この素晴らしい占星術師に祝福を! (Dekoi)
しおりを挟む

第1話 転性

「畑中豊さん、ようこそ死後の世界へ。あなたはつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」

 

白い部屋に水色の髪の美しい女性がそんなことを話してきた。

……死んだ、か、そうだ。俺は確かに、よそ見をして歩いていたら信号を無視したトラックに轢かれて死んだはずだ。ならば、なぜ怪我も無くなって、意識があるのだ?なぜこうして考えられるのだ?ここは地獄か何かなのだろうか?

 

…………この女性が知っているのだろうか?

 

 

「……ところで、あなたは誰なのだ?それと、ここはどこなのだろうか?」

「あら、冷静ね。ま、いいわ。そっちの方が説明の手間が省けるし。」

 

「私の名はアクア。日本において、若くして亡くなった人間を導く女神よ。」

女神、か。導く神であるのなら人間に何らかの裁きを加えるのだろうか?

 

「そこで、あなたには二つの選択肢があります。ひとつは何もかもさっぱりと忘れて転生するか、もしくは天国に行くかの二択ね。」

「……それなら大概の人間は天国と答えるんじゃないか?」

「それがねー、天国は何にもないから一日中日向ぼっこをしているか、誰かと話しているようなお爺ちゃんみたいな生活になっちゃうのよね。」

 

……なるほど、それなら天国行きを選ぶ奴も少ないな。俺だって何にもないところに行くのは勘弁だ。それなら俺は―――

 

「ちょっとストップ、ここで三つ目の選択肢をあなたにあげるわ!!」

「…………三つ目、か?」

「ええ、あなた、ゲームは好きかしら?」

「ゲームか?人並みにはやってはいたが、それが何か関係あるのか?」

「大ありよ!あなた、RPGのゲームによくあるファンタジーな異世界に行ってみないかしら!」

 

………………は、異世界?ゲームによくあるファンタジーって剣と魔法のファンタジーとかのことなのだろうか?

 

その後の女神の話をまとめると、異世界では魔王たちにより転生することを拒む魂が増え、人間の数が減少して言っている。そこで、記憶を引き継いで魔王を倒してほしいとのこと。でもこのままだと弱くて死んでしまうから何か強い武器なり能力なりを一つ渡して戦うとのことらしい。その道具や能力が書かれたカタログを見ながら考える。

……何とも奇妙な話だが、この女性が本当に女神だとしたらあながち間違いでないだろう。何せ死んだはずの俺がここにいるんだ。その話も何割かは本当なのだろう。完全には信用できないが。

 

「……なるほど、その話はよく分かった。それで女神さん、このカタログにない能力でも大丈夫だろうか?」

「ええ、構わないわよ。それがあなたの力になって魔王を倒すのならね。」

「それなら俺は星詠みとか星に関する才能とかで頼む。」

「あら、チートの武器とかにしないのかしら?」

「別にそこまで強くなくてもいいし、それにせっかくの異世界だ。全く知らないことに挑戦してみたいし、夜空も綺麗だろうしな、それなら楽しめそうなのでもいいだろう?」

本当は戦闘とか怖いからあくまでサポートする形で居たいからな。魔王を倒すとかもっと無理だ。あと、異世界の夜空とか綺麗そうだし星について知っていたら面白そうだし。

 

「あなたがそれでいいならいいけどね、私も楽が出来ていいわ。でもそれだけだと魔王を倒せるか心配だし、ついでにその才能にちょっとオマケしておくわね。」

それを神が言ってもいいのだろうか?まぁ、貰えるのにいらないことを言って台無しにしては面倒だし黙っておく。

 

「それじゃ、異世界に送り込むわよー。そこの魔法陣の上に立っておいてー。」

なんかだんだんと適当になってきてないだろうか、とりあえず魔法陣の上に立っておく。段々と魔法陣から光が集まってくるな。

 

「それじゃ、豊、頑張って魔王を倒してきなさい…………あっ」

おい「あっ」ってなんだよ?

「……ごめん、ちょっとミスがあったけどごめんね!」

おい馬鹿どんなミスがあったんだ!?いったい何が起きるんだよ!?

「…………頑張ってきてね!じゃあね!」

ふざけるなよ女神!!ちゃんと説明しろやぁ!!

 

 

そして、俺は、異世界に降り立った。少なくとも見える範囲では草むらしかなく、人工物と思われるものは全く見当たらない。

 

「たくっ、あの女神一体どんなミスをしたん、だ……?」

ふと、自分の独り言に違和感を覚える。あれ、俺って、こんな声、高かったか?俺の声はかなり低かったはずだ。それに俺の視界に入るくらいの暗い紫色のような髪の毛、黒のはずだがこんな髪色だった記憶は一切ない。しかも視界に入るということはかなりの長さだ。背中にもそんな感触があるから後ろ髪も長いのは確定だろう。

 

「……………………」

嫌な予感がするものの、自分の体をまさぐってみる。手は女の子と思われるほど小さく、胸には小さいながらも膨らんでおり、股間にはナニとは言わんが、あったはずの棒と玉がなくなっている。

 

あんの駄女神、今度会った時は覚えていろよ……!

 

 

 

拝啓、お父様お母様。親不孝な息子は異世界に行ったら娘になっていました。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2話 アクセルの街到着

少々短く、地の文だらけで読みづらくてすみません。


とりあえずは近くに道がないかを探すことにした。道があるなら村や町につながっている可能性があるはずだ。それが無理でもせめて川か森だけは見つけておきたい。異世界に来て水分と食料が足らずに飢え死にとか嫌だ。どうせ死ぬのなら……いや、死ぬこと自体が嫌だな。

とにかく早く始めないといけない。幸いまだ太陽は登り始めている時だ、道くらいなら見つかるはず……あれ、なんで太陽が昇り始めたってわかるのだろうか?ま、いいや。

 

死ぬ前の日ごろの態度が良かったのか、少なくとも車輪と思われる細い二本線が残っている道を見つけた。土ではあるものの、ぬかるみはないから歩く分にはまだ平気そうだ。

とはいえ、仮にも肉体が女の子……だろうか、目線は男の時よりも低い。そのため身長も男の時よりかは小さくなっているだろう。その場合、歩幅も小さくなって移動スピードも落ちているはずだ。体力だって今はまだ平気ではあるが男の時よりも体力が落ちている可能性はある。適度に休憩をはさみつつ歩こう。

 

……というか、今更だが服もこの女の子に合った服になっているな。俺が来ていたはずのシャツにジーンズ、スニーカーはいずこに消えたのだろうか。頭にちょうど収まる帽子に紫のローブ、灰色のレギンスに程々に綺麗な黒のサンダル、あと下着は……まぁ、ちょっと派手な形の青色だったとだけ。

 

 

―――――

 

 

休憩もほどほどにしつつ歩き始めて2,3時間あたりだろうか。川に顔を突っ込んでいる馬に小さな馬車、そして、商人と思われる老夫婦にその息子と思われる青年を見つけた。馬車があるということは宿屋や商いができる、つまりは人がいる場所を知っているはずだろう。……馬車に乗せてそのまま町なりに連れて行ってもらえないだろうか?それが無理でもせめて情報だけは聞いておかないと……!

 

あっさりと乗せてもらえた。いや、いいんだけど、警戒しなくていいのだろうかこの人たち。乗せた相手がもしかしたら盗賊だとか考えなかったのだろうか?……ま、いいか、ただで乗せてもらえて、話で情報を入手できたんだ。何も言わないでおこう。

 

さて、この人たちが向かっているところはアクセルの街、というところらしい。曰く、あそこにいるモンスターは弱く、冒険者を始めるのに最適だとか。そもそも冒険者って何かと聞いたら……要はモンスターを狩ったり、ダンジョンに潜って宝を探したりする、よくあるファンタジー的な職業らしい。つくづくこの世界が異世界だと感じる。

 

そして、その冒険者になるためには手数料がいるとのこと。……ローブには硬貨と思われるようなものはなかった。では靴に隠してあるかというとそれも無く、ローブを脱いで下着の中にないか探そうとしたら止められた。

そう言えば俺、女の子だったな。手数料くらいは貸すと言って何十枚かの硬貨をくれた。あの、いくつか金貨と思われるようなのが混じっているんですが、え、せっかくだから持っておきなさい?いや、あの、流石に金貨はちょっと、こんな怪しい奴に渡さなくても、いや、優しそうな子だから大丈夫って…………

優しくされてちょっと嬉しかったけどさ、うん。

 

そんなことを話しつつ太陽が昼を過ぎ、3時あたりになるころにアクセルの街についた。

元男の身分すらわからない人間をここまで連れてきてくれて、しかも街に入れてくれた老夫婦と青年に感謝と別れを告げた。何か困ったときがあったら宿まで頼りに来てね、ってどんだけ優しい人たちなのだろうか。いざとなったらお願いはするが、出来るだけ自分で頑張る様にしよう。

 

さて、冒険者としてやっていくためのギルドに向かっていった。どんな冒険が待っているだろうか。自分の体力を考えるに戦闘はあまりなくて、それなりに楽しめる冒険になれるといいな、そんなのんきなことを考えつつ。

 

 

拝啓、お父様お母様。娘になった親不孝の息子は何とか街にたどり着けました。 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第3話 ギルド到着

作者は思いついたときに書くので文や口調がバラバラのガバガバになってしまっていたりします。
申し訳ありませんがご了承ください。


さて、老夫婦と青年の商人一家に教えてもらった通りの道を歩くと酒場と思われるところについた。ここがギルド、なのだろうか。ファンタジーもののギルドと言えば荒くれ者が昼間から酒を飲んでいたりするイメージがあるんだがここはどうなのだろうか……

ゆっくりと扉を開けて中の様子を窺いつつ入って行こう。決して怖がっているわけではない。

 

それにしても思っていたよりも人が多いな。街中でも見かけたが分厚そうな鎧を着た剣士にとんがり帽子をかぶった杖持ち、退屈そうにナイフを持っている人間、日本ではコスプレ会場でもないとお目にかかれないような人たちばかりだ。

 

「いらっしゃいませ!お食事でしたらお席に、お仕事案内などございましたらこちらのカウンターへどうぞ!」

 

綺麗なお姉さんから声を掛けられた。この人はギルドの人だろうし、ここで冒険者の登録をすればいいのだろうか。

 

「…………ここで冒険者になれると聞いたのですが?」

「はい、ここでは冒険者の登録が行えます。ただ、登録の際には手数料として千エリス程かかってしまうのですがよろしいでしょうか?」

 

うん、商人一家の人たちが言っていた通りだな。教えてもらった通りに銀貨をお姉さんに渡す。あと口調も変えておいた方が良いと言われたが、これで大丈夫なのだろうか?流石に男の時の口調はあれだが、これはこれで違和感が酷くて不安だ。

 

「……ん、これで、いいですか?」

「はい、千エリスちょうどですね。確かに頂きました。」

よし、特に何のトラブルもなく渡せたな。

それにしてもこの世界の宗教でエリス教というものがあるが、このお金の単位もそれにあやかったものなのだろうか?

 

「それではいくつか冒険者として必要なことを説明させていただきます。では最初に――」

その後、冒険者として必要なことを話されていく。その中でも気になったのが冒険者カードというものだ。このカード自体が身分証明書になっており、依頼を受ける際にも冒険者カードが受けられないなどとても大切なものだとか。それにそのカードには自分のレベルやステータス、スキルに倒したモンスターなどが記載されるらしい。貰ったのなら確認しておこう。

 

「それではこちらの書類に身長、体重、年齢、身体的特徴などをお書きください。」

 

さて、身長と体重はおおよそでいいとして、名前、か……

とりあえずは本名から「ユタカ」とだけにしておく。この世界で苗字だと貴族だと間違われる可能性があるかもしれない。それで絡まれても面倒だし名前の所だけでいいだろう。身体的特徴は……暗い紫色の髪だけでいいだろうか。他の所なんぞ鏡を見てないし知らん。

 

……そもそも俺はどうやってこの世界の言葉が分かったり文字を書けたりするのだろうか。これも駄女神がつけた機能のひとつなのだろうか。

 

「はい、ありがとうございます。ではこちらの書類はお預かりいたしますね。

それではこちらのカードに触れてください。それであなたのステータスが分かりますので、そのステータスの数値に応じた職業をお選びください。選んだ職業によっては専用のスキルが入手できますのでそのあたりを踏まえてお選びください。」

 

カードに触れるだけでステータスが分かるってそれ、相当な魔法なんじゃないだろうか?それがあれば敵のステータスが簡単に分かってしまうんじゃないだろうか?

まぁ、それはそれとしてカードに触れてみる。

 

「はい、ありがとうございます。ユタカさんのステータスは……おお!魔力と知力が高いですね!これでしたら魔法職などが最適かと思われますね。ですが…………少々言いにくいのですが、筋力に耐久、生命力は平均よりもかなり低いため、ソロで行うと危険ですのでパーティーなどを結成することをお勧めしますね。他の器用度や敏捷、幸運はそれなりにあるので頑張ってくださいね。」

 

……ま、まぁ、肉体が女の子になったんだ。それくらいは想定していたさ。(震え声

剣を持って近接戦しなくていいことを喜ぶべきか、男としてのプライドを傷つけられたことにへこむべきか複雑だ。

 

「では、職業の選択を行いたいと思います。先ほど述べた通り、魔力と知力が高いため魔法職あたりをお勧めいたします。ですがこのステータスですと上級職のアークウィザードはまだ無理かと思われます。ですので…………あら?」

「…………どうかしたのですか?」

「いえ、見覚えのない職業がございまして……えっと、占星術師(ゾディアック)という職業ですね。こちらの職業は初めて見ましたのでどんなのかは、ちょっとわからないですね。」

 

!これは駄女神に頼んだ才能の影響によるものだろうか。それならばだ、それにしておいた方がいろいろと捗るだろう。

「……それなら占星術師(ゾディアック)でお願いす、いや、します。」

「えっと、よろしいのでしょうか?ギルドの方でも把握していない職業ですのでどのようになるかはわかりませんよ?」

「……ん、大丈夫です。むしろ、面白そうだし、これが良いです。」

「…わかりました。それではユタカさん、ようこそ冒険者ギルドへ。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています!」

 

 

 

「あ、冒険に行く前にスキルの取り方と、今夜過ごせる宿を教えていただけないでしょうか?」

「あ、あはは、それではこちらも説明いたしますね。」

 

―――――――

 

さて、ギルドで冒険者カードも貰ったし冒険に行こう……とは思ったがアクセルの街についたのが3時すぎだったはずだ。そして諸々の手続きや説明を受けたときには太陽は沈め始めている。冒険は明日からにしよう。

 

それにしても初心者は宿なんかなくて馬小屋でないといけないという。……少なくとも馬なんぞテレビの中でしか見たことない俺に馬小屋の臭いや処理ができるか不安だ。少なくとも、今日は眠れないことも覚悟しておいた方が良いな。

 

それに、カードを何度見直しても体力面のステータスは何度見直しても低く、ソロでの活動がほぼ禁じられた。普通にパーティーを組む分にはいいのだが、俺の場合は転生者であることと元男という秘密があるため、それがばれるようなことはできるだけ避けたい。

スキルも見たことない職業のためどんなのがあるか分からないし、武器も職業的に杖を使えばいいのか星について書かれた本を用いればいいのかすらわからない。

 

「…………はぁ、あの駄女神め。なぜミスなんぞしたんだ。」

 

少し八つ当たりっぽいとはいえ、これくらいは許してほしい。ミスがなければ悩みの種も一つ減ったのだからな。

 

「……とりあえず、馬小屋に行って空きがあるか聞かないと。」

流石に街中で野宿は嫌だ。さっさと行かないと。

 

 

その後、ちょうど馬小屋が空いてなく、せめて安全な城門の前で野宿しようとしたところで商人一家に拾われて宿屋で過ごすことになった。しかもお金はあちらが出してくれた。

……本当に足向けて眠れないな。今度お礼に何かしてあげた方が良いな、うん。

 

 

 

 

 

拝啓、お父様お母様。親不孝な娘は異世界で皆さんが大変親切にしてくれて泣きそうです。




占星術師はゾディアックじゃないとか、そもそもゾディアックは横道帯だとかのツッコミはなしです。
この作品では占星術師=ゾディアックです。よろしくお願いします。イイネ?

あと、カズマ君に早くセクハラさせたいので次の話では一気に時間が飛んでしまいますのでお気を付けください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第4話 一か月後

残念ながらセクハラはまだ先でした。
早くカズマ君がスティールできるところまで頑張りたいです。

※サブタイトル入れ忘れていました。申し訳ありませんでした。


拝啓、お父様お母様。異世界に来て一か月ほど経ちましたが娘は元気に生きています。

 

しばらくは占星術師(ゾディアック)について調べるために本を読み漁ったり、スキルをいくつか習得してみたりした。この職業特有の為なのかはわからないが、一つのスキルにかかるポイントがかなり大きく、あまり取得できなかったりして辛かったりもした。

 

さて、いくら商人一家が宿に泊めてくれているとはいえ俺は一冒険者である。食い扶持くらいは自分で稼がないといけないし、いつまでも世話になっているわけにもいかない。そのためには依頼を受けてモンスターの討伐を行わなければいけないが、体力面が貧弱なためソロは無理。パーティーを組もうにも募集されている職業はあくまでギルドや冒険者が知っているものだけで、占星術師(ゾディアック)などという怪しげなものと好んで組もうとしてくれる人はいなかった。

 

それでも病気や用事などで欠員がでたパーティーに臨時で参加する形で最初はそれで食いつないでいた。その後も、他のパーティーのお助け要員として今は何とかなっている。

 

そんなこんなあり、今ではなんとか冒険者としているが、そんな俺は今、

 

「…………あっちの方、割と近くにジャイアントトードが2匹います。」

 

モンスター発見レーダーになっていた。

 

その理由は俺が取得したスキルのせいである。

名前は『ポラリス』。簡単に説明すると俯瞰視点で見るスキルだ。別にこれだけなら周囲の警戒や観測に使えそうなのだが、問題がその見える範囲が限りなく広いことだ。これのせいでたとえどんなに遠かろうと、場所が分かったり、探しているものが何なのか分かったりさえすれば上空から発見できるスキルなのだ。その分取得に消費したスキルポイントも高く、屋内やダンジョンなどの空が見えないところでは使えないというデメリットがあるが。

 

今はこのスキル目当ての方々とパーティーを組ませてもらったりしている。索敵する手間が省けるため、モンスターを狩る効率が上がったり、警戒する手間が省けたりするからだろう。

 

…………もうこのスキルだけあればいいんじゃないかな。とはいえ慢心は駄目だ。いくら便利なものでも取り扱いに失敗したら危険になるものなんぞ、日本でいくらでも見てきたからな。

 

――――――――――

 

そんなこんなで今日の依頼は完了、臨時のパーティーとも別れ、ギルドで一人、飯を食べている。報酬金としてもらったお金はあまりないが、代わりに弱らせたモンスターを倒させてもらったりしているから文句はない。おかげでややゆっくりではあるがレベルアップもしているし。スキルも次のを取得すればソロでの活動も可能になるだろう。

 

それにしてもカエルの唐揚げ、日本にいたときも珍味みたいな感じではあったりしたが実際に食べてみると美味しいものだな。ちょっと硬いところがあるが自分が想像していたよりも美味なことには驚いたものだ。

 

「そこのプリーストよ、宗派を言いなさい!私はアクア。そう、アクシズ教団の崇めるご神体、女神アクアよ!汝、もし私の信者ならば……!……お金を貸していただけると助かります。」

 

そんな馬鹿気た声が近くの席から聞こえてきた。あのアクシズ教団と関わろうとする輩に貸す奴がいるのだろうか、というか神を名乗るのはやめておいた方が賢明じゃないだろうか。あと、アクアと聞くとあの駄女神を思い出して腹が立ってくる。

 

「…………エリス教徒なんですが。」

「あ、そうでしたか、すみません……」

 

断られているが、いったいどんな奴なのだろうか

 

 

…………は?

 

あの青髪に美しいと思わせる身体の女性は、あの駄女神にそっくりじゃないか。それに、その女性の後ろ、カウンターにいる男もジャージを着た日本人を思い出させるような顔だ。あいつも転生者なのだろうか?

 

……ならば接触するのもありだろう。あの男もなんらかの便利なものを貰っている可能性がある。

 

「…………そこの人、幾らぐらい欲しいのですか?」

「……え!あなた、アクシズ教団なのかしら!」

別にそんなことはないしあの碌でもない教団とは関わりたくない。

 

「違います。ただ、見たところ困っているのなら助けてあげた方が良いと思っただけです。お婆ちゃんにもそう言われましたし。」

「ほ、本当なのね……あ、ありがとうございます。えっと、それなら、登録手数料に2千エリス程頂けないでしょうか……?」

それくらいだったら平気だ。あとついでに飯が食べられるように4千エリス分渡す。飯代だけで情報が入手できるのなら安いものだしな。

 

「あ……ありがとうございます……ご飯代も出していただけて嬉しいです……。」

「……ん、そのかわりに後であの男の人もつれてきて一緒に食べましょうね。」

 

 

アクアはその後、男と共に冒険者についての説明を受け、ステータスを測っていた。男の方は高くないらしく冒険者を選んでいたが、アクアの方は騒ぎが起きるほどのステータスのようだ。……だが知力が低い、か、そこが何故か不安になってくるな。

 

無事に職業の選択が終わったようで、二人と食事を囲むことにした。予想通り、男の方は転生者だったようだ。それならば何らかのものを貰っているはずだ。

しかしステータスは強くなさそうだから肉体強化や魔法が使えるようになるものを選択した可能性は低い。もちろん変身することで強化することや俺のようにスキルを取るまでわからない奴かもしれない。候補には入れておく。

しかしそれも違うとなると何らかの道具を貰ったということになりそうだ。道具であるのなら服の中に隠せるものもあるし、ステータスに反映されないのも納得だ。

 

「あのー、なんで登録料だけでなく、ご飯代も貰えたんだ?それとこの馬鹿が色々と迷惑をかけてすまなかったな。」

「誰が馬鹿よ!私はアクア様なのよ、これくらいのことは当たり前じゃない!」

おっと、あんまりにも話さないからあっちから話しかけられた。あと、駄女神はうるさい。

 

「……お婆ちゃんから困っている人がいればできるだけ助けてあげるように、と言われたから、それを行っただけです。気にしないでください。」

「そ、そうか、それでもありがとうな。……えっと、名前はなんていうんだ?」

「……名前はユタカ、です。好きなように呼んでください。」

「おぉそうか、ありがとうなユタカ。俺は佐藤和真。こっちのはアクアだ。」

「……サトウカズマ…………あなた、ニホンジン、という人なのですか?あなたのような名前をした人は何か強い能力や装備を持っているとお爺さんから聞きましたが、どうなのでしょうか?」

 

もちろんそんなことは聞いたこともないし嘘だ。ただ鎌にかけただけだが、かなり踏み込んだ質問だ。大丈夫なのだろうか?

 

「…………あー、その、だな。ご飯をおごってくれた礼に教えておくが、俺の場合はそいつだ。」

 

そいつと言われてもそこにいるのはカズマの唐揚げを奪って食べているアクアしかいないのだが?

 

「だから、アクアが俺の強い装備……で良いのか?まぁ、そういうことなんだ。」

 

…………こいつ馬鹿なのだろうか?いや、あのステータスの高さからも優秀なところはあるんだろうが、あれを選ぶのはちょっと、なぁ……

 

「……た、頼れそうな人で良かったですね?」

「おう…………。」

 

死んだ目でそう答えていたカズマには少し同情した。

 




カエルに丸呑みされるのはセクハラになるのだろうか……?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第5話 ジャイアントトード討伐?

ちょっとキリが悪いですが、とりあえず書けたところまで投稿します。


現在、カズマとアクアは土木工事の作業員として働いているらしい。

本来は転生する際にある程度のお金は渡すみたいであるが、カズマの場合、アクアを選択した瞬間に異世界にとばされたため、そんな準備がなかったとのこと。

 

………………おい、それなら文無しで異世界に転生した俺はどうなんだ?そんなお金をもらうことはなかったぞ?もしかしてあの時のミスってお金の渡し忘れだったのだろうか、それとも、この肉体になったミスかの判別がつかない。

どちらにせよ、駄女神に対してはもっと扱いが悪くてもいいだろうが。ホント、商人一家に助けられなければ俺も冒険者登録の時に困っていただろうし。……今度、しっかりとマッサージでもしてあげたほうがいいだろうか。しかしそんなのはいいと断られそうなのもなぁ……。むぅ……。

 

 

――――――――――

 

 

カズマたちが来てから一週間がたった。今日から冒険者としてモンスター退治に乗り出すそうだ。ただ、一週間では装備も整えられなかったのか、カズマはショートソードだけで鎧などの防具はなし。アクアに至っては装備なしというもはや縛りプレイとしか思えない状況で挑むらしい。

 

…………本当にこいつら、モンスターを狩る気なのだろうか。その話を聞いて頭が痛くなる。むしろ食べられに行っているという方が説得力があるぞおい。

 

……………………はぁ、流石に元同郷の奴が死ぬのは目覚めが悪い。それにあの女神は性格とやることなすことに目を瞑ればステータスがとても優秀なアークプリーストだ。今回だけ、臨時で、ついてやって補助することにした。レベルも無事に上がり、また新しく取得したスキルの試し打ちにもちょうどいいしな。別に他意はない。

 

―――――――

 

「ああああああああ!助けてくれ!アクア、ユタカ、助けてくれえええええ!」

「プークスクス!ヤバい、超うけるんですけど!カズマったら、顔真っ赤で涙目で、超必死なんですけど!」

 

現在、草原にてジャイアントトードの駆除を行っているのだが、カズマは剣を振り慣れていないためか、自身が思っていたよりもダメージが与えられていなさそうだ。しかもジャイアントトードに追いかけられている。まぁ、初の戦闘の上、こういったのは日本では見たことがないだろう。仕方ない場面もあるが…………

一方のアクアはそれを笑っているだけでなんの行動も起こさない。笑っている暇があったら早く助けてあげろよ駄女神。お前も追いかけられるようにしてやろうか?というか、逃げているカズマの方が囮として役立っているぞ。

 

……はぁ、カズマも助けを求めているし、そろそろ助けてあげた方が良いな。本当ならカズマやアクアに倒させてレベル上げした方が良いんだろうけど。……新スキルに関してはぶっつけ本番だが、何とかなるだろう。

 

「カズマ、そのまま、まっすぐ逃げてください!スキルを発動させますので気を付けてください!」

「分かったから!できるだけ早くしてくれええ!」

 

新しく取得をしたスキルがどんな影響を及ぼすか分からないため、一旦『ポラリス』を打ち切っておく。

……狙いは大丈夫、イメージする象徴は重力というかブラックホール、そして、カズマには当たらないように、気を付けて…………!

 

「『コンプレスグラビティ』!」

 

その瞬間、ジャイアントトードの頭は一瞬縮んだように見え、そして勢いよく爆ぜた。爆ぜた断面からカエルの体液が零れだし、そこらじゅうの草を染めていった。もはやジャイアントトードと分からないような名状しがたい見た目と、スキルを使ったことによると思われる吐き気を覚える。

 

 

「「……………………」」

「……ちょっと強くし過ぎ、ました?」

「いやいやいや!強過ぎなんてレベルじゃねーよ!?」

 

『コンプレスグラビティ』。手っ取り早く説明するのならある一地点に強力な重力、というよりかは引力か、を発生させるスキルだ。やろうと思えば圧縮するみたいなことも可能だろう。

ただ、使ってみた感想としては、ものすっごくやりづらいというか引力を発生させるのに強くイメージしなければならないため、頭がとても疲れる。あと、過大な集中力が要求されるため、他のことを行い余裕がないことだな。『ポラリス』との併用は難しそうだ。ま、これに関しては慣れていくしかないだろう。

 

「…………カズマ、大丈夫でしたか?怪我とかは、ありませんか?」

「あ、ああ、俺は大丈夫だが……それよりもユタカの方が大丈夫か?顔色が悪いぞ?」

「…………平気です、初めて使った、スキルなので、まだ使い慣れていない、だけです。」

「そ、そうか?でも辛くなったら言ってくれよ?いざとなったら切り上げて帰ろう。」

 

カズマには口ではそう強がったが、割と本気で吐きそうでヤバい。使用する際には気を付けて使った方が良いな。……しかし、何か違和感を覚えるんだよな。何か忘れたことでもあっただろうか?

 

「全く二人とも情けないわね!ほら、もっと働かないとジャイアントトードの駆除なんて無理よ!」

「お前は早く働け!人のこと笑っている暇があるのならカエルの一匹くらい倒して来い!……あ、もしかして女神さまはカエルの一匹も倒せないような雑魚だったんだな、そりゃすまないことを言ったな。駄女神なんだからそんなことすら出来ないダメな奴だったな。」

「はぁ?さっきまでひたすら逃げていたヒキニートが何を言っているのかしら!?私のような存在ならカエルの十匹や百匹、簡単に倒せるわよ!そこでちゃんと見ていなさい!」

 

そう言い放つとアクアは全速力でジャイアントトードのところまで走って行った。あいつ、何の装備も無く行ったが何かスキルでも持っているのだろうか。

 

「たかがカエルが女神の攻撃に耐えられるわけがないわ!さぁ、神の怒りを思い知りなさい!『ゴッドブロー』ッ!」

 

おお、なんか強そうな名前のスキルだ。それにゴッドということは神専用のスキルなのだろうか?

 

……あれ、ジャイアントトードって打撃みたいな攻撃は効かなかったはずじゃないのか?

案の定、ゴッドブローは柔らかい腹に吸収され、攻撃は無意味に終わった。

 

 

……あ、アクア、丸吞みされてら。

 

「アクアー!?おま、お前、食われてんじゃねええええ!」

 

あ、カズマが剣持って行っちゃった……。カズマ、あいつ本当に苦労人だな。アクアの世話だけで手いっぱいになりそうじゃないか?今度、二人で酒を飲んだ時には愚痴くらい聞いてやろう。

 

 

……ん?そういえば俺の脚、なぜかぬるぬるするんだが気のせいだろうか?というか、何かいたいくらい締め付けられててててて!?な、なんで俺宙に浮いているんだというかカエルが目の前にいるんだあと口を開けているんだこいつは?!

 

「ゆ、ユタカー!?お前もかああああ!」

 

……あ、『コンプレスグラビティ』発動させるために『ポラリス』の使用を止めていたのを忘れていた。通りでいつもやっていた俯瞰視点での周囲警戒がないからなんか違和感があったんだ。そんなことを冷静に考えながら、俺は丸呑みされた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第6話 お疲れ様

本日は2話投稿しています。前話を読んでない方はそちらからお読みください。

※警告タグを増やしました。そちらが嫌な方はお読みにならない方が良いです。

若干訂正を行いました。


「うぅ……ぐずっ……あ、ありがど……カズマ、あ、ありがどうね……っ!うわああああああああああんっ…………!」

「……………………お爺ちゃん、お婆ちゃん、お兄ちゃん、私、汚されてしまいました……」

「あー……だ、大丈夫かアクア、あまり泣かずにしっかりしろ。あとユタカも人聞きの悪いことを口に出さないでくれ、死んだ目で言うと余計誤解されそうになる。……その、今日はもう帰ろうな、三日の間に五匹倒せばいいって依頼だし今日はいったん引いて装備を整えてからにしよう、な?」

 

まぁ、俺はまだ冗談を言える程度には平気ではあるがアクアの方はちょっとやばいだろうか?女神として挫折の経験がなかったためなのだろうか。

 

というかそんなことよりも生臭い体液がきつい。アクアを救出してからと後回しになった分、体液がローブの中にまで入ってきてベタベタするため不快感が酷い。というかローブが思いっきり肌にくっついて動きづらい。早く帰って風呂で洗い流したい。

あと、カズマからの目線がキツイ。俺を見るくらいならアクアを見ろ。あっちの方がグラマラスで露出が激しいんだぞ。俺のようなぺったんこで、ローブで体隠している奴なんぞ見たってつまらないんじゃないか?というか寒気がわくから見るな。

 

「ぐすっ……!女神が、たかがカエルにここまでの目に遭わされて、黙って引き下がれるものですか……っ!私はもう、汚されてしまったわ。今の汚れた私を信者が見たら、信仰心なんてダダ下がりよ!これでカエル相手に引き下がったなんて知られたら、美しくも麗しいアクア様の名が廃るってものだわ!」

 

アクシズ教団の奴らならむしろその姿もご褒美として微笑ましく眺めているんじゃないだろうか。あいつらなら少なくともその程度で信仰心は下がったりしないだろう。というかアイツ元気があるな。俺でも結構気落ちするものなんだがな、そこはさすが女神といったところだろうか。

 

 

 

……おい、あの駄女神、カズマの制止も聞かずにまた走り出していったぞ。いくら悔しいからってそんな感情的になるといつか本当に死ぬぞ。それか、まだカエルに通用する技でも残っているのだろうか?

 

「神の力、思い知れ!私の前に立ち塞がったこと、そして神に牙を剥いたこと!地獄で後悔しながら懺悔なさい!『ゴッドブロー』ッ!ゴッドブローとは、女神の悲しみと怒りを乗せた必殺の拳!相手は死ぬうううう!」

 

………………あいつは学習能力がないだろうか、そのまま柔らかい腹の肉に拳がめり込み、ゴッドブローの効果はなくなった。

 

「……カ、カエルって、よく見ると可愛いと思うの。」

 

あ、また飲み込まれた。俺のスキルだとアクアごとやってしまいそうだからカズマ、行って来い。

 

「アクアー!またかよおおおおおお!」

 

カズマ頑張れーアクアを救えるのはお前だけだぞー。

 

あ、それと、後ろのカエルよ。『ポラリス』は発動しているから二度目も同じ手には引っ掛からないぞ?

 

「『コンプレスグラビティ』!潰れて爆ぜろ!」

 

無事にジャイアントトード5匹の駆除が終了した。

 

――――――― 

 

その後、街に帰ってからは清算をカズマに任せて俺とアクアは真っ先に大衆浴場で汚れを落とした。その後、ギルドでカエルの唐揚げを食いつつ、今後のパーティーについての作戦会議となった。

俺はあくまで臨時で参加しただけなんだから早く宿に帰って休みたいんだが……

 

「あれね。三人じゃ無理だわ。仲間を募集しましょう!」

 

それ以前の問題だろうが。今回は運よく依頼達成できたが、装備すら碌に整っていないんだ。準備できるまで他の仕事をしていた方が良いと思うんだがな……。

というか俺もパーティーの一員として数えられているのかよ。

 

「……一つ訂正してください。三人じゃなくて、二人です。私は今回が初めての依頼と聞いて、臨時で着いてきただけですよ。」

 

流石にこのパーティーと組む気は一切ない。というか固定パーティーに入る気もない。転生者であることと元男である秘密は隠しておきたい。

おいアクアとカズマ、そんなショックそうな顔はやめろ。俺は事前に言ったはずだぞ。

 

「……こほん、だがな、仲間ったって、装備もロクにない俺たちと、パーティーを組んでくれるような親切な奴はそうそういると思うか?」

こっちをチラチラ見るな。鬱陶しい。あと、体液まみれになったときにみた気色悪い目線も忘れないぞ。

 

「ふぉのわたひがいるんだはらなかああんて」

「飲み込め。飲み込んでから喋れ。」

「……口に含んだままですと何を言っているか伝わりませんよ。あと、お口にご飯のカスがついているので動かないでください。」

 

もっと綺麗に食べろ。色々とほっぺについているから汚いぞ。何度もハンカチで拭きとってはいるが、その度に汚すから面倒だ。子供かお前は。

 

「この私がいるんだから、仲間なんて募集をかければすぐよ。なにせ、私の最上級職のアークプリーストよ?あらゆる回復魔法が使えるし、補助魔法に――――――」

 

な げ ぇ よ 。駄女神の冗長な演説紛いに貴重な時間を浪費するな。理解しやすいように短くに話せ。お前の自慢話なんぞ聞きたくない。喋ったときに食いカスを飛ばすな。拭いているこっちに飛んできて汚い。

 

「――――――分かったら、カエルの唐揚げもう一つよこしなさいよ!」

 

そう最後に締めくくってカズマの皿から唐揚げを持って行った。

………………はぁぁぁ、流石に今日一番働いたと言えるカズマが不憫だ。仕方ないから俺の皿から唐揚げをアクアにばれないようにこっそりとカズマに移しておく。

 

「………………ユタカ、本当にごめんな。」

「……気にしなくていいです。私は小食ですので無理して食べたり、食べずに捨てたりするよりかはカズマに渡した方が良いと思っただけです。」

「…………おお……女神は、本当にいたんだな……!ありがとうユタカ……!」

 

その台詞はそこで幸せそうに唐揚げを食べている奴に言ってあげろ。

 

――――――― 

 

ジャイアントトードとの死闘……なのだろうか?まぁ、その翌日。『ポラリス』を発動した際にひどく奇妙なものを見つけたため、朝早くからギルドに報告とどんなのか聞きに来た。

 

「……すみません、ギルドのお姉さん。聞きたいことがあってきたのですが、今は大丈夫でしょうか?」

「はい、現在は大丈夫ですが、どのようなご用件でしょうか?」

「それなのですが……えっと、私のスキルで遠くのものが見えるものがあるのですが、発動した際にひどく奇妙なものが見えたため、とりあえず報告に来たのですが……」

「はぁ……奇妙なものですか。いったいどんなものでしたか教えていただけないでしょうか?」

「それが……その……あそこの草原で、緑の玉の大群が、空を飛んでいて……その……キャベツ、ってわかりますか?そんな感じの玉が空を飛んでいたのですが……」

 

俺は困惑した顔を変えずに方向を指さしつつ答える。そう、まるでというか、もう見たまんまにキャベツが空を飛んでいたのだ。正直最初見たときは疲れているか夢でも見ているかと思い、宿屋に引き返したくらいだ。念のため見直してみたら、それが現実だったことに頭が痛くなる。

とはいえ、流石にこんなこと話しても冗談と思われるだろう。俺だってキャベツが空を飛んでいると聞いても馬鹿にしているのかとしか思えない。

 

「……ああ!もうキャベツの収穫の時期ですのでご安心ください。むしろ早期に情報を持ってきてくださりありがとうございます。」

 

……………………ん!?

待て、俺は今、聞き間違いと思う言葉が聞こえたぞ。この人は何を言ったんだ?キャベツの収穫の時期?

…………キャ、キャベツって空飛ぶものだったのか?

 

「あら、キャベツのことをご存じないのでしょうか?それなら少々説明いたしましょうか?」

「是非ともお願いします。知っておいた方が対処の際に楽です。」

 

この世界のキャベツは空を飛ぶらしい。やっぱりあれは俺の見間違えではなくて良かった。理由は判明してないが、味が濃縮してきて収穫の時期が近づくと飛び立つらしい。その後、町や草原を疾走し、大陸や海を越え、最後には人知れぬところ秘境の奥で誰にも食べられず、ひっそりと息を引き取ると言われているらしい。で、どうせ誰にも食べられないのなら美味しく食べてあげましょう、とのことらしい。

 

…………………ふ、ふふ、ふふふふ、ふざけるなああああああああ!そんな、馬鹿な、話が、合って、たまるかああああああ!…………はぁ……はぁ……

というか、キャベツは美味で経験値が豊富なため食べようなんぞ、もう訳が分からなくなってきた。高く売れるらしいが、捕獲の際に反撃されることもあるため注意って、完全に生物じゃねぇか。もう聞いていて頭痛が酷くなってきた。しばらく宿屋で休もうそうしよう。商人一家に癒されたい……帰る……

 

「あのー……。その、ギルドからの依頼として、そのキャベツの品質やキャベツの数、移動方向と速さなどを把握しておきたいのですが、その…色々な調査の方をしばらくお願いしたいのですが、よろしいでしょうか?」

「…………ちょっと宿に帰って休養を取りたいのですが――」

「報酬金として50万エリス差し上げますので……お願いしてもよろしいでしょうか?」

「わかりました、何でも言ってください!しっかりと調べてきますのでお任せください!」

 

 

拝啓、お父様お母様。異世界でもお金の力は逆らい難いくらい強かったです。

 




そろそろスティールによるパンツ回なのでしっかりと考えていきたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第7話 ほうこく

キャベツの調査をしたかった理由がなぜギルドが今年のキャベツの出来が良かったことを把握していたことで妄想したものです。

あと、せっかくのパンツ回なのにあまりセクハラできなくて申し訳ありませんでした。


とりあえずは外に出て『ポラリス』を発動する。

人の少ない路地裏をしばらく歩き、周囲に人がいないことを目視と『ポラリス』による俯瞰視点で確認する。…………うん、人はいなさそうだ。これなら今だけ口調を崩しても大丈夫だろう。だが大声を出したら人が寄ってくる可能性もあるため注意して、

 

「………………はぁぁぁ、キャベツの調査って何すりゃいいんだよ……!!」

 

なぜ異世界に来てまでキャベツのことを調べなければいけないのだろうか。風邪を治す薬効がある木の根とか、力や魔力が一時的に上昇する薬草とか、そんな浪漫を感じるものやファンタジー色バッチリのものならばやる気は出るものの、よりによって調べるのが元の世界であったキャベツだ。

 

「………………やる気出ねぇよな」

 

何が悲しくてキャベツを調べなければいけないんだ。そんなもの元の世界の主婦のお姉さんに聞けば品質の良し悪しが分かるのだろう。それだったらそこら辺の女性を捕まえればわかるのだろうか……。

 

「…………50万エリスと聞いて受けたが、ここまでテンションが上がらない依頼は初めてだな。」

 

とにかく、今はギルドにキャベツの現在地に進行方向、後はざっと見たときの数くらいは報告しておいた方が良いだろう。品質の良し悪しは報告を行ってからギルドのお姉さんや他の冒険者に聞けばわかるはずだ。…………きっと。とにかく、今はキャベツの大群がどこにいるかを探さなきゃ。

 

とりあえずもう十分嘆いたし、報酬金の分ぐらいは頑張らないと……中途半端に手を抜いて減額だけは免れたいからな。

 

 

―――――――― 

 

たぶん よくじつ

 

たいようは2かい、おつきさまは1かい、みたからたぶんよくじつ。

きゃべつさん、あとすこしでまちのちかく、くるからじゅんびしたほうがいいよ?

ほかのひとよんできて、きゃべつさんほかくする?

 

「……え、えっと、そうですね。それでしたら今から冒険者の方をギルドに来させるように呼びかけますので、あと少しキャベツの動向と監視、頑張れますか?」

 

だいじょうぶ、あとすこしくらいならへいきそう。

まりょく、ちょっとあぶないけど、それよりもあたま、いたい、きもちわるい。

 

「き、緊急クエスト!緊急クエスト!町の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!繰り返します!町の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!」

 

きゃべつさん、まだそうげんにいる。

すぴーども、まだだいじょうぶそう。

でも、まちにきゃべつさん、いるのもいるからきをつけて。

 

 

……? ぎるどにひと、いっぱいきた。

みんな、いっぱい、すごいひとたち。

 

ぎるどのおねえさん、ぎるどのなかにはいって、みんなのところにいったのかな?

 

「皆さん、突然のお呼び出しすみません!もうすでに気づいている方もいると思いますが、キャベツです!今年もキャベツの収穫時期がやって参りました!今年のキャベツは調査員の報告によると出来が良く、一玉の収穫につき一万エリスです!すでに町中の住民は家に避難して頂いております。では皆さん、出来るだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに納めてください!くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしないようお願い致します!なお、人数が人数、額が額なので、報酬の支払いは後日まとめてとなります!こちら、調査員によってキャベツの出現位置をまとめた紙ですので一度ご確認のうえ、キャベツの捕獲を頑張ってください!」

 

……これで、わたしのやくめしゅうりょうです?

 

「はい、大変お疲れ様でした。報酬金は後日お払い致しますので今日はしっかりとお休みくださいませ!大変無理を言い、休憩も無しに働かせてしまい申し訳ありませんでした!」

 

えへへ、それならがんばったかい、あったよ!

ごほーび、ちょうだい?

 

「ごほーび、でしょうか?今回は一日中調査を行ってくださったので、報酬金に上乗せする形にしようかと思っていたのですが……」

 

そんなことより、あたま、なでなでしてほしい。

なでなで、きもちいいからすき。

 

「な、なでなで、でしょうか?それくらいでしたら別に構いませんが……」

 

ん…………きもちいい。

えへへ、あたま、なでられるの、すき!

 

「そ、そうですか。ですが、そろそろ休むのはどうでしょうか?目の隈もすごいことになっていますし、身体もちょっとふらついていますし……」

 

む―……それなら、きょうはかえる。

でも、またきかいがあったら、なでてね?

それじゃ、ばいばいー!

 

「ええ、それではさようなら。ユタカさん、本当にお疲れ様でした。………………ユタカちゃんってあんな笑顔もするのね、可愛らしかったわ。」

 

――――――――― 

 

……知らない天井、ではないな。この世界に来てから幾度と見た天井だ。窓の方を見ればもう日が暮れている。キャベツ狩りを終えたと思われる冒険者たちが談笑しながら歩いているのが目に入る。

 

…………なんだあれ。自分でドン引きする声出して、なんで撫でるように要求したのだろうか。というかまさか寝ずにキャベツの監視をする羽目になるとは思わなかったぞ。

 

あのあと、無事に宿に着き、ベッドに倒れこんだ瞬間に眠ったのだろう。あの酷い頭痛と精神年齢の退行はおおよそ『ポラリス』の連続使用によるものなのだろうか?

以前から他のパーティーとの臨時でのモンスター討伐でも連続使用はしていたが、丸一日の連続使用はやっていなかったことから今回、初めて分かったのだろう。流石にあんな目は嫌だが、もしかしたらあの状態になってしまうこともまたあるかもしれない。今回はそのことを知れただけでも十分だ。それともこの肉体が徹夜とかが無理な体質なのだろうか。今度暇なときに試してみた方が良いな。

 

「…………うわ、ひっでぇ隈だな。一日でこうなるものなんか?つーか、髪の毛もぼさぼさだな、まぁ、風呂すらも入ってなかったし仕方ないが……」

 

とりあえず自分の臭いも気になるし、大衆浴場で体を洗おう。飯はその後でいいだろう。空腹程度はこの体は多少平気のようだし。

 

でも飯食うとしたらギルドだよな、他の所は知らないし、今日は挑戦する気力もわかないし……あの口調や精神状態をギルドのお姉さんたちに見られているから正直行きたくない。この歳にもなってあれはさすがに恥ずかしい。しかし、今行かないとギルドの関係者に言ってしまうかもしれない。できるだけ他の人に話したりしないように言っておかないと。これ以上広まるのだけは勘弁だ。

 

――――――― 

 

もう遅かった。ギルドに着いた時にはすでにギルド関係者と思われる人間にはクスクス笑われた。しまいには、また撫でてあげましょうか?とかやめろ。そんな年でもないし羞恥プレイは結構だ。あと、今やりたいのはキャベツ狩りがどんな感じだったかの結果であって撫でられることじゃない。

 

おいやめろ、なんでこっちに近づいてくる。あと手の動きも妖しいぞ。待て、本気でやめろ、恥ずかしいから、やめて!

 

 

 

 

 

 

な、何とか逃げ切れた。なんであんなにチームワーク良く追い詰めていくのだろうか、そんなことはもっと仕事なり他のことに使え。……はぁ、キャベツ狩りがどうなったかはもう明日でいいだろう。そんな気力は尽きた。もう早く飯だけ食べたら帰ってゆっくり休みたい。お金も50万エリス貰えるのなら、明日も休みでいいだろう。

 

…………ん?あれはアクアにカズマか。しかし見慣れない人がいるな。前言っていた募集したパーティーのメンバーだろうか。一応、声は掛けておいた方が良いな。

 

「…………カズマ、こんばんは。キャベツ狩り、お疲れ様です。」

「……ん?ああ、ユタカか、ありがとうな。そっちはご飯か?」

 

知らない相手に下手に喋ってぼろを出すわけにはいかないし、カズマの言葉に無言でうなずく。

 

「おや?カズマ、その子は誰なのでしょうか?」

「ああ、この子はユタカ、占星術師(ゾディアック)という珍しい職業の子だ。」

 

杖もちでとんがり帽子……魔法職と思われる女の子とカズマの声につられる様に一礼をする。名前に職業と必要なことは言われたんだ。これ以上特に言うこともないから黙っておく。

 

「ユタカか、私はダクネス。職業はクルセイダーだが攻撃に関しては不器用過ぎて当たらなくてな。その代わりと言っては何だが壁役として活躍したいと思っている。いや、むしろ壁役が良いというか……」

 

……ちょっとユニークなお姉さんだこと。でもタンク役としては十分だろう。攻撃が出来ないのならその分他のことも兼ねてやらせればいいし。傷ついても回復役のアークプリーストのアクアがいるからなおさら大丈夫だろう。というか俺がほしい。攻撃と周囲警戒は俺がやるから盾役として頑張ってほしいかったが、カズマたちのパーティーに入ったのなら仕方ない。

 

「ふっ……ではあなたにもこの名を聞かせてあげましょう。我が名はめぐみん!アークウィザードを生業とし、最強の攻撃魔法、爆裂魔法を操る者……!我が必殺の魔法は山をも崩し、岩をも砕いてみせましょう!」

 

…………え、これ、俺も名乗り返してあげるのが礼儀なのだろうか?流石にそんな名乗り方は全く考えてないけど、即興でもやっておいた方が良いのだろうか。

 

「…………めぐみん、ユタカが困っているからちゃんとした名乗り方にしておきなさい。」

「うるさいですよカズマ!これは我が一族、紅魔族の由緒正しい名乗り方なんですからこれ以外の名乗りなんてありえませんよ。」

 

あ、俺はしなくていいんだな。それならよかった。

 

「……愉快なパーティーメンバーで、良かったですね。」

「俺としては今すぐ常識的なメンバーが入ってほしいくらいなんだがな……!……ま、いいや、ユタカも一緒にご飯食べるか?」

 

カズマの声にもう一度うなずく。

 

――――――― 

 

カズマたちのキャベツ狩りは聞いたところ、かなり良い結果だったらしい。ダクネスはキャベツを盾役として周りの冒険者の分まで受け止め、めぐみんの『エクスプロージョン』でダクネスごとキャベツを捕獲。カズマはクリスという人から教えてもらった『潜伏』で隠れつつ『敵感知』キャベツの動きを捕捉し、『窃盗(スティール)』でキャベツを捕獲していたという。

アクア?一人好き勝手にキャベツを追いかけ回し、全く活躍していないそうだ。

 

「それにしても意外ですね。鬼畜変態のカズマにこんなまともそうな知り合いがいたなんて。」

「おい、誰が鬼畜変態だ、爆裂変態娘。それとあのことをユタカの前でそんなこと言うな。」

「……カズマが鬼畜変態、ですか?いったい何があったのでしょうか?」

「おい、めぐみん、ユタカに変なこと言うんじゃない!」

「はぁ?あれも全部、カズマがやったことじゃないですか!」

 

カズマとめぐみんが言い争うし始めたのでダクネスにそうなった経緯を聞くことにした。

そもそもの発端がアクアとめぐみんを生臭い体液濡れにする特殊なプレイを行ったことかららしい。その翌日、クリスに窃盗(スティール)を教えてもらった際の勝負で彼女のパンツを剥き、パンツと交換するために有り金を根こそぎ持って行ったらしい。その後もめぐみんをパンツを剥いていったらしい。

 

…………パンツ剥きすぎだろ。というか窃盗(スティール)ってあれ幸運依存のスキルの上、取得できるものはランダムじゃないのか?流石に2連続でパンツを取るとはある意味凄いではあるが、聞くだけでは基本的に全部偶発的なことだろう。

生臭い体液濡れはカエルに丸呑みされたんだろうし、二回ともパンツを剥いたのは偶然だろう。あと、有り金全部なのもクリスが先にカズマの財布を盗んだんだ。自分からやっておいてそれで落ち込むのも違うんじゃないか、とは思う。

 

とはいえ、それで元同郷の奴が鬼畜変態呼ばわりなのもなぁ……なんか気に食わないし、一回カズマに試させてみよう。

 

「…………カズマ、私に一回窃盗(スティール)してみてください。私はカズマが鬼畜変態とは信じていませんし、これで下着以外を盗めば汚名返上できますよ。」

「え゛、あ、あなた正気ですか!?この鬼畜変態に窃盗(スティール)をやらせるとか正気ですか!もしかしたらまた下着剥ぎ取られてしまいますよ。いえ、むしろ嬉々として剥ぎ取りに行きますよ!」

「おいめぐみん、俺に不満があるのなら今すぐこのパーティーを抜けてもらって構わないぞ。」

「…………別にそれくらいなら我慢しますので大丈夫です。それに、カズマが好き好んで女性の下着を剥ぎ取るような輩だとは思っていませんし大丈夫でしょう。」

「……本当、ユタカのようなやつが居てくれて助かるよ。ただ、その信頼が重い……」

 

身体こそ女の子ではあるが、精神は立派な男だ。別に下着を剥かれても怒るというほどではないしな……

 

「…………それじゃ、どうぞ。」

「分かった、それじゃ行くぜ。『スティール』ッ!」

 

カズマが俺に右手を向けてスキルを発動した。

さて、結果は…………

 

うん、まぁ、知ってた。カズマの右手に収まっていたのは綺麗な水色で、レースが多く掛かっており、全体的に細いシルエットをした布だった。というか俺のパンツだった。出かける時に着替えてはいるからそこまで汚くはないが、そう大っぴらに見せびらかせないでほしい。

 

「………………………………カズマのエッチ」

「ま、待ってくれ!これは誤解だ!」

 

あ、やばい。思っていたよりも羞恥心とか悔しさとかが色々混ざって涙が出そう。というか顔から蒸気を拭きそうなほど熱くなっていっているのもわかる。

…………と、とりあえず、今は帽子で顔を隠しておこう。

 

「誤解も何も、信頼してくれた女の子の下着を思いっきり握りしめていたら説得力もなにもないわよ?」

「流石カズマですね。信頼を思いっきり裏切るとは大したものです。そんな真似、私はまったくできないですよ。」

「はぁ……っ!はぁ……っ!こんな簡単に下着を剥ぎ取るとは……!やはり、私の目には狂いがなかった……!流石カズマだ……!」

「お、お、お前らあああああああ!」

 

にしてもここまで窃盗(スティール)でパンツを剥ぎ取るということは……このスキルには使用者が願ったものほど手に入りやすくなるのだろうか?一応いざという時に価値こそ低いが貴金属類に魔道具を服や靴に仕込んでいる。しかもクリスやめぐみんの時も布よりも貴重価値のあるものがあったにも関わらずにこうして下着を剥きとるということは……うん、まぁ、カズマも男の子なんだろう。そんな可能性があることも否めないだろう。

 

それとカズマ、ギルドのみんなからの冷たいどころか氷を思わせる目線には気づいた方が良いぞ。俺が抑えているうちになんか反応しておけ。

 

 

―――――― 

 

「………………本気で、疲れた。」

 

おかしい、ギルドからの仕事が終わったらベッドにぶっ倒れてちゃんと大衆浴場で体を休ませ、飯もしっかりと食べたはずなのにどうしてここまで疲れているのだろうか。

まぁ、原因は分かっているから何とも言えないが。

 

とりあえず今はしっかりと休もう。報酬金はキャベツ狩りの報酬の時と一緒に渡すそうだから今はあんまりないが、明日くらいは休んでもいいだろう。ここまで疲労が多いと明日は昼近くまで眠っているかもしれない。

 

…………ところで、なぜかまた何か忘れている気がする。カエルの時といい忘れごとが多い。今度から何かあったときには、メモを取るようにしておいた方が良いだろうか。

 

……うん、思い出せない。とりあえずもう寝よう。流石にこのまま寝るのもあれだし、お婆ちゃんにも言われて買ってきた寝間着を着て寝よう。

 

……………………あ。

 

「……カズマから、パンツ返してもらってない。」

 

 

 

 

 

翌日、見かけたカズマにパンツのことを言おうとしたが、なんかキラキラ輝いていたため、何も言わないでおいた。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第8話 ウィズ

明日は更新できなさそうですので今のうちにまとめたものを投稿させていただきます。


キャベツ狩りの翌日、今日は休みだ。

 

ギルドにまた行っても、もみくちゃにされる可能性もあるし、カズマにまた会うのも気まずい。いや、気まずいのは俺だけなんだろうが。カズマが俺のパンツでオ、オナ……そんなことをしたかもしれない奴と会うのもなぁ。……こほん、しかしカズマがそんなことをしたということの確証はない。むしろそういった専門の施設ですっきりした可能性の方が大きいだろう。

うん、だから、何で俺はこう考えただけで顔が赤くなっているのだろうか。俺はそっちのケはないはずだし、むしろ嫌悪感が出てくるはずなのだが、もしカズマが俺のパンツで……と考えるとなぜか羞恥の感情の方が出てくる。昨日で終わりだと思っていた顔への熱が段々と高まってきている。いや、俺は別に自分の下着くらいをどう使われようと何も困らん、いや困りはするがそこまで気にしはしない筈だ。なぜここまで考えて…………

 

…………~~~っっ!ええい!なぜ俺が男の、それも下の事情で一喜一憂せねばならんのだ!そもそも俺はノーマルだ、女の子の方が好きだ!精神が大分毒されてきているかもしれないが、俺は男だ!もうこの思考は一旦止めだ!下手に考えても意味がない!

というか街中でそんなことを考えている俺もまごうことなき変態なのだろう。周りからの目も怪しくなってきているし、さっさと目的地まで行こう。

 

 

―――――――― 

 

 

そんなこんななことを考えつつ、やっと目的地に着いた。そこは小さな、マジックアイテムを扱っている魔道具店。ゆっくりとドアを開けると、ドアについている小さな鐘が涼しげな音で俺を出迎えてくれた。

 

「いらっしゃいませ……あ、ユタカさんこんにちは!」

 

その音につられて店主がこちらに声をかけてきた。名前は確か……

 

「…………ウィルさん、こんにちは。」

「ウィズですよ、ユタカさん。」

 

ああそうだ、苦笑しながら名前を訂正する女性は、たしかウィズだったなそうだったな……なんか思いっきり偽名臭い名前だな、おい。ウィザードから取ったのか、ワイズマンからの由来だろうか、まぁ、どちらにせよ本人がその名前で名乗っているのなら特に突っ込んでおかないでおこう。俺もあんまり人のこと言える立場じゃないしな。

 

「…………何か面白そうなものがないか今日も冷やかしに来ただけです。特に客って訳でもないので歓迎は不要ですよ。」

「そんなこと言いつつ時々しっかり買っていってくださるじゃないですか。」

 

くすくす笑うな。気にいったものを買うのがおかしいか。

 

この店、ウィズが経営している魔道具店は基本ガラクタ、もしくはそれ以上の産廃がメインの商品だ。基本的にだれも買わないようなものばかりを店に置いている。のだが……極低確率で、お宝と思うレベルで良い効果を発揮する魔道具もあったりする。もしくは俺には意味があるが他の奴にとってはあんまり意味がない物だったりするのが見つかったりするのだ。

 

まぁ、その効果に見合った値段なことは基本ないのがなぁ……。もっと安ければ使いようがあるものの、ウィズが取り扱っている魔道具は基本高価だ。下手に消耗品として使っていこうならば借金で家が建つほどに高い。

さて、新しく入荷した商品を眺めるのもあれだし、俺の探している本命を聞かないと……

 

「…………ウィズ、やっぱりなさそうですか?」

「探してはいるのですが……申し訳ありませんが、今回も見つかりませんでしたね。」

「………ん、ウィズはその分探してくれていますから、ありがとうございます。それに無理を言っているのは私の方ですしね、やっぱり私の方でも探してみますね。」

 

探しているものは俺の武器になりそうなものだ。そもそも占星術師(ゾディアック)は初めて発見された職業だ。そのため、どんな武器を使えば強化されるのかが全く分からないのだ。魔法職だから杖を持てばいいかというと、むしろ杖を持って方向を指定する分、集中や一動作が遅れる。狙いを付けるという意味ではいいが、非力な俺は大きな杖を持つと疲労がたまりやすい。そんなことならそこら辺の木の枝で十分だ。次に星のことについて書かれた本は持っても威力が変わったような実感はなかった。あ、本を読んだら取得可能なスキルは増えたがな。

 

それで俺が今探している候補が水晶玉と望遠鏡だ。望遠鏡は星を見るという観点から思いついた発想だが、正直こっちは使える気がしない。望遠鏡からビームやら隕石を打つわけでも無いしな。それに高価の為、安定した収入が稼ぎづらい冒険者稼業では微妙だろう。で、現在の本命が水晶玉だ。水晶玉に星空を投影すれば屋内で使えないスキルも使える可能性が出てくると考えたからだ。……まぁ、そう上手くいく気もないが試してみないことにはわからないだろう。

 

それでウィズに探してもらっているがなかなか良いものは見つからないらしい。まぁ、頼んでいるのはこっちだしまだ強敵と言える相手はいないからゆっくりと待とう。いざとなったら自分で星を模ったアクセサリーでも作ってそれでスキルの威力上昇や精度上昇を狙ってもいいかもしれない。

 

スキルで思い出したが、今習得が可能なスキルには当たり前といえるが星や惑星に関するものが大多数だ。しかし名前だけではどんなスキルか分からないし発動条件もよくわからない。そもそも俺は天体学のことについては全くの初心者だ。名前すらも碌に当てにならないレベルだ。今あるポイントと相談しつつ取得していかなければいけない、な。

 

それと大多数と考えた理由が、昨日新しく習得可能になっていたスキルのせいだ。その名前が盲目白痴の王(Azathoth)だ。…………キャベツといい、なんで異世界で元の世界であった言葉を聞かねばならないのだろう。というかよりにもよってこいつなんだろうか。まだそこらの中学生の中二病の妄想や詠唱の方が現実的だ。むしろこっちではその中二病な一族だってあるし率先して受け入れられそうだ。そしてその詠唱に見合った威力を出しそうだ。でもめぐみん、一発屋はちょっと使いづらいと思うぞ。

 

話が脱線した。とにかくこのスキルを習得する気はない。幸いと言っては何だが、このスキルが必要としているポイントは異常なまでに高く、この一生では取得されないとでも考えた量だ。そりゃ、一応神ではあるしな、人間からそんなものになるわけがない。そもそも俺はクトゥルフ神話のことなんざ詳しくないからどのくらい危ないか知らないし、文字を見るだけで自分にかかる制限も大きそうだしな。それよりかはもっと他のを選んだ方が良いだろう。

 

…………とりあえず、ウィズの店に来た用事は終わった。休みだし、暇つぶしにウィズと談笑してから帰ろう。

 

 

―――――――― 

 

 

それから数日、俺はいつも通り臨時メンバーとしてモンスター発見レーダーをしていたり、ついでにジャイアントトードを爆ぜ潰したり、商人一家と談笑したり、ウィズと目当てのものを探していたりしていた。

そして今日、やっとキャベツ狩りの報酬が支払われた。俺も調査の報酬金として50万エリスが支払われた。…………でも、このお金は商人一家に渡すつもりだ。もうずっと宿に泊めてもらっているんだ、いつまでも何かしなきゃ、なんて口だけのお礼で済ませるほど俺は子供ではない。とはいえ一家に恩を返す方法はまだ思いつかないため、今回のお金はあくまで宿代を返す程度の気持ちでいる。それまで親切にしてくれた分のはまた別の機会で返しておこう。

 

「なんですってえええええ!?ちょっとあんたどういうことよっ!」

 

…………またアクアか。もうギルドの連中もアクアがこうして叫んでいることに慣れてきたのか、無視している。どうせ買ったものが碌でもない物だったのか、借金でもしてどやされているのだろうか。

 

どうやら聞いていると若干違ったようだ。キャベツ狩りの報酬金があまりにも少なくて受付にクレームを入れたが、捕獲したのが安い方のレタスばっかりだったそうだ。何とも運のない話だ。そしてキャベツ狩りの報酬金がどうせ入ってくるからと酒場に大量のツケをしまくったらしい。

 

…………絡まれないように声は聞こえる程度に離れておこう。絡まれたらお金を根こそぎ持って行きそうだし。というかパーティーで組んでいるなら山分けにしているかと思ったら、今回は各個人で手に入れた報酬をそのままっと言っていたらしい。大方、めぐみんやダクネスがあまり獲れなかったのを見て思いついたのだろう。

 

というかカズマ、百万ちょいってどんだけ捕まえたんだこと。スゲーなアイツ。あ、アクアがカズマに泣きついた。まぁ、馬小屋暮らしもそろそろきつくなってくるだろう。賃貸か宿に乗り換えるつもりなのだろうか。

 

「そんなあああああ!カズマ、お願いよ、お金貸して!ツケ払う分だけでいいからぁ!そりゃカズマも男の子だし、馬小屋でたまに夜中ゴソゴソしているの知っているから、早くプライベートな空間が欲しいのはわかるけど!五万!五万でいいの!お願いよおおおお!ユタカに返さなかったパンツ――――」

「よし分かった、五万でも十万でもお安いもんだ!分かったから黙ろうか!!」

 

 

 

………………………………はっ、お、おれはなにもきかなかったぞカズマ!

 

「あのーユタカ、顔が赤いですが大丈夫でしょうか?」

「…………だ、大丈夫れすので、気にしないでくだしゃい!」

「噛んでいますよ?」

「…………聞かなかったことにしてください。」




アクアと一緒に檻に突っ込むべきか、他のことをやらせるか迷うなぁ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第9話 恩

本日は2話投稿しました。前話を読んでない方はそちらを先にお読みください。

ですがこの話はオリ主人公の設定埋めのような話ですので読まなくとも特に支障はありません。
お好きなようにしてください。


「な、なんでよおおおおおっ!?」

 

…………またアクアが叫んでいる。今日はよく叫んでいるな、いったい何があったのだろうか。依頼掲示板でアクアお断りとでも書かれていたのだろうか?流石にそんなことはないはずだが、お金関係もさっきので終わっているはずだし、今回は見当がつかない。

 

カズマにばれないようにこっそりめぐみん辺りに聞いてみるか。

 

「…………めぐみん、いったい何があったのでしょうか?」

「ああ、ユタカですか。最近魔王の幹部らしき人がここら辺に来たのですが、その影響でしょうか、近くに住み着いている弱いモンスターが隠れてしまって仕事が激減しているんですよ。で、今残っているのが高難易度の依頼だけなんですよ。」

「…………なるほどです。アクアが叫んでいるのはそのためですか。」

「まぁ、来月には国の首都から幹部討伐のための騎士団が派遣されるので、それまでの辛抱ですね。」

「…………ん、めぐみん、教えてくれてありがとうございます。」

「いえいえ、どういたしまして。」

 

あの借金で有り金全部なくなったアクアらしい。で、依頼で何とか稼ごうとしたものの魔王の幹部によって、自分たちでできそうな、というよりも稼げそうな依頼が出来なくなった、と。

 

…………うん、今回ばかりはアクアの運のなさには……同情できねぇわ。貯金なり節約なりしておけばいいものを調子に乗って遊び倒していたからこんな目に遭うんだろう。俺個人としては自業自得としか思えない。

 

とはいえ俺も他人ごとではない。繁殖期で元気が良いジャイアントトードでもいればいいのだが、この調子だと他の奴もたぶん、カエル目当てに狩りに行きそうだしな。俺も何か仕事を探しておかないとな……。

 

 

――――――――  

 

 

仕事か……ここ、異世界でも仕事は探せばある。だが、その仕事が俺の適正に合っているのかが問題だった。

 

例えば、カズマとアクアがやっていた土木工事の作業員。カズマの話を聞くだけではきついところもあったが働いている人たちも優しく、楽しそうなところなのだろう。しかし女の子の体の俺では体力が持たずにすぐ潰れてしまうだろう。

ではギルドのウェイトレス。あれは俺にもできそうだが、ギルド関係者には幼児化のことが知られていることから却下。どんな羞恥プレイだ。

……そこらの店番。力が無いため強盗相手には戦えないし、『コンプレスグラビティ』を街中では使いづらい。また、敏捷こそ多少あるものの、やはり体力不足で泥棒とかを捕まえられない。それにこの体だと大きな掛け声も出しづらいため却下。

 

…………俺、良くここまで生き延びられてきたな。本当、商人一家に助けられてばかりだ。

で、やっと俺にもできる仕事が見つかった。それは自分が思いもしない形ではあったがな。

 

 

 

 

「……いらっしゃいませ、お客さま。こちら、何日ほど泊まっていきますか?」

 

そう、俺が今拠点にしている宿屋で従業員として働くことだった。こんなことで、いつものローブ姿ではなく可愛らしいフリフリの服を着るとは思わなかった。

 

 

 

事の発端は俺が商人一家に50万エリスを渡したことだった。せめて宿代に、と思って渡したのだが、三人共に苦笑されて、自分のために使いなさいと返されてしまった。それでもこれまでのお礼としてもらってほしかった俺は無理やり押し付けようとした。のだが、その時に色々と話してもらった。

 

それは、俺が住んでいた宿屋自体が商人一家が営んでいる宿だったということだ。というのも、元は行商人として働いていた一家であったが、老夫婦の体の衰えや、目標であり憧れであった街での生活のためにこの宿屋を買い、商いを行うためであったそうだ。

 

その割には客とかいなかったのだが、その理由もこの宿屋を買いはしたが開店するための手続きや、家具の購入などの準備が必要だったからだそうだ。それと、その資金を稼ぐために積み荷を売り払うための時間も必要であったため、まだ開店していなかったためらしい。そのため、実質購入済みだとはいえ、俺を泊めたときはあくまで借りていたという状態だった。

………………それじゃ、なんで俺を泊めたんだ。お金は払ったから大丈夫、なんて嘘までついて。

 

 

 

…………おい、困った人を助けるのは当たり前、って随分良い人過ぎやしないか?お人よしにも程があるぞ。いや、いつも言っているのは聞いていたが、まさか本当にそうだとは思わなかったぞ。あと、女の子がいると華やかだからって、それでいいのか。お爺ちゃんとお兄ちゃん、お婆ちゃんが凄い笑顔になっているぞ。思いっきり拳、構えているのだが止めなくていいのだろうか。

 

 

まぁ、そんなことがありつつ仕事の話に戻るのだが、そろそろ開店するということなので俺はその手伝いとして宿屋で働くことにした。で、50万エリスは受け取ってくれなかったし、恩の分もあるから無料でやるつもりだった。

流石にそれは断られた。まぁ、ここまでは想定内だ。タダ働きさせたなんて店の風評にも悪いだろうし。かと言ってここで引き下がると、また無駄な世話を掛けちまう。その代わりに他の従業員よりも恩の分も込めて安くしてくれた。安くした分は俺が泊まっている宿屋代の分だと言いくるめたかいがあった。

 

まぁ、そんなこんなで俺は宿屋で他の人と一緒に従業員として働いている。今は魔王幹部が討伐されるまでは碌な依頼が無いため、お金がないのだろう。冒険者もあまり泊まりに来てないから暇だ。ま、来月には忙しくなるだろうしそれまでは練習として思っておこう。

 

 

…………それと余談だが、商人一家と話し終わった後、部屋では思いっきり泣いた。あんな優しい人たち、もう二度とお目にかかれない筈だ。別れの時はいつか来るかもしれない。それまでに今まで受けた恩を返すだけでなく、むしろ俺が恩を売る形まで持って行きたい。それが、俺にできる礼のはずだ。……しっかりと頑張ろう。あの人たちがありがとう、って言うまで頑張ろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

ところでカズマ、最近めぐみんを背負って帰ってきているが何があったのだろうか。

 

 

 




あと前話でなぜアザトースの名前を出したかというと、とある擬人化アザトースが可愛すぎて愛が溢れてしまっただけです。ニャル様と迷いましたがアザちゃんが可愛くて出してしまいました。誤解を招くような表現をしてしまい申し訳ありませんでした。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第10話 デュラハン襲来……?

たくさんの感想、誤字訂正、評価などなど、色々とありがとうございます!
まだ拙い出来ではありますが、皆様が楽しめるように書いていきたいと思っています!

……でも今回の主人公はただのモブ役です。ただのツッコミ役だけですので期待をはずしているようで申し訳ありません。
また、作者が多忙のためあまり量を書くことが出来ず、申し訳ありませんでした。


働き続けて一週間ほどたった朝。

 

「緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってくださいっっ!」

 

……何か異常事態が発生したようだ。商人一家に今日の手伝いは無理だということを言っておいてから正門に向かった。正門にはすでに多くの冒険者がいる中、凄まじい威圧感を放つ存在に身が竦む。事前に『ポラリス』で視認はしていたが、それでも実際に見たのとでは恐怖が違ってくる。

 

デュラハン

 

それは人に死の宣告を行い、絶望を与える首無し騎士。

元の世界では精霊とかそんな存在であったが、この世界ではアンデットであり、生前を凌駕する肉体と特殊能力を手に入れたモンスターのはずだ。なぜそんな強い存在が、このアクセルの街にいるのだろうか。

 

「……俺は、つい先日、この近くの城に越してきた魔王の幹部のものだが……」

 

っ!やはり、こいつがあの魔王の幹部か。しかし、わざわざ街まできて虐殺でも始める気なのだろうか。

 

「まままま、毎日毎日毎日毎日っっ!おお、俺の城に、毎日欠かさず爆裂魔法打ち込んでく頭のおかしい大馬鹿は、誰だあああああー!」

 

…………おい、早速犯人が分かったぞ。

 

「……爆裂魔法?」

「爆裂魔法を使える奴って言ったら……」

「爆裂魔法って言ったら……」

 

だろうな、ここにいる連中全員でめぐみんの方を見る。……あ、あいつ、隣の女の子の方を向いて生贄にしたな。というか他の連中、お前らも釣られるなよ。

 

「ええっ!?あ、あたしっ!?なんであたしが見られてんのっ!?爆裂魔法なんて使えないよっ!」

 

……おい、話が進まないから変なことするな。というかめぐみんの冷や汗、凄いことになっていないか?あんな調子で前に出ていけるのだろうか……あ、嫌そうな顔をしつつ前に出て行った。

 

「お前が……!お前が、毎日毎日俺の城に爆裂魔法ぶち込んでいく大馬鹿者か!俺が魔王幹部だと知っていて喧嘩を売っているなら、堂々と城を攻めてくるがいい!その気がないのなら、街で震えているがいい!なぜこんな陰湿な嫌がらせをする!?この街には低レベルの冒険者しかいないことは知っている!どうせ雑魚しかいない町だと放置しておれば、調子に乗って毎日毎日ポンポンポンポン撃ち込みにきおって……っ!頭おかしいんじゃないのか、貴様っ!」

 

…………卑怯なことは嫌いな騎士の鏡だこと。別にその信念を持つのは自由だが、敵にそんなことを説いても意味がないんじゃないだろうか。少なくともこの常識知らずの連中に言っても意味がないことは確かだろう。

 

「……フッ、我が名はめぐみん。アークウィザードにして、爆裂魔法を操る者……!」

「……めぐみんってなんだ。馬鹿にしてんのか?」

「ちっ、違わい!」

 

……なんか、気が緩む。本当に魔王幹部と話しているのかが分からなくなってくる。

 

「……フン、まぁいい。俺はお前ら雑魚にちょっかい掛けにこの地に来たわけではない。この地には、ある調査に来たのだ。しばらくはあの城に滞在することになるだろうが、いちいち城の修理をするのが面倒だ。これからは爆裂魔法は使うな。いいな?」

「それは、私に死ねと言っているも同然なのですが。紅魔族は日に一度、爆裂魔法を撃たないと死ぬんです。」

「お、おい、聞いたことないぞそんなこと!適当な嘘を吐くな!」

 

俺だって聞いたことがない。というか紅魔族は爆裂魔法を撃ってぶっ倒れるための種族なのだろうか。どこの爆弾岩とかボンバーマンだ。そんな自爆特攻な種族なんぞ、すぐに死に絶えるレベルだろ。

 

「どうあっても、爆裂魔法を撃つのをやめる気は無いと?俺は魔に身を落としたものではあるが、元は騎士だ。弱者を刈り取る趣味はない。だが、これ以上城の近辺であの迷惑行為をするのなら、こちらにも考えがあるぞ?」

 

あ、デュラハンがいい加減キレてきた。そりゃ、そうだな。せっかく忠告で済ますつもりがこんなひどいコントになっているんだ。キレない方がおかしい。というかこうして話しているのを眺めているが、このままでいいのだろうか。何か行動でも取った方が良いのか判別がつかん。かと言って平和に話しているところを横からぶん殴る行為は、デュラハンの騎士道的にアウトだろうし大人しくしておこう。

 

「迷惑なのは私たちの方です!あなたがあの城に居座っているせいで、私たちは仕事も碌にできないんですよ!……フッ、余裕ぶっていられるのも今のうちです。こちらには、対アンデットのスペシャリストがいるのですから!先生、お願いします!」

 

今度はめぐみんがアクアを呼んだ。めぐみんよ、ここで丸投げするのは紅魔族的にかっこよくないと思わないのだろうか。どうせやるのならここで爆裂魔法を撃ってからの方がかっこいいぞ。

 

……ん?ダクネスが全力で走って行った?盾役としての勘でも働いて、何か攻撃でもしてくるの予測したのだろうか?

 

「ほう、これはこれは。プリーストではなくアークプリーストか?この俺は仮にも魔王軍の幹部の一人。こんな街にいる低レベルのアークプリーストに浄化されるほど落ちぶれてはいないし、アークプリーストへの対策はできているのだが……。そうだな、ここは一つ、紅魔の娘を苦しませてやろうかっ!」

 

ダクネスがめぐみんの襟首をつかんで自分の後ろに隠した?いったい、何が起きるんだ?

 

「汝に死の宣告を!お前は一週間後に死ぬだろう!!」

 

…………なるほど、元の世界でも死を宣告する妖精としていたが、ここでは自由に死を宣告できるのか。でも嫌がらせをされたからって死の宣告って子供よりたちが悪いんじゃないだろうか。魔王幹部ならなおさらだろ。

 

あと、デュラハンよ。かばって狙いが逸れたとはいえ、ダクネスにそんなことしても意味ないと思うぞ。むしろ勝手に妄想してよりひどいことになるんじゃないか?あと、好き勝手話すのはいいが、素直に俺の言うことを聞いておけばよかった、とかこいつの琴線に触れまくってんぞ。

 

「な、なんて事だ!つまり貴様は、この私に死の呪いを掛け、呪いを解いて欲しくば俺の言うことを聞けと!つまりはそういう事なのか!」

「えっ」

 

うん、デュラハンの言いたいこと大体合ってはいるな。爆裂魔法を使うのをやめろって言うのをしっかりと伝えていたな。でもダクネス、お前の言いたいこと考えていること、絶対に違うだろ。どこぞのエ〇同人みたいな目に遭いたいがためにそう言っているんだろう。今度触手型やオークみたいなモンスターを見つけたら教えておいてやろう。

 

「くッ……!呪いぐらいではこの私は屈しない……!屈しはしないが……っ!ど、どうしようカズマ!見るがいい、あのデュラハンの兜の下のいやらしい目を!あれは私をこのまま城へと連れて帰り、呪いを解いて欲しくば黙っていう事を聞けと、凄まじいハードコア変態プレイを要求する変質者の目だっ!」

「……えっ」

 

突然変態が現れて呆然とした目だよドM。あれに変質者呼ばわりとか騎士としての尊重が色々ボロボロだろう。

 

あ、ダクネスが突撃しそうになったがカズマが止めている。頑張れー、デュラハンの人を助けられるのはお前だけだぞー。

 

「と、とにかく!これに懲りたら俺の城に爆裂魔法を撃つのは止めろ!そして、紅魔族の娘よ!そこのクルセイダーの呪いを解いて欲しくば、俺の城に来るがいい!城の最上階の俺の部屋まで来ることが出来たなら、その呪いを解いてやろう!……だが、城には俺の配下のアンデットナイトたちがひしめいている。ひよっこ冒険者のお前たちに、果たして俺のところまでたどり着くことが出来るかな?クククククッ、クハハハハハハッ!」

 

笑いながら帰って行っても、悪役としての評価は今更じゃないだろうか。変態ドMの勢いに負ける魔王幹部っていったいなんなのだろうか…………俺も疲れたし帰ろうかな。こんな茶番のために手伝いを放棄したとかなんかもう、頭が痛い。別に俺がここにいてもなんもないだろうし。

 

それに、ダクネスの呪いは大丈夫だろう。仮にも神であるアクアもいるし、あのくらいの呪いなら何とかなるだろう。……これで何にもならなかったら女神の名前、返上じゃないだろうか。

 




……にしてもまさか自分が書いた小説がランキングに乗るとは思いもしませんでした。正直驚いて三度見してしまいました。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第11話 ブルータルアリゲーター

いつも読んでいただきありがとうございます。

今回のお話は下品な表現がございます。
苦手な方はご注意ください。


魔王幹部、デュラハン襲来から一週間ほどが経過した、今日この頃。未だに高難易度の依頼しかないため、俺は宿の手伝いに精を出していた。口コミも何もない宿屋としてオープンした初日の客は俺だけであったが、宿屋があることを知った人たちや俺がここに泊まっていることを聞いた人が顔を合わせるついでに泊まってきてくれるようになってくれた。それにつられて俺の仕事量も増えていったが、まぁ、楽しく働けているからいいか。

 

とはいえ、今は昼前だ。大体の客はどこかに出かけているか、まだ惰眠をむさぼっているか、宿屋は静かになっている。他の従業員もやる仕事を大体終えて暇そうにしている。かくいう俺もそうだし。

 

そういえば彼、デュラハン君の仕事は順調に進んでいるのだろうか心配だ。ここには、とある調査のために来たとか言っていたが、いったいどんな調査なのだろうか。ここで何かあった記憶などは無いため、想像ができない。精々俺が来たあとに、カズマとアクアがこの街に来ただけだ。……アクアの神性でも感じてきたのだろうか?

まぁ、ここで俺が考えてもデュラハンが何を考えているかは分からないし、一旦考えるのをやめておく。

 

 

それにしても、俺や他の従業員が着ているなんとも可愛らしい服に目を向ける。この服は全部、お婆ちゃんが一人一人採寸して、全て手縫いで作られた服だ。何とも情熱を感じる。

 

お婆ちゃん曰く、旅をしている時にとても可愛らしくて素敵な服を見つけたが、現在青年であるお兄ちゃんがお腹にいたため、当時の体形では着ることが出来ずに諦めていたらしい。しかし、服の造形や使っている素材、作り方などを店員からいろんな方法で聞き出して記録していたらしい。お婆ちゃんの執念凄いな。

その後月日がたち、自分で服を作ることはできたが、その時はもうおばちゃん、今更自分が着ても似合わないことを自覚していたらしい。しかしそれでこの服のことを捨てるほどのぬるい情熱をしていなかった。自分が着ても似合わないなら、別の似合う子に着せよう、と。この宿屋を経営するための目的のひとつに挙げていたほどだ。

 

「おーいユタカ、ユタカいるかー?」

 

とはいえ、それを着させられた俺はかなり抵抗感があった。恩があるとはいえ、男である自分が着るのはかなりきついものがあった。それでも着ざるを得なかったのは、お婆ちゃんがものすっごいキラキラした目で見たからだ。流石にあそこまで期待された目で見られて着ないのも、きつい。結局、その目線に負けた俺は着ることとなった。

 

「あ、いたいた。ユタカ、すまないが、ちょっと話があるんだ、が……」

 

…………まぁ、俺が着ているとはいえ、外から見れば紫髪の女の子が自分に合った可愛らしい服を着ているだけであった。それを見たお婆ちゃんは大喜び、その晩のご飯はお婆ちゃん自ら、お祝いと思えるほどの豪勢な食事を作るほどのテンションの高まりようだった。そのためか、お爺ちゃんとお兄ちゃんが何事かと思っていたが。

 

実際に鏡で現在の姿を収めている姿を見ているが、俺の姿は儚げな印象を与えつつも可愛くまとまった感じである。俺が見ても可愛いと思うくらいだ、お婆ちゃんは長年の夢分、もっと良く見えていたことだろう。

 

「…………えーと、ユタカ、今大丈夫か?」

 

……そういや、あまり自分では笑っていた記憶が無いため、この顔ではどんな感じになるか分からない。試しに、にこっと笑ってみた。……うん、存外悪くない。今度は手を前で組んで笑っいつつ頭を下げてみた。うむ、メイドさんみたいで可愛らしいが、中身が俺でなければ素直にそう思えたのだろう。最後にくるくると回ってみる。スカートの部分がふんわりと浮いてくる。どこぞの貴族令嬢やお姫様辺りがやりそうな行為だと、少し笑みがこぼれてくる。セリフは、「ふふふっ、私、綺麗でしょうか?」あたりだろうか、ちょっとストレート過ぎるな、もっと凝ったセリフの方が良いだろ、うな…………

 

「「……………………………………………………」」

「…………あの、カズマ、見ましたか?」

「おお、鏡に笑いかけていた時からバッチリと。さっきから声をかけても反応がなかったから驚いたぜ。しっかし、ユタカも可愛らしいところもあるんだな。その服、俺はいいと思うぞ!」

 

止めてくれカズマ、その言葉はもろに突き刺さる。

 

「…………い、一旦着替えてきますので、少々お待ちください!!」

 

何でこう言う時に限って見られるんだよ!くそっ、くそっ!顔が熱い!

 

 

―――――――――― 

 

 

「……私、今から売られて行く、捕まった希少モンスターの気分なんですけど……」

「…………それは私もです。とりあえず仕事が終わるまでは頑張りましょうね。」

 

そして今現在、俺とアクアは鋼鉄製のオリに閉じ込められている。というのもアクアが選んだ依頼、湖の水の浄化を行う際に、出現するモンスターから身を守るためのものらしい。それだったらダクネスが盾になってカズマとめぐみんで倒せばいいはずだ。しかし、浄化に必要な時間が半日であるため、攻撃が一発で終了するめぐみんでは不測の事態に対応できない。その上、出現するモンスターがブルータルアリゲーターという、名前だけで危険な存在と分かるモンスターだ。ステータスが低いカズマでは太刀打ちできない相手らしい。

 

そこで、警戒と索敵可能で攻撃も可能である俺が呼ばれた、という事らしい。でもそれだったらなんで俺までオリに入っているのだろうか。というか、ダクネスくらいは挑発役として、モンスターをおびき寄せることくらいしてもいいんじゃないだろうか。あと攻撃役くらい誰か別の人でも頼めば良かったんじゃないか?……依頼料は貸し一つということにしておいたが、これならもっと高くしておいた方がよかったな。軽く後悔している。

 

「オリに一緒に入れたことに関してはアクアに言ってくれ。あいつがユタカなら信頼できる、一緒にオリにいてくれないと不安で作戦通りできる気がしない、とか抜かしたんだよ。あと、このパーティーと関わり合いを持ってくれているまともな人なんてユタカくらいしかいないからな。……頭の良い奴ほど、俺らとつるむことが少ないからな。」

 

カズマにはある種の悪運の星でもついているんじゃないだろうか。今度占えるスキルが当たったら試してみてもいいかもしれない。

 

「……私、ダシを取られている紅茶のティーバッグの気分なんですけど……」

 

ふぁっきん駄女神!!

 

 

――――――――――― 

 

 

アクアが浄化を始めて二時間程度だな。オリには天井と床が鋼鉄の板ではあるが、柱の隙間から空が見えるため、『ポラリス』は問題なく発動している。現在は特にそういったものは見当たらないが……そう簡単に依頼達成となることはないはずだ、警戒はしておいて損はない。

 

「おーいアクア!ユタカ!浄化の方はどんなもんだ?湖に浸かりっぱなしだと冷えるだろ。トイレ行きたくなったら言えよ?オリから出してやるから―!」

 

……カズマ、女性にトイレのことを言うのはあんまりよくないことだぞ。

 

「浄化の方は順調よ!あと、トイレはいいわよ!アークプリーストはトイレなんて行かないし!」

 

アクアよ、お前それでいいのか?女性としていろいろと放り投げてないだろうか?

 

「…………わ、私は、一応平気ですので、気にしないでください。」

 

…………何で男である俺が一番恥ずかしがっているのだろうか?しかし、これも女性になった影響なのだろうか、トイレに行く頻度も男の時と比べて多くなっている気がするな。実際まだ平気ではあるが、もう少ししたらオリから出てトイレに行った方が良いだろう。

……というか、めぐみんもダクネスもふざけたこと言ってるし、何やってんだあいつら………………!

 

湖に大量の影が発生しているな、あれがブルータルアリゲーターだろうか。しかし、単体で来ると思ったが、あのくらいの群れ単位で来るのはそうて、い……なんか、数多くない?

 

 

――――― 

 

多分、体感時間で四時間後くらいだろうか、もう太陽を見る暇すらないから分からないが、そのくらいは立ったはずじゃないだろうか。

 

「『ピュリフィケーション』ッ!『ピュリフィケーション』ッ!『ピュリフィケーション』ッ!ユタカ!もっと倒してええええっ!」

「………無茶、言わないでください、『コンプレスグラビティ』ッ!ここまで多いとスキルの発動と対処にもてこずるんですよ!」

 

現在、ブルータルアリゲーターに囲まれている。美味しそうな餌が二体もいるんだ、そりゃ、寄っても来るか。

 

「『ピュリフィケーション』ッ!『ピュリフィケーション』ッ!ギシギシいってる!ミシミシいってる!オリが、オリが変な音立てているんですけど!」

 

ただでさえ集中する必要がある『コンプレスグラビティ』に、アクアのうるさい声とブルータルアリゲーターの衝撃(と、おしっこが出そう)で集中が上手くできない。くそっ、数が多すぎるんだよ!カズマが何か言っている気がするが、今はそれに構っている暇がない!一匹でも潰し爆ぜてアクアの声を収めないと……!

 

「わ、わあああーっ!メキッていった!今オリから、鳴っちゃいけない音が鳴った!!」

 

ん、メキッ?スキルを発動させるための集中をしつつ、アクアが言った方向を見てみた。…………え、ワニの口が、オリの中に入ってるんだけど。思いっきり入ってきてる……侵入……食べられる?

 

「に、にゃああああああああああああああっ!?」

「わ、わああああああああああーっ!!ユタカが壊れたあああああ!『ピュリフィケーション』ッ!『ピュリフィケーション』ッ!『ピュリフィケーション』ッ!」

 

あ、やばい、もう無理だ、耐えきれない。…………その瞬間、ローブの下の方と下着が生暖かくなっていた。

 

 

――――――――― 

 

「……ぐすっ……ひっく……えっく……」

「…………こわい、ワニ、怖いよぉ……」

 

…………太陽を見つめ、時間を理解する。浄化を始めてからもう七時間立っていたようだ。俺とアクアは二人仲良く体育座りをしている。もう、このオリから出たくない。出るとまたあのワニに襲われそうになってきて、怖い。というか、この歳にもなってお漏らしとか…………やばい、また涙が出てくる。

 

「ほら、浄化が終わったのなら帰るぞ。ダクネスとめぐみんで話し合ったが、俺たち今回、報酬は要らないから。報酬の30万エリス、全部アクアが持って行け。ユタカは……ここまでさせたんだ、無理のない限りでなら貸しはしっかりと返すからな?」

 

本当、ここまで怖い思いと恥ずかしい思いをさせたんだ。その対価分くらいは貰うからな。

 

「……おい、いい加減オリから出ろよ。もうアリゲーターはいないからさ。」

 

……そんなことあるか、あいつらは突然やってくるんだ。自分が思わぬところで出てくるんだ。

 

「……まま連れてって……」

「なんだって?」

 

そんなところでアクアの言葉に難聴を発生させないでくれ。鈍感系主人公でも、ここまであれだったら察してくれよ。

 

「……オリの外の世界は怖いから、このまま街まで連れてって。」

「…………あー、そのユタカは出るだろ?」

「……………………私も、このままが、いいです、ここ、怖くないです。ぐすん……」

 

もうワニ退治なんてやらん。やるにしても、もっと別の作戦でやってやる。

 




個人的にアクア様は朗らかな笑顔も素敵だけど、一番は泣いているところが好きです。

それと、やっと主人公を、念願のお漏らしをさせれました。
今度から反発等が無ければもっと漏らさせていきたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第12話 ミツルギキョウヤ

今回も主人公は影が薄いです。
もっと出番を増やしたいけど、なかなか思いつかないです……。


街についても俺とアクアは、仲良くオリの中で座っていた。アクアは相変わらず生気が抜け落ちた表情でいるし、俺も俺でローブの下の方を見られないように隠しつつ座っていた。そろそろ宿屋に着くから出たいとはいえ、この染みを見られないようにするにはどうすれば良いのだろうか……

 

「め、女神様っ!?女神様じゃないですかっ!何をしているのですか、こんな所で!」

 

……アクアのことを言っているのだろうか、急に叫び出した男が駆け寄ってきて鉄格子を掴んだ。と思ったら鉄格子をたやすく曲げてきやがった。こいつ、あのワニですら耐えたオリをこんな簡単に曲げるとは相当な筋力を持った男だ。襲われたらひとたまりもないし、大人しくしておこう。ちょっと怖い。

 

「……おい、私の仲間になれなれしく触れようとするな。貴様、何者だ?知り合いにしては、アクアがお前に反応してないのだが」

 

……誰だこいつ、ダクネスってこんなまともに話す奴だったのだろうか。……いや、あのドMも今のこいつもダクネスのひとつなのだろう。むしろ、こっちの方がダクネスの雰囲気に似合っている気がする。

 

というかアクアよ、お前の知り合いならいい加減気づいてやれよ。黒目茶髪に日本とかにいそうな顔立ちとか転生者関係だろ。

 

「……ああ!女神!そう、そうよ、女神よ私は。それで?女神の私にこの状況をどうにかして欲しいわけね?しょうがないわね!」

 

この言葉だけ見るとアクアが世話焼きな人に見えるが、それはれっきとした誤解だ。むしろカズマが世話を焼かざるを得ないことが多いはずだろ。

 

「……あんた誰?」

 

転生させた奴の顔ぐらい覚えておけよ。いや、送った人数によっては仕方ないかもしれないが……

 

「何言ってるんですか女神様!僕です、御剣響夜ですよ!あなたに、魔剣グラムを頂いた!!」

「…………?」

 

というかこいつの後ろにいる女の子、ずいぶんと可愛い子たちだ。異世界でハーレム生活とかどこのテンプレだ、羨ましい。せめて俺にも男という性別だけでも分けてくれないだろうか。本当、女の子とか能力とか魔剣とかいらないから、性別だけ、性別だけでいいからよこせ。本当に、性別だけでいいから。

 

 

――――――― 

 

 

「……馬鹿な。ありえないそんなこと!君はいったい何考えているんですか!?女神様をこの世界に引き込んで!?しかも、今回のクエストではオリに閉じ込めて湖に浸けた!?」

 

その後、カズマがアクア(と俺)をオリに入れた事情を話したら、ミツルギ、思わずいきり立ってカズマの胸ぐらを掴んでいた。何処の少年漫画だ。いや、この構造はむしろBLの薄い本の方が書かれてそうだな。

……まぁ、ミツルギからすれば恩人をオリに入れてワニの餌にしたようなもんだしな、多少仕方ないところもあるか。それに、同意の上とはいえ別の女の子も餌に使ってたしな、うん。

 

「ちょちょ、ちょっと!?いや別に、私としては結構楽しい毎日送ってるし、ここに一緒に連れてこられたことは、もう気にしていないんだけどね?それに、魔王を倒せば帰れるんだし!今日のクエストだって、怖かったけど結果的には誰も怪我せず無事完了した訳だし。しかも、クエスト報酬三十万よ三十万!それも全部くれるって言うの!」

「……アクア様、こんな男にどう丸め込まれたのかは知りませんが、今のあなたの扱いは不当ですよ。そんな目に遭って、たった三十万……?あなたは女神ですよ?それがこんなちっぽけな……。ちなみに、今はどこで寝泊まりしているんです?」

「え、えっと、皆と一緒に、馬小屋で寝泊まりしているけど……」

「は!?馬小屋ですか!?」

 

それを必死にアクアが止めるように言葉を掛けるが、その言葉を聞いてさらに感情が荒ぶってきているな。これくらいで感情が揺れるようならまだまだ甘いところがあるな。

あとカズマをこんな男とか言うな、お前、カズマのことを全く知らないくせにそれだけを判断材料にするとかダメすぎるだろ。異世界に馴染んできたのなら、見た目に裏切られることくらい想定しておけよ。

それにたった三十万……?こいつ金の価値すら知らんのか?大方その魔剣で高難易度の依頼を成功してきたから分からんのだろう。馬小屋への反応もそういう事なのだろう。

 

「おい、いい加減その手を離せ。お前はさっきから何なのだ。カズマとは初対面のようだが、礼儀知らずにもほどがあるだろう。」

 

いい加減、ダクネスが怒ってミツルギに言っていた。めぐみんも爆裂魔法の詠唱を唱えているようだし、カズマ、仲間に愛されてるじゃないか。もしくは、それだけミツルギが嫌いなのだろうか。

 

「…………クルセイダーにアークウィザード?……それに、ずいぶんと綺麗な人達だな。君はパーティーメンバーには恵まれているんだね。それなら尚更だよ。君は、アクア様やこんな優秀な人達を馬小屋で寝泊まりさせて、恥ずかしいとは思わないのか?さっきの話じゃ、ついている職業も、最弱職の冒険者らしいじゃないか。」

 

酷い皮肉だな。むしろこいつらはカズマがいないとどうなるか分かったもんじゃない爆弾たちだというのに。というか、その優秀な人達を纏めているカズマはいったい何なのだろうか。

そして俺はガン無視か、実にいい度胸だ。後ろの女の子二人は俺をどう扱えばいいのか分からなさそうに見ているというのに。

 

……それとアクアとカズマ、お前らがヒソヒソとしている話は聞こえているぞ。最初から宿屋に泊めてもらった身としては割とダメージが来る。

 

「えっと、キョウヤ。オリの中にも女の子が――――」

「君たち、今まで苦労したみたいだね。これからは、ソードマスターの僕と一緒に来るといい。もちろん馬小屋なんかで寝かせないし、高級な装備も買い与えてあげよう!」

 

話しかけてあげたんだから聞いてあげろよ。後ろにいた女の子、無視されて軽く涙目だぞ。というか、ハーレムのメンバー増やして後ろの女の子たちに愛想つかされないだろうか。

あまりの態度にカズマのパーティーもドン引きしている。話を聞かない猪ですらお断りだってのに、それにナルシスト分が足されて嫌悪感が増しているようだ。

 

「えーと。俺の仲間は満場一致であなたのパーティーに行きたくないみたいです。俺たちはクエストの完了報告があるから、これで……」

 

そう言ってカズマが話を締めくくった。…………おい、話は終わったんだからカズマの前に立ち塞がるな。お前は「はい」を選ぶまで意地でも話をループさせる王様か。というか、この後の展開が目に見えるな……。

 

「僕と勝負しないか?アクア様を、持ってこられる『者』として指定したんだろう?僕が勝ったらアクア様を譲ってくれ。君が勝ったら、何でも一つ、言うことを聞こうじゃないか。」

「よし乗った!!じゃあ行くぞ!」

 

うん、やっぱりだった。カズマもそれを予想していたのか、限界だったのかは知らないが、素早く剣を抜き襲い掛かった。というかアクアを賭けの対象にするのなら、魔剣をささげるレベルでの何でもだな。カズマ相手にそれとかどうなっても諦めなければいけないことなんだろうな。そっとミツルギに同情した。

 

「えっ!?ちょっ!待っ……!?」

 

慌てつつも腰の魔剣を抜きつつ、カズマの剣を避ける。流石は高レベル冒険者だ、だが、カズマの真骨頂はここからだぞ?

 

「『スティール』ッッッッ!」

 

おお、見事に魔剣を引き当てたか。流石は幸運が高いだけあるな。

 

魔剣がなくなったことに呆けたミツルギは、カズマが振り下ろした剣に頭を打たれ、気絶した。……それくらいの予想はしていろよ、武器がなくなることなんぞよくあることだろうが。

 

「卑怯者!卑怯者卑怯者卑怯者ーっ!」

「あんた最低!最低よ、この卑怯者!正々堂々と勝負しなさいよ!」

 

最弱職の冒険者に上級職のソードマスターが勝負を挑むこと自体が恥だと思わないのだろうか。はたから見ればただのカツアゲだ。しかも内容を勝手に決め、その対象がパーティーの一員な時点で最低なのはどっちなのだろうか。

 

ああ、カズマはどうやら何でも一つ言うことを聞くという約束で魔剣グラムを持って行くらしい。だが、あの剣は決められた使用者でないと、ただの切れ味が良い剣らしい。まぁ、それがどうしたといった感じで持って行くようだが。高くも売れそうだし嫌がらせにもなるしな、仕方あるまい。

 

それでもあの女の子たちはその勝負自体を認めていなさそうだ。まぁ、不意打ちで開始したから分からんでもないが、そもそもレベルや職の差でこれくらいのハンデが無いと無理じゃないのだろうか。

それでもしつこく粘る彼女たちにカズマは、

 

「別にいいけど、真の男女平等主義者な俺は、女の子相手でもドロップキックを食らわせれる公平な男。手加減してもらえると思うなよ?というか女相手なら、この公衆の面前で俺のスティールが炸裂するぞ。」

 

手をワキワキと動かしながらそういった。軽くドン引きである。……まぁ、スティールは実際、役には立ってはいるんだがそんなことをするから噂通りの男になっていっていると気づかないのだろうか。

 

そのカズマを見た女の子たちは何か身の危険でも感じたらしく悲鳴をあげつつ逃げだしていった。…………置き去りにされたミツルギが可哀想と思わないのだろうか。

 

あ、そうだ。

 

「…………カズマ、ちょっとお話よろしいでしょうか?」

「ん、なんだ?」

「…………その魔剣、譲っていただけないでしょうか?それ相応のお金は出しますので。」

 

魔剣というくらいだし、商人であったお爺ちゃんのプレゼントにでも使えないだろうか。10万エリスくらいなら出すから譲ってくれないだろうか。

 

 

――――――――― 

 

 

「な、何でよおおおおっ!」

 

あれから翌日。今日もアクアの叫び声が聞こえてくる平和なギルドだ。飯が美味い。

 

あの後、無事に譲ってもらい、お爺ちゃんにプレゼントした。魔剣だけあって、ただの剣としては最高峰の性能であったらしい。俺にはよくわからないが、喜んでくれたようで何よりだ。それとローブや下着の染みもばれずに済んだ。なぜかお婆ちゃんは苦笑していたが気のせいだろう。気のせいであってほしい。

 

というかアクアよ、あんまり揺らすとギルドのお姉さんの胸が見えてしまうぞ、もっとやれ。

聞き耳を立てて話を聞くと、ミツルギに壊されたオリの分を弁償するために依頼料から何万エリスか差っ引かれたらしい。何とも運のない話だ。それならあいつを引きずってギルドに突き出してやればよかったんじゃないか。

 

「ここにいたのかっ!探したぞ、佐藤和真!」

 

うるさい暑苦しいうっとおしい。話題の人間の登場でアクアの怒りのボルテージが上がっていっているな。

 

「佐藤和真!君のことは、ある盗賊の女の子に聞いたらすぐに教えてくれたよ。パンツ脱がせ魔だってね。他にも、女の子を粘液まみれにするのが趣味な男とか、色々な人のうわさになっていたよ。鬼畜のカズマだってね。」

「おい待て、誰がそれ広めたのか詳しく。それとユタカ、なんだその表情は。」

 

…………いやだってなぁ。めぐみんと俺はどっちもなったから間違ってはいない噂だしな。鬼畜なのも昨日の発言で信憑性も増して、否定できないんだよ。

 

ん?アクアが怒りを通り越して無表情の域にたどり着いたようだ。ミツルギの前に立ち塞がり、好き勝手話しているドヤ顔を思いっきりぶん殴った。おおー、そのまま詰め寄って胸ぐらを掴んだ。もう一発やるのだろうか。

 

「ちょっとあんたオリ壊したお金払いなさいよ!おかげで私が弁償することになったんだからね!三十万よ三十万、あのオリ特別な金属と魔法でできているから高いんだってさ!ほら、とっとと払いなさいよっ!」

 

…………まぁ、アクアらしいというかなんとも言えないな。お金をもらったアクアは一気に上機嫌になって店員を呼んでいた。ま、散々苦労していたんだしな、別に好きに頼んでいいか。俺は関係ないし。

 

カズマとミツルギは魔剣のことについて話しているが、そいつに言っても意味はないんじゃないだろうか。すでに俺が譲ってもらったし、それはお爺ちゃんにプレゼントしたから今更返せと言われても困る。

 

「さ、佐藤和真!魔剣は!?ぼぼぼ、僕の魔剣はどこへやった!?」

「あー……知り合いに譲ったよ。もう王都に向かっているんじゃないか?」

「ちっくしょおおおおおおお!」

 

サンキューカズマ。面倒な目に遭わなくて済んだ。さて、とりあえず食い終わったし宿屋に帰って手伝いを再開するか――――

 

『緊急!緊急!全冒険者の皆さんは、直ちに武装し、戦闘態勢で街の正門に集まってください!……特に、冒険者サトウカズマさんとその一行は、大至急でお願いします!』

 

……………………カズマ!あの野郎、また面倒ごと持ってきやがったな!

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第13話 セカンドコンタクト

戦闘描写が上手くできないです……。というか最近の描写自体が下手になりつつあって悩んでいます。
自分で納得できる出来じゃなかったので一旦書き直しつつ、大丈夫そうなところだけ先に投稿させていただきます。申し訳ないです。


今度はいったいどんな面倒ことなんだと他の冒険者と一緒に走りながら正門に向かった。この距離なら『ポラリス』を使ってみるよりも実際に見た方が楽だ。使い過ぎによる支障も出るかもしれない。一旦温存しておこう。

 

正門に到着すると、もう待機していた冒険者たちがいた。そして、その目線の先には魔王幹部、デュラハンの姿がいた。にしても馬に乗っているってことは乗馬したままでの攻撃も可能なのだろうか、それだと馬の素早さによっては面倒だな。近接職ではきついところもあるだろう。引きずり落とした方が良いだろうか。

 

デュラハンはカズマたちパーティーを見つけると開口一番で叫び出した。……そういえばダクネスはいないのか?

 

「なぜ城に来ないのだ、この人でなしどもがああああっ!!」

 

…………デュラハンの話を聞く限り、また古城に爆裂魔法が撃ち込まれて困っているそうだ。大方、話しを聞かなかっためぐみんのせいだろう。そして騎士の鏡のようなクルセイダーを見捨てたことにご立腹らしい。ダクネス、思いっきりピンピンしていたぞ。というか撃ち込んでいる奴とか街の様子とかを調べる斥候・偵察部隊を出動してないのだろうか。あ、雑魚たちの集まりだから調べる意味がないとでも思ったのだろうか。

 

その後、ようやく追いついてきたと思われるダクネスの登場にデュラハンが変な叫び声をあげたり、キレたデュラハンがアンデットナイトを召喚したり、アクアが不意打ち気味に『ターンアンデット』と『セイクリッド・ターンアンデット』を打ち込んでいた。撃ち込まれたデュラハンはひぃひぃ言いながら地面を転げまわっていた。……威厳もへったくれもねぇな。

 

というか、もうアクアだけいればいいじゃないだろうか。性格や馬鹿さ加減はともかく、ステータス自体は優秀だし。それと、『ターンアンデット』が効いてないとか言っているが、思いっきり悲鳴あげているし何度も打ち込めば倒せるんじゃないだろうか。一応神聖魔法の強い抵抗を突破してダメージを与えているんだし大丈夫だろう。

 

「ええい!もういい!おい、お前ら……!町の連中を、……皆殺しにせよ!」

 

ビビりだったのか痺れを切らしたのかはわからないが、デュラハンがアンデットナイトたちに号令をかけた。その途端、死した軍勢は突撃してきた。……なんかグダグダした空気でも入れ替えようとしたのだろうか。ま、いい。とりあえず、侵攻スピードを遅らせるか。

 

「『コンプレスグラビティ』!」

 

俺は先頭にいる奴あたりに重力を掛けて、動きを止めさせる。見事、先頭の奴と後続の奴とで衝突を発生させられたな。……とはいえ、数が数の上、相手は痛覚も無いためか、倒れこんだ仲間を踏んでまで前進してくる。衝突して倒れた奴もすぐに起き上がって追いかけ始めた。

他の冒険者の時間稼ぎになると思ったのだが、この様子だと微妙だな…………あ?

 

「わ、わあああーっ!なんで私ばっかり狙われるの!?私、女神なのに!神様だから、日ごろの行いも良い筈なのに!」

「ああっ!?ずっ、ずるいっ!私は本当に日ごろの行いは良い筈なのに、どうしてアクアの所にばかりアンデットナイトが……っ!」

 

アンデットの軍勢はアクアだけを激しく追いかけ始めた。アクアが駄女神だからだろ。あと、あの神性でも感じ取って浄化されるかもしれないとでも思っているのかもしれない。あとダクネス、お前も日常での発言を見ると大概だぞ。

というかあそこまで激しく動かれると狙いが付けにくくてスキルが発動できない。『ポラリス』で観測はしているが、上手く逃げているつもりだろうか、距離は縮まっている気がしない。スタミナがいつまで持つか不安であるが。いっそ『コンプレスグラビティ』をアンデット軍団全体に発動してもいいかもな。負荷が激しくてどうなるか知らんが。

 

あ、アクアがカズマを巻き込んでいった。事前にめぐみんには爆裂魔法を発動させる準備はさせているとはいえ、二人はいったいどんな作戦をするつもり……ああ、なるほど、デュラハンごとアンデット軍団を爆裂魔法で巻き込まさせるつもりか。

 

そろそろ着くころだし、デュラハンを起点にして準備して……まだ……まだ……今だ!

 

「『コンプレスグラビティ』!」

「おおっと、ユタカナイスだ!めぐみん、やれーっ!」

 

よし、上手くデュラハンごとアンデット軍団を押さえられた。あとは、めぐみんの詠唱が終わるまで……だ、な…………できるだけ、早くしてくれ、頭痛が酷くて、制御が、出来なくなってきている。

 

「なんという絶好のシチュエーション!感謝します、深く感謝しますよカズマとユタカ!我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者!我が力、見るがいい!『エクスプロージョン』―――――――ッッ!」

 

…………酷い火力、だな。アンデットナイトたちは一体残らず消滅させやがった。デュラハンこそまだ生きているが、あそこまでの火力だ、相当堪えたはずだろう。あと、詠唱なげぇよ。仕方ないかもしれないが、もっと短くはならないのか。

 

「クックックッ……。我が爆裂魔法の威力を目の当たりにし、誰一人として声も出せないようですね……。ふああ……。口上と言い、凄く……気持ちよかったです……」

 

おい、あの口上は魔法の詠唱とは関係ない物だったのかよ。俺がどれだけ必死で押さえつけていたんだと思ってるんだ小娘。今くっそ頭痛で死にそうになっているんだぞ。今すぐ倒れこんで休みたいくらいだ。

周りの連中はその威力に喝采をあげているが、あたまのおかしいと付くあたりふさわしい称号じゃないか。そして、その言葉を聞いてキレているめぐみんもめぐみんだ。あんな馬鹿げた威力の魔法一種類だけとかもったいなさすぎだ。

 

「ククク……クハハハハハハッ!面白い!面白いぞ!まさかこの駆け出しの街で、本当に配下を全滅させられるとは思わなかった!しかもこの俺を押さえつけるほどの魔法を持つ者もいるとはな!よし、では約束通り!この俺自ら、貴様らの相手をしてやろう!」

 

…………あれ、こっちにも目を付けられてないだろうか?……ヤバい、頭痛が激しい今だと碌に『コンプレスグラビティ』が発動できん。い、いや、気のせいだろう、ここまで人数が多いんだ、今のうちに逃げればばれない筈

「何逃げようとしているんだ?おい、頭を押さえて逃げようとしているお前のことだ。」

 

……完全にバレていやがる。剣をわざわざ向けなくても知っとる。というか他の冒険者が囲んでいるだから、そっちに目を配れよ。

 

「おい、嬢ちゃん。魔力切れか何かなら大人しく下がっておけ。ここで立っているだけなら、邪魔になる。」

 

そうしたいのはやまやまなんだがな、デュラハンが逃してくれそうにないんだよ!こっちは答える気力すら頭痛のせいでないんだよ!

 

「おい、どんなに強くても後ろには目は付いちゃいねぇ!囲んで同時に襲い掛かるぞ!」

 

……おい、すっごいフラグになりそうな言葉はやめろ。実際にあいつの持っているスキル、まだ判明していないだろ。奥の手とかを考慮しておけよ。

 

「時間稼ぎが出来れば十分だ!緊急の放送を聞いて、すぐにこの街の切り札がやってくるさ!おいお前ら、一度にかかれば死角ができる!やっちまえ!」

 

だからフラグっぽい台詞はやめろよ!デュラハンは雄たけびを上げて突っ込んできている冒険者たちを尻目に自分の頭を上に投げているし、たぶんあれがあいつのスキルのひとつなのだろうか。……悔しいが、頭痛のせいで集中も何もできない今の俺にできることは観察だ。あれがどんなスキルなのか見極めておいた方が良い。

 

「止めろ!行くなああああっ!」

 

カズマがそんな声を出しているが、もう遅い。冒険者たちは駆け出して行ってる。

 

そして、デュラハンは、

 

背中からの槌を躱す。

 

横から来た戦斧を躱す。

 

正面から来た長剣を手甲で弾く。

 

二方向から来た大剣と突剣を見えているかのように躱す。

 

そして、

 

片手で握っていた大剣を

 

両手で握り直し

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

周囲にいた冒険者全員を切り捨てた。

 

 

切りかかる前、上げていたデュラハンの頭から何らかのオーラが見えたため、あれがスキルの正体だろう。効果としては見ている範囲の時間をスローモーションでも見ているのか、それか上げたことで視界が自分の背後も見えていたのだろうか。

他にも思い浮かぶはずなのに、崩れ落ちていった冒険者を見て頭痛によるものとは違う吐き気が込みあがってくる。正体不明の感情に戸惑いつつ、吐き気をこらえる。

 

「……さて、次は誰だ?」

 

落ちてきた自分の頭を上手く受け止めたデュラハンは、何になかったかのように振る舞い、気楽に言っていた。

 




戦闘は早く終わらせてセクハラしたいです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第14話 首無し騎士ベルディア

オリジナル展開ありというタグを書いたんだし、もう思いっきり主人公が目立てるように自由に書くことに決めました。

その結果、作者が苦手なシリアス風戦闘になりました……なりました……
もっとギャグかセクハラがしたいです……せめてシリアルか尻アスにしたいです……


「あ、あんたなんか……!あんたなんか、今にミツルギさんが来たら一撃で斬られちゃうんだから!」

「おう、少しだけ持ちこたえるぞ!あの魔剣使いの兄ちゃんが来れば、きっと魔王の幹部だって……!」

 

後ろにいる連中が何かさえずっているが、ミツルギはたぶん王都への道を全力で走っているはずだぞ。というか武器を投げるなり魔法を撃つなりして攻撃か何かした方が良いんじゃないだろうか。少なくとも、デュラハンがこっちに歩いて来ているんだから準備しておけよ。

見かねたダクネスが走って剣を構えているレベルなんだぞ。

 

「ではそいつが来るまで…………!持ちこたえられるかなぁっ!」

「はああああああああああああっっ!!」

 

だ、ダクネスがまともに打ち合っているだと!?てっきり全力で攻撃を受けに行ったと思ったのに!というか、魔王幹部とまともに打ち合えるってどんな筋力をしているんだ…………

って、俺も妨害くらいはしなくては。頭痛も吐き気も多少回復しているしとりあえず他の事は一旦無視だ、早く援護を…………!

 

「『コンプレスグラビティ』!」

「ちぃっ、鬱陶しい!」

 

はぁっ!?デュラハンにかなりの強度で仕掛けたってのに抜け出された!?カエルとかワニ相手に潰し爆ぜさせたスキルが鬱陶しいレベルってどれだけ頑丈なんだよ馬鹿野郎!

……しかし、あの様子だと邪魔程度にはなっているか、それならば……スキルでも打つときに妨害すれば援護にはなるか。あと、ダクネスがいつもの変態発言やらをしているのは無視だ。

 

「魔法使いのみなさーん!!」

 

カズマも、他の冒険者たちに声掛けしてサポートに徹している。呆然としていた奴も己の武器を構えて攻撃できるように準備している。

 

……デュラハンが地面に剣を突き刺した?そして、指差しした……?マズイ!

 

「『コンプレスグラビティ』ッ!……げほっ、ごほっ!」

「お前らまとめて一週間後に――――ええい、また貴様か!どれだけ俺の邪魔をしようとしているんだ!」

 

デュラハンの腕にだけ、重力を掛けたが、あのスキルは、指で差さないといけない、制約なのだろうか。しかし、俺もそろそろ、打ち止めになる、のだろうか。いい加減頭が、持たなくなってきている。一旦、他の奴に任せつつ妨害するか。

 

 

――――――― 

 

 

その後もダクネスはデュラハンと切り結んでいた。というよりかダクネスは剣を逸らし、受け止め、防いでいるといった様子であった。碌に攻撃スキルが無いためなのか、あくまで防御だけで凌いでいる。

他の冒険者も加勢はしている。が、デュラハンがまた頭を上に投げ出し、何らかのスキルを発動させたことによって近接職の攻撃は躱されむしろ反撃を受けている。魔法職や後衛職の攻撃も躱されているか、効果が薄そうだ。

 

「よくやったダクネス!一旦下がれっ!『クリエイト・ウォーター』ッ!」

 

背負っていためぐみんを安全な場所まで運んだのだろう。カズマが唐突に水魔法を唱えていた。しかし、あの程度の水でダメージが入るとは思えないが…………

 

「うぇっ!?」

 

ん?何であのデュラハンは大慌てで飛び退いたんだ?カズマもそのことを気にしつつ、詠唱を行っていた。

 

「なんであそこまで大げさに避けたかは知らないが、とりあえず『フリーズ』!」

 

すると地面に撒かれた水がデュラハンの足ごと凍り付かせた。おお、あんな発想を急に思いつくなんてすごいな。

 

「!?ぬかったか…………だが貴様、俺の強みが回避だけだと思っているのか……?」

「はっ、回避しづらくなれば十分だ!本命はこっち、『スティール』ッッ!」

 

カズマお得意の窃盗(スティール)か!カズマほどの幸運ならあいつの武器も盗め、る…………何にも、奪えていない、だと!?

 

「……悪くはない手だったな。だが、俺は仮にも魔王の幹部。レベル差というやつだな。もう少しお前との力量の差がなければ危なかったかもしれん。……さぁ、茶番は終わりにしよう!」

 

くそっ、これでまた振りだしだ。カズマの窃盗(スティール)も効かないとなると……仕方ない、じり貧ではあるがまた妨害しつつ、ちまちま削っていくしかないか。しかし、ダクネスも、打ち合っていた消耗でもうそろそろ危ない筈だ。タンク役がやられてしまうとただの攻撃役や援護役は一瞬で溶けちまう。

 

……カズマが、また何か考えている?あいつの発想によって一時的にとはいえ、デュラハンの動きを封じられたのだ。それならば……賭けに乗っかった方が良いか。

 

「……カズマ、時間稼ぎは、しますから、何か思いついたら、実行をお願いします。」

「わ、わかった!できるだけ稼いでくれ!こっちも急ぐ!」

「…………急いだら、良い考えは思いつきません。こっちは、任せてください!」

「……それもそうだな、ならそっちは任せた!」

 

こっちの心配そうに見つめていたが、一応大丈夫だから気にするな。それよりもダクネスも息を荒げつつ凌いでいる。早く妨害をしなくては…………!

 

「『コンプレスグラビティ』!」

「そう何度も引っ掛かると思うなよ……って、うおおおおおっ!?」

 

お前だけを対象に最大強度だよバーカ。範囲を絞っているから、まだ頭痛は酷くないのが救いか。しかし、これで膝すらつこうとしないあたり、元は相当立派な騎士だったんだろうな。だがな、こっちだってそう引き下がれるかよ!

 

「ぐおおおおおおおおっ!負けて、たまるかあああああああっ!」

 

それでも、あの重力下の中で動き始めたデュラハンはさっきのは遊びだったのかと思うくらいの迫力でダクネスに喰らい付いている。ダクネスも防戦はしているが、その迫力によるものか、ついに剣が折れてしまってからは鎧とその身で耐えていた。

俺も頭痛やらめまいやらでまともに立っているのかすらおぼつかない。それでも、カズマにかっこよく宣言はしたんだ、あいつの策が思いつくまでは押さえつけてやる。逃がしてたまるかよ!

 

「そうだ!『クリエイト・ウォーター』ッッッ!」

 

カズマが放った水魔法にデュラハンはまた大げさに飛び退く。重力掛けているのによく綺麗に飛び退けるものだ。にしてもなぜあそこまで大げさに……………………あ、ああ!なるほど、そういう事か!

 

「水だあああああああーっ!あいつは水が弱点だーっ!!」

 

カズマの言葉を一斉に後方の魔法使いたちが水魔法を唱えた。次々と飛んでくる水をデュラハンは紙一重で避けている。俺の重力下でよくあそこまで避けられるものだとむしろ感心する。

 

「ねえ、いったい何の騒ぎなの?カズマ達ったら魔王の幹部と何を水遊びしているの?バカなの?」

「あいつは水が弱点なんだよ!なんちゃって女神でも水のひとつくらい出せるだろっ!」

 

…………アクアよ、お前は今まで何をしていたんだ?というかカズマの言葉すら聞いてなかったのか?

 

「!?あ、あ、あんた、そろそろ罰のひとつでも当てるわよ無礼者!洪水クラスの水だって出せますから!謝って!水の女神をなんちゃって女神って言ったこと、ちゃんと謝って!」

 

出せるのかよ。それだったらさっさと出してくれよ。

 

「あとでいくらでも謝ってやるから、とっとと出しやがれよこの駄女神が!」

「わああああーっ!今、駄女神って言った!あんた見てなさいよ、女神の本気を見せてやるから!」

 

コントはいいからさっさとやれ。俺も他の連中も抑えるのに必死なんだよ。

 

 

「ひっく…………ふぅ、この世にある我が眷属よ…………水の女神、アクアが命ず…………」

 

…………おい、なんかすっごい空気が震えているんだが。めぐみんがさっき打った爆裂魔法レベルで空気が震えているんだが。と、言うかアイツ洪水クラスの水も出せるって言ったよな…………

 

それ、俺たちも危なくないかこれ?デュラハンにかけていた重力を打ち切り、俺ができる最大範囲で水を押さえる準備をしておこう。

 

「我が求め、我が願いに答え、その力を世界に示せ……!」

 

あ、デュラハンが逃げ出そうとしたらダクネスに捕まっている。

 

 

 

 

「『セイクリッド・クリエイト・ウォーター』!」

 

 

 

 

……うわぁ、空から大量の水がデュラハンとダクネスを叩きつけている。

 

で、やっぱりアクアは自重せずに出している、と…………やっぱりこっちに水が来やがったよこんちくしょうが!

 

「『コンプレスグラビティ』!最大範囲!最大出力!」

 

あ、ヤバい、今ので軽く意識が飛びかけている。水の勢いは一旦止めたとはいえ、この状態ならあと数秒で倒れるな。でも、せめて他の連中の防衛態勢までは防ぎたいが。

 

「…………はっ!おい、あの嬢ちゃんを守れ!無理な連中はあの水に備えろ!」

「あの水を凍らせろ!せき止めておかないとこっちにまで来る!」

「あと正門も固めておけ!街まで水浸しになっちまうぞ!」

 

あー、他の人たち、やっと動き始め、たか。この様子なら、もう、大丈夫、そうだな……もう無理、意識が、持たない………………

 

 

――――――――――――――― 

 

 

知らない天井、ってこれ前にもやったな。たぶん宿屋の天井で合っているはずだ。俺がこうして無事にいるってことは誰かが運んでくれたはずだ。あとで商人一家から聞いておくか。

窓から街の様子を見てみたが、モンスターやアンデットが侵入しているような風景はなかった。どうやらあのデュラハンは無事に討伐されたようだ。……とりあえず、着替えてギルドに行ってどうなったか聞くか。

 

 

 

ギルドではもう出来上がっている奴が多いせいか、むせ返るような酒の臭いに顔が歪む。どうやらもう翌日になっていたようだ。酒も昨日の討伐記念による宴会だろう。

一緒に飲まないかと誘われたが丁重に断っておいた。あいにく俺は前から酒は好まなかったため、こっちに来てからも飲んでない。とにかく、ギルドのお姉さんにあの後どうなったかを聞くか。

 

「ああ、ユタカさん、お待ちしておりました。今回の魔王幹部、デュラハンのベルディア討伐に参加いただきありがとうございます。今回、皆様には魔王幹部討伐のための報奨金が渡されることになっております。ユタカさんに関しましては、戦闘において魔王幹部の行動の妨害を行い、また正門や外壁、街への被害軽減による評価を加えた額を差し上げます。」

 

…………待って、討伐による報奨金も、妨害のことはわかるが、正門や外壁に街への被害軽減ってなんぞや?

 

「…………被害軽減?心当たりがないのですが一体何があったのですか?」

「ユタカさんが行ったスキルですね、あれによって水がせき止められたことにより、ある程度勢いをなくしたのです。その結果、正門やその付近にある家への洪水の損害が緩和されました。大変感謝いたします。」

 

……ああ、駄女神がやらかしたあれか。あの時は必死に止めていたからよく覚えていないんだよな。

 

「つきましては、報奨金は二千万エリスです。ご確認ください。」

 

……………………ふぇ?え、二千万エリス?………………いやいやいや、多すぎでないだろうか!これが魔王幹部討伐による正当な額なのだろうか?しかしあいつの討伐にそこまでこの額が見合っているとは思えないのだが。

 

「あ、可愛い。……いえ、何でもございません。それに関しましては別口から徴収しますのでご安心を……ああ、ちょうど来ましたね。」

 

別口から徴収っていったい何をするんだろうか。というか、来たのはカズマじゃないか。…………なんか、嫌な予感がするから離れておく。

 

「サトウカズマさん、ですね。お待ちしておりました。実はカズマさんのパーティーには特別報酬が出ています。」

 

まじか。もしかしたら、大方最後にアクア辺りが神聖魔法で葬ったのかもしれない。アンデットに葬るという言葉が正しいかは置いておいて。

 

「えー。サトウカズマさんのパーティーには、魔王幹部ベルディアを見事討ち取った功績を讃え…………三億エリスを与えます!」

 

……うん、たしかにアクアは神聖魔法と洪水で、めぐみんは爆裂魔法、ダクネスは戦闘を長引かせて時間稼ぎ、カズマはその発想でデュラハンを追い詰めた功績としては十分だろう。

 

そしてその言葉を聞いたカズマがパーティーに集合を掛けて何か話し合っている。少し聞こえてくる言葉に耳を立てると、カズマはもう冒険者として働く気は無いようだ。その幸運で商人に転向するつもりなのだろうか。んで、他のメンバーはそれに反対している、と。何ともあいつららしいグダグダっぷりだな。

 

というかお姉さん、何で困ったような申し訳なさそうな表情をしてんの?まぁ、勝手に話し合われたら困るか。って、小切手を渡した?それを見たカズマの顔色が一気に青くなっていった。

 

「ええっと、ですね……実は、アクアさんの召喚した大量の水により、外壁や街の入り口付近の家に大きな被害が出ておりまして……魔王軍幹部を倒した功績もありますし、全額弁償とは言わないから、一部だけでも払ってくれ……と……」

 

……ああ、お姉さんが言っていた別口からの徴収の意味が分かった気がした。アクアとめぐみんがこっそりと逃げ出しそうになっていたが、カズマがしっかりと捕まえていた。

 

「報酬三億。……そして、弁償金額が三億一千万か。明日は金になる強敵相手のクエストに行こう。」

 

ダクネスの言葉に、思いっきり肩を落としたカズマに後で何か奢ってやることを決意した。

 




とりあえず、次の話は二巻に入るまでの閑話としていきたいです。
その後に二巻に入っていけたらいいなぁ……

※カズマたちの借金の額が原作よりも減っているのはきっと仕様です。仕様です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話1 新しいスキル!

このお話は一巻と二巻の間をイメージして作った短編的なお話です
原作とは全く関係のないオリ展開ですのでそれが苦手な方はお気を付けください

あと、次回も似たような話を挟むつもりです
ご了承ください


 ……さて、あのデュラハンが討伐されてから、もう一か月過ぎた。高難易度しかなかった依頼も、デュラハンに怯えていたモンスターが活発になるにつれて元通りになってきた。ギルドでは冒険者たちが騒いでいる日常に戻りつつある。とはいえ、デュラハン討伐の報奨金が出ているから冬に備えては貯蓄をゆっくりとためている最中らしい。だからか、昼でも酒を飲んでいる奴も前よりもちらほら見える。

 

 そんな俺も宿屋の仕事を手伝いつつ他のパーティーに混ざって依頼を達成する忙しくも楽しい生活を送っていた。魔王討伐?あんなの他の奴に任せるに限る。

 

 さて、今までカエルやらワニやらその他大勢のモンスターを爆ぜ潰してレベルアップしてきたが、今回遂に他のスキルを取ることにした。

 

 というのも以前のデュラハン戦で俺のやったことなんぞ妨害と被害軽減だけになっている。『コンプレスグラビティ』も通常のモンスターなら爆ぜさせることも可能だが、あのデュラハン相手の様に、格上相手には良くて妨害程度だった。

 もし、また格上相手と闘う際に『コンプレスグラビティ』だけでは碌に戦えないだろう。ましてや俺一人だけでやるソロの場合なんて逃走一択しかない。

 

 そこで、ここで新しいスキルを取って占術……戦術の幅を広げよう、ってことだ。この職業、ろくに占星してないが大丈夫なのだろうか。というか、俺のスキルはほとんどがどういった効果を発揮するか分からない物ばっかりで困る。しかも一つ一つにかかるスキルポイントも馬鹿にならないため、運試しじみたことになって困る。まぁ、いい。取らねばわからぬのなら、実際に取ってみるしかないだろう。…………不安で仕方ないのは無視する。盲目白痴の王(Azathoth)?そんなもの知らんな。

 

 

 ―――――

 

 

 で、いくつか取得して試してみた。まず『ガーディアンサテライト』。効果だが、使用者か指定された物の周りに、大きめの石や大量の小石が浮かんで周囲を漂うスキルだった。これ単体だとよくわからなかったが、どうやら敵が近づいたときに自動で攻撃や防御をしてくれるスキルっぽいな。

 初心者たちのパーティーに参加してジャイアントトードを討伐する依頼をやっていた時、群れで来て前衛が抜かれた際に小石の群れがくさび状に固まってカエルの舌を思いっきり突き刺していたのを思い出す。

 

 

 次に選んだのが『ウィスパースター』。こいつはかなり便利で、何か危険なことが近づいたり、訪れそうになったりと俺にだけ聞こえる音、というか声で教えてくれるスキルだ。なんだが、唐突に耳元に話しかけるように発動するためか、ちょっと心臓に悪いことと、一日に発生させられる回数が決まっていること以外は良いスキルだと思う。それにこのスキルは『ポラリス』との併用でもっと酷くなる。屋外では盗賊職の領分を思いっきり食っちまうレベルで優秀なスキルだ。

 

 

 最後に『コメット』。これに関してはちょっと驚くことがあった。何せ、こいつは攻撃と支援の二つの効果が発動できるスキルだったからだ。

 攻撃に関してはその名前由来の為なのか、ほうき星のように尾を引きつつ発射される魔法弾だ。威力に関してはそれなりだが、『コンプレスグラビティ』のように一旦集中してから発動させるようなことがない。つまり、意識した瞬間に発動が可能なのだ。速攻で発動できる分だけ重宝はできる。牽制に使おう。

 そして肝心の支援の効果なのだが、俺が味方と認識した相手にこの魔法弾を撃ちこむと、対象の相手は敏捷が上昇するバフを得るというものだった。効果時間こそ長くはないが、上昇幅が大きい。例えば重鎧を着たクルセイダーのような敏捷が遅い者でも、他の冒険者と同じくらいにかなり素早く動けるようになった。ちょっと癖こそあるものの、慣れれば良いスキルだとは思う。

ちなみにこのスキルの効果は、ダクネスが実験体として名乗り出てくれたために判明した。本人は痛みに悶えるかと期待していた分、落胆の気持ちが大きかったようで申し訳ないやら頭が痛むやら何とも言えない。

 

 

 ……以上が今回取得したスキルになるか。今回は安全そうなのを取ってみたが、効果もどっちかというと後衛や支援役の奴が多いな。パーティーを組む分にもいいのだが、ソロでの効果を発揮できるのもあってよかったと思いたい。

 

 というか、他のまともな名前のスキルに紛れるように隠れてあったから見たときは驚いたのだが、『スーパーノヴァ』とか『エクストリームメテオ』って何だよ。明らかに爆裂魔法と同系列のアレだろ。流石にあれと同じようなことをする気は一切ないと思いたい。

 

 そして、子孕む雌山羊(Shub-Niggurath)というまたどこかで聞いたことがあるような取得可能なスキルも生えてきているし。俺がこの体で生理を迎えたことの皮肉かこのスキル、色々とふざけんなよこんちくしょう!

 そもそも俺は男だし、そもそも孕むつもりも男と付き合うことも……ない……ない……ないよな?最近自分でもちょっと怪しくなってきたからそんなことが起きないように祈っておこう。

 

 

 ―――――――――――― 

 

 

 月が軽く昇り始めたころ、俺はギルドに飯を食いに来ていた。今日も必死にクエストを達成していたのだろうか、カズマが口から魂が出そうな顔で机に張り付いていた。しかし、他の仲間も見えないし、一体どうしたのだろうか。

 

「…カズマ、どうしたのですか?疲れ切っているのは分かりますが、そこまで疲れているのでしたらもう帰って休んだ方が良いですよ。」

「………………ああ、ユタカか。今は軽く休憩しているだけだ。飯食べたらもう帰るから大丈夫だ。」

「……その顔で大丈夫は信用できませんよ?とりあえずご飯でも頂きつつ話しませんか?借金もあるそうですし、今回はこっちが奢りますので好きに注文してください。」

「マジでか!ユタカありがとうな!お姉さん、ここからここまでのメニュー持ってきてください!」

 

 おいふざけんな、そこまで奢るつもりはない………………はぁ、ま、今回だけだぞ。流石にあそこまで嬉しそうな顔をしているのに、やっぱり無しというは可哀想だ。

 

 

 

 先に持ってきてくれたサラダをほおばりつつカズマと話をした。今回の依頼はアクアとめぐみんの反対を押し切って、局地的に大量発生したジャイアントトードの討伐を行ったらしい。討伐報酬は安くても数で押していけば大丈夫と高を括ったらしいが、アクアは一番に特攻して丸呑み、ダクネスもアクアを助けるという名目で突撃し丸呑み。そんな二人を巻き込むように爆裂魔法を撃っためぐみんも結局は丸呑み。最終的にはカズマがほとんど討伐を行ったらしい。そりゃ、あんだけ疲れもするわけだ。

 

 で、仲間は仲良く大衆浴場で粘液を洗い流しているそうだ。それで仲間を待っていたカズマが俺と出会った、と……この机に乗っている料理も仲間たちのためにお願いしたのだろうか、そう考えるとしっかりとリーダーをやっているんだな、と感じるはする。やっていることはたかりであるが。

 

「ところで、ユタカの方はどうなんだ?ベルディアの報奨金もあるのに依頼をこなしているそうじゃないか。しかも、新しく冒険者になった初心者たちのパーティーに混ざって、冒険の仕方やモンスターとの戦い方を教えているとかも聞いたぞ。」

「……ただの趣味と実益です。私は固定で組むのは嫌ですので、臨時参加できるパーティーが増えれば、色々と楽ですので。」

「んー、本当、固定パーティーを組むつもりはないんだな。俺たちのパーティーに今すぐ入ってほしかったが、ま、諦めておくな。」

「……そうしておいてください。臨時参加するパーティーには申し訳ないですが、こっちの方が気楽にできますので。」

 

 本当、参加できるパーティーが増えてくれるとこっちは嬉しい。それだけぼろを出す確率も下がって安心できる。

 

「まあ、今はせっかくの楽しい飯の時間だ、つまらない話を振って悪かったな。それじゃ、料理も着たことだし、乾杯でもするか!」

「…………そうですね、ご飯、頂きましょうか。」

 

 おっと、お姉さんが大量の料理を持ってきていたか。それじゃ、いただきます。

 

 ――――――――――――― 

 

 

「…………そこまで疲れているのでしたら、マッサージとかしてもらった方が良いですよ。ダクネスあたりなら頼めばやってくれそうですよ」

「それもそうなんだがな……ダクネスはあのパーティーの中では色々と支えてくれているから下手に頼むのも忍びないんだよ。めぐみんも爆裂魔法打つから疲れているし、アクアは論外だし」

 

 疲れているためか、カズマの飯を食うスピードも遅そうだ。食わねば疲れは取れないと思うが、そりゃ、ジャイアントトードというデカ物を何十匹も一人で倒すのは骨が折れるしな。大変お疲れさまである。さて、カズマの疲れはどうするべきかだな。仮にも元同郷、現在はこうして話したりする知り合いだしな。多少の困りごとくらいなら乗ってあげたい。

 

 とりあえず大衆浴場で多少の疲れは取らせるとして、その後をどうするかだな。一旦アクアたちから離しておいた方が良いが、あんまり長く離れすぎも疑われるしな……あ、ちょっとサービス過剰な気がするが、ま、カズマも俺のようなやつ相手には大丈夫だろう。

 

「……カズマ、疲れているのなら私がマッサージでもしてあげましょうか?」

「はぁっ!?ゆ、ユタカ、急に何言ってんだ!」

「…………?ああ、大丈夫ですよ、やるときは私の部屋でやりますからね。馬小屋ではあまり落ち着いてできないかもしれませんし、安心して受けていってくださいね」

「違うっ!そうじゃないんだ!」

「…………あ、アクアたちが帰ってきましたね。先に頂いていましたが、誘って食べましょうか。足りなくなったら注文しても大丈夫ですよ」

「ユタカ、話を聞いてくれよ!…………まぁ、役得だからいいけどさ」

 

 なんかカズマがぼそぼそ言ってたが、聞こえなかったから無視しておく。とりあえず大衆浴場から帰ってきた三人に手を振って知らせておいた。

 




カズマへのマッサージは気が向いたら書きます


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話2 マッサージ

今回はいつも以上に駄文です。本当、酷いです。
お気を付けください。


「ユタカ、ありがとうね!あ、店員さん!シュワシュワとネロイド持ってきてください!」

「奢っていただきありがとうございますね。あ、カエルの唐揚げも追加でお願いします」

「せっかくの奢りだから遠慮なく頂かせてもらうな。こっちはクリムゾンビアとハンバーグをお願いする。」

「……………………え、遠慮なく食べていいですからね?」

 

こいつら、俺の奢りと聞いた瞬間に別のも頼みやがったな。というか、机にまだ料理があるんだからそっち食ってからにしろよ。いや、金はまだ余裕があるからいいんだけどさ。まさかここまで遠慮せずに頼むとは思わなかったぞ。

 

「あー……その、なんかすまんな」

「………………別に気にしなくていいですよ。私から言い出したことですし、カズマも遠慮なく頼んでくださいね」

「……ああ、そうさせてもらうな」

 

カズマから気遣う声がするが、ま、自分から言い出したことだ。これくらい気にしては人として小さいんだろう。

あと、めぐみんは今が成長期なんだからもっと食え。肉以外も食べておけ。

 

「ユタカには言われたくありませんよ。あなただって私と同じくらいの年じゃないですか」

「……残念ながら、私はもう二十歳ですよ。しっかりと食べておかないと私のようになってしまいますからお気をつけてくださいね」

「…………その、何か、ごめんなさいね」

「……別に気にしてないですから大丈夫ですよ。もう慣れました」

 

本当、幾ら食っても太らないことは羨ましがられるが、俺の場合はいくら食っても成長しなかったからな……お腹の周りですら変わる気がしないというのも不思議な話である。

 

そしてアクアよ、お前いつの間に大量に酒を頼んでいたんだ?奢りで遠慮なく食べていいとは言ったが、流石にそこまで食べるのは神としてどうなのだろうか。あ、お供え物もそんな感じで食っていたのだろう。

 

 

――――――――― 

 

 

食い終わった後はパーティーから離れ、早めに宿屋に帰ってきた。カズマは来ないかもしれないが、準備だけはしておいた方が良いだろう。

取りあえずローブから着替えて、マッサージがしやすいように薄手のタンクトップとホットパンツにしておく。ダサいと思われるかもしれないが、他に動くのに最適そうなものはなかったため諦めておく。

あとは……部屋の掃除もやっておくか。ベッドは俺が使っていたから臭いかもしれないが我慢してもらうとして、ある程度は整えておくか。埃とかが落ちていないかもチェックして、後は……ウィズから買ってきたアロマでの準備もしておくか。照明は少し暗めにしておいて落ち着けるようにしておく。

 

よし、とりあえずは完了だ。せっかくだ、これでカズマが来なくてもアロマの香りでも楽しむとしよう。閉め切っているから漏れる心配もないし大丈夫だろう。

 

…………ん、ノック音?

 

「おーいユタカ―、この部屋で合ってるかー?」

「……カズマですか?少々お待ちください」

 

あ、来たんだ。てっきりあそこまで疲れていたのなら来ずに帰っていたかと思ってた。

 

「……カズマ、いらっしゃい。ちょっと散らかっているけど、ごめんなさいね」

「いや、おかまいなく。……じゃない、本当に部屋に入ってもいいのか?」

「…………私は気にしないから大丈夫です。それに、カズマはそういう人じゃないと信じているので」

 

あくまで俺の推測ではあるが、カズマは性的なことには興味があるがそういったことをするほどの度胸はないのだろう。おおかた、ただのヘタレではあると予想している。だから大丈夫のはずだ。

 

「いや、えっと……まぁ、本人が良いって言うのならいいんだけどさ、薄着でいるのも男として見られていないんだろうし……お邪魔しまーす」

「…………ん、いらっしゃい。服はそっちの籠に入れておいてください。マッサージの邪魔になっちゃいますので、上半身だけ脱いでおいてくださいね。下の方はやってほしいのなら脱いでもいいですがね。」

 

カズマが服を脱いでいるうちにアロマを焚いておく。ウィズから落ち着けるような香りを聞いて買ったから当たりだといいのだが…………うん、なかなかだ。少なくとも俺は嫌いじゃない匂いだ。

カズマも上半身裸で待機している。流石に短パンみたいなものは持っていなかったのか、下は着たままだった。

 

「…………ではカズマ、ベッドにうつぶせで寝てください。私が使っていたので臭いかもしれませんが、そこは我慢して頂けると……」

「いえ、むしろご褒美ですので大丈夫だから!俺は全く気にしないから安心してくれ!」

 

そこまで勢いよく断言されるとちょっと怖い。とはいえ、本人がそこまで言うのなら大丈夫だろう。

 

「……では、最初に腕とかを行いますね。オイルを塗るので冷たいかもしれませんがそこは我慢しておいてください」

「……なぁ、なんでそこまで準備が良いんだ?」

「…………お婆ちゃんとかに、たまにやっていましたので。」

 

どんな順番でやればいいとかは聞いたことがないし、順番は適当でいいか。とりあえずカズマが剣を持っていたはずの右腕からにしよう。親指と人差し指でつまむようにほぐしていく。

……うん、結構固めではある。剣を扱う本職の人には敵わないが、それでもずっと剣を振ってきただけはある。少なくとも日本の一般人とは思えないくらいだ。

 

「…………かなり凝っていますね。剣とかもこっちの腕で振っているんでしたっけ?」

「ああ、そうだな……あ、今の気持ちよかったからもう一回頼む」

 

了解了解っと。自分で思っていたよりも凝っていて驚く。少し念入りにやっておくか。その代わり左腕の方はこっちよりも軽くでいいだろう。

……気持ちいいから顔が緩むのはいいが、鼻をスンスンとしてベッドとか枕の臭いを嗅ぐな。その行為をやられると地味に恥ずかしいんだぞ。というか、嗅いでもいい匂いなんぞしないからな?ベッドの臭いを嗅ぐのならアロマの方を嗅いでおけ。あっちの方が良い香りなんだがな……

…………まぁ、下手に動かれるよりかはましか。右腕は終わったし、今度は反対側だな。こっちはそこまで凝った様子はないが、それでも疲労してはいるのだろう。しっかりと揉み解しておく。

 

「ああー…………」

 

カズマから気が抜けたような声が聞こえたが無視だ。こっちは腕よりも、道具とかを使ったのだろうか、指とか手のひらが固く感じる。こっちは親指だけで伸ばすように押し撫でておく。

 

 

 

 

よし、次は背中とか腰なんだが……カズマの体は俺と比べて大きい。腕とかならまだそのままでもできたが、背中と腰ならば、横からだと上手くできる気がしない。仕方ない、カズマには少し我慢してもらうとするか。

 

「…………カズマ、ちょっと重いかもしれませんが我慢してくださいね?」

「……ん?え、いや、お、重くはないぞ?軽いくらいだから平気だ!むしろもっと体重をかけてもらってもいいくらいだ!」

 

カズマに馬乗りする形になった。尻はとりあえず腰の所に下ろしておく。あんまり乗せておくと痛むかもしれないからな。

さて、では背中からだ。

背中も凝っていたのか、腕とかよりも固い。筋肉もそれなりについてきたのだろうか、脂肪も落ちて綺麗な背中になっているな。ここまで固いと、指でやると間違いなく痛めそうだし手のひらでゆっくり押すようにしてやるか。

 

「おぉぉぉぉぉ……お尻が、おしりが…………」

 

なんかカズマがブツブツと言っているがよく聞こえない。痛くないようだし無視でいいだろう。というか、精一杯やったから暑い。汗も出てきて髪や服が、肌に張り付いて気持ち悪い。あとで着替えるか。

 

 

 

背中もいったん終了。後でまたやるとして次は腰。今度は尻を背中に乗せつつやるか。あと少しだし頑張ろう。

 

「背中、背中に……柔らかいもの…………」

 

カズマがまたブツブツと言い出した。よく聞こえんがまたろくでもないことを考えているのだろう。無視しておこう。

腰も背中と同じく凝っていた。とはいえ腰は強くやると痛いはずだ。少し優しめにやっておく。背骨に沿うように親指でなぞって押していく。

本当は足とかもやりたかったがカズマが脱ぐ度胸がなかったため今回はなしの方向にしておこう。またの機会をお待ちしておりますってね。

 

 

 

 

さて、ようやく最後だ。カズマも気持ちよかったのか、ウトウトとし始めて心苦しいが、軽くゆすって起こす。

 

「………………カズマ、次が最後ですのでそろそろ起きてください。最後のは仰向けで行いますので、そっちの方を向いてください。」

「…………ん、ふぁぁぁ、やってもらっていたのにすまないな。……おお、体が大分軽くなっているな!」

「…………大分やったのでそうでないと困ります。では、ちょっとの間、頭を上げてもらっていいでしょうか?」

「ん?ああ、これでいいか?」

 

カズマが頭を上げているうちに、俺の両膝を潜り込ませておいて軽く挟み込む。いわば膝枕でいいのだろうか、それを両方の太腿で挟むようにしてカズマの頭を固定する。今からやるのは結構痛いかもしれないから逃げだせないようにしておかないとな。

 

なんかカズマの顔が赤くなって、視線が俺の服を見ている気がするが気にしてられない。もう俺もマッサージして疲れているんだ、そこまで気を使うことはできないんだよ。

 

顔や首の筋をほぐすように圧迫しつつ撫でるように行う。これでも痛がる人が出るんだが、カズマは平気そうだ。それならよかった、もう少しだけ強くやってもいいだろう。

あ、こら、暴れんな!思いっきり太腿で挟み込んだらまた大人しくなった。これでよい。

 

 

 

―――――― 

 

 

 

「おお……やってもらうとここまで変わるもんなんだな。ユタカ、ありがとうな!」

「…………ん、どういたしまして。」

 

ようやく終わった。一時間もやってはいないはずだが、ずっとやりっぱなしだったからへとへとだ。今日はよく眠れそうだ。

 

「というか本当に何にも取ったりしないのか?俺としてはここまでやってもらったからせめて何か渡しておきたいんだが……」

「……別にいいです。私個人が好きにやったことですのでお気になさらず。」

 

俺が勝手に言い出したことだし、それで何か取るときは事前に言うだろ。

 

「あーそうか……ま、何か困ったときがあったら言ってくれよ!ユタカにはまだ借り一つあるし、今回の奢りとマッサージで借り二つだな。借りに関しては不可能じゃないことならやってやるからな!」

「…………ん、その時はお願いしますね。とりあえずもう帰った方が良いですよ。仲間の人たちが心配するかもしれませんし」

「……アクアはそんなことをしなさそうだがな。それじゃ、またな!今日は助かったぜ!」

「…………またのご利用、お待ちしております。」

「また、ってしてもらえるのか!?そんじゃ、その時はまたお願いな!」

 

取りあえず宿屋の扉の前で手を振って別れを告げる。カズマもすっかり元気そうで何よりだ。

 

さて、この後はどうするべきか。流石に汗でべったりした体のまま外に出るのは論外だ。一旦着替えなおすとして汗に関しては……もう明日でいいか。明日の朝に大衆浴場に行こう。

というか、さっきから『ウィスパースター』が警告を告げているんだよな。「今、外に出るのは危険」って。ちょっと気になるからカズマを生贄にしてどんなことが起きるか観察しておこう。

 

「……え、あの、宿屋のお爺さんとお兄さんこんばんは。あの、御二人方、なぜ剣を持っているのですか?え、なんで今ユタカの部屋から出てきたって?…………普通にマッサージしてもらっただけですよ?ええ、本当です。いや、本当ですから!剣を構えないでください!あ、ユタカ!部屋の扉閉め―――――」

 

 

…………カズマ、南無。俺は鬼のような形相をしたお爺ちゃんとお兄ちゃんとか、何も見なかったから後は頑張ってくれ。俺はもう寝る、おやすみ。

 

 

 

 

その後、宿屋から悲鳴のような声が聞こえたが気のせいだろう。

 

 

 




ifルートでカズマにべた惚れした純愛物……
気が向いたら書こうかな……まずは本編を書かないとですがねー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第15話 ミツルギ君の魔剣

今回は導入&作者が忙しいため、短めとなっております。
ご了承くださいませ。


季節は巡り、あのデュラハン討伐があったと思ったら気づいたらもう冬になっていた。この世界の弱いモンスターは冬になると冬眠して過ごし、手強いモンスターだけがいる過酷な世界となるからだ。そのせいか、冒険者たちも基本的に宿屋や街中で過ごしているらしい。この時期に冒険に出かけるのは日本から来た転移者だけとのこと。

そのおかげで宿泊兼労働の場である宿屋も大忙しである。冒険者たちが汚した部屋や物の掃除、宿泊の受付の案内に客から頼まれた用事の解決など大変忙しくて困る。その分宿屋は稼ぎ時であるから呼び込みとかもやっている。

 

さて、この時期のモンスターは本当に手強いものばかりだ。正確には弱いモンスターがいなくなるため、高難易度の依頼が残っていたというだけであるが。ともかく、とにかく手強いことだけなのは確かなのだ。例えば、そう―――――

 

「ここに魔剣グラムがあると聞きました!どうか、それを僕に譲っていただけませんかぁぁぁぁぁっ!」

 

 

人がとても忙しそうにしているのに非常に鬱陶しいモンスター(一銭の価値もない話をするお客様)とかな。

 

 

――――――――――― 

 

 

ここまでミツルギが来たのも王都で探し回った結果か、はたまたカズマがやっとばらしたかのどっちかだろう。俺個人としてはバレるまで思ったより短かったな、という印象である。せめてこの時期でなければよかったのだがな!

 

が、それはそれ、これはこれだ。

 

「…………今は忙しいので後にしてください。こちらに価値すらない話をされても困ります。」

 

その話はあとでだ。今の俺は他の従業員と一緒に働いているんだ。仕事の休憩時間か終わった後にならいいからそれまで待っておいてくれ。

 

いや、なんでそこまで落ち込むんだ?俺、当たり前のことを言っただけだよな?魔剣は譲らないとか、また別の所に売ったとかなんて言ってないんだがな…………はぁ……

 

「……ちょうど、宿の空き部屋が一つあるのですが、そこにお泊り頂けるのならお客様のお話としてお付き合いいただけるのですが、いかがでしょうか?」

「…………!!分かりました、お代はいくらでしょうか!」

 

せめてそこがどんな部屋か聞けよ。部屋が一つしかないんだから後ろの女の子たちと一緒になるんだが、それでいいのだろうか?それか他の宿屋に泊めさせるつもりだったのだろうか……いや、ただ考えてないだけだろう。

 

 

 

「……それで、魔剣グラムでしたらもう贈り物としてプレゼントしたので私は持っていませんよ?」

「ちくしょおおおおおおおおおおおっ!!」

 

だから話を聞けよ、なんでそこで走って去ろうとするんだ。そこでどんな奴に送ったかを聞いておけよ。あ、そこの女の子たち、そのイノシシ連れてきて―。今度から首輪でもしておいた方が良いんじゃないだろうか。

 

 

 

「なるほど、この宿屋のお爺さんの贈り物、ですか。色々と早とちりしてすみませんでした。」

「……気にしないでください。こちらも誤解のあるような話し方をして申し訳ありませんでした。」

 

まさかただ話し始めたら急にダッシュするとは思わなかったぞ。まぁ、俺もちょっと意地悪な話し方をしたからとはいえ、あそこまで猪だったとは思わなかったぞ。

というか、謝るのならこっちの女の子たちにも言えよ。この子たちがいなかったらそのまま放置していたぞ。

 

「………………二人とも、苦労しているのですね」

「まぁ、そこがキョウヤの面白いところでもありますし……」

「なんだかんだでかっこいいところあるし……」

 

割れ鍋に綴じ蓋か。このダメンズ好きが、こんな良い子に慕われているんだからしっかりと答えてあげろよイケメン野郎。股間についているブツもぐぞ。

 

「とにかくこの様子ですとまだ忙しそうですね……とりあえず、軽くでいいですのでなぜお爺さんに魔剣を贈ったのでしょうか?」

「…………なんかかっこよかったからです。それに、お爺ちゃんは昔、剣が使えたと聞いたのでそれで贈り物としていいかな、と思ったからです。」

「へぇ……それでですか。そう思って頂けたのならあの剣も誇らしいですね。」

「…………とりあえず、私はもう持っていませんので、交渉はお爺ちゃんと話し合ってください。」

 

 

―――――――― 

 

 

「はああああああああああああっ!!」

「ぜやあああああああああああっ!!」

 

現在、雪をかき分けた草原にて、ミツルギとお爺ちゃんが楽しそうに剣の打ち合いを行っている。特にお爺ちゃんが。

 

…………どうしてこうなった。

 

それもこれもミツルギとの交渉で、錆落とししたいとか言って闘うって発想が思い浮かんだお爺ちゃんが悪い。俺に勝ったら魔剣を返すとか、そんなノリで良いのかよ。後でお婆ちゃんにしこたま殴られようが俺は知らん。自分だけで頑張れ。

 

まぁ、護衛の冒険者を連れずに行商人をしていたからなんとなくは想像がついていたけどさぁ……お爺ちゃんだけでなくお婆ちゃんにお兄ちゃんまで冒険者とか思わなかったぞ。

 

「お爺さん、なかなかやりますね!」

 

というかお爺ちゃん、なんで自分の身長よりもデカくてゴッツイ剣振り回してんの?あれで身体が衰えたとか冗談かよ。あと、左腕の手甲から時々魔法か何かで爆発が出ているんだけど、あれあくまで牽制用の攻撃だよね?地面が思いっきりえぐれているんだけど。てか職業が狂戦士(ベルセルク)って…………

 

お爺ちゃん、まさかとは思うけど、ガッツって名前じゃないよね?違うよね?トラウマとかないよね?

 

 

「うがああああああああああああああああっ!」

「うわっ!と、まさかここまで激しいとは思いませんでしたが、これで終わりです!」

 

あ、ミツルギの斬撃がお爺ちゃんの鎧を砕いた。というかあの巨剣の猛攻を掻い潜って攻撃するとか度胸あるなぁ…………これで勝負は終了、ミツルギの勝ちだな。

 

「キョウヤ、お疲れ様!」

「あのラッシュを躱すなんてすごいわ!」

「最後のラッシュは本当に紙一重の差でしたね、何とか躱せてよかったです。さて、それでは魔剣を…………」

 

お爺ちゃん大丈夫?久々に動いたんだから無理は……え、これくらいはまだまだって?それならお婆ちゃんを呼んできて鎧を壊したことを言っても大丈夫そうだね。あ、こら、なんでそれは嫌だって泣くんだよ。壊したのは自分だろうが、しっかりと叱られてこい。

 

「えっと……取り込んでいるようですみませんが、約束通り私は勝ちましたので、この魔剣は譲ってもらう、でいいですね?」

「…………それでいいと思います。お爺ちゃん、今は何か壊れていますのでお好きなようにしてください。」

「そ、そうですか……その、頑張ってくださいね」

「…………応援感謝します。ところでお客様、今晩はうちの宿屋で泊っていくのでしょうか?魔剣も帰ってきましたし、泊まっていただかないのでしたら代金はお返しいたしますが……」

「いえ、せっかく払いましたし、泊まらせていただきます。魔剣だけもらってさよならもあまり気分が良くありませんしね。それに、この宿屋もなかなかの評判だと聞いていますのでこれから楽しみですね。」

 

そうかそうか。それならしっかりと任せてくれ。ただ、今泊まれる空き部屋はキングサイズのベッドしかないがな!こいつもなんだかんだでヘタレだろうし、夜は手を出せなくて存分にムラムラするがよい!

イケメンでハーレムなんぞ作りやがって、羨ましいんだよ。性別的に女の子と付き合えない俺からのプレゼントだ。喜んで受け取ってくれ!ふーはっはっは!

 

 

 

翌日、こいつらの部屋の掃除をしようとしたらヤルことヤッたのか、それっぽい臭いや液体の跡に大慌てした。くそっ、くそっ!他の部屋でも言えるが、こっちは色々と気恥ずかしくて困るんだよ!せめて臭いくらいは換気して取り除いておけよ!

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第16話 冬将軍

今回も色々と謝らなければならない話で申し訳ありません
あと、今回も駄文ですのでお気を付けください

カズマかユタカか、どっちにするか悩んだらこうなりました。
ご了承ください


「…………金が、欲しいっ!」

 

いつものギルドでカズマが呻いていた。どうやらカズマたちの借金は無事に返せなかったらしい。そして、その借金のことでカズマとアクアが言い争い、言い負けたアクアが泣きつく光景も、俺もギルドにいる連中も見慣れたものである。もっと面白いことでもしてくれないだろうか。それか、コントをやらないなら早く話を進めて欲しい。

 

にしても、この強敵揃いの冬でも依頼を順調にこなしているなんて素晴らしい冒険者の鏡だ。流石の俺でも、この時期は自重して宿屋の手伝いに勤しんでいるのに、なんとも頭が下がる思いだ。尊敬できることだ、胸を張れよ。

 

おや、俺の言葉にカズマが拳を強く握り震えているが、そこまで嬉しかったのだろうか。それならもっと言ってあげた方がよかったか。それか、応援でもしてほしかったのだろうか。頑張れ、頑張れっと。

 

「……今日は珍しく機嫌が悪そうですが、大丈夫でしょうか?」

「…………ちょっと不快なことがあったので気が立っているだけです。気にしないでください」

 

まったく、ミツルギたちに限ったことではないが、そういったことに盛るのであるなら、それ専門の宿屋でやってほしいものだ。今回は俺が悪戯でそういう風に仕組んだが、うちのような一般の宿屋はそういったサービスは付いていないんだから、そっちに行って思う存分盛ってほしい。せめてうちの宿屋でヤルにしても、俺が気恥ずかしい思いをしないように換気をするなり自分で掃除するなりはしてほしい。

 

 

 

 

 

で、なんで俺はカズマたちのパーティーに呼ばれたんだ?依頼をこなす為なのはわかるが、どんなことをするかの説明くらいはしてほしいんだが。

 

「ああ、それなんだがいいクエストが見つかってな。そのモンスターの情報を聞く限りユタカのスキルが重宝しそうだったから呼んだわけだ。今回の報酬はまず、俺たちのパーティーとユタカの二つで山分けだ。その後で俺たちの分は俺たちで分けるから、報酬の量は心配しなくていいぞ」

「……それでしたらこちらは多く報酬がもらえるのですがいいのでしょうか?借金もありますし、私は全員での山分けでも大丈夫ですよ?」

「いいんだよ、今回の依頼はそれだけユタカの働きで稼ぎが変わるほどなんだからな」

 

……そこまで変わるほどっていったいどんな依頼なんだろうか?

 

「それなんだが、どうやら雪精の討伐って依頼何だが、話を聞く限りだと小さくてすばしっこいからあの重力を使うスキルがあると楽になりそうだろ?」

 

…………ああ、なるほど。

 

 

―――――――― 

 

 

雪精。一匹倒すごとに半日春が早く来ると言われているモンスターで、一匹倒すごとに10万エリスという破格のモンスターだ。大きさは手のひらほどで普段は雪深い雪原に生息しており、攻撃されると素早い動きで逃走するってところか。

 

「ユタカ!そっちに追い込んだから全部捕まえてくれ!」

「…………了解、『コンプレスグラビティ』ッ!」

 

カズマの誘導で集まってきた雪精の集団に重力を掛け、動きを遅くする。その後、カズマやダクネスが剣で倒すという作戦だ。めぐみんはもっと多くの集団が集まってきたときに爆裂魔法を使わせるように待機させている。アクア?虫網持って追いかけ回していて協調性のかけらもない。あとダクネスよ、せっかく動きを遅くしているのに、剣が全く当たっていないのは気のせいか?

 

「…………それにしても、一匹10万エリスとか美味しいのに、何で誰もやろうとしないんだ?」

 

まったくではあるが、こういった美味しい話には何らかの裏があるはずだ。少なくとも、俺がキャベツの監視をやっていた時の報酬が50万エリスなのだ。それがたったの五匹倒すだけで追いつくとか胡散臭いにもほどがある。どうせ、なんか強いモンスターか不思議な現象でも起こるからだろうか。

 

「……ん、出たな!」

 

ダクネスが大剣を構え、顔がドMの状態の時に現れる上気した笑みを浮かべていた。なんだと思った瞬間、突如、雪煙が現れた。カズマが慌てているということは、敵感知でもいることが分からなかったレベルなのだろう。とりあえず、戦闘態勢は取っておいた方が良いだろう。

 

「……カズマ。なぜ冬になると、冒険者がクエストを受けなくなるのか。その理由を教えてあげるわ。」

 

……あん?どういうことだ駄女神。弱いモンスターが冬眠して手強い奴だけ動き回るからじゃないのか?

 

「あなたも日本に住んでいたんだし昔から、この時期になると天気予報やニュースで名前くらいは聞いたでしょ?雪精の主にして、冬の風物詩とも言われている……」

 

……この時期で天気予報にニュースで出る名前?木枯らしは違うだろうし、吹雪とかのことだろうか?…………駄目だ、推測がつかん。雪崩の可能性かと思ったがダクネスが剣を構えている以上、それも違うだろう。いったい何なのだ?

 

 

 

「そう。冬将軍の到来よ」

 

 

 

……………………………………はぁ?なんで冬将軍がここに……本当に冬将軍じゃねぇか!?てか、日本特有の甲冑に刀を持っていやがるし。なんでこんな存在がここにいるんだよ。

 

「ああっ!?わ、私の剣が…………!?」

 

ダクネスが冬将軍と闘っているうちに、何か知っていそうなアクアの話を聞いておこう、なんかもう、アホらしくて頭が痛い。

 

 

で、あの冬将軍、というより冬の精霊に限らず精霊の類は元々決まった実体を持たない。出会った人々の思い描いた姿を取るらしい。で、冬の精霊は危険な冬に出かけるような馬鹿は基本いなくて出会うこと自体が珍しかったらしい。…………日本から来たチート持ち以外はと付くが。

 

「……つまりこいつは、日本から来たどっかのアホが、冬と言えば冬将軍みたいなノリで連想したから生まれたのかよ!なんて迷惑な話だ!」

 

本当、まったくだよ。なんでそんな連想をしちゃったんだよ。というか冬だから冬将軍を思い浮かぶ当たり、どこかズレている奴なのだろう。

 

「カズマ、聞きなさい!冬将軍は寛大よ!きちんと礼を尽くして謝れば、見逃してくれるわ!DOGEZAよ!DOGEZAをするのよ!皆も武器を捨てて早くして!ほら、謝って!皆も早く謝って!!」

 

…………うわぁ、あの駄女神、何の躊躇もなく土下座しやがったぞ。普段の神としてのプライドとかないのだろうか。

 

とはいえ、ここで突っ立ったままだと俺も巻き込まれそうだし、土下座がいったい何なのか、知らないふりをしつつ顔を雪に伏せた。冷たい……

 

 

……あの、ダクネスよ、なぜ武器も捨てずに突っ立ったままなんだ?あ、いつものドMですかそうですか……。流石に『コンプレスグラビティ』を使って倒させると攻撃判定になりそうだから俺は何もせずに大人しくしておこう。どうせカズマがツッコミみたいに止めに行くし。

 

「おい何やってんだ、早くお前も頭下げろ!」

 

あ、やっぱり行ったか。まぁ、カズマがダクネスを止めているし、このまま終わりそうだし大丈夫かな……

 

…………なんで冬将軍は剣を構えたままなんだ?少なくともカズマもダクネスを押さえつけつつだが頭を下げているし…………!あいつ、剣を持ったままじゃねぇか!

 

「カズマ、武器武器!早く手に持っている剣を捨てて!!」

 

カズマも気づいたか、これでだいじょ、うぶ…………

 

 

カズマ、何で頭がなくなっているの?何でカズマの頭が空を飛んでいるの?何で赤い液体が零れだしているの?なんで、カズマのからだがたおれていっているの?

 

なんで?

 

なんで?

 

なんで?

 

 

 

 

 

 

なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで

 

 

「ユタカしっかりして!今頭を上げちゃだめだから!」

 

 

 

あ、れ?おれ、こんなにしんちょうたかかったっけ?さっきまでかおをつけていたしろいのが、ちかづいて―――――――――

 

 

 

 




女の子は満面の笑みや悪戯したような笑顔もいいけど、泣き顔や目が死んでいる表情も素敵だと思うのは間違っているでしょうか?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第17話 謎の場所

今日も色々とオリ展開に走ってごめんなさいです。

ちょっと忙しかったため、今日も短めです。


ふと、酷い眠気が体にのしかかっているように感じた。このまま眠ってしまうのも良い……しかし、何でか知らないが、目を覚まさないといけない気がする。

重たい体を無理やり動かして眠気を覚まさせ、眼を開かせる。

 

「…………なんだここ?」

 

そこは、俺が何度も見たはずの宿屋の天井ではなく、まさしく闇と呼ぶにふさわしい色をした世界であった。天井も、床も、壁と思われる側面の物も、ただ漆黒に染まっていた。

 

…………なぜ俺はここにいるのだろうか。というか、ここはどこだ?アクセルの街にこんな施設があったとは思えないが……路地裏のひとつの家屋の中に、こんな風に塗装したところがあってもおかしくないか。

幸いと言えばいいのか、髪が背中を撫でるように触れたため、俺の体はまだ女の子のままだろう。となると俺はまだ生きている可能性……生きている?なぜそんなことを思ったのだろうか?まぁ、いい。とりあえず、動かなければ事態は解決しないだろう。

 

部屋全体が黒ではあるが、照明と思われる明かりもちらほら見当たる。俺の職業である占星術師(ゾディアック)は、夜空で星を観察するためか知らないが、暗闇の中でも多少目が効くはずだ。これなら、何とか道も理解できる……と良いが。

とにかく、歩いてここがどこか調べなければ。

 

 

どうやらここは長い一本道らしい。さっきから周りを見ても扉も見当たらない上、草などの植物も見当たらない。そして同じ黒色しかない。正直見飽きた。かれこれ一時間は歩いたと思うぞ。

にしても本当、ここはどこだろうか。こんなに長い一本道だ、少なくともアクセルの街ではないことは確かだろう。しかし、誘拐された記憶はないんだが……というか、俺は今まで何をしていたんだ?

カズマ達と依頼を受けて、雪精の討伐をして、俺が「『コンプレスグラビティ』」して動きを遅くしたり、めぐみんが爆裂魔法を撃ちたそうにしていて、それで、それで…………

 

「ッッ!?いってぇ…………」

 

その後がひどい頭痛がして、思いだせない。一体何があったのだろうか……

一旦、思い出すのは後にしておこう。今はここがどこかの探索だ。とにかく、脱出してカズマ達と合流せねば…………あ?

 

「…………あっちから、何か聞こえた?」

 

もしかしたら、俺を誘拐した犯人がいるかもしれない。とりあえず、ばれないように音を立てずに近づこう。いざとなったら俺のスキルで何とか対処ができるかもしれない。

ただ、『ウィスパースター』が強く警告している言葉が気になる。【万物の王を見るな】とは、いったいどういうことなのだろうか。万物というくらいだし、このウザったい空間を作り出したやつがいるのだろうか。会ったらぶん殴ってやろう。…………よし、進もう。

 

~~~~~~~

 

その音がする方に近づくにつれて、その音の正体もわかってきた。

太鼓と思われるものと、笛と思われるものだ。太鼓の方は酷く激しいリズムを刻み、フルートの方は単調に聞こえてくる。これは何らかのスキルを発動するための準備なのか、そのスキルを維持するためにやっていることなのか。それともこの音自体がスキルの効果なのか判別がつかない。

 

そんなことを考えつつ歩いていたら、目の前に扉があった。そう、扉である。見たことない模様が描かれたり、線と形がすべて狂ったようにも見えるが扉である。

変化も何もなかった一本道の終わりにこんな扉がある時点でいろいろと怪しい。しかも、音も扉の先から聞こえてくるとかもうアウトだろ。どう足掻いてもここに首謀者がいることは確実だろう。とはいえ、『ウィスパースター』が警告を発していたということは危険があることは確かだろう。

扉にそっと触れる。鍵が掛かっている様子はなく、少し押しただけでも動いた。動いた際にできた隙間からそっと覗いてみる。

 

 

そこには、玉座に座って眠っている銀髪の女の子と思われる幼子と

 

 

 

 

 

 

 

 

絶えず形を変える謎の生き物が太鼓と笛を奏でていた。

 

 

「…………!?………………どういうことだ?というか、何だあれは!?」

 

少なくとも俺が見たことない生物に嫌悪感を覚えるものの、何とかそれを無視できるレベルではあった。

見た限り、あの女の子は鎖などで縛られていそうではないが、魔法か何かで動きを制限している可能性があるだろう。眠っているのも、魔法で眠らされたためだろうか。

 

問題は、あの不定形の生物だ。あの太鼓と笛はこの状況を引き起こしたと思われるものだ。あれらを破壊すれば俺は元の場所に戻れるのだろうか、どうなるかが全く分からないが、強襲してあれらを破壊すればなとかなるかもしれない。『コメット』で狙うようにすれ

 

 

 

 

「あらぁ……そんなことしちゃだめよぉ?眠っている子は起こしちゃダメって知らないのぉ?」

 

 

 

 

!?背後からの声!いつの間にいたんだ!

振り返るとボンテージを思わせる黒の革の服を身に纏い、腹部が膨らんでいる褐色肌黒髪の女がいた。あの腹には子でも孕んでいるのだろうか?

 

「そんなことどうでもいいわよぉ、ただ、それをしちゃこの世界がどうなるか分からないしぃ……あらぁ?なんで端末がここにいるのかしらぁ?」

 

…………世界?あれは世界に干渉、または概念などに干渉できるほどの物だろうか?

そして、端末、か?どういうことなのだろうか。

 

「……ま、いいわぁ。とにかく、ここは貴女がいちゃダメな場所よぉ。はやく元の場所にもどりなさぁい」

 

女がその言葉を言った瞬間、俺の後ろにあった扉から霧がかかったかと思ったら、次の瞬間には巨大な門に変わっていた。これも何らかのスキルによるものなのだろうか?よくわからなくなってきた。

 

「それじゃぁ、またねぇ。私も貴女の事は応援しているから頑張ってねぇ。あ、それとあんまり死んじゃ駄目よぉ?死に過ぎたらペナルティとかついちゃうわよぉ」

 

……待て、死んじゃ駄目って俺が死んだみたいじゃないか!どういうことか説明しろ!

 

「うるさいわねぇ……今は話すことなんかないからさっさと行きなさぁい」

 

女の言葉に門が開き、俺はその門からの強力な力に抗えず、引きずりこまれるようにその門に入っていった。

 

 

――――――― 

 

 

「……………………!!…………タカ、……きて!ユタカ、大丈夫!?」

 

…………うるさい……誰だ、今ものすごく眠たいんだからもう少し眠らせてくれ。

 

「あ、今反応があったわよ!ほら、少し動いたわよ!」

 

……うるせぇ。大きな声なんぞ出すな。頭が痛くなる。

 

「ほら、今も動いた!顔だって少ししかめているでしょ!謝って!回復すらできない駄女神なんて言ったこと謝って!」

「いや、その割には意識だってまだ戻ってきてないんだが……というか、俺には動いたようには見えなかったぞ?」

「うるさいわね!ちゃんと私が動いたって言っているんだから動いたのよ!」

 

………………………………いい加減にしろ。

 

「………………二人とも、うるさいです。何をそんなに争っているのですか?」

「あ!ほら、ちゃんと復活したじゃない!私のやっていたことは間違っていなかったのよ!」

「んなもんほとんど結果論だろうが!さっきまで魔法が効かなくて大慌てしていたのは誰だよ!」

 

駄目だこいつら、人の話を聞く気がない。さっきまで眠っていたみたいだからどんな状況か聞きたいのにまたコントしてやがる。

…………めぐみんとダクネスに助けを求めるように目線を送ったら、そっと目をそらされた。おい、お前たちの仲間だぞ、何とかしろよ。

 

「いい加減にしなさいこのヒキニート!ちゃんと戻ってきたんだからさっき言っていたことを訂正して謝りなさい!」

「はぁ!?なんでそこでヒキニートっと言われなくちゃいけないんだよこの駄女神が!」

 

…………腰に差していた非常用のナイフの刃の所を持って、二人の頭を柄で殴っておけば落ち着くだろうか。

 

 

 

落ち着かせた(物理)二人と見捨てた二人から聞いた話をまとめると、カズマと俺はあの冬将軍に首を撥ね飛ばされたらしい。で、カズマと俺にアクアが『リザレクション』を掛けたとのこと。カズマの方は天界規定やらなんやらで揉めたがアクアが脅したことによって蘇生はできたらしい。

で、問題が俺の方で、カズマと話していたこの世界の神では俺の存在を観測できず、魂がどこかに行ってしまって復活が出来ず、アクアがアークプリーストの魔法を色々試してみたがそれでも無理だったらしい。それでも諦めずに再度挑戦しようとしたら俺が目を覚ましたとのこと。

 

……あそこの話はしておいた方が良いのだろうか。少なくとも、この駄女神ともう一柱の神では知らなかったなら、あまり言わない方が良いな。どう考えても厄ネタにしかならん。とにかく、ここは適当に誤魔化しておこう。いつの間にか目を覚ましたら二人が喧嘩していたって感じに。

俺の誤魔化しの言葉に皆納得してはいたみたいだし、これで良いだろう。こんなものに巻き込ませるのはやめておいた方が良い筈だ。

 

その後、アクアの提案で今回の依頼はこれで終了になった。アクアから首をはねられたんだからしばらくは安静しておいた方が良いとのことらしいので、宿屋の手伝いも冒険者稼業も一旦休むか。

 

 

 

にしても、玉座に眠る……太鼓に笛……そして、あそこで出会った子を孕んだ褐色肌の黒髪の女……どこかで聞いたことがあるが、気のせいだろうか?

 

 

 




あと、作者はドSでもリョナラーでもありません。
ただのセクハラ好きな普通の人です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第18話 昼寝()

今回は色々と生臭いもので申し訳ありません。お気を付けください。
というより、作者は色々と吹っ切れたので今後からこのような描写が混ざっていきますのでご了承ください。

というか、クリスマスイブなのになんでこんなもの書いているのだろうか……
性夜でも精夜でもないのに……



「……おい、もう一度言ってみろ」

「何度だって言ってやるよ。荷物持ちの仕事だと?上級職が揃ったパーティーにいながら、もう少しマシな仕事に挑戦できないのかよ?大方お前が足を引っ張ってるんだろ?なぁ、最弱職さんよ?」

 

静まり返っているギルドに酔っ払いの言葉と、それに返しているカズマの声が聞こえる。毎度思うがどうしてこうもトラブルが多いのだろうか。冒険者自体が荒くれ者だからだとはいえ多すぎだろ。ギルドの関係者も、いつものことと割り切って無視しているし。

 

「おいおい、何か言い返せよ最弱職。ったく、いい女も引き連れて、ハーレム気取りか?しかも全員上級職ときてやがる。さぞかし毎日、このお姉ちゃんたち相手に良い思いしてんだろうなぁ?」

 

その言葉でギルド内に爆笑が巻き起こるが、流石にそんな冗談にもならない言葉では笑えない。むしろブラックジョークとしては笑えるかもしれんが、あまりにも馬鹿にし過ぎだ。酔っぱらいの行動とはいえ、これ以上騒ぎを大きくするつもりなら『コメット』でも撃ち込んでいいかもしれない。

カズマも仲間たちの言葉で必死に怒りを抑えているようだが、拳を強く握っている時点でかなりの怒りなんだろう。頑張れ、カズマ。

 

「上級職におんぶにだっこで楽しやがって。苦労知らずで羨ましいぜ!おい、俺と変わってくれよ兄ちゃんよ?」

「大喜びで変わってやるよおおおおおおおおおおおおっ!!」

 

…………ああ、うん、そうだな。カズマ、いっつも苦労していてもっとファンタジーを味わいたいとか言ってたもんな。カズマたちのパーティーとか、ファンタジー以前に苦労することばっかりだもんな。

今度俺と他のパーティーに混ぜさせて、しっかりと楽しませた方が良いかもしれんな。

 

その後もカズマの怒りはヒートアップしていってる。その迫力に絡んでいた男も若干落ち着いてきている。

 

「良い女!ハーレム!!ハーレムってか!?おいお前、その顔についているのは目玉じゃなくてビー玉かなんなのか?どこに良い女がいるんだよ!俺の濁った目ん玉じゃどこにも見当たらねえよ!お前いいビー玉つけてんな、俺の濁った目玉と取り換えてくれよ!」

「「「あ、あれっ!?」」」

 

ヤバい、カズマがキレッキレで笑いをこらえるのがつらい。顔を伏せて必死に耐えているが、体が震えている時点でバレているかもしれないが、もうそんなレベルじゃないだろ。なんであそこまで面白くキレれるのだろうか。さて、残っている飯も早く片付けるとするか。あの調子なら何とかなりそうだし。

 

 

 

その後、カズマと絡んでいた男、ダストが一日だけパーティーを交換することとなっていた。カズマはあの応用力で何とかなるだろうが、あのダストは苦労するだろうな……ま、俺には関係ないからいいが。さて、今日は休みにするか。体調も良くないというか結構危ないし……

 

……なんだよめぐみん、そんな捨てられたような眼をして。一日だけだしすぐに戻って……来るかはわからないが、大丈夫だろ。で、なんで俺の所に近づくんだ?見てはいたからなんとなくは察しているがな。

 

「……その、やっぱり知り合いの人がいたら安心するといいますか、カズマがいないのでどうなるかちょっとわからないので……」

「…………大丈夫と思いますよ。あの人もなんだかんだでまともそうですし、何とかなると思いますよ」

 

さっきから『ウィスパースター』が「こいつらについていくと碌な目に遭わない」と警告を発しているから今日は冒険者稼業をしたくない。というか、行きたくない。捕まる前にさっさと逃げるか。

 

「…………今日はちょっと体調が悪いので、それではまた」

「ま、待ってください!」

 

待てと言われて待つ奴がいてたまるかよ!全力で逃走だ!

 

 

 

その後、『ポラリス』や『ウィスパースター』を駆使しつつ、何とかめぐみんを撒けた俺は全力で宿屋の自室に引きこもった。

 

 

 

―――――――― 

 

 

 

今日に限らず、この頃はある種の体調不良に悩まされていて困っている。それも、アクアとかのアークプリーストに治療してもらうことが不可能で、他人に相談して楽になることも難しいもの。それは人間に限らず、生物であるのなら誰しもが持っている欲求。つまり…………

 

 

今すっげぇムラムラして困っている。

 

割と冗談抜きでそうなっているから困る。男の時は童貞ではあったが、ムラムラしてきたら普通に自己処理できたし、この体になっても生理が来る前はまだましではあった。

だが、生理が来てからいつでも準備OKとでも言いたいのか、性欲が段々と増していっていた。この体の年齢を考えるとまだ性欲が増すような歳でも無いのにだ。そして、このムラムラも波のように収まっている時もあれば、激しく荒ぶるときがある。特に生理前になるほど高まってくるのを感じてきて困る。こんなところでファンタジーさを出さなくてもいいだろ。

 

それでその欲望を処理できればいいのだが、生憎男の時とは違う肉体の上、精神的にもそれで処理すると己が雌であることを認識してしまう怖さから、生理が来てから全く何もしていない。何度か危なくなって手が出そうになったが、食いしばったり布団に思いっきり抱き着いたりして凌いでいるが、もうそろそろ危なくなってきていることが分かる。

 

……もう一回ぐらいはいいだろうか。いい加減自分の性別を見つめなおす機会だろうし、いいかも……いや、俺は何を考えているんだ!俺は男だ!そんな突っ込まれるような方じゃない!突っ込む方だろうが!

 

でも尻や胸なら男の時でもあったし、そこを開発していくのも…………それはそれでなんか違う。男の時でもあったが、その時は触ったりすることもなかったし、違和感がある。

 

というか、宿屋に泊まっている奴も単身の男だったり、カップルみたいなやつが居たりすると、声とか臭いで発情しそうになっているのも問題だろうか。特に男の奴の臭いに反応しそうになった時はもう色々と嫌悪感やら興奮やらなんやらが複雑に混ざったりしたが、これも性別的な反応なのだと思い、何とか誤魔化せている。今度マスクとか耳栓に使えそうなものでもそろえておこう。

 

…………今度、他の女冒険者たちにどうやって処理しているか聞いた方が良いのだろうか。セクハラではあるが、この見た目であれば優しくレクチャーしてくれるかも…………いや、その場合は俺の性別やら体の感度を思い知らされるからやっぱり無しだな。

 

本当、どうするべきか……とりあえず、今日は何もせずに大人しく寝ておくか。ムラムラはこの際無視して強引に昼寝しよう。

 

 

―――――――― 

 

 

すっかり寝入ってしまい、俺が起きた時には夜半になっていた。ムラムラも寝た効果によるかはわからないが、ある程度は落ち着いていて普通に行動しても大丈夫だろう。とはいえ寝すぎた。寝起きだというのに腹が減っていてつらい。カズマとダストがどうなったか聞いてみたいし、ギルドに行ってみるか。部屋着からローブに着替える際に、下腹部から水のような音がしたが無視しておく。

 

冬で空気が澄んでいるためか、今夜の月が三日月よりも細いためかは分からないが、星が綺麗に光っている。街の明かりがあってもこれだけきれいなのだ、外の真っ暗闇の所だともっと綺麗に映っているだろうし、今度暇を持て余したパーティーがいたら、護衛を依頼して天体観測してもいいかもしれない。

 

さて、そろそろギルドにつくのだが、ちょうど冒険帰りだったのか、カズマと、ダストがいた三人のパーティーがいた。カズマたちの表情を見るになかなか良い成果が得られたのだろう。カズマも他のパーティーと笑いながら仲良く話しているし、これで誤解が解けたのならよかったんじゃないかと思う。カズマたちが先を歩いているし、邪魔にならないようにしておこう。

カズマも女の子と知り合えて笑顔でいるし、ギルドに報告に行っているんだろう。扉に手をかけているからそうだと思う。

 

さて、今日はどんな飯にしようか、肉だと性欲が増しそうだし、何か軽めのサンドイッチあたりでもしようか―――― 

 

「ぐずっ……ふぐっ……、ひっ、ひぐう……。あっ……。ガ、ガズまあああ……」

 

あ、そっと扉閉めた。何か面倒ごとでもあったのだろうか。

 

…………巻き込まれるのは面倒だし、他の所で飯を食いに行くか。やってる店がなかったら水でも飲んで凌ぐか。

 

 




つピンクの花



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第19話 ウィズのお店

今回のお話は碌に進んでないためご注意ください。
もっと話を構成が上手くなりたいです……

あと、ウィズのおっぱいをもっと揉みたいです(虚ろな目
あ、幽霊屋敷はカットです


「…………今回はどうでしたか?」

「そうですね、今回はいくつか収穫っぽいのはありましたが、ご期待に沿えるかどうかまでは……」

 

現在、ウィズの魔道具店にてウィズと俺の武器になりそうなものを見せてもらっていた。前回から時間は経っているが、良いものがあるといいのだが……だが、ウィズだしな……

 

「それでですね、武器にできそうな望遠鏡は見つからなかったのですが、水晶の方では良いものがありましたよ!」

「……おお、どんなものがあったのですか?」

 

マジかよ、割と冗談気味ではあったからまさかあるとは思わなかったぞ。で、どんな効果が付与されたものなんだ?

 

「まずはですね、この髑髏の水晶です!これに魔力を流すと対象を確実に死に至らしめる『死の宣告』が行えるようになるんですよ!ただ、一定確率で使用者にも掛かってしまう場合があるのが欠点ですが、良い道具だと思いますよ!」

 

却下。そんなアクアレベルのアークプリーストがいないと使えない物はいらない。

 

「では次に……この爆発の水晶はいかがでしょうか?これも水晶に魔力を流し込むことで爆裂魔法ぐらいの強力な爆発を起こすことが出来ます!ただ、これは水晶に直接触れながら魔力を流し込まないといけないので爆発に巻き添えになってしまいますが、それ相当の威力を出す逸品ですよ!」

 

どこに自爆を喜んでやるような馬鹿がいるか。しかも後衛の防御性能をなめてんのか。ダクネスあたりにでも売りつけておけ。はい次。

 

「え、えーと……では最後に、未来視の水晶はどうでしょうか?これは持っている方に時々、様々な未来を見せてくれるものです!その未来がいつかは分かりませんし、その未来を変えられるかは分かりません。それに、その未来は大概が自分にとって恥ずかしいものだったりするのですが、周囲にいる人たちにもその未来を見せてしまうことがあります。ですが、未来を見られると思えば良いと思いますよ!」

 

…………………………はぁ。

 

「……で、その水晶たちは何エリスで売るつもりだったのですか?」

「それがですね……なんと懇意にしてくださってる商人さんが安く仕入れてくれたので、御一つ1000万エリスです!」

「…………ふ、ふふ……………………」

「……あの、どうかなさいましたか?」

「…………ふざけるなああああああああっ!!」

 

思いっきりウィズの胸ぐらを掴んで叫ぶ。なんか柔らかいものを握っている気がするが、無視だ。

 

「なんで!そんな!ふざけたものを!買ってきたんですかあああっ!!しかも1000万エリスとか売れるわけないですよっ!!」

「待って、待ってくださいっ!でも良いものなんですよ!?間違いなく効果はあるんですからーっ!というか掴むところが違いますよーっ!」

 

うるせぇ!こんなガラクタをよく買おうと思ったな!というかこんなガラクタ売れるわけないだろ!売りつけるなよ!ちくしょうこんな大きい胸しやがって柔らかくて最高だぞ!

 

「出たわねこのクソアンデット!あんた、こんなところで店なんて出して……」

「アクア、お前は黙っていろ。ウィズ、約束通り来た……何やってんだ?」

 

……あれ、カズマ、どうしたんだ?

 

「あ、あの、ほかの方も来ましたので手を離していただけませんか……?」

 

やだ。

 

 

―――――――― 

 

 

で、カズマはウィズからリッチーのスキルを学びにここに来たらしい。アクアがそれでぶつくさ言ってたが、まぁいくら駄女神でもアンデットのような存在は許せないのか。

 

というか、ウィズってあのリッチーだったのかよ。そんな大物には全く見えないんだが……

 

「……あの、私がリッチーだったことに驚かないのですか?」

「……いえ、全然。むしろ納得しました。」

「納得、でしょうか?」

「……ええ、碌でもない物を高値で買っていく素晴らしい脳みそを持っているところとかですね」

 

流石はアンデットの王だ。あまりに腐りきっているからそんな判断になってしまったのだろうか。となるとそんな鑑定眼を持っていることも素晴らしい理由になるだろう。ウィズが涙目になっている気がするが仕方ないだろう。俺は何と言われようとウィズの商売の腕に関しては駄目駄目だとしか言えない。

 

 

「……こほん、そういえば、私、最近知ったのですが。カズマさんたちがあのベルディアさんを倒されたそうで。あの方は幹部の中でも剣の腕に関しては相当のはずなのですが、凄いですねえ」

 

へえ、あのデュラハン、真っ当には強かったのか。というかよく知ってんな、あいつと闘いでもして知ったのだろうか?

 

「あのベルディアさんって、なんかベルディアを知ってたみたいな口ぶりだな。あれか?同じアンデット仲間からつながりでもあったのか?」

「ああ、言ってませんでしたっけ。私、魔王軍の幹部の一人ですから」

 

………………はぁ?

 

「確保―っ!!」

 

あ、アクアが取り押さえに跳んで行った。流石に魔王幹部を何でぽろっと言っちゃうんだろうかこの店主は。

 

「待ってーっ!アクア様、お願いします、話を聞いてください!」

 

いや、無理だろ。流石にそんな存在を見逃すほど甘い神じゃあるまいし。あと、ウィズの胸が床に潰れていて見ごたえがあるし……このまま眺めておこう、役得だ。あのむにむには素晴らしかった。

 

「やったわねカズマ!これで借金なんてチャラよチャラ!それどころかお釣りが来るわよ!」

「おいアクア、一応事情くらいは聞いておけよ、……えっと、幹部ってどういうことだ?冒険者な手前、魔王軍の幹部を見逃すってのは……」

「違うんです!魔王城を守るための結界の維持のために、頼まれたんです!もちろん今まで人に危害を加えたことなんてありませんし、私を倒したところで、そもそも賞金も掛かっていませんから!」

 

おや残念。もし倒されたのなら俺もおこぼれにあずかろうと思ったのだが。

 

「……よくわかんないけど、念のために退治しておくわねっ」

「待ってくださいアクア様―っ!!」

 

…………流石にいい加減止めるか。

 

 

~~~~~ 

 

 

どうやらウィズは、あくまで魔王城に侵入者を入れないようにするための結界を維持しているだけらしい。てっきりリッチーのネクロマンサーとか死者の魂を弄ぶイメージがあったが、このウィズは例外的な存在なんだろう。

 

「つまり、あんたが生きてるだけで人類は魔王城には攻め込めないってことね?カズマ、退治しときましょう」

「待って!待ってください、せめてもう少しだけ生かしておいてください!……私には、まだやるべきことがあるのです。それに、アクア様なら幹部の二、三人ぐらいで維持する結界なら破れるはずですので、その時まででいいので、生かしておいてください…………!」

 

……普通、アンデットのやりたいことなんぞ碌でもない筈なのに、ウィズが必死に言うと不思議とまともそうな願いな気がしてくる。そのやりたいことに興味は湧くが、流石にこれはあまり親しくもない人間が聞くのも失礼だろう。

 

「ええっと、まあ、いいんじゃないのか?どのみち、今ウィズを浄化したって、その結界とやらがどうにかなるわけでも無いんだろ?それにだ、今結界を解いたところで、今の俺たちのレベルじゃ魔王は倒せないし……首ちょんぱされるのがオチだ。なら、ウィズ以外の幹部が倒されるまで、気長に待った方が良いだろう?」

 

カズマの言葉に俺も頷いて賛成の意を示しておく。正直、アクアが結界を破ったら他の冒険者や転移者が何とかしてくれそうだしな。どうせ、願いをかなえたい奴らが集まって魔王を囲んで殴るだけだろうし。

 

「でもいいのか?ベルディアを倒した俺たちに恨みとかはないのか?」

「その……ベルディアさんとは、特に仲が良かったとか、そんなことも無かったですからね……。私が歩いていると、よく足元に自分の首を転がしてきて、スカートを覗こうとする人でした。幹部の中で仲の良かった人は一人しかいませんし、その方は……まあ簡単に死ぬような方でもないですから。」

 

何だろう……「おおっっと!手が滑ったあああ!!」という声が聞こえてきたのは気のせいだろう。あんなに騎士らしかったデュラハンがそんな変態行為をしたなんて考えたくない。というか想像したくない。あんな強敵でかっこよかったのに、色々とショックだ。

 

「それに…………私は今でも、心だけは人間のつもりですしね」

 

………………何か、寂しげだったのは気のせいとしておくか。流石に事情ありなところを無遠慮に突っ込むのは、あれだし。

 

 

「……それじゃウィズ、邪魔しましたね。今からカズマにスキルを教えるのでしたら、部外者はいない方が良いでしょうし。」

「あ……そうですね。ではまたのご来店をお待ちしております。」

「……今度は、せめて普通の物にしておいてくださいね。では、また。」

「……はい、今度はお買い上げいただけるようなものを探しておきますね。」

 

……ものすごい不安ではあるが、本当にまれに良いものを持ってくるから困るんだよ……。まぁ、次回は良いものを持ってきてくれることを祈っておこう。

 

 

 




あ、この小説は書籍版2巻が終わったらいったん更新をストップします。
理由として、作者が1月の半ばから忙しくなるため、小説の更新が難しくなるためです。
ご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第20話 サキュバスのお店

今回のお話も下ネタや汚い表現がございます。
お気を付けください。

あと、今回ではまだカズマ君との風呂は無理でした。
ご了承ください。


ヤバい、すっごいムラムラする。具体的には自慰を覚えた中学生レベルでムラムラする。今までは何とか耐えれたが、ウィズの胸を鷲掴みしたのが枷を解き放ったってレベルでヤバい。あの柔らかさ、大きさ、反応、どれも素晴らしかった。なんか屈辱とか羨望があった気がしたが気のせいだろう。

 

それだけに己に反り勃つものが無くて悔しい。心の中はいつでもスタンディングオベーションしているのに、俺にはもう装備されていない。我が懐かしきランチャーは、もうなくなってしまっている。

そして、この体で満足できる方法はできるだけ取りたくない。俺は女ではなく、男だ。体は女の子でも、心はれっきとした男だ。男なんだ。だから現状行なえる方法は認めない。決して下腹部が疼くのも、特有の臭いにクラクラし始めたのも認めない。俺は、立派な、男なんだ!

 

 

 

………………駄目だ、本気で頭がおかしくなっているのが実感する。人間の欲望をなめていたとはいえ、ここまで酷いものだと想定していなかった。これじゃ、最近やっているデストロイヤーの偵察も、今日は無理な気がしてくる。はぁ……給料がそれなりに良いだけに、ちょっと残念だ。

 

とはいえ、実際に除去しなければ、まともな思考は難しくなるはずだ。どうにかしてこの欲求をなくさないと……そう言えば、元の世界では犬や猫などに発情を押さえる薬はあったが、ここでは人間用にそういった薬はないのだろうか。よくエ〇同人のゲームではそういった抑制薬はあったはずだ。探してみる価値はあるはずだ。対になる発情薬もよく売られていたが。

 

……探しても無いのなら、恥を承知でウィズあたりに作って貰うか。ま、探すにしてもとりあえず、腹ごしらえをしてからにしよう。ちょうど太陽も真上にいるようだし、いい時間だろう。

 

 

――――――――――― 

 

 

 

ギルドのお姉さんに一旦、偵察依頼が不可能になりつつあることを説明して、飯を食う。今日は小さめの鍋料理だ。これも日本人が持ってきた影響なのだろうか?ほかほかで食べられて美味しい。この体の影響もあるのかこの時期特有なのか、特に野菜が美味しく感じられて幸せだ。

 

…………ん?カズマに、あの男はダストだったか?それに横の男はあいつのパーティーメンバーだったはずだっけ?あんな昼から酒飲んでいて、借金はどうしたのだろうか。

まったく、駄女神からよくヒキニートなんて言われているが、ここまで落ちぶれてきたのだろうか。流石に、一言くらい言っておいた方が……でもそのままだと、あいつのことだ、嫌なことが来るとすぐに逃げ出しそうだ。ばれないように気配を隠して、後ろから驚かせるように捕まえよう。

 

「カズマ。俺は、お前なら信用できる。今から言うことは、この街の女性冒険者にとっては絶対に漏らしちゃいけないことだ。仲間の女たちに、絶対に漏らさないって約束できるか?」

 

ほうほう、いったいどんな秘密の話なんだ?金関連のことだったら『コメット』でぶっ飛ばしておくか。その重々しい雰囲気にダストの言葉にカズマともう一人の男が頷いている。さて、どんな話なんだ――――

 

「カズマ。この街にはサキュバスたちがこっそり経営してる、良い夢を見させてくれる店があるって知っているか?」

「詳しく」

ちょっと俺にも詳しく説明してくれ。

 

 

 

 

で、要するにサキュバスたちが淫夢を見せてくれるサービスがあるらしい。その対価にこの街での庇護と、わずかな精気と金を交換するようにしているらしい。

 

確かに、初めての奴は、大概は馬小屋からだからな。碌にそういったこともするのも難しいし、相手によっては仲間から袋叩きか己の物を切り落とされるかもしれないからな。そういったことで、この商売は成り立っているらしい。ウィズにも見習わせたい。

だが、それなら実際にヤッタ方がいいんじゃないかと思うが、それだと精気を吸い過ぎたり、臭いで分かってしまったりするんだろうか。

 

……ところで、俺はいつまでこいつらの横に立っておけばいいんだろうか。流石に気付くんじゃないかと思ったのに、顔を近づけて話に集中しているせいで全く気が付いていない。ここにいるのが俺でよかったな、他の女冒険者だったら依頼板にサキュバス退治の依頼が出てくるはずだぞ。

 

…………さて、カズマ達にばれないように一旦宿に帰って変装の準備をしておくか。別に他意はない。ただ、いつものローブとは違う服を着てみたくなっただけだ。

ついでに『ポラリス』で、カズマ達を見張るようにしているのも偶然だ。あいつらが無事に店まで行けるか心配なだけだ。

 

 

――――――――― 

 

 

「なんだ、ユタカ、いたじゃないか。最近はデストロイヤーの偵察に行ってたと聞いたから、いてくれて助かった」

「……それはこちらのセリフです。ダクネスがこの宿、というよりかは私ですね、どんなご用件なのでしょうか?」

 

宿に帰って、さて着替えるかという時に珍しい客が来た。『ウィスパースター』も何らかの反応がないことから特に警戒することはないのだろう。

 

「ああ、それなんだがな、私たちパーティーの引っ越し祝いに実家から霜降り赤ガニが送られてきたんだ。それで皆と話し合ったんだが、良く世話になっているユタカも誘っておいたらいいんじゃないかな、ということになったんだ」

 

へえ、霜降り赤ガニか。名前だけ聞くなら大変おいしそうなものだが、そんなものを送られてくるっていったいどんな実家だ。

 

「……ダクネスの実家って……ダクネスはお姫様か何かなのでしょうか?」

「おっ!?い、いや、そんなことはないぞ!私はただのダクネスだ、そんなお姫さまとは全く縁のない人だぞ!」

「…………むしろ強く否定すると余計怪しく見えるのですが……そんなおいしそうなものが食べられるのですし、聞かなかったことにしておきますね」

 

まあ、また機会があれば聞くがな。こんな面白そうなネタで弄れるなんてそうそうないしな。

 

「あ、ああっ、話はそれだけだ。それじゃ、今晩には郊外にある屋敷で待っているからな!それじゃ、またな!」

 

あっ…………あいつ(ダクネス)、その屋敷への辿り着き方も教えずに行っちまった……まあ、『ポラリス』で後を付ければいいのだが。

 

さて、着替えてカズマたちが出て行ったのを『ポラリス』で確認してから入店するか。……ところで、サキュバスって女の精気も吸えるのだろうか。

 

 

 

―――――――― 

 

 

 

「いらっしゃいませー!」

 

裏路地にひっそりとある飲食店のような店。しかし、その店の実態は露出が激しい服を纏い、乳や尻をギリギリまで晒し、女性の体とはこうあるべしとでも言いたげな魅惑的な体を持ったサキュバスの魔窟だった!

 

…………俺、ここの子供になりたい!なんて冗談はともかく、心の中にあるブツが間違いなく勃っていることに間違いがないレベルで、俺は興奮している。そう、俺は今、ここに生きている!

 

「あの、お客さんはこちらのお店は初めてでしょうか?」

[ああ、初めてだから説明してくれると助かる]

 

空いていたテーブルに案内され、メニューを持っていたお姉さんの言葉に、また新しく習得したスキルを発動して会話する。

 

スキル『交信(コンタクト)』。効果は離れた場所にいる相手でもテレパシーのように話せたりするのがメインなのだが、その際に伝える声の性質や高さを変えられるという、ある意味邪魔なサブ機能も付いたものだ。だが、こうして使ってみるとその意味も実感できる。これは、交信中のことを盗聴されたり、口がきけない時に騙すための機能なのだろうか。実に素晴らしい。

 

というか、このお姉ちゃん、他のサキュバスと違って体が幼く見えるな……まだ、未熟なのだろうか。ま、下手に突っ込むのも藪蛇だ。女の身である以上、ばれないようにしておこう。

 

「えーと……では、ここがどういうお店で、私たちが何ものっかもご存知でしょうか?」

 

その問いには無言で頷いておく。あまりスキルを使うのもよくないだろう。疑われたら問題だ。

 

「では、ご注文はお好きにどうぞです。もちろん、何も注文しなくても結構ですよ。……そして、こちらのアンケート用紙に、必要事項を記入して、会計の際に渡してくださいね?」

[ふむ……すまない、この夢の中での状態や、性別、外見とはいったい何なのだ?]

「あ、こちらの状態はですね、王様とか英雄、はたまた奴隷や召使になってみたい方などはその状態に詳しく書いていただけるとありがたいです。性別と年齢は、自分が女性側になってみたいというお客様もいらっしゃいますので、そのような欄がございます」

 

なるほど、でも実際になってしまった身としては複雑だがな。もちろん性別は男と書いておく。年齢と状態はあとで考えるとしよう。どうせ夢なのだ、どんな相手でも、どんな状況でも夢なのだからセーフなのだろう。

 

[ああ、ありがとうな。では、少し考えさせてくれ]

「かしこまりました。では、ご自由にどうぞです」

 

さて……内容は俺は男性で、状態と年齢は……高校生か大学生でいいだろう。甘酸っぱい恋愛とかしたことないから、そんなシチュエーションになれると嬉しい。それが無理でも、男の状態での淫夢が見れればOKだ。

 

[さて、ではこれの会計を頼む]

「では、三時間コースを希望ですので、お会計、五千エリスをお願いします」

 

安いな……それも人気のひとつなのだろう。特に初心者ばっかのこの街ではお手ごろな値段なのだろう。手袋をした手からお金をそっと渡す。

 

「ありがとうございます!では最後に、お泊りのご住所と本日の就寝予定時刻をお願いします。その時間帯に、当店のサキュバスが就寝中のお客様の傍へ行き、希望の夢を見せて差し上げます。ただ、出来ればお酒等は控えめにしておいてくださいね?泥酔されて、熟睡されますと、流石に夢をお見せすることはできなくなってしまいますので」

 

それなら大丈夫だ、俺は酒を嗜まないからな。それと就寝時刻は遅めにしておこう。

 

「では、またのご来店をお待ちしております!」

 

 

 

……ふぅ、とりあえずはこれで良いな。ダクネスから食事に誘われているが、いざとなったら早めに切り上げればいいし、念のため遅めにしておいたから安心だ。

 

しっかし、俺を案内した子、最後まで俺が女だと気づかなかったな。少なくとも、俺を見た他のサキュバスたちには警戒の色があったはずだ。ま、こんなところに来て素直にアンケートを書いている時点で好き物と思われているんだろうがな。

 

 

 




この主人公は自分がTSしたということを隠しているため、
他の小説よりもTS成分が少なくなっていて申し訳ありません。
また、作者がまだ碌に書き慣れていないラメにそういった描写が少なくて申し訳ありません。

この主人公がなぜ自分が元男でありTS娘であることを隠しているかと言いますと、
普通の女の子が元は立派な男とか気持ち悪いだろ?という考えから隠しています。
誰だって、そんな存在と絡みたくないし、親しくもされないだろうからとも考えているからです。
その為に、口調なども完璧に隠してあくまで思考だけは男のままという形にしております。

とはいえ、このすばでは、TSであることを見抜けるキャラが確定でいますので、
そのキャラが出るまではTS成分は少ないと思われます。
ご了承ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第21話 カニとお風呂

今回はグダグダとした駄文かつ長いです……
ご了承ください

働いてない頭で書くことは駄目だと思いました……
誤字脱字が多いかもしれませんが、ご了承ください……


「さあ、カズマにユタカ!今日の晩御飯はカニよ!ダクネスの実家から送られてきた超上物の霜降り赤ガニよ!しかも、すんごい高級酒までついてきているのよ!パーティーメンバーの皆様に、普段娘がお世話になってるお礼です、だってさ!ユタカも、いつも私たちにいろいろしてもらっているし遠慮せずに食べていってね!」

 

ちょうどカズマと一緒に屋敷に入ると、満面の笑みを浮かべたアクアに迎えられた。アクアがそれだけ喜んでいるのだ、めぐみんなんて頬に手を当ててよだれが零れそうになっているのを必死に抑えているくらいだ。

 

「あわわ……、貧乏な冒険者稼業を生業にしておきながら、まさか霜降り赤ガニにお目にかかれる日が来るとは……!今日ほどこのパーティーに加入してよかったと思った日はないです……!」

「そんなに高級なカニなのか?」

「当たり前です!分かりやすく喩えるならば、このカニを食べる代わりに爆裂魔法を我慢しろと言われれば、大喜びで我慢して、食べた後に爆裂魔法をぶっぱなします!それぐらいの高級品なのですよ!」

「おお、そりゃ凄……!あれ、お前最後なんて言った?」

 

とりあえず、めぐみんがそこまで言うレベルなのだ、相当おいしいのだろう。

 

「……ダクネス、並びにアクアにめぐみん、今回のお誘い、感謝いたします。ですが、急な誘いの為、お土産などを持ってこれずに申し訳ありません」

「なに、気にしないでくれ。これはいつも世話や迷惑をかけてしまっている礼みたいなものだ。アクアも言ってたが、遠慮せずに食べていってくれ。むしろ、食べてくれた方がこっちとしては嬉しいからな」

 

あら、この子本当に良い子だわ。本当、強烈なドMで無ければ婿の貰い手も多いんだろう。しかも、率先してカニやら道具やらを持って行くあたり、根は本当に良い子なんだろう。

 

「さて、話していても何だ、早速頂こうじゃないか。ユタカは今回はお客様なんだから座っていていいからな」

「……いえ、呼ばれたお客様とはいえ、ただ座っているだけというのも落ち着かないので、何か手伝わせてください」

「そうか……では、すまないがこのカニたちをテーブルまで持って行くのを手伝ってもらえないだろうか?」

「承りました。では、お運びいたしますね」

 

 

 

さてさて、アクアが嬉々として人数分のグラスを持って来たり、めぐみんとカズマがカニを取りやすいように脚を取り外したりしつつ、食事の時間だ。正直、元の世界では食ったことないからどんなものか予想が出来んが、あれだけ言っていたんだ、期待はしても良いだろう。

 

全員で食卓に着き、早速カニに取り掛かる。脚の真ん中が折れるように慎重に、かつ強めの力で割っていく。白とピンクが入り混じった鮮やかな身に、最初は何も付けずに口に含める。

こ、これは…………!!

 

 

美 味 い !!みずみずしい甘さに、後からガツンと来る濃厚なカニの旨み、実に素晴らしい!!

 

「……なんか、ユタカが凄いキラキラと輝いているのですが……気のせいでしょうか?」

「たぶんだけど、ここまで美味しいと思ってなかったんじゃない?さっきまで、どんな味かもわからなさそうな顔をしていたしね」

 

何かアクアとめぐみんがヒソヒソと話しているが無視だ。今はこの味を堪能するだけだ……!よくカニが出ると静かになるというが、それもよくわかる話だ。喋れるほどの余裕が出てこない。それだけ美味い。

 

「ははは、美味しいのは分かったが、食べ過ぎて喉を詰まらせないようにな?」

 

む、ダクネスが苦笑いで言っているか……一旦忠告通り、ペースを落とそう。

 

「カズマカズマ、ちょっとここにティンダーちょうだい。私が今から、この高級酒の美味しい飲み方を教えてあげるわ」

 

ふと、アクアの発言に顔を向けると小さな七輪のようなものを作っていた。カズマが下の炭に火をつけると、金網の上に蟹味噌がわずかに残った甲羅を乗せ、それに酒を注いだ。甲羅に軽く焦げ目がつくまで炙り、酒とかに味噌が残った熱燗を一口すすった。

 

「ほぅ……っ」

 

美味しそうだな、なんとも美味そうだな……だが、酒か……

サキュバスの所でも深酔いはするなと言われたし、俺自身も酒はあまり飲めん。今回は少々もったいないが、見送ろう。……カズマが実に飲みたそうにしていて面白いな。

 

「!?これは行けるな、確かに美味い!」

 

おおっと、ダクネスの声にさらに惑わされていってるな。あそこまで顔を伏せて震えているなんて面白い。

 

「ダクネス、私にもください!いいじゃないですか今日ぐらいは!私だってお酒を飲んでみたいです!」

「駄目だ、子供のうちから酒を飲むとパーになると聞くぞ」

「しかし、アクアとダクネスだけなんてずるいですよ。ほんの一口だけ、一口だけでもいいので!」

「…………めぐみん、幼いうちにお酒飲むと、私のように成長しなくなるけど、いいのですか?」

「くっ…………こ、今回だけ……でもしかし……」

 

まあ、嘘なんだがな。そんな話は聞いたこともないが、かと言って否定できるほどでもないだろう。

 

「……どうしたカズマ。酒を飲んだことがないのか?……もしかして、うちのカニが口に合わなかったか?」

「いや!カニはすごく美味い、それは間違いない!ただ、昼間にキースたちと飲んできたんだ。それに、俺はまだ酒の味なんてわからないし、今日の所はいいかな。」

 

おや、カズマはそろそろ時間なのだろうか。酒や仲間と、淫夢を天秤にかけているのが手に取れるよう分かっていいな。……あ、これ、童貞を揶揄って遊ぶ女の気持ちじゃね?うわっ、自分で思ってて鳥肌が立つ。

 

「それじゃ、ちょっと早いけど俺はもう寝るよ。ダクネス、ご馳走さん、ユタカ、来てくれてありがとうな、お前ら、お休み!」

 

おーおー、そっちを取ったか。ま、精々いい夢を見てきな。

 

「……ま、カズマもああ言っていたし、カズマの分のカニと酒はみんなで食べようじゃないか!」

 

ま、俺としてはカニがもっと食べれるからいいんだけどな。とはいえ、腹に入れれる量も考えつつ、ゆっくりと味わうとするか。酒はアクアとダクネスに渡せばいいし、めぐみんと仲良くジュースでも飲むか。

 

乾杯!

 

 

――――――――――――― 

 

 

ふぅ、美味しかった。本当、予想以上に美味しすぎて思っていたよりも食い過ぎた。おかげで動くのが億劫だ。しかし、帰って大衆浴場で身体も洗わなければ。サキュバスを迎えるのだ、汚れたままではあまり礼儀もないだろうし、サキュバスも嫌だろう。さて、どうしたものか……

 

……そういえば、ここ、元は貴族の屋敷だったか。貴族が大衆浴場に行くとは思えんし、この屋敷に風呂でもついてないだろうか。飯を頂いたうえ、お願いするのは心苦しいが、今日の俺はお客様だし、ダクネスあたりに頼んでみるか。

 

「そうだな……確かにあったしちょうどいいか、入ってみるか。まだよく使ってないからどんな感じかはわからないが、大丈夫か?」

「……いえ、使わせていただく以上、文句は言いません、ありがたく使わせていただきますね。必要な際には自分で確かめて使わせていただきますね」

「ああ、安心しろ。流石にお客様に心配を掛けないように私も一緒に入るから安心してくれ。むしろ、何かあったときには私を盾にして使ってくれ」

 

……まじか。こっちとしては役得だからいいんだけどさ。

 

 

 

で、脱衣所である。明かりの灯っていないランタンが壁にかけてあり、地面や棚には衣服を入れる籠が置いてあった。よくある脱衣所である。

というか、ランタンに明かりはつけなくてもいいのだろうか。もう脱いでいるのだが、ダクネスは見えているのだろうか?

 

「今夜は月夜だ、明かりをつけるのも手間だし、見えはするからいいだろ?」

「……いえ、明かりをつけておけば入っていると分かるんじゃないですか?」

「それも大丈夫だ、そういったのが分かるように浴場の扉に掛ける札が……ん?なんでここに墜ちているんだ?誰かが落としたままにしていたのか?」

 

ダクネスがそう言うのならいいんだが……正直、明かりがあればもっとダクネスの体が見えていいのだが……なんだあのプロポーション、柔らかそうな胸と尻は当然、透き通った白い肌にあのありえないほどのくびれよ。

今が冬なのもあるが、日焼けや染みが一切ない肌と、胸からお腹にかけての素晴らしいくびれの作り方、どうやったらそうなるのか俺とめぐみんに教えてくれないだろうか。

いや、俺はただ知りたいだけだが、めぐみんは聞いておいた方がいいだろう、本当。

 

「いや、これに関しては勝手になったというか……少なくとも、私は特に何もしてないぞ?」

「…………それ、本気でめぐみんの前で言わない方がいいですよ。容赦なく胸を掴んできますよ?」

「容赦なくか……それも、いいな!くっ、ねじ切らんばかりに捕まれるんだろうな……!」

 

あ、藪蛇だったか。と、とりあえず俺は早く浴びたいし、行かないか?

 

「む、そうだな……それにしても、今夜は、本当に、月、が…………」

 

……?ダクネス、入り口で固まってないで早く入ってくれないか?寒いし、早く湯船につかり、たいんだ、が…………

 

 

 

 

 

「……よう、二人とも」

 

 

 

 

…………!?!?な、何でカズマがいるんだよ!お前、サキュバスサービスはどうしたんだよ!お前、寝ているんじゃないのか!?

 

「……な……なな……なななな…………っ!」

「……か、カズマ、何でここにいる……?」

「?俺が風呂に入っちゃだめか?まあ、いいか、二人とも、早くこっちに来いよ。そうだな……まずは背中を流してくれ」

 

…………はぁ!?

 

「お、おお、お前は、お前は何を言っている!?いや、その、えっとどうしてそんなに平然としているんだとか、背中を流せとはどういうことか、色々ありすぎて脳がついていかないというか……」

「……か、カズマ、正気か!?何で、俺たちに洗わせようとするんだ!?と、というかお前、前にやったマッサージの時よりも平然とし過ぎだろ!?」

「おお……!しかし焦らしプレイだなんて設定してないぞ、早くしてくれ。……いや、アンケートには、美人でスタイルが良くて恥ずかしがる系の世間知らずなお姉さんと、頼れて優しい系の先輩がいいって書いたな。ユタカがいつもと口調が違うが、これもこれで良いな……なら、これで良いか」

「「!?」」

 

え、えええ、えっと、この場合だと俺が頼れて優しい系の先輩になる……あ、アンケートに設定?こいつ、この惨状が夢だと認識していやがるのか?

 

「ダクネスが世間知らずなのはしょうがないが、ユタカは頼れる優しい先輩なんだろ、早く、背中お願いします」

「……そ、その……この状況で、私がカズマの背中を流すのが世間の常識なのか……?」

「え、えっと……ちょっと違うかもしれないが、とりあえず、やった方がいいんじゃないか……な?」

 

さっさと切り上げて大衆浴場に帰った方がよかったな……ははは……

 

「新鮮でいいじゃないか、なんかもう色々と堪りません」

「お、お前……!これがどんな状況か分かっているのか!?アクアやめぐみんに知れたら、いったい何と言われるか……!」

「その時は、皆で一緒にお風呂に入ればいいんじゃないかな」

「カズマ!?しっかりしろ、今日のお前は本当にどうしたんだ!」

 

ダクネスもいい加減諦めればいいのに……俺なんてすでにタオルを泡立てているのだが。

 

「おい、さっきから騒がしいぞ。ユタカはもう準備しているし、お前も早くやってくれよ。あと、何時だと思っているんだ、近所迷惑も考えろよ。常識知らずにもほどがあるからな?」

「この状況下で、いまさらそんなことを言われても!わ、私がおかしいのか!?私が、世間知らずなだけなのか!?」

「お前はいつもおかしいよ。っと、そういや夢だから騒いでも問題ないのか……よし、それじゃお願いします」

「……ダクネス、諦めろ。さっさとやって早く出よう」

 

ダクネスもやっと観念したのか、おそるおそるカズマの背中を、タオルでこすり始めた。そこ取られると、俺は腕とか足とか際どいところになっちゃうんだけどな……いいか、マッサージでもいつかやるかもしれんし。

丁寧にかつ優しく、程よい力でタオルでこする。指と指の隙間に、わきの下、太腿から足首に至るまで慎重に流しておく。脚をやる際に見えた反り立ったブツはできるだけ見ないようにしておく。

 

「おお?何を見ないようにしているんだ?」

「……うるさい、大人しくしていろ」

「顔を真っ赤にして言っても意味ないと思うぞ?」

「~~~っ!!だったら見るんじゃねえ!」

 

くそっ!くそっ!落ち着いたと思ったのに、また調子が狂いそうだ!

 

「しっかし、なんか新鮮だなあ……ダクネスにユタカが照れて恥ずかしがっている姿は、何か良いな」

「お、お前……!今日のお前は、なんだか言動がおっさん臭いぞ!」

「……本当……ほら、大体は洗ったんです、前とかは自分でやってくださいよ。こっちはもう上がりますので……」

 

……ふぅ、冷静になれ、俺。口調はある程度崩れたが、一旦戻しておこう。バレてはしまったが、ダクネスもいるし、とりあえず戻しておかないと突っ込まれそうだしな。

 

「何を馬鹿なこと言ってんだ。本当に、この後の定番ぐらいは知っておけよ。ほら、ダクネスはタオルを使わずに、ユタカも肝心の所が残っているじゃないか。」

「おかしいおかしい!いくら私が世間を知らないからって、これはさすがに、絶対おかしいっ!」

「そんなところ、やれねえよ!?いくらあれでも、そんなところ、触りたく……」

 

……あ、あれ、触りたくない、はずだろ。なんで、俺の手は動いているんだよ。おかしい、おかしいって!

 

「ほら、早く、二人とも早くしてくれよ」

 

………………ええい!他人のとか触りたくない筈だが、流石に手早く終わらせるためだ、さっさと―――――

 

 

 

「この曲者―!出会え出会え!皆、この屋敷に曲者よーっ!!」

 

……あ、あれ、俺は何をしようとしていたんだ。なんで他人のブツに触ろうとしていたんだよ!

 

「……ここで、そんなお預け設定はしてないぞ!アイツ、夢の中ですら邪魔するのかよ!ちくしょう、ちょっと文句言ってくる!」

 

あ、カズマ、行っちゃった…………

 

「……ダクネス、とりあえず着替えて……ダクネス?」

「…………ふ、ふふ、ふふふふふ、ユタカ、すまないが私はすぐに着替えて曲者退治してくるな。だから、一旦別れようか!な!」

 

あ、はい、そうですね、行ってらっしゃい。

 

「ああ、それじゃ、またな!」

「……あ、はい、ではまた…………」

 

……なんだコレ。とりあえず、軽く体を流したら見に行くか。

 

 

―――――――― 

 

 

「かかってこいや―!!」

 

……なんだコレ。なんだこれ。あの後、体を流したらすぐに着替えて現場に駆け付けたと思ったら、カズマが腰に巻いたタオル一枚で空を飛んで、三人に襲い掛かっていた。なんだこれ。三人もカズマを思いっきり迎撃しているし。特にダクネス、本来なら当たらない筈のあいつの攻撃も、怒りやら恥ずかしさやらで補正でも掛かったのかってレベルで当たってるし。うわっ、アクアのアッパーで宙に浮いていやがる。

 

ところで、そこで座っている女の子は……あっ

 

「……あっ、あの時の……?」

 

やべえ、なんで俺を案内したサキュバスがここにいるんだ?ちょうどカズマの時間だったのだろうか。……あれ、ここでこいつが退治されたら、俺のサービスも無くなるんじゃないか?というか下手したら俺まで通ったことがばれるんじゃ……

 

そっと袋叩きになっているカズマ達をすり抜け、サキュバスを救出する。具体的には何かアクアがやったっぽい魔法陣から引っ張り出しておいた。

 

「……今なら、バレませんので、早く逃げてください」

「あ、あの、あなたも―――」

「早く行け、早く!」

 

小声でバレないように話す。俺の真面目な瞳とカズマの雄姿を見たのか、小さく頷くとすぐに窓へ突撃し、勢い良い音を立てて脱出した。

 

「ああっ!!ユタカ、何逃がしちゃったのよ!」

「……申し訳ありません。念のため、逃げられないよう縛ろうとしたら、その隙を突かれて……」

「まったく、何やってるんですか」

「くっ、今度会ったときは……!」

「とりあえず、塩撒いておくわ」

 

……カズマよ、見事であった!俺個人としては、風呂場での出来事は帳消しにしておいてやろう!

 

 

――――― 

 

 

宿屋の自室に帰ったら、カズマの屋敷で捕まっていたサキュバスと、もう一体の別のサキュバスが待ち構えていた。

 

「大変ありがとうございました。お客様のおかげで、この子が退治されずに済んで感謝します」

「あ、あの、本当にありがとうございました!」

「……別に気にしなくてもいい。俺の時間までなくなるかと思ったから行動しただけだ。」

 

いや本当、無事で何よりだ。

 

「それで救出のお礼としまして、この子と私、二人で協力して、通常でお見せできないとてもいい夢を見せてあげましょうということになったのです。お代金の返却なども考えましたが、お客様の欲望を見る限り、こちらの方がいいと考えましたが、いかがでしょうか?」

「是非ともお願いする!……ところで、サキュバスは女の精気でも大丈夫なのか?」

「ええ、大丈夫ですとも。私たちのお店でも一部の女性の方もご来店してくださいますのでご安心ください」

 

……よし!それなら安心だ!それなら、宜しく頼んだ!

 

「ええ、お任せくださいね」

「で、では、こちらのベッドに横になってください。リラックスして眠れる状態になった夢をお見せしますので、お願いします」

 

おうおう。それじゃ、任せたぞ!さて、どんな感じになるか楽しみだ……!

 

 

 

 

 

その後、俺はとても過激な夢を見せてもらった。見せてもらったのだが……なんで注文と違うことになっているんだよ!?なんで俺が女の子のままでヤラレているんだよ!雌堕ちとか求めていないし、虚ろな笑顔で両手ともピースとかしなくてもいい!そっち方面の過激さなんぞ求めていねえよ!?

 

「その、お客様の願望が強烈すぎて、アンケートの内容と勘違いしてしまいまして……大変申し訳ありません!」

 

…………今度見せる時は男の体で見せてくれよ……!こっちの肉体での経験なんぞ、お断りだ!

 

 




最近、モチベが下がってきてやばい……
せめて、2巻分までは終わらせなくちゃ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第22話 デストロイヤー襲来1

今回もグダグダとした駄文です。
申し訳ありませんが、ご注意ください。
多分次回あたりで2巻の内容は終わります。

今更ですが、この小説は書籍版をベースにして所々アニメ版やオリジナル展開を入れた形になっています。
ご了承ください。

それと、なんでまたランキングに上がっているのでしょうか(白目


『デストロイヤー警報!デストロイヤー警報!機動要塞デストロイヤーが、現在この街へ接近中です!冒険者の皆様は、装備を整えて冒険者ギルドへ!そして、街の住人の皆様は、直ちに避難してくださーいっ!!』

 

そんな発令が街の中で響いていた。無論、宿屋の自室で己の欲について頭を抱えていた俺も、例外でなく聞こえるほどだった。つーかアレ、俺が偵察した時はまだまだ遠くで、進路もこの街とは関係なかったはずだぞ。急に変えたってか?街に帰る冒険者でも追跡したのだろうか。

 

ともかく、あの存在が来るのなら、この街の住人を逃すくらいの時間稼ぎはしなくてはいけないのだろう。商人一家を逃す時間くらいは稼がないとな。急いでローブを羽織って、宿屋を早足で駆け抜ける。

 

……ところで、なぜ商人一家も武装の準備しているんだ?え、逃げろよ、昔はともかく今はただの住人だろ。

ミツルギと闘ったら血が騒いで昔の勘が取り戻せたから?知らんよお爺ちゃん、はよ逃げろ、いや剣と鎧を持ってくるって違うから!お婆ちゃんも止め……あの、そのごっつい手甲はなに?お婆ちゃんアークプリーストだよね?え、お兄ちゃんは行ったんだから、はよいけ?アッ、ハイ。

 

 

 

 

ギルドではすでに大多数の冒険者が集まっていた。装備もいつものとは違った重装備で構成されている。しかし……男、多いなあ……

 

「お集りの皆さん!本日は、緊急の呼び出しに答えてくださり大変ありがとうございます!ただいまより、対機動要塞デストロイヤー討伐の、緊急クエストを行います。このクエストには、レベルも職業も関係なく、全員参加でお願いします。無理と判断した場合には、街を捨て、全員で逃げることになります。皆さんがこの街の最後の砦です。どうか、よろしくお願い致します!」

 

ギルドのお姉さんがそう声を張り上げ、他の職員が酒場のテーブルを寄せ集めた即席の会議室を作っていた。

 

「それではお集りの皆さん、只今より緊急の作戦会議を行いますので、各自席に着いてください」

 

はいよ。とりあえず知り合いの近くが良いが……げ、カズマの近くじゃん。昨日のことをあまり誤魔化せてないし、今はカズマとは話したくないんだが、しぶしぶ近くに座る。今こいつら以上に知っている奴いねえし。

 

「さて、それでは。まず初めに、現状の状況を説明させていただきます。まず、機動要塞デストロイヤーの説明が必要な方はいますか?」

 

俺は偵察任務で聞いてはいるが、それほど詳しくはない。できれば聞きたい。っと、カズマと他数名が手を上げたか。

 

「分かりました。では時間も押しているため、手早く説明させていただきます」

 

機動要塞デストロイヤー。魔道技術帝国ノイズで開発された、魔法金属で作られし巨大なゴーレム。大きさは小さな城ぐらいで、側面から八本の足が生えており、要塞に蜘蛛脚のような形をしている。

その大きさに見合わず、移動スピードは馬を超えると言われており、素早く動く脚に轢かれたり潰されてたりしてしまうケースがある。

 

また、最大の特徴としてこいつは魔力を防ぐ結界が張られている。そのせいでほとんどの魔法攻撃が無効化される。もしかしたらよほどの飽和攻撃をすれば結界は破れるかもしれないが、こんな初心者たちの街でそこまでの魔法を撃てるのはいない。めぐみんの爆裂魔法ですら防がれるレベルらしいし、貴重な一発を無力化される未来に使うわけにはいかない。

 

さらに、それ以外の弓矢や投石器ではとなると、投石機は馬よりも早く移動する相手のため当てづらい、弓矢も魔法金属で弾かれる。何らかの方法で上空に浮かんで乗り込もうとしても、備え付けのバリスタで撃ち抜かれるか、戦闘用のゴーレムが襲い掛かってくる。

 

 

 

 

…………どんなムリゲーだ。それをこんな街でやろうとしても、正直さっさと逃げろとしか言いようがない。王都とかの連中ならまだ何とかなるかもしれんが、このアクセルの街は初心者しかいないのだ。無理言うなっつーの。

 

「それなら、街の周りに巨大な落とし穴でも掘るとか、」

「やりました。多くのエレメンタルマスターが寄り集まって地の精霊に働きかけ、即席ながらも巨大な大穴を掘り、デストロイヤーを穴に落としたのはよかったのですが……何と八本の脚を使い、ジャンプしました。上から岩を落としてふたをする作戦だったのですが、その暇もなかったそうです」

 

まず、魔法攻撃が効かない時点で『コンプレスグラビティ』による妨害は無理だ。というか仮に効いても、あそこまで巨体だと持って数秒が良いところだ。その後は頭痛による気絶とかでめぐみん以上に邪魔になる。『交信(コンタクト)』で中にいるという人間に話しかけて止めてもらおうかと思ったが、そんな街を破壊するやつが止まるとは思えん。『コメット』も打ち消されるため論外、精々補助程度には使えるだろうか。

 

 

 

俺がそんなことを考えているうちににも会議は難航している。

 

ロープを掛けれるかという問いには速過ぎて無理。デストロイヤーが通れないような巨大なバリケートを造るのはどうだという声には、迂回されて踏み潰された例もあるため不可。

俺も空中からの乗り込みは『ガーディアンサテライト』で防げるんじゃないか?と言ったが、大量のバリスタに狙われて無事でいられるかと逆に問いかけられて口を噤んだ。2,3本くらいなら防げるかもしれんが、10本以上の矢はさすがに無理だろう。人一人に発生する石の量なんぞたかが知れている。

 

「おいカズマ。お前なら機転が利くだろう。何か良い案はないか?」

 

突然、誰かがそんなことを言い出した。確かに何か考えてはいるんだろうが、こればっかりは難しいんじゃないか?

 

……え、アクアならあの結界を破れるかもしれない?いや、魔王城の結界破りは幹部が二、三人いても大丈夫だとウィズが言ってたし、出来ないことはないか?それでも、あの要塞を破るほどの火力なんぞ…………あっ、そういえばいたな。頭がおかしいのが。

 

「そうか、頭のおかしいのが……!」

「おかしい子がいたな……!」

「そうだ、頭がおかしい子がいたんだ!」

 

「おい、それが私のことを言っているのならその略し方はやめてもらおうか。さもなくば、いかに私の頭がおかしいかを今ここで証明することになる」

 

おいやめろ。ただでさえ人が密集しているのにそんな馬鹿なことをするんじゃない。というか、虎の子の一発をそんなことに使うな。

 

「素知らぬ顔でいますが、ユタカもですよ?後でしっかりと聞かせてもらいますからね?」

「………………なんのことですかね?」

 

こいつ、心が読めるのかよ。

 

「しかし、我が爆裂魔法でも、流石に一撃では仕留めきれない……と、思われ……」

 

そういえばこいつ、人前でこんな風に話すのは苦手だったな。ほら、もっといつものように話せ。背中ぐらいはさすってやるから。

 

しかし、お前と同レベルの魔法を使う奴なんぞいないんじゃないか?少なくとも、この街でそんな奴なんぞ―――

 

「す、すみません、遅くなりました……!ウィズ魔道具店の店主です。一応冒険者の資格を持っているので、私もお手伝いに……」

「き、来た!店主さんだ!」

「貧乏店主さんだ!貧乏店主さんが来たぞ!」

「店主さんが来た!これで勝てる!」

 

…………え、ウィズ、そこまで強かったん?魔王幹部とは聞いていたけど、そんなに強い存在だったの?あと、最近は俺がなんだかんだで買っているからそこまで貧乏店主じゃないぞ。

 

「知らないのか?ウィズさんは元は凄腕のアークウィザードとして名を馳せていたんだよ」

「……あ、どうもです」

 

知らない人、ありがとう。とはいえ、これでデストロイヤーの討伐が可能になるな。ほとんどカズマ達だけでやるようなもんだが。

 

「そういえばユタカ、さっきお前が言っていたガーディアンなんとか、あれってどんな奴なんだ?」

「……『ガーディアンサテライト』ですか?あれは対象の周りに石とかを浮かして、対象に危険が生じた際に防衛するだけのものです。今から行う作戦のには役立ちそうにはないのですが……」

 

というかあのネタスキル、芸以外の何物でもないしバリスタとかが相手だと二、三回程度で終わっちまうようなものなんだが、カズマは何を考えているんだ?

 

「……そのスキル、どれだけが対象になるんだ?」

 

…………どういうこと?

 

 

 

――――――――――――― 

 

 

 

いやはや、カズマの考えには毎度驚かされる。

 

確かにあのスキル、『ガーディアンサテライト』は対象を守るためにしか動かない特性上、守るべき対象からある一定の範囲までしか動かない。そのうえ、やることは楔状になって刺したり、鈍器の形状になって打ち返したりするがあくまでやることのほとんどは防衛だけである。おおよそは盾状になって守護するのがメインだろう。実際に使った時も、カエルの舌を刺したこと以外は大体がかばうような動きをするからな。

 

そう、防衛。防衛用のスキルであるはずなんだが……

 

「……まさか、防衛にする対象をこの【アクセルの街】自体にするとは思いませんでしたよ」

 

そう、『ガーディアンサテライト』は対象の身長や体格などから比例した石や岩を召喚する形となる。人一体に召喚される石の大きさは個人差があるが、大体はそいつの身長の三分の一程度だ。

もしその対象が、村や街だった場合は?その結果が俺や他の冒険者の目の前で浮いている巨石や、それに追従する石の群れである。その大きさに口をあんぐりと開けている奴ばっかりだ。

 

おかげで潤沢だった魔力はもう半分近くを切っている。それでもまだ半分残っているあたり、喜ぶべきなのだろうか。

 

まあ、俺の役目はあの石の群れによって、デストロイヤーを迂回させることによる時間稼ぎと、めぐみんとウィズを魔法を当てやすくするための足止めすることが目的だからいいんだがな。あれ、通常は勝手に動くが、俺が操作することも可能だからな。しっかりと妨害していけるといいが。

 

「ユタカー。あんなデカブツ召喚しておいて魔力とかは大丈夫なのか?」

「…………まだ半分は残っていますので大丈夫ではあります。それよりも、めぐみんがものすごい緊張していて危ないです」

 

そう、めぐみんが緊張のしすぎか、軽く目がイッテて怖い。声もいつも以上に震えているあたり、この子がまだ子供なことがうかがえる。

 

「……ふ、ふふふ、わ、私のような天才は、こここんなところで、ししし失敗するわけにはいきませんからね……!」

 

まだデストロイヤーは来ていないんだから深呼吸でもして落ち着け。ほら、吸って―吐いて―。ヒッヒッフー。

 

「って、それ違いませんか!?」

「…………きっと気のせいです。もし聞こえても、それは私なりの冗談です」

「それを女の人が言うのもアレなんじゃないですかね……!」

 

とりあえず軽く緊張は取れたらしいし成功ではあるか。

 

 

 

『冒険者の皆さん、そろそろ機動要塞デストロイヤーが見えてきます!戦闘準備をお願いします!』

 

 

 

とはいえ、あの石は全部が魔力で作られたものだからアクアがやってくれるまでは出番がないんだがなー。直接ぶつけても結界でかき消されるし。

 

なんかアクアとウィズのあたりがうるさいが今はそこまで気にしていられない。めぐみんがまたカタカタと震えだしてきている。

 

「だ、だいじょうび、私は強い。私は強い……」

「…………よしよし、大丈夫ですからね。めぐみんの爆裂魔法はとっても強いですからね」

 

俺が背中をさすったり励ましの言葉を掛けたりしても、耳に入っていないのか、虚ろな目で必死につぶやいている。本当、大丈夫かよ。

 

「来るぞおおーっ!戦闘準備―っ!」

 

ついに来たかデストロイヤー。見えていないと思ったら相変わらずのスピードで街一直線に走ってきている。あそこまで早いと爆裂魔法も当たりにくくなるだろうなー。

 

「アクア!今だ、やれっ!」

「分かったわ、任せてねっ!『セイクリッド・スペルブレイク』ッ!」

 

カズマの合図でアクアが魔法を放つ。五つほどの魔法陣が浮かび上がり、陣からビームを発射した。五つのビームはやがて束ねられ、一つの光の柱となってデストロイヤーにぶつかる、前にあちらの結界に防がれる。デストロイヤーの動き自体は止まっているが、あれだけではダメなのだろうか……

 

「うううううううう……負けるかああああっ!!」

 

おおっ!?アクアがもっと出力を上げた!?より太くなった光の柱に耐えきれなくなったか、デストロイヤーの結界はガラスが割れたようにバラバラに砕け散った。

 

「今だ、めぐみん!ウィズ!ユタカは狙いやすいように足止めしてくれ!」

「……了解!」

 

結界がないなら思いっきりやり放題だ。巨石をデストロイヤーに真正面からぶつける!それでものけ反らず、脚を止めたのは流石である、が、脚を止めただけでも十分なのだ。石の群れを巨大な杭状に変えて、上空から振り下ろす!

狙いが逸れたか、当たったところが蜘蛛の頭っぽいところに刺さった。だが、刺さったのなら、さらに思いっきり突き刺す。突き刺して地面までに埋めさせて固定させる。

 

「…………カズマ、こちらは何とかしました。後はお願いします!」

「よし分かった!ウィズに……おい、めぐみん、いつまで震えているんだ?お前の爆裂魔法への愛は本物なのか?ウィズに負けたらみっともないぞ!お前の爆裂魔法は、あれも壊せないへなちょこ魔法か!」

「な、なにおう!っ?我が名をコケにするよりも、一番私に言ってはいけないことを口にしましたね!!」

 

よし、めぐみんも復活したし大丈夫だろう。俺は……って、もう動き出そうとしやがるか?どんだけ頑丈なんだよ!

 

「…………早く、お願いします!もう押さえきれなくなってきています!」

「分かったから!ほらめぐみん、お前の最高のステージだぞ、ぶちかましてやれっ!」

 

くそっ、巨石で必死に殴りかかっても学習しやがったのか、一本の脚で打ち返しやがる。

 

「「黒よりも黒く、闇より暗き漆黒に」」

 

ちっ、杭状のも抜いてきやがったか!石も衝撃か何かで減ってきているからもう縫い付けられない!

 

「「我が深紅の混交に望み給う」」

 

っ、やっぱりもう無理か。石の群れは消えて、巨石だけで凌いでいるがもうそれも消えるか。

 

「「覚醒の時来たれり、無謬の境界に堕ちし理」」

 

だが、それで十分だ。俺はあくまで時間稼ぎ、詠唱もあと少しだ。それまで……!

 

「「むぎょうの歪みとなりて現出せよ!」」

 

巨石を空中に浮かして叩きつける!これで巨石も消えたが、十分だろう。

 

 

 

「「『エクスプロージョン』ッッ!!」」

 

 

 

同じタイミングで放たれた二人の魔法は、デストロイヤーの脚に容赦なく命中していった。

煙でよく見えないが、あの威力だ。ひとつ残らず粉砕していっただろう。

 

脚を無くしたデストロイヤーは、轟音と地響きと共に平原の真ん中で停止した。

 

 

 




TS発情逆レな話が思いついたけど、誰も得しなさそうだからそっと捨てておこう。

あと、2巻の内容が終わった後のあれ、閑話にするかif編にするかどっちにしようかなーって考えています。
現状としてはif編を少し書く形になると思います。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第23話 デストロイヤー襲来2

深淵、間違えた、新年あけましておめでとうございます。
今回もグダグダとした駄文です。
ご了承ください。

あと、TS発情逆レにものすっごい反響があったので、
一応書きだしてはいます。が、実際に投稿するかまでは未定です。
正直、自分で納得していないところが多数ありますので、投稿するにしてもまだ時間は掛かりそうです。

それと、この話で一旦更新をストップします。ご了承ください。
詳しいことはあとがきに書いていますので知りたい方はどうぞ。


ふう、とりあえずは動かなさそうだから大丈夫そうではあるか。めぐみんはウィズに爆裂魔法の出来で負けて悔しそうにしているが、動きを止めた時点でも十分働いたといえるだろう。なんか、カズマに引っ付いてもう一度とか言っているが、魔力の補充手段がないのにそんなことはできないだろう。

 

「やったか!?」

「俺、この戦いが終わったら結婚するつもりだったから、よかった……!」

 

…………おい、何か聞いちゃいけないことが聞こえたような気がしたんだが。い、いや、むしろ立てすぎて死亡フラグを折るのも……

 

「やったわ!何よ、機動要塞デストロイヤーなんて大げさな名前しておいて、期待外れもいいところだわ!さあ、帰ってお酒でも飲みましょうか!報酬は、一体幾らかしらね!」

「この馬鹿ああっ!なんでお前はそうお約束が好きなんだよ!」

 

あ、これは駄目だな。というかアクアよ、デュラハン戦の時もそんなこと言ってなかったか?

アクアたちの言葉につられたのか、デストロイヤーから何か、聞こえてきた。

 

『この機体は、起動を停止いたしました。被害甚大につき、自爆機能を作動します。搭乗員は速やかに、この機体から離れ、避難してください。繰り返します。この機体は……』

 

「「「「「ま、マジかよおおっ!?」」」」」

 

ほらみたことか。あんな綺麗な流れではこうなるのも仕方ないだろう。というか、自爆機能を付けるとはこいつ、なかなか分かっている奴じゃねえか。

 

 

 

――――――― 

 

 

 

さて、大多数の冒険者がその警告に逃げだしたが仕方のないことだろう。むしろそれが普通だ。危険なものからはできるだけ遠ざかるものだし、それがご丁寧に自爆すると言っているんだ、誰だって逃げてもおかしくない。『ウィスパースター』もさっきからご丁寧に何度も逃走しろと呟いてきてうっとおしいくらいだ。

 

 

 

で、それがどうした。誰も乗り込まないのなら、俺だけでも乗り込んで止める。もし止めれなくても、魔力こそあまり残ってないが、もう一度『ガーディアンサテライト』を発動して自爆機能の所だけでも全力で破壊する。爆発しそうではあるが、それでも巨石や石のカーテンでも作って爆風を抑えるつもりだ。この街を、いや、世話になった宿屋ぐらいは守ってやんなくちゃな。せめてもの恩返しだ。

 

「ユタカ、行くのか?いつ自爆するかもわからない状態なんだぞ?危険だ」

「……それが、どうかしたのですか?危険なことなんて今更です。今はこの自爆を止めて、街を守るだけです」

 

例え意識を失おうと、もう一度死ぬことになっても、せめてあの宿屋だけは守りたいんだよ。

 

……覚悟は決めた。冒険者たちの間をすり抜け、デストロイヤーに向かって走り出す。

 

「…………やるぞ、俺は」

 

誰かがポツリと呟いた。それはたった一人の声だった。それでも、

 

「……俺も、もうレベル30を超えているのに、なぜいまだにこの駆け出しの街にいるのかを思い出した」

 

…………お、おう。なんとなくお前がこの街にいる理由が分かった気がするぞ。

 

「むしろ今まで安くお世話になってきた分、ここで恩返しできなきゃ終わってんだろ!」

 

ダスト、お前もか。というか、男が多かった理由って、あのサキュバスの店が理由なのかよ。そんな伏線いらねえよ。

 

「それに、あの嬢ちゃんは行こうとしているんだ。俺たちだって、尻込みしている場合じゃねえだろうが!」

 

え、嬢ちゃんって俺のことか?

 

「あの嬢ちゃんにはいつも世話になってんだ、冒険中に色々お世話になっただろ!」

「あの子だけを行かせるだなんて男らしくねえぞ!宿屋や夢でも世話になった奴がいるだろうが!」

「行くぞてめえら!今更ビビってんじゃねえぞ!あの嬢ちゃんについていけ!」

 

……なんで俺が突入部隊のリーダー的な物になってんだよ?あと、夢で世話になったとかいった奴、後で教えろ。思いっきりぶん殴ってやる。

 

 

 

さて、どうやって登るかだが、それはアーチャーの人がロープのついた矢を放って、それに伝って登れるようにしてくれた。『ガーディアンサテライト』で足場でも作ろうと考えていた身としては大変ありがたい。ところでアーチャーと聞くと何故か薄幸そうなイメージがあるのは気のせいだろうか?

 

まあ、いい。とにかく昇って行って自爆装置を襲撃だ。やはり、予想していた通りかなりのゴーレムが出現してきた。あいつら相手に『コンプレスグラビティ』は効かなさそうだから、前衛の奴に『コメット』を打ち込んで支援したほうが手っ取り早そうだ。素早くなればその分探索や攻撃のスピードも上がるし。

 

正直、突っ込んだはいいが『ポラリス』で内部とかは見れんし、『ガーディアンサテライト』も使えはするが狭いため、むしろ他の冒険者も巻き込みそうで使えん。とにかくひたすら『コメット』を敵味方に打ち込んでいる状態だ。『コメット』自体の魔力消費量は少ない方だから連発してもそこまで困らないし。

 

「おらっ!この中にいるんだろ!開けろ!このドア、ハンマーで叩き壊すぞ!」

「出て来い!街を襲った責任者出て来い!とっちめてやるっ!」

 

あっちの方が正解だったのだろうか、声のする方を向けば通常とは異なった形をした扉に冒険者が群がっていた。あそこは責任者がいる部屋なのだろうか。それならあそこは任せておいて、俺は別の所を探そう。

 

あそこに責任者がいるかもしれないが、それでも制御するための場所でない可能性がある。責任者一人だけで制御できるとは思えん、つまり、あそことは別の場所に、何らかの制御する装置があるかもしれん。とはいえ、自爆装置があるとは限らんが、あんなに人数がいるんだ、少しくらい減っても問題ないだろう。

 

 

 

――――――― 

 

 

 

結局、責任者は死んでおり、このデストロイヤーも糞みたいな理由で暴走したらしい。大分端折って聞かせてもらったが、いい加減すぎる責任者に腹が立ったから中断してもらった。

 

さて、機動要塞の中枢部。結局、あの部屋はそれだけで俺たち別動隊が探した結果、自爆の原因と思われるコロナタイトが安置された部屋を見つけたため、そこにいる。ただ、そこに大人数がいても邪魔になるし、自爆に巻き込まさせるわけにはいかないから避難してもらった。ここにいるのは発見者兼案内人である俺にカズマ、アクア、そしてリッチーのウィズだけだ。

 

「にしてもこのコロナタイトだったか……もう赤というか俺でも暴走していることが分かるような状態になってるな」

「そうですね……流石にここまでなっていますと、私の力では抑え切れたりはできませんね……」

 

流石のリッチーもお手上げか。おれも、これ相手にどうにかできるスキルは持ってないし……アクアとかなら何とかできそうか?

 

「こんなのを封印するなんて妄想はやめてもらえる?そもそも、これはあくまで純粋なエネルギーなだけだからやるにしても相当難しいわよ?それよりも先に自爆しちゃうんじゃないかしら?せめて、アンデットのようなものが混じってれば簡単だったのに……」

 

それでウィズを睨むのはやめてやれ。となると封じたり抑えたりするのは駄目、か。

 

「おいユタカ、お前は何とかできないのか?」

「……たぶん無理ですね。『コンプレスグラビティ』で爆発を抑えられないかと考えもしましたが、無理だと思いますね」

 

まず魔力自体が足りる気がしないし、重力で爆発を抑えられるかと考えると違うしな……『コメット』でも打ち込む?爆発までの素早さでも上がるんじゃねえか?論外。

 

「そ、その、転移魔法でどこかに送り込むのでしたら……」

「それよ!」

「た、ただ、それには魔力が足りませんので……えっと、カズマさん」

 

ん?魔力が足らないのはわかるが、それでなんでカズマを呼ぶんだ?前にカズマにスキルを教えたときに何かやったのか?切羽詰まった状態だからあれとはいえ、何をする気なんだ?

 

……え、なんでカズマの頬を両手で挟んでいるの?これじゃ、まるでキスでもするみたいな……

 

「その……吸わせて、もらえませんか?」

「喜んで」

 

…………え、ほ、本当にキスするの!?ここで!?いや待って!?今そんな場面じゃなから!?というかカズマも、すぐに答えるなよ!そんなことをしている暇はないだろ!

 

「ありがとうございます!では、参りますね」

 

ちょ、ちょっと、本気でするのかよ!?さ、流石にこれを見るのは……!て、手で隠しておけばいいのか、いやこれだと隙間から見るスキモノだとしか、それじゃ、どうすれば

 

 

 

 

「カズマさん、すみません!ドレインタッチ―!」

「あ、あああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

…………え、キスじゃないの?手で隠すようなことじゃなかったのか?…………ご、誤解を招くようなことをするなよ。いや、俺が勝手に誤解したということもあるが、でもあの様子だとするんじゃないかと思っても仕方ないじゃん!

 

………………はあ、自分でも馬鹿らしい。って、カズマ、手とか顔がミイラっぽくなってね……!?

 

「……す、ストップです!カズマが枯れてきているというか、何か危ないです!」

「…………はっ!」

 

と、止まってくれたか。カズマはかなり吸われてしまったのか、そのまま倒れてしまった。

 

「……その、大丈夫でしょうか?立てたりはできるでしょうか?」

「ちょ、ちょっと、無理かな……」

 

どうやら身動きすることも不可能なようだ。とはいえ、地面は固い金属だ。流石にこのまま寝かせておくわけにはいかないな……

まあ、膝枕でもしておくか。カズマの顔が俺の股間に顔をうずめる形になってしまうが、いいか。普通のはマッサージの際にやり慣れているしいいか。なんかカズマが全力で深呼吸しているのも気にしないでおこう。

 

「これでテレポートの魔法が使えます!……ですが、転移先を選ぶのに制限がありまして……私の送れるところがアクセルの街と王都くらいしかないので……」

「って、おいヤバいぞ!石が赤を通り越して白に輝きだしているんだけど!」

 

カズマは一通り気が済んだのか、俺の股間から顔を離し、石の方を見ている。そういえば、太陽も赤いところよりも白の所の方が熱いんだっけ?

 

「一応、一つだけ手があります!ランダムテレポートと呼ばれるものでしたら、すぐに行えるのですが……転送先を指定できないので、下手したら人が密集している場所に送られることも……!」

「大丈夫だ!世の中ってのは広いんだ、人のいる場所に転送されるよりも、無人の場所に送られる可能性の方が、ずっと高いはずだ!大丈夫、全責任は俺が取る。こう見えて、俺は運が良いらしいからな!」

 

いや、確かにその台詞はかっこいいかもしれないが、俺に膝枕されながらキメ顔で言っても効果は薄いと思うぞ?現にアクアは思いっきり笑ってるし、ウィズも苦笑気味だ。

 

「そ、そこまで自信が在るなら、お願いしますね。……『テレポート』―ッ!」

 

 

 

―――――――――― 

 

 

 

あの白く輝いていたコロナタイトはウィズの『テレポート』によって無事、このデストロイヤーから無くなった。よって、デストロイヤーの自爆を阻止できた、はずでいいんだよな?これで、アクセルの街は守れたんだ。さっさと帰るとしよう。

 

まだ体に力の入らないカズマに肩を貸して歩く。残っていたゴーレムたちは他の冒険者が倒してくれたようだ。おかげで脱出も楽であった。

 

甲板ではすでにロープを伝って降りている冒険者たちの姿が見え、残っていたのは俺たちと、ダクネス?なんでここにいるんだ?

 

「ここにいたのかダクネス。もう無事に終わったんだし、屋敷に帰って豪華な飯でも食おうぜ」

「……まだだ、まだ、終わってない。私の、強敵を嗅ぎつける嗅覚が、まだ香ばしい危険の香りを嗅ぎとっている…………まだ終わってないぞ」

 

……へ?お前、そんなスキルでも取っていたのか?それとも、ただの勘か?

 

とはいえ、ダクネスの変態的なあれだろうし、そこまで外れてないのかも……!?まだ、『ウィスパースター』が警告を発している!?とりあえず、今すぐデストロイヤーから離れないと!

 

「……皆さん、一旦ここから離れましょ!?」

 

突然、デストロイヤーそのものが大きく揺れ、金属が赤くなってきている。ってまた赤かよ!?てか熱い!今回どんだけ熱関係が多いんだよ!?

 

とにかく、今すぐ離れないと体が焼けてしまう。カズマを引きずるレベルでデストロイヤーから飛び降り、たが、着地に失敗してカズマのマットになる形で落ちた。

 

それなりの高さがあったから、体が痛くてしょうがない。後でアクア辺りに痛みを引かせてもらうか。とにかく、カズマに怪我がなさそうでよかった。後、いい加減胸においている手は離せ。俺でなければ鉄拳が飛んでいたぞ。

 

「おい、デストロイヤーのコアは抜いたのに、なんでこうなっているんだよ!」

 

本当だよ、あのコロナタイトがすべての制御をしていたとは思えんし……

 

「こ、これは……これまで内部に溜まっていた熱が、外に漏れだそうとしているんです!このままでは、町が火の海になってしまうかもしれません!」

 

おい、それじゃ、コアを抜いた意味ないじゃん!それじゃ、アクアのあの洪水級の水を呼び出して冷やす……駄目だ、あそこまで加熱しているとすぐに蒸発していくだろうし、むしろ蒸気やデストロイヤーからあふれてきた水で危険になるかもしれない。

 

「も、もう一度『エクスプロージョン』で、あれを破壊できないか?」

「駄目です、魔力が足りません!も、もう一度分けてもらえれば何とか……」

 

カズマはもう駄目だし、ダクネスは騎士職であると考えると魔力には期待できない。となると俺とアクアだが、俺は少なくとも爆裂魔法をぶちかませるほどの魔力は残っていないだろう。それじゃ、アクアは……

 

「おいウィズ!そもそも街の目があるところでドレインは不味いだろ!というか、アクアの魔力だと前やったようにお前が浄化されちまうだろうが!」

 

そもそもウィズ自体にやらせることが駄目っぽいな。…………もういっそ、火の海になったらアクアに洪水を出してもらうしか……

 

 

「ふっふっふ、皆さんお困りのようですね」

 

……こ、この声は……!

 

「真打、登場」

 

めぐみん!そうだったな、こいつがいるのを忘れていた。こいつならアクアの魔力を注いでも問題ないしな。だがな、どうせかっこよくやるのなら冒険者のおじさんに担がれて叫ぶのは止めような?

 

 

 

――――――――― 

 

 

 

さて、アクアの魔力をめぐみんに渡すことが決まったがそれに異論を挟みたい。アクアの魔力を渡すことは賛成だが、どうせ俺の分も吸われても問題がないのだ。これで失敗したら危険だ。一人だけにやらせるわけにはいかない。

 

というわけで俺の魔力もめぐみんに渡すことになった。方法としては、カズマの両手は俺とアクアから吸い取り、カズマのおでこからめぐみんに渡すことになった。なんかカズマがめぐみんにキスをしているようで嫌だな……待て、何が嫌なんだ俺よ。

 

「ねえ分かってる?吸い過ぎないでね?吸い過ぎないでね!?」

「分かってる解ってる、宴会芸の神様の前振りなんだろ?」

「違うわよ!芸人みたいなノリで言ってるんじゃないわよ!!」

 

おい、そこのコント集団、ふざけるのはまだ早いぞ。

 

「…………カズマ、私のは全部吸い取ってもいいですからね?というか、全部吸い取ってもいいので成功させてください」

「見ろよアクア。お前のような宴会芸の神には真似できないような女神っぷりを」

「うるさいわよヒキニート!あんまりふざけていると、神罰でも降らすわよ!」

 

だから、いい加減ふざけるのは止めろ!

 

「カズマさん、ドレインは皮膚の薄い部分で、心臓に近い部分からドレインをすると効率が良いですよ!」

 

……ウィズがそう言っているが、皮膚が薄くて……心臓に近い部分……え、胸でも晒して触らせないといけないの?触らせるのは滅茶苦茶我慢するとして、流石に晒すのは嫌なんだけど。どうすれば良いのだろうか……

 

なんかアクアやめぐみんとカズマが戯れているけど、今のうちに考えよう。なんかウィズが泣き叫んでいるが無視だ。

俺の場合、ローブ一枚は下着のため、ローブを脱ぐのは駄目。たくしあげて触らせるのも、何か恥ずかしいし……もう素直にこうするか。ローブの首の所を止めているのを外し、手が入りやすいようにする。ちょっと狭いではあるが、そこは俺もカズマも我慢してもらうとするか。胸の下着は……………ま、まあ、うん。

 

「ユタカ、そろそろ始めるから準備してくれ……ユタカ?」

「………………か、覚悟は決めたから。えっと、む、むむ胸のほうに、手、入れて、いいから……その、下着がありますが、その下に、手を、潜り込ませる形で……えっと…………だ、大丈夫……?」

「大丈夫です、是非とも任せてください」

 

お、おう、即答か。なんか目がこの前の風呂とか、さっきウィズにドレインたちされている時の目になっているが、まあ、いいか。

 

 

 

 

なんか言い争っていたが、どうやらカズマたちはどこに手を入れるかで言い争っていたらしい。結局、アクアとめぐみんは妥協に妥協を重ね、首根っこのあたりになっていた。で、俺だけ前かつ、胸ということになった。ガッデム。

 

で、現在全力で吸われているところなんだが、これ、大分クルな。ガンガン吸われているためか、眩暈とかで体に力が入らない。まだ何とか保てているが、カズマに軽くもたれ掛かっているレベルで危ない。…………なんか、この時にかこつけて、カズマが胸を揉んでいるのも気のせいだと信じたい。流石にこんなヤバい場面で、そんなことをするやつじゃないと思いたい。

 

「おお……きてます、来てます!これはやばいですよ!これは、過去最大級の爆裂魔法を放てそうです!」

「ねえめぐみん、まだかしら。もう結構な量吸われていると思うんですけど!というか、ユタカがもう危なくなってきているんですけど……」

「もうちょい、もうちょいなんです!あっ、ヤバいかも……」

 

ヤバいのならもう終わってもいいんじゃないか?というか、体が爆発とかしないよな?

 

「……もう十分溜まってきましたので、渡さなくてもいいです。二度も爆裂魔法が打てる幸せ、その嬉しさをここに見せてあげましょう!」

 

…………そうか、楽しそうで何よりだ。その代わり、しっかり成功させろよ?

 

「…………光に覆われし漆黒よ、闇を纏いし爆炎よ。他はともかく、爆裂魔法のことに関しては!私は、誰にも負けたくないのです!行きます!我が究極の爆裂魔法!!」

 

あ、駄目だ、もう意識が保てないや……カズマ、後はよろしく。

 

「『エクスプロージョン』―――っっ!!」

 

めぐみんの嬉しそうな声とともに、俺はまた意識を失った。

 

 

 

―――――――――― 

 

 

 

なんか、意識を失うこと多くね?というか、大きな戦闘の時って大概意識失っているよな。冬将軍?あれは死亡だから意識を失っている判定には含まれる。

 

で、結局いつも通り宿屋の自室で目覚め、ギルドで話を聞くと、無事にめぐみんはデストロイヤーに爆裂魔法をぶつけられたらしい。その後も、特に問題は起きずに大団円らしい。

 

俺も特に異常とかはなく、日々健康に暮らしている。宿屋や街に被害はなかったため、それもまた、この街を守れたなと実感できる要素になってうれしい。

 

あと、デストロイヤーに走るときに宿屋や夢でお世話になったとか言ってたやつが居たからぶん殴っておいた。どう考えても、サキュバスサービスでの淫夢だろ。

なんか喜ばれた。むかついたから全力で脛を蹴り上げておいた。…………おい、「私を奴隷にしてください!」とか人聞きの悪いことは止めろ!

 

で、デストロイヤー討伐から数日があっという間に経った。今日は宿屋の手伝いをしていたが、ギルドに王都から騎士たちが来ているとのことらしい。大方、デストロイヤー討伐の報奨金でも運んできたのだろう。とはいえ、どうなるかはわからないし行ってみるか。それでなくても面白そうという野次馬根性をきかせて。

 

ギルドに訪れると、ちょうどその騎士二人と黒髪の女の人がいた。そして、カズマが呼び出された。確かにあいつはあのパーティーのリーダーだし、報奨金もパーティー一括で渡すのだろうか。冷やかす準備はできている。さあ、どんな用件なのだろうか―――――

 

 

 

「冒険者、サトウカズマ!貴様には現在、国家転覆罪の容疑が掛けられている!自分と共に来てもらおうか!」

 

 

 

 

……………………え?

 

 

 




前書きでも書きましたが、この小説はこの話を目途に一時更新を止めさせていただきます。
その理由としましては、作者が年明けから忙しくなるため、この小説を更新することが難しくなると判断したためです。
とはいっても、まだ閑話やIF編やらを書いたり、もしかしたら三巻の内容のはじめを書いたりもするかもしれませんが、更新が止まったら今は忙しくて無理そうなんだな、と思っていただけると幸いです。

とにかく、この小説はいったん更新を止めることを分かっていただければ、と思っております。
身勝手な柄ではありますが、ご了承いただけると幸いです。

とにかく、最後になるかもしれませんのでご挨拶を、この小説にお気に入り登録してくださった方、評価してくださった方、感想を書いていただいた方、そして、この小説を読んでいただいた方、誠にありがとうございました!
皆様の応援全ては作者の励みになりました!
本当に、ありがとうございました!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話3 ネコミミシッポ

なんか思いついてしまったので閑話です。
IFルートはまだ思いついているレベルではないので、少々お待ちください。

後、TS発情逆レは逆レ(純愛)だったり、逆レ(結局逆転される)なものしか思いつかなかったため、しばらく延期になりそうです……
申し訳ありませんでした。

それと、今回は疲れた脳みそで書いているため色々とご都合主義だったり、キャラが変な思考回路になっていますが、ご了承ください。


拝啓、お父様お母様。向こうの世界では実際に猫耳と猫の尻尾が生えるお薬が置いているそうです。

 

 

 

「…………どういうことですか、ウィズ?私は、感覚が鋭くなる薬と聞いて買ったのですが?私は猫になりたいだなんて、一言も言ってませんよ?」

「痛い痛いです!思いっきり胸を掴まないでください!」

 

ある日、ダンジョンを攻略するパーティーに混ざったときに、ウィズから買った薬を飲んだ。効果としては、聴覚や空気の流れなどを察知しやすくする薬だと聞いて、こういったダンジョン系の依頼に使えないかと思って使った。ダンジョンでは、俺は『ウィスパースター』以外の探知能力が無いため、渡りに船といわんばかりに思いっきり飲み干した。その結果、見事に猫の耳と尻尾が生えてきた。どんなジョークグッズだ。

 

実際に効果は出ていたのだが、問題はこの薬の効果が続く期間だった。依頼を達成しても効果は切れず、一晩経ってもこの耳と尻尾は消えていなかった。

 

「その……紅魔族の里で買ってきたお薬ですので、そんな風になるとは思いませんでした……申し訳ありません!だから、少し力を緩めるだけでもしてくれませんか?」

 

いや、効果としては便利ではあったのだが、これのせいで子猫ちゃんとかと揶揄われたり、触ったり撫でようとしたりする奴が出てきて困るのだ。別に揶揄われるのはいいが、それが何度も続けば苛立ってくるうえ、この耳と尻尾は想像以上に敏感なのだ。本物の猫はそこまで反応しない筈なんだろうが、元は感覚を鋭くするための薬なのだ。軽くでも触られると、思わず背筋が伸びてしまうほどだ。

 

耳の方はまだ帽子で何とかなっては……いないではあるが、まだましである。特に危ないのは尻尾の方だ。ちょうど下着やレギンスに覆われているところに生えてきているせいでまともな下着を穿けない。今は尻尾を避けて穿ける紐型の下着だけだから心許ないうえ、ローブに擦れるだけでも反応してしまう。

 

それに触覚だけでなく、聴覚的なところもだ。犬が嗅覚に対して猫は聴覚を発達させた生き物だ。そのおかげで、街中はうるさすぎてしんどい。帽子をかぶっている分、まだましだと考えられるがな。それでも騒音は酷くストレスがたまる。しかも、宿屋での手伝いで男一人の部屋で、己の竿を、全力でやっている音とかが……ああああああああああああああああっっ!!

 

それで治るまで、音が少なさそうな場所まで冒険に出るのならまだしも、そうずっと外にいるのは無理だ。だから休めるために町にいるのだが、日常までこのままなのは休むことすらできなくて困るのだ。それでウィズに聞きに行ったのに……

 

「……で、この薬を打ち消せるものとかはない、のですね?」

「本当に、申し訳ありません!そのお薬は単体でしかなかったため、対になって打消しの効果を持っているお薬とかは……」

 

御覧のありさまである。いや、まあ、ウィズの店で買ったんだからそんなもんだろうとは思ったけどさ。これで消せなかったらどうするつもりだったのだろうか。

 

「その、その場合は街のアークプリーストさんとかにお願いして解除してもらおうかと……」

 

……え、それって、もはや呪いとかの類だよな……?

 

「ええ、永続的に発生するということと、他者もしくは自己に不利な働きをするという観点から、呪いの一種ではあると思いますね」

 

の、呪い、ね…………

 

「……ウィズ、そんなものを売るんじゃねえよ。これで、元に戻らなかったらどうするつもりだったんだ?」

「痛い痛いです!ちぎれちゃいますから!思いっきり握りしめないでくださいよーっ!あと口調も変わって怖くなっていますよ!?」

 

ふざけるなよ!?どういったことが起きるかぐらいはしっかり調べておけよ!

 

「おーすウィズ、また遊びに……また何やってんだよお前ら。というか、ユタカ、その猫耳は何だ?」

 

……あ、カズマ、何でここに?

 

「……あの、いい加減離して…………」

 

何か代案出したら離してやるよ。この馬鹿。

 

 

 

――――――

 

 

 

「で、ウィズのせいでこうなっちまったと……ウィズの店の物をそう軽々しく飲むんじゃねえよ。ウィズの商才を考えたら子供でも分かることはしちゃダメだろ」

「…………それもそうでしたね、これは流石に私の不注意の割合が多かったですね」

「な、なんでそこで納得するんですか!?ちゃんと良い物だらけじゃないですか!」

 

せめて呪いの効果が付いたものを売るのは止めろ。割と真面目にこのままだと困るんだよ。

 

「しっかし、その猫耳と尻尾が本物だとは思いもしなかったぞ。それ、感覚とかはどうなっているんだ?」

「……通常よりも鋭くなっていますので、大声とか出されたり、触られたりするのはあんまり……ですね」

 

これで感覚のオン・オフの制御ができればまだましなんだがな……。

 

「んー、でもそれ、ウィズの話だと呪いの類だろ?それならアクアに治してもらったらどうだ?今ここにはいないし、それなりの対価は要求するだろうがな」

 

あ、それもそうか。まあ、アクアなら適当に褒めておけば何とかなりそうな気もするが、いざとなったら酒でも買ってやれば喜ぶだろうか。

 

「……なあウィズ、あの薬って本当に感覚が鋭くなる薬なのか?どっちかって言うと猫化の薬の方なんじゃないのか?」

「え、えーと……どうもそうみたいですね。というか、こんな耳と尻尾が生えてる時点でそうじゃないかとは思っていたのですが、製薬した方の話ではこれは感覚が鋭くなると言っていましたので……それで誤解してしまったようですね」

 

…………あとでそいつの名前、教えてくれないだろうか。そいつの顔面、爪とぎに使ってやる。

 

 

「ふーん……それなら、これはどうなるんだろうな?」

 

………………!?こ、この匂いは……!

 

「あのー、それってただのマタタビ、ですよね?」

「ああ、そうだ。この前のクエストの際にいつの間にかポケットの中に混じっていたんだよ。で、確か猫ってマタタビに弱いんだったよな?」

 

なんか嫌な予感がする……『ウィスパースター』も、軽くではあるが警告をしているし、い、今のうちに逃走せねば……

 

「はい、捕まえた。せっかく面白そうなことが起きそうなのになー」

 

や、やめろー!襟首をつかむなー!それで俺にナニするつもりだ!

 

「いや、ちょっと実験したいから大人しくしていろ。ほら、ほーら」

 

……くっ、俺はマタタビなんかに屈しない!

 

~~~~ 

 

マタタビには勝てなかったよ……

 

「……あの、ユタカさんの目が虚ろというか、顔真っ赤でよだれとか垂れてきちゃっているのですが、大丈夫なのでしょうか?」

「……た、たぶん大丈夫なんじゃないか?マタタビって猫に対しては酔わせるような感じだったはずだし……」

 

なんか二人が言ってるが、よく聞こえない……

 

「カズマさん、マタタビが効くのはどっちかというと雄猫の方が多いんですよ?」

「だが、雌猫でも効くのは効くんじゃ……」

 

なんだか、頭がポンヤリとして来て気持ちがいい。そのままフワフワとしていたい。

 

「それとウィズ、俺の膝の上からユタカが動かないんだが、どうしたらいいと思う?さっきから上目遣いで見つめられてキツいんだが」

「え、えっと……マタタビの効果が切れるまで大人しくしておいたらとしか……」

 

……カズマー、こっち見ろよー。もっと遊ぼうぜー。

 

「ああ、わかった。わかったからほっぺとか首を叩くな。とにかく、何をすればいいんだ?」

 

んー……そうだなー……まずは撫でろ。快楽を所望する。なんかお前なら、遊ぶよりこっちの方が良さそうだ。遊ぶより、カズマ相手ならこっちの方が嬉しい。

 

「頭を突き出して……え、撫でろってことか?猫耳とか敏感だって聞いたのだが、大丈夫なのか?」

 

平気だからさっさと撫でろ。あれでも我慢ぐらいはできるから、早く。早く。

 

「頷いているってことは、いいんだな?……ま、これぐらいはいいんだがな」

 

おおう、やっぱり敏感ではあるな、だが、これ位優しくならちょうどいいな。

 

「特に反応がなさそうだし、これで良いのか?」

「にしても、ユタカさんが撫でろなんて珍しいですね。こういった触れあいとかは嫌いそうなイメージがあったのですが」

「あー……こいつ、結構ボディタッチは多い方だぞ?膝枕とかに抵抗とかなかったですし、たまにではあるけどマッサージとかしてもらってるし」

 

……今度は尻尾だ。ほら、早くせい。

 

「はいはい、そんなに尻尾を振らなくてもわかっているから落ち着け」

 

……………………♪

 

「……あそこまで笑顔なユタカさん、見たことありませんよ?すっごい気持ちよさそうにしていますね」

「まあ、そうだな。これもマタタビの影響なのか?」

「どちらかというと、本人の気質的なものかと思いますね……。いつもは冷静なだけにギャップが凄いですね」

 

……うむ、もう十分だ。気は済んだからもうやらなくてもいいぞ。

 

「お、やっと離れてくれたか。さて、それじゃ、アクアを呼んでくるからユタカの世話をよろしくな」

「分かりました。行ってらっしゃいませ」

 

む、カズマ行くのか?行ってらっしゃい、俺はウィズと遊んでいるから。

 

「さて……猫で遊ぶと言えばやっぱりこれでしょうか?」

 

そ、それは……禁断の誘惑(猫じゃらし)じゃないか!?くぅ、こ、こんなのに惑わされるわけには……

 

「はーい、子猫ちゃん、こっちですよ?」

 

にゃああああああああああああああああああああああああああああああ!!

 

 

 

―――――――――――――― 

 

 

 

その後、バイトの途中だったアクアは文句を言いつつも俺を治療してくれた。その際にまたウィズを退治しようとしていたが、まあ、残当だとしか言いようがない。

 

で、無事呪いが解除された俺は、

 

「……お、おい、今日は俺とウィズが飯奢ってやるからな?だから、いい加減そこから顔だけでも出してくれ」

 

商品棚に隠れていた。なんで俺はまた、撫でるように要求したのだ?前のキャベツの時の偵察といい、どれだけ子供化しているんだ。いや、今回は猫化ではあったが。

というか、なぜ俺は撫でさせたのだろうか、身体的接触が激しすぎやしないだろうか。チョロイ娘だと思われていないだろうか。なんか、すっげえ恥ずかしいんだけど。思いっきり顔真っ赤なんだけど。こんな顔、見せられないんだけど!

 

「……ちょっと、気が落ち着くまではここにいさせてください。今思い出して転げまわりたいレベルですので、そっとしてくれるとありがたいです」

「お、おう……それじゃ、また夜ごろにギルドに来てくれたら奢ってやるからな?ちょっと調子に乗ってしまってすまないな」

「…………別にいいです。怒っていたりとかはしていませんので、気にはしないでください。ただ、今回の出来事が黒歴史になった程度ですので」

 

いや本当、こんなことはもう懲り懲りだ。今度からウィズの薬は本人に飲ませてからにしよう……。

 

 

 

――――――――――― 

 

 

 

後日、また新しいのが入荷されたらしいが、それを飲ませた結果、今度はウィズに犬耳が生えてきた。

…………さて、ウィズの場合だと解除のついでに浄化されそうだし、どうするべきか?

 

 

 




もっとマタタビをあげると?発情でもするんじゃないでしょうか()


なんか思いついたっちゃオマケ?
読み飛ばしていただいても結構です




「……なあユタカ、俺の目の錯覚だといいんだが、なんでまた猫耳生やしているんだ?それと、俺たちの屋敷の前で段ボールに入ってって、まるで捨て猫のようだぞ?」

「えっ?『この子は引っ掻いたりしない良い子です。時々構ってあげると喜びます。誰か拾ってあげてください』って、まるでじゃなくてまんま捨て猫じゃねえか!」

「……あー、今は借金があるから厄介ごとは……いや、お前のことが嫌いになったからじゃないからな?ちゃんと信頼はしているからそんな涙目で見ないでくれ。カズマにも捨てられちゃう?って違うからな?いやだから……ああ、もう、分かったよ、拾ってやるからちゃんと良い子でいるんだぞ、いいな?……よし、それなら今日からユタカはうちの子だ。みんなと仲良くしてやってくれよ?」

~~~~~~~ 

「……なんだ、夢か」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

IFルート? 『発情』

今回の話もグダグダの上、非常に変な話になっております。
ご了承くださいませ。

今回の話は以前から言ってたものですが、お題から全力で離れていった感じが否定できない物になってしまっています。
許してください!何でもしますから!

作者もこの話を書いていて、大変不安になる出来ですが、それでも読んでいただけると幸いです。
また、できるだけR-15の範囲には収めているつもりですが、R-18の表現などがあった場合、修正もしくは削除する可能性があります。
ご了承ください。



最後に一言だけ言わせてください。

逆レは死んだ!もういない!


また意識が、持ってかれそうになった。

 

下腹部からの強烈な熱が体中を燃やさんと云わんばかりに広まっていき、俺の脳すらも焼き焦がしてしまったのかもしれない。そう思ってしまうほど、今の俺は正常でない。

 

これまではまだ、耐えきれた。どれだけ己の中で欲が燃え上がろうと自制はできたし、サキュバスサービスを何度も使えば抑えきれていた。どれだけ性欲に蝕まれようと、己の体を触り解消することはなかった。

 

しかし、この前ふとした拍子に取得してしまったスキルのせいで、その箍も外れてしまった。それも、『子孕む雌山羊(Shub-Niggurath)』。いつの間にか必要ポイントが、他のスキルよりも格段に少なくなっていたために、ついうっかり取得してしまった。アホか俺は。

 

最初に使った時は、闇があるところに移動できるワープ系のスキルだと思った。思っていた効果と違い拍子抜けではあったが、必要ポイントの少なさを考えれば、まだ使えるスキルだと思えた。夜とか障害物が多い地形での闘争などに使えそうだと思えた。

 

 

 

違った。

 

 

 

このスキルの本当の効果は手っ取り早く言うなら『発情』だ。確か、この名前の元になった神格は豊穣神であり、また千匹の黒山羊を産んだ多産の神でもあったはずだ。となると、その発情は子を孕むまで続くということになるだろう。それに、千匹も孕んだ神だ、孕みやすくなる効果もあると推定される。あくまで推定ではあるが、そう外れたものではないとは思いたい。

 

 

……だからだろうか、俺の胎が、欲しているのだ、子の在り処を。

 

俺が禁じていた自己の体を使った性欲の解消も、何度も何度も、行っても胎の熱は引かなかった。

いや、むしろ燃え上がった。その情欲が、快楽が、俺が男であったことを融かし消してしまうように。

 

精を注いでもらえ。

 

子を孕め。

 

墜ちろと。

 

 

脳が段々と汚染される感覚に、嫌悪感が生じるはずなのに、だんだんとそれもいいかと受け入れている自分がいて驚く。いや、すでに俺はそれを受け入れてしまっているはずだ。そうでなければ、なぜ俺は男の顔を思い浮かべているのだ?そこまで堕ちきってしまっている自分に呆れてしまう。

 

とはいっても、そう精を注いでもらうようなことはしたくない。そもそも、そんな相手がいない。元男であった秘密を守るために、そこまで親密にしていなかった成果がここで発揮されるのも、なんか納得がいかないがいいだろう。

 

身近な男なんぞ、お爺ちゃんに、お兄ちゃんは流石に論外。もはや家族としてしか見れない。

ミツルギも、なんかナルシストっぽくて嫌だ。あいつとヤルくらいだったらそこらの冒険者を路地裏に誘った方がましだ。

そうなると後は…………カズマくらいだろう、か……?

 

 

 

 

 

 

 

カズ、マ…………?やめろ!やめてくれ!カズマは、カズマだけは巻き込ませたくな――――

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――――――――

 

 

 

「お、やっと目を覚ましたか。まったく、ギルドにフラフラで来たと思ったら、俺の目の前で倒れたから驚いたぞ」

 

……気が付いたら、カズマにおぶさっていた。

 

「しっかし珍しいな。いつもは健康とかには気を使いそうなお前なのに、今日は顔真っ赤で熱出してって、風邪でも引いたんじゃないか?」

 

顔が、心臓が、肢体が、脳が、胎が、私の体の全てが、熱い。

 

この声の人に、私の全てを捧げろと耳元で囁かれる。

 

「とりあえず、アクアに後で診せるからな。今アイツはちょっとバイトに出かけているから、それまでは屋敷で休んでおけよ」

「…………すまないな、面倒を掛けた」

「気にすんな。むしろ、いつもは俺たちが迷惑かけているんだ、これくらいはやらせてくれ。ま、元男とはいえ今は可愛い女の子なんだ、むしろ背中に小さいながらも柔らかいものが触れていて役得だからな!」

 

…………前だったら、恥ずかしがるんだろうが、今の私にはその言葉は反則だぞ?今ので一気に体の熱が高まった気がするぞ。後、その発言で街の住人の目が厳しくなったんだが……ま、いっか。

 

「まあ、そんなことだから気にすんなって。っと、着いたな。それじゃ、一旦客間まで連れて行くから、あと少しだけ大人しくしておけよー」

「……ああ、任せろ。客間までは大人しくしておく」

「まあ、病人が暴れるようなことはしないか。とはいえ、体調が悪くなったら言ってくれよ?急いでアクアの所に連れて行くからな」

 

…………ああ大丈夫だ。客間、まではだがな。それに、ちょうどアクアだけでなくめぐみんもダクネスも出払っているんだ。ここで逃すような真似はしたくない。

 

その後、無事に客間まで私を背負って、丁寧にベッドヘ寝かせてくれた。本当、こういったところは良い奴なんだけどな。そういったところを見ないやつが居るからよく鬼畜変態だなんて言われているのかね。ま、日常があれだから仕方ないがな。

 

っと、カズマが部屋を出そうか。逃がさないため、服の裾を掴んでおく。ついでに、何か言いたげな顔をしておけば、必ず聞こうとするし。

 

「それじゃ、俺はいったん部屋に戻って……ん、何だ?」

「…………その、な、ちょっと頼みたいことがあるから、もっと近くに来てくれないか?」

「おう、いいがどんなことなんだ?」

「何、簡単なことなんだが、それをするにはカズマの助けが必要だからな。もっと近くに来てくれ」

 

心配そうな顔をしたカズマには大変申し訳ないが、私はもう、抑えきれなくなっているんだよ。近づいてきたカズマの腕を強引に引っ張ってベッドに倒れこませる。

 

「おっとっと、急に引っ張るな…………っ!?!?」

 

倒れたことに文句を言うために上げた顔に、逃げられないように首の後ろに手を回し、唇を奪う。

驚いて眼を開かせて、身じろぎをしない隙に舌と唾液をねじりこませる。ただ一心不乱に、カズマの舌を、歯を、喉を、口内全てを荒らしまわる。カズマの唾液と、体温が俺をまた興奮させてくる。脳が、だんだんと溶けていく感覚が気持ちいい。

もっと、もっともっと、もっともっともっと!

 

「……ぷはぁ、お、おま、お前、何しているんっ!?」

 

不覚にも肩を掴まれ、口から引きはがされてしまったが、いいか。本番はこれからだ。

 

カズマが私を見たときに、『子孕む雌山羊(Shub-Niggurath)』の機能の一つを発動させる。俺すらも発情してしまうほどの豊穣・多産であった神なのだ、相手を発情させることなど容易いのだ。

 

カズマも思わず私を押し倒してくれた。見事に発情したらしく、息を荒げ、眼を充血して私の服を、力強く引きちぎり、剥ぎ取ってくれている。さあ、もっと、遠慮せずに私を犯してくれ。さあ、さあ!

 

 

 

…………どうした?何をそこまで耐えようとしているのだ?もう発情の効果が切れてしまったのだろうか?それならば、もう一度だ。今度は自重しないで、俺が耐えきれなかったほどの催淫を。

 

…………ほら、襲えよ。私は逃げもしない、抵抗だってしない。お前が好みそうな豊満な肉体ではないが、多少の肉は付いているのだ。元男ではあるが、今は女性の肉体なのだ。いつもサキュバスサービスで済ませているが、本物の女の体なのだぞ?なぜ、手を止めて襲おうとしないのだ?

 

「…………ユタカ、本当にそれでいいのかよ。本当に、このままでいいって言えるのかよ!」

「……何をいまさら言うんだ。私がこうして誘ったんだ、カズマは気にせずに、目の前の御馳走を貪ればいいんだよ。私のことなんて気にしないで、襲えばいいんだよ?」

 

そうだ、私の胎がお前を求めているのだ、早く襲って、お前の精を出してくれればいいのだぞ?だから、私のことなんて気にしないで犯せば―――

 

 

 

 

え?

 

 

「な、なな、ななな、何で普通に抱き締めているんだよ!?そこは、俺を犯すんじゃねえのか!?」

「……ふざけるなよ、この馬鹿野郎。そもそもこれくらいなんざ、サキュバスサービスでいつも見ているから平気なんだよ!」

 

え、えー…………俺が、せっかく全力で落としにかかったというのに、いつも見ているからって理由で耐えられてしまうものなのかよ。サキュバススゲーな、おい。お前らのせいで俺の誘惑が無効化されちまったじゃないか、どうしてくれんだ。というかどうやってみているんだよ。前侵入したサキュバス、捕まっていたじゃねーか。

 

「というか、だ。なんでユタカがこんなことしているんだ?普通、元男なら男相手には嫌悪するだろ?なのに、なんで俺にスキルか何かをしてまでこうするんだろうか、って思ったら手が止まってな。本当、どうしたんだ?何かあるのなら相談くらいはさせてくれよ、いつも世話になっている分は変えさせてくれよ」

 

きゅ、急に一気にしゃべるな、どれをどう受け止めれるかで思考が巡らせない。というか、股間のブツを俺に当ててるんじゃねえよ!

 

「おっ?これはお前がスキル使ったせいでこうなってんだろ。ほら、どうにかしてくれよ。ほら。ほーら。ほーーら」

 

だから当てるなあああああああああっ!!

 

 

 

 

 

「で、そうなっちまったのは『子孕む雌山羊(Shub-Niggurath)』ってスキルのせいであって、いつもは抑えていた性欲とかがそれと混ざり合ってしまって、つい俺を襲ってしまった、ということでいいんだな?」

 

黙っていたら股間でこすりつけられたため、結局話してしまった。やっぱりカズマは鬼畜変態のクズマで間違いない。抱きしめたまま離さないあたり、それにもっと酷いあだ名を付けてもいいかもしれない。……下着が濡れていたことは気付かれなかっただろうか。

 

「おい、何考えているかぐらいはもう察しがついているぞ」

 

だからそのブツを俺に近づけんじゃねえよ!

 

「まあ、いいや。とりあえず襲った理由は分かった。で、それでなんで俺を襲ったんだ?男ならいくらでもいるだろ、特に身近な宿屋のお兄さんとかじゃなくて、なんで俺なんだ?」

 

…………おおよその理由は付くが、とてもカズマに言える内容なだけに言いたくない。ここは沈黙を選択だ。撤退だ。防御だ。

 

「おい、何で俺の胸に顔をうずめているんだ。早く説明しないつもりなら……俺にだって手はいくらでもあるんだぞ?」

 

はっ、俺の鉄壁な防御をそう簡単に崩せると思っているのか?また発情しそうではあるが、今度は顔を完璧にガードしきって……おい、何か尻の方に変な感触が、って揉むんじゃねえよ!?やっ、ほ、本気で、やめろ!なんか、変な感じがして力が抜けてくるから!

 

「分かった!言うから揉むのは止めろ!」

「だったら早く言えよ、ほら。言わないとまた揉み始めるぞー?」

 

ちくしょう、このクズマが。

 

「……あー、その、だな。あくまでこれは俺もおおよその推定でしかないから、外れている可能性が高いからな?それだけは分かっておけよ?……えっとだな……その、あっ、えー……ズマ……きだから」

「え?何だって?」

「だ、だから、あの、…ズマが、…きだからだよ!」

「あー、真面目に声が小さすぎて、何言ってるか分からない。もっと大きな声で話してくれ」

 

 

 

「~~~~~っ!!だから!カズマのことが、好きだからなんだよ!」

 

 

 

「で、なんで俺が好きだからそうなったのかを詳しく説明してくれ」

「人がせっかく告白しているんだから動揺ぐらいしろよ!ていうか、後は大体察してくれ!いつものお前の鋭い洞察力はどこ行きやがった!」

 

いつも俺は鈍感系じゃないからな、とか言ってたカズマはどこ行ったんだよ!

 

「いや、前々からなんとなくではあるが気づいてはいたし。というか、それだけじゃお前は分かっても俺はわからん。早く詳しく説明してくれ」

「……そ、それで、スキルの影響と俺の願望が混じって、その、お前とエッチなことをして、子供ができるように発情したというか……」

 

どんな羞恥プレイだ。ダクネスあたりには好評かもしれんが、俺がやったって何の得もないだろうが。

 

「ほうほう、それで?」

「そのにやけ面は何だ、後、いい加減尻から手を離せ!……それでも、カズマが傷つけたくないから、俺が誘った形にしておけば大丈夫かなー、って」

「ん?なんでそこで俺が傷つかないようにって出てくるんだ?」

 

……え、おまえ周囲にいる女の子のこと、気づいていないのか?

 

「……だって、カズマにはパーティーの女の子がいるだろ。それで、関係のない俺が告白してギクシャクさせちゃうのも……」

「あいつらが俺に好意とか持っているわけないだろ。お前、どんな目玉してるんだ?羨ましいな、俺の腐りきったのと交換してくれないか?」

「…………え、本当に気付いていないのか?」

 

アクアはともかく、めぐみんとダクネスはお前の事を良い目で見てはいたぞ?少なくとも、パーティーを解散しようとはしないくらいには好いていたはずだ。

 

「……まあ、気づいていないならいいか。それで、俺が襲い掛からせたって感じにした理由だ。まあ、要は性欲が高まりすぎて逆レしたってことだ。逆レって感じではないが、それでも怖い思いをさせてすまなかったな。今度は無理にでも抑えて、カズマだけは襲わないようにはするよ」

「……ユタカ、それってどういう意味だ……?」

「どういう意味も何も、さっき言っただろうが。俺の体の疼きは、子を孕むまでずっとである可能性が高いって。だから、いざとなったらそこら辺の奴を誘ってヤッテもらうさ」

 

…………

 

「……流石に子どもが出来たら、今の場所では暮らせないんじゃないか?」

「ああ、心配はしなくてもいい。宿屋の人たちは、子を孕んだからって追い出すような人たちじゃないし、もし追い出されても、稼いだ金は貯めてあるから一人でも暮らせるさ」

 

…………いやだ

 

「一人でも、って……」

「元の世界では一人で生活していたし、ここでも大衆浴場やギルドみたいにある程度の施設はあるんだ。そこも頼ったりしつつなら平気さ」

 

…………いやだ、いやだ

 

「…………それで、お前は幸せになれるのか?」

「さあ?少なくとも今よりは幸せではないだろうね。それでも、この疼きはもう抑えきれるものじゃないんだ。一度でも、子を作らないと何とかできないしな。こうしてお前を襲ったのがいい例だ。ほら、いい加減離せ。もう十分尻の触感やらなんやら楽しんだだろう?」

 

…………カズマ達から、離れたくない。

 

「……おい、いい加減離してくれよ。こっちは襲いたいのを限界まで我慢しているんだ。カズマだって、さっきまでは怖い思いをしただろう。俺だってお前が嫌な思いをするのは嫌なんだ」

 

…………ずっとこのままが良い。ずっと、カズマを感じていたい。離さないで、欲しい……

 

「お、やっと尻から手、どけてくれたか。まったく、って俺が言っちゃ駄目だが、すまなかったな。それじゃ、また…………おい、なんでまた背中に腕回してんだ?もう十分役得ではあっただろ――――――――」

 

え、カズマの顔が近い?なんか後頭部を勢いよく押されて近づいていってるんだが、なんか口内に変なぬるぬるとしたもの…………

 

「…………――――――――っっ!?!?」

 

え、なんで!?さっきまで怖い思いさせたのに、なんでこうなっているんだ!?あ、カズマの舌、気持ちいい……もっとして……じゃねえ!

 

「ぷはぁ……はぁ……はぁ……い、一体、何をしているんだ!さっきまで、俺が襲い掛かったのに、なんでカズマまでやってくるんだよ!?」

 

 

 

「だったら、何でさっきから泣き笑いのままなんだよ」

 

 

 

「…………は?」

「お前こそ気づいていなかったのか?さっきから話している間、お前ずっと泣いていたぞ。大方、俺に振られたと思い込んでもう無理なんだ、って諦めて泣いていたんだろ?」

「ち、ちが……」

「いいや、違わない。俺は鈍感系主人公なんかじゃない。こういった機敏は詳しいんだよ!決めれるところで決めて、華麗に女の子に惚れてもらえる主人公様だ!こんなチャンスを逃すような男じゃないんだよ」

「だ、だが、俺は、元は男だぞ!そんな、気色悪い奴なんだぞ!俺は―――」

「ユタカが元男なんだろうが、合法ロリだろうが俺は気にしない!そもそも、お前が元男と言っても、俺はお前が男の時の姿なんぞ知らないからな、ただの可愛い女の子にしか見えないぞ?」

 

……え、今俺のこと、可愛い女の子って……いや、その前に

 

「それ以前に、俺はお前に逆レしかけた最低な奴なんだぞ!そんな危なっかしい奴、捨てちまえよ!」

「可愛い女の子とか、美人なお姉さんの逆レとか、ご褒美以外の何物でないだろうが!!」

 

…………え、えー……ほ、他の、反論は

 

「そもそもだ、なんでそこまで否定しようとするんだ?ユタカは俺のことが好き、俺はユタカのことを好きになれるんだ。良いことづくめだろ?」

「それはそうだが…………お前、こんな奴が恋人とかになるんだぞ?いいのか?」

「恋人ができる時点で幸せもんだろ」

 

「……パーティーメンバーにはどう説明するんだよ」

「あいつらには、ユタカが恋人になったってことだけを報告すれば十分だろ。むしろ、俺に恋人ができた方が、あいつらは喜ぶかもしれないし」

 

「……うちの宿屋の人たちは、俺には結構過保護なんだがどうするんだ?」

「あー……まあ、半殺しくらいなら頑張る。いざとなったらアクアにお願いして……いや、なんか嫌な予感がするから回復だけさせて、後は説得とか交えつつだな」

 

「……俺は、こういっては何だが面倒な性格しているんだぞ?」

「お前、俺のパーティーメンバー見て言えるのか?」

 

「……構ってくれないと、泣くぞ」

「全力で構い倒すから安心してくれ」

 

「…………ちょっと胸、貸してくれ。嬉しくて泣きそうだから、そんな汚い顔、見せたくない」

「いやだ。ユタカの貴重な顔なんだ、ちゃんと見せてくれ」

 

「…………鬼畜。変態。大好き。外道。愛してる。」

「嬉しいが、三つほど変なのが混ざっているぞ」

 

「…………冗談だ、カズマ、大好きだ」

「……ああ、俺も大好きだぞ」

 

 

 

 

 

「ところでユタカ、いつまで抱き着いているんだ?」

「…………気が済むまで。それに、カズマもなんだかんだで抑えきれなくなってきているだろ?」

 

実際、俺らがくっついている間もカズマのブツはずっと反り立ったままでいる。そこまで発情の効果って持つものだったのだろうか?

 

「いや、これはユタカがずっとくっついているからそれで興奮してきているはずだ。もうあのスキルの効果時間は過ぎているだろうし、こんな煽情的な姿でいるんだぞ?それで立たない方がおかしいだろ」

 

……………………

 

「~~~~~~~っ!?!?」

「おい、何恥ずかしがっているんだ。そもそも最初はお前からだろうが。だから、こうした責任はちゃんと取ってほしいなー?」

「えっ、あ、あの、その……わ、わかった。分かったから、また押し付けるようとするな!」

 

……ところで、どうやって収めればいいのだろうか。男の時の経験なんぞ、自分の手だけの経験しかない。そういったものでは手だけでなく、胸や口、それに……あ、アソコとかでやればいいのだが……流石に膜は破ってないから、どれだけ痛むかが心配だ。

 

「……あー、そうだよな。女の子の方の経験はなさそうだもんな」

「い、いや、ちゃんと……ないな。自分で処理したことしかない。サキュバスの夢での経験ぐらいしかない……カズマ、どうしようか……」

「いや、どうしようってお前……まあ、そこらへんは今から教えていけばいいか。それじゃ、今着ている服……いや、着たままのもいいか。それじゃ、俺からも教えていくからちゃんとできるようにしておけよー?夢である程度予習しているなら、それも実践していけるようにしていこうな」

 

な、なんか非常に恥ずかしくなってきたが、元は俺が原因だ。ちゃんと頷いておく。

 

「……あ、それと俺、知っていると思うが初めてだから加減できないからなー?泣いても聞かないかもしれないから諦めろよー」

「…………その、カズマだったら、どんなに激しくても、平気、だぞ?だから、遠慮せずにしてくれ。俺も、カズマが喜んでくれた方が、嬉しいからな」

「……あ、すまん、今ので完全に加減できなくなった」

「!?」

 

 

このあと、滅茶苦茶セッ〇スして幸せになった

 

 

 




「…………五回連続で、ヤルとか、猿か。流石に、想定外だ」

「……すまん、思った以上にユタカが喘ぐ姿が可愛くて、つい……」

「~~~~~っ!!」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話4 旅芸人の祭り

今回も無駄に長くなってしまいましたので、お気をつけてください。
今回の話は割とご都合主事というか、割とそんな感じのお話です。
作者の足りない脳みそではこれ以上の改善が出来ませんでした……
大変申し訳ありませんでした。


それと、この話で投稿はしばらくできないかなーって感じです。
地獄が待ってる……


最近、町の広場に旅芸人たちが来ていて賑やかになってきている。様々な人が芸や音楽や珍品を持って街に訪れた。こんな辺鄙な街には娯楽が少ない。だから、そういった人は一般的に受け入れられる。かくいう俺も楽しみに待っていた。

 

…………中には、花を売っている人もいるが、病気持ちでないならいいか。この街の童貞の冒険者は、そんな人たち相手に捨てているだろうし、あまり売れないだろうしな。ここ、そういった店がないし、あってもサキュバスサービスの方が便利だしなぁ……

 

彼らはたくさんの人に見てもらって己の芸を磨くための人もいれば、珍しい風景や物を見たいがために旅をしている人もいる。中には行き場のない者やアクシズ教信仰者が混じっていることが、それもずっと旅を続ける故なのだろうか。まあ、そんな風にとにかく旅をしている人たちだ。

 

そんな彼らもいつもは野宿で済ませているが、街に来たのなら芸の道具を置く場所や、街に来たのなら柔らかい寝床を求めて宿屋に来る。

まあ、そんなことで、今めっちゃ忙しい。真冬の時と同じくらい忙しい。冬以外にあまり人がいないのに宿屋が経営できる理由が分かった気がする。

 

 

――――――― 

 

 

「それで最近ギルドで依頼を受けていなかったのか」

「……ええ、本当、ここまで忙しくなると思いませんでしたよ」

 

本日は商人一家から休ませられ、現在はギルドにてカズマと話している。一家の方が働いているのに心苦しいが、働き過ぎだと言われ無理やり休ませなくてもいいじゃないか。別に楽しくやってはいるし。

 

「……ところで、他の方たちはどこに行ったのでしょうか?せっかくのお祭りみたいな感じですし、こういったことには楽しそうに行きそうな方たちのはずですよね?」

「それなんだがな、アクアはもう先に行ってるんだ。旅芸人たちに負けじと宴会芸で勝負をしにな。で、今はめぐみんとダクネスを待っているってところだな」

 

ふむふむ、仲が良さそうで何よりだ。鬼畜変態でも人を待ってやる優しさはあるみたいだしな。

 

「というかユタカ、今日は休みなんだろ?それだったらお祭りに行ったりしないのか?」

「……んー、興味はあるのですが、一人だけで行くのはお兄ちゃんからやめておけ、って言われているので……」

 

正直、ものすっごい興味はある。元の世界のサーカスみたいなことだけでなく、魔法やスキルでもっと様々なことをするそうだから見てみたいんだよ。ただ、それで行って何かあったら思いっきり怒られそうなんだよな。こういった時は怪しい奴が紛れ込んでくるから危険だって……別に冒険者だし、二十歳ではあるんだからそこまで過保護にならなくてもいいのに。

 

「あー、それならさ、俺たちと一緒に行かないか?何かあったらダクネスを盾にすればいいし、あいつも盾になるのなら喜んでやるはずさ」

「…………いいのでしょうか?私としてはありがたいのですが、迷惑になったりしないでしょうか?」

「ああ、ユタカならちゃんとマナーとかは守ってくれるだろうし大丈夫だろ。むしろ、めぐみんのフォローを頼めるとありがたいというか……」

 

ああ、そういえばめぐみんも可愛らしい見た目とは裏腹に結構好戦的ではあるからな。それを抑えるくらいなら任せてくれ。

 

 

 

 

 

「……というわけで本日はよろしくお願いします」

「ああ、いざとなったら守ってやるから任せてくれ。むしろ、全力で厄介ごとを起こして、それに巻き込まれて……んっ!」

「何言ってるんですかね、この人は。まあ、そんな事情でしたらこの紅魔族随一の魔法使い、めぐみんにお任せあれ!どんな悪人でも、私の爆裂魔法には敵いません!」

 

……早まったかもしれん。

 

 

――――――――― 

 

 

はてさて、目的の広場に着いた。道化師が手足で炎の玉をジャグリングしつつバク転していたり、吟遊詩人と踊り子がタッグを組んで踊り歌っていたり、色とりどりの装飾品を出店があったりと大変騒がしくも面白い光景があった。中には小さな竜が氷のブレスを吐いていたり、魔道具か何かで空を飛んでいたりする人もいた。

 

「おおー!これだよこれ!こんなファンタジーな物を求めていたんだよ!」

「全く、こんなもので喜ぶなんてカズマは子供ですか?いつも私の爆裂魔法を見ているくせにこんなものを喜ぶとかどうかしていますよ」

「うるせえよ、こういったのは実際に見たことはなくて楽しみに待っていたんだよ。あと、お前の一発限りの花火とは違うんだよ」

 

カズマとめぐみんはこんな所でも仲良く話している。コントでもしていないと気が済まないのだろうか。

 

「全くあの二人は……ユタカ、いつもすまないな」

「……いえ、こういった騒がしさは嫌いではありませんから、大丈夫です」

 

それよりも、俺もこの祭りの風景は楽しみに待っていた。まさか、こんな風に見れるとは思わなかった。やはりファンタジーなだけあって、サーカスのとは違ったものがあっていい。それに、いざ怪我をしても治療ができるからか、過激なこともできるから見てて面白い。

 

「そうだ、ただ歩くだけのも何だし、何か食べながらでも見物しないか?ここでしか食べれない物もあるから楽しみなんだ」

「…………そうですね、私も少しお腹減ってますしちょうどいいですね」

 

取っ組み合いを始めそうになっている二人を引き剥がしつつ、何か食べれそうな店を探す。

 

~~~ 

 

「おや、あそことかどうでしょうか?あそこ、わたしが見たことのないやり方でトウモロコシを焼いてますし」

「……そうだな、あんな風な調理の仕方は初めて見たな。食べてみないか?」

 

ふむ?二人が何か見つけたようだが……とりあえず、近寄って……あ、これ見たことあるわ。

 

「へいらっしゃい!お嬢ちゃんたちに坊ちゃんか、ここのトウモロコシは他のと違って面白いやり方で作っているから美味しいよ!」

「……なるほど、それで、このトウモロコシ、幾らくらいですか?」

「そうだな……可愛いお嬢ちゃんたちだし、ここはまけて、4つで500エリスでどうだい?」

 

後ろでダクネスが「か、可愛い!?」とか聞こえたが、安くしてくれるならラッキーだ。

 

「……ん、お兄さん、それでお願いします」

「はっはっは!お兄さんなんて年じゃないさ、生憎これでも安くしているからオマケはできないよ。ま、嬉しかったよ、串を刺してあげるからこれで手を汚さないようにしてくれよ」

 

おやラッキー。あれ、そのまま持つと熱い上、手がべとべとするからこうしてくれるとありがたい。

 

「はいよ、後ろのハーレムな兄ちゃんには女の子一杯連れて羨ましいぞこの野郎!っとでも伝えてくれよ!それじゃ、毎度あり!」

 

結構長めの棒だから持ちやすくしてくれてありがたい。お兄さんに頭を下げて、カズマ達に手渡す。カズマは驚いているが、気にせずかぶりつく。

さて、味は……まあ、こんなもんだな。祭りだし、あの値段でくれるだけでも十分だろう。にしても、この世界でも焼きトウモロコシがあるなんて驚いた。どこぞのチート持ち日本人が作り方でも広めたのだろうか。というか、醤油とかよく作れたな。

 

「えっと、これはどうやって食べればいいのだろうか?」

「ユタカがあんな風に食べていますし、ああ食べればいいんじゃないでしょうか?」

 

俺は口が小っちゃくいるからちまちま食っているだけだから、豪快にかぶりついてもいいんじゃねえか?女の子がそんな食べ方は、はたしないかもしれないが。

 

「……なあユタカ、なんで食べ方を知っているんだ?」

「…………?ナイフやフォークがあるわけでも無いですし、こうして食べるんじゃないでしょうか?」

 

あ、流石に真っ先に食べるのは不味かったか?まあ、これぐらいは誤魔化せるし大丈夫か?髪色とか肌色も日本人とはまったく別のになってるし。

 

「……むしろ、何でそんなことを聞くのでしょうか?」

「ん、いや、ちょっと気になることがあっただけだ、気にしないでくれ」

 

げ、藪蛇だったか?これで疑いの芽が一つできてしまった気がするが……ま、いいか。流石にこれくらいでバレたりするようなことはないか。

 

「……とりあえず、これは歩きながらでも食べれますし、他の所も見に行きませんか?他にも、どんな芸をやっているか楽しみでもありますし」

「それもそうだな。ほら、めぐみんもかじりついていないで歩こうな?」

 

取りあえず他の二人を扇動して誤魔化す。

 

「そういえば、アクアはどこ行ったのでしょうね?あんな芸に負けていられないわ!って真っ先に走っていきましたし」

「まあ、アクアのことだし一番目立つところにいるんじゃないか?あの宴会芸ならここらの旅芸人でも敵わない良さを持ってるしな」

 

……なんで元女神が宴会芸に勤しんでいるのだろうか。それも、水の神だろうが。芸術の神ならわからんでもないが、いまいち理解できない。

 

「ま、歩いていればいつかは見つかるんじゃねえか?大方、崇められて調子に乗っていてわかりやすいかもしれんし」

「……流石にそれは……ないとは言い切れませんね。その後、失敗してまた借金とかの面倒ごとを起こしそうでもありますね」

 

本当、おだてられている姿が似合うな。そして、調子に乗り過ぎて失敗する未来しか見えない。今度はどんな厄介ごとを引き起こしてくれるんだろうか、他人事だからこうして眺めていられるが、今回は俺も巻き込まれそうだしな……どうにかならないだろうか。

 

「……すまん。それ聞いたら急に不安になってきたからちょっとあいつを探してくる。ユタカはその二人と楽しんでいてくれ!」

 

……え、ちょっと……行っちゃったよカズマ。この三人でどうしろというのだろうか。

 

「……まあ、行ってしまったのは仕方ないし、ここは三人で回ろうか。あんまりユタカをここにいさせると保護者さんが困るだろうし、程々でいいか?」

「…………私は、それで構わないですが、二人はいいのでしょうか?迷惑になるのなら、ここで別れても構いませんよ?」

「私は構いませんよ。なにせ私は、大天才魔法使いのめぐみんです!これくらいの事を受け入れない冒険者は裏切られても問題ありませんからね」

「私も平気だ、というかこういったことでは気にする方が無粋だぞ?こういった時は素直に受け入れるのが一番さ」

「……そうですか。それでは二人とも、よろしくお願いします」

 

……本当、根は良い奴らだ。

 

それだけに、俺の秘密がばれたときの反応が怖い。

 

 

―――――――――――― 

 

 

その後、吟遊詩人の勇者たちの唄を聞き拍手し、楽器を触らせてもらったりした。俺はリコーダーを小学生にやってはいたから小さな笛ぐらいは吹けるんだが、二人はどうなのだろうか?

 

「むむむ、流石に初めて触ったので演奏するのは難しいですね……」

 

残念ながらめぐみんはそういったのに触ったことが無いらしく何も弾けなかった。それでも、にこにこと笑っていて、楽しそうで何よりだ。

 

「もちろん悔しくもありますが、新しい知を得られたのですよ。これで、もっと天才魔法使いとして完成していくのですよ!もし、この経験で新しい爆裂魔法の使い方が思いつくかもしれませんし」

「…………流石にそれは無理があるのではないでしょうか?」

 

後、ダクネスはピアノやらハープやらなんやらを綺麗に弾いていて、これには吟遊詩人も褒めていた。俺たちがいるゆえか羞恥で顔真っ赤で可愛かった。というかピアノにハープ……もしかして、本当にやんごとなき身分の人なのだろうか?

 

あ、お兄さん、予備の笛とか持ってない?もしあるのならそれ買ってみたんだけど。そろそろ他の趣味でも見つけてみたいし、その笛で何かできないか試してみたい。

 

 

 

 

メインの場所では見事な宴会芸を披露していたアクアが周りの道化師や旅芸人から褒めたたえていて、まるで女神のような扱いをされていた。これには思わず笑ってしまった。というか、なんかアクシズ教団の奴が、アクアを見た瞬間に素早い動きで丁寧な奉仕をしていた。本能で分かったりするのだろうか?

 

「ほら、私の芸を見たいのならもっと讃えなさい!」

「少しぐらい謙虚という言葉でも学んだらどうだ?この駄女神」

「だから、なんで駄女神よ!そこまで虚仮にするのなら、本気の私の宴会芸を見せてあげるわ!」

 

その後になんか失敗しそうな気配がしたから皆で撤退しておいた。案の定何かトラブルが起きたらしく、カズマが怒っていてアクアが大泣きしていた。物でも壊して借金でも作ったのだろうか、合掌。

 

 

 

 

「…………何をそこまで面白そうに見ているのですか、ほら、いつまでもそこで商品を見ていないで行きますよ」

「……ま、待ってください!あと少しだけ、あと少しだけですから!だから首根っこ掴んで引きずろうとしないでください!」

 

もしかしたら有効活用できそうな道具なんだ。もしかしたら俺専用の武器に使えそうな魔道具を作れるかもしれないんだ。だからめぐみん、あと少しだけ考えさせて!

 

「うーむ、私にはただの黒水晶にしか見えないのだが……」

「……上手くいけば、見つからなかった武器とかになるかもしれないのです……やっぱり決めました。これ、お願いします!」

 

良い買い物になるかどうかはわからないが、とりあえずの投資だ。貯金的にはダメージだが、それでもウィズ頼りよりかはましかもしれない。

 

「だからと言って50万エリスを出すというのもな……まあ、それで後悔しないのならいいのだが」

「……うぐ、そう言われると、ですね……」

 

ままま、まあ、もしかしたらうまくいくかもしれない程度で考えておこう。これで失敗したら割とへこむことを避けれる心構えはしておこうそうしよう。

 

「……まあ、それでユタカが良いのならいいですが。あまり無駄遣いはしてはいけませんよ?ウィズのお店で何か買っていたりするそうですし」

「………………えっと、御二人もこういった買い物とかはしないのですか?」

「今話題を逸らしたな」

 

ダクネス、うるさい。

 

「そうだな……私は実家に元からあった鎧と、懇意にしている武具屋から良い剣を買っているが、めぐみんはどうだ?」

「私ですか?私はこのマナタイト製の杖をキャベツ狩りの時の報酬で買っていますが……待ってください、ユタカは今まで武器とかなしに冒険していたのですか?」

「……そもそも、占星術師(ゾディアック)自体が未確認の職業でしたので、色々と試してみたのですが……あまりしっくりと来なかったので、模索中ですね」

 

というか、何の補助も無しでデュラハンとかデストロイヤー討伐に参加していたとか俺ヤバくない?この体、どんだけすごいポテンシャル持っているんだよ。

 

「それでも、あの火力とか出せれたのですか……爆裂魔法の使い手としてはどのようにして制御しているのか興味がわきますね……体の隅々を調べればわかりますかね?」

 

はっ、殺気!?ま、まあ、体の隅々といっても、何もないはずだから大丈夫だが……大丈夫だよな?なんか変なフラグが立つ前に逃げるか。

 

「……そ、そろそろ帰る時間が近づいてきたのですが、今日付き合ってくださったお礼として、何かお返ししたいのですが……」

 

こういう時は誤魔化そう。話題転換だ。物で釣って誤魔化そう。

 

「また話題を逸らしたな。」

 

うるちゃい。

 

「うーん……私個人としてはこっちも楽しませてもらったのでそういったのはいらないのですが……あ、それならおじさん、その眼帯ください」

「……あの、それが欲しいのでしたら、私がお支払いしますよ?」

「ああ、これに関しては払わないでください。欲しいのはちゃんと決まっていますので」

 

……?何でめぐみんが買っているんだ?というか、欲しいのって何だろうか?

 

「はい、早速買ったコレ、付けてみてください!」

 

???なんで眼帯をなんだろうか。まあ、めぐみんにも何かあるのだろうし、大人しく付けておこう。

 

「ふっふっふ、これでユタカも眼帯を身につけた同士であり、魔法使いとしてのライバルです!」

 

…………???色々と訳が分からない。

 

「あ、何ですかその解ってなさそうな顔は!この私のライバルとして光栄に思ったらどうですか」

「……めぐみん、その言い方だと伝わらないぞ。素直に友達になってくださいと言ったらどうだ?」

「ち、違うわい!ユタカは敵を破裂させる超火力の魔法を使うのです!この爆裂魔法の使い手としては敵です!ライバルです!」

 

…………ああ、そういう事なのか。

 

「……ありがとうございます、めぐみん。友達として、宜しくお願いしますね。」

「だから違うって言ってます!私が欲しいのはライバルです!魔法の能力で切磋琢磨するライバルなんです!」

「…………大丈夫、分かっていますので」

 

むーむー言いながら怒っているめぐみんを宥める。子供らしくていいじゃないか。

 

「そうだな……私からはこのリボンを渡そう。知り合いから友達のランクアップといった形だが、それでもいいだろうか?」

「…………はい、ありがとうございます。これからも、よろしくお願いしますね、ダクネス。というより、このリボン二本買ったということは……」

「ああ、これでお揃いだな。ユタカも髪が長いし、纏めれる様にしたらいいと思ってな。それに、それだけ可愛いのに髪型が一つだけってのも味気ないしな」

 

かわっ…………!?ええい、そんな言葉はいくらでも聞いてきただろうが。落ち着け。

 

「…………あの、私がお返ししたかったのですが、むしろ貰いっぱなしなのですが……!」

「何、私としては数少ない友人が増えたのだ。お返しなんていらないさ」

「ふっ、私もまた新しきライバルが増えたのです。敵が増えたことで、より爆裂魔法に磨きがかかることでしょうしね!」

 

……………二人とも、本当に良い子だ。だから、本当に―――――

 

 

「……ありがとう、ございます!私、とっても嬉しいです!」

 

 

―――――怖いな。

 

 

 

――――――――――― 

 

 

 

さて、宿屋での自室に新しいものが増えた。小さな木製の笛、魔道具の材料にする黒水晶、眼帯、細めの青色のリボン。

どれも、物寂しかった部屋を飾ってくれる貴重なものだ。とっても、貴重なものだ。

…………ダクネスは友達と言ってくれた。めぐみんはライバルと言ってくれたんだ。今はそれを信じよう。

 

……ふと思いついた。いつか紅魔族にあったときの挨拶でも唱えてみるか。ちょうど道具はあるんだし。

丁寧に眼帯を右目につけ、リボンで後ろ髪を一本にまとめる。黒水晶を左手でしっかりと持ち、軽く頭上程度に掲げる。右手は左ひじを支えるように持って、ポーズはこれで完成だ。

 

息を整えて、厳かな声のイメージで告げる。

 

「我が名はユタカ!あらゆる可能性の観測者にして、星の縁を調え、果てなき(そら)に挑む占星術師(ゾディアック)なり!」

 

………………ふっ、決まったな?思っていたよりも楽しいなこれ。また別のパターンで試してみるのも、いい、な…………

 

……あの、お婆ちゃん、いつから見ていたの?え、眼帯を目に付けたときから?それ最初からじゃない?

 

……

…………

………………

 

わ、忘れて!ニヤニヤしないで!今のは忘れてって、どこに行くの!?お爺ちゃんとお兄ちゃんにも言う、ってやめて!やめてってばあああああああああああ!!

 

 

 




TSメカニック娘……TS姫騎士……TSアルケミスト……
ああ、いつかこのすばとは関係ない話でも作ってみようか……
でも、TSアルケミストはどこかで聞いたことあるし……うーむ……


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第24話 容疑者K&Y

お久しぶりです。
今回は以前よりも短めの内容となっています。後、いつも通りの駄文です。
ご了承ください。



「冒険者、サトウカズマ!貴様には現在、国家転覆罪の容疑が掛けられている!自分と共に来てもらおうか!」

 

 

 ………………え?カズマが、国家転覆罪?

 ……マジで?いや、カズマはそこまでのようなことはしない筈なのだが、いったいどんなことに巻き込まれたんだ?

 

「自分は王国検察官のセナ。冒険者サトウカズマ、貴様には現在、国家転覆罪の容疑が掛けられており、テロリストもしくは魔王軍の手のものではないかとの疑いも掛けられている」

 

 いやいや、それはどんな冗談だ?カズマはこう、ちょっとした悪事くらいならするかもしれないが、そんな大きな事をしようとするほどの度胸も性格でもないだろ。精々、窃盗くらいならわかるが国家転覆罪となると、国王の暗殺や魔王軍を街中に入れようとしたくらいだろ?そんなこと、小市民のカズマには無理だとしか思えない。

 

そのいきなりの言葉にカズマとアクアが目を見開いている。あ、アクアが再起動した。

 

「ちょっとカズマ、また何をやらかしたの!?ほら謝って!私も一緒にごめんなさいしてあげるから、ほら早く、謝って!」

「この馬鹿!またって、俺が何もしていないのはお前がよく知っているだろ!」

 

 そうだな、むしろカズマはアクアとかの世話とか、仲間のやったことの尻拭いの方がやっている気がしてならない。

 

「ちょ、ちょっと待ってください。それは何かの間違いではないですか?カズマはセクハラとかの小さい犯罪はしますが、そんな大それた罪に問われることをするほど、度胸なんてありませんよ」

 

 ……めぐみん、それは援護になっていないし、むしろ印象を悪くしているぞ。

 

「そうだぞ検察官殿、それは大きな間違いだろう。そんな度胸があるなら、普段屋敷を薄着で歩いている私に獣のような眼で見ておきながら、何もしないなんてことは無い筈だ」

 

 ダクネス、お前の願望が入り混じった言葉は混乱しか生み出さないから黙っていろ。あとカズマ、今は色々と言いたいことがあるかもしれないが、ここで騒ぐとさらに印象が悪くなってしまうかもしれないんだから大人しくしていてくれ。

 

「……そもそも、国家転覆罪と言いましたが、どういったことでその罪になったのでしょうか?」

「それはだな、その男の指示で転送された機動要塞デストロイヤーの核であるコロナタイトだが、この地を収める領主殿の屋敷に転送された。幸い怪我人や死人は出ていないが、それでも行ったことは領主殿への反逆行為としてテロリストか魔王軍の手の物ではないかとの嫌疑が掛けられている。詳しいことは署で聞かせてもらおう」

 

 ……あのテレポート、指示したのはカズマだが、行ったのはウィズだったはずだ。つまり、ウィズの薄倖によってこんな結果になったのだろうか?だとしたら、カズマはドンマイとしか言いようがない。

 

「……ですが、カズマはデストロイヤー討伐戦では全体の指示など、様々なことを行った功労者ですよ?確かにコロナタイトの転送を指示したのはカズマですが、あれは緊急の対応によって起こった行動です」

「そうですよ!カズマの機転が無かったら、コロナタイトの爆発で死者だって出ていたかもしれません褒められはしても、非難されるいわれはありません」

「ゆ、ユタカ……めぐみん……!」

 

 おうそんな目で見るな。今はただでさえ情報が少ないんだから、今ここで救える気は全くないんだよ。

 

「そ、そうだぞ!カズマは冒険者であっても、犯罪者なんかじゃねえ!」

「そんなもの、国家権力の横暴だ!」

「冒険者の自由を奪うつもりか!」

 

「「「自由!自由!自由!」」」

 

 おい馬鹿止めろお前ら。そんなことしたって、荒くれ者の冒険者を黙らせる対抗策なんぞあるに決まっているだろ。だからカズマ、希望を持った顔はやめて諦めろ。

 

「……ちなみにだが国家転覆罪は、犯行を行った主犯以外の者にも適用される場合がある。この男とともに牢獄に入りたいというのなら止めはしないが……言動には注意した方がいいぞ」

 

 途端、周りの冒険者たちの声が静まった。まあ、残当だとしか言いようがないな。それにつられて、アクアとめぐみんもカズマから離れ、ぼそぼそと呟いていた。

 

「……確か、あの時カズマはこう言ったはずよね。『大丈夫だ!全責任は俺が取る!こう見えて、俺は運が良いらしいぞ!』…………って」

 

 アクアよ、それは言ってはいたが今言うと確実に連れていかれてしまうぞ?それで困るのはお前のはずなんだが……

 

「わわ、私は、そもそもデストロイヤーの中に乗り込みませんでしたね。もし私がその場にいれば、きっとカズマの止められたはずなのに……。しかし、その場にいなかったものは仕方ありません。ええ、仕方ありません」

 

 わあ、すっごい掌返しだ。こいつらの手首にはモーターでも仕込んでいるのだろうか。自分たちが助かるためとはいえ、仲間のあんまりな様子にカズマも口を挟めずにいる。

 

「待ってくれ。主犯は私だ、私が指示した。だから是非とも、その牢獄プレイ……じゃない、カズマと共に連行し、厳しい責めを負わせるがいい!」

「あなたずっと、デストロイヤーの前で盾やっていただけじゃないですか。役立たずの分際で口答えしようとしないでください」

 

 おおっと、ダクネスが光悦した顔でやられてしまったー。カズマは目の前が暗くなっているのではないだろうか。……こっちを見るな。今どうすればいいかを必死に考えているところなんだ。カズマももう少し粘って時間を稼げ。

 

 そんな中、ずっと黙っていたウィズがオズオズと手を上げて話し始めた。というか、何でここにいるんだ。ただでさえヤバい立場なんだし、店に引っ込んでいた方が安全なんじゃないか?

 

「あ、あのー……テレポートを使ったのは私なので、カズマさんを連れて行くなら私も……!?」

「駄目よウィズ!犠牲が一人で済むならそれに越したことが無いわ!辛いでしょうけどここはぐっと我慢して……!カズマが無事お勤めを終えるまで、私たちは待ってあげましょう?」

 

 え、何でアクアの奴、ウィズをかばう真似をするんだ?少なくとも、アンデット絶対殺すと叫んでいたアクアが、リッチーのウィズをかばうなんてどんな風の吹き回しだ。

 というか、お勤めって、カズマの罪を認めているんじゃねえよ。国家転覆罪なんて下手したら死刑か無期懲役のを待つなんて、無理だと思うんだが……

 

「くそっ、俺の仲間たちはどいつもこいつも駄目な奴ばっかりだ!ていうかお前らが味方してくれなくたって、俺にはギルドの皆がついてるからな!」

 

 ……その皆とやら、カズマから目を逸らしているのは気のせいだろうか?振り返っても、ギルドのお姉さんも忙しそうに無視してくれた。まあ、これがカズマの人望なのだろう。噂の件といい、カズマの株は結構安くなっているだろうし。そもそも仲間に真っ先に売られている時点で、御察しではあるのだがな。

 

 …………だからそんな絶望したような顔でこっちを見るな!碌に策も、覚悟も決めて…………!

 

「……ゆ、ユタカ、お前だけは、違うよな?」

 

~~~~~!!ああ、もう!お爺ちゃんとお婆ちゃん、お兄ちゃんごめんなさい!ちょっとしばらく帰れなさそうだから!

 

「……検察官殿、私も、カズマと一緒に連れて行ってくれないでしょうか?私も、カズマがテレポートを指示した場面に居ましたし、それなりの成果は出しているため有効な証言はあると自負していますが……」

 

 さあ、これで食い付け……!あとめぐみん、必死にしがみついて俺の口を塞ごうとするのは止めろ。もう賽は投げられたのだ。

 

「セナ様、彼女の名前は、ユタカさんです。確かにデストロイヤー戦では足止めに、侵入後の味方の援護に敵の掃討など、様々な功績を残している方ですので信用は置けると思いますが……」

「……そうですね。ではユタカ、貴女もコロナタイトのテレポートに関与したため、国家転覆罪の容疑で拘束させていただきます」

 

 ……よし!これで一旦カズマと話し合いながら証言を擦り合わせて、無罪だと証明できるようにしておこう。まさかの新しい容疑者に騎士たちも困惑しつつ、俺の腕を掴む。思っていたよりも強く握られていたいが、顔は冷静を保ったままにしておく。別に悪いことをしたわけでも無いんだ、顔を上げて前を向いて歩く。

 

「……カズマ、先に言っておきますが、これはあくまで知り合いが全くの冤罪を掛けられて気分が悪くなったからこうしているだけです。別に貴方の事を心配は……していますが、そういったある種特定の感情はありませんからね?」

 

 とりあえずカズマには忠告しておく。カズマの事だから、調子に乗って面倒なことを起こしそうで困る。釘だけは刺しておかないと……でも、最後の方はあまりはっきり言えなかったが、聞こえたのだろうか?

 

「ああ、そんなことはどうでもいいんだ。でもな、こうして俺をかばってくれる奴がいるだけでも、本当に、嬉しいんだ……」

 

 ……お、おう。なんかカズマの煤けた背中と、床に落ちている水の染みを見ているだけでなんか心が辛くなってくる。いや、極一部の奴も庇ってはいたが、一人は自分の欲望のためだし、もう一人は黙殺されたし……ウィズに関してはアクアが悪いだけじゃね?流石に背中くらいはさすってやりたいが、下手なことをして痛くもない腹を探られるのは嫌だし、大人しくしておく。

 

「ほら、罪人どもはさっさと歩け!」

 

 罪人と決まったわけでも無いのに、厳しい口調のセナに苛立ってくる。こういう時に過去を見せるスキルでもあれば犯罪証明が楽になっていいと思うのだが、そんな魔道具とやらは無いのだろうか?もし無事に出所できればウィズあたりに聞いてみるのも悪くないか。

 

「……とりあえず、歩きましょうか」

「……そうだな」

 

 カズマの足取りは重そうだ。俺もつかず離れずで歩いて署に向かった。

 

 

 

 




宿屋の 一家が アップを 始めた!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第25話 ろうごくくらし!

作者の疲労ゆえ、尋問のシーンは次回に回ってしまいます。ご了承ください。
次回こそは……でも、常識人で通っている主人公に手荒な尋問はなさそうですかね?


バニルさんの口調とか真似できる気がしないけど、早く出したいなー(愉悦感


 街の中央区に存在する警察署。普段なら、そんなところに行くこともない俺だが、カズマの目線にやられてつい、こんなところに来てしまった。……というか、何で俺はカズマと同じ牢屋に入れられているんだ?普通、居場所ごと変えるものではないのだろうか?せめて、男と女の牢屋は別にするものだろう、何故だ。

 

「それはだな、この寒い時期に稼げなかった馬鹿者たちが安全で、かつ無料で冬を越そうと思って、最低限の生活は保たれる牢屋に入ろうとするせいだ。おかげでこの時期の牢獄はいつも満員なのだ。お前には申し訳ないが、こいつと同じ牢屋に入れさせてもらう。少しの辛抱だ、信用している仲間なんだし、冒険中とかでそういった経験はあるだろうし我慢してくれ」

「おい、なんで俺が襲うこと前提で話しているんだ。というか俺って一応街を救ったヒーローなんじゃないのか?本当に牢屋に入れられんの?」

 

 カズマよ、少なくともこいつは俺たちを疑っているんだ、話を聞くつもりがない。一旦諦めておけ。あと、俺はカズマとは知り合いか友達だと思っているが、仲間ではない筈だ。

 

「詳しい話は明日聞く。今日はここでゆっくりと過ごすがよい」

 

 それを合図に、騎士たちは俺らを楼の中に押し込んで錠をした。そして、踵を返し去っていった。

 

「おい!ちょっと待ってくれ!……おいって!……おい……マジかよ……」

「……カズマ、打ちひしがれるのは良いですが、まずはこの環境を見てからの方がいいですよ」

 

 鉄格子が嵌った窓からは寒気が吹き込んできており、この部屋に明かりを灯すランタンなどはなさそうだ。そのせいで、この牢屋も肌寒く感じる。寝る場所と思われるところには数枚の毛布、部屋の隅には小さなトイレ……トイレ?

 

 ……え、囲いとかも無しに、カズマにみられる可能性大で、トイレしなくちゃいけないの?

 

「……あー、その、催した時は正直に言ってくれ。耳ふさいで後ろ向いておくからさ、今はそれで我慢してくれ」

「…………た、助かります」

 

 どんな羞恥プレイだ。これで男の時なら平気で行えるが、生憎今は女の子かつ謎の羞恥心が湧いているせいで、こういった行動もうかつに取れなくて困る。

 

「それにしても、最低限という割に毛布とかも薄いな。これじゃ、裁判の前に風邪でも引いてしまいそうだな……これを二人で分けるとか、もっと寒くなりそうだな」

 

 カズマが毛布を手繰り寄せて調べていた。前の住人が使ったままで洗ってもいないのか、若干異臭もある。が、それくらいは我慢しておかないと……しかし、カズマも言っていたが毛布がかなり薄い。幸い、俺の服はローブにマント、さらに厚めのマフラーに手袋もしているから多少は凌げそうであるが、カズマの方は急いで呼び出されたためらしく、あまり厚着を着ている様子はない。そのためか、カズマの体は震えているようにも見える。早く暖を取ってあげないと、風邪をひいてしまいそうだ。この場には治療が行えるアクアがいないため、風邪だけでも重症化するかもしれない。それだけは防がなくては……!

 

「……それでしたら、カズマに毛布を多めにあげますので……いっそ、二人で使えば大丈夫ですが……まあ、冗談―――」

「良いなそれ、そうしようか」

 

 …………あれー?

 

 

 

 ―――――――― 

 

 

 

「……カズマ、そちらは寒くないでしょうか?」

「俺の方は十分だが、ユタカはあまり毛布にかかっていないだろ。大丈夫か?」

「……私の方は、多少厚着ではありますので気にしなくても大丈夫ですよ」

 

 現在、俺とカズマは背中合わせで寝転んでいる。晩飯は持ってきてくれたものを手早く取り、エネルギーを無駄に消費しないように静かに寝転んでいる……ということになっている。

 

 本当の話は、カズマの精神状態では疑いを晴らすための作戦会議とかは無理そうだから、今日は一旦休んでということになった。時間は有限ではあるが、少し話し合った後、牢屋に入れられたショックから立ち直ってしまったせいで「日本に帰りたい……もう嫌だ……」と三角座りで泣いていた。そんな状況で今後のことを話したってさらに悪化させてしまうだろうから、今日は打ち止めにしておいた。というわけで、風邪に対抗するため、エネルギーの消耗を抑えるべく寝ているというわけだ。

 

 

 しかし、窓が窓としての機能を果たしてくれていない。窓にはまっているのは鉄格子だけで、風邪や空気を塞いでくれる布一枚すらないのだ。おかげで、牢屋の部屋の中はどうしても暖まってくれない。いくら最低限とはいえ、これではまともに生活することも難しいのではないだろうか?

 

「……なあユタカ。俺、無事に無罪だって証明されると思うか?」

 

 しばらく経ってから、カズマが問いかけてきた。

 

 正直言って、状況だけの証拠しかないため無罪だと証明するのは難しいと思うのが本音だ。それに、領主の屋敷は爆発させたことに関しては事実なのだからそれの弁償はしなくてはいけないだろう。実行犯こそウィズだが、それを命令したのはカズマだ。そのために責任として負わされてしまう確率は高いだろう。

 

 ……しかし、今のカズマにはそういったことを言うとさらにネガティブになってしまうだろう。そのため、おいそれとそんなことは言えない。だからと言って、何も言わないのもあれだが……

 

「……大丈夫ですよ、きっとめぐみんやダクネスが証明してくれるはずですよ。それに、私だってテレポートの場面に居たのですから、ちゃんと証言の場面があれば大丈夫だって言えますよ」

 

 今は、そんな慰め程度の言葉しかはけない自分に嫌気が差す。少なくとも、俺個人はカズマたちのことは友達と思っているのだ。友達が困っている時、泣いている時に支えになることすらできなくて、何が友なのだろうか。

 

「……そっか。そうだな、ちゃんと俺には仲間が……仲間が……アクアにめぐみん、真っ先に掌返さなかったか?」

「……そ、それはほら、カズマを助けるための作戦を練ろうと考えてああやったのではないでしょうか?」

 

 我ながら、苦しい言い訳である。

 

 

 

 ――――――― 

 

 

 

 ふと、遠くに爆発音と、小さな振動が発生した。この爆発音に振動……めぐみんの爆裂魔法だろうか?目元をこすりつつ、窓の方を見て……『ポラリス』を発動した。幸い、窓からは空が見えるし月だって見えるのだ。おかげで『ポラリス』による情報収集は可能だ。

 

 やっぱりめぐみんの爆裂魔法と思われる巨大な炎の柱が見えた。その爆発範囲にめぐみんを背負って走るダクネスが見える。……あいつら、いったい何をしようとしているのだ?って、急に見えなくなった?何かのせいで外が見えなくなったために、スキルの効果が切れたのだろうか?

 

「カズマ。カズマ!ねえユタカ、カズマを起こしてくれない?」

 

 窓の外にいたのは、何故かアクアだった。月の位置を見るに、もう十二時過ぎの深夜と思って間違いないだろう。碌でもないことかもしれないが、とりあえずカズマを起こしてアクアの所に行かせる。眠そうではあるが、カズマの無罪になることを見つけたのかもしれない。

 

 二人がぼそぼそと話し合っていてよく聞こえないが、やはり国家転覆罪なだけあって死刑はあり得るらしい。それに、冒険者のような身元不明の奴なんぞ、領主の権力で強引に殺しにかかってもおかしくないようだ。

 

 まあ、それは領主の噂を聞いていれば嫌でもわかる。宿屋に住んでいる以上、そういった話は耳元に勝手に入り込んでいくのだ。

 

 ところで、そんな説明だけに来たわけでも無いだろうに、いったい何をしに……ん、カズマに何か渡した?そしたらすぐに去っていったが、いったい何をするつもりだったのだろうか?

 

「……カズマ、何だったのでしょうか?というか、扉に向かっていって、どうかしたのでしょうか?」

「いや、ちょっと試したいことが……」

 

 ……別に逃げ出そうとしてもいいが、ここの錠は現代日本から持ち込んできたと思われるダイヤル式のだぞ?針金と何かスキルを使って外せるのだろうか?

 

 カズマもそれを見て諦めたのか、針金を全力で窓へ投げ捨てた。

 

「……寝るか」

「……そうですね、お休みなさい」

 

 

 

 ――――――― 

 

 

 

 無事翌日になり、カズマとはどんな質問が来るか、それにどう答えるかを話し合った。カズマにはテロリストか魔王軍の手先と思われている以上、そういった質問もしてくるだろう。そのため、そういった質問が来ても慌てず、出来るだけ正直に答えるようにしておいた。こういう時に下手に嘘を吐いて俺の証言と喰い違ってくると、面倒なことになってくる。今回の場合は、カズマに不利なように働くためである。

 

 あの検察官は、カズマに対してかなりの偏見な目で見ていたと思う。それもそのはず、カズマには基本、悪い噂しかないためだ。火のない所に煙は立たぬというが、カズマの場合、どれもこれも実際にやった、もしくはやったと思われることが多数なのだ。それでは悪い目でしか見ないのも、検察官としては駄目であるが納得してしまう。

 

 とにかく、出来るだけ誠実に答えること。無実だと分かって相手が非を認めてもそれで調子に乗って失敗しないようにすることだけは伝えておいた。アクアとかを見ていればわかるだろうが、よくいらないことをしてというのは誰にも考えられることだ。是非とも注意してほしい、いや、冗談抜きで。

 

 

 ~~~~~ 

 

 

 そんなことを話しつつも検察官を待っていたが、俺たちの処理で忙しかったのか、来ることはなくまた夜を迎えることになった。本来は、『交信(コンタクト)』でめぐみんやダクネスから情報を収集もしたかったが、カズマの精神状態を鑑みるに放置してしまうと危険な可能性もある。そのため、今日一日もカズマに構うといった形になってしまった。それとついでに、トイレも無事に……いや、なんか覗き見られたような気はするが気のせいだろう。無事に終え、眠ることにしたのだが、今晩は昨夜よりも冷え込んでいるためか、二人で毛布を使うだけではカズマが凍えてしまうだろう。

 

「……あの、臭かったりしたら、ごめんなさいね」

「いや、そういったのはないが……本当に、こんな風にしてもいいのか?」

「……カズマが凍えそうになっている時に、悠長なことを言っている暇はありません。これはそう……え、えっと……」

「ああすまん、無理して言おうとしなくてもいいからな?言えないのなら、それでいいさ」

 

 というわけで、現在は昨夜よりも近くに、というか背中をくっつけていたり、抱き着いたりして横になっている。漫画とかでは割とよくある物であったが、これが意外と馬鹿にできない。何せ人肌というものは思った以上に暖かいものだ。服というものを経由してはいるものの、長時間くっついていれば体温も伝わってくるからだ。

 

 ……まあ、漫画だと男の子と女の子とかがやっていたんだがな。あいにくやっているのは男の子と、元男のロリっ娘だ。どんなことがあってこんな状況になったんだ。異世界での女の子のフラグだというのに、カズマには大変申し訳なくなってくる。

 

「……今日、尋問はなかったとはいえ、明日には絶対にあるんだろうな…………」

「……きっと、大丈夫ですよ。カズマはちゃんとこの街を守ろうとしたのですから、ちゃんと無罪だって証明されますよ」

 

 カズマもいつもはクズマだとかカスマだなんて言われているが、元は平和な日本で生きていた16歳の少年だ。せめて年長者である俺が、支えてやりたいところだ。

 

「……カズマ、私は大人なんですから、愚痴ぐらいなら聞いてあげますからね。今は元気を出して、明日に備えましょうね」

 

 そう言ってから、カズマの背中に抱き着く。俺が言っていると考えると、虫唾が走るような言葉や行動だらけだが、これでカズマが元気になってくれるならば、今はできるだけ努力をしよう。

 

 

 

「……ん?また爆発音に、振動が?」

 

 まためぐみんの爆裂魔法だろうか。何かの陽動でやろうとしているのはなんとなく察したが、深夜に爆裂魔法は街の住人に迷惑なんだからやめてやれよ。というか、昨日はこの後アクアが来ていたが……流石に来ないよな?

 

「カズマ、ねえカズマ起きて!」

 

 ……流石に二度目は見つかるんじゃないか?

 

 毛布から出たがらないカズマを宥めてからアクアの所に向かわせる。まあ、せっかく暖まったというのにまた寒いところは嫌だもんな。

 

 またカズマとアクアの話を盗み聞きしていると、どうやら昨夜の爆裂魔法の犯人は見つかったようだ。まあ、この街で使えるのはめぐみんとウィズくらいだしな。そのウィズも、深夜とかに住人の迷惑になるようなことはしないだろうしな。

 で、今回はばれないようにと覆面をかぶせてきたって……だから、爆裂魔法を使っている時点でバレるだろうが。

 

 アクアも昨夜は警察署の前でずっと待っていたらしく、頭に雪を積もらせて、職質までされたらしい。それなら、何か箱の中とかに隠れておけばよかったんじゃないか?というか、雪精を狩りに行った時の厚着はどうしたのだろうか。

 

 

 で、昨夜のピッキング作戦は錠がダイヤル式だったため失敗に終わったが、今回はどうするつもりなんだ?

 

「今回はちゃんと考えてきたわよ!昨夜はやり方がまどろっこしかったわね。だから、今回は糸鋸を用意してあるわ。二人が稼いだ時間はあまりないんだから急いでやるわよ!」

 

 何と、糸鋸を使っての脱獄を狙うらしい。わお、昨日よりも現実的な脱獄法だ。それも俺とカズマとアクアの分を用意しているから、その分の時間短縮も可能だ。

 

 ……それで、どこの鉄格子を切り落とすつもりなんだ?錠が掛けられたのならできなくもないが……窓の格子?俺らの身長だと届かないだろ。何、肩車でしてやれってか?それでも届きそうにはないんだが。

 

「大丈夫よ、私だって馬鹿じゃないわ。二人の分の踏み台も持ってきたから安心して!」

 

 ……カズマの分のはでかすぎて格子に通らないし、俺が使うと思わしき長めの踏み台は使うにしても、すぐに倒れてしまいそうなほどバランスが悪そうに見える物なんだが?

 

「で、その踏み台とやらはどうやって中に入れるんだ?」

「…………ちょっと、待っててね!」

 

 そう言い残して、アクアはどこかに行ってしまった。しばらくすると、

 

「違うんです、これはその、カズマに必要なもので、差し入れに……」

「踏み台なんて差し入れ、聞いたこともないですよ。というか、この時間に何ですか?昨日もこの辺をうろついていたって聞きましたが?それに、あのお嬢ちゃんの保護者らしき人たちが押し掛けてきたせいで現在は厳重警戒になっているんですから、現在差し入れとかは無理なんですよ。ほら、諦めて帰った帰った!」

 

 …………アクアたちの前向きさは見習うべきかもしれない。カズマと一緒に糸鋸を窓へ、全力で投げ捨てた。

 

「……すみません、うちのおじいちゃんたちがご迷惑をおかけしました…………」

「いや、気にすんなって。これはユタカが悪いことじゃないんだから、ま、今日も寝て明日に備えようぜ。それじゃ、お休み」

「……お休みなさい、カズマ」

 

 

 今日の夜はカズマとアクアに対する申し訳なさと、恥ずかしさやらなんやらで眠れる気がしなさそうだ。

 

 

 




おまけ
とある方へのインタビューにて

???「ええ、ユタカは自分のことを臭いとか言っていましたが、そんなことはありませんでした。なんと言えばいいのでしょうか、穏やかな太陽と、優しい月のような、優しい香りがしましたね。それに、夜に一緒に寝ている際には、おずおずと俺のことを抱きしめて、口下手なのに精いっぱいの言葉で慰めてくれたんですよ?そりゃ、とっても……ねえ?」


……おや? 商人一家の ようすが……!?


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第26話 取り調べ

最近真面目に忙しかったり、FGO始めて黒髭を愛でていたりして書くのが遅れてしまいました。
大変申し訳ありませんでした。

今回のお話もあんまり進まない駄文ですので、適当に読み飛ばしてください。
久々に書いたので、色々と展開的におかしいところがあるかもしれませんが、ご了承ください。

エロい方向の取り調べは上手く書けなかったため、没になりました。
いざヤラレそうになったら、お爺ちゃんがバーサクモードで刑務所破壊するオチしかできないという不具合になってしまったため、没になりました。


 三日目の昼前になってから、ようやく疲れた様子の検察官がやって来た。昨日のお爺ちゃんたちの襲撃の処理とかでずっと起きていたのだろうか、目元の隈が凄まじい。大変申し訳ない気分になってくる。

 

「さて、少々遅れてしまったがこれから取り調べを行わせてもらうのだが……先に貴女の方からさせてもらうぞ。容疑者カズマに関しては、この者が終わり次第行なわさせていただく」

「……分かりました。よろしくお願いします」

 

 そう言って牢屋の錠を外し、俺を別の部屋まで連れて行っている。大方、俺の証言を基にカズマへの追及や言動を確かめるのだろう。ある程度打ち合わせはしたとはいえ、これで俺の失言でカズマの裁判が行われる様になったら申し訳なさすぎる。そもそも、ここで下手な失敗をしたら、俺自身も首を縛られるかもしれないのだ。気を付けておかないと……

 

「それでは、これから取り調べを行わせていただく。貴女の発言を聞いたうえで、裁判を行う必要があるかを調べさせていただく。しっかりと考えたうえで発言してくれ」

 

 やっぱりか。あくまで証人的な扱いこそあるが、カズマを庇った時点で容疑者の一味と思われても仕方ないだろう。

 

「……とはいえ、貴女自身の噂や評判を調べさせてもらったが、そういった悪い噂等は聞かなかったうえ、真っ当な善人としての答えが多くあった。そのため、私個人としては貴女の事はそう疑ってないから安心してくれ。ただ、検察官としては調べさせてもらうからそこは協力してくれると助かる」

 

 ………………あれ?なんか想定していたのと違う?というか、この人そんな風に優しく笑うような人だったのか。……ま、まあ、いいや。とにかく取り調べを行う以上、心構えだけはしておこう。

 

「ところで、これのベルが何なのかは知っているか?これはこのような場や裁判所でも用いられる、嘘を看破する魔道具だ。この部屋に仕掛けられている魔法と連動し、発言した者の言葉に嘘が含まれていれば音が鳴る。そのことを念頭においてくれ」

 

 え、何その魔道具。ウィズの所ではそんなものの話なんて聞いたことないぞ?いや、あの店の商品が際物ばかりでもあるんだろうが……というか、そんな魔道具があるなら一つだけ気になったことがある。

 

「……実際にどんな感じで鳴るか、試してみてもいいでしょうか?明らかな嘘を言いますので、証言などには関係ないのにしますから、いいでしょうか?」

「うん?……まあ、一度くらいならいいが、怪しいと思われる発言などを行った場合は……分かっているな?」

「……ええ、大丈夫です。ご安心してください」

 

 そう、これだけはどうしても聞かないといけない。もしこれで反応したら、どんな目に遭うか、たまったものではない。……別に私欲が含まれているとかそういったことは一切ない筈だ。そう、これだけは――――

 

 

 

「…………私は、男である!」

 

 チリーン

 

 

 

 …………………………………………………………。

 

「……その、大丈夫か?急に眼が死んだというか、雰囲気が重くなったが、今の発言に何か感じるものでもあったのか?」

「…………いえ、何でもないです。試させていただき、ありがとうございます。取り調べに入っても、大丈夫です」

 

 そうだよな、身体は女の子であるんだし、生活も女の子のそれだもんな。精神だけが男でも、女の子が女物の服を着て女の子っぽい行動取っていれば、中でどう考えていようと女の子にしか見えないもんな、そうだよな……!精神的にも、割と女の子っぽくなってきているもんな……!

 …………畜生!本気で男に戻れる気がしなくなってきたぞ!真面目に魔王倒して、その願い事で男に戻すぐらいしか……はあ……

 

「そ、それでは話を聞かせてもらう。名前はユタカ。年齢は……え、これで20歳前後?羨ましいというかなんというか……こほん、職業は冒険者兼宿屋での従業員か。クラスは……占星術師(ゾディアック)?初めて聞く名前だな、ま、いい。ではまず初めに、出身地と、冒険者になる前はいったい何をしていたかを聞かせてもらおう」

 

 !!嘘をつけない以上、どう言うべきか……そのまま率直に日本といっても信じられる気がしないが仕方ない。ほんの少しだけぼやかして解答しよう。これでカズマが日本と答えた場合、変な疑いをもたれても面倒だろうし。

 

「……出身地は極東の島国からです。この街に来る前までは、学生として勉学に励み、将来に備えていました」

 

 特に噓を言った覚えはないが、気になってベルの方を目だけ動かしてみる。さっきのようになるような様子はなかった。

 

「ふむ、極東の島か。どんな所かまで聞きたいが、もう一人の方の時間も押しているため聞かないでおく。では次に、貴女が冒険者になった動機を聞かせてもらおうか」

「……島国を離れていたのですが、路銀が尽きてしまったので働くために冒険者になりました」

 

 これに関しては正直に話す。嘘の付きようもないし、嘘をついてまで隠すような内容でもないからな。

 

「うむ、では次。あのカズマという存在とはどういった関係だ?」

 

 …………なんか気恥ずか、違う、困る質問だな。まあ、これは聞かれるだろうな、うん。そうでないと、俺がカズマを庇う理由にならん。これもしっかりと正直に話す。

 

「…………たぶん、友達、です。依頼とかにも同行することもたびたびありますし、ギルドとかでもあったら話はします」

 

 ま、これくらいだろうか。少なくとも、俺個人はカズマのことは頼れる仲間ではあると思うし、色々と話したりもするから友達ではあると思う。……思うくらいはいいじゃないか。

 

「友達だから、で死刑になるかもしれないのによく名乗りあげたな……では次に、あのテレポートの際―――」

 

 

 ――――――――― 

 

 

 おおよそ一時間ぐらいだろうか。かれこれ検察官の質問に答えるのもしんどくなってきた。デストロイヤー戦で行ったことや見たこと、それに日常での生活に恋人の有無などなど、正直必要かといったのも聞かれたし、割かし似たような質問を多く聞いてくるときもあるから、後半は若干被った答えになってきたのが否めない。まあ、ちょくちょくカズマのことを嘘ではない程度に話を膨らませて印象を良くしておいた。これでカズマの取り調べの際は多少マシになるだろう。でも、疲れた。もう何度も必死に考えて、素早く解答する作業はこりごりだ。

 とはいえ、この後には本命のカズマの取り調べを控えているのだろう。検察官の動きも少し忙しなくなってきている。……そろそろ、終わってくれると助かる。いい加減気が滅入ってくる。

 

「……それでは最後に、魔王軍の関係者の存在を知っているか?」

 

 よしこれで最後の上、こんな質問さっさと切り上げて終わろう。魔王軍関係者?そんなもん、もちろん知らな、い…………!!うげ、思い当たるやつが居るじゃねえか。こんな時に限って『ウィスパースター』発動させて知らせるなよ。……いや、このスキルが発動してウィズの存在を知らしめること自体が重要なのか?もしかして、何も考えずに同意したら危険だと知らしめるために?

 

 ……ここで何も考えずに同意したら、この魔道具は鳴っていた可能性がある?となるとどう答えるべきか。正直に答えてもいいが、その場合ウィズの討伐は避けられない。この場合、ウィズにも迷惑がかかるうえ、リッチーという大敵に被害も相当出てしまうだろう。下手すると、この街の住人全てが死人になってもおかしくないだろう。となると、正直には答えられない。で、あれば――――

 

「……どうした?何か魔王軍のことで知っていることでもあるのか?」

「…………いえ、魔王軍関係者と()()()()()()がいないか考えていましたが、そんな心当たりのある存在はいないと思います」

 

 適当に含ませる表現をして誤魔化す。魔王軍関係者と疑わしい人はいない。魔王軍幹部はいるが、あくまで俺の返答は疑わしき存在だからセーフのはず!魔道具は…………鳴っていない!よし、乗り越えられた!

 

「……一つも嘘を吐いてないですね。ひとまずはお疲れ様でした。ご協力に感謝します」

「……いえ、こちらこそです」

 

 ああ、やっと終わった!『ひとまず』俺の疑いは晴れたようだし、後は俺が答えた発言が、カズマの方の助けになれればいいが、まあ、あいつなら何とかしてくれるだろう。

 

「本来貴女自身には罪などもありませんし、今回のことに関しましても貴女が関与した可能性は低いとのことでしたので、これくらいで取り調べは終えさせていただきますね。また何かあった場合は、またお願いしていただきますので……」

「……こちらも、何か証言する必要な場合は協力させていただきますね」

「ええ、今回は誠にお疲れ様でした。お気をつけてお帰りください」

 

 そう言って検察官殿は背後にあった扉を開いてくれた。後ろで俺の発言を書き留めていた騎士たちにまた連れられて、刑務所の出口に出れた。これで、俺は、自由だ。さっさと帰って暖かいお風呂に入りたい。いい加減臭いもきつくなってくるから早く洗い流したい。ベッドと布団にはさまれて、隙間風を気にせずに眠りたい。

 ……とはいえ、このまま帰るのはカズマに不義理というか、一人だけ置いて帰るのも何かなあ……まあ、1、2時間程度ぐらいは待って、それでも来なければいったん帰ろう。

 

 

 

 

 

 

 その後、しばらく待っていたがカズマが出てくる様子はなかった。カズマの場合はしっかりと疑われていそうだし、何度か取り調べを行うのだろうか。そう思って帰宅した。商人一家の熱い抱擁で骨が折れるかと思ったが、そこまで心配をかけた己が悪いと耐えた。

 

 そして翌日、宿屋にて働いていたらアクア、めぐみん、ダクネスとカズマパーティーの連中が押し掛けてきた。いったい何の用だろうか、俺は見ての通り、宿屋の制服を着て働いていて忙しいのだが?

 

「そんなことはどうでもいいわよ!ほら、貴女がせっかくかばってくれたのにカズマさんったら、何か取り調べでイケないことでもしちゃって裁判になっちゃったのよ!」

「それで今はカズマの弁護で頼りになりそうな人を探しているんです!協力してください、お願いします!」

 

 ……え、カズマ、やっぱり駄目だったの?あいつ一体何をやらかしたんだよ?せっかく俺がかばった分も、意味なかったってことかよ……

 

「……すまないが、これからカズマを弁護する際の証拠集めをしているんだ。暇さえあれば、それだけでもしてくれないだろうか?」

「……はあ、それくらいでしたら構いませんよ?」

 

 どんな証拠を集めればいいかは分からないが、とりあえず探せるだけ探しておくか……

 

 

 

 




カズマ(……やべえ、ウィズのこと思い出しちまった!)のパターンか、

カズマ(なんか、検察官の様子がおかしい……!?)のどちらにするかはまだ検討中です。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第27話 裁判

遅れてしまい、申し訳ありません。

ちょっとした空き時間で書いたものですので、色々とツッコミどころがあったりしますが、ご了承ください。


 さて、頼まれた証拠集めであるが……その作業は正直困難だとしか言いようがない。そもそも今回カズマが連れていかれた理由が、まず暴走したコロナタイトをテレポートしたこと、コロナタイトを領主殿の屋敷にテレポートしたこと、領主暗殺の疑い、それによる反社会的な存在もしくは魔王軍の関係者の疑いなどぐらいだろうか。まあ、カズマがやってきた他の罪状を考えるときりがないが、今回のはそれだけだと思う。

 問題はこれらすべてを正当に証明する物的証拠がないことだ。あの時は気が急いていたため、そういった言動や行動を記録した映像媒体やメモとかはない。そもそも、こんなことになるとは想定していなかったぞ。

 

 とにかく、今こちらが提示出来うるものは状況的な証拠のみ。それも証言のみの状況で、一番の鍵となる、テレポートを行ったウィズは魔王軍関連の質問をされると危険なため不可。その場にいた俺も、事前に聴取されているからあまり効果は薄い。精々、カズマの悪評を緩和するくらいだろう。

 で、残っているのがアクアなのだが……正直不安でしかない。あの駄女神のことだ、碌なことしかしない気がしてくる。めぐみんやダクネスが傍にいてサポートはしてくれるはずだろうが、「この女神である私なのよ!カズマの無罪なんてちゃちゃっと証明してくれるわ!」と大変心強いお言葉を頂けた。…………カズマ、やっぱり脱獄した方がましな気がしてきてたまらない。

 

 まあ、裁判を行う際にもあの嘘を感知する魔道具があることだろうし、カズマの発言で罪が無いと判断してくれることを願おう。あとは……駄目だ、こういう時には何を用意しればいいか、思いつかない。とりあえず、俺が弁護人側で証人として呼ばれた時にはしっかりとカズマの無罪を証明できるように受け答えの準備くらいはしておこう。今はそれくらいしか、思いつけない。

 

 

 

 ――――――――――― 

 

 

 

 とうとうカズマの裁判を行う当日である。裁判所には数多くの人間が駆け付けており、なんだかんだでカズマたちの影響があることがうかがえる。この結果によって、カズマの罪の重さが決まってしまう。死刑になるかもしれない可能性だって、十分にあり得るのだ。とはいえ無罪を勝ち取ることは難しいだろう。せめて、領主殿の屋敷の修繕費ぐらいまでに収まってくれるよう祈ってはいるが……まあ、こんなところにいる俺が祈っていても皮肉にしか思えないか。

 

~~~ 

 

 遂に裁判は始まった。検察官が罪状を述べている自体は、皆で話し合って想定したものではあった。途中にアクアが何も考えずに「異議あり!」と言ったり、カズマが多少誇張した内容で無罪だということを演説していたりしたが、流れとしては自分が知っている裁判の流れと一致していると思う。さて、お互いの主張を述べ合った後は証人を呼んでの己の主張の裏付けを行うのだが……検察官の選んだ証人がどれもなぁ……

 

 

 

 最初に現れたのがクリス。その登場にカズマ達も驚いていた。実際、俺もクリスが検察官の証人として立つという事を聞いた時は驚いたぞ。しかし、クリスもデストロイヤー討伐には参加していたとはいえ、カズマの罪状を裏付けるものは持っていたか?

 

「という事でクリスさんは、公衆の面前でスティールを使われ、下着を剥がれたとお聞きしました。このことに、間違いはないですね?」

「えーと、間違いではないんだけど……でも、あれは事故だったって言うか……」

 

 ……?何でそんなことを聞き出してきたんだ?そこから何か証拠でも出させようとしているのだろうか?

 

「わ、私、見たんです!路地で、パンツを振り回しているところをっ!」

 

 急に傍聴席からそんな声が現れた。いや、こういった場合って席からヤジとかを飛ばすのって駄目なんじゃないか?実際の裁判を良く知らないし、ドラマでもあまり見ていなかったから何とも言えないが……

 

「!!その男とは?」

「そ、その……」

 

 おい検察官殿、そんな証拠にもなりそうにないのを……あ、魔道具は反応していないし、カズマの悪評を高める分にはいいのか。悪印象の方が有罪に持ち込みやすくなるからかー……すっげえ適当だな。そんな甘すぎるような理由で罪を決めれる程、法というものは軽い物だったのだろうか。

 あと、女の子も顔を背けつつカズマを指差すな。一気に面倒な気配がしてきたぞ。

 

「事実だという確定が取れただけでも結構です。ありがとうございました」

「あ、あのっ!?まだ言いたいことはあるんだけど!」

 

 おい、クリスが発言しようとしたのを遮ってまで終わらせるとか、司法職としていいのかよ。

 

 

 

 次に現れたのが魔剣を持っていたミツルギと仲間の女の子二人。ミツルギの方はともかく、女の子たちの方はカズマにとっても熱い視線を送ってくれている。これが裁判の時の証人で無ければ喜べたんだろうなー。

 

「ではミツルギさん、あなたは被告人に魔剣を奪われ売り払われたとお聞きしましたが、これは事実でしょうか?」

「ま、まあ、大体はその通りです。でも、魔剣は知り合いの方が返却してくれたし、元々あれは僕が―――」

「はい、ありがとうございます!次はそこの方々にお願いします!」

「え、ちょ、ちょっと!?」

 

 ……ええ……?確かにそうではあるけど、そこに至る経緯とか説明できないとダメじゃないか?こんなの、証言として扱えるとは思えないけど……?ま、まあ、まだこの世界での裁判とか知らないし、これが当たり前……なのか?

 

 

 

 三人目というか、順番でミツルギの仲間の子たちが証言を行っていた。

 

「そしてそちらの二人は、魔剣を取り返そうとした際に公衆の面前で下着を剥ぐぞと脅されたのですね?」

 

 ああ、そういえばカズマがそんなことを言っていたような気が……まあ、似たようなニュアンスでは言ってたはずだな。

 

「そうそう、脅されたんです!『俺は真の男女平等主義者だから、女の子相手でもドロップキックを食らわせられる』とか!この卑怯者!」

「そうなんです!『女相手なら、この公衆の面前で俺のスティールが炸裂するぞ』とか!」

 

 あー、言ってた言ってた。そんなこと言ってたなー。でもあれって、喧嘩を売ってきたのはそっちの方じゃなかったっけ?そもそもカズマとの勝負の結果自体はミツルギ君も納得はしていたんだし、それに茶々を入れるのはそっちから何だから、そう言われても仕方ないんじゃないとは思うんだけど……まあ、カズマのあの返し方はないが。

 

「お、俺も見ました!確かに怪しい手の動きで……あれはアヤシイ手の動きでした!」

「新しい意見、ありがとうございます!下がってもらって結構です!」

 

 また傍聴席からそんな声が出てくる。……無罪はもう無理なような気がしてくるな。頑張れ、カズマ。なんかもうこの時点で傍聴席から色々な声が上がっているが、証人はもう一人いるんだよな。

 

 

 

「では最後の証人として、あのデストロイヤー討伐戦で同行していたユタカさん、お願いします」

 

 その声に合わして舞台袖から登場する。いや、検察官よ。何かあったら協力はするって言ったけどさ、俺があいつらとは友達だって言ってたじゃん。何でこっち側に立って友達のことを悪く言わないといけないんだよ。やっぱり司法は腐っていやがる。カズマ達も俺の登場に目を見開いているし……すまん、本気ですまん。それと、屋敷を吹っ飛ばされた領主らしき人間からの目線がきつい。全身を舐めまわしているような視線に寒気が立つ。

 

「それではユタカさん、まずお聞きしたいのですが、貴女もクリスさんと同様にスティールで下着を剥がれたとお聞きしましたが?」

「……え、と、そうではありますが、あれはあくまで、私がどんなスキルなのかを知りたくてやってもらっただけで……」

 

 ……なんでこんなこと聞くんだ?そもそもあれって、俺の自業自得じゃないか?それが何の証言になるんだ?

 

「では、その後に下着の返却はしてもらいましたか?先ほどのクリスさんなどは返却はしてもらえたそうですが、その場で目撃した方々の証言ではそういった場面は見られなかったそうですが?」

「………………その、返してもらっては、無い、ですが……?」

 

 おい、こんな発言がカズマの罪状の裏付けになるのか?こっちはすっごい恥ずかしんだけど、それもただカズマの悪評につなげる為とかは嫌なんだけど。

 

「では次に、被告人のパーティーと共に湖の浄化を行う際に、オリに入れられてブルータルアリゲーターの囮として使われたという事も聞きましたが?」

「……入れられはしましたが、納得の上ですよ?」

 

 こいつ、カズマの不利になるようなことなら何でもするつもりなのか?というかこの質問の後に来るのも何か想像つくんだけど。

 

「ですが、街中でもオリに入れられたままだったそうですが、これには何か理由があるのでしょうか?」

「………あの時はブルータルアリゲーターの攻撃が激しくて、オリから出ると攻撃されそうなイメージが沁みついていて、怖くて出れなかっただけですよ?」

 

―――チリーン

 

 畜生。なんでこんな答えにくいときに限って鳴るんだよ。

 

 

「嘘を吐くことは感心しませんよ。しっかりとお願いします」

「……………………その、あの、あの時は……お、(お漏らししちゃったから)…………」

「すみません、よく聞こえなかったのでもう一度、はっきりとした声でお願いします」

 

 こいつ!人が言いたくないことを、こんなところで言わそうとするんじゃねえよ!睨んでも涼しい顔して受け流しやがって!

 

「…………だ、だから、えっと、その……襲われた時に、怖くて、つい、も、漏らしちゃったのが、バレるのが、は、恥ずか…………ううううぅぅぅぅ…………」

 

 殺せ、いっそ殺せ。

 

 こんな歳になってまでお漏らししたのがバレるとかどんな罰だ。しかも、数多くの人たちの前で言わせやがって。怒りと羞恥で顔が熱いし、頭もクラクラするし、涙が出てきやがる。……耐えろ、これまでの証言を言わせているスピードから、もうすぐ終わるはずだ。ローブを思いっきり握って耐えろ。

 

「……大変答えにくい質問をしてしまい申し訳ありませんでした。こちらの証言は以上です。証言をしていただいた方々、ありがとうございました」

 

 ……それにしても傍聴席からの声が「変態が……!」とか「ひどい……」とか「なんて屑なんだ……」とか聞こえてくるのはわかる。だが、「正直興奮する」とか「お漏らし……ふぅ……」という声はいったい何に反応したんだ。お前らの発言の方が酷いわ。

 

「異議ありです!こんな証言、今回カズマが行なった罪の証拠になっていないです!カズマの性格が曲がっているのは認めますが、だからと言ってこんな言いがかりをつけられてはたまりません!」

「そうよ、マシな根拠を持ってきなさいよ!」

 

 っと、流石に今の証言にめぐみんが食い掛ってきた。まあ、あんなので罪が決まるなんて言ったら司法なんて意味がないしな。

 

「根拠?よろしいでしょう。ではもっと、確たる根拠を出しましょう!一つ!魔王軍幹部であるデュラハン戦において、結果的には討伐できたとはいえ、街に大量の水を召喚し、洪水による多大な被害を負わせ―――」

 

 その声にアクアが耳を塞いだ。いや、そこで塞いだって意味なんじゃないか?

 

「二つ!連日、町の近くで爆裂魔法を放ち、街の近辺の地形や生態系を変え、あまつさえこの数日においては、深夜に爆裂魔法を放ち、騒音によって住人たちを夜中に起こし―――」

 

 続いてめぐみんも耳を塞いだ。いや、それで耳を塞ぐってことはやましい気持ち、あるのかよ。それだったら、もっとましなところで放つなりしろよ。というかカズマ関係ないことばっかりじゃねえか。

 

「そして三つ!被告人にはアンデットにしか使えないスキル、ドレインタッチを使ったという目撃情報があります」

 

 カズマまで耳を塞いでどうするんだ。冒険者だから、アンデットを倒す際に目撃して習得したとかじゃないのか?

 

「そして最も大きな根拠として、貴方に魔王軍との交流はないかを尋ねた際に、交流が無いといった発言に、魔道具が嘘と感知したのです!これこそが、証拠ではないでしょうか!!」

 

 ……カズマ、ああいったのは大概、あいまいな表現で回避すれば……いや、教えてなかったな。それで不意打ち気味に答えてしまったのだろうか。まあ、うん、これはもう無理なんじゃないか?もしくはウィズを売るくらいしか減刑できないんじゃないか?検察官側に立っていた俺が言うべき言葉ではないが。

 

 

「もういいだろう?そいつは間違いなく魔王軍の関係者だ。わしの屋敷に爆発物を送りつけてきたんだぞ!死刑にしろ!」

 

 あ?領主のおっさんがなんか急に声を荒げて叫んでいた。この状況だと有罪なのは確定なのに、急に何を言ってるんだろう。何か急ぎの用事でもあるのだろうか?

 

「違う、俺は魔王軍の関係者なんかじゃない!テロリストでもない!」

「何をいまさら、あなたの証言が嘘であることは確認している!」

 

 と思ったら、今度はカズマまで叫び出した。検察官も反論はしているが、カズマは勢いで突っ込んできている。

 

「いいか、魔道具をしっかり見ていろ!言うぞ!

 

 

 ―――俺は、魔王軍の手先でも、テロリストでも何でもなああい!」

 

 

 ………

 ……………

 …………………

 

 魔道具には、何の反応もなかった。これが故障か動作不良と言い張れたのならいいが、俺の証言の際ではしっかりと反応している。それならば、カズマの今の発言は、嘘でも何でもない、真の言葉だという事になる。

 

 検察官も眉を寄せて裁判長に異議を唱えているが、今の発言で有罪であるという事は難しいと思ったのだろう。異議は却下され、重い溜息をついていた。

 

「よって、被告人、サトウカズマ。あなたへの嫌疑は不十分とみなし、無罪であると―――」

 

 ああ、やっと終われるか。もうこんな面倒なことは結構だ。

 

 

 

「―――駄目だ、裁判長。わしに恥をかかせる気か?もう一度言う。その男を死刑にしろ」

 

 ……は?いきなり何言いだしているんだ、こいつ。そんな脅迫をしたこと自体があれだろ、う……

 !!!???何だ、今のおぞましい嫌悪感は!?『ウィスパースター』の警告よりも、もっとおぞましいナニカは!?いきなりの圧力で、お腹の中のもの全てが逆流するようなナニカは!?

 

「いえ、今回の事例では怪我人も死者も無く、流石に死刑を求刑…………いえ、そうですね。確かに死刑が妥当だと思われます……ね?」

 

 ……今の嫌悪感の影響によるものなのだろうか、検察官の発言も急に方向を転換させた。本人も、何故か困惑そうにしているのが奇妙だ。

 

「今何か、邪な力を感じたわ!この中に、悪しき力を使って事実を捻じ曲げようとした人がいるわね!」

 

 アクアもあの嫌悪感を感知したのだろうか、必死に声を上げている。……こんな状況でやるような奴なんぞ、愉快犯でも無ければあの領主でしかない筈なんだがな。魔道具だって反応していない、アークプリーストという神聖職が信憑性をもたらしてくれている。

 

「悪しき力……。神聖な裁判で、何か不正している者がいる、と?」

「ええそうよ。この私の目は、そこの魔道具よりも精度が高いわよ!何を隠そうこの私は、この世界に一千万の信者を有する水の女神!女神アクアなのだからよ!」

 

――チリーン

 

「なんでよおおおおおおおおおおおおおおおおっ!」

 

 わあ、信憑性が一気になくなった。どうするんだよこの状況、今ので切り返しが出来そうだったのに、変な見栄を張ったせいで台無しになったじゃねーか。

 

 それと領主よ、そんなに青い顔をしてアクアを見つめていれば、今の奇妙な現象の犯人が誰か言っているようなものだぞ。こんなのでよく鬼畜外道や魑魅魍魎が跋扈する貴族たちの所に居れるのかが不思議なくらいな顔だぞ。

 

「……被告人サトウカズマ。貴女の行ってきた度重なる非人道的な問題行動、および町の治安を著しく乱してきた反社会的行為などを鑑みるに、検察官の訴えは妥当と判断。」

 

 おい、裁判長まであの現象にかかっちまったのかよ。こういった明らかな洗脳を防ぐような魔道具とかの設置はしていないのかよ。こんなんじゃ、これまでの裁判でも捻じ曲げられてきたようなものが多数あるんだろうな。

 

「被告人は有罪であると考えられ、よって、判決は死刑と――――」

「―――裁判長、私の話を聞いてもらえないだろうか」

 

 …………なんだ、今度はダクネスが急に話し出した。この裁判も、割とどんでん返しばっかりのゲームのような展開で、どう反応すればいいのかが分からない。ともかく、あのパーティーの中ではましな方のダクネスだ、何か策はあるはずだろう。

 

 そう考えつつ見ていたが、胸元から何かを取り出して裁判長や領主に見せていた。よく見えないが、ペンダントのようなものではあった。

 

「この裁判、申し訳ないが私に預からせてはくれないだろうか。なかったことにしてくれと言っているのではない。時間を貰えれば、この男が必ず潔白であると証明して見せる」

 

 ……でも、なんだろう。いつものドMの姿とはかけ離れている凛とした姿には違和感を覚えてしまう。

 

「それは……!し、しかしいくらあなたの頼みでも……!」

「アルダープ。あなたには借りを作ることになるな。私にできることなら何でも一つ、言うことを聞こう」

 

 おいダクネス、流石に何でもという条件は危険じゃないか?少なくとも、悪い噂しかない相手に、そんなことは……いや、ダクネスのことだ、どんな目に遭うのか計算に入れているんじゃないだろうか。

 

「何でも……!なな、何でも……!」

「そう、何でもだ」

 

 それにしてもこの領主、よく女性相手に舐めまわすような真似をしているな。強烈な女好きなのだろうか。しかし、ダクネス相手には趣味が悪いと思わざるを得ない。

 

「……いいでしょう、他ならぬあなたの頼みだ。その男に猶予を与えよう。では、裁判長?」

「……分かった。では、被告人カズマの裁判は保留とする!」

 

……とりあえず、カズマがすぐさま死刑にならなかっただけまし、と考えておこう。

 

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第28話 ゆんゆん

頭からっぽで書いたので、色々とツッコミどころがあるうえ、文章が冗長だったりしますがご了承ください。


 結局、カズマの裁判自体は保留となった。

 

 が、それでも魔王軍の関係者でないという事の証明と、領主の屋敷の弁償は行わないといけなくなっているらしい。領主の屋敷の弁償は……まあ、以前も借金をしていたし、その経験を生かして返済していくしかないだろう。

 

 問題は魔王軍の関係者でないという事の証明だろう。こっちの方はあの領主の余計なことのせいでやらないといけないのが面倒だ。裁判で使った証拠はもう根拠としてしか使えないし、こうなったらひたすら善行をして信頼を積み重ねるぐらいだろう。

 運が良ければ、魔王軍の関係者を倒せば手っ取り早いんだろうが……そう都合よく見つかるわけないか。未熟な冒険者しかいない外れにある街に来るわけないだろうし、前のデュラハン自体がレアケースなんだろう。とにかく、カズマ達には頑張って無罪を主張できるように頑張ってほしい。

 

 

 

 

 でも、俺はそれに関与できないのが歯がゆい。

 

 というか、カズマ達からも散々な目に遭わせてしまったのだから、これ以上は協力しなくてもいいからと言われてしまったのだ。宿屋の商人一家からもこれ以上心配は掛けられないし、これ以上はカズマたちの問題ではあるが……

 

 一応、友達として何かあれば手伝いはすると約束はしたが、正直不安である。ダクネスも領主の所に約束を果たす為行ったと聞くし、残りの三人で解決できるとは思えない。

 

 とはいえ、いつまでもグダグダと悩んでいても意味がない。証拠集めもほどほどにしつつ、今は宿屋で働こう。心配をかけた分は返しておかないといけないしな。

 

 

 

 ―――――――――――― 

 

 

 

 今度は働き過ぎと言われて無理やり休みを取られた。別にいいじゃないか、ちょっと気が落ち着かないから多少寝ずに働いているだけなのに。ちゃんと自己管理はしているから、疲れたら寝るようにしているのを毎日しているだけなのに。

 

 え?「女の子がこんな夜遅くまで働き詰めなのはいけない」って?いや、俺成人の元男だし、泊まっている宿屋に恩返しくらいはしないといけないだろ?なのにお婆ちゃん、「今時の女の子は働くだけじゃなくて、もっとお洒落とか友達と遊ぶとかしなさいね」って……いや、その友達は大変で遊ぶこととか無理なんだし、男の俺が女の子のお洒落とか冗談にもほどがある。服だっていつものローブがあるんだし、このままでいいし。

 それに、今はまだ冬。モンスターも強い敵ばかりで討伐とかは無理だろう。採取とかもそんな技能はないから却下。かといって、ベッドの上でゴロゴロしているような気分でもない。お腹も減ってないからギルドに言って食べるつもりもない。ムラムラとした気も、サキュバスサービスを使ってからは抑えられているから平気だ。

 

 結論。何もすることが無くて暇で仕方ない。

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………ウィズの所にでも行って、暇でも潰すか。

 

 

 ~~~~~ 

 

 

「……それで、できそうですか?」

「うーん……素材は良質なものですので、良い魔道具にはなると思いますよ。望んでいる効果も付与できるとは思います。ですが、その分期間は頂くことにはなると思いますが……」

「…………そうですか、それでもいいのができるのなら、お願いします。教えてくれて、ありがとうございます」

 

 ウィズの所に来たついでに、祭りの時に買った黒水晶で何か魔道具を作れないかの相談もした。流石に魔道具の作成には時間がかかるらしいが、それでも欲しいのが手に入るのなら十分だ。もうこれ以上ウィズに探してもらうのも心苦しいし、ウィズの商才だと意味がない物ばかりしかないから、直接依頼した方がいいだろう。

 

 

 ……ところで、そこでそわそわとしている黒髪の女の子はいつまでこの店にいるのだろうか?俺が来る前から居たし、かれこれ一時間以上は経っているだろうし……これで詐欺とかあっているのなら不憫だろうし、声でも掛けた方がいいだろうか?

 

「……あの――――」

「ちわーす。これ、買い取ってほしいんだけど……?あれ、ユタカにゆんゆんじゃないか。奇遇だな」

「「あっ」」

 

 あれ、カズマ達じゃないか。いったいどうした……って、めぐみん?黒髪の女の子を見てどうしたんだ?

 

「あら、カズマさんいらっしゃいませ。実はこの―――」

「わ、我が名はゆんゆん!なんという偶然!なんという運命の悪戯!こんな所で鉢合わせになるとは、やはり終生のライバル!」

 

 ……あ、この子も紅魔族の子なんだな。なんか、一気に残念っぽさが増した気がする。

 

「この方は、皆さんがうちの店によくいらっしゃると聞いたそうで、朝から待っていらっしゃったんですよ」

 

 朝からって……窓から漏れる光からもう昼くらいのはずなんだけど。というか約束とかも無しに待っていたって、ストーカーとかそんなものなのだろうか。それか、めぐみんの強烈的なファンか何かなのか?

 

「な、ななななな、何を言ってるんですか店主さん!?私はマジックアイテムを買いに来ただけで……あ、あのっ、コレください!」

 

 俺が見た様子だとそういったものを探しているというより、誰かが来ないかを待っているようにも見えたぞ?あと、取ってつけたように物を出すとか、本当に買いに来たのかが怪しく思われるんじゃないか?実際、めぐみんの視線が冷たくなってきているし。

 

 

 ~~~~~~ 

 

 

 カズマの知り合い……というよりめぐみんの知り合いみたいだったから紹介してもらった。彼女の名前は『ゆんゆん』。紅魔族の族長の娘であり、13歳……だったか?にして上級魔法を操るアークウィザードだというなかなか素晴らしい能力を持った子であった。あと、同い年のめぐみんと比べると身体的特徴の成長が著しい子でもあった。……でもあった。

 別に羨ましいとかなんて感情は一切ない。

 

 それで、何故ウィズの魔道具店でずっと待っていたかというと、ゆんゆんはめぐみんと勝負を持ち掛けることが多かったのだが、かといって人の家を直接訪ねて「勝負だ!」なんてことをするほどの度胸はなく、かと言って勝負はしたいからよく来ると聞いていたここで待ち伏せをしていた、と。

 

「…………それ、知らない人が聞いたら変質者だと思われてしまいますよ?朝からずっと待ち続けているとか、恐怖を覚えてしまっても仕方ないと思いますよ?」

 

 それにめぐみん以外とも顔は合わせているんだ。知り合いが訪ねてきたところで無下に追い返すという事はしないはずだぞ。

 

「そ、そんな……人様の家にいきなり伺うなんて……」

 

 いや、朝からずっと待っている方がよっぽど非常識だと思うぞ。

 

「煮え切らない子ですね。これだからボッチは」

 

 めぐみん、どういうことなんだ?

 

「ゆんゆんは自分の名を恥ずかしがる変わり者でして、学園では大体一人でご飯を食べていました。その前を、これ見よがしにうろうろとしてやると、それはもう嬉しそうに何度も挑戦してきて」

「そ、そこまで酷くは……友達だっていたもの!」

 

 ……ああ、うん、もしかしてだが、あの紅魔族の中では常識的な価値観と性格のせいで苦労してきたんだな。で、それをずっと続けてたらハブられて、どうすれば分からなくなってボッチになっちゃったと。

 

「……今、聞き捨てならない言葉が聞こえてきたのですが?ゆんゆんに友達?」

「いるわよ、私にだって友達くらい!ふにふらさんとか、どどんこさんとかが『私たち友達だよね!』って言って、私の奢りでご飯食べに行ったり……」

「……ゆんゆんさん、それ以上はちょっとストップです」

 

 それ、ただの財布としか見られてないだけだぞ。こっちが聞いてて辛くなってくる。それとカズマ達が連れてきた猫が今ウィズの胸に抱かれているのだが、思いっきり胸を揺さぶっていて、ちょっと目に悪い。あれは母性本能でも感じ取って胸を揺らしているのだろうか?

 

「で、爆裂魔法しか使えない私としては、魔法勝負は避けたいところなのですが」

「それならほかの魔法とかも覚えなさいよね。スキルポイントだって、貯まったはずでしょう?」

 

 ……そういえば、デストロイヤーの討伐って経験値とかは入ったりするのだろうか?もう少しで別のスキルが取得できるはずだから、スキルポイントが貯まってくれていると嬉しいのだが。

 

「ええ、貯まりましたよ。もれなくすべて、爆裂魔法威力上昇や高速詠唱につぎ込もうと」

「馬鹿っ!馬鹿馬鹿馬鹿あああああっ!どうしてそこまで爆裂魔法にこだわるのよ!」

 

 中々ここまで突き抜けた存在(浪漫馬鹿)もいないだろう。それなら、消費魔力を抑えるスキルとか、連発できるようなものを取得すれば誰かにおぶさるようなこともしなくて済むのに。

 

「そんな小分けされたものなど、爆裂魔法などとは呼べないからですよ。爆裂魔法とはそう、全てを打ち砕く象徴としての物なんですから、そんな小さな爆裂魔法なんて、爆発魔法や炸裂魔法とかで十分ですからね」

 

 ……え、声に出して言ってたか?口、動かしている気はしなかったから、読心術でも使ったのだろうか?

 

 こほん、というかそんなに勝負したいのなら、運試しとか双方ともに劣っている点がない物で勝負をする……いや、もうやっているからこうしているのか?どちらにせよ、人様の店で喧嘩をするのは感心しないな。

 

 

 

「ねえねえ二人とも、それならこれなんていいんじゃない?『仲良くなる水晶』!」

「ああ、それ、熟練した魔法使いじゃないと、上手く使えないんですよ」

 

 ん?アクアとウィズが何かを差し出してきた。名前だけ聞くと胡散臭いこの上ないが……洗脳系の魔道具か?

 

「上手く使えたら、仲良しになれるんですか!」

「ええ、まあ……そうだ!試してみますか?」

 

 いや、ウィズの商才と名前の胡散臭さからやめておいた方がいい気がするんだが……どう考えても碌でもない物の予感がしてたまらない。

 

「別に仲良くなる必要なんて、微塵もないのですが?」

「あっ、怖気ついたのめぐみん?」

「あっ??」

 

 めぐみん、そんな安い挑発に乗るな。どう考えても策に嵌っているとしか思えんぞ。

 

「つまりこれは、より上手く扱えた方が格上の魔法使いだという証明よ!」

「ふん、そんな浅はかな証明、この私がぶち抜いてあげますよ!」

 

 ……もう知ーらね。あ、そうだ。

 

「……カズマー。何か買い取ってほしいって言っていましたが、何なのでしょうか?」

「ん?ああ、このマナタイトを、な」

 

 そう言って見せてくれたのは、掌にちょうど収まるほどの大きなマナタイト結晶。それも、杖などに加工がしやすい球状となっている。

 

 ……正直言って、滅茶苦茶欲しい。ここまで大きい結晶あれば、以前のキャベツ偵察の際の『ポラリス』連続使用による幼児化を防げるかもしれない。うまくいけば、魔力欠乏による昏睡状態も防ぐこともできるかもしれないのだ。もしかしたら、黒水晶と組み合わせてより良い魔道具が作れるかもしれない。

 

「……ウィズ、このくらいの大きさの、マナタイト結晶でしたらどのくらいの値段で買い取りますか?」

「え、えっと、そうですね……質とかまではあまりわからないので一概には言えませんが、この大きさなら100万エリスが妥当なお値段ですね。ですが、実際に買取をさせていただくとなると、多少お時間を頂かないと値段はつけられないかと……」

 

 ふむ、100万エリスか……うーむ、貯金は黒水晶を買ったとはいえ、デストロイヤー討伐での報奨金と宿屋での働き分でありはするが、大分苦しい額ではあるな……しかし……

 

「…………カズマ、そのお金は今すぐ必要なのでしょうか?」

「まあ、領主の屋敷の弁償代は必要だしな。それに、今俺たちの屋敷の家具とかは差し押さえられているから、正直すぐに貰えるなら越したことがないってところだな」

 

 ……うん、決めた。

 

「…………カズマ、それ150万エリスで買いますので譲ってくれないでしょうか?」

「え、いや、俺はいいけど、それユタカが50万エリス分、損をするだけじゃないか?」

「……あくまであれは買い取りの値段です。私が買う場合には、もっと高くなっていると思いますので、今のうちに買っておいた方がお得です。それに……お金関連なのであまり嫌なのですが、少しでも友達の支えになれれば、と思っていますので……あの、急に目頭を押さえてどうかしたのでしょうか?」

「……いや、何でもないから気にしないでくれ」

 

 え、えーっと、この場合はどうすれば良いのだろうか、と、とりあえず背中でもさすってやればいいのだろうか?

 

 

 ~~~~~~~ 

 

 

 あの後、「すまん、取り乱していた」と言ってカズマは俺から背を向けて離れた。その際も顔を手で押さえていたが何かあったのだろうか、心配だ。アクア辺りに治療でもお願いしてもらった方がいいのではないだろうか。

 

「そこまで言うのならば見せてあげますよ、真なる魔法使いの力を!」

「今日こそ決着をつけるわよ!」

「「はああああああああああああっっ!!」」

 

 おっと、勝負はもう始まっていたようだ。二人の強い魔力で水晶は妖しく光り出してきた。

 

「流石は紅魔族ですね」

「あそこまで強いって、やっぱり爆裂魔法以外を覚えてくれたのならなあ……」

 

 もう、めぐみんは諦めろ。あれはどう考えても治らない病気だ。

 

「さあ、水晶よ!その力を示して!」

 

 ゆんゆんがそう叫んだ途端、世界は黒に置き換わっていった。いや、どちらかというと闇の方が近いだろうか?水晶へ魔力を注いでいる二人を中心に、青の長方形状の形をしたモノが大量に浮き上がってくる。

 

「こんなにも投影されたのは初めてです!二人とも、凄い魔力です!」

 

 どうやらこのモノは二人が魔力をつぎ込んだものの証らしい。いったい、これは何なのだろ、うか?

 

「あ、あれは何だ!?」

 

 カズマの声に振り向き、指差している方を眺めた。すると、投影された長方形状の所から映像が流れだしてきた。

 

 木造で建てられた家に……めぐみん?幾分か幼い姿ではあるが、めぐみんのような子が大きな袋をもって忍び足で歩いている。そして、机に置かれていた箱を引きずり出し、中にあったパンの耳を貪りつつ袋に入れている映像だった。

 

 …………え?

 

「え、ちょっと待って……」

 

 今度はアクアから聞こえた声と目線から検討を付けた映像を見た。

 

 そこにも幼い姿であるゆんゆんらしき少女が、火が灯っている蝋燭が大量に刺さっているケーキに息を吹きかけている映像だった。他にも様々な料理が並んでいる机で嬉しそうに手を叩いて「おめでとう!」と笑っている。

 他には誰もいないのに。一人でニコニコと笑いながら。

 

 ……おい、ホラーは止めろ。

 

 

 他にも、めぐみんが農家から野菜泥棒して妹と思う少女と喜んでいたり、ゆんゆんが片方のコマを動かしたと思ったら反対側の席に移動して「やるわね~!」と言ってたり。

 

 今度は川からザリガニを取って妹と喜んで食べているめぐみん。

 

 獣に触れようとしたら急に逃げられ、花を嗅ごうとしたら脚が生えて逃げられるゆんゆん。

 

 木から何か取っていると思ったら、セミを大量に捕獲して火にくべて、妹と喜んでいるめぐみん。

 

 怪しげな魔法陣の上で「もう、悪魔が友達でもいいかな……」と呟いているゆんゆん。

 

 

 い、居た堪れない……すっごい見てて辛い。なんで、こんなにも心が軋む思いをしなくちゃいけないんだろうか。

 

「友達に奢るために、アルバイトを始めたのか……!?」

「ねえ、ちょっと、なんで、あれ、虫、食べてる……」

「「わあああああああああああああああっっ!!」」

 

 カズマとアクアも、この映像はきついものがあるらしい。まあ、そんな恥ずかしい(?)過去を見られている二人の方がよっぽど不憫ではあるが。

 

「な、何なんですかこれはっ!?」

「店主さん、仲良くなれる水晶だって言いましたよね!?」

「これは、お互いの恥ずかしい過去をさらし合うことで、より友情や愛情は深まるという、大変徳の高い物なん、で、すが……」

 

 おい、最後の方はしりすぼみになっていったぞ。こんな黒歴史を見せつけるものが、本当に徳のある物に見えるのなら、正直俺は店主との付き合い方を改めないといけないかもしれない。

 

「めぐみん!ねえめぐみん!これで私たち仲良くなれるかな!?」

 

 少なくとも涙目で言っている時点で、俺は無理だと思うぞ。

 

「おんどりゃああああああああああああああ!!」

「「あああああああああああああああああああっ!?」」

 

 あ、おい、ちょっと待て!それ一応商品なんだから、割ったらダメだろう……あ、あー……うん、まあ、仕方ないな。

 

 

 ~~~~~~~ 

 

 

「それでは、この水晶代はカズマさんにつけておきますね」

「いや待て。壊したのはめぐみんなんだから、こいつにつけておけよ」

「その水晶を使いたがっていたのはゆんゆんです。ゆんゆんが払います」

「……今はそっとしてあげてください。ほら、ゆんゆん、勝負自体はいつでもできますので、そう落ち込むことではないですよ、ね?」

 

 めぐみんが水晶を割ったことにより、勝負の結果は不明。ゆんゆんはそのことでずっとうわごとを呟いているのだが、これが怖い。さっきまで自分の恥ずかしい過去を見られたうえ、ボッチな精神である以上、繊細なことはわかるのだが、こっちは元男なのだ。そんな不憫な女子の機敏なんぞ、よくわからない。だから言葉を選んで話しかけているというのに……!

 

「だって、だって、こんなんじゃどっちが勝ったか分からないじゃない!ねえ、勝負は引き分けでもいい?」

「別に構いませんよ。もう、勝負ごとにこだわるほど子供でもないですから」

 

 その割にはいつもカズマと喧嘩をしているのは気のせいだろうか。

 

「そういえば昔、発育勝負をしたことがあったわね。子供じゃないって言うなら、またあの勝負をしてもいいわよ?」

 

 いやそれ、ゆんゆんの勝利しか決まっていないんじゃないか?というか、その発言と胸を張ってのドヤ顔ははめぐみんの神経を逆なでするんだからやめておけ。

 

「ふっ、子供じゃないというのは、別の意味での子供じゃないってことですよ。だって……私はもう……」

 

 私はもう?なんだ、女の子の日でも来たのだろうか。まさか、めぐみんをロリッ娘扱いしていたカズマが手を出すわけないし―――

 

 

 

 

 

「ここにいるカズマと一緒に、お風呂に入るような仲ですから!」

「ちょっ!?」

 

 

 

 

 …………ふぇっ?

 

「ほぅ……?……えええええええええええええええええええええっ!?!?」

 

 え、ちょ、ど、どういう意味?!一緒にお風呂!?え、え、え!?!?ていうか、ゆんゆんも落ち着いて!ほら、深呼吸深呼吸、ヒッヒッフー、ヒッヒッフー。

 

「いや、ユタカも落ち着きなさいよ……」

 

 何を言っているんだアクア!おれはちゃんと落ち着いているぞ!ほら、呼吸だってまともなのを……いや、これ違うやつじゃねえか!

 

「おま、お前ふざけんな!この口か、この口かあああああああ!!」

「いふぁい、いふぁい!!」

 

 って、カズマ達も落ち着けって!ほら、そんなことしていたってらちが明かないんだから、いったん落ち着けって!

 

「きょ、きょ……」

 

 ほ、ほらゆんゆん、少し落ち着こうな、な!

 

「今日の所は私の負けにしておいてあげるからああああ!うわああああああああああん!!」

「あ、またどうぞー」

「……ずいぶんと賑やかな子ね」

 

 え、ま、待って……思いっきり行っちゃったよ。この惨状、どうするんだろうか。

 

 …………あれ?カズマって、ロリっ娘とかに手を出さないと思っていたのに、これ、下手したら俺も…………

 

「ああユタカちょっと待て、いや、これは思いっきり誤解―――」

「……にゃああああああああああああああああっっ!!」

「ああ、待って!待ってくれ!!あれは違うから!」

 

 いやああああああああああああああ!!犯されるうううううううううう!!こっち来るなあああああああああ!!

 

 

 

 

 その後、逃げる俺と追いかけるカズマの姿が目撃され、カズマに鬼畜ロリコンという噂が立ったのはそれから数日後のことだった。

 

 

 

 

 




「(……あれ、この水晶、俺が使ったら男の時の過去が見られる可能性がある……のか……?)」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第29話 ダンジョンアタック

えー……長らくお待たせしてすみません。
色々と考えたのですが、ダクネスの見合いやキールのダンジョンの所はカットさせてください。

それと、今回こんなタイトルなのにバニル君が出てきていません。申し訳ありません。
バニル君とどう向き合わせるか悩んでたら筆が止まってしまったので……本当、どうしよう。


 結局あのあと、めぐみんと一緒に風呂に入ったことはそういった、アレ的な理由じゃないという誤解は解いてもらった。

 が、やっぱりというか、全力で奇声を上げつつ逃げる俺と「待ってくれ!」と声をかけて追いかけるカズマとの珍走劇を街の住人に見られてしまい、カズマ達が何かしたのやら何かの痴話喧嘩でも起こしたのやら、挙句の果てには宿屋の娘が鬼畜ロリコンな変態に襲われそうになったという大変迷惑でしかない噂が出回った。

 

 そのせいでお爺ちゃんやお兄ちゃんのカズマを見る目線がきつくなっていたり、お婆ちゃんが他の奥方との会話でカズマの動向を調べていたりと少々窮屈な迷惑をかけてしまった。ついでに噂が出回っている数日は、宿屋からあまり外へ出させてはもらえなかった。

 

 まったく、俺がいくら誤解だと告げても『辛かったんだね……もう大丈夫だよ……』的な視線はやめて欲しい。実際に何かあったわけでも無いのにそういった勘繰りは鬱陶しいものでしかない。そのせいで泊まっている人たちからもいろいろ聞かれるし、ミツルギからも「何かあったら、是非とも頼ってくれよ!」とか言われるし……!

 

 

 というかあの発言で暴走する俺も俺である。カズマが俺にそんな感情を向けるなんて自意識過剰でしかない。カズマだって女性の選り好みくらいはしただろうし、貧相な体の俺をそういったもので見るわけない筈だ。

 まったくもって、自分の精神を疑わざるを得ない。そもそもなんだあの反応は。なにが「うにゃああああああああああああああああっっ!!」だ、どこの女の子だ馬鹿野郎。もっと冷静になって考えろよとしか言いようがない。

 

「それで、キールのダンジョンで謎のモンスターが大量に湧き出していているのです。現在はダンジョンの周囲のみの被害に留まっているのですが、いつこの街に被害が発生してもおかしくないと判断されました。そのため、湧きだした原因の調査とモンスターの駆除を依頼しに来ました」

 

 ……さて、いい加減現実逃避はやめて、いい加減人の話を聞こう。ちょっと考え事をしていて聞き逃すとか失礼にもほどがある。

 

 

 ~~~~~~~~ 

 

 

「……そうですか、それでしたら協力させていただきます」

「本当ですか!なら、準備が出来次第、ギルドに集合してください。他の方も来てからの出発にしますので、よろしくお願いします!それでは、また他の冒険者の方に声をかけてきますので失礼します」

「……頑張ってきてくださいね」

 

 さて、検察官の……セナだっけ、の話はキールのダンジョンというところから、未確認のモンスターが出現している。その被害はまだ少ないとはいえ、このまま湧き続けるとダンジョン周囲の生態系に変化をもたらす可能性がある。

 特に、ダンジョンから湧き出ているため、そのダンジョン内でモンスターを召喚している高位の存在、下手したら魔王軍の関係者のような人類に敵対する者がいると推測される。

 もしこのまま放置してそのモンスターが溢れかえってきたら、生態系どころかこの街やその住人まで被害をもたらす可能性があると判断し、そのモンスターが湧いている原因やその駆除、並びに敵対的な存在がいる場合は討伐を行うといったものであった。

 

 本来なら魔王軍あたりのくだりは一蹴できるような考えであるが、この街は魔王軍幹部や機動要塞デストロイヤーの襲来があるだけに否定できない。しかも、それらの討伐をしていたのだ、魔王軍もいくら初心者の街と言えど警戒を始めて、何らかの行動を起こすことも否めないのだ。

 事実、デュラハンもこの街や周囲に何かを調査していたため、それ自体を探りに来る可能性だってある。

 

 そのため、ギルドも重い腰を上げてあの検察官と協力して冒険者に呼び掛けているのだろう。報酬も、モンスター一体あたりの値段こそ安いが、この時期のモンスターを狩るよりかはまだ安全なんだろう。少なくとも、冬将軍や一撃熊、白狼の群れの討伐なんかよりはましだろう。

 

 しかし、この街にいるのは初心者、もしくは男性の中級者くらいなものだ。ダンジョン内という狭い空間と言えども、人数は必要だ。それこそ、一回の調査で終わらずに後詰めのパーティーと交代しながらになるだろうな。

 

 ……まあ、一番はなんだかんだで性能だけは最も強いといえるカズマ達のパーティーが参戦することが一番なんだがな。本当、あのパーティーは性能や能力だけを見るならこの街に留まるべきでないくらいの強さなのに、性格やら借金やらがな……。

 とはいえ、あいつらも検察官がいる前で好印象を見せるために、この依頼は受けると思うから、上手くあいつらのサポートに回れるようにしておきたい。

 個人的にも、この依頼は出費が多かったり、経験値があと少しの所でレベルアップとかがしそうな感じだから、受けておいて損はないだろう。

 

 

 

 さてと、モンスターの特徴も聞いてあるからそれ相応の準備をしてから行こう。

 

 ……まあ、いつものローブにナイフかダガーのような俺でも扱えそうな短剣類だけなんだがな。いや、あのモンスター相手だと危険だから鎖帷子でも……今まで着たことないのに、こんなのを着てまともに動けるだろうか?たぶん体力が持つ気がしないし、やめておくか。

 

 

 

 ―――――――――― 

 

 

 

 ギルドに集まった人数はダンジョンという狭い空間を考慮してか量よりも質を考慮した結果か、数人程度に収まっていたがレベルとしてはこの街の中では高めの人たちだ。それに検察官も含めての即席のパーティーではあるが、俺自身は何度か組んではいるから連携はできるだろうし、大丈夫のはずだ。

 

 しかし、それはこの街の中ではという事だ。他の街にはもっとレベルの高い奴はいるだろうし、今回の調査と駆除はそいつらが来るまでの時間稼ぎか露払いなんだろうか。まあ、この冬という時期にしては珍しく弱い敵だから、俺は一向にかまわないんだけどな。

 

 というか、ミツルギたちはどうしたのだろうか。他の長期の依頼にでも行ったのだろうが、せめてギルドから何か説明でも受けているとは思うが……まあ、ここにいない時点で考えても仕方がない。

 

 

 

 さて、雪がまだ積もっている道を半日ほど掛けて歩いて到着したのが、例のダンジョンだ。このダンジョン自体はもう他の人の手によって探しつくされ、宝や新しい通路なども無くなっているダンジョンのはずだ。宿屋に泊まる連中やギルドで借りパーティーを組んだ奴からも、精々新人がダンジョンに慣れるための練習場所として使うくらいで普段は寄り付くこともない場所だという。

 モンスター自体も下級の悪魔やアンデットが湧くくらいで、今回の謎のモンスターの目撃情報も最近という事から、らしい。

 

 そんなダンジョンからは変な仮面を付けた人形が一列になって行進していたり、寝転がっていたり、土で何かを作っていたりと微笑ましい。これでモンスターと知っていなければ、何か精霊や妖精の類か、もしくは人形でも扱う職業の人の私物かと間違えるほどだ。

 

「サトウさん!ご協力、感謝します。御覧の通り、何者かがモンスターを召喚しているようです」

 

 あ、やっぱりカズマ達も来ていたのか。

 

「モンスターが湧きだしている原因はまだ掴めておりませんが、もし、召喚の魔法陣を発見された際にはこちらの札を貼ってください。強力な封印の魔法が込められた札ですので、それを貼っていただければ召喚は止められます。他の方も所持していますが、足りなくなった際や戦闘中などで紛失してしまった場合は言っていただければ他の札も渡しますので、よろしくお願いします」

 

 それにしてもこの検察官は、なぜこんなところまで来ているのだろうか。何か戦闘できる技能や支援できる能力でも持っているのだろうか。

 

 

「えっちょっ!?な、なに!?……って、あら?何かしら。甘えているのかしら」

 

 ってアクア、何でそのモンスターに引っ付かれているの。というか、そのモンスターのこと、知らないのか。

 

「……あの、アクア、今すぐそのモンスターを引き剥がした方がいいですよ?」

「え、別にいいわよ。攻撃だってしてこないんだし、見てるとムカムカしてくる仮面だけど、こうして甘えられると段々と可愛く見えて…………きゃああああああ!!」

 

 あ、駄目だったか。せっかく止めておいたんだけど……まあ、しっかりと言わなくて申し訳ないではあるが。

 

「……このように、謎のモンスターは動いている者に取り付き自爆するという習性を持っていまして。冒険者ギルドでも対処に困っている状態なんです」

 

 そう、このモンスターは見た目こそ可愛らしい人形なのだが、その正体は自走式爆弾という碌でも無いモンスターだ。体格も小さく、ふくらはぎくらいの大きさだから近接攻撃するのも難しそうな相手ではある。幸いにも自爆するという特徴からかそこまで頑丈という事ではないから遠距離で弓矢や魔法で倒すのが一番なんだろうが……正直、数が多すぎて倒しきれる自信がない。

 

 さて、どうするか……って、悩んでるときにいきなりまた爆発が起きたよ。今度は何があったんだ。

 

「……うむ、これならいける。私が露払いのために前に出よう。カズマ達は私の後ろについて来い」

 

 おいダクネス、お前あの自爆を素で耐えたのかよ?いったいどんな頑強さだ。あれで攻撃が当たれば文句なしのクルセイダーなんだがな……。ってカズマ“達”?ダクネスの目線は俺を向いているが……まさか、俺も“達”に入るのか?

 

「それなんだがな、カズマは今回では弓矢を持ってきておらず、攻撃する際は剣だけで少々危険だ。めぐみんも、ダンジョンでは爆裂魔法は使えないし、流石の私でも暗闇での戦闘は難しい。

 ならばめぐみんはダンジョン前で待機していざという時に備える。カズマには周囲をランタンで照らしてもらい、私が正面で謎のモンスターを攻撃し、自爆を受け止める。その際に漏らしてしまった敵をユタカに任せたいのだが……」

 

 ……ダクネスがまともなことを言ってる!?いや、ダクネスは性癖以外はまだ真っ当だからアレか。しかし、こういったのは大概がカズマかめぐみんが発案するから驚いた。

 

「……私はそれでも良いのですが……あの、検察官殿、どうすれば良いでしょうか?」

「こちらも人数に余裕はありますので構いませんよ。気心知っている方たちの方が連携などもしやすいでしょうしね」

 

 だそうだぞ。

 

「……という事ですので、よろしくお願いします」

「ああ、盾としてあのモンスターの自爆から守り切って見せるから安心してくれ。むしろ、全力でモンスターを呼び寄せてもいいからな!全力で音を出しておびき寄せてもいいからな!」

 

 遠慮しておきます。

 

「それじゃ、私もめぐみんと一緒にここで待ってるからね」

 

 あと、ちゃっかり休もうとしているアクアがいるんだがどうする気なんだ。

 

「おいこら待て!お前も一緒に来るんだよ!めぐみんと違って、お前はダンジョン内でもちゃんとできることはあるだろうが!」

「いやあああああああああっ!もうダンジョンは嫌なの!ダンジョンに入ると、きっとまた置いていかれるわ!そうよ、そして大量のアンデッドに追いかけられるのよおおおっ!」

 

 あのアンデッドなんかを絶対許さないアクアに何があったんだ。

 

 

 

 ―――――――――――――― 

 

 

 

 結局、アクアは連れてこずにめぐみんの護衛役として置いていくこととなった。どうせ休めることを喜んで何か遊んでいる気がするのは、アクアへのある種の信頼が積み重なった結果と言えるのだろうか。

 

 カズマ達は以前このダンジョンに挑戦したことがあるらしく、道のりも地図に記していたからか迷うようなことはなかった。

 

「しっかし、なんでこんなに明るいんだ?前来た時はスキルを使わないと見えないくらいだったのに、このくらいの暗さならある程度見えちまうし、ランタンの意味もあまりないな」

「……?以前来た時は、明るくなかったのですか?」

「ああ、あの時は『千里眼』というスキルを使って探索していたからな。あれが無いと見えないくらいには真っ暗だったんだぜ?それなのにここまで明るいと、召喚している奴とか謎のモンスターが何かしているかじゃないのか?」

 

 ふむ……確かにダンジョン内は薄暗いとはいえ、一部屋全体くらいなら見える程度の明るさだ。少なくとも、ここでランタンが消えたとしても、出口への道筋を覚えていれば何とかなるくらいだ。

 

 ダンジョンというのは、防衛する側としては暗い方が奇襲とかもしやすいだろうし、探索もしづらくなるはずだ。それに暗闇という事はランタンなどで片手はふさがるし、警戒もしなくちゃいけない。それで時間がかかれば冒険者の対策も練りやすいだろうし、暗い方のままが便利のはずだ。

 それなのに明るくするという事は、明るくするというデメリットと釣り合う何かがあるのだろうか。単純にこのモンスターが周囲を明るくするのならそういう生態であると考えられるが、そう簡単であるわけないだろう。

 

 

 

「フフフ。ハハハハハハッ!カズマ、見ろ!当たる、当たるぞ!こいつらは私の剣でも当たる!」

 

 

 

「……ところで、アレは放置していてもいいのですか?」

「もう、放置していてもいいんじゃないかな」

 

 そんなことを考えているが、カズマにはあれを止める気は無さそうだった。

 

 実際、俺もあそこまで喜んでいるダクネスを止める気は無い。というか、下手に止めるとこっちに剣と爆発が飛んできそうで厄介だ。しかし、ここらへんで止めておかないと後続の冒険者たちと離れてしまうんじゃないか?

 

「……カズマ、そろそろ止めないと後ろの人たちと―――」

「おおい、ちょっと待ってくれ!もっとゆっくり……ひぃ!?張り付かれた!おい誰か、こいつを剥がしてくれ!」

「『コメット』ッ!」

 

 ちっ、横に空いていた隙間から飛び出してきやがった!というか、出口からもモンスターが帰ってきているし!

 

「おわあ、来んな!こっち来るなあああ!」

「こ、こっち助けてくれえええええ!」

 

 完璧に奇襲されている!一旦あいつらを助けないと危険だ。一旦ダクネスを盾にしてモンスターから離さないと!

 

「……カズマ!一旦後ろの人たちを助け―――」

「よしダクネスその調子だ!そっちを真っ直ぐ!ガンガン進め!」

「よし任せろ!」

 

 ………………え?なんかあいつら、先に進んで言っているんだけど。もしかして、気づいていないのか?それなら、声を掛ければ……いや、ダクネスの奴がガンガン進みつつ爆発させているから声も聞こえるかどうかわからない。

 

 …………い、一体どうすればいいんだ!?このままカズマ達についていくと他の冒険者が見殺しになってしまうし、他の冒険者を助けるとカズマ達を見失ってしまう。

 

 どうする、どうするべきなんだ俺!今すぐ決断しないと、時間が無駄にかかってしまい最悪のパターンに陥ってしまう!どうする……どうする……!?

 

 ……。

 

 …………。

 

 ………………すまない、カズマとダクネス。お前らを見捨てるようで申し訳ないが、俺はいったんここで他の冒険者たちを助ける。後ですぐ追いつくから、あまり無謀なことはしないでくれよ!

 

「……ッ!『コンプレスグラビティ』!あなた方は、一旦下がってください!私がモンスターと闘います!負傷しているなら今すぐ脱出してアクアの治療を受けてきてください!戦える方がいるなら、壁の隙間などから出現するモンスターに気を付けて戦ってください!ある程度動きは遅くしていますので、その隙を狙ってください!」

 

 とにかく、今はこっちのモンスターを何とかしないと!

 

 

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第30話 悪魔

またお待たせてしまいまい申し訳ありませんでした。

今回も色々と駄文なうえ、オリジナル展開がありますのでご容赦ください。


……この先の展開、どうしよう(震え声


 さて、大口叩いたのはいいとして、実際どうするべきか。

 

 負傷した人はもう一人に付き添われつつ脱出した。出口やその付近にいたモンスターはあらかた駆除したから多少安全だろうが、問題はこっちだ。

 

 現在は俺が魔法を撃って殲滅している間に、他の冒険者が残ってしまい近づいてくるモンスターを倒していつつも、出口に向かってジリジリと撤退している。

 

 が、戦況は正直言ってあまり芳しくない。

 

 モンスター自体はそこまで固くもないし、動きが素早いというわけではないが、壁の隙間や亀裂だけでなくダンジョンの奥からもモンスターは延々と湧きだしてきているのだ。それに、下手に引っ付かれると爆発という危険性から近接での攻撃もためらわれる。

 なんとか俺が必死に『コンプレスグラビティ』で潰していても、きりがない。今はまだ平気ではあるが、これがずっと続くようだと俺の魔力も持たないし、他の冒険者も息が切れ始めてしまうだろう。

 

 ……さて、どうしたものか。

 

 『コンプレスグラビティ』の強度を強めて一気に潰してもいいが、その場合はダンジョンが崩れてくるかもしれないし、かといってここで同じことを繰り返しているのも難しいだろう。

 

 ……いい加減、全力で撤退をしてもいいだろうか。

 依頼は調査とモンスターの駆除であるが、ここまで異常だと諦めて欲しい。というか、無限湧きしてくるモンスター相手に駆除とか無理だ。ここまで削ったのならいいだろう?というか、良いことにしてくれ。

 

 まあ、ここまで数が多いと撤退した後も戦闘になりそうだし、アクアやめぐみん、検察官も巻き込んでしまうだろうからある程度は削っておかないといけないのがな……!

 

 

 ~~~~~~~~~ 

 

 

 かれこれ何分何十分経ったのだろうか。

 

 魔力が切れかけはじめたサインである立ちくらみが起き始めてきてしまった。まだ魔法を放つことは可能ではあるが、それでも数回程度だろう。

 他の冒険者も息を調えることなく攻めてくるモンスターたちに、かなり辛そうではある。幸いにも爆発などで怪我をしたという人がいないことが救いだろうか。

 

 しかし、その分をずっと駆除に続けていたためなのだろうか、モンスターが湧いてくるスピードも遅くなってきてはいる。遅くなっているだけで、まだわちゃわちゃと湧いてくるのが面倒だな……!!

 

 そうだ、もういっそ、残り魔力は『ガーディアンサテライト』に割り振って無理やり撤退することは可能か?出口も見えてきてはいるし、狙われる対象を俺だけにすれば魔力の無駄を減らせるし、殿(しんがり)になっておけば他の冒険者も逃せれるし……

 

 

 

 ……やだなあ、恐怖でうまくできる気がしてこない。逃せれるかどうかも分からないし、たった一人の殿(しんがり)でまともに機能できる気がしてこない。

 

「……皆さん、どうか、先に撤退してください」

「なっ!?何言っているんだよ!そんなふらふらしている奴を置いていけるかよ!」

「…………大丈夫です。別の魔法を使えば一人でも何とかできますから、安心してください。それに、皆さんが撤退したのを確認したら、私も向かいますので」

 

 でも、やるしかないよな……俺だってこんなことやりたくもない。命がけなんてことはやりたくないのにな。

 

 はっきり言って、俺が残った方が一番安全のはずだ。このまま闘い続けようにも俺の魔力は持たないし、他の冒険者も集中力が切れた隙を狙われてしまうだろう。

 他の人を殿(しんがり)にしての撤退も、ここにいるのはダンジョン内を考慮したのか近接職の人が多い。この場合はその人に攻撃が集中してしまい、どう考えても保てる気がしない。こういう時に壁役であるダクネスがいればいいのにな。

 

「で、でもよ……」

「……私は大丈夫ですから、早く逃げてください!早く!」

 

 そう強く言い切ったからか、冒険者たちは息を切らしつつも走っていってくれた。

 

 さて、目の前には可愛い仮面をかぶったモンスターの群れが迫ってきている。数は減ってはいるものの、依然として脅威なことには変わりがない。

 ここで少しでも時間を稼いで、逃せられるように頑張らねば。念のため腰に差してあったナイフを手に取り、モンスターたちに構えておく。

 

「…………来いよ、モンスターども、私がそう簡単にやられると思うなよ!『ガーディアンサテライト』ッ!」

 

 ダンジョンの壁や床面から欠けていた大量の石が集まって、俺の前に漂ってくる。とりあえずスキルを使えたことに安堵できる。『ウィスパースター』も特に発動していないから、大丈夫ではあるだろう。

 

 

 

 ところでこのセリフって、「俺を置いて先に行け!」みたいな死亡フラグっぽくね?

 

 ……あれ、ヤバくね?俺死んじゃう?主人公たちが脱出した後に派手な爆発で死んじゃう系なやつになるんじゃね?

 

「……そ、そんな未来、嫌に決まっているだろうが!そんな悲劇の英雄なんてものになるつもりはねえぞ!」

 

 こちとら、一度死んだくせに生き返っている存在だぞ、今更生き恥晒す覚悟なんてものは決めているんだよ!そもそも男のくせに女の子の体で生きていること自体が恥だよ!

 

 

 ~~~~~~~~ 

 

 

 結果、普通に生き残れた。

 

 いや、あんな死亡フラグを立てておいてあれなんだが、思っていた以上に『ガーディアンサテライト』の性能を舐めていたわ。

 

 あの石ころの群れ、最初何にもせずに漂っていたかと思ったら、すぐにモンスターたちの群れにとてつもない早さで向かっていった。その後は手当たり次第にモンスターたちにぶつかりに行って。モンスターたちを壊していった。

 

 最初からこの魔法を使っておけば何とかなったんじゃね?と思ってしまうほどの強さを発揮していた。構えていたナイフも途中でしまい直すほどの攻勢であった。

 

 ……だって、ただの石ころの群体が、ここまで役に立つだなんて思わないだろう?

 デストロイヤー戦の際も使用していたとはいえ、巨石かつ俺が操作していたから例外だ。普通は石ころが勝手に行動するだけのスキルがここまで守りに役立つだなんてことは想定外だ。

 

 いや、この場合は俺がこのスキルの性能を見誤っていただけか?それとも、デストロイヤー戦でこのスキルが何か成長でもしたのだろうか?

 

 どちらにせよ、今度しっかりと調べ直しておいた方がいいな。

 ともかく、今は脱出しよう。なんか肩透かしを食らった気分ではあるが、生きているだけましと考えておこう。魔力だって、俺が想定していたよりも遥かに残っているのだ。少し息を調えたら自身の体調を確認しつつ、カズマ達の捜索をできるようにしなければ。

 

 

 

 ――――――――――― 

 

 

 

「あら、思っていたより元気そうじゃない。はいこれ、あげるからゆっくり休憩していってね」

「……あの、アクア、これは……?」

「これはって、ただのお茶よ?さっきまで大変そうだったから、こうしてみんなに渡しているのよ」

 

 そんなもの、見ればわかる。

 というか、何でくつろぎながらお茶を飲んでいるんだよ。今さっきまで必死で戦っていたのが馬鹿らしくなってくる。そんなに暇そうにしているのなら、ダンジョン内に突撃していってほしいのだが……?

 

「…………はぁ、それでは頂きますね」

「ええ、ちゃんと美味しくできるように頑張ったからね!」

 

 ……なんかもう、アクアの笑顔を見ていると、そう尋ねるのも面倒になってくる。まあ、ダンジョンを怖がっている奴を無理に連れて行こうとしても役に立つか分からないし、いいや。

 しっかし、こうしてフォロー役としちゃ優秀なんだろうが、日ごろの態度とか性格がもうちょっとましになりゃカズマも優しくなるのにな……

 

 ってこれ、白湯じゃねえか!?いや、白湯にしちゃ美味しいんではあるが、お茶であるかというかというと自信をもって否定できる。

 

 

 

 さて、アクアから貰った白湯を飲みつつ、現状を把握しておく。

 

 現在、カズマとダクネスはダンジョン内を突き進んでおり、他の冒険者はいったん外で休憩しているところだ。モンスターの爆発で負傷していた人は、アクアがすでに治療している。

 

 とはいえ、先ほどの戦闘で疲労しているものが多数、俺も残り魔力としてはもう一度潜ることは難しい。先ほどは『ガーディアンサテライト』で無双していたとはいえ、他の冒険者がいる中で使えるかというと不安ではある。これはあくまで自身や他者一人を対象とする魔法であって、今いる奴全員に掛けたら魔力欠乏で倒れてしまうだろう。というか、俺の集中力の関係でそこまでの人数に掛けられないし。

 

『コメット』で味方の援護くらいだったらできそうではあるが、その場合は完全に置物状態になってしまう。魔力が足りないのが悪いのだ。もっと成長しろよ、俺の魔力。

 

「なんですか、そんな優しい目を向けてきていったいどうしたのですか?」

「……いえ、めぐみんはいつも凄いんだなって思っただけですよ」

 

 こういう時、魔力が欠乏することを知っていても爆裂魔法を放てるめぐみんは本当に凄いとは思う。魔法を行使した後、体が動けなくなることを知っていてもなお爆裂魔法を使おうとする気力と覚悟に関しては、尊敬してもいいくらいだ。

 ……まあ、その覚悟をなぜ爆裂魔法というネタ魔法に使うのは思うが。もっとましな魔法はなかったのかと聞きたい。

 

「……めぐふぃん(めぐみん)ほっへひっふぁらないふぇくらふぁい!(ほっぺ引っ張らないでください!)いふぁいれす!(痛いです!)

「いーえ、爆裂魔法を馬鹿にしなくなるまで放してあげませんからね!」

 

 何故バレた。口を動かした気はしないのだがな。

 

「それにしてもユタカのほっぺ、とても柔らかいですね。おかげでほら、よーく伸びますよ」

 

 痛い痛い!そんなに引っ張るな!俺の頬はそこまで伸びないし、柔らかくもないから!

 

「ぬおっ!て、抵抗しようたって無駄ですよ。私の筋力はこの前のレベルアップで、ユタカよりもあることは知っているのですからね!さあ、今すぐ爆裂魔法は最高の魔法だってことを認めましょう!」

 

 こ、こいつ、さっきは馬鹿にするなって言ってたのに、今度は最高だって認めろと?馬鹿も休み休み言え。あんな超火力魔法、魔王城とか激戦区とかならまだ使い道があるものの、こんな辺鄙なところじゃ産廃もいいところだろうが!

 というか、めぐみん力強くないか!?さっきから引きはがそうとしているのに、全く離せる気がしてこないんだが!?いい加減放してくれないと泣くぞ、涙ボロボロこぼして泣くぞ!

 

 

 

「……ねえ、なんか邪悪な気配っぽいのが近づいてこない?ダンジョンの方から、ものすごいスピードでこっちに近づいてきているんですけど?」

 

 ……ん?アクアよ、それは一体どういうことなのだろうか?

 俺たちがダンジョンに侵入した時は、そんな気配とかはしなかったはずなんだが。盗賊職っぽい人も、そういったのは感知していなかったぽいし……

 

 まさか、ここの召喚者が俺らの侵入を感知して強力な敵を召喚したのだろうか。そうなってくると、カズマやダクネスがどうなってくるか心配になってくるが、そういてもいられないだろう。

 

 とにかく、他の冒険者たちに何か強敵が来そうな気配がするから準備をしておくように伝えておく。休憩はしていたから体力は大丈夫だと思うが、また不安が残ってしまう。

 

 俺もどんな形で来るか分からないから『コンプレスグラビティ』なり『コメット』なり撃てるよう思考を研ぎ澄ましておく。頬が痛いのは我慢だ。

 

 

 少しずつではあるが、ダンジョン内からカズマの声と男の声、それに走っているかのような音が響いてくる。それも、だんだんと大きくなってきている。

 

 この男がその邪悪な気配を持つ存在だろうか、となるとカズマはそこから逃げてきてはいるようで安心ではあるがダクネスの声が聞こえないのが心配ではある。

 

「フハハハハハ!忌々しい我が宿敵よ!乗っ取られた仲間の体を前に、一体どう出るのかとくと……!」

 

 

 

「『セイクリッド・エクソシズム』―――!!!」

「ぴゃあああああああああああああああああああああああああ―――――!!??」

 

 

 ……?…………今何が起こったんだ?何かアクアが唱えたと思ったら、出てきたやつを白い炎で包んで……ああ、何か知らんがよくやったって言えばいいのか?

 

「だ、ダクネス――!!おいこらアクア!いきなり魔法をぶちかますなよ!」

 

 あ、カズマだ。ぱっと見怪我をしている様子はなさそうで何よりだ。……ていうか、ダクネス?ダクネスって……え、さっき白い炎に包まれていたのってダクネスなの!?何でいきなり仲間に魔法撃ってんの!?

 

「え、だって、なんか邪悪な気配が突っ込んできたからなんとなく打ち込んでみたんだけど……」

「あのなあ、ダクネスは今、魔王軍の幹部に体を乗っ取られかけているんだ!」

 

 魔王軍の幹部、ってまたかよ。なんでこの街にそんな幹部が簡単に来るんだよ。というか、なんとなくで魔法を撃ちこむなよ。

 

「臭っ!何これ臭い!間違いないわ、悪魔から漂う臭いよ!ダクネスったらエンガチョね!」

 

 別にそこまで臭わないと思うが……というか、悪魔の臭いって何だよ?

 

「フフフ……フハハハハ!まずは初めましてだ、忌々しくも悪名高い、水の女神と同じプリーストよ。我が名は(アクア、わ、私自身は臭わないと思うのだが……!?)……我が名はバニ(カズマも嗅いでみてくれ、臭くはないはずだ!)やかましいわ!」

 

 なにこれ。ダクネスの顔には白と黒の仮面が取り付いているし、その仮面もあのダンジョン内にいたモンスターと同じものを付けているし、一体どういうことだ?

 

「ぜえ……ぜえ……我が名はバニル!出会い頭に退魔魔法とはまたずいぶんな挨拶だな!これだから悪名高いアクシズ教徒の者は忌み嫌われるのだ!礼儀というものを知らぬのか?」

「やだー、悪魔相手に礼儀とか何言っちゃってるんですか?人の悪感情が無いと存在できない寄生虫じゃないですかー!プークスクス!」

 

 おい、煽るのはやめろ。デュラハンの時もそうやって煽り倒したらアンデットの軍団に追いかけられたのを忘れたのかよ?

 

「『セイクリッド・ハイネス・エクソシズム』!」

「甘いわっ!」

 

 それでなんかもう、戦闘が始まっているし……アークプリーストなんだから、真っ向からの勝負は止めろよ。相手は悪魔の上、乗っ取られている身体はダクネスのモノだぞ?

 ダクネスの身体能力はとっても高いというのに、どうやって戦えばいいんだよ。というか、魔法を見てから避けるとか、ふざけているのも大概にしろよ。

 

 後、カズマとめぐみん、それに検察官殿も話していないで何か策でも講じていてくれ。

 

 とりあえず今はアクアの退魔魔法を当てるために、ダクネスを動きを抑えなければいけないな。……流石にダクネス相手でも、いつもカエルとかを潰すような強さだと危ないか?それなら弱めにしておいて魔力の使用量も削っておいて……

 

「……『コンプレスグラビティ』ッ!」

「ぬわっ!?こ、小癪な技をする娘(くっ、ユタカがいつもモンスターたちにやるよりも弱い……しかし、体が重くなって地面に潰れていく感覚も……!)鬱陶しいわ!…………ん?娘?」

 

 ちっ、流石はダクネスの肉体だ、思っていた以上に頑強だ。弱めとはいえ、普通に立ち続けて魔法に抵抗できている。というか、若干動きを遅くできた程度にしか見えない。どんだけ筋力や耐久性があるんだよ。

 

 悪魔の方も、何かしてきそうではあるから早く退魔魔法で倒さないと……

 

「娘にしては感情の流れが奇妙だな……どれどれ、ちょいと拝見させてもらうぞ……」

 

 悪魔は急にぶつぶつ呟きだしたが、何か魔法やスキルでも発動する気だろうか?仮面からも赤い光が俺に向けられているが、いったい何をするつもり……『ウィスパースター』からの警告!?いったい、何をするつもり―――

 

「……フハ、フハハ、フハハハハハハハハハハハハ!フハハハハハハハハハハハハハハハ!なんという悲劇だ、まさかここに神の被害者がいるとは思わなかったぞ!」

 

 ……なんだ?急に笑い出して、いったい何があったんだ?というか、神の被害者ってどういうことだ。確かにこの体はアクア辺りのせいでこうなってはいるが……

 

「そうだ、今まさに思い当たる節がある傍観者気取りの娘よ!偽りの性別でしか生きられなくなった不憫な少女、いや元男の方が適切か?排斥されることを恐れ、今まで必死になって己の口調や態度の全てを偽っていたという有様、この悪魔の権現たる我輩であっても同情を禁じ得ないな!!」

 

 ……なっ!?なぜこいつがそんなことを知っている!!俺が、今まで隠していたことを、何故知りえたのだ!!

 

「フハハハハ!その怒り、羞恥、恐怖、無力感、そして絶望感!本来はこういったことは我輩の好みではないうえ、せめてもっと熟してからにしたかったが、こういった形のも実に美味である!いやはや、今までぼろを出さないように必死に守ってきた『秘密』とやら、このような形で知られてしまうとは夢にも思わなかっただろう!ついでに言っておくが、そもそも我輩はこの世全てを見通す悪魔、バニルさんであるのだ。その程度の事など、簡単に見通せずしてこの名を名乗れんからな!……だが、敵の前でそこまで動揺するのはあまり頂けないがな、おかげでさっきまで重かった身体も、無事元に戻ってしまったぞ?」

 

 ……はっ、いけない、この悪魔のせいで魔法の効果を打ち切ってしまった。もう一度、掛け直さないと、

 

 

 

「おっと、それ以上はいかんな」

 

 え、さっきまで遠くに離れていたダクネスが目の前―――

 

 

 

「貴様はあのアークプリーストやうだつの上がらない冒険者の男と同じくらい面倒な相手だ。こういう輩はさっさと倒すことが吉である。が、生憎我輩は『人間は殺さぬ』が鉄則だ。少々痛いかもしれんが、しばらくの間、眠っておけ」

 

 いつの間にか空を見ていた俺は、しばらくの浮遊感と胸に走る痛み、息が詰まるような苦しさを味わい、

 

 胸を蹴り飛ばされたと気づいた時には、後頭部に何か触れたと感じた瞬間に目の前が暗くなっていった。

 

 

 

 

 

 




こいついつも目の前真っ暗になっているな(小並感

あ、あと、作者、4月の半ばごろからずっと忙しくなりますので、
投稿がなくなると思いますが、ご容赦ください。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第31話 逃走失敗

また遅れて申し訳ありません。

今回は長文の上、色々とごちゃごちゃとし過ぎた軽くシリアスな駄文です。
読み飛ばしながらの方がお勧めします。
割と説教臭かったり面倒臭い感じだったりしますので、ご注意ください。

……申し訳ありませんが、個人的にあれな部分があるため、後々修正するかもしれません。
もっとまともな文章を書けるようになりたいです……


 再び見た景色は、星々が浮かんでいる暗い空でなく、いつも俺が目にしていた宿屋の天井だった。窓から差し込んでくる光は柔らかくも眩い白さから、現在の時刻は朝から昼ぐらいなのかと思う。

 

 ……ダクネスに蹴り上げられて地面か木あたりにぶつかって気絶した後、誰かがここまで運んできてくれたのだろうか。ここまで運んできてくれた人には感謝しないといけないな。

 そういえば蹴られていた胸に傷とかは……ないな。これもアクア辺りがやってくれたのかな、また何か奢ってやればいいだろうか。

 

 しっかし、デュラハンの時もデストロイヤーの時も、あと今回もだが気を失うことが多すぎる。今回は肉体的による意識消失とはいえ、前までのは魔力の欠乏によるものだ。何らかの対策は取るべきなのだろう。

 ウィズはあまり頼りにできんが、マナタイト結晶みたいに魔力の消費を肩代わりする物を探してみてもいいな。

 

 そうそう、俺がこうして無事でいるという事はあの悪魔は討伐したか、最低でも撤退くらいまではさせたか?悪魔に取り付かれたダクネス相手にどう戦ったが知りたいものだ。

 あんな強力な身体能力を持っているダクネス相手をどうやって取り押さえたのか、それともアクアのまぐれの一発が当たったか、もしくはカズマの策が上手くいったか。見ていない身としてはどんな形か気になって仕方ない。

 

 それにしても、この時間だったら冒険者たちの声で宿屋は騒がしいはずだが今日は全くない。外からもそういった声はせず、とても静かだった。

 ……あ、もしかして悪魔討伐を記念して宴会とかしているのかもしれないな。デュラハン討伐の時も、ギルドのそこらかしこで酒を飲んでいたしありえなくもないな。

 ちょうど腹も減ってきているし、俺も一緒に混ざりに行ってもいいかもしれないな。あまり飲めないが、久々に酒を飲んでみてもいいかもな。いっそ、アクアたちのようにどんちゃん騒ぎを起こすのも楽しいかもしれないな!

 

 ははっ…………。

 

 

 ………………ははは。

 

 

 ……………………はあ。

 

 

 いい加減現実逃避は止めよう。

 

 あの状況、俺が自身の性別を偽り隠していたことはバレた筈だ。

 悪魔が言ったことだと言い訳しようにも、俺の動揺で魔法が解けてしまったことは事実だ。少なくとも、俺に性別的な物の問題があることは間違いないはずだと疑われるだろう。

 

 まあ、あんな醜態を晒したところで何か言えるというわけでも無いのだがな。俺が騙していたことは事実なのには変わりないし。

 

 というか、なんで俺はあそこで動揺したんだ?確かにばらした事への憤りや排斥されることへの恐怖はあった。それはあの悪魔もそんなことを言っていたし、間違いないはずだろう。

 

 だが、今まで魔法が途中で解けるなんてことは魔力切れ以外ではなかったはずだ。少なくとも、感情の揺らいだことによって、魔法が解けるなんてことはなかったと断言できる。

 なのに、それが起こったという事は……あの悪魔が何かしたのだろうか?にしては、そういったそぶりは見えなかったし……。

 

 

 ……もしかして、自分の中でそのことがとても強いショックであったからか?

 

 馬鹿な、そんな感情が溢れただけでそんなことが起こりうるのか?そもそも、俺はそういった感情が噴出して動揺することは……

 

 することは……

 

 ……心当たりしかしねえ。何かあるたびに慌ててたり、パニックになったりした記憶がありまくる。もしかしたらそんなことも起こりうるかもしれない、と心にとどめておこう。

 

 

 

 

 ……さて、これからどうするべきか。

 

 こんなことがあった街にそのまま居続けるほど、俺のメンタルは強くない。むしろ、今すぐ飛び出してしまいたいくらいだ。

 

 俺はここに住んでいる人たちとは違う、完璧な異物だ。人間に限らず、生物は自分とは違う存在に攻撃や嫌悪ことがあるが、そんな中で過ごせるかと問われると無理だとしか言いようがない。間違いなく排斥、いや排除されるだろうな。

 それにめぐみんやダクネスはともかく、アクアや他の冒険者の中では口の軽いものもいるだろう。そうなればこのアクセルの街に俺のことが噂される。

 

 そんな後ろ指差されてまで居たくないし、それでお爺ちゃんたちに迷惑がかかるようならなおさらだ。まずここから出ていくのは決定でいいだろう。

 

 アクシズ教ならそういったのがあっても受け入れてくれるだろうが……祀っている神がアクアだし、あまり選択肢に入れたくない。だが、ないよりかはましだ。考えてはおこう。

 

 

 さて、今簡単に思いつくのが一旦ほとぼりが冷めるまでどこかに行くべきだ。しかし、どこが良いだろうか。この世界の地理はあまり詳しくないから何とも言えないが、人伝に聞いていくしかないか。

 それに、そこが良いところだったなら、そのまま暮らした方のも悪くはない。

 

 それじゃ……黙って出ていくのも不義理ではあるし、知り合いやお爺ちゃんたちに一言言ってから出ていこう。話をしてしまうと決意が鈍ってしまいそうだが、今まで世話になっておいて黙って消えるのはちょっと、な……

 

 あ、お婆ちゃんおはよー。ちょっとこれから……え、何で泣いているの!?待って、俺の話より先に泣き止んで!

 

 

 

 ――――――――――― 

 

 

 

 なんか俺、数日寝込んでいたらしい。理由は分からないが、それだけ眠っていたという事はそれだけ体への負担がかかっていたのだろうか?

 謎ではあるが後回しだ、今はそんなことを考えれるほど暇ではない。

 

 とりあえずお婆ちゃんはお爺ちゃんとかお兄ちゃんを呼びにどっか行ったから、その隙に抜け出してきた。そうでもしないと、またもみくちゃにされて話を切り出せそうにないからな。いったん落ち着かせておかないと面倒だ。

 

 ……で、一応冒険者ギルドに来てはみたが、やっぱりというべきか、ここに人の気配が密集している気がする。

 窓からのぞいてみたら、中ではカズマ達のパーティーに検察官殿が疑った詫びと魔王軍幹部討伐の感謝を読み上げているところだった。周りには多数の冒険者たちの姿も見える。

 

 この様子ならしばらくは出てこなさそうだし、他の冒険者と顔を合わせる必要が無くて助かる。

 ……正直、カズマ達の誰かにはこの街を出ることを言いたかったではあるが、この状況なら出てこれなさそうではあるし諦めよう。

 それに、あいつらとは冒険者の中でも一番に接していたから、怖い。一番に接して、親身になっていただけに、これが裏切りの感情として積もって、積もって……

 

 っ!駄目だな、やっぱり会うのはやめておこう。想像だけで吐きそうになるなんて、やっぱり俺の精神は脆いな。

 今ここで会っても、互いにとって悪いことしか起きない、起きない筈だ、もう会わない方がいいだろう。

 

 ……後ろ髪を引かれる思いを耐えて、別の所に行こう。

 

 

 

 ―――――――――――――― 

 

 

 

 別の所といっても、あんまり出かけたりしなかった弊害か、行くところが公衆浴場くらいだった。日常的に使っているとはいえ、親しい人もいないし挨拶とかはしなかった。

 そういえば、友達なんてものも正体がバレないように薄い縁でしかないから、あんまりいないから挨拶する人はいなかった。

 

 ……ま、まあ、こういう時に役立っているようで何よりだ、過去の俺よ、流石だ、うん。今更ボッチが何だ、そんな者は諦めるほかないだろう。

 それに、ラスボスとしてお爺ちゃんたちがいるのだ。そんなことで躓いていてはいけないな。

 

 さて、あと行くとしたらウィズの店くらいだろう。サキュバスの店にまで顔を出す必要はないし、女の格好で言っても混乱されるだけだからな。知られているとはいえ、いちいち面倒なことはしなくてもいいだろうし。

 

 それにしても、なんと言えばいいのだろうか?ちょっとどこかに行ってくる程度にするか、もしくはしばらく旅に出てくるか……まあ、その時の勢いでいいか。

 ウィズ相手だし、そこまでかしこまった言い方じゃなくてもいいはずだろうし。

 

 さてと、軽く一呼吸を入れてからドアを開ける。いつもの涼しげな鐘の音が心を安らげてくれる。

 また別の商品でも仕入れたのか、いつもとは違った匂いがしてちょっと楽しくなって―――

 

「へいらっしゃい!己が悲劇のヒロインだと思い込んでいる中二病真っ盛りな娘、いや元男よ!その匂いがこの我輩が仕入れた香水だ、欲しいならしっかりとお金を落としていけ!おっと、何だその殺意に満ち溢れた憤怒は、この悪魔公爵である我輩にとっては美味としか言いようがないぞ!」

 

 ―――なぜ、貴様がここにいる?

 

 見通す悪魔、バニルよ!

 

「なんだその目は、今にも魔法を撃ち放ちたくて仕方なさそうじゃないか。我輩、貴様にやった仕打ちに心当たりしかないがな!まあ、とりあえず一旦落ち着け、そんな感情的では話などまともに行えないだろうな。しかし汝は我輩に聞きたいことなど、いくつもあるはずだ。我輩としては悪感情を頂けるからそのままでもいいが貴様は別だろう?あと、ここで魔法を放つと商品にひび割れや故障が発生してしまい、ただでさえ食費を削って商品を仕入れているウィズが大泣きするぞ?それでもいいのなら是非とも放つがよい」

 

 っ!っ!!

 

 …………ちっ、流石にここで暴れたら駄目だな。今は大人しくしておこう。

 

「ふむ、一旦矛を収めてくれたようで何よりだ。それでは矛を収めてくれた礼に、我輩に聞きたいことを答えてやろうではないか。そうそう、ウィズへの別れの挨拶などは後でいくらでもさせてやるから安心しろ」

「……そんなこと、あなたは悪感情を頂くという行動を取る以上私の心を見通しているはずです。それなら別に話す必要もないと思うのですが?」

「そんなもの、貴様の悪感情を得るために話させているからだ。ほら、ちゃっちゃと話して我輩に舌包みをうたせるがよい。そもそもだが、貴様の素性なんぞ知っているから今更我輩相手に猫なんぞ被らなくてもいいのだが?まあ、ウィズは今店の奥でまたよくわからん物の整理に行っているから知らんがな!」

 

 ああ、そうか!それだったら取り繕うこともしなくて楽でいいな!だからといって、今更元の口調に戻すのも業腹だ、変えずにおこう。

 

「……それでは、なぜあの場で私の正体をばらしたのですか?」

「フハハハハ!そんなこと自分でも気づいているだろう!人が多数いるところで知られたくない秘密をばらされるというのは、大変悪感情を生み出すのに優秀な手段だからに決まっているからだ!まあ、我輩はこの手段を用いるのはあまり好かんがな。どうせやるなら絶世の美女に化けて男に近づき、散々惚れさせた後に『残念、実は我輩でした!』と言って相手に血の涙を流させる方が好きなのだがな!」

 

 こいつ、本当に碌でもねえな。あ、悪魔だから碌でもないといけないか。

 

「貴様、あまり我輩を馬鹿にしているとバニル式目ビームをくらわすぞ?まあ、これは一度使うと目が焦げてしまうという欠点があるから一度も使ったことがないがな」

 

 なんだそのロマン技のビームは、というか目が焦げるなんて大丈夫なのかよ。

 

「何、それに関しては大丈夫としか言えんが安心しろ。ついでに一つ忠告させてもらうが、汝の秘密とやらは遅かれ早かれバレることに違いはなかったはずだ。今回は、それがまだ良い方向に持っていけたことについて、我輩に感謝してもいいのだぞ?」

 

 ……は?何言っているんだ。バレることはまだいい、それでなんで良い方向って話になるんだ?

 

「これは見通す悪魔としての見識だが、貴様は先ほど我輩が言ってた、『残念、実は我輩でした!』のそれと同じことをやるはめになるところだったのだぞ?それならば先にある程度知られておいた方が、汝にも相手にも気持ちが楽であろう。それも、汝が一番懸想している……待て、気づいていないのか?」

「いえ、急にそう言われましても混乱して何が何だか……」

 

 一気に言われて、頭がこんがらがってきて、理解が追い付かない。

 

「ふむ、それならここでは言わないでおこう。どうせ我輩が言った所で、貴様は信じる気は無いからな。むしろその方がおもしろ……こほん、とにかくそのまま隠し続けているよりも、今のうちにバレておいた方が貴様にとっては吉であるはずだ。そのくらいは自分で考えろ」

 

 こいつ……!……落ち着け、俺、相手のペースに乗せられるな。悪魔相手にいくら言われたところで気にしないようにしろ。

 

「……次にですが、あなたは討伐されたのではないですか?冒険者ギルドの方では、あなたを討伐したことでカズマ達の嫌疑や感謝として色々やっているそうですが、いったいどういう事なんでしょうか?」

「それに関してだがこの仮面を良く見るがよい」

 

 仮面?別に何の変りもないんじゃ……なんだ、この記号は?えーっと、ローマ数字の2?

 

「うむ、貴様はあの後の顛末について知らなさそうだが答えさせてもらうが、なんやかんやあって我輩はあの娘ごと爆裂魔法で消滅したのだ」

 

 ばっ!?爆裂魔法ってよくそんなことに耐えたな!いや、あそこにはアクアという能力だけは最高のアークプリーストがいるからおかしくはないが。

 それにしたって消滅したのになんでここにいるんだ?

 

「その爆裂魔法で残機が減ってな、現在は二代目バニルという事だ!」

 

 ふざけんな、悪魔が残機制とか聞いたことがねーよ!あれか、亀の甲羅を延々と踏み続けていれば永遠に生きられるような存在かよ。

 

「馬鹿め!悪感情を得ずして永遠に生きる悪魔なぞ悪魔ではないわ!そもそも我ら悪魔にとって、人の悪感情は糧にして、永遠の退屈を紛らわさせる最高の娯楽!そんなものを手放して生きるなど邪道も邪道だ!だから我輩はこうして貴様をおちょくって遊んでいるのだろうが!」

 

 てめえ!

 

「うむうむ、相変わらず汝の憤怒は美味である!先ほどからずっと垂れ流しているおかげでとても大助かりだ。そのお礼にこのバニル君人形を進呈しよう」

 

 ………………この人形はありがたく貰おう。だが、こんなもので簡単に懐柔したと思うなよ!

 

「……うわっ、チョロ」

 

 うるせえよ!いいじゃねえか、この人形、ダンジョンから歩いてくるモンスターに似て可愛らしいし、ちょうど抱き締めやすい大きさなんだし。夜眠るときとかにちょうどよさそうだし。

 

「まさかそのまま受け取るとは思わなかったが……気にいったではあるし、よしとしよう。ほれ、そこまで睨むでない」

 

 ……おお、なかなかモフモフしているな。くれた相手が相手とはいえ、しっかりと大切にしよう。

 

「……なんと言うか、奇妙だな。精神や感情は男であるのに、ところどころ娘の嗜好と入れ替わっているような、矛盾しているような存在だな」

「それこそ今更です。こっちに来てからは口調も女の子のそれにしていましたし、女の子の体になってから生活だって変わってきているのですし、それで段々と毒されてきているのでは?」

「それにしては奇妙だから言っておるのだ。……おっと、調べてみたいが珍客が来たからやめておこう。それに、貴様にとっては益のある客であるからな、しっかりともてなしてやろう。ウィズ、貴様もいい加減こっちに来んかい。聞き耳なんぞ、胸を張って言える行いではないだろう?」

 

 ん、珍客だと?確かにこの店に来ること自体が珍客ではあるが、バニルの言っているのとは違うだろうしな。というか、俺にとって益のあるって何だ?

 

 というか……

 

「……ウィズ、さっきの聞いていたのですか?」

「あ、あはは、私も似たような立場ですし、お気になさらずに……」

 

 ……そういえばウィズはリッチーだったな。元男とリッチー、どっちも知られたら面倒なこと間違いなしだな。ついでにここには悪魔もいると来たもんだ、それだけ聞いただけでは絶対碌でもない作戦を考えていそうだな。

 

 あとバニルよ、何故そんな笑顔を浮かべている―――

 

 

「よ、よお、ウィズ、ちょっといいか……って!?」

「へいらっしゃい!店の前で何やら恥ずかしい台詞をはいて遠い目をしていた娘よ、汝に一つ、言いたいことがある。まあ嫌いな奴ではなかっとよとのことだが、我々悪魔には性別がないのでそんな恥ずかしい告白を受けても……おっと、これは大変な羞恥の悪感情、美味である!どうした、膝を抱えてうずくまって?そこで口を開けたまま固まっている男からも『すんごい要求』とやらで残っていた理性が削れていったのか?まったく、その場に居たかったではあるが、そんな顔を浮かべるという事はどれだけの羞恥だったか、実に味わいたかったな!……もしくはここにいる娘の衝撃的な事実に未だ理解ができておらんのか?」

 

 ―――カズ、マ、それにダクネスも?!

 

 なんで、なんでここにいるんだ!?ギルドで、表彰されていた筈なんじゃ、そのまま宴会とかになりそうだったのに、

 

 カズマ達とバニルたちが会話しているが、頭に入ってこない。いや、混乱しているからか?

 ……駄目だ、心臓がうるさすぎて集中できない。いったい、俺に何が起きているんだ?

 

「フハハ!焦燥感に起こりうることへの恐怖、御馳走さまである!やはり貴様は我輩の糧としてはとても優秀な存在であるな!」

 

 バニルが俺を見て何か言っているが、それも上手く聞き取れない。

 

 と、とにかく、ここから一旦離脱しないと。

 

「ま、待ってくれ!ユタカ待ってくれ!」

 

 く、来るな!こっちに、来るなっ!?

 

「っあぅ!」

「……白か」

 

 痛っ、なんでこんなタイミングで転ぶんだよ……おいバニル、お前何か仕込んでいただろ!こんなドアの近くから都合よく香水の瓶が転がってくるなんてことないだろ!そこでニヤニヤしていないで何とかしろよ!

 

「あー、ひとまず取って食うような真似はしないから安心しろ。お前の事情はよく分からないがとりあえず話だけでも聞いてくれ。こっちから無理に探るようなことはしないから、な?」

「宿屋の主人たちに聞いたりしたが、ユタカの事情は私にもわからない。だが、少なくとも害することをないとクルセイダーの誇りにおいて誓おう。だから、せめて友であった私の言葉を聞いてくれないか?」

 

 …………どうする、べきだ。カズマもダクネスの表情も真剣そのものではある。

 

「……ひとまず冷静になれ。貴様のそれは疑心暗鬼を生じてしまい、自身の妄想を肥大化させて怖がっているだけに過ぎん。我輩は貴様に益のある珍客だと言ったのだ、少しくらいまともに聞け」

 

 ……………………っ。わかっ、た。話だけは聞いておくため、カズマ達の言葉に頷いておく。

 だが、いつでも逃げれるようにドアの傍にいておく。

 

 

 

 ~~~~~~~~ 

 

 

 

「……というわけなんだ。他の人が何を考えているかは分からないが、表向きとしてはいつも通り接しておく形に収まったって訳だ。この街の人たちはお前を排除しようとか、そういったことはないから安心してこの街にいてくれ」

 

 カズマとダクネスの話を要約すると、あれは悪魔の言ったことだから信憑性が低いし、仮にその通りだとしても神の被害者という何か隠さなきゃいけない事情とかがあるだろうからあまり聞いたり探ったりとかはしない、とのことらしい。

 もう元男と知られている時点で手遅れだとしか言えないのだが……まあ、無理に探られるよりかはましか。

 

 とはいえ、それで安堵できる状況かというと微妙だ。一応落ち着いているとはいえ、これは知られた時点で問題だし、それで奇異の目線を浴びることは確実だ。それで俺がまともに落ち着けるかどうかが不明だ。

 

 それに、このことでお爺ちゃんたちやカズマ達に嫌われるのは、いやだ。でも、俺が原因でお爺ちゃんやカズマに困ったことが起きるのは、もっといやだ。

 

「……その、お爺ちゃんとか、お婆ちゃんとか、お兄ちゃんは、何か言っていましたか……?」

「…前に見舞いに行った時に聞いてみたが、主人殿たちはそういったことは気にしてはいなかった様子ではあったし、それにユタカがどんな存在であれ、一度迎え入れた以上はしっかりと受け止めるとも言っていた。本当に優しい人たちでよかったよ」

「そう、ですか……」

 

 お爺ちゃんたちがそう言ってくれたのは嬉しいけど、やっぱり俺がいたら、宿屋にくるお客さんも減りそうだし、やっぱり出て行った方がいいかも、知れないな。

 

「……なあユタカよ、一つ聞かせてくれ。お前はなぜそこまで、この街から出ていこうとするのだ?お前がこの街にいることで不快な目に遭うのが嫌だから、という理由ならわかるが、私にはそれ以外にもあるようにも見えるのだ。どうか、聞かせてくれないか」

「……だって、今回の事で嫌われるかもしれませんし、私のせいで迷惑になるかもしれないじゃないですか」

 

 知らない人に侮蔑の目で見られるのが怖い。親しい人に嫌われるのが怖い。親しい人が自分のせいで苦しむのが怖い。

 

 自分の、酷く利己的な欲望に吐き気がする。そんな汚い姿も、見せたくない。

 

「そんなこと、友である私が気にするとでも思っているのか。たかが元は男であっただけ、それも何か事情があってこそなのにそれで嫌悪するほどの器量じゃないさ。それに、迷惑な内容によっては……んんっ!」

「おいダクネス、こんなところで発情すんじゃねえ。……まあ、俺は少し思うところはあるが、それでもユタカが騙す目的でそんなことをするとは思えないしな。それにこのパーティーくらいになれば、困ったことなんてものしょっちゅうだから平気さ」

 

 ……二人の言葉は嬉しく思うが、親しくしているから、信頼しているからそれで負担になることも怖い。怖い、のだが……

 

「だからさっきから言っているだろうが、私はユタカの友なんだ、そのくらいなんて気にしない」

「俺もユタカのことは色々と世話になっているしな。ほら、そんなことより早く他の奴にも顔合わせて、無事だったこと教えてやろうぜ!」

 

 うわっ!いきなり手を引っ張って走るな!また転んでしまうだろうが!

 

 …………。

 

「…………その、ふたりとも、ありがとう」

 

「ああ、どういたしましてだな!」

「こちらこそな!とりあえずお礼を言えるくらいになってきたならよしだな」

 

 

 

 

「……フハハハハ、これにて一件落着、でいいか?まったく、ただの怖がりな良い子ちゃんが隠していた秘密で震えていただけだったか……果たして、それは本当なのだろうか?」

「バニルさん、急に変なことを言いだしてどうかしたのですか?」

「……気にするな、ところで今回仕入れてきた産廃は何だ?今すぐ出したらバニル式目ビームで消し炭にするだけにしてやろう」

「さ、産廃って何ですか!!今回こそしっかりと売れる良い物なんですよ!」

 

 

 

 

 ――――――――――――――― 

 

 

 

 そのあとは、冒険者ギルドでカズマの嫌疑が晴れたこととバニル討伐を祝しての宴会に参加できた。

 その時に居心地が少し悪かったから酒を飲んで、べろんべろんに酔っぱらってカズマやめぐみんとかに絡んだりして楽しく過ごした。

 

 で、夜遅くまで飲んで宿屋に帰ったら、ずっと心配で待っていたお爺ちゃんやお兄ちゃんたちから軽く涙声で怒られ、お婆ちゃんも泣きながら抱きしめられた。

 

 ……ごめんなさい。

 

 

 

 




この宴会の様子でも今度の閑話のネタにしようかな……
その場合、忙しくなる前に書きあげなくちゃ……













【挿絵表示】


パザー様がこの作品の主人公のイラストを描いてくれました。
パザー様、誠にありがとうございます!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話5 えんかいっ!

今回もいつも以上にひどい駄文です。本当にひどいです。覚悟していてください。
作者の思い付きが暴走してしまいました。ご了承ください。


……チューハイ一缶だろうが、ワイン一杯だろうが、酒を飲みながら書くのは駄目だと参考になりました。


 ウィズの魔道具店を出た後、カズマとダクネスに連れられて、俺は冒険者ギルドに来ている。来ているが……

 

 

「ほら、めぐみんやお前が面倒見ていた冒険者だけじゃなくて珍しくアクアがお前の心配していたんだから、顔を見せるくらいはしようぜ?」

「……だ、だからといって、人が覚悟をまだ決めていないのに連れてくるのはおかしいと思いますよ。こういったのはこう、当人の気持ちも考えて一日くらいは時間をくれてもいいのですよ?ほら、ダクネスも何か……」

「……正直言うとだな、私もユタカの気持ちは分からないでもないが、できればあいつらの暗い顔を何とかしてほしいのだがな?」

 

 ちくしょう、この裏切り者が。そもそも俺が顔を出せなかったことはダクネスの強すぎる筋力が悪いじゃないか。気絶から目覚めるのに遅かったことは俺関係ないし。

 

「残念だがあの時の私はあの悪魔に操られていたんだ、いまさらそんなこと言われても…………ああ、体が言うことを聞かないという不自由さに反抗する度に走る激痛、そして私に襲い掛かってくる冒険者たちの蔑んだ目……!んっ、もう一度あんな……!」

「……カズマ、私が気絶した後に、いったい何があったんですか?」

「ああ、それが色々あってな……ま、それも宴会の時に話すよ。だから、いいかげん諦めてギルドに入ろうぜ。ほら、早くしないとダクネスだって疲れちまうぞ?俺だって腹減っているのを我慢して付き合っているんだからな?」

 

 うるさい、いくら大丈夫だと言われて心配されたって、こっちは碌に覚悟も決めていないんだよ!!

 

 というか、だ。

 

「……なんで、わざわざ、私の襟首を掴んで持ち上げたままなんですか!私は猫でもありませんし、服だって伸びてしまいます!普通に歩けるんですから、放してください」

「……それで行き先がギルドだと知って逃げ出そうとした奴は誰だ?これが嫌なら、私とカズマの二人で手を繋いでになるが、それでもいいのか?」

 

 俺はよく迷子になる子供かよ!!見た目はあれだが、しっかりと成人だからな!

 

「……ぷっ、これじゃ、俺とダクネスがパパとママで、ユタカが娘ってか?」

「なっ!?なな、カズマは何を言っているのだ!!」

 

 二人ともやかましいわ。特にダクネス、耳元で叫ぶな。頭に響く。

 それと、ふざけたこと言ったカズマ、あとでお爺ちゃんとお兄ちゃんに折檻してもらうように頼み込むぞ。

 

 ……はあ、何かこいつらといるとなんか馬鹿らしく思えてきてしまうが、それとこれは別だ。

 傍にカズマとダクネスの二人がいるとはいえ、いまだ不安なことには変わりない。むしろ、段々とプレッシャーというか、こう、人のいる気配で緊張してきて……

 

「ほら、いつまでもグダグダと言っていないで行くぞ。ってこら、暴れるな!今更暴れたところで私の筋力に勝てないことぐらい散々知っているだろ!」

「……う、ううううぅぅぅぅ…………」

「ほ、ほら、今日くらいは俺が奢ってやるからな、元気出せって」

 

 やだやだー!いきたくないー!

 

「……本当、こうしてみると子供だよな」

「見た目も相まって、余計そう見えてきてしまうな」

 

 

 

 ――――――――――――――― 

 

 

 

 冒険者ギルドに入ると、カズマ達の表彰からずっと飲んでいたのか、綺麗に染まった赤ら顔ときつい酒の臭い、

 そして、大量に貫いてくる視線の群れに息が詰まる。

 

 この人たちになんて言われるか怖くなって、なぜか涙が出てくる。

 

 暑くもないのに、背中から汗が噴き出るような感覚が伝わってくる。

 

 呼吸が、苦しくなって、目の前が歪んでくる。

 

 何か叫んでいるようだが、聞きたくない。手で、塞ぐ。

 

 怖い。恐い。コワイ。

 

 ただただ、怖い……

 

 

 

 

 

「……大丈夫さ。ここにいる連中はお前が元男だという事を知っていてもなお、それでも心配していた奴らだ。……まあ、無理やり連れてきておいてなんだが、少し落ち着け」

「まあ、いきなりはきついよな。少し深呼吸でもして息を整えておけよ。ここにいる奴らも別に何かしようとかはないし、するつもりもないことは確認しているさ。だから、ちゃんとあいつらの声を聴いてやれ。あいつら荒くれ者のくせに、前までずっと暗い顔して酒飲んでいたんだぜ」

 

 

 ダクネスとカズマの声、背中と頭に触れられた手の温もりで薄れかけていた意識が元に戻る。

 それにつられてか、手から漏れだしてきた声が聞こえてくる。

 

「宿屋の嬢ちゃんが復活したぞ!これで宿屋がまた華やぐってもんだぜ」

「嬢ちゃん、この前のダンジョンアタックでは世話になったな!」

「また機会があったら、一緒のパーティーで稼ごうぜ!」

「カズマァ!それは言うなってこの前言っただろうが!」

「ユタカちゃんもララティーナちゃんも可愛いから良いんだよ!」

「ラ、ララティーナと言うな!」

 

 …………え、なんで、なんで?なんで、嫌わないの?だって俺、男だってこと隠して騙していたんだぞ?それなのになんで気色悪がったり、嫌悪したりしていないんだ?

 

「何でってお前、俺とダクネスが散々言っていただろ。ちゃんとお前のことを心配してくれる奴らだって」

「そもそもだ、ユタカはみんなを騙したと思っているようだが、誰だって隠したい秘密なんて持っているものだしな。たかがその程度で気にするような人間たちじゃないさ」

 

 だ、だけど、それでも……

 

「まあ、男の中には元男だと聞いて何人か血涙を流している奴もいたが、気にすんなよ……その後なんか『これはこれで……』とか『これが、世界の真理……』みたいな変なこと言ってたけど」

「……待ってください、今なんて言いました?」

 

 今凄まじく聞きたくないことが聞こえたんだが。いったい何に目覚めたんだよ……。なんか、さっきとは違うような汗がだらだらと出てくるような気がしてきて、背筋が寒くなってきたんだけど。

 

「ん?何だその表情、さっきからコロコロ変わり過ぎだろ」

 

 あっ?それくらい察しろ、捕食者に狙われている可能性が出てきたんだよ。現在進行形で大変なのに、なんでまた別の問題が出てくるんだよ。 お前らロリコンホモかよ。

 というかカズマ、人が大変な時に爆弾を落とすんじゃねえ!

 

「おい、また暴れようとするなよ。皆に見られているというのに、はしたないぞ。というか、これだと下着が見えるんじゃ……」

 

 放してダクネス!カズマを叱れない!

 

「はっはっは!ダクネス、そのまま持ち上げておけよ。それか、しっかりと捕まえつつ座らせておけ」

「ああ、任せてくれ。ほら、あっちの席に行こうな。あっちにめぐみんとかアクアがいるだろうしな」

 

 うおおおおおおおっ!いい加減離せええええ!

 

 

 

 ―――――――― 

 

 

 

 カズマが改めて宴会の音頭を取ったことで、酒や料理が持ってこられる。それを飲み干す音やかぶりつく声、そしてカズマ達を褒めたたえる声が聞こえてくる。そういえば今回もカズマの嫌疑が晴れたことと魔王軍幹部討伐のそれだったな。まあ、何割かは今日の分のを奢りにしてもらうためのかもしれんが。

 

 ふと声の質が変わっているところを見れば、周りのおねだりに答えてか、アクアが宴会芸を始めて歓声が上がってくる。

 ……毎度思うが、あの芸のタネはいったい何だろうか?何もしていないのに種から芽が出たり、扇子から水が出たりとか、魔法を使っているとしか思えない。

 

 俺?ヤケ酒中だ。俺の覚悟とか怒りとか恐怖とかがグシャグシャになっちまったんだ。酔っぱらいになろうが関係ない、飲まないとやってられないのだ。いつも飲まないシュワシュワだって飲んでやる。

 ダクネスに飲むことを禁じられて、酒への興味が募っているめぐみんの前で飲んでやる。くくく、眼を輝かせていて面白い。実に良い光景だ。

 

「あー……なんでユタカは良いのに私は駄目なんですか……ほんのちょっとくらい分けてくださいよ!」

「ユタカは大人だが、めぐみんは子供だろう。子供は酒を飲んでしまったら頭が悪くなると言われているからな。もう少し年を取るまで我慢しろ、って私のを奪って飲もうとするんじゃない!」

 

 おー、めぐみんが珍しくうなだれている。とはいえ酒なんてそこまで美味しい物じゃないんだけどな。いや、好きな奴は好きかもしれんが俺はとても酔いやすくて酒癖が酷すぎるって言われるし、味も酒精の苦みがあまり好きじゃないが。

 

「ううー……ちょっとくらい良いじゃないですかー。仲間なんですから見逃してくださいよ。……あっ!」

 

 む?めぐみんよ、こっちを見てどうしたんだ?この机にあるシュワシュワは私の飲みかけのしかないぞ?

 

「その、ほんの少しだけで良いので、そのシュワシュワを飲ませてくれませんか?」

「こら!だから飲むなと言っているだろうが。そもそも人のを欲しがるんじゃない。ユタカ、そっちも何とか言ってやってくれ」

 

 ふむ……俺としてはまた注文すればシュワシュワは来るだろうし、誰だってこのくらいの年に親にせがんで一口飲んで味を知ることだろうし、いいか。

 

「……ええ、私は構いませんよ。どうせまた注文し直せばいいですし、一口くらいならいいと思いますよ。それも、とっても美味しい飲み方で飲ませてあげますよ」

「ほ、本当ですか!ありがとうございます!」

 

 まあ、ただで渡すわけではないが。ってダクネス、言いたいことはわかるから襟首掴んで持ち上げるのは止めろ。俺は猫じゃねえ。

 

「おいユタカ、めぐみんはまだ子供なんだぞ!そんな奴に酒を飲ますのは……」

「……大丈夫ですよ、そもそもこういったのは自己責任なんですからここで止めたところでこっそり飲むつもりだと思いますよ……それにこういったのは一口でも飲ませないと納得するまでしつこいですよ?ここは私が飲ませない方法を取りますので安心してください」

 

 そう言えば、少し悩んでしぶしぶであるが降ろしてくれた。まったく、これで服が伸びるようならしっかりと止めるよう言わなければ。

 

「……さてと、それではめぐみんにこのシュワシュワを差し上げよう」

「おおっ、待っていました!……って、なんでユタカが飲んでいるんですか?!」

 

 シュワシュワを一気に飲みあげる。からっぽになるまで飲んだと思ったら、一旦飲み込むのをやめて口に溜め込んでおく。

 

「あ、あの、いったい何を……?」

 

 めぐみんの肩を掴み、真正面で向かい合わせになるように固定。そして、ほんのりと赤くなっている顔に段々と近づけていき、口を合わせ――――

 

 

 

 

「いやいやいやいやいや!!!いきなり何しようとするんですか!!」

 

 ―――る前に、めぐみんが俺の顔を手で押さえつけてそれ以上近づけさせないようにしてくる。

 おいおい、早くしないと口の中の酒がぬるくなって不味くなるぞ?

 

「そういう問題じゃないでしょうが!!そもそも何で、こう、その……ええい!そんなやり方なんですか!」

 

 あ、それ以上揺さぶると零れる!急いで飲み干さないと……

 

「……あーあ、もったいないじゃないですか。せっかく美味しいお酒を飲めるチャンスが……」

「それ以上の大事な物を無くすよりかはましですから!なんですか、シュワシュワが飲める条件って口移しとか。そういう趣味なんですか、いえ元が男ですもんね、そんな相手ならこうされても仕方ありませんね」

いふぁい!(いたい!)らからこれ、いふぁいれすって!(だからこれ、痛いですって!)

 

 だからほっぺを引っ張るな!ダクネスといい、めぐみんといい、俺を引っ張り過ぎだ!

 すぐに離してくれたとはいえ、結構ヒリヒリとしてきて痛い。今度めぐみんが何かやってしまったら、仕返しにやり返してみてもいいかもな。

 

「……なあユタカ、今のは誰から教えてもらったんだ?」

「宿屋のお兄ちゃんが、教えてくれましたよ?好きな人にはこういった飲み方が美味しくなると言っていました」

 

 なんかダクネスが神妙な顔をしているが一体なんだろうか。そして頭を抱えてどうしたのだろうか。めぐみんもさっきより顔を赤くしてどうしたんだ?

 

 それにしても、この世界ではこんな飲み方もあるとは驚きだ。文化の違いは元の世界でもあったが、ここまで違うものとは思わなかった。まあ、これはあいさつでキスするようなものかもしれない。実際にお兄ちゃんも好きな奴にやることと言って、俺相手に気軽な様子でやろうとしていたし。

 にしては奇妙なことに、傍にいたお爺ちゃんに思いっきりぶん殴られ、投げられ、関節を極められていたが。

 

 

 あ、お姉さんクリムゾンビアこっちにくださーい。それにしてもここの酒は飲みやすくて美味しい。元の世界のもいいが、こっちのはそこまで酒精が強くないから飲みやすいし、おかずとの相性がいいから何杯でもイケるな。

 今度財布に余裕があれば飲み比べしてみてもいいかもしれないな。これくらいなら俺でも飲めるし。

 

「ところでユタカよ、お前随分と酔っていないか?」

「酔ってないです」

 

 あー、美味しい。まだ冬だというのに体が火照っているから、冷えているクリムゾンビアが飲めるのは幸せだな。

 っと、もう空か。次はまたネロイドでも飲んでみるか。どうせ今日はヤケ酒だ、いつも飲まない分飲もう。

 

「……もう一度聞くぞ、ユタカ、お前酔っているだろ?」

「酔ってにゃいですってば」

 

 にしても、本当この世界の料理は多彩だ。いや、元の世界では定番の物しか食べてないからそう言われると仕方ないかもしれないが、やっぱりこの世界のと比べると段違いだ。

 何せ肉はカエルとかからドラゴンとかも食えるし、野菜だって生きの良さも違い過ぎる。

 

 さて、どれにしようか。この酒に合うのは……やっぱり肉だな。特にカエルの唐揚げが最適だと思う。安く、量も多く、味も鶏に似ていて美味いのだ。酒が進んで仕方ない。

 って、上手くフォークが刺さらんな?ちゃんと当たっているように見えるのだが……?

 

「めぐみん、確保」

「分かりました!」

 

 って、うわ馬鹿、何をする!急に捕まえて何をする気なんだ!?

 

 あっ!お酒、お酒は取り上げないで!

 

「シュワシュワ、私のシュワシュワ返してください!」

「酔っぱらいは黙ってください!ええい、しつこく纏わりついたって返しませんよ!ユタカはこれ以上飲むの禁止です!」

 

 そんな殺生な!良いじゃないか、今日はヤケ酒をするつもりなんですから飲ませてよ!

 

「何度言われたって返しませんよ!こんなものがあるから……こんなもの……ねえ、ダクネス―――」

「めぐみん、飲むのは駄目だからな。というかユタカがこんな風になっているのを見て飲みたいと思うか?」

「うっ……仕方ありませんね。はい、これをユタカの手の届かないところに置いておいてください」

 

 シュワシュワ、返してよー……

 

「すまないが、これ以上飲ませるのは危険だと判断したからな。だから泣いたって渡さないからな。とりあえず水でも飲んで落ち着け」

 

 シュワシュワ……クリムゾンビア……ネロイド……ダクネスが冷たい…

 

「私は冷たくないからな、むしろ私は温厚で優しい方だ。まったく、ユタカの酒癖には今度から気を付けないとな。あまり飲んでいなかったら油断していたが、ここまで乱れるのは想定外だ」

 

 おさけー、おさけー……

 

 

 

「よう、そっちは楽しんで……お前ら何してんの?ユタカすっごい落ち込んでいるぞ?」

「えっと、実はですね――」

 

 あっ、カズマだ、その持っているお酒、よろしかったらください。

 

「ん?こっちに酒、あまり来ていなかったのか?ほら、飲みかけでいいのならやるよ」

「ちょっ!?今のユタカにお酒は……あー、遅かったですか……」

 

 ……ぷはぁ。あー、生き返るー。

 

「私とめぐみんはちょっと知り合いの冒険者と飲んでくるからな、ちょっとユタカの世話を頼む」

「カズマ、あとのことは任せましたよ。それでは、失礼しますね」

「お、おう?任せてくれ……なんだあいつら、そそくさとどこかに行って」

 

 あ、カズマー、そっちはどんな感じだった?

 

「あっちではか、アクアが宴会芸で盛り上げていたり、一気飲みを競い合ったり、他の冒険者と話していたり……まあ、いつも通りだな」

 

 うん、カズマも楽しめているようで何より。この宴会の主役なんだから楽しめていないとな。

 

「それにしては、ずいぶんと疲れているような……」

「これはな、ずっと借金返済とか今回魔王軍の関係者とかと疑われていたからさ、それのためにずっと頑張ってきた分の疲れがな……これで一息つけると思うと、急に体が重くなってさ」

 

 ……ああ、うん、今までずっと頑張ってきたもんな。それだけじゃなくて、仲間がやらかしたことの尻拭いとかもやっていたしな。そりゃ、疲れるわな、うん。聞いているだけでも大体が巻き込まれの事故みたいなもんだしな……

 

「……なあユタカ、なんで俺の頭を撫でているんだ?」

「…………なんか、カズマが凄い不憫に思えてきたので、つい手が出たみたいです」

「つい、で撫でるもんなのか?」

 

 仕方ないだろ、意識していないのに勝手に手が動いていたんだよ。

 

 ……まあ、それだけカズマは頑張ってきていたんだ、少しくらい労うやつが居たっておかしくないだろう。

 なにせカズマはまだ成人すらしていない子供なのだ、そんな子が大人でもなるはずがないであろう苦難に遭い続けて、それでも必死に生きてきたんだ。同郷の俺ですら絶望して諦めてしまうことを頑張ってきたんだ。

 

「……ですので、こうしてもおかしくないと思いますよ。今までお疲れ様でした、今日はしっかりと楽しんできてくださいね」

 

 だから俺がカズマを撫でることはおかしくない。

 

「いや、それはおかしい……いや、もうどうでもいいや。なんかもう、今は何も考えたくない」

 

 はいはい、今日くらいは何も考えずに騒いで楽しもう。もたれ掛かってきたカズマと乾杯しながら、この賑やかな宴会を楽しもう。

 

「……ところでカズマ、とっても美味しいお酒の飲み方って知っていますか?」

 

 

 

 ―――――――――――― 

 

 

 

 半分のお月様が少し沈んだくらいに宴会は終わりを迎えた。とはいえ、そのまま飲み続けている奴もいれば、明日に備えるために帰る者もいた。

 

 俺も今日は帰ることにしておいた。そこまで酔っていないからまだ飲み足りないが……めぐみんとダクネスにあそこまで帰るように言われてしまっては仕方ない。別にまだいてもいいのだが……

 

 そうそう、途中でカズマが酔いつぶれてしまったのか疲れがたまっていたのか知らないが、顔を酷く赤くして俺の膝に倒れこんできた。しばらくそのままにしておいたが、帰る時にダクネスあたりに任せておいたから大丈夫だろう。

 

 それにしても、酒はいいな。酔った際に秘密がバレないようにと飲んでいなかったが、それも無くなって気楽に飲めるようになれた。ここまで美味しく飲めたのは初めてだ。今度暇な時があればゆっくりと楽しんでもいいかもしれない。

 その為にも、仕事を頑張ろう。しっかりと稼いで、色々と楽しめるようにしておこう。

 

 

 

 

 ………………ん?誰かが俺を呼んでいるような気がするな。それにその声もどこかで聞いたことがあるような……

 

 あれ、お爺ちゃんにお婆ちゃん、お兄ちゃんじゃないか。宿屋の入り口で何しているんだ?もう夜も遅いから、今日の店番じゃないお婆ちゃんとお兄ちゃんは寝てないとおかしくないんだけど、一体どうしたんだろう?

 

 おーい、お爺ちゃんたちー、いったい何があったのー…………!?

 

 痛い痛い痛い痛い!!!骨が折れるって!!そんなに強く抱き締めたら折れちゃうって!

 ていうか、なんで泣いているの!?本当に、いったい何があったんだ!?

 

 えっ、看病していた娘の意識がやっと元に戻ったと思ったら、いつの間にかいなくなっていた?精神状態も悪いはずなのにいなくなって心配で、さっきまで町中を探し回っていた?でも見つからなくて、寝ずにずっと?

 

「…………ご、ごめんなさい、ずっとギルドの宴会で楽しんでいました。それで、お酒とか飲んで、悩んでいたことも何とか、なりました……?」

 

 え、あの、ちょっと待って、何でそんな無表情なの?いつもの優しそうな笑顔は……あ、ああ、

 

 あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!!!!

 

 ご、ごめんなさいいいいいいいいいいいい!!??

 

 

 

 ――――――――――― 

 

 

 

 翌日、俺は座ることと仰向けで寝ることが不可能になるほどになっていた。

 

 ……お爺ちゃん、お兄ちゃん、怒るのはわかるけど、お尻叩きみたいな子供のお仕置きみたいなのはやめて……

 

 

 

 




ロリっ娘はちっぱいとかもいいけど、お尻が一番だと思いました。(小並感


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

閑話6 ハロー、ユメセカイ

いつも以上に遅くなって申し訳ありません。
今更ですが、閑話を投稿させていただきます。

久々に書いたのもありいつも以上の駄文です。ご了承ください。
また、申し訳ありませんがいつも以上に誤字脱字が存在するかもしれません。


 お尻の痛みを気にしつつお爺ちゃんたちに自分が改めて元男だということを話してから翌日、冒険者ギルドからようやくこの前のダンジョンアタックの報酬金がもらえた。

 額こそ少ないものの、この冬という危険な季節にはありがたい値だ、大切に扱おう。

 

 せっかくだし、もう一度お酒を飲みに行ってもいいかもしれない。この前まで飲んでばれるような眼を避けるために我慢していたが、もうこの街では冒険者に限らず多少の知り合いには知られている。それならば、我慢せずにはっちゃけても良い筈だ。

 

 

 

 まあ、今回は、諦めよう。お酒の魅力につられそうになったが、我慢だ。……我慢だ。

 というのも、以前から考えていた魔道具の件についての相談をしに行くためだ。今まではウィズという産廃か超高価な物しか仕入れてこない人にしか相談が出来なかった。

 いや、多少見る目はあるんだろうが、その大半が売れることなく消えていく駄目過ぎる効果を持つもの、残りがその効果に見合った値段のせいで売れ残っているものばかり仕入れてくるんだからどうしようもない。流石の俺でも桁が7つや8つのを即決で買えるほど度胸はない。

 カズマの?あれはただの援助と実利が重なったからだから関係ない。正直こちらとしても得であったから何も問題はない。

 

 しかし、今はバニルという話がまともにできる存在がいるのだ。うざかったり、人の恥部や秘密を抉ったりするようなやつではあるが、公爵と名乗っているだけあって物を見る目は肥えているのか、鑑定眼はとても優秀なのだ。

 それとともに、アンデット化したための影響下は知らないがウィズの腐りきっているとしか思えない目利きによる被害者でもある。被害者である。もう一度言う、被害者である。

 友人であるウィズの店で働き始めたかと思えば、最初の仕事が売れるものと売れない物の仕分けという悲しい作業。それも腰に泣きつくウィズに説教をしながらの作業という、内情を知っていれば涙しか出てこない仕事だったらしい。

 

 さて、そんなバニルも今ではウィズの店でのまともな店員として受けている。悪魔であることはギルド側も把握しているのだが、一度は討伐されて二代目として名乗っていること、魔王軍の幹部はやめたことから存在することを黙認されている。もっと簡単に言うなら、関わるのが面倒だから放置されている。

 それに、見通す悪魔としてその客に見合った商品をしっかりと進めてきてくれ、相談事も解決できるから人気はあるのだろう。……うざいこととかは除くが。本当に、人の傷や恥部をえぐり取って喜悦に浸るのは悪魔としての性として諦めるが!

 

 ……とはいっても、今日はもう遅い。報奨金を貰った後、それ以前に今日の俺は宿屋で働いていたところをギルドに呼ばれて報奨金を貰ったからだ。その後もとんぼ返りで宿屋の仕事に勤しんで太陽はとうに沈み果てある。

 特に今日の宿仕事は、宿の廊下や受付のカウンターに忘れ物が多く、小さな袋に詰められた小銭や少し黄ばんだタオル、挙句の果てには冒険者の命ともいえる剣や弓、貴重品としか思えない銀色の鍵など、いつもとは考えられないほどの大量の忘れ物の処理に追われていたのだ。

 通常は宿屋の倉庫にしまっておいて申し出た人に返すといった形なのだが、今日はいつも以上に倉庫がいっぱいで、宿屋やギルドで飲んでいたり休んでいたりする人に聞きに回っていたりと大変だったのだ。

 

 結局、小銭入れや剣、弓矢といったのは持ち主が見つかったが、奇妙な言語が彫られている銀の鍵を持っていると名乗り出る人はいなかった。わざわざダクネスにも聞きに行ったが、こんなものは見たことがないとのこと。最終的に、布を敷き詰めた小さな木箱の中に入れておいて保存といった形となった。早く名乗り出てくれる人がいるといいが……

 

 

 

 

 

 そんなわけで現在の外は細々とある街頭と所々にある店から漏れる光、そして頭上から注がれる月光のみだ。

 この時間では、ウィズも店を閉めているはずだ。……アンデットとはいえ、流石に24時間営業であるとは思えないしな。夜に使う照明代だけでも大変なことになりそうだし、そんな余裕があるとも思えないし、今日はいったん諦めよう。

 

 また今度、暇な時があればいいだろう。それで前買った黒水晶にマナタイト結晶、そして今回の報奨金で新しい魔道具でも作って貰おう。

 

 さて、今日はもう寝よう。いつもより早いとはいえ、この宿で使うロウソクやランタンに掛かるお金もできるだけ削っておいた方がいいだろう。

 元男であるのに、いまだに住ませてもらって仕事をさせてくれる一家に申し訳ない。今回のことも含めて恩返しをできるように、迷惑にならないようにしなければ。

 

 

 従業員用の服から寝間着の服に着替えてっと、それじゃ、おやすみだ。明日はギルドで冒険者稼業の方だから、迷惑を掛けないようにしっかりと良い睡眠をとらなければいけないし。

 …………お尻はまだ痛いから、うつ伏せで寝ておこう。

 

 

 

 ――――――――――――― 

 

 

 

 ふと気づいた時には、俺は立っていた。目の前には真っ黒だが海を思わせるような巨大な水面がさざ波を立てており、空は厚い雲で覆われており太陽か月かといった判断もつかない。

 周りを見渡せば、雲に覆われているためか知らないが薄暗く、いや薄暗いどころではない。まるで煤を思わせるような黒い霧が周囲を包んでいる。おかげでここがどこかの判断がつかない。

 

 とはいえ、少なくともアクセルの街周辺にある地形ではなさそうだ。アクセルの街周辺にある水辺は、俺とアクアはオリに入れられた湖が思い浮かぶが、この黒い海は、もっとそれ以上の広さがある。

 こんな広いの、宿屋に来た客の噂話でも、地理に詳しいギルドの人の話でも聞いたことがない。そもそも黒い海な時点で聞いたことすらないが。

 

 ……さて、どうするべきか。俺が記憶していた限りでは、俺は寝間着に着替えてベッドにもぐりこんだはず、その後も毛布の暖かさにウトウトしたと思ったらこれだ。

 何か誘拐でもされたのだろうか?それにしては奇妙な場所に置いて行かれているがな。

 

 …………寝間着?さっきまで気づかなかったが、俺の服が寝間着から、冒険者での装備である紫のローブと帽子に革の靴になっていた。

 わざわざこんな着替えまでして誘拐とか、いったいどんなユニークな変態なんだろうか。俺が目覚めてしまうというリスクを無視してこれに一旦着替えさせるとか、どんな技を持つ変態なのだろうか。やだ、フェチズムもここまで極まるとすさまじいものを感じるな。

 

「誰が変態だ!誰が、変態だと、言った!?儂は少なくとも、貴様の言う変態なんぞではないわ!!」

 

 ふと考えていて下を向いていたが、頭上から掛けられた声に顔を上げる。

 

 そこにいたのは、黒い海を悠々と泳ぐ奇怪な生き物の上に巨大な貝殻を乗せて、その上に仁王立ちしているムキムキマッチョな白髪白髭な男だった。

 

 …………どこからどう見て変態じゃねーか!

 

「だから、儂は変態じゃないと、言っておるだろうが!!わしの名前はノーデンス。この『偉大なる深淵』の主にして、旧支配者の復活の阻止や外なる神の介入の妨害を行っている神だ!!……くそっ、誘い出したはいいが、あまり時間はなさそうじゃな……」

 

 なんか急に叫んだと思ったら、今度はブツブツと喋り出して一体どうしたのだろうか。気分でも悪いのなら、俺をさっさと帰して毛布にくるまった方が得策だと思うのだが。

 というか、この変態こと、ノーデンスの様子を見る限り、俺の考えていることはそのまま伝わっているような気がするのだが、それはきっと気のせいなのだろうか。

 

「……はあ、あいにくですまないが、貴様がここにいられる時間もあまりないから手短に言わさせてもらおう……貴様は、その旧支配者や外なる神に目をつけられているのだ!」

 

 …………。………………いや、急に言われても何が何だか分からないのだが。神ならアクアのようなやつが思い当たるが、旧支配者に外なる神?そんなの……あれ、どこかで聞いたことがあるような……

 

「手っ取り早く言わせてもらうのならば、強大な力を持った邪悪なる存在だ。貴様にも心当たり自体はあるじゃろう?貴様が取得できる異能の中に、異名を持った忌まわしき奴らの名前を何度も見たことがあるだろう?」

 

 異能……ああ、うん、スキルのことか、それならばいくらでも見たことがある。正直、ふとした瞬間に間違って取得してしまいそうで怖い。というか、あれを取得した時の効果って何なんだ?

 

「ふん、そんなもの考えるまでもなく碌でも無いことだろうな。むしろあいつらのことだ、そのスキルというのから貴様に干渉してくることであろうな」

 

 まじか。

 

「マジだ」

 

 …………うん、興味本位で取得していなくて良かった。本当に、よかった。だからと言って、こいつの言っていることを鵜呑みにするのも、危険ではあるがな。はっきり言って、幾らなんでも胡散臭すぎる。こんな変なところに誘拐しておいてあれに関わるななんて、妖しさ満点だ。せめて誘拐した理由くらい話してくれてもいいと思うのだが。

 

「……まあ、それは否定せんがな。こちらとしても、できるだけ接触は避けておいた方があいつらに勘づかれなくて済むからな。かといって、何もせずに指をくわえて世界が滅ぶなんてことは防ぎたいからな。申し訳ないが貴様に『銀の鍵』を送っておいて誘拐まがいのことをしたことは謝ろう」

 

 おい待て、今の言葉に色々とツッコミどころしかないのだが。世界が滅ぶとか、あの銀色の鍵はお前の物だったのかとか、接触で勘づかれるってどうやってとかいろいろ聞きたいのだが。あと、いい加減誘拐した理由を話せよ。

 

「……む、いかん、霧が濃くなってきおった。では、そろそろ別れの時だ、また会いたい時は貴様に送り付けた『銀の鍵」を使ってまた来るとよい。……まあ、あまり接触すると面倒なことが起きる故に、何かあったときだけにしておけ。いいな?」

 

 ノーデンスの言葉に周囲を見渡せば、いつの間にか黒い煤のような霧は俺らの周辺にまで迫ってきているように濃くなってきていた。どうやらこの霧はここにいられるタイムリミットのようなもの、なのか?

 

「……ああ、そうだ、貴様が現在願っていた道具、餞別代りにくれてやろう。起きた時を楽しみにしていろ……安心しろ、貴様に害がないように調節しておる。それでは、また此処で会おう!」

 

 その言葉を皮切りに、黒い霧は俺を包み込んだ。その異様な匂いと色に、目を閉じて顔を手で覆った。

 

 ……いや、格好良く締めたところすまないが、なんで俺、わざわざここに呼び出されたの?たったあれだけを言うために誘拐するとか、神って何考えているのかさっぱり分からない。

 

 

 

 ―――――――――――――――― 

 

 

 

 両手から漏れだしてくる光に顔をしかめつつ手を離せば、そこはいつもの部屋の天井。顔を横に動かせば、中途半端に閉められた窓からは淡さを通り過ぎて力強い光が漏れ出している。まるでさっきまでの出来事が嘘のように静かな朝であった。

 

 …………夢、か?それにしては色々と濃い夢であったが……いや、夢なんてものはこんなものだ。大概の夢なんてものは突拍子もないのが普通なんだ。だから、こんな夢を見てもおかしくはないはず。

 

 というか、この光からして、今朝は少し寝坊気味、だな。今日はギルドで以前約束していたパーティーとの冒険者稼業だ。遅れないようにしておかないと……

 

 …………ん?枕元に……なんで、こんなところに昨日倉庫にしまっておいた銀色の鍵が?

 

 ……これ、もしかして夢の中で言っていた『銀の鍵』か?……一応、今は持っておいてお爺ちゃんとかに相談しておこう。流石に夢の中でこれが必要になってくるかもしれんなんてこと、信じてもらえないかもしれないが……言うだけ言ってみるか。

 

 さて、着替えてナイフとか装備の用、意…………なんだこれ。なんか、前まで黒水晶とかマナタイトが置かれていた棚に……ひ、ふ、み……12個ほどの、鈍く淡い虹色を放つ結晶が転がっていた。

 まさか、これが餞別の道具、なのか……?正直、これだけ見てもどんな道具なのか全く分からないのだが。むしろ、これは素材の一種なのか…?

 

 って、ヤバい!ゆっくりしていたら、もうすぐ時間だ。とりあえず、これは帰ってから確かめよう。今はとにかく着替えていかなくては!

 

 

 

 ――――――――――――― 

 

 

 

 帰ってから気になってみたから探ってみれば、魔道具用の素材にと元々棚に置かれていた黒水晶とか、マナタイト結晶、その他諸々の素材がなくなっていた。

 

 …………やっぱり、神を自称している奴は大概が碌でもないことをしてくれるようだ。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第32話 雪解けの季節より

生存報告もかねての投稿です。多忙であまり筆を取れず申し訳ありません。
投稿もしばらくは無理そうです。

それと今回もいつも通りの駄文です。あまりストーリー的にも進んでいないのでご注意ください。


 春。

 

 今まで町やその周囲を覆っていた雪は溶け、冬という過酷な季節とその季節に生き延びている強靭な天敵から解放され、食物連鎖の下方にいたモンスターたちが冬眠から目覚める季節。それとともにモンスターによる被害から依頼が出され、冒険者稼業が活発になってくる季節。

 

 それは宿屋の従業員兼冒険者である俺も例外でなかった。いや、宿屋の方はいったん落ち着いている感じになっているか。デストロイヤー戦やバニル戦で報奨金を稼いだ奴はともかく、冬も開けてからはもう少し安い宿屋や馬小屋に帰っていった奴らがいるから少し落ち着いてきている。

 その代わりと言ってはあれだが、宿屋の客層にアクシズ教徒が少しずつ多くなっていってもいた。現時点では問題は起きていないが、できるだけ面倒ごとは起こさないでほしい。というか、なんでアクシズ教徒が急に泊まるようになったんだ?心当たりはさっぱりないだけに不気味だ。

 

 閑話休題。

 その代わりに冒険者稼業は段々と増えていっている。春は繁殖の季節でもあるからか、モンスターたちの活動は活発になってきている。このおかげでギルドは依頼の紙を貼りだす板を増やすほどだ。冒険者たちも良い依頼がないかと眼を見開いて探している。

 

 ……まあ、俺はいまだにどこかのパーティーに入れさせてもらって稼がさせていただいている日々が続いている。というのも、俺自身が入れさせてもらうパーティーをコロコロ変えるという事が気にいったことと、今更一つだけのパーティーに所属するほどでもないな、と思ったからだったりする。正直、今までやってきたことを無理に変えるよりかは、現状が落ち着いているならこのままでいいかという事でこうなっている。

 ついでに俺が元男だとばれてからは一部のパーティーからは誘われなくなったのもあるっちゃある。この街の人たちは基本的にいい人だらけだ。それでも多少の隔意というものは、考えていなくても、というのが人の性だ、仕方あるまい。それでもまだ誘ってくれる人たちはいるため、そこまで問題でもなかったのもあるだろう。

 

 とにかく、俺は無事、いつも通りの生活を送れている。そのことに間違いはないはずだ。

 

 

 

 ―――――――――――――――― 

 

 

 

 で、今日は以前からダクネスとめぐみんに誘われての冒険者の活動なはず、なんだが……

 集合場所、冒険者ギルドであっていたよな?時間、合っているよな?

 いつもならば遅くても10分くらいで来るはずなのだが、珍しく今日は一段と遅い。

 

 特にあの二人に関しては己の趣味や性癖のせいかは知らないが、しっかりと時間前に来て準備はしていたはず。

 なのに今日はそれが無いと……何か遅れるような事情でもあったのだろうか?

 

 準備に手間取っているくらいならいいが、冬から春と季節の変わり目だ、風邪だなんだはアクアが治してくれるだろう。しかし、それとは別に何かまたトラブルに巻き込まれているのか?

 

 どちらにせよ、一旦事情は聞きに行った方がいいだろう。それで今日の予定をどうするかは決めよう。

 

 めぐみんたちがなんとなく通りそうな道を辿りつつ、カズマ達の屋敷に向かおう。

 

 

 ~~~~~~~~~~~~ 

 

 

『直接向かわずとも、交信(コンタクト)を使用して呼び出せばよかったんじゃないか?』と気づいた時には目の前にはカズマ達の屋敷が目に入った。『ポラリス』を使って空中からの捜索であまり考えが浮かばなかったのは仕方がないにしても、ここまで思い出さなかった自分の記憶力を少し疑う。今度、スキルの事とか、疑問に思っていたあの道具についていくつか考えてみて、紙に書き留めておいた方がいいかもしれない。

 

 とりあえず今は、めぐみんたちに聞かなくては……。屋敷の門を少し大きめにノックしてみよう。太陽で分かりづらいが、部屋は明るいため誰かが屋敷にいるはずだ。もしアクアやカズマだけでも、めぐみんたちがどこに行ったかくらいは聞けるはずだ。

 

「……すみません、めぐみんとダクネスはここにいますか?」

 

 ………。

 

 ……………?

 

 ………………ノックをしても返事はない。聞こえていなかっただろうか。それなら、もう一回だな。

 

「……めぐみん、ダクネス、今日ギルドで集まる予定でしたが、何かありましたか?」

 

 ……うん、廊下に響く足音や近づいてくる話声のようなのは聞こえてこなかった。それにしては、部屋の明かりや人の気配はなんとなくだがあるような気はしてくるし……一体どうしたのだろうか?

 

 念のため屋敷の扉に触れてみたが、鍵が掛かっておらず、屋内からも賑やかな……いや、めぐみんとダクネスのいつもよく聞くような大きな叫び声が聞こえてくる。訂正、ダクネスの叫び声はどちらかというと嬌声に近いな。

 

 ……少なくともこの屋敷にいるようで何よりだ。にしても、約束を忘れて一体何をしているんだ?またアクア辺りが何かしたのか?それともウィズあたりで買い付けた道具で何かあったのだろうか?どちらにせよ不安であるが、ひとまず事情は窺わなければいけない。

 屋敷に入らせてもらう旨を言ってから上がらせてもらう。返事が返ってこないが、ノックの時で知っていたし無視して屋敷を歩く。

 

 まっすぐな廊下を進むたび、二人の声はだんだん大きくなってきている。声の出処はいつも集まることの多いリビングか。暖炉もあることだし、まだ寒く感じる今日ならそこに集まって暖を取っていてもおかしくないはず。

 

「……ちょっと、失礼しますね。めぐみんとダクネスはいますか?」

「あら、ユタカじゃない、わざわざ屋敷にまで来てどうしたの?」

 

 戸を開ければ、暖炉前のソファーからアクアの声と不思議そうな表情が窺えた。

 

「……めぐみんとダクネスと、今日は冒険者として働く約束をしていたのでギルドで待っていたのですが……」

「あら、二人が迷惑かけちゃったみたいでごめんね。ちょっと今立て込んでいて……」

 

 顔を軽く逸らして、申し訳なさそうにしているアクアの目線を追えば、そこには床に倒れこんでいるめぐみんとダクネスが、その近くには…………

 

 

 

 コタツ。

 

 

 

 ちょっと目にゴミが入って何かと勘違いしていたのかもしれない。目元を軽くこすってもう一度見てみる。

 

 そこにあったのは床に倒れこんでいるめぐみんとダクネスが、その近くには、まごうことなき、コタツと思われる何かが鎮座していた。

 

「……申し訳ありませんアクア、どうやら本来此処にあるはずのない物があるという幻覚が見えてしまっているようなので……どうにか解呪をお願いしてもよろしいでしょうか?」

「あなたがどんな幻覚を見ているかは分からないけど、少なくともあれは幻覚なんかじゃないわよ?暖めるための道具だから、何か危険があるって訳じゃないから大丈夫よ」

 

 違う、そうじゃない。なんで元いた世界にあった筈のコタツが、この世界に存在しているんだよ。ウィズの店で見たことはないし、お爺ちゃんたちに聞いてもそんな暖房器具はないって聞いていた筈だ。

 あれがあったのなら、宿屋での自室がどれだけ充実したことか……!毛布に包まれている状態もいいが、コタツの暖かさとはまた別なのだ。ハッキリ言って、羨ましい。

 

「ああ、あれね。なんかカズマとバニルってやつが協力して作成した道具らしいわよ。……あの悪魔が関わったなんて、腹立たしいわね、また浄化しに逝ってあげようかしら?」

 

 ……なるほど。カズマが現代生活での知識やアイディアを、バニルあたりが何らかの形でカバーしつつ作ったのだろう。それならばあれは特注品か何かなのだろう。

 

 ……それならば、俺も作って貰えばよかったな。来年の冬の時には作って貰えるように交渉しておこう。

 

 

 

 

 さて、そろそろ寝転んでいた二人から今日来れなかった理由を聞かねば。カズマの姿が見えないこととコタツから伸びた手でなんとなくは察しはしたが。

 

「……で、いったい何があったのですか?ギルドに来て内容でしたので伺ってみたのですが」

「……す、すみません、ちょっとアクアとカズマの説得に失敗しまして……引っ張り出そうとすると、容赦のない妨害が……」

「正確には、その中でごねているカズマが一番の理由ではあるがな。おかげで今までクエストをクリアしていくこともできなくてな」

 

 ふむ。

 それで来れなかったのなら仕方ない。どうせなら全員で行動した方が気は楽であるし、連携も取りやすいではあるからな。特に一発屋のめぐみんとタンク役だけのダクネスでは、連戦する可能性のあるクエストは難しいだろうし、何か厄介ごとがまたやってくることを警戒しているのかもしれない。

 

「……えと、ということは今日は冒険をしないってことでよろしいでしょうか?それなら帰って宿屋のお手伝いをしますが、というかしますので帰りますね」

「ああ、いそいそと帰ろうとしないで待ってください!少しでも、少しでもいいのでこのコタツに引きこもっているカズマの説得も手伝ってくださいよ!」

 

 いや、結構だ。コタツから顔すら出さずにいる奴を無理に引っ張ろうとしても、ただ面倒なのは考えなくても分かる。それがカズマであるならば、尚更だ。めぐみんたちの現状を見る限り、そうとしか思えない。あと、また厄介ごとに巻き込まれそうだし。

 

 だから俺の脚にしがみつくな!めぐみんの方が力強いんだから、離れようとするのも面倒なんだよ!

 

「ほら、そろそろ活動を再開しないと体も鈍ってしまうだろうし、活発になっているモンスターを退治するの冒険者の務めだ。そろそろ出てきてもいいんじゃないか?」

 

 いつの間にか起き上がっていたダクネスがコタツに語り掛けていた。……が、コタツの中からは何の反応も見られない。そのまましばらく待っていたが、ダクネスはゆっくりとコタツの布団をめくりながら、

 

「ほら、太陽も昇ってきて暖かくなってきたし、一緒に外に行こう―――「『フリーズ』!」―――きゃあああ!?」

 

 いつも通りの嬌声を上げていた。どうやらカズマが素早く脇とか首筋に『フリーズ』を掛けているらしい。なんでこういった碌でもないのは器用に行えるんだ。

 

「こんな感じで、コタツにこもりっきりで外に出ようとしないんです。今日こそはって思っていたのですが。なので、ほんの少しだけでもいいのです、カズマを冒険してくれるように説得してもらってもいいですか?……あの、ものすっごい険しそうな顔はやめてもらえませんか?」

「…………まあ、構いませんが、成功する自信はありませんので、失敗しても諦めてくださいね?」

 

 流石にこたつむりと化している奴を引っ張り出そうとしても、さっきのダクネスのようになるだけだし、どうするべきか……。まあ、とりあえず一回は正攻法で攻めてみるべきか。それで引っ張り出せれば御の字程度に試してみる。

 

「……カズマ、ちょっとだけお話したいので、近寄ってもいいですか?」

 

 とはいえ、近づきすぎてはさっきのダクネスのように反撃される恐れもあるから少し遠目に話しかける。

 ……特に反応は無し。聞いていないか、大丈夫という肯定によるための沈黙かは分からないが、問題はなさそうではある。ゆっくりと近寄って、コタツの前でしゃがみ込む。そして、そっとこたつの布団をめくり、カズマと目線を合わせる。めぐみんとの会話を聞かれていたのか、怪しさ満点という感じの視線が少し突き刺さる。が、そんなもので怯むようでは冒険者としてやっていけない。今回はスルーして話しかける。

 

「……ん、相変わらずお元気そうで何よりです。最近はギルドにも顔を出していなかったのでちょっと寂しかったり心配していましたが、さっきのも見れば元気そうなのが分かってよかったです」

 

 取りあえず最初の会話でいきなり誘おうとしても、気はよくはないはず。今は会話を続けてくれるように、ゆっくりと話しておこう。カズマもあまり話したくなさそうにしているが、大人しく会話は聞いてくれている。悪い手ではない筈だ。

 ただ一つ気になる点は、カズマの目線が俺とあまり交わらず、下をよく見ているような気がする。まあ、特に問題はなさそうではあるし、気にせず会話を続けよう。

 

「……まあ、さっき聞いていた通り、私はめぐみんからカズマを冒険してくれるよう頼まれました。かといって、いきなり冒険に行けなんてこと、私は言いたくはありません。今まで忙しかったんです、少しくらい休んでいても問題はないと思います」

 

 後ろからめぐみんとダクネスの焦ったような声が聞こえてくるが無視だ。無理に引っ張り出そうとするから抵抗されるのだ。少しずつ外に慣れさせていって、その後に冒険に連れだせばいいのに……そもそも、16,7歳の少年が借金だったり冤罪だったりでずっと駆け抜けてきたんだ。本当、翌何とかやっていけているのが不思議なくらいだ、俺個人としては少しくらい長い冬休みでもあげた方がいいとは思う。

 その一方でカズマは俺と一切目線を合わせずに下の方を見ているが、耳を傾けてくれてはいるだろうし、いいか。

 

「……ですが、あまり外に出ないのもちょっとどうかと思いますので、ギルドに行ってお酒を飲みつつ、友人たちと楽しく遊びませんか?私も、いくつか話したいことがありますので、一緒に行きませんか?」

 

 そう言って、少しだけ頬を緩ませて微笑む。もちろんこれで動いてくれるようならば、少しずつ外に慣れさせていって冒険できるようにしていけばいい。これで無理でも楔は打ち込めたんだ、いつかは冒険してくれるようになってくれればいい程度にすればいい。

 

 そもそもめぐみんから依頼されたのは、「ほんの少しでも冒険してくれる」ようにすること。別に今すぐ冒険しろっていうわけでも無いから約束は破っていない。やる気だけでも出してくれれば御の字だ。

 個人的にもカズマと久々に色々と話したいではあるし、そのついでに冒険の話題を混ぜていけば大丈夫のはずだ。どうせ今日は冒険者稼業の予定だったんだ、飲み会の予定に変更してもそこまで問題はないはずだ。

 

 ……ただ、これで釣れるとは全く思っていない。そもそも、なんでカズマがコタツから出たくないというのならば―――

 

「あー……すまないがユタカ、まだ外が寒くてここから出たくないから……」

「……まあ、わざわざ寒い外を歩くのも億劫ですからね」

 

 まあ、そうなるだろうな。コタツの魔法ともいえる暖かさは毛布に包まるのとは違った心地よさだ。そこから抜け出そうとするのは難しいのは分かっている。

 

 だからこそ、だ。それならこっちの案をまた妥協すればいいだけの話。

 

「……それでしたら、このコタツで小さな飲み会でもします?あいにくこのコタツでは一緒に入る人も限られているはずでしょうし、参加するのは私くらいですが、いかがでしょうか?もちろん今回の宴会は私が誘ったんですから、ご飯とかの費用は考えなくてもいいですからね……まあ、懐は少し心許ないのであまり豪華なのは無理ですが」

「本当!?それだったら、シュワシュワもネロイドもお願いしてもらってもいい!」

 

 ……なんか、ソファーに寝そべっていたアクアから声が聞こえてきたがいいだろう。今回はアクアにも協力してもらって、カズマを説得できるようにしてもらおう。お金もあんまりないが、冒険者をやって稼いだお金をつぎ込めば何とかなるはずだ。ただし今言ったような安い酒だけな。

 ついでに自分もコタツのぬくぬくとした暖かさに包まれたいって打算もあるが……それでもこちらはできる限りの譲歩はしたんだと思ってくれたのか、カズマも渋々と頷いてくれた。

 

「ええー……今日こそは、我が爆裂魔法を放てると思ってたのですが……」

「私もいい加減トレーニングだけでは刺激が足りないのだが……これは新手の放置プレイと考えればいいのか?」

「……二人とも、カズマも今まで頑張ってきたんですからもう少しお手柔らかにお願いします」

 

 流石に休んでいる人に今すぐ働けなんて言ってもやる気が出るとは思えないし、今のように反発される可能性だってあるのだ。もう少しゆっくりとでも問題はないはずだろう。

 

「……というか、それでしたらお二人で他のパーティーに混ざりつつ冒険すればいいのでは?」

 

 おい、目を逸らすな、顔を背けるな。こっちをちゃんと見ろ。

 

 え、もうお断りされた?いや、それだったら自重くらい……無理だな、うん。

 

 

 

 

 ……とにかく、その後はダクネスに荷物を持ってもらいつつもカズマの屋敷、正確にはコタツで宴会をした。カズマに冒険活動の近況を話したり、ダクネスにパーティーに入らないことで心配を掛けてしまったり、アクアが酔って宴会芸をして水浸しになったり、めぐみんが騒がしい中をひたすらご飯を食べていたりと、いつもギルドでやっているような宴会になった。

 カズマも仏頂面からは少し柔らかい表情に……いや、あれはどっちかというと床を水浸しにしたアクアあたりに怒っている……のか?

 とにかく、宴会中では酔っていたとはいえ、笑顔になって俺の冒険話を聞いてくれてもいたし、良いスタートを切れたと思う。明日は今日よりも一緒に冒険してくれるようになっている、もしくは冒険に前向きになってくれればいいな。

 

 

 

 ――――――――――――――――― 

 

 

 

 翌日、宿屋に直接来ためぐみんの案内で屋敷に招待された。

 そこにいたのはコタツの上に料理とお酒を置いて、寝たままの姿勢で食べているだらしないカズマの姿があった。……なんか、昨日よりもひどくなっていないか?

 

 背中からふたりほどの視線が突き刺さるような気がするが、一つだけ言わせてほしい。

 

「……えっと、まあ、まだ雪は残っていますし、冒険はもう少し待っててもいいのでは……?」

 

 この後、めぐみんとダクネスの冒険に滅茶苦茶付き合った。……人が息を荒げているのに、カエルだらけの草原を突っ切るのは切にやめて欲しい。おかげでまたべとべとになったんだけど。ただでさえ風呂とか入りにくい状況にいるってのに。

 

 

 

 

 




もしかしたら宴会中にあったかもしれない会話

「ところでユタカは気づいていました?」
「……何がですか?」
「あの説得の時、カズマはユタカの下着、じろじろと見てましたよ」
「…………あの、元男と分かっているのなら別に見ても得はないのでは?」
「それはそれ、これはこれかもしれませんよ。それに、ユタカはただでさえ無防備なんですから事情を知らない人に付け込まれるかもしれませんよ」
「……大丈夫です、一応は冒険者ですからそう簡単にはやられませんよ」
「いえ、私が言いたいのはそういう事じゃなくてですね……」


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第33話 走り蜥蜴

今回もいつも以上にひどい駄文です。申し訳ありませんが、どうか生暖かい目で見ていただけると幸いです。


 カズマの説得に失敗してから数日後の今日、宿屋の手伝いは休みという事で冒険用の服や靴の準備で午前が潰れていた。さて、これからどうしようかと考えていた時にちょうど通りがかったカズマたちと一緒に昼食を頂くことにした、のだが……。

 

「なんだよ、ちゅんちゅん丸って……せっかく村正とか、菊一文字みたいなかっこいい名前考えていたのに、なんでちゅんちゅん丸ってキテレツな名前になるんだよ……」

「……えっと、ご愁訴様、です?」

「おい、そこの二人、何か言いたいことがあるなら言ってくれませんか?」

 

 なぜかうなだれているカズマを慰める羽目になっていた。しばらくカズマ達と接してこなかったからかは知らないが、なんか変な役回りになってきたのは気のせいか。周りにいる冒険者やギルドの関係者からの目線も、このパーティー特有のそれに代わっているのは気のせいだと思いたい。

 

「まったく、せっかく私が考えたかっこいい名前だというのに、何が不満なんですか?」

「何もかもに決まっているだろ!!せっかく、せっかくの俺の刀が……」

 

 相変わらずカズマの賑やかな声が響くが、周りはいつものことと言わんばかりの雰囲気で楽しんでいる。俺も是非ともそちらに向かいたい。

 

「……ところでダクネス、ここに全員揃っているという事は……それにカズマの服装を見る限り、何とかなったようですね」

「ああ、余りにも手強かったからな、最終的にはコタツごと屋敷から放り出すことで何とかなったよ」

「……あの、それは何とかなったというのですか?」

「なった……とは思いたい。アクアもカズマが外に出たことで渋々だが一緒についてきてくれるようにはなったしな」

 

 いくら何でも強引だと思うが……そこまでやらされるという事は、どこまで酷い有様になっていたんだ?少し興味がわく。

 

「カズマー!めぐみーん!ダクネスー!それにユタカもー!いいクエスト、見つけたわよー!」

 

 っと、アクアが依頼を貼ってある板の所で叫んでいる。ご飯はあらかた食べたことだし、急ぐか。……あれ、なんで俺もクエスト参加する気になってたんだ?

 

 

 

 ―――――――――――― 

 

 

 

 リザードランナー。それが今回討伐するモンスターの名前だ。

 このモンスター、普段は危険性のない二足歩行のトカゲなのだが、春になると繁殖期に入るらしく、姫様ランナーという雌の個体が生まれることで厄介なモンスターになる期間限定な討伐対象だ。

 リザードランナーはこの姫様ランナーとつがいになるべくある勝負をするのだが……その勝負方法が、二足歩行で走り速さを競い合う事なのだ。これだけならまだ元の世界でも聞いたことはありそうなことだが、こいつらは同種だけでなく他種の生物を見つけては勝負を挑み、走り、追い抜いていくのが特徴だ。その結果として一番抜き去った数が多い奴が王様ランナーとして、姫様ランナーとつがいになれるのだ。

 

 ここまでなら特に害はなさそうに見えるが……いや、こいつら群れ全体で走るが進路の邪魔とかにはなりえるが、もう一つの方が迷惑なのだ。

 こいつら、相手が勝負をさせる為なのかは知らないが、物怖じせずに蹴るのだ。蹴って、そのまま逃げるのだ。その蹴りの威力も半端ではなく、当たり所が悪ければ骨折では済まないらしい。

 その蹴られたのが馬車を牽いている馬であればその場で立ち往生するという危険な羽目になり、もしドラゴンのような屈強な相手だと人が住まう土地まで連れてきてしまう可能性があるのだ。

 そのため、この時期ではギルドからリザードランナーの群れを討伐する依頼が発注される。

 

 

 

 

 ―――という話をギルドの受付嬢から聞いた後、俺たちはその群れの一つが発生した草原に来ている。近くには森があるためか、ここら辺でも木はまばらにある。

 その一本に上ったカズマから号令ともいえる声が響く。

 

「みんな、準備はいいな!ユタカの話では、そろそろリザードランナーも来る。念のためしっかりと備えておいてくれよ!」

 

 念のため、新調した皮の靴紐を確かめ、周りの地形を確認する。冬から春に変わるため、雪解けによるぬかるみを想定した靴ではある。そう滑ってしまうことはないよう処置はされているし、ここの草原では泥とかはあまりなさそうだが、それに足を取られて隙が出来ないようにしなければ。

 

「こっちはいつでも大丈夫よ!こうなったら、カズマにはとっととレベルを上げてもらって、どんどん強くなってもらわなくちゃ!」

 

 アクアの言葉に分からない点があり接敵する前に聞いてみたが、今回のクエストはカズマのレベル上げも兼ねたものだったらしい。そういえば、作戦は珍しくカズマを主軸としたものとなっていた。大抵いつもはめぐみんの爆裂魔法に頼っていただけに意外ではあったが、そういった理由があったらしい。

 

「ああ、アクアの支援魔法も掛けて貰ったし、これなら何匹でも耐えられる!」

「撃ち漏らした時はこの私に任せてください。皆まとめて吹き飛ばして差し上げますよ」

 

 いつもはダメなところが目立つ二人も、ここ戦闘時には頼もしい能力を持った人材となっている。

 

「……まあ、できるだけ補助側に回れるようにしておきますね」

 

 既に『ポラリス』で周囲は警戒済み。リザードランナーの群れも確認している。

 

「よし!なら、手はず通りいくぞ!まず俺が、王様ランナーと姫様ランナーを狙撃!その二匹さえいなくなればリザードランナーの群れは解散するそうだから、残された雑魚は放っておく。狙撃に失敗してこっちに襲ってきたら、ダクネスが耐えてる間に俺が王様と姫様ランナーをもう一度狙撃。それすら失敗したなら、囲まれる前にめぐみんの爆裂魔法でまとめてぶっ飛ばし、撃ち漏らしたやつを俺が上から撃破。アクアは全体の援護を頼む。ユタカは群れの動きを察知して全体の指揮を補助、余裕があるなら撃破を頼んだ。……じゃあ、行くぞ!」

 

 ……ただ、なんとなく、本当になんとなくだが、嫌な予感がしてたまらないのはなぜだろう。

 

 

 

 ~~~~~~~~~

 

 

 

「……!リザードランナーの群れ、カズマの狙撃範囲内に入りました!情報より、戦闘にいる一回り大きな赤いリザードランナーが姫様ランナーです!方角は……私たちのいるやや右側から来ます!」

 

『ポラリス』での空中からの視点から、土煙を上げて走るリザードランナーの群れがこちらの傍を通るのを確認できた。ルートとしては右側から狙撃範囲内に入り、そのまま左側に抜けていくといった形になりそうだ。これなら最初から接敵するようなことは起きないから気が楽だ。カズマが狙撃に失敗しても、この距離からなら対処は簡単にできそうだし、範囲から逃げようとしてもダクネスが囮になって引き寄せてくれるらしい。

 

 ……にしても、姫様ランナーは分かりやすいが、王様ランナーはいったいどこにいるんだ?一番早い奴といっても、現状姫様ランナーに群れがついていくといった形になっているからどれがどれか分かりにくい。というか、数が多すぎて判別がしづらい。

 

「おいアクアにユタカ、あのリザードランナーが姫様なのは分かったが、王様はどいつなんだ?」

「どれが王様なんかは分からないけど、王様ランナーって言うんだし、偉そうなのが王様なんじゃない?」

「お前に聞いたのが馬鹿だったわ」

 

 アクア、それはいくら何でも雑過ぎやしないか?

 

「……えっと、情報不足でよく分かりませんが、姫様ランナーの近くにいるランナーほど王様に近いのでは、と考えましたが……」

 

 かといって、俺も似たようなものだが……つがいになるのにライバルがいっぱいいるのなら、その近くにいて独占しているのでは、程度の素人考えだ。

 

「あー、なるほど、ありがとな。なら、あのリザードランナーかな?」

「……かも、しれません。確証が持てずに申し訳ないです」

 

 これで王様らしき奴が先頭を走ってくれればそいつの可能性が高いのに、先頭にいるのが姫様だとなあ……

 

「……あ、そうだわ!カズマ、王様ってのは一番早いわけよね」

 

 ……ん?アクア、急にどうしたんだ?

 

「ん、そうだが?」

「それならモンスター寄せの魔法であいつらを呼んで、一番にここに着いたのが王様よ!」

「……ちょ!?」

 

 …………ははっ、確かに良い案だけど、それやるときはあの群れから守ってくれる奴がいないと厳しいんじゃないか?まあ、ダクネスがいるとはいえ一人だと厳しいし、アクアもそれくらいは分かってくれるはず―――――

 

 

 

「『フォルスファイア』!!」

 

 

 

 ―――――やっぱりアクアはアクアだった。馬鹿と天才は紙一重というが、こんな形で紙一重は見たくなかった。アクアの手から放たれた黄金色の光は空に向かって直進し、俺たちはここにいるぞと言わんばかりに主張してくれる。

 空中から見ている俺でも目立つ光にリザードランナーが気付かないわけでも無く……群れはいったん立ち止まって、こちらに全力で走り出してきた!てか、速っ!?これあと数十秒程度でこっちに来るぞ!?

 

「このクソバカ、毎度毎度やらかさないと気が済まないのかお前は!?王様と姫様さえこっそり打ち取れれば無力化できるのに、なんでわざわざ呼び寄せているんだよ!」

「な、何よいきなり!私だって役に立とうとしてやっていることなんだから怒んないでよ!ああ、分かったわよ!どうせこの後の展開なんていつものことでしょ!!きっとあのリザードランナーたちに私が酷い目に遭わされるんでしょ!分かっているわよいつものことなんでしょ、さあ、殺すなら殺せー!」

 

 ……あの二人は何しているんだよ、そんな事言っている暇あるなら早く狙撃するなり支援するなりしてほしい。

 

「……そこ、喚いている暇があるなら早く自分の仕事をしてください!ダクネスは先頭でリザードランナーの足止め、めぐみんは爆裂魔法をすぐに放てる準備を、アクアは皆の支援を、カズマはとにかく王様か姫様だけでもすぐに狙撃してください!」

 

 というか、本来はカズマが狙撃しながら指揮をするはずなのになんで俺が指揮しているんだよ。今回の俺はあくまで補助扱いなんだし、カズマが頑張らないといけないんだからもっと気張れよ。

 というか、この数相手だとダクネス一人で耐えられる気がしないんだが……どう考えても抜けられるのが目に見える。

 カズマが先に王様と姫様を狙撃するか、めぐみんの爆裂魔法で一気に倒してしまえば何とかなるかもしれないが、こんな形になってしまった以上、そう上手く行ける気がしない。となったら……

 

「……すみませんがカズマ、こうなってしまった以上、私は補助から遊撃に切り替えます。ここでカズマの経験値だとかレベルアップだなんてことが言えるほど余裕があるわけでも無さそうなので……」

「ああ、うん、なんかいつもうちのパーティーメンバーが迷惑かけてすまんな」

「……なんかもう、慣れてきたので気にしないでください」

 

 本当に、悲しいことにな。

 

 

 さて、そうなってくると俺は攻撃しなければいけないが……ここで『コメット』だと一発で1,2体しか当たりそうにない。連発すれば運よく姫様や王様に当たるかもしれないがそんなのはカズマの領分だ、幸運がそこそこ程度で当たる気がしないし、魔力の消費が激しく底をつくのが見える。

 『ガーディアンサテライト』も防衛目的ではいいが、あくまで俺を守るだけだろうし、このたくさんいるように思えるリザードランナーたちに襲い掛かられたらひとたまりもないはずだ。

 

 それなら『コンプレスグラビティ』で多数の撃破、ないしはあの群れの拘束、だな。このスキル、練習していて使い方が分かってきたのだが、効果は弱まるが範囲を広げて、その範囲内の重力を強めることが出来る。当然範囲を狭くすればその分かかる重力、もしくは圧力は強くなっていくが……今回はカズマに狙撃させるためだ、群れの何割かを足止めして狙撃しやすくすればいいはずだ。もしくはめぐみんの爆裂魔法で一気に倒してしまっても良い筈。

 

 それならばさっそく、よく、狙って……できるだけ密集しているところを狙って……今だ、『ポラリス』解除、からの……

 

「狙撃ッ!」

 

 あ、先にカズマの矢が王様ランナーらしき奴に刺さった。頭部を貫かれたリザードランナーは体を震わせ、そのまま倒れた。よし、一匹は倒したし、後は姫様だけ―――

 

「やった!これであいつらも止まるは、ず……って、ええっ!?な、なんであいつら止まらないんだ!おい、王様っぽいの倒したのに、かえって凶暴になっているんだけど!」

 

 …………あれ?何かあの群れ、来る速さがさっきよりも早くなっているんだけど……。

 

「……王様を先に倒すと、新しい王様ランナーになれるチャンスが出来たと影たちは張り切り出すわよ。倒すなら、先に姫様ランナーから倒さないと」

 

 それを先に言えよ!!

 ああ、もう、群れとの距離も大分近くなって危ないし、早く足止めしないと!……群れに標準を合わせて範囲拡大……。

 

「……めぐみん、一旦足止めをしますので爆裂魔法の準備、お願いします。申し訳ありませんが、ダクネスは範囲から漏れた敵から私たちを守ってください」

「もちろん任せてください。ユタカやカズマの見せ場もないくらいの爆裂魔法をとくとご覧あれ!」

「こっちも大丈夫だ。しっかりと受け止めて見せるから安心してくれ……その、私の分くらいは残しておいても構わないからな?」

 

 ダクネスの戯言は一旦無視……

 今だ。

 

「『コンプレスグラビティ』!!」

 

 …………よし、効果通り、範囲内にいたリザードランナーたちは転ぶように地面に縫い付けられた。効果は弱めたといえ、しばらくは動けないほどの重力がその身に掛かっているだろう。

 とは言っても先頭にいた姫様ランナーたちと、魔法の影響に抵抗して範囲から抜け出した十数匹は取り逃したが、姫様はカズマが何とかしてくれるはず。後方のはダクネスに任せよう。

 

「あれ、なんかいつものと効果が違うような気がするのですが?いつもだと、こう、瞬間的につぶれるような感じでしたよね」

「………カズマみたいにスキルを組み合わせたり、少し変化を加えたりするのを見て思いついただけです。あと、これですと魔力の消費が激しいので、できるだけ早急に討伐をお願いします」

 

 バニル戦でもそうだが、俺には大多数の敵を相手にするスキルがあまりない。これはスキルが習得してやっと効果が分かるようなリスキーな職業たる占星術師(ゾディアック)だけでなく、器用貧乏になりがちで習得のスキルポイントが大領に必要になる冒険者でも同じことが言える。そこで、カズマも『初級魔法』だけで様々なことが出来るのなら、俺でもできるのでは?という発想の元、できた案だ。これのおかげでまた妨害役として立ち回れるようになったのは嬉しい。

 ……問題は、スキルを本来の使い方でない方法で行っているためか、魔力の消費が激しくなってしまう。爆裂魔法に比べればまだまだ少ない方だが、俺の現在有している魔力を考えると大分厳しい。

 

「おや、それはすみませんお話は後程、聞かせてくださいね。では、トカゲたちよ、我が爆裂魔法を喰らうが良いっ!『エクスプロージョン』ーッッッ!」

 

 めぐみんはいつもの詠唱を省略しての『エクスプロージョン』が炸裂……

 

 ……炸裂?

 

「……あの、めぐみん?『エクスプロージョン』は……?」

 

 何にも起きていないんだけど。いつもの爆発どころか、輝くような魔力の奔流もないんだけど、一体どうしたんだ?

 

「……魔力が!?あの、爆裂魔法発動に必要な魔力が足りません!」

 

 はあっ!?この土壇場で何言っているんだよ!?もうすでに爆裂魔法を撃ったから空だったなんてアホなことはやめてくれよ!

 

「はっ!?なんでこんな時に限ってそんな……。って、ああっ!今朝やっちまったドレインタッチで……俺のせいかあああ!!」

 

 ……カズマ、お前もか。お前もなのか。何があったかまでは詳しく知らんが、何アホなことしやがる。ドレインタッチしたのなら、ちゃんと返してあげろよ。それで冒険して大変な目に遭ったらどうするんだよ。というか、現在進行形で大変な目になっているよ。

 

「……えー、ダクネス、大変かもしれませんがしばらく前衛をお願いします。とにかくあの群れを引き付けておいてください」

「うむ、任せろ!さっきまでの大群ならともかく、このくらいの数ならずっと引き寄せ続けられるからな!……その、いざとなったら魔法を解除してもいいからな?あのランナーたちもしっかりと引き寄せて見せるから、私を巻き込んで魔法を使って討伐してもいいぞ?」

「……申し訳ありませんが今はそんな馬鹿なこと構えるほど余裕がないです」

 

 もうやだ、頭痛い。ついでに魔力がガリガリ削られていくのに合わせて体がだるい。

 

「……カズマ、ある程度は抑えましたので、姫様ランナーの狙撃を、お願いします」

「お、おう、すまないな……」

 

 あ、なんかいつも以上に平坦な声が出た。すっごい平坦な声が出たよ、自分でも驚きだ。この調子だと眼とかも死んだ魚のような感じになっている気がするなー。はあ……なんでこのパーティーにいると、こんな目に遭う羽目になるのだろうか。

 ともかく、今はランナーたちを抑えておかないと……集中が切れかかって、徐々に体を持ち上げ始めている奴もいるから、再度圧を掛け直しておく。このスキル使っている時は集中していないといけないから、戦況がどんな形になっているかが分かりづらいのも難点だな。今度、しっかりと問題点抽出して危機に陥らないようにしておくか。

 

 

 

「狙撃ッッ!」

「クキャアァァァァッッ!!」

 

 

 っと、背後の木の上からカズマの声とランナーの叫びが聞こえてきた。いったい、どうなっているんだ?カズマは姫様を狙撃できたのか?

 

「……ふう、紙一重だったな……!おーい、無事に姫様、討伐できたぞー!」

 

 そんなカズマの、安堵したような溜息と声が聞こえてきた。どうやら何とかなったようだ。今回も色々と大変だったが、無事で何よりだ。警戒しつつもランナーたちに掛けていた『コンプレスグラビティ』を解除する。情報通り、王様と姫様がいなくなったリザードランナーの群れは先ほどのような凶暴さは鳴りを潜め、普段の大人しいモンスターに戻ったようだ。

 ……さて、今日も疲れたしさっさと帰って報酬を受け取ろう。

 

「って、ああっ!?」

 

 そんな事を考えていたからかは分からないが、後ろの木から鳴り響く軋むような音と、カズマの悲鳴に思わず振り返る。

 

 

 そこにいたのは、枝や幹をよくしならせている木と、その枝から足を滑らせて落ちていくカズマの姿。

 落ちていくカズマの姿が、どこかゆっくりとした動きのは気のせいなのだろうか?段々カズマの頭と地面が近づくのを見ているのに、何故か体が動かない。やっと体が動いたと思って、右手を前に出して―――

 

 

 

 

 ゴキッ

 

 

 

 ―――――世界は、一瞬で時を止まったような錯覚を覚えるくらいに静かに、その音を響かせた。その音の発生源は、木から落ちていったカズマ、正確には頭から落ちていった、奇妙なほど曲がってしまっているカズマの首―――

 

 ふと、腹から何かがせりあがってくる嫌悪感と、何か悪寒のような寒さが、世界が灰色に染まったような感覚が、力が抜けるような―――

 

 

 

 

「か、カズマ!?大丈夫ですかっ!?アクア!カズマが変な体勢で落ちました!回復魔法を……?!ユタカ!?急に倒れこんで大丈夫ですか!」

 

 

 




「ところでユタカだったら、この刀になんて名前を付けるんだ?」
「……………………………………………………………………………………………………」
「ああ、いや、そこまで悩まなくても……」



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第34話 小休止

今回は閑話的なお話です。原作にはないオリジナル展開なのと作者の技量が悪いため、いつも通りの駄文となっています。申し訳ありません。文量も短くてすみません。


「あらあらぁ?なんでこんなところに……あぁ、なぁんだ、ただちょっとこちら側に来そうになっているだけなのねぇ」

 

 酷い眠気と強烈な頭痛のせいで眼すらも碌に開けない闇の中、どこか小さな子に向けて話すようなゆったりとした、気のせいか舌っ足らずに思える女性の甘い声が聞こえる。

 

「それならぁ、早く元の場所に戻りなさぁい。あんまりこっちにいたらぁ、私たち困っちゃうのぉ」

 

 その声にまた眠気が強くなっているのを感じてしまう。なんだこれは、何か魔法か何かでも掛けられているのか?そもそも俺に語り掛けてくる、この女は何なのだ。

 

「ほらぁ、良い子良い子。良い子はぁ、早くおねんねよ?……それにしても不思議ねぇ、別に私たちみたいのに会ったわけでも無いのにぃ、何でここに来れたのかしらぁ?」

 

 するりと髪の毛が動く感覚がした。そして頭を何か柔らかいものがゆっくりとさすってくる。それをこの女性が俺の頭を撫でているのだと気づいた時には―――

 

 

 

 ~~~~~~~~~ 

 

 

 

 結局、俺が気絶した、らしい。俺もあまり実感がないから断定はできないが、帰り道までずっと背負ってくれたダクネスの話によると、カズマが首をへし折ったのと同時に俺は地面に向かって顔面ダイブしたらしい。その時の顔の擦り傷や精神的ショックからはアクアが治療してくれたみたいだが、何か魘されているような声を上げつつ目を覚まさなかったらしい。その後はめぐみんの奇策?でカズマが先に復活したらしく、日も暮れてきたことだしと俺を背負ってきてくれたとのことだ。

 ……奇策って何だよ。ダクネスはそこのところを詳しく教えてくれなかったが……やけに恥ずかしがっていたが、めぐみんはカズマ相手に、本当に何をしたんだよ。

 それにしても、あの夢みたいなのは何だったのだろうか。あの声に関してはどこかで聞いたことがあるはずなのだが……駄目だ、思い出せない。まあ、思い出せないのなら街のどこかで聞いただけなのだろう。きっと、それだけのはずだ。

 

 

 

 で、なんで俺がこんな情報を仕入れているのかというと、それは目の前にいる当事者2が原因だろう。

 

「おおー、カズマから聞いていましたが、思っていた以上に殺風景なんですね。もっとこう、私の心がくすぐられるようなものはないんですか?」

「……少なくともめぐみんが考えているような危険なものはここに置いていない筈ですよ?そんなものでこの宿屋に迷惑をかけるなんてこと、できませんからね」

 

 なんでここにいる、紅魔ロリ。お前には帰る居場所(屋敷)があるだろうが。急に駆け込んできたからまた問題ごとが起きたかと思ったら、この宿屋に泊まらせてほしいって何なんだよ。カズマに屋敷を追い出されたかと思ったらしばらくの間だけだから違うっぽいし……

 

「………そういえば私、何でめぐみんがこの宿屋に泊まる理由を聞いていないのですが。何か事情があるのならお手伝いしましょうか?」

「……あー、えっと、それはちょっと申し辛いことでして、たぶん時間が何とかしてくれると思いますので……それまでちょっと、ここにいさせてください」

「……まあ、今は部屋に空きがありますし、こちらも断る理由はありませんが」

 

 宿屋に泊まってお金を落とす以上、その人はお客様だ。お客様相手にはそれなりの対応を取らせてもらうつもりだ。ただ、無断で俺の部屋に乗り込んできたのなら話は別だが。俺が着替えている時に突撃して気まずいことになったらどうするつもりなのか。

 

「にしても、ここ結構大きな宿だったんですね。小さいながらも食堂らしきところもありましたし……しばらくここに引きこもれませんかね?」

「……あ、この宿、軽食くらいなら出せますが、めぐみんの食べる量を考えますと、ギルドなり屋台なりに言って食べてくる方がいいですよ。この時期だと頼む人もあまりいないでしょうし、期待はしない方がいいですよ」

「そうなのですか、助言に感謝します」

 

 実際めぐみんの食べる量は、小柄な体格なのに大食いというものだ。いったいどれだけ巨大な胃なのだろうか。俺ですらこの姿になってからは大分少食になったというのに。

 

「……んー、ところで、やっぱり私がこうしていることは気になりますか?」

 

 少しためらいがちに問い掛けられた言葉に頷く。いつもならなんだかんだで一緒にいることが多いのに、なぜ今日からしばらくの間離れることになったのかは心配もわく。少なくともこちらは友人だとは思っているんだ。何かあったのかくらいは心配させてもらってもいいだろう。

 

「そうですか……その、それなら説明させていただいてもいいですか?友人のところに押しかけて、何の事情も説明しないというのも……」

「……その、教えてくださるところを水を差すようで申し訳ないのですが、少し待ってもらっても良いですか?冒険したので、体を洗い流したいので……めぐみんも待っているのも暇でしょうし、お風呂、行ってきてはどうですか?」

 

 まだ肌寒いとはいえ今日闘った場所まで徒歩で歩いたことで汗はかいたし、地面に倒れたらしいかもしれないが、服だけでなく髪や顔からも土と草のにおいもするから一旦洗い流したい。

 

「あれ、銭湯に行くのでしたら私も一緒に行きますよ?」

「…………その、銭湯側も私の扱いに関しては困っているようでして……申し訳ありませんが、行くのならめぐみんだけでお願いします」

「……ああ、なるほどです」

 

 あちらも元男の現女なんて厄介な客を入れるわけにもいかないのは仕方ない。今まで黙って入浴していたのも、何か事情があってのものと許してくれただけでも十分にありがたいからな。

 とはいえ、今は大分よくなったとはいえ、ばれたときはまだ冬だったのもあって、桶のお湯とタオルで身体を拭うだけでは寒くて仕方がない。だからと言ってカズマの屋敷の風呂を使わせてもらうのもなあ……

 

「……なので、後でギルドの方で合流という形でいいですか?一緒にご飯も食べましょう」

「そうですね。では、先に着いた方が注文をして待っているってことで」

「……わかりました。では、後程で」

 

 

 

 ~~~~~~~~~~~~~~~ 

 

 

 

 で、各自身体を洗い終わってギルドの集合後、めぐみんの話を聞かせてもらったのだが……

 

「…………………………本当に何やってるんですか」

「いえだって、アクアがしっかりと戻ってこれるようにしたのに、それで復活しないカズマが悪いんですよ……私たちだって、とても心配したのに、あの冗談は笑えませんよ」

 

 心配した俺が馬鹿だった。いや、死んだ世界の居心地が良いから生き返りたくないといったカズマもカズマだが、それに怒ってカズマの下腹部に『聖剣エクスカリバー↓』なんて書くめぐみんもめぐみんだ。何二人して馬鹿なことしてんだ。子供か。もしくは男が攻められる側の同人誌的な落書きでもするつもりか?

 

「えっ?いえ、そこまではするつもりは……というか、ユタカもそんな本を読むんですね……ああ、なるほど、そういう事ですか」

「……待ってください、誤解です。……いえ、男の時にそんなのがあるのは知ってはいますが誤解です……というか、なるほどって何に納得したんですか?」

「ユタカは落書きされることが好きってことでは?」

「それこそ誤解です。私は落書きされたって鬱陶しく思うだけです」

 

 というか、落書きされるのが好きってやつはごく少数なのではないか。少なくとも俺は書かれたところで興奮しないのは確実だろう。……ふと金髪巨乳で、そういった落書きを喜びそうな奴の顔が思い浮かんだが。ダクネスなら率先してされそうだな。いや、妙に初心なところもあるし、恥ずかしがるのか?……割とダクネスの性癖が分からなくなってくる。

 

「……こほん。で、めぐみんはこれからどうしたいのですか?カズマに謝りたいのですか?謝ってほしいのですか?時間が解決してくれるのを願って待ちます?」

…その、あれは衝動的に行ってしまったことですが……ただ、あれはカズマも悪いと思うのですよ!……そう、思います」

「……ん、まあ、一日二日くらいは時間をおいても良いとは思いますね。流石に明日明後日くらいはカズマも怒っているかもしれませんが、三日くらいたてば怒りも収まりはしているかもしれませんし」

 

 そのくらいになったら、アクアかダクネスあたりを通じて何とかしてもいいか。

 

「……とはいえ、友人が困っていますし、多少であれば手伝いますからね」

「……普通に手伝ってはくれないのですか?」

「…………今回のはカズマもカズマですが、めぐみんもめぐみんですよ?というか、こういったパーティーの仲での問題に介入するのはあまりよろしくないので……」

「それは私たち相手に今更じゃないですか」

「……今更だとしても、です。一応とはいえ、私の冒険者としての立場は誰とでも組める臨時メンバーみたいな感じですから、こういった問題に関わってしまうと面倒なことになる可能性がありますので」

 

 依頼だけこなしてあまり自分たちに関わってほしくないっていうパーティーも無くはないし、どのパーティーでも不仲や金銭関係での問題は多少なりともある。そんなところに部外者が首を突っ込んだところで冷たい目で見られるだけだしな。それで前例を作ってしまって変な邪推や疑われるのも面倒なのだ。

 めぐみんには申し訳ないが、こういった問題にはあまり手を貸せないし貸すつもりもない。できるだけ自力で頑張ってほしいものだが……。

 

「それなら仕方ありませんが……とはいえ、流石にカズマのあの答えには気が落ちますね……」

「……もしかしたらカズマも苛立っていただけかもしれませんよ。とにかく今はご飯を頂きましょ?どうせ食べるのなら、美味しく頂いた方がいですよ」

 

 暗いして食べたところで美味しくないかもしれないからな。

 

「……!それに、今日はカズマもダクネスもいないんです。いつも止められていたお酒も飲みませんか?お酒、飲むと気分が爽快になっていいですよ」

「あっ、お酒は結構です。流石にユタカのようにはなりたくありませんから」

「……一応、あれでも自制はしている方なんですが……?」

「あれで自制しているなら頭の中では一体どんなことになっているんですか」

 

 それこそ俺が聞きたい。別にそんなことしたいとも思ってないのに、体が勝手に動こうとするのが悪い。あと、変なことを吹き込んできたお兄ちゃんが悪い。ついでに悪乗りして教えるお爺ちゃんが悪い。俺に非は一切ない、俺は悪くない。

 

「はいはい、料理も来たことですし、ユタカの言う通り楽しく食べましょうね。ほら、早く食べないと冷めてしまいますし、ユタカのエールだってぬるくなってしまいますよ」

「……気のせいか、扱いが雑になってませんか?」

「気のせいですよ、気のせい。ほら、ちょうどいいですしコップ持ってくださいよ」

 

 はあ……もうちょっと丁寧に扱ってもらっても良いのに……ん、分かったよ。ほら、これで良いか?

 

「それじゃ、今はカズマのことも一旦置いておくとして、冒険成功と美味しいご飯に乾杯!」

「……乾杯」

 

 ……ま、とりあえずめぐみんの顔がさっきよりか明るいし、いっか。

 

 

 この後、めぐみんのライバルを自称しているゆんゆんが乱入してきたり、他の冒険者も混ざってきて宴会模様になったりしたが、まあ、特に問題ないか。

 

 




ふたりの宴会での会話?

「ふと疑問に思ったのですが、ユタカは宿屋と冒険者の二つのお仕事していますが辛くないですか?」
「……?別に辛いといったことは……?」
「だって、ユタカはいつも宿屋で働いているか、冒険者としてパーティーを組んでいるかで忙しそうですから、大丈夫なのかなーって思ったんですよ」
「……ああ、それは大丈夫です。そういったのはお婆ちゃんが『働きすぎ!』って怒って無理やり休ませてくれますからちゃんとありますよ?最近は事前に休日を作ってくれますし、迷惑を掛けて申し訳ないのですがありがたいです」
「……その、つかぬ事を聞きますが、以前は休日ってあったのですか?」
「……たしか、ここに来た時は宿屋の人たちに恩返しをしたくて働いていたから……13,4日で1日くらい?のはずです。……あっ、今は最低でも7日で1日はお休みを頂いていますから安心してくださいね」
「ええ………………」


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10についてはそれぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。