俺ガイル×MAJOR (疎かなろあ)
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1話

「まぁ、これから大変だと思うけど頑張りなよ」

 

「ああ、まだどこ行くかは決めてねーが、絶対おめーら海堂ぶっ倒してやるから覚悟しとけよ」

 

「ふふ、分かったよ。楽しみにしてる」

 

「それじゃあな、寿也」

 

「じゃあね、吾郎君」

 

 

 

 

 

 

これは後に高校野球界を騒がせることになる、ある高校球児たちの物語。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

八月中旬、海堂を辞め、転入するまで暇な吾郎は転入しようと考えている三船高校の試合を見に行った。最初こそこれからまた一緒にプレーするであろう小森達の様子を見に行こうと思っただけだったが彼は三船に行くつもりにはなれなくなった。

 

そこには中学の頃から比べれば格段にレベルを上げた小森や大林の姿があった。そして何より吾郎と同じように右投げから左投げに転向した山根がマウンドの上で力投していた。

 

自分たちの道を歩む小森たちの邪魔は出来ないと思った吾郎は三船高校への入学を辞め、他に高校を探すことにした。

 

しかしそうはならなかった。海堂のチーフマネージャーである江頭が手を回し、裏で金のやり取りがあったのでは?と脅し入学出来ないようにしていたからだ。その事を海堂の二軍監督早乙女から聞いた吾郎は義理の父である茂野英毅に伝えた。

 

《 side goro 》

 

吾郎「クソッ!あのとっつぁん坊やめ!片っ端の高校に話してやがる!」

 

英毅「落ち着け、吾郎。まだ手が無い訳じゃない」

 

吾郎「何があるってんだよ!」

 

英毅「お前が創ればいいんだよ。新しく野球部をな」

 

吾郎「なっ!確かにそれなら大丈夫だろうけどな······」

 

英毅「何だ、弱気だな。自信が無いのか?」

 

吾郎「っ!······上等だよ、むしろそっちの方が燃えるってもんだぜ」

 

英毅「ふっ、お前らしいな。これでお誘いも無駄にならずに済んだな。実はだな、あの総武高校からお前にうち来ないかとお誘いがあったんだよ」

 

吾郎「何だって?親父にしちゃ随分頭が回るなと思ったらそういう事かよ。てか総武高校って清水の奴が行ったとこだよな」

 

英毅「そうらしいな。何でも総武高校の理事長がお前に興味があるらしい。さっきの話もその人から教えて貰ったんだよ」

 

吾郎「なるほどな。まぁ何にせよ。良かったぜ」

 

英毅「あっ、お前は知らんかもしれんが総武は進学校らしいから多少の勉強は覚悟しろよ」

 

吾郎「······まじかよ」

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

ところ変わってここは総武高校のある空き教室。そこには2人の女子高生と白衣を着た教員、それと腐った目をした男子高生がいた。

 

《 side hachiman 》

 

平塚「うむ、それでは発表しよう。なんと来月から転校生がやって来る」

 

「「「て、転校生?」」」

 

八月もど真ん中。つまりは夏休み中である。それなのになぜ俺たち奉仕部員がクソ暑い中集まっているかと言うと、平塚先生から呼び出しを喰らったからだ。具体的な連絡が無いまま、奉仕部の部室に来いとだけ言われた。集合10分前に部室に来てみると、中には既に平塚先生と雪ノ下がおり、少しすると由比ヶ浜がやって来た。

 

見たい深夜アニメが溜まっていたので、先生に早くするよう促した。そして冒頭へ繋がる。

 

平塚「そう、転校生だ。時期といい色んな部分で不思議かも知れないが、どうやらスポーツコースに編入ということらしい」

 

そう言えばありましたね、そんなの。実質普通コースとか変わらんから忘れてたわ。クラスも普通に同じだしな。

 

雪ノ下「それは分かりましたが、先生。それがなぜ私たちの呼び出しと関係があるのでしょうか」

 

平塚「それはだな、奉仕部として何かあればそいつのサポートをして欲しいと理事長に頼まれたからな」

 

雪ノ下「理事長がですか······」

 

何か思うことがあるらしい雪ノ下さん。ここはノータッチが正解でしょうね。由比ヶ浜も黙ってるし。それに俺も先生に言いたいことがある。

 

八幡「まったく、何で俺たちがそんなめんどくさいことしないとなんですか」

 

平塚「何でも比企谷。今回の件、うまくいくかどうかはお前に掛かってるらしいぞ」

 

八幡「なんだよそれ、やっぱりめんどくさいじゃないですか」

 

由比ヶ浜「まぁまぁヒッキー、私たちも手伝うし何とかなるよ。うーん······でもサポートっていっても何をすればいいんだろう」

 

平塚「そうだな、なんでも学校生活以外にもその生徒は何か始めるらしからその手伝いをしてあげて欲しい。とのことだ」

 

八幡「これまた適当だな······」

 

平塚「まぁ、そう言うな。取り敢えず奉仕部の理念に反しない程度やってみてはくれないか?」

 

雪ノ下「分かりました。ただし私たちからではなくその人がこちらに依頼してから。ということでもいいですか?」

 

平塚「ああ。そいつには私の方から奉仕部の存在も伝えてみるとするか。理事長にも私が伝えよう。取り敢えず奉仕部としては条件付きではあるがOKということでいいな?」

 

雪ノ下「はい」

 

平塚「そうか。ちなみにそいつは茂野吾郎、と言うらしい。仲良くしてやってくれ」

 

それだけ言うと、先生は部屋から出ていった。茂野、吾郎ね。どんな奴何だろうか。なんか聞いたこともある気もする。スゲェめんどくさいな、絶対何かに巻き込まれんじゃん。未来が見えるわ。はぁ、さよなら。俺の平穏よ。 やっはろー、喧騒なエブリデイ。

 

 

 

 




次回の投稿は12月15日(木)00:00の予定です


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2話

《 side hachiman 》

 

長いようで短かった夏休みも昨日で終わりを告げた。夏休みの宿題は早くに終わらせる派の俺は当然前日に慌てるようなことにはならない。なぜかって?だってもし宿題忘れたら悪目立ちするじゃん。

 

しかしそんな俺も今日から始まる二学期は憂鬱なものだ。早く起きなきゃだし、何か転校生来るし。やな予感するし。

 

若干憂鬱になりながらも、自転車で学校の前まで来てみると何やら騒がしかった。人だかりの中心は2人の男女のようだった。最初こそまた戸部当たりが何かやらかしたかとも思ったが、今日の俺には心当たりがある。ので無視だ。まぁ、無くても無視するけどね。

 

それでも出来るだけ関わらないように、人を避けながら下駄箱まで来ると後ろから声が聞こえた。

 

由比ヶ浜「ヒッキー、やっはろー!」

 

ほらほら、ヒッキーさんとやら後ろから大きな声で呼ばれておりますよ?てかヒッキーとか絶対いじめの対象だろww

 

由比ヶ浜「もうヒッキーてば!おはようて言ってんじゃん!」

 

シラを切っていたら由比ヶ浜に肩を掴まれた。はい、私がいじめの対象でした、まる。さすがに、挨拶をされて無視は酷いかなと若干手遅れながらも、一応返事はしといた。

 

八幡「はいはい、やっはろー、やっはろー」

 

由比ヶ浜「そんなUFO呼ぶみたいに使わないし!」

 

八幡「俺としてはお前が『ベントラー ベントラー』を知ってる事の方が不思議だがね」

 

改めてしっかり挨拶をすると由比ヶ浜は俺の隣を歩き始めた。恥ずかしい、やめて欲しい。

 

八幡「お前、今日は三浦とかと一緒じゃなくて良いのか?」

 

由比ヶ浜「うん。なんかね優美子たち、することがあるだって」

 

八幡「さいですか」

 

まぁ色々夏休みにあったもんな

 

由比ヶ浜「それよりもヒッキー。あの人だかり見た?」

 

八幡「ああ、アレな。どうせ戸部当たりがなんかしたんだろ」

 

由比ヶ浜「戸部っちのことバカにしすぎだし!流石の戸部っちも夏休み明け初日からはしないよ」

 

八幡「つまり明日以降は可能性あるんだな」

 

由比ヶ浜「えっ?うーん······そうかも······」

 

八幡「言った俺が言うのもなんだが否定してやれよ······」

 

やはり戸部。お前ってそういう奴なんだな。可哀想に。同情はしないが。

 

由比ヶ浜「多分だけど、薫ちゃんと誰か男の子が一緒に歩いていたみたいだよ」

 

八幡「薫ちゃん?だれだよ」

 

由比ヶ浜「ヒッキー?クラスメイトを忘れるのは流石にないんじゃないかな······」

 

クラスメイト?そんなものはいらん。あそこには戸塚という心のオアシスがあるだけで他の路傍の石なんか気にしてられん。

 

由比ヶ浜「薫、清水薫ちゃんだよ?ソフト部の」

 

八幡「あー思い出した。で?その薫子ちゃんがどうしたって?」

 

由比ヶ浜「思い出してないじゃん!いや、だから薫ちゃん、姉貴肌?とかいうやつでモテるらしいよ」

 

八幡「それを俺に言ってどうしろってんだよ······。あと姐御肌な。微妙にちげーぞ」

 

由比ヶ浜と話していると教室に着いた。······俺が女子と喋りながら登校なんて世の中何があるかわかんねえもんだな。

 

教室に入ったら、自分の席につき、イヤホンを着け、寝た振りをする。これで「私に話しかけないでください」と意思表示もとい結界を張ることが出来る。これを破るためには大天使トツカエルかコマチエルを連れてこないとダメだ。

 

少しばかりすると、担任がやって来た。教室の角にポツンと一つだけ空席があるがそれ以外は由比ヶ浜の言っていた清水さん?も含め全員いるようだった。どうやら今日は転校生が来るらしい。······由比ヶ浜と目が合った。薄々そんな予感はしてた。どうせ理事長の手回しだろう。

 

担任が入って来いと言うと、1人の男子が入って来た。自己紹介をと促された。

 

吾郎「海堂高校から来ました。茂野吾郎です」

 

それが奴と俺の出会いであった

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

俺は取り敢えず観察をして見ることにした。そいつは所謂スポーツマンといった感じでかなりがっちりしている。顔の方も整っており、タイプ別葉山。と言った感じだ。事実授業の間には女子に囲まれていた。しかもその対応を見る限り、爽やかという訳では無いが、なんというかこう、とにかく悪いやつでは無さそうだ。

 

つまり何が言いたいかと言うとそいつはリア充と呼ぶにふさわしい奴だった。

 

なので特別関わることもなく、6時間目の現国が終わって放課となった。部室に行こうかと片付けていたら、教卓にいる平塚先生に呼ばれた。

 

平塚「すまんが比企谷。このプリントを職員室まで運んでおいてはくれないか?」

 

八幡「それくらい別にいいですけど······。なんかあるんすか?」

 

平塚「話をしたところ茂野の奴を奉仕部に連れていくことになった。本当は由比ヶ浜に頼もうかとも思ったのだが、声を掛けた手前他人任せなのは気が引けてな。なので頼んでおいて何だが出来るだけ早く部室に来てくれ」

 

俺は頷き、平塚先生は清水さん?と話している茂野に声をかけに行った。

 

プリントを職員室に運び終え、部室の前まで来てみると聞きなれない男子の声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 

「俺の依頼は『比企谷八幡』という男子を探すのを手伝って欲しいってことなんだ」

 

 

 

 

 

入らなくても分かる、今この瞬間あの部屋の空気が俺にとって良くない方に大きく変わっていることを······

 




次回の投稿は12月19日(月)00:00の予定です


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3話

今回は少し長いです。


《 side goro 》

 

寿也『吾郎君、総武に行くのかい!?』

 

俺は総武高校に行くことが決まった日、幼馴染でありライバルとなる海堂の寿也に電話をかけた。何故そうなったのか、寿也にも説明した。話しながら寿也が怒っていくのが分かった。共感してくれることは素直に嬉しいもんだ。

 

寿也『なんというか、大変な事になったね』

 

吾郎「まぁな。だけど俺としては前よりも燃えてるぜ」

 

寿也『はは、吾郎君らしいね。総武ね······、ん?確か総武には彼がいるんじゃなかったかな?』

 

吾郎「彼?何だ、中学の同級生か?」

 

寿也『いや、リトルの頃のね。彼のおかげでスターのいなかった僕たちの代が全国に行けたと言ってもいいくらいの選手だよ』

 

吾郎「お前がそういうんだから、よっぽどなんだろうな。でもなんでそんな奴が野球部の無い総武なんかに?俺みたいに怪我でもしたのか?」

 

寿也『ううん、そんな話は聞かなかったしそのままシニアに上がって活躍してたから推薦も来てたはずだよ』

 

吾郎「なるほどね、戦力は少しでも大きい方が良いからな。そいつの名前教えてくれねーか?」

 

寿也『いいけど······。その人の名前は比企谷八幡って言うんだけど』

 

吾郎「比企谷、八幡ね。よし分かった。サンキューな寿也」

 

寿也『良いんだよこれくらい。これから頑張ってね』

 

それだけ言って寿也との会話は終わった。なるほど久しぶりに早く学校に行きたくなってきたぜ。

 

ん?寿也からメールだ。なになに?

 

『総武って進学校ってことで割と有名だから勉強、頑張ってね』

 

······お前もかよ············

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

《 side goro 》

 

吾郎「俺の依頼は『比企谷八幡』という男子を探すのを手伝って欲しいってことなんだ」

 

転校初日、俺はとある空き教室に来ていた。何でこんな所でこんな事を言っているかというと、現国担当の平塚先生が俺に困っていることは無いか?と聞いてきたからだ

 

何でそんな事を?と聞いたら理事長に聞いたと言われた。あーあの人ね、良くしてくれるだけどなんか苦手なんだよな。まぁ、そんなこんなで俺のここでしたいことを先生に話すと、一瞬驚いたような顔になったがすぐそれは笑顔になった。馬鹿にしてんのかとも思ったが、学生の頃は無茶をした方がいいとどうやら肯定する気持ちだったらしい。

 

そして奉仕部という存在を知らされた。何でもお腹の空いている人に魚を渡すのではなく、魚の釣り方を教えるような部活なのだとか。奉仕と聞いてエロいことを考えた自分が恥ずかしい。ひとまず相談してみては?ということでお願いしてやって来たんだけどよ······

 

 

 

 

どうしてこうなるんだよ······

 

 

 

 

《 side hachiman 》

 

一瞬の静寂の後、そこは女性陣の笑い声で満ちた。お前ら俺の名前が出ただけで大笑いしすぎだろ。声で聞くとあの雪ノ下も笑ってんぞ。

 

決めた、なんか腹立つから思い切って教室に入ってやろう。せーの、いち、にの、さんっ!

 

ガラガラガラっ!と引き戸タイプのドアを思いっきり引き開けた。そして再度生まれる、一瞬の静寂。そして聞こえる笑い声。

 

雪ノ下「し、茂野くん······?か、彼がそ、そのふふ、比企谷、八幡君よ······っふふ······」

 

雪ノ下さん?せめて紹介する時くらい笑うのを我慢してもいいんじゃなくて?というか笑い顔可愛すぎんだろ。そのまま告って2〜3秒後には振られるくらい。結局ふられるのね。まぁ即決よりかはましか。

 

吾郎「あんたが比企谷八幡か。俺は茂野吾郎ってんだ。というかクラス一緒だよな?」

 

八幡「一応な、で俺に何の用?」

 

ようやく雪ノ下達の笑い声も収まり、話を進めようと茂野に促した。

 

吾郎「あんたがこの部活に入ってることは何となく分かった。無茶を承知でお願いする、俺が作る野球部に入ってほしい」

 

八幡「野球部、ね······。何で俺に?」

 

吾郎「人から聞いたんだよ。総武には比企谷八幡ていう野球の上手いやつがいるってな。」

 

吾郎「あんたが怪我をしてるとかだったら無理にとは言わない」

 

野球部か。わざわざこの時期に転校してまで作ろうってんだ。雰囲気といい、コイツは優秀な選手なんだろう。海堂から来たって言ってたし。

 

俺は別に怪我をしていたから野球部の無い総武に来た訳では無い。と昔のことを思い出しながらそう思う。だけどここに来て、奉仕部に入って、こいつらに会うことが出来たから昔のことにも蹴りをつけることが出来たんだけどな。

 

俺に野球部に入って欲しいと言われて、雪ノ下や由比ヶ浜、平塚先生は一瞬驚いたようだったが、直ぐ悩ましげな顔になった。3人とも俺がやってたことは夏休みの1件で知ってるからな。

 

由比ヶ浜「······ヒッキーはどうしたいの?」

 

沈黙を破るようにして由比ヶ浜は俺に問いかけた。少し乾いた喉で茂野に問う。

 

八幡「一つ聞きたいことがある。お前は野球部を作って何がしたいんだ?」

 

吾郎「何がしたいか······。俺は海堂をぶっ倒したい。そのために海堂を辞めてここに来たんだ」

 

海堂を倒すか······。

 

八幡「正直に言えば俺は野球をしたい」

 

その言葉に雪ノ下と由比ヶ浜はハッとしたような顔になる。

 

八幡「だけど、それと同じくらいこの部活に対する想いも強い」

 

八幡「だから今すぐにどうするかは決められない」

 

これが俺の本当の気持ちだ。するとそれまで沈黙を貫いていた平塚先生がおもむろに口を開いた。

 

平塚「それなら兼部すればよかろう?」

 

平塚「どちらかに絞る必要などない、そもそも奉仕部の依頼の9割は私の持ち込みだ。つまり無理にこの教室に縛られる理由もないだろう」

 

それはまさに夢のような提案だった。こんな簡単な事に気づかないなんて、自分で思っていたより奉仕部と野球の事を大切におもってたんだな。

 

1度落ち着くと周りのこともよく見えるようになってきた。何かを決めたような雪ノ下や由比ヶ浜の表情とかな。

 

雪ノ下「それなら私も提案があります。茂野くん?野球部が創部されたときには、私と由比ヶ浜さんをマネージャーとして迎え入れて欲しいのだけれど」

 

その言葉に由比ヶ浜も大きく首を頷かせている。どうやら2人の考えは同じようだった。

由比ヶ浜「ヒッキーと同じで、私たちもこの関係に想うことがあるの。だめかな?」

 

雪ノ下も由比ヶ浜も以前と比べ、はっきり自分の意見が言えるようになった。出会ってたった1年と少しだがこの関係が俺たちをいい方向に1歩も2歩も進めてくれたことは紛れもない事実だった。

 

吾郎「もちろんいいに決まってるじゃねーか。断る理由がねぇよ」

 

茂野の答えはYesだった。

 

一連の流れを聞いていた平塚先生は満足そうに呟いた。

 

平塚「雪ノ下と由比ヶ浜、比企谷も成長したな。どうやら私のしたことは間違っていなかったようで安心したよ」

 

こっちは感謝してもしきれませんよ。人生でこんなに良い先生に会えるとは夢に思っていなかった。······ん?······あっ、いいこと思いついた。

 

八幡「茂野、顧問の先生は目処が立っているのか?」

 

吾郎「いや、まだだ」

 

雪ノ下は俺の考えが分かったようだ。由比ヶ浜はまぁ······察してくれ。

 

雪ノ下「それでは茂野くん、平塚先生に顧問についてもらってはいかがかしら?」

 

八幡「雪ノ下それはいい案だな。茂野もどうだ?」

 

吾郎「そうだな、先生お願いします」

 

平塚「······ふふ、これはしてやられたな。分かった、人数が集まり、その他の条件が整ったら私が顧問を務めよう」

 

その言葉にその場にいた全員が笑顔になった。こうして茂野の依頼はすべてが丸く収まったのである。

 

 

 

 

 

 




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4話

お気に入り100件突破しました。ありがとうございます!


《 side hachiman 》

 

茂野の依頼が解決したところでその日の部活はお開きとなった。茂野にキャッチボールに誘われたので俺は茂野と一緒に河川公園まで行くことになった。

 

八幡「そう言えば俺のことをだれかから聞いたって言ってたな。誰に聞いたんだ?」

 

存在感の無さに定評のある俺のことを知っているなんてよっぽどの変わり者か海堂のスカウトくらいなもんだろう。

 

吾郎「寿也って奴に聞いたんだよ」

 

八幡「寿也?寿也って言ったら······、そいつは佐藤寿也か?」

 

吾郎「ご名答。あいつがお前のことをべた褒めしてたぞ、スターいなかった僕たちの代は彼のおかげで全国に行けたってな」

 

八幡「まぁ、スターが少なかったのは事実だな。だけどいなかった訳じゃない。というか佐藤がスターだったけどな」

 

吾郎「寿也らしいな」

 

話しているうちに河川公園に着いた。ここは野球場やサッカーコート、多目的広場やテニスコートなどがあり、今もリトルと思われる野球少年が日が暮れかけてる中、一生懸命に白球を追いかけていた。

 

吾郎「おっ、懐かしいな。ドルフィンズじゃねーか」

 

八幡「お前もしかして旧姓本田?」

 

吾郎「ああ、なんで知ってる?」

 

八幡「お前のおかげでリトルの練習がしんどくなったからな。樫本監督なんて『去年、本田たちドルフィンズの試合で学んだことを忘れたのか』を呪文のように唱えてたからな」

 

吾郎「へへ、そりゃ悪かったな。監督っていったらあのグラサンか。というかお前はあの試合見てなかったのか?」

 

八幡「俺は大会直前にリトルの見学に行ったからな、帯同するわけないさ」

 

吾郎「なるほど」

 

会話をしながら、俺たちはグローブを取り出した。今日は部室で磨こうと思って持ってきたのだった。初めはオイル特有の臭いが嫌だろうと思って、気を使ってしていなかったのだ。しかし2人に一度嗅いでみたいと言われ、持っていったら意外と癖になる臭いのようでそれからは時々こうして持って行って磨いている。それに昼休みに戸塚や材木座なんかともキャッチボール出来るしな。

 

茂野は何となく分かっていたが投手用のグローブだった。しかし意外なことにそれは左投げのようだった。

 

八幡「お前左なのな。てっきり右投げかと思った」

 

吾郎「投げるのだけな。他は打つのも蹴るのも箸を持つのも右だよ」

 

八幡「そうか」

 

吾郎「お前のそれは······二塁手用か?」

 

八幡「一応な、色々やったが結局セカンドが1番楽しいわ」

 

吾郎「そうか、なんかこう······お前らしいな」

 

正反対のようだった俺たち2人は野球に関しては共感出来る部分か多かった。だから会って間もないがこの俺でもスムーズに話すことが出来ているのだと思う。

 

吾郎「行くぞー」

そういってキャッチボールは始まった。上手く捕ると、ぱちんっと小気味の良い音が広がる。やっぱり良いもんだよな。

 

八幡「お前最高何km?」

 

吾郎「あー確か155か6だったような」

 

八幡「はぁ?マジで言ってんのか、変化球は?」

 

吾郎「へっ、俺はストレートだけって決めてんだよ」

 

コイツの球はとにかく伸びが凄い。実際に球が上がっている訳では無いが、そう見える。恐らく初速と終速の差が少ないんだろう。それにこの球の回転は······

 

八幡「そんでもってお前、もしかしてジャイロボーラー?」

 

吾郎「らしいな。いつの間にかなってたんだわ」

 

八幡「そんな簡単なもんでもないだろうに······」

 

コイツとキャッチボールしてて思った。コイツが居れば海堂を倒すってのは案外夢物語じゃねーかもな。

 

吾郎「比企谷、誰か野球部に入りそうなやつはいないか?」

 

そうだな、いないことも無い。やるかどうかはしらんけど。

 

八幡「俺の知る限り、この学年には経験者は割といる。そん中でお前とやってもついていけそうな奴は3人だ」

 

八幡「1人は同じクラスの戸塚、2人めは隣のクラスの材木座、3人めはクラスは知らんが田代ってキャッチャーだ」

 

八幡「恐らくだが、田代であればお前の球も捕れるだろうな」

 

吾郎「なるほど」

 

その後も他愛の無いことを言い合いながら、キャッチボールは続いた。ふと時計を見たら既に1時間近くもキャッチボールをしていた。これ以上は今更だが、怪我も怖いし辞めとくか。それに······

 

八幡「おっと、おうこんな時間だ。そろそろ家に帰らなきゃな」

 

吾郎「何かあんのか?」

 

八幡「俺の可愛い妹が寂しく待ってんだよ」

 

吾郎「ならそろそろ止めるか」

 

軽く使ったところだけトンボをかけた。

 

吾郎「じゃあまた、明日な」

 

八幡「おう、じゃあな」

 

明日が楽しみだ。

 

 

――― ――― ―――

 

八幡「ただいま」

 

小町「おかえり!お兄ちゃん!今日はいつもより帰り遅かったね。奉仕部の依頼でもあったの?」

 

家に帰ると愛しのlittle sisterが出迎えてくれた。こればっかりは兄冥利に尽きるってもんだ。

 

八幡「依頼はまぁ······あったちゃあったな」

 

小町「ん?その引っかかるような言い方は気になるなぁ。もしかしてデートだったりした?」

 

悪戯っぽくそういう小町。あーもうほんとに可愛いな。

 

八幡「なわけねーだろ。色々あったんだよ」

 

小町「ふーん······」

 

八幡「実はな、小町」

 

小町「何?お兄ちゃん」

 

八幡「俺野球部に入ろうと思うんだ」

 

それから俺は今日あったことを小町に話した。茂野という野球馬鹿が転校してきて、野球部を作ろうとしていること。俺が誘われて、了承したこと。一応雪ノ下や由比ヶ浜がマネージャーになることなんかをだ。

 

一通り聞き終えた小町は、嬉しそうにこう言った。

 

小町「小町はお兄ちゃんが決めたことなら文句は無いよ。多分それはお父さんやお母さんも一緒だと思う。実はお兄ちゃんが野球を続けなかったことを1番悲しんでたのはお父さんなんだよ?それに······」

 

そこで小町は話を区切り、こう繋げた。

 

小町「お兄ちゃんが嬉しいなら、小町も嬉しいもんだよ!あっ、今の小町的にポイント高い!」

 

最後のが無ければ八幡的にもめちゃくちゃポイント高いんだけどなぁ。という言葉は胸にしまいこみ、今日はこの兄想いのできた妹にどうやってご褒美をあげるか考えることにした。




次回の投稿は12月22日(木)00:00です
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5話

UA10000突破!皆さんありがとうございます!


《 side hachiman 》

 

吾郎「よっしゃ!ノックいくぞ!」

 

戸塚「いつでもいいよー」

 

材木座「うむ、我もいつでも行けるぞ!」

 

由比ヶ浜「みんな頑張れー!」

 

雪ノ下「由比ヶ浜さん、みんなの分のドリンクを作りましょう」

 

どうしてこうなった······

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

どうしてこうなった。と俺はノックを受けながら考えた。状況を整理しよう。材木座はもうちょっと待って捕ってもいいな。戸塚は······いつも通り可愛いな。

 

違う、そうじゃない。何故こうなったかよく思い出してみよう。確かそれは······

 

 

 

――― ――― ―――

 

吾郎「よう、比企谷」

 

朝、校門をくぐった所で茂野が声をかけてきた。どうやら茂野の噂は全校中に広がっているようで、たびたび「なんで噂の茂野くんと、あんな暗そうなのが?」って声が聞こえてくる。残念だったな、生憎こいつの彼女の名前は野球って子なんだぜ。

 

八幡「ああ、おはよう」

 

吾郎「今日は昨日言ってた奴らを紹介してくれないか?」

 

八幡「いいけど······、戸塚や材木座はともかく田代は面識ないぞ」

 

吾郎「あっ、そうなの?」

 

八幡「ああ、たまたますれ違っただけだ」

 

喋りながら教室まで向かう。こんな事以前までの俺だったらかんがえられなかったな。そして教室に入ると天使が話しかけてくださった。

 

戸塚「おはよう、八幡!それに茂野くんもおはよう」

 

吾郎「ああ、おはようさん」

 

八幡「おはよう戸塚、愛してるぞ」

 

あまりにスムーズに発せられた言葉に誰も気づかない。ソースは俺のあざとい後輩。これが戸塚に愛を伝えたいが聞かれるのは恥ずかしかった俺の生み出した奥義だ。

 

吾郎「戸塚って言ったか?このクラスにお前の兄ちゃんか弟っているか?」

 

八幡「ちなみに言っておくが茂野、戸塚は1人しかいないし、戸塚は残念ながら生物学上は男性だ」

 

吾郎「なん…だと…」

 

戸塚の性別に関してはさしもの茂野も驚いたようだった。

 

戸塚「あははは、2人ともどうしたの?ところで茂野くん、僕に何か用?」

 

吾郎「あっ、ああ。そうだった。戸塚、俺たちと一緒に野球部に入ってくれねーか」

 

戸塚「野球部に?俺たちってことは他にも誰かいるの?」

 

八幡「コイツと俺は確定だ。後は材木座と田代ってやつにも声をかけてみようと思っている」

 

戸塚「材木座くんも?うん、もちろんいいよ。断る理由もないしね」

 

八幡「ありがとう戸塚。結婚してくれ」

 

戸塚「いーよ、八幡。そんなお礼を言われることじゃないって」

 

吾郎「俺からも礼を言うぜ。センキューな」

 

そう、確かこんな感じで朝一番に戸塚の入部が決まったんだった。くそ、やっぱり妄想の戸塚も可愛いけど、やっぱり本物には勝てねーな。これが2次元と3次元の違いか。俺は本物が欲しい。

 

その後はどうだったっけ······

 

戸塚「おっと、そろそろHRが始まるね。材木座くんのことは放課後に聞いてみない?」

 

八幡「そうするか」

 

もっとも戸塚の案に俺が反対するわけないんだけどな。

 

――― ――― ―――

 

そして放課後。俺は由比ヶ浜に部活に遅れると伝えた。一応、理由も説明してな。わかったよーと元気に走り去っていく由比ヶ浜の姿が思い出せる。

 

そしてそこにたまたま暑苦しい中二病患者が通りかかった。その時確か茂野は先生に張り紙を貼っていいか確認しに行っていていなかったんだよな。

 

八幡「ということで、材木座。野球部に入れ。返事ははいか······Yesのみだ」

 

材木座「どっちもYesのみではないか!」

 

八幡「そうだよ、お前に選択権なんかあると思ってんのか?甘ったれんじゃねーぞ」

 

材木座「何で今日の八幡こんなキレッキレなの!?まるで尖ったナイフのようではないか!」

 

八幡「ナイフなんだからそりゃ尖ってるだろ······」

 

おいお前、仮にも作家を志望するならその程度の言葉回しくらいしっかりしろよ。お前がそういう間違いしても何も起こらないんだよ。しいて言うなら俺のヘイトが溜まるくらいだ。

 

八幡「と、冗談はここまでにして。材木座、野球部に入ってくれねーか」

 

材木座「野球部でござるか······。八幡と戸塚殿と······」

 

八幡「あとここにはいないが茂野って奴がいる」

 

材木座「なるほど、なるほど。お主達となら楽しく野球が出来そうであるな。あいわかった。この材木座義輝、野球部に所属しようではないか」

 

八幡「そうか、サンキューな」

 

材木座「このくらいの事我と八幡の仲ではないか。それに我がやりたいのだから、今更止めても聞かんぞ」

 

八幡「ああ、分かってる」

 

コイツは喋り方と見た目がウザったいだけで、根はいい奴だからな。言葉にしたら調子に乗るから言わないが、お前と野球するのもたのしみだぜ。

 

そうこうしていると、茂野が帰ってきた。そして材木座が入部することを伝えた。

 

吾郎「そうか、お前が材木座か。よろしくな」

 

材木座「う、うむ。よくしてやらん······いえ、こちらこそよろしくお願いします」

 

その時材木座は察した。茂野はこういうノリについていけないかもしれない。というか下手したら雪ノ下みたいになるやもしれないと。

 

そんな材木座のビビり具合もよく覚えてる。あっ、思いだした。確かその後······

 

戸塚「この後みんな暇ならどこかで野球しない?」

 

吾郎「おっいいな。なら比企谷、昨日の公園でどうだ」

 

八幡「そうだな、ノックとかもするか」

 

材木座「なら我のゴロさばきをひろうしてやろう!」

 

でそこに、雪ノ下と由比ヶ浜が現れて······

由比ヶ浜「ヒッキーたちどこか行くの?公園で野球?それって私たちも行ってもいい?」

 

吾郎「別にいいよな、比企谷」

 

八幡「特に断る理由はないしな」

 

雪ノ下「それなら由比ヶ浜さん、私たちはスポーツドリンクの粉を買ってきて、ドリンクを作りましょう」

 

八幡「おい······大丈夫なのか?」

 

雪ノ下「別に粉を水で溶くだけだから心配はいらないわ」

 

八幡「そうか、しかしもしもがある。最大限の注意をはらってくれ」

 

雪ノ下「もちろんそのつもりよ」

 

由比ヶ浜「ちょっとゆきのんとヒッキー、私のことバカにしすぎだし!」

 

吾郎「じゃあ、行くか」

 

と、公園に行きキャッチボールをしてからノックをすることになりましたとさ。めでたしめでたし。

 

はい、思いだしました。なんなら俺が話を進めてました。まぁ、別にノックを受けるのが嫌な訳じゃないからな。

 

吾郎「おら、ラスト比企谷いくぞ!」

雪ノ下「その週が終わったら休憩にしましょう」

 

戸塚「ならこの次は何する?軽く打つ?」

 

材木座「ふっ、ついに我が輝く場面が来たか」

 

八幡「あんまり飛ばしすぎなよ」

 

茂野「じゃあラスト、しっかり決めろよ」

 

八幡「ちょっ、おまっ!」

 

ジャージで来て良かった。まさか飛び込ませるとは。

 

由比ヶ浜「ヒッキー、ナイスキャッチ!」

 

吾郎「マジかっ、今のも捕るのかよ」

 

雪ノ下「やはり彼は野球だけは凄いわね」

 

八幡「だけって言うな、だけって」

そして今日も日が暮れるまで野球に励む俺たちであった。

 

 

 

 

――― ――― ―――

《 side ? 》

 

廊下を歩いていると、掲示板に貼り紙がしてあった。

 

いつも気にしてはいなかったが、その貼り紙には大きく『野球部員募集!』の文字が書かれていた。そしてその隣には全校のほんの数人しか面識のないであろう人物の名前が書かれていた。

 

「ヒキタニ、いや比企谷。今度は野球部始めるんだな······。おそらく雪乃ちゃんも一緒に······。ハハッ············俺はいったいどうしたらいいんだろうな······」

 

――― ――― ―――

 

そしてここにも······

 

「先輩また野球始めるんですね。本物か······。私の本物は······、貴方なんですよ?先輩」

 




次回の投稿は12月26日(月)00:00の予定です
感想、評価お待ちしております


それと八幡と誰をくっつかせるかちょっとしたアンケートをとりたいのですが、参加してくださる方は私の活動報告にてお願いします。この投稿から次回の投稿までの間募集してます。宜しくお願いします


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6話

本年最後の投稿となります。来年もどうか宜しくお願いします。それでは皆さん良いお年を。

UA15000&お気に入り150突破!いつの間にかお気に入り100件突破してました······。皆さま本当にありがとうございます!


《 side hachiman 》

 

今日も朝学校へ向かっていると茂野に出会った。一緒に行こうと言うから俺は自転車を降りて、茂野のペースに合わせて歩いた。茂野とは野球の事で話すことが尽きないからいい。材木座とはいつの間にか今期の深夜アニメの話になってるし、戸塚はテンション上がりすぎて何話したか覚えてないし。

 

そんなこんなで歩いていると野球部の話になった。

 

吾郎「今日は田代って奴のところに行こうと思う」

 

八幡「おう、そうか。で奴のクラスは?」

 

吾郎「······知らん」

 

八幡「はぁ······、じゃあどうやって行くんだよ」

 

吾郎「平塚先生に教えてもらえんだろ」

 

八幡「俺も聞いたけど担当してないからわからないってさ。ほかの人に聞こうにも最近はそういうのも厳しいらしくてな」

 

吾郎「じゃあどうすんだよ、片っ端から回るか?」

 

八幡「いや、彼女なら知ってるだろうと言われた」

 

吾郎「彼女?」

 

そう······、あいつとは全知全能を司るウィ〇ペディアさんに負けず劣らずの知識を持つ氷の女神。彼女の名は······

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

 

 

 

八幡「彼女こと雪ノ下雪乃さんだ」

 

雪ノ下「比企谷くん?なにやら貴方の脳内で小馬鹿にされた気がしたのだけど」

 

そう、平塚先生は氷の女神こと雪ノ下雪乃を頼ることを勧めた。なので俺たちは放課後奉仕部の部室に向かった。途中由比ヶ浜に今日は部活に行かないことを雪ノ下に伝えて欲しいと言われた。三浦たちとお出かけなのだろう。

 

そして部室に着くと既に雪ノ下はいた。確かにこいつなら学年どころか学校中の生徒の顔と名前を知っているかもしれない。あっ、俺のことは知らなかったとか言ってましたね······。ユキペディアさんでも知らない俺とかマジすげえ(白目)

吾郎「雪ノ下、田代って奴のこと知ってるか?」

 

雪ノ下「田代くん?一応クラスだけならわかるわよ」

 

なぜ知ってるのか?とは聞かない。俺は同じ過ちを二度繰り返さない男なのだ。

 

吾郎「なるほど、この時間ならまだいるかもな。よしじゃあ行くか!」

 

八幡「おう、いってらっしゃい」

 

吾郎「おう······、って待てや!お前は行かねーのかよ」

 

 

八幡「お前、俺が初対面のやつと話せると思ってんのか?隣で赤べこのようにうなづくことしか出来んぞ。それなら俺はここで紅茶を飲みながら、パワ〇ロのサクセスをする。天才厳選も楽じゃないぜ」

 

良個体が出た時に限って出でくるダイジョーブ博士。今までの努力が泡になる方が確率的に高いのにどうしていつも手術をしてしまうのだろうか。

 

吾郎「たくっ、あっ、······まぁいいやとりあえず俺1人で行ってくるからここで待っててくれ」

 

八幡「あーい」

 

変な間があったが気にしない特に気にしないで俺は茂野を送り出した。

 

戸塚や材木座など奉仕部を訪れる可能性のある面々は今日は揃いも揃って用事があるみたいだ。別にわざわざ報告しなくてもいいのにと、戸塚以外に思った。戸塚以外に。

 

なのでのんびりゲームをしながら、雪ノ下と時々話していると、部室のドアが控えめに開かれた。

 

 

 

 

「あ、あの······野球部のヒキタニさんていらっしゃいますか?」

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

茂野の野郎······、やけに簡単に引き下がると思ったらこういう事か。あいつ勝手にここを野球部の窓口にしやがった。しかも受付嬢は俺。せめてこのすばのようなおねーさんたちが良いよね。

 

俺は雪ノ下に紅茶のお代わりをお願いした。彼にも聞いたがいらないらしかった。

 

というか俺はヒキタニではないのだが、突っ込むのもめんどくさいのでやめておくか。それに······

 

八幡「あー、えーと、野球部に入りたいの?」

 

モブ男「あっはい。何か部活してみたくて、中学でもやってたんで······」

 

そこで目線が雪ノ下の方にチラッと目が向くのを俺は見逃さなかった。そして俺の方に目線を戻すとがっかりというか残念そうな顔になった。なるほどね。

 

八幡「あっそう。でも俺たちそれなりにしんどいこともやるよ?別にそんなお遊びクラブじゃないぞ?ついてこれんのか?」

 

モブ男「あ······、そうなんですか。すいません、もう少し考えてきます」

 

八幡「おう、すまなかったな」

 

そういってどこの誰だかわからない男子生徒は出ていった。

 

雪ノ下「比企谷くん、彼を入部させなくていいの?」

 

八幡「いいんだよ。別に素人でもなんでもいいんだが、やるからには真剣にやって欲しい。なによりあいつは野球より可愛いマネージャー目当てだったしな」

 

雪ノ下「可愛いマネージャー?それって私と由比ヶ浜さんのこと?」

 

八幡「即答かよ······。まぁお前は紅茶を入れていてわからなかったろうが、チラチラ見てたぞ。で、俺の方も見るとがっかりしたような顔になったしな。何を勘違いしてんだか」

 

雪ノ下「でも誰が?私たちがマネージャーをするなんて限られた人しかいないのに······」

 

八幡「俺たちの関係を知っていてなおかつ、俺たちに対して良くない感情を持っているもの。そんなのあいつしかいないだろう?」

 

雪ノ下「そう······また彼が······」

 

八幡「だろうな。あいつの本性を知ってるのは千葉村からの一連の出来事の顛末を知っている奴だけだ。それ以外の奴らにとっては未だに学園の王子様だからな。噂くらい簡単に広められんだろ」

 

雪ノ下「······ごめんなさい。また彼と私のことで迷惑をかけてしまって······」

 

八幡「べ、別にお前が謝ることでもねーだろ。それにあんな奴とお前が一緒にいるとこなんてみたくねーしな」

 

雪ノ下「比企谷くん······」

 

やべー!超はずいんですけどっ!ラブコメの波動を感じる。ラブコメ神よ、貴様生きていたのか?世のリア充どもは毎日こんなことしてんのか(してません)ちょっと尊敬するわ。マジリスペクトっすわ。あっ、やっぱリア充は許さない。そう、絶対にだ。

 

少し浮ついた空気の中、何か話そうとしているとまた部室のドアが開かれた。

 

「あっ、あの野球部のヒキタニさんていらっしゃいますか?」

 

わぁお、これがデジャヴですか······

 

 

 

 

――― ――― ―――

あれから三十分が過ぎようとしていた。今のところ真面目に野球をしたいというのは1年の仲良し3人組だけだった。一応経験はあるらしい。しかしそれ以外に来たやつははすべてダメ。どうしてこうも男は欲望に忠実なのかねぇ。あっ、俺も男だわ。あっ、またドアが開かれた。もう勘弁してくれ······

 

吾郎「ただいま」

 

八幡「お前は絶対に許さん」

 

吾郎「ど、どうしたんだよ······」

 

雪ノ下は帰ってきた茂野に紅茶を出そうと準備し始めた。そして俺は茂野が不在のときにあった出来事を伝えた。多少の肉体言語と共に。

 

吾郎「わ、悪かったって。それよりもいい話があるんだ」

 

八幡「お前、多少の成果で俺の機嫌が治ると思うなよ」

 

田代の件をあいつに投げっぱなしにした奴の吐くセリフでは無いことは理解してるが、やはり納得いかん。

 

吾郎「聞いて驚け、なんと練習試合が組まれたぞ」

 

八幡「練習試合?」

 

えっ、ちょっと部員足りてないんですが······

 

 

 




次回の投稿は1月2日(月)00:00の予定です
感想、評価お待ちしております


また、前回ヒロインアンケートに参加してくださった方々ありがとうございました。今後の参考とさせて頂きます。
ちなみに1位はいろはでした。いろはす〜
追記 アンケートは締め切りました


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7話

あけましておめでとうこざいます。本年もこの作品を変わらずご愛読頂ければ幸いです。


《 side hachiman 》

 

八幡「練習試合?」

 

田代の勧誘から帰ってきた茂野はそう言った。え、何個か階段すっ飛ばしてね?てか部員揃ってないんですが······

 

雪ノ下「茂野くん、相手はどこなの?」

 

吾郎「ああ、帝仁だとよ」

 

八幡「は?帝仁?」

 

おいおい帝仁っていたらいつもベスト8に残る県内の強豪じゃねーか。

 

八幡「なんでそんなとこが部員すらそろってないうちと試合を?」

 

吾郎「なんでも平塚先生の中学の同級生がそこのOBで今は副顧問らしい」

 

あー、先生って友達としては見られるけど彼女には······ってタイプだからな。よく今でもそんな関係続いてんな。俺なんて野球関係者以外なんて連絡どころか、クラスメイトの消息さえ知らんのに。多分向こうもだろうけど。そもそもクラスに俺がいた事に気づいてるやつの方が少ないか。

 

吾郎「んで、俺もさっき練習試合って言ってけど正確には練習試合というよりかは合同練習というかたちらしい」

 

雪ノ下「なぜそんなことを?」

 

八幡「恐らく部員が揃わないことを見越して先生が頼んだんだろう。最悪部員出なくてもでれるように。後は向こうがレギュラーでなく、1年生メインだからだろうな。違うか」

 

吾郎「お前よく分かったな」

 

八幡「まぁそんなんだよな。出来るだけでも良しとするか」

 

そんな事だろうと思ったぜ。名門がうちなんかとはそう簡単にする訳ない。きっと平塚先生が頑張ってくれたのだろう。今度、愚痴の一つくらい聞いてあげるか。

 

そんなことを思っていると電話がかかってきた。以外な事にかかってきたのは、俺の多機能付き目覚まし時計だった。雪ノ下と茂野に断ってから電話にでる。

 

八幡「はい、もしもし」

 

戸塚『もしもし、八幡?僕だよ』

 

はいっ!大天使トツカエルからのお電話でした!何これから天に連れていくっていう神の導きなの?感動のあまり天に召されるの?パトラッシュ······僕もう疲れたよ······。てか戸塚の笑顔を直視したらまじで天に召されるまである。

 

戸塚『もしもーし、八幡?』

 

八幡「あっ、ああ。悪い、何のようだ?」

 

戸塚『実は今偶然材木座君に会ったんだけど······』

 

材木座ぁぁぁぁ!!!後で覚えとけよ!

 

八幡「お、おう。それで?」

 

戸塚『うん、実はグローブを買おうと2人とも思ってるんだけど僕たちのポジションってどうなるのか?』

 

八幡「あー、そうだな。丁度いいから少し聞いてくれるか?」

 

俺は戸塚と近くにいるであろう材木座に、今度試合がある事を伝えた。

 

八幡「それで何だか取り敢えず、戸塚達はこの前ノックした時と同じポジションの物であればいいと思う」

 

戸塚『ほんとに?僕出来るかな······』

 

八幡「大丈夫だ。自信を持て」

 

戸塚『うん!ありがとう!』

 

あぁー癒されるわー。

 

八幡「おう、じゃあな」

 

と言って戸塚との電話は終わった。至福の時間だった。

 

八幡「ところで田代はどうなった?」

 

吾郎「あぁ、入ってくれるって」

 

八幡「まじか?どうやった?」

 

吾郎「いや、取り敢えず球捕れって言って、座らせて、捕らせて、少し話して、そしたら本当は野球やりたいらしいから、やろうぜって誘った」

 

八幡「お前······ほんとにスゲーな······」

 

このコミュ力お化けが。由比ヶ浜でもこんなにスムーズに話進まねーぞ。こいつほど野球馬鹿を体現してるやつもなかなかいねーぞ。

 

雪ノ下「でもまだ1人足りないんじゃなくて?」

 

八幡「そうだな······、あてがないわけじゃないんだが······。取り敢えず明日平塚先生に聞いてみるから、取り敢えず保留ってことにしてくんないか?ちなみにいつ試合なんだ?」

 

吾郎「あーと、確か来週の土曜だったかな」

 

八幡「今日が木曜だから······。あんまりのんびりはしてらんねーな。最低限のことはしねーと」

 

吾郎「そうだな、取り敢えず今日はポジションでも決めるか」

 

八幡「だな。ちなみに雪ノ下、奉仕部の以来は?」

 

雪ノ下「メールが着てるわ。ただ、奉仕部に頼む内容じゃないから平塚先生に回したけど」

 

八幡「そうか」

 

そして今日も日は暮れていく······

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

 

八幡「じゃあ、練習始めるか。取り敢えず各自ストレッチから入ってくれ」

 

ここは毎度お馴染み河川公園。先生と茂野の話では一応部活として認定されたらしいが、諸々の事情でまだ学校のグラウンドが使えないと言われた。じゃあいつもの公園にある野球場をかりることになった。

 

そして今日ここに8人の野球部員とマネージャーの雪ノ下と由比ヶ浜。それから顧問の平塚先生が集まった。奉仕部は今日はメールが無かったそうなので2人とも手伝いに来てくれた。結局部員はあの1年生3人組以外増えなかったがな。

 

田代「ちょっといいか?」

 

誰かに話しかけられた。そういやもう1人増えたな。誰だか分からなかったが、俺がまだ会ってない部員は田代だけなので消去法で辿り着く事が出来た。

 

八幡「なんか用か?」

 

田代「あんたってもしかして横浜シニアの比企谷か?」

 

八幡「ご名答。さぁ、正解したご褒美に何が欲しい?金か?名声か?まぁもっともお前にやるくらいなら俺が貰うがな」

 

田代「知らねーよ······」

 

八幡「でも、よく俺なんて覚えてたな」

 

田代「馬鹿言うな。県内のシニアであんたを知らねーキャッチャーはいねーよ。何度あんたに苦しめられたか」

 

八幡「そうか?俺よりかはクリーンナップの方が警戒されてたように思えたがな」

 

田代「それはどのチームもどうやっても一番のあんたの出塁を止められなかったからな。それならまだ後ろの長渕や堂本とかを抑えることを考えた方がよっぽどいい」

 

八幡「買いかぶりすぎた」

 

由比ヶ浜「ヒッキーってそんなに凄かったんだ······」

 

吾郎「次はキャッチボールしようぜ」

 

一応この部の部長は茂野になっている。ちなみに俺は副部長。面倒くさそうだ······。

 

キャッチボールか······。俺は誰とやろうか。

 

高橋「材木座さん。やりませんか?」

 

材木座「うぬ!高橋、成長したお主の姿見せてみよっ!」

 

高橋とかいう1年生が材木座とキャッチボールを始めた。確かほかの1年の野口と山本も同じ中学出身だったよな。材木座の後輩だったか。まぁ、あいつは暑苦しいのとうっとおしいことを除けばいい奴だからな。声も良いし。

 

戸塚「八幡······。僕としてくれない······?」

 

よっしゃぁぁぁぁぁ!!戸塚よ、何をしたいのか言ってごらん?なんでもしてあげるよ?

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

 

 

八幡「次はノックだな」

 

吾郎「じゃあ今から言うポジションについてくれ」

 

そういって茂野は指示を出す。それぞれの個性や経験を恐らく活かせるようにと考えたポジションだということを理解してくれれば幸いだな。

 

吾郎「じゃあ行くぞ!」

 

そして俺たちは今日も白球を追いかけたのであった。

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

『次は帝仁高校前、帝仁高校前』

 

由比ヶ浜「ヒッキー、ついたよ」

 

八幡「そうだな」

 

試合当日、俺たちは帝仁高校に来ていた。まぁ今日は勝てるかどうかよりかは今の俺たちがどんだけ通用するかってのが一番の目的だがな。というか下手したらコイツらなら勝てるかも。茂野もいるし。

 

そんな甘ちょろいことも考えながら俺たちは帝仁高校のグラウンドに足を踏み入れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




次回の投感想、評価お待ちしております稿は1月5日(木)00:00の予定です。


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8話

今回はきりのいい所までと思ったので、少し短いです。またこの試合だけ別作品から1人、八幡の後輩として出てきます。

UA20000&お気に入り200件突破!皆さんありがとうございます!せっかくだから何か番外編でも書こうかな······




《 side hachiman 》

 

俺たちは今、帝仁高校の校門前にいる。今日はいよいよ総武高校野球部(仮)の初陣だ。否が応でも気合が入ってしまうものだ。

 

吾郎「比企谷、まだ1人足りないけどどうすんだ?」

 

由比ヶ浜「そうだよ、ノゴロッチの言う通りだよ」

 

吾郎「の、ノゴロッチ?」

 

良かったな茂野。これで晴れてお前も『由比ヶ浜のあだ名被害者の会』に所属出来るぞ。

 

吾郎「まぁ、なんでもいいけどよ。それよりなんて言うんだろうな?この、前にもこんな感じで別の誰かに呼ばれたような······」

 

ノゴロー君、それはデジャヴって言うんだよ。それから安心して、今後もある予定だから。

 

八幡「助っ人の件だが、先生に聞いたところ許可は得れた。のでそろそろ来るはずだ」

 

「比企谷せんぱーーい」

 

ほら聞こえてきた、頼もしい後輩の登場だ。なんか女の人と一緒だけど。なんか見覚えあんな。

 

吾郎「比企谷、助っ人呼ぶって、お前清水と知り合いだったのか?」

 

八幡「俺が呼んだのは茶髪のチビの方だよ」

 

大河「チビとは失礼な。これでも先輩が引退してから伸びたんですよ」

 

八幡「どうせミリ単位だろ」

 

大河「············ほっとけよ············」

 

そう、俺が呼んだのはシニアの後輩、清水大河君だ。

 

薫「大河の先輩って比企谷だったのか。それに結衣ちゃんも一緒なの?」

 

由比ヶ浜「うん!私、野球部のマネージャーなんだ!それより薫ちゃんはどうしたの?」

 

これが噂の薫ちゃんか。確かに茂野や由比ヶ浜から聞いてた感じの人だな。うん、そういやクラスメイトだね。今思い出した。

 

薫「私か?私はこいつ弟なんだけど、帝仁の場所分かんないっていうからついてきたんだ。それに久々に本田の試合も見たいしな」

 

そういってつまみ上げられる大河。なんか家で飼ってるカマクラみたいだな。

 

雪ノ下「本田とは?」

 

吾郎「俺の旧姓なんだよ」

 

雪ノ下「それは······、ごめんなさい。無神経だったわ······」

 

吾郎「別に構わねぇさ。それより清水、そう言えば······」

 

そういって茂野は清水さんと話し始めた。······そろそろ入りませんか?

 

「おはようございます!総武高校の皆さんですね。こちらへどうぞ」

 

結局、帝仁の部員に促される形で俺たちは足を踏み入れたのだった。

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

俺と茂野が平塚先生と一緒に向こうの先生のところに挨拶に行くことになった。大河も問題なく部員達と関われているようで一安心だ。

 

監督室に着くと中には金髪碧眼の男性が座っていた。そして······

 

平塚「やまちゃん!」

 

山田「しずちゃん!」

 

平塚先生と硬い握手をしたのであった。

 

唐突に起きた出来事に、俺も茂野も反応できなかった。むしろしたくなかった。

 

唖然としている俺と茂野に平塚先生が説明してくれた。

 

平塚「こちらの山田先生は私の中学以来の友人でな。今回の試合も彼のおかげで執り行われる」

 

俺と茂野がおはようございます。と挨拶をすると

 

山田「oh、貴方達が比企谷君とノゴロー君ですか。今日はよろしくお願いします」

 

そういって、手を差し出してきた。なんというか見た目通りフランクだな。そして隣の茂野は自分がおかしな呼び方をされたことに違和感を持ってほしい。

 

山田「今日はわざわざお越しいただいたのに、レギュラーでなくすいませんね」

平塚「いやいや、無理を言ってるのはこちらなんだ。試合をしていただけるだけで有難い」

 

山田「そういっていただけるなら何よりですよ」

 

まだ平塚先生は山田先生と話すらしい。先に戻っていてくれと言われた。

 

「「「比企谷さん!」」」

 

びっくりした。誰かと思ったらシニアの後輩達だ。俺は茂野に先に戻るように伝えた。

 

八幡「おう、お前らか。今日はよろしく頼むな」

 

後輩A「いえ、比企谷さんと出来るなんて嬉しいです」

 

八幡「そうか、ありがとうな。今日は大河も来てるんだ」

 

後輩B「清水も······。ほんとにまじでやんなきゃ勝てないかも······」

 

八幡「大人げないかもしれんが、俺は勝ちに行くぞ?それに蔵座も帝仁に来てたのか」

 

プロテクターをつけているこいつは蔵座直哉。一つ下だが俺たちの代でもレギュラーのキャッチャーだった。

 

蔵座「ええ、自分は怪我をしてたので公立に行こうと思っていたのですが、ここの山田先生に拾われまして」

 

八幡「そうか、お前がキャッチャーとか簡単に点は取れなさそうだな」

 

蔵座「そうだといいですけどね。うちの先発は軟式出身ですが、いい球を投げますよ。ただ、性格に難がありますけどね」

 

八幡「そうか、まあお互い頑張ろうぜ」

 

そういって俺はベンチの方に戻った。ちなみに三塁側ね。

 

雪ノ下「遅かったわね」

 

八幡「ああ、後輩と話してたんだよ」

 

雪ノ下「意外ね。貴方って後輩には好かれるタイプなのかしら?」

 

八幡「知らねーよ。俺が知りてーわ」

 

後輩というワードを聞いて、俺の脳裏にはあざとい後輩が浮かんでしまった。大分毒されてきたな······。

 

雪ノ下「まあいいわ。貴方も軽くアップして、キャッチボールに混ざりなさい」

 

八幡「それもそうだな」

 

俺はグローブだけ持ってレフトの方に駆け出した。

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

 

茂野「よし、じゃあオーダーを発表すんぞ」

 

キャッチボールも終わり、シートノックが近づいてきた。その前にオーダー交換があるため、だいたいはこの段階でオーダーが発表される。

 

そしてうちのオーダーは······

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

一番 ショート 清水

 

二番 サード 戸塚

三番 セカンド 比企谷

 

四番 ピッチャー 茂野

 

五番 キャッチャー 田代

 

六番 ファースト 材木座

 

七番 レフト 山本

 

八番 センター 高橋

 

九番 ライト 野口

――― ――― ―――

シートノックも終わり、もうすぐで試合が始まろうとしていた。平塚先生も帰ってきている。雪ノ下にはスコアを頼んだ。由比ヶ浜にはアナウンスを頼んだ。

 

審判が出てきた。そろそろだな······

 

審判が声をかけ、両チームともホームを中心に一直線に並ぶ。

 

向こうの選手が帽子を着けろと指摘をされた。

 

「プレイッ!」

 

そして俺たち総武高校野球部の初試合は始まった。

 




次回の投稿は1月9日(月)00:00の予定です。
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9話

《 side hachiman 》

 

帝仁1年「ピッチャー遅せーぞw蔵座、ホームラン打ってこいよww」

 

吾郎「··················」

 

あー、やべーな。そろそろ茂野がプッツンしそう。どうしてこうなったか、これを読んでいる皆さんにお伝えしよう。いわゆる回想シーンてやつだ。それではいこう、ポワポワポワ〜。

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

 

 

試合前、俺は茂野と田代にある事を話した。

 

八幡「悪いんだが茂野、今日お前は取り敢えず120キロぐらいで投げてくれ」

 

吾郎「はぁ!?なんでだよ」

 

田代「俺も賛成だな」

 

吾郎「お前もかよ!」

 

八幡「まぁ、待て。考えてもみろ、海堂の1軍を抑えたお前が本気で投げたら試合にならん。それにどんくらいこのチームは守れるのか見てみたいしな」

 

吾郎「······っち、しょーがねーな。分かったよ、打たせればいいんだろ?」

 

八幡「ああ」

 

そう、俺は茂野に遅く投げるように伝えた。理由はさっき言った通りであいつが本気で投げたら洒落になんねーからな。

 

吾郎「だけどな、俺の辞書に負けて良い試合なんて載ってねーんだよ」

 

八幡「それは奇遇だな。取り扱ってる店が少なくてな、あそこの辞書使いやすいよな」

 

そんで試合が始まると、まあ簡単に打たれましたね、はい。

 

先頭は2球見てからセンター前に運ばれたし、2番には簡単に送られた。さらに3番にはライト前に運ばれ1アウト1、3塁のピンチ。

 

そして迎えるバッターは海堂にも特待生で行けたであろう私の後輩、蔵座直哉君です。

 

はい、回想終了。

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

打たれることを認めていたとはいえ、これじゃあ只のフリーバッティングと同じだ。いや、ランナーがいるからケースバッティングか?いや、どっちでもいいわ。

 

蔵座にこのままだと柵越されるから、もう少し速くても良いと、タイムを取り茂野に駆け寄る。気づいた田代もマウンドにやって来た。

 

八幡「お疲れ、茂野くん」

 

吾郎「おい!これじゃあ只のバッティング練習じゃねーか!」

 

田代「確かにな、これじゃあ守備練にもならねーだろ」

 

八幡「そうだな、次は135くらいで」

 

そういって俺はバックネットの裏にある球速が表示される液晶を見た。ちなみにさっきまでの最速は121です。

 

吾郎「まだ、抑えるのかよ」

 

八幡「ああ、我慢してくれ。最終回は思いっきり投げてくれかまわん」

 

長々話していると審判に注意されたので、そそくさとポジションに戻る。今は1点より、ゲッツーを狙う。いわゆる中間のポジショニングをしている。

 

そして、試合が再開される。茂野の「抑えるのも神経使うんだぞ······」という声が聞こえた。ごめんね、でも君に本気を出させると無双ゲーになっちゃうの。

 

そして茂野の指から放たれた、球は先ほどとは桁違いの速さでストライクコースのど真ん中を通過し、ミットに収まった。

 

あまりの速さにグラウンドの時が止まったのでは?と誰も勘違いしてしまうくらい、その場が静かになった。いや、なってしまった。

 

俺は恐る恐る球速の表示される液晶を見ると、そこには『152』の文字が。あのバカ······。

 

見ろよ、向こうのベンチのほかにもこっちの守備陣や、先生、雪ノ下達までお口あんぐりだ。ポーカーフェイスの蔵座までも目を見開いてんぞ。俺?まぁ、1回見たことあるし。なんか察してた部分あるし。

 

「お、おい······。スピードガン壊れたんじゃね······」

 

帝仁のベンチからそんな声が聞こえる。残念だったな。けど、そう思いたくなる気持ちも分からなくもないが

で、時の魔術師こと茂野はというと

 

 

 

 

吾郎「············(・ω<) テ、テヘペロ············」パッチーン

 

田代「··················」

 

············キャッチャー田代くん、振りかぶって······第1球投げました!

そして様々な意味を含められた、勢いのあるその球はそのまま茂野のグローブに収まった。

 

吾郎「いってぇーな!」

 

お前が悪い。

 

審判も唖然としていたがすぐにストライクとコールされた。

さすがに加減を知った茂野の次の球は外角低めに外れてボールだった。

 

そして、3球目。これまた外角にいったボールは今度はベースの上を通過する、するはずだった。

 

少し踏み込んで、振り切った蔵座の打球はセカンドベースの手前でワンバウンドし、二遊間を抜けようかという当たりだった。

 

 

 

 

 

 

 

まぁ、捕るんだけどね。

 

俺は頭から滑り込み、手を伸ばして打球を捌くと、大河が二塁に入るのが見えたので、寝たままグラブトスをした。

 

そして、トスを受けた大河は1歩踏み出し、一塁に送球した。

 

判定は一塁、二塁共にアウト。つまりはゲッツーで、チェンジとなった。

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

戸塚「ナイスプレー!八幡!」

 

材木座「うぬ!さすが我が認めた男だ!」

 

大河「やっぱり比企谷先輩との守備は楽しいっスわ」

 

雪ノ下「やはり、野球だけは貴方を尊敬せざるをえないみたいね······」

 

ベンチに戻るとみんなが口々に俺のプレーを褒め称える。······雪ノ下はなんかくっ殺みたいな言い方だけども······。

 

吾郎「さすが八幡くん。君はやればできると信じてたよ」

 

八幡「うるせぇ。てかお前は後でお説教な」

 

なんでだよぉぉぉぉ、と茂野の叫びが聞こえるが気にしない。

 

平塚「さぁ、次はこちらの攻撃だ。しまっていけよ!」

 

平塚先生が気合十分にそういう。あの人、スポ根系も好きなのか······。1度ああいうの言ってみたかったんだろうな。

 

何はともあれ、反撃開始と行こうか。

 

 

 

 

――― ――― ―――

《 side zoza 》

 

完璧とは行かないまでも、それなりに捕らえ、センターに抜けようかという当たりをあの人は簡単に捕った。そしてその後も中学生とは思えないくらいのプレーを後輩の清水がした。やはりあの二遊間は頭を抜かないと厳しいな。

 

それにあの投手。1球だけ投げたあの球は······。

 

山田「蔵座くん。あれはしょうがない。向こうの守備が一枚上手でしたね。切り替えて守備も頼みますよ」

 

山田先生が声をかけて下さった。そうだな、と気持ちを切り替えることにした。一番は確か清水だったはず。最初から気が抜けないな。

 

俺は投球練習が終わるとマウンドに駆け寄った。

 

蔵座「一番は中学生だが、横浜リトル、シニアで5年間レギュラーだった奴だ。中学生だからって侮るなよ」

 

「はっ!俺の球が中坊ごときに打たれるわけないだろ?それにほかの奴らも抑えて完全試合してやるぜ」

 

こいつはさっきのプレーや向こうの投手のガタイを見ていないのだろうか。

 

しょうがないので俺はキャッチャーボックスに戻る。そして清水が左打席に入った。

 

大河「お久しぶりですね。蔵座先輩」

 

蔵座「そうだな、簡単には打たせないからな」

 

大河「アンタが簡単に打たせたことなんて見たことねーけどな······」

 

何か呟きながら清水は構えた。俺は初球、外角低めの変化球を要求した。しかしマウンドの上のやつは首を横に振る。要求してきたのはストレートだった。どうやら向こうのピッチャーのことは見てたらしい。対抗心丸出しだ。

 

仕方が無いのでやはり外角低めに構えた。そして放たれた1球は真ん中にいった。

 

清水は初球から振ってきた。ど真ん中の球は簡単にライト前に運ばれた。

 

俺は試合が始まったばかりだが既に胃が痛くなり始めてきた······。

 

 




次回の投稿は1月12日(木)00:00の予定です。
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10話

お気に入り250件突破!皆さんありがとうございます!


《 side hachiman 》

 

大河が初球をライト前に運び、ノーアウト一塁となった。真ん中とはいえ、簡単に打ちやがったな。彼、本当に中学生なんですかねぇ?

何はともあれ、先制のチャンスが生まれた。次の戸塚は初球を見た。ちなみにサインは基本的に俺が出している。

 

初球は外れて、ワンボール。明らかにピッチャーが力んでる。いいとこ、中学生の大河に打たれて怒り心頭ってとこだな。蔵座君、苦労してそう。

 

2球目はノーサインだったが、また見てボール。うーん、大河を走らせてもいいんだけど、どうせなら······。

 

そして3球目。ピッチャーが投げると同時に、大河が走り出した。当然のようにセカンド、ショートが二塁に入ろうとベースに向かって走り出す。

 

しかし、ボールは蔵座のミットに収まることも、二遊のどちらのグローブにも収まることなく、綺麗に一二塁間を転がっていった。

 

そう、俺が出したのは盗塁ではなく、いわゆるヒットエンドランってやつだ。

 

それにしてもまた綺麗に成功したな。さすが戸塚くんは素晴らしい(意味深)

 

ライトが内野に返球する間に大河は三塁まで到達した。

 

そして3番のわたくし比企谷八幡に打順が回る。

 

おーおー、目に見えて困惑してるね。向こうのピッチャー。なんつーか実力のない茂野みてーだな。

 

んで、普通に打ってもつまらないので、待球してフォアボールで出塁しました。簡単でしたよ、ええ。だって彼、ストレートに自信があるのか知りませんが、力で押そうとするもの。確かに1年で128も出れば良い方かもしれんが、そんくらいじゃ私は抑えられませんよ。

 

ノーアウト満塁。そしてバッターは四番。これ以上ない場面だよね。

 

性格が悪い?うるせえ、戦略だよ、戦略。

 

蔵座もなんとかしようとしていたのだろうが、ピッチャーがあれじゃどうしようも出来んよな。

 

そして茂野は甘く入った変化球を捕らえ、レフトフェンスを簡単に越え、先制の満塁ホームランとなったとさ。無慈悲なり。めでたし、めでたし。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

 

 

 

 

 

試合はその後も進み今は八回の裏、おそらくは最後の攻撃となるだろう。なぜならただ今の点差が12対3。ちなみに向こうの3点は蔵座君のホームランです。あいつも充分バケモンなんだけどなぁ。

 

あと向こうのピッチャーは先発は3回6失点、次が2回4失点、でも今投げてるピッチャーは3回2失点ではあるが多分、一番内容は良い。球が特別速いわけでもないが、コントロールがめちゃくちゃ良い。蔵座のミットがほとんど動いてない。それにチェンジアップもいい。ストレートと同じフォームで投げられるからたまったもんじゃない。茂野も三振したし。なかなか無様な三振だった。上手いこと蔵座に出し抜かれたな。しばらくアレでいじってやろう。このまま行けばあいつがエースになるだろうな。なんだっけな、世界?とか言ったかな、ピッチャーの名前。グローブは野手用だったけど。あとバッティングも良かったな。

 

俺?俺はチェンジアップを待ってホームランですけど何か?

 

やっぱり性格悪い?今更だろ。何言ってんだ。

 

そしてなにより最終回は茂野に本気で投げて良いって言っちゃったからなぁ······。無双ゲーが始まるんだろうなぁ。期待は4番の蔵座と5番の世界とかっていうピッチャーのやつだけだな。3番からだから回ってくるし。

 

結局最後の俺たちの攻撃は3人に抑えられてしまった。

 

吾郎「じゃあ比企谷、この回は本気で投げていいんだな?」

 

八幡「······まあ、そう言っちまったしな。ただしぶつけんなよ?マジで洒落になんねーから」

 

吾郎「わかってるよー、じゃあいってきやーす♪」

 

そう言うと茂野はスキップしながらマウンドに向かった。すげえシュールな絵面だ。······ストレス溜まってたんだろうな。いったい誰のせいなのか。えっ、私?そんなの知りません。

 

そっからの茂野はそりゃあもう凄かった。結果だけ言えば3人とも3球三振。バットにかすることさえ無かった。

 

そしてその無双っぷりは向こうのベンチだけでなく、こちらも茂野以外は嬉しさを言葉に出来ないくらい、ドン引きするほどだ。俺たちはそのまま静かに整列し、試合を終えるコールがされた。

 

つまり我ら総武高校野球部は初試合、初勝利となったのであった······。

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

試合後、野球部員の方なら分かると思うが、恒例の行事、レイキをかけた奪い合いが行われた。その姿はさながら領土を奪い合った戦国時代の合戦のように。しかも味方も裏切りの可能性があるとこまで再現される。

 

当然、お邪魔させていただいた俺たちもその合戦に参加する。ただ、戸塚の回りに代わろうとする帝仁の1年生が集まったときにはもうちょっとボコれば良かったかなと割と本気で思いました。

 

俺は持ち前の目の腐りのおかげで誰も代わろうとはしなかった。あとデストロイヤーノゴローも。あいつに関しては俺たちも今は一緒に居たくない。しかし、あいつは本気で投げられたことに満足したのか、その事実に気づいてないのだが。

 

しかし、そんな俺に近づく奴がいた。それも2人も。

 

蔵座「比企谷先輩、かんぱいでした」

 

八幡「おう、お疲れさん」

 

蔵座「結局そっちのピッチャーが本気で投げたのは最終回だけでしたよね」

 

八幡「まあな。済まなかったな、手を抜くようなことをして」

 

蔵座「いえ、それこそ試合になってなかったでしょうし、だけど次やるときは最初から本気で投げさせてみせますよ」

 

八幡「おう、楽しみにしてるよ。てか、多分最後の奴が先発してればもう少し競った試合になったと思うんだがな」

 

俺はそう言って蔵座の隣にいる奴に目を向ける。

 

世界「あ、ありがとうございます!蔵座君の先輩なんですよね。やっぱり凄かったです。ホームランも打たれちゃったし······」

 

八幡「そうだな、あとはもう少し球が速くなって、もう一種類くらい使える変化球があればいい所までいけると思うけど」

 

蔵座「比企谷先輩もそう思いますか。しかもこいつは高校から野球を初めたのでまだまだ伸びしろはありますよ」

 

まじでか。こりゃほんとに化けるかもな。

 

八幡「お互い大会で当たれるようまた頑張って行こーぜ、今日はありがとな」

 

そう言って、俺は蔵座と世界と別れた。

 

その後、俺たちはグラウンドと帝仁の選手に挨拶をして今日は解散となった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

八幡「ただいま」

 

小町「おかえり、お兄ちゃん♪」

 

家に帰ると、愛しの妹が出迎えてくれた。これがあったかハイムってやつか。

 

小町「お兄ちゃん!今日はどうだったの?」

 

小町が楽しそうに今日の試合のことについて聞いてくる。

 

八幡「その前に風呂に入っていいですか?」

 

小町「ええーっ、小町は早くききたいのにー。あっ、そうだ!お兄ちゃん、小町が背中流してあげようか。あっ、今の小町的にポイント高い!」

 

八幡「おい、やめろ。確かにその提案は非常に魅力的ではあるが、それをしてしまうと色んな所から怒られるし、なにより俺が社会的に死ぬ」

 

小町「だいじょーぶ、ごみぃちゃんの社会的地位なんて元からあって無いようなもんだし」

 

最近、小町の言葉が異様に鋭くなっている。これは確実に奉仕部部長兼野球部マネージャーの影響ですね。

 

小町「まあいいや、じゃあ小町勉強するからお風呂上がったら一緒に買い物行こう?」

 

八幡「お兄ちゃん、久々の試合で疲れてるんですけど······」

 

小町「小町、お兄ちゃんが野球部に入ってないときもランニングとかしてたの知ってるからね」

 

それは暗に「お前、運動してたんだからそんなに体力落ってねーだろ」ってことですか。そうですか。

 

八幡「······まあそんくらいなら······」

 

小町「ありがと、おにーちゃん!じゃあ夕飯のときに試合のこと教えてね♪」

 

あいよ、と簡単にだけ答え俺は風呂場に向かう。バタバタバタッと階段を元気に登る音がした。

 

そして俺は1日の疲れを取るべく、この後も肉体労働がある事に嫌気をさしながら、いっときの安らぎを得るべく俺は、入浴をするのであった。

 

 

 




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11話

UA30000突破!皆さんありがとうございます!


《 side hachiman 》

俺たち総武高校野球部の初勝利で終わった、帝仁戦を終え今後どのように練習を進めていくか、俺は考えている。

 

その前に今はいつかだって?

 

ただいま数字とアルファベット、それから中2心をくすぐるギリシャ文字が黒板の上に羅列されている。

 

ここまで言えば分かるだろうか?そう、数学の時間である。数Ⅱか数Bかは各自の想像に任せます。

 

苦手な理数は全捨ての俺は、日頃の睡眠時間となるこの時間で野球の事を考えているってわけ。

 

茂野?あいつは基本的にいつでも寝てるから。平塚先生の時間以外は。何故かって?察しろ。

 

そんなこんなで時間は過ぎていくのであった······

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

 

 

 

放課後、今日も奉仕部には依頼が無かったようで雪ノ下や由比ヶ浜の姿が見える。

 

まだグラウンドの使用について許可が下りないらしく、いつもの河川球場に行くこととなった。

 

大河は一応うちに来ることに決めたらしく、スポーツ推薦を貰えるらしいが、筆記試験もあるらしくお勉強のため欠席だ。

 

取り敢えずアップを済ませると、俺はみんなに集まってもらった。

 

八幡「よし、じゃあ昨日の帝仁戦の反省をしよう」

 

材木座「八幡よ、昨日の試合のどこを反省するというのだ?」

 

八幡「何言ってんだ、打撃面、守備面、走塁面。めちゃくちゃあるぞ」

 

戸塚「そんなにあるんだね············」

 

みんな俺の言葉を聞いて、がっくりしているようだ。だが、口は挟ません。

 

八幡「まず打撃面だが、前半はまだ良かった。それでもバントのミスやストライクとボールの見極めとかはあれだけどな」

 

八幡「だけど6回から出てきたピッチャー、世界って奴なんだが、俺たちは見事に打てなかった。チェンジアップの緩急についていけない奴がほとんどだったよな」

 

そう言うと、思い出したのか顔をしかめる奴も出てきた。

 

八幡「それにあいつは野球を高校から初めたらしい。つまり来年、俺たちとやるとしたらさらに成長してるだろうな」

 

あのピッチャーが高校から初めたばかり、その事実に誰もが驚いている様子だった。

 

八幡「世界だけじゃない。茂野の話じゃ、海堂には茂野と同じくらいの化け物がいるんだ。練習するに越したことはねーだろ」

 

その言葉にみんな納得してくれたようで、ならどうするかと急かしてくる。

 

次の練習の支持だけすると、俺は田代にプロテクターを着けさせていた茂野に声をかけた。

 

八幡「茂野くん?君は昨日何球投げたのかな?」

 

吾郎「あ?100球くらいだろ、多分」

 

雪ノ下「正確には124球よ」

 

雪ノ下さんから茂野の言葉に修正が入る。茂野は鋭い指摘に若干呆然としている。

 

八幡「うん、じゃあ今日は投球禁止な」

 

吾郎「はあ!?たった100球ちょっと投げただけだろ、んなもん関係ねーよ」

 

そう言って何かをアピールするように肩をぶるんぶるんとまわし始めた茂野。

 

八幡「だめだ、投げた次の日は投げるな。てか、田代も言ってやれよ」

 

田代「俺も言ったんだがな、こいつが聞く耳を持たねーんだよ」

 

吾郎「だいたい昨日だって本気で投げたのは最後だけだぜ」

 

八幡「それでもだ、あとキャッチボールも禁止な」

 

そこまで言ってもまだ食い下がろうとする茂野。こういうことは言いたくないんだけどな。俺のキャラ的に。

 

八幡「いいか、ウチは基本的にお前しかピッチャーがいない。そりゃあ作ろうと思えば別のヤツが出来ないこともないが、恐らく勝つことは出来ないだろう」

 

それに、と俺は話を続ける。

 

八幡「野球の試合を作り上げるのは他の誰でもない、ピッチャーなんだよ。ここ一番でお前に投げてもらわねーと話にならん」

 

吾郎「············」

 

やっぱりこういう相手を褒めるように説得するのは俺のキャラじゃないよな······。キャラ崩壊のタグ付けてもらわないと。

 

八幡「第一、お前海堂で休息の大事さとか教えてもらってないの?」

 

何か思うふしがあるのか、納得したような様子の茂野。

 

吾郎「······じゃあ、俺は今日なにすんだよ」

 

八幡「走らせようと思ったが、お前の事だ。日課とかで走ってそうだからな······。守備練習以外は指導に入ってくれ」

 

吾郎「守備練のときは?」

 

八幡「君には外野に入って貰います」

 

吾郎「さっきの話はなんだったのか······」

 

八幡「最後まで聞けよ。大会通してお前が投げ切れればそれに越したことはないが、肩のことを考えるとそうもいかん。野口はセカンドも出来るらしいから、ライトに入ってもらうことになるだろうな」

 

吾郎「ライトなら海堂でみっちりやったことがあるから大丈夫だろ」

 

さらっととんでもないことを言って、茂野は指導に向かった。あいつほどの奴がピッチャー以外のポジションに回せれるとかどんな環境だよ。

 

改めて海堂って馬鹿みたいな場所なんだな、と思いました。そしてそんな海堂に喧嘩を売ろうとしている俺たちもなかなかの大馬鹿者だなと感じました、まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

練習は一通り終わり、日も暮れてきた。ナイター設備のないこの球場でこれ以上は続けられない。もっともナイターあっても、金がかかるからそう簡単には使えないけどな。

 

という訳でグラウンドにレイキをかけていると、由比ヶ浜に呼ばれた。

 

由比ヶ浜「ヒッキー、ゆきのんがなんか呼んでたよ」

 

八幡「ん?ああ、分かった」

 

何でも雪ノ下が俺を呼んでいるらしい。······なんだかとってもやな予感がするのは気のせいなのん?

 

俺はベンチで練習の内容を日誌のように書いていた雪ノ下のところまでいった。

 

八幡「おう、来たぞ。話ってなんだ?」

 

雪ノ下「わざわざごめんなさいね。ちょっとこれを見てほしいのだけれど」

 

そう言って雪ノ下が見せてきたのは雪ノ下のスマホだった。そしてそこには『千葉県横断お悩み相談メール』とでかでかと中央にポップアップされていた。つまりは奉仕部が運営しているサイトが表示されていたのである。

 

雪ノ下「便利な時代になったものね。昔はパソコンでしか出来なかったようなことがこんなものでも出来るなんて」

 

······お前も現代を生きるティーンエイジャーだろうが。

八幡「それでこれがどうしたって?」

 

雪ノ下「よく見なさい」

 

雪ノ下は俺にスマホを押し付けるようにして渡してきた。俺が言うのもなんだがそんな簡単に他人にスマホを渡していいもんなのかね。

 

雪ノ下「······別に、貴方は信用してるからよ······」

 

俺の表情で察したように雪ノ下が呟く。別に俺、難聴ではないので聞こえるんですよね。勘違いしてしまうのでやめて頂きたい。

 

しおらしくなってしまった雪ノ下から目を背けるように俺は手渡されたスマホに目を落とす。

 

するとそこには······

 

『 人を探しています!!

 

私は総武高校1年の女子です。実は今、ある人を探しています。その人は総武高校の2年生で、黒髪、中肉中背で、特徴としては頭から一房生える立派なアホ毛と腐りきった目をしています。誰に聞いても知らないらしく困っています。どうか探すのを手伝ってください。

このサイトの事は平塚先生から教えていただきました。

よろしくお願いします!

HN ラビットハウスのパン作り担当 』

 

 

雪ノ下「······これってあなたの事よね······ 」

 

···············あぁ^〜心がぴょんぴょんするんじゃぁ^~




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12話

《 side hachiman 》

 

奉仕部宛に届いた、某心がぴょんぴょんする系日常萌えアニメのキャラクターを名乗る人物からの一通のメール。

 

雪ノ下「これって貴方のことよね······?」

 

雪ノ下がなんとも言えない表情で尋ねてくる。

 

八幡「············だろうな」

 

さすがにここまで特徴が表されていると、さすがの俺も言い逃れはできない。

 

雪ノ下「えっと······、この人はなんと呼べばいいのかしら?ラビットハウスさん?それともパン作りさんの方がいいかしら」

 

八幡「いや、コ〇アさんと呼ぼう」

 

と俺は青山青眼の白龍(ブルーアイズホワイトドラゴン)さんに言う。あっ、間違えちゃった。てへ。

 

雪ノ下「なにか貴方に馬鹿にされたような気がするのだけれど············」

 

雪ノ下が不満気にこちらをジト目で見てくる。

 

雪ノ下「まあいいわ。そのコ、コ〇アさん?は貴方の知り合いなのでしょう?」

 

八幡「お前、俺に女子の後輩がいると思うのか?」

 

雪ノ下「············ごめんなさい······、私また貴方に酷いことを············」

 

八幡「うん、今の対応の方がよっぽど失礼だけどね」

 

ほんとにこの子は······。以前はどうだったか知らんが、最近は冗談だとわかっているから、別に良いけど。

 

雪ノ下「冗談はこの当たりにして、本当は心当たりがあるんじゃないの?」

 

八幡「ないとは言えんが、可能性は低いと思うぞ」

 

俺の唯一の心当たりは確かおバカさんだったはずだ。そんな奴が総武高校に入れるとは思えんのだが。

 

雪ノ下「そう、とりあえず1度部室に来てもらいましょう。貴方、月曜日は練習無いのよね?」

 

うちの部活は週に一度、月曜日を完全OFFとしている。提案者は俺。理由は適度な休みは必要だし、勉強の時間も必要だからだ。茂野が多少文句ありげだったが論破してやった。やったぜ。

 

八幡「そうだな、ならその日にするのか」

 

雪ノ下「貴方が良ければそうしようと思っているのだけれど」

 

八幡「分かった、ならその日は部室に行くわ。由比ヶ浜にはお前から伝えといてくれ」

 

雪ノ下「ええ、わかったわ」

 

それだけ伝えると、俺はグラウンド整備に戻った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

 

 

 

 

あれから日は経ち、今日は約束の月曜日。俺はこの日のために、早く起きてまであることをしてきた。

 

そんな朝、俺が学校に向かい歩いていると、茂野が後ろから声をかけてきた。

 

吾郎「オッス、比企谷」

 

八幡「······お前、よく俺だと分かったな」

 

1発で見抜かれてしまった。俺の朝はなんだったのか。恨めしそうに呟いてしまった。

 

吾郎「まあな、なんかお前だなーって。あとオーラがそんな感じだった」

 

お前はZ戦士か。俺の気なんてスカウターで表示したところで、『戦闘力······たったの5か······ゴミめ······』とか言われておしまいだよ?

 

というかこいつは見た目とかあんま気にしなさそうだから、考えるだけ無駄か。

 

諦めて茂野と一緒に歩いていると、またも後ろからアホそうな声が聞こえた。

由比ヶ浜「やっはろー!ノゴロッち!」

案の定由比ヶ浜だった。こいつなら俺のしてきた事が無駄じゃないかどうかわかるかな。

 

吾郎「おう、おはようさん」

 

由比ヶ浜「ヒッキーもなんとか言ってよ!······え、えっと、ヒ、ヒッキー······ですよね?」

 

どうやら俺のしたことは無駄では無かったようだ。

 

八幡「おう、おはよう。由比ヶ浜」

由比ヶ浜「あっ、うん。おはよう!······て、違うよ!スルーしないでよ!」

 

心当たりがあるが面白そうなのでシラを切ってみる。

 

八幡「どうしたんだ、由比ヶ浜?いつも思っていることだが、今朝はより一層騒がしいな」

 

由比ヶ浜「毎朝うるさいと思ってんの!?て、違うよ!どうしたの、ヒッキー。いつもと違うじゃん」

 

八幡「俺はいつも通りだぞ?」

 

由比ヶ浜「全然違うよ!アホ毛はないし、なにより目が腐ってない!」

ここで、ネタばらし。今日俺が朝早くに起きてしてきた事とは、アホ毛の削除と目を腐らせないようにすることだ。

 

八幡「どうだ、俺だと分からなかったか?」

 

由比ヶ浜「全然分からなかったよ。ノゴロッちと話してたからヒッキーだな、って思ったから声かけたんだけど、見たら別人かと思った!」

 

八幡「そうか、うまく行っているようでなによりだ」

 

その後も歩きながら由比ヶ浜が俺に尋ねてくる。ちなみに茂野は田代と喋っている。

 

由比ヶ浜「でもどうやったの?」

 

八幡「アホ毛の方はな一家相伝の秘伝の技で治してもらった」

 

由比ヶ浜「そんなのあるんだ!?」

 

八幡「母親の方の秘伝なんだが、普段は愛くるしさの象徴のようなアホ毛だが、そういったものが望まれない場も当然ある。葬式とかな。そんな時に使うワザなんだとか」

 

由比ヶ浜「どんな風にしたらなくなるの?」

 

八幡「俺はよく分からん。小町は母親から受け継いでいて、朝してくれたんだよ。あまりの早業にどうやったのかさっぱりだ」

 

まじで瞬きしてたら、終わってた。小町はもうマスターしているようだった。

 

由比ヶ浜「ヒッキーは習ってないの?」

 

八幡「俺は母親に『あんたはこの奥義を悪用しそうだから』とか言って教えてもらえなかった」

 

人の生死に関わらねーだろ、と今でも思う。

 

由比ヶ浜「じゃあさ、じゃあさ、その目はどうやったの?」

 

八幡「これには複雑な工程があったの。前提条件として、小町曰く俺は野球をしている時はそんなに腐ってないらしい」

 

心当たりがあるのか、由比ヶ浜は思い出すように頭を捻り始めた。

 

由比ヶ浜「あー、確かに野球してる時はけだるげな感じはあるけど、腐ってはないよね」

 

八幡「でな、ここからが俺が考えたのだが、血の繋がっている小町があんだけ綺麗な目をしてるんだから、俺にもその素質はあるのではと思った」

 

由比ヶ浜が相槌を打ってくる。

 

八幡「まずこれがいつもの俺な」

 

そう言って俺は力を抜いて目を腐らせる。

 

由比ヶ浜「あっ!いつものヒッキーだ!」

 

八幡「最初に全身の力を抜きます」

 

由比ヶ浜「うんうん」

 

八幡「次に、何か楽しいこと、胸踊ることを想像しながら軽く目を閉じます」

 

由比ヶ浜「それで?」

 

八幡「最後になんかこう、うまい具合に瞼に力を入れ、限界まで目を見開きます」

 

由比ヶ浜「ほんとだ!すごい!」

 

八幡「だろ。俺もやってみて上手くいくとは思わなかった」

 

しかし、由比ヶ浜は不思議そうな顔をする。

 

由比ヶ浜「でもなんでいつもそういう風にしないの?」

 

八幡「アホ毛はともかく、目の方はめちゃくちゃ疲れる。瞬きのたびに力入れなきゃだし、なにより次の日は脱力感でいつもの3倍腐る」

 

由比ヶ浜「まあいいんじゃない。もちろんその目のヒッキーもかっこいいと思うけど、やっぱりいつものヒッキーの方が好きだな」

 

······この娘は自分が何を言ったのか気づいてないのかしら······

 

八幡「お、おう······、なんだ、その······あ、ありがと、な······」

 

由比ヶ浜「あっ、や、やっぱいまのなし!いや、別にヒッキーのことはそうなんだけど、で、でもそうじゃないっていうか······」

 

八幡「お、おう」

 

由比ヶ浜が頬を染めながら早口で捲し立てるもんだから、危うく勘違いしそうになる。あと俺も恥ずかしいのでやめて頂きたい。

 

八幡「························」

 

由比ヶ浜「························」

 

俺たちはその後空気を読めない茂野が戻ってくることを切に願いながら学校に向かうのであった。

 

やっぱりなんかこの後もしんどそうですわ······。

 

 

 

 




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13話

お気に入り300件突破!皆様ありがとうございます!


《 side hachiman 》

 

その日はもうなんか大変だった。

 

朝茂野の登校すると、普段は嘲笑や蔑みの声が聞こえんばかりの視線が、今日は一般論的にはいい意味で視線を集めてしまった。

 

もちろんその中には蔑みなどなく、むしろ妬みの視線さえ感じた。それもそうだろう。いかにもトップカーストな茂野や由比ヶ浜と一緒に登校しているのだから。

 

平塚先生には驚かれすぎて1発もらったし、材木座にも校舎裏で1発もらった。あれ?やっぱりいじめられてない?当然材木座はただではすませなかったがな。今頃保健室で寝ていることだろう。

 

そんななか、戸塚や一部のヤツらはそれでも普段通り接してくれた。しなしながら、相対的に見るとやはり疲れの方が大きい。割と大差で。しかもまだおおきくなっているときた。もう勘弁してくれ······

 

俺は安直な考えだったと今朝の自分を呪いながら、2度と学校では目に光をともさないことを戸塚に誓った······。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

 

 

 

なんやかんやでいつも通り?授業は進み、放課後となった。

 

俺は依頼人を待たせるのもあれか、と思い未だにクラスで喋っている茂野や戸塚に奉仕部に行くことを告げ、足早に教室をでた。

 

その様子を見てたのか、由比ヶ浜も同様に三浦たちとのおしゃべりを切り上げ、教室から出てきた。

 

いつの間にか俺の隣には由比ヶ浜がいる。昔こそ、慌てふためいたものだが、今の俺はこの程度では動揺しない。もしくはそれだけこいつの存在に対して気を許しているとも言えるのだろう。

 

由比ヶ浜といえば、朝のことはすっかり忘れたのかいつも通りに話してくる。こいつがアホの子で助かった。

 

喋っていると奉仕部に着いた。まだ空いてなかったのでしばらく待つと、鍵を持った雪ノ下が歩いてきた。

 

雪ノ下「ごめんなさい、少し遅れてしまっ············」

 

謝りながらこちらをみた雪ノ下が一時停止をした。どうやら俺は朝と同じ説明をしないと行けないらしい······。

 

雪ノ下「なるほど、事情は分かったわ」

 

結局俺は朝と同じことをして同じような反応を頂いた。······お互い照れて気まずくなるという特典つきでな。

 

雪ノ下「もうすぐ依頼者も来るだろうから、······その比企谷君も座ったら?」

 

八幡「······おう」

 

俺達がいつもの位置に腰を下ろすと、それを待っていたかのように、コンコンと部室のドア2回ノックされた。ノックを2回するのはトイレだぞ?こういう場合は3回が正しい。······このことを説明するのは何回目だろうか。

 

雪ノ下「はい」

 

「失礼しまーす······」

 

不安げな少し間延びした声とともに部室に入ってきたのは、整った顔に亜麻色の髪がセミロングに切りそろえられている女子。制服は今風に若干着崩している。いかにも男ウケの良さそうでリア充って感じだ。

 

入ったはいいがどこに入ればいいのか分からず、借りてきた猫のようになっている彼女を見かねた由比ヶ浜が椅子を出してきて、声をかけた。

 

由比ヶ浜「いらっしゃい!とりあえず座ってよ!」

 

やはりこういう人を気遣うことに関しては由比ヶ浜には頭が挙がらない。雪ノ下がいれた紅茶が彼女に差し出され、1口飲んだところで相談が始まった。

 

雪ノ下「とりあえず貴方の学年と名前を教えていただけないでしょうか」

 

「あっ、はい。1年の一色いろはっていいます」

 

························。1年の一色いろはさんね。はい。

 

雪ノ下「そう、一色さんね。一色さんの依頼は人探しだったわよね」

 

一色「そうです、あっでも多分解決しました」

 

由比ヶ浜「えっ?」

 

雪ノ下「どういう事かしら?」

 

あー、本人の力で解決したならそれが1番だよねっ!よし、お引き取り願おう!

 

一色「多分、その男性(ヒト)が私の探している人だと思います」

 

八幡「いえ、私は貴方の事なんて知りませんよ(裏声)」

 

どうだ、乗り切れたか······?

 

一色「··················『本物』············」ボソッ

 

八幡「やあ!これはこれは一色いろはくんじゃないか!」

 

後輩を忘れたフリをし、しかしその後輩に出し抜かれ、手のひらを返す、情けない先輩の姿がそこにはあった。というか、俺だった。

 

こんな簡単に見破られると俺が早起きまでして、変装してきた意味とは······。

 

俺の音速の手のひら返しをみて、奉仕部部員がドン引いている。

 

一色「やっぱり先輩じゃないですか!どうして名乗り出てくれないんですか!」

 

その一方、一色はさっきまでの大人しさはどこへ行ったのか、お返しとばかりに噛みついてくる。

 

八幡「いや、なんだその。あれがアレだから」

 

一色「なんの説明にもなってないじゃないですか!」

 

雪ノ下「ちょっといいかしら」

 

頭が痛いのか、こめかみを抑えた雪ノ下が、会話を止める。どうした、風邪か?あなたの風邪に狙いを決めてベン〇ブロック、いるか?あっ、俺が持ってんの黄色だったわ。

 

雪ノ下「まず貴方達はどういった関係なのかしら?」

 

由比ヶ浜「そ、そうだよ!なんか妙に仲いいし······」

その問いに対し、俺が答える前に一色が口を開く。

 

一色「私と先輩の関係なんて決まってるじゃないですかー······」

 

そう言って涙目+上目遣いのコンボでこちらを見てくる一色。ふっ、甘いな。確かに中学時代の俺ならそれでも多少心が揺れたがこの1年間、戸塚(天然物)と接しづけた俺は一色(養殖物)なんかに騙されない!

 

八幡「あざとい。つかただの中学の先輩、後輩だろ」

 

俺がしっかり訂正を入れるとなんだかホットしたような顔になる2人。それとは対称的にあざとく頬を膨らませる一色の姿があった。

 

八幡「······なんだよ」

 

一色「何でもないです。それより先輩がどうしてこんな綺麗な方達と同じ空間にいるんですか?」

 

八幡「聞き方に棘がありすぎんだろ······」

 

恐らく一色は何を言っても引き下がらないので、今まで何があったかを簡単に説明した。そして俺と一色にどういう事があったか、ということも一緒に。

 

話しているうちに一色と由比ヶ浜は元のカースト位置が近いせいか、すっかり意気投合してしまった。

 

一色「なるほど、先輩たちは野球部に所属してるんですね······。まあ知ってましたけど······」

 

最後に何かポツリと呟くと、何か決心したような表情を浮かべる。······なんとなく先が読める。

 

一色「なら私もマネージャーしてもいいですか?」

 

ほらな。

 

八幡「お前できんのか?」

 

一色「なっ!失礼なことを言いますね、先輩。私こう見えてもお菓子とか作れるんですからね」

 

八幡「いや、そういう事じゃないんだが······」

 

雪ノ下「茂野くんに聞いてみてだけど、別に断る理由も無いんじゃなくて?」

 

由比ヶ浜「いんじゃない、ヒッキー」

 

まあ確かにそうなんだが······。

 

一色がここぞとばかりに、攻めてくる。

 

一色「せんぱい······。駄目······ですか············?」

 

うっ······。このパターンは······。はぁ、小町に『お兄ちゃんっていろはさんには甘いよね』とか言われるわけだ。もう断る気すら失せた。

 

八幡「一応もう1人代表がいるから、そいつに聞いてみてだな」

 

一色「やったー!ありがとうございます、先輩!」

 

そう言って右腕に抱き着いてくる、一色。お前、女の子が簡単にそういうことしてはいけないって、小学校で習ってないの?おかげで今にもこのチェリーのハートがブレイクしそうだよ?

 

由比ヶ浜「なっ!」

 

由比ヶ浜も驚きでこえが出ないようだ。雪ノ下は······、おっかないから見ないでおこうかな。

 

雪ノ下「比企谷君?こっちを見てもらえるかしら?」

 

あっ、僕は今日死ぬんだな。

 

俺が辞世の句を考えていると、救世主が現れた。

 

吾郎「おい、比企谷。終わったらキャッチボールしよう

、ぜ······」

 

現れたのは、救世主でも女神でもなく、オンリーワンの野球馬鹿でした。

 

そして、彼は部室を眺めてそっとドアを閉めた。

 

············Come back goro!

 

 

 




次回の投稿は1月26日(木)00:00予定です。
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14話

UA4000件突破!皆様ありがとうございます!


《side hachiman 》

現れたのは野球馬鹿(茂野)だった。

 

なのにあいつは俺を見捨てて逃げようとしている。······逃がすわけ無いでしょ?

 

八幡「一色、あいつが部長の茂野だ。あいつに最終確認を貰ってくれ」

 

俺は1人では地獄には落ちんぞっ!フハハハハ!

 

一色「あっ、そうなんですか?」

 

八幡「ああ、ほら茂野入ってこいよ」

 

吾郎「ちぃっ!」

 

あいつ思いっきり舌打ちしたぞ······。

 

八幡「あらかじめ言っておくがあいつにあざといのはきかんとおもうぞ」

 

いや、案外ひっかかりそうだな。具体的にはアメリカ行ったその日に置き引きに逢うぐらいには。

 

一色「こういう時くらい真面目にやりますよっ!」

 

八幡「そうか」

 

さてと······。

 

一色が茂野のところに交渉に行ってる間、俺は雪ノ下と由比ヶ浜の怒りを沈めるべく、頭を地に着けることもいとわない覚悟で死地に赴くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

 

 

 

結論だけ言うと、一色はマネージャーになった。総部員の4分の1がマネージャーになってしまった。いや、別に何か問題があるわけじゃないけど。

 

次の日の練習から、一色も参加することとなった。仕事ぶりはどうかというと、特に問題なくむしろ今まで手の回っていなかった部分にも手が届くようになり、大きなプラスとなったようだ。

 

一色「せんぱーい、一緒に帰りませんか?」

 

八幡「······まあ方向一緒だしな。別にいいぞ。ちょっと待ってろ」

 

由比ヶ浜「えっ、あのヒッキーが一緒におかえり?」

 

雪ノ下「どうしたの、比企谷君」

 

なぜかどよめきが起こる、夕暮れのグラウンド。

 

八幡「······小町に怒られんだよ、一色を1人で帰すなって」

 

吾郎「やりますなー、比企谷殿ぉ」

 

肘で小突いてくる、茂野。えーい、うっとおしい!

 

材木座「はちまん!貴様裏切るのか!」

 

八幡「何を言ってるかわからねーが、そもそも俺とお前は仲間ではない(野球部を除く)よって裏切りではないのだ!」

 

材木座「なん······だと······」

 

雪ノ下「小町さんが······、まあ小町さんが言うのならしょうがないわね。しっかり送ってあげなさい」

 

由比ヶ浜「小町ちゃんが······、ならしょうがないね。バイバイヒッキー、いろはちゃん!」

 

こいつらの小町に対する厚い信頼は何なのだろうか。というか俺も流れで一緒に帰ることに了承しちゃったけど······、まあいいか、別にこいつといることは嫌じゃないし。

八幡「おう、じゃあな」

 

一色「待ってくださいよ、先輩」

 

帰り道、ふと疑問に思ったことがある。

 

八幡「そういやお前、小町と連絡先交換してたろ。なら小町に俺のこと聞けば良かったじゃねーか」

 

一色「私もそう思って、聞いたんですけど『お兄ちゃんですか?お兄ちゃんなら······、はっ!お兄ちゃんの事なら現国の平塚先生に聞くのが一番手っ取り早いと思いますよ!』って言われまして」

 

なるほど、外堀から埋めてきたか。我が妹ながら末恐ろしいものよ。平塚先生に聞かれたら俺の逃げ場無くなるしな。

 

一色「それでー、先輩今月文化祭あるじゃないですかー」

 

文化祭、実行委員、うっ、頭が······。

 

八幡「そうだな、明後日あたりのHRで、実行委員とか決めるんじゃね」

 

俺は二度とやらないと決めているがな。

 

一色「ですです。で、文化祭2日目なんですけど······」

 

八幡「いや、俺1人でいるから」

 

一色「な、なんでですかー!」

 

一色は怒ったように、というかぷんスカあざとく怒りながら、こちらを見てくる。

八幡「いや、去年こそとある事情で動き回ったが、元来俺はああいうの嫌いなんだよ」

 

一色「確かに先輩、合唱コンクールとか普段の倍は目が腐ってましたからね······」

 

八幡「お前良くあんな暗くて、遠いところから俺の事見つけ出したな」

 

一色「何ですか別に先輩だけを見てたわけじゃないのに自意識過剰なんですかむしろ俺はお前のことを見てるんだぜっていう遠回しなアピールなんですか見て欲しくないどころかむしろ推奨なんでこれからもよろしくお願いします」

 

一息に喋ったせいか、一色の頬は赤く上気し、肩で息をしている。······久しぶりに聞いたな、こいつのフリ芸。久しぶり過ぎて最初しか聞いてなかったわ。

 

八幡「お、おう」

 

落ち着いたのか、再度一色が抗議してくる。

 

一色「というかなんで、断るんですか!可愛い後輩と文化祭一緒に回るなんて男子の夢じゃないんですか!」

 

八幡「いやほら、俺ってそこらの奴らとレベルが違うから。というかお前もさらっと自分のことを可愛いとかいうのね」

 

もう別に気にしないけど。事実顔立ちは整っているほうだと思う。

 

一色「事実ですから。いいから一緒に回りましょーよー」

 

八幡「お前はなんで俺と回りたがるんだ······」

 

一色「そんなのさい······、最近物騒じゃないですかー」

 

八幡「流石にそれは無理があると思うぞ······」

 

こいつ、財布と言おうとしたな······。

 

一色「じゃあ、誰かと一緒に回る予定でもあるんですか?」

 

八幡「いや、無いけどよ······」

 

一色「じゃあいいじゃないですか!」

 

八幡「はあ······、良いけど奢らねーからな」

 

一色「むぅ、しょうがない、それで手を打ちましょう」

 

八幡「何でそんな上から目線何ですかねぇ······」

 

図らずして、俺の文化祭2日目の予定が決まったのであった。

 

一色「そう言えば、先輩。今日は葉山って人はいなかったですよね」

 

八幡「······。葉山だと?」

 

俺はその言葉で一瞬黙ってしまった。

 

葉山隼人。恐らく全校のほとんどとの生徒が知っており、男女問わず人気を集める学校の中心と呼ぶにふさわしい存在だと誰もが認める人物。

 

しかしながら、俺たち奉仕部を含め数人の生徒にとっては、苦い思い出がある相手。

あいつは過去に1度大きな過ちを犯した。それは1人の人間の人生を狂わせる可能性のある事だった。そしてその事件は未だに俺の中で引っかかり続けている。あいつはどうしてあんなことを······。

 

一色「············ぱい······。せんぱい!聞いてますか!」

 

八幡「お、おう······。悪い、聞いてなかったわ」

 

一色「······その様子を見ると、違うみたいですね」

 

八幡「それより、なんでお前が葉山のことを?」

 

一色「なんでも、葉山って人が部活に入ってない1年生に声をかけてたみたいで。『野球部に入ってくれないか』って。それに中学の時に野球やってったていう男子からだから葉山って人の説明をされたんですよ。なんでてっきり野球部なのかと」

 

八幡「······そうか。そん時にはマネージャーについてなんか言ってたか?」

 

一色「うーん······。私が聞いた話ではそんなこと言ってなかった気が······。あっでも、掲示板に張ってあったビラには『かわいいマネージャー在籍!』なんでことがかいてありましたよ」

 

アレの犯人は茂野だったのか。後で雪ノ下にちくってやろう。

 

ん?まてよ。なら葉山は純粋に野球部の部員集めを手伝っていたのか?何のために?あいつは俺のことが嫌いなんじゃ無いのか?

分からん、あいつはいったい何がしたいのか······。明日雪ノ下や由比ヶ浜にも相談してみるか。後、あいつらにもしなきゃな。

 

一色「······?どうしたんですか、先輩?」

 

心配そうに見つめてくる一色。こいつは素の性格の時の方が可愛いな。

 

八幡「なんでもねーよ。ほら早く帰んぞ。妹の飯が待ってるからな」

 

一色「相変わずのシスコンなんですね······」

 

八幡「ほっとけ、あと俺はシスコンじゃない。妹が可愛すぎるだけだ」

 

一色「それをシスコンっていうんですよ!」

 

とりあえず今は久しぶりに会った後輩とのおしゃべりを楽しもう。

 




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15話

《 side hachiman 》

 

今日は文化祭の実行委員他、様々な係を決めることになっているらしく、朝俺が学校に登校するとクラスのそこらかしこでその話題が持ち上がっていた。

 

文化祭か······。終わってみたら、良い思い出としての記憶が強いが、ふと細かい部分まで思い出してみようとすると、脳が『ほんとにいいの?』と問いかけてくる。まあ問いかけられてる時点でだいたい思い出しちゃってるんだけどね。

 

あの時は俺の社畜としての才能が垣間見えたと思う。ほんとは垣間どころか、コンクリートのように固く閉ざされていて欲しいところだが。あっでもコンクリも割と簡単に割れるんだよなあ。じゃあだめですね。

 

それでも去年はまだいいと思う。なぜなら実行委員長が現生徒会長のめぐり先輩だからね。なんどあの笑顔に癒されたことか。次のプリティでキュアキュアのアニメに採用すべきだと思う。

 

しかしながら、問題はつきものなので色んなことが起きたよなあ。······もうだめだ。これ以上考えると帰りたくなる。そもそも去年も俺が寝坊したのがすべての始まりなわけで、今年こそはと思いしっかり起きてきた。

 

これでとりあえずは安泰かな。ただし脚本が海老名さんじゃなければだけど······。

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

寝坊しなければ大丈夫だと言ってな。あれは嘘だ。

 

目の前の黒板には『男子実行委員 比企谷八幡』とか白いチョークで書き込まれている。どうしてこうなったか、俺が自らやる訳はないし、推薦もありえない。残された選択肢はそう··················。

 

ジャンケンで負けました。

 

まさか、あの人数から負け残るとは思わなかった。俺が最後に負けて、一人になった時。すなわち実行委員になることが決定した時、茂野と戸部が吹き出していた。あいつら······。戸塚は心配そうな目で見てくれた。可愛いかった。

一応、平塚先生に野球部があるんですけど······と控えめに言ってみたのだが、

 

平塚「すまんなあ、確かに考慮してやりたいがほかの奴らも同じ条件なんでな。君だけに肩入れするわけにはいかんのさ。すまないが、ひとつやってはくれんかね」

 

と逆にお願いされてしまった。確かに平塚先生の言うことはもっともだし、もしほかの部のやつが俺と同じことを言っていたら、先生と同じような考えを持つだろう。あっ、別に知らない奴ばっかだからそもそも気にしないかも。てか気にしねえな。うん。

 

負けてしまったものはしょうがない。今年は少しでもまともな奴がいることを切に願おう。

 

ちなみに女子は良く知らん人になりました。由比ヶ浜がやろうか?みたいなことを言っていたが、部の事を考えるとあまり得策では無いような気がしたので、断っておいた。

 

ただ、もし助けが必要になったら手を貸してくれ。と一言だけ付け足しながら。

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

その後は比較的スムーズに係は決まっていった。しかし海老名さんが脚本担当になった時、 戸部を除いた男子の半数の目が死んでた。仲間が増えたよ、やったねはーちゃん。

 

それから時は経ち、放課後となった。今日は顔合わせだけだからあまり遅くならないと茂野と戸塚に告げ、俺は会議室に向かった。

俺が入ると既にいくつかのグループが出来ているようで、教室の端に人が集まっていた。俺は始まる時間までもうまもなくだということを確認して、角の席に座った。うちのクラスの女子はすぐ後ろでほかのクラスのやつと話してる。議題はなにかって?察してください。

 

俺がスマホをいじって時間を潰していると少しすると、教室に1人の女子生徒が入ってきた。彼女は知り合いでも探しているのかきょろきょろしている。俺は既にスマホに目を戻していた。見つけたのだろう、『せんぱーい』とあざとく呼んでいる。ほら先輩呼んでるぞ。するとこちらの方に向かって歩いていることが分かる。

 

一色「先輩!呼んでるじゃないですか!」

 

耳元で叫ばれた。

 

もちろん鼓膜が云々という程ではないが、俺の意識を向けるには充分だった。

 

八幡「すいません、なんのようですか?」

 

一色「さっきから先輩って呼んでるじゃないですか!どうして無視するんです!?」

 

八幡「いや、お前。先輩なんて呼び方だけで俺は特定出来んぞ」

 

一色「私は先輩の事しか先輩って読んでないんですよ」

 

それはお前なんかの名前なんて知らねーよってことですか、そうですか。

 

八幡「てかなんでお前いんだよ。部活行けよ」

 

一色「私も実行委員なんですよ!」

 

八幡「は?何?推薦かなんかか?」

 

一色「いえ、ジャンケンで負けました」

 

同じ境遇の奴がいた。嬉しくない事実である。

 

一色「どうせ先輩も似たようなもんですよね?」

 

八幡「お前はエスパーか」

 

一色「消去法ですけどね」

 

一色と話して時間を潰していると、少し周りが騒然としていた。一色から目を離し、そちらの方を向くと1人の男子を囲むように数人の女子が連なっていた。その男子は俺とは正反対に位置する奴だった。そう葉山隼人だ。なんというかこれも縁なのか。······やっぱり大変な未来には変わりはないようですね············。

 

 

 

 

 

 

 

その日の会議は自己紹介と担当部署決めが中心だった。俺と一色は記録雑務にした。俺たちは基本的には当日以外はほとんど仕事がないので今日は解散、ということになった。そう、本来は当日以外仕事は無いはずなんだけどなあ······。ちなみに委員長は葉山と一緒に入ってきた相模といういかにもカースト意識の高そうな奴が立候補し、そのまま委員長になった。八幡、ちょっと心配······。

 

葉山もどこかの部署に決まっていたらしく、こちらを少しだけ見ると、早々と出ていってしまった。用事でもあるのだろうか、いやあの相模って奴の相手がめんどくさかったんだろうな。

 

俺も長居をする理由はないので部屋を出て、部活に行こうとすると後ろから一色が追いかけてきた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

その後俺と一色はいつもの如く河川公園で練習している奴らと合流し、練習を行った。練習を終え、ベンチの前に集まる。最近、後片付けをする前に少し集まってミーティングをする事が多くなっている。なので俺はそこで実行委員になったことを伝えた。

 

八幡「俺と一色は、文化祭の実行委員になった。これから文化祭が終わるまでの間、平日の練習には出たり出れなかったりなると思う。迷惑をかけてすまない」

 

それだけ言うと俺は軽く頭を下げた。それに釣られるように一色も慌てて下げる。

 

戸塚「別に頭なんか下げなくてもいいのに。八幡達が謝ることじゃないでしょ?」

 

八幡「でもこの人数だと一人減るだけでも大変だろ」

 

材木座「それはそうだが、お前に無茶をされてもたまらん。お前が倒れてしまっては我たちも困るのでな。手伝えることがあれば遠慮なく言うが良い!」

 

八幡「お前ら······」

 

見ると、田代や1年生達もうなづいてくれてる。

 

雪ノ下「比企谷君それに一色さん、私は今年委員ではないけれど、私たちは奉仕部でもあるのだから手助けはいくらでもするわ」

 

由比ヶ浜「そうだよ!また去年みたいになられても嫌だし、いつでも頼ってよ!」

 

吾郎「まあそういうこった。別に無理にとは言わねーが、うちは1人1人がエースで主軸なんだ。そんな大切な奴のためならいくらでも手を貸すぜ」

 

ほんとにこいつらは······。人生の中でこんなにも多くの人から必要とされるとは思わなかった。少なくとも入学した頃の俺ならまずありえない状況だ。こいつらには感謝しても感謝しきれんな。

 

八幡「おう······、まあ、そのなんだ············、ありがとう·····な·············」

 

少し恥ずかしかったので、若干俯きながら俺は感謝の言葉を述べた。




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16話

《 side hachiman 》

 

俺が実行委員になった事を告げたその日、後片付けも終わり、各々が帰宅の準備をしている中、俺は雪ノ下と由比ヶ浜に集まってもらった。

 

雪ノ下「比企谷君、話とは何かしら?」

 

八幡「ああ、葉山の事なんだが······」

 

由比ヶ浜「葉山くんの事······」

 

俺は先日一色との会話で出てきた葉山についての事実を伝えた。

 

雪ノ下「そう······、そうだったのね。それだけ聞くとその、私たちを支援するような形になるわね」

 

由比ヶ浜「うん······。でもなんでそんなことをしたのかな?」

 

雪ノ下「分からないわ、彼の考える事なんて分かりたくも無いもの」

 

由比ヶ浜「ゆきのん······」

 

雪ノ下「彼は私にとって大切なものを奪おうとしたのだもの。許せるはずがないわ」

 

そう呟く雪ノ下の表情は苦々しげで、それを見ている由比ヶ浜も彼女を心配そうに見ている。無論、俺も似たような表情なんだろう。

 

野球部員はほとんど帰っていき、一色だけは暗い中1人で帰らせる訳にも行かない(小町論)ので待ってもらっている。

 

八幡「確かに雪ノ下が言いたいこともわかる。だから俺は葉山に聞いて見ようと思う」

 

雪ノ下「貴方······本気なの」

 

八幡「マジもマジ、大マジだ。いつまでもこんな風にあいつのことばっか考えてたくない」

 

海老名さんのいい餌だ。まああの人もあの一件があってから俺と葉山をかけ算の公式に当てはめようとはしなくなっているけれど。

 

由比ヶ浜「でもどうするの?」

 

八幡「あいつも実行委員なんだよ。だから様子を見て話を聞いてみる」

 

雪ノ下「話を聞いて貴方はどうするの?」

 

八幡「わからん。少なくとも殴り合いの喧嘩はしねーな。勝てないから」

 

由比ヶ浜「理由が情けないよ!?」

 

八幡「うるさい、俺は自分が一番可愛いんだよ」

 

あっこれは違う。この世で一番可愛いのは戸塚か、小町。これ常識な。

八幡「それでも多分、条件が揃わなければ話しかけられないから、今週の間だけ待っててくれ」

 

今日が水曜日なので。二日間の猶予がある。まあ話すだけなら明日で済むだろう··················。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

はいっ、大変読みがあもうこざいました。結論から言えば、話しかけるどころか目も合わせられませんけどなにか?

 

今日は金曜日。昨日何してたかって?授業受けて、かったるい会議を聞いて、部活しましたけど?だってしょうがないじゃん。あいつの周りにはいつも相模って奴とえっと············、ユッケ?とハルジオン?さんがいるんだもの。流石に八幡あそこに突撃する勇気はないよ。

 

今日も今日とて、今は会議室で一色と喋りながらあいつらが来るのを待っている状態だ。一色も事情は知っているので、少しばかり同情の念があるようだ。

 

一色「まあなんて言うんですか?ほら先輩の好きなアニメにもあるじゃないですかー。えっと、何でしたっけ?あっ思い出した!諦めたらそこで試合終了ですよ!」

 

八幡「確かに好きな作品ではあるけど············」

 

話していると、葉山たちが部屋に入ってきた。······やっぱり憑いてるなあ。

 

少しばかり視線を送ると、俺の中で目下出来れば視界からいなくなって欲しいランキングベスト3の御三方が何やらコショコショ話して、こちらに近づいてきた。まさか旅のパートナーを選べって訳じゃねーだろな。どんな御三家だよ。

 

相模「ちょっとなにさっきから見てんの?ていうか前もチラチラ見てたよね?」

 

は?別にお前らなんか興味ないんだけど······。それこそ名前がわからないくらいには。

 

相模「ゆっこと遥もわかるでしょ?」

 

ゆっこと遥って言うんだ。へー。

 

ゆっこ「てか何?葉山君に憧れてんの?そもそも住む世界が違うからwww」

 

遥「それとも何?アタシ達の事見てたの?wwマジキモイんですけどwww」

 

相模「アンタみたいな、気持ち悪いマジ無理ですからww」

 

こいつら······。やっぱり進学校にもこういう奴らはいるんだよね······。去年もいたな、こんなの。近くの奴らにしか聞こえないような声で言ってくるんだからタチが悪い。

 

でもそれよりも隣のいろはちゃんが激おこプンプン丸なんだけれど。こっちの方が怖いわ。どうしようかなあ······。

 

「さっきから聞いてれば、君たちは彼のことを知らないのに、勝手な事ばかり言うなよ······」

 

思考を遮る低い声が聞こえた。その声からは静かな怒りを感じ取れる。

低い声と言葉遣いから、一色ではない事がわかる。もちろん俺でもない。すなわちそれは━━━

 

 

 

 

 

葉山隼人の声だった。

 

 

 

 

 

突然のことに俺も含め、会話を聞いていた人は全員戸惑っている。ある者は突然の登場に驚き、ある者は何故こいつが?という疑い。そして残るは自分達側だと思っていた人物による裏切りにも似た何かである。

 

八幡「葉山······」

 

葉山「すまない、比企谷。俺に話があるんだろう?」

 

八幡「······ああ」

 

葉山「もう少し静かな場所で話すか」

 

八幡「······おう」

 

未だ唖然としている相模達を捨て置き、俺は一色に一言告げると葉山と共にその場を後にした。

 

葉山についていくと、屋上に繋がるドアの前まで来ていた。ドアは南京錠で閉ざされている。

葉山「ここなら誰にも聞かれないと思う」

 

そういって、南京錠を外した。恐らく壊れていたのだろう。一見留まっているようだったが、簡単に外れた。

 

葉山はそのまま屋上に出た。俺もそれに続いた。

 

葉山は俺と向かい合うと深々と頭を下げた。

 

八幡「なんの真似だ······」

 

葉山「すまなかった」

 

そして口にしたのは謝罪の言葉だった。

 

八幡「それはどの事についてだ?」

 

葉山「夏休みの千葉村のことについてだ」

 

八幡「さっきのは?」

 

葉山「彼女達の失態に俺が関わっていたとしてもそれだけで謝る理由にはならない。そう言ったのは君だし、なにより君はそういうのが嫌いだろう」

 

八幡「良くわかってるじゃねえか。とりあえず頭を上げろ。そのままじゃ話にもならん」

 

葉山「ああ······」

 

こいつの真意を確かめるためにも、俺の考えをまとめるためにも、ここではっきりとさせておくか。

 

八幡「何故謝る?」

 

葉山「それは······、俺が、君を、陥れるようなことになってしまったからだ」

 

八幡「その言いぶりだと狙っていた訳じゃないんだな?」

 

葉山「すまない、言い方が悪かった」

 

八幡「そんなことよりどうなんだ。お前はわざとやったのか?」

 

葉山「······信じて貰えないだろうが、わざとやった訳ではない。だけど俺は罪を受けるには充分過ぎる程の事をしてしまった」

 

八幡「なら、いいわ」

 

葉山「は?」

 

八幡「わざとじゃないんだろ?」

 

葉山「あ、ああ······」

 

八幡「じゃあいいじゃねえか。あの件についてはこれで終わり。雪ノ下達には俺から説明しておくから」

 

それだけ伝えると俺は屋上からでていこうとした。

 

葉山「待ってくれ!」

 

八幡「んだよ?」

 

葉山「どうしてそんな簡単に許すことが出来るんだ!?俺は君を陥れかけたんだぞ!?」

 

八幡「結果だけ見ればな。後俺自身あの件について思うところがなかった訳じゃない。おかげで今日はゆっくり眠れそうだ」

 

皮肉のように聞こえるかも知れないが、これが俺の精一杯の譲歩だ。あいつもこの件では苦しんでいたのてあろう。なら早くケリをつけるべきだ。お互いの利益のためにもな。

 

葉山「だからって······」

 

八幡「なあ、もういいだろ、これ以上何を話すことがある」

 

本当はまだ聞かなければならない事はある。どうして俺たちの事を助けるようなことをしたのか。それは葉山にとってマイナスになることはあっても、プラスにはならないはずだ。

だが俺としては一刻も早く、ここから立ち去りたい。今のこいつは見ていたくない。

 

葉山「······鶴見さんとは連絡とっているのかい?」

 

八幡「とるわけねーだろ。番号も知らんし、もう関わることもねーだろうな」

 

俺はあの一件の中心であった、1人の少女の事を思い出していた。




次回の投稿は2月6日(月)00:00の予定です。
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17話

UA50000突破!皆さんありがとうございます!


────それは俺たちが高校通算2回目となる夏休みに起こった────

 

 

 

 

 

 

 

 

《 side hachiman 》

 

小町「おにーちゃん!ほら行くよ!」

 

······どこに?

 

八幡「おい待て、お前はどこ行く気だ?ワンニャンショーならとっくのとうに終わってるぞ」

 

小町「もう!お兄ちゃんの所にもメールが来てるでしょ?今年も行くんだよ!」

 

何も来てないんですが······。

 

八幡「いや、お前さっきから主語が一つもないから。5W1Hって知ってる?」

 

小町「5W1H?何それ、中学の頃のお兄ちゃんじゃないんだからわからないよ」

 

八幡「5W1Hを中二病患者特有の幻想にするなよ······。こいつは本当に総武に入れんのか······」

 

小町「?お兄ちゃんが何言ってんのかわかんないけど、結衣さんでも入れたし、何とかなるって!」

 

こいつはさらっと由比ヶ浜の事をディスってるよな······。まあ事実なんだけど。

 

小町「て、話を逸らさないでよ!」

 

八幡「ちっ!バレたか」

 

小町「まったく、このごみぃちゃんは······」

 

八幡「で、どこ行くって?」

 

しょうがないから俺が話を進める。なんだこれ?

 

小町「今年も千葉村に行くよ、お兄ちゃん!」

 

八幡「俺に拒否権は?」

 

小町「あると思ってんの?」

 

無いのがデフォルトなんですね、はい。

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

 

 

 

 

俺たちは去年も群馬県にある千葉村を訪れていた。理由は昨年同様小学生の林間学校のボランティアだ。メンバーも戸部、葉山、海老名さん、あーしさんの葉山グループと奉仕部+小町と戸塚のエンジェルズといった二年連続のメンツとなった。葉山たちはクラスも違うのに良くやるよな。

 

やる事は昨年とほとんど同じだったため、それなりにスムーズだったといえよう。葉山は小学生にもモテたし、俺はより一層不気味がられる。うん、いつも通りだな。

 

そういつも通りなのだろう。とある小学生の女の子が孤立しているのも含めて。

 

その女の子は首からデジカメをぶら下げていて、集団から少し離れた場所にいた。その子の名前は鶴見留美。整った顔立ちに年の割には落ち着いた雰囲気だった。雪ノ下をそのまま幼くしたらあんな感じなんだろうなあ。性格も含め。

 

だけど別に去年だって、クラスで孤立していた奴がいなかった訳じゃない。それでもどの場面かで別のクラスの誰かと話しているようだった。つまりそいつは俺のように意図して他人と関わっていなかったという訳だ。お前は違う?······ははっ、何いってんすか。

 

俺自身、留美の性格から最初は自らボッチの道を歩んでいるのかと思っていた。けど違った。留美は周りが子供っぽいなんて言ってたけど、実際は周期的に誰かがハブられるみたいな小学生によくあるくだらないいじめだった。

 

留美は自分の過去の過ちを認めた。しかしだからといって、全てが許される訳ではないし、この状況が打破される訳でもない。

 

それでもその光景は、俺にとっても、誰にとっても見ていて気持ちの良いものではなかった。

 

一日目の夕食時、留美の話題になった。そこで葉山が言った。『なんとかしてあげたい』と。

 

ならどうする、となった時に葉山が発案したのはおおよそ葉山が考えたとは思えない、雪ノ下曰くどこかの目の腐った男が使いそうな手段だった。いったい誰なんでしょうね。

 

葉山の発案したそれはみんな『みんな仲良く』ではなく、『グループを崩壊させ、0に戻す』といったものだった。

 

何故あの葉山が、といった思いはその場にいた誰もが思っていただろうが、何かあるらしい葉山の様子を見たら誰も何も言わなかった。

 

その後、具体的な計画が建てられた。決行するのは二日目の夜の肝試し中にということになった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

雪ノ下「後は誰が彼女らに接触するかね······」

 

この作戦を実行するうえで、もっとも危険なのは実際に小学生を脅す役の奴だ。もし思惑通りに事が進まなければ、実行犯ということで問題になった時に一番責任を負うことになるだろう。やりたがる奴なんてそうそういない。

 

八幡「俺がやるわ」

 

俺を除けば。

 

葉山「な、なんで君がそんなことを!?」

 

由比ヶ浜「そうだよ!ヒッキーがやる理由なんてないじゃん!」

 

八幡「それは誰でもそうだろ?」

 

そう言うと葉山が俺に突っかかって来た。

 

葉山「なら俺がやる!発案したのは俺なんだ。責任も俺1人でとる!」

 

八幡「無理だね。なんでお前がこんな性格の悪い事を考えついたか知らねーが、お前1人では無理だね」

 

葉山「何故そう言い切れる!」

 

八幡「お前は直前まであいつらが仲直りする事を願うだろう。もちろんそうなれば、いいに越したことは無いがまず無理だ」

 

八幡「それにお前は1人でやるといった。どうしたって甘さがでる。お前は嫌な奴だが、悪い奴じゃない」

 

葉山「··················」

 

誰も何も言わなくなった。平塚先生も口を開かない。重苦しい時間だけが過ぎていく。そして誰かがポツリと呟く。

 

雪ノ下「別に貴方が······」

 

雪ノ下が呟いた。

 

八幡「はあ?」

 

雪ノ下「別に貴方がやらなくてもいいでしょう!」

 

雪ノ下の怒ったような声に驚きながらも、なるべく表情を変えないように対応する。

 

由比ヶ浜「ゆきのん······」

 

葉山「雪ノ下さん······」

 

八幡「いや、俺じゃなきゃ無理だね。俺だって葉山が発案しなければ同じような案を出してた」

 

雪ノ下「だとしても!」

 

八幡「それに俺が発案していたら葉山達にやらせていた」

 

その言葉に表情を硬くする三浦や戸部。

 

八幡「俺はそういう奴なんだ。だから今回は俺がやるべきだ。他人を簡単に切り捨ててしまうような俺が」

 

そうだ。決して悪い奴らではない奴の事も簡単に切り捨ててしまうような俺がやるべきなんだ。

 

雪ノ下「昔の貴方はそうかもしれないけど、今の貴方は違うでしょ!?」

八幡「そうかもしれないな。だけどこれは言わば一つのケジメなんだ。だから、俺にやらせてくれないか?」

 

雪ノ下も黙ってしまう。もうこうなると誰も何も言えない。また沈黙が生まれてしまう。葉山が悔しそうに言ってきた。

 

葉山「······わかった。君に······お願いするよ······」

 

八幡「おう」

 

小町「ねえお兄ちゃん?」

 

すると、ここまで黙っていた小町が口を開いた。

 

小町「別にお兄ちゃんの予定では上手くいくんでしょ?」

 

八幡「?あ、ああ。多分な」

 

この妹は何が言いたい?

 

小町「じゃあ大丈夫だね!お兄ちゃん自分にとってメリットになるのかデメリットになるのかは異様に頭が回るしね!」

 

八幡「なんだろう、褒められているはずなのに貶されてる気分だわ」

 

しかし小町が言いたいことはわかった。おかげで心配そうな顔をしていた雪ノ下や由比ヶ浜も表情が明るくなった。さすが我が妹、出来た子だぜ。

 

小町「それにお兄ちゃんの事を心配してくれてる人だっているんだよ」

 

おう、それは知ってるさ。こいつらのおかげでな。

 

小町「もちろん、小町もだけどね。あっ!今の小町的にポイント高い!」

 

八幡「その一言が無ければな······」

 

まったくこの妹は······。そんな満面の笑みでこっちをみやがって。可愛いじゃねぇかこの野郎。なんかブラコン過ぎて心配になるんだけど。······本当に可愛い出来た妹だよ、お前は。

 

雪ノ下「わかったわ、比企谷君。確かに小町さんの言う通りね。貴方リスクリターンの計算だけは得意だものね」

 

八幡「そうだな。なんなら教科書に載ることを切望してるまである」

 

小町のおかげで、なんとかまとまる事が出来た。そして俺たちは決戦の二日目を迎えようとしていた。

 

 




戸塚「八幡、僕だって心配してるんだからね!」

大天使トツカエルを召喚出来なかった······。じ、次回こそは!

次回の投稿は2月9日(木)00:00の予定です。
感想、評価お待ちしております。


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18話

お気に入り400件突破!皆さんありがとうございます!
只今、本作品の番外編を誠心誠意執筆中でございます!本編で拾えなかった、そのままにしておくには勿体ないネタをかき集めました。完成次第報告致します!


《 side hachiman 》

 

結果だけ見れば、目論見通りに行った。しかし、その工程は酷く醜いものだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

 

俺たちは肝試しの進行をこちらで操作する事で、一番最後に問題の班を回した。そして、本来の道では崖の方は危険なのでカラーコーンで封鎖してあったが、前の班とかち合わないようにするため、あえて崖の方に誘導した。

 

俺は指定の場所へ先回りするため、彼女達の様子を少しだけ伺ったが、ショボイ仕掛けに高校生を馬鹿にしている様な事さえ言っていた。ここまでは予想通り。後は俺と留美が上手くやればこの作戦は上手くいく。

 

俺はあらかじめ最悪の事態の予防策として留美にある事をしてもらうことになっている。

 

林の間を縫って、彼女たちより先に所定の位置に着いた。もう少しすれば来るはずだ。

 

足音がする。そろそろだな······。

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

「ねえ、なんでアンタなにも着替えてないの?wwバカじゃないのー?ww」

 

「高校生なのにそんなこともわからないのー?www」

 

「恥ずかしいーwww」

 

彼女達は俺も見ると直ぐに、口々に馬鹿にしてきた。普段ならこんくらいじゃ怒る所か、相手の頭の悪さに同情するまである。しかも小学生ごときに。仕方ない。俺も演技のため、仕方なく声を張り上げるとするか。

 

八幡「はぁ?お前達、何調子乗ったこと言ってんの?」

 

······やばい、思ったより低い声が出てしまった。俺と器ちいせぇな。まあ、そんなこと周知の事実か。

 

まさか、キレられると思ってもいなかったのか、彼女達の顔に不安の色がで始める。······畳み掛けるなら今だな。

 

八幡「てか、お前昨日から割と調子乗ったこと言ってたよな」

 

八幡「知らねーだろうけど、俺らはっきりいってお前らの事ウザイとしか思ってないから」

 

八幡「そう言えば、お前ら誰が虐めてるんだっけ?そんな屑共には、お仕置きが必要かな?」

 

そこまで言うと、いい加減自分の置かれた立場を理解したのか、一気に青ざめ始めた。

 

八幡「そうだな、お前ら······、5人か。よし2人だけ置いてけ。他のは勝手に帰れ」

 

そう、これこそ人間の本性が丸見えになる『〇人だけ許してやるよ』作戦である。恐らくこれでこいつらの人間関係はまっさらになる。

八幡「ちなみにお前ら、誰かにチクったらお前らがいじめをしていた事もばらすし、顔も覚えたからな?」

 

軽く脅しを入れる。まあ、多分大丈夫だろうけど。

 

案の定、最初に留美が置いてかれることになり、あとの1人で揉め始めた。

 

どうやら決まったようだ。後はここらで、俺が急にトンズラすれば終わりだろう。

 

ん?置いてかれる事になったヤツの様子がおかしいな。

 

「いやぁぁぁぁぁ!!!!!もうやだぁぁぁぁぁ!!!!!」

 

八幡「おいっ!バカっ!そっちは崖だ!」

 

崖の方に行きやがった!言葉も聞こえてねえな。なんとか追いつくか······?

 

くそっ、失敗も失敗。大失敗じゃねーか!!

 

「きゃっ!」

 

何かにぶつかって転んだな!もう······追いつい······。おい、葉山。何故お前がいる。

 

葉山「ごめん。大丈夫、怪我はない?」

 

そういって葉山にぶつかって転んだ奴に話しかけた。

 

最初はまた敵が現れたと、怯えるようだった小学生達の顔も見知った味方になってくれそうな人間の登場に安堵の表情を浮かべ始めた。

 

どうやら最悪の事態だけは防げたみたいだな······。えがった、えがった。······どうやらそうは問屋は卸してくれないらしい······。

 

「あの人が私たちの事を虐めたの!」

 

「そうそう!なんか意味わかんない事ばっかいって!まじキモイ!」

 

相手と対等に戦える味方がついた途端、一気に攻撃的になりましたね。そして、チクったらどうなるのか、説明してあげたのに、もうデータが消えてしまったのかしら。ピンクの悪魔の代表作かよ。

 

その時の俺は、葉山は表立ってどちらの立場につかず、いつも通り茶を濁すと思っていた。そう、いつも通りに。

 

葉山「······そうか、君たち、あいつはこういう奴なんだ。最低の奴だから、気にしないでくれ」

 

は?何言ってんだ、こいつ。

 

葉山の口から出たのは俺を一方的に非難する言葉だけだった。

 

こいつは······、嵌めたのか?俺を?何のために?この場で俺を非難してどうする?小学生の間に広まって、俺が処分を受けるかもなんだぞ?俺だけじゃない。事件になれば、小町や親父、母ちゃんにも迷惑をかける。こいつがわからないわけが無い。

 

どうして······、考えを巡らせ、一つの可能性にたどり着いた時、もうそこには誰もいなかった。

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

次の日、やはり小学生の中で話題になっているようだった。しかしそれは俺の事ではなく、いじめていた奴らの事に関してだ。どうやらあのグループは昨日何かあって、解散したらしい、と昭和終期のアイドルみたいな事が広まっていた。

その当たりは葉山が上手くやったんだろう。それでもどこからか、後ろ指を刺されるような笑い声は聞こえたがな。

 

もちろん、それに気づかない雪ノ下や由比ヶ浜ではない。それに昨日俺だけ帰りが遅かった。何かあると思うのが普通だろう。

 

そして俺は昨日あった事を、伝えた。最初は適当に茶を濁していたが、雪ノ下に感づかれ、やり直しを要求された。

 

それは近くにいた葉山グループにも聞こえたようで驚きを隠せてなかった。その後は「どうして葉山がそんなことを」というこれもまた当然の事を呟いてた。

 

それもそうだ。今までは完全中立を謳っていたあの葉山隼人がどちらかを一方的に責めるような事を言ったんだから。しかも自分が発案した作戦のある意味予定調和とも取 れるのに。

 

だから俺は言った。葉山にも考えがあったのだろうと。

 

別にあいつをフォローする気なんてサラサラないが、俺が陥れられているこの状況がたまらなく嫌だった。

 

しかし、雪ノ下の怒りは収まらず、葉山本人に直接問いただした。

 

もっとも葉山は何も答えなかったが。

 

これで更に火に油を注ぎかけたが、平塚先生が止め、この話はそこで、辞めさせられた。

 

これには戸部や三浦も葉山を擁護することが出来ず、千葉に帰ってきたあとも、葉山と話している様子はなかった。

 

この夏休みの1件は誰もが納得出来ない形でひとまず幕を閉じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

八幡「なあもういいだろ?早くお前の本心を言えよ」

 

俺は意識を目の前の葉山に戻す。まだ葉山は何かかんがえこんでいるようだったが、いつまでも付き合ってられん。

 

葉山「少し俺の話をしてもいいか?」

 

恐らく、大きく関わることなんだろう。ここまで来て断る理由がない。

 

八幡「ああ、手短にな」

 

俺がそう言うと、葉山は重々しく口を開いた。

 

 




戸塚「八幡······、僕今回も出なかったよ······」

申し訳ございません!戸塚とのイチャコラ?はそのうち番外編かなんかで書きます!





次回の投稿は2月13日(月)00:00の予定です。
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19話

最近、多くの人から野球しろと暖かいご声援を受けております。あと数話で野球路線にシフトしますので、今しばらくお待ちを。


《 side hachiman 》

 

葉山はポツリポツリと、昔の事を思い出すように話し始めた。

 

葉山「俺は小4から野球を始めた。理由はプロ野球を見て面白そうだと思ったから。ありふれた理由だよな。それで近くにリトルが無かったから、軟式の学童のクラブに入ることにしたんだ。

 

葉山「入ってみると、野球が面白くて、もっと上手くなりたくて、野球にのめり込んだ。だから俺は中学に上がると、強豪と聞いた横浜シニアに入った。

 

葉山「学童のチームの中でも一番上手い自信もあったし、大会でもそれなりに活躍した。だから、シニアでもやっていける自信はあった。

 

葉山「でも、君も知っているだろが、背番号こそ貰えたものの、結局スタメンに定着する事は出来なかった。

 

葉山「ユーリティプレイヤーと言えば聞こえはいいが、実際はただの器用貧乏止まりだ。俺は君たちスタメン組が羨ましかった。ベンチ外やベンチにいるだけの奴らとは見てる世界も価値観も大きく違っていたから。

 

葉山「その中でも特に異彩を放ってる奴がいた。

 

葉山「そいつは平凡のようで、守備は誰よりも上手かったし、打撃だって人並み外れていた。投げるのだって、投手の何人かよりはよっぽど良かった。

 

葉山「野球で勝てる気がしなかった。だから逃げてると思われてもいいからなにか一つ、彼に勝ちたかった。

 

葉山「そこで勉強を頑張って、進学校の総武に入った。

 

葉山「だけど、そこにも彼はいた。不思議だった。何故あれほど上手かった、彼が野球を続けないのだろうと。

 

葉山「しかしやはり彼は特別だったのかもしれない。彼はある部活に入部した。そこで彼は多くの人を助け、変え、良い方向に運んできた。······自らを犠牲にしながら。

 

葉山「中には俺が過去に救えなかった人もいた。······彼は俺には出来ないことを平然とやってのけた。

 

葉山「悔しかった。やはり彼には何も勝てないのかと思った。けど、同時に強い憧れも抱いていた。

 

葉山「ある時困っている女の子がいた。昔自分が失敗したのと似たような状況だった。なんとか助けてあげたかった。だから、彼の真似をしてみることにした。

 

葉山「結果は······、もう言うなって顔だね。そう、大失敗だ。しかも自分の責任を全て彼に負わせて。最低だ。死んでしまいたいとも思った。けどもし俺が自殺でもしようものなら彼が責任を感じてしまうのは目に見ていた。

 

葉山「自分勝手な解釈かもしれないが、下手な事は出来なかった。そんな中、彼が話があると言われた。ここで言ったら、鈍感なふりをする君でも分かるだろう?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

葉山「俺が憧れていたのはほかの誰でもない。比企谷八幡、君なんだ───」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

葉山から長々と聞かされた、昔話はそう締めくくられた。

 

あ······、そうか······。俺がこいつに抱いていた形容し難いこの気持ち悪い感情は、自分が傷つくことで、周りは何とも思わないと酷く自己中心的な思い込みをしていたどっかの比企谷八幡(大馬鹿野郎)と同じことをして、同じように近しい人たちを傷つけているからだ。

 

その事実にこいつは気づいているのだろうか?······気づいているだろうな。なんせこいつは俺とは違って周りに気を使いながら生きてきたんだ。そのくらいの事はわかるだろう。

 

なら俺がかけてやる言葉なんかたかが知れてる。

 

八幡「お前は嫌な奴だ」

 

その言葉に葉山は自虐的な表情を浮かべた。

 

葉山「そうか······、まあそうだろうな······。俺がしてきた事を考えればそう言われるのも当然だ」

 

八幡「だけど悪い奴じゃない」

 

葉山「は?言ってる意味がわからないんだが······?」

 

八幡「そのままの意味さ。お前は俺の嫌いなリア充野郎だが、周りの人間の事を考え、そいつらが困っていたらそいつらの為に何とかしようとする。こんな人間が善人じゃない訳がないだろう」

 

葉山「··················」

 

八幡「ただお前は救おうとする人間が多すぎる。本当に大事なのは誰なのか考えるべきだ。以前失敗した先輩からのアドバイスだ」

 

葉山「なら今回の事で俺に償える事は何かないか?俺が出来ることならなんでもやるよ」

 

八幡「なんでもか······」

 

これまた海老名さんが喜びそうなキーワードが出てきたな。そうだな······。

八幡「野球部に入れとは言わない。自らの意思で続けなければ意味が無いからな」

 

そこで一旦言葉を切り、更に繋げる。

 

八幡「──ただ今うちは9人ちょうどしかいないんだ。だから誰か怪我をした時には助っ人を頼んでもいいか?」

 

葉山「そんな事なら別に良いが······。俺の実力で大丈夫なのか?」

 

八幡「お前は過小評価し過ぎなんだよ。お前の実力はシニアのスタメンのみんな認めてた」

 

葉山「そうか、わかった。他にも何かあったら言ってくれ。力になる」

 

八幡「おう、まあ何かあったら······、手伝って貰うわ」

葉山「ハハッ」

 

八幡「······なんだよ」

 

葉山「いや、あくまで自分主体なのが君らしくてな」

 

八幡「そうかよ······」

 

その後、くだらない話を続けて、気づけば日も暮れかけていた。······今日は部活行けないかなあ。

 

一応これにて、俺と葉山は和解した。そもそも和解なんて言うほどの仲でもなかったがな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

後日談というか、今回のオチ。

 

次の週の月曜日、由比ヶ浜から葉山達の様子を聞いた。

 

どうやら早速葉山は行動したみたいで、三浦たちに謝罪したあと、日曜日には遊びにも行ったらしい。こういう所の行動の速さは本気で見習いたいと思うわ。

 

雪ノ下も何か引っかかるようだったが、貴方が良いならと、ひとまず納得したようだ。

 

これにて、葉山との1件は完全に終わった。しかしここで縁が切れる訳ではない。何かしら交流もあることだろう。それは俺にとっても悪いことではない事は去年学習した。

 

文化祭まであと2週間と少し。もう何日かすれば部活動は停止され、文化祭の準備の方が優先される。それは未だ同好会レベルの援助しか受けていない野球部にも適用される。

 

今年こそは俺以外の奴のためにも、スムーズに終わらせたいもんだ。




次回の投稿は2月16日(木)00:00の予定です。
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20話

《 side hachiman 》

 

葉山の件から、数日たった今日。俺のクラスでは、文化祭に何をやるのかをHRで決めることになった。

 

ぶっちゃけて言えば、文実の俺にはあまり関係の無いことである。

 

どうやら何をするかはおおよそまとまったようだ。······目の前の黒板に『脚本 海老名姫菜』『演出 海老名姫菜』『監督 海老名姫菜』とでかでかと書き綴られているから。

 

ある意味では当然の帰結なのかもしれない。去年俺たち1ーFは葉山と戸塚のW主演で人気を博した。他のクラスから見れば、それだけ人気になる脚本を書いた、海老名さんが同じクラスなんだ。自分たちだってやってみたくなるものだろう。

 

去年の過酷さ(精神、身体共に)を知っている旧F組の男子はクラス全体の10分の1もいないかもしれない。······かもしれないというのは、俺が去年と今年のクラスメイトを把握していないだけで他意は無い。この話も由比ヶ浜から聞いた。

 

海老名「いやいや、皆さんありがとうございます。こんなに推薦を受けたからには、男子達の濃密な絡みが見れるよう最大限頑張ります。ぐ腐腐腐腐腐腐腐腐······」

 

思考を巡らせていると、海老名さんが狂気的な演説をしていた。これには女子にメイクしてもらえるかも、なんて甘い幻想を抱いていた男子達もニッコリ。女子は既に歓喜の悲鳴を上げているのもいる。······大丈夫かな、このクラス············。

 

海老名「······そうだね、もう少しで脚本は書き終わるから、先に配役を決めちゃおう」

 

おい、今あたかも海老名さんが脚本するのが当然だった、みたいな発言があったぞ。

 

しかし、これは難問だ。去年は葉山と戸塚という、認めたくはないが、ある意味完璧なヒロインと主人公がいた。しかし今年は戸塚こそいるものの、主人公となるイケメンがいない。戸塚がヒロインなら俺やろうかな············。

 

海老名「とりあえず戸塚くんは確定として······」

 

戸塚「僕は確定なんだ!?」

 

しかし、戸塚が出るのは周知の事実らしく、誰一人反対派はいない。

 

海老名「あと一人は······、ヒキタニ君は使えないし······、戸部っちは主人公にはなれないし······」

 

哀れ、戸部。しかし、海老名さんの呟きに自分の名前が出たことが嬉しいのか。気にする様子はない。

 

海老名「あっ!いるじゃん!」

 

そう声を上げた海老名さんは、後ろで寝ていた男を指さした。

 

海老名「茂野くんなら私の脚本にピッタリだわ!」

 

そう、茂野をご指名したのである。しかし当の本人は寝ているため気付かず、めんどくさいので、それで可決となった。

 

起きた茂野が騒ぐのは、また別の話。

 

その後、小道具等々が続々と決まっていき、すんなり係決めは終わった。明日から本格的には始動するようで、今日は解散となった。

 

会議まであと30分はある。余った時間をどうするか、そこに今日から部活動は停止なので、特に急ぐことのない戸塚が俺のところにやって来た。

 

これは戸塚を愛でるしかないですね、はい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

定刻になったが、会議が始まる様子もない。当たり前の事だ。なんせ委員長様が来てないんだから。

 

相模「すいませーん、遅れましたーw」

 

おう、いかにも何とも思ってません。って感じの謝罪文だな。これにはめぐり先輩もニッコリ(苦笑)。

 

城廻「さ、相模さん?もう、みんな揃ってるから、早く始めよう?」

 

相模「あっ、はーい」

 

その後、始まるには始まったが、それはもう酷いものだった。基本的にはめぐり先輩率いる生徒会役員の方々と葉山が頑張っているおかげで何とか会議の体は保っているものの、相模の姿はお飾りその物だった。

 

その日も、結局下校時間ぎりぎりまで会議室に拘束されることとなった。

 

まじでどうなるんだろうか。先が思いやられますね······。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

そんなある日事件は起きた。

 

とうとう相模が会議に顔を出さなくなった。理由は当然というかなんというか、自尊心が耐えられなくなったのだ。

 

元々、周りからチヤホヤされたい位の気持ちで始めたのだろうが、想像していた以上に積み重なる仕事に自分の無能さ、更には、自分より圧倒的に優秀な人たちが自分より下の立場で働いていること。

 

無能な上司として、これ以上働きにくい職場は無いだろう。

 

だからサボった。最初は腹が痛いだの、熱があるだの言っていたが結局二日もしたら見苦しい言い訳もしなくなった。なんて潔いのだろう。

 

当然、委員会は機能しなくなる。元々いてもいなくても同じようなヤツだったが、それでもあいつが委員長という席にいる以上、奴の判断を仰がねばならない場面もある。

 

更についていないことに、今年は平塚先生が担当では無い。とうとう若手を代偽名分に仕事すら回されなくなったのだ。······ご愁傷様です。

 

そんな訳で今年ついたのは、今年赴任したばかりの新任の先生。あまり頼りにはならない。

 

しかも委員長が休んでるならと、1人、また1人と休むようになっていった。そして遂に、機能しなくなった。

 

葉山「とうとう机が半分埋まらなくなったな」

 

八幡「なんなら俺のやる気も半分くらいねぇーよ」

 

葉山「君は元からだろ」

 

八幡「そうでこざんした」

 

葉山「しかし、このままだと文化祭の開催すら怪しいな。先生には相談したのか?」

 

八幡「したさ。ただ学生が中心だ、の一点張りだがな」

 

葉山「そうか······」

 

城廻「このまま今年は文化祭開けないのかな······」

 

少し涙ぐんでいる先輩がいた。めぐり先輩にそんな顔されると、めちゃくちゃ良心が痛むんですけど······。俺なんにも悪くないのに。仕方ない······。

 

八幡「こうなったら、最終兵器を使うしかない」

 

葉山「······ま、まさか!」

 

葉山は何か気づいたようだ。めぐり先輩はキョトンとしている。かわいい。

 

八幡「そう。理事長先生(モンスターペアレント)の発動だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

そこからはんーもう早かった。それはもう驚く程に。

 

まず相模がクビになった。そしてめぐり先輩が委員長の席に座ることになった。俺と葉山は推薦されたが丁重にお断りさせてもらった。と言うか葉山はわかるが、なぜ俺まで?

 

あと相模のクビが公になったとき、相模にめちゃくちゃ睨まれた。意味わからん。まあ思い当たる節がないわけではないが。

 

その後、担当教員が平塚先生と体育の厚木先生になった。やっぱり平塚先生ていい先生なんだよなあ······。

 

上がしっかりすると、下も頑張らなきゃと思うもので、多少の情報操作もあり、何とか文化祭当日に間に合わせることが出来た。

 

そして文化祭は数人の決して尊くはない犠牲により、無事に終了することが出来たのだ。

 

 

 




今回伝えなければならないこと
①文化祭編これにてひとまず完結です。八幡とヒロインズのラブコメとかもっと書きたかったのですが、なんか二番煎じにしかならなそうなので······。需要がありそうなら書きます。あと早く野球を書きたいし、見たいと思うので、こんな形になりました。

②最近評価を多くの人から頂いております。大変ありがたいことです。高評価もあれば、もちろん低い評価を頂くこともあります。そこでお願いなのですが、低評価なら低評価の理由を教えていただきたいのです。
低評価なら低評価なりの理由があり、そこを改善していかなければ、良い作品は作れません。僕が改善するためにもご協力をお願いします。

③もう少しでリアルの方が忙しくなります。具体的に言えば野球部の活動が増えます。なのでしばらく投稿できません。ストックもほとんど無い状態できりが良いので今回から休載?のような状態を取らせていただきます。投稿再開は春の選抜が終わる頃、四月に入ってからだと思います。私の高校は別にセンバツには出ないのですが、その裏で色々するらしいので······。なのでまた四月にお会いしましょう。

次回の投稿は、4月の1第月曜日の予定です。
感想、評価お待ちしております。


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21話

《 side hachiman 》

 

文化祭も無事?に終わり、今年の行事もあと僅かとなった。

 

しかし、俺は学校行事などどうでもいい······。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

やっと野球出来るぜ!ヒャッハァァァァァ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

大変見苦しいものを見せてしまった。反省はしていない。後悔もしていない。つまり特に何とも思ってない。まさに外道。

 

このようにテンションが壊れるくらい俺は野球をしていなかった。具体的には15話あたりから。ちょっと具体的すぎるね、うん。

 

落ち着く為にも深呼吸。吸ってー、吐いてー。吸ってー、吐いてー。ヒッヒッフー。これはラマーズ法ね。

 

ひとまず落ち着こう。話はそれからだ。ここはどこ?ここは教室。今はいつ?今は放課後。

 

この後はいつも通り河川公園で、野球をする。そう、後少しで野球が出来るんだ。移動が少しかったるいがそれでもだ。

 

良し、なら早く教室を出よう。

 

椅子を引き、席を立とうとする俺を、由比ヶ浜が呼び止める。

 

由比ヶ浜「ヒッキー、今日からグラウンドだよ」

 

············そういう事はわかったら直ぐに言おうぜ。比企谷先生との約束だよ☆

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

という訳で、ここは総武高校グラウンド。決して広いグラウンドではないが、野球をするには十分な広さである。

 

どうやら文化祭での密告が理事長先生に高評価を頂けたらしく、優先的に使わせてもらえることになった。といっても、平日は2日しか使えないが。

 

それからまだ何かあるような事を平塚先生が言っていたらしいが、あのアラサー。何を企んでいるんだ?

 

グラウンドに出てくると、部室棟の一角には新しい看板がかかっていた。

 

『硬式野球部』

 

八幡「おおー」

 

思わず声が出てしまった。隣にいた由比ヶ浜がクスクス笑っている。

 

八幡「なんというか、感慨深いものがあるよな」

 

由比ヶ浜「そうだねー。なんか部活動!って感じがするしっ!」

 

八幡「部活動なんだけどな······」

 

女子達は女子更衣室で着替えるらしく、部室の入口の前で由比ヶ浜と別れた。

 

ん?今更当たり前のことだが俺たちは部室で着替えるんだよな。······てことは戸塚のお着替えがっ!?これは急がねば!早く入ろう!ガチャ

 

············俺が一番乗りか。

 

なんだろうな、たった数畳の狭い部屋でしかないのに、ここだけ外の世界とは繋がってないみたいだ。

 

入口の反対側には窓が一つ。他の学校のは知らんが、一般的なイメージと相違ないだろう。

 

まだものが少なく、うちは人数が少ないから1人に0.5畳くらいは与えられそうだ。

 

とりあえず俺は人数分の机と椅子が積まれてるところから、1組引き出し、部屋の右端に置いた。ここはぼっちの指定席だから。誰にも譲れん。

 

肩にかけていたエナメルを机の上に置いた。とりあえず着替えているか。

 

さて着替え始めようか、そう思い俺は制服のベルトに手をかけ、ベルトを外し、上の服をまとめて脱ぐ。つまりは上裸という訳だ。別に男しかいないのだから、気にすることなし。

 

戸塚「わあ、これが僕たちの部室かあ。あっ、八幡!先に来てたんだね!」

 

八幡「あ、ああ」

 

前言撤回。やっぱり戸塚はダメです。

 

しかし、戸塚は気にした様子もなく、机と椅子に手をかけていた。少し手こずっている。戸塚の身長だと少ししんどいか······。

 

八幡「危ねーから俺が降ろすよ」ガタッ

 

戸塚「あっ、ありがとう······」

 

見ていられなかったので、机を降ろすのを手伝った。もちろん上裸のままではない。音速で着替え、戸塚のところに向かっただけだ。

 

八幡「よっと」

 

戸塚「ごめんね、八幡」

 

八幡「いいよ、こんくらい。で、どこに置く?」

 

戸塚「い、いいよ!ここまでしてくれたら自分で出来るし······」

 

八幡「ついでだ、ついで。どうせ降ろすなら運んでやる」

 

戸塚「じゃ、じゃあ八幡の席の隣に置いてくれる?」

 

八幡「······おう」

 

あえて理由は聞かない。どうやら戸塚ルートに入ったぽいからな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

その後、続々と部員が集まってきた。一悶着あったが無かったわけではないが、そこは省略させてもらおう。

 

それぞれ自分の席を決め、ユニフォームに着替え、グラウンドに向かった。

 

戸塚のお着替え?僕は紳士なのでそこは描写出来ませんねえ。

 

茂野「あれ、誰かいんぞ」

 

八幡「平塚先生だろ」

 

茂野「いや、平塚先生もいるけど、もう1人いるぞ」

 

茂野の視線を追いかけると、そこには平塚先生とジャージに身を包んだ男性がいた。

 

「よう、吾郎!」

 

吾郎「お、親父!」

 

なんとそこに居たのは元プロ野球選手の茂野選手だった。

 

材木座「ぬふん!まさかあの茂野英樹選手にこんな所で会えるとは······」

 

材木座が何か言っているが、それも仕方ない事だろう。なんたって球界を代表した投手だったのだから。俺も後でサイン貰おうかな······。

 

吾郎「なんで親父がここにいるんだよ!」

平塚「私が頼んだんだ」

 

八幡「先生が······」

 

平塚「君たちには仮にも高校野球の王者を倒そうとしているんだ。私は野球の経験が無いのでな。誰か指導してくださる方を探していたんだ」

 

英樹「まあ、そういうこった」

 

なるほど。確かに俺たちは完成されてる訳じゃない。それどころか、まだ殆どの部分で海堂には劣っている。そこまではわかるのだが······。

 

吾郎「でも親父は規定かなんかでそういうのは出来ねえとか言ってなかったか?」

 

そう、茂野さんはプロアマ規定でアマチュアの指導は出来ないと思うのだが······。

 

英樹「まあな。穴を抜けようと思えば出来なくもないんだが、そんなことして、出場停止処分喰らったら元も子も無いしな」

 

吾郎「なら······」

 

英樹「そこでこの方にコーチを依頼した」

 

怒涛の展開に殆どの奴がついてこれてないが、何とか茂野さんの視線をおい、後ろを振り返る。

 

······おい、俺の目が腐りきって視界が濁っているのだろうか。本来ここにいるはずのないさるお方がいらっしゃるのだが············。

 

俺たちの後ろからこちらに向かって来たのは、グラサンをかけた男性だった。

 

というか樫本監督だった。




今回から不定期での投稿となります。


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22話

《 side hachiman 》

 

樫本「よう、本田。それから比企谷も元気にしてたか?」

 

吾郎「あー!横浜リトルのグラサンじゃねーか!」

 

八幡「いやお前、グラサンって······」

 

英樹「あのバカっ······」

 

お前、どんな関係か知らんが、年上をグラサンと呼ぶな。茂野さんがいたたまれんわ。

 

戸塚「八幡?この人は誰?」コソッ

 

ひゃうっ。戸塚の吐息が耳にかかったでござる。何とは言わんが、アレがアレするかもしれないのでやめていただきたい。

 

八幡「あ、ああ。この人はな······」

 

英樹「んんっ。俺から説明しよう。この人は横浜リトルの監督をされている樫本さんだ」

 

田代「あの横浜リトルの······」

 

樫本「という訳で、俺が茂野さんの代わりに君たちのコーチを務める、樫本だ。リトルもあるので毎日は来れないが、どうかよろしく頼む」

 

平塚「うむ。それでは茂野さん、樫本さん。よろしくお願いします」

 

この人はやっぱり凄いと思う。生徒の為にここまでしてくれるんだから。ここまで面倒見が良いのに、どうして結婚出来ないのか······。ここまで来ると世の男性の目が腐ってることさえ疑われるまである。

 

英樹「ええ。こいつらをいっちょ前の高校球児にしてやりますよ」

 

平塚「それとあともう少ししたら、トラックでバッティングマシンやネットなんかも運ばれてくるらしい。理事長曰く、プレゼントだそうだ。今他の備品なんかはマネージャーに頼んでいるから、それを降ろすのは君たちが手伝ってくれ」

 

あの人か······。ここは素直に感謝すべきだな。

 

八幡「はい、色々ありがとうございました」

 

平塚「何気にするな。これが私の仕事だからな」

 

そう言って先生は笑った。俺はこの人に仇を返すようなことは絶対にしないと、戸塚に誓おう。

 

八幡「おい、茂野」

 

吾郎「あっ、そうだな」

 

俺たちは、茂野さん、樫本監督、それから平塚先生の前に一列に並んだ。平塚先生たちは何が嬉しいのか、笑みを浮かべている。

 

吾郎「きょうつけ!」

 

「「「「よろしくお願いします!!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

樫本「よし、じゃあ今の君たちの実力が見たいから、アップをした後、ノックから入ろう」

 

「「「「はい!」」」」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

俺たちは、アップをした後それぞれが以前から守っているポジションに着いた。

 

茂野は茂野さんにどんな選手か説明するため、とりあえず外れている。

 

樫本「ショートはいないのか?」

 

八幡「えと、予定では埋まるはずです」

 

樫本「予定?」

 

八幡「はい、清水が入部する予定なので」

 

樫本「大河か······。あいつなら高校でも通用するだろうな。わかった、じゃあまずボールファーストから!」

 

戸塚「お願いします!」

 

 

――― ――― ―――

 

《 side goro 》

 

吾郎「どーだ、親父。俺達のチームは」

 

英樹「正直に言おう、想像以上だ」

 

今俺と親父の前ではグラサン監督による、ノックが繰り広げられている。その様子を見た親父は率直な感想を伝えてきた。

 

吾郎「だろ!このチームなら、海堂もぶっ倒せる!」

 

英樹「少なくとも、絵空事ではないな。それよりお前、よくこれだけの奴らを掻き集めたな」

 

吾郎「まあな。つってもほとんど俺が集めた訳じゃないんだがな」

 

英樹「何?」

 

吾郎「セカンドの奴が色々手を回してくれたんだよ。まあ本人にそういったところで、否定しそうだけどな」

 

英樹「そうか······。一応このチームは皆野球経験者なんだろう?」

 

吾郎「ああ。キャッチャーの田代って奴とセカンドの比企谷って奴はシニア出身だしな」

 

英樹「なるほどな。さっきの樫本さんの話ぶりだとショートも上手いんだろ?」

 

吾郎「ああ。中3とは思えないほど動けていたし、生意気だったわ」

 

英樹「お前がそれを言うか······。今のままだとセンターが少し弱いが、このまま練習を続けていれば、十分守れる。とりあえずセンターラインは安心だな」

 

吾郎「つまり後は俺がしっかり投げれば勝てるってことだろ?」

 

英樹「そういうこった。俺はもういいからお前もノックに参加してこい」

 

吾郎「おう!」タタッ

 

 

 

 

 

 

 

英樹「いい仲間をもったな、吾郎······」ボソッ

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

《 side hachiman 》

 

樫本「じゃあラスト一本ずつ!」

 

かれこれ、30分ほどノックは続いた。茂野さんと樫本監督は特に何も言わず、そのまま終わった。

 

樫本「よし、とりあえず集まってくれ」

 

そう言われ、監督と茂野さんを取り囲むように俺達は円になる。

 

英樹「まず初めに言わせてもらえれば、君たちのレベルは予想以上だった」

 

樫本「私も同じだな。何人かは1年ほどブランクがあるみたいだが、それを感じさせなかった」

 

その言葉に、戸塚や材木座、田代といった2年生組は顔を綻ばせる。俺もまた、恩師の評価にほっと息をつく。

 

英樹「まあもちろん穴が無いわけじゃない。しかしそれを直し、上達させていくのが俺達の役目だ。次は早速バッティングマシンに仕事をしてもらうとしようか」

 

そう言って、次の支持を受けた俺達は動き始める。

 

樫本「ああ、比企谷、少し待ってくれ」

 

すると、俺は樫本監督に呼び止められた。周りの奴らは俺をどんどん抜き去っていく。茂野さんも何かを察したのか、離れていく。

 

八幡「何ですか?」

 

樫本「お前は······、野球が嫌いになったわけではないんだな」

 

どうやら、樫本監督は俺が高校で野球をしていなかったのを、野球が嫌いになったからだと思っているらしい。

 

八幡「そんなわけ無いじゃないですか。ただ、軍隊みたいな強豪校の上下関係が嫌なだけですよ」

 

これが俺の本音だった。もちろん他に理由が無いわけではないが、そんなのはほんの少しで、アホみたいな上下関係が嫌いなだけだ。だからといって、お遊びクラブみたいなところではやりたくないし。下手でもいいんだが、ふざけられると溜まったもんじゃない。

 

我儘なのは重々承知なのだが、誰かに縛られて大好きな野球をしたくない。

 

樫本「そうか······。ならいいんだがな············」

 

それでも何かを気にして俯いている樫本監督。やっぱりあの事を気にしているのか······。特に俺の中では大きな出来事ではないんだが。葉山といい、何か勘違いしてる奴が多いな。

 

八幡「そうです。だけどここなら、俺の掲げた条件が全て一致する。最高の環境ですよ」

 

俺がそう言うと、樫本監督が俺の目を見つめてきた。そして、ふっと少し笑った。

 

樫本「そうか。ならいいんだ。楽しんでやればいいさ」

 

八幡「はい。これまでも、これからもよろしくお願いします」

 

そう言って、俺は仲間のもとに走り出した。



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23話

お久しぶりです。以前の投稿からだいぶ空いてしまいました。理由は聞かないでください·····。感想等で続きを待っていると言ってくださった方々、お待たせしてすいませんでした。

それでは23話どうぞ


《 side hachiman 》

 

樫本コーチと茂野コーチ(お前達の監督ではないからと、樫本かんと、コーチに言われたから。茂野さんもそれに連なり)が来てから、今まで以上に練習の濃さというか密度が濃くなった気がする。

 

それもそのはずだ。1人は小学生とはいえ、今でも全国常連のチームを率いている訳だし、もう1人は数年前に引退したとはいえ、当時の球界に、いや球史に名を残す投手だったのだから。

 

プレーの上手な選手が、指導も上手いとは一概には言えないというのが、一般的な意見だろうが、そういう選手はだいたいセンスだけでやってるだけで、プロまで行けばほとんどの人が頭を使っている。そういう訳で前述の理論には当てはまらないと言うことだ。まあ中には例外もいるだろうがな。

 

そんなこんなで、あっという間に野球シーズンは終わり、12月を迎えた────────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

八幡「で、君は受かったんだね?」

 

大河「ええ、ぶっちゃけ落ちる要素無かったですし」

 

八幡「そうかい。でもそれをうちの妹の前で言ったらぶん殴るからね」

 

大河「へーい」

 

年を越し、戦いの1年を迎えた我ら総武高校野球部に、清水大河君が合流した。

 

本来、新入生は3月の終わりからしか練習には参加出来ないが、特例ということで連盟から許可された。いったい誰のおかげ何でしょうかね?ねぇ、理事長?

 

何はともあれ、彼は一足先に推薦で合格を頂き、進学が決まった。まあ元々落ちる要素がほとんど無かったわけで、特に驚きもしなかったが、今度は小町が総武を受けるらしく、受けるといっても推薦なぞ貰えるわけもなく、その他大勢と一緒に受験する訳だが、なかなか厳しいらしい。

 

というのも、元々うちは県内有数の進学校なわけでそれなりに倍率も高い。それに加え、愛しのリトルシスターはお馬鹿さんである。しかし、そんな彼女が兄と同じ高校に行く為に努力しているのだから、兄冥利に尽きるといったものだろう。

そんな比企谷家の事情はさておき、野球部の方はどうかというと、順調に上達しているといって過言ではないだろう。

各自、コーチたちから指摘された欠点を修正しようと試みてきた。具体的な例を挙げるとすれば、戸塚のスローイングなんかがそうだ。

 

戸塚は体が小さい。だからという訳では無いが、肩もサードを任せるには少し物足りない。

 

そこで、捕ってからを早くできるように練習してきた。一回一回掴んでから投げていては遅くなるので、掴むのではなく、グラブに当ててそのまま投げるように練習していた。これは実際にプロもしている。

 

それに他の奴らもそれぞれの課題をクリアしていっている。

 

外野の1年も守備だけなら、申し分無い程にはなった。

 

何より、茂野が投手として、大きな武器を手に入れた事が大きい。自分で進めといてなんだけど、弱点があるとはいえ、あれはマジでチートすぎやしませんかねえ。初見で打てる奴が全国に何人いることやら。俺も大河も普通に空振りしたし。

 

こんな感じで、俺たちは春に向けて仕上げていった。その中で色んなことがあった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

英樹「お前ら、春の大会には出ないのか?」

 

二月の初め、練習終わりに茂野さんがそう尋ねてきた。

 

八幡「そう······ですね。考えてなかったです」

 

そう言えば、ありましたね。といってもこの大会は一応関東大会まで勝ち進む事が出来るが、全国には繋がらない。

 

だから海堂なんかの全国を狙うような高校は、参加はするが、夏本番に比べるとやる気はない。

 

吾郎「海堂も本気じゃないだろうし、出なくてもいいだろ」

 

八幡「俺は出ておきたいな」

 

吾郎「なんで?」

 

茂野がそう問いかけてきた。それに伴うように、近くにいた部員もこっちを向いた。

八幡「俺たちは圧倒的に経験不足だからな。海堂だけじゃなく、どの高校と比べても。だから公式戦を経験しておくだけでも違うと思う」

 

田代「俺も比企谷に賛成だな」

 

大河「僕も」

 

他の奴らも、納得してくれたようで、うなづいている。

 

吾郎「そういう事か。なら出ねえ理由はねえな」

 

ということで春の大会に参加する意志があることを、後日平塚先生に伝えた。

 

特に参加に問題があるわけではなく、大会への参加は無事承認された。

 

それともうひとつ、この冬にある出来事があった。

 

それは、葉山隼人の入部である。

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

葉山「比企谷、俺を野球部に入れてくれないか」

 

春の大会への参加が認められた次の日、平塚先生に入部希望者がいると呼び出された。

 

練習に遅れることを茂野に伝え、俺は呼び出された場所に向かう。

 

そこに行くと、平塚先生の姿はなく、そこには葉山の姿があった。

何故コイツが入部希望なのか、俺には心当たりがあるが·····

 

八幡「確かに助っ人は頼んだが、無理に部活に入ってくれなくてもいいんだぞ?それにお前はサッカー部に入ってたろ?」

 

あいつも入部理由について問われることは想定していたようで、すぐに言葉が帰ってくる。

 

葉山「練習もせず、試合だけ出て上手く行くほど野球は甘くないだろう?それにお前と話してからずっと考えてたんだ。俺が本当にしたいのはなんなのかって」

 

八幡「·····それでお前はサッカー部の仲間より、野球を選んだわけか」

 

自分で言っといて厳しいことを言っている自覚はある。だけどコイツは俺と仲良しになるためにここにいるわけじゃないし、第一、葉山隼人という人間は周りの和を乱す様なことを進んでする人間に思えなかった。

 

部長が別の部活に転部する。それもサッカーから野球という全く別のスポーツに。これだけの理由があってすんなり野球部に、とはならないはずだ。

葉山「やっぱりお前は性格が悪いな」

 

うるせえ。自覚はあるつってんだろ。

 

葉山「もちろんすぐには決めきれなかったさ。だけど最後に背中を押してくれたのはアイツらなんだよ」

 

八幡「そうか·····」

 

どうやら葉山も良い仲間に巡り会えたみたいだな。まあ俺の仲間も劣ることは絶対にないけどな。

 

葉山「特に戸部がな、誰よりも俺の転部を応援してくれたな」

 

戸部か·····。やっぱり良い奴ではあるんだな。材木座しかり、戸部しかり、一見ウザそうな奴も付き合ってみれば案外良い奴なのかもな。まあ俺はそんな博打を打ちたくはないが。

 

しかしひとつ疑問が浮かぶ。何故このタイミングなのか。コイツの話し方ではだいぶ前に転部を決めたようだが。

 

その事を伝えると、完全にブランクがある状態では参加したら迷惑になると思ったらしい。葉山らしい、周りを思ってのことだが、野球部員のほとんどが1年近くのブランクがあったことを伝えると、苦笑いしていた。

八幡「まあ、なんだ、これからは仲間だからな。よろしくやろうぜ」

 

そう言って、俺は手を差し出す。

 

それを見た葉山は何か良くないものを見たかのように、驚いていた。失礼なやつだな。俺だってチームメイトぐらいにはこれくらいする。逆に言えば、チームメイトでなかったら絶対にしない。絶対に。

 

葉山「お前はこういうことをしない人間だと思っていたんだけどな」

 

八幡「うるせえな。人は見かけによらないんだよ」

 

ソースは戸塚。あれば神様のミスだから。

 

葉山「そうか。なら改めてこれからよろしく」

 

八幡「ああ」

 

そういって俺と葉山は握手をする。

 

こうして総武高校に10人目の野球戦士が誕生した。

 

俺たちの戦いはこれからだ!




今後も不定期になるとは思いますが、続けられるよう頑張っていきます!


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24話

何とか出来た·····。それといつの間にかお気に入り500件突破してた!皆さんありがとうございます!


《 side hachiman 》

 

葉山が野球部に入部することになったその日、葉山は道具を持ってきたと言うので、そのまま練習に参加することになった。

 

今日はグラウンドが使用出来る日なので、俺は葉山と連れ添ってグラウンドに出た。

 

今日は樫本コーチは用事があるらしく、グラウンドには茂野コーチしかおらず、その茂野コーチはこちらを見ると、何か納得したような顔をして俺達を手招きしていた。

 

部員達も俺の隣にある意味見知った顔がいることに驚いたようだが、何かを察したようで特に何も言わずに練習を続けている。

 

それは雪ノ下たちも同様で、何があったかを察したらしい。特に何も言ってこなかった。·····皆察し過ぎじゃね?これが日本の察する文化ってやつか。日本の文化は素敵ですね。

 

ということで、特に何も無く茂野コーチの元に行くと、コーチは葉山に話しかけた。

 

英樹「君が葉山君だね?話は平塚先生から聞いているよ」

 

やはり葉山のことを知っているようだ。それなら1から十を説明しなくていいから楽だな。

 

葉山「はい。野球部に参加させて頂きたくて、今日は来ました」

 

葉山も自分の要件だけを伝える。余計な言葉は自分の選択の言い訳のようになってしまうと思ったのだろうか。

 

英樹「俺にはそんな決定権はないよ。それに比企谷が認めたならそれでいいさ」

 

茂野コーチもすんなり認める。そして、俺に全員を集めるように言った。

 

――― ――― ―――

 

集められた部員達は葉山と茂野コーチを取り囲むように半円を描いた。

 

英樹「彼は葉山隼人君だ。今日から野球部に参加する。彼もシニア上がりなので硬球の扱いには慣れているだろう。これからお互いに切磋琢磨していってほしい」

 

そう茂野コーチは締めくくった。特に反対意見を言う者も居なかった。雪ノ下なんかは何か一言くらい言うかと思ったが、彼女なりに葉山の件は清算したらしかった。

 

吾郎「じゃあ葉山はどこを守れるんだ?」

 

茂野が葉山にポジションを聞いた。茂野にとって野球をする上で個人の事情など些細な事なのだろう。何故この時期なのかなどは何も聞かない。

 

むしろそれは葉山にとってもありがたいことでもあった。もしかして茂野が気を利かせたのか?いや、ないな。

 

葉山「基本どこでも守るよ。ただ、強いて挙げるなら外野、特にセンターかな」

 

高橋「僕と同じポジションか·····。スタメンになれるように頑張らなきゃ·····」

 

野口「お前だけじゃないよ·····。俺と山本だって危ないぜ」

 

山本「そうだな。誰がスタメン落ちしても恨みっこなしだぞ」

 

八幡「お前ら張り切るのはいいが、怪我だけはするなよ。ウチはまだ10人しかいないんだから」

 

特に山本と清水。なぜだろう、コイツらはどこかでやらかす気がする。あと茂野。

 

英樹「比企谷の言うとおりだ。まだ夏本番には時間があるとはいえ、お前達にとって長期の離脱は痛すぎる。怪我には細心の注意を払えよ」

 

「「「「はい!」」」」

 

話はそれで終わった。その後は葉山も混じって練習が行われた。葉山の加入は1年だけでなく、2年生にも良い刺激となったようだ。

 

守っては、難しい後ろのフライを簡単に捕球し、送球も安定している。打っても、フェンスを超えることはなかったが、それでもチーム内では5、6番目くらいの飛距離を出している。

 

そして練習が終わる頃には、葉山はすっかり野球部に馴染んでいた。

 

英樹「葉山もなかなかやるな。これはスタメンを決めるのにも頭を使いそうだな」

 

そういって茂野コーチは俺の方を見てくる。このチームのスタメンは俺と茂野で決めている。といっても、茂野の方が野球の偏差値は高いので、ほとんど茂野が決めている。俺は聞かれたら答えるぐらいだ。

 

八幡「そうですね。現状、外野は葉山以外はほぼ横並びですからね。まあ最終的には茂野が決めるでしょう」

 

これは別に茂野に責任を押し付けようとしているわけじゃない。ほんとだよ?嘘じゃないよ?ハチマンウソツカナイ。

 

確かに少しくらいその気持ちはあるが、元々このチームは名実ともに茂野のチームだ。かといってワンマンプレーをさせるわけではないが、基本的には奴に舵を取ってもらう。

 

もっとも当の茂野は、進行形で大河と揉めているが。今日の議題は一昨日から引き続き、どちらがより生意気か、だ。俺から言わすればどんぐりの背比べでしかないのだが、本人達は至って真剣だ。

 

コイツらの争いはいつもの事なのでほっておく。周りも完全にスルーだ。

 

ただいつもと違うのは葉山が2人を止めようとしていることくらいだ。いつもは俺がしている。まともな手段で止められた記憶が無い。

 

ならどうやって止めるかって?基本的には放置で、あまりにも目に付くようなら閻魔様(大河の姉ちゃん)を呼んで、白黒つけてもらう。ちなみに黒の方はどこかにドナドナされる。部室で帰りを待っていると、そこには涙の跡と、通常時よりも腫れ上がった顔で帰ってくる。

なので葉山は無駄な努力をしているわけだ。アイツらを一般人が止められるわけがない。葉山にもその事を教えてやるか。

 

·····待てよ。このまま放置してればあの二人のお守りから俺は解放されるのでは?

 

·····葉山··········ファイトだよ! (و'ω')و

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

八幡「いつの間にかこんな季節になったな·····」

 

雪乃「そうね·····」

 

八幡「早いもんだな、俺たちが2年生になったのが昨日のようだ。時間ってのはいつの間にか過ぎていくんだな」

 

雪乃「色々あったものね·····」

 

葉山加入から1週間が経過した。

 

今は2月の中旬。1週間後には三学期最後の試験が待っている。

 

ここ総武高校では一学期、二学期そして三学期の成績を平均して、1年間通しての成績が出る。

 

つまりその成績がある一定以上でなければ進級することは出来ない。

 

しかし学校側も鬼ではない。点数が足りない生徒は補習に参加し、追試を合格することが出来れば進級することができる。

 

補習は春休みを通して行われ、春休みの最後に追試がある。当然補習があれば練習にも試合にも出ることは出来ない。

 

俺は数学が苦手だ。自慢じゃないが数学の順位は下から数えて片手で足りる。

 

八幡「雪ノ下。今日はお前に言いたいことがあって呼び出したんだ。忙しいところ悪いとは思うんだが、俺の想いを聞いてほしい」

 

雪乃「私を呼び出すなんて、貴方のことだもの。何か大切なことなのでしょう?なら私はそれに応えるだけよ」

 

八幡「そうか·····ありがとな」

 

雪ノ下は俺の想いに応えてくれると言ってくれた。ならば俺も覚悟を決めなければならない。

 

俺は今奉仕部の部室に居る。夕暮れ時、日は沈みかけ、部室にも夕焼けが射し込んでいる。

 

目の前には雪ノ下雪乃が立っている。俺がいきなり呼び出したので怒っているのか、それとも夕焼けのせいなのか、頬が赤い。その表情からは細かい感情を読み取ることは出来ないが俺の次の言葉を待ってくれていることは確かだ。

 

雪乃「ひ、比企谷君。その·····、貴方の言いたいことって何かしら?」

 

焦れた雪ノ下が俺を急かす。

 

よし、覚悟は出来た。

 

俺は右足から鉄筋の地面に膝を着き、次に左膝を着け正座の姿勢をとり、右手、左手の順で体の正面に手を着き、最後に頭を着ける。

 

そして彼女に俺の想いを告げる────

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

八幡「雪ノ下先生!僕に数学を教えてください!!」

 

雪乃「··········」

 

なにかがあるまで顔を上げないでいたら、待っていたのは雪ノ下がガラガラとドアを開け、スタスタと廊下に出て、ガラガラとドアを閉める。その一連の動作音だけだった。

 

部室に残された俺は、土下座の体制のまま二分ほどそこから動くことが出来なかった。

 

·····泣いていいっすか?



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25話

《 side hatiman 》

 

雪ノ下に見捨てれられた俺は、後日同じことを繰り返した。

 

雪ノ下は呆れたように溜め息をついたあと、俺の数学の先生になってくれることを了承した。

 

雪乃「ところで比企谷君。貴方の数学が壊滅的なのは知っていたけれど、彼は大丈夫なのかしら」

 

彼とは茂野のことであろう。奴は普段の練習からアホをかましているから、心配されるのも無理はない。

 

事実、アイツはアホだ。勉強だけでいえばあの由比ヶ浜より酷い。この前なんて3乗の公式すらわかってなかったし。

 

八幡「まあ大丈夫だろ。アイツは確かスポーツコースだから赤点だろうと進級は出来るだろうよ」

 

しかし雪ノ下の表情は暗い。·····嫌な予感がしてきた。

 

雪乃「·····比企谷君、私の母がそこまで優しいと思う?」

 

八幡「·····まさか」

 

嘘だろ。そ、そんなことあるわけないじゃないか!

 

雪乃「確かにスポーツコースの人の赤点のボーダーは他の人より低いわ。でもね、それでも赤点をとって留年、というシステム自体は働くのよ」

 

嘘だッ!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

八幡「これより第一回野球部勉強会を開始します」

 

あのあと、案の定余裕をぶっかましてた茂野を拘束し、ついでに普通に進級が危ない由比ヶ浜も捕獲された。

 

ちなみに野球部の他の生徒は、この時期になって慌てるほど成績が悪くは無く、補習に引っかかることは無さそうだ。材木座は·····多分大丈夫だろ。アイツに確認するのは嫌だ。もし仮にアイツがそこそこの成績だった場合、俺の数学を馬鹿にするのは目に見えてる。だからアイツはスルーだ。大丈夫、きっと大丈夫。

そして由比ヶ浜捕獲後、俺たちは場所を移し勉強会を開く事にした。

どこでするか、俺はもちろんサイゼを押した。

 

無事可決され、サイゼにて勉強会が開かれることになった。

 

練習はテスト1週間前なので停止され、俺たちは放課後すぐにサイゼに向かった。店内に入ると俺たちと同じ様に勉強をしている学生のグループがチラホラ見えた。

 

それでもまだ何席も空いていたのですぐに座ることが出来た。店員に促され、俺たちも席に運ばれる。

 

まず奥に由比ヶ浜、雪ノ下の順で席を詰めていく。反対側のソファーには茂野、そして葉山の順で席を詰める。

 

葉山はいつ来たのかって?流石に雪ノ下1人じゃ3人教えるのは大変だからな。そこで成績優秀な葉山君にむりや、ゲフンゲフン快く来てもらって茂野を担当してもらうことにした。

 

ありがとう葉山、アイツに勉強を教えるのは、仮にあの佐藤が教えるとしても大変だと思うが、お前なら胃に軽く穴が開くくらいで済むと思うぞ。良かったな(外道)

 

さて俺も葉山の隣に座ろうかな。

 

雪乃「比企谷君、貴方はこっち」

 

そういって雪ノ下は自分の隣を示す。いやいや、女子の隣とか勉強どころじゃなくなるんで勘弁して頂きたい。

 

八幡「いやなんでだよ」

 

雪乃「あら、別に隣に座るくらい大したことではないじゃない。それにこうした方が私も教えやすいのだけれど」

 

そう言われると反論は出来ないが·····

 

雪乃「それとも比企谷君は何かいかがわしいことでもするつもりなのかしら?」

 

八幡「するか」

 

変な言いがかりを付けられては溜まったものでは無い。仕方なしに雪ノ下の隣に腰を降ろす。

 

うーむ変に緊張してしまう。いくら付き合いが長いからってこういう事に慣れたわけではない。むしろ付き合いが長いぶん気を使ってしまう。なぜなら雪ノ下含め俺の周りの女の子はそんな気があるわけがないと思うから。

 

駄目だ、切り替えよう。今はとにかく赤点回避、そのことだけを考えよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

雪乃「まあこんなものかしらね」

 

八幡「大丈夫そうか」

 

雪乃「ええ、学年末のテストであれば広く浅く出るはずだもの。とりあえず基礎が出来ればあとはなんとかなるでしょう」

 

八幡「そうか」

 

サイゼに入店してから2時間が経過していた。 人間苦手なものでも目的があれば何とかなるもので、たった数時間で一通り解くことができた。

 

ただ俺一人であればここまでスムーズに解くことは出来なかっただろう。雪ノ下の指導あってのものだ。

 

雪乃「でも油断は禁物よ。テストまであと何日かあるから何度も問題を解き直すこと。いい?」

 

八幡「わかった、ありがとな」

 

雪乃「えっ、ええ。感謝してくれても構わないわよ」

 

素直に感謝の気持ちを伝えると、雪ノ下は何故かそっぽを向いた。そんなに俺が感謝の気持ちを示すことって、目を背けたくなるレベルで気持ち悪いんですかね。私人から感謝されたことがないからわかんなーい。

 

雪乃「コホン、あとは由比ヶ浜さんね。少しは進んだかしら」

 

とりあえず俺は大丈夫そうだ。そういえば集中していて気づかなかったが、茂野と由比ヶ浜はどんな様子だろうか。

 

そう思って顔を起こすと、そこには開始5ページでペンが止まっている由比ヶ浜と思考を放棄してワークを見ている茂野がいた。

 

あと胃でも痛めたのか腹を抑え、茂野のあまりのアホっぷりに心が折れ、廃人になりかけてる葉山とかもいた。

 

·····これはダメかもわからんね。

 

 

 

 

 

 

 

――― ――― ―――

 

その後、雪ノ下と葉山の涙ぐましい努力の結果、由比ヶ浜と茂野は補習を回避した。

 

特に葉山が胃痛に悩まされたのは言うまでもない。あまりの惨状にそっと胃薬を置いていく俺がいた。2年連続の雪ノ下は学習し、由比ヶ浜対策をバッチリしていたので大丈夫そうだった。

 

·····まさか2年の終わりに中学の教科書を引っ張り出してくるとは予想していなかったが。ちなみに去年は中学入試レベルの問題だったらしい。来年は高校受験かな。

 

何はともあれ、野球部全員1人も欠けることなく春休みの練習に参加できる。

 

直近の目標は春の大会で経験を積むこと。もちろん出るからには勝利を目指す。

 

気持ちも新たに、球春は少しずつ近づいてくる




この作品においての2年生の学力ランキング(脳内)

1位 雪ノ下雪乃 学年1位
2位 葉山隼人 学年2位
3位 比企谷八幡 学年20位くらい
4位 田代 学年50位くらい
5位 戸塚彩加 学年70位くらい
6位 材木座義輝 学年150位くらい

─越えられない壁─

7位 由比ヶ浜結衣 学年ワースト2位
8位 茂野吾郎 ぶっちぎりの学年ワースト1位

トップとワーストの1位、2位を野球部で独占する感じ。


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