁ......。まぁ、寝てるから気付いてないだけなんだろうけどね。

 

「いえいえ、フランが可愛かったので、つい」

「むー......まぁ、それならいっか。お姉様、もっと撫でてー」

 

 そう言って、フランがベッドの上に座っている私の膝を枕にして寝転んだ。

 なんだろう......猫みたいで可愛い......。

 

「それならいいんだ。......フラン、私も撫でてあげましょうか?」

「レミリアお姉様、上から目線で言わないで。それを言うなら、『撫でさせていただいてもいいでしょうか?』でしょ?」

「うっ......撫でさせていただいてもいいでしょうか?」

「え......う、うん。いいよ」

 

 あ、言うんだ。っていうか、そんなに撫でたかったんだ......。フランも同じことを思っていたのか、びっくりしてる。

 

「なでなで......フラン、レナ。一つだけ聞きたいことがあるんだけど、いいかしら?」

 

 珍しく、お姉様が真剣な顔をしてそう言った。

 

「はい。勿論、いいですよ」

「ん? いいよ。それにしても、お姉様もレミリアお姉様も撫でるの上手だよね。気持ちよすぎて眠くなってきちゃった」

「そう、ありがとうね。......もしも、もしもの話よ? 私が貴方達を守る為に、自分を犠牲にしたら......どう思う?」

「......お姉様、逆に聞きますが、私がお姉様を守る為に、犠牲になったらどう思いますか?」

「それは......怒るわね......。私よりも、貴方達の方に長生きして欲しいし、貴方達が死ぬのとか見たくないしね」

「まぁ、同じ理由で怒ります」

 

 まぁ、私は怒られても、お姉様とフランが生きるなら、自分が犠牲になる道を選ぶんだけどね。絶対に。

 

「レミリアお姉様、私も貴女が死ぬのは嫌。あ、お姉様が死ぬのも嫌だからね。それと、私はもう子供じゃないから。自分の身は自分で守れるから......お姉様達は心配しないで」

「......そう、分かったわ。それにしても、貴女も大人になったのねぇ......」

「ふふん、そうでしょ?」

「......大人になっても、フランが可愛い妹なのは変わりませんね」

「ふふ、えぇ、そうね。まぁ、私からしたら、レナ、貴女もそうなんだけどね」

「私からしたら、お姉様は優しくて、馬鹿で、鈍感な人かなぁ。レミリアお姉様は頼りがいがあるけど、肝心なところで......ねぇ」

 

 フランが意味ありげな視線をお姉様に向けた。

 確かに、お姉様はなぁ......。

 

「え、ちょっと!? 何よその目は!? レナもそんな目で私を見ないでよ!」

「まぁ、お姉様は......その、なんと言うか......優しいですよね。はい」

「レナ、どうして目を逸らしてるのよ!?」

「レミリアお姉様、諦めた方がいいよ。レミリアお姉様は......レミリアお姉様だから」

「意味が分からないんだけど!?」

「まぁまぁ、その話は置いといて、今日はどうする? お客さんが来るなら、ずっとこの部屋に居るわけにもいかないでしょ?」

 

 まぁ、確かに、ここに居たら、そのお客さんも来にくいだろうしね。まぁ、今は夜で外に吸血鬼が一杯いるから、どっちにせよ来にくいだろうけど。

 

「貴女からその話をしたくせに......まぁ、いいわ。確かに、ずっとここに居るわけにはいかないわねぇ......。そうだわ。図書館に行きましょう」

「え? どうして?」

「特に意味はないわよ。行くのめんどくさいとかじゃないから」

「......お姉様、魔法である程度の場所なら何処にでも行けますよ」

「......図書館に行くわよ。いいわね?」

「は、はい。分かりました」

 

 お姉様、絶対忘れてたよね。まぁ、私もさっきまで忘れてたんだけど。

 

「レミリアお姉様、勿論、お姉様の魔法で行くんだよね?」

「え、えぇ、勿論よ」

「......まぁ、それならいっか。意地張って、『魔法使わずに行こう』って言うかと思ってたよ」

「い、言うわけないでしょ?」

「お姉様、準備が出来たのでもう行けますよ」

 

 お姉様達が話しているうちに、魔法で地面に『抜け道』を作っておいた。ちなみに、この『抜け道』は図書館の床に作っておいた。天井とかでもいいけど、後でお姉様とフランに怒られて、お仕置きされるだろうからね。特に、フランのお仕置きは怖い。もう二度とされたくない......。前にされた吸血は次の日にお姉様に助けてもらうまで、放置されるし......。他のも、たいていの場合、次の日を無駄にしてしまうし......。

 

「貴女はいつも通り早いわね......さ、行きましょうか」

「うん。あ、お姉様。ちょっと『抜け道』の前に立ってみて」

「え? あっはい」

 

 そう言われて、私は『抜け道』の前に立った。

 ......ん? あれ? 嫌な予感がする......。あ、もしかして──

 

「じゃ、お先にどうぞ」

「え、あ、フラ──」

 

 私はフランに後ろから押され、『抜け道』へと落ちていった──

 

 

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「うわっ! ......ふぅ、床に作っておいてよかったです」

「よっ、と。あ、床だったんだね。ごめんね、お姉様。お姉様がいたずらで天井に作ってた時用に、先に仕返ししようと思って押したの」

「仕返しは先にするものではないんですけど......まぁ、いいです。後で、フランには仕返しでもしましょう」

「お姉様? 気のせいかな? 今、私に仕返しするって聞こえたけど?」

「......すいませんでした。何もしません。なので、許してください、お願いします」

「はぁ、レナ、フランに弱味でも握られてるの?」

 

『抜け道』から出てきたお姉様が呆れた表情でそう言った。

 

「いえ......ただ、フランが怖いだけです。まぁ、可愛いからそれでもいいんですけど......」

「レナ、目が死んでるわよ。無理しなくてもいいのよ?」

「いえ、無理してませんよ。えぇ、決して......」

「そうだよねー。お姉様は私が好きだから一緒にいるんだよねー」

 

 フランがそう言って、私を抱きしめてきた。そして──

 

「お姉様、ずっと一緒にいてくれるよね? レミリアお姉様は忙しそうだから、ずっとじゃなくてもいいんだけど、お姉様はずっと一緒にいてね。まぁ、出来るなら、二人ともずっと一緒に居てほしいけど」

 

 ──フランがお姉様に聞こえないくらいの小声でそう言った。

 

「......はい、ずっと一緒にいさせていただきますよ。フラン。お姉様も、この騒動が終われば、きっと......」

「えーと......何か話してるみたいだけど、もういいかしら?」

「あ、大丈夫です」

「あ、全然いいよー。で、ここで待っとくの?」

「えぇ、そうよ。まぁ、来るまで暇だし、パチュリーでも探しましょうか。暇つぶしにはなるでしょうから」

「はーい」

「寝ている可能性もありそうですけどね。......まぁ、いいですか」

 

 こうして、私達はパチュリーを探し始めた──

 

 

 

 ──数分後 紅魔館(図書館)

 

「あら、貴方達。起きたのね」

「あ、まだお邪魔させてもらってるわ」

 

 しばらく歩いていると、魔導書を椅子に座って読むパチュリーとアリスに出会えた。

 

「あ、アリスさん。まだ用事でもあったんですか?」

「特にないわ。ただ、思ったより、魔導書が多くてね。ここでパチュリーに魔導書の解説でも聞こうと思って」

「へぇ......レナ、フラン。邪魔になりそうだし、行くわよ」

「は、はい。......私達、何の為にここに来たんでしょうか?」

「さぁ? 暇つぶしじゃないかな?」

「あら、暇なら、私も混ぜてくれませんか?」

 

 急に背後から声が聞こえた。

 いつの間に? 魔力は感じなかったから魔法ではない。......と言うことは、能力か。もしかして、八雲紫? 私が使っている移動魔法は、元々紫のような移動手段が欲しかったからと言う理由だ。だから、どんな能力かはよく憶えている。『境界を操る程度の能力』......まぁ、とにかく強い。チートレベルだから、私達が束になっても勝てないだろう......。

 

「え!? だ、誰!?」

「はぁ、だから、背後には現れないでって言ったでしょ?」

「あらあら、すいませんでしたわ。まぁ、それはともかく、初めまして。自己紹介が遅れましたわね。私は八雲紫、この幻想郷の結界を管理している者ですわ」

「初めまして、私はスカーレット姉妹の次女、レナータ・スカーレットです。よろしくお願いします」

「......私はフランドール・スカーレット。スカーレット姉妹の三女よ」

「私はパチュリーよ」

「あら、アリス。どうしてここに居るのでしょうか?」

 

 八雲紫がアリスの方を見てそう言った。

 知り合いだったんだ。......まぁ、同じ幻想郷に住んでるわけだし、知り合いでもおかしくないか。

 

「レナータとフランをここに送ったからよ。どうせ貴女も知ってるんでしょ? ずっと見てたみたいだし」

「あらまぁ、気付いていたんですね。てっきり、気付いてないものかと思っていましたわ」

「残念だったわね。気付いてたわよ。それよりも、何か内密の話でもあるなら、聞こえないところまで行くわよ?」

「そうしていただけると嬉しいですわ」

「分かったわ。じゃ、また後でね」

 

 そう言って、アリスは離れた場所へと行った。

 まぁ、約束を破るような人じゃないだろうし、本当に聞こうとはしないんだろうなぁ。

 

「で、アリスが行ったみたいだけど、どんな話かしら?」

「その前に、話は一度だけにしたいのですが、これだけの人数で大丈夫なのでしょうか?」

「大丈夫よ。他の人らは、昼、ここを守る為に、働いて、疲れていると思うから」

「そうですか。なら、話を始めましょう。今日、先ほどまで外にいた吸血鬼達は全滅しました。妖怪の山まで攻め込んでいる者達もいましたが、よく頑張ったと褒めてあげたいくらいですわ」

 

 ......え? 全滅したの? 早くない?

 

「......そう。で、話は何かしら? 私達も消すつもりとか?」

「いえいえ、協力して欲しいのですよ。これから、この『異変』によって、この幻想郷には新たなルールが作られるでしょう。貴方達には、一番最初にそのルールに則って、『異変』を起こして欲しいのです」

 

 異変......ようやく始まるんだね。『紅霧異変』が────




次回は日曜日
の前に、土曜日に総合評価100達成した記念に、レナータさんの一日を投稿します(要約:番外編)
閲覧者の皆様、本当にありがとうございますm(_ _)m


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5、「新たなルール もう一人の次女」

結局一日も遅くなってすいませんでした<(_ _)>

今回は新たなオリキャラ追加されました。まぁ、たまにしか出てこないんだけど()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(図書館)

 

 今、私達は八雲紫と話をしている。吸血鬼を一夜にして全滅させた女性......戦えば、外じゃなくても、瞬殺なんだろうか......。

 そんな不安を感じながら、私は八雲紫の話を聞いている。

 

「......そう。で、話は何かしら? 私達も消すつもりとか?」

「いえいえ、協力して欲しいのですよ。これから、この『異変』によって、この幻想郷には新たなルールが作られるでしょう。貴方達には、一番最初にそのルールに能登、『異変』を起こして欲しいのです」

「......どうしてルールが作られると思うの?」

「貴方達は知らないかも知れませんが、実は、この幻想郷が外の世界と隔離されてから、貴方達、吸血鬼が初めての外敵なのです」

「ふーん......で、それがどうしたの?」

「......ここでは、妖怪と人間のバランスが崩れないように、妖怪は無闇に人間を食することを禁じられていました。そして、妖怪達は、食事は食料係と言う者が給仕する食料を与えられ、ただそれを食べるだけの体たらくな生活を送っていました」

 

 へぇ......あれ? 私とほとんど同じじゃない? 食料の調達はいつもお姉様がやってるし、料理を教えるだけで、いつもは咲夜が料理しているし......今思えば、私も体たらくな生活をしてるんだなぁ。少しは運動しないと......いや、フランと遊んでるから、ギリギリセーフなのか。

 

「その為、妖怪全体に無気力化が広がって、強い外敵と戦う力を失いつつあったのです」

「ふーん、そこに私達、吸血鬼が来たわけね」

「はい、その通りでございます。ある者は力の前に屈服し、ある者は恐れをなして寝返り、吸血鬼の傘下となりました。だからこそ、貴方達、吸血鬼のおかげで、幻想郷中の妖怪達はこの危機を改めて理解することが出来たでしょう。そして、今、幻想郷の妖怪達が力を失わないように、新たなルールが出来ようとしています」

「ふーん、なるほどね。貴女がすぐに殺さなかったのは、その危機を理解させ、その新たなルールが必要だと思わせることだったのね。すぐに殺すと、危機感なんてないものね」

 

 ふむふむ......そうして、『スペルカードルール』が作られたわけね。自分で言って作らせようとしない辺り、やっぱり、黒幕みたいな人だなぁ。

 

「それで? 誰がそのルールを作るの? やっぱり、貴女みたいに強い妖怪?」

「ほとんど正解ですが、少しだけ補足がありますわね」

「どういうこと?」

「まぁまぁ、それよりも、まず、貴方達に聞いておくべきことがあります。話は戻りますが、貴方達にはそのルールに則って『異変』を起こして欲しいのですが、いいでしょうか? あぁ、勿論、貴方達が『異変』を起こす為にも、こちらからは良い条件を出しますわよ?」

 

 良い条件ねぇ......この人、胡散臭いから、ちょっと信用出来ないんだよなぁ......。

 

「例えばどんな条件かしら? その条件次第で、『異変』を起こすかもしれないわね」

「半永久的な食料の調達、私からはこの館の住人には手を出さないこと。それと、幻想郷の住人とのいざこざでは、私が間に入りましょう。他にも、望む物があれば、出来る限り用意して差し上げましょう」

 

『私からは』......ねぇ。まぁ、八雲紫が敵にならないだけでも良い条件なのかな? ......な訳ないか。どうせ、私達が邪魔になった時の為に、何か用意してるんだろうなぁ。

 

「......まぁ、それならいいでしょう。しかし、約束は破らないこと。いいわね?」

「えぇ、勿論ですとも。私は絶対に約束を破りませんよ」

「それで、結局ルールの方はどうなったの?」

「詳しいルールはまだですが、原案は出来ております。詳しいルールは、後日、相談した後、持ってきますわ」

 

『スペルカードルール』の原案ねぇ。そんなのがあったんだね。まぁ、『スペルカードルール』の方も、詳しいルールは憶えてないんだけどね。

 

「出来る限り早くもってきなさいよ。それで、その原案は見せてくれるのかしら?」

「えぇ、勿論ですとも。これですわ」

 

 そう言って、スキマから一枚の紙を取り出した。

 本当にスキマって、便利だなぁ。まぁ、私も移動だけなら、似ているのあるんだけど。

 

「......ふーん、なるほどねぇ。はい、これ。貴方達も読みなさい」

「はい、分かりました」

 

 そう言って、お姉様がその紙を私達に手渡してきた。

 その紙には、『妖怪同士の決闘は小さな幻想郷の崩壊の恐れがある。だが、決闘の無い生活は妖怪の力を失ってしまう』と記されており、このルールの理念及び法案について書いていた。

 

『理念

 一つ、妖怪が異変を起こし易くする。

 一つ、人間が異変を解決し易くする。

 一つ、完全な実力主義を否定する。

 一つ、美しさと思念に勝る物は無し。

 

 法案

 一つ、決闘の美しさに意味を持たせる。

 一つ、意味の無い攻撃はしてはいけない。

 一つ、事前に使用回数を宣言する。

 一つ、このルールで戦い、負けた場合は負けをちゃんと認める。余力があってもスペルカードルール以外の別の方法で倒してはいけない』

 

 そして、最後には『具体的な決闘方法は後日、巫女と話し合う』と締めくくられていた。

 

  「......八雲紫、一つだけ聞いておくわ。どうして人間が勝つようにしているの?」

「幻想郷のバランスを崩さない為にですわ」

「それじゃあ、何? 私達に負け戦をしろと?」

「えぇ、その通りですわ。これからの幻想郷のバランスを保つ為に、貴方達には『異変』を起こしてもらい、負けてもらおうと思っています」

 

 うわっ、真っ正面から言ってきたなぁ。まぁ、そう言うだろうとは大体思ってたけど。

 

「......これで負けても、負けた方は何も無いのよね?」

「まぁ、その通りですわ」

「ならいいわよ。『異変』を起こしてあげるわ」

「ありがとうございます。では、他に質問がないなら、私は行きますわね」

「あ、はいはい。質問」

 

 フランが手を上げてそう言った。

 なぜだろう......前世の小さい時を思い出すなぁ......。

 

「なんですか?」

「『巫女』ってなに? 偉い人?」

「幻想郷の結界を担う人間ですわ。私と『博麗の巫女』で幻想郷の結界を張っています。どちらか片方でも無くなると、ここは危うくなるでしょう。ですが、偉いかどうかは微妙ですわ」

 

『博麗の巫女』......今はもう博麗霊夢なのかな? まぁ、どうせすぐに分かるか。『異変』がすぐに始まると言う前提でだけど。

 

「ふーん......じゃ、私はもうないよ」

「......私もないわね」

「私もないですよ」

「それでは、私はもう行きますわね!また後日、お会いしましょう」

 

 そう言って、紫は虚空にスキマを作り、何処かへ行ってしまった。

 いやまぁ、胡散臭い妖怪だし、あんまり会いたくないけど。

 

「行ったわね。さて、レミィ、どうするの?」

「さて、どうしましょうか。まずはどんな『異変』を起こすかよね?」

「えぇ、そうね。まぁ、どんなものにしようとも、準備をするのはどうせ私なんだし、早く決めてよね。じゃ、私はアリスと話の続きでもしてくるわ」

「えぇ、また後でね。......明日は美鈴だけに門番させといて、咲夜には考えるのを手伝ってもらいましょうかね......」

 

 あ、そう言えば、今は二人とも寝ているんだっけ? ......あれ? 小悪魔はどこ行った?

 

「お姉様、小悪魔は何をしているのですか?」

「んー......昨日、咲夜に聞いたら、『パチュリーと一緒に居ました』って言ってたし、パチュリーの世話で疲れて寝ているんだと思うわよ」

「あぁ、そうなんですね」

「それよりも、レミリアお姉様。どんな『異変』にする? 後で咲夜と一緒に決める?」

「えぇ、咲夜と一緒に決めるわよ。......でも、フラン。貴女は地下に居てなさい。能力が暴走して、人間を殺してしまわないようにね」

「えぇっ!? ヤダー! 私も遊びたーい!」

 

 フランがそう言って、駄々をこね始めた。

 確かに、人間を、博麗の巫女を殺してしまうと、後で面倒臭いことになりそうだもんねぇ......。

 

「何を言っても駄目よ。レナ、貴女はフランの面倒を見てて。『異変』は主犯格一人でも成り立ちそうだし、貴方達はゆっくり待ってなさい。すぐに終わるだろうから」

「お姉様......お断りします。私もあのルールで遊んでみたいですし、怒ったフランを一人で見るなんて出来ませんから」

 

 それに、ここに来るまでにずっと考えていた『スペルカード』を無駄にしたくないからね。考えた後に、それをお姉様達に気付かれないように実践するのも、結構大変だったんだからね?

 

「はぁ......貴方達って本当に我が儘ねぇ。仕方ないわ。別に戦ってもいいけど、地下か図書館に来たらにしなさいよ。出来れば、上には来ないようにしなさい」

「むぅ......まぁ、いいや。こっちに来たら、遊び放題なんだし」

「......レナ、危なくなったら、フランを止めなさいよ」

「はい、分かっていますよ。止めれるかどうかは置いといてですけど。後、私は絶対に上には行きませんよ。私は」

 

 そう、私は絶対に上には行かない。私はね。まぁ、フランも出させないけど。

 

「? ......フランを出したら、貴女にも怒るわよ?」

「はい、勿論出さないようにしますよ」

「え? ふ、フラン、レナが何を企んでいるか分かる?」

 

 流石に、フランにも分からないだろう。

 フランの前で使ったのは一度だけだし、それも結構前の話だからねぇ。......あれ? でも、今朝言ってたような......。

 

「んー......お姉様、『ミア』を出そうとか思ってないよね?」

「え!? ど、どうして分かったのですか!?」

「え、合ってたんだ。いや、適当に言っただけだよ。当たると思わなかった」

「えーと......何の話をしているか分からないんだけど?」

「あ、簡単に言いますと、もう一人の私です」

 

 正確に言うと、魔法で私そっくりなモノを創るってだけだったんだけどね。いつの間にか、自我が芽生えてたので、フランに名前を付けてもらった。何故そう言う名前にしたのかは教えてくれなかったけど。

 

「うん、もっと詳しく言いなさい。それじゃあ、分かりにくいわよ」

「あ、すいません。詳しく言うと、魔法でもう一人の私を創った際に、自我が芽生えたみたいなので、その私に名前を付けた存在です」

 

 どうして自我が芽生えたのかは分からないけど、まぁ、便利だしそんなの考えなくてもいいよね。

 

「へぇ......ねぇ、一回出してみて。レナにそっくりなの? 性格とか、見た目とかは」

「えーと......見た目はまんまお姉様だけど、性格は少し子供っぽくなってるよ。私に妹が出来たって感じるくらい」

「では、召喚しますよ。......あ、ミアを出している時は、私は一切の魔法を使えませんので。召喚する時に魔力がほとんど持っていかれ、常に魔力を供給しないと消えてしまうみたいなので」

 

 まぁ、ミアの方は魔法使えるから別に苦ではないんだけどね。それに、妖力は全然使えるし。

 

「まぁ、それは別にいいわよ。別に今は危険とかじゃないんだし。それよりも、早く召喚してちょうだい」

「あ、分かりました。あ、少し離れて下さい。魔法陣を描きますので」

「魔法陣を描くの? 珍しいわね」

 

 確かに、珍しいよね。大体は頭の中で描けるからねぇ。この魔法は効果が強いせいか、頭の中で描いても使えないんだよねぇ......そこが唯一不便なところかな。

 そんなことを考えながら、自分の血を使い、数分掛けて魔法陣を地面に描く。

 それと、どうやら、私の血じゃないと使えないらしい。他の人の血でやると、魔力は消費されても、何も召喚出来ないと言う残念な結果になってしまう。

 

「ふぅ......終わりました。では、召喚しますね」

「やっと終わったのね」

「お姉様、急かさないで下さい。すぐに終わりますから」

 

 そう言って、目を瞑り、一分の時間を掛けて頭の中で呪文を唱える。

 すると、魔法陣が光り始めた。しばらく唱え続けると、光は形を変えていき、私と同じような形になった。

 

「眩しいわね。それにしても、レナがこんなに時間を掛けて魔法を使うのって初めて見たわ」

「レミリアお姉様、静かにしてて......あ、召喚されたみたい」

 

 私と同じ姿になったかと思うと、光は消え、人の形だけが残った。

 姿のは私と全くで、目や髪の色まで同じだが、翼がない。おそらく、今の私の魔力では、これが限界なんだろう。

 

「......あ、レナ? フラン? それに......お姉ちゃん?」

「ミア、久しぶり!」

「記憶や五感の大体は私と共有出来ますので、久しぶりとは少し違うとは思いますよ」

「というか、え? お姉ちゃん? 私のことよね? ミアはお姉様じゃなくて、お姉ちゃんなの? 本当にもう一人の貴女なの?」

「『お姉ちゃん』と言っているのは、特に意味は無いと思いますよ。多分ですけど」

「初めましてだね! お姉ちゃん!」

 

 そう言って、ミアがお姉様に抱きついた。

 ......いいなぁ......。

 

「え、えぇ、初めましてね。ミア、自己紹介はいらないと思うけど、私はレミリア・スカーレット。貴女の姉......よね?」

 

 お姉様が心配そうに私を見て聞いてきた。それに対して、私は頷いた。

 

「レナも久しぶり? 私が召喚されていない時は、感覚共有されてて、ここに居る全員に久しぶりっていう気がしないけどね」

「確かに、そうですね。召喚していない時は、一心同体にでもなっているんでしょうね。まぁ、今もほとんど一心同体ですけど」

「へぇー、そうなんだ」

 

 あ、初めて知ったんだ。それにしても、変な気分だなぁ。私と話しているなんて。

 

「ミア、ミア。私には言わないの?」

「あ、ごめんね! フランも久しぶりー」

「久しぶり。ちゃんと言えて偉いね、ミア」

「えへへー」

 

 ......なんだろう、違和感を感じる。やっぱり、私の姿だからかな?

 

「......レナが妹でミアが姉だったっけ?」

「いえ、私が姉ですよ。妹はミアの方です」

「お姉様、今日はミアとも一緒に寝ていい?」

「いいですけど......一日くらいしか持ちませんよ?」

 

 今の限界では、一週間程度まで召喚し続けれるが、限界までやってしまうと、回復するのにかなり長い時間が必要になる。だから、正確に言うと、一日じゃないと、万が一の時に対応出来ないのだ。

 

「別にそれでもいいよ。レミリアお姉様とお姉様二人と寝れるなんて、そうそう体験出来ないからね」

「私もフランと寝たい!」

「......妹が二人出来たみたいです。片方は私なのに」

「あ、言い忘れてたけど、今日、私は貴方達とは寝れないからね。明日は早めに起きて、咲夜達と作戦会議するつもりだから」

「えぇ......まぁ、仕方ないか。それに、ミアが居るからいいやー」

 

 その言い方だと、お姉様が少し可哀想な気もするけど......まぁ、いっか。

 

「なんか悲しいけど......まぁ、また明後日にでも会いましょう。じゃ、次いつ会えるか分からないけど、ミア、また会いましょうね」

「うん! またね、お姉ちゃん!」

「......やっぱり、なんか違和感があるわね......まぁ、いいわ。じゃ、貴方達もまたね」

「はい、また明日? いや、明後日でしょうか? まぁ、また会いましょう」

「ばいばーい」

 

 そう言って、お姉様は図書館から出て行った。紫と結構長い間喋ってたんだね。

 

「それでは、行きましょうか」

「うん!」

「はーい! あ、今日は私が真ん中ね」

「いいよー」

「おや、珍しいですね」

「お姉様二人に囲まれて寝てみたいから」

 

 まぁ、どっちかっていうとミアは妹って感じがするけどね。私なのに。

 

「レナー、早く行こー」

「そうだよー、お姉様、早く行きましょー」

「あ、はい。分かりました」

 

 こうして、フランと妹にしか思えない私を連れてフランの部屋へと向かった────




次回は水曜日
2日休みだし、間に合うはず()

因みに、最近ツイッターやり始めました( ´ ω ` )
質問とかあったらお気軽にどぞ(っ´∀`)っ
Twitter【https://mobile.twitter.com/rick_0503】


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6、「暇な妹達 『異変』の準備」

3章まで後1話。時間過ぎるのって早いなぁ......。と言うか、3章短いなぁ()

というわけで、6話目です。因みに、異変についての詳しいことは次回です。


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「ふぁ〜......え!? ......あ、そう言えば、ミアを召喚していたのですね。すっかり忘れていました」

 

 目が覚めた時、目の前には私がいた。ミアを召喚していたことを忘れていた私は普通にビックリしてしまった。

 目の前に鏡でもあるのかと思ったよ。鏡に写らないけど。

 

「んー......うるさいよ、お姉様......」

「あ、すいません。起こしちゃいましたか?」

「うん、起こされたよ。ふぁ〜......あ、ミアも寝てる。......お姉様、いつミアを消すの?」

 

 消すって言うのは少し言い方悪い気がするけど......まぁ、合ってるから仕方ないか。

 

「昨日召喚した時と同じ時間です」

 

 そうしないと、『異変』に召喚するのに間に合わなくなるだろうからね。いつ巫女や魔法使いが『異変』を解決しに来るか分かれば、調整も出来るんだけどなぁ......。

 

「そう......次会えるのはいつ? 今までは特に何も思わなかったけど、会ったら会ったで、また会いたくなっちゃうんだよね......」

「......人間が『異変』を解決しに来た時ですね。ミアにはその時に上の様子を見ててもらいたいので。......それと、フラン。『異変』が終われば、いつでも召喚出来るので安心して下さい。まぁ、魔力をほとんど使うので、たまにしか出来ませんけど......」

「充分だよ、お姉様。......ありがとうね」

 

 フランが嬉しそうな声でそう言った。

 やっぱり、ミアと会えるの嬉しいんだね。私なのに、私に会うよりも嬉しそうなのは、ちょっと妬ましいけど。まぁ、私はいつも会ってるから仕方ないか。

 

「ふぁ〜......むにゃむにゃ......あ、おはよう。二人とも、起きるの早いんだね」

 

 そう言って、ミアが起きた。

 一応、私と同じ存在なのに、起きるのは遅いんだね。まぁ、全く同じってわけではないから仕方ないけど。身体能力は妖怪としての力が強い私の方が高いしね。まぁ、魔力はミアの方にほとんど割いてるから、魔法はミアしか使えないんだけど......。

 

「あ、おはようございます。昨日はよく眠れましたか?」

「うん、よく眠れたよ。それにしても、久しぶりに寝た気がするなー。まぁ、いつもレナの中で寝ているんだけどねー」

「ミアが召喚されてない時って、お姉様の中にいるんだね。初めて知ったよ」

「あれ? 言ってなかったっけ? ま、いっか。それよりも、いつもレナとフランって、遊んでるよね? だから、私も遊びたい!」

「私も遊びたいなー。お姉様、何して遊ぶ?」

 

 ......本当に妹が増えたみたいなだなぁ。これはフランと遊ぶ時以上に疲れそうだ......。

 

「レナー、何して遊ぶのー? ちなみに、私は何でもいいよ。ただ、貴女の中に戻る前に遊びたいだけだからね」

「......ミアの言う通りだね。お姉様、ミアが戻る前に何するか決めよ?」

「んー......そう言われましても、何をするか全く思い付かないのですが......」

「えー! ......はぁ、お姉様は役に立たないなぁ......」

「レナ、つまらなーい。面白いの考えてよー」

「うっ、すいません......」

 

 ......ミアは私なんだし、ミアも何も思い付いてないよね? それと、フランは私に冷たくなってない? 普通に悲しい......。

 

「まぁ、いいや。ミアは何かしたいことはないの?」

「私がしたいこと? んー......三人で遊べて、楽しいのなら何でもいいけど......」

「それなら......お姉様、トランプゲームでもいい? 大体のゲームは遊び尽くしたから、飽きてるかもしれないけど......」

「いえ、大丈夫ですよ。フランがほとんど勝つであろうことを除いてはですけど」

 

 フランは運がとても良いのか、トランプなどの運要素があるゲームで負けることはほとんどない。要するに、勝つのは大抵フランなのだ。だから、ゲームを遊び尽くしたと言うことでは飽きてはいないが、フランが大抵勝つから飽きている、と言うことはあるかもしれない。

 

「え? そんなに勝つことあったっけ?」

「貴女は何をとぼけているのですか。口がニヤけていますよ。それに、いつも賭けをして、好き勝手に命令しているくせに......」

「ふふ、憶えてなーい。それに、賭けに乗るお姉様も悪いでしょ? だから、私は悪くないよー」

「いや、その理屈はおかしいのですが。と言うか、憶えているじゃないですか」

「レナ、フラン。早くトランプ出して。貴方達が言い争いしている時って、本当に周り見えなくなってるよね。まぁ、レナは私だし、私も変わらないんだろうけど」

 

 怒った表情でミアがそう言った。

 私に怒られるのって、なんか変な感じ。まぁ、私が悪いんだけど......。

 

「......ミア、ごめんなさい」

「うっ......ミア、ごめんね」

「別にいいよ。それよりも、トランプ早く」

「は、はい。フラン、何処になおしているか、憶えていますか?」

「え? お姉様が最後になおしたんでしょ?」

 

 ......あれ? 嫌な予感がする。と言うか、私が最後だっけ? んー......最後にやったのって数年前だし、全く思い出せないや。

 

「......お姉様? もしかして、憶えてない?」

「は、はい......全く思い出せないです......」

「......はぁ、仕方ないなぁ。不正とかで疑われたくなかったから、魔法で作ろうとは思ってなかったけど、この際仕方ないよね」

「ミア、ありがとうございます」

「いいよ、別に。(レナ)の責任なんだしね。はぁ、お姉ちゃんにたまに似るよね、(レナ)って。まぁ、お姉ちゃんと似ている部分があるって言うのは、少し嬉しい気もするけどね」

 

 なんだろう、(ミア)に言われると、少し悲しくなってくる......。

 

「お姉様って、頼りにならないこともあるけど、頼りになることもあるよね。レミリアお姉様に似てきたんじゃない?」

「それはフランも同じだと思うのですが......」

「え? なんか言った? お姉様」

「絶対、聞こえていましたよね? まぁ、何も言ってなかったことにしますけどね」

 

 ......なんだろう、後ろから何か嫌な感じがする......。あ、ミアか。あ、これ絶対──

 

「はぁー、二人とも! 私が居る時は喧嘩しないで! 貴方達は楽しいかもしれないけど、私は暇になるから。と言うか、レナっていつも火に油を注ぐようなことをするよね? そんなんだから、最終的に損をするのよ。そもそも、レナはフランのお姉ちゃんなんだから、少しは自制心とか持って欲しいよ。負けず嫌いにも程がある。少しは黙って流した方がいいんだよ? それか、何? フランと喧嘩したいの? いや、まぁ、本当にそうなんだろうけど。それでも、周りに人が居る時はやめてよね。正直言って迷惑だから。まぁ、今は私だったからいいけど。美鈴や咲夜、パチュリーとかと一緒に居る時にもやってるでしょ? まぁ、お姉ちゃんはいいや。見てて楽しそうなのが、中にいる私にも分かるし。それで、話戻るけど──」

 

 うー......めっちゃ怒られてる。かつてない程に怒られている。お姉様にもこんなに言われたことないのに......。うぅ......あれ? 目から汗が出てきた......?

 

「レナ! ちゃんと聞いてるの!」

「うっ、き、聞いています......すいません......」

「謝っても、説教はやめないから」

「み、ミア、もうそのくらいにしてあげたら? お姉様も反省していると──」

「フランもフランですよ! 貴女も一言余計なことを言うのはやめてよね。レナがそれに乗っかるから。それに、いつも貴女はやり過ぎよ? フランは賢い娘なんだから、分かるでしょ? 抱き締める力がいつも強いから、痛いんだよ? それと、レナはレナでそれを止めてよ。何受け入れてるの。だから、貴女はフランに良いようにされてるんだよ。それに──」

 

 また私に戻ってきた......。と言うか、フランが涙目になってるんだけど。泣きそうになってるんだけど。ミアもそれを分かってて話を続けているみたいだけど、本当に私なんだよね? もう別人に見えてきた。最初は妹っぽいと思ってたけど、今はすっかりお姉ちゃんになってるし......。

 

「レナ、また聞いていなかったでしょ?」

「い、いえ、聞いていました......」

「うぅ......グスン......」

「フラン、泣かないで聞いて」

「うっ、は、はい......」

 

 泣く子も黙るってこのことなんだね。怖い、この私。絶対恨まれているよね? なかなか召喚しなかったから、恨んでいるよね、これ。じゃないと、こんなに怒らないよね? いやまぁ、ミアは呆れている気もするけど......。

 

「......はぁー、もういいや。怒るの疲れた。さ、遊ぼっか。あ、フラン、ごめんね。いつも(レナ)が怒ってないから、怒られるのに慣れてないんだよね。本当、レナにもっと怒りたいくらい」

「うっ、すいません、フラン......」

「グスン......ううん、別にいいよ。大丈夫だから。ミアも、大丈夫だから、心配しなくてもいいよ。だから、もうお姉様を許してあげて」

「......(フラン)に言われたら、しょうがないかって、思えるんだね。......今回だけだからね、レナを許すのは。と言うか、少し怒り過ぎちゃったかもね。......レナ、ごめんなさい。私も言い過ぎちゃった」

 

 ミアがそう言って、頭を下げた。

 ......結局、悪いのは私なんだよね。フランが我が儘になったのも、ほとんど私のせいなんだろうし......。

 

「いえ、いいですよ。悪いのは私なんですし......」

「お姉様、もういいよ。それよりも、早く遊ぼっ?」

「......私のせいで時間無駄にしちゃったね。ごめんね」

「いえ、全然大丈夫ですよ。さ、何します?」

「んー......アメリカンページワンにしよ? 確か、お姉様との勝率が半々だったやつだから。まぁ、やった数少ないけど」

 

 ......それを最後にやったのって、何十年も前だよね? よく憶えていたね、フランは。まぁ、私よりも記憶力良いから、憶えていてもおかしくはないか。

 

「それでいいですよ」

「いいよー。レナ、フラン。負けないからね」

「ふふ、私に勝てるとは思えないけどねー。ま、ミアはお姉様よりは強い感じするけど」

「多分、運をほとんど持っていかれていない限り、ミアには勝つと思いますよ。運を持っていかれていない限りはですけど」

「じゃ、始めるよー。あ、ジョーカーは無しだからね」

 

 こうして、私達の勝負が始まった。最初から最後までフランが優勢だったけど、一回は勝てたからいっか。ミアとは五分五分だったから、丁度良かったなぁ......。

 こうして、私達はミアが消えるまで、色々なトランプゲームをして楽しむことにした────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「ふぁ〜......あぁ、眠い。あ、集まったかしら?」

 

 日が沈んでからすぐのことだった。私は日が沈むとすぐに、咲夜と美鈴を呼び、図書館へと連れてきた。

 そして、図書館に居たパチェと小悪魔も含めて、図書館で『異変』の相談をすることにした。

 

「集まったわよ。そうそう、一応報告。アリスはさっき帰ったわよ」

「そう、分かったわ」

「お嬢様、門番の仕事はいいんですか? 誰かが攻めて来たら、すぐに対応出来ないのですが......」

「大丈夫よ。パチュリーが結界を張ってるから」

 

 この結界に感知されずに入ってくるとしたら、あの八雲紫とか言う妖怪くらいだろう。あいつ程の妖怪は少ないはずだから、一応は大丈夫のはずだ。

 

「え、わ、私の仕事の重要性が......」

「さぁ、そんなことはどうでもいいわ」

「え!? そんなこと!? どうでもいい!?」

「美鈴、うるさい。さぁ、どんな『異変』にするかを決めるわよ。何か案はない?」

「うっ、お嬢様、酷いです......」

「美鈴、案を考えてから発言しなさい」

「酷い......あ、人間を攫うとかはどうです? これなら、確実に助けに来ますよ!」

 

 人間を攫う......ねぇ。それだと来るだろうけど、無闇に人間を襲うのは駄目だったはずよね......。人間を襲うのも、攫うのと同じに見られるかもしれないから、この案は却下でいいか。まぁ、一番の問題は派手さに欠けると言うことなんだけど。

 

「残念だけど、それは却下ね。無闇に人間を襲ったら駄目らしいから」

「あぁ、それなら仕方ないですね......」

「お嬢様、紅茶を持ってまいりました」

「あら、ありがとう。咲夜、貴女は何かないかしら?」

「私ですか? 私は何も......」

 

 はぁ......咲夜にも自分の意見を持って欲しいわね。今までも、ほとんど意見を出さなかったし、ここに来たからには、変わればいいんだけど......。

 

「咲夜、何でもいいから言いなさい。本当に何でもいいから」

「そう言われましても、何も思い付かないので......」

「......そう、それなら仕方ないわね。パチェ、小悪魔。貴方達は?」

「私は何もありませんよー。楽しめれば何でもいいのでー」

 

 ......小悪魔(こいつ)、何も考えてないわね。聞いた私が間違ってたわ。

 

「......レミィ、貴女は何がしたいの?」

「え? 私? 私は......派手だったら何でもいいわよ」

「そうじゃなくて......もしも、『異変』で私達が勝ったらどうするの?」

「え? で、でも──」

「勝ったら駄目と言うルールは無かったでしょ? ただ、『人間が異変を解決し易くする』と言うだけよ」

 

 た、確かにそうだけど......。

 

「負けても勝っても良いような『異変』にしなさい。例えば、そうねぇ......貴女の弱点を克服するような『異変』を起こせばいいんじゃない?」

「弱点を克服......? 弱点......銀、流水、太陽......あ、そうだわ! 昼間でも外に出れるようにしましょう!」

 

 そう言えば、フランは一度しか外に出てないのよね......もっと色々なことを知って欲しいから、もっと外で遊べるようにした方がいいわよね。この数百年間、ほとんど地下に居たし......本人はそれでもいいって言ってたけど、本当はフランも外に出て遊びたいはず。レナもフランと一緒に外で遊べるなら、喜んでくれるわよね......。

 こんなことを考えていると、余計に昼間でも外に出れるようにしたくなったわ。......『異変』で人間に勝ちやすくすると言うルールはあっても、勝ってはいけないと言うルールはない。それならやっぱり、勝つ気で行こうかしら? まぁ、人間を少しくらい有利にしても、勝つ可能性はこちらの方が高いはず。

 

「さて、どうやって外に出れるようにしようかしら......」

「レミィ、私にいい案があるわよ。それも、貴女が好きそうな案よ」

「へぇ......聞かせてくれる?」

「紅い霧を出す。それで太陽も隠れるし、貴女が好きそうな派手さでいいでしょう?」

 

 紅い霧ねぇ......まぁ、悪くはないわね。

 

「それで行きましょうか。さぁ、準備に入りましょか。まぁ、実行するのは八雲紫から詳しい決闘方法を聞いてからにするけど」

 

 こうして、『異変』の方針が決まり、私達は八雲紫が来るまでに準備することとなった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「はぁ......また負けましたか」

 

 トランプゲームをしてから数時間後、勝率はミアとはほとんど同じだが、フランとはかなりの差がついた。

 やっぱり、フランには敵わないや。

 

「レナって、弱いねー」

「貴女もほとんど同じような勝率ですけどね......」

「お姉様達弱いねー」

「フランが強過ぎるのですよ。......もう時間ですね」

 

 もう時間が来たか......。ミアをもう消さないと駄目な時間になってしまった。

 ......やっぱり、時間が過ぎるのって、早いんだね。

 

「......うん、そうだね。フラン、次会えるのは『異変』が起きてからだね。......寂しくない?」

「寂しいけど......ミアはお姉様の中にいるって知ってるから、大丈夫」

「......そう、良かった。レナ、フランとお姉ちゃんを頼むね。ま、多分、特に危険とかは無いだろうけどね」

「それでも用心にこしたことはないですよ。......ミア、少しだけ、おやすみなさいですね」

「うん、おやすみ。......別にいいんだよ。無理して私と会話しようなんて。せめて、『異変』が終わった後にしてよね」

 

 あ、考えも共有してたんだった。

 あ、今まで考えてたことって、全て筒抜けだったんじゃ......。いやまぁ、切り忘れてた私が悪いんだけど。

 

「レナって、お姉ちゃんって感じしないよねー。やっぱり、私がレナのお姉ちゃんにも──」

「何を考えているのですか。ミアは妹っぽいですし、妹のままでいいです」

「え、無理。私がレナとフランの姉になるー」

「......お姉様とミアって、同じ存在なんだし、姉とか妹ってあるの?」

 

 いやまぁ、無いとは思うんだけどね。初めて召喚した時に、何気なくそれを話したら、ミアは『もしも、双子で産まれてたとしたら、私がレナのお姉ちゃんなんだろうねー』とか言って聞かないんだよねぇ......。私が召喚したんだし、私が姉に決まってるのに。

 

「レナ、せめて思考を切ってから考えて。それと、私がお姉ちゃんだから」

「はいはい、分かりましたよ」

「分かってないじゃん。......ま、いいや。じゃ、もう寝るね。おやすみ」

「......おやすみなさい、ミア」

 

 そう言って、ミアは光となって、私の中へと吸い込まれていった。

 ミアを魔力に戻して、私の中へと戻したのだ。

 

「......ふぅ、終わりましたね」

「......おやすみ、ミア。また会おうね。まぁ、目の前に居るんだろうけどね」

「ふふ、まぁ、そうですね。......さ、私達も寝ましょうか」

「うん、そうだね。早く『異変』起きないかなー」

「慌てては駄目ですよ。......一ヶ月以内に、必ず起きると思いますから......」

 

 そう、絶対に起きるはず。......八雲紫が来るのが遅くなかったらだけど。

 

「お姉様の勘って当たりにくいんだけどなー。まぁ、今回は当たる気がするから信じるけどね」

「じゃ、お先に寝ますね。魔力が空なので、今すぐにでも、寝たいので」

「あ、そうだったね。......じゃ、おやすみ、お姉様」

「はい、おやすみなさいです......」

 

 そう言って、瞼を閉じた。

 魔力が少なく感じる。しばらくは移動魔法も使えないんだろうなぁ......。まぁ、ミアに会えたからいいんだけどね。

 ......ミア、また会おうね。

 そう思いながら、私は夢の中へと落ちていったのであった────




次回は土日のどっちか。多分、日曜かな()


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7、「『紅霧異変』──前日──」

今回は短めになってしまった()

それと、お気に入り登録者数100人になってました! 閲覧者の皆様、有難うございます!m(_ _)m

今回は題名通りの前日の話。次回からは次の章になります。


 side Remilia Scarlet

 

 ──深夜 紅魔館(図書館)

 

「はぁ......あれから半月ねぇ」

 

 八雲紫が来てから詳しい説明を聞き、紅い霧を出してから半月の月日が経った。これだけの時間が経ったのに、未だに誰も異変を解決しに来ない。

 

「......あぁー! 暇だわ! どうして誰も来ないのよ!? この霧は妖気を帯びているのよ!? 人間には悪影響なのよ!? それなのに! それなのにどうして誰も来ないのよ!?」

「レミィ、うるさいわよ。ここでは静かにしなさい。それと、そんなことを聞かされるこっちの身にもなって欲しいわ」

 

 今はパチュリー、咲夜、小悪魔と一緒に居る。図書館に来たのには特に理由はない。まぁ、強いて言うなら、暇つぶしだ。

 紅い霧を出してからの数日間は、すぐに来ると思ってテンションも高めだったが、半月も来ないとなると流石に持たなかった。

 

「あ、ごめん。でも、来るのが遅過ぎると思わない?」

「気長に待ちなさい。どうせもう少ししたら来るわよ。後数日もしたら、霧が幻想郷全てを覆い尽くすわ。そうなったら、来ないわけにはいかないでしょ?」

「ま、まぁ、そうだけど......」

 

 それでも、未だに来ないのは少し......。

 

「はぁー。必ず来るに決まっているでしょ? ゆっくりお茶でもしながら待ってなさい。近くに来たら、知らせてあげるから」

「......はぁ、分かったわ。咲夜ー、紅茶持ってきてー」

「はい、分かりました」

「......ここで飲むつもりなのね」

「えぇ、そうよ。何か問題でもある?」

「何もないわよ。......零さないようにしなさいよ」

「はいはい。それくらい心配しなくてもいいわよ」

 

 本当、子供じゃないんだから、それくらい大丈夫に決まってるじゃない。......まぁ、私は吸血鬼だから、歳的に子供なんだけど......。人間だったら大人なんだけどなぁ......まぁ、人間だと死んでるだろうけどね。

 

「......そう言えば、あの娘達は? 食事以外では見ないけど......」

「あの娘達? あぁ、レナとフランね。レナはミアを出した影響で魔力不足になってるから、疲れやすくなって、大体の時間は寝ているだけよ。で、フランはそのレナの面倒を見ているのよ」

「ミア......あぁ、分身なのに、人格を持ってるとか言う、あれね」

「えぇ、そうよ。......そう言えば、珍しいことなの? 分身が人格を持つってことは」

「珍しいどころか、普通は有り得ない話よ。故意でやったなら、難しいことだけど出来なくもないわ。でも、故意ではないんでしょ?」

 

 確かに、故意では無かったらしいけど......無意識で祈っていたなら、出来ると思うのだけどねぇ。まぁ、魔法については詳しいこと分からないんだけど。

 

「えぇ、そうらしいわよ。でも、無意識で祈っていれば、出来るんじゃないの?」

「無理ね。さっきも言ったけど、難しいことなのよ。それなりの時間と準備がいるわ。無意識で祈ったとしても、その分身に入れる人格を作っていないと無理なのよ」

「ふーん......要するに、レナはわざとやったってこと?」

「さぁね。それはレナに聞かないと分からないわ。......もしも、わざとじゃないなら......いえ、何でもないわ。気にしないで」

 

 いや、気になるんだけど......まぁ、どうせ言わないからいっか。

 

「分かったわ」

「お嬢様。紅茶をお持ちしました」

「ありがと、咲夜。さて、この紅茶を飲み終わったら、寝ようかしら」

「......貴女はどうしてここに来たのよ。いや、やっぱり言わなくていいわ。どうせ暇つぶしなんだろうし」

「ゴクゴク......正解。それと、美味しいわ。いつもありがとうね、咲夜」

「お褒めいただき、有難うございます」

 

 お礼の言葉にお礼を言われるのは、少し変な感じがするわね......。

 

「......まぁ、いつも通りだしいいか。それじゃあ、私は寝るわ。また明日ね。咲夜、貴女も寝ていいからね。人間達がいつ異変を解決しに来るかなんて分からないから」

「はい、分かりました。では、私も失礼させていただきます」

「私の負担が大きい気がするわね......まぁ、いいわ。二人とも、おやすみなさいね」

「えぇ、おやすみ」

「おやすみなさいませ」

 

 そう言って、私は図書館から出て行った。

 

「......お嬢様? そちらはお嬢様の部屋ではないと思うのですが......」

「あぁ、部屋に戻る前に、フランの部屋に行こうと思ってるのよ。貴女も来る?」

「お嬢様がお希望なら」

「貴女自身で決めて欲しいのだけど......まぁ、いいわ。それなら、貴女もついて来なさい」

「はい、仰せのままに」

 

 ......もっと自分の意見を持って欲しいんだけどねぇ。まぁ、この異変が終わったら、何とかしてみましょうか。

 

「あ、フランが狂気に染まっていたら、貴女は時を止めて、すぐに逃げなさいよ。まぁ、レナが居るし、大丈夫だとは思うんだけどね」

「はい、分かりました」

 

 こうして、私達はフランの部屋へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Flandre Scarlet

 

 ──少し時間は遡り 紅魔館(フランの部屋)

 

「お姉様、もう眠たいの?」

「はい......最近、あまり遊べなくてすいません」

 

 最近、お姉様がすぐに寝てしまう。ミアを召喚して、魔力が少なくなったかららしいけど......多分、異変の為に、出来るだけ早く魔力を回復させる目的もあるんだと思う。

 

「ううん、大丈夫だよ。......まぁ、少し寂しい気持ちもあるけどね」

「うっ、すいません......」

「だから、大丈夫だよって言ってるじゃん。お姉様、そんなにへこまないで。......少し寂しいだけだから、ね?」

「うぅ、そんな目で言われると、申し訳ない気持ちでいっぱいになるのですけど......」

「え? そんな目をしてるの?」

 

 まぁ、わざとなんだけどね。お姉様の慌ててる姿とか、困ってる時の姿は見てて面白いし、可愛いからねぇ。本当、お姉様が妹だったら良かったなぁー。

 

「現在進行形でしてますよ......まぁ、わざとじゃないなら、いいですけど......」

 

 騙されてるお姉様も面白くて可愛いなぁー。

 

「ふぁ〜......もう寝ましょうか。眠たいですし......」

「はーい......そう言えば、まだ異変を解決しに来ないよね、人間達」

「はい、そうですね。まぁ、もう少ししたら来ると思いますけどね」

「人間達もこのままだと困るだろうしねー」

 

 ま、私達からしたら、こっちの方がいいんだけどねー。はぁ、暇だなぁー。お姉様も最近は、ほとんどの時間寝るようになったし、レミリアお姉様はずっと人間達が来るのを待って、私達と遊んでくれないし......ま、仕方ないよね......。

 

「では、フラン。おやすみなさいです」

「うん、おやすみ。明日はもっと遊んでよね、お姉様」

「......眠くなかったら、いいですよ」

「えぇー、眠くても遊んでよねー」

「異変までに、魔力を完全に貯める為に、寝ないと駄目なので我慢して下さい......」

 

 もう半月以上も経つんだし、ほとんど回復してると思うんだけどなー。まぁ、私はともかく、魔女であるパチュリーの十倍近い魔力を持つお姉様の魔力をほとんど使うくらいだし、回復にかかる時間が長いのも分かるんだけど。

 

「んー、まぁ、今回だけならいっか。でも、異変が終わったら、お姉様がどれだけ眠いとしても、いーっぱい遊んでもらうからね?」

「うぅ、その時は覚悟します......幸い、ミアが召喚されている時は、何故か眠くないですし、しばらくは大丈夫だと思いますけどね。多分ですけど......」

「ま、大丈夫じゃなくても、遊んでもらうけどね」

「うぅ、フランは怖いです......ふぁ〜......やばいです。眠た過ぎて、もう......」

「お姉様? ......あ、寝ちゃったんだ」

 

 よっぽど眠たかったんだね。......少しくらいなら、いたずらしてもいいかな? 気付かれなかったら、いいよね? うん、絶対いいはず。

 

「......お姉様、ちょっとごめ──」

「レナ、フラン。入るわね」

「ひゃ!? あ、れ、レミリアお姉様。あ、咲夜まで......」

「......えーと、何してるの?」

「い、いやー、何もしてないよー?」

 

 お姉様にいたずらしようとしたら、レミリアお姉様が入ってきた。

 いやぁー、ビックリして変な声出ちゃったよ。ま、いたずらとかする時って、ドキドキするからね。余計にビックリしちゃったんだろうね。

 

「ふーん......まぁ、いいわ。レナはもう寝ちゃったの?」

「うん、寝ちゃったよ。レミリアお姉様と咲夜はどうしてここに来たの?」

「最近ここに来なかったから、久しぶりに来ようと思ったのよ」

「私はお嬢様に付いてきただけでございます」

 

 ......レミリアお姉様、また咲夜に無理言って、付き合わせてるのかな? ま、レミリアお姉様はわがままだからねぇ。咲夜可哀想だなぁー。

 

「ふーん......咲夜、レミリアお姉様の言う事を絶対に聞かないと駄目ってことはないんだからね」

「いえ、お嬢様の命令は絶対なので」

「咲夜、今回は違うでしょ。それと、なんか勘違いされてる気もするんだけど」

「気のせいだと思うよ。それよりも、お姉様を起こさないようにしてね」

 

 お姉様にいたずらする為にも、絶対起こして欲しくないんだよね。まぁ、私のせいで起きるかもしれないんだけど。

 

「えぇ、勿論起こさないわよ。ただ、久しぶりにここに来たかっただけ......あら?」

「ん?」

「お嬢様、どうかされましたか?」

「......明日、来るみたいよ。咲夜、明日の為に先に休んでいなさい」

「はい、分かりました。......お嬢様は?」

「私はもう少しだけ話をしてから戻るわ」

「はい、分かりました」

 

 そう言って、咲夜が消えた。

 咲夜の能力って便利だよね〜。私も使いたいなぁー。......ま、使う目的はいたずらくらいだけど。

 それにしても、ようやく来るんだね。明日は暇にならなさそうで良かった。まぁ、ここに来るかは分からないんだけど......。

 

「フラン、前に言った約束守れるよね?」

「ん、上に行かないってやつ? それなら守るよ。お姉様も行かせないようにするね」

「貴女の方が行きそうで怖いんだけど......」

「うふふ、絶対に行かないよー」

「......レナを信じるしかないわね。......それと、フラン」

「ん、何? ......レミリアお姉様?」

 

 レミリアお姉様は珍しく、真剣な顔になっていた。こんなレミリアお姉様はたまにしか見ないから、少し貴重だ。お姉様が言ってたカメラってのがあったら、撮りたいって思えるくらいに貴重だ。

 

「貴女は自分を信じなさい。貴女は弱くないから......自分を信じれば、どんなことがあっても......いきなりこんな話をしてごめんなさいね」

「ううん、別にいいよ。それと、私は弱くないから、大丈夫だよ」

「......えぇ、そうね。心配する必要も無かったかもしれないわね。......じゃ、もう行くわ。おやすみ、フラン」

「うん、おやすみー」

 

 そう言って、レミリアお姉様は出て行った。

 ......それにしても、どうしていきなりあんな話をしたんだろ? まぁ、いっか。

 

「そんなことよりも、お姉様にいたずら......しようと思ってたけど、明日から忙しそうだし、明日でいいや。お姉様、おやすみ」

 

 まぁ、何言っても聞こえてないんだろうけどね。寝てるし。

 ......明日、ミアにも会えるんだよね。いやぁー、楽しみだなぁー。

 そう思いながら、お姉様の横に寝転んだ。寝顔もレミリアお姉様に似てて可愛いなぁー。......まぁ、可愛いのは私に似ているのもあるんだろうけどね。

 そう思いながら、目を瞑り、深い眠りへと落ちた────




次回は金曜日に投稿予定。
因みに、水曜日にはお気に入り登録者数100人達成した記念に、番外編を投稿したいと思います。


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4章「紅い霧の異変 末妹の狂気」
1、「『紅霧異変』の始まり 闇の妖怪と氷の妖精」


少し短いけど、次回からは元に戻るはず()

なお、大妖精の出番はない模様()


 side Hakurei Reimu

 

 ──満月の夜 博麗神社

 

「ふぁ〜......平和ね〜」

「霊夢ー!」

 

 神社の台石に座ってお茶を飲んでいる時に、黄色い髪を持つ白黒の魔法使い、魔理沙が騒がしく、箒に乗って飛んできた。

 全く、少しは静かにして欲しいわ。

 

「......はぁ、騒がしいのが来たわね。嫌よ。めんどくさい」

「まだ何も言っていないぜ。それよりも、異変だぜ! 異変!」

 

 異変......あぁ、紅い霧のことね。半月ほど前から、霧の湖の方向から広がっているって言うあれね。

 

「そんなの見たら分かるわよ。それがどうしたのか言いなさいよ」

「解決しに行かないのか? 異変を解決しに行くのは巫女の仕事だろ?」

「そんなの決まってないわよ。ただ、代々妖怪退治や異変解決を生業としていたってだけで」

「それなら仕事でも変わらないと思うぜ? さぁさぁ、早く行こうぜ!」

 

 はぁ、めんどくさいってさっきも言ったはずなんだけど......。

 

「めんどくさいから、貴女一人で行けばいいじゃない」

「おいおい、親友に対してその言葉は酷くないか? 折角だし、一緒に行こうぜ」

「何が折角なのよ。私はここでゆっくりしたいのよ」

「......はぁー、ほっといてもいいのか? あの霧は人間にとっては悪影響を及ぼすらしいぜ? それに、このままだと結界の外に出るかもしれないんだぞ?」

 

 結界の外に出るのは困るわね......はぁー、めんどくさいけど、行くしかないわね。

 

「分かったわよ。行けばいいんでしょう、行けば」

「ようやく分かったか。あぁ、そうだぜ。さぁ! そうと決まったら早く行くぜ!」

 

 そう言って、魔理沙は箒にまたがって宙に浮いた。

 

「はいはい、分かったわよ。それにしても、貴女、騒がしいわね」

「騒がしいのは元気だっていう証だからいいじゃないか。じゃ、先に行っとくぜ!」

 

 魔理沙はそう言ってかなりのスピードで霧の湖の方角へと飛んでいった。

 

「......先に行くなら、急かさなくてもよかったじゃない」

 

 そう呟いて、私も霧の湖の方角へと向かった──

 

 

 

 ──神社近くの森(上空)

 

「はぁー、本当に先に行っちゃったわね。それにしても......気持ちいいわね。

 魔理沙に言われたから夜に出ることになったけど.....どこに行っていいか分からないわ。暗くて。でも......夜の境内裏はロマンティックね」

「そうなのよね〜。お化けも出るし、たまんないわ」

「って、あんた誰?」

 

 襲ってきた妖精達を倒しながら進んでいると、いつの間にか、目の前には、目は赤で髪は黄色のボブの幼い少女が居た。

 白黒の洋服を身につけ、スカートはロング、左側頭部に赤いリボンをしているが、あれは明らか『お札』だ。お札を付けられているってことは、過去に何かやらかしている妖怪? まぁ、どうでもいいけど。

 

「さっきも会ったじゃない。あんた、もしかして鳥目?」

 

 いや、会った覚えないんだけど......もしかして、魔理沙と勘違いされているのかしら? でもまぁ、私が覚えてないだけの可能性もあるんだけど。

 

「人は暗いところでは物が良く見えないのよ」

「あら? 夜しか活動しない人も見たことある気がするわ」

「それは取って食べたりしてもいいのよ」

「そーなのかー」

 

 そう言って、その妖怪は両手を左右に大きく広げたポーズをとった。

 ......これは深く突っ込まないようにしましょうか。

 

「で、邪魔なんですけど」

「目の前が取って食べれる人類?」

「良薬は口に苦しって言葉知ってる?」

 

 そう言って、私は少し距離を置き、スペルカードを構えた。

 

「スペルカードルールって知ってるわよね?」

「えぇ、勿論。何枚?」

「早く終わらせたいから、二枚で」

「それでいいわ。先にこっちからいくわ。『夜符「ナイトバード」』!」

 

 妖怪はスペルカードを宣言した。そのスペルカードは私を中心として、左右に円弧状に青色の弾幕をばらまくと言う簡単なものだった。

 

「単純ね。避けやすいわ」

 

 そう言って、私は軽々と弾幕を左右に避けていく。

 この弾幕の密度は全然濃くないし、そこまで綺麗とは言えない。これ、鳥の翼をイメージしているのかしら? まぁ、全然そうには見えないけど。

 

「くぅぅ......当たらないかぁ〜」

「当たらないわね。さ、次はどんな弾幕かしら?」

「あんまり舐めてると、当たるかもよ? ま、いいや。次は難しいからね! 『闇符「ディマーケイション」』!」

 

 そう言って、妖怪は二枚目のスペルカードを宣言した。それは自分から波紋状に青、緑、赤の順に米粒弾をばらまきながら、私を狙って青い弾を発射するという、これまた簡単なものだった。

 

「少し青い弾が早い以外は特に脅威にならないわね。じゃ、次は私よね?」

「え!? ちょ、ちょっと! まだ──」

「『霊符「夢想封印」』! 」

 

 私はそう言って、スペルカードを宣言した。

 

「え、これ──」

 

 色とりどりの大き目の光弾が次々と飛び出して、相手めがけて飛んでいき、当たると同時に炸裂した。

 そして、妖怪は炸裂したと同時に黒焦げになって落ちていった。

 少し、やり過ぎたかしら? まぁ、いっか。妖怪だし。

 

「......良薬っていっても、飲んでみなけりゃわかんないけどね。さ、早く行かないと、またうるさい奴に怒られるわね」

 

 そう呟いて、私は霧の湖へと急いだ────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──霧の湖(上空)

 

「島は確かこの辺だったような気がするが......もしかして移動してるのか?」

 

 霊夢よりも急いでしばらくしたら、霧の湖に着いた。紅い霧が濃くなってきたし、おそらくここに元凶がいるはずなんだけどなぁ......

 

「それにしても......おおよそ夏だぜ。なんでこんなに冷えるんだ?」

「もう二度と陸には上がらせないよ!」

 

 そう言って、妖精が急に目の前に出てきた。

 身長はかなり低く、氷の羽根を十枚持っている妖精だ。髪は薄めの水色で、ウェーブがかかったセミショートヘアーに青い瞳。青く大きなリボンを付けている。

 服装は白のシャツの上から青いワンピースを着用し、首元には赤いリボンが巻かれている。そして、足には水色のストラップシューズを履いている。

 

「あんたね。寒いのは」

「暑いよりはいいでしょ?」

「寒い奴」

「それはなにか違う......」

「いっぱいいっぱいなんだろ?」

「と、とりあえず! スペルカードで勝負よ!」

 

 いや、正直言っても意味が分からないぜ。

 

「まぁ、丁度手ごわい奴がいなくて飽きていたところだ。その勝負、受けて立つぜ! あ、何枚にするんだ?」

「二枚で! 『氷符「アイシクルフォール」』!」

「おいおい! 始めてから宣言するのが早すぎないか!?」

 

 そう言って、その妖精はスペルカードを宣言した。

 弾幕の内容は、その妖精の側面から滝のように水が流れるように私に向かって降り注ぐと言うものだ。

 

「うわっ、中途半端な距離だと避けにくいぜ」

「えへへ、そうでしょ!?」

「まぁ、避けれてるけどな」

 

 少し遅い弾幕を、それよりも早く左右上下に避けていく。

 それにしても......中途半端な距離だと避けにくいけど、近いと避けやすくないか? これ。

 

「ぐぬぬぬ......それなら、これならどうだ! 『凍符「パーフェクトフリーズ」』!」

 

 次のスペルカードは、カラフルな小弾を放射状に撒くと言うものだった。

 

「これなら、さっきの方が強くないか?」

「ふふん! まだまだ本気じゃないからね! ほらっ!」

 

 そう言って、妖精は飛んでいる最中の自分の弾幕を凍らせた。

 

「ん? 何をする気だ?」

「はっ!」

 

 妖精はそう叫んで、さらに弾幕を放った。そして、時間差で凍らせた弾をランダムに動かした。

 放った弾幕は直線的に飛んでくるが、少し早く、周りの弾幕がランダムで飛んでくる為、上下左右前後を巧みに避けないと、当たってしまうだろう。

 

「なっ!? これは避けにくいぜ!」

「えへん! そうでしょ!」

「あぁ、そうだぜ。......だから、こっちも本気でいくぜ!」

 

 私はそう叫んで、ミニ八卦炉を取り出し、両手で相手に向かって構えた。

 

「いくぜ! 『恋符』! 『マスター......』」

「な、何をするんだ?」

「『スパークッ』!」

 

 そう叫んで、ミニ八卦炉に貯めた魔力を一気に放出した。

 その魔力は大きな光の塊となり、妖精へと一気に向かっていった。

 

「う、うわぁぁぁ──!」

 

 そして、見事に命中した妖精はそう叫びながら、湖へと落ちていった。

 ......少し、威力が強過ぎたぜ。

 

「それにしても、寒いな。ああ、半袖じゃ体に悪いわ。早くお茶でも出してくれるお屋敷探そう、っと」

 

 そう呟き、紅い霧が発生している場所へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「ミア、どうですか? 様子は」

「湖の上で膨大魔力を感知。近くまで来たみたいですね」

 

 起きた時にフランから、「お姉様が『異変を解決しに来る人達がもう来る』って言ってたよ」と言われ、急いでミアを召喚した。

 そして、今はミアに近くに誰か来ていないか見てもらっている。

 

「やっと来たんだね! 早くここに来ないかなぁ〜」

「それでは、お姉ちゃん達に伝えてきますね」

「はい、お願いしますね。......ミア、ちょっと相談があるのですが、いいですか?」

「言わなくても分かるからいいよ。私も姉として、それくらいのことはお易い御用だよ」

 

 そう言えば、考えていることが共有されてるんだったね。じゃ、頼むね、ミア。

 そう頭の中で思うと、ミアは頷いて部屋から出ていった。

 

「ん? お姉様、なんてお願いしたの?」

「秘密ですよ。でもまぁ、すぐに分かるので、ここで待っていましょう。すぐに......ね。ふふふ......」

「お姉様が珍しく悪い顔になってる......明日、雨降って外に出られなくなりそう」

「そんなに珍しいですか?」

「うん、珍しい。いつもほわわん......としてるから......」

 

 そうなんだ......あれ? なんかおかしい気が......。

 

「えーと、フラン? 大丈夫ですか?」

「......誰よ?」

「ふ、フラン?」

「誰なのよ!? 私の中に入ってこないでよ!」

 

 いきなりフランがそう叫んで、取り乱し始めた。

 

「貴女は私じゃないでしょ!? 勝手に私の中に入ってこないで! 私は......私は!」

「フラン! 落ち着いて下さい! 大丈夫ですよ! 私がいますから! 私がずっとそばにいますから!」

「駄目! 駄目駄目駄目! ......私に近付いたら、駄目......」

「フラ、グッ!?」

 

 言いかけたその刹那、フランが私を力強く突き飛ばした。

 

「つぅ......ふ、フラン? どうしたのですか......?」

「......オネーサマ、アソボ?」

 

 次にフランを見た時、その目は狂気に染まっていた────




次回は日曜日。

しかし、次回はレナ、フランサイドはないと思う()


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2、「紅い館の門番」

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(ホール)

 

「おねーちゃーん!」

「え、レナ? いや、ミア?」

 

 戦闘に向け、ホールに居ると、ミアが『抜け道』を作って入ってきた。

 

「ミアだよー! お姉ちゃん、もうすぐしたら、異変を解決しに人間が来るよ」

「え、えぇ、教えてくれてありがとうね。でも、上に来ちゃダメって言わなかったかしら?」

「それはレナとフランだけでしょ? 私はダメとは言われてないからねー」

 

 そう言えば、そうだったわ......。すっかりミアに言うのを忘れてた。

 

「はぁー、まぁいいわ。貴女って、いえ、貴方達って本当に......もういいわ。言ったら余計に頭が痛くなるから」

「......ごめんなさい」

 

 ......はぁー、そんな泣きそうな顔で言われると、私が悪い感じになっちゃうじゃない。

 

「いいわよ。謝る必要なんてないわ。それよりも、後何分くらいしたら着くとか分かるかしら?」

「異変解決には、二人の人間が動いていると思う。片方は魔法使いで、もう片方は多分巫女かな? 異変を解決するのって、巫女の仕事らしいし。それで、魔法使いの方は後数分したら着くと思うよ。巫女の方は魔法使いよりも数分遅れて着くと思う」

「そう......分かったわ。ありがとうね。それと、レナが大変みたいだけど、大丈夫なの?」

「私は身体能力とかは人間並に低いから、足でまといにしかならないからね。フランを力ずくで抑えるなら、魔法で出来るかもだけど......パチュリーのアドバイス通り、遊ぶならレナだけの方がいいと思うからねぇ〜」

 

 へぇー、アドバイスなんて貰ってたんだ。まぁ、レナだけでも大丈夫か。多少は怪我するかもだけど、あの娘達は大丈夫みたいだし。

 

「ただ、レナとの約束が守れそうにないのが少しね......」

「約束? 何の?」

「異変解決者を部屋に連れて来て欲しいから、手伝って。と言う約束だよ。今の状況で人間を送り込むとなると、その人間が死んじゃいそうだし。多分、レナと私みたいな能力を持ってる人じゃないとね。どんな能力を持っているか分からないから、送ろうにも送れないのよねぇ」

「ふーん......まぁ、今日じゃなくてもいいんじゃない? また後日、その二人のどちらかを連れてこればいいと思うわよ」

 

 連れて来ると言っても、無理矢理になるんだろうけどね。レナは常識がある方だけど、フランの為ってなったら、その常識も捨てるだろうし。フランはそもそも......これは私のせいかもね。フランを外に出さなかった私の......いや、今は置いておこう。これが終わったら......成功しても、失敗しても......。

 

「お姉ちゃん、大丈夫? 顔が暗いよ? フランのことでも悩んでた?」

「......分かってたなら聞かないでよ」

「あ、当たってたんだね。じゃ、私は行くね。もうすぐしたら、魔法使いの方が来るみたいだし、そっちに会いに行ってくる」

「そう、気を付けてね」

「大丈夫だよ。私は魔力の塊みたいなものだし、器が消えてもレナのところに戻るだけだから」

「いや、そういう問題じゃないんだけどね。まぁ、大丈夫ならいいわ」

 

 レナもレナなら、ミアもミアか。やっぱり、少し性格は違うくても、根は同じね。......フランも私もそうなのかしらね。

 

「んー? まぁ、いっか。じゃ、私は行ってくるね〜」

「えぇ、行ってらっしゃい」

 

 そう言って、ミアは部屋を出ていった────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──紅魔館周辺(上空)

 

「へぇー、いつの間にこんなのが出来てたんだ?」

 

 しばらく進むと、霧の湖付近に紅い建物があった。

 前にここら辺に来た時は見なかったが、いつの間にこんなのが作られてたんだ? まぁ、いつでもいいか。

 

「それにしても、悪趣味な館だぜ。ん? あれは......門番か?」

 

 悪趣味な紅い館の門に一人、女性が立っている。

 まだこっちには気付いていないみたいだな。それなら──

 

「......よし。あいつは放っておくか。じゃ、またな」

 

 ──霊夢に追いつかれそうだし、あれは放っておくことにするか。競走をしてる訳じゃないが、霊夢よりも早く黒幕に会いたいしな。

 

「どうやって入ろうか......。正面から入ったら、流石にバレるよな? なら、窓から入るか。開いてるといいな〜」

 

 もしも閉まっているなら割るしかないが、それでも正面よりはマシなはず。割った音で来なかったらの話だが。

 

「さて、開いてるかな〜」

 

 なんてことを言いながら、窓に近付き、窓を開けようとした。

 

「あ、マジか......。まさか開いてるとは思わなかったぜ」

 

 ──まさか開くとは思ってなかったが、結果オーライというやつだろう。

 

そう思いながら、窓からこっそりと中に入る。

 

「お邪魔しまーす。まぁ、誰も居ないとは──」

「居るよー」

 

 そう言って入ると、横から声がした。横に居たのは、紅い髪をした十歳くらいの少女だった。

 魔力を感じるから、魔法使いと言うのは分かるが......それにしても強過ぎないか? こんなに強い魔力は今まで感じたことがないぜ。それに、中に入るまで感じなかった。何かあるのか?

 

「はぁー、なんだ、居るのか」

「そんな、ため息つかなくてもいいじゃん......」

「せっかくバレずに入れたと思ったのに、入った瞬間バレたらため息もつきたくなるぜ」

「それも分かるけど......そもそも、バレてたよ? 最初から」

 

 ──おいおい、マジかよ......せっかくの気分が台無しだぜ。せめて言わないで欲しかったな。

 

「一応、聞くが、どうしてバレてたんだ?」

「魔力で」

「あぁ、聞いた私が馬鹿だったぜ。そんな常人離れした魔力を持ってるんだ。魔力探知は凄い距離まで出来るんだろうな。で、いつ気付いたんだ? 私がマスタースパーク撃った時か?」

「うん、まぁ、その時かな」

 

目を合わせようとしない少女を見て悟った。

 

 ──あぁ、絶対その前からバレてたな。それにしても、規格外にも程があるだろ。私の何倍の魔力なんだ? こいつは。

 

「そう言えば、お前の名前は?」

「名前を聞く時は?」

「ボコればいいのか?」

「どんな教育受けてるの......私はミアよ。貴女は?」

「私は霧雨 魔理沙。普通の魔法使いだぜ」

 

 と言っても、こいつと比べたら普通以下にしか見えないだろうけどな。

 

「へぇー、魔理沙ね。よろしくね。で、異変解決に来たんだよね?」

「あぁ、そうだぜ。スペルカードで勝負するか?」

 

 普通で戦っても勝ち目はないが、スペルカードなら勝ち目はあるはずだ。と言うか、あって欲しい。流石に鬼畜な弾幕は使わないだろうし......大丈夫だよな?

 

「ううん、今はやめとく。私、こう見えても魔法で出来た分身なのよね。で、私を作った人、と言うか本体? まぁ、その人が今大変だから、こっちで戦闘でもしたら、本体がやばいことになると思うから」

「おいおい、衝撃的な事実をさらっと言いやがるな。今度、その本体に会わしてくれないか? 色々と魔法について教えて欲しいからな。それにしても、お前から凄い魔力を感じるのに、本体じゃないってのは驚きだぜ」

「私と本体は記憶を共有してるから、私でも教えれるよ? それに、今、その本体は魔力がほとんど無いからね。私を召喚するのと、現在進行形で魔力供給しているせいでね」

 

魔法使い同士でしか分からないであろう話をまじまじと私は聞いた。

 

 ──ふーん、色々と制約的なのがあるんだな。だが、本体も同じくらいの魔力を持っているはずなのに、どうしてわざわざ召喚する必要があるんだ? 魔法使いなら、自分の身が危険に......もしかして、本体って妖怪なのか?

 

「ミア、一つ聞きたいんだが、お前の本体って妖怪なのか?」

「うん、そうだよ。吸血鬼って言う種族。ちなみに、姿は私と全く同じだよ。ただ、違うところは紅い翼があるってことだけ」

 

 吸血鬼......『吸血鬼異変』の奴か。余計やばいな。確か、吸血鬼って数日で幻想郷を後一歩のところまで壊滅状態にさせた妖怪だよな? その吸血鬼だとすれば、妖力もやばいはず......妖力も魔力も凄いってかなりせこい気がするぜ。

 

「そう言えば、お前はどうして戦わないのにここに来たんだ?」

「案内ですよ。お姉ちゃんのところまでの」

「お姉ちゃん? 異変を起こした奴のことか?」

「うん、正解。ちなみに、私達は三姉妹なの。今は一番上のお姉ちゃんが異変を起こしてて、私の本体である次女が末妹と一緒に地下で遊んでるって状況」

「なるほど、変な姉妹ってことは分かったぜ」

 

 異変を起こしている最中に、妹達は遊んでいるって、長女はきらわれているのか? まぁ、本人に会ったら聞くか。

 

「変とは失礼ね。ま、否定はしないけどねー」

「なんだ、しないのか。で、何処に居るんだ? それと、出来れば魔導書とかあったら貸して欲しいぜ」

 

 魔力が凄い奴だし、魔導書くらい持ってるよな? と言うか、持っていて欲しいぜ。死ぬまで借りたいし。

 

「死ぬまで借りないでね?」

「なんだ? 覚にでもなったか?」

「本当に死ぬまで借りるつもりだったんだ......まぁ、あるよ。案内してあげる」

「おう、優しい奴で良かったぜ」

「褒められてる気がしないのはなんでだろ? ま、いいや。じゃ、ついてきてー」

「分かったぜー」

 

 そう言って、私はミアについて行った────

 

 

 

 

 

 side Hakurei Reimu

 

 ──紅魔館周辺(上空)

 

「......あれね。勘だけど」

 

 しばらく妖精やらなんやらを倒しながら飛び続けていると、紅い館が見えた。

 おそらく、あれが──

 

「『華符「芳華絢爛」』ッ!」

 

 その声が聞こえた直後、声が聞こえた場所から、花が咲き誇るような弾幕が周囲に広がった。

 

「なっ!? せめて宣言する前に何か言いなさいよ!」

 

声のした方向に振り返ると、そこには緑っぽい色の華人服を身に纏い、何かの構えを取っていた女性が、こちらを鋭い瞳で見つめていた。

 

 ──間一髪、横に避けたが、相手が叫ばなかったら当たってた。

 ちゃんとした不意打ちじゃなくて助かったわね。

 

「ふーん、最初はびっくりしたけど、この弾幕、綺麗なのはいいけど、避けるのは簡単ね。同じ弾幕しか飛んでこないし。お返しにこれをあげるわ」

 

 そう言って、その妖怪に向かって弾幕を幾つか飛ばした。

 

「避けるの上手す、痛い! くそ、背水の陣だ!」

「あんた一人で『陣』なのか?」

 

 こうして、私は、そう言って逃げる妖怪を追いかけた──

 

 

 

 ──数分後 紅魔館 門前(上空)

 

「ついてくるなよ〜」

「道案内ありがと〜」

 

紅い霧の中、弾幕を飛ばしつつ逃げる妖怪を追いかけていくと、紅い館の近くへと出てきた。

 

「あら、私について来てもこっちには何もなくてよ?」

「何もないところに逃げないでしょ?」

「うーん、逃げる時は逃げると思うけどなぁ」

 

 ──まぁ、確かにそれもそうね。でも、すぐそこに紅い館が見えるんだけど。

 

「ちなみに、貴女、何者?」

「えー、普通の人よ」

 

 いやいや、そこは『普通の妖怪』でしょ。まぁ、それはどうでもいいわ。

 

「さっき攻撃してきたでしょ?」

「それは普通に攻撃したのよ。貴女の方こそ、普通の人間じゃないでしょ?」

「私は巫女をしている普通の人よ」

「それはよかった。たしか......巫女は食べてもいい人類だって言い伝えが......」

「言い伝えるな!」

 

 全く、これだから妖怪は......。

 

「で、スペルカードは何枚にするの? さっき私が一枚使っちゃったし、そっちが一枚多くていいのよ?」

「なら、私が三枚、貴女が二枚ね。急いでいるから、すぐに通らせてもらうわよ」

「そう、分かったわ。じゃ、こっちから! 『虹符「彩虹の風鈴」』!」

 

 そう言って展開された弾幕は、まるで流れる虹のようで、美しいものだった。

 

「やっぱり、綺麗な弾幕ね、貴女のは。でも、綺麗な弾幕ってだけじゃ、勝てないわよ?」

 

 喋りながら、上下左右に弾幕を避けていく。

 

「でも、綺麗な方がいいでしょ?」

「まぁ、それもそうね。で、次のスペルカードは? 私はスペルカードを使わないし、見飽きたから、次のを使ってよね」

「あら、もしかして、馬鹿にされてる?」

「いいえ、違うわよ。ただ、綺麗な弾幕を潰すのは勿体ないでしょ? でも見飽きたから」

「それは馬鹿にしている気もするけど......いいわ! 喰らいなさい! 『彩符「極彩颱風」』!」

 

 次のスペルカードは、虹色の弾幕が敵を中心に、雨のようにばら撒かれるという物だった。

 さっきの方が綺麗ね。まぁ、いいけど。

 

「うーん、虹色なのはいいけど、少し微妙ね」

「う、うるさいわね!」

「まぁ、いいわ。はぁっ!」

 

 そう言って、左右に避けながら、幾つかの弾幕をその妖怪に向かって飛ばした。

 

「ちょ、痛い痛い! 攻撃しないんじゃなかったの!?」

「しないのはスペルカードだけよ。じゃ、もう一度。はぁっ!」

「痛いってば! と言うか、スペルカードはもう終わってるわよ!」

「あぁ、そう。なら、貴女の負けね。さぁて、道案内してもらいますよ」

「えぇ!? ......はぁー、すみません、お嬢様~」

 

 こうして、私は妖怪に案内をさせ、紅い館の中へと入っていった────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「ほら、ここだよ」

「わぁ、本がいっぱいだぁ。後でさっくり貰っていこ」

「持ってかないでー。って、レナ? いや、ミア? どうしてここに居るの?」

「持ってくぜ。それと、こいつは私の案内人だぜ」

 

 まぁ、間違ってはないよな、うん。

 

「えぇーと、目の前の黒いのからミアを取り返す方法は......」

 

 目の前の魔女はそう言って、本をペラペラとめくり始めた。

 それにしても、それは載っているのか?

 

「パチュリー、載ってないと思う」

「あら、そうなの? そう言えば、どうしてここに来たの?」

「本を借りにだぜ。それと、この異変を起こしているこいつの姉に会うためにだぜ」

「そう、分かったわ。なら、ここから先には通さなゴホッゴホッ!」

「え、大丈夫か?」

 

 会話中、いきなり魔女が激しい咳をし始めた。

 

「だ、大丈ゴホッゴホッ!」

「おいおい、無理しない方がいいぜ?」

「はぁ......本当に無理かもしれない......」

「......魔理沙、少し待ってもらえますか?」

 

 まぁ、少しくらいならいっか。

 

「まぁ、案内してもらうわけだしな。いいぜ」

「では、発作を一時的にですが、治しますね。まぁ、数分かかりますけど......」

「あぁ、分かったぜ。......なんか不利になるような気がするが、気にしないようにするぜ」

 

 こうして、少しの間、待つことにした────




今回、終わり方が中途半端となりましたが、しばらく忙しくなる為なので、お許しくださいませ。

水曜日には投稿するはず......用事が終わればだけど()


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3、「動かない大図書館 時を止めるメイド」

先に謝ります。小悪魔好きな皆様、小悪魔の出番が短すぎです。すいませんm(_ _)m

と言うわけで(?)、始まります、4章3話目。
今回は題名通り、あの二人の戦闘です。最後に、おまけ程度でフランサイドの話も


 side Kirisame Marisa

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「おーい、まだかー?」

「もう少しだよー、こあとでも遊んでてー」

「もう終わってるぜ」

 

 パチュリーとか言う魔法使いの喘息を一時的に治し始めてから、五分ほど経つ。

 その間、パチュリーの使い魔のこあと遊んでいたんだが......良く言えば他の妖精よりは強かった。

「うん、早すぎない? まぁ、そこまで期待してなかったけど」

「ミア様〜、それを言われると傷つきますよ〜」

「あははー、冗談だよー。さ、パチュリー、これでいいはずだよ。多分、十分は持つと思う」

「ありがとうね、ミア」

 

 ──ほう、回復魔法も使えるのか......多少の回復なら私にも出来るが。それに、キノコの中にも、治療効果あるやつもあるしな。それを使えば私にも簡単に出来るぜ。

 

「それじゃあ、始めましょうか。五枚でいいかしら?」

「おっ、結構多いな。だが、いいぞ! その勝負、受けて立つぜ!」

「それじゃあ、先にやるわね。『火符「アグニレイディアンス」』!」

 

 放たれたスペルカードは、小さな火のような弾幕が、相手を中心に回りながら放たれ、大きな赤い弾幕が無造作に放たれるという物だった。

 

「うわっと、危なかったぜ」

「よく避けれるねー」

「え、なんでお前も避けてんだ? あ、ちょ、危ねっ! お前に気を取られて、今めっちゃ危なかったんだが!?」

「あははー、私になんか気を取られてると、当たっちゃうぜ?」

 

 いつの間にか、ミアが私の横で同じように弾幕を避けていた。

 

「私の真似をするなし」

「ミア、当たっても知らないからね。まぁ、それは置いといて......油断しても当たらなかったなら、次ね。『水符「ベリーインレイク」』!」

「私は当たらうわっ、危ない危ない」

「当たりそうになってるじゃないか!って、私も言ってる場合じゃないな!」

 

 次のスペルカードは、小さな水のような弾幕が放たれたと同時に、細いレーザーが私の横に放たれて逃げ場を無くし、レーザーが消えたと同時に青い大きな弾幕が放たれるというものだった。

 

 ──小さいのも大きいのも真っ直ぐ飛んでくるから避けやすいが、レーザーが少し厄介だな。逃げ場少ないし。

 

「いやー、結構面白い弾幕使うんだね、パチュリーって。私は切り札以外、神話関係の武器とか、召喚魔法しか出来ないからなー。まぁ、レナと一緒じゃないと半分の力しか出せないけど」

「お前も面白そうだけどな。吸血鬼が神話とか、召喚魔法とかなんて」

「ちょっと、もう少し難しそうに避けてよ。後三つしかないのよ?」

「あ、すまんな」

「ごめんね?」

「はぁー、もういいわ。次のスペルカードね。『木符「グリーンストーム」』!」

 

 次のスペルカードは、パチュリーからと左右斜め前からの三方向から緑色の小さな弾幕が、風を舞う葉っぱのように放たれるというものだった。

 

 ──それにしても、あいつ(パチュリー)、結構楽そうだな。あ、見てるだけだからか。それなら、逆に言えば手を出せないってことなんだが。

 

「うわぁー、難しいなー」

「いや、なんか簡単そうに言ってるが、地味に難しいぜ?」

「えぇ、取り敢えず、ミアは当たってしまいなさい」

「ちょ、怒らせるなよ? 今でも難しいのに、これ以上難しくなったら、やばいんだぜ?」

「いや、貴女も当たりなさいよ。貴女、一応侵入者なんだからね」

 

 それもそうなんだが、もう友達みたいになってるけどな。特にこいつ(ミア)が。なんか親しい感じで話しかけてくるし。私としても変によそよそしいよりかはそっちの方がいいけど。

 

「貴方達、簡単に避けるわね。まぁ、いいわ。『土符「トリリトンシェイク」』!」

「ほぉー、次は土ですかー。では、次は金かな?」

「ミア、調子に乗りすぎると、当たるわよ?」

 

 次のスペルカードは、名前の通り土のような小さな弾幕と、小さな弾幕よりも少し早速い大きな弾幕とが一緒に放たれるというものだった。

 速さが違う分、少し避けにくいな。本当に、少し、だけだけどな。

 

「うわっ、ミア、注意しろよ! 大きいのと小さいので速さが違うぜ!」

「うん、そうみたいだねー。魔理沙こそ気を付けなよー」

「なんか貴方達、簡単に避け過ぎよねぇ。まぁ、別にいいわ」

「まぁ、鍛えてるからな、私は」

「努力家っぽくないけど、努力家っぽいもんねー」

 

 軽い表情でそう言うミアに対し、私は内心驚いていた。

 

 ──なんで知っているんだ? いや、適当に言ってるだけか。

 

「よく分からない言い方をするんだな、お前って」

「おしゃべりはそこまでよ。これが最後のスペルカードよ! 『金符「シルバードラゴン」』!」

 

 次のスペルカードは、パチュリーから幾つもの方向に放たれる弾幕が落ちていくのに加え、パチュリーの奥からも弾幕が放たれるという弾幕だった。さらに、その弾幕はどんどん速くなり、避けにくくなっていく。

 

「ふむ、これは、避けにくいね」

「これは呑気に言ってる場合じゃないぜ! おい、あまり近付き過ぎないようにしろよ!」

「言われなくてもっと、危なっ!」

「これが最後なのよ。頑張って避けなさい」

「おいおい、簡単に言うなよ」

「頑張って、魔理沙。あ、一応、私の身体能力は人間並でも、動体視力とか反射神経とかは吸血鬼並だから、貴女よりは避けるの得意だよ」

「こんな時によく自慢話出来るな......あ、危ねぇ!」

 

 ──やっぱり、こいつ(ミア)に構ってると、当たるかもしれないな......。もう気にしないようにしないとな。

 

「魔理沙ー、構ってー」

「おい、わざとかよ」

「......はぁー、ここまでね。全部攻略されちゃったわ。だから、ここを通ってもいいわよ」

「よっしゃー! 勝ったぜ!」

「おめで......うっ!」

「ん? え、お、おい!? どうしたんだ!?」

 

 隣で飛んでたはずのミアを見ると、いつの間にか下に落ちて、血を吐いていた。

 

「い、いえ、大丈夫ですよ? 本体が受けたダメージはあまりフィードバックしないのですが、ちょっと強く受けすぎたみたいです......」

「ど、どういうことだぜ? 本体が誰かと戦ってるのか? それに、本体は吸血鬼だろ? 強く受けたって......」

「相手が同じ吸血鬼なんでね......」

「同じ吸血鬼だと? 吸血鬼とかって、お前ら以外は地底に逃げたんじゃないのか?」

「それは初めて聞きましたね......まぁ、それは置いときますか。私の妹です。少し、その......喧嘩しているだけですね」

 

 喧嘩? それでこんなに血を吐くものなのか? いや、本体はもっと大きいダメージを受けてるのか? なんにせよ、気になるな。

 

「その本体のところまで行かせてくれないか?」

「無理。魔理沙、死んじゃうよ?」

「大丈夫だぜ! それよりも、お前の方が死ぬかもしれないんだぞ? 本体が死ぬと、お前も死ぬんだろ? 行かなくていいのか?」

「確かに、本体が死ぬと私も死ぬよ。でも、私が行っても邪魔にしかならないから。今、私の本体と妹は『遊んでいる』のです。だから、邪魔をしては──」

「それなら、私も遊ぶぜ! 私もお前の本体とその妹と遊べばいいだけだろ? それくらい、簡単なことだぜ!」

 

 まぁ、吸血鬼の遊びにどこまで付いていけるか分からないけどな。それこそ、霊夢の方がいいかもしれないな。攻撃が絶対に当たらないし。

 

「そう簡単なことじゃ──」

「良いんじゃない? 戦って分かったけど、そこまで弱いやつじゃないわよ、その人間は」

「え、で、でも!」

「それに、フランも遊び相手が多い方がいいと思うわよ? あの娘、貴方達(姉妹)に依存しているみたいだし。まぁ、それは治らないかもしれないけど、和らげることくらいは出来るはずよ。貴方達(姉妹)が死んだら、あの娘も後を追いそうだし、その可能性を無くす為にもね」

 

 へぇー、結構複雑な家庭なんだな。まぁ、何でもいいか。お節介かもしれないが、少し、その和らげることを手伝うとするか。

 

「そうと決まれば、早く行くぜ!」

「え!? 本当に行くの!?」

「あぁ、本当に行くぜ! 本当は異変を解決する為に来たんだが、それは霊夢に任すとするぜ! 私は姉妹喧嘩を終わらせに行くとするぜ」

「はぁー、もう知らないから! 死んでもほっとくからね!」

「いや、そこはちゃんと埋葬してくれよ」

「もう、本当に知らないから! さ、付いてきて!」

 

 そう言って、何か穴のようなものを地面に作った。そして、ミアはその中へと入っていった。

 

「え、これに入ればいいのか?」

「えぇ、そうよ。それじゃあ、行ってらっしゃい。気を付けることね、吸血鬼でも致命傷を与えることが出来る娘よ。貴女くらい、一撃で葬られるでしょうね」

「おいおい、怖いこと言うなよ。まぁ、大丈夫だけどな。それじゃあ、またな」

 

 そう言って、私も穴の中へと落ちていったのだった────

 

 

 

 

 

 side Hakurei Reimu

 

 ──紅魔館(廊下)

 

「あれ? あいつどこ行ったの? まあいいわ。中に入れたんだし、適当に進んでたらまた誰かに会うでしょ」

 

 妖怪に道案内を頼んでみたものの、いつの間にか何処かに消えていた。おそらくは、逃げたのだろう、多分。

 

「それにしても......ん?」

「あー、お掃除が進まない! お嬢様に怒られるじゃない! あ、また埃発見。『奇術「ミスディレクション」』」

「誰が埃よ!」

 

 目の前から、メイド服姿の女性が飛んできたと思うと、突然スペルカードを宣言する。

 

 不意打ちで使われたスペルカードは、小さなナイフのような弾幕を飛ばすと言う、簡単な──

 

「あら、簡単だと思った?」

 

 小さなナイフのような弾幕を飛ばし終えた瞬間、相手は飛ばしていた場所とは違う場所に居た。そして、さらにそこからナイフを飛ばして弾幕を張った。

 

「え、危なっ! って言うか、いつの間に!?」

「貴女が最初の弾幕に気を取られている時とか?」

「疑問形で言われても知らないわよ!」

 

 弾幕に気を取られていたとしても、移動したのに気付かないわけがない。......何か仕掛けがあるのか?

 

「あらまぁ、当たらないわね。それじゃあ、またね」

「逃がさないわよ!」

「妖精メイド! 私の掃除の邪魔をさせないようにしなさい」

 

 その女が叫ぶと同時に、十数人の妖精メイドがどこからともなく現れた。

 

「ちょ、どっから出てきたのよ!?」

「さて、私はお掃除に戻らないとね〜」

「うわっ、あいつ腹立つ! と言うか、あんた達は邪魔よ! 早く退きなさい!」

 

 こうして、私はしばらくの間、妖精メイドに足止めされることになった────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「うわっ! ど、どうして天井──」

「魔理沙、静かに」

「え? ......あぁ、分かったぜ」

 

 そう言って、私が落ちないように、ミアが私の手を掴んだ。

 下を見ると、腹から血を流したミアそっくりな奴と、手が血で真っ赤に染まっている、黄色い髪とおかしな翼を持った奴が居た。

 

「見てわかる通り、血が出てる方が私の本体のレナね。それで、一緒にいる可愛らしい娘が妹のフランだよ」

「へぇ、そうか......それにしても、大丈夫なのか? あいつ、血が出てるけど」

「大丈夫だと思うよ。吸血鬼だし」

 

 あいつ......殺されかけてないか? いや、それはそうとして、こいつ(ミア)は大丈夫なのか? 一応、血は出てないみたいだが......。

 

「......ミア、お前は大丈夫なのか? 平気そうだけど」

「まぁ、大丈夫っちゃ大丈夫かな。痛みは三分の一くらい伝わってるけど、動けないって程じゃないからね」

「なるほどな、痛いのは痛いってことか。それで、どうする? お前の本体が殺されそうだぞ? お前の妹に」

「見とく」

 

 こいつ、自分が殺されるのを黙って見とくつもりなのか? 馬鹿なのか?

 

「大丈夫だよ。心配しなくても大丈夫。(ミア)(レナ)を信じるし、フランのことも信じてるから」

「なるほど、馬鹿だな。だが、お前がそう言うなら手を出さないぜ。面白そうだしな」

「人が怪我してるのに、面白いって......まぁ、いいや」

「あはは、まぁ、いいじゃないか。それに──」

「誰? そこに居るのは」

 

 ミアと会話していると、黄色い妹の方がこっちをじっと見つめて、そう言った────

 

 

 

 

 

 

 side Hakurei Reimu

 

 ──紅魔館(廊下)

 

「はぁー、何なのよ、もうっ!」

 

 メイド服姿の女性に足止めされた後、どこからとも無く現れた妖精達に邪魔をされ、メイド服姿の女性を見失った。

 

 ──妖精に足止めはされるわ、さっきのメイドは見失うわで、疲れたわ。

 

「......あ、見つけた!」

「あ、またお掃除の邪魔する〜」

 

 しばらく飛んでいると、さっきと同じメイドを見つけた。

 

「貴女......は、ここの主人じゃなさそうね」

 

 見た目がメイドだし、違うよね? 趣味とかで着てるとかだったら、やめて欲しいわ。ややこしいから。

 

「なんなの? お嬢様のお客様?」

 

 倒しに来たってっても通してくれないよな?

 

「通さないよ。お嬢様は滅多に人に会うようなことはないわ」

「軟禁されてるの?」

「お嬢様は暗いところが好きなのよ」

「暗くない貴女でもいいわ。ここら辺一帯に霧を出してるの貴方達でしょ? あれが迷惑なの。何が目的なの?」

「日光が邪魔だからよ。お嬢様、冥い好きだし」

「私は好きじゃないわ。止めてくれる?」

「それはお嬢様に言ってよ」

 

 ──一応、言ってみるか。無駄だろうけど。

 

「じゃ呼んできて」

「って、ご主人様を危険な目に遭わせる訳無いでしょ?」

 

 まぁ、そうよね。はぁー、めんどくさいわ。

 

「ここで騒ぎを起こせば出てくるかしら?」

「でも、あなたはお嬢様には会えない。それこそ、時間を止めてでも時間稼ぎが出来るから」

「そう、無理だと思うわよ。それで、スペルカードは何枚にするの? さっき一枚使ってたけど」

「四枚。さっきのも入れていいわよ。それじゃあ、『幻在「クロックコープス」 』!」

 

 メイドは先ほどと同じように、小さな弾幕をばらまく。

 

「また同じ手? マジシャンが同じネタをやっても、ウケないわよ?」

「ごめんなさいね、私はマジシャンじゃないのよ。ただのメイドよ。それに、同じ手じゃないわよ?」

「へぇー、言うじゃ──!?」

 

 そう言った瞬間、目の前に、切っ先が私に向いた青いナイフが現れた。そして、そのナイフと同時に、小さな弾幕も私に向かって襲ってきた。

 

「ちっ、『夢符「封魔陣」』!」

 

 避けきれないと判断した私は、スペルカードを宣言し、自分を中心に、空高くまで伸びる結界を生成した。そして、その結界でナイフを防ぐ。

 それにしても、瞬きをしたわけでも無いのに、目の前にナイフが現れるのに、気付かなかった。......どうして気付けなかったんだ?

 

「あら、攻略されちゃったけど、貴女もスペルカードを使っちゃったわね」

「えぇ、そうね。でも、これ以上は使わなくってよ?」

「はいはい、そう言えるのも今のうちかもね。『幻象「ルナクロック」 』!」

 

 そう言って、先ほどよりも密度の濃く小さな弾幕をばらまいた。

 そして、瞬く間に先ほどと同じようにナイフが現れた。

 

「さっきとは違うわよ? ほら、その緑のナイフに気を付けなさい」

「くっ!」

 

 メイドが言った通り、先ほどと同じではなかった。青いナイフに混ざって緑のナイフが、ランダムな方向に向かって飛び始めた。

 飛ぶ方向が分かりずらい分、さっきよりも避けにくい。

 

「ちっ、めんどくさいわね!」

「あら、スペルカードは使わないのよね?」

「そんなの使わないわよ!」

「......え!? い、一体どうやって!?」

 

 そう言って、一瞬で避けきれない弾幕の向こう側へと移動した。

 

「え、ちょっと、どうやったの? 今の瞬間移動ってやつよね?」

「え? ただ、普通に移動しただけよ?」

「......あぁ、貴女、天才ってやつなのね。だから、そんなことは普通出来ないわよ」

「そんなことよりも、攻略したわよ?」

「あ、そうだったわね。じゃ、次ね、『メイド秘技「操りドール」』!」

 

 メイドはそう言って、幾つもの青いナイフと赤いナイフを私に向かって投げた。

 そして、一瞬で緑色のナイフが、先ほど投げたナイフと同じ位置に現れた。そのナイフは、ランダムな方向に向かい始めた。

 

「まーた、めんどくさいわね! ......くっ!」

「......一回スペルカードを使ったとは言え、よく今まで避け続けれてるわよね」

「これでも、博麗の巫女なもんでね!」

 

 そう言いながら、弾幕を気合いで避け続ける。

 

「......はぁー、攻略されちゃったわね」

「そう、私の勝ちね。さぁ、会わせてくれるかしら」

「えぇ、いいわよ。それにしても、強いわ......でも、お嬢様ならあるいは......」

 

 こうして、メイドを倒した私は館の奥へと進んで行った────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「誰? そこに居るのは」

 

 ミアと会話していると、黄色い髪の方がこっちをじっと見つめて、そう言った。

 

「あ、やばっ」

「あらま、魔法で隠れてたのに......あ、『目』を隠すの忘れてたんだ」

「おい! 何か分からないが、お前のせいかよ!」

「いやいや、魔法で隠してたから! それに、普通は気付かないって!」

 

 まぁ、確かに、私は何もやってないもんな。......あれ? 私って約立たずだったか? まぁ、いっか。

 

「......ミア? 良かった、お姉様が私のせいで怪我をしたから、治してくれない?」

 

 ......泣いてるのか? あ、もしかして、喧嘩してやり過ぎたってことなのか? だから、大丈夫ってことだったのか?

 

「......フラン、戻ったの?」

「ううん、その表現は違うよ。ただ、入れ替わっただけ。多分、お姉様や貴方(ミア)と同じ。私の中にある狂気と私が入れ替わっただけだと思う」

「えーと、どういうことだぜ?」

「......貴女は?」

「私は魔理沙。霧雨 魔理沙だぜ!」

「私はフラン。それで、今気絶してるけど、こっちは私のお姉様よ。そっちは......聞いてるかな?」

 

 黄色い髪の娘、フランがミアを指してそう言った。

 

「あぁ、聞いてるぜ。ミアだろ?」

「そう、それなら良かった」

「......フラン、大丈夫? 元気が無いように見えるけど」

 

 確かに、話し方も心ここにあらずって感じのだもんな。まぁ、姉を殺しかけたなら、当たり前か。

 

「大丈夫だよ。ただ、私がお姉様を......」

「あ、それ以上は言わなくていいよ。大丈夫、レナもそんなこと気にしてないだろうし」

「うん、お姉様も気絶する前にそう言ってた。でも、私は......」

「本人が大丈夫ってなら、そこまで心配する必要はないんじゃないか? 心配し過ぎると、逆に迷惑がかかるぜ?」

「そ、そうだけど......」

 

 はぁー、めんどくさい奴だな。まぁ、見た目通りの歳なら、当たり前か。

 

「少なくても、私は迷惑だぜ。少しでも姉のことを想うなら、笑いかけてあげろ。『私は大丈夫だから、心配するな』ってな。そうしたら、姉を心配する必要なんて、なくなると思うぜ。嬉しそうに笑うと思うからな。

 

 ......多分だけどな!」

「って、おい! 魔理沙!」

「ま、まぁ、私は姉がいないからな、それっぽいことしか言えないぜ」

 

 ミアのツッコミをよそに、私は話を続ける。

 

「でも、大切な人を想う気持ちなら、分かるぜ」

「......魔理沙だっけ? ありがとうね。少しだけ、元気出た。あ、ミア、早くお姉様を治して」

「あ、うん、分かった」

 

 そう言って、ミアがレナが怪我した部分に触れて、魔法を行使し始めた。

 

「......本当、レナって無茶するよね。まぁ、(ミア)も変わんないんだろうけどね、(レナ)だし」

「なんかややこしいな。で、治療ってどれくらいかかるんだ?」

「五分で終わるよ」

「ほぉー、早いな」

「ま、お姉様(ミア)だしね。魔法の力は姉妹の中でも一番だからね」

 

 ──ややこしくなってきたな。大体分かるからいいが。

 

「あ、そういや、お前達以外にも姉妹っていたよな? どんな奴だ?」

「んー......優しくて、強くて......」

「どんくさくて、よくヘマをして、ダメダメなお姉様だよ」

「なんだ? フランはそいつのことが嫌いなのか?」

 

 結構悪口を言ってるなぁ。まぁ、姉妹だから、そう言うのもいいのか? よく分からんな。

 

「ううん、好きだよ。お姉様も、ミアも、レミリアお姉様も、同じくらい大好き」

「へぇー、そっか。仲のいい姉妹でよかったぜ」

「確かに、仲が悪いよりは全然いいからね」

「......ん、ミア?」

 

 そう言って、レナが目覚めた。

 

「あ、起きた。思ったよりも回復早かったね。吸血鬼だからかな?」

「おう、起きたか。あ、私は魔理沙だぜ。よろしくな」

「は、はい、よろしくお願い──」

「お姉様! 大丈夫だった!?」

 

 そう言って、フランがレナに飛び込んだ。

 ......おい、大丈夫なのか? 傷治している途中だよな? まぁ、吸血鬼だし大丈夫か。

 

「あ、フラン......貴女こそ、大丈夫ですか?」

「うん、私は全然大丈夫! ほら、大丈夫そうでしょ?」

「......ふふ、はい、大丈夫そうですね。よかったです」

 

 フランがそう言って、レナに笑いかけると、レナがフランに笑い返した。

 

「な? 言った通りだろ? これでもまだ心配か?」

「ううん、全然。本当にありがと、魔理沙」

「いいってことよ」

「ん? どういうことなのですか? これは」

「レナには秘密よ。で、レナ、私にお礼とかないの? 私が治したのに」

 

 ミアが怖い顔でレナにそう言った。なんか、ミアってレナに対しては厳しい感じがするな。気のせいかもしれないけど。

 

「ありがとうございますね、ミア」

「うん、いいよ」

「あ、話を戻すが、そのもう一人のお前達の姉妹って、この異変を起こした奴なんだよな?」

「うん、そうだよ。名前はレミリア。私達、姉妹の長女だよ」

「ってことは、霊夢が戦うことになるのか......見に行きたいが、ここで何があったのかも気になるんだよなぁ」

 

 まぁ、どうせまだ来てないだろうけどな。あいつよりも先に来たし......まぁ、あいつって、結構勘がいいからなぁ。もう着いてる可能性も高いか。

 

「え? ここでって、私とお姉様のこと?」

「あぁ、そうだぜ」

「そ、それは......他人に言えるようなことじゃ......」

「フラン、誤解を招きそうなので、その言い方はやめて下さい、お願いします」

「ん、でも、合ってるでしょ?」

「いえ、合ってないと思います」

 

 ──なんか二人だけで話し始めちゃったな。

 

「レナ、フラン。また怒ろうか?」

「すいませんでした」

「ごめんなさい」

 

 ミアにそう言われ、レナとフランが土下座した。......なんだ? ミアってお母さんなのか?

 

「えーと......どこから話を始めましょうか?」

「私が狂気に染まったところとかで良いんじゃない? あ、ミアと別れた時からかな?」

「軽く言いますね。ではまぁ、ミアと別れたところからで。ミアと別れた後、フランが──」

 

 こうして、レナとフランの話が始まったのであった────




間違って、夕方に投稿しちゃったぜ()
まぁ、消したから大丈夫だよね、うん()
多分、次回は日曜日の予定です


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4、「末妹とその狂気」

今回、微グロ注意です()

それと、異変の方は『全く進まない不思議!』となっています()


 side Kirisame Marisa

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「えーと......どこから話を始めましょうか?」

「私が狂気に染まったところとかで良いんじゃない? あ、ミアと別れた時からかな?」

「軽く言いますね。まずはミアと別れたところからですね。ミアと別れた後、フランが──」

 

 こうして、レナとフランの話が始まった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──レナの回想 紅魔館(フランの部屋)

 

「えーと、フラン? 大丈夫ですか?」

「......誰よ?」

「ふ、フラン?」

「誰なのよ!? 私の中に入ってこないでよ!」

 

 フランがいきなりそう言って、取り乱し始めた。

 

「貴女は私じゃないでしょ!? 勝手に私の中に入ってこないで! 私は......私は!」

「フラン? お、落ち着いて下さい! 大丈夫ですよ? 私がいますから......。私がずっとそばにいますからっ!」

「駄目! 駄目駄目駄目! ......私に近付いたら、駄目......」

「フラ、ぁっ!?」

 

 フランに近付いたと思うと、私は後ろへと飛ばされる。

 

「つぅ......ふ、フラン? どうしたのですか......?」

「......オネーサマ、アソボ?」

 

 次にその娘の瞳を見ると、それには狂気が渦巻いていた。

 

 前にも見たことがある。あの、狂気の瞳だった。

 

「......いいですよ。でも、その前に一つだけ聞いてもいいですか?」

「イヤ、ハヤクアソブッ!」

 

 フランがそう叫ぶと同時に『レーヴァテイン』を手に持つ。

 

 ──やっぱり、コミュニケーションは難しいかぁ。まぁ、いっか。

 

「......っ。仕方ないですね......。その遊びに付き合いますよ。『神剣「クラウ・ソラス」』!」

 

 私は身を守る為にも、『クラウ・ソラス』を作り出す。

 

 この剣はフランのレーヴァテインと違い、刀身は普通の剣とあまり変わらない。だが、特別な能力もある。

 

 ──と言っても、今は魔力がほとんどないからこの剣の真髄は使えないけど......。

 

「アハハハハ! アリガトウ、オネーサマ! ジャ、チャントヨケテネ!」

 

 フランはそう言うと、レーヴァテインを勢いよく振り下ろした。

 

「手がっ、痺れっ!? ふ、フラン? もう少し手加減してくれません......?」

 

 ギリギリのところで剣で受け止めるも、フランの強過ぎる力の反動で手が痛い。

 さらに、フランの方が力が強いため、受け止めることに集中しないとすぐに真っ二つにされそうだ。

 

「ちょ、ちょっと、力が強過ぎませんか!? もうやばいのですけど!?」

「アハハハハ! モットガンバッテ! オネーサマァ!」

 

 さっきまでのも全力では無かったのか、剣に込められた力が増す。

 

「っ!? ......こ、これはやばいっ! 仕方ないですね......っ! 『輝きを放て! クラウ・ソラス!』」

「ッ!?」

 

 叫び声のような声を言い放ち、無けなしの魔力を使って『クラウ・ソラス』の刀身を輝かせた。

 

 そして、フランが怯んだ隙に、『クラウ・ソラス』で『レーヴァテイン』の攻撃を逸らして私は逃げる。

 

「チッ! ニガサナイ!」

「逃がして下さい! 鬼ごっこだと思えば、楽しいですよ!?」

「イヤ! イマハ、オネーサマヲキリキザミタイキブンナノ! タノシイヨ!?」

「それはどういう気分ですか!? それに楽しくないです! 痛いの嫌です!」

 

 ──でもまぁ、確かにフランなら......いや、それでも痛いのは嫌だ。それにしても、魔法使えなくなると、全然戦えなくなるなぁ。

 ......やっぱり、無理して魔力を分けない方が良かったか。それとも、今まで魔法に頼ってたせいか。

 

「『フォーオブアカインド』!」

 

 逃げていると、背後から声が聞こえた。

 

 振り返って見てみると、フランが四人に増えた。

 

 ──これ、どうすればいいんだろう? 笑えばいいのかな? それとも、説得を......。

 

「アソンデクレナイ。ソンナ、オネーサマナンテ......シンジャエ......」

 

 そして、フランの分身が弾幕を放ち始めた。そして、本体が『レーヴァテイン』を私に向かって振り下ろす。勿論、どちらも当てる為に放っているものなので、逃げ道なんて用意されてない。

 

「......フラン、死にませんよ。死んだらフランが凄く悲しむと、私は知っていますから。『神槍「ブリューナク」』。ごめんなさい、フラン」

 

 私は『クラウ・ソラス』を消して、槍である『ブリューナク』を妖力で作り、手に持った。

 

「この槍、少し痛いと思います。ですが、我慢して下さい。すぅー......はぁっ!」

 

 私は迫り来る弾幕を無視して、『レーヴァテイン』を握っている両腕に向かって、全身全霊を込めて槍を放つ。

 

「っ! 結構痛いですね......」

 

 弾幕を無視して投げたこともあり、少しの弾幕に触れてしまった。

 

「ッ!? ア、アァァァ──ッ!」

 

 しかし、それと同時に、フランの両腕に槍が突き刺さった。あまりに痛かったせいか、刺さったのと同時にも、分身と弾幕は消えてしまった。

 

 槍は投げた力が強過ぎたのか、そのまま壁にまで飛んでいく。槍は壁へと刺さり、フランは槍に刺さったまま叩きつけられることになった。

 

 そして、壁に叩きつけられたフランが声にもならない苦痛の叫びをあげた。

 

「イタァイ......イタイ、イタイイタイッ! イタイ......」

「っ。やっぱり、私が死んででも......フラン......」

「イタイノ、イヤ! ユルサナイ......オネーサマ! ユルサナイ!」

「え、なっ......!?」

 

 痛みなど無かったのか、そう思うほど勢いよく槍に刺さった両腕を引きちぎった。

 引きちぎられたフランの両腕は、片方は肘から無くなり、もう片方は今にもとれそうなことになっている。

 

「ふ、フラ、ぐっ!?」

 

 そして、私が心配し、油断した一瞬の隙をついて、フランが突進して来た。私はそれを避けることが出来ずに、さっきのフランと同じように壁へと叩きつけられる。

 

「ユルサナイ!」

「ふ、フラン......」

 

 フランは首に叩きつけるように、今にもとれそうな片腕を私の首に押し当てた。

 

「そ、そんなことをしたら......貴女の手がぁッ!」

「ウルサイ......コロス......」

 

 フランが千切れた方の腕を使って、私の顔を殴った。勿論、拳ではなかったが。それでも痛い。

 

 しかし、それよりも後悔と悲しみの感情が溢れてくる。殴ったと同時に、『グチャッ』と言う音が響くからだ。それが私に訴えるように木霊して耳に響く。

 

「っ!? ......かはっ......フラン......無理、しないで......」

 

 フランは無理をして、何度も私の顔を無いはずの腕で殴り始めた。

 その姿を見ることはできても、目を背けたくなった。

 

「シネ! シネ! シネッ! ......ハァ、ハァ、ワタシヲ、キズツケル、オネーサマナンテ......! シンジャエ!」

「フラン......私に死んで欲しいならグっ! ど、どうして......っ! な、泣いているのです......?」

 

 フランの目からは、いつの間にか涙が零れていた。

 

「ハ、はァ......?」

「そ、そうですよ......な、泣いています! フラン! 私は能力を使いません! あ、貴女だけで......貴女の狂気に勝ちなさい!」

 

 私が狂気を『有耶無耶』にしても意味がない。ここで抑えたとしても、今回のように、次はより酷くなるだけだ。こうなると、最終的には私の能力で抑えきれないほど強力になるだろう。

 

 ──フランの狂気を抑えるには......フラン自身が何とかするしかない。フラン自身が狂気を克服しなければ意味がない。フランを信じて......あ。もしかしてだけど、これって......私とミアのようなものなのかな?

 

「オネーサマ......コロ......い、嫌! オネーサマは殺したくナイ! コロス! ワタシヲ傷つけタ、オネーサマナンテコロす! イヤ! お姉様は私ノ為に! 私ナラ! それくらいワカッテル!」

「......狂気と戦えるようでよかったです。フラン......それと、フランの狂気も......傷つけてごめんなさい。気の済むまで殴っていいですが、フランの狂気は少しだけ、出てくるのを我慢してくれませんか? また後で、ミアのようにしてあげますから......」

「ミア? ......ホントウニ? どういうこ......ソレナラ、モドル。......アリガトウ、ゴメンナサイ。......キライだなんて、ウソ。ホントウはダイスキ。デモ、ワタシヲキズツケル、オネーサマ、キライ」

「え、それゆるうっ! っはぁ!」

 

 フランの狂気がそう言うと、私の腹を爪で突き刺した。そして、そのまま中を抉るようにして、取り出した。

 ──腕、取れかかってたのに、いつの間にか治ってたんだ......。不覚......。

 

「ちょ、ちょっと......痛すぎる......」

「......え? あ、お姉様!」

「あ、フラン、戻りましたか。それにしても......狂気の方は本当に困った娘ですね......あ、私のことは心配しなくても大丈夫ですよ」

「嘘でしょ......お姉様、血がいっぱい出てるもんっ......」

 

 フランに体を支えられながら、その声に耳を傾ける。

 

「本当に、気にしなくていいですよ? それよりも、私の方がごめんなさい、ですよ」

「ううんっ! お姉様は私のために......!」

「このくらいなら、すぐに治ります。......でも、少し疲れたので、寝させて下さい......」

 

 ──あぁ......視界が暗くなってきたなぁ......。でも、本当にフランが元に戻ってよかった。フランの狂気も、これで心配いらなくなりそう......。あれ、目の前が暗く......。

 

「お姉様......グスッ。うん、おやすみなさい......。大好き......」

 

 その言葉を聞いた後、私は気絶した──

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「とまぁ、私が憶えているのはここまでですね」

「ま、その後すぐにミアと魔理沙が来たから、話すのはここまででいいよね、うん」

「? まぁ、そうですね」

「そう言えば、ほぼ千切れた腕で殴ってたんだよな? それなのに、どうしてレナの顔は綺麗なんだ? ふつー、血で真っ赤に......」

「え!? ......そ、それは私が拭いてあげただけだよっ!」

 

 フランが慌てた様子でそう言った。

 

 ──なんか怪しいが、まぁいっか。

 

「ふーん、そうか......それで、結局狂気ってなんだ? 今の話を聞いたら、余計分からなくなったんだが」

「......それは、私とミアのような感じですね。まぁ、正確に言うと少し違うのでしょうけどね。要するに、もう一人のフランです。解離性同一性障害。まぁ、多重人格ってやつですね」

 

 ──なるほど、多重人格か。......これ、私はあまり深く聞かない方がいい気がするな。

 

「あ、魔理沙、遠慮しなくてもいいよ? 私も大体気づいていたしね。......たまに頭の中に声が響くの。私を出せって。お前ばかりずるい......ってね。だから、気づいていたの。でも、私は無視してた......」

「私とは違って、自我が強いのね。私は別にミアと視覚とか共有してるし、表に出たいとかあんまり思わないのよねぇ。まぁ、少しは思うんだけどね、少しは」

「まぁ、無理なんですけどね。魔力消費量やばいし......」

 

 やっぱり、そうなんだな。

 

 ──ん? と言うことは、ずっと召喚なんて出来ないのか? それなのに、ミアは視覚とか共有してるから別にいいと......変な奴だぜ。

 

「でも、出来ないことはないよね? 器となる容れ物があればいいだけだし。私を召喚するのって、ほとんど外側を作るので魔力使っちゃってるしね」

「あ、そう言えばそうでしたね」

「ん? 要するに、人形かなんかで容れ物を作ればいいってことか? それならいい奴を知ってるぜ!」

「あ、アリスさんですね、分かります」

「し、知り合いなのか!?」

「はい、そうですよ」

 

 まさか、アリスに吸血鬼の知り合いがいたとはな......まぁ、世の中こんなこともあるか。

 

「それで、話を戻すが、容れ物さえあれば、ずっと召喚したままでも大丈夫なんだよな?」

「うん、大丈夫だよ。多分、そうしたら、召喚による魔力消費量よりも、自然での魔力回復力が多くなるだろうしね。それに、分身の方が食事や睡眠とかもすれば、本体が送る魔力はほとんど要らなくなると思うし」

「最初から、そうすればよかったです......」

「そうねぇ〜」

 

 さっきまで生きるか死ぬかなのに、気楽だなぁ......いやまぁ、私が言えないんだけどな。一応、ここ敵地だし。

 

「まぁ、取り敢えず、この異変が終わったらアリスに頼みに行ってくるぜ! お前もその狂気って奴も、ずっと外に出てたいだろ?」

「ま、まぁ、それはそうだけど......フランの狂気は少し危険な気が......まぁ、本体と入れ替わろうとか思ってなければいっか。ちなみに、私はそんなこと思ってないから、うん」

「ミアのはある意味自殺行為ですね。まぁ、しないと思いますが。お姉様もフランも居るし......」

 

 なんか便利そうで不便な気がするな、分身って。魔力はほとんど使うなら、私はいらないな。

 やっぱり、弾幕は分身とかよりもパワーだぜ。

 

「......私、私の狂気と仲良くなれるのかな?」

「異変が終わったら、フランの狂気を呼び出しましょう。自我があるなら、出来るはずなので。......そこで話をしてみればいいのですよ」

「......うん、分かった」

「まぁ、大丈夫だと思うよ。私もレナのことは気に入らないことがあるけど、好きなのは好きだから」

「さらっと酷いことを聞きました......」

「私はいいこと聞いた。ありがとうね、ミア。......そう言えば、魔理沙は異変を解決しに来たんだよね? お姉様に会いに行かなくていいの?」

 

 ふと聞かれた質問に、あっと驚く。

 

 ──すっかり忘れてたぜ。

 

「い、行くぜ? 今から行こうかと思ってたところだぜ?」

「あ、う、うん。......あぁ、もう霊夢がお姉様と戦ってるみたいだよ?」

「え!? ま、マジかよ......って、私、霊夢のこと言ったっけ?」

「え、うん。言ってたよ。博麗の巫女だって」

 

 ──言ってたのか。全然憶えてないな。

 

「......はぁー。異変解決は諦めるか。あいつがもう戦ってるなら、間に合わないからな。その代わり、また後日来てもいいか? あいつがお前達の姉と戦ってるって言うなら、私はその妹、お前達と戦いたいからな。勿論、万全な状態でな」

「ま、いいよ。その時は、ミアと私の狂気の人形を持ってきてね。家族が増えるのは嬉しいことだと思うし、私の狂気とは一度話をしてみたいしね。いつもは一方的にしか喋ってこないし......」

「あ、霊夢も連れて来てくださいね。二人対一人は流石に酷いと思うので」

 

 まぁ、確かに二対一はきついな。それも、吸血鬼相手となると、かなり苦戦しそうだぜ。

 

「あぁ、分かったぜ。あ、そう言えば、ミア。私を霊夢のところに送れるか?」

「送れるよ。友人の勝負を見に行くの?」

「あぁ、そうだぜ。心配だからな。一応」

「あはは、優しいのね。じゃ、私は魔理沙を送ってくるけど、レナとフランはどうする?」

「私はもう少し休みたいので、待っときますよ。まぁ、ミア視点で弾幕ごっこの風景は見れると思うので、それで充分ですよ」

 

 あ、そう言えば、こいつらは視覚共有するんだったな。なんか便利でいいな。

 

「もう終わるかもしれないけどね。で、フランは?」

「私はお姉様の面倒見とく。それに、レミリアお姉様は大丈夫だと思うしね。まぁ、負けても面白かったら良さそうな人だしね、レミリアお姉様は」

「私はお姉ちゃん勝った方が嬉しいけどなぁ〜」

「さぁ、早く行こうぜ?」

「あ、うん、分かったよ。じゃ、またね、レナ、フラン」

「また会いましょう」

「あ、うん。バイバイ」

 

 ミアが私の立っている場所に穴を作る。私は、重力に従うように地面へと落ちていった────




次回は水曜日までに

※追記:ご指摘をいただいたので、編集しました。
これからも、おかしな部分があれば、教えてくださいm(_ _)m





それと......誰か! レナータさんのイラスト描いてくれる人居ませんか!?(自分は絵が酷すぎるので())
Twitterで『紅転録』とタグでも付けてくれたら、多分、見ますので()


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5、「永遠に紅い幼き月 『紅霧異変』の終わり」

今回はタイトル通り、vsレミリアのお話。


 side Hakurei Reimu

 

 ──紅魔館(廊下)

 

「......こっちには何もないわよ?」

 

 廊下を道なりにしばらく進んでいると、勝手に付いてきていたメイドが突然そう言い出した。

 

「そんなこと言われると怪しく見えるんだけど?」

「そう? なら......ここは通さない! 『奇術「エターナルミーク」』!」

「ちょ、ちょっと! ルールくらい守りなさいよ!」

 スペルカードが宣言されたと思うと、メイドは全方位に小さな弾幕を放つという、意外と優しい弾幕を放っていた。しかし、数と速さが尋常ではなかった。

 不意を付かれたこともあり、今はかなりギリギリで避けている。

 

「ルールを守りなさいよ! 『霊符「夢想封印」』!」

「ちょ、スペルカードは使わないんじゃなかったの!?」

「それはさっきの話よ。今は違うわ。それに......めんどくさい。さ、メイドらしく、お使いにでも行きなさい。私のスペカを耐えれたらの話だけどね!」

「え? あ、弾幕そんなに張られ──」

 

 『夢想封印』の色とりどりの大きな光弾は、メイドの弾幕をかき消してメイドへと向かっていく。。そして、メイドに命中したと同時に炸裂し、メイドは床に落ちた衝撃か、気絶していた。

 

「......もしかして、死んじゃった? でも、妖怪じゃないから大丈夫よね、うん。......まぁ、人間にもダメージは通るけど......」

「う、うぅっ......お嬢様......」

「あ、よかった。じゃ、私は行くから。もう時間もない気がするし......」

 

 ──まぁ、今までダラダラしてた私のせいなんだけど......。そう言えば、魔理沙は何処に行ったのかしら? もう黒幕のところまで着いちゃったりして。

 

「まぁ、何にせよ、急がないとね。あいつ一人だけじゃ心配だわ」

 

 一人そう呟くと、自分の勘を頼りに進んで行った。

 

 

 

「あれ? いつの間にか、外に出ちゃってたわ。問題は無いだろうけど......」

 

 ──それにしても、何かいるわね。あぁ、この雰囲気は......。

 

「そろそろ姿、見せてもいいんじゃない? ラスボス、って感じがするんだけど」

「あら、バレてた?」

 

 目の前に、青い髪と黒い翼を持った少女の妖怪がどこからともなく現れた。

 

 おそらく、この紅い霧に紛れて自分も霧になっていたんだろう。

 

「それにしても、人間ってやっぱり弱いのね。一応、あれでも特別な力を持ってるんだけどねぇ〜」

「やっぱり、さっきのメイドは人間なのね」

「貴女、殺人犯ね」

「一人までなら大量殺人犯じゃないから大丈夫よ」

 

 ──まぁ、そもそも死んでないんだけど。まぁ、どうでもいいわね。私は早く異変を終わらせて帰れればいいだけだし。

 

「......で?」

「そうそう、迷惑なの。あんたが」

「短絡ね。しかも理由が分からないわ」

「とにかく、ここから出ていってくれる?」

「ここは、私の城よ? 出ていくのはあなただわ」

 

 淡々と話していく少女に嫌気がさし、ため息をつきたくなる。

 

「この世から出てってほしいのよ」

「しょうがないわね。今、お腹いっぱいだけど......」

「護衛にあのメイドを雇っていたんでしょ? そんな、箱入りお嬢様なんて一撃よ!」

「咲夜は優秀な掃除係。おかげで、首一つ落ちてないわ」

 

 ──まぁ、メイド服だったしそれもそうか。あの手品は面白かったけどね。

 

「貴女は強いの?」

「さあね。あんまり外に出して貰えないの。私が日光に弱いから」

「……なかなか出来るわね」

「こんなに月も紅いから本気で殺すわよ」

 

 目の前にいる妖怪は、妖力を垂れ流しにしている。おそらく、威嚇のつもりだろう。

 

 ──その程度の威嚇が私に通じると思われるとは......心外ね。

 

「はぁー......こんなに月も紅いのに」

「楽しい夜になりそうね」

「永い夜になりそうね」

 

 その言葉が合図に、私と妖怪は互いに距離をとった。そして、妖怪は一枚の紙を懐から取り出す。

 

「あぁ、スペルカードは五枚ね。まぁ、せいぜい足掻くといいわ。人間如きが吸血鬼相手に勝てるとは思わないことね」

「はいはい。その言葉は聞き飽きたわ。妖怪が私に挑んでくる時に絶対言うから」

「あら、そうなの。貴女も大変ね。そんな貴女にささやかなプレゼントよ。『天罰「スターオブダビデ」』!」

「いらないわよ! そんなプレゼント!」

 

 宣言されたそれは、その妖怪を中心に一定の距離に急に大きめの弾幕が現れ、その弾幕からレーザーを展開しつつ、丸い弾幕とその丸い弾幕がリング状になったリング弾を発射する形式となっていた。

 ──レーザーで逃げ場が少なくなるが、リングと丸い弾幕にさえ気を付けていれば......。

 

「ちっ、あのメイドもそうだったけど、その主も同じね。めんどくさい弾幕だわ」

「あら、ありがとう」

「褒めてないわよ!」

 

 雑談しながらも、しっかりと弾幕を避けていく。

 

 しかし、それでもやはり黒幕らしき少女。今までの奴らとはひと味違う。

 

「あら、そうなの。でも、そんなことはどうでもいいわ。さぁ、もっと足掻いて見せてね! 次のスペルカードよ!」

「スペルカードの間隔が短過ぎない!?」

「そんなことはないと思うんだけど......あ、『冥符「紅色の冥界」』!」

「思い付いたようにスペルカードを宣言するのも新しいわ......」

 

 妖怪は自分を中心に小さな弾幕を円状に展開し、それが降り注ぐようにして私に向かわせた。

 さらに、それが第一陣、第二陣と続くものだから、相手には簡単に近付けそうにはない。

 

「さっきよりは単純でいいわね。でも、近付きにくいのは嫌ね」

「うーん......もっと手の凝ったものにすればよかったかしら?」

「私が困るからそれでいいのよ」

「人間が困っているところも見てみたいのだけど......まぁ、いいわ。もう当たりそうにないし、次ね」

「貴女、飽きやすいのね」

「えぇ、よく言われるわ。......『呪詛「ブラド・ツェペシュの呪い」』!」

 

 ほぼ遊びのようになってきながらも、少女はスペルカードを展開していく。

 

 少女は幾つものナイフ型の弾幕を放ち、さらにその弾幕が通った道に小さな弾幕を出すことで逃げ場を防いできた。

 

「はぁー......これだと避けにくくなるじゃない」

「あ、その弾幕、しばらくすると動くわよ? あ、第二陣ね、それっ!」

「ちっ、性格悪いわね......」

「あら、それは言われたことがないわね」

「ここの住人は主を甘やかしすぎなんじゃない?」

「そうかもね。それっ、第三陣よ!」

「避け続けるのもめんどうね。 消えなさい! 『霊符「夢想封印」』!」

 

 先ほどのメイドの時と同じように色とりどりな大きめの光弾を幾つも放った。光弾は周りの弾幕を消しながら、相手へと向かっていく。

 

「なんか嫌な光ね。逃げた方がいいわよね?」

「この光弾の光は妖怪が嫌うありがたーい光よ。大人しく当たって封印されなさい!」

「そう、なら逃げるわ」

 

 妖怪は霧へとなり、姿が見えなくなってしまった。そして、光弾は誰にも当たらず虚空で炸裂する。

 

「このスペルカードは攻略出来ても......全部のスペルカードを攻略するのは......」

「大変そうね。私は蝙蝠や霧になれる。避けるのなんて簡単に出来るから。でも、早く終わらせたいのよね? 次のスペルカードよ! 『紅符「スカーレットシュート」』!」

 

 少女は中弾と小弾を五つの大弾に付随させ連続で放つ。

 

 それは、見境なく、目に見える範囲を襲っていった。

 

「それそれそれっ!」

「厄介な技ね......」

「ふふふ、そうでしょ? 強いでしょ?」

「そうね。しかしまぁ、弾幕を当てれないなら守るだけよ。『夢符「封魔陣」』!」

 

 私は自分を中心に空高くまで伸びる結界を生成し、弾幕を防ぐ。

 

「あらあら、終わるまでそうしてるつもり?」

「残念だけど、そこまで長く持たないのよね。あ、あら? もう切れちゃったわ!」

「あらま、本当に切れるのが早いわね。それっ!」

 

 結界が切れたと同時に放たれた弾幕は、私の左腕を掠り虚空へと消えていった。

 

「あ、危なっ! も、もう少し右だったら直撃してたわ......」

「うーん、あとちょっとだったんだけどねぇ。あぁ、喜びなさい。最後の弾幕よ。これに当たって散ることを栄光に思いなさい。『レッドマジック』!」

 

 最後のスペルカードは大玉を波紋状に発射し、起動上に配置された弾をゆっくりと拡散させていく。

 

 さらに、密度が尋常ではない程濃い。

 

「ふん。さっきよりも密度が濃くなっただけね」

 

 次々と繰り出される大玉と拡散された弾幕を避けていく。

 

「これなら、さっきと同じように避けれ──」

「そうかしら? 後ろを見てみなさい」

「え、っ!? ゆ、『夢符「封魔陣」』ッ!」

 

 後ろを見ると、弾幕が目前まで近付いていた。

 

 咄嗟に防ぐことはできたが、言われなければ当たっていただろう......。

 

「ど、どうして後ろから......」

「......昔、妹と一緒に練習してたのを思い出すわね。この大玉は、一定の距離を進むと一回だけ反射するのよ」

「あぁ、そういうこと......前も後ろも気を付けないとダメってのは少し、いえ。本当にめんどうくさいわ」

「安心なさい。もうすぐ終わるわよ。まぁ、それまでに貴女の方が終わりそうだけど」

「へぇ、言うじゃない。でも、残念ね。もうスペルカードは使わないようにしようと思ってたけど、もうすぐ終わるなら使っちゃうわ」

 

 避けながら話し、懐からスペルカードの紙を取り出した。

 

「あら、使わないでもいいのよ?」

「いいえ、当たりそうだから使うわよ。『霊符「夢想封印」』!」

 

 最後も同じように色とりどり光弾を放つ。全ての光弾を全ての敵の弾幕を消すようにして配置する。

 すると、上手い具合に周りの弾幕は消え去り、残っていた敵へと向かっていった。

 

「はぁ、また避けないと......」

「あ、ずるっ!」

 

 妖怪は再度蝙蝠となって私の光弾を避け、再び同じ場所に姿を現した。

 

「ずるくないわよ。これも私の能力みたいもんだし」

「......まぁ、それもそうね。で、勝ったけど?」

「えぇ、そうね。全部攻略されちゃったから私の負けね」

「さぁ、早くこの霧を消してちょうだい」

「えぇ、分かってるわよ。でも、すぐには消せないわよ?」

「すぐに消しなさい。もう少ししたら、霧が結界の外にまで出そうだし」

 

 ──まぁ、こうなるまで放っておいた私の責任もあるんだけど......。

 

「えぇー......けどね......」

「あ、いたいた。おーい! 霊夢ー!」

「ん? あ、魔理沙じゃない。今まで何処に居たのよ」

「あ、レ、ミアかしら? それに......人間?」

 

 声がした方を振り返ると、魔理沙と髪の赤い奴がこちらへと飛んできていた。

 

「あぁ、ちょっとな。あ、そこの青いの。私は魔理沙。霧雨 魔理沙だぜ。まぁ、そんなことは置いといて、勝ったのか?」

「えぇ、勝ったわよ。そいつは?」

「あぁ、こいつは──」

「私はミア。そこにいるお姉ちゃんの妹よ」

「......はぁー、まだこいつみたいにめんどくさいやつが居たのね......でも、こいつみたいに翼は無いのね。突然変異かなんかなの?」

「詳しく話すとなると、話が長くなるかもしれないけど、それでもいい?」

 

 その少女はいたずらじみた笑顔で口を動かす。

 

 ──それは嫌ね。時間も少ないだろうし。

 

「ごめん、また今度聞くわ。それよりも、この霧を今すぐ消せない?」

「消せるよ。でも、お姉ちゃんはいいの?」

「消せるの!? あ、いいわよ。私は避難した方がいいかしら?」

「うん、そうした方がいいと思うよ。霧が晴れれば......でも夜だね。あ、一応中に行ってて」

「分かった、任せるわね。私は館に戻るわ」

 

 帰り際にそう言い残すと、姉の方の妖怪は館へと戻って行った。

 

「あいつが異変の主犯なのよね? ......まぁ、消してくれるなら何でもいいわ。頼むわね」

「うん。......『魔符「ソロモンの指輪」』! よし。できたできた」

 

 紅い髪の妖怪は指輪のような何かを作り出すと、それを自分の手にはめ、手を前に出した。

 

「では......『霧の妖精よ。我が命ずる。今すぐこの地から退きたまえ』!」

「なんかカッコイイな。......おぉ、霧が薄くなってきたぜ」

「......ふぅ、これでいいと思うよ。ちなみに、霧の妖精とか行ったけど、本当に妖精に命令してるわけではないからね。ただ、人工でも、自然現象に近いものなら操れ、自由自在に消せるってだけだよ」

「解説ありがと。......さて、帰りましょうか。もう異変は終わったし」

「あ、私も帰るぜ。じゃあな、また来るぜ」

「淡白ね。でも好きよ、そういうの。またね」

 

 私と魔理沙は館と紅い髪の少女を背に、家への方角へと向かっていく。

 

「あ、霊夢。またここに来ようぜ」

「嫌よ。家でゆっくり休みたいし」

「あぁ、うん。別にしばらくはいいけど......私も色々とやることが出来たなぁー」

 

 そんな話をしながら、私は霧が晴れた夜空を飛んで行った。

 

 こうして、『紅霧異変』は幕を閉じることとなった────




次回からは後日談と紅魔郷EX(+α)となります。主に中心は妹組な模様。
次回は金曜日に投稿予定。


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6、「『紅霧異変』後日談その1 『直後』」

『紅霧異変』の後日談その1です。
おそらく、紅魔郷EXを除いて『その3』まで続くと思います。

今回は異変が終わった直後のお話。しばらくはほんのりしたのが続くと思います。
と言っても、ほとんど出てくるのはスカーレット姉妹だけど()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「レナ、フラン。終わったわよ」

 

 ミアと魔理沙が上に行ってからしばらくすると、お姉様がそう言って部屋に入ってきた。

 

「あ、レミリアお姉様! おかえりー!」

「お姉様、お疲れ様です」

 

 フランはそう言うと、お姉様に抱きつきに行った。

 そのお姉様は、急に抱きつかれたからか、少しだけ体勢を崩す。

 

「おっとと......えぇ、ただいま。貴方達もお疲れ様。......それと、レナ、ごめんね」

「大丈夫ですよ。これで、フランの狂気とも仲良くなれる気もしましたし」

「......そう、良かったわ。......ここで何があったか詳しく話してくれない?」

「はい、勿論いいですよ。では、フランが──」

 

 私はお姉様に今まで何があったか、何が起きたか説明を始める──

 

 

 

 ──数分後 紅魔館(フランの部屋)

 

「ふーん......なるほどねぇ。それで、その魔理沙って奴はいつ来るかとか言ってた?」

「いえ、言ってませんよ。ですが、来るまで一週間も経たないと思います。ミアとフランの狂気の人形が出来たらすぐに来るはずなので」

「......フランの狂気って長くないかしら? 名前を決めない?」

「あ、それなら、お姉様が決めて。レミリアお姉様は名前のセンスが......」

「失礼ね。いえ、自分でもそう思う時あるけど......でも、咲夜の名前は良くなかった?」

「はいはい。それは認めるけどお姉様に決めさせて」

 

 名前を決めるという大役を頼まれ、少し緊張する。

 

 ──フランの狂気の名前ね......。変な名前にしたら、絶対怒られるよね? 遊んでもらえなくなるよね? ......責任重大だなぁ。実を言うと、もう決めてるんだけどね。

 

「......『ルナシィ』とかはどうです?」

「ふーん。なるほどね。いいと思うわよ?」

「え? レミリアお姉様だけなんか分かっててずるーい。お姉様、どうしてその名前にしたの?」

 

 駄々をこねる可愛い妹に対し、どうするかしばらく悩む。

 

 ──フランだってミアの名前の由来を教えてくれない......別にいいか。いつか教えてくれると思うし。多分だけど。

 

「『ルナシィ』には、狂気と月、という意味があります。月が無いと吸血鬼は本気の力を出せない。だから、フランの......ルナシィがいないと、味気ない、とか、あの......まぁ、そういうことです」

「ちゃんと決めてたんじゃなかったの......。でも、ルナシィねぇ......。いい名前。略してルナね。なんだかお姉様と名前が似ているわ」

「まぁ、略したらですけどね」

「ただいまー。あ、お姉ちゃん、咲夜は治しといたからね」

 

 話している最中、ミアが部屋へと入ってくる。

 

 いつも通り明るいが、少しだるそうにしていた。

 

「そう、ありがとうね。ゆっくり休むようには言ってくれた?」

「うん、一応、言っといたよ」

「ソロモンの指輪使ったからか、魔力はもう無くなりそうですね......」

「うん、もう無くなりそうだね。流石にあの量の霧を消すのは無茶だったね。まぁ、もう最後だからいいんだけど」

 

 やはり、明るく見せているのは無茶をしているようだった。

 

 ──幻想郷中の紅い霧を消すのは結構魔力使うか......。でも、もうないから大丈夫......幻想郷だし、まだあるかな?

 

「ミア、消えちゃうの?」

「人形出来たらまた出てくるよ。しかも、今度はずっと一緒にいれるかもよ? 魔力消費量よりも回復量の方が多くなるだろうしね。戦闘とかあったら、どうなるか分からないけど......」

「私やお姉様がいますし、大体の奴は戦闘しても大丈夫ですよ。そこまで魔力使うこともないでしょうから」

「......ま、それならいっか。それじゃぁ、もうお別れかな?」

「うん、そうみたいね。もう魔力はほとんど切れたから、レナに消されるまでもないね......じゃあね、みんな。バイバイ」

 

 手を振りながらミアの形は光となって崩れていく。そして、その光が私へと吸い込まれていった。

 

「バイバイ......はぁー、疲れたねー」

「はい、そうですね。......フラン、服が血で汚れてますけど、寝る前に着替えないでいいのですか? それに、腕も血で......」

「そう言うレナは汚れてるどころか、お腹のところが破れてるけど?」

 

 お姉様に言われてよく見ると、確かに腹部のところが破れている。

 

 ──あぁ、フランにお腹を抉られたから......。思い出すとちょっとゾッとした。血で汚れてるくらいじゃ疲れてるし着替えなかったけど、流石にこれは着替えないと......。

 

「んー......あ、お姉様! 一緒にお風呂に入ろっ!」

「あ、そう言えば、まだ入っていませんでしたね。危うく忘れるところでした。ですが、一緒には入りません。絶対に」

「むぅー、なんで? いいじゃん。前まで一緒に入ってたでしょ?」

「今はその、少し恥ずかしいので......」

 

 前世が男性だったせいか、妹でも恥ずかしくなってしまう。

 

 ──いや、本当は前世のことなんて全然憶えてないけど、本能的になんか恥ずかしいんだよね......。

 

「姉妹なんだし、恥ずかしくないよ! 一緒に入ろっ? それとも、私のこと嫌いだから一緒に入れない?」

「い、いえ、そんなことは......」

「なら一緒に入れる、よね?」

「わ、分かりました。一緒に入りますよ。それと、貴女のことは嫌いではないです。大好きです」

「やったー! お姉様と久しぶりに入る気がするー」

 

 フランは本当に嬉しそうによく跳ねる。

 

 あんなことがあった後だから、無理して元気に見せている気もするが。

 

「......私も入ろうかしら」

「あ、レミリアお姉様も入る? いいよ! 三人で入るのも久しぶりだね。ここに来てからは初めてかな?」

「えぇ、初めてね。それにしても、嬉しそうね、貴女」

「うん、お姉様達と入るの久しぶりだしね」

 

 ──......なんにせよ、フランが嬉しそうにしてるなら私も嬉しい。

 

「じゃ、着替えを取ってくるから、貴方達は先に行ってなさい。それと、フランはあんまりはしゃぎすぎないようにね。レナが疲れすぎて死んじゃうと思うから」

「はーい! じゃ、着替えはもう出しといたから、早く行こっか!」

「今、怖いことが聞こえた気が......あ、フラン、手を引っ張らないで下さい。引っ張らなくても、すぐに行きますので」

「あ、はーい」

 

 お姉様と別れ、私はフランと一緒に大浴場へと向かった。

 

 

 

 大浴場に辿り着くと、先に体を洗ったり、流しあいっこしたりしてから湯に浸かった。

 

「はぁ〜、いい湯だね〜」

「そうですね......あの、フラン? 広いのですし、もう少し離れてくれませんか? 狭いです」

「えぇー、いいじゃーん。お姉様のことが好きだから、近くに居るんだよ? お姉様は私が近いのが嫌なの?」

「い、嫌ではないですけど......ただ、近すぎるので」

 

 フランはいつでも寝れるように私の肩に頭を乗せていた。

 

 疲れているのも分かるが、寝る姿勢になっているのは少し困る。

 

「別にいいでしょ? 普段もこうしてる時あるし、まだ変なことは何もしてないしね」

「......それもそうですね」

 

 フランの顔は見えないが、どんな顔をしているかは容易に想像できた。

 

 ──『まだ』って言う部分が気になるけど、今は大丈夫そうだから、聞かなくてもいいよね。と言うか、聞いたら悪いこと起きる気がする......。

 

「ふぅ〜......それにしても、気持ちいいね〜。私、お姉様と一緒に入れて嬉しいわ」

「そうですか......私もそれが聞けて嬉しいです」

「あ、もう入ってたのね。......それ、狭くないの?」

「......狭いです」

 

 お風呂に浸かっていると、お姉様が入ってきた。

 

 ──それよりもうん、やっぱりお風呂に入っているからとは言え、裸姿を見られるのは恥ずかしい。特に、お姉様に見られるのは......。で、でも、お姉様は気にしてないだろうからいいよね......。

 

 そう思いながらも、先ほどよりも深く湯に浸かる。

 

「えー、狭くない、あ、お姉様? いきなり深く入らないでよ。せめて何か言ってからにしてよね」

「あ、すいません。でも、ちょっと......」

「あれ? 顔が真っ赤になってるけど、逆上せちゃった?」

「え? あ、そ、そうみたいです?」

「あらあら。せっかく一緒に入れると思ってたのに......仕方ないわね。レナ、もう上がりなさい。一人で大丈夫? 立てるかしら?」

 

 お姉様が手を差し伸べてくる。

 

 ──あぁ、優しいお姉様で本当に良かった。でも......その手は掴めない。

 

 現在進行形で耳まで真っ赤になっているのが見なくても分かる。それくらい、恥ずかしいと言う気持ちがいっぱいになってきてる。手を掴むと......色々な意味で危なくなる気がする。

 

「だ、大丈夫ですよ」

「そう、それなら良かったわ。じゃ、私は身体を洗って来るわね。フランはどうするの?」

「お姉様が心配だし、先に上がっとくね。レミリアお姉様また明日、一緒に入ろうね」

「えぇ、いいわよ」

 

 それにしても、どうして今更こんなに赤くなるのだろうか。

 いや、考えるのは後ででもいいか。それよりも、今は早く上がらないと。

 

「じゃ、貴方達、また後でね。私も今日は一緒に寝るから」

「あ、そうなんだ。じゃ、また後でねー」

「また後で......うぅ、なんだかなぁ......」

「ん、お姉様、どうしたの?」

「いえ、何でもありませんよ......」

 

 お姉様を残し、私とフランは一足先にフランの部屋へと戻った。

 

 

 

 フランの部屋へと戻ると、真っ先にベッドの中へと入った。

 

「うぅ......フラン、私の顔、まだ赤くないですか?」

「うん、赤いよ。髪の毛と同じくらい赤くなってる」

 

 大浴場から帰ってきてから、しばらく経つのに、未だに顔が赤くなっているらしい。

 ──もしかして、顔が赤いのは別の理由とか? ......そんなわけないか。あ、でも、今は魔力がほとんど切れてるから、それも何かしら関係があったりするのかな?

 

「うぅ、早く元に戻らないのでしょうか......」

「貴方達、お待たせしたわね。レナ、もう平気かしら?」

 

 そう言って、お姉様が入ってきた。お風呂に来るよりも早かったから、私のことを心配して早く来たようだ。なんだか申し訳ない気持ちでいっぱいになる。

 

「あ、お姉様。だ、大丈夫ですよ。もうなんともありませんから」

「それなら良かったわ。さ、みんなで一緒に寝ましょう。もう今日は疲れちゃったわ」

「うん、私も色々あったからもう疲れちゃった。お姉様、早く寝よっ。勿論、お姉様は私の横に寝てね。レミリアお姉様はどこがいい?」

「うーん、せっかくだし、真ん中が良かったのだけど......」

「あ、そうなの? じゃ、今日はレミリアお姉様が真ん中にしよっか。お姉様もそれでいい?」

 

 ──お姉様が真ん中......お姉様が横に寝るのか。今の私は魔力切れのせいか何かおかしいけど......まぁ、大丈夫だよね、きっと。

 

「......はい、いいですよ」

「あら? まだ顔が赤いわよ? 熱でも出たのかしら?」

「え、いえ、だいじょ、ぁ......」

 

 唐突にお姉様が私の額に自分の額を当てる。

 ──手で当てて調べればいいのに、どうしてわざわざそうしたんだろう? ......絶対、また耳まで真っ赤になってるよぉ、これぇ......。

 

「熱は......無いわね。って、あら? もっと赤くなってない?」

「うぅ、大丈夫です、多分......」

「んー、あぁ、そう言うことね。......私じゃ何の反応もない癖に。

 レミリアお姉様、やっぱり私が真ん中になるわ。じゃないと、お姉様が死んじゃう」

「えっ!? し、死んじゃうって、そんな不吉なこと......。そ、それならいいわ。......でも、どうして死ぬの?」

「不治の病のせい、かな? どうして急になったのかは知らないけど、一日経てば元には戻ると思う」

 

 口を三日月のように歪めて、フランが話す。

 

 ──あぁ、絶対フランにはバレた。これは絶対、後で何か言われる。今も言われた気がするけど。それにしても、その笑顔怖いんだけど......。

 

「ひとまず、ありがとうございます、フラン」

「うん、別に気にしなくていいよ。どうして私じゃなくてレミリアお姉様なのか気になるけど......まぁ、それはいいや。お姉様をいじるネタが増えたのはいいことだしね。それに......ううん、やっぱりいいやー」

「うぅ......フランが怖いです」

「何の話をしているのか分からないけど、早く寝ない? もう夜が明ける頃よ? それと、明後日、巫女のところに行ってみようと思うんだけど、貴方達も行く? ちなみに、咲夜は連れていくつもりよ」

 

 巫女......おそらく霊夢のことだろう。だが、いつ魔理沙が来るか分からないのだから、待っていた方がいいはずだ。

 

 ──それにしても......霊夢にお姉様取られたらどうしよう? ......まぁ、霊夢だし大丈夫か。お姉様の方から気に入ったなら仕方ないよね。

 

「私は待ってますね。魔理沙がいつ来るか分からないので」

「私もー。お姉様の不治の病を治したいしねー」

「不治の病なのに治るの? まぁ、いいわ。さ、寝ましょうか」

 

 そう言うと、お姉様が一番端に寝る。そして、その横にフラン、私と順に寝転ぶ。

 

 おそらく、不治の病と言うか、魔力切れのせいで私に何か起きてるってだけなのだろう。

 ──いや、それでも結構怖いことなんだけどね。魔力切れたせいでそんなことになるって。

 

「じゃ、おやすみなさい」

「ふぁ〜、おやすみ〜......ぐぅ......」

「フランは寝るのが早いですね......では、おやすみです」

 

 最後にそう言うと、私は目を閉じた──

 

 

 

 

 

 ──二日後 日の出後 紅魔館(エントランス)

 

「ふぁ〜......レミリアお姉様、まだ朝だけど、今から行くの......?」

「えぇ、今から行くわよ。......フラン、眠いなら無理しなくてもいいのよ?」

 

『紅霧異変』が終わってから二日が経つ。もう朝だと言うのに、お姉様は博麗神社に行くらしい。

 

 二日前まで、私は何かがおかしかったけど、魔力が戻ったからか、今は普段と何も変わらなくなってきた。

 

 ──今でも少し何かがおかしい気がするけど......大丈夫だとは思う。

 

「無理してないよ......ふぁ〜」

「無理してるようにしか見えないわね......。じゃ、私はもう行くわね。咲夜、日傘は?」

「ここにありますよ。私がさしますが?」

「あら、そう? ありがと」

 

 お姉様はお嬢様らしく、咲夜に傘を持たせると、日の下まで歩き、振り返る。

 

「じゃあ、また後でね。夜までには帰ってくるわ。まぁ、明日も行くかもしれないけどね」

「......行く時は朝だとしても絶対に起こしてね。絶対に見送るから」

「あ、それなら、私も起こして下さい。私も見送りますので」

「えぇ、分かったわ。......それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃいです」

「行ってらっしゃーい」

 

 こうして、お姉様を見送った数時間後、二日ぶりにとある人間が来るのであった────




次回は日曜日に投稿予定です。
次は『ルナシィ』が出るかも。それと、紅魔館の住人の話もやりたい(願望)


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7、「『紅霧異変』後日談その2 『ルナシィ』」

題名通り、またオリキャラ出てきます。苦手な人は注意して下さいませ。


 side Kirisame Marisa

 

 ──紅魔館(門前)

 

「いやぁー、人形二つを持ち運ぶのも結構大変だぜ」

 

 異変から二日後。思ったよりも早く人形が出来たから、今は紅魔館に向かっている。

 霊夢を連れて来いって言われてたが、なんか悪魔が取り憑いてたんだよなぁー。

 関わると面倒そうだから見て見ぬふりをしてここまで来たが......まぁ、説明すれば許してくれるよな。

 

「そこの金髪の人! 止まりなさい!」

「うわっ!? 急に叫んだらびっくりするじゃないか!」

 

 紅魔館に近付いた時に、赤い髪の中華風の女性が急に目の前に現れた。おそらく、考え事をしていたせいで、話しかけられるまで気付かなかったんだろう。

 

「え、あ、すいません。じゃなくてですね! この館にはお嬢様達の許可なく入れさせるわけにはいきません。貴女は何の用でここに?」

「あぁ、異変の時にも居た門番か。私が霧雨魔理沙。レナとフランの友達だぜ」

「魔理沙......あぁ、思い出しました。妹様達が言っていた魔法使いですね。てっきり、侵入者かと......失礼しました」

「いや、気にしなくていいぜ。で、レナとフランはどこに居るか知っているか?」

「フラン様の部屋かと思いますよ。あ、妹様達のお客様なので、ここは通って貰っても大丈夫です」

 

 フランの部屋って言えば......あぁ、あの場所か。

 

「あぁ、ありがとな。そう言えば、お前の名前は?」

「あ、申し遅れましたね。私は紅美鈴と言います」

「美鈴か。よろしくな。じゃ、またなー」

「えぇ、またね」

 

 そう言って、私は美鈴と別れ、フランの部屋へと向かった──

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「おーい、持ってきたぞー!」

「んー......あぁ、魔理沙ね......ふぁ〜、まだ昼よ〜?」

 

 フランの部屋に着くと、ベッドでレナとフランが一緒に寝ていた。そして、声に気付いたフランが起きてそう言った。

 

「あ、起こしてすまないな。......そう言えば吸血鬼って夜に活動するんだったか。朝から霊夢のところにお前らの姉が来てたから忘れてたぜ」

「ふぁ〜......どうせ後数時間くらいで起きるんだし、別にいいよ。......私もこれからは朝に起きようかな?」

「吸血鬼って夜行性なんだろ? 朝から行動しても大丈夫なのか?」

「さぁ? 別にいいんじゃない? レミリアお姉様も今日は朝から起きてるし......お姉様はどうしよ?」

 

 起こすか起こさないかのことか? ......私が知らずに来たから起こしちゃったんだよな。知らなかったとは言え、なんだか申し訳ないぜ。

 

「まぁ、いいや。それで? 持ってきたの?」

「あぁ、人形のことか? これだぜ」

 

 そう言って、ミアと全く同じ姿の人形と、フランと似ているが、翼が無く、髪の色だけ違う人形を取り出した。

 

「んー、どうして私のだけ髪が銀色になってるのー?」

「昨日ここにアリスが来たらしいぜ? それで、パチュリーに『ルナシィ』って名前を聞いて、銀髪にしたらしいぜ」

「ふーん、ここに来てたんだ。多分、昼とかに来たのかな?」

「そうじゃないか? まぁ、そんなことはどうでもいいぜ。それよりも、人形に命を吹き込むとかどうやるんだ? 早く見てみたいんだが」

 

 私も魔法使いだが、流石にそんなことは出来ないからな。同じ魔法使いとして見てみたいぜ。

 

「命を吹き込むってのは違うと思うけど......お姉様が起きないと出来ないよ。やり方はお姉様しか知らないし」

「あ、そうなのか。うーん、それなら仕方ないな。起きるまで待っとくぜ」

「分かった。じゃ、私はもう一度寝るからね。次は起こさないようにしてね」

「あぁ、分かったぜ。起きたら図書館に来てくれ。そこで待っとくぜ」

「うん、じゃ、おやすみ」

「おやすみだぜ。......さてと、私も行くとするか」

 

 そう言って私は人形を置いて、図書館へと向かった──

 

 

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「おーい、パチュリー居るかー?」

「誰? あぁ、魔理沙ね。小悪魔、追い返しなさい」

「えぇー!? 前は五分で負けたんですよ!? 絶対また負けちゃいますよー!」

「やる前から諦めないの」

「と言うか、どうして戦う前提なんだぜ? 今日はレナとフランに会いに来ただけだぜ?」

「えぇ、知ってるわよ。昨日アリスも来てたしね。人形が出来たんでしょ?」

 

 なんだ、知ってたのか。......小悪魔が驚いているみたいだが、こっちは知らなかったのか? まぁ、いっか。

 

「あぁ、そうだぜ。まだ寝ているみたいだから、ここで待っとこうと思ってな。で、魔導書が置いてる場所って何処だ?」

「いたるところに置いてあるわよ。自分で探しなさい。それと、持ち出す時は私に言ってね」

「あぁ、分かったぜ。......一つだけ聞いていいか? レナやミアが使っている魔法ってどの魔導書に載ってるか知らないか?」

「今、それが一番多く載っているのはアリスに貸しているわ。でも、レナ達が読んでいた本は他にも沢山あったわよ。と言うか、ここにある魔導書はほとんど読んでると思うわよ。ここにずっと住んでるのに、暇さえあれば今でもここで魔導書を読んでいるから」

 

 ふーん......あいつって今何歳なんだ? 見た目は十歳くらいだけど、多分、何百歳とかだよな?

 何百年も魔導書を読むって結構な数の魔導書を読んでるよな? ......結構な数の魔法知ってそうだし、後で色々と教えてもらうか。

 

「じゃ、そこら辺で魔導書を読み漁っとくから、レナとフランが来たら教えてくれよ」

「えぇ、分かったわ。あ、こあ、紅茶持ってきてくれない?」

「はーい、分かりましたー」

 

 そう言えば、小悪魔って普段は何してんだ? メイドみたいなことでもしてるのかな? ......まぁ、今は紅茶をいれにいくみたいだし、後で聞いてみるか。

 それにしても、魔導書以外にも色々な本があるなぁー。まぁ、今は魔導書を読みたい気分だから他のは読まないけどな。

 

「それにしても、全部の本から微量な魔力が感じられるな。パチュリー、ここにある本って防護魔法とかでもかけてるのか?」

「えぇ。防火、防水、防刃、防弾、魔法障壁......他にも色々かけてるわよ」

 

 パチュリーが本を読みながらそう答えた。

 色々かけすぎじゃないか? ......まぁ、多いに越したことはないけど。

 

「へぇー、凄いんだなぁ......あ、これとかでいっか」

「パチュリー様ー。いれてきましたよー」

「ありがと」

 

 私が魔導書を手に取ったと同時に小悪魔が戻ってきた。

 結構早かったな。まぁ、目に見える範囲でやってたけどな。

 

「あ、小悪魔。一つ聞いていいか?」

「いいですよー。何ですかー?」

「お前って普段はここで何をしてるんだ?」

「パチュリー様のお手伝いとか、この図書館の本の管理とかしてますよ。それと、咲夜さん......メイドみたいなこともたまにしてますね」

「へぇー、思ったよりも色々とやってるんだな。......使い魔って便利なんだなぁー」

 

 アリスも冬には雪かきとかを人形にやらせてるみたいだし、私にも使い魔は一人欲しいな。まぁ、任せっきりになって、運動不足とかになるかもしれないから、ほどほどにしないとな。

 

「じゃ、私は魔導書を読んどくから、何かあったら呼んでくれよ」

「はいはい、分かってるわよ」

「魔理沙さんも紅茶いりますー?」

「あ、貰っておくぜ」

 

 こうして、私はレナとフランが来るまでの間、魔導書を読んでいた──

 

 

 

 ──数時間後

 

「魔理沙ー! 起きなよー!」

「ん? ......ふぁ〜、なんだ? もう朝か?」

「いえ、夜ですよ」

「魔理沙、貴女寝てたのよ」

 

 目が覚めると、目の前にはレナとフランが居た。

 んー? ......あ、魔導書を読んでたはずなのに、いつの間にか寝てたのか......。まぁ、結構長いのを読んでたから仕方ないな、うん。

 

「パチュリー、起こしてくれても良かったんだぜ?」

「気持ち良さそうに寝てたから、そのままにしてあげてたのよ。それよりも、レナとフランが来たわよ」

「あ、あぁ、その二人に起こされたようなものだからな。知ってるぜ」

「さ、部屋に行こー」

「え、ここでやらないのか?」

「ここでやると、パチュリーに迷惑がかかる可能性高いので......魔理沙、貴女にも迷惑がかかるかもしれませんが、着いてきますか?」

 

 ん? あぁ、フランの狂気の方のことでか。......まぁ、人形のが気になるからな。絶対に最後まで付き合うつもりだぜ。

 

「あぁ、着いていくぜ。おっと、止めるなよ?」

「止めませんよ。でも、命の危険を感じたら逃げて下さいね? 時間は稼げると思いますので」

「おいおい、そんなこと言うなよ。大丈夫だと思うぜ。ルナシィ......だよな? そいつもフランなんだろ? ということは、根は一緒のはずだろ?」

「......あぁ、その発想は無かったです。ということは、大丈夫なのでしょうか?」

「......一回話したら分かると思う。だから、早く行こっ?」

 

 フランが笑顔でそう言った。

 ......『根は一緒』ってことに、フランは何か気付いていることがありそうな気がするんだけどなぁ。

 まぁ、本人は分かってるみたいだし、言わないってことは、大丈夫ってことなんだろうからいっか。

 

「はい、そうしましょうか。では、着いてきて下さい。魔力はあまり消費したくないので、徒歩で行きますよ」

「あぁ、分かったぜ」

「うん、分かった」

 

 こうして、私達はフランの部屋へと向かった────

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「着きましたね。ささっ、フランはこっちに来てください。ルナシィの方から魔法を始めますので」

「......うん、分かった」

 

 フランの部屋に着いた時に、レナがそう言った。

 

「おっ、早速始めるのか?」

「はい。『善は急げ』って言いますのでね。では、始めますね」

「おう、私は見守っとくぜ」

「あ、その前に......フラン、ルナシィの為に、魔力を使い続けることになりますが、それでもいいですか?」

「......うん、いいよ。これも(ルナシィ)の為だしね」

「では、ちょっと痛いですけど、我慢して下さいね」

「え、っ!? ちょ、ちょっと......ま、いいや。次からもっと前から言ってよね」

 

 そう言って、レナがフランの手首を爪で傷付けた。そして、そこから出た血を使い、人形に何かの魔法陣を描き始めた。

 それにしても、先に言っとけばいい話なのか? ......まぁ、本人がいいならいっか。

 

「あ、すいませんでした。......多分、魔法陣はこれでいいはずです。後は詠唱と契約だけですね

「契約? なんだそれ」

「簡単に言うと、『貴女にはこれから、半永久的に魔力を注ぎ続けます』って言うやつですね。まぁ、他にも色々あるのですけど、詳しく言うと長くなるので省きます。ちなみに、フランとルナシィに感覚共有は付いてないです。付けるとフランの魔力消費量が多くなるので」

 

 まぁ、何となく分かったからそれでもいっか。それにしても、結構描くの早いな。慣れてるのか?

 

「......詠唱は出来ました。では、フラン、人形に描いた魔法陣に触れて下さい。

 そして、祈ってください。『ルナシィの魂がこの人形に宿れ』......と」

「うん......」

 

 そうして、フランが魔法陣に触れて、祈るように目を閉じた。

 すると、魔法陣が赤く輝き、魔法陣から現れた赤い糸のような線が人形にまとわりついたと思うと、その赤い線も魔法陣もいつの間にか消えていた。

 そして、しばらくすると......人形の目が動いた。

 

「......ルナ? 動ける?」

「......フラ、ン? うん、動けルヨ。......でも、マだ少し喋りニクい」

「普段もちゃんと喋れては無かったですし、人形だと少し違うでしょうからね。でもまぁ、すぐに慣れますよ」

「ア、オネー様......オネー様!」

 

 そう言って、嬉しそうにルナシィがレナに飛び込んだ。

 

「え、あ......ルナ!? ちょ、ちょっと!」

「オネー様......チョットだけ、イタイの我慢してネ?」

「え? っ!?」

 

 そして、ルナシィがレナを吸血し始めた。

 ......え? これどういうことだぜ? もう訳分からんのだが......。と言うか、人形なのに吸血出来るのか?

 

「ちょっと! ルナ! お姉様から一回離れて!」

「ン? うるさい。フランは黙って見ててよ」

「え......む、無理! ルナ、一回私の話を聞いて。お願いだから......」

「......ま、まぁ、いいヨ」

 

 そう言って、ルナシィがレナから離れた。

 うん、なんか私がいたらダメな気がしてきたぜ......まぁ、聞きたいことは聞くけどな。

 

「そ、その前に、少しいいか? ルナシィって身体は人形だろ? なのにどうして吸血なんて出来るんだ?」

「うぅ、まだ少し痛みます......あ、それは、魔力を与えてるフランと同じ、吸血鬼になったからですよ。

 この魔法の契約は魔力供給している人の負担を減らす為に、元は人形だったとしても、契約した後は魔力供給をしている人と同じような睡眠や食事などを取れるようにするのです。吸血鬼にとって、吸血は食事をする方法なので、自然と出来るようになったってことです」

 

 ふむふむ、なるほど。食事や睡眠は魔力を回復させる役目もあるからな。人形側に自分で魔力を作らせるってことか。だから、分身よりも効率が良いんだな。

 

「で、フラン。話ッテ?」

「......ルナ、貴女はどうしていつも狂気に塗れてたの?」

「さァ? ワタシにも分かんなイ。タダ......貴女が羨ましかった。妬ましかった。オネー様達とイッショに居れる貴女が......」

「......やっぱり、そうなんだ......」

「デモ、今は違う。もう自由。だから、貴女を羨ましく思うことがあっても、妬ましくは思わないと思う。......貴女がワタシを消さない限りはネ」

「......うん、消さないよ。また身体の所有権取られてもいやだしね」

 

 ルナシィがそう言って、悪魔のような笑みを浮かべた。そして、フランもそれに返すように微笑んだ。

 

「......なんか、お前達の姉妹が増えたみたいだな。いや、前から居たから、変わらないのか?」

「『気が付かなかった』と言うことなので、変わらないのでしょうね。それにしても、フランと仲良く出来そうで良かったです」

「背は変わらないのに、やっぱり姉なんだなぁー。さて、ミアも召喚するんだよな? 終わったら魔法を色々教えてくれよー」

「私は教えるのが下手なので、すいませんが、それはミアに頼んでください」

 

 元は同じはずなのに、変わるものなのか? ......いや、もしかして、同じじゃないのか?

 

「なぁ、レナ。ミアって分身に自我が芽生えたんだよな? ......その自我ってどこから来たんだ?」

「......私の中に元々居たのです。ただ、多重人格とは少し違います。......まぁ、今は詳しくは話せません。いつか、お話しますよ」

「ふーん、まぁ、いいぜ」

 

 どうせ話してくれないだろうし、今は聞かなくてもいっか。まぁ、気にはなるけどな。

 

「じゃ、もういいよネ?」

「え? 何が?」

「え? 吸血だけド?」

「ダメ! お姉様を吸血していいのは私だけだから! これはルナでも、レミリアお姉様にも譲れないからね!」

「フランもやめなさい。......いや、でもまぁ、ミアを召喚した後で、死なない程度なら......二人とも、いいですよ」

「お前、絶対いつか妹に殺されるぞ?」

 

 吸血ってされすぎると吸血鬼でも死ぬよな? それでもいいって......馬鹿なのか? いやまぁ、別にいいけどな。本人がそれでもいいならだけど。

 

「姉妹に殺されるならそれでもいい気がします。......知らない人に殺されるよりは」

「あぁ、うん。お前が言ってることがよく分からないぜ。死なないならそれが一番だと思うしな。それで、ミアの召喚は?」

「あ、また忘れて怒られるところでした。まぁ、やることは特に変わらないのですけどね」

 

 そう言って、ルナシィを召喚した時と同じことを繰り返した。さっきと同じように魔法陣と赤い糸のような線が現れ、消えた。

 そして、ミアの目が動いた。

 

「あ、動ける。おぉー、これ凄い。自分の身体みたいに自由に動くんだー」

「ミアは普通に喋れるみたいですね。......それにしても、吸血鬼なのに自分の姿が鏡のように見れるってのは変な感じですね」

 

 あぁ、そう言えば吸血鬼って鏡に写らないんだったな。......え? ならどうしてミアの姿が......いや、自分の姿が見れるような魔法を使えばいいのか。まぁ、そんな魔法があるとかなんて知らないけどな。

 

「まぁ、翼はないみたいだけどねー。それで、貴女がルナシィだよね?」

「うん。そうだよ。......ぎゅっとしていいよネ?」

「え、うん。いいけ──痛っ! 痛いからもう少し緩くして!」

 

 そう言って、ルナシィがミアをギシギシと言うほど抱き締めた。

 うわぁ......痛そうだぜ。魔力供給しているレナと同じになったからか、痛覚とかもあるんだな......。

 

「んー、ごめんネ? 力加減とか分かんないヤ」

「えぇっ!?」

「身体能力は魔力を供給している人と変わらないですからね。おそらく、抵抗しても無駄でしょうね」

「そんな説明はいいから止めてー!」

 

 しばらく会話した後、ルナシィがミアから離れた。

 なんか呑気だなぁ。まぁ、日常って感じでいいんだけどな。......次に宴会がある時は、こいつらも呼んでみるか。まぁ、楽しくなる代わりに、霊夢が忙しくなりそうだけどな。

 

「うぅ......痛かった......」

「ミア、大丈夫? ルナ、謝りなさいっ!」

「......はーい......ごめんなさイ」

「うぅ......大丈夫だよ。だから、別にいいよ」

 

 なんだかフランに妹が出来たみたいだな。

 ......それにしても、私、蚊帳の外だな。忘れられないうちに言っとくか。

 

「ミア、少しいいか?」

「え? あぁ、うん。いいよ。さっきレナに言ってたことだよね? 魔法教えて欲しいって言うやつだよね?」

「あぁ、そうだぜ」

「じゃ、図書館に行こー。そっちの方が魔導書とかあって教えやすいしねー」

「おう、分かったぜ! お前達は来るか?」

「......私は待っていますね」

「じゃ、ワタシも待ってるネ」

「ルナが変なことしないように私も待っとくー」

 

 ......なんだかこの三人が一緒に居るとなると、嫌な予感しかしないな。まぁ、巻き込まれる前に図書館に行くとするか。

 などと考えながら、私はミアと一緒に図書館へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「......行ったネ。じゃ、オネー様。ちょっとイイ?」

 

 ミアと魔理沙が部屋から出た後すぐに、ルナが悪魔のような笑みを浮かべてそう言った。

 いやまぁ、一応は吸血鬼だから悪魔なんだけどね。

 

「なんだか嫌な予感しかしないのですが......まぁ、妹の頼み事を聞くのは姉として、当たり前のことでしょうし、いいですよ」

「少し前、オネー様のお腹を抉った時あったよネ?」

「え、は、はい。ありましたね......」

 

 どうしてその話を......なんだか嫌な予感しかしないなぁ......。

 

「で、その時の感触が気持ち良かった。だから、もう一回やってイイ?」

「......え? ちょ、ちょっと言ってる意味が分かりません......」

「ルナ、お姉様を無闇に傷付けちゃダメなんだよ?」

「え、そうなノ? でも、オネー様は許してくれるデショ?」

「ま、まぁ、許すでしょうね......」

 

 んー、何かおかしい......もしかして......。

 

「ルナ、貴女って今は何歳ですか?」

「フランと同じ、10歳だヨ?」

「え......ルナ、私は495歳だよ? え、冗談じゃない......よね?」

「え、え? どういうコト? どうして......?」

 

 ......そう言えば、多重人格って、人格によってそれぞれ年齢が違うとかあるんだっけ......。あぁ、だから喋るのも......でも、フランが10歳の時はしっかり喋れてたし......んー、多重人格についてはあんまり知らないからなぁ。

 

「......ルナ、気にすることはありませんよ。貴女は貴女、フランはフランって言うことなんでしょう。」

「でも......あれ? フランとはズット記憶を共有してなかったッテコト?」

「まぁ、そう言うことになりますね。......おそらく、貴女が表に出ている時と、フランが生きていたごく一部の時間しか記憶を共有していないのでしょう」

 

 そう考えると、やっぱりルナって可哀想なんだなって思う。約490年程の記憶が無いって......辛い記憶、悲しい記憶はともかく、楽しい記憶とかもないんだよね。......これから作ってあげないとね。

 多分、フランの中に戻ったら、記憶もまた制限されることになりそうだし、『ルナシィ』って言う一人の妹として接してあげないとね。

 おそらくだけど、フランが辛い思いをした時に、代わりになる為に作られた人格なんだろうし、楽しい記憶がない可能性が高いと思うからね......。

 

「ルナ、先ほども言いましたが、共有していないからと言って、あまり気にすることはありません。まぁ、多少は気にした方が良いかもしれませんが......これからを楽しんだ方がいいと思いますしね」

「......ま、それもそうだネ。でも、オネー様のお腹を抉るのはダメ?」

「ダメですよ。私と貴女とフランの三人で一緒に遊べるのを考えましょう」

 

 10歳って、良い悪いの区別は付くよね? ......まぁ、吸血鬼だから、人間とは違う可能性もあるんだけどね。

 ルナには色々と教えてあげないとね、姉として。

 

「あ、その前に......ルナ、私のこと、『お姉様』って呼んでみて!」

「え、嫌。貴女がワタシのことを『お姉様』って言ったらいいヨ」

「えぇー、一回だけでいいからさー」

「ワタシも一回だけで、いいヨ?」

 

 なんか、私とミアのやり取りみたいに見える気がする......いや、気のせいかな。

 

「......終わらなさそうなので、もういいですか?」

「あ、うん。いいヨ」

「あ、ごめんね。さて、何して遊ぶ? ルナが決めていいよ?」

「んー、えーとネ......」

 

 こうして、私達三人はしばらく遊び続けることになった────




一応、キャラによって思考等は違います。絶対これが正しいと言うのは無いので、注意して下さい。

次は水曜日に投稿予定です。流石に自分には2日に一回ペースは無理そうなので()


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8、「『紅霧異変』後日談その3 『巫女達の災難』」

はい、遅れてすいません()

今回で後日談終わると思ったけど、おそらく終わらない()
まぁ、次からはEX編にしますけどね()


 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社

 

「はぁー......」

「どうしたの? ため息なんてついて。ため息をつくと、幸運が逃げるらしいから、やめた方がよくってよ?」

「あぁ、うん。そうらしいわね。でも、そのため息の原因に言われたくないんだけど? どうしてここにいるのよ」

 

 朝早くから、前の異変で倒した妖怪が何故か従者を連れてやって来た。

 全く、迷惑にも程があるわ。こいつらのせいで妖怪神社って言われちゃうわ......まぁ、ここに来る人間なんて最近見てないけど......。

 

「遊びに来ただけよ。ねぇ? 咲夜」

「えぇ、そうですね。霊夢、お嬢様も暇なので、許してやって下さい」

「嫌よ。この神社は妖怪に乗っ取られたって思われるじゃない」

「あら、こんな場所に人間が来るの? ここに来るまで、全然見なかったけど?」

「うっ、ま、まぁ、たまにはそんなこともあるわよ......」

 

 やっぱり、ここに来るまでにも妖怪とか妖精とか居るしねぇ。ここに建てなくても、他にもいい場所があったと思うんだけど......まぁ、結界のこともあるからここになったんでしょうけど。

 

「そう、今日は偶然誰も来なかったってことね。......可哀想に。これから一週間の間は白黒の魔法使いと私達くらいしか来ないわよ?」

「うっ、嘘だとしても、それを言われると結構きついわね......。はぁー、ここ一ヶ月くらいは本当に参拝客来ないし、賽銭箱も貯まらないし、どうにかならないかしら」

「よかったら、うちで雇うわよ? 咲夜も居るし、家事とかは教えてくれると思うわよ」

「あぁ、うん。それは遠慮しとくわ。博麗の巫女が妖怪のところで働いているってなると、余計に人が来なくなるから」

「あー......それもそうね。それにしても残念だわ。折角面白そうな人間を雇えると思ったのに......」

 

 え、もしかして、私この妖怪に気に入られたの? ......はぁー、どうして私は変な奴にばっかり気に入られるのかしら。

 

「......で、いつ帰るの?」

「んー......咲夜、夜まで居て大丈夫?」

「お嬢様のお好きなようにしてもらって大丈夫です」

「じゃ、夜まで居るわね」

 

 ここに居ても何も面白いことなんてないと思うのに、どうしてずっと居ようとするのかしら?

 こいつの考えていることが全く分からないわ。

 

「やめてくれない? ここに居ても何も面白いことは起きないわよ?」

「そうかしら? 貴女と言う人間自体が面白いわよ?」

「それだけ聞くと、なんだか馬鹿にされてるみたいね。とにかく、早く帰りなさい。迷惑だから」

「まぁまぁ、そう言わなくてもいいんじゃない? あ、そうだわ。霊夢、咲夜の料理食べてみたくない?」

「そう言えば、もう昼ね......うちにある食料を勝手に使わないなら、食べてみたいわ」

 

 これでも一人で暮らしているから、料理の一つや二つくらい出来るけど、作るのもめんどくさいしね。

 それに、作ってくれるなら、断ってもいいことないしね。

 

「と言うことらしいから、頼むわね、咲夜」

「はい。では、館から食料を持ってきましたので、それで作りますね」

「用意周到過ぎない? まぁ、そっちの方が私からしたら嬉しいんだけど」

「では、厨房を借りますね」

「えぇ、いいわよ。......まぁ、うちのはどっちかと言うと台所だと思うけど」

 

 そう言って、咲夜は台所へと向かった。

 

「......ねぇねぇ、霊夢」

「何?」

「貴女って、いつもこんなぐうたらしているの? 巫女なんだし、修行とかしないの?」

「しないわよ。めんどくさいし」

 

 ......そう言えば、あいつは私と違って隠れて修行ばっかりしているわよねぇ。めんどくさいことをどうしてわざわざするのかしら? ......まぁ、私には一生分からないことね。

 

「ふーん......それなのに、そんなに強いのねぇ。やっぱり、変な人ね。貴女って」

「あんたに言われたくないわよ」

「あら、私って変な人かしら? 普通だと思うけど......」

「妖怪なのに人間の従者がいる時点で変な奴よ」

 

 今まで見てきた妖怪の中で、人間の従者を雇っている奴なんていなかったしね。まぁ、これからも見ることがあるかもしれないけど。

 

「......そう言えば、どうして人間の従者が居るの?」

「ん? 気になる?」

「まぁ、気になるわね。人間なのに、妖怪に仕えるなんて、ここでも珍しいから」

「へぇー、そうなのね。......咲夜は、元々吸血鬼ハンターだったのよ。そして、私に負けた。でも、生かしたわ。特別な能力を持っていたからね」

 

 特別な能力......あの急に出てきたり、消えたりするやつね。あれを相手にするのは本当に疲れたわ。まぁ、勝ったけど。

 

「ふーん、要するに、能力を持ってなかったら殺してたのね」

「ま、まぁ、そうなるわね。......でも、今だから言えるけど、持ってなくても殺さなくて正解だと思ったわ」

「え、どうして?」

「勿論、家事とか全部やってくれるからに決まってるじゃない」

「ふーん、そう、なるほどね」

 

 ......どうしてだろう。理由はそれだけじゃない気がするわね。まぁ、勘なんだけど。

 

「お嬢様、霊夢。食事の用意が出来ました」

「早いわね。それじゃあ、いただくわね」

「まぁ、私のメイドだしね。それじゃ、私もいただくわ」

 

 そう言って、私は咲夜の料理をいただくことになった。

 久しぶりに美味しい料理が食べれて良かったけど......やっぱり、妖怪が神社に来るのはどうかと思うわね。

 なんてことを考えているうちに、今日も普段通りに一日が過ぎていった────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──深夜 紅魔館(エントランス)

 

「ふぁ〜......吸血鬼なのに、夜に眠くなることなんてあるのね......」

 

 神社には夜遅い時間まで居たが、流石にもう霊夢が寝るから、帰ってきたところだ。

 それにしても、流石に無理し過ぎたかな? 夜の帝王である吸血鬼の私が、夜なのに眠くなってしまった。

 

「お嬢様、今日はもうお休み下さい。体に悪いです」

「大丈夫よ。吸血鬼だから、体は強いのよ。それよりも、妹達に会わないとね」

「......お嬢様は本当にレナ様とフラン様が好きなんですね」

「えぇ、唯一の家族だからってのもあるけど......単純に可愛いからってのもあるわね。容姿以外にも、仕草とか、色々ね」

「......そうですか。では、私は仕事に戻りますね」

「えぇ、分かったわ。貴女も働き過ぎないようにしなさいよ?」

「えぇ、勿論です。では、また明日会いましょう」

 

 そうして、私は咲夜と別れ、レナとフランが居るであろう地下へと向かった──

 

 

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「あ、お姉ちゃん。おかえりー」

「あら、ミア。もう復活したのね」

 

 図書館を通ってフランの部屋に行こうとすると、図書館にミアが居て引き止められた。

 レナったら、結構早く召喚したのね。魔力少ないはずなのに、大丈夫なのかしら?

 

「ミア、レナは魔力とか大丈夫なの?」

「うん、大丈夫だよ。魔理沙のお陰で魔力消費量を少なくして召喚出来るようになったからね」

「へぇー、そうなのね。......と言うことは、前にレナが言ってたみたいに、ずっと一緒に居れるようになったの?」

「うん、そうだよ。これからはずっと一緒だね、お姉ちゃん」

「えぇ、そうね。......改めて、ミア、これからもよろしくね」

「よろしく! あ、ちなみに、私は図書館の近くの部屋を借りることになったから、明日にでも遊びに来てね」

 

 あら、レナの部屋じゃないのね。最近、ずっとフランの部屋に居るからほとんど空き部屋みたいなものなのに......。まぁ、妹の仲が良いのは見てて嬉しいから、いいんだけど。

 

「あ、お姉ちゃん、気を付けてね」

「え? 何を?」

「うふふ、それは秘密だよー」

「え、あ、ちょっと! ......行っちゃったわ」

 

 そう言って、ミアは図書館から出て何処かに行ってしまった。おそらく、自分の部屋に戻ったのだろう。

 それにしても、何に気を付ければいいのかしら......まぁ、いいわ。

 そんなことを考えながら、フランの部屋へと向かった──

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「レナー、フラーン、入るわねー」

「レミリアオネー様!」

「え、ふ、フラン?」

 

 部屋に入るなり、フランが抱き着いて来た。......あれ? 銀髪?

 

「あ、ルナ! 私が先にやりたかったのに!」

「早い者勝ちだからネ。仕方ないネ」

「え? フランが二人? ......レナ、説明しなさい」

「私がするのですか? ......まぁ、いいですけど。実は──」

 

 こうして、私はどうしてこうなったかをレナに説明してもらった──

 

 

 

 ──数分後 紅魔館(フランの部屋)

 

「ふーん、そう言うことね」

「はい、そう言うことです」

「うふふー、オネー様が二人ー」

 

 それにしても、ルナったら、まだ抱き着いて......あら、とても嬉しそうね。

 ......まぁ、今までちゃんとした愛を貰えなかったんだから、嬉しいのは当たり前なのかしら?

 

「......ルナ、私と居るのは嬉しいかしら?」

「うん、とっても嬉しい! 今まではフランに独り占めにされてた気分だけど、今はオネー様達と一緒に居れるからネ!」

「そう......でも、ルナ、フランとは仲良くしなさいよ。じゃないと、一緒に居られなくなるからね」

「えぇー! ......分かった。フランとは仲良くする。でも、レミリアオネー様も約束してネ? ずっと一緒に居るって」

「えぇ、約束するわよ。フランも貴女も、どっちも私の可愛い妹なんだから」

「レミリアオネー様......うん、分かった! 大好き!」

 

 そう言って、ルナの抱き締める力が強くなった。

 あぁ、うん。これがデジャヴってやつね。

 

「ルナ、痛いから緩めてくれない? ちょっと痛いわ」

「あ、ごめんネ」

「......レミリアお姉様、次は私がギュってしていい?」

「それを貴女が言うとシャレにならない気がするわね。まぁ、いいわよ」

「ありがと!」

 

 そう言って、フランが抱き着いてきた。しかし、ルナは離れようとしない。というか、逆に抱き締める力が強くなってる気がする。

 

「......ちょっと、ルナ。次は私なんだけど?」

「いいじゃん。フランは今までずっと表に出てたでしょ? 次は私の番だヨ」

「うっ......そ、それもそうだね......」

「......いや、やっぱりいいや。フランと喧嘩したらレミリアオネー様達に嫌われそうだしネ」

 

 そう言って、ルナが私から離れた。そして、何故かフランも同じように離れ、ルナと真正面から向かい合った。

 

「......ルナ、お姉様達はルナのことを嫌いにはならないと思うよ」

「え? どうして?」

「お姉様達は貴女のことを愛しているから。私と同じくらいね。だから、絶対に嫌いにならないと思う。お姉様達は私が何をしても許してた。それは貴女も知ってるでしょ?」

「......うん。でも、それは貴女であって、私じゃないヨ?」

「ううん、私も貴女も一緒だと思うよ。今は別れているけど、元は一緒だったから。絶対に同じように愛されているよ。

 だからね......遠慮なんてせずに、さっきはずっと抱きしめててもよかったんだよ?」

 

 ......なんだろう、嫌な予感しかしない。なにこれ。いい話に聴こえてたけど、これ最終的に私に悪いことが起きそうな気が......。

 

「そうなの? じゃ、レミリアオネー様、そう言うことらしいから、痛くてもいいよネ?」

「え......レナ! た、助け──」

「あ、お姉様、ごめんなさい! 私の代わりになって下さい!」

「レナ!? あ......」

 

 この後、しばらく動けなくなったのは言うまでもないだろう。

 ちなみに、レナも私の後に同じような目にあったらしい────




次回は金曜日。特に遅れる要素は無いはず()

因みに、リクエストとかアイデア募集中です。詳しくは活動報告で()


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9、「『紅霧異変』EXその1 遥か遠い昔の記憶」

今回は短いです!()

多分、その3まで続いて、この章は終わります。次章からは、もっとネタ豊富でほのぼのにしたい(願望)


 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社

 

『紅霧異変』から約一ヶ月の月日が流れた。あれから変わったことと言えば、何故か、吸血鬼(レミリア)がここに来るようになったことだ。

 迷惑なことは特に何もしない。けど、神社に妖怪が居るだけで、里の人達がどう思うかは火を見るより明らかだ。

 だから、正直来ない方が嬉しいんだけど......言っても聞かないからもう諦めた。

 なので、今日もレミリアは一人で来たが、私は特に何も言わずに、縁側に座ってお茶を飲んでいた。

 しかし──

 

「おーい! 霊夢ー!」

 

 ──騒がしいのがやって来た。

 騒がしいのが一人ならともかく、二人は流石に疲れる。ほんと、こいつらは私を過労死にでもさせようとしてるのかしら?

 

「騒がしいわよ、魔理沙。何よ?」

「魔理沙、久しぶりね。今日は一体どんな御用?」

「あ、レミリアも一緒か。丁度いいぜ! 今からこいつ(レミリア)の館に遊びに行こうと思うんだが、お前も行かないか?」

 

 はぁー、魔理沙はいつも面倒事を持ってくるわねぇ。まぁ、いつものことだし、慣れたけど。

 

「嫌よ。絶対めんどくさいことに巻き込まれるに決まってるじゃない」

「いやいや、ただ遊びに行くだけだぜ? そのついでに弾幕ごっこをするってくらいだぜ?」

「それがめんどくさいって言ってるのよ。どうせ弾幕ごっこする相手って、あの館の住人でしょ? 咲夜とか戦うの大変だったんだからね?」

「あぁ、住人だな。レミリアの妹だぜ」

 

 ......異変の主犯であるレミリアはともかく、そのメイドの咲夜ですらスペルカードを使わされたのに、その妹と戦えって言うの?

 どうして異変の主犯レベルであろう奴と何度も戦わないとダメなのよ......絶対に嫌だわ。

 

「......余計嫌になったわ。こいつの妹? なんでそんな奴と......」

「まぁまぁ、いいじゃない。レナもフランも遊び足りないと、また新しい異変が起きるかもしれないわよ?」

「そんなの、貴女が止めなさいよ。姉なんでしょ? 私のところに来ないで、妹と遊んでいなさい。

 それと、館を長い間空けても大丈夫なの?」

「大丈夫よ。咲夜が居るもの」

 

 だから咲夜が居る時と居ない時があるのね......。って言うか、咲夜も主人を一人で外に出さないでよ。こいつ、何しでかすか分からないんだから。

 

「で、霊夢。どうするんだ? 行くか? 行かないか?」

「......はぁー、行けばいいんでしょ。行けば」

「ようやく分かったか。じゃ、行くぜ! レミリア、お前はどうするんだぜ?」

「んー......ここに居ても暇なだけだし、行くわ。それに、さっき霊夢も言ってたけど、たまには妹達と遊んであげないとね」

「ずっと遊んでいなさい。そっちの方が私としては嬉しいわ」

 

 まぁ、仲が良いなら別にいいけど。

 不仲なら逆に一緒に遊んであげないと、何しでかすか分からないからね。それで巻き込まれる可能性もあるし。

 まぁ、周りに迷惑かけないなら別に不仲でもいいんだけど。

 

「いつも会ってるから大丈夫よ......多分」

「多分って何よ?」

「......それじゃあ、行きましょうか!」

「え、っておい! 逃げるな! 結局多分って何なのよ!」

「あ、おーい! 置いていくなー」

 

 こうして、私達は再び、紅魔館へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──???

 

 気付くとそこは、記憶にないはずの、しかし、見覚えがある場所だった。

 地面はコンクリート。おそらく、外の世界にある道路だろう。

 そして、目の前にはトラックと一人の男性が、血塗れになって横たわっていた。

 多分、トラックで轢かれて死んだのだろう。......お気の毒に。

 ......それにしても、見覚えがある気がする。どこか......そう、はるか昔に見たことがある男の気がする。

 

「おい! おいってば! 聞こえるんだろ? 本当は聞こえているんだろ!? ......起きてくれよ......」

 

 その男性の近くには、人が集まっていた。その中に居た、同じ歳くらいの男が既に死んでいるであろう男に話しかけていた。

 友達とかかな? 可哀想に。あの傷はもう助かる見込みなんてないのに......。まぁ、諦めたくない気持ちは私にも分かるけどね。

 それにしても、どうして私はこんな場所に? ......それに、太陽の光が私に当たっているのに、何ともない。

 もしかして、これは夢? それとも、今までのが全て夢なの? ......違う。いや、絶対に認めない。今までのが全て夢なんてわけない。

 お姉様やフラン、紅魔館のみんなや魔理沙達。その全員との記憶がただの夢だなんて認めたくない。

 ......これが夢だ。絶対そうに決まっている。......早く覚めないのかな?

 

「......あ、れ? ......フラン?」

 

 遠くに、フランが見えた。......あ、ただの夢なんだから、居てもおかしくないか。

 

「......やっぱり、あいつだったんだね。......お姉様、ごめんなさい。自分で決めさせれなくて」

 

 え? どう言うこと? いや、夢だから意味なんてないか。......でも、聞いてみたい。何故か、私にとって、とても重要なことな気がする。

 

「......フラ──」

 

 そう言いかけた時、目の前が光に包まれ、全てが見えなくなった。

 しかし、血塗れになっていた男だけは、最後まではっきりと見えていた──

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「オネー様! 起きて!」

「お姉様ー、早く起きてよー」

 

 目が覚めると、そこはいつも私が寝ているフランの部屋だった。

 目の前には、フランとルナの顔があった。

 ......何か、夢を見ていた気がするけど......どんな夢だっけ? んー、まぁ、いっか。

 

「ん......ルナ? フラン? もう起きる時間なのですか?」

「うん、そうだよ。やっぱり、吸血鬼だからか朝に起きるのは大変だね。特にお姉様は」

「いつも一番遅いよネ」

 

 あぁ、そうだった。お姉様が朝に起きるようになったから、私達も早く起きるようにしたんだったね。

 

「あ、お姉様は?」

「もう行っちゃった」

「うん、お姉様が起きるの遅かったからね」

「そ、そうですか......」

 

 いつもお姉様を送る為に早く起きてたのに......寝過ごすなんて......。

 

「オネー様、落ち込まないで」

「そうだよ。お姉様、今日は魔理沙が来る日だし、ね?」

「あ、そう言えば今日でしたね」

 

 異変からもう一ヶ月かぁ。

 異変が終わった後も、魔理沙はよくこの館にやって来た。まぁ、大体はいつも勝手に入ってきて、図書館にある本を借りパクしていくだけなんだけど。

 パチュリーにあれだけ『借りる時は言いなさい』って言われているのに、何も言わずにパクっていくって、流石魔理沙だよね。

 まぁ、しばらくしたら、魔理沙の家に行って返して貰わないとね。

 

「フラン、ルナ。貴方達は魔理沙と遊ぶのが楽しみですか?」

「うん!」

「うん、私も楽しみ。お姉様は?」

「私も楽しみですよ。......ミアは遊べないですけど、まぁ、それは仕方ありませんね」

 

 ミアは、召喚されてからと言うもの、魔法の研究やメイドの仕事をしている。そして、たまに外にふらっと出かけることもある。今は、メイドの仕事をしている為、遊ぶことができない。

 多分、今まで私がこの身体の所有権を持ってたから、やりたかったことを色々とやっているのかな?

 感覚共有は魔力消費量が大きくて消したから、危険な目になっても分からないけど......まぁ、ミアは身体が壊れても、精神さえ無事なら元に戻るから大丈夫かな、うん。

 

「ま、本人がしたいことを出来てるなら、それでいいと思うけどね。ささっ、早く図書館に行こー」

「早く早くー」

「あ、ルナ、引っ張らないで下さい」

「ん、ごめんなさい」

「それは謝らなくてもいいですよ。まぁ、とにかく急ぎましょうか。いつ来るか分からないですしね」

 

 そう言って、私はフランの部屋から出て、図書館へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Hakurei Reimu

 

 ──紅魔館(門前)

 

「久しぶりにここに来たわね。もうあれから一ヶ月なのね」

「なに黄昏てるんだ? さ、早く入ろうぜ?」

 

 異変から約一ヶ月。またここに来るなんてね。しかも、遊ぶ為とか言う理由で。

 

「あ、魔理沙さん! 本は持ってきたんですか!?」

「ゲッ! あ、なんだ。美鈴か。パチュリーかミアかと思ったぜ。あいつら、本を返せってうるさいからな。私は借りるって言ったのに。

 ま、死ぬまでだけどな!」

「だから返せって言われてるんでしょ!」

「えーと、魔理沙。先に入ってるからね。後で来なさいよ」

「えっ、置いていくなよー」

「あ、待ちなさい! 本を返すまでここは通しませんよ!」

 

 全く、自業自得じゃない。普通に借りて、普通に返せばいいだけなのに。

 どうしてわざわざ泥棒みたいな真似を......まぁ、いいわ。放っておきましょう。

 

「ちっ、今日は遊ぶ約束もあるからな。通してもらうぜ!『マスター......』」

「え、ちょ、ちょっと、それは──」

「『スパーク』ッ!」

 

 その声とともに、魔理沙は『マスタースパーク』を撃った。

 それを避けれずに、美鈴は門ごと飛ばされていった。

 

「あらあら、どうしてくれるのよ」

「まぁまぁ、いいじゃないか。正当防衛だぜ」

「美鈴は攻撃してないけどね」

「はぁー......まぁ、いいわ。また後で美鈴に直させておくから」

 

 ぶっ飛ばされた挙句、直させられるって......可哀想に。まぁ、別に私に関係ないからいいけど。

 

「さ、そんなことは置いといて、早く行こうぜ」

「あんた、なかなかの外道ね。まぁ、いいわ。早く終わらせて帰りましょう。あ、そうそう。私は弾幕ごっこしかしないからね」

「あぁ、それでもいいぜ。私は楽しめるなら何でもな」

「私は見るだけにしようかしら。レナとフランが弾幕ごっこをする姿を見てみたいしね」

「やっぱり、貴女、妹さんと一緒に居たらいいんじゃない? 好きなんでしょ? 妹達のことが」

 

 レミリアが妹のことを話している時は、嬉しそうに微笑んでいる。

 なのに、わざわざ私のところに来るなんて......何がしたいのかさっぱりだわ。

 

「まぁ、好きよ? この世で最も大切な家族だから。

 でも......ちょっと、身体的にも色々と疲れるのよ......あの娘達、遊ぶのも色々と大変だから......」

「あぁ、うん。なるほどね。貴女も頑張ってるのね」

 

 レミリアの顔には、明らかに疲れが見える。おそらく同じ力を持つ妹を二人相手では、遊ぶのでさえ大変なのだろう。

 今からそんな二人を相手にするなんて......はぁー、嫌な予感しかしないわ。

 

「図書館で待ち合わせをしてるから、もうすぐ着くぜ」

「あら、そうなの。まぁ、私はどこにあるか知らないけど」

「......そこの扉よ」

「ん、ここ? なら、開けるわね」

 

 そう言って、私は重い扉を開いた────




次は日曜日かな


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10、「『紅霧異変』EXその2 悪魔の妹」

今回はフラン戦。レナ戦は長さの都合上、次回となりました()

なお、戦闘描写が下手すぎて、会話の方がメインになっている模様()


 side Hakurei Reimu

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「ここよ」

「ふーん、図書館って言うだけあって、本当に本が多いわね」

「いや、それでも多過ぎるだろ......」

 

 扉を開いた先は、数えるのも馬鹿らしくなる量の本が置かれた図書館だった。

 確かに図書館とは言っていたが、流石にここまで広いとは思っていなかった。

 

「あ、魔理沙。ちゃんと巫女さんも連れてきたのね」

「レミリアオネー様もいる!」

「おかえりなさいです。お姉様も帰ってきたのですね」

「あら、フラン、ルナ。ただいま。みんな行くと暇だったから、私も帰ってきたのよ」

「......妹って三人居たのね。前に話を聞いた時は、二人だった気がするんだけど......」

「あぁ、それは気にしないで。一人や二人、違っても問題ないでしょ?」

 

 いや、妹なんだし、数も少ないんだから、違ったら失礼でしょ。

 まぁ、別にいいけど。違っても特に問題は......ないわよね?

 

「......まぁ、何でもいいわ。弾幕ごっこしたら、帰ればいいだけだしね」

「それでもいいが、ちゃんとやれよ? まぁ、やらなければ死ぬかもしれないからやるしかないけどな」

「......まぁ、そうね。はぁー、やっぱり、妖怪を相手にするのは嫌ね。人間でも強いのは嫌だけど」

「お前も強い人間なんだけどな。さて、どうするんだ? ルナシィもやるのか?」

「ルナは出来ません。ルナは吸血鬼(フラン)と同じように生きることによって、生きる為に必要な魔力を少なくしています。なので、その少ない魔力を使うようなことは出来ないのです。

 まぁ、吸血鬼の身体能力はフランと同じくらいありますから、肉弾戦なら出来ますけどね。

 勿論、傷ついて欲しくないので、許可はしませんけどね」

 

 勿論、妖怪の決闘はここでは禁止されているから、私も許可を出さないけどね。

 

「そっか。それなら仕方ないな。ん、と言うことは、お前ら二人が相手でいいのか?」

「そう言うことになりますね。まぁ、勿論、一対一ですけどね。二対二ですと、私のスペルカードはフランを巻き込んでしまいそうですし」

「あんた、密度とかが凄いのは使わないでよね。避けにくいから」

「それは保証出来ません。特に切り札は」

「なら、その切り札を使わないようにしなさいよ」

「えぇっ!? せ、せっかく考えてきたのにですか!? それが無いと、ミアと一緒に放つスペルカードもないので、残りは十個しかないのですが!?」

 

 そう言って、レナと言う吸血鬼が、悲しそうな目つきで訴えてきた。

 まぁ、それでも嫌なものは嫌だけど。死にたくないし。

 

「死にたくないから嫌よ。それに、それでも充分よ」

「そ、そうですか......」

「お姉様、後で私が遊んであげるから、気を取り直して」

「フラン......ありがとうございます」

「まぁ、そんなことは置いといてだな。どっちがどっちの相手をするんだ?」

「私はどっちでもいいわよ」

 

 どうせ、同じくらいの力を持っているんでしょうしね。

 

「では、フランが先に魔理沙と相手をしてくれませんか? 魔法の補助の為に作った『ソロモンの指輪』の分の魔力を回復させたいのです」

 

 レナがそう言って、自分の手を見せた。その手の人差し指には、指輪がついていた。

 

「うん、分かったよ。じゃ、そう言うわけだから、魔理沙、お相手お願いね」

「あぁ、いいぜ。じゃ、早速始めようか」

 

 そう言って、魔理沙は箒に乗って、フランは普通に宙へと浮かんだ。

 それにしても、ここでやっても、本は大丈夫なの? ......まぁ、レミリアは何も言わないみたいだし、大丈夫か。

 そんなことを考えているうちに、魔理沙とフランの弾幕ごっこは始まった────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ────紅魔館(図書館)

 

「じゃ、やるよー! ルナ! これがスペルカードだよ! しっかり見ててね! 『禁忌「クランベリートラップ」』!」

 

 最初のスペルカードは、私とフランの周りに、数個の魔法陣が現れ、縦横に移動させつつ私を狙った弾を発射させると言うものだった。

 弾幕の密度は少ないが、油断していると、後ろから来た弾幕に当たりそうだ。

 などと考えながら、それもしっかりと注意して避けていく。

 

「へへんっ! これくらいなら余裕だぜ! ほらっ! お返しだぜ!」

「え、うわっ!? あ、危なかった......ちょっと、魔理沙! せめて何か言ってから弾幕撃ってよ!」

「まぁまぁ、当たらなかったからいいじゃないか」

「よくない! 当たったらお終いなんだからね! 最後までちゃんとやらせてよね!」

 

 まぁ、弾幕ごっこはスペルカードを全て攻略しても勝ちだしな。最後までやらせるか。

 

「まぁ、いいぜ。だが、当たりそうになったらスペルカードは使うからな?」

「んー、ま、それはいいよ。最後を見ずに終わるのも可哀想だしね。じゃ、次ね。『禁忌「レーヴァテイン」』! それっ!」

「なっ!? 直に狙うか普通!?」

 

 次のスペルカードは、赤い剣のような物をフラン自身が振り回すと言う、簡単なものだが、逆に避けるのが難しいものだった。

 さらに、その剣が振られた後には、小さな赤い弾幕が配置されて動くから余計に避けづらくなる。

 

「んー、惜しかったなぁ。ま、いいや。それそれっ!」

「うわっ! おいおい、そんなに振り回すと危ないぜ?」

 

 そう言って、フランが適当に振り始めた。振る事に、ブォン、と言う音が響き渡る。

 適当に振ったとしても、振った後には弾幕も配置される為、逆に狙って振るよりも避けるのが難しくなる。

 狙われた方がどこからくるか分かりやすいからな。まぁ、難易度高い方が楽しいけどな。

 

「大丈夫。少し離れているから、お姉様達には当たらないし、ここの本には耐火とか色々ついているから。だから、思いっきり振れるよ!」

「会話中に振るなよ! っ! ちっ、小弾も厄介だな」

 

「ねぇねぇ、オネー様、私にも弾幕ごっこ出来る?」

「しばらくすれば、出来るようになりますよ。今でもそうですが、フランは妖力をあまり使わないので、その身体が完全に吸血鬼の身体になれば、妖力もフラン並になって使えるようになりますので」

「ふーん、そっか。それならオネー様とも遊べるネ」

「ふふ、えぇ、そうですね」

 

 ......なんか呑気な会話が聞こえる気がするなぁ。こっちは命懸けだってのに。まぁ、楽しいからいいけどな。

 

「魔理沙! お姉様達の会話は気になるかもしれないけど、よそ見はしないでね。

 と言うか、よそ見してたら死んじゃうよ? 『禁忌「フォーオブアカインド」』、今から、私は増えるからね。

 頑張ってね?」

「ん? どういう、えっ」

 

 そう言って、フランは魔法陣を展開し、四人に増えた。

 レナがやっていたのと同じ魔法には見えないな。ただの分身か? それなら──

 

「あ、これはただの分身とかじゃないからね。全員攻撃出来るから」

「なるほど。ただの分身ではないんだな。......なかなか厄介だぜ」

「ま、そう言うことだから、頑張って避けてね! みんな魔理沙を狙って!」

 

 フランの言葉と同時に、全員が一斉に赤い小弾を放ってきた。

 時折、少し大きめの色々な弾幕を放ってくる。

 

「おっと、これはやばいな、っ! あ、危なかったぜ」

「ちっ、もう少し左だったらなぁ」

 

 危うく、直撃しそうになった。今も本当にギリギリ避けれているくらいだ。長く避け続けるのは危険だな。

 ......それなら──

 

「......流石に、四体一はキツいぜ! フラン! 本体はしっかり避けろよ! 『恋符「マスタースパーク」』!」

 

 私はスペルカードを宣言して、フランとその分身達に向かって、極太レーザーを撃った。

 

「うわっ、なにこれ凄っ。あ、これ避けきれ──」

「......あっ」

 

 その極太レーザーは、ブォン、と言う音を出して、全ての弾幕とフラン達を全員巻き込んで壁に当たり、光の泡となって消えていった。

 そして、そのレーザーが通り過ぎた後には、何も残っていなかった。

 

「......おーい、フラーン!」

 

 い、いや、大丈夫だよな。威力は強いが、あいつは吸血鬼だし。妖怪に対しては、無傷とは言えなくても、限りなく軽傷に近いはずの威力だからな。

 ......人間が当たったら大変だけどな。

 

「フラーン! 返事をしてくれー!」

「魔理沙ー!」

 

 大声でそう言われたので振り返ると、そこにはレナ達が居た。

 あぁ、怒ってそうだな。ま、まぁ、生きているはずだけど......。

 

「早く逃げた方がいいですよー」

「え? どういうことだぜ? あぁ、やっぱりフランは生きて、うわっ!?」

 

 その時、下から緑色の弾幕がライン状になって伸びてきた。

 

「おいおい、どこから、なっ!? ま、またか!」

 

 次々と、色々な場所から同じように、弾幕がライン状になって伸びてくる。

 しばらくすると、それは網目模様に配置されているのだと気付くことが出来た。

 

「あぁ、逃げ場を少なくしたのか?」

「うん、それもあるよ。それにしても、さっきの危なかったんだよ? 蝙蝠になって避けたけどね」

 

 いつの間にか、少し離れた位置にはフランが居た。

 やっぱり、避けれてたんだな。それにしても、吸血鬼って凄いな。強いうえに、蝙蝠になることも出来るのか。......まぁ、その代わりに弱点がいっぱいあるらしいけどな。

 

「じゃ、さっきのお返しね。『禁忌「カゴメカゴメ」』! えいっ!」

 

 フランはそう言って、大玉を放った。

 その大玉はライン状の弾幕を崩しながら私に向かってきた。その崩れた弾幕は周りに拡散して、よりこのスペルカードの難易度を上げている。

 弾幕同士が干渉するスペルカードは、弾幕が制御不能になって、遊びとして成り立たなくなることもあるんだが......遠慮しているせいか、大丈夫そうだな。

 

「えいっ、えいっ!」

 

 フランがそう言いながら、次々と大玉を放ってきた。

 

「よっ、と。ふむ、拡散しているのに気をつければ、そこまで難しくないな」

「え、そう? ま、これが本命じゃないからいいんだけどね」

「結構凝っているのに、本命じゃないのか」

「うん。......そろそろいいかな。次のスペルカードね。『禁忌「恋の迷路」』、これから貴女は私に近付くことが出来なくなるよ」

 

 そう言って、フランは弾幕を高速で渦巻き状に放ち始めた。

 それも、一つや二つではなく、幾つも渦巻き状の弾幕を放っている。

 

「おいおい、こんなの避けれないぜ!?」

「魔理沙、よく見て。ちゃんと切れ目を作ってるでしょ? そこを通って避けるのよ」

「ん? ......あ、本当だ。アドバイスありがとな!」

 

 フランの言う通り、全ての渦巻き状の弾幕には、切れ目があった。それも、私がそれを通れば、回り続けることになるように、配置されていた。

 

「よし、そうと分かれば......一気に駆け抜けるぜ!」

 

 私は魔力を箒に集中させ、スピードを上げてフランも周りを回り始めた。

 勿論、切れ目を通らないとダメなので、慎重に行かないといけないのだが、結構早く動かないと当たりそうなのでそうした。

 

「へぇ、魔理沙って怖いもの知らずなんだね〜」

「まぁな!」

 

 出来る限り話しかけて欲しくはないんだけどなぁ。

 集中を切らすと当たりそうだしな。......まぁ、当たってないからいっか。

 

「ま、あまり急ぎすぎると、次が今からが大変なんだけどね。それっ、逆回りだよ!」

「え!? マジかよ!?」

 

 フランが言った通りに、渦巻き状の弾幕の切れ目が、逆回りになるように配置されてしまった。

 

「くっ、間に合わないか? ......いや、間に合わせるか。『マスタースパーク』!」

 

 そう言って、私は進行方向とは逆向きに出力弱めの『マスタースパーク』を撃った。

 それを推進力にして、私はなんとか逆回りに回ることに成功した。

 

「おぉ、魔理沙って凄いんだね。じゃ、お姉様も待ってるし、次ね。『「禁弾「スターボウブレイク」』!」

 

 そう言って、フランは自身の後方に、色とりどりの少し大きめの弾幕を出現させた。そして、それらが一気に私に押し寄せる。

 全て直線上にしか進まないが、弾幕の速度にばらつきがあり、密度も濃いから少し難しくなっている。

 

「どう? 綺麗でしょ!」

「よっ、と。あ、危ねー。ん、あ、あぁ、綺麗だぜ」

「なんか適当に答えられてる気がするなぁ。ま、別にいいんだけどね。避けている最中だし」

 

 それを分かっていて話しかけているのか......悪魔だな。ん? 吸血鬼って悪魔だっけ? まぁ、何でもいいや。

 

「んー、やっぱり当たらないかぁ。人間って凄いんだね。ん? 魔理沙が凄いのかな? ま、どっちでもいいや。どっちにしろ、遊べて楽しいからね〜」

「っ! 、い、今掠ったぜ!」

「あー、うん。やっぱり聞いてないか。ま、それでもいいや。魔理沙ー! 次ねー! 」

「え、あぁ、分かっ、危なっ!?」

「あー、ごめんねー。ま、今から次のスペルカードを宣言するんだけどね。『禁弾「カタディオプトリック」』!」

 

 次のスペルカードは、小弾、中弾、大弾の三つを一組として放つと言うものだった。

 

「ん、これは......なんだか嫌な予感がするな。よっ、と。簡単に避けれたが、何があるんだ?」

「まぁまぁ、そう急かさないで。ほらっ、第二波だよ!」

 

 そう言って、フランは同じ組の弾幕を幾つも放っていく。

 

「......ん? あ、そう言うことか! あ、くっ!」

 

 気付いた時には遅かった。箒に中弾が掠ったのだ。

 この弾幕は、全て一回だけ反射する。

 先ほど、本棚に当たった弾幕が跳ね返ったので気付いたのだが、掠ってしまった。だがまぁ、直撃じゃないから良しとするか。

 

「あぁ、惜しかったね。ま、気付いたなら今まで避けてきた貴女には簡単かな?

 ま、さっきよりも密度は濃いけどね! えいっ!」

 

 そう言って、フランは次々と弾幕を放っていく。

 

「っ!? ま、また掠ったか。これは本当にやばいな。三回目か......まぁ、後二回くらいは大丈夫だよな。『恋符「マスタースパーク」』!」

 

 そう言って、私は『マスタースパーク』を放った。

 

「あ、またこっちに──」

「え、あっ、フラン!?」

「......あ、大丈夫だよ? また蝙蝠になって逃げたから」

 

『マスタースパーク』は全ての弾幕を消しながら、フランへと向かっていった。

 直撃したと思ったが、先ほどと同じく、フランは蝙蝠となって逃れたみたいだ。

 

「なんかずるいな。まぁ、全てのスペルカードを攻略するつもりだからいいんだけどな」

「あははー、ま、お姉様達とやったら、勝負つかないもんねぇ」

「ん、あぁ、そう言えば知らないんだな。それは霊夢も同じだぜ。あいつの能力はチートだからな」

「ふーん、私と同じ能力とか? ま、それは後で聞くとしよっか。『禁弾「過去を刻む時計」』

 あ、魔理沙。言うの忘れてたけど、これもいれて後三つだからね」

「ふーん、結構多いんだな」

 

 次のスペルカードは、青い十字型の回転するレーザーとフラン自身が放つ赤い弾幕とを合わせたものだった。

 

「わっ、急に出てくるからビックリしたぜ。また後でこれのやり方教えてく、れっ!? また急に出てきたか!」

「魔理沙、慌てないで。ゆっくり慎重にいけば、避けれる......はずだから!」

「アドバイスになってないぜ!?」

 

「オネー様、どうしてフランはずっとアドバイスしてるの? これって勝ち負けでしょ?」

「まぁ、そうですけど......貴女に色々と知って欲しいのではないでしょうか。

 弾幕ごっこで避けれないスペルカードは普通はやらないので。ルナがそんな弾幕を作らないように教えてるとかじゃないですかね?

 普通に言ってもいい気がしますが......まぁ、少しだけ、気持ちは分かります」

「ふーん、そっか」

 

 どうして結構離れてるのに、あいつらの声が聞こえる気がするんだ? あ、気のせいなのか?

 

「魔理沙ー、後でお姉様とちょっと話をするつもりだから、今は気にしないでー。

 さて、もう当たらなさそうだし、次ね。これから、消えるから。頑張って耐えててね。『秘弾「そして誰もいなくなるか?」』」

「ん? ......消えた? ......あ、なるほどな。そう言うことか」

 

 フランが消えたと同時に、青い弾幕が現れた。その弾幕は、青い小さな弾幕をばら撒きながら、私へと近付いて来た。

 

「はっ! ......あぁ、逃げるしかないな」

 

 弾幕を放っても、青い弾幕をすり抜けてしまう。おそらく、スペルカードでしか消せないのだろう。

 

「......ふむ、見えてるのか? ずっとこっちに向かってきてるな」

 

 青い弾幕は私が上下左右に逃げても前後に逃げても永遠と一定の速さで追いかけてくる。

 

「ん? っ!? あ、危ねぇ。小さい方のも厄介だな。......え? また消えたのか?」

 

 しばらく逃げていると、青い弾幕は消え、小さい方の弾幕だけが残っていた。

 

「んー、なんで......あ!」

 

 またしばらくすると、次はどこからともなく赤い弾幕が私を囲むようにして現れた。そして、その赤い弾幕は私に向かって進行していく。

 息をつくまでもなく、次は青い弾幕が私を囲むように網目状に現れ、赤い弾幕と同じように私を中心として進行してきた。

 それが緑、黄色が二回、そしてまた赤へと繰り返し現れては私に向かって進んでくる。

 

「くっ、結構続くなっ!」

「......お終いね。これでこのスペルカードは終了だよ。よく頑張ったね。お姉様は諦めてスペルカード使ってたけど」

「ふっ、私は強いからな」

「あぁ、うん、そうだねー」

「おいおい、棒読みとか酷くないか?」

「......あ、ごめん。私から言ったことなのに、お姉様を馬鹿にされた気がしたから」

 

 え......本当に酷かったな。ま、まぁ、姉思いの妹だからまだマシか......?

 

「......じゃ、最後ね。これが私の本命よ! 『QED「495年の波紋」』!」

 

 最後のスペルカードは、青い小さな弾幕を低速で円状に次々に放つと言うものだった。

 簡単に見えるが、弾幕の密度はかなり濃い。

 

「っ!? い、今三回くらい掠ったぜ!?」

「まぁ、密度がやばいしねー」

「くっ、めちゃくちゃ呑気に言うな!」

「まぁ、実際撃つだけの簡単なお仕事だからねー」

「仕事ではないと思う、ぐっ! う、腕に......こ、これはやばいな。仕方ない......」

 

 最後の弾幕だが......当たって終わるよりもマシだよな。

 

「ん? どうしたの? スペルカード使っちゃう?」

「あぁ、使っちゃうぜ! これが最後のスペルカードだ! 『恋符「マスタースパーク」』ッ!」

 

 そう言って、私はフランに向かって『マスタースパーク』を放った────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(図書館)

 

 

「んー......魔理沙が勝っちゃいましたね」

「そうだネ。でも、フランも嬉しそう」

「フランは楽しめればいいって娘ですからねー」

 

 結局、魔理沙の『マスタースパーク』で勝負がついた。

 弾幕は消え、フランが蝙蝠となって避けることは出来たが、全てのスペルカードが攻略されたことによって、フランの負けになってしまったのである。

 

「さ、次は私と貴女ね。さっさと終わらせてて帰らせてもらうわよ」

「まぁまぁ、楽しみましょう?」

「......いいけど、私は遠慮なくスペルカード撃つからね?」

「それでも大丈夫ですよ。ただ、頑張って下さいね。私の使うスペルカードのほとんどは、神話の武器をモチーフにしたものなので、結構難しいのが多いと思いますのでね」

「あんたら姉妹が強いのは今まで見て分かってるわよ。......それじゃあ、あいつらが戻ってきたら、始めましょうか」

 

 この後、魔理沙とフランは帰ってきた後に、私と霊夢の弾幕ごっこが始まった────




次回は水曜日に投稿です(:3_ヽ)_


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11、「『紅霧異変』EXその3 血に染まった悪魔」

今回はレナ戦。レナのスペルカード、分かりやすく伝わってるだろうか......()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(図書館)

 

「さて、始めましょうか」

「えぇ、そうね。さ、早く宣言しなさいよ」

 

 フランと魔理沙の弾幕ごっこが終わって次は私と霊夢の番だった。既に、私と霊夢は互いに一定の距離を保ちながら宙に浮かんでいた。

 弾幕ごっこはフランやお姉様の姉妹との遊びならやったことはあるけど、他の人とやるのはこれが初めてだ。

 ──弾幕に当たりそうになったら蝙蝠になって逃げればいいし、なんとかなるかな。......あ、そう言えば、蝙蝠とかどうやってなるんだろう? なったことないから分かんないや。お姉様もフランも出来てるし、祈ってやればなんとかなるよね。

 

「ではまずは小手調べと言うことで......必要ない気もしますけどね。ちなみに、数は十枚です。フランと同じ数ですね」

「必要ないわね。そう言うわけで、一枚減らしてくれない? 貴女の姉は六枚しか使わなかったわよ?」

「それはあれですよ。お姉様はお姉様、私は私と言うことで。それに、小手調べは楽しい時間を増やすためなので、必要無くてもしますけどね!

 これが一枚目です! 『召喚「吸血鬼をも燃やす小さな焔」』、燃えてください!」

 自分の周りに魔力で出来た六つの焔を作り出す。

 この焔は、私の周りを回りながら小さな赤い弾幕を六方向にばら撒き続ける。最後以外は特に何の変哲もないスペルカードだ。

 

「ふーん、本当に小手調べなのね」

 

 霊夢はそう言いながら、簡単そうに軽々と左右上下に避けていく。

 もしかしたら能力でも使っているのだろうか。

 

 ──それは無いか。霊夢は遊びで本気になりそうな性格じゃないしね。......現実で会ったのはこれが初めてだから違うかもしれないんだけど。

 

「普通に弾幕をばら撒いているだけですしね。......それでも、もう少し難しそうに避けて欲しいです。あまりにも簡単に避けられるのは......」

「もう少し難しくすれば? 小手調べなんだし出来るんでしょう? まぁ、私はこのままの方がいいけど」

「んー......もうすぐ終わりですし、難しくしましょうか。焔さん達! 行きなさい!」

 

 命令を受けた全ての焔は、弾幕をばら撒くのをやめると霊夢へと向かって行った。

 

 このスペルカードの神髄は、焔が自爆することだ。私から一定距離を離れると自爆して、周りに弾幕を撒き散らす。

 

 ──正直な話、自爆は手動も出来るけど少しラグがあるから使いにくいんだよね。やっぱり、私って再現は得意な部類でも、自分で考えて作るのはあんまりだなぁ。

 

「あぁ、こっちに来るのね。......手っ取り早い方がいいわね。『夢符「封魔陣」』!」

 

 霊夢は四方八方に結界を張ると全ての焔の爆発から身を守った。

 

「うわっ、爆発した」

 

 ──そう言えばそんな方法があったね。小手調べなのに追尾機能あって難しいだろうと思って、一回分しか用意してないのよね......。後二、三回くらい用意すれば良かった。

 

「......霊夢さん、普通に避けてもいいのですよ?」

「こっちの方が手っ取り早いでしょ? それと、霊夢でいいわよ。さんはつけなくてもいいわ」

「あ、分かりました。皆さん、呼び捨てにされる方が好きなのでしょうか......。

 二つ目の召喚魔法です。いえ、本当は召喚魔法を模しただけなんですけどね。『召喚「不可視の吸血鬼」』!

 では便乗させてもらって、私も消えますね」

 

 このスペルカードは、私の能力で見えなくした吸血鬼を模した弾幕の塊から、霊夢に向かって色々な方向から幾つもの弾幕を飛ばすと言う簡単なものだ。しかし、どこから飛んでくるか分からない弾幕ほど怖いものはない。

 それに加え、私自身も能力で姿を有耶無耶にする。存在ではなく姿を有耶無耶にする理由、は存在を有耶無耶にすると、相手が誰と戦ってるか分からなくなるからだ。

 それでは勝負にならないと姿を有耶無耶にするようにしている。

 

「え? ......あ、本当に消えるの、ねって危なっ! 今どこから飛んできたのよ!?」

「さて、どこからでしょうね?」

「貴女も何処にいるのよ。せめて、貴女だけでも出てきたら?」

 

 霊夢に挑発気味に促されるも、それに乗る私ではない。というよりは、少し怖いのだ。

 

「出てきた瞬間、弾幕撃たれそうなので嫌です。せめて、次のスペルカードまで待ってください。あ、右から来てますよ」

 

 不意打ちで攻撃しているはずが、不意打ちで攻撃されることが。

 

「あら? よっ、と。教えてくれてありがとね」

「いえいえ......。あれ? どうして私、教えたんでしょうか?」

「そんなの聞かれても知らないわよ」

 

 もしかして、昔からフランと一緒に遊んでいる時に傷付いて欲しくないからと、手加減しているのが癖になってきてるのかもしれない。直した方がいいかもしれないけが、根っから染み付いた性格は治せない気もする。

 

 ──それに、これからもフランやルナとは遊ぶことになるだろうし、直さない方がいいよね。後で痛い目見るかもしれないけど、その時はその時考えればいいだけだし、

 

「よっ、と。ふーん、思ったよりも避けるのが簡単ね」

「......それにしても、霊夢、どうして来る場所が分かるのですか? 明らか分かっていて避けてますよね?」

「ただの勘よ」

 

 ──いやいや、そんなの有り得な......。

 

 と思うも、霊夢の勘の鋭さは異変を解決する時にも使われているのを思い出す。

 

 ──あぁ、私って霊夢と相性悪過ぎ。おそらく霊夢が適当に弾幕撃っても、私に当たる気がする。まさか、私の能力が他の能力じゃなくて、ただの勘に破られる時が来ようとは......まぁ、まだ私の場所はバレてないからいけどさぁ。

 

「そろそろ終わりでいいんじゃない? もう当たらないわよ?」

「勘で避けているだけなのに......、そうですね。次にいきましょうか」

「あ、そっちに居たのね。で、次もまた召喚魔法かしら?」

「魔物の召喚は終わりですよ。でも、次からは武器の召喚ですね。

 神話の武器......を模した力! 見せてあげます! 『雷槌「ミョルニル」』! 」

 

 高らかに宣言すると私は、私を中心に天井まで届く高くて大きな雷柱を作る。そして、ついでに『ミョルニル』を模した槌を召喚した。

 

『ミョルニル』、北欧神話に登場する神トールの持つ武器だ。武器の能力はお姉様の『グングニル』のみたいに投げたら戻ってくると言う武器だけど、まぁ、武器の能力の方はあまり使わない。お姉様の武器も名前だけで、戻ってくるのは見たこと無いから同じという判定でいいだろう。

 

 それで、このスペルカードは、その武器の神様のトールが雷の神様と言うことで、雷柱を模した弾幕を放つと言うものだ。

 

「なんだか私の封魔陣を外から見てるみたいね。私のは結界だけど」

「さて......進行しなさい! 全てを破壊しなさい!」

「あんた、やっぱり悪魔ね。とっても悪い顔になってるわよ」

 

 私の言葉とともに、雷柱が四つに別れ、黄色い弾幕をばら撒きながら、十字方向に進行して行く。

 

「なんだ、そのくらいなら簡単ね」

「あ、普通に避けますか......第二波です! はぁっ!」

「え、また来危なっ!」

 

「......お姉様って、たまに壊れるよね。ま、こっちには飛ばしてきてないから別にいいけど」

「壊れるの、悪いことなノ?」

「え? んー......悪いことではないのかな? よく分かんないや。でも、周りに迷惑かけたらダメだよ? 分かった?」

「......分かった」

 

 遠くで二人の妹が話すのが耳に入る。中が悪そうには見えずに安心するも、戦闘へと注意を戻す。

 

 第三、第四波まで繰り出すが、全て簡単に避けられてしまった。やはり、お姉様に勝っただけはある。

 ──まぁ、お姉様は私達姉妹の中でも最弱......いや、んー、心の中としても、お姉様を馬鹿にするのは気が引ける。それに、本当に一番弱いのは私だしね。私の取得なんて、魔法しかないし。

 

「これでお終い?」

「お終いですね。んー、お姉様みたいにミョルニルを投げればよかったのでしょうか......まぁ、終わったことは別にいいでしょう。

 それにしても、もう四枚目ですか......早いですね。『双剣「干将(かんしょう)莫耶(ばくや)」』

 この双剣は夫婦剣、互いに引き合うらしいですよ? それっ!」

 

 亀裂模様の入ったナイフを、霊夢の背後からは水波模様の入ったナイフを何本も召喚し、放った。

 

「挟み撃ち? これなら、さっきのどこから飛んでくるか分からないやつの方が難しいと思うわよ?」

「ただの挟み撃ちなら、スペルカードにはしませんよ。あ、他人のスペルカードは知らないですから。それよりも、二つのナイフがもう当たりますよ?」

 

 私がそう言ったと同時に、多数の種類の違うナイフ同士が引き合い、ぶつかって破裂、円状に弾幕を展開した。

 

「え? それがどうしたの......なっ!? あ、危なっ!」

 

 すぐ近くで破裂したはずなのに、霊夢には破裂するのが分かっていたかのように、それを軽々と避けた。

 

「え、気付いてから避けるまでの時間が早くないですか? 貴女は本当に人間なのですか?」

「人間よ。何の変哲もない普通の人間。ただ、巫女をやってるってだけよ」

「速さではなく素早さ、ってやつですか? 普通の人間が空を飛ぶのは......幻想郷なら不思議ではないからいいですけど」

「飛べない人間の方が圧倒的に多いけどね」

 

 それにしても、霊夢ってまだスペルカード一枚しか使ってないよね? やっぱり、切り札使っても負けそうだなぁ。今回は切り札を使うつもりはないけど。

 

「では、次ですね。普通は正午に使うべきスペルカードですし、吸血鬼が使うのは間違ってる気しかしませんが......『魔剣「ガラディン」』!

 太陽よ! 現れ、敵を燃やし尽くしなさい! そしてこの剣に、力を与えなさい!」

 

 次はガラディンを模した魔剣を召喚し、自分の真上に小さめの擬似太陽を作り出す。

 小さい理由は、室内だから。力は弱まるけど、まぁ、仕方ないね。

 ちなみに、ガラディンは日中に威力が高まる武器なので、昼間は寝ている私にとってはデメリットにしか思えない。フランとルナにこれを教えると、二人揃って『どうしてこんなの作ったの?』と言われた。ロマンと言っても分かってもらえなかった。悲しい。

 

「あんた、一言一言うるさいわね。別にいいけど。そんなことより、吸血鬼って太陽が苦手だったんじゃなかったっけ? だからあんな霧を出してたんでしょ?」

「これは擬似太陽なので大丈夫ですよ。それよりも、自分の心配をした方がいいですよ? はぁっ!」

 

 私はガラディンを一振りし、斬撃に見せた弾幕を霊夢に飛ばした。

 そして、合わせるように擬似太陽からも赤い弾幕とレーザーを交互に飛ばす。

 

「うわっ、よっ。危ないわね」

「そんな苦もなく避けて言われましてもね......。えいっ!」

「遅いわね。もう少しちゃんと狙った方がいいんじゃない?」

「え、これも避けますか。ちゃんと狙っているはずなのですけどね......」

 

 狙って放った斬撃も、無差別に放たれたレーザーや赤い弾幕に当たるように誘って放った斬撃も、全て躱される。

 霊夢はスペルカードをまだ一枚しか使ってないし......仕方ない。

 

「もう次にいきますね。『神槍「ブリューナク」』! はぁっ!」

「え? どこに向かって投げてるのよ?」

 

 私と霊夢の間くらいの位置の天井に向かって、槍を勢いよく投げる。

 

「......あぁ、なるほどね。そういうこと......」

 

 すると、その槍から弾幕で作られた雲が広がる。

 

「さて......貴女は、雷を避けることが出来ますか?」

「? それってどういう、え!? くっ!」

 

 私がそう言ったと同時に、雷のような早さで雲から黄色いレーザーが降り注いだ。霊夢の位置と降った場所が少しズレていたせいで、霊夢には掠っただけとなってしまった。

 

「まぁ、雷だけじゃ物足りないので、私からもプレゼントですよ!」

「あの雷、速すぎない? って、貴女も撃つのね。上からも前からも注意しないといけないのは、少し大変ね」

 

 このスペルカードでは、雷だけじゃ物足りないと思い私も周りに赤い小弾を放つ。

 ──それでも雷のレーザーは一つしか撃たないわけじゃないし、レーザーだけでも充分かもしれないんだけどね。どこから降るかは雲が光って見たら分かるから、こうでもしないと難易度上げれないから仕方ないね。

 

「......くっ、上から来るのが厄介ね......そう言えば、上の雲も弾幕なのよね?」

 

 突然、何かを思い付いたように霊夢が質問する。

 

「え? そ、そうですよ。それがどうかしましたか?」

「いえ、何でもないわよ。......ただ、それなら消せるって思っただけ。『霊符「夢想封印」』!」

 

 霊夢が上の雲に向かって色とりどりの光弾を放った。そして、霊夢の周りにあった弾幕はかき消され、弾幕で出来た雲も全て消される。

 

「あ、その手が......って、卑怯じゃないですか!?」

「卑怯じゃないわよ。これもスペルカードなんだし」

「うぅ......これでは、『トライデント』も......あ、スペルカードを削れると考えたら、それでもいいのでしょうか?」

「さぁ、次はどんなスペルカードなのかしら?」

「今のスペルカードの強化版です......うぅ、すぐに消される気しかしませんが、『神槍「トライデント」』!」

 

 そう言って、神話の『トライデント』を模した槍を作り出した。

 それを私は天に掲げ、次は自分を中心として、再度弾幕の雲を作り出した。

 

「次は雷じゃなくて雨です。そして、先ほどは私から弾幕を放っていましたが、今回は私に向かって波のように弾幕が向かってくるようにしています」

「あら、どうして急に解説が始まったの?」

「いや、どうせスペルカードで全部消すだろうと思いまして......」

「あぁ、なるほど。......正解よ。『霊符「夢想封印」』!」

 

 こうして、七枚目のスペルカードはいともたやすく行われた『夢想封印』によって攻略された。普通の弾幕なら消されてもまた作ればいいけれど、この雲型の弾幕はあらかじめ大きな弾幕を作って、そこから少しずつ放つので、もう一度作るとなると結構大変だ。ということで、連発はあまり出来ない。多くても、雲系の弾幕は三回以上使いたくないのだ。

 

「......霊夢、貴女って容赦ないのですね」

「私は妖怪に対しては容赦しないのよ」

「あ、はい、そうですか......。ではまぁ、気を取り直して、八枚目のスペルカードです! 『神剣「クラウ・ソラス」』!」

 

 そう言って、私は『クラウ・ソラス』を模した剣を作り出した。

 ──これもいれて後三枚だからいいけど、魔法の補助効果を持つ『ソロモンの指輪』がなかったら、このスペルカードも使えなかっただろうなぁ。まぁ、本来の『ソロモンの指輪』は悪魔の召喚なんだけどね。

 

「また武器? いい加減飽きてきたんだけど?」

「まぁまぁ、後はこれをいれないで一枚だけですので、我慢して下さい。では、輝きなさい!」

「な──眩しっ!」

 

 私がそう言った瞬間に、剣の刀身は眩しい光を放ち、それと同時に真っ白に輝く光弾とレーザーを放つ。

 光のせいで見えにくくなった光弾とレーザーは触れれるほど近くに来ないと分からないだろう。そう言うわけで、このスペルカードはミスティアやルーミアのスペルカードに似ていると言えるかもしれない。弾幕の密度や速さが桁違いな気もするが。

 

「え、いつの間にこんなに近くに!? あ、危なっ! 仕方ないわ! 『夢符「封魔陣」』!」

 

 霊夢は天井まで届くような高く伸びる結界を展開する。

 そして、向かってくる弾幕から身を守った。

 

「流石に、霊夢でもこのスペルカードは難しいみたいですね」

「見えないんだから仕方ないでしょ? あ、切れかかるの早いわね。......『夢符「封魔陣」』!」

「......まさか、二回連続で使うとは......出し惜しみしないのですね......」

 

 さて、一気に五枚目まで使わせることが出来たけど......後二枚じゃ、負けが決定したのと同じようなことだ。

 

 ──だが、最後まで全力でやって、楽しむけどね!

 

「ではまぁ、ガードされては攻撃出来ないので......九枚目のスペルカードです! 『召喚「悪魔を宿した短剣」』」

 

 スペルカードを宣言したと同時に、赤い宝石がついた短剣を召喚し、私の両隣に魔法陣を展開した。そして、その魔法陣から、影のように真っ黒な、二体の人型が現れた。

 

「......それ、真っ黒で分かりにくいけど、貴女の姉と妹?」

「はい、そうですよ。正確に言うと、私の姉妹を模して作った魔力の塊、通称影です。では、いきますよ! 霊夢に向かって集中砲火です! はぁっ!」

 

 そう言って、私とフランを模した影は赤い小弾を、お姉様を模した影はナイフ型の弾幕を放った。

 

「くっ、三方向からの攻撃は少し辛いわねっ」

「んー、もう少しで当たりそうだったのですけどね......」

「残念ね。......後二枚なら、出し惜しみしなくてもいいわよね。『夢符「封魔陣」』!」

 

 先ほどと同じように結界を展開し、身を守った。

 結界が発動している時間は短いけど、さっきみたいに二回連続とかされたら全部防がれる......。まだ最後のスペルカードもあるから大丈夫とは思うが。

 

「今、スペルカードを六枚使ったので、後四枚......いえ、勝つなら残り三枚ですね。今回、使ってもよかったのですか?」

「よかったわよ。後三枚なら、攻略出来るようなものだしね。まぁ、あと一回しか使うつもりないけどね」

「ふーん、そうですか......。あ、結界が切れましたね。はっ!」

 

 結界が切れたと同時に、弾幕を放った。しかし、見切られていたのか簡単に避けられてしまった。

 

「ちっ、やはり無理ですか......。まぁ、どこから来るか分からない弾幕も避けていましたし、今更ですね」

「よっ、はっ、と。えぇ、そうね。......もう終わりかしら?」

 

 しばらく霊夢が避け続けていた後、お姉様とフランの影が消えてしまった。......影だとしても、お姉様とフランが消えるのは寂しく悲しく思う。

 

「はい、もう終わりです。さて、最後のスペルカードですね。切り札ではないですが、お姉様とフランのスペルカードを見て作ったもので、お気に入りです。私の二つ名というのは嫌いですが。別に血に塗れてないですし。

『紅魔「ブラッディヴァンパイア」』!」

 

 このスペルカードは、赤い大弾、中弾、小弾に別れている。

 大弾は何かに当たると破裂、円状に弾幕をばら撒く。中弾は一度だけ跳ね返る。小弾はただ純粋に速い。

 この三つの弾幕をフランの『禁弾「カタディオプトリック」』のように放つ。

 

「......確かに、レミリアとさっき見たあんたの妹の弾幕と似ているわね。くっ、破裂したり跳ね返ったりややこしいわねっ!」

「ちなみに、弾幕自体はフランのを、名前はお姉様のを真似しています。......それにしても、よく初見で避けれますね。

 初めは絶対に当たると思うのですが......掠るだけですんでいる......。本当に人間なのですか?」

「人間よ。ただ、能力を持っているってだけ。まぁ、その能力も今までは使ってなかったけど、ね!」

 

 弾幕が後もう少しで当たると言う時に、霊夢は一瞬のうちに弾幕が少なかった私の近くへと移動した。

 

「え!? 速い!? い、いえ、瞬間移動!?」

「なんでそんなに驚いているのか分からないけど、隙ありね! このままついでに飛ばされなさい! 『霊符「夢想封印」』!」

「あ、卑怯じゃな──」

 

 あ、これ蝙蝠になるの間に合わないかもしれない。

 そう思った時には、すでに『夢想封印』の光弾が目の前にまで来て───

 

「......あ、あら? 本当に飛んでいっちゃった?」

「ちょっと霊夢! 本当にやり過ぎじゃない!?」

「レミリアお姉様、慌てすぎ。お姉様は簡単にはやられないよ」

「あ、大丈夫ですよ。ギリギリ蝙蝠になって避けましたので」

 

 そう言って、私は霊夢の傍に集まっていたお姉様達の後ろに現れた。

 ──初めて蝙蝠になったけど......うん、なんか変な感じだね。身体が幾つにも別れるけど、痛くはない。霧になったりしたら、どんな感じなんだろ?

 

「オネー様! 無事でよかった!」

「あ、ルナ。すいません。抱き締めるのはもう少し待って下さい。......霊夢、私の負けです。本当に人間とは思えないレベルの強さですね」

「そう、ありがとうね。それじゃあ、もう帰るわ。いつの間にか、もう夕暮れになってるみたいだし、疲れたし」

「あ、私も帰るぜ。こんなに楽しかったのは異変以来だったぜ。ありがとな。あ、霊夢ー! 置いていくなよー」

 

 そう言って、帰りの挨拶も無しに霊夢達は帰って行く。本当に疲れているのだろう。そう言う私も魔力の使い過ぎで疲れている。

 

 ──けど、なんだか寂しくなる気もするなぁ。でも次はこっちから行けばいっか。帰れとか言われそうだけど。

 

「じゃあ、私も戻るわ。また夕食の時にでも会いましょう」

「うん! あ、お姉様。私達はまだ遊ぼうね!」

「元気ですね......。いいですけど」

「貴女も大変ね。......それじゃ、戻るわね。......レナ、フラン。貴方達も強くなったのね。ルナ、貴女も強くなれるはずだから、頑張りなさいよ」

「分かった。フランよりも強くなる」

「私よりかは無理だと思うけどー」

「喧嘩しないでよ? じゃあ、またね」

 

 それだけ言うと、お姉様が図書館から出ていった。

 ──お姉様と最近一緒に居ないから、明日にでも部屋に行ってみようかな。

 

「ばいばいー......それじゃあ、私達も行こっか。ここでこれ以上遊ぶとパチュリーに怒られるしね」

「はい、そうですね。......では、戻りましょうか」

 

 そう言って、私達はフランの部屋へと向かった────




次回からは5章です。
5章はレナ達の幻想郷での日常と、無意識の娘と地底の話と、『春雪異変』のお話の予定。

なお、次は日曜日に投稿となります()


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5章「幻想郷での日常 『春雪異変』」
1、「妹達、初めてのおつかい」


ただ、妹達がおつかいするだけのお話。


 side Renata Scarlet

 

 ──ある日の朝 紅魔館(食堂)

 

 秋になって温気がいくぶん和らいだある日。『紅霧異変』が終わってから、一ヶ月もの月日が経った。

 あれから、私達はお姉様に合わせるように朝に起きるようになった。前世が人間だった私にとっては、起きる時間が元に戻っただけなのだが。

 

「お姉様、少しいいですか?」

「いいわよ。どうしたの?」

「明日、人里に行ってもいいですか? フランとルナを連れて、三人で。あ、お姉様も大丈夫なら、一緒に行きたいです」

 

 食事が終わった後、二人きりになったお姉様に聞いてみた。これはただ、フランとルナを外に連れ出したかっただけで特に意味は無い。

 それに、フランとルナは部屋に篭ってばかりだからたまには外に連れて行ってあげたいのだ。

 ──私もフランとルナと一緒に居るから、ずっと篭ってばかりいるけど。

 

「......貴女、自分が吸血鬼だと分かって言ってるのかしら?」

「はい、分かっています。ただ、フランとルナを外に連れ出したいのです」

「それなら、神社でもいいでしょ?」

 

 心配そうに姉は聞いてくる。やはり、何か面倒事に巻き込まれないかと心配しているのだろう。

 

「いえ、あそこだと、霊夢に怒られるので。それに、二人にはお買い物とかさせてあげたいですから」

「......はぁー、分かったわ。私も行きたいけど、今日は少し用事があるから行けないのよね......。レナ、フランとルナを守れる? あの娘達が傷つかないように出来るかしら?」

「はい、命にかえても守ってみせます」

「あぁ、うん、命の危険はあんまり無いとは思うけど......。まぁ、いいわ。そうね。買い物ついでにちょっと頼まれてくれない?」

 

 珍しくお姉様に頼まれ事をされた。最近はいつも頼み事は咲夜がされていたので少し嬉しい。

 

「お姉様の頼みとあらば、勿論いいですよ」

「......貴女、少し重い気がするわね。色々と。けど、今は置いておくわ。

 で、おつかいのことなんだけど、普通の食料が少なくなってきたから、人里で買ってきて欲しいのよ。値段も量も結構するとは思うけど、いつも咲夜が持っていってる分を持っていけば足りると思うから心配ないわ。

 あ、何か買いたい物もあるかしら? あるなら増やすけど」

「んー、まぁ、あると思います。何を買うかは決めていませんけどね」

 

 おそらく、フランもルナも好奇心旺盛だから、気になるものは全て買おうとするはずだ。それは、姉として買ってあげたい。全てお姉様から貰ったお金になるだろうが。

 ──あ、そう言えば香霖堂って外の世界の物も売ってるらしいから、人里の帰りくらいに行ってみようかな。

 

「そう、なら増やしておくわね。でも、使い過ぎないようにしなさいよ? 貴女、前に宝石とか真鍮とか下さいって言って、あげたばかりなんだから」

「お姉様、それは私じゃないですよ?」

「あら、ミアだったかしら? まぁ、どっちでもいいわ。どっちも次女なんだから」

「むぅ、失礼な。お姉様だからいいですけど。......それと、お姉様。ありがとうございます」

「それくらい別にいいわよ。それじゃあ、明日は気を付けなさいよ。何かあったらすぐに私に頼りなさいよ? 私は貴女の姉なんだから......」

「いつも頼ってますよ? お姉様は頼りになる姉なので。......では、明日。帰ってきたら、何があったか言いに行きますね」

「えぇ、分かったわ。楽しみにしているから、楽しんできなさい」

 

 この後、私はお姉様と別れてフランの部屋へと戻ると、明日への準備を始めた。

 

 

 

 次の日の朝。

 昨日はフラン達に話をすると嬉しそうにして今日という日を待ち望んでいたようだった。

 

 そして、その今日を迎えると、今か今かと楽しそうに、お姉様の見送りを待っていた。

 

「あ、やっと来た。じゃ、行ってきまーす!」

「早っ。はぁー、楽しみにしていたから仕方ない、か......。

 気を付けなさいよ。それと、はぐれたりしたら、すぐにここに戻ってきなさい」

「はいはい。分かってるよ。全く、レミリアお姉様は心配症ねぇ」

「フラン、絶対にレナから離れちゃダメだからね?」

「はーい。じゃあねー」

 

 お姉様と別れると、私達は人里へと向かった。

 

 私達は咲夜に作ってもらった少し大きめのフード付きのパーカーを着て日光を防いでいる。私の魔法で見た目は人間のようにしてあるが、流石に弱点までは消せないのだ。日傘でもいいのだが、それだと目立つからとフード付きパーカーにしてある。

 一応、何かあってフードが取れてもいいように、太陽に対する耐性は強くしてある。それでも、長い間太陽の下に居るのは危険なのだ。

 

「オネー様、人里行ったら、人間にバレないようにしないとダメなの?」

「はい。騒ぎになるかもしれないので。それと、変な人に絡まれても攻撃しちゃダメですよ? 私を呼んでください。貴方達は私が守りますので」

「お姉様も心配症なのねぇ。私達は大丈夫だよ。ね? ルナ」

「うん、大丈夫」

「そうです? それなら、いいですけど......」

 

 とは言ったものの、やっぱり心配だ。少し過保護になるくらい守ってあげないと。フランもルナも見た目は十歳くらいの少女なのだから。

 私もそこまで変わらないけど。

 

「お姉様。レミリアお姉様に何買えばいいのか聞いてる?」

「大丈夫、聞いていますよ。それよりも、フランとルナは自分が買いたい物を考えて下さい。あっちに着いてからでも大丈夫ですけどね」

「そうは言っても、別に私は買いたい物とかないからなぁ。ただ、私はお姉様達とずっと居れればいいだけだし」

「うん、私も、フランと同じ」

 

 ──あれ、このくらいの子供って、買いたい物とか無いの? いやまぁ、子供なのは見た目だけだけど。

 

「遠慮しなくてもいいのですよ? お金は全てお姉様が払ってくれますし」

「それを言われると、逆に遠慮したくなるんだけど......。じゃ、何か買いたい物を見つけたら買うってことにするね」

「......それなら何も言いませんね」

 

 と話しているうちに、人里が見えてきた。やはり、飛んでいくと早い。

 

「二人とも、ここからは徒歩で行きましょう。空を飛んでいるのを人間に見られると不味いので」

「ん、分かった。でも、下は森だよ? お姉様、道に迷わない?」

「迷いませんよ。方向音痴じゃないのでね」

「オネー様、方向音痴じゃない?」

「じゃない、ですよ。それに、ただ真っ直ぐ行けばいいだけですし、迷うことは有り得ません」

「......ま、それもそうだね。じゃ、お姉様が先導してね。もしも、道に迷ったら......分かってるよね?」

 

 フランがそう言って、いたずらっ子のような表情になる。

 こういう時のフランはとても危険だ。選択をミスすれば、後でこわーいお仕置きが待っている。

 

 とは言っても、フランの気分次第では優しくなる。

 

「わ、分かっていますよ。......あ、やっぱり今のは取り消しても──」

「無理。もう遅いよ。ま、大丈夫だと思うよ? ただ、真っ直ぐに進めばいいだけだしね」

「オネー様、頑張って。それと、フランはオネー様をいじめ過ぎちゃダメ」

「えぇー。ほんと、ルナはお姉様達が好きだよねー。......ま、私もだけど。さ、お姉様。早く下に降りて行こー」

「はい、分かりました。って、フラン。置いていかないで下さい」

「あ、待ってー」

 

 フランに付いていき、私達は地上へと降り立った。

 

 

 

 そして、地上へ降りてから三十分もの時間が流れた。

 

「......お姉様、私達に言う事ない?」

「......道に迷ってしまい、すいませんでした。何でもしますのでお許しください」

 

 あれから、以上も経ったはずなのに、未だに人里が見えない。ただ、真っ直ぐ行っただけなのに......。どうして道に迷ったのか分からない。

 

「何でもする? 本当に?」

「やけに食いつくね。でもね、ルナ。それは後でにしようね。それよりも、どうするの? 空飛んで探す?」

「ですが、それだと人間に見つかる可能性が......」

「そんなの、お姉様が能力使えばいいじゃん」

「あ......フラン、貴女は天才ですか!?」

「え、あ、うん、ありがと」

 

 今の今までその方法を忘れてた。最初からその方法を使えば、森なんて入らなくてよかったのに。

 ただ、最近はほとんど魔法に頼りっきりで、能力なんて使わないから仕方ないとも言える。

 

 ──うん、仕方ない......よね?

 

「それじゃ、お姉様。手、繋いで」

「あ、私も」

 

 そう言われ、私は右手にフラン、左手にルナと手を繋ぐ。

 両手に花、とはこういう時のことを言うのだろう。今の私は女性だけど。

 

「はい、分かりました。......ルナの手、前よりも温かいですね。

 もうそろそろで、ルナの身体は完全な吸血鬼になるでしょう。ルナ。今はまだ、フランから魔力供給をしないと生きていけないですが......いつか、それを無しで生きてみたいですか? その代わり、身体が壊れると同時に、心も消えますけど......」

「ん、勿論、無しの方がいい。今のままだと、生きてるだけでフランに迷惑かかる」

「私は迷惑なんて思ってないよ。だから、このままでもいいんだよ? ......身体壊れちゃったら、もう二度と会えなくなるなんて嫌だよ......」

「でも、吸血鬼にならなくても、フランから魔力を貰ってる。なら、フランが壊れちゃうと、私も消えない?」

「......いえ、消えません。他の誰かから、魔力を貰えばいいだけなので。ですが、一つだけ問題があります」

 

 この問題があるから、私はミアの分しか魔力を与えることが出来ない。

 魔法が使えなくてもいいなら、与えることも出来るが......それだと、何かあった時に誰も守れなくなる。そんなのは嫌だ。私は、私自らの手で姉と妹と、家族達を守りたい。

 

「人によって、魔力供給で使う魔力の量が違うのです。例えば、赤の他人が一とした時に、姉妹等の血縁関係が強い者なら五。双子や元が同じ人間でなら十、と変わるのです。まぁ、簡単に言えば、他の誰かですと燃費が悪いのです」

「......なら、お姉様なら燃費良いよね? 私が死んでも、ルナは生きれるよね?」

「......すいませんが、私は燃費悪いです。おそらく、普通の人とあまり変わりません」

「え......? ど、どうして?」

「......理由は分かりません」

「そっか......分かった」

 

 本当は、思い当たることが一つだけある。

 

 それは、この身体の所有権が私だからだろう。

 

 ──やっぱり、私って......いや、私はみんなを守る為に......。うん、大丈夫。ミアも私を許してくれてる。だから......私はみんなを守るだけでいい。

 

「......お姉様?」

「ん、オネー様、大丈夫? 早く空から人里探そっ?」

「......はい、大丈夫です。探しましょうか」

 

 迷いから逃れるように、私は空に飛び上がった。

 

 もちろん、二人の手を繋ぎながら!

 

「んー......あ、結構近かったね。でも、歩いてた方向と逆じゃない?」

「え......気のせいじゃないですか?」

「......オネー様、もう一緒に遊びに行かなくてもいい?」

「ごめんなさい。もう先導しません。だから、これからも一緒に遊びに行って下さい。お願いします」

「オネー様、冗談。だから、そんなに頭下げない。そんなに遊びに行かないの、嫌?」

 

 ルナが私を心配そうな目で見つめてくる。その真っ直ぐな目は正直で麗しく、混じり気がなく綺麗な紅い目をしている。

 

 ──うん、可愛い。銀髪なだけで、見た目はフランと全く同じだからなのかな。やっぱり、はたから見たら、双子に見えるんだろうね。実際双子と同じようなものなんだろうけど。

 

「......ルナと一緒に遊べないのが嫌なのですよ」

「じゃあさ、お姉様。私は?」

「あ、フランもですよ。......これ以上、話を続けていると、日が暮れそうですね。早く行きましょうか人里に着いたら、能力を解きますので」

「はーい」

「うん、分かった」

 

 こうして、長い時間をかけてようやく、人里へと入ることが出来た。

 

 

 

 時間も過ぎ、結局入ったのは昼頃になってしまった。

 人里は活気で満ち溢れており、そこら中で市などのお店が開かれている。

 

「ふーん、人間がいっぱいいるね。全員弱そうだけど」

「フラン。そういう事は言わないでください。バレますので。あ、手は繋いでて下さいね。はぐれたら嫌なので」

「オネー様、一番はぐれそう」

「うん、そうだよね。お姉様、ちゃんと手を繋いでてね?」

「え、私は子供じゃないのですよ? 次は大丈夫ですよ。絶対に」

 

 流石に、二回目はないだろう......と信じたい。

 それに、戻る時は魔法があるから大丈夫だ。

 

 ──あ、フランとルナとはぐれた時はどうしよう。置いていくなんて絶対にできない。

 

「ふーん、そう、それならいいよ。でも、一応、はぐれた時はここ、人里の入口に集合ね。お姉様、分かった?」

「フラン、子供じゃないのですから、大丈夫ですよ。さ、早く頼まれた物を買って、色々見て回りましょう」

「オネー様迷いそう。どうする?」

「お姉様から目を離さないようにしよっか」

「ルナ、フラン。それは私に聞こえないように話して下さい......」

 

 妹に目の前で言われるなんて、これでは姉の威厳も形無しだ。

 

「あ、お姉様。あのお店じゃない? ほら、お肉が売ってるし」

「人間って肉を食べるの? 血じゃないの?」

「あのお店ですね。ほとんどの人間は血を飲まないですよ。私達と同じように肉とか野菜は食べますけどね。本来、私達は血だけでも充分なのでしょうけどね」

「血は、美味しいのに。特に、オネー様の血は。甘くて、とろけて、喉に残ることなく......うん、想像したら飲みたくなった。ねェ、オネー様。いいよネ?」

「今はダメです。家に帰った後にして下さい。それよりも、早く買いましょう。他の物を見る時間が少なくなりますので」

「分かった。我慢する」

 

 私達はまず初めにお姉様に言われた物を買うために、人里を歩き始めた。

 

 

 

 そして、数時間後。

 

 私は、一人で人里をさまよっていた。

 

「......あぁ、これは絶対にやらかしました。絶対フランとルナに怒られます......」

 

 お姉様に言われた物を買った後、色々なお店を見て回っていた。

 そして、ちょっとくらいなら離れても大丈夫だと思い、フラン達とは違うお店を見に行ってたのだが......フラン達と居たお店を見失ってしまったのだ。決して道に迷ったのではない。ただ、分からなくなったってだけで......。

 ──でも、絶対怒られるよね? しばらく妹の言いなりになりそうなんだけど? 姉なのに、妹の言いなんて......。可愛いからいいけど。

 

「独り言とか言って大丈夫? こんなところで小さい女の子一人とか襲われるよ?」

「そうなのですか? でも大丈夫......って、今の誰?」

「いや、前じゃなくて後ろ後ろ。ちゃんと見ろー」

「え、痛っ」

 

 そう言われて、頭をぽかぽかと叩かれた。

 

 後ろを振り返ると、小さく、私と同い年くらいの少女が立っていた。その少女は薄く緑がかった癖のある灰色のセミロングに緑の瞳を持ち、鴉羽色の帽子に薄い黄色のリボンをつけている。

 そして、何よりも注意を引かれたのが、左胸に閉じた大きな目だ。そこから伸びた二本の菅のような物は、一方は右肩を通って左足のハートへつながり、もう片方は一度顔の左でハートマークを形作り、そのまま右足のハートへつながっている。

 

 この姿を見て確信した。

 ──間違いない。この娘は古明地こいし。無意識を操る妖怪だ。

 

「......貴女も小さい女の子じゃないですか」

「私は妖怪だからいいのよ。って、貴女も妖怪? 妖力やばいねー」

 

 その言葉に、私は驚きを隠せなかった。私の姿や魔力に加え、一番気付かれやすいであろう妖力も『有耶無耶』にして隠してあるのだから。

 

 ということは、もしかして効いていないのだろうか。昔、ルネも似たような能力持っていて効かないことがあった。だから、同じような能力を持っているこいしにも効かないのかもしれない。悪い妖怪じゃないと思うから、バレても平気だろうが。

 

「はい、妖怪ですよ。でも、他の人にはバラされないで下さいね。あ、私と同じくらいの背丈をした女の子を二人、見ませんでしたか? 私、はぐれちゃったのです」

「んー......あ、見たよー! 同じ妖怪の子だよね。でも、話しかけても無視されたのよね。貴女をいれても数人しかいないよ。私に気付く人は」

「ふむ、そうなのですか......」

 

 やっぱり、同じような能力だから分かるのだろう。

 能力としては、有耶無耶と、あやふやくらいの違いはあるとは思うが。

 

「それじゃぁ、行くよー!」

「え? 何処にです?」

「え? さっき貴女が言ってた女の子のところだけど? はぐれたんでしょ?」

「あ、なるほど。案内してくれるのですね」

「うん、そうだよー。優しいでしょ」

「それ、自分で言いますか? でも優しいと思いますよ。ありがとうございますね」

「いいよいいよー。さ、私に付いて来てね」

 

 私は促されるままにこいしに付いていくと、入り口の方へと向かっていた。

 

 

 

 入り口に到着すると、見慣れた可愛い妹達がこちらに飛び付いてきた。

 

「オネー様!」

「お姉様! 大丈夫だった!?」

 

 二人は心配そうな顔をしていたものの、私と目があった瞬間に嬉しそうな顔へと一変していた。

 そして今更だが、ここに来た時にここをはぐれた時用の待ち合わせ場所にしてたことを思い出す。

 

 

「ルナ! フラン! ......心配をかけてすいませんでした。もう二度と、貴方達から離れません」

「うん、感動の再開ってやつだね。良かったね、また会えて」

「......? お姉様。その娘は?」

「あら、さっきも会ってたよ? 私は古明地こいし。よろしくね」

「こいしは、迷子になっていた私を助けてくれたのです」

「へぇー、お姉様がお世話になったんだね。ありがとう」

 

 特に気にしなかったが、どうやら今はこいしのことがフラン達にも見えているようだ。

 どうしてかは分からないが、おそらく私が関係しているだろうとは思った。

 

「気にしないで。私は無意識に行動しているだけだしね」

「そうなのね。......え、それってどういうことなの?」

「私、覚って言う妖怪なんだけどね。目を閉じちゃったから、無意識に行動するようになっちゃったのよ」

「ふーん......お姉様、要するにどういうこと?」

「そこは私に聞くのですね。まぁ、帰ってから詳しく話しますよ。それよりも、買い物はどうしますか? 私のせいで、時間は遅くなりましたけど......」

 

 私がはぐれてから、大体一時間くらいは経っている。その間、フランとルナはここで待っていたんだろう。本当に申し訳ないことをした。

 

「ううん、大丈夫。ネ、フラン」

「うん、そうだね。お姉様がいないのしばらく気付かなかったから、色々と見て回ったんだよね」

 

 衝撃的な事実に、少し......いや割と傷付く。でも、勝手に迷ったのは私なんだから仕方はない。

 

「それでね、私達、ちゃんと買えたよ」

「うん、買いたい物がネ」

「そうなのですか? で、その買いたい物って何です?」

「これだよ。赤い宝石が付いたペンダント」

「オネー様へのプレゼント。ミアとレミリアオネー様も似たようなのを買ったの。オネー様達、宝石好きだから」

 

 私へのプレゼント......?

 ──本当に? 夢じゃない? フランとルナからのプレゼントなの? ......あぁ、どうしてか、目から熱いものが込み上げてきている......。

 

「フラン、ルナ......ありがとうございます。大好きです。

 私みたいな姉でいいのなら、ずっと......貴方達の姉でいさしてください」

「勿論いいよ。というか、お姉様、いきなりどうしたの?」

「オネー様、泣いてる。嬉しくなかった?」

「いえ、とても嬉しいですよ。これは、嬉し泣きです。それにしても、これは一体どこで買ったのですか? こんな高価な物、とても人里で売ってる物とは......」

「ん、少し人里から離れた場所に、お店があったの。そこで、これが売ってたのよ」

 

 人里から離れた場所? ということは香霖堂だろうか。あそこなら、外の世界から流れてきたのも売っているはずだ。

 しかしこのペンダント、薄らと魔力を感じるけど、魔法の品だろうか。魔法の具合から見て魔力を蓄積出来る物だと思うけど......。

 ──よく霖之助さんから買えたね、こんな貴重な物。まぁ、本人には会ったことないから、買えてもおかしくないのかもしれないけど。

 

「じゃ、私はもう御役御免かな? あ、そう言えば、貴女に似た人を見たことがあるんだけど、知り合い?」

「え、私に似た人ですか? ......私に全く似ている人なら、知ってると思いますよ」

「あ、見た目は似てないよ。ただ、雰囲気とか、私に気付いたりするのが似てたのよ」

「んー......誰でしょうか?」

「......お姉様、ルネじゃない? あいつ、生きてたんだよ」

「あ、ルネですか。それなら、知っていますよ」

 

 そう言えば、ここに来てから見てない。だがまぁ、生きているなら良かった。一応、知り合いな訳だし。

 

「ふーん、知ってるんだ。あの人とその仲間達、地底で色々やってるみたいだよ。ま、関係ないと思うけどね。一応、言っとくね。じゃ、また会おうねー」

「またねー」

「バイバイ」

「......あ。ばいばいです。......もう買う物は全て買ったはずですし、もう帰りましょうか。帰りは、私の魔法ですぐに着きますので、迷うことはありませよん」

「ふふん。そうだね。じゃ、帰ろっか」

 

 帰りはゲートを使い無事に到着した。こうして、私達の初めてのおつかいは、無事終わることが出来たのであった────




まだまだ続く、日常編。
無意識のお方は、まだ出る模様。
ちなみに、次は長女と三女が主人公。
あ、次は水曜日に投稿予定


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2、「寂しがり屋の妹と優しき姉」

今回、短いです()
ただ、レミリアとフランが一緒に寝ようっていうだけのお話です()


 sside Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

 秋が終わり、天候の急変が告げる霧の中に冬のにおいが混じる今日この頃。

 

 今日もいつも通り朝に起きて、いつも通り霊夢が居る神社に行こうとしていた。

 

「......レミリアお姉様、起きて」

「んー......フラン......?」

 

 だが、今日はいつもと違っていた。いつもは見ない妹が、私の上に乗っていたのである。まるで、どこへも行かせないようにするために。

 

「......珍しいわね。フランがこんな時間に、それも一人で来るなんて。

 というか降りてくれない? 少し重いわ」

「いや。レミリアお姉様......今日は一日中、一緒に居よ?」

 

 まるで物をせがむ子供のように、愛くるしい目で見つめてくる。

 よく妹達にこの目をされるが、どうしてか胸がドキッとする。やっぱり可愛い妹だからだろうか。

 

「あら、急にどうしたの?」

「だって、レミリアお姉様、最近はいっつも霊夢のところに行ってるでしょ? たまには私と遊んでくれてもいいよね?

 ずっと相手にしてくれないのは寂しいよ......」

 

 思えば、ここに来てからレナやフラン達とほとんど一緒に遊んでいない。

 ──姉として失格かもしれない。今日は、友人よりも妹の方を優先しようかしらね。

 

「フラン......。そうね、今日くらいそれもいいわね。......ごめんなさいね。一緒に遊んでやれなくて」

「ううん、今日だけでも一緒に居てくれたらそれでいいよ。じゃ、お姉様達が起きるまでまだ時間あるし、一緒に寝よっか......」

「え? 貴女、私を起こしに──って、寝転ぶの早いわね」

 

 フランは私の横に行き毛布に包まる。そして、フランは私を絶対に離さないように力強く抱き締められる。

 

「......レミリアお姉様、あったかい。......大好き」

「......私も好きよ、貴女のこと。それじゃ、おやすみなさい。それと、あまり強くしないでよね?」

「大丈夫。お姉様相手に練習してるから」

「そ、そうなのね。それならいいわ」

 

 レナに色々と大変なことを押し付けているのかもしれない。それも、フランとルナの両方を相手にしているのだから、かなりの労力が必要だろう。

 ──たまには変わってあげないとダメね。それに、甘えさせないとね。あの娘、色々と我慢すること多いし......。

 

「じゃ、おやすみなさい。多分、お姉様達が起こしに来てくれると思うから、それまで寝とこうね」

「今日は貴女と遊ぶことにするから、貴女の好きなようにしなさい。それじゃ、おやすみなさいね」

 

 私はフランを抱き締め返し、もう一度瞼を閉じた────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──数時間後 紅魔館(レミリアの部屋)

 

 朝、そろそろお姉様でも起こしに行こうかと目を覚ますとフランがいなかった。

 心配になってしばらく探していたが、見つからなかったので先にお姉様のところに行ったのだろうと思い、お姉様の部屋へと向かった。

 

「んー......レミリアお姉様......」

 

 そして、そこにはフランがお姉様の横で気持ち良さそうに寝ている姿があった。

 それを見た瞬間、素直に羨ましい、という感情が湧き上がった。

 

 ──できるなら、私もその間に入って一緒に寝たい。

 

「オネー様、フランとレミリアオネー様が気持ち良さそうに寝てる。フランだけずるい」

 

 私と一緒に来ていたルナが二人を、特にフランを妬ましくも羨ましそうに見ながらそう呟く。

 

「まぁまぁ。ルナも後で一緒に寝れるようにお姉様に言ってみますから、落ち着いて下さい」

「んー......あら、レナにルナ? 起こしに来てくれたのね、ありがとう。けど、今日はいいわよ。今日は一日中ここに居ることにしたわ」

 

 珍しい。ここに来てからは毎日のように、霊夢のところに遊びに行ってたのに。

 ──もしや、フランが何か言ったのかな? となればグッジョブフラン。お姉様をここに引き止めてくれて。......本来なら、私がやるべき事なのに。

 

「レミリアオネー様、今日はここに居るの?」

「えぇ、そうよ。......レナ、ルナ。貴方達も寂しかった?」

「私は大丈夫ですよ。お姉様がしたいことをしているなら......それで満足です」

 

 本当のことを言えば、少し寂しい。そして悲しい。霊夢が妬ましい。

 でも、それでもお姉様が決めたことなら......と割り切れる。

 

「私は寂しい。でも、オネー様やフランがいるから大丈夫」

「......そう、二人とも寂しかったのね。ごめんなさい、一緒にいてあげれなくて」

「いえ、私は寂しくなんて......」

「オネー様もずっと寂しそうにしてた。オネー様、嘘ついちゃダメ」

 

 どうやら、妹には何もかもバレているようだ。やっぱり私は分かりやすいのかもしれない。

 

「ルナ、それは言わないでください」

「そうなノ? ごめんなさい」

「えっ、あ、謝らなくていいですよ! これは、その、ほら! 冗談ですので!」

「レナ、必死になりすぎ。それで、レナ? 本当はどうなの? 寂しかったの?」

 

 私の目だけを真っ直ぐ見据え、お姉様が優しい口調で語りかけてくる。

 

「うぅ......はい、寂しかったです......。ですが、本当に大丈夫です。フランとルナが居ますし、たまにパチュリーや美鈴、ミアがこの娘達の面倒を見るのを手伝ってくれますので」

 

 本当に、私一人でこの二人の面倒を見るのは疲れる。けど楽しいし、可愛いから苦ではないけど。

 ──それでも、本当のことを言うとお姉様がいる方が嬉しい。

 

「そう、それなら良かったわ。......そう言えば、ミアは何処なの? 折角だし、今日は姉妹みんなで一緒にいたいんだけど......」

「今日は......多分、魔法の森だと思います。私が呼び戻して来ましょうか? 感覚共有も、連絡手段もないので探すのに多少の時間はかかるとは思いますけど......」

「うーん......レナ、任せてもいいかしら? 私はフランとルナの面倒を見ておくわ」

「はい、勿論いいですよ。多分、太陽を避ける為に日傘かフード付きの服を着ているので、すぐに見つけれるはずです。と言うことで、行ってきますね。お姉様、ルナ。フランが起きたらすぐに帰ると伝えて下さいね。フランは心配性で、寂しがり屋ですから......」

 

 これからは、誰かの位置がすぐに分かるような魔法でも研究しよう。密かにそう心に決めると、抜け道を作るための詠唱を始める。

 

「えぇ、そうね。分かったわ。それじゃあ、気を付けてね」

「オネー様、バイバイ」

「はい。では、また後で」

 

 それだけ言い残し、私は抜け道を作って魔法の森へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「......さて、レナが探しているうちに、フランも起こしましょうか」

 

 レナを見送ると、起きようと体を起こしながらそう呟いた。

 

「レミリアオネー様、それは後でいい。私も貴女の横で寝たい。いいよネ?」

「え? 今ここで一緒に寝たいってこと?」

「うん、そう言うこと。ねェ、いいでしょ?」

 

 とか聞きながらも、ルナは既に私の横で寝ようとしている。

 ──いつもなら、それでもいいけど......今日は既に一度起こされている。それに、レナにまた起こされるのも......。

 

「......ルナ、今日の夜じゃダメ? 私、フランに一度起こされてるのよ。だから、寝たい気分じゃないの。......ごめんなさいね? 代わりに夜に一緒に寝てあげるから」

「むぅー......フランずるい。でも、夜に一緒に寝るならいい。でも、二人だけで寝ようネ?」

「でもね、ルナ。フランやレナが一緒に寝たいって言ったら、諦めてみんなで一緒に寝なさいよ? じゃないと、貴方達喧嘩になるからね?

 まぁ、今フランが寝てるのは私の責任でもあるから、この娘達が一緒に寝ようって言うまでは、何も言わないつもりではあるけど......」

「んー......それでいいよ。でも、約束は守ってネ? 守らないと......どうしよ?」

「そこはちゃんと考えてから言いなさいよ......」

 

 やっぱり......フランもルナも考えてる事はほとんど同じようだ。若干ルナはフランよりも世間知らずなところがあるが。

 

「考えるのは貴女が裏切ってからでいいや」

「何故か、その言い方だと傷つくわね......。さてフランを起こしましょうか」

「うん、分かった。......フラーン。起きてー」

 

 そう言いながら、唐突にルナがフランの頬に平手打ちをし始めた。

 

「って、強く叩き過ぎてない? えっ? フランに何か恨みでもあるの!?」

「ん、大丈夫。そこまで痛く──」

「んー......って、痛っ!? え、な、ぶはっ! い、痛いって!」

「起きた? フラン、貴女だけずるい。私もレミリアオネー様と一緒に寝たかった! ......ずるい、ずるいよ。うー......」

 

 ルナが怒っていたと思ったら、次は突然涙を流し始めた。普通、泣くとしたらフランの方なのだが。

 ──......本当にルナの中で何があったの?

 

「あー、うん。ごめんね。次からはちゃんと言ってから行くね。だから、泣き止んで、ね?」

「グスッ、うん.....。フラン大好き.......」

「えーっと......ねぇ、ルナ? 貴女もフランを叩いたりしたんだから、フランに謝りなさいよ? それと、誰かこの状況説明して欲しいわ」

「......フラン、ごめんなさい」

「うん、いいよ。私は大丈夫。それと、レミリアお姉様。ルナはたまに情緒不安定になったり、発狂する時があるけど......それは、ほら。私の中にいた時の名残なの。だから、ね? ルナを許してあげて」

 

 なるほど。要するに、昔のフランが発狂した時と同じ状況なのか。

 ──そう言うことなら許しても......いいのかしら?

 

「ま、まぁ、許すも何も、私は怒ってないからいいわよ。フランが許すのならそれでいいわ。

 でも......フラン。貴女もルナと同じようなことにならないの?」

「......うん。なるらしいよ。ただ、ルナよりも頻度は低いみたい。お姉様曰く、そう言うのはほとんどがルナの方に行っちゃったから、とからしいよ」

「そう......。それは仕方ないわよね......」

 

 やっぱり、身体に染み付いたものは消せないようだ。けど、それでも問題は無い。フランもルナも、それをそこまで悪くは思ってないみたいだし、頻度もこれから減らしていけるだろう。

 

「......? レミリアオネー様、固まってるけど、どうしたの?」

「......何でもないわよ。さて、何をして遊びましょうか? レナが帰ってくるまで、図書館かフラン達の部屋で遊びましょう」

「あ、そう言えば、お姉様は何処に行ったの? 姿が見えないけど......」

「大丈夫よ。すぐに帰ってくるわ。ミアを連れてくる為に、少し出かけているだけだから。さ、それまでは三人で遊びましょう」

「......うん、分かった。それまで何して遊ぼっかなぁ。あ、ルナは何したい? あ、出来るだけ、普通の遊びで遊ぼうね?」

 

 ──逆に普通じゃない遊びってどんなのよ......。ほんと、レナの苦労が思いやられるわね。私も頑張らないと。

 

「んー......かくれんぼしたい。レミリアオネー様が鬼ね!」

「あ、ルナ! まずは私達の部屋に行ってから! ......あ、行っちゃった。レミリアお姉様、じゃ、私も隠れるから、三十秒数えてね!」

「え、ちょっと! ......あれ、もしかして、この館中探せって言ってるのかしら? ......ふふふ。それでもいいわ。上等じゃない、探してやるわよ。

 でもまずは、三十秒数えないとね。いーち、にー、さーん......」

 

 こうして元気を取り戻した妹達と一緒に、レナ達が帰るまで、かくれんぼを始めた────




次は金曜日に投稿予定。
この話の続きと、久しぶりにミアとレナが話すと言うお話の予定。



どうでも良い話だけど、新しい小説を書き始めた(なお、短い)
そして、結局はレミフラ、ガールズラブだった()
まぁ、そっちはこっちよりも仲悪い、というか、仲悪いのを仲良くさしていくっていうだけのお話(なお、短い(2回目))
ちなみに、こっちの投稿ペースは今までと変わりありません。逆にあっちは不定期だけどね!()


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3、「姉妹団欒」

少し遅れた(´・ω・`)

ただ、姉妹が遊んだりするだけ(なお、今回も短め())


 side Renata Scarlet

 

 ──魔法の森(アリスの家)

 

「あら、レナじゃない。どうしたの?」

「あ、レナ。どうしたの? お姉ちゃんに何か頼まれごとでもされたの?」

 

 アリスの家の近くを通りかかった時、ミアの魔力を感じた。

 そして、アリスの家に行ってみると、案の定ミアが居た。

 

「ミア、お姉様が、今日は姉妹全員で遊びたい、と言っていますので、来てくれませんか?」

「ん、お姉ちゃん、今日は館に居るんだ。珍しいこともあるんだね。じゃ、アリス、また明日来るね」

「えぇ、またね。レナ、貴女もたまには来なさいよ。魔法とか、教えて欲しいことが結構あるんだからね」

「あ、はい。その時は、妹達も連れてきますね。あの娘達を置いてくるのは、ちょっと心配なので......」

「館には、パチュリーとかも居るんだし、それはちょっと心配し過ぎな気もするけど......まぁ、別にいいわよ。じゃ、またね」

「うん、バイバイ」

 

 こうして、私達はアリスの家を後にした。

 

「......レナ、地底、行ってみたくない?」

 

 そして、しばらく魔法の森の上空を、フードを被りながら飛んでいると、ミアがそう言ってきた。

 地底って言ったら......地霊殿とかある場所だよね?

 

「いきなりどうしたのですか?」

「貴女なら分かってるはずだよ? ......気にならないの?」

「......まぁ、それなりには気になっていますが、フランとルナが......」

「大丈夫。一日だけだから。あの娘達ももう子供じゃないんだよ? あ、吸血鬼だから子供か」

「まぁ、子供ですね。あの娘達も、私達も」

 

 人間換算でなら、今は十歳くらいなのだろうか? まぁ、ほぼ不老不死だから人間換算に出来るかどうか分からないけど。

 

「ま、まぁ、それは置いといて。貴女はもう知ってるよね? と言うか、貴女から言ってきたんだから」

「はい、知っていますよ。ルネのことでしょう? 地底で何かしているって......確かに気になりますけど、地底に行ってはダメという取り決めがあったはずですよ? それはどうするのですか?」

「そんなの、バレなきゃ大丈夫よ。ほら、貴女の能力と魔法を使えば誰にもバレることなく、地底に潜り込めるよ」

 

 まぁ、確かに私の能力に加え、魔法も組み合わせればほとんどの確率でバレないだろうけど......本当にいいのかな? まぁ、バレなきゃいいんだろうけど。

 

「......どうしても行きたいのですか?」

「うん、どうしても行きたいよ。とても気になるしね」

「はぁー、そこまで言うのなら、いいですよ。ただ、お姉様達には内緒にしましょうね。変に心配をかけたくないですし......」

「うん、勿論分かってるよ。......そう言えば、お姉ちゃんはフランとルナを一人で見てるの?」

「はい、そうだと思いますよ」

「そう......大丈夫かな、お姉ちゃん......。あ、忘れてた。レナ、魔法で一気に紅魔館まで行こっ。そっちの方が速いしねー」

「あ、そう言えば、その方法を忘れていました。まぁ、先ずは地面に降りてからですね」

 

 そう言って、この後すぐに私達は紅魔館まで魔法で移動した────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「......これってかくれんぼだったわよね?」

「うん。レミリアお姉様、大丈夫?」

「大丈夫じゃないわよ」

 

 私はさっきまで、かくれんぼをしていた......はずなのに、何故かフランにレーヴァテインで斬られそうになった。

 おかしい。どう言うこと? かくれんぼって、見つかったら終了じゃないの? 私はどうして斬られそうになったの?

 どうしてタッチされなければ、永遠と続くの? ......はぁー、こんなこと考えてても、意味がないわね。

 

「フラン、どうしてレーヴァテインで斬ろうとしたの? 返答次第では、許してあげるわよ?」

「え? だって、これってかくれんぼでしょ?」

「かくれんぼって、武器の使用とかありだったかしら? どうして、かくれんぼの必勝法は鬼を倒すこと、とかになってるわけ?」

「レミリアお姉様、貴女も昔、同じようなことを......」

「私も憶えてる。レミリアオネー様、悪い顔して言ってた記憶がある」

「気のせいね。絶対に気のせいよ」

 

 そう言えば、私も同じようなことをフランにしたわね。......まぁ、うろ覚えだけど。

 

「ただいま戻りました。......あれ、どうしました?」

「あら、お帰りなさい。......まぁ、何でもないわよ」

「お姉ちゃん! ただいまー! なんだか久しぶりに会った気がするー」

「昨日、帰ってきた時に会ったと思うけど......あれはレナだったかしら?」

 

 レナもミアも口調は違うけど、翼以外は全く同じ姿だからねぇ。......そう言えば、どうしてレナは丁寧語みたいな喋り方なのかしら?

 まぁ、気付いた時からこの喋り方だったし、気にしなくてもいいわね。

 

「んー......それは私で会ってるねー。それで、お姉ちゃん、今日はどうして居るの?」

「あら、ここの主人である私が、ここに居てはおかしいかしら?」

「んー......確かにおかしくはないね。ただ、珍しいけどね。お姉ちゃん、いつもフランとルナを放っておいて、霊夢のところに遊びに行ってるからねぇ?」

「うっ、まぁ、それはそれ、これはこれよ」

「どれなの? まぁ、別にいいや。フランもルナもお姉ちゃんと遊べて嬉しいだろうしねー」

 

 ......フラン達って、そんなに嬉しいのかしら? 私、ミアの言う通り、いつも放っておいて、霊夢のところに行ってるのに......。

 まぁ、寂しいのは分かったから、フラン達は遊べて楽しいのかしらね......。

 

「レミリアお姉様、みんな揃ったし、違う遊びしよー」

「えぇ、そうしましょうか。で、何して遊ぶのかしら? あ、先に言っておくけど、さっきみたいな遊びは嫌よ。命が幾つあっても足りないわ」

「えー、お姉様はいつもやってくれるよー? レミリアお姉様、私達と遊ぶの怖いのかなぁ?」

「え? レミリアオネー様、私のこと、怖い?」

「こ、怖くないわよ。妹を怖がる姉なんているわけないでしょ?」

「ふーん、それならいいけど......」

 

 本当のことを言うと、さっき斬られかけて、ちょっとだけ怖くなったけど......。でも、私は長女なんだし、これくらいのことで、弱気になんてなるわけにはいかないわよね。

 

「お姉ちゃん、七並べしよー。私、得意だからねー」

「ミア、絶対にフランに負けますよ。......あ、そう言えば、今はフランはルナと別れているので、運もそれほど高くは......よし、やりましょう! 今日こそは絶対に勝ちますよ!」

「オネー様、それ、フラグ」

「しっ、ルナ、今はその気にさせとこ。どうせお姉様は負けるだろうけど、今だけでも希望は持たせた方がいいでしょ?」

「ん、分かった」

 

 何故かしら? 運命をどう操っても、レナが負ける未来しか見えないわ。本当に勝負事には弱いのね、ルナは。

 

「せめて、私に聞こえないように言ってください。流石に傷つきます......」

「あ、ごめんね? 悪気はなかったの。だから、ね? 泣かないで、お姉様」

「泣いてません! ......それと、謝る必要はありませんよ。負けるつもりは無いのでね!」

「あぁ、うん、なんかお姉様が腹立つ」

「さ、そんなことはどうでもいいわ。早く始めましょう。ミア、トランプお願い」

「うん、ホイッ、出来たよ」

「オネー様達、便利」

 

 こうして、私達、五人での七並べが始まった──

 

 

 

 ──約一時間後

 

「あ、またお姉様が負けた。お姉様、レミリアお姉様よりも弱くなってない?」

 

 結局、フランとルナが交互に一番最初に上がり、レナは最後まで残る結果となった。ミアはたまに一番最初に上がるけど、元は同じなのに、ここまで差が出るのねぇ。

 

「あら? 私が弱いみたいに言わないでくれる? 私は充分強いわよ?」

「はいはい。お姉様の次に負けてるくせに、よくそんなこと言えるよねぇ」

「う、うるさいわね! 今日は、ちょっと調子が悪いだけよ!」

「レミリアオネー様、調子悪いの? 大丈夫?」

「え? あ、大丈夫よ。......フランはいたずらっ子なのに、ルナは純粋な娘ね。どうしてここまで違うのかしら?」

「レミリアお姉様? 何か言った?」

「あら、何も言ってないわよ?」

 

 さて、次は勝つ為に、能力を使ってみようかしら? まぁ、バレたらみんな、特にフランから怒られそうだけど......バレなければいいわよね。

 

「......レミリアお姉様、悪い顔になってるよ? 何の悪巧みをしてるの? 返答次第では、許さないよ?」

「あら、そんな顔してるかしら? ......別に、何も悪巧みなんてしてないわよ?」

「へぇー、そう、それならいいけど。レミリアお姉様、能力使ったら、本気で怒るからね?」

「え、ま、まさか、そんな卑怯なことするわけないでしょ?」

「ふーん、そう。それならいいや。もしも、もしもだけどね? 能力を使ったら......レミリアお姉様、本気で怒るからね?」

 

 やばいわ、普通にバレそうになってる。どうしてフランはこんなに勘がいいのかしら?

 はぁー......ここで能力を使っても、後でフランに怒られるだけで、良いことなんてないわね。仕方ないわ。実力で勝負するしかないわね。

 

「えぇ、別にいいわよ。能力なんて、一切使おうとなんて思ってないからね」

「あ、お姉様。レミリアお姉様の手を握って、能力を使えなくしてて」

「え、私はいいですけど、お姉様はそれでもいいのですか?」

「別にいいわよ。ほら、レナ、早く手を握りなさい。そして、早く始めましょう。次こそは、絶対に私が勝つから」

「レミリアオネー様、それ、フラグ」

 

 こうして、私は今日は一日中、妹達と楽しく遊ぶことになった。

 ちなみに、私は結局、フラン達に勝つことが出来なかった──

 

 

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「はぁー......レナの苦労が分かった気がするわ。......これからは、一週間に一度くらいは一緒に居てあげようかしら?」

「レミリアオネー様、入るね」

 

 妹達と遊び終わり、今日はもう寝ようとしていた時に、ルナが部屋にやって来た。

 そう言えば、一緒に寝る約束をしていたわね。......どうやら、レナとフランは居ないみたいだ。一緒に寝てるはずなのに、どうやって抜け出してきたのかしら?

 

「あら、一人で来たの?」

「オネー様もフランも、もう寝ちゃった。フラン、オネー様を独り占めにしてた。だから、私はレミリアオネー様を独り占めにする」

「あぁ、そうなの。......フランには、後で言っておかないとね。独り占めはダメだって言ったはずなのに......」

「それ、私に言った言葉」

「あ、今日だけのことじゃないわよ。前々から言っていることよ。......さ、早くこっちに来なさい。明日も早いわ。早く寝ましょう」

 

 私達、吸血鬼にとって、朝に起きるのは少し辛い。でも、それももう慣れてきた。

 こっちに来てから、良いことが沢山あった。逆に悪いことも確かにあったが、良いことに比べたら全然少ない。

 妹達、この館の住人達の為にも、ここに来たことはやっぱり正解だったわね。......こんな日が、一生続いて欲しいわ。でも──

 

「レミリアオネー様、顔暗い。どうしたの?」

 

 考え事をしているうちにルナが横に寝転がって、そう聞いてきた。

 

「え? ......いえ、何でもないわよ」

 

 今は何も心配することはないか。......少なくとも、今は。

 

「ん、それなら良かった。じゃ、おやすみなさい、レミリアオネー様」

「えぇ、おやすみなさい」

 

 そう言って、ルナは目を閉じてしまった。

 こうやって動かずに寝ている姿を見ると、元は人形の身体だったと言われても、不思議に思わないわね。可愛過ぎて。

 そんなことを考えながら、ルナの頬に手を当てる。肌の質感は吸血鬼のそれと全く変わりない。レナが言ってた通り、もう完全に吸血鬼の身体になったのね。

 

「......良かったわね、ルナ」

 

 そう呟いて、私は瞼を閉じた────




少し風邪気味になって、日曜日も間に合うかどうか怪しくなってしまった。誠に申し訳ない()


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4、「次女達の地底探索」

遅れてすいませんm(_ _)m

今回は、題名通りです。


 side Renata Scarlet

 

 ──地底(入り口前)

 

「ミア、本当に大丈夫なのですか?」

 

 二月半ば、普段よりも少し暖かい冬のある日。

 私はミアと一緒に、地底の入り口まで来た。理由は、ルネとか何してるのか気になる、ってことらしい。

 まぁ、本当は地底に興味があるだけなんだろうけど。ミアって、好奇心旺盛な方だし、一度だけでも行ってみたいのだろう。

 

「大丈夫だよ。ほら、 私達には能力があるでしょ?」

「ま、まぁ、そうですけど......地底と言ったら、鬼とか私達よりも強い妖怪が沢山いるのですよ? 地上の妖怪だとバレたら......」

「まぁ、確かに妖怪同士で何か取り決めとかしてるらしいけど? そんなの、私達には関係ないじゃん」

「いえ、私達も妖怪なので関係はありますよ」

「え、そうなんだ」

 

 確か、地上の妖怪は地底に入っちゃダメで、地底の妖怪は地上に行っちゃダメなんだよね。まぁ、こいしみたいに、バレなければ大丈夫なんだろうけど。

 

「......ミア、何かあったらすぐに帰りましょうね。安全第一なので」

「うん、それは分かってるよ。あ、その『何か』の判断はレナに頼むね。私だと、まだもう少し居たい、とかなるだろうしね。最悪、無理矢理連れて帰ってもいいからね?」

「そこまでわかっているのなら、無理矢理連れて行かれるような状況にしないようにして下さい......」

「あははー、まぁ、私はそう言う性格だから仕方ないね。......さて、行こっか。早く帰らないと、お姉ちゃんが大変だろうしね」

「お姉様なら大丈夫だと思いますよ? フラン達も、お姉様に迷惑をかけるようなことはしないと思いますし」

 

 今、フランとルナはお姉様に見てもらっている。フラン達は、私達と一緒に行きたいと言ってたけど......危険だから、フラン達に気付かれないように、お姉様に見てもらっているうちにここまで来た。

 帰ったら怒られるだろうけど......フラン達が危険な目に合うのに比べたら、それでもいいか。

 

「......そう言えば、行くと言っても、何処に行くのですか?」

「え? ......そう言えば、何処に行く? ルネとか何処にいるか知らないや......」

「......もう、帰りません?」

「えー、それは嫌。んー、あ、さとりのところに行かない? さとりなら、ここのこと詳しいだろうし」

「さとりと面識無いのですが? 妹のこいしならありますけど......」

「それなら大丈夫でしょ。まぁ、多分だけど」

 

 ......ぐだぐだだなぁ。まぁ、それでもいいや。ミアと二人きりで出かけるなんて、これが初めてだと思うから、楽しまないとね。

 地底で楽しむなんて、どうすればいいのか分からないけど。

 

「それにしても、かなり深い大穴だねー。真っ暗で何も見えないや。

 さ、能力を使って行こうか。暗くても妖怪には見えるだろうから、慎重に行こうね」

「はい、そうですね」

 

 こうして、私達は地底の入り口である、奥深い大穴へと入っていった──

 

 

 

 ──地底(旧都)

 

 私達は、旧都まで来ることが出来た。

 ここに来るまでに、橋姫棺桶に入った娘や土蜘蛛らしき娘の横を通ったけど......まぁ、バレてないみたいだから大丈夫かな。

 正直、ちょっと話してみたかったけど......。

 

「レナ、鬼が沢山いるね」

「見つかったらやばそうですよね......。ミア、絶対に私のそばを離れないで下さいね?」

「うん。逆に私のそばを離れないようにしてね? レナって方向音痴だし」

「え、そんなに酷くないですよ?」

「フランとルナが言ってたけど? 真っ直ぐ歩くだけでいいのに迷子になった、って」

「うっ......口止めするのを忘れていました......。取り敢えず、はぐれないようにはしましょうか。ミア、手を繋ぎましょう」

「ん、分かった。......あ、あれって星熊勇儀じゃない?」

「え? あ、本当ですね」

 

 ミアが指差す先には、金髪ロングで頭には赤い角が一本生えている鬼がいた。私と同じ赤い目に、服装は体操服のような服にロングスカートをはいている。

 それにしても、どうして体操服? まぁ、似ているだけで、本当は違うんだろうけど。

 

「まぁ、今はやり過ごした方がいいよね。......なんだか近付いたら気付かれそうだし、少し距離を置こっか」

「はい、そうで......あれ? あの人、こっちを見ていません? あ、完全に気付かれる逃げましょう。絶対に絡まれると面倒ですよ、あの人は」

「うん、それは分かる。じゃ、逃げよっか」

 

 幸い、まだ距離はあるし、完全には気付かれていない。多分、そこに何かがいる気がする、程度にしか思っていないだろう。

 能力を使っているはずなのに......鬼ってやっぱり恐ろしい。

 そんなことを考えながら、旧都を後にして、地霊殿へと向かった──

 

 

 

 ──地底(地霊殿)

 

 なんとか鬼に気付かれることなく、ここまで来ることが出来た。......のだが──

 

「レナだよね? 遊びに来てくれたの!? 嬉しいわ! ......それにしても、どうして二人に増えてるの?」

 

 ──こいしがいた。そして見つかった。

 いやまぁ、ここはこいしの家なんだし、いてもおかしくはないんだろうけどさ......。年中ふらふらと外を歩き回ってる娘だよ? どうして運良く......まぁ、いた方がさとりと会話しやすいからいいんだけどね。

 

「えーと......レナ、能力使ってたよね? どうしてバレたの? と言うか、もう家の中だからいいけどさ、外だと絶対に死んでたよね?」

「死にはしないとは思いますよ? それと、バレたのはこいしの能力とかのせいでしょう。私は悪くありません」

「んー、何の話? ま、別にいいや。それよりもさ、何して遊ぶ? 私、かくれんぼとか得意だよー!」

「すいません。今日はさとりに用があって来たのです」

「あ、そうなのね。残念。で、お姉ちゃんに用があるのね。私も今帰ってきたところだから、お姉ちゃんに会いに行こうと思ってたんだよね。さ、私についてきてー!」

 

 そう言って、こいしが走っていった。......なんだろう。こいしがフランみたいに危なかっしくて心配だ。

 こいしとフランってそこまで似てない気がするのに......やっぱり、妹だから? ま、それよりも、今はこいしを追わないと。

 

「レナ、早く。こいしを見失うよ」

「あ、待ってください」

 

 こいしについていくと、こいしがとある部屋へと入っていった。

 そして──

 

「お姉ちゃん!」

「ひゃっ!? こ、こいし!? いつからそこに居たの!?」

「お姉ちゃんのびっくりした顔おもしろーい! ねぇねぇ、もっとやってー!」

「い、嫌です!」

 

 ──等という、会話が聞こえてきた。

 うーん......何故だか昔を思い出すなぁ。

 

「......レナ、入っていいと思う?」

「いいんじゃないでしょうか?」

「そう? じゃあ、レナが先に入って」

「え、まぁ、いいですけど。......失礼します」

「え!? あ、ゴホン......はい、貴方達は......どちら様でしょうか?」

 

 部屋に入ると、こいしの横には、薄紫のボブに深紅の瞳を持つ少女がいた。

 服装は、フリルの多くついたゆったりとした水色の服装をしており、下は膝くらいまでのピンクのセミロングスカート。

 頭の赤いヘアバンドと複数のコードで繋がれた、こいしと同じような第三の目が胸元に浮いている。唯一違うことと言えば、その瞳が開いていることだ。

 

「私はレナ。レナータ・スカーレットです。まぁ、見ての通り、吸血鬼です」

「私はミア。よろしくね」

「ふむ、私は古明地さとりです。レナと言うと......少し前に、こいしから聞きましたが、そのレナですか?」

「あ、そのレナですね。あの時は、助かりました」

「いいよいいよー。迷子になってる娘を私は放っておけない質なのよねー」

「こいし、嘘はいけませんよ。......今日はどのようなご用件で? いつもなら、聞かなくても分かるのですが、貴方達は少し特殊なようなので......」

 

 片目をしばらく閉じた後に、さとりがそう言った。

 あ、自動で能力がかかっている私達の心は読めないのか。......そう言えば、どうやって自動の方は消すんだろう? やっぱり、出来ないのかな?

 

「いえ、読めないわけではないですよ。どちらかと言うと、読みにくいのです。それに、私には少し理解出来ないのもありますし......」

「あ、理解出来ないのは深く考えない方がいいよ、絶対に」

「それは逆に気になりますけど......まぁ、こいしもお世話になったことですし、いいでしょう」

 

 いやまぁ、お世話になったのはこっちの方なんだけどね。

 

「......それにしても、面白い方達ですね。心と外で、口調が違うとは......。それで、話を戻しますが、どのようなご用件でこちらに来たのですか?」

「あ、私達はルネと言う吸血鬼を探しているのですが、何処にいるか分からないので、何処にいるか知ってそうな貴女に会いに来たのです。ということで、ルネと言う吸血鬼が何処にいるか知りませんか?」

「ふむ......すいません。私は色々あって、少し引きこもっている状態なのです。なので......おや、『そう言えばそうだった』と......本当に不思議な方達です。私の能力はともかく、どうしてそこまで知っているのでしょうか?」

 

 まぁ、それは前世でね......って、これ言ったらダメなやつか。今のは聞かなかったことにしといて。

 

「え、あ、はい。分かりました。......よく分かりませんが、とにかく、お役に立てず、すいません。あら、いいのですか? そう言ってくださると嬉しいです」

「お姉ちゃん、一人で話してるみたいだから、変な人にしか見えないよ?」

「こいし、お願いですから、それだけは言わないでください。この方達も、そうは思っていても、口に出さないように、我慢していたのに......」

 

 うん、それバレてるのなら、言ってるのと変わらないや。

 

「......さとり、最後に一つだけいいですか?」

「え、えぇ、いいですよ。......ふむ、って、え? 遊びにですか? いいです......って、貴方達、地上の妖怪だったのですか!?」

「あれ、こいしから聞いてないの?」

「いえ、全く......。てっきり、旧都で迷っていた時に出会ったものだと......。地底には、地上の妖怪は来てはいけない取り決めになっていますし......」

 

 あぁ、こいしは何処で会ったとかは言わなかったのね。......

 

「あ、私達が来ているのは秘密にしといてね? 妖怪の賢者とか、お姉ちゃんに怒られるのは嫌だしね」

「確かに、お姉様に怒られるのは嫌ですね。怖いですし......」

「まぁ、面倒事を起こすつもりは無いみたいですし、いいですよ。ただし、出来る限りここに来るのは......おや、転移魔法? それなら一直線でここに来れると......まぁ、バレなければそれでもいいですよ」

 

 ふぅ、良かった。これで怒られずにすむね。......あ、何処に行ったとか聞かれたら、やばい気がした。あれ、最悪、フランとルナとお姉様の三人に怒られない? ......ま、まぁ、何とかなるよね、うん。

 

「それと......こいしをこれからもお願いします。この娘、いつもふらふらとしていて、危なかっしいですから......。本当は」

「はい、勿論いいですよ。私も、フラン達をこいしと遊ばせたいですし......」

「ふむ、精神年齢的に同じくらいの娘と遊ばせたいのですね。確かに、こいしもふらふらしてますし......って、あら? こいしは?」

 

 え? ......あれ、本当にいない。さっきまで居たはずなのに......。

 

「いつの間にか居なくなっていますね。気付きませんでした......」

「ま、まぁ、このように、いつもふらふらしていますから、よろしくお願いしますね」

「はい、分かりました」

「うん、任せてよ。......それじゃあ、また遊びに来るね。今度はお姉ちゃんやフラン達を連れてくるからね」

「はい、またお会いしましょう」

 

 こうして、私達はさとりと別れ、来た道を引き返して行った。

 そして、地霊殿の入り口まで来た頃に──

 

「......そう言えば、これからどうします? ルネが何処にいるかは分からないですけど......当ても無く探してみます?」

「んー......流石に、当ても無く探して、見つかるとは思えないからな〜」

「じゃ、帰ろうよー。私も貴方達の家に行ってみたい!」

 

 ──声がした方向を見ると、そこにはこいしがいた。

 

「え? ......あ、こいしじゃないですか。何処に行ってたのですか?」

「え? んー......どっか!」

「そ、そうですか......。ミア、こいしもこう言ってることですし、もう帰ります?」

「まぁ、行くあてもないしねー。じゃ、帰ろっか。レナ、私が『抜け道』を作っていいよね?」

「はい、いいですよ。こいし、一応聞きますが、私達の家に来ますか?」

「うん! 早く行こー」

 

 んー......なんでだろう? 限りなく心配だ。まぁ、帰る時は勝手に帰るだろうし、そこまで心配しなくてもいいんだろうけど。

 

「レナ、こいし。出来たよ。じゃ、先に入っとくから、早く着いてきてねー」

「あ、じゃ、私が次入るー!」

「......騒がしくなりそうですね」

 

 こうして、私達は紅魔館へと戻っていった──

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

 館に帰ってくると、初めにお姉様の部屋へ行った。お姉様とルナがいたが、詳しく説明すると、怒られずにすんだ。

 しかし、ルナには、後でフランが怒るだろうから今は何も言わない、と言われた。それも、目が笑っていない笑顔で。正直、怖かった。

 そして、問題のフランの部屋へと向かった。

 

「あ、お姉様! 帰ってきたのね! 良かった......思ったよりも時間が経ったから、心配したの......」

「あれ? ......あ、いえ、心配をかけてすいません」

 

 思ってたのと違う。てっきり、心配をかけたから怒られると思ってたのに......。

 

「ねぇねぇ、お姉様。今度から約束してくれない?」

「え? な、何をです?」

「私を置いて何処かに行く時は、必ず私に言うって......約束守れる?」

「フラン......はい、守りますよ。必ず」

「よかった。......後、もう一つ約束してくれない?」

「勿論いいですよ。どんなことでも守ってみせます」

 

 その時、フランの口が三日月のように歪んだ。

 

「そう......どんなことでも守るのね? じゃ、明日、一日だけでいいから私の言いなりになってね? あ、断ることなんて出来ないからね?

 今、お姉様が言ったんだから。どんなことでも守る、ってね。お姉様も知ってる通りは悪魔との契約は絶対に破れないからねー。これで、明日、お姉様は私のものねー」

「......え?」

「あ、そこまで難しい命令はしないから安心して。ただ、私の言いなりになるだけでいいから。これは、今日、私を置いていった罰よ」

「あのぉ、フラン? 冗談ですよね? と言うか、冗談と言ってください、お願いします」

「あ、そう言えば、さっきこいしがいたよね? 今日、ルナはレミリアお姉様と一緒に寝るらしいから、一緒に寝るかどうか聞いてくるね」

 

 ......話についていけない。と言うか、どうしてこいしが居るの知ってるの? もしかして、帰ってきてからずっと見られてたとか? それとも、ミアが言ったのかな? いつの間にか居なくなってたし......。

 ......もういいや。どうせ、約束は破れないし......うん、諦めよう、色々と。

 この後、こいしが部屋に来て、一緒に寝ることになった。

 それにしても、こんなに寝顔が可愛いのに、悪魔みたいなことを......。まぁ、それも可愛いからいいや。

 そんなことを考えながら、私は瞼を閉じた────




次回は木曜日の予定。次は遅れないはず......。

ちなみに、次の話の中心はこいしと末妹達です。
次の日、レナさんがどうなったかはご想像にお任せします()


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5、「妹達のお遊戯」

また短い模様(←おい)

今回は題名通り、妹達が遊ぶだけのお話。


 side Renata Scarlet

 

「フラーン、ルナー、後ついでにレナー。遊びに来たよー」

 

 もう四月だと言うのに、まだ雪が振る今日この頃。

 地霊殿に行ってから何週間か経った後でも、こいしが毎日のように遊びに来てくれた。勿論、私ではなくフランとルナの為に。

 

「あ、こいし! また来てくれたのね!」

「こいし、こんばんは」

「こんばんはです。と言うか、ついでにって酷くないですか!?」

「こんばんはー。んー、そうなのー? ま、何でもいいやー。それよりも、早く行こー!」

 

 こいしは、フランとルナを外に遊びに連れて行ってくれるからとても助かる。基本的に、夜に来て紅魔館の近くで遊んでいる。

 ちなみに、心配だから私もついて行ってる。まぁ、三人とも妖怪だから大丈夫だとは思うけど......一応ね。

 それにしても、私に対して酷くない? ......まぁ、無意識だから仕方ないね。

 

「今日は何処で遊ぶの? 森の中?」

「たまには人里まで行ってみよっ! ねぇねぇ、お姉様。いいよね?」

「え、んー......まぁ、何があっても私が守りますからいいですよ。ただし、人間にバレないようにして下さいね。まぁ、ある程度なら大丈夫だとは思いますけど......」

「やったー! さ、ルナ、こいし。行こっ!」

「分かったー」

「うん、行こう。......オネー様、早く行かないと置いていかれるよ?」

「ん、そうですね。行きましょうか」

 

 こうして、私はいつも妹達について行く。理由は勿論、心配だからと言うのもあるが、何か不測の事態が起きても対処出来るようにだ。

 まぁ、私でも対処出来ないことはあるけれど、居ないよりは居た方がいいと思うしね。

 

「今日は何して遊ぼっか?」

「んー、とね......かくれんぼ!」

「こいし強過ぎるからダメ。もっと公平なのがいい」

「えー! それなら......んー、何がいいかなー?」

「缶蹴りとかはどうです?」

「缶蹴り? ......あ、お姉様と二人きりでしたあれ? あれつまんなーい」

「それは二人でしたからですよ。私も含めて四人もいれば、楽しいですから安心して下さい」

 

 まぁ、確かに二人で缶蹴りはちょっと面白みに欠けるからね。......まぁ、フランも私も吸血鬼だからか、相手が一人でも人間の時より大変だったけど......。

 

「ふーん、それじゃぁ、缶蹴りやる? お姉様が楽しいって言ったなら、本当に楽しいとは思うよ」

「じゃ、それにしよっかー」

「オネー様、ルール教えて」

「鬼は缶を守り、逃げる方は缶を蹴れば勝ちと言う簡単なルールですよ」

「......オネー様、こいしが無双しそう」

「鬼を私がやれば大丈夫ですよ」

 

 フランやルナと違って、私はこいしを見つけやすいしね。まぁ、気付かない時は本当に気付かないけど......。

 

「ま、私強いからね、仕方ないね」

「むっ、オネー様、やっぱり私が鬼やる。今日こそはこいしに勝ちたい」

「どうして貴女は火に油を注ぐようなことを......。まぁ、いいですよ。ただし、負けたからといって、私にあたらないで下さいね?」

「私、オネー様にあたったことないよ?」

「え、あ、それはフランでしたっけ?」

「お姉様、言いがかりやめて。私、お姉様にいつも優しいよ? 優しすぎるくらいだよ?」

 

 え? いつも? ......余計なことは言わない方がいいよね、うん。

 

「......ソウデスネ」

「何よ今の間!? そしてなんで片言!?」

「フラン、オネー様。こいし、先に行っちゃったよ?」

「置いていかれると不味いでしょうし、急ぎましょうか!」

「あ、お姉様! 逃げるなー!」

「あ、待って」

 

 こうして、私達はいつも通り、月に照らされて銀色に光る雪の世界へと出ていった──

 

 

 

 ──数時間後 人里近くの森

 

「......ルナ、もう諦めてもいいのですよ? 試合終了のホイッスルはもう鳴っているのですよ?」

「諦めたくない。それと、オネー様。何言ってるか分かんない」

 

 あれから、ルナが鬼で、何回も何十回も缶蹴りをやっているが......一度も勝っていない。

 勿論、勝てない理由は──

 

「とりゃー!」

「あ、また飛んでった! こいし、卑怯!」

 

 こいしである。もっと詳しく言えば、こいしが意図せずとも無意識になっているので、気付かれることなく缶を蹴って逃げていく。

 ルナが気付いた時には、缶が何処かへと飛んでいってるのだ。

 ルナも結構本気で、能力を使っていない私が行くと、すぐに捕まえれるのに......。

 

「ハハハー、勝てばよかろうなのだー」

「卑怯と言うか、この娘、能力解けないから仕方ないような......」

「ルナー、諦めて雪だるま作ろうよー」

 

 ちなみに、フランはルナを勝たせる為に、十回目くらいで鬼になったのだが......やっぱり負けるので、今は諦めて私と一緒に雪だるまを作っている。

 私が鬼になるという方法もあったのだが、それはルナに断られた。出来る限り、一人で勝ちたいのだろう。まぁ、フランに手伝ってもらった辺り、フランも(ルナ)だから、それで勝っても卑怯じゃないよね、とかは思っているんだろうけど。

 

「嫌! 勝つまでやる!」

「はぁー......こいし、負けてやってはくれないのですか? このままだと、朝まで続きますよ?」

「だが断るー」

「あぁ、はい、分かりました......」

 

 ルナもこいしも負けず嫌いなんだなぁ。まぁ、朝までには無理やりにでも帰らすか。今は曇ってるから大丈夫だけど、それでも朝は危険だろうしね。

 それにしても、私達って、雨は無理なのに雪は大丈夫なのね。......まぁ、流水じゃないからなのかな。よく分からないや。

 

「お姉様、雪だるま完成したね。次はかまくら作ろー」

「かまくらですね。分かりました。......やっぱり、魔法はダメですかね?」

「ダメー。そんなのつまらないでしょ? 私は作るのを楽しみたいのー」

「んー、私には少し分からないですが......フランがそう言うなら、そうしましょうか」

 

 正直に言うと、作るのめんどくさい。まだフランと一緒に作っているからいいけど......一人でなら、魔法で雪を動かしたり、氷を作って自動的にかまくら作ってると思う。

 

「......お姉様って、めんどくさがり屋だよね。ま、別にいいけどね。私と一緒に遊んでくれるなら」

「......それならよかったです。フランやお姉様達には嫌われたくないですしね......」

「え? お姉様、急にどうしたの?」

「......いえ、ただ、そう思っただけですよ。何も気にすることはありません」

「ふーん......」

 

 私とフランは、雪だるまを作りながら、そんな会話をしている。

 そのすぐ横では、またルナが悔しそうにしていた。やっぱり、また負けたんだね。

 

「そう言えばさ、今って四月なんだよね?」

「そうですよ。......どうしました?」

「ここでの四月ってさ、雪が降るものなの? 前に魔理沙から聞いた話だと、今頃は桜っていう花がいっぱい咲いてるって......」

「え? ......あ、そう言えば、おかしいですね」

 

 今まで何とも思ってなかったけど、四月なのに雪が降るのは確かにおかしい。まぁ、ただ単に、春が来るのが遅いってだけなんだろうけど。

 

「もしかして、これって異変だったりするのかな?」

「......嬉しそうですね。だけど、残念ですが、ただ単に春の訪れが遅いってだけだと思いますよ」

「そっかー......異変だったら、解決しに行きたかったのになぁ。魔理沙とか霊夢にも出来るんだし、私にも出来ると思うんだけどなぁー」

「......出来れば、危険だからやめて欲しいですけど、フランが楽しめるのなら、機会があればやってみましょうか」

 

 確か、お姉様も異変解決に行ってたからね。......ん? 何か忘れてるような......。

 

「もー! 私の負けでいいー!」

「私に勝つなんて千年早いわー」

「むぅ......はぁー! もう疲れたー。怒る気力もないー」

「あ、終わったみたいですね」

「うん、そうみたいだね。ルナー、こいしー。かまくら一緒に作ろー」

「ん、分かった。こいし、貴女も早く行こっ」

「敗者が勝者に命令するかー。でもいいよー」

 

 ま、まぁ、無意識だから仕方ない......のかな? もうわざと言ってるようにしか見えない......。

 

「......怒るのは我慢してあげる......。オネー様、後で、ね?」

「どうしてそこで私に!?」

「レナ、諦めるのも時には肝心なんだよ?」

「貴女のせいですけどね!?」

「お姉様、落ち着いて。大丈夫だよ。私がついているから。......ま、止めはしないけど」

 

 うぅ、みんなして私を......。もういいもん。後でお姉様に慰めてもらおうっと。

 

「あ、お姉様。桜ってさ、綺麗なのかな?」

「綺麗ですよ。冬があけたら、見に行きますか?」

「え? ......うん、そうしよ! お姉様や美鈴とかも連れて行こうね!」

「はい、みんなで行きましょうか」

「あ、その時は私も行くよー。多分、ほとんど邪魔にしかならないけどね!」

「それが分かっているのなら、おやめください」

 

 まぁ、これも無意識に言ってることなんだろうけどさ......。やっぱり、こいしは全然読めないや。

 

「でも、オネー様。冬っていつになったらあけるの?」

「それは、勿論、もう、すぐ......あ!」

「え、お姉様? 急に大声を出してどうしたの?」

「え、い、いや。何でもありませんよ。それよりも、いつあけるかですね。多分、五月くらいにはあけますよ」

 

 そう言えば、忘れていた。

 今年、『春雪異変』があるから、冬があけるの五月よりも先だ......。

 

「ふーん、結構待つんだ。ま、気長に待つしかないよね」

「それまで、こうして雪で遊べるなら私はそれでもいいかなぁ。お姉様も一緒に遊んでくれるし、レミリアお姉様もたまに来てくれるし、私はそれで充分だよ」

「......うん、私もフランと同じ意見。冬があけるまで、こうして遊んでよっか」

 

 うーん......異変を早く解決する為に手を打つか......それとも......。

 

「お姉様? どうしたの? 早くかまくら作ろー」

「え? あ、そうですね」

 

 まぁ、流れに任せるか。わざわざ妖怪である私が手を出すのもねぇ。

 そんなことを考えながら、今日もいつも通りの一日を過ごした。ちなみに、この後、何故かルナに八つ当たりされるのであった────




次回からは、『春雪異変』となります。
なお、投稿日は日曜日の模様


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6、「『春雪異変』の始まり」

いつの間にか、総合評価が200超えてました。閲覧者の皆様、ありがとうございますm(_ _)m
さて、総合評価は......小説内のキャラの1日だった......よね?(あやふや)
まぁ、そういう訳で、次は美鈴の1日かな

さて、今回から二つ目の異変。なお、『紅霧異変』よりは短くなったり、戦闘描写少なくなったりします()


 side Hanasaki Reimu

 

 ──博麗神社

 

 とある日。もう五月だと言うのに、まだ雪が降る寒い日。

 

「......今日も寒いわねぇ」

 

 外には一面の銀世界。私は、あまりの寒さに布団でくるまっていた。

 

「霊夢ー! 異変だぜ!」

 

 そんな時、騒がしい白黒の魔法使いが、私がいる部屋へと襖を開けて入ってきた。

 

「あぁ、うん。じゃ、解決よろしく」

「えっ、どうしたんだぜ? いつもみたいに、一緒に解決しに行こうぜ!」

「はぁー、分からないの? こんな寒い日に外に出るなんて有り得ないわ。それに、異変を解決しに行ったのは一回だけでしょうに」

 

 普通、こんなに寒い日は家でゴロゴロするものなのに。外に出るなんて有り得ないわ。

 

「それに、異変って何よ?」

「勿論、春なのに雪が降ってることだぜ!」

「そんなの、冬が例年よりも長く続いてるだけでしょ」

「ふふふ、そう思うだろ? これを見てみろよ」

 

 そう言って、魔理沙はポケットから桜の花びらを取り出した。

 

「......これ、何なの?」

「見て分からないか? 花びらだぜ。多分、桜のな」

「そんなのは分かってるわよ。これがどうしたって言うのよ」

「おかしいと思わないか? 幻想郷中は雪が降っていて、とても桜が咲けるような場所はないぜ。これは明らかにおかしい。絶対に異変だぜ」

 

 異変ねぇ......前の異変から、まだ半年くらいしか経っていないのに......。

 こんなに早いペースであると、流石に博麗の巫女でも疲れるじゃない。

 

「じゃ、魔理沙。異変解決は貴方に任せるわ。私は寒いからここから動きたくない」

「はぁー、我が儘な奴だなぁ。......そうだ。霊夢、私はこの桜の花びらが異変に関係していると思っている」

「......それがどうしたのよ?」

「分からないか? 花びらがあるってことは、桜があるってことだ。そして、桜があるってことは、そこは桜が咲くのに適している場所ってことだ」

「......なるほどね。要するに、そこはここよりも暖かい場所かもしれない......と」

「そうだぜ。お前は寒いのが嫌いなんだろ? それなら、暖かい場所に行こうぜ! そのついでに異変を解決するってことにしようぜ!」

 

 まぁ、必ずしも暖かい場所とは限らないけど......この異変を解決すれば、元の暖かい季節に戻るかもしれない。

 はぁー、めんどくさいけど、行くしかないわね。

 

「仕方ないわね。行きましょうか」

「やっと分かってくれたか! よし、霊夢! 何処に黒幕がいるか分からないから、お前の直感だけが頼りだぜ!」

 

 ......まさか、その為に? 異変を起こしている黒幕が何処にいるか分からないから、私の直感に任せようと思ったのかしら?

 私の直感は万能ではないんだけど......まぁ、いいわ。どうせ異変を解決するまで春は来ないんだろうし、やるしかないわね。......と言うか、早く終わらせて帰ってきたいわ。

 

「はいはい。それじゃぁ、行くわよ」

 

 私はそう言って、雪が降る銀世界へと飛び立った────

 

 

 

 

 

 side Izayoi Sakuya

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

 最近、おかしいことが起きている。

 この幻想郷では、今の時期は春だと言うのに......まだ雪が降っている。

 いい加減、春が来てくれないと貯蓄がねぇ。

 

「......どうしましょうか」

「あら、咲夜? どうしたのかしら?」

「あ、いえ、何でもありません。ただ、早く春が来てくれないと、そろそろ食料や暖を取る薪が......」

「あぁ、確かにそうね。......もしかしたら、異変かもね」

「異変......ですか?」

 

 異変と言えば、半年ほど前にお嬢様が起こしたのと同じのよね? ......春が来ないのが異変......確かに有り得るけど、そんなことをして、一体誰が、どんな得を......。

 

「そう、異変よ。そう言えば、昨日、フランが桜の花びらを持ってきたわ」

「さ、桜の花びら? ですが、今の季節、花が......ましてや桜なんて咲くのですか?」

「だから異変なのよ。......そうだわ! 咲夜、異変を解決して来なさい」

 

 ......え? 今、お嬢様は何て言ったの? 異変を? 私が?

 

「ですが、私はメイドです。それも、吸血鬼である貴方様の」

「そんなの関係ないわよ。貴方はメイドである前に一人の人間。異変を解決するのは人間よ。ね? 何も問題ないわ」

「ですがお嬢様──」

「ですが、じゃないわよ。私は大丈夫よ。行ってきなさい」

「されどお嬢様──」

「咲夜。これは命令よ。行きなさい。そして、異変を解決しなさい」

 

 全く、お嬢様の我が儘にはいつも困らされる。......だけどまぁ、たまにはそういうのも良いかもしれない。

 

「......分かりました。では、行ってきます」

「行ってらっしゃい。あ、マフラーとかは忘れちゃ駄目よ。外は寒いからね」

「えぇ、分かりました」

 

 こうして、私は異変を解決する為に、雪が降る外へと出ていった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「......フラン、ルナ。外に行きません?」

「んー、急にどうしたの?」

 

 雪が降る五月のある日。私は昨日、桜の花びらを見つけた。

 これは、おそらく『春雪異変』が始まる予兆、もしくは既に始まっていると言うことだろう。そして、フランとルナが異変を解決してみたいと言っていた。

 こうなると、私が取る行動は一つしかない。......妹を連れて、異変を解決しに行く。まぁ、普通は妖怪が異変を解決とかおかしいけど、私は元人間だし大丈夫だよね。まぁ、多分だけど。

 

「異変を解決しに行きたくはありませんか?」

「え!? 異変!? 起きてるの!?」

「起きてるなら、行きたい。でも、どうして分かったの?」

「それは勿論、これですよ」

 

 そう言って、私は一枚の桜の花びらをポケットから取り出した。

 

「花、びら? お姉様、これがどうしたの?」

「はい、桜の花びらです。雪が降る季節に、普通は桜なんて咲きません。多分ですけど」

「うん、一気に信用度が下がったけど、続けて」

「咲かないはずの桜の花びらがある......これは、絶対に異変です。一〇〇パーセントの確率で異変です」

「......フラン、どう思う?」

「なんか、お姉様が子供みたいで可愛いなぁ、って思った」

 

 えっ、思ってた反応と違う......。それに、私が子供みたい? フランとルナの方が子供っぽくて可愛いのに? ......確かに、お姉様が子供みたいになったら可愛いとは思うけど、妹に子供と言われるのは心外ね。私は姉なんだし。

 

「......お姉様? 聞いてる?」

「え? あ、すいません。何ですか?」

「聞いてなかったのね。もしも異変だったとして、その黒幕は何処にいるか分かるの?」

「......いえ、分かりません」

「あ、やっぱり? 分からないなら、どうしようもないよね?」

「うぅ......確かに......」

 

 流石に、何処に冥界があるのかは分からない。これは......どうしたら......。

 

「じゃ、オネー様。霊夢や魔理沙について行けば? あの人達も異変を解決する為に、黒幕を探しているんでしょ? なら、一緒に行けば見つからない?」

「......あ、その手がありましたね。ですが、霊夢が動いているかどうか微妙ですね。あの人、魔理沙から聞いた話ですと、めんどくさがり屋らしいですし」

「ま、そんな雰囲気だったよね、初めて会った時も。でも、動かないならそれでもいいよ。魔理沙なら、動いているだろうし」

 

 まぁ、確かにそれもそうだけど......博麗の巫女が解決しなくていいのかな? まぁ、吸血鬼である私達が異変を解決しに行こうとしている時点でおかしいけど。絶対にバレたら怒られそうだけど。まぁ、バレないように頑張らないとね。

 

「まぁ、確かに魔理沙に頼ればいいですね。魔理沙なら、協力してくれそうですし、先ずは魔理沙の家に向かいましょうか」

「うん、そうだね。......お姉様、レミリアお姉様に言わなくてもいいかな?」

「いいと思いますよ。ちょっと家を空けるだけですし」

「へぇー、ちょっと家を空けるの? どうしてかしら?」

「え? げっ、お姉様......」

 

 いつの間にか、扉が開けられ、お姉様が部屋に入ってきていた。

 どうしてこんなに運良く......私、なにかに呪われてたりするのかな?

 

「げっ、って何よ? 何か私に聞かれたら、不味いことでも話していたのかしらねぇ?」

「え、い、いえ、何も話していませんよ? ねぇ、フラン、ルナ?」

「うん。ただ、異変解決しに行こうとか言ってただけだよ」

「ふーん、異変をねぇ......妖怪である貴方達が......」

「ちょ、ちょっとフラン! お姉様にバレたら、怒られるかもしれないのですよ! だから、お姉様に隠そうと......あっ」

 

 うん、何故かデジャヴ。お姉様、笑顔だけど何故か怖い。絶対怒ってるよね? これ怒ってるよね!?

 

「......お姉様、先に謝ります。妖怪なのに異変を解決しようとしてごめんなさい」

「え? どうして謝るのよ。別にいいわよ、それくらい。ただ、私に秘密で行こうとしたのは許せないわねぇ」

「うわぁ......レミリアお姉様のあの顔、笑顔だけど絶対に怒ってるよね」

「......レミリアオネー様、お姉様をあまり怒らないで」

「......まぁ、いいわよ。異変を解決しに行っても。ただし、レナは帰ってきたら、私の部屋に一人で来るように」

「うぅ、はい......」

 

 絶対、帰ってきたらお仕置きされる。嫌という程お仕置きされる。......うぅ、帰りたくない......でも、帰りたい......。何だろう、この矛盾......。

 

「レミリアお姉様、あまりお姉様をいじめないでよね。私のなんだから」

「フラン、前半部分は嬉しいですが、後半部分は......いえ、やっぱりいいです。これ以上言うと、フランにもお仕置きされる気しかしませんし」

「ま、オネー様は私のだもんね。それよりも、レミリアオネー様からお許し出たし、行こっ?」

「......やっぱり、レナ、貴女も苦労してるのね。その、色々と」

 

 お姉様から向けられる視線が辛い。......フランもルナも、こうは言ってるけど、冗談だからね? お姉様、本気にしないでね?

 

「まぁ、それじゃぁ、行ってきなさい。......あ、そうそう。咲夜も行かせたから、会ったらよろしく頼むわ」

「あ、咲夜も行ったのですね。ということは、咲夜にも会わないとダメですね」

「まぁ、頑張って合流しなさい。......それにしても、少し静かになるわね。早く帰ってきなさいよ。まぁ、私はパチュリーがとでも待っておくから、寂しくはないけど......」

「レミリアお姉様って強がりよね。ま、そんなの昔からだからいっか。それじゃぁ、行ってきます」

「ではまぁ、フランとルナはお任せ下さい。絶対に守っていますので」

「えぇ、頼んだわね。......行ってらっしゃい」

 

 こうして、私達は、初めての異変解決の為に、一面に広がる銀の世界へと、飛び立ったのであった────




次回は金曜日。番外編は水曜日となります


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7、「『春』を追って、その先へ」

結局遅れてるじゃないか!?(←おい)

ま、まぁ、気を取り直して、今回は1ボスの話+αです。



 side Kirisame Marisa

 

 ──とある森(上空)

 

「あぁー! 寒い! 寒すぎるわ!」

 

 博麗神社から飛び立って、数分も経たないうちに、霊夢がそう騒ぎ始めた。

 いつものことだが、異変の時、こいつって騒がしいよな。......まぁ、私が言えないけどな。

 

「おいおい、そんなに騒ぐことでもないだろ?」

「そんなに騒ぐほど寒いのよ! あ〜ぁ、どっかに運動代わりに倒せる妖怪とかいないかしら?」

「......お前って妖怪に対しては酷いよな。まぁ、博麗の巫女だから、ってのもあるんだろうけどな」

「よく分かってるじゃない。あ、丁度いいところに妖精がいるじゃない。

 あれは......氷の妖精ね。あれを倒せば、少しは寒さもマシになるかしら?」

「お前、本当に容赦ないな」

 

 我が親友ながら、本当に恐ろしいやつだぜ......。こいつ、本当は妖怪かなんかじゃないのか?

 そんなことを考えているうちに、可哀想な氷の妖精が霊夢に撃ち落とされていた。......あれ? あの妖精、どこかで......いや、気のせいだな、絶対に。

 

「『霊符「夢想封印」』! なんか見てたら寒いから落ちなさい!」

「ぐあぁぁぁ!」

「......あいつには慈悲がないのか? はぁー、仕方ないな。あの妖精くらいは助けるか......」

 

 それにしても、霊夢の妖怪や妖精を見つけたら問答無用で倒す癖、何とかならないのか? ......いや、ならないな。あいつは絶対に。

 

「あら、その妖精、助けるの?」

「まぁな。ちょっと可哀想だしな。......なんか私も倒したことがある気がするけどな」

「ふーん、それなら同罪ね、私も貴女も」

「いやいや、私は襲われたから倒したんだぜ。お前みたいに見つけたから倒したんじゃないぜ?」

「妖精なのよ? 人間に悪戯するし、退治しといて損にはならないと思うわよ?」

「さっきは運動代わりとか言ってたくせに、何を言ってるんだか......」

 

 こいつ......全然自分が悪いとは思ってないな......。まぁ、いつものことだからいっか。それよりも、適当な場所にこの妖精を寝かせてやらないとな。

 まぁ、どうせあのまま落ちてても、一回休みで復活してただろうから放っておいてもよかったんだろうけど......まぁ、助けておいて損はないよな。助けてもらったのを覚えてるかどうかはともかくな。

 

「さ、早く置いてきなさいよ。これから異変を解決しに行くってのに、連れてけないわよ」

「勿論分かってるぜ。あの辺とかいいかな? ほら、草木が生い茂ってるし」

「何処でもいいわよ。......まぁ、妖怪とかに襲われないように、一応、隠れさせなさいよ」

「おっ、霊夢もたまには優しいことを言うんだな」

「たまには、は余計よ」

 

 妖怪に対してはいつもキツイのに、こんなこともあるんだな。

 そんなことを考えながら、妖精を草木に隠した。一応は大丈夫だと思うが、少し心配だな。まぁ、何かあっても一回休みで復活するけどな。

 

「よし、終わったぜ。待たせたな」

「待ちくたびれたわ」

「いやいや、そこまで時間は経ってないだろ?」

「まぁ、そうね。......はぁー、それにしても寒いわね。いい加減にして欲しいわ。いつもならもう眠る季節だって言うのに」

「春眠暁を覚えず、かい?」

 

 気が付くと、目の前には、紫色の瞳を持った薄水色のショートボブに白いターバンのようなものを巻き、ゆったりとした服装をした女性がいた。そして、下はロングスカートにエプロンらしきものを着用し、首には白いマフラーを巻いているが、見た感じは防寒具ではない。この寒い日に、そこまで厚い服を着ていないとなれば、冬の妖怪か何かだろう。

 

「どっちかつーと、あんたらの永眠かな?」

「おいおい、最初から毒舌だな......」

「ところで、人間は冬眠しないの? 哺乳類のくせに」

「する人もいるけど、私はしないの」

「私もしないぜ」

「なら、私が眠らせてあげるわ。安らかな春眠」

 

 こいつ......明らかに戦おうとしているな。まぁ、霊夢の方がやる気みたいだし、ここは任せるするけどな。

 

「あ~ぁ、春眠ももっと暖かくならないとねぇ」

「暖かくなると眠るんなら、私達と同じだね。あと、馬酔木の花とかも」

「うるさい、あんたみたいのが眠ればちったぁ暖かくなるのよ!」

 

 そう言って、霊夢が弾幕をばら撒き始めた。

 やる気なのはいいが、私を巻き込まないでくれよ......。

 そんな心配をよそに、霊夢と冬の妖怪の弾幕ごっこが始まった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──魔法の森(上空)

 

「オネー様はまだ着かない?」

「まだ着きませんよ。というか、どこに黒幕がいるのかさっぱりです......」

「ま、仕方ないよね。先に咲夜か魔理沙を見つけよ」

 

 紅魔館を出てから博麗神社、魔理沙の家を見てきたが、魔理沙や霊夢は見つからなかった。

 やはり、もう異変を解決しに行っているのだろう。......どうやって合流すればいいんだろう......。

 

「オネー様、魔理沙を見つける魔法ない?」

「そんな便利な魔法はありませんよ。まぁ、目視さえすれば、何とかなったり、元々魔法をかけていれば大丈夫なんですけど......」

「オネー様、便利」

「本当にお姉様って便利だよね。肝心な時に、レミリアお姉様みたいになることもあるけどさ」

 

 お姉様に似ていると言われるのは嬉しいけど、流石にそれは似たくないや......。

 

「......あ、あれってアリスの家だよね?」

 

 フランが指差す方向には、確かにアリスの家があった。

 そう言えば、ここって魔法の森だったね。......そう言えば、この異変を何か知ってるかもしれないし、寄ってみようかな。

 

「アリス? あ、たまに図書館に来るあのアリス?」

「うん、そのアリスだよ。貴女の身体を作ってくれた人でもあるんだよ?」

「私の、身体を......? お礼、そう言えば言ってない。言った方がいいよね?」

「そうですね。ついでに、異変のことを何か知っているか聞きに行きましょうか」

 

 確か、原作ではアリスはこの異変に出てきてたよね? まぁ、関わってたかどうかは知らないけどね。

 

「あら、貴方達は......紅魔館の吸血鬼姉妹ね。こんなところでどうしたの? もしかして、魔法を教えにでも来てくれたの?」

「あ、家に行くまでもなかったね。こんにちは、アリス」

 

 その声が聞こえ、声の方を振り返ると、目の前にはアリスが二体の人形を引き連れて宙に浮かんでいた。

 

「こんにちはです。今日は、ちょっと妹達と一緒に異変でも解決しようかと思って、何か知ってそうなアリスさんのところに訪ねて来たんです」

「へぇー、異変を解決......って、貴方達が!? よ、妖怪なのに!?」

「まぁ、妖怪ですけど、妖怪が異変を解決する時もありますよ」

「......まぁ、それもそうね。妖怪だから異変を解決してはダメだ、っていうルールも無かった気がするし、止める必要もないわね」

 

 あらま、思ったよりもあっさりと理解してくれたなぁ。

 やっぱり、幻想郷は常識なんて通用しないのね、どっかの緑の巫女が言ってたみたいに。

 

「......アリス?」

「あら、どうしたの? ......ルナ、だったかしら?」

「うん、そうだよ。身体、作ってくれてありがとう」

「え? あぁ、そうだったわね。別にお礼なんていいわよ。久しぶりに大きめの人形を作れて楽しかったし、夢にも一歩、近付いた気がするし......」

 

 アリスの夢? ......そう言えば、何か聞いたことがある気がするけど......まぁ、忘れちゃったから別にいっか。

 

「あ、そうそう。話を戻すけどね。異変を解決する為には、春を......春度を集め、追いなさい」

「春度? 何それ?」

「桜の花びらのような物のことよ。それと、さっき貴方達のメイドに会ったわよ。あいつも異変を解決したいらしいから、今、貴方達に言ったのと同じことを言ったら、春度を集めて、どこかに飛んでいったわ」

 

 春度......そう言えば、一枚だけ。お姉様に渡しちゃったなぁ。まぁ、お姉様が咲夜に渡したかもしれないし、普通に探した方が早いだろうけどね。

 

「ふーん......じゃあさ、その春度ってのを集めよっか。アリスは持ってないの?」

「何枚か持ってるわよ。でも、全部は渡せないわ。これを持ってると、暖かいしね。だから、一枚だけあげるわ。後は、貴方達で集めなさい」

「うん、アリス、ありがと」

「お礼なんて別にいいわよ。それよりも、行きなさい。私としても、これ以上冬が続くのはごめんよ。だから、貴方達に任せたわ」

「はい、分かりました。......では、また会いましょう」

「えぇ、またね。次会う時は、魔法でも教えてちょうだい」

 

 そう言って、アリスは家の方向へと飛んで行った。

 それにしても、この桜の花びらが異変解決の手がかりだったなんて......やっぱり、幻想郷って不思議だなぁ。

 

「お姉様、早く行こっ?」

「はい、そうですね。あ、フラン、ルナ。寒くないですか?」

「私は大丈夫。フランは?」

「私も大丈夫だよ。ま、吸血鬼だしね、これくらいの寒さはへっちゃらだよ」

「フラン、フラグ?」

「いやいや。......って、お姉様。ルナに変なことを教えないでよね。私が何か言う度にこれ言うんだから」

「え、は、はい......すいません」

 

 毎回言ってるんだ......。と言うか、教えてはないよ? ただ、真似されているだけで......いや、原因は私だからあんまり変わらないか。

 

「じゃ、取り敢えず向かおっか。この春度? を集めに、ね」

「はい、そうですね」

 

 こうして、私達はなけなしの春度を持って、春度を集めに飛んで行くのであった────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──魔法の森(上空)

 

「ちょっと動いたからかしら? 暖かいわね」

 

 結局、冬の妖怪は霊夢に簡単に倒された。それも、スペルカードを連続で二枚使うという鬼畜な技でだ。

 やっぱり、こいつ......本当は妖怪なんだろうか?

 

「それにしても、魔理沙。気付いた?」

「ん? 何がだぜ?」

「これ、桜の花びらよ。戦ってる途中、何処からともなく飛んできたのよ」

「桜の花びら?」

 

 確かに、霊夢が見せてきたのは桜の花びらに見える。だが、何か神秘的と言うか、魔力的と言うか......とにかく、普通じゃない気がする花びらだ。

 

「これ、本当に桜の花びらか? 何かが違うぜ」

「えぇ、そうね。何かが違うわ。......なんだか、これを集めた方がいい気がするわね。魔理沙! これを集めましょう!」

「え、あぁ、いいけど......いつにも増してやる気だな。何があったんだぜ?」

「え? あぁ、それはね。気付いちゃったのよ」

「......え? 何にだぜ?」

「弾幕ごっこをすれば、暖かくなるし、ついでに異変を解決できるかもしれないから、一石二鳥だ、って!」

「いやいやいや、それはおかしいぜ!? それに、異変がついでかよ!?」

 

 こいつ......本当に博麗の巫女なのか? 本当は化け狸か何かの妖怪なんじゃないのか?

 それも、結構鬼畜なやつ。

 

「絶対に解決出来るかは分からないでしょ?」

「え、ま、まぁ、それもそうだが......」

「さ、そうと決まれば、行くわよ!」

「って、おい! 私を置いていくなー!」

 

 こうして、いつもよりも乗り気な霊夢に連れられ、私達は謎の桜の花びらを集めることになったのだった────




そう言えば、ルナの身体を作ったアリスはルナのお母さんとも言える? とか思ったりした(←どうでもいい)

それと、次は日曜日の予定。


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8、「迷い家の黒猫」

三ボス出てきた後の二ボスのお話です()

後、前回もそうでしたが、戦闘描写を飛ばしています。かなり下手だしね()
下手でもいいから、なんか解説のような戦闘描写を入れて欲しい人が多ければ、入れますけどね()


 side Kirisame Marisa

 

 ──妖怪の山(迷い家)

 

「はて。こんなところに家があったっけ?」

 

 雪が吹き付ける中、しばらく飛び続けていると、見慣れない場所に家を見つけた。

 

「無かったと思うぜ。それにしても、ここは人間の様な何かが棲みそうな所だな。猫とか、犬とか、狐とか」

「呼ばれて飛び出て......」

「......出る杭は打たれる、か?」

「どっちかと言うと、出る杭を打つ、の方が正しいと思うわよ。勿論、打つのは私達ね」

 

 そう言って出てきたのは、猫みみに猫のしっぽを二本持つ、化け猫だった。

 容姿は赤いベストに赤いスカート。首元にピンク色の蝶結びのリボンをつけて、頭には緑の帽子を被っている。

 

「で、何の用?」

「四本足の生き物に用などないぜ」

「迷い家にやってきたって事は、道に迷ったんでしょ〜?」

「道なんて無かったけどな」

「そうね。で、たしか、迷い家ってここにあるもの、持ち帰れば幸運になれるって......」

「なれるわよ」

 

 マジかよ......それなら、やることは決まりだな。この妖怪には悪いけどな。

 

「霊夢、少し寄り道していいか?」

「えぇ、勿論いいわよ。じゃぁ、略奪開始ー」

「なんだって? ここは私達の里よ。人間は出てってくれる?」

「迷い家って二度と戻れないとか聞いたことあるぜ」

「まぁ、合ってるよ。じゃ、力尽くでも帰ってもらうしかないようね!」

「あぁ、力尽くでも奪うしかないな。霊夢、ここは任せてくれないか?」

「いいわよ。その間に、私は軽くて身近な日常品でも探しておくわ」

 

 そう言って、霊夢は先ほど見つけた家へと入っていった。

 

「あ、待てー!」

「おっと、お前の相手は私だぜ? さぁ、早めに倒されて、ここにあるものを渡してもらおうか!」

「くっ、化け猫の恐ろしさを味わってもらうわ!」

 

 こうして、私は化け猫と弾幕ごっこをすることになった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──妖怪の山近く(上空)

 

「オネー様、桜あった」

「はい、ありがとうございますね。......結構集めましたね。このまま集めていたら、異変の黒幕のところまで行けるのでしょうか......」

「ま、これ以外の方法なんて霊夢や魔理沙を見つけるしかないし、こうするしかないと思うよ」

「まぁ、それもそうですね」

 

 アリスと会ってから、私達は桜の花びら......いや、春度を集めている。

 森の上だというのに桜の花びらが飛んでいるし、やっぱりこれは普通の桜じゃないんだなぁ。......いや、森の上でも風次第では翔んでいるのかな? よく分からないけど。

 

「お姉様、どうしたの?」

「ん、いえ、何でもありませんよ。それよりも、先ほどから吹雪が凄いですけど、大丈夫ですか?」

「それくらい大丈夫よ。それほど強いとも思ってないしね」

「うん、私も」

 

 んー、結構強いと思うんだけどなぁ。やっぱり、これ以上強い時に外で遊んだせいでもあるのかな?

 あの時はお姉様に怒られたくらい酷かったし......。まぁ、フランもルナも楽しそうだったし、元気だったけどね。

 

「......お姉様、ちょっと寒いわ」

「え? あ、ちょっ......」

 

 フランがそう言って、私の腕にしがみついてきた。......うん、ちょっと暖かいね。

 

「あ、フランずるい。オネー様、私も!」

「え、二人だと......はぁー......」

 

 ルナも同じように片方の腕にしがみついてきた。

 流石に笑ってちょっと飛びにくいんだけどなぁ。まぁ、フランとルナが嬉しそうだからいいけど......。

 

「オネー様、暖かい」

「うん、そうだね。三人だともっと暖かいねー」

「飛びにくいですけどね......」

「でも、暖かい方がいいでしょ?」

「まぁ、そうですけど......吸血鬼ですし、人間よりはマシだと思いますけどね......」

「お姉様、いつも人間と比べるけどさ、霊夢とか魔理沙とかそんなに寒いと思ってないと思うよ?」

「いえ、あれは人間と言う名の別物ですよ、絶対に」

 

 まぁ、私の前世の時と今世の人間はちょっと違うからね。フランがおかしく思うのも仕方ないね。......いやまぁ、ちょっとどころか、結構違うけど。こっちは空飛んだり、弾幕撃ったりするし。

 

「ふーん......やっぱり、霊夢や魔理沙は普通とは違うのね。......お姉様、私達は普通?」

「え? ......はい、普通ですよ。全く以て普通の、私の可愛い妹です」

「......うん、そう言ってもらうだけでも嬉しいよ。ね、ルナ」

「うん、私もそう思う」

「......おや、雲の上から桜の花びらが落ちてきてますね」

 

 吹雪で気づきにくいが、よく見ると雲の上から桜の花びらが落ちてきているのが見えた。

 もしかして、冥界って雲の上にあるのかな? ......行ってみるしかないか。

 

「フラン、ルナ。雲の上に行こうと思いますので、フードをしっかりと被ってくださいね。多分、そうしないと日光に焼かれるので」

「うん、分かった。......ほんと、太陽って嫌い」

「そうだね。まぁ、太陽がないと、月が見えないし、ちょっとくらいは我慢してあげるけどね」

「フラン、上から目線過ぎません? まぁ、別にいいですけど......。ではまぁ、行きましょうか」

「うん、準備はいいよ。あ、手は離さないでね?」

「え、ま、まぁ、いいですよ。......まぁ、もしもの時は何とかすればいいですよね......」

 

 こうして、私達は雲の上へと登って行くことにしたのであった────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──妖怪の山(迷い家)

 

「よし、これくらいでいいわね。さ、行くわよ」

「あぁ、そうだな」

「うぅ......強い......」

 

 あの後、スペルカードを使って化け猫を倒し、家から幾つか役に立ちそうな物を奪って......いや、借りてきた。

 まぁ、これから異変を解決しに行く、ということもあり、借りたのは少なめだけどな。

 

「さて......あら? ちょっと魔理沙、桜の花びら......雲の上から落ちてきてない?」

「......はぁ? 何を言ってるんだ?」

「だから、雲の上から落ちてるのよ。桜の花びらがね」

 

 桜の花びらが雲の上から? そんなの、有り得るわけ......いや、霊夢が言ってるんだし、本当のことか。

 

「......行ってみるか?」

「行くしかないわよ。異変を解決する為にもね」

「まぁ、そうだな。じゃぁ、行くとするか」

 

 雲の上でも桜が舞い散る......一体、どうなってるんだろうな。まぁ、私は異変が解決さえすればいいんだけどな。

 

「......あら、別に何ともないわね。でも、桜の花びらはあるのね」

 

 雲の上を抜けると、当然のごとく吹雪は止んでいて、特に変わった様子はなかった。が、桜の花びらが舞っているという、不思議な光景が広がっていた。

 

「やっぱり、お前の言った通りかもな。......行くか」

「えぇ、そうね。......あら、あれは何かしら?」

 

 霊夢が指差した方向には、何か人型のものが三つほど浮かんでいた。

 あれは......フードを被っているのか? それに、何か背中に生えている気がするな。

 

「......あぁ、めんどくさい奴の妹達だわ。こんなところでどうしたのかしら?」

「え? めんどくさい奴って誰だ? それに、妹達って......」

「貴方も知ってる奴よ。確か、れ......レプリカ?」

「あぁ、レミリアだな。と言うか、どうして間違えてるんだ? 毎日のように会うだろ?」

「めんどくさい奴の名前は憶えようとは思わないのよ」

「あぁ、うん、なるほどな......」

 

 やっぱり、妖怪に対しては......いや、これはレミリアだからか? ......まぁ、別に気にしなくてもいいか。

 

「まぁ、取り敢えず、話しかけるか」

「えぇ、そうね。......特に嫌な予感はしないし、黒幕に関係あるとは思わないわよ」

「そうか......霊夢がそう言うなら大丈夫そうだな」

 

 こいつの勘は凄く当たるし、レミリアの妹......レナ達も悪い奴ではないから大丈夫だよな。

 まぁ、どれだけいい奴でも、妖怪は妖怪だから、一応警戒はするけどな。

 

「おーい! レナー! フラーン! ルナー!」

「ん、あ、魔理沙ー!」

「え、ちょっ、うわっ!」

 

 そう言って、フランがかなり速いスピードで突進してきた。

 太陽があるせいか、そこまで勢いはなかったけど......やはり、少し痛いな。

 

「あ、フラン! すいません、魔理沙」

「いや、大丈夫だぜ」

「魔理沙......と霊夢だよね? ようやく会えたね」

「......フラン、そろそろ離れてあげて下さい」

「ん、あ、ごめんなさいね」

「フランは気に入った人を抱きしめる癖がありますからね......えぇ、癖ですよね......」

 

 なんかそんなに羨ましそうな顔で見られてもなぁ。

 

「お姉様、羨ましいの? 後でしてあげるから我慢してね?」

「......はい、それなら我慢しますね」

「......オネー様、私もしてあげようか?」

「はい、喜んで」

「......もういいかしら?」

「え、あ、す、すいません。何ですか?」

 

 ......やっぱり、こいつらはちょっとズレてるんだろうな。色々と。

 

「貴方達はここで何をしてたの?」

「え? 異変解決しに来たのよ?」

「そう、異変を......って、えぇ!? ......まぁ、そう言うこともあるか」

「いやいや、意外と軽いな!?」

「だって、妖怪が異変を解決してはいけない、っていうルールは無かったでしょ? と言うか、作らなかったはずよ......多分」

 

 ま、まぁ、確かにそうか。......それに、悪い奴ではないし、異変を一緒に解決してくれるってなら、それはそれで嬉しいしな。

 

「と言うか、そこは多分なのね。ま、別にいいけど」

「さ、それよりも、早く行きましょう。おそらくですが、咲夜が先に言ってるので......心配ですし」

「え、あいつも来てるのか? お前らって結構異変を積極的に解決する奴らなんだな。異変を起こす側だったのに」

「ま、異変を起こしたのはレミリアお姉様だしね。私とお姉様は地下にずっと居たし」

「私も、その時はまだフランと一緒だったしね」

 

 おっと......これは言わない方がよかったのか? ......いや、大丈夫そうだな。まぁ、出来るだけ言わないようにするか。

 

「......あぁ、そうだったな」

「一緒? どう言うこと?」

「前も話したと思うが......まぁ、帰ってから話すぜ。さ、行こうぜ」

「うん、そうね。行こっか。春度を追いに.....ね」

 

 こうして、私達は桜の花びらを集めながら、先へと進んでいった────




次回は水曜日の予定です。......あまり進んでない気がするなぁ()


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9、「ポルターガイスト 冥界の庭師」

少し遅れた。すまない(・ω・`)

今回は題名通り、4、5ボスのお話です。


 side Renata Scarlet

 

 ──雲の上

 

「それにしても......雲の上まで桜が舞ってるのは何故?」

 

 霊夢と魔理沙に会ってからしばらく経った時、霊夢が誰かにそう問いかけた。

 

「急にどうしたんだぜ?」

「いつもだったらここで、誰かが答えてくれるでしょ?」

「あぁ、なるほど」

「いやいや、そんなわけ......」

「あぁ、分かったよ」

「本当に誰か出てきた!?」

 

 急に現れたその人物は、髪はほぼストレートな金髪のショートボブヘアに、瞳は金色。少しツリ目気味のキリッとした目つきをした少女だった。

 服装は、白のシャツの上から黒いベストのようなもの着用し、下は膝くらいまでの黒の巻きスカート。

 ベストに二つあるボタンは赤。スカートにも同じボタンが二つ付いている

 見た目からして、プリズムリバー三姉妹の長女、ルナサ・プリズムリバーなんだろうね。

 外見の年齢は、私達、姉妹と同い年に見えるけど......やっぱり、違うんだろうね。幽霊だし。

 いやまぁ、ここでは大体の人、と言うか妖怪が外見と中身の年齢が一致しないんだけどさ。

 

「で、何だっけ?」

「アレよ。雲の上まで桜が舞ってる理由」

「あぁ、ほら、それはアレだ。この辺はこの季節になると気圧が......下がる」

「なんかテンションも下がりそうね」

「......」

「おっと、用が無いわけじゃないので帰らないわよ。ほら、貴女の後ろ、その結界に用があるの」

「え? 結界?」

 

 結界? ......あ、確かに、よく見ると大きな門みたいなのが見えるね。あれが結界?

 

「それにしても、霊夢。この先に何かあるか知ってるの?」

「知らないわ。でも、この先に異変の黒幕がいる気がする。勘だけど」

「霊夢の勘なら信用出来るぜ。......あれが結界か。凄いな。素人にはさっぱり解き方が分からないぜ。この先には、何があるんだか」

「えへへ〜、企業秘密」

「あ、また増えましたね」

「似てるし、私達と同じように姉妹なのかな?」

 

 次に増えた娘は、かなり薄い茶色の髪をしていた。

 服装は、白のシャツに赤のベストのようなものを着て、下は赤いキュロットを着用している。姉のルナサと違い、二つあるボタンは緑色だ。

 こっちは、末妹のリリカ・プリズムリバーだろう。

 

「姉妹よ〜。貴方達も姉妹なのね。......そこの二人は双子?」

「ん、ま、そんな感じね」

「うん、双子。歳は違うけど」

「それにしても、今日は人が来るのが多いわね。さっきも一人、人間が来てたわ」

「......その人はメイドでした?」

「よく分かったね〜。そうだったよ」

 

 やっぱり、咲夜も来てるのね。......私達よりも早く黒幕の場所まで来るなんて......やっぱり、うちのメイドは優秀だね。

 

「で、この結界はどうやって開くんだ?」

「秘密よ〜」

「......もう、増えるのは最後だよね? どうせなら、一気に出てきて欲しかったわ」

「私達は三姉妹だから私で最後だよ〜」

 

 最後の娘は、髪は明るく薄い水色。全体的に強いウェーブがかかった、軽そうなふんわりした感じの髪質だ。

 服装は、薄いピンクのシャツの上にこれまた薄ピンクのベストのようなものを着て、上と同じ薄ピンクのフレアスカートを履いている。

 

「この扉はどうやって開くんだ?」

「開かないわよ」

「いや、霊夢に聞いているんだぜ」

「あ、そこは私なのね。まぁ、簡単に開けれると思うわよ。これでも、巫女だから」

「そう言えば、霊夢って巫女だったね」

「たまに忘れる」

「貴方達......失礼ね」

 

 確かに、巫女にしては妖怪と一緒にいる時間が多いしね。まぁ、それが霊夢の良いところなんだろうけどね。

 

「そう言えば、あんたら何者? ここはどこなのよ?」

「私達は騒霊演奏隊〜。お呼ばれで来たの」

「これから、お屋敷でお花見よ。私達は音楽で盛り上げるの」

「でも、貴方達は演奏できない」

「......私は出来ますよ。ヴァイオリンとかピアノとかなら......」

「私もお姉様と一緒に練習したことあるし、今も出来ると思うよ」

「フランに出来るなら、私も」

「なんだろう......裏切られた気分ね」

 

 流石に、そこまで難しいのは出来ないんだけどね。練習したと言っても、少しだけだし。

 

「なら、貴方達も一緒に演奏する?」

「歓迎するよ〜」

「でも、演奏できない私や魔理沙とかは通らせてくれないのよね?」

「おいおい、私も演奏できないとか決めつけるなよ。カスタネットとか得意だぜ?」

「そうね。通らせられないわ。貴方達は。特に、そこの黄色いのは」

「だから、演奏出来る──」

「魔理沙、諦めた方が......」

 

 魔理沙......演奏出来るのとただ叩くのは違うんだよ......。

 

「取り敢えず、倒すしかないわよね。通らせてくれないのなら」

「三対五? 巫女として、卑怯じゃない?」

「私は巫女でも、こいつらは魔法使いと吸血鬼だからいいのよ」

「霊夢、卑怯なのは変わりませんけど......」

「まぁ、私と霊夢だけでも勝てそうだから手伝わなくても大丈夫だぜ」

「ちょ、魔理沙! 折角楽して勝つ作戦が......」

 

 ......霊夢、貴女は本当に人間なのですか?

 

「雑音は、始末するまで」

「がんばってね〜」

「手助け歓迎中よ」

「まぁ、三対二になっても負ける気はないわよ。覚悟しなさい」

「......フラン、ルナ。ポップコーンいります?」

「うん!」

「ありがと」

「貴方達、楽しすぎじゃない!? と言うか、今どこから出したの!?」

「霊夢! 行くぜ!」

「え、あ......えぇ!」

 

 そう言って、霊夢と魔理沙、プリズムリバー三姉妹の弾幕ごっこが始まった────

 

 

 

 

 

 side Izayoi Sakuya

 

 ──冥界(階段)

 

 お嬢様の命令で、初めて異変を解決する為にここまで来た。

 ここまで来るのに、妖精やら妖怪やら魔法使いやら騒霊やら......色々と危険な目にあったと思うけど、それももうお終いのはず。

 春を追って、ここまで来れた。この階段を登った先に、異変の黒幕がいるはず。

 ほんと、お嬢様には困ったものだけど......まぁ、私としても、食料とか暖を取る為の炭とか無くなってきたし、冬は早めに終わって欲しいから、こう言うことがあってもいっか。

 

「......それにしても、鬱陶しいわね。......出てきなさい」

「みんなが忙しいと思ったら生きた人間だったのね」

 

 そう言うと、背後から、銀色の髪をボブカットにし、黒いリボンを付けている少女が現れた。

 眼の色は赤。幽霊なのか、人間に比べて肌は白い。

 白いシャツに青緑色のベストを好んで着ていて、下半身は短めの動きやすいスカートを着用している。胸元には黒い蝶ネクタイを付けている。

 そして、その少女の横には、幽霊のような白くて大きな塊が浮いていた。

 

「ようやく、原拠までたどり着いたようね。思ったより、結構かかってしまったわ」

「こんなところまで来て、余裕あるわね。ここは、白玉楼。死者たちの住まう処よ。生きた人間の常識で物を考えると痛い目にあうわ」

「死人に口無し。大人しく春を返してもらおうかしら」

「あと少しなのよ」

「少しでもダメ」

 

 何があと少しなのか分からないけど、どうせ碌でもないことに決まっているわ。だって、春を集めていたくらいですもの。

 

「あと少しで西行妖(さいぎょうあやかし)が満開になる。普通の春じゃ絶対に満開にはならないのよ」

「ダメだってば」

「あなたの持っているなけなしの春で、西行妖もきっと満開になる」

「話聞いてる? そんなもんの為に、私は寒い思いをしてきたのよ」

 

 私だけなら未だしも、これがもっと続けば、お嬢様達にも迷惑がかかってしまう。

 だから、そんなよく分からない物のために、これ以上冬は長引かせてはいけないのよ。

 

「でもほら、ここは暖かいでしょ?」

「まぁいいわ。死人に口無しよ」

「死人に口無しだわ。その春を全て戴くまでよ。この私のナイフは、幽霊も斬れるのか?」

「妖怪が鍛えたこの楼観剣に斬れぬものなど、少ししか無い!」

 

 こうして、私と幽霊の戦いは始まった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──冥界(入り口前)

 

「やった、お花見権確保!」

 

 弾幕ごっこが始まってから数分後、案の定、霊夢と魔理沙は騒霊達に勝つことが出来た。

 二人だったし、もう少し苦戦するかと思っていたけど......まぁ、やっぱり凄いね、霊夢と魔理沙は。

 

「で、目的はお花見ジャック?」

「何か違った気もする......」

「霊夢、違うだろ。さぁ、この扉を開けてくれよ。お前なら出来るだろ?」

「別に、開かなくてもいいのよ?」

「え? 何でだ? お前達もこの中に入るんじゃないのか?」

「私達は上を飛び越えて入るのよ」

「......ほう」

 

 まさか、飛び越えるだなんて......あれ? これ、門の意味無くない?

 紅魔館の門でも、美鈴が寝ている時以外は意味あるのに......。

 

「......じゃぁ、戦わなくても、ここを飛び越えればよかったのね」

「まぁ、そう言うことにもなるね。でも、それだと挟み撃ちになるかもよ?

 まぁ、あの人間がみんな倒してたらそうはならないけど」

「ほんと、みんな倒しててくれたらいいんだけどね......」

「流石に、咲夜一人では難しいですけどね。相手も強いでしょうし......」

 

 特に、冥界の主である西行寺幽々子の能力は危険だ。

 死というのは生きている者に対しては強力で、私の能力でも完全には防げない可能性が高いし......。

 もしかして、フランとルナをここに連れて来たのは間違いだったかな?

 いや、でも、この娘達が楽しめるように......うん、きっと大丈夫。と言うか、私が守りきればいいのだから。

 

「お姉様、どうしたの? 大丈夫?」

「え? あ、はい。大丈夫ですよ。行きましょうか」

「早く来なさいよー。先に行っとくからねー」

「あ、少しお待ち下さーい」

 

 こうして、私達は門の上を飛び越えて、門の先へと入っていった────

 

 

 

 

 

 sideIzayoi Sakuya

 

 ──冥界(階段)

 

「......良かった幽霊も斬れるみたいね。銀だから?」

 

 思ったよりも簡単に終わった。時間はかかったが、無事に倒せることが出来た。

 それにしても、やっぱり銀って凄いのね。

 

「私は半分は幽霊ではないわ。でも、西行寺お嬢様は完全な霊体。そんな陳腐な武器で勝負になるのかしら?」

「って、なんでそのお嬢様と闘う事で話が進んでるのよ」

「春を取り戻すのなら、お嬢様と戦うことは必然だからよ」

「あ、咲夜ー!」

「......え? ふ、フラン様!?」

 

 気が付くと、背後から、階段の上を飛んでフラン様が飛んできていた。

 それにしても、どうしてここにいるのかしら? フードはしているし、日光は大丈夫だったみたいだけど......。

 

「あ、咲夜。無事で何よりです」

「あ、レナ様、ルナ様。それに、霊夢とこそ泥まで......」

「いや、私は魔理沙だぜ!?」

「そんなことよりも、どうしてここに......」

「無視かよ!?」

「異変を解決する為に、だよ」

 

 異変を解決する為......まさか、お嬢様。自分の妹様達まで巻き込んだのでしょうか......?

 い、いえ、流石にそれは......ありませんよね?

 

「さぁ、メイドも見つけたことだし、早く行きましょう」

「......そうでございますね。行きましょう。異変の黒幕を倒す為に」

 

 こうして、私は妹様達と合流し、黒幕の場所へと向かったのであった────




次回は訳あって、日曜日となります。遅めですいません(・ω・`)


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10、「亡霊のお嬢さま」

はい、6面ボスでございます。
なお、戦闘描写はない模様()


 side Renata Scarlet

 

 ──冥界(白玉楼)

 

 咲夜と合流してから、少しだけ進んだ。

 途中、死霊が飛んできたり、咲夜に倒されたはずの半人半霊の庭師が追いかけてきたが......まぁ、戦うのが霊夢達、人間だけだとしても、三対一では流石に勝ち目は無かったみたいだ。

 そして、進んでみて分かったことだが、冥界にも桜の木があった。そのどれもが満開で、綺麗な桜を咲かせていた。

 ただ一つ、進んでいる先に見える大きな桜......西行妖(さいぎょうあやかし)を除いては。

 

「なんだか気味が悪い......」

「あの桜のことですか?」

「うん。上手く説明出来ないけど、何故かそんな気がするの。ここが冥界だからかな?」

「......いえ、それは関係ないと思うわよ。あの木だから気味が悪い、だと思うわ。ほら、他の木は気味が悪くないんでしょ?」

「あ、それもそうね。......お姉様、何かあったら、私のこと守ってくれる?」

 

 突然、フランが故意なのか、偶然なのか、上目遣いでそう聞いてきた。

 うん、やっぱりというか、当然というか......可愛い。まぁ、お姉様と似ているし、可愛いのは当たり前か。

 

「......あ、はい、もちろん守りますよ。私は姉ですから」

「あ、オネー様、私も!」

「はい、もちろん貴女のことも守りますよ。貴女も私の妹ですからね」

「妹様方、何かありましたら、まずは私が。私はメイドですから」

「......メイドって護衛も兼ねるものなの?」

「私に聞かれても困るぜ」

 

 それにしても、平和だなぁ......たまに死霊が攻撃してくるけど、それ以外は全くもって平和だ。

 これからこの異変の黒幕に会うと言うのに、気楽過ぎる気もするけど......まぁ、これくらい気楽な方がいいよね。緊張し過ぎる方が逆に悪いだろうし。

 

「やっぱり、冥界ってお化けが多いんだね」

「お化けと言うよりかは、死霊ですね。お化けは私達、妖怪とも一緒にされることがありますし」

「ふーん、そうなんだね。別に、私達って怖くないと思うんだけどなぁ......」

「人間にとっては怖いと思いますけどね。私達、吸血鬼ですし」

 

 それよりも、フランにとってのお化けの基準って、怖いか怖くないかなんだね......。いやまぁ、別にそれでも問題ないと思うけど。

 

「あ、お化け......死霊が来たよ」

「はぁー、またなの? もう、死霊ばっかでうんざりだわ」

「勝手に人の庭に乗り込んできて、文句ばっか言ってるなんて」

「ん?」

「どうかしてるわ。まぁ、うちは死霊ばっかですけど」

 

 そう言って現れた者は、赤っぽいピンク色の目、癖のある桃色の髪に、青い浴衣を着た女性だった。

 周りには、小さな霊が浮かんでいる。

 おそらく、この人が『春雪異変』の黒幕......死を操る亡霊、西行寺幽々子だろう。

 

「貴女、黒幕なの?」

「さて、何のことでしょうか? それにしても、珍しいわね。お花見かしら? 割と場所は空いてるわよ」

「あ、そう? じゃ、お花見でもしていこうかしら」

「やるなら、レミリアお姉様達も呼ぼうかな」

「でも、貴方達はお呼びではないわよ」

「ちぇっ、みんなでやりたかったのになぁ」

「......仕方ないわね。私の神社でやりましょうか。そんなわけで、見事な桜だけど。集めた春を返してくれる?」

 

 霊夢がフランに、いや、妖怪に優しい? ......頭打ったのかな?

 

「こら、そこ。今失礼なことを考えてたでしょ?」

「え!? あ、き、気のせいだと思いますよ?」

「正直、私も珍しいと思うからな。おかしく思っても仕方ないとは思うぜ」

「返すことは無理よ。もう少しだから。もう少しで、西行妖が満開になるの」

「なんなのよ、西行妖って」

「うちの妖怪桜。この程度の春じゃ、この桜の封印が解けないのよ」

「なら、いるか? この、なけなしの春」

 

 そう言って、魔理沙が桜の花びらのような春を取り出した。

 

「あら、もしかして、貴女が妖夢の跡継ぎかしら?」

「まさか、私はこんな辺鄙な処で一生を終えたくないぜ」

「なら、代用品?」

「話を聞いてるのか?」

「聞いてるわよ」

「って言うか、敵に塩を送ってどうするのよ」

「あら、私は嬉しいわよ?」

「誰もあんたに聞いてない」

 

 やっぱり......幽々子って、黒幕って感じがしないなぁ。いい人にしか見えないや。能力は危険極まりないけど。

 

「そもそも、わざわざ封印してあるんだから、それは、解かない方がいいんじゃないの?

 なんの封印だか分からないのよ?」

「結界を乗り越えてきた貴方達が言う事かしら」

「まぁ、確かにそれもそうですよね」

「そ、それは置いておきましょうか。それよりも、封印を解くとどうなるっていうの?」

「すごく満開になる」

 

 幽々子が何故か得意げにそう言った。

 絶対それだけじゃないでしょ。いやまぁ、ちょっとだけ知ってるけどさ。

 

「と同時に、何者かが復活するらしいの」

「へぇー、面白そうだな。手伝おうか?」

「あら、手伝ってくれるの?」

「私達、異変解決に来ましたよね? なら、魔理沙も倒した方がいいでしょうか? いつも本を盗む償いの為にも倒します?」

「いやいや、私は盗んでないぜ。一生借りてるだけだ」

「それ、変わらない」

「いや、それよりも、興味本位で復活させちゃダメでしょ。何者か分からんし」

「あら、私は興味本位で人も妖怪も死に誘えるわよ」

 

 幽々子がそう言った瞬間、フランとルナの、私の腕を掴む力が強くなったのが分かった。

 

「......それ、どういう事なの?」

「あら、そんなに姉に抱きついて......怖かったのかしら? まぁ、いいわ。

 そのままの意味よ。それ以上でもそれ以下でもないわ」

「オネー様、後ろに下がってよ、ね?」

「......そうですね。出来れば、咲夜達も......」

「いえ、私は大丈夫です。お嬢様から、異変を解決するように言われていますので、黒幕を倒すまでは引けません」

「私も大丈夫だぜ。これでも、結構強いからな。死に誘われても、断ることくらいできるぜ」

「そんな簡単なことじゃないと思うけど......。まぁ、妖怪に心配されるほど弱くないわよ。

 それと、私一人で充分よ。私には、秘策があるから」

 

 霊夢の秘策......んー、なんだろう? いや、それよりも、まずはフランとルナを攻撃が当たらないように遠ざけないと......。

 そう思い、私は出来る限り遠くに、だが、いつでも助けに入れるような距離にフランとルナを連れて移動した。

 

「あら、あの娘達は戦わないのね。やっぱり、少し脅かし過ぎたかしら?」

「見た目でも、中身でも、子供だからでしょうね。でも、そっちの方がいいわ。私的には、ね。

 じゃ、魔理沙、咲夜。貴方達も離れておきなさい。多分、攻撃が一度でも当たると死ぬわよ。いや、割とマジで」

「......あぁ、アレか。なるほどな。今回はお前に花を持たせるとするか。咲夜、行くぞ」

「え、ですが──」

「良いからいいから。面白いものが見れるから、それで我慢してくれ」

 

 そう言って、魔理沙と咲夜もこちらに飛んできた。こうして、残ったのは霊夢だけとなった。

 本当に大丈夫なのかな......。いざという時の為に、魔法を行使出来るようにはしておくけど......。

 

「あら、貴女一人でいいの?」

「私一人で充分なのよ。それよりも、反魂と死を同じに考えちゃダメでしょ。面倒なものが復活したらどうするのよ」

「試して見ないと判らないわ。なんにしても、お呼ばれしてないあなたがここにいる時点で死んだも同然。というか、ここに居る事自体が死んだと言うことよ。貴女も、奥にいるあの娘達もね」

「あら、なら私は死んでもお花見が出来るのね」

「貴方達が持っているなけなしの春があれば本当の桜が見れるわ......何者かのオマケつきでね」

 

 やっぱり、吸血鬼の聴覚って凄いね。これだけ離れてても聞こえるなんて。いやまぁ、生まれた時からこうだったから、今更のことだけどね。

 それにしても、その何者かは......いやまぁ、信じてもらえないだろうし、別に言おうとも思わないけどね。と言うか、言わない方がいいよね、多分。

 

「さて、冗談はそこまでにして……幻想郷の春を返して貰おうかしら」

「最初からそう言えばいいのに」

「最初の方に言ったわよ」

「最後の詰めが肝心なのよ」

「花の下に還るがいいわ、春の亡霊!」

「花の下で眠るがいいわ、紅白の蝶!」

 

 こうして、異変の黒幕、西行寺幽々子と博麗の巫女、博麗霊夢の弾幕ごっこが始まった──

 

 

 

 ──十数分後 冥界(白玉楼)

 

「......あらあら、お強いこと」

「貴女が弱かっただけよ」

 

 霊夢と幽々子が弾幕ごっこを始めてから、十分くらい経った。

 霊夢は、スペルカードを一つも使わずに、全ての弾幕を避けきった。

 おそらく、能力を使っていたのだろう。触れれば死。なら、全てを避けきればいい。

 そんなことを考えて、霊夢はありとあらゆるものから浮き、全ての弾幕に当たらないようにしたのだろう。

 ほんと、とんだチート能力だなぁ。

 

「これで、春は返してくれるの?」

「......まぁ、最初から遊び半分だったし、いいわよ〜」

「貴女の遊びのせいで、こっちは春が来なかったと言うのに......はぁー、何を言っても無駄だろうし、別にいいわ」

「......ん、これでこの異変は終わり?」

「えぇ、そうね。私、この異変を起こした黒幕が倒されたことですし、しばらく経てば、春は戻りますよ」

「ふーん......ま、面白かったしいっか。じゃ、帰ろっか」

「うん、そうだね」

「はい、そうですね」

 

 私としても、フランとルナが楽しめたっぽいから良かった。

 咲夜も怪我はないみたいだし、気楽に......気楽に......あ、私、お姉様に帰ったら部屋に来いって......い、いや、覚えてない可能性もあるし、だ、大丈夫だよね。

 

「......そう言えば、レナ。前の異変みたいに、すぐに春を戻せないの?」

「あれは魔力消費量がヤバすぎるので無理です。霧とかならともかく、季節ともなると、流石に私の魔力では戻すことは出来ないので」

「ふーん、そう、ならゆっくり待つとしましょうか」

「......あの異変の霧が消えたのは、そう言う......」

「え? ど、どうしました?」

「なんでもないわよ〜」

「そ、それならいいですけど......」

 

 本当に気になる......。ま、まぁ、いっか。それよりも早く帰ってお姉様に見つからないように......いや、余計に怒られるし、やっぱり、普通に言った方が......。

 

「お姉様、大丈夫? 顔が真っ青だよ?」

「え、い、いえ、大丈夫ですよ?」

「......そ、ならいいや。じゃ、お姉様。抜け道作って」

「あ、ついでに私も神社まで送ってちょうだい。あの寒い中を帰るのは嫌だし」

「あ、私も頼むぜ。霊夢と同じ場所でいいからさ」

「私......いや、いいですよ。では、作りますね」

 

 私、タクシーとかじゃないんだけどなぁ。

 そう思いながら、私は紅魔館と博麗神社への道の二つの抜け道を作り、それを通って紅魔館へと帰っていった──

 

 

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「......お姉様、帰ってきました」

「えぇ、お疲れ様。そして、よく覚えていたわね。忘れてるんじゃないかと心配してたわ」

 

 紅魔館へと帰った後、フラン達と別れてすぐにお姉様の部屋へと向かった。

 

「忘れたら、怒られますし......」

「そんなに暗い顔にならなくてもいいわよ。大丈夫、もう怒らないわよ」

「......え? ほ、本当です?」

「本当よ。ちゃんと咲夜とフラン、ルナを連れて無事に帰ってきたし、それだけで怒る必要なんてなくなったわよ。

 ......偉いわね、レナ。異変を解決しに行って、ちゃんと帰ってきてくれて嬉しいわ」

 

 そう言って、お姉様は私を抱きしめて、頭を撫でてくれた。

 うん......この歳になってされても恥ずかしくはないね。むしろ、もっとやって欲しい......。

 

「......お姉様、ありがと。私、嬉しい......」

「......あら、珍しいわね。貴女がその口調で喋るなんて。って、あら、寝てるの? ......まぁ、いつもより長い間外に出てたし、疲れたのね。今日はゆっくり休みなさい。明日もフランとルナの相手をするんだし......今日くらい、ゆっくり休んでも誰にも怒られないわよ」

 

 最後に、お姉様のその言葉が聞こえ、私は深い眠りへとついたのであった────




次回はおそらく金曜日です。
最近気付いた。自分、スカーレット姉妹の会話がある時の方が文字数多いと()

ちなみに、最近イラストを描く練習を始めました。
いつか、レナータのイラストが描けるように上手くなりたい(願望)


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11、「吸血鬼の次女 風邪を引く」

この話は、ただ自分が書きたかった作品です()

題名通り、ただの日常編()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「んー......あ、あれ、お姉様......?」

 

 異変を解決し終えた次の朝。

 目を覚ますと、目の前にはお姉様の姿があった。

 そう言えば、昨日はお姉様に呼ばれて、そのまま寝たんだっけ? 頭がモヤモヤするし、痛いしでよく思い出せない......。

 

「それにしても、まだねむゴホッゴホッ!」

 

 喋ろうとした瞬間、咳が出た。

 ......あぁ、なんだか久しぶりの感覚だ。何百年ぶりだろう?

 

「ゴホッ、ゴホッ......はぁー......」

 

 私、風邪引いちゃったんだ。

 よく考えてみると、喉も痛いし、体がだるいし、鼻が詰まっているし......って、よく考えなくてもこれ風邪じゃん。

 んー......魔法で何とか......って、風邪を治す魔法とか知らないや......。

 

「と、とにかく、自分の部屋に......あ、痛っ! うぅ......」

 

 お姉様に風邪を移さない為にも、部屋から出ようとした。が、ベッドの段差につまづき、毛布を巻き込みながら転んでしまった。

 

「うーん、寒いわね......って、あら? 何してるの? 大丈夫?」

 

 そして、お姉様の毛布を巻き込んでしまったせいか、お姉様が起きてしまった。

 

「あ、お姉様......。ごめんなさい、起こしてしまって......」

「それはいいわよ。それよりも、顔が真っ赤よ? それに、転けたようだし......大丈夫なの?」

 

 え、顔真っ赤になってるの? そう言えば、風邪と自覚したせいか、さらにしんどくなってきた気が......。

 とにかく、ここでお姉様に嘘言ってもすぐにバレそうだし、これ以上何かを話すのも疲れてきたし......正直に言っちゃうか。

 

「それが......少し風邪を引いてしまったみたいなので......自分の部屋に戻ろうとしたら、こんなことに......」

「あら、珍しいわね。吸血鬼である貴方が風邪なんて......。っていうか、どうして自分の部屋に戻る必要があるのよ。

 ここで寝なさい。自分の部屋に戻るのも疲れるでしょ?」

「い、いえ! 私は大丈夫です! それよりも、お姉様に風邪を移しては──」

「気にしないの。今は貴方の方を優先しないと。風邪、辛いでしょ?」

 

 うっ、確かにそう言われると辛いとしか言えない......。

 でも、お姉様に移したくないし......。

 

「レナ、私なんて気にしなくていいのよ。それよりも、自分の体のことを気にしなさい」

「お姉様......お姉様も自分の体のことを気にした方がいいですよ。特にむ──」

 

 そう言いかけた途端に、お姉様の拳が私の顔を掠めた。

 

「レナ、それ以上言ったら、怒るわよ? 風邪を引いてるなら、何も喋らずに早く寝なさい」

「うぅ......お姉様もフラン達も気にしすぎです......」

「貴方が気にしなさすぎなのよ。大体、貴方の方が小さいから。私が一番だから。

 そんなことよりも、貴方、饒舌になってない? 風邪を引くとそうなるものなの?」

「え? 一番はフランとルナな気が......」

「そっちはもういいわよ! それよりも、私の質問に......いえ、これ以上喋らすのはダメね。色んな意味で。

 さ、もう寝なさい。咲夜に風邪を引いた時の......アレ、なんて言うんだっけ? ほら、貴方が前に言ってた風邪を引いた時に食べるアレ」

 

 風邪を引いた時に食べる物? ......色々あるけど、やっぱり私はおかゆが一番好きかな。というか、前世でも風邪を引いた時はそれしか食べてなかった気がするくらいだし。

 

「......おかゆですか?」

「あ、そうそう、それよ。......後、どれくらい高いかも調べておかないとね。レナ、少しだけ、じっとしてて」

「え? あっはい」

 

 そう言って、お姉様は私の額にかかってる髪をどけ、お姉様が顔を近付け、私の額に自分の額を当てた──

 

「──え? あ......」

「ん?どうしたの? ......って、また顔が赤くなってるわね。それに、熱も高いみたいだし......やっぱり寝てた方がいいわよ。

 私は咲夜にその......あ、おかゆね。おかゆを作ってもらうように言ってくるから」

「......あ、はい。分かりました」

 

 そう言って、お姉様は部屋を出ていった。

 特に何もすることがない私は、お姉様のベッドを借りて、寝ることにした──

 

 

 

 ──数十分後 紅魔館(レミリアの部屋)

 

「オネー様!」

「ルナ、静かに! お姉様、風邪引いちゃったんだって!? 大丈夫!?」

 

 寝ていると、騒がしい妹達が入ってきた。

 騒がしいのはいつもならいいけど、今日はちょっとやめて欲しいかも......。頭に響くし。

 でも、まだ子供なんだし、騒がしい方がいいのかな。って、私も子供だけどさ。

 

「うぅ、頭に......。大丈夫ですので、部屋に戻っていて下さい。風邪が移ると大変です」

「あ、ごめんなさい。......でもでも、レミリアお姉様は看病する為に今日はずっとここに居るって言ってたよ」

「だから、私達も居ていい?」

「......ダメです。看病はお姉様だけで充分ですので......移らないうちゴホッ、ゴホッ」

「あ、大丈夫!?」

「入るわよ。って、貴方達、部屋に戻ってなかったの? ......あぁ、そういう事ね。まだ秘密にしてればよかったわ」

 

 そう言って、お姉様が部屋に入ってきた。

 

「むぅ......私達だってお姉様の看病したいの。ねぇ、いいでしょ?」

「遊びじゃないのよ。今日は諦めなさい。......って、言ったところで諦めるわけないわよね......」

「うん。私達は平気。『子供は風邪の子』って言うし」

「ルナ、多分それ間違って覚えてますよね。『風の子』ですからね? それに、それは、子供は寒風の中でも遊び回れるもの、とか言う意味ですからね?」

「え、そうなの? ま、それよりも、私達、お姉様と一緒に居たい」

「はぁー......それなら、レナがご飯食べ終わるまでなら居てもいいわよ。その後は、自分の部屋で遊んでいなさい。

 さ、レナ。おかゆを持ってきたわよ」

 

 そう言って、お姉様がおかゆとスプーンを渡してきた。

 地味に熱いし、テーブルとか何か置けるものが欲しかったけど......まぁ、持ってきてくれただけでも有難いよね。

 

「ありがとうございます。......ふー、ふー......熱っ」

 

 いつもならこれくらい熱くないのに......風邪を引いたからかな? まぁ、美味しいからいっか。

 

「ゆっくり食べていいわよ。少しくらい居ても、そう簡単に風邪は移らないと思うし」

「......そう言えば、レミリアお姉様。咲夜は?」

「咲夜はここに来ないように言っといたわ。あの娘は人間だし、吸血鬼でもかかる風邪が人間にでも移ったとしたら......」

「あぁ、うん。なるほどね。でも、咲夜よりもパチュリーの方が危ない気がするけどね」

「......確かにそれもそうね。パチェにここに来ないようにだけ言ってくるから、貴方達はレナに迷惑かけないように待ってて」

「え、今の私じゃこの娘達が暴れたら......って、出るの早い.....,」

 

 お姉様は私の話が言い終わる前に出ていってしまった。

 もしも、フランとルナが暴れたら......うぅ、想像したら、頭が痛くなってきた......。

 いやまぁ、流石に大丈夫だよね? そこまで子供じゃないよね?

 

「......オネー様。食べさせてあげる」

「え、遠慮します。と言うか、近付いたら移ってしまいますよ?」

「大丈夫。そんなに簡単に移らないよ。多分。

 それに、オネー様に移されるなら、別にいい」

「何がいいのか全く分かりません。フラン、ルナを止めて下さい。......もうこれ以上は頭が......」

 

 あまり喋っていると、咳が出るし、頭を少しでも使うと頭が痛くなるし......妹とちゃんと話せなくなるとか、風邪って嫌だなぁ。

 

「あ、うん。ルナ、今日はやめとこ。お姉様、本当にしんどそうだし、いつもみたいな無茶は出来ないみたいだから」

「はーい......。お姉様、早く元気になってね」

「......はい、もちろんです。早く元気になりますね」

「じゃ、そう言うことで、お姉様。私が食べさせてあげる」

「あ、フラン! 抜け駆けダメ! 私が食べさせてあげるの!」

「えー、私がやるのー。......あ、お姉様は私かルナ、どっちがいい?」

「え......」

 

 これってどう足掻いても最悪な結果になる選択なんじゃ......。い、いや、どっちも断れば......いや、どうせ諦めないから無理か。

 それなら、他の選択肢を......あ、そうだ。

 

「......あ、交互でいいんじゃないでしょうか?」

「......ま、それもそうだね。じゃ、ルナからでいいよ」

「ん、ありがと。じゃ、オネー様。あーん」

「え、そんな子供みたいに......はぁー、あーん」

 

 そう言って、先ずはルナに食べさせてもらった。

 うん、味は変わらないはずなのに、さっきよりも美味しい。

 

「どう? 美味しい?」

「はい、美味しいですよ。さ、次はフランですよ」

「うん! じゃ、ルナ、貸して貸して」

「ん、はい、どうぞ」

「ありがと。じゃ、先ずは冷ましてあげるね。ふー、ふー......」

「そこまでしなくても......いえ、ありがとうございます」

 

 折角の好意を断るのも失礼だし、ここはフランに甘えますか。

 

「ふふ、お姉様も素直になってくれてありがとね。じゃ、口開けて」

「はい。あーん......」

 

 そうして、フランにも食べさせてもらった。

 やっぱり、美味しい。......どうしてなのかな?

 

「入るわよー......あら、お邪魔だったかしら?」

「あ、お姉様。いえ、お邪魔ではありませんよ。それにしても、早かったですね」

「まぁね。偶然、廊下で会ったのよ。パチェもお見舞いに来ようとしてたみたいよ。......あ、それと、パチェから溶けない氷を貰っわ。

 パチェが、これで冷やしなさい、って」

 

 お姉様にそう言われ、その氷を受け取った。

 うん、少し冷たすぎる気がする。まぁ、無いよりはマシだよね。

 

「ありがとうございます。......お姉様も食べさせてくれませんか?」

「え? ......まぁ、貴女がそれでもいいなら。フランとルナもそれでいいかしら?」

「ま、お姉様が言ってるならいいけど......私達にも言って欲しかったなぁー」

「うっ、すいません......」

「ふふ、冗談だよ、冗談。お姉様がレミリアお姉様大好きなのは知ってるしねー」

「え!?」

 

 その言葉を言われた途端、自分の顔が耳まで真っ赤になるのを感じた。

 い、いやまぁ、姉妹として好きって意味だよね? 家族愛とかの意味だよね?

 

「え? レナ、どうしたの? また赤くなってるけど......早く食べて寝た方がいいかしら。じゃ、早速。

 ふー、ふー......はい、あーん、ってして」

「え、あ......あーん......。あ、美味しいです......」

「そう? 良かったわ。咲夜もそれを知ったら喜んでくれると思うわよ」

「......レミリアお姉様って鈍感。これなら、私がお姉様を......」

「フラン、抜け駆け、ダメ」

「はいはい。ルナもお姉様達好きだもんねー」

 

 こんなことがあり、私が初めて風邪を引いた日が終わった。

 

 この風邪は一週間くらい続いたが、毎日のようにフランとルナが来て、お姉様が看病してくれた────




最近、モチベが下がってきた気がするから、他の小説書いてみたりしている(なお、こちらもGL、吸血鬼タグがある模様())

次回は日曜日。次回の妖々夢EX編を終えると、次章に行く予定です


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12、「『春雪異変』EX前編 異変後 幽霊が集まる神社にて」

特にあまり進まない回()
次回で5章が終わり、6章に行く予定です。


 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社

 

 冬があけ、ようやく春がきてから数日がたったある日。

 桜も満開から狂い咲きへと変化しようとしていた。

 そして、神社で毎日のように花見をしていた私達も、徐々に新鮮味が薄れてきた花見に飽き、いつもの日常へと戻ってきた頃だった。

 

「......花見はいいけどね」

「いいけど?」

「最近、亡霊が増えた」

「もう、花見も幽霊見も飽きたぜ」

 

 最近、よく亡霊やそのお嬢さまが神社に来るようになった。

 いや、それだけならまだいい。この亡霊のお嬢さま、うちにある物を何でも食べてしまうから余計に腹立たしい。

 

「みんな、久々の顕界で、浮かれてるのよ。たまにしか出来ない観光だわ」

「良かったな、この神社にも参拝客が来て。それも大勢」

「でも、誰もお賽銭を入れていかないわ」

 

 せめて、神社に来るなら賽銭くらい入れて欲しいわ。それなら、少しくらいは考えてあげてもいいのに。考えるだけだけど。

 

「幽霊は、誰も神の力なんて信じていないって。神社なんかを巡るのは学生霊の修学旅行かなんかよね」

「やっぱり、祓おうかなぁ」

 

 人が滅多に訪れない私の神社は、いつの間にか霊たちの観光スポットとなっていたのだ。

 

「こんな所にいた。亡霊の姫」

 

 そのとき、場違いな格好をした一人の人間が神社を訪れたのだ。

 その人間は、俗に言うメイド服という服を着た悪魔の従者、十六夜咲夜だった。

 

「私? メイド風情がこんな所まで何の用?」

「こんな幽霊だらけの神社に人間とは、場違いだぜ」

「こんなとは失礼ね!」

「あなたが、ひょんな所でのん気に花見してるうちに、巷は冥界から溢れた幽霊でいっぱいだわ。

 何を間違えたか家の近くまで来ていたから、あなたに文句を言うために探したのよ。

 うちには、病み上がりの妹様がいるから、あまり騒がしいのはご遠慮したいのよね」

「へぇー、最近行っても見ないと思ったら、そういうわけか。吸血鬼でも病気にかかることがあるんだな」

「病気と言ってもただの風邪よ。一週間も引いてたけど......」

「......あらあら、それは大変ね。でも、安心しなさい。私だって、ただひょんな所でお茶を濁しているだけじゃないわ。

 もうすでに、冥府の結界の修復は頼んであるわ」

 

 なんだか......今の間が気になるわね。まぁ、私には関係なさそうだからいいけど。

 

「ならなんで、ひょんな所でのんびりしてるんだ? 帰れなくなるぜ?」 

「ひょんなって何よ」

「幽々子様! またみょんな所に居て......それより大変です」

 

 そして、また一人、亡霊姫をたずねてくる者がいた。......いや、一人ではなく、二分の一人の方が正しいか。

 その二分の一人とは、この亡霊のお嬢さまの従者、魂魄妖夢だった。

 それにしても、ここは従者やお嬢さまがよく来るわね。お嬢さまならせめて、賽銭くらい入れて欲しいわ。

 

「あなた、さっきの私達の会話聞いてたみたいね」

「え? と、とにかく、あの方に結界の修復を頼んだのに、まだ寝ているみたいなんですよ」 

「あぁー......あいつは、冬は寝るからなぁ。でも、もうとっくに春になってる気がするけど」

「春になったのは、地上ではまだ最近です」

「あんたらの所為でな」

「じきに起きて来るわ。毎年の事じゃない」

「遅れる分にはいいんですけどね」

「あんまり良くない!」

 

 妖夢のその言葉に、思わず三人とも声が出てしまった。

 ほんと、誰のせいでこんなことになったか分かってないのかしら。

 

「ただ、代わりに変な奴が冥界に来ているんです。あの方の、何でしたっけ? 手下? 使い魔?

 そんな様な奴が、好き勝手暴れてるんですよ」

「そんなん、その刀ですぱっとしちゃえば?」

「まさか、滅相もございません。

 幽々子様の友人の使いだと言う方を、斬るなんて出来ないですから」

 

 ん、これは......こいつらに恩を売るチャンスなんじゃない?

 

「......なら、私が懲らしめてあげようか?」

「なら、私がすぱっと」

「すぱっと」

「そうねぇ......それなら、任しておきましょう」

「え、良いんですか? 友人の使いですよ?」

「友人の使いは友人ではないわ」

 

 あら、みんなも行くのかしら? それなら、私は別に行かなくてもいいわね。

 よく考えると、恩なんて売っても仕方ないよね。

 

「みんなが冥界に行ってくれるなら、私は行かなくてもいいわね」

「何言ってるのよ、私も忙しいの。妹様が風邪を引いてたのよ?」

「まぁ、私はかまわないけど、みんなの代わりに行く気は無いぜ。

 ここは一つ、ジャンケンで決めるってのはどうだ?」

「ありきたりね」

「ありきたりだわ」

 

 まぁ、それが一番妥当だけど。公平だしね。

 

「ジャンケンで、後出しをしなかった奴が行く」

「それでいいわ」

「いいわよ」

「ジャ~ンケ~ン......ほい!」

「げっ......」

「おっ、霊夢の負けだな。珍しいな。お前がジャンケンで負けるなんて。

 まぁ、勝負は勝負だからな。後は任したぜ」

「そうね。幽霊のことは任せるわ。私は館に戻っているから」

 

 こいつら......でも、はぁー、仕方ないわね。

 

「分かったわよ。私が行くわ。......で、あんたらはどうするわけ?」

「え? 私達? ......どうします? 幽々子様」

「もちろん、終わるまでここに居るわよ〜」

「いやいや、帰りなさいよ」

「そうね、気が向いたらそうするわ」

「今すぐ帰りなさい」

 

 こうして、私は、薄くなった冥界との境を行き来し、何故か冥界の秩序を保つ羽目になっていたのだ。

 私が出かけている間も、亡霊の姫はここの神社に居たり、いなかったりと、好きな様に生活しているらしい────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──博麗神社

 

 風邪が治り、フランとルナにバレないように、いらないであろう風邪が治ったという報告と暇つぶしのために博麗神社に向かっていた時のことであった。

 

「フランもルナも酷いです。まだ寝てろなんて......もう治ったのに......。ん、なんでしょう、この寒気は......あ、まさか」

 

 そんなことをボヤいていると、神社から寒気を感じた。

 この寒気は前にも感じたことがある。冥界に行った時、あの亡霊の姫に会った時と同じ寒気だ。

 そう思った私は、とっさに近くの草むらに隠れて、神社の様子を見てみた。

 正直に言うと、あの人は苦手だ。何故かは説明できないけど、苦手な人だと直感で感じた。

 

「皆さん、行っちゃいましたね」

「えぇ、そうね。まぁ、二人ほど家に帰ったみたいだけど。

 あぁ、それと妖夢。使い魔じゃなくて、式神よ。似たようなもんだけどね」

 

 様子を伺っていると、そこには幽々子と半人半霊の庭師である妖夢が縁側に座り、お茶を飲んでいた。

 話の内容からして、霊夢達は異変の後片付けに向かったみたいだね。

 

「......幽々子様はなんでほったらかしにしてるんですか?」

「あら、庭の掃除は誰かに任せっきりですけど」

「みょん」

 

 んー、霊夢達がいないなら、ここに居ても意味がないか。よし、帰るか。見つかる前に──

 

「あら、何処に行くのかしら?」

「え、ひぇっ!? い、いつからそこに!?」

「って、幽々子様? 一体何処に......」

 

 いつの間にか、幽々子が私の背後に居た。音もなく、気配も感じなかった。

 もしかして、幽々子が苦手なのは、幽霊だからかな......。私、幽霊にいい思い出なんてないし......。

 

「今から。それで? 何処に行くつもりだったのかしら? 今来たばかりでしょうに」

「えっと......霊夢に用があったのですが、居なかったので、帰ろうと......」

「あらあら、それは残念ね。でも、伝言くらいは伝えてあげるわよ」

「え、あ、有難うございます......。でも、また来るので大丈夫ですよ、えぇ、だから別に──」

「遠慮しなくてもいいのよ〜。あれでしょ? 風邪が治ったけど、姉妹にまだ心配されて、寝てろなんて言われて暇だったから隠れてここまで来たんでしょ〜」

 

 え、何この人怖い。どうして知ってるの? 頭の中でも見られた? い、いや、覚じゃないからそれは大丈夫だよね、うん。

 って、だとしたら、余計に怖いんだけど......。何この幽霊めちゃくちゃ怖い......。

 

「あらあら、適当に言ったのに図星だったの? 安心しなさい。今言ったことには特に意味はないから」

「要するに、今言ったこと以外には意味が......」

「あ、幽々子様。そちらに......あ、貴女は......」

 

 幽々子と話している間に、ようやく幽々子の場所が分かった妖夢がやってきた。

 

「あ、お久しぶりです。妖夢さん」

「お久しぶりです。って、どうしてこちらに?」

「妖夢、それはもう聞いたわよ。もっと面白味がある質問をしなさい」

「え、そ、それなら......妹さん達は?」

「それも普通過ぎて面白くないわねぇ」

「えぇ!? い、一体どういう質問をすれば......」

 

 あぁ、うん、妖夢さん、頑張って。幽々子相手だと色々と大変だろうけど......心を強く持ってね。

 まぁ、私はできる限り関わりたくないから、手伝ったりはしないけど。

 

「ふふ、冗談よ、冗談。でも、さっきの質問で答えが出てるのよね。だから、それももう聞いたわ」

「え、そ、そんなぁ......」

「......妖夢、色々と、頑張ってください」

「え、あ、有難うございます」

「うふふ、さて、妖夢いじりも終わったし、もう帰ってもいいわよ。充分楽しめたから」

「え、幽々子様!? いじって楽しんでたなんて......」

 

 本当に可哀想に見えてきた......けど、幽々子に許可貰ったし、帰るか。うん、今すぐにでも。

 

「では、私は帰りますね。またお会いしましょう」

「あらあら、心にもないことを......。でも、また会うことになりそうね。貴女......いえ、貴方達には、ね」

「え、幽々子様? 物凄く悪い顔に......」

「そ、それはどういう意味なのです?」

「秘密ですわ。......大丈夫、すぐに分かることよ。貴方達、吸血鬼にとって数年の出来事なんてあっという間に過ぎるでしょうから」

「そ、そうですか......」

 

 こうして、私は幽々子の意味深な発言が気になったものの、すぐに館へと帰っていった。

 ちなみに、フランとルナにはすぐにバレて、かなり怒られたのであった────




次回はテストとかあって金曜日の予定です()


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13、「『春雪異変』EX後編 猫と狐とBB(ピチューン)」

お待たせしました。無事、テストが終わったrickです()
今回は5章最後の話です。次回から6章

の前に、いつの間にか、お気に入り登録者数200突破、総合評価300突破したので、久しぶりの番外編と日常編があります()
まぁ、この話は後書きで......というわけで、13話、始まりまする。


 side Hakurei Reimu

 

 ──冥界

 

「うぅ、寒いわね......。いえ、寒気がする、かしら?」

 

 じゃんけんに負けたせいで、私は二度目の冥界探索へとやってきてしまった。

 冥界はすでに春になったらしいけど、幽霊とかが居るだけで寒気がする。

 これじゃあ、今の幻想郷と変わらないじゃない。

 

「あ、見つけたわ! ここで遭ったが百年目。今日は憑きたてのほやほやだよ!」

「どの辺がほやほや?」

 

 冥界に入ってからしばらく飛んでいると、どこかで見たことがある猫が飛んできた。

 確か、日用品を貰った時にいた猫のような......まぁ、どうでもいいわね。

 取り敢えず、温まるためにも、体を動かすついでに倒しちゃいましょうか。

 そんなことを考えながら、私は弾幕を放ち始めた──

 

 

 

 ──数分後 冥界

 

「うん、ちょっとはマシになったわね」

 

 弾幕を撃たずに、温まるために弾幕ごっこをしてみた。

 相手との力差もあったせいか、意外と上手く出来るものだ。

 敵は倒せたし、体もあったまったし、一石二鳥とは、こういう時にも使えるのね。

 

「それにしても、あの猫、どうしてこんな場所に居たのかしら?

 前に見た時は、妖怪の山にあった迷い家に居たはずなのに......」

 

 こいつの使い手が元凶なのかしら? それとも、偶然ここに居ただけ?

 

「まぁ、どっちでもいいけど、あの世くんだりまでやってきて、目標が居なかったら退屈だわ」

「おお? これは珍しい。こういう人間もこんな所にいるんだ」

 

 猫を倒した後、時間もそこまで経たないうちに次の妖怪が飛んできた。

 容姿は、金髪のショートボブに金色の瞳を持ち、その頭には角のように二本の尖がりを持つ帽子を被っている。

 さらに、腰からは金色の狐の尾が九つ、扇状に伸びている。

 服装は長袖ロングスカートの服に青い前掛けのような服を被せた、どっかの門番と出身が同じような服だ。

 この妖力、この尻尾とあからさまな帽子の尖がり......九尾の狐かしら。はぁー、面倒臭い相手ね。

 

「こういうって何よ」

「見ての通り、赤かったり白かったりで目出度い人間」

 

 む、なんだか癪に障る奴ね。

 力の強い妖怪ってこういう奴が多いのかしら? いや、妖怪だからか。

 

「......猫の次は狐。いつからここは畜生界になったんでしょ」

「あ、お前が橙に酷い目に遭わせた人間だな」

 

 あら、唐突に聞いてくるわね。まぁ、こういう時は知らない振りをするのが一番ね。

 

「そうだっけ?」

「橙は私の式神。今は回復して、もっと強くなっているわ」

「......強かったっけ? って、あんたの式神? あんたが式神じゃないの?」

「私も式神。ご主人様はまだお休みですわ」

 

 まさか、九尾の狐が式神ですって? 九尾の狐を使役する使い手......只者じゃなさそうね。

 はぁー、嬉しくない誤算だわ。でも、目的はこいつに変わりないんだし、別に関係ないか。

 

「やっぱり、あんたが目標ね」

「何か用?」

「それはもちろん、冥界と顕界の境を修復......って、よく考えたら直接用があるのは、あんたの使い手のような気もしてきた」

「ご主人様は冬眠中ですが」

「起こして」

「私は護衛でもあるわ。私の式神に酷い目を負わすような人を、ご主人様に会わせる訳がない。

 ここは、今度は強くなった橙にやられるがいいわ」

 

 あ、これは正直に言った方がいいかしら? ......まぁ、このまま黙っていても、どうせバレるだろうし......言っちゃうか。

 

「あぁ、猫なら、さっき遭ったけど......」

「なんだって? それでどうなったのよ」

「特に何も無かったかの様だったわ。強いて言うなら、体が温まってよかった」

「......まぁ、橙は病み上がりだから」

 

 この式神......とんだ親バカね。いや、式神バカ? まぁ、どっちでもいいか。

 あれね、強い奴は大体身内が可愛い過ぎるものなのね。どっかの吸血鬼達と同じように。

 

「さっきは、回復したっていってた癖に」

「ふむ、ここは、私が橙の仇を取らなきゃいけないみたいね」

「さすがに、式神を倒せば使い手も冬眠から目覚めるかしら」

「ご主人様は、春眠も暁を覚えずよ」

「まあ、取りあえずは目の前の障害から」

「私は橙とは桁が違くてよ、色々と」

 

 

 まぁ、確かに色々と桁が違うみたいだわ。......色々と。

 そんなことを考えているうちに、九尾の狐から弾幕が放たれた──

 

 

 

 ──約一時間後 博麗神社

 

「あぁー、疲れたー」

「あら、思ったよりも早かったわね〜」

 

 結局、あの九尾の狐を倒しても、使い手である狐の主人は出てこなかった。

 なので、勝者の特権ということで、また夜に来るからそれまでにご主人様を呼ぶ、ということを約束させた。

 

「お帰りなさい。食事の用意が出来ましたよ」

「......は?」

「......あ、最後の文は幽々子様に対して言ったことなので、霊夢は気にしなくても──」

「気にするわよ! 何勝手に人の家の物でご飯なんて作ってるのかしらね!?」

 

 この半人半霊め......唯でさえお金や食料が少ないっていうのに......!

 とか思いながら、妖夢の頭をグリグリとした。

 

「い、痛い! 痛いからやめ、止めて! ゆ、ゆるイタタタタ!」

「許すわけないでしょ! 人の家のを勝手に使いやがって!」

「もぉー、妖夢ったら。あれほど怒られるから止めときなさいと......」

「幽々子様が何とかするからやれって! い、イタタタタ!」

「ついでだから、主人の分も貴女が受けなさい!」

「なんで!? あ、イタタタタ!」

「......ふー、気がすんだわ」

 

 しばらくの間、妖夢の頭をグリグリし続けた結果、妖夢が痛そうにして頭を押さえながら、隅で項垂れることになった。

 

「うぅ......幽々子さまぁ......」

「あら、そんなに痛かったの? 霊夢、次からはもう少し力を抑えなさい」

「もうしないで下さいよ!?」

「あぁ、分かった分かった。次からはこうなる前に止めなさい。貴女が」

「うっ、味方がいない......」

 

 ......ちょっとやり過ぎたかもしれないわね。まぁ、それはそうとして、今帰ってきてよかったわ。

 食料は......まぁ、こいつらに買わせばいっか。

 

「......で、どうして貴女は帰ってきたのかしら? もう倒したの?」

「いえ、まだよ。っていうか、貴女。九尾の狐が暴れ回ってるなんて聞いてなかったんだけど?」

「まぁ、言ってなかったから」

「あぁ、そうね。言ってなかったわね。......で、あの狐の主人のことは教えてくれないの?」

「そうねぇ......ま、秘密ってことで」

「まぁ、そう言うとは思ってたけど!」

 

 思ってても、実際に言われると腹立つわね。

 取り敢えず、夜まで待つしかないから......。

 

「妖夢。ついでに私の晩ご飯も作りなさい。あ、拒否権はないから」

「えぇ!? ゆ、幽々子さまぁ!」

「まぁ、仕方ないわよね。じゃ、頑張ってね〜」

「ど、どうして私ばっかりぃ......」

 

 こうして、私は妖夢の料理を食べ、この異変、最後の決戦へと向かうのであった──

 

 

 ──数時間後 冥界

 

「さて、さっき会った場所はもうすぐね......」

 

 十日前までは、一日のうちに二度も冥界に行くなんて思わなかったでしょうね。

 でも、それも今日だけ。これ以上、冥界に行くこともないだろうから、本気で元凶を倒しに行くとしましょうか。

 あ、丁度いいわね、あの狐が見えてきたわ。

 

「お待たせ」

「また来たの? 今日はもう疲れたし、そろそろ寝ようと思っていたのに」

「約束通り、夜に来たわ」

 

 こうして、おそらく式神の中でも最強クラスの妖怪との弾幕ごっこが始まった──

 

 

 

 ──数分後 冥界

 

「ふぅー......やっぱり、狐は強いわね。あんなのを使役してるなんて、一体どれだけ......」

 

 ふと、背後から寒気がした。今まで感じたことがないような寒気。

 幽々子やその他の幽霊とはまた違った寒気......元凶か。

 

「......そろそろ、本命が出てきてもいい頃だわ。こんなにも闇が深いし」

「出てきましょうか?」

 

 やはり、背後から声が聞こえてきた。

 気配なんて、つい先ほどの寒気を感じるまで全く感じなかった。

 やっぱり、元凶か。

 

「ほら、出てきました」

「あ、丁度いいところに出てきた」

 

 背後に現れた者は、姿は人間と全く変わらないが、人間でないことがその妖力によって分かった。

 容姿は髪先をいくつか束にしてリボンで結んでいる金髪のロング。瞳は紫色だ。

 服装は紫にフリルの付いたドレスを着ている。

 この妖力に、この気配......只者ではないことが容易に理解出来た。

 

「あなたが、私の藍を倒した人間ね。あなたみたいな物騒な人間が居たら、おちおち寝ても居られないの」

「全然、起きてこなかったじゃない」

「今は起きているの。そんなことより、あなた......」

「はい?」

「博麗神社のおめでたい人じゃないかしら」

 

 やっぱり、強い妖怪って言うのは、こういう奴が多いのね。まぁ、それでも厄介にならなければいい奴もいるんだけど。

 厄介ごとを持ち込むのは強い妖怪ばかりっていうのが......。

 

「前半はそうで、後半はそうじゃない」

「あ、そうそう。博麗の結界は、北東側が薄くなっているわ。あのままだと、破れてしまうかも知れない」

「あらそう、それは危険だわ。わざわざ有難うございます」

「いえいえ、私が穴を空けてみただけです」

「って、引き直しておきなさい! 所詮、妖怪は妖怪。妖怪の始末も後始末も、人間がやることになるのね」

 

 やっぱり、前言撤回。妖怪は厄介しか持ち込まないわ。

 

「あら、あなたは気がついていない?」

「え? 何が?」

「今、ここ白玉楼の私の周りは妖怪と人間の境界が薄くなっていることに。

 ここまで来た時点で、人間の境界を越していることに」

「いいから、その境界も引き直してもらうわ。元々、目的はあんたに冥界の境界を引き直させること。

 そこに来て、一つや二つ結界が増えても変らないでしょ?」

「一つや二つ......結界は、そんなに少ないと思って?」

 

 そう言って、目の前の妖怪が妖力を垂れ流し始めた。

 やっぱり、やるしかないわよね。

 そんなことを考えているうちに、弾幕ごっこは始まったのであった────




で、日常編と番外編、6章1話(本編)について......うん、多いねぇ( ´ ω ` )
明日(土曜日)に番外編を、日曜日に本編を、日常編は水曜日辺りに投稿します。
なお、新規投稿予定の小説も日曜日に投稿予定なので、日曜日はこの作品以外にも......。
まぁ、取り敢えず頑張ります。

ではまぁ、お気に入り登録者の皆様、閲覧者の皆様。読んでくださり、有難うございますm(_ _)m
これからも頑張りたいと思います!


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番外編13.5、「春の宴会」

さて、お気に入り者数が300突破記念の小説です。
今までなかなか書けなかった設定が入ってたりする。


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「レナー! まだなのー? 早く支度しなさーい」

「あ、もう少しお待ちをー!」

 

 今、私は博麗神社に行くために準備をしている。と言っても、慌てて服を着替えてるだけなんだけど。

 何故こうなってるかを一言で説明すると、魔理沙が博麗神社で宴会あると言いに来た。そして、お姉様がどうせならみんなで行こう、と言って早めに寝ていた私達を起こしたのだ。......あ、二言になったけど、まぁ、そういうことだ。

 

「もぅ、急に起こしたのに、早く支度しろ、だなんてレミリアお姉様も酷いよねぇ」

「まぁまぁ、お姉様も悪気がある訳では無いですし、逆に善意の行動なんですし......」

「ま、それもそうだけどさ。......っていうか、お姉様は自分の服着ないの?

 ルナは無いからいいとして、お姉様は自分の服あるでしょ?」

「え、だって、自分の部屋まで取りに行くのも面倒臭いですし、魔法を使うとしても、魔力使うので結果的に変わらないので」

 

 と言うか、今更な気がするけどね。一週間に四、五回はお姉様かフランの服を着ているし。

 それに、自分の服はほとんどミアに貸してるしね。まぁ、ミアもお姉様かフランの服をよく着ているけど。

 

「そ、なら別にいいよ。でも、汚さないでよね? いつも咲夜が洗ってくれるから、あまり気にしなくてもいいとは思うけど......」

「......オネー様がフランの服借りてるなら、私はオネー様の服欲しい」

「ルナ、やめといた方がいいよ? お姉様の服、黒しかないから。意味分からないほど黒しかないから」

「他の色もありますからね!? ただ、黒が異常なほど多いだけで......」

 

 本当にどうして黒が多いのか分からない。別に好きっていうわけじゃないのに、私の服は黒色がかなり多い。

 いやまぁ、赤よりはマシだけどね。髪も翼も赤いのに、服まで赤は嫌だし。

 

「それでも、欲しい」

「着たいのではなく、欲しいというのに疑問がありますが、また今度、ミアに貰いに行きましょうか。

 それよりも今は、早く支度しないと、お姉様に怒られますし」

「うん、分かった」

 

 とまぁ、そういうわけで、私達は宴会の舞台、博麗神社に行くために準備を進めていたのであった──

 

 

 

 ──夜中 博麗神社

 

「よぉー、ようやく来たか」

「あ、魔理沙。呼んでくれてありがとね」

 

 数十分程かけて、私達は博麗神社へとやって来た。

 なお、美鈴は寝ていたので、咲夜にお留守と言われていた。いやまぁ、美鈴お留守なのはいつものことなんだけどね。

 

「あぁ、いいぜ。お前達も来たがってただろ? いや、私が呼びたかっただけか」

「ん、そうなの?」

「そうだぜ。宴会は多い方がいいからな」

 

 確かに、見渡す限り、結構な数がいる。まぁ、いつもと比べての話だけど。

 

「まぁ、取り敢えず......今宵はお招きいただき有難うございます」

「あぁ、そんな堅苦しいのは別にいいぜ? 宴会ってのは楽しむものだからな」

「別に、貴女に言ったつもりはないわよ? 私は霊夢に言ったの」

「ああ、そうかい。あ、今の植物の名前だぜ。亜阿相界」

「へぇー、そんな植物があるの?」

「あぁ、あるぜ。お前達の図書館の本にも載ってると思うから、見とくといいぜ」

 

 それにしても、人間の数が少ないね。神社の宴会なのに。見たところ、霊夢と魔理沙と咲夜しかいないみたい。

 

「ちょっと、どうして呼んでもいないのに、こんな数が来るのよ......。しかも、全員妖怪だし......」

「あぁ、私が呼んだからな」

「......はぁー、怒る気力もないわ。咲夜、ついでに料理作るの手伝いなさい。奥で妖夢にも手伝ってもらってるから」

「まぁ、いいわよ。お嬢様。お嬢様もそれでよろしいでしょうか?」

「えぇ、いいわよ。呼んでもらった恩もあるし、手伝ってきなさい」

「私は呼んでないんだけど?」

「私が呼んだからな。仕方ないな」

 

 こうして、宴会が始まった。

 私達以外の他の参加者は、今まで霊夢と魔理沙が異変を解決していた時に倒された人達ばかりだ。

 それ以外にも、気になって来たのか妖精が多い。

 

「じゃぁ、私達も飲みましょうか」

「えぇ、そうね。こあ、持ってきたワインを」

「はいはーい。あ、お嬢様もいれましょうか?」

「えぇ、お願いするわ。あ、こあ。レナ達にもいれてあげて」

 

 そう言って、お姉様が私達にも、持ってきたグラスを手渡した。

 

「はーい。ささ、妹様達もどぞどぞ」

「あ、ありがと。じゃ、カンパーイ!」

「こういう時に言うものだったかしら......まぁ、いいわ。乾杯」

 

 こうして、私達、紅魔館組も飲み始めた。

 違う場所では、幽々子と紫、その式神達が一緒に飲んでいたり、アリスと魔理沙が二人で飲んでいたりしている。

 

「じゃ、お姉様。どんどん飲んじゃおうねー」

「え、え? そんなにいれられても......」

「レナ、ここはフランの言う通りにして、飲もっ?」

「え、ミアまで......何か企んでいるのですか?」

「え? 何も?」

「私、知らない」

 

 うん、あからさま過ぎないかな? 絶対よからぬ事を考えてるに──

 

「あ、手が滑ったー」

「え? あっ、ムゴッ!?」

「え、レナ!?」

 

 突然、フランがそう言って無理矢理私にワインを飲ませてきた。

 そして、その後何が起きたかは、何も覚えていなかった────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──博麗神社

 

「ゴクゴクッ......ぷはっ!」

 

 特に何も特別なことが起きずに終わるかと思われていた宴会はフランとミアによって変えられた。

 突然、フランとミアがレナにかなりの量のワインを飲ませたのだ。

 

「......うん、やっぱり早いね。流石レナ。期待を裏切らないね」

「ちょ、ちょっと、レナ!? 大丈夫!? 貴方達! 何をして──」

「......おねぇさまぁ! フラン達がいじめるー!」

「え? あ、ちょ、ちょっと!」

 

 レナは、顔を真っ赤にして私に泣きついてきた。

 それにしても、よくあれだけワインを飲まされて無事に......いえ、明らかにおかしいから無事ではないわね。

 

「グスッ、おねぇさまぁ......。フランが、フランが......うぅ、うわ〜ん!」

「え、え!? ちょっと!?」

「レナって泣き上戸なのね。じゃぁ、私も泣き上戸なのかな?」

「私は酔いにくいから別にねぇ」

「あらあら、レミィも大変ね」

「ちょっと!? パチェ、レナはどうしちゃったの!?」

 

 いつもなら、こんなことで泣くはずないレナが泣き出した。

 それに、私から全く離れようとしない。

 

「それはもちろん、酔ったのよ」

「お姉様、私よりもお酒に弱いからねぇ。ま、泣き上戸になるのは予想外だったけど。私は積極的になるのを期待してた」

「私は面白ければ何でもよかった。反省はしてないし後悔もしてない」

「貴方達!? 特にミア! 貴女はねぇ!?」

「おねぇさまぁ......慰めて......?」

 

 レナが半分泣きながら、上目遣いでそう言ってきた。

 あれ、何か......心臓がドクンって......あれ、何この娘超可愛い。

 

「......あ、えぇ、よしよし、可哀想にね......」

「グスッ......えへへ、おねえさまぁ......」

「......やっといてアレだけど、なんだか羨ましいわ」

「おねぇさま好きー。ふりゃんのバカー」

「お姉様、噛んでるよ。っていうか、もう色々とおかしくなってない?」

「貴方達のせいだけどね!?」

「あれね。幼児退行ってやつね。まぁ、貴方達の見た目からして、中身と外が一致しただけにも......」

「貴女も地味に失礼ね!? 取り敢えず、貴方達の得意な魔法でどうにかならないの? 視線を感じて辛いんだけど......」

 

 レナが泣いていたせいもあり、周りからの視線を感じて恥ずかしいし辛い。

 まぁ、未だにレナが私に抱きついているせいもあるんだろうけど。......まぁ、それは可愛いから良しとしましょうか。

 

「無理ね。そんな魔法知らないわ。知ってたとしても、面白いからしないわ」

「そう、なら仕方......って、えぇ!? 貴女もなかなか酷いわね!?」

「うーん、私もお姉ちゃんの役に立てる魔法は知らないかな〜。

 って言うか、私もワイン飲んで同じようにお姉ちゃんに抱きついて、同じようによしよしってされたい」

「するのはいいけど、今は視線が辛いから嫌だわ。絶対私、変な目で見られてるわ」

「大丈夫よ。元から変な目で見られているから」

「そう、ってそれはどういうことよ!?」

「おねぇさまぁ、もっとよしよしー」

「あぁ、はいはい。よしよし。......ってこれ、この娘が後で見たら精神的に辛そうね」

 

 多分、レナが後で知ったら、恥ずかしくなって、部屋から出てこないようになる気も......まぁ、そこはフランとルナがいるから何とかなるかしら。

 

「んー、まぁ、大丈夫だと思うよ? レナって見た目よりも精神的には強い......と思わせて、実は強くないから一週間は出てこないかもね」

「ダメじゃないの! はぁー、そうなった時は、ミア、フラン。貴方達が何とかしなさいよ。

 って、ルナ? さっきから全然喋ってないけど、どうしたの?」

「んー......ひっく、何でもないよ〜......ひっく」

「あぁ、これはダメね。酔ってるわ。やっぱり、私達も弱いみたい」

「まぁ、静かな分まだいいわよ」

「おねぇさまぁ、うるさいの、いや?」

「いえ、別に嫌ではないわよ。だから、安心しなさい」

「お嬢様、お待たせしました。......えーっと、大丈夫ですか?」

 

 いつの間にか、咲夜が料理を片手に戻ってきていた。

 これ......食べれるかしら? まぁ、ご飯は先に食べてきたし、私はそこまで食べないからいいけど。

 

「大丈夫よ。いえ、大丈夫ではないわね。視線とかが辛くて」

「いえ、微笑ましい光景でいいと思いますよ」

「......それにしては、さっきから紫辺りに笑われている気がして嫌なのよね」

「まぁ、微笑ましい......ですから」

「それ、違う気がするけど?」

 

 それにしても、食べにくいわね......。まぁ、たまにはこんな宴会もいいか。

 もう二度とレナにワインは飲ませないけど。

 こうして、私達の宴会は続いていくのであった────




ちなみに、これからもレナにお酒を飲ませる妹達の姿があったとか()


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6章「『3日おきの宴会』と『永い夜の異変』」
1、「姉妹二人の人里探索」


ただ、姉と一緒に人里を探索する回。
少しだけ、異変に関係している話が出ていたりもする。


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レナータの部屋)

 

 短い春が終わり、ジメジメとした大嫌いな梅雨の真っ最中のとある日。梅雨が明けたと勘違いするほど、暑い日のことだった。

 

「レナ? どうしたの?」

「暇です」

 

 私は、朝ご飯を食べてすぐに、お姉様を自分の部屋に呼び出した。

 

「私を部屋に呼び出しといて、開口一番がそれは困るんだけど?

 一体どうしたのよ。いつもなら、フランやルナと一緒に遊んでいるでしょ?」

「フランとルナは何処かに行っちゃいました。私を置いて......」

「......レナ、そんな悲しそうな顔をしないの。あの娘達も何か考えとかあるんじゃないかしら?」

「......はい、そうですよね。で、お姉様。たまには、二人だけで何処かに出かけませんか?」

「元の調子に戻るのが早すぎない? まぁ、それは置いておいて、今日は私も用事がないからいいわよ。何処に行きたいの?」

 

 よし! 久しぶりにお姉様とお出かけ出来る〜。

 ......それにしても、本当にフランとルナは何処に行ったんだろ?

 まぁ、あの二人はもう子供じゃないんだし、大丈夫だろうから別にいっか。

 それよりも、今日はお姉様とお出かけ〜。楽しみだなぁ〜。

 

「......あら、そんなに嬉しいの?」

「ふぁっ!? え、え? 声に出てました?」

「いえ、出てないわよ。まぁ、顔には出ていたけどね。それにしても、そんなに驚くなんて、何を考えていたのかしらねぇ?」

 

 お姉様が不敵な笑みで聞いてきた。

 やっぱり、お姉様のこういう時の顔ってフランに似ているよね。とても悪い顔にしかみえないや。

 

「い、いえ、何も悪いことは考えていませんよ? ただ......お姉様と一緒にお出かけするのが嬉しくて」

「......嘘は言っていないみたいね。まぁ、私も嬉しいから、その気持ちは分かるわ。

 で、何処に行きたいのかしら? 貴女が行きたい場所なら、何処にだって連れて行ってあげるわよ」

「いえ、お姉様は私が連れて行ってあげます。今日は晴れていますしね。それで、行きたい場所ですけど......人里に行きたいです」

「ふーん、人里に......って、貴女、正気?」

 

 うぅ、お姉様の目を見ると、本当にそう思っていると分かるから辛い......。

 確かに、妖怪が人里に行ってはいけないみたいな雰囲気はあるけど......案外行ってる人は多いから、別におかしくはないと思うんだけどなぁ。

 

「正気です。お姉様、私を何処にだって連れて行ってくれるのですよね?」

「うっ、確かにそう言ったけど、それは貴女が......まぁ、いいわ。本当は嫌だけど......貴女もフランやルナと一緒に行ったことがあるから、私にも行けないはずはないしね」

「それでこそお姉様です!」

「え、ちょっ、うわっ!?」

 

 そう言って不意にお姉様に飛び付くと、予期していなかったお姉様は、私の重みと驚きによって後ろへと倒れてしまった。

 

「あ、ごめんなさいです......」

「い、いえ、別にいいわよ。ちょっと驚いてしまっただけだから。......よし、それじゃぁ、準備が終わったら行きましょうか。

 というわけで、離してくれない?」

「嫌です」

「はぁー、どうして貴女は突然甘えん坊になるのよ......。まぁ、このままでもいいわ。部屋までの抜け道を作ってちょうだい」

「はい......出来ました。それでは、行きましょうか、お姉様」

 

 そう言って、私は抜け道を作り、お出かけのために、準備を始めたのであった──

 

 

 

 ──人里

 

「お姉様とお出かけ〜」

「......レナ、傘から出ないようにしなさいよ?」

「はーい」

 

 準備が終わった後、すぐに抜け道で人里まで飛んできた。

 いつも通り、私はフード付きの服で日光を防いでいて、お姉様はそれが嫌なのか日傘で日光を防いでいる。

 なので、私は無理を言って、お姉様の腕に抱き着き、一緒に入らせてもらっている。

 

「もぅ、本当に歩きにくいわ......」

「えへへー」

「......はぁー、まぁそれも、貴女が嬉しそうだからいいけど......」

 

 ほんと、お姉様は優しいからとっても大好き。

 もうこのまま、ずーっと一緒に居れればいいんだけど......まぁ、フランとルナと一緒に遊ばないと、あの娘達はいじけるだろうし、お姉様もずーっと暇ってわけじゃないからね......。

 

「それで? 何処のお店に行きたいの?」

「宝飾店でもあればいいのですけど......何があるか詳しくは知りませんし、適当に見て回りましょう」

「まぁ、それもいいかもね。それじゃぁ、行きましょうか」

 

 というわけで、私達は人里の中を見て回ることになった。

 

「......お姉様は何か欲しい物とかありませんか?」

「そうねぇ......私は、今の生活で充分だから、欲しい物とかは無いわね。今の幸せだけで充分だわ」

「あ、いえ、そう言う意味ではなく......。そうですね......」

「む、お前達は......翼が無いが、吸血鬼のところの姉妹じゃないか?」

「え? 貴女は?」

 

 お姉様と話していると、近くのお店から声が聞こえてきた。

 声がした方向を振り返ると、金色のショートボブに金色の瞳を持ち、角のような二本の尖がりを持つ帽子を被った女性が立っていた。

 九つの尻尾は無いが、この古代中国の人が着ているような服装からして、この女性は八雲藍だろう。

 尻尾が無いのは、ここが人里というのもあり、おそらく人間に化けているからだろう。

 

「八雲藍。紫様の式神だ。お前達とは、宴会で何度か会っているだろう?」

「え、えぇ、何度か会ってるわね......」

「確かに、何度か見てますね。って、お姉様? どうしてそんな嫌そうな顔になってるのです?」

「あぁ、それはお前が──」

「い、言わないであげて! 精神的には、かなり弱いから......」

「え、あ、あぁ。そういうことなら、言わないでおこう」

 

 精神的に弱い? まぁ、確かにお姉様はメンタル弱いしね。......でも、どうして二人とも、こっちを見ているんだろ?

 

「それよりも、貴女はどうしてここに居るの?」

「いやなに、主人と橙のための買い物をしていてな」

「ふーん、やっぱり、従者って大変なのね。......それにしても、何その量。主人と橙と貴女。三人にしては、多すぎない?」

「あ、いや、これは......」

「油揚げ。好きなのです?」

 

 そう聞くと、藍は少しだけ顔を赤くした。

 いやまぁ、油揚げ好きなのは別に恥ずかしいことじゃないと思うんだけどね。やっぱり、最強の妖怪が主人なんだし、プライドとかあるのかな? 分かんないけど。

 

「あ、あぁ......まぁな。それで、お前達はどうしてここに? 買い物にしても、お前達には従者が居るだろ?」

「えぇ、いるわよ。ただ、今日は二人でお出かけに来ただけよ」

「ほう、やはり、お前達は面白いのだな。......では、私は帰るのでな、失礼する」

「えぇ、また会いましょう」

「バイバイです」

 

 そう言って、私達は藍と別れ、また人里の探索へと戻った。

 

「......私達以外にも妖怪っているのね」

「まぁ、人里は買い物とかで皆さん来ますからね。お姉様もこれからは、たまにはここに遊びに行きません?」

「いえ、遠慮しておくわ。貴女やミアと一緒じゃないと、人間に化けれないもの」

「一緒に行きますよ?」

「今日はいないけど、フランやルナも付いてくることになるでしょ? 流石に、四人も傘に入れないわよ」

「傘に入るとは限りませんよ? 私は絶対にお姉様の傍から離れませんけど」

 

 例え、フランやルナに変わって欲しいと言われても、絶対に変わりたくない。

 お姉様が大好きだし。フランやルナに渡したくない。

 

「貴女が離れないと、あの娘達も離れないに決まってるじゃない。

 だから、あの娘達がいない時だけしか行けないわよ。貴女とはね」

「むぅ......それなら、仕方ありませんね......」

「ふふ、そんな悲しそうな顔しなくていいわよ。またいつか、絶対に行ってあげるから」

「お姉様......ありがとうございます」

 

 やっぱり......優しいお姉様が一番好きだ。

 フラン達は可愛いから、守りたくなるけど......お姉様は優しくて、守られたいと思える。

 これからも、お姉様達と一緒に暮らしていければ......。

 

「あら、霊夢と妖夢じゃない。貴方達も買い物?」

「あら、レミリアとレナじゃない。まぁ、そうね。今日は宴会があるから、その買い物よ」

「私も幽々子様に、宴会の準備を任されまして......」

 

 ふと、気が付くと霊夢と妖夢が一緒に買い物していた。この組み合わせは珍しいけど、まぁ、宴会となれば別だ。

 宴会は、みんなが仲良く......って、あれ? 私、宴会での記憶ない気が......いや、行ってないだけなのかな?

 でも、お姉様達と一緒に......。

 

「あれ、レナ? どうしたの?」

「いえ、何でもありませんよ。ただ、宴会での記憶が......」

「......レナ、貴女は絶対に思い出さなくていいから。絶対に、ね?」

「え? あっはい」

 

 お姉様に肩を掴まれ、真っ直ぐな瞳でそう言われた。

 そんなに思い出さない方がいいことなのね......。一体何があったんだろ?

 

「まぁ、確かにあれは思い出さない方がいいわよ。それと、貴方達も来る? 宴会に」

「......いえ、今日はやめておくわ。また今度、誘ってちょうだい」

「そ、分かったわ。じゃぁ、まだ行かないとダメな場所があるから。また今度ね」

「バイバイ。あ、霊夢、私だけ荷物多くない?」

「気のせい気のせい」

 

 そんなこんなで、私達は霊夢と妖夢と別れた。

 それにしても、よく知り合いと会うなぁ。今日は何かあったりするのかな?

 

「宴会......また行きたいですね」

「え、えぇ、そうね。それよりも、今日は折角のお出かけなんだし、ゆっくり見て回りましょう」

「まぁ、そうですね」

「あれ、レミリアお姉様? それに、お姉様も......」

「......今日は何かあるのですか? 知り合い多過ぎます......」

 

 声がした方を振り返ると、そこにはフードが付いた服を着たフランとルナ、それにミアが居た。

 

「あら、貴方達もここに来ていたのね」

「え、あ、うん、まぁね」

「それで? どうしてここに来ていたの?」

「......どうする? 言っちゃう?」

「まぁ、もう買うものは買ったし、いいと思うよ」

 

 ん......これ、何処かで見たことがある光景のような......。

 

「多分、もう気付いたかもしれないけど、私達、お姉様とレミリアお姉様にプレゼントする物を買っていたのよね。

 だから、お姉様にバレないように、ミアに手伝ってもらいながら、ここまで来たのよ」

「そゆこと。この娘達の面倒はいつもレナに任せっきりだし、私もなんかお返ししないとねー、って思っていたら、タイミングよく会ったから、手伝ったの。ついでに、お姉ちゃんにもプレゼントあるからね」

「ついで、っていうのは失礼ね。......でも、ありがとうね。レナ、良かったわね。貴女のために何処かに行ってたみたいよ」

 

 ほんと......お姉様もそうだけど、この娘達が妹で良かった。涙出そうなくらい嬉しい。

 けど、前にもプレゼントは貰ったし、今も現在進行形でその紅いネックレスを付けてるから買わなくても良かったのに......。

 優しい娘達に育って本当に......本当に良かった。

 

「で、プレゼントだけど......特注のティーカップだよ。特注と言っても、霖之助さんところで貰ったやつね」

「へぇー、ティーカップ......ありがとうね」

「霖之助さん......あぁ、香霖堂の」

「そそ。その霖之助さんだよ。適当に作ったアーティファクトをあげたら、喜んで交換してくれたの」

「......ミア、貴女も悪いわね。でもまぁ、ありがとう。嬉しいわ」

「そう言えば、これ......お姉様とお揃いの......。大切に使いますね」

 

 あれだよね? これ、ペアカップってやつでいいんだよね?

 というか、絶対そうに決まっているね。

 

「あ、紅魔館の人達、全員の分あるから」

「......お姉様とお揃いなのは変わりませんし、それでも大丈夫です!」

「......お姉様ェ。まぁ、いいや。お姉様達は何してたの?」

「私達? 私達はただのお出かけよ。どうせなら、貴方達も一緒に付いてくる?」

「うん! そうするね!」

 

 こうして、結局五人で見て回ることになった。

 だけど、とてつもなく嬉しいから、それは良しとしよう。そう思った私であった────




次回の本編は金曜日の予定。
水曜には日常編かの。


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2、「『3日おきの宴会』 吸血鬼の姉妹編 前編」

少し遅れた本編()
他の章よりも早いですが、これから異変編です


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(エントランス)

 

 庭にあるホトトギスやクルクマが咲き始めた暑い夏の日。

 

「ふぁ〜......あ、お姉様......?」

「あら、レナじゃない。って、大丈夫? 眠そうね」

 

 珍しく一人だけで人里で買い物をして、帰って来た時に、エントランスで偶然お姉様と出会った。

 

「大丈夫ですよ。......それよりも、どこかに行くのです?」

「えぇ、博麗神社で宴会があるから、行ってくるわね」

「そう、ですか。......私も行っていいですか?」

「いいけど......大丈夫? 眠そうだけど......」

「大丈夫です。ただ、ここ最近、宴会が多い......あっ」

「え? どうしたの? 何か思い出したみたいだけど」

「い、いえ、何でも......」

 

 そう言えば、最近宴会が多いけど、これってあの異変なんじゃ......。うん、確か、三日おきに宴会があったし、確実にあれか。

 いやまぁ、異変というか、鬼が構って欲しそうな理由で起こしたような異変だった気がするけど。

 あ、他の鬼を呼び戻すのが理由だっけ? まぁ、忘れたからどっちでもいいや。

 

「ふーん、怪しいわねぇ。私に話しにくいことなの?」

「い、いえ! 本当に何もありませんよ?」

「......そ、話したくないなら別にいいわよー」

「あ、お、お姉様!」

 

 お姉様が拗ねたのか、足早にその場を立ち去ろうとした。

 

「姉に秘密にしたいことなんていくらでもあるわよねー。そうよね、珍しくないわよね」

「な、ないです! 私は......あっ、うん......」

 

 お姉様に秘密ごとなんて......あ、結構あるか。うん、思ったよりもあるわ。そら怒られても仕方ないか。

 

「何よ、その間と返事は!?」

「い、いえ、特に意味は......」

「ふーん......あっそ。じゃぁ、行ってくるわ。貴方は寝てなさい」

「あ、お姉様! 私も行きます!」

 

 お姉様の機嫌を損ねたせいで、眠気が覚めた私は、人里で買った荷物を持って宴会へと向かうのであった──

 

 

 

 ──博麗神社への道のり(空中)

 

「お姉様......」

「何よ。付いてきたの? 眠たいんじゃなかったの?」

「眠気が覚めました。お姉様、機嫌を取り戻して下さい。お願いします」

「別に機嫌が悪いわけじゃないわよ。ただ、嘘をつく貴女が嫌いなだけよー」

「うぅ......私のこと、嫌いなのですか? お姉様......」

 

 お姉様に嫌われるなんて......嫌われるくらいなら......。

 

「......もぅ、そんな顔で言わないでよ。冗談よ、冗談。別に嫌いじゃないわよ。むしろ好きよ。大好き。

 ただ、嘘をつく貴女が......ちょっと嫌なだけ」

「......すいません、お姉様。お姉様に秘密にしていることがあります。お姉様だけではないです。フランやルナにも、咲夜や美鈴、パチュリーにも......みんなに秘密にしていることがあります」

「......そう。それは絶対に言えないこと?」

「......すいません。ですが、いつか、必ず......」

「そう、ならいいわよ。今は言えないってことでしょ? いつか教えてくれるなら......今はそれでいいわ」

 

 良かった......お姉様に嫌われなくて。それに......大好きって言ってくれた。

 とっても嬉しい。もう心残り無いくらいに。今日も幸せな一日と思えるくらいに......。

 

「って、あら? 嬉しそうな顔ね。何がそんなに嬉しかったの?」

「え、お、お姉様に......大好きって......」

「え? ぼそぼそと言われても聞こえないわよ? もっとちゃんと言って、ねぇ?」

 

 お姉様がいたずらをしている子供みたいにニヤけてそう言った。

 うぅ、絶対に聞こえてたよね? わざと言ってるよね? やっぱり、お姉様もフランに似て悪魔だ......。いやまぁ、悪魔なんだけどさ。

 

「ですから、お姉様が......大好き......って言ってくれたので」

「うふふ、可愛い娘ねぇ。どうしてそんなに恥ずかしがってるのよ? 顔が真っ赤よ?」

「〜〜〜ッッ! も、もぅ! からかわないで下さい!」

「うふふ、今日のレナは面白いわねぇ。......そろそろ着くから、元の顔色に戻っていなさいよ」

「そ、そんな簡単に言われても......。というか、お姉様のせいですからね!?」

「ふふ、ごめんなさいね」

 

 お姉様と二人だけの時間。最近、多い気がするなぁ。まぁ、嬉しいけどね。

 そんなことを考えながら、私達は博麗神社へと降り立った。

 

「霊夢ー、来たわよー」

「またか。呼んでないのに来るんじゃないわよ」

「あ、そいつは私が呼んだんだ。多い方が楽しいからな」

「......はぁー、またか......」

 

 霊夢が呆れた顔を魔理沙に向けた。

 毎回魔理沙が妖怪とか妖精を呼んでいるからね。流石に霊夢も何かを言う気力はないか。

 

「まぁ、そういうことだからね。客人として扱いなさいよ」

「はいはい。分かりましたよ、お嬢さま」

「ふふ、珍しく素直じゃない。何か良いことでもあったのかしら?」

「別に何もないわよ。私よりも、貴女の方が良いことあったかのような顔をしているわよ?」

「ふふ、そうかしら? いえ、そうね。確かにあったわ。ね、レナ」

 

 お姉様がいじわるな顔で私に笑いかけた。

 やっぱり、お姉様も悪魔だ......いやまぁ、何回も言ってる気がするけど、吸血鬼だから悪魔なんだけどね。

 

「......むぅ、お姉様はいじわるです」

「おいおい、どうしたんだぜ? また喧嘩でもして、仲直りしたのか?」

「あら、またってそんなに多いかしら?」

「お前らはな。特に、レミリア、お前とフランは」

「......そう言えば、あの二人の妹がいないわね。どうしたの?

 ミアはいなくても珍しくないけど、あの二人はいつも来ているでしょ?」

 

 そう言えば、ミアっていつも来てないよね。いやまぁ、呼び忘れていることが多いだけだけど......。

 次ある時は、絶対に呼ばないと。どうせ三日後にあるだろうし......。

 

「今日はもう寝ていますよ。私が人里に買い物に行った時も眠そうにしていましたし。

 まぁ、私も少し眠いですけど、お姉様がいるから......」

「そう、姉に付いてきたのね。レミリア、もう帰っていいわよ」

「えぇー、どうしてよー」

「あんたが帰れば、レナも帰るからに決まってるじゃない」

「まぁ、確かにそうですね。お姉様に付いてきただけですし、私はお姉様と一緒にいれば......」

 

 お姉様が帰るならば、私はここに来る意味はないしね。いやまぁ、今回はお姉様に嫌われそうになったから、付いてきただけだけど......。

 

「ほんと、重い気がするわね、貴方達......」

「失礼ね。そんなに重くないわよ!」

「......勘違いしているのは分かったけど、わざわざ説明するのも面倒ね......。というか、説明しても自覚しないでしょうし」

「え? どういうこと?」

「気にしないでいいわ。それよりも、飲みなさい。先に来てた咲夜はまだ借りとくけど」

「えぇ、好きに使いなさい」

 

 姿が見えないと思っていたら、咲夜は先に来ていたんだね。

 やっぱり、料理上手だからか、色んなところに引っ張られるよね、咲夜は。

 

「レナ、今日は二人だけで飲む? それとも、みんなと一緒に飲む?」

「みんなと言っても、個性強い奴が多いけどな。しかも、いつものメンバーだしな」

「そのおかげで、私の神社には全く人間が来ないわ......」

 

 辺りを見渡すと、紫と飲んでいた幽々子と目が合った。そして、幽々子はこっちに来いと言わんばかりに手を振っていた。

 やっぱり、あの人は苦手だから、お姉様と一緒に飲んどこ......。

 

「......お姉様と一緒に飲みたいです」

「そう、分かったわ。霊夢、咲夜にワインとトマトジュースでも持ってこい、って言ってくれないかしら?」

「分かったわ。咲夜ー、貴女のお嬢様が呼んでるわよー」

「......え?」

 

 どうしてトマトジュース? もしかして、お姉様、トマトジュースと血を勘違いしている?

 い、いや、聞かないでおこう。間違ってたら怒られるし......。

 

「え? レナ? どうしたの?」

「え? いえ、どうしてトマトジュースなのです?」

「貴女のためよ」

「え、え?」

「......自覚ないのが一番怖いわね。貴女、ワインは止めておきなさいよ。絶対に」

「え? どうしてですか?」

「......理由は聞かないで。ただ、貴女はお酒に弱いだけ......」

 

 え? お酒に弱いの? あ、そう言えば、確かにお酒飲んだ後は記憶が飛んでいるだった。

 多分、気を失うのね。だから、お姉様は私に止めさせているのかな。

 

「まぁ、お姉様の言うことなら......」

「お嬢様、ワインとトマトジュースをお持ちしました」

「ありがと。さ、レナ。乾杯しましょう」

「有難うございますね、咲夜。はい。乾杯、です」

「乾杯。......美味しいわねぇ」

「はい、そうですね。......私、トマトジュースですけど......」

 

 別に嫌いってわけじゃないけど、周りはみんなワインとかお酒を飲んでいるからなぁ。

 お姉様と同じようにワイン飲みたいのに......。

 

「あらぁ、トマトジュース? 可愛いわねぇ」

「......え? げっ、幽々子さん......」

 

 声がした方を振り返ると、背後には幽々子がいた。

 ほんと、この人は怖いわ......。まぁ、亡霊だから怖いのは当たり前なのかもしれないけどさ。

 

「『さん』は要らないわぁ。幽々子でいいわよ〜」

「あぁ、亡霊のお嬢さまね。私の妹に何の用?」

「何も用なんてないわよ〜。ただ、一緒に飲まない? って思ってねぇ」

「全力でご遠慮させていただきます」

「幽々子、貴女も嫌われてるわね。でも、本当は良い人なのよ? ちょっとおかしなところもあるけど......」

 

 そう言いながら、先ほどまで幽々子と飲んでいた紫がやって来た。

 紫にはそこまで苦手意識なんてないけど、胡散臭いからあまり関わりたくない人だ。

 

「失礼ね〜、まぁ、いいわ〜。今度、一緒に飲みましょうね〜」

「......行っちゃったわね。結局、それだけ言いに来たってことかしら?」

「......そうみたいですね。それにしても......やっぱり、トマトジュースじゃ虚しいです......」

「うーん。もっと別のものが良かったかしら? いえ、でも血みたいで良いじゃない?」

「お姉様の感性が時折分からなくなりますね......」

 

 結局、宴会が終わるまで私はお姉様と会話していた。

 帰る途中、この異変に巻き込まれることも知らないで────




次回は日曜日。次こそは遅れない(フラグではないと祈りたい())


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3、「『3日おきの宴会』 吸血鬼の姉妹編 後編」

異変なのに、戦闘がない平和()
ただ、ちょっとした鬼が出たり、次女が損するだけのお話。

あれ、22:00に投稿されてなくない?()
まぁいっか。


 side Renata Scarlet

 

 ──博麗神社

 

「ふぁ〜......お姉様、そろそろ帰りませんか......?」

「もう少しくらいいいじゃな〜い。それとも何? レナは私と飲むのが嫌なのー?」

 

 宴会のために、博麗神社に来てから数時間程経った。

 お姉様はあれからも顔がほんのり赤くなるほどワインを飲み続けていた。

 

「い、嫌ではないですけど......もう眠いですし、お姉様も酔っていますし......」

「私は酔ってないわよー。嫌じゃないなら飲みましょうよー」

 

 お姉様はほんのり酔っているからか、ちょっと上機嫌なだけに留まっている。

 多分、完全に酔ったらもっと機嫌が良くなって......いや、これ以上はよくない。

 

「むぅ、お姉様が言うなら......」

「いやいや、さっさと連れて帰りなさいよ。朝まで居るつもり?」

 

 眠たいせいか、それとも宴会での疲れのせいか、少し不機嫌そうな顔をした霊夢がそう言った。

 そう言えば、もう私達しか残ってないからね。早く帰って欲しいんだろうなぁ。

 

「いいじゃな〜い。もうここに泊まってもいいんじゃないかしら?」

「駄目に決まってるでしょ。さぁ、姉の責任は妹の責任。貴女がしっかりと責任を持って連れて帰りなさいよ」

「むぅ、仕方ないですね......。お姉様、帰りましょう。ここに泊まると、みんなに心配をかけますよ?」

「えぇー、咲夜がいるでしょ? 咲夜に言ってもらえば心配かけないわよー」

「残念だけど、今日は片付けのために咲夜は借りるわよ。だから、貴方達がそれを伝えるためにも帰りなさい。まぁ、みんな知ってるかもしれないけど」

 

 要するに、私一人でお姉様を連れて帰れと......。いやまぁ、いいんだけどさ。

 お姉様、酔ってるから、最悪私がおんぶしないと......いや、それはそれで良いか。というかしたいしね。

 

「えぇー、レナー、まだ居ましょうよー」

「お姉様、子供みたいなこと言ってないで帰りましょう? おんぶしますよ? というかさせて下さい」

「貴女も必死ね。さぁ、帰りなさい。私はこれから片付けがあるから。ほんと、みんなも片付けてから帰りなさいよ......」

「頑張って下さいね。ささっ、お姉様も行きましょう」

「仕方ないわねぇ。あ、おんぶはしなくていいからー。子供じゃないからね。じゃぁ、霊夢、また来るからー」

「もう来なくていいわよ」

 

 うぅ、お姉様をおんぶ......いや、まぁいっか。いつまで続くか分からないけど、また宴会はあると思うからね。

 そんなことを考えながら、私達は空へと飛び立ったのであった──

 

 

 

 ──紅魔館への道のり(上空)

 

「お姉様、フラついていません? 大丈夫です?」

 

 結局、お姉様をおんぶすることが叶わなかった私だが、フラフラと飛ぶお姉様を見ていると心配になる。

 どうにかして、説得でもしようかな......。

 

「大丈夫、大丈夫ぅ〜。もぅ、レナは心配症ねぇ。可愛いわぁ」

「可愛い......ありがとうございます。......お姉様も可愛いですよ?」

「ありがとうね〜。......で、レナ、貴女は気付いたかしら?」

「ふぁっ!? あ、いえ、何にですか?」

「......何変な声出してるのよ?」

 

 突然、流暢にお姉様が話し始めたから変な声が出てしまった。

 え? もしかして、最初から実は酔ってなかったとか......?

 え、酔ってるから何言っても忘れると思って、可愛いとか言っちゃったんだけど!? ま、まぁ、姉妹だし、大丈夫だよね、うん。

 顔が真っ赤になってる気がするんだけど......。

 

「あのぉ、お姉様? 酔ってないのですか?」

「酔ってないわよ。最初から言ってるじゃない」

「いやいや、そんなの嘘だと思っていましたから」

「そう、貴女も鈍いのねぇ。あ、いえ、悪い意味じゃないわよ。それよりも......さっさと出てきなさい! もう気付いているんでしょ!?」

「え、え? 誰か居るのですか?」

「......ちぇっ、もう少し面白いものが見れると思ったんだけどなぁ」

 

 お姉様が虚空に話しかけると、どこからともなく声が聞こえてきた。

 聞いたことない声だ。もしかして、今までずっと見られていたんじゃ......。

 って、今まで見られてたとしたら、めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど!? 絶対に顔が真っ赤になってるよぉ......。

 

「って、そっちの......お嬢さんはどうしたんだい?」

「え? あー、気にしないであげて。それよりも、早く姿を見せなさいよ」

「あぁ、確かに姿は見せた方がいいな。見せないと失礼だろうし。......はい、これでいいか?」

 

 いつの間にか、目の前には薄い茶色のロングヘアーと真紅の瞳にほんわか赤い顔、そして、長くねじれた角が二本生えた少女が浮かんでいた。

 服装は白のノースリーブに紫のロングスカートで、頭に赤の大きなリボンをつけ、左の角にも青のリボンを巻いている。

 そして、左手には紫の瓢箪を持ち、三角錐、球、立方体の三つの分銅のような物を腰などから鎖で吊るしていた。

 見た感じ、この娘の正体は山の四天王の一人と言われる伊吹萃香だろう。

 

「......で、貴女よね? 最近我が物顔で幻想郷を包み込んだり、私達......いえ、レナを覗き見したりしている奴は」

「ようやく気付いたのね。えらいえらい」

「あぁ、そう。ありがと。で、貴女が何者か知らないけど、幻想郷(ここ)で勝手な真似は許さないわよ?

 それに、私の妹(レナ)を勝手に見てたのも、ね」

「私はあんたの事をよく知ってるよ。妹達と一緒に居ない時はいつも我侭ばっかり言ってたわよね。って、一緒に居ても我侭言ってたかな?

 本当はずっと私の姿を気にしていた。まぁ、かなり細かく分散していたけど......」

 

 え? 要するに、お姉様は気付いてたの? いや、それよりも、私、見られてたの!?

 めちゃくちゃ恥ずかしいんだけど......。私、何も変なことはしてないよね? 特に何もしてないよね?

 

「それでもあんたが動かなかったのは......」

「何のことを言ってるの?」

「本当は別の、人間に気付かせたかった。それに、私の狙いが気になったから。放置しとけばいずれ尻尾を出すとでも思った?」

「当たり前よ。妖怪退治は人間の仕事。それに、貴女が何者か分からないから、放置するしかないでしょ?」

「なら、どうして今頃話しかけてきたんだ? 不安になってきたんじゃないのか?」

「余りにもみんな鈍いし、これ以上、妹のプライベートを覗き見さすのは可哀想だからね」

「え!? やっぱり見られていたのですか!?」

 

 い、いやまぁ、別に恥ずかしいことなんてないけど......。ない、はずだけど......。

 

「いやいや、そんな覗き魔みたいに言わないでくれよ。別にプライベートまで見てないからね?

 でも、私はあんたの事をよく知ってるよ。宴会ではいつも妹達に酒を飲まされ、酔わされていたねぇ。毎回毎回、よく飽きないで同じことを繰り返せるよね。実は、好きでやってるんじゃないか? いや、それすらも覚えてないのかな?」

「確かに、私はお酒を飲まされてる気がしますけど......全然覚えていないのですよね」

「覚えてない方が幸せなこともあるわよ」

「それには同感だね。で、あんたは私を見つけてどうしたいんだ? 実は、あんた達で六、七人目なんだ。いや、もう二人も追加しないとな」

「あら、それでも異変は終わっていないということは......」

 

 まぁ、負けてるんだろうね。それにしても、結構な数に見つかってたんだね。それでも宴会を続ける人達が凄いなぁ。

 

「まぁ、そういうこと。私も普通の勝負には飽きてきたところだし......どうだ? 一つ、賭けをしないかい?」

「はぁ? 賭け? 私、それなら強いわよ?」

「いやいや、お姉様はかなり弱いじゃないですか。フランにいつも負けっぱなしですし」

「失礼ね。それは運が悪いだけよ」

「なるほど。いつも運が悪いということだな。それなら、こっちに分があるな。

 賭けと言っても、普通の勝負と変わらない。あんた達が勝ったら私はすぐにでも『萃める』のを止めよう」

 

 あぁ、そう言えば、萃香って宴会を何回もやらせていたんだっけ? まぁ、あまり知らないから何とも......。

 

「ふーん、聞く必要はないけど、貴女が勝ったら?」

「お前の妹にこの酒を飲ます。どうだ? 負けても面白いだけで済むからいい話だと思わないかい?」

「いやいや、飲ませないから。この娘が酒に弱いのを知ってるでしょ?」

「大丈夫。死にはしない。そいつも一応、鬼だろ? なら大丈夫だ。それに、本当はあんたも見たいと思っているんだろ?」

「別に? 思ってないけど?」

「嘘。本当は思ってる。酔った時の甘えてくる可愛い妹の姿をまた見たいと思っているんだろ?」

「......よ、酔ってなくても甘えてくるから別にいいわよ」

「お姉様!? 今ちょっと考えていましたよね!?」

 

 私って酔ったらそんなに甘えるの? 逆にちょっと見てみたいんだけど。というか、私、他の人に気付かれるくらい甘えてるかな?

 

「べ、別に......こいつがレナのプライベートを見ていないのなら、レナも他の奴と変わらないし、どうせ異変なんて、霊夢が何とかすればいいでしょうし......」

「お姉様ェ......」

「素直になったかい? 私はとある奴からレナータ(そいつ)の近状を見てきてくれと言われ、もうそれを伝え終えた後なんだ。

 だから、もう見る必要はない。とある奴の正体は死んでも話すつもりはない。いやまぁ、死ぬことなんて有り得ないけどね」

「ふーん......貴女、名前は?」

「伊吹萃香。鬼の伊吹萃香だよ」

「萃香、レナにそれを飲ませるのを手伝って」

「え、ちょっと待って。お、お姉様!? どうしてですか!?」

 

 お姉様がさらっと背後に回って、私の腕を掴まえて動けなくされた。

 力だけならお姉様に勝てるか怪しいし、身体能力を強化する魔法は苦手だから、抜け出すことなんてできない......。

 いやまぁ、一つだけあるけど、それだとお姉様を傷付けてしまうし......。

 

「そうねぇ......。レナ......貴女はいい娘だったわ」

「説明になってないのですが!?」

「姉よりも力が弱いのか? それとも、実はやって欲しいからか?」

「そ、そんなわけないですからね!?」

「嘘。まぁ、それが吸血鬼の愛情表現ってやつなら仕方ないな」

「違いますからね!? 割と真面目に!」

 

 とか話しているうちに、萃香が紫の瓢箪の持って近付いてきた。

 そう言えば、その瓢箪って人間が飲むと大変なことになるくらいヤバい酒が入っているんじゃ......。

 

「さぁて、一応、吸血『鬼』だし、結構飲ませても大丈夫かな?」

「一口だけでも酔うから、一口だけにしてあげて」

「そ、それは幾ら何でも早すぎるな......。まぁいっか。後日、また謝りに行くから我慢してくれ。その時は、お前の妹さんにも会わしてくれよ。あいつと同じ吸血鬼......会ってみたいからな」

「え? あ、モガっ!?」

 

 しみじみと話していると思ったら、無理やり瓢箪を口に当てられ、お酒を飲まされた。

 

「あ、そのまま飲ますのね。って、飲ませすぎじゃない!?」

「ん? そうか? あ、ごめんよ」

「ゴクゴクッ、ぷはっ......お、おねぇさまぁ......いじわるぅ......」

 

 うぅ、頭がフラフラする......。

 

「ふふ、ごめんなさいね。悪いと思っているわ」

「それにしては嬉しそうだね。まぁ、家までは送るよ。一人だと大変だろ?」

「えぇ、ありがと。それじゃぁ、レナー、甘えていいからねー」

「お、おねぇさまぁ〜」

「あら、本当に甘えてくれるのね。私、嬉しいわ」

 

 フラフラしながら、私はお姉様を抱き締めた。

 そして、気付いた時には、私はお姉様の部屋のベッドで寝ていた────




ちなみに、この後、酔っ払ったレナさんは姉に甘え続けた後、萃香と姉に部屋まで連れていかれ、寝かされたとか。
そして、姉は萃香の持つお酒を貰ったとか何とか......()

次回は金曜日の予定。水曜は日常編。


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4、「『3日おきの宴会』 博麗の巫女編 前編」

萃夢想終了までもう少し。
今回は霊夢編。
いやまぁ、吸血鬼姉妹と霊夢編しかないんだけど()


 side Hakurei Reimu

 

 ──宴会前日 博麗神社

 

「おーい、霊夢ー」

 

 それは、とある夏の日。いつものように縁側でお茶を飲んでいる時に、魔理沙が箒にまたがって飛んできた。

 

「んー......あぁ......魔理沙ね」

「どうしたんだ? めちゃくちゃ怠そうだが」

「最近宴会が多いから疲れてるだけよ。後片付けもほとんど私だし......。

 で、話変わるんだけど、最近宴会多すぎない?」

「変わってないぜ。というか、今更だな。お前以外の奴はもう知ってると思うんだが......」

 

 ふーん、私以外の奴らは知ってる......って、はぁ? どういうこと?

 

「ちょっと、私以外は何を知ってるってわけ?」

「全部だ。あれだな。なんだかお前......ハブられてるみたいだな」

「何? 『夢想封印』して欲しいの?」

「あぁ、すまんすまん。っていうか、お前なら本当にやりそうだよな」

 

 まぁ、やるでしょうね。流石に、全力ではやらないけど。

 

「で、私以外の奴らは何を知ってるわけ?」

「すまないな。私は負けたから言えないぜ。そういう約束なんでな」

「ふーん......貴女も約束を守ることがあるのねぇ」

「おいおい、失礼だな。結構守る方だぜ? 私は」

「へぇー、よく言えるわねぇ」

 

 

 魔理沙のためにも、今度、鷽でも連れてこようかしら。

 いっぱい集まるでしょうし。

 

「まぁな。知りたいのなら、自分で探すことだぜ。多分、お前なら見つけれると思うからな」

「その根拠は?」

「お前の勘」

「根拠なんて無いのね。分かったわ」

「いやいや、お前の勘が根拠なんだぜ? 凄く当たるからな」

 

 そんなに当たるかしら? 普通だと思うんだけど......。

 

「ふーん、まあいいわ。それじゃあ、適当に探してくることにするわね。貴女は宴会の用意でもしといて」

「嫌だぜ。......って言っても、夜には宴会だしな。できる限りのことはしとくぜ」

「頼んだわよ。夜前には、咲夜や妖夢が来ると思うから、手伝ってもらいなさい」

「分かったぜ。夜前には、サボっていいんだな」

「誰もそうとは言ってないでしょ。貴女も働きなさいよ。幹事なんだし」

「幹事は盛り上げ役だぜ? だから私は働きたくないんだよなぁ」

 

 こいつ......まあいいわ。盛り上がっているのは確かに魔理沙のお陰だし。......人を集め過ぎてるのも魔理沙だけど。

 そのせいで、私がいつも忙しくなってるのも魔理沙のせいだけど。

 

「じゃあ、夜までには帰ってくるから」

「あぁ、待ってるぜ。あ、一つだけヒントをやろう。ヒントは『霧』だぜ」

「霧? ......まぁ、ありがとうね。それじゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい。土産、期待してるからなー」

 

 最後に魔理沙のその言葉を聞いて、私は博麗神社から飛び立った──

 

 

 

 ──紅魔館(エントランス)

 

 色々な場所を回った結果、魔理沙のヒントの通り『霧』が関係していることが分かった。

 というか、いつかの異変のように、妖霧が出ていた。

 出現元も方向も種類も全く分からない妖霧。そもそも、霧のようなだけで、本当に霧なのかも不明だ。

 

「お邪魔しまーす」

「勝手に上がり込んで第一声がそれって......貴女、天然?」

 

 というわけで、一番怪しそうな奴の家に来た。

 

「逆に言いたい気もするわね。ほら、気付いているか知らないけど、妖霧が出ているでしょ?

 で、妖霧を出す犯人っていったらあいつかなー、と思ってわざわざやってきたのよ」

「ふーん......そういう事ね。で、お嬢様に何か用?」

「悪い事をしていそうなので懲らしめてあげようと」

「してそうだけで来るな。......しててもおかしくないけど」

 

 メイドにまでそう言われるなんて......あいつも信用低いわねぇ。

 

「まぁ、というわけで、あいつは何処に居るの?」

「はぁー......前にも言った気がするけど、あわせる訳が無いじゃない。

 今、お嬢様は妹様達とお遊び中。そんな時にここから先は通させないわよ」

「いいから、さっさとやられてくれない? 犯人があんたじゃ無いのは分かってるから」

「それも失礼な言い方ですわね。慌てなくても大丈夫、時間は無限にあるわ」

「明日の宴会までもう一日切っているのよ!」

 

 というか、もう昼過ぎなのよね。......そう言えば、ご飯、食べたかしら......。

 

「まぁ、今日の夜だから一日切ってるでしょうね。でも、私にとっての時間が無限なだけ」

「あんたはただの踏み時計。こうしている間にも犯人はのうのうと......」

「待ちなさい。『ずっと』前にも言った気がするけど、お嬢様にあわせる訳が無いじゃない」

 無限なのにずっと前なのね。でも何だろう。前にもこんな事があったような気がするわ」

「あったのよ。『あの時』も迷惑が突然押しかけてきて......」

「『あの時』も迷惑な霧が原因で......って『あの時』はこの後どうなったんだっけ?」

「ふん。こうなったのよ!」

 

 そう言って、咲夜が不意打ち気味に弾幕を放ったのだった──

 

 

 

 ──紅魔館(エントランス)

 

「そうか思い出したわ! あの時もこうなったのね」

「う~ん。また負けた......」

 

 結局、不意打ち気味な弾幕を受けても、咲夜に負けることはなかった。『あの時』と同じ結果になったのだった。

 

「さて、と......ほら、さっさと呼んで来なさい。メイドでしょ? お客を案内するだけが取り得のメイド」

「仕様が無いわね。でも、今回はお嬢様は何にもやってないですよ。ほんと。多分」

「ここまで来たら、後には引けないでしょ?」

「ちょっとは引かないと、いつか痛い目に会うわよ」

「次は痛い目ね」

 

 そんな無駄口を叩きながら、私は咲夜に案内され、レミリアの場所へと向かうのであった──

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「さぁ、出てきなさい! 居るのは分かってるわ」

「そりゃ居るでしょ」

「あ、霊夢。って、どうしたのです?」

「んー? 騒々しいわね。今日は宴会まで、この娘達と遊ぶつもりなんだけど? 何の用かしら?」

 

 レミリアが居るらしい、地下の部屋に着くと、中にはいつも通りの四人の姉妹が居た。

 流石に、これだけの数を相手にしていたら面倒ね。時間も無いし、なんとかレミリアだけ倒して霧を消させれないかしら?

 

「あんたを倒しに来て、ついでに番人も倒したんだけど」

「いい加減に目的を話すな! 全く意味が分からないじゃない」

「そうそう。あんたがこんな事した目的が分からないのよ」

「こんな事? 突然紅魔館に殴りこんできて......。逆に殴られてとぼとぼ帰ること? そんな事、私の知ったこっちゃないわよ」

「あれでしょ? あんた。明日の宴会、何か企んでるんじゃない?」

「まぁ、企んでるっちゃ企んでいるわね......」

「え? お姉様?」

 

 レミリアがそう言って、ちらりとレナの方を見た。

 ......なんか、大体分かった気がするわね。でも。そうだとしたら、この霧はどうして......。

 

「何でもないわよ。安心しなさい。で、それがどうしたの?」

「この辺一帯危険な妖霧が溢れてるのよ」

「妖霧? ......あぁ、なるほどね。そういうこと......」

「やっぱり、何か知っているみたいね。話しなさい」

 

 と言っても、どうせ碌でもない事なんだろうけど......。

 

「まぁ、それは言えないわね。残念だけど、約束だから」

「......あんたもか......。やっぱり、他に犯人が......」

「レミリアお姉様〜、早く話終わらせてよ〜」

「あぁ、ごめんね。まぁ、そういう事だから。早く帰ってちょうだい。私はそのことを知っているけど、犯人じゃない。

 宴会に現れるみたいだから、待っていなさい」

「んー......まぁ、もうちょっとだけ探すわ」

 

 これだけ探して、何の成果も得られなかったなんて嫌だし......。

 

「あ、咲夜」

「何?」

「今、魔理沙が神社で宴会の準備してるし、手伝ってあげてくれない?」

「まぁ、それくらいは......いいですよね?」

「いいわよ。宴会が始まらないのは困るしねぇ」

「では、失礼します。じゃ、私は神社に行くから、霊夢も早めに見つけて来なさいよ」

「はいはい。それじゃあ、お別れね」

 

 そう言って、私は紅魔館を後にしたのであった──

 

 

 

 ──博麗神社近くの森

 

「結局、夜になってしまったわ......。妖霧の出現元も目的も判らないし。こうなったら、宴会中に何か起きた時、その時解決しよう。

 今日は余りお酒飲まないようにしとこ......」

「うふふ。今日の宴会で何か起きるのかしら?」

「!?」

 

 声がした方向を振り返ると、そこには『スキマ』から顔を覗かせた紫がいた。

 

「さっさと宴会始めましょ? 大丈夫、今日も何も起きないわよ」

「そう? 既に何かが起こっている様にも見えるんだけど......」

「大丈夫、みんなが喜ぶお酒も持ってきたわ。度数九十度。直角ね」

 ちょっと待って。宴会に、あなたは呼んでいたかしら?」

「あら、呼ばれていたわよ~。前も来てたしね〜」

「私は知らないし、呼ばれてないな」

 

 多分、紫のことだから、本当に来ていたんだろうけど......絶対私に見つからないように来ていたわね、こいつ。

 

「もう、みんなして酷いわね。私だけ仲間外れかしら?」

「大体ねぇ。どこに棲んでるんだか良く判らないし。厄介ごと増やしてもなんだし」

「今度、私のお屋敷に案内しましょうか?」

 

 紫の屋敷......なんだか嫌な予感しかしないわね。

 

「というかねぇ、何企んでるのよ。この連続宴会も妖霧もあんたの仕業でしょ?」

「あらまぁ、呼ばれてもないのにそんな暇なことしないわよ」

「怪しすぎるわ。大体いつも怪しいのよ。呼ばれてもないのに出てくる。呼んでも出て来ないし......」

「あら、私を呼んだ事なんてあるの?」

「ない!」

 

 というか、絶対に呼びたくない。来て欲しくないわ。面倒事しか持ってこなさそうだし。

 

「まぁいいわ。もうすぐ夜が来るわ。あんまり意地悪するから、昼と夜を同時に楽しめるように空をいじっておいてあげたわ。

 今のまま夜が来れば、空は朝になるでしょう。日光と月光の境は私のもの、それでも夜宴ができるのかしら?」

「夜は......幻想郷のものよ!」

「ちょっとそれは間違いね!」

 

 こうして、私と胡散臭い妖怪の弾幕ごっこが始まった────




次回は日曜日の予定っすヾ(:3ヾ∠)_


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5、「『3日おきの宴会』 博麗神社の巫女編 後編」

短い(おい)

無理して後編に分けなくてもよかった話です()

まぁ、次は元の長さに戻りますけどね。


 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社近くの森

 

「うーん」

「結局、何?」

 

 結局、勝った。途中、スペルカード以外に殴ったり蹴ったりしたような気もするけど勝った。

 

「うーん。私は関係ないわ~。みんな、あいつの遊びなのよ~。何となく宴会を始めるのも、何となく妖夢が酔っ払って躍り始めるのも」

「あいつって誰? というか、後者は関係なくない?」

「関係あるわよ〜。それも含めて異変なのよ」

 

 ふーん......あれも含めて異変......って、これ異変だったの?

 ま、まあ、確かに変な妖霧が出てたり、異常なペースで宴会してたけど......異変だなんて......どうして気付かなかったのかしら?

 まあいっか。解決すれば、何も問題ないわ。......ちょっと解決するまで時間かけすぎた気もするけど。

 

「ふむ......紫、そのあいつって奴のところに連れていってくれない?」

「しょうがないわね。連れていってあげる。それと、あなたにも見えるようにしてあげるわ〜」

 

 紫は虚空で手を上下させて『スキマ』を開きながらそう言った。

 毎回思うけど、気持ち悪いわね。目がいっぱいあるし......。全部こっち見てる気がするから、余計に気持ち悪いわ。

 

「......え? もしかして、それに入れって言うつもり? 嫌よ? 私、それに入りたくないんだけど?」

「入らないと、異変を解決できないわよ? それに、もうすぐしたら、宴会が始まるのよ〜?」

「むむむ......それなら、しょうがない......けど、言い方腹立つわね」

「あら? そうかしら?」

「やっぱり、腹立つ。まあいいわ。後でもう一回退治するから」

「えぇー。宴会があるんだし、許してよ〜」

 

 ま、まあ、確かに宴会で暴れるのも......って、一部だけ毎回のように暴れてる奴らが居るわね。

 身内だけで暴れてるから、まだいいけど......。

 

「それじゃあ、まぁ、案内してちょうだい」

「分かったわ〜。さぁ、入って入って」

 

 そう促され、私は『スキマ』の中へと入っていった──

 

 

 

 ──何処かの森

 

「ん? あ、痛っ!?」

 

 私が『スキマ』から出てくると、視界が逆さまになっていた。そして、気付いた時には、頭に地面が激突していた。

 

「あらあら、間違って空中に出口を作ってしまったわ〜」

「ゆ、紫〜!?」

「あれ? どうしたの? 紫。というか、そいつ何? 大丈夫なの?」

「あら、偶然ね〜」

 

 声がした方に向き直ると、そこにはねじれた角が二本生えた少女が、紫の瓢箪を飲みながら立っていた。

 

「というか、誰?」

「私は、気持ちよく遊んでいただけなのに......。って、何で私が見えるの?」

「あ、私の仕業よ〜。あ、もう始まりそうだから、先に戻っているわね。ばいばーい」

「あ、ちょっと待ちな......って、行っちゃったか」

 

 私の意識がその少女に向いているうちに、紫は『スキマ』で何処かへ消えてしまった。

 まあ、多分宴会に向かっただけだろうし、放っておいてもいいわよね。

 

「あんたがこの騒動の主犯ね? で、何でこんなことしたのよ」

「こんな事、って、何が起きてるか判ってるんだ。

 私にはあんた一人が色々な所で、ただ暴れてるだけにしか見えないんだけどね」

「最近、宴会が多いじゃない。それから、妖霧が出ていて......。って、私の行動を見ているって事はやっぱり......!」

「ちょっとちょっと、宴会が多いのは私の所為なの?」

「って、紫が言ってた」

 

 まあ、紫は信用ならない胡散臭い妖怪なんだけど......。

 

「まぁそうなんだけど」

「ほら、私の言った通りじゃない!」

「そう言ったのは紫でしょ? まぁ、宴会が続いた方が賑やかでいいでしょ?

 私は賑やかなの大好きなの。もっと賑やかにならないのかなぁ」

「あんたみたいの、宴会に居たっけ?」

 

 確か、これくらい小さな子はあの吸血鬼や妖精くらいしか居なかった気がするけど......。

 

「何言ってるの。私は、ずっと居たじゃない。今年は冬が長引いたでしょ?それで私の大好きなお花見が遅れて遅れて......。

 やっと、春になったと思ったら、あっという間に桜が咲いて、あっという間に散って......こんなに悔しい年もないでしょ?」

「だから、一体いつどこに居たの? あんたみたいの見たことがないわよ!」

「ん? 宴会にはずっと居たよ? まぁ、ずーっと霧散していたから、よっぽど敏感な奴じゃないと気が付かなかったかもね?

 私は楽しかったわ。妖怪、魔女、吸血鬼、幽霊、まるで百鬼夜行の様に......」

「......ああ、なるほどね。妖霧自体が犯人だったのか、そりゃわからない訳だわ。よかった」

「よかったって?」

「私の勘が案外当たってたからよ。って事は、あなたを倒さないといけない気がするのも多分正しいことなのね」

 

 これからは、自分の勘を頼りにしてもいいわね。......あれ? 今までもそうだった気が......まあいいわ。

 

「私は、あなた達全員をずーっと見てきたの。あなた達全員を、私の『萃める能力』で否応なしに宴会をさせてきた。

 それがどういう事が判る? あなた『達』に私は倒せない」

「そうは言っても、所詮妖怪でしょ? 妖怪退治は私の仕事。倒す事はできて当然なのよ」

「あー、はっはっはっはー。私を妖怪だと思っている時点で勝負にならないわ」

「......それは、どういうことかしら?」

「我が群隊は百鬼夜行、鬼の萃まる所に人間も妖怪も居れる物か!」

 

 そう言って、その少女は視界に入りきらない程に大きくなった。

 

「......でっかくなっちゃた?」

「見ての通り。凄いだろ?」

「......まあ、当てやすくなったって考えれるわね。それじゃあ、始めましょうか!」

 

 私がそう言ったことで、私とその少女との弾幕ごっこが始まった──

 

 

 

 ──そして宴会へ 数十分後 博麗神社

 

「おーい。霊夢〜、遅いぞ〜、もう始まってるぞ〜」

「はぁ、はぁ......私が戦ってる間に......って、もう酔ってない?」

 

 結果だけ見れば、私は勝つことできた。だが、手加減されている気もしたし、勝った時もその少女の妖怪は余裕そうに酒を飲んでいた。

 

「やっぱり、人間と遊ぶのは楽しいねぇ〜」

「こっちは楽しくない! もう嫌よ。あんたみたいな強いのと戦うなんて......」

「あ、勝ったんだな。久しぶりだな、萃香......だっけか?」

「合ってるよ。三日ぶりだね」

 

 この感じだと、魔理沙が負けた相手はこいつで正解みたいね。

 というか、三日前って宴会の日じゃない。それでよく無事に参加......そう言えば、遅れて来てたわね。

 

「あぁ、ようやく姿を見せて参加する気になったんだな。いや、霊夢が勝ったからか?」

「うん、そうだね。霊夢に負けたから、ついでに参加しに来たんだ」

「まあ、好きにしなさい。ただし、暴れないでよ?」

「んー......それは保証できないかな〜。鬼だし」

「負けたんだから保証しなさい!」

 

 本当に妖怪......特に血の気が多い奴は困るわね......。

 すぐに戦おうとする。でもまぁ、勝てば言う事聞いてくれるからいいけど......。

 

「はいはい。仕方ないなぁ」

「それじゃあ、アリスと飲んでくるから、萃香は任せたぜー」

「はぁ!? 私、こんなのと相手するの嫌よ!?」

「まぁまぁ、いいじゃないか〜」

「あんた、鬼でしょ!? なら余計に嫌よ」

 

 鬼と言えば、化け物並に酒に強い妖怪だから......。まあ、私目線、化け物も妖怪も変わらないけど。

 

「鬼でも、弱い奴はいるんだぞ〜? 吸血鬼とか」

「それ、最早別物じゃない。というか、何気に心読んでない?」

「私、覚じゃないぞ? まぁ、飲もうとしようよ〜」

「はぁ......仕方ないわね。ちょっとだけよ?」

「やったー! 霊夢、やっさしぃー」

 

 というわけで、私は変な鬼と飲むことになったのだった。

 なお、この後、気付いた時には朝になっていたが────




そう言えば、お気に入り数が300超えたので、番外編やりまする。
閲覧者の皆様。こんな小説を見てくれてありがとうございますm(_ _)m

活動報告で番外編で何やるかの募集でもしようかな......。
あ、ちなみに、Twitterにてレナータの絵を描いたのを公開しています。下手ですけど。
ちなみに、pixivでも描いてたりする


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6、「鬼と吸血『鬼』」

萃夢想後日談(レナ編)です。
まだまだ平和。


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(エントランス)

 

 偶然、今日は早く起きた。せっかくだし、フラン達にバレないように部屋を出て、お姉様の部屋に向かっていた。が、運の悪いことに──

 

「おーい! レナ〜、遊びに来たぞ〜」

 

 ──鬼が居た。比喩でもなんでもない。萃香()が家の中に居たのだ。

 いやまぁ、私も吸血『鬼』だけどね。

 

「お帰りくださいませ。自分の家に」

「私の家なんてないぞ〜。あるとしたら、博麗神社くらいだなぁ」

「それは居候なのでは......。というか、どうしてここに来たのです?」

「最初に会ったとき、お前の妹にも会いたいから、また今度来るな〜。って言っただろ?

 私は鬼だ。約束は絶対に守るつもりだからな」

 

 いや......確かに嘘はつかないとは聞いているけど、約束を破らないのは少し違う気が......。

 

「どちらかと言うと、それは私が言うセリフですよね? いやまぁ、そんな約束した覚えないですけど」

「なんだー? 私が嘘ついてるって言うつもりかー?」

「そうは言ってません。とりあえずお帰りください。私にそのお酒を近付けないようにしてください。あの後、記憶が飛んでしまったのですよ? 全く何も覚えていないのですよ?」

 

 結局、あの後何があったかお姉様に聞いても、何も答えてはくれないのだ。いつ、どんな時に聞いてもはぐらかされる

 

「......まぁ、知らない方がいいこともあるさ。長年生きてきた私が言うんだ。そういう事もあるって心に刻んでおくことだな......」

「どうしてそんな『知ったら死にかねない』みたいな感じで話すんでしょうねっ!?」

「おっ、正解だぞー。お前、やるなぁ」

「え......そ、それは言って欲しくなかった気も......いえ、私が言ったことなのですけど......」

「あははー。さて、早く案内してくれよ」

「嫌です。それよりも、門に人が居ませんでしたか? どうしたのです?」

 

 確か、今日は昨日の夜から美鈴が門の前で立っていたはずだ。なんでも、寝ていたバツだとか......。

 

「あぁー、寝てたよ。だから無視して入ってきた」

「全く懲りてないことだけ分かりました。後で咲夜にでも言いつけておきますか......」

「おう、そうした方がいいと思うぞー。さて、お前の妹......名前は何だっけ?」

「フランとルナです。それがどうかしましたか? 会いたい以外の選択肢なら聞きますよ?」

「何処に居るんだ?」

「だから、それは聞きませんって」

「お前が聞かないのは会いたいだけだろ? 私は何処に居るのか聞いてるだけだぞ?」

 

 うっ、この鬼......揚げ足を取りよって......。はぁー、もっと明確に指定すれば良かったなぁ。

 

「それも聞かないことにします」

「むぅ、レナ、お前ケチだなぁ」

「それでも結構です。帰り道まで送りますよ? 門前までですけど」

「ちぇっ、仕方ないな。今から弾幕ごっこでお前と勝負するから、私が勝ったら案内しなよ?」

「それ私に何の得もありませんよね!?」

 

 この鬼、どうしてもフラン達に会いたいのか......。

 別に会わすくらいならいいけど......嫌な予感しかしないんだよなぁ。

 

「鬼なら戦い好きだろ? それが得に決まってるじゃないか」

「別に好きじゃないです。フラン達と遊んでいると、そういうのもよくありますけど、好きでやってるわけでは......いや、遊ぶのは好きでやってますね」

「やっぱり好きじゃないか。鬼相手に嘘はいけないぞ?」

「だから! 遊びでの話ですよ!?」

 

 もうやだこの人。

 お姉様の部屋に行こうとした矢先にこの鬼に会うなんて、今日はついてないや......。

 

「むぅー......どうしてもダメなのか?」

「どうしてもダメです。具体的には、私にお酒を飲ませる気がするからダメです」

「私はそんなことしないぞ? 鬼は嘘つかないから信用してくれてもいいだろ?」

 

 鬼は基本的に嘘をつかない。だけど、裏をかくことはあると言う。

 萃香は特にそういうのが多い気がする。いやまぁ、それでも嘘をつかない分、全然マシだけど。

 

「......確かに、鬼が嘘をつくなんて有り得ませんけど......」

「だろう? さぁ、早く案内してくれ〜」

「......まぁ、会わせるくらい大丈夫ですよね。あれ? 前にもこういうことが......いや、気のせいですね。

 ではまぁ、付いてきてください。フランとルナに会いたい、でいいのですよね?」

「それでいいぞー。お前の姉さん......レミリアだっけ? そいつはもう会ったことあるからなー」

 

 お姉様に一度会っただけで充分と? ......まぁ、いっか。人それぞれだしね。

 とりあえず、フランとルナに会わせたら、余計なことをしないうちに帰らせるとするか。

 どうせ、ろくなことしかしないだろうし。

 

「......お前ー、なんか失礼なこと考えてるだろ?」

「え、そ、そんなことはないですよ?」

「嘘。顔に出てるぞ」

「え!? ......って、出るわけないです!」

「その反応でもう分かっちゃうんだよなぁ。お前、気を付けろよ? 嘘下手だから。

 私も含めて、鬼は嘘が嫌いだからな。すぐにバレちゃうぞ?」

 

 鬼にこんな注告をされることがあるとは......。鬼って何でも力で解決するイメージだし、できる限り萃香の注告は守るようにしようかなぁ。

 まぁ、できる限りだけどね。嘘だとバレなければいいだけだし。

 

「一応、教えてくれてありがとうございます。その注告、心に刻んでおきます」

「......嘘っぽいな。まぁ、いいや。さっさと案内してくれ〜」

「はいはい。分かりました」

 

 私は適当に返事をして、今来た道を引き返した──

 

 

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

「......まぁ、まだ寝ていますよね。萃香、起こさないで下さいね?」

「ちぇっ......まぁ、起きるまで待てばいっか。それにしても......似てるな、お前ら。顔がそっくりだ」

「そ、そうですか? ......えへへ」

 

 フランとルナ、私とミアはよく似ているって言われるけど、私とフラン達はあんまり言われないからなぁ。

 いやまぁ、前者の方はどっちも顔がそっくりどころか全く同じだし、私はフランよりもお姉様に似ているから、あまり言われないだけだと思うけどね。

 

「......お前、気持ち悪いぞ?」

「失礼な! 可愛いフランとルナに似ていると言われて嬉しがらない人は居ませんよ!?」

「あ、そっちじゃない。っていうか、その言い分は......いいや。これ言ったら余計にうるさくなりそう」

「む、気になります......」

「気にするな。さっきも言ったけど、うるさくなりそうだからね。妹達を起こしちゃってもいいのかい?」

「いや、もう起きてるから......」

 

 と言う、フランの声がした。

 フランが寝ていたはずの場所を見ると、重たそうに体を起こしているフランの姿があった。

 

「え? あ、フラン......ごめんなさい、起こしました?」

「うん、起こしたね。ふわぁ〜......で、誰なの? その娘」

 

 眠たそうに目をこすりながら、フランが萃香を指差してそう言った。

 

「その娘? あぁ、私か。こう見えても、お前よりも年上だぞ?」

「見た目は私よりも年下なのにね」

「私から見ればどちらも変わりませんけど......」

「レナ、お前もな。フランと同じ背丈だぞ?」

「全く同じじゃないからセーフです」

 

 全く同じじゃなくて、フランよりも数ミリほど私の方が高いんだけどね。

 ちなみに、お姉様は私よりも数ミリほど高い気がする。まぁ、気がするだけかもしれないけど......。

 

「で、結局誰なの? お姉様のお友達?」

「まぁね。私は伊吹萃香。レナの親友だ」

「鬼は嘘をつかないのではなかったのですか?」

「私がそう思ってれば嘘じゃないだろ?」

「ふーん......お姉様の親友ねぇ......」

 

 フランが疑り深い目を私に向けながらそう言った。

 って、完全に萃香の言うことを信じてない!?

 

「いやいや、だからちがいますからね!? 親友じゃないですからね!?」

「えぇー、親友でいいじゃんかー」

「萃香、お姉様の親友になるなら、私の許可がいるからね?」

「私の許可の方がいりますよね!?」

「むぅ......オネー様、フラン。うるさい......」

 

 声がした方には、先ほどのフランと全く同じように、重たそうに体を起こしているルナの姿があった。

 

「あ、お姉様のせいでルナが起きちゃったじゃない!」

「え、私のせいなのですか!?」

「うわぁー、ひどい姉だなぁー」

「萃香! 貴女は黙って下さい!」

「ルナ、まだ寝てても良いんだよ? 二度寝してもいいんだよ?」

 

 いや、もう後十分ほどでいつもの起きる時間なんだけど......。

 

「オネー様のせいで目が覚めた」

「むぅ......結局私のせい......」

「あははー、面白い奴らだなぁ」

「九割ほど貴女のせいだと思いますけどね......」

 

 いやまぁ、どうせお姉様の部屋に行こうとしていたことがバレれば、怒られると思うけどね。

 はぁー、数分だけでもお姉様の寝顔見たかったなぁ......。

 

「オネー様、責任とって、くれるよね?」

「なんだか嫌な予感しかしないのでお断りします。私のせいじゃないですし......」

「むぅー、オネー様のせいなのに......」

「ひどい奴だなぁ。責任くらい取ってあげればいいんじゃないか?」

「取ったら死ぬレベルでヤバいので絶対に嫌です」

 

 フランやルナが言う責任は、原因と全然釣り合わないのよね。

 お姉様はまだ優しいのに、フラン達は手加減というものを知らないからなぁ。

 

「オネー様、失礼」

「だよねぇ。ルナが可哀想だなー」

「......ほれ、フラン。瓢箪(これ)飲ませてみ?」

「萃香さん? 約束が違いますが?」

「私は飲ませない。近付けない。そう、『私』はな」

「あ、もしかしてお酒? やったー! お姉様、大丈夫、幸せになれるよ?」

 

 悪魔みたいに悪い笑みを浮かべたフランが、紫色の瓢箪を持って近付いてきた。

 

「それダメなやつの言い方ですから! というか、朝からお酒なんて飲ませないで下さい!」

「え? 朝からでも酒は飲むだろ?」

「それは鬼だけです!」

「お前も吸血『鬼』だろ?」

「......フラン、その『なら別に問題ないよね』みたいな顔をしながら近付かないで下さい」

 

 やばい......フランだけならともかく、ルナや萃香もいるから逃げようが......。

 あ、凄く今更だけど、霧になれば逃げれるんじゃ......。お姉様に後ろから捕まった時もあってそうすれば良かった気が......。

 

「あ、萃めるから霧になっても無意味だぞ?」

「ありがとうね、萃香」

 

 前言撤回。萃香が居たら逃げれないや。というか、どうして心の中を読めたのですかね!?

 

「ふ、フラン? 今すぐやめないと、怒りますよ?」

「優しいから怒っても全然怖くないよ? 逆に可愛いくらいだよ? だから怒ってもいいよ?」

「え......私、そんなに威厳とか無いんだ......」

「妹に対してだろうけどね。さ、早くもがいてみせなよ〜」

 

 いつの間にか、萃香はルナの横でぐうたらしながら手を振っていた。

 

「フランだけならともかく、貴方達三人相手はもがく間もないのですが!?」

「オネー様、私は手出さないよ」

「私も逃げる以外なら見てるだけにしとくよ〜」

「あ、そうなのですね......」

 

 それでも、萃香はともかく、フラン達は絶対に傷付けたくない。だから、使える手はかなり限られている。

 魔法で眠らせるやつもあるけど、あれは霧を使うやつだし、萃香に邪魔されるに決まっている。

 さて、他に手は......ないね。諦めて最後の抵抗だけやるかぁ。

 

「フラン、一応聞きますが、やめてはくれないのですよね?」

「うん、やめない。お姉様もさ、記憶は無くなるだろうから、恥ずかしいことなんて起きても大丈夫だよ?」

「記憶が無くなることと、恥ずかしいことが起きるのが前提なのはおかしくありませんか?」

「前者は運だけど、後者は酔うのが当たり前になってきてるし、絶対だと思うよ?」

「前者が運の自体で嫌なのですよね......」

 

 酔うのが当たり前っておかしくない? 私、そんなに酔いやすいの?

 いやまぁ、毎回お酒を飲んだ後は記憶が飛んでるけど......。

 

「じゃ、もう時間稼ぎとかいいよね? お姉様、飲ませてあげるよっ!」

「遠慮し、え、モガッ!?」

 

 あと数メートルというところで、一瞬にしてフランが距離を詰め、瓢箪を私の口に押さえつけて、中にあるお酒を飲ませてきた。

 

「あ、もういいかな? ......うふふ、酔ったお姉様も可愛いよねー」

「え、ひょってませんよ!」

「あぁ、はいはい。そうだね。お姉様は酔ってないね」

 

 そう言って、フランが私を抱きしめてくれた。

 あれ? なんだか体が熱く......あ、酔ってるから......って、酔ってない......。

 なんてことを考えているうちに、私の記憶はそこで途切れてしまった────




番外編決まったので、近いうちに投稿したいと思います。
本編はいつも通り日曜かな。


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7、「鬼の住まう神社」

完全な雑談回です。

まぁ、閑話と思って見てください()


 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社

 

 最近、神社に参拝に来る人間の数が減った気がする。

 

「霊夢ー、暇ー」

「知らないわよ。いっつも何処かほっつき歩いてるんだし、今日もそうすればいいじゃない」

 

 それもそのはずか。最近、私の神社に鬼が住みついたから......。払っても、祓っても出ていこうとしない鬼が。

 

「えぇー、たまには遊んでくれてもいいじゃんかよー」

「あんたと遊んだら疲れるじゃない。魔理沙とでも遊べば? 喜んで遊んでくれるわよ」

「嫌だぜ。鬼なんかと遊ぶには、命が足りない」

「あら、魔理沙。居たのね」

「最初から居たぜ」

 

 この鬼が住みついてから、この神社は酒臭くなった気がする。

 まぁ、別にそのお酒は自分のを飲んでいるからいいんだけど。

 

「霊夢ー、お腹空いたー」

「あ、私も空いたな。何かないのか?」

 

 お酒以外の食事は私の家にある物を食べるから困る。

 量は少ない分、まだいいが......。

 

「あっても出すわけないじゃない」

「霊夢ー、私が居ることで、他の妖怪から変に襲われることないぞ? お酒に困らないんだぞ?」

「......仕方ないわねぇ」

「博麗の巫女はそれでいいのかよ......」

「だって、弱い妖怪でも襲われると大変でしょ? というか、退治するのもめんどくさいでしょ?」

 

 まぁ、不意打ちとかされても、勘で大体は分かるから、大事に至ることは無いんだけど。

 

「えぇ......。まぁ、気持ちは分かるけどな。たまに強めの妖怪に会うこともあるし、番犬代わりに欲しいかもなぁ」

「おいおい、私は犬じゃないぞ? 鬼だよ?」

「比喩的表現だ。気にするな」

「ふーん、その『ひゆてき』って、分かりにくい表現なんだなぁ」

「よくある表現でしょうに。というか、貴方も使ってなかった?」

「うーん......そうだっけ?」

 

 確か、萃香も比喩を使っていたような気が......いえ、気がするだけかしら?

 それとも、萃香が酔って忘れてるだけ? この鬼、いつも顔赤いし......。

 

「......まあ別にいいわね。そんな些細なことなんて」

「まぁ、そうだね。霊夢も()みたいになってきたなぁ」

「はぁ? 私が? あんた達みたいに?」

「鬼は細かいことなんて気にしない」

「大体の奴はいちいち細かいことなんて気にしないわよ」

「霊夢は気にしなさすぎるけどな」

「そうかしら?」

 

 疑問を口に出すと、二人とも「そうだよ」と首を縦に振った。

 普通だと思うんだけどねぇ......。

 

「そういやさ。今日、ここに来る時に本をパク、借りに紅魔館に行ったんだけどよ」

「今、パクリにって言おうとしてなかった? というか、唐突ね」

「ただの言い間違いだから気にしなくていいぜ。でさ、運悪くレミリアに会ってしまったんだ」

「運悪くって、やっぱり盗む気満々だったのね」

「いやいや、あいつが苦手なだけだぜ」

「嘘。魔理沙、鬼が居るところで二回も嘘をつくなんて、ある意味凄いね」

 

 そう言えば、鬼って嘘が嫌いだったわね。

 今みたいに言われたことが無いから忘れていたわ。

 

「まぁまぁ、そう怒るなよ」

「怒ってはないよ? 怒っては」

「その言い方だと怖いぜ......」

「魔理沙、早く続きを話なさいよ」

「そうだーそうだー」

 

 せっかくだから、最後まで聞きたいのよね。暇だし。

 萃香にも急かされた魔理沙は、お前らが止めたよな?、といった表情になりながらも話を再開した。

 

「えーっと、レミリアに会ってから、だよな? その後、捕まってな。凄く怒っていたんだ」

「あら、それでよく逃げれたわね。何があったの?」

「いや、怒ってたのはな、私のせいじゃないんだ」

「え? あんたが本を盗んだせいで怒ってたんじゃないの?」

「あぁ、違うぜ。盗んだ、ということも、私に怒っていた、ということもな」

 

 いや、前者は合ってるでしょうに。それにしても、さっきから萃香が何も話さない。

 チラリと見てみると、考え込んだように頭を抱えていた。

 もしかして、何か知っているのかしら? レミリアが怒っていたことを。

 

「......萃香? どうしたの?」

「ん、いや、大丈夫だよ。魔理沙が知ってると思うから」

「え? 何を?」

「それは話の続きを聞いていたら分かると思うぜ。

 で、捕まった後、咲夜に引き渡されてな。ここに来るまで、咲夜と話していたのさ」

「......要するに、咲夜に怒っている訳も聞いたってこと?」

「あぁ、そういうことだぜ」

 

 咲夜も大変ねぇ。あの広すぎる館の掃除とか、仕事があるのに、泥棒の面倒まで見ることになっていたなんて。

 たまにしか行かないだろうし、面倒を見るのも少ないでしょうけど。

 

「それで、あいつの妹、レナが誰かにお酒を飲まされたらしいんだ。それも朝から」

「へぇー......朝からお酒とかキツそうね。って、もしかして、飲ました誰かって......」

「あぁ、私だね。ちょっと遊びに行ったついでに、プレゼントしただけだよ?」

「うわぁー......あんた、あいつがお酒を飲んだらどうなるか知ってるでしょ?」

 

 毎回、宴会の時にはお酒を飲まされて、泣き上戸になったり、幼児退行したりと、大変なことになっている。

 まぁ、妖夢とか、似たようなことをされてる人は他にも居るんだけど。あいつは吸血鬼じゃないからか、飲みすぎるとすぐに気絶するからねぇ。まだ騒がしくない分、私にとっては有り難い。妖夢にとっては......まぁ、ご愁傷さま、としか言えないわね。

 

「まぁね。面白そうだからやったんだ。吸血鬼と言うくらいだし、あいつらがお酒に強いと思うのも分かるだろ?

 まぁ、思ったのは初めて見た時だけどね」

「それが初めて見た時じゃないでしょうに。あんた、あの三日おきの宴会中、ずーっと居たんでしょ?」

「うん、居たよ。で、私もやってみたくなった」

「......鬼だなぁ」

「鬼だよ? 私は生粋のね」

「え、あぁ、そうだな」

 

 萃香、それも比喩だと思うんだけど......まあいいわ。多分、さっきのことも忘れたみたいだし。

 今、話している間もずっとお酒を飲んでいるみたいだし、興味が無いことは憶えようとしないのでしょうね。

 

「まぁ、そういう訳でな。酔っ払ったレナを見たレミリアが、萃香に対して怒っているらしい」

「酔わせた後、私はすぐに帰っちゃったからなぁ。多分、レナの妹達も怒られてたでしょ?」

「ん、よく知ってるな。理由は聞いてないが、こっぴどく叱られたらしいぜ」

「え? どうして? 萃香、何か知ってるの?」

「あ、お酒をプレゼントしただけで、飲ませたのはその妹達なんだ」

 

 あぁ、要するに、いつもの宴会通りと......。結局は身内が犯人なのね。

 え、ということは、萃香はあまり悪くない気も......いえ、お酒を持って行ったのは萃香だからかしら?

 それに、飲ますように唆したのも萃香だから?

 

「まぁ、多分、いつかここに萃香を探しに行くと思うから、気を付けろよ」

「......萃香、私が面倒事に巻き込まれる前に、ちゃんと話は付けときなさいよ」

「仕方ないなぁ。霊夢には居座らせてくれてる恩があるし、明日にでも行ってくるね。今日はゆっくりしたいし」

「......まあ、それでもいいわ」

 

 多分、レミリアはまだここに鬼が住み着いているなんて知らないだろうし、一日や二日くらいなら、来ないはずよね。

 まあ、それで来たら......何処か、ここではない場所で話し合いをしてくれるように言うしかないわね。

 話し合いが物理にならないことを祈りながら......。

 

「そう言えば、掃除をしていなかったわ。萃香、ついでに手伝いなさい」

「鬼を雑用に使おうとするやつ初めて見たよ......。まぁ、いいけど」

「いいのか。いやまぁ、お前がそれでいいならいいんだろうけど」

「魔理沙、貴女も手伝う?」

「遠慮するぜ。私はもう一回、紅魔館に凸ってくる」

「......あんたも凄いわねぇ......色々と」

 

 紅魔館に飛んでいく魔理沙を見送りながら、私と萃香は箒を取り出し、神社の掃除を始めた────




次回から新たな異変に......。


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8、「永い夜の始まり」

ようやく永夜異変開始。
長かったような、短いような......いや、長いなぁ()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(テラス)

 

「お姉様......」

「あら、こんな夜中にどうしたの?」

 

『三日おきの宴会』から数ヶ月。まだかまだかと思っていたけど、今思い返せば案外早いものだった。

 

「月、おかしくありません?」

「......まぁ、気付くよね。できれば、貴方達が起きる前に済ませたかったんだけど......」

「まだフランもルナも寝ていますよ。起きているのは私くらいです」

「『貴方達』にはレナ(貴方)も含まれているのよ」

 

 まぁ、うん、そうだよね。やっぱり私も含まれてるよね。

 ......昔は何処かに行く時は、よく連れて行ってくれてたのになぁ。

 

「......お姉様、あの月は何なのです?」

「さぁね。私にも分からないわ。ただ、私達、妖怪にとってあれは放っておいていいものじゃない気がするわ」

「......あの月にした犯人の場所に行くつもりですか?」

「えぇ、咲夜を連れて行ってくるわ。レナは安心して、ここで待っていなさい」

 

 むぅ......待っていなさい、と言われて待っている私じゃないのに......。

 お姉様に無理言ったら行ってもよくなるかな......?

 

「お、お姉様」

「何かしら? と言っても、顔に出てるから言いたいことは分かるけど......」

 

 あれ、顔に出てた? ......顔に触れてみても、案外変わってるかどうか分からないものなんだね。

 あ、元の表情の時にあまり触ってないから分かるものも分からないか。

 

「分かってるなら、いいですか?」

「ダメ。一応、口で言ってからにしなさい。本当に私が思ってるのと、合ってるか分からないから」

「分かりました。......お姉様、私も連れて行ってください。絶対に役に立ちますから」

「......はぁー、やっぱりそう思ってたのね。

 できれば、貴方達を危険な目に遭わしたくないから、連れて行きたくないのよね......」

 

 お姉様......優しいのはいつも通りだけど、もう子供じゃないのに......。

 あ、吸血鬼だから子供か。まだ五百歳くらいだし。......五百歳って結構だなぁ。

 

「それに......いえ、何でもないわ」

「え、何です? 気になります」

「何でもないから気にしない、気にしない」

「むぅー、教えてくださいよー」

「レナ様。お嬢様は以前、妹様方だけで異変に向かったのを羨ましく思っているのです」

「ひゃっ!? き、急に出てくるから変な声出ちゃいました......」

「さ、咲夜!?」

 

 咲夜って、いつも急に現れるよね。......もしかして、遊んでる?

 いや、今はそれよりも......。

 

「お姉様、羨ましかったのならそうと言ってくださいよー」

「べ、別にそんなこと思ってないわよ! ただ、あの月が気に入らないだけで......」

「レナ様達が異変に向かった後、お嬢様は『自分も行けばよかったなぁ......』と、ご自分の部屋で嘆いていました」

「ど、どうして知ってるの!? あっ......れ、レナ。フランとルナには内緒にしておきなさい。いいね?」

「うふふ、お姉様の頼みならばいいですよ」

 

 やっぱり、お姉様も可愛いところあるんだなー。

 可愛すぎて、咲夜が居なかったら今すぐにでも抱きしめていたかも。

 

「よかった......。あの娘達、特にフランにバレたら......まぁ、バレたら何とかするけどね。レナを犠牲にするとか」

「お姉様、酷くないですか?」

「大丈夫。冗談よ。で、結局、貴方も行きたいの?」

「お姉様に付いていきたいです。離れたくないです」

「......まぁ、いいわ。遅れないように付いてきなさい。咲夜、貴方も付いてくるのよ?」

「はい、仰せのままに」

「え、あ、お姉様! 行くなら行くって言ってください!」

 

 そう言って飛び上がったお姉様を、私は見失わないように付いていった────

 

 

 

 

 

 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社

 

「ふぁ〜......もう夜遅いし、そろそろ寝ないと......」

 

 ろくに掃除もしてないけど、もう眠いから明日でいいよね。

 どうせ明日も何もない暇な──

 

「あら? まだ夜は始まったばかりよ?」

「......明日は何もない日だったらいいわねー。さて、寝ないと」

「明日は何もないと思うわ。だって、今日が何かある日なんですもの」

 

 後ろからずっと聞こえる嫌な声......。

 やっぱり、この声ってあいつよね?

 

「......一応、誰かしら? さっきから私の平穏を崩そうとしている奴は」

「私よ。八雲紫。っていうか、声で分からない?」

「はぁー、分かっていたけど、できれば違うやつがいいな、って思ってたのよ......」

 

 そして、できるなら今すぐこいつから逃げたいわ......。

 絶対に面倒事を持ってきてるし。

 

「残念だったわね。私でしたー」

「無性に腹立つのはどうしてかしらね」

「さぁ? カルシウム不足じゃない?」

「貴方のせいだから!」

 

 はぁー......どうしてこいつがここに......。

 確かに、博麗の巫女とは縁がありそうでもないけど......。私には関わって欲しくなかったわ。

 先に関わったのは私だけど。

 

「まぁまぁ。落ち着きなさい。それよりも、異変よ。博麗の巫女の出番じゃなくて?」

「はぁ? 異変?」

 

 異変って、そんな予兆とか無かったと思うけど......。

 何か普段と違うことでも起きているの?

 

「あら、やっぱり気付いてなかったのね。あの満月、何か妙と思わないの?」

「満月? ......別に、普段と変わりないと思うけど......」

「はぁー、やっぱり人間には分からないのねぇ」

 

 私がそう答えると、紫はため息をついてそう言った。

 分からないと思っていたのなら、さっさと言えばいいのに。

 

「で、何が変なの? 貴方の目から見て」

「私だけじゃないわ。妖怪の目から見てあの月はおかしいのよ。

 あの月は、偽物よ。人間には分からないと思うけど」

「偽物? ......全然分からないわね。で、それの何が悪いのよ」

妖怪(私達)の力が弱くなる」

「なら、放っておいてもいいわね」

 

 妖怪が弱くなるなら巫女の私にとっては好都合だし、逆にずっとこのままでも......。

 

「あら、長い間放っておくと、私みたいにしびれを切らした妖怪達が暴れ回るかもしれませんわよ?」

「......その発想はなかったわ。いいわ。手伝ってあげる。これでも博麗の巫女だから。この偽物の満月って、夜の間にしか出ないのよね? なら、夜の間に解決しないとダメなの?」

「えぇ、そうよ。でも、安心なさい。夜を止めてでも解決するわ」

 

 嫌な予感しかしないわね。けど、こいつは結構強いし、何とかなるわよね。

 

「まぁ、それならいいわ。じゃ、案内して。大体の位置は分かっているんでしょ?」

「まぁ、方角程度なら分かりますわ。では、付いてきてくださいな」

「はいはい。......妖怪に仕えてるみたいで嫌な気分......」

 

 そう思いながらも、私は紫の後へと付いていくのであった────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──魔法の森(魔理沙の家)

 

「ん、こんな遅くにお客さんか」

 

 家で本を読んでいると、「こんこん」と扉をノックする音が聞こえた。

 多分、霊夢ではない。あいつならノックなどせずに勝手に上がってくるからな。

 かと言って、他の人の可能性は......あの吸血鬼達くらいか? いや、あいつらもこんな遅くには来ないな。

 なら、誰だろうか?

 

「誰だ? ......なんだ、アリスか」

 

 扉を開けると、そこに立っていたのは、同じ魔法使いであるアリスだった。

 いつも通り、小さな人形を従えている。

 

「なんだ、とは失礼ね。貴方も魔法使いなんだから気付いているわよね?」

「え? 何がだ?」

「はぁー、その様子だと気付いてないのね......」

「何に気付いているか言わないと分からないに決まってるじゃないか」

「気付いてたら、聞いただけで分かるくらいの異変なのよ」

「ん、今何て言った? 異変だと?」

 

 まさか、今、現在進行形で異変が起きているのか?

 それなら行かないとな。霊夢も行ってるだろうし。

 

「まぁ、異変ね。気付いていないのなら教えてあげる。今、外に見えるあの月。何かおかしいと思わない?」

「月? ......あぁ、今日は満月で綺麗だな」

「......分からないのね。あれは本物の月じゃないわ。偽物の月よ」

「え? あれが、偽物だって?」

 

 どう見ても、普通の月にしか見えないんだが......。

 アリスは嘘をつくような奴じゃないし、言ってることは本当なんだろう。

 けど、どう見てもあれが偽物とは......。

 

「偽物なのよ。私は本物の月に早く戻したい。魔理沙。手伝ってくれない?」

「......まぁ、異変だしな。手伝わないわけないぜ。あ、霊夢も気付いているのか?」

「さぁ、それは知らないわ。けど、霊夢も博麗の巫女なんだし、気付いてたら解決している途中にでも会うでしょうね」

 

 まぁ、確かにそうだな。もし会えれば、協力もできるかもしれないな。

 とりあえず、異変に向かって、霊夢がいたら協力して、最後のおいしいところだけ私がやるか。

 道中は霊夢に任せて。

 

「......魔理沙。凄く悪い顔になってるけど?」

「あ、あはは、気にするな。特に意味はないからな」

「ふーん。嘘だと思うけど分かったわ。さ、付いてきて。大体の場所は見当ついてるわ」

「おぉ、流石だな。頼りにしてるぜ」

「......そう、ありがとう」

 

 私はアリスを頼りに、異変を解決するために暗い夜の中を急ぐのであった────

 

 

 

 

 

 side Konpaku Youmu

 

 ──白玉楼

 

「妖夢ー、お出かけしましょー」

 

 夕食の後片付けをしている最中、幽々子様が唐突に口を開き、そう言った。

 

「幽々子様。突然どうなされましたか? それに、お出かけと言っても、何処に行くのですか?」

「幻想郷〜」

「は、はあ......。幻想郷と言っても、何処に行くのですか? 神社とか、山とか、館とか、色々ありますけど......」

「そうねぇ......竹林辺りかしら?」

「『かしら?』って......。また思い付きなんですね......」

 

 いつものことだけど、幽々子様の思い付きには困らさられる。

 はぁー、私、こんなことやっといて体持つかな......?

 

「あらあら、思い付きじゃダメかしら〜?」

「いえ、別にいいですけど......」

「なら、行きましょ〜」

「まだ片付けが終わっていないですけど......」

「帰ってからでいいじゃなーい」

 

 洗い物はできる限り早めに終わらせたいんだけどなー。でも、幽々子様の命令を聞かないのもなー......。

 

「......はぁー、いいですよ。行かないとうるさいでしょうし」

「やった〜」

「ただし、洗い物を水につけるくらいはさしてください」

「それくらいはいいわよ〜。さ、終わったら急いで冥界の出入り口に来なさいよ〜」

「はいはい。分かりましたよ。って、もう行っちゃいましたか......」

 

 それだけ言い残して、幽々子様は消えてしまっていた。

 多分、もう行っちゃったのかな。私も急いで行かないと。

 そう思って、私は急いで片付けを再開するのであった────



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9、「光る蟲と歌う夜雀」

毎回の如く、戦闘はカットされます。ご注意を()


 side Remilia Scarlet

 

 ──人里近くの森

 

「お姉様。綺麗な月ですね」

 

 飛行してから約十数分後。突然レナが口を開いたと思うと、呟くような小さな声でそう言った。

 

「え? 突然どうしたの? と言うか、あれは偽物の月よ?」

「......ふふっ」

「むぅ......そうですね。えぇ、そうでしたね。お姉様って本当に......」

 

 あれ、どうしてちょっと不機嫌に? 何か間違ったことでも言ったかしら......?

 って、咲夜はどうして笑ってるのよ......。

 

「レナ様。それは異変が終わった後に言った方がよかったかと......」

「......ですね。急ぎ過ぎました......」

「本当に急ぎ過ぎですね」

「ねぇ、貴方達は一体何の話をしているの?」

「お姉様の鈍感さについて」

「お嬢様が無知だったことについて」

 

 ......どちらも全然違うじゃない。

 はぁー、余計に意味が分からなくなったわ。

 

「まぁ、いいわ。それよりも気付いてる?」

「はい。虫が一匹、飛んでいますね」

「......お姉様。私、虫苦手です......」

「あら、そうなの? まぁ、苦手じゃない人の方が少ないと思うけど......レナ、貴女は私の後ろにでも隠れてなさい」

「......ありがとうございます、お姉様」

 

 外の世界ではほとんど家に籠っていたし、あまり虫を見る機会なんて無いと思っていたけど......レナは苦手だったのね。

 もしかして、フラン達も苦手だったりするのかしら? まぁ、私も触るのとかは嫌だけど......。

 

「あれ、気付かれた? なら現れてあげる!」

 

 そう聞こえた途端、目の前に何かが飛び出してきた。

 そして、目の前には、頭に虫の触覚らしき物が生え、白いシャツと虫の羽を模したようなマントを着た子が飛んでいた。

 

「ひゃっ!? ......あ、あぁ、虫ってそっちの......」

「あれ、どうして安堵されてるの?」

「あ、でも、頭の触覚がちょっと......」

「咲夜。レナは虫が苦手らしいから、今すぐあれを駆除しなさい」

「お嬢様、五分の虫にも一寸の魂、‪とか言ったりしますよ? まぁ、もちろんいいですけど」

「もしかして、物騒な話?」

 

 どうせこいつも人間じゃないでしょうし、そこまで物騒な話とは思わないでしょうに。

 これは、どっちかと言うと......。

 

「いえ、殺生な話」

「あ、それいいわね。確かに殺生な話だし」

「ひぇぇ。この人達怖いや......」

 

 ならどうして出てきたのやら。

 もしかして、アホの子とか? でも、そうには見えないわよね。......気になるし、聞いてみるか。

 

「ねぇ、虫の貴女」

「なんか嫌な言い方......。何か?」

「どうして私達の目の前に現れたわけ? 何か理由があるんでしょ?」

「もちろん、バレたからって言うのが一番。後は、貴方達、お嬢様方でも渡して貰おうと」

「......えーっと、お姉様を私達から奪おうと?」

 

 あ、これ地雷踏んじゃったやつじゃない? レナの目、笑ってないんだけど。本気の目なんだけど。

 

「え、合ってるけど、貴女も──」

「許せませんね。お姉様は私が守ります」

 

 この娘って本当に単純ねぇ。まぁ、別にいいけど。守ってくれる、って言ってくれるのは嬉しいし。

 

「貴女、さっきまで虫は苦手だからって......。はぁー、咲夜。三分で終わらしてー。私はレナを止めとくから」

「仰せのままに。では、虫の駆除を始めましょうか」

「え、私ってそんな簡単に倒されるの?」

 

 こうして、私がレナと話しているしばらくの間、私達の後ろで戦闘音が響くのであった────

 

 

 

 

 

 side Konpaku Youmu

 

 ──人里近くの森

 

「妖夢〜、何か聞こえるわ〜」

「......えぇ、そうですね」

 

 幽々子様の気まぐれで竹林へと向かっている最中、何処からか鳥の鳴き声なような音が聞こえてきた。

 

「顔が怖いわよ〜。もっと気楽に気楽に」

「幽々子様は気楽過ぎですよ。いっつも、のほほんとして......」

「人生気楽が一番よ?」

「それ、半人半霊の私に言いますか?」

 

 私がそう言うと、幽々子様は「なら半生ね〜」と言いながら扇子を口に当てた。

 まぁ、幽々子様に至っては、幽霊だから生きてはないんですけどね......。

 

「ねぇ〜、ちょっと待って〜!」

「誰か来ていますね。幽々子様。私の後ろへ」

「そこまで警戒しなくても大丈夫よ〜」

「ちょっと、貴方達には私の歌声が届かないのかしら? あ、もしかして人間じゃないの?」

 

 幽々子様を後ろへと下がらせたとほぼ同時に、声の主の正体が姿を現した。

 その声の主は、赤黒く禍々しい服を身にまとい、爪や翼など、人ならざるものが付いていた。

 まぁ、半霊がいる私に言えたことじゃないんだけど。

 

「夜だと言うのに、雀の鳴き声がするわねよ。妖夢」

「幽々子様。この鳴き声に惑わされないでください。おそらくですが、これは夜雀の鳴き声。最も不吉な音です」

「不吉なんて失礼ね。それに、幽霊が出る音よりはなんぼかマシでしょ?」

「えぇ、そうねぇ。比べ物になりませんわ」

「否定して下さいよ〜」

 

 まぁ、確かに幽々子様があの吸血鬼の妹を驚かした時とか、かなり怖がられてたけどね。

 あの時の幽々子様の面白そうな顔ときたら、本当に凄かったですし......。

 

「妖夢ほら、鳴き声がまた強くなってきたわ。何処から聞こえるのかしら」

「ああもう、人間でも人間だった奴でもいいや。これから、楽しい妖怪祭りが始まるよ」

「さぁ妖夢、先を急ぎましょうか」

「え? えぇ、そうですね」

 

 幽々子様って本当に気まぐれですよね。

 とりあえず、先を急ぐにしても、この妖怪を何とかしないと。

 

「そうですけど。それにはまず、目の前の鳥を落とさないと」

「雀は小骨が多くて嫌いなの」

「わがままですね......」

「通さないよ! あと、食べられもしないからね!」

 

 夜雀のその言葉を合図に、私達は弾幕ごっこを始めた────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──人里近くの森

 

「お嬢様、終わりました」

「本当に三分で終わらせちゃいましたね」

「まぁ、私のメイドだし、優秀なのは当たり前じゃない」

「お褒めの言葉、ありがとうございます」

 

 最初、雇った頃は全然家事なんてできなかったのにね。

 今ではこんなに優秀なメイドになるなんて......。ほんと、時が経つのは早いわ。

 

「咲夜。今のはお姉様の自画自賛だと思いますよ?」

「失礼ね。ちゃんと咲夜を褒めてたのよ」

「へぇー、それならいいですけど」

「......レナ、何よ? その目は」

「お嬢様。疑いの目ではないかと」

 

 うー、確かに自画自賛したところも、あるかもしれないけど......。

 

「まぁ、お姉様は強いですし、かっこいいですし......可愛くて優しいですから、自画自賛したい気も分かりますけど」

「え、う、うん。......ありがとう」

「レナ様。おそらくというか、確実にお嬢様よりもお嬢様を褒め過ぎているかと。

 このままでは、調子に乗ってミスをしでかしてしまう可能性が......」

「ねぇ、咲夜。意外と貴女も酷くないかしら?」

「気のせいでは?」

 

 気のせいじゃないと思うんだけどねぇ。......って、咲夜。口がにやけてるんだけど......。

 

「お姉様。早く異変を解決して帰りましょう。

 何処に異変の主犯がいるのか謎ですが、ある程度の敵なら、お姉様なら瞬殺できますし、早く帰れるはずです」

「まぁ、場所もある程度は分かるから大丈夫よ。ただ......」

 

 これだけの異変、私と同等以上の力を持っている奴のせいに違いない。

 下手すると、私なんかじゃ比べ物にならない......いや、そんなネガティブに考えてはダメね。

 何があっても、何が起きても、私は私の家族を守ればいいだけよね。

 

「......お姉様?」

「お嬢様? どうかされましたか?」

 

 いつの間にか、レナと咲夜が心配そうな顔をして、私を見つめていた。

 

「......大丈夫。何でもないわよ。さぁ、先を急ぎましょう」

「はい、仰せのままに」

「ですね。行きましょうか」

 

 こうして、私達は暗い森の中を抜けていくのであった────

 

 

 

 

 

 side Konpaku Youmu

 

 ──その頃 人里近くの森

 

「強かったわね〜」

 

 全く、夜雀を数分で、しかも遊びながら倒したのに何を言っているのやら。

 幽々子様って、本当に性格が悪いわ。

 

 私と幽々子様。いや、主に幽々子様の活躍により、夜雀は倒された。

 今、夜雀は私の峰打ちにより、すぐそばの木の下で気絶している。

 

「妖夢。顔に出ているわよ。何か悪口を言ってるでしょ?」

「え!? き、気のせいですよ! それよりも、夜雀が出たってことは、じきに妖怪か何かが集まってきます。

 その前にここを去りましょう。せっかくのお出かけなんですし」

「え? あ、えぇ、そうね〜」

 

 ......何故でしょう。幽々子様、また私に何か隠し事をしている気が......。

 

「妖夢〜。急がないと置いていくわよ〜」

「え? あ、いつの間に!? ま、待ってくださーい!」

 

 急いで幽々子様を追う私に隠し事云々の話を聞く暇もなく、私は目的も分からずに前へと進むのであった────



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10、「異変だよ! 全員しゅうごーう!」

題名はあれですけど、ネタ回ではないです。ご注意を()


 side Kirisame Marisa

 

 ──人里付近

 

「はぁ、今日は来客が多いな。やはり、あの月のせいか?」

 

 人里を通りかかった時に突然、青い服を着た青っぽい銀髪の女性が話しかけてきた。

 

「うにゃ、通りかかっただけだぜ。気にするな」

「妖怪の言う事は信じられないんだが......まぁ、さっきと同じ目に遭いそうだからな。

 目的次第では、ここを通してやろう」

 

 アリスはともかく、私は妖怪じゃないんだけどなぁ。

 まぁ、別にいいけどな。間違えられるくらいなら。突然攻撃されても、正当防衛にできるし。

 

「あぁ、人里をおそ──」

「魔理沙。急いでるのよ。余計なことは言わないで。

 私達はあの月にした犯人を探しているのよ。何か知らないかしら?」

 

 ちぇっ、流石に止められるか。まぁ、いいか。異変の黒幕と弾幕ごっこできればそれでいいか。

 

「やっぱり、前の奴らと目的は同じだな。竹林の奥へと進むことだ。そこに答えはある」

「そう。ありがとう。さっ、魔理沙。行くわよ」

「あ、ちょっと待ってくれ。前の奴らってのは、どんな奴らだ?」

「紅白の目出度い奴と胡散臭そうな妖怪だ」

 

 紅白......十中八九霊夢だな。やっぱり、異変に出ていたのか。

 胡散臭そうな妖怪は......思い当たる奴が一人いるが、そいつとは関わりたくないな。

 まぁ、異変を解決するなら絶対に会うことになりそうだが......。

 

「ふむふむ。そうか......。ありがとな。アリス。行くぜ」

「それ、さっき私が言った」

 

 霊夢が異変に関わってる......余計に燃えてきたぜ。

 そう思い、私は全速力で竹林へと向かうのであった──

 

 

 

 ──十数分後 竹林

 

「やばいな。帰り道が分からなくなってきたぜ」

「急ぎすぎよ......。はぁー、帰れなくなったらどうするのよ」

「その時はその時だぜ。それよりも、今は異変を......。あ、大丈夫そうだな」

「え? ......あぁ、本当ね」

 

 私が見ている先には、夜の竹林でもよく目立つ紅白の服を着た女性と胡散臭い奴が飛んでいた。

 あれは、絶対に......。

 

「おーい! 霊夢ー!」

「何? 何でこんな所に魔理沙が居るの?」

「異変を解決するためだぜ。お前達もそれが理由なんだろ?」

「......一緒ではありませんわ」

「ん? 違うのか?」

 

 なんだか不穏な空気だな......。何かまずいことでも言ったか?

 

「違いますわ。私達は『異変解決』に。貴方達は『異変解決ごっこ』でしょう?」

「ちょっと。どうしてそんな敵対心が強いのよ」

「この人達が居ては足でまとい。今回の異変、そんな人達が居ては迷惑極まりないので」

 

 ......やっぱり、この妖怪は嫌いな奴だ。

 こいつは何故か信用できない。どうして霊夢はこんな奴と一緒にいるんだ?

 

「あら、私達がそんなに弱いと思う?」

「少なくとも、私達よりはかなりの格下では?」

「へぇー、なら試してみる?」

 

 あれ、なんでこんなに殺気が高いんだ?

 顔からして、霊夢も困惑してるみたいなんだが......。

 

「試す価値もないと思いますが?」

「......魔理沙。やるわよ」

「はぁ!? どうしてそうなるんだ!?」

「霊夢。やりなさい」

「ちょっと。どうしてこっちは私頼りなのよ。戦うなら貴女も手伝いなさいよ」

 

 あれ、どうして霊夢もやる気になってるんだ?

 私だけか? まともな人間は。いや、人間は私と霊夢しかいないが......。

 

「仕方ないですね......。藍。行きなさい」

「はい。承知しました」

「おい、今どっから出てきた。っていうか、どうして霊夢戦うことになってるんだよ......」

「いや、その前に紫も戦うなら手伝いなさい。どうして式神に......」

「私の式神に負けるようなら、足でまとい以下ですので」

 

 こいつ......煽ることに長けてやがる。

 まぁ、そこまで言われて、黙っているほど私は優しくないけどな。

 

「よし、やるか。私達の力を見せてやるぜ! アリス。式神を頼む。私は霊夢だ」

「いいわよ。覚悟しなさい」

「結局、紫はやらないのね......。はぁー、まぁ、いいけど」

 

 こうして、私達と霊夢、紫の式神との戦いが始まった────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──時間は少し遡り 人里近くの森

 

「ねぇ、お姉様。咲夜の様子、少しおかしくないですか?」

「え、そうかしら?」

 

 いや、確かに蛍を倒してから、少し経った今、戦っている時と比べて、咲夜はボーッとしてる感じがするけど。

 おかしいとまでは思わないわね。たまにこうなるし。こういう時は、何か考え事をしているはず。

 

「むぅ、おかしいですよ。多分」

「多分じゃダメじゃない。確実じゃないんだから」

「まぁ、確かに確実じゃないですけど......」

「お嬢様方? どうなされましたか?」

 

 あら、流石に気付かれるわね。

 まぁ、レナったら、ひそひそ声だから気付かれるのも無理ないけど。

 

「貴女が少しおかしいってレナが思って、私に聞いていただけよ。

 多分だけど、貴女、何か考え事してるだけでしょ?」

「まぁ、はい。そうですよ」

「お姉様も多分じゃないですか。いえ、それよりも......そう思ってたなら教えてくださいよ」

 

 まぁ、確かに言ってもよかったわね。まぁ、レナの心配する顔を、もうちょっと見たかったからなんだけど。

 

「あら、言うのを忘れてたわ。ごめんなさいね」

「絶対嘘ですよね......」

「まぁ、いいじゃない。それで? 咲夜。何を考えていたの?」

「いえ、大したことではありませんよ」

 

 ......咲夜の大したことじゃないので、大したことあったやつが多い気がするんだけど......。

 まぁ、本当に大変なこと、特に命の危機とかならすぐに言うはずだから、今すぐ聞かなくても大丈夫とは思うけど。

 

「ただ......」

「ただ、どうしたの?」

「人里が一向に見えない、と思っているだけです」

 

 人里......? そう言えば、確かにここら辺に人里があったような......なかったような......。

 

「あ、そう言えば見当たりませんね。お姉様も前に一度、ここに来たはずですし憶えていますよね?」

「......いえ、憶えてないわね」

「結構最近だった気がするのですけど......。もしかして、来たことも憶えてないってことは......」

「あ、それは憶えてるから安心しなさい。っていうか、悲しそうな顔になるの早すぎよ」

 

 あの時、フード付きコートがあるから日光を防げたはずなのに、レナが甘えて私の傘に入ってきたことが印象に残ってるわ。

 ほんと、甘えるのは家だけにして欲しいわ。......流石に恥ずかしいし。

 

「それは仕方ないですよ。あの時のことも、大切な思い出ですから......」

「レナ......」

「......お嬢様方。良いところで申し訳ないですが、爆発音です。おそらく、人里近くの竹林辺りからの」

 

 咲夜にそう言われ、耳を澄ましてみる。

 確かに聞こえるわね。それも、一回や二回じゃないわ。

 

「あ、ほ、本当ですね」

「本当ね。誰かが戦っているのかしら?」

 

 あれね。レナと話していると、時間を忘れてしまうわ。

 それにしても、レナの顔、赤くなってない? 大丈夫かしら?

 

「行ってみるしかありませんね。お嬢様方。私が案内します。大体の位置は把握しましたので」

「え、よく分かりますね」

「まぁ、メイドですから。音の反響や......いえ、長くなるので割愛します」

「ごめんなさい。それがどうしてメイドと関係あるか分からないわ」

 

 まぁ、咲夜が意味が分からないことを言うのは今に始まったことじゃないけど。

 それでも、レナよりはマシなんだけどね。......私の家族、変な奴多いわねぇ。

 

「まぁ、行ってみるしかないわね。咲夜。案内お願いね」

「はい。では向かいましょう」

 

 こうして、私達は音のする竹林へと向かっていった──

 

 

 

 ──竹林

 

「......お嬢様。霊夢と魔理沙が戦っているみたいですが、どうしましょうか」

「......まぁ、見学でいいと思うわよ。微妙に魔理沙達の方が劣勢みたいだけど」

 

 霊夢と魔理沙、アリスと紫の式神が戦闘中。そして、紫は式神の後ろで見ているだけ......。

 あの妖怪、意味の無いことはしないはずだし、何か考えでもあるのかしら?

 いえ、それよりも、見ているだけでいいのかしら......。

 

「あらあら〜、いっぱい人がいるわねぇ」

「あ、げっ......幽々子さん......」

「あれ、どうして皆さんこんな場所に?」

「あら、冥界のお嬢様とその庭師じゃない。異変解決のためよ」

 

 こんなに集まるとは......。別に、今回は何も運命を弄ってないのに......。

 偶然? それとも必然? ......まぁ、いいわ。これだけいれば異変を解決するのも簡単ね。

 どうして霊夢と魔理沙が戦っているのか謎だけど。

 

「異変、解決? ......幽々子様。お出かけとか言いながら、こんなことを企んでいたんですか」

「偶然よ〜。偶然〜」

「信用できない......」

「あらあら、主人を信用するのは従者として当たり前でしょ〜?」

「えっ?」

「咲夜? どうしてそこで疑問に思うのかしら?」

 

 私、従者に優しい方だと思うんだけど......。稀に、ごく稀にわがまま言うこともあるけど......。

 

「いえ、何でもありませんよ」

「お姉様って自覚ないですよね。無理難題言ったりすることもあるのに」

「レナも失礼ね。そんなこと、一回もないわよ」

「えーっと。話の途中で申し訳ないですが、あの方達はどうして戦っているのでしょうか......」

 

 あ、そう言えばそうだったわね。

 って言っても、弾幕ごっこの最中に聞けるわけないけど......。

 

「まぁ、終わるまで待つしかないわよ。多分、何か戦わないといけない理由があるんでしょ」

「かたや通りすがりに妖怪を倒す人、かたや弾幕ごっこが好きな人ですけどね」

「......そう言われると、理由が無くてもおかしくなさそうね......」

「弾幕ごっこに理由なんてあってないようなものよ〜」

「確かに、遊びみたいなものだしね......」

 

 私達は幽霊と雑談を続けながら、弾幕ごっこが終わるまで待つことになったのであった────



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11、「そしてバラバラに」

題名ほぼそのままの模様


 side Unknown

 

 ──竹林

 

「......久しぶり、ですね」

 

 今、目の前には紅白の巫女と白黒の魔法使いが戦っているのが見える。

 そして、その戦っている前には、いつも見ていた、いつも一緒にいた人達がいる。

 

「話したいのに話せない。......仕方ないですよね。これはここに来てから決めてたことですし」

 これは仕方のないこと。いや、そうしなければいけないこと。

 そう言い聞かせ、その場を去ろうとする。

 

「できる限り、会わないように、気付かれないように......巻き込まないようにしないと。

 大切な人、大切な思い出。ようやく......」

 

 最後に、大切な人達をもう一度、見るために振り返った。

 

 どうしてここに来たのかは分からない。

 いや、本当は分かっている。大切な人達を巻き込みたくない。それなのに、もう一度会いたいと思っているからだ。

 矛盾しているのは分かっている。会わなければ、見つからなければ巻き込む可能性はほとんどない。

 

 なのに......どうしても......最後になる前に、姿を見ておきたかった。

 もう、違うのに......。

 

「......ごめんなさい。こんなこと......知ったら絶対に怒りますよね。止めますよね」

 

 頬に何か水のようなものが流れたのを感じる。

 何かが込み上げてくるのを感じる。

 

 これは......決意だろうか。それとも......。

 

「でも、もう手遅れになんかなりたくありません。一人だけだとしても、成し遂げて見せます」

 

 誰にも言えない言葉を、虚空に向かって呟き、久しぶりに来たその場を後にした────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──竹林

 

「んー?」

 

 突然、何の前触れもなくレナが後ろを振り返った。

 そして、キョロキョロと辺りを見回したのだ。

 

「どうしたの? 何かいた?」

「誰か......いえ、気のせいです。何もありません」

「ふーん、そっ、ならいいけど。何か気になることがあったら、隠さずに言いなさいよ」

「はい、言いますよ。多分」

 

 多分って......まぁ、いいけど。レナは嘘をつくのが下手だから、すぐに分かるしね。

 

「あ、そろそろ終わりそうよ〜。魔理沙が構えてるみたいだしね〜」

「ん、本当ね。やっぱり、決め技はあれなのね」

 

 いつものように、魔理沙はミニ八卦炉を両手に構え、霊夢に向かって──

 

「霊夢! 覚悟しろよっ! マスター......スパークっ!」

 

『マスタースパーク』を放った。

 極太の光は真っ直ぐ霊夢へと飛んでいったが、流石に隙が大きかったせいか、霊夢には難なく横に避けられてしまった。

 

「──っと。危ないじゃない。私、まだスペルカード使ってないのよ?」

「ちぇっ、やっぱりお前には当たらないか。それなら──」

「ちょっと待ちなさい!」

「ん? なんだ? 勝負する気にでもなったのか?」

 

 魔理沙と霊夢の勝負を中断させたのは、八雲紫だった。

 

 今気付いたけど、いつの間にかアリスと紫の使い魔の戦闘も終わっているわね。

 それに、二人ともどこか、別の方向を......あっ。

 

「いいえ、違いますわ。あれを見なさい」

「ん? あれって私がマスパを撃った......なんだあれは? あんな物あったか?」

 

 魔理沙が『マスタースパーク』を撃った先に、いつの間にか屋敷のような建物が出来ていた。

 いや、出来ていたというよりは、現れた、の方が正しいのかしら?

 

「結界、ね」

「正解。さて、仲間割れはここまでにして、異変の黒幕が居るであろう屋敷に行きましょう?」

「先に始めたのはお前じゃなかったか?」

「あれは実力をはかるため。これから先、弱ければ死にますので、試しただけですわ」

「試す必要はなかったと思うけどな」

 

 既に仲間内で対立が起きてるけど、これから大丈夫なのかしら......。

 ただ単に、みんなが血気盛んなだけかもしれないけど。

 

「ふふっ、でもまぁ、お礼だけは言っておきます。

 こうして、貴女のお陰で黒幕の住処を見つけることができましたから」

「なんか腑に落ちない気もするが......まぁいいぜ。異変が終わるまで一時休戦だな」

「終わったらまた戦う気なの? 私はごめんよ。疲れるわ」

「おいおい、まだ勝負はついてないんだぞ?」

「別に私の負けでもいいんだけど......」

「いやいや、ちゃんと最後までやろうぜ!」

 

 あっちは大変ねぇ。特に魔理沙に絡まれてる霊夢が。

 そう言えば、霊夢が異変以外で弾幕ごっこしてるの見たことないわね。

 

「お姉様。早く行きません?」

 

 あ、私の異変が終わった後に、レナとしてたわね。

 何気に、私よりもレナの方が追い詰めてた気がするのよねぇ。

 

「あれ? お姉様ー?」

 

 今度、レナと遊んでみようかしら。弾幕ごっこで。

 まぁ、私が勝つに決まってるけど。楽しそうだしね。

 

「むぅ......カリスマ?」

「ブレイク。って何言わせるのよ! それと別にブレイクしてないわ! したことないから!」

「別に言わせてないですよ? それに、ブレイクするカリスマも......いえ、ありますね。お姉様、優しいですし」

「レナ様。そこは嘘でも無いと言うのが基本かと......」

「咲夜は何吹き込んでるのよ! まぁ、今はいいわ。それで、レナ? どうしたの?」

「早く行きましょう? 霊夢達が言い争っている間に、黒幕だけ倒してしまいましょう?」

 

 あぁ、確かにそうしてもいいかもしれないわね。

 あっちはまだ続きそうだし......。って、あら? あの幽霊達はどこに......?

 

「ねぇ、レナ、咲夜。あの幽霊達はどこに行ったの?」

「あ、そう言えば......どこに行ったのでしょう?」

「あぁ、あの方達なら、我先にと屋敷の中に......」

「......確かに急いだ方がいいわね。一応......霊夢ー! 先に行ってるからー!」

 

 あ、言い争っているせいか、聞こえてないみたいね。

 まぁ、紫はこっち見てたし、聞こえてるだろうから大丈夫よね。

 

「さっ、レナ、咲夜。行きましょうか」

「他の人は放っておいていいのです?」

「大丈夫よ。そのうち来ると思うから」

「お姉様がそう言うなら......行きましょうか」

「お嬢様方。ここから先は、私が先導します」

「えぇ、お願いね。咲夜」

 

 未だに気付かない霊夢達を置いて、私達は屋敷の中へと足を踏み入れるのだった──

 

 

 

 ──竹林(屋敷内)

 

「広いわね。レナ、はぐれないようにしなさいよ」

「私、方向音痴じゃないですよ?」

「へぇー、よく言えるわねぇ。咲夜。レナが道に迷わないように、注意を払ってて」

「はい、分かりました」

「絶対に違うと思うのですけど......」

 

 この娘ったら、どこまで意地っ張りなのかしら。

 昔、と言ってもここに来てからだと思うけど、道に迷ってフラン達を困らしてたのに......。

 

「......お嬢様。この先に冥界の幽霊方と誰かがいます。どうなされますか?」

「異変の黒幕かしら? まぁ、行くしかないわね。咲夜、後ろに下がっててもいいけど、どうする?」

「私はお嬢様の矛であり盾でもあります。後ろに下がるなどという選択肢はありません」

「そう。なら任せたわよ」

 

 やっぱり、咲夜がいてくれて助かるわぁ。

 最初、家に来たときはまだまだ未熟な子供だったのに......成長するものなのね、人間って。

 私達も、まだ子供だから、成長するのかしら? あまり想像つかないけど。

 

「あれは......兎、ですかね?」

「え? 何が?」

「ほら、お姉様。あれですよ、あれ」

 

 レナが指差す方向には、冥界の幽霊と庭師、そして、長い薄紫色の長髪と兎の耳らしきものを持った女性が戦っていた。

 少し出遅れちゃったわね。......でも、黒幕って言うには、少し力不足な気もするわね。

 それでも強い方みたいだけど。

 

「手伝う?」

「いえ、あれは任して、黒幕を探しましょう。奥に幾つか扉がありますし、そのどれかから行けると思いますし」

「まぁ、そうね。そうしましょうか」

 

 って、あれ? どうしてレナは黒幕じゃないって......いえ、私と同じようなことを思ったのね。

 私達、姉妹だし、考えることは似ててもおかしくないでしょうし。

 

「あ、吸血鬼姉妹とその従者じゃない〜。遅かったわね〜」

「敵を目の前にしてよそ見とか、油断してたらすぐに死ぬわよ!」

 

 幽々子がこちらを振り返った瞬間に、兎が幽々子に向かって指を指し、弾幕を放った。

 

「ちょ、前! 前見なさいって!」

「──斬り捨て御免。幽々子様、ちゃんと戦って下さい......」

 

 が、当たるかと思われた瞬間に妖夢が弾幕を真っ二つにしてしまった。

 

「あら〜、ごめんなさいね〜。でも、妖夢が守ってくれるって信じてたのよ?」

「そう言うのはいいですから、敵に集中してください。ここは私達に任して、貴方達は先へとお進み下さい。

 黒幕らしき敵はあの扉の先へと入っていきましたので」

「分かったわ。レナ、咲夜。行くわよ!」

「仰せのままに」

「......はい。行きましょうか」

「レナ? どうしたの? 何か気になることでもあった?」

 

 一瞬、レナの表情が暗く見えた。

 こういう顔をする時は、大抵の場合何か気になることがあったか、考え事をしていた時だ。

 おそらく、今回は前者の方だろう。

 

「いえ、大丈夫です。先を急ぎましょう」

「貴方達も通さな、っ!?」

「はぁー、早く行ってください。止めとくのも大変なので」

 

 邪魔が入りそうになったが、妖夢が進行方向を防いでくれたお陰で助かった。

 これで、黒幕に......。

 

「ありがとうね! 帰ったらお礼はするから!」

「なら、無事に帰れたら料理作ってね〜」

「さっ、あれは無視して行きましょう!」

「確かに量がやばいですしね......」

 

 この異変の黒幕を倒すため、私達は妖夢の言っていた扉の先へと入っていった────




切るところ迷って、結局こうなった模様()
5ボスの会話は次の話でやりまする。

後、投稿時、評価が495になったので、日常編(末妹編)を後日、投稿する予定です。
ちなみに、リクエストとかは活動報告でコメントしてくだされば、やるかもしれません()


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12、「扉の先 Aルート」

永夜抄、finalAの方のお話。
紅魔組視点です。最初にちょっと冥界組入るけど()


 side Konpaku Youmu

 

 ──竹林(屋敷内)

 

「幽々子様、こちらです」

「は〜い」

 

 幽々子様に促され、霊夢達が言い争いをしているうちに、私達は屋敷の中へと入ってきた。

 

「それにしても、よかったのですか?」

「え〜、何が〜?」

「あの方達を置いてきて、ですよ。ここには、何かの異変を起こした黒幕がいるんでしょう?

 異変を起こすとなると、おそらく幽々子様に近いレベル。

 そうなれば、私では太刀打ちできないですよ?」

「大丈夫よ〜。私達は敵の数を減らせればそれでいいから〜」

 

 ふむ、要するに、私達は後から来るであろう霊夢達の障害を減らせればいいと。

 というか、どうしてわざわざそんな遠回りなことを......。

 幽々子様なら、黒幕とも戦えるでしょうに。敵がどれくらい強いか分からないけど。

 

「遅かったわね」

「早速ですね」

「早速ね」

 

 行く手を阻むように現れたのは、足元に届きそうなほど長い薄紫色の髪を持ち、吸血鬼姉妹のように紅い瞳を持つ女性だった。

 その頭には、兎の耳のようなものが生えている。

 ──って、あれ? 耳の付け根、ボタンみたいなのが付いてる気が......。いえ、気のせいね。うん、絶対に気のせい。

 

「全ての扉は封印したわ。もう姫は連れ出せないでしょう?」

「何をわけのわからないことを。とりあえず、敵みたいですから斬りますね」

「まだまだ、焦っちゃダメよ」

「って、なんだ、幽霊か。焦らせないでよ、もう。

 用が無いなら帰ってよ。今取り込み中なの」

「それは無理な相談ね。早くあの月を元に戻しなさい。妖夢もそうして欲しいよね?」

「え、えぇ、そうですね」

 

 毎度のことだけど、急に振るのはやめて欲しいです、幽々子様......。

 それにしても、月ってどういうこと? 異変に関係しているのかな?

 

「あの月? ああ、地上の密室の術のこと?」

「そうよ。これは物凄く迷惑な術だわ。即刻やめてもらいます。

 妖夢、さぁ斬っておしまい」

「え、えぇ、行きますよ?」

「荒っぽい幽霊ね。少しは話を聞いてからでもいいじゃない」

「あら、お迎えかと思ったら、幽霊? まぁ、お迎えが来れる筈が無いけど」

 

 奥の扉から、銀髪を三つ編みにし、赤と青の特殊な配色の服を着た女性が出てきた。

 見た目は人間だが、雰囲気からして尋常ではない力を感じる。

 おそらく、この人は幽々子様と同等か、それ以上の力を持っている。

 

「妖夢、二人目よ。これも斬るのよ」

「え、えぇ? 行きます、の?」

「ほら、そんなにいじめちゃ可哀想じゃない。月の件は私の術よ。

 ただ、これも姫とこの娘のため。幽霊とはいえ、このくらいの優しさが無いといけないわ」

「それは残念だったわね。これから私達以外の人も来るから、止めないっていうのは無理な話だと思うわよ。

 あの人達、かなり非人道的だからねぇ」

 

 幽々子様......それ、後で知られたら、私達も退治されるんじゃ......。

 い、いや、忘れよう。考えないようにしよう......。

 

「あら、他にも......。そう言えば、未だに外で言い争っている人がいるわね。

 それなら......ウドンゲ、ここはお前に任したわ。時間を稼ぎなさい。

 それと、間違っても姫を連れ出されないようにね」

「お任せ下さい。斬られはしないけど、扉は一つも開けさせません」

 

 あぁ、なんだ。幽々子様と大差ないじゃないか。

 それにしても、敵が逃げてしまったけど、大丈夫なんでしょうか。

 

「脳が逃げて、鳥が残る。妖夢、斬る相手が一人減ったわね」

「え? えぇ、斬りますってば」

「ふふふ。師匠や月のことばっかに気を取られて......。

 既に私の罠に嵌っていることに、気が付いてないのかしら?」

「え!?」

 

 罠? いつの間に!?

 あ、でも言ってるだけとか......いえ、あの目は本当のことみたいね。

 

「貴方の方向性は狂い始めている。もう真っ直ぐ飛んでいられない!」

「あ、そう言えば、幽々子様、なんであいつが鳥なんですか? 兎じゃぁ......」

「兎は、皮をはいで食べると、鳥になるの。覚えておきなさい」

「嘘を教えるな。っつか、無視するな!

 私の目を見ても、まだ正気でいられると思うなよ!」

 

 え? 目を見ても......?

 あ、私、さっきから見てるけど、大丈夫かしら?

 

 そんな不安を胸に、私は剣を手に持つのであった────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──時間は少し進み 竹林(屋敷内)

 

「このくらいでいいかしら......。あら、。って、違う人達の方ね」

 

 窓から月が見え、永遠とも思える長い廊下を飛んでいくと、奥には銀髪の女性が一人、いた。

 

「貴方が黒幕ね。一発で分かったわ。この悪党面で」

「酷い言われようだわ。別の人にも話したけど、確かに月の件は私の仕業。

 でも、これも姫とあの娘のため」

「そう、ならやることは一つね。貴方を倒して月を元に戻す」

「本当に非人道的というか、三人中、二人は人外じゃない......」

 

 非人道的? 私が? かなり人道的よ?

 家族限定で。

 

「それにしても、気付かないのかしらね」

「え? 何に?」

「あれよ。ほら、窓の外」

 

 窓の外? 窓の外なんて、月くらいしか無い......いや、違う!

 

「しまった! 嵌められたわ! アレは月じゃない!」

「確かに、ちょっと大き過ぎますわねぇ」

「咲夜、それは近いからだと思いますよ......」

「そういうこと。貴方達は偽物の月と永い廊下に導かれてここに来た。満月は月と地上を結ぶ唯一の鍵なの。

 その鍵を壊せば月と地上は行き来できなくなる。

 ほら、こんな風に偽の幻影に惑わされてね」

 

 幻影......。どうしてこんな回りくどいことまでしてここまで連れて来たのかしら?

 もしかして、こいつも黒幕じゃない? いえ、黒幕なのは確か。

 異変はこいつが起こしたこと。それは自供してるし......姫、か?

 さっき言ってた姫を守るために、こんなことをしてるのかしら?

 

「あら、幻影ですって。さっきの滅茶苦茶長い廊下も幻影かしら」

「そうかもしれませんね。あれだけ長いと、掃除が大変そうですよね」

「幻影に決まってるじゃない。あれだけ長いと、掃除用のモップが持たないから」

「モップじゃなくて、雑巾掛けかもしれませんよ。腰を痛めそうですが」

「そんなこと、気にしなくていいじゃない。幻影よ、幻影」

 

 まぁ、確かに気にしなくてもいいわね。

 だけど、こいつを倒して異変は終わるのかしら? 姫ってやつを倒さないと......そこは霊夢達に任せればいいわね。

 

「あぁ、一つ、聞いていい? どうしてこんな大掛かりなことをしているの?」

「月からの追手から、姫を守るためによ。

 今夜はこのまま朝を迎えれば、もう月から使者はやってこないでしょう」

「あぁ、さっきから兎ばっかり見かけたのは月の兎なのね」

「いや、ほとんどは地上で捕まえた兎。生粋の月の兎は鈴仙だけよ」

 

 鈴仙? あぁ、さっき幽々子達と戦っていた兎か。

 確かに、他よりも強い感じはしたわね。

 

「まぁ、どうでもいいわ。満月を奪ったやつが分かっただけでいいの。理由なんてどうでもいい。

 ここに来るまで、私達、吸血鬼から月を奪ったやつをどうしようか考えていたわ。

 そして、今決まった。レナ、咲夜。手加減無しよ」

「お嬢様、お言葉ですが、今まで会ってきた敵も手加減してないですよ」

「え......じゃぁ、死ぬ気で」

「死にませんよ」

「お姉様、死んじゃ嫌ですからね」

 

 このメイド......。まぁ、いいわ。

 というか、レナがなんか勘違いしてない? まぁ、いいけど。

 

「随分と余裕ねぇ。ここまで誘い出したのも、思う存分遊ぶため。

 安心していいわ。朝になれば満月は元に戻してあげるから。後は朝まで遊ぶだけでいいのよ」

「お嬢様、よかったですわね。勝っても負けても満月は元に戻るようで」

「何を甘いことを言ってるの? なめられたお返しをしないと、幻想郷での威厳が保てないじゃないの。

 もはや満月なんてどうでもいいの」

「お姉様、先ほどと言ってることが違います。それに、お姉様に傷ついて欲しくないのですが......」

 

 はぁー、またそんな悲しそうな目で私を見る......。

 やっぱり、レナを連れてきたのは間違いだったかしら?

 この娘、自分の心配なんかせずに、私のことばっかり心配してヒヤヒヤするし......。

 

「ふん、そこの娘が言ってる通りね。ガキの癖に、貴女みたいな幼い子供が永遠の民である私に敵うはずが無いじゃない。

 貴女の積み重ねてきた紅い歴史。私の歴史で割れば、ゼロよ。永久から見れば、貴女は須臾」

「む......なんだかお姉様がバカにされてる気がします」

「こら、相手の挑発に乗らないの」

「そうですよ、レナ様。年長者は敬わないといけませんよ」

「あんたは一番若いけど」

 

 確か、まだ咲夜は十代よね。

 ......若すぎるにも程があるわ。レナなんてもうすぐ五百歳なのに。

 人間って本当に若いわよねぇ。

 

「あと、時を止めていたのは貴方達か、そのお仲間でしょう?

 そんなことして、姫の逆鱗に触れてなければいいけど......」

「ほら、レナ、咲夜。私を敬いなさい。存分に」

「いつも敬ってますよ? お姉様は」

「話を聞いていない。最近の若者はこれだから困るよ。

 貴方達には、話よりこの弾幕の薬が必要なみたいね!」

 

 その言葉が弾幕ごっこの開始の合図となり、私達の戦いは始まったのだった────



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13、「扉の先 Bルート」

今回はB側の話。会話だけであまり進展しないのでご注意を()


 side Kirisame Marisa

 

 ──竹林(屋敷内)

 

「はぁー、貴女のせいで出遅れたじゃない」

「私だけじゃないだろ? 霊夢もだぜ」

 

 言い争いにかなり時間を割いてしまった気がする。

 それにしても、あの幽霊と吸血鬼達、早すぎないか?

 ちょっとくらい、待っててくれてもいいと思うんだがなぁ。

 

「それにしても、あいつらはあいつらで先々行きすぎよ! 全く、巫女である私を差し置いて異変を解決だなんて!」

 霊夢も同じように思っていたのか、大声に出して苛立ちを発散させていた。

 ──まぁ、いつもサボってる霊夢が言うのもおかしいと思うけどな。

 

「そう思うのなら早く行けばよかったでしょうに。まぁ、急げばまだ間に合うと思いますけど」

「言われなくても......そう言えば、貴女のスキマで移動すればいいんじゃないの?

 それなら、すぐにでも追いつくでしょ?」

「スキマの中は私の家同然。他人を土足で入らすわけにはいきません」

「靴を脱げばいいのね」

「そう言う問題ではないのだけど」

 

 霊夢......結構(あいつ)と仲良いんだな......。やっぱり、強い妖怪に好かれる質なのか?

 ......私も強くならないとな。霊夢と並べるくらいには。

 

「魔理沙? 浮かない顔だけど......行かないの?」

「ん? あ、あぁ、行くぜ。霊夢達に負けないようにな!」

「......そっちの方が貴女らしいわね。さて、急ぎましょうか。霊夢達は先に行っちゃったみたいだし」

「え? ......お、おーい! 置いてくなよー!」

「やっぱり気付いてなかったのね......」

 

 霊夢達に負けないためにも、私達は急いで長い廊下の奥へと急進んでいった──

 

 

 

 ──竹林(屋敷内)

 

「ん、あれは......」

 

 長い廊下を進んでいくと、幾つもの扉があった。

 そして、廊下の先には──

 

「幽霊組と......兎? 倒されているみたいだけど、敵かしら?」

「みたいよ。幽々子〜」

「あらぁ、遅かったじゃなーい」

 

 戦っていたらしき幽霊組に、倒されたらしい地面に倒れている兎がいた。

 

 こいつが黒幕か? いや、そんな強そうには見えないな。

 そう言えば、あの吸血鬼達がいないな。あいつらが黒幕を追っていったってことなのか?

 

「この娘達が喧嘩してね。大変だったのよ?」

「あんたは見てただけじゃない」

「見るのも大変なのよ。目を使うから」

「あっそ。で、こいつが黒幕?」

 

 倒れている兎を指差しながら、霊夢がそう言った。

 ──本当にこいつが黒幕なら、もう異変は終わってることになるが......まだ終わってる感じはしないな。

 まだ妖怪連中がピリピリしてやがる。

 

「違うわ〜。黒幕らしき人なら、扉の奥へ進んでいったのよ。それを吸血鬼(あの娘)達が追いかけているわ」

「......それって、あの扉?」

「え? ......いえ、違うわ。あっちの扉よ〜」

 

 幽々子は霊夢が指差した扉とは別の扉を指差して、そう言った。

 

「へぇー、あっち、ね......」

「霊夢? どうしたんだ? あの扉に何かあるのか?」

「いえ、何かある気がしただけよ。早く黒幕を追いましょう」

「......いえ、確かに何かあるみたいよ?」

 

 紫がそう言って、霊夢が指差した扉と同じ扉を指差す。

 ──そう言えば、霊夢の勘って良いんだよな。

 胡散臭いんだが、紫も言ってるし、本当に何かあるのか?

 

「......どうする? 行ってみる?」

「でも、黒幕の方が最優先じゃないの? 貴方達の目的もそうなんでしょ?」

「まあ、確かにそれもそうよね」

「......霊夢。ここは貴女の判断に任せるわ。

 黒幕を追うか、何かある扉の奥に進むか。貴女が選びなさい」

 

 こいつら、本気で異変を解決しに来たのか分からないな。

 巫女として異変を解決するために黒幕を倒しに行くか、自分の勘を信じて進むか。

 霊夢は一体どちらを選ぶんだろうか。

 だがまぁ、霊夢の勘は頼りになる。ここは霊夢の決めた道に......。

 

 私がそう考えてるうちにも、霊夢は「うーん」と頭を抱えていた。

 そして、一分ほど経ち──

 

「決めたわ! 何かありそうな部屋に行きましょう!」

「......それはまた、どうしてかしら?」

「異変を解決するために必要な、何かがありそうな気がするから」

「それはまた根拠の無いことを。でも、貴女の判断に任せたのは私ですし、そうしますわ」

「全く、本当に異変を解決する気があるのかしら。魔理沙、行くわよ」

「ん、ちょっと待ってくれ」

「え?」

 

 そうこうしているうちに、霊夢と紫がその扉を開けていた。

 ──アリスには悪いが、ここは......。

 

「......アリス、私は霊夢達が言ってる扉の先に行こうと思う」

「はぁ? ど、どうしてよ?」

「理由は......まぁ、無いぜ。ただ、そっちの方がいい気がするんだ」

「......貴女も根拠の無いことを......」

「あら、紫に......いえ、霊夢に付いて行くの〜?」

「うわっ!? お、おい! 急に出てくるなよ!」

 

 いつから話を聞いていたのか、いつの間にか横には幽々子がぷかぷかと宙に浮かんでいた。

 ──いつも驚かされているレナの気持ちがちょっとだけ分かった気がするぜ。

 

「あらあら、ごめんなさいね〜。で、どうなのかしら〜?」

「ん、付いて行くぜ。そっちの方がいい気がするからな」

「分かったわ〜。なら、黒幕の方は私達に任せて行きなさい。

 大丈夫よ。吸血鬼の娘達も先に行ってるし、相手の強さを見るに、私達が行けば確実に勝てるはずだから〜」

「え? 幽々子様──」

「妖夢。貴女も勝てると思うわよね? その刀で斬れないものはあんまりないのよね?」

「え、あっはい。き、斬れないものなど、あんまりないです!」

 

 なんだか......言わせてる気がするぜ......。

 でもまぁ、安心はできるな。こいつらもかなり強い方だしな。

 

「ありがとな。それじゃぁ、私は行くぜ。アリス。お前はどうするんだ?」

「......はぁー、仕方ないわね。私も行くわよ。貴女だけだと心配だから」

「へへっ、ありがとな」

「ほら、そんなのは後ででいいわよ。急いで追わないと、見失うかもしれないわよ?」

「ん、あっ、そうだった。それじゃぁ、幽々子! 任せたぜ!」

「任されたわぁ。さぁ、妖夢。行きましょう」

「......はい、幽々子様」

 

 私はアリスと一緒に、急いで扉の先へと進んでいった────

 

 

 

 

 

 side Konpaku Youmu

 

 ──竹林(屋敷内 扉の先)

 

「......幽々子様、どうしてあんな嘘を?」

「嘘って何かしら〜?」

「とぼけないで下さい。あの黒幕らしき人、幽々子様と同等。いえ、失礼ですけどそれ以上の強さですよ。

 あんなに強い人は、吸血鬼達も含め、五人で本当に勝てるかどうか......」

「あら、そんなことはないわよ。だって......弾幕ごっこなのよ?」

「......あぁ、なるほど」

 

 そこまで言われて、ようやく気付いた。

 ここは冥界でも何でもない。ここは幻想郷だ。

 幻想郷には幻想郷のルールがある。部下らしき兎ですらそのルールをしっかりと守っている。

 そのルールを守っているうちなら、私達にも勝機はある。

 

「そういうこと。私は嘘をついてないわ〜。あの敵は確かに強い。それも、私達じゃ敵わないくらい。でも、それでも勝てるわ。弾幕ごっこならね」

「......幽々子様、お上手ですものね」

「あら、妖夢も上手だと思うわよ〜。あぁ、それと。もう一つあるわ。勝てる理由」

「え? そうなんですか?」

 

 一体どういう理由なんだろう?

 一生懸命考えてみるも、全く分からない。

 

「あの敵さん、全力を出す気がないのよ。理由は分からないけど、力をある一定よりも出さないつもりらしいわ」

「......よく分かりましたね。まだ戦ってもないのに」

「その辺り、私と似ている気がしたから〜」

「要するに、霊夢の勘と同じような根拠の無いことなんですね。分かりました」

 

 私は「はぁー」とため息をつき、長い廊下の先へと急いだ────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──竹林(屋敷内 扉の奥)

 

「霊夢ー! 置いてくなよー!」

「魔理沙? 付いてきたのね」

「まぁな。ちょっと心配になったんでな」

「あらそう。......それよりも窓の外、見なさい」

「え? ......月、か?」

 

 窓の外には月が、それもかなり大きな月が見えていた。

 おそらく、大きく見えるのは近くにあるせいだとは思うが......それにしても大き過ぎないか?

 まるで、空高くまで飛んできたみたいだ。

 

「そうよ。月よ」

「それも、本物みたいだわ」

「......そうね。本物の月に見えるわ」

「本物? なら、本当の黒幕、月を偽物に替えた奴はこの先にいるってことか?」

「さぁ? そこまでは分かりません。ですが、この先を行ってみる価値はできました」

 

 そうか......。やっぱり、霊夢の勘は頼りになるな。

 こっちに付いてきて正解だったぜ。

 

「......あら、もう終わりみたいよ。誰かいるわ」

「......本当だな。おい! そこにいる奴! 誰だ!?」

「ちょ、ちょっと! バレるじゃない!」

「え? バレても勝てば同じじゃないか?」

「そ、それはそうだけど......!」

「あら、騒がしく、珍しいお客様なこと」

 

 そうして、奥に見える誰かがゆっくりと、こちらを振り返ったのだった────



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14、「そして、異変は集結する」

相変わらずの戦闘描写無し。
その代わり会話が多い。

それでもいい方は、暇な時にでも読んでくださいませ。

そう言えば、最近主人公であるはずのレナを見ない気が......()


 side Kirisame Marisa

 

 ──竹林(屋敷内)

 

「あら、騒がしく、珍しいお客様なこと」

 

 奥に見えた女性がゆっくりと、こちらを振り返った。

 その女性は、綺麗な黒いストレートの髪を持ち、整った容姿を持っていた。

 一言で表すのなら、美しい。まるで、その言葉を具現化したかのような姿だ。

 

「貴女が親玉ね。あれは本物の月で間違いないわよね?」

「そう、地上から見た本物の満月よ。

 それにしても、人間と妖怪......。今日は珍しい客が来ているわね」

「......魔理沙、あの満月は危ないわ」

 

 敵が霊夢に向かって話している最中、アリスが横に来てそう囁いた。

 

 満月が危ない? 一体どういうことだ?

 確かに、妖怪は満月の日に強くなるとか言うが......そういうことじゃないよな。

 全く以て意味が分からないぜ。

 

「その顔を見る限り、信じてないのね」

「いや、信じてないっていうか、訳が分からない状態だぜ」

「確かに人間である魔理沙(貴女)と霊夢は見ない方がいいですわ。

 まぁ、ここに居るだけでも危険なのは変わりありませんけど」

 

 いつから聞いていたのか、紫が横から入ってそう言った。

 

「えぇ、紫の言う通り。普通の人間なら五分ともたないわ。

 魔理沙。貴女には見えないかもしれないけど......。

 今、大量に満月光線が降り注いでいるわ」

「変な名前をつけないの! 今は、月本来の力が甦っているの。

 穢れのない月は、穢れのない地上を妖しく照らす。この光は貴き月の民ですら忘れた太古の記憶なのよ」

「そんなことはどうでもいいけど。で、あんた誰?」

「......私は輝夜。貴女が先に名乗ってないのに、質問してきた事には怒らない」

 

 ん......なんかデジャヴだな。

 まぁ、私は名乗らないで倒すのが当たり前だから、本当に気のせいだとは思うが。

 

「その程度でこの巫女に恩を着せようなんてのは甘いわよ?」

「まぁ、霊夢だしな。十に対して一を返す奴だぜ? こいつは」

「味方だというのに失礼な奴らね」

「誰もそんなこと言ってないから安心して。最近、永琳が屋敷の外に出させてくれないのよ。

 だから、たまのお客様は大切に扱うわ」

 

 たまのお客様? どういう意味だ?

 ......あ、弾幕の弾か。納得納得。

 

「弾のお客様?」

 

 霊夢も同じように疑問に思っていたのか、ボソッと口に出していた。

 

「弾幕馬鹿みたいな言い方しないの」

「......魔理沙。貴女も同じこと考えていたでしょ?」

「なっ!? か、考えてないぜっ!」

「ふーん、顔が真っ赤になってるわよ」

「こ、これは! そ、その......」

「はぁ......本当に騒がしいお客様だこと」

 

 会話の内容に呆れたのか、輝夜は軽くため息を付いてそう言った。

 

「いい? 人間に宿るは儚い(たま)。その人間が住むのは大きな球。

 そして、貴き民が住むのは......後ろに見える狂おしい珠」

「あぁ、なるほどな。だったら私達が避けるのは──」

「──美しい弾、ね」

「人の台詞を取らないの。こっちの方は怒るわよ。それと、結局は弾幕馬鹿じゃない」

「......まぁ、弾幕馬鹿だし?」

 

 なんだか恥ずかしくなってきたぜ......。

 ま、まぁ、さっきよりかはマシだが......。

 

「それに、先が読める台詞は言わなくても伝わるからいいの。

 なんせ、私達は弾のお客様だもんねぇ」

「あら、開き直ったわね」

「......みたいですね」

「せっかちねぇ。で、巫女に魔法使いに魔女に妖怪。

 私は四人を相手にすればいいのかしら?」

 

 輝夜は私達、一人一人の顔を見て、そう言った。

 

 そう言えば、どうするんだ?

 まぁ、四人でもいいが、流石に卑怯だよな......。

 

「え? そうだけど?」

「って、忘れてたぜ。こいつが卑怯ってことを」

「あら、失礼ね。異変は早く終わらした方がいいでしょう?」

「まぁ、お前の言うことにも一律あるが......」

「せめて二人、かしら? 霊夢。魔理沙と組んであの暇を持て余してそうなお姫様を倒しなさい」

 

 ......ん? 私が霊夢と組んで、だと?

 まぁ、私は別にいいんだけど......霊夢と組むのって、『春が来ない異変』以来だな。

 あの時の味方だった奴(吸血鬼)も、敵だった奴(亡霊)も、今は味方として協力してくれてるんだよな。

 ......これも霊夢の人望、ってやつか? それとも......。

 

「はぁ? どうして私なのよ? あんたでいいじゃない」

「異変を解決するのは人間の役目、でしょ?」

「こういう時だけ都合の良いことを言って......」

「決まったみたいね。それじゃ、見せてあげるわ。

 本当の月が持つ毒気を! それと、私からの美しき──」

「あ、ちょっと待って」

「って、折角決まりそうな所で水をさす〜」

 

 輝夜の台詞を遮るように霊夢がそう言った。

 ──まぁ、空気を読まないのはいつものことなんだが。

 

「別に、私はもう戦う理由が無いのよ? ほら、もう満月は元に戻ったみたいだし」

「あいにく、本物の満月はここでしか見えないよ」

「だってさ、霊夢。どうするの?」

「なんだってー!

 って、言うほどでもないわね。面倒事が増えたけど。さっ、魔理沙。少しの間、手伝いなさい」

「......ん、あぁ、分かったぜ」

 

 ゆっくりと、私と霊夢は輝夜へと近付いていく。

 逆に、アリスと紫は離れていく。

 

 これで、ようやく長い長い夜は終わる。

 

 そう思うと、体が緊張と興奮で震えてきた。

 

「あら、魔理沙? 震えてるわよ。怖いの?」

「ふっ、武者震いだぜ!」

「さぁ、そろそろ心の準備はできたかしら?」

「できてない」

「もちろんできた、って霊夢!?」

「今まで、何人もの人間が敗れ去っていった五つの難題。

 貴方達には幾つ解けるかしら?」

「あ、始めるんだな」

 

 輝夜のその言葉を合図に、私達と輝夜は互いに距離を取った──

 

 

 

 

 ── 一ヶ月後 博麗神社

 

「ふぁ〜......」

「今日も暇なのか?」

 

 博麗神社へ飛んでいくと、神社には縁側に横になった霊夢がいた。

 

「暇じゃないわよ。境内の掃除があるし」

 

 異変が終わってから一ヶ月もの月日が経った。

 輝夜に勝った後、満月も元に戻り、みんな無事に帰れてハッピーエンドに終わった。

 

 まぁ、もう一人の敵を相手にしていた吸血鬼と幽霊組は大変だったみたいだが。

 

「掃除なら私が終わらせといたわよ」

「あら、ありがとう」

「ん、咲夜? どうしてここに居るんだ?」

「魔理沙? 貴女も来ていたのね」

「あ、魔理沙も来たの? 後一人分作らないとダメなのかぁ......」

「......今日は宴会か何かか?」

 

 私が見ていた神社の中から、咲夜と妖夢がひょこっと顔を出していた。

 珍しいことに、従者らしくエプロン姿だった。

 ──まぁ、咲夜はいつもメイド姿だからか、珍しい気がしないが。

 

「いえ、休みを貰ったので暇つぶしに」

咲夜()と同じく」

「ついでに夕食を作ってもらってるの。魔理沙も食べる?」

「お前が作ってるわけじゃないのに簡単に言うな......。

 まぁ、お願いするが」

 

 この四人が集まると、一ヶ月前の異変を思い出すな。

 あの時は妖怪連中も一緒に居たが。

 

「あ、五人目のを追加よろしくねー」

「はいはい。......って、輝夜さん!?」

「えっ!? あ、貴女、一体いつから中に......」

 

  神社の奥の方から出てきたのは、先の異変を起こした一人である、輝夜だった。

 

 中から出てきたはずなのに、誰も知らない様子......あの吸血鬼の転移魔法のようなものでも使ったのか?

 

「つい先程から」

「......要件は何?」

「あら、話が早いわね。肝試し、やってみない?」

 

 肝試し? それ、私達がやるようなことじゃないと思うんだが......。

 妖怪退治を専門にしている霊夢と私に、妖怪や亡霊に仕えている咲夜と妖夢だぞ?

 この中の誰が怖が──

 

「き、肝試し!? わ、私怖いのダメなんだけど......」

「......あぁ、居たわ。お前、半人半霊じゃないのかよ......」

「それに、幽々子(亡霊)に仕えているし、他の亡霊の管理もしてるでしょ?」

「お、驚かされるのはダメなのよ......」

 

 まさか、妖夢にこんな弱点があるとは......。

 宴会の時に使えそうだな。覚えておくか。

 

「まぁ、一人で行かす訳じゃないから安心なさい。

 異変の時に来た二人、もしくは三人で来なさい。場所は時間になったら教えるわ」

「え? 要するに、四組で行くの? それなら安心──」

「あ、一組ずつよ。後の組はここで待つ、ってことで」

「......い、嫌な予感しかしない。主に幽々子様のせいで......」

 

 あぁ、確かに幽々子は人を驚かすのが好きだもんな。

 宴会ではいつもレナを驚かせて、レミリアに注意されてる気がするし。

 

「だ、誰か変わってくれない?」

「あ、メンバーの変更は禁止ね。面白そうだから」

「えぇ!?」

「色々と災難だな、妖夢は」

「で、いつなの? 日によっては、私は参加できないわよ?」

 

 いや、咲夜がそう言ってもレミリアは、面白そうだから、って言ってやると思うけどな。

 私の方は......まぁ、アリスなら説得すれば一緒に行ってくれるよな。

 あいつ、なんだかんだ言って最終的に協力してくれるし。

 

「今日の夜中、丑三つ時。もう七時間も無いかしら?」

「なら、大丈夫そうね。問題はレナ様が怖がって来ない可能性も......」

「あいつは姉が行くとなれば、絶対に来るでしょ。

 問題は紫よ。あいつ、何処に居るか分からないから」

「確かにそうだな。......夕食を食べ終わったら、各自、相方を探しに行くとするか」

「えぇ、そうしましょうか」

 

 そう言って、霊夢は再び縁側で横になり、咲夜と妖夢は食事の支度を再開した。

 

「さて、どんな料理が出てくるのかしら。楽しみねー」

「あぁ、本当にここで食べるんだな」

「家で食べるのも飽きてきたから」

 

 たわいもない会話をしながら、私達は夕食が出るのを待った────




ちなみに、EXは飛ばされる模様()

次回から次の章に入ります(しかし1話は時系列的に永夜抄EX前)。
次回の章は嵐の前の静けさ、ということでほのぼのが多い予定(あくまで予定)
まぁ、幾つか異変があるからほのぼのしない可能性も微レ存()

戦闘描写はもう一つの小説で練習してるけど、あまり戦闘描写が無いことに気付いた今日此頃。
次回は嫌でも戦闘描写(弾幕ごっこ)あるから、頑張らないと()


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7章「花と神社と天界と」
1、「姉妹二人の弾幕ごっこ」


戦闘描写を入れていると、気が付いたら遅れていた(おい)

ではまぁ、第7章1話目のスタートです。
下手な戦闘描写があるので苦手な人は見ない方がいいかも()


 side Remilia Scarlet

 

 ──日の出頃 紅魔館(レナータの部屋)

 

 異変を解決しに行ってから一週間あまりが経ったある日。

 朝からレナの部屋にお邪魔した。

 

「ねぇ、レナ。弾幕ごっこしない?」

「......え?」

 

 部屋に入るなりそう言うと、本を読んでいたレナは驚いたのか目を丸くしていた。

 

「あら、したくないの?」

「い、いえ、したいです。でも、珍しいですね。お姉様から誘ってくれるなんて」

「そうねぇ。昔はよく食料調達とかで誘っていたけど、最近は何も誘っていなかったからね。珍しいのも無理ないわ」

「......どうして、誘ってくれたのです?」

「そんな真剣な顔にならなくてもいいわよ。大した理由なんて無いんだから」

「むぅ、あまりにも珍しすぎて、何か裏があるのではと......」

「失礼ね。妹と遊ぶのが姉の役目なのよ? だから裏なんて無いわよ」

 

 まぁ、最近はその役目を放置し過ぎてたけどね......。

 今更レナにこういうのもおかしかった気がするわ。

 

「むぅ......姉の役目と言うなら、今日は私と一日中遊んでくれますか?」

「まぁ、今日は何も無いからいいけど......」

「ふふふっ、ありがとうございます。今日は姉妹水入らずですね?」

「えぇ、そうね。嬉しそうで良かったわ」

「嬉しいのは当たり前ですよ。お姉様が大好きですから」

 

 レナはいつも通りの口調だが、いつも以上に生き生きとしている気がするわね。

 それほど私と遊ぶのが嬉しいのかしら? ......まぁ、そうだとしたら私も嬉しいわね。

 最近、忙しいからと言って、役目を放ったらかしている姉と遊ぶのが嬉しいなんて......。

 

「そう、か。......私も大好きよ、レナ」

「え、あ......は、早く弾幕ごっこしましょう!」

「あらあら。急に顔を赤くして......」

「と、図書館にします? それとも外でします?」

「ふふっ、慌てすぎよ。まだ朝なのに外は無いでしょ? 図書館に行きましょ。パチェも許してくれるでしょうし」

 

 とは言ったものの、本当に許してくれるかどうか分からない。

 まぁ、無理だとしても何とかして場所を探さないとね。妹のためにも。

 

「それではまぁ、移動します?」

「えぇ、そうね。そう言えば、本を読んでたみたいだけど、お邪魔だった?」

「今更過ぎです。まぁ、大丈夫ですよ。ミアに見て欲しいって言われたやつなので」

「それ、大丈夫なの?」

「大丈夫ですよ。一時間もあれば読み終えそうですし。帰ってから読みますよ」

 

 こうして、レナと雑談を交わしながら、私達は図書館へと向かうのだった──

 

 

 

 ──図書館

 

「それじゃぁ、始めましょうか」

 

 無事、図書館を借りることができた私達は、既に弾幕ごっこの準備を整えていた。

 

「スペルカードの枚数は......」

「貴女が決めていいわよ」

「では、三枚でお願いします。他のはミアいないですし、お姉様に見られていますし」

 

 見られてる......? あぁ、そう言えば、霊夢と戦っていたわね、レナも。

 まぁ、全部を憶えては無いんだけどね。私が異変を起こした時の話だし。

 

「えぇ、分かったわ。貴女のタイミングで始めていいわよ」

「分かりましえいっ!」

 

 と、掛け声と共に、レナが不意打ち気味に紅い弾幕を放ってきた。

 

「えっ!? っと、避けれないと思って?」

 

 それを、間一髪のところで避ける。

 

「素でびっくりしてた気もしますが......まぁ、当たりませんよね」

「あれ演技だから。それにしても不意打ちなんて、らしくないわね」

「お姉様の驚く姿が見たかったので。まぁ、最初から本気で行きますよ。油断してたらすぐに負けそうですしね!

 と言っても、詠唱の時間なんで少しお待ちを!」

「カッコつけてそれってどうなのよ。まぁ、いいけど。詠唱中でも攻撃はするし、ねっ!」

 

 そう叫ぶと同時に、私は円状に弾幕を展開していった。

 

 レナは静かに詠唱らしき言葉を呟きながら、危なげに避けていく。

 

「お姉様も酷いですね! ......『花は移ろい月は傾く』......『世の習い』!

『流水「槿花一朝の夢」』ッ!」

 

 レナがスペルカードを宣言すると、突如、図書館の天井には雲が現れた。

 それも、図書館全てを覆う程の大きな雲が。

 

「貴女って天候操るの好きねぇ」

「吸血鬼ですから。それじゃぁ、雨に打たれて止まって負けて下さい!」

 

 力強い言葉と共に、雲から大量の雨が降り注いだ。

 

「関係ないし、雨に打たれた瞬間に負けだからね? よっ、と」

 

 真上からの弾幕に注意しつつも、レナを見ながら避けていく。

 

 できる限り、姉の余裕を見せるために。

 

「これくらいの弾幕では制限することが精一杯ですか。では、えいっ!」

 

 レナの周囲から、四方八方に枝のような緑色の弾幕がゆっくりと伸びてくる。

 その一本が私に近付き......。

 

「これくらい、雨に注意すれ危なっ!?」

 

 ──円状に薄い紫色の何かが開いた。

 

 よく見ると、それは花だった。薄い紫色で、五つの花びらが付いている花だった。

 その花は、全ての枝から一つずつ咲いていた。

 

 そして、数秒のうちに、儚く、消えていった。

 

「あらま。運命でも、見ましたか?」

「ふん、偉そうな口で言うわね。見ないで避けたわよ」

「ふふっ、そうですか。ですが、第一陣が避けられたとしても、第二陣、第三陣が......」

「いいから早く撃ちなさいよ。じゃないと......負けるわよ? 『レッドマジック』!」

 

 弾幕の雨をかいくぐりながら、私は空中へと向かった。

 

 そして、スペルカードを宣言し、雲をかき消しつつ、レナへと弾幕を放った。

 

「え、うわっ!? 枝よ! あ、くっ!?」

 

 避けれないと判断したのか、枝でガードしようとするも、枝さえもかき消されてしまった。

 そして、急いで避けようとしたレナの左腕に小弾幕が直撃した。

 

「あ、だ、大丈夫!?」

「だ、大丈夫です! それにしても、力で負けるとは。やっぱり、リアルに再現し過ぎた分、力が弱くなってしまいましたか。いえ、元からお姉様よりも力は弱かったですね」

「腕、本当に大丈夫なの? 一旦中断する?」

「痛みは無いですし、軽傷なのですぐに治ります。だから、続けましょう」

 

 本当に止めたく無いのか、レナは真剣な目で真っ直ぐこちらを見ていた。

 ──全く。中断すると、もうやらない訳じゃないのに。

 

「はぁー、いいわよ。ただし、本当に危なくなったら止めるからね」

「ありがとうございます。では、一枚目は力比べで負けましたし、二枚目、行きますよ! 『幻日「プロミネンス」』ッ!」

 

 レナが宣言すると同時に、レナの頭上には大きな赤い弾幕が現れていた。

 

 それは、まるで太陽の様な輝きを放ちながら、四方八方に弾幕とビームを放ってきた。

 

「ほんと、私の、吸血鬼(私達)の弱点ばっかりねっ!」

 

 できる限り無駄のない動きを繰り返し、弾幕の間を通り抜けるようにして避けていく。

 

「弱点を攻撃する方が効率がいいので。では、同じのを繰り返しては、慣れて飽きるでしょうし、第二形態です!」

 

 その掛け声と共に、レナの頭上にある太陽は三つに分裂し、その全てから紅い小弾幕をばらまいてくる。

 

「密度が濃く......。ビームが無いのが幸いね。はぁっ!」

 

 スペルカードを消費しないために、同じように小弾幕を飛ばして相殺させていく。

 

 そして、相殺できなかった残りを避けながら、攻撃の機会を伺った。

 

「まさか、そんな手を使うとは。それなら、通常弾幕程度では抑えれない程の弾幕をプレゼントして差し上げます! 第三形態ですよ!」

「まだあったの!?」

 

 レナの頭上にあった三つの太陽が、弾幕を放ちながら動き出した。

 

 全ての太陽は逃げ場をなくすように正面左右、三つの方向から私に向かって飛んでくる。

 

 

「ちょっと! 太陽だけなら良かったけど、小弾幕あり、ってどうなのよ!」

「霊夢には避けられるレベルなので大丈夫ですよ。それよりも、当たったら私の勝ちですよ?」

「うー......仕方ないわね! できれば温存しておきたかったのに......『紅符「不夜城レッド」』!」

 

 全ての太陽が目と鼻の先に接近したところで、自分の周囲だけに弾幕を展開し、身を守る。

 

「い、ったぁ! どうよ! また勝って見せたわよ!」

「強がり過ぎです......。一つだけでなく、全ての擬似太陽を相殺するなんて。

 スペルカードを使ったにしても、無茶し過ぎです」

「遊びだったとしても、これは姉の威厳に関わる問題なのよ。だから、全力で相手するわ。最後のスペルカードを使いなさい。それで勝負が決まるわよ」

「まぁ、かなり力ずくでしたけど、攻略されたので最後ですね。お姉様も最後ですけど。

 ふぅー......行きますよ! 『死と再生「ウロボロス」』!」

 

 宣言したと同時に、レナの姿が消えた。

 

 それだけではない。周囲には、何か異様な空気が漂っている。

 まるで、何か強大なモノに囲まれているかのような......。そんな威圧感もする。

 

「お姉様、こっちですよ」

「え、っ!?」

 

 再びレナの声が聞こえた時には、私は()()()()()()()()()()()()

 

 慌てて避けるも、全ての弾幕を完全に避けることは叶わず、幾つか掠ってしまった。

 

 よく見ると、弾幕は再度、こちらに向かってきていた。

 

 いや、それだけではない。

 

 弾幕以外に、何か、大きなモノが私とレナの周りを囲んでいた。まるで、大きな蛇のような何かが。

 そこから弾幕を飛ばしているみたいだった。

 

「嘘......能力を使ったの? でも、触っていない物は有耶無耶にできないんじゃ」

「私の血と同様、弾幕は私の一部という扱いみたいです。ですから、弾幕は離れていても有耶無耶にできます。

 っていうか、憶えていませんか? 霊夢の時にも使った気がしますが」

 

 ......あら、そうだったかしら? 全く憶えてないとか言えない......。

 

「まぁ、いいです。お姉様。これは霊夢のように勘の鋭い人、お姉様のように能力で先が見れる人にしか使わないスペルカードです。本気で、避けて下さいね」

「ちょっ......また消えた」

 

 レナはそう言うと、再び姿を消した。まるで霧のように、跡形もなく。

 

「はぁー、仕方ないわね。見ればいいんでしょ。自分の運命を。全く、集中しないと見れないのに......」

 

 誰に向かってでも無く文句を言いながら、目を瞑り、集中し、これから少し先に自分に起きる運命を見てみた。

 

 すると、レナと全ての弾幕が当たる直前に現れることが見えた。

 それと同時に、どうやって避けるかも確認できた。

 

 これからさらに、弾幕に当たらないという偶然(運命)を操り、全く弾幕に当たらないという必然(運命)にすることができる。

 

 が、それをすることは無く、私は再び目を開ける。

 

「......最初からこうすれば掠ることも無かったわ。でも、これを使うと卑怯じゃない? 姉としての威厳が全く無いじゃない?

 だから、正面から倒してあげるわ。当たらないように必死に避けなさい! 『スカーレットディスティニー』!」

 

 そう高らかと宣言し、見えない弾幕を全て消す勢いで、自らの周囲を大玉とナイフの弾幕で埋めていく。

 幾つかの弾幕は相殺されたのか消え去り、大玉は蛇のような何かがあった場所まで行くと破裂した。

 

 しばらく弾幕同士がぶつかり、破裂する音だけが響いた。

 自らも音と視界に集中し、レナを探しながら弾幕を展開し続けた。

 

 そして、数分も経たないうちに全ての弾幕は消え去った。

 

 ──と同時に、背後から誰かに抱きしめられた。

 

「お姉様。能力、使わないのですね」

「えっ!? ......レナ?」

「はい、私です。......それにしても、相殺されるなんて......。やっぱり負けちゃいました。お姉様には」

「何言ってるの。貴女、弾幕に当たったの?」

 

 力を使い切った私は、レナに抱きしめられたまま、ゆっくりと地面に降りながら会話を続けていく。

 

「いえ、当たってはいませんが......」

「なら、引き分けじゃない。私も貴女もスペルカードを使い切ったんだから」

「ですが、私は能力あり、お姉様は能力なしですよ? 力の差もはっきりし過ぎてますし、私の負けです」

「貴女ねぇ......はぁー、いいわ。もう疲れちゃったしね」

「え!? まだ遊び足りないです!」

 

 ついさっきまで、落ち着いた声で話していたのに、急に子供のようにわがままな声でレナはそう言った。

 

「はぁー。一日中遊ぶ約束だったし、疲れて寝るまで遊んであげるわ」

「ふふっ、お姉様、次は外にお出かけしましょう!」

「本当に元気過ぎない? まぁ、いいわ。それじゃぁ、準備をしたら出かけましょうか。貴女の行きたい場所まで」

 

 こうして、弾幕ごっこを終えた私は、一日中、レナに付き合わされることのなったのだった────



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2、「第二回 肝試し大会」

第一回が無い? 気にしては行けません。
永夜抄EXの話が諸事情により飛ばされただけなので()

夏という訳でちょっとだけ夏の要素。
ある意味二つのホラー要素があります故、ご注意ください()


 side Remilia Scarlet

 

 ──博麗神社

 

「第二回、肝試し大会始めるわよー」

 

 それは、異変が終わってから数ヶ月後のことだ。

 突然、館に魔理沙がやってきて、『肝試しやるから前のメンバーで来い』と言われた時はびっくりしたが、前のように戦うことが無いのなら、それはそれで楽しそうということで来てみた。

 

「ねぇ、どうしてまたやるのよ?」

「だって普通の肝試しやってないじゃない? せっかく面白いおも......友人ができたんだから、誘わない手はないと思わない?」

「今玩具とか言いかけたでしょ? っていうか、どうしてまたここなの?

 肝試しやるだけなら紅魔館とか永遠亭でいいじゃない」

「それはほら。妹紅の時に集まった場所の方が分かりやすくていいでしょう?」

「確かにそうだけど......」

 

 確かに輝夜の言う通り、分かりやすいのは分かりやすかったわね。

 ただまぁ、前回のことがあるから警戒はするけど。

 

「で、メンバーはどうするの? 同じメンバーを呼んだってことは同じなの?」

「いえ、幽々子やアリス、紫がお化け役に回ったり冬眠してるみたいだから、いないメンバー同士で混ぜるわよ。ってことで霊夢(あなた)は妖夢とね。魔理沙は......咲夜でいっか」

「適当だな。まぁ、いいけどな」

「えぇ......私は妖夢とかぁ......」

「どうしてそんな残念そうにするんですか......」

「だって妖夢って怖がりでしょ? だからねぇ......」

「そんなに酷くないから!」

 

「お嬢様方。大丈夫でしょうか?」

「私は大丈夫よ。全然平気。レナも大丈夫よね?」

「お姉様が一緒なら大丈夫です!」

「......前回の肝試し、私も一緒だったけど、妖夢の次に怖がってたのは貴女だからね?」

 

 前回の肝試しが終わってかなり経つのに、今でも怖がって私の腕を離さないレナの姿は鮮明に覚えている。

 いつもと違う甘えた姿が可愛かったし。

 

「前回はあの......ほら、本物の幽霊が出てきましたから」

「妖精は出てきてたけど幽霊は見なかったわよ? あぁ、幽々子と妖夢は見たけど。

 ねぇ、レナ。無理だったら無理でいいのよ? 私も無理強いはしないから」

「ですが、お姉様と一緒に居たいですから......」

「......はぁー、そんな上目遣いで言われたら仕方ない、としか思えなくなるわ。

 貴女の好きにしなさい。一緒に来るなら守ってはあげるわ」

「ありがとうございます、お姉様」

 

 まぁ、何を言っても来るんでしょうけど。この娘、フランよりも甘えん坊なところがあるし。

 だからこそ、しっかりと姉らしい姿を見せないとダメね。

 この娘に、妹に失望されるのが何よりも嫌だから......。

 

「おーい。そこの姉妹とメイドー。順番決めるから早くこっちに来ーい」

「ってことらしいから、早く行きましょうか」

「はい、そうですね」

「ですね。お嬢様方。ご武運を」

「そんな戦場に行くみたいに言われてもねぇ」

 

 呼ばれるままに、私達は順番を決めるために霊夢達の元へと向かったのだった──

 

 

 

 ──博麗神社近くの森

 

「よりによって最初とはねぇ......」

「ですね......。でも、後から来るらしいですし、待っていれば来ますからね。

 最後よりはかなり、結構、とてもマシだと思います」

「とか言いながら、顔が引きつってるわよ?」

 

 月と手に持っている蝋燭だけが淡く光る暗い森の中、軽く砂利と石で舗装された道を歩きながら、私達はゴールである森の出口を目指している。

 

 それにしても歩きにくい。理由はレナが私の腕を離さないからなのだが......、歩きにくいからと言って、怖がっている妹の手を振りほどくわけにもいかない。

 

「だ、大丈夫です! お姉様が一緒なら......」

「そ、分かったわ。私の腕を離さないようにしなさいよ?

 怖がってどこかに走って迷子になられたら、心配になるからね」

「は、はい。大丈夫です......」

 

 はぁー、やっぱり動きやすい服を着てくるんだったわ。

 まぁ、急に言われたから仕方ないけど......。

 

「......それにしても出てこないわね。お化け役」

「お化け役というか、本物のお化けが一人混じっているのですが......」

「あら〜、そっちにも妖夢がいるじゃな〜い」

「え? ふぁっ!? お姉様! お化け! お化け!」

 

 暗い森の中という雰囲気もあるせいか、急に背後から幽々子に話しかけられただけでこの驚き用である。

 

 やっぱり、この娘って吸血鬼に向いてないわね。まぁ、可愛いから何でもいいけど。

 帰ったらまた、怖いから一緒に寝ましょう、とか言ってくるんでしょうねぇ。

 

「よしよし。大丈夫よ、私が居るからね......」

「グスッ......怖い......お化け怖い......」

「あら〜、ただ話しかけただけなのに、ここまで驚かれるなんてね〜。逆にびっくりしたわぁ」

「わざとらしいにも程があるわよ。っていうか、他にもそれやる気?

 怖がるのはレナや妖夢くらいじゃなくて?」

「大丈夫よ〜。それで充分だから〜」

 

 うわっ、この幽霊、天然そうに見えるのにかなりのドSね......。

 っていうか、私の妹が標的にされてない? 気のせい?

 

「じゃ、私は他のメンバーを見てくるから、また後でね〜」

「もう来ないで下さい! お姉様ぁ......あの人怖いです......」

「ちょっと幽々子。レナが泣きそうに......あれ? もう行っちゃったのね」

 

 あの亡霊、逃げ足だけは速いわね。今度あったら一回ガツンと......。

 

「ねぇ、お姉様......」

「え? あ、何かしら?」

「早く進んで終わらせましょう。もう、抜けたいです、こんな森......」

「えぇ、そうね。できる限り早く外に向かいましょうか」

 

 前回よりも落ち着いてるわね。耐性でも上がったのかしら。

 まぁ、何にせよ有り難いわ。レナはこうやって落ち着いてる方が──

 

「ひゅい!? お、お姉様っ! 虫! 虫嫌っ!」

「お化けと同じくらい怖がってない? っていうか虫って何処に......あぁ、あのムカデね。

 私も苦手だわ。特にあの足がうねうねしてるのとかほんと......」

「早く! お姉様早く行こっ!」

「え、えぇ。そうね。行きましょうか」

 

 レナに促されるまま、私達は森の出口へと早歩きで向かっていく。

 

 舗装された道のお陰で迷うことは無いけど、逆に言えばお化け役達もこの道の先で待ち構えてるってことよね。

 

「あ、お姉様。蛍いますよ、蛍」

「ムカデはダメなのに蛍は大丈夫なの?」

「遠くで見る分には平気です。近くだと、その......()()に見えますし......」

「アレ? アレって何?」

「ほら、よく台所に出てくる()()です」

 

 蛍に似ていて? よく台所に出る......。

 

「あぁ、あの黒い──」

「あ! 名前は言っちゃダメですからね! 名前を聞くだけでも恐ろしいです......」

「貴女から言い出したのにそれってどうなのよ」

「ごめんなさい。でも、名前は本当に......。せめて黒き流星とかブラックメテオとか」

「何それ初めて聞いた。っていうか、どっちも同じじゃない......」

 

 っていうか、肝試し中なのにこんなに気軽に話していいのだろうか?

 まぁ、レナの気が紛れるならそれでもいっか。

 

「名前さえ言わなければいいのです」

「あぁ、はいはい」

「それで......あれ? お姉様。あんなところに人が......」

「ん? あら、本当ね。......道にでも迷ってるんじゃない?」

 

 私達の通っている道の先には、見知らぬ黒い髪の女性が立っていた。

 

 まぁ、どうせお化け役なんでしょうね。

 後残っているのはアリスだけだし、アリスの人形かしら?

 

「それなら、道を教えてあげないと、ですね。そこの人間さーん」

「あ、ちょっとレナ──」

 

 止めるよりも早く、レナが人間らしき人の場所へと着いてしまった。

 そして──

 

「え? あ......きゃっ、きゃぁーー!」

 

 人形の顔を見るなり、半場泣きながらこっちへと戻ってきた。

 

 あぁ、やっぱりお化け役の罠だったのね......。

 

「おねえさまぁ!」

 

 気付いた時には目前までレナが迫ってきていた。

 

「え、あ、そんなに速度付けて飛び込まれたらっ!」

 

 そして、勢いよく私の胸に飛び込んできたレナを支えきれず、私は後ろへと倒れ──

 

「ない......? あれ? これは......糸?」

 

 後ろへ倒れないようにと、いつの間にか背後には糸が張り巡らされていた。

 

「ごめんなさい。まさかここまで驚くとは思わなかったから」

「あ、あぁ、やっぱりアリスだったのね。

 大丈夫よ。この娘、ちょっと臆病なだけだから」

「もうイヤ......。お姉様。早く出たいよぉ......」

「よしよし。分かったから落ち着きなさい」

 

 レナでこの驚き様とはねぇ。......ちょっとだけ、霊夢が心配になるわ。主に妖夢のせいで。

 

「まぁ、もう終わりだから神社に戻っていいわよ」

「あら、ビックリポイントは二つだけ?」

「いえ、本当はもう少しあるけど、その様子だとね」

「まぁ......そうねぇ」

 

 まだあの人間らしき物が人形だと分かっていないのか、レナは抱きしめている腕を離さない。

 

 それでもまぁ、何処かに行って迷子になられるよりはマシだけど。

 

「レナ。安心しなさい。もう神社に行くから。もう何も怖いモノはないわよ」

「お姉様以外見たくない......」

「かなり怖かったようね。顔無し人形が」

「えぇ。吸血鬼だと言うのに......。まぁ、それもこの雰囲気のせいだから仕方ないわ」

 

 まぁ、雰囲気が無くても、急なことにはあたふたするようだけど。

 

「それじゃ、真っ直ぐ向かいなさいよ。私はここで待機しているから」

「えぇ、それじゃぁまたね。レナ、歩ける?」

「無理......。抱っこして」

「おんぶはいいけど抱っこはダメ。歩きにくいから」

「ならおんぶでもいいです......」

 

 残念そうな顔をしながら、レナはゆっくりと私の背後に回って、私の首に手を回した。

 そして、そのまま私に身を預けて安心したのか、すぐに耳元で安らかな寝息を立て始めた。

 

「もしかして寝ちゃった......?」

「......すぅー......」

「寝るの早いわねぇ。......それにしても軽いわね。ちゃんと食べてるのかしら?」

 

 歩くのもすぐに面倒になった私は少しだけ浮きながら、神社へと向かって飛んでいった。

 

 

 

 そして、しばらく飛び続けると、来た道から何度も叫び声が響いていた。

 

「......妖夢ね。あいつもかなりの怖がりよね。

 まぁ、大体は主の......ん?」

 

 ふと目線を感じたので、その先を見てみた。

 

 すると、少し離れた位置にある木の影。そこに白い着物を着た女が立っていた。

 それも、何をするわけでもなく、ただこちらを見つめていた。

 

「......人間、じゃないわよね? だったら妖怪かしら?」

 

 気にはなったものの、レナをおんぶしている私に何かできる訳が無い。

 何かしようとも思わない。

 

 だからこそ、目を凝らして見るだけにした。

 

 その女の顔は暗いせいで全く見えない。それに、薄ら女の先が透けて見える気がする。

 

「何かしら? あいつ......。なんかウザ......あら?」

 

 一瞬。本当に瞬きをした一瞬のことだ。

 その一瞬目を離したうちに、その女は消えて、居なくなっていた。

 

「......何だったのかしら、あの女は......」

 

 まぁ、どうでもいいわね。今は早く帰らないと。

 

 そう言えば......私、夜の明るさも昼とあまり変わらなく見えるのに、どうしてあの女の顔を、どうしてこの森が見えにくいのかしら?

 まぁ、もういつも通りだから問題無いわね。

 

 いつもと変わらない夜の道。

 私は眩しい程の光が溢れる神社へと帰っていった────



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3、「末妹の案内 『永夜異変』編」

遅れて申し訳ないです(´・ω・`)

ただ、案内するだけのお話。
のようd(ネタバレ防止のため消されました())


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レナータの部屋)

 

 それは、異変解決から数ヶ月。雪が降るとある冬の日のことだった。

 

 部屋で本を読んでいる最中、部屋にフランが一人で入ってきた。

 

 そして、私が聞くよりも先にそう言ったのだ。

「私、今魔法の研究中ですので暇じゃないです」

「私が暇なの。ねぇ、何の魔法?」

「召喚魔法です。とある魔神達の」

「魔神って危険じゃないの? 強いからなんちゃらとかで」

「もちろん危険なのもいます。ですから、安全な魔神を選んでいるのです」

 

 安全と言っても、害が少ないという意味なのだが。

 まぁ、単なる暇つぶしで調べてるだけだし、私は召喚しようとは思わないんだけどね。

 

「安全って言って、結局は危険な目に遭う未来が目に浮かぶなぁ。

 お姉様。止めといた方がいいと思うよ? 嫌な予感しかしないから」

「え、でも......」

「そんなことよりさ、私と遊びに行こっ? お姉様達が異変を解決した場所に、ね?」

「えっ!? ちょ、ちょっとフラン? どうして知っているのですか?」

「ミアから聞いた」

「み、ミア......」

 

 って、え、何処で知ったんだろ? いや、誰からか聞いたのか。

 それにしても、フランにだけは教えちゃダメっていつも言ってるのに。

 この娘、機嫌悪いとすぐに怒るし......。

 

「お姉様。顔色悪いよ? 大丈夫?」

「だ、大丈夫です。で、遊びに行くのですね。いいですよ」

 

 はぁー、今日からしばらくの間はこの娘(フラン)の機嫌取りかなぁ。

 まぁ、最近は無茶言わなくなったし、今日は機嫌が良いみたいだからいいけどさぁ......。

 

「じゃ、行こっか。今日は運良く曇りだし、日傘にする?」

「手が塞がるのでいつも通りフードで行きましょう。

 そもそも、日傘で出かけた事ないですけどね」

「お姉様はね。私はたまにあるからね? 夏とか暑くて死にそうになるしー」

「魔法使えば温度も関係無くなりますよ? あ、準備するので待ってて下さいね」

「それ、お姉様いる時だけだからね。いいけど急いでよねー」

 

 外へと出かける準備をしながらフランと雑談を交わしていく。

 

 フランにも新しい魔法教えてあげた方がいいのかな?

 でも、本当に欲しい魔法は自分で覚えるしなぁ。

 

「......フラン。また魔法でも教えましょうか? 実用性があるものに限りますが」

「うーん......まぁ、教えてもらおっかな。お姉様、口だけじゃ無くて手も動かしてね」

「では、帰ってから始めましょうか。善は急げと言いますし。最近棘多くないですか?」

「急がば回れ、とも言うけどね」

「......え、最後のは無視ですか?」

「はーやーくー」

「......はぁい......」

 

 

 

 ──竹林(入り口付近)

 

 とりあえず異変が起こったところに行くということで、竹林までやって来た。

 

「妹紅。案内よろしくです」

「お前も姉と同じく唐突な部分あるねぇ。まぁ、いいけどさ」

 

 そして、タイミング良く妹紅を見つけたので永遠亭までの道案内を頼むことにした。

 

「お姉様よりもマシと断言します」

「あらそう。で、そちらのお嬢さんは?」

「お姉さ、レナータお姉様の妹。フランドール・スカーレットよ」

「よろしく、フランちゃん。私は妹紅。藤原妹紅だよ。よろしくね」

「......貴女人間だよね? 知らないのかもしれないけど私は吸血鬼だよ?

 最近の人間は見た目だけで『ちゃん』とか付けるの?」

 

 珍しく、『ちゃん』付けされたのが恥ずかしかったからなのか、顔を赤くして怒っている。

 

 もちろん、顔が赤いのは恥ずかしいからであり、怒っているからでは無いのだろうけど。

 

 それでも、少し勘違いされそうだ。でも──

 

「ぷっ、あははは! そう呼ばれるのが嫌だったかな?

 だけど、こう見えて私は最近の人間じゃないんだ。すまないね」

「......お姉様、意味が分からないんだけど......。それにどうして笑われているの?」

「簡単に言えば、妹紅はフランよりも年上ってことですよ。

 それと、後者はフランが見た目相当の怒り方をしたから、ですね」

 

 人間である妹紅だが、私が生まれるよりもずっと昔に、不老不死の薬を飲んだらしい。

 それで、見た目も変わらず、死ぬことも無く、ずっと生きているのだとか。

 

「え、人間なのに年上なの!? って、誰が子供よ! もう大人だもん!」

「よしよし、そうでしたね。フランは大人でしたね」

「必死に手を伸ばして撫でる姿を見ると本当に、お姉ちゃん、って感じがするな。

 あのレミリアとか言う姉と一緒に居た時は──」

「ストップ! 妹紅ストップです! それ以上はいけないです!」

「あ、言っちゃ駄目なやつか? すまんすまん」

 

 あ、危なかった......。できればフランにだけはバレたくない。

 バレたらフランに弱味を握られる気がする......。

 

「......お姉様って子供だもんね、レミリアお姉様の前だと」

「貴女にだけは言われたくないです!」

「姉妹喧嘩は後にしてくれよ? さて、着いたよ。永遠亭だ」

 

 いつの間にか、目の前には前の異変で訪れた屋敷、永遠亭が建っていた。

 

 というよりかは、気付かないうちに到着しただけなのだろうが。

 

「へぇー、ここが......」

「異変の時は輝夜達の術で廊下を長い間走らされたり、兎が邪魔したりしてなかなか前に進むことができませんでした。けど、今回はすぐに会えるはずです。

 妹紅。帰りも案内、よろしくお願いします。あまり長くは待たせませんから」

「まぁ、いいよ。けどあまりにも遅いと置いて帰るからね?」

「分かりました。フラン。会いに行きましょうか。『永夜異変』の関係者に」

「『永夜異変』は紫が起こした異変ってレミリアお姉様が言ってたよ」

「か、関係者ですから合ってますよ」

「いいから早く行って帰ってきてくれ」

「あ、すいません。フラン。行きましょうか」

 

 フランに声をかけ、私達は屋敷の中へと足を踏み入れた──

 

 

 

 ──永遠亭(輝夜の部屋)

 

「誰かが出向いてくるってのは珍しいわね。特に吸血鬼なんて、珍し過ぎるわ。

 ねぇ、家で働かない? 私の暇つぶし相手にならない?」

「唐突なお誘い、有り難いですがお断りさせて頂きます。絶対に」

「まぁ、ダメ元だったし、面白そうだから言っただけだからいいけど。

 で、用事は何かしら。それにその娘は? 前見た時は居なかったけど妹さん?」

「うん。お姉様の妹。名前はフランドール・スカーレット。フランって呼んでね」

「分かったわ。フランちゃん、蓬莱山輝夜よ。輝夜って呼んでね」

「......うん。よろしく......」

 

 妹紅と同じような呼び方してる......。やっぱり、本当は仲良いんじゃ......?

 いや、フランが子供っぽくて可愛らしいから、自然とそう呼びたがるだけなのかな?

 

「なんか悲しそうね、その娘」

「色々あっただけなので気にしないで下さい。それにしても今日も暇なのですか?」

「長生きしてる分、暇なのは仕方ないことよ?」

「まぁ、気持ちは分かります。半分も生きてないでしょうけど。

 それで、永琳さんの仕事は上々なのです?」

「まぁね。毎日のように沢山の怪我人が来るわ」

 

 毎日のようにって......やっぱり人間って怪我しやすいんだね。

 吸血鬼の身体とっても便利。けど、慣れって怖いからなぁ......。

 

「で、結局用事は何かしら? 暇つぶし? それとももう一度肝試しでもする?」

「肝試し嫌です。今日はフランと遊びに来ただけですよ」

「もうなんか異変の関係者の紹介になっちゃってるけどね......」

「あらそうなの。なら永琳......は仕事中だから駄目ね。イナ......鈴仙を呼びましょうか」

 

 鈴仙......異変の時は全然会わなかったからなぁ。

 唯一会った時は、幽々子達と戦っていたし......。

 

「イナ鈴仙?」

「イナは付けなくていいわよ。間違えただけ。れいせーん! 来てー!」

「大声出しただけで──」

「はーい。何でしょうかー?」

「......凄いね。呼んですぐに来るなんて。まるで咲夜みたい」

 

 凄いというか、大声出さなくても来るから、咲夜はある意味怖いんだけどね......。

 

「別に用は無いわ。でも、見てもらった方が紹介しやすいでしょ?

 これが鈴仙。見ての通り兎。以上」

「紹介雑過ぎないですか!?」

「これ以上語ることも無いから仕方ないでしょ? で、あの兎、てゐは?」

「あぁー、今探しているんですよ。また何処かに行っちゃったみたいで......」

「あの娘も紹介しようかと思ったのに。いいわ。また別の日にでも紹介しに行くから」

「それは逆に困ります」

 

 事前に知らせがあればいいんだけど、絶対に無いだろうし。

 それに急に現れるんだろうし......。

 

「それじゃあ、また来てちょうだい。その時にでも紹介するわ」

「分かりました。では、またお邪魔させて頂きますね。

 ......そろそろ帰ります。人を待たせていますし」

「あらそう。帰り道は大丈夫? 何なら鈴仙でも付けるわよ?」

「大丈夫だよー。ももがっ!?」

 

 危うく地雷を踏みかけたフランの口を、私は急いで手で塞いだ。

 

「ふ、フランの言う通り、道は分かるので大丈夫です!」

「......へぇー、そうなの。なら安心ね。それじゃあバイバイ」

「はい。バイバイ、です」

 

 フランの口を塞いだまま、輝夜の部屋を後にした。

 

 

 

 そして──

 

「ここまで来れば大丈夫です、よね? まぁ、もう出入り口ですから大丈夫でしょうけど」

「ぶはっ! お、お姉様? どうしたの?」

「おっ、本当に早かったな。もう帰るのか? って、フランちゃんどうしたんだ?」

「地雷を踏みかけたので。申し訳ないです、フラン」

「ううん。別にいいけど......。地雷って何?」

 

 ほっ......。今日は機嫌が良い日みたいだ。

 慌てて口を塞いだから怒っちゃったかとヒヤヒヤしてた......。

 

「帰ってから話しますね。さて、帰り......ん?」

 

 ふと目を逸らすと、竹林の奥にロバの頭をした、身体がライオンのような何かが見えた。

 

 が、すぐに見えなくなってしまった。

 

 目の錯覚か何か......じゃないよね。妖怪かな?

 

「え? どうしたの?」

「いえ。妖怪っぽいのがいただけなので気にせず行きましょう」

「まぁ、ここら辺は兎とかの妖怪が多いからな。

 襲われたくなかったら離れずに付いてこいよ」

「ふふん。吸血鬼が他の妖怪なんかに遅れは取らないけどね」

 

 自信たっぷりなフランの会話を聞きながら、私達は竹林の出口へと向かっていった────



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4、「花の咲き乱れる日 魔の僅かな匂い」

花映塚直後のお話。異変関連は次でやります。今回はその前に、その後のお話(←ややこしい)


 side Renata Scarlet

 

 ──太陽の畑

 

 春だというのに沢山の向日葵が咲き誇る草原。

 

 そこで私は誰も連れずに一人、季節外れに咲く綺麗な花を見ていた。

 

「あら。この辺りでは見ない方ね。貴女みたいな娘が一人でこんな場所に何用かしら?」

 

 しばらく見ていると、背後から女性の声がした。

 

 聞いたことのない声だから、明確に誰とは分からない。けど、今私は陽から身を守るためにフードを付けている。そんな怪しい人に声をかけ、尚且つ花が咲くこの場所に居るとすれば、私が知っている限り一人しかいない。

 

「ま......いえ、妖怪を探しにここに来ました。その妖怪は見つけることができなかったのですが、あまりにも綺麗な花に見とれていて......」

「そうね。妖怪ならそう見えてもおかしくないわね」

「妖怪なら、ということは人間なら綺麗には見えないのです?」

「綺麗には見えるわ。でもこの花達には鮮やかさが無い。儚さだけが残っている」

 

 ......え? 全く意味が分からないんだけど......。こういう時ってどうすればいいんだろう?

 

 なんか流れで振り向かずに話しているけど、この人絶対に幽香さんだよね? 怖い人のイメージがあるから気を損ねるような返事はしたくないし、本当にどうしよう......?

 

「えーっと......ど、どういうことです?」

「そんなに身構えなくてもいいわよ。私より弱い妖怪は興味無いから」

「うー......地味に傷付きます......」

「でも苛めることはあるわよ?」

「それは普通に傷付きます。っていうか、私そんなに弱いですか?」

 

 私としては、そこら辺の妖怪よりも強い自信がある。吸血鬼特有の力があり、多くの弱点がある。弱点とはいえ、強過ぎる力のためにあるものだ。だから、そこら辺の妖怪よりも弱い訳では無い。

 何より、お姉様と同じ種族なのに弱い訳が無い。絶対に。

 

「普通、妖怪は魔力よりも妖力の方が勝っているものなのよ。普通はね。でも、貴女は魔力の方が勝っている。その辺の妖怪よりも強い妖力があるのに、ね」

「え? でもそれなら弱くは無いですよね......? もしかして、私はそんなに妖力と魔力が低い方なのです?」

 

 後ろを振り返りながら、そう聞いてみた。

 

 後ろを振り返ってみた結果、やっぱり幽香さんだった。

 日傘を差して微笑んでいるが、何故だか怖く見える。

 

「どちらかと言うと高い方。でも、妖力よりも魔力が強いのは魔女くらいよ。そして、魔女に共通して言えることは体力が無い。魔力が高いということは、魔法をよく使うことだから。例外もあるけど。肉弾戦となれば、肉体強化の魔法を使い、戦い慣れている妖怪くらいじゃないかしら。強いのは。

 それで思ったんだけど、貴女、魔法に頼りきってるでしょう? 強い種族なのに、その力、妖力を使わずに魔力を使っている。そうじゃない?」

「うっ......合っていますけど、元から身体能力は高いですし......」

「それは人間に対しての話。魔力が高い者は大体、普通の妖怪に対してなら良くて中の上。悪くて下の上よ。実際、貴女も魔女みたいに肉弾戦苦手でしょう?」

 

 要するに、妖怪全体で見れば、真ん中辺りの身体能力と......。

 

 確かに、肉弾戦なんてほとんどしたことが無い。今まで人間相手だから楽勝とか、お姉様やフラン相手だから本気を出さず、負けちゃうとかくらいだ。まぁ、本気出してもお姉様達には力じゃ敵わないけど。

 

「強くなりたいのなら、身体を鍛えなさい。魔法ばっかり練習しても身体能力が低ければすぐに殺られるわよ。特に、吸血鬼なら尚更ね。弱点が多過ぎるから」

「はい......って、あれ? 私の種族、知っているのです?」

「何回か殺ったことがあるから。その中に、陽の下で戦うことになった貴女みたいに魔法が得意な子が居たのよ。魔法に頼りきっているところを......」

「一気に距離を詰めて肉弾戦で......?」

「いえ。相手の魔法を上回る魔法で消し飛ばしたわ」

 

 やっぱり強い......。あれ? さっきの妖力と魔力の話した意味あった?

 

「そうはならないように魔力も妖力もどちらも鍛えなさい。魔法を使いながら肉弾戦できるようになれないと、この先死ぬわよ?」

「どうして何かと戦うこと前提なのです......。でもまぁ、肝に銘じておきます」

 

 というか、これを断ったら殺されそうな気がする......。

 結構な偏見かもしれないけど、幽香さん怖いし......。

 

「そうしなさい。それと、まだ名乗っていなかったわね。私は風見幽香。貴女は?」

「レナ......レナータ・スカーレットです。霧の湖近くの紅い館に住んでいます」

「そう。またお邪魔させてもらうわね」

「えっ、あ、はい......」

 

 あ、これ言わない方が良かったやつだ......。どうしようか......って、どうしようも無いかぁ。

 忘却魔法とかまだ覚えれてないし、使えても効果無さそうだし......。

 

「あ、そう言えば、結局花の儚いとか鮮やかというのは、どういう意味なのです?」

「この花達には死の香りが漂っている。それは、花に霊が宿っているから。だからこの花達は鮮やかでは無く、儚いのよ。人間の死した命が宿っているから」

「えーっと......それは放っておいても大丈夫なのです?」

「宿った後は花が咲くわ。そしてしばらくすると霊が去り、花が散る。放っておいても大丈夫よ」

「それなら良かったです。でも、どうしてそんなことが?」

 

 正直に言うと、この異変は知っている。けど、どうして起こったのか、どうやって解決したのかは全く知らない。

 元から知らなかったのか、そこだけ忘れてしまったのかは知らないが。

 

「外の世界で大量に死んだのよ。人間がね。六十年に一度、こういう時があるから覚えているといいわ。貴女もここで住むのなら、ね」

「......参考になりますね。ありがとうございます」

「そう。良かったわ。それで貴女の探し人は探さなくていいの? 話している間に、日が暮れてきちゃったけど」

「あっ! そ、そうでした! 早く帰らないとフラン達と遊ぶ約束が......」

「だったら急いだ方がいいと思うわ。湖まで距離があるから、探していたら時間はあっという間に過ぎちゃうわよ」

「と、とにかく、急いで探してきます! またお会いしましょう!」

「......慌ただしい娘ねぇ」

 

 後ろを振り向くことも無く、私は館の方角へと飛び立つのであった──

 

 

 

 ──人里(裏道)

 

「はぁー......ここにも居ませんね。......盗み関連で人目に付かないと言えば、ここくらいだと思ったのになぁ」

 

 探している奴のことで、あることを思い出した私は、人の姿に化けて人里に来ていた。

 だが、姿どころか、居る気配すら感じられない。

 

 やっぱり、ここでは無いのかな? 前見たのは竹林だったし......でも、竹林には居なかったからなぁ。

 

「......今日は休みか何かの日でしたっけ?」

 

 それにしても、春だというのに、あまりにも人が少ない気がする。

 何かあったのかな? 帰ったら咲夜にでも聞こ──

 

「ゴホッゴホッ......」

「ん? あ、ちょっといいですか?」

 

 そう思っていると、横に若い男性が通り過ぎようとしていたので、声をかけてみた。

 

「ん、なんだ?」

「人がいつもより少ないみたいですけど、何かあったのです?」

「お前知らないのか? 今、人里では疫病が流行ってんだよ。大抵の奴は屋敷の薬貰って寝込んでるだぞ?」

 

 疫病......人間って病気にかかりやすくて大変だなぁ。

 ......なんか、前も同じようなことをしたような気がする。あれはいつだったっけ?

 

「もういいか? 俺も薬貰って帰ってるところなんだよ」

「あ、いいですよ。引き止めてすいませんでした」

 

 それだけ聞くと、若い男性は早い足取りで歩いていった。

 

 永遠亭も忙しそうにしてたし、これのせいなのかなぁ。

 でも、輝夜は怪我人って言ってたから違うか。......永琳さんに聞いてないから本当かどうか知らないんだけど。

 

「はぁー、結局無駄足ですね......。アレがもし想像通りなら、放置していれば危険そうですから来たというのに......。まぁ、危険と言っても、盗人が増えるくらいですし、増えても慧音とか霊夢が居るから大丈夫、かな......」

 

 心配は残るものの、見つけれないのならどうすることもできない。

 それに、本来は人間の味方であろう巫女の仕事。妖怪である私が手を出す方が間違っている。

 

 そんなことを思いながら、誰も見ていないことを確認し、再び空へと飛び立った。

 

「今はそれよりもフラン達との約束を守らないと......」

 

 飛び立った私を見つめる影があったとは知らずに、私は紅魔館へと帰っていった────




次回は異変のお話。予定ではレナさんが出ない模様()


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5、「花の異変」

まず始めに。
それほど長くないのに遅れて申し訳ないですm(_ _)m

今回は題名通り。
なお、レナは出てこない模様。


 side Kirisame Marisa

 

 ──博麗神社

 

 春特有の暖かい風が吹くある日の夕暮れ。

 

 いつものように、いつもと違う出来事、異変が起きた。

 

「霊夢ー! 異変だー!」

 

 そういう訳で、例のごとく神社へとやって来たのだった。

 

「あら。魔法使いの人間じゃない」

 

 しかし、霊夢の姿はそこには無かった。

 

 その代わりと言わんばかりに、一人の吸血鬼が縁側でお茶を飲んで座っていた。

 

「ん、レミリアか。......霊夢は居ないのか?」

「居ないわ。私はお留守番」

「霊夢がお前に留守を任せるとは思えないんだが」

「私が来た時にはもう居なかった。だから勝手に留守番しているのよ。......立ってないで座れば?」

「ん、そうだな。よっと」

 

 私は促されるままにレミリアの横へと座り、レミリアから霊夢のであろうお茶を貰った。

 

「ふぅー......。で、招かれざる客ってやつか。吸血鬼なのに」

「宴会の時に招かれたことがあるから大丈夫よ」

 

 招いたのは私で、霊夢から招いたことは一度も無いけどな。

 

「それで、霊夢は何処に行ったか知らないんだよな」

「知らないけど、異変解決じゃない? こんなにも分かりやすい異変を放っておく人とは思えないから」

「まぁ、放っておいたら、巫女がサボってる、とか思われそうだしな。

 紅い霧の時はギリギリまでサボっていたが」

 

 あの時、幻想郷で最東端に位置する博麗神社(ここ)にも霧が迫っていたくらいだ。

 

 まぁ、あれ以来、異変を長引かせることはあんまり無い......と一瞬思ったりしたが、『春雪異変』の時も長引かせた気がするな。

 それに、『永夜異変』の時は紫が誘ったらしいし、あいつ、全く変わらないな。

 

「『紅霧異変』、懐かしいわねぇ......」

「懐かしいと思うほど経ってないと思うけどな」

「そうかしら? いえ、確かにそんなに経ってないわね。それで? 追わないの?」

「ん、霊夢をか? 何処に行ったか分からないんじゃ、追う術がないぜ」

「勘とか?」

「霊夢じゃないから無理だ」

 

 おそらく、霊夢は今回も自分の勘を頼りに行ったんだろうが......出遅れた私が追いつけるとは思えないんだよなぁ。

 ......まぁ、今回は待ってるか。霊夢が居ないとつまらないしな。

 

「よし、私も留守番するか。レミリア。お前は何時頃来たんだ?」

「憶えてないわ。でも、三時間は経ってると思うわよ」

「待ちすぎだろ。暇なのか?」

「長生きしてると暇な日くらいできるのよ」

 

 それでも三時間は無いだろ......。

 こいつ、暇だから、とか言って暴れてたのを見たことあるけどな。どうしてこういう時は律儀に待つんだろうな。

 

「そう言えば、咲夜やフランとか居ないのか? 妹連中はともかく、咲夜はいつも付いてきてた気がするんだが......?」

「咲夜は買い出し。レナとミアは行方知らず。フランとルナは覚妖怪と遊びに行ったわ。

 他は図書館に篭っていたり、寝てたから一人で来たのよ」

「ふーん......ん? 行方知らずって家出でもしたのか? 珍しく喧嘩でもしたのか?」

「してないから。全然仲良いから。あの娘達は物珍しい物事や幻想郷(ここ)が好きだから、無断で外出すること多いのよ。昔は毎回報告されてたけど、流石に一々聞くのも、ねぇ......」

「あぁ、なるほどな」

 

 めんどくさかったんだな。まぁ、気持ちは分かるが、姉としていいのか、それは。

 人の家のことを言うのも何だがな。

 

「あやや? これはまた珍しい組み合わせですね」

 

 レミリアと話していると、上から鳥の羽ばたく音と共に、そんな声が聞こえた。

 

 音のする方を見ると、そこには烏の黒い翼を持つ烏天狗が浮かんでいた。

 

「もしかして、宴会の準備ですか? それにしては何も準備できてないですが......」

「なんだ文か。それは準備してないからだぜ」

「異変解決に行った霊夢を待ってるのよ」

 

 正確に言えば、本当に異変解決に行ったかどうか分からないけどな。

 この時間だから可能性は低いが、人里に買い物に行ってるかもしれないし。

 

「異変? そう言えば、そんなこと言ってましたね」

「霊夢に会ったのか?」

「会いましたよ。ただ、付いて行こうとしたら、退治されまして......。

 そして、見失ったので仕方なくここに来たわけですよ」

「退治って......何か悪いことでもしたの?」

「いえ、特に何も。妖怪退治中とかで、話し終えた後にやられました」

 

 あぁ......要するに理由も無くやられたと。

 異変の時のあいつ、妖怪に対しては容赦ないな。

 

「話し終えたって、何を話したの?」

「花の異変のことですよ。折角ヒントをあげたのに、お構い無しでした......」

「うわぁ......。まぁ、どうでもいいわね」

「同情してくれるかと思いきや、結構酷いですね」

「だって烏だし」

「烏天狗です。はぁ、もういいです。さて、横失礼しますね」

 

 そう言うと、文は静かにレミリアの横に降り立ち、私達と同じように座り込んだ。

 

「なんだ? お前も霊夢を待つのか?」

「お茶いる? 私のじゃないけど」

「有り難く貰いますね。えぇ、待ちますよ。何処も彼処も花のことで話はいっぱい。

 だからネタのほ......霊夢さんを探してたのです。まぁ、もうしばらくすれば帰ってくると思いますよ。その時は、異変のことを聞きたいですねー」

「そうねぇ......」

 

 やっぱり行かなくて正解だったかもな。入れ違いになってた可能性もあるし。

 

「もうしばらくってことは、今頃は帰ってる途中なのか?」

「さぁ? それは私にも分かりません。

 ......ですが、今頃は誰かと戦っていると思いますよ。思うだけですけどね」

 

 

 

 

 

 side Hakurei Reimu

 

 ──再思の道

 

「はぁー、花の多さに惑わされたわ......」

 

 烏天狗のヒントを受け、幽霊が集まる場所を目指して初めてここに来た。

 

 なかなか来ない場所だし、どういった場所か聞いてないから知らない場所なんだけど。

 

「花と同じく、異常に増えてるモノが二つもあるわね。

 一つは妖精......まぁ、花に浮かれているだけだと思うけど」

「墓場で何ブツブツ言ってんのさ!」

「そして、幽霊が異常に多い! って、あんた誰?」

「あたいは三途の川の一級案内人、小野塚の小町。彼岸で、三途のタイタニックたあ、あたいの船のことさ」

 

 三途の川......そっか。ここがあの世とこの世の......。

 いつの間にか、そんな場所まで来てたのね、私ったら。

 

「別にそこまで聞いてないんだけど。っていうか、タイタニックって何?」

「そんなことはどうでもいいだろ? それよりも、死に急ぐ人間に最初の警告だ。

 三途の渡し船は法外だぞ。神社の賽銭ごときでは渡れないよ」

「渡らないわよ。お金も無いし」

「今なら一割引」

「安いのかよく分からない。って、どうでも良いわよ。

 私は花と同時に幽霊の数が異常に増えてたのを調べに来たのよ」

「幽霊? 花? ああ、幽霊。幽霊? 幽霊が増えただって?」

「幽霊よ。花に惑わされてたけど、よく見たら幽霊だらけじゃない」

「ああ、なんてこと! よく見ると彼岸花も咲いてるし。

 それに、あの紫の桜も......」

 

 小町はあちこち見回すと、何かに怯えるように慌てだした。

 

 もしかしたら、何か知ってるかもしれないわね。

 

「いやまあ、見なかった事にする。それが一番だ」

「するな、何か知ってるわね?」

「じゃ、あたいはこれにて......仕事があるんでねぇ」

「もしかして......あんたが霊達をちゃんと彼岸に渡していない?

 あんたがサボっているから、幻想郷は幽霊だらけなんじゃないの?」

 

 適当に言ってみたが、案外当たってる気がするわね。

 こいつが幽霊を運んでいるみたいだし。

 

「そんなに焦って何処に行く~。って彼岸に行くんだけど」

「ちゃんと仕事をしなさいよ! サボってばかりいないで!

 はぁー、こいつのボスは居ないの?」

「居るけど呼ばれるのは困るわー」

「見つけた......。何サボってるの! 小町!」

「きゃん!」

「あら。ちょうどいいわね。あんたのボスっぽい人が来たじゃない」

 

 何処から来たのか、いつの間にか横から、笏を手に持つ緑色の髪の女性が来ていた。

 

「小町が何時まで経っても霊を運んでこないから様子を見に来れば......此岸は幽霊だらけ花だらけ、挙げ句の果てに小町は巫女とお戯れ。

 あ~あ。小町を最初に見たときはもっと真面目な奴だと思ってたのに」

「え、映姫様......」

「あんたは......この死神のボスよね。この花の異常はあんたらがやったんでしょ?」

「はぁー。今の無縁の霊達は、自分たちが死んだことに気が付いていない。気が付きたくないの。そういう霊は不安定だわ。だからどうしても体を持ちたがる。行き場を失った霊は花を拠り所にするの。だから花が咲いたのね。そう、今の幽霊は外の人。死を予期できなかった無念の霊」

 

 えっと......そういうこと? でも、これ全てが......?

 

「もしかして、この花全てが......外の人間の霊って事?」

「えぇ、そうよ。そして、花は性格、つまり魂の質を表す植物、だから霊とは相性が良いのよ。向日葵には明るかった人間の霊が宿り、彼岸花には友人のいない寂しい霊が宿る。そして、紫の桜は......」

「そう......判ったわ。花自体が何かする訳ではなく、行き場の失った幽霊が増えすぎた事が、この花の異変の原因なのね。そうと判れば、あんたらに何とかして貰わないと困るわ」

 

 私じゃどうもできないし。

 流石に妖怪じゃなくて、幽霊を、それも幻想郷中の花全てをどうにかするなんて、私が出来るわけがない。

 

「そう? 私達は困らないし、貴方もそんなに困らないでしょう? それに、幽霊だって花さえ咲かせれば、まだ生きているつもりでいられるんだから......少しくらい放っておいても良いじゃない」

「そういう問題じゃないのよ! 異変を放っておくと、私がサボっている様に見られるんだから! つべこべ言わずに、あんたらを倒せば元に戻るんでしょう?」

「はぁー......全く。

 貴方は大した理由もなく大勢の妖怪を退治してきた。妖怪では無い者も退治した事も少なくない。さらに巫女なのに神と交流をしない。時には神に牙をむく事もある。そう、貴方は少し業が深すぎる」

 

 ん......なんだか面倒くさそうな予感。

 これ、戦いながら説教される気がするわね。

 

「このままでは、死んでも地獄にすら行けない」

「そ、地獄に行けなければあの世に行くまでよ」

「閻魔の裁きはそんな易しいものでは無い。決定を覆すことは不可能よ。

 もし私が裁きを担当すれば、貴方は非ね」

「失礼ね! 妖怪退治は仕事だもの、仕方が無いじゃないの」

 

 とか言ってみたものの、何もしてない妖怪も......いえ、気にしたら負けね。

 絶対に気にしない。そうした方がいい気がする。

 

「泥棒だって人殺しだって、戦争だって、それが仕事の人もいる。 仕事だから、は罪の免罪符にはならないのよ。

 少しでも罪を減らすために、これから善行を積む必要がある」

「そう、貴方を倒して花を戻してから考えるわ」

「紫の桜は、罪深い人間の霊が宿る花。貴方はその紫の桜が降りしきる下で、断罪するがいい」

 

 緑色の髪の女性は、笏を私に向かって構えてそう言い放った──

 

 

 

 ──約一時間後 博麗神社

 

「もう......もう絶対に、説教とかごめんだわ......」

 

 勝つことができ、尚且つ異変も何とかしてくれることになったが......。

 おそらく小一時間程説教されてしまった。

 

 戦っている時間よりも、説教された時間の方が長いのは初めてだわ。ほんと......。

 

「おぉー。霊夢ー!」

「魔理沙? あら。それにレミリアと文じゃない」

 

 神社まで戻ると、縁側でくつろぎながら、お茶を飲んでいた三人の姿があった。

 

「ってそれ私の家のお茶じゃない!?」

「後で何か持ってくるからいいじゃない。で、異変は解決したの?」

「一応、ね。って、文は何も説明してないの? どうせ全部知ってるんでしょう?」

「あやや。私は全然知りませんね。ですから、霊夢さんの口からお願いします!」

「どうしてこんなに必死なのよ......」

 

 そう言えば、ネタ探しをしてたんだっけ?

 まぁ、別にいいや。それよりも、今は......。

 

「まあいいわよ。でも、明日にして。今日はちょっと疲れたから。

 貴女の質問攻めに耐えれる気がしないわ。で、人の家に居る理由を聞きたいんだけど......まあいいわ。夕ご飯作るけど、あんた達も食べる?」

「おっ、いいのか?」

「ついでよ。ついで。一人作るのも四人作るのも変わらないから」

「なかなかいいネタになりそうですね。私も頂きます!」

「私は......まぁ大丈夫よね。頂くわ。ついでに血も──」

「それは絶対に嫌」

 

 そう言うと、私は夕食の準備を始めたのだった────




次回は最近出番少ない姉妹以外の紅魔館組の話をやりたいと思います。

多分、紅霧異変以来......かな()


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6、「お嬢様の紅魔館巡り」

遅れて申し訳ないです。
短いのも申し訳ないです()

今回は題名そのまま。次回もほのぼのが続きますが、暇な時にでも読んでくださいまし


 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(図書館)

 

 外では花が咲き乱れ、妖精達が騒ぐある日。

 

「ねぇパチェー」

「何?」

 

 いつものように暇を持て余していた私は、友人の居る図書館へと来ていた。

 

「何をしているの?」

「見れば分かるでしょ。魔法の研究よ、研究」

「何か冷たくなーい?」

「さっきから横で煩くして邪魔するからよ。暇なのは分かるけど、耳元でそんなに言われると、流石に集中できないわ」

「そんなぁ......」

 

 親友であるパチェに邪魔と言われるのは、流石に落ち込んだ。

 

 ──悪いのは私なんだけど......。

 

「紅魔館の主が情けない声出さないの。貴女、シスコンの妹は? 暇なら遊んでくればいいじゃないの」

「それが居ないのよねぇ。いつもなら、『お姉様暇です? 遊びません?』とか、『レミリアお姉様遊んでー』とか言ってくるのに......」

「あぁ、暇じゃないのね。それにしても、今の貴女、カリスマの欠片も無いわね。甘えている時の妹達と全く同じようね」

「そりゃあ、妹の前ならしっかりとした姉として振る舞うわよ?

 けど、今は居ないんだし、別によくない?」

「......まぁ、貴女がいいならそれでいいけど」

 

 パチェは意味ありげに首を振ると、再び魔法の研究へと意識を戻した。

 

「え、ちょっとパチェー?」

「見ての通り、暇じゃないのよ。......そうね。せっっかくの機会なんだし、咲夜達の仕事風景でも見に行けば?」

「はぁ? どうして急に?」

「暇なんでしょ? ならいいじゃない。それに、普段どんなことをしてるか知らないでしょ?」

「流石に知ってるわよ。一応、管理も主の役目なんだから。あれでしょ? 美鈴は寝ることが仕事なんでしょ?」

「否定できないのが辛いわ......。でもまぁ、主ならしっかり仕事してるか見るのも仕事でしょ?」

 

 ──むぅ......確かにそれもそうだ。

 とは、考えてはみるものの、なんか騙されている気がする。でも、悪いことにはならないはずよね。なら別にいっか。

 

「それもそうね。そうと決まれば、行ってくるわね!」

「えぇ、行ってらっしゃい。ちゃんと妖精メイドの仕事も見てくるのよ」

 

 友が声をかけた時には既に部屋を出た後だった──

 

 

 

「行っちゃいましたね。パチュリー様、どうしてあんな適当なことを?」

「もちろん、邪魔をさせないため。この魔法、意外と危険なのよ。だから、失敗してレミィを巻き込むことが無いように、行かせたのよ」

「それなら素直にそう言えば良かったのではないです?」

「レミィって好奇心旺盛だから。危険だと知ったら余計に見たがるのよ」

「あぁ......流石お嬢様。子供みたいで可愛いですねー」

「実際子供よ。吸血鬼なんだから、あの歳じゃね......」

 

 そんな話をしている頃、友の心境を知らない吸血鬼は、メイドに会うために、館中を駆け回っていた──

 

 

 

 図書館から出てしばらく後、私はキッチンでメイドを見つけたのだった。

 

「咲夜ー、仕事してるー?」

「あ、お嬢様。していますよ。どうなされましたか?」

「紅魔館の主だから、見回りをしているのよ。ねぇ、今は何の仕事をしているの?」

「夕食のご用意ですよ。今日はハンバーグです」

「あら、そうなの? フランが好きな食べ物よねぇ。それで、見たところ貴女一人ね。いつも一人で用意してるの?」

「まぁ、そうですね。稀に妹様達が手伝ってくれますが、主の妹様に手伝わせるのはメイドとして恥ですし、最近は一人が多いですね」

 

 その言葉に私は驚きを隠せなかった。

 

 ── 一人で、私達の分を作っていたんだ......。妖精メイドの分が無いとしても、結構多いわよね? それを一人で作ってるなんて......たまには私が作ろうかしら?

 

「ねぇ、咲夜。大丈夫なの? 過労死しない? なんなら、私が代わってあげるわよ?」

「いえいえ。お嬢様に手伝ってもらうわけにはいきません。過労死しない程度に頑張りますので、ご心配なさらずとも」

「心配するからね? 咲夜は大事な私のメイドなんだから!」

「お嬢様......ありがとうございますっ」

 

 何かあったのか、咲夜は目から涙を浮かべた。

 

「え、あ、何か悪いことでも言った?」

「いえ、嬉し泣きです......。お嬢様、成長なされましたね」

「え、褒められているんだろうけど、なんか腹立つ。あぁ、咲夜が悪いんじゃないからね? ただ、子供扱いは止めて欲しいわ。子供じゃないんだから」

「あ、これは失礼しました」

「あ、そうだ。妖精メイドは手伝わないの?」

「手伝わせているつもりが、邪魔されている気がするので......」

 

 妖精というのは、確かに好き勝手にはやる。

 

 ──だけど、手伝わせているのに邪魔になるってあるの? まぁ、それほど下手なのかもしれないけど。今度、妖精メイド達を集めて、咲夜を手伝えるくらい、教育させようかしら。レナに。

 

「お嬢様。何か考えているのか分かりませんが、私のことは気にしなくていいですよ?」

「いや、気にするわよ。今度、妖精メイドを教育させるわね。レナに」

「そこはお嬢様じゃないのですね......。その事ですが、大丈夫ですよ。既に何名かの妖精メイドを育てていますから。まだまだかかりそうですけどね」

「あら。そうなの? 今度会わせてくれない? もしかしたら会ってるのかもしれないけど」

「はい、承知しました。お嬢様。お暇な時に呼んでください。その時にでも紹介致します」

「分かったわ。あぁ、じゃぁ、次は美鈴のところに行ってくるから」

「はい、行ってらっしゃいませ」

 

 ──咲夜に育てられた妖精メイド......会うのが楽しみだわ。

 

 その楽しみを胸に秘め、食堂を後にした──

 

 

 

「美鈴。また寝てる?」

 

 日傘を持ち、門へと急ぐと、いつものように立ったまま目をつぶっていた美鈴が居た。

 

「ふわっ!? フラン様!?」

「いえ、レミリアよ。また寝てたの?」

 

 フランと間違われたことに、多少の驚きを持つも、私は淡々と話していく。

 

「あ、お嬢様? 一人と言うのは珍しいですね。お出かけですか?」

「神社に行く時は一人のことが多いし、別に珍しく無いわよ。今日はね、美鈴がちゃんと仕事してるか見に来たのよ」

「えっ!? 私です!? あ、ちゃんと仕事してますよ? ただ、ちょっと仮眠を取ろうかと思って......」

「それで寝ちゃってたのねぇ。いえ。怒ったりはしないわ。だけどね? 侵入者を入れたら流石に怒るわよ」

「あ、は、はい! もちろん大丈夫です!」

 

 ──本当に大丈夫なのかしら。

 

 そうは思っても、美鈴だから大丈夫、とも思える。

 

 こっちに来てからは危険も少ないし、美鈴も肉弾戦ならそれなりに強いから心配するだけ無駄なのかもしれない。

 

「それならいいわ。それで、さっきはどうしてフランと間違えたの? そんなに似てるかしら?」

「かなり似ていると思いますよ。それに、フラン様はよく話しかけてくれますし。あ、ルナ様もよくご一緒に」

「へぇー......美鈴に......。あの娘、意外と優しいのねぇ」

「そう言われるとなんだか悲しい......いえ、気のせいですよね。私を悪く言ってないですよね」

「......えぇ、悪く言ってないわよ」

「今の間が怖いんですけど!?」

 

 ──私は、主だと言うのに、みんなのことをあまり気にかけていなかったかもしれないわね。

 

「ねぇ、美鈴」

「え? どうしました? またそんなに改まって」

「私、ここの主としてどう思う?」

「もちろん、最高です! お嬢様のお陰でここに居られますし、衣食住も全て揃えれますし、悪いところは全くと言っていいほど無いですから」

「......そう、ありがとう。ああ、フラン達が帰ってきたら、私が寂しがってる、と言っておいて。事実だからねぇ......」

「えっ!? あ、はい!」

 

 珍しいものでも見たかのような眼差しを向けられながら、私は日傘を手に持ち館の中へと戻って行った────




次回は地霊殿へのお泊まり会編。異変とかそっちのけでお泊まり会です()


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7、「地霊殿のお泊まり会 前編」

稀に朝にも投稿する以下略。

今回から数回はほのぼの回(予定)。異変? ......気にしてはいけない()


 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿

 

 外では妖怪の山に神様が来たとかで騒いでいるある日の昼頃。

 そんな騒ぎも関係無いからと無視して、随分前から約束していた地霊殿へと遊びに来た。遊びに、と言っても一日泊まらせて貰う為、お泊まり会と言った方が正しいかもしれないけど。

 館は咲夜達に任せて、ここには私とお姉様とフラン、そしてルナの四人で来ている。ミアも来る予定だけど、用事があるから来るのが夜になるらしい。

 

「お邪魔しまーす!」

「いらっしゃーい! お姉ちゃん! みんな来たよー」

 

 地霊殿へ入ると、嬉しそうにはしゃぐこいしが出迎えてくれた。

 

「こいし。気持ちは分かるけど騒ぎすぎちゃダメよ。......あ、皆さん。この度は、地霊殿へようこそいら──」

「ねぇ、さとり。遊びに来てるんだから、そんな堅苦しい挨拶しなくていいわよ」

「......まぁ、そうですね。じゃあ、改めて。楽しんで帰って下さいね」

「その言い方だとどこかのお店みたいだけど......まぁ、いいわ。今日はよろしくね」

 

 古明地姉妹に案内され、地霊殿の奥へと歩いていく。

 

「ねぇー、フランちゃんとルナちゃーん。一緒に寝なーい?」

「いいよー! あ、お姉様達はどうするー?」

「そうねぇ......さとりの部屋って空いてる?」

「えっ? ま、まぁ、空いてはいますけど......」

「ならさとりの部屋ね。レナとミアもね」

「えっ!? あ、あの......四人で寝るのは無理だと......」

「大丈夫だよ!」

「ひゃっ!?」

 

 さとりは、自分の横で突然大きな声を上げた妹に驚く。

 

 ──なんだか、既視感があるなぁ。......あぁ、私かぁ。

 

「私とお姉ちゃんだけでも広々と寝れるし、四人でも詰めれば大丈夫! あ、私の部屋もね!」

「はぁー......びっくりしたじゃないですか、もう......。それに、四人は流石に......」

「え? どうして? あ、お姉ちゃん達! 私達は遊んでくるね!」

「あっ、ちょっと」

 

 こいしは突然話を切ると、いつものように無邪気にフランとルナの手を引っ張って、地霊殿の奥の方へと走っていった。

 

「あー、引っ張られるー。あ、お姉様達はゆっくりお話でも楽しんでてねー」

 

 見えなくなった後に、フランの声が聞こえるも、何処に行ったのかは声が反響して分からなくなっていた。

 

 ──私も、一緒に連れて行って欲しかったなぁ......。お姉様とさとりの、姉同士の会話に入れるか分からないし。私、姉でもあるけど妹なんだし......。

 

「行っちゃったわね。あの娘達、まだお昼ご飯も食べてないのに......」

「こいしも食べてないんですけどね......。はぁー、先に食べます?」

「そうね。そうしましょう。......レナ。心配してる? それとも一緒に行きたかったの?」

「え? あ、いえ。心配はしますが、私はお姉様と一緒がいいですよ?」

「......あらそう。まぁ、大丈夫よ。遊んでいる内にお腹が空けばあの娘達も帰ってくるでしょうしね。ねぇ、お昼ご飯は何かしら?」

「西洋の妖怪である貴方達のお口に合うか分かりませんが、簡単な和食を用意しています。聞くのも失礼かもしれませんが......和食は大丈夫ですか?」

「ここに来てからよく食べるようになったから大丈夫よ。というか、和食は好きな方よ?」

 

 和食......幻想郷(ここ)の昼食と言えば、よく人間達が焼き魚と煮物、そしてご飯を食べているのを思い出す。

 

 ──正直に言うと、和食は好きではない。だけど、食べれない訳ではない。それに、せっかくさとりが出してくれると言うのに、食べない訳にはいかないよね。まぁ、それよりもお姉様が好きなら、私も好きになりたい。

 

「私も大丈夫ですよ。むしろ好きです。大好きです」

「レナさん。無理しなくてもいいですよ......?」

「む、無理してないですよ? って、レナでいいですからね?」

「あ、そうでした。レナ。私が(さとり)ということをお忘れで?」

 

 さとり達、(さとり)妖怪には、心が読める。読めるとは言っても、通常は表層意識しか読めないが、トラウマを呼び起こすことで、深層意識も間接的に読むことができるとか。

 

 ──まぁ、その能力も、私の能力である程度は防ぐことができるんだけど......。

 

「常時発動程度じゃ、バレちゃいます?」

「バレちゃいますね。まぁ、隠さなくてもいいんですよ? 無理して食べなくてもいいですから。

 ただ、貴女が好きになりたい気持ちは分かりました。好きになれるよう頑張って下さいね」

「......ありがとうございます。あ、秘密にして下さいね」

「えぇ、もちろんです」

「......なんだか蚊帳の外ねぇ。ねぇ、何の話をしていたの?」

「蚊帳の外、というか、貴女にも関係ありますよ。......あ、まぁ、そう言うことです」

 

 さとりはいつの間にか片目を瞑って、お姉様の心を読むのに集中している。

 

 ──次は、私が蚊帳の外なのかな? ......うん、さっきまでのお姉様の気持ちが分かったかも。

 

「......レミリアは妹思いなんですね。それに、妹のことをよく知って......そうではない?」

「あぁー、さとり。この話はまた後でね」

「......ふふっ。えぇ、そうですね」

 

 お姉様達はこちらをちらりと見ると微笑み、止めていた足を再び動かす。

 

「え? お姉様ー? さとりー? どうして笑っているのです? 私にも何か教えて下さいよー!」

「ふふっ。いいから早く来なさい。置いていっちゃうわよ?」

 

 そう言ってどんどん距離を取っていくお姉様達に急ぎ足で歩いて行った。

 

 

 

 しばらく歩いた後、部屋にたどり着いた。

 

「お燐ー! お昼ご飯の支度は終わってますかー?」

 

 さとりはその部屋を少し開けると、

 

「んにゃ。終わってますよー。あ! 昨日言ってたお客様? 強そうなお姉さんだねぇ。あ、そうだ! さとり様! 死んだら死体は貰ってもいいですかい!?」

 

 中から私と同じくらい紅い髪と目を持つ黒っぽい服を着た女性が飛び出してきた。

 その女性は、普通の人間には付いていないはずの黒い猫の耳と二つの尻尾を持っている。

 

 ──耳が四つある気がするんだけど......まぁ、気にしたら負けだよね。

 それにしても、今不吉なこと言ってなかった?

 

「ダメです。というか、死なせません。お客様は丁重に扱ってください」

「えー? まぁ、ご主人様の命令は絶対だからねぇ。ここは退くとしようかなぁ。あ、こいし様は何処です? 遊んできていいですか?」

「ご飯の用意、はまぁ、終わっているんですね。ならいいですよ。あ、こいし達にご飯ができたことを伝えて下さい」

「分かりましたー! では、行ってきますねー。あ、お客さん。死ぬ時は是非私のところに来て下いね? それじゃまた来ます!」

「あ、またっ! ......はぁー、すいません。家のペットが......」

「別にいいわよ。私達はそう簡単には死なないから。それよりも早く食べましょう?」

 

 お姉様はさとりの横の席を座ると、そのまま食事に目を通す。

 

 私もそれにつられる様にお姉様の横へと座ると、食事に目を通した。

 

 焼き魚と煮物とご飯以外にも、味噌汁や酢の物等様々な物が用意されて、よく人里で見る料理よりも豪華に感じる。

 

「......驚きました? あ、いえ。レナの方ですよ。今日は貴方達が来ることになっていましたから、いつもよりも豪華なんです。あ、いえ。お礼は......自分の口で言いたい? あ、すいません」

「いえ。謝る必要は無いですよ。ありがとうございます。紅魔館で食べる和食よりも豪華です」

「そうですか? ......まぁ、何日かに一度の和食であれば、お客様が来た時よりも......えぇ、そうでしょう? ですから、豪華なのは今日と明日くらいですよ」

 

 控えめに言っても凄いのは変わりないと思う。

 

 ──多分、これくらいの量は

 江戸時代や明治なら将軍さんとか偉い人が食べていたんだろうなぁ。まぁ、お姉様も偉いけど。

 

「それじゃぁ、いただきます。あぁ、でもあの娘達は......まぁ、大丈夫よね」

「遊んでお腹が空けばすぐに来ますよ。それに、お燐が呼んできてくれるはずです」

「まぁ、それもそうね。......えぇ、大丈夫みたい」

「......あぁ、能力で。......ほぅ、そんなことも......」

「お姉様。さとり。私も会話に混ぜてくれませんか?」

「......ふふっ。お姉さんが大好きなんですね、レナは。え? こいしも私のことが? ふふっ。ありがとうございますね。そう言ってくれて嬉しいです」

 

 会話が弾む中、私達は妹達が帰ってくるまでゆっくりと食事を進めた。

 

 

 

 食事が終わる頃に、フラン達がお燐と一緒に帰ってきた。しかし、まだまだ遊び足りないようで、ご飯を急いで食べると、再び遊びにへと何処かへ行ってしまった。

 

 正直に言うと、私も行きたかったが出遅れてしまったので仕方がない。

 

 という訳で今は、今日寝るはずのさとりの部屋へと下見、というか暇つぶしに来ている。

 

「へぇー、綺麗な部屋ねぇ。いつも掃除をしているの?」

「毎日はしてませんが、気が向いた時には......」

「私やフラン達と同じですね。お姉様は咲夜に任せっぱなしですし......」

「失礼ね。咲夜がやってくれるって言ってくれるから、任せているだけよ」

 

 ──とか言いながらも、咲夜がやらなければお姉様はやらないんだろうなぁ。

 

 と思っていると、さとりがこちらを見ていた。

 

 それに気付いた私はすぐさま目を逸らす。

 

「......やはり、仲が良いのは素敵なことですね。お互いのことが分かっているという感じがして、本当に良いことだと思います。私も、こいしのことを......え? そう悩まなくてもいいと?

 ......そう、こいしが私のことをそう思って......。えぇ、そうですね。今度、二人きりで話すのもいいかも知れません。ありがとうございます」

「......心の中で話すのもいいけど、私を入れないと怒るわよー?」

「あ、すいません。お姉様」

「まぁ、別にいいんだけどねぇ。私もさっき同じことをしてたし」

 

 珍しく、お姉様は何もせずに留まった。

 

 ──いつも何かするから、逆に怖いんだけどぉ......。

 

「まぁ、そんなことよりも今日はせっかくここに来たのだから、色々と見て回りたいわ」

「ふむ。夕食の時間までまだまだありますし、案内しますよ。少ないでしょうけど、地霊殿の、地底の魅力が伝わればいいですが」

 

 しばらく雑談した後、私達はさとりに案内されて外へと出ていくのであった────




投稿時にお気に入り数が400を超えていたので、近々番外編をしたいと思います。夏だし、丁度いいかもね。
閲覧者の皆様。ありがとうございますm(_ _)m


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8、「地霊殿のお泊まり会 後編」

遅れてすいませんでしたm(_ _)m

最近遅れることが多いですが、できる限り間に合わせします。

今回は後編。


 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿

 

「お姉ちゃん達お待たせ〜」

 

 夕ご飯を食べ終える頃にはミアが地霊殿(ここ)に到着した。

 お出かけ好きなミアと会うのは、何気に二日ぶりだったりするのだが、元はと言えばミアはもう一人の私。そのせいか、久しぶりに会った、という感覚は全くしない。

 

「遅かったわね。今日は何処に行ってたの?」

「今日は妖怪の山巡りだよー。危うく天狗に見つかりそうになったり、河童と遊んだりして楽しかったよー。今度お姉ちゃん達も行く?」

「貴女ってチャレンジャーよねぇ。危なかっしくて心配になるわ......」

「大丈夫大丈夫! ここに来るのも本当はダメらしいし、お姉ちゃん達も割とチャレンジャーだからね!」

「大丈夫ではないと思うんだけど......?」

 

 確かに、前に霊夢か魔理沙に聞いたことがある。

 地上の妖怪は地底には行ってはいけないという、不可侵条約みたいなのを結んでいるんだとか。

 

 ──けど、バレなきゃ大丈夫だよね。バレても友達の家に遊びに行っただけなんだから、本当は咎められる謂れはない......はず。まぁ、ちょっとくらいはあるかもしれないけど......。

 

「さぁ、食事が冷えますよ。早く食べて、遊びませんか?」

「あ、そうだね。レナ。横失礼。それじゃぁいただきまーす!」

 

 そう呟くと、ミアは私の横に座り、ご飯をもぐもぐと食べ始めた。

 

 ──それにしてもよく食べるなぁ。お腹空いてたのかな?

 

「......お気に召したようで何よりです。えぇ、心を読む程度の能力ですよ。すいません。自動で読んでしまうもので......」

「ううん。自動なのは仕方ないからね。全然大丈夫だよー」

「そうそう。お姉ちゃんはいつもオドオドし過ぎー。もっと外に触れないとねー」

「そ、そうですか......? いえ、私よりも外に触れている貴女が言うのだからそうなんでしょうね」

 

 さとりは自分の妹に向かって、羨ましそうにも見える笑みを浮かべる。

 

 ──何か思うことでもあるのかな? ......それともただ単に、妹が羨ましいのかな?

 私もたまにあるし......。

 

「さぁて。ご飯食べ終わったら、みんなでお風呂入ろっか!」

「そうだね! お姉様! 今日は特別ってことで一緒に入ってもいいよね?」

「いつもお願いされれば一緒には入りますよ。ただ、早めに上がるだけで」

 

 私が前世が男だったはず、というのもあり、姉妹と一緒にお風呂に入るのは少し抵抗がある。一緒に寝る程度ならまだ問題は無いのだが、妹や姉の裸を見るのは恥ずかしくておかしくなりそうなのだ。

 

 ──それでもまぁ、長い年月を共に過ごしてきた成果もあり、短時間だけならフラン達は大丈夫だ。けど、お姉様は未だに慣れない。いや、慣れるのもダメだろうけど。

 

「えぇー! 今日くらいゆっくり一緒に入ろうよー!」

「そうよ、レナ。たまにはいいじゃない。それとも、何か悪いことでもあるの?」

「無いですけど......」

「あ、さとり様。お風呂上がりましたよー」

 

 お燐が大きな音を立てて扉を開け、部屋へと入ってくる。

 先にお風呂にでも入っていたのか、髪は濡れている様子だった。

 

 ──猫ってお風呂とか、水が嫌いなイメージがあるけど、お燐は大丈夫なのかな? 猫でも清潔に保つにはお風呂に入るしか無いし、しょうが無いか。

 

「あらそう。あ、悪いけど、お片付けお願いね。私達はお風呂に入っているから」

「いいですよー。じゃあ、ごゆっくりしてくださいねー」

「ありがとうね、お燐。あ、着替えとか大丈夫ですか? 無ければお貸ししますが」

「大丈夫よ。無くてもレナの魔法ですぐに取りに行けるしね」

「タクシーか何かですか私は......」

「お金払わない分いいよねー。あ、私一番最初に入るー!」

 

 結局はみんなで一緒に入ることになるのに、こいしはそそくさとお風呂へと向かって行く。

 

 ──って、ん? どうしてこいしはタクシー知ってるの......? ある意味怖いんだけど......。

 

「レミリアお姉様。お姉様をちゃんと連れてきてね。こいしー! 私も行くから待ってー!」

「あ......私も行く!」

 

 こいしにつられて、私の妹達も後を追うように走っていく。

 

「別に連れて行かれなくても、行くのですが......」

「......道に迷わずに着けばいいんですけど......」

「大丈夫じゃないかなぁ。あ、レナ。先に上がったらダメだからね?」

「はいはい。分かってますよ」

「ミア。そう心配しなくても大丈夫よ。さとり。お風呂まで案内よろしくね」

「はい、分かりました」

 

 さとりに案内され、私達はお風呂へと向かって行く。

 

 

 

 案内されたお風呂場の中には、既にフラン達が入っていた。

 

 地霊殿のお風呂はとても一人で入るような狭いお風呂では無く、まるで温泉かのように広い。さらに、男女別で分かれていることや、温泉によくある椅子付きのシャワーが複数あることもあって本当に温泉かと間違いそうになる。

 

「やっぱり広いのねぇ。紅魔館のお風呂よりも広い気がするわ」

「逆にこれ以外では取得が無いですけどね......。あ。足元にはお気を付けて下さい。滑るので」

 

 お風呂場の中では、フラン達が全員近くの椅子に座って体を洗っている。

 

 フランとルナの二人はシャワーを掛け合ったりして戯れている。

 すぐ横に居るこいしは珍しくその遊びには関わらず、我先にと体を洗っている。

 

「お姉ちゃんってば、それで一回転んだもんねー」

「こ、転んでいません! あれは、ちょっと滑っただけで......」

「あ、お風呂入っていいー?」

「突然話題が変わりますね......できれば体を洗ってからにして下さい」

「じゃぁ、もう洗ったから大丈夫だねー。やっふー!」

「あ、こいし──」

 

 姉の静止する声を無視して、こいしは浴槽の中へと勢いよくダイブする。

 浴槽の水は壮大に飛び跳ね、ほぼ満タンまで入っていた水は流れ出し、少なくなってしまった。

 

「痛ーっ! 頭打ったぁ〜......」

「この娘ったら......。こいし? 大丈夫なの?」

「うん! 大丈夫よー。あ、お姉ちゃんもしたいの? どいた方がいい?」

「やらないのでどかなくてもいいですよ。友達が来て楽しみたい、騒ぎたいという気持ちも分かりますが、程々にして下さいよ?」

「はーい!」

 

 元気にそう返事する辺り、反省をしている様子は無さそうだ。

 さとりもそう思っているのか、やれやれとした表情で体を洗いに向かっていた。

 

 ──フラン達がやりたそうな目で見ている気がするし、やらないように注意しとかないとなぁ。

 

「ねぇねぇ。お風呂の後は何かやったりするのー?」

 

 椅子に座り、体を洗っていると、突然、左隣に座っていたミアがそんなことを聞いてきた。

 

 もう片方の椅子には、お姉様が。そして、お姉様のさらに横にはさとりやフラン達が座っている。

 

「寝るくらいじゃないですかね」

「あら。それじゃ面白くないじゃないの。ねぇ、ミア」

「そうだよー。あ、恋バナでもする?」

「別に好きな人とか居ないので意味無いと思いますよ?」

 

 私は前世ではおそらく男だった。そのせいか、男性には恋心という興味は全く湧かない。いや、もしかしたらいつかは前世のことも全て忘れ、湧くようになるのかもしれないが。

 

「えぇー? お姉ちゃんのこと好きじゃないのー?」

「えっ? いえ、それは......大好き、ですけど......」

「あら。嬉しいわね。私も好きよ」

「あ、ありがとう、ございます......」

 

 まともにお姉様の方を見ることができない。目の前にある鏡により、顔が熱く、紅潮していくのが分かる。

 

「あれ、レナ? 大丈夫? ......あ、あぁ、いつものあれねー。そろそろ慣れればいいのに。

 そんなんじゃ、まだまだ先なのかなー」

「み、ミア......からかわないで下さい......」

「ん? レナがどうかしたの?」

「な、何でもありません......。あ、先にお風呂に浸かっていますね!」

 

 顔を近付けるお姉様から逃げるように、私は急いで浴槽へと入っていく。

 

「あ、お姉様が入るなら私も入るー」

「ようやくみんな洗い終わったんだね! 遅かったじゃないかー」

「こいしが早いだけだよー」

「......フラン。あまりくっつかないで下さい。狭いです」

「えぇー! そう言われると悲しいなぁー」

 

 フランの声は明らかに遊び半分で言っているが、顔だけは本当に悲しそうにしていた。

 

「......むぅ、そんな顔で見ないで下さい......。仕方ないです。少しくらいならいいですよ」

「流石お姉様ー。物分り良いねー」

「レナ。さっき、顔が真っ赤になってたわよ? 無理して長く入らないでよ?」

「あ、お姉様......。は、はい。大丈夫です......」

 

 お姉様がそう言いながら、私の横に入ってきた。後ろからは、ミアやさとりも付いてきている。

 

「それならいいけど......。貴女、無理し過ぎることがあるから心配なのよねぇ。

 あ、そう言えば久しぶりにお風呂に一緒に入るわね。......レナ?」

「......え、あ、そうですね。......お姉様。今日、久しぶりに一緒に寝ますよね。楽しみですか?」

「ふふっ、そうね。楽しみね。今日はミアやさとりも居るから、より一層楽しいでしょうね。けど、ごめんね。私は疲れてるからすぐ寝るつもりなのよ」

「あらま。そうですか......」

 

 お姉様と寝る時も話すことができると期待していたのだが、少し残念だ。

 だが、姉が疲れているなら仕方がないと割り切った。

 

「あー。なんだか頭がふらふらしてきたー。あ、私先に上がるねー」

「え? こ、こいし? それ大丈夫なんですか?」

「大丈夫大丈夫ー。私、強いからね!」

「こいしちゃんそれフラグ」

「回収速度そんなに早くないから大丈夫!」

「それいつか回収するってことだから大丈夫じゃないよね!?」

 

 何故か、こいしがミアと現代っ子のような会話をしている。

 

 ──ミアは分かるけど、こいしはどうして知ってるんだろう......。なんか普通に怖いんだけど。

 

「......まぁ、そろそろ上がってもいいわね。レナ。上がりましょうか」

 

 何気にお風呂でのお姉様に慣れてはきているが、まだまだ抵抗は多い。

 いつかは、完全に慣れているのだろうかと心配はあるが、それはまだ先の話だろう。

 

「......はい。そうですね」

 

 そんなことを考えながら、私はお姉様の促されるまま、お風呂を上がった────




寝る話や次の話が無いですが、特に何も起きないので割愛しました。申し訳ないです()


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9、「紅魔館のお泊まり会 前編」

ネタを被らせまいとしたら、お泊まり会という名の女子トークになっていた件()

はい。お待たせしました。Twitterでの投票でお泊まり会となりました。異変の話は次の次です。
夏の番外編はもうしばらくお待ちくださいませ。

というわけで(?)、暇な時にでもコーヒーを片手にゆっくり読んでくださいませ。別にコーヒーじゃなくても、飲み物を飲まなくても全然大丈夫です()


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「ふぁっ、ん〜......っ」

 

 いつも通りの朝。

 

 昨日はたくさん動いていたせいか、体が怠く感じて起き上がれない。

 

「ふぅ。う〜......うん?」

 

 怠さを取るために伸びをして、体を動かしていると、ふと誰かの体に触れた。

 

 ──あぁ。昨日はお姉様の部屋で寝たんだっけ......?

 

「お姉様ぁ......今日も頑張れるように、おはようのちゅーしてー......」

 

 夢現の境を漂いながらも、手探りにお姉様を引き寄せながら、そう呟いた。

 

「......あ、あの。れ、レナ? 私はさとりですよ......?」

「ふぁ? ......あ、れ? あ、ご、ごめんなさいっ!」

 

 あまりのことにびっくりした私は怠さや眠気を忘れ、飛び上がった。

 

 改めて声の主をよく見ると、確かに自分の姉とは違う顔がそこにはあった。

 自分の姉は、さとりとは逆の場所で寝ているようだった。

 

 寝ぼけていたとは言え、私は今の話を他人に聞かれたことで凄く恥ずかしい気持ちでいっぱいになる。

 

 ──たまにはいいだろうと思った矢先にこうなるなんて......うぅ......。

 

「あ、あの......気にしてないですし、誰にも言わないですからご安心を」

「あれは、いつもしている訳じゃなくて、その、たまにはいいかなぁ、って思ってしたことなので、あの......忘れて下さいっ!」

「は、はい......。一応、心の声が聞こえているので......言わなくても大丈夫ですよ......」

「あっ、あぁ......」

 

 恥ずかしくて顔が紅潮でもしているのか、触れていなくても頬から熱が伝わる。

 頭がどうにかして、真っ白になりそうだった。

 

「そ、そう言えば、どうしてさとりがここに? ここって紅魔館ですよね?」

 

 話題を逸らすために、今更ながらの質問を問いかけた。

 

「あれ? 憶えてないですか? ......憶えていないようですね。レミリアの提案により、今度はこちらがお泊まりすることになった、というのは憶えていますか? あぁ、それは憶えていると。その話があった翌日、レミリアが早い方がいいだろうと、早速誘って来たんです。まぁ、用事なんて無いに等しいですから、承諾しました。それで、バレないように貴女の魔法を使って夜中にここへ来て、今に至ります」

 

 ──うん。本当に会話要らずだなぁ。それにしても、全然思い出せない......。どうしてだろう?

 

「もしかしてですが、酔っていたからでは?

 あの時、顔が赤く、どこか虚ろでボーッとしてましたから」

「酔って......あっ」

 

 さとりの言葉に反応するかのように、突然記憶が蘇ってきた。

 

 ──そう言えば、昨日はお酒をお姉様と一緒に飲めるくらいには強くなろうとして、アルコール度数が低いワインをさらに水で割って飲んでたんだった。ぶどうの味がして美味しかったから、ちょっと飲みすぎちゃったのかな?

 名前はフランに似てたけど、何ていう名前だっけ......。まぁ、いいや。

 

「......お酒が苦手なんですね」

「さとりはお酒、大丈夫なのです?」

「いえ。私も苦手ですね。レナ程では無いと思いますけど......」

「やっぱり、私並に苦手な人っていないのですね......。いえ。きっといるはず......。

 ところで、さとりはいつから起きていたのです?」

「レナが私を引き寄せた時に起きました。引き寄せた時は、私も起きた直後の記憶が曖昧だったので、またこいしがしているのかと思いましたけど......」

 

 やはり、妹は姉に甘えたがるものだろうか。それとも、私やこいしくらいなのか。

 何れにせよ、自分以外にもする人がいて少し安心する。

 

「......まだ朝食の時間まであるようですし、何かお話でもしませんか?」

「いいですよ。レミリアも起こしますか?」

「えーっと......」

 

 ちらりとお姉様の顔を覗く。

 まだ起きる時間には早いのもあって、可愛い寝顔を見せるお姉様は、ぐっすりと気持ち良さそうに寝ている。

 

「ぁ......」

「......どうしましたか?」

「あ、いえ。何でも無いですよ。お姉様は起こさない方向にしましょう」

「ふむ。気持ち良さそうに寝ているから起こせない、と。それに......あ、いえ。何でも」

「そこまで気にしなくてもいいですけど......ありがとうございますね」

 

 私への配慮の気持ちにお礼を言いながら、そっとお姉様を起こさないように毛布を上げ、横に入り込む。そして、さとりにも手招きした。

 

「わ、私もですか......!?」

「だって、そうしないと話しにくいですよ?」

「そ、それなら入らなければ......あぁ、はい。寝顔を見ていると気持ちを抑えきれなくなったと。それはそれで大丈夫なんですかね......」

「何があってもお姉様が可愛すぎるのが悪い、で許されますよ」

 

 さとりの話を聞きながらも、自分の姉の頬を撫で、その感触を確かめる。

 

 ──いつもはこんなにしないけど......まだ私、酔っちゃっているのかな? でも、やっぱりお姉様のせいだよね。美しく、愛おしく、私に優し過ぎるから......。

 

「そうですか? ......稀に靄がかかっているかのように、思考が読めない時がありますね......」

「え? す、すいません。意図的って訳じゃなくて、まだ少し、心までは操作しにくいので......」

「いえ。謝ることはありませんよ。心が読めない人はこいし以外、見たことがないですから。

 少し物珍しいというか、嬉しいだけなので......」

 

 ──やっぱり、思考を読むことは心的に負担がかかるものなのかな? そうだったら、ずっと有耶無耶にしとかないと......。

 

「いえ。ご心配なさらずに。ただ、こいし以外に意図せずとも心が読めない人が居るのが嬉しくて。心を読まれて、嫌な人は......あ、すいません。ちょっとだけ、暗い話になりそうでした......」

「......嫌なことは話さなくてもいいですよ。ですが、話して楽になりたい時はいつでも相談して下さい。いつでもそれに乗りますので」

「......ふふっ。ありがとうございます」

「お礼なんていいですよ。それよりも......早く横に来てくださいよ。話しにくいです......」

 

 未だに横に寝てくれないさとりを見上げ、懇願するように頼んでみた。

 

「......貴女を見ていると、こいしを思い出します。甘えん坊なところとかそっくりですから」

「お姉様以外には甘えませんよ? 甘えを見せたら負けだと思っていますし」

「ふふっ。なら今負けていますよ。いえ。まぁ、いいですよ」

 

 そう言うと、さとりはお姉様を起こさないように、私の横に優しく毛布を上げてゆっくりと入ってきた。

 

「そ、それにしても少し恥ずかしいですね......。こうやって友達と一緒に寝るのは初めてです」

「恥ずかしいですか? 別に、これくらいなら何とも無いですけど......」

「そう......みたいですね。それにしても、レミリアのことが好きですね。レナは」

「はい。大好きですよ。姉としても......。あ、フランやルナも好きですよ。もちろんさとりも」

「えっ? わ、私も、ですか?」

「そう驚かなくても、恋愛的な意味では無く、友人としてですよ?」

「あ、そ、そうですよね......」

 

 何かガッカリするような事でもあったのか、その声は少し残念そうだった。

 

「い、いえ! そんなことは無いですからね? とても嬉しいですよ?」

「そうなのです? それならいいですけど......」

 

 そう呟きながら、姉を起こさないように少し抱きしめ、その後の温もりの余韻に浸る。

 

 友達の前ですることでも無いが、こういう時にしかできないので致し方ない。

 

「致し方ないことも無いと思いますけど......。こいしによくされますし......」

「へぇー。こいしもさとりのことが好きなのですね」

「......本当に、そうなんでしょうか......」

「え? ど、どうしてです?」

「こいしはいつもふらふらと何処かへ出掛けてはそのまま長い間家を空けますし......。私、姉として何かしてあげたことなんて、あまり無いですから......」

「それなら心配いらないと思いますよ?」

 

 改めてさとりの目を真っ直ぐ見つめると、そう囁く。

 

「え? ど、どうしてですか?」

「言わずもがな、ですよ。好きじゃないなら帰ってはきません。それに、姉として何かするなんて、あまり考えなくても大丈夫です。私はお姉様と一緒に居るだけで充分です。話ができるだけで充分です。それだけでも、私は嬉しいですから。こいしも同じだと思います。あの人、遊んでいる時はよくさとりの話をしてくれますから」

「......心を読めば本当のことと分かりました。けど......そう言って下さると、より嬉しいです。

 ありがとうございます。レナ。少し、元気が出ました」

「それなら良かったです。さぁ、朝食まではまだ時間があります。もう少し、お話しましょうか」

「えぇ。そうですね」

 

 しばらくの間、お姉様の寝室では、寝息と共に、楽しい会話が響いていた────




次回はこいし中心となります。最近姉組ばっかり焦点が当たっているしね。


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10、「紅魔館のお泊まり会 後編」

遅くなって申し訳ないm(_ _)m

今回はフラン視点です。

ただ、子供らしく遊んだり姉の話をしたりと、平和を充実するお話。


 side Frandre Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

 目覚めの朝。吸血鬼なのに朝に起きるのもおかしいが、今の生活に慣れてしまっているせいか、朝にしか起きれなくなっていた。

 さらに、今日は珍しく友達のこいしちゃんが来ていることもあり、遊ぶためにも朝に起きるしかなかった。

 

「ふにゃぁ......おはよぉ」

「おはよ......。こいしちゃん、猫みたいな声出すんだねー......」

 

 目を開けると普段目に映っているお姉様やルナの顔はなく、代わりに緑色の髪をした少女の顔が目に入っていた。

 

「あれ? ルナはぁー?」

「フラン。私なら、ここにいる......」

「......何してるの? 大丈夫?」

 

 声が聞こえた方へと目を移す。

 

 すると、ベッドの下に落ちているルナの姿があった。

 

「二人の寝相悪すぎる......」

「あぁー。それで落ちちゃったの? ごめんね」

「ううん......。落ちたのは私も寝相悪かったから」

「紛らわしっ。はぁー。手、貸そうか? それとも自分で起きれる?」

「......ん」

 

 ルナはしばしの沈黙の後、気だるそうな返事とともに手を差し出す。

 

 ──素直に言えばいいのに。どうして恥ずかしがることがあるのよ。

 

 そう思いながらも、手を引っ張り上げ、ルナを起こした。

 

「あ、ありがと......」

「なんでそんなにしおらしく言うのかなぁ......」

「おぉー。お熱いですねー」

「こいしちゃんはややこしくなるから黙っててっ!」

「えぇー。そんなこと言われると寂しいなー。私も混ぜろー」

「えっ!? なに飛び込んで──」

 

 その言葉が合図となり、こいしが暴れ、戯れ付き、部屋中に騒がしい声が響く。

 

「あ。私も混ぜて!」

「ルナも!? ちょっと、ベッド壊さないでよっ!?」

「ひゃっほぅ! 祭りだー!」

「祭りじゃないからっ!」

 

 珍しくルナもはしゃぎ、毛布はめちゃくちゃに、誰が投げたのか、ぬいぐるみも普段置かれている場所とは違う場所に転がっていた。

 

「こ、こいしちゃん。ちょっと、落ち着いて......」

「嫌だー! 自由だー! ひゃっはー! やーっ!」

「もう何言ってるか......あっ、フラン! 枕!」

「え? ぶわっ」

 

 ルナの声に反応できず、投げられた枕に当たった私は、いつの間にか頭に枕をのせ、ベッドの上で倒れていた。

 

「フランちゃん当たったからフランちゃんの負けねー」

「や、やったわねぇ......。もう怒ったからー!」

「きゃー! フランちゃんが怒ったー」

「わ、私も投げる!」

「っていうか、これどういうルール? ま、いいや。とりあえずさっきの恨みー!」

「そんな攻撃私にぶわっ!」

 

 私の攻撃を合図に、狭いベッドの上で三人だけの枕投げが始まった。

 

 

 

 それからどれだけ経ったのだろう。

 楽しいこともあり、時間を忘れ、また疲れて眠たくなるほどには遊んでいた気がする。

 

 ──家に友達が来るのは初めてだったからか、私も少しテンションを上げすぎたかもしれない。

 

「はぁー......疲れたー」

「まだだ! まだ終わきゃっ」

「終わりだからね? 起きてすぐに遊ぶのは本当に疲れちゃうわ」

「もっと遊ぼうぜー!」

「それ誰のモノマネ? 遊ぶのはいいけどちょっとだけ休ませてー」

 

 それだけ言うと、毛布を被り、勢いよくベッドに突っ伏した。

 

 これだけ遊んでも疲れている気配がないこいしを横目に、目を閉じようとする。

 

「あ、寝ちゃダメー!」

「えぇ!? ちょっとだけ休ませてよー」

「私も疲れたから......うん。おやすみ......」

「えぇー!? ......しょぼーん」

「......こいしちゃんってさ、たまに意味の分からない言葉話すよね......」

 

 ──稀にお姉様と同じようなことも喋るから、全てが意味の無い言葉ではないんだろうけど。やっぱり、こいしちゃんだけお姉様と通じているみたいで......ずるい気がする。

 

「失礼な! 意味はちゃんとあるからね!」

 

 私の気持ちなど知る由もなく、顔はいつもの笑顔で、怒っているかのような口調で話す。

 

 ──あ、言い方悪かったかな。......謝らないと。

 

「そうなんだ......ごめ──」

「まぁ、多分だけどね!」

「あ、そ、そっか......。ねぇ、こいしちゃんはさ、お姉様のこと、どう思ってるの?」

 

 ふと思い付いた私は、何気ない会話のように、そう切り出す。

 

 ──おそらくはただの友達のはず。というか、そう思いたい。

 

「唐突だねー。大好きだよー」

「へぇー......えぇー!? ど、どうして!?」

「え? フランちゃんも自分のお姉ちゃんのこと好きじゃないの?」

「......あ、あぁ、そういう......」

 

 勝手に勘違いして、変な汗をかいてしまう。

 

 ──ま、まぁ、勝手に勘違いした私が悪いんだけど......。

 

「な、ならさ。私のお姉様、レナはどう? 好き? 大好き?」

「大好きだよー! ルナちゃんもフランちゃんも大好きよー!」

「......ふふん。そ、そっか。ちょっと嬉しいかも」

「そうなの? あ、フランちゃんはレナのことどう思ってるのー?」

 

 突然そう言われたからか、恥ずかしくて顔が熱く感じる。

 

 ──も、もしかして、顔赤くなってない、よね? へ、平常心......平常心を保たないとっ。

 

「べ、別に......大好き、だけど?」

「ほうほう。それは親愛的な方で? それとも恋愛的な方でかな?」

「も、もう! か、からかわないでよ......」

「にははー。その反応は恋愛的な方だよね! 私もお姉ちゃんのこと好きだから同じだねー」

「そ、それはどちらの意味かによって変わる気も......わふっ!?」

 

 何の前触れもなく、こいしは私に飛び込んできていた。

 

 ──あ、なんだか......暖かい。今にも眠ってしまいそうなくらい、暖かくて気持ちいいかも。

 

「私ねー。お姉ちゃんとはあまり遊べてないの。お姉ちゃんはいんどあで、私はあうとどあ、だからね。でも、そんなお姉ちゃんでもね。遊んでくれる時は、私の遊び方に合わせてくれるんだー」

 

 こいしの温もりを肌で感じながら、静かに目を閉じ、話を聞く。

 

「......お姉様達と同じだね。レミリアお姉様はお姉様と違って外で遊ぶのが好きな方だけど、仕事? っていうのがあるらしいから。あまり遊べないの。でも、遊んでくれる時は最後まで付き合ってくれるんだよね。もちろん、お姉様もね。お姉様は暇人だから、毎日のように遊んでいる気がするけど」

「ニー......自宅警備員って言うんだよね! 私知ってるよ!」

「んー、多分違うかなぁ......」

 

 その言葉を聞くと、何故か否定したくなる。お姉様の話なのに、まるで自分にも言われている気がするからだ。

 

「そっか。なら違うんだねー。あ。ルナー。起きてよー」

「ううん......何? まだ寝たーい......」

 

 こいしは私から離れると、次はルナに覆いかぶさるように顔をぺちぺちと叩いていた。

 

「えぇー! 仕方ないなぁ......お姉ちゃん達来るまで寝ちゃう?」

「もうすぐしたら来ると思うけど......でもなぁ」

 

 寝るよりも、まだ遊びたい。

 

 疲れて眠たいはずなのに、その気持ちだけが強くなっている。

 

「明日もまた遊びに行くよ?」

「......ふふっ、心でも読んだのかな? ありがとう。そう言ってくれて嬉しいよ」

「どういたしましてー。じゃ、寝よっかー」

「まぁ、うん。そうだね。寝よっか」

 

 私とこいしはルナを挟むようにして隣に寝転ぶと、すぐに目を閉じることになった────




余談ですが、ごく稀にレナータ等の絵を描いたりします。気になる方はpixivやTwitterにて投稿しているのでどうぞー。

次回からは異変のお話。霊夢視点が多くなるかな。稀にレナ視点もあるけどね


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11、「天と魔の異変の序章」

遅れてすまない......()

今回は異変の序章です。レナさんはまだ関わらない模様。


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レミリアの部屋)

 

「憂鬱......」

 強い雨が降る黒い曇り空を見上げ、自分でも驚くほどの気怠そうな声を出す。

 

 事の発端は今日の朝のことだった。

 

 今日も曇りで良いお出かけ日和だと思い、傘だけ手に持ちお出かけしようと外に出た。すると、突然ポツポツと雨が降り、それと同時に暑い日差しが差し込んでいた。狙ってそうなったとしか思えない天気に嫌気がさした私は、これも運が悪かったせいだ、と館の中へと戻っていった。それからも雨になったり霧が濃くなったりするので、この季節は天気が変わりやすいのだと、一人で勝手に納得して館の中を彷徨っていた。

 

「咲夜ー。紅茶が欲しいですー......」

 

 そして、お姉様の部屋に向かった私は、部屋でお姉様と咲夜、そして私の三人で小さなお茶会を開いていた。

 

「元気ないわね。どうしたの?」

「だって天気が雨なのですよ? それなのに元気を出せる方がおかしいですー」

「雨でもいいじゃない。動けなくなるだけよ?」

「それはいいとは思えません。それに、雨の日はとても憂鬱になって、なんだかやる気もなくなるのですよね......。早く晴れにならないかなぁ」

 

 晴れも私達(吸血鬼)にとっては嫌な天気だが、私にとっては雨よりも晴れの方が断然いい。

 前世は人間だった私だ。晴れの日ほど元気になる時はなかった......はずだ。

 

「あら。それは残念だったわね。少なくとも今日は晴れないわよ」

 

 まるで全てを知っているかのように、先を見据えているかのようにしてお姉様はそう話す。

 

「お姉様......何か変な物でも食べました?」

「失礼ねっ! 運命を操って少し先の運命(未来)を見ただけよ。いつものことでしょう?」

「たまにしか見ません。ですよね。咲夜」

「はい。確かにあまり見ませんね。しかし、お嬢様は見ても言わないからでしょう。先のことが分かっても、あまり言わない方ですから」

「あら。よく分かってるじゃない」

 

 ──あ。今日の咲夜はお姉様の味方なのね。......まぁ、別にいじる気もなかったし、いっかぁ。

 

「そうなのですか。流石お姉様ですねー」

「なんか適当に言われてる気も......でも、悪い気はしないわね。もっと褒めてもいいのよ?」

「調子に乗っているお姉様は大好きじゃないです......。好きですけど」

「あらそうなの? なら控えるわね」

 

 一度話を切るようにして、お姉様は紅茶を飲んだ。それに釣られ、私も自然と紅茶を口にする。

 やはり咲夜の入れた紅茶は美味しい。口当たりも良く柔らかくて滑らかで、温かい香りが漂う。

 その香りがいずれ室内に広がり、穏やかな雰囲気を作る。

 

「ふぁ〜、幸せですぅ......。明日もゆっくりしようかなぁ......」

「ふふっ。たまにはそれもいいと思うわ。咲夜。明日は休みにしなさい。休憩も大切よ」

「しかしお嬢様」

「ダメ。貴女はメイド。私はこの館の主。命令は絶対よ。分かった?」

「......仕方ありませんね。分かりました。明日は休みます」

 

 お姉様は妖気を垂れ流し、ほぼ無理矢理に命令をされた咲夜は渋々了承した。

 

 ──流石にそこまでして命令することも無かった気がするけど......。お姉様は不器用だから、仕方ないね。でも、これ以上やり過ぎたら私が止めないと......。

 

「あらレナ。何か心配事でもあるのかしら?」

「え? い、いえ、ないですよ? それよりも、結局今日が晴れない理由とは?」

「あぁ、それなら......いつか分かるから今聞かなくてもいいわよ」

「え、えぇ〜!? 教えてくださいよ〜」

「ダーメ。今日と明日はゆっくりするんでしょ? なら貴女は聞かない方がいいわ。というよりも、しばらくは外に出ない方がいいわよ。ずっと雨だから」

「むぅー......どうしてか教えてくださいよー」

 

 それからも話は逸らされるが、異変に関わらなかった私は平穏な日を暮らせることになる。これから起きることも知らずに────

 

 

 

 

 

 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社

 

 先の異変で山に立ち入ってから一年近く経とうとしていた。

 私の神社の危機も免れ、何事もなくいつも通りの暑い夏が訪れている。

 

 だが、私はあまりにも暑い日照り続きという異常気象に悩まされていた。

 しかし、それだけではなかった。

 

 神社が晴れで周りを見やすいのも幸いして、空を飛ぶと幻想郷中の天気を見ることができた。

 森では雨が降り続け、湖は常に深い霧に覆われ、夏だと言うのに降る雪。

 さらには、稀にいくつかの天気が混ざったかのような、異常気象に陥る場所もあった。

 いや、もはやこれは異常気象ではなく、立派な異変にしか見えなかった。

 

 そして、異変を解決するために外へと出かけようとした私に、ある悲劇が起きる。

 

「......ん。揺れ、たぁっ!?」

 

 突如として、大きく地面が揺れた。

 物が激しく音を立てて床に落ち、天井を支える柱に深い傷ができる。

 

「っ.....!?」

 

 危険を感じ、とっさに外へと出ると同時に、背後で大きな音が響く。

 

 それからしばらく、地面の揺れに耐えることで必死になる。

 

「お、収まった......? なっ、はぁ......!?」

 

 揺れが収まると、音の正体を探すべく、背後へと振り返った。

 

 そこにあった物は、いつも私が暮らしていた神社(それ)ではなく、屋根が割れ、物が散乱し、跡形も無く崩れ去っていた神社だった。

 

「......はぁー。最悪。異変に出ようとしたらこうなるなんて......。運が悪いにも程があるわ」

 

 誰に言うわけでもなく、自分の運の悪さを嘆く。

 

 ──これからどうやって暮らしていけばいいのよ。早苗のとこにでも......いえ、それはダメね。博麗神社の巫女としての威厳がなくなる。

 祭神が分からない時点であるかも疑わしいけど......。

 

「......やっぱり、見事に壊れているわね。これは掃除でどうこうできる話じゃないわねぇ」

「いやぁ、大変だ。ここのところ雨続きでろくに洗濯もできや......な、なんだこれ!?」

 

 いつもみたいに、魔理沙が神社へと飛んでくる。

 そして見えたこの有様に、驚いた様子を見せ、言葉を漏らす。

 

「なんだこれって、壊れても神社よ。あんたは大丈夫だったの? 大きな地震が起きたけど」

「地震? それは気が付かなかったぜ」

 

 と、会話しているとポツポツと雨が降ってくる。

 最近は日照り続きだったからか、雲を見るのも久しぶりだ。

 

「ああもう、天気まで悪くなるなんて」

「仕様が無いな。ここのところ雨続きだったし」

「雨続き? 最近は日照り続きじゃなかった? あ、でも森は雨続きだったかしら?

 でも、地震は滅茶苦茶大きかったのよ? 気付かないわけがないわ」

「と言われてもなぁ」

 

 本当に知らないのか、不思議そうに顔をしかめる。

 

 ──魔理沙は知らない......。ということは、やっぱり森は雨続きで、ここだけ日照り続きだった、ってことかしら? いよいよもって本格的な異変ね。

 

「......やっぱり異変ね。これは」

「奇遇だな。私もそう思っていたところだ」

「それに雲の色も......」

 

 ふと見上げて気が付いたが、雲の色が普通とは少し違う。

 やはり、これは普通の異常気象ではなく、意図的に起こされた異変ということに......。

 

「もし地震も異変が関係しているなら......とっ捕まえて直させないと」

「おっ、行くのか? それなら私も行くぜ」

「いいわ。魔理沙は神社を直してて。異変は私が解決する」

「異変の犯人に直させるんじゃないのか......」

「それじゃ、留守番よろしく」

 

 魔理沙にそう言い残すと、自分の勘を頼りに空へと飛び立つ。

 

「直せばいいのか、留守番すればいいのかどっちなんだ。......まぁ、少しくらい片付けてやるか」

 

 神社を魔理沙に任せ、私は異変解決へと乗りだした────

 

 

 

 

 

 side Mia Scarlet

 

 ──地底(???)

 

 ここへ来ることを運命付られているかのように、私はまた地底へと降り立つ。

 

「どこに居るんだろう。見つけて問いただしてそれからは......」

 

 レナに竹林での話を聞いた後、もしやと思い調べてみた。すると想像通り、あれと全く同じ特徴を持っていた。これは幻想郷では不思議ではないかもしれないが、普通だと有り得ないことだ。

 

 あれはレナからの記憶では、本来存在するはずのないモノだ。どの原作にも出てこらず、どの人とも関係は持っていないはずだ。もしかしたら、私がいるから実はレナの記憶とは違う世界、平行世界なのかもしれないし、レナが居るからバタフライエフェクトなるものによって歴史が変わったのかもしれない。

 どちらにせよ、それはお姉ちゃん達に危害を加える可能性がある。その前に、誰にも気付かれることなく、誰にも心配させることなく終わらせたい。

 

 そう思い、あいつと会うためにここへ来た。生きているのかも分からないが、もしも生きているならば、あいつが原因の可能性が高い。レナと同じ、あいつの......。

 

「それにしても人が少ないね。というか、鬼が少ない......のかな」

 

 疑問を口に出すも、答えてくれる人がいないことは分かっている。

 ただ、気を紛らすために呟いているだけだ。

 

 もしもあいつが生きているとすれば、その兄弟も生きているかもしれない。

 それだけが気がかりだ。私は会ったことはないが、レナに似ているこの容姿ならば、憶えているかもしれない。

 

 ──父を殺したあいつらと会うのは吐き気がするから、どうにかして会わないように、あいつと会って......あぁ、ダメだ。あいつもその兄弟なんだ。

 

「......レナだけでも呼べば......ううん。あの娘も今は同じ姉妹なんだし、危険には巻き込めない。巻き込ませない。記憶も有り難く使わせてもらってるし、たまにはお礼を言わないと......っと、あれだね」

 

 旧都を進んで行くと、魔力の気配を感じた。それを追って先に進むと、尾が蛇の狼らしき何かがいた。普通の狼でなければ、妖怪でもないだろう。あの禍々しいほどの魔力は。

 

 ──レナに聞いたモノではないけど、あれもまた同じやつね。流石に全部は召喚できてないだろうし、早く消さないと。運良く周りには誰もいないみたいだし。

 

「さぁ、いい子にしててね。貴方はここに居てはいけないの。でも、貴方ってあれの中で一番強靭なんでしょ? なら、有耶無耶な存在い襲われても仕方ないよね」

 

 誰に聞こえるわけでもないのにそう言い放つ。

 

 ゆっくりと近付き、そして、首を狙い──

 

「......ぁ、あれ、目が......最悪......」

 

 あと一歩というところで視界が霞む。

 

 ──もしかして罠? なら、早く逃げないと......。あぁ、ダメ。頭の中に何かが入ってくるような感覚。どうして? 誰にも見えないはずなのに......!

 

「......やはり、ですよね。来ますよね。僕は貴女を知らないですが、私のことなら知っていますよ。貴女も同じなのです?」

 

 聞き慣れない声が背後で聞こえる。

 しかし、振り返ることもできずに、私の視界が暗転した────




交わることのない二つの異変。それは、ほぼ同時期に起きていた。


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12、「天狗の領域 竜宮の使い」

書いてる最中、気付いたら朝になっていた(寝落ちしてた)
何を言ってるのか分からないと思うが何が起きたのか(ry

とまぁ、遅れて申し訳ないです。

今回は題名通り竜宮の使いまで。
次回はどちらの異変もやる予定。


 side Hakurei Reimu

 

 ──妖怪の山

 

 博麗神社から飛び出した後、自分の直感に身を任せ、妖怪の山を突き進んでいた。

 

「はぁー、酷い天気......。傘持ってくればよかったわ」

 

 山では珍しく強い風が吹き、雨が私の封魔針のように鋭く刺さる。

 

 ──妖怪の気持ちが分かった気がするわ。針じゃなくて雨だけど。

「風と雨が似合いそうなやつと言えば、一人しか思い付かないけど......」

「ちょいと、こんな風が強い日に山に来るなんて死ぬ気ですか?」

 

 山を進んでいると、木の影から背中に鴉の黒い翼を生やし、赤い山伏風の帽子を被った天狗が現れる。

 その天狗とは、鴉天狗で文々。新聞を営む射命丸文だった。

 

 文は私に呆れと警戒の眼差しを向けて、口を開いた。

 

「それと、その一人って私のこと?」

「そうよ。あんたには風と雨がお似合いじゃない?」

「あやや。最初から喧嘩を売るつもりですね。霊夢さん。ここは妖怪の山ですよ? 妖怪の山(ここ)に立ち入ったらどうなるか知っているでしょう?」

 

 私の身を案じているのか、はたまた面倒事になるのを恐れているのか。文は心配そうに私に話しかける。

 

「ごめんなさいね。異変よ。この先に異変を起こしたやつが居そうな気がするから通してくれない? 大丈夫。面倒事は起こさないから」

「気がする、という言葉が不安なんですが......。霊夢さんの頼みといえ、確かな確証も無しにここは通せません。潔く引き返して神社でゆっくりしててください」

「その神社が地震で壊れたのよ!」

「そう、神社が......神社が!? え、け、結界は......いえ、あれは神社じゃなくて......。そもそも、そうなったら紫さんが動きますよね。ならまだ安心っと......」

 

 事の重大性を知っていたのか、文は少し慌てるもすぐに落ち着きを取り戻す。

 やはり、こういう時に新聞屋の客観的な考えを持つ文は強いのだろう。

 

「分かってくれた? なら通ってもいいかしら」

「あ、それとこれとは別の話です。確かな証拠があれば、私も仲間達に説得はしますよ?

 でも、無いなら説得なんてできませんから」

 

 いや、訂正しよう。天狗としてお堅い文は非常に面倒臭い、と。

 

 頭の中で考えを巡らしても、この状況を打破できる方法が思い付かない。

 下手に倒せば他の天狗が報復しにやって来て余計に時間を使う。

 

 ──一体どうすれば......あら?

 

 文を見て気付くと、即座に自分の体にも目を向けた。

 

「どうしました? 何か見つけたように......」

「ねぇ、文? その緋色の霧、何か知ってる?」

 

 文や私の体から、吸血鬼の時とはまた違った緋色の霧が出ていた。

 

 出ていく霧は、薄らと見えにくいものの、その霧が周りの天気を変えているようだった。

 その人の持つ気質の天気へと。

 

「霧? ......あ、本当だわ。でも、霧と言えば紅魔館では? ここには用が無いはずですよ?」

「いえ、これはあれとは別ね。どちらかと言うと、気質関連の......」

「気質? ......気質と言えば、天界、ですかね」

「天界?」

 

 聞き慣れない単語が出てきた。が、名前は聞いたことがある。

 天人が住む場所としか知らないが。

 

「そう、天界。この山上空を昇っていけばたどり着ける天人が住む桃源郷。話によると、すごく退屈そうな場所らしいですよ。私は行ったことがないので」

「ふーん。......で、どうして気質で天界が?」

「あー、それはですね、天人はその名の如く、天を操れる剣を持つとかなんとか」

「ふーん......天をねぇ」

 

 よく見ると、山の上には緋色っぽい色をした雲が漂っている。

 そこに私や魔理沙、文みたいに居るだけで天気が変わる人がいるのか、黒幕がいるのかは分からないが、文の話もあるし、一度見に行った方が良さそうだ。

 

「じゃ、行っていいかしら?」

「え? 何処へですか?」

「そりゃ......天界だけど」

「あ、ここは通せません。......ここから先は天狗の地。鴉天狗である私が通すわけないわよ?」

 

 文は、新聞記者としてではなく、一人の鴉天狗として立ちはだかった。

 

 ──こういう時の文は、いえ、文に限らず天狗達は面倒臭いわね......。強いし。

 

「今完全に通す流れだったじゃない! はぁー、いいわ。貴女を通して先に進むことにするわ」

「できるといいわね」

 

 文はスペルカードを構えると、声を上げて宣言した。

 

 

 

「っ!? ......ここまでね」

 

 何枚かのスペルカードを攻略した後、諦めたように文は両手を上げてそう言い放った。

 

「そこまで本気ならば仕方がないわね。私がみんなに言っておくからさっさと行きなさい。こんなこと、もうないからね? 私もただの鴉天狗に過ぎないんだから」

「言われなくても行くわよ。私の直感が外れた事なんて無いんだから。

 でも......そうね。お礼だけは言っておくわ。ありがとう」

「素直なのかそうじゃないのか......分からないですね。おや?」

 

 文は頭を傾け、天へと目を向ける。

 

 同じように見ると、私達の周りは晴れていたが、やはりというかなんと言うか。山の上にある緋色の雲は晴れていなかった。

 

「本格的に怪しいですね。さぁ、早く異変を解決しに行ってくださいよ」

「はいはい。それじゃあ、天狗のことは任せたわ」

「分かってますよ。......久しぶりに晴れるのを見たなぁ。晴れると気持ちが良いわね」

 

 去り際に文と話すと、山の頂上を目指して飛んでいく。

 

 

 

「これは一体......」

 

 山の頂上よりもさらに上へと昇っていくと、雷雲が渦巻く雲の中へと辿り着いた。

 今までは何処に行っても私の周りは必ず晴れていたにも関わらず。

 

「やはり、私の勘に間違いは無かったわ。この不思議な現象を起こした奴は、この上ね」

「おや? 天狗でもない。河童でもない。ましてや幽霊でもない。

 人間だなんて......。山の上まで人間が来るなんて珍しいですわ」

 

 声の主は雷雲の中を泳ぐようにして現れた。

 

 その声の主は紅い目に紫色の髪を持ち、触角らしき長い物のついた帽子と付けて羽衣を身にまとっていた。羽衣は非常に長く、縁は自ら緋色に光っている。

 

「何者? 少なくとも、雷雨の中を泳いでくるなんて只者じゃないわね」

「だって......この雲は私達が泳ぐ雲。私達は、ある異変を伝えるためだけに空を泳ぐ龍宮の使い。緋色の霧は気質の霧。緋色の空は異常の宏観前兆。緋色の雲は大地を揺るがすでしょう。私達はそれを伝えに泳ぐのです」

「大地を揺るがすですって!?も、もしかして......」

 

 気質に緋色の霧や空。そして、大地を揺るがす。

 ここまで知っていて、この人が無関係であるとは私には思えない。

 

 ──なんとかして話を聞き出し、必要とあれば倒さないと。

 

「そう、地震の事です。まだ大丈夫だけどね。

 もうすぐ大きな地震が起きる。私はそれをみんなに伝えるだけ」

「ちょっ、ちょっと、地震ならもうあったわよ! 私、それで酷い目に遭ったんだから!」

 

 思い返すだけでもふつふつと怒りが湧いてくる。

 

 寝るところも無くなり、賽銭箱も無くなったのだから、怒りは当然だろうが。

 

「え? 地震がもう起きたですって? おかしいですわねぇ」

「あー、そうだった思い出した。神社が壊れたんだった。何とかしないとー......ちらっ」

「地震があったら、この雲も収まる筈なんですけど......もしかして、あの方の仕業なのかしら。困ったものですわねぇ」

 

 これ見よがしに言ってみたものの、話を聞かずに竜宮の使いは一人で納得していた。

 

「はぁー......地震が来るって判ってたんでしょ? 何でさっさと教えてくれなかったのよ!」

「神社を襲ったその地震は、きっと試し打ちです。本当の悲劇はこれから始まりますわ」

「もう! どいつもこいつも暢気なんだから!」

「貴方は地震の恐ろしさを既に味わったのなら今すぐ戻って防災の準備をしたらどうですか?」

 

 竜宮の使いの言葉は、私の闘争心に火を付けた。

 

 ──帰る家もないのに防災の準備ですって? 何が何でもおかしな事を企んでいる奴を倒す!

 

「あのねぇ......私の防災はおかしな事を企んでいる奴を倒すことよ!」

 

 そう宣言すると、私はスペルカードを手に取った────



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13、「天と地と人と」

次の異変の話を入れようか迷っていると、いつの間にか寝ていたすいません()

今回は短めです。結局、次の異変は次章ですることになりました。


 side Hakurei Reimu

 

 ──妖怪の山(上空)

 

 私と竜宮の使いは向かい合っていた。

 それは、勝負が付いていない訳ではなく、勝負が終わり、互いにつかの間の休みを取っていたからである。

 

 竜宮の使いと戦いを始めて約十数分。

 

「はぁ、はぁ......よし!」

 結果的には私の勝利で終わった。

 

「勝った! はーぁ......これで地震が起きなくなるのね!」

 

 が、かなり満身創痍だった。攻撃が何度も受け流されたり、バリアのような何かを使われたりと、思ったよりも時間がかかったからだ。

 

 ──最後には、いつも通り『夢想封印』で倒すことができたんだけど。

 

「はぁー。そんな感情的になってはいけません。私は起こるであろう地震を皆に伝えるだけ。私は地震の有無とは一切関係ないのです」

「えぇ!? そ、それじゃあ、まだ戦わないとダメなの? 面倒くさすぎるわ」

 

 話してみて気付いたが、本気を出していなかったのか、竜宮の使いに疲れている様子はない。

 あまり本気を出していなかったのかもしれない。

 

「そうなりますね。本当の悲劇は誰にも止められない。これを止められるのは......貴方ではなく、悲しいかなあのお方だけです」

「はぁ? あのお方、って誰よ。私の神社の責任を取ってくれる奴は何処にいるのよ」

「......私の推測が正しければ、確かにあのお方は地震を起こした張本人。でも、これから起こる本当の悲劇を止めるのもそのお方......」

「どっちにしろ、そいつに会わないといけないようね。

 あぁ、もちろん神社の責任と悲劇を防ぐためにね」

 

 この人の言っていることが本当なら、次で最後の戦いになるのだろうか。

 

 ──いや、次で終わらせる。というか終わってほしいわね。流石に連戦は疲れるし。

 

「ふふっ。では、そのまま雲の上へお進みくださいまし。きっと大変ですけどね」

「そう。今までそれ以上のことを体験してきたわ。今更止まれないのよ」

 

 それだけ言い残すと、私は竜宮の使いを背に、その場を後にする。

 

 

 

 雲の中を彷徨いながらも、雲よりも高い場所へ目指して飛んでいく。

 数分間も、もう既に地上など見えないくらいの高い場所へと飛んでいるのに、まだ雲を抜けることができなかった。気が遠くなりそうになるも、まだ上へと昇っていく。

 

「む、あれは......」

 

 次第に光が見えてきた。おそらく太陽の光だろう。

 

 ──ようやく雲を抜けれるのね。

 

「ふぁ! ようやくだわ! さあ、何処に居るのかしら。地震の責任を取ってくれる奴は。

 それにしても、雲の上は静かね......」

「天にして大地を制し、地にして要を除き」

「貴女が、かしら......?」

 

 目の前に腰まで届く青髪のロングヘアに真紅の瞳を持つ少女が現れる。

 頭には桃の実と葉が付いた変な丸い帽子をかぶり、一部がエプロンのようになった服を着ている。そして、胸には赤、腰には青の大きなリボンがある。

 そして、周りにはしめ縄が付いた石が浮いており、右手には赤く燃えているようにも見える剣を持っている。

 

 おそらくこの女性は、天界に住む人、俗に言う天人だろう。

 

「人の緋色の心を映し出せ」

「聞いてる? あんたが地震を起こしたり、天候をおかしくした犯人よね?」

「異変解決の専門家ね。待ってたわ」

「無視するとはいい度胸ね。それに、何が待ってた、よ。

 まるで解決して欲しいかのようじゃない。M(エム)なの? ドM(エム)なの?」

「ごめん、後半はちょっと分からないわね。

 で、話を戻すけど、異変解決ごっこは、何も妖怪相手じゃなくても良いでしょ?」

 

 確かに明確には妖怪相手とは決まっていなかった気もする。

 ただ、妖怪が起こす方が幻想郷(ここ)にとっていいだけで。

 

 ──それよりも、やっぱり通用しないか。これだから外の世界から来た吸血鬼や巫女は......。別にあいつらのせいでもないんだけど。一人で変なことを言ってるみたいで恥ずかしくなるわね。外の世界から来た人にしか使わないようにしよう......。

 

「私は天界に住む比那名居の人。毎日、歌、歌、酒、踊り、歌の繰り返し。天界の生活はほんと、のんびりしていてねぇ」

「羨ましいわね。自慢?」

 

 できれば私もそんな生活を送りたい。

 そんな気持ちも少し混じりながら、そう答えた。

 

「何言ってるのよ。退屈だって言ってるの!

 だから、貴方が地上で色々な妖怪相手に遊んでいるのを見てきたわ」

 

 確かに、そんな生活を長い間送るのは、私としても御免こうむりたい。

 

「遊んでいた訳じゃないけどね」

「それを見て思ったの。私も異変解決ごっこがしたいって。だから起こしちゃった、異変」

「なっ......!?」

 

 天人のその言葉により、一瞬困惑するも、私の中で何かが切れた。

 何かがふつふつと込み上げてくる気がした。

 

「お、起こしちゃった、じゃないでしょ! そのお陰で神社は滅茶苦茶よ!」

「あれは試し打ちよ。本番はこれから。この、緋想の剣は人の気質を丸裸にする剣なの。これで、緋色の霧を集めて......」

 

 緋色の霧......やはり、あの緋色の雲もこいつの仕業だったのだろう。

 そう考えると、地震も天気も、全く関係無さそうで同じ人物が起こしていたということなのか。私の勘もまだまだ捨てたものでは無いらしい。

 

 ──これは、本格的に止めないとヤバいわ。私の神社のこともあるし、手加減は無用ね。

 

「集まった天の気が大地を揺るがすの。さらに私の足下にある要石を動かし、これなら幻想郷全域の大地を揺るがすでしょう」

「ふん、なめきったもんね。どういう仕組みであろうと、地震を起こした犯人だって事は間違いないみたいね」

 

 というか、自分から言っているのだ。

 誰かに操られているとかない限り、こいつが犯人で間違いはないだろう。

 

「相手が天人だろうが変人だろうが私の仕事は一つ。異変を起こす奴を退治する事のみ!

 あとついでに、神社の修理もやって貰うわよ」

「うふふ。そうそう! その意気込みが欲しかったのよ! 私はいつまでも退屈な天界暮らしをしていたくはないわ」

 

 そう言いながら、天人は右手に持っていた剣を高く上げ、周りに浮いていた石へと乗った。

 

 それに対し、私はお祓い棒とお札を持ち、戦う準備をする。

 

「それも今日でおしまい。空の天気も、地の安定も、人の気質も私の掌の上。

 数多の妖怪を退治してきた貴方の天気! 見せて貰うわよ!」

「見せるのはいいけど、魅せられてすぐに終わっちゃうかもしれないわよ?」

「ふんっ、言ってなさい!」

 

 互いにスペルカードを構えると、私は異変最後の戦いを始めた────




次回から最終章に入ります。
ちなみに忘れていた月のお話は、番外編で出す予定です


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最終章「紅い転生者、最後の異変」
1、「最後の異変の幕開け」


朝に投稿することもある以下略()

さてまぁ、今回から最終章です。最終章ですが少し長めです。それでも今年までにはこの物語は終わりますので、最後までお付き合い下さいませ。


 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社

 

 天気が変わる異変から半年近く経ったある日の朝。神社はあれから、天子の手によって無事、元通りに直されている。

 直している最中、紫と天子の間に一悶着あったらしいが......詳しくは何も聞かされていないため、よく知らない。けど、紫が珍しく怒っていたから、それ相応のことをしたのだろう、とは思っている。

 

 現在は、新しい神社の中で何をするわけでもなく、珍しく雲が一つもない空を見上げていた。

 こんなにぐうたらできるのは、ここ最近は異変もなく、平和に過ごしていることが原因だろう。

 

 そうやって朝から時間を潰していると、空に小さな白黒の何かが見え始めてきた。

 

 それは次第に大きくなり、やがてはっきりとした姿に変わる。

 

「おーい! 霊夢ー。私が来たぜー!」

 

 空から飛んできていたのは、箒に乗っていた普通の魔法使い、霧雨魔理沙だった。

 魔理沙は普段通りに着地すると箒を置いてすぐに縁側へと座った。

 

「はぁー......私の安泰もここまでね」

「おいおい、ひどいこと言うなよな。傷付くぜ?」

「で? 今日は何の用?」

「あ、そうだぜ! いつの間にか、私の家とか、そこら中に怨霊が溢れ出してるんだ!」

「怨霊? また冥界? ......いえ、もしかして......」

 

 昔、西行寺幽々子が起こした異変の影響なのかなんなのか。冥界の出入り口が開いたままになってしまっている。そのせいか、幽霊が地上にもよく現れるようになった。

 だが、怨霊の管轄は冥界でも無ければ三途の川の先でもないはずだ。怨霊は地底などの地獄、旧地獄に封じられていたはず。

 

 もしや、怨霊達は何かが原因でそこから出てきたのだろうか......?

 

「霊夢? 難しい顔をしてどうしたんだぜ?」

 

 だが、怨霊は地底の妖怪が地上との、紫との約束によって封じ込めていると聞く。

 

 ──ということは、地底と地上の約束が破られたということなのだろうか。いや、それにしたって、こんなタイミングでこんなことをして、何か得があるのだろうか。いや、もしかすると......。

 

「霊夢? 聞いてるか?」

「ごめんなさい。聞いてなかったわ。ちょっと考え事をしてて......」

「何か聞いてた訳じゃないから、別にいいんだが。難しい顔をしてたな。大丈夫か?」

「大丈夫よ。ん......あら?」

 

 不意に太陽が沈んだのかと思うほど暗くなった。

 

 空を見上げると、雲一つなく晴れていたはずが、いつの間にかとても分厚い雲が空一面に広がっていた。

 

「......ねぇ、魔理沙。今日はこんなに曇っていたかしら?」

「え? ......いや、有り得ないほど晴れていたはずだぜ。こんなことが起きるのは何かの予兆か? 嫌な予感しかしないぜ」

「全くね。私も同意見だわ。このタイミングなんだし、異変と何かあるのかしら。でも、空を雲で隠して、何がしたいのかしら」

 

 吸血鬼みたいに太陽が苦手な種族の起こしている異変なのだろうか。太陽が苦手と言えば、紅魔館(あの面子)を思い出す。

 が、もしそうだとしても、怨霊は関係ないはずだ。

 

 ということは、もしも、雲の方が紅魔館の連中が起こす異変だとすれば、二つの異変が偶然、同時期に起こっている、ということなのだろうか。

 

 ──だけど、私の勘は紅魔館とは別だと言っている気もする......。はぁー、今回はとっても面倒臭いことになりそうね。

 

 と考えていると、森の中から誰かが歩いてくる気配を感じた。

 

「......おい、霊夢」

「......えぇ、分かってるわ。参拝客、にしては殺気を感じるわね」

「まぁ、お前を狙う妖怪がいてもおかしくないが......それにしたって、殺気が強いな。

 おい! そこに居るのは分かってるぜ! 出てきたらどうだ?」

 

 魔理沙が大声でそう叫ぶと、森の中からガサガサと森から出てくる音が聞こえた。

 

 そうやって音を立て、出てきたのは──

 

「それは角か? 初めて見た妖怪だな。霊夢、知ってる妖怪(やつ)か?」

「......いえ、私も初めて見るわ。でも、とてつもなく強い、ってことだけは確かね」

「あぁ、言われなくとも、私にも分かるぜ......」

 

 私達の目の前に、頭に二本の角を持ち、屈強な肉体を持つ大男が現れた────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──時は遡り 日の出前 紅魔館(レミリアの部屋)

 

 天気が変わる異変から四ヶ月もの歳月が立つ。

 そして、ミアを見なくなってからも、同じくらいの歳月が経っていた。

 

 異変に気付いたのは三ヵ月前のことだった。ミアが何も言わずに居なくなるのはよくあることだが、一ヶ月も姿を見ないのは明らかにおかしいということで、何日も幻想郷中を探し回った。だが、かれこれ四ヶ月の月日が経った今でも、未だに姿を見つけれてはいなかった。

 ミアが家を空けることは最長でも一週間ほどで、必ず一週間に一度は食卓などで顔を見る。ミア自身もお姉様が好きなこともあり、一週間に一度は顔を見ないと気が済まないらしい。そんなミアが、四ヶ月も顔を出さないのは、明らか何かに巻き込まれたとしか考えられなかった。

 

「......お姉様」

 

 そして現在も私は毎日、幻想郷中を探した後は、家に帰ってないかと一番最初に行くであろうお姉様の部屋を訪ねていた。

 

「ミアは......」

 

 ──ミアは帰っていませんか?

 そう言いかけるも、お姉様の顔を見て言葉が止まった。

 

「......今日も見てないわ。でも、元気出しなさい。あの娘も子供じゃないんだから、何があってもすぐに帰ってくるわよ」

「でも、ミアは私の双子の妹みたいなものですから、変に無茶することが多くて......」

「無茶をしても貴女はいつも大丈夫だったでしょう?

 だから、ミアも大丈夫なはずよ。絶対にね」

 

 いつものようにお姉様には励ませられる。だが、不安は一向に消えなかった。もしも、ミアが死ねば分かるはずだが、どこにいるかまでは感覚共有を切った今では分からない。人探しの魔法を使っても効果は現れず、心配と不安だけが心の中で積もっていた。

 

 本当に死んでいなければいいが、もしも、もしものことがあれば、私は......。

 

「こら。そんな暗い顔しないの。気持ちは分かるけど、ミアのお姉ちゃんなら......(ミア)を悲しませるような顔になっちゃダメなのよ。姉ならしっかりしなさい。帰ってきた時に、心配をかけたことをしっかり怒れるように、許せるように。逆に心配とかをかけないように笑顔でいられるように、ね」

 

 お姉様の話は、まるで自分に言い聞かせているようにも聞こえた。

 やはり、お姉様も普段通りには見せているが、私に心配をかけないように、無理をしているのだろう。

 

 そう思うと、ミアのためにも、お姉様のためにも元気を出さなければ、と思い始めた。

 

「はい......グスッ、もう、大丈夫ですっ」

「良かった。でも、もう少し笑顔で迎え入れるようにはしなさいよ。少し引き攣った笑みになっているわよ?」

「わ、分かりました! ......こ、こうです?」

「まぁ......そうでいいと思うわよ。ねぇ、レナ。紅魔館のみんな、特にフランやルナはまだ子供だから、感情を上手く操作できないの。だから、今日もそばに居て、面倒を見てあげてね」

「......はい、分かりました。私はお姉ちゃんですしね。妹達を安心させてきますね!」

 

 張り切って部屋を出ると、何を思ったのか、扉に前から動く気が起きなかった。

 姉の前ではああ言ったものの、まだ不安が拭いきれてなかった。

 

 しばらく部屋の前でじっとしていると、突然、部屋の中からすすり泣く声が聞こえてきた。

 

「......お姉様......」

 

 部屋の前でボソッと小さな声で呟くと、私は静かにお姉様の部屋を後にする。

 

 ......姉が、実は私達が寝た後にもミアを探しに行っていることを知っている。いつも、一人で泣いていることも知っている。一番不安に駆られているのが姉だということも知っている。

 なのに、感情を表に出さず、皆に心配をかけまいと一番頑張っているのも知っている。......本当にバレていないかはともかくとしてだが。

 他にも、パチュリーや美鈴、咲夜達もそれぞれの方法で、ミアを探していることも知っている。

 

 だからこそ、一番血が濃く繋がっている私が、頑張らないと。

 ──まずは、フランとルナを安心させないとね。

 

 そう決心すると、私は真っ直ぐフラン達の部屋へと向かった────




始まりは違えど、交わる二つの異変


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2、「鬼の襲来と何もない世界」

遅れてごめんなさい()

さてまぁ、今回は題名通りのお話です。お暇な時にでもゆっくりどうぞ。


 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社

 

 私達の目の前に、頭に二本の角を持つ妖怪が現れた。

 その妖怪は今まで見てきた妖怪の中でも高い方の妖力を持ち、今までの中で最も強い殺気を放っている。

 

 通常、巫女を狙ってくる妖怪は小物の者が多い。ここ、幻想郷にとって博麗の巫女は、博麗大結界の維持に、必須とはいかなくても必要な存在らしい。そして、何よりも博麗の巫女を殺そうとする行為は、大妖怪である八雲紫を敵に回すことと同意である。

 それを知っている並以上の妖怪達は下手に手を出すことはなく、手を出すのはそれすら知らない弱い妖怪しかいない。

 

「お、おい......。お前、なんか恨みでも買ってたのか? あいつ、とても強い殺気だぜ......」

 

 しかし、今、目の前にいる妖怪は少なくとも並以上の妖怪に違いない。

 大妖怪である八雲紫には到底及ばないが、そこら辺の妖怪よりは強い妖力を垂れ流しにしている。

 

 ──それにしても、あの目......とても正気とは思えないわね。まるで、空腹の獣が獲物でも見つけたかのような......。そんな目にも見えるわ。

 

「えーっと。お前、鬼だよな? その角、萃香に付いてたのと似てる気がするし。ここには何の用で来たんだ? お生憎さま、ここには一文無しの巫女しかいないぜ?」

「誰が一文無しよ!?」

「グルルル......」

 

 話が通じない。というよりは、本当に正気を失っているようにしか見えない。

 まるで獣のような唸り声。あれは、少なくとも私が知る鬼ではなかった。

 

「こりゃあ......弾幕ごっこ(お遊び)してお帰りいただく、ってのも難しそうだぜ? どうする?」

「そんなの決まってるでしょ」

 

 そう、博麗の巫女には、博麗大結界の維持以外にも役目がある。

 それは、いつも通り、異変中にしていることをするだけだ。

 

「妖怪退治も巫女の仕事! ここを襲うって言うなら、誰でも容赦はしないわよ!」

「へっ、よく言ったぜ。もちろん、私も手伝うからな。止めたって止まらないぜ?」

「はいはい。敵さんもしびれを切らしそうだし、一緒に行くわよ!」

「分かった! 行くぜ!」

 

 魔理沙の合図とともに、その場にいた全員が弾かれたように一斉に宙へと動き出す。

 

 魔理沙は私達よりもさらに上へと浮き、私は後退して互いに鬼から距離を取る。

 それは、力では鬼に敵わないどころか、最悪、当たれば即死する危険もあるからだ。

 

 正気を失いつつもそれを知ってか、鬼は逆に全力で前進して距離を詰めた。

 

「萃香と同じ鬼。それに、弾幕ごっこ(遊び)じゃないんだ!

 全力でやるぜ! 『マスタースパーク』ッ!」

 

 魔理沙はミニ八卦炉を使い、弾幕ごっこ(遊び)では使わない高火力の『マスタースパーク』を放つ。

 

 全力で前進していたせいか、鬼は避けることもできずに直撃する。

 

「よっしゃ! 高火力の『マスタースパーク』を受けて立てたやつは一人も──」

「ウォォォォ!」

「......あれ?」

 

 しかし、その体には多少の焦げ跡が残る程度だった。

 

 鬼は倒れることはなく、一心不乱に私へと突撃してくる。

 

「......っ」

 

 それを素早い弾幕を避けるように間一髪で避けると、私は飛びずさって再び距離を取る。

 

「霊夢! 大丈夫か!?」

「大丈夫よ。それより! 高火力の『マスタースパーク』を受けて立たないやつは一人もいなかったんじゃないの!? あいつ、そのまま突進してきたわよ!」

「ふっ......私の高火力の『マスタースパーク』を受けたやつは一人もいないからな」

「そこ威張れるところじゃっ!?」

 

 話の最中に、鬼が迫ってくる。

 

 さっきと同じように、しかし慎重に、連続攻撃を回避するために飛びずさって距離を置く。

 

「危ないわねっ!」

「よく避けたなぁ」

「感心する前に手を動かす! 魔理沙! もっと高火力なやつにしなさい! っ!」

 

 よそ見をしていると、いつの間にか鬼が目と鼻の先まで来ていた。

 

 とっさに少しだけ宙に浮き、鬼の頭の上で前転して避ける。

 

 鬼は冷静さを欠き、飢えた獣のように単調で同じような攻撃を何度も繰り返している。

 ──やはり、正気を失っていると見てよさそうね。

 

「もっと高火力となると、時間がかかるぞ!」

「時間は稼ぐから早くしなさい! どうやら、狙いは私だけのようだし......ねっ!」

 

 何度も繰り返すうちに、段々と敵の動きに目が慣れてきた。

 

 ──これなら、後は時間を稼ぐだけで......っ!

 

「──なっ、いっ!?」

 

 上へ避けれたと思った一瞬の油断。

 

 その油断で鬼の角に足がかする。

 

 思ったよりも鋭い角により、少し深い傷を負ってしまった。

 

「霊夢!?」

「これくらい大丈夫よ! それよりも早く!」

「準備は......できた! いつでもいいぞ!」

 

 その言葉とともに、懐から数枚のお札を取り出し、少しだけ敵と距離を置く。

 

「手持ちのお札で鬼の強さなら、一瞬しか持たないだろうけど......はぁっ!」

 

 そして、鬼へと向かって勢いよくそれを投げる。

 

「がァ!?」

 

 すると、鬼は電流が走ったかのように動きを止め、隙を見せた。

 

「今よっ!」

「分かってるぜ! 『ファイナルスパーク』! はァァァァ!」

 

 魔理沙は掛け声と共に、先ほどの『マスタースパーク』の非ではない威力の光線を放った。

 

 お札により動きを止めた鬼は光線に包まれ、姿が見えなくなる。

 

「くっ、はぁ、はぁ......。最大火力でも、耐えるか......。だが、やってやったぜ!」

 

 魔理沙の最大火力の『ファイナルスパーク』を受けた鬼は、形は崩さずも黒焦げになりながら地面へと落ちていった。

 

「これなら、今あるだけのお札を使って長時間、動きを止めることができそうね......」

「......ふぅー。一時はどうなるかと思ったぜ。意外となんとかなるものだな」

「......いえ、まだ始まりに過ぎないみたいよ。見て、空が......」

「ん? なっ......!?」

 

 何処からともなく、真っ黒な雲が空を覆い尽くし、見事に陽の光が遮られてしまった。

 

「一応聞くが、まだ夜じゃないよな?」

「えぇ。......これは、明らかに異変よ。はぁー、怨霊のことと言い、鬼のことと言い......とても大変なことが起きていることだけは確かね。魔理沙。ちょっとあの鬼を封印しとくから、周囲警戒よろしく」

「もちろん。しかし簡単に言うな。もう魔力が尽きかけてるぜ......」

 

 魔理沙を宙に残し、私は地面へと落ちた鬼に封印を施しに行った────

 

 

 

 

 

 side Mia Scarlet

 

 ──???

 

 気が付くと、台所と冷蔵庫、そして布団が敷かれ、幾つかの扉がある平屋らしき場所で目覚めていた。

 どうして気を失っていたのか思い出そうとするも、記憶に靄がかかっているかのように、記憶が曖昧になっていた。

 

「うぅ......お姉ちゃん、みんな......。レナぁ! ここ何処よぉ......」

 

 声を上げても何も返事がない。

 

 諦めた私は必死に思考を廻らせる。

 

「確か、あいつを見つけるために、地底に来て、それから......あぁ! 罠だったんだ!

 あいつ、私かレナが来ると分かっていて......!」

 

 記憶をある程度思い出すと、ふつふつと怒りが湧いてくる。

 

 が、それと同時に家族のみんなに心配されてないかと心配になる。

 

「それにしても、どれだけ寝てたんだろ......」

 

 気を失ってから何時間、何日が経過していたかは定かではない。

 しかし、腹の減り具合から、少なくとも何日も寝ていた訳ではないと分かった。

 

「それにしても、冷蔵庫とかご丁寧に置いてるけど、中は......あぁ、結構ある」

 

 意外と食料は豊富で、一週間分ほどの食料が置いていた。

 しかし、どうしてここに食料があるのか、どうして私はここに居るのかが気になった。

 

 人質が目的なら牢屋に閉じ込めておくはずだ。どうしてこんなに自由にできそうな部屋に、それも手枷すら付けない状態で置かれているのかが不思議だった。

 

「......あっ。そもそもこんな場所、魔法で逃げれるじゃん。うわっ、どうして気付かなかったんだろ。さ、かーえろっと。

 ゲートオープン!......あれ?」

 

 魔法を行使しても、なぜか魔法が発動しない。

 

 ──もしかして、魔法はこの世界じゃ使えない......?

 

「でも、私はいわば魔法で形作られた......。ファイア!」

 

 試しに移動系以外の呪文を唱えてみる。

 

 すると......。

 

「うわぁ! 本当に出た! てか熱っ! ......ふぅ。やっぱり、ここから移動できないように、もしくは外に干渉する魔法だけを封じられて......。はぁー。探索しよっと......」

 

 嘆きながらも、近くの扉を開けていく。

 

 扉の先は何もない部屋だったり、広いだけで真っ白な何もない世界だったりと、ここから出れるような場所は一つもなかった。

 

 

 

 希望を捨てずに、部屋を探索し続けて()()()

 

 結局は何も見つけることもなく、進展もせずにただ時間だけを消費していた。

 

「うぅっ......こんなことなら、お姉ちゃんに、そしてレナに......。ぐすっ、私、諦めない......」

 

 私は後悔しながらも、また会いたいという願いを胸に、この何もない世界を探索する────




一体、ミアはどこにいるのか。それは本人にも分からなかった。


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3、「地底へ集まる人間達」

遅れました、申し訳ないです()

今回は閑話というか、前日譚のようなお話。
それでもいい方は暇な時間にでもごゆっくりどうぞ。


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(玄関入り口)

 

 もう少しで年が変わるという冷たい風が吹く年末のある日の朝。ミアが消えてから三ヶ月も経つというのに、未だに何一つ手がかりを見つけれず、途方に暮れていた。

 しかし、それでも私は諦めずに一人、日光などお構い無しに、大切な私......いや、ミア()を探すために外へと向かう。

 

 私はフード付きのコートを羽織り、念のために日傘を手に持つと外へと出た。

「あ......レナ様。今日も朝からですか?」

 

 外へと出て少し歩くと、いつも通り門には美鈴が立っていた。

 いつも朝早くから仕事を全うしている美鈴には感心するが、昼寝をしては元も子もないとは思っている。それで咲夜に怒られるのだからなおさらだ。

 

「はい。早く会いたいですから......。美鈴も、門番の仕事、いつもお疲れ様です」

「いえいえ。これくらい、どうってことないですよー」

「え? でも、いつも咲夜に──」

「そ、それよりもですね! 本当は私も探しに行きたいんですけど、何分、お嬢様に......」

 

 お姉様は全員で探しに行くようなことはさせない。妖精をいれずに少なくても二人以上、館に残らせている。それは、もしも、何かがあった時のための措置なのだろう。美鈴を倒せる妖怪は多くないが、お姉様はもしもの時のことをとても心配しているようだった。

 おそらくは、フランやルナのことを思ってそうしているのだろう。

 精神的に幼く、脆い二人を守るために。

 

「大丈夫、分かっていますよ。私もここにいた方がいいと思っていますし。美鈴は紅魔館を守っていてください。何かあっても、帰れる家があるように」

「......そ、そうですね! 任せてください! 絶対に何があっても守り抜きますから!」

「そう、その意気ですよ。では、行ってきますね」

「はい! 家は守り抜きますよー! ......あれ?」

 

 すっかり自信が付いた美鈴を見て安心して、当ても無く空へと飛ぼうとした時、異変が起きた。

 

「はい? 美鈴? どうかしました?」

「れ、レナ様! 上! 上です!」

「上? でも、私は日光に......。うわっ、真っ黒だ......」

 

 日差しを遮るためにフードをしていて気が付かなかったが、いつの間にか真っ黒な雲が空を覆い尽くしていた。

 つい数分前に空を見た時は、青い空が見えていたため、あまりの驚きで素の口調で喋ってしまった。

 

 ──別に素で喋らないことに深い意味は無いんだけど。

 

「い、異変、でしょうか? あの雲、明らかに禍々しい気というか、何かが漂っているんですけど......」

「確かに、魔力や妖力といった力は感じます。でも、禍々しいのは......。

 いえ、美鈴だからこそ分かることなのでしょうか」

 

 能力の詳細はよく知らないが、美鈴には気を使う程度の能力がある。おそらくだが、その能力を持っているから私には分からない禍々しい気が分かるのだろう。

 

 ──にしても、どうしてこんな黒い雲が......。次の異変は怨霊が地上に現れる異変のはず。黒い雲が出てくる異変なんて、聞いたことがない。とすると、これはもしかして......。

 

「美鈴。この雲、どこが発生源か分かりませんか? それか、禍々しい気がする方向か」

「え? ま、禍々しい気は、おそらくあの雲のせいでしょうけど、色々な場所から伝わって分からないです。ですが、先ほど雲が出てきた時、妖怪の山の方から出てくるのが見えました」

「ありがとうございます! 私は行ってくるので、紅魔館を頼みました!」

「は、はい! お任せ下さい!」

 

 私が知らない異変が起きているとすれば、本来存在しないはずの私やミアがいるから起きてしまった異変の可能性が高い。しかし、必ずしも私が関係あるとは思わないが、ミアが居なくなった手がかりがあるかもしれない。

 そうとなれば、行ってみるしかない。

 

 そう考えた私は、美鈴に紅魔館を任せて、一人で妖怪の山へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Hakurei Reimu

 

 ──博麗神社

 

 最後に見たのは青い空だったが、今は黒い雲が空を覆っていて、今が何時なのか分からない。

 だが、少なくとも夜にはなっていないと思っている。

 

 鬼を倒して無力化した後も、魔理沙は嫌な予感がするからと神社に残っていた。

 確かに、至る所に溢れ出る怨霊に、鬼の襲撃。そして、突然現れた黒い雲。どれもこれから何か起きるのでは、と不安を覚えるものばかりだ。

 これらは一見、関係しているようには思えないし、確証もないが、どれも地底に関係があると私は思っている。

 溢れ出ている怨霊は地底の怨霊で、鬼は地底に住んでいるらしい。黒い雲についてはよく分からないが、鬼が襲撃しに来たのは、この黒い雲が発生するのを止めるために、私が動くことを封じる目的なのだろうと思っていた。

 

「これからどうする? 地底に行ってみるしかないんじゃないか?」

 

 神社に残った魔理沙は、腹が減っては戦はできぬ、と言って勝手にご飯を食べていた。

 

「そうねぇ......。でも、この一連の騒動の犯人が地底にいるとすれば、危険過ぎるわ。なんたって、鬼を使い魔の如く差し向けたやつよ。とても強力な力を持っているか、能力を持っている可能性があるわ」

 

 それに、あの鬼は私しか狙っていなかった。ということは、少なくとも黒幕のところに行かなければ、魔理沙が危険な目にあう可能性は少ないはずだ。そして、まだ全ての異変が必ずしも地底に関係があるという確証はない。私がそう思っているだけで、実は地底に関係がなかった、なんてことも有り得るのだ。

 だからこそ、何かあった時のために地上にも頼れる人を置いておきたい。それを魔理沙に任せたいとは思っているが、口に出すと魔理沙は余計に地底へ行きたいと言うだろう。

 

 だから、私は魔理沙に何も言わず、一人で地底に行こうとしていた。

 

「そうだな。......なぁ、霊夢。お前が止めたとしても、私は地底に行くぜ。なんたって、萃香が言うには地底には沢山の鬼がいるらしいしな。もしかしたら、この襲撃のことが何か分かるかもしれないぜ?」

「はぁー......あんたねぇ。私は心配しているのよ。地底に行った時、もしも地上で何かあったら、ってね」

「あ、そうなのか? なら大丈夫だぜ。地上には鬼よりも強い妖怪がいるし、お前の同業者もいるだろ?」

「それ、あまり安心でき──」

「霊夢さーん!」

 

 魔理沙と話していると、どこからか聞き慣れた声が聞こえた。

 噂をすればなんとやらと言うが、今回は違ってて欲しいと声のした方向を見る。

 

「あぁ、早苗ね......」

 

 すると、やはり声の主は、私と同じ巫女である東風谷早苗であった。

 おそらくは、同じ巫女だから異変解決のために協力するために来たのだろう。

 

「早苗ですよー。霊夢さん! お気づきかと思いますが、異変です!」

 

 早苗には、神社の営業停止騒動のことや、商売敵(同じ巫女)のこともあり警戒心を抱いている。

 いや、早苗にというよりは、背後にいる二柱の神様に、だろうか。

 

「えぇ、気付いてるわよ。怨霊とかあの雲とか、あからさまだし」

「怨霊? 間欠泉は見ましたが、怨霊は見てないですね。というか霊夢さん! あんなのがあるなら言ってくださいよー」

「間欠泉......?」

「あぁ、私もここに来る途中で見た。凄かったな、あれ。結構ここに近かったしな」

 

 この二人は何を言ってるのだろうか。間欠泉なんて私は見ていない。

 少なくとも、ここの近くではそんなものはないはずだ。そんなものが近くにあれば、すぐに見つけて有り難く利用させてもらうに決まっているからだ。

 

「ね、ねぇ、その間欠泉ってどこにあるの?」

「えぇ!? れ、霊夢さん、気付いてなかったんですか!? その間欠泉、すぐ近くにありましたよ?」

「飛んだらすぐに分かると思うけどなぁ」

 

 二人は私が気が付かなかったことに驚きを隠せないようだった。

 

 ──もしかして、私が忘れている? いや、そんなはずがない。間欠泉なんて、忘れようにも忘れることは難しい。なら、記憶が......いえ、そっちの方が余計に有り得ないわね。そもそも、理由が......。

 

「ま、そんなことよりも早く異変解決に向かいましょう! 実はあの雲、妖怪の山にあった大きな穴から出てくるのを見たんです。多分、その大穴の先に異変を起こした犯人がいるはずですよ!」

「地底? なるほど.....。これで地底が確定、か......」

 

 どちらの異変も地底に関係があると分かれば、地上の心配をすることは無い。

 後は、このまま地底に向かって異変を解決するだけだ。

 

「あら、三人も揃ってたのね。ちょうどいいわ」

「誰!? ......なんだ、紫か」

 

 突然あまり聞き慣れない声が聞こえたからびっくりしたが、その正体は紫だった。

 いつも突然現れては面倒事を押し付けてくるので、タチが悪くて胡散臭い妖怪だ。

 

「なんだとは失礼ですね」

「いいじゃない。胡散臭いんだから」

「余計に失礼。で、地底に行くのでしょう?」

 

 怪しい笑みを浮かべながら、紫はそう話す。

 だいたいのことは察しがつくが、聞かないわけにはいかない。

 

「あら、どうして知っているのかしら」

「盗み聞きをしていたので」

「悪びれもなく言うわね......」

「冗談よ。忘れているみたいだけど、前に私がその話をしましたから」

 

 忘れているみたいだけど......?

 確かに、記憶にはないが、どうしてそのことを紫が知っているのだろうか。

 もしかすると、私に紫が何かをした......?

 

「うふふ。それは自ずと分かること。これらの異変は、必ず終わります。貴方達の手によって」

「は、はぁ......。よく分からないけど、地底に行けばいいの?」

「えぇ、その通りですわ」

「じゃあ、今から行ってくるわよ?」

「はい、今すぐ行ってください。あぁ、一応、これを」

 

 そう言われて手渡されたのは、手に収まるくらいの大きさの陰陽玉だった。

 

「これは?」

「後で分かります。では、また」

「あ、ちょっと!」

 

 私の静止する声も聞かずに、空中で手を振ると、気味の悪い裂け目を作り出す。

 そして、その中に入り、姿を消した

 

「......またどこかに行っちゃったわ......」

「ま、行っていいなら早く行こうぜ」

「神奈子様! 諏訪子様! 見ていてください。ご期待に添えるように頑張ります!」

 

 不安や期待を胸に、私達は地底へと向かった────




追記:いつの間にか、総合評価が600を超えていました。
登録者など閲覧者の皆様、ありがとうございますm(_ _)m

番外編はハロウィンの日に投稿することにします。


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4、「紅い館襲撃」

修学旅行だったり風邪だったりで遅れて結局月曜日投稿()
誠に申し訳ございませんでしたm(_ _)m

気を取り直して、今回から本格的に異変です。けど、100話目記念番外編などがあるから......まぁ、お楽しみくださいませm(_ _)m


 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(フランの部屋)

 

 寒い季節が本格的になり、紅魔館では年明けの準備を始めた頃。

 私自身の仕事も終わり、ミアを探しに行くであろうレナを探して館の中を歩き回っていた。

 

 ミアが居なくなってからのレナは頑張り過ぎていると思うところがあり、少しでも負担を減らすために一緒に探しに行こうかと思って、仕事が終わるとすぐにレナの部屋へと向かった。

 だが、部屋はすでにもぬけの殻で、今は咲夜にも手伝ってもらい、レナが行きそうなところを片っ端から探している。

 

「お邪魔するわよ。レナ見なかった?」

 

 地上にあるレナの行きそうな部屋と図書館を探し終えた私は、フラン達の部屋に来ている。

 フラン達の部屋の中はフランとルナが遊んでいたのか色々な物が散乱しており、二人でその物を片付けていた。

 

 昔はよくフラン達が物を散らかすと片付けを手伝わされていたが、最近は自分達で後片付けができるようにはなっている。手伝わされるのも大変だからという理由で嬉しいとも思うが、何よりも成長していると実感できることがとても嬉しい。

 

「あ、レミリアお姉様? 珍しいね。お姉様よりも早く来るなんて」

「オネー様は知らないよ。まだ来てないの」

「だね。まだ見てもいないね」

「あらそう......。お邪魔したわね」

「......ねぇ、レミリアお姉様。もしかして、お姉様はまた探しに行ったの?」

 

 部屋を出ようとすると、フランが声をかけてきた。

 最近遊べていないレナや失踪しているミアのこともあり、フランも心配なのだろうと察する。

 

「おそらくね。でも安心しなさい。きっと、あの娘ならすぐにミアを見つけて帰ってくるわ」

「......もう三ヶ月も帰ってきてないんだよ。ここに帰ってくる気がないか、死ん──」

「フラン! ......やめなさい、そんなこと言うのは......」

「......ごめんなさい、レミリアお姉様......」

 

 レナ曰く、元はレナの別人格らしいが、その精神(人格)を身体という器に移した挙句、身体に完璧に馴染んでしまった今となっては、身体が壊れるとその身体に引っ張られるように精神(人格)も壊れてしまうらしい。

 その代わり、ミアとレナは同じくらいの魔力を持っている。そのミアを倒せるのはレナよりも高い魔力を持っているか武闘派の敵くらいだろう。だからこそ簡単に死ぬとは思えないから、ただ単に私達が見つけれない場所で今も生きているのかもしれない。

 

 ──それでも、死んだよりはまだそっちの方がいいけど......。

 

「......それじゃあ、もう行くわね」

「......待って!」

「どうかした?」

「わ......私、お姉様のところに行きたい......」

「私もー!」

 

 二人に哀愁と好奇心に満ちた目を向けられる。

 

 連れて行ってもいいが、レナが何処にいるのか分からないし、レナが居る場所が危険かもしれない。もし危険な場所なら精神的に弱い二人の妹を連れて行っても大丈夫なのか、心配になっている。だが、フラン達のレナ達を心配する気持ちも分かる。

 

 ──......紅魔館は咲夜達に任せて私はフラン達と一緒に行くことにしましょうか。

 

「......まぁ、いいわよ。外に出る準備ができたら門の前に来なさい」

「うん! ありがとうね、レミリアお姉様!」

「やったぁー」

「喜ぶのは会えてからに──っ!?」

 

 ──声が、聞こえた。

 

「......どうしたの?」

 

 二人には聞こえていないようだが、確かに美鈴の助けを呼ぶ声と何かが爆発する音が聞こえた。

 ──門で何かあったのだろうか。それとも、また魔理沙なのだろうか。

 

 どちらにしても、紅魔館の主として、何よりも傷付いたであろう家族のために行かないわけがない。

 

「フラン、ルナ。できる限り早く準備して門に来て。私は先に行ってるから」

「え? 何か──」

「話は後で! 急いで準備してきて!」

「う、うんっ!」

「わ、分かった!」

 

 二人に念を押すと部屋を出て支度もせずに門へと飛び出す。

 ──こういう時、レナがいればすぐに行けるのに......なんて、甘え過ぎかしら。

 

 心の中でそう思いながらも静かに美鈴が居るであろう門へと急いだ────

 

 

 

 

 

 side Hong Meilin

 

 ──時間は遡り 紅魔館(門前)

 

 

 邪悪な気と黒い雲が現れてから数時間が経つ。

 まだレナ様が帰ってくることがなく、暇なせいか私自身、眠気に襲われ始めていた。

 

「美鈴! 起きなさい!」

 

 そんな時、うとうととしている最中に聞き慣れた叱りつける声が聞こえる。

 

「ふぁい......? あっ! さ、咲夜さん......」

 

 重い瞼を開けると、目の前にはメイド服姿の咲夜さんが怒りと困惑の表情を浮かべていた。

 どうして怒っているのかは普段の経験からすぐに察しがついたものの、どうして困惑していたのかはすぐには気付くことができず、同じように困惑してしまう。

 

「美鈴、説明してちょうだい」

「す、すいません......。つい、眠くなっちゃって」

「そっちもだけど、空の方よ! レナ様がいないからとお嬢様に頼まれて外に探しに来たら、こうなってたのよ。

 おそらく異変だろうけど......美鈴、何か知らない? 寝てて知らないです、なんて言ったら職務怠慢で明日の朝食減らすから」

 

 関係はないとしても、異変が私達に何か悪影響を及ぼさないのか警戒しているのだろう。だからこそ咲夜さんは異変のことを知ろうとし、必要とあれば『春雪異変』のように止めに行こうと思っているのだろう。

 

「この黒い雲、おそらく妖怪の山から出ているやつです。これが現れた時に、同じようにして広がる邪悪な気を感じましたから。あ、でもこの事レナ様にもお話して、レナ様が先に向かっちゃいましたよ」

「ふーん......そう......」

 

 そのことを知っていて食事を減らされたくない私は、惜しみなく異変のことは咲夜さんに話した。とはいえ、私自身深くは異変のことを知らない。

 少ない情報で許されるのか......正直に言うと少し心配だった。

 

「充分よ。ちゃんと知ってたみたいだから減らすという話は無かったことにしておくわ」

「やっぱりガチで減らすつもりだったんですね......。咲夜さんってひどい時ありますよね」

「美鈴? 何か言った?」

「ななっ、何も言ってませんよ! いやー、そんなことよりもこれから......咲夜さん危ない!」

「な──っ!?」

 

 どれだけ経っても忘れることができない気を感じた私はとっさに咲夜さんを庇うようにして飛び込む。

 

 飛び込んでから地面に着くまでの一瞬の間に、左足の脛に鈍くも鋭い痛みを感じた。

 

「い、たぁ......。さ、咲夜さん、大丈夫ですか......?」

「め、美鈴! 敵襲!?」

「お、おそらく......。幻想郷に来てからはあまり感じなかったですが......殺気です。それも強力な。これだけは、絶対に忘れませんから......」

「よく気付いたねぇ。アタシは嬉しいよぉ」

 

 何も無かったはずの虚空から蓑を身に纏った一人の女性と二人の男性が現れる。

 女性の方は蓑帽子(みのぼし)を深く被っているが、それでも少し見える青い髪と顔から明らかにお嬢様と同じような年頃の少女で、西洋風の顔立ちだった。

 それに対して後の二人は蓑帽子の代わりに頭には小さな角を生やし、少女を守るかのように両わきに立ち強い殺気を放っている。

 

「アタシはお前らスカーレット家の敵さぁ。気に食わないからとりあえず死んで欲しいのよぉ」

「気に食わないという理由でお嬢様に刃を向け、美鈴に殺傷力の高い弾幕を使ったと言うの!?」

「まぁ、理由は何でもいいじゃんよぉ。とりあえず死んで、お嬢様を出してよぉ」

 

 まるで酔っているかのようにフラフラとしながら話す少女は、男二人を置いてどんどんと私達へと近付いてきていた。

 このまま近付かれて戦闘が始まれば、足を怪我している私は足でまといになるだろう。

 

 そう思った私は、せめて盾になろうと思い、前へ出ようとする。

 

「美鈴、待って。貴女はお嬢様を呼んできて。私が時間を稼ぐ」

 

 出ようとするも、すぐに手で静止させられた。

 

「え!? でも、相手は三人もいるんですよ!?」

「時間を稼ぐくらい大丈夫よ。それよりも今は、お嬢様に危険を伝えることが先決。怪我をしている貴女じゃ足止めするのも難しいでしょ。だから、急いで飛んで、伝えてきて」

「で、でも!」

「話は終わったぁ? どっちが先に死ぬのぉ? 言っとくけど、私一人で殺るから手加減とかするつもりないんでぇ」

「分かったら急いで! 私が相手よ! ここから先は通さない!」

「咲夜さんッ!」

 

 私が静止する声も届かず、咲夜さんは向かってくる敵を相手に、武器を構える────




何気に新キャラ出てるけど、あの人のあれだったりする。


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5、「紅魔の危機 蒼い吸血鬼」

はい、遅くなって申し訳ないです()

今回は珍しく戦闘ありです。短いですが()


 side Hong Meilin

 

 ──紅魔館(門前)

 

 紅魔館へおそらく襲撃に来たであろう簑を身に纏う三人の男女相手に、咲夜さんは武器を抜いて構える。

 咲夜さんにお嬢様を呼びに行くことを頼まれるも、時間稼ぎのために残る咲夜さんを一人にすることができず、お嬢様を呼びに行くか一緒に戦うかを迷って行動できずにいた。

 

「美鈴! 早く行って!」

「ですが咲夜さん! 貴女を一人にできません!」

「貴女ねぇ......っ!」

「あのねぇ......。いい加減、話し終えていいよねぇ?

 お前達も兄貴達みたくアタシを無視するんですかぁ?」

 

 話し合いを聞き飽きたのか、蓑帽子を被った少女が強い殺気を放つ。

 それは、肌で感じれるほどの強い殺気だった。

 

「兄さん達のことは知らないけど、敵を無視するわけにはいかないわよ。ここは通さない。通せないじゃなくて、通さない、よ。死んでも通すつもりは無いから、痛い目見る前に家に帰った方がいいわよ?」

「戯言かぁ? そういうのは嫌いだよぉ」

「......変な矢ね」

 

 女性は金色の矢羽を持つ綺麗な矢を三本、懐から取り出した。

 しかし、矢を取り出したものの、弓を持つ様子は一向になかった。

 

「どう見ても綺麗でしょぉ? 金色の矢羽(グシスナウタル)、兄様に貰った武器なのぉ」

「あらそう。でも、その綺麗な矢で、それも弓を持たずにどうやって戦うつもりかしら?」

「弓なんてなくても教えてもらった酔拳ありますしぃ、お前なんてこの矢で充分ですよぉ」

「あら、私ってそんなに弱く見えるのかしら」

 

 そう言いながらも警戒は怠らず、いつでも迎撃できるよう、咲夜さんは太ももに付けてあるナイフケースからナイフを取り出す。

 

 しかし、自分から攻めに行かないのは相手の力が分からないためなのだろうか。

 いつもより慎重な咲夜さんを見て、それだけの相手なのだろうと察する。

 

「ナイフぅ? なら、近付かせない方がいいですねぇ」

「できたらいいわね。できるとは思えないけど」

「そうですかぁ......。動けぇ」

 

 女性の合図とともに、手に持っていた矢がひとりでに動き出し、女性の周りに舞う。

 

 一瞬驚く仕草を見せるも、咲夜さんは矢の動きを注意深く見ているようだった。

 

「あれぇ? 来ないのぉ? なら......射殺せぇ!」

「来た。美鈴、貴女も狙われているわよ! 速──っ!?」

「これくらいなら......っ!」

 

 足の怪我もあり、思ったよりも素早い矢が頭を掠め、血が流れてくる。

 ──右目に血が入って、視界が......。

 

 対して咲夜さんは避けれないと察して時を止めたのか、傷一つ無い姿でさっきまで立っていた位置とは少し離れた場所に立っていた。

 

「遅いぃ。遅すぎよぉ。メイドさんは速かったけどぉ」

「矢が戻ってる......!? いつの間に......」

「時を止めて避けるのに精一杯で、私も見てなかったわ......」

「矢が自動で動き出すんだから、気付かないうちに戻ってもおかしくないよぉ」

 

 平気で話すが、気付かないうちに戻っているということは、それくらい速いということだ。

 攻撃を受けたすぐ後に手元に戻っているなど、速いにも程がある。

 

「それじゃぁ、先にそこの門番から片付けるかぁ」

「! そうはさせない! くらいなさい!」

 

 瞬く間に、女性を中心に数多のナイフが空中に現れる。

 

 女性は驚く仕草を見せるも、すぐに平常心を取り戻したようだった。

 

「うわぁ、手品ぁ? じゃぁ、私もぉ」

 

 何を考えているのか、女性は手をまっすぐ前に出すと空中を撫でるようにして動かす。

 

「ナイフが動か......まさか!? 美鈴! しゃがんで!」

「え、どうして──」

 

 次の瞬間、宙に浮かんでいたナイフが弾かれたように勢いよく女性から離れた。

 

 その一部が、私達へと切っ先を向ける。

 

「嘘──っ!?」

 

 想定していなかったことに、体が思うように動かない。

 ──間に合わない!

 

「ちっ、美鈴、遅い!」

 

 そう思った瞬間、咲夜さんの声が聞こえる。

 

 次に気が付いた時には倒された感覚と、さらには少しの重みと咲夜さんの顔が見えていた。

 

「な、何が......咲夜さん? どうし......え?」

 

 手が触れていた背中から生温い感触がした。

 

 その手を見ると、赤い液体がベットリと付いていた。

 

 しばらく時が止まっていたように感じるも、すぐに我に戻る。

 

「咲夜さん! 怪我を......! 私を守った時に......?」

「あぁ、情けない......。とっさのことで、時を止めれなかったわ。私がお嬢様以外を守る日が来るなんてね......」

「そんな、そんな死ぬみたいなこと言わないでください!」

「大袈裟ね......。幾つか掠っただけよ。貴方達妖怪ほどではないけど......すぐに良くなるわ」

 

 言葉とは裏腹に、背中には鋭いナイフが深く突き刺さっていた。他にもかすり傷が幾つもあり、医学にあまり心得のない私ですら、すぐに治療が必要と分かった。

 

 ──あぁ、どうすれば......。誰でもいい。誰でもいいから、咲夜さんを助けて......。パチュリー様、お嬢様──!

 

「もういいぃ? 今世との別れはすんだぁ?」

「くっ......よくも、よくも咲夜さんを......!」

「だから、死んでないって......!」

「お前が避けるのしくじったからでしょぉ......。それとぉ、あんたじゃアタシを殺れないからぁ。片足に視界。そして、何の妖怪か分からないけどぉ......吸血鬼よりも強い奴なんていないのぉ」

「き、吸血......あ、あァ──!」

 

 視界から女性が消える。

 

 と同時に、右肩から鈍い音が響き、声にならない叫びをあげた。

 

「ちょっと本気出して、右肩を蹴っただけよぉ? ......もう終わっていいねぇ?」

 

 その言葉とともに、目の前で手を振り上げる女性の姿が見えた────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(エントランス)

 

 美鈴に呼ばれた気がして外に出ると、まず初めに黒い空が目に入った。

 これを自分が昔、起こした異変に似ていると感じた私は、いよいよ嫌な予感が的中したかと門へと急いだ。

 

「もう終わっていいねぇ?」

 

 すると、血を流して倒れる咲夜と、私と同年代くらいの女性に今にも倒されそうな美鈴が目に入った。

 

「はいぃ──?」

 

 思考よりも先に身体が動いていた。

何かを思う前に、私はその女性の振り上げた手を鋭い爪で切り裂いていたのだ。

 

「......あら、ごめんなさいね。ちょっと頭に来ちゃって」

「お、お嬢様......!」

「お待たせ。もう休んでていいわよ」

「は、はい......」

 

 それだけ言うと、美鈴は嬉しそうな笑みを浮かべて気を失ってしまった。

 

「......レミリアァ! やっぱりお前は! 邪魔ばかりして! 私の兄様すら取ってェ!」

「意味が分からないわ。家族を傷付けられたからには、手加減しないわよ!」

「あァ!」

 

 卑怯だと思う気持ちもなく、話している最中にさらに横っ腹に蹴りを入れた。

 

 そこまで勢いは付かなかったせいか、数メートル吹き飛ぶだけで終わる。

 

「ねぇ、どこかで会ったかしら? 会った覚えが無いんだけど?」

「お前達も行け! 殺せ殺せェ!」

「馬鹿なの?」

 

 正気を失くした目でただまっすぐ突進するだけの大男二人を速さで翻弄した挙句足をかけて転ばすと、自分の全体重に妖力も使い、首筋に目掛けて爪を突き刺す。

 肉が硬いせいか厚いせいか、そこまで深く入らなかったものの、息を止めるには充分なようだった。

 

「嘘ぉ!? こいつら鬼よ!? ただのかませじゃないのよぉ!?」

「だから? というか、ただまっすぐ向かってくるだけの奴を倒すなんて簡単よ。はい、最後貴方ね。咲夜の傷もすぐに治したいから、ゆっくり殺すなんてしないわよ」

「やっぱり、やっぱりお前なんかァ......!」

「私も同じ気持ちよ? 家族を傷付けられて、怒りを覚えるなんて......なかなか無いわ。

 貴方は絶対に、許さないから!」

 

 その言葉を合図に、弾き飛ばされたかのように私と女性は動き出した。

 

 食料として襲う時以外は殺すのも躊躇う私だったが、今はその抵抗感もない。

 

 ──ただ、今目の前にいる家族を傷付けた奴が憎い。殺したい。

 

 表では平静を装っているが、そういう感情が湧き上がるのを感じる。

 

「あァァァ!」

「死になさい!」

 

 お互いに、人を解体するのも容易な爪を相手に向け、まっすぐに突き刺しに行き──

 

「──こんな光景、見たくなかったです」

 

 突然現れた青い髪の少年に、後一歩のところで互いの手首を掴まれ、無理矢理攻撃を止められた。

 

「っ!? ......離しなさい」

「あ、兄様......」

「兄様? どういうこと? ......あと手を離しなさい。ルネ・エルジェーベト!」

 

 私の目の前には、昔から知っている友人、ルネ・エルジェーベトが立っていた。

 それも、悲しそうな顔をして。

 

 何故か、この顔を見ていると戦う気力がなくなってくる。彼の能力はレナと同じ能力だから能力の効果ではないはずだ。

 ただ単に、レナと似ているから情が移っているだけかもしれないが。

 

「ごめんなさい、無理です」

「離しなさいって言ってるでしょ!? 貴方はいつも私を......!? いえ、違う。私は何を......?」

「兄様......。アタシ、兄様のためにやったの......。

 でも、兄様がそんな顔するなんて、思わなくて......」

 

 おそらくルネの妹であろうその女性は、どうしてか性格が豹変していた。

 おそらくはこちらが素なのだろう。

 

「......またお酒でも飲んでいたのですか? まぁ、いいですけど。

 おね......レミリア、ごめんなさい。美鈴や咲夜を傷付けてしまって」

「謝って許してくれると──」

「思ってないですよ。ですから、治しました。つい先程」

「えぇっ!?」

 

 振り返ると、確かに出来ていたはずの傷は消え去り、二人とも何事も無かったかのように気を失っているだけだった。

 

「本当......。でも、いつ? どうやって?」

「何もタネも仕掛けもありません。つい先程、話している最中に、ですよ。では、これで話は終わりです」

「はぁ!? ちょ、ちょっと待ちなさい! あの空は何!? それに、その娘は一体......」

「......知りたければ、レナを追って地底に来てください。では、さよならです」

 

 最後にポツリと呟くように話すと、ルネと女性はルネが来た時と同じように突然、なんの前振りもなく消えてしまった。

 まるで、男の死体以外、最初から何も無かったように────




ちなみに600突破記念の話はミアの幻想郷散策に決定しました。主に話に出てこない1~3ボス辺りのキャラが中心となる予定です


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6、「紅魔の決心 地底から昇る黒い煙」

こちらはいつも通りの長さの模様。

それでも良いよという方は、暇な時間にでもどうぞー。


 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(咲夜の部屋)

 

 襲撃を受けてから数分後、傷が治ったものの二人を心配に思って部屋へと連れて戻った。

 そのついでにパチェと会い、二度と襲撃を受けないように防衛を固めてもらった、その後は、パチェには美鈴の容態を見てもらっている。

 傷による痛みや疲れの影響か、それともルネのせいなのか、怪我が治った二人は未だに起きない。流石に人間の咲夜は仕方ないとは言え、美鈴も起きないのだから心配になっているのだ。

 

「咲夜......。ごめんなさい。私がもう少し早ければ、貴女も怪我をせずに済んだでしょうに......」

「レミリアお姉様のせいじゃないもん! 全部、何もかも怪我をさせた奴が悪いんだから!」

 

 安静にさせたいから静かにと言っていたはずなのだが、横でフランが感情を爆発させる。確かにそうとも思ったが、それでも間に合いさえすれば助かっていたはずなのだ。これも、全て私がもっと早く気付いていれば......。

 

「......レミリアお姉様......。元気出してよ......」

「フラン。そっとしておく方がいい。レミリアオネー様。私達外で、門の前待ってる」

「えぇっ? ちょ、ちょっと待ってルナ! 私はここに......引っ張らないで、って!」

 

 気を使わせてしまったのか、ルナがフランを連れて部屋から出ていった。

 ──正直な話、心細いから居て欲しかったのだが......。

 

「......私、どうしたらいいと思う? なんて、聞いてないわよね。......レナは行方不明。多分、ミアを探しに行ってるわ。そして、ルネからは全てを知りたければ地底に来いと言われている。けど、ここを離れるわけにもいかない。......私はどうすれば......」

「......行ってください。ここは、大丈夫です。命に変えてもここは守り抜きます」

 

 いつの間に起きていたのか、咲夜が私の目を真っ直ぐ見つめてそう話す。

 

 咲夜の気持ちは分かるが、またあの女性と同じかそれ以上の敵が来れば咲夜と美鈴で止められるとは思えない。

 やはり、ここは私が......。

 

「お嬢様。心配なさらないでください。あの時は油断しましたが、今度こそは大丈夫です」

「......誓える? 私が帰ってくるまで、生きてここを守り抜くことを」

「誓えます。私の命にかえても守り抜きます」

「いや、命も大切にしなさいよ......。でも、そうね。分かったわ」

 

 咲夜は私と約束を誓った時、必ずその約束を達成してくれる。それは、どんなに難しい約束でも、咲夜自身ができると思っているものは必ずだ。

 

「できるだけ早く帰ってくるから、ここは任せたわ」

「任されました。......そう言えば、美鈴が言ってましたがレナ様は地底へ向かったそうですよ」

「あら、あの娘も地底へ?」

「はい。どうやら異変のことで何か気付いたようで......」

 

 ──何か気付いた......流石私の妹ね。

 

 そう思いながらも、少しでも言ってくれれば良かったのに、という感情も湧き上がる。もしかして姉として信用されていないのだろうか、それとも心配をかけまいとして......。

 

「......直接聞きましょうか。咲夜。ありがとうね。それじゃあ、紅魔館を......留守番を頼むわ」

「はい、仰せのままに」

 

 咲夜の一言を聞き取ると、私は咲夜の部屋を出た。

 

 ──これで咲夜は何があっても大丈夫ね。

 

 と安心するも、もう一人の方も気になり、外へ出る前に寄ろうと部屋へと向かった。

 

 

 

 美鈴の部屋に入ると、そこに美鈴の姿は無く、パチェが私を待っていたかのように椅子に座って本を読んでいた。

 普段と変わりない姿の友人は、現在進行形で館の防衛を強化してもらっている。無理をしているようには見えないが、それでも長年の仲だ。家族を傷つけられて無理をしないほど無神経な性格ではない。

 

 だが、正直に言うと体が弱いパチェには強がって欲しくないのだが。

 

「......パチェ。美鈴知らない? ここに居たはずだけど......」

「もう仕事に戻ったわよ。本人も大丈夫と言っていたし、身体の傷も完全に治っていたし、身体に何らかの悪意ある魔力は感じなかったから行かせたわ。もう大丈夫よ。美鈴は」

「はぁー......全く。門番もメイドも揃いも揃って......。怪我がないとは言え無理しすぎよ......」

 

 けれども、今までその二人が居たからこそ紅魔館は守られてきた。

 

 ──最近は襲撃らしい襲撃も無かったから身体が鈍っていた。だから次こそは必ず守れる。

 みたいなことを考えているに違いない。しかし、私も実際にそうと思っているから止めようとは思わない。

 

「ふふふ。貴女が言えることではないでしょう?」

「そ、それは......否定はしないわ」

「主人の影響を受けて二人はああなっているのよ。でも、安心なさい。次があれば、私も出るわ。

 けど、次なんて無いんでしょう?」

「えぇ、もちろんよ。次がある前に異変を終わらせる。霊夢や魔理沙よりも早くね」

 

 あの二人ならもう動いていてもおかしくはない。だが私にとってはどちらでもいい。この異変は私が解決する。そして仇討ちという訳では無いが、ここを襲撃したことを後悔させてやるのだ。

 

「おそらく、犯人じゃなくてもルネは黒幕を知っている。まずは話を聞いてみるわ」

「そうね、そうしなさい。さ、早く行きなさい。早くしないと巫女に先を越されるわよ」

「えぇ、それもそうね。......じゃあ、行ってきます」

「行ってらっしゃい」

 

 別れの挨拶を済ませると、私は門の前まで行く。

 そして、美鈴の安否を確認した後に、フラン達と一緒に地底へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──妖怪の山(地底の大穴)

 

 まず初めに思ったことは、何これ、という純粋な疑問だ。

 

 地底へと続く大穴から、黒くて禍々しい煙が天へと昇っていた。

 私は魔力と妖力を持ち、どちらもそれなりに高くて、ある程度は感知できる自信がある。だが、すぐ近くに居てもその煙が魔力を帯びている気配は感じない。それどころか妖力さえも微かに感じるのみで、(これ)の正体は一向に掴めなかった。

 

「そう言えば地底って地上の妖怪が行っていけないとかいう条約が......。あ、でも私はその条約の後に来たから除外されますよね。うんうん。......誰か連れて来ても良かったかも」

 

 だれに話しかけるともなく、一人虚しく話し続ける。

 フランやルナなら快く一緒に行ってくれたかもしれない。だが地底は、特に旧都は妹を連れて行くには危険過ぎる。だからこそ、言わずに出てきたが......それでも一人でミアを広大な地底で探すのは、少し心細い。

 

「......お姉様なら、どうし──っ!?」

 

 上空で誰かの話す声が聞こえた。

 

 とっさに自分を『有耶無耶』にすると、茂みの影に隠れる。

 

「ここね」

「霊夢さーん! 速いですー!」

「それくらい急いでるんだろ。霊夢は勘が鋭いから、それで何か感じたんじゃないか?」

 

 どうやら、異変を解決しに来た霊夢達のようだ。

 しかし、霊夢と魔理沙は分かるが、珍しく早苗も来ている。UFOを探すよりも早くコンビを組んでいるようだが、おそらくは異変を解決しに来たのだろう。

 というより、これだけ目立つのに異変解決に来ないことはないだろう。

 

「別に? ただ急いだ方がいいと思っただけよ。なんたって、二つも異変が起きてるんでしょう? 急がないと次の日が来ちゃうわ」

「お前、早く帰りたいだけかよ......。遠足気分だなぁ......」

「遠足は楽しかったですよ! でも、楽しくないとしても初めての異変解決です。頑張ります!」

「お前もお前で元気だなぁ」

 

 面倒くさそうな霊夢に楽しそうな早苗。どうして同じ巫女なのに両極端なのだろうか。

 

 ──って、異変が二つ!? ......もしかして、運悪く怨霊の異変も......?

 

 もしそうならば、さとりとこいしがもう一つの異変に巻き込まれているかもしれない。

 これは私のせいで起きているかもしれない異変。なら私が助けに行くのが道理。しかし、このまま進んでも霊夢達が先に着いてしまうだろう。

 

 ──それなら、傷付く心配は無いから先に黒い煙を......。

 

 と、一概には言えない。私がいることでバタフライエフェクトが起きているのなら、さとり達が傷つかない保証はないのだ。それに、もう一つの異変に巻き込まれているかもしれない。

 

「じゃあ、降りてすぐに解決しましょう。......この煙、あまり吸わない方がいい気がするから気を付けなさいよ」

「? 霊夢が言うならそうするが......」

「分かりました! ささっ、早く行きましょう! 私、待ちきれないです!」

 

 やはり、ここは一足先に地霊殿へ向かおう。もし普通に大穴から行って霊夢達の道の前を行こうものなら霊夢に気付かれるかもしれないから、霊夢達が行った後に『ワープゲート』から誰よりも早く地霊殿に。

 

 そう決めると、私は霊夢達が大穴を降りていくのを待った。

 

 そして、大穴から降りていく霊夢達を見届けると、ゲートで地霊殿へと向かった────




異変終了後のEX(後日談)を含めれば、本編だけで100話行くかもしれない。というか行かす()


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7、「緑色の目をした妖怪」

稀に、タイトルのネタが無い時があったりする(唐突)

さて、最終章というのもあり、おそらくこれまでで一番長い章になると思いますが、それでもいい方は時間がある時にでも、読んでくださいませ。


 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿

 

 魔法のゲートを通じて、地霊殿のさとりの部屋前まで来れた。

 目立った障害もなく、地霊殿はいつも通り平穏に見えた。

 

「さとり! 居ますか!?」

「居ますよ。......ふむ。異変? お空が?」

 

 部屋には落ち着き払った様子のさとりが椅子に座ってお茶を飲んでいた。

 

 そして、部屋に入るなり早速心の声を聞いたらしい。正しく言うと聞いたではなく、聞こえた、だろうか。さとりには能力の制御ができず、常に周りの人の声が聞こえている。いわば不可抗力なのだ。

 

「なんかすいません。わざわざ心の中まで弁護してくださって」

「あ、いえ! こちらこそ気を使わせてしまい......って、そうじゃなくてですね。さとり。心の中を読んであらかた察したと思いますが、お空を止めてください!」

「とは言われましても......。ペット達にはこの力のせいか避けられていますし、力尽くでしようにも非力な私なんかじゃとても止めれるとは......」

「いえ! ペット達はさとりのことを悪くは思っていないはずですよ!」

 

 少なくとも、お燐はそう思っていないと考えている。

 

 お燐はよくさとりに従い、いつも楽しそうに仕事をしていた。あんなに楽しそうにする娘が、悪く思っていないはずだ。

 

「......ふふふ。確かにこんな私のことを慕ってくれる方もいますね。それにしても、なんだか面白い人ですよね、レナって」

「お、面白いです? 私って......」

「えぇ、とても。考えていることはいつもよく分からないですが、心の中と外で口調が違うのが面白いですね。

 いえ、面白いよりも、本当にお姉さんが......レミリアが好きなんですね。その気持ちがとても強いのが分かります。しかし、それと同時に罪悪感、でしょうか? あっ、いえ。すいません......。無闇に人の心を暴いてはいけないですね......」

「......大丈夫ですよ。それよりも、早く止めに行きましょう」

 

 この異変を終わらせてミアを助けること。

 長い人生を奪ったのも同意な罪を、それくらいで滅ぼせるとは思っていない。

 

 ──しかし少しでも罪滅ぼしになってほしい。本人に許してもらえているがそれでも私は......。

 

「矛盾していますよ。本人には逆に迷惑かと。いえ、私が言えることではありませんが」

「......もしかしたらそうかもしれません。ですが、今は聞けません。だから助けるためにこうしているのです。まだ確実に関わっているとは分かっていませんけどね。それに、おかしな異変にお姉様達を巻き込まさせたくないですから」

「なるほど。異変を終わらせたい本当の理由が聞けて良かったです。

 私も喜んで、貴女の異変解決を手伝わさせてもらいます。よろしくお願いしますね」

 

 さとりが笑顔を見せて右手を出し、握手を求めてきた。

 それに対して、同じように手を出してさとりの手を握る。

 

「はい。こちらこそよろしくお願いします」

「では、早速お空のところに行きましょう。巫女達よりも早く行かないと面倒なことになりそうですからね。中庭に地下へと続く穴があります。お空が居る場所はそこから行けますよ」

「ここからさらに地下もあるのですね......。行きましょう。準備はできています」

「えぇ、行きましょうか」

 

 さとりに引き連れられた私は、中庭を通ってお空の場所へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Hakurei Reimu

 

 ──地底の大穴

 

 私達は深く長い大穴を降り、上から差す少しの光もない地面へと降り立った。

 そこでも黒い煙が満ちており、念のために布を口に当てたりして、私達は煙を吸わないように細心の注意を払っている。

 

 黒い煙は視界を悪くさせ、先へ進むことを拒むように煙の密度は地上よりも濃くなっていた。

 

「この煙を追っていけば異変の黒幕にでも会えるのかしら。それにしても煙というか、霧みたいね。これ」

「そうですねー。というかこれって霧なんじゃないですか?」

 

 付いてきていた早苗が陽気な声で訪ねてくる。

 敵地と言っても過言ではないこの場所で、どうしてこの子は元気なのだろうか、と疑問に思う。

 

「どっちでもいいんじゃないか? 対して違いはないだろ?」

「何を言ってるのですか魔理沙さん! 意外と違いますからね!」

「お、おぅ、そうか......」

『毒素を含んでいるかどうか、それだけ気を付けて進みなさい』

「......え? 今の誰?」

 

 どこからか、私達三人以外の声が聞こえた。

 どこかで聞き覚えがあるものの、今いる三人の誰でもないことだけは確かだ。

 

「いや、私じゃないぜ。早苗じゃないのか?」

「私でもないですよ。というか今の声、紫さんじゃ......?」

「えぇ......、いやいや。ここまで来てあの妖怪の幻聴とか聞きたくわないわ」

『......陰陽玉を通じて、会話ができるようにしておいたのよ。貴女がサボらないように』

「えっ!? これから聞こえているの?」

 

 懐から出して耳を当てると、確かにそこから音が聞こえていた。

 

 どうやら声の言う通り、行く前に紫から貰った陰陽玉が通信機の役割を果たしているようだ。

 ──あの妖怪、私のこと信用しているのかしてないのか......全く分からないわね。

 

「ほへー。凄いなそれ。そういや、私もアリスから攻撃支援とか言って、人形を渡されてんだよな。もしやそれも......いや、まさかなぁ」

『それも私が用意した物ですわ。山の巫女が行くことは想定外でしたので、そちらの分は用意してませんが。

 いずれその人形で、アリスから連絡があることでしょう』

「怖っ。話す人形もそうだが、どうしてそこまで手が回ってんだよ......」

「はいはい。話は後でいいから先に進むわよ」

 

 途中で話を切らせると、旧都の入り口へと足を踏み入れる。

 と言っても、視界が悪い中歩いていくよりも空を飛んだ方が安全と判断し、飛んで向かっているのだが。

 

「......あら? 何かしらこれ」

 

 手探り状態の中、ゆっくり進んでいると、下に薄らと橋のような何かが見えた。

 

 下に川でも流れているのか、意外と大きい気がする。

 

「あ、霊夢さん。これって橋ですよ。ほら、よく見ると両脇に手すりも付いていますし、下から水の流れる音もしますし」

「それは見てわかるけど、よく聞こえたわね」

「ちょっと待ちなさい。そこの貴方達。......もしかして人間?」

 

 霧の中、前へ進むのを遮るように人影が現れた。

 霧で姿はよく見えないが、その人影の目は緑色に光っているように見える。

 

「私達は異変を解決するため。

 そして妖怪を退治するためにやって来た人間。いえ、風祝です!」

「それ、あんただけね。私は普通の人間よ。だからそこを通してくれる?」

「だから、の意味が分からないわ。ここは人間の来るところでは無い。

 それに見て分かる通り、今は普通じゃないの。潔く帰った方が身のためよ」

「帰ったところで異変が終わるわけないでしょう? この異変は迷惑なの。無理矢理にでもここを通らせてもらうわよ」

 

 視界が悪い中、相手の光る目だけを見据えて御札を構える。

 

 私の行動に気付いてか、魔理沙と早苗も戦闘態勢に入っていた。

 

「別に通さないとは言って......勘づかれたわね。探知範囲広いだなんて妬ましいわ。

 貴方達! 先に進むつもりなら付いてきなさい! 逃げるわよ!」

「はあ? どういうこと?」

『......霊夢。その妖怪の言う通りにした方がいいですわ。強い妖力がそちらに向かっています。無駄な時間と労力を消費する必要はありませんわ』

「ふーん。......確かに、嘘じゃないようね」

 

 集中して周りの妖力を探ってみると、拡散する霧らしき弱い妖力の中に、一際強い妖力が二、三程近付いているのが分かった。

 

 この強い妖力は前にも感じたことがある。おそらくは鬼か、それと同等以上の何かだろう。

 

「あ、確かに誰か来ているようですよ! 退治しましょうか?」

「人間が適う敵じゃないわ。......その自尊心も妬ましい」

「......勝てなくもないけど、めんどくさいことには変わりないわ。それに、地底(ここ)で何が起きているのかも知りたい。

 逃げた先で教えてもらうわよ?」

「それくらい、お易い御用よ。ひとまず付いてきて。できる限り霧に隠れて、ゆっくり。見つかって戦うことになる前にね」

 

 姿も見えぬ妖怪の言う通りにすることも癪だが、いつもの勘でそうした方がいいと思ったのもあり、妖怪の後に付いていく。

 

 

 

 妖怪に連れられた場所は、通りに立ち並ぶ平屋の一つだった。

 中はほとんど人と変わらない生活風景を思わせる作りで、人間の家だと言っても差し支えなかった。

 

「ここまで来れば大丈夫......なはずよ」

 

 平屋の中までは霧は入っておらず、電灯もあるので妖怪の姿もはっきりと見える。

 その妖怪は金色のショートボブと緑色の目を持ち、妖怪と分かりやすく尖った耳を持っている。そして、口には布を巻き付け、霧から身を守っているようにも見える。

 

 何の妖怪か分からないが、嫉妬心が強い妖怪とだけは分かった。

 

「それにしても妬ましいわ。地上って陽の光を浴びれるし、風の巡りも感じれる。どうしてこんな忌み嫌われた者が集まる地底なんて来たのよ。地上の方がよっぽど幸せに暮らせるわよ」

「その地上もあの霧のせいで真っ暗闇なのよ。おまけに神社に鬼が来て襲撃されたり......」

「......鬼達に狙われているのね。ここも、今では自由が無くなりつつあるわ。

 この霧が現れてから一週間かしら。とにかくこれを長時間吸った妖怪達は正気を失ったり他の妖怪を襲ったり......色々とひどいのよ」

 

 そんなに危険だったとは知らなかったが、霧を吸わないようにしていて正解だったようだ。というよりも、こんな霧の中、吸わないように気を付けないわけがないのだが。

 

「そんなことが起きていたとはな......。おい、紫。お前は何も知らなかったのか?」

『......知ったのは最近のことです。そして、妖怪には不可侵条約があるので、手が出せないでいました』

「......妖怪の賢者ね。別に地上の妖怪は恨んでいないけど、今まで安全だったなんて妬ましいわ」

「もうそれはいいから。で、具体的に説明してもらいましょうか。この霧のこと、地底のことを」

「そうね......。戦う覚悟もあるみたいだし、話してあげるわ」

 

 そうして始まる妖怪の言葉に、私達は耳を傾けた────




次回、戦闘あったりするから大変だったり、じゃなかったり()


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8、「八咫烏退治」

 side Hakurei Reimu

 

 ──地底(とある平屋)

 

「さて、まずは何から話そうかしら」

 

 妖怪は口に巻いた布を外しながら、話を始めた。

 

「まず、私は水橋パルスィ。橋姫よ。地上と地下を繋ぐ入り口の門番をしているわ」

「そう。橋は門ではないけどね。で、あれの原因って一体何なの?」

「せっかく自己紹介してあげたのに......。さっきも言ったけど(あれ)が現れたのは一週間ほど前よ。あの時も、私はいつも通り橋の上にいたわ。だから霧が来るよりも早く異変を察知して対応できた」

 

 一週間......おそらく地底よりも広い幻想郷が一日で黒い雲に覆われたというのに、どうしてそれだけの日数がかかってしまったのだろう。

 この妖怪が嘘をついているようには見えない。ということは、黒幕側で何かあったと思うが、何があったのかは全く分からない。

 

「あれの原因は知らないわ。だから知っていることだけを教えてあげる。あれに触れた妖怪は正気を失ったかのように周りの妖怪を襲い始める。でも、能力も技も何も使わず、ただ力だけを使って襲うみたいよ」

 

 その行動は前にも見たことがある。黒い雲が広がる前だが、その時に襲ってきた鬼がそうだ。

 

 しかし、あの鬼は私だけを狙っているように見えた。もしかしたら、何かが違うのかもしれない。

 

「ふーん。お前もどっかの門番みたいに暇そうだな」

「唐突ね。でも実際暇よ。地上から誰かが来るなんてそうそうないから。でも何故か妬ましいわね、その門番」

「なんでも妬ましく思いすぎじゃない?」

「それくらい幸せに生きてきたのよ、貴女は。私は生まれた時から辛い生活をしてきたから、幸せな貴方達を妬ましく、羨ましく思ってしまう。貴方達はこんな場所に居るべきではないわ。早く帰った方が身のためよ......」

 

 このパルスィとかいう妖怪、妖怪にしては珍しく人間に友好的らしい。普通は人間を心配するなど妖怪には有り得ないことだ。

 神社に集まる一部の妖怪はともかく。

 

「そう。でも異変を解決しに行くわ。あの霧があると色々と困るのよ。洗濯物が乾きにくかったり、日光浴ができなかったり」

「ふっ。霊夢らしいな。もちろん私も行くぜ! 異変解決は人間(私達)の仕事だからな」

「そうですね! 人間様(私達)の仕事ですから私に任せてください!」

「貴女だけニュアンスが違う気がするわ。でも、ここにいる人間の考えることは同じ、異変を解決する、ということよ。

 だから、異変の黒幕について何か知っていたら教えて。どんな些細なことでもいいから」

 

 真っ直ぐと相手の緑色の瞳を見つめて懇願する。

 

「そうねぇ......」

 

 こうして見られることに慣れていないのかパルスィは目を逸らしながらも、話を切り出した。

 

「それくらい覚悟があるなら教えてもいいわ......。霧がどこから発生しているのかは今でも分からない。だけど、霧が今でも無い場所なら知っているわよ......」

「霧が無い場所? 確かにそれは怪しいわね。それって何処なの?」

「旧都の中心部に位置する西洋風の建物、地霊殿。そこだけ霧が無いらしいわ。その建物を囲むように霧は出ているけど」

「ふーん。で、誰も行ってないの? そこへは」

 

 普通、そんなに怪しい場所なら誰か一人くらいは話を聞くなり、犯人だと思って襲撃するだろう。ここは、そういう妖怪が多く存在する場所なのだから。

 

「私は知らないわ......。でも、そこを守っている妖怪が居るとか。そこだけ霧が濃くて近付くだけで正気を失うという話よ」

「なるほど。何も分かってないのね」

「これは行ってみるしかないですね! 霊夢さん、魔理沙さん。行きましょう!」

「そうだな。これは行ってみるしかないぜ」

「そうねぇ......」

 

 乗り気な二人とは別で、私は少し不安を感じていた。

 

 この妖怪が嘘をついているとは思えないが、どうして霧の無い場所のことを知っているのだろうか。この妖怪は門番と言っていた。なら、なかなか中心部など行かないはずだ。そして、例え行っていたとしても地霊殿に霧がないことを知っていて、どうして地霊殿に入れないか知らないはずがない。行っているなら、その地霊殿の近状を目にするはずだ。

 

「もしかして......その霧の話、誰かから聞いた話だったりする?」

 

 ──話の最中、「らしい」や「という話」など、まるで誰かから聞いたかのように話していた。ということは、誰かに聞いた話である可能性がある。

 

 もしも本当にそうだとすれば、有耶無耶なことをパルスィに言っているそいつも怪しくなる。地霊殿へ私達の目を向けさしたいのか、地霊殿へ誰も近付けたくないのかは分からないが。

 

「よく分かったわね。そうよ、私も聞いた話なのよ。地霊殿のことは」

「やっぱり......」

「おい霊夢。どういうことだ? 私達にも分かるように言ってくれよ」

「簡単に言えば、そのパルスィに言った奴も怪しいってことよ」

「怪しくても、異変の黒幕側では無いと思うわよ......」

 

 話を遮るように、パルスィが割って入る。

 

「その人、私を正気を失った鬼から守ってくれたのよ。見ず知らずの私を......。

 そんな人が黒幕側だとは思えないわ。はぁー、あの強さが妬ましい」

 

 自分を助けてくれた人を疑いたくないのだろう。だが、それでも怪しいことは変わらない。

 

「助けておいて実は敵だった、みたいなパターンはよくあるぜ。前にフランから借りた漫画にもあったぞ」

「それ、二つの意味でよくないわよ。魔理沙の言う通りかもしれないわね。貴女は門番なのでしょう? なら私達と会う可能性は高いから、その情報を流すために守ったのかもしれないわ」

 

 善意で守っていたら失礼な話だが、その可能性も無い訳では無いのだ。

 情報が少ない中、少しでも手がかりを見つけ出す必要がある。

 

「......出来過ぎた話ね。でも、そう思うなら一度会ってみるといいわ。

 その人の特徴は蒼い髪と目。外見年齢は十歳ほどで、背中には大きな蝙蝠のような翼が生えている。あぁ。あと名前はルネと言っていたわ」

「ルネねぇ。知らない奴だわ。狂ってたとは言え鬼を倒すくらいだから、強いのは分かるけど」

「なぁ。そいつ吸血鬼じゃないか? 要はレミリアみたいな奴だろ?」

「......あぁ、確かに言われてみれば似ているわね。特徴が」

 

 髪や目の色は違うが、外見年齢が若くて背中に大きな翼が生えているというのは、特徴がレミリアと一致している。

 しかし、もし吸血鬼ならば尚更怪しくなる。

 

 あの地上にできた雲は弱点である陽の光から身を守るためであり、地上へ侵攻するために作ったのではないか、という動機が出来てしまう。

 

 ──先に、そいつと一度会うのもいいわね。

 

「......私はそいつと会ってみたいと思うわ」

「おいおい。先に地霊殿に行かないか?」

「地霊殿のことはそっちに頼むわ。貴女もアリスを通して縁から通信できる人形を貰っているんでしょう? なら連絡は大丈夫よ」

「それはそうだけど......」

「要約すると、私達を信頼してくれているんですね! 分かりました。私達はその期待に答えてみせます!」

 

 間違ってはいないが、早苗は少し過大解釈しているようだ。

 だが、そのやる気が良いことは素直に尊敬できる。

 

「......はぁー。分かった。早苗も乗り気みたいだし、二人で何とかしてみるぜ」

「ありがとうね、魔理沙。パルスィはここで待っていてくれていいわよ。多分、危険になるから」

「私は門番よ。だから橋で見張りをしているわ。鬼が来てもさっきみたいにすぐに気付くから大丈夫よ」

 

 この妖怪、意外とチャレンジャーらしい。

 だが、巫女である私の優先事項は異変解決であって、本人も大丈夫と言っているなら私にはどうすることもできない。

 

「......少しでも危ないと思ったら、逃げなさいよ?」

「えぇ、もちろんそうするわ」

「では、善は急げですね! 行きましょう!」

「急ぎすぎるのもっ! はぁ。霊夢。私達は先に行ってるからなー!」

「霧を吸わないようにしなさいよ!」

 

 先に急いだ早苗を追って、大慌てで魔理沙が外へと出ていった。

 

 ──少し心配だけど、あれでも巫女。ここぞという時にはやってくれる......よね?

 

「......そう言えば、貴女はどうするの? ルネが今何処にいるかなんて、私にも分からないわよ」

「えぇ、そうでしょうね。知ってたらビックリするわ」

「なら、どうするつもり? どうやって探すの?」

「そんなの決まってるわ。勘よ」

 

 首を傾げるパルスィを残し、私は先の見えない霧の中へと入っていった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿(灼熱地獄跡)

 

 さとりと一緒に、地霊殿の中庭から地下へと降りていく。

 

 地下へと近付いていくほど暑く感じる。それどころか、身に付けている金属の紅いネックレスや指輪が触れるのも辛くなるほど熱い。

 しかしフラン達から貰った物や魔法の補助道具をそう簡単に外せないため、熱いのを我慢して付けている。

 

 ──吸血鬼の身体でもこれだけ熱いなんて......。さとりは大丈夫かな......。

 

「......ご心配なさらずに。私は平気ですよ。暑いのは暑いですが。

 それよりも、貴女の方が心配です。下まで行くともっと暑いですから......」

「こ、ここより暑いのですね......。あっ、ま、魔法を使えば......」

「......暑いの、苦手なんですね......」

 

 暑さで意識が朦朧とする中、簡単な冷却魔法の詠唱を唱えた。

 

 すぐに周りが冷たい風に覆われ、朦朧としていた意識もハッキリしてくる。

 

「ふぅー......。暑かった......。あっ、さとりにも今かけますね!」

「え? あ、ありがとうございます。......おぉぉ、涼しいですね」

「魔法って便利ですよね。それにしても意外と深いですね」

「はい。ですが、もうそろそろで着きますよ。......ほら、見えてきましたよ」

 

 そこは、荒々しく揺れる炎の床に、それに照らされる黒く暗い天井が広がる場所だった。まるで灼熱地獄にでも居るような異様な暑さに、冷却魔法を使っているはずの私も汗を流す。

 

 ──確かに、元は灼熱地獄だったらしいけど、ここまで暑いとは思ってなかった。おそらくは、ここでお空が......。

 

「あー。誰か来たー。風のうわさで聞いた地上の人ー?」

 

 灼熱地獄跡の中心、そこには宇宙空間のようなマントを付けた高身長の女性が居た。

 電子が絡みついた足に、多角柱の制御棒が付いた右腕。そして、胸には大きな紅い目。これらの摩訶不思議な物を身に付けた女性は、私達を見て話しかけていた。

 

「お空。私です、主のさとりですよ」

「え? さとり様ー? でも、こんな場所に居るわけないし......」

「貴女のことを聞いてここまで来たのですよ。お空。その姿は一体......」

「でもー......この力をくれた人が誰か来るなら地上の人って言ってたし、きっとさとり様に化けた人なんだねー。

 さとり様の姿を真似るなんて小癪なー」

「えっ!? い、いえ、私は......!」

「もんどーむよーっ! 私の新しい力を見せてあげる!」

 

 さとりの話も聞かずにお空は制御棒をこちらへと向ける。

 ──さとり、ペットに疑われるなんて......。

 

「そ、そんな可哀想な人を見る目で見ないでくださいっ!」

「いくよ!『爆符「ギガフレア」』 ッ!」

「最初からギガですか!?」

 

 止める間もなく、お空がスペルカードを宣言した。

 

 それと同時に制御棒が赤く光り、みるみるうちにその光が大きくなっていく。

 

「えっ!? ちょっと──!?」

「っ! さとり!」

「ハァァァァ!」

 

 お空の狙いがさとりだと気付いた時には、既に制御棒から光の束が発射された後だった。

 

 急いでさとりの手を取り、光から逃れるように引き寄せる。

 

「間に合わないっ! 来い! 『魔剣「ガラディン」』!」

 

 ──避けれない。

 

 そう判断した私は魔剣を召喚し、それを空いている左手で力強く握る。

 

「さとり。私の後ろへ! せい──へっ!?」

 

 さとりを後方へと下がらせ、両手に持ち替えた勢いよく剣を振ると、魔剣から通常の三倍ほどもある弾幕の特大ビームが放たれた。

 

 多少驚くも、魔剣のビームがお空の弾幕と当たると同時に、我に返される。

 

「つっよ!? ソロモンの指輪っ! 補助、威力強化!」

 

 魔力の補助を受け、威力が上がるも魔剣を握る手が震え痺れる。

 

「っ......はぁっ!」

「おー。どっか行っちゃったー」

 

 弾幕の威力が想像以上に強く、軌道を逸らすことでしか避けることができなかった。

 ──吸血鬼の私が押し負けるなんて......。

 

「はぁ、はぁ......さとり。ちょっと無理です、お空の相手は」

「は、はい......。いえ、大丈夫ですよ。そう落ち込まなくても......。それよりも、以前のお空はあれほど強くも異形な物も......え? 八咫烏の力? ......なるほど。通りで強いわけです」

「本当に会話要らずですね。......さとり。お空を無力化してもいいですか?」

「......はい、お願いします。本来、私の仕事なんでしょうけど私じゃ......え? 友達なんだから気にしないで? そうなんですか? ......ふふっ。ありがとうございます」

「お礼を言うのはこちらの方ですよ。さて......」

 

 さとりからの許可を得ると、すぐさまお空を見やる。

 

 お空は既に次の準備を始めているらしく、制御棒には赤い光が集まっていた。

 

「あ、お空を無力化した後のケアは任せます。......たまには、お姉様みたくカッコつけてもいいですよね。

 こんなに空が暗いから本気で行きますよ」

 

 姉を真似、姉がいつもやっている胸の前に両手を置くというポーズをとる。

 

 正直、どうしてこのようなポーズをとっているのか分かっていない。そして、内心少しずつ羞恥心が芽生え始めていた。

 

「......ほ、ほら、吸血鬼って夜の帝王ですし」

「......内面恥ずかしがっているのは分かりました」

「べ、別に私は......!」

 

 誰にともなく慌てて言い訳するも、それを指摘されてさらに恥ずかしくなってしまった。

 顔が触らなくとも赤く、熱くなっていくのが分かる。

 

「......はぁー。もういいです。あ、さとり。狙われないように、透明化の魔法を」

「あっ。ありがとうございます」

 

 そう言ってさとりに魔法をかけ、改めてお空と向かい合った。

 

 制御棒は先ほどよりも大きく、眩しい光が集まっている。

 どうやら八咫烏の力も相まって太陽の力もあるらしい。少し肌がピリピリと痛む。

 

「お待たせしましたね。......今から私は認識されず、ただ有耶無耶に。......今思えば、これも割と......」

 

 言葉を濁しながらも自分という存在を有耶無耶にし、有耶無耶にした弾幕をゆっくりとお空の周りに配置される。

 

 そして、弾幕が渦のように回り始め、逃げ道を無くす。

 

「......あれ? どこいったんだろ?」

 

 もちろん気付かないお空は首を傾げ、見えないさとりをキョロキョロと探す。

 

 無防備な相手に攻撃するのも気が引けるが、時間もあるか分からない状況でそうも言ってられない。

 ──ごめんね、お空。

 

「聞こえもしないでしょうが、行きますよ。『輪廻転生「ウロボロス」』」

 

 静かに唱えると見えない渦状の弾幕から、お空がいる中心へと弾幕が散りばめられる。

 

 そして次第に渦が小さくなっていき、最終的に全ての弾幕がお空へ衝突した────




見えない弾幕ほど怖いものはない()

一つの異変は終わりへと近づき、もう一つの異変は......。


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9、「蒼い吸血鬼と博麗の巫女」

予定よりかなりかかって申し訳ないです。戦闘描写って大変ですね()


 side Hakurei Reimu

 

 ──地底(旧都)

 

 平屋を出て、霧の中を勘を頼りにして進んでいく。

 

 すると、妖力の強い妖怪が私に気付いてか近付いてくるのが分かる。

 どうやら、霧に触れている者を感知することができるらしい。

 

「......このまま進むのもいいけど、この先には何かあるのかしら。

 ねぇ、紫。何か知らない? ......紫?」

 

 傍で浮いている陰陽玉に声をかけるも、返事が返ってこない。

 

 それどころか、何も話していない時も多少なりともあちらの音は聞こえていたはずなのに、今では全く何も聞こえないのだ。

 

「何かあったの......? あら。あっちも大変ね」

 

 近付く妖力とは別に、中心部に複数の強い妖力とその中でも一際強い妖力を感じた。パルスィの話によると魔理沙達が向かった地霊殿は中心部にあるという。おそらくはそこに何かが集まっているのだろう。

 

 魔理沙のことは少し心配だが、今回は早苗がいる。早苗の能力は時間をかければ強い。そして魔理沙も何度も修羅場を乗り越えてきている。

 今のあの二人が一緒なら、大抵の敵には勝てるだろう。

 

「さて、と。出てきなさい。近付いてから妖力隠すとかすぐバレるに決まってるじゃない。もちろん近付く前から気付いてたけど」

 

 声に反応して、背後の平屋の影から三人分の足音が聞こえてくる。

 

 背後を振り返ると案の定、頭に角を持つ鬼らしき妖怪が三人、私をじっと見据えていた。

 

「あの時の労力が三倍ね......。しかも今度は魔理沙がいない、と」

 

 今回も私だけを狙っているのなら簡単に終わらせることはできるかもしれない。しかし、相手が多数である以上、油断をすれば負ける可能性は非常に高い。鬼の力は極めて強力で、一撃でも当たれば並の人間なら死んでしまうのだ。

 

 ──さしずめ、どれか一発でも当たれば負けという弾幕ごっこのようなものね。得意分野だわ。

 

「わァァァ!」

 

 一人の鬼が奇声とともに、私の方へと突進する。

 対して残りの二人の鬼は多少の知性が残っているのか、ゆっくりと左右に別れて向かってくる。

 

「あら。やっぱり操られているのか、知性は低いみたいね」

 

 とは言っても、一撃だけでも危うい。そして受け流すのも不可能。

 私には避けることしかできない。

 

「......操られているなら気絶か封印ね。でも無理だったら諦めてちょうだい」

「グァァァ!」

 

 鬼は話も聞かず、近付いてくると大きく腕を振りかぶった。

 

「せめて『はい』とか『いいえ』でも言いなさいよ、っと!」

 

 それをしゃがんで避けながら、素早く懐から御札を取り出す。

 

「──まずは一人目」

 

 そして、その御札を鬼の背中に貼り付け、少しだけ距離を置くと、祈るようにして手を握る。

 

「終わりよ。『神技(しんぎ)八方(はっぽう)鬼縛陣(きばくじん)」』! 」

 

 そうスペルカードを宣言し、鬼を『封魔陣』よりも強力な結界の中へと閉じ込めた。

 

 本来は自分を中心に鬼からも身を守る術を、御札を中心として鬼を封印する術へと転換させた。

 

「グガァァァ!」

「無駄よ。萃香でもそれを破るのに時間がかかったわ。

 正気を失い知性もないただの怪物にこれが破れるとは──」

 

 少しだけ油断した隙に、封印した鬼の両側から来た鬼達に大振りの拳を食らう。

 

「──危なっ」

 

 しかし、宙へと逃げることで攻撃を避け、再度、懐から数枚の御札を取り出した。

 

「遅いわよ! 食らいなさい! 『霊符(れいふ)夢想(むそう)妙珠(みょうじゅ)」』!」

 

 鬼の真上から八つの追尾性のある霊力弾を放つ。

 

 それは二人の鬼へと四つずつ当たり、一時的に動きを止め──

 

「これで終わりよ! 『夢境(むきょう)二重(にじゅう)大結界(だいけっかい)」』」

 

 ──その鬼達に対し、結界を展開してその中へと閉じ込めた。

 

「が、がァァァ!」

 

 すぐに鬼達は結界を壊そうと大きな拳で殴り始める。が、殴る音が響くだけで結界はびくともしなかった。

 

「これで終了。そう簡単に私を倒せるとでも思ったのかしらね?」

 

 鬼は封じたが、いつ結界を壊すか分からない。

 

 そう思い、私はすぐさまその場を離れようと歩い──

 

「──っ!?」

 

 突如、すぐ近くの背後から強い妖力を感じた。

 

 後ろを振り返る間も無く、せめて頭だけでも、と頭と首を守るように急いで手を回す。

 

「っ......? え?」

「大丈夫ですよ」

 

 どうしてか、背後に感じた妖力はすぐに小さくなり、代わりに優しい声が聞こえてきた。

 

「貴方を襲った鬼は既に夢の中です。お怪我は......えっ?」

 

 恐る恐る背後を振り返ると、そこには地面に倒れた鬼と青い目と髪、そして背丈に合わない大きな翼を持つ少年が立っていた。

 

 その男性からは妖力を感じず、どこかで感じたことのある雰囲気を持っていた。

 

「も、もしかしてれい......に、人間ですか?」

「......えぇ。そうよ。貴方がパルスィを助けた吸血鬼、ルネかしら?

 どうやら本当に善意で人助けをしているみたいね。最初は見ず知らずの私を助けようとしたみたいだから」

「......確かに僕はルネです。ですが、助けているのは善意とは違います。僕のこの行動は罪滅ぼし。この異変は、僕がいるせいで起きたことですから」

 

 どうやら、勘は当たっていたらしい。

 目を見る限り、嘘を言っているようには見えない。この少年は、本当に異変に関わっているのだろう。

 

「詳しく説明して。私はこの異変を終わらせたいの。迷惑だから」

「そうでしょうね。地上には今頃雲が出来ている頃でしょうか。次第にそれは下へも広がり、霧となって幻想郷を覆い尽くすでしょう。まるで『紅霧異変』のように」

「詳細を知っているということは、異変を起こした奴のことも知っているのかしら? いえ、それよりも地底に暮らしているのに『紅霧異変』のことを知っているの?」

 

 確かにあの霧が地底まで来れば知ることはできる。

 だが、名前まで知ることができるものなのだろうか。

 

「......以前は、地上に暮らしていましたから。遠い昔のことですが」

「......? まあいいわ。で? この異変を起こした奴は一体誰なの?」

「それは......僕の兄弟、フリッツとジョンです。そして、妹も僕の兄弟に利用されています」

「兄弟? ってことは、貴方も協力していたりとかは......?」

 

 助けてくれた相手だが、異変に協力しているなら倒さないわけにはいかない。

 

 恩を仇で返すことになっても、異変を解決するのが巫女としての役目なのだ。

 

「......最初の頃は協力していました。妹も人質に取られていたようなものでしたし、そもそも僕では兄達に勝つことはできませんでしたから。従うことしかできなかったのです」

「そう......。でも、今はどうなの? 協力しているの?」

「いえ。今は協力していません。そもそも僕はもう必要とされていませんから。

 今は兄達の目を盗んで、こうして襲われている人を助けたり、これは最近からですが、戦力を削ぐために召喚された魔神を元の世界に送り返したりしています」

「ち、ちょっと待って。魔神って何?」

 

 もしかして、この異変に神様も関わっているのだろうか。

 流石に紫が人の手によって終わらせなければならない異変、と言っていたのだからそんな可能性は無いはずだ。

 だが、万が一のことがある。もし神様も関わっているのなら魔理沙と早苗のことが心配だ。

 

「僕が協力していた時に偶然見つけた魔導書から召喚したものです。今は召喚した魔神のほとんどを元の世界へと送り返せましたが、既に召喚されたことによる何らかの影響が起きている可能性もあります。ですから兄のことよりも本来はそちらを優先すべきなのでしょうが、それも兄達に邪魔されているので、こうして一人で人助けしながら魔神を探しているのです」

「な、なるほど......? 終わったら紫にでも相談した方がいいわね。って、紫との通信が切れてたんだけど、何か知ら......知ってるわけないわね。そもそも意味も分からないでしょうし」

「通信系なら、おそらくは兄達に妨害されているのでしょう。......ここで話しているのも危険ですね。歩きながら話しましょう」

 

 そう言ってルネは真っ直ぐと大通りの真ん中を歩き始めた。

 

 見失わないように急いで追いかけ、ルネの横へと付く。

 

「話を戻しますが、兄達はとても凶悪なことをしようとしています。兄自身の『霧散させる程度の能力』で妹の『気を付け外しする程度の能力』を利用した正気を外して狂気を植え付ける、という能力を霧にして地底を、幻想郷を支配しようとしているのです」

「能力を霧散させる? 凄いわね、それ。というか、それだけで支配できないと思うわよ。紫がいれば一発で終わりそうだから」

「はい、そうでしょうね。ですが、兄はそうは思っていません。ですから困っているのです。嫌いとはいえ兄は兄。できれば死なせたくありません。しかしながら、ここまでやった償いはして欲しいのです」

「......そう」

 

 兄思いの良い妖怪みたいだが、このような形で幻想郷を支配しようなどすれば紫から鉄槌を下されるのは周知の事実。知らないで済まされないことだ。

 

 ルネには悪いが、その兄は死に近い形で償わさせられるだろう......。

 

「......できれば、兄を止めてください。僕にはそれができません。能力も魔法も霧散させて効果を失わさせる、ということが兄には可能なのです。ですから私の手は全て効かない。その上、兄には強制(ギアス)という魔法で近付くだけで絶対命令に服従しなければならないのです。だから僕には止めることも近付くこともできない。

 僕では、どうすることもできないのです。......今の僕では何も......」

 

 虚空を見つめるその顔は、どこか悲しげな感情を含んでいた。

 

 何を思っているのかは分からないが、とにかく深い悲しみが支配しているのが分かる。

 

「......言われなくても止めるわよ。それが私の使命だから。で? 兄の場所はどこ? 今向かっているの?」

「あ、いえ。今はそこへは向かっていませんよ。僕は兄に近付けませんし。兄は地霊殿という場所にいます。今日、そこにいる人達を殺し、そこを根城とする予定のはずです」

「地霊殿!? 魔理沙達が行った場所じゃないの。ということは、私もそこへ行かないと──」

「ま、待ってください。その前に、やって欲しいことがあります。仲間を守るために捕まってしまった鬼の四天王が一人、星熊勇儀を助けて欲しいのです。僕は魔法によってそこへも近付けませんから......」

 

 ──色々と制約があり過ぎるわね、この子。

 

 でも、鬼の四天王と言えば萃香と同等の力を持つ鬼なのだろう。

 そいつが協力してくれるとなれば、鬼に金棒だ。

 

 ──本来、巫女である私が妖怪と協力するなど以ての外なんだけど。

 

「......いいわ。案内してちょうだい」

「このまま真っ直ぐ行くと、鬼が集まっている場所が見えるはずです。そこの近くの牢屋に勇儀がいます」

「そう、分かったわ。じゃあここで待っていて。すぐに終わらせるわ」

「はい。......っと、あ。いえ。少しやることが増えたので、ここでお別れです。大丈夫、また会えますから」

「えっ? ま、まあいいわ。それじゃあ......また会いましょう」

 

 そう言って、一人、鬼の集まる牢屋へと向かっていった────




次回はおそらく水曜日に投稿です。火曜日には吸血鬼(ryの方も上がると思う

2017/11/28追記:諸事情によりこちらの方しか上がらないと思います。申し訳ない。


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10、「カゴの中の地霊殿組」

閑話とも呼べそうなお話。でも割と説明回()


 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿(さとりの部屋)

 

「ゆっくりですよ。そう、ゆっくり......」

 

 気絶したお空を近かったさとりの部屋に、そう言われながら注意してベッドの上に寝かせる。

 

 お空は、私の卑怯でもある見えない攻撃を多数受けて気絶してしまった。

 少しやり過ぎた感もあり、自ら進んでお空を部屋まで運んできた。

 

 ──宙に浮かせて運んでいたから苦じゃなかったけど。だから、まだ罪悪感がちょっとだけ残っていたりする。

 

「そう思わないでください。私一人ではお空を止めれませんでしたし、ここまで運ぶことも困難でした。それに、貴女の力が無ければお空はあのままだったでしょうし......」

「そ、そうです? ......嘘でも励みになります」

「......嘘ではないですけど」

 どうしてか気まずい空気が流れ始めていた。

 いや、正確には理由なら分かっている。

 

 止めるためとは言え、私が思ったよりもお空が打たれ強く、弾幕による気絶をさせてしまったからだ。

 さとりからして見れば、助けられたのか傷付けられたのか、怒ればいいのかさえも微妙なところなのかもしれない。

 

 ──もちろん、傷は責任をもって治したけど......。それでも傷を負わせたのは......。

 

「......レナ。私、怒ったりとかしてないので本当に大丈夫ですから......。ですが、しっかりお空に謝ることは......」

「は、はい! もちろんです! ......私が魔法をもっと上手に使えていればこんなことには......」

「......お、お空はもう大丈夫ですし、この話はここまでにしましょうか。

 今はそれよりも、貴女のことです。異変は一つ解決したと言ってもいいでしょうけど、まだもう一つの異変は誰が犯人かとか目的とか分かってないのでしょう?」

 

 さとりの言う通り、犯人はおろか、目的なども一切知らない。

 知っていることと言えば、黒い雲が幻想郷中に広がっていることとその雲が嫌な感じがすることくらいだ。

 

「なるほど......。要するに、地底(ここ)の現状も知らないということですね。......言うのを忘れていた私の責任でもありますが」

「えっ? こ、ここって......一体どういうことですか?」

「地底の大穴を見た時に登っていた煙を見ているならだいたいの察しはつくはずです。その雲は、ここ、地底では既に霧として広がっているのです。いつか話してくれたレミリアの起こした異変のように。

 そして......、噂では、その霧を吸った者は精神を侵されて正気を失ってしまうとか。精神力が強い者なら大丈夫らしいですが、私にはとても......」

 

 お姉様の異変と言えば、『紅霧異変』のことだろう。しかし、あの時の霧は私達が弱点である太陽に邪魔されず、自由に外を出歩くために作られたものだった。人体に多少影響するとは言ってもそれ自体が目的ではなかった。

 

 対して、この異変の霧は日も届かぬ地底の中で、それ自体が目的とも言える悪意のある霧を広めている。

 まるで誰にも知られないように霧を広めているみたいだ。

 

「おそらくは、地上に気付かれないようにでしょうね。かく言う私は昨日まで気付きませんでしたが......」

「昨日まで? 何かあったのです?」

「いえ、ただ単に外にあまり出なくて気づかなかっただけです......。それに、どうしてか地霊殿の周りには霧が集まっていないようで......それも発見が遅れた理由です」

「霧が集まっていない? 無いってことです?」

「はい。......見てもらった方が早いでしょう。そちらの窓から外が見えるはずですよ」

 

 そう言って、さとりが一つの窓を指差した。

 

 その窓へ小走りして向かい、外を覗き込む。

 

「えーっと......暗くて見えにくいですが、本当に近くには霧が無いですね。しかし、ここを囲むようにして張ってあるということは......」

「......閉じ込めているつもりでしょう。どうして霧で満たさず閉じ込める必要があったのかは分かりませんが」

「ですね。ちなみにここから抜け出そうと思えば今すぐ抜け出すことも可能ですが、どうします?」

「......こいしがまだ帰ってきていません。ですから私は待っていますよ。妹よりも早く逃げるなんて真似、私にはできませんから」

「ふふっ。そうですね。おそらくこいしなら精神力の有無を問わず、無事でしょう。

 私の能力も効くといいのですが......」

 

 自分の能力さえ通じるなら下手な労力を使う必要がない。

 しかしそれを試すのも危険であり、今はここで静かに──

 

「──って、あれは何でしょう?」

「え? あの奥に見える沢山の人影......? っ!? あ、あれは......!」

「さとり様! あっ、ここにいた! 大変です!」

 

 唐突に扉が開かれ、そこから傷だらけのお燐が飛び出した。

 

 傷は打撲傷が多く見られるが、そこまで重大なものはない。だが、問題なのは数が多いことだ。

 敵の猛攻から逃げてきたのか、不意打ちを看破するも怪我を負ったのか、どうしてかは分からないが、とにかく危険に近い状態ではある。

 

「お燐!? そ、その傷は......お、鬼に!? や、やっぱりあの外に集まるのは霧にやられ、正気を失った鬼ということ......!?」

「鬼!? って、その前にお燐! 傷を......!」

「そ、それよりも、鬼が......もっと言えば正気を失った地底の妖怪達が、ここを占拠しようと......ゴホッ!」

「喋らないで! まずは自分の身体を優先してください! れ、レナ......!」

「大丈夫。大きい怪我がないのが幸いです」

 

 お燐をお空の寝ているベッドの横に横たわらせ、安静にさせる。

 そして手に治癒力を持つ光を集め、お燐の怪我をしている部分に手を当てた。

 

 すると、打撲の傷がみるみるうちに治っていき、瞬く間にお燐の身体は傷がないいつもの状態へと戻る。

 

「お燐。まだ身体は痛むと思うので、無茶はしないでください。私の魔法は、傷は治せても痛みは消せませんから......」

「そ、それでもさっきよりはマシになって......あっ! さとり様! 敵襲です!」

「喋らないで。安静にしなさい。私にはそれで伝わりますから」

「......あっ。じゃ、じゃあ、そうしておきます......」

 

 お燐が口を閉じると、さとりも対応して能力に集中するように目を閉じる。

 

「......ふむ。その傷はそういう......。なるほど......」

 

 しばらくの間、二人の間では静かな会話が成立する。

 

 何を話しているか分からないが、二人の顔から深刻な話であるということは理解した。

 

「......かいつまんで話をしますね。まず、敵は鬼を含む地底の妖怪達がここを囲んでいるそうです。お燐はお空の手伝いのために、地上から来るであろう巫女達を待っていた際に不意を付かれて囲まれてしまい、命からがら逃げてきたらしいです。

 そして、その時に正気を失った妖怪を操っているらしい妖怪を見たらしいですが......残念ながら、姿はよく覚えていないとか」

「正気を失った妖怪を操る妖怪......それさえ倒せば後は何とかなるかもしれませんね」

 

 例え進行が止まらなくなったとしても、倒してしまえば指揮官を失った部隊のようにはなるはずだ。要は指揮をなくして混乱に陥り、統率力がなくなって倒しやすくなるだろう。

 

「......レナ。貴女まさか......」

「一人で止めるなんて言いませんよ。ここへ来る途中、霊夢......博麗の巫女や魔法使いを見つけてきました。こちらへ向かっている可能性は高いです。ここで一つ目の異変が起きていて、実際に来る未来がありましたから」

「でも、それでもまだ来ていないのですよ!?

 いつになるか分からない援軍を待ちながら貴女一人で止めることに......!」

「安心してください。一対多数の戦闘は練習していますし、お姉様やフランを悲しませないためにも死にはしませんから」

 

 正直勝てる勝てないの前に、止めれるかも分からない。だがしかし、さとり達を守るには時間を稼ぐしかない。

 その間に霊夢や魔理沙、早苗が来てくれれば、時間を少し稼いでもらっているうちに、使えるなら自分の能力を使う。

 

 ──そして、近付いてきた敵の、霧の効果を有耶無耶にさせて、一気に......。

 

「......成功する確率は高いのですか?」

「能力も有耶無耶にできますから、高いと思いますよ。問題は止めれるかどうか......。さとり。ペット達を連れてどこか安全な場所に隠れていてください。お空も起きたら一緒に」

「......分かりました。お空に謝るためにも、絶対に帰ってきてくださいね」

 

 さとりがにっこりと笑顔を見せる。

 

 その姿に、どうしてか姉の姿が重なって見えてしまう。

 

「......あの、死亡フラグみたいなのですが......」

「し、死亡ふらぐ?」

「あ、いえ。......行ってきますね」

 

 最後にそう言い残し、私は地霊殿の入り口へと向かう────




2017/11/29から一週間近く、定期テストにより小説を書く時間が少ないのでしばらくは投稿できません。
申し訳ないですm(_ _)m


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11、「紅い次女の戦い」

どうも、お久しぶりです。rickです。
定期テストにより、約二週間ほど姿を消していましたが、これから再び投稿していきたいと思います。

ではまぁ、今回はレナ視点です。お暇な時にでもお読みくださいませ。


 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿(玄関ホール)

 

 敵に近付くにつれて、私は不安を感じていった。

 

 地底でも大きな地霊殿を囲むほど多い数の敵。その中には正気を失えど、私よりも力が強く、速い敵だってたくさんいるだろう。

 そんな多勢に無勢な状況で、私はどれだけ時間を稼げるだろう。そして、霊夢や魔理沙が来たとしても勝てるのだろうか。

 

 いや、勝つしかない。これから先、友達や家族を守るためなら、これくらいの敵は倒せないとダメだ。少なくとも、知恵を失った獣くらい倒せないと、お姉様よりも強くなんてなれない。

 

 ──そしてお姉様よりも強くならなければ、お姉様を守ることすらも叶わないのだ......。

 

「......姉より強い妹はいない、なんてよく言います。ですが、今日に限っては姉よりも、誰よりも強くなって、友達を守りたいです。

 ですから......私に力を──」

 

 と、私は両手を胸の前で合わせ、祈る動作をする。

 

 ──今更神頼みなんて、吸血鬼(わたし)に似合わないか。

 

 が、すぐにそれをやめ、魔法の詠唱へと切り替えた。

 

「......やっぱり止めましょう。この世界の神様、信じたら負けな気がしますし。

 ふぅー......『我が手に秘める魔術王の秘宝よ。我が声に答えよ』」

 

 その詠唱によって、擬似的な『ソロモンの指輪』が白く眩い光を放つ。

 

 そして、自分の魔力が高まるのを感じる。

 妖怪としての力を超え、魔法使いとしての力が、自身に巡る魔法少女の力を増幅させていくのが分かる。

 

「そして──『秘宝に封印されしものよ。我が身に流れる妖魔の血に答えよ!』」

 

 更なる詠唱により、指輪の発する光が白から黄色へと変化する。

 

 それにより、指輪と自身に流れる悪魔の血と共鳴し、体の底から魔力が湧き上がる。

 

「後は......『破杖(はじょう)ヴァナルガント』」

 

 魔法を使って自分の背丈よりも少し高い杖を召喚する。

 それは真っ黒で先端には狼の頭に似せた装飾が付いている。

 

「これで準備万端、ですね。......行きますか」

 

 寂しくも一人でそう呟きながら、地霊殿の扉を開けた。

 

「うわぁ......」

 

 そこには大量の正気を失ったらしい、目から光が無くなった妖怪達が待ち受けていた。

 

 一斉に、出てきた私を見ると、今にも飛び出しそうに殺気を放っている。

 

「......数多くないです? 思っていた数の二、三倍はありますよ」

 

 せいぜい百や二百と思っていたが、五百近い妖怪達が地霊殿の入り口を囲んでいる。

 

「百人組み手なら、魔法使っていれば勝てる可能性もあったと思っていたのですが......」

「甘い。かなり甘い」

「......おや?」

 

 正気を失った妖怪をかき分けて、十代前半にしか見えない少年がやって来た。

 

 金髪青眼で西洋風の薄い鎧を身にまとい、小さめの槍を二本、手に持っている。

 そして私と同様の大きな蝙蝠の翼が生えており、吸血鬼であることが伺える。

 

「地底を収めているとか聞くからどんな奴が出てくるかと思えば、少女一人?

 俺達に姿が似ているとはいえ勝てないぞ? かなり舐めてるな」

「......吸血鬼です? 奇遇ですね。私もですよ」

「お前みたいな妖力よりも魔力が高い吸血鬼がいるか! 吸血鬼(俺達)を冒涜するな!」

「むぅー。それを言われたら何も言い返せないです。今日はどのようなご用件でこちらへ?」

 

 いつでも魔法を使えるように杖を力強く握りながらその少年に問う。

 

「あぁ、そうだった。ここを今から俺達吸血鬼の拠点とする。明け渡してもらおう」

「ここは友達の家ですので、お断りします。それと、そういう訳でしたら、この家には一歩も入れませんので......」

 

 と、杖をおおきく振りかぶって──

 

「ご了承を! 神の盾よ! 連なり、壁となれ! 『イージスの盾』!」

 

 ──地霊殿を光り輝く半透明な壁で囲い、覆った。

 

「これで、時間稼ぎは......。あまり傷付けたくないのは同じでしょう。(こっち)ですよ!」

 

 敵を煽るように手をくいくいっと動かし、宙へと避難する。

 

「あの女......! まずは突撃、第一部隊。あの女を殺しにかかれ!」

 

 その声により、最前線で睨みつけていた妖力の低い妖怪達が空へ逃げた私に向かって一斉に飛んできた。

 

「おっと......!」

 

 右手に持つ杖を振って迫り来る敵を払い、攻撃を受け流す。

 

 そして、もう片方の手に魔力を込め──

 

「散りなさい。弱化版『紅魔「ブラッディヴァンパイア」』!」

 

 ──左手に集めた魔力を全て小さな弾幕にし、速いだけの散弾にして放つ。

 

 それは、正気を失っている妖怪への配慮であり、慢心しているわけではない。

 それを受ければ怯み、運が良ければ気絶すると思っていた。

 

「ふしゃぁ!」

 

 ──だがしかし。力加減を間違えたのか、妖怪達は怯むどころか近付いて、鋭い爪で切り裂いてきた。

 

「った!?」

 

 思わぬ攻撃に驚くも、それを偶然払った杖で受け流すことに成功する。

 

「運のいい奴め。第二、第三部隊も続け! 他は奴の結界を壊せ!」

「そうはさせません。『神槍(しんそう)「トライデント」』! 雨よ降れ!」

 

 地底の天に向かってその矛先を向け、力任せに投げる。

 

 槍は形を変え、雲へと変わるとそこから無数の雨を降らし──

 

「傘がないと、動けなくなりますよ?」

「あ......? ぎ、ギィヤァァァ!」

 

 ──命中した全ての敵に苦痛を与える。

 

「弾幕の雨? 俺を守りながら敵を殺せ!」

「......痛いだけとはいえ、長い間受けていれば苦痛によってショック死する可能性もあるかと。弱めに設定はしていますが」

「知るか! 俺の命さえ守られればそれでいい!」

「......どうして、よっ。どうしてここまでするのです? っと。ああもう! 話している最中に攻撃しないでください!」

 

 正気を失っているからか、苦痛からか。獣と化した妖怪達は顔を歪ませながらも攻撃をやめることは無かった。

 

「っ......。遅い。それに弱いです。これなら鬼の百人組み手の方が難しいです」

 

 しかし、知能は無いようで、一斉に攻撃しようにも互いに邪魔をし合う形になっていた。そのせいで、命中するはずだった攻撃も当たることはほとんど無い。

 

「ちっ......。お前に話すわけないだろ! 鬼に会いたいのなら会わせてやる!

 行け、鬼共! 他の奴らは退いて結界を壊すのに専念しろ!」

「会いたいとは......なっ! うわぁ、本当に鬼まで......」

 

 五人の鬼が向かってくる。それと同時に、他の妖怪達は結界へと目標を変えた。

 

 流石に雨だけで凌ぎ切れるわけもなく、鬼以外の妖怪達は這いつくばりながらも結界へと流れ込んだ。

 

 結界はその程度じゃビクともしないが、いずれ攻撃を受けていれば壊れてしまう。こうなれば後は時間の問題だ。

 

「鬼なんて、普段は相手にしたくないです......。あ、でも私と同じくらいの子も......」

 

 大柄な大男の鬼に混じって、小柄で一本の角を持ち、金髪の小さな少女の鬼が目に映る。

 

 ──あれくらいの小ささなら......。

 

 とは思ったが、あの萃香も小柄なのに鬼が四天王の一人だ。

 あの少女もさほど変わらぬ強さを持っているかもしれない。

 

「はぁー......前から一人ずつかかってきてくださいね。そうしないと怪我しますよ?」

「ウォォォォ!」

 

 私の言葉など意に返さず、一斉に飛んだと思うと、鬼達は私に向かって拳を振り上げる。

 

 だが、唯一鬼の少女だけは、向かってくることはせず、ただ私の動きをじっと見ていた。

 

「なっ!? 何をしている! 早く行けよ!」

「グルルル......」

 

 命令をされても動じず、動こうとはしない。

 

 ──もしかして......。

 

「正気を失っても、自我を......いえ、本能を? っと、それよりも」

 

 そう思うのもつかの間。

 

 すぐ目の前にまで敵は迫っていた。

 

「話くらいさせて欲しいです。風を身に纏う。『風の羽衣』!」

 

 即席の風魔法を使い、小さな風の結界を身に纏う。

 

「そんな貧弱な結界など壊されるのがオチだ! 諸共壊してしまえ!」

「それはどうでしょう?

 右手に収めし我が杖よ。我が声に答え......」

「ウォォォァァァ!」

 

 羽衣とは別に、杖が風のような音を静かに立て──

 

「──その概念を伴う力を見せよ! 『破杖(はじょう)「ヴァナルガント」』!」

「がっ!?」

 

 ──杖から発せられた紅い霧が私を覆いながら、迫り来る鬼をも纏った。

 

 その霧に纏われた鬼達は、まるで力を失ったかのように地へと落ちてしまう。

 

「また結界!? おい、守ってだけのそんな軟弱者はすぐに殺してしまえ!」

「出来るといいですね。手遅れですが」

「はぁ? な、何を言って......!? お、おい! 早く動けよ!」

 

 吸血鬼の少年は声を荒げて地へと落ちた鬼達を呼ぶ。

 

「が、がっ......」

 

 だが、その鬼達からの返事はなく、地に突っ伏したまま動くことは無かった。

 

「な......っ!? い、一瞬でやられるわけがないだろ!?

 お、お前は一体、どんな卑怯な技を......!」

「卑怯ではないですよ。ただ、相手にかかっていた能力を()()しただけですから」

「はかっ......はぁ!?」

 

 この杖は私の『有耶無耶にして能力を無効化する』という能力を基礎とし、『破壊の杖』を意味するフェンリル狼の力の概念を上乗せし、『破壊』として広範囲の能力無効化を可能としている。

 実際は擬似的な杖だけでは『破壊』という概念を操れないのだが、それすらも有耶無耶にして曖昧な『破壊』の概念を形作り『破壊の杖』を模している。

 

 一見して強力なこの魔法だが、実は弱点がある。

 

「私は『有りと有らゆるものを有耶無耶にする程度の能力』を持っています。それを利用すれば、一時的に能力を無効化することも、概念を有耶無耶にして捻じ曲げることも可能なのです。......最初に気付いたのミアですが」

 

 一つは能力を使用しているとはいえ、概念を形作るというだけあって、魔力の消費量は他の魔法とは比較にならない。

 私はミアのように得意でもないため、魔力を底上げする詠唱第一段階目の『ソロモンの指輪』を使ってからしか使用出来ないのだ。

 

 そしてもう一つ。広範囲と言っても、半径一メートルほどの範囲でしか使用できない。

 それでも触って有耶無耶にするよりは安全だが、要は近接攻撃かカウンターとしてしか使えないのだ。近接戦闘があまり得意ではない私にとっては、敵に近付くことは危険だ。だから使える機会はそう多くない。

 

「あいつと同じ......っ!?」

「あいつ? も、もしかしてミアです? ミアの居場所を知っているのですか!?」

「ミア? そんな奴は知らねぇよ! 俺が言っているのはルネだ!

 お前、まさかルネと関係あるのか......!?」

「ルネ、さん?」

 

 それは、どこかで聞いたことのある名前だった。

 失礼なことだが、懐かしく思うと同時に、それほど思い入れのなかった名前にも感じる。

 

 しかし考えているうちに、ハッ、と記憶がなだれ込んできた。

 

「......エルジェーベト? ルネ・エルジェーベトです?」

「やはりバカ兄貴の仲間か! いつもいつも邪魔をしやがって......!」

「......えっ? 兄貴? も、もしかして......エルジェーベトさん?」

「そらそうだ! なんだその名前覚えてないのに思い出したかのように演じるのは!」

 

 正直な話、ルネ以外のエルジェーベト家、特にルネの弟なんて全く覚えていない。

 それも仕方ないことで、最後に会ったのは何百年も昔のことなのだ。覚えていろ、という方が無理な話だろう。

 

「だって覚えてませんし......。あぁ、そう言えばまだ名前を言ってませんでしたね。

 私はレナータ・スカーレット。レミリア・スカーレットの妹です」

「スカーレット......!? あ、あの俺達を裏切ったスカーレットだと!?

 通りで卑怯な吸血鬼なわけだ!」

 

 目を見開き驚くその吸血鬼を見ながら、私は多少の苛立ちを感じていた。

 

 ──私は名乗ったのに名乗らないなんて、礼儀知らずな吸血鬼。

 と最初に思い、次に話の内容までも嫌な思いをした。

 

「むっ......裏切った? 地上に住んでいるだけで、裏切ってなんかないです。そもそも味方だったかどうかも怪しいですけど」

「ふんっ、よく言うな! お前は知らないようだが......俺達を裏切り、不意打ちで殺し、自分だけ地上に残ったのがお前の姉だァ!」

「不意打ちで殺......えっ......? 」

 

 ──思い当たる節はある。

 

 幻想入りして迷子になり、帰ってきたその日の夜。

 

 入り口で待っていた血に濡れたお姉様と、その近くで倒れていた二十近い吸血鬼達。あの時はお姉様の言葉を疑わず、ただお姉様の命を狙っていた吸血鬼だと思っていた。だが、今になって考えると、あの時のお姉様は少し様子がおかしかった。

 

「そうだ! お前の姉は、俺の仲間を殺した! あの時はただ見るだけしかできなかったが、次に会った時は必ず殺すと......仲間に誓ったんだ!」

「お姉様が、不意打ちで......」

 

 ──あのお姉様が不意打ちで、同じ吸血鬼を殺した......。

 

「吸血鬼の未来が途絶えたのはお前の姉のせいだ! どうせお前らは、地上で何不自由なく、ぬくぬくと暮らしていたんだろ!

 だが俺達は違う! 毎日毎日死にそうになって、餓えていたんだぞ!」

「......だから、私達に......お姉様に後悔させるために、この異変を?」

「はっ! それもあるが、俺達は今度こそ地上を支配する! 逆にお前らには惨めな生活をしてもらうことになるだろうなァ!

 しかし後悔しても遅い! 全てはお前の姉のせいだ!」

 

 しばらくの間、話に聞き入ってしまい、動くことを忘れていた。

 

 ──お姉様が吸血鬼仲間を殺して、この異変のきっかけを作った。

 

 それは、信じ難い事実だった。

 

 しかし──

 

「......そうですか。分かりました」

「はっ! 姉のした行いを知って自害する気でもなったか!? だけど許さねぇ!

 お前らは、絶対に俺がこの手で──」

「あ、そうではなく。......お姉様が理由もなく同族を殺しません。そして、不意打ちも。したとしても、それは何か理由があります」

「あぁん!? それは自分だけ平穏に......!」

「な訳ないです。というか、さ、最初からそんなことは気付いてましたけどね?」

 

 お姉様がそうする理由は、一つしか考えられない。

 

「お姉様は、私達のためにしたのでしょうね。嫌な思いをしてまで、同族を......」

「なっ......!? 妹のために仲間を捨てただと!? そんなこと! 吸血鬼にとって許されるわけない! 絶対にな!」

「そんな基準知らないですけど」

 

 そして、何より......あの夜の同族の血に染まっていたお姉様を見て、恐怖は感じなかった。

 それどころか、美しくさえ感じてしまった。

 

 ──あぁ、やっぱり......私はフラン同様、多少狂っているのかもしれない。いや、そうではなくただ単に、お姉様のことを......。

 

「っと。お姉様をバカにした報いは受けてもらいます。それにお姉様は殺させません。

 そして最後に。貴方の目的のために地底の妖怪達が、私の友達が! 被害を受ける必要はありません!」

 

 そう言い放つと同時に、『破杖「ヴァナルガント」』を消し去り、新たな呪文を唱え始める。

 

「これこそは闇の妖精が作りし魔剣。

 命を穢し、また我が手も穢す。『魔剣「ダーインスレイヴ」』!」

 

 そして、一筋の真紅色の線が入った、漆黒の剣を作り出す────




年越し前にEXまで書きたい(願望)


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12、「希望の援軍」

長い間休んでいたせいか、文章力が落ちてきた気がするやばい()

それでも頑張って今年中にはEXまで行こうと思いますので、それでもいい方は暇な時間帯にでも読んでくださいませ。


 side Kirisame Marisa

 

 ──地底(霧の深い大通り)

 

「んんっ?」

「魔理沙さん? 急に立ち止まってどうしました?」

 

 地底の中心地へと向かう際、急激に増加した魔力を感じた。

 今まで感じた魔力の中でも、一際強い魔力を。

 

「あ。もしかして敵ですか!?」

「いや。違うと思う。どっちかと言うと、この魔力は......」

 

 アリスやパチュリーによれば、人によって魔力の質も量も違うらしい。だから人によって感じる、感じられる魔力も違うのだとか。

 

 そしてこの魔力の第一印象は『暖かい』という感覚だった。

 誰かを守りたい、みたいな感情を魔力に含んでいるかのように。

 

「......多分敵じゃない。おそらくは正気がある妖怪でも残っていたんだろうな。だが、それももう手遅れかもしれない......」

「えっ? ど、どうしてですか?」

 

 しかし、その暖かさに隠れて冷たさも感じる。

 誰にでも容赦のない一面はあるものだが、これはそれとは少し違う。まるで深海のように真っ暗で、氷のように冷たい。

 ──他の妖怪と同様に、霧に精神を蝕まれているのかもしれないな......。

 

「この霧の中だ。正気を失っていてもおかしくないだろ?」

「それもそうですが......。もしかしたら、まだ間に合──っ!?

 ま、魔理沙さん! 急ぎましょう!」

「どうした? 何か見つけたのか?」

神様()を呼ぶ声が聞こえた気がします!」

 

 突然何を言い出すかと思えば、根拠もなく、意味の分からないことを言い始めた。

 

 ──もしや、早苗もこの霧に......。

 

「あっ! その顔は信じていない顔ですね? でもでも。どちらにせよ急いだ方がいいとは思いません?」

「まぁ......あまり長い間霧の中に居たくないしなぁ」

「でしょでしょ!? さ、早く行きましょう!」

「あぁ、はいはい。分かったよ。......おっと。ちょっと待ってくれ」

「......アリスさんの人形?」

 

 いざ行こうとしてみれば、懐に仕舞っておいたアリスの人形から音が聞こえた。

 

「あぁ、そうだ。......何か言ってる......かな?」

 

 取り出して耳をすませると、僅かにアリスらしき声が聞こえるような気がする。

 

「......ダメだ。何言ってるか分からないな。......早苗。何とかできないか? ほら、お前の奇跡をパーって使ってさ」

「私は便利な道具じゃないんですよー! やってみないこともないですけどぉ」

「んじゃ、ほいよ」

 

 と、アリスの人形を投げ渡す。

 

「あ、急に投げ、とっ。危ない危ない」

「ナイスキャッチだな」

 

 早苗は慌てて人形を掴み取った。

 

「もうっ、普通に渡してくださいよ。では......私の奇跡をお見せしましょう!」

「ああー。そう言うのいいから」

「釣れないですねー。別にいいですけど......では......」

 

 早苗は静かに両手で祈るように手を握る。

 

『......さ。ま......さ。まりさ......!』

 

 すると、段々と人形の音が大きくなってきた。

 

『魔理沙! 聞こえる!?』

「あ、通じましたよー」

 

 そしてそれは、アリスの心配そうに叫ぶ声へと変わっていた。

 

 聞こえると同時に早苗から人形を返してもらい、耳に近づけて音に集中する。

 

「おう。聞こえてるぜ。どうした?」

『どうしたじゃないわよ! 全然繋がらなかったけど、大丈夫だった!?』

「つまらないほど何も無かったぜ。それよりもだ。どうして繋がらなかったんだ? 理由は分かっているのか?」

『河童曰く、人形の原理が分からないからジャマーなのかただの通信不慮なのか分からない、とかで詳しくは分からないわ。詳しく調べるなら解体して調べるしか無い、とか言ってたから断っておいたけど』

「お、おぅ、そうか......」

 

 アリスは人形のことになると少し必死になり過ぎている気がする。

 詳しく調べるためにもその河童──おそらくはにとり──に渡しておいても良かったと思うが。

 

『じゃ、通じたならまたそうなる前に話すから、大人しく聞いてなさいよ』

「上から目線過ぎやしないか?」

『気のせいよ。まず初めに、紫が小さな鬼を連れて私の家に来たの。で、『異変を終わらせてくれると信じていますので、連絡ができたら伝えてくださいませ』って言いに来たのよ』

 

 小さな鬼と言えば萃香だろうか。

 そう言えば、あの鬼ならこの黒い霧を消すこともできるかもしれない。あの鬼の能力ならば。

 

「で、その伝言は?」

『えーっと......『異変の後処理は私達に任せて、地霊殿を守れ』みたいな話だったわ』

「ふむ? 地霊殿を? ......何か重要な役割を担っている場所だから、ということか?」

『さぁ? そこまでは聞いてな......。でも、あの妖怪が言って......だし......じゃな......』

 

 アリスの声が段々と聞こえにくくなってきた。

 

「ん? アリス? おーい! もっと大きくはっきりと!」

『そ......ても、し............』

「アリスー! ......ダメだな。もう聞こえない」

 

 人形からの音はそれっきりで、全くと言っていいほど静まり返っていた。

 

「やっぱり、詠唱の時間が短いから奇跡の効果時間も短いんだと思います。もう少し時間をかければ、また会話することも可能だとは思いますが......」

「......いや。急ごう。手遅れにならないうちにな」

「はい! 分かりました!」

 

 こうして、早苗を引き連れ、先の見えにくい霧の中を進んでいった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿(入り口前)

 

「ふん。大層な剣だなァ? だが、俺の二槍流に適うとでも思っているのか?」

 

 私の黒い剣を嘲笑うかのようにその吸血鬼は鼻で笑った。

 

 確かに私は近接攻撃が苦手で、普段はやろうとは思わない。

 

 しかし、私はこう思っていた。

 ──何も知らないくせに。

 

「あぁ、その二本の槍を持つこと構えは二槍流と言うのですね。そのままだったとは......」

「余裕そうだなァ? 仲間の仇だと分かった以上、俺が直々に手を下してやる!」

「それはやめた方がいいですよ。だって私のこの剣、相手が重傷を負うまで直せませんから」

「重傷を負うまで、だァ? おい! あの小娘を囲め! 手は出すな! 俺の獲物だからな!」

 

 吸血鬼の指示で結界を破壊しようとしていた妖怪達が辺りを囲む。

 

 しかし、あの鬼の少女はその命令も聞かず、身動き一つしなかった。

 

「......あの娘、何なんでしょうか? もしかして抗っている? ......萃香さんと違って友達になれそうです。

 それにしても、油断大敵です? 普通油断して殺られるパターンでしょうに」

「はっ! 俺は慎重なんだよ! お前は黙って殺されろ!」

「嫌です。この剣も概念系なので時間は長く持ちません。ですから急ぎます──」

 

 剣を目の前に構えると、相手に聞こえないように小さく呪文を呟いた。

 

 そして、すぐさま自分を有耶無耶にする。

 

「殺しはしません。不殺(ころさず)の主義ですから」

「はっ! 真っ直ぐ突っ込むだけかァ!? しかも遅せぇよ!」

 

 吸血鬼は両手に持った槍を構えると、片方の槍を真っ直ぐと突く。

 

「避け──」

 

 それは、相手に向かっていった『私』の頬を掠める。

 

 避けれたのを好機と捉え、『私』は剣を薙ぎ払うようにして振った。

 

「──って言うと思ったかァ!」

 

 が、吸血鬼はもう片方の槍で『私』の剣を弾くと......。

 

「消えろ!」

 

 回し蹴りの要領で『私』を勢いよく蹴り飛ばした。

 

「口ほどにもない! このまま死ねぇ!」

 

 吸血鬼は倒れた『私』に飛びかかり、一本の矛先を『私』の首へと突き刺した。

 

「は、はは。あっけないなァ! これで仇を......ああ? 消え──」

「消えましたね、『私』さん。

 先ほどの通り、時間がありませんので......お楽しみの最中すいませんでした」

 

 と、分身である『私』に気を取られていた吸血鬼の背後に、有耶無耶な状態で近づいた。

 

 流石に死体から血が出ないと気付くようで、見えもしないのに辺りを見回す。

 

「まぁ、声は聞こえていないと思いますが......有耶無耶にした瞬間から今の今まで、貴方が戦っていたのは分身ですよ。ご愁傷さまです」

 

 最後にそれだけ話すと、吸血鬼の背中を、縦に一刀両断した。

 

「うぐぁ!? な、ど、どこから......!? し、しかも痛てぇ! な、治るのも遅い!?」

「この魔剣『ダーインスレイヴ』は『呪い』と『契約』という概念を形作っています。しかし、流石に完全に再現はできなかったので、忠実通りに傷が治らなくて人を殺すまで鞘に納まらないとかではないです。

 ただ、治りが遅く、相手に重傷を負わせるまで納めれませんが、ねっ!」

 

 掛け声と共に次は横一文字に背中を切り裂く。

 

「ぐぁぁぁ! お、おい! 俺の後ろだ! 後ろを攻撃し......ぁっ!?」

「ごめんなさい。ただ、重傷を負うまでしないとダメなので......それに、貴方が悪いのです。お姉様をバカにしたから。お姉様を殺そうとしたから。......そして、貴方の欲望だけのために、地底の人達を傷付けたから!」

 

 そう言って、一心不乱に敵を切り裂く。

 誤って殺さないように、気絶だけで済むように斬る深さも注意しながら。

 

「はぁ、はぁっ......やっぱり、気分悪い......です......。早く、気絶して──え?」

「は、早く殺せ! 俺を斬っている方向へ突進でも何でもし──ぐは......っ」

「うるさい。そして、もう充分だよ。同じ鬼の子さん」

 

 そう言って止めたのは、先ほどから動こうとしなかった金髪を持つ鬼の少女だった。

 

 片手で殴って吸血鬼を気絶させ、もう片方の手で私の剣を握って止めていた。

 

「......いや、どうして見えているのです? それにどうして正気を......」

「見えるのは強いから。正気なのは狂気に支配されるほど柔くも弱くもない。お前と違って」

「むっ。それは聞き捨てなりません」

「いいえ。もう半分ほど狂気に支配されそうになっているよ。萃香様の言う通り、弱いね。精神とか身体とか。

 じゃあ、お休み。ここのことは、私と後から来る貴女の仲間に任せて、ね」

「え? いやいや! その振り上げてる拳はダメ──っ」

 

 振り上げられた拳は私の頭に振り下ろされた。

 

 それにより、私の記憶がそこで途絶える────




金髪の角はレナと同じくらい紅かったりする。
次のために出しただけで、実はそれほど(ry


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13、「守るべきもの」

最終回(EX除く)まで残りわずか。しかし、クリスマスイブやクリスマスなどの書く予定のイベントが多くて今年には終わりそうにないという()

まぁ、それでもいいよと言う方は、お暇な時にでもお読みくださいまし


 side Kirisame Marisa

 

 ──地底(中心部にある館近く)

 

「ま、魔理沙さん! あれを!」

「あぁ、やばいな」

 

 私達が目指す方向には、大きな西洋風の館があった。

 

 だが、早苗が指差す方向はそれではなかった。

 霧で見えにくいものの、館の周りには数えるのも面倒くさそうなほどの数の妖怪達がいたのだ。

 

 その妖怪達の半数以上は館に入ろうとしているのか、館へと向かっている。しかし、見えない壁でもあるのか妖怪達は館の中へ侵入することはできない様子だった。

 

「あの数、どうにかできると思うか?」

「どうにかして見せますよ! 霊夢さんに期待されちゃってますし、絶対に勝ちます!」

「そんなに期待してたっけなぁ。......おそらく何かしらの魔法防壁でも張ってるんだろうが、時間の問題だと思う。急ぐぞ」

「もちろんです!」

 

 見えにくい霧の中、館へ近付くにつれて妖怪達の姿もハッキリしてくる。

「......っ!? あ、あいつは......!」

 

 妖怪達が円になって囲むその中心には、私もよく知る妖怪がいた。

 

「お知り合いですか?」

「あ、あぁ......。あいつは紅魔館に住む吸血鬼三姉妹の次女レナータだ。だが、どうしてこんな場所に......な!?」

 

 よく見ると、レナの傍には倒れている翼の生えた妖怪と、レナの腕を掴む鬼らしき角の生えた金髪の少女がいる。

 

 そして次の瞬間、鬼が振り上げた拳をレナへと振り下ろし、人形のように力なく倒れた。

 

レナ(あいつ)を助けるぞ!」

「えぇ!? で、でも妖怪に囲まれていますし、あの人も妖怪ですよ!」

「あいつは私の友達だ! だから行くぞ!」

「んー、妖怪が友達、ですか。......要はこの幻想郷では常識に囚われてはいけないのですね!

 分かりました! 行きましょう!」

「分かってないぞそれ......。まぁ急ぐぞ!」

 

 そう言ってレナと金髪の鬼がいる地へと向かう。

 

「おい! レナから離れろ!」

「うるさい。注意を(あつ)めている妖怪達が気付く」

「正気だと......!? お前がこの異変の黒幕か!?」

 

 危険を感じ、鬼の少女から少し距離を置き、ミニ八卦炉を構える。

 

「魔理沙さん! その距離だとレナさんにも当たりますよ!」

 

 が、すぐに早苗が手で制した。

 

「......くっ。レナを盾にするなんて卑怯だぞ!」

「卑怯違う! 盾になんかしない! ......そもそも、敵じゃない。萃香様の命令で、この吸血鬼を手助けしに来た」

「......えっ? す、萃香? だ、だが、お前はレナを──」

「霧の中で無防備だったから、狂気に落ちそうになってた。だから気を失わせた。

 気絶すると、正気も狂気も関係......ない」

 

 そう言いながら鬼はレナと翼の生えた妖怪を背負い、真っ直ぐと館の方へと向かっていく。

 

「ま、待て! もっと詳しく話せよ!」

「後でね。まずは、この娘を安全な場所へ移動させる。しばらくここで時間稼ぎお願い。多分、もうすぐ私の能力も切れると思う」

「ど、どういうことだ?」

「......そう言えば、周りの妖怪達が襲ってきませんよね。それが襲うようになるということでしょうか?」

 

 早苗が思い付いたかのように周りを見ながら話した。

 

 ──確かに襲ってこないが、もしこれが鬼の罠だったら......。

 と思ったが、よく考えてみると鬼が罠や不意打ちなど、卑怯なことをするはずがない。

 さっきも『卑怯』という言葉に反応して怒っていたくらいだ。少なくともこの鬼は卑怯なことをしないだろう。

 

「......分かった。その館の中に入れないようにすればいいんだな?」

「うん。あ、ちょっと待って。壁が邪魔」

 

 鬼の少女は館のすぐ側まで行くと、立ち止まって何かに集中する。

 

「うん。これで大丈夫。あ、一つだけ。

 鬼達(私の仲間)はこの吸血鬼が片付けた。だからお前達でも止めれると思う」

 

 そして、しばらくすると振り返り、私達に話しかけてきた。

 

「流石吸血()だな......。よし。早苗、やるぞ!」

「分かりました! 先ほどの話からすると、気絶させればいいんですよね!」

「うん、合ってる。......話したらすぐに戻るから、頑張って」

「言われなくとも......戻ってくるまでに全員倒してみせるぜ!」

 

 鬼が館へと入っていくと同時に、私達は空へと避難する。すると、今まで私達に目もくれてなかった妖怪達が一斉にこちらへと注意を向けた────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿(ホール)

 

「ぉ......まぁ......っ......はっ! お姉様!? じ、じゃない! ここは!?」

 

 目が覚めると、まず初めに紅魔館のホールのような高い天井が見えた。

 

「ここは地霊殿だよ」

 

 次に、女性の声が耳元で聞こえた。

 

「あ......。つ、角......鬼?」

「忘れてる......? 正気じゃなかったから仕方はない、けど......」

 

 鬼の娘はどうしてか、悲しそうな顔を見せる。

 

「え、えっ? 今思い出すので、少しお待ちを......」

 

 それを悪く思い、私は必死に何が起きたのかを思い出そうとした。

 

「無理に思い出さないでいい」

「で、です、が......あっ! 貴女は萃香さんの! で、私は先ほどまでずっと......」

 

 ──狂気に囚われていた。でも、正直に言うとその自覚はない。先ほどまでの出来事もまるで夢だったような......そんな感じが......。

 

「......思い出したなら、それはそれでいい。あの霧の中では、お前の精神は持って数分。霧を吸わないようにして」

「わ、分かりました......。優しいのですね」

「別に......。萃香様に言われたからやってるだけ。しばらくは外に出ないでここにいて」

「萃香さんに......。分かりま......いえ! 私は友達と、さとりと約束したのです! だからここを守らないと」

 

 そう言って立ち上がるも──

 

「ダメ」

「え......っ!」

 

 ──鬼に肩を押さえつけられ、無理矢理座らされた。

 

「地味に痛い......」

「ごめんね。でも、力加減難しい。

 まずは体内に残った霧を出すためにも新鮮な空気吸ってて。

 地底だから、あんまり新鮮じゃないけど......」

「......そう言えば、まだお礼も名前も言ってないですね。知ってるかもですが。ありがとうございます。私はレナータ・スカーレットです。

 よろしくお願......イタタッ......」

 

 握手を求めて手を握ると、本当に力加減が苦手らしくかなり痛い。

 手を握り潰そうとしているのかと勘違いするほどだ。

 

「大丈夫? まぁいいや。私は金熊(かねくま) 朱童(しゅどう)。萃香様の部下」

「良くはないです......。では、金熊さん」

「朱童がいい。朱童って呼んで」

「あ、はい。朱童。貴女だけで妖怪達を止めれ──」

 

 純粋に心配だっただけなのだが、それでも朱童は気に食わない、といった表情を見せる。

 それだけで、心配する必要はない、と言いたいのが分かった。

 

「──るのですね。確かに他の鬼は私が無力化しましたけど......」

「む。本来、鬼の力はあんなものじゃない。それと、私だけじゃない。巫女と魔法使いの二人が外で戦っている。私の能力を使っているからここに侵入される心配はないけど、隠れることはできない。でも多分大丈夫」

 

 ──魔巫女と魔法使い? ということは、霊夢と魔理沙? しかし、あの二人でもあの数は......いや、私が言えないけど。

 

「さ、流石に大丈夫じゃないと思いますよ! というか、ここには私が張った結界があったはずです! どうやってここへ入ったのです?」

 

 あの結界は私が死んでも大丈夫なようにと、強く、長時間保てるようにしていたはずだ。そして、私がいても入れるような細工はしていない。

 ──なのに入れているということは、既に結界が破壊されて......。

 

「私が地霊殿の入り口に萃めて他から入れるようにした」

「......えっ!? あ、貴女が壊したのです!?」

「壊してない。人聞きの悪い......。ただ、萃めただけ」

「......それ、あまり変わってないですよね......。でも、結構大きく作った結界なのですが、どうやって集め......いや、萃める? 萃香さんと同じ......?」

「同じじゃない。萃香様の極一部の力。『萃める程度の能力』だよ」

 

 確か、萃香は『密度を操る程度の能力』を持っていた。何かを萃めたり疎めたりする能力、と聞いている。その能力の『萃める』という部分をこの娘は持っているらしい。

 

「......でも、萃めるだけですか? 有耶無耶な私を見れてましたよね? 普通は見えないはずなのに......」

「私の意識をお前に萃めていた。見えている時からずっと。お前の能力、萃香様に聞いていたから。ちなみに外出ても平気なのは、空気だけを萃めているから」

「......便利すぎませんか? というか前に聞いた時は強いからと......」

「気のせい。お前も便利な能力を持っていると聞いた。だからおあいこ」

 

 ──鬼でも強がることはあるんだな。

 と、この時初めて思ってしまった。

 

 もしかしたら萃香を尊敬するあまり萃香に似てしまい、多少の嘘は付くようになったのかもしれない。

 

「じゃあ。行ってくる。ちゃんと待ってて。ついでにそいつも動かないように見といて」

「そいつ? ......あっ......」

 

 今まで気付いていなかったが、私のそばには気絶する前まで戦っていた吸血鬼が眠っていた。

 

 私の剣は効果的だったらしく、吸血鬼を中心に血の海が出来ていた。

 

「......もしかして、死んでます?」

「生きてる。治してあげて、ね?」

 

 私の複雑な気持ちも理解していないのか、平気な顔でものを言う。

 

 ──確かに思い返してみれば、あの時は殺してもいいと思っていた。昔、お姉様を傷付けた人間を殺した時のように......。

 

「......もしかして治せない?」

「え。い、いえ。治せは......しますけど......」

「ならお願い。鬼達(私の仲間)を傷付けたから、責任取ってもらうの。だから、それまで生きていて欲しい」

「......見た目によらず、怖いです......。いえ、見た目通りなのでしょうか......」

 

 ──角さえ無ければ、髪の長いルーミアみたいに可愛い子なのに。

 いや、ルーミアも人食い妖怪だから変わらないか......。

 

「治してくれる、よね?」

「いや、何度も言わ......はぁー。分かりました。治しますよ。

 ここで殺して本当の鬼に喧嘩売りたくないですし......」

「? いつでも喧嘩なら買う。戦うの好きだから」

「私は好きではないですけどね。遊ぶのは好きですが」

「そう......。なら、いつか遊びの戦いしよう。お前、弱いけど好きだから」

 

 ──いつも変な人に好かれてしまうなぁ......。変な人だから嫌い、ってわけじゃないけど。

 

「この異変が終わったら考えておきますね」

「分かった。受けるということでいいね」

「良くないです......」

「? ......あ。お前にも、一つだけ。この異変を起こした犯人、その倒れている奴の兄弟、長男。名前は忘れた。

 いずれ巫女達に倒される、と萃香様が言ってたけど、その前に地霊殿の主を襲う可能性高い。そいつを治したら縛り上げて、助けに行ってあげて」

「......さとり達を!? あ、はい! 今すぐ治して行きます!」

「萃香様の言う通り......やっぱり面白い、ね。じゃあ、外の援護行ってくる。お前も頑張って」

 

 そう言って地霊殿の外へと出ていく朱童を見送ると、私は急いで吸血鬼の傷を治す。

 そして、急いでさとり達を探しに向かった────



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14、「鬼 が 仲間 に なった !」

半分ほどタイトル詐欺()
それでもいい方はご覧下さいませ


 side Hakurei Reimu

 

 ──地底(とある牢屋)

 

 蒼い吸血鬼の言っていた通り、鬼が集まっている広場のようなものがあった。

 

「ようやく一段落したわね............」

 

 そして、とりあえず制圧し、少しの間、休憩を取っていた。

 

 鬼の四天王が捕まっている場所を探索などしてもよかったが、流石に連戦になると辛いので休憩していた。

 

「さぁてと......。多分こっちね。そんな気がするわ」

 

 いつもの勘を頼りに、周りを警戒しながら歩いて行く。

 

 広場近くの大きな平屋の前に着いた時、その扉を開けた。

 

 中には、檻のような鉄格子の部屋があり、その中には一本の角を持った女性の鬼が両手両足を繋がれ捕まっていた。

 傷を負ってはいるが、致命傷には見えない。だが、気を失っているのか私が入ってきても反応はしない。

 

「やっぱり居た。貴女が鬼の四天王......名前なんて言ったかしら」

 

 無駄だと分かっていても、話しかけてしまう。

 

 鬼の四天王だとは言え、傷を負っての戦いは辛いだろう。

 ──解放するだけ解放して、後は......。

 

「星熊......星熊勇儀さ」

 

 と、思っていると突然声が聞こえた。

 その方向を見ると、女性の鬼が顔を上げてこちらを見ていた。

 

「やっぱり起きてたんじゃない。傷とか大丈夫?」

「まぁね。やわな鍛え方はしてないからねぇ。で、そういうあんたは何者だい?」

「私は博麗霊夢。博麗の巫女よ。蒼い吸血鬼に貴女を助けてくれ、って頼まれたから来たのよ」

「蒼......そうかい。約束は守った、ってかぁ?

 ......ということは、(仲間)を元に戻す当てでも見つ......いいや。あんたがそうか......」

「ちょっと。私に分かるように話なさ──ふぁ!?」

 

 勇儀は一人で納得したかと思うと、手足を拘束していた拘束具を力任せに破壊した。

 

 ──それができるなら私必要無かったんじゃ......。

 

「ん? どうしたんだい?」

「いやいや。何平気な顔で壊してるのよ!」

「仲間が人質に取られててねぇ......。

 ここまで来たからには正気を失った妖怪を見ただろ? あれには私の仲間も含まれてんだ」

「へぇー......。全員気絶か封印にしといてよかったわね」

「流石博麗の巫女。妖怪に優しいなぁ」

「優しくないわよ!」

 

 どうして私には物好きな妖怪が集まるのか。

 それが今でも全く分からない。

 

「さて、話の続きだな。私は合図を待っていたのさ。お前達、地上の人間がやってくるっていう合図を」

「はぁ? どういうこと?」

「簡単に話すと、この霧はそろそろ無効化される。そして、その間にあんた達人間が黒幕を倒す。そういうわけさ。

 なぁに。私も手を貸すよ。鬼に金棒さ」

「貴女の方が鬼だけどね」

 

 勇儀は「それもそうだな」と言いながら、檻を殴って破壊する。

 

 仲間を人質に取られていたとは言え、こんなに強い鬼が捕まっていたというのは信じられない。

 

「さぁて。ようやく借りを返せるとはねぇ。嬉しい限りだよ」

「こんな鬼に喧嘩を売るなんて命知らずな奴だわ......。で、結局何処へ向かえばいいの?」

「地霊殿。地底の中心地にある建物よ」

「そう、分かったわ」

 

 こうして鬼を仲間に入れ、枠は次なる目的地へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Remilia Scarlet

 

 ──地底への大穴

 

 黒い雲を辿っていると、山の中に大きな縦穴があった。

 

 そこから、悪意に満ちた妖力を含む、真っ黒な煙が上っている。

 

「真っ黒......。フラン、ルナ。吸わないようにしなさい」

「うん。......流石に『目』は見えないなぁ。というか小さくて多いから掴みづらい」

「......きゅっとしてドカーン」

「えっ、何を──」

 

 ルナが唐突に拳を握ると、目の前の煙が少し弾けた。

 

 しかし、次々と下から上がってくるので、気休めにもならなかった。

 

「ルナ。やる時は言いなさい。びっくりするわ......」

「ごめんなさい。でも、いける気がしたから」

「悪気はないみたいだから許してあげて、レミリアお姉様」

 

 と、フランがルナの前に立ち、庇うようにしてこちらを見る。

 怒ろうとも思っていないのだが、そんな風に聞こえてしまったのだろうか。

 

 しかし、フランはルナに対していつも甘すぎるような気もする。

 

「別に怒ってないわよ。さぁ、行きましょうか。貴方達。絶対に吸っちゃダメよ?」

「分かってるって。そんな心配しなくてもいいよ。ね、ルナ」

「うん」

 

 この霧がルネの妹(あの女)が連れて来ていた鬼が正気を失った原因かもしれない。

 もしそうだとすれば、フランやルナが吸えば、またあの時のようになる。

 

 それだけは避けねばならなかった。

 ──絶対に、この娘達にあんな思いをさせない。二度と狂気に陥らせてはいけない......。

 

 そう思いながら、暗く、奥深くへと続く大穴を降りていった。

 

 

 

「レミリアオネー様? 顔暗い。大丈夫?」

 

 降りている最中、器用に宙を飛びながら、ルナが顔を覗かせる。

 

「え、えぇ。大丈夫よ。黒い霧の中だからそう見えるだけ」

「そう......。分かった」

「......。あ、着いたみたい。やっぱり暗いね」

 

 ただでさえ陽の光が入らない地底だと言うのに、黒い霧でより暗く見える。

 

「ねぇ、お姉様は何処にいるの?」

「さぁ? 美鈴も知らなかったと思うわ。でも......会える気はするわね」

「どういうこと? フラン。分かる?」

「分かんない。レミリアお姉様っていっつもこんな意味深なことを言って、何も考えてないから」

「失礼ね。考えているわよ。......さ、行きましょうか」

 

 と、地底の中心部にある地霊殿へ向かって暗い地底を進んでいこうとする。

 

「レミリアお姉様? 本当に考えてる?」

「考えてるわよ。今から地霊殿へ行くわ。確か地底の中心にあるんでしょう?」

「う、うん。こいしちゃんがそう言ってたけど......。でも、どうして地霊殿?」

「レナが行きそうな場所だから、よ。地底でこんなことが起きてたら、一番に友達が心配になるのよ。あの娘はそういう娘だから」

 

 とは言ったが、これも憶測でしかない。それに、もし合っていても、すでに居ないかもしれない。

 だが、今の目的はルネだ。レナも子供じゃないから、心配はないだろう。

 ──でも、私に一言くらい......。

 

「誰も言えないと思います。特にレナ......レナ()はレミリア、貴女が好きでしたから」

 

 と、背後から聞き覚えのある声が聞こえる。

 

「わっ!? あ、お前......!」

「お久しぶりです、フラン。......あれ、もう一人は......分身です?」

 

 フランが睨みつける方向には蒼い髪の吸血鬼、ルネが宙に浮かんでいた。

 

「ルナ、だよ。お兄さん」

「ルナは下がって。......何の用?」

「そう殺気立たないで、フラン。......ルネ、話してくれるのよね? 何故あの女が襲撃したか。そして、貴方とレナの関係も」

「......エリザベートです。僕の妹は。というか、話さなくてもすでに察しているのでしょう?」

「ねぇ、貴方......いえ、貴女は本当にルネなの? ルネという名前なの?」

 

 妹二人の目線を感じる。

 昔の自分でも、こうは思わなかっただろう。

 

 だが、今は──

 

「貴女......本当はレナなんじゃないの?」

「えっ!? れ、レミリアお姉様? 何言ってるの?」

「明らか『お姉様』って言いかけてた時があったし、さっきも私って言ってたから。それに、雰囲気も、言動も似てるし......」

「わ、私は似てないと思うよ! お姉様の方が──」

「カッコいいし、可愛いから......です?」

 

 ルネはフランの言葉に重ねるように話した。

 まるで、何を言うか分かっていたように。

 

「むぅ......分かったようなことを言わないでよ!」

「......なら、何を言おうとしたのです?」

「そ、それは......うぅ......!」

 

 図星だったようで、フランは何も言えず、悔しそうにルネを見つめている。

 今にも飛びかかりそうな殺気を放ちながら。

 

「ルネ。できれば急いで話して。それと、フランを刺激しないでよ」

「可愛いですから、つい。では、ここで話して敵が来てもあれですし、付いてきてください」

 

 と、ルネが平屋の多い通りへと向かう。

 

「分かったわ。......フラン。殺気抑えて。ルナは......嫌いではないのね」

「うん。知らないから」

「皆さん。抜け穴を作ったので入ってください」

 

 と、ルネが通りの真ん中に人一人が入れそうな穴を作った。

 

 ──これ、やっぱりレナと同じ......。

 

「......罠かもしれない」

「僕が先に入りますよ」

「......そうして」

 

 警戒心が異常に強いフランの要望により、ルネが一足先に穴の中へと入っていった。

 そして、次に私が続いた。

 

 中はどこかの平屋らしく、机にタンスらしきものがある。

 出口は先ほどの抜け穴と扉一つしかない。

 

「......ここは?」

「秘密裏に拝借しておいた家です。ちなみに隣の部屋にはもう一人の私がいますよ」

「もう一人の......まさか!? 貴女がミアを!?」

 

 と、ルネの首筋を掴んだ。

 

 誰であろうと、私の妹に手を出すのは許せないのだ。

 

「っ......。話を聞いて、ください......」

「レミリアお姉様ー。だいじょー......え!? ち、ちょっと!? 何キレてるの!?」

「キレて悪い? まぁいいわ。言い訳を聞こうじゃない」

 

 手を離すと、後から入ってきたフラン達を私の横に座らせ、ルネの真向かいへと座る。

 ついでに、ルネが何かしないように両手を握った。

 

「......あの?」

「貴女が何かしないようによ」

「......分かりました。では、話しますよ。まず、今の僕はレナではないです。今の僕はルネです。が、昔は同じ存在だった、とは言えます。

 ......今はそれだけ知っていてください。いずれ......レナの口から聞いてください」

 

 ──今はレナではないが、昔はレナだった......?

 これだけでは意味が分からないが、レナがたまにおかしな言葉を話すのと関係している気がした。

 

「......そう、分かったわ」

「レミリアオネー様。全く意味が分からない」

「ルナ。今はただ、聞いていて。またいつか、詳しく話してあげるわ」

「次に、エリザべート......僕の妹が襲撃したのは申し訳ないです。あの娘、お酒が入るといつもああなって......」

「止めなさいよ。で、大丈夫なの? その娘」

 

 正直、あの女は嫌いなのだ。

 だが、怪我をさせてしまったのだから、心配しない訳にはいかない。

 

「はい。今はもう一人の私に相手をしてもらってます」

「ミアがいるの!?」

「フラン、落ち着いて。そうね、言い訳がまだだったわね。どうしてミアが居るのかしら?」

「ただ、魔神を襲おうとしてたので、眠らせて保護していただけですよ?」

「だからって三ヶ月も保護しないでよ! どれだけこっちが心配したと思ってるの!?」

 

 腕に力が入ったせいか、ルネが痛いのを我慢するように少し顔を歪めた。

 

 ──無意味な我慢強さはレナみたい......。

 

「魔神に手を出そうとした時点で危険なのです。できればすぐに紅魔館に送り届けて安全を確保したかったのですが、幻想入りしてからは紅魔館へ行ったことがないので魔法でも飛べなかったのです。それに、兄の監視もあり、無闇に動くこともできなくて......」

「......ミアのことを思って、というのは分かったわ。で、ミアにはそのこと話したの?」

「もちろん話しましたよ。異変に気付き、レナがやってくるまでの辛抱だとも」

「......反応は?」

「レミリアの名前を叫びながら泣いてました」

 

 容易に想像できることが怖い。

 あの娘達が自立できるのかが心配になってきた。

 

「ですので──今は違いますが──この空間と外の空間の時間を弄り、ここでの一日を外での二週間近くに設定してあります」

「え? ......ミアは数日だけ私達と離れていた、と感じているってこと? というかよく出来るわね、そんな技」

「正解です。多分、五日くらいだったと思いますよ。捕まえてすぐには話せませんでしたし」

 

 その話を聞いて、より一層、私の妹は自立できるのかと不安になる。

 ──数ヶ月ならまだしも、数日でも離れると泣くとは......。でも、私も数日でミアのことを心配したから、お互い様かしら。

 

「ねぇ、ミアに会っていいよね?」

「少しお待ちを。会う前に、一つだけ約束してほしいのです」

「何かしら? まだミアを連れて帰るな、みたいな約束は無理よ?」

「いえ、もちろん連れて帰っていいですよ。というかすぐに連れて帰ってほしいのです。

 そして、できれば異変が終わるまでここへ来ないでください。レナは私が何とかしますので」

「......はい?」

 

 次は故意にルネの腕を握る力を強める。

 簡単に、明確に思いを伝えるために。

 

「お、お姉様......お願いです......」

「レミリアと呼びなさい。

 そして、何を言おうとお断りするわ。妹を放っておけるわけないじゃない。ただでさえ危なかっしい妹なのに」

「れ、レミリアオネー様。落ち着いて......」

「そうだよ、レミリアお姉様。殺したって意味無いよ?」

 

 フラン達が落ち着かせようと、私の腕を抑えた。

 が、それでも握ることはやめず、ルネの目をまっすぐと見つめた。

 

「殺すつもりはさらさらないわよ。......ただ、私をお姉様って呼びたいなら、私を信じなさい。どうせ私が心配だから先に家に帰ってほしいんでしょ? 何を知ってるか分からないけど、私は簡単に死なないし、フランもルナも死なせはしない。

 私は紅魔館の当主。レミリア・スカーレット。スカーレット家の名に恥じないよう異変を終わらせ、家族を連れ帰るわ!」

「......この世界でも、貴女は貴女なのですね。分かりました。僕......私は貴女の名に恥をかかせないよう、貴女を手伝いましょう」

「えぇ、手伝いなさい。そして、すぐに終わらせるわよ。こんな異変は」

 

 握っていた腕を離し、改めてルネの目を見る。

 その目は、いつも見ているレナの目と変わりなかった。優しく、臆病な妹の目と。

 

「......レミリアお姉様はいっつも分かったような顔をしてるけど、結局お姉様とルネ(そいつ)の関係って何なの?」

「それはレナから聞きなさい。あの娘が唯一私達に隠していることよ。今回のことで少しは分かったかもしれないわ」

「それ分かってないじゃん」

「......ほんと、レナと違って失礼な娘」

「むぅ......ふん。喧嘩なら後でいくらでも買ってあげる。だけど、今はミアとお姉様が優先ね」

 

 フランは私の嫌味を無視すると、扉の方へと向かっていった。

 今更だが、少し、大人げなかったかもしれない。

 

「ミアとシシィはこちらです。行きましょう」

「シシィ? シシィって?」

「私の妹、エリザベートのことです。......あ、できればレミリアは少しお待ちを。あの娘、どういう訳か貴女のことを嫌っているようで......」

「えぇ、そうみたいね。ここで待ってるわ」

 

 そう言って、ルネとフラン達が扉の中に入っていくのを見送った。

 ただ一人、頑張っているレナのことを思いながら────



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15、「終焉へ近づく」

今年最後の小説。
まぁ、今年もありがとうございました。では、また来年お会いしましょう。

あ、お暇な時にでもごゆっくりどぞー


 side Remilia Scarlet

 

 ──とある平屋

 

「お姉ちゃん!」

 

 ルネに案内された部屋には三ヶ月ぶりに見る(ミア)の姿があった。

 

 私を見た途端、ミアは私の胸に勢いよく飛び込んできた。

 

「ミア! あぁ、良かったわ......。無事だったのね......」

「うんっ......もう離れないから......。絶対に......。

 フラン、ルナ。心配かけてごめんね」

「のーぷろぐれむ」

「大丈夫、だってさ。ま、私もルナも大丈夫って信じてたしねー」

「......兄様。レミリア(あの女)がいるけど、何もされてないですか? 大丈夫でしたか?」

 

 視界の端でルネの妹、エリザベートが私を恨めしそうに見ているのが見えた。

 少し前に切った腕はすでに元通りになっている。

 

「大丈夫ですよ。心配無用です」

「......ミアも無事だったし、後はレナね」

「レナ? ......やっぱり、本当に......。お姉ちゃん。早くレナのところに行こ!」

「事情は私達よりも詳しいみたいね。

 でも、戦えるの? 無理だったら私の後ろで援護してくれるだけでいいわよ?」

「大丈夫。私はお姉ちゃんを守れるくらい強いんだよ?」

 

 と、ミアは挑戦的な笑みを浮かべる。

 私を守れるということは、私よりも強いと同義と分かっているようだ。

 

「ふふん。しばらく会わないと思ったら、意外と元気で何よりよ。

 いいわ。貴女も一緒に戦いましょう」

「うん。背中は任せてね」

 

 こうやって話していると、本当に成長したな、と実感できる。

 三ヶ月ぶりに会ったせいもあり、より一層そう感じてしまうのかもしれない。

 

「じゃ、私はルナの背中を。ルナ、本気出していいよ。でも能力はダメね」

「分かった。剣と匣使う」

「どっちもヤバいやつじゃんそれ......。匣は残すの希望だけにしてね」

「それは、私にも分からない」

「えーっと......久しぶりの再開で盛り上がって......フランとルナは少し別ですが。

 まぁ、ちょっといいですか?」

 

 と、話に割って入るようにルネが話しかけてきた。

 

 ──確かにここでずっと話すわけにもいかない。

 

「えぇ、いいわよ。何かしら?」

 

 そう思った私はルネの話を待つ。

 

「急いだ方がいいと思います。僕の兄、フリッツとレナがそろそろ戦い始めると思うので」

「......誰かは覚えてないけど、わざわざ言うということは強いのね。分かったわ」

「レナ......。うん。急ごう。そういえば、魔神とかは?」

「あれは異変解決後にでいいと思いますよ。では、向かいましょう」

「兄様、ミアお姉様。......行かれるのですか? アタシはまたお留守番ですか?」

 

 ルネの話が終わるとすぐにエリザベートが話に入ってきた。

 よほどミアを気に入ったのか『お姉様』と呼んでいるらしい。

 

「できればシシィにはお留守番してほしいです。外は危険ですから」

「嫌......嫌です。兄様をレミリアなんかに取られたくありません......」

「いや、取る気さらさら無いわよ......」

 

 エリザベートは呟いた声に反応し、明らかな敵意を......いや。殺意のこもった目をこちらへ向けてくる。

 

 ── 一体私が何をしたというのか......。全く分からないわ。

 

「......シシィ、外は危険ですよ。またフリッツ兄さん達に捕まったら......」

「それでも! それでも兄様と一緒にいたい......。何処にも行ってほしくないから......」

「......本当に似ていますよね、貴女は長女だというのに」

 

 と、ルネはちらりとフラン達を見やる。

 

 何かを思い出しているような表情を見せて。

 

「分かりました。僕から離れないでくださいね」

「ああ、ありがとう、兄様......」

「......もういいかしら。案内は頼むわよ。私達は大穴から入ったことないから」

「私はあるけどね。前にレナと一緒に来たから。でも霧の中は初めてだから任した」

「任されました。では、向かいましょう。

 ちなみに抜け穴を作って向かいますので、霧を吸わないようにだけ気を付けてください」

 

 ルネの忠告を受け、ルネが用意した布を口に巻いた。

 私達は抜け穴に入って、地霊殿へと向かった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿

 

「さとり! 違うここじゃない!?」

 

 朱童()の忠告を受けた私は、さとり達を探して地霊殿を駆け回っていた。

 

 さとりと別れたはずの部屋には誰も居ず、霧のせいか魔力で探知することも難しい。

 ──安全な場所に隠れてて、なんて言わずにここで......いや、それだと早く見つかってたかもしれないか。

 

「さとりー! 一体何処に......ん?」

 

 絨毯が敷かれた廊下の先に黒い何かが見えた。

 

 その正体は──

 

「え......? 黒猫? お燐!?」

 

 ──小さな黒い猫だった。

 

 しかし、慌てて近付いて分かったが、この黒猫の尾は一本。どうやら普通の猫らしい。

 かすり傷らしき傷はあるも、瀕死の重傷というわけではなかった。

 

「ほっ......大丈夫? 子ねひゃっ!? 」

「にゃぁ......」

 

 突然猫が動いたものだから、驚いてしまった。

 それを見てか、猫は呆れたような鳴き声を出した。

 

「ご、ごめんね、今は友達を探してるから、ここで安静に......どうしました?」

 

 猫は私の腕から逃れると、真っ直ぐと廊下を走っていった。

 

 そして距離を置くと、私の方へと振り返る。

 

「......もしかして、そっちにさとりが? 分かりました。今行きます!」

 

 黒猫を追って、私は廊下を駆けていく。

 

 

 

 しばらく走っていると、広間のような広い部屋へ出た。

 そして、そこには──

 

「さ、さとり!?」

 

 ──血を流し倒れたさとりと、お燐やお空を含むペット達。

 そして、それを起こした犯人らしき、背中に翼の生えた蒼髪の吸血鬼がそこには居た。

 

 吸血鬼は私の方を見ると、嘲たように笑みを浮かべる。

 

「おやおや......。誰かと思えばスカーレットの次女ではないか。

 ヒーローは遅れてくると言うが、少し遅すぎたな」

「貴方......っ! 失礼ですが誰かは知りませんが、今すぐ私の友達から離れなさい!

 離れなければ......『魔剣(まけん)ダーインスレイヴ』! 貴方を斬ります!」

 

 先ほど、吸血鬼を倒した際に使った武器を再度召喚した。

 この剣は不死の生物をも殺し得る力を持つ。

 

「投影......『グラデーション・エア』か? そんなもの、俺様に適うようなものではない」

「ぐ、ぐら......? い、いえ。適います。先ほど、入り口で戦った吸血鬼にも効きましたから」

 

 その言葉を聞いた吸血鬼の表情が変わる。

 

 変わったと言っても、それは楽しめそうだ、という慢心にも似た表情だ。

 

「ほう......。ジョンを倒したか。あの出来損ないの弟の一人を......」

「弟? なるほど。貴方もお姉様を仇に思ってる方です?」

「そんなものに興味はない。俺様が興味のあるのはただ一つ、支配だ......」

「......あ、は、はい。馬鹿馬鹿しいので、呆気に取られました。

 潔く負けて散りなさい!」

「ほざけ。俺様にその刃は届かん」

 

 その場から動こうとしない吸血鬼に対し、私は目眩しにと弾幕を放つ。

 

 そして、その弾幕に隠れるように、敵へと飛び出した。

 

「無意味だ。ハァっ!」

 

 吸血鬼も対抗して弾幕を放ち、互いの弾幕がぶつかったと同時に、私は前に跳躍する。

 

 そして、吸血鬼の頭上から剣を振り下ろし、切り裂い──

 

「取っ......え?」

 

 ──と思いきや、いつの間にか剣は手から消え去っていた。

 

 そして、目の前には無傷の吸血鬼だけが残っている。

 

「効かない。そう言っただろう。弱いわ!」

「うぐっ──!?」

 

 呆気に取られているうちに腹部へ蹴りを入れられ、後方へと飛ばれる。

 

 ──どうして剣が......!?

 

「お前の武器は弱いから消える。贋作なら尚更な。吸血鬼に武器など不要。

 爪さえあれば──」

 

 瞬く間に吸血鬼の姿が消えた。

 

「っ!?」

「──弱者など容易に殺せる」

 

 次の瞬間、首に鋭い痛みを感じる。

 

「あ! あっ......ぅぐ......」

「ちっ、浅いか。やはり霧散からの実体化では殺せん......なぁっ!」

「ぅあっ!」

 

 両手を付いたところに背中へ蹴りを食らい、地に伏せてしまう。

 

 ここまでいいようにされるのは、お姉様と初めて戦った時以来だ。

 

「どうした? これで終わりか?」

「り......」

「り?」

「『輪廻転生「ウロボロス」』! 集ま......え?」

 

 力を振り絞って魔法を使うも、いつものように弾幕が出てこない。

 それどころか、魔法が一切使えなくなっていた。

 

「魔力切れか。ジョンの奴め。意外と削っていたと見た。

 そこまで強くもない弱者だったな」

「うっ......」

「ん? 何処へ行った?」

 

 魔法がダメなら、と能力を使い、自身を有耶無耶にした。

 これで気付かれることはないが、傷のせいで身体を動かしにくい。

 

 しかし、さとりと大勢のペット達を逃がすにはこの吸血鬼を倒すしかない。

 

「こうなったら......有耶無耶なうちに......!」

 

 必死に力を振り絞り、吸血鬼の首目掛けて鋭い爪で切り裂いた──

 

「......え? どうして......?」

 

 ──が、傷付いていたのは私の方だった。

 

 あと一歩のところで爪は届かず、代わりに私の腹部には相手の爪がくい込んでいた。

 

「容易い。お前もルネと同じ能力のようだな。能力に頼りすぎた末路だ、な!」

 

 吸血鬼が掛け声とともに勢いよく爪を抜くと、私は力なく倒れる。

 

「ど、どうして......」

「見えているからだ。お前が遅いからだ。

 俺様の能力は『ありとあらゆるものを霧散させる程度の能力』。

 能力という概念さえも、俺様の前では無力なのだ」

「そんな......さとり......。お姉様......」

「助けは来ず、また一人、俺様の手によって弱者は消える。

 お前はここで終わりだ。先に逝って、姉でも待ってろ」

 

 吸血鬼は大きく手を振り上げると、倒れた私へと振り下ろした────

 

 

 

 

 

 side Kirisame Marisa

 

 ──地霊殿(周辺)

 

「『マスター......スパーク』!」

 

 ミニ八卦炉(はっけろ)を構え、敵の集団へと光のビームを放つ。

 

「キリがないぜ! 鬼さん、何か手はないのか!?」

「ないこともない。だけど、今は頑張って攻撃して、気絶させていくしかない。

 あと、名前を呼ぶ時は朱童と呼んで」

「あぁはいはい。要は無いんだな! ええい! 散れ! 『スターダストミサイル』!」

 

 魔力切れを危惧してショットで攻撃するも、敵は減るどころか増えているようにさえ感じる。

 

「なんか増えてません!? これじゃあ本当にキリがないですよー」

「敵の援軍が来たみたい。これは、やばいかも」

「気楽に言うな......。だが、私は諦めない。

 霊夢もここに来るんだ。それまで諦めるわけには......」

「魔理沙さん! 後ろ──」

 

 早苗の声に反応するよりも早く、背後に気配を感じた。

 

 そして、振り返る間もなく──

 

「ほんと甘いわね。魔理沙」

 

 背後からは聞きなれた声が聞こえた。

 

「まあ、私が来たからには大丈夫よ」

「霊夢! 待ちくたびれたぞ!」

「霊夢さん! いよいよ巻き返しですね!」

「『スピア・ザ・グングニル』!」

 

 話を遮るように、誰かの声が響いた。

 

 そして、その声とともに赤い槍が敵の集団へと衝突した。

 

「え? あ、あいつは......」

「レミリアじゃない。どうしてここにいるのかしら」

「オラァ! おっと。霊夢の仲間かい?」

 

 器用に頭を小突いて敵を気絶させながら、霊夢の後ろから一本角の鬼がやって来た。

 どうやら正気を失ってないらしい。

 

「勇儀様。お待ちしてました」

「おぉ、朱童! やっぱ無事だったか!」

「霊夢の知り合いか? いつの間に鬼と友達になってたんだよ」

「友達ではない。その場の流れみたいなものよ。でも、味方よ」

「そんな固いこと言うなよ。私は友達と思ってるよ。萃香の友達だしね」

「それも間違いだから......」

「あら霊夢。貴女も来ていたのね」

 

 話している最中、レミリアを含む吸血鬼一向がこちらへとやって来た。

 

「それはこっちのセリフよ。もしかして貴女が黒幕?」

「違うわよ。それはルネ(この子)の兄」

「あぁ、あの時の......」

「前も話したような......」

 

 そう言ってレミリアは吸血鬼らしい翼の生えた蒼い髪の男を紹介した。

 

「まぁ、ちょうどよかったです。霊夢もここに居てくれて。では、行きましょう、黒幕の場所へ。

 霊夢と魔理沙、あとレミリアとシシィも一緒に来てください。案内します!」

「え? 私? というか貴方誰?」

「急がないと手遅れになります!」

 

 切羽詰まった顔を見て、急ぐ必要があるのだと察する。

 

「何か分からないが、レミリア。信用できる奴だよな?」

「えぇ、信用できるわよ」

「私も信用してるやつだよ」

 

 横から勇儀と呼ばれていた鬼が入ってきた。

 

 鬼は嘘をつかないと言うから、信用はできるのだろう。

 

「なら大丈夫だな。行くか」

「必然的に私も行くことに......はぁー。分かったわよ」

「よし! ここは私らに任せな!」

「私も負けられませんね! ここは守りますよー」

「お姉様......。ま、レミリアお姉様に任せればいっか。頑張ってね、みんな」

 

 早苗達を残し、私達は蒼い吸血鬼とともに黒幕の場所へと向かった────



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16、「終焉を迎える」

EX除けば残り1話。
もうすぐ紅転録の終わりですが、謎や付箋回収はEXの方が出てくる模様。

まぁ、お暇な時にでも読んでくださいませ。


 side Frandre Scarlet

 

 ──地底(地霊殿前)

 

「オネー様達、行っちゃった」

「そうね。私達はここの相手だってさ」

 霧に包まれる地霊殿。

 その前には、狂気を失った妖怪が溢れかえったいる。

 

 数は優に三百を超える。対して私達は吸血鬼三人、鬼二人、人間一人の計六人しかいない。

 

「どうやら......私らの知り合いも多いねぇ。鬼は少ないけどね」

「勇儀様、鬼は気絶?」

「敵はみんな気絶だよ。なに、萃香が霧を無効化してくれるらしいからね! 萃香が来るまでの辛抱さ!」

「私だけ人間で場違いな気もしますが、霊夢さん達のためにも頑張りますよー!」

 

 私達は皆が違う理由で集まっている、いわば烏合の衆。

 だが、相手も狂気にのまれただけの烏合の衆。

 

 能力を使わずとも、戦力差は明らかでも、時間稼ぎくらいはできる......はずだ。

 

「フランもルナも、やばくなったらお姉ちゃんを頼りなよー」

「大丈夫。いつもフランに、弾幕ごっこの練習、してもらってるから」

「ま、そういうことだから。ミアこそやばかったら手伝ってあげるよ」

「成長したねー。でもね......姉として、万が一にでも助けてもらうなんてないからね!

 じゃ、先に行くよー! ちょっと痛いけど我慢してね。『吸苻「ヴァンプティアー」』!」

 

 大きな声とともにミアが空を何度も切り裂く。

 

 すると、切り裂いた痕が弾幕となって敵へ降り注いだ。

 

「すごく元気だね、ミア......」

「数日分の鬱憤晴らし、かな?」

「おぉ! 活きのいい奴がいるじゃねぇか!

 私らも負けられないね。行くよ! 朱童!」

「はい。気絶は難しいけど、頑張る」

「では、私も行きますよー! 『秘術「グレイソーマタージ」』!」

 

 ミアに続き、鬼らしい二人と人間も続いて行く。

 

 しかし、弾幕を撃てないのか撃たない敵達は、私達に向かって弾幕なんてお構い無しに突っ込んでくる。

 

「ルナ。私達もやろっか」

「うん、行くよ。『禁忌「パンドラボックス」』。囲め、囲め」

 

 ルナのスペルカードによって敵の大軍を中心に、幾つもの円状に弾幕が展開される。

 

 と、次の瞬間、円の内側から中心に弾幕が広がった。

 

「ガァァァ!」

 

 中心にいた敵のほとんどは弾幕の攻撃を受け、鋭い叫び声が響き渡る。

 

 弾幕に命中した者が壁となり、中心に居なかった者は被弾は避けられた。

 

「ワァァァ!」

「みんなルナのに引っかかるよね。箱の中身は希望か絶望か、ルナの気分次第で変わるのに。

 ま、理性ないと思うから、引っかかってはないかもしれないけど」

 

 なんてこともなく、波のように何度も広がる弾幕により、パンドラの匣に捕まった敵の大半は被弾する結果となった。

 

「みんな痛そう。正気ない時、私は痛くないのに」

「痛みが強すぎるのかも。もうちょっと落としていこっか。後で回復するの、多分お姉様だしね」

「フラン、ルナ。気絶だからねー! 悪い人じゃない妖怪も混ざってるんだから!」

「悪くなくても人じゃない」

「ルナ、揚げ足取りはいいから。じゃ、私もやるかぁ。出力低めの『レーヴァテイン』!」

 

 弾幕ごっこ用よりもさらに低出力の炎の剣(レーヴァテイン)を召喚し、手に取る。

 

 これにより斬ってもたいていの妖怪は火傷で済む......と思う。

 

「私も。『禁忌「カラドボルグ」』」

 

 ルナも私を真似て、稲妻の剣(カラドボルグ)を手に取った。

 

「......ね、フラン。どっちが敵を気絶させて救えるか、勝負しよ?」

「え? ......いいよ。もしも私が勝ったらどうするの?」

「お姉様に告白、していいよ?」

「はぁぅ!? な、何言ってるの!?」

「始めよっか。あ、私が勝ったら、その逆ね」

 

 それだけ言って、私の質問にも答えずにルナは敵の大軍へと突進して行った。

 

 ──ほんと、あの娘ったら......。

 

「フラーン! ヘルプミー!」

「ミア!? 助けてもらわないんじゃ......あぁ、もう! もうどうにでもなれ!」

「......勇儀様。待つ必要、ないかも、です」

「そうみたいだねぇ。ま、そん時はそん時だ! 私らも負けないよう、派手にやろうじゃないか!」

 

 こうして、私達の戦いは勢いを増していった────

 

 

 

 

 

 side Renata Scarlet

 

 ──地霊殿(とある広間)

 

「お前はここで終わりだ。先に逝って、姉でも待ってろ」

 

 吸血鬼は大きく手を振り上げると、倒れた私へと振り下ろした──

 

「姉ならここよ。ルネの兄、フリッツ・エルジェーベト......だったかしら?」

 

 が、それは私に届くことはなかった。

 

「ぁ......っ、姉様......!」

「レミリア......スカーレット......ッ!」

 

 すんでのところで吸血鬼の爪は、姉の片腕を貫いたのだ。

 

「にしても......結構痛いわね、流石だわ。

 でもね、妹を傷付けたからには......なんて、感情的になっちゃダメ、ねっ!」

 

 言葉とは裏腹に、姉は貫かれた腕などお構い無しに、吸血鬼を蹴り飛ばした。

 

「お姉、様......っぐ!」

「大丈夫よ、これくらい。......でも、複雑な傷は治りにくい、し......」

 

 お姉様は自身の鋭い爪で、怪我をしている腕ごと切り裂いた。

 

 確かに複雑な傷は治りにくいが、そこまでする必要はなかったと思う。

 

「っと、これで大丈夫ね」

「だ、大丈夫な訳......ぁぅ......」

「ああ、可哀想なレナお姉様。でも大丈夫......私が癒してあげます......」

「シシィ。僕が見ますから、貴女は他の......さとり達を治してあげてください」

「あそこに倒れている方々ですね、分かりました!」

 

 お姉様に次いで、ルネとルネに似た青い髪の女の子がやって来る。

 

「霊夢! 出遅れたみたいだ!」

「そうみたいね。って、凄くひどい有り様ね......」

 

 さらには遅れて霊夢、魔理沙も到着する。

 

 ──どうしてここが......。

 

「レナ、大丈夫? 立てそう?」

「だ、大丈夫です......。傷は深いですが、これくらいなら吸血鬼の再生力のお陰で......何とかなります」

「ま、間に合った......。これで、僕の運命が......。(レナ)の運命が......」

「何を安心しているか知らないけど、まだよ。まだ黒幕は倒れていないわ。

 それにしても結構な数が倒れているわね。これもあいつのせいかしら」

 

 霊夢がフリッツという吸血鬼を指差し、問いかける。

 

「はい、あいつがこの異変の黒幕です!」

 

 それに対し、ルネが凄まじい勢いで答えた。

 

「そう......。で、なんだったかしら。人間の手で云々って紫が言ってたけど、いいの?」

「あのスキマ妖怪が......?」

「おそらくは地上と地底の取り決めの件があるからだと思います。

 ......ですからレミリア。お願いですから手は出さないでください」

 

 何を考えているのか、ルネは懇願するようにお姉様へ頼んだ。

 

「......まぁいいわ。あんな吸血鬼の一人や二人、霊夢と魔理沙だけで充分ね」

「いいのか? お前らシスコンだろ?」

「いいのよ。私自ら手を下す必要なんてないわ」

 

 珍しく、お姉様はすんなりと引き下がった。

 そしてお姉様は私を敵から離れている、さとり達の近くへと運んでくれた。

 

「......ってことらしいぜ、黒幕さんよ」

「......はっ! たかが人間如きが俺様の相手になるか! いいだろう。

 その浅はかな考えを後悔する間もなく殺してやるわ!」

 

 お姉様に蹴られた傷もすでに治っているようで、フリッツは声を張り上げてそう言った。

 意味がないのに、まるで威嚇しているようだった。

 

「だってさ、霊夢。さて、どっちが最後決める?」

「決めていいのね? なら私がやるわ。そうした方がいい気がする」

「オッケー! 援護するぜ! 『マスター......スパーク』!」

「え? 魔理沙、それ決め技──」

 

 明らか援護という威力ではない『マスタースパーク』がフリッツへと飛んでいく。

 

「無駄無駄! 弾幕は俺様には通用しない!」

「なにっ!?」

「──でもなかったわね。ビックリした」

 

 が、案の定、弾幕はフリッツに当たる直前に霧散し、消えてしまった。

 

「霊夢! 魔理沙! そいつはありとあらゆるものを霧散させる力を持っています! っぅ......」

「レナ! 喋っちゃだめよ。貴女は回復に専念を......あら?」

 

「なるほどな! やっぱり霊夢の勘は頼りになるな!」

「自分で決めようとしていた人が何を......」

 

 霊夢が呆れた声で返すも、魔理沙は冗談っぽく笑ってみせる。

 

 本当に仲のいいパートナーらしい。

 

「まぁいいわ。魔理沙、決めるからさっきの威力で援護よろしく」

「あれだと魔力が尽きちまうぞ?」

「いいのよ。どうせあいつが黒幕なんだから使い切っていいでしょ。多分」

「分かったぜ。特大のを見せてやる!」

「話し合いはそこまでだ! 見せてやる! 俺の力を!」

 

 そう宣言すると、四方八方に向かって闇雲に弾幕を展開した。

 

「あっ、レナ達が!」

「魔理沙! あいつらは大丈夫だと思うから避けるのに専念しなさい!

 あの弾幕、滅茶苦茶だけど殺気が強いわ! 当たったら人間の私達は大変よ!」

 

 霊夢の話す通り、その弾幕が当たった床や壁は、まるで砂で出来ていたかのように簡単に砕かれてしまう。

 

「お、お姉様......!」

 

 そうやって他人事にはできず、未だ傷が治らず、動けない私に弾幕が飛んできた──

 

「レナ──ッ!?」

 

 ──が、その弾幕は見えない壁に当たったかのように、途中で砕け散ってしまった。

 

「レナ、シシィ。レミリアも。動かないでください。

 あいつの防衛対策は万全です。攻撃はできませんが」

「る、ルネ......。ありがとう、助かったわ」

「いえ。それよりも、今の状態では傷が治せません。ですので少しだけ我慢できますか?」

 

 ルネは結界に集中して振り返ることもしなかったが、私に言ったのだとすぐに理解できた。

 どういう訳か、ルネの目的は私を生かすことらしい。

 

「す、少しだけなら......。この傷、どういう訳か治りが遅いのでできるだけ早くお願いします」

「......な、治りが......?」

 

「危ねーっ! れ、霊夢! もう少し待ってくれ!」

 

 そうこうしているうちに、霊夢と魔理沙は向かってくる弾幕を前に、迎え撃つ体勢を取ろうとしていた。

 

 しかし、どうにも隙をつくことができずに、迎え撃つことができずにいたらしい。

 

「っ、仕方ないわね。一瞬だけ時間を稼ぐわ! 『封魔陣』!」

 

 霊夢が魔理沙の前に入ったかと思うと、天高く広がる結界を張った。

 

「ナイス! 行くぜ......!」

「本当に一瞬だけだから早く!」

 

 魔理沙はミニ八卦炉に魔力を溜め──

 

「分かってるぜ! 渾身の......『魔砲「ファイナルマスタースパーク」』!」

 

 ── 一気に放出した。

 

 それは彗星の如く、他の弾幕を消し去りながら真っ直ぐ進んでいく。

 

「ついでよ。ホーミングアミュレット!」

 

 さらには霊夢の御札が拡散しながらフリッツへと向かっていった。

 

 しかし──

 

「無駄だということが分からんか!」

 

 ──全てが当たる直前で霧のように消えてしまった。

 

「霧散する量に限りなし! 高密度だろうが広範囲だろうが意味がないのだ!」

「だから?」

「え──ガハッ!?」

 

 と、いつの間にかフリッツの背後に回っていた霊夢が、フリッツを素手で殴り飛ばしたのだ。

 

 流石に子供と言えど吸血鬼だからか、尻もちをつく程度しか飛ばなかったが。

 

「に、人間がこんな力を!? いや、それよりもいつの間に!?」

「真っ直ぐ背後に回っただけよ。そしてやっぱり、人は霧散できないのね。安心安心」

「......霊夢お得意の瞬間移動だな。あいつ無意識でやってるけど」

 

 霊夢はゆっくり御札を構えると、自身とフリッツの周りに配置していく。

 

 そして、円柱の結界が完成した。

 

「これで逃げれないわね。あ。でも霧散されれば逃げられるか」

「気楽に言ってるが、俺様と素手で戦うつもりか!?

 人間が、俺様に適うなど──!?」

 

 結界の中から聞こえていた声が止む。

 どうやら、何かの異変に気付いたらしい。

 

「あ、気付いた? お察しの通り、妖怪はこの結界の中じゃ全力なんて出せっこないわよ。

 出せて一割......くらい? もしかしたら能力なんて使えないかもね」

「ぐ......ぐぬぬ......」

「あいつ容赦ねぇな。というかやばいな。あんな強力な結界を一瞬とか......」

 

 魔理沙の哀れみの目が向けられる中、ほとんど無力化されているはずのフリッツに対して、霊夢が御札を構える。

 

「じゃ、そういうことよ。おあいにくさまだけど、鬼に引き渡すまで眠ってもらうわよ。

 落ちなさい。『夢想封印』!」

 

 異変の終結を告げるかのような色とりどりの弾幕が、結界の中を覆い尽くした────




ちなみにフリッツですが、見た目も年齢もレミリアと同い年くらいという。


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17、「異変は終わる」

全てが終わる、その──

というわけで、題名通りのお話。

それでもいい方は、ごゆるりと⋯⋯。


 side Remilia Scarlet

 

 ──地霊殿(とある広間)

 

「『夢想封印』!」

 

 霊夢が結界の中で、異変の元凶へとどめを刺した。

 

 もちろん殺さず、鬼へ渡すために気絶で済ませている。

 

「終わった......。これで、(レナ)も......なっ!?」

 

 ルネが結界を解き終え、後ろを振り返ると同時に驚愕の声をあげた。

 

「お兄様? どうされ......ハッ!」

 

 それと同時に、エリザベートも息を呑む。

 

「ど、どうしたの?」

「レ、レナ! レミリア! レナの傷が......」

「え、まさか......っ!?」

 

 自然治癒力が高いはずのレナの傷は治るどころか、逆に悪化していた。

 傷は見るも無残なほど痛々しく、最初見たときよりもひどくなっている。

 

「ど、どうして......? れ、レナ? 私が分かる? 私が見える?」

「......え? あ、すいません......。ちょっとだけ、眠くなっちゃって......。

 でも、大丈夫......ですよ。すぐに起きれますから......」

「ちょっとレナ! 寝ちゃダメよ! レナってば──!」

「れ、レミリア! 少し落ち着いてください! すぐに僕が治癒魔法で......!」

 

 そう言ってルネがレナに治癒魔法をかける。

 

「え? なっ......どうして......」

 

 が、効果がないようで呆気に取られた。

 

「どうしたんだ?」

「何かあったの?」

 

 それとほぼ同時に、戦い終わった魔理沙達が心配して近付いてきた。

 

「レナが......」

「なっ!? お、おい! 大丈夫か!? ち、治癒魔法は!?」

「......だ、ダメです。効果が......。何度やっても、どれだけ強力でも......」

 

 ルネは治癒魔法をかけ続けてくれているが、暗い顔が一向に晴れない。

 

 対してレナは、瞼を閉じて眠っているかのような顔だった。

 だんだん安らかな顔になっているような気さえした。

 

「......レナ(この娘)、呪いがかかってるわよ。傷が治らなくなる、不死殺しの呪いが」

 

 霊夢は落ち着いた声でそう告げた。

 まるで余命宣告のように。

 

「不死殺し......? まさか......フリッツ(あの男)の攻撃が......?」

 

 この傷はフリッツから受けたものらしいから、その可能性は高い。

 ──しかし、同じように私も受けたはずなのに、どうしてレナだけ......。

 

「レミリアは運良く怪我した部分ごと切り裂いたから大丈夫みたいだけど......この娘はそれもできないわね。全身に傷があるもの。それも、かなり深い。......それに、僅かな体力しかない今、これ以上体力を削ったら......」

「ど、どうすればいいの? どうすればレナは助かるのッ!?」

「......私にも分からないわ。呪いをかけた、おそらくあの吸血鬼だと思うけど。そいつを殺したところで、呪いが強くなる可能性もある。だからこそ、解呪が一番いいんだろうけど......時間がかかる。この娘の体力が保つとは思えないわ。だから、もう──」

「そんなのやってみないと分からないじゃない!」

 

 衝動のまま、私は霊夢の首の襟元を掴んでいた。

 

「お、おい、レミリア! 落ち着け!」

 

 すぐに魔理沙が間に入ってくる。

 

「霊夢に怒ったって仕方ないだろ!」

「魔理沙、別にいいのよ。それは一番レミリアが分かっているわ」

「......こんなのあんまりじゃない......。

 せっかくミアも見つけて、黒幕も倒して、心置き無く帰れるって時に......」

 

 自分の気持ちを抑えきれず、ポツポツと言葉を呟いていた。

 

 誰に言うでもなく、ただ、抑えきれなかった。

 

「レナが......レナだけが一緒に帰れない? レナが死ぬ? 嘘でしょ?

 ねぇ、嘘なんでしょ......。起きてよ、レナ......」

 

 レナの顔を見てみるが、もうすでに目は閉じている。

 

 横では何度もルネとエリザベートが治癒魔法をかけているが、びくともしない。

 

「起きて......。嫌、嫌よ......。貴女がいないなんて、嫌......」

 

 頬に熱いものが流れるのを感じる。

 

 だが、いつも反応してくれていた妹は、今回ばかりは反応しなかった。

 

「嘘よ......。誰か、嘘だと言って......。ねぇ、レナ......」

「レミリア......。レナ......起きてください。貴女の姉が泣いていますよ?

 お願いですから、起きてくださいよ......。姉を悲しませちゃダメですよ......」

「......レミリア、ルネ。もう止めなさい。言いたくないけど、これ以上は......」

「嫌よ! 諦めないわ! このまま回復し続けて!

 そうしたら、いつか、きっと......!」

「......いつか、きっとじゃ遅いだろ。見ろよ、レナの顔。ピクリとも動かないんだぞ」

 

 魔理沙の言う通り、レナの顔、そして身体も動きはしない。

 

 試しにレナの頬に触れた。

 

 まだ温もりを感じる。だが、生気を感じない。

 妖力は微かに感じるが、それは残り火にもならないような小ささ。

 

「......う、うぅ......」

 

 胸から何か熱いものが込み上げてくる。

 それは目から流れ落ち、止めることができずに溢れてくる。

 

 それと同時に私は理解した。受け入れ難い真実を理解した。

 

「あぁ......あああ......!」

 

 この世で初めて愛した人が、この世で最も好きだった妹が、目の前で消えかかっていると。

 

 否。消えてしまったのだと。

 

「ああああああ──!」

 

 それを理解したが故に、私の中で何かが崩れ落ちた。何かが割れる音がした。

 

「嫌よ! 嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌嫌ァ! 死なないでよ! 死んでほしくないのに!

 まだ貴女と一緒にいたい! 私を守れるくらい強くなりたかったんじゃないの!? 私より先に死んでどうするの!? それじゃあ守れないじゃない!」

 

 レナを抱きしめながら必死に呼びかけるが、返事は返ってこない。

 

 いつもの温かい身体は、心なしか冷たく感じるようになっていた。

 

「レナ! レナってばぁ! ......お願いだから、起きて......起きてよ......。また貴女の笑顔を見せて、レナ......。貴女のことが大好きなのに......もう見れないなんて、嫌......」

「レミリア......」

「............あら? ね、ねぇ、何か光ってるわよ?」

「え......?」

 

 霊夢の言う通り、レナが首にかけていた赤い宝石が付いたネックレスが発光していた。

 

 それも、まるで心臓の鼓動のように、チカチカと点滅していたのだ。

 

「これ......熱っ!?」

 

 とても熱く、触れるようなものではなかった。

 

 これは、以前フラン達が初めておつかいに行った際、プレゼントとしてレナがフラン達から受け取った物だった。

 

 赤く光るそれは、みるみるうちに点滅の間隔も速くなっていく。

 

「な、なに? 何が起きて......」

「レミリア! その娘の傷が!」

 

 引き寄せていたレナを見ると、ネックレスとともに全身が赤く光っていた。

 それに同調してか呪いを受けていたはずのレナの傷も治っていく。

 

「ど、どうして......!?」

「ほ、宝石治療? でも、あれは自然治癒力を高める程度で、幻想郷だとしてもこんなには......。それに解呪も済んでいないのに......」

 

 赤い光がレナを包み込んだと思うと、次の瞬間、レナの傷は全て治る。

 だが、その代わりのようにネックレスに付いていた宝石がガラスのような音を立てて割れた。

 

「ふぁ......? あ。おはようございます......お姉様......ふぁぁぁ......」

 

 そして、レナは普段通りの顔で目を擦りながら、ゆっくりと起き上がる。

 

「あぁ、レナ!」

 

 嬉しさのあまり、周りの目など気にせずにレナを抱きしめた。

 

 力いっぱい、その温かさを感じるために。

 

「わふっ!? ど、どうしました?」

「よかった......。本当に、よかった......」

「嘘......奇跡だわ......」

「......諦めなきゃ、こうなることもあるんだな」

「よかった。これで、レナは......」

「え、えっ? お姉様、どうして泣いているのです?

 それにみんなもどうして集まって......」

 

 困惑するレナをよそに、生きている喜びをその手で実感する。

 

 生気を感じ、動くその身体は改めてレナが生きていることを実感できるのだ。

 

「帰ったら何度でも説明してあげるから、今はこのままにさせて......レナ」

「う、うん......」

「......。あ、シシィ、今のうちにさとり達を運ぶのを手伝ってください」

「分かりました」

「......これで、丸く収まった、のか?」

「さぁ? ......でも、一先ずはこれでいいんじゃないかしら。それでいいと思うわよ、私はね」

 

 こうして、全て丸く収まり、この異変は幕を閉じる──

 

 

 

 

 

 次の日。異変が終わり、私達は紅魔館へと戻っていた。

 フラン達によると、あの後霧は消えて妖怪達も元通りになったらしい。

 もちろん黒幕側にいたルネの兄弟は、ルネを除き鬼へと引き渡された。

 

「ねぇ、ここに住まないの?」

「そうですよ。住人が二人増えたところで......」

「気持ちは嬉しいですが、明日には行かせてください」

 

 そしてルネ達はと言うと、現在は紅魔館で居候している。

 元々住む場所は無かったらしく、前に居た妙な平屋も前の住人に返したらしい。

 

「行くってどこに行くの? やっぱりここに居なさいよ」

「僕達には、召喚してしまった魔神の後始末があります。

 それらは幻想郷から外の世界に行ってしまったのもいますから......」

「異変中、そんな奴らは見てないわよ? それに外の世界だなんて......」

「数は少ないですが、結構前から召喚していたので色々な場所へ行ってしまったみたいです。

 外の世界へ行く目処はついていますよ。バレていると思いますが、紫さん達には秘密ですよ?」

 

 ルネは口に指をあて、ふふっと笑う。

 

 異変が終わって、気が楽になっているらしい。

 

「あ、それと......レナには後で話があるので、貴女の部屋で待っていますね。

 できれば一人で来てください」

「......はい、分かりました。ということですので、お姉様。覗かないでくださいね?」

「の、覗かないわよ。心配なんてないんだから」

「あ、シシィは見張り番ということでレミリアに付いててください」

「分かりました。ということだから、レミリア」

 

 年下であるエリザベートに呼び捨てされ、少し腹が立った。

 が、表に出ないようにここはこらえる。

 

「わ、分かったわよ......」

「......ふふっ。それにしても、平和ですね。

 もう死にかけることもないでしょうし、これからは......」

 

 と、レナは私をじっと見つめてくる。

 

「どうしたの?」

「......ううん。何でもないよ、お姉さま」

 

 そう言って、レナは私に笑顔を見せた────




レナの物語、残すはEX三話のみとなります。

それが終われば、紅転録は⋯⋯と、まぁ、話の続きはEX3にて


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EX1、「蒼と紅の吸血鬼」

EX1/3です。
と言っても、今回は大体バレているであろう謎の解き明かし。

それでもいい方はどうぞー。


 side Renata Scarlet

 

 ──紅魔館(レナータの部屋)

 

 異変も終わり、平穏な日々へと戻ったその初めての日。

 私はルネに呼ばれ、一人、自分の部屋へと向かっていた。

 

 どうして私だけ呼ばれたのかはよく分からない。

 が、どうしても聞いておく必要があると思っている。

 

「入りますよ」

 

 部屋の前に着くと、ゆっくりと扉を叩き、そう言った。

 

 自分の部屋なのにそう言うのもおかしいが、今はそう言った方がいい気がした。

 

「どうぞ。って、僕が言うのも何ですが」

 

 と、中からルネの声が聞こえる。

 

 中に入ると、ルネは懐かしむように部屋の中を見ているようだった。

 

「......変わりませんね、全く......」

「......ルネ? 話とは一体何です?」

「それは、ここに呼んだ時点でもう気付いているのでは?」

 

 ルネは微笑みながら、そう言った。

 

 しかし、とは言われても私には何も分からない。

 ──いや、正確には知らない方がいい気もしていた。聞くのが怖い。知るのがいいことなのか分からない。

 

「......あれ? レナ?」

「......あ、はい。何でしょう?」

「いや、話を......。いえ、なら僕から話しましょうか」

 

 そう言って、ルネは一度深呼吸をして息を整えた。

 

「率直に告げましょう。僕は未来の貴女......と言っても過言ではありません。

 しかし未来人ではないです。僕は、いえ私は......レナ。貴女の来世です。以前言った転生者ですが、実はこの世界から転生したのです」

 

 そして一度に、息をつく間もなく全ての真実を話した。

 

「......そうですか」

「あれ。驚きが少ない......」

 

 正直、自分でも驚くほど驚くことはなかった。

 

 ミアのこともあるし、ルネが私に似ていることも知っている。

 今更来世の自分だと聞かされても、驚くことはなかった。

 

「驚きは少ないですよ。薄々感づきますよ、それくらい」

「そ、そうですか......。あれ、私ってこんな辛辣だっけ......」

「......でも、一つだけ気になることがあります」

 

 驚くことはなくても、とても気がかりなことがあった。

 

「その、私はどうして死んだのです? それに以前お会いした時は転生したとは聞きました。ですが、私の来世だとどうして教えてくれなかったのです? ......そして、お姉様は......」

「今三つも質問されましたけど。いや、別に構わないんですけどね?

 私は......そうですね。殺されました。今の僕の兄、長男のフリッツに......。

 異変の時に、誰も間に合わず......」

「あぁ、やっぱり......」

 

 名前は知らないが、おそらくは私を殺しかけていた奴のことだろう。

 あの時お姉様達が来てくれたから助かったが、ルネの方は間に合わなかったらしい。

 

「二つ目の質問ですが、以前は知らなかったのです。前前世の記憶は最初からありましたが、どういう訳か、幻想郷に来てから前世。いえ、今世の記憶を取り戻したのです。

 ですから、言わなかったのではなく言えなかったのです。

 知っていても、無理に未来は変えたくないので言わなかったかも知れませんが」

「タイムパラドックス的なアレですね。って、会った時点でパラドックス発生してますけど......」

 

 それを聞くと、ルネは「それはそれ」と軽く流してきた。

 ルネ曰く、あまり歴史変わらなかったので、別にいいらしい。

 

「お姉様についてですが......僕には分かりません。フランについても同じです。

 おそらくは......。いえ、考えたくもないです」

「......やっぱり、そうですよね」

 

 私が死んで悲しんでいる姿も、楽しんでいる姿だったとしても、あまり想像したくはない。

 もちろん、悲しむよりは楽しんでいる方が嬉しいが......。

 

「と、僕からも質問していいですか?」

「え? いいですけど......。何か質問する必要あります?」

「もちろんありますよ! あの、ミアという方とルナという方は一体誰なのです?

 僕の世界ではいなかったですよ?」

「......もしかして」

 

 それを聞いて、私はあることに気付いた。

 それは、ルネも気付かなかったであろうことに。

 

「ど、どうしました? もしかしてレナも知らな......」

「いえ。知っていますよ。の前に、ルネ。貴方は未来の私ではないみたいです。ましてや、この世界から転生したもう一人の私でも......」

「え? ち、ちょっと待ってください。自分から言ってなんですけど、話に追いつけませんっ!」

「まぁ、簡単に言えば貴方は平行世界の私みたいですね。ミアもルナもいなかった、現れなかった平行世界の私......。あれ、結局それは私......」

「ですね。あまり難しい話なんて僕達には無理みたいです。後でお姉様にでも聞きましょうか」

 

 と、自分に馬鹿にされてしまった。

 

 というか、お姉様に話すなんて、私には......。

 

「えーっと、結局ミアとかは......」

「え? あー。それなら簡単ですよ。

 この世界、そして貴方の世界は元から『レナータ・スカーレット』という人物が存在する世界です。

 私達はどうやら、転生ではなく憑依に近い事をしたらしいですよ」

「......えっ? ということは、ここは『東方Project』の世界だけど、少し違う世界と?」

「なんじゃないですかね。ミア曰く、前世の記憶は共有出来ていて、表に出なくても意識もハッキリしていたらしいです」

 

 思わぬ真実を知ってか、ルネは考え込むように頭を抱える。

 

 ミアという本当の『レナータ』を表に出さなかったことを随分と後悔しているようにも見える。

 

「......ということは、ルナという方はフランの......?」

「はい。フランの人格です。表に出れなかったから、暴れて鬱憤晴らしをしていたらしいですよ」

「......それが、狂気......。なるほど、あの世界に戻れるなら......。

 って、ミアに恨まれてないのですか、それは」

「......恨まれていましたよ。ずっと前までは」

 

 と、初めてミアと会った時のことを思い出す。

 偶然、召喚した時のことを。

 

「最初初めて会った時はフランと一緒だから殺そうとは思ってなかったよ。

 けど、殺気は放ったなぁ」

 

 と、私やルネの声じゃない声が聞こえた。

 

「え? ミア!? って、入る時はノックしてくださいよ!」

 

 声の方を振り向くと、そこには翼のない私、ミアが立っていた。

 

「ふふん。誰かさん達みたいに、黙って部屋の外で盗み聞きするよりはマシよー」

「? い、いつから聞いていたのです?」

「最初から。音と気配を消してね」

「......ミアさ、いえ。ミアは、レナ()を恨んでいないのです?」

「ま、そういうことよ。最初は私の立場を盗られたと思って、どうやって内側から殺そうかと模索してたわー」

 

 改めて本人の口から聞くと、罪悪感を凄く感じる。

 

「でもね。たった数年で、幸せそうにしているレナを見て羨ましいというよりも、この中に私も入りたいって思ったのよ。

 お姉ちゃんとフランと、レナも一緒の和に、ね」

 

 ミアは明るく微笑んでそう話す。

 まるでそうしたことを後悔していないみたいに。

 

「私はね。みんなでワイワイしている方が好きなの。当たり前のようにみんなで遊んで、楽しんで、たまには喧嘩もして......。そんな仲のいい家族が、友達が好きなんだっ」

「ミア......」

「あ、もちろん最初に自由に動けるようになった時は殺意もあったから、同情とか無しでいいよ。

 まぁ、すぐに消えちゃったけど。『レナータ』という立場を盗られても、フランは優しくて、お姉ちゃんは守ってくれて、ルナっていう新しい妹はできて......。そして、レナっていう頼りのある姉もできたから」

 

 話を聞いているうちに、罪悪感と同じほどの幸福を感じた。

 本当に、私は恵まれた家族に会えたんだ、と。姉も妹も、親も友達も。

 前世の記憶はほとんど薄れているが、前世と同じ、もしくはそれ以上に幸せなんだ、と、

 

「でね、私......って、レナ? ふふふ。どうして泣いてるのよ、もうー。

 って、ルネも!? いい話の途中なんだから笑ってよー」

 

 と、ルネも同じ気持ちだったらしく、目は涙で溢れていた。

 

「い、いえ。だって......」

「嬉しいです......。いえ、嬉しいの。私は、いい妹を持ったから......」

「あ、珍しい素の口調......。ふふふ。そっかそっか」

 

 ミアも嬉しいらしく、自然と笑みをこぼしていた。

 

「っと、さっきの言いかけたことだけど......。私、後悔してないから。

 一人は辛いし、寂しいし。私、レナが居てくれてよかった! これからもよろしくね!

 ......あ、なんか直に話すと恥ずかしっ。じゃ、私はこれでー。

 

 お姉ちゃん達も外で盗み聞きせず入っていいと思うよー!」

 

 ミアは去り際に、大きな声で言った。

 

 ──え、お姉様?

 

「ち、ちょっとミア!?」

「ふ、フラン! 乗せられて喋っちゃ......あっ」

「お嬢様。貴女もです」

 

 外で姉と妹、さらには従者の声が響いた。

 ミアの言う通り、外で盗み聞きしていたようだ。

 

「......お姉様やフランはともかく、咲夜まで......」

「私はお掃除に、と部屋に偶然来ましたので」

「ちょっと、レナ? 姉に対して失礼じゃない?」

「日頃の行いかと......」

「咲夜もひどいわー」

 

 姉は棒読み口調で話しながら、咲夜達を引き連れて入ってきた。

 

 咲夜は用意周到に掃除道具も持っている。

 

「......一応、どこから聞いていました?」

「どうぞ、僕が云々ってルネが言った辺りから?」

「言うと思いましたが最初からじゃないですか」

 

 流石に呆れて声しか出ない。

 ──盗み聞きなんてせず、普通に聞いてほしかった......。

 

「まぁまぁ。......で、レナ。私に何か言うことないの?」

「......ごめんなさい。今まで騙してて......」

「そうじゃないわよ。別に転生云々はどうでもいいの。騙してたわけじゃないでしょ? 言えなかっただけで。それに、今の貴女はレナなんだから。

 それよりも、ミアみたいにお礼とか言いなさい。......というか言ってほしいの」

 

 物をせがむ子供のように、お姉様は上目遣いでそう言った。

 

「......。あ、お姉様。私も私もー」

「え? フランもです? ......ありがとうございます。お姉様、フラン。それに咲夜も。

 これからもよろしくお願いしますね」

「えぇ、よろしくね」

「私はメイドですが......いえ、よろしくお願いしますね。

 では、お掃除は必要なさそうなのでパチュリー様のところへ行ってきますね」

「え、別に掃除は......って、いつも早いですね......」

 

 咲夜は返事も待たずに消えてしまった。

 しかし、ご丁寧に掃除道具だけは置いていった。

 

「......。まぁいいです。それにしても、ルナは何処です?」

「ルナはエリちゃんと一緒にパチュリーのところだよ。あの娘も魔法習いたいんだってー」

「ルナが......へぇー」

「それで、ルネはこれからどうするの?」

「え? あっ。はい?」

 

 私達の会話を微笑ましそうに見ていたルネに、お姉様が声をかけた。

 

「あ、ああ。明日には出ますよ。しばらくは幻想郷に居ると思いますので、会ったときはよろしくです」

「ここに居ても......いえ。貴方が決めたことに口を挟まないわ。

 気を付けなさい。そして何があっても諦めちゃだめよ。ルネ」

「......はい、分かりました!」

「ふふっ。元気が良くてよろしい。じゃ、今日は盛大に祝わないとね。異変も終わったし、ルネ達が旅立つんだから。

 咲夜ー。パーティーの準備してー」

 

 そして、今日の夜。紅魔館は盛大に賑わった────




次回はルナとフランがやった約束。それと以前質問でもあったある娘の告白。
最後は後書き。そして────


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EX2、「紅の末妹、次女に思いを伝えた日」

それは禁断の──。

はい、というわけで久しぶりに強めのGLとR15要素があります。

それでもいいという方も、気を付けて読みましょう()


 side Renata Scarlet

 

 ──早朝 紅魔館(レナータの部屋)

 

 ルネ達が旅に出るその日。

 

 私は昨日開かれたパーティーの疲れもあり、自分の部屋に一人で寝ていた。

 いつも寝ているフランの部屋で寝ると、騒がしくてゆっくりできないからだ。

 

 そして朝。日差しが入ることのない薄暗く、一人寂しい自室。

 この部屋で寝ていると、体の疲れも取れる。

 

「お、重い......」

 

 ──はずなのに、何故か体が重い。

 疲れが溜まり過ぎているのか、それとも毛布を被りすぎたのかと目を少し開ける。

 すると、そこには鮮やかな金色の髪が見えた。

 

「ふ、フラン......?」

 

 それはいつも見ている妹の、フランの髪だった。

 

 フランは寝巻き(ネグリジェ)姿で私の上に寝ている。

 どういうわけか、フランの両足は私の両足と絡み、両手で私の胸元辺りの服を掴んでいる。

 

「......重くないもん。お姉様よりはぜったい軽いもん......」

 

 どうやら起きていたようで、私の声に反応してかフランが答えた。

 フランは怒っているのか恥ずかしがっているのか顔を赤くしている。

 

「ど、どうしました? ルナと一緒じゃ......」

「......いないよ。私だけ」

 

 まだ怒っているのか、フランは小さな声でポツポツと答えていく。

 

 いつもなら多少怒っていてもそのような態度は取ることはない。

 ──となれば、とても機嫌が悪いのかな?

 

「......め、珍しいですね。フランがルナと一緒に居ないなんて」

 

 必要以上に刺激しないように言葉を選ぶ。

 もちろんそれは怒らせたら怖い相手だからであり、怒らせた経験があるからだ。

 フランは怒らせるとしばらく相手にしてくれない。あまり効果が無さそうに見えるが私にとって、それだけはとても心にくるのだ。

 

「べ、別に珍しくなんか......」

「そ、そうですか......」

 

 が、あまり効果はないようで、目を逸らされた。やはり、いつもよりも機嫌が悪いのだろう。

 

 思い当たる節と言えば、ルネのことしかない。

 表面上はルネに悪い態度を取っていたが、本当は旅に行ってほしくないのかもしれない。

 

「......お姉様。私がどうして居るか気にならないの?」

「え? あ、そ、そうですね。どうして居るのです?」

 

 そう答えると、フランは「はぁ」とため息を付いた。

 見るからに呆れられているのだと分かる。

 

「ほんと、なんでお姉様って......。でもまぁ、ふふん。それはそれで......」

 

 フランの口がニヤリと歪む。

 それはよく見る、悪戯好きなフランの顔だった。

 

「フラン? どうして笑っているのです? それと、足が絡まって動けないのですが」

「わざとそうしてるの。逃げられたら困るし......」

「最悪下半身だけ切り落とす事も......」

「どうしてそうなるのかなっ! もうっ、さっきから実の妹相手に失礼じゃない?」

 

 言葉とは裏腹にフランは笑顔のままだ。

 思っていたよりも全然怒っていないようで内心ほっとする。

 

 が、それと同時にある疑問が浮かび上がった。

 

「......ねぇ、フラン。一つ聞いてもいいですか?」

「どうしたの? 改まっちゃって。別にいいよ?」

「......フランは、私が姉でいいの? ルネとの話を聞いていたから知っていると思うけど、私は本当の姉じゃないんだよ。前世、何が原因か今世に飛んできて、貴女の姉に憑依し、その体を乗っ取った名無しの人間。それが私なんだよ?」

 

 フランの本当の気持ちを知りたいがために、自身も素の口調で話す。

 

 それに、いつもの喋り方は敢えて作っていたみんなとの壁。生まれてきた時から薄々気付いていた、ミアの気持ちに対する謝罪と罪悪感によるものだった。

 本当はそれももう必要はない。ミアには許してもらえたから。

 しかし、私自身が許せない。少なくとも幻想郷へ来るまではミアの自由を奪い、幸せを奪っていたのだから。

 

「......もちろんいいよ。貴女はそうと知っても、私達を本当に好きでいてくれたから」

「で、でも......」

「というかさぁ! ......思いつめないでよ。私の前では何も隠さないで。思い悩まないで。全て包み隠さずに私に言ってよ。わ、私ね......お姉様のこと大好き。

 姉妹だから、とかじゃなくて一人の吸血鬼として......貴女を愛しているわ、レナータお姉様」

「フラン......」

 

 私の上で、私の妹は顔を赤くして照れながらも、真っ直ぐと目を見て言った。

 

 対して私は今すぐ目を逸らしたい衝動にかられた。それは羞恥心に近い感情であり、またフランと同じく照れているのもある。しかし、妹がその感情に耐えて見ているのに、目を逸らすわけにはいかなかった。

 

「だからね、お姉様......」

 

 と、フランは顔を鼻と鼻がぶつかるまで近付け、私の目をじっと見つめる。

 

「......フラ、......んッ!?」

 

 そして、フランの唇が、私の唇に当たり、舌が絡み合う。

 

「っ......んぅ、んっ......」

「ひゃ、ひゃめっ! はふぅ......っ」

 

 舌が絡み合い、まるで溶かされていくような感覚に陥った。

 そして舌だけではなく、頭の中が、思考がぐちゃぐちゃにされたように感じる。

 

「んはっ......。お姉様のちゃんとしたファースト・キス、貰っちゃった。ウフフ」

「〜〜〜っ......」

 

 不敵な笑み浮かべ、フランは満足そうな顔になる。

 

 まさかキスをされるなんて夢にも思わず、絶対に間違いをしないよう、必死に理性を保つ。が、顔は触れなくとも熱く、真っ赤に染まっていることが分かり、自分も満更でもなかったのかもしれない、と少しだけ屈辱を感じていた。

 

「どう? 気持ちよかった? 私は気持ちよかったよ。血を吸う時とはまた別の心地よさだった」

「ふ、フラン......ッ! もう......もういいです。何も咎めません。が、しばらく一人に......」

「えぇっ!? どうして!? 私はまだ一緒に居たい!」

「ほんの数秒前の自分を見なさい......。

 でも、はぁー。少しだけですよ。ですが、もうキスはやめてください。色々と精神的に......」

 

 正直に話すと、軽いものなら何度か経験はある。しかし、深い方は初めてだ。前世も含めて初めてされたと思う。

 できれば初めてはお姉様が良かった。フランでも悪くは無いが、実際やってみると色々と疲れる。主に精神的に。

 

 今、外面では平静を装っているが、内面ではすごく焦っているのだ。

 今すぐ爆発してもおかしくないくらいに。

 

「......そっか。ごめんね、無理矢理しちゃって。ごめんね......」

「え? い、いえ。わ、悪くは、思ってませんから......」

 

 想像よりもずっと悲しがっているフランを見て、何故だか罪悪感が芽生えた。

 フランに流されたら負けだと心の中では理解しているはずなのに。

 

「......本当に? お姉様も気持ちよかったの?」

「そうとは言ってませんっ! もうっ......フランの意地悪......。って、違う違う!」

「うふふ。素直になってよ、お姉様......」

「素直ですか、ら......えっ」

 

 改めてフランの顔をよく見てみると、フランの顔も真っ赤に染まっていた。

 どうやら、やった本人が一番恥ずかしいらしい。

 

「え? ど、どうしたの?」

「もしかしてフラン。無理してます?」

「む、無理してないもん! 別に普通だもん! ......うぅ......もう見ないでよぉ......」

 

 フランも限界を超えたらしく、さらに顔を真っ赤にして目を逸らした。

 互いに恥ずかしい思いをして、その場には変な空気が流れた。

 

「み、見ないでって! うぅぅぅ......強がってなんかないから......」

「......あの、フラン。無かったことにしません? それでお互い──」

「そ、それはダメ!」

 フランは凄い気迫で話を遮った。

 そして、しばらく無言でいると、ゆっくりと口を開けた。

 

「......私ね、ルナとある賭けをして、勝ったらお姉様に思いを伝えるって約束したの。

 それで負けるわけにもいかなくて、勝っちゃって......。私達悪魔だから、契約とか破れないでしょ? だからね、思いを伝えるために頑張ったのよ。でも、お姉様があまりにも可愛くて......勢いでちょっとやり過ぎちゃった。ごめんなさい......」

「フラン......」

 

 先ほどの大胆さとは打って変わって、恥ずかしそうに顔を赤らめ、自信を失くしたように静かになっている。

 勢いあまって、というのは本当らしい。逆に見ているこっちが恥ずかしくなってくる。

 

「分かりました。無かったことにはしません。ですから......だから......」

「お、お姉様?」

「うぅ......。さ、さっきのお返しですっ!」

 

 覚悟を決め、フランを力強く抱きしめた後、フランの唇に唇を重ねる。

 

「ふらっ......んぅ......」

「んぐっ、ふ......っ、はぁ。ねぇさまぁ......」

「んっ、ん......ぷはっ!」

 

 キスの音が永遠にも感じる数秒間続き、その甘い感覚を僅かに残る理性で引き止めた。

 

「はぁ、はぁ、はぁ......。これで、お互い様ですね。

 ......もちろんお姉様達には秘密ですよ」

「うん......、ありがとう。私とお姉様だけの秘密だね」

 

 今更だが、この行為はある意味自殺行為だったかもしれない。もし引き返せなければ、姉妹という一線を越えていたかもしれないのだから。

 だが、フランも理性を保っているようだから良しとしよう。

 

「......ねぇ、お姉様。私と二人きりの時は、素の口調で話して。私だけに、そうやって話して」

「......うん、分かった。でも、他の人、特にお姉様にはこれで話すかもしれないよ?」

「それはそれでいいよ。私とお姉様だけの秘密はもうあるからね。

 にしても、意外とお姉様も物好きねぇ。もしかして、好きになっちゃった?」

 

 いつもの調子に戻ったフランは、明るく悪い笑みを浮かべてそう言った。

 いや、いつも以上にご機嫌な様子だ。やはり刺激が強すぎた。

 

「なってない。フランが可哀想に思えたからよ」

「ふふーん。そんなこと言っちゃって。

 私は好きになっちゃったなぁ。ねぇねぇ! またやってよ! 次は吸血も!」

「絶対ダメ! もう色々と危ないからね!? というか今の状況も本当にギリギリだったから!」

「え、ということは......。ウフフ。そっか。そっかそっか」

「怖いんだけど、その笑顔......」

 

 フランは嬉しそうに笑い、改めて私を抱擁する。

 しかし、フランが上に乗っているせいで、どっちが姉か分からない状態になっているのが少し遺憾である。

 

「お姉様。好き、愛しているわ。レミリアお姉様やミア、ルナ、咲夜、美鈴やパチュリーの誰よりも。貴女のことを愛している」

「......うん。嬉しい。けど、ちょっと力強いから抑えてくれるともっと嬉しいかな」

 

 と、何気に骨をも折る勢いで力強く抱きしめられている。

 よっぽど機嫌がいいのだろう。何故かフランは機嫌がいい時は力の考慮をしない。まるで今みたいに。

 

「あ、ごめんね」

「ううん。いいよ。それよりも......今ちょっとだけ思い出したんだけどね。いや、今というか、さっきの......さっき思い出したのよ」

「何? 何でも言って」

「前世、まだ人間だった時に、フランに似た人を見たの。普通、いるわけないのにね」

 

 フランと接吻(せっぷん)した際に思い出したその記憶。それは、前世のことだった。現在、前世のことなんてほとんど曖昧だと言うのに、何故かそれだけは鮮明に思い出すことができたのだ。

 

「私が......そこに居たってこと?」

「うん。そういうことよ。あれってフランだったのかな。でも、どうして居たんだろう、って。

 色々と思うところはあるけど、今になって思い出したということは、前世というのは気のせいなのかなぁ」

「......どっちにしたって、レミリアお姉様よりも優位に立った気がして嬉しいっ!」

「そ、そんな声を張り上げることでもないんじゃ......」

「私にとってはそれくらいのことなの。......そうだ」

 

 フランは思い付いたかのように声を上げ、私をじっと見つめる。

 そして決心したかのように口を開いた。

 

「お姉様。最後に一つ、聞いていい?」

「いいですよ。何でしょう?」

「私は誰よりも貴女のことを愛しているって言ったわよね。でも、お姉様はどうなの?

 貴女は......誰が一番好き? 嘘も建前も無しよ。......もし嘘ついたら指を一本ずつ砕くから」

 

 あまりにも真面目にそう言って、少しゾッとする。

 が、それは今に始まったことでもないため、まだ心に余裕があった。

 

「......私は、お姉様が好きです。誰よりも、お姉様のことが好きです」

「......そっか。うん、分かった。......って、お姉様! またいつもの喋り方に戻ってる!」

「え? あ、ごめんなさい。......じゃなくて、ごめんね」

「もう。油断したらすぐこれなんだから......。それでも、大好きだから。でも私達やレミリアお姉様以外を愛したら、その時は──」

 

 フランは小さな声でぼそぼそと話す。

 それは、わざと聞こえにくくしているようにも思えた。

 

「え? も、もう一度言って。というか、最後だけどうして小さく言ったの?」

「ウフフ。さぁね。って、お姉様! そろそろルネが行く時間だし、早く着替えよー」

「え? あっ。早く着替えないとっ!」

「そんな慌てなくて大丈夫だと思うけどー」

 

 こうして、夢のような甘い時間は過ぎさる。

 そして、私達はルネの見送りへと向かうのであった────




吸血鬼の早朝で深夜テンションに近かった、ということもあったとか。
そのせいで、次女はしばらくしたら平常に戻ってまた顔を赤らめる模様。
(しかし末妹は常に平常通り)

書き終わったあとの作者「何書いてんだ私()」


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EX3、「全ては終わり、長女は再び決意する」

月が沈むように、紅い月(達)もまた、いつかは沈むもの──

というわけで、『東方紅転録』の最終回です。
では、ごゆっくりお読みくださいませ。


 side Remilia Scarlet

 

 ──紅魔館(玄関ホール)

 

 今日はルネ達が旅に出る日。そして夕日が上がるよりも早い時間帯。

 念のためにと日傘を差した二人が紅魔館の出入り口に立っていた。

 

 地底の異変を終え、レナを死という運命から助けるための奮闘も終わり、全てを終えたルネ達は幻想郷から出ていくという。

 

「......ねぇ、ルナ、ミア、咲夜。レナ達はまだなの?」

 

 しかし、大事な一日になると言うのに、妹達が時間になっても現れないのだ。

 いつもなら予告していた時間の五分前には来ると言うのに。

 

「うーん......さぁ。知らないなぁ」

「......私は知らない。フラン、昨日から見てない」

「おそらくはレナ様のお部屋に......いましたね。

 すでに着替えは終わっているみたいですから、すぐ来ると思いますよ」

「え? そ、そう......」

 

 その時、一瞬だけ咲夜の姿が消えたように見えた。

 ──もしかして、時を止めて見に行ったのかしら? 流石咲夜ね......。

 

レナ()のことですし、悪気はないと思いますよ。

 フランも同様で、意図してそのようなことはしないと思いますから」

「......そう。本人がいいなら別にいいわ。

 ねぇ、ルネ。全てが終わったら、帰ってこれるの?」

「レミリアは兄様に帰ってきてほしいの? アタシの兄様に?」

 

 エリザベートが私を睨みながら、挑戦的に強い妖気を放つ。

 年齢と経験の差からか、私にとってはびくともしない程度の妖力だが。

 

「シシィ、そう殺気を見せないでください。シシィでもレミリアには敵わないですよ?」

「今では魔法も使えるから勝てます! 絶対に死んでも兄様を渡さないんだから......っ」

 

 エリザベートはルネの手を掴んで引き寄せる。

 その姿は私に渡したくないという気持ちが強く表れている。

 

「はいはい。僕はシシィから離れませんから安心してください。

 いつになるか分かりませんが、絶対に帰ってきますよ。僕の......いえ、私達の故郷ですから」

 

 エリザベートの頭を撫でながらも、強い意思を感じた。

 それは兄として、前世とは言え一人の妹としての思いからだろう。

 

「それなら良かったわ。......そうね。貴方の部屋も作っておいてあげるわ。帰ってきたら自由に使えるようにしておくわね。

 もちろんエリザベートの分も用意してあげるわ。私は寛大だから」

「それはそれは、ありがとうね、レミリア。でもアタシは兄様の部屋だけでいいから」

「あらそう。それは残念ねぇ......」

「あの、レミリア? シシィ? 妖力を垂れ流すのはおやめください、お願いします......」

 

 ルネに注意され、互いに妖力を流すのを止めた。

 が、互いに殺気を放つのだけは止めなかった。

 

「れ、レミリア、シシィ......」

「あー! 良かったぁ。まだ居たよ、お姉様」

「そ、そうですね。まだ居て良かったですね......」

 

 と、計ったようにレナとフランがやって来た。

 そして何故か、レナの顔が真っ赤になっているように見える。

 

「待ちくたびれたわ。貴方達が来ないとルネも行けないから......。

 それにしてもレナ。顔が赤いわ。もしかして風邪でもひいているの?」

「い、いえ! 全くもって大丈夫だか──ですから!」

「そ、そう......。ならいいけど......」

 

 様子がおかしいが、本人が大丈夫と言っているなら大丈夫なのだろう。

 もちろん後で本当に熱がないか調べるけど。

 

「間に合った? あぁ、間に合ったようで良かったわ」

 

 と、レナ達に続き、パチェも見送りのためにかやって来た。

 親友がこの二人とはあまり関わりがなかったように見えていたので少し驚いている。

 

「ルネはそのままでもいいわ。しっかりエリザベートを守れるようにね。

 そしてエリザベート。教わった魔法を忘れないようにしなさい。貴方はルネ()と、レナ()と同じくらいのセンスはあるわ。魔力は......微妙だけど」

「分かりました、パチュリーさん。貴女の教えに反しないように兄様を守ってみせます」

「えぇ。......頑張りなさい」

「......え? あ、あの、ちょっと聞いてもいい?

 あの......いつからそんなに親しくなったの? パチェ? わ、私達親友よね?」

 

 聞かずにはいられなかった。

 

 あまりにも信じられない言葉を聞き、反応を見て、困惑している。

 そして何より、私の親友と私と相性の悪いエリザベートが仲良くなっていることに驚いていた。

 

「それは未来永劫変わることはないと思うから安心なさい。

 昨日、魔法を教えただけよ。この娘が強くなるために魔法を覚えたい、ってね」

「そ、そう言えばさっき確かに魔法が使えるようになったって......。で、でも! それにしたって仲良くなりすぎじゃない!? パチェが見送りに来るなんて......魔理沙相手でも見ないわ......」

「魔理沙はただのこそ泥。対してエリザベートは弟子よ。見送りに来るのは至極当然でしょう?

 それに......」

 

 と、パチェは懐から小さな箱を取り出し、それをみんなに見せるようにして開ける。

 その箱の中には、拳ほどの大きさの赤い石が丁寧に保管されていた。

 

「わぁ......」

「あ......。私の翼と同じやつだ」

 

 フランの言う通り、フランの翼の宝石とこの赤い石はよく似ている。

 もし同じなら、これは「賢者の石」とかいう物だろう。

 

「......そう言えば、体が元は人形なのに、私のも同じだね」

「ルナのも私がアリスに送った賢者の石が使われているのよ。

 言っちゃったけど、これは賢者の石。錬金術においては至高の物質よ」

「......パチェ。これがどうしたの? まさかあげるって言うんじゃ......」

「流石親友ね。正解よ」

 

 パチェはニコッと笑みを浮かべて言った。

 どうやら本気らしい。

 

「い、いいの? パチェが大切にしている物なんじゃ......」

「いいのよ。まだたくさんあるから」

「こ、高価な物では......」

「これは餞別だから気にしなくていいわよ。

 魔力を放題に含んでいる物だから、何かあったら使いなさい」

「パチュリーさん......ありがとうございますっ!」

「むぅ......」

 

 内心、複雑な気持ちだった。それもおかしな話ではないはずだ。

 親友と私と相性の悪い女が仲良さそうにしているのだから。

 

「お姉ちゃん、大丈夫ー?」

「だ、大丈夫よ。少し動揺してただけ。......ルネ、エリザベート。これでお別れね。

 でも、いつでも帰ってきていいから。その時は歓迎するわ」

「その時はよろしくね、レミリア」

「......レミリア、そして皆さん。ありがとうございました。

 いつになるか分かりませんが、またお会いしましょう」

 

 彼らは微笑み、私達の見送りを受けながら紅魔館を去っていった。

 

 

 

 

 

「......あーあ。行っちゃったね」

 

 彼らの姿が見えなくなると、惜しむようにフランが言った。

 最後まで崩れずに平常通りなフランだったが、やはり悲しんでいるのだろう。

 

「そうね。じゃあ、私は戻るわよ。久しぶりに図書館から出た気がするわ......」

「ぇ......。たまには外で運動したら?」

「図書館でしてるから大丈夫よ。じゃあ、何かあったら呼んでちょうだいね」

 

 パチェは最後にそう言い残し、大図書館へと戻っていく。

 あまり外に出ないパチェだが、きっかけがあれば外に出るだろうか。

 一週間に一度くらいは私からパチェを外に連れ出してもいいかもしれない。

 

「さーてと。私も明日くらいに旅に出ようかなぁ。もちろん一日に一回は帰ってくるからね。

 じゃあ、準備してくるねー。あ。咲夜。明日は夕食いらないからー」

「かしこまりました。では、今夜は精がつくご飯をお作りしますね」

「ありがとうねー。お姉ちゃん達も気分転換に旅とか出たら面白いからー」

 

 いつも通り前向きなミアは、元気に自分の部屋へと行った。

 三ヶ月......本人にとっては数日間行方不明になったというのに、また旅に出るらしい。

 凄いというか、呆れるというか......。だけど、あの性格は好きだ。

 

「じゃあ、フラン。私達も行こっか」

「え? 私はお姉様と......」

「ダーメ。話、聞かせて、ね?」

 

 にこやかに、そして怪しくルナが微笑む。この二人の仲は相も変わらずらしい。

 時に遠慮なく、時に遠慮気味に。姉である私にもこの二人の関係は微妙に分からない。

 

「......はぁー。うん、分かったよ。

 お姉様、レミリアお姉様。また夕食の時にでもね」

「あ。フラン、待って。速い」

「普通だからー」

 

 騒ぎながら二人の末妹はこの場を去った。残るは私とレナだけとなり、辺りは静かになる。

 騒がしい二人がいないのも物足りない感じがする、と最近思うようになってきた。

 

「さぁ。私達も帰りましょうか。レナ。この後時間大丈夫なら、一緒にお茶でもする?」

 

 と、改めて妹の顔を見る。

 先ほどまで赤くなっていた顔は平常時に戻っており、元気そうにしている。

 風邪では無かったのかもしれないが、後で念のために調べておこう。

 

「え? も、もちろんです! 」

「そ、そう。元気ねぇ......。じゃあ、行きましょうか」

「はい。......あ。少しいいですか? お姉様」

 

 部屋へ行こうと進むとすぐに、後ろで呼びかける声がする。

 振り返ると、躊躇(ためら)った表情になった妹が居た。

 

「ねぇ、お姉様。ルネの......並行世界の、ルネの世界のお姉様や紅魔館のみんなは......い、いえ。やはり何でもありません。流してください......」

「却下するわ。言いたいことは分かるわ。

 おそらくは......泣いて、悔やんで、絶望するでしょうね」

「っ......。やっぱり、そんなお姉様達は......」

「......でもね」

 

 ルネを、並行世界の自分のことやその家族を思うレナの言葉を遮る。

 

「きっと大丈夫よ。私はレミリア・スカーレット。紅魔館の主で貴女の姉よ?

 貴女が思うほど、弱くも脆くもないから大丈夫よ。貴女の分まで、きっと生きているわ」

「......ですよね。並行世界とは言え、お姉様本人が言うならきっと......」

 

 そして、レナに心配をかけないために、少しだけ強がった。

 

「私が言うんだから間違いないわよ。で、もう聞きたいことはない?」

「えーっと......いえ。大丈夫です。さっきのが聞ければ、私には充分ですから」

「そう。良かったわ。......それじゃあ、戻りましょうか」

「はい......あ、じゃなくて。うん、そうね。お姉さま」

「ふふふ。どうしたの? まぁいいわ。早く来なさい」

 

 真意は分からずも、素で喋る妹を見て思わず口元が緩む。

 やはり、妹が生きていて良かった。素直にそう思った。

 

 ──レナ。私よりも長生きして。そして私とずっと一緒に居てね。

 貴女のこと、愛しているから。

 

 言葉で伝えるには恥ずかし過ぎて言えないその言葉。その思いを寄せる妹の横で、しかし心の中で呟いた。

 妹を守ると決心してから五百年近い歳月が過ぎた。だが、その決意を守ることはできなかったのだ。次こそは、何があっても妹を守る。

 改めて心にそう誓い、自分の部屋へと向かっていった────




最後までお読みくださり、ありがとうございます。ここまで続けてこれたのも読者の皆様のお陰です。
最初は処女作ということもあり、不慣れな部分が目に余ったと思います。でも、最後に近付くにつれて、多少はマシになっている⋯⋯はず()
ちなみに感想とか質問とか何かありましたら、活動報告やTwitterで言ってください。

まぁ、このような作品でしたが、ここまでお読みくださって本当にありがとうございました。
では、またいつの日かお会いしましょう。



⋯⋯え? まだ回収されていない伏線がある? ⋯⋯それは、また月が昇る時に。



──しかし、月は沈んでも、またいつか昇る日はくるものだ。


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