【全知全能】になった俺がアイドルになって人生を謳歌していく (PL.2G)
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Knight Story
プロローグ - 秘密 Secret -


はじめまして、PL.2Gと申します。

初投稿です。

書き物も初めてです。

只々書きたくなった衝動だけで始めました。

書き溜めありません。

こんな状況の投稿ごめんなさい。

ご指導ご鞭撻のほど、よろしくお願い致します。



 俺には、絶対に誰にも言えない秘密がある。

 

 ──秘密──

 

 人間、誰しも一つ以上は持っているのではないだろうか? 

「そんなものは無い」と豪語している人が居るのであれば、それはそれで良いと思う。

 

 正直、そんな話は関係は無い。

 今からする話は俺の、人には絶対に言えない二つの秘密……それについての話だ。

 

 それを語る前にまずは自己紹介から。

 俺の名前は『一ノ瀬(いちのせ) 騎士(きし)』。

 どこにでも居るような極々一般的な普通の短大生(学生)……と言う訳にもいかない。

 実は()()()()だけ普通じゃない。

 それは、アイドルを生業としている事。

 

 ()()()()()(よわい)八歳から華々しくアイドルデビューを果たす。

 紆余曲折・波乱万丈ありで、そこから今まで十一年の現在……

 今をときめく世界のトップアイドルと称される位置にまで昇り詰めている。

 

 トップアイドルと言うことが秘密なのか? と問われれば、この事実を打ち明けていない人も居なくは無いのでそうとも言えるかも知れない。

 ただ、前述した通り俺は世界のトップアイドルである為、一〇〇人中九九人が俺をアイドルであると答える。その時点で誰にも隠せていないし、誰かに隠し通せる自信も無い……事も無い。

 

 さて、ここでそろそろ本題である一つ目の秘密を公開する事にしよう。

 

 まず一つ目、俺は世俗で言う所の【転生者】である。

 

 今の俺は二度目の人生。

 神様? によって前世の死ぬ直前までの記憶全てと、チート能力(ちから)、それらを備えた状態で全く知らない新たな土地での新たな人生のスタート。

 

 曰く強くてニューゲーム……

 聞く人が聞けば、懐かしいとか羨ましいとかの話になるのであろうと思う。

 しかし、転生してからたったの数年──

 その数年で生活全てが……俺の人生そのものが、ただただ虚しいモノへと変貌していった。

 

 こんな能力(ちから)を貰ってしまったが為、選んでしまったが為に……

 

 そんな事を思い溜息を吐く度、転生前に読んでいた某漫画の主人公のセリフを思い出しては心の中で良く呟いていた。

 

【圧倒的な力ってのはつまらないもんだ】

 

 正にこれだ。

 

 人に言えない秘密、二つ目。

 それが神様から貰った能力(ちから)

 チート能力(インチキ)とは、正にこの能力の為にある言葉では無いのだろうかと思う。

 考える事が苦手で大嫌いな俺が、なんの考えも無しに考え付いてしまった圧倒的に絶対的過ぎる能力(ちから)

 

 


 

 

 ?? 年前―

 

 

 

 

『私は貴方の世界で言う所の神です。貴方が生まれ変わるにあたって、お好きな能力(ちから)を貴方に1つ授けましょう』

 

『はい?』

 

 何の前触れも無く、突然目の前に居たソイツは、俺に向かってそんな事を言った。

 身長が一メートル程しかなく、全身を白い絹のような上品な布きれで覆っていて、立っていた俺の視界からだと、口元しか見えていなかった。

 

『ふーん……お好きにって事は、貰える能力(ちから)ってのはこっちで勝手に決めて良いってこと?』

 

 こいつが誰か? とか、

 ここは何処か? とか、

 生まれ変わる? とか

 正直、心底どうでも良かった。

 

『おや、やけに冷静ですね。ですが此方としては、その方が話を進めやすくて非常に助かります。そうですね。お好きな能力(ちから)を考えてください。具体的な能力の内容は、貴方の思考から汲み上げ添削します。なので私に名称だけ言ってくだされば、あとは此方で色々と手続きをしておきますので』

 

『手続きってお前なぁ……でもなぁ。能力(ちから)……ねぇ』

 

 俺はそう言った事を考えるのがひどく苦手だ。むしろ大嫌いだ。悩む・考えると言ったこと自体が大っ嫌いだ。だもんで、急に「能力(ちから)をあげるよ」とか言われたって、「やったぁ! じゃあこれにするね!!」とか即答出来る程に、妄想思考に特化していないし、アニメや漫画、ドラマに小説と、そう言った物にも全然詳しく無い。

 

『ちなみに、生まれ変わり先って生前と同じ?』

 

『違います……が、明確にどう言った場所か……とまでは……』

 

 考える事が大嫌いな俺の精一杯な質問が首ふりに終わる。

 わからないのか……と、ここで疑問が生まれた。

 

『えっ!? それって実際問題かなり無茶振りなんじゃないの? 生まれ変わり先もわからないで能力決めるって』

 

『はい。ですので、ここでしっかり悩んで、考えていただいて、後悔の無い選択をお願い致します。非常に申し訳なく思っているのですが、我々の力では……そこまでの干渉が許されてませんので』

 

『うっわぁ……めんどうくさー』

 

『申し訳ありません』

 

『ちなみに、生まれ変わり先に俺の他に生まれ変わった人って……』

 

『それはあり得ません』

 

 考える事が嫌いな俺の精一杯な二度目の質問が喰い気味に即答で終わる。

 あり得ないのか……なるほど、ようわからん。

 

『ふーん……』

 

 一応考えるフリを挟むが実際には無意味で無駄だ。

 

『では、能力が決まったら呼んでください』

 

『いや、もう決まったよ』

 

 実は大分前から決まっていた。

 最早コレしかないだろうと思っていた。

 

『おや? えらい早いですね。そんな事で大丈夫なんですか?』

 

『考えるのは面倒だし苦手で何より嫌いなんだ。無理って言われるかもしれないけど、俺が望む能力(ちから)は【 () () () ()】だ』

 

『ふむ……なるほど……思考を汲み取る必要もない程度にわかりやすい能力(ちから)ですね、良いでしょう。請け賜わりました』

 

『えっ!? いいの!?』

 

 神様? の全く伺えなかった顔に、一瞬だけ笑顔が見えた様な気がした瞬間から記憶は終わった。

 

 気が付いた時には目の前に、母親であろう女性が俺を抱きしめながら涙を流し、「生まれて来てくれて、ありがとう」と、何度も何度も呟いていた……

 

 


 

 

 俺が考えて、選んで、望んで、与えられた能力(ちから)

 

 その名も【全知全能(ぜんちぜんのう)

 

 全てに於いて余す事無く

 

 完全無欠に 完璧で

 

 完成された 完了形の

 

 圧倒的で 絶対的で 

 

 無敵過ぎてそれこそが最大の欠点である強力な能力(ちから)

 

 考えるのが苦手な俺が、どのような世界でも卒なく生きて行けると、考えるのを放棄して考え出した(むしろ勝手に思い付いていた)、楽をして生き抜いて行く為の能力(ちから)

 

 結果として得れたものは、平和と言う二文字が大変似合う転生先(せかい)で、虚無感と言う名の、最強チートボスと毎日奮闘しながら(実際に闘えていたならどれ程幸せだったか)、トップアイドルをすると言う生活。

 

 何をしても、何を薦められても、

 

 目標が、

 

 目的が、

 

 結果が、

 

 この世の全ての物事の事象の諸事万端の三千世界の森羅万象の天地万物の理解(こたえ)が既に出ている為に本当に全くこれっぽっちも全っ然面白くない。

 

 最早たった今から『総理大臣か天皇とかになろうかなぁ』とか考えてみても、事も無げにあっさりとそれになれる為の道筋が、頭に七百八十八通りも構築されて、それを俺自信があっさり理解できてしまうあたり、正に【全知全能】の為せる業であろう。

 

 ならばそもそも、何故にアイドルになんてなっているのか? と言うと……

 

 現在の俺の転生先──

【アイドル至上主義】と言って良い程に、ここに現存するアイドル達がこの世界の人々に与える影響力が半端じゃない位に大きい。

 それは、とあるアイドルが白を黒と言えば、その瞬間からそのアイドルのファン達は白を黒と呼ぶ様になってしまう位の影響力だと言えばわかり易いだろうか? まぁそんな妄信的で宗教的なアイドルは一握りしか居ないが……

 

 まぁ、そんな世界であるが為、人々はアイドルと言う存在に憧れ、魅了される……、

 しかし、当然の如くおいそれと簡単にアイドルになれる程、門戸も決して広くは無い訳であるが為、それ相応の資格を個人に要求される。

 

 ここで話しは俺に戻る。そう、元より【全知全能】を持っている俺は、当然の如く資格の宝庫である。そしてこんな世界であるからこそ、俺は【全知全能(ちから)】を使って当然の様にアイドルになったのであろうかと言うと、実はそんなことはない。出来る事なら平和にダラダラと過ごして居たかったのだ。

 だが、それは叶わぬ願いであった。むしろ【全知全能】と言う絶対的な【能力(ちから)】の所為で……アイドルになったのには俺なりの、それなりの理由があっての事なのだ……

 

 それは、生きていくことに疲れが見え始めた6歳。

 そう、俺は転生してたったの6年で生き疲れてしまったのだ。

 だから俺は、

『生きて行く上で、最も楽しめる生活を送るにはどうすれば良いか?』

 と自分に問いかけてみた……

 この時は藁にも縋る思いだったのを今でもしっかりと覚えている。

 

 

 

 すると【全知全能】はそれに答える様に俺の頭の中に文字列を啓示する。

 

【世界征服】と【()()()アイドル】

 

 

 この惨事(けっか)である。

 転生前から平々凡々、正に普通と云わしめたこの俺が、この二択から選択出来るのは実質一択な無情な答えを【全知全能(こいつ)】は俺に突き付けて来たんだ。

 

 だもんで、高速で脳内に構築された人生(レール)の七本あった内、最も楽しそうな一本を選び、八歳の時に某プロダクションに乗り込み、そこからアイドルデビュー。

 

 鯉の滝登りが如く人気は急上昇。

 究極のアイドルの祭典、アイドルアルティメイト(IU)にて史上初となる10歳と言う若さでの優勝。

 

 華々しくトップアイドルデビュー。

 

 と、さっきも言ったが紆余曲折・波乱万丈を経ての現在である。

 

 以上、色々と余計な話しがあった気はするけど、俺の略歴と二つの秘密だ。

 

 長くなって申し訳ない。

 これから先、これより始まる俺の物語にもし、タイトルを付けるとするならば、

 

「【全知全能】になった俺がアイドルになって人生を謳歌していく」

 

 これだろう。

 

 まぁ、謳歌ってところに希望的観測も含まれるけど。

 

 

 さてさて、なにか楽しい出来事が起きるのを【全知全能】以外の何かに願うとしますか。

 




書いてると何が良くて何がダメなのか、客観的に読めなくて辛い。

書き物できる人は本当に尊敬致します。

※最終行ちょい手前に加筆修正・一ヶ所メタ発言削除致しました。2016/12/08
 全体的に修正しました。2017/01/06
 全体的に修正しました。2019/04/16


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第1話 - 兄と妹 Kishi To Shiki -

大変お世話になっております。

非常にお見苦しい物ではありますが、何とか第1話が出来ました。

この後加筆修正やらなんやらあると思いますがご承知おきの程よろしくお願い致します。

前回のプロローグで主人公の名前を見て気づいた方も居ると思いますが
「一ノ瀬志希」が出て来ます。

志希Pの方々やファンの皆様におかれましては寛大な対応をして頂ければと思います。



 さてさて、唐突ですが俺は今、宿泊していたホテルの部屋で帰り支度をしている。

 どうしても明後日までには家に帰らなければならない。その為チェックアウト時間が迫る今、取り急ぎ荷物をまとめているわけなのだが・・・

 

 ん?ふむふむ。

 明後日までに帰るのならば、別に今日チェックアウトする必要は無いだろうって?

 そうだね、その意見はごもっともだ。

 

 のんのん。

 

 俺は現在、仕事の為に米国(アメリカ)に来ている。

 強いて言うのなら、俺は今をトキメくトップアイドルですから?

 まあそれはそれで置いておいて・・・だ、さっきも少し話したが、明後日は俺のとある(・・・)お祝いで日本に帰らなければならない。そう、祝って貰うのだからこちらが出向くのは俺としては当然な話であって。で、チェックアウトの時間とか飛行機の離陸時間とか諸々あるわけなのです。

 

 で、早朝から帰り支度とか後片付けをしていた訳なのですが・・・、いざ後少しでチェックアウト出来るかなぁってタイミングで、ちょ~っとばかり面倒な問題が発生した。

 

 

 

「で、我が妹の志希(しき)よ。君は何故(なにゆえ)にココに居て、何故(なにゆえ)に俺のお気に入りのコートを頭から被ってじゃれているんだい?」

 

「クンカクンカクンカhshshs・・・」

 

 俺の話も聞かず、夢中で俺のコートとじゃれ合っている。

 何故こんな事になっているのか。語れば長く・・・ならないか。

 ものの数分前。正確には4分32秒前(現在経過中)に部屋のピンポン(死語)が鳴った。覗き穴から覗くとそこには妹の志希。部屋を開けたら目にも止まらぬ速さで今の状態に・・・

 

 ────────────────────

 

「おーい、志希ー?志ー希ー。志希ちゃーん?おーい?おーい聞いてー?」

 

 俺の言葉は尚も無視をされる。当の本人は未だベッドの上で俺のコートに我が身を包みながらコロコロと左右に転がりつつ、綺麗な御御足を交互にバタバタと、そう・・・バタ足を繰り広げていた。

 折角この俺がベッドメイクも終わらせて居たと言うのに・・・悪い子には躾ですね!!

 

「hshshshshshshshshs」バタバタバタバタッ

 

「( ^ω^)・・・そいっ」ガバッ!!

 

「にゃああああ~~~~~!?」

 

 コートを掴み、破れないように気を付けつつ勢い良く志希ごと持ち上げる。次の瞬間、志希はくるくるときりもみしながらコートから剥がれ落ちる。

 

「ぎゅんっ!?」

 

 ベッドに沈む志希は不思議な鳴き声を上げた。

 

「む~!!お兄様~!!志希ちゃんのコートを盗らないでよ~」

 

 すぐさま顔を上げ、頬を膨らましたかと思うと意味のわからない文句を言い出す。

 

「お!れ!の!コートだ!勝手に志希のにするんじゃありません!!」

 

 左手に掲げたコートに鋭い視線を向け、まるで猫のような俊敏な動きで俺の元まで来ると俺の胸に左手をつき、ピョンピョンと跳ねながら必死にコートに手を伸ばし騒ぎ始める。

 

「にゃははははっ。志っ希ちゃんのっピョン 物はっピョン 志っ希ちゃんのっピョンものっピョンピョン。おっ兄様のっピョン ものもっピョン 志っ希ちゃんのも~のな~のだ~!!ふふ~ん♪」

 

 コートを取る行動をピタリ止め、腰に手を当てふんぞり返る。「フンスッ」と鼻息が聞こえた。

 

「どこぞの小学生ガキ大将みたいな物言いはやめなさいっ。女の子でしょ!!」

 

 志希の頭に「ていっ」と超絶弱ーい手刀(チョップ)を入れる。

 

「いやんっ♡お兄様が虐めるぅ~ん♡」

 

 頬に手を当てクネクネと身を捩る。まるで土から出てきたミミズみたいだ。

 しかし、

 

「何ちょっと悦に浸ってんだよ。やめなさい」

 

「ご主人様に躾けて頂いた賜物ですわよ」

 

 声のトーンを突然低くし、凄く真面目な感じで答え始める。

 俺は「はぁ」と溜息を吐き、額に手をやる。

 

「キャラがおかしい。後、せめてもう少しだけで良いから自我を保ってくr「うんそれむり~♪」頼むから最後まで言わせてくれよ・・・それと誰がご主人様だっ!変な勘違いされちゃうでしょ!!」

 

「にゃはは~♪だいじょうぶだいじょうぶ。今日本語で喋ってるから聞こえててもきっと意味わかってないと思うような気がしなくも無いかな~」

 

 再度、溜息を吐く。

 

 この超絶お転婆っ娘はさっきも言った通り俺の妹で、『一ノ瀬(いちのせ) 志希(しき)』。

 ウェーブ掛かったクセのある猫ような質をした肩甲骨を隠す程度の長さの髪に割かし高めの身長、そして控えめに言っても容姿端麗(シスコン)。

 でもだがしかし少し割とちょっといやだいぶかなりやっぱり変な妹である。

 更に、妹と言っても実は血が繋がっていない。要するに義妹と言うヤツである。

 はいそこっ!!エロゲ設定乙とか言わない!!

 さて、妹の紹介を早々に切り上げて、俺の情報と環境について少し追加で説明したいと思う。

 

 

 俺は一ノ瀬家(志希の家族)の養子だ。

 事の発端は八年前。

 当時十一歳の時に両親はこの世を去った。詳細は語る必要性が全く無いので省かせてもらう。今後語る予定もつもりも無い。

 その後、俺の実の母親の実兄である一ノ瀬夫妻に俺は引き取られて今に至る。

 

 研究者であった現父(とう)さんは、幼少の頃から頭の良すぎる俺を気にかけてくれていた。もしも俺がアイドルになっていなかったならば、現父さんは、自分の勤める研究所(ラボ)に来て貰うつもりだったらしい。そりゃそうですよね。

 生まれながらにして【全知全能(チート)】ですし、幼少期は定番通りの【神童】扱いでしたしね、俺。

 とは言え・・・アイドルになった今でも時間があれば志希と共に現父さんの仕事の手伝いはさせて貰っている。

 

 そして何の因果か一ノ瀬夫妻の実子である志希も、中々どうして天才児。俗に言う与えられし者(ギフテッド)だった。

 俺と同じく幼少期から抜群の頭の良さを発揮しており、俺と出会うまでは世界に辟易しながら毎日毎日少しでも楽しい事を探しつつ、誰に縛られるでもなく自由奔放勝手気ままに生きて来たらしいのだ。

 因みにらしいと言うのは、この話の志希の真偽を、俺が汲み取れないからである。汲み取る方法も無くは無いが、正直したくないので却下だ。それに何より志希の言っている事なので俺は一切疑ってはいない。だから【らしい】を使うのも志希に失礼な話ではあるのだが、これも難しい問題であるので今は気にしないで居て欲しい。

 

 

 閑話休題

 

 

 志希とじゃれてる場合じゃない。さっさと支度を進めなければ終わるものも終わらない。自分の気合も入れ直しコートを畳み、バッグに入れ、次なる片付けに移る。

 

「ねぇねぇ、お兄様?」

 

 そこへ志希のゆったりとした柔らかい声で呼ばれ、ふと顔をそっちに向ける。

 すると真剣な面持ちでこちらを見ているじっと見つめる志希と目が合う。

 ジワリと嫌な汗が背中を伝う。そして察する(・・・)。それを悟られまいと俺は目線を荷物に移す。

 

「どうした?早く支度しなきゃならんから手短に頼む」

 

 間違いなくこの後に苦手なイベントが発生する。

 しかし苦手であるだけで別に嫌いではない。むしろ好きな部類のはずなのだが、やはりひどく苦手であるので避けて通りたくは思うのだ。

 

「わたくし──」

 

 はじまってしまった・・・

 

「──一ノ瀬志希は、お兄様こと一ノ瀬騎士を、心の底より愛しております」

 

 志希(いもうと)から(あに)に対する突然の告白(ラブコール)・・・

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 訪れる気まずい静寂が部屋を支配する・・・

 

「じー (ΦωΦ)」

 

 しかし、直ぐにそれを打ち破る志希。

 

「はぁ。また(・・)か」

 

 あからさまに大きく溜息を吐く。

 

「溜息吐くとかちょっっと失礼じゃな~いっかな~?」

 

 腕を組みわかりやすく機嫌を悪くする。しかし、そこに本気の雰囲気は無い。

 

「この状況で溜息吐かずに居られると思うか?」

 

 そう、『また』なのだ

 志希はとある時期から定期的に俺に告白をしてくるようになった。

 志希の意図・目的は?本当の想いは?

【全知全能】を持ってしても『わからない』。

 そう全く『わからない』のだ。

 

【全知全能】とは・・・知らない事は一つもなく、出来ない事は何もないということ。

 全てのことを知り尽くし、行える完全無欠の能力。

 

 だのに、だのにだ・・・

 

 判らない・分からない・解らない・ワカラナイ

 

 だが、しかし、それが、その、状態が、『楽しい』。

 判らなくて、分からなくて、解らない事が本当に『楽しくて』、非常に『嬉しくて』仕様がなく仕方がないのだ。

 

【全知全能】になった俺の、本当に数少ない楽しみ。今の俺が得られる最上位の楽しみの1つだ。俺には理解できない・知り得ない・認知出来ない、人の感情に触れる瞬間・相見える瞬間。俺は俺と言う生、それを最大限に感じる事が出来る瞬間がこれだった。

 

 俺は【全知全能】になって、新たに人生を歩み始め、世界に対し落胆し、物事全てに飽きを感じ、何もかもに辟易し、そして、それと共に自分の持つちょっとした感情とお別れすることとなった。

 褒められても出来て当然なのでこれっぽちも嬉しくない。

 他の人間に仲間外れにされようとも、奇異な目で見られようとも、中身は元々成人を優に超えた人間、怒りも無ければ呆れすらも覚えないし辛くも無ければ悲しくも無いし、そんな頃には痛む心なんてモノも既に擦り切れていた。

 そんな環境に身を投じて心身共に奥底まで疲れて果てていた俺は、数年で完全に感情を欠落させた。喜怒哀楽を享受出来なくなった。

 

 しかしそんな俺はいつからか他人の感情に興味を持ち始めた。この世界にはまだ俺にもわからない事がある事を知った。この世界にはもっと俺に出来ない事があることも知った。

 俺の生き甲斐が増えることに喜びを感じた。人生が色めき始めた瞬間だった。

 生きているって素晴らしいと思え始めた。これで良い、これで良い。

 そうこれでいいのd「おに~さま~っ!!」

 

「はっ∑( ゚д゚ )」

 

 どうやらトリップしていたらしい。志希の言葉で夢幻から現実に引き戻される。

 

「お兄様ってさ~ぁ?ちょいちょ~い私の事を変な子~変な子~って言ったりするけどさ~ぁ?お兄様も大概変な子だよね~?にゅっふっふっ~♪」

 

 にんまりと悪戯っぽく笑う。

 

「ぐぅ・・・すまん・・・」

 

 ぐぅの音は出た。

 

「にゃははは~♪まぁ?志希ちゃんが変な子なのは充分自覚してるし~?全然これっぽっちも気にしてないよ~ん♪そんな事よりホレホレ~♪答えを聞かせておくれよ。好青年っ!!」

 

「ほれっ♪ほれっ♪」と言いながら両手で下から掬うような動きを何度も何度も繰り返す。

 

「はいはい、俺も愛してますよー志希ー」

 

 頭を掻きながらとても簡素に簡潔に返答をする。これがいつも通りだ。

 

「にゃはは~♪いつも通り、心の全く籠っていない返答をどうもありがとう♪ところでお兄様。さっきから何してるの~?」

 

 不思議そうな顔をして、顎に人差し指を当て首を傾ける。

 

「は?」

 

 何を言っているのか良くわからなかった。ナニコレ楽しい。

 

「いやいや~♪志希ちゃんは~学校行くのが飽きちゃって~失踪したくなっちゃったから~『あっ!!そう言えばお兄様は仕事でこっちに来てるっ!!』って、思い出したから~、お兄様のプロデューサー?に~電話して~お兄様の居場所を聞いてみたら~なななななな~んとっ!!志希ちゃんの住んでる場所からすぐ近くるミラクルだったから志希ちゃんはここに居る訳なのだけど~?」

 

 淡々と語る天才少女。

 

「おっおう・・・説明ありがとう。それで、俺の予定をあいつ(・・・)に一切聞かずにここまで来た、と?」

 

 額に右手を当てる。

 

「そ~のと~り~っぶいっ♪」

 

 目を覆いたくなるくらい眩しい笑顔でピースサインをしてくる志希。まるで後光が差しているようだ。

 

「問題です。明後日は何の日でしょう?」

 

「明後日は~、十二月一〇日~・・・おおぅっ!!【全知全能の偶像(アイドル)】、またの名を【世界の騎士(ナイト)様】たる私のお兄様こと~、一ノ瀬騎士の誕生日っだ~っ!!それ以外何があるのか知らな~い!!ノーベル賞とかゼンゼンシラナ~イ」

 

「うん、そうだね。憶えててくれてありがとうね。でもねトンでも二つ名まで付けて説明してくれてね・・・本当にね。まじでお兄様は感謝感激雨霰でガチで泣きそうです・・・」

 

【全知全能の偶像(アイドル)

 

【世界の騎士(ナイト)様】

 

 このトンでも二つ名は俺の芸能界での通称。他にも【A と J(トランプナイト)】なんてのも極一部(・・・)で呼ばれたりしてた時もあったけどね。

 まぁ、【アイドル界のオーガ】だの【世紀末歌姫】なんて呼ばれてるアイドルも居るので、それに比べればまだましだろうかな、とは思う。と言うか女性に鬼だの悪魔だのは良くない気がするが・・・まぁ、人の事言えないかも知れないけども・・・

 

 そこはまぁまぁ置いておいて、実はこの二つ名は好きじゃない。だから呼ばれるのも好きじゃない。志希の事だから、わかってて敢えて言っているんだろうけれど・・・それにしても志希に言われると『他人』と言われているようで切なくなってくるから特にキライだ。

 

 閑話休題

 

「で、ソコまでわかってるならもう予想はつくだろう?天才少女」

 

「な~るほどね~、お兄様の誕生日(バースデー)かぁ・・・ふ~む」

 

 まるで一休さんみたいな感じで蟀谷に人差し指を当て目を瞑り、う~んと唸りだした。

 

「そう言うことだ。そんなわけだから片付けの邪魔をしないでくれ?あと1時間も無いんだから」

 

「じゃあ志希ちゃんも一緒に帰る~♪」

 

「は?」

 

 とても無邪気に、さも当然のようにさらりと間髪入れずに物凄い事を言い出した。俺の【全知全能】を持ってしても理解するのに時間を要してしまっていた。ナニコレ楽しい。

 

「それと~。私の分の帰りのチケットの手配をよろしくお願いしま~す。あ、あとあと~飛行機代もお兄様持ちでよろしく~てへぺろ~♪ぺろぺろ~♡」

 

 悪びれる様子もなく、やっぱり当たり前のように無邪気に言い放った。

 

「・・・・・・」

 

 言葉を失うとは正にこれだった。

 

「それにねお兄様。私にはお兄様の誕生日を祝わないって言う選択肢が無いのだよ?可愛い可愛い妹君のお願いなんだから聞いてくれるよねっ?ねっ?ねぇっ!?」

 

 フンフンと鼻を鳴らし、いつの間にか飛び乗っていたベッドの上で騒ぎ始める(志希)。それを見つめる俺の顔は、一瞬だが何故か(・・・)自然と口角が持ち上がったが、とある【能力(ちから)】でそれは阻止された。

 

「まったく・・・仕様がない妹だな。我儘を聞いてやるのも兄の努め・・・ってヤツか?」

 

 片付けを進めながらあきれた様に肩を竦める。

 

「違うよお兄様~?努めじゃなくて特権だよ特権~?こんな美少女な妹の我儘が聞けるなんて、特権以外の何ものでも無いよ~?業界ではご褒美だよ~?希少価値だよ~?超高値だよ~?」

 

「どこのどんな業界なんだよそれは!!でもまぁ、そうなのかもな・・・」

 

 そんな言葉を聞きつつ鼻で笑い、スマホを取り出すと席のキャンセル、次いで席の取り直し、そして関係者へ「最悪遅れるかもしれない」、と連絡をした。

 

「・・・・」

 

 連絡を終え、スマホをしまうと同時位に志希の方から何かが聞こえたが余りに小さく聞き取れなかった。

 

「なんか言った?」

 

「なんでもな~い」

 

 今日も今日とていつも通りだ。

 いや・・・昔よりはあきらかに良い日だ。

 




ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。

前述致しましたが、この後何度も加筆修正が入るかと思われます。

文章や表現が別物に変わる可能性もございますのでご承知おきの程よろしくお願い致します。

※全体的に文章を修正致しました 2017/03/14
 全体的に文章を修正致しました 2019/04/16


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First Side Story ~ Scene 志希 前編~

皆さまご無沙汰しております。

如何お過ごしでしょうか?

削除してから1月半位でしょうか?
再投稿です。

前編後編に分かれております。


 どうも~。みんなのアイドル志っ希ちゃっんで~すっ!!

 現在アメリカにあるホテルの中のとある部屋に潜入中~♪

 そしてそして~。なんとなんと~。私は今っ!!お兄様のコートに包まって、ベッドの上でクンカクンカhshsしてま~すっ!!

 にゃはは~♪お兄様は本当にいい匂いがするねぇ・・・

 

 はぁ~♡hshshshs

 

 重炭酸イオンとアンモニア、若干のアンドロステノンのバランスの良さ、あとは~よくわかんない解析できない謎の成分・・・謎の成分の要因が一番多い気がすると私は思っているんだけど・・・しかしそんな事より何よりも!!この匂いが私をトリップさせる~ぅぅぅぅうっふぅぅぅぅ↑

 

 

「hshshshshshshshshs」バタバタバタバタッ

 

「・・・そいっ」ガバッ!!

 

「にゃああああ~~~~~!?」

 

 コートが舞い上がると共に自身の身体に浮遊感が生まれる。コートに付いた香りを逃すまいと懸命にしがみつくも、重力と言う名の絶対的な力に、非力な私は為す術なくあっさりと、ベッドに落ちて行くしかなかった。

 

「ぎゅんっ!?」

 

 顔から落ち、その衝撃で口から変な声が出る。

 

「む~!!お兄様~!!志希ちゃんのコートを盗らないでよ~」

 

 間髪入れず顔を上げ、コートを奪った犯人に抗議する。

 

「お!れ!の!コートだ!勝手にお前のにするんじゃありません!!」

 

 高く掲げられた獲物(コート)を目掛け必死に手を伸ばす・・・お兄様に手を突きその反動でジャンプしてみる・・・が、私の動きを巧みに躱し全然手が届かない・・・ぐぬぬ~。それでも私は諦めないのだっ!!

 

「にゃははははっ。志っ希ちゃんのっ物はっ志っ希ちゃんのっものっおっ兄様のっものもっ志っ希ちゃんのも~のな~のだ~!!ふふ~ん♪」

 

 腰に手を当てつつ、お兄様に抱き付いて直接嗅いでしまえば良かったと結構かなり物凄く後悔した・・・が、ここまで盛大にやったのだ。挫けてたまるかと、ドヤ顔で最後まで泣く泣くやりきることにした。

 

「どこぞの小学生ガキ大将みたいな物言いはやめなさいっ。女の子でしょ!!」

 

 怒る所はそこ?と言う所をお兄様に注意され、てぃやっとおでこに『愛のチョップ』が振り下ろされる。

 その構えが取られた瞬間、避けられそうも無い程のスピードで振り下ろされるチョップ。分身とか残像が生まれるレベルの速さで振り下ろされるこのチョップ、これが全然痛くないのだ。これこそ我々【一ノ瀬兄妹・愛の奥義】が1つ【愛のチョップ*1】!!!

 

「いやんっ♡お兄様が虐めるぅ~ん♡」

 

「何ちょっと悦に浸ってんだよ・・・」

 

 お兄様に弄られると、不思議と何故だか身体が悦んでしまう。

 なので正直に思った事を包み隠さずに言う。

 

「ご主人様に躾けて頂いた賜物ですわよ」

 

 お兄様はあからさまな溜息を一つ吐くと、やれやれといった感じで額に手を添える。

 

「キャラがおかしい。後、せめてもう少しだけで良いから自我を保ってくr「うんそれむり~♪」頼むから最後まで言わせてくれよ・・・それと誰がご主人様だっ!変な勘違いされちゃうだろ!!」

 

「にゃはは~♪だいじょうぶだいじょうぶ。今日本語で喋ってるから聞こえててもきっと意味わかってないと思うような気がしなくも無いかな~」

 

 

 改めまして私の名前は、一ノ瀬(いちのせ) 志希(しき)

 自慢のお兄様、【世界の騎士様】こと『一ノ瀬 騎士』の妹である。

 ちなみにお兄様は、この二つ名が好きでは無いみたいだけれど、私は単純に格好良く思っているので好きだったりする。何が気に入らないのか正直わからないけれど、それ以前にお兄様の感性は一般人のソレとは大きく外れていたりするので今更な疑問でしかない。

 ただし、私がこの二つ名を使うと、何故かとても寂しそうな顔をする。

 だからその顔が見たくなった時や、弄られた時の仕返しなどに使ったりしている。

 

 お察しの通り私はお兄様の妹だ。ただし妹と言っても【義妹】だ。

 血は繋がって居ないのだっ!!義妹なのだ!!義理の妹なのだっ!!

 

 え?なんでそんなに強調したのかって?

 なんか義妹って響きだけで、萌えポイント(MP)が高そうだと思わない?

 それにMPは高い方が色々便利って聞くし──と、こんな御巫山戯(おふざけ)は置いておいて・・・

 

「ねぇねぇ、お兄様?」

 

 さっき程までの冗談じみた雰囲気から転じて真面目に、張りつめた糸の様に真っ直ぐとお兄様を見詰める。

 

「どうした?早く支度しなきゃならんから手短に頼む」

 

 そして頭の中で思いを込めて築き上げた文字列を、私の声と言う音に変換し言葉として発声器官から産み出す。

 

「わたくし一ノ瀬志希は、お兄様こと一ノ瀬騎士を、心底より、お慕い申しております」

 

 嘘偽りなき心からの愛の告白(ことば)

 

 これで、通算何度目になるのだろうか?

 

 あれほど(・・・・)嫌悪していたお兄様(おとこ)お兄様(かぞく)と認め、

 そして──

 

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 ──8年前 

 

 

 一ノ瀬 志希 9歳。

 

 

 今より更に小さい頃から何をやっても面白くなくて、周りの人も凄く幼稚で、低能でバカばかりで、そんな環境が面白いわけが当然無くて、退屈で退屈で、本当に退屈でしょうがなかった私。

 

 そんな私の前に突如連れて来られた2歳年上の男の子。

 コイツが私の兄になるのだと、両親から言われた。

 当時の私の感想としては、「なんなのこいつ?」もしくは全く興味がなかったかのどちらかだったと思う。

 

 しかしコイツの存在は、後に私の人生観を、人間性を非常に大きく変える事となる──

 

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 ──5年前

 

 

 一ノ瀬 志希 12歳

 

 

 彼が来てから早や3年。

 私は彼を家族と認めてはいなかった。

 

 大概の事は出来ると思っていた私より、なんでも出来てしまう。

 アイドルをやっているからとかで、どこへ行っても誰に会ってもちやほやされる。

 お父様やお母様の本当の子じゃ無いくせに、持て囃される。

 コイツは、もはや私の居場所を奪って行くだけの憎き敵でしか無かった。

 

 ──今に思えば、これって只の嫉妬だった。

 親に構って貰えない子供の本当にくだらない我儘な態度だ。

 本当に私は子供だった。身体(にくたい)精神(こころ)も・・・精神(こころ)に関して言えば、お兄様とは圧倒的に違っていた。正直、ソレは今でも思って居る事ではあるのだけれど。

 

 閑話休題──

 

 結局、彼が来てから何かが大きく変わったのかと言うと、特にそう言った事は無かった。

 強いて言うならば、私に新しく楽しいと思える事が出来た事だろうか。

 

 それは、『お近づきの印に』と、彼が私にくれた物。

 小学生の私の手のひらに納まる程度の大きさの、綺麗な装飾の施されたオシャレな小瓶。その中にはかき氷のイチゴシロップよりももう少し薄い透明な赤色の液体が入っていた。

「あけてごらん?」と催促されて小瓶の栓を抜く。今まで小瓶に封じ込まれていたソレは、私の鼻腔を通り抜け、脳を経由する。そして、まるで稲妻に頭の天辺から貫かれたように脊椎を通り、足の裏、手足指の先から毛先まで、一瞬も掛からず刺激として全身を駆け巡って行った。

 この謎の刺激物、その正体を探ろうと記憶の海の中を私の脳細胞は総動員し始めるも、そんな必要が無かったのかと思われる程に簡単に答えが出る。

 

『香水・・・?』

 

『そっ。良かったら使って』

 

 そう言って彼は立ち去る。

 

 私はその言葉を聞こえてはいたが聞いていなかった。

 私は夢中になってその香水の匂いを嗅ぎ続けていたから──

 

 ──楽しい事、それは【匂い】に関しての研究だった。私はその香水を貰った時に気が付いた(それがきっかけだったと言うのが気に食わなかったが)。

 良い匂いを嗅いでいると、とても楽しい気持ちになれる、と。嫌な気分がどこか遠くへ行ってしまう、と。身体の奥からえも言えぬ気持ち良さが押し寄せてくる、と。それはまるで麻薬・・・私にとってまさに匂いとはソレだった。

 私は得てしまった。

 私は知ってしまった。

 私は感じてしまった。

 ソレらは私の興味を加速させ加熱させた。追求すればするほど、自分が天才だと自負しているからなお、香り、匂いに関しての謎や発見が尽きる事が無かった。

 人それぞれの嗅覚の違いによる匂いの好嫌。同種同族間であるにも関わらず発する個体差のある香りの違い。人間では到底嗅ぎ分けられないだけで、実際は香りを発しているものなど、語りだしたら限りのない程にこの匂い・香り(せかい)に嵌って行き、それが本当に楽しくて、嬉しくて狂おしいほど好きで仕方がなかった。

 

 ──これがあったからこそ私は私として、普通に人間種(・・・)として、今の今まで生を謳歌して行く事が出来たと言っても過言ではなかった。

 

 しかしこの後、ある程度まとまった私の生き方に、あろう事か上書き(・・・)を齎した出来事が起こる事となる。

 

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 ──3年前

 

 

 一ノ瀬 志希 14歳

 

 

 

「う゛~~っ!!んっもうっ!!わっかんないよっ!!!」

 

 髪の毛をグシャグシャと掻き毟り、机の上に載っている隙間無くびっしりと異国語が書き込まれたルーズリーフを右へ左へと自分の気持ちの赴くままに巻き上げ散らかし暴れまくる。

 少し遠めに置かれているアルコールランプや試験管、フラスコにメスシリンダーなどに代表するガラス類の実験器具をムシャクシャしているとは言え、そのように扱うことは流石に躊躇われた。

 

 ある程度暴れ終わり、冷静さが扉を開けて私の中に帰って来た頃、机に突っ伏し「あ゛~」と年頃の女の子が出して良いとは思えない唸りを上げる。

 

 ここは、パパが勤める研究所(ラボ)の一室。私は天才のため、パパの仕事を手伝ったりしていた。ある時にご褒美に、空いていた研究室の使用を強請(ねだ)ってみたところ、所長さんから「OK!自由に使っていいよ!HAHAHA!」とあっさり了承が貰えた。今では私と(アイツ)、2人の自由研究室となっている。

 ただ、基本的には私が1人で使っているのだが──それを考えた時、無意識に舌打ちをした事に気付き、それをした自分に嫌悪感を抱く。「私はなんて嫌な人間なのだろう」と。

 

 前述した通りここは私と彼の2人に宛がわれていたが、実際に使って居たのは私だけ。

 この事実が先程の様に私に舌打ちをさせた。

 無意識下にそこまでさせる理由は何か?決まっている。いつまでも燻って消えない彼への醜いまでの嫉妬のせいだ。

 

 なぜ彼は研究室を必要としないのか?それは・・・彼は日常的に研究を必要としないと言う至って簡単な理由からでは無い。

 彼が優秀過ぎるが故に、研究をする必要性が無いからだ。結果を、結論を、深淵を求めなくても良い人間なのだ。

 なぜそこまで言うのか。それにはちゃんと理由がある。そこに確証は無い。だけれどそれにはそれを言うだけの確信はある。

 

 過去、今の様に私が頭を悩ませる事が少なからずあった。

 

 因みに言っておく。私は研究を始めて1年で、匂い・香り(これ)に関する事で『ノーベル化学賞とノーベル生理学・医学賞』を同時に貰っている。

 悪いが平々凡々な一般人には到底無理な事だ。

 

 そんな私が悩む、頭を抱えるのだ。そこら辺の脳が持つ思考力、発想力程度では到底思いつきもしないレベル。それ程とまでだと言いたくなる問題なのだ。

 因みにここで言う一般人の思考力を、算数を習ったばかり、『足し算・引き算』を覚えた人程度と仮定する。その場合、私は『カントールの定理の証明と対角線論法』を覚えた人だ。これ程の差だと考えて貰えると解りやすいと思う。

 

 更に私の考える彼は・・・『ヒルベルトの23の問題のうち、第12問目』を解き明かした人。

 

 それ程の差だ・・・

 

 閑話休題──

 

 ──ノーベル賞の時に出した成果の研究の時、当時行き詰っていた私の前に彼は突然現れてこう言った。

 

『それさ。こっちじゃなくて、こっちで試してみたら?』

 

 右手に持っていた試験管を下げ、左手に持っていた試験管を持ち上げる。

 

「コイツは何を言っているんだ」と思った。「なんにも解っていない」と。

 現在、実験の段階は素人が口を出して良い筈が無い領域になっていた。バカにするのも大概にしろと言わんばかりの気迫を込めた視線を彼に向ける。

 だが彼は飄々と、私の事を気にも留めず左手に持った試験管に入った溶液を、実験中の(予備に幾つも用意された)物に流し入れた。

 

 直後、反応(ソレ)は起こる。

 

「えっ──」

 

 後は、あれよあれよと言う間にノーベル賞である。

 

 その時はたまたま・・・そう、素人が持つ偶然的発見(ビギナーズラック)だったかも知れないと、気持ちを切り替えた──が・・・その後、最早偶然などでは無いと、着実に確信に変わっていった。

 

 幾度かの彼の口出しの後、彼の最初の口出しの事を思い出し始め、考えた時に、とある違和感に辿り着く。

 彼は最初から私の実験に、研究に携わって居た訳ではない、と言う事に。私はずっと独りでやってきた。

 しかし彼はこう言った。『それさ。こっちじゃなくて、こっちで試してみたら?』と。

 これはどういう事か?まるで今までずっとこの研究の過程を見て来たかのよう口振り。今までに使用してきた溶液(モノ)と、今まで使用して来なかった溶液(モノ)を知っているかの如くだった。

 その後の研究を鑑みても、私から少し話を聞いただけの実験も、研究の経過を少し眺めただけのも、それどころか何も見ずとも、聞かずとも、事も無げに、さも一般常識を問われたかのように、それらの答えをまるで知っていたかのように、悉く彼は正解の道を、私が最も欲しいと思っていた(しるし)を導き示した。

 

 だから・・・私はある日ある時彼に尋ねた。

 

「あなたはいったい何者なの?」

 

 彼はキョトンと、次いで「今、なんて言った?」と訝しげな顔をする。

 

「あなたはいったい何者なの?」

 

 重ねて質問をしてすぐ、彼は右手を顎に当て熟考し始めた。

 

 彼のその姿を見て驚愕した。彼を家族と認めては居ない。だが、それでも法律上は家族であるために住居は同じ。同じリビングで同じテレビを見る事もあるし、同じ時間にご飯を食べる事も多い。同じ学校に登校して居た事もある。

 そんな普通な生活の中、一緒に居るからこそ彼の異常さが目についた。

 まず、いかなる事に対しても、彼は『思考時間』が無い。少ないのではなく、無い。彼は悩まない、躊躇いが一切存在しない。

 

 ある時、それを裏付ける出来事が起こる──

 

 ──クイズ番組を見ている時の事、彼は小さく口をパクパクと動かす。その時は晩御飯時だったため、ただの咀嚼だと思っていた。パパが番組を見ながら「この問題の答えは解るかな~?」と私たち2人に聞いてきた。どこの家庭でもありそうな良く見る家族風景であろう。その間も彼は咀嚼を続けていた。私はそのパパの問いに、彼を見つめながら間髪入れずに答えた。私に続く形でテレビの中では頭脳派芸人と言われてた人が間違え、次いで今代の雑学王と言われた人が正解を答え歓声と共に拍手が沸き起こる。それを見計らってか、パパは「さっすが志希ちゃん!やっぱり俺たちの子供は本当に賢い子だなぁ。間違いなくお父さん達より頭が良いな!!」と私に頬擦りしながら頭を物凄い勢い撫でまわす。

 私はパパに揉みくちゃにされながらも彼にどうだと言う顔を向ける。ふと、ある事に気が付き自分の唇に触れる。

 先程自分がした解答の口の動き、そしてパパが問題を出す前に彼がしていた咀嚼の動きと非常に似ていた・・・いや、同じであった事に。

 そこに気付いた瞬間から、彼の観察が始まる。

 結果、彼は問題が出題されるより先に解答を呟く(声は出ていないが)。

 実際そんな事が可能だろうかと沈思黙考する。番組制作者?再放送?現場にいた?そうであれば、ある程度記憶力に自信のある人(ちなみに彼は規格外の記憶力の持ち主)であった場合、容易に今の様な事が可能であろう。では、今回のように生放送(・・・)であった場合は?不規則な出題の場合は?

 そんな状態の問題を、出題前に答えられる人間など誰一人居ないだろう。運に任せてたまたま100%を取れる人がいるかもしれないが、そんなのは宝くじの1等を10回当てるより難しい事であろう。

 彼は解答がわかる人間。少し先の未来が見えている人間と予測立てるものの、考えている自分自身が馬鹿らしくなってくる。しかしいくら考えたところで私の脳はそれしか無いと悟る。

 それで私は納得する他無かった。それ以外の答えは私にとって違和感しかなく、逆にその答えはありえないと思いつつもパズルのピースが綺麗にカチリと嵌るようにストンと胸に落ちていった。そうであるが故の思考時間が無いと言う結論に至るわけなのだが──

 

 ──私の中でそんな存在である彼が『悩む・考える』と言う行動をとって居る現状が私には信じられなかった。

 

 しかし今はそれ以上に、最初の問いかけの答えが気になって、先程の疑問もそうだが、次々と湧いてくる他のどんな疑問も、私の脳はたちどころに他所へやってしまう。

 

「本当にアナタはなんなの?」

 

 三度目。

 

「志希は──」

 

 彼は一度言葉を切り、大きく息を吸う。

 そして何か覚悟決めたのか、まっすぐ私を見つめ言葉を続ける。

 

「──なんだと思う?志希に、俺はどう見えてる?」

 

「異常」と、口を開きかけ止まる。なぜか?わからない。彼の顔を、瞳を見ていたら躊躇われた。

 そして私が再度口を開くかと言うより先に彼が語り出す。

 

「俺は、お前が思っている以上に、遥かに遠い彼方の【異常】さを持っているよ」

 

 彼は私に笑いかける。しかし彼の瞳には生者の証たる燦燦たる輝きが灯って居ない。

 その生を感じない笑顔に私の身体が粟立つ。

 

「生まれたばかりの頃は、俺は普通だったと思う。でも二年後、俺は何をしても全然面白くなくなった。本当に面白くなかった。生きる事も生きている意味すらも面白くなかった。でも、そんな俺に、まったく新しい出来事が起こった」

 

 私は彼の言葉に耳を傾け耽々と聞き続ける。

 

「志希と出会った。俺は、志希と出会って、そして・・・志希を助ける事を始める事にしたんだ」

 

 言っている意味は解らなくも無いが、訳が分からなかった。

『助ける事を始める』とは、一体全体どんな日本語だ?理解が出来ず頭の中で細かく噛み砕き味わって咀嚼する。

『助ける』を『始める』。

 助けるというのは、基本的には救う事だ。その状況下においての上位者が、下位者に対し手を差し伸べる事だ。

 始めるとは、やっていなかった事をやること。行っていなかった事を行う事。動いていなかった物事を動かす事。他にもあるがこの辺りで良い。

 

 要するに私と言う下位者を彼と言う上位者が、見かねた為助けてあげようと動き出したと言うことか。

 私は彼を見つめる。それを見た彼は訝しげに見つめ返してくる。

 

「ふっ・・・ざけるなっ!!!」

 

 机を叩き私は激昂する。当然だ。あれ程解り易くあからさまに馬鹿にされて怒らない奴は、自分がやってきている事に誇りもプライドも責任も楽しみも何もかも持っていない抜け殻みたいな奴等だけだろう。

 

「お前みたいにっ!!なんでも出来る訳じゃないんだよっ!!人間は!!私はっ!!」

 

 彼はツマラナイ物でも見るように、その瞳に一切の色を浮かべずただ黙って私を見つめる。

 

「知ってるよ!!わかってるよっ!!どんだけ考えたって!!どんなに悩んでみたって!!自分で答えに行き着かなかった事くらい!!」

 

 

 

 

「だからって・・・そんな事──」

 

 

 自分の吐き出す言葉が惨めで悔しくて、手が痛くなるほど握りしめる。歯茎が痛くなるほど嚙みしめる。

 

 

「──それでもっ!!アンタに!!そんな死んだ()をしたアンタには言われる筋合いはないっ!!」

 

 こんなのはただの当てつけだ。

 でも抑えられなかった。

 抑えきれなかった。

 肩で荒く息をする私を見つめながら、何事も無かったように彼は口を開く。

 

「俺は、やっと・・・やっと自分のやった事が無い、経験した事が無い、結果が見えない(・・・・・・・)事が出来るようになったんだ」

 

「結果が・・・見えない?」

 

 彼は私の疑問に構わず続ける。

 

「俺ってずっと一人っ子だった。だから、兄弟になった事が無いんだ」

 

 また意味の解らない独特の日本語が出た。『兄弟になった事が無い』。

 一人っ子なら当然だろう。

 

「だから、俺は志希と言う妹を得て、初めて兄と言う存在に成り得た。これはとてもとても不思議なものなんだ。職業でもない、生理現象でもない、自然現象でも事象でもなんでもない。だけどそれはこの世に確かに存在しており、ちゃんと存在として認識されている。今、俺は世の中から『一ノ瀬志希の兄(・・・・・・・)』として存在する事を許されているんだよ」

 

 彼が何を言っているのかが全然わからない。一先ず『兄』と言う立場に喜んでいる、と言う事で良いのだろうか?

 彼の話が突飛過ぎて最早先程までの業火の如く燃え上がっている怒りが鎮火しそうですらある。

 

「そしてそんな存在として志希と暮らして行く中で、俺はある事に気が付いた」

 

 彼は話を止める事無く淡々と語り続ける。

 

「志希ってさ、俺と似てる所があるんだよ」

 

 彼は急に寂しそうに笑い、あろう事か私と似てると言い出した。

 

「俺は志希の兄として、志希に・・・俺みたいになって、俺みたいに生きていて欲しくないと、そう思ってる・・・」

 

 俺みたいになるなとはいったい何のことなのか?

 

「俺みたいに人生をつまらなく退屈に生きないで欲しいと思っている。切実に願っている」

 

 それは少し難しい話だと素直に思った。

 もう既にいくらかつまらないと、退屈だと思ってしまっているのだから。

 しかし、やはり天才と言うモノは世界に飽きてきてしまうものらしい。

 

 そう言われてみれば成程、存外似ているのかもしれない。

 

「志希は、俺が志希を見下していると思っているかもしれないけどさ・・・俺は志希の事を一度たりとも下に見た事なんてないよ。いつでも一生懸命で、情熱的で・・・寧ろ羨ましいとさえ思ってるよ。なんなら嫉妬したりもしてたさ」

 

 この何でも出来る彼がいったい私の何を羨ましがり何に嫉妬すると言うのだろう。

 最早彼の話す何もかもが胡散臭くなってきた。

 

「俺はさ・・・何でも出来ちゃうんだ・・・。本当に、きっと、何でも・・・ね」

 

 聞いても居ないのにコイツは何を言っているのか。ひどく嫌味な奴だ。

 

「今の一言は志希にとって嫌味に聞こえたかもしれない。でも、この何でも出来るって事が当然になってしまった場合、出来ないって事が逆に輝いて、眩しく見えるんだよ。まさに無いもの強請りってヤツだな」

 

 確かに何でも出来るが当たり前ならそうかも知れないけど・・・

 何でも?出来てしまう?

 

「ねぇ、何でも出来るって・・・」

 

「あぁ・・・何でも出来るぞ。今志希が思いつく限りの事何でも。それこそ空を飛ぶ事だって数日も掛からず出来る様になるだろうな。漫画に出て来るような空を飛ぶ術から、米国ヒーローの様にパワードスーツを作り上げ、それを使い飛ぶ事だって・・・まぁ試した事無いけど取り合えずやり方はたった今(・・・・)・・・・理解したよ」

 

 間髪入れずにとんでもない事を乾いた笑いと共に可能だと言い放った。

 しかもそんな自信に満ちた言い方で言われた所で確認のしようが無いので嘘かどうかも分からない。

 

 とりあえず、私は簡単に出来そうな、今、最もして欲しい事をお願いしてみる事にした。

 

「そんな事より、私の兄と言う立場をやめてもらいたいって言ったら?」

 

 彼はキョトンとした顔をする。今日で何回目だろうか?

 

「ぷっ・・・あはははっ!!!志希はやっぱり凄いなっ。くっくくく・・・生まれて初めてだよ。俺が、俺一人で出来ないと思わせる事を言って来たのは。くっくく、ふふふふふ・・・なるほどね、くくくっ」

 

 ──この時、本当に楽しそうに、嬉しそうに笑っていた事を覚えている。

 私の今までの人生の中で今のところ最初で最後のお兄様を負かした瞬間だった──

 

「しかしそっかぁ・・・志希は、俺が志希の兄の位置に居るのがそんなに気に食わないのかぁ・・・やっぱりはっきりと面と向かって言われるのはきっついなぁ・・・はは・・・」

 

 今度は寂しそうな顔で笑い始めた。

 いつもは能面を顔に貼り付けたみたいな、常に違和感のあるヘラヘラ顔をしている印象だったのだけど、存外普通に表情はコロコロと変わるものなのだな、と変な所で感心した。

 

 正直こんなにしっかりと彼の顔を見るのはこの時が初めてだったのかもしれない。

 

「でもなぁ、志希がどれだけ俺を嫌っていても、志希は俺の妹で、俺にとってはとても大切で何者にも代えられない大事な大事な家族なんだ。そこにどんな理由や法則があろうが無かろうが、それは俺にとってはまったく関係ない。結果的に今は家族なんだ。だから俺は俺の勝手や我儘、独断と偏見で志希の兄でいたい、そうありたいって、そう思ってるんだ」

 

 結局の所やっぱり、兄面(アニヅラ)したいだけの様だ。

 

「・・・」

 

 言いたい事は言い切ったのか、優しい感じで微笑んでいた──しかしその微笑みすら無意味にするほど在り得ないくらいの冷たい眼差しをしていた・・・

 それは、過去にどこかで見たことある眼差し・・・

 今から5年前、本当に世界に退屈していた頃、鏡で見た自分の眼・・・

 

 ただし似たような眼差しってだけであって決して同じとは言えないものだ。

 私の時よりも更にひどく澱み、何処までも深く黒く、それはまるでブラックホールの様で、ずっと覗き込んでいたらその闇に吸い込まれてしまいそうな、そんな瞳の色・・・生者の燦々たる光を一切宿させない色。

 

 どうして彼はそこまで澱んだ瞳をしているのだろう?

 

 私と同じように世界に退屈してしまったから?

 

 ちょっと考えた結果、別の答えが出た。

 

何でも出来る(・・・・・・)】からなのであろう、と。

 

 さっき彼は言っていた、『なんでも出来る』と。

 私は自分に置き換えてみた。

 もし私が何でも出来るとしたら・・・

 

 ──やった事も無い事、聞いた事も無い事。

 

 それを突き付けられ、「やってみてください」と言われる。

 

 そして、少し見ただけで、少し触っただけで、事も無げに、

 

 何の変哲も無い普通の紙を両手で破り捨てるように簡単に事を成す。

 

 しかも、それを生業としている人達よりも遥かに高い練度で・・・

 

 

 

 

 

 ──ゾクッ──

 

 寒気がし粟立つ・・・

 

【つまらない】

【やる意味が無い】

【価値も無い】

 

 なんだこれなんだこれなんだこれ?

 頭を押さえ蹲る。少し考えただけで気が狂いそうだ。

 何をやっても何でも出来てしまうって苦痛以外のナニモノでもない。

 ヤバイヤバイヤバイヤバイ・・・

 私の防衛本能が即座にこの思考を、熟考する事を、妄想・想像する事を良しとせず遮断をする。

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

 右手を額に当てる。1分も満たない思考で、人間はここまで汗がかけるのかと言うほどの水分が右手を濡らす。

 先程の思考を基にし、再度思考する私の脳──

 

 ──目標・過程・行程・段階・結果・・・こう言ったモノがあるから人間と言う名の生物は色々な事に挑戦をしてみたり活動したりするのだと考える。

 

 そして、そこに快楽や娯楽を求めるモノも少なからず、と言うより殆どがそうだろう。

 

 しかし、彼はどうだろう?

 

 目標が出来たとしてもきっとものの数秒で、もしかしたら秒も掛からないかもしれない。その目標の到達地点が、その到達地点である結果を基にして過程を出そうとしても、きっとそれを含めた全てが出来上がって居る事だろう。

 

 要するに解答が書かれているテストだ。

 

 欄を埋める必要も悩む必要性も無い。そんな状況で、鉛筆を持って周りの人間と、同じ時間を過ごさなければならないのだ。

 

 何秒間も何分間も何時間も何日間も何週間も何か月も何年も何十年もこれから先死ぬまでずーっと・・・

 

 みんなが一生懸命頑張って各々の思い付いたままの絵を何時間も掛けて描いている中、自分一人だけは完成されている何年と見続けた絵をただただ眺めている事しかできない。

 

 何でも出来る、出来てしまう、答えが結果が見えているからこそ何も見出せない。

 何でも出来てしまうが故に新しいことが何も出来ない。

 何もない。本当に何もない。自分にあるのは手に取れる見えた結果だけ。

 

 

 

 これは正に【空白】・【虚無】だ。

 

 

 

 結果があるならそれは【空白】や【虚無】では無いのでは?と思うかもしれないが、そんな事は決してない。

 

 結果しかない、自分で得られる物が何も無い。

 

 一体彼は何を見て、何を思って、何を感じて、何を信じて今まで生きてきたのか・・・

 そんな彼は何故ここまで生きてこれたのか?

 

 私は今、目の前に居るこの存在がここに居る事が信じられなかった。

 

 そんな事を考え耽っていた私に、一つ、不意に、本当に不意に思い浮かんだ事があった。

 

「そんな、何でも出来るって言うんだったら、その何でも出来る事を出来なくする事だって出来るんじゃないの・・・」

 

「は?」

 

「だから、その何でも出来る事を出来なくする事も出来るんじゃない・・・の・・・かな~と・・・」

 

 私はバカか?

 

「・・・」

 

「ど・・・どうしたの・・・?」

 

 余りのバカげた発言に呆れてモノも言えなくなったのかと言うように

 彼は俯いてピタリと動かなくなってしまった。

 電池の切れたオモチャみたいに、本当に動かなくなってしまった。

 息もしていないんじゃないかと思うくらいに。

 しかし、それは時間と共に変化が訪れる。

 小刻みに震え始めたのだ。

 

「ふ・・・・・・・・・・・・ふ・・・・・・・・・・・・ふ・・・・・・・・・・・・」

 

「?」

 

 正直不気味だった。凄い間隔を開け、「ふ」と言っているのだ。

 

「ふっふふふ・・・ふふふ・・・ふふふふふふふ・・・」

 

 笑っていたらしい。

 

「ふっふふふふふふふふふははははははあ──っはあははははははあはははあはっははっはっはっ!!!!!」

 

 突然の爆笑だった。

 

「あっはっはっはっはっはっはっはああぁぁぁぁっははははあっはっは、ひぃぃいっひっひっひひひひっひぃぃいいっひ!!!!」

 

 腹を抱え床に寝転がり身悶えしながら笑い続ける。

 

「っはっはあはっはっはっはっはっ!!!!」

 

 床を平手でバンバン叩きつつ笑い続ける。

 正直ドン引きだ。最早此処に居たくなくなってきた。

 

「はあはっはっはぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・ははっはぁ・・・」

 

 どうやら落ち着いて来てくれたようだ。

 

「志希。いや、志希は天才だ。俺なんかより遥かに天才だ。そうか。そうだ、そうだよな。俺は何でも出来るんだ。そう、何でも出来るんだよ。今まで何度も色々と試して来たじゃないか。今までに俺は。なんでそんな事に気付かなかったんだ、今まで」

 

 涙まで出ていたようで、目じりを手で拭いながら、半笑いでそう話す。

 

「気付かなかった?いままで?」

 

 思い付かなかったそうだ。余りの事に呆れる。

 

「あぁ、そうだ。思い付きもしなかった。考え付きもしなかった。俺は自分の出来る事は当たり前に出来るモノだと思っていたから、それを無くすと言う考えには至らなかったよ」

 

 ん~?あぁ・・・なるほど?要は、目が見えているのは人間として当前の機能であり、見えなくさせることを自発的に考えない、とそんな感じなのではないだろうか?なんとなく、と言うよりは間違いなく今の考えで答えはあって居るだろう。

 

「その考えであっているよ。さすが天才だ・・・もしかして・・・これも踏まえての【楽しむための選択】だったのか・・・?【YES】じゃねーよっ!!」

 

 変な自問自答をしている。本当にヤバい奴だ。

 

「ふ・・・ふふ、無くす・・・無くす、ね。最高、サイコーだよ志希」

 

 両手を前にワナワナと震えだす。怪しい。

 

「早速やってみるか。全部消すんじゃなく機能別に制限とか掛けてみて・・・ここにきて柔軟な考えと言うものを手に入れられた気がするよ。やっぱ兄妹って言う存在は凄いんだな」

 

 そう言って彼は私に笑いかけた。

 その見た事のない無邪気な笑顔はとてもとても可愛くて可愛くて仕方が無かった。

 

 私は一体何を考えているのか・・・

 

「なぁ、志希」

 

「はっ・・・はいっ!?」

 

 至近距離で急に彼から名前を呼ばれ、声が上擦った。

 

 ヤバい、鼓動が早い。

 

 ──って言うか、コイツこんなにカッコよかったっけ?

 ────そう言えばアイドルとかやってたんだっけ・・・

 ──────そもそもコイツの顔をこんなにまっすぐ見たのっていつ振りだろう?

 ────顔小さいなぁ・・・スタイルいいなぁ・・・いい匂いだなぁ・・・

 

 ああ~クソッ!!自分の思考が、身体が精神(ココロ)がうまく制御できない・・・

 

「本当にありがとう、俺の妹が志希で本当に良かった」

 

「そしてゴメン」

 

「はい、どういたしまして。それで・・・あの・・・」

 

 もう制御できないので素直にその流れに任せる事にした。

 

「ん?」

 

「お兄様と・・・呼んで良いですか?」

 

「!?・・・もちろんっ!!」

 

 ──その時・・・私たち二人は・・・きっと今までで一番いい笑顔をしていた気がする。そんな気がした──

 

 

 ・・・・・・・・―X8

 

*1
※注:あくまで一ノ瀬志希の独断と偏見で決めた事であり、一ノ瀬騎士は、この事実を存じ上げておりません。




後編へ続きます。


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First Side Story ~ Scene 志希 後編~

後編です。
短いです。

※注意:)木村龍くんの姉弟詳細設定は公式(SideM)では語られておりません。
     こちらのオリジナル設定となりますので、ご承知おきください。

――――――――――――――――――――――――――


 ──そしてあっと言う間に時は経ち、お兄様をお兄様と呼び始めて早一年が経とうとして居た頃、私はまた一つの事に気が付いた。いや、新たな問題にぶち当たっていた。

 

 あれ程酷く醜く燃やしていた嫉妬の矛先が、【お兄様】ではなく、お兄様に対して無駄に(・・・)好意を寄せる【女ども(・・・)】に向かって居た事に。

 

 当時少ないながらも幾らか居た内の友達の一人に相談した所──

 

 

「あー。それは恋ねぇ、間違いないわぁ♪やぁん、志希ちゃん青春♡」

 

 友達は頬に手を当てクネクネと動く。

 

「恋?何それ志希ちゃんよくわかんない~」

 

「だってぇ、騎士さんに群がる【女ども】を見てぇ、嫉妬するんでしょ?」

 

「うん。テレビで見ててお兄様がキャーキャー言われてるのを見ると胸がムカムカしてくる」

 

 それを考え、進行形でムカムカしてくる。

 

「志希ちゃんに質問でぇす☆」

 

 ウィンクしてくる。

 

「いいよ~」

 

「騎士さんに女の人が近付いてきて突然手を握り始めました。どんな気持ち?」

 

「やな気持ち~」

 

「騎士さんが女の人と肩を組んで歩いていました。どんな気持ち?」

 

「やな気持ち」

 

「騎士さんが女の人と抱き合っていました。どんな気持ち?」

 

「・・・一番やな気持ち・・・」

 

「はい☆志希ちゃんは騎士さんが好きな事決定ぃ☆」

 

 手を叩き明るくそう言う。

 

「別に嫌いじゃないけど・・・お兄様は、お兄様だし・・・」

 

「志希ちゃんには珍しく歯切れが悪いじゃなぁい?そうなっちゃうのも、恋の症状なの♪」

 

「ふ~ん・・・」

 

 正直もう後半はほとんど聞いていなかった。

 

「今度ぉ、思い切って告白してみたら?女は度胸って私の好きだった空中海賊が言ってたわぁ☆」

 

「フ~ン・・・あっピザ!!」

 

「えー、またピザぁ・・・早耶アイドル目指してるから体型には気を配ってるんだけどぉ」

 

 

 8X―・・・・・

 

 

 研究所(ラボ)でのとある日──

 

「なぁ志希、少し気になったんだけ、なんでお兄様なんだ?現父さんと現母さんはパパとママ呼びなのに。確かに昔はお父様お母様って呼んでたけどさ」

 

「ん?なんとなくだけど?」

 

 お兄様が不思議な質問をしてくる。

 

「そうか、まぁそれは良いとして、実は俺のクラスの奴がさ・・・あ、ソイツ木村龍ってめっちゃ運の無い奴なんだけど。『近所の子が俺の事を【お兄ちゃん】って呼んで来るんだよ!!超絶かわいいんだぜ?やっぱ弟より妹の方が良かったよなぁ・・・なんで俺にはあの凶暴な姉ちゃんと生意気な弟しかいないんだよ!!ついてないよなぁ・・・お前の可愛い妹を寄越せよ!!!』って、ひっきりなしに言ってくるんだよ。そこで気になったから試しに俺の事【お兄ちゃん】って呼んでもらって良いか?」

 

 たぶんその『たむらりょう?』って人の物まねしてたんだろうけど、本人知らないから似てるかどうかわからないよお兄様。いや、似てるんだろうけどさ!!

 そしていつもと変わらない感情の少ない平坦な顔で、後半ちょっと変態チックなお願いをしてくるお兄様。

 こんなお願いをしてくる変態チックなこの人は、なんとなんと世界的に超が付く程の売れっ子アイドルなのだ。

 お兄様にこんなお願いをされたら、喜んで『お兄ちゃん(はーと)』とかって呼んでくれる有象無象がいくらでも湧いて出てくるだろう。あーイライラするなぁ。私をイライラさせるな。

 まぁ、普段からお願い事なんてしてこないし、非常に珍しいイベントなのでお兄様のささやかなお願いを叶えてあげますか。ついでに私のお願いも言ってみようと思い立つズル賢い私。

 

「・・・おにいちゃん、クレープ買ってきて?」

 

「んがぁっはぁっ!!??」

 

「お兄様っ!?」

 

 突然お兄様は奇声をあげ、胸を押さえ膝から崩れ落ち、跪く形で蹲る。

 肩で荒く息をしており異常なことが明らかに見てわかる。

 

「お兄様っ!!大丈夫っ!?お兄様!!?」

 

 私も屈み、お兄様の肩に手を置き顔を覗き込む。

 すると異常な量の汗をかいていた。

 

「お兄・・・様・・・」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「もうずっと・・・お兄ちゃんって呼んで良いぞ?」

 

 私の心配を他所にすっと立ち上がり無駄にいい声でそんな事を言う。

 

「絶っっっっっっ対に、いやです!お兄様っ!」

 

「(´・ω・`)」

 

 ショボンとしたお兄様の顔にドキュンッとした。

 普段澄まし顔で、感情に乏しいお兄様のこの間抜けな顔が本当に可愛かった。

 お兄様と『兄妹間で隠し事は極力しない』と約束をしていたので今のこの気持ちを正直に素直にお兄様に話すことにした。

 ついでに早耶ちゃんが言っていた事も合わせて言ってしまおう。

 

「今の顔、とっても可愛いかったです。物凄いドキドキしました。私、どうやらお兄様が好きになってしまったみたいなので、結婚を前提にお付き合いしませんか?」

 

 少し誇大に言い過ぎた感は否めない。

 自分でもなぜ結婚なんぞと言う単語が出て来たかもわからないが、自分の思い付いたままに出た言葉なので、そう言う事なのだろう。

 ちなみに物凄い丁寧語だったことも未だに不明だ。

 

「( ゚д゚ )ファっ!?」

 

「えっ?」

 

 お兄様がまたも今までに見た事もない顔になっている

 目は見開き、口は半開き、呼吸は少なく、でも脈拍は早そう・・・

 

「ふっ・・・ふふふ・・・ふふふふふふふ・・・」

 

「にゃっ!?」びくっ

 

 突然の事にびっくりする。

 お兄様はあの時の様に不気味に笑い始めたのだ。

 

 ──笑顔は確かに不気味だったが・・・今思い返すとあの笑顔も可愛いかったなぁと思うのは余談。

 

 ふと、ただ何となくお兄様は私からの好意に対し、少なからず何かしらの楽しい事を発見したのだろうと思い至った。

 そして、こんな私でもこのとんでもないお兄様を楽しませる事が出来るのかと感動し、興奮に打ち震えた。

 

 ただ、正直私がお兄様を好きかどうかは今は(・・)まだわからない。

 

 とりあえず私の生きる目的は決まった。

 その1:この私の心の中の謎であるお兄様に対する【恋心】と言うものを解明する事。

 その2:いつか必ずお兄様の隣に立つに相応しい人間になる事。

 

 目標も決まったところで、自分でも抑えきれない衝動を目の前に居る若干トリップしている兄を抱きしめる事で心を鎮める事を決めた私であった。

 

 

「あ♡お兄様って、いい匂ひ・・・♡」

 

 

 ──────────────────────────

 

 

「じ~ (ΦωΦ)」

 

「はぁ、またか・・・」

 

「溜息吐くとかちょっと失礼じゃな~いっかな~?」

 

「この状況で溜息吐かずに居られるかっての」

 

 このように冗談めいてはぐらかす

 まぁ、あえてなのだが

 

 ──私はお兄様が好き。

 ライクでは無くラァブだ。

 この恋心に気づくまで数年数百回と、児戯のように告白を繰り返してきた。

 恋かどうかの確認の為の行事が、いつの間にか恋である事の再確認の為の行事に変わっていた。

 今となっては内心、本気で告白しつつ、自分で有耶無耶にしては、お兄様に心の籠もっていない回答を貰い、内心ヤキモキしつつ青春(早耶風に言うなれば)を謳歌させてもらっている。

 ただ本気で回答を貰うつもりは私にはまだ(・・)無い。

 

 いつかきっと必ず絶対にお兄様の隣に立っても恥ずかしくないと自覚ができたその時には、是非にこの思いに本気で答えて貰う事にしようと思っている──

 

 

「──にゃはは~、いつになるかにゃ~?」

 

「なんか言ったか?」

 

「なんでもな~い♪」

 

 きっと今日は良い日になる。そんな気がする。

 

 ~♪

 




最後まで読んで頂き、誠にありがとうございました。

それと、一ノ瀬志希さん、誕生日おめでとうございます。

「うん、ありがと~♪じゃあ、お兄様とデートだからバイバ~イ♪」

( ^ω^)・・・




・・・茶番失礼致しました。

過去に投稿したバージョンに戻すつもりはありませんのでご承知置きください。
また、後日、ストーリの順番を変更して行きますのでそちらもご承知置きください。
では、今度は最新話でお会い出来るよう、頑張って参ります。

この辺りで失礼致します。


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Second Side Story ~ 空港での出会い ~

毎々お世話になっております。

サイドストーリー2作目になります。
空港での1幕です。
若干文字数多めです。
綺麗にまとめられる様になりたい。

ふと見たら☆10の評価が付いて居て、
ブラウザを1度閉じてからまた再度起ち上げ、評価を見直すと言う
良く解らない2度見を行ってしまう程度にはテンパってしまいました。

このような作品にそのような素晴らしい評価を付けて頂けて大変恐縮に存じます。
もっと納得のいける作品に出来たら良いなと思ってはいるのですが、
『小説と呼べるものにすらなっていない』
と言うのが現状の自分なりの評価になっております。

少しでも頂いた評価に値する作品に出来るよう、
もっと、いろいろな人達から様々な評価を頂けるように、
日々研鑽を続けて行きますので、
これからも、どうぞ宜しくお願い致します。

追記分:)ルビ振りがおかしくなっておりました。
いくつか文章の訂正を行いました。
申し訳ございません。



 飛行機に揺られること数十時間。

 

 日本の空港に到着した俺達は、迎えが到着するまでの間、兄妹2人で空港内のモールで適当に時間を潰す事にした。

 今回、空港までの迎えを買って出てくれた人がいる。他プロダクションであるが、同業者の川島瑞樹さん。

 正直、空港までわざわざ迎えに来ていただくなんて非常に申し訳ないと、丁重にお断りをしたわけなのだが、何を言っても首を縦には振ってくれず、結局24分にも及ぶ静かな争いの後、俺が折れる事となった。

 

「お兄様とデッェトッ~♪にゃはは~」

 

「あんまりはしゃぐなよ?他のお客さんの迷惑になるからな。それになにより恥ずかしい」

 

「ぶ~。イイじゃん別に~。私は今っ!!お兄様とのたまさかの逢瀬を全身全霊で楽しまなければならないと言う使命感に駆られているの~っ!!」

 

 頬を膨らませムスッとした顔をする。

 その顔とは裏腹に、半ば強引に繋いできた腕を、喜ぶ犬の尻尾のように必要以上にブンブンと激しく揺すっている。

 

 そんな感じでテンションが非常に高めになっている志希をヨシヨシと宥める。

 

 ──かく言う俺も・・・実はテンションが上がっているので、志希に悟られない様に己の心も宥める。

 

 何故、今の俺はこのようにテンションが上がっているのか。

 

 ──それは、

 

 いかんせんトップアイドルともなると、当然のように休日(オフ)略々(ほぼほぼ)無いのだ。

 だから今回のような空き時間(オフ)はとても貴重なのだ。

 そして何より、この空港のショッピングモールは色々と話題性があり、現状、時間があまり無いにしろ見て回れるのはやはり心が躍ると言うものなのだ。

 空港自体は良く使っていたが、ショッピングモールの方となると仕事の時に来て以来だ。

 

 だから志希を宥める事をダシに使い、己の冷静さを保つ。

【全知全能】が何を言ってるのかと思うかもしれないが、俺の楽しみは唯一では無くいくつかあるのだ。

 

 その一つである『食事』

 今回このモールで至る都道府県の、果ては至る国の食事をここで楽しめるのだから、

 冷静を保つというのは【全知全能】を持ってしても難しい話だ。

 

 今の状態を例えるなら、

 1週間水のみで生活した後、目の前に大好物を置かれ、逆らえないモノから『待て』と言われている様なものだ。

 

 冷静でいられるだろうか?

 いや無理だ絶対無理だ俺は耐えられない。

 そんなこと考えなきゃ良かった・・・別の例えにすれば良かった。

【全知全能】がやたらリアルな想像を俺に植え付けてきやがった。

 うぐぐ、何か食したい・・・

 

「これこれ志希さんや」

 

「お兄様が・・・壊れ、た・・・?」

 

「何か食べませぬか?」

 

「あぁ、な~る~、そう言う事ぉ・・・、お兄様とならなんでもオッケ~ん。

 ・・ん?ちょっと待って・・・クンカクンカ、ハスハス・・・

 お兄様、あっちから珍しい匂いがするからそっち行こ~」

 

 志希が腕を引っ張ろうとしたが、既にそこには俺の腕は無かった。

 

「おろ?」

 

「あ、すみません、この肉まん3つ下さい」

 

「はい、3つで1200円になります」

 

「にゃ~!?いつの間にか肉まん買ってる~!?」

 

「我慢できなかった。ほら、志希にも1個」

 

 志希にほかほかの肉まんを一つ手渡した。

 

「うんうん、ありがと~、じゃあ行こうね~」

 

 そんなこんなで志希に腕を引っ張られ、

 肉まんを食べつつ志希が(匂いが)気になっていると言う方へ向かって歩く。

 

 

 さてさて、この辺りで皆様の疑問に思っているかもしれない事にお答えしておこうと思う。

 何故トップアイドルである俺がこんなに堂々と、人口密度の高い空港内の、しかもそのショッピングモール内でこんなに悠悠自適で堂々としていられるのか・・・

 

 それは・・・

 

 察しの良い方はご明察、【全知全能】の賜物である。

【変装の極意】と【俺に対する人の認識力を低下させる能力(ごつごうしゅぎ)】で混乱を回避している。

 なんか、別の世界線でとんでもルビが振られている気がするが気にしないでおこう・・・

 変装と言っても帽子をかぶり伊達眼鏡をかけてるだけで、実際ばれないのは後者の能力の恩恵が殆どである。

 やり方とか仕組みとかは、説明がやたら面倒なので省かせて頂くとして、知人友人各位には後者の能力に関しては一切言って居ない。

『変装すると何故かバレない』で全てを通している。

 実際目の前で帽子と眼鏡を着け実証したりしているので信じて貰えている。

 ただし、効き目があまり出ない人も居るらしく普通に気付かれることがある。

 余談だが、効き目が悪い(全く無い)第一号は、絶賛目の前に居る妹の志希である。

 

 

 閑話休題 8X―・・・・・・・・

 

 

「ここ?」

 

「くんくん、ん~、お目当てのものはここだね~」

 

「いらっしゃいませー、2名様ですか?」

 

「は~い、あんまり立ち止まってるとあれなので~

 可及的速やかに席にお通し願いま~す」

 

「こら、店員さんを困らせるんじゃない、すみません」

 

 軽く会釈する

 

「・・・は、はぁ・・・2名様ご来店で~すっ、ん・・・あっ!きsモガグッ・・・」

 

 俺の名前を叫びそうになったのでこちらも可及的速やかに店員さんの口を押さえる。

 そして人差し指を立てて、自分の鼻の前に持っていき、

 

「シー・・・」

 

 コクコクと頷くので手を外す。

 そうか、この子も効きにくいタイプか・・・

 

「はぁ~、んっ、大変失礼致しました・・・」

 

 大きく息を吐いた後、呼吸を整えつつ深々と頭を下げる店員さん。

 そして淡々と席の案内を始めた。

 

「こちらの席になります」

 

 完全個室の席に案内して貰えた。

 色々な人間が行交う空港にある喫茶店、

 様々なニーズに応えられる様になっていてもおかしくない。

 

「先程は大変失礼致しました・・・」

 

 また頭を下げる。

 

「いえいえ、大丈夫です。こちらこそ急に口を塞いでしまい申し訳ありません。

 寧ろ一般的に考えたら世界的に抹殺されるレベルの事をしてるのは僕ですから、

 ですので後日、言い方が非常に悪いですが口止め料的なモノを事務所からお「あのっ!!」・・ほっ?」

 

 突然、店員さんの声の音量が上がったので

 素っ頓狂な声が出てしまった

 横では左手で両目を隠し、頬を染め、

 テーブルに突っ伏し、右手でテーブルをドンドン叩きながら、

 小さく身悶えしている志希・・・は、今は放っておこう。

 

「あのっ!!それでしたら・・・あっ握手を!!握手をして頂けませんかっ!?」

 

 顔を朱に染め、俺を見つめながら興奮気味に言いだした。

 

「えーっと・・・それだけでいいんですか?」

 

「ふぇっ!?」

 

 店員さんも素っ頓狂な声をだし、

 元々赤かった顔に更に赤みが差した。

 ボンッっと、頭から蒸気が出た様に見えた気がした。

 

「あぁっと、誤解を生みそうな言い方をしてごめんなさい。えぇっと・・・事務所からの謝礼はいらないから握手してくれって解釈で大丈夫ですか?」

 

「はっ・・・はいっ!!」

 

 首が取れるのではないかと言う位の速度で何度も頷きとても元気よく返事をする店員さん。

 

「僕なんかで宜しければ・・・」

 

「はいっ」と、右手を差し出す

 すると大きな花が咲いたように満面な笑顔をする店員さん。

 この子はコロコロと表情が変わって、見ていて楽しくなる。

 そして両手で俺の右手をがっしり掴んで来た。

 

「大大大大大大大大大っファンですっ!いつも応援してますっ!大感激ですっ!頑張ってください!あ、あとドラマの主役抜擢おめでとうございます。絶対見ます!録ります!あとあと新曲とか出さないんですか!?あっいつも神曲でしたね!!あと、一生手を洗いません!!」

 

 とても嬉しそうに腕をブンブン上下させる店員さん。

 テンションが頗る上がって居るのか凄いまくし立てて色々話しかけてくる。

 ただ流石に一生手を洗わないのはどうかと・・・

 

「さ~て、そろそろ終わりにしてもらおうかにゃ~・・・」

 

 そう言って店員さんの手首を掴む志希。

 あの謎の状態から復活していたのか。

 

 そして我に返ったのかアワワワワワと言い始める店員さん。

 ホントにこの子は面白いな。

 名前は・・・残念、名札には「研修中」の文字が。

 

「お兄様、私たちは食事をしに来たんだよ~、時間もあんまり無いんだし~、ファンサービスも良いけど、私の事もかまってくれなきゃやだやだ~」

 

 頬を膨らませジタバタする志希。

 そうだった、当初の目的から大分逸れてしまった。

 半ば2つも肉まんを食べた事で余裕が出来てしまったのが裏目に出たな。

 

「重ねて大変申し訳ありませんでしたぁ~~っ!!」

 

 またまた頭を下げる店員さん・・・

 もう膝に頭がついてるよ・・・

 

「僕も悪いんです、仕事の邪魔をしてしまい申し訳ありませんでした」

 

「はっ、そうだ!ご注文がお決まりになりましたらそちらのボタンを押してください」

 

「はい」

 

「では、大変失礼致しました!!」

 

 ピシャリと礼儀正しく出て行く店員さん。

 そして志希に視線を向け話しかける。

 

「んで、この店に決めた理由とは?」

 

「ぶ~、お詫びは無いの~?」

 

「ん、ごめんな」

 

 頭の上にぽふっと手を乗せ謝る

 

「にゃ~~~♪」

 

 手を乗せた瞬間から、

 表現がおかしいかも知れないが、

 変な声を上げながら志希が溶ける(・・・)

 

「心の広い志希ちゃんはこれで許してしんぜよう」

 

「寛大な処置、ありがとうございます」

 

「うむ、苦しゅうない。それで~、このお店から珍しい蜂蜜の匂いがしてきたんだよね~。あ、ボタン押すね」

 

「ハチミツ?まぁ、志希と同じもの食べようと思ってたから良いよって言う前に押してるしな。まあ分かってた」

 

 ボタンを押して数秒で部屋にノックがされる

 

「失礼致します、ご注文はお決まりですか?」

 

 先程の店員さんが先程とは打って変わって

 しっかりとした態度で接客を熟している。

 が、チラチラとこちらを見ながら、

 俺と目が合うと目を逸らす、と言った感じである。

 

 そんな中、志希は

 

「店員さん、アボカドの蜂蜜を使った料理くーださい」

 

 なるほど、アボカドの蜂蜜か。確かに日本では珍しいかもしれない。

 しかし相変わらず匂いに敏感な奴だ。

 肉まんが売ってた店からここまでの距離とか、

 他の料理の匂いとかある中から蜂蜜の、しかもその種類までも嗅ぎ分けるとか、正直此処まで行くと本気でミツバチよりもすごい嗅覚を持ってるんじゃなかろうかとも思えてくる。

 余談だがもちろん俺も出来ない事は無いが目の前の匂いだけで十分なので本気は出す必要性が無い。

 

「ってか、品名言えよ」

 

「だって何に使ってるかわかんないんだもん」

 

 たしかに、それもそうか・・・

 

「ハチミツを使った料理・・・ですか・・・?

 多分ですがパンケーキかと思いますが・・・

 一応確認してからもう一度お伺いいたしますね」

 

「なら、もしパンケーキだったらそのままオーダー通してもらって良いですか?

 ご足労掛けてしまうけど、違ってた時だけまた来てもらうって形で・・・」

 

「はい!わかりました。パンケーキ1つと「2つで」あ、はい」

 

「あとホットコーヒー2つ「ミルクと砂糖いっぱい持ってきてー」おいっ!」

 

「かしこまりました。ご注文が変更される可能性がございますので、

 復唱は省かさせて頂きます。それではごゆっくりどうぞ」

 

「あと、店員さん。申し訳ないんですけど、僕がこの店に居る間だけは、

 ここに僕が居る事を誰にも言わないで下さい」

 

「当然です。誰にも言うつもりはありませんのでご心配なく!!では失礼しました」

 

 何故かビシッと敬礼をして出て行く店員さん。やっぱりあの子は面白い。

 ちょっと英雄(ひでお)にスカウトを持ちかけてみようかな?

 ちなみに『英雄』と言うのは・・・面倒だから今度説明しよう。

 

 

 8X―・・・・・・・・

 

 

 そして、その後運ばれてきたパンケーキに舌鼓を打ち、お気に入りの店にサイン色紙を置いて行くと言う恒例行事を済ました俺たちは、喫茶店を満面の顔で後にするのだった。

 

 さて、まだ川島さんの到着予定時刻まで結構時間があるし、次の出会いも素晴らしい物になると良いなと思う俺だった。

 




ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。

2話冒頭で書いていた内のデートの方が今回になります。
ロシアガールはしばしお待ちください。

今回の店員さんはどうしようか悩んでいます。
完全に勢いで書いた感は否めないので・・・

補足説明:)志希の身悶えシーンですが、
『騎士が素っ頓狂な声を出した事に萌えている』
を表現した結果となります。
わかり辛くて申し訳ありません。

ではこの辺りで失礼致します。

※全体的に文章を修正 2017/01/26


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EXTRA Story 1 - 屋台とコートとたこ焼き -

毎々お世話になております。

あけましておめでとうございます。
喪中の方が居りましたら大変申し訳ございません。

皆さまは如何お過ごしでしょうか?
私と言えば、実家にも帰れず、
黙々と引っ越しの片付けを今も行っている状態です。

今回は初のエクストラストーリーになります。
完全に蛇足作品となっております。

サイドストーリーは本編に多少なりとも補足がされるストーリー。
エクストラは本編に一切補足も何も関係ないストーリーとなっております。

今作は空港編のその2を書いているとき手前に書いてあったものを、
文章が長くなりすぎてしまったため切り取った部分になります。

※こちらを投稿するにあたり、空港編その2の冒頭を改訂致しました。



 心とお腹が少し満たされている。

 先程の喫茶店を出た後、何やらモール内で屋台のようなものが開けた所に幾つも出ているのが目についた。

 いい匂いもしているので志希と共にそこに向かい歩を進めることにした。

 

「やっぱり屋台だな」

 

「うん、屋台だね~」

 

 空港内モールの開けた所・・・屋外ではないのに屋台がやっている

 しかも、普通にたこ焼きとかがあるのだが・・・

 遠目ではわからないので不思議な光景にワクワクせざるを得ない。

 

「どうなってるんだ?」

 

「室内で屋台ってやって良いのかな?燃焼生成ガスとか他にも色々問題あってダメなんじゃないの?」

 

「もう少し近付いてみよう。たこ焼き食べよう、食べたい、食べる」

 

「お兄様、待って待って早い早いよ~」

 

 湧き出る二つの欲求を満たすべく、若干志希を引き摺りながらも足早に屋台に近付いて行く。

 

「おぉ!?たこ焼きだ!たこ焼きだぞ志希っ!!」

 

「はい、いらっしゃい!!」

 

 非常に快活な店員さんだ。

 

「あの、不躾で申し訳ないですが、この屋台ってどう言った仕組みで・・・」

 

 気になった事を店員さんに尋ねる。

 

「兄ちゃん、ソコの看板見てないんか?ここにある屋台群はみーんな電気で動いてんだ。火は一切使わず、電気だけのエコ屋台なのさ。ある種の展示会みたいなもんだ。俺も電気でたこ焼きを作れって言われた時はバカヤロウって思ったが、実際使ってみたらどうだい。火力は申し分無いし、機材は少ないし軽いで良い事ずくめさ」

 

 途中、たこ焼きの屋台しか目に入っておらず、屋台群の至る所に『エコ屋台出店中』と書かれた看板が置いてある事に店員さんの言葉で今更ながら気づいた。

 

「なるほど、それは大変素晴らしいですね」

 

 小学生並みの感想である。

 

「おうよ!!」

 

 それに対し非常に元気に簡潔に返事をしてくれる。

 さて、一つの欲求は難なく満たされたので本命である欲求を満たすとしよう。

 匂いの誘惑が凄過ぎてソロソロ理性が保っていられない。

 

「たこ焼き30個下さい」

 

「おっ、兄ちゃんそんなに食うのかい?」

 

 特に驚いた様子も見せる事無く普通に元気に返してきた。

 

「はい、俗に言う痩せの大食いって奴です」

 

「兄ちゃん、そんなに買って俺のたこ焼きが不味かったらどうすんだい?」

 

 店員さんがそんな質問をしてきた。

 

「はははっ。それはありえないですね」

 

 俺は言い切った。

 

「だって、店員さんの作ったたこ焼きを持ってるお客さんはみんなあんなにいい笑顔になってるじゃないですか。それが美味しくないなんて到底考えられないですよ」

 

「言ってくれるねぇ、兄ちゃん。気に入った、よしっおまけしたる!!」

 

「いやいや、良いですよ、店員さんのたこ焼きを食べられる人が少なくなっちゃいますよ」

 

「なんだよ兄ちゃん、ますます気に入った!!絶対おまけしたる!!」

 

 もう絶対折れそうにない、なので素直に好意に甘える事にした。

 

「では、ありがたくお受けしますよ」

 

「そうそう、それで良いんだよ。しっかし、彼女さんも大変だねぇ。こんな外も中もイケメンだとライバルが多くて気が気じゃないだろうに」

 

 志希に話を振り始める

 

「そうなんですよ~、もう目ぇ離した隙にすぐ別の女が寄って来ちゃって~・・・」

 

 ふむ・・・もう少し耳を傾けていよう。

 

「まぁ、お兄様が格好いいのは、事実だからしょうがないよね~♪」

 

 と、言って腰に手を当てまるで自分の事のように自慢げになる志希

 

「なんだ、お兄様って・・・嬢ちゃんたち兄妹なのか?」

 

「にゃ~~~!!自分で語るに落ちた~~~!!!」

 

 頭を抱え床をゴロゴロ右往左往する志希

 

「おい、恥ずかしい。あと服が汚れるから・・・って言うか今気づいた、それ俺のコートだっ!!」

 

「あ、バレた?てへぺろ~♡」

 

 てぃっと志希の頭にチョップする

 

「ふにゃ~ん♡」

 

 自分を抱き締めるようなポーズになり身を捩りだす

 しまったついやっちまった・・・

 

「はっはっはっはっ、兄ちゃんたちは面白いな」

 

 俺たちの一連の流れを一通り見つつも店員さんの手は止まる事無くたこ焼きを精製し続けている。

 見惚れるほど素晴らしい技術だった。

 いったいこの技術を身に付けるのにどれ程の修練を、研鑽を続けて来たのだろうか?

 一つの事に集中し研鑽を続けられる・・・なんて美徳、ひどく羨ましく美しいのだろう。

 俺はそれが欲しい。まったくなにが【全知全能】か・・・

 

「ほいお待ち!30個+おまけね!!」

 

 などと考えていたら非常に美味しそうな、いや絶対美味しい出来立てのたこ焼きが入ったパックを目の前に5つ出された。

 

「いただきま「すた~~っぷ!!」・・・っ!?」

 

「お兄様、お金。お♪か♪ね♪」

 

 おっと俺うっかり。

 

「えーと・・・すみません、余りに美味しそうなたこ焼きが目の前にあったもので、我を忘れました」

 

「お、おう、なんだ兄ちゃんなかなかどうして抜けてんだな」

 

「そこも私的にはポイント高いところ~♪」

 

 志希が割って入ってきた。

 が、今回()志希には助けられたな。

 

「志希、スマン。本当助かったよ」

 

「じゃあ、コートの事は不問でお願いしま~す♪」

 

「了解」

 

 支払いを済ませ、たこ焼きを貰って空いている席に座る。

 

 爪楊枝と呼ぶには少々大きい楊枝を、女性の口でも一口でいけそうなサイズのたこ焼きに刺し一気に口に運ぶ。

 猫舌では無いしむしろ【全知全能】でその辺の傷からは守られているので火傷する事なく、しかし少々ハフハフしてからよく噛んで味わい飲み込む。

 

「んまー!!」

 

 少しカリカリの生地とトロトロの中身、決して小さくない弾力を持つたこ。

 今まで食べて来たたこ焼きの中でも1・2を争う美味さだ。

 冷めないうちにと2個3個と口に頬張っていく。

 

「・・・」

 

 志希がこちらをジーと見ているのでたこ焼きを楊枝に刺し、志希に差し出す。

 

「すっごい美味いぞ。ほら食べてみろ」

 

「うん、美味しいのはお兄様の顔と行動を見てれば一目瞭然♪でも~、フーフーしてくれなきゃヤダ」

 

 そう言ってそっぽを向く。志希は結構に甘えん坊だ。

 こうなると実行しない限り梃子でも動かない。

 

 放置しても良いのだが、折角の美味しい物を食べれないのも勿体無い。

 しょうがないのでふーふーとたこ焼きを冷まし、そのまま志希の前に差し出す。

 

「あ~ん♡」

 

 エサを待つ鯉のように大きく口を開閉する志希。

 

「・・・」

 

「あ~ん♡」

 

 はぁ・・・と一つ溜息を吐いてから志希の口にたこ焼きを運ぶ。

 

「あむ・・・モムモム・・・ん~~~美味しぃ~♡お兄様が食べさせてくれた♪食べさせてくれた!!相乗効果で志希ちゃんの中で美味しさが3穣倍されました~♪」

 

「なんで基の味を知らないお前が3穣倍の値を出せるんだよ」

 

「匂いで何となく基準がわかる」

 

 志希ならあり得ると思ってしまった。むしろあり得るんだろう。

 

「しかし、このたこ焼きの美味さが3穣倍にもされたら、あまりの美味さに俺は天に召される自信があるな」

 

「お兄様ならあり得る・・・」

 

 この一連の流れ・・・やはり血は繋がって居なくても兄妹、流石と言うべきだった。

 

「さて、美味いたこ焼きも食べたし他も見てみよう」

 

「え!?たこ焼きは?」

 

「ん?もう食い終わったけど?」

 

「はやいよお兄様ぁ、せめてもう一個位あ~んの権利を・・・」

 

「よーし、行くぞぉ!!」

 

 志希の言葉を軽ーく往なし席を立つ。

 いつの間にか俺の腕にしがみ付いてきていた志希が、口を尖らせながらブーブー言っているがいつもの事なので気にしない事にしよう。

 そうしよう。

 さてと、お次は何があるかな?

 




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

本年は皆さまにとって良い年になりますようお祈りしております。

私事ですが、デレステにて限定の小早川紗枝が当たりまして、
夜な夜な小躍りしてしまいました。
これをきっかけに私も今年は良い年になればと思っております。

では失礼致します。


2020/1/21 文章整形


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Second Side Story 2 ~ Knight Is Ninja ~

毎々お世話になっております。

今回はロシア語講座になっております。
嘘です。

ロシア語なんて使わなければ良かったと後悔しつつ
やってしまったので一応今回は最後まで書きましたが
正直出来が酷い様に思えます。

追記分:)ロシア語に関してですが、
間違っている等御座いましたらご教示願います。
多分間違ってると思います。

こちらの作品は後日差し換え致します。
(いつになるかわかりませんが・・・)



 引き続いて空港内。

 心とお腹が満たされぶらぶら歩く事13分。目先に人だかりが出来ている事に気が付いた。

 

「お兄様、あれ」

 

 志希がそちらを指差す。

 

「ん?人が凄いな、何やってるんだ?あれは・・・ストラックアウト?・・・じゃないな・・・投げてるのは、手裏剣?」

 

 なんとも珍しい、手裏剣を使った的当があった。

 危ないと思うかもしれない(いや実際には危ない)が、ストラックアウトの装置のように2重に設置された安全柵の中に入り、決まった数の手裏剣を投げ、9個の内、当てた的の数に応じて景品がもらえると言った感じだ。

 

「お兄様お兄様、あれやってみてよ~。志希ちゃんあのおっきいずんだ色の犬みたいなやつ欲しい~」

 

 そう言って俺の腕を左右に激しく揺する志希。

 

「志希よ・・・お前にはあれが犬に見えるのか・・・?どう見ても犬には見えないけどなぁ・・・」

 

 物憂げというよりはやさぐれたような目つきをした、右耳に赤いリボン、緑色の()のようなキャラクター。猫のようなキャラクター。もう一度言おう。猫の様なキャラクターである。

 最近人気のゆるキャラ『ぴにゃこら太』の特大ぬいぐるみクッション、目玉商品パーフェクト賞と大きく書かれていた。

 

「そう言えば、志希は日本に来るの久しぶりだから、ぴにゃ(アレ)を見るの初めてか」

 

「初めてじゃないよ~、前にお兄様と一緒に仕事してたよね?あれ」

 

 知ってるのに犬と言うのか・・・

 志希の言う通り、以前バラエティー番組で一緒に仕事をした事がある。一緒に仕事と言っても、周りでうろちょろしていただけな気がして無くも無いが・・・

 まぁ、しかし、ここは兄として、可愛い妹のためにひと肌脱ぐとするか。

 

 妹孝行は大事だろう?

 

「よし、俺に任せとけ」

 

 胸をどんっと叩く。

 

「お兄様ならあんなの楽勝でしょ?」

 

「そこは嘘でも『頑張って~お兄様ぁ』って言う所じゃないか」

 

「わーがんばっておにいさまぁ・・・」

 

「目が死んでいるっ!?そこまで感情が込もっていない応援は初めてだぜ・・・」

 

 がっくりと肩を落とす。

 

「うそうそ~嘘だよお兄様♪志希ちゃんは、いつでもどこでもなんででもぉ、お兄様の応援をしないと言う事はあり得ないので安心しなさ~い!ブイっ♪」

 

 そう言って笑顔でピースをする。

 

「そうだな、俺も志希の兄として無様な姿は見せられないからな。ちゃちゃっと熟して来ますかね」

 

 良しっと左掌に右拳を打ち付けスパァンと小気味良い音を立てる。

 順番になり、策の中に入っていく。

 

「さて、と・・・」

 

「お兄様~、がんばって~♪」

 

 志希の方に向き軽く手を振る。

 

「よし、やるか・・・ふむ・・・手裏剣は全部で12枚・・・で、的の数は9・・・距離は、15メートル、と。野球の投捕手間距離よりは近いのか」

 

 どうやって投げようかと模索する。

 とりあえず手裏剣を使った事は無いが手裏剣の歴史から使用方法、様々な物の投擲方法等頭の中を情報が駆け巡る。

 

 そろそろお迎えも来る頃合いだろうし、ここは手っ取り早く終わらせよう。

 俺は9枚の手裏剣を手に取る。

 

「よしっ」

 

 掛け声と共に気合を入れ、右手に5枚、左手に4枚の手裏剣を持つ。

 具体的には指と指の間に挟むように持っている。

 右手だけは親指と人差し指の間に2枚挟んでいる形だ。

 手裏剣を持った時点で、周りの観客達は少しざわつき始めていた。

 

 そして手の甲を前に向ける形で両腕を顔の前で交差させ、そのまま右、左と腕を振り下ろし手裏剣を放った。

 俺の手から放たれた手裏剣は物凄いスピードで的に向かっていき、ダンッ!!と言う音の後に機械的な音声が『ヒット、ヒット、ヒット・・・』っとテンポ良く9回流れた。

 

 そしてパパーンっと言う簡素なファンファーレ音に合わせ『パーフェクトー!!!』と続いた。

 

「ふう・・・まぁ、こんなもんだな」

 

 志希の方に振り向くと額に垂直に手を添え、「まったくもう」と口が動いているのが見えた。

 

「?」

 

 それを皮切りに周りの静寂が解かれた。

 

「「「「「うおおぉぉぉおお────ー」」」」」パチパチパチパチパチ

 

「なんだ今の!?」「何が起こったかわかんなかった」「Хорошо(ハラーショー)

「恐ろしく速い手刀、オレじゃなきゃ見逃しちゃうね」「それ言いたいだけだろお前・・・」

「ねぇ、あれってもしかして騎士様じゃない?」「もしかしなくても騎士だよ!!一ノ瀬騎士だ!!」

 

「ん・・・?あれ・・・?」

 

 何でばれてんだ?

 再度、志希の方を見ると、呆れ顔で自分の頭に指を指している。

 

 俺は頭に手を近づける・・・前に気が付いた。

 足元に俺のかぶっていたはずの帽子が落ちてる事に。

 どうやら手裏剣を放った時の風圧で帽子が飛んだらしい。

 

 ──ここで一つ補足をしたいと思う。

【変装の極意】と【俺に対する人の認識力を低下させる能力 (ごつごうしゅぎ)

 これらの能力は俺の中で連動をさせている。

 様するに帽子と眼鏡を同時に着ける事により二つの能力が発動するようにしている。

 なので、帽子か眼鏡、どちらか片方が外れると言う事は、能力が解除されると言う事になり、他人に認識されるようになってしまうと言う事である。

 

 なので、帽子の外れた俺は今普通に一ノ瀬騎士として認識されている。

 

「まぁ、バレちゃあ仕方ない」

 

 特に難しく考えず、ゆっくりと柵から外に出て、受付の人に迫られたので偽笑顔(えがお)で握手をし、景品のぴにゃこら太を受け取る。

 

 人波に手を振りながら、帽子をかぶり直し、皆の意識を段々と外へ逸らしていく(・・・・・・・・)

 自然に本当にごく自然に、人間の意識を、一ノ瀬騎士の認識を、今の俺への興味を、個人の意識の外へ外へと持って行く。

 周りの人たちは先程の俺の話題で持ちきりだ。

 今なおここに俺が居るにもかかわらず、既に俺が立ち去った後のような会話をしている。

 これこそが【俺に対する人の認識力を低下させる能力 (ごつごうしゅぎ)】の能力。

 非常に便利だ。が、しかし、それでもたまに効き目の低い人(効かない人)と効く人との間で齟齬が生まれてしまい迷惑を掛けているようで、掲示板などでたまに見かける。だが、そこはもう都市伝説とか噂とかで納得して貰うしかない。いや、出来なくは無いんだけど、それだけの為に世界中の人間の記憶を弄るっていううのはねぇ?

 いや、すまぬ。力なき(あるけど・・・)俺を許してくれ・・・

 

 俺に出来る事があったら一通り何でも叶えてあげるとしようと心に変な意味の無い誓いを立てるのだった。

 

 そんな事を考えながら、デカいぬいぐるみ(クッション?)を持って志希の方へ向かう。

 すると、服の裾が何かに引っ掛かったように後ろに引っ張られた。

 

「ん?」

 

 後ろを振り返る。

 

Хорошо(ハラーショー)!!ナイトーは、ジャパニーズニンジャだったのデスね!!」

 

 ロシア語とカタコトの日本語が聞こえてきた。

 内藤?は忍者?

 そこには志希よりも少し背の高い女の子が興奮気味に頬を染め熱く語っている。

 非常に鮮やかな銀をした髪、本当に透き通るような白さをした肌、大きくぱっちりとした目と綺麗なエメラルド色をした瞳。

 まるでフランス人形そのもののようなその子はキラキラとした眼差しで俺を見ていた。

 

 

Оченьприятно(オーチンプリヤートゥナ), меня завут(ミニャー ザヴート) アナスタシア

 アー、わたし、アナスタシア、と、言いマス」

 

「はい初めまして、アナスタシアさん。Здраствуйте, меня завут (ズドラーストヴィチェ ミニャー ザヴート) キシ.*1

 Оченьприятно(オーチン プリヤーットナ) с Вами( ス ヴァミ)познакомиться.(パズナコーミィツァ)*2

 

 ロシア語で挨拶をされたので、ロシア語で返してみた。

 

「お兄様、遅い!!」

 

「いてっ」

 

 後ろから頭を叩かれた。

 

Извините(イズヴィニーチェ) アー・・・ゴメンなさい」

 

 その様子を見てたアナスタシアさんはしょぼんと肩を落として謝ってきた。

 

Нет проблем.(ニエット プラブレーム)*3

 

 特に謝る必要が無いのに、この子は非常に良い子なのだろう。

 

「お兄様ってば、放っておくと直~ぐ他の女に着いて行っちゃうんだからさ~」

 

 アナスタシアさん、志希も良い子だがこいつの様にはならないでくれ、と勝手に心の中でそう思うのだった。

 

「お兄様・・・、今なんかめっちゃ失礼なこと考えてなかった?」

 

「気の所為だろ?」

 

 するどい・・・

 

「オニイ、サマ・・・アー、こちらの女性はキシのсестра(スィストラ)、兄妹、ですか?」

 

「はいは~い♪志希ちゃんは志希ちゃんで~す!!世界が羨むお兄様の妹ちゃんで~す♪」

 

 はいっと両手を上げ、いつも通りの眩しい笑顔でそう答える。

 

Да(ダー)、私は「アナスタシア、でしょ?」・・・」

 

「こら、話し終わるまで話を差し込むのはやめい。お前の悪い癖だ、相手に失礼だろ」

 

「ブー、お兄様、さっきも言ったけど私たち時間はあまり無いんだよ。こんな所で油売ってる場合じゃないんだよ~、デートの時間が無くなっちゃうよ~!!」

 

 志希の今の心境をそのまま俺にぶつけてくる。

 

Нет(ニエット)、コチラこそ邪魔をシテしまってもうしわけアリマセン。ナイトーがジャパニーズニンジャでしたので、азарт(アザルト)、とても、興奮してしまいました」

 

 なるほどね、内藤って騎士(ナイト)の事だったのか。

 で、さっきの手裏剣投げを見たから騎士は忍者だったと・・・日本語ってむつかしいね。そう言った齟齬でも俺楽しくなっちゃう。

 ん?俺って案外安売りな男なのか・・・?

 

「そう言う訳なので、志希ちゃんと一緒にデートに戻るのだ~♪」

 

 志希の言葉で現実に戻る。

 

「色々と申し訳ない・・・ごめんね、アナスタシアさん」

 

 真直ぐアナスタシアさんを見つめ謝る。

 

「アーニャ・・・アーニャと、呼んでください」

 

「え?」

 

 突然の事に対応が出来なかった。

 

「アー、ダメ・・・でしょうか?」

 

 残念そうに眉を下げるアナスタシアさん。そんな顔をされたら、俺は断れる訳も無く・・・

 

「いや・・・じゃあ、うん。またね(・・・)、・・・アーニャちゃん」

 

 そう言うと、アーニャちゃんは曇り空に差し込む陽の光のように満面の笑顔を見せた。

 

Да(ダー)!!またお会いしまショウ、キシ!!ヤクソクです!!」

 

 そう言って、アーニャちゃんは手を振り去って行った。

 

 

 俺は人との別れの際に、決して『さようなら』を使わない。

 次に出会える事を願って『また』と言う。

 そこには俺の【欲】も交じっている。

 人がそれぞれに持っている様々な【物語】に干渉したいと思っている。

 これが俺の楽しみのもう一つ、他人の【物語】に干渉すること。

 どんな人でもその人生に必ず(・・)面白いストーリー性を秘めている。

 そのそれぞれの【物語】に脇役であれ観客であれ何であれ、干渉、参加していたいのだ。

 その人の人生の最高に素晴らしいタイミングに俺は立ち会いたい、出来ればその物語の一文に参加したいのだ。

 

 だからこその【偶像(アイドル)】だったのでは無いかと思っている。

 俺が人生を楽しめるための道の【トップアイドル】

【アイドル】をしているとそれはそれは色々な所へ行き、様々な人人に出会う。

 そして殆どの人が俺を知っている事により、話しをかけても警戒心が殆ど無いのだ。

 むしろ話しかける前に話しかけられたりもするし(なんならそっちの方が多い)。

 なので出会いには困らない。

 

「お兄様~、ぼーっとしないで次行こう、つぎ~」

 

 などと考えていたらまたも志希に現実に引き戻される。

 

「あぁ・・・いつも迷惑かける」

 

「本当だよ~、お兄様は何でも出来る(・・・・・・)けど、私が居ないと何にも出来ない(・・・・・・・)んだから~♪」

 

 ふふっと得意げに笑う志希。

 俺はそしてその言葉に驚きながらも納得をする。

 

「たしかに、まったくだ」

 

 俺もその顔を見て笑う。

 俺は今、心の底から笑えて居るのだろうか?

 志希はそんな俺の事に気付いていたりするのだろうか?

 いつかちゃんと志希に対してだけでも本当に心の底から笑いかけてあげられるのだろうか?

 俺の【物語】はまだまだ序章に過ぎないのだろうと思う、【全知全能】を使えば自分の未来は見れるかもしれないが、今まで一度も(・・・)試した事(・・・・)がない(・・・)からこれから先もやろうと思わない。

 等と考えつつ、ポケットの中の携帯を取り出し、川島さんからの着信に応えるのだった。

 

「んもうっ!!タイミングがわ~る~いっ!!もう少しラブラブしたかったのに~っ!!」

 

 と、横でいつもの様にむくれる志希と、電話しつつもそれを宥める俺。

 

 これはこれでいいかも知れないと思ったのは大きな成長の証かもしれない。

 

*1
こんにちわ、僕の名前はキシです。

*2
お会い出来て光栄です。

*3
気にしないでください。




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

今回はだいぶ加筆修正が入るかと思われます。
ご承知おきの程よろしくお願い致します。

今回の投稿以降、更新が遅くなるかと思われますが
投稿は続けて行きますのでそちらもご承知おき下さい。


では失礼致します。


2020/1/21 文章整形及び文章全体を訂正


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第2話 - 成人式 Knightage -

毎々お世話になっております。

予定と違いますが、先に第2話が出来ました。

話の進み方のテンポが非常に悪いですが、
こんな感じで刻んで行きますので
ご承知おきの程、よろしくお願い致します。

追記文:)さっそく投稿ミスしました申し訳ございません。
     全文入れ替えです。
     お恥ずかしい事にタイトルさえも脱字で意味解らんことになっていました。
     重ねてお詫び申し上げます。



 飛行機に揺られること数十時間。

 更に日本に到着してから早数時間。

 

 空港のモールで志希とデートをし、ロシアガールとの邂逅、他多少なりの物語があったのだが、それはまた別の機会にしておきましょう。

 

 さて現在、空港まで迎えに来てくれた川島さんの運転で俺のお誕生日会(年の割に言い方が可愛い)の会場へ向かっている。

 

川島瑞樹(かわしまみずき)

 地方局のアナウンサーをしていたが、アナウンサーとしての安定した生活を捨て、アイドルとして舞台に立ちたいと志願しに来た彼女。アナウンサーはあくまで報道する立場で、主役になれないと感じていた川島さんはどうせならと、夢を追いかけたいと、一念発起でアイドル業へ転向し、今の地位まで登ってきたのである。その手腕と努力は非常に輝かしいものであり、【全知全能】の俺からすればとても羨ましいものでもある。

 

 そんな川島さん、過去のグルメロケでご一緒させていただき、食好きの俺としてはその食に関して造詣が深い川島さんに

 

『当日は電車で会場に向かうですって!?騎士君アナタ何を言っているの?いい騎士君?あなたは日本の、延いては世界のアイドルなのよ?電車で移動なんて、ありえないわ。もっと自分の立ち位置の認識を改めなくちゃいけないわよ?わかるわね?』

 

 俺としては別に、人波に囲まれたり~と言うのは、特に何でも無い事なのだが、視野を広げると街や交通機関、その他、様々な人間や要素にも迷惑が掛かると言う事だ。

 

『じゃあタクシーで向かいます』と言いだそうとした瞬間に、

 

『しょうがないから、私が迎えに行ってあげるわ。もちろん文句は無いわよね?』

 

 と申し出て頂いて、断れる空気では無かったので、甘んじて好意を受ける事にした結果が現状である。

 

「本当に今日はありがとうございます、川島さん」

 

「いいのよ別に。私が自分から言い出した事なんだから。それといつも言ってるでしょ?み・ず・きって呼んでって」

 

「いえ、そこはしっかり弁えてますので川島さんでって僕も言っていますよ」

 

「ホントお堅いわね。でも、楓ちゃんは『騎士君からは【楓さん】って呼ばれてますよ』って、一緒に飲んでた時に言ってたんだけど、一体どう言う事!?楓ちゃんは良くって私がダメってなんでよー?」

 

 高垣さん・・・余計な事を・・・

 

「まぁ、あの人とは、そのぉ・・・まぁ、その、色々とあるんですよ・・・ねぇ」

 

 空を仰ぎつつ濁す。

 

「なに?楓ちゃんに弱みでも握られてるとか?何よ、おねえさんに教えなさいよー」

 

 うりうりーと肘で突いてくる川島さん。

 

「前見てちゃんと運転してください」

 

 危ないので注意する。

 

「んもう、ノリが悪いわねっ。お姉さん怒っちゃうぞっ」

 

 プンプンと擬音が聞こえてきそうな感じでカワイらしく口をとがらせる

 

「はいは~い、志希ちゃんも居るのでイチャコラするのはその辺にしてもらいませんかぁ~」

 

「別にイチャコラしてないだろうに。何を言ってんだ」

 

「ん~強いて言うなら暇だから~志希ちゃんも話に混ぜて欲しい。あんまり放っておくと志希ちゃん拗ねちゃうぞ~、寝ちゃうぞ~?」

 

 じゃあ寝ればよかろうとか言おうと思ったが、流石にそれは妹への配慮が足りな過ぎるので、言わず素直に謝る。

 

「すまん、俺を祝う為に折角来てくれたのにな」

 

 そこへ、川島さんが志希に話を振り始めた。

 

「確か志希ちゃんって、アメリカの学校に行ってるんだったわよね?今日はあっちだと昨日?明日?まあどっちでもいいわ、学校はお休みなの?」

 

「にゅっふっふ~、愚問だよ川島さ~ん。お兄様の誕生日会!参加しない理由が無い!!たとえ学校が休みじゃなくても参加は絶対なのだ~」

 

 とてもいい笑顔で悪びれる事無くさも当然のように言い放つ我が妹。

 

「それもそうね」

 

 とても簡潔に本当に当たり前のようにしれっと返す川島さん

 

「志希ちゃんは騎士君大好きだものね、当然と言えば当然か。それに騎士君と同じで凄い頭良いんでしょ?小さい頃にノーベル賞取っちゃうくらいだし。少しくらい行かなくても全然問題無さそうよね」

 

「もち、なんならもう行かなくていいんじゃないかにゃ~?」

 

「川島さんェ・・・志希ェ・・・」

 

 なんてことは無い至って普通のとてもにこやかな女子トークが繰り広げられ、一行は会場に向かうのであった。

 

 

 

 閑話休題 8X―・・・・・

 

 

 

 某有名ホテルの会場を借り切っての俺の誕生日会。

 

「俺なんかの為にこんな立派なホテルを会場に使うなんて・・・

 なんか勿体ないですね・・・」

 

 ホテルの地下駐車場からエレベーターに乗りこんだ。

 

「あら、ご謙遜。テレビの特番とかでやってたらもっと凄い会場になってたんじゃないかしら?前にも言ったけど、世界屈指のスーパーアイドルなんだから。それに正直な話、騎士君のプロデューサー君に今日の相談をしたら、『会場とか諸々の費用は全部こっちで持ちます』って言ってくれたから、私たち参加者が貴方たちにお礼を言わなきゃいけない側だわ」

 

「あぁ、そうなんですね。アイツがそう言ったんですか。やっぱ他社のアイドルには態度が良いんだな・・・」

 

「あら?知らなかったの?言わない方が良かったかしら。なんか、ごめんなさいね」

 

 川島さんの顔が曇る。

 

「別に僕の給料から引かれている訳じゃ無いですし全然気にしてませんよ。それに、もしも僕の給料から引かれていたのだとしても、企画主催して頂いて、更に祝って頂けるのなら必要経費ですから。なので何の問題も無いですよ。ですから謝る必要性は皆無です」

 

「・・・・・・ほんっと、歯に衣着せないでそんなカッコいい事サラッと言ってのけちゃうのね・・・正に騎士って感じね・・・男らしさポイントだいぶ高いわー。お姉さん、騎士君の空いてる右側に立候補しちゃおうかしら?」

 

「ははは、冗談がお上手で」

 

「あら、結構本気よ?」

 

「えっ!?」

 

 思考が止まる。

 

「ね~ね~、志希ちゃん今日は乱入者だから誰が来るかわかんなんだけど、

 志希ちゃん知ってる人って居るの~?」

 

 志希が後ろから突然俺の腰回りに抱きつき、話を振ってきた事で思考が動き出す。

 

「お、おう、そうだな~、誰が居たかな?」

 

「そう言えばそうだったわね・・・まぁ志希ちゃんだしねー。突然参加してもだれも文句は言わないでしょう。騎士君に妹が居る事は周知の事実だし、企画主催の私は知ってるし、スポンサーは騎士君のプロダクション。何の問題無いんじゃないかしら?あと、誰が居るかは・・・会場入りしてからのお楽しみって事で」

 

 自然と会話が流れる

 

『志希・・・助かった・・・』

 

 小声で志希に礼を言う

 

『にゃはは~、お礼はお兄様のこのコートで良いよ~』

 

『くっ・・・結構お気に入りのコートだったんだが仕方ない・・・』

 

 志希に借りを作ると何かと俺の私物が数ヵ月無くなる。

 何故数ヵ月なのかと言うと、『お兄様の匂いが無くなったから返す~』と言う事らしい・・・

 まぁ、帰って来ない物も幾つかあったりもしたが、今回のコートは俺の手許にはっ返って来ない気がした。

 

 もう二度と俺が着ることは無いのだろう、さらば我がコートよ・・・

 

 

 会場である階に到着し、豪奢な入口を通り会場に入る。

 

 

『せーのっ』

 

「「「「「お誕生日おめでとうございまーす!!!!」」」」」」

 

 

 入ったと同時にクラッカー音と会場内の人達でのおめでとうの大合唱、そして無数の拍手が会場内に鳴り響いた。

 

 

『皆様、大変長らくお待たせ致しました。只今、本日の主賓であらせられます、一ノ瀬騎士が御入場されました!!』

 

 聞きなれた声で、本日の司会であろう男が一段高い舞台でそう言い放った。

 こいつ(・・・)こそ我が8723プロ(はなぶさプロ)のプロデューサー兼社長『英 雄(はなぶさたける)』その人だ。

 身長は170㎝、髪はスポーツ刈りで細い銀縁の眼鏡をかけている。

 本当に開いてるのかわからないくらい細い目をしていて、何が面白いのか常ににやけ面だ。

 

 今日は何時ものシャツを出しただらしないスーツ姿では無く、白いワイシャツに若干丈の足りない黒のスラックス、白いソックスに黒い革靴、更にサスペンダーをつけ、首には星条旗柄の無駄にバカでかい蝶ネクタイを着けていた。なお、奴が持っているマイクにも同じ柄の蝶ネクタイがあしらわれていた。

 昭和臭のするコメディアンのそれだった。

 

英雄(ひでお)、普段から不精とは言え唐突にアメリカに単身で行かせたのはこれが理由か?」

 

 英雄に向かって大声で語りかける。

英雄(ひでお)』と言うのは奴の渾名だ。

 完全に別人のそれになってしまっているが、

 なかなかどうしてこっちの方が呼びやすいのでそう呼ばさせてもらっている。

 ちなみにタメ語であるのは同い年とか年下だからとかではない。

 年は英雄の方が圧倒的に上だ。

 なら何故かと言うと、この8723プロ(プロダクション)のアイドルは俺だけしか存在せず、俺の実力のみでプロダクションも一緒にトップにして見せた。

 その後、『年上だからって敬語はやめろ。俺とお前は相棒なんだよ!』とか言っていたのでその通りにしている。

 俺も話しやすくて助かってはいるが・・・

 

『はははははっ、そうだとも我が城(8723プロ)騎士(アイドル)よ』

 

 マイクを使い俺と会話をする英雄

 

『今宵この時より、一ノ瀬騎士の誕生日会兼成人おめでとう会を開催する!!皆のもの!!飲み物は持ったかぁ!!!』

 

 いつの間にか横に居たバーテンのような恰好をした女性にノンアルコールドリンクの入ったグラスを手渡された。

 成人式を迎えるまでは飲ませないが英雄の言い分だ。

 俺自身も転生前はそんなにお酒を好んで飲んでいた訳では無いのでその言い分は了承している。

 

『おっけーだな!?飲み物持ったなぁ!?では、一ノ瀬騎士の大人の仲間入りを祝して・・・』

 

『かんぱ~~~~~~~い!!』

 

「「「「「かんぱ──ーい!!!!!」」」」」

 

 パチパチパチパチパチパチパチパチ

 

 俺の2度目の成人式(バースデー)が盛大に行われた。




ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。

日本語の語彙が無いのは非常に辛く恥ずかしいですね。

日々精進ですね。

何時もの事ながら、加筆修正、追記、改変は随時行いますので
ご承知おきの程、よろしくお願い致します。

では、失礼致します。

※全体的に文章を見直し 2017/03/14
 
 2020/1/21 文章整形


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Third Side Story ~ The Secret Birthday ~

毎々お世話になっております。

遅ればせながら、投稿させていただきました。



『レディ~スア~ンドジェントルメ~ン!!』

 

英雄がマイク越しに語り出した

 

『我が8723プロにおける稼ぎ頭、一ノ瀬騎士の挨拶だ~!!皆の者、心して聞けぇ~!!』

 

「おいおい、いきなり俺の挨拶かよ・・・」

 

アイツは本当に自由な奴だな

 

しかし、英雄の事は気に入らないが、

来てくれている方々のために挨拶はキチンとしなくては

英雄が立っているステージに向かって歩く

周りを見れば、友達であったり仕事柄お世話になってる方々が見える

軽い会釈や挨拶をしながらステージに上がって行く

 

「よっ、騎士。おめでとさん。ほれマイク」

 

マイクを放り渡される

 

「どーも。色々言いたい事はあるが、今回に関しては感謝してるよ」

 

「うわっ、騎士がデレた。キモい」

 

素直に感謝の言葉を述べたと言うのに

この言われ様である

 

「やっぱ感謝なんかするんじゃなかった」

 

「ほれほれ、さっさと挨拶挨拶」

 

挨拶を急かされる

まぁグダグダと英雄と喋っていてもしょうがない

挨拶を済ませてさっさとこのステージから降りてしまおう

 

『本日はこんな私の為に、お忙しい中お集まりいただき誠にありがとうございます』

 

定番的な語り出し

 

「一番忙しい騎士君が言ってもイヤミにしかならないわよ~」

 

川島さんがガヤを入れてくる

巻き起こる笑い

 

『川島さん、本日は主催者として、そして人生の先輩として、

 参加して下さって本当に感謝しています』

 

「あら無視ー?それに人生の先輩って言い方は少ーしいただけないわねー」

 

『軽いお返しです』

 

「あら、してやられたわね」

 

また起こる笑い

 

「コラコラー、騎士さーん。もう一人の主催者を忘れて貰っては困りますよー」

 

人溜まりの中から、ウサギの耳がピコピコと出てきた

 

「主催者のもう一人、安部菜々ことウサミンでーす。キャハッ」

 

右手の親指と人差し指、中指を起て

人差し指と中指の間から右目を覗かせ

ウィンクをしてきた

 

『安部さん、本日は本当にありがとうございます。

 と言うかウサ耳は外さないのですね』

 

「だーかーらー、安部さんはダメですっってばー!!

 ななちゃんかウサミンでお願いしますって

 いつも言ってるじゃないですかー!!

 それとウサミンはウサミンですからウサ耳は外せません!!」

 

 

この女性は『安部菜々(あべなな)

この人もアイドルだ

346(みしろ)プロ所属で、346プロ敷地内のカフェでアルバイトもしている

安部さんは『永遠の17歳』と豪語している・・・が、

俺の【全知全能】の前では実年齢は隠せない

周りの人もその事に勘付いて居る人は少なくない

何より安部さん自身が墓穴を掘りまくっている

とある界隈ではそれを『ウサミン式多段階墓穴掘削法』と呼ばれていたりする

 

『まぁ、その話は置いておきましょう。

 安倍さんも、そして来て下さった全ての方へ、今日は本当にありがとうございます。

 本日は皆様の時間の許す限り、是非とも楽しんで行ってください。

 私も存分に楽しんで行きたいと思います。

 重ねて御礼申し上げます。本日は誠にありがとうございます』

 

送られる拍手と歓声

 

『楽しんで行きたいと思います』

 

存分に楽しめるわけ無いのに、作り笑顔でそんな事を言う

心を込めて言の葉を紡げない事が酷く歯痒い

 

「なーに難しい顔してんだよ」

 

いきなりそんな事を言われ背中を叩かれた

 

「え?」

 

俺は笑顔を崩したつもりは一切無い

が、それでも英雄は俺に指摘した

 

「難しい顔なんてしてないぞ?」

 

反論しておく

が、こいつには一体全体何が見えているのだろうか?

たまに鋭い所を突いてくる

 

「そうかー?まぁそう言う事にしておくか。

 ほれ、色んな人にまだまだ挨拶いっぱいしなきゃいけないだろ、

 さっさと行ってこいよ」

 

また背中を叩かれる

 

「一々叩くなよ」

 

「真っ先にお前の挨拶を入れてやったのも、

 マメなお前のためを思っての事なんだからな。

 大いに感謝しろよ」

 

はははっと笑う

 

「そうかい。じゃあ行ってくるよ」

 

「うーい、酒は飲むんじゃないぞー。成人式が終わってからだかんなー」

 

ひらひら手を振り俺より先にステージを降りる英雄

小さい気遣いや気回しの巧さがあいつの性格と相まって本当に腹が立つ

取り合えず心の中で感謝をしつつステージを降りるのだった

 

 

「ハロハロー、ナイトくーん。お誕生日オメデト~」

 

軽い感じの挨拶が聞こえた

 

「その声は、フレデリカか・・・どうしてここに?」

 

彼女は『宮本(みやもと)フレデリカ』

俺が通う短大の後輩

学校の昼食中に絡まれて以来、良く一緒に飯を食ったりする仲になった

鮮やかな金髪、綺麗なエメラルド色の瞳、日本人離れした整った容姿

フランス人とのハーフだそうだ

性格は妹の志希と似通っている所が多い

傍から見てるとテキトーな感じで無責任っぽい言動が多く、

トラブルメーカーになりがちなのだが、

その実、面倒見が良く、やるべき所はしっかりやる、

とメリハリはっきりした子だ

 

「フレちゃんはナイトくんのプロデューサーから招待状をいただいたのだった。

 そして本日は暇だったために来たのでしたー、ぱちぱちー」

 

パチパチと拍手をしている

 

「そうなのか。なんでアイツはフレデリカの存在を知ってるんだ?」

 

「フレちゃんは、学校のお友達にナイトくんの

 サインを頼まれる事が多いのだよ。

 んで、ある時に8723プロへ直接行った事があるのだよ~」

 

両腕を胸の前で組み、上を向いて本当に誇らしげな顔をしていた

 

「なんだそりゃ?初めて聞いたぞ?

 わざわざフレデリカに頼まずに俺に直接言いに来ればいいのに・・・

 そもそもフレデリカも8723まで行かないで俺に言えばそれで良いだろうに」

 

「ノンノ~ン、その時はナイトくんは仕事でお休みー。

 そしてそして~、ナイトくんは気付いて無いかもしれないけど~、

 学校にいる間ナイトくんはなかなか話しかけられるオーラをしてないよ~?」

 

驚愕の事実

 

「え?そうなの?」

 

「そうじゃなかったら学校でいつも一人になっていないとフレちゃんは思うな~」

 

確かに・・・俺は一人だと話し掛け辛いオーラを発してるのか・・・

まあ、変装もしてるしな

 

「だからフレちゃんは、ナイトくんはボッチなのかと思って話しかけたのだよ~」

 

やはりフレデリカは志希に似て優しいみたいだ

その行動と情報に感謝しよう

 

「ふむ・・・以後気を付けるよ」

 

「そのままで良いんじゃなーい?

 フレちゃんはナイトくんと一緒に居ると楽だし」

 

「楽とは?」

 

「フレちゃんもそこそこアイドルしてるからね~。

 男の子から色々話しかけられたりするわけなんだよ~。ワタシって可愛いし~。

 それが疲れちゃう事だって無くは無いからね~。

 ナイトくんの近くは静かで良い休憩所替わりなのだよ~」

 

なるほどね。アイドルならではの苦労ってやつだな

 

「じゃあ善処するって事にしておくよ」

 

「ウンウン♡」

 

フレデリカとばかり話していてはいろいろ時間が足りなくなりそうなので

いい具合に話を切り上げて他の人に挨拶に行くとしよう

 

「まったね~、次は仕事とかで会いたいね~」

 

「その時はよろしくな、今日は楽しんでってくれ」

 

「もっちろんそのつもりだよ~」

 

大きく手を振るフレデリカを尻目に移動を始めた

 

この時点で疑問を持つ人が居るだろうから答えておこう

疑問に持って無い人も居ると思うがそこはご愛敬って事で

でだ、何に答えるのかと言うと・・・

 

【全知全能】の癖に、フレデリカとの会話の中で

俺がわかっていない部分が多過ぎなのでは無いか?と言う事に関してだ

はっきり言って【全知全能】と言っても本当に何でも出来るし何でも知っている、と言う訳では無い

ある程度の年齢の時に色々試しているので、可能不可能は俺の中でしっかり分別できている

そして人の心は完璧に読める訳ではない

眼球の動き、発汗、心拍数、筋肉や身体の挙動により行動の先読みは可能

メンタリズムのように、統計学・心理学術的読心術は可能

しかし妖怪の「(さとり)」の様な、その人が現在考えているであろう物事全てを汲取る、

なんて芸当は【全知全能】をもってしても不可能だ

それ程に人間というのは奥が深く未知数である

ただ、【全知全能】でそれが出来ないことは俺の中の救いでもあるのは確かだ

間違いなくそんな事が出来ていたら、間違いなく俺は、今この世にいない・・・

 

 

閑話休題 8X―・・・・・・・・

 

 

さて、次はっと・・・

おっ、あの人は・・・

 

「ご無沙汰しております、武内さん」

 

武内瞬輔(たけうちしゅんすけ)

彼は346プロのプロデューサー

周りの人より頭2つ分以上飛び抜けた大柄な男性

目つきが非常に鋭く、彼を知らない人が見たら

きっととあるスジの職業の人だと勘違いしそうな風貌だ

むしろ何度か警察の方のお世話になっている、と噂を聞いた事がある

 

「どうも・・・ご無沙汰しております・・・一ノ瀬さん」

 

耳心地の良いバリトンボイスで返事をする武内さん

確か最後にあったのは年始の生放送番組の時以来か

約一年も経ってるのか・・・

なんだかんだアイドルになってからは年月の流れが早くて助かる

 

「この度は・・・おめでとうございます」

 

武内Pからお祝いの言葉が続いた

 

「ええ、ありがとうございます。これからも変わらぬお付き合い宜しくお願い致しますね。

 仕事上ライバルという形になってしまうかもですが、僕としてはそんなことは抜きで、

 色々な方々と仲良くして行きたいと思っていますので」

 

「いえ、こちらこそよろしくお願い致します」

 

「あ、居た居た~、お兄様~!!」

 

背中に急に負荷が掛かった

志希だ

 

「コラ、志希。他の人が居るのに迷惑だろ、何より失礼だ」

 

「ブ~、い~じゃんべっつに~」

 

口を尖らせ子供の用に拗ねる志希

 

「とりあえず俺の背中から降りなさい」

 

「ヤダ」

 

先程と打って変わって笑顔で答える

 

「良いから降りろ」

 

「や~だ~!!」

 

「あの・・・こちらの女性は、一ノ瀬さんの妹さん・・・

 なのですか・・・?」

 

武内Pが会話に入り込んで来た

とても通る声色なので兄妹は会話を止め武内Pに向き直る

 

「はい。そう言えば武内さんは会うのは初めてでしたね。

 ほら志希、挨拶しなさい」

 

「む~」

 

俺の背中の上で非常に面倒そうに唸りだす

 

「何をそんなにむくれてるんだよ」

 

「だってぇ・・・、知らない人ばっかりで

 さっきまで放って置かれてたから・・・」

 

とても幼稚な事を言い始めた

 

「お前、子供じゃ無いんだから・・・」

 

「お兄様に会うの久々なのっ!!」

 

言われてみれば、ずっとアメリカの学校行ってたわけだしそうなるのか

 

「わかったわかった、埋め合わせはするから、今はちゃんと挨拶してくれ」

 

「約束だよ!!嘘ついたら醤油1リットル飲ますからね」

 

「うわ、致死量」

 

「あの・・・」

 

武内さんが首に手を回し、困った顔をしながら口を開いた

 

「ああぁ、ごめんなさい!ほら、志希!!」

 

「はいは~い、志希ちゃんは~、一ノ瀬志希ちゃんだよ~

お兄様の妹君で~す。よろしく~」

 

結局、俺の背中に乗ったまま挨拶をしてしまった

 

「武内さん、本当に申し訳ないです。ちゃんと言って聞かせますので」

 

「いえ、問題ありません。初めまして、わたくし346プロダクションのプロデューサーで、

 武内瞬輔・・・と申します。今後、会う事もあると思いますので、お見知りおきを」

 

そう言って、志希に名刺を差し出した

 

「一ノ瀬・・・志希さんは、アイドルに興味はありませんか?」

 

そしてスカウトし始めた

 

「お、仕事熱心ですね」

 

「あ・・・申し訳ありません。つい・・・」

 

また首に手を当て、困り顔をし始めた

 

「いえいえ、これは志希や武内さん等の問題ですので、構いませんよ」

 

志希はと言うと

 

「ふーん、アイドルかぁ・・・考えた事もなかったなぁ・・・」

 

存外乗り気なのか、悩んでいる

 

「でもそれなら、お兄様と同じ所が良い!!」

 

「やはり・・・そうなりますよね・・・」

 

苦笑いをする武内さん

 

「まあ、今日明日で決められる事じゃないしゆっくり考えれば良い」

 

「そ~する~」

 

「武内さんもそんな顔しないでくださいよ

 自分で言うのもあれですが、今日はおめでたい日なんです。

 パーッと羽を伸ばしちゃってください」

 

「はい、では・・・そうさせていただきます」

 

「お兄様~、志希ちゃんお腹空いた~。あっちにピザがあるから行こ~」

 

俺もそろそろお腹が空いてきたし、志希と一緒にテーブルを回りますか

 

「それより早く背中から降りろ」

 

「やだ。お兄様のおんぶ最高です」

 

誰か助けて




ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。

武内Pの名前は中の人とは別の漢字を使っております。
ご承知おきの程よろしくお願い致します。

頭の中でこうしたいと考えていても、
それを表現できない自分がひどく嫌になります。

回を増す毎に文章がどんどんどんどん酷いモノになっています。

その為、これ以降は最初から何度も読み直し、
加筆修正をしていきます。
次回投稿は日が空きますのでご承知おきください。

では失礼致します。


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第3話 - 英雄と騎士 Hero & Knight -

毎々お世話になっております。

この作品を読んで頂き誠にありがとうございます。
読んでくださっている方々、
評価を下さった方々、
感想を下さった方々、
お気に入り登録をして下さっている方々、
もしかしたら居るかもしれない楽しみにして下さっている方々に
感謝と御礼を申し上げます。
誠にありがとうございます。

皆々様に支えられ今こうして頑張っていられます。

なんだかんだ3話まで来ました。
でもやっぱり話のテンポは遅いです。

※この作品に出てくる小説・ドラマはすべてフィクションです。



 さて、宴も酣とは言いますが俺のバースデーから早数ヵ月・・・

 俺の正式な成人式や、志希の誕生日も終え、

 今日はなんてことない日常だ。

 

 

「俺は、あの日、オーストラリアで君に助けられた・・・ハイイロペリカンなんだっ!!」

 

 

 

「はいっカットぅ!!」

 

 監督の独特なカットがセット内に響き渡る。

 今日は来季から始まる、ベストセラー小説が原作の、

『鳥合えず恋でもしませんか?』のドラマ撮影収録。

 ありがたい事に主役の一人である、

『ハイイロペリカン』役をやらせていただく事となった。

 

 初めてこの小説タイトルを見た時は、

「なんじゃこりゃ?」だったのだが、

 読み出して2章位までは【全知全能】をもってしても、

 先読み出来なかった程度に面白い作品だ。

 基よりこの著者は【全知全能】の予想外を書く事が出来るので、

 正直、神の領域に達して居るんではなかろうかと思えてくる程だ。

 

 

 閑話休題  8X―・・・・・・・・

 

 

 メガホンで手をコンコン叩きながら一つの人影がこちらに近づいて来た。

 

「騎士ちゃぁん、今回も最強に最高だったわぁん」

 

 監督が話しかけてきた。

 

「ありがとうございます。また、監督のお世話になれてとても光栄に思っていますよ」

 

「やぁん、何言ってんのぉ。嬉しい事言ってくれるじゃなぁい。

 でもぉ、騎士ちゃんならどんな役だって熟しちゃうんだからぁ、

 ドラマに映画に引く手数多なんでしょうよぉ?」

 

 俺の胸に人差し指をグリグリしながら監督はそう言ってきた。

 

「いやいや、僕に映画とかドラマはあまり廻って来ないって事は御存知でしょ?」

 

「え?御存知で無いわよっ。初めて聞いたわよっ、何!?隠し事!?ヒドイっ!!」

 

 何所からともなく取り出したハンカチを口に咥えヨヨヨと声を出しながら泣き始める。ちなみにそろそろ突っ込まれそうだから答えておくが、監督は男性だ。

 角刈りに大きめの黒いサングラスを掻け、厚めの唇に特徴のある角張った顔、

 Yシャツに肩からパーカーの袖を下げ首もと結んだ形で羽織っている。

 よくある撮影監督のイメージ像そのままの恰好をした男性だ。

 

「隠してるつもりは無かったんですが・・・英雄(ひでお)の奴から聞いてないんですねか?」

 

「あら、英雄(えいゆう)ちゃん絡みなの??」

 

「いえ、完全に僕の我儘ですね。映画やドラマの撮影って間違いなく

 確定で確実に詰め込まれるじゃ無いですか?

 撮り終わるまではそれこそほとんど毎日のように現場に詰め寄って、って感じで」

 

「ワタシの仕事をそんな風に思っていたのね・・・もう、ダメね・・・ワタシたち・・・」

 

 いつの間にか足元にはびりびりに引き裂かれた先程のハンカチが・・・

 

「何、意味解らない事仰ってるんですか?最後まで話は聞いてください」

 

「んもぅ、冗談よジョ・ウ・ダ・ン」

 

 バチコンッと音がしそうな程の大げさなウィンクをしてきた。

 

「で、「あらスルー?」そんな感じで詰め込みまくりで働くのは正直疲れちゃうので・・・」

 

 疲れたと言っても、肉体的に全然問題は無く、

【全知全能】である故に、身体もそれ相応のものを持っているのだ。

 あらゆる事を行えるのだから当然と言えば当然だろう。

 

「英雄にお願いして、言い方は悪いですが、受ける仕事は厳選して貰ってるんです。

 そして僕は英雄に言われ今ここに居るわけです」

 

「あらぁ、天下の8723(はなぶさ)プロの御眼鏡に適ってるって訳ねぇん。

 いやぁん嬉しいわぁ」

 

 監督は頬に手を当てクネクネと身を捩り始めた。

 

「と、そう言った訳ですので、これからもご指導ご鞭撻の程、宜しくお願い致します」

 

 深く頭を下げる。

 

「こちらこそよぉん。全知全能の偶像さまっと、これは嫌いだったのよね。

 ごめんなさいね、無神経で・・・」

 

「いえ、別に大丈夫ですよ。折角ファンの方達に名付けて頂いて居るんです、

 そんな人達の前で文句なんて言えませんよ。

 と言っても、監督には既に知れているので説得力は無いですけどね・・・」

 

 はぁ、とため息を一つ吐き少し肩を落とす。

 トップアイドルとして、俺はファンの憧れを崩す事はしてはいけないし出来ない。

 だから簡単に愚痴や弱音は吐かない、そう心に決め、今アイドルを続けているのだが、

 そんな俺にも若い頃があった訳で、その時この監督に胸の内の語れるもののみを語った事があるのだ。

 

 そんな経緯もあり、今では監督は俺の一つの心の拠り所となっている。

 

「何言ってるの、騎士ちゃん。ここではいくらでも弱音愚痴悪口暴言バッチコイよ!!

 みんな仕事に集中しているから何にも聞こえていないs「なんにも聞えませーん」

 ウフフッ、ワタシみたいな変なおっさんの話なんて誰も耳を傾けないし、

 口は滅茶苦茶に硬いしね、それにワタシだけが知ってる騎士ちゃん・・・

 あぁ甘美・・・」ウットリ

 

 なぜ俺の周りにはすぐにトリップする人ばかりなのだろう・・・

 これが類は友を呼ぶってやつなのか・・・

 そう考えたら少し世界が楽しくなってきた。

 

「監督は本当に素晴らしい方だと思っています。最初に光栄だと言ったのも本心です。

 これからも末永く、一緒に仕事が出来る事を楽しみに、そして誇りに思いますよ」

 

「てやんでぇバーロォー、前が霞んで良く見えねぇっ!!

 こんなおっさん泣かせて何が楽しいんでぃ!!

 おうオメー等さっさと仕事終わらせろ!!打ち上げ行くぞ打ち上げ!!」

 

 急に口調が男らしくなる、これもこの人の個性だ。

 

「監督~、今日撮影初日ですよ~?」

 

 照明を弄っていたスタッフが言った。

 

「バカヤロゥ、空気を読め空気を!!」

 

 投げたメガホンがスタッフに当たる。

 

「監督~、危ないっスよ~」

 

「はははっ」

 

 心から笑っている訳では無いので、

 監督たちに申し訳なくなってくる。

 だけどこの空気は嫌いじゃない、寧ろ好きだった。

 大分昔に感じていた温かな何かを思い出せそうで、

 考えるのが大嫌いだった感情を欠落させる前のあの頃の何かを・・・

 

 

 8X―・・・・・・・・

 

 

「そう言えば志希が日本に帰ってくるのって今日かぁ」

 

 盛大な独り言をかます。

 本格的にアメリカの学校に飽きたらしく、日本に戻りたいと言い出した。

 もともと、日本では学べること少ないからアメリカで勉強してくるって

 飛び出してるのに・・・まぁ、往々にして天才って奴はそう言うものなのだろう。

 

 

 8X―・・・・・・・・

 

 

 現在、自分の車で次の現場まで移動中だ。

 ちなみに英雄は事務所から動く事は非常に少ない。

 何故かと言うと社長兼プロデューサー兼事務員だからだ。

 意味わかんないって?

 

 8723プロはマジで英雄と俺のマンツーマンなプロダクションなのだ。

 今やトッププロダクションで、トップ企業と言われてもおかしくなく、

 総資本金は軽く億を超え、いつでも新しい仕事が選り取り見取り。

 にも拘らず、社員数はたったの2名。

 

 英雄と一ノ瀬騎士

 

 これだけである。

 

 英雄には一度、さっさと人を雇えと言ったんだが、

 

『丁度雇おうと思った矢先に横からそう言う事言われるとホントやる気無くすんだよねー』

 

 とか、小学生みたいなこと言い出しやがったあの野郎・・・

 それから早4年も経つのだが、未だに意志は固いらしく雇おうとしない。

 またこっちがフォローして先の二の舞になるのもアホらしいので、

 ほって置く事にしている。どうせ、疲れるのは英雄だけなのだ。

 

 ♪~♪~♪~(着信音)

 ピッ

 

「はいもしもし」

 

『一ノ瀬騎士さんですか~』

 

「今日日、電話帳に登録されてる番号にかけて間違えるってことは無いだろう」

 

『冷たい返しだな』

 

「どうした?今運転中だからなるべく早く要件を済ませるか俺が掛け直すまで待つか1秒で選べ」

 

 噂をすれば英雄だ。

 ちなみにハンズフリーで電話をしている。

 

『ちょっt』

 

 ツーッツーッツー・・・

 

 通話は終了した。

 どうせあと数分で着くのだ、到着してから電話しても問題無かろう。

 

 

 8X―・・・・・・・・

 

 

『はい・・・もしもし・・・』

 

「なぁ、なんでコール音が俺の声なんだよ」

 

 

 コール音参考

『もう少し待っててくれ、今呼び出してるから(騎士爽やかヴォイス)』

 

 

『俺が元気ないことはスルーか?』

 

「元気ないのか?じゃあ明日は地球が滅ぶな」

 

『いきなり地球規模!?』

 

「んで要件は?」

 

『 』

 

「この後仕事なの知ってるだろう、遊んでる場合じゃないんだよ」

 

『あぁ、件のCM撮影中止ね。先方にはもう了承貰ってるから』

 

「は?」

 

『だから、今から向かおうとしてるお仕事はキャンセルです。さっさと事務所に帰って来ましょう』

 

「おい、どう言うことだ?事と場合によっちゃ只じゃおかないけど」

 

『おぉおぉ、怖い怖い。心配スンナ、先方は快くキャンセルOKしてくれてるよ』

 

「お前なぁ・・・どうせ仕事を追加で増やしたとか、そんな約束勝手にしたんだろ」

 

 英雄はちょいちょい自分の都合で仕事のキャンセルをしたりする。

 社会人的には絶対やってはいけない事だと思っているので、

 非常に好ましくないのだが、仕事上こいつは上司で社長な為、

 言う事を聞かねばならない、それにしても腹が立つものは立つのだ。

 

『いや、騎士さま一日自由券』

 

「よし、○そう。今から速攻でそっち帰るから文字通り首を洗って待ってろ」

 

『はいよー』

 

 

 ピッ・・・

 

 

「はぁ」

 

 通話を終わらせ軽く溜め息を吐く。

 英雄のマイペースに付き合うのは本当に疲れる・・・

 今も昔も考える事が嫌いだが、今は疲れる事も嫌いだ。

 先程も言ったが体力的にでは無い、精神的に、だ・・・

 実際、何の変化も無い当たり前の日常の方が、

 何においても相当に本当に虫唾が走るくらい大っっっっっ嫌いなのだが、

 それは置いておいて、次点でって感じだ。

 

 体力的に一切疲れていないのに、

 良く解らん脱力感と気怠さが身体に圧し掛かるこの感じが本当に嫌いだ。

 

 良く解らんなら楽しい事なんじゃないのかって?

 トマトは好きだけどトマトジュースは嫌い、みたいなそんな感じのヤツだ。

 察してくださいお願いします。

 

 さて、速攻帰るって言ったし、

 安全運転法定速度ぴったりで飛ばして帰りますか。

 

 今回はどんな問題が事務所で待ってるんだか・・・

 少し落胆しつつも、ちょっぴり先の展開にワクワクしているのは事実だった。

 




ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。

何度読み返してみても、やはり稚拙なのは治りませんね。
でも、一意専心で頑張っていく所存にございますので
もうしばらくのお付き合いを宜しくお願い致します。

追記分:)本作中に出てくる『鳥合えず恋でもしませんか?』は
適当に思いついたタイトルですので、気にしないでください。
実際に存在しません。
着メロの表現を変更致しました。
配慮が足らずに申し訳ありませんでした。

※※全体的に文章を修正致しました。:2017/01/26


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第4話 - 月夜 Moonlit Night -

毎々お世話になっております。

遅ればせながらやっと第4話投稿です。
異動で完全にawayで辛いです。

今回、オリジナルキャラ3人目登場です。
これで、オリジナル主要キャラ全員登場です。
(今後増えないとは言っていない)
今回は本編ですが説明回です。
ご了承願います。

折角なので章分けします。

次話からシンデレラガールズのアニメに
少しずつ絡んで行きたいと思っております。

それではもうしばしの間、
この拙い物語のお付き合いをよろしくお願い致します。



「さってと・・・」

 

騎士との電話を終え一息つく

騎士が速攻で帰るって言ったんだ

間違いなく速攻で帰ってくるだろう

 

こちらも迎撃準備をするとしよう

 

「社長、今の電話の相手ってまさか・・・」

 

部屋に居た女の子が話しかけてきた

 

「ん、ああ、キミの大好きな大好きな騎士様だよ~」

 

とりあえず当たり障り無いようにしれっと返事をする

 

「ええぇぇぇ!?」

 

凄くうるさい

 

「話の内容から察するにこちらに向かってるんですか?え?どうしよう・・・

 社長、私おかしくないですか?」

 

「うん、おかしい」

 

満面の笑顔でそう返す

 

「ええぇぇぇ!?」

 

凄くうるさい

そしてそのまま慌てて部屋を出て行った

 

あぁ、いろいろ察している人も居る事だろう

俺はこの8723プロ(はなぶさ)の社長兼プロデューサー兼雑用の英 雄(はなぶさたける)

え?俺の事はわかってるだって?

面白くない反応をするね。もっと人生楽しまなくっちゃ

 

じゃあ、気になってる方の紹介をしましょうかい(・・・・・)ってか?

 

あぁ!!待って待って。ほんの冗談じゃないかー

うむ、それでは紹介しよう

今回、新しkバンっ!!!

けたたましい音を立ててドアが開かれる

 

「お、帰って来たね」

 

「英雄、覚悟はできてるか?」

 

我が8723プロ、騎士様の御登場だ

 

「まぁまぁ、とりあえず落ち着いてそこに座り給えよ」

 

「あ゛あ゛っ!?」

 

騎士がアイドルらしからぬ怖ーいお顔をしていらっしゃる

それにそんな声は出しちゃダメでしょうよ

 

「ひっ!!」

 

ほら、女の子が怖がっちゃったじゃないか

 

「え?」

 

騎士が驚いて後ろを振り向く

 

この部屋の外の化粧室、はては更衣室でお色直しでもして来たのだろう

そして、騎士はドアから入ってきた少し後、彼女も入ってきて

ドアの前に立っていたのが俺からは見えていた

だが騎士には見えていなかった

そして彼女にも騎士の顔は見えていなかったが声は聞こえた

結果、彼女はその声に怯え、今みたいな声を漏らした

 

「あれ、君は・・・」

 

騎士はすぐに調子を整える

 

「あ、あの・・・」

 

だが彼女はすぐには整えられない

 

「あーあ、女の子を怖がらせるなんて騎士様ってサイテー」

 

「お前、マジで黙ってろよ」

 

俺の挑発にまんまと乗ってしまう騎士

それじゃあ、負のスパイラルだよー?

さぁ、どうするんだい?世界の騎士様

 

「あ・・・あの・・・」

 

「ほらほらー、騎士が凄い怖いセリフいっぱい言うからー」

 

極めてしつこく騎士を煽っていく

唐突だが、実はこれには訳がある

あいつはあまり感情を表に出さない

いや、正確には表に出してはいるが、すべてが演技だ(・・・・・・・)

あいつにその辺を話して貰ったことはないしそんな噂も聞かない・・・が、

俺の人生経験からなる()による確証だ

あまりに頼りない確証だと思うかも知れないが俺の勘は今まで俺を裏切った事はない

 

だからこそ、あいつの感情を本物にするべく

俺が一番取り出せそうなあいつの感情

【怒り】を出させるために煽るのだ

なんでそんな事するのかって?

そんなん俺にもわからんよ

強いて言うなら楽しいからかな?

人を騙したりおちょくったりするのが昔から好きなんだ

特に騎士みたいに今まで負けを知らない様な奴が

キツネに抓まれた様な顔をした時とか最高に気分がいい

騎士を煽るのが今の俺の一番の楽しみだな

さて、そろそろ現実に戻ろうか

 

「で、騎士君よ。どうすんの?お姫様は何も言えなくなってるよ?」

 

とても悔しそうな顔をする騎士

クゥ~、楽すぃ~。性格悪いって?そんなん言われなくても昔から知ってるよ

 

「この借りは必ず返してやるぞ」

 

俺に指を指しそんな事を言ってくる

 

「おいおい、それは完全に悪役のセリフだろ」

 

俺は両の手の平を上に向け、やれやれと首を左右に振る

騎士は「フンっ」と言い、女の子の方へと近付いて行く

片膝をつき右手を自分の左胸にあてた

そう、まるで騎士(ナイト)お姫様(プリンセス)に傅くかのように

そして静かに口を開いた

 

「この度は、僕の失態をお見せしてしまい大変申し訳ございませんでした。

 この一ノ瀬騎士、自分の騎士道に則り貴女が望むなら貴女の望みを可能な限り叶えて見せましょう」

 

「ふぇっ?」

 

彼女は傅いた騎士と、そして言われた言葉に我に返りそして驚きを隠せない表情と声を出す

騎士は優しく笑い彼女に話しかけた

 

「お久しぶりです。会うのは半年振り位でしょうか?」

 

「お、お久しぶりです!!あのっ!!」

 

「はい」

 

「握手!!して貰っていいですか!!」

 

「はい?」

 

あの子は何を言っとるんかね?

騎士も思わず首傾げちゃってるし

騎士の言ってた事ちゃんと聞いて無かったの?

叶えられる望みなんでもって言ってたのに

多分、金だったら数億、デートとか、言い方が最悪だがワンナイトラブみたいな事だって可能だろう

握手?握手なの?マジで?マジで握手?

 

「それが貴女の望みですか?」

 

「はいっ!!私の精一杯の望みです!!」

 

まぁ、彼女はそう言う子だよね

そして握手をしている彼女と騎士

もうめっちゃいい顔でブンブン手を上下してるよ

多分もう一生手を洗いません~とか言い出すよ~

 

「もう一生手を洗いません~!!」

 

ほら言った

 

「で、英雄・・・なんで彼女が此処に居るんだ?もしやスカウトしたのか?」

 

騎士の手は未だに上下に動いているが

やっと本題に入れそうだな

 

「お察しの通り、その子がお前を今日呼び出した理由だよ

 ただし、スカウトじゃない。いや?スカウトになるのかな?

 その子は8723プロ(ウチ)の新しい社員だよ」

 

「え?」

 

本日何度目になるのか、騎士の驚く顔がバンバン出るね

これ写真撮って『騎士様驚き顔百選』とかって写真集出せばミリオン余裕じゃないか?

そんなこと考えていたら、騎士が彼女と向き合っていた

 

「新入社員?」

 

「あの、申し遅れましたっ!!ワタシは姫乃宮月夜(ひのみやつきよ)、18歳です!!」

 

彼女は元気よく挨拶をした

彼女は『姫乃宮月夜』

しがないフリーターだ

長めの黒髪ポニーテールで瞳も黒

身長は確か・・・155だったかな?

前に騎士から「空港の喫茶店に逸材がいたからスカウトしてみれば?」的な事を言われたので

試しに覗きに行った

そんで俺の直感でその場で8723プロ(ウチ)働かないかと切り出した

 

んでだ・・・

なんでも、他にも色々アルバイトしてて、切りが悪い所で辞めるのが申し訳ないっつーんで

今日まで待っててくれと物凄くいい笑顔で言われたので今日まで待った訳だ

まったく今時、律儀で良い子だよ

 

しかし、しかしだ・・・なんでそんな子が多額の借金背負わされて一人で生きてかなきゃならんのよ

っとこんな暗い話はサイドストーリーででもエクストラストーリーででも話せばいい

ん?今なんか別の世界線からジャックされた様な・・・

まあいいか。まあそんな訳で、彼女を俺が買った(・・・)

別に、身体目当てーとか奴隷みたいにしようーとか言ってるんじゃ無いから安心しろ

年下もワリと好きだが、もうちょっと熟れてる方のがタイプだし、俺は一人しか愛してない

別に結婚はしてないぞ?死別もしてるわけじゃないぞ?

まあその辺は追々語るだろうよ

 

今は彼女の話だ、買ったって言うのは要は借金の肩代わりだな

あの子の借金を俺が俺の判断で勝手に全額返済した

ちなみに返済する前から彼女はうちで働く気満々だったよ

バイト終わった後、適当に真面目な面接した折、

笑顔に一瞬陰りが見えたので勘を信じて聞いたって感じ

俺としては彼女には心の底から笑って欲しかったから、

その笑顔が金で解決できるなら安いもんだろう

騎士とは違って楽なもんだ

 

そんな訳で、俺は彼女が止めるのを一切聞かず借金返済

そんで彼女を我が社に終身雇用

彼女の精も魂も尽き果てるまでうちで働いて貰う事にしたって訳さ

 

「今日から8723プロの事務員兼雑用、住み込みで働かさせて頂く事となりました!!

 誠心誠意、一所懸命、一意専心の思いで頑張って行きますので、どうぞよろしくお願い致します」

 

「あーっと、一つ言い忘れてた、事務員兼雑用兼プロデューサー(・・・・・・・)ね」

 

「「は?」」

 

はっはっは、見ろ見ろあいつらのあのだらしない顔

とりあえず写真撮るか

スマホを取り出しピロリンとシャッター音がしたと同時

俺は宙を舞い一回転した後、背中と床がキスをするのだった

 

はてさて、これから8723はどうなりますやら

楽しみですなぁ




ここまで読んで頂き誠にありがとうございました。

いつも通り、今後加筆修正、変更はしていくと思われます。
メインストーリーの方が文字数が少ないと言う、
非常に申し訳ありません。

余談ですがUA10000突破していて吃驚しました。

もう少し頑張れそうです。


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幕間 ~ 大切な存在 a Loved One ~

大変お世話になっております。

過去投稿作の全文編集の前に投稿してしまいます。
ご容赦願います。

幸子Lunatic Show 楽しみです。





英雄への制裁と姫乃宮さんとの話が終わり、

事務所から家に帰る途中の事。

 

「お兄~様~!!」

 

遠くから、聞きなれた声がしたのでそちらを向く。

 

「ん?おー、志希だ」

 

道路4車線挟んで向こう側、

手を振りながら志希がピョンピョンはねていた。

 

そう言えばゴタゴタしてて少し忘れてたけど、

志希が日本に帰ってくるんだったな。

うちに向かってる途中だったか。

そんな事を考えながら、俺も小さく手を振り返した。

横断歩道の前まで歩き、志希と俺はお互いに信号が変わるのを待つ。

 

「今日は志希と一緒に料理でも作るかなぁ・・・、でもまたピザとか言いだしそうだなぁ。

 気分的に蕎麦とか捨てがたいんだが、打つの面倒くさがるだろうなぁ・・・」

 

などと食事の事を考えて居たのが仇になった。

車が飛んだ(・・・・・・・)事に対する反応が遅れた。

しかもその車は志希が立っている側の歩道に一直線に向かっている。

 

「っ!?」

 

志希側とは反対の車線から、中央分離帯の縁石を踏み台にジャンプしたのだ。

法定速度をぶっちぎって風にでもなろうとしていたのだろう運転手(バカ)は、

エアバッグの衝撃で気絶しているが正直どうでもいい。

 

「クソっ!!このままじゃ志希にぶつかる!!」

 

最早1秒としない内に車は志希に届いてしまうだろう。

 

俺は余計な事を考えている暇も余裕も無かった。

ただただ妹を・・・志希を助ける事しか考えられなかった俺は、

 

 

《結論:【全知全能】を本気(フル)で使用》

 

 

志希を助けるための道筋を考えながら行動を起こす。

ぶつかるまでの時間はあと0.774秒・・・

瞬きを終える時間より俄然遅い。

足に力を入れ、歩道に大穴が空く程の脚力で踏み込み、

まるで空を飛んだかのように瞬時に志希と飛んできた車の間に割って入り、

志希を優しく抱きしめ、

 

 

そして投げた。

 

 

「え?」

 

志希の驚きの声が聞こえ、

 

 

そして・・・

 

 

ドンッ

 

 

重く鈍い音と共に激しい衝撃と痛みが背中から全身へと伝わる。

 

「うぐぅ・がっ・・っはぁ・・」

 

そして俺の意識は遠退く・・・

 

 

 

 

 

 

・・・

 

 

 

 

 

 

「・・・ま・・・・・・さま・・・・起きてよぅ・・・・おにぃさまぁ・・・」

 

志希の声がひどく遠くに聞こえる。

 

「し・・・き・・・」

 

志希を呼んでみる。

今自分の声が出ているのかどうかわからない。

でも、志希の声は聞こえる・・・

脳内補正なのか・・・耳の異常なのか・・・

 

「おにいさまぁ・・・・おにいさまぁ・・・」

 

異常に重い瞼を開けると、ぼやけてはいたが、

顔を、髪を、服をぐしゃぐしゃに、ぼろぼろにして、

両目から大粒の涙をボロボロと溢しながら俺を呼んでいる志希が見えた。

 

「ぶ・・じ・・・だったん・・だな・・・ゴホッ・・・よかっ・・・・っぐっぅ・・」

 

右腕を持ち上げ志希の頬を撫でようとしたが、激痛が俺の全身を襲った。

 

「お兄様っ!!」

 

志希が、痛みに顔を歪ませるそんな俺を見て叫んだ。

一瞬志希の手が俺の身体に触れかけるが、止まる。

触れたら俺が痛みに苦しむとわかったから、

そう理解していたから・・・

 

「よ・・かった・・・ょ・・・お前が・・・無事・・・・で・・・」

 

「うん・・・うん・・・私は平気。お兄様が守ってくれたから・・・

 平気だから・・・だから今は無理して喋らないでぇ・・・ねっ」

 

志希が泣きながらむりやり笑う。

よかった、どうやら俺の声は出ている様だ。

 

「ご・・・めん・・・なぁ・・・おま・・・ぇ・・・投げちゃ・・・たよ・・・」

 

志希に謝りながら、力いっぱいに笑顔を作って見せる。

 

「ううん・・・そんなのどうでもいいのぉ・・・おにいさまぁ・・・

 なんでっ!?救急車ぁ!!まだ来ないのっ!?ねぇ、早くしてよぉ・・

 お兄様がっ!!お兄様がぁあ!!」

 

志希が叫ぶ。

 

「し・・・き・・・、だ・いじょう・・・ぶ・・・だ・・・」

 

志希に言う。

 

「っ!?大丈夫じゃない!!全然大丈夫じゃないよぉっ!!出血量がっ!!肋骨が肺にぃ!!」

 

外傷で大体の俺の状態を判断出来ている。

さすがは俺の妹だ、頭が良い、医者にもなれそうだ。

能天気な事を考えている実、俺はヤバいと思っている。

 

さっきから【全知全能】が全く働いていない(・・・・・・)のだ。

いつもなら、考えた先の先の先の(×いっぱい)、そのまた先の答えを勝手に導き出すのだが、

現状、自分の状態すら全く診断も判断もできない。

何が起こっているのか考えられないし力も全然入らない。

何もかもが動かないし働かない。

だから、もう、今、言いたいことを言える限り、言ってしまおうと思えた。

 

 

「し・・・き・・・」

 

「なにっ!?お兄様っ!?」

 

「おれ・・・は・・・おま・・えを・・・まもれた・・ことを・・・誇り・・に、思う・・・」

 

「何を言ってるのっ!?ねぇ・・・?やだよ・・・救急車はっ!?」

 

「おれ・・・は・・・おまえ・・の・・・兄で・・・ほんとうに・・・よかった・・・」

 

「お兄様!!やめてっ!!生きる事を諦めないで!!

 お願いだからっ!!そんな事を今は聞きたくないのっ!!」

 

志希は俺の考えがわかった様だった。

考えることが大嫌いだった俺の、

今、【全知全能】が働いていない俺の考えなど志希からすれば幼稚に等しいか、

当然だな・・・

 

「お・・れは・・・しきの・・・おにぃさまと・・・して・・・ちゃんと・・・・できてた、か・?」

 

「私のお兄様はお兄様だけなのっ!!

 お兄様以上に私のお兄様としてちゃんとしてるお兄様なんてこの世に存在してないよぉ!!」

 

「そ・・・か・・・、なぁ・・・おにぃ・・・ちゃん・・・て・・・よんで・・いい・・・ぞ・?」

 

「い゛や゛で゛す゛・・・」

 

もう泣きすぎて、声がぐちゃぐちゃになりながらもそこは否定する志希。

もう疲れてきたな。

 

「そ・・・k・・・」

 

「お兄様゛!?・・・お兄様!?お兄゛様゛ぁ・・・お゛に゛い゛さ゛ま゛ぁ゛・・・いやぁああぁぁっぁあ・・・」

 

「・・・・」

 

志希の鳴き声と救急車のサイレンが夜の街に静かに谺した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

--------------------------

 

『・・・・・・・』

 

 

 

『やぁ』

 

『ん?おぉ、神様?じゃないか』

 

俺の前に、以前会った神?と名乗る小さい人?がそこに立っていた。

 

『って事は、俺は死んだのか・・・』

 

俺は正直、自分の死にショックは受けていなかった。

しかし志希を置いてきてしまった事は心残りだ。

 

『いえ、アナタは死んでいませんよ』

 

『え?そうなの?』

 

『はい、今回お話に来たのは別の事です』

 

神?はそう言い更に続けて言った

 

『アナタが目を覚ましたとき、アナタには異変が起こっていますが、

 それは一時的なものですので、その内何とかなるでしょう』

 

『いったい何を言ってるんだ?』

 

スッ

 

『うぉっ!まぶしっ!!』

 

神?が手を上げたと思ったら光に包まれた

 

 

 

『では、素晴らしい人生を・・・』

 

 

 

--------------------------

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ピー

 

ピー ピー

 

ピー ピー ピー

 

ピー ピー ピー

 

 

「・・・ん・・・」

 

電子音が聞こえる

目を開ける

 

「知らない天井・・・」

 

使ってみたい言葉ランキングにランクインしてそうな事を言ってみる。

 

「病院・・・だな・・・多分・・・」

 

上半身を起こしてみた

 

「ふむ、痛みはもう無い・・・みたいだな・・・」

 

手をグーパー広げたり握ったりしてみる。

本当に死んでなかったのか。

だが、【全知全能】は一切働いていないな・・・

 

俺は深く考えずそのまままた寝むりについた。

 

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

 

・・・・・ノデ、

 

・・・・ハイ

 

・・ウニイッテマスヨ

 

ソウデスカ、アリガトウゴザイマス

 

「ん・・・」

 

人の話し声がする。

瞼を閉じていても外が晴れているであろう事がわかる。

左手側がやけに重い事に気が付いた。

上半身を起こし、重かった謎に納得をし口を開く。

 

「おはよう、志希」

 

「・・・兄様ぁ・・・」

 

寝言だ。

椅子に座りベッドに頭をのせとてもつらそうな体制で寝ていた。

そして涙を流している。

それだけで、志希がどれだけ心配をしていたのかが受け取れた。

罪悪感に胸が苦しくなった。

志希をゆすり起こす。

 

「志希、朝だぞ」

 

「んぇ・・・」

 

ムクリと起き上がり、目を擦りながら覚醒していく。

 

「こらこら志希、目は擦るなっていつも言ってるだろう」

 

「あ・・・」

 

志希と目が合う。

そして志希の顔が赤くなって行き、目に涙が溜まっていくのが見える。

 

「おにいさま~~~~~~~~!!!!」

 

抱きつかれた。

 

「よしよし、心配かけたな」

 

優しく右手で抱きしめつつ、余った左手で頭を撫でてあげる。

 

「ほんとうだよぉ~!!心配したんだから~、心配かけさせた分お兄様には罰が待ってるんだからね~!!」

 

「はっはっはっ、それは怖いな」

 

病室の扉が開き誰か入ってきた。

 

「志希~、病室で騒いだらダメだって昨日m・・・

 おぉ、騎士、起きたのか。気分はどうだ?」

 

入って来たのは、現父(とう)さんだった。

先ほど外で聞こえて来ていた声は、

現父さんと医者との会話だったのだろう。

 

「あぁ、概ね問題無さそうだよ」

 

「そうか・・・、目も覚めた事だし、あと1週間もしないで退院出来るだろう。

 先生も外傷は特に問題ないって話してたしな」

 

「因みに俺はどの程度寝てた?」

 

「6日間・・・」

 

志希が寂しそうに呟いた。

 

「6日かぁ・・・18食も食い逃ししてるのか・・・」

 

「そこ!?騎士的にはそこが重要なのっ!?」

 

キレのある素早いツッコミを現父さんからもらった。

 

「まぁ、お兄様だからね~」

 

「志希もソコ納得しちゃうの!?」

 

現父さんはてんやわんやだ。

 

「しかし、相も変わらず我が家の兄妹は仲睦まじくて大変よろしい。

 なので、このまま父さんは仕事に向かうから、

 なんかあったら父さんでも母さんでも連絡くれ。

 と言っても、騎士の世話は全部志希がしてくれそうだから特に問題は無さそうだがな」

 

「まっかせっなさーい!!」

 

俺に抱かれたままの姿勢で返答する志希。

せめて現父さんの顔を見て答えてあげようぜ。

 

「もし予定外に退院するようなら、必ずうちに寄ってくれよ。母さんが寂しがってるからな」

 

「わかったよ。そうなったら直ぐ向かう」

 

「ほらほら~、早く仕事行かないと~、遅刻しちゃうぞ~」

 

志希が現父さんをはやしたてた。

 

「それもそうだな、じゃあ志希、騎士の事よろしく。騎士、くれぐれも無茶と無理はするなよ?」

 

「また、同じ状況になったら同じことをする自信はある、とだけ言っておく」

 

ハハハと乾いた笑いが返ってきた。

 

「志希ちゃんは同じ轍は2度踏まないよ!!自分の身は自分で守る」

 

「それでも俺はお前を守るよ、志希のお兄ちゃんだからな」

 

「お兄様・・・ジーン」

 

見つめ合う俺と志希。

 

「じゃあ、仲間外れな父さんは仕事行ってきまーす」

 

「「いってらっしゃーい」」

 

現父さんが病室から出て行ってドアが閉まったタイミングで、

志希を身体から引き剥がし、話しを始めた。

 

「志希、これからちょっと試したい事があるから、手伝って貰えるか?」

 

「私がお兄様の手伝いを断った事は、14歳以降一度も無い私が断ると思ってる~?」

 

えらく遠回しな回答が来たが、いつでも何でも手伝って貰えるのは非常に助かってる。

 

「じゃ、なんか問題出してくれ。」

 

「ほ~い。(a) F(s)=5/(s-2)^5 (b) F(s)=「おーけー、もう良いや」、さすがお兄様」

 

「いや、次行こう。ちょっと一緒に屋上に着いて来て」

 

「ん?わかったにゃ~」

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

志希と一緒に屋上に出る。

病院の屋上、いつもシーツが干してあるイメージだったが、この病院の屋上はおしゃれな庭って感じだった。

ふむ、噴水まであるな。

 

「志希、悪いんだけど、このコップに噴水の水を汲んで、俺に向かって思いっきり投げてくれ」

 

「ほーい」

 

志希は俺から紙コップを受け取ると、小走りで噴水まで行き水を汲んだ。

 

「お兄様行くよ~」

 

コップを持った手を高く掲げ、声を掛けてきた。

 

「別に、そんな離れなくても良いけどまあ良いか、よし来ーい」

 

まっすぐ立ち、目を閉じる。

 

「ほいっ!」

 

投げてきたのだろう。

 

バシャッ!!

 

「冷たっ!?」

 

「えっ!?お兄様?」

 

目を開ける。

志希が近寄ってきた。

 

「あちゃぁ・・・びしょびしょだぁ・・・」

 

志希が投げた紙コップが直撃。

 

「お兄様、何がしたいの?志希ちゃん良くわかんないんだけど」

 

 

察しの良い人ならもうわかっただろう。

今やって来た2つの事は、言わば【全知全能】能力テスト。

1週間前の俺であれば、さっきのラプラス逆変換の答えが、

志希が問題を出し終わる前に解答を、

紙コップは目を瞑ったまま紙コップをキャッチし、

飛び散った水すらコップに回収していたことだろう。

しかし結果は見ての通り。

ただいくらかわかった事がある。

問題が何かは知識で残っていた。

過去に覚えた事は普通に記憶として残っているって事だ。

 

これは存外助かる、まぁ記憶喪失では無かったから当然か。

肉体的な能力に関しては、きっと記憶と同じで過去に行った事がある技術、

一般的な能力は使えると思っておこう。

眼を開けていれば、紙コップをキャッチし、

飛び散った水も回収できるって事だ。

 

ただし新しい事や、第6感に頼ったような技術、人智を超えた力はきっと出来ない。

もし、この前と同じ状況に陥った場合、俺は志希を救えない。

 

瞬間、あの日の状況を思い出し【恐怖】した。

 

「お兄様大丈夫?」

 

気が付くと志希の顔が目の前にあった。

どうやら無意識に俯いて考え込んでしまっていたらしい。

 

「お兄様、汗・・・」

 

持っていたハンカチで顔を拭われた。

 

「もとよりびしょびしょなのにどうして汗だと?」

 

「それ位臭いでわかるよ。そうでなくても、お兄様の小さな変化くらい見逃さないよ。

 お兄様でも怖くなる事があるんだね~。ちょっとびっくりしたけど安心した」

 

「安心?」

 

不思議な事を話し出した。

 

「うん、たまにお兄様は人間じゃ無いんじゃないかぁって思っちゃう事がある。

 失礼だってわかってるし、そんな事思いたくないって私が一番思ってる。

 でも、でもね・・・それでもやっぱり拭えない事ってものはあるんだ・・・」

 

とても寂しそうに語る志希。

 

「なんかごめんな・・・でも安心してくれ、

 俺は感情に乏しいちょっと色々出来るだけの人間だよ。

 いや、【だった】だな。」

 

「だった?」

 

「うむ、どうやらお兄様は【半知半能(ちゅうとはんぱ)】の偶像(アイドル)

 なっちゃったみたいだな」

 

「【ちゅーとはんぱ】って?」

 

俺の言葉を反芻し、問いかけてくる。

 

「1週間前の俺とはもう別人って感じだな。前ほど何でもは知らないし、

 前ほど何でもは出来ないって感じ。身体の調子がすこぶる悪いんだ」

 

「ふーん、お兄様はお兄様だから別に良いんじゃないかな~って、志希ちゃん的には」

 

「存外、あっさりしてるな」

 

「はっ!?ねぇねぇもしかして、今は私の方が頭良かったりするっ!?」

 

突然のボリュームアップ。

 

「たぶんそうなんじゃないか?」

 

不確定だが、現状そんな気がするので曖昧に回答していく。

 

「お兄様がこう言った話で【多分】って言葉を使うの新鮮・・・そっかぁ、

 私のが頭良いのかぁ・・・」

 

にゅふっふと笑いながらすごくキラキラした目で俺を見つめてくる。

なんか悪戯するときとか、

碌な事考えていないときとかの目だった気がする。

が、志希のやる事なので特に不安も不快も無いので放って置いてはいたのだが、

今回はちょっと今までと状況が違うので、放って置いて良いものか悩むな・・・

 

「お兄様っ!!」

 

「はいっ!?」

 

またもボリュームアップ。突然大きな声で呼ばれたので返事をしてしまった。

 

「何かあったら私に頼ってね。お兄様は今は色々出来ないみたいだけど、

 結局昔っから私が居ないと何にも出来ない事に変わりは無いんだから」

 

とても満足げな表情で言ってきた。

それを聞いて、俺の身体の奥の方からなにか暖かくなるのを感じた。

 

「あぁ・・・そう言えばそうだったな」

 

そうだ、結局俺は1週間前と何も変わっていない、

志希が居る、それで十分じゃないか。

 

「ありがとう、志希。頼りにしてるよ」

 

いつも通り笑いかけた・・・瞬間、志希がびっくりしたような顔になり

顔を真っ赤にして俯いてしまった。

 

「ん、どうした志希?」

 

「今の・・・」

 

ワナワナしている・・・

 

ん?

 

「今の顔もう一回っ!!ねっお願~いっ!!!写メ撮るスグ撮る引き伸ばす!!」

 

「おいおい、どうしたんだよ、落ち着け」

 

「にゃー、わらって~!!!笑え~!!!」

 

「マジで落ち着け~っ!!」

 

この後、何度か笑顔を作ってみたものの、志希の納得いく笑顔にはなれなかった。

ただ、志希の携帯のメモリーがいっぱいになるほど写真を撮られたのは言うまでも無い。

 

あの時志希に見せた笑顔は、どんな笑顔だったのだろうか・・・

わからないが、もうくだらない事を考えるのはやめだ。

一生分考えたかもしれない。

もとより俺は考えるのが大嫌いなんだ。

 

 

でも・・・考え抜いたおかげで、気分はスッキリしたし

とりあえずはやる事は決まった。

 

『では、素晴らしい人生を・・・』

 

歩いて行こうじゃないか、

【半知半能】になった俺の2度目の人生を楽しもう。

きっと【全知全能】の頃より楽しめる、そんな気がした。

 




ここまで読んでいただき,誠にありがとうございます。

暫く半知半能(ちゅうとはんぱ)状態が続きます。
タイトルと違うって言わないでくださいごめんなさい。

では失礼致します。


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Cinderella Story 第1幕
第5話 - 意地悪な姉 Mean Older Sister -


毎々お世話になっております。

旧章手直しを中途半端に新章突入致します。
時系列的に,アニメの2話目,
武内Pは既にNGsのスカウトを終わらせている段階です。

やはりLunatic Showは良い曲ですね。

冒頭はまだスカウト前だと思ってください。
申し訳ありません。

※しばしの間、騎士の能力の【半知半能(ちゅうとはんぱ)】が続きますがご承知置きください。


「ねぇねぇニュース見た?」

  「騎士(ナイト)様交通事故だって・・・」

「女性を庇って轢かれたらしいわよ?」

   「女性ってもしかして恋人っ!?」   

       「妹さんらしいって」

「それよりも走り出した瞬間、地面に穴が開いたらしいぞ」

   「なんだそりゃ?」

      「恐ろしく速い手刀、オレじゃなきゃ見逃しちゃうね」

  「それ言いたいだけなんだろ」

       「空飛んだんだってよ!」 「ちくわ大明神」

「さすがは騎士(ナイト)様って感じだけど身体は大丈夫なのかな・・・」

      「・・・」

「「「「「誰だ今のっ!?」」」」」

 

 

アイドルの一ノ瀬騎士って人が交通事故?で入院したらしい。

朝から学校ではこの話題で持ち切りだ。

 

「?」や「らしい」と言って居るのは、私は余りそう言った事に興味が無いから、

家族や友達から聞いたり、今みたいに勝手に聞こえてくる情報しか私には無いのだ。

そもそも、アイドルの交通事故?の話で、

なぜ空を飛ぶ車や人、地面に大穴が開くなどの単語が聞こえてくるのか?

そんな話を聞いて交通事故に結び付ける事はできるだろうか?

私には到底無理。

 

「はぁ・・・」

 

「どうしたの凛?あからさまな溜息なんかして」

 

「なんか、色んな事考えてたら虚しくなってきちゃった」

 

「あはは、凛ってばおっかしぃー」

 

「別に笑わなくても良いのに・・・」

 

「ごめんごめん」

 

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

 

 

「昨日、騎士様が事故ったであろう現場を見て来ちゃった」

 

「「マジで!?」」

 

「マジマジ大マジ!やっぱ近くは立ち入り禁止で詳しく見えなかったけど、

 噂の歩道に青いシート被せてあって、シートはあからさまに窪んでたんだよねー。

 ありゃあ、間違いなく大穴開いてますわー」

 

「やっぱ、騎士様が地面を蹴った衝撃で穴が開いたってのは事実なのか・・・ゴクリ」

 

「さすが全知全能の偶像、空も飛べるし気功波も撃てるってのは嘘ではなかった。」

 

「あっはっはっはっー、まぁ何にしろそれ以外の所は特に変わったところは見えなかったかなー」

 

「そっかぁ」

 

「んー・・・」

 

「どうしたの未央?」

 

「いや、しかし入院かぁ・・・病院とか調べたらお見舞いとか行けないかな?」

 

「それはどう考えても無理でしょ」

 

「だよねー」

 

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

 

「1・2・3・4・5・6・7・8」

 

 

「はっ・・・はっ・・・はっ・・・」

 

キュッキュッキュッ

 

「はい、ターン」

 

「ターーああぁわわぁっ」

 

ドテーン

 

「卯月ちゃん大丈夫?」

 

「えてて、えへへへ大丈夫です。はぁ・・・また失敗しちゃいました・・・」

 

 

「今日はいつもより調子がよくなさそうだけど、

 卯月ちゃんの大好きな騎士様が事故にあった事と関係あったりする?」

 

「うぐっ・・・」

 

「え?・・・図星・・・?」

 

「え・・・えへへへ・・・私ってそんなにわかりやすいですか・・・?」

 

「いや、何となく話題作りの為に冗談で言ってみただけなんだけど・・・

 これが嘘から出た誠ってやつなのねー」

 

「んもぅ、トレーナーさん酷いですよー><」

 

「あはははっごめんごめん。でも卯月ちゃんなら大丈夫よ。

 ちょっとずつではあるけど、着実に確実に成長してるわ。

 だからその調子で頑張ってね」

 

「はいっ!島村卯月、頑張ります!!」

 

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

 

 

英雄(ひでお)~」

 

「お、騎士じゃん。ひさぶりぃ、大体3週間ぶりくらい?」

 

無事(予定より早めに)退院を果たしたので、

仕事の話その他諸々をしに事務所へ顔を出しに来た。

両親からは『事務所にはお休みの連絡しておいたから』って言われてたけど、

そう言えば一回も俺自身が連絡していなかった事を思い出していた。

 

「すまん、俺しか稼ぎ頭が居ないのに急に休む事になって」

 

「それに関してはこっちとしては怒るに怒れないなぁ。

 それに騎士は謝る必要性皆無だしね。なにより被害者だろ?

 あと妹さん助ける為たって車と妹さんの間に割って入るって・・・

 普通出来ない事よ?」

 

「普通にあの事態がほいほい起こって貰っても困るけどな」

 

「そらそうか。んで、病み上がりさっそくで申し訳ないんだけどさぁ、

 仕事あるからいつも見たくちゃちゃっと熟してくれるかい?」

 

仕事の話を持ち出された。

仕事をする上で俺のコンディションを知って貰わないと成り立たないので、

俺の現状を説明する。

 

「その前に英雄に言わないといけない事がある」

 

「ん?まじめな話?」

 

「ああ」

 

「そうか、正直聞きたくないけどマジっぽいからちゃん聞いてやらんこともない」

 

相変わらず腹立つ奴だな。

 

「お前の為に簡単に説明してやろう。事故前ほど万能じゃなくなった」

 

「へー」

 

鼻に小指をつっこむジェスチャーをしながらとても興味無さそうな返事をする。

 

「やっぱ腹立つな。殴って良いか?」

 

取敢えず英雄の頭をはたいた。

 

「痛っ!了承を得る前に行動を起こすな。しかしなんだな、

 今のお前はなんか垢抜けてて、前よりいい感じだな、うん」

 

「何をわけわからんこと言ってんだ。俺の話は理解できたのか?」

 

「概ね。仕事に差し支えないだろ。万能で無くなったって言ったって、

 人間に出来ることを頼んでるだけなんだから、お前が一生懸命やれば良いだけだろ」

 

「確かに、それもそうだな」

 

一応入院中や退院してからも能力確認は一通りしてきた。

あらかた予想通り、一度熟したことのある事はある程度出来る。

例えば今までやってきた自分の歌や踊りは当たり前に、それこそ呼吸をするレベルで出来る。

しかし当然と言えば当然で、やはり問題点もある。

今までと違い体力には限界がある事と、何よりの問題点が新しい事に対する適応力の皆無(・・)さ。

これが相当に本当にヤバい。

新しい事を突き付けられると、今までの反動で嬉しいのとどうしたら良いのか?と言う困惑が

同時に荒波の様に押し寄せて、情報処理能力が著しく低下し思考停止状態が長くて7秒間(志希談)

訪れてしまう。その時の俺の表情たるや、人様に見せられる物じゃないらしい(志希談)、

トップアイドルたる俺がそんな顔を晒す訳にいかないので取敢えず特訓をしたが、所詮は付焼刃、

突発な事象には到底対応しきれないのだ。

だもんで、これは簡潔ではなく明確に具体的に説明した。

 

「ほいほい了解しましたよー。じゃあ暫くは目新しそうな挑戦系の番組は回避しておきますかねぇ。

 当分はCM撮影や歌番組中心で、最悪ドラマ撮影が増えるけどそこは我慢しろよ」

 

「背に腹は代えられん」

 

これに関しては俺に非があるので已む無しだ。

しかし、

 

「そう言えば姫乃宮さんは?」

 

8723プロ(うち)のムードメーカーの姫乃宮さんが見当たらない事に気が付いた。

 

「あぁ、姫ちゃんならプロデューサーのお勉強をさせに他社に研修行かせたよ。

 俺教えるの下手だし、何より時間無いからな」

 

なるほどこれも妥当な判断である。

あるのだが、もともと英雄(コイツ)があんな事言いださなければそれすら行う必要性が無かったと思うのだが。

 

「なぁ、そもそもプロデューサーをやらせる必要あるのか?」

 

「オレ、プロデューサーツカレタ。シンジンハイッタ、アトマカセタ」

 

突然カタコトで話し始めた。

 

「そうか、殴るわ」

 

殴った。

 

「ひどくね?」

 

下らんやり取りをしつつ、なんやかんやで今後の仕事の打合せも無事?終わり、

日付も変わり本日は久しぶりの仕事の当日。

英雄の粋な計らい?により、久しぶりの仕事は簡単なものにしてくれたみたいだ。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

346(みしろ)プロ敷地内の撮影ブースね」

 

現在自家用車で移動中。

 

そう言えば、英雄のヤツ何も言ってなかったが、

俺、346の敷地内にいきなり入って大丈夫なのか?

まぁ346側からの依頼だしきっと受付で話せば、大丈夫だろう。

そうでなくても最悪、英雄に連絡して貰えば問題無いはず。

などと頭の中でおしゃべりしていると、

 

「うし、見えてきた」

 

目的の場所が視界に入った。

 

「車ってあの門から直接入って良いのだろうか?」

 

良く見ると【来客用Pこちら】と丁寧に指示が出ていた。

さすが天下の346、新設設計である。

 

難なく来客用駐車場を見つけ、駐車し、受付に歩いて行く。

 

「いやぁ、しかし初めて来たけど、ひっろいなー(小並感)」

 

もはや今時の小学生でも言わないかもしれない簡素な感想を言ってしまった・・・

 

「簡素な感想・・・ふふっ」

 

「ん?」

 

後ろから声がした、と言うか俺の心の中を代弁された事に驚き、振り返る。

 

「あれ、高がk・・楓さん・・・」

 

「あら?誰かと思えば、騎士君でしたか。お久しぶりですね、お身体の方はもう平気なの?」

 

彼女は『高垣楓』

346の筆頭稼ぎ頭と言っても過言ではないアイドルだ。

モデルからアイドルに転向した経歴の持ち主。

ふんわりとしたボブカット風の髪型に、左目の泣きぼくろがチャームポイントのややあどけない顔立ち、

いわゆる童顔と言うそれに、高身長。

そして何より目につくのは、右目が緑、左目が青(ヘテロクロミア)だ。

人間のオッドアイなんて生まれて初めてで、初対面の時はひどく申し訳ない事をしてしまった。

今思い返しても無くしたい過去だ。

 

「未だに楓、と呼んで下さらないのですね?」

 

「やはり貴女の方が年上ですし、そこは譲歩願いたい所なのですが・・・」

 

初対面の時にやらかした事により、高がk・・・楓さんを楓さんと呼ばなければならなくなった。

初めは呼び捨て希望だったのだが、英雄の口添えによりさん付けで事無きを得た。

 

「あの日の騎士君は本当に、本当に情熱的だったのに・・・」

 

「誤解では無いのですが、誤解が発生しそうですしもっと根深い問題が発生しそうですので、

 こんな所でそんな発言をそんなボリュームでしないでくださいお願いします許してください」

 

「ふふふ、慌てちゃって可愛いですね。じゃあ今晩お仕事が終わったら連絡ください。

 19時以降は私オフですので、お付き合いしていただけますよね?20歳にもなった事ですしね」

 

「・・・はい。仰せのままに」

 

このように若干の主従関係みたいなものが出来上がってしまっている。

今現状この世界に俺の頭が上がらない人ベスト3に入るお人だ。あと2人はお察し。

取敢えず仕事の時間が迫っているので、受付を済まし、フロアにいた武内さんに軽く挨拶をして

現場に向かうのだった。

 

 

「ねぇねぇ、今のって・・・」

 

「はい、高垣楓さんと騎士様に間違い無いです!!」

 

「プロデューサーって、2人と知り合いなの?」

 

「ええ」

 

「すごいです!」

 

「ひょっとしてプロデューサーって大物」

 

「高垣さんは同じ事務所ですから・・・、一ノ瀬さんは以前お仕事でご一緒させて頂いただけです」

 

「一ノ瀬って、事故のニュースになってた人・・・だよね?」

 

「それより、遅刻ですね。」

 

「あ・・・」「え・・・」「うぁ・・・」

 

なんか、ロビーが少し騒がしくなった気がしたが、挨拶回りの事を考えると時間も余り無いし

早く向かわないとな。

 

 




最後まで読んでいただき誠にありがとうございました。

では,またお会い出来る事を願って,
この辺りで失礼致します。


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第6話 - 絢爛舞踏会 a Brilliant Ball -

毎々お世話になっております。

前回,ひっそりと前書きに追加しましたが,
しばしの間【半知半能(ちゅうとはんぱ)】生活が続きます。
その方、ご承知おきの程よろしくお願い致します。




「一ノ瀬さん入られましたぁー」

 

撮影現場をさっと一瞥し、すっと息を吸い込み声を発した。

 

「久し振りの現場なので、何かとお手数をお掛けすることになるかと思います。

 ですが一生懸命やらせて頂きますので、本日はどうぞよろしくお願い致します」

 

現場のスタッフ一同に聞こえるように大きな声で挨拶をする。

そして、今日ここに来るまでずっと気になっていた事を聞く事にした。

 

「因みに今日は何のための撮影なんですか?」

 

「え?一ノ瀬さん、聞いてないんですか?」

 

驚きを隠せないスタッフさん方。

 

「はい、如何せん8723(うち)の社長兼現Pは適当なヤツなもんでして・・・」

 

「そうなんですか・・・、今回は346プロと8723プロのコラボ企画がございまして・・・」

 

コラボ企画・・・英雄の野郎・・・こんなデカい話黙っていやがって、

ただじゃおかねぇ・・・

 

「そうなんですか、それは大変素晴らしいですね」

 

「で、その企画の宣材を今回は撮らさせていただく形になっております」

 

「わかりました。みなさんが納得行くまでやりましょう」

 

「それは私も入っていますか?」

 

後ろから非常に聞き覚えのある声がした。

 

「高垣さん入られましたー」

 

「い゛っ!?」

 

たk・・・楓さんも同じ仕事だったとは・・・

しかし、それもそうか・・・コラボ企画なんだ・・・

お互いの顔となるアイドルの2ショット・・・当然と言えば当然か・・・

 

「本日は宜しくお願い致します。よいしょ(・・・・)って感じで良いショ(・・・・)ットを撮りましょうね?ふふふ」

 

「は、ははっはっ・・・」

 

何とも言えない空気感・・・さすがです。

 

「騎士君も今日は宜しくお願いしますね」

 

無邪気な笑顔で俺にそう言った。

この人、さては知ってたな・・・

 

「t・・・楓さん今日仕事が同じって知ってましたね?

 なぜあの時教えてくれなかったんですか?・・・楓さんもお人が悪い」

 

「騎士君がちゃんと名前で呼んでくれないから、

 お姉さんは意地悪がしたくなったのです」

 

「子供ですか」

 

「子供ですよ、ふふ」

 

25歳児ここにあり、と言った感じだ。

25歳児と言うのはこの高垣楓を象徴する通称だ。

 

「ともかく、仕事で・・・楓さんと一緒なら心強い」

 

「私の名前呼ぶ前に言い澱むのそろそろやめませんか?」

 

「癖の様なものです。今日だけで大分成長して来てますから、むしろ褒めてください」

 

「あら、そうなんですね。よしよし、良くできました」

 

頭を撫でられた。

親以外で頭を撫でられるのは初めてかもしれない。

ちょっと心地よかった。

帰ったら志希にお願いしてみようか・・・止めよう。

嫌な予感しかしない。

しかしまだ撫でられている・・・

 

「あの・・・そろそろ恥ずかしいので・・・」

 

「あら、満更でも無さそうな表情だったものだから、

 つい気に入ってくれたものなのだと・・・」

 

しまった、顔に出てたのか・・・

事故後、表情を指摘される出来事が多くなった気がする。

【全知全能】で表情を作っていたから、能力が使えない今、

表情筋の制御が出来ないのか・・・?

もともとやっていた事だからそんな事はないと思うんだが・・・うーむ、わからん。

が、今はそんなこと気にしている場合ではない、仕事モードに切り替えなくては。

 

「取敢えず、嫌では無いですが、恥ずかしいのでもう止めてください」

 

「では、人目が気にならない所でなら良いのですね?言質取りましたよ?」

 

「そこまでは言ってないです、勝手に捏造しないでください」

 

「冗談ですよ、ふふふ。やっぱり、騎士君とのお話は楽しいですね。

 今夜の為に頑張りましょう」

 

「申し訳ないですが僕は今夜の為にではありませんが、頑張りましょう」

 

「んもう、もう少し話を合わせてくれてもいいのに、騎士君のケチんぼ」

 

他愛ない会話をし、楓さんに合わせながら撮影を熟していく。

写真撮影だけなので、そんなに難しい事では無く着々と進んで行った・・・

ような気がした。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

久し振りの仕事なのだがやはりもともとやった事のある事なので、難なく出来る・・・

出来るが・・・

 

「騎士君、ちょっと写りの角度が良くない気がするのですが・・・」

 

「そうですね、もっと肩を引きましょう。あと、少し上からも数枚お願いできますか?」

 

「わかりました!」

 

入りの時にみなさんが納得いくまでと言ったが、一番納得いかないのは自分自身でした。

 

「では、15分休憩入りまーす」

    「おい、一ノ瀬さんと高垣さんの飲み物さっさと準備しろ!!」

 「6番フレーム手入れヨロシク」

「今の内にライト交換しとけ」

 

周りは休憩に入ったが、楓さんと俺はまだ構図に納得がいかず、打合せを続けていた。

 

「ここはもっと騎士君を前に出していった方が良いと思うの」

 

「いや、今回はコラボです。僕一人が主役って訳では無いので、

 やはり互いが互いを主張できる構図が良いと思うんです」

 

今回たった3種類の構図の写真を撮るだけなのだが、かれこれ3時間ほど撮影中だ。

しかもまだ1種類も終わっていない。

今日は楓さんも俺もこれしか仕事が入っていない為、写真撮影に専念している。

なるほど、19時以降ね・・・こうなる事は想定内って事か・・・

 

「あの・・・お話し中申し訳ありません・・・」

 

聞き覚えのある耳心地の良いバリトンボイスが後方から聞こえてきた。

 

「お疲れ様です。どうしました、武内さん」

 

楓さんが応答した。

 

「休憩中ですから問題ないですよ、僕たちがイレギュラーなだけです」

 

そして俺も続く。

 

「イレギュラーなのは騎士君だけです、私を巻き込まないでください」

 

「ええ~」

 

「あの・・・、やはり止めておきますか・・・?」

 

ほとほと困り果てたように、首に手を回して話す武内さん。

 

「あぁ、ごめんなさい。要件をお伺いしましょう」

 

「はい・・・、先ほどまで、別のブースで新人アイドルの宣材を撮っていたのですが、

 アイドル達(・・・・・)が是非お二人にご挨拶をしたい、と・・・」

 

なるほど、良くある話だ。

 

「今は休憩中ですし、今日は撮影だけですので問題ありませんよ、僕なんかで良ければぜひ」

 

「あら、【僕たち】、ですよ。武内さんのお話ではお二人、私も含まれてました」

 

「さすがに楓さんを『なんか』なんて言えませんよ」

 

「それは皮肉ですね」

 

「では、そこまで見学には来ていますので、こちらに呼んでしまいますね」

 

そう言って後ろを振り返り手招きをし始めた。

おおぅ、結構な人数が見学してたんだな。

しかし、個性的な子たちばかりだな・・・

良くこれだけの逸材を集められるものだ。

 

「ほっ・・・本物の騎士さんが・・・私の目の前にっ!!」

「ほっ・・・本物の騎士様が・・・私の目の前にっ!!」

「まっ・・・誠の偽り無き始祖が今・・・我のすぐ傍にっ!!」

 

三人の女の子達が三者三様の感想を言っている。

 

「わー本物のナイトさまだー。すっごーい。きゃはは」

 

セミロング?ショート?の快活そうな女の子が大きな声でそう言った。

 

「こら、みりあちゃん、騎士さんに失礼にゃ!!」

 

「はははは、大丈夫ですよ。もう慣れっこですから。」

 

「元気だね」と頭を撫でると「んふふ~♡」と言いながら気持ち良さそうに目を細める。まるで小動物でも撫でている気分だった。

 

 

   8X―・・・・・・・・

 

 

そんなこんなで休憩が1時間になったり、

アーニャちゃんと再会したり

美嘉ちゃんが失神したり、

黒歴史を再発させたりとそんな休憩時間でした。

 

「さて、じゃあ撮影の方を再開しましょうか」

 

「そうですね、今夜の為に納得のいく仕事をしましょう」

 

「ふふふ、そうですね」

 

どこか嬉しそうな楓さん。

 

「あのちょっとした思い付きなのですが、お姫様だっこで撮影とかどうでしょうか?」

 

楓さんの突然の発案。

 

「あぁ、良いですね。構図的に悪くないと思います。一ノ瀬さん・・・お願い、できますか?」

 

少し申し訳なさそうにお願いされた。

体力とか筋力的な不安でもあったのだろうか?

そうか、そう言えば俺って退院直後だった・・・

 

「はい、楓さんが大丈夫と言うのなら、僕は一向に構いませんよ。

 体調の方もさして問題ありません」

 

多少は衰えてはいるが、大体2t程度は持ち上げられる筋力はあったので、

楓さん一人を抱えるのなんて、紙を持つのと大差はない。

 

「では、お嬢様、お身体に触れさせて頂きますが、ご容赦くださいね」

 

「ええ、良くってよ」

 

楓さんの右側に立ち、自分の左手を楓さんの左肩へ添える。

その時点で楓さんは自分の両腕を俺の首に回してきた。

その状態で楓さんの背中側に右手を持っていき、

腿の辺りからスカートが捲れ無いように、

膝裏に滑らせつつ腕を掛け、負担が掛からないようにすっと持ち上げる。

 

「いやぁ、お二人がやると絵になりますねー」

 

スタッフが煽る。

 

「おおぉぉー」パチパチパチパチッ

 

離れて見ていたシンデレラプロジェクトの面々がなぜか拍手をしていた。

美嘉ちゃんはなぜか耳まで真っ赤になっているのが伺える。

蘭子ちゃんは大きな声で「我も、我も~!!」と言っている。

一体何が「我も」なのだろうか?

ふむ、お姫様抱っこと言っても結局ただ抱えあげただけ、

なぜここまで盛り上がるのか正直知らんが今は撮影に集中しよう。

 

「楓さん」

 

「ひゃいっ!?」

 

「?」

 

話し掛けたら素っ頓狂な声を上げる楓さん。

 

「どうしました?体制が辛い様ならいったん降ろしますが・・・」

 

「違います違います、大丈夫です、問題ないです、何でもないです、ハイ」

 

「?」

 

普段の楓さんからは想像できないほど取り乱している気がする。

正直、胸部や臀部には触れないように細心の注意を払っているつもりなので、

そこは問題ないと思っているのだが・・・

 

「これは・・・想像以上にクルものがありますね・・・」ボソッ

 

「え?なんて?」

 

「いえ、何でもありません。フゥ・・・そろそろ落ち着いてきました。

 さぁ、撮影にうつりましょう。」

 

「?」

 

まぁ、深く考えても仕方ない。

考えることは大っ嫌いだが【全知全能】が無くなって以降、

自分で考える事が非常に多くなった。

結果、考える事はもっと嫌いになった訳だが、その実、楽しくない訳では無い。

どっちつかず状態で今は生活している事になる訳で、

その状態を作り出している自分自身がちょっと嫌いになって来て居たりもする。

 

などと考えてしまっていた、これはイカン、負のスパイラルにはまってしまう・・・

 

「騎士君?どうかしました?」

 

「すみません、ちょっとぼーっとしてしまいました」

 

 

「ふふ、お揃いですね」

 

「そうですね。さて、そろそろ1種類目位終わらせないとスタッフに申し訳ないですから、

 スパートを掛けましょうか?」

 

「すぱーっと、ね?ふふ」

 

撮影は無事、19時の20分前に終了した。

 




最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

話の進むスピードがゆっくりで申し訳ありません。

短めですが,この辺りで失礼致します。


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Fourth Side Story ~ 楓's Memory ~

毎々お世話になっております。

久し振りのサイドストーリーとなります。

メインのシンデレラガールズより先に楓さんで申し訳ございません。

今しばらくお待ちください。


 こんにちわ、高垣 楓です。

 

 今、騎士君と仕事中なのですが、

 騎士君と仕事をする時、決まって思い出すことがあります。

 

 それは、私が初めて騎士君にお会いした日のお話。

 

 

 ──────────────────────────

 

 ―シツレイシマス! 

 

「初めまして、一ノ瀬騎士と申します。本日は宜しくお願い致します」

 

「あら、初めまして。高垣楓です。貴方のお噂はかねがね・・・今日は、宜しくお願いしますね」

 

 今日は話題の騎士様と初めてのお仕事。

 どんな人なのかちょっと気になっていたのだけれど・・・残念・・・悪い方に予想が外れてしまいました。

 

 外見はやはり悪くない、職業柄やはり外見は重要です。

 川島さん辺りはとても好きそうなタイプだと思われますね。

 あとは・・・そうですね、物凄い丁寧でした。

 マニュアル通りに人と接している、みたいな印象・・・それならまだ柔らかい例えかもしれません。

 表情が自在に動くロボットの様・・・表面上だけで、感情に起伏が全く感じられませんでした。

 たった一言の挨拶で私は彼にそんな印象を持ってしまいました。

 

 突然ですが、私は旅行をするのが趣味なんです。

 色んな地方に足を運び、色々な所に宿泊をする。

 そして色々な人と出会い別れまた出会う。

 そんな事をずっと、何度も何度も繰り返してきました。

 その所為もあってか分かりませんけど、人を見る目は養われていったと思います。

 ですから、たった一言で、私は彼に苦手意識を覚えてしまいました。

 

 今日はつまらない一日になりそうだなぁ・・・と、そう思ったんです。

 

「はい、よろしくお願いs・・・・」

 

 唐突に言葉を途中で止めた彼は、私と目を合わせたまま、まるで時が止まったかのように急にピタリと・・・動かなくなってしまったんです。

 

 どうしたんでしょう? と思ったのですが、彼は私の目を見ている事で一つの結果に至りました。

 私の両目が気になってるのでは? と。

 まぁ余り日本には、と言うより世界的に見ても、人間の虹彩異色症(ヘテロクロミア)はそうそう居るものでは無いようですし。

 そもそも、病気と言う認識もありますしね。まぁ、小さい頃は奇異なモノを見るような目で見られるからこの目は嫌いでした・・・

 けれども、今は周りも自分も大人になりましたし、色々な見方(・・)も変わり、味方(・・)も増えましたね・・・ふふふ。

 

 しかし、彼は一向に動く気配がありません。

 

「あの・・・大丈夫でsきゃっ!?」

 

 急に肩を掴まれました。

 全然痛くは無いのですが凄い力で抑え込まれて全く動けません。

 不思議です。正直怖くないかと言えば嘘になりますが、でも、何故か危機感はありませんでした。

 

「とても不思議だ・・・、そしてとても綺麗で魅力的だ・・・」

 

「えっ!?」

 

 さっきまでの表情付ロボットの時と打って変わって、情熱的で感情的な表情と瞳をもって迫ってきました。

 

「もっと、もっと良く見せてもらって宜しいですか?」

 

 そう言って、私の答えも聞かずに騎士君は両手を私の頬に添えて来ました。

 そして彼の顔がどんどん近づいてきて・・・

 

 スパコーン!!! 

 

「おうコラ、騎士よ。白昼堂々女性に襲い掛かるとは・・・お前も中々どうして犯罪者になったな。騎士の名が泣くぜぇ?」

 

 凄いおちゃらけた感じのお兄さん? おじさん? が騎士君の頭を、

 丸めた台本で叩いたようでした。

 この感じですと、騎士君の事務所のお方でしょうか? 

 

「あ、どうもどうもはじめましてー。私こう言う者です」

 

 そう言って私に名刺を渡して来ました。

 心でも読まれたのでしょうか? 

 しかし、プリクラを貼っている名刺なんて、

 とても内面がお若い方なんですね。

 

「ご丁寧にありがとうございます。あら?」

 

 名刺の名を見て少し驚きました。

 

【8723プロダクション 代表取締役兼プロデューサー】

【英 雄 -HANABUSA TAKERU-】

 

「8723のプロデューサー・・・あなたが噂の英雄(えいゆう)さまですか。貴方のお噂もかねがね」

 

 騎士を騎士たる男に育てた英雄(えいゆう)、8723の英雄(ヒーロー)(はなぶさ) (たける)

 名は聞くのに表舞台にまったく出て来ないので、実は騎士君が作り上げた架空の人物なのではと言われているほど。

 業界内でも現場でお目にかかる事は、天然記念物に遭遇するのと同じくらい難しい事らしい。

 

「346プロの高垣楓さんが俺なんかを知って居てくださって至極光栄・・・」

 

 スっと息を大きく吸ったかと思うと、

 

「うちの若輩者が大変失礼いたしました~!!!」

 

 非常に大きな声と共に英雄さんが深々と頭を垂れていた。

 

「な~にボケ~ッっと突っ立ってんだよ!! お前も頭を下げるんだよ!! オラッ!!」

 

 英雄さんに髪の毛を掴まれ無理やりな感じで騎士君の頭を掴み、頭を下げさせました。

 頭を掴まれた騎士君は心此処に非ずな感じで、操り人形のように見えます。

 

「大変申し訳ありませんでした」

 

 頭を下げると同時に騎士君からそんな謝りの言葉が出ました。

 しかし、このセリフも一言目同様、機械音声の様な、感情の起伏が全く無い・・・そう、条件反射で出たような謝罪の言葉・・・

 

 そんな状況をみて、さっきの騎士君を思い出し私はちょっとだけ悪い事を思いつきました。

 

「ふふふ、大丈夫ですよ。でも、噂のトップアイドル様がこんなに情熱的な男の子だったなんて、お姉さんちょっとドキドキしてしまいました。他の共演者様にもこのような事をしていらっしゃるのですか?」

 

 事実ちょっとってレベルでは無かったのですが・・・

 

 良いですか、考えても見てください? 

 初対面であれ、自分の中でそれなりに格好良いなと思うような男性に、肩を掴まれ、あげく「綺麗」だの「魅力的」だの言われたあと、頬に両手を添えられ、触れられそうな程に顔を近づけられて、ドキドキしない女性は居ないかと思われます。

 どう言うドキドキかは置いておいて。

 

 ふぅ、少しヒートアップしすぎました。

 

 と言う事で、仕返しって程でもないですが、少し意地悪な質問をしてみました。

 彼は何と答えるのでしょうか? 

 でも彼は非常に頭も良いと聞いていますし、当たり障りない感じの答えが、

 

「いえいえ、滅相もございません。高垣さんの瞳があまりにも綺麗だったもので、つい出来心で、いや、魔がさして・・・違う、興奮して・・・いやいや・・・・しかしもしここにプロデューサーが居なかったらと思うとゾッとします。と、言うより今もなおしてます。ごめんなさいすみませんでした本当にごめんなさい申し訳ございませんでしたお許しくださいなんでもしますから」

 

 凄く綺麗な動作で直立の姿勢から土下座の姿勢に変わる騎士君。

 予想外にも結構な取り乱しっぷりですね。楽しくなってきました。

 しかし本当に綺麗な姿勢・・・

 これは、あれですね。巷で噂の【無駄に洗練された無駄の無い無駄な動き】ってヤツでしょうか。

 ともあれトップアイドルと呼ばれる騎士君を土下座させてるこの現状・・・

 特にそう言った性癖とか趣味は持ち合わせては居ないのですが、なんかこう、グッっとくるものがありますね・・・うふ、ふふふふ・・・

 

「どうしましょう、流石に世界の騎士様を通報する訳にはいきませんし・・・どうするのが得策かと思われますか? 英雄(えいゆう)様?」

 

 事の成り行きを一度8723さんに渡して見る事にしましょう。

 まぁ、考えは無くは無いのですが、あちらがこの状況をどう言う風に挽回するのか気になる所です。

 

「ふむ、今回は俺が同伴で最悪な事態は回避できた~つっても騎士の前科は消えん訳で、ここで高垣さんが俺に意見を求めて来たって事は、譲歩の余地アリって事なわけだ。理解はしてるか騎士?」

 

「あ、ああ・・・いえ、はい」

 

 土下座姿勢のまま、顔を下に向け返事をする騎士君。

 

「高垣さんが納得出来る条件を提示して見せるか、もしくは、高垣さんがすでに何か考えついているから、それをお前が言い当てて実行すればそれで良し」

 

 英雄(えいゆう)さんは騎士君の近くにがしゃがみこみ、騎士君の髪の毛を鷲掴み、持ち上げて顔を覗き込んでそんな事を言っていた。

 構図的にガラの悪い人が絡んで恫喝してるみたいに見えますよ? 

 

 しかし、この8723のプロデューサーさん、騎士君のプロデューサだけあってやはりと言うべきか。只者では無さそうですね。私がすでに条件を持っていると断言しました。と言う事は、私の一挙手一投足から何か導き出し得た結果なのでしょう。

 

「ふふふ、どんな言葉が飛び出してくるのか楽しみですね」

 

「・・・」

 

 土下座姿勢で下を向いたまま、沈黙する騎士君。

 直後、彼は姿勢を変え、私の前に跪く形になり口を開いた。

 

「では、私の持てる力全てを使い、私が出来うる限りを尽くし、あなたの望みを何でも叶えて差し上げる・・・と言うので、いかがでしょう、か・・・?」

 

 私の顔色を窺うように、しかし自信有り気と言った感じの無表情で声高々に、しかし尻すぼみに宣言した。

 

「えらい大きく出たねー、騎士ー」

 

 願い事一つ、どこぞの物語の台詞みたいな事を言い出しました。

 

「最早、俺の進む道はそれしか残されていない。それを捨てれば後は犯罪者の道のみ・・・なれば、ここで高垣さんの奴隷になる事だって辞さない」

 

 奴隷と来ましたか・・・そこまで高望み・・・と言うより、そんな下衆な考えはしておりませんよ? 

 言うほど怒っても居ないですし、問題にしようとも思って居ないのですよね・・・あら? 

 英雄様が下を向いて肩を震わせておりますね・・・笑って・・・る? 

 

 なるほど、私が問題にする事も無いと結論付けていた・・・と言う事でしょうか。

 だから、行き過ぎて考え過ぎている騎士君を見て笑っている・・・と、

 中々どうして私以上に意地悪な上司様ですね。

 

「そこまで言うのなら、願いを叶えて頂きましょう」

 

「私が出来うる事ならば何なりと・・・」

 

 騎士君は今何を考えているのでしょうか? 

 私に奴隷になれと言われれば本当に奴隷の様になってくれるのでしょうか? 

 もし、奴隷では無く恋人にと言ったら・・・って、あら? 私は一体何を考えて・・・

 

 恋人・・・か・・・、この短時間で、少なからず私は騎士君を恋人にしても良い・・・かもと考える程には意識してしまっている、という事でしょうね。

 こんな事考えたのは高校生以来でしょうか・・・? 

 

 彼の何に私は魅かれたのでしょう? 

 自分の事なのに良くわかりません。

 これからゆっくり考えて行く事にしましょう。

 

 なにはともあれ今考えるべきは、

 

 

 私の願い・・・

 

 

 元々考えていたものと変わりますが、私の心がそれを望んだので、それに素直に従うとしましょう。

 

 

「楓・・・と、そう、私の事を呼んでください」

 

「はっ?」

 

 間の抜けた顔を顔と返事をしたので、再度お願いを口にします。

 

「ですから、私の事は楓、と、下の名前で呼んで下さい。それがあなたに望む私の願いです」

 

「はっ? じゃねーよ、はっ? じゃ。な~に間の抜けた返事してんだよ」

 

「いや、だって・・・」

 

 急に狼狽し始めました。気になったので聞くことにしましょう。

 

「騎士様には出来ない事でしたでしょうか?」

 

「出来る出来ないでは無く、モラルと言いますか、プライドと言いますか、ポリシーと言いますか・・・」

 

 えらくハッキリしないですね。何が問題あるのでしょうか? 

 

「では、警察に電話でも致しましょうか・・・」

 

 携帯電話を取り出してみる。

 

「わー、わかりました。か・・・楓・・・さん」

 

「楓、です」

 

 どうせなら呼び捨てが良いですね。

 

「か・・・楓・・・・・・・・・さん」

 

「むー」

 

 頑固ですね。

 

「リピートアフタミー。か!」

 

「か・・・」

 

「え!」

 

「え・・・」

 

「でっ!!」

 

「で・・・・さ「ぶーっ!!」」

 

 騎士君も強情ですね・・・

 

「まぁまぁ、高垣さん、こいつは時間かけて躾けて行きますので、今日はこの程度で・・・もう少しでリハも始まりますし」

 

 英雄様に止められてしまいました・・・

 

 

「むー、では最後にもう一つ、8723プロ様にもお願いがあります」

 

 流石に断りはしないでしょうし、欲深いとも思われないと思います。

 

「はいはい、何なりと」

 

 とても軽口に、でもとても快く返事が返ってきた。

 

「最低でも1年に1回、騎士君とお仕事をさせて下さい。内容は問いません」

 

「それは、こちらとしては大変ありがたい話なのですが、良いんですか勝手に決めちゃって?」

 

「いえ、私は普段通り346で過ごして居るだけ。私と一緒の仕事を取るのは英雄様の手腕にかかっておりますよ?」

 

「なるほど、そいつは難しい願いだ。わかりました。その望み必ずや騎士と共に叶えて見せましょう」

 

「言質、しっかりといただきました。忘れずにお願い致しますよ? 騎士君もね?」

 

「はい・・・わかりました・・・」

 

 なんだか今日はつまらない日になりそうでしたが、そんな事はなさそうですね。

 

 

 ──────────────────────────────

 

 

「ふふふ・・・」

 

「ん? ・・・楓さん、どうしました? 急に笑い出して。渾身のギャグでも思いついちゃったんですか?」

 

「そうですね、ちょっとした思い出し笑いです。騎士君と・・・初めてお会いした時の事を・・・」

 

 ふふっと小さくまた笑う。

 

「ちょっと記憶を無くしていただいてよろしいですか? 記憶喪失になる秘孔は習得しておりますので・・・大丈夫痛くはしません」

 

 騎士君が両手をプラプラと揺らし始めた。

 

「ダメです。この記憶を失ってしまったら、()()領域が1()()無くなって人生が少しつまらなくなってしまいます。それは私にとって死活問題です」

 

「まぁ、そんな事は絶対にしませんけど、もうそろそろ時効にしてくれませんか・・・?」

 

 騎士君の()()()()()()()は見ていて飽きませんね。

 

()()ですか・・・、気が向いたら、()()しましょう」

 

 今日も調子が良いですね。

 仕事もうまく行きそうです。




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

前書きにも記載致しましたが、
メインのCGの出番が少なく誠に申し訳ございません。

重ねて申し上げますが、
今しばらくの間、お待ち下さいますよう、
ご容赦の程、よろしくお願い致します。

では失礼致します。


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第7話 - 一触即発 Dangerous Situation -

毎々お世話になっております。

また期間が空いてしまいましたが,次話投稿致します。
もともと考えていた構成と違っているような気がしてなりません。

途中に出て来るプロデューサー名は適当に名付けました。
存在しません。今後出番の予定もありません(多分)。



退院後、久し振りとなった仕事、シンデレラプロジェクトとの出会い。

楓さん達との晩餐・・・そんなこんなで過ごす事、数日。

半知半能(ちゅうとはんぱ)】な生活にも少しは慣れてきた今日この頃。

今俺は、自分の家のテーブルを挟んで向う側に座る妹、

志希と真面目な顔で睨めっこをして数分。

 

「と、言う事で・・・」

 

「何が、『と、言う事で』だ。主語を使え主語を」

 

神妙な沈黙の後の訳分からない語り出し・・・どういうことだ。

ついさっき志希はウチに来たばかり。

今更の話だが、俺は一人暮らしをして居る。

そして目の前の志希は、アメリカから帰って来てからは当然、実家に住んでいる。

そしてそして更に今更だが・・・

俺達の実家は岩手県。

が・・・単身赴任で東京に来ていた現父さん、

同じく東京でアイドルをしていた俺。

そしてアメリカの学校に行っていた志希。

現母さんだけは一人岩手に残った形となる。

現母さんは電話越しには気丈に振舞っているが、

寂しがり屋なのは良く知っていたし、現父さんの事を本当に好いているのも知っていた。

なので俺は東京に新たに家を拵え、現母さんに東京に移住してきて貰ったのだ。

余談ではあるが、岩手の家は残したままだ。

 

閑話休題

 

話を戻して本日、朝も早よから俺の家のチャイムが鳴り、

セキュリティカメラを覗いたら志希が立っていて、現状に至る。

ただ、志希及び家族には、実家を出て直ぐに合鍵を渡していたので、

何故自分で入って来なかったかは謎である。

 

「んで、実際問題何があったんだ?」

 

俺から質問をする。

 

「問題ってわけでは無くてね~、実はこの度ひょんな事から志希ちゃんは、

 アイドルになる事になりまして~、お兄様にその報告を~・・・ね~」

 

頬を掻きながら、妙に歯切れの悪い返事をしてきた。

いつもの愛の告白かと思ったが違った。

そう言えば日本に来てからされてない気がするが、まぁ今は良いか。

そうか、志希もアイドルになるのか・・・

この容姿に加えて更に個性の塊みたいな子だしアイドルに向いてると思ってたけど・・・

 

「どうした?なんかあるのか?」

 

率直な疑問を志希にぶつける。

 

「ん~、実はお兄様と一緒(8723プロ)じゃなくてよそ様(346プロ)に行く事にしたんだよね~」

 

なるほどね、それでその歯切れの悪さなのか。

 

「なんだそんな事か。そこまで気にする程の事でもないだろう?

 志希が決めた事だ、文句の一つも言いようが無いんだが」

 

「それはそうだけど、結構悩んだ末に346にしたんだから。やっぱお兄様と一緒も良いけど、今は同じ場所からよりも別の場所からお兄様の力になりたいと思ったから・・・そう思ったから346にしたわけで。でもでもやっぱりお兄様と一緒も良いけどしかし別の場所からお兄様の力に・・・ブツブツ」

 

後半聞き取りづらかったが、ボソボソと同じ言葉をお経のように繰り返していた。

 

「そうか、ありがとな。なんか色々と志希の心配事増やしちゃってさ。俺も俺なりに志希の力になれるように、立派に志希のお兄様でいられるように頑張るよ」

 

「ありがと~・・・でも、う~ん・・・取敢えずアイドルとしては現状お兄様の力は十分かな~って感じ?」

 

「そうなのか?」

 

「うん。【お兄様の妹】って言葉は、アイドル業界では最強クラスの呪文って気がしてるよ?」

 

「そ・・・そうか?・・・そう・・・なのか・・・」

 

自分がトップアイドルだと言う事を再認識させてもらった気がする。

妹から言われると効果はバツグンだな。

 

「やっぱプロデューサーは武内さん?」

 

「ざ~んね~ん違いま~す。シゲモリンだよ~ん」

 

「シゲモリン?シゲモリン・・・?シゲモリ・・・あ、ああ茂森さんか。って、え?そうなの?」

 

予想外の返答だった。

 

「うん、学校で美嘉ちゃんに誘われちゃってさ~」

 

「あぁ、そう言う事か、だから346で茂森さんなのか。」

 

美嘉ちゃんとはカリスマJKモデルの名で有名な『城ヶ崎美嘉』のことだ。

美嘉ちゃんは346所属のアイドルで担当Pは茂森さん。

その美嘉ちゃんから誘われたのだから、志希の言って居る事に合点がいく。

 

因みに志希は日本に帰って来てから高校に通っている。

いや、通わせている(・・・・・・)

実際問題、志希の学力的にはもう行かせなくても良いと思うのだが、

飛び級で大学に進学しアメリカに行っていたって事実もあるしね。

しかし、日本での交友関係も非常に大事だと思うので、

俺が勝手に転入の手続きを済ませ、半ば強制的に行かせる事にしたのだ。

 

『志希、急だけど明日から高校に通って貰う。これが新しい制服と教科書とその他諸々。

 んで現母(かあ)さん、申し訳ないけど明日は志希の付添い宜しくね』

 

『はいは~い、ママ頑張って行ってきま~す』

 

現母さんが俺から制服を受け取ろうとする。

 

『現母さん・・・別に現母さんが高校に通うんでは無いから・・・制服とか受け取らなくていいから』

 

『えぇ~!?そうなの~?騎士ちゃんの事だから、私も高校に通わせてくれると思って喜んでたのに~!!』

 

『成程・・・だから今週のお母さんはいつも以上にウキウキだったのか・・・』

 

突如横から現れた現父さん。

 

『そんなに浮かれてたの?』

 

『あぁ・・・、毎日鏡見ながら『あなた、私可愛い?』って聞いて来たり、

 用意されてるネクタイとYシャツがやたら可愛いものだったり、

 弁当がやたら豪華で食べきるのが大変だったり、今日なんて重箱だったんだよ・・・』

 

現父さん、なんか申し訳ないと思うが、俺は悪くない。

しかし、

 

『志希、さっきから何も喋ってないけど勝手に事を進めてること怒ってるのか?』

 

『んにゃ?全然。場所が変わっただけでやる事は変わらない訳だし。

 むしろお兄様にすぐ会いに行ける日本に居られるからアメリカ(あっち)より全然良いよ~』

 

『素晴らしい返事をありがとう。高校のレベル云々よりは場所に拘ったからそこんとこヨロシク。実家(ココ)、8723プロ、俺ん家の3か所から平均的な距離にある高校にしたから、志希が失踪した時のサポートは万全だ!』

 

『さっすがお兄様、私の事理解してる~』

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

とまぁ、そんな感じの流れで高校に通わせたんだけど、

その志希の通う高校に本当に偶々、件の城ヶ崎美嘉ちゃんが居たのである。

しかも同じクラスで隣の席らしい。

何でも、自己紹介の時に、

 

 

『ハ~イ、志希ちゃんは天才ケミカル美少女、一ノ瀬志希で~す。

 そう!!世界の騎士様こと一ノ瀬騎士のマジの妹様だぞ~、敬え~尊べ~。

 と、言う事でこれからヨロシク~♪』

 

と、こんな事言ったら一般高校生達が騒がない筈もなく、授業開始のチャイムが鳴っても騒ぎは収まる事を知らず、結局先生までもが一緒になって志希を質問攻めにする始末。

で、騒ぎも落ち着いて隣の美嘉ちゃんが自己紹介をして、俺と同じくアイドルだと知り、その日の内にわざわざ俺に報告があり、あれよあれよと言う間に今に至る感じだ。

 

「ほー、なるほどね。でもこの前の現場で美嘉ちゃんと話したけど、志希について一切無かったな」

 

「私が直接言いたかったから口止めしてたの。そんな事よりも~、美嘉ちゃんの呼び方が美嘉ちゃんになっている事にちょっと眉を顰めざるを得ない」

 

なるほどと再度頷き、後者に関して説明が面倒なので無視することにした。

 

「そうかそうか。これからはアイドルの後輩としてもよろしくな」

 

「む~無視はいくないよ~先輩。

 まぁ、これからもご指導ご鞭撻お願い致します~で、本題~」

 

「え?」

 

今までの話は本題じゃなかったのか?

 

「実はね~、学校と346の距離が実家からだと遠すぎるのですよ~」

 

あー、なるほど。

 

「「お兄様の家から通って良い?」ってこと?」

 

被せてみた。

 

「さっすがお兄様!!話が早~い。サラ○ンダーよりはや~い。」

 

どうしたもんか。

 

「これで、俺がダメだと言った場合どうするの?」

 

「ん~、この部屋の隣の部屋を借りるか~・・・空いて無かったらこのマンションの一室どれか借りるつもり~」

 

「ふむ」

 

「そして、お兄様の部屋に入り浸る!!合鍵は既に持っている訳だしね!!」

 

腰に手を当てお得意の仁王立ち。

フンスッと意気込んでどうだと言わんばかりに目を爛々とさせている。

 

「まぁそうなるよなぁ。取敢えず部屋は無駄に空いて居るし好きにすれば良いよ」

 

「話がスムーズゥ。じゃあ、お兄様の寝てる部屋で寝る~、おやすみ~」

 

そう言って立ち上がり俺の寝室に踵を返した。

 

「おいコラ待ちなさい」

 

志希の首根っこを摑まえる。

 

「にゃ~」

 

「志希ちゃんはどこへ行くのかな?」

 

「今言った通りお兄様の寝室で~す。志希ちゃん眠くなってきたので寝たいのです」

 

首根っこを掴まれながらも歩く動作をやめない志希。

 

「学校行きなさい!!」

 

「ん~・・・飽きた♡」

 

「おいっ」

 

「てへっ♡」

 

他愛ない会話を繰り広げ、俺と志希は各々の向かうべき場所へ向かうのだった。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

「英雄!!346コラボの話、詳しく聞かせてもらおうか!?」

 

8723(事務所)に着くなり開口一番に英雄に聞きたかった事を叫びながら入る。

 

「騎士さんおはようございます。今コーヒーお淹れしますね」

 

俺の叫びを意に介さず女性の声が返って来た。

姫乃宮さんだ。つい先日プロデューサーの研修を終わらせて帰って来ていた。

 

「おはようございます、プロデューサー」

 

「えっ!?」

 

「どうかしましたか?」

 

キョトンとしてしまった。

一体どうしたというのか?

 

「あの、いや、プロデューサーって言われ慣れていないのと、

 騎士さんからプロデューサーと言われたのとでちょっと・・・」

 

「これからは8723の(プロデューサー)なんですから、そこはしっかりと呼ばれ慣れてくださいね。これから先姫乃宮さんは俺だけじゃなく、他のアイドルをプロデュースすることにもなるんですから、しっかりと自覚を持ってください」

 

「は・・・はいっ!!」

 

とても元気よく素晴らしい笑顔で返事をしてきた。

俺の目の前で大あくびをしている英雄からは到底出せない景色だ。

 

「んで、話を戻すが・・・」

 

「はいはい、コラボね~。俺が思い付いてあちらの部長さんと話した。

 これでOK?もう寝て良い?むしろ今更~って感じだよな~」

 

「お前発進なのかよっ!?あとどうどうと寝るなっ!!」

 

英雄がいつも通りの気怠げーな感じで軽ーく俺の質問に答えた。

 

「はっはっは、お前の驚く顔はいつ見ても飽きないな。それが見たいからって言ったら?」

 

「ぶっ飛ばす。あと、そんなふざけた理由で他社様を巻き込むなよ。それに今更になってるのはすべてお前の所為だよ」

 

頭が痛くなってきた・・・右手で頭を押さえる。

 

「ふざけてはないだろ。商売的に8723プロ(ウチ)346プロ(アチラ)さんもwinwinなんだから良いじゃんか~。しかもしかも~、お前のリハビリにもなるしな。346プロ(大手)と仕事になるんだ、嫌でも気が引き締まるだろ?」

 

机を人差し指でトントンと叩きながら語る。

腹立たしいが、こいつの言う事には一理ある。

コイツ無駄に仕事ができるから、仕事の件で文句があっても本気で言返せない事があったりした。【全知全能】の時でだぞ?

今更だがコイツほんとに人間か?

 

「んで、申し訳ないけどお喋りはここまで~」

 

「ん?」

 

英雄はパンパンと手を叩き話を止めた。

が、ほぼ同時に、

 

「お待たせしました。こちらコーヒーになります」

 

まるで店員の様に丁寧に横からコーヒーを出される。

 

「まるで出会った時みたいですね」

 

「あぁ!?す、すみません!!つい癖で!!」

 

「俺は無視か~い?」

 

無視する。

 

「別に怒ってないですし、姫乃宮さんも悪い事してる訳じゃないんです。

 そんな事で謝らないでください。謝る事は大切ですが、ここは姫乃宮さんにとっては家みたいなものであり、そこに来ている僕たちは家族みたいなものなんです。だからもっと気軽に接してくれて構いませんよ」

 

「家族・・・ですか・・・。あの・・・だったら、私の事をもっと親しく呼んでください!あと、敬語じゃなくて、もっと軽い感じで・・・って生意気言ってすみませんっ!!」

 

深々とお辞儀をされてしまった。

確かにそれもそうか・・・

 

「そうだぞ~、もっとフランクに接してやれ~!!」

 

英雄が横からちゃちゃ入れてきやがった。

 

「わかりました、じゃあここでは下の名前で月夜さん、と呼ばせて貰う事にしようか。あと敬語もやめ。ただし、仕事先での敬語とかは勘弁してね」

 

パァっと晴れ渡った空の様に満面の笑みを浮かべた姫乃宮さん

 

「はい!よろしくお願いします!!」

 

「んじゃ、そろそろ俺の話しに戻すぞ~、良いから聞けよ~。今から346で打合せがあるから、姫ちゃんと騎士は346に向かって貰います。拒否権はありませんのであしからず。さっき話してたコラボ企画の次段階の打合せだからヨロシク~」

 

ものすごい重要な話をさらっと話し始めたが、2・3気になる点が・・・

 

「俺も?」

 

騎士(お前)も」

 

仕事の話だけなら既にプロデューサーである月夜さんだけで良いのでは?

 

「お前が一緒に行けば色々スムーズに事が運ぶだろう?それぐらいは察してくれよな~。普通に思いつくだろその程度。研修したって言ったって結局はまだ見習い、一人で行って何が出来んだよ?話聞くだけじゃないんだぞ?ほんと変なとこポンコツになったな~騎士様よ~」

 

椅子に座る英雄がその機構を使いクルクルと回りながらそんな事を言う。

 

「なるほど、納得。ポンコツで悪かったな、しかしそれならそもそもお前が行けよ」

 

「俺様は遊んでるように見えて実際は忙しいの~。俺も俺なりにやる事やってんだよ。

 仕事してなきゃ今回のコラボも無いでしょ~が」

 

なんだかんだそうなのだろうと思うが腑に落ちない。

 

「あの・・・不束者ですが、よろしくお願いします!」

 

定番のボケ?というか、挨拶をされる。

さして揚げ足は取らずに返答する。

 

「こちらこそ。初めての仕事で緊張するかもしれないけど、気張らずにいつも通りで大丈夫だから」

 

緊張をさせないようにと気を使う。

 

「ううぅぅぅ・・・」

 

が、反して緊張してしまっているようだった。

 

「あら?」

 

「おいおい、そんな事言ったら緊張すんの当たり前だろ~。姫ちゃん初仕事なんだからさ~。しかも向かう先は大手の346プロダクション。一緒に行くのは大好きな騎士様。あぁ、失敗したらどうしよう、大好きな騎士さんの前で恥ずかしい所なんて見せられない、幻滅されちゃうかもぉ(高音)」

 

月夜ちゃんの真似したつもりなのか、女性っぽく声を出してはいたがまったく似てないし、女性のそれにも聞こえなかった。気持ち悪い印象だけしかない声だった。

 

「うわわっわぁあぁぁぁっ、ちょっ、社長!何言ってるんですかぁ!!」

 

「うん?姫ちゃんが今考えてそうな事だけど。当たった?」

 

やんややんやと騒がしくなってきた。しかしそんな場合じゃないのは確かだ。

 

「楽しそうな所悪いが、何時から打合せなんだ?

 開始時間によってはホントにふざけてる場合じゃないと思うんだが」

 

さっき英雄が言ってた『今から打合せ』という言葉が異様に引っ掛かっていた。

 

「今」

 

「はっ?」

  「えっ?」

 

「だから、今だって。ナウだよなう」

 

ちょっと理解が追い付かない。

何言ってんだコイツ?

 

「何言ってんだお前?」

 

「真実」

 

「それが真実なら何故、当日の、今、言い出した」

 

「それが面白そっぶばぁっふぉおお~」

 

英雄は英雄が座っていた椅子と共に壁に激突した。

現状の力で、本気で手加減して顔面を殴った。

 

「これで勘弁しといてやる。残りは帰って来てからだ。さっ、月夜さんすぐ行こう」

 

ギリギリ意識が有りそうな英雄に指をさし言い放つ。

そして月夜さんの手を引く。

 

「はっはい!!あの、社長、行ってきます・・・お、お大事に・・・」

 

月夜さんはチラチラと英雄を気にかけているようだったがそんな些細な事(・・・・)は気にしていられないので、急いで2人で346に向かうのだった。




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

誤字脱字が酷いかもしれませんが,寛大な対応宜しくお願い致します。

次はサイドストーリーを投稿したいと思っております。(予定は未定)

では、失礼致します。


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Seventh side story ~ 秘密は最高のスパイス ~

第7話のside storyです。

第9話の中編?後編?

あれはまた別の話です。

どうぞ。


俺と月夜さんは今、346プロの会議室で静かに資料を読んでいる。

打ち合わせはどうしたのかって?

 

それは・・・

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

英雄(ひでお)の話の直後、俺達2人は大急ぎで346に向かい、到着早々に受付を済ませ、

打ち合わせの場所を聞き会議室へ向かった。

この時、受付の女性が不思議そうな顔をしていた事にもっと疑念を抱くべきだったと【半知半能(ちゅうとはんぱ)】ながらに後悔している。

 

会議室の扉の前に着き2人で深呼吸をする。

『ヨシッ』とお互いに覚悟を決め頷き合い、ノックをして入って行く。

 

「「大変申し訳ありませんでした!!」」

 

そして2人で揃って頭を下げた。

 

「えっ?」

 

しかし、中から聞こえてきた言葉は全く予想だにしていない言葉だった。

 

「いや、あの、ですから、遅れてしまって・・・申し訳な・・・えっ?」

 

恐る恐る頭を上げつつ中を一瞥する。

会議室の中はがらんとしており、

楕円形の大きな会議テーブルに資料を並べている人がたった1人居るだけだった。

 

「これはこれは、騎士さんではありませんか?8723の方は流石といいますか・・・お早いですね。

 しかし・・・こんなに早く来られるとは・・・しかも先ほどの謝りと良い・・・

 もしや何か問題でもございましたか?何でしたら代表をお呼び致しますが?」

 

所員さんは慌て始める。

英雄のヤツ・・・

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「っくしょいっ」

 

ズズッと鼻をすする。

 

「くっくっくっ、騎士のヤツ、今頃イライラしてっだろうなぁ~」

 

騎士を騙すのは本当に面白い。

退院後、人間味が増したお蔭か更に騙し甲斐がある奴になった。

 

「次はどうしてくれようかなぁ・・・くっくっくっ」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

346の所員に大したことは無いと事情を説明。

 

「ふふふっ。こほん・・・失礼致しました。しかしそれは災難でしたね・・ふっ・ふふっ」

 

「いえ、お気になさらずに・・・」

 

まぁ他所から聞けば笑い話だろう。

 

「あの、騎士さん・・・これは一体・・・」

 

英雄(あのバカ)の仕業ですよ・・・会議の時刻はまだまだ先って話です」

 

未だ理解が追い付いていなかった月夜さんに簡潔に説明する。

 

「社長は良い人なのか悪い人なのか・・・、たまーに判断付け辛いですよね・・・あは・・・あははは・・・」

 

「物凄い悪い人だ」と即答し、本来の打ち合せの時刻より2時間程早く席に着く俺たち。

 

「今、お飲物をご用意しますので、暫くお待ちください。

 まぁ・・・暫くと言っても、まだ1時間以上あるのですが・・・

 なんでしたら、この敷地内にカフェがございますからそちらでお暇を潰し頂く、と言った事も可能ですよ?

 時間までは自由にして頂いて構いませんので、上階にエステなどもありますので、そこでリラックスなんていうのも」

 

「ああ、いえ。こちらで待たせていただきます。お気遣いありがとうございます」

 

「そうですか、わかりました」

 

資料を並べ終わり、俺たちが来た旨を内線で伝え、

次いで飲み物も取急ぎ持ってくるように、と伝えていた。

 

「あの・・・この資料、中を拝見させて頂いても大丈夫ですか?」

 

受話器を置いた所員に、月夜さんが聞いた。

 

「はい、詳細について後程議論いたしますので、お互い理解の為、ご確認よろしくお願い致します。

 申し訳ありませんが、一度会議室(こちら)から外させて頂きます。今暫くお待ち下さい」

 

そう言って頭を下げ、所員は会議室を後にした。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

で、今に至る。

 

会議室には資料を捲る音、カップがソーサーに置かれる音が響くのみだった。

 

「・・・」

 

ペラッ

 

「あの、騎士さん」

 

「ん?」

 

穏やかなる静寂を破り、月夜さんが話し掛けてきた。

 

「どうしました、月夜さん?」

 

「あの、ここの事なんですが・・・」

 

月夜さんが見せてきたページ。それは近い内に開催される346提供のライブ、

そこに、俺がサプライズで出演する事について書かれたページだった。

 

「開催までの期間が非常に短いので、騎士さんのトレーニングとか色々時間が取れそうにないんですよね・・・」

 

【騎士のスケジュール帳 英雄's スペシャル】と書かれた手帳を見ながら話をする月夜さん。

その手帳に今日の会議の事は書いていなかったのか・・・不憫すぎる・・・

今後の俺のスケジュールは全て月夜さんに把握して貰いたいので一刻も早く一人前になってください。

今の俺には「頑張れ」と呟くことしか出来なかった。

 

「えっなにか言いましたか?」

 

「いや、何でもないよ」

 

「でも、やっぱ無理そうですよね・・・病み上がりですし・・・」

 

月夜さんが心配そうな顔をする。

 

「いや、資料を見た感じサプライズで出演する曲は2曲ですし、

 その後は自分の曲を1~2曲披露するだけみたいですから大した問題は無いかと」

 

所感を述べる。

 

「はぁ・・・でも・・・」

 

それでも彼女の不安は消えないらしい。

 

「大丈夫ですよ、伊達に【全知全能】と呼ばれてないよ」

 

しかしと言うか、やはりと言うか、彼女の暗い表情はそのままだった。

 

「でも・・・社長が言ってましたよ。

 『アイツは以前より色々出来ない事が多くなった』って・・・

 【出来る事が少なくなった】、じゃなくって【出来ない事が多くなった】って・・・」

 

・・・そう、出来ない事が多くなった。

やった事が無い事が全然出来ない。

成長は出来る・・・が、成長速度が一般人以下なのだ。

例えばダンス。

ダンスとしての知識と経験がある訳だが、ダンスとは様々な振り付けがある。

それは言ってしまえば技術と技術の集合体・・・。

振り付けのA→B→Cの繋がりをやったことがあっても、

A→C→Bの繋がりをやったことが無ければそれは新しい事として俺には出来ないのだ。

これが【半知半能(ちゅうとはんぱ)】の副作用的欠点であり、変えがたい事実。

 

「それでも大丈夫ですよ。僕を信じて」

 

笑顔を作り、落ち着かせる。

 

「はい・・・」

 

結局、月夜さんの不安を払拭出来ないままに、打合せは開始した。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

「まさか、今西さん直々に打合せに来られるとは思いも寄りませんでした」

 

「トッププロダクションの8723とコラボとなれば、色々と大きく動きますからねぇ。

 自分の目と耳と口で、しっかりと段取りを見て聞いて発言しておきたいんですよ」

 

「今の言葉、ウチの英雄(しゃちょう)に聞かせてやりたいですよ」

 

(たける)君にかい?必要無いだろう。彼はその辺の事、しっかりとわかっているよ」

 

ふっふっふっと笑うこの温和な表情と物腰が特徴的な初老の男性は、

今西文徳(いまにしふみのり)

346の部長さんだ。

今回の企画において、346側で発案したのがこの今西さんだったらしい。

実はこの今西さんと英雄は昔ながらの飲み友で、付き合いも大分長いらしい。

で、今回のコラボも、飲みの席で決まったんではないかと内心思っている。

 

「では、先ずは期間的に時間の少ない、

 ライブのサプライズ企画から話をして行きたいと思います」

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

8723(こちら)としては、特に問題は無いと思われます」

 

「・・・はい」

 

月夜さんはまだ気にしている様子だ。

 

8723(そちら)のプロデューサーさんは・・・

 気になる事が有りそうだが?」

 

今西さんが月夜さんに振った。

 

「何か気になる事があるのなら、言ってしまった方が良い。

 キミの中でそれが不安を生み出しているのなら尚更だ」

 

今西さんは優しく語り掛ける。

 

「騎士さん・・・」

 

月夜さんが俺を見つめ、言って良いものかどうかを決めあぐねている。

特に秘匿にしている訳では無いし、それを悟られたからと言って、

月夜さんを咎めたりはしない。

そうするのなら事務所内のあの場所で、英雄の前で、あんな話し方はしない。

 

「プロデューサーが気にしているのは僕の身体の事です」

 

取敢えず俺から切り出す。

それと同時、室内がざわつきだす。

 

「そうだったね・・・あまりにピンピンして居たから忘れていたよ。

 そう言えば・・・事故にあって入院していたんだったね」

 

「はい、でも・・・それだけではないんです・・・」

 

月夜さんが続く。

 

「騎士さんは今、完全な状態ではありません・・・あの・・・」

 

一度言葉を切り、息を吸った。

 

「ですので・・・それを考慮していただいた上で、

 サプライズのコラボ曲を346(そちら)の楽曲から、

 騎士さんの曲に変更していただく事は出来ませんでしょうか?」

 

あぁ、なるほど。

気付かなかった。

新しい事に俺が挑戦するんではなく、

346(あちら)側に俺の曲をコラボして貰う方が俺としての負担が軽減する。

 

言い方が非常に悪いが、346(あっち)のアイドルは人数が居るわけだから、

コラボさせるのは346の誰であっても良い訳で、

俺の踊りをレッスンできる人がその日までレッスンに打ち込めば良い話になる訳だ。

 

「ふむ・・・」

 

今西さん含む346サイドが考え始めた。

 

「そうか、確かに346側コラボ曲は俺の知っている曲じゃない可能性が大いにあるから・・・」

 

「いえ、私もそこを騎士さんにうまく説明できなかったので・・・」

 

俺の出来ない事の説明を一通り行い、話は進む。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

考えは纏った。

 

「特に問題はないでしょう。346提供ライブですが、8723サプライズのコラボ企画です。

 騎士さんの曲が多くコラボされるのは良いと思います」

 

「あ・・・ありがとうございます!!!」

 

月夜さんは大きな声でお礼を言う。

 

「それでですが、346側の楽曲で騎士さんがご存じの楽曲は・・・ございますか?」

 

まぁ、そうなりますよね。

コラボ曲を全部こっちの楽曲でやっていたら、折角のコラボの意味が無い。

 

「『お願いシンデレラ』は、以前高垣さんと共演させて頂いた時に・・・

 同じ理由で『恋風』を・・・後は、城ヶ崎美嘉さんの『TOKIMEKIエスカレート』、

 速水奏さんの『Hotel Moonside』です。この4曲は振付を含めて知ってます」

 

「となると、コラボ向けは・・・『お願いシンデレラ』か、『TOKIMEKIエスカレート』・・・ですね。

 ただ、『TOKIMEKIエスカレート』はダンサー含め、もう色々進んでしまっています。

 なので現在のセトリ中、オープニングとアンコール時に『お願いシンデレラ』が来ますので、

 アンコール時に346側コラボをお願いしたいと思いますが、如何ですか?」

 

答えは決まり切っている、

 

「はい、問題ありません」

 

これは、一番良い纏り方だろう。

被害も何も無く終わりが来そうだ。

 

「では、8723さん側のコラボ提供曲h「『Mid Night』でお願いします!!」・・・えっ?」

 

月夜さんが元気良く食い気味に声を上げる。

 

「えーっと・・・」

 

進行役の所員さんが俺の方を見てくる。

 

「あー・・・それで、お願い致します」

 

頬を掻きながら返事をし頷く。

チラッと月夜さんの方を見ると、

机の下で小さくガッツポーズをしているのが見えた。

そう言えば月夜さんって俺のファンだったんだよな。

すっかり忘れてた。

 

「では・・・『Mid Night』でコラボを、『Chivalry』をソロで、

 最後に346(こちら)側の『お願いシンデレラ』、以上の計3曲を騎士さんにお願い致します。

 異議のある方は挙手をお願い致します。・・・無いようですので、決定致します」

 

「これセトリ考えるとヤバいな・・・」

   「よろしくっ、先輩」

「よーし、頑張るぞぉ」

  「はぁはぁ、騎士様のおねシンktkr」

 

みんなの士気が上がり、どよめきだす。

ちゃっかり横で月夜さんも興奮しているのが伺える。

 

「こらこら、まだ一つ決まっただけだぞ。次に行こうじゃないか。

 時間は有限、大切に使っていかねば」

 

今西さんがパンパンと手を叩き、その場を制する。

 

「そうですね。では次へお願い致します」

 

同意の意思を頷きと返事で示す。

 

「お・・・お願い致します」

 

ハッと我に返る月夜さんも俺に続く形で同意するのだった。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

この後、コラボ商品、CM、歌曲、今後の大小多方面イベント、

様々な企画を展開、説明。

こう言った英雄が参加出来ない(しない)打合せについては、

『参加した騎士(ひと)が勝手に決めて良いよ』と、

英雄本人から言われ続けていたので、特に英雄(あいつ)に確認する事無く、

己が身と月夜さん、二人で相談して決めて行った。

 

月夜さんのプロデューサーとしての初仕事、ちゃんと周りも見えているし意見もしっかりしている。

状況判断力が長けている気がする。

ちょいちょい興奮気味に意見を言うことがある反面、

積極性が無いのも見受けられる・・・

だが今まで英雄としかこう言った事をしてこなかった所為もあって、

今日のやり取りが新鮮で親切でとても気分が良かった。

 

「プロデューサー、これからの成長、非常に期待しています。

 主に英雄を降していただく形で」

 

「期待されているね、まぁかく言うわたしもね、君には期待しているんだ。

 なんて言ったってあの(・・)(たける)君が初めて採用した人間だからね。

 頑張ってね」

 

「は・・・はいっ!!姫乃宮月夜、精一杯一意専心で頑張って行きますっ!!イタイッ!!」

 

勢い良く立ち上がり、頭を下げたら机に頭をぶつけた。

にこやかな笑いが会議室内に起こる。

 

「「「「はっはっはっはっ」」」」

 

そそくさと着席し、俯き小さくなる月夜さん。

 

「ハヅカシィ////////」

 

「頑張ってください」

 

「は・・・はひっ!」

 

「それとね、一つ皆にお願いしたい事がある」

 

今西さんが真面目な面持ちで語りだす。

 

先程まで和気藹々とした雰囲気からは打って変わって、

風の無い水面のように静かになる。

 

「ライブのサプライズの件、8723さんが参加する事を他言無用でお願いしたい」

 

その一言にざわつく室内。

 

「他言無用って・・・それは、一体何処まで他言無用なのでしょうか?」

 

社員は今西さんに問う。

 

「無論、今ここに居る我々意外の人間すべてだよ」

 

まるで悪者の様にクックックッと小さく笑う。

 

「と・・・言う事は、参加するアイドルにも何も言わない、という事ですか?」

 

「そう言う事だ。どうだ?楽しそうだろう?」

 

なおもあくどい笑いは続いていた。

 

「部長、面白そうではありますが、それですと別に打ち合わせが必要になりますけど・・・」

 

「そんなのはいくらでも別でやれば良い。ちなみにどうかな8723(そちら)の方々は?」

 

先程の笑顔と打って変わって優しい笑みをこちらに送る。

 

「僕らは特に問題ありません。ね、プロデューサー?」

 

「はい。私達が口を滑らせなければ良いだけ・・・ですよね?安心してください、私、口は大分堅いので!!」

 

月夜さんは自分の胸の前でグッと気合を入れる。

「確かに堅そうだ」と、喫茶店の時も内緒にしてもらった時の事をふと思い出し独り言ちる。

 

「じゃあ、残りの細かい打ち合わせは私達でしておこう。詳細は後日こちらから連絡するよ。」

 

この最後にしてしまった約束の為、後に面倒な事が起こると言う事を【半知半能(ちゅうとはんぱ)】な今の俺には知る由も無かったのだった。

 

 

第8話に続く・・・・・―X8




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

後日,入れ替えを行いますのでご承知おきください。

では,この辺りで失礼致します。


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第8話 - 副作用 Magical Effect -

平素より大変お世話になっております。

久しぶりの更新でございます。
大変お待たせ致しました事、文面ではございますが深くお詫び申し上げます。

尚、本文の一部、アニメと明らかに違う箇所がございますが、
話しの都合上改変されております。
御承知置き下さい。

更に訂正致しました。

※歌詞部削除致しました。


大急ぎで346に行くも、会議は到着時刻の2時間後という英雄の罠だったり、

346の部長さん(今西さん)が直々に会議に出て来て居たり、

月夜さんの目まぐるしいプロデューサーとしての成長を喜んだり、

月夜さんってそう言えば俺のファンでだったなぁって事を再認識したりした会議になった。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

会議も卒なくこなし、予定よりだいぶ早く終わった。

早めに着いたからと言う事で、気を使っていただき、会議が早めに始まったと言う事もあるのだが。

取り合えず折角なので346の敷地内を見学して行こうかと、月夜さんと2人で散策中。

 

なお、『どこをウロウロしても大丈夫だから』と、今西さんから許可は頂いている。

曰く、『まぁキミ程の人に何かあるとは思えないが、もし何かあれば私の名前を出すと良い』とのことだった。

正直そんな変な所に行くつもりは毛ほども無いので、名前を出す事は無いだろう。

ちなみに今、明確な目的地がありそこに向かっている。

 

「騎士さん・・・今、どちらに向かってるんですか?」

 

隣を歩く月夜さんに声を掛けられる。

 

「これから少しレッスンルームにお邪魔しようかと思っていてね」

 

「レッスン・・・ですか?」

 

「うん。別に俺がレッスンする訳では無く、

 今レッスンしているであろう人達に会いに行くんだよ」

 

「はぁ・・・」

 

確か第3だったよな?大体はそこでレッスンしてるって言ってたしな。

半知半能(ちゅうとはんぱ)】になってから、記憶力も人並みなので自信を持っていけないのが辛い。

記憶力は今まで培ってきた記憶の所為で自信を失い易い。

如何せん変な所で変な記憶に変に自信がありすぎて、あとから培った記憶が自分の中で信頼が無さ過ぎる。

 

「ここ・・・だよな?」

 

『第3レッスンルーム』と書かれた扉の前に立つ。

ガラス張りではあるものの、中が見えないよう加工が施されているので見えない。

ここであってるかどうかまだ少し不安だが・・・

ええい!!ままよ!!

ドアノブに手を掛け、先ほどの勢いとは裏腹にそーっと開ける。

 

「失礼しまーす・・・」

 

小声で挨拶をし顔を覗かせる。

 

「ああーーーっ!!ナイトさまだーっ!!」

 

「えっ!?」「にゃ!?」

 

物凄い速さで見付かってしまったが、どうやら合っていたようだ。

中には城ヶ崎莉嘉さん、赤城みりあさん、

そして何故か床にへたり込んだ(ヤムチャしやがって)状態の前川みくさんの3人が居た。

前川さんが何故そんな体勢なのかが気になる所なので聞いてしまおう。

 

「みなさんお久しぶりです。前川さんも・・・

 しかし、なぜそんな状態に・・・」

 

「みくにゃ・・・」

 

「え?」

 

前川さんはスッと音も無く起き上がり、真顔(+猫の様な目(比喩))になり、

俺の前まで来たかと思うと、低い声で自分の名前を呟いた。

あぁ、またこのパターンか・・・

 

「いや、しk「みくにゃ」・・・あの、「みくにゃ」・・・えっと・・・」

 

「みくにゃ」「みくにゃ」「みくにゃ」

「みくにゃ」「みくにゃ」「みくにゃ」

「みくにゃ」「みくにゃ」「みくにゃ」

「みくにゃ」「みくにゃ」「みくにゃ」・・・

 

ぐぬぬ・・・

 

「はい・・・わかりました・・・みくちゃん、とそう呼べば良いんですね・・・」

 

はぁ・・・と肩を落とす。

前川さんがぱぁっと明るい顔になる。

 

「それで良いのにゃー!!騎士さんが押しに弱いって事は、この前お会いした時に把握済みなのにゃー!!って言うか、騎士さんがスーツ姿にゃっ!!」ピロリン

 

小躍りをしていたかと思うと、俺のスーツの何が良かったのか、

物凄い速さで取り出したスマホで俺の写真を撮り始めた。

しかし物凄い連射機能だ。

 

はぁ・・・最近女性陣が俺に名前呼びを強要してくる事が増えた。圧倒的に増えた。

もとはと言えば、た・・・楓さんの所為だよなぁ・・・まず間違い無くそうだよなぁ。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ひっくち・・・」

 

急にくしゃみが出た・・・誰かが噂をしている?

 

「あらー?楓さん風邪ですかー?」

 

愛梨ちゃんが心配をしてくれました。

 

「誰かが噂でもしてるんですよ」

 

「うわさ?ですか?」

 

「えぇ。きっと、騎士君ですね♪」

 

何となくですが当たっている気がしたので騎士君の名前を出してみました。

 

次のライブは、騎士君といっしょ・・・

ふふ、楽しみですね♪

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「へっくしっ・・・ん、失礼しました」

 

コホンと軽く咳払いし、体裁を整える・・・

くしゃみか・・・誰か噂でもしてるのか?

 

「ナイトさまー、なんで346(ここ)に居るのー?」

 

みりあちゃんが質問してきた。

全員が名前呼びを強要して来そうなので、

もう後先考えず独断と偏見でシンデレラ(C)プロジェクト(P)のメンバー全員下の名前で呼んでやる事にした。そうした。

しかし、みりあちゃんは今日も元気そうで何よりだ。うんうん。

 

「それはもちろん私達に会いに来てくれたに決まってるじゃーん」

 

莉嘉ちゃんが間髪入れずに切り出した。

 

「えーっt「えー!!そうなのー!?わー、うれしいなー!」・・・」

 

本当に嬉しそうに、声を上げるみりあちゃん。

元気な声に俺の返答は掻き消される。

 

「私たちは先程までこちらで会議をしていたんですよ。

 で、終わったので騎士さんの提案でみなさんが居るこちらに立ち寄ったんです。

 ね?騎士さん」

 

俺の後ろからタイミングを見計らって笑顔の月夜さんが答えた。

 

「100点満点の回答をありがとう」

 

本当に例え様が無い程に100点満点だ。

 

「カイギー?うぇーなんかむずかしそー。

 でもでも、なーんか出来るオトナーって感じっ!!」

 

莉嘉ちゃんが楽しそうな顔をして答える。

 

「ところで騎士さん。後ろの女の人はどなたなのですかにゃ?

 もしや・・・恋人さんっ!?」

 

「かっかかかかっかあかかかっかか彼女っ!!!!?????ちちちちちち違います違いますっ!!そんな恐れ多い!!」

 

月夜さんがみくちゃんの質問に目一杯の否定。

そして彼女とは言っていないよ月夜さん・・・

 

「あぁ、こちらは姫乃宮月夜さん、8723の・・・って言うか現状は俺のプロデューサーだね」

 

「「「プロデューサーッ!?」」」

 

3人は声を揃えて驚く。

 

「はい。8723プロ、アイドル部門プロデューサー姫乃宮月夜です。以後お見知りおきを」

 

そう言って丁寧に名刺を一人一人に渡していく。

8723(ウチ)に部門なんてあったのか・・・しかも名刺まで・・・

知らなかった。

 

「みくは前川みくにゃ」

 

「アタシは城ヶ崎莉嘉。よろしくー」

 

「赤城みりあですっ!」

 

「にゃはは~、一ノ瀬志希で~す。よっろしく~♡」

 

「ん?」

 

後ろから聞きなれた声が聞こえた・・・

後ろを振り向く。

 

「お兄様の匂いがしたから来ちゃいました~、にゃは~♪」

 

ピースをする志希がそこにいた。

 

「志希・・・お前、なんでここに・・・」

 

「だから~、お兄様の匂いがしたからだってば~」

 

そう言ってわざわざ俺の背後にまわって背中に寄りかかり、

いつもの様にハスハスし始めた。

 

「お兄様・・・って事はっ!!あなたが噂の騎士さんの妹っ!?」

 

みくちゃんが叫ぶ。

 

「にゃはは~、ぶい~。す~っ♡は~っ♡あ~甘露~甘露~♡」

 

ハスハスしつつ、いつも通りの笑顔でピースする志希。

 

「キシとシキだってー。えへへへぇ、お名前ひっくり返しただけなんだねー、すごーいっ!!」

 

きゃははと無邪気に笑うみりあちゃん。

昔は良くそれをネタに近所のお子様に冷やかされたりしたなぁ(遠い目)

 

「で、志希よ。俺の問いにまじめに答えなさい」

 

「ん~っとね~ぇ。志希ちゃん今日からもうレッスンだよ~って美嘉ちゃんに言われたから346(ここ)に来たんだけどね~・・・歩いてる途中お兄様の匂いがしたからそれを辿った結果が今っ!!」

 

「『今』っじゃねーっ!!なにいきなりサボってんだよーっ!!」

 

頭を両手で抱えわしゃわしゃと髪を掻き毟る。

 

「おぉぉぉ、騎士さんが珍しい口調でお話しているにゃ」

 

しまった!?

ついつい志希の態度に流されてお家モードで喋ってしまった。

 

「にゅっふっふ~、所がどっこい、私の目的地はお・と・な・り♡」

 

となり?

 

「あれ?」

 

「そっちって今・・・」

 

「卯月ちゃん達が・・・」

 

「え?」

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

「1、2、3、4、5、6、7、8・・・この時、キチンと止まってるとカッコいいよ」

 

ガチャッ

 

「しっつれっいしっま~っすっ!!」

 

志希が勢い良く『第4レッスンルーム』と書かれた扉を開け放ち入って行く。

中には、島村卯月ちゃん、渋谷凛ちゃん、本田未央ちゃん、

そして美嘉ちゃんと、トレーナーと思われる女性が居り、

トレーナー以外の4人は一生懸命に壁一面の大きな鏡を見ながら踊っていた。

 

しかし、志希が乱入した事により中断される。

 

「もー遅いよ志希ちゃーん、ってうえええぇぇぇぇっぇぇききききききっき騎士さん!?」

 

俺の存在に気付き大声を上げる美嘉ちゃん。

 

「きっ騎士さま・・・騎士さまが居ますよ、凜ちゃん!!未央ちゃん!!騎士さまですよ!!はぁー♡今日も素敵ですねー♡って・・・あれ・・・これ夢ですか?え?凛ちゃん!!未央ちゃん!!また本物の騎士さまが居ますよ!?どう言う事ですか!?凛ちゃーん!!!」

 

「卯月、夢じゃないし本物だから。見ればわかるから取り敢えず落ち着いて。私を揺するの止めて。ダンスで結構フラフラなんだから」

 

「しまむーは今日も平常運転ですなー♪」

 

レッスンが完全に中断される。

 

「どうも・・・やっぱりお邪魔だったみたいですね、申し訳ないです」

 

「いえいえいえいえいえいえいえ、滅相もございませんです・・・ハイ」

 

美嘉ちゃんは、もげるのでは無いかと言うスピードで首を横に振った後、俯いてしまった。

 

「ふむ・・・」

 

何故かトレーサーさんは俺を見て納得したような表情をした

 

「・・・?」

 

「一ノ瀬志希~、只今到着いた~しま~した~」

 

そんな美嘉ちゃんと俺を他所にトレーナーの方に行く志希。

 

「そこの城ヶ崎(姉)並びにお前達のプロデューサーから話は聞いてる。

 時間も無いしな、今日からビシ!バシ!しごいてやるから覚悟しろ?

 と言っても当分ダンスは城ヶ崎に指導してもらうつもりだがな」

 

「妹の事、ヨロシクご指導お願いしますね。

 まぁ、コイツ基本やれば出来る子なので、

 主に精神面の方を鍛えてあげてください」

 

一度美嘉ちゃんから視線を外し、トレーナーさんに声を掛ける。

 

「君が一ノ瀬騎士だな・・・前々から評判は伺っている。

 それで本当に唐突だがこれも前々から会えたのなら頼もうと思っていたことがあってな・・・

 良かったら、今ここで踊って貰えないだろうか?」

 

「へ?」

 

まさかのトレーナーさんからの無茶振り・・・

 

「一応、歌・踊りを教える事を生業としている職業柄、

 君のその芸術や国宝、無形文化遺産などと称される程の歌や踊り・・・

 映像では何度か拝見はしたが目の前でしっかりと見てみたくてな・・・。

 どうか頼まれてはくれないだろうか?」

 

トレーナーさんは深々と頭を下げる。

 

「いやぁ、しかしですね・・・事故の後調子が良くなくてですね、

 今の所、知ってる曲しか踊れないんですよね~・・・あはは・・・残念だなぁ(棒)」

 

「む、そうなのか・・・今ある曲は・・・」

 

そう言って曲を探し始めたトレーナーさん。

 

「でもさっき流れてたのって、城ヶ崎美嘉さんの『TOKIMEKIエスカレート』ですよね?

 それは踊れるって会議で仰っていませんでしたっけ?」

 

「うぐっ・・・」

 

月夜さんや、なにも今ここで言わなくても・・・

 

「それは都合がいい。どうだ一ノ瀬?やってくれるか?

 こいつらにも良い手本になると思うんだが」

 

「目の前で騎士さまのダンスが見られるんですかっ!?」

 

「今ここで!?」

 

本当(マジ)にゃ!?」ポチポチ

 

「志希ちゃんが思うに、多分手本には為らないと思いま~す♪でもでも~お兄様のダンスは見たい!!」

 

「おい、志希。何さらっとそっち側なんだよ」

 

卯月ちゃん、未央ちゃん、みくちゃん、そして志希が大きな声を出す。

 

「いや、まだ決まった訳では・・・」

 

「私最後まで意識を保って見ていられるか不安です・・・」

 

「大丈夫にゃ卯月ちゃん。卯月ちゃんが倒れても録画はしっかりやっておくにゃ・・・」

 

「みくちゃん・・・ありがとうございますっ!!」ガシッ

 

卯月ちゃんとみくちゃんが脇の方に座り強く両手で握手を交わしている・・・

 

「にゃっはは~、お兄様のダ~ンス、お兄様のダ~ンス~↑!!」

 

「きっききっきっきききっき騎士さんが、おおっおっおおどっおどっ踊るっ、

 しかも、私の歌で・・・めっめっめめめめっめっめ目の前で!!」

 

志希美嘉ペアもすでに俺が踊るのだと期待をしている・・・

 

「月夜さ~ん、こっちで一緒に座って見よ~」

 

「はーい」

 

莉嘉ちゃんに呼ばれそちらへ歩いていく月夜さん。

 

「実は私・・・騎士さんの大大大大ファンです!!」

 

「ナイトさまプロデューサーなのに、おっかしーんだー♪」

 

「んふふふ、ナイトさまのダンス楽しみー。んふふふー♪」

 

月夜さん及び少女組(莉嘉ちゃん&みりあちゃん)も観戦モードだ。

 

「はぁ・・・仕方ないですね。此処まで期待されてしまってはやらないわけにいきませんね。

 わかりました。まだ時間もありますし、

 トレーナーさんや皆さんの期待にどれだけ応えられるかわかりませんが、

 やれるだけやってみましょう」

 

「「「「「「「「やったー(ハラーショー)!!!」」」」」」」」

 

「えっ!?」

 

良く見たら、ドア側にCPの面々が集まって来ていた。

 

「えっと・・・これは、一体・・・どう言う・・・?」

 

何故このタイミングでCPが集まりだしたんだ?

 

「一ノ瀬さん、すみません・・・前川さんから、その・・・携帯に連絡が来まして・・・」

 

開いていたドアの外から聞こえてきたバリトンボイス。

のそっと武内さんが現れ説明してくれた。

 

「みくちゃんから?」

 

みくちゃんを見る。

 

「いやん♡そんな見つめられたら恥ずかしいにゃ」

 

頬に手を当て身体を捩る。

 

「いや違う、そうでは無くて・・・」

 

「こんな一大イベント、みく達だけで楽しむのは勿体ないにゃ!!」

 

力を込めて語る。

 

「との事でしたので・・・申し訳無いと思いつつ、良い刺激になるのでは・・・と、

 他のプロジェクトメンバーに声を掛けさせて頂きました。もうしわけございません」

 

いつもの様に首に手を当て頭を下げる武内さん。

 

「あっはい・・・」

 

「ダー、キシのダンス、ぜひぜひ見たいデス!!」

 

「始祖の舞・・・高鳴る鼓動が抑えきれぬっ」

 

「あの、では騎士さん・・・一度更衣室へ、ウェアをお貸ししますのでこちらへ・・・」

 

CPの皆が各々語っている中、武内さんがドアに手を掛け俺に対し気遣いをしてくれた。

 

「いえ、『TOKIMEKIエスカレート』なら大丈夫です。志希、上着を頼む」

 

そう言って、スーツの上着を志希に渡す。

 

「いや、しかし・・・」

 

「お兄様が大丈夫~って言ってるから大丈夫だよ、た~けちゃん♪ハスハスハスハス♡」

 

解っていたが、また頭から上着を被りハスハス言い始めた。

月夜さんに渡すべきだった・・・

 

「志希ちゃん・・・私も・・・その・・・ちょっとだけ・・・」

 

美嘉ちゃんが奇行に走りそうだが、

他の人も色々あるだろうし、グダグダしてるともっと混乱が起きるかもしれない。

手早くYシャツの袖を捲り、軽くストレッチをしながら音楽の準備をお願いする。

 

「もういつでも大丈夫です」

 

「では一ノ瀬、頼む」カチッ

 

オーディオのボタンを押す。

部屋に取り付けられたスピーカーから知った曲のイントロが流れ始めた。

以前、踊った事がある曲・・・

踊りの初期体制をとると同時、

俺の中の何かがこの曲用の何かに切り替わる感覚が身体中を巡る。

スッと意識がこの曲に持っていかれる。

 

「「「「「「「!!!???」」」」」」」

 

~♪~♪~♪

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

~♪~♪~♪

 

 

 

曲が終わり最後の決めポーズから素の体勢に戻る。

意識が外に向かい、元の自分に戻って行くような感覚。

 

「ふぅ・・・っと、こんな感じですが、どうでした?」

 

袖をもとに戻しつつトレーナーさんに問いかけて近付いていく。

トレーナーさんの目尻から頬に掛けて涙の跡が見えた。

え?泣いていた?

 

「・・・あっ、あぁ、そうd」

 

「「「「「「「うわぁぁぁぁっ!!!!」」」」」」」

 

パチパチパチパチパチパチパチッ

 

トレーナーさんの声を断ち切って、

周りから大音量の歓声と拍手が巻き起こった。

 

「す・・・凄いですっ。感動です!感激です!ううぅぅ、未央ちゃん、これ夢じゃないですよね?

 騎士さまが私の目の前で踊っていましたよね?ああ・・・生まれて来て本っ当によかったですっ!!」

 

「しまむー、それはちょっと言い過ぎ・・・って言いたい所だけど、今の見ちゃうとねぇ・・・

 いやぁ、まさか目の前であの騎士様のダンスが見られるなんてほんとに夢のようですなぁ。

 こりゃ明日、学校で自慢だね」

 

「これが・・・トップアイドル・・・【全知全能】と言わしめた人の・・・踊り・・・」

 

「私の曲で、私の踊りなのに・・・完全に別物・・・聞こえてくる音すらも別物に聞こえちゃうくらいに・・・」

 

「さっすがお兄様!!いつ見てもカッコいい♪はい、う~わぎ~」

 

「ありがとう、志希。皆様、ご静聴ありがとうございました」

 

お礼を言いながら、四方へお辞儀を繰り返す。

更に拍手は大きくなった。

ふとトレーナーさんを見ると一瞬だが深呼吸をしていた様に見えた。

 

「ふぅ・・・やはり実物で見るのと聞くのとでは大違いだな。

 今まで色々な人の動きを目にしてきたが、

 聞きしに勝るものだった。【全知全能】とは正に・・・だな。

 是非ともこいつらの指導に当たって貰いたいくらいだ」

 

「まぁ僕も僕の仕事がありますからね、さs・・・え?」

 

気が付くと、俺とトレーナーさんの周りには人が集まっていた。

 

「騎士さまに指導をして貰えるんですかっ!?」

 

「いや、あの・・・だかr」

 

またか・・・

 

「にゃー、卯月ちゃん達だけずるいにゃ!!」

 

「「そうだそうだ~」」

 

ヒートアップしてきてしまった。

 

「とりあえずみんな落ち着いt・・・」

 

やんややんやと騒ぎ出す面々。

 

「はぁ・・・お前たちっ!!いい加減にしないかっ!!」

 

トレーナーさんがピシャリと怒号を発する。

 

「一ノ瀬に指導しないかと言った私に責任はある!

 だが・・・それでも早計すぎだバカどもっ!!一ノ瀬は他プロのアイドルなんだ。

 そんな事出来る訳が無いだろう!もっと良く考えてから発言をしろ!まったく・・・」

 

先程とは打って変わって静まり返る室内。

 

「ううぅぅ、ごめんなさい・・・興奮しすぎちゃいました・・・

 そうですよね・・・でも、残念です・・・」

 

「確かにその通りにゃ・・・ごめんなさい騎士さん・・・」

 

「ま・・・まぁ、私はわかってたけどね(声に出してなくて良かったぁ・・・)」

 

「美嘉ちゃん・・・内心残念って思ってるでしょ~?にゅふふ~」

 

「ギクッ」

 

「さっき言いかけましたが僕にも僕の仕事があります。

 ただ、今回の仕事の関係上、こちらにお世話になる事が多くなるので、

 タイミングが合えばできなくは無いかなぁ・・・とは思うんです」

 

「一ノ瀬、最初に言い出した私が言うのもなんだが、あんまり甘やかすなよ?

 そんなだから妹を制御できないんじゃないのか?」

 

「うぐっ」

 

痛い所を突かれてしまった。

 

「まぁ、妹も居ますし、顔出せるときは出しますよ」

 

「そうか、本人がそう言うのならそれはそれで良いだろう。

 良かったなお前たち、憧れの人が教えてくれるそうだぞ」

 

「「「「やったーーーーー!!!!」」」」

 

「キシ、それはワタシ達も教えてもらえるのでしょうか?」

 

「時間が合うようなら、レッスン開始の時間を連絡してもらうようにしますよ」

 

「ただし!!教えると言ったからには一ノ瀬・・・しっかりとやってもらうぞ?」

 

「もちろんです」

 

「お兄様に教わっちゃうのか~・・・ただその時は志希ちゃん居ないと不味いかもにゃ~」

 

「「「「えっ?」」」」

 

志希からなんとも言えない感じの言葉が出た。

その台詞に対しざわつく間も与えず、

 

「ではそんな騎士さんと月夜さんにこちらをプレゼント致しましょう」

 

「あっ、えっと、貴女は・・・」

 

「あ、申し遅れました。私は346プロ、シンデレラプロジェクトの事務を担当します。

 千川(せんかわ)ちひろです。よろしくお願いしますね?騎士さん、月夜ちゃん」

 

丁寧に頭をさげる。

346プロ既定の制服なのか定かではない緑のジャケット。

おさげと言うかポニーテールと言うか、

サイドポニーと言うのか取り敢えず微妙な位置から一つに束ねた髪型。

どことなく何か不思議さを持って居そうな印象を受けるにこやかな笑顔。

そんな千川さんが俺の前に手を差し出していた。

その手の中には、千川さんの名刺と、入所許可と書かれたカードがあった。

良く見ると、入所許可の方には俺の名前が入っている。

 

 

「こちらは346の入所許可証です。(はなぶさ)様のご依頼により申請をさせていただきました。

 次回からは346にお越しの際には受付にてこちらを提示してください。

 受付の手続き無しでお好きな時にお好きな場所へ出入り可能です。

 ただし、後程顔写真を撮らせて頂きますので、ご用が終わりましたら同行お願いしますね」

 

そう言ってカードを手渡された俺達。

現状、特に用も無かったのでレッスンルームに来ていた面々に挨拶をし、

そのまま千川さんに着いて行き、許可証用の写真を撮りに行った。

移動中、『ブルーナポレオン』の面々に握手とサインを求められたり、

撮影の際、カメラマンにツーショット写真をお願いされたりした。

 

久々の大きな仕事に胸が躍っている。

【全知全能】の時には感じなかった何かがそこにはあった。

半智半能(ちゅうとはんぱ)】になってから、

人生がかなり楽しいものになっている事を実感している。

このまま【半智半能(ちゅうとはんぱ)】で生きていけば、

人生を謳歌できるんではなかろうか?

 

こりゃ、次回からタイトルは『【半智半能(ちゅうとはんぱ)】になった俺がアイドルになって人生を謳歌していく』に変更か?

 

これから楽しい日々になりそうだ。




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

次回、タイトルは変わりませんのでご承知置き下さい。
また次話投稿まで今しばらくお待ちください。

では、このあたりで失礼致します。


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EXTRA Story 2 - 青木四姉妹の日常 -

平素より大変お世話になっております。

Exストーリー第2段です。

投稿順で番号を付けて行きますので,
これから先,過去の話に大きい数字が付いたりする事もありますのでご承知置き下さい。

今回のExは,物凄いキャラ崩壊を起こしております。

トレーナーファンの皆々様には大変お見苦しいものになるかもしれません。

覚悟して読まれるようよろしくお願い致します。


2019.06.06

先日リア友姉妹より,
『台詞がちょいちょい足りないし弱い』や『この文章を足しなさい』など,
クレームが来ましたので,ある程度,言われた通り訂正致しました。



 今日はトレーナー四姉妹の末妹である私、【青木(けい)】が、

 トレーナー四姉妹、青木家の日常を少しお話していきます。

 短い間ですが、お付き合いの程、よろしくお願い致します。

 

 

 

 ──────────―青木四姉妹の日常──────────────

 

 

 ―就業モード―

 

 

「「「「いただきます」」」」

 

 我が青木家では、代々より

『家族全員で食卓を囲み、全員で挨拶をしてご飯を食べる』

 それが家訓として存在しており、四姉妹だけで生活している現在でもそれを守り、続けられている。

 

「そう言えば今日、一ノ瀬騎士が346に来た」

 

「「「っ!!??」」」

 

 食事が始まって早々、(せい)姉さんが特大の爆弾を食卓に投下しだした。

 

「ええぇぇぇ!!!どこ!?どこに!?」

 

「五月蝿いぞ(めい)

 

 (れい)姉さんが(めい)姉さんを叱り、そして何事も無かったかのように黙々とご飯を食べ続ける。

 

「うぐぅぅ・・・ごめんなさぁいぃ。で、聖()ぇ、346のどこに来てたの?私の記憶では聖姉ぇは今日ダンスレッスンだったはずだから・・・レッスンルームとかっ!?」

 

「そう。そのレッスンルームに、だ。それでな、彼と少し話す機会もあったので、折角だから踊ってくれないか?とお願いした所、快く承ってくれてね」

 

「うえええぇぇぇぇっ!!!!????」

 

「おいっ!!!さっきから行儀が悪いぞっ明!!」

 

 麗姉さんはまた明姉さんを一喝し、そして先程と同様に黙々とご飯を食べ続けはじめる。

 

「ううぅぅ・・・ごめんなさぁい・・・でもでも、聖姉ぇズルイよぉ・・・騎士様のファンって知ってるでしょ?なんで呼んでくれなかったのぉ・・・」

 

 その点に関して私も『ウンウン』と頷いておく。

 私達四姉妹は346プロ専属のトレーナーです。

 と言っても、私はまだ見習い(ルーキー)でして、トレーナー業にはなかなか従事させて貰えていないのが実情です。早く一人前になりたい所ですね。

 あっと・・・少し話が逸れましたね。

 要は私達四姉妹、皆同じ場所で働いているという訳なのです。

 だから見れたのなら見たかったなぁ、と思う次第でした・・・。

 

「で、聖よ。トレーナーとしてのお前から見て、一ノ瀬騎士のダンスはどうだったんだ?」

 

 明姉さんの言葉を気にせずに麗姉さんは聖姉さんに問う。

 

 あ、そうそう。今更ですが、私たち四姉妹の構成は以下になります。

 

 長女:青木 麗(あおき れい)

 次女:青木 聖(あおき せい)

 三女:青木 明(あおき めい)

 末女:青木 慶(あおき けい)

 

 参考までに覚えていってくださいね♪

 

 ──閑話休題

 

 

 麗姉さんの問に対し、俯く聖姉さん。

 

「どうした?」

 

 しばしの無言の後、聖姉さんはゆっくりと口を開く。

 

「あぁ・・・一ノ瀬の・・・彼のダンスは、正直人智を優に超えてたよ。私には彼のダンスは到底評価はできない・・・してはいけない。そもそもダンスと、そう呼んで良いのかすら判らなくなったよ。あれは、そう・・・言ってしまえば神の御業・・・そんな次元の、代物だったよ」

 

 聖姉さんは再度俯き・・・手に持った箸でご飯を摘み口に運ぶ。

 明姉さんと私はゴクリと喉を鳴らした。

 

「そうか・・・神の御業・・・ね。それは是非とも実際に拝んでみたいものだな。チャンスがあったら、明や慶、私も呼んでくれると良いな。頼むぞ」

 

「あぁ、憶えておこう」

 

「で、実際の聖(・・・・)としての感想は?」

 

 麗姉さんは続けて似たようなことを聖姉さん尋ね、次いで俯きだす聖姉さん。

 そして────

 

 

 

 

 モードチェンジ

 

 ―おうちモード―

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 歓喜を携えた瞳が潤いを持ち、頬が紅潮した聖姉さんのだらけ切った顔があった。その聖姉さんはゆっくりと口を開く。

 

「──あのぉ・・・えっとぉ、とっっっっても・・・とっっっっても、格好良かったぁ・・・ですぅ・・・はい////」

 

 

「「「ですよねーっ!!!!!!」」」

 

 

 実は、私達四姉妹は・・・熱狂的(・・・)な騎士さまのファンなのです。

 

「聖はずるい」

 

「本っ当だよー!!なーにが、『言ってしまえば神の御業・・・』よー。そんなの当たり前じゃんよー!!あー、私も生で見たーい!!目の前で見ーたーいーっ!!」

 

 ガチャガチャと騒音を立てながら、先程までの行儀の良かった空間は存在せず、各々が思い思いの言葉を吐き出し、ご飯を啄む。

 

「見終わった後・・・思わず泣いちゃってました・・・」

 

 箸の先を齧りながら照れ臭そうに話す聖姉さん。

 

「ぷっ・・・・あっはっはっはっはっ!!!」

 

「も~笑わないでよ~。あんなの絶対泣くって。無理だってば~」

 

「そこは私も激しく同意。騎士殿のダンス目の前で見たら号泣する自信がある。むしろダンス以前に目の前に居る時点でお察しレベル。なんなら腰も抜かして、鼻血も出して〇〇ッ〇も漏らす。ギリギリ意識を保っていられるか?いや無理か?うん無理だ。レベル」

 

「ウェアは?どんなのだったの?ピッチリ系?ダボダボ系?」

 

「でた、明姉さんのウェアフェチ」

 

「ウェアじゃなかったよ。えっと、スーツだった」

 

 聖姉さんは卵焼き一切れをチマチマと端っこから啄む様に食べる。

 

「「「は?」」」

 

「上着は脱いでワイシャツだったけど、スーツで踊ってた」

 

 そう言い終えた聖姉さんは卵焼きを啄む。まだ半分も無くなっていなかった。

 

「いやいやいやいや、ちょいちょいちょい、違う違う違う違う、そうじゃ、そうじゃない」

 

 明姉さんは体の前でオーバーリアクション気味に腕を左右に振る。

 

「え?」

 

「騎士様のスーツ姿とか生唾もんでしょうがっ!!あぁんっ!!」

 

 右手中指を立て聖姉さん向ける。明姉さんがヒートアップ。

 

「あぁ・・・騎士殿のフォーマルなお姿・・・考えただけで涎が・・・ジュルリ」

 

 麗姉さんは遠い目をし始めた。ジュルリと言っているが、重力に従い口元から垂れた涎は持っていたみそ汁にナイスイン。

 

「聖姉ぇ!!写真!!写真とか動画とか撮ってないの!?」

 

 そう、革新的な事に気付く明姉さん。貴様やはり天才か!?

 

「動画なら・・・」

 

「「「あるのっ!?」」」

 

「なんでそれを先に言わないのよーっ!?」

 

「早く!!早く見せてくださいっ!!!」

 

「はりーっ!!はりーあっぷ!!」

 

「うわわわぁぁ、ちょっ・・・ちょっとまって・・・。持ってくる、持ってくるから、落ち着いて・・・でも先にさ、ご飯食べちゃわない・・・?」

 

「「「それもそう「だな」「だね」「ですね」」」」

 

 皆で静かに礼儀正しく、だけどすごくソワソワしながらご飯を食べました。

 

 

 8X―・・・・・・・・

 

 

「じゃ、再生するね」

 

 四人がテレビの前のソファに腰掛ける。

 が、皆が皆前のめりでテレビの画面に食入る様に注目している。まぁ、私もですが。

 明姉さんの鼻息が非常に荒くてうるさいです。

 

 ピッ

 

「「「おぉ~」」」

 

 テレビの画面に、四方から撮られた騎士さまが、四分割された画面に各々映し出されていました。

 正面のお顔、とても凛々しいです。

 レッスンルームにはダンスの振り付けを確認するなどのために、色々な角度から見直せるよう部屋の随所にカメラが設置されています。

 今回、そのカメラで撮影された物の内、映りの良かった四方向(多分聖姉さんの好きな角度)をチョイスして持ってきたみたいでした。

 あぁ・・・左後上方から映し出された騎士様に嵌りそうです。

 顔が見えそうで見えないけど、お顔は知っているからこそのこの角度の優雅たるや!!

 はっ・・・少しトリップしてしまいました。

 

「フォーマルな騎士様・・・すてきっ!!!抱いてっ!!!」

 

「あ~、袖捲りやばい。この仕草はやばい。ご飯四杯は余裕で食える」

 

「あーネクタイは解かないんだね・・・少し残念・・・あの仕草が大っ好きなんだけど・・・」

 

「「「たしかにっ!?」」」

 

 男性のネクタイを解く仕草って何故かわかりませんが独特なセクシーさがありますよね?

 

「あ・・・始まる」

 

 

 ~♪~♪~♪

 

『-TOKIMEKIどこまでも

 エスカレート-』

 

 

 8X―・・・・・・・・

 

 

『・・・』

 

 

『『『『『『『うわぁぁぁぁっ!!!!』』』』』』』

 

 

 パチパチパチパチパチ・・・

 

 

 

「・・・」

 

「・・・」

 

「・・・」

 

 映像が終わり無言の時が流れる。

 

「これは・・・」グズ……

 

「まさに・・・」ズズッ

 

「「「神の御業・・・」」」

 

「ちょっなにあれっ!?なんなんですかあれっ!?」グズ……

 

「麗姉ぇめっちゃ泣いてるじゃん」ズズッ

 

「そう言う明だって」グズ……

 

「最早何も語れないくらい号泣の慶が居ますが?」

 

「これ、生で見たらやばいわ・・・確かに気を失うかもしれないわ・・・」

 

「私も見ている最中、もう現実かどうかわからなくなってた・・・」

 

 すこし落ち着いて来ました。

 ライブDVDで何度も見た事ありますが、こんな臨場感ある至近距離の映像は今まで無かったもので・・・

 

「スンッ・・・いいなぁ・・・騎士さまのライブって今度いつだろう・・・スンッ」

 

「ねぇねぇ、聖姉ぇ。なんで騎士様は346に居たの?」

 

「詳しくは知らされてないけど、今度の仕事上、これから346には良く来るって言ってた」

 

「チャンスキタ━━━(゚∀゚)━━━!!!」

 

「これは騎士様と同じ空間で同じ空気を吸うチャンスだ!!ビニール袋を常備せねば!!」

 

「明!!キサマ・・・やはり天才かっ!!!???」

 

 麗姉さん、明姉さんの変態っぷりが更に加速してきました。ハイパークロックアップです。

 

「ならば!受付の友達に、騎士様が通ったら連絡くれるように今のうちに言っておこ!!」メルメルッティン!!

 

「それなら、その友達を私達四人とグループチャットで繋いで全員に直ぐ伝わるようにしよう」イッツショウターイム!!

 

「だったらいっその事、ナイト様の妹さんに連絡先を聞いて、スケジュールを教えてもらっちゃおう!!」テルテルプルルルルルッ

 

「「「えっ!?」」」

 

 プルルルルルルッ

 

 プルルルルルルッ

 

「ちょっと聖!!あんた何やってんの!?」

 

「勢いとテンションで奇行に走ってしまいました。えーっと・・・どうしよう・・・」

 

「「「知るかーっ!!!」」」

 

 ガチャッ

 

『ほいほいほ~い?志希ちゃんですよ~?トレ~ナ~さん?どしたの~?』

 

「(でちゃったー!!??)」

 

「(どうすんのよ聖!!)」

 

「(もうどうにでもなーれー(白目)!!)」

 

 

 

 モードチェンジ

 

 ―就業モード―

 

 

「あ、ああ。夜分遅くに悪いな」

 

『今ね~。お兄様の手料理を心待ちにしているので~、お早目のご用件か、または後にしてもらえると嬉しいかな~って志希ちゃんは思うのでした』

 

「あ・・・あぁ、そうなのか・・・では、後ほど折り返してもらえるか?」

 

『にゃっはは~い、まったね~』ブチッ

 

 ツーツーツー

 

 

 

 モードチェンジ

 

 ―おうちモード―

 

 

「ナイト様調理中だって・・・」

 

「「「騎士「殿」「様」「さま」の手料理食べたいっ!!!」」」

 

「あーどんな格好で料理してるのかなー?」

 

「さっきの格好のままエプロンだけ着けてる・・・とか・・・」

 

 ブフッ

 

「うわっ!?明が鼻血噴いた!?」

 

だにぞで(なにそれ)・・・だばだん(タマラン)・・・」

 

 明姉さんはティッシュで鼻を抓み上を向く。

 

「明姉さん、それは良くない方法だよ・・・下向かないと」

 

 

 8X―・・・・・・・・

 

 

 ~♪~♪~♪ (着信メロディ※『Midnight 歌:一ノ瀬騎士』)

 

 

 皆が一斉に己のスマホを見る。

 はい、お察しの通りです。四姉妹全員同じ音です。

 

「あっ・・・ナイト様の妹さんだ・・・で・・・出ます」ゴクリッ

 

 皆が聖姉さんを静かに見守る。

 

 

 

 モードチェンジ

 

 ―就業モード―

 

 

「もしもし、一ノ瀬妹か?」

 

『はいはい志希ちゃんで~す。トレ~ナ~さんどうしたの?』

 

「あぁ、次のレッスンの予定日の連絡と、一ノ瀬兄、彼の連絡先をおしえておいて貰えないかと思ってな」

 

「「「(どっ直球で聞いたぁ~!?)」」」

 

『お兄様の?』

 

「あぁ、今回みたいに急に来られてまた騒ぎを起こされてはかなわんからな」

 

『あれは大体トレ~ナ~さんとみくちゃんの所為だと思うけどにゃ~?』

 

 相手側がなんて話しているのか良く聞こえませんが、

 聖姉さんにダメージを与えるべく何かを言ったのは間違いなさそうです。

 聖姉さんの顔がそれを大いに物語っています。

 

「まぁ、それはその・・・す・・・すまなかったな・・・」

 

『別に良いんじゃないかにゃ~?志希ちゃんはどうでも良いし・・・あ、お兄様~、ほい』

 

「えっ!?」

 

「「「(なにがあった?)」」」

 

『もしもし、一ノ瀬騎士です。あの、いきなり妹に渡されたのですが・・・すみません、どなたでしょうか?』

 

「・・・・・・『あの・・・もしもし・・?』はっ!?あーすまない。今日トレーナーをしていた青木聖と言う。以後よろしく頼む。今日は申し訳なかったな」

 

『あー本日はお疲れ様でした。いえいえ、こちらこそ申し訳ありませんでした。所でどうなされました?もしかして、志希がなんかしました?』

 

「あ、いや、今日の事もあったので、また大騒ぎになっては困ると、一応君の連絡先を教えてもらえないかと相談していた所だったんだ。346に訪れるスケジュールだけでも構わないが、問題ないだろうか?」

 

『あぁ、それもそうですね。スケジュールはまだ細かくわかっていませんので、後ほどこの番号にショートメール送りますので登録しておいて下さい。用件は以上ですか?妹に戻しましょうか?』

 

「いや問題ない。用件は以上だ。妹にありがとうと、あと次は遅れるなと伝えておいてくれ。ではおやすみ・・・失礼するよ」

 

『はい、お疲れ様です。おやすみなさい。失礼します』ピッ

 

 ツーツーツーツー・・・

 

 電話を終え、スマホを胸元に持って行き、空を仰ぐ聖姉さん。

 しばし無言のあと口を開いた。

 

 

 

 モードチェンジ

 

 ―おうちモード―

 

 

「私・・・もう・・・今死んでも良い・・・」

 

「聖姉ぇ・・・」

 

「聖・・・」

 

 麗姉さんと明姉さんは大きく息を吸う。

 

「「〇ねぇ!!!」」

 

「ええええぇぇぇぇっ!!??」

 

「今、騎士様と電話してたんでしょー!?なーにが『ではおやすみ』だぁ!!ちゃっかり騎士様におやすみとか言ってんじゃねぇ!!死罪だ!!極刑だ!!打ち首だぁっ!!!」

 

「就業モードで頬赤らめてんじゃねぇ!!乙女の顔してんじゃねぇ!!妹の癖に!!〇すぞ!!」

 

 大変です。姉さん達が狂悖暴戻、乱暴狼藉、傍若無人の限りを尽くしている。

 

「ね・・・姉さん達・・・あの・・・落ち、落ち着いて・・・」

 

「「これが落ち着いていられるかぁ!!!」」

 

 ~♪~♪~♪

 

 聖姉さんのスマホがまた鳴る。

 

「あ、ショートメールが・・・」

 

 

 ──────────────────────────

 

 from:0**09******1

 一ノ瀬騎士です。番号の登録お願い致します。

 伺う際はこちらに連絡致しますので何卒宜しくお願い致します。

 妹の事も宜しくお願いしますね。

 

 ──────────────────────────

 

「ナイト様の電話番号を手に入れてしまった・・・しかもナイト様から連絡貰える事になってしまった・・・」

 

「えっ・・・そのスマホもはや世界遺産じゃん。下手に無くしたり出来ないじゃん」

 

「えっ・・・そこまでいっちゃう!?」

 

「だってその番号にかければ騎士様に繋がるんだよね?騎士様と一瞬でも会話できる番号なんだよね?今の時代宝くじの1等の金額より高値で売れるよソレ?」

 

「「「えっ、なにそれコワい・・・」」」

 

 なんでも話によれば、『聖姉ぇを〇してでも欲しがる輩は五万と居る。なんなら私もその一人だ。夜道と寝静まった時には気を付けな・・・』だそうです。

 

「まぁでも・・・勢いって大事だね♡」

 

 聖姉さんが凄い可愛い顔でスマホを抱き締めています。

 そんな話を聞いた後でもこれです。まさに恋する乙女です。

 正直しょうがないかもしれません。

 つい先日まで憧れていた人が気軽?に電話出来るようになってしまったりお話出来るようになってしまったんですから。

 

 しかしそれを見ていた姉さん達も最早何も言うまいと言った感じでした。

 と言うよりドン引きしているように見えます。

 

「さて、聖姉ぇは放って置いて私はこの動画をもう少し部屋で見直そうかな・・・」

 

 明姉さんがデッキからディスクを取り出そうとすると、麗姉さんが明姉さんの手首を掴む。

 

「そっ!れっ!はっ!私が部屋に持って行く。お前は自重しろ」

 

「はぁぁぁぁぁぁっ!!??こう言うのはねぇ、早い者勝ちなの。わかるぅ?麗姉ぇはさっさと部屋でお気にのライブDVDでも観ながら〇〇ってな!!」

 

「あぁんっ!!??なんだとてめぇっ!!!」

 

 お互いに胸倉を掴み合い睨み合う。

 二人の目からビームが出てそれが衝突し火花が散っているのが幻視されます・・・

 しかしこれは無駄な争いです。

 

「コピーすれば良いじゃない・・・」

 

「「それだっ!!」」

 

 

 青木家は今日も平常運転です。

 

「(私の分もコピー・・・っと♡)」

 

 

 ──明の部屋

 

「あれ?そう言えばこの動画も凄ぇお宝じゃね?」

 

 

 この日、世界文化遺産レベルのお宝が我が家に来たのでした。

 

 ── 終 ──




最後までお読み頂き誠にありがとうございました。

何と言いますか,非常に申し訳ありませんでした。
普段はまじめで堅物な人が実は裏では・・・みたいな感じが欲しかったのです。
これでこの先,私の話に出てくるトレーナーさんは読んでいる方々に,
『こんなまじめな話しているけど内心・・・』みたいな事を思って頂けるんではないでしょうか?
思って頂けたら良いなと思っております。

因みにこの四姉妹,熱狂的なアイドルの追っかけをしているリア友姉妹を参考にさせて頂きました。
どこら辺を参考にしたかは企業秘密です。

ありがとうリア友姉妹。

【追記】

補足:四姉妹の騎士の呼び方

麗→騎士殿
聖→ナイト様
明→騎士様
慶→騎士さま

となっております。


では,このあたりで失礼致します。




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Fifth Side Story ~ 人間万事塞翁が馬 ~

平素より大変お世話になっております。

Sideストーリー第5弾です。

今回のお話は急展開となります。


私事ですが,この作品のUAが40000を越えてました。
最後に気に掛けてたのって確か10000の時だったと思われます。
20000とか30000の時の私は何も感じなかったんですかね?謎です。
しかし気が付いたら40000って…,物凄い数字ですね。
コレを見て震えました。

読んでくださっている皆様,
本当にありがとうございます。





とある晴れた日。

俺はぶらぶらと食べ歩きをしていた。

 

「あのー、そこ行く殿方ー、少しお話がありましてー」

 

後方から、凄くのんびりとした可愛らしい声が聞こえてきた。

 

「はい?」

 

後ろを振り返ると誰も居ない・・・と言う事は無かった。

目線を下げると、大きなリボンが目に付いた。

更に目線を下げる、少し変わった和装に身を包んだ女の子が佇んでいた。

 

「えーと・・・キミが、今僕に声を掛けたのかな?」

 

その少女の目線と同じ高さまでしゃがみ込む。

目を合せると少女は口を開いた。

 

「【異端の者】・・・と言うのはそなたでしてー?」

 

「!!」

 

その言葉に驚いた。

【異端の者】

そうだな、俺は転生者・・・この世界の【異端の者】で違いない。

違いないが、この子は一体・・・

 

「あの・・・君は・・・?」

 

「これはこれは大変失礼いたしましてー。

 わたくし、姓は依田、名は芳乃と申すものでしてー。

 昔から依田の家は神和ぎや拝み屋の血筋と言われておりましてー」

 

神和ぎ、拝み屋・・・()の事か・・・

俺を【異端の者】と見抜けるあたりかなり実力ある家系なんだろう。

隠しても仕方ないし、正直に話しておくとしよう。

 

「きっと依田さんの言う【異端の者】で違いないと思います。それで・・・なにか御用ですか?」

 

内容次第では、逃げるか?

それともこの子の記憶をなんとか・・・いや、流石に手を掛けるのは・・・。

現状何とか出来てもきっとまた探し当てられてしまうだろうし・・・なにより俺はアイドルだ。

あっさり見つけられてしまう事に変わりない。

なんかしらの手立てを考えなきゃだめか・・・

こんな時に【半知半能(ちゅうとはんぱ)】なのが悔やまれる。

 

「はいー、ババ様より言伝を預かりましてー。こちらでお伝え致しましてー。

 『【力】の使い方は己が最も識るものと識れ。

  【全】が無ければ【一】を失い、【一】が無ければ【全】も無し』でしてー」

 

「・・・え?」

 

「では、確かにお伝え致しましたので、これにてー。ではまた(・・・・)

 

依田さんはそう言って頭を下げ、踵を返した。

 

俺はその場で立ち尽くしていた。

それだけなのか?

焦った俺が馬鹿みたいだった。

しかし・・・

俺は彼女の言葉を頭の中で反芻していた。

 

『【力】の使い方は己が最も識るものと識れ。

 【全】が無ければ【一】を失い、【一】が無ければ【全】も無し』

 

「己が最も識るものと識れ・・・ねぇ」

 

そのままの意味で、力の使い方は俺が最も理解しているって事だろうけど・・・

使えないんですよね・・・

 

それよりも気になるのは後半だ・・・

【全】と【一】?

【全】と【一】、か。

 

【全】は【全知全能】?

【一】は・・・【一】ぃ?

 

取敢えず、現状このままでは駄目だって事・・・なのかな・・・?

半知半能(ちゅうとはんぱ)】になってから考えることが多くなって非常に面倒だ。

じゃあ【全知全能】が楽だったかと言えば今までの人生を鑑みて楽ではない。

 

でも・・・小さい頃からいらないと思っていた【全知全能】だが、

いざ無くなると非常に不便で尚且つ生活が怖く感じる事がある。

普段から当たり前にあってそれが無くなった途端に不満と不安を募らせる。

それが人間ってモノだ。俺もまだまだ人間だったって事だな。

しかしだからと言って【半知半能(ちゅうとはんぱ)】が嫌かと言えばそんな事も無く、

現状以前よりも人生を謳歌できている分、こっちの方が良いなぁなんて思っているのも事実だ。

 

でもさっきの【巫】の少女・・・依田、芳乃さんだったか?

彼女の言葉を無視は出来ない。

【一】が何かは解らないが、【全】を失うって事は【半知半能(ちゅうとはんぱ)】ですら居られなくなるって事だろうと思う。

しかし現状あまり考えず(考える事は大嫌いだし)、その時になったら考える事にしよう、そうしよう。

さて、何を食べようかな・・・おや?あれは・・・

 

「依田さん?」

 

「またお会いしましてー」

 

何故逆方向に歩いて行った依田さんがここに居るのか分からないが、

一つ明確に分かる事があった。

 

「クレープ食べたいの?」

 

クレープ屋の前で立ち止まってじーっと見ていたからだ。

 

「でしてー・・・」

 

恥ずかしそうに頷く。

 

「お金は?」

 

「持ち歩いてないのでしてー」

 

何故だろうと思いもしたが、人それぞれだ。

 

「ならさっきの言伝のお礼に好きなの買ってあげますよ」

 

「それは・・・申し訳ないのでしてー」

 

なんとなく以前のみくちゃんの俺に対する態度を思い出し、

こう言った遠慮しがちな子は少し位強引にした方が良いかもしれないと思い立った。

なので・・・

 

「あぅ・・・恥ずかしいのでしてー・・・」

 

素早く依田さんの後に回り脇に手を入れ抱えあげた。

 

「さ、選んで選んで」

 

クレープ屋さんは自動車一体型の移動式店舗で、メニューは店の外に置いてある黒板とカウンター上のプラボード、

そしてカウンター内、店員後方の壁に貼ってある。

背が低めな彼女はメニューを全て見きれて居なかったのだろう。

 

抱え上げたお陰で見える景色が変わった。

故に後頭部だけ見てても分かるほどの『どれにしようか』と楽しそうに悩む様が手に取るようにわかる。

 

「あのー、どれでもいいのでしてー?」

 

「どれでもいいのですよー」

 

似たような感じで、出来うる限りの笑顔で返事をする。

 

「・・・」

 

無言で見つめられる。

 

「?」

 

「そなたにはー、そんな顔は似合わないのでしてー」

 

「え?」

 

笑顔を否定された。

 

「作るのでは無く、ありのままで良いのでしてー」

 

笑顔でそう言う依田さん。

 

「ありのままで・・・」

 

「あのー、これとーこれを・・・」

 

俺の思考を中断させるタイミングで注文をし始めた。

 

店員「はーい!ありがとうございまーす!」

 

「あ、じゃあ僕はコレとコレを・・・」

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

 

「ごちそうさまでしてー」

 

そう言った後、俺が手渡した550mlのペットボトルのお茶を両手で持ち、

コクコクと飲む。

 

何故か俺の膝の上で。

何故か俺の膝の上で。大事な(ry

クレープ屋さんが設置したであろうベンチに腰掛けたら、

「では失礼しましてー」とさも当り前のように膝に乗ってきたのだ。

「えっあのっ?」とあたふたするも、なんでこの人こんなおろおろしているのだろうみたいな顔されたので、もうどうにでもなれと今に至っている。

 

「満足してくれたなら何よりです」

 

依田さんはクレープ3つ、ペロッと平らげました。

見てて気持ちが良いくらいの食べっぷりでした。

あ、ちなみに俺は7つ食べました。

 

「して、そなたの名はー?」

 

ペットボトルから口を離した直後、質問が飛んできた。

 

「あぁ、そう言えば自己紹介がまだでしたね」

 

依田さんを膝に乗せたまま続ける。

依田さんは首をこちらに向けてきた。

 

「僕は一ノ瀬騎士って言います。もしかしたら聞いた事あるかもしれないね」

 

「・・・」

 

凄い訝しげな目でジーッと見られている。

疑われている?

試しに眼鏡を外してみる。

 

「っ!?」

 

ちょっと目が見開いた。

 

「おわかりいただけましたか?」

 

「ずっと何処かでお会いした事がある様な気がしてましてー」

 

ぱぁっと霧が晴れたように笑い出す依田さん。

どうやら依田さんは変装を見破れないタイプの人だったみたいだ。

見破れるタイプの人なのかと勝手に思い込んでいた。

認知は出来ていたみたいだったし、

でも【異端の者】を見破ったのは依田さんのお婆さまっぽいしな。

依田さん自身力はあるけどまだまだ成長途中なのかな?

等と考えていると、もそもそと依田さんが動く感じがした。

 

ギュッ

 

「ん?」

 

下を見る。

すると正面を向いて座っていた依田さんは、横向きで座っており、

そこから俺のシャツを握り、胸に顔を埋めて来ていた。

 

「あの・・・何を?」

 

「ふふ。わたくしの特別なおまじないでしてー」

 

くぐもった声でそう言った後、2・3度スーハーと呼吸をした後「ぷはっ」と大袈裟に息継ぎをし、満足げにぴょんっと膝から降りた。

少し志希っぽいなと思った。

 

「ふふふ。では、そろそろお暇しましてー。また、お会い致しましょうー。本日はごちそうさまでしてー」

 

そう言って深くお辞儀をし、鼻歌を奏でながらゆったりとその場を離れていった。

 

「不思議な子だったなぁ。『また』って事は会えると思っているんだろう。次に会う時が楽しみだな」

 

そう呟き、ベンチから立ち上がる。

クレープ屋で3つ、追加でお土産を買って帰路に着くのだった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「もしもしー」

 

『芳乃かぇ?』

 

「はいー」

 

『【異端の者】には会えたのかぇ?』

 

「はいー」

 

『全てを伝えたかぇ?』

 

「はいー」

 

『何かされなかったかぇ?』

 

「くれーぷをご馳走になりましてー」

 

『何?』

 

「お膝の上でーとてもとても心地良かったでしてー」

 

『そ・・・そうかぇ・・・。で、芳乃よ・・・【異端の者】とは何者ゾ?ワシの詠みでは伝えるべきと出たんじゃが、本当に伝えてよいモノだったのかぇ?』

 

「一ノ瀬騎士と、仰ってましてー。ババ様のお部屋に貼ってあるぽすたー為る掛け軸の御仁でしてー。きっと問題無いかと思いましてー」

 

『なっななななっなんじゃてーーーーーっ!!!???』

 

キーーーーーーーン

 

「ばっババ様・・・耳がキーンとしましてぇ・・・」

 

『まことか!?』

 

「うぅぅ・・・はいー・・・」

 

『芳乃!!引き続き【異端の者】に会いに行き、何とかして傍に居るのじゃ。よいかぇ!?なんとしてもじゃっ!!』

 

「はいー、わかりましてー」

 

『では、気を付けての。住処が決まったらまた連絡を頼むぇ』

 

「はいー」

 

ふぅ・・・すまほは苦手でしてー。

しかして、ババ様のお言いつけ通り、彼の御仁を探しに行きましてー。

ただ、やはりと言うべきか血は争えないのでしてー。

殿方の好み(・・・・・)は同じでしてー。

 

さてー今宵は何処で一晩明かしましてー・・・おや?

 

「くんくんくん、hshshs・・・

 ヘイヘイヘ~イ。そこの和服少女~、何故にお兄様の匂いを身体中から振りまいているのか・・・

 この志希ちゃんにご説明願いましょうか~?」

 

どうやら何とかなりそうでしてー。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ただいま~♪」

 

志希が帰ってきた。

 

「おかえりぃっ!?えっ!?依田さんっ!?」

 

「にゃはは~、攫って来ました~♪」

 

「攫われてしまいましてー」

 

一体どう言う事だよ・・・

 

 




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

尻切れ蜻蛉ですが,これで良いのです。
手抜きとかでは無いです。
本当です。

よしのんの話し方が異常に難しいです。
一先ず『~でしてー』で統一する事とします。

来月中までには第9話とExストーリーを投稿したいと思っておりますが,
予定は未定です。

ではこのあたりで失礼致します。


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If story ~【全知全能】になった俺が世界の覇者になって他人の人生を奪っていく~

ご無沙汰しております。

今回、本編ではなく申し訳ございません。
ただ、少し書き上がっているものを箸休め的に投稿した次第です。


因みにこのIf storyは続けるかはわかりません。

では、短いですがどうぞ・・・

本編、もう暫くお待ちください。


やぁやぁ、皆様如何お過ごしでしょう。

 

俺は今、頗る機嫌が悪い。

 

 

神様から【全知全能】の力を貰い、

人生に飽きが来たので、この世界で楽しい生活をする為にはと自問自答したところ

 

【世界征服】と【アイドル】

 

この二つの道が示された。

 

今までの俺だったら間違いなく【アイドル】を選んでいただろうが

その時の俺は幾らか捻くれていたし、厨二病真っ盛りだった事もあって

【世界征服】の道を選んだんだ。

 

このアイドル至上主義の世界で・・・

 

そして3年たった現在・・・18歳。

 

俺は某『白い家』のやたら豪奢な部屋のやたらデカい椅子に座って居る。

 

既に世界の3分の2が俺の手中に墜ち、

残りをどう落としてやろうかと画策中である。

 

 

コンコンッ

扉をノックする音が聞こえる。

 

「入れ」

 

「失礼致します」

 

入って来た女は俺の秘書『和久井留美』

青髪の短髪、鋭い目付きと、隙も無駄も無い佇まいの見目麗しい女性だ。

 

「どうした?どっかの国からいい返事でも聞けたのか?」

 

「北のトップから通信です」

 

「よし、繋げ」

 

留美は手に持っていたリモコンを、俺はテーブルに組み込まれた機械を操作する。

天井からスクリーンが現れ、そこに一人の小太りな中年男性が映し出される。

 

「やぁやぁ暫くだったね。どうだ?国を渡す意志は固まったのかな?」

 

『・・・わ、我々は貴様に屈しない!!』

 

俺はニヤリと笑う。

 

「そうか、残念だ・・・非常に残念だよ。貴方はもう少し賢い方だと思っていたんだが・・・

 今から、あぁー・・・そうだな・・・6時間、6時間だ。それが貴方達北の国民に与えられた北の国民としての最期の時間だ。その時間で未支配国と結託するも良し。自国だけで迎撃体制を取るも良し。今までの人生を省みて懺悔し、家族と共に過ごすのも良し。貴方の好きなようにしてくれ。通信が切れたちょうど6時間後・・・貴方の前に現れると約束しよう・・・」

 

そう言い放ち通信を切る。

俺は留美に向き直る。

 

「留美、今回は俺が一人で出る。最近部下に任せきりで暇をしていたんでな。余計な真似はするなよ?もう一度言っておくぞ?俺は一人で出る」

 

「畏まりました」

 

「聞こえたか?まゆ?」

 

後ろに並ぶ棚の影から突如姿を現す少女。

 

「うふふふ・・・流石は騎士さま。まゆの事をす~ぐ見つけてくれる。

 まゆの運命の人」

 

小指についた紅いリボンを擦りそう言ったあと、頬に手を充てうっとりし始める。

俺はまゆの言った事を意に介さずにまゆを睨む。

 

「あ~んそんなお顔の騎士さまもス♡テ♡キ♡

 は~い♡まゆは騎士さまが帰って来るのを静かに待っています。

 いい女は殿方をどれだけタてられるか・・・ですから♡うふふふふ・・・」

 

舌舐めずりをし、再度悦に浸るまゆを尻目に俺は立ち上がる。

 

「支度をするから2人は下がれ。留美、他の奴等にもさっきの事を伝えておけ。それと俺が命令をするまでは余計な事は絶対にするなと釘も刺しておけ。諜報部隊の者にはそのまま偵察を続けさせ、重要な情報は逐一報告するよう」

 

「はい」

 

留美は頭を下げると、静かに部屋を後にした。

 

「まゆ、お前もさっさと部屋を出ろ」

 

「・・・少しくらい、まゆに構って頂いてもぉ、罰は当たりませんよ?」

 

「・・・俺は今機嫌が悪いんだ・・・何度も言わせるな・・・出ろ」

 

「はーい・・・では今晩も、楽しみにしていますね♡では、御武運を♡」

 

まゆはゆらゆらと、ゆったりとした雰囲気のまま退室する。

 

まゆが退室したのを見届け、数秒後、椅子に崩れ落ちる。

そして完全に誰も居なくなった事を確認し、大きく溜息を吐く。

 

「はぁぁ~、疲れる・・・ああ言う雰囲気は未だに慣れないんだよなぁ・・・」

 

先程までピリピリしていたが、実はあまり・・・

いや、凄くああ言った状況が嫌いなのだ。

じゃあ普段からそのままにしていれば良いのではないか?と思われるかもしれないが、

【全知全能】がそれを許してはくれなかった。

と、言うよりは、この状態での世界征服は非常に面白くなくなるらしい(・・・)ので仕様が無くああしている。

因みに『~らしい』と言っているのは、【全知全能】の能力に、いくつかの制限を設けており、その内の一つ【予知】を使えなくしている為、結果を見れなくしている。

コレも【全知全能】の楽しく生きる為の重要なファクターらしい。

 

「さて・・・と、あと6時間、ゆ~っくりま~ったり準備しますか~・・・

 しっかし・・・今夜もまゆちゃんの相手をすんのかぁ・・・気が重いなぁ・・・」

 

どんな相手をするのかはお察し。

 

肘掛に手を付き、再度椅子から立ち上がる。

そして左側にある本棚の方へ歩いて行き、並んでいる本の一冊に手を掛け手前に引く。

すると本棚は音も無く床に飲み込まれていく。

退いた本棚の後には、黒光りしたとても重厚な西洋甲冑が飾られている。

 

俺はその甲冑に手を掛け、一つ一つ身に着けていく。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

翼を模した黒いマントを羽織り残りは冑を被るのみの状態で「ふぅ・・・」と一息吐く。

直後、俺は左足を軸に右回し蹴りを放つ。

ゴゥと言う音と共に机の上に載っていた紙媒体の大量の資料が部屋中に舞う。

 

「いきなり背後に立つなんて・・・趣味が悪いな?あやめ」

 

「ハァ・・・ハァ・・・ハァ・・・」

 

俺の、甲冑を纏った右爪先のほんの数ミリ先に顔面蒼白の女の顔がある。

目を見開き、荒く息を吐き、冷や汗が頬を伝い床に垂れる。

 

『浜口あやめ』

 

少し派手目な色を所々に配った忍び装束に身を包んだ少女。

忍者に憧れ、そのまま俺の力(・・・)で真の忍者になった女アイドル。

その【力】を有効活用し、諜報部隊として動いてもらっている。

 

「も・・・申し訳・・・ございませんっ・・・」

 

息も絶え絶えに返事をし、崩れるように跪く。

 

「何の用だ?もしくだらない用事だったら・・・」

 

俺は脚を上げた体勢のまま、あやめを睨みつける。

 

「いっいえ!!あ・・・あの、さっ・・・先程、

 北の地よりの軍をこちらに向けると、情報を傍受しましたので・・・その、ご報告を・・・」

 

「ほう・・・攻撃に出るか、面白い。で、北のトップは一緒に向かってるのか?」

 

俺は脚を下ろし机の方へ向かう。

 

「いえ、奴は自国にて待機との事です」

 

「そうか、敵兵の数は?」

 

「凡そ20,000と推察されます」

 

俺は椅子に座る。

 

「ふむ・・・ヘレン!マキノ!千秋!」

 

部屋の中から名前を呼ぶ。

ノックも無しに扉が開き、3人が部屋に入ってくる。

 

へ「ハーイ、騎士様。私の出番?」

 

マ「出番でもないのに騎士様が呼ぶわけが無いでしょう?もっと良く考えてから発言してください」

 

千「ふふ、なにかしら?」

 

「あやめの情報によるとこれから北の軍がこちらに向かってくるそうだ。数は凡そ20,000」

 

マ「20,000?たった20,000?それだけで騎士様に歯向かうと?」

 

「俺は北のトップと6時間後に直接会う約束(・・)をしているので、

 こっちに向かっている奴らの相手を頼んだ。お前たち3人でどうにか出来るだろう?」

 

ヘ「3人?私1人でもどうにかできるって知ってるでしょ?私は何をさせても世界レベル。騎士様にがっかりなんてさせないわ」

 

「俺は3人でどうにかしろと言っているんだ。3人で話し合った結果ヘレン1人でどうにかするとなったのならそれも良いだろう」

 

千「だ、そうよ?ま、ここで話してたって騎士様の邪魔になるだけ。騎士様?用件は以上でよろしいですか?」

 

「ああ、正直相手に負けを認めさせられるなら、どんな結果でも構わない。お前達の好きにやれ」

 

マ「その言葉、痛み入ります」

 

ヘ「さっすが騎士様。暴れちゃうわよー」

 

千「さ、行きましょ。では、失礼します」

 

3人は踵を返し部屋を後にする。

 

「では、私もこれにて!!」

 

あやめの身体の周りに小さな旋風が発生したかと思うと忽然とその場から消え去った。

 

「ふぅ・・・」

 

約束の時間まで、後5時間――――

 




最後まで読んで頂きありがとうございます。

本編の方、がんばります。

では失礼致します。


※加筆及び修正を行いました。2018/12/23


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If story 2 ~【全知全能】になった俺が世界の覇者になって他人の人生を奪っていく~

大変お世話になっております。

今年最後の投稿はIf storyの続編となります。
If storyはその内別投稿させて頂きますので,
こちらでの投稿もこれが最後になります。

では,初の10,000文字越え投稿になります。

読み直しは何度かしましたが,見逃している誤字脱字ありましたら,ご容赦下さいまして,報告願います。





この世界には【アイドル】と言う存在が()り、

 

そして【アイドル力】と言う力が存在する。

 

それは、俺が【世界征服】を始めるにあたり、【全知全能】と言う名の【絶対神】が創り上げたこの世界の新法則(ルール)

アイドル至上主義のこの世界で俺と言う【脅威】と戦う為に、生き抜く為に、そして・・・俺を楽しませる為に与えられた人類の武装。

 

それが【アイドル力】。

 

諜報部隊の一人『浜口あやめ』。

奴の【アイドル力】は察しの通り【忍術】。

 

そう、【アイドル力】とは即ち【個性】。

元々アイドルに成り得ない、適性の無い人間に【個性(アイドル力)】は発現しない。

 

全知全能(絶対神)】に選ばれし者のみが得られる【個性()】。

 

そしてその【個性()】を保持している人類を総じて【偶像(アイドル)】と呼ぶ。

 

 

 

閑話休題

 

 

 

ヘ「で、どうするの?」

 

マ「何がですか?」

 

へ「北の部隊。ほんとに撃退する?」

 

マ「気は進みませんがその方が良いでしょう。まだその時ではない(・・・・・・・・・)です」

 

千「じゃあ、仕方が無いけど士気と戦力を奪いましょうか・・・騎士様もやり方は任せるって言ってくれたし」

 

へ「なら、私の【個性()】は今回向いていないわね。二人にお任せー」

 

マ「そうですね。ヘレンは多勢向けじゃない【個性()】ですしね。よくあんな啖呵を切れますね?まぁ、今回は私と千秋さんの二人でやりましょう。主に私が担当しますが千秋さんにも大いに働いてもらう事になります」

 

千「ええ、問題ないわ」

 

3人は静かに立ち上がると、『白い家』を後にする。

 

 

約束の時間まで、後4時間半――――

 

 

「新戦力でも集めようかな・・・でもそろそろ独りになるのも良いなぁ・・・」

 

冑を机の上に置き、甲冑姿で椅子に座る。

 

「あの3人も、そろそろあっち側で動き出しそうだし」

 

八神マキノ、ヘレン、黒川千秋。

あの3人は実は俺の敵対勢力の仲間だ。

 

俺が【世界征服宣言】をしたあの日から丁度1年後に反騎士勢力が生まれた。

その勢力は基本的に全員が【偶像(アイドル)】である。

 

リーダーの名は・・・

 

 

【一ノ瀬志希】

 

 

俺の義理の妹。

 

俺の最大の敵。

 

あぁ・・・俺はお前の事を考えると楽しくて仕方が無くなる。

お前の【個性()】はいったい俺に何を見せてくれるのか・・・

 

『【天賦の才(ギフテッド)】志希』

 

「楽しみだ、楽しみだなぁ・・・」

 

俺は椅子を机から放し、机の下を覗き込む。

 

「乃々、聞こえるか?」

 

「・・・・・・」

 

「乃々・・・?」

 

「ふぁっ!??はっはいっのノノです・・・」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『森久保乃々』

 

能力名:【机の下(アンダーザデスク)

 

能力:机の下限定で亜空間への出入り口を構築し机間を行き来出来る。この世に存在するどこの机の下でも構築可能。尚且つ、潜む事も可能。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「北の奴は大人しく待っているらしいが何を企んでる?」

 

「あの・・・その・・・」

 

先程乃々には北に偵察に行くように指示をしておいた。

パラパラとスケッチブックを捲る乃々。

 

「きしさまとの通話の後、【偶像(アイドル)】が2人、ボディガードとして来ました・・・反騎士勢力からの助勢・・・です・・・」

 

「ほう・・・。で、【個性()】は?」

 

「あの・・・1人は『北上麗花』さん・・・で、・・・【個性()】は【自由奔放(フリーダム)】・・・です」

 

「【自由奔放(フリーダム)】?くくくっ・・・ふっふふふ・・・面白い・・・」

 

相手の【個性()】の名前を聞いて、俺の【個性()】、【全知全能】が囁き出す・・・

この戦いは俺の暇を悉く潰してくれると・・・

 

「【自由奔放(フリーダム)】の・・・能力は・・・「いや、それは言わなくて良い」・・・え?」

 

「説明不要だ。次の奴の情報だ」

 

「でも・・・「乃々?」ひっ・・・ご・・・ごめ・・・ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!ごめんなさいっ!乃々はちゃんと言う事聞きます!きしさまの話は聞いてます!何でもします!お願いします!許してください!ごめんなさいっ!」

 

「ならさっさともう1人の情報を言うんだ」

 

「ひぅ・・・ひっく・・・う・・・うぅ・・・もう・・・1人は・・・『真壁瑞希』さん・・・ひっく・・・です」

 

泣きながら情報を読み上げる。

 

「【個性()】は【真顔(ポーカーフェイス)】・・・です・・・ひっく・・・」

 

【全知全能】がざわつく。

ここ2年余り、全く楽しい事がなかった・・・訳ではないが・・・余りにも少な過ぎた。

弱すぎる【偶像】達、弱すぎる国の反撃。全くと言って良いほど暇つぶしにならなかった。

それ故に・・・俺は頗る機嫌が悪いのだ・・・

だが、あと4時間と4分22.833秒後、それが解消される。

 

「楽しみだ・・・あぁ・・・楽しみだなぁ・・・」

 

「きし・・・さm・・・ひっ!?」

 

俺の顔を見た乃々は酷く怯え、亜空間に引っ込んでいった。

 

 

――――俺は一体どうしたと言うのか(・・・・・・・・・・・・・)

これも【全知全能】の所為なのか・・・?

まあいっか(・・・・・)・・・

 

約束の時間(オタノシミ)まで、後4時間と3分8.527秒

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

<反騎士勢力-THE IDOLM@STER's->

 

―某所基地内―

 

 

「にゃ~」

 

私は項垂れる。

 

「どうしたの志希ちゃん?」

 

私に話しかけてきたのは『新田美波(みなみん)

 

「ん~。頭使いすぎちゃった~」

 

「そうなの?何か甘い物でも準備しようか?」

 

「ん~?そんな事よりみなみんの脇の匂い嗅がせて?」

 

「はぁっ!?っ!?」

 

言うが早いか。

項垂れていた体勢から素早く机の上に乗り、そこからみなみんの前に跳躍。

すぐにみなみんの両手首をみなみんの頭の上で右手を使いがっちりキープした後、

そのまま壁まで追詰め、自分の顔(鼻)をみなみんの右脇下に突っ込んだ!!

 

「hshshshshshshs」

 

「んっ・・・・うぅぅん・・・しきっ・・・ちゃん・・・・はずっ・・かしぃ・・・よぉ・・んっく♡」

 

ふぉいふぇふぁふぁいふぁ(良いではないか)ふぉいふぇふぁふぁいふぁ(良いではないか)~♪」

 

「んんんんんん~~~♡♡♡そのまま・・・しゃべっ・・・らっ・・・ないでっ・・・んんっ!!いきがっ・・・あっあぁあぁん♡」

 

んん~♡

甘露甘露~。女の子の脇の下は良い匂いがするよね~♪

 

「おどれらは一体・・・」

 

ん?

 

「何をやっとんじゃーーーーっ!!!!」

 

すぱこーーーん!!!

 

村上巴(巴ちゃん)』のハリセンによる激しい衝撃(ツッコミ)が頭に来た。

 

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

 

「にゃ~、ちょっとした冗談じゃんよ~♪」

 

嘘です。本気でした♪

 

「んもう・・・いい加減にしないと私だって怒るからね・・・」

 

「んにゃ?くんくん・・・おやおや~♡みなみんのお股の方から良いにほいが・・・♪」

 

「わーっ!わーっ!わーっ!わーっ!ちょっと、外行って来ますっ!!!!」

 

そそくさと部屋から出て行くみなみん。

扉が激しく閉められた。

扉は優しく閉めようね♪

 

「志希よ・・・ウチは別におどれらの趣味にとやかく言うつもりは無いが・・・時と場所くらいは選ぼうや?せめて戸ぉくらいはたっとけ」

 

「は~い、志希ちゃん気を付けま~す♪」

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

「ただいまぁ・・・はぁ・・・」

 

少し顔を紅潮させたみなみんが帰ってきた。

 

「おかえりぃ」

 

「今回はえらい早かったのぉ?どうしたんじゃ、みなみ?いつもならもう少し帰ってこんじゃろう?」

 

巴ちゃんがみなみんに質問をした瞬間、みなみんの顔は少し暗くなる。

 

「うん、さっきのさ・・・志希ちゃんが何をそんなに考えてたのかなぁって・・・ずっと気になっちゃってて。志希ちゃんがそんなに考えるってすっごい珍しい事だから・・・何かあったんじゃないかなぁって」

 

「あぁ~・・・さっきのマキノさん達から来た話で2人を北に送ったけど・・・あの2人で本当に行けるのかなぁって・・・考えてた」

 

「あの2人?って・・・瑞希ちゃんと麗花さん?」

 

「うん、一応私の中で【お兄様キラー(・・・・・・)】の2人を準備してみたんだけど・・・お兄様だし・・・もしかしたらあの2人は「志希ちゃん!!」」

 

話を言い切る前にみなみんが私のほっぺたを両手で包んでくる。

 

「私達のリーダーは貴女なのっ!!貴女がそんな弱気になったら私達の士気は下がっちゃうの!!だから、とっても厳しい事を言うようだけど・・・自分勝手な事を言うけど・・・貴女は、自分の取った行動に責任と、そして自信を持って貰わなきゃ私達は困るのっ!!辛い役回りだと思う・・・けど、それでもやっぱり私達のリーダーは絶対に・・・貴女にしか務まらない(・・・・・・・・・・)のっ!!」

 

「・・・」

 

「ふっ・・・その通りじゃあ志希。おどれはウチらの(カシラ)なんじゃ。堂々と胸を張っとれ!!(こうべ)を垂れんなっ!!シャンとしぃっ!!」

 

みなみんと巴ちゃんに叱責される。

私は再度決意を胸にする。

 

「・・・そうだね・・・そうだよね、うんっ!!」

 

私は笑う。

そして2人を余所に、また私は思考の海へ潜り考えを反復する。

私の考えではあの2人のお兄様への勝率は0.3(・・・)%。

 

0.3%なのだ。

しかし、実際これでも十分過ぎる(・・・・・)程に高い確率だ。

あのお兄様に1000回戦って3回も勝てるのだから。

他のメンバー、私の中の【お兄様キラー】の【個性()】の持ち主である【偶像】以外で戦った場合、勝率は『永遠の0』

間違い無く勝てないのだ。

私がどれだけ頭を働かせようが、勝てるヴィジョンは訪れることはない。

しかし、0.3%もあれば、その勝てる時の道筋に添って戦って行けば良いだけの覚えゲー。

答えを知っている詰め将棋と化す。

 

私の【個性()】、【天賦の才(ギフテッド)】にて勝利への道筋は既に2人に【ギフトし(与え)】てる。

後はイレギュラーが起きない事を願うばかり。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『一ノ瀬志希』

 

能力名:【天賦の才(ギフテッド)

 

能力:異常なまでの思考能力と自分の思考を対照にギフトす(与え)る事が出来る。

ギフトす(与え)る事が出来るのは1人に付き一連の思考のみで、断片的な思考を複数与える事は不可。

また、全く同じ思考を別の対象にギフトす(与え)る事も不可。

 

※解り難いと思うので例を以下に示す。

 

『目玉焼きを作る』と言う一連の記憶を人にギフトする場合の例

 

A:フライパンをコンロに置く

B:コンロに火を点ける

C:フライパンに油を敷く

D:フライパンにタマゴを割り入れる

E:焼く

 

この5工程を一連の記憶とした場合、これ全てを他人へギフトする事が出来る。

しかし、『BとD⇒E』と言う様な断片的になった場合は、複数の思考とみなされ、BかD⇒Eのみギフトされる事になる。

更に誰かにA~Eまでの一連の思考をギフトしていた場合、この一連の思考は二度と他人へギフトする事が出来ない為、

A~D⇒E’:塩を振る⇒F:焼く

といった感じで、一連の中の何処かしらが過去にギフトした思考と違っていれば、ギフトは可能となる。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

 

「(お願い・・・どうか・・・お兄様を止めて・・・!!)」

 

窓から見える星が、恐い位に綺麗だった。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

- 米国 荒地 『白い家』まで約3000Km地点 -

 

 

崖の上・・・

 

 

ヘ「意外と早かったわね~、北の方々」

 

マ「そうですね。この早さだと元々準備はしていたみたいですね・・・」

 

千「まぁ、これだけ明るい内から戦えるのは良い事だわ。マキノの【個性()】が存分に使えるのはありがたいしね」

 

戦闘機や戦車、歩兵部隊まで並走している。

ここから『白い家』まで歩いていくのだろうか?

戦闘機はもう何機か通り過ぎているが大した問題ではない。

良く見れば騎馬隊までいる事に気が付いた。

 

マキノはそんな事はお構い無しと手に持ったPCのカメラで、兵達をファインダーに納め何度もシャッターを切っていく。

撮った写真はPCの画面に映し出され、その度に画面の写真上に色々な文字が所狭しと表示されていくのが伺える。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『八神マキノ』

 

彼女は『浜口あやめ』と同じく諜報部隊の内の1人。

 

能力名【情報収集(スパイ)

 

マキノの持つ情報媒体に対象の画像が取り込まれると、対象の情報が全て閲覧可能になる。

マキノが持つ情報媒体に特に制限は無く、条件さえ満たせればデジカメだろうが何だろうが発動可能。

一度に取得できる対象の数は、画像に入りきれば幾らでも可能。

ただし顔や模様等、対象がはっきりと認識出来ないような画像では情報の取得は不可。また、間接的な場合(似顔絵や写真)も情報の取得は不可。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

マ「さて、部隊の6割程の情報は取得しました。改竄(・・)します」

 

眼鏡をクイッと上げ、物凄い速さでPCのキーボードを叩き始める。

暫くすると・・・進行していた軍の戦闘機が突然、目の前を後ろ向きに物凄いスピードで下がって行った(・・・・・・・・・・・・・・・・・・・)

 

ヘ「ねぇ、マキノ・・・あれ・・・改竄内容は?」

 

ヘレンは目の前を通り過ぎる、どう言う原理で後ろ向き飛んでいるのか一切理解できない戦闘機郡を指差し尋ねる。

 

マ「見たままですよ。『飛行に係る機能は全て真逆に動作する』と書き加えました。安心してください、私にもアレの原理なんてわかりませんから」

 

へ「私の考えてる事をサラッと読まないでちょうだい」

 

千「・・・なかなか酷な事するのね」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『八神マキノ』

 

能力名:【情報改竄(スパイウェア)】進化(深化)

 

マキノの能力が【進化(深化)】し使えるようになった能力。取得した対象の情報を一度だけ改竄する事が可能。

どんな内容でも書換え、書き加えが可能。ただし過去に改竄している対象は二度と改竄する事が出来ない(元には戻せない)。また、生物に対してのみ、生死に係る事と、どんなに些細な事でさえ能力や才能を与奪する内容の改竄は出来ない。自分も対象外。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

そうこうしている内に眼下に見えていた大量の戦車郡は、空気の抜けた紙風船のようにペシャリと潰れていく。

 

ヘ「あれは?」

 

マ「あれも見たままですね。装甲の素材を『和紙』に改竄しました」

 

ヘ「マキノの【個性()】ってマジでチートよね。敵じゃなくてホント良かったわ」

 

千「私は、ヘレンさんに同じ事を言いたいですけどね」

 

ヘ「マジのチート持ち様が何を仰るのやら」

 

マ「では、武器を無力化していきます」

 

兵達の持っている銃火器が突如赤熱し、兵達は持っていられないのか地面に落として行く。

眼下は既に阿鼻叫喚、誰も死んではいないが地獄絵図と化していた。

 

千「では、私はそろそろ下に行くわ」

 

ヘ「いってらっしゃーい」

 

マ「お気を付けて」

 

千「えぇ、せいぜい足元を掬われない様にするわね」

 

千秋は20m以上はある高さから躊躇う事無く飛び降りる。

 

ヘ「さて、【禁欲の騎士(ストイックシュバリエ)】様の舞踏会でも高みの見物と行きましょうか?」

 

マ「これで私達の仕事は終わりですね」

 

マキノは静かにPCを畳んだ。

 

ヘ「でも早いとこ私も暴れたいわ」

 

マ「その内、イヤでも暴れてもらうので今は大人しくしていて下さい。文字通り大人なんですから」

 

へ「はいはい」

 

何気ない数秒の会話の間に崖の下では既に千秋によって28,665人で構成された対騎士の隊は蹂躙されており、撤退していく人達も見受けられる。

 

ヘ「相変わらず、【騎士の名を持つ力(・・・・・・・・)】ってのは強いね~」

 

マ「・・・まったくですね、「マキノっ!!危ないっ!!!」えっ!?」

 

素早く移動し、マキノのを突き飛ばしたヘレンは腕をクロスした体制で構える。

3mはあろうかと言う巨岩がまっすぐ飛んできていた。

ヘレンに接触した所から岩は砕けながら速度を落とし、岩が地面に落ちると同時に真ん中からひび割れ、何者かの足がヘレンの顔面を蹴り飛ばした。

 

「がっ」

 

ヘレンの体勢が後方に崩れる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・筈だった。

 

「ざーんねん♪」

 

ヘレンはブリッジ体勢のまま舌をペロッと出してとても悪い顔で笑う。

そして自分の顔面を蹴り飛ばした何者かの足首を右手で掴むと、そのままの体勢で掴んだ誰かを勢い良く地面へ叩きつけた。

 

「ぶふっ・・・」

 

うつ伏せで叩きつけられる誰か。

 

マ「奇襲ですか・・・まぁ、一般兵だけで攻めて来るとも思っていませんでしたが、足元を掬われてしまいましたね。お見事ですよ、『我那覇響』さん?」

 

「んな!?なんで自分の名前を!?」

 

マ「何なら【個性()】も教えて上げましょうか?【生物は友達(ビーストソウル)】・・・」

 

マキノの手にはいつの間にか開かれたPCがあった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『我那覇響』

 

能力名:【生物は友達(ビーストソウル)

 

能力:この世界に存在する生物の力を生身で行使する事が可能。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

へ「へー、なかなか厄介な力じゃないか」

 

「もう騎士派に自分達の情報が流れてるのか・・・?」

 

マ「そんな事を敵にお答えするわけが無いでしょう?」

 

へ「あなた、そんな体勢で結構余裕あるね?」

 

ヘレンは右手に力を込める。

 

「まぁ・・・ねっ!!!」

 

響は身体を捻り高速で回転を始めた。

 

へ「なっ!?」

 

その勢いでヘレンの右手から響の足が解放される。

響は物凄い速さで地面に潜り始めた。

 

へ「なるほどね。【生物は友達(ビーストソウル)】・・・ほんとに厄介だわ。マキノ、あんたは私の後から絶対に離れるんじゃないわよ?」

 

ヘレンは周囲に警戒しつつマキノを庇う様に自分の後に隠す。

 

「へへー、そんな事言ったらそのメガネっ娘は非戦闘員だって言ってる様なもんさー♪」

 

マキノの背後の地面から、ドロップキックの体勢で勢い良く飛び出してくる響。

 

ヘ「フフン♪その通りさ(・・・・・)

 

ヘレンは既にマキノの背後に立っており、響の足首を掴むと、再度地面へ叩きつけた。

 

「ふべっ!?」

 

ヘ「響って言ったっけ?あなたは『単純で猪突猛進型の素直な馬鹿』って情報があったのでね。マキノが非戦闘員だとわかればそっちを先に狙って来ると思っていたよっ!!」

 

「なんだとー・・・」

 

ヘレンは響を反対側に叩きつける。

 

「ぐへっ・・・」

 

更に反対側へ。

 

「げほ・・・」

 

へ「さぁさぁさぁ!!!抵抗して見せなさい。この【世界レベル】のヘレン様が幾らでも相手をしてあげる!!」

 

ヘレンは何度も何度も響を地面に叩きつけ続ける。

次第に響は動かなくなる。

 

「・・・」

 

へ「ん?もう終わり?チクッ…ん?今掌に痛みが・・・」

 

「いててて・・・なぁ・・・叉棘ってしってるかぁ?」

 

へ「さ・・・きょく?」

 

ヘレンの頭の上には『?』がいっぱいだ。

 

マ「いけないっ!?ヘレン、今すぐ手を離して!!!毒よっ!!」

 

「もう遅いよ。大丈夫さー、別に死にはしない。身体の自由が利かなくなるだけの神経毒ってヤツさー」

 

「く・・・そ・・・」

 

ヘレンは膝を折り、静かに地面に伏せる。

 

「いててて・・・このバカ力女、手強かったさー」

 

響は左耳に手をあてる。

耳にはインカムが着いていた。

 

「こっちは鎮圧完了。後は非戦闘員1人だからなんくるないさー♪」

 

マ「貴女・・・もう終わりね(・・・・・・)

 

「何言って・・・へっ?」

 

突如力無く崩れ落ちる響。

完全に倒れる前に首根っこを掴むヘレン(・・・)

彼女が手刀で響の延髄を打っていた。

 

へ「悪いわね。私は免疫力でも【世界レベル(ワールドレコード)】なの♡」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『ヘレン』

 

能力名:【世界レベル(ワールドレコード)

 

能力:自分の何か一つを世界のトップ(世界一位)に変える事が出来る。

何をトップに変えるかは、その時と場合の思ったタイミングで任意に変更が出来る。

トップの何かを変えた瞬間からそれまでトップだった何かは元に戻る。

尚、トップの何かをその時その場で超えるような事態が発生した場合でも、ヘレンのトップは常にトップで在り続ける。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

マ「これで本当に任務完了ですかね?」

 

先程の襲撃を踏まえて確認を取る。

 

ヘ「ちょっと待っててね」

 

ヘレンは周囲に耳を傾け始める。

 

へ「ん~?マキノと千秋以外、後はそこの小娘以外に人の鼓動(・・・・)は聞こえないわね」

 

マ「やっぱりヘレン・・・貴女も十分チートだわ」

 

ヘ「それでも結局、千秋が一ば・・・へっ?」

 

ヘレンの足元が波打ったかと思うと、そのまま地面に落ちて行く。

いや、落ちて行くでは表現として正しくない。

呑み込まれて行った。しかも物凄いスピードで。

それも、【世界レベル(ワールドレコード)】を使用した彼女の瞬発力を持ってしても対応出来ないほどに・・・

 

マ「ヘレン!!くっ私の足元も・・・ちあっ!!・・・・・・」

 

トプン・・・

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

「騎士様っ!!!」

 

けたたましい程にドアがノックされる。

 

「うるさいっ!!!どうした!!!」

 

ドアを開け入ってきたのは血相を変えた小春だ。

 

「騎士様、マキノさんとヘレンさん両名の消息が不明になりました・・・」

 

「そうか。千秋は?」

 

「それが・・・」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

千「で、貴女と闘って私が勝てばヘレンとマキノ(2人)は返してもらえるのね?」

 

「えぇ、そうです。若しくは、貴女様が私達の仲間になって頂ければそれでも構いません」

 

千「それで、貴女は・・・いえ、貴女達(・・・)は一体何者?」

 

自分達を襲ってくるという事は、騎士派でも無く反騎士派でも無い。

一体何が目的なのか千秋には解らなかった。

 

「申し遅れました。私は四条貴音。騎士派でも反騎士派でも無い。そう、第3勢力と思って頂いて構いません」

 

「第3勢力・・・また面倒な・・・一体何がしたいって言うの?」

 

「何がしたい?貴女はこの手に入れた【個性()】を素晴らしいと思わないのですか?」

 

「私はなんとも思っていない・・・こんなふざけた【個性()】なんて欲しくなかった。私は昔みたいに、至って普通に過ごしたいだけ・・・」

 

千秋は拳を握る力を強める。

 

「そうですか、私はこの【個性()】を手に入れ、見えている世界が変わった。見えてくる世界が変わった。嗚呼・・・なんて素晴らしき新世界。私達の新世界に平凡な生活も!平凡な人間も!あの騎士も!!!何も要らない!!私達はこの【個性()】と私達の思想に相応しい人達だけが居れば良い!!!さぁ、お喋りはここまでにしましょう?貴女のその【騎士の力(・・・・)】、私の【姫の力(・・・)】・・・どちらが上か・・・試してみましょう?」

 

「【『()の力(・・)】ですって・・・?」

 

聞いた事の無い単語に戸惑う千秋。

千秋が呟く直後、物凄いスピードで千秋の眼前に迫ってきた貴音。

右手を振りかざし首元を狙ってくる。

 

それを千秋は難なく躱し、貴音が持っている武器に目をやり疑問符が頭を過ぎる。

それは武器と呼ぶには余りにも不釣合いな物だった。

 

「は・・・し・・・?」

 

箸:東アジア地域を中心に広く用いられている食器・道具の一種であり、二本一対になった棒状のものを片手で持ち、ものを挟んで移動させるために用いる。多くの場合、皿などの器にある料理を掴んで別の皿や自分の口に持って行くために用いられ、食器の一種に位置づけられる。

 

お互いにバックステップで距離を取る。

 

「えぇ、箸です」

 

貴音は千秋の疑問符を肯定する。

まるで刀でも振るように一度右手を振り下ろし、振り下ろした右手を口元へ持って行き舌で箸先を舐める。

 

「さぁさぁ!!!魅せてください!!!!貴女の・・・【個性()】をっ・・・!!!!」

 

またも高速で踏み込んでくる貴音。

引き攣った笑顔を千秋に向けるその様は正に狂気だった。

 

「っ!!??」

 

が、しかし・・・貴音は千秋に届く前に急停止し、直ぐにその場から後方に2m程の距離を取った。

 

「・・・貴女、いつからそれを持って・・・?面妖な・・・」

 

千秋はいつの間にか黒塗りの木刀の切先を貴音に向けて構えていた。

 

「たった今貴女が言ったでしょ?私の【個性()】を見せろと」

 

千秋は木刀を水平に構える。

 

「行くわ。覚悟しなさい?あなたの左脇腹へ(・・・・・・・・)木刀(コレ)を打ち込むわ」

 

先程の貴音同様に千秋は一歩で貴音の懐へ潜り込む。

そして、ゆっくりと振り被り、貴音の左脇腹へ木刀を思い切り振り抜く。

 

「そんなに振り被って私が当るわけふぅぉおうごぉぉぉ・・・・・」

 

メリメリと千秋の振り被った木刀が貴音の左脇腹へめり込み、そのまま肋ごと砕いて行く。

 

「どう?これが私の【個性()】よ。満足した?」

 

木刀を脇腹から離す。

貴音は左脇腹を押さえ、嗚咽と血反吐を口から漏らしながら崩れ落ちる。

 

「ぼぇぇっ!!い゛っだい゛、ごぼぉっ・・・はぁ・・・何・・・が・・・」

 

「何がって?ただ私は宣言通り貴女の左脇腹に木刀を打ち込んだだけよ?」

 

「それが・・・ごほっ・・・ごほ・・・貴女の【騎士の力】・・・とんでもない「違うわ・・・」えっ」

 

「コレは違うわ。コレは私の普通の【個性()】、【瀟洒な時(パーフェクトタイム)】。名前だけは教えておいて上げるわ。さ、私の勝ちね。二人を帰して頂戴」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『黒川千秋』

 

能力名:【瀟洒な時(パーフェクトタイム)

 

能力:如何なるモノ・現象にも阻害できない・されない行動を一つ行う事が出来る。

行動が完遂するまでは決めた行動は変更できない。尚、口に出して宣言する必要は無い。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「ふ、ふふふ、うふふふふ・・・素晴らしい・・・」

 

貴音は突然笑い出し立ち上がる。

確かに肋を砕いた・・・だが貴音は何の痛みも無いかのようにすっと立ち上がった。

その様を見た千秋は、嫌悪から身震いをする。

 

「普通の【個性()】でその強さっ!!!素敵です!!!大変に素晴らしいです!!!欲しい!!!!是非とも欲しい!!!!」

 

貴音はいつの間にか左手に『金色の箸』、右手に『銀色の箸』を携えていた。

 

「どうやら・・・ここからが本番みたいね」

 

千秋は木刀を握りなおす。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「――尚も第3勢力と・・・交戦中です」

 

「ふん。第3勢力か・・・良いじゃないか。いいぞ。もっと混沌と化せ!もっと俺を楽しませろっ!!!」

 

高らかに声を張り上げる騎士に小春は震えだす。

 

「良し、約束までは未だ3時間余りもある。俺は第3勢力のリーダーに挨拶をしにでも行ってくる」

 

「へ?」

 

小春が驚く声を上げている間に目の前に居たはずの騎士は姿を消した。

小春は緊張の糸が切れたのか、そのまま気を失ってしまった。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

<第3勢力 -眠り姫->

 

 

「うっうー!!貴音さんが騎士さん所の【騎士持ち】と戦い始めました」

 

「そう。やよい、今はどっちが優勢なの?」

 

「優勢と言うより、十中八九貴音さんが負ける事は無いと思いますよー?」

 

「そうよ。【姫持ち】の貴音がやられる訳が無いわ」

 

「伊織、それは解らないよ?【騎士持ち】も【姫持ち】も正直未だ良く分かっていないのだから」

 

「そうだぞ伊織。能力名に【騎士】の名前が入っている能力は異常って言うのは実際その通りだけど、【姫】の名を持っている能力が異常って言うのはまだ実証出来ていないんだから。でも確かに貴音の能力はボク達からしたら異常だけどね」

 

「それを言うなら【女王】持ちの春香だって異常も異常よ」

 

「ちょっと伊織、その言い方は酷くない?」

 

春香はテーブルの上に乗っているお皿からクッキーを一枚取る。

 

「あ~ん♡」

 

しかし口は、空気を食べた。

 

「えっ?あれ?」

 

「春香!!やよい!!伊織!!敵だ!!!!」

 

真は声を上げる。

 

「ちょっと・・・ウソでしょ・・・」

 

「うー・・・」

 

春香はゆっくりと左を向く。

 

「うむ。大した腕前だ。良い味だよ、このクッキー」

 

そこには、この世界の混沌の首謀者、一ノ瀬騎士が椅子に座りクッキーを齧っていた。

 

「良いなぁ・・・、俺に見せて、俺を魅せてくれよ。その【女王の力】ってやつをさぁ・・・」

 

ゆらりと立ち上がる騎士。

顔はにこやかに笑っているが、明らかに身体から出ているのは殺気。

その殺気に充てられ気絶するやよい。

 

「真・・・皆を連れて外へ。私は騎士(この人)と・・・少しお話するから・・・」

 

そう笑顔で言う春香だが、顔色は見てわかる位に青褪め、大量の汗が顎から滴り落ちていた。

 

「おっと、失礼。余りに嬉し過ぎて身体が先走ってしまった。許してくれ」

 

そう言って騎士は頭を下げる。

そして右手指をパチンと鳴らすと机の上に見た事の無いティーセットがここに居る人数分、突如現れた。

 

「【さぁ、皆で席に着き、ゆっくりお茶でも飲もうか】」

 

ゾワリ

 

全員の背中に寒気がした。

しかし今の一言を聞いて、気絶していた筈のやよいは目覚め、操り人形の様にすぐさま席に着く。

それに吊られる様に全員が黙って素直に従い席に着いた。

 

「申し訳無いね。こうでもしないと(・・・・・・・・)素直に言う事を聞いてくれそうも無かったのでね」

 

「今・・・いったい何をしたんですか・・・?」

 

質問をしてきた春香を無言で睨みつける騎士。

 

「ひっ・・・」

 

小さく悲鳴を上げるやよい。

当の春香本人は目尻に涙を溜めつつも、騎士を睨み返していた。

無言で睨み続けた騎士は数秒後笑顔になる。

 

「さっきのは俺の【個性()】、【全知全能(オールマイティ)】さ」

 

「「「「【全知全能(オールマイティ)】・・・」」」」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

『一ノ瀬騎士』

 

能力名:【全知全能(オールマイティ)

 

能力:制限付き全知全能。されど全知全能。

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「そう、【全知全能】。言葉くらいは聞いた事はあるだろう?一言で言うなら完全無欠。俺に不可能(・・・)の三文字は無い。さっきの命令もこの【個性()】でやったのさ。このお茶もね。さ、遠慮せず飲んでくれ。味は保障する」

 

左手でティーポットを持ち上げ、右手指で先程と同じ様にパチンと鳴らす。

すると全員の前にカップが置かれ、並々と綺麗な色の紅茶が注がれ部屋中にとても良い香りを漂わせた。

 

「わぁー、良い匂いですぅ♪」

 

先程の恐怖は何処へやら・・・やよいは嬉しそうにティーカップを手に取る。

 

「やよい!!飲んじゃダメだっ!!」

 

真は、紅茶を飲もうとしていたやよいの手を叩く。

カップは宙を舞った後、床に音を立てて落ちて行った。

 

「おいおい、何もそこまでしなくても良いだろう?別に紅茶には何もしていないよ?俺はただ挨拶代わりと先程の無礼のお詫びに美味しいお茶を提供しただけさ」

 

そう言って騎士はカップの中身を煽る。

 

「やよいと言ったか?こぼれたお茶など無いから、好きなだけ飲めば良い」

 

「えっ?」

 

やよいの目の前には既に並々と紅茶が注がれたカップがあり、足元を急いで確認するも、床には何一つ落ちた痕跡は無かった。

 

「騎士・・・さん、貴方はなにをしに此処に来たんですか・・・」

 

「第3勢力と言うのが気になってね。リーダー・・・春香(キミ)に挨拶をしに来たんだよ。ただそれだけさ」

 

騎士はニヤリと笑うとクッキーを一枚取り、齧る。

 

「本当にそれだけだったんだが、とても気になる単語が聞こえて来てしまったので・・・一瞬、それだけでは済まなくなりそうだったんだ」

 

騎士が言う気になる単語とは【姫の力】、そして【女王の力】。

 

「何故か知らないが【全知全能()】が創った新法則(ルール)に贔屓が生じた。それが【騎士の力】」

 

騎士は語り始める。

 

「己の【個性()】の名前に【騎士の名】を持つ【個性()】は能力が他の【個性()】に比べ常軌を逸する・・・と言うね」

 

他の4人は静かに耳を傾ける。

 

「これに関し、俺は自身の力を持って確認した。正に常軌を逸していたよ。他の奴らの【個性()】が御遊戯に見える程にね」

 

話を聞いていた面々は、この言葉に肩を震わす。

 

「しかし、それだけでは無かった・・・他にも常軌を逸した【個性()】の持ち主たちが居た。それも【騎士の力】よりも更に常軌を逸して」

 

「ひぅっ!?」

 

「ひっ!」

 

やよい、そして伊織の2人は騎士の顔を見て小さな悲鳴を上げる。

 

「あぁ、楽しみだなぁ・・・春香ぁ・・・俺はお前が俺の前に現れるその瞬間(とき)を楽しみに待っているよ。其れまでお前の【女王の力】とやらはお預けだ。ああぁぁぁ、たのしい・・・タノシイナァぁ・・・」

 

そう言い残し騎士は音も立てずその場から消失した。

まるでそこに本当に何も居なかったかのように忽然と・・・

 

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

 

荒く息を吐く真。

 

「何なんだよ・・・あれ・・・卑怯じゃないか!!!あんなのありえないよっ!!!!あんなのに一体どうやって勝てって言うのさ!!!!」

 

真はテーブルを叩く。

 

「落ち着きなさい・・・真」

 

伊織は真を宥める。しかし手に持っているティーカップは小刻みに震えており、今だ恐怖が抜けていない事を表していた。

 

「あんなの・・・見ちゃったら、流石に無理だよね。あは、あははは・・・」

 

春香は何とか笑ってみせるが上手に笑えていないのが自分で直ぐにわかった。あんなのを相手に私の【個性()】はどれだけ通用するのだろうか?正直、相対する前までは余裕とさえ思っていた。私がこの世界の頂点に立てると思っていた。甘かった・・・

騎士が言っていたあの『不可能の文字は無い』と言うのは、何処までが事実なのか・・・

全てが事実なのであれば最早太刀打ちなど出来る訳が無い。出来る筈が無い。あちらの行動に『不可能が無い』のであれば、こちらの行動は『可能が無い』と言うことなのだから・・・

 

「もう少し・・・待つべきだったかなぁ・・・。千早ちゃん、私・・・また間違えちゃったかも・・・」

 

 

 

約束の時間(オタノシミ)まで、残り2時間1分12.901秒

 

 




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

くれぐれも体調に気を付けて頂き,良い年末年始をお過ごし下さい。

こちらは別投稿になっても残しますので,ご承知置きの程宜しくお願い致します。

来年は本編進められる様頑張ります。

では,失礼致します。

下記に,補足を足します。

――――――――――――――――――――――――――

情報改竄(スパイウェア)

補足:種族名が同じで固有名詞が無いもの、また固有名詞が同じものは、同一扱いとなり、改竄した内容はその固有名詞または種族に対し行われる事となる。

今回、戦闘機と戦車、その両方の全てが固有名詞が同じ戦闘機、戦車であった為、
改竄が一回で全て終わったモノと考えて下さい。
銃に関してもそうです。

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Sixth side story 1st volume ~ 灰かぶりの姫たちは女王と騎士に遭遇す ~

大変お世話になっております。

第6話の間の話。
side storyです。

投稿すると言ってから大分経ってしまいました。

1st volume と謳っている通り、幾つかに分節させて頂きます。
読み直しもままなっておりませんが・・・

※申し訳ありません,正確には6話の途中の話でした。
 その為,少し前書きを訂正させていただきました。


「あれー?なんだか賑やかだねー」

 

「「「え?」」」

 

「なんのあつまりー?」

 

隣のブースで撮影をしていたんだけど、こっちがやたら賑やかだったので覗きに来てみた。

どうせ同じ346内の撮影なんだし、自慢じゃないけどアタシ位ともなれば顔パスで行けるっしょ。

 

「かっ・・・かっ・・・かっ、カリスマJKモデル、城ヶ崎美嘉!?」

 

ピンクのパーカーを着た、快活そうな子がそう言いながら近づいてきた。

 

「ハーイ♪にひっ♪」

 

アタシに送られる羨望や憧憬と言った思いが籠った眼差し。

正直、こう言った眼差しを送られるのは、言い方は悪いが気分が良いものだ。

アイドルとして、モデルとして、自分の事を知っている人が居てくれると言うのはとてもとても喜ばしい事だ。

その辺りを理解しているので、精一杯のお返しを心がける。

 

それと、妹の莉嘉が集団の中に居るのが見えた。

はは~ん・・・なるほど。これが例の新プロジェクト・・・か。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

シンデレラ()プロジェクト()のメンバーと軽く話し、CPの宣材撮影を一通り見学。

唐突だったけど、これから行われるライブでのアタシのバックダンサーに卯月・凜・未央の三人を直感で指名させてもらった。

正直それに対して不安な顔を拭えない武内Pだったけど・・・アタシはそこをあえてスルーして、

今日の仕事始めっからずっっっっっっっっと気になっていた事に関しての話を始める。

 

「ねぇねぇ?みんなに提案なんだけどさぁ・・・時間があるならここの隣の撮影所に、見学に行ってみない?」

 

なんて事は無い、本当に言葉通り。

隣で仕事(撮影)をしている人達を見学しに行くだけ(・・・・・・・・)だ。

 

「隣って、お姉ちゃんが撮影してたところー?」

 

「あーっと、違う違う。えーっとねぇ、アタシ達が今居る所とは反対側ぁ・・・って言っても解らないかぁ、えへへ・・・」

 

アタシは頬を掻き、苦笑いを浮かべる。

この撮影所は2つのブースで1つの部屋となっている。

アタシが言っているのはブースの話ではなく撮影所の方。

 

「さっきまでアタシ一人で行こうと思ってて、もうあっちのスタッフには確認済みなんだけどさ・・・

 見学するだけなら大丈夫って言ってたし取り合えず行くだけ行ってみない?」

 

「見学って事は、誰かが撮影中ってこと・・・だよね?」

 

美波ちゃんが私に確認する。

 

「まぁまぁ、そこは行って見ればわかるって♪」

 

アタシはウィンクをした。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

アタシたちは先程の撮影所を出て、向いにある扉の前に立つ。

普段、撮影中であれば扉上部の『使用中』ランプが点灯している筈なのだが・・・

点灯はしておらず、代わりに『関係者以外立入る事を禁ず』と赤でデカデカと書かれた紙が扉に直接貼り出されており、普段では在り得ない仰々しい雰囲気を醸し出していた。

しかしアタシはその貼紙を完全に無視すると、ソーッとドアを開けてCPの面子(-1人)と撮影所へと足を踏み入れる。

 

「お邪魔しまーす(小声)」

 

扉をくぐってすぐ左手側に背の高いパーテーションがあり、その脇を通り抜ける。

そこには現在も撮影が行われていて、ライトアップされた場所で一組の男女がカメラの前でポーズを取っていた。

 

「あーっきsもごもがごmsksj」

 

未央の口を咄嗟に抑えるきらりちゃん。

 

きらりちゃんGJ(`・ω・)b

 

「「「「しーっ」」」」

 

卯月・みくちゃん・きらりちゃん・アタシ(みんな)で未央を制する。

 

「ゴ・・・ゴメン・・・」シュンッ

 

小っちゃくなる未央。

そして、皆の視線は直ぐに撮影をしている二人のアイドルに釘付けになった。

 

本「うおぉーっ!!本物だぁ。生の一ノ瀬騎士だぁ。動いてるよー!!(小声)」

 

そう。なんと本日!!8723プロ所属の伝説のトップアイドル、【一ノ瀬騎士】さんが何故か(・・・)346(ここ)に居て、そして何故か(・・・)346(ウチ)のトップアイドル、【高垣楓】さんと供に撮影をしているのだ。

アタシの方の撮影スタッフの一人が今朝早くこっち側の手伝いをしていた時に騎士さんが現れたらしく、

その情報がアタシに流れてきたのだ。

 

三「騎士さんと楓さんって、すっごいツーショットだよね?(小声)」

 

全くである。

実際この二人が街なんかで目撃されたら街中がパニックになること間違いなしだろう。

 

緒「わぁ、楓さん、とても綺麗で・・・それに凛々しく見えますね(並声)」

 

多「ふーん・・・なかなか、ロックだね(並声)」

 

渋「まともに見たのって初めてなんだけど・・・あれが、私たちと同じ、アイドル・・・(並声)」

 

島「はいっ。しかも、お二人ともトップアイドルって言われてる凄い人達なんですよ、凜ちゃん!!(並声)」

 

渋「ふーん・・・」

 

凛はあまり実感が湧いて居ないようだ。

そう言った事に疎いのかな?

って言うかみんな声のボリューム上がってきてない?

 

新「本当に、すごい・・・ね・・・。ただ、本当にただポーズをとってるだけなのに・・・動きなんて全然無いのに・・・なんだろう、凄い気迫があるって言うのかな?(小声)」

 

ア「Да(ダー)Хорошо(ハラショー)!!スゴイ、ですね。ミナミ(大声)」

 

美「いやぁ、さすがにさー、カリスマと言われる私でもこの二人の前じゃ道端の石ころ同然だよねー(並声)」

 

自分で言ってて虚しくなるが、事実、そうなのだから仕方ない。

それにこの二人は本当に、アイドルとして次元が違い過ぎるのだ。

 

赤「わ~っ!!すっごいね~、あんなにきらきらしてる~(大声)」

 

前「にゃー、騎士さんカッコいいにゃー(小声)」

 

島「はいっ!!騎士様、すっごく格好良いです!!(大声)」

 

三「みくちゃんと卯月ちゃんって騎士さんのファンなの?(並声)」

 

「はいっ!!」「にゃっ!!」(大声)

 

神「なんと!?わが同胞かっ!?」(超大声)

 

「「「「「「しーっ!!!」」」」」」

 

設備スタッフが一斉に此方を向く。

しかし大声を出した本人達は気付いていない模様。

そして撮影されている当の本人たちと撮影スタッフは余程集中しているのか一切此方に振り向かない。

当然だが、やはりここに居る人達はプロだ。

 

莉「ねぇねぇ、お姉ちゃんお姉ちゃん?ナイト様たちとお話出来ないかなー?」

 

莉嘉の無茶振り。

私だってお話したいわっ!!

 

姉「んー、休憩になれば・・・もしかしたらって感じー・・・かな?ねっプロデューサー?」

 

取り合えず武内Pにキラーパスを出してみる。

 

P「えっ?・・・あ、はぁ・・・まぁ、そうですね」

 

意外にも肯定をしてくる。

そう言ってまた二人の方に視線を戻す武内P。

 

「15ふーん!!休憩入りまーす!!」

 

おぉっと!?まさかの本当に偶然、休憩に入ってしまった。

やったねラッキー♡

 

「納得いってないのは俺たちじゃなくて、完全にあの二人なんだよな。

 途中から主導権が持ってかれてたし・・・」

 

「やっぱやる気と言うか熱意と言うか、まあ何かが他のアイドルと一味も二味も違い過ぎてこっちも気合入れなきゃってなるよなー」

 

スタッフの人たちが散り散りに、話をしながら各々休息している。

 

美「ねぇねぇプロデューサー、二人と知り合いなんでしょ?お願いっ!!橋渡ししてくれないかな?」

 

顔の前に手を合わせウィンク。

武内Pにお願いをする。

 

P「はい・・・では少し行って参りますので、少々ここでお待ちください」

 

これまた意外な反応だった。もう少し渋るか、断ると思っていたのだが、存外普通にOKをくれた。

休憩にも関わらずモニターを見ながら話し合っている渦中の二人に武内Pは近付いていった。

 

「・・・」「・・・」「・・・」

 

距離が離れているため、何を話しているのか全く聞こえなかったが、

武内Pがこちらを向き、手を上げ、招く動作をする。

良く見えないし全く聞こえないが口の動きがこちらにどうぞと言っているような気がしたので、

ゾロゾロと移動し、3人の前に集まるのだった。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

前「ほっ・・・本物の騎士さんが・・・私の目の前にっ!!」

 

島「ほっ・・・本物の騎士様が・・・私の目の前にっ!!」

 

神「まっ・・・誠の偽り無き始祖が今・・・我のすぐ傍にっ!!」

 

三者三様とは正にと言った感じだ。

三人はテンション高めに、騎士さんを見つめている。

 

「わー本物のナイトさまだー。すっごーい。きゃはは」

 

「こら、みりあちゃん。騎士さんに失礼にゃ」

 

みりあちゃんを叱るみくちゃん。

しかし、その猫語?は失礼に当たらないのか問いたい。凄く問いたい。

 

「大丈夫ですよ。慣れてますから」

 

騎士さんの丁寧な対応。流石です!!

「元気だね」と言ってみりあちゃんの頭を撫で始めた。

なんだろう、どっちも羨ましい!!

続いて、意外な子が意外な言葉を発した。

 

Очень(オーチン) рад(ラートゥ) вас(ヴァス) снова(スノーヴァ) видеть(ヴィーヂェチ).お久しブリですね、キシ。また会えマした」

 

「これはこれは、どなたかと思えば、アーニャちゃんじゃないですか。お久しぶりです。Здравствуйте(ズドゥラーストゥヴィチェ)

 

流暢にロシア語?を話す騎士さん。

本当にこの人は凄い。

本当に何でも出来てしまうんだなぁと、小学生並みの感想が頭を過ぎる。

 

「アーニャちゃん、騎士さんと知り合いなのっ!?」

 

美波ちゃんは当然の疑問をアーニャちゃんにする。

 

Да(ダー)。空港でキシがニンジャスキルをヒローした時に、ワタシ・・・立ち会いまシタ。とても、とても素晴らしかったデス」

 

「な・・・何を言っているのか、全然わかんないのにゃ・・・」

 

「ふふふ、そろそろ私も話に混ぜて貰ってもよろしいですか?」

 

ここでずっと黙っていた楓さんが会話に入って来た。

 

「騎士君が居ると私の存在が薄れてしまうから困り者ですね。まぁ、皆さんが女性って言うのも

 理由の一つ・・・なのでしょうけれど・・・」

 

「はぁ・・・」とどこか、つまらなそうに頬に手を当て溜息を吐く楓さん。

 

「逆に周りが男性だったら薄れるどころか完全に僕は置いてけぼりだと思うんですけど・・・」

 

「それは皮肉でしょうか?例えここにいるのが全員男性だったとしても、結局状況は変わらないと思いますよ?トップアイドルさ・ま♪」

 

「やけに突っかかってきますね、まあ、その辺りは後でじっくりお話しするとしましょう」

 

そう言って騎士さんは楓さんから目線を外しアタシ達に向けてきた。

 

「そうですね、この子たちの大事な時間を私たちのくだらない話で奪ってしまうのはいけないですね」

 

そう言って楓さんは再度輪から離れ、スタッフの一人に近付いて行った。

 

「わかりました。おーい、休憩を1時間に変更だー。機材のメンテ、飯、段組みも今のうちに済ませとけー!!」

 

「「「「はーい!!」」」」

 

楓さんがはにこにこしてゆらゆらと手を振りながらユラユラと戻ってきた。

 

「プロデューサーさん、今更なんですけど・・・この子たちのお時間は、大丈夫ですか?」

 

楓さんが武内Pに確認を取る。

 

「はい・・・この後、事務所に戻って今後のお話を少ししてから解散、と言う流れでしたので、彼女たちが問題なければ、「「「「「ないっ(にゃ)!!」」」」」だ、そうですので・・・お二人にお任せします」

 

小さな笑顔でそう言って深々とお辞儀をした武内P。

そしていつものように首に手をあて、今度はちょっと申し訳なさそうに、「では、千川さんに電話をしてきます」と武内Pは席を外した。

 

「じゃあ、改めまして。みんなと同じ346プロ所属、高垣楓です。これから、よろしくお願いしますね?」

 

とても丁寧にお淑やかに、そして細いけどとても通る声で挨拶をする楓さん。

アタシ達は担当が違えどそこそこ面識はあるし、過去に何度か仕事も一緒にした事がある。

だが何度見てもこの美貌とスタイルは女性として・・・と言うよりは、モデルとして憧れである。

 

「いやぁ、ダジャレをぶっこんで来ると思っていたので、今の挨拶は正直意外でしたよ」

 

「んもぅ、流石に時と場合は弁えているつもりですよ」

 

「それはそれは大変失礼致しました。では、僭越ながら・・・」

 

騎士さんは姿勢を正し、コホンと軽い咳払いをした。

その瞬間から騎士さんの纏う空気が、周りに漂う空気とかオーラみたいのとかが一変するのを感じた。

 

(わたくし)は8723プロ所属、一ノ瀬騎士と申します。以後、お見知りおきを」

 

左手を腰の後ろに、右手を前にだし、静かに頭を下げ、まるでどこかの執事の様な仕草で挨拶をして見せた。

この挨拶は騎士さんの定番の挨拶で、たった数秒の出来事なのだが、その一挙手一投足一言一動がとても優雅で優美で繊細で・・・見る者を魅了して已まない。

アタシも魅せられたその一人だ。生で見れたことに感激しすぎて何も言えないし動けなくなった。

ゾワッと全身から鳥肌が浮かび、足先から頭の天辺まで電気が走ったような気がした。

 

「やっぱり何度見てもその挨拶は良いですね。お姫様とかどこかの御令嬢にでもなったかのような気分になれますね」

 

「そう言って頂けると光栄です、お嬢様」

 

再度、同じ様な動きをする騎士さん。

あぁん、もう格好いい!!!

 

「ふふふ、口がお上手ですね。でも、初めてお会いした時はそれはしていなかったんですけど、何時から・・・」

 

そんな会話を繰り広げる2人・・・この2人のやり取りを見ていると、まるでオペラでも見ているような、

そんな高揚感を覚えてしまう。やはりトップアイドルと呼ばれる人達が並ぶと世界が違って見えてくる。

 

「ねぇねぇお姉ちゃん、さっきから口が開きっぱなしだよー?」

 

「え!?」

 

莉嘉に言われて我に返る、確かに口が開いていた。

咄嗟に両手で口を隠した。

やばい、非常に恥ずかしい。

超ハズカシイ!!

 

「バカッ、余計な事言わなくて良いの!!」

 

「バカって言う方がバカなんだよー」

 

「えーっと、君が城ヶ崎さん・・・かな?」

 

「「はいっ!」」

 

莉嘉とハモった。

まさか騎士さんから呼ばれると思わなかった。

 

「城ヶ崎さん、はじめまして。いやぁ妹から話は常々。うちの妹がご迷惑かけてませんか?いや、かけてますよね?志希だし・・・ははは・・・」

 

「はっはっはははっはい、城ヶ崎美嘉です!!騎士さんに知って居て頂いて光栄でしゅっ!!ッ!?」

 

噛んだー!!舌噛んだー!!痛ったーい!!恥っずーい!!

 

「お姉ちゃんおっかしいんだー」

 

「ふるひゃい」

 

舌痛い・・・

 

「お姉ちゃん・・・って事は、城ヶ崎さんの妹さん?」

 

「はいっ!!346プロ所属、シンデレラプロジェクトの城ヶ崎莉嘉でーっす。よろしくー!!」

 

すごいはっきりとしっかりと自己紹介をする莉嘉・・・ギャルピースまで添えて・・・

お姉ちゃんとしての面目が・・・うぐぐぐぐ

しかーし、

 

「こら、『よろしくー』じゃないでしょ!!ちゃんと挨拶しなさい!!」

 

「ちぇー、いーじゃんよべっつにー」

 

「いえいえ、全然大丈夫ですよ。しかし、元気でしっかりとした子だ。これもお姉さんの教育の賜物って奴かな?」

 

「いやぁ、まぁ、えへへへ」

 

ダメだ、騎士さんに話し掛けられると頬とかもう色んなところが緩んでしまう。

 

「莉嘉ちゃん達ばっかりずるいよ~、私もお話しし~た~い~」

 

みりあちゃんが出てきた。

でも最初にお話してたのはみりあちゃんだった気がしなくも無い。

 

「初めまして!わたし、赤城みりあ11歳です!!346プロのシンデレラプロジェクトのメンバーです。

 よろしくお願いします!!」

 

みりあちゃんらしいとても元気でかわいらしい挨拶だ。

うーんなでなでしたい。

 

「元気いっぱいですね。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

そう言いながら、楓さんはみりあちゃんの頭を優しく撫ではじめた。

 

「えへへへへー♪」

 

「さっきから気になってたんですけど、シンデレラプロジェクトって・・・?」

 

騎士さんから当然の質問が飛んできた。

 

「346のアイドル部門から新しいプロジェクトが始動するんです。

 それがシンデレラプロジェクト・・・そして私たちがそのメンバーとなります」

 

美波ちゃんが説明をした。流石年長者、対応が早い。

 

「へー・・・うん?でもそれって、今僕が聞いて良い話なんですか?」

 

「あ・・・」

 

口を手で押さえ固まる美波ちゃん。

確かに言われてみれば・・・

 

「問題ありません」

 

後ろからバリトンボイスが聞こえてきた。

武内Pだ。

 

「武内さんがそう言うのなら問題無いんでしょうね」

 

「はい、そもそも、もし話せない事なのであれば・・・本日この場に、彼女たちを連れては来てません」

 

「それもそうですね」

 

たしかに。

 

「よかったぁ」

 

ほっと胸を撫で下ろす美波ちゃん。

さっきからちょいちょい思ってたんだけど、

美波ちゃんってなんっか動作がいちいち色っぽいと言うか艶っぽいと言うか・・・

女性の私が見ててもちょっとドキドキする。

これが色気と言うものなのだろう。

 

「しかし、さっきから気になる事が・・・」

 

「??」

 

騎士さんがアタシを見詰めながら突然切り出した。

アタシの何が気になるんですか?

えっ?どうしたんだろ・・・そんなに見つめられると、

アタシ・・・困っちゃうよ・・・

 

「城ヶ崎さん・・・のお姉さんの・・・」

 

お姉さんなんて呼ばれ方は嫌だ、私・・・頑張れ!!

 

「あ・・・の、み・・・美嘉って・・・美嘉って、そう呼んで、くださぃ」

 

「ん?」

 

精一杯勇気を振り絞って言った。

 

「美嘉って・・・呼んでくださいっ!!」

 

言えた!!

言ってしまったぁ!!

 

「個人的に下の名前で女性を呼ぶのは非常に抵抗があるんですが・・・」

 

なぜかそこで、楓さんが「むぅっ」と機嫌悪そうに声を上げむくれ顔になった。

だからと言う訳では無さそうだけど、

 

「まぁ、良いかな・・・、

 じゃあウチの妹と同じ呼び方で、

 美嘉ちゃんって呼ばせてもらう事にしますね」

 

「はいっ!!」

 

やったー、下の名前で呼んで貰えた!!「美嘉ちゃん」だって、キャーッ!!

 

「それで、非常に申し上げ難いのですけど、その・・・少し目のやり場に困るんで、

 なんか羽織って頂けると助かると言うか、羽織って貰って良い・・・かな?」

 

「え?」

 

え?目のやり場?何が?アタシが?

今の自分の姿を再確認してみる。

そう、さっきまでアタシも撮影をしていたのだ。

そして撮影の時の衣装のまま。

言われてみると確かに露出は多い方だ。言われて気が付いた。

普段なら全く気にしないのだが、今回は別。

憧れの騎士さんに見られているのだ。

そう思ったら急に顔が熱くなってきた。

 

「ッ~~~~~////・・・」

 

うわ~~どうしようどうしようどうしよう。

頬に手を当てバタバタとその場で右往左往する。

どうにも為らないので、一先ずしゃがむ事にした。

 

「って言っても、どうしようもないか・・・うーん、ちょっとこれで我慢して貰って良いですか?」

 

「へ?」

 

そう言って、大きめのジャケットがアタシの肩に掛かる。

騎士さんがアタシに羽織らせたのだ。

 

「もしや、コレって・・・」

 

「僕の上着で申し訳ないけど・・・なんとか今はそれで・・・」

 

騎士さんのジャケット!?

 

キュウ・・・バタッ・・・

 

アタシの記憶は一度そこで途切れるのだった。

 

 

―to be continued




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

2nd volume ですが,また少し間が開くと思われます。

ご承知置きください。

※アニメを見ていない方に説明致しますと,美嘉の格好は『カリスマギャル+ 城ヶ崎美嘉 (SR+)』の格好をしております。


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Sixth side story 2nd volume ~ 騒がしき堕天使と猫娘、そして眠り姫へ ~

お待たせしてしまい申し訳ございません。

やっとサイドストーリ後編が纏まり?ました。

蘭子式熊本弁は適当です。
この先コロコロイメージ変わると思います。
許してください。蘭子式熊本弁はロシア語より難しいです。


Continuation――――――――――――――――――――――――――

 

 

「え?」

 

次の瞬間、美嘉ちゃんが膝から崩れ落ちてしまう。

ほぼ無意識だった。美嘉ちゃんの負担を軽減させようと身体が動き咄嗟に抱え込んでいた。

 

「お姉ちゃんっ!?」

 

「きっ救急車っ!!」

 

莉嘉ちゃんとかな子ちゃんがそれを見て騒ぎ立て、それに吊られるように辺りも騒がしくなっていく。

 

「落ち着いて。大丈夫・・・落ち着いて下さい」

 

美嘉ちゃんをそっと床に寝かせ脈を確認。その後、美嘉ちゃんを一瞥、大事無いものと胸を撫でおろす。

 

「過換気症候群・・・ですね」

 

騒ぎを大きくしない様に努めて冷静に言葉にしていく。

 

「この程度の症状なら暫く安静にしておけば大丈夫です。救急車を呼ぶまでも無いですよ。あと、美嘉ちゃんが目を覚ました時に、水分がすぐに取れるように準備だけしておいていただけますか?」

 

実際、大した事が無く内心非常にほっとしていた。

そして久し振りにトップアイドルと言う事、【全知全能の偶像】と呼ばれている事に感謝をした。周りの『騎士さんがそう言うなら問題無いだろう』と言う雰囲気が漂っており、そのまま通常通りになりつつあった。しかし、ほっとしたのも束の間、俺に新しい問題が浮上した。

 

「流石にこのまま床の上に寝かせて置くのは・・・取り合えずそこのソファに移動を・・・」

 

と、美嘉ちゃんを持ち上げようとして思い留まり、そのタイミングで視界に人影が入り込む。

 

「凄い手際の良さ♪まるでお医者様みたいですね。何でも出来ちゃう騎士君にお姉さんは非常に憧れちゃいます♪」

 

楓さんが横で楽しそうにそんな事を言う。しかし、過換気症候群。

緊張、か・・・?美嘉ちゃんの様なアイドルが・・・?

しかし俺がアイドルになって超が付くほど有名になってからと言うもの、実際こう言った事が少なくはなかったわけだけど。

俺自身全然気にはしてないのだが・・・それでも相対した人たちは、この『トップアイドル』と言う肩書に対して余計な緊張をしてしまう事があるみたいだった。

 

「さ、早く運んでしまいましょ?」

 

少し考えに耽っていた俺を楓さんが捲くし立てる。

 

「いやぁ、あのぉ・・・ですね。そう思ったんですが・・・そのぉですね、気を失っている女性に・・・えーっと・・・勝手に触れる、と言うのは・・・ねぇ?しかも、重症でもないと判ってしまって尚の事・・・ねぇ?」

 

煮え切らない俺に対し元気な声がかかる。

 

「じゃあ、きらりが運ぶよぅ☆」

 

ズズイッと楓さんの後から手を上げて、一際背の高い女性が名乗り出てきた。

 

「大変ありがたい申し出助かります。本当に申し訳ありません。是非ともお願いします」

 

渡りに船とばかりに頭を下げる。

 

「大丈夫大ジョーブー☆びっしぃ♪」

 

ニコニコと俺にピースをして、ひょいと美嘉ちゃんを抱え上げると、この部屋に非常に不釣合な豪奢なソファーの上へ寝かせた。

美嘉ちゃんはあちらにお任せして、気になっていた事を武内さんに質問してみる。

 

「ここに来たメンバー全員がシンデレラプロジェクトの一員なのですか?」

 

「そう、なります・・・いや、城ケ崎さん・・・のお姉さんは違いますし、あと一人、ここに、いないですね・・・?」

 

キョロキョロと辺りを見渡し、次いで申し訳なさそうに頭を下げ左手を首に当てる。

 

「そうなんですか。なんと言うか、流石武内さんと言いますか、良くこんなに個性が光るメンバーを見つけてこられますね・・・」

 

「それは・・・」

 

訝しげな目を向けてくる武内さん。上手な言い回しが出来ずテンパる俺。

 

「あーと、あのですね・・・ごめんなさい。気を悪くしないでください。良い意味で言っているんです。えーっと、このアイドル史上主義の世の中で、原石の状態であれほど個性が光っている・・・アイドルとしての武器が秀でている人を見つけられる・・・と言うのはやはり才能・・・ですよね。素晴らしいと思います。ウチの社長に爪の垢煎じて飲ませてやりたいですよ」

 

そう言って精一杯の作り笑いを送る。

 

「ありがとう、ございます」

 

顎に右手を添え、しばし悩んだ後、

 

「ですが、一ノ瀬さんをスカウトしてきた(はなぶさ)さまの方が、間違いなくその才能は上かと・・・思うのですが・・・」

 

「それは無いですね」

 

間髪居れずにきっぱりと否定する。

 

「そう・・・なのですか?」

 

「そうなのです」

 

「はあ・・・」

 

武内さんは困ったような顔をし、また首に左手を添えるのだった。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

「う~ん・・・・」

 

目を開ける。視界がぼやける。なんか頭がぼんやりする。ちょっとだけ痛い・・・

えっと・・・何があったんだっけ・・・?

 

「お姉ちゃんが目を覚ましたー!!お姉ちゃん、だいじょーぶ?」

 

莉嘉が頭に響く声でそんな事を言っている・・・どうやらアタシは眠っていたらしい。

 

・・・あ、そうか、思い出した・・・

わたしは上半身を起こす。

 

「莉嘉・・・アタシ、どれ位寝てた?」

 

「ん?10分くらい?数えてたわけじゃないからよくわかんない」

 

「えへへ」と頬を掻きながら笑う莉嘉。

 

「そっか・・・ゴメンね・・・」

 

アタシが眠っていた事に対しなにも考えて無いであろう莉嘉を見て、非常に申し訳ない気持ちがこみ上げてきた。

 

「別に謝る必要は無いと思いますけど・・・体調はどうですか?」

 

右側から声が聞こえ、そっちを向くと騎士さんがいた。

 

「えぇ、特に誰かに大きく迷惑を掛けた・・・と言うわけではありませんし。ところで身体の具合はいかがですか?」

 

続いて楓さんが騎士さんの後から顔を覗かせ優しい声でアタシに問いかけつつ近付いてくる。

顔が近い。恥ずかしい、でも良い匂い。香水かな?それともシャンプーとかかな?

寝起きの所為なのか混乱しているようで、そんな思考が現在のアタシの考えを上書きした。

 

「はい、大丈夫です」

 

だがそんな事は顔に出さず(多分出ていないと願いたい)に2人の質問に答える。

しかし2人は気にするなと言うが、気にしないのは到底無理な話なわけで・・・記憶が徐々に蘇り、それと同時にアタシの中の罪悪感がどんどんと肥大化していく。

 

「本当にゴメンなさい・・・」

 

申し訳無さで自然と目の前が潤み、霞んでいく。

 

「大丈夫ですよ。これ、お水です。さっき騎士さんが目を覚ましたら水分とれるようにって言ってたから・・・」

 

智恵理ちゃんが水を手渡してくれる。

 

「ん・・・ありがとう」

 

「あー、あと、彼女にも、お礼を・・・あー・・・」

 

歯切れ悪くそう言って騎士さんが手を向けた方を見る。

 

「おっす、おっす!346プロ所属、シンデレラプロジェクトの諸星きらりでっす☆よろしくぅっ!!」

 

「と、諸星さんがここまで美嘉ちゃんを運んでくれたんだ。正直、俺が運んでも良かったんだけど、やはり女性に触れる、と言うのは・・・ねぇ?」

 

きらりちゃんが挨拶をしたあと、騎士さんがそんな事を言う。

 

「・・・」

 

「美嘉ちゃん?」

 

「全っ然OKです!!もうそりゃもうがんがん触れて頂いて結構ですっ!!なんなら、その、勢い良く間違えてお、おっおぱおおぱ・・・・」

 

「へ?」

 

「え?あ・・・えっ?」

 

うきゃーーーーーー!!!アタシ声出てたーーーーー!!??

 

「お姉ちゃん、『おぱおおぱ』ってなにー?」

 

莉嘉が興味津津に質問してくる。

 

「いや、あの、その、それは、あの・・・」

 

よし、一旦落ち着こうかアタシ・・・さて、どう答えるわたし?

しかしきらりちゃんは本当にすごいスタイルだ。

背が高いのもそうなのだが、最早何もかもが大きいと言わざる得ない・・・

アタシもあれ位あったら騎士さんを悩殺・・・とか出来ないかなぁ・・・

もう、止め止め!!さっきから何考えてんのアタシ!!

起きてから冷静さを欠如しちゃってる気がするよっ!

 

「しかし、みんな本当に素晴らしいものを持っていらっしゃる。シンデレラプロジェクト、きっと大成功間違いなしですね。一先ず僕がファン第1号って名乗っても良いですか?」

 

唐突に大きな声でそう語る騎士さん。

もしや、アタシの為に・・・キュン

 

「うおぉ、天下の騎士様からお墨をもらったぁ!?」

 

「しかも私たちのファンですよ、ファン!!」

 

未央と卯月が声を上げた。

アタシはシンデレラプロジェクトではないので、ちょっと残念・・・

 

「あら、騎士君は私のファンにはなってくれないのですか?」

 

楓さんもアタシと同じ気持ちだったらしい。

 

「楓さんのファンにならない人は、楓さんを一度も見たことが無い人だけだと思います」

 

それはそうだ、うんうん。

 

「あらあら、うふふ。ありがとうございます。でもそれは騎士君にも言える事になりますよね?」

 

それもそうだ、うんうん。

そんなアタシを見つめる騎士さん。いやん、恥ずかしい・・・

 

「美嘉ちゃん、体調はもう大丈夫ですか?」

 

「うぇ!?あ、はいっ。ご心配おかけしました。みんなも本当にゴメン」

 

体裁を瞬時に整え、頭を深く下げみんなに再度謝る。

全く何やってるんだアタシ!!自分で自分を叱りつける。

 

「さーて♪一応一段落した事ですし、自己紹介(・・)の続きと行きましょうかい(・・・・)?うふふふ♪」

 

仕切り直しとばかりに楓さんがパンと軽く手を叩く。

さすがにこう言った事に慣れているのか、とてもスムーズだ。

アタシもこう言った配慮の出来る女性にならなければ・・・だけど、ダジャレは・・・いらないかな・・・

 

「はーい、では僭越ながら(わたくし)めが・・・本田未央、15歳。高校1年で、趣味はショッピングッ!騎士様のようなちょースゴいアイドルになりたくてシンデレラプロジェクトに応募しましたっ!夢は世界制覇っ!!これから、シンデレラプロジェクト共々よろしくお願いしまーすっ!」

 

「未央、なんかそれ面接みたいだよ・・・それに世界制覇って・・・」

 

さっきまで静かだった凛がツッコミをした。

 

「おっ?しぶりんナイスつっこみー!!私の自己紹介の魅力度が10ポイントはアップしちゃったよー」

 

「うりうりー」と肘で凜をつつく未央。

 

「今ので魅力がアップするんですかっ!?凛ちゃんすごいですっ!!是非私の時もよろしくお願いしますね!凛ちゃんっ!!」

 

瞳をキラキラと輝かせながら未央のボケに素で乗っかって行く卯月。この子、出来る・・・

 

「卯月ぃ・・・」

 

心配そうな眼で見つめる凛・・・この先凜は苦労しそうだ。

 

この後、多田李衣菜ちゃん、三村かな子ちゃん、緒方智絵里ちゃんとささやかな自己紹介が続いた。

 

「じゃあ次は私が、346プロ所属シンデレラプロジェクトの新田美波です。19歳で、プロジェクトの中では一番年上になります。よろしくお願い致します」

 

とても丁寧に挨拶をする。この辺りは流石年長者と言った所だ。まぁ、言った所でアタシと然程離れてはいないんだけど。

 

「趣味は色々な資格取ることと、最近はラクロスをやっています」

 

「ふふふ、本当に、なんだかだんだんと面接みたいになって来てますね。どうですか、一人くらい8723にヘッドハンティングしてしまってみては」

 

その言葉にガタガタッと瞬時に反応するCPの数名をアタシは見逃さなかった。

そして困り顔の武内P。

 

「ラクロスかぁ・・・、前にやった事あったなぁ。懐かしい」

 

楓さんのそんな台詞を気にも留めず騎士さんが呟く。

そして極端に落ち込むCPの数名をアタシは見逃さなかった。

 

「はい、確か3年位前でしょうか?テレビで騎士さんがプロの選手とラクロスの試合をしたんですよね?」

 

美波ちゃんも特に気にすることなく騎士さんの言葉に反応を示す。

 

「実はその時の記憶が強く残ってて、大学にラクロスのサークルがあったのでやってみたんです」

 

「へーそうなんですか。しかしあれ・・・そうかぁ3年前かぁ・・・」

 

「結局その試合どうなったの?」

 

李衣菜ちゃんが質問をした。アタシもそれは気になる。

 

「当然その試合は、騎士さんの圧倒的な勝利だったにゃ!!」

 

「うむ、如何に因果(カルマ)を積もうが世界を総べし彼の方(モノ)の前では所詮浅学菲才(ムシケラ)・・・どれ程数が増えようが塵芥(クズ)よ!!一度(ひとたび)攻撃に廻れば神を裁きし稲妻(ゼウス)の一撃・・・蹂躙と呼ぶに相応しい聖戦(ジハード)であった。アレこそが黒き運命(オーメン)・・・アレこそが此の世の摂理(プロヴィデンス)・・・」

 

なぜか、みくちゃんと蘭子ちゃんが熱弁を始めた。

物凄い情熱は感じるけど蘭子ちゃんが何言ってるのかさっぱりわかりません。

ただ、2人の年齢を考えると小学生時代から騎士さんのファンだったのか。

恐るべし・・・

 

「話の流れ的に、大体何となーく今のは雰囲気でわかった気がするんだけど・・・

【せかいをすべしもの】って・・・何?」

 

次いで気になる所をかな子ちゃんが聞いてくれた。

 

「うむ、始祖の事である!!」

 

揚々と答える。シソ???????

うん、更にわからない・・・

 

「今思ったけど、その言葉使いって、もしかして更にむかーし僕が出てたアニメの・・・」

 

「やはり解ってくれるかっ!!我が始祖よ!」

 

アニメ何それ・・・全然知らない・・・

 

「【ニーベルングの指輪】かぁ、僕が中学生時代に声優として初めて出演したアニメだねぇ。今考えると設定もさる事ながら台詞回しとか凄い恥ずかしいなぁ・・・正に暗黒歴史(ダーク・クロニクル)って奴だよなぁ・・・と言うか、えーっと、お名前は・・・」

 

「ふっふっふ、我が名はブリュンヒルデ、血の盟約によりこの地へと降り立った。孰れは魔王に至り、始祖の前に立ちはだかってしんぜよう!!なーっはっはっはっは!!」

 

え、えーっと・・・

 

「名前以外は何となくわかったけど・・・本名は?」

 

「え、騎士さんわかるの?」

 

「まぁ、もともとこの台詞回しは僕が考えたからなぁ・・・いやぁ、正面切って堂々と使われるとスッゴイ恥ずかしい!!やばい、枕に顔を埋めて両足バタバタしたい位今ハズカシイ!!」

 

両手で顔を覆い出した騎士さん。

うわ、ヤッバイ!!騎士さんがスッゴイ可愛い!!何この生き物!?

 

ティロリン♪

パシャ♪

カシャシャシャシャシャシャッ♪

 

「え?」

 

シャッター音がたくさん聞こえた。特に最後。

 

楓さんと卯月、みくちゃんの3人だった。

 

「え?・・・あの・・・え?」カシャシャシャシャシャシャシャシャ

 

騎士さんが両手を前にワナワナしている。

未だにシャッター音は続いている。

 

「消しませんよ?」

 

楓さんがスマホを隠し素早く答える。

 

「私、この画像いえ、スマホを一生の宝物にしますっ!!」

 

卯月のこの顔はマジだ。出会ったばかりの私でもわかる。マジだ。

 

「こ、これはヤヴァイにゃ・・・引き伸ばして部屋に飾るにゃ・・・ゴクリ。最高にゃ・・・」カシャシャシャシャシャシャシャシャ

 

シャッター音の犯人はみくちゃんだった。しかし、みくちゃん?みくちゃんの顔の方がアタシにはヤヴァく見えてるよ・・・?

 

「ぬぁ~!!わ、私も、私も欲しい。それ欲しい!!」

 

え!?蘭子・・・ちゃん?

 

「蘭子ちゃん、後で私が送ってあげます」

 

卯月が言う。

 

「本当!?ありがとう、卯月ちゃんっ!!」

 

両手で卯月の手を取る蘭子ちゃん。あまりの出来事に言葉が普通になっていても気づいていない模様。

 

「えー・・・コホン。ごめんなさい少し取り乱しました・・・失礼。で、君は蘭子ちゃん、で良いのかな?」

 

「ぴゃぃっ!?わ・・・わ・・・我が真名を・・・」

 

蘭子ちゃんが取り乱し始める。

 

「ほら、蘭子ちゃん。ちゃんと自己紹介しないと」

 

美波ちゃんが蘭子ちゃんの肩に手を添える。

 

「う・・・うむ・・・。われ・・・わたし、は・・・か、神崎蘭子・・です。こ・・・今回は、スカウトされて・・・シンデレラプロジェクトに参加する事に、なり、ました・・・」

 

蘭子ちゃんはスカウト枠だったのか。そりゃそうか。顔立ちもそうだけど、個性も光ってるもんね。

武内Pならスカウトしちゃうかー。

 

「でも・・・ずっと騎士さんに憧れてて・・・騎士さんを遠くから見ている事しかしてなくて・・・でも、今回スカウトされて・・・騎士さんと同じ・・・アイドル・・・に、なってみたい、って、同じ場所に立ってみたいって・・・もし全然ダメでも、とにかくやってみようって・・・思ったん、です・・・」

 

騎士さんに面と向かって自分の思いを包み隠さず言える蘭子ちゃんの勇気が、素直に凄いと思った。

普段隠すような言葉を使っている反動みたいなものなのかも知れない・・・いや、違うか。そう考えるのは失礼だ。間違いなく蘭子ちゃんの人柄なのだろう。

 

「そっか・・・ありがとう。これからよろしk・・・うーん・・・」

 

一瞬握手をする動作に入って、突如動きを止めその手を顎に持っていく騎士さん。

一体どうしたのだろう?

握手すらも女性とするのは的な事なのだろうか・・・このお人は本当に初心・・・

 

【汝!ブリュンヒルデよ!!】

 

騎士さんが大声を上げる。突然の出来事にアタシは驚き、思考の海から浮上する。

見ると騎士さんの雰囲気と言うか周りの空気感と言うか、何かが一変していた。

先程の挨拶の時から感じていたが、騎士さんは演技・・・何かを演じる時、演じ始めた瞬間から騎士さん自身、見ている人、そしてその周りの空気すらも騎士さんの世界で呑み込んでしまう。そうとしかアタシには表現が出来なかった。

 

【我、ジークフリートの名に於いて、汝、ブリュンヒルデと魂の誓約を!!】

 

???

騎士さんは声高らかに大げさな身振り手振りをする。

 

「ふぁ・・・ふぁあぁ・・・」

 

その様を見ていた蘭子ちゃんが・・・蘭子ちゃんの目が、すっごいキラキラしていた。

 

【どうした?ブリュンヒルデよ・・・怖気付いたか?】

 

騎士さんが続けて言う。

蘭子ちゃんは何か慌てて姿勢を正し、右手を右目の辺りにそっと持って行き、左掌を広げ騎士さんの方へ向けた。

 

「ふっ・・・ふっふっふっ・・・我が怖気付くだと・・・?笑止っ!!我、ブリュンヒルデの名に於いて、汝ジークフリートとの魂の誓約をここにっ!!」

 

【今、この瞬間(とき)この空間(ばしょ)で、我々の誓約(セールマン)契約(コントラ)へと昇華するっ!!】

 

契約(コントラ)の名の下に、我の(クロノス)を汝の歪なる(ディストーション)虚無(ヴォイド)に奉げよう!!」

 

契約(コントラ)の名の下に、我の(プシュケー)を汝の赫き(クリムゾン)(コフィン)奉げよう!!】

 

(クロノス)(プシュケー)を浄化させ、何れ神々の黄昏に誘われん・・・」

 

(プシュケー)(クロノス)を加速させ、何れ肉体と言う牢獄から開放されん・・・】

 

【幾億もの死せる戦士の魂(エインヘリャル)の導きに縁りて】

 

(カルマ)を刻まれし囚われた形骸(うつわ)死の国(ヘルヘイム)の鎖より解き放ち」

 

【「我ら共に約束の地(ヴァルハラ)へ!!」】

 

二人は天を差す。

???????

 

「・・・ふぅ、なんか懐かしいなぁ」

 

その言葉を皮切りに周りから拍手喝采が起こる。

 

「あ、あの・・・今のは?」

 

またもかな子ちゃんだ。

 

「あぁ、今のはそのアニメのワンシーンなんだ。ちょっと?はアレンジはしてあるけど。いやぁでもあそこまでしっかり動きまで憶えてるなんて凄いね、蘭子ちゃんは」

 

そう言って蘭子ちゃんの頭を撫でる騎士さん。

 

「あぴゃぴゃぴゃ・・・・あ・・・あの、あ・・・ありがとう・・・ございましたっ!!!一生の思い出になりました!!!」

 

蘭子ちゃんが素の状態でお礼を言う。当然だが、この子もいい子だ。言葉がわからないけど・・・

 

「そう言ってもらえると僕もやった甲斐がありました」

 

「凄いにゃ・・・感動したにゃ」

 

みくちゃんも食入る様に見つめていた。

 

「うふふ、騎士君はそう言った事もするんですね。なんか意外でした」

 

楓さんが楽しそうに騎士さんに告げる。

 

「それは、僕だって一アイドルですから。一人でもファンは大切にしたいと思ってますからね。ファンサービスだってしますよ?」

 

「でも・・・私にファンサービスなんてしてくれた事無いじゃないですか?」

 

「か・・楓さんにファンサービスを許すのは少し怖くて・・・ですね・・・そもそも何をすれば良いのかもわかりませんし・・・ねぇ?」

 

騎士さんのまさかの返答。

 

「まぁ、ひどい・・・よよよ」

 

「よよよって、物凄い嘘っぽさが増しますねそれ。そのうち何か考えておきますって事にしておいてください」

 

「ぶー」

 

この二人は付き合っているのではないのだろうか・・・?

とか考えていたらちょっと胸の奥が苦しくなった・・・

 

「次はみくが行くにゃー!!」

 

そんな中空気を読んでか読まずか、みくちゃんが気合を入れ始めた。

 

「私は前川みく。可愛い可愛い猫ちゃんアイドルにゃ。よろしくにゃん♡」

 

片足を上げ、猫っぽいポーズをとるみくちゃん。騎士さんたちの前でも臆する事無くその自己紹介・・・

この子も恐ろしい子・・・

 

「よろしくお願いします。にゃん?」

 

楓さんが真似をした。・・・はっきり言って可愛い。

 

「ほら、騎士君も」

 

楓さんが騎士さんを促す。

それと同時に騎士さんファン(私も)面々が携帯やスマホを取り出し、

録画や録音モードに切り替えている。

 

「いや、言いませんからね?」

 

「っ!!??・・・ファンサービス・・・は・・・?」

 

みくちゃんが凄いしょぼんとした顔をする。

騎士さんが凄い困り顔をしている。

それをシャッターで収めて行く騎士ファンズ。

 

「うーむ・・・しかし、僕が『にゃん』とか言ってんの見て何が楽しいのか・・・」

 

「おもしろいからですよ♪」

 

「控えめに言っても最高だと思います」

 

「至高っ!!」

 

「萌にゃ!!」

 

「わかるわ」

 

「はい、わかりま・・・す?」

 

「何故に川島さんがここに?」

 

川島さんがサラッと混ざっていた。

 

「はぁーい」

 

手を振る。

 

「楓ちゃんが、今夜騎士君と飲みに行くから来ないかーってお誘いが来てたから、事務所には来てたけどお仕事も特になかったし、一緒に行こうかなと思ってお姉さん来ちゃいましたー♪」

 

「なるほど・・・お早い事で」

 

騎士さんは溜息を吐きつつも満更では無さそうな笑みを零す。

騎士さんと食事・・・良いなぁ・・・アタシも誘ったら、ご一緒してくれたりするのかなぁ・・・

でも、アタシはファミレスとかしか知らないし、どうしよう・・・少し高めにロイホとかで許してもらえないかなぁ・・・でもでも、騎士さんの好きなお店に誘ってもらってもアタシは一向に構いませんよ?

等とくだらない妄想を脳内で繰り広げている間にも現実世界では淡々と時間は進んでいた。

 

「この間はありがとうございました」

 

川島さんへお礼をする騎士さん。

ん?何かあったのかな?気になったので妄想を切り上げる。

 

「別に良いのよー。むしろ私達の方がお礼をすべきだったと今更ながらに思うわ」

 

「いえいえ、やはり企画進行は大事ですし大変ですから。それがなければあの時間は生まれていなかったわけですし」

 

「それって、なんの話ですか?お二人って最近共演はしていなかったと思ったんですけど・・・」

 

さらっと疑問を飛ばすみくちゃん。しかもスケジュール管理出来てるのかー。

さっきから思ってたけどやっぱこの子は色々と凄い。騎士さんが絡んでると本当スゴイ。

 

「騎士君のお誕生日会のお話ですよね?残念ながら私は忙しくて行けなかったのですが・・・埋め合わせは後日で♪」

 

楓さんが答える。

 

「きっ・・・騎士さんの聖っ!誕っ!祭っ!?」

 

みくちゃん・・・字面が変わってるよ・・・?

 

「そんな素敵イベントがあったんですか?」

 

が、私も気になったので思わず口に出してしまう。

 

「えぇ、公にはしてないけどね」

 

川島さんが言う。

 

「って、あら?私、美嘉ちゃんにも招待状出したと思ったんだけど・・・違ったかしら・・・?」

 

「え゛?」

 

「確か・・・えーっと騎士君の誕生日って「「「12月10日です!」だっ!」にゃ!」だそうよ。ふふふ」

 

騎士様ファントリオ(卯月ちゃん・蘭子ちゃん・みくちゃん)が大声で答える。

 

「は・・・ははっ・・・お・・・思い・・・出した・・・」

 

過去を思い出し、沸々と自分に対する怒りがこみ上げると同時、落胆し崩れ落ちる。

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

 

茂森P『おっ、仕事お疲れさん。なぁ美嘉、今月の10日に開催する誕生日会の招待状が川島の姉さんから来たんだけどもちろん参加で良いんだよな?』

 

『あ~、ゴメンパス。その日仕事終わった後、予定入っちゃってるんだよね~』

 

茂森P『そうなのか?結構凄そうだぞ?なにより・・・』

 

『あーもういい、いい。不参加で返事しておいて。ごめんなさいって。じゃ、次の仕事の準備あるから』

 

茂森P『そうかぁ・・・せっかくき・・・』

 

 

バタンッ

 

 

―――――――――――――――――――――――

 

――あの時アタシは、話を最後まで聞かずに次の仕事に向かってしまったのだ・・・

 

アタシのバカーーーーーーーー!!!!

 

「そう言えば、茂森くんが『美嘉は予定有りだから欠席です。』って言ってたわね」

 

川島さんが言う。

 

「・・・はい・・・そうです・・・そうでした・・・」

 

そもそも茂森Pもなんで最初にハッキリと騎士さんの誕生日会って言ってくれなかったの!!それがわかってたら仕事すらキャンセルだったわ!!

それが原因じゃない!?アタシ別に悪くなくない?

あぁ、でも嫌悪感・・・超超超絶に嫌悪感・・・

結局あの日は友達と一緒に騎士さんの誕生日を祝ってカラオケ行ったりしたんだよね・・・

騎士さんの誕生日に本物の騎士さんをお祝いできるってわかってたら友達には悪いけどそっち行ってたよ~!!

も~私のバカバカ大バカ~!!!

 

「美嘉ちゃん・・・大丈夫?」

 

「はい・・・あの日の事を思い出してちょっとブルーになってるだけです・・・」

 

「そ・・・そう」

 

川島さんが「お気の毒にね・・・」と呟く。

 

「まぁ、終わった事を悔やんでも仕方ありません。今度何かあった時は僕からちゃんとお誘いするようにしますね。さて・・・っと、じゃあ次の方の自己紹介を・・・」

 

話を進めようとする騎士さんの右手首をがっしりと掴む楓さん。

 

「騎士君?話を逸らしたらダメですよ?」

 

「・・・ファン・・・サービス・・・」

 

目元が真っ暗で何も見えなくなっているみくちゃんが見える。

少し、と言うかかなりホラーだ。

 

「~~~~~っ・・・・」

 

下唇を噛み、とても悔しそうな顔をする【全知全能の偶像】こと騎士さん。

ここに来てからと言うもの、騎士さんのイメージに無いとても新鮮な騎士さんが拝めている事に感激を覚え始めている。騎士さんファンからすれば垂涎ものだ。

 

「さっ騎士君♪」

 

「良いじゃない。言ってあげなさいよ」

 

「――い・・・一回だけですよ・・・?」

 

騎士さんは何度か深呼吸を繰り返し、「よしっ」と気合を入れ始めた。

そこまで?そこまでの事なんですか?

 

 

 

 

 

「行きます・・・・・・・・・・・・に・・・にゃん///」

 

「「「「「「「「キャーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーっ!!!!!!」」」」」」」」

 

一斉に湧き上がる黄色い悲鳴。

 

「死にたい・・・」

 

騎士さんの悲痛の呟きは黄色い悲鳴によって掻き消えた。

 

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

――――――――――

 

 

――簡素な丸椅子を3つ並べ、そこで器用にうつ伏せで寝ていた少女は、まどろみから静かに目を覚ました。

 

「んぁ・・・。ふぁーーーーー・・・んー・・・?」

 

見た目小学生程度の体躯の少女は上半身を起こし、大口に左手を当て、愛着の裏返りか解れや綿の飛出しが窺えるぬいぐるみを持った右手を空に上げ伸びをする。

 

「あれ・・・?みんなは・・・?」

 

少女は辺りを2・3度見渡し、誰も居ないのを確認した後、特に慌てる様子も無く今日の仕事は終わったものだと判断し、椅子を降りると非常に面倒臭そうにぬいぐるみを抱える事無くそのまま引き摺りゆっくりと移動を開始した。扉をくぐり、隣の撮影所での騒動にも気付かず、自分の荷物を取りに行かんと一人、撮影所を後にする少女であった。

 

「あー・・・だるっ。今日は出前でいいや・・・」

 




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

歩みは非常に遅いですが、最後まで進んで行く所存であります。

では、この辺りで失礼致します。



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第9話 - 前と一 All and ONE -

お久し振りです。

やっと本編が進みました。

タイトルは間違っておりません。ご承知置きください。

誤字脱字等散見されるかと思われます。
そちらについても,ご了承及びご承知置きください。




ただ・・・ただ俺は、普通(・・)に・・・過ごして居たかった。

 

「どうして・・・」

 

半知半能(ちゅうとはんぱ)】になった事は・・・俺にとっては良い事だったんだ。そう思ったんだ。

 

「なんで・・・こんな事に・・・っ」

 

それが駄目だった。それがいけなかった。

こんな事になった理由なんて解かり切っている。

俺が【全知全能(ぜんちぜんのう)】でなくなったからだ。

 

俺は血が出るほどに拳を握りしめ、八つ当たりの様に近くの壁を殴り付ける。

まるで薄いベニヤ板を鉄球でもぶつけた様に簡単に大穴が空く。

 

「ちく・・・しょぅ・・・」

 

両の手を胸の前に抱え、祈る様にその場に蹲る。

 

控室に備え付けられたテレビに映し出されているのは、先程まで元気に歌って踊っていた少女たち五人が、天井から落ちて来た照明など、それらに付随する金属に無情にも潰され、貫かれた無惨な姿だった。

 

「う・・・あ・・・」

 

隣で一緒に見ていた楓さんは口元を押さえ涙を流しながら茫然自失で震えている。

 

体中から赤い液体を滴らせる志希を、映像越しに見ている事しか出来なかった。

その場から動けなかった。もし画面に映る場所に行ってしまったら、

目の前の出来事を現実として受け止めなければならなかったから・・・

それが出来なかった、だから俺は動けなかった。

 

 

何かが目尻から頬へ伝う感触がしたと思うと、床に透明な液体が垂れる。

 

「なみ・・・だ・・・?」

 

自分の無力さを、無能さを、俺は改めて痛感した。

 

「俺は【無知無能(ただのバカ)】だ・・・」

 

 

 

――――――――――――――

 

――――――――――

 

――――――

 

――遡る事、十三時間前

 

 

――本番当日 AM6:15 会場

 

 

早すぎる?いつも通りです。

会場に着いてすぐ、俺はステージへ向かった。

扉を開け、作業中のスタッフ全てに聞こえる様に、努めて大きな声で挨拶をする。

 

「おはようございますっ!!」

 

「「「おはようございまーすっ!!!」」」

 

「本日はどうぞ宜しくお願い致します。それと、簡単なもので申し訳ないのですが、軽食を作って来ましたのでよかったら食べてください。後ほどこの会場に届くと思いますので」

 

「「「ありがとうございまーっす」」」

 

俺はステージに向かい頭を下げ、その場を後にする。

前述の通り今日はスタッフの為に軽食を作って来た。

いつの頃からか、自分がステージに立つ日はスタッフの為に朝食なり昼食なりを作って持って行く事が定番になっていた。

今回、人数が多めでどうなるかと思ったがなんて事は無かった。

半智半能(ちゅうとはんぱ)】でも、過去に作った事がある料理なら問答無用で作れたからだ。

ちなみに今回のメニューは量と作り易さを重視したサンドイッチにした。

具は『ツナ・タマゴサラダ・ハムチーズ・サーモンレモンマヨ・トリテリ』の五種を一包にした。

 

今し方、緑を基調とした黒い猫な運送業者の三名が、クーラーボックスを脇に抱え出入りを繰り返し、会場内に運び込んでいた。

これは、ライブに使う為の機材の搬入ではない。

そう・・・このクーラーボックスこそが、俺の作ったサンドイッチなのである。

昨夜、運送業者にお願いをしたのだが、急なお願いであったにも関わらず、二つ返事で即対応して頂けた。

こう言う所は超有名人である事に素直に感謝。【全知全能】で合ったならば、自分一人で誰にも頼らず、誰にも気付かれることなくここまで運んでこれたんだが・・・。今更無いモノ強請りをしても仕方がない。ちなみに、ちゃんとあちら側で仕様書を切ってもらい、後ほどちゃんとお支払いをするのでその辺りは安心して欲しい。

 

「しかし・・・冷静になって見てみるとなかなかに数がヤバイなぁ・・・」

 

今日は人数が全然わからなかった為、合計で六〇〇セット作ってきた。クーラーボックス二〇箱分だ。

やり過ぎだったかなぁ?最悪余ったら俺が食べれば良いのでその辺はあまり深く考えたくもないし考える必要もないし考えない。

 

「おはようございます。あの・・・一ノ瀬、騎士さんですよね?なぜ・・・こちらに?」

 

「ん?」

 

積まれて行くクーラーボックスを眺めていると、後から聞き慣れたバリトンボイスが響く。この声は間違いなく武内さんだ。

なぜ?ってことは・・・しまったぁ!?武内さんって内緒にしておかなきゃいけない人だったのかっ!?

いきなりやってしまったか・・・さて、どうする・・・どうしよう?

 

即座に振り返り返事をする。

 

「おはようございます。今日は志希と、えぇっと・・・ほら(シンデレラ)(プロジェクト)のあの三人の初舞台じゃないですか!?やっぱ、兄妹と教え子の初舞台は気になっちゃうじゃないですかぁ?だから、その・・・ステージの様子見と、ステージを準備してくださっている皆様への僕からの気持ちを届けに来たんですよ・・・はははは・・・それにしてもちょっと(・・・・)多く作りすぎちゃったかな?あはははは・・・」

 

「一ノ瀬さんの気持ち・・・ですか?」

 

運ばれてくるクーラーボックスを眺めながら呟く。

 

「そうですね。僕、もとい僕らアイドルって一人では決して成り立ちません。それを成す為に一生懸命作業をしてくれている方々、支えてくれている方々がいる。それを、その方たちへの感謝の気持ちを忘れない為、これはそういう意味も込めての物なんです。自分の人間らしさの証明(・・・・・・・・)でもあるかもしれませんけどね」

 

「え・・・?それは・・・」

 

自分でしまったと思い直ぐに話題を変える。

 

「あの~因みにですね・・・、これら(・・・)、何処か良い置き場所ありません?」

 

通路に積まれていく大量のクーラーボックスを見ながら、武内さんに質問をする。

流石にフラスタの横にそのまま置きっぱなしと言うのは非常によろしくない。

 

「・・・・・・はい。ではこちらの方へ。我々スタッフの荷物置き場へ移しましょう、この数なら問題なく置けると思いますので」

 

少し悩んだ素振りの後、そう言って武内さんは近くにあったドアを開ける。

 

「お、ありがとうございます。よいしょっと」

 

俺は置かれたクーラーボックスを4つ持ち上げる。

 

「一ノ瀬さん・・・あの、それは少々・・・と言うよりかなり持ちすぎなのでは・・・」

 

「・・・?」

 

「『なにを言ってるんですか?』みたいな顔をされても困るのですが・・・コレから出演されるアイドル(・・・・・・・・・・・・・)が力仕事みたいな事をするのは、ちょっと避けた方が良いかと思うのですが・・・」

 

そう言われ俺はすぐさまほっとする。

 

「なんですか武内さん、もー。人が悪いですよー?出演の事知ってるんでしたらもっと早く言ってくださいよー。一人でハラハラしてバカみたいじゃないですかぁ」

 

どうやら俺の早合点だったらしい。

 

「やはり・・・カマを掛けさせていただきました。しかし・・・まさか一ノ瀬さんがこんな簡単な事に引っかかるとは、やはり聞いていた通り体調の方は芳しくはないようですね・・・」

 

早合点ではなかったらしい。

 

「はっ・・・ははっ・・・、してやられちゃいましたね。どうかこの事は他言無用でお願いします。今西さんに怒られちゃいますから・・・ははは・・・」

 

そう言って頭を下げると、「大丈夫です」と優しく返事をくれた。

俺はこれ以上ばれる事を恐れ、そそくさとクーラーボックスを運び入れ、俺の為に用意された控室へ向かうのだった。

 

「あ、そうだ!そのサンドイッチ、武内さんも食べてくださいね!!」

 

去り際、武内さんに手を振りながらそう告げる。

武内さんは優しく微笑み、深々と俺に頭を下げた。

ちなみにこのサンドイッチの山は、さっきの言い訳じみたヤツを理由に吹聴してもらう事にした。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

――AM9:25 騎士’s控室

 

コンコンッ

 

控えめなノックが控室内に響く。

 

「はーい、どうぞー」

 

ガチャ。

 

「失礼するね」

 

346の部長、今西さんが入ってきた。

俺は立ち上がる。

 

「おはようございます。本日はよろしくお願い致します」

 

「んっふっふ。そんなに畏まらなくて良いさ。それより彼女は・・・えっと月夜さんはどうしたのかな?」

 

「プロデューサーは一度8723で準備をしてからこちらに来る予定です。なので、こちらに来るまではもう少し掛かるかと思われます。僕は大分早く出ましたから」

 

「そうかそうか。ふむ、少し世間話に付き合ってもらおうかと思っていたんだがね。それは残念だ」

 

んっふっふと笑う今西さん。別段、本当に特に何か用事があったと言うわけでは無さそうだった。

 

「調子はどうかね?何か問題はありそうかい?」

 

「いえ。僕に関しては何の問題もありませんよ。準備は万端です」

 

「それなら良い。また近い内に顔を出させてもらうよ。あと、変にウロウロしてまた見付からないように頼むね。私の計画が水泡に帰さないようにね・・・」

 

「アッハイ・・・」

 

そう言って控え室から出て行く。

 

実は今日のサプライズ、先程の話でわかる通り、

出演者である346側のアイドル各位に俺が出る事は知らされていない。

 

コンコン

 

再度部屋がノックされる。先程よりも更に細い音だ。

 

「失礼します。本日はよろしくお願い致しますね♪」

 

にこやかな笑顔と供に楓さんが現れる。

因みに参加者で俺が参加するのを知っているのは、この『高垣楓』さんのみである。

まぁ、楓さん本人も俺と同じくサプライズ枠なのであるのだが。

 

 

「おはようございます。た・・・楓さん。こちらこそよろしくお願い致します」

 

頭の中ではスムーズに名前で呼べているのだが、口に出そうとするとやはり苗字が先に出てきてしまいそうになる。等と考えつつ頭を下げる。

 

「んもぅ。騎士君はそうやって直ぐに他の事を考えながら挨拶するんですから。それはとても悪い癖ですよ?」

 

掛けていたサングラスを外しながら頬を膨らませる。

 

「えっと・・・すみません・・・」

 

顔に出ていたらしい。

 

「さて、と・・・」

 

そう言って靴を脱ぎ、小上がりで寛ぎ出す。

控室のつくりは少し変わっていて化粧用の部屋の他に小上りが付いており、俺はそこに座って茶を啜っていた訳だが。

 

「あの・・・何で上がってきてるんです?」

 

「一休みする為ですよ?あら、今日のお茶はウメ昆布茶なんですね。わたし好きなんですよウメ昆布茶♡ウメはウメーですよー♪なんて、ふふふ♪仁奈ちゃんの真似です♪あぁ、仁奈ちゃんって言うのは先日、撮影のときにお友達になって・・・」

 

「いやいやいや、そうで無くてですね?何故この場所に落ち着いちゃってるんです?ご自分の控え室は「ここですよ♡」・・・へ?」

 

「ですから、ここが私の控室です。正しくは、『私と騎士君の控室』です♪」

 

嬉しそうにそう語る楓さん。

開いた口が塞がらないとは正にこの事だ。

 

「・・・」

 

「ふふふ、今とても良い顔してますよ。これ、私がお願いしたんです。騎士君と同じ控え室にしてくださいって」

 

「・・・何故そんなことを?」

 

顔を右手で覆いながら質問をする。

 

「だって私達二人ともサプライズ出演じゃないですか?ばれない様にしなきゃいけないのですよ?ならば二人とも同じ部屋に居た方が良いと思いませんか?まぁ?何処かの誰かさんは?既にばれてしまっていたみたいですけど?」

 

「ぬ・・・ぬぐぐっ・・・」

 

どこから情報が漏れたのか、既に俺がばれていた事が楓さんにもばれていた。

確かに下手に分かれているよりも、一つの部屋に居た方が目撃される場所が狭くなる分、発見されるリスクも少なくなるかもだが、変わりに見付かったら同時に見付かるので何とも言い難い。

そもそも、今いるこの場所自体は、今日に関して言えば人が来ない場所だ。

何故なら会場と離れている、会場とは完全に別の建物なのだ。

こっちに来る人なんてそんなこと『ガチャッ』えっ?

 

ノックもされず無造作に開け放たれる扉。

 

「ふー、流石に歩いてくると暑いですねー。見付からないようにするのは難しいですし・・・さぁさぁぼーっとしてないで可愛いボクに飲み物の準備を・・・」

 

扉を潜って直ぐに、持っていたキャリーバッグの中を探り始め、

誰かと勘違いしているらしくこちらも見ずにそのまま話しかけてくる少女。

『輿水幸子』、346のアイドルの一人である。

彼女も楓さんに及ばずとも遠からず、非常に人気のあるアイドルである。

俺も過去に一度だけ共演させてもらった事がある。

 

「あらぁ幸子ちゃん♪今日はどうしたんですか?あの飲み物は今ウメ昆布茶を淹れているので、それでも良いですか?」

 

楓さんが輿水さんに声を掛ける。

 

「え゛?」

 

凄い声をあげる。アイドルとしてその声はどうかと思うよ輿水さん・・・

そして、錆びたねじを廻しているかの如く、首をガクガクさせながらゆっくりとこちらを振り向く。

 

「かっ楓さん!?うええぇぇぇぇっ!?後に居るのは騎士さんじゃないですかっ!?なっなっなななんで!?なんでですか!?あれ?此処はどこですか・・・?ボクはいま何処に迷い込んじゃってるんですかっ!?不思議の国の幸子ちゃんなんですかぁっ!?」

 

「はぁ・・・輿水さん・・・こっちはライブ会場とは別。間違えてこっちに来ちゃったんだと思うんですけど・・・」

 

「ふぇっ!?あっあれ?でも控え室の場所はこの建物・・・であってますよ・・・ねぇ・・・?」

 

持っていた紙を確認し首を傾ける輿水さん。

 

「そう言えば幸子ちゃんって、今回のライブに出演してたかしら?」

 

そう言って頬に手を当て首を傾げる楓さん。

 

「フフーン。良くぞ聞いてくれましたっ!カワイイカワイイ幸子ちゃんは、今回サプライズ出演なんですっ!!」

 

腰に手を当て、自信満々に鼻高々と言った感じで語りだす。

ヤバい頭が痛くなってきたぞ・・・

 

「と言う事は私達は仲間(・・)なんですね。さぁさぁさぁ、そんな所に居ないで中ま(・・)でお進みください♪」

 

「では、お言葉に甘えて失礼しますね」

 

輿水さんは楓さんのダジャレに気付かずそのまま小上りに上がる。

 

「ところで騎士さんはなんでここに居るんですか?まさか騎士さんが346のライブにサプライズで参加しちゃうとかですか?それでしたら凄いですね。なーんてまさかそんな訳無いですよねー♪」

 

「そうだけど・・・」

 

「え゛?」

 

輿水さんは今まで何を聞いていたんだろうか。そもそも何も聞いていなかったのかもしれない。

 

「騎士さんも冗談がお上手ですねぇ・・・。ボクと楓さんがサプライズで出るだけでもそれはそれは物凄い事なのに・・・そこに騎士さんまで出てしまったら今日のライブはどうなっちゃうんですか?世界が仰天しちゃいますよ?」

 

「「さぁ?」」

 

俺と楓さんは見合って互いに首を傾げる。

 

「この方達は自分たちが凄い所に居るアイドルだと言う純然たる自覚が全然足らないみたいですね・・・」

 

何故か頭を抱え始める輿水さんだった。

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

なんやかんやで、遂に志希と卯月ちゃん・凜ちゃん・未央ちゃん(三人)の出番だ。

この後美嘉ちゃんのMCで、その後連続で5曲。

そしてまたMCの後の曲の次に俺の出番だ。

だからまだ控え室でテレビを見ている。

 

「ただいま戻りましたー♪」

 

上機嫌の楓さんが戻ってきた。

 

「お疲れ様です。とても素晴らしかったですよ」

 

「ありがとうございます。妹さんは、次でしたっけ?」

 

「はい」

 

「ご兄妹がステージに立つって、どんな気持ちなんですか?」

 

「うーん・・・?志希って基本やれば出来ちゃう子だから心配とかしてないし、緊張もしないだろうし・・・強いて言うなら、寸前で飽きて失踪しないかだけが不安ですね」

 

「ふふふ、本当妹さんを信頼してるんですね」

 

「ええ・・・ん?」

 

「どうしました?」

 

「なにか・・・急に胸騒ぎが・・・」

 

「胸騒ぎ?」

 

テレビ越しにステージを見る。

 

聞き馴染んだメロディーと共に上手から美嘉ちゃんが現れる。

物凄い拍手と声援にいい笑顔で手を振り歌い出す。

瞬間、軽い破裂音と紙吹雪と共にポップアップから志希、卯月ちゃん、凜ちゃん、未央ちゃんの4人が良い笑顔を引っさげて飛び出してきた。

 

「がんばれー♪」

 

どこからか取り出した手のひらサイズの日本国旗を振り応援をする楓さん。

それを見て俺はクスリと笑う(・・)

美嘉ちゃん、卯月ちゃん、未央ちゃん、凜ちゃん、そして志希の5名が『TOKIMEKIエスカレート』を一生懸命に楽しそうに踊っている。

 

しかし、なんなんだろうか・・・さっきから胸の奥が妙にざわついている。

 

「騎士君・・・?凄い汗」

 

楓さんは持っていたハンカチで俺の顔を伝う汗を拭ってくれていた。

 

「あっ・・・あぁ、すみません・・・」

 

顎から滴る程の汗をかいて居る事に気付く。

 

「今、水を持ってきますね」

 

ステージ衣装のまま小走りで飲み物を取りにその場を離れる楓さん。

 

「くっ・・・胸が・・・痛い・・・」

 

心臓が締め付けられるような痛みが突然襲う。

呼吸をする事が難しく感じ始め、目の前の世界が明滅する。

激しい頭痛も起こり始めた。

 

「っはぁ・・・はぁ・・・っく・・・はぁ・・・」

 

尚も汗は床にしたたり落ち、最早立っている事も難しくなり、片膝を付いてしまう。

 

「騎士君っ!?」

 

楓さんが大声を出し駆け寄って来る。

 

「騎士君っ!!ねぇ、どうしたのっ!?騎士君!!」

 

楓さんが俺を心配してくれているのがわかるが、

耳に届く音は酷く篭って居て何を言っているのか解り難い。

体温が上昇を続けている。

鼓動は早くなる。震えが止まらない。

胸の痛み、頭痛、吐き気が酷い。

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

『それ・・・正解・・・ない・・・』

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

スッとさっきまでの異常が嘘みたいに無くなる。

立ち上がり

両の手を交互に眺め、開いたり閉じたりを繰り返す。

 

「騎士・・・くん?」

 

楓さんを見詰める。不安そうにでこちらを窺う。今にも泣き出しそうな顔をしている。

 

「大丈夫・・・大丈夫です」

 

俺はテレビを観る。

 

「ん?」

 

楓さんや会場の人間が見えたかわからない。

しかし、今踊っている5人の立つステージの上に、ボルトが落ちて来た(・・・・・・・・・)

 

「えっ!?」

 

「どうしました?騎士く・・・はっ?」

 

気付いた時にはステージの上に照明が、パイプが、固定金具が、あらゆる金属の雨が降り注いでいた。

 

「きゃああぁぁぁぁっ!!!!」

 

隣で楓さんが叫ぶ。

 

画面内でも叫び声が上がっている。

スタッフが客に対し何かを言っている。

ステージに上がり指差し指示を出す人がいる。

大きな機材を数人で持ち上げようと動いている。

しかし、金属の山の下に埋もれている志希は一向に動きを見せない。

山からかすかに覗いている志希の右手の平の傍から赤い液体が滲み出て来ているのが見えた。

 

これは・・・なんだ・・・?

 

なにが・・・おきた・・・?

 

手をテレビに向け翳す。

 

意識しているでもないのに俺の右手は左右に大きくブレている。

 

――震え――

 

この感じ・・・

 

――知っている――

 

最近感じた事がある。

 

――知っている――

 

車が空を飛び、志希に迫った時。

 

――守ると誓った――

 

ならこれは?

 

――守れなかった――

 

護れなかった?

 

――護れなかった――

 

本当に?

 

――マモレナカッタ――

 

本当にそう?

 

「どうして・・・」

 

――わかっている――

 

「なんで・・・こんな事に・・・っ」

 

――わかってる――

 

「ちく・・・しょぅ・・・」

 

――俺の所為だ――

 

「俺は【無知無能(ただのバカ)】だ・・・」

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 

『そ・・・ね・・・そのとおり・・・』

 

 

――――――――――――――――――――――――――

 

――to be continued.




最後まで読んで頂き誠にありがとうございました。

次は中編?後編?のどちらかになると思いますが、
今月中の投稿を目標としております。

今しばらくお待ちくださいますようご承知置き願います。

では,この辺りで失礼致します。


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EXTRA Story 3 - 飲み会 -

皆さま本年もよろしくお願い致します。

新年一発目はEXstoryです。

おちゃらけパートです。
深く考えず読んでくださると助かります。

注:)今後、加筆・修正が行われ内容が若干変わる事があります。



「それじゃあ・・・かんぱ~い!!!」

 

「「「「かんぱーい(☆)」」」」

 

 5つ(・・)の各種グラスがテーブルの中央辺りでぶつかり合い、ガラス特有の心地好い音が軽く閉め切った室内に響いた。

 

「で?」

 

「ぷはーっ!!」と言うとてもオヤジ臭い―本人には絶対に言えないし言わない―一息のあと、とても短い疑問文が川島さんの潤いを帯びた唇から発せられた。

 

「なんでっ!!騎士君はっ!!ノンアルコール(お茶)なのっ!?もう二十歳(ハタチ)は超えてるでしょっ!?そんなにお姉さんたちに隙を見せるのが嫌なわけっ!?」

 

 ビールのジョッキでガンガンとテーブルを叩きつつ、ジト目を俺に向けながら激しく捲くし立てる。

 

「あ♪それは私も思いました」

 

 楓さんが川島さんの発言に、小さく右手を挙げ同意を示す。

 

「あの、た・・・楓さんには・・・流石に理解していただきたいのですが・・・」

 

「んゅ????」

 

 人差し指を顎に当て首を傾げる。

 あぁ・・・これ、この人真面目にわかってない顔してますわ・・・。

 なので諦めて事情を説明する。

 

「今日・・・僕、車なんですよね・・・非常に残念ながら・・・」

 

 肩を落とし、はぁと小さく溜息を吐く。

 

「あぁ!そう言えばっ!?確かに今朝は駐車場でお会いしましたね、私たち♪」

 

 ぱぁっと満面の笑み。胸の前で両手を合わせ、パンッと軽快な音をたてる。

 この人は本当に二十五歳なのか?疑問を感じ得ない。

 

「そんなの別にどうだって良いじゃない。代行で帰りなさいよ、代っ!行っ!でっ!どーせお金いっぱい持ってるんだから!むしろ駐車場に乗り捨てていきなさいよ。明日からはスーパーカーに乗り換えなさい。フェ〇ーリ、ラ〇ボルギーニ、デ・ト〇ソ・・・その辺りね!!わかったっ!?あっ、コンバーチブルなのも捨てがたいわね」

 

 あの、川島さんのその謎理論・・・全っ然わかりません・・・

【全知全能】が衰えを見せ、【半知半能】になってるこの俺には全っ然わかりません。

 

「そ・・・そんな無茶苦茶なぁ・・・。ってか、川島さんすでに酔ってませんか?」

 

 顔を紅潮させ目が据わり、どう見ても酔っ払いのソレにしか見えない。

 まだ始まって五分と経って居ないのに。まだ一杯目なのにだ。青褪める手前位までは別に詳しく診るつもりは無いが。

 

「酔って無い訳ないでしょっ!!騎士君が来るのが遅いことが悪いっ!!」

 

 どうやらどこかで既に飲んでいたみたいだった。

 

「あっあの・・・」

 

 その会話の中に突如として割って入る一名。

 

「どうしたの?美嘉ちゃん」

 

 そう、城ヶ崎美嘉ちゃんその人である。

 仕事の合間に川島さんが誘ったのだそうだ。

 

 

 ──────────────────────────

 

「そう言えば美嘉ちゃん?」

 

「ハイ。なんですか川島さん?」

 

「騎士君の誕生日会来れなかったの残念だったみたいだから、今日仕事終わりのお食事会──飲み会──一緒に来なさいよ。あ、でもお酒はナシよ♡」

 

「えっ!!!!えええええぇぇぇぇぇっ!!!行って良いんですかっ!?ホントのホントウに!?」

 

「え・・・えぇ、良いわよ。じゃ、仕事終わったら私に連絡頂戴。これ、私の連絡先」

 

「あ・・・ありがとうございます!!」

 

「憧れの人と一緒に食事・・・その気持ち、わかるわ」

 

 ──────────────────────────

 

 

 と言う感じのやり取りが行われていたらしい。

 

「き、今日はお誘いいただき、ま、まま、マコトにありがとうございます!!」

 

 いや、誘ったのは俺じゃないので、お礼言う人を間違ってますよ美嘉ちゃん。

 

「どうしたのそんなに緊張しちゃって・・・カリスマJKが聞いて呆れるわよー?」

 

 間髪入れずに川島さんが煽りを入れる。

 

「まぁ、緊張している理由を知らない訳では無いんだけれどね。ふふふ」

 

 無邪気にとても楽しそうに小さく笑う川島さん。

 本当に楽しそうだ。

 

「そ、そそ、それは・・・」

 

 俯きモジモジと何かを呟きながら、器用におしぼりをアヒルに仕立て上げていく美嘉ちゃん。

 

「おっすナイト。佐藤心ことしゅがーはぁとだぞ☆いっちょよろしくしろよ☆」

 

 そんな美嘉ちゃんを尻目に物凄い話し方が独特の初めて見るツインテールが良く似合う女性がウィンク―てへぺろかな?―をしながら自己紹介をしてきた。

 

「佐藤さんですね。一ノ瀬騎士です。初めまして。佐藤さんもアイドルなんですか?でしたらこれから宜しくお願い致しますね」

 

「んー・・・かったいなぁ、ナイトは。それと佐藤さんは駄目でしょ?いやダメだろ?それはノンスィーティー。だ♪か♪ら♪はぁとちゃん♡もしくははぁとさんでよろしく☆様は付けるなよ?わかった?わかったよな?もういっちょよろしくしろよ☆」

 

「え、あ、はい、じゃあ(しん)さんで・・・」

 

「おいおいおい、まじめか?まぁ・・・んー、五百歩譲ってギリギリセーフって事にしておいてあげよう。お姉さんは優しいからな☆感謝しろよ、このこのぉ☆」

 

 肘で脇腹をぐりぐりしてくる。

 

「なっ!?騎士くんが、女性の名前を直ぐに呼んだ・・・ですって・・・」

 

「なぜ・・・なぜなの・・・なぜなのよ────っ!!!」

 

 川島さんと楓さんは両手でテーブルを叩く。

 

「いや、あの・・・お二人とも、他のお客さんに迷惑が・・・お店の備品ですし・・・」

 

「ちっちっちっ」

 

 川島さんは直ぐに顔を上げ人差し指を左右に振る。

 

「ふっ。甘いわね騎士君・・・今日は、貸切よ!!」

 

 右手を俺の方に翳し声高々と吠える。そして何よりどこからか効果音が聞こえて来そうなほどのドヤ顔である。

 なぜか店員さんが後ろで拍手をしていた。

 

「トップアイドルって言われる方がいらっしゃいますからねー、要らぬ混乱を避ける為です」

 

 楓さんはそんな事を言いつつテーブルの上にいつの間にやら大量生産されているアヒルをツンツンと人差し指で弄っている。

 いやいや、楓さん・・・そう仰っている貴女こそがトップアイドル(そちら)側だと、俺は非常に思うのですが・・・そこんところどうなんですか?

 

「大変だったんですよ?当日急遽決まった事だから既にいるお客さんを退避させて貰ったり材料仕入れて貰ったりと」

 

 いや、材料は別に良いんじゃないかと・・・ってか今日いきなりで貸し切り!?

 思い切った事をするもんだ・・・

 

「お前ら直ぐに追いついてやるからな☆覚悟しておけよ♪」

 

 俺と楓さんに指差し、ウィンクをしてくる。

 

「あっはい」

 

 すごい個性だ。心さん・・・正直、かなり気になる存在である。

 

「まぁ、貸切にしたのには、もう一つの理由があってね・・・」

 

「もう一つの理由?」

 

 等と話していると外からバタバタと足音が近付いてくる。

 程なくすると、個室の障子戸がガララと勢い良く開く。

 

「お、お待たせしましたー!!ウサミンです☆きゃはっ。ハァハァハァ・・・」

 

 息を切らし、それでも元気よく現れたのは安部さんだった。

 

「安部さん、おつかれさまです」

 

「ウサミン先輩☆お疲れ様ーっす」

 

 挨拶をする。

 

「あぁ、騎士さんに、はぁ・・・はぁとちゃん、お疲れ様です。はぁ・・・はぁ、それと、安部さんはダメですよ。ナナちゃんか、ふぅ・・・、ウサミンで、お願いしますね」

 

 人差し指を俺の顔の前に立て注意をする。

 

「菜々ちゃん、飲み物は?」

 

 川島さんが、席に着こうとする安部さんにメニューとアヒルと化したおしぼりを渡しながら問う。

 

「(アヒルちゃん?)あぁ、ありがとうございます。さっきお店に着いて、席に案内してもらうときに店員さんにお願いしておきましたのでダイジョウブです☆」

 

 着席をしつつ、解いたおしぼりで手を拭く。

 その直後・・・

 

「失礼しまーすっ!!生チュウ!お待たせいたしましたぁ!!」

 

「はーい!!待ってましたぁ!!」

 

 嬉々としてジョッキを受け取る安部さん。

 しかし、本日の面子の一人が、この場面に違和感を覚える。

 

「生、チュウ?」

 

 違和感を抱いたのはそう・・・城ヶ崎美嘉ちゃん。

 安部さんは永遠の十七歳としてアイドル活動をしている。

 そんな安部さんを本当に十七歳だと思っているアイドルも少なからずいるのも事実であり、美嘉ちゃんもその中の一人であったようだ。

 

「あ・・・あれ?美嘉・・・ちゃん・・・?」

 

 中ジョッキを片手に笑顔で大量の汗をかき始め解り易く狼狽する安部さん。

 

「「「(あっちゃー)」」」

 

「さ、菜々ちゃん。カンパ~イ♡」

 

 そう言って安部さんのジョッキに自分のグラスをぶつけた人物・・・楓さんだ。

 

「菜々ちゃんお疲れ様。さぁさぁ、グイッと」

 

 そう言って、右手に持っていたグラスに口を付け、日本酒を呷る。

 

「んっく・・んっく・・ぷぁ~・・・はぁー♡やっぱりお酒は美味しいですねぇ・・・ねぇ♡」

 

 ぽかんと眺めるだけの他面子・・・

 

「どうしたんですか?菜々ちゃん?飲まれないんですか?」

 

「で、なんではぁとちゃんは直ぐに名前で呼んだの?お姉さんは全っ然納得行かないんだけど!?」

 

 川島さんは最早我関せずと言った態度で話題を変え、俺に振る。いえ、むしろ助かります。

 

「いや、それはですね・・・なんと言うかその・・・逆らったらなにかやばいなぁって言うオーラがありまして・・・はい・・・」

 

「なによそれ!!」

 

 そう言って心さんの方を向く川島さん。

 頬杖を付いていた心さんは川島さんの視線に気付くと手を振りながらベロを出しウィンクをした。

 

「んもぅっ!!一体全体どんなオーラなのよっ!!全っ然わからないわっ!!赤ワインおかわりするわよっ!!」

 

 ギャーギャーと騒ぎ出す川島さん。

 

「なーなーナイトー☆瑞樹ちゃんの事も、なんならウサミン先輩も名前で呼んでやってくれって☆なっ?なっ?このとーり☆」

 

 なぜか心さんから川島さんを名前で呼んでやれとお願いされる。

 なにがこのとーりなのか全然わからないが、まぁ、もう良いかと思えてくる。

 

「はぁ・・・わかりました。では、以後川島さんは瑞樹さん・・・で、安部さんは菜々さんとお呼びしますので。コレで良いですか?」

 

「んもー、みずきって呼んでくれなきゃ、や♡だ♡」

 

 拗ねていた瑞樹さんはそう言って人差し指で俺の胸部をつつく。

 どうやら機嫌は直ったようだ。

 

「やっと菜々のこと菜々って呼んでくれるんですね。騎士さんは引っ張りすぎなんですよーんくんくんくっぷはぁー!!」

 

 ふと菜々さんはジョッキに口を付け、豪快にがぶがぶと飲んでいた。

 美嘉ちゃんの対応はどうなったのかと、ふと目をそちらにやる。

 

「とても不思議だ・・・そしてとても綺麗で魅力的だ・・・もっと、もっと良く見せて・・・(良い声)」

 

「あ・・・あの・・・か・・・かか・・・楓さん・・・近い・・・近いですぅ・・・」

 

 楓さんは美香ちゃんの頬に両手を添え、唇が触れ合うのではないかと言う程の距離で、どこかで見たことある様な事を・・・って・・・

 

「ちょいちょいちょーいっ!!!!ストップスタァ────ーッップ!!!!」

 

 目にも留まらぬスピードで楓さんの傍まで行き両手を掴み、美香ちゃんから引き剥がす。

 

「楓さんっ!!!あんた、なんばしよっとですか~っ!!!???」

 

「へっ?なにをって・・・私が初めて騎士君と出会った時の真似、ですけど・・・?どこか、間違っていましたか?」

 

「まぁ台詞が少し・・・って違う違うそうじゃないおい待って待っておいおいあんた何言ってんじゃコラーっ!?」

 

「ふーん」「へー」「ほほー☆」

 

「はっ!?」

 

 周りから感嘆詞が聞こえてくる。気が付くと囲まれていた。

 

「騎士くーん・・・その辺のお話・・・お姉さんに詳しーく教えてくれるかしら・・・?」ゴゴゴゴゴゴッ

 

 何故かちょっと不機嫌な感じの瑞希さん・・・なんかゴゴゴゴ聞こえるんですが・・・?

 

「なんだーナイトって案外やる事やってんだな☆はぁと納得ぅ☆それはと・も・か・く、はぁと焼酎が呑みたいぞ☆ウサミン先輩なんか頼みます?」

 

「騎士さんのゴシップ!!すごく気になりますねー。んくんくんくっぷはー!!すいませーん!!生中ひとつー、あと月見つくねと味噌田楽、ナムルお願いしま~す!!」

 

「せんぱーい、焼酎~忘れてるぞ☆あとココ、ピンポン呼び出しDA☆ZO☆」ピンポーン

 

「やっぱり騎士さんと楓さんって・・・ブツブツブツブツ・・・」

 

 二人は置いておいて、なぜか美嘉ちゃんがどす黒いヤバい系のオーラを纏い始めた。

 

「あれは、私が騎士くんと初めてお会いした日の事です・・・」

 

 良い声で語り出す楓さん。なぜか目を閉じ空を仰ぐ。

 

「楓さん、何そのまま話を始めようとしてるんですか!?」

 

「騎士君、諦めなさい。私は今日この話を聞き終わるまでは帰らないつもりよ。わかるわね?」

 

 ワカリマセン。

 

「もう諦めろナイト☆往生際が悪いぞ♪」

 

「そうですよ騎士さん。別に騎士さんが女性と何かしてた所で大騒ぎにはなるでしょうが、ちょっと人気が落ちるだけで終わりですよ、あっ店員さーん、注文よろしくお願いしまーす」

 

 菜々さんは近づいてきた定員に大声で呼びかける。

 障子戸は菜々さんが来てから開けっ放しのままだ。

 そんな事より菜々さん・・・

 間違いなくそれだけじゃ終わらないと思います。下手したら俺、逮捕です。

 などと口に出して言えるわけもなく、俺はただひたすら首を横に振り続けるしか出来なかった。

 

 

 8X―・・・・・・・・・・・・・・・・・

 

 

 楓さんの話が終わり、俺はorz←この体勢。

 

「騎士さん・・・」

 

 呼ばれたので顔を上げると、思い詰めた表情で俯く未だどす黒いオーラを纏う美嘉ちゃん。

 

「は・・・はい・・・、ど、どうしたの・・・かな?」

 

 恐る恐る問う。

 

「・・・って、・・・ださい・・・」

 

「えっ・・・ダサい・・・」

 

 そうだよな、男として最低だよな・・・

 美嘉ちゃんに幻滅されても仕方ない・・・

 

「さっき、楓さんがアタシにしてた事、騎士さんがアタシにやってくださいっ!!!」

 

 バンっと机を両手で叩き身を乗り出し大声を上げる。

 

「・・・は?」

 

「だから・・・あの、その・・・騎士さんが楓さんと出会ったときにしてた、その・・・さっきのやつ・・・アタシにもしてくださいっ!!」

 

 ナニイッテルノコノコ?

 

「別にそれくらい良いじゃない。ねー?」

 

「「ねー(☆)」」

 

 瑞樹さんが声を上げると、菜々さんと心さんは同意の意を示した。

 

「あの・・・楽しんでません・・・?」

 

「今更なにを言ってるのよ騎士君?楽しんでるに決まってるじゃない」

 

「はいっ!菜々は騎士さんの稀に見る珍しいこの状況を大いに楽しんでます!!」

 

「いやぁ、ナイトって割と普通ではぁとちゃん安心したぞ☆」

 

 もうやだこの人たち・・・

 

「と言うかですね、元はと言えば楓さんが余計な事を言ったりしたりしたせいなんですから、何とかこの場を・・・え・・・?」

 

 楓さんにどうにかして貰おうと思い楓さんに目を向けると、何故か頬を膨らまし唇を尖らせ潤んだ目でプルプルと震えていた。

 

「え、なんで泣いてるんです・・・?え?」

 

「騎士くんは、そうやっていろんな女の子に同じことをしているんですか・・・」

 

 ナニイッテルノコノヒト?

 

「そうやっていろんな女の子の目を見つめては、『不思議だ、魅力的だ』って口説いてるんですか・・・?特別なのは私だけじゃないんですか・・・?」

 

「か・・・楓さん・・・?あの、何か勘違いしてません?俺は別にそんな事して回っているわけでは・・・ってか特別?え?それ何ですか?俺そんなこと知りませんけど・・・」

 

「あの日の夜、『お前だけは特別だ』って肩を抱いて言ってくれたじゃないですか。あれも全部嘘だったんですか!!??」

 

「それはドラマの演技でしょうがっ!!アンタこれ以上話をややこしくしようとしないでくれーっ!!!!」

 

「ううぅぅ・・・やっぱり・・・騎士さんと楓さんってお付き合いしてたんですね・・・」

 

「と言うかですね、さっきから美嘉ちゃんの様子がおかしい気がするんですけど・・・」

 

「てへ☆なんとなく飲ませちゃった♪」

 

 黒い瓶を持ち上げる。ラベルには『かたじけない』と書かれており、その下には武士が土下座をしている絵が描かれていた。

 

「ゆるせ☆」

 

「そこは『かたじけない』って言う流れでしょうが──っ!!」

 

「おぅ☆ないすツッコミー♪」

 

「騎士くん、つっこむのなr「待て待て待てー、アンタ今何言おうとした!?言わせないよっ!?そもそも楓さんそういう事言うキャラじゃないですよねっ!?ホントどうしちゃったんですか一体!!??何この空間!?ホントに何!?全然わかんないのに楽しめない!!」

 

 しっちゃかめっちゃかである。

 誰か助けてくれ・・・

 

「騎士さーん・・・」

 

「騎士くーん・・・」

 

 志希、お兄ちゃんはもうだめかもしれない・・・

 

 

 

 8X―・・・・・

 

 

 ──飲み会から三日後・・・

 

 

「ちょりーっす☆ユイっち♪」

 

「あー!里奈ちゃんナイスタイミングッ♪」

 

「ん?ユイっちどうした系」

 

「あれあれ」

 

「あれ?」

 

「・・・・」

 

「ん?ミカっち?ボーっとして、どうした系?」

 

「んー、ゆいにもわかんないんだよね。さっきからこの調子でさぁ。つまんないからこれからちなったんの所行こうと思ってたんだぁ。でも里奈ちゃん来たからゆいとカフェ行こ☆」

 

「おっけー。しかし、顔すっごい赤いし風邪かな?そうだったらヤバくない?」

 

「んー、さっきから見てる限りだと違うっぽいんだよねー。正直わかんない」

 

「へっ・・・えへへへへっ・・・えへへへ・・・」

 

「こわっ。ってか、なにこれマジ超ウケる☆」

 

「うーん、放っておいて大丈夫かな?」

 

「まぁ、何とかなるっしょ☆」

 

「騎士さぁん・・・えへへへへへぇ・・・」

 

「「っ!?」」

 

「「今・・・騎士さんって言った・・・?」」ゴゴゴゴゴゴゴゴ

 

 この後二人にみっちり尋問されました。

 

※ちなみに騎士の誕生日の時、美嘉と一緒にカラオケに行った友達とは大槻唯と藤本里奈(彼女たち)の事である。

 

 *終*




最後まで読んでいただき、誠にありがとうございました。

本編10話は今しばらくお待ちください。


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第10話 - 全と壱 ALL and One -

お久しぶりです。
色々ありました。
徐々に作品を投稿していこうと思います。

コチラは続きをどうしようかが思い出せ無いのですが、
途中まで仕上がって居た物を、一先ずそのままにするのは嫌でしたので、
投稿しようと思いました。

拙いものですがご承知おきください。

申し訳ございません。違うやつ投稿してました。
正式版投稿しなおします。
ご迷惑おかけします。




 Continuation──────────────────────────

 

 

「──っ!!??」

 

 五感への衝撃。

 深い眠りの最中、轟音で起こされたような身体が強張る感覚。

 焦りながら辺りを見渡す。

 ノイズ混じりの聞き馴染んだメロディーと澄んだ声が俺の耳に入ってくる。

 

「がんばれー♪」

 

 どこからか取り出した手のひらサイズの日本国旗を振り、画面内のメンバーに応援を送る楓さん。

 それを見てなお焦りは募る。

 楓さんの前に置かれたモニターの画面を見やると美嘉ちゃん、卯月ちゃん、未央ちゃん、凜ちゃん、そして志希の5名が、()()楽しそうに踊っていた。

 

「(既視感(デジャヴュ)? いや・・・これは、まさかっ!? しかし・・・)」

 

 胸の奥が妙にざわつきだす。

 

「騎士君・・・? 凄い汗」

 

 ふと気付くと、隣に居た楓さんは手に持ったハンカチで俺の顔を伝う汗を拭ってくれていた。

 

「あっ・・・あぁ、すみませ・・・ん?」

 

 顎から滴る程の汗をかいて居る中、胸の中のさらに奥の方、何かが燻っている様な妙な感覚に気付く。

 

「今、水を持ってきますね!」

 

 ステージ衣装のまま小走りで水を取りにその場を離れる楓さん。

 

「くっ・・・がぁ・・・胸が、いっ、づぅっ・・・」

 

 心臓を握り潰されるような感覚と鈍痛。

 呼吸をする事が困難になり始め、視界に映る世界が歪み、明滅する。

 鈍器で殴られたような激しい頭痛も襲ってきた。

 

「っはぁ・・・はぁ・・・っく・・・はぁ・・・」

 

 尚も汗は床に滴り落ち、足に力も入らず立っている事も困難になり、膝と手を突いてしまう。

 

「騎士君っ!?」

 

 楓さんが大声を出し駆け寄って来る。

 

「騎士君っ!! ねぇ、どうしたのっ!? 騎士君!! しっかりしてっ!」

 

「ぐっ・・・がっ・・・」

 

 楓さんが俺を心配してくれているのがわかるが、耳に届く声は酷く篭って居て何を言っているのか解り難い。

 体温が上昇を続けている。

 鼓動は段々と早くなる。

 震えが止まらない。

 胸が、胸の奥が痛む。

 頭痛がする。

 吐き気が酷い。

 

 そして俺の世界は真っ白になった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「────、──────」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 眼を開く。

 楓さんは目の前で今にも泣き出しそうな顔をしていた。

 楓さんの頬に手を添えると、楓さんはその手を両手で包んで微笑んだ。

 

「騎士・・・君っ・・・」

 

 その顔を見て、俺の胸の奥に不思議な温かさを覚えた。

 その心の不思議を振り切り俺は立ち上がり、楓さんを見詰める。

 

「騎士・・・君?」

 

「楓さん。今から起こる事のすべてを、これからここに訪れる人たちに、事の全てが終わるそれまで、何も言わずにいてくれますか?」

 

 話し掛けながら腕を上げ、首を捻り、身体の調子が万全な事を確認する。

 

「騎士君、それはどういう・・・それに身体の方は「それに関しては()()()()お話ししますよ。必ず」・・・」

 

 楓さんの話を断ち切る。

 

「ふぅ・・・」と小さく息を吐く声が聞こえ頭を上げる。

 

 残り時間3分2秒

 

 じぃっと俺を見つめる楓さんが口を開く。

 

「騎士君が必ずと言うなら・・・【そのうち】、なのだとしても私はそれを信じましょう」

 

 クスっと小さく笑う楓さん。

 

「こんな事、僕が言うべきではないですが、話さないかもしれないですよ?」

 

 残り時間2分21秒

 

「私・・・今日まで騎士君とそこそこ一緒に過ごしてきました。その中で騎士君を疑った事は・・・うーん、あぁっ!! 有りましたね、一度」

 

 そう言って悪戯っぽく舌を出し笑う。

 そして数拍のち、「騎士君と初めて会った時・・・ですね♪」と楓さんはそこで会話を切ると何かを思い出したのか「ふふふ」と小さく笑った。

 

 残り時間1分33秒

 

「それに──

 

 そこで再度言葉を切り、すぅっと息を吸い、まるで覚悟を決めたようにその綺麗な瞳を俺に向け、

 

 ──騎士君の見た事も無い様なそんな真剣な瞳でお願いなんてされたら・・・私はそれを裏切るなんて、到底できっこありません」

 

 力強く、そう答えた。

 開いた口が塞がらない。

 楓さんの今の言葉、俺が今までの人生で感じた事のない新しい何かを含む、そんな言葉だった。

 しかし、その事実に喜んでいる暇は、今の俺には、最早無い。そんなのは後だ。

 

 残り時間24秒

 

「──ありがとう、ございます」

 

 お礼を言うと同時、楓さんは「まぁっ!?」と口を手で覆い、驚く素振りを見せる。

 だが、それに対し疑問を抱いている暇も、やはり無い。

 俺は数度大きく呼吸する。

 

「では、これから少し席をはずします、先程の約束、お願いしますね」

 

 楓さんの両目を覆い隠すように右手を翳す。

 

「へ? 騎士君、なに・・・を・・・え? いな、い?」

 

 

 

8X―・・・・・

 

 

 

 残り時間11秒

 

 何度も言うが残り時間は少ない。

 形振りに構っていられず、現在ライブが行われている会場の扉を開け放ち、そのまま()()()()()()()()ステージの上に向かう。

 踊っている5人の上をも飛び越し、後方へ着地する。

 歌い、踊り続ける5人はまだ俺の存在に気付いては居ない。

 だが、観客の何人かは、ステージの上に居る俺という存在に気付き始めていた。

 見上げると、照明とそれらが取り付けられているパイプが不自然にユラユラと揺れている。

 徐に水平に手を伸ばすとそこにポトリとボルトが落ちてきた。

 3秒後、ステージ上は()()()()()に悲惨な姿へと変わる。

 

 だが、俺がココに居る時点でそれは存在し得ない未来だ。

 

 持っていたボルトを親指で弾き頭上へ打ち上げる。

 そして親指と中指、二本の指の腹を重ね合わせる。

 

 ──パチンッ!! 

 

 音楽と声援が飛び交うこの騒がしい会場内に、異様な程澄んだその軽快なスナップ音は綺麗に会場内に響き渡っていった。

 そしてその音に応えるように会場中の照明が消え、様々な音を、人々の声を、暗闇が飲み込む。

 その一瞬で、静寂が会場中を支配した。

 

 しかし直ぐにその静寂は破られる事となる。

 

 

 

ガッシャーンッ!! 

 

 

 破壊が齎される騒音が響き渡る。直ぐに会場内はざわつき始め、更に混乱に陥れんとばかりに追い打ちの如く激しい破壊音が続く。

 

 俺は再度パチンと指を鳴らす。

 その音は、またも会場中に響き渡る。

 

 

 ──ステージ上にスポットライトが当てられた。

 そこには後向きに右手を掲げ悠然と立つ人影、そしてその足元には、両手で頭を覆い、何事かと蹲り、辺りをキョロキョロとする5人の姿。

 

 困惑しつつも観客はその姿を見つめてしまう。

 そして戸惑いと疑問は徐々に膨れ上がる。

 

『あれはいったい誰なのか?』

 

『騒音の原因は一体何なのか?』

 

『一体全体何が起こっているのか?』

 

 そんな疑問も束の間、スピーカーはノイズを発し始め、そして観客のどよめきを切り裂いた。

 

「──All spectators!! Welcome to the live stage with 346 and 8723’s Knights!!!」

 

 声がスピーカーから流れる。

 ステージの上、一人立つ男はキレのあるターンをし、観客達に向き直る。

 

 客席の所々で、ポツリ、ポツリと『なんだなんだ?』『今、8723って』『騎士だ・・・』『ナイト様・・・?』『騎士様ぁ♡』『え? どう言う事?』と驚愕と疑問の声が上がり始めた。

 

 

 ──俺は左手を掲げ、もう一度指を鳴らす。

 その音に応じてスポットは切り替わりステージ全体を照らし、次いでスピーカーから曲が流れ始める。

 

 ──TOKIMEKIエスカレート──

 

「お兄・・・様・・・?」

 

「騎士さん? なんで・・・」

 

「みんな大丈夫?」

 

「一体・・・なにが?」

 

「説明は・・・まぁ、追々って事で。今は、一先ずみんなが踊れるかどうかを聞きたい。どうかな? いけるかい?」

 

 俺は5人の前に歩み出て少し左の位置取りで一人ポーズを取る。しばしの沈黙の後、隣に来た美嘉ちゃんは俺と対照的なポーズを取り始め「「「「「はいっ」」」」」と5つの返事が周りから聞こえた。

 

「よし。良い返事だ」

 

 俺はみんなを見ず、頷いた。

 

『TOKIMEKIどこまでもエスカレート~♪』

 

 

 ~♪ 

 

 

 こうして、俺と美嘉ちゃんで歌い上げ、無事()()()()()ステージは続いて行くのだった。

 

 

 

 8X―・・・・・・・・

 

 

 

「「「おつかれさまでしたーっ!!!!」」」

 

 出演者達、スタッフ、関係者ほぼ全員で舞台袖に集まり、円陣を組みながらの挨拶。

 

「いやぁ・・・無事に終わって良かったぁ・・・」

 

 俺は飲み物片手に安堵の息を吐く。

 

「しかし・・・TOKIMEKIのときのアレは・・・」

 

 スタッフが俺の横でそんな事を言い始めていた。

 正直どうしようか悩んでいたのだが、色々と面倒なので【全知全能(このちから)】に頼る事にする。

 俺は指をパチンと鳴らした。

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~~

 ──────────────────────────

 

「いや~流石!!! やっぱり騎士さんのパフォーマンスはレベルが段違いですねっ!!」

 

 某和食店。

 俺の横でスタッフが興奮気味に酒を呷っている。

 今、初日の打ち上げ会場である。

 もう一度言おう、初日の打ち上げだ。

 

「いえいえ、他の出演者達とそう大して変わりませんよ」

 

「それは皮肉ですか?」

 

 賺さず横槍が飛んで来た。犯人は楓さんである。

 

「そんな訳無いじゃないですか」

 

「騎士君ならそう言うでしょうね。ただ、騎士君は自覚して居ないだけですけどパフォーマンスのレベルは段違いなんて言葉では生易しい位に常軌を逸していますからね♪」

 

「アッハイ」

 

 なんかゴゴゴゴゴッって文字が楓さんの後ろに見えた気がした。

 俺はそのまま見なかったことにしてテーブルを挟んで向かい側、志希に声をかける。

 

「志希お疲れ様。どうだった、初ライブは?」

 

「う~ん・・・。正直、お兄様よりぜ~んぜん萌えない・・・いや、燃えないんだけど~・・・でもでもっ、思ったよりいい感じ~だったかなぁって♪ お兄様お兄様♡私の出来は何点くらい? 教えろコノコノ~♪」

 

 ふんふんと鼻を鳴らしながら興奮気味に俺に問うてくる志希。

 大分楽しかったようだ。

 

「ん~、そうだなぁ・・・。厳しめに言って、五不可量転点ぐらいにしておくかな。トレーナーさんにも甘やかすなって言われてたし、これ以上は志希が調子に乗っちゃってみんなに迷惑かけかねないからな」

 

「うわ~っ!! お兄様超キビシ~ッ!! もっと甘やかさないと、もっと周りに迷惑かけちゃうぞ~!!」

 

 志希はフンっとそっぽを向く。

 

「おいおい、勘弁してくれよ」

 

 俺は肩を落とす。

 

 楓「(シスコンですね・・・)」

 

 瑞樹「(シスコンね・・・)」

 

 幸子「(今日のボクもとびっきりカワイかったですね~♪ ンフフフ~♪)」

 

 卯月「未央ちゃん・・・ごふかりょうてんてん・・・って何ですか? 日本語・・・ですか・・・?」

 

 未央「さ・・・さぁ・・・?」

 

 卯月「凜ちゃん、わかりますか?」

 

 凜「不可量転って、たしか・・・物凄い単位、だった気がしたけど・・・」

 

 ありす「不可量転・・・10の2326148992623602777581662355490603008*1乗だそうですよ。騎士さんって・・・世に言う所のシスコンってヤツだったんですね・・・幻滅です」

 

 まゆ「あらぁ? ありすちゃん、そこがまた騎士様の可愛らしぃ所なんじゃないですかぁ。ギャップ・・・あぁっ!!! まゆもまゆも甘やかして貰いたい!! なぜ騎士様の隣の席は空いていないんですかっ!!!」

 

 幸子「みなさん何の話をしてるんですか? 宇宙一カワイイ幸子ちゃんの話でしたら、絶賛私が受け付けますよー」

 

 美穂「騎士さんのお話をしてたんですよ。でもやっぱり凄かったなぁ・・・どうしたらあんな風に堂々としていられるんでしょう?」

 

 茜「やはり、プロデューサーが言っていたアイドル力が関係しているんじゃないですかぁ!?」

 

 美嘉「しかし・・・」

 

 俺の対面に座ったアイドルたちは茫然と俺を見つめていた。

 

 まゆ「騎士さんってすっごい食欲なんですねー♡今度、まゆも何か作って来ますので是非食べてくださいな」

 

 素晴らしい提案がまゆちゃんから聞こえたのでそちらを見る。

 

「そう言うのは喜んで受け取るよ、まゆちゃん。あぁ、タダで貰うのもなんだし、俺が出来る範囲で何かお礼はするよ。何でも言ってね」

 

 まゆ「はぅううん♡」ズッキュウゥゥゥゥゥゥン‼‼‼‼

 

 まゆちゃんは胸を押さえドサリと大袈裟に倒れ込んだ。

 べつに病気ではないようだ。どうしたんだろうか・・・正直レッスンの時にも思ったけど、この子はちょっと不思議な子だからそこまで心配する必要は無さそうだ。と、勝手に思っておこう。

 

 まゆ「まゆは・・・まゆは・・・幸せ・・・者・・・です・・・ガクッ」

 

「騎士君、騎士君」

 

 楓さんが耳打ちをしてきた。

 

「自覚無しでそんなこと言い続けてるとそのうち大変な事になりますよって忠告しておきます」

 

「へ?」

 

 少し不機嫌そうにお酒を持って別の席に移動してしまった。

 まぁ、機嫌が悪くなるのはよくある事なので、俺は今この幸せの時間(お食事タイム)を堪能するとしましょう。

 

 

 8X―・・・・・・・・

 

*1
2澗3261溝4899穣2623予6027垓7758京1662兆3554億9060万3008




これから先、何とかコツコツがんばってみます。


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幕間 ~半知半能から全知全能へ From half to full~

ご無沙汰しております。
色々迷走しておりましたが、素直にこちらを超絶ゆっくりと連載していく方向で決まりました。




 346とのコラボライブから12日が過ぎた今日この頃。

 俺はと言うと、割といつもと変わらぬ日常を謳歌していた。

 

「おはようございまして~・・・」

 

「おはよう・・・って、今スゴイ寝ぼけてるって自覚あるかな?」

 

「でして~・・・すー」

 

 起きてきて挨拶したと思ったらソファーで寛いでいる俺の膝の上に乗って蹲り寝息をたてる少女。

 先日、志希が攫ってきて何故かそのままうちに居座る事になった依田さん()の芳乃さんである。

 コラボライブが終わったら依田さんの今後について話し合おうと思って居たのだが、計ったかのようなタイミングで来た社長(あほ)からの電話連絡。

 

『お前んちに一緒に住んで居るらしいよしのんだけどさぁ、来週ぐらいから8723プロ(ウチ)の新人ってことでデビューさせっから、そこんとこよろしく!!』

 

 これで通話が終了、俺は一言も発することが出来なかった。

 いつの間に英雄(あいつ)は芳乃さんの存在を・・・

 

「私が(たける)さまにお願い申し上げまして~・・・でして~・・・スゥ・・・」

 

 それだけ言うとまた眠ってしまった。

 前々から思っていたけど、芳乃さんって人の考えが読みとれるのではないだろうか? だとすると色々とまずいんだが、今はまぁ良しとしよう。

 

「あぁ~っ!!!!! ずるいっ!!!! 志希ちゃんも志希ちゃんも~!!!」

 

 そう言って飛びついて来たるは義妹の志希である。

 

「おはよう志希」

 

「んゅ~♪おはよ~お兄様ぁ~ん・・・よいしょっっと・・・あはぁ・・・ふにゅ~ん~♡」

 

 俺の膝上から芳乃さんをずらし、左ももの上にうつ伏せて額を乗せ、そのまま高速で首を左右に振る。

 志希の長い髪の毛が、遠心力で俺の顎や顔を掠める。

 

「見てわかる通り俺はコーヒーを飲んでるんだが?それをやめてくれないかな?」

 

「ん~? お兄様にそんな気遣いは不要で無用で無意味で無駄だと思いま~す。んぁ~ん♪イイにほひ~♡」

 

 相も変わらず平常運転の志希だった。

 確かに、【()()()()】であるこの俺にそんな気遣いは不必要である。

 今の俺を物理的に邪魔できるモノなんてこの世に存在しない。

 

 ん? あぁ。言わんとしている事がわかるよ。

()()()()】はどうした? ってことだろう? 

 結論から言うと、俺は別に【半知半能】になんてなっていなかった。

 

【全知全能】の力によって無意識的に生み出された新たな【力】。

【抑制力】が俺に働いていただけだったのだ。

 その【抑制力(ちから)】によってもともと制限付きであったにも拘らず【全知全能(ちから)】は更なる制限を受けた。

 

 あの交通事故が起きた時、おかしいと思った人が何人も居ることだろう。

『【全知全能】のクセに車如きで傷を負うなんて』・・・と。

 そう、実際在り得る筈が無いのだ。

【全知全能】を持ってすれば、例え10tオーバーの金属の塊に時速300kmで突っ込まれようが、

 ジャンボジェット機が頭上からマッハ3で降って来ようが、核弾頭が直撃しようが【全知全能】の前には無意味だ。

 

 あの時の話をしようと思う。

 

 あの時俺は、志希を助けたい一心で【全知全能】の力を全力(フル)で使用した。

 それにも係らず、俺は傷を負った。

 

 何故か? 

 

 それは我武者羅に全力(フル)で使用してしまった所為で、力の加減・制御が意識的に()()()()()()・・・

 

 志希を()()()()()()()()()()()()未来が見えた。

 

 俺はそれに恐怖し、阻止すべく志希を掴む瞬間に、制御が出来なくなった力を無理やりに押さえつけ解除を試みた。

 その結果が()()である。

 例えば、高回転しているタービンを、急に止めるとどうなるか? 

 モノにもよるかもしれないが、大体が直前までの回転運動の力に引っ張られ、止めた個所、モノに対して過剰な負荷をかける事になる。結果、最悪破損だ。事故の時にそれが俺の身体に起こり、多大な負荷をかける事になった。

 意識が朦朧としている状態で先程の事を思い出し全知全能と言う力に対しての恐怖が加速度的に増加していった。

 疎遠となっていた【恐怖】と言う感情に抗う事が出来ず、それが【抑制力】と言う形で全知全能に枷を掛けた。

 

 では、今回何故【全知全能】の力が戻ったのか? 

 いや、正確には【抑制力(きょうふ)】はどうなったのか、だ。

 

【抑制力】が働いていた所で、事の発端である()()()()()という事象が発生しうる事態が起こるなら、必然的にそれを回避しようと防衛本能として【全知全能】は動きだす。

 故に【抑制力】における無意識下の力の制限を解除する事になる。それが楓さんの前で行われた、俺への事象。

【全能化】による身体への発熱と痛み。

【全知化】における脳の活性による頭痛とフラッシュバック。

 周りからすれば数秒の話だったが、俺はXX年分辛い思いをした。

 しかし、【全知全能】が元に戻れば後は簡単な事だった。

 全ては【全知全能】の名の下に、思った通りに全ての出来事は進む。

 

 例え、俺の手元に照明の制御装置が無くとも、

 例え、俺の身体にマイクが付いていなくとも、

 例え、人の何十倍も重い物が頭上に落ちようとも、

 見た事も聞いた事も無い事をいきなりやってみろと言われようとも、

 目の前で愛しい人が息を引き取っていた事実があったとしても、

 その一切合切をもろともしない。

【全知全能】に不可能の文字は無い。

 

 故に【全知全能】

 

 まぁ、タネがわかれば何てことない。

 

 これが一連の話である。

 

【全知全能】が今まで通りと言う事で、また空しい生活が始まってしまう()()()()()()()()、そんな事を感じさせない程度にこの4か月間は謳歌できている・・・と思う。うん、思う。

 

 しかし発見はあった。

 今回の出来事は俺を成長させうる出来事になったって事だ。

 俺は【全知全能】を持ってしても成長の存在を確認することができた。喜ばしい事である。

【全知全能】の俺に目標が、また一つ生き甲斐が出来た。

【全知全能】の俺は人生を謳歌するために【全知全能】を制御しきって、【全知全能】すらも自分の楽しみの為の道具にして見せる。

 俺は【全知全能(おまえ)】に一泡吹かせてやると心に決めた。

 

「あっ、お兄様が珍しい顔してるっ!!」

 

「ん?」

 

 そんな事を考えつつ不思議な事を口走る志希の髪を撫でながら、これから始まる出来事に胸をふくらませるのだった。

 

 

 

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最後までお読みいただきありがとうございました。

※少し訂正しました。


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supplementary story
supplementary story



今回はおふざけ寸劇です。




「日頃よりお世話になっております。画面の前の『【全知全能】になった俺がアイドルになって人生を謳歌していく』を御覧になっている皆様。本作主人公の一ノ瀬騎士です。」

 

「さて今回は、supplementary(補足) story(物語)と題しまして、その名の通り少~しだけ物語の補足をして行きたいな、と思っております。」

 

「作者がうまく纏められない、表現が出来ない、熟語単語が思い浮かばない、仕事が忙しい、時間が取れない、体調が悪い、やる気が起きない、そもそもネタが思い浮かばないetc,etc・・・そんなこんなで物語が全く進まずに、今回この様に箸休め的な物語が入りました。最後の方にはミニストーリーも入っておりますので、もしよろしければ最後までお付き合いいただければと思います。ではここで、この物語を進めるに当たり、サポートがおりますので呼びたいと思います。まぁ、正直余り気は進まないのですが・・・お~い。」

 

「はいはいは~いっ!呼ばれて飛び出て混ざって弾けてケミカルアイドル♪お兄様の従順な(しもべ)♡一ノ瀬騎士の大事な大事な義妹(こいびと)♡みんなのアイドル一ノ瀬・トリスメギストス・志希にゃんで~す♪よろしくよろしく~♪にゅっふっふ~ん♪」

 

「うん、かなりおかしい単語(るび)聞こ()えてきた気がしたが気にしないで行こう。それでは、一ノ瀬兄妹でお贈り致します。」

 

「いたしま~す♪」

 

デンッ♪

 

 

8X―・・・・・・・・

 

 

「補足と言う事で、物語中色々と説明されていない・しきれていない・出来ない部分をちょっとだけ?掘り下げて行こうかと思っています。」

 

「ふんふん・・・でも、ちょっとだけ?なんだね。」

 

「あぁ。んで、なんで俺の腕にしがみ付いているんだ?」

 

「ここが志希ちゃんの今日の定位置だからです。」

 

「急なマジトーン・・・。まぁ、そうか。よし。これも気にせず行きましょう。尚、今回はメタ的な物語なので、俺が【転生者】であることや【全知全能】で在るって事は志希にバレてもなんら問題はないと言う事を理解しておいてください。」

 

「え?少なからず【全知全能】であることは知ってるよ?」

 

「は?」

 

「だって自分で言ってたじゃん。とりあえず、お兄様のレア顔が出た所で最初はこれ~!!どうぞ~♪」

 

「え?おいっ!?今のは一体どういう・・・」

 

「どうぞ~♪」

 


 

 

設定資料公開

 

人物紹介―Profile―

 

――――――――――――――――――――――――――

 

 一ノ瀬騎士   ― イチノセキシ ―

 

旧姓:王親騎士  ― オオギミキシ ―

 

 

誕生日   :12月10日(いて座)

 

身 長   :178.8cm

 

体 重   :65kg

 

血液型   :A型

 

目の色   :黒

 

髪の色   :黒

 

国 籍   :日本

 

出 身   :東京

 

長 所   :何でもそつなく熟せる所

 

短 所   :何でもそつなく熟してしまう所

 

好きな物・事:食べられる物全部、楽しそうな(面白そうな)事・人・物

 

嫌いな物・事:考える事、退屈、暇、(精神的に)疲れる事

 

職 業   :アイドル、短大生、たまに研究者

 

シークレット:【転生者】及び【全知全能】、※※【※※※】※※※※(開示不可)

 

 

 

【備考】

 

本作品の主人公

 

上記のシークレットにある通り【転生者】であり、絶対的な能力【全知全能】の保持者。

 

一ノ瀬家の養子であり、義妹に【一ノ瀬志希】がいる。

兄妹仲は至って良好で、喧嘩らしい喧嘩は一度も無い。

と言うよりは、後述するが騎士が怒ると言った感情を殆ど表に出すことが無かった為、志希が一方的に怒るもすぐに騎士が謝るので喧嘩には至らない。

 

騎士の名は、母方(一ノ瀬家)の祖父が名付け親である。

志希も名付け親が同じ(祖父の)為、文字が逆転した様な少し冗談めいた形となっている。

 

喜怒哀楽の感情が欠落している節がある。

完全な欠落ではないのだが、心の底から喜怒哀楽を享受出来ない。

具体的には最高潮の状態で一般人の一桁%程度。

 

例:

一般人⇒怒り100%が『大切な人を殺される』レベルとする。

騎士の場合⇒同じ事が起こった所で怒り一桁%なので、『コーンスープの缶ジュースの最後の一粒が取れない』程度しか享受出来ない。

作者の表現が弩下手クソ過ぎて文章で全然表せていない為に、大変解り辛い設定である。

感情豊かに読めてしまう所があったとしても、実際はほぼ無感情であり、【全知全能】の力でその場の雰囲気を汲み、自動的に表情筋を操作し表情を作っている。

 

 

【裏話】

 

当初の予定では、幼少期の騎士はもっと擦れた性格で、志希がお兄様好き好き大好き愛してる告白をして生甲斐を発見すると言う流れにしていたのだが、なんやかんやで擦れた志希を騎士がなんやかんやして、志希が騎士を好き好き大好き愛してると言う現在の流れになった。お陰さまで作者の頭の中は滅茶苦茶になりましたとさ。

さすが【向こう見ず】!自分にできない事を平然とやってのけるッそこにシビれず!あこがれずゥ!

 

 


 

「はい、先ずはお兄様のぷろふぃ~るでした~♪」

 

「さっきの話は・・・。」

 

「もうしつこいよ~、そんなのは置いておいて・・・ほれほれじゃんじゃん進めよ~?」

 

「しょうがない・・・はい、今まで俺のプロフが無かったのでこれで何となく俺と言う人物が多少なりとも想像し易くなったのでは無いでしょうか?」

 

「お兄様は私とちっとも似て無いからね~。」

 

「まぁ養子だしそれは当然だろ?でも逆にこの所為で読者様達が想像していた人物像とかけ離れてるってガッカリされる可能性も出て来たとも言える。」

 

「そうだね~♪まぁ、それは読み物としてはしょうがない事ではある。」

 

「正直な話、作者は人物像を文章で表現する事が全然できない所為でここで設定を出さざるを得なかったんだけどね。」

 

「ふんふん。もう作者の話はいいよ~。次いこ次~♪」

 

「では、続いてはこの人のプロフです。」

 


 

 

【一ノ瀬志希】  ― イチノセシキ ―

 

 

 

誕生日   :5月30日(ふたご座)

 

身 長   :161cm

 

体 重   :43kg

 

血液型   :O型

 

3サイズ  :B83(D) W57 H82

 

目の色   :赤味掛かった茶

 

髪の色   :栗色

 

国 籍   :日本

 

出 身   :岩手

 

長 所   :好奇心旺盛、天才

 

短 所   :非常に飽きっぽい

 

好きな物・事:タバスコたっぷりピザ、匂い、薬品作り、お兄様

 

嫌いな物・事:退屈、暇

 

職 業   :アイドル、海外で飛び級→日本で高校生

 

シークレット:お兄様への恋心、【※※※※※の※※※※(開示不可)

 

 

 

【備考】

 

一ノ瀬家の実子。

養子として突然家に来た義兄の一ノ瀬騎士を、一人の女性として恋をしている。

と言うか愛している。

いつか結婚してやろうと思っている。

法律的に結婚できなくとも、絶対一生傍に居ようと心に決めている。

どうにかして襲ってやろうとも考えている。

お兄様成分を鼻腔から1㎎摂取すると24時間闘える。(本人談)

 

【裏話】

 

志希の長音符【~】はもともと【ー】でした。

初期の頃から読んでくださっている方で、気付いている方がいましたらそれは作者として大変喜ばしく思います。

途中から志希だけは分別出来るようにと変更致しました。

志希以外にも感情の表現で使っている時が多々見受けられるが・・・その辺りはお察し。

 

 


 

「はい!!お兄様に比べて薄っぺらなプロフィールでした~。まぁ、志希ちゃんは天下の公式プロフ様があるからね~。」

 

「その辺は弄っちゃうと管理がガサツな作者が絶対詰めの甘さを見せて矛盾とか不可思議を発動させちゃうからな。」

 

「ではプロフィール関係は今回はここまでです。」

 

「すくなっ!?えっ終わり?」

 

「終わり。」

 

「姫ちゃんとか英ちゃんとかは?」

 

「それは・・・まぁ、次があったらって事みたいだよ?」

 

「うわ~・・・。」

 

「と言う訳でここからは志希の疑問に答えるコーナー。」

 

「わ~、どんどんぱふぱふ~!!」

 

「これから、その名の通り志希の疑問に答えようと思います。」

 

「要はストーリー上解説されて居ない部分の解説ってことで~す。」

 

「そうですね(棒)。」

 

「ではではさっそく~、読者(みんな)がそれなりに疑問に思ってるかもしれない事聞いても良い?」

 

「あぁー、それな。」

 

「【全知全能】ってどこまで出来るの?」

 

「どこまでも。」

 

「え?」

 

「どこまでも。」

 

「ほんとに?」

 

「うん。」

 

「瞬間移動とか?」

 

「うん。」

 

「天地開闢?」

 

「うん。」

 

「神様じゃん。」

 

「故に【全知全能】。」

 

「それは・・・」

 

「人生に飽きるのも解るでしょ?」

 

「納得~。悲惨だね~。」

 

「最初の数年は楽しかったよ?小心者でも思いつく限りのやりたい事を()()()()堪能してみたからね。」

 

「へ~。数年で数十年分楽しめるんだ。」

 

「まぁ、どこぞの東の方に存在する能力的な言葉を使わせてもらうなら【永遠と須臾】の為せる業ですよね。」

 

「すっごい電波的なせつめ~♪因みに、な~んでどこまでも出来るって、わかるの?」

 

「だって【全知全能】ですから。」

 

「アッハイ・・・、でもさぁ、それならなんであんな事故になっちゃうの?【全知全能】を全力で使ったらそれこそお兄様の思った通りに全てがうまくいくんじゃないの?」

 

「あの時の俺って、過去の志希の一言によって【全知全能】のある程度の全能感を制限して生きていた。少なからず3年間は【一般人】寄りの【全知全能】な存在になっていたんだ。」

 

「ふんふん。」

 

「事故当日、3年ぶりに【一般人寄り】の【全知全能】が【完全】なる【全知全能】を使った。」

 

「ペーパードライバーみたいなって言いたいの?」

 

「そうだね。使うの久々すぎるし焦りすぎてるし我武者羅だったせいで猪突猛進、結果アレですね。」

 

「うわ~・・・、悲惨。そもそも【全知全能】で何でも出来るなら、車を飛ばさないようにも出来たろうし、時間止めたり、戻したり。」

 

「はい。ぐうの音も無いです。でもそれだけ焦ってたって事で・・・」

 

「まぁ、結果的には丸く収まったし良しとしますか。」

 

「そうしてください。」

 

「【全知全能】ねぇ・・・あっ、話に関係無いけど、絶対持ち上げられない石を作って!!造って~♪創って~♪」

 

「あぁ、『全能の逆説』ね・・・、それは確かに気になる所だよな。」

 

「ふんふん♡」

 

「めっちゃ楽しそうだな・・・。」

 

「そりゃあ・・・どう頑張ったって人類が絶対に到達できない世界に踏み込んでますから~♪」

 

「そうか・・・。結論から言うと、絶対に持ち上げられない石は俺は持ち上げられる。」

 

「じゃあ絶対に持ち上げられない石は作れないから【全知全能】じゃないじゃん。ブーブー!!」

 

「良ーく考えてみろ。俺は【全知全能】なんだから俺自身に掛かる結果が優先されるに決まってるだろ?創造物はあくまで俺が創った物でしか無く俺ではないんだからな。余談だけど俺と全く同じモノは存在できない。【全知全能】は複数存在できないって言った方が良いかな?一之瀬騎士と全く同じ遺伝子・思考をもった人間なら幾らでも創れるけど【全知全能】を持った一之瀬騎士は創れない。」

 

「へ~、じゃあじゃあ志希ちゃんの言う事を何でも聞いてくれるお兄様は作れるって事か~・・・。創って創って~♪主に抱き枕用で♪」

 

「嫌だよ。」

 

「ん~、でもそれはお兄様であってお兄様で無いものだからやっぱいらな~い。あっ!ピザ食べたい。」

 

「なんだよ急に。」

 

「じゃぁじゃぁ、次の質問。」

 

「はぁ・・・。なにかな?」

 

「完結すんのこれ?」

 

「それは、【全知全能】をもってしても測りえないなぁ・・・作者は何年かかっても終わらせたいと思ってるみたいだけど・・・」

 

「やっぱそうなんだ・・・じゃあ、別の質問。」

 

「ほいほい。」

 

「英ちゃんって何者なの?」

 

「英雄かぁ、一応英雄のサイドストーリーは何作か準備してあるみたいだけど、美城常務が出てからの話だからなぁ・・・。」

 

「は?すっごい先じゃん!!現状アニメの5話にも行ってないんだよ!?」

 

「それは作者のスキル【向こう見ず】が発動しているからで・・・」

 

「いま、やっとアニメ4話の話を書いてるんだっけ?」

 

「鋭意(?)執筆中だってさ。」

 

「ちなみに私の手元の資料を見ると~、作者がこのシリーズで最初に書いた話が、アニメの切子の話(18話)の所らしいけど・・・」

 

「あぁ、当時の作者はKBYDとあんきらが大好きだったかららしいけど・・・」

 

「なんでその話を書いて満足しなかったのか・・・、まさに【向こう見ず】って感じだね~。」

 

「まぁ、いい感じに英雄の話が出たし、ここで俺と英雄の出会いの話をお送り致します。」

 

「唐突!?」

 

「短すぎて本編には出来なかったから、苦肉の策ってやつだと思うよ?」

 

「なるほどね~。」

 

「では・・・、」

 

「「どうぞ~っ!!」」

 

 


 

 

忘れもしない(出来ない)、生きていくことに疲れが見え始めた6歳の時。

 

『生きて行く上で、最も楽しめる生活を送るにはどうすれば良いか?』

 

と【全知全能(じぶん)】に問いかけて7本のレールが見え、面白そうな一本を選んだ後日だ。

勘の鋭い人なら何となく気付いて居ただろう。

7本のレール、即ち・・・

 

283(ツバサ)プロ】

315(サイコー)プロ】

346(ミシロ)プロ】

765(ナムコ)プロ】

8723(ハナブサ)プロ】

876(バンナム)プロ】

961(クロイ)プロ】

 

と、こう言う事である。

 

俺は、家に程近いそのプロダクションに向かっていた。

たどり着いた先はとても会社とは言い難い2階建てのボロアパート。

敷地内の地面からは無造作に雑草が伸び放題で、建物の方は所々に罅があったり、

1階の部屋の扉の脇に置かれた淡い緑の塗料の禿げた洗濯機、何年も乗っていないであろう無残な姿の錆だらけの自転車。

要所要所に管理が滞っている事が伺え、人が住んでいるかも怪しげな雰囲気を醸し出している。

 

しかしよく見ると、1階左端の部屋の扉に、ラップのようなもので簡易な防水加工がされた紙が貼られており、其処に申し訳程度の濃さのマジックで【8723プロ】と書かれていた。

 

「マジでここなのかよ・・・。」

 

この時ばかりは心底【全知全能】を疑った。

あれだけ今まで【全知全能】に【不可能(ウソ)】は無いと解らされて来たのにもかかわらず、だ。

 

しかし、頭からそんな疑念を振り払い、心の中で「よしっ」と意気込んでその扉の前に歩を進めた。

紙に雑に書かれた【8723プロ】をマジマジと見やり、今の俺の身長でギリギリ届く位置に付いている簡素なモノクロの呼び鈴を押した。

 

ジリリリリリッ

 

黒電話の様な音が、部屋内から外にまで響いて聞こえて来た。

その3秒後、部屋内でバタバタと音がしたと思ったら声が聞こえて来た。

 

「だから、家賃は月末に何とかするっていったじゃないっすかー!!」

 

そんな言葉と共にドアが勢いよく開き、声の主が現れた。

そう、英雄(ひでお)である。

 

「あん?誰も居ねぇ。んだよ、ピンポンダッシュかぁ?今日日流行んねぇだろそんなんよぉ・・・」

 

そう言いながら頭をボリボリと掻き部屋に戻ろうとする英雄に俺は声を掛ける。

 

「ピンポンダッシュじゃないです。僕が押しました。」

 

「あん?」

 

英雄は振り返り、視線を下げる。

俺と視線が交差する。

 

「おう、坊主。なんか用か?迷子にでもなったか?なら、ここは交番じゃ無ぇから、そこの道左にずーっと行けば・・・」

 

「僕、アイドルになりたいんです。」

 

喋り続ける英雄を気にせず簡潔に述べた。

すると、英雄は喋る事を止めジッと俺を見始めた。

俺は()()()()()ながら

 

「僕は歌も歌えます、踊りだって得意です。何なら何でもできます。僕をこのプロダクションに入れてください。」

 

所属しているアイドルは居ないと知っていたし、プロダクションが傾きかけていたことも知っている。

そんな状況で自分からアイドルになりたいとやる気を出す少年が転がり込んできたんだ、渡りに船だろう。

取り合えず第一段階は終了。レールに乗ったと確信した。

しかし、俺の【全知全能(人生)】に()()()の出来事が起こる。

 

「お前にアイドルは無理だ。さっさと帰れ。」

 

至って普通に。至って当たり前に。至って平坦に。

それはあっけなく行われた。

 

「え?」

 

一瞬、【全知全能(おれ)】の思考が止まった。

 

「他を当たれ。話は終わりだ、じゃあな。」

 

何を言われたのか分からなかった。

何を言っているのか判らなかった。

何と言ったのか解らなかった。

言葉の意味が理解らなかった。

 

今の今まで、俺は何でも出来た。

誰よりも全てが出来、誰よりも全てを知り、森羅万象が俺の掌の上だった。

しかし、俺は、【全知全能(おれ)】には、アイドル(それ)は【無理】だと告げられた。

 

いや、過去にその手のプロたちに『坊やにはムリだよ。』と、言われた事は幾度と無くある。

そして、その悉くを俺は覆してこの日まで生きて来た。生かされて来た。

その覆しを覆したくて何度も何度も色々な事に手を出しては、その悉くを覆せずにこの日までダラダラと生かされて来たんだ。

でも、英雄の発したその言葉は、何故か覆す事が()()()だと、【全知全能(こころ)】が()定した。

その言葉を、英雄の口から発せられた言葉を聞いた瞬間、俺の頭の中は靄が掛かったかの様に不透明だった。

不純物の無い硝子みたいに澄んで綺麗だった。

真っ白の画用紙に黒のクレヨンでぐちゃぐちゃに引かれた線の様に滅茶苦茶だった。

綺麗に磨かれた鉄板にレーザーで精密に描かれた幾何学模様みたいに緻密だった。

 

そんなぐちゃぐちゃで整頓された心境が、わけ分からなかった。判らなかった。解らなかった。理解(わか)らなかった。

 

「―んでだよ・・・」

 

「あん?」

 

「なんでっ!!なんでお前にそんな事わかんだよっ!!()はっ!!ここに来ればアイドルになれるってっ!!そう()()()()ここに来たんだよっ!!」

 

「・・・。」

 

俺はこの時、唯々我武者羅だった。自分に理解出来ない事、出来ない事なんて無かったからだ。無いからだ。

不可能(エラー表示)なんてモノは存在しない世界で生きて来たのだ。数十年分もの間、だ。

たかだか三十余年程度しか生きて来ていない只の人類に俺の何が解るんだと躍起になったんだ。

 

「俺は何でも出来るんだよっ!!俺に不可能は無いだよっ!!出来たく無くても何でも出来るんだよ、出来ちまうんだよっ!!そんな俺にアイドルごときが出来ない訳無いだろうがっ!!人前で歌って踊って笑ってりゃ良いだけだろうがっ!!」

 

俺は肩で荒く息をする。

英雄は肩を竦め、ふぅと息を吐いた。

 

「そんなんだからお前には出来ないんだよ。それとさぁ・・・お前、自分の顔を鏡で見たことないだろ?笑顔って知ってるか?心の底から笑ったことあるか?ん?」

 

「・・・。」

 

「無いんだろうな。そうでなきゃあんな笑顔を他人(ひと)様に向けたりはしねぇんだよ。」

 

「笑顔が何だってんだよ!!そんなのたかが他人の前で表情筋を動かすだけだろうが!!そんな事が俺のアイドルになれないのと何の関係があるんだよっ!!」

 

「アイドルと笑顔ってのはなぁっ!!」

 

英雄は突然声を張り上げた、かと思うと、声のトーンを落とし次の言葉を紡いだ。

 

「切っても切れないもんなんだよ。」

 

「たかがっ・・・!!!」

 

言葉の途中で英雄は俺の肩を掴み真剣な眼差しで見つめてくる。

 

「たかがじゃねぇ。たかがじゃねぇんだよ。アイドルっちゅうのは歌の上手さは大事だ。踊りのキレが大事だ。そいつだけの唯一の個性ってヤツが大事だ。でもな、そのどれよりもそいつの心底からの笑顔が大事なんだよ、アイドルってやつは・・・。」

 

俺から目線を外し空を眺め何かを思い出すようにふっと鼻で笑う。

 

「俺の考える、知ってるアイドルってのはな、人に夢と希望、そして笑顔を与える職業だ。その全てが出来てなれる・・・と、少なくとも俺はそう思ってる。ぱっと見、お前はガキに関わらずいい容姿を持ってるし、さっきの話が本当と考えるならば、きっと夢と希望は与えられるだろうよ。だがな、笑顔は与えられない。だからお前には出来ない。少なからず俺はお前をプロデュースするに値しないし、8723(うち)で採用もしない。」

 

俺には納得が出来ない理由をつらつらと語った。

だが、この納得が出来ない事に俺は一つ納得することになった。

そう、最も面白そうなルートである事の理由だ。

実は7本のルートそれぞれに【全知全能】をもって不明瞭な箇所がいくつか存在していた。

無意識か【全知全能】をもってしても不確定要素なのかはその時は関係無かったし気にしていなかったが、今やっと解った。

 

【全知全能】で計り知れない【人間】という存在が居ると言う事だ。

きっとほかのルートでも英雄(こいつ)みたいに【全知全能】で推し量れない存在と関係を持つことになるんだろう。

そしてそれは俺の人生を楽しませ足り得る要素の一つなのだろうと。

ここで俺の内側から11時間ぶりに感じる感情が湧き上がってくる。

『生きて行く上で、最も楽しめる生活を送るにはどうすれば良いか?』と問いただし、答えを貰いそれに応えた時の感情。

嬉しさ・楽しさ・喜び。

その感情が沸々と湧き上がってくるのを感じた。

 

「なんだお前?しっかり良い顔出来んじゃねぇか。」

 

「え?」

 

「お前、もしかして俺を謀りやがったか?がきんちょのクセに生意気な奴だな・・・演技力の披露って事か?まぁ、笑顔の演技は全然ダメダメだったが、しかたねぇ。芸能界の英雄と言わしめたこの敏腕プロデューサー、(はなぶさ) (たける)様がお前をアイドル業界へ導いて進ぜよう!!大船に乗ったつもりでなっ。なぁ~はっはっはっはっはっはっ!!!」

 

こうして英雄(あほ)が勝手に一人で納得し俺はこの日から【8723プロ】に所属する事となった。

 

この後、英雄の指示に従い、話をし、出来る事を手当たり次第披露し、そして聞いた。

 

「雄さんは、俺が()()ですか?」

 

「あーん?何言ってんだお前?」

 

「俺は今まで、【化物】だの【悪魔】だの言われ続けて来ました。まぁ、逆に【神の子】とか奉られそうになったりとかもありましたけど・・・」

 

英雄は一つ溜息を吐くと俺を見据えてこう言った

 

「お前みたいなガキが恐い訳あるか。なーにが化物だよ。お前より恐い物なんか社会に出ればいくらでもあるわ。お前はな、()()()()()()()()()()のただの不器用な人間だよ。」

 

俺はこの時この世界に来て初めて、信頼できる人が出来た。

 

 


 

「わ~ぱちぱちぱちぱち~。」

 

「なんか恥ずかしいな・・・。」

 

「お兄様の私に会う前の話かぁ~。なんか感慨深いねっ!!ところで・・・」

 

「やっぱり気付いた?」

 

「連載当初って、283プロの存在はかけらも無かったよね?ね?」

 

「そうだな。」

 

「7本のレール(笑)はどうする予定だったんだろう?」

 

「なんも考えてなかったらしい。」

 

「は?」

 

「今回、偶然発見したからぶち込んだみたいだよ。」

 

「さっすが向こう見ず~♪しっかし、ちっちゃい頃は英ちゃんの事信頼してたんだね?」

 

「まぁ、あの時唯一俺を一人の人間として扱ってくれてた存在だしなぁ」

 

「すっごい遠い目。」

 

「今は信頼なんて一切できないからな。」

 

「でもそれなりに信用はしてるんでしょ?」

 

「まぁな。じゃなきゃずっと8723には居ないよ。」

 

「うんうん。で、私は?」

 

「俺は志希の事を誰よりも信頼してるし信用してるよ。当然だろ?」

 

「うんうん♡ありがと♡私もお兄様の事だっれよりも信頼してるし信用してるし愛しているよ♡」

 

「そっか、ありがとな。」

 

「大きくなったら結婚しようね♪」

 

「法律上ムリだけどな。」

 

「な~に言っちゃってんのこのお兄様は全く~。お兄様は何者ですか?」

 

「俺は・・・何者?」

 

「作者の知能の低さ故にお兄様の【全知全能】感が低レベルなんだよね~。」

 

「それな・・・、と、こんな感じですが、これからも『【全知全能】になった俺がアイドルになって人生を謳歌していく』はゆっくりと進んで行きます。行く予定です。行けば良いなぁ・・・。俺は・・・【全知全n】・・・あっ!?」

 

「これからも私たち兄妹の活躍を期待していてね~♪恋の行く末もにゃ~♡にゅっふっふ~♪」

 

「それでは次の話まで今しばらくお待ちください。」

 

「まったね~♪」

 

 





最後までお読み頂きありがとうございました。

まだ話数が少ないですが、疑問点・不明点等ございましたら、
感想等で知らせて頂けると大変喜ばしく存じます。
また、誤字脱字も併せて報告くださるとありがたく存じます。

では、次の話まで今しばらくお待ち頂きたく。
以上、失礼致します。



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