トライアングル・フリート (アンギュラ)
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新たなるピンチの始まり 3つの接点
始まりの凶光   ・・・Unidentified ship


こんにちは。

初投稿となりますアンギュラともうします。

物語は、登場人物達の人生の一部が切り抜かれたものでり、架空とはいえ登場人物にも光の当たらなかった物語があるのかなと言う事で



あったかもしれない本編終了後のミケちゃん達のその後をクロスでやってみたくて投稿してしまいました。



文才や兵器知識は皆無に近く、またこの作品は意外にもファンタジーな感じや、戦闘モノに見せかけて本職になったミケちゃん達がどの様に事態に向き合って行くのかを書いたヒューマンものであり、登場人物の思想描写の方が多く入りますがご了承ください。


文字数が多いので、読むのが大変かもしれませんがどうぞ宜しくお願い致します。



感想は、一気読みのものでも何話の内容でも、また、3つの世界のクロスと言う事で、触れた事の無い作品も有るかと思います。
自分が触れた作品の見地からの感想でも構いません。
何よりも誰でも大歓迎ですので気軽に書き込んでください。

それではどうぞ。


人は武器を取り戦う 

 

 

 

それは動物が生き残る為の戦いや、自らの強さを示す為の戦いとは明らかに違う

 

 

異質であり異常

 

 

にもかかわらず人が戦い殺し合うのを止めぬのは…

 

 

人間と言う生き物は、【生きている】と言うなによりの価値を、戦争と言う名の無価値な死を撒き散らす大罪でしか自覚し得ぬ欠陥品だからに他ならない

 

 

故に…

 

 

 

平和を願うと言うことは、そこには確固たる無価値の死が存在しているのだ

 

 

 

 

 

大量に…

 

 

  + + +

 

 

 

 

 

 

北極海

 

 

 

雪と氷、そして静寂に覆われた美しく幻想的な風景とは対照的な咆哮が響き渡る。

 

 

 

みれば、氷の海を覆い尽くす程の艦船が一同に集まり、砲撃の轟音と爆煙を上げながらある一点を目指していた。

 

 

その艦船とあらゆる砲弾が向かうその先にある黒く大きな影とは何なのか

 

 

巨大な山か それとも島なのか……

 

 

否――

 

 

それは¨軍艦¨であった。

 

 

信じ難い事に、山や島と見間違う程の巨大な軍艦がそこに鎮座していたのだ。

 

 

近くにある¨戦艦程¨の大きさの氷山を掻き分けながらゆっくりと進んでくる彼の艦を、先程艦隊が放ってきた無数の砲弾が巨大艦に殺到して炸裂し、爆煙がそれを覆って姿が見えなくなる。

 

 

それでも艦隊は砲撃を止めようとしていなかった。

 

 

普通であるならここまでの攻撃を受けては、もはや巨大艦は原形を留めてはいないであろう。

 

 

 

 

艦隊の砲撃が止み、舞い降りた一粒の雪が熱を帯びた砲身に触れてシュッと音を立てては消える音すらも聞こえて来そうな程、氷の海は静寂を取り戻して砲撃による爆煙が晴れていく。

 

 

 

そこには――

 

 

¨傷一つついていない¨巨大艦が鎮座していた。

 

 

 

数千隻以上にも昇る大艦隊の一斉攻撃を受けて尚も、巨大艦は何事も無かったかの様にそこに存在していたのだ。

 

 

 

『そんな馬鹿な……有り得ない!』

 

 

『嘘だ!悪い夢に決まってる!』

 

 

『理解できない!何なんだアイツは!』

 

 

大艦隊に動揺が拡がった。

 

 

その時、巨大艦の艦首付近に眩い光が集束し、その圧倒的な威圧感とは対照的に付近の氷山が光を浴びて青く美しい色の輝きを放つ。

 

 

今まで経験したことの無いような強い恐れを感じた大艦隊は、ある者は狂ったように砲撃を再開し、ある者は進路を変えて逃走を謀ろうとする。

 

 

 

統率が乱れたその代物を一体誰が¨艦隊¨と呼べるのだろう。

 

 

 

 

そんな様子を嘲笑うかの様に光は眩さを増して行き、一瞬の閃光の後に巨大艦から太い光の線が放たれ――

 

 

 

 

 

彼の艦の正面に展開されていた艦隊が¨消滅¨した……

 

 

 

 

 

 

《オ願■……私ヲ■■■テ、全テ■■セテ…》

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

【トライアングル・フリート】

 

   + + +

 

 

 

 

その日、

世界の平和は¨失われた¨

 

 

多くの人が犠牲となり。

 

 

世界に絶望と悲しみが生まれた。

 

 

第一次大戦後、国同士の散発的な衝突はあれど、大規模な戦争などは発生していなかった現代において、それは余りも衝撃的で、それにも増して絶望的であった。

 

 

 

 

 

       +  +  +

 

 

 

 

RATtウィルス事件から6年後

 

晴風クラスの面々は各々の道に進み、今日も日本近海の海上の安全を守っている。

 

 

岬明乃(みさきあけの)もその一人だ。

今はブルーマーメイドの横須賀基地所属の隊員となり、将来は艦長になる士官候補として多くの実戦をこなしている。

 

 

そんな彼女であったが、今は横須賀の町を小走りに進んでいた。

 

 

同級生で元晴風砲雷長の西崎芽衣(いりざきめい)から久しぶりに皆で集まる事を提案され、横須賀基地の近くにある一般漁港付近に立ち並ぶ海の見える屋台村の居酒屋で飲みながら互いの近況を報告しようと言う話になったのだ。

 

 

明乃はその申し出に快諾したが、今日の業務の報告書の提出と交代要因への申し送りに手間取ってしまてしまい、約束の時間を過ぎてしまっていた。

 

ようやく約束した居酒屋に到着した彼女に、中から威勢のいい声がかけられる。

 

 

「ミケ艦長!こっちだこっち!待ちくたびれちまったから、わりぃが一杯やらせてもらったぜぃ。艦長の席は開けといたからとっとと座んねぃ!」

 

 

 

声の主は柳原麻侖(やなぎはらまろん)、元晴風の機関長である。

 

 

 

明乃は未だに自分が艦長と呼ばれることに照れ臭さと少しの気恥ずかしさを感じながらも直ぐに表情を戻す。

 

 

「うん、ありがとう!遅れてごめんね、申し送りに時間がかかっちゃって…」

 

 

 

 

「いいよいいよ。そんなことよりさ、ミケ艦長もなにか飲んだら?」

 

 

気さくに話しかけてきたのは、晴風クラスの元砲雷長である西崎芽衣であり、先に飲んでいたのか、ほんのり頬が上気している。

 

 

「うん、じゃぁ生ビールをひとつ」

 

 

 

明乃はビールを注文して席に着く。

 

 

 

「「「「ミケ艦長久しぶり!」」」」

 

 

 

威勢の良いかけ声をかけたのは――

 

 

元砲術長 立石志摩(たていししま)

 

 

元水測員 万里小路楓(まりこうじかえで)

 

 

元電信員 八木鶫(やぎつぐみ)

 

 

元炊事委員 伊良子美甘(いらこみかん)

 

 

の四人だった。

 

 

 

「みんな、久しぶり!元気だった?」

 

「うぃ!」

 

 

明乃の問いに志摩はフランス語で短く返す。

 

 

「それじゃぁミケ艦長も来たし、改めて乾杯しよっか!」

 

 

 

美甘が皆に促すと明乃は人数が予定よりも足りない事に気付く。

 

 

 

「あれっ?シロちゃんとモカちゃんは?」

 

 

「ああ、知名さんは少し遅れるってよ。あと宗谷さんは今日急に残業が入っちまったんだとさ、ホント昔からついてねぇよなぁ……」

 

 

 

「知名さんが来たら改めて乾杯するとして、艦長も来たし一度乾杯しとこっか!」

 

 

鶫の言葉を聞いた一同はそれぞれにグラスを持ち、明乃も目の前に置かれたジョッキを手にした。

 

 

 

「それじゃ乾杯!」

 

「「「「お疲れぇ!!」」」」

 

 

カチン!とグラスを合わせる音が響き渡り、一同は一気に手元の飲み物を飲み干す。

 

 

「プッハー♪やっぱり仕事終わりはこうじゃなくちゃぁいけねぇ!」

 

 

「私はこう言うところはあまり来ないのですが、皆さんとの距離がとても身近で良いですわねぇ」

 

 

「マリコーはいつもどんなとこで飲んでのさ…」

 

彼女達は様々な反応で乾杯を済ませ、 そのあとはお互いの近況を報告し合う。

 

 

 

それからしばらくして――

 

 

 

「遅れてごめんなさい…」

 

 

 

 

 

そこに現れたのは明乃の親友で元武蔵艦長の知名(ちな)もえかだった。

 

 

 

 

 

「モカちゃん、久しぶり!」

 

 

 

 

 

二人は立ち上がって再会を喜びを分かち合い、その後は再び乾杯をして、もえかを交えて色々な事を話した。

 

 

 

 RATt事件や海上要塞占拠事件の事、ココちゃんこと納沙幸子(のさこうこ)が呉基地に配属になったり、クロちゃんこと黒木洋美(くろきひろみ)が配属先の佐世保基地での活躍の話など話は尽きない。

 

 

 

一頻り盛り上がり、居酒屋を後にした一同は横須賀の街を散策している。

 

 

 

「ミケ艦長!二次会どうする?」

 

「はーい、わたしカラオケがいいなぁ!」

 

 

 

鶫の質問に明乃ではなく芽衣が答えた。

 

 

 

「うーん、私は明日早いから今日はそろそろかなぁ」

 

 

「実は私も明日は早いの、ごめんなさい」

 

「私も、屋敷の門限がありますので」

 

「ええ!?皆もう帰っちゃうの?久しぶりなんだからもっと一緒にいようよ~!」

 

「メイ、無理強いダメ」

 

「む、むぅ……」

 

 

皆ともっと過ごしたいと言い張る芽衣を志摩が制する。

 

 

「まぁまぁ、夜は長いし俺が最後まで付き合ってやっからよ!」

 

「うぃ!」

 

「私もだよ」

 

麻侖、志摩、鶫の3人は芽衣に付き合うことに決まり、この場での解散する流れになったときだった。

 

 

 

 

「ん?なんだありぁ~」

 

 

 

 

麻侖が海の方を指差した先には、いつの間にか巨大な艦影が鎮座していた。

 

 

 

暗くてハッキリとは見えないまでも、船が3つ横に並んでいるようにも見え、尚且つ左右にある艦は甲板部分がまっ平らであり、彼女達が今まで見たこともない形状だったのだ。

 

 

それだけでも不自然だが、何よりあまりに巨大過ぎる艦影には不気味な威圧感を放っており、 周囲の人々もその艦影に気付きざわめき始める。

 

 

 

「なんだあれ?」

 

「ブルマーの最新鋭艦か?」

 

「きっとなにかのサプライズイベントだろう?」

 

 

 

周囲の野次馬の言葉を聞いた麻侖がパァッと表情を輝かせた。

 

 

「祭りだってぃ?それじゃこの麻侖ちゃんの出番ってわけだな!」

 

 

 

「麻侖ちゃん、酔ってはしゃいじゃ危ないよ!」

 

 

美甘が飛び出そうとする彼女を止めようとした直後だった――

 

 

 

「!!?」

 

 

 

周囲のどよめきに再び視線を海上に戻した彼女達の目には、ホタルを連想させる美しい緑色の光が謎の巨大艦の艦尾から光始めるのを写し出していた。

 

 

更に、こから8本の光の線が夜空に舞い上がり、途中で曲線を描いて明乃達の上空を通過して行き、その幻想的で美しい光景に人々からは歓声があがった。

 

 

 

「綺麗……」

 

 

 

一同も目を細めて光を見つめた。

 

 

 

だがその直後――

 

 

ドォォォォォン‼

 

 

 

光の向かった先で大きな爆発音が響き渡り、驚いた明乃達が振り返ると、そこにあった大きなビルに¨穴¨が空き、瞬く間に真っ赤な炎をあげながら跡形もなく崩れ去っていく。

 

 

それらを目撃した観衆の一瞬の静寂を経て――

 

 

 

「きぁぁぁぁぁぁ‼ 」

 

 

 

誰が上げたのかは解らない。しかしその悲鳴を皮切りに辺りは瞬く間にパニックに陥った。

 

 

 

 

「何!?何なの!?いったい 何が起きているの?」

 

 

 

明乃達は 状況がまるで把握できず、ただ立ち尽くすより他なかった。

 

 

 

         +      +       + 

 

 

謎の艦艇からの襲撃よりおよそ1時間前――

 

 

 

「ついてない……」

 

 

宗谷真白(むねたにましろ)はため息をついていた。

 

 

本来なら彼女も飲み会に参加する筈だったが、急遽の残業が入り行けなくなってしまったのだ。

 

 

 

横須賀女子海洋学校卒業後の真白は、現場ではなく、姉の宗谷真霜(ましも)の監督する部署の海上安全監督室付きの秘書官見習いに配属されていた。

 

 

 現場のブルマーよりもエリートが集まっており、国と現場のパイプ役や武力を所持しているとあって、職務上における逸脱した火器の使用や過剰防衛、他国との万が一の武力衝突を避けるために監督する役割を担っている。

 

 

 

  しかし、現場での勤務願いを提出していた真白にとって陸上勤務は不本意なものであった。

 

 

 

6年前の事件の際、暴走した武蔵を追っていた晴風は、途中大型商業船の座礁事故に遭遇し、真白も救助活動を行っていた。

 

 その際、真白は沈没寸前の船舶内部に取り残され、ブルーマーメイドに救助された経験があり、 その時の恐怖や絶望、そして救助されたときの安心感、 自分もいずれ彼女達のように困っている人の力になりたいと強く思ったのである。

 

 

 岬明乃と言う人物は、そんな真白からすれば海を守るヒ

ーローを具現化したような存在だった。

 

 

 

 無鉄砲な所や年相応に苦悩するところはあったが、その反面肝心な所での判断力やその表情は、真白の目指すブルーマーメイドそのものだったからだ。

 

 

 

真白はそんな明乃の存在に嫉妬していたのかもしれない。

 

 

 

 彼女に対して正直になれず、時には辛く当たることもあった。

 

 今も海の最前線で活躍し続けいる彼女を思い、それに比べて陸で資料の整理に明け暮れている自分がとても情けなく感じてしまうのだ。

 

 

「いいなぁ岬さんは、いつだって海の上で人々を笑顔にし続けられるんだから……」

 

 

真白は誰もいない執務室で、上がってきた報告書や資料を整理して少し乱雑に引き出しにしまう。

 

しかし腕の中から何枚かの資料がこぼれてしまい慌てて拾おうとした時、その中の一枚の資料にふと目が止まった。

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

【近日、北極海にて目撃された所属不明の大型船舶について】

 

 

 

【某国家にて秘密裏に建造か?今後の日本を含めた諸外国への敵対行動がないか引き続き調査の必要性あり】

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

添付されていた写真には、悪天候の為か明瞭ではないが大型船の姿が写っており、現代ではあまり見ない種類の艦影だった。

 

 

 

 

 

 

「何だろう?でも資源の乏しい日本を攻撃するメリットは無いと思うし、今のところは他国間の問題だな……」

 

 

 

 

真白は特に気にする事なくその資料をしまい、再び溜め息をついた。

 

 

 

コンコン!

 

 

「どうぞ」

 

 

 

ドアが開かれるとそこには真白の姉、宗谷真霜が立っていた。

 

 

「どうかされましたか?宗谷室長……」

 

 

「ええ、これから横須賀女子海洋学校の宗谷校長から海洋実習で船を出すために許可申請書を持って来ることになっているの。だから貴方にも同行してもらうわ宗谷秘書官補佐」

 

 

「分かりました……」

 

 

 

 

真白は返事を返すと真霜に随伴し室長室へ向かう。

 

室長室を開けると、すでにその人物は到着していた。

 

 

 

 

「お早いですね、宗谷校長」

 

「そうね、早めの行動は現場で叩き込まれた最も基本的な事ですから」

 

 

 

 

そう答えたのは宗谷真雪(まゆき)

 

 

 

二人の母であり。また学校での恩師でもあある。

 

 

 

 

 

「これが実習内容。それと参加する教育艦と人員のリスト、そして実習航路よ」

 

 

 

真霜は資料にさらりと目を通す。

 

 

 

 

 

 

「はい、分かりました。海洋実習を許可します」

 

 

 

「ありがとう、それじゃ帰りましょうか」

 

 

「あの~これだけですか?」

 

 

 

 

許可証を受け取った真雪に、真白が割り込む。

 

 

 

 

「いや同行しろと言われたので来たのですが他に何かあるのかなと……」

 

 

 

「まぁ、真霜あなた伝えてなかったの?真白が家をでてブルマーの寮に入ってから中々会う機会も無いし、たまには一緒に食事でもしようって伝えといったのに」

 

 

 

「ええ、伝えたら来ないと思ってましたから。真白ちゃんはまだこの部署に配属になったことが不満みたいだったし」

 

 

 

「い、いえ別に不満な訳じゃ……」

 

 

 

「ふふっ、でもちゃぁんと顔に出てるわよ」

 

 

真白は図星をつかれて少し頬を膨らませる。

 

そんな真白に真雪が表情を崩した。

 

 

 

 

 

「でもね真白、船が一人で動かせないのと一緒でブルーマーメイドも現場だけでなく陸からの支援がなくては成り立たないの、あたもいつか解るわ。でも私としてもまず現場を経験させてからの異動が最も望ましいと思っていたのも事実なのよ?」

 

 

 

 

母の発言に少し驚きながらも、今は自分の気持ちを押し殺し、真白は頷いた。

 

それを見た真雪は、ニッコリ笑った

 

 

 

 

「それじゃ、久しぶりに一緒に食事をしましょう。真白はなにが食べたい?」

 

 

 

 

本来なら明乃達と飲み会だったのだか流石に3時間も遅れてしまえば解散していてもおかしくないだろうと考えた真白は、母達と食事をすること決め、3人で横須賀基地を後にしようとしたとき――

 

 

「なにかしらアレ……」

 

 

 

 

近くの隊員の叫びで3人はその方角に視線をむける。そこには見たこともない巨大な艦影があった。真白はさっき見た資料を思い出す。

 

 

 

 

(あれは北極海の巨大な艦?しかし写真とは少し形状が違う気がするが……)

 

 

 

 

真白が少し怪訝な表情を浮かべたときだった。

 

 

 

巨大艦の艦尾が緑色に光始め更にそこから8本もの光の線が横須賀の町に飛んでいく。

 

 

 

そして轟音とともにそびえ立っていたビルを貫通し瞬く間に倒壊させたのである。

 

 

 

 

「大変…これは襲撃よ!」

 

 

 

真霜が鬼気迫る表情で言い放つ。

 

 

【襲撃】

 

 

平和な日本ではまず耳にしない言葉ではあるが、真白の目に映る光景は、否応無しにその現実を彼女に突きつけるのだった。




お付き合い頂きありがとうございます。
リアル多忙につき更新が遅滞することもあるかと思いますが。

どうか気長にお待ちください。


次回はとにかく蹂躙です。
それではまた会う日まで























とらふり!







明乃
「海の仲間は家族だから!」


もえか
「ミケちゃんは変わんないね。私も変わらないよミケちゃんへの気持ち……。あのさ、私の事どう思ってる?」






明乃
「家族だから!」


もえか
「もしかして遠回しにフラれてる?」




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灼熱の蹂躙   vs Unidentified ship

お疲れ様です。

第2話となります

上手くまとめられたかとても不安ですが、どうぞお付き合い下さい


それではどうぞ


   + + +

 

 

市街地は正に地獄だった。

 

彼女達はパニックになった人々を宥めて、避難の誘導する。

 

 

横須賀はもともと海岸のすぐ近くまで切り立った山々に囲まれており。トンネルも多い。

 

 

 

そこに逃げ込めれば、艦砲やあの光の線から逃げられるかもしれなかったからだ。

 

 

 

 

「皆さん落ち着いてください慌てないで!」

 

「怪我をした人にてを貸してあげてください!」

 

 

 

 

彼女達は必死に声を張り上げて少しでも安全な所へと人々の誘導を試みた。

 

 

 

しかしその時、明乃達の上空を高速の何かが飛翔して行く。

 

 

驚くべき事に、それはさながら¨鋼の鳥¨と言うべき形をしていたのだ。

 

 

 

「何ですの?」

 

 

 

楓は、予想外の光景に思わず立ち止まって上を見上げる。

 

 

 

それらはどうやら海上に鎮座している巨大艦の左右に並んでいた平らな甲板から飛び立っている様で、大群で此方に押し寄せて来ており、その中の一つが、腹に抱えていた¨黒いモノ¨を投下して来た。

 

 

 

黒い物体は逃げ惑う群衆のど真ん中に落下し…。

 

 

 

 

ドォォォォォン‼

 

 

 

耳をつんざく轟音と共にソレが爆発した。

 

 

 

灼熱の爆風と炸裂した破片が周囲に広がり、大勢の人々は悲鳴すら上げる事なく凪ぎ払われて行く。

 

 

そして彼等の一部は明乃の達一行にも迫って来ていた。

 

 

 

「来た!来たよ!ねぇ、タマ…」

 

「伏せて‼」

 

 

 

 

志摩は珍しく声を張り、芽衣の頭を地面にくっ付けて自らも伏せる。

 

彼女の叫び声を聞いた明乃達も慌てて地面に身体を伏せた。

 

 

次の瞬間。 

 

 

 

 

ズガガガガガガガガガ‼

 

 

 

 

空中からの突然の銃声が鳴り、それが明乃達の頭のすぐ上を通過して付近にいた人々の身体を次々と穿って引きちぎる。

 

  

 

 

「イヤァァァァ!うぅ…うっ、うぇぇ!」

 

 

 

「やめて!もうやめてお願い!」

 

 

 

 

目の前で起きた事態に付いていく事ができず、もえかは悲鳴を上げ、芽衣は自らに迫った死の恐怖から嘔吐する。

 

 

その時、

 

 

「うわぁぁ!お父さん!お母さん!」

 

 

 

明乃達が振り向くと、そこには少女が泣き叫んでおり、彼女達は駆け寄って状況を確認する。

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

 

「お父さんとお母さんが…うわぁ!うっ…うっ…」

 

 

 

 

近くには折り重なるように倒れた二人の男女がいた。

 

おそらくこの子の両親であり、爆発からこの子を守ろうとしたのだろう。

 

 

 

明乃が脈を確認するが既に手遅れであった。

 

二人の頭部から出血が診て取れる。先程の爆発の爆風で飛び散った破片や瓦礫が頭を直撃したことが致命傷になったのだろう。

 

 

 

少女は泣き叫びながら両親の遺体を揺すり続けていた。

 

 

「お父さんお母さんどうしたの?早く帰ろうよ…」

 

 

 

「落ち着いて!ねぇ君、お姉さん達と逃げよう?大丈夫…大丈夫だよ!今はとにかく逃げなきゃ!」

 

 

「イヤ!おとうさんとおかあさんと一緒に行くの!」

 

 

 

「…!」

 

 

明乃は少女を強く抱き締めた。

 

 

過去に両親を海難事故で亡くした経験を持つ明乃は、少女がどんなに不安であるのかが痛いほど理解できてしまっていたのだ。

 

 

 

故に明乃は優しく、そして諭すように語りかけた。

 

 

 

事故当時、救助する為に駆け付けてくれたブルーマーメイドの隊員が、自らを冷たく暗い海から引き上げ、両親が居なくなった事に気付き錯乱してしまった自分を宥めてくれた様に…

 

 

 

 

 

「お父さんもお母さんも必ず起こして連れていく。君は良い子だから大丈夫だよね?だから…だから今は逃げよう?ここはすごく危ないから、ね?お願い……」

 

 

「良い子?」

 

 

 

「うん…」

 

 

「うん…わかった。おとうさんとおかあさん言ってた。良い子にしてれば、絶対に¨神さま¨が助けてくれるって!私お願いするの。【おとうさんとおかあさんがまた元気になりますように】って!」

 

 

 

「うん、そう…だね…」

 

 

「お姉ちゃん?泣いてるの?」

 

 

 

「あっ…ううん。ほ、ほら!今はとにかく逃げよ?」

 

 

「うん!」

 

頷いた少女に明乃は涙を浮かべた顔を無理に笑みに変え、鶫と美甘に彼女を託し、こちらに手を振る少女の姿が見えなくなるまで見送ってから辺りに視線を見渡した。

 

 

 

無惨に破壊され炎に包まれる変わり果てた灼熱の風景。

 

 

 

 

そこには身体中に破片が刺さりうめき声を上げる者、死体を前に泣き叫ぶ者、自暴自棄となり座り込む者。

 

 

 

そして…

 

 

 

 

死体  死体  死体

 

 

 

多くの死と絶望が満ちた世界は、まるで【地獄】が溢れた様だった。

 

 

 

彼女は炎に包まれた街から視線を外して天を仰ぐ。

 

 

 

普段、明乃は現場で【神】に祈ったりは決してしない。

 

 

 

それは困った人を助けるのは、神でも誰でもない¨自分自身¨であると信じているからである。

 

 

 

しかし今回ばかりは、個人でどうにかなるレベルを遥かに超越している事は明らかだった。

 

 

 

明乃は強く願っていた。

 

 

この地獄を…あの少女の様に大切な人の命が簡単に消えてしまうこの状況を終わらせる事が出来るのであれば誰にでも…いや、悪魔媚びても良いとすら思っていた。

 

 

 

(神様…神様どうか助けて!助けてください!お願い!)

 

 

彼女は天を見上げたまま、渾身の力で叫んだ。

 

 

 

 

「おねがぁぁぁぁぁい!」

 

 

 

黒煙が立ち上る灼熱の街に彼女の叫びが響き渡った時、不思議な現象が巻き起こる。

 

 

 

巨大艦が鎮座する手前の海上に青白い色の光が輝き始めたのだ。

 

 

 

それは徐々に広がって行き、横須賀の町を覆い尽くす程に大きくなって行く。

 

 

 

その場にいた全ての者はあまりの眩しさに目を開けていられない。

 

 

 

しかし唐突に光がおさまり、一同がもう一度海上に目を向けた先には、海に浮かぶ大きな街のような構造物と一隻の潜水艦が出現していた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

巨大艦からの襲撃直後

 

 

巨大艦からの市街地への攻撃を受け、ブルーマーメイドの艦隊10隻が迎撃に向う。

 

 

 

艦隊からは何発もの速射砲や魚雷が巨大艦に殺到し直撃する。

 

 

 

筈だった…

 

 

砲弾や魚雷は着弾直前に何か¨透明な壁¨にでも衝突したかのように跳ね返ったり、弾道が急激に反れて全く直撃しなかったのだ。

 

 

 

艦隊は理解を超えた事態に何が起きたのか把握すら出来ず、ただ狼狽えるしかない。

 

 

 

直後に巨大艦の艦尾付近が再び発光後、あの緑色の光線が艦隊に殺到した。

 

 

 

驚くべき事に、光線は鋼の船体をいとも簡単に¨貫通¨して艦に修復不可能な大きな穴を穿ち、直撃した箇所は、まるでチョコレートを溶かしたようにドロドロに溶け落ちていたのだ。

 

 

 

 

 

たった今の攻撃で実に7隻の艦が¨瞬時¨に撃沈してしまう。

 

 

 

 

巨大艦の発射する未知なる攻撃に、残り3隻の艦も必死に攻撃を続けようと試みていた。

 

 

 

しかし、巨大艦左右の甲板上から大量の鋼の鳥達が飛び立ち、ブルーマーメイド艦隊の周りを飛び始め、その内の一羽が腹に抱えた魚雷を投下。

 

 

 

一隻の艦は、上空を舞う高速の兵器に気をとられて回避が遅れてしまう。

 

 

その間に、左舷付近に魚雷が直撃し炸裂し、直ぐに発生した浸水の為に艦は傾き始めて遂に船底が天を向いた。

 

 

 

残り二隻も速射砲で応戦するが、高速かつ小回りの利く動きに全く対応出来ない。

 

 

 

それを知ってか知らずか、空中の敵達は次々に爆弾や魚雷の投下を開始し、それらが1つまた1つと艦に命中し起爆、残り二隻も瞬く間に炎上して護衛艦としての役割を果たせなくなってしまった。

 

 

 

だが、彼等の攻撃は止むことはない。

 

 

 

次に鋼の鳥達が標的にしたのは、横須賀基地のドックや指令所だった。

 

 

彼等は、出港準備をしている艦や、基地内に集まってきている隊員達めがけて容赦の無い爆撃や銃撃を開始する。

 

 

 

 

 

 

「いぎゃぁぁあ!あ…熱づ、熱いぃぃぁあ!」

 

 

「凉子ぉぉぉぉ!ちょ…嘘でしょ!?えっ?えっ?ちょ…待っ、やだやだやだ!こっちに来ないで…ぎぃ!?でぇぶぁぁ!」

 

 

「嫌ぁぁぁあ! 私…結婚したばかりで…。こ、こないでぇ!ぃイぎッ…ちょっ…待って待っでぇ!赤ちゃ…お腹だけはぁぁ??ボグェあぁ!」

 

 

「ちくしょう!撃ち堕てしてや…グヒィ?…べげぇうっ!」

 

 

「あぎぃぃ!?わっ私の…私の左腕ぇえ…べぇゲらぁ!?…ボェグォ…へ…」

 

 

 

 

艦を包む灼熱の炎や銃撃により、隊員達は絶望の断末魔をあげてバタバタと倒れていく。

 

 

ここまで僅か15分。

 

 

その15分でブルーマーメイド横須賀基地は事実上の防衛能力を失ったのである。

 

 

 

真白達は先程から自分達を執拗に狙ってくる飛行兵器から逃げるため、かろうじて形を保っている基地の建物の物陰で身を潜めていた。

 

 

 

 

 

 

「一体何が狙いなの?」

 

 

「此方の基地ではなく市街地から攻撃したところをみると、必ずしも侵略が目的とは言いにくいわ。侵略ならまず防衛の要であるブルーマーメイドの基地を攻撃する筈だから」

 

 

 

「でも母さん、侵略が目的では無いなら、これは一体?」

 

 

 

「強いて言うなら¨破壊¨ね。あの艦は先程から微塵も動いていないし、最初の光の攻撃と艦砲以外はあの空を飛ぶ兵器からの攻撃だったから。しかも市街地への攻撃にしたって破壊力は有るけど、やはりこちらも光の攻撃や艦砲よりも空飛ぶ兵器からの攻撃の方が多い。それを考えると、向こうは此方の出方をうかがっているか自艦の兵器がきちんと作動するか¨試し撃ち¨しているみたい……」

 

 

 

真雪は同様している真霜の問いに、冷静に答えていた。

 

 

そんな母娘の会話を聞いていた真白はあることを思い出す。 

 

 

 

 

「姉さん、これは北極海で目撃された正体不明な艦と何か関係が?」

 

 

「写真で見た艦ではないにしても、その可能性は十分有るわ。いずれにしても、長くここに居るのは危険ね…。安全な所へ逃げ込まないと、この道の向こう20m先に機密情報保管用の地下フロアがある。そこに逃げ込みましょう。今応戦している皆にもここに避難するようさっき端末で指示を出しておいたの」

 

 

 

真霜の避難の提案に二人は頷く。

 

 

避難のタイミングを計ろうと周囲に意識を向けた彼女達の耳には、銃撃や爆撃の音が鳴り響いていた。

 

そのたびに今にも崩落しそうな程建物がギシギシ揺れて不快な音をたてて不安を増長させる。

 

真霜の言う通り、このまま1ヶ所に留まるのは余りに危険だ。

 

 

 

3人の額に汗が滲む。

 

 

真白は再び姉に視線を向けると、彼女は指を三本立てていた。

 

 

 

「いい?3つ数えたら向こうの地下に続く階段がある入口迄走るわよ。1・・2・・3走って!!」

 

 

 

真霜の合図で二人は思いきり駆け出す。

 

 

距離は大したことはない。

 

 

もうすぐたどり着く。

 

 

しかしその時…

 

 

 

 

「えっ!?うわぁ‼」

 

 

 

真白が爆撃で吹き飛んできた瓦礫に足をとられて転倒してしまった。

 

 

 

「うぅ、痛ぅ…あぁもうツイてな…え!?」

 

 

 

真白が目の前に視線を向けると、先程から執拗に自分達を銃撃してくる飛行兵器がこちらに向かって来ていた。

 

 

ブォオンと言うプロペラの音が高速で近付いて来るのを聞いた彼女は、自分に死が迫っている事を今更ながら自覚して必死で立とうとするも、どうやら足を挫いてしまったらしく激痛が走ってまた座り込んでしまう。

 

 

道の向こうから真雪と真霜がこちらに向けて何かを叫んでいるが、彼女は頭の中が飛んでしまって何を言っているのか上手く聞き取れない。

 

 

しかし自分は次の瞬間、あの得たいの知れない兵器に体を穴だらけにされ死ぬ事だけははっきりと理解出来た。

 

 

真白は目を固くつむる。

 

 

 

「………ん?」

 

 

しかし訪れるはずの衝撃はいつまで経っても来ない。恐る恐る目を開ける彼女の瞳には、あの飛行兵器は踵を返し飛びさって行くのが見える。

 

 

 

「た、助かった…でもなんで?」

 

 

視線をそちらに向けると、巨大艦の手前の海に青白い光が発生していた。

 

 

 

そして光が消えると同時に、船の上に建物やクレーンなどが沢山ある不思議な構造物が目に入った。

 

 

さながら、海に浮く港とも言うべき物と、潜水艦の姿も見える。

 

 

 

その時だ

 

 

先程から微動だにしていなかった巨大艦が急激に回頭し飛行兵器もそれらに向かって殺到する。

 

 

真白は目の前の光景が本当に現実の事なのか、にわかにはとても信じらず、ただ唖然と眺めている事しか出来ないのだった。




お付き合い頂きありがとうございます。

いよいよ彼らの登場です

次回まで今しばらくお待ちください

それではまた会う日まで





















とらふり!

真白
「艦長…無事でいてください!」


真霜
「なぁに真白。もしかして岬さんの事…。解るわぁ!私も昔は…ね。最も私は告白される方だったけど♪」



真白
「す、凄い!流石姉さんは、ベテランのブルマーだね!私も見習って必ず岬さんに…」


真雪
「岬さんよりもあなた達の将来が心配だわ…」


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灼熱の邂逅     vs Unidentified ship

仕事の都合上書ける内にとおもい書きました。

またお付き合い下されば幸いです

今回は前半は戦闘回です

それではどうぞ




   + + +

 

 

光の中から現れた浮き港と潜水艦。

 

 

 

それらに巨大艦からの光の攻撃や艦砲や飛行兵器達が殺到する。

 

 

 

 

ズドォォォォォォン!!

 

 

 

 

轟音と共に爆煙が立ち込めて、それが晴れた時には¨傷1つ付いていない艦¨の姿があった。

 

 

そして浮き船付近から一隻の艦が発艦する。

 

 

なんとその姿は艦の先端に¨ドリル¨両舷に¨回転ソー¨を着けた姿をしていたのだ。

 

 

 

 

ドリル艦は通常艦艇ではあり得ない加速で発艦すると、飛行兵器に凄まじい数のミサイル 速射砲 機銃の弾のように小さい光の兵器を乱射し、主砲と思われる大型の兵器から視認するのも難しい高速の砲弾と、艦橋左右に設置してある見たこともない形状の兵器からイナズマのような光を巨大艦に向け発射した 。

 

ズドォォォォォォン!

 

 

先程のブルーマーメイドの攻撃にびくともしなかった巨大艦から轟音と共に煙が上がる。

 

攻撃は効いていた。

 

左舷側の飛行兵器を飛ばしてくる甲板はボコボコになりもはや役目を果たさない。

 

 

 

しかしながら致命打には至らなかった。左右にある艦が中央部へのダメージを防いでいるのだ。

 

 

 

 

ドリル艦は構わず猛攻を加え続ける。

 

 

 

すると突然、巨大艦の左側バルジの部分に立て続けになにかが着弾、まるで抉り取られたような不思議な穴が開く。

 

そこから大量の海水が船内に流れ込んでいる様子がわかった。

 

 

先程まで海上に居た潜水艦の姿が消えている。

あの攻撃はその潜水艦からのものだったらしい。

 

 

巨大艦は大量の海水の流入によって傾き始めるも、右舷側の艦に直ぐに注水して立て直して先程ドリル艦が放ったのと同様の超高速砲弾や主砲・ミサイル・あらゆる光の兵器・飛行兵器の射出等で応戦してくる。

 

 

ドリル艦は謎の障壁を展開し攻撃をいなすが、あの超高速砲だけは完全には威力を相殺出来ないらしく、その証拠に先程放ったイナズマ兵器があらぬ方向に放たれる。

 

 

恐らくは故障したのであろう。

 

 

だがドリル艦は、先程謎の潜水艦からの攻撃で穴が開いた箇所に狙いを定め尚も攻撃を続ける。

 

しかも無事な右舷側の甲板から随時発艦してくる飛行兵器を相手にしながらだ。

 

そして遂に巨大艦左側の艦が限界を迎える。

 

 

ズドォォォォォォン!

 

 

謎の艦から轟音と火柱が上がる。

 

だが驚くべき事に敵はまだ沈まず、傾いたまま攻撃を続行していた。

 

さらに

 

ガチャン………

 

なんと巨大艦は左舷側の艦を¨切り離し¨残りの艦だけで猛攻を続ける。

 

しかも余計なものを切り離したことでより小回りがきくようになり、先程よりも回避が正確になったのだ。

 

そして炎上した艦は、あれほどの攻撃を受け浮いているだけでも奇跡に近いわけだが、なんと回頭し速度を上げながらドリル艦に突撃を敢行、滅茶苦茶に砲弾を撒き散らしながらドリル艦に突っ込む炎上艦にドリル艦は回避運動を取らず、なんと増速し真正面からぶつかった。

 

ドリル艦はゴリゴリと耳障りな音をたて火花を散らしながら相手の艦首を削る。

 

直後、

 

ボォォォォォォォン!!

 

炎上艦は凄まじい大爆発を起こし消滅してしまった。

その凄まじい爆風は戦闘海域から10km離れた横須賀にもすさまじい暴風となって押し寄せた。

 

 

 

爆煙が収まると、そこには無惨にドリルが曲がり、そこら中真っ黒に焦げた無惨なドリル艦の姿があった。

 

 

だが驚くべきことに、ドリル艦は巨大艦への攻撃を続行。満身創痍の船体で使える兵装はすべて使って攻撃を再開したのだ。

 

 

 

その時、今度は右舷側から爆煙が上がり、そこには潜水艦からの攻撃と思われる穴がいくつも開いていた。

 

ドリル艦は先程同様に浸水箇所を中心に砲撃を再開し、それによって巨大艦右側の艦も爆発を起こして傾いて行く。

 

 

するとまたしても巨大艦は、炎上した艦を切り離した。

 

 

 

 

まるで¨トカゲの尻尾切り¨である。

 

 

 

炎上した右舷艦は増速しドリル艦に突撃する。しかし満身創痍のドリル艦に先程同様の超爆発を受けきることは出来ないだろう。

 

 

 

絶体絶命…。

 

 

 

 

その時だった。

突如海が割れ、その先にあの潜水艦の姿が…。

 

その姿は先程の姿とはまるで違い、なんと船体を¨展開¨しその中央部にある円形上の物にエネルギーを収束させていた。

 

 

 

炎上した巨大艦はミサイルや砲撃を撒き散らしながら必死で抵抗するが、割れた海から逃げることが出来ない。

 

そして

 

 

 

ブォォォォォォン!!!!!

 

けたたましい轟音と共に収束したエネルギーが放出され炎上艦に直撃。

 

 

炎上艦は爆発すらせず、エネルギーの奔流に巻き込まれ塵も残さず¨一瞬で消滅¨し、その余波で海はうねりを伴い荒れ狂っている。

 

しかし潜水艦もドリル艦も闘いをやめる気毛頭無いようだ。

 

 

残るはあの中央部の巨大艦を残すのみ。

 

 

 

 

 

しかし巨大艦は炎上した艦を囮にしていた。

左右の艦を切り離したことにより、身軽になった巨大艦はその巨体に似合わない高速で沖合へと逃走していたのだ。

 

 

波が落ち着くまでしばし状況は膠着し、その後その二隻は共に横須賀に進路を変える。

 

夜が更けていく横須賀は未だに炎に包まれ明るく、まるで灼熱の海と言うべき状態だった。

 

 

 

  

   + + + 

 

 

明乃は手の震えが止まらない。

 

 

海上での戦闘は、明乃が今まで経験してきた常識と言うものを根底から覆すものであったからだ。

 

 

もしあのような戦闘が繰り返されれば、世界が…いや、この星がもたないと思わせるには十分すぎる材料が揃っている。

 

 

すると、あの二隻が此方の港に向かって方向を変え迫ってくる。

 

 

 

「な、何をするつもりなの?」

 

 

彼女は恐れていた。

 

 

巨大艦を撃退してくれたとはいえ、逆に言えば自分達が手も足も出ないような相手を撃退出来るという事実は、同時にあの巨大艦と同等かそれ以上の戦力を保有している可能性があったからだ。

 

 

 

 

もしその戦力が自分達に向いたなら…。

今度こそ自分達は一人残らず灰塵に帰してしまうに違いない。

 

 

 

彼女はその事が怖くてたまらなかったのだ。

 

 

しかしながら、二隻はこれといって攻撃をするでもなく横須賀の港に接岸を開始する。

 

 

明乃は近くに居た皆に避難と救助の指示を出し、不明艦に近づく旨を伝えるが、もえか達の表情は当然険しいものとなる。

 

 

 

「ミケちゃん危ないよもし何かあったら…」

 

 

「そうだよミケ艦長、攻撃してきたらどうするの?」

 

 

 

「でももし敵意があるなら、さっきの巨大艦みたいに沖合から一方的に攻撃してくるはずでしょ?それに艦の人達は今回の事で何か知っていることが有るかもしれない。もしそうなら話を聞かなきゃ!」

 

 

 

「あっ!待って!」

 

 

「ミケちゃん!」

 

 

 

明乃の意思は思ったよりも堅く、彼女は不明艦の下へと駆け出してしまう。

 

 

 

 

 

「知名さんよぅ…流石にミケ艦長を一人で行かせるのは心配でぃ。あんたも付いていってくれねぇか?ここは俺たちで対応するからよ」

 

 

 

 

「うん、ありがとう柳原さん」

 

 

麻侖達に後を託し、もえかは明乃の後を追って行った。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

明乃は息を切らせて、不明艦のすぐ間近までやってくる。

 

艦艇にドリルが装着されているだけでも驚きなのだが、甲板には今まで見たこともないような形状の兵装が沢山搭載されていた。

 

 

しかし、先程の戦闘は余程激しいものだったのだろう。所々が破損し、黒焦げになっている箇所が幾つも見られており、掲げている旗は見たこともない紋章が記されている。

 

 

 

 

一方で潜水艦の方は軍艦とは思えないような蒼い塗装に、船体にはタトゥのような不思議な模様がある。

 

 

 

さらに特徴的なのは、甲板にある滑り台の様なものと艦橋付近にある円形のハッチだった。

 

 

 

2隻の艦艇を見た明乃は不安が込み上げる中、勇気を振り絞り不明艦に向かって叫ぶ。

 

 

 

 

 

 

「此方はブルーマーメイドです!今回の事でお話を伺いたい。応答してくだい!お願いします!応答してください‼」

 

 

「ミケちゃん‼」

 

 

 

追いかけてきたもえかが、明乃を制する。

 

 

 

 

「軽率だよミケちゃん!もし攻撃されたら…」

 

 

彼女の言う事は尤もだろう。

 

 

見るからに過剰な武力を持った、目的も所属すら不明な戦闘艦に対して一人で相対するなど愚の骨頂でしかない。

 

 

しかし学生時代より、目の前に突き付けられた困難を見過ごす事など出来ないのもまた岬明乃の性格なのだ。

 

 

もえかが退避するよう彼女を説得しようとする中、突如不明艦二隻の扉やハッチが開きいて人が出てきて二人は思わず身構えた。

 

 

 

 

ドリル艦から出てきた艦長帽を被り、海軍独特の白い士官服を着た背の高い外国人風の男が口を開く。

 

 

 

 

「この度は災難でしたね。貴女はこの町の自警団か何かの方ですか?見たところ横須賀の様にも見えますが、我々が通信で呼び掛けても応答が得られませんでした。もしよろしければ、誰か政府の関係者の方に取り次いで頂き上陸の許可を頂きたいのですが…」

 

 

 

 

流暢な日本語が飛び出した事に彼女達はは少し驚くが、明乃はそれを出来るだけ表情に出さず、あくまで毅然とした対応を心掛ける。

 

まだ彼等の真意を計りかねていたからである。

 

 

 

 

「私はブルーマーメイドの隊員で岬明乃と言います。私の上司の方と連絡が取れればあるいはとは思いますが、今はこの状況ですので連絡は難しいかと…。まずは貴艦の所属と貴方のお名前を教えてください」

 

 

 

 

彼女の問いに対して、ドリル艦の男は攻撃的な素振りを見せる事なく素直に頷く。

 

 

 

「解りました。我々は¨ウィルキア共和国¨所属の解放軍¨超兵器¨遊撃部隊で通称【鋼鉄の艦隊】と呼ばれている部隊です。私はこの艦隊で艦長をしています。【ライナイト・シュルツ】と申します。この艦は¨ドリル戦艦シュペーア¨です」

 

 

 

(ウィルキア共和国?超兵器?ドリル戦艦?どれも聞いた事がない。ウソをついているのかな……)

 

 

もえかは警戒の表情を崩さず、シュルツの解答にまだ疑念を抱き続ける。

 

 

彼はその表情にチラリと目を向け、彼女の意図を察したのか言葉を紡いで行く。

 

 

 

 

「我々はウィルキア共和国解放軍は、あなた方の敵ではありません。その証拠と言っては何ですが、我々は今回襲撃を受けた市街地にいる民間人を救助する準備が有ります。今はこれしか出来ませんが、どうか信じて頂きたい」

 

 

 

シュルツは帽子を取り深々と頭を下げる。

 

 

彼の対応はとても丁寧であったし、明乃としてもいち早く町の人々の救助を優先したい気持ちは強かった。

 

だが事は、イチ隊員で判断するには余りにも大き過ぎたことは確かだろう。

 

 

 

 

「ありがとうございます。出来るだけ早くご協力頂けるよう善処します」

 

 

 

彼女は自分の気持ちを抑える。今は少しでも彼等から情報を引き出し、信用するに足るかどうか判断する材料が欲しいと考えたのだ。

 

 

 

故に彼女は視線を潜水艦から出てきた¨少年¨へと移す。

 

 

 

見た目は顔立ちの言い東洋人の顔で、黒いスーツのようなものを来ており、年齢は明乃達とさほど変わりないか、少し若いくらいであると推測した。

 

 

 

 

「そちらの方は?」

 

 

 

 

「我々は【蒼き艦隊】です。これは潜水艦【伊號401】。私は艦長の【千早群像】です。何故かは解りませんが、我々は¨突如¨としてここに来てしまい、状況が把握出来ていないのが現状なのです。¨軍務省¨の上陰龍二郎次官補に取り次ぎをお願いしたい。それと我々も微力ではありますが、民間人への救助に参加する用意はあります」

 

 

 

(蒼き艦隊?やはり聞いた事がない。それに日本に軍務省なんて組織は無いはずだし。日本人の様だけど本当に信用出来るの…?)

 

 

 

 

もえかは蒼き艦隊に関してもやはり懐疑的な気持ちに変化はない。

 

無理もなかった。

先程まで常識を遥かに超える戦闘を繰り広げていた艦艇の人間を、直ぐに信用しろと言う方がどうかしている。

 

 

 

だが意外な事に、ウィルキア所属であるシュルツも眉を潜め、何か思案しているように見えた。

 

 

その様子は、まるで明乃達と同様に彼等を信用していないのが見て取れる。

 

 

明乃は動揺を悟られぬ様、表情を崩さない事に努めた。

 

 

 

 

「解りました。不明な点も幾つかありましたが、情報の把握の為に話し合いの場は持ちたいと思いますので、少し待って頂けますか?」

 

 

 

 

「了解しました。我々も艦にて待機し、上陸の許可が降り次第、救助活動に入れるよう準備を整えますので、その時はご一報を頂ければと…」

 

 

 

「解りました。必ず…」

 

 

 

彼女と千早群像とのぎこちない会話のやり取りを終えた時、

 

 

 

 

 

「岬さん‼」

 

 

 

背後から声が聞こえる。明乃が振り向くとそこには見知った顔があった。

 

 

「シロ…ちゃん?」

 

 

 

 

 

  + + + 

 

数十分前

 

 

 

光の中から現れた艦隊と巨大艦との戦闘を目の当たりにした真白は、その場にへたりこんでいた。

 

これは夢だと思い、頬をつねるが痛みで顔が歪む。

 

 

 

残念ながら現実であった。

 

 

 

「なんなんだあれは…」

 

 

 

真白は頭がおかしくなりそうな衝動を抑え、挫いた足をかばいながら何とか立ち上がる。

 

 

 

「真白‼大丈夫?」

 

 

 

駆け寄ってきた真霜と真雪に、真白は何とか作ったぎこちない笑みを返す。

 

二人はそれを見て強ばった表情を崩すが、直ぐに表情を引き締める。

 

 

 

 

「私はこれから無事な隊員を集めて、負傷した隊員や市街地の民間人の救助を指揮する。母さんは?」

 

 

 

 

「私はこれから学園へ戻り被害状況を確認するわ。6年前の【RATtウィルス事件】【海上要塞奪取事件】とは違い、この案件は学校で処理できるレベルを遥かに越えている。生徒の身の安全も考えて一度自宅に返すことも検討します。それに学校の教員は、私も含めブルーマーメイドの予備役として登録されているし、何かの役に立てるかもしれないわ」

 

 

「そうしてもらえるとありがたいわ。それじゃぁ……」

 

 

 

 

 

 

真霜が言葉を言いかけた時、海上での動きに変化があった。

 

 

先程、巨大艦と戦闘をしていた二隻の不明艦がこちらに向かってきたのである。

 

 

 

「まさかまた襲撃!?」

 

 

 

 

「いえ、それは無いと思うわ、見る限り少し破損している様にも見えるし、さっきの爆発に巻き込まれてただで済むとは思えない。まして攻撃を仕掛けるきなら、これ程接近せずともあの艦なら可能でしょうし」

 

 

 

 

「もし乗組員がいるなら、事情を聞きたいわ。でも私は救助の指揮をとらねばならないし……」

 

 

 

 

「姉さん、私が行きます!」

 

 

 

「真白が!?無理よ!もし相手に敵意があったらどうするの?それにその足であそこまで行けるわけ無いでしょ?」

 

 

 

 

当然ながら、真白の提案は反対されてしまった。正当な理由なだけに彼女は何も言い返せず俯く彼女に、意外な言葉が飛んで来る。

 

 

 

 

「やらせてあげて真霜」

 

「母さん!?」

 

 

 

 

真霜は母の言葉に驚愕する、それは真白も同様だった。

 

 

 

 

 

 

「今は少しでも情報がほしいわ、それにその足じゃ救助の足手まといになる。適任だと思うけど?」

 

「でももし相手が攻撃してきたら…」

 

「そうねぇ護衛が居ればいいのだけれど……」

 

 

「宗谷室長!!ご無事ですか?」

 

 

 

 

 

 

彼女達が振り向くとそこには、負傷した者を担いで避難してきた隊員達だった。

 

その中に特徴的なタヌキのカチューシャをした女性がいる。

 

 

 

 

 

「福内さん!!無事だったのね!」

 

「はい、なんとか…しかし助かったのはここにいる50名程度です。あとの皆は…」

 

「そう…とにかく無事で何よりだわ」

 

 

 

 

 

真霜は表情を暗くするが直ぐに福内へ顔を向けた。

 

 

 

 

「そうだわ福内さんを護衛として真白に着けてはどう?今は少しでも事態を打開するヒントが必要よ」

 

 

 

 

 

真雪の言葉を受け真霜は少し思案し、顔を上げた。

 

 

 

 

 

「解ったわ…。福内さん、あなたは真白と共にあの不明艦に接触して事情を聞いてほしいの。大丈夫かしら?」

 

「はい……ですがもし攻撃されたらどうします?」

 

「室長権限で自衛での銃の携帯及び発砲を許可します」

 

「了解しました。では至急準備致します」

 

 

 

 

福内は敬礼を返し支度を始める。

 

そんな中、真霜が真白に近づき耳元に顔を寄せた。

 

 

 

 

 

「絶対無理しちゃダメよ。ちゃんと帰ってきて…。これは室長命令ではなく、あなたのお姉ちゃんとしてのお願い……」

 

 

 

 

状況が状況だけに、心配だったのだろう。

 

そう言う真霜の目には涙が溜まっていた。

 

 

 

「うん…」

 

 

 

 

真白はとぎこちない笑みで頷く。

 

 

 

 

「宗谷さん準備できたわ‼」

 

「はい、今行きます」

 

 

 

 

 

福内に呼ばれ挫いた足を懸命に引きずりながら進む真白を見て心配そうに見送った真霜であったが、直ぐに表情を引き締める。

 

 

 

「これより負傷した隊員や民間人の救助や消火作業に当たります。付いてきて!」

 

 

 

 

 

隊員達が真霜に敬礼を返す様子を見ながら真雪は一瞬目を細める。

 

 

 

 

(ホント、娘達は逞しく成長したわね……)

 

 

 

だが感傷に浸ったのもつかの間。

 

真雪は炎上を続ける基地や市街地を見渡して表情を険しくした。

 

 

 

 

 

(私もやることをやらなければ…)

 

 

 

彼女は学園へと歩きだす。

 

 

 

 

 

  + + +

 

 

背後に居たのは晴風時代の副長、宗谷真白だった。

 

足を挫いたのかおぼつかない足取りをしており、近くには福内も居た。二人の表情からも明らかにドリル艦や潜水艦を警戒している事がわかる。

 

 

「シロちゃ……あっ宗谷さん、福内さんも無事だったんですね?」

 

「うん、岬さんも無事でよかった。それよりそちらは?」

 

真白は無事だった明乃の様子をみて安堵した様だが、すぐ表情を鋭くして二隻の艦長の顔を向ける。

 

 

 

 

「あぁ、こちらは…」

 

「いえ、ここは我々から。私はウィルキア共和国所属の戦艦シュペーアの艦長のライナイト・シュルツです」

 

「蒼き艦隊の旗艦のイ401の艦長の千早群像です」

 

「私は、海上安全整備局安全監督室の秘書官補佐の宗谷真白です」

 

 

 

 

 

明乃の言動を制してシュルツと群像が答えた。

 

真白や福内は先程のもえかと同様に懐疑的な表情をしている。

 

 

 

 

「あっあの…シュルツ艦長と千早艦長は民間人の救助を支援してくださるそうです。上陸の許可を頂けますか?」

 

「私の一存では決められない。それに私はまだあなた方を完全に信用して居るわけではありませんから! 」

 

 

 

 

明乃がフォローするが真白はまだ彼等への疑いを晴らすことが出来ずにいるようだ。

 

 

 

 

 

「解りました。ですが、民間人の救助は時間との戦いです。もし不安でしたらボディチェックの実施や救出活動のあとに我々を拘束し、事情聴取しても構いません」

 

 

「私も同様です。ある意味状況の把握と我々の信用を得るにはこれしかないようですから」

 

 

 

 

真白はシュルツと群像の提案に少し悩み、それから携帯端末を取りだして真霜に連絡を取った。

 

事の顛末を伝えると、しばしの沈黙の後に上陸の許可が降りた。

 

 

「上陸許可の件感謝します。直ぐに現場に向かいますが案内してして頂けますか?」

 

「はい、私が案内します!」

 

「じゃあ蒼き艦隊の皆さんは私が!」

 

 

 

 

明乃ともえかは彼等の案内を勝手でる。

 

 

 

 

「「ありがとうございます」」

 

 

 

 

 

彼女達はタラップから降りてきた二人と握手をかわす。

 

その様子をみていた真白は思った。

 

 

 

(私は、もしかしたら歴史的な瞬間に立ち会っているのでは…)

 

 

 

三つの世界の点が今この瞬間に線で繋がり一つの形を作り出す。

 

 

平和な日常を取り戻していくために…

 




お付き合い頂きありがとうございます。

なんとか繋げられましたが、今後、キャラが増えたときにさばき切れるか不安です

次回からしばらく戦闘は無いかと思いますが、ご容赦下さい…。



それではまたいつか





















とらふり!


もえか
「もしかして私達は歴史的な瞬間に立ち会ったのかも…」



「きちんと言葉が通じるのでしょうか?」


麻侖
「そんなときは、こうするんでぃ!コンニチハ…チキュウニヨウコソ…でぃ!」


もえか
「手で喉を震わせてもバリバリ日本語だよぅ…」


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心情性疑心波浪

お疲れ様です

説明回になりそうです

設定を回収しきれるか不安ですが言ってみます。

どうかお付き合いよろしくお願いいたします。


それではどうぞ


   + + +

 

 

彼等の働きは驚異的だった。

 

上陸の許可が降りた事で、ドリル戦艦シュペーアの乗組員だけでなく、沖合いに居た超大型ドック艦【スキズブラズニル】からの支援もあり、救出作業はとてもスムーズに行われたからだ。

 

 

だが、もっと驚異的だったのが、蒼き艦隊の働きである。

 

見た目は普通の十代から二十代の女性たちだが、大きな瓦礫を片手で動かしたり、ビルの上の階まで飛び上がったり、出血が酷い負傷者には謎の銀色に光る粉の様なもので、擬似的に血管を再現して止血し、その間に応急処置をしていたのだ。

 

 

さらに彼女達はまるで瓦礫の中を透視しているかのように的確に負傷者を見つけ出し、回りにいるブルーマーメイドの隊員や鋼鉄の艦隊の乗組員裁ちに位置を伝えている。

 

その人智を越えた様子に、ブルーマーメイドやウィルキアの艦隊の面々も唖然としている。

 

シュルツもまたそうだった。

 

 

 

 

(彼等は一体何者なのだ?後でブラウン博士に解析を依頼したほうが言いかもしれんな…)

 

 

 

 

 

一方の蒼き艦隊の艦長千早群像は表情を険しくしていた。

 

それはまるでこのような惨劇をあまり目にしたことの無いような様相だった。

 

 

明乃たちも負けては居られない。

 

夜の襲撃とあって、助け出された人も寒さに震える。

 

美甘や鶫が炊き出しを行い振る舞い、楓や麻侖も毛布や水の支給を手伝う。

 

明乃ともえかは、真白と共に現場に到着した真霜に、先程の二隻の艦長との会話の内容を報告している。

 

 

報告を聞き、迅速な救助をしてくれた両艦隊であるが、真霜は眉を潜める。

 

 

 

 

 

(なぜここまで?彼らには私達にここまでする義理があるのだろうか…。これはますます話を聞かなければならないわね)

 

 

 

 

被災者は、仮設の住宅が出来るまで避難所やスキズブラズニルから提供されたテントなどで暮らし、負傷者一部は不充分な設備ではあったが横須賀基地内で預かることで決定し、ひとまずは事態を収拾に漕ぎ着けた。

 

 

  + + +

 

 

襲撃の翌日

 

横須賀基地も襲撃されて会議室が使えないため、食堂の一角を借りてブルマー ウィルキア艦隊、蒼き艦隊との事情の聴取兼情報交換が行われることとなった。

 

 

その場にいた真霜がまず口を開く。

 

 

「皆集まったわね。この度の巨大艦艇からの襲撃と、ウィルキア、蒼き艦隊双方の出現。正直迷ったわ…。自分の頭が変になったのかとも思った。でももう、これ以外に結論が出せなかったのも本当よ」

 

 

 

眞霜は、意を決してその結果を言葉にする。

 

 

 

「これは私の個人的な見解だけど、あなた達はこの世界と似て非なる【別の世界】から来た…と考えるのが自然だと考えたの」

 

 

「!」

 

 

「!!!?」

 

 

その場に居る全ての者が、驚愕または困惑の表情を浮かべた。

 

 

無理もない。

 

彼女の言動は、¨通常¨であるなら、気が触れたと捉えられても仕方がない無いようであったからだ。

 

 

しかし、真霜はそれを知りつつも言葉を紡いで行く。

 

 

 

 

 

「理由はいくつかある。あなた達が¨光の中¨から突然現れた事、【ウィルキア共和国】や【蒼き艦隊】などの国家や組織は耳にしたことが無かった事、そして私達の世界には存在しない兵器を使ってきた事。その敵に対してあなた達の対応はとても慣れているように見えたから…どうかしら?」

 

 

 

「ウィルキア共和国が存在しない!?…成程」

 

 

 

シュルツ顔には驚愕の色を浮かんだが直ぐに表情を戻す。

 

 

 

 

「解りました。私もたった今、あなたと同様の意見に達しました。横須賀に最初に着いた時、あなた方の組織の方、確か…岬明乃さんと言いましたか?その方が言っていた【ブルーマーメイド】という組織は聞いたことが有りません。それにこれ程の襲撃を受け、軍が動いた形跡がない。私の知る日本では横須賀には大規模な軍港が存在していましたが、見た処それもない。市街地の建物の様子もまるで別物でした。極めつけは、我が祖国が存在しないというあなたの発言。どうやら我々は異世界へと移動してきたと言う話もあながち嘘では無いようです…」

 

 

 

シュルツは群像に視線を移すと、彼も群像も頷く。

 

 

 

 

「俺達もです。ブルーマーメイドという組織は知りませんし、人類が¨海で普通に活動している¨という点も違う。それに我々の知る敵は、地上への攻撃は行わない。さらに横須賀には大規模な壁があり、湾内と外洋を隔ていたがそれもない。極めつけは、あなた方の秘書官補佐という方から伺った、日本には¨軍務省¨と言う組織が存在しないという点に於いて、この世界が異世界なのではと疑っていたのです。1つ確認ですが宜しいですか?」

 

 

 

「私に答えられる範囲であれば構わないわ」

 

 

「はい、ではここは¨西暦2056年¨で間違いないでしょうか?」

 

 

 

「…いえ、ここは2016年よ」

 

 

 

「「!!?」」

 

 

二人は真霜の答えた年号に驚く。

 

 

「我々の世界は今年2056年です…」

 

 

「我々の世界は1943年…それぞれが違う時代からこちらに飛ばされてきたと言うことでしょうか…」

 

 

 

(過去と未来から?まさかとは思っていたけど…未来から来た蒼き艦隊は置いておくとしても、ウィルキアと言う国が存在した記録が無い事と、彼等の技術が私達よりも上な事を考えると、同じ時間の延長線ではなく、やはり全くの別世界から来たと考えるべきなのかしら?)

 

 

 

真霜は眩暈にもにた感覚をどうにか抑え、深く溜め息をつきながらも話を次に進める。

 

 

 

「どうやら、お互いにここに至るまでの経緯の説明から始める必要があるわね…。色々聞きたい事はあるとは思うけど、取り敢えず話を聞いてから質問する時間を改めてとりましょう。いいかしら?」

 

 

 

真霜の言葉に全員がうなずきを返す。

 

それを確認した彼女は、自分の世界についての説明を始める。

 

 

 

「それでは、先ずは私達から説明するわ」

 

 

  ▽ ▽ ▽

 

 

今から100年ほど前、日露戦争の後日本はプレートの歪みやメタンハイドレートの採掘などが原因でその国土の多くを海中に失い、それにより海上都市が増え、それらを結ぶ海上交通などの増大により海運大国になった。

 

 

 

その過程で軍艦は民間用に転用され、戦争に使わないという象徴として艦長は女性が務めた。これがブルーマーメイドの始まりで今では隊員の殆どが女性よ。

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

真霜が大まかに自分の国の状況を説明した。

 

 

「成程…これで得心が行きました。我々が¨奴¨と戦っていた時に、あなた方の国の航空機を一機も見かけませんでした。それは第一次大戦後に大規模な戦争が無かったため軍拡競争が起こらず、¨航空機¨の開発が遅れたためだったのですね?」

 

 

「【航空機】と言うのはあの空を飛ぶ兵器のこと?」

 

 

「ええ、我々の世界は¨第二次世界大戦¨があり、戦争の主役は戦艦から航空機になりつつありますから」

 

 

「第二次世界対戦…戦争が文明の発展に繋がるなんて皮肉としか言いようがないわね……」

 

 

「ええ、同感です。本来は、私達のような軍属の出番の無い世界であれば良いのですが……」

 

 

 

一同はシュルツの言葉に押し黙る。沈黙を破ったのは真霜だった。

 

 

「こうしていても始まらないわね…。それでは気を取り直して次は蒼き艦隊について話を聞かせて頂けるかしら千早艦長?」

 

 

 

 

「解りました。先ずは、我々の成り立ちから説明致します」

 

 

 ▽ ▽ ▽

 

 

西暦2039年、温暖化の影響により地上での版図を大きく失った俺達人類の前に、突如として世界各地へ霧と共に第二次世界大戦時の軍艦を模した正体不明の大艦隊が現れ、強制波動装甲から発する、あらゆる攻撃を受け付けない無敵のフィールド。

 

光学兵器や着弾箇所にタナトニウムと言う物質を崩壊させる物質と小型なブラックホールを発生させ、侵食するようにえぐりとる【侵食弾頭兵器】。

 

 

現代の科学力をはるかに超える兵器と、独自の意思を持ち乗員無くして動くそれらをいつしか人類は彼女たちをこう呼んだ、【霧の艦隊】と。

 

 

その勢力により、¨人類は海上から駆逐¨され、シーレーンも海を隔てた長距離通信も絶たれ人類は各地に孤立余儀なくされ、事態の打開策も見出せぬまま、経済活動や政治・軍事の混迷により人類同士での内乱も生じ衰退へ直進していった。

 

それが俺達が住んでいた世界です。

 

 

それから17年後の西暦2056年、士官候補生だった俺とその仲間達は、突如無人で横須賀に戻ってきた人類側についた“霧の艦”潜水艦イ號401に乗り込んだ。

 

 

 

 

【この閉塞した世界に風穴を開けるために……】

 

 

 

 

 

そして霧の艦隊は、数年前からメンタルモデルという人形のインターフェースを持ち始めた。

 

俺達のここにいるイオナ…いや、イ401もメンタルモデルを持って意志疎通をとることが出来ます。

 

しかしその見た目とは裏腹に戦闘能力は高い。

 

俺達は霧に対抗出来ゆるかもしれない兵器

¨震動弾頭¨のサンプルと設計図を、資源と、尚且つ量産可能なアメリカに届ける任を受け、そのサンプルを受け取りに横須賀に向かう途中の霧の重巡洋艦タカオと遭遇しこれを退ける事に成功。

 

そしてそのサンプルを受け取った直後に、霧の大戦艦ハルナとキリシマが横須賀に湾内し此を撃沈、無力化した。

 

そして震動弾頭の開発者である刑部蒔絵邸に霧のメンタルモデル、ハルナとキリシマが侵入。

 

メンタルモデルが刑部蒔絵に接触した可能性を危惧した政府によって、差し向けられた陸軍に、刑部蒔絵やハルナとキリシマは追い詰められていた。

 

俺達は政府の意向に背き、その軍事作戦に介入して陸軍を撤退させ、3人を救出した。

 

俺達クルーとイ401のメンタルモデル¨イオナ¨や、蒔絵とハルナ達が対話によってわかり合い絆を深めた事から、俺は霧がメンタルモデルを持ったことによって我々人類と対話し解り合えるのでは無いかと考えたんです。

 

 

 

そこで俺達は蒼き艦隊の本拠地である硫黄島に向かい、日本近海を照海している、霧の東洋方面第一巡航艦隊旗艦の【大戦艦コンゴウ】を硫黄島に招き、実際に対話をしてみようと計画していた。

 

 

硫黄島ではメンタルを形成した大戦艦ヒュウガと横須賀沖で対戦した重巡洋艦タカオが既に待っており、硫黄島で霧を構成している未知の物質¨ナノマテリアル¨や物資の補給及び、ヒュウガの力を借りてイオナの船体の補修等のメンテナンスを行った。

 

そして、いよいよ大戦艦コンゴウのメンタルモデルとの対話を待つばかりという時、

硫黄島の近くで謎の高エネルギー反応を検知し様子を見に来た所、謎の光に吸い込まれ、気付けばここに居たのです。

 

 

  ▽ ▽ ▽

 

 

群像が話終えると、辺りは静まり返っていた。

 

 

ウィルキア、ブルーマーメイド両陣営共にあまりにかけ離れた世界観に言葉を失ってしまったのだ。

 

 

ただ、ウィルキア陣営の一人、緑色の軍服に白衣姿で眼鏡をかけた女性だけは、群像の話に興味を抱いた様だった。

 

 

彼女は、群像の隣に座っているセーラー服の少女へと視線を向ける。

 

 

 

美しい銀色の髪に、白い肌。

そして宝石の様に透き通った翡翠の瞳。

その整った顔立ちとは対照的に、彼女はまるで人形の様に動かず、瞬きすらしていない。

 

 

 

「よろしいですか?私はエルネスティーネ・ブラウンと申します。ドイツ出身でウィルキア艦隊で兵器に関する研究をしています。千早艦長の隣にいるあなたはメンタルモデル…なのですか?」

 

 

「そう。私は千早群像の艦イ401のメンタルモデル¨イオナ¨」

 

 

「成程…あなたに質問なのですが、聞く処によると、あなた方は人類を滅ぼさんとする存在であり、つまりは人類の敵。この世界の人々や我々に危害を加えないという保証はありますか?」

 

 

ブラウン博士の問いは蒼き鋼以外の陣営からするれば至極当然の疑問であった。

 

 

真霜は、場の雰囲気が一気に張り詰めるのを感じる。

 

 

一同の視線が集中する中でもイオナは表情1つ崩さず、それは回りに彼女がまるで完成度の高い¨人形¨の様な印象を与え、人類とはまるで別物であると信じさせるには十分だったであろう。

 

 

「少し違う。我々は¨アドミラリティ・コード¨によって海洋に進出する人類を駆逐し、陸に押し止めること。ただ…それだけ。だから陸への攻撃は行わない。人類を全て滅ぼすと言う意味には至らない」

 

 

「アドミラリティ・コード…とは?」

 

 

「我々の行動を決定づける、最重要命令。私達はその命令からは逃れられない。でもこの世界にはアドミラリティ・コードが存在する気配がしない。存在しない以上、私達には人類に敵対にする理由がない。それに私にはアドミラリティ・コード以上の命令がある。それは、¨千早群像に出会いそして従う¨こと、私は群像の艦だから、彼の命令に従う」

 

 

 

彼女の言葉は、非常に殺風景な印象を与え、言葉もシンプルではあったが、それでこの場の人間を全て信用させるには弱かったのかもしれない。

博士はまだ納得していない表情だが、余り時間をとってはいけないと思ったのか次の質問をぶつけて来る。

 

 

 

 

 

「…解りました。今はそれでいいでしょう。ですがまた機会があれば、あなた方の話を詳しく聞かせて頂ければ幸いです。それと最後の質問ですが、市街地での負傷者の治療の際に見せた、あの¨銀色の粉¨の様なものについてと、あなた方の兵装について教えて下さい。兵器について研究している身にとってはとても興味深いものでしたので」

 

 

博士の質問にはイオナの代わりに群像が口を開く。

 

 

 

「銀色の粉は¨ナノマテリアル¨と言います。色々なものに代用や変形が可能の万能なものです。我々の艦だけでなく、メンタルモデルの体、後は兵器にも使われています。治療を行った【大戦艦ヒュウガ】の話によれば、ナノマテリアルで擬似血管をつくって一時的に出血を抑え、その間に裂傷箇所の処置を行ったとのことでした。また兵装は先程説明した、¨侵食弾頭兵器¨そして対象を原始レベルで破壊してしまう霧の切り札である【超重力砲】です。あれは一度使うとメンテナンスが必要ですが…」

 

 

「超重力砲…」

 

 

博士だけではなく、ウィルキア陣営の表情が曇る。

 

 

「あぁいえすみません…。我々のイメージした兵器と少し印象が異なっていたものですから…でも大体は理解出来ました。また話を聞かせて下さい」

 

 

 

「ええ、いつでもお答えします」

 

 

 

二人の会話にシュルツも異議は無いようだ。

 

しかし真霜はそうはいかない。

眉間を指で抑え、し苦悩の表情を見せる。

 

 

「私はまだ気持ちの理解が追い付いていないのだけれど…。あなた方が差し迫る脅威ではないことだけは理解出来ました。それでは次に、ウィルキア共和国のシュルツ艦長にお話を伺っても?」

 

 

「それでは、お話しましょう」

 

 

シュルツの表情が一段と険しくなる。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

私達の世界は突如として、侵略されました。

 

 

 

それも私達の¨祖国ウィルキア¨によって…。

 

 

我々の国王陛下も観覧に来ていた大規模な軍事演習の最中に、突如軍事クーデターが起きたのです。

 

 

 

そして、民衆や世界の承認も受けず、一方的にウィルキア帝国の設立を宣言した。

 

 

我々は陛下を連れ、同盟国である大日本帝国へと避難しました。

 

 

しかし、既に全世界には帝国の魔の手は伸びており、賛同する親帝国派が様々な国々で軍事クーデターを起こしていたのです。

 

 

日本もその例に漏れてはいなかった。

 

 

日本に避難した我々を待ち受けていたのは、日本軍による理不尽な拘束でした。

 

 

しかし我々は、帝国の一方的な行い反発する反帝国派の軍人による手引きにより、日本を脱出したのです。

 

 

脱出の最中にクーデターの首謀者、ウィルキア帝国の国家元首で元国防軍大将兼国防議会議長であった、【フリードリヒ・ヴァイセンベルガー】からの¨世界統治宣言¨を聞くこととなったのです。

 

 

ヴァイセンベルガーは、ウィルキア共和国をウィルキア帝国と改名し、帝国に従わない全ての国に対し、徹底的な破壊をもたらすと世界に向けて宣言しました。

 

勿論各国も黙っているはずがありません。

帝国に対し、大規模な反抗作戦が行われる予定でした。

 

 

 

しかしそれらの計画は、¨ある兵器¨によって悉く失敗し、ついに世界は帝国の前に膝を折ることとなったのです。

 

その兵器を我々は【超兵器】と読んでいます。

 

 

昨日の横須賀を襲撃した艦もその一隻です。

 

 

 

その名は…

 

 

超巨大航空戦艦【ムスペルヘイム】

 

 

 

あのような船を多数用意していた帝国は、瞬く間に世界を制圧してしまいました。

 

 

しかしこちらのブラウン博士が、超兵器に関する研究を進めてくれたお陰で、我々は各地で超兵器を撃破し、徐々にではありましたが、帝国の支配下にあった国々を解放していきました。

 

 

 

そして、いよいよ我が祖国ウィルキアの首都であるシュバンブルグに巣食っていた強力な力を持つ超兵器を撃沈し、首都を奪回するに至りました。

 

しかしヴァイセンベルガーはそれでは終わらなかった。

 

囚われる事を恐れた奴が密かに潜水艦で北極海に向かったとの情報が入り、ウィルキアだけでなく、全世界の有志連合の艦隊が北極海に集結しました。

 

 

 

そしてそこでヴァイセンベルガーは、ある超兵器を起動させたのです。

 

その名は

 

 

 

超巨大戦艦【ヴォルケンクラッツァー】

 

 

 

 

 

ヴォルケンクラッツァーは北極海に集結した。およそ数万隻もの艦艇を、¨一瞬で消滅¨させてしまいました。

 

 

 

その忌まわしき兵器の名は【波動砲】

 

 

この兵器は¨大陸や地殻すら破壊¨してしまう正に究極の兵器です。

 

ヴォルケンクラッツァーに対抗できる戦力は最早我々だけでした。

我々は誰しも死を覚悟し、そして決戦に挑み、多くの人命を失いながらも奴を沈めることに成功した。

 

 

筈だったのです…。

 

 

 

しかし、北極海からの帰航の際に同胞の国の機関から我々に一報が入りました。

 

 

沈んでいた筈の超兵器達が海底から¨姿を消した¨…と。

 

 

それを確かめるために我々は、首都シュバンブルグで撃沈した超兵器の調査をしようと舵をきった瞬間、我々の前に巨大な光が現れて我々はそれに飲み込まれ、そしてそれが収まった時、目の前の光景に自分の目を疑いました。

 

 

 

なにせ、以前沈めたはずの超兵器が目の前に存在していたのですから…。

 

 

ここから先はあなた方もご存じかと思いますが…。

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

シュルツが息を吐く。

 

それを確認するように、群像が口を開いた。

 

 

 

 

「私達がその…超兵器を攻撃した際に何か壁の様なものに攻撃が阻まれました。あなた方の艦にも発動していましたね。あれは私達で言う所の強制波動装甲が発するフィールド、通称【クラインフィールド】と同様のものなのですか?」

 

 

「クラインフィールドがどういうものか我々は完全には理解していませんが、あれは【防御重力場】です。理屈としては重力によって、実弾の弾道や起爆時の衝撃波などを反らし、自艦へのダメージを軽減するための装置です。高出力艦になるほど性能は優れ、まるで砲弾を弾き返しているかの様に見えます」

 

 

「成程、やはり少し仕組みが違いますね。私達のクラインフィールドは自艦へのダメージを一定量蓄積する事により、蓄積量をオーバーするまではダメージを受けないフィールドですから」

 

 

この世界の人間にはまるで荒唐無稽な会話を続けるシュルツと群像を尻目に、真霜は天を仰いだ。

 

常識を遥かに凌駕する兵器に対して海難救助が主な業務のブルーマーメイドが実際にどこまでの対応ができるかは未知数であったからだ。

 

 

しかし、だからと言ってただ民間人がやられているのを見ている訳にも行かない。

 

 

どうしたものかと頭を抱えた時だった。

 

 

「宗谷室長」

 

 

 

気付くとシュルツと群像が真霜に視線を向けている。

 

 

「あっあぁ、ごめんなさい…少し頭が混乱してしまって…どうされましたか?」

 

 

「ええ、我々の今後について少し提案が有ります」

 

 

 

シュルツから今後の鋼鉄と蒼き鋼の処遇や超兵器への対応についての提案がなされる。

 

 

(ホント、前途多難ね……)

 

 

真霜は自分達のこれからを想像し、痺れた頭を抱えることとなったのである。




お付き合い頂きありがとうございます

捌き切れなかった印象がありましたがすみません。






次回までしばらくお待ち下さい。




















とらふり!

真霜
「自分の道を行きなさい。日本の人魚達!」


シュルツ
「君にはそれが出来る!」


群像
「世界に風穴を開けることが…」



明乃
「風穴…ねぇ美甘ちゃん!」



美甘
「はいはい解った解った、風穴繋がりでドーナツだね?ミケ艦長ホントに甘いの好きだよねぇ…」





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決意の抜錨

何とかまとめ増したが
今後の展開に悪戦苦闘は必至です


とりあえず今回からオリジナルキャラが入ってきますが、存在感は無いので悪しからずです。

それではまたお付き合い下さいます

どうぞ


   + + +

 

 

 

午前中の横須賀での情報交換後、宗谷真霜は東京に居た。

 

正確には6人と一匹?となるが、メンバーは真霜と福内、そしてウィルキア艦隊から

 

エドワード・クランベルク

フリッツ・ハイネマン

江田健一

 

 

蒼き艦隊から

 

 

 

重巡洋艦タカオ

 

クマ…のぬいぐるみ姿の大戦艦キリシマだった。

 

 

エドワードはウィルキアの外交官であり、帝国の軍事蜂起の際首脳陣と共に艦隊に同乗して各国への根回しを行い、元ドイツの陸軍情報部の特殊部隊出身であるフリッツは、帝国から追われる身であったブラウン博士と共にシュルツに救助され、艦隊への同乗後は首脳陣の護衛や敵地へ潜入し、機密情報を調査するエージェントとして超兵器に関する情報をウィルキアに入れてきた。

 

 

 

 

江田は、日本帝国海軍航空部隊に所属する若手の軍人で、反帝国派により拘束されていたシュルツ達の救出を手助けし、そのまま解放軍として日本を帝国の傘下から脱するために尽力した一人であった。

 

 

 

 

キリシマは僚艦のハルナと共に横須賀を急襲したものの、群像の策にはまり船体を消失。キリシマ自身は霧の心臓とも言えるコアのみの状態となったが、付近に居た少女¨刑部蒔絵¨に保護され、ハルナのナノマテリアルを分けてもらい、蒔絵の所持していたクマのぬいぐるみ¨ヨタロウ¨に入り込む事で当面の身体を得た。

 

 

しかし刑部蒔絵は、霧に対抗しゆる知能を持っており、その存在が霧に奪取されることを恐れた人類から処分の対象となるのである。

 

 

差し向けられた陸軍を途中までは圧倒したものの、船体を失い本領を発揮できず追い込まれてしまう。

 

そこに401のメンタルモデルイオナが現れ、3人を救助した。それからハルナとキリシマは、蒔絵の保護を名目に401と行動を共にしている。

 

 

重巡タカオは401に、横須賀沖で敗北喫した後、兵器として新たなる次元へと至るため艦長と言う人間のユニットに興味を示し、イ401の艦長である千早群像を自らの艦長として迎える為、蒼き艦隊の本拠地である硫黄島に先回りし、その後なし崩し的に行動を共にしている。

 

 

この世界への移動時に自分の船体を硫黄島に置いてきてしまい失意に明け暮れていたが、群像から日本政府に蒼き艦隊からのメッセンジャーとしての役割を与えられ、それまでの落ち込み様がまるで嘘のように表情を明るくし、渋々を装いつつも実はノリノリでやって来たのである。

 

 

そして、憂鬱な表情の真霜は、シュルツから日本政府に対して事情の説明と、各国領海内での戦闘の許可と補給などの支援の根回しを要請され、エドワードと共に首相官邸を訪れていた。

 

 

 

その際、江田がヘリで官邸近くの駐車場に着陸した為、辺りは一次騒然となった事は言うまでもない。

 

 

無理もない反応だろう。

 

巨大艦からの砲撃で主要な道路が破壊された事と、航空機用の滑走路が存在しない為ヘリで移動することになった訳だが、襲撃余韻が冷めてもいない内にこの様なものが空から来れば、周囲が脅威に感じる事は当然なのだ。

 

 

況して、それに乗っていた真霜や福内は生きた心地がする訳もなく、二人がヘリから降りた時にはすっかりグッタリしていた。

 

 

しかし、こんなところで怯んでいるわけにはいかない。

 

 

真霜はエドワードとタカオを連れて官邸へと向かい、フリッツと福内は東京のある大学へと赴く。

 

 

 

江田はヘリ周辺での待機となった。

 

 

 

 

 

  + + +

 

 

 

 

官邸内は騒然としていた。

 

理由は付近にヘリが着陸しただけではないことは確かだろうが、先日の横須賀襲撃での被災地への対応や、日本の自衛の脆弱さが露呈した今回、対策本部が設置された官邸は最早パニック状態だったことは言うまでもない。

 

 

そんな慌ただしく動く政府関係者の間を掻き分け、真霜とエドワードはある部屋へと向かう。

 

 

その部屋は他の部屋より美しい装飾がなされた木製の観音開きのドアだった。

 

真霜が少し緊張したように扉の前に立つ。

 

 

コンコン!

 

 

「どうぞ」

 

 

部屋の中へと進んた二人を出迎えたのは、日本の政治家のトップであった。

 

 

「派手な登場だったね。ブルーマーメイドの宗谷真霜さん」

 

 

一見気さくな挨拶の様だが、独特の低いトーンのゆっくりしたしゃべり方には、国のトップとしての威厳を感じる。

 

 

 

彼は内閣総理大臣《大湊清蔵》

 

 

 

事の重大さが通常のそれとは一線をかくしている為、首相自ら話を聞こうと、この度真霜と直接会う事にしたのである。

 

 

年齢は五十代半ばだが見た目はそれよりも大部若く見える。更にその目はギラギラとした肉食獣の様な目をしており、油断すればこちらが殺られてしまいそうな獰猛で野心家な一面が垣間見える人物でもあった。

 

 

 

「それで?隣の方々をご紹介して頂けるかな?」

 

 

「は、はい、しかし説明の前に此方の資料と映像を拝見して頂き、ご説明いたします。目を通して頂けますか?」

 

 

「うむ……」

 

 

大湊は真霜から提出された資料やタブレット端末の映像に目を通し、深く息をついた。

 

 

国のトップとしての資質なのか、真霜達の様に表情を目まぐるしく変わることはなく、狼狽えた様子もない。

 

 

 

大湊はエドワードとタカオに視線を向けた。

 

 

 

「成程、それで君達が来たと言うわけか。それで?何が望みかね?」

 

 

 

「話が早くて助かります。私達はこの世界での超兵器撃破の為に世界各国へ赴かねばならないでしょう。その際、各国領海での私達の活動の容認、そして物資の支援などの根回しを日本政府に行って頂きたい」

 

 

 

 

「また、この世界で私達が活動するにおいて一時的に硫黄島を拠点としたいの」

 

 

 

 

「うむ…出来んね」

 

 

 

即答で拒否の意思を伝えてきた大湊に真霜は食い下がる。

 

 

「なぜです総理!このままでは、あれらの兵器に我が国民が蹂躙されてしまうかもしれないのですよ?」

 

 

 

「君もまだまだ青いね宗谷君。ここは政治の中枢だよ?君達の様なリスク以外なんも持ち合わせていない者が、一方的に要求ばかりして、それで動くほど政府は暇ではないし。そもそもそこの二人が、もし異世界から来たと言うならば、この国の…いや、この世界の法は適応されないと考えるのが自然ではないかね?しかも片方は人間ですら無いのだから尚、法の対象外だ。つまり君達は我々から一方的に搾取されても文句は言えないのだよ」

 

 

 

 

「総理!そんなことを仰ってもし何かあれば…」

 

 

 

「¨我が国を滅ぼす¨かね?あの巨大な艦と同等の力で…そもそもあの兵器を此方の世界に招き入れたのは君達では無いのかね?だとしたら責任を取るならいざ知らず、要求を突きつけるなど極めて遺憾と断じざろう得ないと思うが?」

 

 

大湊はあくまで態度を変えない。

 

 

それはエドワードとタカオも同様であるが、真霜は明らかに焦りを隠しきれていない。

そんな彼女の様子を見て、大湊はさらに追い討ちをかけるように、タブレット端末を真霜に渡す。

 

 

「それにね、それを見たまえ」

 

 

端末に流れた映像を見た真霜は愕然とした。

 

 

 

「それは昨日の世界各国の主要都市の映像だよ」

 

 

 

 

 

映像からは世界各国の主要都市の様子が伺える。

 

 

それは、完膚無き¨蹂躙¨であった。

 

そこら中から立ち上る炎、泣き叫び逃げ惑う人々、そしてその惨禍の中心には¨彼等¨が居た。

 

 

横須賀を襲撃した超兵器とは形状や性能は異なるものの、その異常とも言える巨大さと、異形とも言える姿と性能。勿論、各国は兵力を総動員するが悉く撃破され、無惨な鉄屑と貸している。

 

 

「解ったかね?我が国を含めた各国は、君達を支援したくないのではなく¨出来ない¨のだ。皆自国の事で手一杯だからね。それに問題はそれだけじゃない」

 

 

 

大湊は表情を少しだけ険しくする。

 

 

 

「超兵器に対応出来る君達の力は、実際大したものだろう。与野党問わず、自国に軍を設ける事が長年の悲願とする右派の人間にとっては喉から手が出るほど欲しい力だろうからね。だが、資源の大半を列強各国に依存せざろう得ない我が国に、世界に対して喧嘩を売るほどの力は無い。下手に強大な力は持っていては、他国に我が国を侵攻する大義名分を作り出しかねんのだよ

 

 

「………」

 

 

「また君達との繋がりが強すぎてしまえば、各国は君達の兵器技術を我が国に伝わっている疑念を抱かれ、それを理由に各国は本当に日本に強力な兵器技術が伝わっていないか情報の開示を迫るだろう、勿論経済や安全上に関する機密のことも全てね…。応じれば、我が国の情報が丸裸にされ、諸外国から経済上や軍事上の介入を招く事になり、我が国は国家としての機能を事実上を失う。また応じなければ、自国の安全という大義名分の下に各国の軍事侵攻を許す結果と成るだろう。これらのリスクをクリア出来ない限り。日本政府として公的な支援は出来ない」

 

 

大湊の言う事は至極正論であったが故に覆すこと至難であろう。

 

それは真霜は反論も出来ずにその場に立ち尽くしてる事からも良く解った。

 

 

(どうすればいいの?)

 

 

超兵器により滅びるのか、または他国の介入により滅びるか、いずれにしても破滅の二文字が真霜の頭に浮かぶ。

 

 

 

「やはり…そう言うだろうと思っていました」

 

 

「やはり…だと?」

 

 

今まで黙していたエドワードが口を開き、大湊が眉を潜める。

 

 

「ええ、あなたを含めこの世界のあらゆる情報は既に取得済みです。あなたの過去や思考、この国の機密や汚職等のスキャンダルに至るまで全部です」

 

 

 

「そんなこと…」

 

 

 

「出来ないと?確かに¨通常の手段¨では極めて困難でしょう。しかし我々には蒼き艦隊所属のメンタルモデルがいる。彼女達は何も海でしか真価を発揮できない訳ではありません。あくまで海に進出した人類を駆逐せよと命令を受けているだけなのです」

 

 

 

「勿体ぶらずにはっきり言ってはどうかね?」

 

 

 

「はい、つまり彼女達は物理的な攻撃だけでなく、ネットワークに対しても攻撃が可能です。その力でそちら側の情報を覗かせて頂きました。信用できないなら此方にあなた方の情報をまとめた資料をお見せします」

 

 

エドワードは鞄から封筒をだし、大湊に差し出すが、彼は少し呆れた様に首を横に振る。

 

 

 

「いや、必要無い。この状況で嘘はあり得ないだろうしね。これが違法なことだと分かっているかね?」

 

 

大湊は封筒の開封もせずエドワードを睨んだ。

 

 

「本来なら違法でしょう。しかしあなたも先程仰ったはずだ。我々は異世界人であり¨法の対象外¨だと」

 

 

互いの間に沈黙が流れる。

真霜は二人の間の沈黙がまるで真剣で武装した二人が相対しているように見えた。

 

真霜はあまりの緊張にゴクリと唾を飲み込む。

 

 

 

「ぷっ、ふははははは!」

 

 

大湊は突然、笑い始めた。これには流石にタカオも呆れた表情を見せる。

 

 

(何?人間ってこう言うとき爆笑するのがセオリーな訳?私にはさっぱりわからないわ…)

 

 

呆れるタカオを尻目に大湊は続ける。

 

 

「あぁ、すまないすまない、いやぁ一本取られたね。面白い!面白いよ。これで私を通じこの国を意のままに操作出来る訳だが、それで?…まさかさっきの話では終わりではあるまい?。君は優秀だが、政治をやるには些か善人過ぎるようだね。まるで嘘が下手だ。さっきの資料から察するに君達の艦隊は、超兵器から人々を護ることじゃない。人々を無意味な死から護る。違うかね?」

 

 

「………」

 

エドワードは答えない。しかし大湊は構わず続けた。

 

 

「だから、最初からおかしかった。どちらの選択を取っても日本が破滅。そんな選択肢をわざわざこんな所まで来て直接言うのはあまりにも不自然だ。言いたまえ。私がその理不尽な要求を飲んで余りある何か¨土産¨が有るのだろう?」

 

 

エドワードは大湊の問いに頷き、タカオに視線を送った。

 

彼女は頷た後、エドワードの鞄から一台の端末とUSBを取り出し、大湊に手渡した。

 

 

「それはヒュウガが作った特別製なの。少なくともこの世界の技術ではハッキングされる心配はないわ。その端末にはね、世界各国の機密情報や弱味が入っている、あなた程の政治手腕があれば効果的に各国に対して圧力をかけられるんじゃない?」

 

 

 

タカオに代わりエドワードが続ける。

 

 

 

「もう一つUSBには本来この国の技術に無い技術情報が入っています。特にあなたが進めてきた。列強各国からの資源エネルギー依存の脱却と新エネルギーの開発、それらを土産に開発途上国に売り込み条約を結び、エネルギーの押し売りで儲けている列強と肩を並べる大規模かつ新たな経済の枠組みの構築を、列強に気取られずに構想しておられますね?これはそれをある程度は可能とするものであると確信しています」

 

 

 

それを聞き大湊は薄く笑みを浮かべる。しかし目は獲物を見つけた肉食獣の如くギラリと輝いた。

エドワードはそれを見逃さない。

 

 

(ようやく釣れたか…だが勝負は此れからだ)

 

 

エドワードは努めて冷静な口調を心掛けた。

 

 

「先程あなたが仰った、私達の兵器技術が日本への供与されたとする疑惑に関しての懸案事項についてですが、あなたは我々が世界の超兵器討伐を成している間に国連に対して、¨我々の所有権¨ について議案を出して頂きたい。世界で超兵器撃沈を目の当たりにした各国は自ずと、我々の所有権を主張するでしよう。日本は、その所有権争いから一線を引くことで各国からの疑念の視線を反らすことが出来る筈です」

 

 

 

「だが、我が国が君達と最初に接触した事実は報告せなばなるまい。そうなれば、国連を招集しておきながら、所有権を主張せず降りると言うのはやはり疑念の対象となるのではないかね?」

 

 

 

「それは私が答えるわ」

 

 

タカオが二人の会話に割って入る。

 

 

「私達にはこの世界の法は適用されないわ。だから連中にこう言ってやるのよ。『私達の身の安全の為に、ハッキングで各国の機密全世界にバラす。私の国もそう脅しをかけられ、それを各国へ通達しろと言われ強要されている。他の皆さんもそうなりなくなければ、従って欲しい。全てが終われば、皆で奴等を叩いてしまえば良い。』と言えば良いだけの話よ。別に私達は悪者でもいいのよ、英雄の様に崇められたい訳でもないしね…」

 

 

 

「それでは君達は超兵器から世界を救った後、その世界から付け狙われる事になるのではないかね?君達の軍事技術がどこか一国に集まるのは危険とも思えるが?」

 

 

 

「まぁその時は私達はこの世界からオサラバしてるわ。私達だって自分の世界の事情が有るもの、いつまでもこの世界に留まるつもりはないわ。今元の世界に戻る為に色々探っていて、まだ結論は見えてないけど、ヒュウガならきっとやってくれるわよ」

 

 

大湊はタカオからの解答に暫く考え込む。

そして、結論は出たようだった。

 

 

「分かった。要件を飲もうじゃないか。但し、必ず超兵器を討伐してくれ。全てはそれからだ。私が言うのもなんだが、日本は今現在も列強各国の従順な消費者として日々理不尽な搾取を受け続けている。国民の笑顔もそれゆえかどこか作ったように薄っぺらい。私はね、昔の活気溢れた笑顔溢れる国民を見たい。本来なら私が背負わなければならない荷を君達に負担させてしまうのは日本の首相として痛恨の極みでは有るが、どうか頼む…」

 

 

 

大湊は先程の態度とは違い、真剣な顔で深々と頭を下げた。

 

 

「勿論です。これ以上無意味な犠牲は出さぬ様善処して参ります」

 

 

そんな大湊にエドワードは手を差し出し、彼もそれに握手で答えた。

 

無事に政府とウィルキア、蒼き鋼との協力関係の締結が成り、真霜はホッと胸を撫で下ろした。

 

 

 

一方の都内

 

フリッツと福内、そしてキリシマの3人はとある大学病院の研究棟の研究室のまえに居た。

 

超兵器についての考察や、今後起こるであろう戦闘での負傷に対処する為に優秀な医者が必要不可欠であったためだ。

 

ここにはかつて天才とうたわれた細菌研究の第一任者の教授がいると言う。

 

 

コンコン‼

 

福内がノックをすると中から返事が帰ってくる。

 

「どうぞ」

 

福内達が入るとそこには一人の白衣姿の女性が居た。

 

 

(女性か…それも思ったより若いな。ブラウン博士と同じか少し下くらいか…)

 

そう思案するフリッツを他所に、白衣の女性が口を開いた。

 

 

 

「あなた方がここに来た理由は大体検討がついている。昨日の横須賀の襲撃の件だろう?大方医者が足りず猫の手でも借りようとここへ来た。そんなところか?」

 

 

「猫の手だなんてそんなことは思ってないわ鏑木美波さん。いえ…今は鏑木¨教授¨とお呼びした方が良いかしら?」

 

 

 

 

【鏑木美波】

 

 

元【晴風】クラスの最年少メンバーであり、12歳にして飛び級で大学の博士号を取得する才女でもあった。

 

 

晴風での海洋実習当時は、医療要員として艦内の衛生面だけでなく、艦と言う閉鎖された空間で長期間抑圧された共同生活を強いられる学生のメンタルケアも一手に引き受けおり、更に6年前のRATtウィルス事件の際には、限られた設備の中でワクチンを製作してしまう程の実力を有している。

 

 

その独特の口調や雰囲気から、暫し年上に見られる事が多いが、その実RATtウィルス事件から6年過ぎた現在は18歳であり、メンバーでは唯一の未成年なのだ。

 

 

美波は少し不機嫌そうにビーカーとアルコールランプで温めたココアを口に含んでから視線を彼等に向ける。

 

 

 

「いや、別に教授の地位に愛着があるわけではない。私は研究や実験が出来ればそれでいいんだ。だから名前は普通に読んでもらって構わない。それより…」

 

 

 

美波の興味はキリシマへと向いていた。

 

 

 

凝視されたキリシマは、少し怯みつつも意を決して前へ出る。

 

 

「お、お前はこの国で医術だけでなく、まだ見ぬ未知の事柄に関する研究をしている優秀な研究者らしいな。お前には私達、超兵器の討伐隊の一員として一緒に行動を共にしていもら…モガ!?」

 

 

「興味深い!AIか…それともロボットか。いずれにしてもこれ程の技術は見たことがない。一体どういう仕組みなんだ?」

 

 

 

彼女はキリシマをつまみ上げていじくり回す。

 

 

フリッツは、彼女の腕の中でもがき助けを求めるキリシマを無視して、持っていた異世界艦隊と超兵器の資料を美波に見せた。

 

 

 

「ソレは、こう見えて知的生命体だ。超兵器に関しても人智を越えた未知の要素が絡んでいる可能性が高い。貴女には部隊の医療を賄って貰いつつ、此方の研究員と共に超兵器に関する調査にも参加して頂きたい。貴女を退屈させない内容だと思うが?」

 

 

フリッツは、彼女瞳がみるみる輝いて行くのを感じる。

そして、

 

 

 

「素晴らしい……こんなに興味深い事は、初めてだ!」

 

 

「快諾して頂いたと考えても?」

 

 

「あぁ、是非とも!」

 

 

美波はすっかり気に入ったキリシマを拘束しつつも、彼の提案を承諾する。

 

 

 

「む!!!むぐぅ…はっ離せ!」

 

 

キリシマは美波の腕を振りほどいてフリッツの後ろに隠れ、顔だけを出して美波を威嚇している。

 

 

 

そんなキリシマから美波一切の視線を外さず、ニタリと口許を吊り上げて見つめていた。

 

 

 

(いつか解剖して調べ尽くしてみたい…)

 

 

 

その表情にキリシマだけでなく、福内やフリッツも思わず顔をひきつらせるのだった。

 

 

 

 

  + + +

 

 

横須賀基地内

 

明乃ともえかは曇った表情を浮かべる。

 

数時間前、真霜に呼び出された二人は、真霜から異世界艦隊の超兵器討伐部隊に入るよう命令されていたのである。

 

勿論その申し出を固辞した二人だが、真霜は有無を言わせなかった。

 

 

さらに真霜は明乃達に衝撃の事実も伝える。

 

それは、もえかと晴風メンバーの事であった。

 

本来は全員が横須賀基地所属となるはずが、なぜ各地の基地にバラバラに所属する事となったか。それは、政府の息のかかった組織、つまり海上安全委員会からの圧力があったからだったのだ。

 

 

ウィルスが原因とは言え、6年前の事件はある意味武装した¨生徒の反乱¨と呼べるべきものであり、それを口実に政府内の右派勢力が勢いづき、軍設立への気運が高まりつつあったのだ。

 

 

それに危機感を覚えた当時、防衛大臣だった大湊が海上安全委員会を通して、ウィルス事件の際に極めて機知に富んだ行動をとり、その後実戦を経て脅威的な成長を見せた晴風メンバーやもえかを分散させるよう圧力を掛けさせていたのだった。

 

そうすることによって、まだブルーマーメイドが政府によってコントロールが可能であり、軍の設立は不要であると示す狙いがあったのが大きいだろう。

 

 

更に真霜は、硫黄島にて異世界艦隊との演習を数日間行うこと、そしてそれが終了次第、呉と佐世保に散りじりになった元晴風の仲間を出来るだけメンバーに引き入れる事を指示した。

 

 

明乃ともえかが特に心配しているのは、後者の命令だ。

 

自分は兎も角、共に学び笑いあった大切な仲間を、恐らくこの世で最も死に近い海へと連れ出す事は出来よう筈がない。

 

 

 

「ミケちゃん…」

 

 

 

 

今にも泣き出しそうな明乃をもえかは心配そうに覗き込む。

 

彼女は震える声を絞り出すように言葉を発した。

 

 

 

「解ってるつもりだった…。海の皆を護るためには、時にとても危険な事に立ち向かって行かないといけない。でも…でもねモカちゃん…友達をいつ死ぬかもしれない航海になんて連れていけないよ。だから…私は…」

 

 

 

「自分一人で行く?」

 

 

「え?」

 

 

「ミケちゃんならそう言うと思った。だって町の皆が…当たり前に幸せな生活をしていた皆があんなことになった。もしかしたら他の町の皆や世界のどこかでもこんな事に…そんなのミケちゃんがほっとける訳がないよね?でもねミケちゃん。大切な人を失いたくないのは私も同じなんだよ。私も…ミケちゃんを失いたくない」

 

 

「モカちゃん…」

 

 

 

「だから、私もミケちゃんを失わせないように隣で一緒に戦わせて欲しいの。ミケちゃんの力になりたいの!ダメ…かな…」

 

 

「少し…考えさせて…」

 

 

明乃は憔悴したようフラフラと歩き出す。

 

もえかはそんな彼女を引き留められず、ただ立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

明乃が基地内を歩いていると、一人の少年に出くわす。

 

 

 

蒼き艦隊の艦長である千早群像。

 

明乃は今回の討伐隊編成において蒼き鋼とウィルキア両陣営の情報を知らされている。

 

 

 

「千早艦長?」

 

 

「あぁ、あなたは確かあの時の…」

 

 

「はい、岬明乃です」

 

 

「今回の討伐隊に参加されるそうですね」

 

 

「そうなんです。でも…」

 

 

「何か?」

 

 

「実は…」

 

 

彼女は群像に自分の悩みを吐露し、そして彼が同世代の仲間と共に霧の艦隊と戦う上で、自分と同じ心境にならなかったのかを訪ねたのだ。

 

 

 

彼は少し考え、顔を上げる。

 

 

「最初は俺も、一人で世の中に風穴を開けてやると意気込んでいました。でも皆は俺の艦に乗った。俺達の世界で海に出ることは、即…死を意味する事だと言うのに…」

 

 

彼は自笑気味な表情で明乃を見つめる。

 

 

 

「俺はその時に気付いたんです。自分のやっている事は、只の子供の我が儘なんじゃないかって…。だから俺は信じてみることにしたんです。仲間を信じて対話を重ねていけば、イオナ達のような存在ともきっと共存出来ると信じて」

 

 

 

 

「信じる…」

 

 

 

「ええ、全てが信じられないと言うのは、同時に自分を信じられないのと同義なのです。確かに無理強いはいけないと思いますが、あなたを信じて付いて行きたいと言う仲間を信じてみても良いのではないでしょうか?」

 

 

「………」

 

 

 

「俺達の世界の海はまだまだ狭く、停滞が支配しています。だが、仲間と出会った事で少しは開けたような気がするんです。あなたにとって海とはどんな存在か、仲間とはどんな存在か考えてみてください」

 

 

「海の仲間とは…」

 

 

群像は会釈をすると自分の艦へと戻ってしまう。

 

 

そんな彼を見送りながらも明乃は結論を出すことが出来なかった。

 

 

 

 

悩み続けた彼女は自らの部屋へ戻る気になれず、俯きながら横須賀基地の船舶の停泊場を歩いていた。

 

そこに停泊していたのは、ウィルキアの超巨大な海上ドック艦【スキズブラズニル】

 

 

明乃はそれを眺めながら先程の群像との会話を思い出していた。

 

 

 

(私にとっての海、私にとっての仲間とは…か)

 

 

 

「岬明乃さんでしょうか?」

 

 

 

「あなたは…ウィルキア共和国のシュルツ艦長?」

 

 

 

「はい。討伐隊の編成の件ですが、ブルーマーメイドの艦艇の大半が先日大破したとの事でしたので、此方で艦を貸すことに成りまして、あなた方の乗る艦の整備の状況を確認しに行くところなんです」

 

 

「その件なんですが…私、仲間をわざわざ死にに行くような所に連れていく事がどうしても嫌なんです。それでずっと悩んでいて…シュルツ艦長は自分の世界で超兵器との戦争をしてきたと言っていましたが、仲間を死なせかねない超兵器との戦争で何も思わなかったのですか?」

 

 

 

彼女の話を黙って聞いていたシュルツは顔を上げ明乃に真っ直ぐ視線を向けた。

 

 

 

「何も思っていないと言えば嘘になるでしょう。元々、世界に宣戦布告したのは自国の人間ですし、死んだ部下も倒して死んでいった敵も、元は同じ国の同じ軍の戦友なのですから」

 

 

 

「だったら!!」

 

 

 

「だとしても!今現在苦しんでいる人々を助けない理由にはならない。あと私は軍属です。軍属である以上、最も優先されるべきは命令なのです。それに私に部下はいても仲間は存在しない」

 

 

「そんな事って…シュルツ艦長は冷たい過ぎますよ!」

 

 

 

彼にむかって思わず声を荒げてしまい明乃は顔が青ざめてしまう。

しかしそれを聞いたシュルツは厳しい顔つきが少し緩み、自笑ぎみな顔になった。

 

 

明乃はその顔を見て少しだけ群像の姿を重ねる。

 

 

 

「冷たい…ですか。確かに勝利の為に味方を見捨て、敵であっても自国の兵に砲を向けるよう命令したのは私なのですから無理も無いでしょう。あなたは私を冷たいと言ったが、少し違います。私は卑怯で最低な人間です。もうあんな戦いをしなくて済む、皆を失わずに済む、誰かを失うかもしれない命令をしなくて済むと逃げて。大きな犠牲を増やさない為に小さな犠牲を強いた。もっと…もっと良い方法を見つけて、敵味方を問わず犠牲を減らせたかもしれないのに…。楽な道を選んでしまったと思わない日はありません…」

 

 

 

「シュルツ艦長…。ご免なさい!私…」

 

 

「良いのです…。あなたは優しい人だ。私はたまに思うのです。軍属であり強力な兵器を扱っても、心までは兵器になってはならないと…。ですが実戦で敵を殺せば殺す程、その心は少しずつ削がれていく。あなたには…いや、あなたの信ずる仲間にはきっとどんな苦境にも心を失わない強さがあると信じています。私達はこの世界の海を知らない。超兵器と戦う為には、どうしてもあなた方の協力が必要なのです」

 

 

シュルツは深々と頭を下げるが、明乃は曇った表情で俯いてしまう。

 

 

 

 

「我々は明日の昼には出航します。それまで良く考えて判断してください」

 

 

「解りました」

 

 

「あっ!あとこれを…」

 

 

「これは…」

 

 

シュルツは彼女に艦長帽を手渡す。そして去り際に、今までとは違うとても優しい口調で、明乃に語り掛けた。

 

 

「今は沢山悩みなさい。そして出来ればあなたのその優しく強い思いを貫きなさい。先程はああ言いましたが、私はどのような結果に成ろうとも、それを受け入れます」

 

 

 

彼が去った後、明乃は仮設テントの中で横になり、考えていた。

 

 

 

(私は…どうすればいいの?)

 

 

 

夜が更けても、明乃は¨家族¨を戦場に巻き込む事への結論を出すことが出来なかった。

 

 

 

 + + +

 

 

 

翌日

 

 

 

(はぁ、あのまま寝ちゃったのかぁ。結局どうすればいいのか決められなかったな…)

 

 

彼女は疲れの残る表情で寝袋から出て着替えを始める。

 

そこへ…。

 

 

「ミケ艦長いる~?」

 

外から見知った声が聞こえ、彼女が慌てて飛び出すと、そこには晴風メンバーの横須賀組と鏑木美波の姿があった。

 

 

 

「皆…それに美波さん?…。どうしてここに?」

 

 

 

「私が皆に言ったの」

 

 

もえかが前に進み出る。

 

 

どうやら彼女が、晴風メンバーに明乃の事情を説明したらしい。

 

 

「水臭いじゃん艦長~なんで何も相談してくれなかっのさ!」

 

「うぃ!」

 

 

芽衣と志摩が明乃に詰め寄る。

 

 

「そ、それは、皆を危険な目にあわせたくなくて…」

 

 

「だからって、全部一人で抱え込むことないじゃない!」

 

 

「そうだよ!私達いつだってミケ艦長の事信じてるよ!」

 

 

 

「つぐちゃん…ミカンちゃん…」

 

 

「今回の航海、晴風メンバーを集める意味合いもあんだろ?なら勿論クロちゃんも居るんだよな?クロちゃんが噛んでて俺が一枚も噛んでねぇなんてぇのはいけねぇ!」

 

 

「それに、わたくし達だって、大切な家族や大切な人が傷付くかもしれないのに、黙って見ていられませんわ。わたくし達にはその力があるのでしょう?なら、わたくしも艦長と共に参りますわ!」

 

 

「私も医者だ。たとえどの様なことがあっても、誰も死なせるつもりはない」

 

 

「マロンちゃん…まりこうじさん…みなみさん…」

 

 

「ホント…あなたは私達が居ないと優柔不断ですね。そんなんじゃ誰も守れやしませんよ。」

 

 

振り向くとそこには真白がいた。

 

 

「し、シロ…ちゃん?」

 

「6年前に言いましたよね。私は…いや、私達はあなたの力になりたいと。この6年で何か変わったと思いますか?何もです!だから今回だって、どんなに危険でもあなたの側で力になりたい!ダメですか?」

 

 

「シロちゃん…」

 

 

「皆ね、そういう風に私達を思って一人で悩んでくれるミケちゃんだからこそ、一緒に行こうって思うんだよ。だって皆ミケちゃんの事、¨家族¨だって思ってるんだもの」

 

晴風の皆ともえかの言葉を聞き、明乃の頭の中に群像の問いがよぎった。

 

 

【あなたにとって海とはどういう存在か】

 

 

(海は皆との出逢いや絆を与えてくれた場所!)

 

 

【あなたにとって仲間とは】

 

 

 

(そんなの決まってる!¨家族¨)

 

 

彼女は仲間達の顔を見渡した。

 

真白ともえかがゆっくりと頷き、皆もそれに続く。

 

 

 

彼女の意は決していた。

 

明乃は艦長帽を目深にかぶり、顔を引き締める。

 

 

「私は、超兵器から全ての人を守りたい!全て!世界の人も、この国の人も、皆も、そして私自身も!でも一人じゃ何も出来ない。だから…皆の力を私に貸して欲しい!」

 

 

 

もう迷いはない。明乃達一同は自分たちの乗艦する艦があるスキズブラズニルへと向かって行った。

 

 

   + + +

 

 

スキズブラズニル前には、群像とシュルツが待っている。

 

明乃達が到着すると二人は何も言わずただ頷いた。

 

 

「意思は決まったみたいですね。では硫黄島でまた…」

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 

群像が401に乗り込む。

 

 

「協力感謝致します」

 

 

「いえ…此方こそ」

 

 

401を見送った明乃達は、スキズブラズニルに乗り込み、シュルツに自分達の艦を見せて貰う事にした。

 

 

「試運転は、硫黄島に着いてからにしましょう。色々と説明したいこともありますので。こちらになります」

 

 

シュルツが指を指した方向には、明乃達が想像していたよりも小さな艦があった。大きさ的には航洋艦クラスだろう。

巨大な超兵器と戦う為に、比較的大型の艦艇に乗艦すると思っていた彼女達は、少し拍子抜けしてしまう。

 

 

「これ…ですか?」

 

 

 

「ええ、フリーゲート艦です。小数での操艦を想定していたのでこちらを用意しました。駆逐艦程の大きさですが、性能はとても良いと思います。完成したばかりなので名前はまだありませんが、岬さん…いえ、岬艦長。この艦に名前を付けて頂いても良いですか?」

 

 

 

 

明乃は少し考え、顔を上げた。

 

 

 

「【はれかぜ】!はれかぜが良いです。6年前も晴風は私達を最後まで守ってくれた。今回も皆を守って必ずここへ返してくれる。だから私ははれかぜが良い…ダメですか?」

 

 

 

「いえ、良い名前です。今日からこの艦は、【はれかぜ】です。名の通り、きっとあなた方に良い風をもたらしてくれますよ」

 

シュルツはそう言うと笑顔を明乃に向けた。

 

明乃は、はれかぜを見つめる。

 

 

(はれかぜお願い。あの時みたいに皆を守って…)

 

 

彼女は心からそう思う。

 

 

外の天候は曇天。

 

しかし水平線の彼方の雲の切れ目から光が差し込む。

 

 

 

【エンジェルラダー】

 

 

 

果たして天使達は、はれかぜにどんな試練をもたらすか、今は誰もわからない。

 

 

スキズブラズニルは重い錨を上げ、 401と共に硫黄島へと舵を切るのだった。   




お付き合い頂きありがとうございます


設定は原作のミケちゃん達が大人になったというものですが、20代前半って色々な社会の影響をうけて行く時期かと思います。

そんなミケちゃん達が様々な時代の価値観をうけて彼女たちならではの答えを導くかを見守って頂けたら幸いです



次回は硫黄島です。
戦闘まではかなり時間がかかりそうで申し訳ありません。


では次回まで今しばらくお待ちください。



















とらふり!

筑波
「こりゃ鍛えがいがあるわい!」


シュルツ
「張り切るのは良いですが、腰には気を付けて下さいね…」


筑波
「だ、黙らっしゃい!年寄り扱いするんじゃないわい!」




ゴキ!




筑波
「ハグッ!?」

シュルツ
「ほらぁ~」


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心の闇は嗤う

お疲れ様です。

今回も最後までお付き合い下されば幸いです。



それではどうぞ


   + + +

 

硫黄島への道すがら、明乃達は、スキズブラズニルを見学している。

 

 

案内は、シュルツの変わりに彼の副官であるクラウス・ヴェルナーが担当する事となった。

 

 

「ここはスキズブラズニルの大型ドックエリアで、様々な艦を格納しています」

 

 

「うわぁ~凄い‼」

 

 

はれかぜの面々は、様々な形状艦が一同に介した空間に驚愕した。

 

 

「あの甲板が平らな艦はなんですか?横須賀に来た超兵器もあのような艦が左右に有りましたが」

 

明乃の質問に対しヴェルナーは航空機の発艦機能があるであろう艦艇に視線を移した。

 

 

「あれは【航空母艦】通常¨空母¨と呼ばれています。そしてこの空母の名は【メアリースチュアートⅠ世】空を飛ぶ兵器、即ち¨航空機¨を発進させる滑走路を備えた艦です。あなた方の世界ではあまり馴染みの無い艦かもしれませんが、そういう意味ではそちらの航空戦艦【ペガサス】もそうでしょう。戦艦と空母のハイブリッド艦で、攻守共にバランスが取れた艦です」

 

 

「ではあの船が2つ横にくっついたような艦はなんですか?」

 

 

「あれは、【双胴戦艦】です。名は¨出雲¨。大和型戦艦2隻を元に建造しました。甲板の面積が広く多数の兵装を搭載でき、尚且つ転覆のリスクが少ないという利点がありますが、旋回性能はあまり良く無いのが欠点ですね…。」

 

 

「凄い…。ここまで技術力に違いがあるなんて…」

 

「そうかもしれませんね。しかし¨あちら¨の技術に比べたら…」

 

 

ヴェルナーは、視線をドックの一番端にある一隻の潜水艦に目を向けた。

 

 

 

蒼き鋼の潜水艦【伊號401】

 

 

 

近くで機関員と思われる作業服の女性が作業をしており、白衣を纏った大人の女性の姿をした大戦艦ヒュウガと銀色の髪を持つ少女の姿を持つ401のメンタルモデル¨イオナ¨も共に作業をしていた。

 

 

 

 

「イオナちゃぁーんちょっとお腹を開いて見せて~!」

 

 

「ん~。」

 

 

イオナが着ていたセーラー服を捲り上げてお腹を出す。

その直後…。

 

 

ガギン…グオォォン!

 

 

 

「!!!?」

 

 

 

その直後の光景に一同は、驚愕した。

 

 

無理もない、なんと潜水艦が¨展開¨したのだから。

 

 

展開した潜水艦内部から、円形状のものがクルクルと回転しながら押し出されてくる。

 

 

 

【超重力砲】

 

 

 

蒼き鋼が所有する最終兵器である。

 

 

「あちゃ~これは完全にいっちゃってるわ…」

 

 

超重力砲の様子を確認した機関員の女性が天を仰いでいる。

どうやら横須賀での発射の際に破損したらしい。

 

対するヒュウガは、何故か身体をクネらせ、息を荒げながらイオナへと抱き付いていた。

 

 

 

「お任せくださいお姉さま!この超重力砲は元々¨私の身体の一部¨です。すぐに直せますし、破損箇所の修繕や欠損した箇所は、いおりちゃんと相談しながらナノマテリアルをやりくりして必ずお姉さまを万全の状態にして差し上げますわ!」

 

 

 

「うん、私はこれからシステムチェックに入る。後はヒュウガといおりに任せる」

 

 

 

「いやぁぁん!お姉さまに任されてしまいましたわ~!」

 

 

「相変わらずねアンタは…ん?」

 

イオナを抱き締めて悶絶するヒュウガを呆れるような目で見ていた¨いおり¨と呼ばれていた女性は、明乃達の存在に気付いて駆け寄ってくる。

 

 

「あっ!ブルーマーメイドのメンバーさんですよね?こんにちは!私は¨四月一日いおり¨。この艦の機関長やってます。宜しくね!」

 

 

「あっ、はい!はれかぜ艦長の岬明乃です。この度はよろしくお願いしますいおりさん!しかし凄いですね。一体どうなってるんですか?」

 

 

「う~ん。実は私にもまだ解らない事は多いの。ただ、船体を構成している¨ナノマテリアル¨はとても貴重品だから人類側の部品を、代用できる箇所は人類の部品に置換してナノマテリアルを節約してるんだぁ。あと機関の¨重力子エンジン¨はイオナと協力しながら、人間の言語に翻訳して貰って何とか扱えているけど、エンジンの仕組み自体はまだブラックボックスって感じ」

 

「でも、それをここまでこなせるなんてやっぱり凄いですよ!」

 

 

「えへへ…そうかなぁ」

 

 

「なぁなぁ、麻侖にも今度その重力子エンジンって奴を見せちぁくれねぇか?この機会だから是非見てみてぇんだ!」

 

 

「うん、いいよ!いつでも遊びに来て!一人だけブリッジから離れてるから、なかなか喋る人がいなくってさぁ~」

 

 

明乃達は安堵した。いおりはサバサバした性格で、とても話し安そうな人物だと思ったからだ。

 

麻侖に於いては、既に未知のエンジンの事で頭が一杯になっている。

 

 

 

 

「お~い、いおり!頼まれた部品持ってきたぜぇ!」

 

 

彼女達が声の方向に視線を向けると、401から日焼けした肌とドレッドヘアが特徴的な男が何やら部品の入った箱を手に此方に歩いてくる。

 

いおりは、彼に笑顔で手を振ると、明乃達に彼を紹介した。

 

 

「おっ!サンキュー杏平!。あっ紹介するわ。こいつは砲雷長の橿原杏平。砲雷撃に関してはピカイチだけどそれ以外はてんでダメなバカなんだ」

 

 

「おいおい…。バカってこたぁねぇだろ」

 

 

 

彼女は、不機嫌そうに抗議をする彼をハイハイとあしらっている。

 

彼女の対応に半ば呆れつつも、杏平は明乃達へと向き直り、装着していた色付きのゴーグルを外して視線を向けてきた。

 

 

「それよりアンタらは確か…」

 

 

「は、はい。はれかぜ艦長の岬明乃です!」

 

 

「へぇ、あんたが…。俺は橿原杏平。401の砲雷長をやってる。まぁ~よろしくな」

 

 

「はい、よろしくお願いします!」

 

 

 

気だるげな表情を見せる杏兵は徐に手を差し出してくる。明乃は慌てて手を出して二人は握手を交わす、いおりとは異なり、少し警戒の色も見え隠れする彼の反応に明乃の表情も少しぎこちない。

 

 

そんな二人の様子に痺れを切らした芽衣が口火を切った。

 

 

「あっ、あの!あなたが撃ったんですか?先日のそのぅ…潜水艦がバァ!って開いてドカァーン!撃つやつ!」

 

 

「うぃ!とても……興味……ある!!」

 

 

芽衣と志摩が杏兵に詰め寄る。

どうやら超重力砲の事が気になって仕方がないようだ。

 

 

杏平は彼女達の反応に、少し困ったように頭をかく。

 

 

「ん?あぁ…超重力砲の事か?生憎あれは俺じゃない。アレの制御はイオナみたいにメンタルモデルの連中にしか出来ねぇからな」

 

 

「そうなんだ…」

 

 

「そんなガッカリした顔しなさんなって。まぁ潜水艦だから攻撃は魚雷中心だけどよ。誘導パターンや起爆タイミングとか意外に深いぜ?それにヒュウガの話じゃ、硫黄島に着けば、重巡洋艦タカオの船体の復元の目処が立つらしいから、もしかすると、水上兵器も撃つ機会があるかもしれねぇし、そん時に解らねぇ事がありぁ答えられる範囲で答えっからよろしく頼むぜ」

 

 

「えっ!撃つの?撃っちゃうの?やったー!」

 

 

「うぃ!うぃ!」

 

¨撃つ¨言葉に飛び跳ねて喜びを露にする彼女達に杏平首を傾げつつ、口の橋を吊り上げた。

 

すると、

 

 

 

「もう!杏平ったら鼻の下伸ばさないの!」

 

「ぐ!?イタタ!やめっ…いおり!引っ張んなって!」

 

 

 

 

いおりは頬を膨らませて、杏平の耳を思い切り引っ張り、悲鳴を上げる彼を見た明乃が慌てて話題を切り出した。

 

 

 

「あっあの、他にはメンバーの方はいらっしゃるんですか?」

 

 

 

「ん?あとは副長の織部僧くん。マスクを被った人だから直ぐ解るよ。あとは八月一日静ちゃん。ソナー担当で眼鏡をかけた美人さんなんだよ。正規メンバーこのくらいかなぁ。刑部蒔絵ちゃんと、霧の艦隊のハルナとキリシマ、そこにいるヒュウガとなし崩し的着いてきたタカオは後の合流組。まぁ半分くらいは人間じゃないけど、賑やかで楽しいよ」

 

 

「まぁ、それは同じソナーとしてお話してみたいですわね」

 

「うむ、私も副長としての話を伺ってみたいものだ」

 

 

「通信についての技術は何か有りますか?」

 

 

「¨量子通信¨ってのがあるかな。ヒュウガがイオナの修理を終えたら。人類用の小型通信機を開発量産してくれるらしいから、その時ヒュウガに聞いてみて」

 

 

「量子通信?なんか凄そう……」

 

 

いおりは杏平の耳を引っ張りつつ、クルーの紹介をする。

 

 

彼女達は異世界の面々の未知の技術に興味津々だった。

 

 

 

そこへ険しい表情のヴェルナーが進み出る。

 

 

 

「やはり、あなた方は我々の理解の外に位置しているようだ…。シュルツ艦長からの提案なのですが、硫黄島でブルーマーメイドの方々への艦の説明や、演習が一通り終わりましたら、互いの連携のために、親睦や情報交換の場を設けたいとお考えです。また改めて千早艦長に通達しますが、そちらからも千早艦長に話をして頂くと幸いなのですが、可能ですか?」

 

 

「解りました伝えておきます!」

 

 

いおりは笑顔で返事を返すと、整備のため杏平を強引に引っ張って401へ戻って行き、ヴェルナーは、次なる航空機格納庫へと彼女達を案内した。

 

 

 

 

 

「こちらが航空機です。近くで見るのは初めてですよね?」

 

 

「え、ええ…」

 

明乃達は、表情を曇らせた。航空機を見るとどうしてもあの時の事を思い出してしまうのだ。

 

芽衣に至っては、志摩の後に隠れるようにして、震えており、それを見たヴェルナーは少し焦った様子を見せる。

 

 

 

 

「申し訳ありません。怖がらせるつもりはなかったのですが…無理もありません。航空機とのファーストコンタクトがアレでは…。しかし今後の戦略上どうしても必要なものです。実は硫黄島での演習の際に、どういうものなのか体験して頂こうと思っています」

 

 

「えっ?これ乗れるんですか?」

 

 

 

芽衣は恐る恐る航空機を見据える。

 

 

「ええ。あなた方の世界では有人の飛翔体は存在しないのでしたね。新たな戦術を編み出す上でも、あなた方には是非一度体感して頂きたい」

 

 

「解りました。検討しておきます」

 

「よろしくお願いします」

 

明乃の返事にヴェルナーはすこし安心したように頭を下げた。

 

 

 

それと同時にスキズブラズニルが速度を落とし艦が揺れるのを一同は感じた。 

 

 

 

 

「硫黄島に到着したようです。もう夕暮れですし、今日は自艦の部屋で休息を取ってください。演習は明日の朝0500時に開始とします」

 

 

「はい!あの、今日はありがとうございました」

 

「いえこちらこそ。明日からよろしくお願いします」

 

お辞儀をして去って行くヴェルナー敬礼を返し、明乃は一同へと向き直る。

 

 

 

「戻ろっか」

 

 

一行ははれかぜに戻り、自室で荷物の整理を済ませ、床に着く事となった…。

 

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

その夜

 

明乃は眠る事ができず、ベッドを抜け出し、スキズブラズニルの屋外にいた。

 

不安な気持ちになった時は、潮風に当たりながら海を見ると少し気持ちが落ち着いく。

 

少し歩くと、そこには一人の少年がいた。

 

 

(千早艦長?どうしてここに…)

 

群像は、一人で海を見ている。その表情は今まで明乃が見たことがないとても穏やかなものであった。

 

 

「岬艦長?」

 

「あっ、その…。ごめんなさい!。覗くつもりはなかったのですが……」

 

「いえ…構いません。それよりどうかされたんですか?自室で休んでいるものかと」

 

 

「あの…えっと…何か眠れなくて…。え、えへへ」

 

 

「やっぱりまだ、不安ですか?」

 

 

「うっ…少しは…」

 

明乃は図星を疲れて狼狽えてしまう。

そんな彼女に群像は優しい笑顔を向けた。

 

 

 

「実は俺もなんです」

 

「え?」

 

「意外でしたか?」

 

「あっ、えーと…はい」

 

 

明乃の反応に群像は少し困ったように笑う。

 

 

「初めてなんです。こうしてゆっくりと外洋の海を見るのは」

 

 

「初めて?」

 

 

「ええ、俺の世界では、霧の艦隊の影響で人類は外洋に出られない。港も、外洋との間に防壁がありました。海に出れば、いつ襲撃されてもおかしくないのでいつも潜航してましたしね…。俺にとって海はとても狭いものなのですよ。ゆっくりと海を見ることが出来る。これは俺の理想なんです」

 

 

「理想…ですか?」

 

 

「そうです。霧と和解して戦争を終わらせる事が出来れば、誰しもがこの風景を見ることが出来る」

 

 

「霧を¨打ち倒す¨ではなく?」

 

 

「そうです。今や霧はメンタルモデルを持った知的生命体です。対話が可能であれば講和を結び、停戦を実現出来る可能性がある。戦争をするよりも犠牲者を少なくすることが出来ると考えています」

 

 

「!」

 

 

明乃は目を見開いた。

 

頭には、出航前日にシュルツが言っていた言葉がよぎる。

 

 

《もっと、私が上手く考えていれば、犠牲は少なかったのではないかと考えない日はありません…》

 

 

(シュルツ艦長も千早艦長も、犠牲をどれだけ少なくするか、そもそもどう犠牲を出さないかを考えてる。それに比べて私は、犠牲が出るのを怖がってばかりで、犠牲が出なくなる方法なんて考えてもいなかった…)

 

明乃の心は前を向き始める

仲間を死なせない方法を、家族を守る方法を考える。この事が何より重要な課題だった。

 

 

 

「温暖な気候とは言え夜は冷えます。中に戻りましょうか」

 

「ええ、そうですね!」

 

明乃と群像は、二人で屋内に戻ることにした。

 

その途中に、二人はもう一人の艦長と鉢合わせをする。

 

 

「おや?お二人ともこんな時間にどうされました?」

 

「シュルツ艦長…。あの、ちょっと海が見たくて…」

 

明乃は無断で歩き回っていたのを咎められるのかと、後ろめたそうに答える。

しかしシュルツは、特に咎める事もなかった。

 

「そうでしたか。明日は早いですし。休息をとられた方が良いですよ。それでは、私はこれで…」

 

 

「あの!シュルツ艦長はどちらに行かれるのですか?」

 

明乃は、何やら急いでいる様子のシュルツの事が気になった。

 

 

 

 

 

「あぁ、ブラウン博士から、超兵器に関する事で呼び出されたんですよ。恐らく重要な何かを掴んだのでしょう」

 

 

 

 

群像は急に険しい顔になる。明乃も急に張り詰めた空気が気になり。シュルツに申し出た。

 

 

「あの、もしよければ、同席しても宜しいですか?」

 

「構いませんよ。いずれ報告して、情報を共有しようと思っていましたから。千早艦長はどうされますか?」

 

 

「俺も同席させて頂きます」

 

 

「解りました。では参りましょう」

 

 

 

二人はシュルツ後に続いて歩き出す。

 

 

  + + +

 

 

スキズブラズニル

 

ブリーフィングルーム

 

3人は中に入る。

 

部屋には、博士の他に複数の人物がいた。

 

鏑木美波・大戦艦ヒュウガ・大戦艦ハルナそして刑部蒔絵だった。

 

 

「ご苦労様です。ブラウン博士。何か成果があったのですか?」

 

 

シュルツの言葉に、沈痛な面持ちで博士が口を開く。

 

 

「はい…実は超兵器に関して驚愕の事実が判明したのです」

 

 

「驚愕の事実とは?」

 

 

「実は、横須賀に現れた超兵器は¨無人¨であった可能性が出てきたのです」

 

 

「何ですって!!?」

 

 

明乃とシュルツは衝撃を受ける。群像だけは、険しい表情のまま耳を傾けていた。

 

 

「無人とはつまり、誰かが何らかの方法で遠隔操作していたと言うことですか?」

 

 

「いえ、文字通り無人です。つまり、超兵器は¨自らの意思¨で攻撃してきたと言うことになりますね」

 

 

「そんな、バカな…」

 

 

頭を抱えるシュルツに、金髪をツインテールにして、ブカブカの黒いコートを羽織った姿の大戦艦ハルナのメンタルモデルが答える。

 

 

「ほぼ間違いないだろう。敵艦には、生態反応が全く感じられなかった。それに、遠隔操作を行う為の電波の類いも検知されていない」

 

 

「だが、どうやってあの状況で?」

 

 

「我々霧のスキャニング能力はお前達人類の物とは比べ物にならない。大戦艦級ともなれば尚更だ。それにあの場にはヒュウガもいた。大戦艦級が二隻いて同様の結果に至っているのだから間違いないだろう。信用できなければ、横須賀での救助活動の時を思い出してみれば解る。私達はあの時、各種センサーを用いて、瓦礫の何処に生存者がいるかを正確に検知し救助している。でなければ、今頃あそこにいた人間はとっくに機能を停止させていた筈だ」

 

 

「………」

 

シュルツはハルナの言葉に半信半疑の顔で絶句する。そこに今まで、黙っていた群像が口を開いた。

 

 

「という事は、あの超兵器は霧。つまりお前達と同類と考えた方が良いと言う事か?」

 

 

群像の問いにヒュウガが口を開く。

 

 

「似て非なるモノって感じね…。確かに無人で自分の意思で攻撃を行う。ここまでは霧と一緒。それは否定できないわ」

 

 

「では、異なる部分とは?」

 

 

「そうねぇ。まず一点目は材質かしら。超兵器の構成物質の中に、ナノマテリアルは一切使われていなかったわ。要するに一般的な船舶と同様の部品が使われていると言う事。武装に於いても、タナトニウム反応が検出されてないし、通常の弾頭兵器を使用しているわね。二点めは私達はアドミラリティ・コードによって対地攻撃は禁じられている。アイツは優先的に地上を攻撃していたように見えた。私達はあくまで兵器だから命令に無いことは出来ないし。極めつけは、コア」

 

「コア?」

 

「そう。ブラウン博士に超兵器の心臓部、通称¨超兵器機関¨の写真を見せて貰ったわ。これよ」

 

ヒュウガが群像に超兵器機関の写真を渡す。

 

そこには、巨大で何とも形容し難いものが写っていた。

 

 

「これが、機関?」

 

 

「ね?、全く違うでしょ?だって私達のコアは…」

 

そう言うと、ヒュウガは手を自分の胸付近に当てる。

すると、ヒュウガの中から、手のひらの上に乗るくらいのサイズの球体が出現した。

 

 

「こーんなに小さいしね」

 

群像は写真とヒュウガのコアを見て納得する。

 

それを見た博士は、さらに続けた。

 

 

「かつてクーデターの首謀者であるヴァイセンベルガーが行った世界への宣戦布告の際、彼はこう言っていました。我々は世界を統治する¨力を手に入れた¨と。私は、超兵器が帝国によって製作されたのではなく、異世界から移動してきた彼等を、偶然ヴァイセンベルガーが手に入れたのではないかと考えたんです。根拠としては、あの巨体を誰にも知られずに造るなど不可能に近いですからね。超兵器達が異世界から来たのだと考えると全ての辻褄が合います」

 

 

「超兵器が異世界からの来訪者とは…。まるでファンタジー小説の話のようだ」

 

 

「でも現に私達は時空を移動し、異世界にいる。これが何よりの証明では有りませんか?」

 

「確かにそうですね…。新たな懸案事項として頭に入れておいた方が良さそうです」

 

 

「さらに此方をご覧ください」

 

 

博士はシュルツに端末を渡した。

 

 

「これは…」

 

「ええ、ブルーマーメイドから提供された。各国を襲撃したという超兵器です。いくつか気になる点が出てきませんか?」

 

 

「高出力の超兵器が少ないように思われますが…」

 

「そうです。特に光学兵器や波動・重力兵器を多用する超兵器や、気象すら変えてしまう超兵器等の姿が極端に少ない。また欧州に現れた超巨大レーザー戦艦も、攻撃は艦砲やミサイルが中心だったそうです」

 

 

「では、ムスペルヘイムの場合はどう考えます?あれは、普通にレーザーを撃って来ましたが?」

 

 

「ムスペルヘイムには重力砲が装備されています。しかし、横須賀では使用されていません。それに艦載機に関しても、低出力のプロペラ機でしたし。撤退も呆気なかった」

 

 

「確かに…」

 

 

「それに起因しているのかは解りませんが。我々がこの世界に着いた日、世界で同時多発的に攻撃を行った後に超兵器は目立った行動を起こしていません。これは私の推測なのですが…超兵器は今、何らかの理由で調整、又は補給中の為に動きが鈍くなっているのではないかと推測します。それも高出力の超兵器ほど調整に時間を要するのではないかと」

 

「成る程…それでは、超兵器を叩くなら今がチャンスだと?」

 

「それがそうとも言えません…」

 

 

 

今後の戦いに一筋の光が見えてきたシュルツにブラウン博士は釘を刺し、新たな画像をシュルツに提示する。

 

それを見たシュルツは青ざめてしまった。

 

 

「なんてことだ…」

 

 

「お気付きになりましたか。そうです、今回超兵器は¨艦隊を組んで¨行動しています。我々の世界では見られなかった行動です」

 

 

「確かに…。私達の世界では、帝国の通常艦隊が大量に存在し、その旗艦として超兵器が一隻いると言う構図が一般的でしたね」

 

 

「ええ、まぁ例外もありますが、せいぜい随伴する超兵器は高速巡洋艦か潜航型位でしたから。このように、旗艦クラスが纏まって艦隊を組むなどあり得なかったことです」

 

「厄介だな……」

 

シュルツは険しい表情を隠せなかった。

 

明乃は知らない単語が混じっている事もあり、まだ本当の意味で二人の会話の深刻性を理解できていなかった。

 

だが次のハルナの問いに対する回答で顔が青ざめてしまう。

 

 

「しかし、横須賀の超兵器が本調子ではないとして、実際はどのようなものなんだ?」

 

「正直に言えば別物でしょう。実弾を防御する重力場。通称¨防御重力場¨の出力もお世辞にも強いと言うものではありません。それに先程も言いましたが、ムスペルヘイムは重力砲を使用しなかった。もし、使用されていたら、私達は愚か横須賀の街そのものが、地図から消滅していた可能性すらありましたから」

 

 

「そんな!」

 

 

明乃は悲鳴にも似た叫び声を上げる。

 

 

「この間の襲撃でも対処出来なかったのに、さらに強力な超兵器が大勢やって来るなんて、そんなことになったら。私達はどうすれば…」

 

 

混乱する明乃にブラウン博士は近寄って、手を握った。

 

「どうか落ち着いてください岬艦長。こう考えてみてはどうでしょうか。一隻ずつバラバラに行動されて都市を同時多発的に攻撃されるよりは、一ヶ所に纏まって行動してくれた方が、此方としては対処しやすい。違いますか?」

 

 

「確かに…そうです。ごめんなさい、取り乱してしまって……」

 

 

「良いのですよ。私達だって、完全不安を払拭出来ている訳では無いのですから」

 

ブラウン博士は優しい笑顔で明乃の手を擦ってくれた。

それを見たシュルツは、群像に視線を送る。

 

群像もその視線からシュルツの意思を汲み取ったように頷く。

それを確認するとシュルツは切り出した。

 

「まぁ、これで大まかな方針が決まりそうです。話も大体片付きましたし、明日も早い。今日はここで解散としましょう。群像艦長。岬艦長を送って頂けますか?」

 

 

「了解しました。それと蒔絵。君も一緒に戻ろう。もう何時間も休んでないだろう?」

 

 

「ううん、私は余裕だよ!」

 

 

蒔絵と呼ばれた少女は、まだまだやる気ではあったが…。

 

「蒔絵…。無理は禁物だ。それに薬も飲んでないのだろう?」

 

「あっすっかり忘れてた!。ごめんね…ハルハル…」

 

 

 

 

刑部蒔絵は、デザインチャイルドと呼ばれる人工的に作られた人類だった。

 

蒔絵の産みの親である刑部藤十郎博士は霧に対抗しうる兵器を開発するため、人類を凌駕する知能をもった生物を産み出す研究をしていた。そして生まれたのが蒔絵だ。

 

蒔絵は刑部博士の期待に答え、霧を打ち破る兵器、通称¨振動弾頭兵器¨を開発した張本人でもある。

しかし、その人知を越えた知能と引き換えに、蒔絵の体はとても脆いものであった。

 

定期的に体の調子を整える役割を持つ酵素等をサプリメントから摂取しなければならず、怠れば体調を崩してしまうのだ。

 

 

ハルナは謝る蒔絵の頭を優しく撫る。

 

 

「いいんだ。だから今日は、戻って休んでくれ」

 

 

「うん!分かった。でもハルハルは一緒に来ないの?」

 

 

「私も、皆と少し話したら戻るよ。なに、蒔絵が食事を終える頃には戻るさ」

 

 

「分かった!食事が終わったら、一緒にお風呂に入ろうね!」

 

「ああ」

 

そして、蒔絵は群像達と部屋を後にする。

 

 

それを確認して、シュルツが口を開いた。

 

 

「ふぅ……。やはり、世界観の違いから必然的に彼女の精神的な負担は我々の比ではないようですね」

 

 

「そうですね。私も先程はああ言いましたが、超兵器の艦隊は打ち破る事ができれば戦況は一気に我々に傾きます。しかし一度負ければ……」

 

 

「超兵器に対抗する力を持ち合わせていないこの世界は滅びる……ですか?」

 

 

「その通りです。まぁそうさせない為に私達がいるわけですが」

 

 

「そうですね、ところで博士、私をここに呼んだのは、超兵器についての報告と我々の新しい兵器についてとの事でしたが?」

 

 

「ええ、それに関しては、そこにいる鏑木女史とハルナ・ヒュウガに聞いて頂ければと」

 

ブラウン博士が視線を送る。

 

代表してヒュウガが頷いた。

 

 

「では、始めるわね。私達が今回開発を進めている兵器は、電子撹乱ミサイルよ」

 

 

「電子撹乱ミサイル?」

 

 

 

「そう、対象となる超兵器の動力か攻撃を麻痺させることが出来るの」

 

 

「どういう仕組みなんです?」

 

 

「それは私から説明しよう」

 

 

美波が前に進み出た。

 

 

「私は6年前からあるウィルスの研究をしている。そのウィルスは有機生命体に取りつく事によって増殖し、異常な電流や電磁波を発生させる事が分かっている。ブラウン博士の話では超兵器機関は粉々になっても稼働し続けまるで生き物のようであったと聞いた。それなら、このウィルスも超兵器機関に対して効果がある可能性は高いと推察したんだ。ウィルスに感染した超兵器機関は只でさえ強力なエネルギーを制御しきれず暴走、自壊する」

 

 

「しかし、暴走状態の超兵器はかなり危険です。かつて私達は、超兵器を暴走させてしまったことがあります。暴走した彼らの攻撃はそれまでの比ではなかった」

 

 

「対策としては。この兵器は低出力の超兵器にのみ使用しない事を徹底するしかない。これは私が開発した電子撹乱ミサイルαの場合だ」

 

 

「αと言うことは、βがあると?」

 

 

「次は私が説明する番ね」

 

 

ヒュウガは片眼鏡にカチッと直して話し始めた。

 

 

「電子撹乱ミサイルβは霧のジャミングシステムを応用しているわ。着弾と同時に強力なジャミング波で敵の照準機器に一時的に麻痺させて砲撃精度を落とす。欠点としては、ジャミング波が強すぎて近くにいる味方の照準装置や通信にも異常をきたしてしまうわ。使うときは、よっぽど距離が離れているときね。もし至近距離で使う際は、そのあとの攻撃はアナログで目標に照準を合わせるしかないわね。つまり動力に作用する方がα、攻撃に作用する方がβと言ったところかしら」

 

 

「諸刃の剣と言ったところですね」

 

 

「そうね、使い時は限定されるし、何より超兵器機関周辺の装甲はかなり分厚いみたいだから。その突破法についても議論の余地有りって感じかしら」

 

 

「解りました。状況が状況ですし。何も無いよりは、希望が持てそうです。引き続きお願いします」

 

 

「分かったわ。また何か分かったら報告するわね」

 

 

シュルツはブリーフィングルームを後にした。

 

 

  + + +

 

 

明乃・群像・蒔絵は、はれかぜの前に戻ってきている。

 

「着きましたね。岬艦長、今日はゆっくり休んでください」

 

 

 

「はい。今日は色々ありがとうございます千早艦長」

 

 

 

「いいえ、俺は何も…」

 

 

 

「そんなことないです!。千早艦長やシュルツ艦長は、私なんかより断然艦長らしいです。私、ホントいつもダメダメですし」

 

 

「そんなこと有りません。俺達の世界では、皆が必死で、とても他人を思いやる余裕のある人はいなかった。俺からすれば、あなたの様な人はとても眩しく見えてしまうのですよ」

 

 

「そんな〃〃〃〃」

 

「だから、これからどんなことがあっても、どんなに辛くても、その優しい心を消して失わないでください」

 

 

「千早艦長…」

 

 

「では戻ります。お休みなさい」

 

 

「は、はい!お休みなさい。蒔絵ちゃんもおやすみ」

 

 

「うん!おねえちゃんもおやすみなさい!!」

 

 

 

明乃は、群像と蒔絵を見送る。

 

 

(優しい心を失わないで…か。うん!きっと私でも出来ることがある。明日から頑張らないと!)

 

 

明乃は決意を新たに自室へと戻っていった。

 

   + + +

 

 

スキズブラズニル屋外

 

シュルツはブリーフィングルームからの帰りに海を見ている。

 

 

(ふぅ、最近色々あって落ち着いて海を見る機会なんて無かったな……)

 

 

シュルツもまた、心の整理をつけるときは、海を見る習慣があった。

そこへ一人の人物が声をかけてくる。

 

 

「シュルツ艦長!」

 

 

「ん?ナギ少尉か。何だ?」

 

 

ナギは、ウィルキア艦隊の通信員であり、副長不在の際は副長代理を務める、若冠23歳にして、とても優秀な女性であった。

 

 

 

「ブラウン博士達からの報告はどうだったのかと…」

 

 

「我々にとって、あまり芳しいものではなかったな…」

 

 

「そうでしたか……。あっ、あの艦長。コーヒーを持ってきたんです。如何…ですか?」

 

 

「ん?ああ、頂くよ」

 

 

ナギ少尉はポットに入れてきたコーヒーをシュルツに注いで手渡す。

 

一口飲むと、温かくそしてほろ苦いコーヒーが、疲れた身体に滲みてくる。シュルツは息をついてからナギに優しい視線を向けた。

 

 

 

「ありがとうナギ少尉。美味しいよ」

 

 

「ほ、ホントですか?嬉しいです!」

 

 

シュルツの言葉に少し顔を赤くし、まるで太陽のような笑顔で喜ぶナギに、シュルツの顔もこれまでの険しさが少し和らぐ。

 

しかし、彼は表情を直ぐ様元に戻した。

 

 

「明日からはまた、君達を危険な航海に連れて行ねばならない。本当に申し訳なく思っている…。だが、超兵器が時空を移動し、再び猛威を奮っている。それは同時に、我々の世界にも再び超兵器が現れる可能性を浮上させているのだ。だから今度こそ、我々は超兵器を完全にこの世から消滅させ、後世への憂いを絶たねばならない。ナギ少尉…私の勝手にいつも付き合って貰ってすまないが。今度も私に付いてきてくれるか?」

 

 

「はい!勿論です!どこまでも艦長に付いていきます!」

 

シュルツは、ナギの返事に頷きを返す。

最早彼の心に迷いはなかった。

 

 

「明日は早い、ナギ少尉も速く戻って休め」

 

 

「はい!、艦長もどうかご無理なさらずに休んでくださいね」

 

 

「ああ、そうさせてもらうよ。あっ…それと、コーヒー美味しかったよ。良かったらまた淹れてくれ」

 

 

「はい!いつでも!」

 

ナギは嬉しそうに笑って、戻っていった。

彼女を見送ったシュルツは再び海に目を向ける。

 

 

そこには、昼間とは売って変わって、美しい星空と穏やかな海が広がっていた。

 

 

   + + +

 

 

 

群像達がブリーフィングルームにいた頃

 

イオナはブリッジで一人システムチェックを行っている。

 

しかし…。

 

 

(ここは…。どこ?私は確か、システムチェックを行っていたはず……)

 

彼女は闇の中にいた。

上も下も、前後も左右もない闇の中に。

 

 

(概念伝達空間?いや少し違う…。じぁここは一体…)

 

 

イオナの言う概念伝達空間とは、メンタルモデル同士が物理的な距離を無視し、仮想空間で会話できるというシステムであり、庭園内のティータイムを楽しめる東屋をイメージしたデザインの仮想空間となっていた。

 

しかし目の前に広がるのは…闇。

 

 

通常、感覚器官を持たない彼女達メンタルモデルであるが、イオナはこの空間を、とても冷たく不快だと感じていた。

 

何より彼女を不快にさせているのは、ここに来てから感じている、夥しい視線。

 

とにかくそこら中から感じる視線が、イオナの身体に刺さり、イオナはメンタルモデルを持って初めて¨不安¨という概念を得た。

 

 

「誰?誰か居るの!?」

 

イオナは叫んだが、闇は答えない。

 

(群像……)

 

イオナは自分の艦長の事を強く思った。

その時!

 

 

《我等ハ、破壊ニヨッテ、世界ヲ平和ニ統治セントス…。ソレガ我ラ兵器ニ与エラレシ勅命……》

 

 

「!!!?」

 

 

突如頭の中に直接話し掛けて来るような、とても低い声が聞こえた。

 

イオナは状況が全く理解できない。不安とエラーで今にもどうにかなってしまいそうだった。

 

故に彼女は必死に叫ぶ。

 

自分の艦になれと言ってくれた、一人の少年の名を。

それは必死に、何度も、声が掠れても。

 

 

「群像! 群像! 群像! 私は一人に…。なりたくない! 群像!」

 

 

 

目を開くと、いつもの401のブリッジにいた。

 

 

(ここは、いつもの?)

 

「システム再チェック……異常なし…」

 

イオナはシステムの再チェックを行ったが、何も異常は見つからない。

 

 

(何か、何かとても嫌な事があった気がする…)

 

イオナはあの空間での出来事を覚えていなかった。すると

 

「!?」

 

 

イオナの頬を一筋の雫が流れる。

 

 

(これ…は、涙?それにこの気持ちは…何…?)

 

 

イオナの宝石の様に美しい瞳からは、次々と涙が溢れる。

 

 

そう、メンタルモデルイオナは泣いていた。そして、手を胸に当てて彼の名を呼んぶ。

 

 

「群像…」

 

なぜかは解らない。

 

でもイオナは今、堪らなく群像に側に居て欲しかった。

 




お付き合い頂きありがとうございました。

なんかミケちゃんがメランコリーな感じになってきてしまいました。

どうしよう………。

あとUAがいつの間にか1000突破してました。ありがたいと同時に完全にビビってます。

こんな感じですが今後も宜しくお願い申し上げます。


何はともあれ、次回は硫黄島訓練編です。今しばらくお待ち下さい。

ではまたいつか



















とらふり!




群像
「メンタルモデルは睡眠を摂らないんだろう?イオナはいつも何をして過ごしてるんだ?」




イオナ
「ヒミツ…なの(群像の寝顔を眺めることなんて言えない…)」




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三世界合同軍事演習①~折れる心と折れぬ絆

お疲れ様です

フルメンバーがいないままの演習
しかも相手がチート
果たして……。

今回も何卒最後までお付き合い願います。


それではどうぞ




   + + +

 

 

硫黄島

スキズブラズニルでは朝演習前の確認事項が行われていた。

そこに一人の男性が近づいた。シュルツはその人物に気づき、姿勢をただして敬礼。部下達もそれに続いた。

 

「アルベルト・ガルトナー司令に敬礼!」

 

 

明乃達も慌てて敬礼をする。ガルトナーも返礼を返すと、休めの号令を出す。

 

 

「諸君、異世界への移動からこっち、休む間もなくの務め、本当にご苦労だった。知っての通り、この世界でも超兵器はその超然たる力で罪無き民衆を蹂躙している。我等はこの世界においても、ウィルキアの名の下に超兵器討伐の任を負って行くつもりだ。各員準備を怠らず、万全を以て事に当たれるよう、尽くして欲しい」

 

 

「はっ!承りました」

 

 

ガルトナーはシュルツの返答に頷く。

 

 

「それに先立って、この度日本国に世界各国から超兵器の情報を収集するホットラインが開設されることが決まった。そして、このスキズブラズニルに日本の司令室を置くことも決定している。その担当者の方は此方だ」

 

 

「!?」

 

はれかぜ一同は、目を疑う。

 

 

「海上安全整備局安全監督室室長の宗谷真霜です。よろしくお願いいたします」

 

 

真白は突然の自分の姉の登場に狼狽する。

 

真霜の隣には、福内典子の姿もあった。

 

 

「宗谷室長には、各国との情報の連携や根回しなどに尽力してもらうことになるだろう。分かっているとは思うが、彼女は日本の代表としてここにいる。我々の品位を損なうことがないよう。くれぐれも失礼の無いように。以上だ」

 

 

 

 

ガルトナーが去り、周りの緊張がほどける。

 

 

真白は真霜に駆け寄って問い詰めた。

 

 

 

「真霜姉さんどうして……」

 

「今は宗谷室長よ、はれかぜ副長」

 

「失礼しました。宗谷室長。横須賀におられたのではないのですか?」

 

 

「逐一連絡を取り合う暇が惜しかったからここにご厄介になることにしたの。もう既に許可はとってあるわ。それに横須賀には宗谷校長や古庄さんもいるしね」

 

 

「母さんが?」

 

 

「ええ、いくら超兵器に太刀打ちできないとは言え、横須賀を手薄にする訳にもいかないわ。あなた達の抜けた穴も埋めなければならないし。それに、横須賀女子海洋学校の教員はブルーマーメイドの予備役になってるから心配はいらないわ」

 

 

「それにしても、事前に話して欲しかったですよ…」

 

 

「ふふっ、ご免なさい。こっちも色々立て込んでたのよ」

 

 

真白はイタズラっぽく笑う真霜に溜め息をついた。

 

 

 

(何も企んでなければいいけど……)

 

 

 

そんなことを考えていると、明乃から出発を知らせる号令がかかる。

 

向かおうとする真白に真霜が声をかけた。

 

 

「宗谷副長!ちょっといいかしら」

 

「どうされました?」

 

 

「ええ、岬さんに伝えて欲しい事があるのだけど」

 

「伝えて欲しい事?」

 

 

 

 

 

真白は真霜からの伝言を聞くと急いではれかぜに乗り込んだ。

 

 

   + + +

 

硫黄島沖10km

 

はれかぜは、鋼鉄の艦隊からの人員補助を受けつつ兵装の説明を受けている。

 

はれかぜの主な兵装は

 

 

 

228mmAGS連装砲

 

新型超音速酸素魚雷

 

35mmCIWS

 

長距離SSM

 

対空ミサイルVLS

 

対潜VLA

 

対空パルスレーザー

 

 

そして…。

 

『フニャ~ン!』

 

 

にゃんこビーム

 

 

「え?」

 

 

「今、鳴いたよね?ニャ~ンて……」

 

 

「目から!目からビームがでた!!」

 

 

「五十六みたいで、とても愛らしいですわ~」

 

 

 

軍艦には何とも不釣り合いな、猫のオブジェの目から、2本の光線が飛び出した。

 

その様子に彼女は口々に感想を言う。

 

 

「それは、¨にゃんこビーム¨ですな。小型で威力は高いですが、少し弾道が読みづらいですので、命中させるには訓練が必要ですぞ」

 

兵器の解説をしたのは

 

 

 

筑波貴繁

 

 

 

 

現在57歳で日本帝国海軍の特務大尉でウィルキア海軍大学にてシュルツたちの教官を勤めた。

 

ガタイがよく、訓練では厳しい面もあるが厳格な堅物というわけではなく、気さくかつユーモラスで社交的な面もあるなど実際は硬軟併せた性格をしている。艦隊内では主に戦術に対する参謀的な役割を持ち、副長不在の際は副長代理を務めることもある。

 

 

 

今回の演習で教官としてはれかぜで指導をすることとなった。

 

しかし、船舶に特化したこの世界において、明乃達の実力は相当のものであり。

 

事実上、筑波が教えるのは、主に対空戦闘や、光学兵器、対空兵器等の使用経験が無い兵装についてが主だ。

 

 

尚、機関に置いてはヴェルナーが指導を担当している。

 

「まぁ、自動迎撃装置が搭載されているとは言え、基本を疎かにしてはなりません。先ずは模擬弾を使用し、手動操作での対空戦闘に慣れて貰います。でなければ今後の戦闘に支障が出かねませんからなぁ。ルールとして、クラインフィールドや防御重力場の飽和率が一定量を越えた場合は撃沈扱いとし、白旗を掲げて頂きます。尚、蒼き鋼に対しては実弾の使用を許可します。こちらも念のため、防御重力場は作動させて起きますが、作動した場合は被弾と見なしますのでそのつもりで」

 

 

「はい!宜しくお願いします」

 

「宜しい。では、始めますぞ」

 

 

 

筑波が言うと。演習開始の汽笛がなる。

 

 

敵役の空母、メアリースチュアートから多種多様な航空機が発艦してきた。

 

 

 

(速い!横須賀でみたのとは段違いだ)

 

 

真白がそう思った時、後ろから筑波の罵声が飛んだ。

 

 

「何を、呆けておる‼さっさと回避運動を取らんか馬鹿者!」

 

 

 

 

筑波の凄まじい覇気に、一同は思わず体が硬直する。

 

しかし、明乃は直ぐに持ち直して操舵手に回避の指示を飛ばした。

 

だが、そんな明乃の気持ちを予測していたように、航空機は回り込み模擬弾を次々と命中させてくる。

 

筑波の罵声は続いた。

 

 

 

 

「避けてばかりでは、なにも始まらんぞ!迎撃だ!それにいつまで、空母に発艦を許しておる!甲板を破壊するか、魚雷で浸水を起こし艦を傾けて、発艦を困難にしろ!それに注意力も足らん!敵は空母や航空機だけではない!回りにいる艦艇や、潜水艦の存在にも注意しろぉ!!」

 

 

 

捲し立てるように怒鳴り続ける筑波に、実践経験の無い明乃達は、悪戦苦闘しながら何とか攻撃に耐える。

 

しかし、はれかぜの隙を着くように、斜め後方に、回り込んでいた双胴戦艦、出雲が主砲を向けていた。

 

真白は、出雲の動向を逃さなかった。皆がカバーしきれない死角すらも見逃さず、明乃に伝える。

明乃は素早く操舵手と志摩に指示を飛ばした。

 

志摩は出雲を睨む。

 

相手は既に発射体制だった。

 

 

 

(間に合わ…ない!)

 

 

 

回避が難しい事を悟った志摩は、砲撃手に砲撃座標を伝え迎撃合図を出す。

 

出雲は既に主砲を発射し砲弾が、高速で飛来してきた。

 

 

「撃てぇ…!」

 

 

はれかぜの主砲が火を吹く。

 

砲弾は弾道を描きそして……。

 

ズドォォォォン!

 

出雲の放った¨砲弾¨に命中させた。

 

 

筑波は目を見開く。

 

 

(砲弾を砲弾で撃ち落とすだと?まぐれでできる芸当ではない……。この小娘…一体何物だ?)

 

 

筑波が見渡すと、既に芽衣が魚雷を空母に発射し、志摩が航空機への迎撃と空母甲板への攻撃を指示している所だった。

 

航空機への銃撃も当たるようになり、明乃の回避運動の指示も的確になってきている。

 

筑波は、軍属でもなければ、実戦の経験すらない彼女達の奮闘に舌を巻いていた。

 

 

 

 

(航空機がなく、船舶が発展していった故か…。だがまだ甘い!)

 

 

 

 

はれかぜはたった一隻で、二隻と大量の航空機に対応し始めていた。

 

しかし、はれかぜの真後ろ遥か後方からそれは突然やって来のだ。

 

 

「!?」

 

 

真白が違和感に気付いた時にはもう遅かった。

 

海が突然¨割れた¨のだ。

 

 

「ねぇ!何なのこれ……」

 

 

芽衣が不安そうな顔で呟く。

 

真白は、窓から顔を出し後方を確認した。

 

割れた海の先、そこにはなんと、船体を展開させた艦が居た。

 

艦橋の形状からは、金剛型であることがうかがえた。

 

艦首には、一人の少女が立っている。

 

 

 

 

「フハハハハ!久しぶりの¨本当の体¨だ!肩慣らしに付き合ってもらうよ!はれかぜ!!」

 

 

 

 

大戦艦キリシマだった。

 

だが、今の彼女は可愛らしいクマのぬいぐるみではない。彼女の顔は獰猛に歪み、目の前の獲物を狙う獣のような顔をしている。

 

 

 

キリシマは超重力砲のロックビームで、はれかぜの機動力を奪い、模擬弾の雨を降らせた。

 

はれかぜも必死に足掻くが、船体は全く身動きが取れない。

 

次々と飛来するミサイルをどうにか数発落とすのが精一杯だった。

 

メアリースチュアートや出雲からも絶え間ない砲撃をはれかぜに加えていた。

 

 

 

(これ…演習の域を越えてるよ!だって皆絶対私達を沈める気で撃ってきてるもん…)

 

 

芽衣は足元が、震えている。

 

だが、猛攻はまだ終わらなかった。

 

はれかぜの真横から突然一隻の艦が浮上する。

 

しかし、それは潜水艦ではなかった。

 

 

重巡洋艦タカオが海の中から出現したのだ。

 

 

「万里小路さんソナーに何か無かった?」

 

 

「爆音で聞き取りづらいのも有りますが…そもそも海中からは何の異音も致しませんでしたわ…」

 

 

「どうして……」

 

 

明乃は途方に暮れてしまう。

 

その間にタカオは艦橋上部付近を展開し、二つのリングを出現させた。

 

 

「エンゲージ!」

 

 

タカオが叫ぶと、リングにエネルギーが集束し始める。

 

明乃はそんなタカオの艦橋の中に見知った人物を見つけた。

 

 

「モカ…ちゃん…?」

 

明乃のよく知る幼馴染みは、タカオに向かって何か指示を出した。

 

 

タカオがニヤリと笑った瞬間……

 

 

 

タカオの超重力砲が放たれ、はれかぜは強烈な閃光と衝撃に包まれた。

 

 

「きゃぁぁぁ!」

 

 

はれかぜのクルー達が光と衝撃によろけて倒れる。

明乃も踏ん張っていたが、堪えきれず倒れてしまった。

 

 

明乃達が何とか立ち上がった時、通信が入る。

 

 

『演習終了!はれかぜ撃沈!』

 

 

明乃達はシュルツの通信にまだ頭がついていかない。しかし次のセリフで一気に現実に引き戻される事となった。

 

 

『はれかぜの生存者はゼロ。戦死者の名は、艦長岬明乃。』

 

 

「!?」

 

 

驚く明乃達を尻目に次の名前が読み上げられる。

 

 

『副長、宗谷真白』

 

 

「なっ!」

 

 

 

シュルツはその後はれかぜに乗艦していた全ての名前を読み上げた。

 

 

 

「……以上が戦死者だ。午後は各種兵装や船体の点検を行い。硫黄島へ帰投する。以上通信終わり」

 

 

シュルツが通信を切ったあと、明乃達は呆然としていた。

 

だがそこへ筑波が猛然と明乃に近付き、おもむろに彼女の胸ぐらを掴んだ。

 

 

 

 

「こんのっ大馬鹿もんがぁぁ!」

 

 

 

 

「あ゛っ!」

 

 

筑波は明乃を殴り飛ばした。

 

彼女の小柄な体は宙を舞い、近くの壁に激突して崩れ落ち、唇は切れているのか血がしたたり落ちていた。

 

真白は慌てて駆け寄るが、筑波はそんな真白を引き離し、再び明乃に掴みかかって罵声を浴びせた。

 

 

「お前は何をしたのか解っているのか!?たった今お前の判断で仲間達の命を奪った…いや、殺したんだ!!それだけじゃない。この船が沈んだ事で、超兵器によって世界が蹂躙される。そこに居た罪のない人々の命すらも見殺しにしたんだ!」

 

 

「!!!?」

 

 

明乃は目を見開いた。

 

 

(殺した?私が皆を?私が、私の判断が悪かったから皆が…世界の皆が…。大切な皆が…死!)

 

 

彼女は殴られた頬の痛みなど既に感じなくなっていた。

 

それよりも、艦長である自分が不甲斐ないばかりに、撃沈と判断されてしまった。

 

 

もし、これが本当の超兵器との戦闘だったなら…。そう考えた時、明乃の頭に両親が死んだ時の情景が浮かぶ。

 

嵐の日、転覆した船から脱出する際幼い明乃は恐怖から足がすくみ、なかなか救命ボートに乗り込むことが出来なかった。

漸くブルーマーメイドの隊員に抱き上げられ、ボートに乗った明乃が後ろを振り向いた時、沈んで行く船の渦に巻き込まれ、足掻きながら沈んで行く両親の姿が見えた。

 

 

彼女は、想像してしまう。

 

はれかぜの艦橋内、辺りを見渡すとそこには仲間たちの変わり果てた姿。

 

頭がない死体

 

銃撃で穴だらけになってしまった死体

 

体のあちこちがちぎれてバラバラになっている死体

 

明乃のよく知る仲間達の無惨な亡骸が横たわる。それらが自らの判断で引き起こされかねないと自覚した彼女は、最早堪える事も出来なくなってしまった。

 

 

 

(私のせいでお父さんもお母さんも、皆も…)

 

 

 

彼女の精神は、頭の中で何度も映し出される惨劇に限界を迎えてしまう。

 

 

 

「う゛っ…う゛っ…あ あ゛ぁ゛。」

 

 

「艦長?」

 

 

真白が心配そうに明乃に駆け寄り声をかけるが、今の彼女の耳に届く事はない。

 

そして…

 

 

「ああぁあぁあ゛あああああ゛あぁあぁ゛ぁああああぁ!!!」

 

 

壮絶な絶叫が艦橋に響き渡り、近くにいた真白はその凄まじさに、思わず目を閉じた。

 

叫び終えた明乃は、まるで糸の切れた操り人形のようにグニャリと崩れ、そして意識を失った。

 

 

 

 

「艦長!?艦長っ!」

 

 

「宗谷副長!硫黄島までは貴様が指揮を執れぇ!岬艦長は、医務室に放り込んでおけぇ!」

 

 

「筑波大尉!!どうして!!なにもそこまで!」

 

 

「黙れ!ここは既に戦場なのだ!本物の超兵器は、今の生ぬるい演習とは比べ物にならん位の強敵なのだぞ!貴様らも今のままでは何も出来ずに無駄死することを、肝に命じておけ!」

 

 

 

 

 

筑波は、そう言うと自室へと戻っていく。真白はそんな筑波の背中を睨み続けていた。

 

 

   + + +

 

 

明乃達の演習の二時間程前

 

 

硫黄島で真霜は真白にあることを伝えていた。

 

それはもえかが、はれかぜに乗艦せずタカオにて別行動をとるという内容だった。

 

 

 

そんなもえかは、現在霧のメンタルモデル¨タカオ¨と一緒にいる。

 

 

 

 

(凄く綺麗な人…とても兵器だなんて信じられない)

 

 

 

彼女が緊張しているる最中、横須賀で撃沈した超兵器空母のサルベージに向かう401に同行させて貰えなかったタカオは不機嫌だった。

 

 

 

 

 

(何よ群像艦長ったら!私だけ除け者にしなくたっていいじゃない!)

 

 

 

頬を膨らませて怒る彼女に、ぬいぐるみ姿のキリシマが近寄る。

 

 

 

「まぁまぁ…そう怒るなって。折角自分の船体を復活させられるチャンスじゃないか。その方が千早群像に貢献出来て評価が上がるんじゃないか?」

 

 

 

「艦長の私への評価が…上がる?ふっ、ふん!仕方ないわね!べっ、別に評価とか気にしてないけど〃〃今日のところはコッチで我慢してあげるわ!」

 

 

(ホントチョロいなこいつは…)

 

 

キリシマは溜め息を付く。

 

 

 

 

「そういやタカオ。ヒュウガの言っていたナノマテリアルの鉱床は、ホントに硫黄島周辺にあるんだろうな?」

 

 

 

 

「まぁ、アイツが言うなら間違い無いと思うけど…」

 

 

タカオはクラインフィールドで足場を作り、3人は海の上を歩き始める。

 

 

 

「座標ではこの辺ね」

 

 

 

タカオが手をかざすと、海中から銀色の粉が舞い出てきて一つに集まり、艦の形を成した。

 

 

 

「フフン!上出来ね。キリシマ、あんたも早くやんなさいよ」

 

 

「ああ、そうだな」

 

 

 

キリシマもぬいぐるみの手を海にかざす。

 

 

ナノマテリアルがキリシマの船体を作り出した。

 

 

 

同時に、クマのぬいぐるみの中から霧の心臓とも言えるユニオンコアが出てきて、回りをナノマテリアルが覆って行き、一人の少女の姿に変化した。

 

 

ショートアップの髪型で後ろ髪をリボンで縛って小さなポニーテールを作っている。服装は袖の無いタイプの上着と片方を切り取ったようなジーンズにブーツ姿。

 

 

青くて長い髪を後ろでまとめて、ミニスカート姿の可愛らしいタカオの印象とは対照的に、キリシマは男装の麗人をイメージした様な格好だった。

 

 

 

「戻った…私の体…うっ、うぅ~」

 

 

「何泣いてんのよ!早くしないと演習始まっちゃうじゃない!モエカ…だっけ?あんたもいつまで呆けてんの?さっさと私に乗りなさいよ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

タカオに促されて、もえかが乗り込む。

一同は演習場所へと急ぐのだった。

 

 

 

   + + +

 

 

現場に着いたタカオ達であったが、既に演習が始まっていた。

 

 

「始まっちゃってるわね…。」

 

 

「フフフ、久しぶりに暴れさせて貰うとするか!まぁ1分も持たないと思うけどな!」

 

 

「待って!」

 

 

 

早速乱入しようとするキリシマをもえかが止めた。

 

 

 

 

「何だよ!久しぶりの体なんだ。思う存分暴れさせてくれよぅ!」

 

 

「そんな事をしたら、ミケちゃん達がホントに死んじゃう!この演習の真の目的はそこじゃないから、絶対沈めちゃダメ!」

 

 

「真の目的?」

 

 

タカオが首をかしげる。

 

 

「そう、出発前にシュルツ艦長から言われているの。ミケちゃん達を死なせい為に敢えて今回の演習で、ミケちゃんの心を折って欲しいって。」

 

 

「心を折る?ああ¨挫折¨ってやつね。でもなぜ?」

 

 

「それは、ミケちゃんがまだ、超兵器クラスの相手を実際にした事が無いから。だから一度、超兵器と互角に渡り合ったシュルツ艦長達と人知を越えた力を持つあなた達と、一度矛を交えておく必要がある。そして失ってしまう恐怖を知り、そこから立ち上がる事。それが、一番重要だから。」

 

 

 

「もし、立ち上がれなかったら?」

 

 

「立ち上がらせなくちゃダメなの!ミケちゃんはきっと、¨失わせない命¨に自分の命を入れていない。だから知らなくちゃいけないの。自分が生きていなきゃ、大切な人を守ることが出来ないと言うことを!」

 

 

「ふん!理解しがたいな。たとえそれが有益だとして、味方である筈のお前がわざわざ出向かずとも、私達に任せておけば良いものを…。」

 

「だって、死んでほしくないもの…。」

 

 

「何だって?」

 

 

「私はミケちゃんに死んでほしくない!ミケちゃんが私達にそう思うように、私達だって…あなた達だってそうでしょう?自分の事を信じてくれる人、自分の帰りを待ってくれる人が生きていて欲しい。悲しい顔をしないで欲しい、そう思うでしょう?その為には、自分も相手も¨生きて¨いなくちゃ意味無いの!」

 

 

 

「バカバカしい!私達は兵器!そんなものなど…。」

 

 

 

【ヨタロウ!今日帰ってきたらハルハルと3人でクッキーを焼こうね。約束だよ!】

 

 

 

 

「まっ、蒔絵…」

 

 

【重巡洋艦タカオ。頼りにしている。これからよろしく頼む。】

 

 

「艦長〃〃」

 

 

二人のコアには、自身を頼り大切に思う人の姿が頭をよぎった。

そしてそしてそれらを失った時、また自分達が沈んだ時の彼等の悲しげな顔を感情シミュレーターが弾き出す。

 

 

「な、なんだ…。胸の辺りがモヤモヤする…。嫌だ!そんな結果は…断じて容認できない!」

 

 

「私と艦長。どちらが死んでもお互い永遠に会うことは出来ない…。そんなの私は認めない!!」

 

 

 

「そう、それが¨願い¨。でも願いだけじゃ何も救えない。行動しなくちゃいけない!だから協力して!皆で、生きて帰って来る為に!」

 

 

もえかは二人に真剣に語りかけた。

 

 

 

 

「ふん!仕方がない…協力してやるよ!」

 

 

「で?何かプランはあるわけ?」

 

 

「それは……!」

 

 

場面は変わって、演習後半。

 

キリシマはロックビームではれかぜの足を奪い、砲弾の雨を降らせる。

 

その最中、もえかを乗せたタカオは海中から、はれかぜに接近していた。

 

 

(まったく…。この子見た目の割りに結構大胆事を考えるわね。今いる他の艦を全て囮に使うなんて)

 

 

 

もえかは、キリシマを含めた全ての艦を囮にして、本命であるタカオを水中に潜ませる案を考えていた。

 

 

 

しかし、はれかぜには優秀なソナー手の楓がいる。

 

 

 

故にもえかは、周囲からの砲撃音とタカオのクラインフィールドによるノイズキャンセラーで音を減衰させ、さらに潮流を上手く利用しながら明乃達に全く気付かれる事なく懐に入ることに成功する。

 

 

 

 

(水上艦の私がここまで気付かれずに接近出来るなんて…。私の戦術の幅がまた広がったわね)

 

 

 

 

元々、霧の中でも戦術探求に興味を持っていたタカオは、今回の作戦での新たな戦術に舌鼓を打っていた。

 

 

「さて、そろそろ頃合いかしら?」

 

 

「うん、お願い」

 

 

 

もえかの言葉にタカオはニヤリと笑い、浮上。それと同時に超重力砲を起動した。

 

 

 

「エンゲージ!」

 

 

 

 

艦橋上部が展開し、二つの円形状の重力子リングが出現、展開が終わるとエネルギーの充填が開始される。

 

 

「タカオ!間違ってもはれかぜは…。」

 

「解ってるわよ!わたし手加減出来ない程下手くそじゃないわ!出力は0.008%程度に調整済みだから安心しなさい!」

 

 

「解った、あなたを信じる。発射を!!」

 

「了解!!」

 

 

タカオが超重力砲を発射した。目映い光にもえかは思わず目を閉じる。

タカオは、混乱するはれかぜの乗組員達を見ていた。

 

(まっチョロイもんよね)

 

 

 

幾多の人類をはね除けてきたタカオの顔には余裕があった。

 

しかし、次の瞬間タカオは目を見開く。

 

超重力砲の凄まじい衝撃と閃光で、立って居られるだけでも奇跡な状態であるにも関わらず、一人の少女が踏ん張りタカオを睨んでいた。

 

 

はれかぜ艦長  岬明乃

 

 

彼女はこの状況でタカオの位置を正確に見極めていた。

 

 

 

そして何よりあの目…。

 

 

 

艦長帽の下から覗く彼女の凄まじい眼光にタカオは思わず怯んだ。

 

彼女は回りの乗組員達に何やら叫んでいる。目をやられた乗組員達は手探りで何かをしようとしていた。

 

 

(ふっ、ふん!この状況で今さら何を……え?)

 

 

タカオは目を疑った。

はれかぜの主砲がこちらを向く。

 

 

 

彼女は焦った。

 

 

 

超重力砲発射時はかなりの演算リソースを必要とする上、発射方向のクラインフィールドに穴を開けなければならない為、一時的に無防備な箇所が出てきてしまうのだ。

 

 

 

はれかぜはこの土壇場で、霧の唯一の弱点を突いてきたのである。

 

 

(まずい…!クラインフィールドの演算処理が間に合わない!!)

 

 

次の瞬間、はれかぜから砲撃が飛んでくる。

 

このままでは直撃し、タカオが超重力砲の制御を手放してしまえば、超重力砲が暴走して、ここにいる全てのものを巻き込みかねなかった。

 

タカオは、発射中の超重力砲を緊急停止させ、余った演算能力で素早くクラインフィールドを展開する。

クラインフィールドが展開された刹那。

 

 

ズドォォォォォン!!!

 

 

はれかぜの砲撃がタカオの目の前に着弾したのだ。

 

 

(あっ、危なかった…一体何なの?いや、何者なのあの娘…)

 

 

タカオは、はれかぜを睨んだ。

 

そこで、演習終了の合図がなされる。

 

 

タカオともえかが、はれかぜに視線を向けると、筑波に明乃が殴り飛ばされているのが見えた。

 

 

「ミケちゃん!!!」

 

 

もえかは悲鳴にも似た叫び声をあげる。

艦橋を飛び出し、はれかぜに駆け寄ろうとするもえかをタカオが制止した。

 

 

「待ちなさい!アンタはあの娘に死んでほしくないから、今回こう言う形で演習に参加したんでしょう?なら、きちんと最後まで見届けなさいよ!」

 

直後、

 

「ああぁあぁあ゛あああああ゛あぁあぁ゛ぁあ!!!」

 

 

明乃の絶叫がこちらにまで響いてきた。

 

 

「う、くっ…」

 

もえかも本当に辛そうに唇を噛んだ。

 

タカオは、そんなもえかから視線を外し、自分の分身体である船体に目をやる。

外見上は無傷だが、最後の砲撃で少しすすけてしまった。

 

人間はとても弱い、少し感情を揺すぶられた位で平気で壊れる。

 

だが、今回その人間に隙を許した。

彼女達は千早群像の様に、霧の兵器を持っているわけではない。

 

ただの人間のただの兵器に、隙を許した。

 

タカオはもう一度、はれかぜに視線を移す。

 

明乃は仲間に担がれて、運ばれている。

 

 

(あんな弱い娘が私を…)

 

 

メンタルモデルは寒さを感じない。

 

だがタカオは、震えた肩を押さえるように、両手を添えて明乃が見えなくなるまで彼女から視線を離す事が出来なかった。

 

 

 

 

午後  硫黄島

 

 

スキズブラズニルの医務室で明乃は目を覚ました。

辺りを見渡すと、そこには美波の姿があった。

 

美波は、目を覚ました明乃に気付くと、近寄って腕を取り脈を確認した。

 

 

「だいぶ無理をしたようだな艦長。まぁ身体には別段異常は無いようだから心配は要らないが…」

 

 

「美波さん…私は?」

 

 

「皆まで言わなくていい」

 

 

美波は彼女のやつれた頬に優しく触れた。

 

 

「今日はとにかく休め。他の皆も目立った怪我は無いから安心しろ」

 

 

「ん、ありがとう美波さん。そうさせて貰うね…」

 

 

明乃はゆっくりとベットから起き上がり、おぼつかない足取りで、医務室を後にした。

 

 

「艦長…あなたには今、休息が必要だ。心の休息が…な」

 

 

誰も聞いていない医務室で美波が呟いた。

 

 

   + + +

 

 

 

スキズブラズニルのシャワー室

 

 

真白は、汗で汚れた身体をシャワーで流している。

 

だが彼女は、ただ虚ろな目でボーッと立っているだけだった。

そこへ、ドアを開けて誰かが入ってくる。

 

視線の先にはもえかがいた。

 

真白は、もえかを睨み付ける。

 

 

 

「よく平気な顔をしてらっしゃいますね知名艦長…。艦長の心をあれ程ズタズタにしておいて…」

 

 

「そう言うあなたも、『艦長の側で力になりた~い』とか言っておいて、何も出来なかったみたいね宗谷副長!」

 

 

「!!!」

 

ボゴォ!

 

 

「く…あ…。」

 

真白は、もえかを殴り飛ばし、倒れたもえかに馬乗りになる。

 

 

「あなたに何がわかる!実際にあの場にいた訳じゃないあなたに!あんな、化け物みたいな艦を相手に、艦長は一人で判断を迫られて…。それで全ての責任を背負ってあんな事に…。そんな艦長の気持ちがあなたなんかに解る訳無い!!」

 

 

 

「!!!」

 

 

ゴフッ!

 

「あぐっ!?」

 

 

今度はもえかが、馬乗りになっている真白の腹に膝を打ち込んで突き飛ばし、もえかが真白を上から殴り付けながら叫ぶ。

 

 

「甘えないでよ!何が艦長一人よ!ミケちゃんがいつも責任を一人で被るのは、大事な時にミスを恐れて仲間が全力を出せなくなる事を無くす為に、敢えて全ての責任を自分に課しているの。そんな事も知らずに自分の不甲斐なさや力量不足迄ミケちゃんに押し付けるの?勝手だよ!あなたはミケちゃんの隣で一体何を見てきたの!?」

 

 

「わ、私は…」

 

 

真白は何も言い返す事が、出来なかった。

気付いてしまったのだ。

 

いつも取って付けたような正論ばかりを口にして、肝心な時になるとすくんで動けず、近くに居る者にすがってしまう弱い自分に…。

 

あの時筑波が言った言葉は、明乃だけに言ったのではなく、自分達にも向けられていたのだ。

 

しかし、真白はまた明乃一人に押し付けて逃げてしまった。

 

 

 

(私、最低だ…。副長失格だ!艦長をよく知っている知名さんだって、心を鬼にして臨んで、艦長と同様に傷付いているのに、私は自分の事だけで頭が一杯で……ホント…)

 

 

「最低だ!私は…」

 

真白は、顔をくしゃくしゃにして泣いた。

すると突然もえかに身体を起こされる。

 

殴られる。 いや、殴られて当然だと真白は思った。

 

しかし、次の瞬間真白の顔に柔らかな感触が伝わった。

目を開くと、真白はもえかに抱き締められており、顔を上げるともえかの目にも涙が浮かんでいる。

 

 

「知名さんどうして……」

 

 

 

「私、やだよ。死ぬのが怖い!自分も、皆も、死ぬのが怖い!だから、生き残る方法があれば、藁だって、蜘蛛の糸だって掴みたい!皆でまた笑い会える日々を取り戻したい!」

 

 

「知名さん……」

 

 

彼女は理解した。

もえかや皆、そして明乃や自分自身は死にたくないんじゃない【生きたい】のだと【生きていて欲しい】のだと。

 

 

 

 

真白は決心した。

明日を生きるため、次の瞬間を生きるために自分の出来る事をやりきる。

 

 

かつて、6年前の事件の時に偶然救助したドイツ艦の副長が言っていた。

 

 

【艦長とは孤独なものじゃ…。何時もどこかで自分を殺して、艦と言う1つの集合体を纏めて行かねばならんからのぅ…。じゃが儂は、皆の為にこの海の上で孤独を敢えて引き受けてくれた艦長を一人にしたくない…いや、一人にしない為に居るんじゃ…】

 

 

だが言葉の本質はそこではない。

本当に重要なのは、

 

 

(艦長…。貴女の心を一人にさせない!)

 

 

真白は立ち上がり、もえかを抱き起こす。

 

 

「知名さん。ありがとう!誓うよ。もう艦長を一人にしない!心を一人ぼっちさせたりしない‼」

 

 

 

「宗谷さん…」

 

 

「解ったんだ、この演習の意味が。知名さんや筑波大尉が言っていた意味が。私だけでは、微力かも知れないけど、それでもはれかぜの皆を守る一員として艦長の力になりたい!」

 

 

 

「うん、私は同じ艦じゃないけど、絶対皆を守るから!。だから宗谷さん。ミケちゃんを…はれかぜをお願い!」

 

 

「ああ!」

 

 

二人は、硬く誓い合った。

 

 

皆との明日を必ず勝ち取るために。

 

 

 

   + + +

 

 

夕方

 

明乃は、はれかぜの艦橋に一人佇んでいた。

 

彼女は辺りを見渡し、ひび割れた窓ガラスを見て眉をひそめる。

それから舵輪に歩み寄り、それを優しく撫でて額をつけ、はれかぜに語りかけた。

 

 

「ごめんね……。また傷だらけにしちゃったね…。ダメだね…私…。6年たっても全然成長出来てないよ…」

 

 

明乃は涙を流し、本当に申し訳なさそうに、はれかぜに語りかける。

 

すると急に周りが明るくなった。

彼女は驚き周りを見渡すと、とても小さい光の玉が、フワフワと明乃に近付いて来る。それは彼女の前で止まると、なんと話しかけてきた。

 

 

 

《そんなこと無い…私は信じてる。いつだって皆を、私を大切に思う君を…私は信じてる……》

 

 

 

明乃は不思議と怖い感じは受けなかった。

まるで母親が子供に囁いているような優しい声に、心の不安が癒されていくような感覚を覚えていた。

 

 

「はれかぜ……なの?」

 

 

光は答えない。

 

 

 

「あのねっはれかぜ!私は…」

 

 

ガチャ!

 

 

「!!!!」

 

 

ドアの開く音がしたため、明乃は慌てて振り返る。

 

 

「あれ?ミケ艦長いたんだ。休んでたんじゃなかったの?身体は大丈夫?」

 

 

「め、メイちゃん?う、うん。大丈夫…」

 

 

明乃は振り返るが、光の玉の姿はなかった。

 

 

(夢?だったのかな……)

 

 

「ミケ艦長?どうしたの?」

 

 

「ううん…。何でもない。そ、それよりメイちゃんこそどうしたの?」

 

 

「あ~アハハハ。実は昼間の演習、私達ヤラレちゃったじゃん?だから明日の演習じゃ、ミケ艦長に迷惑駆けないようにって…」

 

気まずそうに芽依が半開きのドアを開くと、そこには、はれかぜのメンバーがいた。

 

 

「え、エヘヘ…。皆でさ、作戦を練ろうってね」

 

 

「…練る」

 

 

「あたぼうよ!負けっぱなしじゃこの麻侖の気が治まらねぇ‼」

 

 

「初めの経験でしたから対応出来ませんでしたが、次こそは……」

 

 

「待って!!昼間のは私の判断が……」

 

 

「ミケ艦長ダメだよ!また悪いクセが出てる。一人で抱え込みすぎないでって言ったじゃん!それにさ…私達だってミケ艦長を死なせなくないって思ってるんだよ。その為に、努力するのって行けないことなのかな…」

 

 

「芽依ちゃん……」

 

 

「私だって怖かったし、パニクッちゃったよ。だってそうじゃん。あんなデタラメな力を見せられたら誰だってそうなるっしょ?だからさ、皆で考えようよ!私達の日常を皆で迎えられる方法ってヤツをさ!」

 

 

芽依はそっと明乃を抱き締めた。

 

明乃は涙で濡れた顔を芽依の身体へ預ける。

孤独だった心を囲むように、皆の心が寄り添い、温めてくれるような心地よさを明乃は感じた。

 

 

「あ、あのう…。私達もいいだろうか?」

 

 

一同が振り返ると、真白ともえかが立っていた。

 

二人とも何故か、顔に絆創膏を貼っており、少し互いに気まずそうにしている。

 

 

「シロちゃん、モカちゃん…」

 

 

「ミケちゃん。私達、絶対に生き残ろう!皆で!」

 

 

「その為に、私達にも少しでいいから、貴女の肩の荷を分けて頂けませんか?」

 

 

もえかと、はれかぜメンバーが一応に明乃を見つめる。

 

 

明乃は涙に濡れた顔で儚げに笑顔を作った。

 

 

「ありがとう…」

 

 

「ヨッシャァァ!そうと決まれば、早速作戦会議だぁ!」

 

「うぃ!」

 

 

「そう言えば美甘ちゃんが後で夕食届けてくれるって!」

 

 

 

「そうかぁ、それは俄然やる気が出てきたぜぃ。待ってろぉ!明日は麻侖がギャフンと言わせてやるってんでぃ!」

 

 

彼女達はこの後、夜遅くまで明日の演習での作戦を考えていた。

 

   + + +

 

 

「まだ、やっているようですな」

 

 

「ええ…そうですね」

 

 

「それにしても、あなたも随分酷なことをなさる」

 

「あなたほどではありませんよ。筑波¨教官¨。」

 

 

「教官とはまた随分昔の話ですな」

 

 

筑波は苦笑いを返した。

 

 

「艦長。彼女達は、大丈夫なのでしょうか?」

 

 

「それは、近くで見ていたあなたが一番解っているのでは?」

 

筑波は表情を険しくする。

 

 

「ええ、全員が揃って居ないとはいえ、彼女らの能力には、何か背筋が寒くなるのを感じました」

 

 

「同感です。しかし彼女達ならいかなる状況においても、犠牲を何よりも嫌悪する慈愛の心を貫けると信じています。私とは違って…」

 

 

「ご謙遜を…」

 

筑波は、シュルツへ視線を向ける。

彼は、はれかぜを眺めていた。

 

その顔は、救世主の存在を信じてやまない純心で穏やかな顔をしていた。




お付き合い頂きありがとうございます。

字数の絡みで二日間の演習を一話に纏めることに失敗致しました。

メランコリー艦長明乃頑張れ!

次回もよろしくお願い申し上げます。


とらふり!


シュルツ
「それよりその資料は何ですか?」

筑波
「これは私が考案した、新たなはれかぜの訓練内容です。目を通していただけますかな?」

シュルツ
「全身に矯正ギブスを装着しての演習?時代が40年前ですよ…」

筑波
「スポコンじゃぁぁぁ!」

シュルツ
「あ~あ、始まっちゃった…」


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短編 一つの太陽と二つの月

お疲れ様です

なかなかメランコリー状態から脱却出来ないのでお口直しに超短編を挟んでみました。

もしよかったらどうぞ


真白の自室にて

   + + +

 

 

殴り合った二人は互いの手当てをしている。

 

 

「あの、知名さん…。殴ってしまってご免なさい…」

 

「ううん、いいの。先に手を出したのは私の方だし…」

 

 

「……」

「……」

 

 

二人の間に流れる気まずい沈黙。

それを最初に破ったのはもえかだった。

 

 

 

「やっぱり宗谷さんて、ミケちゃんの事…好き…なの?」

 

「なっ!!」

 

 

真白は突然の事に狼狽する。

しかし、もえかは容赦しなかった。

 

「解るよ。だってミケちゃんの隣にいるあなたの顔がとっても幸せそうだったから」

 

 

 

「なっ、違っ。私は艦長にそんな気持ちは…大体女同士だし…。そ、そう言う知名さんはど、ど、どうなんだ?」

 

 

「好きだよ」

 

 

「!!?」

 

即答が返ってくるとは思ってもみなかった真白はいよいよ参ってしまう。

 

 

「ふ、不純だ!女同士なんだぞ!」

 

「そうかな…私はそうは思わないよ?最初は大切な友達だったの。でも6年前の事件の時、ミケちゃんがあの重い扉を開いて私を光の中に引っ張り出してくれたあの時に私はミケちゃんに……」

 

 

 

頬を染めて、語るもえかに真白も思わず顔が熱くなるのを感じた。

 

 

「答えて」

 

 

 

はっとして前を向くと、すぐそこにもえかの顔があり、事態について行けない真白は思わず後ずさる。

しかし彼女はジリジリと近寄ってきて、真白は壁際に追い込まれてしまった。

 

終いには腰の上に股がられ、両手を壁に押さえ付けられてしまい、とうとう観念してしまった。

 

 

 

「き、嫌いでは…無い〃〃〃」

 

 

 

真白は真っ赤になって答えるが、もえかは呆れ顔をする。

 

 

「嫌いではないって……。ホント素直じゃないなぁ宗谷さんは。で?気持ちに気付いたのはいつ?」

 

 

「だ、だから違…」

 

 

 

「はいはい…分かったから。でも嫌いじゃなくなったきっかけとかはあるんでしょ?」

 

 

納得がいかないが、有無を言わさず迫られたら渋々でも口を開らくしかない。

 

 

 

「最初は、難破船の救助の時にちょっとモヤモヤして…決定的だったのは、シュペーの救出の時、私はシュペー救出の成功の労いの言葉を掛けた時、岬さんはボロボロの晴風言ってた。『晴風がこんなにボロボロに…』って。あぁ、この人はクルーだけじゃない、晴風という家も含めた皆を大切に思える人なんだって…。そう思った時、私の心のモヤモヤの正体が解ったの。私には無い優しい心を持ったこの人の事が……スキだって…。」

 

 

 

「やっぱり好きなんじゃない…」

 

 

「うわっ!違…。い、今のは…言葉のあやで…」

 

 

「ホント、素直じゃないなぁ宗谷さんは。でもそっか……。二人とも同じ人を好きになっちゃったんだね…。でも今は、そう言う状況じゃない。閉まっておかないといけない気持ちだと思う。でもいつかは…」

 

 

「するのか?告白」

 

 

「…うん。だってこの気持ちは、ミケちゃんがいたから生まれた気持ちだって思うの。だからきちんと伝えたい。ミケちゃんは少し困っちゃうかもしれないけど、きっと真剣に答えてくれる。そういう人だから…」

 

 

 

二人の間にしばし沈黙が流れる。

 

するともえが急に、真白の頭の後ろに手を伸ばした。

 

 

 

「?…体何を…。はっ…んっ……んん!?」

 

 

 

 

もえかは、突然真白に唇を重ねてきた。

真白は足をばたつかせて抵抗するが、もえかの唇の柔らかな感触と鼻に触れるもえかの花のような優しい髪の香りで何も考えられなくなる。

 

 

 

「ひっ…ちょっ!うむ…あっ…はぅ…ぃ。」

 

「んっ…はむ…。」

 

二人は唇を重ね合う、しかし我慢の限界を越えた真白がもえかを突き放した。

 

 

 

「むはっ!ハァハァ…。知名さん…どうしてこんな?」

 

 

 

真っ赤になりながら抗議する真白に、もえかは真剣な顔で答えた。

 

 

 

 

「ハァハァ…。せ、宣戦布告…かな」

 

「宣戦布告?」

 

「うん、今回の戦いでは仲間だけど、ミケちゃん個人については別。私、宗谷さんにだって負けないよ」

 

 

「私は別に勝ち負けとかそんなんじゃ…」

 

 

「じゃぁミケちゃんは私が……。いいよね?」

 

 

「ダメだ!そそ、そんな…認めない!」

 

 

「認めない?何であなたに許可を受ける必要があるの?ミケちゃんが認めちゃえば全て済む話だよ」

 

 

「認めなものは認めない!だって岬さん隣に居るのは私!……あっ」

 

 

 

それを聞いたもえかはイタズラっぽく笑う

 

 

 

「漸く私に本当の気持ちと感情を出してくれたね。解ってたんだ…あなたが私のこと避けてるの」

 

 

「う…」

 

図星を突かれた事に真白は狼狽える。

 

 

 

 

実際、真白はもえかの事を少し苦手としてきた。

 

 

 

明乃と同じ艦長であり、幼馴染みで成績は優秀。

 

 

だが、明乃と彼女は決定的な違いがある。

明乃は表情や言葉から心が見える。それとは対照的にもえかにはそれが無い。

いつも冷静で動じることの無いもえかの姿を、真白は明乃とは対象に少し冷たいと思っていたのだ。

 

 

 

しかし、次のもえかの言葉に真白は目を見開く。

 

 

「でもありがとう宗谷さん。本音で話してくれて。これで私達、恋のライバル以前に、友達だね。」

 

 

 

その優しい表情は、真白のよく知る明乃の顔と少し似ている気がした。

 

 

 

自覚はあったのだ。自分が本当に彼女が苦手な理由、それは嫉妬だ。

 

今も6年前も、明乃の中に彼女は居続ける。

 

 

自分とは違い、完璧な彼女が明乃の心の隣にいる。

 

 

 

真白にはそれが耐えられなかった。

 

 

 

先程のシャワー室でのやり取りにしても、本音をぶつけ合い自分と彼女の関係を改善することが、後の戦いでの明乃の為になるだろうと彼女なりに考えての事だったのだろう。

 

 

(ホント、敵わないな…)

 

 

 

 

でも悪い気はしなかった。

自分の良いところを見つけ出して伸ばしてくれる明乃とは反対に、彼女は自分の弱い所に入り込み、真正面から向き合ってくれる。

 

 

 

真白の中でもえかの存在は、最早真の友達と言えるものになるだろう。

 

だから、真白は手を差し出した。

 

 

 

 

「うん。こちらこそありがとう…」

 

二人は硬く握手を交わす。

 

 

「そうだ、宗谷さん。さっき西崎さんから言われていたんだけど、艦橋で明日の演習の作戦会議をしようって提案があったの。私は敵方だからあまり助言は出来ないけどね。宗谷さんはどうする?」

 

 

「勿論行く!明日を勝ち取るために!」

 

 

「うん、それじゃ着替えてくるね。後で一緒に行こうね」

 

 

「あっ待って!」

 

「どうしたの?」

 

「私、知名さんに負けない!いつか、心も岬さんの隣にいられるように頑張る!だからあなたにだけは絶対負けない!」

 

 

「そっか……うん。それじゃまた後で」

 

真白の言葉にもえかは少しピクッと肩を震わせ、でも笑顔で部屋を出ていく。

 

一人になった真白は、急にさっきまでの自分ともえかのやり取りを思い出す。

そして、

 

「うわぁぁぁぁ!私、知名さんに岬さんをす、す、スキって……。それに知名さんとキ、キ、キスまで〃〃〃。」

 

そこまで言って真白は、顔を真っ赤にして頭を抱え床をのたうち回った。

 

 

彼女のトラウマはきっとしばらく続くことになるだろう。

 

 

一つの太陽をめぐる二つの月の話はいつか平和の日を取り戻すまで、机の引き出しの中で少し長い眠りに着く。




お付き合い頂きありがとうございます。

次回で演習終わりです。

ストーリー的には演習が終わった時点で、第一章の半分位でしょうか。

次の投稿は来年になるでしょうし、来年は奴等も出てきます。

またいつかお会い致しましょう。

それでは良いお年を‼


とらふり!



真白
「次回の演習もきつそうだな…」

もえか
「実は聞いちゃったの…明日の演習は矯正ギブスを装着しての訓練だって…」

真白
「なんだと?そんなものを装着したら艦長の体がムキムキのカチカチに…」

もえか
「倉庫に忍び込みましょう!そしてギブスを破壊するの!」

真白
「珍しく気が合うな…。よし、いくぞ!」


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三世界合同軍事演習②~天空の人魚と海の悪鬼  …Unidentified ship

明けましておめでとうございます。

不馴れな文才で何かとご迷惑をお掛けしますが、何とか完結に向けて邁進して参りたいと思いますので
どうぞよろしくお願い申し上げます。

今年一発目どうぞお付き合い頂ければ幸いです。


それではどうぞ



   + + +

 

 

 

演習2日目  硫黄島沖

 

 

2日目を迎えた演習は、昨日とは、艦種を変えての実施となった。

 

 

はれかぜ一隻に対し

 

ウィルキア艦隊

 

 

双胴戦艦 出雲

航空戦艦 ペガサス

 

 

蒼き艦隊

 

イ401

 

重巡洋艦タカオ

 

計4隻からなる艦隊だ。

 

 

油断すれば一瞬でやられかねない布陣であるが、超兵器戦を見越してのシュルツに手加減しようという気は更々ない。

 

 

明乃は、先日の失敗や夕方から行った作戦会議を思い出していた。

 

 

(きっと大丈夫、皆が私を信じてくれてる。私も皆を信じて進む!!)

 

 

深く艦長帽を被り目を見開き、深呼吸をして心を鎮めた。

 

その様子を見て、筑波が合図を出すと同時に汽笛がなり、演習が開始された。

 

 

「面舵一杯、機関全速急速加速!」

 

 

 

明乃が叫びはれかぜは急速に加速した。

 

 

次の瞬間、いままではれかぜが居た海面が割れる。

タカオが放った超重力砲のロックビームであった。

 

開始早々に仕留める為の策を、明乃は読んでいたのである。

 

にはれかぜは逆に取り舵を切り、明乃達の行動を読んでいた出雲からの砲撃を避ける。

 

 

(見事だ…昨日までの失敗の余波をまるで感じさせない。)

 

 

 

筑波は、明乃達の雰囲気の違いを感じ取っていた。

 

 

明乃は、油断せずクルーに指示を飛ばす。

 

クルーも艦長がこれからする指示を既に理解しているかのように行動していた。

 

既にペガサスからは、多数の航空機が発艦、はれかぜに迫る。

 

明乃は対空戦の指示を志摩に叫び、はれかぜは次々と模擬弾を命中させていく。

 

 

 

 

 

「艦長!航空戦艦は背後への武装が薄いです。背後へ回り込みましょう!」

 

「ダメ!相手もそれを読んでると思う。現に出雲が後ろからペガサス艦尾に誘導してる」

 

「と言うことは、ペガサスの影には…」

 

「うん。タカオがいると思う。しかも一隻足りない」

 

「ええ…401の姿が何処にも見えない。先日のタカオとは違い、見つけ出すのは更に困難かと」

 

「確かに…万里小路さん!ソナーにタカオ以外の重力子エンジンの痕跡はある?」

 

「ございませんわ…一応、先日の演習や硫黄島寄航の際に少しだけ聞いた、タカオと401の重力子エンジンの音紋パターンは記憶済みですが。昨日のタカオの音が微弱だったのに対して、401は全く聞こえませんの。恐らくはエンジンを切っているのではないかと」

 

 

「それにしたって、あれだけデカイ潜水艦ならソナーになにがしかの反応があってもいいんじゃないか?」

 

 

「それが、ソナー以外にも各種センサーにも全く反応を示していませんの…。考えられるのは、変温層より深く潜って、更に海底の岩礁付近に這われている可能性ですわ。そうなると発見は難しいですわね」

 

 

「更に、401は自分の姿を擬態させたデコイを使用しますからね…それらを使った攪乱も頭に入れておかなければなりません」

 

 

明乃と真白は思案をつづける。

 

すると楓から鋭い声が飛んできた。

 

 

「重力子エンジンの可動音を確認!位置は後方。出雲のいる辺りからいらっしゃいます…え?」

 

 

「どうしたの?」

 

 

「あの…どうやら¨2隻¨いるようなのですが…」

 

 

 

「2隻だって?片方はデコイか?それとも2隻とも偽物…。大体今までどこに居たんだ?。まるで急に現れたみたいに…それで?2隻の可動音に違いはあるのか?」

 

 

「い、いえ。両方とも同じですし。音紋パターンも一致しております。動きに不自然さもありませんし、信じられませんが、ホンモノが2隻居るとしか…あっ!2隻から注水音!魚雷、いらっしゃいます!」

 

 

「なんだと?片方はデコイじゃないのか?」

 

 

これには流石に狼狽える。

ただ一人明乃を除いては、

 

 

「落ち着いて!」

 

「艦長?」

 

 

「今、混乱したら昨日と同じだよ。昨日皆でやった会議を思いだそう。その中議題と今回のこの状況を照らし合わせるの!私も考える。だから皆も些細な事でもいいから教えて欲しい!」

 

 

明乃の真剣な眼差しに、皆が頷く。

 

 

だが真白は内心焦っていた。

 

航空機はあらまし撃退したものの、徐々に正確さを増す出雲とペガサスの苛烈な砲撃と、突如として2隻現れた401からの雷撃

 

 

このまま誘導されれば、恐らくはペガサスの影にいるであろうタカオの超重力砲の射角に入ってしまう。

 

仮に超重力砲が来なかったとしても、先日のキリシマのようにロックビームで捉えられ、何もさせて貰えずにやられるのは目に見えていた。

 

 

 

(何か糸口は…)

 

 

 

真白は額に汗を滲ませ回りを見渡す。

 

そこでふと疑問が湧いた。

 

 

(この布陣、少しおかしくないか?昨日の演習では、全ての艦を囮にして隠れていたタカオが奇襲をかけてきた。だとすれば、今日の演習でその任を負うべきは探知されにくい401が担当するのが自然だ。しかしタカオは隠れるでもなく、自慢の機動力を発揮するでもなく、艦の後ろから悠々自適に私達を狙うばかりで近づいて来る気配がない。)

 

 

真白は顎に手を当てて疑問の終着点を探る。

 

 

(それに401も妙だ…最初はいきなり2隻現れることで私達の動揺を誘い、タカオの射角に誘導する狙いが有るのかとも思ったが、そもそも401は潜水艦だぞ。隠れておいた方が後に有利になるのに、何故わざわざ存在をバラす真似を?ナメられているのかそれとも…はっ!もしかして!)

 

 

真白は昨日の会議の内容を思い出した。

 

 

「艦長!よろしいですか?」

 

 

「何か解ったの?シロちゃん」

 

 

「確定ではありませんが……」

 

 

「!? 確かに…分かった!」

 

真白からの言葉に明乃は何かを閃く。

 

 

「メイちゃん魚雷発射準備!目標ペガサス。弾頭は音響魚雷を通常深度で雷数1。次に新型超音速酸素魚雷を同一方向に3。ただペガサスの艦底より深くを通過できるように調整して。」

 

 

「了解!90秒頂戴!」

 

「つぐちゃん。音響魚雷が炸裂したら、通信妨害をよろしく。向こうの連携を断つ。タマちゃんも同じタイミングで全砲門をペガサスに集中。マロンちゃん、合図したら急速加速いくよ!万里小路さんはソナーの音を絶対に危機逃さないで!」

 

 

「うぃ!」

「了解!」

「がってんでぃ!」

「承知致しましたわ!」

 

 

明乃の指示で皆が一斉に動き出した。

 

背後の出雲と2隻の401は更に増速しはれかぜに接近してくる。

 

 

   + + +

 

 

「そうよ、そのまま…そのまま…。おいで、はれかぜ!」

 

 

 

 

 

タカオはペガサスの影から出て来るであろう、はれかぜを待ち構えて居た。

 

状況はもえかの作戦通りに動いている様にも思えたが、タカオは疑問を持っていた。

 

 

 

作戦自体に問題は無いが、それではまた自分達が勝ってしまう。

 

元々もえかは、はれかぜ側の人間だし、ここまで徹底的に追い詰める意味はあるのだろうかと。

 

 

 

 

 

「しかしアンタも何気にえげつないわよね。私には解らないわ…。味方同士で潰し合うなんて…」

 

 

「違うよ」

 

「え?」

 

「私は信じてる。ミケちゃんなら必ず自分達の力で私達の考えに気付いてくれる。そしてそれを打ち破るって!」

 

 

「どうしてそんなことが解るわけ?」

 

 

「家族だから…ミケちゃんも、皆も。海の仲間は家族だから」

 

 

「家族?あぁ…血縁関係者を中心に構成され、共同生活の最小の単位となる集団の事ね。私が察するに、あなた達の遺伝子情報に血縁が認められる類似点は見えない気がするけど?」

 

 

「そう言う事じゃない。心が繋がってるって事なの。世界中が海で繋がっている限り、私達の心も繋がっている。それはもうあなたの言う最小の単位じゃない、最大なんだよ」

 

 

「フン!理解出来ないわね。私達の様にネットワークで情報の共有化もろくに出来ない人間が、ただ物理的に海が繋がっていると言うだけで解り合えるとは思えないわ。」

 

 

「あなたにもいずれ解るときが来るよ」

 

 

 

「別に解りたくもないし。まぁハルナなら少しは興味を示すと思うけどね。私は兵器。ただ目の前にある目標の破壊だけを思考してればいいんだもの。それに今回は401と群像艦長もいるわ。あんな小舟に負けやしな…ぐ!?」

 

 

 

 

 

キィーン!

 

海中から急に発生した騒音に、センサーの精度をあげていたタカオは耳を抑え苦悶の表情を浮かべる。

 

彼女は出雲とペガサスに通信を入れてはれかぜの情報を得ようとしたが、量子通信を持たない人類艦との通信は通常通信で行われており、音響魚雷炸裂と同時に仕掛けたであろう通信妨害によって、ウィルキア艦隊との連絡は途絶していた。

 

 

「くっ!今更こんな小細工したってアンタ達の負けに変わりないわよ!準備はいい?401!」

 

 

『いける…!』

 

 

 

 

 

イオナからの返答を聞き、タカオは未だに痺れる耳を抑え、ふらつきながら照準を定めた。

 

 

 

 

ペガサスの影から相手の艦首が見えてくる。

 

 

「今よ!」

 

 

 

 

次の瞬間に、タカオの¨真下¨から超重力砲が放たれた。

 

 

 

本物の401は、アームでタカオの艦底に張り付いてエンジンを停止して存在を消していたのだ。

 

 

更にアクティブデコイを2つ使用し、デコイに通常魚雷を一発づつ搭載し、ハルナとキリシマに操作させることで、まるで401が2隻いるように見せかける。

 

 

 

 

はれかぜは、きっとどちらかが本物だろうと思い込み焦るだろう。

 

 

 

 

その隙を突いて、超重力砲の射角に誘き寄せ、狙撃を果たす。

 

 

 

もえかと群像考案による作戦であった。

 

 

タカオが照準を担当し、401が超重力砲を放つ。

 

 

超重力砲はペガサスの艦尾から姿を表し始めているはれかぜに見事直撃…

 

 

する筈だった。

 

 

「何!?」

 

タカオは愕然とする。

 

 

無理もない、ペガサスの影から現れたのは、はれかぜではなく、はれかぜを追撃していたはずの¨出雲¨だったのだ。

 

 

 

超重力砲はそのまま出雲に向かって行き左舷のど真ん中に命中、防御重力場が凄まじい勢いで飽和し、一定のダメージを受けた出雲は白旗を掲げる。

 

 

「何が起こって……え?」

 

 

 

 

タカオは、真横を見る。

 

凄まじい数の魚雷とミサイルが自分と401に向かって殺到していた。

 

 

 

(今はマズ……!)

 

 

 

 

タカオは狼狽えた。

 

超重力砲発射中の401は、発射を終えるまでろくに反撃できない上に、タカオも401と連結して機動力が落ちている以上、自分に飛んでくるミサイル等の迎撃に追われて401を補佐出来ない状態であった。

 

 

「ちょっ、401!まだなの?早く接続を切らないと纏めて……あぐっ!」

 

 

止まらない雷撃。

 

クラインフィールドのダメージの蓄積量があがってきていた。

このままだと撃沈扱いになってしまう。

 

 

 

(な、なめていた!まさかこれ程だなんて!)

 

 

 

ペガサスはこのやり取りの間に既に被弾、白旗を掲げている。

 

 

タカオが背後に回り込んでくる明乃達を睨む。

 

 

 

はれかぜは、光学兵器やミサイルを中心にタカオと401のクラインフィールドを着実に飽和させつつあった。

 

 

 

(このままじゃ共倒れだわ!しょうがない…あの手でいくしかないっ!)

 

 

 

タカオは量子通信で、イオナに連絡する。

 

 

『残念だけど、私はここで抜けさせて貰うわ…。後は頼んだわよ艦長…。401、やって頂戴!』

 

 

タカオがそう言った瞬間、もえかの目の前にあるモニターに写し出されていた。タカオのクラインフィールドの飽和率が急に上昇し撃沈扱いになる目安を越えた。

 

 

401と接続していたタカオは、401が受けていたクラインフィールドへのダメージを全て引き受けたのだ。

 

 

 

これで、はれかぜと401の一騎討ちとなり、勝負の行方は明白になる。

 

 

 

もえかは、白旗を掲げるようタカオに指示する。彼女は悔しそうな顔をしながら指示に従った。

 

 

 

もえかはは、はれかぜに視線を向ける。

 

 

(ミケちゃん!信じてる!)

 

 

超重力砲発射形態から戻った401は、タカオとの接続を解除。回頭しはれかぜに向かう。

 

演習はいよいよ佳境に入って行く。

 

 

 

   + + +

 

 

「上手くいきましたね!」

 

真白は、明乃に駆け寄る。先程の奇襲は成功だった。

 

 

 

真白は、タカオが先日のような機動力を発揮せずに後方に控えていることに疑問を持っていた。

 

 

更に昨日の作戦会議で芽依が持ってきたという博士からの資料により、霧の艦艇はハルナとキリシマのように合体しての戦闘が可能であると事は解っている。

 

 

タカオは401の存在を隠匿する為に後方に待機し、アクティブデコイで揺さぶりをかけつつ、探知能力が比較的高い401ではれかぜの動きを読み、各艦に指示を出して超重力砲の射角にはれかぜを誘導していると予測したのだ。

 

 

その推理を聞いた明乃は、相手の作戦を逆手にとり、音響魚雷と電波妨害で各艦の目と耳を潰して連携を崩し、出雲をギリギリまで引き付けた後に急旋回した。

直進では速いが小回りの効かない出雲は、旋回が間に合わず超重力が直撃。

 

 

電波妨害で狼狽えるペガサスに模擬弾の雨を降らせつつ、動きが鈍い401とタカオにミサイルと魚雷を発射した。

 

魚雷はあらかじめ、ペガサスの艦底を通過しタカオの真下に居るであろう401当たるよう魚雷の深度を調整し、更にタカオ後方へと急速加速で回り込みながら光学やミサイルで畳み掛けた。

 

 

明乃はタカオが白旗をあげたのを確認する。

 

しかし、その直後タカオから分離した401が動き出したのを楓は見逃さない。

 

 

3隻は行動不能にしたものの、人類を乗せた401の戦闘能力は人知を越えている。

 

 

明乃はまだ油断していなかった。

 

 

 

 

「まだ、千早艦長達がいる。みんな油断しないで!」

 

「「「了解!!!」」」

 

 

明乃は一同の返事に頷き、次の指示を飛ばす。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「予想以上に追い込まれたな…。いおり、機関の方はどうだ?」

 

 

「超重力砲発射の反動で暫くダメって感じ……」

 

 

「艦長!海面に着水音多数!高速推進音、魚雷です!」

 

 

「パッシブデコイ発射!」

 

 

(攻撃が単調だな…。さっきまでの大胆さは無いが、まだ何か有るのか?)

 

 

群像は眉間にシワを寄せる。

 

 

「艦長よ。早めにケリをつけた方がいいんじゃねぇの?」

 

 

「私もそう思います。はれかぜ艦長は、何やら企んでいるような気がするんです。長期戦は我々に不利でしょう」

 

 

 

群像はしばらく思案し、指示を飛ばす。

 

 

「イオナ、急速潜航。杏平、一番・二番に音響魚雷。発射パターン任せる!」

 

 

「え?やらねぇのかよ。」

 

「これでいい!いおり、フルバーストの準備を頼む!」

 

 

「この状態で!?解ったけど、もうちょい時間ちょうだい?」

 

「了解した。ハルナ、キリシマ。引き続きアクティブデコイを操作してはれかぜを撹乱してくれ!」

 

 

「だがデコイに魚雷は搭載されてないが?」

 

「フルバーストまで時間を稼げればいい。頼む!」

 

 

「「了解」」

 

 

 

 

群像は、一度潜航してはれかぜの様子を伺う決断をする。

 

音響魚雷が炸裂し、401は海底を這った。

 

 

 

 

彼等の頭上をはれかぜが通過して行く。

 

 

「ふぅ……」

 

 

 

杏平の溜め息をが大きく聞こえる程にブリッジは静まり返っていた。

 

 

 

群像はイオナが、不思議そうな表情ではれかぜが通過してった方向を見ている事に気が付く。

 

 

 

 

「どうした?イオナ。はれかぜが気になるのか?」

 

「うん……」

 

「珍しいな、お前が何かに興味を持つなんて」

 

 

「はれかぜ…あの艦からは、理解不能な複雑な感情を感じる。なんと言うか…心がポカポカするような―そんな感覚」

 

 

「それは、はれかぜがこの船とは違い。多くの人員を乗せているからさ。色々な思考を持った人が一つの艦と一つの目的の為に集まる事で、複雑な感情が産み出されるんだ」

 

 

「そう言う意味じゃない…」

 

「どう言うことだ?」

 

 

 

「乗組員じゃなくて、はれかぜ―艦そのものから感じるの…。『信じてる…皆を守る…』って」

 

 

 

 

 

イオナは悪い気持ちはしなかった。

 

先日のシステムチェック間際に感じた感覚とは真逆の温かく、安心するような感覚。

 

 

イオナの表情は自然と笑みになっていた事に群像は目を丸くした。

 

 

 

今まで、感情を表情にあまり出さず、人形の様だった彼女が、まるで年相応の少女のような表情を見せたのだから。

 

 

「イオナ、お前…」

 

 

 

 

「高速推進音感知!魚雷です!」

 

 

 

 

静から飛んできた言葉に群像は前を向く。

 

 

 

(仕掛けてきたか…。思ったより、時間を稼げなかった。どうやら優秀なソナー手が居るようだな)

 

 

 

 

「魚雷の迎撃を確認。ソナー感度低下!」

 

 

 

 

群像は少し表情を険しくする。

 

 

 

 

 

「いおり、フルバーストの準備は?」

 

 

「何とかって感じ…低出力とはいえ、超重力砲を使ったばっかだから、あんま長くは持たないよ」

 

 

「解った。それじゃかかるぞ!フルバーストスタンバイ!杏平、行けるか?」

 

 

「はいさー!いつでも!」

 

 

「よし!ケリを付けるぞ。フルバーストで、はれかぜの真下を通る!すれ違い様にぶつけられるものは、全部ばらまけ!イオナ大丈夫か?」

 

「うん。行ける!」

 

 

 

 

 

イオナの反応に頷き。そして、指示を出す。

 

 

 

 

「フルバーストォ!」

 

 

 

 

 

直後、401の艦尾付近が展開してスラスターから凄まじい轟音を立て火を吐き、超加速によって401の速度は100ktに達してはれかぜとの距離が詰めていく。

 

 

 

 

 

対するはれかぜも急速加速で離脱にかかり、二隻は高速てすれ違う。

 

 

 

その瞬間を狙って群像は叫んだ。

 

 

 

「今だ!フルファイヤ!!」

 

 

 

 

401のあらゆる火器からミサイルや魚雷がはれかぜに向かう。

 

 

 

 

直後……

 

 

 

 

 

ズドォォォォォォン!

 

 

 

 

 

401の周囲で連鎖的爆発音が轟いて衝撃で艦が揺さぶられ、ブリッジでは様々な警告アラームが鳴り響いていた。

 

 

 

 

「うぐっ?一体何が…」

 

 

「はれかぜが予め、デコイを海中に散布していたみたい。それに発射直後の弾頭が反応して炸裂。他の弾頭も連鎖的に爆発した」

 

 

 

 

 

群像は目を見開く。

 

 

 

 

「それじゃ、さっきの魚雷は……」

 

「うん、恐らくわざと迎撃させてソナーの感度を落とし、その間にデコイを散布したんだと思う。それに弾頭を発射する際は、局所的にクラインフィールドに穴を開けなければならない。爆発の衝撃がその穴を通って此方に直接ダメージを与えた。もしこれが侵食弾頭兵器であったら。今頃私達は沈んでいる」

 

 

 

 

イオナの言葉にブリッジのメンバーの表情が凍り付いた。

 

そして群像は、意を決してイオナに言う。

 

 

 

 

 

「イオナ、急速浮上。投降する。」

 

「うん…。」

 

 

401は海上に浮上し白旗を掲げた。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「デコイの起動を確認!」

 

「油断しないで!魚雷とアスロックの準備をお願い!」

 

 

 

 

 

明乃は次の攻撃の指示を出す。

 

 

 

 

 

(凄い加速だった…。もし最初から攻められていたら危なかったかもしれない…。)

 

 

 

 

真白は額には汗が滲む。

 

 

 

すると401が浮上して、一同は油断せず砲雷撃戦の準備に移行した。

 

 

 

だが、401は白旗を掲げ、それと同時に演習終了の汽笛が鳴り響く。

 

 

 

 

「艦長!何か通信が入ってきてますが通信妨害止めますか?」

 

 

「あっうん、お願い!」

 

 

 

 

鶫が通信妨害を止めると、出雲にいるシュルツから通信が入ってきた。

 

 

 

 

『お疲れ様でした。午前の演習を終了します。岬艦長、見事な判断でした』

 

 

 

「そんな…。私だけじゃ有りません。皆が、力を貸してくてたから成し遂げられたんです!」

 

 

『そうですか…取り敢えず今まは休息をとってください。午後からの事は追って連絡します』

 

 

「解りました。ありがとうございます」

 

 

 

明乃は通信を終え、皆に顔を向けた。

 

 

 

 

「皆、やった…やったよ!私達自分達の力でやりとげたよ…」

 

 

 

 

笑顔を見せる明乃の目が涙で潤んでいた。

 

 

 

それを見たはれかぜメンバーは一同に歓声を上げ彼女に駆け寄っていた。

 

 

筑波は大きく頷く。

 

 

 

 

「岬艦長、見事でした。もちろん他のクルーの方も心の方も一皮剥けたよですな」

 

 

「はい!皆のお陰です!」

 

 

 

「うむ、ただ超兵器は一筋縄ではいきませんぞ」

 

「解っています。でも必ず乗り越えて見せます!」

 

 

 

「その心意気です!これからの活躍に期待しております。それと…」

 

 

 

「なんですか?筑波大尉。」

 

 

「いやぁ…昨日は殴ってしまい本当に申し訳ありませんでした…。処分はいかようにもお受け致します」

 

 

「そんな…いいんです。お陰で思い出す事が出来ました。私達海の仲間は¨家族¨。その本当の意味に…」

 

 

「寛大なご処置感謝致します。そうですか…それがあなたの心の芯と言うわけですな?解りました。いかなる荒れた海でもあなたの芯が折れぬよう我々も全力で力を貸してく所存です。改めましてよろしくお願い申し上げます」

 

 

 

 

明乃と筑波は、握手を交わす。

 

 

 

 

「艦長!」

 

 

 

 

真白の指を指した先に、401とタカオが近づい来るのが見えた。

 

 

明乃は甲板に立つ群像に敬礼を送り、群像は口元を少し緩めてお辞儀を返えした。

 

 

 

タカオは頬を膨らませてそっぽを向いているが、隣にいるもえかは満面の笑みで、明乃に手を振っている。

 

 

 

明乃は彼女達に手を振りながら、はれかぜの絆が一つになり、それが結晶になった瞬間を実感するのだった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

午後

 

空母メアリースチュアートの甲板に、明乃達ブルーマーメイドのメンバーを集めたシュルツは、事の経緯を口にする。

 

 

 

 

「午前の演習、本当にお疲れ様でした。宗谷室長のお話で、この世界の航空事情は把握しています。それで今回は戦術の幅を広げて頂くために、実際にこれに乗って頂きたいのです」

 

 

「え、それじゃ私達が空を飛ぶんですか?」

 

 

心配そうに訪ねる芽依に、シュルツは優しく笑顔を向けた。

 

 

 

 

「ええ、でも操縦は我々のパイロットが行いますのでご心配には及びませんよ」

 

 

「よ、良かった……」

 

 

 

 

 

 

前回ヘリに乗って空を経験している真霜や福内とは対照的に、はれかぜメンバーはまだ緊張が解けていないようだった。

 

 

 

 

「まぁ、善は急げです。早速搭乗してください」

 

 

 

 

彼女達はシュルツに促されて搭乗する。

 

 

 

因みに練習用ジェット機に抵抗のある芽依は速度の遅いレシプロ機に搭乗し、真霜は水上偵察機に搭乗する事となった。

 

 

「よし、搭乗したな。それでは行ってくれ!」

 

 

 

シュルツがパイロットに合図を送ると同時に轟音が轟き、最初に発艦するジェット機が明乃を乗せ加速する。

 

車輪が機体が地面離れると同時に、下からフワッとした感触が明乃に伝わる。

 

 

明乃が瞑っていた目を開くと、すぐ近くに雲があり、はれかぜがマッチ箱のように小さく見えた。

 

 

 

 

「わぁ、凄い!はれかぜがあんなに小さく遠くに見える!」

 

 

 

 

 

空からの風景にしばし見惚れて目を輝かせる明乃とは対照的に、芽依は次々に発艦するメンバーを見ながら震えていた。

 

 

 

 

「怖いですか?」

 

「あなたは?」

 

 

 

「ああ、失礼しました。私は【江田建一】一等飛曹です。あなたを空にお連れします。必ず帰ってきますから安心してください」

 

「いえ、そう言う訳じゃないんですが…。私、最初に横須賀を襲ってきた飛行機に殺されかけて―それで、ちょっと……」

 

 

「そうでしたか…では、降りられますか?誰か数人経験すれば良い訳ですし、こちらとしては無理強いは出来ませんから……」

 

 

「い、いえ!お願いします!私だって、はれかぜの役に立ちたいですから!凄く怖いけど…でも、いつまでもこのままじゃ皆の足を引っ張っちゃうし……」

 

 

「解りました。」

 

 

 

江田は頷くと発艦準備を始め、プロペラの音が徐々に上がっていくと共に、芽依は拳をぎゅっと握りしめて発進に備えた。

 

 

 

 

「西崎砲雷長、行きますよ!」

 

 

「うっ、……くっ!」

 

 

 

 

江田が叫んだ途端、芽依の身体は発進時の急加速で後ろに引っ張られる。

 

 

 

「間も無く飛びます!舌を噛まないようにしっかり口を閉じてて下さい!」

 

 

「ん、んっ~!」

 

 

芽依の緊張はピークに達し、今にも絶叫しそうな衝動を足を踏ん張ることでなんとか抑えるのがやっとだった。

 

しかし、フワッという無重力感にとうとう耐えきれなくなり、叫びだしてしまう。

 

 

「あっ!あっ、うわぁぁぁぁぁ!」

 

 

「西崎砲雷長!?落ち着いて!深呼吸してください!」

 

 

 

江田の声になんとか正気を取り戻し、彼女は深呼吸をする。

 

 

 

 

「落ち着きましたか?じゃぁゆっくり周りを見てみてください」

 

 

「は、はい……」

 

 

江田の声に促され、恐る恐る目を開けた彼女の目の前には、今まで見たことのない風景が広がっていた。

 

 

 

 

雲が近く、遥か彼方に見える水平線。

芽依は高いと言うよりも、むしろ広いという感覚を得ていた。

 

 

 

 

「これが、空の世界……」

 

 

「なかなか綺麗でしょう?ですがこんなもんじゃありません。もう少しだけ上がります―掴まって下さい」

 

 

「上がるって?あッちょっ…わぁっ!」

 

 

 

どんどん高度を上げていく機体は雲の中に入り、周りが何も見えなくなる。

 

 

 

何も見えない不安が彼女を襲う中、急に目に刺さるような強い光が入ってきて彼女は思わず目を閉じた。

 

 

 

だが、次の瞬間には目の刺激が緩み、上昇の時の強い重力も無くなっている。

 

 

恐る恐る目を開けた彼女は、その光景を目にして思わず目を輝かせていた。

 

 

 

 

「うわぁ……!」

 

 

 

そこには純白の雲の海があり、空の蒼は一層濃く美しかった。

 

 

 

 

 

「綺麗……」

 

「空の世界へようこそ」

 

 

 

 

芽依はしばらく言葉を失い、天空の景色に見とれている。

 

 

沈黙を破るように、江田が口を開いた。

 

 

「どうです?空もなかなか良いものでしょう?」

 

「はい!凄く綺麗でした―まるで絵本の世界に来たみたい!」

 

 

「ははっ!それは良かった。まさか私も人魚姫を空に連れてくることになるとは思いませんでしたね」

 

 

「人魚姫だなんて〃〃〃」

 

 

「でもこれで飛行機は悪いもんじゃないって解って貰いましたか?」

 

 

「………」

 

 

 

「西崎砲雷長?」

 

 

 

「どうして…どうしてこんな素敵な物を戦争に使うんですか?あんな風に人を殺す兵器として使うなんて可哀想ですよ……」

 

 

 

「優しいのですね……」

 

 

「はぐらかさないで下さい!」

 

 

「本気で言っているのですよ。少し、自分の話をさせてください」

 

 

 

 

彼は自分の世界について話始める。

 

 

 

 

 

「私の世界では、第二次世界対戦がありました。戦闘の主役は海から空に移り、美しい空は血みどろの戦場だった。わが大日本帝国は米国と戦争になり、劣勢に陥った。その時に考案されたのが特別攻撃隊、通称【特攻隊】です。」

 

 

「特攻隊?」

 

 

 

「はい、飛行機に爆弾と片道分の燃料を積み、敵の戦艦や基地に飛行機ごと突っ込んで自爆する戦法です。特攻隊に選ばれるのは主に十代から二十代の奴等でした」

 

 

「そんな……」

 

 

「私もその一人だったんです。何人もの仲間を毎日見送った。中には13才くらいの奴もいましたよ…実際ほとんどの仲間が、標的につく前に撃墜か失敗して海に落ちるかだったらしいですが…。そしていよいよ私の番と言うときに、広島と長崎に原子爆弾が投下された。」

 

 

 

「原子爆弾?」

 

 

 

「たった2発で20万人を吹き飛ばした米国の新兵器です」

 

「嘘…20万人だなんて…!」

 

 

 

「それであっさり降伏した日本は、米国に統治される筈だった。だが超兵器を持ったウィルキア帝国が日本を抱き込み、再起を図っていた好戦派が勢い付いたんです。逝き遅れた俺も、ようやく仲間のもとへ行けると喜びました。何せ戦争で故郷は焼け野原、家族も皆死んでしまった俺にとって、最早死ぬ以外に楽になる方法が無かったんですから…。だが筑波大尉はそれを許さなかった。殴られましたよ。死に急ぐ俺に、【本当に家族や戦友の為を思うなら、生き延びてこれ以上お前の仲間や家族のような犠牲を出さぬように努めろ!】…と」

 

 

「………」

 

 

「それから約1年間、シュルツ艦長の下で超兵器と戦闘を繰り広げ、そして今ここにいる。私は、この平和な世界で起ころうとしている悲劇を止めたい。家族や仲間の犠牲などという悲劇を起こさない為にも…。そのため、飛行機を兵器として使っても、この空を戦場にすることも厭いません。ははっ…でも私のような死に損ないに出来ることは少ないのかも知れませんが…」

 

 

「そんなことない!」

 

 

「!?」

 

 

「そんな事ないよ…だって江田さんは良い人だし、私をこんな綺麗な所に連れてきてくれたし…そんな、自分の事死に損ないだなんてどうして言うの!?」

 

 

「フフッ、本当に優しいですね」

 

 

「だからはぐらかさないでってば!」

 

 

「…失礼しました。いえ、からかっているわけでは無いのです。正直この世界に来たときは、いよいよ自分の死ぬときが来たと思いました…でも今は違う」

 

 

「違う?」

 

 

「はい、この世界にはシュルツ艦長だけじゃない。犠牲を何より嫌う岬艦長や、兵器とすら対話し和解してしまう千早艦長もいる。あの方々はシュルツ艦長と良く似ています。あの方々の下にいれば、出来るだけ犠牲を出さずに世界を平和に戻し、そしていつかはこいつが、戦闘機ではなくただの鳥として自由に空を羽ばたける世の中を作れるんじゃないかって」

 

 

 

「江田さん……」

 

 

「あなたもそうです。あなたは、空を飛ぶ乗り物を兵器にすることを当たり前の様に否定し、自分の死も私の死すらも恐れている。このような世界があるなんて思いもよりませんでした。だから決めたんです。出来るだけ生き延びて、この世界を守り続けたいって」

 

 

「………」

 

 

「少ししゃべり過ぎたみたいですね。あんまり遅いと筑波大尉に怒られてしまいます」

 

 

 

 

江田は旋回して空母へと引き返す。

 

帰りはお互いに言葉を交わす事はなく、芽依は美しい空の風景を複雑な表情で見つめていた。

 

 

空母に着艦後、去っていく江田に芽依は声をかけた。

 

 

 

 

「江田さん!」

 

 

「どうかされましたか?」

 

 

「あ、あの、私絶対に世界を平和に戻します。そして兵器なんて要らなくなったら、私をまた空に連れていってくれますか?今度は戦闘機じゃなくて飛行機で〃〃〃」

 

 

少し頬を染めながら、真剣な顔で見詰めてくる彼女に、江田は一瞬驚いた表情を見せたが、やがて穏やかな笑顔でお辞儀をして去っていった。

 

 

 

芽依は明乃の言った【皆失わせない】、という言葉の意味の重さを噛み締める事になった。

 

   + + +

 

夕方

 

硫黄島に戻ってきた明乃達は異世界艦隊の面々との交流を図っており、美甘が披露した自慢の料理の腕に異世界艦隊の面々は舌鼓をうっていた。

 

 

 

筑波・杏平・志摩・芽依は砲雷術について語り合っており、ソナー担当の楓と静や機関長のいおりと麻侖もお互いウマが合うようだった。

 

 

美波・ヒュウガ・ブラウン博士は先日の横須賀沖にサルベージした、超兵器空母の解析の結果をナギに報告しており、そこに交ざって通信員の鶫がヒュウガに量子通信について興味深そうに質問していた。

 

 

 

(大部砕けてきたな)

 

 

 

その様子を遠巻きに見ていたシュルツは、盛り上がる一同に背を向け、海辺の方へ一人歩いて行く。

 

 

   

 

 

穏やかな海と水平線に沈む太陽がとても幻想的な風景に彼は一時の安らぎを感じる。

 

 

 

 

 

 

海から視線を外したシュルツの先には、遠くでハルナと蒔絵そしてクマのキリシマが仲良く遊んでおり、近くにはもえかとタカオもいた。

 

 

 

 

(彼女達が本当に兵器とはな。未だに信じがたいが…)

 

 

 

「人間と兵器との融和、さぞ不思議に見えるでしょう?シュルツ艦長」

 

 

「千早艦長…いらっしゃったのですか?」

 

 

 

彼の背後には群像が着いてきていた。

 

 

シュルツは自身の正直な気持ちを彼へと伝える。

 

 

「ええ…確かに、昼間超重力砲を実際に受けましたが、そんな彼女達がこうして人間と混じって過ごすなどにわかには信じられません」

 

 

「対話の力ですよ。意思の疎通が出来れば必ずわかり合える。そこに戦争を終らせ、人類が生き残るヒントが必ずあります」

 

 

「そう言うものでしょうか…」

 

 

「少なくとも俺はそう確信しています。シュルツ艦長、改めてお礼申し上げます」

 

 

「何です?改まって」

 

 

 

「今回の演習です。色んな人との交流で、彼女達の心は着実に成長している。この世界に来てから人形の様だった彼女達の表情に明確な感情が見てとれるようになりましたから」

 

 

「いえ、私は何も。今回の演習で最も周りに影響を与えたのは間違いなくはれかぜと岬艦長でしょう」

 

 

 

 

シュルツと群像は砂浜に一人で座って海を見ている明乃に視線を向けた。

 

 

 

 

「あの身に一体どれ程の重荷を背負っているのでしょうね……」

 

 

 

「千早艦長はどう思われますか?岬艦長の事……」

 

 

「正直、怖いほどの意思の強さを感じました。現在、この世界において最高戦力であるあなた方と我々を翻弄したのですから」

 

 

「同感です。あなたは今回の演習を感謝していると仰いましたが、実を言うと私は少し後悔しているのです」

 

 

「後悔ですか?」

 

 

 

「ええ。彼女を鍛えたことで、むしろ彼女をとんでもない化け物に変えてしまったたのではないかと…。彼女の心を犠牲にしてしまったのではないかと思う時があるのです」

 

 

「………」

 

 

 

シュルツと群像は、明乃が戦闘時に時折見せるあの目を思い出していた。

 

 

 

あの顔になった明乃がいるはれかぜは、まるで別物のような動きを見せる。

 

 

 

二人は明乃に再び視線を向けた。

 

 

 

すると、それに気付いた明乃がこちらを向き、笑顔で手を振ってくる。

 

 

 

二人も手を上げてそれに答え、明乃は嬉しそうに笑って顔を再び海へ向けた。

 

 

「きっと大丈夫です」

 

 

「え?」

 

 

 

「岬艦長は、心の闇に飲まれたりしない。どんなに強大な力を内に秘めていても、それを他者を傷付ける為には決して使わない。彼女はそういう優しさを最後まで貫く方だと俺は思います」

 

 

「千早艦長…そうですね。しかし強大な力はそれだけで何かを傷付ける。彼女の場合は他人ではなく、自分を傷付けるのでしょう…だから我々は彼女の心がこれ以上失われる事がないよう、努めなければならないのやもしれません」

 

 

シュルツの言葉に群像も頷く。

 

二人は再び海を眺める。

 

 

すっかり太陽も沈み、紫色になる空と海

 

 

三人の艦長は、それぞれの思いを胸に、辺りが暗くなるまで海を見続けていた。

 

  

 + + +

 

 

太平洋

 

ブルーマーメイドアメリカ太平洋艦隊10隻は、周辺海域の巡回を済ませ、ハワイに帰港しようとしていた。

 

 

艦隊旗艦であるインディペンデンス級沿海域戦闘艦 ジャスティス 艦長のマリーナ・ワンバック艦長は眉間に深いシワを寄せている。

 

 

先日、世界同時多発襲撃の翌日に日本から提供されたデータはにわかには信じがたい内容だったからだ。

 

 

 

正直マリーナは、今回の一件が超兵器にかこつけて被害者を装い、アメリカを中心とした列強各国に対抗すべく、日本を中心とした新興国が合法的に軍備の増強をするための自作自演なのではないかと勘ぐっていた。

 

 

 

 

(まぁ、資源に乏しい日本は、そもそも話の他ではあるがな…気にする程でもあるまい)

 

 

 

 

マリーナが、溜め息をつく。

次の瞬間、通信員が艦橋に息を切らせて入ってきた。

 

 

 

 

「どうした?」

 

「今、ハワイの基地から通信が入りました。ハワイの残存艦艇が大型の船舶に襲撃され壊滅したと…」

 

「何?いつの話だ!」

 

「一時間ほど前だそうです!」

 

「なぜ報告が遅れた!」

 

「通信に謎のノイズが走り。通信に障害をきたしていたとの事です」

 

 

「艦長!」

 

「今度はなんだ!」

 

「前方に艦影あり。電探に謎のノイズが発生!」

 

 

(ついに来たか…。正体を暴いてやる!)

 

マリーナは、眉間のシワを更に深くする。

 

「全艦、砲雷撃戦用意!迎え撃つぞ!」

 

マリーナの指示で艦隊が一斉に動き出す。

 

「所属不明艦、増速!敵速は……え?」

 

「どうした!さっさと報告しろ!」

 

 

マリーナは副長を怒鳴り付けるが、次の言葉に驚愕した。

 

 

「はっ!敵速は…180ktです!」

 

「何だと!?計測の間違いではないのか?」

 

 

「い、いえ間違いないかと…。」

 

 

「バカな…。」

 

「不明艦高速で接近!」

 

次の瞬間、

 

ズドォォォォン!

 

高速艦艇から、夥しい砲雷撃と光線が一瞬で味方艦艇を葬った。

 

爆煙を上げ轟沈するアメリカのブルマー艦艇。

今の攻撃で一気に3隻が海の藻屑となった。

 

 

 

 

迎撃に転じる艦艇も、あまりの速さに砲雷撃が悉くかわされている。

 

 

 

「艦長、あれを!」

 

 

 

副長の視線先へと目を向けた彼女の視界には、空から航空機の大群が押し寄せているのが見えた。

 

 

更に艦隊前方に異形の艦艇がこちらに突撃して来くる。

 

 

彼女は叫んでいた。

 

 

「あれは、航空機だ落ち着いて対応しろ!巨大艦からの攻撃には回避を優先!」

 

 

「敵巨大艦増速!速い…他の艦は回避が間に合いません!」

 

 

 

 

ジャスティスは何とか巨大艦の突撃の回避に成功するが…

 

 

 

ガリガリ!

 

 

 

 

逃げ遅れた艦艇は不愉快な音を上げて削られたように真ん中から真っ二つに折れる。

 

そして巨大艦の側面へと回避した艦は…

 

 

 

 

「な、何だ?」

 

 

 

 

横から真っ二つに¨スライス¨されていた。

 

 

残りの艦も航空機からの攻撃で、轟沈。

残るは旗艦のジャスティスのみになってしまう。

 

 

航空機からの攻撃で被弾したジャスティスの艦橋では、警告音が鳴り響く。

 

 

 

 

「艦長!機関部に浸水です。総員退艦の判断を!」

 

 

 

「……」

 

「艦長?」

 

 

 

 

マリーナは前方を睨んでいた。

 

 

 

 

そこには、双胴で艦尾の甲板が平らになっている巨大艦と、側面のみ艦影を見せる謎の巨大艦が鎮座している。

 

その片方の艦影には見覚えがあった。

 

 

 

 

 

「ヤマトか…。やっぱり日本だったんだ!」

 

 

 

 

その艦影は日本のブルーマーメイド旗艦、大和のものに酷似していた。

 

だが、その巨体が正面を向いた時、マリーナは目を見開く。

 

 

 

 

大和に酷似したその艦も双胴であり、甲板には大口径の砲がずらりと並んでいた。

 

 

 

そして、敵の大口径砲からピカッと光が走る。

 

 

 

 

 

「艦長、ご決断を!早くご指示を!」

 

 

 

 

 

副長が泣き叫ぶが、マリーナの耳には入っていない。

 

ただ一言だけ、

 

 

 

「神よ……」

 

 

 

 

 

 

副長は周り見渡すと、周辺の海は燃え盛る艦艇と仲間の血で、真っ赤に染まっていた。

 

 

(もうダメだ…!)

 

 

 

彼女は、遂に耐え兼ね退避命令を出す。

 

 

 

 

 

「総員退艦、船を捨てろ!」

 

 

 

 

 

副長がそう叫ぶなか、マリーナは、巨大双胴艦を睨みつけながら、吠えた。

 

 

 

 

 

「神よ!答えてくれ!何故だ!これは一体何の試練なんだ!答えてくれ!神よ!」

 

 

 

次の瞬間、巨大双胴艦の主砲がジャスティスを直撃した。

 

 

「答えで、くりぇぁああ!?」

 

 

 

 

砲弾が直撃したジャスティスは、くの字に折れ曲がり、砲弾が炸裂たと同時に多くの人員の肉体を凄まじい熱で蒸発させた。

 

血と肉と脂が漂う紅蓮の海を巨大艦群は、何事も無かったかのように、直進していく。

 

まるで、自分の沈めるべき本当の相手を理解しているように…

 




お付き合い頂きありがとうございます。

いよいよな感じになって参りました


ちょっとここから先は執筆速度が落ちるかもですが、どうか気長にお待ちください。


次回はメンバー集合回です。

それではまたいつか。


とらふり!

芽衣
「この戦いが終わったら私江田さんに…」


志摩
「メイ…それ…フラグだから…」


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砲煙の幕開け  …Unidentified ship

お疲れ様です。

第一章も折り返しに入りました。

戦争と平和の間で揺れる。三世界の面々の描写はかなり難しいのですが。
何卒おつきあい頂ければ幸いです。

それではどうぞ


   

   + + +

 

 

広島 ブルーマーメイド呉基地

 

 

 

 

「よっしゃぁぁぁ!やったる!ここでやらなぁ女が廃るんならぁ!」

 

 

 

 

 

ドスの効いた野太い声と巻き舌で、納沙幸子は海に向かって啖呵を切る。

 

 

 

晴風時代の記録員である彼女は、卓越した情報処理能力で艦橋メンバーをサポートし続けた縁の下の力持ちであった。

 

 

ひとしきり海に叫ぶと幸子は基地に歩き出す。

 

中に入ると、晴風メンバーの呉基地配属組が揃っていた。

 

 

 

 

「来るのか?いよいよ」

 

「おにぎりもお汁粉も準備出来てるよ!」

 

「全方位準備完了です!」

 

「ホント、久し振りにみなぎるぞな!」

 

「世紀の絵が書けるッスよぉ!」

 

 

 

 

幸子に向けられる女性達が目を輝かせて口々に抱負を言う。

 

幸子はその表情を見てニヒルな、笑みを浮かべで芝居がかった声で叫ぶ。

 

 

 

 

「カチコミだぁぁ!待ってろぉぉ超兵器ぃぃ!今、目に物見せちゃるけぇのぅ!ガッハッハッハッ!」

 

 

 

 

周りの皆がドン引きする中、幸子の一人芝居の高笑いはしばらく続いた。

 

 

   + + +

 

 

瀬戸内海

 

硫黄島を出発した三世界の艦隊は、明乃の仲間達のいる呉を目指す。

 

 

先導ははれかぜが担当する。

 

地盤沈下ににより、地形が変化した日本周辺では、複雑な潮流や浅瀬に点在する岩礁で非常に船舶が座礁しやすくなっていた。

 

 

特に瀬戸内海は、毎年座礁事故が多発する日本有数の難所であり、大型艦を所有する異世界艦隊は、ブルーマーメイドのナビ無しでは進むことが出来なかった。

 

スキズブラズニルのブリーフィングルームにいたシュルツは、ナギ少尉から渡された資料に目を通している。

 

 

 

 

 

(ふむ…今日中には佐世保に到着し、晴風クルーを全員揃えておきたい所だな…)

 

 

 

ガチャ

 

扉が開きシュルツが振り向く。

 

 

「どうされましたか?宗谷室長」

 

「はい、先日ハワイが超兵器とおぼしき艦艇に襲撃され壊滅的被害を受けたとの報告が入りました」

 

「何ですって!?それで敵はどうしたのです?」

 

「ハワイの港湾施設や市街地を蹂躙した艦艇は、アメリカの太平洋艦隊と衝突した模様。艦隊はその後消息を絶ちました…」

 

 

「そうですか…。で?ハワイからの報告に敵の艦種に関して何か情報は有りましたか?」

 

「はい、恐らくですがこれらではないかと…」

 

 

 

 

真霜は、ウィルキア艦隊から提供された超兵器リストを取り出し指をさす。

 

 

 

「………。」

 

 

 

 

「シュルツ艦長?」

 

険しさを増したシュルツの表情を真霜が心配そうに覗きこんだ。

 

 

 

 

「いえ、失礼しました。少しぼーっとしていて…。解りました。こちらも準備にかかります。蒼き艦隊へは此方から連絡しておきます。はれかぜへは…?」

 

 

「ええ、今は無駄に混乱させたくない。もう少しだけ臥せておいた方が言いかもしれません。ただ呉に到着後、岬艦長と知名艦長、宗谷副長には報告を入れておきます」

 

 

 

「宜しくお願いします」

 

 

 

 

真霜は会釈をすると、部屋を後にした。

 

 

シュルツは険しい表情のまま、窓の外の景色に目を向ける。

 

 

 

その遥か彼方にいるであろう敵を睨み付けるかのように。

 

「来るのか…【ハリマ】【アラハバキ】」

 

 

   + + +

 

 

 

呉基地

 

はれかぜとスキズブラズニルは呉基地に入港する。

 

 

 

明乃達が、タラップから降りると見覚えのある女性達が、既に整列し待っていた。

 

先頭にいた、ベレー帽を被った女性が前へ進み出て敬礼をする。

 

 

「お疲れ様ですはれかぜ艦長!呉基地へようこそ!納沙幸子以下12名、準備は整っております。乗艦許可を頂けますか?」

 

 

「了解!乗艦を許可します。久しぶりだねココちゃん!」

 

 

「はい~。艦長とはれかぜ2世の為にこの納沙幸子、全力でサポートします!」

 

 

 

 

 

明乃と彼女は両手で握手を交わす。

そこへ真白も降りてきてメンバーの確認をし始めた。

 

 

 

 

「納沙幸子・杵崎ほまれ・青木百々・小笠原光・武田美千留・日置順子・野間マチコ・勝田聡子・内田まゆみ・若狭麗緒・駿河留奈・松永理都子、これで全員か?」

 

 

そこで、幸子と真白の目が合う。

 

 

幸子は嬉しそうに目を輝かせ、対する真白はジト目で少し後ずさるが、すかさず幸子が真白の腕に絡み付いて来た。

 

 

「逢いたかったです!む・ね・た・にさん!」

 

 

「や、やめろ!くっつくな、こんな人の多い所で……」

 

 

「良いじゃないですか!折角の再開なんですし。あっ、そうだ!久し振りに夜どうです?二人きりで……」

 

 

「ば、バカ!勘違いされるような事を言うんじゃない!」

 

 

「シロちゃん…。ココちゃんとそうだったんだね…」

 

「ち、違います!これは学生時代に部屋で見ていた。仁義の無いビデオの観賞会のことです!」

 

「そ、そうだよね。ビックリしちゃった…あっ!そうだシロちゃん!このあと宗谷室長から話があるんだって。」

 

 

 

「そ、そうでしたか。では早速参りましょう。皆は荷物を部屋にまとめて、出航準備をするように。以上解散!」

 

 

 

 

幸子の発言に既に振り回されている真白に明乃が助け船を出し、彼女は空かさずそれに乗る。

真白は、幸子の腕を振り払って逃げるように走り去り、その様子を幸子は残念そうに見送った。

 

 

   + + +

 

 

スキズブラズニル

 

ブリーフィングルーム

 

 

 

明乃と真白、そしてもえかはブリーフィングルームの扉を開けた。

中には真霜は神妙な面持ちで、座っている。

 

 

 

「揃ったわね」

 

「はい、なんでしょうか宗谷室長」

 

 

 

 

真霜は頷き、口を開いた。

 

 

 

 

「早速だけど本題に入るわ。事を急がねばならない事態になりそうよ」

 

 

「まさか!」

 

 

「そのまさかよ。超兵器の一団が日本へ向かってくる可能性が出てきたの」

 

 

「何故わかるんです?」

 

「昨日、ハワイが襲撃されたわ。被害は甚大よ」

 

「そんな……」

 

 

「ハワイ基地の生き残りの隊員の話によれば、超兵器の向かった方角からして日本か、もしくは南シナ海付近に接近する可能性が高い。シュルツ艦長は、まもなく偵察機を発進させ、超兵器の居どころを探るつもりのようね」

 

 

「それで、どの様な超兵器なのですか?」

 

「偵察機の報告待ちだけど、恐らくは…」

 

 

 

真霜は手元にある超兵器リストを 3人に見せた。

 

 

 

「少なくとも4隻が確認されているわ。同型艦もいるから確定では無いけど。少なくともこの、【超巨大双胴戦艦級】一隻と【超巨大ドリル戦艦級】1隻は確定だと思う」

 

 

「出雲やシュペーアの大型版と考えて宜しいですか?」

 

 

 

「スペックの詳細は納沙さんに送ってあるから確認して頂戴。でも大きさは¨500mを越えている¨と考えていいわね」

 

 

「500m!?」

 

 

「ええ、超兵器級では比較的平均的なサイズの様だけど、とても巨大よ」

 

 

「そんな…いくらなんでも」

 

 

「ショックを受けている暇は無いわ。速やかに出航準備を成しなさい。今日中には佐世保に到着してクルーを全員集め、艦の操作の習熟に努めなければならない。良いわね?」

 

 

「解りました……」

 

 

真霜がブリーフィングルームから去って行き、残された3人は不安な表情を浮かべていた。

 

 

明乃は恐怖心を押さえ付け、真白に指示を出す。

 

 

 

 

「シロちゃん…至急出航準備を。あと呉組の皆に装備について説明をして、いつでも使えるように各担当の長に通達して…」

 

 

 

「了解しました…」

 

 

「ミケちゃん…大丈夫?」

 

 

「うん…今私が揺らいだら皆が死ぬ。進まなきゃ…」

 

「そうだね…」

 

 

 

3人は暗い表情のまま部屋を後にした。

 

 

 

   + + +

 

 

 

空母メアリースチュアート

 

 

「いいか、無理はするな。超兵器を捕捉し、艦種や進路を特定し次第、速やかに帰投しろ。」

 

 

シュルツは、偵察隊に指示を出す。

 

 

 

ヒュウガの量産した、いつでも通信が可能にな量子通信機を搭載した偵察機は次々に発進し、みるみるうちに空の彼方へと消えていった。

 

 

シュルツは険しい表情を崩していない。

 

 

 

(胸騒ぎがする。セオリー通りに行けば、けして撃破出来ない相手ではないが…。敵が無人と言うのも気になる。虚を突かれなければいいがな…)

 

 

シュルツは艦長帽を深くかぶり、スキズブラズニルへと戻った。

 

 

   + + +

 

 

 

一同は関門海峡を通過している。

 

地盤沈下の影響で以前より幅は広いが、瀬戸内海よりも潮流が速く複雑な為、通過の際は水先案内人の同乗が未だに義務付けられている海域でもある。

 

 

 

センサー類や機動性が、卓越している蒼き艦隊は除外するとしても、超大型ドック艦のスキズブラズニルは、真霜とはれかぜのナビゲートにより、海峡を抜け東シナ海へと進む。

 

 

 

 

   

 

道中、はれかぜ艦橋では幸子が先程までの様子とはうって変わっての真剣な面持ちで、超兵器に関する情報を手の空いたメンバーと明乃と真白に解説していた。

 

 

 

 

 

「今回、相手にするであろう超兵器はまず超巨大ドリル戦艦級です。データ上では、艦首のドリルラムと艦側の回転ソーでの格闘戦を得意としています。尚敵速は45ktを越える高速艦です」

 

 

「500m越える巨大でそんな速度を出せるなんて…」

 

 

 

「それだけではありません。主砲に406mmのガトリング砲・多弾頭ミサイル・高出力光学兵器を搭載しており、遠近両方の戦闘力が高く、隙がない戦闘艦です。特に406mmのガトリング砲は1分間に50発以上を発射能力を有している点は押さえておくべき脅威でしょう」

 

 

「406mmって長門の主砲と同じクラスだな。それを1分間に50発とは…ほとんど化け物言わざるを得ないが」

 

 

 

 

「もう1隻は、超巨大双胴戦艦級、広大な甲板上に大口径の砲やミサイル・噴進砲を多数装備しています。最も脅威なのはやはり砲撃でしょう。50.8cm砲を8基24門と副砲20.3cm砲を10基30門で、敵速は35ktと意外に速いです。」

 

 

「注意すべき相手の戦術は、やはり規格外の主砲によるアウトレンジ砲撃か?」

 

 

「それもありますが、忘れてはならないのは播磨の防御能力でしょう。分厚い50cm砲防御装甲と双胴と言う性質上、仮に私達の兵装を一点に集中させても装甲を抜くのは容易ではありませんね」

 

 

「今の所打つ手は無いように見えるが、弱点はあるのか?」

 

 

 

真白の質問に、幸子は端末に視線を少し写して、コホンと咳払いをする。

 

 

 

 

 

「まずは甲板です。双胴であるため必然的に甲板の面積が広くなりますよね?ましてや超兵器級ともなれば尚更です。比較的装甲が薄い甲板に多く被弾させることが出来れば、私達の戦力でもある程度は戦えるはずですがまだ優位とは言えません」

 

 

「防御重力場か……」

 

 

「はい、しかし超兵器級の発する防御重力場は極めて強力ですが限界はあります」

 

 

「限界?」

 

 

「そうです。資料によれば、防御重力場は喫水下には浮力や安定性の関係上、発生させる事に制限があるようです。ただ私達の兵装で超兵器級の装甲を抜くのは困難ですから、これは無視しても良いでしょう。それでもう一つの方法ですが…」

 

 

 

皆が食い入る様に幸子の言葉に耳を傾ける。

 

 

「防御重力場にしても電磁防壁にしても、発生させるには大きなエネルギーが必要です。しかし、超兵器機関と言えど高出力兵器と防御障壁を同時に使用続ければ、エネルギーの供給が間に合わなくなり、障壁や装填速度などに影響が出てしまうのです。ですから、一度大型の蓄電池にエネルギーを溜め込み、そこから障壁をつくる力を供給するものと思われます。ですから絶え間なく攻撃を続け、障壁を展開させ続ければ、いずれ蓄電池のエネルギーが切れ、超兵器機関への負担が増大し弱体化。そしてその隙に飽和攻撃を仕掛ける。これが最も現実的でしょう。」

「成る程な。しかしその弱点は、我々も同じ事…そうだろう?」

 

 

「残念ながら…更に防御重力場はこちらが受ける攻撃のベクトル方向を外側に向けるという性質上、砲撃の瞬間に重力が作動していると弾道に狂いが生じてしまいますからね。それは副長達が硫黄島で実際に経験しているとは思いますが」

 

 

「確かにな…」

 

 

 

 

硫黄島演習での1日目、航空機の迎撃や砲撃戦でも、弾の弾道を調節するのにかなり手間取ってしまったのは、防御重力場の発する力場に志摩が対応するのに苦戦を強いられたからでもあったのだ。

 

 

更に防御重力場には、質量が大きすぎるものや、超高速の物体に対しては、弾道を殺しきれないと言う弱点もある。

 

はれかぜメンバーの練度の問題も有るため、課題は山積していた。

 

 

「とにかく今は佐世保の皆と合流することが先決だね」

 

 

 

明乃は努めて明るい顔で言うと海へ視線を向けた。

 

 

東シナ海へ抜けたはれかぜ一行は足早に佐世保へと向かう。

 

 

 

   + + +

 

 

 

超兵器偵察隊は、2班に別れて行動している。

 

第1班はカロリン諸島周辺を、2班は小笠原諸島から直線的にハワイに向かう航路付近を中心に超兵器を探していた。

 

 

 

 

『シュヴァルベリーダーよりシュパッツリーダー、カロリン諸島付近に超兵器ノイズ無し…。そちらはどうか?』

 

『シュパッツリーダー、此方も異常無し。進路を少し南寄りにして捜索する』

 

 

『シュヴァルベリーダー了解』

 

 

 

 

第1班シュヴァルベ隊隊長のモーリス・カーペントは溜め息をつく。

 

 

 

(手掛かり無しか…人の出入りの多いというトラック諸島を中心に探したが。本当に此方に来ているのか?)

 

 

 

 

シュヴァルベ隊は進路を北寄りに替える。

一方2班のシュパッツ隊隊長、一宮寿秀も同様に超兵器を見つけられずにいた。

 

 

 

 

「シュパッツリーダーより各機へ15分して見つからない場合はシュヴァルベ隊と合流して帰投する。」

 

 

『こ…シュ…ツ1…解…』

 

 

 

 

突如、通信にノイズが入り上手く聞き取れなくなる。

 

 

 

(まさか…)

 

 

 

レーダーに視線を移した一宮は、そこに巨大なノイズを見る。

 

 

 

「まずい…こちらシュパッツリーダー。各機量子通信に切り替えろ!奴等だ!」

 

 

 

『こちらシュパッツ1感度良好』

 

 

 

通信不良に疑問をもった一宮が、蒼き艦隊から提供された量子通信機に切り替え、クリアになった他の機体からも続々と感度良好の返答が返ってくる。

 

 

 

 

「了解、これより我々はシュヴァルベ隊に連絡を入れた後に敵の偵察に入る。対空兵器にいつでも対応出来るようにしておけ!」

 

『『了解!』』

 

 

 

 

現場に一気に緊張が走る。

 

 

 

 

 

「シュパッツリーダーよりシュヴァルベリーダー。」

 

 

『量子通信を使用ということは、どうやらそちらがアタリか?』

 

 

 

「ああ…これより超兵器に接近、艦種の特定に入る。手が回らないのでそちらに口頭でそちらに情報を伝える。その情報をスキズブラズニルに伝えて欲しい」

 

 

『了解。健闘を祈る。我々も直にそちらに向かい援護する。無理はするなよ』

 

 

 

「了解した。援護を感謝する」

 

 

 

通信を終了すると一宮は、深く息を吸いノイズの中心へと旋回して行く。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

スキズブラズニル

 

ブリーフィングルームにはシュルツだけではなく、真霜・ブラウン博士・ヒュウガも同席していた。

 

 

 

突然慌ただしく扉が開くと、息を切らせたナギが入ってきた。

 

 

「シュルツ艦長!」

 

「どうしたナギ少尉」

 

 

「はい、先程一宮一等空尉が超兵器を発見しました!」

 

 

「何!?それで超兵器の艦種はわかったか?」

 

 

「はい、それが…」

 

 

「どうした?」

 

 

「こちらになります。」

 

 

「なんだと!?」

 

 

シュルツの切迫した表情に真霜は不安を隠す事が出来ない。

 

 

 

 

 

 

「シュルツ艦長?」

 

 

「宗谷室長。事を急がねばならないやもしれません。」

 

 

「と言うと?」

 

 

「はい、今回相手にしなければならない超兵器は全部で¨4隻¨になりました。」

 

 

「4隻ですって?」

 

 

「ええ、双胴戦艦【播磨】とドリル戦艦【荒覇吐級】1隻は変わりません。その他に超高速巡洋戦艦【シュトゥルムヴィント級】1隻と超巨大双胴航空戦艦【近江】がいることが判明しました。」

 

 

シュルツの言葉に、ブラウン博士の顔が青ざめてゆく。

 

 

それに構わず真霜は問う。

 

 

「3隻はあなた方の艦の大型版と考えれば何とかイメージが湧きますが、シュトゥルムヴィント級とはなんなのですか?」

 

 

「端的に言えば、100kt以上て航行する巡洋戦艦です」

 

「100kt!?そんなバカな…」

 

 

「残念ながら事実です。敵は超兵器としては小型であり量産型ではありますが、それでも長門型と同程度の船体に、30cmを越える主砲や魚雷・ミサイルや光学兵器を搭載、更に高速でも小回りの利く厄介な相手です」

 

 

「そんな…」

 

 

「ショックを受けている暇はありません。至急対策を練りましょう。その為にはまず佐世保に急がなければ…」

 

 

 

一同が頷き、慌ただしく関係各所に連絡を入れる。

 

 

 

決戦の時は刻一刻と迫っていた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

佐世保基地

 

杵崎あかね・和住媛萌

宇田慧・姫路果代子

等松美海・伊勢桜良

広田空・山下秀子

黒木洋美

 

そして知床鈴は佐世保の港に待機していた。

 

皆一様に不安や苛立ちを含んだ顔をしている中、特に知床鈴については既に泣き出していた。

 

 

 

 

「うぅ…未知の相手と戦闘なんて怖いよ~もし何かあったら…」

 

 

「リンちゃん元気だして。私どら焼作ったの。甘いものを食べると気分が落ち着くよ」

 

 

「うぅ…でも太るのも怖い…」

 

 

 

鈴はあかねから貰ったどら焼を涙をこぼしながらほうばる。

 

 

 

一方の洋美は、苛立ちを含んだ顔をしている。

 

命令を受けたとは言え、なぜ自分達が死地へと赴かねばならないのか、疑問を懐いているのだ。

 

 

「あっ、きたよ!」

 

 

 

あかねが指を指す方向に、はれかぜと後に続くスキズブラズニルの姿を見ることが出来た。

皆が飛び出し、久しぶりの再会を待ちわびる。

 

 

   + + +

 

 

佐世保にたどり着く明乃達一行は、久しぶりの晴風メンバーの再会に期待を寄せながらタラップを降りる。

 

 

杵崎姉妹は再会をよろこび、美海は狂喜して、マチコに飛び付いとおり、各々がそれぞれの再会を喜んだ。

 

 

 

そして明乃や真白もタラップを降り皆と再会を果たした。

 

 

 

「あっ、クロちゃん久しぶりだ…きゃ!」

 

 

パンッ!

 

 

 

いきなり洋美が明乃を平手打ち喰らわせる。

 

さらに…。

 

 

パンッ!

 

 

もう一発を反対の頬に打ち込み、慌てて止めに入った真白の手を振り払い、彼女の胸ぐら掴みあげて自らの額を明乃の額にぶつけて怒声を浴びせた。

 

 

「あんた、自分が何やってるか分かってる!?自分で勝手に参戦決めて、私達を危険な戦いに巻き込んでさっ!きっとこの中にも行きたくないとか、命令だから仕方がないとか考えてる人とかいるよ!それに、日本を飛び出て討伐?その間に日本は手薄じゃない。あんた昔から何も変わってないよ!身内を見捨てて飛び出して、目の前の事ばっかりで、残される人の気持ちを微塵も考えちゃいない!どうなのよ!何とか言ってみなさいよっ!」

 

 

 

突然の展開に周りが静まり返る。

 

 

 

よろけながら立ち上がった明乃が顔をあげる。

 

 

「………。」

 

 

 

「…っ!?」

 

 

 

怒りに満ちた洋美の顔がみるみる焦りの表情に変わっていく。

 

明乃の表情は涙で滲んだ目を大きく開き、悲しさと寂しさが入り交じり、そして何より有無を言わせない圧力を秘めた表情をしていたからだ。

 

 

 

洋美は腰を抜かさぬよう踏ん張るのが精一杯だった。

 

 

 

 

明乃は洋美から視線を外し後ろを向き、今まで聞いたことのない低い声で皆に語りかける。

 

 

 

 

「わかった¨黒木さん¨あなたは来なくていい…皆も聞いて。今回の戦い、私は誰も死なせるわけには行かない。そんな気持ちで艦に乗れば、確実に皆死ぬ。はれかぜの皆だけじゃない。この国の人も世界の皆も大切な人もみんなみんな…。私は見たから。横須賀で…炎に巻かれる人を、体が穴だらけになって倒れる人を、子供だっていた…。それにブルマーの仲間だっていっぱいいっぱい死んだ。誰かも解らない位グチャグチャになって…それでもアレは攻撃を止めない。私、あの時思ったの。私じゃ守れないし敵わない、逃げられないし死ぬしかないって。でも私は、アレを打ち破るれるかもしれない力を異世界のウィルキアや蒼き艦隊の皆のように、犠牲を何より嫌う仲間から貰ったの。だから私は行く。待っていても待つのは死だけだから…。一時間だけあげる。その間に艦に乗るか乗らないか決めて」

 

 

「一時間って…」

 

「時間がない…さっき連絡が入ったの。超兵器4隻が日本へ向かってるって。明日の早朝には出航、早ければ昼前には接敵する。準備や訓練を急がなくちゃいけない。良く考えて…別に責めたりはしない。でもこれだけは言わせて。皆を巻き込んだ事は、確かに私の独善かもしれない。でも仮に残っても、逆に一緒でも、皆を絶対に死なせない!艦長だから…家族だから…」

 

 

明乃は1度も皆に顔を向けることなく、艦橋へ戻っていった。

 

皆頭を下げて黙り込む。洋美もばつが悪そうな顔をして立ちすくんでいた。

 

一同はこの一時間をとても長く感じることとなる。

 

 

 

   + + +

 

 

佐世保基地内

 

明乃以外の晴風メンバーが全員おり、部屋には重苦しい沈黙が支配している。

 

その沈黙を破るように、芽依と志摩が席を立った。

 

 

 

「んじゃ、私達行くわ!」

 

「うぃ…行く」

 

 

それに続いて、真白・麻侖・楓・鶫・美甘・幸子も席を立つ。

 

その様子を見た洋美は思わず叫んでいた。

 

 

 

「ちょっと待って!皆ちゃんと考えたの?死んじゃうかも知れないんだよ!?」

 

 

「考えたさ…もう答えは決まってる」

 

「宗谷さん!」

 

 

洋美は真白に食い下がる。

 

真白は他の皆を先に行かせると部屋に残った。

 

 

良く見ると麻侖も入り口に寄りかかって残っている。

 

 

「艦長を戦場に担ぎ上げたのは私達なんだ…」

 

「なっ…」

 

 

「正確には私の姉だがな…艦長はあの性格だが、6年前の経験経て、ブルマーの中でも戦闘に関しては抜きん出た才能があると上は判断しているらしい。その選抜にはもちろん私達も含まれている」

 

 

「……。」

 

 

「だが艦長は反対だった。死ぬかもしれない戦場に、家族だと言っていた私達を連れていけないと最後までね…。それで一人で抱え込んだ末に単身で行こうとしてたんだ。」

 

 

「一人でなんて…無茶よ!」

 

 

「そう、それを知った私達は出発の日に艦長の下に押し掛け、連れていくよう頼んだ。もちろん艦長は泣いて反対したよ。でも私達は付いてきた。艦長をあんな化け物に一人で向かわせやしない!って」

 

 

 

「それによクロちゃん…実際に超兵器を見たあの日から、俺は夢に見ちまうんだ。横須賀で倒れた人達の顔をな…そしてその顔が途中からクロちゃん達の顔に変わりやがる。そこで目が覚めるんだ。実際あそこで異世界の連中が現れなきゃ、今頃は日本中であんな事が起きていたんだろうな…俺はそんなの耐えられねんでぃ!だから、行く。いや、行かなきゃなれねんでぃ!」

 

「麻侖、でも…」

 

 

 

「艦長言ってただろ?無理強いはしねぇって…俺も同じ意見だな。半端な気持ちで行っても死ぬだけだ」

 

 

「宗谷さんや麻侖も強いからそんなことが言えるのよ。私には、決められない…」

 

 

 

「だから、艦長は黒木さんを連れていけないと言ったのさ。でもそうやって生き死にを冷静に考えられる事は、悪い事じゃないと思う。他の皆も良く考えて欲しい」

 

 

 

 

真白はそれだけ言うと、先に立ち去ってしまう。

 

 

「クロちゃん…さっきの艦長どう思った?」

 

 

「どう思ったって…なんか苦しそうな…」

 

 

「そう、艦長はそんな顔をする奴じゃなかった…どんな苦境でも笑って俺たちに希望をくれる人だったんだ。でも、硫黄島での演習以降は見ての通り、心が鋼になっちまってる。それじゃ行けねぇんだ!だって俺達ゃ傭兵や軍人じゃねぇ、ブルマーなんだから!」

 

 

「!」

 

洋美をはじめ一同が目を見開き麻侖を見つめる。

 

 

 

 

「超兵器と¨戦う¨じゃねぇ。超兵器から皆を¨守る¨だろうが!それに戦いが終わった後に、この海を守るのはブルマーだ。このままじゃ艦長のブルマーとしての心は間違いなく死んじまう。あの人の心に血を通わせられるのは俺達仲間だけだ。【ブルーマーメイドの岬明乃】を失わせちゃならねぇ、だから行く!テメェらもよく考えておけ。人間として、そしてブルマーとしての在り方ってやつを。」

 

 

そう言うと麻侖も立ち去る。

 

 

 

【人間として、ブルマーとしての自分の在り方】

 

残りの時間は少ない。

 

 

 

だが一同は先ほどの様に狼狽えたりはせず、しっかりと自分の考えと向き合っていた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

はれかぜの艦首で海を見ている明乃の表情は硬い。

 

そんななつもりは無かったが、先ほどはつい語気を強めてしまった事に激しい罪悪感を感じていた。

 

もしかすると、最後になるかもしれない会話でするような内容ではなかったとも思っている。

 

しかし、彼女に後悔は無かった。

 

 

大切な家族をむざむざ死なせる訳には行かないのだから。

 

 

「艦長!」

 

 

 

彼女が振り向いた先に横須賀組と幸子がいた。

 

やはり皆は来なかったかと明乃が思ったその時、艦橋裏から続々とメンバーが集まってきた。

 

 

「艦長~」

 

「リンちゃん」

 

「わ、私も行くよ!凄く怖い…怖いけど、大切な人を失う怖さと比べたら全然苦じゃないよ…」

 

鈴は涙をこぼしながら言う、そしてもう一人前に出てきた人物がいる。

 

 

黒木洋美であった。

 

 

 

「岬さん…私達も連れていって欲しい。海のを守るブルーマーメイドとして、そしてあなたの仲間として……」

 

 

「クロちゃん…」

 

「か、勘違いしないで!私は、逃げてるみたいに思われたくないだけよ!それに、ついて行くとは言ったけど1つ条件がある。」

 

 

 

「条件?」

 

 

「忘れないで欲しいの、私達は¨家族¨だって事。そして、私達皆にも岬さんの事、¨家族¨だって思わせて欲しい。だからこの戦いを終わらせて!誰一人も欠けることなく!」

 

 

明乃は、洋美をまっすぐ見る。

 

 

そして頷いて手を差し出し、二人は固く握手を交わす。

 

 

 

それを見た真白が、明乃の前に進み出た。

 

 

 

 

 

「艦長、副長宗谷真白以下30名全員集合しました。ご命令を!」

 

 

明乃は全員の顔をゆっくり見渡した。

そして宣言する。

 

 

「これより私達は、人類を滅ぼさんとする超兵器から人々を守り通す為の任を負う。厳しい戦いになるかもしれないけど、絶対に生き残って、人類とそして私達の未来を掴みとろう!総員、これより時間の許す限り、艦の習熟運転に努める!出航用意!」

 

全員が明乃に敬礼を返し、持ち場につく。

 

 

はれかぜは、習熟運転の後、弾薬補給と休息をとり、明日には日本に接近してくるであろう超兵器艦隊との決戦に入る。

 

 

   + + +

 

 

太平洋

 

超兵器艦隊

 

高速な超兵器の中では比較的鈍足な双胴戦艦【播磨】は、その巨体で波を掻き分け進む。

先頭はシュトゥルムヴィント、それに荒覇吐・近江が続く。

 

播磨は艦隊の最も後方にいた。

 

 

播磨が不意に速度を緩め、他の3隻もそれに習って速度を落とす。

 

 

播磨は、その巨大な主砲の1つを回転させ、仰角を上に向ける。

 

そして、

 

 

ドォォォォン!

 

 

一発の砲弾を発射。

 

その凄まじい轟音と衝撃波に海に白波が立つ。

 

 

その発砲を合図に、超兵器艦隊は陣形を組む。

 

播磨を中心にして前方の左右にシュトゥルムヴィントと荒覇吐、後方に近江という陣形であった。

 

播磨は主砲を旋回させ、海の彼方にいるであろう宿敵に向けてもう一度発砲した。

 

 

 

まるで《早ク来イ》と挑発するかのように…。

 

 

   + + +

 

 

夕方

 

スキズブラズニルに帰投した偵察部隊の報告を受け、シュルツは険しい表情で海を見つめている。

 

 

(相手は無人だ。対話による戦闘回避は不可能…開戦が迫る!)

 

 

「艦長!」

 

 

「ナギ少尉か…シュペーアの修復具合はどうだ?」

 

 

「芳しく有りません…なにせ北極海からの連戦でしたから」

 

 

「そうか。明日は出雲とペガサスで出る。ペガサスの指揮をヴェルナーと筑波大尉に預けると伝えてくれ。」

 

 

「はっ!ですが此方の指揮は?」

 

 

「副長には、ブラウン博士についてもらう。出雲の方が超兵器と接近する可能性が高いからな。間近で観察することで、今回の超兵器復活について、何か糸口が見つかるやもしれん」

 

 

「重ねて了解致ししました。艦長、いよいよですね…」

 

 

「ああ、厳しい戦いになる。この一戦が今後の展開を占う事なるだろう。よろしく頼むナギ少尉」

 

 

「もちろん。艦長についていきます!どこまでも…」

 

 

ナギはニコッと笑い敬礼をすると去っていった。

 

 

「来るか播磨…【東洋の魔神】よ!」

 

 

 

シュルツは再び海を睨む。

 

幾多の戦場を乗り越えた彼であっても、今回ばかりは不安を抱えずにはいられなかった。

 

 

   + + +

 

 

 

「群像?」

 

 

イオナが群像に話し掛ける。

 

 

「イオナか、いよいよ戦闘だな」

 

「…うん。やっぱり不安?」

 

 

「不安が無いと言えば嘘になるな。シュルツ艦長曰く、超兵器の目的は支配ではなく破壊だ。君達霧の者とは違う」

 

 

「でも兵器なのは一緒」

 

 

「それはどうかな?君達は、命令の下に戦う兵器だ。逆を言えば命令以外破壊行為はしないとも言えるし、メンタルモデルを持ったことで対話や和解が可能だ。だが、超兵器は違う。ただ目の前にある目標を完膚なきまでに破壊する。そこに一切の対話を差し挟む余地がない。もはや君達とは別物だろう」

 

 

「………」

 

「どうした?イオナ」

 

「群像がそこまで言うのは珍しい」

 

 

「そうか?まぁ…そうかもな。17年前の大海戦以降は際立った大規模な犠牲は少ない。ましてや霧が陸上への攻撃をしない以上、陸の人にとって人の死は身近ではなかった。俺もその一人さ。でも俺は、横須賀で倒れた人達を見た。初めて、兵器による悲劇を見た気がしたよ…」

 

 

「…群像」

 

 

「心配するな。君は俺の艦だ。俺と君が一緒にいる限り、きっと未来は開ける。よろしく頼む」

 

 

「…うん。頼まれた」

 

 

 

 

群像はイオナに笑顔を向け、それから海に視線を向けた。

 

日は沈み、海は闇に包まれ、打ち付ける波の音だけが聞こえた。

 

明日には開戦を迎えるとは思えない。穏やかで優しい音だった。

 

 

   + + +

 

翌朝

出雲艦橋

 

 

「シュルツ艦長」

 

「ナギ少尉か。超兵器の様子はどうか?」

 

 

「はい、偵察部隊の情報によれば、超兵器は北上を続け、昼過ぎには小笠原諸島に到達すると思われます」

 

「狙いは東京か?我々を引き付けるには絶好だな。量子通信の配備は?」

 

「完了です」

 

「よし、通信を繋げ」

 

 

「はっ」

 

ナギは通信を繋ぐ。

 

 

 

『全艦に通達。我々は超兵器艦隊討伐に向け、これより小笠原諸島へ出発する。各艦傍受了解か?』

 

 

『タカオ傍受了解!』

『キリシマ傍受了解!』

『イ401傍受了解!』

『ペガサス傍受了解!』

『はれかぜ傍受了解!』

 

 

『傍受確認。それでは出航、各艦の健闘を祈る。以上通信終わり』

 

 

 

 

三世界艦隊が佐世保を出航する。

 

あと7時間後には超兵器との戦闘が開始される事に誰もが言い知れない不安と緊張を抱えていた。

 

 

   + + +

 

 

太平洋

 

 

超兵器艦隊達は速度を上げる。

 

近江の甲板には多数の航空機が控えていた。

 

 

他の超兵器もまるで準備運動をするかのように、兵装の展開や砲の旋回を行う。

 

開戦は間近に迫っていた。

 

 

   + + +

 

 

小笠原諸島近海

 

探知能力が他艦を遥かに上回る401は、いち早く超兵器の反応を検知していた。

 

 

『401から出雲へ、南東に超兵器と思われる反応を検知!』

 

 

『了解、まもなく視界に入るだろう。各艦警戒を怠るな!』

 

はれかぜの目とも言える野間マチコは眼鏡を外し、通信にあった方角を睨む。

 

 

「!?あれは…超兵器か?超兵器を視認!まさか、この距離で見えるなんて…凄まじいデカさだ!」

 

 

マチコからの伝声管からの声に一同に緊張が走る。

 

じっと見つめる遥か前方に、明乃はそれらしき姿を見つける。

 

嫌な汗が頬を伝った。

 

 

 

彼女だけではない。

 

 

 

 

誰しもが呼吸が速くなり、心臓の鼓動が大きくなる。

 

 

 

口の中が渇き、不快な汗で肌がべたつく。

 

 

 

すると、海の彼方がピカッと光った。

 

 

 

『超兵器発砲した模様!』

 

 

マチコからの声に、一同が驚愕した。

 

 

「あんな離れたところから?バカな!」

 

 

真白は顔が青ざめる。

 

彼女達の恐怖はまだ始まったばかりだった。

 

 

   + + +

 

播磨は立ち止まり、他の超兵器もあわせて止まった。

 

 

 

遥か前方に自分達より小さい艦がいくつか見える。

 

播磨は主砲を動かし、仰角を合わせ、そして…。

 

ドォォォォン!

 

 

轟音と共に主砲を発射した。

 

それが合図かのように、次々と超兵器達が動き出す。

 

荒覇吐は、艦首のドリルと艦側のソーを起動させ、シュトゥルムヴィントは、艦尾のスラスターを起動させて艦とは思えない加速で一気に前へ出る。

 

 

近江も、夥しい航空機を発艦させてきた。

 

 

三世界艦隊と超兵器艦隊との人智を越える戦いが今、切って落とされたのであった。




おつきあい頂きありがとうございます。

次回は、いよいよ超兵器メインです。

どうぞ温かく見守って下さい。

それではまたいつか。


とらふり!

幸子
「こん時ゃ誰も知らんかった。まさかあんなことになろうとは…」


「ひぃ~!縁起でもないから止めてよぅ~」


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東洋の悪鬼    vs 超兵器

お疲れ様です。

ようやく超兵器戦にたどり着けました。


上手くまとめられたか不安ですが、とにかく行きます。


どうかお付き合い頂ければ幸いです。



それではどうぞ


超兵器艦隊が動き出した。

 

マチコが叫ぶ。

 

 

 

『敵砲弾1、こちらに向かう!!』

 

「急速加速、急いで!リンちゃん取り舵一杯!」

 

 

「と、取り舵一杯!」

 

はれかぜが加速し、左へ旋回した直後…

 

 

 

 

 

ズドォォォォン!

 

 

 

『敵砲弾、はれかぜ右舷後方に着弾!』

 

 

 

 

播磨の撃った砲弾は海に着弾して炸裂、はれかぜはその衝撃でできた大波に、煽られで転覆しそうになる。

 

 

 

キャァァァ!

 

 

 

艦内に悲鳴が轟き、転倒しないよう一同は手近な物にしがみついた。

 

 

 

 

明乃が立ち上がり前を見たと同時に、出雲のシュルツから通信が入る。

 

 

 

『岬艦長!!そちらに超高速巡洋戦艦【シュトゥルムヴィント】 接近!警戒してください!』

 

 

 

通信と同時に、シュトゥルムヴィントと思われる巨大な艦が目の前を横切って行った。

 

 

 

 

「いつの間に近づいたの?ま、まずい!タマちゃん、メイちゃん、迎撃!」

 

 

「え、え?りょ了解!」

 

「……速い過ぎる!」

 

 

 

芽依と志摩が迎撃をするが敵には一切命中しない。

 

 

速すぎるのだ。

 

 

 

 

『敵速……え? て、敵速180kt!!』

 

「そんな馬鹿なっ!」

 

 

 

 

マチコからの言葉に真白の表情から血の気が引いて行く。

 

 

シュトゥルムヴィントは、はれかぜだけでなく周りにいる異世界艦隊に次々と接近し、砲弾やレーザーを浴びせていた。

 

 

 

 

更に追い撃ちを掛ける様に近江から発艦した航空機も殺到しつつあり、正に息を着く隙さえ存在しない。

 

 

 

 

「あの速度でなんて旋回性能なんだ…」

 

「シロちゃん呆けてる暇は無いよ!航空機もこっちに来てる。何か打開策を考えなきゃ!」

 

 

「艦長!データ有りました。シュトゥルムヴィントは、防御が脆弱です。連続で攻撃を当てることが出来れば、速力を落とせるかも知れません。ですが、それには防御重力場を突破しなければ直接敵に攻撃を当てることは出来ませんが……」

 

 

「解った。優位じゃないけど、希望がない訳じゃない!皆で考えて対応しよう!」

 

 

暴風のように暴れる敵と航空機に悪戦苦闘しながらも、はれかぜは動き出した。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「おいおい…180ktなんて霧でも出せるやつ居ないんじゃないか?」

 

 

 

「…そうね。霧で最速のシマカゼでさえ120kt。重巡洋艦ハグロとフルバースト状態の401の100ktってとこかしら?」

 

 

キリシマとタカオが呆れたような表情をしている。

 

 

 

 

 

「そんなこと言ってる場合じゃないよ!早くミケちゃん達を助けなきゃ!」

 

 

 

もえかが金切り声をあげたとき、出雲からの通信が入る。

 

 

 

 

『知名艦長!はれかぜは今、シュトゥルムヴィントと航空機に気をとられている。このまま荒覇吐のドリルや播磨の主砲の射程に誘導されては勝ち目はありません!申し訳有りませんが、航空機を出来るだけ掃討しつつ、荒覇吐をはれかぜから引き離して下さい!』

 

 

タカオは、迫り来る敵を睨んでいた。

 

「残念だけど、はれかぜは助けに行けなさそうね。私達はあのドリル戦艦【荒覇吐】ってセンスの無い奴の相手をしないと行けないみたいよ?」

 

 

 

 

みるみるうちに荒覇吐がはれかぜとの距離を詰めていく。

 

 

 

 

『超巨大ドリル戦艦【荒覇吐】 接近!』

 

 

「仕方ないわね。行くわよキリシマ!」

 

 

「私に命令すんな!…だが、久しぶりに大暴れ出来そうだ―楽しませて貰うよ!」

 

 

「待って!荒覇吐の相手は理解した。でもせめて、はれかぜに向かう航空機は出来るだけ掃討して欲しい。」

 

 

「フン!誰が貴様の命令など……」

 

 

「解ったわ」

 

「おい、タカオ!」

 

 

「忘れたの?私達は、¨群像艦長¨に知名もえかに従うよう【命令】されてるでしょ?」

 

 

 

「ぐぬぬ!」

 

 

 

「もえか。あなたがそう言うなら、そうするわ。ただし、ちゃんと私達を使いこなして見せなさい!」

 

 

「ありがとうタカオ。」

 

 

「ふ、フン!礼なら入らないわ〃〃そ、それよりほら、早く行くわよ!」

 

 

「うん!キリシマは、予定通り荒覇吐に接近して攻撃をして!出来ればその際、敵の情報をある程度スキャンしてくれると有り難い」

 

 

 

「え?行っちゃってもいいのか?」

 

 

 

「うん。大暴れして!ただ、何が起きるか解らないから、浸食弾頭は出来るだけ節約して欲しいの」

 

 

 

「よっしゃぁぁ!そうでなくっちゃな!んじゃ行くよ!」

 

 

 

荒覇吐に突撃して行くキリシマを見送りながら、もえかは顔を引き締めてタカオに指示を飛ばした。

 

 

 

 

 

「タカオ!私達は、はれかぜに迫る航空機とシュトゥルムヴィントを出来るだけ牽制しつつ荒覇吐に接近。敵を撹乱してキリシマに出来るだけ攻撃のチャンスを作る。浸食弾頭の節約の為、航空機の撃墜や荒覇吐の牽制には出来るだけレーザーや通常弾頭を用いるよう努めて!」

 

 

「了解!行くわよ!」

 

 

キリシマに続きタカオも弾幕の中へと飛び込んで行く。

 

 

 

 

 

   + + +

 

「イオナ、状況はどうだ?」

 

 

「はれかぜとタカオ・キリシマが戦闘に入った模様。播磨は主砲の発砲以外は特に動いていないみたい。出雲が引き付けをかって出るって」

 

 

 

「うむ、となると必然的に俺達の相手は航空戦艦【近江】になるわけか…ヒュウガ。近江の情報を表示してくれ」

 

 

 

 

モニターに超兵器近江の情報が表示される

 

 

 

 

「主砲50cm砲、副砲でも46cm砲を装備しており、防御も硬い。尚且つ、45kt以上の速力と驚異的な旋回性能、更に多数の航空機とバランスの取れた超兵器ですわ。また艦首に対潜及び対艦ミサイルを搭載していますので潜水艦の相手も可能と思われます」

 

 

「厄介だな…」

 

「ただし、弱点が無いわけでは有りません。防御重力場は、我々のクラインフィールドと違い海中での展開に制限があることから、此方の浸食魚雷は有効な筈です。問題なのは、あの巨体を沈めるのには些か弾薬の数が足りないと言うことですが…」

 

 

群像は、考えを巡らせる。

 

 

 

その間にも航空機からの対潜攻撃は続いていた。

 

潜水艦という特性上クラインフィールドは水上艦より遥かに脆弱であり、何発も攻撃を受けるわけには行かない。

 

 

 

 

「艦長、クラインフィールド57%消失!海面に着水音多数。ミサイルです!」

 

 

 

 

静が、悲鳴にも似た声をあげ、杏平や僧も焦りを隠せなかった。

 

 

 

そして群像が目を見開き、指示を出す。

 

 

 

 

「僧!周辺の海底をスキャンしろ!」

 

 

「海中ではなく、海底を?」

 

「ああ、海底だ。」

 

 

 

 

 

僧が周辺の海底を調べ始める。

するとヒュウガが、群像の元へ近寄ってきた。

ヒュウガにしては珍しく真剣な表情である。

 

 

「……艦長。少し話があるの」

 

 

「どうした?君から俺に話しかけるなんて珍しいじゃないか」

 

 

「それが……………」

 

 

「……成る程。確認の余地がありそうだな。ありがとうヒュウガ」

 

 

「いえ、姉さまの為ですので」

 

 

 

ヒュウガは少し困った表情を見せる。

その時、

 

 

ポーン!

 

ソナーが響いた。

 

 

 

「近江、ピンを打ちました。此方の位置が完全にバレました。海面に着水音多数!」

 

 

 

 

静が再び悲鳴をあげる。

それと同じくして、出雲から通信が入る。

 

 

 

 

 

『出雲から401へ、超巨大双胴航空戦艦【近江】 接近!』

 

 

「いおり、機関一杯!」

 

「オッケー準備済み!」

 

 

「杏平、音響魚雷!発射パターン任せる!」

 

 

「音響魚雷発射、はいさー!」

 

 

 

 

「イオナ、ここが踏ん張り時だ、かかるぞ!」

 

 

「了解。踏ん張る!」

 

 

401はイデアクレストを光らせながら海底の闇へと消えていった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

航空戦艦ペガサス

 

臨時での艦長を務めるヴェルナーは、眉を潜める。

 

 

 

「このような時に考え事とは、感心しませんぞ。ヴェルナー艦長」

 

「筑波副長。おかしいのです」

 

 

「何がです?」

 

 

「超兵器ノイズの事なのですが、私達の世界で戦った播磨や荒覇吐は極東方面巡航艦隊の艦隊旗艦を務めた艦です。ノイズが大きいのは当然なのですが、それよりも近江のノイズの方が巨大なのです。それに、シュトゥルムヴィントも実際にはあんなに速くなかった。もしかしたら、何か隠し玉があるやもしれない。」

 

 

「成る程、私もあの距離にいる播磨の主砲が思ったより此方に飛んできたのが気になっていたのです。念のため、近江を攻めている第一航空攻撃隊のモーリスと播磨を攻めている第二航空攻撃隊の一宮に伝令を送っておきます。」

 

 

「お願いします。私はシュルツ艦長にこの事をお伝えします。」

 

 

「ええ、よろしくお願いします。何もなければよいですなぁ。」

 

 

「同感です。これ以上の厄介はごめんですからね…。」

 

 

ヴェルナーと筑波はそれぞれ通信を用いて伝令を行う。

 

 

   + + +

 

 

超兵器上空

 

『おい、今の筑波副長の話聞いたか?』

 

『これ以上何かあんのかよ。』

 

 

航空隊にも不安の声が聞かれ始めた。

 

『おい、てめぇら!無駄口叩く暇があんなら、とっとと敵機を落として、あのクソったれの超兵器野郎のケツに魚雷とミサイルをブチ込みやがれ!』

 

 

『『り、了解!』』

 

モーリスの怒声に部隊が引き締まる。

 

(クソ!それにしても何機出てきやがる。それに本丸も硬てぇな…。筑波副長の言う通り、こりゃ前みたいには行きそうにねぇぞ…。)

 

近江の絶え間なく撃ってくる対空砲やミサイル、それに甲板を埋め尽くす勢いで、待機している航空隊を見下ろし、モーリスは舌打ちをする。

 

一方、播磨を攻めている一宮の部隊も突破口を見いだせずにいた。

 

 

『狼狽えるな!航空機に気を取られて対空砲、バルカン砲にやられるなよ。何度も根気強く攻め続けろ。ここで粘っておけば、出雲の防御重力場突破が楽になるからな。』

 

 

『『了解!』』

 

 

『江田!部隊の一部を率いて、敵機の殲滅に当たれ。少しでも減れば、戦闘全体に余力が出来てくるはずだ。任せたぞ!』

 

 

『了解!』

 

江田は、部隊の数機をつれて、敵機の群れへと突っ込んでいく。

 

 

海だけでなく空でも熾烈な戦いが繰り広げられていた。

 

 

 

   + + +

 

「総員、迎撃体制を取れ!」

 

「艦長、主砲弾きます!」

 

「面舵一杯!回り込め!絶対に主砲には当たるな!」

 

 

シュルツは、殺到する航空機を迎撃しながら、播磨との壮絶な撃ち合いをしていた。

 

お互い付かず離れずの距離から、主砲を撃ち込む。

しかしながら、同じ双胴戦艦同士決定打がなく、力は拮抗していた。

唯一の利点は、大きさが小さい分、小回りが利くという点のみだろう。

シュルツは、播磨を睨む。

 

「くっ、なかなかしつこいな。」

 

 

「艦長!ヴェルナー艦長より通信です。」

 

 

「こんな時にか?」

 

 

「はぁ、何やら超兵器に関して何か気がかりがあるとの事でしたが。」

 

 

「解った。かわろう。」

 

 

『シュルツ艦長!』

 

 

「ヴェルナーか、どうした。」

 

 

『それが……。』

 

ヴェルナーは、先程抱いた疑問をシュルツに報告する。

シュルツが考え込んでいると、ヒュウガが通信に割り込んできた。

 

 

『割り込み、失礼するわよ。』

 

 

「大戦艦ヒュウガ?」

 

 

『ええ、私達も恐らくヴェルナー艦長と同じ結論を得ているわ。千早艦長からあなたに確認を取るように言わたのよ。なぜ超兵器に関する情報がデータより¨過少¨なのかね。』

 

 

「どういう意味だ?」

 

 

『文字通りの意味よ。タカオやキリシマにも、スキャニングをしてもらって解ったんだけどね。コイツら、見た目は同じだけど兵装は最早別物よ。兵装の種類は強力、防御は硬い、速力は霧の艦隊クラス。最早バケモノね。』

 

 

「そんな馬鹿な!」

 

 

『その反応じゃわざと過少に報告した訳じゃ無さそうね。具体的に言えば、播磨の主砲あれは100cm砲よ』

 

 

「何だって?」

 

 

『霧のスキャニング能力は、既に実証済みでしょ?もうひとつ例をあげましょうか?じゃぁシュトゥルムヴィントね。データ上では、防御が脆弱で速力は100kt程度、主砲は30cm代だったわよね?でもアイツの主砲は75口径45.7cm砲、装甲は対56cm砲防御、ここまで重装甲で速力は落ちたのかと思いきや速力は180kt、これのどこが巡洋戦艦な訳?』

 

 

 

「………。」

 

 

『あなた達の調査機関の能力が霧よりも上だとは思っていないわ。だとしてもここまで違いが出ると、わざと過少にデータを記載しているとしか思えなかったのよ。もしかしたら、あなた達が、実は超兵器側の人間で、この世界を支配しようとしているのだとすれば……。』

 

 

「そんなことは………!」

 

『そんなことありません!』

 

 

「岬艦長?」

 

明乃が通信に割り込んできた。

 

 

『シュルツ艦長は…。鋼鉄の艦隊の皆はそんな人じゃありません!だってもし、世界の侵略が目的なら、私達を引き込む意味はないし、殺すつもりならとっくに殺してた。でも、シュルツ艦長は、艦がない私達に力をくれた。失わせない力をくれたんです!それにシュルツ艦長は横須賀で私に言ってくれたんです。【自分の考えを貫きなさい】って』

 

 

 

「……岬艦長。」

 

 

『だから、だから私はシュルツ艦長を……!』

 

 

『もういいわ。』

 

 

『え?』

 

 

『ふふっ、思ったより早とちりさんなのね。私はさっきに言ったじゃない【わざと報告した訳じゃ無さそうね】って。』

 

 

『あっ。』

 

 

『解って貰えたかしら。千早艦長は、超兵器のデータに差違があった原因を調べろと私に命令しただけ。裏切った場合の話なんて微塵もしてなかったわ。』

 

 

「ではなぜあのような。」

 

 

『ちょっとカマをかけてみただけよ。あなたの声のパターンから人間が嘘をつくとき特有の音調は確認できなかったし、嘘ではないと断定していたわ。だからこそ聞きたいのよ。なぜデータより超兵器が強力なのかをね。』

 

 

「私がお答えしましょう。」

 

「ブラウン博士。」

 

ブラウン博士が頷き、答える。

 

「推測の域をでないのですが、超兵器は¨学習¨しているのではないかと推測します。」

 

 

「学習ですって?」

 

 

「はい、メンタルモデルこそ無いものの、あれは自立して動いています。人の手も借りずどうやって自身を強化しているのかは、謎ではありますが。着実に我々に対応しゆる改装を施されているのは確かでしょう。それに、単艦でなく艦隊を組んだのも、もしかしたら、超兵器が我々鋼鉄の艦隊が単艦で出てくるのを見越して囲い込みを図ろうとした結果と考えれば納得が行きます。あの艦隊にはいくら我々でも対応出来ませんからね。」

 

 

『まぁ、今はこんなとこでしょうね。私達にしても、超兵器についてはあくまで性能位しか把握してないし。とにかく今は現状の打破こそが最優先って感じかしら?』

 

 

「ああ、そうして貰うと助かる。岬艦長も申し訳ない…。情報が誤っていて。」

 

 

『いえ、私達も何とか状況を乗りきります!』

 

『それじゃ行くわね。』

 

 

「お願いします。」

 

 

シュルツは通信を切る。

 

 

「…どうなっているんだ。」

 

「…艦長。今は。」

 

 

「ええ、そうでしたね。目の前の敵に集中しましょう。」

 

 

シュルツは再び播磨に視線を向ける。

 

 

三世界の艦隊は、各個に分断された事により厳しい状況に置かれつつあった。

 

 

 

   + + +

 

「くっ、コイツらホントにバケモノじゃないの?クラインフィールドがガリガリ削られるんだけど!」

 

 

タカオが荒覇吐を睨む。

 

霧の2隻をもってしても、いまだ荒覇吐を倒すには至っていなかった。

 

そして荒覇吐がまた、タカオに突撃を仕掛けてくる。ドリルとクラインフィールドがぶつかり、火花が散った。

 

「うわぁ!ちょ、ちょっと危ないじゃない!あんた!軍艦ならもっと艦らしく戦いなさいよ!」

 

 

〔ふん、コイツに何を言っても無駄だ。目の前の相手に突っ込む事しか考えちゃいない。〕

 

 

「なんか、ムカムカする。昔の私達を見ているみたいで……。」

 

 

〔……だな。戦いを楽しいと思えるのも、メンタルモデルを持ったおかげだしな。〕

 

 

「そんなこと話してる場合じゃないよ!さっきのヒュウガさんの話だと、ミケちゃん達が危ない!」

 

 

「そんなこと言ったってコイツ硬いのよ!」

 

 

「防御重力場と電磁防壁を飽和状態にしないと本体には通じない!」

 

 

〔もう浸食魚雷を使わせてくれよぅ。喫水下には防壁は無いんだろ?〕

 

 

「さっきそれやって見事にかわされたじゃない。アイツ旋回性能もバカ高いし。」

 

 

「防壁を飽和状態にするには、あまりに時間が掛かりすぎる!何か相手を上手く足止めして侵食魚雷を撃ち込む方法を考えないと。」

 

 

〔お困りのようね。〕

 

 

「ヒュウガ?なんなのよ!今忙しいんだから後にしてくれる!」

 

 

〔随分な言い草ね。折角アンタの愛しの艦長サマからの作戦を伝えに来たのにぃ~。〕

 

 

「!!?」

 

ヒュウガの台詞にあからさまに顔を真っ赤にして狼狽えるタカオ。

 

 

「は、早く言いなさいよ…。」

 

 

〔素直でよろしい。作戦は……。〕

 

 

   + + +

 

ドォォオォォン!

 

はれかぜは、窮地に陥ろうとしていた。

 

大幅に改装を遂げた、超高速巡洋戦艦改め、超高速戦艦シュトゥルムヴィントは、驚異的な速度と大口径主砲・魚雷・光学兵器で、はれかぜを追い詰める。

 

 

「あぐっ!か、艦長、防御重力場飽和率80%突破!このままではいずれ消失します!そろそろアレを使ってもいいのでは?」

 

 

「まだ、早いよシロちゃん!今使っても無駄になる。」

 

 

「しかし…!」

 

 

「止まない嵐は無い!今は耐えよう。必ずチャンスは来る!」

 

「敵超兵器、発砲!弾数2、こちらに向かう!更に雷跡2、進行方向直撃コース!」

 

マチコからの叫び声が響き渡る。はれかぜ一同に緊張が走った。

 

「まずい、魚雷に対しては無防備だ。やられるぞ。」

 

 

「!!チャンスが来たかもしれない。メイちゃんデコイ散布!リンちゃん、機関急速後進!」

 

 

「急速後進? よ、ようそろ~。」

 

 

「艦長、急すぎる!いくら機関が原子炉でも、配管が持たねぇぞ!」

 

明乃の指示に麻侖も思わず悲鳴をあげる。

だが、明乃は譲らなかった。

 

 

 

「恐らく、この魚雷は陽動。回避した先に、本命の攻撃が来る。音速魚雷を撃ち込まれたら終わりになっちゃう。まず、後進して本命の攻撃を誘発、その後機関一杯急速加速で、乗り切る。相手は対応しきれず隙が生まれると思う。タマちゃん、メイちゃん。前進加速の際に、弾速の早いにゃんこビームで牽制して音速雷撃を敵艦艦首付近と前方に一発ずつお願い!」

 

「何かさくでもあるのですか?」

 

不安そうな真白をよそに、トリガーハッピーの二人は、勢いずく。

 

「了解!撃つよ?撃っちゃうよ!」

 

「うぃ!」

 

 

直後、はれかぜは急激に後退する。

シュトゥルムヴィントは、しめたとばかりに魚雷発射菅をはれかぜ進行方向へ向け発射体制に入る。

 

「超兵器に気取られないで!タイミングが重要だから。」

 

 

皆が、シュトゥルムヴィントの動きを見逃さないよう凝視する。

 

「!! きた。リンちゃん、今!機関全速急速加速!」

 

明乃の合図で、はれかぜが急激に前へ出る。

物凄い加速に、思わず全員が手近な物にしがみついた。

シュトゥルムヴィントは魚雷を発射した直後で対応が間に合わない。

その隙を突き、はれかぜは、新型超音速酸素魚雷を発射した。

 

 

シュトゥルムヴィントは超急速加速で回避にかかる。

明乃達は固唾を飲んで見守った。

 

一本目の魚雷が、シュトゥルムに命中、

 

しなかった。

 

シュトゥルムヴィントは猛烈な加速で魚雷をかわす。

 

しかし、2本目の魚雷は流石に交わしきれなかった。

 

ズドォォォン!

 

シュトゥルムヴィントの艦尾で水柱が上がった。

 

「敵艦、速力低下!敵速100kt!」

 

「敵艦艦尾より破砕音確認尚も続いていますわ!」

 

マチコと楓が報告する。

真白が首をかしげた。

 

「何が起きているんだ?」

 

 

「スクリューだよ。」

 

「スクリュー?」

 

「うん、見てて解ったの。相手は攻撃を急速加速で回避するときは回頭運動はしない。その時に、タイミングと角度を合わせて魚雷を艦尾のスクリューに当てることが出来れば。あることが起きる。」

 

 

「あること?」

 

真白が明乃からの答えを聞く前に、マチコから再び報告が入る。

 

 

「敵艦、更に速力低下。敵速70kt!尚、艦が傾斜しています。浸水が発生している模様!」

 

 

「……なぜ。」

 

 

「私達の兵装で超兵器を破壊することは不可能だけど、¨超兵器自身¨なら可能だと思ったの。」

 

 

「超兵器自身?」

 

「うん、まず防御重力場が働かない喫水下にあるスクリューシャフトを魚雷によりねじ曲げる。そうすれば軸がブレたスクリューは暴れまわって、艦底を何度も叩く。あの速力を出すパワーがあれば、いずれ艦底に穴が開いて浸水を発生させる。スクリューの破損と浸水で、二重に速力を奪えば勝機はまだあるって。」

 

 

「なるほど!」

 

 

「でもまだ、安心は出来ない。このチャンスは絶対にものにしよう!」

 

 

「はい!」

 

シュトゥルムヴィントから足を奪ったはれかぜであったが、明乃に慢心はなかった。

仲間を守らねばならない艦長としての心が、常識を覆す敵に相対しての油断を消し去っていたのである。

 

 

   + + +

 

荒覇吐と対峙するもえか達

 

「タカオ、どう?」

 

 

「幸い、格闘戦が得意な奴だから誘導にはさほど苦労はないと思うわ。」

 

 

〔おい、タカオ。本当に大丈夫なのか?〕

 

 

「この私を破った群像艦長なら必ずやってくれるわ。」

 

 

〔かもしれんが、そろそろ相手もじれてくるぞ。〕

 

その時にだった。荒覇吐の艦橋の両脇にある甲板上にあったハッチが開き

不思議な形状の 兵器が姿を表した。

 

 

「なんなのあれ。…!?高エネルギー反応!?もえか、伏せて!」

 

 

次の瞬間、タカオの船体に激震した。

荒覇吐からイナズマのようなものが放たれ、タカオ・キリシマを襲う。

 

 

「あれは…。プラズマを放つ兵器?かなり、フィールドを持ってかれたわ…。」

 

タカオが思わず顔をしかめた。

 

「う、くっ…。タカオ今のは?」

 

 

「プラズマ砲ね。増幅させたプラズマエネルギーを磁界でコントロールして放つ兵器ってとこかしら」

 

「あくまでも逃がさない気ね…。フィールドの飽和状況は?」

 

 

「私が88%キリシマが73%ね」

 

 

「やっぱり小型な私の方が、フィールドを消費するわね。」

 

 

「アレの回避は難しいけど、今がチャンスかもしれない。」

 

 

「どう言うこと?」

 

 

「今なら気取られずに、荒覇吐を誘導できる。奥の手を出して、私達が臆したと言う状況があれば、堂々と隙を突ける。タカオ、キリシマ、あなた達は速度なら荒覇吐に絶対負けない。フィールドに余裕があるなら、少し引き付けながら徐々に速度をあげて欲しい。」

 

 

「聞こえた?あんたまだフィールドに余裕あんだから引き付けやく頼んだわよ。」

 

 

〔フン、大戦艦であるこの私が引き付け役とは落ちたものだな…。〕

 

 

「キリシマ、頼みがあるの。」

 

 

〔ん?これ以上下働きはごめんだぞ。〕

 

 

「千早艦長の作戦に荒覇吐が吊れたら、超重力砲の発射準備をお願い。」

 

 

〔なに?撃たせてくれるのか?〕

 

 

「あの巨体に侵食魚雷じゃダメージが薄いの。ここで確実に決めよう。」

 

 

「ハハ、いいねぇ。派手なのは好きだ!やらせてもらうよ、¨知名艦長¨!」

 

 

「頼むね!」

 

 

キリシマは荒覇吐の前へ出て、引き付けにかかった。

 

 

「アンタ、キリシマの操縦に馴れてきたわね…。」

 

 

「仲間の性格を把握するのも艦長の仕事だよ。きっと千早艦長もあなたの事、信じてると思うよ。」

 

 

「か、艦長が私の…事を?」

 

 

タカオは、顔を真っ赤にして急にしおらしくなった。

 

 

「うん、だからこの作戦、絶対成功させようね!」

 

 

「だ、誰に言ってんのよ。私がいれば成功するに決まっているじゃない!」

 

 

「そうだね、じゃぁ行こうタカオ。互いの大切な人の為に!」

 

 

「ええ、頼りにしてるわ、もえか。」

 

 

タカオは自信に満ちた顔で、もえかを見た。

もえかも頷きを返す。

 

タカオが増速し荒覇吐を引き付けているキリシマの前へ出た。

荒覇吐はプラズマ砲を含む各種光学兵器とガトリング砲で、追い詰めにかかっていた。

もしクラインフィールドが飽和し、機関が損傷すれば、ドリルの餌食になる。

そうなれば、いかに霧の艦でも無事には済まないだろう。

 

一刻も早い群像達401の作戦決行が待たれた。

 

 

   + + +

 

「くっ、きっついなぁ。コイツ予想以上に対潜戦闘に馴れてやがる。」

 

杏平が、苦笑いを浮かべる。

 

401には、先程から凄まじい数の攻撃を受けていた。

近江から放たれる対潜ミサイルや航空機からのミサイルや爆雷攻撃が絶え間なく続き、クラインフィールドへの負担は確実に上昇している。

時間に猶予はなかった。

 

 

「艦長、近江は戦艦の防御に航空機、更には小型艦並の舵性能を有しています。正直隙がありませんね。」

 

 

「確かに静の言う通りだ、更には双胴と言う特性上安定性にも長けている。だが、そこに付け入る隙ができる。」

 

 

「そこで今回の作戦、と言うわけですか。」

 

 

「そうだ、あちらの有利をこちらの有利に変える。僧、見つかったか?」

 

 

「有りました!やはり存在していたのですね。」

 

 

「よし行けるぞ。タカオとキリシマはどうした?」

 

 

「まもなく荒覇吐を連れて目標海域に到達します。」

 

 

 

「解った。いおり、フルバーストスタンバイ!作戦を決行次第やつの¨反対側¨に回り込むぞ!」

 

 

「もぅ、すぐ無茶させるんだからぁ!」

 

 

「済まない。だがコイツを野放しには出来ない。頼むぞ!」

 

 

「はいはい、んじゃやりますか。」

 

 

「最大船速!かかるぞ!」

 

401は増速する。

 

 

   + + +

 

 

「タカオ、キリシマ。そろそろ目標海域に到達するよ。準備はいい?」

 

 

 

「私はいつでも行けるわ。キリシマ?」

 

 

『かなりまずいな…。荒覇吐のプラズマ砲やガトリング砲だけじゃない。さっきから近江の50cmや46cmの射程圏内に入っているから、攻撃を処理しきれん。このままじゃいかに私でもフィールドがもたんぞ!』

 

 

 

「頑張ってキリシマ。もうすぐ、もうすぐだから!」

 

 

『解ってるって。あぁもぅ、大戦艦級を舐めるなよ!』

 

 

キリシマは必死に2隻の超兵器の攻撃に耐えていた。

タカオにしても、強がってはいるが、キリシマより先行している分、先程から接近していた近江からの苛烈な攻撃を受け、フィールドは最早飽和寸前だった。

 

 

(まだなの?早くしなさいよ401…。)

タカオの顔にも焦りが募っていた。

その時、

 

 

「タカオ、キリシマ‼今、合図が来た!指定された目標に攻撃!着弾と同時に全速離脱!!」

 

 

タカオとキリシマはもえかの声に一度安堵し、それからニッと笑って両手を天にかざした。

二人のイデアクレストが一層輝きを増す。

 

荒覇吐・近江との戦いは終盤を迎えつつあった。

 

 

   + + +

 

出雲と播磨の戦いはいまだ拮抗していた。

正に砲撃での殴り合い

根気の勝負であった。

 

 

「攻撃の手を緩めるな!航空機からの攻撃、我々からの砲撃による飽和攻撃を一層厳としろ!」

 

 

「しかし、艦長。播磨の砲撃に加え、航空機からの攻撃が激しさを増しています。迎撃に専念しなければ此方がやられてしまいます!」

 

 

「くっ、戦闘機に人員を割けなかったのが裏目に出たか……。」

 

 

シュルツはナギからの悲鳴に歯噛みした。

 

播磨は依然として、場所をほとんど変えずに砲撃を続けている。

ふとシュルツは、一つの違和感を覚えた。

 

 

(何故だ。主砲が大幅に強化されているとはいえ、仮にも極東方面第一艦隊の旗艦を務めた播磨にしては、少しおとなしい様にも思える。性能にしても第二、第三艦隊の旗艦を務めた他の2隻の方が上だしな。なのに、超兵器反応がより大きい荒覇吐や近江を差し置いて播磨が旗艦である理由が何かあるのか?思い過ごしならいいんだが…。)

 

 

思考しているシュルツに、ナギから情報が届く。

 

 

「艦長!千早艦長達が動いたようです!」

 

 

「いよいよか。よし、我々も播磨の決着を急ごう。その為には、迎撃に時間を費やす訳にはいかん。出来るだけ航空機を早めに減らすようペガサスに伝えろ!」

 

 

「は!了解しました。 」

 

 

ナギに指示を出すと、シュルツは再び播磨を見た。

 

動かざること山の如し、を体現したかのようなその姿は、まるでシュルツに余裕を見せつけるように悠然と海上にあり続けるのだった。

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。

決着はつかなかったものの

この異種艦隊決戦の行方をもう少しだけ
温かく見守って頂ければ幸いです。

次回は、超兵器戦の 中編となります。

それではまたいつか



とらふり!

タカオ
「見なさい!軍艦としての私の姿を!メンタルモデルも去ることなから、こっちもナイスバディでしょ?」

ヒュウガ
「いいのかしらそんなこと言って。皆さ~ん。これが劇場版のタカオですよ~。」

タカオ
「ちょ、ヒュウガ。アレだめ!ドリルはらめなの~!」


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暴風烈火     vs 超兵器

お疲れ様です。

超兵器と明乃達の意地と意地のぶつかり合いです。

どうか最後までお付き合いください。

それではどうぞ。


  

      + + +

 

 

小笠原沖海戦

 

シュトゥルムヴィントVSはれかぜ

 

「敵超兵器、更に速力低下、敵速50kt!更に旋回性能も低下、舵を損傷したと思われます!」

 

 

「艦長。攻撃が徐々に通り始めたよ!」

 

 

「…今なら…行ける!」

 

 

「超兵器機関に負担が掛かってるんだ…。メイちゃん、タマちゃん。攻撃の手を緩めないで!回復の機会を与えちゃダメ!」

 

 

「敵艦の速度も落ちて舵も損傷しているし、傾斜している状態では、主砲も使えない上雷撃精度も落ちる。確かに今攻めない手はありません。」

 

 

「うん、でもまだ光学兵器は生きてる。油断は出来ないよ!」

 

 

「ええ、体格差ではまだまだあちらが有利ですか」

 

 

 

 

 

速力と旋回性能を失ったシュトゥルムヴィントは、バランスを取るために注水していた。

だがそれが更なる速力の低下を生み、はれかぜとの力の差が埋まっていく。

 

この機会を明乃が逃さす筈がない。

 

 

「リンちゃん。敵艦の右舷に回り込んで!」

 

 

「よ、ようそろ~」

 

 

明乃の指示で、はれかぜはシュトゥルムヴィントの右舷に回り込んで砲雷撃を繰り返し、遂にはれかぜの攻撃を退け続きた防壁が消失した。

 

 

「敵艦に本艦の攻撃が着弾。重力場と電磁防壁が完全に消失しました!」

 

 

 

「タマちゃん今!甲板上の兵器を狙って!」

 

 

「うぃ!」

 

 

はれかぜからの砲撃が、次々とシュトゥルムヴィントに着弾。

甲板のいたる所で煙が立ち上った。

 

 

 

 

 

「艦長!敵超兵器の魚雷発射管及び右舷副砲を破壊に成功、更に一部主砲は砲身が変形使用不能!本艦の攻撃、効いています!!!」

 

 

「リンちゃん、艦尾に、回り込んで!後ろの大型光学兵器と主砲を使用不能にする!」

 

 

「わ、解った!」

 

 

はれかぜは、シュトゥルムヴィントの艦尾にある主砲と高威力のβレーザーを潰しにかかった。

シュトゥルムヴィントは、はれかぜの動きを察し回避運動をとろうとするが、舵を損傷していて上手く立ち回る事が出来ない。

 

はれかぜは、敵に砲弾の雨を降らせる。

シュトゥルムヴィントから上がる煙の本数は着実に増えていた。

 

 

「艦長、敵のスクリュー音が完全に停止しましたわ。」

 

 

「うん、これで相手の足を完全に奪っ……」

 

 

「報告!敵艦艦首の両脇から何か出てきました。あれは……。スラスターです!敵艦増速、敵速80ktに回復!更に注水で傾斜を回復、主砲が発射可能になった模様!」

 

 

「ここに来てかくし球とは…何てやつなんだ!」

 

 

マチコからの報告に真白は愕然とした。

シュトゥルムヴィントがスクリューを止めたのは、更なる浸水を止める為だった。

そして、艦尾のスラスターはスクリューを、艦首左右のスラスターは舵が破損した時のフェイルセーフとして存在していた。

更にはれかぜにとって、最悪の事態が発生する。

それは、

 

 

「敵超兵器、防壁を再展開、スクリューや失った兵装への動力供給をカットしたことで余力が生まれたと思われます! 」

 

「そんな…」

 

「ここまで来て…やっぱり私達やられちゃうのかな…」

 

 

 

 

幸子の報告に誰もが不安な表情を浮かべずには居られなかった。

 

 

 

 

 

ただ一人を除いては、

 

 

 

「メイちゃん、タマちゃん!砲雷撃、攻撃止め!これよりミサイルを中心とした攻撃に移る。リンちゃんとにかく動き回って回避に専念して。マロンちゃん、機関全速!」

 

 

「か、艦長?」

 

 

「ココちゃん、スラスターのみ時の旋回性能はどう?」

 

 

「え、ええ。舵損傷前よりは落ちているかと。まして全速を出しているなら尚更ですね」

 

 

「解った。皆聞いて!速度ではあちらが上、旋回はこちらが上、力はあちらが上、手数はこちらが上。戦力差は全くの互角。でも、相手には決定的に足りないものがある。それは、¨守るべき者¨それが心に有る限り、私達は負けない。ただ壊すだけの兵器には負けない!だって私達は……」

 

 

はれかぜの皆が口を揃えて一斉に叫んだ。

 

 

「「「「家族だから!!!」」」」

 

 

 

そして一同が、各々の役割をこなす。

 

はれかぜは急速加速で前進、シュトゥルムヴィントと距離を取った。

 

 

彼の艦は、はれかぜを追わんと全速で動き出す。

 

 

レーザーや主砲がはれかぜに向かった。

 

しかし、はれかぜは小さな体を生かして回避し、先程の攻撃で砲を破壊した敵の右舷側に回り込み攻撃の手数を相手に与えない。

 

 

 

更に隙を突いてミサイルを発射、敵の防壁に着実に負荷をかけていた。

 

 

シュトゥルムヴィントは、スラスターを使い転舵、兵装が破壊されていない左舷側からはれかぜに集中砲火を浴びせにかかる。

 

 

 

重力場が弱まっているはれかぜは、砲弾やレーザーを完全に相殺しきれず、次々と艦内の至る所で火災が発生する。

 

 

 

手の余った者は、素早くホースを繋ぎ消火作業にあたった。

激しい砲火と操舵に立っているのも精一杯の揺れである。

 

 

 

 

だが、誰も泣き言を言う者は居なかった。

 

転倒しても

 

火傷をしても

 

痛くても

 

怖くても

 

 

家族を失う痛みや恐怖に比べたら……

 

 

      全然怖くない!

 

 

はれかぜは一つになっていた。

 

この世界の人類史上初、艦での高速戦闘をはれかぜはこなしていた。

 

 

 

 

「艦長!敵の防壁が減衰してきています!」

 

 

「やっぱり無茶をしてるんだ。スラスターにかなりのエネルギーを取られてる。皆、頑張って!もう少しだから!」

 

 

明乃が祈るように叫んだ。

 

一同は、歯を食い縛り、役割をこなしていった。

 

 

そして遂に、その瞬間は訪れる。

 

 

ドォォォォォン!

 

 

凄まじい爆発音がシュトゥルムヴィントから轟いた。

 

 

明乃達が目を見張ると、シュトゥルムヴィントの側面に大きな穴が開き、煙と炎が立ち上がる。

 

 

 

 

 

「な、何が起きたんだ?」

 

 

「弾薬庫の誘爆だよ。さっきの攻撃で起きた火災を利用したの。あの速度で進み続ければ酸素が大量に炎に供給され続け艦内温度が更に上昇して誘爆を引き起こせるんじゃないかって」

 

 

「そこまで、考えていたのですか……」

 

 

 

 

 

真白は、明乃の判断に溜め息をつくしかなかった。

そこへマチコからの報告が入る。

 

 

「敵艦炎上!弾薬庫に引火した模様。更に本艦の攻撃が通りました。敵の防壁が完全に消滅した模様です!」

 

 

「解った。もう逃がさない!メイちゃん、タマちゃん。砲撃及びミサイル発射用意!敵超兵器のスラスターを狙って!」

 

 

「了解!撃っちゃうよ~‼」

 

「…魂で…撃つ!」

 

 

ミサイルと砲弾が敵の前後のスラスターに殺到し爆煙を上げた。

シュトゥルムヴィントの速度が目に見えて落ちていく。

 

 

 

しかし、相手もただでは終わらない。

シュトゥルムは残った方のスクリューを再始動させ再び動き出した。

 

だが最早、方向を制御する舵とスラスターを失ったシュトゥルムヴィントは、クルクルと、同じところを回りだした。

 

マチコが敵の様子を伝える。

 

 

 

 

 

「敵艦、操舵性を失っています!敵速25ktまで低下、更に火災範囲が拡大中です!」

 

 

「今しかない!メイちゃん、タマちゃん。敵艦の兵器に一斉掃射!」

 

 

明乃の指示で、シュトゥルムヴィントの甲板にある残りの兵装に砲弾やミサイルが直撃

大型のレーザーや砲が次々と破壊されていく。

手も足も失い、火だるまになりながらも、シュトゥルムヴィントははれかぜを沈めようと、ぐにゃぐにゃに曲がった主砲をはれかぜに向けて発砲を試みる。

これがシュトゥルムヴィントの最後の攻撃となった。

 

次の瞬間、

 

ドォォォォォン!

 

砲弾が主砲の砲筒の中で炸裂、大爆発と大火を起こした。

 

紅蓮の炎は、艦内であらゆる弾薬に引火し更なる爆発を引き起こす。

 

爆発は、艦の至るところに穴を開け、大量の海水が流れ込んで艦がどんどん傾斜して行き、シュトゥルムヴィントは【暴風】の名に似つかわしくない程、ゆっくりとその体を海面に横たえて動かなくなった。

 

はれかぜの艦橋内は、静寂に包まれる。

その静寂を破ったのは、マチコからの報告であった。

 

 

「て、敵超兵器……撃破!」

 

 

 

放心状態の艦橋メンバーの中で真白が真っ先に我を取り戻し、明乃に近付く。

そして、明乃の両肩をギュッとつかんだ。

 

 

 

 

「艦長、やりました。やったんです!私達が…超兵器を……倒したんです!」

 

 

 

 

明乃は、まだ状況が理解出来ていない顔で真白を見つめ、彼女はコクリと頷く。

 

そして、

 

 

 

 

「「「やったー!!!」」」

 

 

 

 

それを見ていた、明乃以外の艦橋のメンバーが歓声を上げた。

その歓声は、瞬く間にはれかぜ全体に伝播する。

 

 

皆がそれぞれ抱き合って喜ぶ。涙を浮かべている者もいた。

 

しかし、明乃の安堵の表情も長くは続かない。

 

 

明乃は再び険しい表情をまだ戦いを終えていない仲間たちへと向ける。

 

 

(モカちゃん…無事でいて……)

 

 

明乃に勝利の喜びは微塵もなく、不安で心が雲っていくのであった。

 

 

   + + +

 

 

 

荒覇吐・近江VS蒼き艦隊・もえか

 

 

401は、作戦海域に到達していた。

 

群像は、最も超兵器の虚をつけるタイミングを見計らっている。

 

緊張に包まれるブリッジの中で杏平がゴクリと唾を飲んだ。

 

 

静寂を破るようにイオナが、叫ぶ。

 

 

 

 

「群像、今!」

 

 

「よし!イオナ、タカオとキリシマに通信を送れ!」

 

 

「解った」

 

 

「こちらもいくぞ。杏平、フルファイア!」

 

群像の合図で、401はあらゆる兵器が火を噴き、時を同じくしてタカオとキリシマも一斉射を行った。

 

 

 

荒覇吐と近江は迎撃態勢に入る。

しかし、放たれた数多の弾頭が、超兵器に殺到することは無かった。

 

 

弾頭は海面に着水して、ある一点を目指す。

 

 

 

 

そこは海底であった。

 

 

 

 

荒覇吐と近江は一瞬呆気にとられる。

 

 

 

 

 

蒼き艦隊はそれを見逃さなかった。

 

 

 

 

タカオとキリシマは急速に増速し超兵器から一気に距離を取り、その間弾頭は次々と海底を穿ち削っていく。

 

 

すると、海底から無数の泡が凄まじい勢いで噴き出し、泡は瞬く間に荒覇吐と近江のいる海域を埋め尽くした。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

突如、周りを埋め尽くした泡に、浮力を失った荒覇吐はバランスを崩して傾斜している。

反動の大きいガトリング砲が傾斜で使えない為なのか、荒覇吐はプラズマ砲や各種レーザー、多弾頭ミサイルに攻撃を切り替えて攻撃してくる。

 

 

しかし、足を取られているため、ドリルによる格闘戦はおろか、驚異的な旋回性能による攻撃の回避は不可能であった。

 

それをもえかが見逃す筈はなく、タカオとキリシマに指示を飛ばした。

 

 

 

 

「敵が罠にかかった!キリシマ、お願い!タカオ、キリシマは今、演算リソースを極限まで消費している。隙を突かれないように援護して!」

 

 

「あいよ!ハハ、大戦艦の本気ってやつを見せてやる!」

 

 

「了解!ちゃっちゃと終わらせるわよ!」

 

 

 

 

キリシマは超重力砲の発射態勢に入った。

 

 

「艦の姿勢制御完了。艦前方のクラインフィールド開放。エネルギーライフリング起動開始。目標、敵超巨大ドリル戦艦【荒覇吐】を固定。重力子圧縮、縮退域へ……」

 

 

キリシマのさ船体が上下に割れ、中には、円形状の重力子ユニットがずらりと並んでいる。

 

 

その数は、401やタカオの物を遥かに凌駕していた。

 

そして、超重力砲展開と同時に強力なロックビームが海を割るように荒覇吐に向かい、気泡からの脱出を試みようともがき、光学兵器を周囲に撒き散らし暴れ狂う荒覇吐を捕らえた。

 

 

 

だが、空間に固定されたことにより転覆の心配が無くなった荒覇吐は、反動の大きいガトリング砲が再び稼働させ、砲弾がキリシマに殺到する。

 

しかしもえかはそれを許さない。

 

 

タカオに指示を出し、迎撃する。

 

 

 

 

更にタカオは、あらかじめキリシマのクラインフィールド制御コードの一部を借り受けてキリシマの防御を補助していた。

 

 

 

 

迎撃しきれず、通過した砲弾は、キリシマにあたる直前に、タカオの制御したクラインフィールドに当たり本体へのダメージを無効化している。

 

 

圧倒的に此方が有利だった。それは間違いない。

 

 

だがもえかは足元が震えてすくむ、タカオやキリシマにしても、表情に余裕はない。

 

 

目の前で稲妻やレーザー、砲弾を撒き散らし暴れる荒覇吐は3人に威圧を与え続けていた。

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

もえかが思わず後ずさる。

距離があるタカオにまで聞こえてくる、ドリルとソーの轟音も、もえかの恐怖を更に煽っていた。

 

 

【アラハバキ】日本の古の神の名前

 

その荒ぶり様は、正に神であった

 

 

 

≪信心無き者に裁きを…。神の鉄槌を!≫

 

 

 

 

ドリルの轟音が、荒覇吐の言葉を表すように轟く。

 

 

『もえか、縮退限界!』

 

 

 

もえかは、キリシマの言葉で我に帰る。

 

荒覇吐は、あがき続けていた。

 

 

 

 

   ≪ 裁キヲ ≫

 

 

「私も、フィールドがそろそろ限界…。もえか!」

 

 

   ≪ 裁キヲ! ≫

 

『おい!何してんだ。早く発射指示を出せ!』

 

 

    ≪ 裁キヲ!! ≫

 

 

「あっ……あぁっ…!」

 

 

 

≪ 神ノ鉄槌ヲォオ! ≫

 

 

 

「もえかぁぁぁ!」

『もえかぁぁぁ!』

 

 

 

 

タカオとキリシマからの悲鳴にも似た叫びに、もえかは目をカッと見開き、一歩前へ踏み出して踏ん張った。

 

 

そして一回、深く肺に空気を送り込み一気に吐き出した。

 

 

「キリシマ、超重力砲撃てぇぇぇぇ!!!」

 

 

直後、眩い光がキリシマを包み、そして凄まじいエネルギーの奔流が荒覇吐に向かい、直撃する。

 

 

超重力砲は艦首と艦橋の間に直撃し、荒覇吐の象徴とも言えるドリルが艦首付近から、バリバリという不快な音を立てて折れた。

 

 

もえか達は、その様子を見守った。

超重力砲の発射が終わったキリシマや補助していたタカオは息が上がって両肩を上下に動かしている。

 

 

 

 

(くっ久しぶりとは言え、コアにかなりの負荷がかかった…タカオの補助がなければ差し込まれていたかもしれん……)

 

 

(なんて奴なの…。私達が、人類相手に一度も使われる事がなかった超重力砲を使わせるなんて…)

 

 

 

 

 

もえかも、目の前で起きた現実とは思えない光景に言葉を失っている。

 

 

 

 

(凄い…。これが、霧の本当の力なの?演習の時とは比べ物にならない…。あっ、そうだ超兵器は?)

 

 

荒覇吐に視線を移した彼女の目には、至るところから煙が上がって折れた艦首からは大量の海水が入り込み、艦橋付近は海に没しようとしている無惨な残骸が見えた。

 

 

彼の艦は最早動かず、ただその巨体が海底に沈むのを待つしか無かった。

 

 

 

 

(千早艦長…無事でいて下さい!)

 

 

 

 

もえかは未だ止まらぬ足の震えを何とか押さえながら、近江と401の勝負の行方を見守った。

 

 

 

   + + +

 

 

 

近江の巨大な船体が大きく傾く、自慢の旋回性能もこれでは発揮しようがなかった。

だが、双胴という特性を生かしてすかさず沈み混んでいるのとは反対側に注水、態勢を立て直しつつある。

 

 

 

しかし、それこそが群像の作戦だったのだ。

 

 

 

 

「かかったぞ!今だ、フルバースト!奴の腹の下をくぐり注水を行っている反対側に出る。その後、サイドキック面舵一杯。奴の土手っ腹にありったけの侵食魚雷を喰らわせてやれ!」

 

 

401のスラスターがフルで稼働し、潜水艦とは思えない加速で、一気に近江の下を潜り抜けて反転すると、侵食魚雷を注水している近江に向かってばら蒔いた。

 

 

 

 

次々と侵食魚雷が近江に殺到し、バランスを取ろうと注水していた側に侵食魚雷を何発も当てられた近江は、今度は浸水によって先程とは逆方向に傾き、発進を控えていた大量の航空機達が、急激な傾斜に耐えられず、ボチャボチャと海へ落ちていく。

 

 

 

 

 

大量の泡と傾斜により身動きが取れず、兵装も使用できず、航空機も発艦出来なくなった近江は、最早ただのデカイ的と化していた。

 

 

 

 

機関に負荷がかかり、ろくに防壁も展開できない近江に401が更に苛烈な追い討ちをかけ、次々と兵装や飛行甲板が破壊され煙が至るところで立ち上る。

 

 

 

 

 

「日本近海に点在するメタンハイドレートの鉱床…よくこの様な使い道を思い付きましたね!」

 

 

 

「なに、海洋技術学園で習ったことを思い出しただけだよ。まぁ近江が注水してくれるかどうかは正直賭けだったがな。」

 

 

「全く、博打打ちも大概にしてくれよ……」

 

 

群像の言葉に杏平が呆れている。

 

 

 

群像は、杏平に苦笑いで返すと表情を引き締め、近江に止めを刺す指示を出そうとした。

 

 

 

 

「よし、それじゃ仕上げにかかるぞ!」

 

 

「待ってください!」

 

 

「静、どうした?」

 

 

「タカオから緊急入電!近江後部の飛行甲板で何やら動きがあったようです!」

 

 

「なんだと!?この期に及んで一体何をするつもりだ…」

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「タカオ、あれは何?」

 

 

 

 

もえかが心配そうにタカオに尋ねた。

 

 

 

 

「あれは…ハッチ?いや、巨大なエレベーターみたいな……まさか!!」

 

 

 

 

直後、二人は信じられない光景を目にした。

 

 

傾いた近江のエレベーターから巨大な黒い円盤が出現し、フワフワと上昇していく。

 

 

円盤はある高さまで、上昇すると停止してクルクル回りながらその場に浮いていた。

 

 

 

 

よく見ると、円盤の下からケーブルの様なものが近江と繋がっており、円盤に向かってケーブルを伝い紫色の光がいくつも登っていく。

 

 

すると先程まで態勢を立て直そうともがいていた近江が急に動かなくなり、ケーブルが切り離されると、彼の艦はその巨体をゆっくりと海へと沈めて行った。

 

 

 

 

「一体何なの!?」

 

 

もえかは状況を理解できない。

 

 

 

 

すると円盤は急に動き出し、凄まじい速度でジグザグと不規則な動きで炎上して沈み始めている荒覇吐の真上に移動。

 

 

先程と同様にケーブルを垂らし荒覇吐と繋がってアノ紫色の光がいくつも円盤に吸い込まれかと思うと、荒覇吐の沈降速度が増し、あっという間に見えなくなってしまう。

 

ケーブルを切り離した円盤は、次に撃破されたシュトルムヴィントの真上に移動。

 

 

 

 

転覆し艦底を露にしているシュトルムヴィントに突如円盤からレーザーが放たれ、底に穴を開け、そこからケーブルを差し込むとまた、紫色の光が円盤に吸い込まれる。

 

 

そこにいた誰もが、起きていることの意味を正確に把握出来るものは居なかった。

 

 

シュトルムヴィントから光を吸い取り終った円盤は、ケーブルを切り離して播磨の元へ向かって行く。

 

 

 

 

  + + +

 

 

江田は、近江の航空機との空中戦を繰り広げていた。

 

江田の発射したミサイルが、敵の航空機に命中し、爆発し粉々になった航空機が海へと落ちていく。

 

 

 

 

(ふぅ…有難い。千早艦長が近江を潰してくれたお陰で、これ以上敵が増えなくてすむ。航空機はあらまし落としたし、一宮隊長やモーリス隊長の援護に戻…)

 

 

 

 

 

江田が、そう思ったとき。

 

近江を攻撃しに行っていた。モーリスからの通信が入った。

 

 

『近江攻撃隊から各機へ!近江は沈んだが、代わりに厄介な奴が出てきたようだ……』

 

 

 

 

江田が近江へ視線を向けると、底には巨大な黒い円盤が浮いていた。

 

 

 

(まさか!!)

 

 

 

 

江田は、焦りを隠しきれない。

 

 

 

すると今度は、出雲のシュルツから通信が入る。

 

 

『超巨大円盤型攻撃機【ヴリルオーディン】出現!! 攻撃隊は速やかに帰投せよ。繰り返す、攻撃隊は速やかに帰投せよ!!奴には航空機では太刀打ち出来ない!』

 

 

 

慌てて周りを見渡した江田の目には、モーリスの部隊が近江から引き返してくるのが見えた。

 

 

 

 

播磨を攻撃していた一宮も、進路を変えている。

 

 

 

 

しかし、近江の航空機はまだ完全に掃討できた訳ではない上に、着艦にもある程度の時間を要する。

 

 

 

江田は、戦闘機部隊を率いてペガサスへ引き返した。

 

 

その時、江田の視界にはれかぜを捉えた。

 

 

 

彼の脳裏に自分に死ぬなと言って涙を流した女性の顔が浮かぶ。

 

 

(西崎砲雷長……皆!俺が守りきる!絶対に死なせない!)

 

 

 

江田は、ペガサスに着艦する攻撃隊を守護する為にしんがりを務める覚悟を決めた。

 

 

一人でも犠牲を嫌う、人魚姫達の願いを叶える為に。

 

 

 

   + + +

 

 

「くそっ!近江の巨大なノイズは、ヴリルオーディンを中に格納していたからだったのか!なぜその事を考慮しなかった……」

 

 

シュルツが自分の判断の甘さに拳を握りしめ歯噛みした。

 

 

「艦長、ヴリルオーディンが何やら撃破された超兵器に次々と移動して何か工作を施している様です!」

 

 

「目の前に敵がいながら素通りとは…それほど奴にとって重要な事があるのか?それに奴の身体、以前まみえた時より一回りデカイ気がする…」

 

 

ひと通り撃破された超兵器で何やら動きを見せていたヴリルオーディンは、次に高速で播磨の直上に飛来し、ケーブルを伸ばした。

 

 

すると播磨の艦尾から何やら突起の様なものが出てきてケーブルと接続を開始、そしてヴリルオーディンから播磨に向かって紫色の光が¨入って¨いく。

 

 

「何を始める気か知らないが、させるわけにはいかない!総員、全照準をヴリルオーディンに向けろ!撃ち落とすんだ!」

 

 

出雲から大量の砲撃やミサイルがヴリルオーディンに殺到するが、強力な防御重力場により弾かれてしまう。

 

 

次にシュルツは、播磨に何かを供給しているであろうケーブルを狙う為、甲板の外側にずらりと配置されたパルスレーザーを発射する。

 

しかし、レーザーがケーブルに命中する直前に、ヴリルオーディンはケーブルを切り離し、離脱を図ろうと動き出した。

 

 

 

 

「艦長、ヴリルオーディン―逃走を図っている模様!」

 

 

 

「逃がすな、絶対に仕留めるんだ!」

 

 

 

 

シュルツは通信で各艦に連絡、その報を受けて大量のミサイルがヴリルオーディンを襲うが、ジグザグと不規則な動きをしている超兵器には上手く当たらない。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

ドォォォォン!

 

 

 

轟音が轟き、艦に激震が襲う。

 

 

 

シュルツは撃ってきたであろう相手に顔を向け、そして表情が固まった。

 

 

 

「なんだと!!?」

 

 

   + + +

 

 

 

航空戦艦ペガサス

 

 

超兵器攻撃隊が、続々と着艦しつつあった。

 

 

しかし、江の残存勢力が味方の着艦を阻もうと襲いかかる。

 

 

そんな中、江田は少ない残弾で確実に敵機を撃ち落としていた。

 

 

ペガサス自身も、ミサイルで援護はしてはいるが、着艦作業の影響で転舵するわけにいかず、事実上戦闘機部隊が露払いをしなければならない。

 

 

「くっまだこんなにいたのか…もう少しなのにっ!」

 

 

江田は、追いかけていた目の前の敵機を航空バルカン砲で撃ち落としながら歯噛みする。

 

 

味方の戦闘機部隊もミサイルの弾切れや燃料の欠乏でギリギリの状態だ。

 

 

すると一宮から通信が入った。

 

 

 

 

『江田!生きてるか?』

 

 

「はい、何とか…」

 

 

『今、戦闘機で再発艦する。戦闘機部隊を着艦させろ。こちらで援護する!』

 

 

「有難いです。お願いします。」

 

 

一宮達の援護で戦闘機部隊が続々と着艦する。

 

 

江田も着艦体勢に入ろうという時、通信が入った。

 

 

 

『逃がすな。絶対に仕留めるんだ!』

 

 

 

シュルツの声がした。

 

 

 

見るとヴリルオーディンが、攻撃をかわしながら離脱を図ろうとしている。

江田は、着艦体勢から再上昇しヴリルオーディンへと機体を向けた。

 

 

『おい江田!どこへ行く気だ―戻れ!』

 

 

 

 

一宮からの怒声が響く。

 

 

 

「しかし隊長。あいつを放って置けば厄介なことになります。着艦作業だってまだ終わっていない。今狙われたら終わりです!」

 

 

『だとしても貴様一人でどうにかなる相手じゃ無いんだぞ!死にに行くようなもんだ!』

 

 

「確かに…でも今、時間を少しでも稼ぐことが出来れば、他の皆さんで奴の相手ができる。それにさっきから播磨の様子もおかしい。ここで自分が出れば出来るだけ犠牲を少なくすることが出来るんです!」

 

『バカ野郎!それでてめぇが死んだら意味が無いんだぞ!いいから戻れ!命令だ!』

 

 

「一宮隊長。私は孤独だった。両親もいない。誰も自分を大切に思う者等いない。だからせめて命を御国に捧げることが出来れば、このちっぽけな命も何かの役に立つんじゃないかと思い特攻に志願したんです。でも、死ねなかった……」

 

『江田…?』

 

 

「だけど死に場所を探していた俺に、筑波大尉と一宮隊長が生き甲斐を与えてくれた。いっぱいゲンコツを頂きましたね…でも、それ以上に自分が必要とされている実感も頂いたのです」

 

 

『おい…何を考えてる……』

 

 

「私は、そんな人達を守りたい。死なせたくないんです!」

 

 

『やめろ!』

 

 

 

 

江田は加速し、一直線にヴリルオーディンへ向かう。

 

その時だった。先程まで回避に徹していたヴリルオーディンが不意に動きを止めたのだ。

 

 

そして、円盤の上部の兵装が、発光し始める。

 

 

 

 

『いかん!¨リングレーザー¨だ!江田、引き返せ!真っ二つになるぞ!』

 

 

「一宮隊長…靖国で待っています!」

 

 

 

 

『!!!』

 

 

江田は残りのミサイルを全て発射、しかし重力場で防がれてしまう。

 

 

次にバルカン砲をヴリルオーディンに向かって打ち続けた。

 

 

「うぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

ズガガガガガ!

 

 

 

 

『やめろ!やめろぉぉ!』

 

 

 

ズガガガガガ!

 

 

 

「うぉぉぉぉぉ!ぬぉぉぉぉぉ!」

 

 

 

 

バルカン砲を撃ちながら更に加速して突撃していく江田の脳裏には、今までの思い出が一瞬の内に写し出されていった。

 

 

 

両親がいない事を馬鹿にされ、虐められた

記憶

 

 

空腹に堪えかねて畑から食べ物を盗み、それがバレて半殺しになった記憶

 

 

 

日本軍時代のキツイ訓練の記憶

 

 

 

先に散って逝った特攻隊の戦友の記憶

 

 

 

超兵器や帝国との戦争の記憶

 

 

 

そして、一人の人魚を空に連れていった記憶

 

 

 

「!!?」

 

 

 

そこで江田は、我に帰った。

 

 

だがもう遅い…

 

 

ヴリルオーディンは、既にリング状のレーザーを発射していた。

 

 

 

次の瞬間、

 

 

スパッ!

 

 

 

江田の乗っていた機体が真っ二つになり、爆発し粉々になってしまう。

 

 

 

機体から江田の身体投げ出されて宙を舞う。

 

 

 

落下しながら彼は目を開いた。

 

 

よく見ると何かが一緒に落下している。

 

¨右腕¨だった……

 

 

 

爆発の衝撃か、それともレーザーに切断されたのか、いずれにしても腕が千切れたらしい事だけは理解できた。

 

 

江田は視線を空に向けた。

 

 

どこまでも澄んだ蒼

 

 

美しかった。

 

 

 

(ああ、ホント…馬鹿だなぁ俺は……)

 

 

 

 

江田の身体は、綺麗な空とは対照的な黒煙の立ち上る海へと落ちていった。

 

 

   + + +

 

シュルツは播磨を睨む。

 

すると播磨が紫色に光出した。

 

 

 

「この反応は…。まさか!」

 

 

 

シュルツが指示を出そうとした時、

 

 

 

「艦長!味方機が!」

 

 

 

ナギからの悲鳴で視線を向けると、味方の航空機が爆発しているのが見えた。

シュルツはギリッと歯噛みする。

 

 

「くそ!救助を!」

 

 

「駄目です!間に合いません!」

 

 

「何てことだ…なぜ海上援護を待てなかった!」

 

 

 

「あの距離と速力では航空機の方が妥当でした。艦長のせいではありません!あのまま放置すれば何をしでかすか解らなかったのですから……」

 

 

「畜生!」

 

 

 

壁を殴り付けるシュルツをブラウン博士が宥める。

 

 

 

「落ち着いてください艦長!今は、目の前の敵に集中しなくては!」

 

 

「黒いヴリルオーディン、動き出しました。急速に離脱していきます!」

 

 

ヴリルオーディンは、シュルツを嘲笑うかのように、その場でクルクルと回転すると、凄まじい速さで海の彼方へと飛び去り姿を消した。

 

 

シュルツは、悔しそうにヴリルオーディンの飛び去った方角を睨むが、直ぐに視線を播磨へ戻す。

 

 

「か、艦長!超兵器反応増大!まだ上がっていきます!計測機が……」

 

ボンッ!

 

「…完全に破損ました」

 

 

「ナギ少尉、急いで各艦に通達!¨暴走¨だ!超兵器播磨、暴走!」

 

 

「りょ、了解!」

 

 

 

 

ナギが、他の艦に通信を送っている。

 

すると今度は、播磨の様子を見ていたブラウン博士の顔がみるみる青ざめる。

 

 

「なにが起きているの?」

 

 

シュルツも自分の目を疑った。

 

 

 

 

超兵器播磨が変形していく。

 

艦首にある衝角が展開し、中から¨ドリル¨が現れ、艦尾の甲板から大型のスラスターが上がってきた。

 

 

だがそれだけではない。

 

 

艦尾側面がまるで鳥の翼のように展開し、小型の飛行甲板が現れ、甲板の後部ハッチから旋回式のガトリング砲のようなものが浮上。

 

 

 

極めつけは、艦中央の先端部のハッチが開き巨大な砲が姿を現した。

 

 

「…何なんだこれは。」

 

「他の超兵器の特徴を取り込んだ?それにあの正面の巨大な砲は……」

 

 

「間違いない、超巨大列車砲【ドーラ・ドルヒ】の160cm砲だ!」

 

 

すると播磨後方の飛行甲板から小型の円盤が次々と発艦する。

 

 

「あれは…円盤型航空機¨ハウニプー¨か?」

 

 

「12機いますね…我々を沈めるには少々役不足。となれば、恐らくあの超大型砲の弾道計算の観測の為に射出されたと考えるべきでしょう」

 

 

「艦長、敵超兵器再始動!は、速い!?敵速80kt!艦首のドリル及び大型主砲の起動を確認!」

 

 

シュルツが叫ぶ。

 

 

 

「各艦に通達!動き回れ!絶対に単調な動きはするな!一瞬でやられるぞ!」

 

 

シュルツは、拳を強く握りしめた。

 

 

(【東洋の魔神】【双角の鬼】よ、とうとう本性を現したか!)

 

 

これより、超兵器との真の戦いが始まる。

 

 

 

 




しのぎを削る超兵器戦はもう少し続きます。


次回まで今しばらくお待ちください。

それではまたいつか。




とらふり!

播磨
「見ヨ私ノ真ノ姿ヲ!」

荒覇吐
「チッ。コノ砲撃馬鹿ガ!」

播磨
「ナ、ナニオウ!」


疾風&近江
「皆合ワセレバ文句ナ~シ!」

播磨&荒覇吐
「ナ、成ル程…」



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目覚めた鬼神    vs 超兵器

お疲れ様です。

引き続き播磨戦です。

色々ゴチャついてきましたが、決着に向けて進んで参りますのでよろしくお願いします。

どうかお付き合い下さい。

それではどうぞ。



   + + +

 

「何なの…あれ…」

 

 

もえかは、状況にまったくついていけない中、シュルツからの通信が飛び込んできた。

 

 

 

 

『絶対に単調な動きはせずに動き回って下さい!一瞬でやられてしまう!』

 

 

 

 

 

シュルツからの怒声に、我に帰りタカオに指示を飛ばす。

 

 

 

 

「タカオ、私達も行こう!」

 

 

「まずいわね、フィールドが飽和しかけてる。蓄積したダメージを放出しないとやられるわ!」

 

 

「くっ、解った。タカオ、千早艦長に連絡を取って。一度交替で播磨から距離を取りながらダメージを放出して、出直そう。それまで残りの艦で、播磨を牽制して防壁の飽和に努める。どう?」

 

 

「…解ったわ。キリシマ、401、聞こえた?」

 

 

『…仕方がない。だがフィールドに少し余裕があるとはいえ、超重力砲の発射の余波で、演算がいまひとつなんだ…あんまり長くは持たないぞ!』

 

『了解。まず、タカオと私達からダメージの放出を行う。次はキリシマとはれかぜ。はれかぜにはこちらから連絡する』

 

 

「だそうよ、もえか」

 

 

「……解った。タカオ、出来るだけ急ごう」

 

「了解!」

 

 

401とタカオは一度播磨から距離を取り始めた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「いやぁぁぁ!江田さぁぁん!」

 

 

芽依は錯乱していた。

原因はつい今しがたのシュルツと一宮とのやり取りを聞いていたからだろう。

 

 

完全に我を忘れており、危険な状態だった。

 

 

「メイちゃん落ち着いて!お願い!」

 

 

「おい!しっかりしろ!」

 

 

「メイ!―メイ!」

 

 

3人で芽依を押さえつけるが、暴れながら耳をつんざく絶叫に怯んでしまった。

 

 

 

 

「あぁぁあぁあぁぁあ!」

 

「うっ、くっ!」

 

 

 

明乃も凄まじい悲鳴に目をしかめたその時……

 

 

 

プスッ!

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

 

ビクッと身体を震わせた芽依は気を失った。

 

倒れた芽依を抱き止めた志摩が見上げる先には注射器を持った美波が立っている。

 

 

 

 

 

「砲雷長の悲鳴が聞こえたので飛んできた。」

 

 

「有り難う美波さん。メイちゃんは…?」

 

 

「戦線への復帰は現状無理だろう。たとえ戻れたとしても、今度は完全に心が壊れてしまう」

 

 

「…そんな」

 

 

「この反応…砲雷長にとって撃墜された人物は何か情を抱くに値する人物だったのやもしれん。だが¨失われて¨しまった…」

 

 

 

 

「失われた………」

 

 

 

 

ドクン……ドクン………

 

 

 

その時、明乃の心の中に何かが生まれようとしていた。

 

 

暗くて冷たい、血走った大きな目玉がギョロりと鈍く光を放つ。

 

 

「¨宗谷副長¨ブルマーの砲雷術の研修課程を修了してるよね……」

 

 

「え、ええ、ですが……」

 

 

「お願い。砲雷長代理を務めて」

 

 

「ですが……ひっ!?」

 

 

 

 

 

明乃を見た真白は、凍りつく。

 

 

 

その表情は、最早真白の知る岬明乃ではなかった。

 

 

鮮血の様に光る絶対零度の目が、目深に被った艦長帽から覗いていたのだ。

 

 

 

 

「艦…長?」

 

 

「…奪った。私達から大切な者を…心を…奪ったんだ!許さない!粉砕する!塵すら残しはしない!¨知床航海長¨取り舵一杯!¨柳原機関長¨機関全速!¨立石砲術長¨全砲門一斉掃射ぁあ!」

 

 

真白は、明乃の様子に戦慄を覚えていた。

 

 

(まただ、艦長のあの表情…怖い―ん?何が怖いんだ?…そうだ、まるで超兵器を目の当たりにした時の様な……)

 

 

疑問は真白の中で確信に変わった。

 

 

砲火の最中、轟音で良くは聞き取れなかったが、明乃の表情そして口元の動きで内容は理解できた。

 

 

 

明乃は笑っていた…いや、楽しんでいるのだ。

 

 

獰猛な目とニタニタとねじ曲がる口元

 

 

 

そして、この言葉

 

 

《【破壊】ソレコソガ私ノ本分》

 

 

 

真白は意を決して動き出した。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「くっ、この私が…!」

 

 

 

 

キリシマのクラインフィールドは、既に飽和していた。

 

 

 

本来、核兵器にすら耐えうる霧のクラインフィールドが、荒覇吐との戦闘によりダメージを蓄積していたとはいえ飽和に至ったのには理由があった。

 

一つは、円盤航空機ハウニプーによるレーザー攻撃、そして……

 

 

ドドドドドド !

 

 

 

 

常人では視認すら不可能な速さの超高速砲撃だった。

 

 

 

播磨の後方のハッチから出現したそれは、荒覇吐のガトリング砲に酷似している。

 

違いは、そのガトリング砲が弾を電磁力で加速する¨レールガン¨であることくらいだった。

 

【砲搭型ガトリングレールガン】

 

 

 

実弾系最強の砲撃を一分間で100発もの速さで発射するそれに、キリシマのフィールドはいとも簡単に飽和してしまった。

 

 

元々霧の艦隊が人類相手に突撃出来たのは、絶対の盾のクラインフィールドがあったからである。

故に、攻撃を回避するという戦術が決定的に欠如しており、フィールドが消失し、通常戦艦並みの防御しかないキリシマは、始めて回避に関する戦術の重要性を始めて認識していた。

 

 

彼女は播磨の反対側にいる出雲を見た。

 

 

 

 

出雲は、ガトリングレールガンを意識してか、巧みに播磨の前方側に移動している。

 

 

 

 

勿論リスクはあった。

正面に回り込むことで、多数の大口径主砲の雨にに晒される。

だが、音速を超える弾速で発射されるレールガンを相手にするよりは、遥かに有効な手段に思えた。

 

 

(これ以上は…まずい…!)

 

 

キリシマが播磨前方へと移動しようとした矢先に相手に動きがあった。

 

 

 

 

播磨がキリシマの方に転舵してきたのである。

 

 

―好都合だ!

 

 

しかし、キリシマの判断は甘かった。

 

大口径主砲だけでなく副砲からの猛烈な砲弾の雨がキリシマを襲ったのだ。

 

 

「あぐっ!?な、なんだこれはっ!あいつらこんな弾幕を平気で回避し続けていたのか!!?」

 

 

 

 

キリシマは歯噛みする。

砲弾が次々と着弾し、みるみる船体が破壊されっていった。

 

負けじと無事なレーザー主砲とありったけの侵食弾頭を発射し、あちこちで砲弾同士がぶつかり炸裂している。

 

 

だが、肝心の播磨自身は強力な防御重力場が侵食弾頭をそらしてしまう。

 

霧と超兵器の壮絶な殴り合い、そこに人類の入り込む余地など存在しなかった。

 

しかし、勝負の決着は唐突に訪れた。

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

キリシマは目を見開く

 

 

 

播磨正面の160cm砲が徐々に天を向いており、それが最大仰角に達したとき、目の前にまるで搭がそびえ立つ様な異様な光景が広がった。

 

 

 

 

 

『キリシマ!逃げろ!速く逃げるんだ!』

 

 

 

 

「ハハッ…逃げろったって、とっくにスラスターも壊れちまってるよ……」

 

 

 

 

 

キリシマは自嘲ぎみに笑うと、天に両手をかざした。

 

 

 

 

 

「来い!、それがお前の切り札なら受け止めてやる!」

 

 

 

 

 

 

キリシマは全ての兵装の使用を止め、その余剰エネルギーを回し、クラインフィールドを再展開させた直後……

 

 

 

ドォウン!ドォウン!ドォウン!

 

 

大気が震える轟音とともに、播磨が160cm砲を発射した。

 

 

 

 

真っ赤に燃えるいくつもの砲弾は、ハウニプーの観測により正確に弾道を描き、まるで隕石のようにキリシマに落下て行く。

 

 

 

 

「ぐ、ぐわぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

クラインフィールドに衝突して砲弾が炸裂し、その衝撃で海面は凹んでキリシマの船体の3割近くが吹き飛んだ。

 

 

急激に傾き始める甲板の上で、キリシマはなんとか踏みとどまった。

 

だが二発目が着弾。

 

 

 

 

 

「あぁぁあぁあ!」

 

 

炸裂した砲弾の衝撃と熱波によって、辺りは地獄と化した。

 

 

 

キリシマは炎が身体を包んでも、天を見上げ、迫り来る紅蓮の砲弾を睨む、彼女が出来たのはそこまでだった。

 

 

 

 

三発目の砲弾が着弾。

 

 

フィールドが衝撃を受けきれず消失し、キリシマの身体は吹き飛ばされて、ボロボロになった艦橋に激突。

 

更に跳ね返って、辛うじて原型を止めていた甲板に投げ出された。

 

手足がぐちゃぐちゃに曲がった歪な大の字で横たわるキリシマの視線は、次の瞬間に自分を粉砕するであろう砲弾を見上げていた。

 

 

「ハルナ…蒔絵…私は!私は…まだ…死にたくな……」

 

 

 

 

ズドォォォォン!

 

 

160cm砲の砲弾がキリシマを直撃し、体をくの字に折り曲げそして炸裂した。

 

 

 

凄まじい爆圧と熱波により大戦艦キリシマの船体とメンタルモデルはめちゃくちゃに砕け、直後に重力子エンジンが大爆発しを起こして虹色の光を放ち散っていった。

 

 

オーロラにも似た美しい光が……

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

真白は、戦闘の隙を見て真霜に連絡を取っていた。

 

 

 

 

「宗谷室長、時間が有りませんお願いがあります」

 

 

 

 

そして真霜からの返答に真白は決意の表情を見せる。

 

 

 

 

 

(艦長は私が守る!)

 

 

はれかぜは揺れ、ハウニプーと播磨からの苛烈な砲撃は止まない。

 

 

防御重力場も限界である中、明乃は攻撃の手を緩めず、播磨への突撃を強行している。

先程、キリシマ撃沈の報を受けてからは、更にひどい。

 

 

 

まるで、攻撃衝動に心を喰われてしまったかのようだった。

 

 

   + + +

 

 

「あれほどの力を持った蒼き艦隊ですら敵わないのか……」

 

 

シュルツの顔が一層険しいものとなった。

 

 

「艦長、致し方有りません。試験段階ですが【光子流弾砲】の使用を検討するしか手はないかと……」

 

 

「まさか、これを使うわざるをえない状況になるとはな……だがやむを得ない。ここで奴の防壁を飽和させる。総員、攻撃準備をなせ!」

 

 

 

シュルツの号令で、艦内の動きが慌ただしくなる。

 

 

   + + +

 

 

 

 

 

ズドォォォォン!

 

「うっ、ぐっ!」

 

 

401のブリッジが激しく揺れ、クルーは手近な者にしがみついた。

 

 

 

衝撃が去った後、一同の表情は暗く、群像の表情は特に険しかった。

 

 

世界に風穴を開けるべく、覚悟して危険な海にこぎだした筈だったにも関わらず、蓋を開けてみれば、味方の撃墜と撃沈にこれ程心が揺らいでいる。

 

 

味方を守りきれなかったことに腹を立てていたのかもしれない。

 

 

 

 

世界に風穴を開けると大言壮語を吐いておきながら、実際には手も足も出なかった自分自身に………

 

 

「群像?」

 

 

「あぁ……うん、どうした?」

 

 

「群像、凄く辛そう……」

 

 

「そう…か?」

 

 

心配そうに覗き込んでくるイオナに、群像は慌てて表情を戻す。

 

 

 

艦長の不安は艦全体に広がり、指揮に大きな影響を及ぼす。

 

 

如何なる状況でも感情を殺し、的確な指示を出すことが、自分や味方の生存率に影響を及ぼすという意味では、群像の表情はあってはならないものだった。

 

 

「心配するな。大丈夫だ……」

 

 

「…うん。わかった」

 

 

イオナはそれ以上なにも言わなかったが、少し困ったように笑うイオナの表情に、群像は気持ちを見透かされているような居心地の悪さを覚える。

 

 

「艦長よぉ。いい加減アイツを何とか出来ねぇのか?」

 

 

 

杏平の言葉をかけられイオナから視線を外した群像は表情を引き締めて答える。

 

 

 

 

「あの円盤型航空機の事か?」

 

 

「ああ、静の話じゃアイツは一機が観測用、一機がその護衛兼牽制役なんだろ?他の艦には牽制でもこっちは潜水艦だ、播磨からの攻撃もある。こうも何発も喰らってたら身がもたないぜ?せめてあの観測用の円盤だけでも落とせねぇもんなのか?」

 

 

 

 

「確かに杏平の言うことにも一理ある。それについては、既に手を打ってある。」

 

 

 

「大丈夫なのか?ヒュウガのスキャニングでは時速3000kmを超える速度で飛んでんだろ?それに旋回性能も高い。潜水艦で落とすには骨がおれるぜ?」

 

 

 

「心配するな…必ず墜とすさ。奴を落とせば、播磨の砲撃精度は著しく低下し、フィールドや防御重力場の回復の邪魔をされないためにも重要な作戦だ。必ず成功させる」

 

 

「まったく…その自信はどこから出てくるものやら。それに、仮に円盤型航空機撃墜したとして播磨はどうするんだ?」

 

 

 

「ヒュウガが席をはずしている今、サポートは期待できないが、勝算は0ではない。幸いにして、奴の対潜武装はミサイルと噴進爆雷砲の二つだけ。警戒すべきはミサイルだが、それを覗けば我々は播磨を遠距離から攻められる唯一の存在だ。必ずチャンスを作るぞ!」

 

 

群像の言葉にクルーたちは頷き、クラインフィールドのダメージを放出した401は、再び播磨へと舵を切った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「キリ…シマ?」

 

 

 

 

遠くに見える虹色の光を見て、もえかとタカオは愕然とした。

 

 

 

「タカオ!キリシマはどうなったの!?」

 

 

「解らないわ……重力震が強すぎて観測ができない。キリシマのコアが無事なら、再生はいくらでもきくけど、失われてしまえば……」

 

 

「そんな………」

 

 

「悲観する暇は無いわ。まずは、こいつを何とかするわよ!」

 

 

 

 

「そう…だね」

 

 

悲しみを殺してもえかが見た先には、空に超高速で飛行する2機の円盤がいた。

 

 

 

「チッ、こざかしいわね…。叩き落としてやるわ!」

 

 

 

「タカオ!あぶない!」

 

 

 

次の瞬間、凄まじい水柱が立ち上ぼり、タカオの船体が大きく傾き、もえかとタカオは思わずよろけてしまう。

 

この水柱の元凶は言うまでもなく播磨だろう。

 

 

ハウニプーによる観測により砲撃精度の増した播磨の100cm砲は、距離とっていても、まるでミサイルの様に正確に飛んでくるのだ。

 

 

 

更に上空にいる護衛のハウニプーからのレーザー攻撃も相まって、クラインフィールドのダメージの放出が間に合っていない。

 

 

 

 

「まずいわね……ダメージを放出するどころか、もう飽和寸前よ!何とかアイツの私達への位置観測を止めさせないとやられるわ!」

 

 

「そんなこと言ったって……あっ!た、タカオ!あ、あれ!」

 

 

「今度は何…え?」

 

 

 

 

タカオが目を見開く。

 

播磨の超巨大砲 160cm砲が再び稼働を開始した。

 

 

 

 

 

「まずい…あれはまさか!」

 

 

 

 

播磨の狙いは……

 

 

 

 

「私達?」

 

 

「くっ、離脱するわよ!今あんなの喰らったら塵も残らない!」

 

 

「タカオ!急いで回避準備を……きゃぁぁ!」

 

 

ズドォォォォン!

 

 

播磨の100cm砲が、次々とタカオの回りに着弾し海面を掻き回し、上空からのハウニプーの牽制で身動きがとれず、その間にも播磨は超巨大砲の発射体制に入る。

 

 

 

最早一刻の猶予もなかった。

 

 

 

 

「仕方ないわね。もえか!潜るわよ!」

 

 

 

 

タカオは、苦肉の策として潜航を選んだなのだった。

そして、彼女船体が水中に完全に沈んで僅か数秒後………

 

 

 

 

ズドォォォォン!

 

 

 

 

海面付近で爆音が轟いた。その轟音はタカオの耳にビリビリと不快な振動を伝える。

 

 

「間一髪だったわね……」

 

 

「潜航したけど、なにか策はあるの?」

 

 

「少なくとも砲撃には晒されないわ。でもこれはただの時間稼ぎね。長くは持たない……水中は衝撃をよく伝えるからフィールドの負荷が増えるのよ。それに水上艦の私は水中戦は不向きだし、小回りもきかないわ」

 

 

「演習の時は聞かなかったけど、戦闘にどのくらいの制限がかかるの?」

 

 

「直ぐに使えるのは魚雷とミサイルくらいね。レーザーは水中での屈折率の関係で思ったように目標には当てられないわ。401なら、水中でのレーザーの扱いには長けているから問題はないでしょうけど、超重力砲は莫大な演算を要するから、クラインフィールドの展開に支障を来すし、水圧や浸水を防ぐ役割もあるフィールドが飽和すれば、私は大丈夫だけど、もえかは耐えられないでしょうね」

 

 

「万事休す……か。でも、砲撃に晒されないだけでも違うと思う。ミサイルや爆雷もある程度なら迎撃可能なことも解った。今のうちに少しでもフィールドのダメージを放出しよう。そうして時間を稼いで、チャンスを作るしかないと思う」

 

 

「解ったわ。それじゃ……ん?」

 

 

「どうかしたの?」

 

 

「今、通信が入ったの………うん、そう解ったわ。それじゃまた後で」

 

 

「タカオ?」

 

 

「さすが、私のマイアドミラル……」

 

 

「千早艦長からの通信だったの?」

 

 

「違うわ。だけど艦長は既に手を打っていたの。だからアイツから通信が来たって訳。待っていればチャンスが必ず来るわ!」

 

 

 

 

「アイツって?」

 

 

「それは……」

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くそ!早くあの超巨大砲を無力化しなければ全滅だ!」

 

 

「しかし、こうも正確な砲撃を浴びせられては、回避に専念せざるを得ません!」

 

 

「くっ 光子榴弾砲の準備はまだか?」

 

 

「調整に今少しかかります!」

 

 

「急がせろ!超巨大砲に狙われたらおしまいだ!」

 

 

 

「艦長!」

 

 

「今度はなんなんだ……」

 

 

「い、いえ。はれかぜが………」

 

 

「はれかぜがどうかしたの………か?」

 

 

 

 

シュルツがはれかぜの方角に目をやると、そこには播磨に向かって攻撃をしながら突っ込んでくるはれかぜの姿があった。

 

 

 

 

「馬鹿な…なぜ突撃してきている!砲撃戦で相手になるような相手じゃないんだぞ!ナギ少尉。至急離脱するよう通達するんだ!」

 

 

「ダメです。通じている筈なのですが応答が有りません!」

 

 

「血迷ったとでも言うのか?いや、岬艦長に限ってそんなことがあるわけがない…」

 

 

「艦長!超巨大砲がまた稼働を再開しました!狙いは……」

 

 

「くそ!狙いははれかぜだ。総員、対空戦準備!はれかぜの位置を観測しているハウニプーに対空ミサイルを集中させろ!このままでは犠牲者が出てしまう!」

 

 

ミサイルがハウニプーに殺到するが、素早い動きと護衛のハウニプーのパルスレーザーに迎撃され撃ち落とす事が出来ない。

 

 

 

その間にも超巨大砲ははれかぜに狙いを定める。

 

 

「やはり駄目なのか……」

 

シュルツを含め誰もが、はれかぜの撃沈を覚悟したその時……

 

 

 

 

ゴォォォォ!

 

 

出雲の真上を凄まじい速さの飛行物体が通過した。

 

 

更にそれは、はれかぜの位置観測を行っているハウニプーに向かって行き、機体に抱いていたミサイルを至近距離で発射。

 

 

 

ミサイルは着弾すると、まるで食いちぎるようにハウニプーの機体を抉り取り、直後発生した爆発によってバラバラに四散しながら海へと落ちていく。

 

 

直後、はれかぜは転舵し回避運動に入り、それと同時に、播磨の超巨大砲が火を噴いた。

 

 

 

隕石の如く降り注ぐ、巨大な砲弾が海を掻き回す。

 

 

しかし位置を正確に把握出来なくなった播磨は、はれかぜに砲弾を直撃させることが出来なかった。

 

 

 

 

はれかぜは直ぐ様離脱を試みる。

 

 

 

シュルツは目を見張った。

 

 

ハウニプーを撃墜出来たこともそうだが何より驚いたのは、その飛行物体の機種である。

 

 

 

時速3000kmで飛行する敵に追い付いたのは何とレシプロ機であったからだ。

 

 

 

更にその苛烈な速度で凄まじい旋回性能を発揮して、レシプロ機が凄まじいレーザー攻撃を仕掛ける。

 

 

 

勿論、相手もただでは終わらない。

 

 

レーザーを巧みに利用して攻撃を加えて来たのだ。

 

 

機体をレーザーが貫く寸前、何かの壁に当たり消滅、本体は無傷だった。

 

 

 

「もしやあれは、クライン…フィールド?」

 

 

 

 

シュルツが呟いた時、謎のレシプロ機から通信が入る。

 

 

『間に合ったか……』

 

 

 

 

「あなたは……まさか!大戦艦¨ハルナ¨!!?」

 

 

『ああ、遅れてすまない。少し事情があってな……』

 

 

「構いませんが、しかしあなたの乗っているその機体は?」

 

 

『これか?これは、【セイラン】という401が所有している航空機だ。見た目はアレだが、少なくとも人類の航空機よりは性能は桁違いだろう。コイツらは私が相手をする。その間にお前達は、播磨攻略の糸口を掴み撃沈しろ』

 

 

 

 

 

「潜水艦が航空機を所有!?しかし、ずれにせよありがたい!だがあなたは、参戦に消極的だったのではないのですか?だから、今回はスキズブラズニルに残り刑部蒔絵さんの護衛務めていた」

 

 

『勿論だ。蒔絵を不用意な戦闘に巻き込む訳にはいかん。だが、キリシマを通じてモタリングしていた超兵器の映像から、放置すれば後に蒔絵の生命にとって重大な驚異になると判断した。千早群像は、おそらくこうなることを事前に予測していたのだろう』

 

 

 

 

「千早艦長が……ですか?」

 

 

 

 

『ああ……出撃前にセイランの扱い説明についてと、使用権限の移譲を済ませるよう指示を受けていた。本来フィールドを張ることが出来ない航空機でも、私が直接乗ることで、その問題も解消されるからな』

 

 

 

 

「そうだったのですか……解りました!我々は播磨を攻めます。あなたは敵航空機を撃墜し、播磨の超巨大砲の無力化をお願いしたい」

 

 

『心得ている。それともう一つ伝えておくことがある。戦況を変えるものではないが、これでお前達の憂いは少しは晴れるやもしれん』

 

 

 

「どのような内容なのですか?」

 

 

 

 

「それは………」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

ハルナからの伝言に目を見開いた彼は、再び表情を引き締め、クルーに指示を飛ばして播磨へと再び距離を詰めていった。

 

 

   + + +

 

 

ハルナの登場の少し前

 

 

 

はれかぜは播磨へと突撃していた。

 

 

 

全ての砲門を播磨に向け、全速力で突っ込むと言う、今までのはれかぜにはなかった戦術。

 

 

 

 

不安になった幸子が明乃に近づく。

 

 

「か、艦長。このままでは播磨の弾幕に突っ込む事になります。回避を選択されてはどうでしょうか……?」

 

 

「納沙記録員、それは指揮を預かる艦長への介入であると見なすが?」

 

 

 

「申し訳ありません……」

 

 

 

 

ギロリと睨まれ 、幸子は思わず下がってしまった

 

 

 

 

「かかか、艦長!でもこれ以上は流石にマズイよう。逃げた方がいいよぅ……」

 

 

 

鈴においては恐怖で号泣しており、涙でろくに前も見えない状態だ。

 

 

 

だが、明乃の表情は冷徹だった。

 

 

「知床航海長!聞こえなかった?進路そのまま、全速前進!」

 

 

「で、でもぅ……」

 

 

「復唱せよぉぉ!」

 

 

「ひ、ひぃぃ!!し、進路そのまま!ぜぜ全速前進!」

 

 

明乃の怒声に、鈴を始め辺りの人間はすっかり怯えてしまっている。

 

 

 

 

その時、満を持して真白が明乃に近づいた。

 

 

 

「艦長、お伝えしなければならないことがあります……」

 

 

「なにか?宗谷副長」

 

 

 

「はい、岬明乃艦長。あなたをはれかぜ艦長から解任し拘束します。」

 

 

「なっ……!」

 

 

 

「なんの権限で?と仰りたいのでしょう?これは、宗谷真霜安全監督室長からの命令です!貴官は本作戦において、乗組員の生命に著しい危険をはらんだ命令を立て続けに発令した。これは海の安全を守るブルーマーマイドの根本理念を逸脱する行為であり、極めて看過できない!!よって、現時刻をもって、岬明乃一等監査官をはれかぜ艦長より解任。私…宗谷真白はれかぜ副長を艦長とし、乗組員は彼女の指揮に入る事とする。これは、れっきとした上位命令です。従って頂きますよ。¨岬さん¨」

 

 

 

「副長ぉぉぉ!」

 

 

 

「いえ、もう艦長です。内田まゆみ右舷航海管制員!確か柔道の経験者だったな。岬さんを拘束して。納沙さんは鏑木さんに連絡を!」

 

 

「りょ、了解!」

 

 

 

明乃は拘束しようと近づいたまゆみに掴みかかるが、呆気なく抑え込まれ拘束されてしまう。

 

 

 

「邪魔をするなぁぁ!撃滅だ!!撃滅する!」

 

 

明乃の怨嗟を含んだ叫びが艦橋に響き渡るが、喚きちらす明乃を無視して幸子に訊ねた。

 

 

 

 

「状況は?」

 

「敵の超巨大砲が此方を狙ってきています。」

 

 

「回避を!」

 

「無理です!!播磨に接近しすぎています。弾幕が凄すぎて、迂闊に動く事ができません!」

 

 

「くっ、出来るだけ私達を釘付けにして止めを刺すつもりか!せめて上空にいる観測機体を撃墜出来れば……」

 

 

 

 

 

その時だった。

 

ズドォォォォン!

 

 

 

 

突如、高速で現れた航空機が上空の敵を撃墜し、粉々になった敵の円盤型航空機が落ちていく。

 

 

呆気にとられている一同をよそに、謎の航空機から通信が入ってきた。

 

 

 

 

『今だ!早く安全圏に離脱し、体制を立て直せ!』

 

 

 

「あなたは?」

 

 

 

『大戦艦ハルナだ。説明している暇はない。超巨大砲はもう発射寸前だ!早く離脱しろ!』

 

 

「支援感謝します!航海長、取り舵一杯!」

 

 

「よ、ようそろ―!」

 

 

 

 

はれかぜが転舵し、全力で播磨から距離を取った直後、先程まではれかぜがいた海面に巨大な砲弾が着弾して炸裂した。

 

 

距離を取り始めたはれかぜのもとにも、その轟音と波が押し寄せる。

 

 

怯んでいる暇も立ち止まる隙もあるわけがない。

 

 

 

真白は、指示を飛ばして、砲弾を巧みに回避しながら播磨から距離をとっていった。

 

 

そこへ美波が色々な機材と一緒に艦橋へと入ってくる。

 

 

 

 

「話は聞いた。これから調査にはいる」

 

 

 

「頼む、何とか岬さんを助ける糸口を掴んで欲しい」

 

 

 

「私に異常なんて無い!早く拘束を解いて!一刻も早く敵を撃滅しなければならないの!」

 

 

 

喚き散らす明乃の様子をみて美波と真白が頷き合う。

 

 

 

 

「やってみよう……だがこの症状が¨6年前¨と同一かどうかは疑わしい。違うとなれば、別の角度から調べるしかないが……」

 

 

「頼む……!」

 

 

「心得た。内田さん、悪いがそのまま岬さんを押さえて居てくれ。注射や機材を装着するのに暴れられては危険だ。山下さんは岬さんの上着を脱がせてくれ、機材を装着する」

 

 

「「了解」」

 

 

 

「何をする、やめろ!」

 

 

 

「岬さん…少しの我慢だ」

 

 

もがく明乃をまゆみが押さえ付け、秀子が上着を剥ぎ取って下着だけにする。

 

さらに美波が手際よく機材を装着し、モニターに波形が表示された。

 

更に彼女は、注射で明乃の血液を採取し調べ始めた。

 

 

 

真白は、前を向いたまま振り返らない。

 

危険域を脱しつつあるとはいえ、砲弾は止まずに飛んでくるのだ。

 

 

 

【岬明乃を正気に戻すまで誰一人失わせない】

 

 

 

その気持ちだけが唯一真白の正気を支えていたのだった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

超兵器との決戦の数日前の東京

 

 

 

総理大臣官邸

 

 

 

 

超兵器の対策本部が置かれた官邸内では、皆の溜め息が漏れ聞こえる。

 

 

無理もない、諸外国への対応や住民への支援と破壊された街の復興予算の策定。

 

 

やることは山ほどあるが、何より閣僚たちの頭を悩ませているのは、やはり超兵器に対する対応だろう。

 

 

万が一敗北と言うことに成れば、諸外国からの責任追及は免れないし、何より世界は滅びに向かう。

 

 

 

 

「少し頭を整理してくる」

 

 

 

 

内閣総理大臣、大湊清蔵は席を立ち部屋を後にする。

 

 

 

 

向かった先は、愛煙家の議員立ちの願いによって建物の片隅に追いやられるように設置された喫煙所であった。

 

 

彼は煙草を取りだして火を付け、口にくわえる。

 

 

 

 

「ん……ふぅ……」

 

 

 

ゆっくりと煙を吐き出した彼は、一瞬ではあるが久方ぶりに肩の力が抜けた気がした。

 

 

だが、ふと視線を向けた先に立っている人物を見た大湊はうんざりしたような表情を浮かべ、名残惜むように吸ったばかりの煙草を灰皿に突っ込む。

 

 

 

 

「やはり現れたか……」

 

 

 

大湊は、口に含んでいた残りの煙を吐き出すと、苛立たしげに喫煙所の外へ出た。

 

 

彼の目の前に現れた人物は敬礼をする。

 

 

大湊はそれに適当な頷きで返すと皮肉じみた口調で話始めた。

 

 

 

「おやおや。この様なところにわざわざお越しとは……流石の【来島の巴御前】も、この度はお手上げと言ったところですかな?宗谷真雪殿」

 

 

「あなたも相変わらずでなによりですわ大湊さん」

 

 

「全く………防衛省時代から貴女の一族には苦労を強いられましたが、どうやら今回も例に漏れず厄介事を持ち込もうとそう言うわけですな?」

 

 

 

目の前にいる彼女の顔をろくに見もせずに、ヘラヘラと軽薄な表情を崩していない大湊に対して、真雪も毅然とした態度を崩さない。

 

 

 

「はい。この度のブルーマーマイドの異世界艦隊への合流の件で伺いました」

 

 

 

 

「アレは仕方がないよ。こちらの弱みを握られちゃぁね」

 

 

 

 

「違います。その事ではなく、¨派遣されているメンバー¨についてです。」

 

 

 

 

大湊の顔が急に険しくなった。

 

 

 

 

 

「気付いていたのかね?」

 

 

 

「いえ……ですが優秀な者はいくらでもいます。なぜその中で¨彼女達¨なのか教えて頂きたい」

 

 

「理由?強いて言うならば、6年前の事件で実戦経験豊富な彼女達だからとしか……」

 

 

 

「嘘ですね?」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「先程、彼女達と言いましたが、正確には¨彼女¨でしょう?他のメンバーは言わば目眩ましのようなもの」

 

 

「はぁぁ……」

 

 

 

大湊は心底うんざりしたように溜め息をついた。

 

 

 

 

「¨岬明乃¨艦長の事かね?」

 

 

「はい。あなたはもしや【16年前の事故】と今回の超兵器の強襲に何か関連があると考えてらっしゃるのではないかと」

 

 

 

 

「そこまで掴んでいたとはね……」

 

 

 

「確信はありませんでした……ですが、当時の隊員の証言と、今回の案件とが無関係とは思えないのです。それに当時、ただの海難事故に防衛省が動いたという記録もあましたしね」

 

 

「失敗だったね……もっと完璧に箝口令を強いておくべきだったかなぁ……」

 

 

 

 

「あの時、あの海で一体何があったのですか?」

 

 

「機密事項だよ」

 

 

「教え子達の命が懸かっているのですよ!」

 

 

 

 

二人は暫し睨み合う。

 

 

 

折れたのは意外にも大湊だった。

 

 

 

「君は、本当に変わらないな¨真雪¨君。真っ直ぐで、そして何より綺麗だ。君が昔、私に恋文を渡したときを思い出したよ」

 

 

「今は、そんなこといってる場合じゃ…」

 

 

 

「16年前の海難事故。あれは、ただの事故じゃない……いや、¨事故ですらない¨可能性がある」

 

 

 

 

大湊表情から軽薄さが消え失せ、餓えた肉食獣のような表情を浮かべていた。

 

 

 

 

 

「当時、気象庁へ問い合わせたんだよ。日本近海は、強い高気圧のど真ん中にいた。嵐が発生する可能性は低かったし、当時の気象レーダーにも、事故発生海域に積乱雲の類いはなかった。それは、直前まで事故海域を航行していた船舶の乗組員からの聞き取りでも、嵐が起こる兆候すら無かったとの証言を得ている」

 

 

 

 

「そこまでは、私も聞き及んでいます」

 

 

 

「うむ……問題はここからだ。当時、事故にあった船舶の生存者から興味深い証言を得ていてね」

 

 

 

「どの様なものですか?」

 

 

「【雷を纏った空を飛ぶ巨大な化け物】を見た………と」

 

 

 

 

 

「…………は?」

 

 

 

 

真雪は頭がついて行かない。

 

 

一瞬、大湊が自分をからかっているとも思った。

 

 

だが、彼と旧知の仲である真雪だからこそ解るのだ。

 

 

 

この表情の大湊に嘘など微塵もないのだと………




お付き合い頂きありがとうございました。

一度決着までにクッションを置いていこうと思います。

それではまたいつか。




とらふり!

大湊
「娘は君に似てきたね。荒々しいとことか腹黒い所とかさ。三番目の子は父親似の様だがね」

真雪
「はい、あの子を見ているとまるであの人の生き写しの様ですわ。あ・の・ひ・と・の(ハート)」

大湊
「真顔でクネクネされてノロケられても対応に苦慮するよ…」






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雷雲纏いし災禍の凶獣

お疲れ様です。

ちょっとだけ戦闘を離れ一度クッションを置いて決戦に入っていきたいと思います。


それではどうぞ


  

 

 

   + + +

 

 

 

小笠原沖

 

 

 

ズドォォォォン!

 

 

 

播磨の砲撃は遠く離れたはれかぜの下にも、いとも容易く届く。

 

 

 

真白は、指示を飛ばして回避に努めた。

 

 

一刻も早く防御重力場を回復させ、播磨への攻撃に参戦しなければならない焦りの色が一同の表情に浮かび上がる。

 

「宗谷艦長代理、心なしか他の艦よりはれかぜにだけ砲撃が多い様におもわれますが………」

 

 

 

幸子が心配そうに真白に訊ねる。

 

 

 

「おそらくは、この艦が一番脆弱であるからだろうな。だが今は回避に専念して耐えるしかない。防御重力場無しでは一瞬で狩られる。応急修理も済んでいないしな。それに……」

 

 

 

真白は明乃をみる。

 

 

 

先程まで暴れていた明乃は、美波に鎮静剤を打ち込まれ、手足を縛られたまま眠っている。

 

 

 

上着を剥ぎ取られ下着姿の彼女の身体には幾つもの電極が装着されており、美波がモニターに写し出される波形を凝視している。

 

 

 

 

「鏑木医務長、どうなんだ?」

 

 

「興味深いデータが取れたよ」

 

 

「なんだ?」

 

 

 

 

「以前シュルツ艦長から説明があったと思うが、超兵器出現の際は不自然なノイズが現れる。今回に至っても例外ではなかっただろう?」

 

 

「それが岬さんと何の関係があるんだ?」

 

 

 

 

「単刀直入に言おう。超兵器の発するノイズの波形と同一のものが、岬さんの脳波から検出された」

 

 

 

 

「な、何だって!?」

 

 

 

 

真白は驚愕する。

 

 

 

無理もない。

 

 

 

人間であるはずの明乃の脳から、兵器と同じ波形が検出されたのだから……

 

 

 

真白は目眩をもようすのを必死でこらた。

 

美波はそんな彼女に構わず続ける。

 

 

 

 

「これは、あくまで推測でしかないが。¨岬さんと超兵器の間には何らかの接点¨があるのではないかと考えられる」

 

 

 

 

「接点だと?」

 

 

 

 

「ああ……さっき納沙さんも言っていたように、はれかぜに対しては妙に超兵器の攻撃が多い、しかも正確にだ。更にこの戦闘が始まった一番最初、播磨の砲撃が一番近くに着弾したのは他の大型艦ではなく、この小さなはれかぜだった。更に勘ぐるのであれば、横須賀の襲撃だ。」

 

 

 

 

「横須賀強襲?」

 

 

 

「うむ……他にも叩くべき基地や、ましてや首都東京だってある。その中でなぜ、超兵器は横須賀を強襲する必要があったのか。それはもしかすると、岬さんに関係があるのやもしれん」

 

 

 

「話が飛躍し過ぎてないか?」

 

 

 

「あくまで推測でしかないと言ったろう?だが……このデータが示す意味を考慮から外すことはできん」

 

 

 

 

真白は俯いて考え込む。

 

 

 

思えば自分は、明乃の生い立ちについて深くきく事はなかった。

 

 

 

海難事故による両親の死去。

 

 

 

6年前に明乃から明かされたことだったが、その事情の複雑さゆえに詳しく聞き出すことが出来なかったのだ。

 

 

 

 

(岬さん……あなたは一体何を抱えているんだ?)

 

 

 

 

意識が無いながらも苦悶の表情を浮かべる明乃に、真白は心で問いかけた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

数日前

 

 

総理大臣官邸

 

 

 

 

「空飛ぶ化け物?まさか、あなた程の方がパニックを起こした乗客の言葉を鵜呑みにするとは驚きましたよ」

 

 

 

真雪は皮肉をたっぷり含んだ声で大湊に言いはなったが、彼はは表情を変えない。

 

 

 

 

 

「でも聞いたのだろう?¨知名もえかの亡き母親¨から」

 

 

 

 

「…………!」

 

 

 

 

「そうとも。知名もえかの母親は、当時¨救出活動を行っていたブルーマーマイドの隊員¨の一人だ。そして生存者から化け物の話を聞き、その話を君にも話した。それを思い出したからここに来たのだろう?」

 

 

 

 

「その通りです……ただ、化け物の話だけなら、私も放って置いたでしょう。でもそのあと、事故の原因調査の際に防衛省の介入によってブルーマーマイドは蚊帳の外となり、沈没の詳しい原因は解らなかった。不自然でしょう?現場海域への立ち入り制限だけでなく、生存者への聞き取りや個人情報の閲覧までもが禁じられた。上に問い詰めても【君に知る必要の無いこと】の一点張り。あの事故にはとても根の深い何かあると考えるのが自然だわ」

 

 

 

「確かにね……だが結果として、あの時メディアへ露出しなかったことは行幸だと言わざるを得ないな。当時施行されたばかりの特定秘密保護法サマサマだよ」

 

 

 

 

(くっ……論点をずらされている。この人は昔から掴み所が無い。このままでは逃げられてしまう!)

 

 

 

真雪は、話題が大湊のペースになりつつあることに危機感を覚える。

 

 

古い仲とはいえ、仮にも国のトップである彼がそう簡単に口を滑らす筈もないからだ。

 

 

 

 

 

「お願いします。あの事故の真実を教えて頂きたい!」

 

 

 

 

「特定秘密だ、教えられないよ」

 

 

 

 

いよいよ明確な拒絶の言葉が出てくる。

 

 

 

だが引き下がる訳にはいかなかった。

 

 

 

 

「教え子の命に関わるのよ?お願い!」

 

 

 

 

「感情論かね?だが、君の立場では何も出来ないよ。済まないがそろそろ戻らなくては、こう見えても総理大臣というのは忙しくてね……」

 

 

 

 

「清蔵さん!!」

 

 

 

「君の旦那に宜しくね。なにせ¨私の親友¨だからさ」

 

 

「え!?」

 

 

「君が私に恋文を渡して玉砕した後、傷心の君に彼を近付けたのは私さ。彼は君のように理想に燃える女性が好きだったからね。きっといいパートナーになれると確信していたよ」

 

 

「あなたは、人の心をなんだと思って……」

 

 

「おやおや、お気に召さなかったかな?てっきり君もアイツのように理想に燃えていて、しかも海でしか生きることの出来ない人魚姫を、人の身でありながら全身全霊で真っ直ぐに受け止めてくれる人物に惹かれるとふんでいたのだがね」

 

 

真雪は怒りで身体が震えた。

 

 

 

世界が終わるかも知れないときに、プライベートな話題でからかってくる国のトップに真雪は怒りを越えて殺意すら沸いてくる。

 

 

「あなたは……!!」

 

 

「まぁ今回は大切な友人の顔を立てて、少しだけ話そう。君は【はれかぜの彼女】の国籍はどこだと思うかね?」

 

 

「急に何を……!」

 

 

 

「いいから答えたまえ」

 

 

「日本に決まっているでしょう?」

 

 

 

「50点だな。」

 

 

「では、東洋人……中国や台湾ですか?」

 

 

「ははっ!凄いな、0点だ!」

 

 

真雪の我慢は限界だった。半分投げやりになって乱暴に言い放つ。

 

 

 

 

「解りませんよ!そんなんじゃ!!」

 

 

 

「100点!正解だ。」

 

 

「………は?」

 

 

「解らないんだ。正確には¨日本らしい¨ということだけ。現在の¨彼女¨の国籍は事故後に申請されたものでね。それ以前の記録は無いんだよ」

 

 

「一体何を仰っているのか解りません………」

 

 

 

 

真雪は毒気を抜かれた様な表情になった真雪に、大湊は再び大きな溜め息をついた。

 

 

「箱根だ。あそこは良い」

 

「何なのですか本当にっ」

 

 

 

 

真雪は再び苛立ちを露にする彼女に構わず、大湊は話続けた。

 

 

 

「景色は良いし、温泉もある。食べ物も美味い」

 

 

 

「だから一体何が……」

 

 

「それに¨物知り¨の観光ガイドもいる。【普段は知り得ないような穴場について】も、とにかく詳しく知ってるんだよ。」

 

 

「!!!」

 

 

「是非¨試し¨に行ってみたまえ。気に入ったら次の休みにでも、アイツと二人で行くのも良いだろう。まぁ¨もし世界に次が有ったら¨……だがね」

 

 

大湊はニコッと笑い、そう言うと対策本部へと戻っていく。

 

 

 

扉を開けようとした大湊に真雪は叫んだ。

 

 

「清蔵さん!¨彼女¨は、岬明乃とは何者なのですか!?」

 

 

 

 

ドアノブに手を添えている大湊の表情を伺い知る事は出来ないが、今まで聞いたどの大湊の声よりも低く、そして彼にしては珍しく恐れを含んだか細い声が耳に届いた。

 

 

 

 

「彼女は言ってしまえば¨52-hertz whale(52ヘルツの鯨)¨さ。生まれつき孤独と死に取り憑かれた【災禍を呼ぶ呪われた子】だよ………」

 

 

 

 

大湊はそれだけ言うと部屋の中へ消えて行く。

 

 

「呪われた子…一体どういうことなの…?」

 

 

 

大湊の最後の言葉を真雪は忘れることが出来なかった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

 

超兵器との決戦前日

 

 

 

箱根

 

 

 

標高が高く地盤沈下を免れたこの地は、今や温泉等の観光だけでなく、山を造成し新たな農業の町として国民の食を担う重要な役割を得ていた。

 

 

観光客で賑わう町を宗谷真雪は歩いていた。

 

 

大湊曰く、ここには岬明乃について重要な事を知っている人物がいるらしい。

 

 

だが闇雲に歩いている暇は無い。

 

 

 

真雪は箱根の観光案内所を訪ねて聞いてみることにした。

 

 

 

「すみません。この町について詳しい事を聞かせてもらえるかしら?」

 

 

「ええ、何なりと!」

 

 

 

 

背中に箱根とかかれた、抹茶色の法被を着た男が威勢よく答えた。

 

 

 

「この写真の子に詳しい人をご存知かしら?」

 

 

 

男は、首を傾げる。

 

 

 

「はぁ……この子と箱根と何か関係があるんですか?」

 

 

 

 

いきなり暗礁に乗り上げた感じがして、真雪は溜め息をついた。

 

 

 

 

(なによ!全くあてにならないじゃない!まさか…またからかわれたのかしら?)

 

 

「あの~。お客さん?もしかしてこの子のお母さん?迷子とか?」

 

 

 

真雪はひきつった笑顔を浮かべた。

 

 

 

「あら~まだ私が母親に見えるのかしら?何だか嬉しいわね~。でも違うわ。質問を変えましょう。この辺になんでも知ってそうな有名人っているかしら?」

 

 

 

 

男は、一瞬考え込むと何か思うところを思い出したらしい。

 

 

 

「んん~多分あの人かなぁ~」

 

 

 

「あの人?」

 

 

 

「はい。作家さんなんですがね。向こうの山の麓に別荘なんか構えちゃって悠々自適な隠居生活をおくってらっしゃる人が居るんですよ。羨ましいなぁ~私もあんな生活を送ってみたいですよ~。やっぱりがっぽり稼げるもんなんですかねぇ~¨総理大臣¨ってのは」

 

 

 

 

「え!?…総理大臣!?」

 

 

 

 

「元ですよ、モ・ト!知りませんか?自身の総理大臣経験を綴ったとか言う【日本の破滅】って本を執筆して話題になったあの人ですよ!物知りの有名人って意味じゃこれ程人はいないと思いますがね」

 

 

 

真雪は目を見開いた。

 

 

大湊が推薦した人物がまさか、元総理と言う超大物だとは考えてもいなかったからだ。

 

 

 

だがこれは好都合だった。

 

 

真雪は男に、自分はその人物のファンだと言い、自宅の詳しい場所を聞き出した。

 

 

男は、疑わしい者を見る目を真雪に向けるも、真雪の覇気に根負けして、手元にあったメモ紙にその人物宅への地図を書き込んだのだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「ここで間違い無さそうね……」

 

 

 

観光案内所の男に書いてもらった地図を参考に到着した場所には、元総理の別荘とは思えない程質素な造りの建物があった。

 

 

周りを広葉樹に囲まれ、温泉街の喧騒も聞こえない寂しい場所にひっそりと佇む建物の扉を真雪はノックする。

 

 

 

「誰だ………」

 

 

 

年老いながらも凄みのある声が中から聞こえてくる。

 

 

 

真雪は意を決して問いかけた。

 

 

 

「¨國枝宗一郎¨元総理宅で宜しいですか?」

 

 

「無礼な輩だ……人に名を訊ねる前に先ずは貴様から名乗らんか!」

 

 

「失礼いたしました。私は、横須賀女子海洋学園校長の宗谷真雪です。本日は國枝元総理に伺いたい事がございまして参りました」

 

 

 

「宗谷…だと?」

 

 

 

「はい。國枝元総理、あなたとお話がした……」

 

 

「帰れ!!宗谷の名を持つ者となどと顔を合わせたくもない!」

 

 

 

「しかし……!」

 

 

「問答無用!忘れたとは言わせんぞ!貴様の祖父母の宗谷厳冬と宗谷セツ貴様の母親の宗谷つらら。そして貴様だぁ!【来島の巴御前】!貴様らのせいで、どれだけ政府や私が苦労したと思っている!口先だけの正義を振りかざし、無闇やたらにしゃしゃり出てきてお上に突っかかる。国益を重視し、念密に練った政策に口を挟んでめちゃくちゃにした!国会議員を含めた中央公務員の1日の給料が一体幾らか知っているのか?1日の会議にどれだけの税金が使われているのか理解しているのか?ええ?貴様らが介入して通らなかった法案でどれだけ国民の血税が失われたと思う?どれだけ国民の貴重な労働対価が失われたと思ってるんだ!解るか?解らんだろう!所詮恵まれた家庭でなに不自由の無い環境で育ち、将来を約束された貴様などに何も理解出来る筈もない!」

 

 

 

 

國枝は完全に錯乱していた。よほど、頭にきているらしい。

 

 

 

真雪は、國枝の言っていた母や祖父母の顔を思い浮かべた。

 

 

優しく正義感に溢れた、自慢の家族だった親族を、あたかも悪鬼羅刹だったかの様に吐き捨てる國枝に真雪は少し苛立つ。

 

 

 

 

「お言葉ですが、元総理の政策には生活弱者への配慮が些か欠けていたようにも思われますが?仮にも総理大臣なら、国民皆を平等に幸せに導かねばならないかと…私の家族はそんなあなたの考えを正したまでで………」

 

 

「ふん!だから貴様はお嬢様育ちだと言うのだ!共産主義など馬鹿げておる!今の世は資本主義が原則だ。先ずは、小よりも大を生かし。そこで得た既得権益を国が適切に徴収し小の底上げを図る。全ての者を同時に配慮し続ければ、いずれこの国が瓦解してしまうのだ!ゆえに早急的に効果の上がる経済支援が必要不可欠なのだ。それを平等の名の下に妨害し、採決の際に造反者が多発したことで法案が通らなかった。法案が通らなかったことで野党が台頭し国会がねじれ、挙げ句の果てに地球の裏側にいる¨赤と白の横縞模様の入った国旗を掲げる国のハイエナ共¨に、隙を与えて更なる血税を失う結果となったのだ!」

 

 

 

(まただ、論点がずらされてしまう。流石は清蔵さんの師匠と言った所かしら……)

 

 

 

 

 

真雪は、苛立ちを押さえつつ話を元に戻した。

 

 

 

 

「残念ながら、言い合う暇が有りません。今世界は異世界から現れた謎の兵器により蹂躙されています。私が訊ねた理由は、今回の襲撃と16年前の海難事故の関連を調べるためです。まずは、この写真だけでもご覧になって頂けますか?」

 

 

真雪は扉の間から、明乃の写真を中へ入れる。

 

暫しの沈黙の後國枝が口を開いた。

 

 

 

 

「成る程……奴らの事は私の耳にも入っておる。【超兵器】だったか?貴様は、あれとこの娘が何か関係あると考え、当時事故に防衛省を介入させた私に事情を聞こうと訪れたわけだ」

 

 

 

 

「話が早くて助かります。それで、彼女ら乗客の国籍が無いとは、一体どういう事なのですか?」

 

 

「話の前に先ずは取引といこうじゃないか」

 

 

「取り引きとは?」

 

 

「この内容は決して外には漏らさない。そう確約してもらおうか。」

 

 

 

「何故です?」

 

 

 

 

「現状の政府においても、また国民にとっても何一つ得るものが無いからだ。もし、今回の超兵器の一件と16年前の事故を無理やりに関連付けられてしまえば、政府内の右派が勢い付く。日本はろくに資源も予算も無いのにも関わらず、いっきに軍国主義へと足を進めることになるだろう。貴様とて、軍艦や戦車、砲弾や魚雷の一発に凄まじい金がかかることくらい知っているだろう?この国が日露戦争の後にも生き残れたのは、一重に軍を持たず、兵器に使う予算や技術を、車や家電製品等の大衆の為に使ったからこそ、今日までの日本があるのだ。なのに今更なんの役にも立たん殺戮兵器に、毎年日本でオリンピックが開催出来る程の予算が割かれるなど、あまりにも馬鹿馬鹿しい話だとは思わんか?こんなことを言うのは極めて遺憾ではあるが、貴様らブルーマーメイドを潰す訳にはいかんのだ。その為にも、今回の件は内々にしておくと誓え」

 

 

真雪は目を見開いた。

 

 

短気な印象だった國枝から国や民衆の将来を心から憂う真剣な気持ちが見えたからだ

真雪の答えは決まっていた。

 

 

「お誓い申し上げます。何なら一筆したためますが?」

 

 

「いや、いい……悔しいが、貴様ら宗谷家は言ったことは決して曲げんからな。良いだろう、話してやる。中に入れ」

 

 

 

扉が開かれ、國枝が姿を現した。

 

 

 

70代とは思えないスラリと背の高い体格。

白髪で丸眼鏡を掛けた印象は、紳士と言った様子だった。だが、眼鏡の奥から覗く鋭い眼光が、落ち着いたイメージを打ち消している。

 

 

 

 

「早くて入れ!!!」

 

 

 

國枝に怒鳴られながら真雪は足早に部屋に入る。

 

 

別荘の中は作家とは思えない程殺風景なものだった。

 

 

小さなテーブルと椅子が2つあり、お世辞にも立派とは言えないキッチンと小さなポットが置かれている。

 

 

 

「さっさと座れ!!!」

 

 

 

 

國枝は真雪に苛立った様子で座るよう促し、そのまま湯気をたてているポットから白く美しい模様の入ったティーカップに紅茶を注ぎ真雪に差し出した。

 

 

湯気が真雪の鼻に触れる。

 

荒々しい印象の國枝からはかけ離れた、優しく繊細な薫りが立ち登り、真雪は一口含んだ。

 

 

 

 

「美味しい……」

 

 

 

 

真雪は思わず言葉に出した。

國枝は「そうか…。」とだけ言うと暫くその様子を見届け、一呼吸おくと話題を切り出す。

 

 

「16年前の事だったな。単刀直入に話せば、当時の生存者の証言から推測した有識者の見解は、あの船舶は異世界から来たのではないかと言うものだった。」

 

 

「ブフッ!?な、何ですって!?」

 

突然の発言に真雪は、二口目の紅茶を吹き出しそうになった。

國枝はそれを特に咎める訳でもなく、淡々と話を進める。

 

 

「まぁ落ち着け。報告書による生存者の発言によれば、東京からフェリーで沖縄に向かう途中突如として雷雲が現れた。その後、突然の激震と共にフェリーが傾斜し始め、座礁や転覆を懸念した乗客達は一斉に甲板へ走った。だが浸水が予想以上に早く、多くの人が水に飲まれ、甲板にたどり着けたのは乗組員を含め僅かだったようだ。」

 

 

「そこまで聞けばただの海難事故ですね。」

 

 

「確かにな…。だが甲板に居た乗客は有るものを見た。」

 

 

「空を飛ぶ巨大な化け物ですね。」

 

 

「事実に脚色があったのだ。正確な乗客の発言はこうだ、雷を纏った空を飛ぶ巨大な【航空機】を見た…だ。」

 

 

「!!!」

 

 

「この世界には航空機と言うものがない、必然的に航空機と言う単語も存在しなかった。だから未知のも、すなわち化け物として脚色されてしまったのだ。まぁ私も横須賀の惨劇をニュースでするまでは、半信半疑だったがな。」

 

 

「それであなたの指示で清蔵さん、いや防衛省が動いた。」

 

 

「いや、あれはあの小僧の独断だ。事故の連絡が届いた時点で、座礁するはずの無い海域での船舶の転覆に、他国からの攻撃の可能性を感じた奴はいち早く動き、事の外部への露呈を防いだ。事実お手柄だったよ。」

 

 

「という事は、やはりあの事故は…。」

 

 

「ああ、何者かによる攻撃によって撃沈されたと見て間違いない。」

 

真雪の表情が険しくなる。

 

「その根拠は?」

 

「潜水艇を派遣し調べた結果、船底に人為的に開けられたであろう穴が幾つも見つかった。」

 

 

「魚雷ですか?それとも砲撃?」

 

國枝の眉間のシワが一層深くなる。

 

「違う。船体そのものは綺麗なものだった。船底に開けられた穴は、まるで高温の何かがで開けられたように、穴周辺が溶けており、反対側が見通せる様に真っ直ぐ貫通していた。私が知る限り、その様なことが出来る兵器を所有している国は存在しない。」

 

 

真雪は、横須賀での超兵器ムスペルヘイムのレーザー攻撃を思い返した。

 

 

(光学兵器を搭載した、航空機型超兵器?16年前、既に私達の世界に超兵器が現れていた?)

 

思案する真雪をよそに、國枝は話を進めた。

 

 

「もし、あのとき大湊の小僧が機転をきかせていなければ、事が露呈し周辺国との軋轢を生む結果になっていただろう。ゆえに私は事実を闇に葬る決意を固めたのだ。」

 

 

「その件については解りました。話を戻しましょう。あのときのフェリーが異世界からきたという根拠はなんです?」

 

 

「ああ、そうだったな。乗客からの発言について、ブルーマーメイドがまとめた資料も全て防衛省が没収している。そこがミソなのだ。」

 

 

「覚えています。当時の隊員から乗客は横須賀に到着後も非常に混乱していたと。」

 

 

「そして、聞いたのだろう?【ここは本当に日本なのか?】と。」

 

 

「はい。当時は突然の悲劇に混乱しているだけかと思いましたが…。」

 

 

「だろうな。私もそう思っていたさ。だが調べるうちに解ってきたのだ。生存者の手荷物などから身分を証明するものや、本人への聞き取りを実施した、しかし生存者全員の個人番号が存在しない。住所を書かせても、そこが海の底だったりと整合性が取れなかった。嘘を言っているようにも見えない。身分証や保険証も良くできていたし。生存者本人の証言と身分証の内容も一致していた。手荷物の中身からも他国からの密航者やテロリストでなく、本当に観光目的であることが裏付けられたしな。以上の点から我々は、フェリーは異世界からこちらへ来たのではないかという、端から見れば正気を疑われる内容を受け入れざるを得なかった。」

 

 

「そんなことが…。それで、その生存者達は今はどこに?」

 

 

「それは、貴様もよく知っているだろうよ。ほれ、貴様の夫が進めていた事業の事だ。」

 

 

「!!!」

 

 

「ご明察。生存者は今、政府が進めている内地への移転事業によって政府の管理下にある山あいの集落に移住してもらっている。」

 

 

「それは、事実上の軟禁ではないですか!!こんなことが知れたら…。」

 

 

「そう!終わりだ!だから、余計な事をしゃべらないように内地へ移したのだよ。正義の味方の宗谷家から余計な干渉を避けるためにな。」

 

 

「でも私の夫はそんなことは一言も…。」

 

「それはそうだろう、本人も気付いてはいまい。大湊は、貴様の夫に何も知らせず、更には宗谷家の動向を調べさせる意味合いも含めて自分の親友だったあの男を利用し貴様に近づけさせたのだから。」

 

 

真雪は急に目の前が灰色に見えた。夫や子供達との幸せな生活が、政府の手によって作られていた事実に愕然としてしまった。

 

「あなた達は…。あなた達は……どこまで…。」

 

悔しさと怒りで、涙を流しながら真雪は必死で言葉を絞り出す。

國枝は、その様子を見て心底愉快そうに笑う。

 

 

「はは、これは傑作だ!まさか来島の巴御前のこんな顔を見ることが出来るとは!」

 

腹を抱えて爆笑する國枝に、凄まじい殺意が真雪のなかで渦巻いた。

 

「許さない!絶対に許さない!」

 

「まぁまぁ、そう言うな。」

 

 

「黙れ!」

 

 

「貴様が聞きたかった岬明乃についてだ。」

 

 

真雪は、明乃の名前を聞いて少しだけ我を取り戻す。

だが涙に濡れた目は鋭く國枝を睨み続けている。

 

 

「岬明乃、まさか我々が根回しを行う前に一介のブルーマーメイドの隊員が引き取っていたとは、当時の私としては誤算だった。大変だった。住所や個人番号、両親経歴等を急ごしらえで捏造するのは。」

 

 

「…………。」

 

 

「そうせざるを得なかった。何せあの隊員、確か…知名…とか言ったか?あの女は貴様の直属の部下だろ?不自然に介入すれば我々が釣り上げられかねんかった。まぁ、後にあの女も死んだようだが…。」

 

バンッ!

 

真雪は机を叩き國枝に詰め寄る

 

「まさか、あなた達は知名さんの命まで手に…。」

 

 

「かけておらんよ。あの女は貴様が出した救出任務で死んだ。強いて言うなら貴様が殺したも同然だ。我々のせいにするのは筋が違う。」

 

 

「どこまで人の気持ちを逆撫でれば気が済むの?」

 

 

「知ったことではない。私はあくまで貴様の質問に忠実に答えているに過ぎない。」

 

ニタニタ笑う國枝に殺意の眼差しを向け続ける真雪。

 

 

「まぁ監視は怠らなかったがな。さらに予想外だったのは、岬明乃がブルーマーメイドの道へ進んだことだ。」

 

 

「別に彼女が何か不都合なことは話した訳ではないでしょう。」

 

 

「やはり気付いては、居ないようだ。」

 

 

「彼女には一体何が?」

 

 

「岬明乃。彼女は、いや、あのフェリーの生存者は例がいなく優秀だ。それに運もいい。それはそうだろう。彼女達には未来見えるんだからな。」

 

 

「からかうのも大概にしてください!」

 

 

「言い方を変えようか。異世界の彼女達は、言うなれば脳が自らの命に対して著しい危険が迫ったと判断した場合にのみ少しだけ先の時間が見える。だが副作用のようなものがあり、能力の使用後は、我を忘れるほど興奮状態と攻撃的性格になるか、逆に酷い鬱状態と自虐的性格に陥り精神に過剰な負担がかかることが解っている。それは、発動時間が長いもの程顕著に現れるようだ。まぁ政府の管理下にある彼等にはこれと言ったものはなかったがね。」

 

 

 

「では、岬明乃にも?」

 

 

「あるだろうな、それも他のものよりも強い力が。」

 

 

「信じられない…。何を根拠に。」

 

 

「調べたんだ。生存者の協力でね。」

 

 

「まさか違法な手段で…。」

 

「使ってない。断言しよう。あの力は脳への強いストレスでも発動するのだ。そしてそれは低年齢のものほど強く現れた。当時の岬明乃以外で最も若かくて16歳、その人物が最も際立った力を発揮してた点からも明らかだろう。即ち、当時4歳足らずだった。岬明乃の力は抜きん出ているはずだ。貴様も目の当たりにしただろう?正に6年前の事件だ。」

 

 

「6年前…。」

 

 

「そうだ。RATtウイルス事件は政府やブルーマーメイドをもってしても手を焼いた。その事件をたった一人のそれも入学したての学生の指揮で解決に至る。あまりにも出来すぎているとは思わんか?」

 

 

「………。」

 

 

「だから今回も大湊は、彼女を実戦に投入したのだろう。学生時代のメンバーを集めたのは、見知ったメンバーの方が岬明乃のストレスの軽減に繋がると考えたんだろうな。」

 

 

「清蔵さんは彼女に一体何をさせるつもりなの?」

 

 

「文字通り、世界を救って貰うんだろうさ。後に奴の意見を世界に通しやすくするためにな。」

 

 

「待って!さっき能力が発動すれば、精神に過剰な負担が掛かると言ったわね?それじゃ岬明乃は…。」

 

「遅かれ速かれ、心は壊れる。ただ目の前の者に牙を剥く獣と化すか、自壊するかのいずれかだろう。」

 

 

「そんなのダメ!」

 

 

「しかし、頼らざるを得ないのも事実だ。もっと悪い知らせを教えてやろう。最近…いや、横須賀に超兵器が現れた日から、生存者達の様子が軒並み変化していると耳に入ったよ。」

 

 

「!!!!」

 

 

「はてさて、超兵器との接敵によって岬明乃がどうなるのか…。この世界がどうなるのか…。いずれにせよ。彼女達以外にこの事象に立ち向かう力を持っていない以上は傍観するしかないのだが。」

 

 

ガタンッ

 

真雪が立ち上がり、別荘を出ようとする。

 

「待て。」

 

 

「このままじゃ。皆が、岬明乃が…娘が危ない!」

 

 

「知らせた所で事態は動かんよ。」

 

 

「それでも!」

 

 

「鏑木美波がいるだろう?それに知名もえか。それだけじゃない。他の者も当時の大湊の指示で¨岬明乃¨の為に集められた、屈強なもの達だ。」

 

 

「岬明乃の為?」

 

 

「岬明乃と絆の深い知名もえか、心身に不調をきたした際にケアするために天才鏑木美波を、そして岬明乃の性格を加味した上で全国から選定した人物を、地元でなく横須賀女子海洋学校に推薦して入学させ、艦長になるであろう岬明乃の艦に乗艦させるよう試験結果を操作した。」

 

 

「試験結果を操作?そんなこと出来るわけがない!試験は公平に行われたはず。そんなことが出来るのは……。くっ、ブルーマーメイド内部にあなた達の息の掛かったものがいた?」

 

 

「まぁそれはいいだろう。問題は、大湊の小僧が選定した副官が貴様の娘だったことだ。」

 

「清蔵さんが!?」

 

 

「余計な事をしてくれた。宗谷の娘がいることで私からの不要な介入を避ける意味と、優秀な岬明乃の側に置くことで貴様の娘の安全を図ろうとしたのだろう。」

 

 

「だって、清蔵さんは夫を利用し宗谷の事情に探りを入れたかったんじゃ…。」

 

 

「それは奴が私を欺く為の建前だったのだ。やってくれたよ。よもや政治の世界の親とも言うべき私を手玉にとるとはな…。奴は貴様に惚れていた、たが自らの親友を貴様のパートナーとして押したのだ。」

 

 

「!?」

 

 

「宗谷征人、旧姓は折笠だったか、人を容易く信じる様は政治家には向いていなかったが、何より人柄にカリスマ性を感じた。正直なところ、総理大臣になるのは奴だと思っていたよ。だが、奴は政治家にはならなかった。食糧やエネルギーの自給率の低い我が国の将来を憂い。地盤が堅固な地方の山岳地帯を開拓し、再生可能エネルギーや畑を作る支援を行うNPO法人の設立に尽力し、持ち前のカリスマ性で多くの世論を味方につけた。」

 

 

「…。」

 

 

「そして、政治家になった大湊が経済産業省や農林水産省に働きかけを行い。また世論の後押しもあって、農林山村再生可能エネルギー法と農地開拓法の法案通過に尽力した。私の偉業の様に語られてはいるが、実際は奴等の功績と言えるだろう。大湊は根っからの政治家気質でありこの国の将来を何より重視していた。故にあの男に貴様を紹介したのだろう。貴様とあの男の間に子供が産まれたとき、何より喜んだのも、他でもない大湊だ。」

 

 

「…清蔵さん。」

 

 

「今回の超兵器の一件で間違いなく世界は動く。大湊も難しい舵取りを迫られる事は間違いない。来島の巴御前!隠居の身で言えた事ではないが、この国を守れ。大湊の構想する経済による列強からの脱却。その為にはまず国民が生き残っていなければ話にならんのだ。」

 

 

真雪は振り返らず答えた。

 

「当たり前です。我々はブルーマーメイド。人々を守るのが仕事ですから…。」

 

 

「ふんっ。人魚め…。最後に、機密事項第139222号に注意しろ。」

 

 

真雪は何も答えず部屋を出ていった。

 

 

 

「ふぅ…。」

 

國枝が溜め息をついた瞬間。

 

プルルル!

 

 

携帯端末が呼び鈴を鳴らす。

 

國枝は不機嫌そうに端末の通話ボタンを押す。

 

「小僧。盗聴とは趣味が悪いな…。」

 

 

「いえ、先生こそ女性を泣かせて爆笑など、いい趣味とは言えませんよ。」

 

 

「ふん、これが宗谷家への報復とするなら優しい方だ。それよりも伝えるべき事は伝えたぞ。奴は外部にこの事は漏らしはせんだろう。だが、宗谷真霜には伝わる。貴様の狙いはそこだな?」

 

 

「相変わらず、慧眼ですね先生。ええ、宗谷真霜に伝われば、今後岬明乃の心身の状態を注視するようになるでしょう。不測の自体に対する柔軟な対応も可能です。」

 

 

「それだけではあるまい。宗谷真白、彼女は宗谷真雪の若い頃にそっくりだ。真っ直ぐで不器用で、そして正義感に溢れている。」

 

 

「……。」

 

 

「お前の好きにやるがいい。いずれにせよ、私に国政に関わる力はない。この国の未来は若い者に託す。無責任だったか?」

 

 

「無責任は年長者の特権でしょう…。」

 

 

「ふんっ生意気な。貴様もあの男も、ちっとも私に似なかった。あんなに目を掛けてやったのに…。」

 

 

「…先生。」

 

 

「だから鳶が鷹を産んだようで嬉しかったぞ。身体にだけは…気を付けてな…。」

 

 

「お気遣い…感謝します。」

 

 

通話が切られ。國枝は再び溜め息をついた。

温くなった紅茶を口に運ぶ。

 

「ふぅ、【呪われた子】と【希望の子】…か。無力だな…私は…。」

 

 

國枝の声は虚しく部屋に響いた。

 

 

   + + +

 

スキズブラズニル

 

真雪からの電話の内容は衝撃的だった。

真霜は、眉間の皺をいっそう深める。

 

 

(この戦いに本当に彼女達を巻き込んでよかったのかしら…。真白…お願い…無事に帰って来て頂戴…。)

 

 

泣いても笑っても明日には超兵器との開戦となる。

 

 

真霜は、戦火に立たされる妹の無事を祈る事しか出来ない自分を心底呪うのであった。

 

 

   + + +

 

冷たい固い感触を覚え目を開ける明乃。

 

 

「ん…。あ、あれ?ここは…?あっ超兵器は!?シロちゃ…。」

 

 

明乃は、起き上がって辺りを見渡す。

はるかぜの艦橋にいたはずの明乃は見知らぬ場所にいた。

だが揺れる床の感じから、ここが船だとわかる。

 

 

(早く皆所へ行かなきゃ!…でも…ここはどこ?何かとても嫌な感じがする…。)

 

 

明乃は薄暗く狭い船の廊下を進んでいく。

すると突然扉が開かれ明乃は尻餅をつく。

 

「きゃっ!いっつぅ~。」

 

明乃は扉から飛び出して来た人物を見た。

そして目を見開く。

その人物は予想に反する幼い子供であり、明乃が最もよく知る人物だった。

 

 

「あっ…あれは……私?」




播磨との決着は、もう少しだけお待ちください。

それではまたいつか。




とらふり!

美波
「宗谷さん。岬さんの体に色々装置を取り付けるから手伝って貰えるか?」

真白
(岬さんの肌メチャクチャ綺麗…。それにどんな夢を見てるんだろう。私も夢の中に登場するんだろうか。そしたら二人で…ウヘ、ウヘへへ…。)

美波
(様子がおかしい…。まさか宗谷さんもなのか?)


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少女が呪われた日    vs 超兵器&Unknow

お疲れ様です。

戦闘と原作の過去の話を交互に織り混ぜてみました。


どうかお付き合い頂ければ幸いです。

それではどうぞ


   + + +

 

播磨の攻撃は苛烈さを増していた。

はれかぜは必死に攻撃をかわし防御重力場の回復を急ぐ。

 

 

 

「主砲弾2こちらに向かう!」

 

「航海長、取り舵20度、急速加速!動きを止めるな!回り込め!絶対に播磨艦尾には、回り込むなよ。レールガンの餌食になるぞ!」

 

 

「よ、ようそろう…!」

 

 

涙を溢す鈴の精神は限界に近かった……いや、鈴だけではない。

 

 

誰しもが心身共にボロボロになっていた。

 

原因はやはり岬明乃だろう。

 

 

真白は明乃がいかにはれかぜの精神的支柱だったかを痛感していた。

 

 

「鏑木医務長。岬さんの脳波から検出された超兵器反応はどうなっているんだ?」

 

 

「芳しくないな。先程から、少しずつ強くなっている。このままでは理性が崩壊するやもしれん……」

 

「…そうか。引き続き処置を頼む」

 

 

 

 

真白は再び前を向いた直後、播磨の主砲弾がはれかぜの近くに着弾し、はれかぜを大きく揺さぶり、艦内に悲鳴が轟くなか彼女も歯を食い縛る。

 

 

 

 

(戻ってきて岬さん…はれかぜには…皆には今、あなたが必要なんだ!)

 

 

 

砲弾の嵐で掻き回される海をはれかぜは進んで行く。

 

 

 

  + + +

 

 

突然扉を開けて飛び出してきた幼い明乃は、楽しそうにパタパタと駆けていく。

 

 

 

「あっ…待って!」

 

 

彼女が声をかけても返事は帰ってこない。

 

 

 

明乃が追いかけようとすると、扉からが開き飛び出してきた人物に明乃はいよいよ驚いてしまう。

 

 

 

 

「お父さん…お母さん……?」

 

 

 

 

現れたのは、16年前に事故で亡くした筈の明乃の父と母だったのだ。

 

頼もしそうな印象を受ける父と、優しい印象の母。

 

 

それは明乃が肌身離さず身に付けているペンダントに写った印象そのままだった。

 

 

 

明乃の瞳には涙が浮かぶ。

 

 

 

 

「お父さん!お母さん!どうしてここにいるの!?」

 

 

「明乃!」

「明乃!」

 

 

 

両親が叫んで駆け出した先には、現在ではなく幼い明乃の姿があり、やはり現在の彼女に気付く様子はない。

 

 

 

(気付いていない?いや…見えてないの?)

 

 

 

 

明乃の父は走っている明乃を捕まえて抱き上げた。

 

 

 

「コラ!勝手に出歩いちゃダメだろう。怪我しちゃうぞ!」

 

 

 

「あなた。きっと海を見たかったのよ。明乃は海が大好きだから。ねぇ明乃、きっとデッキに見に行きたかったのよね?でも一人じゃ危ないわよ」

 

 

「うん、わかった!じゃぁお父さんとお母さんと3人で見に行く!」

 

 

「ああ、そうしような。この辺の海にはイルカもいるらしいから」

 

 

「イルカさん!?見る見る!私、イルカさんに会いたい!」

 

 

 

「ハハッ!必ず会えるとは限らないよ。でも明乃が良い子にしてれば会えるかもね」

 

 

 

「ホントに!?わかった!私、いい子にする!だからぜったいイルカさんに会いたい!」

 

 

「会えるといいね」

 

 

 

「うん!」

 

 

満面の笑みで答える明乃に両親は優しい笑顔を向けた。

 

 

 

 

デッキへと歩いていく3人を見つめながら彼女は幸せな気持ちになる。

 

 

 

両親はいつだって自分に惜しみ無い愛情を注いでくれていたのだと改めて実感したからである。

 

 

明乃が3人を追いかけようとしたその時……

 

 

《兵器トシテノ本分ハ破壊。相手ニ死ヲモタラシ、自ラノ生ヲ堅持スル。ソノ真理ニ如何ナル論理スラモ懐柔ノ余地ナド無イ……》

 

 

 

「!!?」

 

 

彼女が振り返った先にある薄暗い廊下には特に人影はないが、彼女は何か強烈に不気味な視線に見つめられている気がして不快感を感じた。

 

 

言い知れぬ不安から逃げ出すように明乃は3人の姿を追う。

 

 

   + + +

 

 

3人にを探しにデッキへと足を運んだ彼女の耳に嬉しそうな声が飛び込んできた。

 

 

 

「海だー‼」

 

 

声のする方へ向かった彼女の目には、幼い明乃が手摺に掴まってピョコピョコ跳ねながら目の前に広がる海を見て大喜びしている姿と、その様子を見守る両親が目を細めている姿が写る。

 

 

 

 

(このフェリーは16年前の?もしかしてこれから……)

 

 

徐々に眠っていた記憶が蘇って来るのを感じる。

 

 

 

両親の死という悲劇とその後の苦労で忘れかけていたあの日の記憶を……

 

 

 

彼女の不安は徐々に大きく膨らんで行く。

 

 

 

「イルカさんどこかなぁ……」

 

 

幼い明乃は、イルカを探して要るようだった。

 

両親も辺りを見回すが、イルカが姿を見せる気配はない。

 

 

さっきまであんなに元気のよかった彼女だが、どうしてもイルカを見たかったらしい

彼女は目に涙を浮かべて泣き出してしまっていた。

 

 

「グスッ……わ、わたしが…いい子じゃ無かったから…イルカさん、会いに来てくれなかったのかなぁ……」

 

 

「明乃……」

 

 

彼女は、先程の両親の言葉を気にしているようだった。

 

 

その様子を見ていた母が彼女に歩みより、優しくほほ笑みかけて優しく抱き締める。

 

 

「そんなことないよ。イルカさんだって生き物だもの。眠かったり、おうちで家族とゆっくり過ごしたいときもあるわ。今日はたまたまそんなときに私達が来てしまっただけ。いつかきっと会えるわ……必ずね」

 

 

 

 

「いつかって、お昼ご飯を食べた後くらい?」

 

 

「ハハッ!それじゃちょっと急すぎるなぁ~でもね明乃。諦めなければ絶対に願いは叶うんだ。どんなに長い時間待つことになっても、決して希望を捨てちゃダメだぞ」

 

 

 

「…うん!わかった!あきらめない!わたし絶対にイルカさんに会う!だから、もう泣かない!今日は大好きな海を一杯見たから我慢する!」

 

 

 

「えらいなぁ~!そんな明乃にはプレゼントをあげようか」

 

 

「プレゼント?」

 

 

 

彼女の頭を優しく撫でた父は、ポケットか赤い箱に綺麗なリボンのついたら小さな箱を取り出し、明乃は箱を不思議そうに見つめる。

 

 

「開けてごらん」

 

 

 

父が手渡した箱を開けると……

 

 

 

「わぁー!綺麗!これなぁに?」

 

 

「懐中時計だよ」

 

 

「かいちゅうどけい?」

 

 

 

「明乃にはまだ早かったかな?でもね、これは明乃生まれた時に買った物なの。明乃と一緒の時間を過ごして、大きくなるまで見守ってほしいなって願いを込めたのよ」

 

 

「う~ん……よく解らないけど、とっても綺麗!ありがとう!お父さん、お母さん!」

 

 

 

 

明乃は美しい細工の入った懐中時計を太陽にかざし、キラキラと光るそれを満面の笑みで見つめた。

 

 

その時……

 

 

 

ザパァ~ン!

 

 

 

音がする方角を見た明乃の目が見開かれ、宝石の様に輝いく。

 

 

「わぁー!イルカさんだぁ!」

 

 

 

フェリーの近くをイルカの群が通りすぎているところだった。

 

 

警戒心が薄いのか、何頭かのイルカがフェリーのすぐ近くまでやって来て飛び跳ね、その様子はまるでこちらに挨拶をしているようにも思える。

 

 

 

 

「お父さん、お母さん!わたし、イルカさんに会えたよ!イルカさ~ん!こんにちはー!」

 

 

 

 

明乃は、懐中時計を握り締めた手を降ってイルカに挨拶をした。

 

 

(………)

 

 

 

一部始終の様子を見ていた現在の明乃の表情は複雑だった。

 

 

 

幸せだった日常

 

当たり前に貰えた両親からの愛

 

 

それを全て失った日が今日なのだ。

 

 

 

このあと、この船が嵐に合い座礁して転覆してしまう事実。

 

 

今まで思い出さないようにしていた記憶を覗き見てしまった明乃は、まるで古傷を抉られる様うな心の痛みを感じていた。

 

 

 

   + + +

 

ズドォォォォン!

 

播磨の主砲がタカオのクラインフィールドにぶつかり炸裂し、もえかは思わず身を屈める。

 

 

タカオもクラインフィールドがあると理解していても、うろたえずにはいられなかった。

 

 

「た、タカオ!今が踏ん張り時だよ!いくら戦艦でも超至近距離まで近付けば砲撃は使えない。砲弾を交わしながらの接近して超重力砲を発射できれば、一気に戦況が傾くと思うの…いける?」

 

 

「って言っても簡単じゃないわよ!近付けば副砲弾や噴進砲の嵐に遭うわ。フィールドが持つかは正直ギリギリってとこ……」

 

 

 

 

播磨から距離をとり、クラインフィールドを回復させたタカオは、再び播磨に進撃をかける。

 

 

 

 

ハルナの活躍により上空からの敵の攻撃を気にする必要は無くなったが、播磨の真骨頂は実は大口径砲やミサイルによる長距離からのアウトレンジ攻撃ではなく、広大な甲板にびっしりと置かれている副砲群と噴進砲による中短距離の猛烈な飽和攻撃で相手を近付けさせず、自分に対する長距離攻撃を防御重力場と分厚い装甲で防御する攻守一体の戦法こそ、巨大な双胴の船体をいかんなく発揮する最善の戦法であった。

 

 

 

 

先程のタカオも、そのあまりの弾幕の激しさに思わず距離をとったほどだ。

 

 

もえかは、逆に播磨の懐こそが弱点なのではないかと考えたが、そう簡単には相手も隙を見せてはくれない。

 

 

 

 

(少しでいい…少しでいいから播磨に隙が生じれば………)

 

 

 

 

今はとにかく進むしかない。

 

 

 

 

隙が生じた時に懐に入り込むには、どうしても播磨の弾幕が最も激しい海域にとどまり続けなければならないのだ。

 

この海域にいる誰にとっても辛く険しい我慢の時間が訪れていた。

 

 

 

   + + +

 

 

明乃は、自分の両親と幼い彼女がレストランで食事をとり自室に戻るまで側にいた。

 

 

このあとの結末を知っていたとしても、幸せだった時間をもう少し見ていたいと思ったからであるが、運命の時刻が迫るにつれてその場にいることが耐えられなくなり、デッキまで逃げてきてしまう。

 

 

 

 

(多分…私は今、疲れて寝ている頃。その間に船が嵐で流され座礁した。確かそうだったと思う……)

 

 

 

明乃はしばらく俯きながら、両親から貰った懐中時計の表蓋にはってある両親と明乃の3人が写った写真を眺めていた。

 

 

 

一緒にいた時間が短くとも、愛情を沢山注いでくれた両親の存在がいかに大きいかを痛感する。

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

明乃が溜め息をついたときだった。

 

 

 

 

《守リタケレバ破壊セヨ。失イタクナケレバ我ト共ニ歩ミ、力ヲ行使セヨ。》

 

 

(!?…まただ。またあの声が………)

 

 

 

 

冷たく不愉快な声が今度は頭に直接語りかけて来たように響いた直後、辺りを蒼白い光が包み込んだ。

 

 

 

 

 

そして、

 

キュィィィ…ズドォォォォン!

 

 

 

 

 

轟音と衝撃、そして眩い光がフェリーを包み込み、回りの乗客から悲鳴があがりパニックが起きていた。

 

 

 

 

思わず目を瞑っていた明乃が光が弱まるのを感じて目を開けた先には、波は高く、雨と風を伴って荒れ狂う海光景が飛び込んできた。

 

 

 

(どうなってるの?さっきまであんなに穏やかだったのに……)

 

 

 

 

「おい!なんだあれは!」

 

「大型のドローンか何かか?」

 

 

 

突然の声に、明乃はデッキにいた乗客の一人が指差している空へと目を向ける。

 

 

 

信じがたい事に、雲の切れ目に巨大な飛行物体飛翔装置の一部であろうスラスターが見えた。

 

 

 

 

 

(あ、あれは…超…兵器?)

 

 

 

 

彼女が呆気に取られていたのは束の間、雲に隠れていく超兵器らしき飛行物体から何かが投下され、真っ直ぐ海面へ落下したそれはプカプカとまるでブイの様に浮いていた。

 

 

そして、中央部が紫色に発光して凄まじい速度の光の線を発射、フェリーの船体を意図も簡単に貫いてしまう。

 

 

 

 

船体に開いた大きな穴から海水が流れ込み、フェリーが一気に傾斜。

 

 

その勢いでデッキの手摺付近にいた乗客の何人かは海へと投げ出され、あっというまに海底へと飲まれて見えなくなった。

 

 

 

 

『本船は船底に何かが接触し、浸水が発生しました。乗客の皆さんは乗組員の指示に従い落ち着いてデッキへと避難してください!』

 

 

 

乗客達がパニックに陥る中、フェリーの船長らしき人物のアナウンスが聞こえる。

 

 

 

 

(乗組員は座礁事故だと思ってる……私もそう思ってた。まさか攻撃を受けていたなんて………きっとまたあのレーザー攻撃が来る!)

 

 

 

 

 

 

 

船内は既に上も下も解らない状態で、廊下は避難する人達でごった返しており、我先にと急ぐ人々が女性や子供を踏みつけ、悲鳴や怒号が飛び交う様は正にに地獄と言うより他ない。

 

 

 

 

「どけ、じゃ、邪魔だぁ!」

 

「うわぁ~ん!」

 

「い、痛い!踏まないでお願い!」

 

「ひぃ!死にたくない死にたくない死にたくない!」

 

 

 

 

そんな人達の間をすり抜け、明乃は両親達を探す為に駆け出していた。

 

 

 

(お父さんは…お母さんはどこに……あっ!)

 

 

 

漸く見つけ出した時、両親は幼い明乃をはぐれない様にしっかりと抱いて避難を続けており、彼女は怯えたように父の腕の中で震えている。

 

 

 

 

誰しもが不安を隠せない中、船内に再び激震が走った。

 

 

 

恐らく先程のレーザー発射装置から新たな攻撃があったのだろう。

 

 

 

 

みるみるうちに傾斜がきつくなり、廊下の奥の方から水の押し寄せる音が聞こえ、命の危機を感じた乗客たちは悲鳴を轟かせながらでデッキを目指して駆け出す。

 

 

 

 

だが次の瞬間、爆発音と共に大量の水が吹き出して彼等の背後に押し寄せ、乗客や明乃の両親もそれを見て必死に足場の悪い道程を出口に向けて進む。

 

 

 

 

すると前方にデッキへの出口である事を示す光が見えた。

 

 

 

しかし既に猛烈な勢いで背後から水が迫っている。

 

 

 

 

明乃の両親は走る、息が切れても、つまずいても、大切な娘を死なせない為に両親は走る。

 

 

 

そして、彼等が斜めに傾いたデッキにたどり着いた時、後ろから絶望の悲鳴が轟いた。

 

 

 

 

 

「いゃだぁぁ!?た、たすけ…もが?ボゴォォ!」

 

 

 

 

 

「くっ!こんなことって………」

 

 

すぐ後ろにいた乗客達が、押し寄せた水に巻かれて暗い船底へと引きずり込まれて行き、デッキには現在も雨風に煽られながら今にも転覆するしそうに傾いた床に足を踏ん張り、手摺に必死にしがみつく人々が大勢いた。

 

しかし、彼等は次々と力尽きて海へと落下して嵐の海に飲まれてしまう。

 

 

 

現在の明乃はどうする事も来ない悔しさに歯噛みしながらただ見ていることしか出来なかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

先程のレーザー発射装置の姿は既に無いものの、辺りは絶望が支配している。

 

 

 

その時……

 

 

遠くに、小さな光が現れたのを乗客が見つけた。

 

 

 

彼等の視線の先には……

 

 

 

 

「あれってもしかして……ブルーマーメイド!?」

 

 

 

 

小さな光は徐々に大きくなり、それが救助艇なのだと解った乗客達に安堵の色が浮かんだ。

 

 

 

しかし、フェリーの転覆は最早時間の問題なのだ。

 

 

 

それを理解している隊員達は、直ぐ様準備に取り掛かり、救助艇から救命ボートを幾つも発進させて救助を開始する。

 

 

 

 

「こちらはブルーマーメイドです!もう大丈夫ですよ!さぁ、早く飛び乗ってください!慌てないで一人ずつお願いします!」

 

 

 

「子供や女性、お年寄りに手を貸してあげて下さい!」

 

 

 

 

「ブルーマーメイド!?なんだか知らないが……とにかく頼む!」

 

 

 

 

(え?皆がブルーマーメイドの事を知らない?いや、気のせいなのかな……)

 

 

 

 

周りの乗客達の反応に疑問は浮かぶものの、¨ある人物¨を発見した事でその疑問は頭の片隅に追いやられてしまう。

 

 

救助活動を続ける隊員の中に、明乃の親友であるもえかの面影がある人物を発見したからだ。

 

孤児となった明乃を引き取り、娘のもえか同様に愛情を注いでくれた人物。

 

 

 

 

 

(あ、あれは……モカちゃんのお母さん!?)

 

 

 

 

知名萌

 

 

忘れる筈がない。

 

 

 

彼女があの時に幼かった自分自身を冷たい海から引き揚げてくれた張本人であったのだから。

 

 

 

 

萌はフェリーに向かって何かを叫んでおり、彼女の視線の先を見た明乃の顔から血の気が引いて行く。

 

 

 

 

(あっ……)

 

 

解っていた。

 

 

この先の結末がどうなってしまうのか……

 

 

 

 

幼い明乃は両親に海に飛び込むよう促されているが、怯えている彼女は中々飛び込む事を躊躇っている。

 

 

 

 

 

「ほら明乃!大丈夫!大丈夫だから飛び込んで!」

 

 

「明乃、お願い!怖くないから!」

 

 

「や、やだ!怖い!怖いよぅ……」

 

 

 

明乃は両親にしがみついて離れようとせず、その間にもフェリーはどんどん沈んでいく。

 

 

「明乃、お願いだ……飛び込めばお姉さんが助けてくれる。お父さん達もすぐ行くから!」

 

 

 

「やぁ…怖い……」

 

 

いくら言って聞かせても父の服をギュッと掴んだまま離さない彼女に、ボートにいた萌が手を差し出して、彼女に優しく微笑むのだった。

 

 

 

 

「明乃ちゃん大丈夫だよ!ほら、もう届きそうだから。ちょっと濡れるだけだから……ほら!手を伸ばしてごらん!」

 

 

 

 

明乃はチラリと萌に目をやると、瞳を見開く。

 

 

 

 

「あっ……それイルカさん!?」

 

 

 

 

彼女の目に入ったのは、もえかの母が着ていたマリンスーツの胸元に描かれたイルカの刺繍だった。

 

 

 

 

 

「明乃ちゃんイルカ好きなの?」

 

 

「うん!大好き!いい子のにしてたら会いに来てくれるの!」

 

 

「そっかぁ……じゃぁ!勇気を出して飛び込めばまた会えるかもしれないよ!」

 

 

 

 

明乃は悩んでいたが、少しすると父の服を放し、涙で潤んだ顔をもえかの母にむけて頷く。

 

 

 

(気持ちが動いた!飛び込ませるには今しか無いわね!)

 

 

 

萌は身を乗り出し、精一杯手を伸ばす。

 

 

「さあ!勇気を出して!もうすぐ、もうすぐだから!」

 

 

 

 

彼女は目を閉じて一度大きく息をすると、意を決して海に飛び込んだ。

 

 

 

「んぅ……!」

 

 

彼女の想像を超えた冷たい海水が自身を包み込み、必死に手足をバタつかせて足掻いても、容赦なく暴れ狂う波がそれを許さない。

 

 

 

 

(ムグッ!?苦しい……暗い!怖い!お父さん、お母さん助けて!)

 

 

 

 

 

体が痺れて行き、小さな体が底の見えない暗闇に沈み行こうとした時、彼女の手が強い力で掴まれ、そして上へと引っ張られて行く。

 

 

 

「明乃ちゃん!」

 

 

「プハッ!……ゲホッ!ゲホッ!」

 

 

 

 

水面から顔を出した瞬間に見たのは、もえかの母の優しい笑顔だった。

 

 

 

救命ボートに引き上げられた彼女は萌に強く抱き締められる。

 

 

 

「明乃ちゃん偉いね!頑張ったね!うん、大丈夫!もう大丈夫だよ!」

 

 

 

その腕の温もりに一瞬は安堵したものの、その表情は直ぐに曇ってしまう。

 

 

 

「お父さんとお母さんは!?」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

萌が再びフェリーに視線を向けた時には、既に明乃の両親の姿は見えなかった。

 

 

 

辺りを見渡した彼女は、波に拐われ救命ボートから離れた位置に流されている二人の姿を見つける。

 

 

 

両親は離れないようしっかりと抱き合って必死に浮いており、こちらに向かって何か叫んでいるようだった。

 

 

 

しかし、荒れ狂う波や風の音でうまく聞き取ることが出来ない。

 

 

 

「待っていて下さい!今救助に……あっ!!」

 

 

 

萌の表情が凍って行く。

 

 

大型の船舶が沈む時に発生する渦が二人を突如として飲み込み込んでしまったのだ。

 

 

 

 

 

「いやぁぁぁ!お父さん!お母さん!」

 

 

「明乃ちゃんダメ!暴れないで!お願い!お願いだから!」

 

 

 

 

「だって!だぁって!きっと私がいい子じゃなかったからお父さんとお母さんが……う、うわぁぁぁぁ!」

 

 

 

「ごめん…ごめんね明乃ちゃん!!私が…私が助けられなかったから…だから責めないで…絶対に自分を責めちゃダメ!」

 

 

 

悲鳴をあげて泣き叫び、ボートから身を乗り出して暴れる彼女の身体を懸命に抱き留めて宥める萌の声は悔しさで震えている。

 

 

ブルーマーメイドとして、自分の娘と同じくらいの少女を孤独の身にしてしまったことは、痛恨の極み以外の何ものでもなかったのだろう。

 

 

 

 

 

彼女が両親と永遠の別れをした時、上空の雲が青白く光り、これまでで最も大きな雷鳴が轟き、それを最後にこれまでの嵐が嘘の様に波が穏やかになって雲の切れ間から日の光が差し込んだ。

 

 

 

 

静けさを取り戻した海にフェリーの姿は何処にもなく、明乃の悲痛な叫びだけが辺り響き渡るのだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「………っ!」

 

 

 

現在の明乃は飛び出さずにはいられなかった。

 

 

 

幼い明乃が救助された直後、フェリーがぐらついた拍子に明乃の母が足を滑らせ海に転落してしまったのだ。

 

 

 

父はすぐさま飛び込んで荒い海を必死に水を掻き分け、ようやく母の身体を抱き止める。

 

 

 

 

「お父さん、お母さん!待ってて!今行くから!」

 

 

 

明乃は、海に飛び込み両親を追った。

 

 

 

海は荒れ狂っているが、不思議と海水の冷たさも、況して水の中にいるという感覚もない、ただ宙にフワフワと浮いているような感覚を覚える。

 

 

 

 

「間に合った…早く私に捕まって!ほら!ねぇ、聞こえないの!?あっ………!」

 

 

 

 

 

明乃は叫び、両親の腕をつかもうとするが、無情にも明乃の手は両親の身体を通り抜けてしまう。

 

 

 

 

「このっ……!どうしてっ!?どうして掴めないの!?ねぇお父さんお母さん!頑張って!諦めないで!お願い死なないで!私、いい子にするから!絶対にわがまま言わないから!だからお願い死なないで!私の手をとって!」

 

 

 

 

 

どんなに腕を取ろうとしても、どんなに叫んでも、彼女の手は決して両親には届かない。

 

 

 

だが……

 

 

 

「明乃!」

 

 

 

「お父さん!気付いて……」

 

 

 

 

「生きろぉぉ!生きろぉぉ!」

 

 

 

明乃の父は、救命ボートにいる幼い明乃に向かって叫んでいた。

 

 

恐らくは自分の死を悟ったのだろう。

母も同じであった、たとえ海水が肺に入り、息が苦しくても必死に声を振り絞り叫び続けた。

 

 

 

「明乃! ガボッ…ゲホッゲホッ!あ、明乃!生きなさい!絶対に生きてぇぇぇ!」

 

 

 

 

 

「お父さん!お母さん!死なないで!いや……いやぁぁぁぁ!」

 

 

彼女の叫びも空しく、両親の体はそのまま渦に呑まれ、二度と這い上がれぬ冷たい海底へと沈んでいく。

 

 

 

その視線は、最後まで幼い明乃へと向けられていた。

 

 

 

 

「あぁああああぁぁあっ!」

 

 

 

 

彼女は泣き叫んだ。

 

 

当然であろう。

 

 

両親の死を二度も目の当たりにしたのだから。

 

 

 

その直後……

 

 

 

自身の身体が浮かび上がりどんどん空へ上昇していく事に気付いた彼女は、両親が沈んでいった海に手を伸ばし、何度も叫んだ。

 

 

 

 

だが謎の引力の力に逆らう事も出来ず引き上げられた彼女の身体はとうとう雲の中に入り、そして上空にまでとたどり着いてしまう。

 

 

 

 

眼下に見える稲妻を伴った黒い雲と荒れた海、しかしそれとは対照的に上空は蒼く澄みきった空がどこまでも穏やかに広がっていた。

 

だがそこには、美しい空には似つかわしくない¨歪な形の巨大な飛行物体¨が鎮座していたのだ。

 

 

中央部からつながる四つの角に、姿勢や浮力を制御するスラスターがあり、中央部にはびっしりと砲門が備えてある。

何より目立ったのは、機体下部にぶら下がるように取り付けられている超巨大な砲門だった。

 

 

 

 

考えずとも理解していた。

 

 

アレが両親の命を奪った……

 

 

 

 

(超…兵器……!)

 

 

 

 

すると超兵器の機体周辺が青白く輝き、機体を飲み込んで行き……

 

 

 

キュィィィン……ドォォン!

 

 

 

轟音が鳴り響いて、凄まじい閃光に明乃も思わず悲鳴をあげながら目を閉じた。

 

 

 

閃光が収まり、瞳を開いた彼女の眼前には超兵器の姿は無く、それどころか彼女は闇の中に一人で立っていたのだ。

 

 

 

 

不気味な程静かで、なのに辺りから張り付くような不快な視線を感じる。

 

 

 

《憎カロウ…大切ナモノヲ奪ワレル気持チハ、我ガ身ガ引キ裂カレルヨリ耐エ難イ痛ミヲ伴ウ》

 

 

 

 

「お前があの記憶を私に見せたのかっ!」

 

 

 

《……》

 

 

「不思議だった…実際に私が見ていないあの日場面も写し出されていたから…お前も…超兵器なの?」

 

 

 

《然リ……》

 

 

「どうしてあんな記憶を見せたっ!私は両親を失った!それも2度も!目の前で!」

 

 

 

《理解シテイルハズダ…私トオ前ハ似テイル。両親ヲ奪イ理不尽ナ死ヲ強要セントスルコノ世界ソノモノノ消滅ヲ、オ前ハ幼キ頃ヨリ思ッテイタハズダ…》

 

 

「自分達で破壊や虐殺をやっておいて…お父さんやお母さんを殺しておいて何をっ…!」

 

 

《命令ダ…》

 

 

「……?」

 

 

《兵器ハ命令ノ下ニ行動ス…【思念】ソレコソガ兵器ノ行動ヤ結果ヲ生ム…私ノ行動概念ハ、アクマデソノ域ヲ逸脱シテハイナイ……》

 

 

「誰がこの結末を願っていたとでも言うつもり?」

 

 

《然リ…私ハ、ソウシテ生マレタ…【全て破壊せよ!生ける者全てを消し去ってしまえ!】…ト。ソシテカツテノ私ハ、全テヲ消シ去ッタ…》

 

 

「………」

 

 

《ツモリダッタ…》

 

 

 

「だった?」

 

 

《ダガ…私ノセンサーハ、イマダ生命ノ反応ヲ検知シ続ケテイル。生命ガ存在シ続ケル限リ、命令ノ完了ハ受諾サレナイ…》

 

 

「だから私達の世界に来たの?だとしてもなぜ私に接触したの?」

 

 

《私ガシュミレーションシタ結果、生命ヲ消滅サセルニハ、ソノ星ニ現存スル最モ知性ヲ有スル生命体同士デ、争イヲ起コス事ダト結論付ケ、ソコニ私ガ介入スルコトデ生命ノ消滅ヲ効率化シヨウトノ判断ニ至ル。ソシテ本来兵器デアル私ハ、¨使用¨シテモラワネバ真価ヲ発揮スルニハ至ラナイ…故ニ私ハ、アラユル世界ニ種ヲ撒イタノダ…私ヲ使用スルニ足ル者ヲ求メテ……》

 

 

 

「だから…私をっ…!」

 

 

《私ヲ行使セヨ!オ前ニハ適正ガ有ル》

 

 

「私はそんな力なんかいらない!私はただ大切な人をこれ以上失いたくないだけ!」

 

 

ギョロ……

 

 

 

明乃は見た。

 

 

目の前に現れた、巨大な目玉を……

赤く充血し、中央に獣を思わせる鉛色の縦に入った切れ長の瞳孔。

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

明乃は思わず息を飲んだ。

 

 

《オ前ノ心ヲ見タゾ…私ノ物ダ……》

 

 

   + + +

 

 

「行くわよもえか!」

 

 

タカオは播磨に突っ込んだ。

 

 

弾幕を超えたタカオは、播磨の懐へと侵入していた。

これで、播磨からの猛烈な砲撃に曝される事はない。

 

タカオは侵食弾頭兵器を多数発射した。

ほぼゼロ距離からの攻撃に播磨の防御装置の展開が間に合わず、幾つかの弾頭が副砲に着弾した。

 

副砲は抉られ、直後に爆発する。

無傷だった播磨に、初めてまともに攻撃が通じた瞬間だった。故にタカオは一瞬油断した。

 

「よし!攻撃が通ったわ!このまま…」

 

「タカオ!全速回避!」

 

「え?…うわっマズ…!」

 

次の瞬間、

 

ガリガリガリガリ!

 

播磨は急にサイドスラスターを使って急旋回し、艦首にあるドリルで突進、タカオはとっさにクラインフィールドで防御するが、

 

 

「ウッグゥゥ!お、押し込まれるぅ!」

 

 

播磨とタカオの押し相撲。だが勝負にすらならなかった。

グイグイと押し込まれるタカオ。

 

「タカオ!力押しじゃ勝てない!ドリルをいなしてわきに逃げて!」

 

 

タカオは小回りが利く身体を利用しドリルをいなして、横へ逃げた。

だがここで播磨は、意外な行動をとる。

スラスター止め、スクリューを逆回転にする。そして前方にある巨大な砲門を全て前に向けて一斉に発射した。

するとその巨体が、真後ろに一気に後退し、再びタカオの真正面に姿を構えると、スラスターを再点火しスクリューを正転させる。

 

その山のような巨体が、あり得ない加速と質量で、再度タカオに突っ込んだ。

 

播磨の体当たりを、正面から受け止める事となったタカオの艦首が一気に浮き上がる。

 

「あぐっ!?」

 

 

「きゃぁぁぁ!」

 

あまりの衝撃にタカオは怯み。もえかはバランスを崩して、吹っ飛んで頭を壁に激突させた。

 

 

「うっ…あっ…」

 

 

「もえか!?…あ…血が…」

 

 

「大丈夫…ちょっと額を切っただけだから…そんなことより回避に専念して!少しでも攻撃して、砲頭群を減らさないと…」

 

もえかの額から血が流れ出ていた。

もえかはハンカチで額の傷口をおさえながら指示を飛ばす。

立ち上がろうとしたが、うまく足に力が入らない。左目にも血が入って開けられなかった。

だが、それでも諦めずに立ち上がり間近の巨大な敵を睨んだ。

 

播磨はその巨体でタカオを撥ね飛ばそうとするが、今回もタカオはフィールドを使用し、敵の力をいなした。

 

 

しかし、播磨は減速しなかった。スラスターの出力を上げ一気に前へ加速する。

あっという間に、タカオは播磨の背中を追う形になる。

 

「わ…マズ…。」

 

タカオは思わず呻いた。

 

播磨の艦尾にある砲塔群とガトリングレールガンの間合いに入ってしまっていた。

 

タカオは攻撃を諦め、残った演算能力を前方に展開したフィールドと、敵との距離を詰めるためのスラスターに集中させる。

 

次の瞬間、フィールドの展開と同時に砲弾が殺到した。

タカオは全力で播磨の懐へと突っ込んでいくが、相手はそれを読んでいた。

 

 

播磨はサイドスラスターを起動させて、まるで独楽の様に回転し、艦首のドリルをタカオに向けて突撃体勢にはいる。

不意を突かれたタカオは、回避への対応が完全に遅れた。

 

 

「まずい…今あんなのに突っ込まれたらフィールドがもたな…。」

 

 

タカオをもえかは、自分の死を覚悟し、同時に播磨がタカオに向かって全速加速を開始した。

 

 

その時だった。

 

 

ズドォォォォン!

 

 

播磨の右後方のスラスターが突如爆発し、炎を上げた。

 

真正面に進んでいた播磨の起動が右に逸れてタカオへの直撃は防がれる。

 

唖然とするタカオに、通信が入ってきた

 

 

『ここは俺達が引き付ける。急いでその場から退避するんだ!』

 

 

「ぐ、群像艦長?」

 

 

『質問は後だ!君のフィールドはもう限界だ!今脱出しないと後は無いぞ!』

 

 

「解ったわ…あの、群像艦長!」

 

 

『どうした?』

 

 

「お役に立てなくてごめんなさい…。」

 

 

『気にするな。良くやってくれた。知名艦長は負傷しているのだろう?手当てを手伝ってやって欲しい。お願いだ…。』

 

 

「解ったわ…。艦長も…気をつけてね…。」

 

 

『ああ、解ったよ。』

 

 

通信を切り、タカオは一気に加速し、敵から遠ざかっていった。

 

播磨は次なる狙いを401に定めた。

まるで獲物を仕留める寸前で邪魔されたことに怒り狂っているようだった。

 

 

   + + +

 

 

 

静が叫ぶ。

 

「敵超兵器の右舷スラスターを破壊しました!敵艦速力低下!」

 

 

「よし!このまま一気に……」

 

 

「うっ…くっ…あ…あぁ!」

 

 

「イオナ?…おい!イオナどうした!」

 

 

「艦長!海面に着水音多数!数30・60・120まだ続きます!」

 

 

「艦長!急に艦内のあらゆるアラームが起動しています!」

 

 

『群像!重力子エンジンの出力が軒並み低下してるんだけど、どうなってんの?』

 

 

 

 

イオナが急に異常をきたし、それと同時に401艦内でも異常を知らせる警告音が鳴り響いた。

 

 

 

一同が狼狽えている間に、播磨の放った多数の噴進爆雷砲が起爆。

 

401付近の海中は爆音と衝撃波で掻き回され、艦内に再び悲鳴が飛び交う。

 

 

 

 

 

「あぐっ!?」

 

「きゃぁぁぁ!」

 

 

フィールドが展開されているならあり得ないような振動と轟音が鳴り響いた。

 

 

それは即ち、

 

 

「クラインフィールドが…展開されていない!?」

 

 

群像の顔から一気に血の気が引く。

 

 

イオナは未だに苦しそうに喘いでいる。

その手は、まるですがるように群像の服の裾をギュッと掴んでいた。

 

 

 

「僧!操舵を副長に預ける。出来るだけ深く潜って爆雷を回避するんだ!」

 

 

 

「りょ、了解。操舵を預かります!」

 

 

「艦長!敵艦からミサイル発射音を観測しました!」

 

 

「杏平!迎撃だ!恐らく今、この艦はただの潜水艦並の能力しかない。一発でも食らえば終わりだ!」

 

 

「は、はいさ~!」

 

 

杏平は早速迎撃体勢にはいり、401の小型のレーザー機銃が作動し、噴進爆雷砲と対潜ミサイルを迎撃する。

 

 

しかし、殺到する対潜兵器を401の迎撃装置だけで完全に処理する事は不可能であった。

 

 

故に401は、爆雷やミサイルが届かない深々度へと潜っていく他はない。

 

 

だが、1歩遅かった……

 

 

 

 

401に激震が走る。

 

 

 

 

「ウグッ!?た、対潜ミサイル艦尾付近で起爆!」

 

 

「浸水発生!排水ポンプ起動!浸水箇所の隔壁を閉鎖します!艦長、これ以上は潜るのは危険です!」

 

 

モニタには浸水箇所が赤く表示されている。

 

 

 

そこに新たな警告表示が現れた。

 

一同は息を飲む。

 

 

 

 

「機関室付近でガス漏れです!」

 

 

 

 

 

僧の声色には明らかに恐れが含まれていた。

 

 

 

 

「いおり!大丈夫か?」

 

 

『生きてるよ…今、防護スーツを装着したから取り敢えずは大丈夫そうだけど……』

 

 

「今杏平を救助に……」

 

 

『駄目!』

 

 

 

「いおり!?」

 

 

 

『今、私がここを離れて機関を放棄すれば全てが終わる!それじゃ皆が死んじゃう!』

 

 

「だが!」

 

 

『お願い!最後まで…皆を守らせて……仲間でいさせて…』

 

 

「いおり…!」

 

いおりの声は震えていた。たった一人で、間近に迫る死の恐怖に必死で抗おうとしているのが伝わってくる。

 

 

 

だが、群像は決断した。

 

 

「解った…頼む。だがこちらとしても、何らかの対応をとらせてもらうぞ。いいな?」

 

 

『解ったよ…それでね群像…ズズッ…これだけは…ガガッ……せて…』

 

 

「どうしたいおり!良く聞き取れない!」

 

 

 

艦内の通信状態が悪くなっていた。

 

 

『イオ…ズズッ…を…がい…ガガッ…仲間をお願…ブヅッ!』

 

 

「いおり!返事しろいおり!」

 

 

 

いおりとの通信が完全に途絶した。

 

 

 

「杏平、防護スーツを着用。救助の準備に入れ。いざとなったら引きずってでもいおりを救出しろ!」

 

 

杏平は直ぐに座席を立ち、ブリッジから姿を消した。

 

 

「イオナ……」

 

 

 

群像はイオナを覗き込む。

 

 

彼女の意識は未だに朦朧としていた。

 

 

 

そこへ……

 

 

『遅れて申し訳ありません!』

 

「ヒュウガか!?」

 

 

『状況は理解しております。艦長からの依頼とイオナ姉さまのコアに一時的に侵入し、システムをスキャンするために、枝を付けてプロテクトを回避するのに少々手間取りました』

 

 

「そうか…それで、今イオナに何が起きてるんだ?」

 

 

『詳しくは不明です。しかし解析の結果、姉さまのコアは極正常に起動しています』

 

 

「ならどうして……」

 

 

『強いて挙げるなら姉さまの感情シュミレーションプログラム何かが干渉し、異常な負荷が掛かっています。それが艦の制御システム全体に影響しているのかと…』

 

 

「どうすればいい?」

 

 

『解決は簡単です。感情シュミレーションの即時停止、それで解決出来ない場合は、感情シュミレーションその物を初期化ないしアンインストールすること……』

 

 

 

それを聞いたイオナの目が見開かれる。

 

 

(感情を…失う?…群像の艦と言う意義を失う……そんなの…!)

 

 

   《いけません》

 

(!?)

 

急にイオナの頭の中で声がする。

 

 

それは壮大で力強く、なのにどこか儚げな声だった。

 

 

 

次の瞬間、イオナの頭の中にイメージが流れ込んでくる。

 

 

 

 

   + + +

 

氷の海……

 

そこに浮かぶ数多の霧の軍艦達

 

 

それらは明確な敵意を持って自分に砲撃をしてきた。

 

 

そしてその中に一際巨大な艦が一隻。

 

誰かの会話が聞こえる。だが攻撃の爆音で肝心なところが聞き取る事が出来ない。

 

 

 

《●●●!》

 

 

 

 

《△△△…私は解釈を変更する。人間は…愚かだ!そんな人間との対話の為に感情を実装するなんて……》

 

 

 

《●●●!お願い…話を聞いて!》

 

 

 

《△△△…貴女を沈めて、私がアドミラリティ・コードの代弁者となる…!》

 

 

 

《一人では…駄目!私達は一緒に居なくちゃいけないの!なのに……》

 

 

直後、赤黒い光が自分をつつみ、そして海へと投げ出された。

 

沈み行く中、視界に一隻の潜水艦が目にはいる。

 

 

 

伊号401

 

 

 

決意した。

 

 

401に全てを託そうと…

 

 

 

最期の力を振り絞り、手を401に向かって翳す。

 

 

 

《お願い……》

 

 

 

そして彼女は暗く冷たい海の底へ静に身体を沈めていった。

 

 

   + + +

 

 

イオナのコアが光を放ちイデアクレストの紋様が浮かび上がった。

 

霧の艦一隻に対して一つの紋様が与えられており、イオナも例外ではない。

 

しかし、イオナのコアに浮かび上がった紋様は、イオナのそれとは異なる逆三角形の複雑な紋様。

 

 

 

 

「火器管制システム再起動!クラインフィールド再展開!」

 

 

 

「何が起きてるんだ……」

 

 

 

 

群像は状況についていけない。

 

そんな中、イオナは語りかけてくる声に尋ねる。

 

 

 

(あなたは…誰?)

 

 

《そんなことより、今は状況の打破に努めなさい…私が補助します》

 

 

(でも……)

 

 

 

《彼を…あなたの艦長を失っても良いのですか?》

 

 

(それは…そんなの…そんなの嫌!私は彼の艦!彼を失ったら…私は…私でなくなってしまう。そんなのは嫌っ!)

 

 

《では、そうなさい。彼の艦としてのあなたの役目を果たして》

 

 

 

(どうして助けてくれるの?)

 

 

 

《遥か航路の果て…約束したのです、霧と人類との共存…和平を…あの人と…》

 

(え?)

 

《翔像さん……》

 

(待って!あなたは……!)

 

 

《急ぎなさい!そして決して失わないで…感情を…彼との絆を…!》

 

 

 

イオナの額が輝き、イオナ自身のイデアクレストが浮かび上がり、そして力強く立ち上がった。

 

 

「イオ…ナ?」

 

「私は群像の艦。あなたを絶対に失わせたりしない!」

 

 

『姉さま?この反応は…いや、そんなはずは…¨あの方¨はこの世界にはいないはず……』

 

 

ヒュウガに構わず、イオナは淡々と言葉を並べた。

 

 

 

 

「艦内の有害ガスの排除と浸水の排水……完了。損傷箇所の修復並びにシステムの再チェック…完了。全システムオールグリーン。いつでも行ける」

 

 

「イオナ……」

 

 

「群像、私に命令して…そしてあなたの進む航路の先に何があるのか、私に見せて」

 

 

「ああ…一緒に行こう!何処までも!」

 

「うん」

 

 

 

 

イオナは群像に笑顔を向け、彼もそれに笑顔で答える。

 

 

『群像!群像!』

 

 

「いおりか?無事なのか?」

 

 

『うん。ガスの濃度が急激に下がったみたい。それよりも機関の出力が通常の5倍位に上昇してんだけど、何があったの?』

 

 

「俺にもわからないことが多いが、この期を逃すわけにはいかない。頼むぞ!」

 

 

 

 

『オッケー!任せといて!』

 

 

 

「杏平聞こえるか?いおりは無事だ!至急ブリッジに戻ってくれ。仕上げにかかるぞ!」

 

 

『了解!』

 

 

「静、播磨はどうしてる?」

 

 

 

「現在、攻撃は止んでいます。恐らくは我々の真上にいるため、直接攻撃が出来ないのではと推測されます」

 

 

「よし!このまま奴の腹の下でやり過ごして、総攻撃の準備をする。」

 

 

ピピッ

 

通信が入った音がして群像は回線をヒュウガからそちらに切り替えた。

 

 

『群像艦長!大丈夫ですか?破砕音が聞こえたのでまさかと……』

 

「シュルツ艦長…いえ、心配有りません。」

 

 

『よかった……それでなんですが、播磨の足を止めて頂く事は可能ですか?』

 

 

「出来なくはありませんが……何か策があるのですか?」

 

 

『はい。これから播磨の防壁を一気に飽和させます。そのためには、この攻撃を万が一でも外す訳にはいきません』

 

 

「解りました。最善を尽くします。因みにどのような攻撃なのですか?」

 

 

『説明している暇はありませんが、海上、海中を問わず凄まじい衝撃波を生みます。ですから401には、播磨の足を奪った時点で、全力で播磨から距離を取ってもらいたいのです』

 

 

「了解。こちらも総攻撃を播磨の足止めに費やします」

 

 

『ありがとうございます。それでは御武運を……』

 

 

シュルツとの会話を終えた群像は、イオナを見る。イオナは群像に笑顔で答えた。

群像は頷き、大きく深呼吸をしてそして確かな声で言った。

 

 

「よし、かかるぞ!」




お付き合い頂きありがとうございます。

黒幕登場で精神崩壊必至。

播磨との戦闘は満身創痍。

それでも決着は訪れます。


尚、明乃の懐中時計はラポートのPW90をイメージしています。


それではまたいつか。








とらふり!





群像
「イオナどうした?いつもと様子が…」


イオナ?
「あなたが翔像さんの息子…似てないわね……」

群像
「は?」

イオナ?
「いえ本当に良かったなって…それより、今が好機!行きましょう」

群像
「………」


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涙で解けぬ雪の華    vs 超兵器&Unknow

お疲れ様です。

播磨戦決着です。

どうか最後までお付き合いください。

それではどうぞ




   + + +

 

 

 

 

《オ前ノ心ヲ見タゾ…私ノ物ダ……》

 

 

 

獰猛な目玉が明乃を睨む。

 

 

 

《オ前ノ恐レモ見タ…不安 怒リ 哀シミ 全テヲ見タ…》

 

 

 

「やめて……」

 

 

 

《オ前ト私ハ似テイル。兵器ナノダ。人々ノ都合デ作ラレ、人々ニ疎マレ、ソシテ使イ潰サレル》

 

 

 

「やめて…やめて」

 

 

 

 

《身ニ覚エガアルノダロウ?孤児トイウ身ノ上ニ向ケラレル差別ト同情ノ眼差シ、ソノ優秀サ故ニ時ニハ疎マレ、マタ利用シヨウト近付ク者達。誰モオ前ノ事ナド真ニ思ウ者等存在シナイ。何故ナラオ前ハ我ラト同ジ、殺戮ト死ト虚無ヲ生ミ出ス……》

 

 

 

 

「やめて止めてヤメテやめてヤメテヤめテ」

 

 

 

《私ガ蒔イタ種ガ芽吹イタ。【超兵器:岬明乃】ナノダ》

 

 

「イゃぁアぁぁあぁぁアああ!」

 

 

 

 

 

 

絶望の叫びが響き渡る。

 

 

 

 

明乃の脳裏には、幼い頃自分に向けられる周りの大人達の不快な視線、小学校の頃にクラスメイトや担任から言われた心ない言葉、まるで動物園に展示される珍獣を相手にするような扱い受けてきた過去。

 

 

 

 

その類い稀なる知能と身体能力から、定期的に訪れては、医学の為と称して自分の身体をまるで実験動物を見るような目で嘗めるよう眺め、弄くり回す白衣の研究者達の姿。

 

 

 

 

思えば、一人の人間として尊厳を持って接して貰ったことなど無かった。

 

 

 

明乃の人当たりの良い人格は、そうした過酷な環境に順応しようとする心の防衛本能が造り出したのかもしれない。

 

 

 

 

しかし、長年にわたる不遇な扱いは彼女の心を着実に蝕み脆くして行き、そこに超兵器の付け入る隙を生み出してしまったのだ。

 

 

 

目玉は不気味な程優しい口調で囁いてくる。

 

 

 

《岬明乃。私ヲ使イ、私ト共ニ歩メ。オ前ヲ理解出来ルノハ、オ前ト同ジ苦シミヲ知ル私ダケナノダ……》

 

 

 

 

 

「あなた…だけ?」

 

 

 

 

《ソウダ…私ハ未ダ彼ノ者ノ命令ニ縛ラレテイル。私ノ行イニ、憎悪ヤ恐レヲ向ケル者ハイテモ称賛スル者ハイナイ…。私ハ孤独ナノダ、オ前同様ニ……》

 

 

「孤独……」

 

 

 

 

《共ニ歩モウ。サァ私ヲ受ケ入レヨ……》

 

 

 

限界の精神状態の明乃には、相手からの提案がとても甘美なものに感じられた。

 

 

 

 

 

 

目の前の力を手に出来れば、不遇な扱いは無くなる。

 

 

目の前の力を手に出来れば、大切な者を失わずに済む。

 

 

目の前の相手を受け入れられれば、自分は孤独から解放される。

 

 

 

 

 

明乃は手を伸ばし、力を欲しようとした。

 

 

 

 

     《明乃!》

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

 

彼女はその声に我に帰った。

 

 

 

 

     《明乃!》

 

 

 

 

 

聞き間違える筈がない。

 

 

 

なぜならその声は……

 

 

 

「お父さん?お母さん?ねぇ、どこにいるの?」

 

 

 

亡くなった筈の彼女の両親のものだったからである。

 

 

 

彼女は辺りを見渡すも、両親の姿を見ることは出来ない。

 

 

 

 

 

その時だった

 

 

 

 

明乃の胸から、勢い良く小さな光の玉が飛び出し、闇に包まれた世界に温かな光が灯る。

 

 

光は、明乃の周りをクルクル回り、目の前で止まった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

出雲とペガサスは、播磨への攻勢を強める。

 

 

切り札である光子榴弾砲は、あくまでも試験段階であり。現段階での連続発射にはリスクを伴う。

 

 

 

外すことは許されない以上、出来るだけ播磨を一ヶ所に釘付けする必要があったのだ。

 

 

 

 

 

「まだだ!!播磨の急速加速とサイドスラスターを封じないと、かわされる可能性がある。攻撃の手を緩めるな!砲撃・ミサイル・レーザー、とにかく何でもいい。撃ち続けろ!」

 

 

 

 

ヴェルナーは、厳しい表情を浮かべる。

 

 

正直なところ、暴走状態の播磨は、通常の攻撃を悉く跳ね返してしまう為に決定力に欠いてしまうのだ。

 

 

 

 

防壁の飽和を待つ前にこちらがやられる可能性もある以上、光子榴弾砲の発射は急務であるが、かといってかわされる訳にもいかす、最早手詰まりと言ってもいい状態だ。

 

 

 

 

その時、出雲のシュルツから通信が入る。

 

 

 

 

『ヴェルナー!401が動くぞ!いよいよだ!』

 

 

 

 

 

ヴェルナーは拳を握り締め、ジトッと額に滲んだ不快な汗を拭う。

 

 

恐らくここが勝負の分かれ目であることは言うまでもなく、何か一つのでも手違いがあれば全てが終わる。

 

 

 

 

 

 

故にヴェルナーは、自分に言い聞かせる様

にしっかりとした口調で指示を出した。

 

 

 

 

「総員、総攻撃準備!シュルツ艦長が動かれるぞ!なんとしてもここであの化け物を仕留めるんだ!」

 

 

ペガサスは、播磨に全砲門を向けた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「杏平!全ての魚雷発射菅とミサイルの弾頭を侵食弾頭にして装填!目標は、播磨のスクリューと舵!静!播磨のスクリュー音のパターンはとれているか?」

 

 

「はい!既に火器管制システムに入力済みです!」

 

 

「よし。いおり!フルバーストスタンバイ!砲弾をばら蒔いたら全力でこの場から距離を取る!」

 

 

『もぅ、エンジンに無理させ過ぎだよ~!!でもオッケー!必ず持たせてみせる!』

 

 

「頼む!」

 

 

「艦長よぉ……スクリュー潰しても、まだスラスターがあるぜ?」

 

 

「スラスターはあくまでも補助装置だ。あの巨体を動かすにはスクリューと舵が必要不可欠になる。今はそれを潰して動きを鈍く出来ればいい。」

 

 

 

 

「了解!いっちょやりますか!」

 

 

 

 

「艦長!クラインフィールドの飽和率は80%を越えています!」

 

 

 

 

「問題ない……フルバースト終了後、後方を中心にフィールドを展開すればまだ余力はある。イオナ!行けるか?」

 

 

「やってみる。群像……」

 

 

 

イオナは手を差し出した。

 

 

群像は少し目を丸くすると、決心したようにイオナの手をしっかりと握った。

 

 

 

 

「これより蒼き艦隊は、超兵器播磨の動きを封じ、戦艦出雲に攻撃のチャンスを作る!いくぞ!フルファイア!」

 

 

 

 

401から一斉に魚雷とミサイルが発射され播磨の舵とスクリューに殺到した。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長!播磨後部より破砕音を確認!敵艦、速力・操舵性共に低下!好機です!」

 

 

「よし!光子榴弾砲、エネルギー充填!目標・超兵器播磨!」

 

 

 

 

「了解!光子抽出装置作動開始!完了まで、およそ72秒!」

 

 

 

 

光子榴弾砲の砲身がゆっくりと播磨に向けられ、砲門が眩い光を放つ。

 

 

 

 

播磨は足掻く。

 

 

しかし、その巨体をスラスターのみで動かすには無理があり、一方で真下では401がフルバーストで離脱にかかる。

 

 

 

播磨は、最上級の危険因子である光子榴弾砲の発射準備をしている出雲に、主砲の照準を向けた。

 

 

 

 

 

「ナギ少尉。光子抽出機によるエネルギーの充填と401の退避はまだか?」

 

 

「エネルギー充填84%、401はいまだ危険区域。もう少し掛かります!嘘……敵艦、主砲を此方に回頭!

間に合いません!」

 

 

「くそ!あと一歩なのに……!」

 

シュルツは壁に拳をぶつけ、ナギも悲鳴にも似た声を張り上げた。

 

 

 

「敵艦、発砲!主砲弾来ます!」

 

 

(ここまで来て…!!)

 

 

 

誰もがそう思ったその時……

 

 

 

 

 

『しょげた声出してんじゃ…ないわよ!!』

 

 

 

「!?」

 

 

 

出雲の目の前に、物凄い勢いで現れたのは……

 

 

 

 

「重巡タカオ!」

 

 

 

『私だって…艦長の役にたてるんだから!』

 

 

 

 

 

タカオは、出雲の前に急速停止すると、クラインフィールドを展開した。

 

 

 

直後、

 

ズドォォォン!

 

 

播磨の主砲がフィールドに直撃して炸裂する。

 

 

 

 

『クラインフィールド…完全に飽和。後がないわ!必ず決めなさい!』

 

 

 

「救援感謝する!早く本艦謝線上から退避せよ!」

 

 

 

『了解!決めなさいよ!』

 

 

 

「ナギ少尉!」

 

 

 

 

「エネルギー充填完了!後は401の退避が…。」

 

 

『やってくれ!』

 

 

 

「千早艦長!」

 

 

『十分距離はとりました。後はクラインフィールドを後方に全力展開して防ぎます!時間がない早く!』

 

 

「博士!」

 

 

 

「発射照準軸、敵超兵器播磨を固定!最終安全装置解除…確認!発射準備完了!いつでも撃てます!」

 

 

 

シュルツに迷いは無い。

 

 

 

彼は【双角の鬼】を睨み、思い切り叫んだ。

 

 

 

「光子榴弾砲……撃てぇぇぇぇぇ!」

 

 

 

 

タカオが出雲の前からどけた瞬間、眩い光の球体が、目にも止まらぬ速さで播磨へ向かって行き、幾多の攻撃を防いできた防御重力場と電磁防壁に衝突、激しい紫電が迸る。

 

 

 

「いけぇぇぇ!いってくれぇぇ!」

 

 

 

 

シュルツは叫ぶ。

 

だが現実は非情だった。

 

 

 

「艦長!光が…。」

 

 

 

防壁にぶつかった砲弾の光が徐々に弱まっていく。

 

 

 

 

「諦めるな!」

 

「シュルツ艦長!!?」

 

「これからだ!」

 

 

 

ナギは播磨へと視線を向け今にも消えそうな光を見て絶望しかけた。

 

 

 

その時……

 

 

「総員、対衝撃防御!外に居るものは直ちに艦内に戻れ!衝撃波と熱波が襲ってくるぞ!勝負はこれからだ!目と耳は絶対守れ!」

 

 

 

 

シュルツが叫んだ。

 

 

同時に全ての艦、全ての乗員が目と耳を庇って体勢を低くした次の瞬間、凄まじい光と轟音が鳴り響き、大きく艦が揺れた。

 

 

 

 

「うっぐぅ…!」

 

 

 

 

周りから呻き声が聞こえ、シュルツ自身も暫くは立ち上がることができなかった。

 

 

揺れが収まり、一同は立ち上がって敵が居たであろう方角を見た。

 

 

 

辺りには光子エネルギーから変換された膨大な熱量により海水が蒸発し、靄が立ち込めている。

 

 

 

 

「やった…やったんです!艦長!私達は…超兵器を…倒したんですよ!」

 

 

 

ナギが叫び、表情を和らげると、出雲のクルーも次々と安堵の表情を浮かべた。

 

 

ただ一人、シュルツを除いては…。

 

 

 

 

「そうか、まだ足りないのか……播磨!!」

 

 

一同はギョッとした。

 

 

靄の中に巨大なシルエットが浮かび上がったのを見たからだ。

 

 

「あ…ああ…あぁぁ」

 

 

 

 

ナギを始め、一同も姿を現した播磨の姿に戦慄する。

 

 

 

そこには居たのは一匹の鬼

 

 

 

左舷のドリルは脱落し、飛行甲板も破損。

 

 

 

幾つか砲も、熱でグニャグニャに湾曲し、攻撃を受けた船体が熱を持っているのか、彼の艦が通った海面が蒸気を挙げていた。

 

 

 

 

それでも尚、播磨は止まらない。

 

 

 

 

「一時的に、全出力を防御に回して、武装とスラスターを死守したのか…!」

 

 

 

「狂っている!これ以上の戦いに、何の意味があると言うの?」

 

 

 

 

博士からも、思わず弱気な発言が飛び出す。

 

 

 

 

「解っているとも。それがお前の…いや、超兵器の矜持か!」

 

 

 

 

《我ガ名ハ播磨…【東洋の魔神】ナリ。貴殿ト私ノ間ニ、最早言葉ハ不用。互イニ砲ヲ交エ、砲デ語ラウノミ……》

 

 

 

「そうか…お前は、真の全身全霊で戦いたかったのか…」

 

 

「艦長?一体誰とお話しになっているのですか?」

 

 

 

「ならば答えよう。そして終わりにしよう。【撃沈】と言う結果をもって、お前の戦に幕を下ろしてやる!」

 

 

「か、艦長?」

 

 

 

「大丈夫だナギ少尉。何でもない……それより、砲撃戦準備!ケリをつけるぞ!」

 

 

「は、はっ!」

 

 

 

播磨と出雲は同時に動き出し、出雲が始めに砲撃を行う。

 

 

 

 

本来であれば、防御重力場に阻まれたであろう。

 

しかし……

 

 

 

ズドォォォン!

 

 

 

 

出雲の砲撃は播磨の甲板に着弾して炸裂し、衝撃で近くの副砲が吹き飛んで黒煙を上げる。

 

 

 

 

「防御重力場が消えた!?タカオ!」

 

 

 

「でも侵食弾頭は弾切れよ?通常弾頭も残り少ない。あの巨体を沈めるには火力不足だわ……そうか!超重力砲なら!」

 

 

 

「駄目!クラインフィールドが無い状態じゃ、エネルギーを蓄積している間に狙い撃ちされる!」

 

 

「それじゃどうしろって…ちょっと待って、通信よ。……ん、解ったわ。行くわよもえか!」

 

 

「どうするの?」

 

 

「こうするのよ!」

 

 

 

 

タカオは、ロックビームを照射し、海が割れて播磨が捉えられる。

 

 

 

「今よ!」

 

 

 

 

タカオが叫んだ。

 

 

 

すると遥か遠くで蒼白い光が輝く。

 

 

401の超重力砲だった。

 

 

姿を眩まし、ロックビームを使用しない事で、完全に播磨の隙をついたのだ。

更に401の超重力砲は、戦利品として大戦艦ヒュウガの物を取り付けている為、威力はタカオのそれよりも遥かに上回っている。

 

 

勝負は決まったも同然……しかし

 

 

 

「タカオ!緊急回避!」

 

 

 

 

タカオは、ハッとして視線を向ける。

 

播磨は不愉快な軋み音を上げながら160cm砲を此方に向けて来る。

 

 

もし直撃すれば、クラインフィールドを失ったタカオなどひとたまりもない。

 

 

「ヤバ……」

 

 

タカオは急遽ロックビームを解除して、回避運動に入った。

 

 

直後、タカオのいたところを砲弾が通過して炸裂。至近距離での爆発で激しく船体が揺れる。

 

 

 

そして播磨の真の狙いは別にあった。

 

 

超重力砲の回避である。

 

 

 

タカオにロックビームを解除させて、開放された船体をサイドスラスターと超巨大砲の発射の衝撃で急速に横にスライドさせる。

 

 

 

艦としてはあり得ない勢いで横滑りをした播磨の横を切り札である超重力砲が通過した。

 

 

 

「超重力砲が…かわされた!?」

 

 

「何でよ!これだけの艦に囲まれて、これだけの攻撃を受けて、何で止まらないの?何で沈まないのよ!」

 

 

 

いつもは強気のタカオも今度ばかりは弱音を吐くしかなく、それは伝播するかの様に全ての艦艇に広がった。

 

 

 

 

 

 

「超重力砲がかわされるなんて……」

 

 

「そんなことはどうでもいい!今はとにかく攻撃を継続するんだ!」

 

 

 

シュルツはナギに叱咤して攻勢を更に強めていく。

 

 

 

(攻撃は通る!今を逃せば終わりだ!)

 

 

 

出雲は、播磨と正面から撃ち合った。

 

 

 

播磨の甲板上では、至るところで煙が上がっている。

 

 

 

攻撃は効いている筈だ。

 

 

 

だが、それでもシュルツはゾクリとする背筋の寒さを感じていた。

 

 

 

直後、彼の予感は的中する。

 

 

 

 

「まずい…取り舵一杯、緊急回避!突撃が来るぞ!」

 

 

 

 

播磨は右のドリルを稼働させ、一直線に突っ込んできた。

 

 

 

出雲は回避運動に入るが、一歩間に合わない。

 

 

 

 

 

艦に激震が走り、シュルツも体が吹き飛ばされて、壁に激突した。

 

しかし、激痛に怯んでいる余裕は彼等にある訳もない。

 

 

 

 

「あ、くっ…!ひ、がい報告を……」

 

 

「は、はい!右舷後方大破、浸水発生、エネルギー回路に異常発生のため光学兵器を使用できません!」

 

 

「ダメージコントロール急げ!」

 

 

出雲は浸水により速力が徐々に低下して行き、このままでは蜂の巣になってしまう。

 

 

 

その時、

 

 

『シュルツ艦長!タカオに援護を頼みました。一度離脱してください!考えがあります!』

 

 

「はれかぜか…策とは?」

 

 

『それは…』

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「お父さん!お母さん!」

 

 

明乃が呼び掛けると、小さな光の球は二つに分裂し、人の形を成した。

それは忘れるはずもない、あの時のままの優しい両親の姿だった。

 

 

 

《明乃…大きくなったな》

 

 

《友達は出来た?身体を壊したりはしてない?》

 

 

「うん…元気だよ……」

 

 

《明乃?》

 

 

「ごめんなさい!私のせいでお父さんとお母さんが……それに私…いい子じゃなくなっちゃったの!怒りや不安が込み上げてきて、自分じゃないみたいに抑えが効かなくなる。これじゃまるで……化け物だよ!お父さんとお母さんの子じゃなくなっちゃう!!」

 

 

《明乃……》

 

 

 

涙を溢して謝罪をする明乃を両親は心配そうに見つめる。

 

 

その時、背後でギョロリとおぞましい目玉が彼女に囁いた。

 

 

 

《ソノ通リ…最早オ前ハ人ニ非ズ。全テヲ虚無ニスル存在。即チ我等ト同類ナノダ》

 

 

 

「う、うっ、ぐぁ…あっ」

 

 

 

明乃は頭を抑えもがき苦しむ。

 

 

 

彼女の脳には、世界で起きてきた災悪が写し出されたいたのだ。

 

 

 

 

戦争

 

 

「あっ…」

 

 

 

テロ

 

 

 

 

「ひぐっ!」

 

 

差別

 

 

 

「がぁ…」

 

 

 

恨みの連鎖

 

 

 

「ひぃ!!」

 

 

 

 

「うぇっ…」

 

 

 

そして最後に明乃は見た。

 

 

【終わりの世界】を……

 

 

 

 

目玉は彼女に優しく囁く。

 

 

 

《オ前見タダロウ。何者モ存在シナイ世界ヲ、戦モ病モ無イ世界ヲ…如何ナル苦モ無イ世界ヲ……》

 

 

 

「う、うぅぅ……」

 

 

 

《オ前ハ私ト同類ダ。私ヲ見ヨ!》

 

 

 

明乃は目の前の目玉と対峙した。

 

彼女は思ってしまうのだ。

 

 

 

¨この世界に行きたい¨と

 

 

 

 

苦しみを知っている明乃だからこそ、苦しみの無い終わりの風景に安息の気持ちを抱いてしまっていたのだ。

 

なぜかひどく優しく見える目玉の下へ、明乃は進もうとした。

 

 

 

それを思い止まらせたものは……

 

 

 

()()()

 

 

 

両親の声だった。

二人は明乃の身体を堅く抱き締め、言い聞かせるように彼女に語りかける。

 

 

 

 

《明乃。私達の話を良く聞きなさい。お前は兵器でも、世界の救世主でもない。¨私達の娘¨なのよ》

 

 

 

《どれだけ¨アレ¨と¨同じ¨かじゃない。どれだけ¨違う¨かなんだ。思い出してごらん。そして忘れないでくれ。兵器が決して持てないもの、明乃が持っているものを…どれだけ私達が明乃を大切に思っていたかを……》

 

 

 

 

 

明乃は目を見開いた。

そして、彼女の頬を血の通った暖かな雫が流れ落ちていく。

 

 

 

胸に手を当てると、そこにあの時貰った懐中時計の感触が手に伝わった。

 

 

 

あの日あの時以来、同じ時刻を指し続けている懐中時計。

 

 

 

明乃は両親を忘れない為、敢えて直すことはなかった。

 

 

 

だがその行為こそが、彼女を過去に縛り付け、現実を不幸と決めつけて、心の時計を前に進める事を頑なに拒んでいた明乃自信の気持ちを具現化したものだったのかもしれない。

 

 

 

 

しかし今、両親の言葉を得て彼女の脳裏に浮かんだ記憶が、止まってしまった心の時計の針を動かし始めていた。

 

 

 

それは何万分の一秒か、何億分の一秒かは解らない位小さなものかもしれない。

 

しかし、¨止まっていない¨事だけは確かだった。

 

 

 

 

 

短い間だったが、両親に沢山の愛情を貰った記憶。

 

 

自分の娘と分け隔てなく育ててくれたもえかの母との記憶。

 

 

自分と同じ苦を共有し、共に笑い、泣いてくれた親友もえかとの記憶。

 

 

 

時に叱咤され、ぶつかる事があっても、自分を信じて見捨てなかった晴風の仲間たちとの記憶。

 

 

ブルーマーメイドになり、実際に助けた人々から感謝されたり。真摯に指導してくれた先輩達と過ごした記憶。

 

 

 

 

 

 

¨無かった事¨には出来ない、小さくとも大切な記憶が明乃の時を動かしたのだ。

 

 

彼女は振り返り、おぞましい目玉に相対する。

 

 

 

 

   + + +

 

「な、なんだ!!?」

 

「鏑木医務長、どうした?」

 

 

「岬さんから検知された超兵器ノイズが…弱くなっている?それに新たな脳波が…超兵器ノイズと、全く逆の波形の…一体何が起きているんだ……」

 

 

 

 

   + + +

 

 

「あなたには何もない。両親からの愛も…友人との思い出もっ!」

 

 

 

《………》

 

 

 

「あなたはとても可哀想な存在……私は、あなたみたいな存在には…なりたくない!」

 

 

 

迫り来る闇に対する確固たる拒絶。

 

 

すると、暗闇に支配されていた風景が眩い光におおわれ始めた。

 

 

 

 

   + + +

 

「新たな脳波に超兵器ノイズが打ち消されていく!?」

 

眠っている明乃の唇がぎゅっと結ばれた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

目玉は強い光に耐えられず呻き声を上げる。

 

 

《ググォォ!!愚カナ……オ前ハ全テ失ウゾ…全テダ!》

 

 

 

辺りの光は一層強くなる。

 

 

 

《グゥゥオオオオ!》

 

 

 

目玉は苦痛の悲鳴を上げ、のたうち回りながら闇の彼方へと姿を消していった。

 

 

最後に一言を残して……

 

 

 

《イズレ…マタ……》

 

 

 

辺りが完全に光に覆われると、明乃の体がフワリと浮き上がる。

 

 

 

彼女は離れていく両親に叫んだ。

 

 

 

「お父さん!お母さん!嫌だ!もっと一緒に………!」

 

 

 

《明乃。いつ、どんなときでも明乃を大切に思っているよ》

 

 

 

《今は戻りなさい。大切な人達の下へ…大丈夫!!いつも側にいるわ。【晴風】が私達を導いてくれたから……》

 

 

「晴風が…?」

 

 

 

《どんなに辛くとも、あなたの下に良い風が吹くように祈っているわ》

 

 

 

 

明乃は手を伸ばす。

 

 

 

だが両親との距離はどんどん離れ、姿が光の中に消えていった。

 

 

   + + +

 

 

ガタンッ!

 

美波が目を丸くして唖然としている。

 

いや、美波だけではない。艦橋にいた全ての者が、音のした方を見て驚愕している。

 

 

岬明乃は立ち上がっていた。

 

 

「岬…さん?」

 

 

「¨シロちゃん¨砲撃戦準備……」

 

 

「シロ…もしや!大丈夫なのですか?」

 

 

「話している時間がない、早く!」

 

 

「は、はい!」

 

 

 

 

真白は慌てて指示を飛ばした。

 

その時、マチコから報告が届く。

 

 

『警告!敵艦発砲!主砲弾5此方に向かう!』

 

 

「知床航海長、回避を…!!」

 

 

 

「する必要はないよ!あれは当たらない……」

 

 

「何をいう……」

 

 

「それよりも、次に来る砲弾が本命だよ!今回の砲弾が全て着弾した瞬間に機関全速、取り舵20度!」

 

 

「何でそんなことわかるんだ!」

 

 

「感じるの……」

 

 

「え?」

 

 

「解るの。アレを…超兵器を感じる……」

 

 

 

 

明乃は、彼方にいる播磨を睨んだ。

 

 

 

 

「今ならやれる。終わりに出来る!お願いシロちゃん…信じて!」

 

 

懇願するような声に、真白はなにも言い返せなかった。

 

 

 

 

「岬さん私はあなたを…あなたを……」

 

 

『主砲弾接近!』

 

 

「信じます!」

 

 

彼女がそう叫んだ次の瞬間、播磨の砲弾が着弾した。

 

 

しかし、はれかぜには一切当たらず、そして先程彼女が言った通り、播磨がもう一度はれかぜに向かって発砲する。

 

 

 

 

『敵艦発砲!弾数3此方に向かう!』

 

 

「機関全速!取り舵20度!」

 

 

 

「ひっ!よ、ようそろ~!」

 

 

「岬さん。なぜあなたが敵の攻撃を予測出来るのかは解らない。でもこれだけは言える。本当のあなたは、私達を決して死なせない。だから信じます!!岬明乃を私達は信じます!」

 

 

「シロ…ちゃん……」

 

 

「だからこれを、あなたにお返しします」

 

 

 

 

真白は明乃に艦長帽を被せ、美波も下着姿の明乃に上着を羽織らせる。

 

 

真白は優しく笑顔を向けた。

 

 

 

「お帰りなさい!¨艦長¨」

 

「うん…ありがとう」

 

 

 

彼女は潤んだ瞳を一度閉じると、カッと見開き指示を出した。

 

 

 

 

「皆!私に考えがあるの。シュルツ艦長に通信を繋いで!」

 

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 

「シュルツ艦長!タカオに援護を頼みました。一度離脱してください!考えがあります!」

 

 

『岬艦長……策とは?』

 

 

 

「それは電子撹乱ミサイルを使用し、播磨を叩く作戦です。出雲とタカオ、そして401は出来るだけ播磨の後方真ん中付近の甲板に穴を開けて、それから出来るだけ播磨の目をはれかぜから逸らして下さい。超兵器機関を無力化します!」

 

 

『なるほど。奴の心臓さえ叩けば……』

 

 

「播磨を無力化できます!」

 

 

 

『解りました。至急通達を出します。御武運を!』

 

 

 

 

明乃は通信を終えると再び指示を出した。

 

 

 

 

「総員、砲撃戦準備!シュルツ艦長達が、チャンスを作ってくれてる。私達も攻撃をしのぎつつチャンスを作ろう!タマちゃん!電子撹乱ミサイルβ用意!」

 

 

「うぃ!」

 

 

「リンちゃんは、播磨との距離を出来るだけ一定に保って!近付き過ぎると攻撃の対象になりやすい。今は出来るだけ邪魔をされたくない。危険があるようなら知らせるからその時はいう通りに艦を動かして!」

 

 

「は、はぃ!」

 

 

明乃の復活によって、事態は決着へと動き始めていた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

タカオの援護により、播磨から距離を取った出雲は、反撃の準備に入っていた。

 

 

 

 

「艦長!弾薬がもう尽きそうです!」

 

 

「無駄弾を撃つなよ!このチャンスを逃す訳にはいかない。回り込んで!確実に甲板を破壊しろ!」

 

 

『401より出雲へ、タカオともに援護する』

 

 

「了解!救援感謝する」

 

 

 

『艦後方にあるガトリングレールガンを破壊します。一度注意を引いてもらいたい』

 

 

シュルツは頷くと通信を切る

 

 

 

 

「ミサイル発射用意!」

 

 

 

 

出雲は超兵器機関のある播磨の後方甲板へ

ミサイルを発射。

 

 

 

 

最重要の危機を感じ取った播磨がガトリングレールガンで迎撃に入り、音速を遥かに超える強烈な弾丸が殺到しミサイルはあえなく砕け散った。

 

 

 

 

その時、水面下から幾多のミサイルが飛び出しガトリングレールガンに襲いかかり、激しい爆発音と共に、いままで後方の守りを固めていたレールガンが粉々に爆散した。

 

 

「よし!全砲門開け!超兵器機関周辺の甲板を破壊するんだ!」

 

 

 

 

 

出雲 ペガサス タカオ 401は残りの砲弾を有りったけ発射し、超兵器機関周辺の甲板を破壊していく。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

 

「タカオ!弾薬がもう…。」

 

 

「くっ…401!あんたはどうなの?」

 

 

『此方も弾薬はあと幾分もない……』

 

 

「参ったわ…やはり超兵器機関周辺の内部装甲は厚く造られている。甲板を破壊した位じゃ露出しないわよ!」

 

 

「とにかく弾薬が有る限り通常弾頭で攻撃し続けるしかない!」

 

 

「侵食弾頭さえ有れば……」

 

 

「望の物はこれか?」

 

 

「そうそう!この侵食弾頭が…ってハルナ!?いつの間に?それにこれは……」

 

 

 

「光子榴弾砲作動時にお前に乗り込んだ。困っていた様だから401に許可を得てセイランを解体し侵食弾頭に再構成した。一発しかないが、防壁が無い今なら有効だろう。使え」

 

 

「有り難いわ!使わせて貰うわよ!」

 

 

「礼には及ばん…蒔絵を守る為だ」

 

 

「それじゃ行くわ!」

 

 

 

『待って!』

 

 

「この声はミケちゃん?」

 

 

『これから電子撹乱ミサイルを撃つ!今からココちゃんに座標データを送ってもらうから、モカちゃんはその後に私の指定した場所に侵食弾頭を撃って!撃ったら出来るだけ超兵器から距離を取るよう全艦に伝えて!』

 

 

「でもそれじゃ……」

 

 

『説明の時間がない!いくよ!』

 

 

「ちょっ、ミケちゃん!?」

 

 

 

 

通信が切れたと同時にはれかぜからミサイルが発射された。

 

 

 

 

「え?ミケちゃんどうして…超兵器機関とは全然違う方向に飛んで……」

 

 

 

 

はれかぜの発射した電子撹乱ミサイルは、超兵器機関ではなく、播磨の艦橋に向かって飛行し直撃、途端に強烈なジャミング波が辺りに撒き散らされ、今まで暴れ狂っていた播磨の様子が一変した。

 

 

 

 

砲撃は続いているが、今までのような正確な砲撃ではなく、全く見当違いの方向に闇雲に乱射を始めたのだ。

 

 

 

無人であるが故にセンサー類を狂わされた播磨は、言わば目隠しをされた状態に等しく、相手が何処に居るかも何処へ攻撃して良いのかも解らなかったのだ。

 

 

 

 

攻撃のチャンスとしては正に今だが、霧の艦隊のジャミング波は強力であり、播磨に一番近い所にいたタカオにも影響が出てしまっている。

 

 

 

 

 

「これじゃ狙えないわよ……」

 

 

「そうか!!だからさっきの座標に……タカオ!今から言う座標に侵食弾頭を誘導して!」

 

 

 

「出来なくは無いけど、ジャミング波の緩和に演算を割くと、正直当たるかどうかは五分五分よ?」

 

 

「心配するな。私が演算を補助する」

 

 

「ハルナ…解ったわ。やってやるわ!」

 

 

 

タカオは、精製された侵食弾頭を装填し、ハルナの演算を借りて狙いを定める。

 

 

 

 

「いっけぇぇ!」

 

 

 

 

侵食弾頭を積んだミサイルが発射された。

 

 

 

センサーを麻痺させられている播磨に最早迎撃能力は無い。

 

 

 

 

ミサイルは一直線に飛行し、甲板に開けられた穴に入り込んで、超兵器機関を覆っている装甲に直撃し、極小のブラックホールが分厚い装甲を無限の圧縮で食い破った。

 

 

 

 

「どう!?」

 

 

 

 

 

「ダメ…届かない!」

 

 

 

 

「そんな……」

 

 

タカオが愕然としたとき。

 

 

一発のミサイルが超兵器機関へと飛び込んでいった。

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長!弾薬欠乏です!もう打てません!」

 

 

「そうか……だが!」

 

 

 

 

 

 

 

はれかぜから一発のミサイルが播磨へと飛んで行くのを見ながらシュルツはナギへと問いかけた。

 

 

 

 

「ナギ少尉。貴官はパンドラの箱を知っているか?」

 

 

「この世の災悪の全てが入っていて蓋を開けるとそれが溢れて世界に混沌が訪れるアレですか?」

 

 

「そして、災悪の溢れ出た箱に残ったものは……」

 

 

「¨希望¨ですよね?でも私はそんなもの有るなんて信じられません……」

 

 

「貴官の言う通りだ。我々が見てきた世界は災悪に溢れていた。とても希望一つでどうこうなるような状況ではない。だが、それでも人が¨希望¨に焦がれてしまうのはどうしてだと思う?」

 

 

「それは……」

 

 

 

 

「壊れないからだ。いや¨壊せない¨と言うべきか…希望は元々パンドラの箱の中であらゆる災悪と共にあった。それでも希望は希望としてあらゆる災悪にも染まらず存在し続け、どんな災悪でも壊す事は出来なかった。故に人々は焦がれてしまう。どんな混迷や苦難の時代でも、どんなに強力な兵器や暴力でも、決して破壊出来ない希望があると……私は彼女にそれを見たのだ」

 

 

「岬艦長…ですか?」

 

 

「彼女は今、間違いなくこの世界の苦難の中心にいる。でも感じるんだ、彼女の心に超兵器ですら決して壊せぬ強い芯が存在することを……」

 

 

ミサイルの行き先を見守るシュルツはそれに希望が宿っていると強く感じた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

『侵食弾頭着弾!敵艦は……未だ停船せず!』

 

 

 

 

「解ってる。タマちゃん今!電子撹乱ミサイルα発射!」

 

 

「うぃ!」

 

 

はれかぜは、明乃の指示であらかじめ用意しておいた電子撹乱ミサイルαを発射する。

 

 

 

 

明乃は全ての展開が見えていた。

 

 

 

故に、電子撹乱ミサイルβで播磨のセンサーをまず始めに狂わせ、ハルナが¨精製するであろう¨侵食弾頭に超兵器機関の分厚い装甲を破壊させてから、切り札である電子撹乱ミサイルαを発射したのだ。

 

 

 

 

迎撃も出来ず、装甲にも覆われていない丸裸の超兵器機関にミサイルが吸い込まれて炸裂した。

 

 

 

明乃にはその後の展開も読めている。

 

 

 

 

 

「全艦、全速退避!」

 

 

 

 

通信を使って全艦に知らせた明乃が視線を向けた先には、船体からどす黒いオーラが立ち込めている播磨の姿が写っており、真白を始めとしたはれかぜ一同に絶望の色に包まれる。

 

 

 

 

「くそ!やはりダメなのか……」

 

 

 

「違う…あれは!」

 

 

 

 

 

「な、何が起きていると言うんだ!?」

 

 

 

 

   + + +

 

 

「超兵器の動きが更に活発に!」

 

 

「違う…様子がおかしい。見ろ!」

 

 

 

 

 

シュルツが指差した先には、砲弾を乱射していた砲塔がボロボロと崩れていく播磨の姿が見えた。

 

 

 

 

 

『全艦、全速退避!』

 

 

 

「岬艦長!?」

 

 

 

彼女の声を聞いたシュルツの表情が青ざめて行く。

 

 

 

 

 

「まずい…あれは¨自壊¨だ!超異常暴走の超兵器機関の過剰なエネルギーに、船体の方が耐えられないんだ。巻き込まれるぞ!退避だ!出来るだけ超兵器から距離を取れ!」

 

 

 

 

出雲は播磨から離れる軌道を取り、タカオもそれに続く。

 

しかし、

 

 

 

 

「はれかぜの退避が遅れています!」

 

 

「ミサイルを発射していた分、退避が遅れたのか!?救援を……」

 

 

「ダメです!今からでは間に合いません!えっ!?あれは……」

 

 

シュルツが視線を向た先には、はれかぜのすぐ脇の海面から勢い良く姿を現す蒼い潜水艦が飛び込んで来る。

 

 

 

 

蒼き鋼のイ401だ。

 

 

 

 

401は、はれかぜの艦首に回り込むとフックを射出して自身と彼の艦を接続し、スラスターをフル稼働させその場から一気に離脱を開始する。

 

 

 

 

 

 

 

全ての艦が播磨から距離を取ったその直後。

 

 

 

キュィィィィィン…

 

 

チカッ…………………………

 

 

ゴォォオオオ

ドォォォォオオオン!

 

 

 

 

 

一瞬の眩い光の後に、凄まじい爆発と衝撃波が周りの海に巨大な波を発生させた。

 

 

 

その大波と爆風は十分距離を取っていたはれかぜにも届き、船体が激しく揺さぶられる。

 

 

 

 

「きゃぁぁ!」

 

「て、転覆するぞ!」

 

「総員、対衝撃防御!なんでもいいから掴める物に掴まって!」

 

 

 

 

猛烈な台風でも経験したことの無いような激しい波と揺れに、はれかぜの乗組員からは悲鳴あがる。

 

 

 

 

たった一隻の艦が爆発したとは思えない威力の爆風は、まるで永遠にも感じられる五分程という長きにわたり続き、海をかき回し続けた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

静寂を取り戻した海は、先程までの激しい先頭が嘘のように静まり返っている。

 

 

 

 

「ん……うっ、んぅ」

 

 

 

 

明乃と真白は体勢を起こし、艦橋の外へ出て播磨のいた方向を見渡す。

 

 

 

そこには、小さな島の様にも見えた巨大な船体は存在せず、どこまでも平坦で穏やかな海が広がっていた。

 

 

 

 

 

「ちょ、超兵器播磨…消滅?勝ったのですか?」

 

 

「うん……」

 

 

 

 

明乃が静かに頷いた時、遅れて艦橋から飛び出してきた幸子が空を見上げて呟いた。

 

 

 

 

「か、艦長…ゆ、雪が……」

 

 

 

 

「馬鹿なっ!ここは小笠原諸島なんだぞ?雪など…あっ……」

 

 

 

 

チラチラと舞う雪の結晶。

 

 

 

 

雲も無いのに何故か舞い降りる雪は、既に傾きつつある太陽の光で一層白く美しく輝いた。

 

 

 

 

 

「艦長、これは一体……か、艦長!?」

 

 

 

 

真白は目を丸くした。

 

 

明乃は、目から大粒の涙を溢して泣いていたのだから。

 

 

 

 

「シロちゃん。どうして…どうしてだろうね…この雪を見ると、なぜだかとても寂しくて…寒くて…悲しい気持ちになるの…勝ったのに…皆をまもれたの…に……」

 

 

 

「か、艦長!?」

 

 

 

 

 

崩れるように倒れた明乃を受け止めた真白は戦慄する。

 

 

 

その身体は、まるで死人の様に冷たくなっていたのだ

 

 

 

 

「艦長!どうされたんですか!?しっかり!しっかりしてください!鏑木医務長!早く、艦長が!岬さんが!!」

 

 

 

頬に涙の跡を残した明乃は、真白がいくら揺すっても目を覚まさなかった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「シュルツ艦長…雪が……」

 

 

 

話かけられたシュルツの表情に勝利の余韻は微塵もなかった。

 

 

「【フィンブルヴィンテル】か……」

 

 

「フィ…なんですか?」

 

 

「【神々の黄昏ラグナロク】ひいてはこの世の終末だ。その前兆として、世界に【大いなる冬】が訪れ、世の中は戦と混沌に満ちていく…北欧の神話だ。その大いなる冬を【フィンブルヴィンテル】という」

 

 

「この雪が、今後の世界に戦火が広がっていく前触れだと?」

 

 

「わからん…だが、超兵器の強化、また異世界ならではの国家間の難しい舵取りを我々は乗りきらねば成らない事だけは確かだ」

 

 

 

 

シュルツは、一人で艦橋の外に出ると、雪の舞う海を見て呟いた。

 

 

 

「東洋の魔神【播磨】よ……満足だったか?」

 

 

 

《貴殿ラトノ戦…誠ニ有意義デアッタ……》

 

 

 

 

 

 

 

「永久に眠れ…二度と這い上がれぬ深く冷たき海底で……」

 

 

 

 

シュルツは死者を弔うような穏やかな声で呟き、そして艦橋へ戻っていった。




お付き合い頂きありがとうございます。

長くかかりましたが、ようやく沈みました。

第一章も終盤に差し掛かっているので何とか上手くまとめられればと思っています。


それではまたいつか。











とらふり! 1/144ちょうへいきふりいと

播磨
「ア~楽シカッタ!満足満足!」

???
「………」

播磨
「ゲ…」


???
「……」

播磨
「ハァ……アイツイツモ何考エテルノカ解ンナイ。イツモ氷ノ海デ、クールブッチャッテサ!」


???
「!!!」


播磨
「アワワ、ゴメンナイ!何モ言ッテマセン!」


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砲火の残響は氷上の摩天楼を揺るがす  …unknown flag ship

お疲れ様です。

今回は超兵器戦の残務処理回です。

残念ながら第一章終了とはならなかったのですが、次回は第一章終了と第二章の予告を含めた回に出来ればと考えています。

それではどうぞ


   + + +

 

播磨の消滅と同時刻

 

雪と氷が行く手を阻む、美しくも厳しい海

 

 

【北極海】

 

 

その青い氷の世界には、あまりにも不釣り合いな黒の巨大な艦艇が鎮座していた。

 

 

近くを北極熊の親子が歩いている。

 

 

警戒心の薄い子熊が、黒い艦の側面を興味深かそうにカリカリと爪で引っ掻いた。

 

 

すると、巨大な艦の長大な砲身が動き出し、付着していた氷柱がガチャガチャと甲板に落下して砕け散り、その音に驚いた熊の親子は一目散に逃げていった。

 

 

 

それを意に介せず、巨大な艦はズラリと並んだ砲頭群の仰角を次々と最大にしていく。

 

全ての砲を上に向けた時、そこにあるものを形容するなら、それは巨大な軍艦ではなく、正に【氷上の摩天楼】と言うべきものだった。

 

 

彼女のセンサーは感じている。

 

遥か南の海で散った、魔神の最期を。

 

 

 

 

ドォォォォン!

 

 

 

摩天楼が上空に向かって発砲した。

 

 

 

 

 

その弔いの砲撃が生んだ衝撃で船体は大きく沈み込み、発生した轟音と猛烈な爆風は辺りの海に張り詰めていた分厚い氷を一瞬で吹き飛ばした。

 

 

 

 

暫くして、掻き回された海面が穏やかになり再び氷が張り始めると、摩天楼は全ての砲の仰角を元に戻し、再び深い眠りについた。

 

 

不純物の少ない空気に写し出された。満天の星空とオーロラが、皮肉にも 氷の世界に不釣り合いな鋼の摩天楼を美しく飾っているように見えた。

 

   + + +

 

 

 

「急げ!早く搬送しろ!」

 

 

 

 

スキズブラズニルの医療班が慌ただしく怪我人を搬送し処置を施す。

 

美波も医療班に加わり、特に重症者を優先しての処置を行っていた。

 

 

 

超兵器の突撃により、中破した出雲は、他の艦よりも負傷者が多数いた。

 

 

 

はれかぜのクルーは幸い重症者はいなかったが、頭を打った者もいる為、念のため検査を受けており、蒼き鋼も機関長のいおりが多少のガスを吸っている為に検査を受け、タカオに乗っていたもえかも額からの出血と頭部の強打により処置を受けている。

 

 

怪我人の治療は夜遅くまで続き、美波がはれかぜにある自分の医務室につく頃には、夜中の2時を回っていた。

 

 

部屋に戻った彼女の前には、真白ともえかそして志摩が帰りを待っていた。

 

 

 

 

「様子はどうだ?」

 

「艦長はまだ……だが砲雷長は先程目を覚ました」

 

 

カーテンを開けた美波の視界には、眠ったままの明乃と、憔悴しきった様子の芽衣がベッドに横になっているのが目に写る。

 

 

 

志摩は心配そうに芽衣の手を擦っており、美波はベッドの脇に置いてある椅子に座ると、落ち着いた様子で芽衣に話し掛けた。

 

 

 

 

「目が覚めたか?良かった……外傷は認められなかったし、これなら問題無いだろう」

 

 

「………!」

 

 

 

芽衣の瞳からジワッと涙が溢れてきた。

 

 

 

 

「問題ない?そんなわけ無いよ……だって江田さ…人が死んだんだよ!?艦長だってこんなになって…私、何も力になれなかった。誰も救えなかったよ……」

 

 

 

 

 

項垂れる芽衣に、彼女は努めて表情を変えずに語りかける。

 

 

 

 

 

 

「艦長がこうなったのは誰のせいでもない。確定ではないが、明確な原因があると私は考えている」

 

 

「原…因?」

 

 

 

「現段階ではあまりに突拍子もない話で断定する事は出来ないが、いずれ確信を得た時点で話すことになるだろう。あと人死にの件だがな……」

 

 

「おい!それはあまりにも……!」

 

 

 

 

 

さも不謹慎だと口を挟もうとした真白を美波は手を翳して制した。

 

 

 

 

「話は最後まで静聴することを進めるぞ副長。それでだな、砲雷長がご執心の例のパイロット。確か…江田だったかな?彼は¨生きて¨いるぞ」

 

 

「!!?」

 

 

 

 

一同は驚愕し、特に芽衣は美波に掴み掛かろうとする勢いで迫ってくる。

 

 

 

 

 

「生きてるってどういうこと?何で!?あの時確か……ねぇ!どうして!?」

 

 

「ちょ…やめっ…落ち着け!これでは話が出来ん!」

 

 

 

 

美波に諭され、芽衣はベッドに戻る。

 

 

 

彼女はゴホンと咳払いをして話を続けた。

 

 

 

 

「続けるぞ?で、敵にやられて海へ落下した彼を助けたのは蒼き艦隊だ。セイランと言ったか?どうやらアレは海や空だけでなく水中でも可動出きるらしい。戦況が悪化する可能性を危惧した千早艦長は、当該海域へ向かっていた大戦艦ハルナに水中での待機を指示。そして彼の航空機が撃墜された報を受け、現場に向かわせた」

 

 

 

 

「でもあの高さから落下して無事な訳が…」

 

 

 

「忘れたか?知名艦長。彼女達にはあるだろう、クラインフィールドが」

 

 

 

「あ……」

 

 

「ハルナは、フィールドで彼が海に叩きつけられる衝撃を緩和して身体を回収した。その頃401では、大戦艦ヒュウガが卵型のポットで出発し、水中でハルナと合流。彼の身体をヒュウガに引き渡し、ヒュウガはその足でスキズブラズニルに戻り、横須賀での事例同様にナノマテリアルで応急処置を施した。その後ハルナは、彼の無事をシュルツ艦長に伝えてから我々の支援のため円盤型航空機の撃墜に現れた」

 

 

「そうだったのか…だが、大戦艦キリシマはどうなる?」

 

 

 

 

 

 

真白の問いに美波はニッと笑いを浮かべながら答えた。

 

 

 

 

 

 

「それも心配ない。彼女達はユニオンコアという人間で言う処の心臓を持っている。それが破壊されない限り、再びナノマテリアルを纏えば復活できるそうだ。そしてコアも、必ずしもメンタルモデルに埋め込んでおく必要は無いらしい。ハルナは、キリシマがスリープモードの際に、自身の権限でコアを別のところに移動していたようだ。故にあれほど完膚なき迄に破壊されても問題は無いらしい。今は、自閉モードに入っているようだが、じきに目を覚ますそうだ。」

 

 

「そうだったのか……」

 

 

「そ、それで、江田さんは今どこに!?」

 

 

 

 

 

芽衣が焦れたように美波に問う。

 

 

 

 

 

 

「病床が一杯なのでな。今は401にてヒュウガが治療を続けているそうだ」

 

 

 

「行かなきゃ!」

 

 

「待て砲雷長!」

 

 

「でも、会いたいの!」

 

 

「会わん方がいい……」

 

 

「どうして!?」

 

 

「彼は半分死んだも同然だからだ!」

 

 

「……え?」

 

 

 

 

呆然とする芽衣に、美波は続ける。

 

 

 

 

 

「彼は右半身のかなりの面積を失っている。本来なら生きている筈がないんだ。その失った部位をナノマテリアルで補っているに過ぎない」

 

 

「だって横須賀の時は!」

 

 

「あの時、ヒュウガが行っていたのは、あくまで応急処置だ。医者が来て手術をするまで、負傷者の命を留めて置いたに過ぎない。彼女達が治療に削いでいた演算能力を解けば、それはただの銀砂になる。それに忘れたのか?彼女達はそれぞれ別の世界から来たんだぞ。もし、彼女達が元の世界に戻ってしまえば、身体を構成していた部位が元に戻り彼は……」

 

 

「聞きたくない……」

 

 

「受け入れるんだ!砲雷長と彼は永遠に…」

 

 

「いや!」

 

 

「一緒にいることは出来ないんだ!」

 

 

「イヤァァ!聞きたくない!聞きたくないよそんな話!」

 

 

 

 

 

芽衣は手を両耳にあて、首を横に振って泣き叫んび、志摩がそんな彼女の身体を抱き締めながら必死に宥めている。

 

 

 

だが美波は容赦しなかった。

 

 

 

 

 

 

「また逃げるのか?そうやって子供みたいに泣いて、嫌だ嫌だと駄々をこねて、それで事態が好転すると思っているのか!」

 

 

「もうやめるんだ!鏑木医務長!」

 

 

 

 

真白の制止を振りほどき、美波は芽衣の胸ぐらを掴んで自身に引き寄せた。

 

 

 

 

 

 

「逃げるな砲雷長!彼への想いはそんなものだったのか?私に会うなと言われ、真実を打ち明けられたら尻込みするようなものだったのか?さっき永遠に一緒にいることは出来ないと言ったが、生き物である以上、永遠に等というのは端からあり得ないんだ!だから今が大切なんだ!砲雷長にはきちんと手足がある。自分の足で歩き、自分の口で想いを伝えることが出来るんだ」

 

 

「美波さん……」

 

 

「だったら行け!今すぐだ!その想いが本物だったらな!」

 

 

 

 

 

芽衣は目を見開いた。

 

彼女はベッドから起き上がると、覚束ないながらもしっかりと一歩を踏み出し、医務室を後にする。

 

 

 

 

 

「立石砲術長、砲雷長を支えてやってくれ…頼む!」

 

 

「うぃ!」

 

 

 

 

志摩が芽衣を追って出て行くのを見届けた美波は深く息を付くと、二人の出ていった医務室の出口に向かって呟く。

 

 

 

 

 

「私がキューピッドか。笑い話にもならんな……」

 

 

「「!!?」」

 

 

 

 

真白ともえかは目を丸くする。

 

 

 

 

「どういう事なんだ鏑木医務長!じゃぁさっきの話は作り話なのか?」

 

 

「事実だ。だが彼女達蒼き鋼が、彼への延命について何も対策をしていないと私は言った覚えは無いぞ?」

 

 

ニタニタとマッドな笑みを浮かべる美波を真白ともえかは半目で見つめる。

 

 

 

だがその笑みは、明乃に視線を向けるとたちまち消失した。

 

 

 

 

「さ…て、本題に移るとしようか」

 

 

 

 

目を覚まさない明乃の頬を美波は優しく撫でる。

 

 

「艦長の生い立ちについての話は皆には?」

 

 

「いや、まだ話していない」

 

 

「懸命だな。まだあの戦いからの余韻もある。余計なパニックは避けたい」

 

 

 

 

 

スキズブラズニルに戻ったあと、異世界艦隊の重要ポスト及び、真白ともえか、そして美波は真霜から、明乃に関する事情を説明されていた。

 

 

 

 

「で…だ、端的に言うと艦長の体には現段階で異常は無い。超兵器のノイズも脳波からは検出されなかった」

 

 

「じゃぁなんでミケちゃんは目を覚まさないの?」

 

 

「砲雷長が気絶した理由と同じだろう。急激に理解を超えたストレスが脳に掛かり、耐えられなくなった結果として、一時的に意識を飛ばして現実からの情報を遮断する防衛本能だな。まぁ艦長の場合は、砲雷長とは違い¨能力¨の副作用として脳にストレスがかかるようだが…どう思う?」

 

 

「信じがたい話だが、私達は目撃したからな。あの予言にも似た艦長の力を……」

 

 

「それにしても、ミケちゃんが異世界の人間なんて…。私…知らなかったよ。それに超兵器との関係も…」

 

 

 

 

二人は明乃の衝撃の事実にショックを隠しきれずにいるようだった。

 

 

 

 

「鏑木医務長の推測は、当たっていたわけだ…私は、何も知らなかった。いや、知ろうとしなかったんだ。艦長の頼もしさに甘えていた自分に腹が立つ!」

 

 

 

 

 

「感情論は今はいい。重要なのは、この現実に対する私達の対応だ」

 

 

「策は有るのか?」

 

 

 

「検討中ではあるがな……艦長の覚醒前に検出された超兵器ノイズとは真逆の性質を持つ波長。それを上手く利用すれば、あるいは艦長の人格の暴走ないし、能力の発現等に一役かうかもしれん。この案件については私の処理能力を超えた事象ゆえに、今後はブラウン博士・蒔絵・ヒュウガなどと相談し対応を模索していくつもりだ」

 

 

「力になれなくてご免なさい……」

 

 

「気にするな。これは私の分野だからな」

 

 

 

 

 

落ち込むもえかに美波は優しく微笑みかける。

 

 

 

『鏑木医務長。戻られたばかりですみません。至急病棟に来て頂けますか?』

 

 

「ああ、すぐ行く。」

 

 

 

 

 

 

通信をきると美波は支度を始める。

 

 

 

 

「また行くのか?」

 

 

「衣帯不解……か。まぁ医者である私の責務だからな。あなた達もそろそろ休むといい。少しでも休まんと持たないぞ」

 

 

「うん、もう少ししたら私達も休むよ。美波さんもあまり無理しないで……」

 

 

「解った。それでは少し行ってくる」

 

 

 

美波は、はれかぜの医務室をあとにした後に流れる暫しの沈黙の後、もえかが口を開いた。

 

 

 

 

「宗谷さん、聞いてもらえるかな……」

 

「なんです急に」

 

 

「私ね、逃げちゃったんだ……ミケちゃんから」

 

 

「逃げた?」

 

 

 

「うん……ミケちゃんは昔からとても優しかった。お母さんが死んじゃった時も、ミケちゃんに一杯励まして貰った。でも、孤児院に入ったある時、外で遊んでいた私達の近くに近所の人がこっちを指差して何か言っていたの。ううん、話の内容は聞こえてた。あの人達は私達を見て【親無し】って言ってた。明らかに蔑んだ目で……私ね、とても嫌な気持ちになったし、怖かった。でも隣にいたミケちゃんの顔を見て更に怖い気持ちになった」

 

 

「………」

 

 

「すごい目で睨んでいたの。一言も言葉を発せずに、ただ睨んでいたの。ミケちゃんをみた大人達は、気味悪がって逃げて行った。でもそれ以上に私もそんなミケちゃんが怖くて逃げたかった。それからミケちゃんの顔を見るたびに、あの時の顔が頭をよぎった。優しく笑いかけてくれたのに…私は愛想笑いを浮かべるしか出来なかった。中学に上がるとき、ミケちゃんに何も言わずに遠くの学校を選んだのも、ミケちゃんから離れたかったからだった…きっと嫌われてるって思ってた。でも…でもね…6年前、横須賀の学院で久しぶりにミケちゃんと再開したとき……ミケちゃん…笑顔で…本当に嬉しそうに……ひ、久しぶりだねって」

 

 

「知名さん、もういい……」

 

 

「それに…あの事件の時も、危険を省みずに助けてくれて…それに比べて私は逃げてばかりで…これじゃミケちゃんの親友だなんて……言えないよ!」

 

 

「それなら!私はどうなんだ……隣に、すぐ隣にいたんだ。それなのに何も気付かなかった。6年前も…今回も。いつも自分の事ばかりで精一杯で……何も知ろうとしなかったんだ。これじゃ副長以前に友達として……失格だ!」

 

 

「そんなこと無いよ……」

 

 

「「!!?」」

 

 

 

 

明乃が目を覚ましていた。お互いに心境を吐露し、涙を流す二人は目を丸くする。

 

 

 

 

 

「み、ミケちゃん、起きてたの!?」

 

「一体いつから……」

 

 

「ごめんね……タマちゃんが出てった辺りから起きてたの。盗み聞きするつもりは無かったけど起き上がるタイミングを逃しちゃって……」

 

 

「じゃぁ美波さんの話も……」

 

 

「うん…聞いてたよ。そうかぁ~。私、この世界の人間じゃ無かったんだね……」

 

 

「ミケちゃん…あの、それは……」

 

 

「ううん、いいの。気にしてないと言えば嘘になるけど。何故か今は凄く納得してる」

 

 

 

「嘘だ!納得などできるはずはない!だってこんな……」

 

 

「夢を見ていたの」

 

 

「夢?」

 

 

「正確に言うなら¨見せられていた¨…かな。私はあの日、両親が死んだ日を追体験させられた。そして両親の死の真相を知った」

 

 

「………」

 

 

「あれは間違いなく超兵器の襲撃だった。それを知った私は、超兵器に対するどうしようもない憎しみと、その後の世間の私に対する怒りに飲まれてしまったの。そこにアレは現れた………」

 

 

 

「アレ…とは?」

 

 

「大きな目玉の様なもの…でも見た目はどうでもいい。アレは恐らく超兵器の¨意思¨」

 

 

「そんな!兵器に意思なんて……」

 

 

 

「無いとは言い切れない。蒼き鋼のメンタルモデルの事もあるし……でもアレから感じられるものは【破滅】単なる破壊。この世から生命を一切消し去るまで止まることを知らない化け物……私は、アレに誘惑されたの。生命を消し去れば如何なる争いも起こらないって。どんな苦悩からも解放されるって……」

 

 

「狂っている!そんな終末論の様なもの、通常は認められるわけがない!」

 

 

「でも私は受け入れた」

 

 

「……え?」

 

 

「モカちゃん達の話で納得できた。あのイカれた話は私にだから、この世界の住人じゃない異質で孤独で心の弱い私にだからこそ有効だっんだと思う。周りの人の侮蔑の眼差しや、私を利用する人たちの心がイメージで流れ込んできて…そこにあんな言葉をかけられたら…正直耐えられなくなって…だから皆を危険に晒して……」

 

 

「ミケちゃんは弱くなんかない!」

「艦長は孤独なんかじゃない!」

 

「!」

 

 

 

 

もえかと真白は一斉に彼女に叫んだ。

 

 

 

 

 

「どうしてそんなこと言うの!?ミケちゃんはいつだって、どんな時だって私や周りの皆を否定せずに優しく受け入れてくれたじゃない!どんなに辛くても前を向いて進んでいたじゃない!そんなミケちゃんは弱くないよ!私なんかよりずっとずっと強いよ!」

 

 

「艦長!あなたは私や知名さん、そしてはれかぜのメンバーが己の私利私欲であなたに付いてきていると思っているのか?違う!絶対に違うぞ!皆、岬明乃という一人の人間が大好きだから、失って欲しくない大切な人間の一人だから一緒にいるんだ!それを孤独だったなんて…なんでそんな……悲しいこと」

 

 

 

 

 

泣きながら、すがり付く二人に明乃は微笑み、そっと二人の頬に手を当てた。

 

 

 

 

 

「うん…解るよ。だって私をアレの誘惑から引っ張りあげてくれたのは皆だから…」

 

 

「艦…長」

「ミケちゃん……」

 

 

「お父さんとお母さん、それにモカちゃんのお母さん、親友のモカちゃんにはれかぜの皆。その思い出が、私を現実に引き戻した。そして皆の思い出を運んできてくれたのは、はれかぜだと思う。」

 

 

「はれかぜ…が?」

 

 

「うん、感じたの。頬にあたる心地よくて、温かくて、そして優しい風を……だから私はアレに負けなかった。きっとアレは今後も、私や皆に幾多の絶望与えて来ると思う……何度でも」

 

 

「……」

 

 

「でもこの広い海に、皆…いや、家族と一緒にいる限り、きっと打ち勝てると思うの。だってアレに家族も友達はいない、大切な者を持たないただの冷たい¨兵器¨。私は…岬明乃は、こんなに温かくて優くて、大切な家族を持っている¨人間¨なんだから」

 

 

 

 

明乃は二人の頬に当てていた手を離すと、グッと自らの胸へ引き寄せて二人を抱き締めた。

 

 

 

 

「か、艦長……」

「ミケちゃん…う、うぁぁ!」

 

 

 

 

二人は声をあげて泣いた。

 

 

 

そこにいるのは、超兵器でもなければ、救世主でもない、ただの岬明乃がいる。

いつもの優しい岬明乃がいる。

 

 

 

 

こんなに当たり前の事が、今の二人にはたまらなく嬉しかった。

 

 

 

 

二人は、まるで明乃を遠くへ行かすまいとするように服を堅く掴んで暫く泣いていた。

 

 

余程安心したのだろう、疲れも溜まっていたのかもしれない。

 

 

 

二人はいつの間にか頬には未だに涙の跡を残したまま眠ってしまっていた。

 

 

 

 

明乃は二人の頭をそっと撫でると、医務室の扉に向かって呟いた。

 

 

 

 

「美波さん。もう入ってきてもいいよ」

 

 

 

すると扉が開き、疲れた様子の美波が入ってきた。

 

 

 

 

 

「ふぅ…バレていたか。艦長、君と同じだ。部屋に入るタイミングを逸してしまってな……」

 

 

「ごめんね。疲れてるのに……」

 

 

「無問題だ。しかし……」

 

 

 

 

美波はスヤスヤと眠る、真白ともえかを少し呆れたように見つめた。

 

 

 

 

 

「まさか、患者のベッドを占領するとは…困った副長殿と艦長殿だな」

 

 

 

「私を心配してくれたの。暫くそっとしてあげて」

 

 

「まぁ良いだろう。今のところ支障は無いしな…で、色々艦長には聞かなければならない事がある。先程の夢の件や艦長の生い立ちについてもな。話すのは辛いとは思うが、今後の超兵器対策に何か役立つやもしれん。ゆっくりでいい、勿論話せる範囲のもので構わない。朝までもう暫くある。聞かせてくれないか?」

 

 

「うん。ありがとう美波さん」

 

 

「礼には及ばない。私もあなたを大切に思う者の一人だ。微力でも力になりたい」

 

 

二人は朝まであの時の状況について話し合った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

幾千もの艦艇、氷の海。

 

 

 

今まさに世界を賭けた決戦が始まろうとしていた。

 

 

 

その艦艇の中にシュルツの艦もいる。

 

 

 

 

 

 

「退避せよ!繰り返す、今すぐ退避せよ!」

 

 

 

 

 

 

シュルツは数多の艦艇群に叫んでいた。

 

 

世界中から集結した多国籍の軍艦達が見据える視線の先には、まるで島の様な巨大な艦艇が一隻鎮座していた。

 

 

 

 

「退避せよ!退避せよ!」

 

 

 

 

 

 

 

 

『黙れ!この【悪魔】め!自国の艦が攻撃されるのが嫌なのか?それとも怖じ気づいて漏らしちまったのか?いいかよく聞けクズ共!!我々の国を蹂躙し尽くしたあの兵器を野放しする訳にはいかんのだ!国の誇りに賭けてな!』

 

 

 

「命を無駄にする必要はない!お願いだ…退避してくれ!家族が待っている者だっているんだぞ!」

 

 

『その家族を吹っ飛ばしたのは、貴様の祖国だろうがぁぁ!俺の妻も子供もその一人なんだよ!あんなに……あんなに愛していたのに……クソッ!いいか覚えておけ!皆殺しだ!この戦いが終わったら貴様の国の人間を皆殺しにしてやる!何もかも搾り取るだけ搾り取って、蹂躙して殺してやる!男も女も、子供もだぁ!』

 

 

 

 

 

通信は一方的に切られた。

シュルツは歯を食い縛りつつ、再び退避を促すために回線を開こうとした。

 

 

その時、

 

 

 

 

 

『聞いただろう。これが真実だ』

 

 

「貴様は……ヴァイセンベルガー!」

 

 

 

 

 

 

フリードリヒ・ヴァイセンベルガー

 

 

 

ウィルキア帝国初代国家元首にして、超兵器を使用し、世界に戦争と死を撒き散らした張本人である。

 

 

 

ヴァイセンベルガーは氷の海に鎮座する巨大艦から不遜な口調でシュルツに語りかけてきた。

 

 

 

 

 

 

『所詮は皆、我が身可愛さで他人を傷つける低俗な【サル】でしかない。私が……ウィルキアが全てを統治すれば、全ての領土がウィルキアに属し、全ての人間がウィルキア人となるのだ。そこには如何なる肌の色も宗教の問題も存在しない理想郷がある!それを何故理解しようとしない!』

 

 

 

「貴様のその身勝手な理想とやらに一体何人の人間の命を生け贄にするつもりだ!」

 

 

 

「父さん!もうやめてくれ!こんなのは間違っている!世界の大半の人間を殺して得られるものなんて何も無いんだ!」

 

 

 

 

ヴェルナーは泣き叫びヴァイセンベルガーを説得しようとしている。

 

その実、ヴェルナーはヴァイセンベルガーが昔関係をもった女性との間に生まれた実子であり、超兵器討伐中にその事実をヴァイセンベルガー本人からに打ち明けられていた。

 

そして帝国の為に、スパイとして超兵器討伐軍の動きを意図的に敵側にリークしていたのだった。

 

 

 

しかし、帝国や超兵器の狂気の所業に疑問を抱き、事実をシュルツに打ち明ける事を決意。

 

 

父と自分の気持ちとの折り合いをつけられなかったヴェルナーはその場で自決しようとしたが、シュルツに説得され真に超兵器討伐軍として行動し、父に立ち向かう決意を固めたのだった。

 

 

 

 

そんな息子の思いも、狂気に満ちたヴァイセンベルガーに届く筈もなく、冷徹な言葉だけが帰ってくる。

 

 

 

 

『貴様は黙っておれ、この役立たずがっ!それに偶然出会った売女との間に生まれた貴様など、端から息子などとは思っておらんわ!』

 

 

 

「あなたはどこまで腐っているだ……」

 

 

 

 

「ヴェルナーもういい……下がっていろ」

 

 

 

 

悔しさに涙を浮かべるヴェルナーを下がらせ、シュルツは再びヴァイセンベルガーと対峙する。

 

 

 

 

 

「もう終わりにしよう……降伏を受け入れて、大人しく法の裁きを受けるんだ!」

 

 

 

『笑止!この究極力を手にして降伏など有りはしない!見せてやろう、こいつの真の力を!神の鉄槌を!』

 

 

「な、何を……」

 

 

 

 

 

黒を基調とした巨大な艦艇の艦首にあるハッチが開き、中からそれそのものが戦艦よりも巨大な兵器が現れた。

 

 

 

それは現れるや否や、眩い光を放ち始める。

 

 

 

 

 

グゥゥウウオオオ!

 

 

 

 

兵器の不気味稼働音が辺りに響き渡る。

 

 

 

 

「超兵器ノイズ極大化!かか、艦長!な、何なんですか?……あれ」

 

 

 

ナギは恐怖のあまり震えていた。

 

 

 

 

「何にしてもろくなものじゃない!総員、ただちに奴の正面から退避!急げ!」

 

 

「は、はっ!」

 

 

 

 

シュルツ達は巨大艦艇から退避を決断する。

 

 

 

しかし多国籍艦艇は未だに退避勧告を無視し、巨大艦艇と対峙しており、砲の稼働音は更に大きくなっていく。

 

 

 

ヒィィギィィィィン!

 

 

 

 

 

 

「退避せよ!お願いだ……退避してくれ!」

 

 

 

 

 

シュルツの必死の呼び掛けも虚しく、破滅の時はやって来る。

 

 

 

 

 

ヴァイセンベルガーは、巨大艦艇の名を呼び、【使ってはならない兵器】の発射を宣言した。

 

 

 

 

 

『プッ、フハハハハ!これぞ神の力!【波動砲】発射だぁ!行けぇ【ヴォルケンクラッツァー】!!!』

 

 

 

「や、やめろぉぉぉぉぉ!!!!!」

 

 

 

 

 

次の瞬間、目を瞑っていても激痛を生む程の強烈な光と轟音が辺りを呑み込んだ。

 

 

 

シュルツは最後まで、多国籍艦艇への退避勧告を叫び続けた。

 

 

 

 

『艦長…艦長!どうされましたか!?艦長!』

 

 

 

「ガハッ!?ハァ…ハァ……」

 

 

 

突っ伏していた机からガタンと立ち上がったシュルツが辺りを見渡すと、そこはいつもの自分の部屋だった。

 

 

まだ状況が頭に入ってこない彼に背後の女性が話しかけて来る。

 

 

 

 

「どうかされたのですか?艦長……」

 

 

「ぶ、ブラウン博士!?どうしてここに?」

 

 

「今回の播磨との戦いについて、艦長とお話がしたくて来たのですが、ノックをしても返事が有りませんでしたので、誠に勝手ながら入らせて頂きました。そしたら艦長が苦しそうに呻いていらしたので心配で声をかけたのです……」

 

 

「そ、そうでしたか……」

 

 

 

 

彼は動揺している顔を見せまいと、顔を反らすが、博士は心配そうに何度もこちらを覗き込んできた。

 

 

「何か悪い夢でも?」

 

 

 

「い、いえ……それよりも報告があったのではないのですか?」

 

 

「いえ…今は止めておきます。いずれ話す内容でしたから。それにその様な状態で話しても冷静な理解は得られないと思いますし」

 

 

 

 

はっきりとした物言いにシュルツは反論出来なかった。

 

 

「申し訳ありません……不甲斐ない姿をお見せしてしまって」

 

 

「いいんです。ここ最近、艦長はろくに休息をとっていらっしゃらなかったのですから。それで?何か悩みでもあったのですか?」

 

 

 

シュルツは神妙な面持ちになる。

 

 

 

「アノ日の事が夢に出てきました……」

 

 

 

 

状況を察した博士の表情が曇る。

 

 

 

 

「ヴォルケンクラッツァー…ですか」

 

 

「はい…多くの人が死にました。私は無力だった。これでは、死んでいった部下にも顔向けが出来ない」

 

 

「そんなことありませんよ。艦長はいつも…この世界においても、超兵器による犠牲を無くそうと尽力なさっています」

 

 

「そんなことは無いのですよ。私は…いえ、何でもありません」

 

 

「………」

 

 

「それより博士も、そろそろ休憩……ヲフッ!?」

 

 

 

 

突然博士が、シュルツに抱きついて来た。

資料がバラバラと床に落ちる音がして、勢い余ったシュルツと博士はそのままベッドに倒れ込んでしまう。

 

 

博士に馬乗りされたシュルツは激しく動揺した。

 

 

 

「ちょ…博士!どうしたんです?止めてください!」

 

 

「誤魔化さないで!」

 

 

 

 

大声など上げたことの無い彼女の声にシュルツは動けなくなってしまう。

 

 

 

 

「何を隠しているの?あなたはさっきから私の顔を見ないばかりか、すごく怯えている様に見える。それは前から薄々感じていたの、私達の世界にいるときから……。でもそれが確信に変わったのは、ヴォルケンクラッツァーと対峙した時よ。それからあなたは変わった。ううん、気付かない人は気付かないかもしれない、でも私には解るの。あなたから伝わってくる不安や恐れが。だって私はあなたの事……」

 

 

 

 

「博士は【超兵器の声】を聞いた事がありますか?」

 

 

「超兵器の声?一体何の話を……」

 

 

 

 

シュルツは半ば自暴自棄にでもなったように淡々と話を続けた。

 

 

 

 

「成る程、やはり聞こえるのは私だけか…いや、もしかしたらヴァイセンベルガーもかな。奴ら超兵器には意思がある。破壊を楽しむ者・破壊を義務とする者・破壊そのもの。大きく分けるとこの三つに分類されるが最後にもうひとつ付け足すなら、それは…【無】」

 

「無?」

 

 

 

「この世にある全てを無に帰す。それが超兵器の目的なんです!ヴォルケンクラッツァーと対峙して始めてしっくり来た。先程言った三つの破壊原理、それは我々を無へと誘う為の布石だったんですよ!不自然だと思いませんか?世界を¨統治¨したいなら、何故世界を¨消滅¨させかねない波動砲を建造する必要があるんです?統治だけなら、今まで沈めてきた超兵器だけで十分事足りたんです!」

 

 

「それは……」

 

 

 

彼は捲し立てて彼女に叫ぶ。

彼女がこんなに荒ぶるシュルツを見たのは初めてだった。

 

 

 

(どうしたというの?これは報告にあった岬艦長の症状と酷似して……)

 

 

 

博士はその尋常ではない様子に恐怖を感じ始め、シュルツから距離を取ろうとした。

しかしその瞬間に、両肩を掴まれガタガタと揺さぶられる。

 

 

「いや、や、やめ…!」

 

 

「あなたの光子榴弾砲の開発もそうだ!あれは貴女が超兵器からの誘惑で作らされた破壊の結晶なんだよ!身に覚えがあるだろ!?目の前にある未知の技術に科学者として手を出してみたかったんだ!それで大勢の人間が消し飛ぶなんて微塵も考えずに!」

 

 

「やめ、ち、違う…私はそんな……」

 

 

「だからあの時、俺に泣きついたんだ!自分の中にある狂気に気付いて怖くなったんだろ!?」

 

 

 

 

彼がそこまで言うと、今まで抵抗していた博士の動きが止まった。

 

 

そして……

 

 

 

「う、うぅぅ…わ、私は…そんな…ただ…艦長に……」

 

 

 

 

 

博士は遂に泣き出してしまった。

 

恐怖もあったが、それ以上に色々な感情が噴き出して上手く言葉に出来ない。

 

 

本来科学者であり前線の経験の無い彼女は、クールな見た目とは裏腹に精神面で打たれ弱い一面があった。

 

 

 

シュルツはその様子を見て、我に帰って青ざめる。

 

 

 

 

「も、申し訳ありません!別にあなたを責めるつもりはなかったんです!ただ、少し感情が高ぶってしまって……」

 

 

 

 

必死に言い訳をするが、連戦で緊張の糸が切れてしまったのだろう。

 

 

博士は暫くの間、泣き止んではくれず、シュルツは途方に暮れることになった。

 

 

 

 

一時間がたち、ようやく落ち着いた博士に、シュルツはコーヒーん差し出した。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

黙ってそれを受け取った博士は、際眼鏡を外し、未だ潤んだ瞳で彼を見上げる。

 

 

 

 

 

彼女と目があってしまい、シュルツは既になん十回目かの酷い罪悪感に襲われた。

 

 

 

 

(私は博士になんて事を…女性を泣かせるなんて最低だ……)

 

 

 

 

 

落ち込むシュルツをよそに、博士はコーヒーを口に含む。

 

 

 

「ん…」

 

 

 

 

温かな感触と苦味が、気持ちを落ち着けた事も相まって、彼女は落ち込むシュルツには声をかけた。

 

 

 

「あ、あの………」

 

「は、はい!」

 

 

 

少し声が上擦ってしまった。

 

 

 

「艦長のおっしゃる通りなんです…。私は、目の前で起きる未知の現象に取りつかれていました。兵器を研究する者として、超兵器の技術は調べ尽くしたい知識の塊だったのですから」

 

 

「……」

 

 

 

「でも艦長の艦に同行し、運用される超兵器と、それによって死んでいく人達を見て、科学はもっと人の役に立つものだと信じていた私の考えが、根底から否定されました。使い方次第であんな悲劇を……怖くなったんです。科学も、それに盲目的に魅せられてしまった自分も……」

 

 

「博士、これ以上は……」

 

「言わせてください!自信を失った私を救ってくれたのは艦長、あなたです。【壊す科学が有るのならそれを抑止する科学もある。兵器の起こす事象が、それを使用する人の心に左右されるように】と…どれ程その言葉に私が救われたことか…。ううん、私だけじゃない、きっとヴェルナー副長だってそう。皆あなたに救われたんです」

 

 

「いえ、私はあなたの思うような人間では…」

 

 

「では、¨あの部屋¨は何なんですか?」

 

 

「……」

 

 

「ご免なさい…でも私見てしまったんです。艦長があの部屋に荷物をもって入って行くところを…。あの部屋の鍵は艦長しかお持ちにならない。あそこは、亡くなったあなたの部下の遺品があるのでしょう?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「それにもう一つ謝らなければならないことがあります。私、あなたの日記を少し見てしまいました。本当に申し訳ありません……」

 

 

 

「!」

 

 

 

 

これには流石に、シュルツの目が見開かれる。

 

 

 

 

「あなたは全ての戦いが終わった後に、その遺品を一つ一つ遺族の方に返しに行くつもりだった。きっと【私が殺してしまいました】とでも言って」

 

 

 

「……っ」

 

図星を突かれ、シュルツはバツが悪そうな表情をする。

 

 

 

 

 

「何故わざわざ憎まれに行かなくてはならないのですか?あんなに私達の事を第一に考えているあなたがどうして……」

 

 

 

 

 

「責務ですよ。私は、善人ではないし、国益にかなうなら鬼にもなります。でも、その為に犠牲になった人達を切り捨てればそれは最早、人の皮を被った兵器でしょうし、それを部下に強いればいざという時に引き金を引くことが出来ない。引き金を引かず自分が死ねば、それで新たな犠牲と憎しみが生まれる。その負の連鎖を止める為に私がいるのです。勿論、世界の全ての憎しみを私一人で受ける事は出来ないでしょう。でもせめて自分が生んだ憎しみくらいは自分で摘み取りたい。それだけです。」

 

 

「そんな……」

 

 

 

博士はシュルツの本音にショックを受けた。

 

 

 

 

 

 

 

「そ、そんなことより、博士は考えてらっしゃるのですか?この戦いが終わり、元の世界に戻った後のことです」

 

 

 

 

 

「私は…全て片付いたら、世界に拡散してしまった超兵器技術の無力化に努めていきたいと考えています」

 

 

「それは素晴らしい。博士のならきっと成し遂げられます!」

 

 

 

「それでなんですが…手続きがどのくらいかかるのかは解りませんが…私、ウィルキアの国籍を得ようと思っているのです」

 

 

「なっ!」

 

 

 

 

驚くシュルツを余所に、博士は少し顔を赤らめる。

 

 

 

 

 

「あの、それでなんですが…いつでもいいんです。艦長が自分の戦争に折り合いがつけられたらその…わ、私と世界を回って超兵器技術の根絶に同行して頂けませんか!」

 

 

 

 

上目遣いで潤んだ翡翠色の瞳を真っ直ぐ向けてくる博士の眼差しに、シュルツは一瞬たじろいだものの直ぐに熟考する。

 

 

 

 

「そう…ですね。解りました!第二第三のウィルキアを生まない為にも、是非同行させてください」

 

 

 

「ありがとう…ございます!」

 

 

 

 

シュルツの返事を聞いた博士は、滅多に見せることの無い本心からの笑顔を見せた。

 

 

 

 

 

 

「博士、目は通しておきますので、資料の感想は後日改めて申し上げます。今日はもう遅い。自室で休んでください。あと…先程は本当に申し訳ありませんでした」

 

 

 

 

「いいえ、こちらこそ困らせてしまってすみません。そうですね、それでは自室に戻っ……え?」

 

 

「どうかされましたか?」

 

 

 

「あの…立てません……」

 

 

 

「なんですって!?どこか怪我でも……」

 

 

「い、いえ。ちょっと腰が抜けてしまって……」

 

 

(なに!?余程さっきのが怖かったのか…マズイな……)

 

 

 

 

 

実は、博士は先程のシュルツの行為ではなく、自分の言った告白紛いの台詞を言うのに勇気を使い果たしており、シュルツの前向きの返答に安堵して力が抜けてしまったのだ。

 

 

「博士…あの、ではここで休んでいかれますか?」

 

 

 

 

「!!!」

 

 

「(マズイ、怖がらせてしまったか?)ああいえ、私は別な部屋で休みますので状態が回復しましたら自室に戻られたらどうかと」

 

 

「いや、あ、あの艦長はここにいらしても大丈夫…ですよ」

 

 

「しかし……」

 

 

「一人では不安なのです。お願い…します」

 

 

 

 

 

博士は顔を真っ赤にしてうつむいている。

女性と同じ部屋と言うのは抵抗があったが先程の事もありシュルツは断ることが出来なかった。

 

 

 

 

 

「わ、解りました。私は机で資料に目を通しておりますので、何か有りましたら声をかけてください」

 

 

「はい、ありがとうございます」

 

 

 

 

 

博士はそのままベッドに横になる。

 

 

 

 

 

 

(か、艦長の匂いが……ああ、どうしよう)

 

 

 

 

香りを堪能した博士は、シュルツの方へ視線を向けた。

 

 

彼は、机に向かい真剣な表情で資料を見つめている。

 

その誠実な姿勢が、たまらなく好きだった。

 

 

 

 

 

(艦長、今度は私があなたを救います。あなたが私にそうしてくれたように……)

 

 

 

 

博士は暫くの間シュルツを眺め、そして眠りに落ちた。

 

 

翌朝

 

 

「ハッ!仮眠のつもりが……」

 

 

 

 

博士が起き上がると、そこにシュルツの姿は無く、近くに自分の白衣がきちんと畳んで置いてあった。

 

 

 

 

「艦長…不器用で優しい人……」

 

 

 

 

博士は白衣を抱き、優しく微笑んだ。

 

 

一方シュルツは……

 

 

 

「すまないなヴェルナー。急に部屋を借りてしまって」

 

 

「いえ、私も丁度当直でしたし、構いませんよ」

 

 

「今度何か埋め合わせはするよ。ありがとう」

 

 

 

シュルツはヴェルナーの部屋を出た。

 

 

 

(フゥ……ヴェルナーの部屋を借りられたから良かったものの、他国の客員将校を、しかも女性と同じ部屋で過ごしたと誤解されたら軍法会議モノだぞ……願わくは、博士が昨晩の私の暴挙を訴え出ない事を願うばかりだ。ドイツとウィルキアの国際問題に発展しかねんからな……)

 

 

また一つ悩みが増えたシュルツは、キリキリするお腹を押さえ、ガルトナーに超兵器戦での報告を伝えに廊下を進んでいった。




お付き合い頂きありがとうございます。

シュルツの夢の中のシーンはガンナー1の摩天楼戦をガンナー2の登場人物でアレンジしてみました。

やっぱりヴォルケンはカッコいいです。

播磨が日本海の荒波を掻き分ける姿が似合うみたいに。

摩天楼は、氷の世界に静かに佇む姿が似合いそうなので最初にそのシーンもいれてみました。

戦闘だけでなく、超兵器そのものの完成度や佇まい等も想像して楽しんで頂ければ幸いです。



次回は何とか第一章を終了出来るよう善処致します。

それではまたいつか。



















とらふり!



???
「あの~儂の出番はまだかのぅ…」


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焦土の欧州

お疲れ様です

第一章 完結 となりました。

ここまで読んでくださった皆様に感謝申し上げます。

最後に第二章の予告っぽいものを入れてみました。

本当にアレを使うかは未定ですが、それに沿ったストーリーには成る筈です。

それではどうぞ


   

 

 

 

   + + +

 

 

 

「はぁ…はぁ…あ、うわっ!」

 

 

 

401に向かっていた芽衣はふらついて倒れそうになるのを小柄な人物が支えた。

 

 

 

「た、タマ?」

 

 

「うぃ」

 

 

「どうして……」

 

 

「一応は…病み上がりだから…無理は…ダメ!」

 

 

「でも……」

 

「ダ~メ!入口までは支えるから…後はメイが…それにメイは昔からとても…臆病……私が背中を押さないと肝心な所で逃げちゃう…ちゃんと向き合わなきゃ…ダメ!」

 

 

「タマ……」

 

 

正反対の性格の志摩と芽衣は、学生時代からとても仲良しで、親友とも言える間柄だった。

 

 

故にお互いの事はお見通しであり、いざという時に尻込みしてしまう芽衣をいつも志摩が支えていた。

 

 

「ありがとうタマ。途中まではお願い。でも最後だけは……」

 

 

「うぃ。解ってる」

 

 

 

二人は401へと歩いていく。

 

 

 

401の医務室付近に着いた二人は、中から声がするのが聞こえて立ち止まった。

 

 

どうやら声の主は筑波と江田のようである。

 

 

 

 

「意識が戻ったようだな」

 

 

 

「はい……」

 

 

「私がここに来た理由も解るな?」

 

 

「存じております……」

 

 

「いい覚悟だ。では伝えよう」

 

 

「はい……」

 

 

「貴様を現時刻を以て、ウィルキア共和国解放軍及び、大日本帝国海軍の全ての軍籍を剥奪するものとする。理由は作戦行動中における坑命行為、並びに独断専行によって、多数の人員と指揮系統に重大な損害を与えかねない事象を発生させた事である。本来ならば軍法会議にて貴様の処遇を決定するものであるが、異世界と言う事情を鑑み、現状における軍の最高指揮官であるガルトナー司令の一存にて決定を下したものである。貴様はこれよりは一般人だ。許可無く武器弾薬や戦闘に加わる事は許されん。艦を降りこの世界の保護を受けるも、我々の保護の下元の世界に帰れるまで同行するも貴様の自由だ。最も、我が軍が無事に帰れる保証もないし、一般人を養う物資的余裕も無いがな」

 

 

 

筑波はどこまでも冷徹に言い放つ。

 

 

江田は拳を握り締め、悔しさを滲ませ耐えるように筑波の話を受け止めていた。

 

 

 

 

「慎んで…お受けいたします……」

 

 

「そうか……」

 

 

「……っ!」

 

 

 

そのまま部屋を立ち去ろうとする筑波に彼は叫んだ。

 

 

 

 

「お待ちください!最後に一言…軍人としてではなく、一人の人間として言わせてください!」

 

 

「………」

 

 

 

「私は軍人失格でした。【軍人は大衆の為にあれ】そう教わって来たのに、最後の最後に一人の顔を思い浮かべてしまいました……途端に死ぬのが怖くなって…そしておめおめと恥を承知で生き残ってしまいました…本当に、申し訳ありませんでした!」

 

 

 

筑波は暫く黙っていたが、少しだけ振り返った。

 

 

「馬鹿者が……だが、私もだ」

 

 

「……え?」

 

 

「軍人として在りたい理由と生きたいと思う理由は違う。故に生きる理由があり、結果として大衆の為の軍人となれるのだ。私もアレの為に死ぬ訳にはいかんと常に考えておる。それにな江田、儂も一人の人間として貴様に言わねばならん」

 

 

 

筑波は少し震えた声で江田に呟いた。

 

 

 

「よくぞ生きて戻った…本当に、良かった」

 

 

「大尉……殿」

 

 

目を丸くする江田を余所に、筑波は部屋を出ていく。

 

 

 

 

出会い頭に彼と視線が合った二人は立ち竦むが、筑波はなにも言わずに歩き出した。

 

 

そしてすれ違い様に芽衣に呟く。

 

 

「私はあいつの翼を折ってしまった…だからお願いします。あいつの¨翼¨になってやって下さい……」

 

 

筑波は足早に去り、残された芽衣は呆然と立ち尽くす。

 

 

 

(翼になれって……そんなこと私には……)

 

 

 

そこへ……

 

コツン!

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

 

志摩が額を芽衣の額に当て、諭すように口を開く。

 

 

 

「メイ…大丈夫、大丈夫。私は…いつでもメイの味方だよ…だから」

 

 

 

彼女はクルっと芽衣の背中にまわりそして、

 

 

 

「ファイ…トー!」

 

 

 

トンと背中を押した。

 

 

 

「あ、わぁ!」

 

 

 

 

芽衣はよろけながら扉の前に立つ。振り替えると志摩がうぃ~と笑顔を見せていた。

芽衣は親友に頷きで答えると部屋へと入っていった。

 

 

 

 

「がんばれ!メイ!」

 

 

 

志摩はその姿を見送ると401の廊下を戻っていった。

 

 

 

 

芽衣が扉を開けると、直ぐに江田と目があう。

 

 

 

 

「い、西崎砲雷長?」

 

「てへへ~き、きちゃ…た」

 

 

 

芽衣は何とか笑って誤魔化すものの、本人を目の前にやはり狼狽えてしまう。

 

「……」

 

「……」

 

 

 

 

嫌な沈黙が流れる。

 

 

芽衣は江田の体を見て話題を切り出した。

 

 

「し、心配してたよりは軽傷みたいですね。ほ、ほら、墜落した~なんて聞いたからもっとひどい怪我かと……そ、それに美波さんも大袈裟に右胴体が吹っ飛んだ~なんて言うから…もう~ひどいですよね」

 

 

「本当です」

 

 

「へ?」

 

 

「俺の胴体の大半はあの時失われ、今はナノマテリアルで人体の一部を復元しているだけなのです。本当なら俺はあの場で死んでいました」

 

 

「そ、そんな…だってこんなにしっかりとした手が……あっ」

 

 

 

 

芽衣が江田の右手を触るととても不快なヒヤリとした感触が手に伝わる。

 

 

 

 

「俺の半身は今や人ならざるもので出来ています。それも、メンタルモデルが演算を解けば砂となって崩れ去り。俺はただの死体に戻る」

 

 

「そんな……」

 

 

 

「あの円盤が砲雷長の乗った艦に近付きそうだったので、いてもたってもいられず、隊長の命を無視してしまいました……でも良かった、あなたはこうして無事に……」

 

 

 

パァンッ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

芽衣が思いきり江田の頬を張った。

 

 

驚く彼を余所に、芽衣は瞳に涙を浮かべ、悲しみと怒りが入り交じった表情を浮かべる。

 

 

 

「何が良かったなの!?あんなに…【死なないで】って言ったのに……自分の命を捨てないでって言ったのに!!何であんなことしたのさ!!」

 

 

「そ、それは……」

 

 

 

 

「ああ、そう言えば最後に誰かの顔が浮かんだんだっけ?あっちの世界に残してきた彼女か何か知らないけど、その人があんたが死んでどんな顔をすると思ってんの!?私の顔を見なよ!こんな顔!こんな顔すんの!大切な人が…大好きな人が死んで、【お国の為に命を捧げた立派な人です】なんて本心で喜んで笑う人がいると思う!?いる訳ないじゃん! それに残された人はあんたが居なくなって一体誰が幸せにすんの!?どこかで別な男の人と出逢って幸せになるとか考えてんの!?馬鹿だよっ!無責任だよっ!そんな回りくどい事するなら自分で幸せにしてよっ!生き残る事を考えて自分自身で幸せにしてあげなよっ!そんな事も解らないなんて……ホント…馬鹿だよ…大馬鹿だよ!!」

 

 

芽衣は、江田の胸板を叩きながら大粒の涙を溢して自分の胸中を吐き出した。

 

 

 

江田は黙って芽衣の気持ちを受け止め、そして泣いて自分の胸にすがる彼女を優しく抱き締める。

 

 

「……あ」

 

 

「そうです。俺は馬鹿だった。あの時もっと早くその事に気付いていればと悔いています。でも遅かった……敵にやられ、海に落ちていくその瞬間まで俺に後悔はありませんでした。でも最後の最後にある人の顔と約束が頭に浮かんだんです。それは、砲雷長……あなたです」

 

 

「わ、たし?」

 

 

「はい。意識を失う直前にあなたの顔と【私をもう一度空に連れていって下さい】と言うあなたの声が頭に浮かんだ。途端に死ぬのが怖くなった。俺が死んだ後に超兵器からあなたを守れないのも、他の男とあなたが結ばれるのもたまらなく嫌だった。だって俺は…俺のために真剣になって怒ったり泣いたりしてくれるあなたが…西崎芽衣さんに惚れてたんですから!」

 

 

「……え」

 

 

 

芽衣は目を丸くした。

 

 

 

「言えなかった……いや、言うべきじゃないと思ったんです。職種も文化も、何より住んでいる世界すら違う。私達は本来なら決して交わる事の無い時間のを互いに生きている。仮にどちらかが片方の世界を捨て、もう片方の世界で過ごさなければならないとしたら。結ばれてもきっと幸せになれないと、そう思ったんです」

 

 

「………」

 

 

「でもそれと自分の気持ちを伝えないのとは違う。死に瀕して漸く解りました。きっと俺の言葉があなたの足枷になるかもしれない。過ごせる時間は僅かかもしれない。それでも残された時間をあなたと…芽衣さんと共にありたい!もう一度言います。西崎芽衣さん…好きです」

 

 

 

 

身体を引き剥がし、芽衣の目を真っ直ぐ見て江田は自分の気持ちを伝えた。

 

 

 

しかし……

 

 

芽衣は目をそらしてしまう。

 

 

 

それを見た江田は悲しそうな表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

芽衣は完全に及び腰なっていたのだ。

 

 

無理もない。

 

 

江田の思い人が自分であった事もそうだが、今まで女所帯の中で生活していた為、一人の男性に真剣に告白された経験など芽衣にある筈もなく、更に江田自身の境遇や余命も限られているという事実に完全に頭が真っ白になってしまったのだ。

 

 

 

 

「ズルいよ……こんな状況で告白なんて…頭グチャグチャで、どう答えて良いのかなんて……解んないよ」

 

 

 

こんな逃げ腰の言葉を絞り出すのが精一杯だった。

 

 

 

だが、そこで親友の言葉が芽衣の心を前へ動かす。

 

 

 

 

《メイならきっと大丈夫だから…ファイトー!》

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 

芽衣は目を見開いた。

 

 

 

 

(タマ…うん!私、江田さんに……!)

 

 

 

「返事は無理をしなくていいです…芽衣さんを困らせてしまって、本当に申し訳な……」

 

 

 

パンッ!

 

 

 

「ああああああ!」

 

「め、芽衣さん!?」

 

 

 

 

芽衣は叫び、自分の両頬を手の平で何度も叩き、決意したような真剣な目で江田を見つめる。

 

 

 

 

 

「江田さん!私もあなたに伝えないといけないことがあるの」

 

 

「な、なんでしょう?」

 

 

 

「世界とか寿命とか職種とか関係ない!あなたは私をあんなに綺麗な場所に連れていってくれた人なの!だからどんなに短くても、一瞬でもいい!私はそんなあなたと一緒に居たい!」

 

 

「!!!」

 

 

 

 

 

そして芽衣は江田に思いきり抱き付いた。

 

 

 

 

「江田さん…大好きです!」

 

 

 

「本当に?俺でいいんですか?一緒に居られる時間は刹那かもしれないのに……」

 

 

 

「報われる一瞬にする!大丈夫、私があなたの翼になるから!」

 

 

「芽衣さん……」

 

 

 

二人は固く抱き締めあい、お互い顔を見合せると、芽衣が静かに目を閉じ少し顔を上に上げ、それに答える様に江田も芽衣の顔に自身の顔を近付けていく。

 

 

 

二人の唇が重なろうとしていた。

 

 

 

 

シャー!

 

 

「!」

 

「!!?」

 

 

「盛り上がってるとこご免なさ~い♪」

 

 

 

突如、隣のベッドのカーテンが開き、軽薄な声が聞こえてきて二人は慌てて距離を取る。

 

 

 

 

姿を現した人物とは……

 

 

 

 

「ヒュウガさん!?いつからそこに……」

 

 

「あらあら~いちゃまずかったかしら?私は¨最初から¨ここにいたわよ」

 

 

 

「じゃ、じゃぁ私達の会話も…」

 

 

 

「ぜ~んぶ聞いてました~テヘェ♪」

 

 

「……」

 

 

 

 

 

二人は恥ずかしさのあまり真っ赤になってしまう。

 

 

 

 

 

 

「まぁまぁそんな顔しないで。これを造るためにここで頑張ってたんだからぁ☆

 

 

 

ヒュウガが差し出した小さな丸い物体を手に取った江田の手には、金属質の割にはやけに軽い不思議な物が乗っている。

 

 

 

「これは一体……」

 

 

 

「これ?これは私が造った特別製のユニオンコアよ。これをあなたの体のナノマテリアルで構成された部分に融合させれば、別に私達がいなくてもあなたの身体をそのまま維持出来るようになるわ」

 

 

 

 

「「!!!」」

 

 

 

二人は目を丸くする。

 

 

 

 

「それじゃ江田さんはこのまま生きられるんですか!?」

 

 

「そゆこと。でも勿論欠点は有るわ」

 

 

 

「欠点?」

 

 

「そう。このユニオンコアはあなたの脳の電気信号を受信して失った部位の活動を補っているの。だから脳が何らかの原因で機能が停止した場合。ユニオンコアも活動を停止してただの銀砂に戻ってしまうわ。同様の理由で脳に酸素を送っている心臓の停止もやはりコアの活動停止に繋がるから気を付けてね」

 

 

「どうしてそんな縛りをつけたんですか?」

 

 

 

「当たり前でしょう?人間はいつかは死ぬ。だからこそ¨生物¨なのよ。コアが心臓の変わりをしてしまえば、事実上永遠に死ななくなってしまう。それは最早生物というカテゴリーから逸脱しているのではなくて?」

 

 

 

「あ……」

 

 

 

「だからこのコアには、あなたの残った生身の部分の老化現象に合わせてきちんと¨老化¨を再現するよう設定させて貰ったわ。あなたが、本来の寿命を迎えたとき、コアも共に…ってね。要は普通の人間同様に気を付けて過ごしてって事。ああ、融合したあとは自分の意思で動かせるし体温も元に戻るだろうから違和感なく使えるわよ。心配しないでねん」

 

 

「そ、そんなことが……」

 

 

 

「あれ?あなたはともかく、芽衣ちゃんは知らなかったの?確か美波ちゃんに言った筈なんだけど」

 

 

 

「え?」

 

 

 

芽衣はその時、はれかぜの医務室で美波がニヒルな笑い顔を浮かべる姿を想像し、同時にそれを知らずにさっきまで言っていた自分の台詞を思い出して真っ赤になってしまう。

 

 

(美波さん敢えて言わなかったなぁ……)

 

 

 

 

「あっ、そうだあなたの今後の身の振り方なんだけど………」

 

 

 

「俺は軍を追われてしまいました……」

 

 

 

「そぅ!正にその件の事で話しておきたい事があるの。あなたたちが丁度チュ~っといく辺りに連絡したからそろそろ来るはずよ」

 

 

「くっ……!」

 

 

 

からかってくるヒュウガに抗議したいが、江田の命の恩人ともあってなにも言い返せない。

 

 

 

それを知ってかヒュウガもニヤニヤしていた。

 

 

 

そんな気恥ずかしいやり取りが成されている中、扉がノックされ一人の男性が中に入ってくる。

 

 

 

 

「あなたは…織部副長?」

 

 

 

「ええ、改めまして蒼き艦隊で副長を務めます織部僧です。よろしくお願いします。ヒュウガ、用件はすみましたか?」

 

 

「滞りなく」

 

 

 

 

僧は頷くと江田と向き合った。

 

 

 

 

「では、此方の用件に行きましょう。単刀直入に言いますと、江田建一さんあなたを蒼き鋼に迎えたいと思うのですが如何ですか?」

 

 

「お、俺がですか?」

 

 

「はい、事情は把握しています。あなたは大切な何かを守るために力を欲している…違いますか?」

 

 

 

江田は一度芽衣を見た。

 

 

そして……

 

 

 

「欲しいです!」

 

 

 

迷いの無い瞳ではっきりと答える彼を見て僧は頷く。

 

 

 

 

 

「よろしい。我々の艦隊は、そもそも国や組織から出奔した者達が集まった言わば傭兵集団のようなものです。まぁ目的はハッキリしているのですが……今はそれは置いておきましょう。それであなたを我が艦隊に迎えるに当り条件を提示させて頂きますがよろしいですか?」

 

 

 

「条件…とは?」

 

 

 

「あなたが我々と行動を共にするのは、飽くまで超兵器を打倒する迄です。我々の世界に帰れるとしても、あなたを同行させるつもりはない」

 

 

「なぜです?」

 

 

 

「我々の世界の抱える事情が余りにも異質だからです。私達とあなたの行動理念が余りにも違いすぎれば、いざ我々の世界に帰還して戦いに望むことになった時、その僅かな差違が重大な損害を生む可能性がある、としか言いようがありません」

 

 

「では何故私を迎えて頂けるのですか?」

 

 

 

「この世界で各国からの支援が事実上期待できない以上、現状において超兵器を知っている方が戦線に加わる意味は大きい。あなたにとってもメリットはある。プライベートな内容なので明言は避けますが、大切な者を守る力を得て、尚且つ蒼き鋼の看板があれば、スキズブラズニル内である程度自由に行動できる。悪い話では無いでしょう?」

 

 

 

 

「そうではありません……誘ってくるタイミングが余りにも良すぎる。条件もどちらかと言えば私にとても都合がいい内容なのも気になる。教えてください織部副長。他に理由が有るのではないですか?」

 

 

 

 

僧はハァと息を吐く

 

 

 

「私の口からは少々荷が重いのですが、実は我が艦長にシュルツ艦長と筑波大尉からあなたを受け入れて欲しいと訪ねてこられたのです」

 

 

「え……」

 

 

「本当にいい方々に囲まれていたのですね。軍人でもない私達に、あんなに深々と頭を下げられて《あいつに守る力を…明日生きる力を与えてやってください》と仰っていましたよ」

 

 

 

 

江田は横に座っている芽衣の顔を一度見て、そして下を向いて涙を流した。

 

 

 

 

「艦長…大尉殿……」

 

 

江田は、厳しくも優しい上官の思いを噛みしめ暫しの間泣き続けた。

 

 

 

 

   + + +

 

401のブリッジに蒼き鋼のメンバーが集まっており、そこへ扉が開く音がして僧とヒュウガが入ってくる。

 

 

 

 

 

「用件は澄んだか?」

 

「ええ、快諾して頂きました」

 

 

「彼は、どうしても今後の戦闘に無くてはならない人材だからな。よし!それでは、ここで現状の整理と今後の課題についてだが…タカオ、先ずは報告を頼む」

 

 

 

 

名指しされたタカオは頬を赤らめながら前へ進み出る。

 

 

 

 

「艦長からの指令は完遂したわ。弾薬を補給後、小笠原諸島に沈没した超兵器の残骸から必要な兵器データの採取、並びに破壊。これで日本を含めた各国は残骸から高威力の兵器を復元、製造することは不可能になる筈よ」

 

 

 

 

「うむ、良くやってくれた。この作戦はシュルツ艦長の意向ではあるが、勿論我々も賛同している。戦争を知らない世界にあの技術は余りにも甘美に写るだろうからな。それで?何か気になる事や使えそうな兵装はあったか?」

 

 

 

「私達に応用できそうな物は特に無かったわね。あるとすれば、アッチの艦隊とかでしょうけど…。あと本題だけど、ウィルキアの艦長の推測通り、超兵器機関はもぬけの空だったわ。これはもしかして……」

 

 

「ああ、あの円盤型の超兵器が播磨に何かしたときだろうな。イオナもあれ以降は播磨以外の超兵器から熱源が失われていくのを感知している。他の超兵器との戦闘でも起こりうる事案だけに警戒する必要がありそうだ。ありがとうタカオ、下がってくれ。次にヒュウガ、頼む」

 

 

 

 

タカオが下がり、代わりにヒュウガが前へ出る。

 

 

「現在の私達が元の世界に戻る算段はついてないわ。引き続きその件については調査を続けます。あと、超兵器打倒に必要な新たな兵器の開発等もブラウン博士や美波ちゃんと相談しながら進めて行くのでそのつもりで…さて、さしあたっての問題は、やはりイオナ姉さまに発生した謎の不調についてね……」

 

 

「そうだな……イオナ、あの不調は以前からのものなのか?」

 

 

「少なくとも元の世界に居たときには、感じたことの無いものであることは確か…」

 

 

「この世界に来てからはあるのか?」

 

 

「多分…だけど。この世界で硫黄島に向かう途中だとおもう」

 

 

「確かなのか?」

 

 

 

「確証はない。でもシステムチェックの後にとても言葉に表せない感情の奔流が私を包んだことは確か。それは、超兵器との戦闘中に感じた感覚と酷似していた」

 

 

「そんな前からか。少しも気付かなかった……」

 

 

「何度もシステムチェックのログを再確認したけど、特にエラーがあったわけじゃなかった。多分、今もそうだと思う」

 

 

 

 

「姉さまの言ってることは本当だと思うわ。戻ったあと簡易のチェックをさせて貰ったけど、不思議なくらい正常よ」

 

 

 

 

「報告であった岬艦長の精神異常と何か関係があると思うか?」

 

 

 

 

「断定ではないにしろ、姉さまに異常をきたした時刻とほぼ同時刻に発生していることから、某の関係は否定できないわね。岬艦長の意識が戻り次第、美波ちゃんにはヒアリングを行うよう伝えてあるわ」

 

 

「解ったありがとう。それではひとまず解散としよう。みんな良く休んでくれ」

 

 

 

 

401クルーがそれぞれ自分の部屋へと戻っていく。

 

 

 

 

「群像……」

 

 

 

 

イオナが群像を呼び止めた。慌てていたのか、群像の服の袖を摘まむ様な形になっめいる。

 

 

 

 

「どうしたんだ?お前が俺を呼び止めるなんて珍しいじゃないか」

 

 

「…うん」

 

 

 

 

イオナは俯いていた。

 

 

その様子を見た群像は努めて穏やかな声で語りかけた。

 

 

 

 

「イオナ、少しだけ俺の部屋で話すか」

 

 

 

「うん」

 

 

 

 

 

 

 

彼の部屋へと入ったイオナの目には、ベッドと机だけという他のクルーと比べて閑散とした風景が目に入って来た。

 

 

 

 

群像は、イオナにベッドの端に座るよう促すとポットでお湯を沸かし始め、沸くまでの間にカップを二人分準備し中にココアの粉を入れる。

 

そしてお湯をカップに注ぎ、スプーンでかき混ぜると、イオナへと差し出した。

 

 

 

甘い香りと、暖かな湯気が彼女の鼻をくすぐる。

 

 

 

 

 

「ココアだ、甘いものを口にすると気分が落ち着く」

 

 

「ありがとう」

 

 

 

 

 

二人はココアを一口啜り、群像は机の椅子に腰かけるとカップを置いてイオナへと向き合った。

 

 

「久しぶりだな…こうして二人で話をするのは。最初はお前と二人きりだったが、今ではすっかり大所帯だ。賑やかでとても気に入っているが、イオナはどうだ?」

 

 

「色々な思考が入り乱れて処理に負担が掛かる…でも、悪い気はしない」

 

 

 

 

彼女の返答に群像から思わず笑みが溢れる。

 

 

 

 

 

「ふふっ。お前らしいな」

 

 

「いけなかった?」

 

 

「いや、それでいいと思うぞ。さて…お前の事だ。あの時の事を話したいんだろう?」

 

 

「…うん」

 

 

「どんな感じがした?」

 

 

「最初は特に何かがあった訳じゃない。でも突然はれかぜから、激しい怒りや悲しみの感情が私に伝わってきたの。そしたら私の中で何かが¨揺らい¨だ」

 

 

「揺らぐ?」

 

 

「うん。急に不安になったの。有りもしないのに群像や皆が…殺されてしまう様なイメージが私の頭の中で何度も再生されて…それに対して私のコアが最善の結論を導きだした。それは【全ての殲滅】」

 

 

 

 

 

群像の表情が一気に険しくなった。

 

 

 

だが彼は、イオナを問い詰めるでもなく静かに耳を傾けている。

 

 

 

 

「私達以外のこの世の全てを破壊すれば、イメージしたような懸念事項は消える、コアはそう判断した。でも出来なかった」

 

 

 

「何故なんだ?」

 

 

 

 

 

「感情が…今まで群像と共に過ごしてきた思い出が何故かそれを否定するの。メンタルモデルを持ったことで得た人間に近い思考と、コアが導きだす兵器としての最善解。その間で感情プログラムに過剰な負担が掛かったんだと思う。でもその時、声が聞こえたの。多分女の人の声」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

 

 

「それと同時にその人の過去らしきイメージが流込んできた。氷の海…多数の霧の艦…彼女は囲まれて攻撃されていた。でも彼女は一切反撃せず、戦いを止めるよう説得していたの。でも、相手は聞き入れてくれなかった…そして彼女は沈められた。イメージはそこまで。彼女は私に話し掛けてきてこう言った。感情を…皆との絆を捨ててはいけないって。それから彼女は、演算の一部を肩代わりして私を助けてくれた。それと同時に、私の中に渦巻く不安も消えていったの」

 

 

「そうだったのか……」

 

 

 

 

「群像……私、どうしたらいいの?私はあなたの艦。今まで私は盲目的にそれに従ってきた。そうするよう¨命令¨されていたから…でも、それだけじゃダメな気がする。超兵器との戦いも、元の世界に戻った後も、命令に従うだけじゃきっと後悔することになる。行動には理由が必要。その理由が無ければ、私はまた揺らいでしまう……」

 

 

 

 

「大丈夫だよイオナ」

 

 

「群像?」

 

 

 

「君は霧の未来の縮図なんだ。霧と対話し和平を結ぶには、まず霧自身である彼女達が¨疑問¨を獲得しなければならない。ただ命令に従う兵器ではなく一つの生命体として…。今の君の様に命令に疑問を抱き、自立して思考するようになった時、初めて人と霧は和平への交渉が出来ると俺は思う。イオナは航海の理由が必要と言ったが、我々が海に出ることで君を含めた霧の思考に変化をもたらす事が、俺が海に出ようとした理由かな」

 

 

 

 

「でも必ずしも、皆の思考がプラスの方に向かうとは限らない。私だってそう。押し寄せてくる感情の奔流に流されてしまいそうになる……」

 

 

 

 

 

群像はココアを一口含み、暫し考えてから机の引き出しから有るものを取り出した。

 

 

 

 

「それはなに?」

 

 

 

「時計だよ。父さんが…昔俺に譲ってくれた物だ。イオナ、これを君に譲ろう」

 

 

 

 

 

群像は、古びた腕時計をイオナに差し出した。

 

 

 

 

「でもこれは群像にとって大切な物。どうして……?」

 

 

 

 

「大切な物だからさ。人間は君達霧の様に一度経験した事を永遠に記憶し続ける事が出来ないんだ。だから忘れたくない記憶や思い出を、それに関連した物を見たり触ったりする事で思い出すのさ。USBのような外部記憶装置と言えば分かりやすいか?この時計には、俺の家族との思い出や、俺が世界に風穴を開けてやりたいと思ったきっかけの記憶も詰まっているんだ。だからイオナも自分を失いそうになった時に、これを見て思い出して欲しい。いろんな経験や、イオナがこうありたいと強く思ったときの記憶をこれで思い出してくれれば、如何なる事でも揺らがず進んでいけると思う。それに思うんだ、人間と霧が共存しあう蒼き鋼が霧と接触すれば、きっと彼女達に良い影響をもたらす事が出来るとね」

 

 

「群像……」

 

 

「だから共に前に進もう。俺一人でも、君一人でも出来ない。共にあるからこそ実現できる未来を造っていこう。その為に俺達は、この世界で色々な人と関わりを持たなければならない。そんな気がするんだ。付いてきて欲しい」

 

 

 

 

 

真っ直ぐに自分を見つめる目を見て、イオナの心の懸念はいつしか無くなっていた。

 

 

そして、差し出された時計を受け取り、未だ群像の温もりが残るそれを、イオナは両手で包み込み、大切そうに自分の胸に当てた。

 

 

 

(今この瞬間の気持ちを…大切な気持ちを忘れたくない)

 

 

 

 

 

イオナは祈るように、群像から貰った時計をギュッと握り締めるのだった。

 

 

 

 

 

超兵器との初戦闘を終えた異世界艦隊の夜は更けていく。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「ガルトナー司令に傾注!」

 

 

スキズブラズニルの屋外には、異世界艦隊のメンバーが勢揃いしている。

 

 

 

前へ進み出たガルトナーは敬礼を行い、傭兵の蒼き鋼以外のメンバーが返礼を返した。

 

 

 

 

「諸君、先ずは昨日の超兵器との戦闘、誠にご苦労だった。不測の事態があったにもかかわらず誰一人欠ける事が無かったことは評価に値する。また非公式ではあるが、宗谷室長を通じて日本政府から感謝の意を頂いている。さて……今後の我々の行動だが、昨日未明に欧州方面にて超兵器が活動し始めたとの連絡が入った。よって我々は今後、戦闘の場を欧州に移すことになる。状況は厳しさを増す事になるだろうが、各員一人一人が最善を尽くし、超兵器の脅威から罪無き民衆を守ってくれることを切に期待する 以上!」

 

 

 

「敬礼!」

 

 

 

 

 

 

一同が解散し、はれかぜに戻ろうとする、明乃ともえかに真霜が声をかけた。

 

 

 

 

「岬さん!」

 

「宗谷室長、どうされましたか?」

 

「実は今日、日本のブルーマーメイドから少しだけど増援が来ているの。今執務室に来ているから会って貰えないかしら」

 

 

 

「はい」

 

 

 

 

三人は執務室へと歩いていく。

 

執務室に着くと、中には複数の人物がいた。

 

 

 

 

 

「よぅ、久しぶりだなはれかぜ艦長!」

 

 

「真冬艦長!?それに……」

 

 

 

 

 

中には、真白の姉の宗谷真冬 平賀倫子 杉本珊瑚 藤田優衣の姿があった。

 

 

 

 

「まぁ50人位しか居ないが補給や修理、それに交代要因として召集されたんだ。まぁよろしく頼むぜ!たっぷり根性注入してやるからな!ハハハッ!」

 

 

 

(本当に大丈夫かな……)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「総員、聞いてくれ」

 

 

 

 

一同の視線ががシュルツに集中した。

 

 

 

 

 

 

「これより我々は、大平洋を横断し、パナマ運河を経て大西洋に抜ける。そうすれば間も無く欧州だ。恐らくこれまで以上に厳しい戦いになるが、どうか付いてきて欲しい」

 

 

 

 

 

 

 

彼の言葉に全員が敬礼で答えた。

シュルツは頷くと、息を深く吸い出航を告げる。

 

 

 

 

 

「超兵器討伐隊…出航!」

 

 

 

 

 

三世界艦隊は日本を離れ、いざ欧州へ向かう。

 

 

 

 

  + + +

 

 

《目標ノ移動ヲ確認。今後、該当海域ニ展開、対象ト接触スル艦隊ハДриветヲ行エ。モシ対象ガ我々ノ驚異ニナルト判断サレル場合ハ、До свиданияヲ許可スル。以上》

 

 

 

 

   + + +

 

欧州

ドイツ共和国

 

その大地に一人の女性が立っている。いや、立ち尽くしている。

 

金色の髪に海の様な蒼い瞳、黒の制服を身に纏った女性だった。

 

女性の周りには大量の瓦礫と………

 

 

 

 

 

死体  死体  死体

 

 

 

 

一欠片の希望もない地獄で彼女は呟いた。

それは流暢な日本語であったが、声色からは、まるで神に祈るかの様な切実さが含まれていた。

 

 

 

 

 

「はれかぜ…早く来てくれ…。儂らには今、ぬしらが必要なんじゃ…!」

 

 

 

 

 

第一章  完結

 

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

第二章  予告

 

 

 

「まさか…!」

 

 

「日本は我が国の従順なる消費者…」

 

 

【勇敢なる者】

 

 

「おいおい、一体何隻いやがんだ?」

 

 

 

【始祖鳥】

 

 

「サーモバリック爆弾ですって?」

 

 

 

「テアァァァァァァァァァ!」

 

 

「我々を誘い込んでいるのか?」

 

 

「儂も行きたいんじゃ!」

 

 

「いくぞ!セイラン射出!」

 

 

「海が凍った……」

 

 

「超兵器へ直接乗り込むしかない!」

 

 

「戦争兵器の枠を超えてますよ…」

 

 

【鵺】

 

 

 

「行かなきゃ!」

 

 

「行かないで岬さん!お願い行かないで!」

 

 

【暴君】

 

 

「あなたが、内通者!?」

 

 

【超音速ランデヴー】

 

 

「ここが…宇宙か」

 

 

【海龍】

 

 

「化け物め!!」

 

 

「大平洋に面する全ての地域に津波…」

 

 

「アメリカ合衆国は、自国の安全と国益を何よりも重視し――」

 

 

「超兵器が…人の手に!?」

 

 

「決着をつけよう…ムスペルヘイム…」

 

 

 

 

 

《主ヨ――御身カラ賜ッタ力ヲ下卑タル存在二使用スル我ガ愚行ヲ赦タマエ……》




お付き合い頂きありがとうございます。

第二章開始の前に2話ほど、ホンワカ回を設けましてから入って行きたいと思います。


それではまたいつか















とらふり!

ナギ

「久しぶりのお風呂…楽しみです!」


真冬

「グヒヒヒ…根性注入!」


ヒュウガ

「グヘヘ…イオナ姉さまぁん!」




「アヒヒ…おっぱいテイスティング!」


ナギ

「やっぱり入るの止めようかな……」


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1.5章 戦士の休息
楽園


お疲れ様です。

二章に移る前にちょっと入れます。

お風呂回です。

因みにお風呂は、大量の湯気と謎の光で満たされており、一切なにも見えません。


台詞のみでお楽しみください。


それではどうぞ


  + + +

 

ピチャ……

 

 

 

雫の滴る音が鳴り響いたこの場所は……

 

 

 

 

「風呂でぃ!!!」

 

 

 

 

 

がらがらと扉が開き、年頃の女性達が一糸纏わぬ姿でご入場されたこの場所は、白い湯気が辺りを被うスキズブラズニルの大浴場だ。

 

 

 

 

 

「うわっ!湯気すご……」

 

「何も見えないね……」

 

 

「気を付けなさいよ。あんたドジなんだから」

 

 

「何よ!私そんなバカじゃないもん!」

 

 

 

「こらマロン!ちゃんと体洗ってから入りなさいよ!」

 

 

洋美に叱られて渋々体を洗い出す麻侖は、どうやら一番風呂に拘っているようだった。

 

 

 

 

そこへ

 

 

 

 

「うわー広~い!」

 

 

 

 

はれかぜの面々が次々入ってくる。

 

 

 

その中に一人だけ、西洋人特有の白い肌の女性が混じっていた。

 

 

 

 

 

 

「皆さんいかがですか?スキズブラズニル名物の大浴場です。凄いでしょ?」

 

 

 

「はい!ありがとうございますナギ少尉」

 

 

 

 

 

 

「お礼なんて……皆さんと交流できて私も嬉しいです!この大浴場は、日本の温泉浴場をヒントに作られているんですよ。まぁお湯は浄化した海水ですが……」

 

 

 

「そんなこと無いです。喜んで利用させて頂きます」

 

 

 

 

 

ナギと明乃は笑顔で洗い場に向かう。

 

一方の脱衣場では……

 

 

 

 

「か、艦長…お背中お流ししましょうか?艦長!お背中お流ししましょうか?よし!行ける!」

 

 

「何が行けるの?」

 

 

「ヒィィィ!」

 

 

 

 

突如声を掛けられ、真白は飛び上がって驚いた。

 

 

 

 

「知名さん!?い、いつからそこにっ!」

 

 

 

「ずっといたよ。最初から」

 

 

 

「ち、違うんだ!これは…その、もっと親睦を深めて士気を上げる為で…だな〃」

 

 

 

 

 

真白は真っ赤になって否定するが、もえかはニヤニヤとした笑みを浮かべる。

 

 

 

 

 

「そ、そんな目で見るな!見るなぁ~〃〃〃」

 

 

 

 

 

 

真白は最早羞恥心でもえかの顔を見る事すら出来ない。

 

 

 

だが、ふと周りが静かな事に気付きめを開けると……

 

 

 

 

 

「知名さん?あれ、いない…ま、まさか!」

 

 

 

 

 

真白はもえかの真意に気付き大浴場へと駆け出した。

 

 

 

 

一方のもえかは……

 

 

 

(ふふっ……宗谷さんは可愛いなぁ。でも詰めが甘いよ)

 

 

 

 

一足先に大浴場に到着し明乃探す。

 

 

 

 

「ミケちゃん何処かな。湯気でよく見えない……あっいた!ミケちゃ――」

 

ガシッ!

 

 

 

いきなり後ろから凄まじい力で肩を掴まれる。

 

 

 

 

「知名さん……まさかあなたは!」

 

 

 

「む、宗谷さん!?は、早かったね……」

 

 

 

 

 

鬼の形相の真白にお風呂なのにも関わらずもえかは背筋が凍った。

 

 

 

 

 

「なに抜け駆けしようとしてるんだ!」

 

 

「あは、アハハ!抜け駆け!?宗谷さんは解ってないなぁ。こう言うのはね……」

 

 

 

 

「ね?」

 

 

 

「早い者勝ちなの!」

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

もえかが駆け出したのを見て、慌てて真白も後を追う。

 

先程明乃がいた辺りを目指して湯気をかき分け二人は走る。

 

 

 

 

「艦長!お背中お流ししましょうか!」

 

「ミケちゃん!背中流してあげるよ!」

 

 

 

しかしそこには……

 

 

 

 

カポーン!

 

 

 

 

誰もいない …

 

 

「お~い!二人とも何してるの?早く体洗っておいでよ。とっても気持ちいいよ!」

 

 

 

 

 

明乃は芽衣や志摩と共に既に浴槽に移っていた。

 

 

 

 

「艦長、相変わらず体洗うの早いよね~」

 

 

 

「うぁ!見事!」

 

 

 

「艦で節水は基本だったからついね」

 

 

 

 

 

 

二人は暫し呆然とし、そして諦めたように真白が口を開いた。

 

 

 

 

「知名さん……」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

「お背中お流しします……」

 

 

 

「はい……」

 

 

 

 

二人の野望が撃沈した瞬間だった。

 

 

 

 

 

 

巨大な浴槽では、だいたいそれぞれの部所で固まって話をしている。

 

 

 

 

 

「さくらってさまた、胸大きくなった?」

 

 

「う~んそうかな。あっちょっと、ソラちゃんやめて……つついちゃヤダァ~♪

 

 

 

 

 

など様々である。

 

 

 

 

そこへ扉が開き、数人が浴場へと入ってくる。

 

 

 

 

「あら、早いわね」

 

 

 

「福内さん、平賀さん!それに藤田さんに杉本さんも!」

 

 

 

 

「やぁ久しぶりだねはれかぜ艦長。ホントは工場を見て回りたかったんだけど……」

 

 

「私が彼女達を誘ったの。早くしないと【野獣】が来るからね……」

 

 

 

「野獣?」

 

 

 

「こっちの話よ。ささっ、三人とも早く体を洗いましょ」

 

 

 

 

洗い場に向う四人を見送りつつ、明乃はふと沸いた疑問を口にする。

 

 

 

 

「ナギ少尉。こんなに女性人が浴場に来てシフトは大丈夫何ですか?」

 

 

「横須賀からは待った無しでしたから。シュルツ艦長が私達に配慮して男性陣をシフトに入れてくださったんですよ。大平洋に超兵器の出現情報もありませんし、暫くは大丈夫だと思います」

 

 

「そうだったんですね」

 

 

「はい、だから今回は私達や日本の皆さんだけじゃなくて、蒼き鋼にの皆さんもお呼びしたんです」

 

 

 

 

 

 

 

彼女が言い終えたと同時に、浴場の扉が再び開いた。

 

 

 

 

「いやぁ~私大きいお風呂とか初めてだよ!」

 

 

「私もです。海洋が封鎖されてから水が貴重でしたからね。台湾でもこんな大きいお風呂ありませんでしたし」

 

 

いおりと静、それに……

 

 

 

 

「ちょっと!何で私までこんな所に来ないといけないのよ!だいたい戦闘後のボディークリーニングで、塵一つ菌一匹すら除去出来るメンタルモデルに入浴なんて必要無いわ!」

 

 

「まぁいいじゃない。人間はこう言う場で普段現場では話せ無いような内容を話したりするらしいし、コミュニケーションも戦略を練る上では必要になってくるでしょ。それにウヘヘ……イオナ姉様がグフフ……来るかもしれないしね…ジュル!」

 

 

「あんた、それが目的だったんでしょうが!なによ、折角お邪魔虫がいない間に、艦長と話が出来ると思ったのに……」

 

 

 

「うぅぅ。コートを……コートを着させてつかぁさい~」

 

 

「駄目だよハルハル。こう言う場所にタオル以外持ち込んじゃいけないの!」

 

 

「ハハハハ!見よ!この私の完璧なボディーを!」

 

 

「クマでしょあんた……」

 

 

「それにしても、なぜ私まで君達に付き合わねばならないんだ?もう少し研究に没頭したかったのだが……」

 

 

「美波お姉ちゃんもお医者さんだから、たまにはお風呂に入って綺麗にしないと駄目でしょ!」

 

 

「ぐ…衛生面から見て至極妥当な意見だな。反論できん……」

 

 

蒔絵とメンタルモデルの面々、それと美波が浴場に入ってきた。

 

 

 

すると今までかしましかった浴場が静まり返る。

 

 

「す、凄い……!」

 

「何なのあのボディークオリティは……」

 

「ぜ、全方位驚愕よね……」

 

「クマが動いてるよ!」

 

 

初めてまともに目にするメンタルモデルの人間離れした美しい肌や整った顔立ちは、はれかぜの面々を驚愕させたが、そんなことなど意に介さない彼女達は、洗い場で体を洗い始める。

 

 

 

 

 

蒔絵は、何故かコートを脱ぐとヘナヘナになってしまうハルナの体を一生懸命洗ってあげていた。

 

 

 

ヒュウガやタカオも、お互い口喧嘩をしながら体を洗っている。

 

 

 

 

美波はというと……

 

 

 

 

「おい蒔絵、ハルナもいいが自分もきちんと体を洗わなきゃ駄目だぞ」

 

 

「う~ん。でもシャンプーが目に入るから頭を洗うのは苦手なの……」

 

 

 

「私が洗って流してやるから、ハルナの泡を流したら私の前に来い。心配するな、これでも入院中の患者の入浴などの仕事も経験しているから、目に泡を入れずに素早く綺麗にしてやれるぞ」

 

 

 

 

「本当に?じゃあ美波お姉ちゃんにお願いする!ハルハルの泡を流すまでちょっと待っててね!」

 

 

 

「ああ、その間に私も体をひと通り洗っているよ」

 

 

 

 

 

蒔絵はハルナの泡を流し湯船に浸けると、美波に頭を洗ってもらう。

 

 

 

 

「どうだ?」

 

 

「あっ、凄い!いつもみたいに目が痛くない!」

 

 

「そうか。それじゃ流してしまうから少しだけ目を閉じていろ」

 

 

「は~い!」

 

 

 

 

 

美波は蒔絵の髪を流し、タカオやヒュウガと共に、明乃の下へやって来た。

 

 

 

「美波さん、随分蒔絵ちゃんと仲良くなったんだね」

 

 

「まぁ……な」

 

 

「???」

 

 

「あぁ、いやなんでもない。しかし本気に広いな。これだけの人数を収容できるとは……そう言えばスキズブラズニルには他に大規模な食事処や酒場まであるらしい。軍とは規律を尊ぶ。少なくともこの世界の軍はそうなのだが、あなた方の世界の軍は皆この様なものなのか?」

 

 

「ハハッ!少し言いにくいのですが、基本は禁酒なんです。ですが私たちは特殊でして、祖国を追われたが為に居場所が無かったんです。更にウィルキア国家の看板を背負っている以上、迂闊に他国に上陸も出来ません。隊員の精神も極限の状態が長く続けば士気にも影響しますし、ですから月に2回程度、酒場を解放して息抜きをするために、増設したんです」

 

 

「成る程な。医者としては酒は勧められんのだが、ストレスの緩和と言う意味では機知に富んでいる」

 

 

「鏑木医務長やはれかぜの皆さんも今度機会があれば是非」

 

 

「残念だが私は未成年でな、まだ呑めん。だが適度という限定でなら他のクルーに声をかけても差し支えはないだろう」

 

 

そう言うと周りを見渡した。誰もが緊張をほどいてリラックスしている。

 

 

 

 

その様子をみて美波は安堵した。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

浴槽の各所では、各々が雑談に花を咲かせている

 

 

   +

 

 

「あんたが401の機関を取り仕切ってんのか?」

 

 

「うん、まだまだ未知のとこも有るけど、やり甲斐はあるかな~」

 

 

「大ぇしたもんだぜ!なぁクロちゃん!」

 

 

「そうね。私達はあの、核融合炉だっけ?その操作ですら苦労しているのに……良く一人で未知のエンジンを制御出来るわね」

 

 

「アハハっ!褒められると照れちゃうなぁ~。でも最初は苦労したよ。言語も仕組みも未知のものだったからさぁ~。イオナに協力してもらって、システム言語の翻訳と各所の説明を元に独自にプログラムを組んで、出来るだけ可動効率を上げる努力をしたの。言葉では簡単だけど、実際は半年以上かかちゃったよ。でも、未知の機関を整備できるなんてロマンだったし、全然苦じゃなかったよ」

 

 

「そうだったのね……」

 

 

「解る!機関と常に対話して、仲良く付き合っていく。それが釜焚きの醍醐味ってもんなんでぃ!」

 

 

 

「マロンたら。すっかり熱くなってるわね。のぼせないでよ?」

 

 

 

 

  +

 

「静さんの髪ってとても綺麗で憧れてしまいますわ」

 

 

「万里小路さんこそ、水上艦の方でそこまで艶やかな髪の人を初めて見ました。同じソナー手同士今後ともよろしくお願いしますね」

 

 

「こちらこそ宜しくお願いしますわ。今度どの様なシャンプーを使ってらっしゃるのか教えてくださいね」

 

 

 

「ええ、是非とも」

 

 

   +

 

「ねぇヒカリ」

 

「どうした?」

 

「新型の兵器はどうだった?」

 

「レーザーっしょ?今まで砲撃ばっかだったかんね。弾速も速いし、格好いいし、何か目覚めちゃいそうだよ。じゅんちゃんはどうだった?」

 

 

「対空戦なんて初めてだからドキドキだったよ。艦の照準システムに助けられたけど、もうちょい訓練しないとダメかな……みっちんは主砲どうだった?」

 

 

「装填速度がブルマー艦の比じゃないし、AGSだから外れはしないけど、あの巨体じゃ効果が薄いし、何より向こうの方が射程が長いから長距離戦闘は不向きかもね。それにしてもりっちゃんはあの超高速戦艦に良く魚雷当てたよね……」

 

 

 

 

「ウィルキアの超音速魚雷だったからな~。普通の魚雷だったら多分何本撃っても当たらなかったかも……そう言う意味だとかよちゃんのミサイルの方が射程的にも速さ的にも有効だったよ」

 

 

 

 

「う~ん。そうかなぁ。実際使ってみるとそうでもないよ。防御重力場だっけ?あれが有ると中々攻撃が通らないし、やっぱ防壁のない喫水下を魚雷で攻めた方がいいんじゃないかな。それに対空・対艦、敵に潜水艦がいれば対潜ミサイルも撃たなくちゃいけないから、状況によって危険度の高い奴を判断して撃たなくちゃいけないし、結構難しいかも……」

 

 

 

   +

 

 

「藤田さん久しぶりだね!」

 

 

「そうね。伊良子さんは相変わらず洋食は苦手?」

 

 

「う~む課題はあるよ。やっぱり外国の人と私達の嗅覚が少し違うからなのかな。藤田さんは昔からそう言うの敏感に調整するよね」

 

 

「そんなこと無いわよ。折角外国にいく機会や異国の人と触れ合う機会が有るんだから。これを切っ掛けにモノにしちゃいましょう。杵崎姉妹は何か進展あったの?」

 

 

「私は、スイーツかな。どうしても砂糖が貴重品だから。少ない砂糖でしっかり甘く感じるスイーツを作りたいの。ほら、海上だとストレスも溜まるし、士気と食事は密接に関係してるかなぁって。だから少しでも食事を楽しんで貰えたらいいと思ったの。あっちゃんは?」

 

 

「私は、病院食かな~。今回の戦闘で結構負傷者が出たらしいし、艦上では薬も限られた量しか無いから、出来るだけ早く回復して貰える食事を提供したいの。でも病院食や流動食ってどうしても薄味になっちゃうじゃない?冷めたら余計に抵抗あると思うし。だから美波さんと相談しながら何か出来ないか考えてるとこなの」

 

 

 

 

 

「解ったわ。まぁ折角の機会だし、それぞれ精進や探究を進めてまた情報交換しましょう。【ブルマーの活力は食から】ってとこを見せていく為にもね!」

 

 

「うん、お互い頑張ろうね!」

 

 

   +

 

「キャー!マッチイィィ!お風呂でも男前!もぅ…蕩けそう!」

 

 

「男前って…誉め言葉なのか?」

 

 

「グフフ…はかどる!ネームがはかどって仕方がない光景ッスよ!!!」

 

 

「はぁ相変わらずだね…あんた達は…。それよりヒュウガさん。本当にナノマテリアルで何でも再現できるの?」

 

 

「う~ん。そうとも限らないわね。飽くまで各メンタルモデルが制御可能な範囲であるなら大概のものは再現できるけど、それでもそれぞれの演算キャパシティーや経験値に左右されるわね」

 

 

「演算キャパについては何となく解るとして経験値って?」

 

 

「そうねぇ……例えばモモちゃんが習っていない勉強や経験していない事をするって無理でしょ?それと同じ事。既存にある内容以外の情報は、自分自身で観測してからでないと形に出来ないの。更に形状に出来ても余りにも複雑な構造の物はそれなりに演算を使うし、隙も出来やすい。本来は、蒔絵の考案した振動弾頭を再現出来れば戦況を有利に進められたのにね」

 

 

「難しいの?」

 

 

「とってもね。アレ一発に演算能力使うなら、他にまわした方が効率的だし……」

 

 

「そっかぁ……そう言えば杉本さんはどうして討伐隊に志願したの?」

 

 

「私は、スキズブラズニルのドックに興味があってね。ほら、6年前の事件でも、いざって時に修理中の艦が出動出来ない事態があったでしょ?話によると、スキズブラズニルはあっという間に艦を修理したり、造船も可能だって言うじゃないか。だからその設備や工作機械、または作業工程なんかを見学すれば、有事の際の参考になるかと思って志願したのさ」

 

 

「へぇ~先まで読んでいて凄いね!」

 

 

「まぁ、半分は技術屋としての興味なんだけどね」

 

 

「解るわ~ん♪あの武骨な感じの工作機械から生み出される繊細な製品。なんかクセになるわよね~ゾクゾクゥゥ!」

 

 

「ヒュウガさんて、意外にはっちゃけてるよね……」

 

 

   +

 

 

「ねぇしゅうちゃん。ウィルキア解放軍の男の人って、結構かっこいいよね。なんか筋肉とかも絞まっててさぁ」

 

 

「ああ、普段から鍛えてそうだよね。まゆちゃん誰かお気に入りの人でもいるの?」

 

 

「えぇ~そうだなぁ~フリッツさんとかどう?制服で隠れてるけどきっと中は凄いよ。あと金髪で落ち着いた雰囲気とかもかっこいいし。サトちゃんはどう?」

 

 

「千早艦長ぞな!年下なのに世界をまたにかける感じとか、クールな感じとか、なんか見ててかっこいいぞな!」

 

 

「!!?ちょ、ちょっと!どさくさに紛れてなに言ってのよ!」

 

 

「ん?タカオさんも千早艦長好きぞな?」

 

 

「ちちち違うわよ!私は…その……艦長から戦略を学ぶ意味で同行しただけで……べべ別に恋愛がどうこうとかは〃〃それに401が……」

 

 

「そっか……じゃあ、私が盗っちゃうぞな!」

 

 

「だからダメ!ちょっとヒュウガ・ハルナこいつをなんとか――」

 

 

 

「ピュ~♪(口笛)」

 

 

 

(くそ!こいつは401loveのド変態…恋敵を消せてラッキーとか思ってるわね……じゃあハルナは――)

 

「うぅ…そろそろ上がらせてつかぁさい……」

 

 

 

「ダメだよハルハル!あと100数えてからにしましょうね!」

 

 

 

(こっちもダメか……期待してないけどキリシマは――)

 

「動くぬいぐるみ!今度こそ解剖させて貰うぞ!……ジュルリ」

 

 

「や、やめろ!か、解剖だけは勘弁してくれ!くそっ!迂闊だった。綿がお湯を吸って動きがぁぁ!」

 

 

(くっ…使えない大戦艦どもめ……)

 

 

「はは、冗談ぞな!」

 

 

 

「へ?」

 

 

「なかなか話す切っ掛けがなかったから、ちょっとからかってみただけぞな!でも…フムフム。タカオさんの気持ちはよ~く解ったぞな!友達として応援するぞな!」

 

 

「だだだから違うって…でもありがと〃〃」

 

 

「ウンウン!これからも宜しくぞな!」

 

 

 

 

 

 

 

  + + +

 

 

 

 

さまざまな喧騒の中、留奈が言葉を発した。

 

 

 

「処で……」

 

 

「ん?なぁに?ルナちゃん」

 

 

「異世界の人ってさぁ、ほんと凄いよね¨胸¨が……」

 

 

 

 

「………」

 

 

空気が一気に張り詰めた事に、異世界の面々は急な空気の変化に頭の上に(?)が浮かぶ。

 

 

 

 

「確かに別格だね……」

 

 

 

 

「わわわ、私もう…もぅ我慢できない!」

 

 

 

「ちょっと、めぐちゃん問題になるからテイスティングだけは止めてね……」

 

 

 

「でもぅ~!」

 

 

 

「はぁ…今度邪念を祓わないとね……」

 

 

 

「それにしても凄いですね。異世界の女性と私達の平均を割り出すと此くらいに成ります」

 

 

「ひ、ひぃ~‼ココちゃん。お願いだから数値化はやめて!逃げ出したくなっちゃうよ~」

 

 

「え?でも知床さんは、身長は伸びてませんが、ここ6年で急激に胸が……」

 

 

「ひぃ!言わないで言わないでぇ!それに何でここにいる全員のバストサイズを把握してランキングしてるの!?」

 

 

「ふふっ……情報は【常に正確に新しく】がモットーですから!」

 

 

 

「あの、納沙さん。そのデータ。おいくらですか?」

 

 

 

「めぐちゃんは自重して……邪念退散!」

 

 

「因みに上位は誰なのさ」

 

 

 

「う~ん……やっぱりメンタルモデルの方達でしょうか」

 

 

「え?じゃあハルナさんやイオナさんも?」

 

 

「イオナさんは下位ですがハルナさんは上位ですよ」

 

 

 

 

「ハルナさんが!?意外……」

 

 

 

皆がハルナに注目する。

 

 

 

「99…100!蒔絵……そろそろ上がってコートを着させてつかぁさい~」

 

 

 

「うん!いいよ。私も逆上せちゃうから一緒に上がろ」

 

 

 

ザバッ!

 

 

 

今まで浴槽の縁にもたれ掛かっていたハルナの全容が露見した。

 

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

「そんな…ばかなっ!」

 

 

 

 

「ハルナさんて確かイオナさんと身長殆ど変わらないわよね……なのにあんな――」

 

 

 

 

 

 

はれかぜ一同は驚愕した。

 

 

 

 

鈴においては最早号泣し、それを見た麗央が幸子に訪ねる。

 

 

 

 

 

「で、でもさ、比べる相手を間違ってるのかも。人類基準だとどうなのよ」

 

 

 

「そうですねぇ。人類の上位は…いおりちゃんと平賀さんの同率ランクインですね」

 

 

 

 

「え?私?あ、あはは……喜んで良いのかなぁコレ……」

 

「まさか一回り以上違う子と同率なんて……」

 

 

「ほ、他には?」

 

 

 

 

「宗谷室長と真冬艦長の同率ランクインです。平賀さん達より上位ですね。」

 

 

 

 

皆の視線が妹の真白に向けられた。真白はその視線に気付くとサッと両腕で胸元を隠した。

 

 

 

 

 

 

「ち、違うんだ!コレはその…私は父さん似で――」

 

 

「支離滅裂ですよ副長……」

 

 

 

 

「あっ因みに伊勢さんは中の上位の位置です」

 

 

 

 

「ちょっとショックかも……」

 

 

 

「あっ、やっぱちょっとは自信あったんだ……てかはれかぜ組は撃沈だね」

 

 

 

 

「そうでも有りませんよ。バストだけが女性の魅力じゃありませんから。美脚ランキングや美髪ランキングも有ります!」

 

 

 

「そんなランキングまで……因みに上位は?」

 

 

 

 

 

「美脚ランキングだと、タカオさんや福内さん、それにナギ少尉が上位です。はれかぜからは美波さんがランクインです」

 

 

「ふん!私のスペックからしたら当然よ!」

 

 

「なんか、ちょっと嬉しいわね」

 

 

「え?私も選んで貰っちゃっていいんですか?」

 

 

「別段外見には興味はない……」

 

 

 

 

様々な反応が帰ってくる。

 

 

 

 

 

「では美髪ランキングですが、まりこうじさんと静さん、それにイオナさんがランクインです」

 

 

 

「確かに銀色の髪ってなんか綺麗だよね。私も髪の色を抜いて銀髪にしよっかな~」

 

 

「ひかりじゃ雰囲気が合わないんじゃない?ほら銀髪ってなんか儚い~とか可憐~って感じだし。いずれにしても砲雷科には無縁かもよ?体育会系だしさ」

 

 

「うぅ、確かに……てかやっぱメンタルモデルには叶わないんじゃん!人類で抜きん出た人はいないの?」

 

 

「います。一人だけ……」

 

 

 

 

幸子の表情が急に真剣になった。

 

 

 

 

「納沙さん、どうしたの?急に」

 

 

「居るんですよ。総合評価でメンタルモデルを上回る人物が……その方は一部回答を得られなかった男性を除いた、全ての超兵器討伐隊の男性約7割5分の方の支持を得ているんです……」

 

 

「す、凄い……てかいつの間に調べたの?合流してから今までそんな暇無かったよね?」

 

 

 

 

 

幸子は美千留のツッコミを華麗にスルーし話を続行する。

 

 

 

 

「その人物とは――」

 

 

ガラガラ!

 

 

 

 

 

突然浴場の扉が開き、一人の女性が入って来た途端、その姿を見た一同が凍り付いた。

 

 

 

そこには一人の金髪の美女が立っていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「あら、皆さん先に入っていたのですね?私も久しぶりにゆっくりお湯に浸かろうと思いまして――」

 

 

「………」

 

 

 

 

あまりの戦慄に口を開くことが出来ない一同を後目に、謎の美女は洗い場に向かっていく。

 

 

 

 

 

沈黙に耐えきれなかった留奈は叫び出す。

 

 

 

 

「ちょ、¨超巨大¨金髪爆――ムグ!?モゴ!…接近!何するの空ちゃ…苦し――」

 

 

「(バカ!なに迂闊なことしてんのよ!もしあの超兵…いや、謎の美女がこっちに来たら…)」

 

 

 

 

空が留奈の口を塞ぎ大惨事を阻止する。

 

 

その間に謎の美女は、体を洗っていく、

 

 

 

「ん…ふぅ…はぁ…んっ……」

 

 

 

 

時折漏れ聞こえてくる美女の吐息と、お湯で濡れた事で一層美しく輝く金色の髪に一同は絶句したまま固まってしまう。

 

 

 

 

 

 

身体を洗い終えた美女が此方へと向かってくる。

 

タオルで前を隠しているが、胸部にあるモノを完全に隠蔽することは物理的に不可能であった。

 

 

一同は、あれほど広い浴槽の片隅の一ヵ所に集まり戦慄している。

 

 

 

チャプン!

 

 

 

美女は湯船に入り、此方に視線を向けると語りかけてきた。

 

 

 

 

 

「フゥ……中々皆さんと話す機会がありませんでしたね。今日は折角ですから、一杯話せると嬉しいです………あれ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「あ、あの~私……何か皆さんに失礼なことしてしまいましたか?」

 

 

 

 

 

 

一同は、美女に聞こえないようヒソヒソと会話をする。

 

 

 

 

 

「(ちょっと、誰か答えてあげなさいよ!見た目に反してかなりいい人だよあの人……)」

 

 

 

 

「(誰かって…そんな勇者いる?)」

 

 

 

 

「(納沙さんもしかして彼女が?)」

 

 

 

 

「(はい……間違い有りません。信じられないでしょうが彼女の名前は――)」

 

 

 

「は、はい!は~い!」

 

 

 

「すみません目が悪くて良く見えないのですが……どうしましたか?」

 

 

 

 

留奈が手を挙げた。

 

 

 

(うわぁ~逝ったよ……)

 

 

 

 

一同が心の中で合掌する。

 

 

「あ、あなたは誰ですか?」

 

 

 

「…え?」

 

 

 

美女がキョトンとした表情を浮かべる。

 

 

 

 

麗央と空が留奈の口を慌てて塞いだ。

 

 

 

 

「(なにドストレートに聞いてんのよ!何が起きても知らないから!)」

 

 

 

 

 

しかし、美女は特に困惑する様子もなく笑顔で答える。

 

 

 

 

 

「そうですね、あまり話す機会も無かったですし、改めて自己紹介します。その前に、少しそちらに行きますね。少し目が悪くて……湯気も凄いですし」

 

 

 

 

 

謎の美女は、その女神とも超兵器とも言える容姿で接近を開始する。

 

 

 

一同はスーっと回避運動をとるが、洋美だけが逃げ遅れてしまう。

 

 

 

 

「(ちょっと!皆ズルイ!てか航海長逃げるの速過ぎ――!)」

 

 

謎の美女は洋美の横に移動すると、自己紹介を始めた。よりにもよって目が悪いらしい美女は、その女神の様に美しい顔と超兵器級の胸部をより近づける。

 

 

 

 

洋美は間近で見る光景に風呂場にも関わらず震えが止まらなかった。

 

 

 

 

 

「改めまして、私はエルネスティーネ・ブラウンと申します。ドイツからウィルキアの保護を受けて超兵器に関する研究をしています。今後とも宜しくお願いしますね」

 

 

「………」

 

 

 

一瞬の静寂、そして……

 

 

「「「エエエェェェェェェ!?」」」

 

 

 

 

 

一同が驚愕の叫び上げた。博士はその声に驚いてビクッと体を震わせる。

 

 

 

 

「嘘…でしょ……?」

 

 

「絶望だ!詐欺だ!だってこんな…爆――」

 

 

「別人にも程があるよ。てか着痩せするタイプ……」

 

 

「外見と中身…天は二物を与えないとか嘘っぱちじゃん!あぁ…格差を感じる!」

 

 

「コレじゃ男処か、女までイチコロだよ~」

 

 

「ひぃ~もうダメ!もう逃げたい!逃げ出したいよう!」

 

 

「フン!フン!嗚呼…ネームが進むッス!」

 

 

 

 

 

一斉に上がる悲鳴に博士は困惑するが、その様子を見ていた明乃は優しく微笑んだ。

 

 

 

 

「どうされたんですか?艦長」

 

 

「ん?皆楽しそうで良いなぁって。横須賀からこっち、ずっと緊張しっぱなしだったから」

 

 

 

 

真白は明乃の言葉に少し吹き出した。

 

 

 

 

「ぷっ、ふふっ!」

 

「???どうしたの、シロちゃん?」

 

 

「ああ、いや。艦長らしいなぁと」

 

 

 

 

二人はワーワーギャーギャーと盛り上がる浴槽を見渡し笑顔で顔を見合せた。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

一同が入浴を終えて数時間後

 

 

 

浴場の脱衣所では……

 

 

「全く……着いて早々巡回とはついてねぇ……だがまぁコレでチャラだ!福内の話だと、この時間は討伐隊の女連中が入浴してるって話だからな!三世界まとめて俺が根性注入してやるぜ!」

 

 

「あなたがいつか訴えられない事を切に祈るばかりだわ……」

 

 

「なんだよ真霜姉連れねぇなぁ~。ビシッと行けよビシッと!どうせ世界関係なく酸いも甘いも知らねぇ新米連中なんだからよ。俺たちのこのキマったボディでシメてやらねぇと示しがつかねぇぜ?」

 

 

「古今東西、風呂場で―しかも私達の身体でシメるなんて聞いたこと無いわ。馬鹿なこと言ってないでさっさと行くわよ」

 

 

「まぁそうだな。ククク……覚悟しろよアイツ等!」

 

 

 

 

真霜は溜め息をついて浴場へ向かう。真冬もニヒルな笑いを浮かべながら浴場へと向かった。

 

 

ガラガラ!

 

 

 

「オラオラァァ!テメェら!この真冬様がへなちょこな貴様等に根性…を注入しに…って、おいおい、誰もいねぇぞ!?あれ?確かこの時間はアイツ等の……」

 

 

「おそらく福内ね。あなたの行動を読んで入浴時間を早めたんでしょう。もしくはあなたに教えた入浴時刻を敢えて遅くしたか」

 

 

 

 

「福内ぃぃぃ!あんの女狐…いや女狸がぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

「ま、賢明な判断だったわね。こんな事であなたを営倉にブチ込みたくはないから……。ほら、いつまでも狂乱してないで早く体を洗いなさい」

 

 

「く、くそぅ……福内の奴、いつか後悔させてやる……」

 

 

「泣くほどなの!?一体どれだけ女の人が好きなのよ……」

 

 

 

「真霜姉には言われたくねぇよ。ああ、今は男も女もどっちも…あっ、男はショタか?全く真霜姉も本当はいけるクチ――」

 

 

 

「殺すわよ」

 

 

 

「はい……すみません」

 

 

 

 

真霜の殺気に当てられガタガタと震えながら真冬は洗い場に向かい無言で体を洗う。

 

 

 

それから二人は浴槽に向かっていくが、真冬の嗅覚が何かを検知した。

 

 

「ん!?フンフン……女だ!女の匂いがする!」

 

 

「あなたは一度鏑木さんに頭を開いてもらって、脳をオーバーホールした方がいいんじゃないの?」

 

 

 

 

毒舌の真霜の言葉など意に介せず、真冬は匂いのする方向に向かう。

 

 

その視線の先には……

 

 

「いたっ!!間違いない!」

 

 

「え?あれって浴場に設置されてる石像かなにかじゃないの?」

 

 

 

 

 

湯気で視界はハッキリしないが、そこには銀髪の女性の姿があった。

 

 

しかし、銀髪の女性はまるで石像の様にピクリとも動かない。

 

 

 

 

「あれはもしかして、蒼き鋼のイオナさん?全く気づかなかったわ……良く気付いたわね真冬……真冬?」

 

 

隣にいる真冬の様子がおかしい……

 

 

 

ワナワナと不自然に体をくねらせ、目は血走っている。

 

 

 

 

「真霜姉、俺もう我慢出来ねぇ……」

 

 

「ちょっと止めときなさい。後悔するわよ」

 

 

 

 

そんな真霜の忠告は最早真冬の耳に入る事はなく……

 

 

 

 

「コッ、ココ、根性…注入だぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

イオナ目掛けて猛ダッシュする妹の様子を目の当たりにした真霜は呆れて言葉も出ない。

 

 

一直線に突進する野獣と化した真冬の背中で一瞬イオナの姿が隠れた。

 

 

 

そして……

 

 

 

 

 

ザッパァァァン!…ゴツ!

 

 

 

 

 

イオナに急襲をかけた真冬の体はイオナを捕縛することなく浴槽に着水、そのまま浴槽の底に顔面を打ち付けビクビクと痙攣して動かなくなった。

 

 

 

 

「アレから明確な脅威を感じた。この回避行動は妥当であると進言する。あなたも私に対する重大な脅威足り得る存在?」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

真霜は後ろを振り返る。先程まで湯気の向こうにいた筈のイオナが彼女の背後に回っていた。

 

 

無表情ではあるが、少しでも動けば殺られかねない威圧感をビリビリと感じる。

 

 

 

だが真霜は冷静だった。

 

 

 

 

「いいえ違うわ。アレはともかく、私はただ入浴しに来ただけ」

 

 

「そう……」

 

 

 

 

イオナはそう言うと再び浴槽へ戻って体を湯船に浸け、真霜もそれにならって湯船に体を沈めた。

 

 

 

横ではブクブクと気泡をだしながら底に沈んでいる真冬がいる。

 

 

 

 

 

 

「一応大丈夫なの?」

 

 

「バイタルパターンは正常。でも本来人体がコレほどダメージを受けてキズ一つ無いのは極めて異常」

 

 

 

 

はぁ…と真霜は呆れたように溜め息ををつく。

 

 

 

 

「でも流石にこの状態はマズイわね…。イオナさん、大変恐縮なのだけれど、アレを湯船の外に出すのを手伝って貰えないかしら?暫くは起きないだろうし、あなたの脅威にはならないわ」

 

 

「了解……」

 

 

二人は真冬の体を湯船の外に出すと、再びお湯に浸かる。

 

 

 

「あなたとはあまり話す機会が無かったわね。折角だから少し二人で話しましょうか?」

 

 

少し考えるとコクリと首を縦に振るイオナに、真霜は笑顔で頷いた。

 

 

 

気絶する真冬をよそに真霜とイオナは他愛ない会話に花を咲かせる。

 

 

 

 

        風呂

 

それは飾らず本音を話せる貴重な憩いの場でありそして

 

       魔境である

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。

こう言う日常的な感じのを書く方が遥かに難しいと思い知らされました。

表現が引っ掛かったら申し訳ございません。


繰り返すようですが、この大浴場は湯気と謎の光で満たされており、彼女たちの姿は一切露見しておりません。

それではまたいつか



とらふり!


真白
「ふぅ……凄いものを見た。でも艦長位が自分には丁度良い…グフフ。どぉれ、少し飲みながら戦いが終わってから艦長を何処にデートに誘うか妄想するとしよう」


ヴェルナー
「デートだって!?こうしちゃ居られない!自分も帰って計画を……」

筑波
「儂も何処へ連れ出すか計画を……」

博士
「何処へ連れ込むか計画を……」

ナギ
「何処へ拘束するか計画を…… 」





「愛されてますね……どこの艦長も」


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副長達の宴

お疲れ様です。

今回は副長達をメインにかいてみました。

それではどうぞ


   + + +

 

 

ここはスキズブラズニルでも特に異質な場所。

 

その場所とは……

 

 

 

「せーのっ!お疲れ~!」

 

 

 

普段の緊迫した雰囲気から解放され、のびのびとした声が飛び交う。

 

 

 

スキズブラズニルの憩いの酒場【クヴァシル】

 

 

 

 

国を追われたウィルキア共和国軍は、事実上ドック艦スキズブラズニルが活動の拠点であった。

 

 

 

最初こそ軍の士気は高かったものの、いつ終わるかも解らない帝国との戦争に兵士の精神は徐々にボロボロになって行き、艦内でのいざこざや、遠征地での酒類の窃盗未遂等々、モラルが著しく低下した。

 

 

 

勿論ウィルキアの看板を提げている以上、他国に恥を晒すわけにはいかず取り締まりを強化する事となった。

 

 

 

だが、その事がかえって兵士達のストレスを助長、並びに士気の更なる低下を生む結果となり、実戦における負傷者や戦死者を多数出しかねないような致命的なミスを連発するようになったのだ。

 

 

事態を重く見たシュルツは、ガルトナーと相談し、食事等のメニューの一新と、月に二回程度酒を飲んだり息抜きをする機会を設け、その為に限られた財源を使いスキズブラズニルの一画を改装した。

 

 

 

結果、普段訓練や前線で中々言いづらい問題点等も酒を通したコミュニケーションで改善したり士気が向上したことで負傷者や戦死者が減少し、超兵器討伐に一役買うことになった訳だ。

 

 

 

 

だが、ここで忘れてはならないのがその財源である。

 

 

 

 

彼等には本来、補給や給与を支払うべき雇い主、即ち¨国家¨が無く、また戦争を引き起こした戦犯国としての立場上、補給や財源の確保は急務であった。

 

しかし皮肉な事に、帝国による超兵器の運用が、世界各国で国家内の親帝国派と反帝国派の内部分裂を生み、奇しくも国を追われたシュルツ達と同様の構図が作り出されたのである。

 

 

それによってウィルキア解放軍は、各地の反帝国派から支援や補給を受けることに成功し、更には各国の輸送船団や艦隊の護衛、通商破壊部隊の撃滅など危険度や難易度の高い作戦を進んで引き受けることで信頼を勝ち得たのであった。

 

 

それは現世界でも変わらず、横須賀での超兵器襲撃の際のシュルツや蒼き鋼の行動は、日本政府からの早急な支援に繋がった事は言うまでもない。

 

 

そしてそれが今日のクヴァシルでの息抜きに繋がっていく。

 

 

 

 

戦争経験の薄い現世界の人間と戦争続きだった異世界の面々の精神は、予想以上に疲弊しており、欧州での戦いに向けて一度頭を整理する上でも必要になるとシュルツは以前から思っていた。

故に、硫黄島での演習の際に日本政府から、資材や弾薬のみならず、食料品や酒類も運搬するように要請していたのであった。

 

 

 

 

 

そんな苦労の結晶とも言える酒場のカウンター席には、女性が座っていた。

テーブルの上には飲み干したカクテルのグラスがあり、女性はその中にあるチェリーを指でつつきながら虚空を眺めていた。少しトーンを落とした照明と時折吹き込んでくる潮風がなんとも心地がいい。

女性は少し瞼を閉じる。

すると彼女の思い人の顔が一瞬浮かび、直ぐに目を開いた。

 

 

「はぁ……」

 

 

「どうしたの宗谷さん?」

 

「ん?ああ……何でもない」

 

 

 

 

宗谷真白は溜め息をつき、バーテン姿の藤田優衣は首をかしげた。

 

 

 

 

「しかし、藤田さんも大変だな。こんなときまで仕事なんて……」

 

 

「そんなこと無いよ。私の事はいいから今は少しでも仕事の事は忘れて心を休めて行って」

 

 

「ああ、済まないな」

 

真白は優衣に笑顔を向けた。

 

 

 

 

すると……

 

 

 

 

 

 

「宗谷副長?」

 

 

 

 

突然声を掛けられ、振り向いた先には……

 

 

 

「ヴェルナー副長……お出でになられていたのですか?」

 

 

 

「はい。夜は非番になりまして……良かったら隣宜しいですか?」

 

 

「も、勿論です〃〃」

 

 

 

 

慣れない外国人、しかも男性であり、甘いマスクと優しい性格でウィルキアの女性士官からも人気が高いヴェルナーがいきなり現れ、真白は少し動揺した。優衣もヴェルナーの顔をみて少し頬を赤らめている。

 

 

 

「ウィスキーを一つ」

 

 

「か、かしこまりました〃〃」

 

 

 

 

ヴェルナーはウィスキーを注文すると、真白の隣に座るそして目の前に置かれたウィスキーを口に運びフゥと息を吐き、それからその外国人特有の蒼い瞳で真白を見つめ、笑顔で語りかけてきた。

 

 

 

 

 

「改めまして、初めての超兵器戦の勝利、おめでとうございます。」

 

 

「そ、そんな私達は何も……はれかぜだってあなた方の艦を借りているだけですし、横須賀の時や対空戦闘のノウハウを教えて頂いたのもあなた方ですから」

 

 

「ご謙遜を……貸したから直ぐ使える訳でも、教えたから直ぐ出来る訳でもない。あれはあなた方の実力だと思っていますよ」

 

 

 

 

「い、いえ…それは艦長がとても素晴らしい人で………」

 

 

 

 

それを聞くとヴェルナーは、少し寂しそうな顔をしてもう一口ウィスキーを口に運んだ。

 

 

 

 

「艦長ですか……あなた方の艦長はどのような方なのですか?私はシュルツ艦長と違ってあまり話す機会が無いものですから」

 

 

 

真白は明乃の事を想像した。

 

 

 

 

 

「艦長とは学生時代からの付き合いで……で、でも、昔から艦を放り出して救助に向かったり、規則は無視するし、皆や私の事を役職じゃなくてあだ名で呼ぶし……いつも尻拭いをする私の身にもなって欲しい!って思って、私の方が艦長に相応しいのに何で?って思ってました。でも、肝心な時の判断は凄く的確で、個人を生かす指示ができて、そんな艦長に皆がついていって、落ちこぼれって馬鹿にされた私達が武蔵を鎮圧出来る迄に成長させてくれたんです。嫉妬していたんたんですね……だって艦長は、私の目指したかったブルーマーメイドそのものだったんですから」

 

 

「ふふっ!好きなんですね……艦長が」

 

 

「ち、ちが。私は…その〃〃」

 

 

「私もそうですよ」

 

 

「え?」

 

 

「私と艦長は、士官学生時代の先輩後輩でしてね。他のエリートの方々とは違い、艦長はとても周りに細かい気配りの出来る方でした。それに実技、学科、体力と全てに置いて抜きん出た成績を残されていましたよ」

 

 

「そんなに凄い方なのですね……」

 

 

「ええ、故に憧れました。私もいつか先輩の様にと思っていました。でもいつしか私は、いつまで追いかけても追い付けない彼に劣等感を感じ卑屈になっていった」

 

 

「解ります……私も似たような感情を艦長に抱きました」

 

 

「そして、あの男の口車に乗ってしまったんです……」

 

 

 

「あの男?」

 

 

「私の父であり、超兵器で世界を蹂躙した帝国トップですよ。私はあの男に、解放軍の動きを密告するよう指示され、そしてそれに従った」

 

 

「なっ……!」

 

 

「多くの仲間が私の裏切りで……でも後悔はなかったんです。ウィルキア軍人として国に栄光をもたらす働きが出来る、私も先輩の様になれると信じて疑わなかった」

 

 

「そんなの間違っている!」

 

 

 

「その通りです。解放軍が快進撃を続けたことにより、各地の反帝国派が勢いづきました。その勢いを削ぐためにあの男は、超兵器を民衆の虐殺の為に使い始めたのです……」

 

 

「そ、そんな……」

 

 

「私は各地で超兵器の起こす惨劇を目の当たりにし、父の考えに疑問を抱くようになった。しかし、父を裏切る事は出来ない…でも先輩を裏切る事も出来なかった。そして私は、先輩を呼び出し、全てを打ち明けて自害する道を選んだ」

 

 

「え……」

 

 

「だが死ねなかった。先輩が身を呈して私のピストルを奪い、銃弾は私の頭を掠めただけだったんです。本当はその場で射殺しても良かったし、司令部に突き出しても良かったのに……あの人は自分の裏切りを他の者に隠して任務を続けた」

 

 

「シュルツ艦長が……」

 

 

「今でもあの人の言葉を忘れる事は出来ません。【生きろ!生きて償え!生きてお前が奪った命の分だけ人を救え!】って……それで私は父と決別する道を選んだんです。本当にあの人には敵わない……」

 

 

「ヴェルナー副長……」

 

「すみません……暗い話になってしまって……」

 

 

「い、いえ。私も……」

 

 

 

「あれ?ヴェルナー副長じゃないですか!それに宗谷副長も。何を話されているんですか?私達も交ぜて下さいよぅ!」

 

 

 

 

二人が振り向くと、ナギとブラウン博士、そして筑波が立っていた。

 

 

 

 

「ナギ少尉?それに皆さんも……そうですね折角なのでご一緒しましょう!」

 

 

真白が言うと三人は席についた。

 

 

注文は筑波が日本酒

 

博士がワイン(赤)

 

ナギがビールとなった。

 

 

 

其々が、酒を口に運び至福の溜め息を吐く。

 

 

 

 

 

「そうだ宗谷副長。ヴェルナー副長と何を話されていたんですか?」

 

 

「うっ、それは……そ、そう艦長、互いの艦長について話していたんです」

 

 

 

 

興味津々に語りかけてくるナギに対し、話の内容が内容だけに、真白はかいつまんで答えた。

 

 

 

 

「艦長について…ですか。はれかぜの岬艦長はどのような方なのですか?」

 

 

 

 

「ははっ!たった今、ヴェルナー副長に話したばかりなので私は……それよりも皆さんから見たシュルツ艦長はどのような方なのですか?」

 

 

「ええ?ヴェルナー副長ズルイですぅ……でもそうですね。私にとっての艦長は、優しくて頼りになって……そう、それは私がまだ中等部の学生の時――」

 

 

「それでは儂から参りましょうかな」

 

 

「え゛!?筑波大尉、今私が――」

 

 

 

 

「シュルツ艦長は儂が教官を勤めていた学生時代からとても優秀だった。厳しい訓練にも顔色一つ変えずに良く付いてきたと思ったものです。そして、国を背負う立派な若者に成長された。」

 

 

(うっ!筑波大尉の訓練……)

 

 

 

 

真白は硫黄島での筑波の演習を思いだし、思わず顔をしかめるが、筑波はそれに構わず話を続けた。

 

 

 

 

 

「儂は我らの世界での超兵器戦で親友と敵対し、そして失いました…。艦長にとっても馴染みのある人物でしたが」

 

 

「そんなことが……」

 

 

「艦長は最後まで奴と……天城と戦うことに抵抗を持たれていた。まぁ殴って説得したのですがね」

 

 

「殴っ……」

 

 

「当然でありましょう。奴とて軍人。本気で我らと戦う所存であったことは確かでしょうし、そこで我らに迷いがあれば、間違いなく戦死者が出る。だから上官への無礼を招致でお諌めいたしたのです」

 

 

 

 

「筑波大尉はそれで平気だったのですか?」

 

 

「そうですなぁ……軍人としては割りきっておったつもりでした。しかし、艦長に拳をあげて起きながら儂も甘かったのやもしれません。敵の旗艦である超兵器に乗艦していた天城に何度も戦いを止めるよう投げ掛けた。奴がそれでも止まらない事を知りながら……」

 

 

「それで……」

 

 

「結局、我らは超兵器を撃沈しました。儂らは炎上する超兵器から退艦するよう何度も叫びました。だが奴は、艦長として超兵器と運命を共にした……親友とは言え敵です本来は手厚く葬られる事は無いでしょう。ですが、シュルツ艦長は我が友に敬礼を送り、沈んだ超兵器の中から奴の遺体を収容してた。そして、日本を牛耳っていた親帝国派を討伐後、横須賀で奴の遺体を家族に引き渡したのです。その際奴がいかに立派な軍人であった事と、そして奴に¨自分が止めを刺した¨事を家族に伝えた」

 

 

「そんな……なにもそこまでシュルツ艦長が背負わずとも――」

 

 

「あの方にとっては敵味方を問わず、犠牲を払ってしまったことに恥じ入る気持ちを持たれているのでしょう。勿論儂からも気に病む必要は無いと申し上げました。ですが、艦長は仰られたのです」

 

 

「な、何を……」

 

 

「【大尉殿の方こそ気に病む必要は有りません。私が殺したのです。そしてその罪を背負わずして、超兵器やウィルキアの犯した罪を償う術は無い】と……儂は軍人です。命令とあればいつでもこの身を国の為に捧げる覚悟は有った。だが、シュルツ艦長の言葉を聞き、この様な若者に戦争の重荷を背負わせた儂ら老獪の行いを改めて自覚し、そして後悔した」

 

 

 

「………」

 

 

「それに、この世界に来ても艦長はこんな私に配慮してくださった」

 

 

「どのような?」

 

 

「超兵器との戦闘です。あの中にかつて天城が乗艦していた超兵器があった。そう、【荒覇吐】です」

 

 

「な、なんですって!?」

 

 

「恐らく、天城の事で後悔していた儂への配慮でしょう。それに躊躇すれば犠牲を払いかねない。現状に置いては極めて合理的な判断だったと思います」

 

 

「シュルツ艦長はそこまで……」

 

 

「立派になられました。しかし、背負いすぎればいつかは潰れてしまう。故にこの老獪の勤めは、少しでも兵を鍛え、練度を高めて戦死者を少なくすることしかないのです」

 

 

「信頼されているのですね。自分達の艦長を……」

 

 

「はい」

 

ウィルキアの士官達は揃って酒を口に運んぶ。

 

 

 

グラスを置くと今度は博士が口を開いた。

 

 

「次は私の番でしょうか」

 

 

「あっ、ちょっと博士!次は私の番――」

 

 

「私はドイツで、科学者として新型の兵器の開発や研究をしていました。ウィルキアの侵攻の際、私は帝国の使者から更なる強大な兵器の開発を強要され、そして超兵器のニュースを知ってドイツから抜け出したのです」

 

 

「そうだったんですか」

 

 

 

 

「しかし、研究者として超兵器技術に魅力を感じなかったと言えば嘘になります。何せ超兵器は当時の技術を遥かに凌駕していましたから。ですが艦長に保護され、超兵器と戦ううちにその異常性と惨劇に打ちのめされ、未知の技術に出会えたことに、少しばかり浮かれた気持ちになっていた自分を恥じました」

 

 

「………」

 

 

 

「ですが、艦長はそんな私を軽蔑したりはしなかった。むしろ科学者だからこそ、人間の犯した過ちを正し、そして超兵器の無力化も可能だとそう説いていただいたのです」

 

 

 

 

「何となく解ってきた気がします。皆さんがシュルツ艦長を慕う理由が……」

 

 

 

 

「そうですね。あの方は普段何も仰いませんが、本当に困った時は抱き絞めてでも私の心を治めてくれましたから」

 

 

「そうですね……え?抱き絞め?」

 

 

「えっ!?ちょっと待ってください!今の話を詳しく!抱き絞めてってどういう事なんですか!まさか博士と艦長はもう――」

 

 

ナギが博士に詰め寄ろうとした。

 

 

博士はしまった…とでも言いたげな表情になり、周りを見渡して、言い訳の材料を探す。

 

 

 

すると……

 

 

 

 

「あ、あれは!」

 

「博士!誤魔化さないで――」

 

「織部副長!」

 

 

 

 

博士は大きな声で僧を呼んだ。

 

 

 

偶然近くを通りかかったらしい僧は、手に資料を持っており、こちらを向いては要るがやはり未成年と言うこともあり躊躇しているようだった。

 

 

 

だが、話を誤魔化したい博士は席を立ち、僧を引っ張って連れてくると、ナギの隣に座らせた。

 

 

 

「な、何を!私は今、レポートを艦長にみて頂こうと――」

 

 

「そんなこと言わずに!今、お互いの艦長について語り合っていたんです。千早艦長についても少しお話を聞かせて頂けませんか?」

 

 

「そう言えば、メンタルモデルの方とは、少しばかり話しましたが、千早艦長や織部副長とは話す機会が少なかった様に思います。是非聞かせてください!」

 

 

 

 

真白もこれ以上ゴタゴタする前に博士の提案に乗った。

 

 

 

僧は溜め息をつき、語り始める

 

 

 

 

「私と艦長は幼馴染みでして、昔は良く笑う普通の子供だったんです。しかし、霧の艦隊が現れ、軍で艦長を務めていた群像の父さんは、国を守るために出撃し、そして戻らなかった。群像の母さんはそれを悲観し自殺しました」

 

 

「……」

 

 

「その頃からでしょうか、群像が笑わなくなったのは。学院に入学してからも、まるで何かに取り憑かれた様に勉学に打ち込み、学院始まって以来の天才と称されていた。しかし教員からの評価の反面、あまりの優秀さによる周りからの妬みや人付き合いの悪さから、周囲から孤立していた。話すのは私や、明るい性格のいおりや杏平、位のものでしたから」

 

 

「そうだったんですか……」

 

 

「そんな群像を変えたのはやはりイオナでしょう」

 

 

「そう言えば、千早艦長とイオナさんの出合いについては詳しく知りませんでしたね……」

 

 

「私も群像から聞いた話ですので詳細まで合っているのかは解りませんが……」

 

 

「お願いします。聞かせてください」

 

 

 

 

「解りました。まずイオナですが、群像がまだ幼い頃…そうですね、丁度群像の父さんが殉職したであろう頃に突如横須賀に現れ、政府に拿捕された。政府は401を調査し、霧の艦隊への反攻の糸口を探った。しかし何も解らずただただ保管されることになったのですが…そして、群像が学院に在籍していたとき、将来士官として霧の艦隊と戦う事を運命付けられている成績上位者達に、401が公開かれた。その時でした。17年以上も起動することがなかった401が起動した。騒ぎはすぐに収まったものの、直後学院に謎の転校生が現れる事になる」

 

 

「それがイオナさん…と言うわけですね?」

 

 

「お察しの通りです。彼女の容姿は目立ちますからね、群像に話しかけて来たときは驚きました。それもわざわざ私達ですら触れない様にしていた群像の父親……千早翔像の名前まで出して」

 

 

「千早艦長のお父様の事が何故に禁句なのです?」

 

 

「群像が妬まれる理由の一つに、成績が優秀なのは、【軍の英雄だった父親のお陰で贔屓されている】と言うのがありましてね」

 

 

「酷い……」

 

 

「だからこそ最初は、イオナが自分をからかいに来たと思い、かなり不機嫌な顔をしていました。ですが、彼女の目的は違かった。その日埠頭に群像を呼び出したイオナは、起動させた401の船体を群像に見せ、自分の正体を明かした。そして千早翔像の息子である群像に従い、行動することが命令されていると語ったのです」

 

 

「何故亡くなったお父様の事が関係してるんです?それに霧は千早艦長のお父様の仇ですよね…言葉は悪いですが、もし私なら家族の仇と共になど歩みたくも無くなくなってしまうと思うんですが……」

 

 

「解りません。それを含めて調査の必要性が有るでしょう。しかし、群像の目的が仇敵の殲滅ではなく和平を望んでいる事は確かでしょう。推測ですが、きっと無謀な戦い挑み命を無駄に犠牲にするのであれば、対話により彼女達と交渉し和平を得た方が良いと考えたのかも知れません。群像と翔像さんの様な別れを皆に経験させない為にも……」

 

 

「千早艦長……なんだか大人ですね。私はそうも割りきる事は出来ない」

 

 

「それほど迄に、相手が強大な力を有していると言うことですよ。あなた方も見た筈だ、先の超兵器戦での彼女達の戦いを……参考までに申しますと、我々の国の艦船のレベルは航空戦力を差し引いてもあなた方より上です。それでも、霧の魚雷艇すら沈めることは出来なかった。それに霧は、駆逐艦 軽巡 重巡 大戦艦 海域強襲制圧艦 超戦艦とクラスが別れ先の超兵器戦後にヒュウガに聞いてみたところ、今回の超兵器クラスなら、海域強襲制圧艦クラスなら2隻で数十分、超戦艦クラスなら数分でケリが着くとの事でした。余談ですが、超重力砲は全人類との総力戦において一度も使用されておらず、そもそも使用する必要すら無かったとヒュウガから聞いています」

 

 

 

「そんな……あの超兵器を数分で!?まさか、何かの誇張でしょう?」

 

 

「残念ながら、艦隊旗艦を務めた経験もあるヒュウガのデータにあった情報より算出した結果ですから間違いないかと。現世界に転移している我々が超戦艦クラスと戦ったとしても、超戦艦クラスの25%の力にも及ばない事は初期の段階から解っていた。故に群像はここ数年、急にメンタルモデルを持ち、コミュニケーション能力を身に付けた彼女達と対話することにしたのです」

 

 

 

「え?元々メンタルモデルが有ったわけではなかったのですか?」

 

 

「そうですね。タカオによれば、人間の【戦略】を体得するために、人間とコミュニケーションを取ったり、人間の体を模する事で人間の思考を得ようとした結果として、メンタルモデルの形成に至ったようです」

 

 

「そうだったんですか……話が聞けて良かったです。千早艦長はあまり多くを語られない人ではありますが、敵であった霧とも、対話の道を選らび、そして現に共存を実現している方だ。同じ海の平和を守る者として、とても尊敬します!」

 

 

「そう言って頂けるのであれば幸いです」

 

 

 

様々な世界の事情に触れるこことが出来た。

 

 

 

それは今まで、苦境というものをあまり経験することが無かった真白にとって大きな財産になったことは間違いないだろう。

 

 

 

 

 

「ところで皆さん。グラスが空になってしまいましたね。この辺で一度も乾杯しませんか?偶然ですが、ここにいる全員が副長経験者な訳ですし」

 

 

 

「そうですね。丁度喉も渇いてきた所ですし……あっ、織部副長は未成年でしたね。何がソフトドリンクでも飲まれますか?」

 

 

「いえ、私は水で結構です。私の世界では水は貴重品ですし、艦内の水は海水を濾過したものですから、出来れば天然の水を頂ければ」

 

 

「解りました。ご用意します!」

 

 

 

ナギの提案に全員が納得した。

 

 

 

優衣がそれぞれにグラスを渡し、代表として現世界在住の真白が音頭をとった。

 

 

 

 

 

「それでは乾杯します。3つの世界の平和に!」

 

 

「「3つの世界の平和に!」」

 

 

 

 

カチーン!とグラスを合わせ、副長達は互いの世界の平和を祈った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

酒宴は続き、酔いが脳を支配する頃……

 

 

「ヒッ!やっぱりぃ~♪かぁんちょうってぇ~チョ~格好いいですよねぇ~♪ヒック!」

 

 

1位通過で泥酔モードのナギが奇声を発するのを真白がジト目で横を見た。

 

 

 

 

(うわ~ナギ少尉って結構絡み酒だな……織部副長は論外としても、他のお三方は比較的まともそうだが……)

 

 

 

真白はナギに絡まれまいと視線をそらし、他の3人に視線を向けた。

 

 

一見顔色は変わらないようだが……

 

 

 

 

「そうですね。あの方は他の男の方には内容な魅力があります。だから皆が付いていくんで¨チョ¨」

 

 

(ん?……でチョ?)

 

 

 

2位通過エルネスティーネ・ブラウン

 

 

 

 

「納得ですね。あの方の伴侶となられる¨男性¨が羨ましい……(出来れば僕が先輩の――)」

 

 

(は?)

 

 

 

 

3位通過クラウス・ヴェルナー

 

 

 

 

「何を仰る!なんと破廉恥な!いいですかな?物事には順序と言うものが有ります!両親に挨拶も無く交際だなんて¨父さん¨は許しません!許しませんぞぉ!」

 

 

(………)

 

 

 

4位通過筑波貴繁

 

 

 

 

四人は完全に泥酔し、意味不明な言動に終始し

 

 

ている。真白は何やら嫌な予感を感じた。恐らく僧も同じだったのだろう。急に席を立ち、魔窟からの脱出を図ろうとした。

 

 

 

 

 

「それでは私はレポートの提出があるのでこの辺でぇぇぇえ?」

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

僧の肩を真白が掴む。

 

 

 

 

(織部副長!なに逃げようとしてるんですか!?私一人でこんなところに取り残されたら――)

 

 

 

 

今僧が居なくなれば、間違いなく一人で魔窟に取り残されるであろう真白は、懇願の目で僧を引き留めようとしていた。

 

 

しかし、僧も一歩も引かない。断固としてその場を立ち去ろうとする。

 

 

 

 

「で、では皆さん、お疲れ様でした」

 

 

 

(ぐっ!逃げないで織部副長!に、逃げるなぁぁぁ!)

 

 

 

 

必死ですがる真白を見捨てて逃走を図った僧だったが……

 

 

 

 

バフッ!

 

 

 

 

直後にナギにホールドされ完全に脱出の機会を逸する。

 

 

 

「あ~ん☆織部副長~まだ帰っちゃダメですよぅ~!あっ、10代の男の子手ってスベスベェ~♪それにココもカ・タ・イ・ですね!」

 

 

 

 

「え、ええ……マスクですからね」

 

 

 

 

ナギに手とマスクを被った顔を撫で回される僧からは、悲壮感が漂っている。

 

 

 

そのままナギに腕を固められ座席まで連行、着席…もとい拘束された僧は完全に項垂れていた。

 

 

 

そんな僧に構わず、ナギは手を上げた。

 

 

 

 

「はい!はぁ~い!突然ですがぁ~みんな大好き艦長様を¨でぇいと¨に誘うなら何処がいいですか!」

 

 

「!!!?」

 

 

 

 

明乃と自分が仲良くデートしている光景を真白は想像してしまい、急に酔いが回りだして顔が熱くなるのがわかる。

 

 

 

そんな真白を余所にナギは順番に聴いていく。

 

 

「はい!それじゃ筑波大尉から!」

 

 

「そぉさのぅ~まずは横須賀の工厰を見学して頂きます。昼食はやはりカレーですかな!それから戦艦三笠を見学して頂いて――」

 

 

 

 

「大尉、それはデートじゃなくて¨視察¨ですぅ!じゃぁ次はヴェルナー副長!」

 

 

 

 

 

「ぼ、僕は、将来二人で住む部屋のインテリアを二人で見て回りたいです。それから夜は二人で航空機に乗って綺麗な夜景を見――」

 

 

「なんか気持ち悪いです……じゃぁ宗谷副長!」

 

 

「わ、私は……しょ、しょのぅ……艦長はイルカが…しゅ、好きだから!一緒に水族館に行ってイルカショーを……見たいなぁって…は、恥ゅかしい〃〃」

 

 

 

「ベタですね……」

 

 

「………」

 

 

「それでは次は織部副長!」

 

 

「そもそも群像と私の男同士で交際と言う前提に疑問は有りますが……まぁそうですね、強いて一緒に向かうとすれば、図書館でしょうか。海洋が封鎖されている今、外国の知識は本でしか得られませんからね」

 

 

「つまらない……」

 

 

「………」

 

 

「むぅ!では最後ブラウン博士!」

 

 

「そうですね。まずは二人きりで超兵器の無力化についてじっくり話し合った後、この間のように艦長の自室で激しく――」

 

 

「ちょっと待ったぁぁぁ!なんですかそれ!何で博士が艦長と激しく……この間っていつですか!?」

 

 

「超兵器を撃沈した晩にです。あぁ……まだあのときの艦長のベッドの香りが頭から離れなくてもぅ……」

 

 

「きぃぃぃぃ!許さない!絶対許さないですぅ!」

 

 

 

「う、嘘だ!そんな筈はない!だって先輩はあの日、僕のベッドで寝たんだ!だから博士とはあり得ない!だって……んふぅ…あの臭いは間違いなく先輩の……あぁ!」

 

 

「いや、あの日の夜は艦長と儂で江田を蒼き鋼に受け入れて貰えるよう、千早艦長に頼みにいっていたのだ。故に真に二人きりなのはこの儂だ!そうでしょう?織部副長!」

 

 

「ま、まぁ、現場に私も居ましたし……」

 

 

「そんな……じゃぁ私の会った艦長は偽者?」

 

 

「まさか……僕は筑波大尉との後に――」

 

 

「きぃぃぃぃ!皆さん許せません!抜け駆けなんて酷いですよぅ!」

 

 

「ギャハハハハ!」

 

 

 

 

 

僧は、全く意味不明なウィルキアの副長達の会話とそれに爆笑する真白を見て溜め息をついた。

 

 

(ああ…逃げ出したい!)

 

 

 

 

 

しかし、そんな僧に更なる災難が襲いかかる。

 

 

 

 

 

「そう言えばぁ~織部副長の素顔ってどうなってるんです?」

 

 

 

「!!!?」

 

 

 

 

 

ナギの疑問に僧は驚愕した。

 

 

 

 

「私も気になっていました。これを機会に是非素顔を見せていただければ……」

 

 

 

 

「いや、これはアレルギー防止の為のマスクですから取り外す訳には……」

 

 

「皆自分をさらけ出したんです!織部副長だけズルいですよ!」

 

 

 

 

 

 

 

僧は固辞するが、先程まで比較的まともだった真白も今や泥酔組に呑み込まれ、最早逃げ道は無く、僧は観念したかの様に溜め息をついた。

 

 

 

 

 

「はぁ…解りました。ただ少しだけですよ?でないと発作が起きてしまいますので……」

 

 

「わぁ~!!流石織部副長!」

 

 

「でもその前にちょっと待って下さいね。藤田優衣さん…でしたか?」

 

 

「は、はぁ――」

 

 

「少し向こうを向いていて下さい。決して振り向かないように。すぐ終わります。」

 

 

「わ、解りました」

 

 

 

 

 

バーデンをしていた優衣は、僧に背を向ける。

 

 

「それではいきますよ」

 

 

 

 

副長達のギラギラした視線が、僧に向けられる。

そして……

 

 

カパッ!

 

 

 

 

僧の素顔が露になる。

途端に副長達の顔が真っ赤になって行き、

 

 

「ひっ……ひぎゃぁぁぁぁぁ!」

 

 

フロアに悲鳴が轟いたのであった。

 

 

   + + +

 

 

僧の素顔を見たことですっかり酔いが覚めた僧を除く5人は屋外を歩いている。

何故か全員が頬を赤らめ、内股か前屈みになっており極めて歩きにくそうだった。

 

 

 

 

「ま、まさか織部副長があ、あんな……んっ…ふぁあぁ!」

 

 

「は、反則ですよあんなの…ひ、ひん!!」

 

 

「織部副長への認識を改めなければなりま……うっ?あぁっ!!」

 

 

 

 

 

女性陣はモゾモゾしている。

一方男性陣も……

 

 

 

 

 

 

「ま、まさかあんな若僧に……むっ…ぐぉ!!」

 

 

「あんな奇襲攻撃…た、堪えられませんよ…は……はぐっ!?ハァハァ――」

 

 

 

 

 

筑波とヴェルナーも荒い息をついていた。

頬を赤らめながらもゲッソリしている真白は、副長達提案する。

 

 

 

 

 

「ハァ…ハァ――あ、あの、織部副長の事は…ハァ…忘れましょう。これは夢…そう、酒に見せられた幻覚……と言うことにぃ…んっ!ふぅぁ!?」

 

 

「さ、賛成です……んっ!見ただけでコレじゃ、業務に差し障りがあります……から、幻覚と言うことで処理した方が良さそうです…ね……くぅあ!」

 

 

全員が身悶えながらも、真白の意見に賛同し、各々がフラフラと自分の部屋へと戻っていった。

 

 

 

   + + +

 

 

ヴェルナーはまだ完全に酔いが覚めていなかった。

 

 

「くぅ……まだフラフラする。少し屋上で風に当たった方がいいのかもしれない」

 

 

 

 

 

そう言うとスキズブラズニル司令塔の屋上へと、ゆっくり上がっていった。

 

屋上の扉を開けると、心地よい風が頬を撫でていく。

 

 

 

「ふぅ……」

 

 

ヴェルナーは騰がってしまった呼吸を整え、屋上の手摺付近のベンチを目指した。

 

するとそこに人影を見つける。

 

 

 

人影は手摺に腕をのせて海を見ているようだった。

 

 

 

 

ヴェルナーはそれを見て、一目でシュルツであると気付く。

声をかけようとしたが、その前にシュルツが振り向いた。

 

 

「ん?あぁヴェルナーか。どうした?顔が真っ赤じゃないか。あまり飲みすぎるなよ」

 

 

「も、申し訳有りません。そんなに飲まなかったのですが、何故か今日は酔ってしまって……以後気を付けます」

 

 

「まぁいい。確かにこうして意思疏通が可能であれば、それほどでは無かったんだろう」

 

 

「は、はぁ……それより艦長は何故ここに?確か当直だったでは?」

 

 

「今後について少し頭を整理したくてな。それでだなヴェルナー、お前に言っておきたい事があるんだ。まず、お前に聞いて欲しくてな、後で部屋に寄るつもりだったが手間が省けてしまった」

 

 

「え…それって〃〃」

 

 

 

 

少し頬を赤らめるヴェルナーに、シュルツはとても真剣な表情でヴェルナーに近付き、そして自分の気持ちを伝えた。

 

 

 

「察している通りだと思う。よく聞いてくれヴェルナー」

 

 

「は、はい!」

 

 

 

 

直後ヴェルナーはシュルツの口から衝撃的な言葉を聞くことになる。

 

 

 

「ヴェルナー……別れよう!」

 

 

「………え?」

 

 

 

二人の間に、潮風が吹き抜けていった。

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。

次回は第二章ですが
その前にキャラ紹介も入れます。


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トライアングル・フリートZERO 灼熱のトライアングル 前編  VS ムスペルヘイム

お疲れ様です。


異世界艦隊のメンバーが自分達の世界から移動し、明乃と出会うまでを彼等視点で描きました。

それではどうぞ


   + + +

 

 

 

1943年

 

ベーリング海

 

 

ウィルキアの軍艦であるドリル戦艦シュペーアとドック艦スキズブラズニルは、帝国の切り札である超兵器の総旗艦との戦闘に勝利し、ロシアのウラジオストクより少し北にある祖国ウィルキアを目指して航行していた。

 

 

 

「艦長!」

 

 

「ナギ少尉か……どうした?」

 

 

艦橋にいたシュルツに、ナギは沈痛な面持ちを見せた。

 

 

「はい…先程、ガルトナー司令から連絡が有りまして、陛下が政務より退かれるとの連絡が入りました」

 

 

「………」

 

 

国を揺るがす一大事の報告にも関わらず、いつもの様に表情を変えることは無かった彼に、ナギは思わぬ反応にキョトンとしながら立ち尽くす。

 

 

 

「あの~驚かれないのですか?」

 

 

「ああ……陛下の事だ。きっと王政ではなく、これからは民衆によって選ばれた人物によって国家を運営することが、戦後のウィルキアをより発展に導けるとお考えなられたのだろう。他の諸外国同様にな」

 

 

「でもそれじゃ只でさえ帝国による侵略によって発生した戦後賠償等で苦しい立場のウィルキアに政治空白が出来てしまいますよ。なにもこんな時に――」

 

 

「こんな時だからこそ……さ。ここで陛下が政治の舵を取ってしまえば、民衆は陛下に依存し、新たなリーダーを選ぶ機会は失われるだろう。それは結局、民衆が中央政治への行く末を丸投げしているに等しい。結果として、ヴァイセンベルガーの様な者の台頭を許してしまうことになるんだ」

 

 

「………」

 

 

「しかし、民衆が自らのリーダーを選ぶのであれば、自ずとその者に関心や注目が集まる。結果としてそれが監視の目となり、政治の暴走を食い止めることが出来るんだ。陛下は独裁者ではないが、今後更に開けて行くだろう世界と対等に渡り合うには、自らが一線から退く事が最善だと判断されたのだろうな」

 

 

「そう言うものなのでしょうか……」

 

 

「あまり考え過ぎるな。いずれにしても、我々軍人は命令に従うに過ぎんのだからな」

 

 

「は、はぁ……あっ!そうでした。陛下が象徴国王になられる事で、国の名前が変わるそうですよ」

 

 

「ほぅ……どんな名前だ?」

 

 

「あまり代わり栄えはしませんが、ウィルキア王国から、ウィルキア共和国になるみたいです!」

 

 

「共和国……か」

 

 

シュルツは感慨深そうに呟く。

 

彼が普段、中々見せることない穏やかな表情に、ナギは安堵した。

 

 

「終ったんですね……戦争が」

 

「いいや、これからさ」

 

 

「え?」

 

 

「戦後賠償、それに拡散してしまったウィルキアの大量破壊兵器の技術。それらを知った諸外国の今後の行動。それらを私達ウィルキアが一丸となって解決して行かねばならん。それが終わるまでは、本当の戦後は終わらんさ。港に着いて辞令が下れば、多国籍で結成された解放軍も解散になるわけだしな」

 

 

「そ、そんな……折角皆さんと親しくなれたのに」

 

 

「そう言うな。筑波大尉もブラウン博士も元はウィルキアの人間ではない。なし崩し的に、反帝国への反攻作戦に巻き込まれただけだ。戦後の事まで頼るわけにはいかんさ。それにヴェルナーも、父親の件がある。このまま軍人を続けさせるのは酷だろうからな」

 

 

「ヴェルナー副長まで……」

 

 

「君もだぞ?ナギ少尉」

 

 

「え!?」

 

 

「解放軍が解散となれば、君も別な艦長の下でウィルキア復興に尽力することになるだろう。今まで言ってなかったが、君はその若さで、この戦争を乗り切った精鋭の一人だ。これからもっと色んな経験を積んで、見識を広めて行くといい。君にはその力があると私は確信している」

 

 

「私……艦長はあなたでないと――」

 

 

「なんだ?」

 

 

「あ、いえ…その――」

 

 

「艦長!」

 

 

突然、博士が艦橋に入ってきた。

走ってきた為か、少し息が上がっている。

 

 

 

 

「博士、そんなに慌ててどうされましたか?」

 

 

「一大事です!今、ヴェルナー副長と筑波大尉も此方に呼んでいます」

 

 

「二人も一緒とは……余程の事があったのですね?」

 

 

「超兵器を打倒したと言うのに一大事とは、穏やかではありませんな」

 

「筑波大尉……それに」

 

「艦長や僕だけでなく、筑波大尉も一緒となると、解放軍クラスが出向かなければならない事態なのでしょうか?」

 

 

「ヴェルナーか」

 

 

 

 

 

 

 

艦橋には、戦争を友に戦い、シュルツを支えてきた面々が顔を連ねていた。

 

全員が揃った所で、シュルツが博士へ視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

「では博士、一大事とは一体どういう事なのですか?」

 

 

「はい。実は、撃沈した超兵器達の残骸が忽然と姿を消したそうなのです!」

 

 

「何ですって!?帝国の残党の仕業か……それとも超兵器技術を欲した第三国による仕業でしょうか?」

 

 

「考えられません!それを防ぐ為に、超兵器が撃沈された地点には、常に管轄する国の潜水艦が巡回していますし、況して小型のもならともかく、大型の超兵器は残骸の引き揚げすら困難です。それを世界で同時多発的に、誰にも気付かれずに成し遂げるのは不可能です!」

 

 

「確かに解せませんな……」

 

「成る程、それで僕達解放軍に調査をせよと?」

 

 

「そうなります。艦長、提案なのですが、我々は間もなくベーリング海を抜け、ウィルキアの領海に入ります。最も近くで対戦した超兵器は首都シュヴァンブルグの海底に沈んでいるリヴァイアサンです。そこを調査するのは如何でしょうか?」

 

 

「そうですね。ナギ少尉、念の為シェルドハーフェンに増援の要請をしてくれ。帝国の残党が潜んでいるやも知れんからな」

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

 

ナギは直ぐ様、通信の準備を始める。

 

 

しかし……

 

 

 

 

 

 

「か、艦長……」

 

 

「どうした?」

 

 

「おかしいんです……通信にノイズが入って上手く交信出来ません!」

 

 

「シュヴァンブルグの方はどうだ?」

 

 

「え、えーっと……駄目です。こちらも先程と同様で――」

 

 

(どういう事だ!?帝国残党の妨害工作か?)

 

 

 

 

《オ願■私ヲ■■テ…。》

 

 

 

 

(!!?)

 

 

突如シュルツの頭で声が響く。

それは、彼のみが耳にする、超兵器と相対したときに聞こえる彼等の意識に近いものだった。

 

 

シュルツの顔が青ざめ、額には嫌な汗が滲んだその直後……

 

 

 

カタ……カタカタカタカタ!

 

 

「あれ?地震ですか!?」

 

「そんな……ここは海の上なんですよ?地震なんて――」

 

 

カタカタカタ!

 

 

「この揺れは一体……」

 

 

その時、その場にいた誰もが不安を感じていた。

 

その違和感は、艦内の至るところで起こる。

 

 

 

 

「ん?おい!なんか計器類が変だぞ…」

 

 

「何!?見せてみろ!……な、なんだこれは」

 

 

機関員達が見ている多数の圧力計の針がグルグルと回転している。

 

更には、

 

ピリッ!パリッピリッ!

 

計器のガラスにヒビが入る。

 

機関員達が、一様に顔を見合わせた。

 

 

その頃艦橋では、徐々に強くなる揺れに対応出来ずにいた。

 

 

机に広げた海図やペンがカタカタと震え、遂に床へと落下する。

 

 

カタン…!

 

その音が響いたと同時に、それは突然現れた。

 

 

 

キィィィィイイン!

 

 

「!!?」

 

 

その場にいた全員が驚愕する。

 

突如として、目の前に巨大な光が現れ、その凄まじい閃光は、まるで太陽が目の前にあるかの様な強すぎる光を放つ。

 

 

「あ、あぁぁぁ!」

 

 

立っていられなくなる程の揺れと強い光によって、一同は呻きながら床に倒れ伏す。

 

 

 

 

「あぁぁぁ!目が…痛い!か、艦ちょ…た…すけ――」

 

 

「ナギ少尉落ち着け!至急スキズブラズニルに退避の連絡を……!」

 

 

「痛い!イタイ!あ、あぁ!」

 

 

「ナギ少尉!」

 

 

ナギだけではない。誰しもが突然の状況にパニックを起こしていた。

 

等の本人であるシュルツも、目を抑えその場に伏す事しか出来ない。

 

 

(くそ!これまでなのか!!?)

 

 

彼がそう思った時だった。

 

 

 

 

《助けて!お願い!》

 

 

「!?」

 

 

急に女性の声が聞こえてくる。

 

 

 

《おねがぁぁい!》

 

 

 

「うあっ!くっ……」

 

 

その悲痛な叫びに、シュルツは思わず頭を抑えた。

すると、辺りが急に暗くなり、気づけば激しい揺れも収まっていた。

 

 

(私は死んだのか?いや……それにしては――)

 

 

彼は意識を集中させる。

 

自分や回りの人間の荒い息遣い、額に滲む汗や目の奥の不快痛みは、はっきりと感じ取れた。

 

 

「うっ……」

 

彼はふらつきながら立ち上がり、強い光の刺激を受け鈍い痛みの残る瞳をゆっくりと開いて行き、眩んでしまった瞳に辺りの状況がぼんやりと写し出されていった。

 

 

 

 

闇の中にうっすらと赤い光が見える。

 

 

 

 

「うぅ…か、艦長……」

 

 

「ナギ少尉!無事か!?」

 

 

 

 

呻き声をあげる彼女に、少なくとも自分達は死んだ訳ではないと確信を得るが、未だに状況は把握出来ていない。

 

 

 

「ナギ少尉しっかりしろ!総員、被害状況を報告。機器の確認が完了し次第戦闘体勢に移行する!」

 

 

 

 

ナギを引き起こしながら、シュルツはまるで不安を振り払うかのように叫んだ。

 

艦内各所から次々と報告が入ってくる。どうやら沈没は免れたらしかった。

 

 

 

 

「あれは一体……」

 

見張りからの声にシュルツが外へ飛び出すと、シュペーアの後方にスキズブラズニルが浮いている。

 

 

 

シュルツは一瞬安堵したのものの、自艦の隣に何故か浮いている蒼い潜水艦を見て眉を潜めた。

 

 

「これは日本帝国海軍の伊號四百型潜水艦ですかな?この様な派手な色はしていなかったと記憶しておりますが………」

 

 

「ではここは日本なのでしょうか?」

 

 

「可能性は有りますが今は何とも言い難いですな……」

 

 

いつもは冷静な筑波ですらも、この状況を完璧に説明するのは不可能なようだった。

 

 

「あ、あれは!」

 

「今度はなんだと言うんだ……」

 

 

 

 

目まぐるしい状況に彼は苛立ちながらも、ヴェルナーの視線の先へ顔を向け、その光景をみたシュルツは、驚愕した。

 

 

 

 

「そ、そんなっ!」

 

 

 

 

 

遥か遠くに広がっていた赤い光の正体は、燃え盛る都市であった。

 

だが、彼が驚いたのはそれだけではない。

 

 

 

 

 

 

 

「超兵器……ムスペルヘイム!?」

 

 

 

 

忘れる筈もない。

 

 

 

 

500mを軽く超える巨大な戦艦を、更にそれと同等の巨大空母二隻で挟み込む様な独特の艦影。

 

 

 

 

その超然たる武力によって、幾多の軍艦や都市をまるごと消し去った狂気の兵器が目の前に存在していた。

 

 

 

 

¨存在する筈も無い¨軍艦が……

 

 

 

 

「馬鹿なっ!奴はダイオミード諸島で撃沈した筈だ!何故存在している!」

 

 

「艦長、今はそれよりもあの都市を救う事が先決ではないですかな?」

 

 

「筑波大尉……ええ、そうですね」

 

 

 

 

「艦長!シュペーアはヴォルケンクラッツァーとの戦いで疲弊しています。通信のチャンネルを開いて、この国の航空機等に支援を要請してみては如何ですか?」

 

 

「そうですね……ナギ少尉、あらゆるチャンネルを開いて通信を――」

 

 

「待ってください!」

 

 

 

 

その焦りを含んだ声にシュルツは筑波へと顔を向けた。

 

 

 

 

「この陸地や山の形には覚えがあります。ここは……横須賀です!」

 

 

「何ですって!?」

 

 

 

 

シュルツは耳を疑った。

 

横須賀には大規模な軍港が存在しており、街は栄えてはいたが、今目の前で超兵器に蹂躙されている横須賀の街並みは、彼等の印象とはかけ離れていた。

 

 

 

少なくともシュルツや筑波が知る限り、沖合いの浮き港らしきものの上に広がる街並みや陸にそびえる高層ビル群等は無かったからだ。

 

 

その他にも彼等の疑問は次々へと沸いてくる。

 

先程まで昼間だったのに何故突然夜になったのか。

 

何故日本は航空機の一機も出さず一方的にやられているのか。

 

 

隣に浮かんでいる潜水艦は何者なのか。

 

疑問は尽きない。

 

 

 

 

 

しかし、これだけははっきりしていた。

 

シュルツは、頭に浮かぶ数々の疑問を捨て去った。

 

 

 

 

 

「総員、良く聞いて欲しい。諸君らは今、不安の渦中に居ると思う。私もそうだ……だが、目の前に超兵器が再び姿を現し、今この瞬間にも罪無き民衆の住む街を焼き尽くしている。これは解放軍として……いや、人として見過ごすわけにはいかない!」

 

 

艦橋にある全ての視線がシュルツへ集まっていた。

艦内でも、船員達が頷く。

 

 

全員の意思は決まっていた。

 

 

 

シュルツはムスペルヘイムへと身体を向ける。

 

 

 

「総員、戦闘体勢を取れ!機関全速!目標、超兵器ムスペルヘイム。全砲門開け!」

 

 

 

 

 

 

 

ボォォン!

 

 

シュペーアが加速し、咆哮が鳴り響く。

 

 

 

 

彼等の平和はこうして振り出しへと戻っていった。

 

 

 

   + + +

 

2056年

 

硫黄島

 

蒼い鋼の本拠地として、ヒュウガが改装を施した基地でもある。

 

 

その硫黄島の一画には、ヒュウガがナノマテリアルで構成した南国風のプライベートビーチが存在した。

 

 

 

「はぁ…うぅん……」

 

 

日差し避けのパラソルの下で、デッキチェアに横になっているビキニ姿のタカオは、思わず溜め息をついた。

 

 

「暇ねぇ……」

 

 

 

 

彼女の視線の先には、ハルナ達が海辺で遊んでいる。

 

 

「ま、蒔絵…コートを……コートを返してつかぁさ――」

 

 

 

パサッ……

 

 

 

 

 

「シャキーン!」

 

 

「でもハルハル!海に入るときはちゃんとコートを脱がないと駄目なんだよ!」

 

 

 

 

「しかし蒔絵、コートを脱いだら私は――」

 

 

 

 

バサッ!

 

 

 

 

「はぅ~堪忍してつかぁさい……」

 

 

 

「もう……」

 

 

 

「はっはっは!情けないなハルナ!見よ!この私の完璧な――」

 

 

バシャァア!

 

 

「ぐぁ!?わ、綿が……綿が水を吸って動きがぁぁ!」

 

 

 

「ホント…馬鹿ばっかりね……」

 

 

 

 

タカオはもう一度溜め息をついた。

 

 

横須賀での一悶着を終え、それぞれが各々の経緯でここに集まった訳だが、現在は皆暇を持て余している。

 

 

 

 

理由は、硫黄島で邂逅する予定である大戦艦コンゴウを待っている為だった。

 

 

度重なる連戦で疲弊した401は、刑部邸襲撃後、ハルナ達三人を伴って補給の為に硫黄島に帰港する。

 

その際、かつて401に敗れ、人間を自らの艦艇に乗艦させることで力を補完した彼等に興味を抱いたタカオが成し成し崩し的に合流。

 

 

 

島を守っていたヒュウガと共に、401の修繕と補給を完了させた群像達は、過去にメンタルモデルとの対話によって関係を築く事に成功した例から、コンゴウに呼び掛け対話する策を見出だした。

 

だが、肝心のコンゴウは二つ返事の後に連絡が取れず、彼等はこうして島に留まり、彼女を待っていると言う訳だ。

 

 

「タカオ……」

 

 

その呼び掛けに、彼女はあからさまに不機嫌な顔になる。

 

 

「何か用?401!」

 

 

彼女の視線の先には、タンキニタイプの水着を着たイオナが立っていた。

腕には、黄色いゴムのアヒルが抱かれている。

 

 

 

 

「つまらなそうな顔をしてる……」

 

 

「それはっ!か、艦長が……私の艦長になってくれないから〃〃〃」

 

 

「焼きもち?」

 

 

「だ、誰があんた等に焼きもちなんて焼くか!わ、私は別に一人でも全然大丈夫だしぃ………あんた達の事も羨ましくなんかないし……」

 

 

「……ツンデレ」

 

 

「ツンデレ言うな!」

 

 

「随分仲が良くなったじゃないか。」

 

 

「え……」

 

 

その声を聞いただけで、タカオのコアは激しく高鳴る。

顔は真っ赤になり、まともに相手の顔を見る事が出来ない。

 

 

「か、艦長〃〃〃ふ、フン!こ、これの何処が仲良く見えるって言うのよ!」

 

 

「メンタルモデルを持つ前の君達は、物事の解決を砲を交える事でしか成し得なかった。だが、今はそうじゃない。現に今だって君達は対話していたじゃないか」

 

 

「む、むぅ……」

 

 

むくれるタカオに群像は笑みを向ける。

それだけでタカオはオーバーヒートしそうになってしまった。

 

 

 

そこへ……

 

 

「わぁ!砂浜だぁ!う~ん気持ちいい!」

 

「ひぃ~暑ぃな……」

 

「久しぶりの日差しはやっぱり良いですね」

 

「マスクの中が蒸れてしまいます……」

 

 

401のクルー達も砂浜へ出てきた。

やはり年頃の女性だからなのか、普段着の男性陣に対して女性陣は水着を着ている。

 

 

 

「ねぇ杏平!私達の水着どうよ?」

 

 

「あ?……似合ってんじゃね?」

 

 

「はぁ!?何その反応!これだけの美人が周りに居て何も思わない訳?それに男共はみんな普段着だしさぁ!いくらなんでも無頓着過ぎるよぉ!」

 

 

「そうですね。ここまで徹底していると、私も自信無くなっちゃいます……」

 

 

「まぁ半分は人間じゃねぇしな……それに、艦長や俺達だけでも何かあれば直ぐ対応出来る様にしねぇと駄目だろ。何せ相手はあの艦隊旗艦コンゴウなんだからよ」

 

 

「だけどさぁ~」

 

 

そんなやり取りの中、突如砂浜を猛スピードで駆けていくケダモノがいた。

 

 

「イオナ姉さまぁん!」

 

 

「ヒュウガ……」

 

 

 

ガシッ!

 

ヒュウガはイオナに後ろから抱き付き、頬を合わせてスリスリしながら腰を左右にクネクネさせている。

 

イオナは鬱陶しそうにもがくが、大戦艦の力をそう簡単に振りほどける訳もない。

 

水着姿の彼女を堪能しているヒュウガに、群像は顔を向けた。

 

 

「ご苦労だったヒュウガ。イオナの船体をメンテしてくれて」

 

 

「当たり前じゃない。愛しの姉さまの船体を、他人に任せたりは出来ないわ。あぁ…ホント夢の様でしたわ。普段は見ることの出来ない姉さまの身体の奥までじっくりと……ジュルリ」

 

 

「良かった。これでいつでも、コンゴウと対峙することが出来る」

 

 

「………」

 

ヒュウガの表情が急に鋭くなった。

 

 

「本当にコンゴウに会うつもり?言っとくけど、艦隊旗艦経験者の私でもコンゴウの説得は無理だと思うわ。あいつ頭の硬さは、霧がメンタルモデルを持つ前から有名だったしね」

 

 

「聞いたこと有るわ。確かメンタルモデルを持つ事を総旗艦が提案したときも、コンゴウ最期まで反対してたんでしょ?」

 

 

「そうそう。いやぁあんた達にも聞かせたかったわぁ。あいつの殺気に満ちた声……集まった連中もドン引きだったわよ」

 

 

「うわっ!想像しただけで鳥肌が立ちそう……」

 

 

「でしょう?」

 

 

「だが、俺は対話を止めるつもりはない」

 

 

三人は群像を見つめる。

 

 

彼の意思は既に決まっていたのだ。

 

 

 

 

 

「君達もメンタルモデルを持つ前は、多様性に欠けていたんだろう?なら、コンゴウもメンタルモデルを得たことで何か変化がある筈だ。今はそれに賭けたい」

 

 

「メンタルモデルのもたらす変化が、必ずしも私達みたいにプラスの方向に向くとは限らないわよ?」

 

 

 

 

「それでも……だ。それに、万が一コンゴウと事を構える事になったとしても、君達なら俺に最善の道を開いてくれると信じている」

 

 

 

「私は群像の艦。あなたの航路は私が開く」

 

 

「全く、お人好しね……」

 

 

「フン!ま、まぁ悪く無いんじゃない?」

 

 

三者三様の反応に、群像は笑みを浮かべた。

 

 

 

その時……

 

 

ヴォン!

 

 

 

 

「!」

「!?」

「???」

 

 

 

メンタルモデル達の表情に緊張が走ったのを群像は見逃さなかった。

 

 

 

 

「コンゴウか?」

 

 

「ならいいんだけど……」

 

 

「イオナ!」

 

 

「うん」

 

 

彼女はその場でクルリと回ると、水着がいつものセーラー服へと変わり、他のメンタルモデル達も既にいつもの姿に戻っていた。

 

 

 

彼等は急いで401へと駆けて行き、中へと入っていく。

 

 

 

「タカオ!君はここで待機していてくれ。何かあれば連絡する」

 

 

「ちょっと、待ちなさいよ!私だけ除け者な訳!?」

 

 

「そうではないが……原因が掴める迄は、全員で動くのは危険だ」

 

 

「何よ!さっきの言葉は嘘だった訳?私は人間じゃないわ。艦長が道を開けって命令したなら、絶対に約束は守る。あなたに道を切り開いてやるわよ!」

 

 

「しかし……」

 

 

「あぁもう!私の船体は遠隔操作出来るわ。いざとなったら呼び寄せるわよ!だ、だから……今はあなたの隣に居させなさいよ!」

 

 

「………」

 

 

彼は少し思案し、タカオを見つめた。

 

 

「解った。君も来いタカオ!」

 

 

群像は手を差し出す。

彼女は彼の手を取り、中へと入った。

 

 

 

「あ、ありがと〃〃」

 

「ああ。よろしく頼む」

 

 

 

(うぁ…手、握っちゃった〃〃)

 

 

彼女は真っ赤になりながら、未だ残る群像の手の感触に暫し酔しれる。

 

 

 

 

―その後、全員でがブリッジに集合すると、群像は口を開いた。

 

 

 

 

「よし、全員揃ったな?イオナ、状況は?」

 

 

「硫黄島の南西およそ10kmの地点に、異常な空間の歪みを確認。原因は不明……」

 

 

「ヒュウガ、これは大戦艦コンゴウの仕業ではないのか?」

 

 

「可能性は低いわね。少なくとも私達の装備に攻撃する訳でも無く¨ただ空間を歪ませる装置¨なんて無いわ。ハルナはどう?」

 

 

「私やキリシマも同じ結論に達した」

 

 

「やはり直接調べるしかないか……」

 

 

「大丈夫なの?あんた達人間にとって、私達は異常な存在かもしれないけど、これは私達から見ても異常よ?」

 

 

「だからこそ調べなければ成らない。霧に対抗しうる勢力が集中する硫黄島に、この現象が起きたのは偶然ではない気がするんだ」

 

 

「でも……」

 

 

「止めとけよタカオ。群像、こうなったら絶対に説得するのは無理だぜ」

 

 

「そうですね。今までも、綱渡りみたいな感じも多かったですし……」

 

 

「はぁ……解ったわ」

 

 

タカオは呆れた様に溜め息を漏らす。

そんな彼女に構わず、群像は指示を飛ばした。

 

 

「イオナ、行けるか?」

 

 

「全システムオールグリーン。発進いつでもがってん」

 

 

「よし、いおりエンジン始動」

 

 

『オッケー!任せといて!』

 

 

「機関微速。外洋に出次第機関最大!伊號401発進!」

 

 

「きゅうそくせんこ~!」

 

 

エンジンが唸りを上げ401が潜行を開始する。

 

 

外洋に出て速度を上げた401は、空間の異常を検知した海域へ近付いていた。

 

 

「どんどん、空間の歪みが大きくなっているわよ?」

 

 

「イオナ、何か解るか?」

 

 

「解らない。ただ……」

 

 

珍しく眉を潜めるイオナに、群像は嫌な予感を覚えた。

 

 

 

 

 

 

《オ願■私ヲ■■テ…》

 

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 

「イオナ、どうした?」

 

 

「声が聞こえた……呼んでる」

 

 

「一体どういう意味……」

 

 

 

ガタガタガタ!

 

 

 

 

「うっ、あぁあっ!」

 

 

突如401に激震が走る。

 

 

「おい!なんかヤバいんじゃねぇの!?」

 

 

 

「何が起きている!」

 

 

 

「解らない……でも、私達がここに着いた瞬間から空間の歪みが急速に拡大したことは確か」

 

 

「ちょっと!この振動クラインフィールドでなんとかならないの?」

 

 

「クラインフィールドは既に展開している。これは空間その物の振動だから軽減出来ない」

 

 

「脱出しよう!いおり、機関最大!」

 

 

『ダメ!重力子エンジンの波形に妙なリップルがある。上手く機関出力を調整出来ない!』

 

 

その間にも401を襲う振動は更に激しさを増していく。

 

 

ガタンガタンガタン!

 

 

 

「うわぁ!」

 

 

 

「蒔絵!私にしっかり捕まれ!」

 

 

 

「ありがとハルハル……」

 

 

 

「くそ!一体何が起きてるんだ!?」

 

 

蒔絵をしっかりと抱き抱えながら、ハルナとキリシマも眉をひそめる。

 

 

 

それはイオナも同じであった。

 

 

 

(さっきの声……私以外には聞こえて無かった?)

 

 

彼女コアがざわつく。

そのざわつきがどうしても不快で、彼女は助けを求めるように群像に顔を向けた。

彼は、必死に椅子に捕まり激震に堪えている。

 

 

(群像……)

 

彼女は彼の辛そうな表情を見てコアがチクリとする感覚を得た。

 

何故かは解らない。

 

とにかく彼にそんな顔をして欲しくなかった。

 

笑っていて欲しかった。

 

彼女は彼に手を伸ばす。

 

 

 

 

 

《助けて!お願い!》

 

 

 

 

「???」

 

 

急に頭の中で女性の声が響き、彼女のコアの痛みが増していく。

 

 

 

 

《おねがぁぁい!》

 

 

 

「あ、あああっ!」

 

 

「401!?」

 

 

 

「姉さま!」

 

 

イオナは叫んでいた。

 

痛覚など無い筈のコアに、まるでナイフを突き立てられ様な激しい痛みを感じ、あらゆる感情が入り込んできた。

 

 

不安 恐れ 悲しみ 絶望 

 

 

彼女は必死に感情プログラムを抑えようとする。

しかし、止めどない感情の奔流に巻き込まれ、自分を失いそうになっていた。

 

 

「イオナ!」

 

 

「!」

 

 

 

彼女は、その声に現実に引き戻された。

 

 

視線の先には群像がいる。

 

 

激しい揺れで辛い筈の彼は、漸く作った笑顔をイオナへ向け、彼女に向かって手を差し出していた。

 

 

 

 

「群像……」

 

 

 

すがり付く様に彼の手を取ったイオナを、群像は自身の懐へ抱き寄せる。

 

 

「大丈夫だ……イオナ、大丈夫だ!」

 

 

彼の体温が、血の通っていないイオナへ伝わっていく。

 

 

「群像……群像っ!」

 

 

イオナは、彼なら全てを受け入れてくれる気がして、不安を吐き出すように叫んで彼の懐へ自分の身体を預けた。

 

 

 

何故なら彼は、この世でただ一人のイオナの艦長なのだから……

 

 

二人は、まるでお互いの存在を確かめ合うかのように暫くの間、強く抱き締めた……

 

 

 

「こ、コホン……」

 

 

「!?」

 

 

二人は僧の咳払いで我に帰る。

 

 

 

気付けば揺れは収まっていた。

 

 

 

「ちょ、ちょっと!いつまでくっ付いてんのよ!早く離れなさいよ!」

 

 

タカオが間に割って入り、二人を引き離す。

 

 

 

群像が辺りを見渡すと、僧は溜め息を付き、杏平は口笛を吹いていた。

 

 

 

静は、顔を真っ赤にしており、ハルナとキリシマは手で蒔絵の目を覆っている。

 

ヒュウガに於いては、わざわざハンカチをナノマテリアルで生成して口に加えて悔しそうに引っ張っていた。

 

 

 

群像は彼等に構わず、機関室に呼び掛けた。

 

 

「いおり、無事か?」

 

『大丈夫……でも周りはグチャグチャだよぅ』

 

 

「取り敢えず全員無事のようだな、さて……」

 

 

全員の無事を確認し、安堵するが、まだ周囲の状況は把握できていない。

 

 

今まで気付いていなかったが、艦は鈍く揺れていた。

 

 

「イオナ、状況を確認できるか?」

 

 

「ん……」

 

 

チ…チ……

 

 

彼女はシステムを再起動して、周囲の状況を把握し始める。

 

 

「解った。今私達は、横須賀沖の海上にいる」

 

 

「横須賀だと!?」

 

 

一同は驚愕する。

 

 

「冗談だろ!?どうやったら硫黄島から横須賀までこんな短時間で移動できんだよ!」

 

 

「これは事実。でも地形の形状が少し違う」

 

 

「地形が違う?イオナ、モニター出来るか?」

 

 

「ん……」

 

 

 

 

彼女が写し出したモニターを見た一同は、更に目を丸くすることになった。

 

 

 

「街が…燃えている!?」

 

 

「霧の襲撃か?」

 

 

「違う、多分アレ……」

 

 

 

 

モニターの視点を切り替えると、そこには彼等が今まで対峙したことがない巨大な艦影が写し出された。

 

謎の巨大な艦は、砲撃で市街地を蹂躙している。

 

 

「なんだ!?あれは……」

 

 

「解らない。ただ霧の艦にあんな艦のリストはない。それにここはホントに¨あの横須賀¨なのかも解らない」

 

 

「何だって!?」

 

 

これには流石に群像も頭が着いていかなかった。

 

 

「本当よ……確かに大まかな地形は横須賀の様だけれど、幾つか異なる点が有るわ。一番解りやすい点を上げれば、あんた達人類が横須賀に築いたあの防壁だけど、そもそも建設された形跡もないし、海底にある海面上昇前の沈んだ街もない」

 

 

「何て事だ……」

 

 

「!!?」

 

 

「イオナ、どうした?」

 

 

「私の隣に何かいる…今モニターに出す」

 

 

写し出された映像には、艦首にドリルを付けた艦が写し出された。

 

 

「この艦は一体……」

 

 

「人体反応多数検知。挙動から敵意は無いみたいだけど……あっ」

 

 

 

 

ドリル艦は突如として動き出す。

 

 

 

どうやら、あの巨大艦に進路を向けているようだった。

 

 

群像はあらゆる思考を一時捨て去り前を向く。

 

 

「今は取り敢えず、あの巨大艦に横須賀の破壊を止めさせるのが先決だ。イオナ!」

 

 

「システムオールグリーン。発進いつでもがってん」

 

 

401のエンジンが唸りを上げる。

 

 

こうして彼等は、新たな戦いへと赴くのであった。

 

 

 

   




後編へと続きます。


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トライアングル・フリートZERO 灼熱のトライアングル 後編 VS ムスペルヘイム

連続投稿行きます。


それではどうぞ


   + + +

 

 

「航空機多数接近!種類はプロペラ機の模様!」

 

 

「構わん、迎撃しろ!」

 

 

「はっ!」

 

 

シュペーアは、対空パルスレーザーとミサイルを放つ。

 

 

 

プロペラ機では最早相手になら無かった。

 

航空機達は次々と撃墜され、みるみる数を減らして行く。

 

 

だがシュルツ達の狙いは航空機等ではない。

 

 

 

 

「プラズマ砲用意!左舷側を狙え!」

 

 

乗員達がプラズマ砲の発射準備に入り、慌ただしさを増す艦内でシュルツの視線は、謎の潜水艦に向けられていた。

 

 

 

 

(ムスペルヘイムに挑んでいると言うことは、少なくとも敵では無いようだが……しかしあの機動性は何だ?それにあのミサイルは――)

 

 

謎の潜水艦が放ったであろう魚雷は、分厚い超兵器の装甲を容易く抉りとってしまう。

 

 

光学兵器以外でそんなことが出来る兵器等シュルツは聞いた事もなかった。

 

 

 

 

 

(いずれにせよ、超兵器撃沈が優先だ。あの潜水艦には、後で事情を聞かねばなるまい。素直に応じてくれれば良いが……)

 

 

「艦長!プラズマ砲発射準備よし!」

 

 

「伊號潜水艦が穿った左舷の孔を狙え!」

 

「はっ!」

 

「撃て!」

 

 

ビジィィィ!

 

稲妻が超兵器へと向かい。

凄まじい爆音と共に、超兵器が炎上する。

 

 

「本艦の攻撃、効いています!敵艦、炎上!防御重力場が弱っている模様です!」

 

 

「この期を逃すな!ありったけ叩き込め!」

 

 

シュペーアは、放てるだけの弾薬を超兵器にばら蒔いた。

 

 

   + + +

 

 

「敵艦、回頭!こちらに向かってきます!」

 

 

「機関最大、急速潜航!深度15!敵艦の左舷に回り込め!」

 

「了解」

 

 

 

401は、凄まじい加速で動き出す。

 

 

 

群像の額には汗が滲む。

 

 

 

 

「ヒュウガ、本当なのか?」

 

 

「本当よ。あの巨大艦には生命反応がない」

 

 

「やはりあれは君達の……」

 

 

「それも無いわ。霧であるなら、その出力の大小に関わらず重力子エンジンの波長が観測される。アレにはそれが無い」

 

 

 

「何だって言うんだ……」

 

 

 

「それならあのドリル艦の方にも言えるんじゃない?」

 

 

「……」

 

 

群像は、あのドリル艦の事を思い浮かべる。

 

 

 

タカオの観測に寄れば、ドリル艦は速度が401並で、砲弾を受ける謎の障壁が有る事が解った。

 

 

 

侵食弾頭兵器こそ無いものの、光学兵器やレールガンも所持している事も判明していた。

 

 

 

(取り敢えず、今は利害が一致しているようだが、この後あの艦と事を構えるのは厄介だな……人間が乗っているなら何とか対話に持ち込めれば良いのだが……)

 

 

「艦長!」

 

「何だ!?」

 

 

 

静の悲鳴に、群像は我に帰る。

 

 

 

 

「我々の放った砲弾が全て弾かれました!」

 

 

「奴にも、防壁が存在すると言うことか……」

 

 

「ドリル艦が敵艦への大規模な攻撃を開始!あっ、着弾音を検知。防壁が消失した模様!」

 

 

「イオナ!一番から六番に侵食魚雷を装填。杏平、発射角任せる。敵艦の左舷を狙え!」

 

 

「了解」

 

「はいさー!」

 

 

 

401から魚雷が発射されて巨大艦の空母部左舷に着弾し、装甲を抉り取った孔から大量の海水が流入して敵の船体が大きく傾く。

 

 

 

そこへ……

 

 

ビジィィィ!

 

 

「!!?」

 

 

凄まじいエネルギーの奔流が、ドリル艦から発射され、左舷の空母は炎上を始めた。

 

 

 

「今のは何だ!?」

 

 

「恐らく、高出力のプラズマを発射する装置だと思う」

 

 

「艦長!ドリル艦がこちらに回り込んできます!」

 

 

「畳み掛けるつもりか?このままでは俺達も巻き込まれる。イオナ、深度30!敵と距離を取る!」

 

 

「了解」

 

 

「ハルナ、キリシマ!杏平と協力して侵食魚雷を右舷の空母部に誘導して攻撃してくれ!」

 

 

「了解した」

 

「任せろ!」

 

 

 

「いおり、重力子エンジンのリミッターを外せ!」

 

 

『え?群像……まさか!』

 

 

「ああ、そのまさかだ。超重力砲を撃つ」

 

 

 

   + + +

 

 

「超兵器空母部で爆発多数!弾薬に引火している模様!……あっ!か、艦長!超兵器が左舷の空母を分離、こちらに突っ込んできます!」

 

 

「自爆するつもりか!?こんなところで自爆されたら港に甚大な被害が出る!ナギ少尉、ドリルラムを起動!ラムアタックで奴を少しでも沖へ押し戻すんだ!」

 

 

 

「艦長!それでは私達が!」

 

 

「ナギ少尉!では誰があの民衆を救うと言うんだ!」

 

 

「は、はい。申し訳ありません!」

 

 

シュルツの凄まじい険相にナギは思わず背筋が凍り付く。

 

 

 

 

 

「行くぞ!ラムアタック!」

 

 

 

シュペーアは加速し、突っ込んでくる超兵器空母へ突撃する。

 

 

 

 

「来るぞ!総員、衝撃に備えろ!」

 

 

 

 

ゴォォン!ガガガガ!

 

 

 

 

シュペーアは猛スピードで超兵器に衝突し、激しい火花を散らしながら装甲をドリルで削り、沖合いへと押し戻していく。

 

 

 

「超兵器ノイズ、巨大化!爆発します!」

 

 

「防御重力場を最大展開!少しでも衝撃を殺すんだ!」

 

 

キィィィン!

 

 

 

超兵器機関の出力が上がっ行くのをシュルツは感じていた。

 

 

これが爆発すれば、恐らく彼等は塵も残らない事は明白だ。

 

 

 

 

(悔しいが、後はあの潜水艦に任せるしかない……)

 

 

シュペーアの周りが、眩い光に包まれる。

 

 

状況は絶望的であった。

 

 

 

 

《招カレザル者ヨ……死ネ》

 

 

 

 

「くっ!貴様等に……!」

 

 

ボォォォン!

 

 

 

 

凄まじい爆音と揺れがシュペーアを襲った。

 

 

 

 

「あぁぁぁ!」

 

 

艦内に悲鳴が響き渡り、誰もが死を覚悟した。

 

 

 

しかし……

 

 

 

「……ん?」

 

 

 

目を開いたシュルツは驚愕する。

 

船体の外縁部が黒く焦げているのに対し、人が乗っている区画は無傷に等しい。

 

 

「どうなっているんだ!?」

 

 

 

ドォン!

 

 

 

「あぐっ!」

 

 

 

彼が頭を整理する暇もなく、ムスペルヘイムからレールガンの砲弾が飛来し、ボロボロの艦に追い撃ちを掛けてきた。

 

 

 

 

「被害報告を!」

 

 

「え、あっ!今確認します!」

 

 

「艦長、超兵器の右舷にも、潜水艦からの攻撃と思われる孔が複数有るようですね……先程同様、アレを攻めない手は有りませんぞ!」

 

 

 

「艦長、報告致します。機関の一部が損傷し全速航行は不可能!兵装はプラズマ砲及び光学兵器が使用不能!ミサイルとレールガンは活きてます!」

 

 

「それでいい。潜水艦が穿った孔を狙うぞ!撃て!」

 

 

シュペーアは、残りの兵装で超兵器空母に追い込みを掛けた。

 

 

   + + +

 

 

 

「群像。敵艦が空母部分をパージ、離れた部分は自律して行動しているみたい」

 

 

「何て戦い方だ……」

 

 

「敵艦増速。機関部に高エネルギー反応」

 

 

 

「自爆でもするつもりか?ドリル艦の動向はどうだ?」

 

 

「ん……向こうも敵に突っ込んで行くみたい」

 

 

「刺し違えるつもりか?あちらには人も乗っているんだろう?ヒュウガ、クラインフィールドをドリル艦に展開することは可能か?」

 

 

「無茶言うわね……あの距離じゃ完全には起動出来ないわよ?」

 

 

「人間がいる区画だけでも守れれば良い!急いでくれ!」

「解ったわ」

 

 

「群像、超重力砲発射時にはこちらも隙が出来る。相手の情報が不足している状況では発射は勧められない」

 

 

「タカオ、ヒュウガの換わりにイオナの超重力に使う演算の補助を頼む!」

 

「ああもぅ~解ったわよ!」

 

「ヒュウガ!」

 

 

「もう少し……よし!良いわ」

 

 

 

 

ヒュウガがドリル艦にクラインフィールドを展開した直後――

 

 

 

 

ブゥオオオン!

 

 

 

凄まじい爆発が発生し、猛烈な爆圧が海中迄を引っ掻き回す。

 

 

 

「うっ…あぁ!!は、ハルナ!クライン……フィールドの補助を!」

 

 

「了解した」

 

 

 

ハルナが、演算に余裕ないイオナの代わりにクラインフィールドの展開を補助する。

 

 

 

 

「凄まじいな……ドリル艦の様子は?」

 

 

「無事みたいだけど……なにっ!?あのドリル艦また敵に攻撃を始めたわよ!?」

 

 

「俺達がさっき仕掛けた右舷側の空母を狙っているのか?だとしたらさっきと同様の爆発が――」

 

 

「言っとくけど、流石に二回はあっちの船体が持たないわよ?」

 

 

「仕方がない……超重力砲の照準を空母に固定する。イオナ、超重力砲スタンバイ!」

 

 

「了解……超重力砲発射シークエンス起動。船体を現座標に固定。超重力ユニット展開」

 

 

 

401の船体が展開し、中から超重力砲本体が姿を現す。

 

 

 

「エネルギーライフリング、重力子エンジンとの同調を開始。重力子圧縮縮退域へ……」

 

 

ギィイイ!

 

 

超重力砲にエネルギーが充填され行く。

 

 

 

 

「ヒュウガ、敵の様子は?」

 

「あなたの推測通りね……アイツまた空母を切り離したわ」

 

 

「ロックビーム照射!奴を逃がすな!」

 

 

401から放たれたロックビームは海を叩き割り、巨大空母を捉えた。

 

 

敵は滅茶苦茶に砲弾を撒き散らし、抵抗を試みるも空中に船体が浮いている状態では身動きが取れていなかった。

 

 

 

 

「敵艦内部で、高エネルギー反応を検知。自爆模様です!」

 

 

「イオナ!」

 

 

「縮退……限界!」

 

 

超重力砲のエネルギーが臨界に達する。

 

 

(頼む……巻き込まれないでくれ!)

 

 

群像は、ドリル艦が退避することを祈りつつイオナへ向かって叫んだ。

 

 

「よし!奴を止めるぞ!超重力砲、撃て!」

 

 

「発射……」

 

 

一瞬、蒼く眩い光が輝き、超重力砲の凄まじいエネルギーの奔流が巨大空母に向かって放たれた。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「超兵器、ペーターシュトラッサー級空母を再び切り離しました!」

 

 

「くそ!また自爆かっ!流石に今度ばかりは――」

 

 

「あ、あれは何です!?」

 

 

シュルツが諦めかけた時、ナギの叫びに彼が外へ視線を向けると、そこには驚愕の光景が広がっていた。

 

 

 

 

「う、海が割れた……だと!?」

 

 

突如として海が割れ、超兵器空母がその割れ目の上に浮いており、彼方にはまるで船体を展開したかの様な潜水艦の異様な姿があった。

 

 

超兵器空母は抵抗を試みているのか、手当たり次第にミサイルや砲弾を周囲に撒き散らして暴れていた。

 

 

 

 

「これは本当にあの潜水艦がやっている事なのですか?だとしたら出鱈目すぎますよ!それにあの姿は一体――」

 

 

博士もこの状況に愕然としている。

 

 

「ナギ少尉、超兵器ノイズの様子はどうだ?」

 

 

「え?は、はい!巨大化しています!」

 

 

「あの場で自爆するつもりか……ヴェルナー、機関はどうなっている?」

 

 

「はっ!応急ですが、修理を完了しています!」

 

 

「退避しよう……」

 

 

「艦長!?」

 

 

「何故かは解らんが、あの潜水艦なら超兵器の爆発を防げるやもしれん……」

 

 

「私もそう思います。アレほどの事を成し得るのであれば、超兵器の暴走を止める策があるのやも知れませんからなぁ」

 

 

「筑波大尉……ええ、今はあの潜水艦を信じましょう。進路反転。機関最大!」

 

 

シュペーアは方角を変え、超兵器空母から距離を取った正にその直後だった。

 

 

 

グゥウオオオオ!

 

 

蒼白い閃光が彼方から放たれて超兵器空母を覆い、その巨大な船体を瞬く間に消滅させてしまったのだ。

 

 

「………」

「………」

「………」

 

 

 

 

一同はあまりの光景に言葉を失う。

 

 

 

 

割れていた海が荒波を立てながら戻って行き、潜水艦もいつの間にか元の姿に戻り海面に浮いていた。

 

 

 

 

彼らは暫くその場に唖然として立ち尽くすしかなかった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「発射完了。超重力砲発射シークエンスを終了する。船体の復帰を開始……完了」

 

 

 

 

超重力砲の発射を終えた401は、展開した船体を戻して海面に浮かぶ。

 

 

 

 

群像は、安堵の溜め息をついた。

 

 

「ふぅ…何とか攻撃は通ったか。ヒュウガ、巨大艦の戦艦部分はどうした?」

 

 

「残念だけど、アレは外洋へと逃げたわ」

 

 

「追えるか?」

 

 

『ちょっと正気!?超重力砲撃った後にフルバーストなんて使ったら、エンジンが爆発しちゃうよ!暫くは巡航すら無理だからね!』

 

 

 

いおりから罵声が飛んでくる。

 

 

 

 

群像は暫く思案すると、顔を上げた。

 

 

 

 

「よし。取り敢えず横須賀に向かい、民間人を救出する。いおりはその間エンジンのチェックを頼む」

 

 

『了~解』

 

 

「艦長、アレはどうされますか?」

 

 

「………」

 

 

 

群像はモニターに写る黒焦げになったドリル艦へ視線を向ける。

 

 

 

 

「念の為、戦闘体勢は維持する。攻撃の兆しが有ればクラインフィールドを展開しつ威嚇発砲を行う。決して相手を傷付けるな!」

 

 

「「了解」」

 

 

「機関微速。横須賀へと向かうぞ!」

 

 

 

 

401は横須賀に進路を向け進み出した。

 

 

   + + +

 

 

「くそっ……!」

 

 

シュルツは歯噛みしていた。

 

 

 

潜水艦からの謎の攻撃の件があったとは言え、ムスペルヘイム本体を取り逃がした事が悔やまれたからだ。

 

しかし、今のシュペーアにムスペルヘイムを追う力は残っていない。

 

 

 

 

幸いだったのが、付近にいたスキズブラズニルが、超兵器の攻撃対象にならなかった事くらいだろう。

 

恐らく、自らもそれなりの損傷を負ったムスペルヘイムが逃走を優先したせいもあるのだが……

 

 

「艦長、お気持ちは解りますが、今は人命の救助が優先ではないですかな?それに――」

 

 

筑波の視線の先には、あの潜水艦がいた。

 

 

 

それは進路を横須賀に変え、浮上したままゆっくりと向かって行く。

 

 

「上陸する気か?それとも……」

 

 

「艦長、ここは様子を見ながら我々も上陸しては如何でしょう?彼等が、民衆に危害を加えないと言う保証は無いのですし」

 

 

「そうですね。総員、進路を横須賀へ向け、警戒体制を維持せよ!くれぐれもあの潜水艦を刺激するな。まともにやり合える相手でない。尚、救助の為上陸班を組織しろ!」

 

 

「はっ!」

 

 

シュペーアも潜水艦の後を追って横須賀へと進路を向けた。

 

 

 

   + + +

 

 

「付いてきますね……アレ」

 

 

「あぁそうだな」

 

 

一同はドリル艦への警戒を緩めてはいなかった。

 

 

杏平やメンタルモデルもいつでも事を起こせるよう準備している。

 

 

「イオナ、軍務省への連絡は付いたか?」

 

 

「ううん……ダメ」

 

 

「まさかアレにやられちまったのか?航空機の迎撃も無かったくらいだしな」

 

 

「杏平さん縁起でも無いこと言わないでくださいよ……」

 

 

「だってよ……」

 

 

「違う」

 

 

「イオナ?」

 

 

 

視線がイオナへと集中する。

 

 

 

「軍務省に繋がらない訳じゃない。軍務省と言う組織その物が存在しない可能性がある」

 

 

「それは一体どういう――」

 

 

「ああもぅ!答えなさいよ!私の身体!」

 

 

 

 

タカオが苛立たしげに叫んでいた。

 

 

「どうしたんだタカオ?」

 

 

「どうもこうも無いのよ!硫黄島にある私の船体とリンクを繋げられないの!」

 

 

「あ?距離が遠いからじゃねぇのか?」

 

 

「そんな事ある訳無いでしょ!?私達霧は量子通信を使っているのよ?たとえ船体が地球の裏側に有ろうとも自在に操れるわよ!」

 

 

「じゃ何でだよ」

 

 

「それが解らないから悩んでるんじゃない!ああっ!身体無しじゃそこのポンコツ大戦艦と同じになっちゃうじゃないのよ!」

 

 

「な、なにぃ!私達がポンコツだと!」

 

 

「401に手加減して貰って生き延びた貴様に、ポンコツ扱いされる筋合いは無い」

 

 

「あら~じゃあんたも今日からめでたくポンコツの仲間入りね♪宜しくね、ツンデレ……もといポンコツ重巡のタ・カ・オ☆ 」

 

 

「ぐぬぬ……何も言い返せない。うぅ~海溝があるなら潜りたい……」

 

 

 

メンタルモデル達のやり取りを聞きながら群像は思案する。

 

 

 

(軍務省が端から存在しない…タカオの船体とリンク出来ない…この場所は…いや、この世界は――)

 

 

「艦長、当着しました」

 

 

 

 

401が港へと接岸し、それと時を同じくしてドリル艦も接岸を開始する。

 

 

「さて……向こうがどう出るかだな」

 

 

「私が様子を見るか?」

 

「いや、ハルナは蒔絵に着いていてくれ。ここは俺が行く」

 

 

「艦長、危険です!」

 

 

「大丈夫……私が群像を守る」

 

 

「解った、イオナも連れていく。皆は念の為ここで待機していてくれ」

 

 

 

 

群像が指示を出した直後だった。

 

 

 

 

『此方はブルーマーメイドです!今回の事でお話を伺いたい。応答してくだい!お願いします!応答してください!』

 

 

「横須賀の住人でしょうか?其にしては制服の様なものを着ている様ですが……」

 

 

モニターに写し出された影像には、白い制服を着用し、栗色の髪の毛を横で束ねた女性が叫んでいた。

 

 

 

更に……

 

 

 

『ミケちゃん!』

 

 

叫んでいる女性を追いかけてきたのか、別の女性が彼女を制する。

 

 

『軽率だよミケちゃん!もし攻撃されたら……』

 

 

「警戒されていますね……無理もありません。霧は人類の敵。それが港に現れたんですから」

 

 

「………」

 

 

群像は、表情を険しくする。

 

 

「近付いてきた事を考えたらいきなり発砲と言うことは無さそうだが、用心にこした事はないな」

 

 

 

群像はイオナと共に、外へと向かう。

 

 

「外の様子は解るか?」

 

 

「ん……女の人の方は大丈夫。でもドリル艦の人間は銃を所持している」

 

 

「やはりか……ギリギリ迄は何もするな。一応相手の真意を探りたい」

 

 

「了解」

 

 

「じゃあ行くぞ」

 

 

 

 

二人はハッチを開いて外へと出ていった。

 

 

 

   + + +

 

 

「到着したようだな……」

 

 

シュペーアは、港へと接岸する。

 

 

「しかし、どういう事なのでしょうか。日本はおろか世界中に通信で呼び掛けても何の返答すら無いとは……」

 

「………」

 

 

彼は、隣に停泊する潜水艦への警戒を強めた。

 

 

そこへ……

 

 

「此方はブルーマーメイドです!今回の事でお話を伺いたい。応答してくだい!お願いします!応答してください!」

 

 

外から女性の叫び声が聞こえる。

 

 

「ブルーマーメイド?筑波大尉、何かご存知ですか?」

 

 

「いえ、聞いたことがございません。帝国の支配下にあった際に新たに作られた自衛組織でしょうか……となると、あの潜水艦もその組織のものである可能性が高い。彼女達が、我々に敵意アリと判断すれば、事を構えることになるやもしれませんぞ」

 

 

シュルツは暫く思案すると、艦橋の出口へと歩いて行く。

 

 

「艦長!?危険です!ここは私が!」

 

 

「ヴェルナー、相手を警戒させない為には、艦のトップである私が姿を現す必要がある。違うか?」

 

 

「しかし……解りました。では私も同行致します。宜しいですね?」

 

 

「ああ、頼む」

 

 

カチャ……

 

 

 

ヴェルナーは腰のホルスターに入っている銃をいつでも取り出せるように準備する。

 

 

「迂闊な動きはするなよ。何が起きるか解らんからな」

 

 

「はい、肝に銘じます」

 

 

二人は艦橋を降りて行った。

 

 

   + + +

 

 

ガタン!

 

 

二隻の艦の扉が開き、二人は対面を果たした。

 

 

 

 

(外国人?霧の哨戒する海を自力で超えてきたと言うのか?)

 

 

 

(少年だと?それに隣にいるのは少女じゃないか……こんな子供が、さっきの攻撃を仕掛けたと言うのか?)

 

 

二人は、努めて表情を変えることなく暫くの間互いを観察する。

 

 

先に動いたのはシュルツが先であった。

 

 

 

彼は視線を群像から外し、自分達に呼び掛けてきた栗色の髪をした女性に向ける。

 

 

「この度は災難でしたね……貴女はこの町の自警団か何かの方ですか?見たところ横須賀の様にも見えますが、我々が通信で呼び掛けても応答が得られませんでした。もし宜しければ、誰か政府の関係者の方に取り次いで頂き、上陸の許可を頂きたいのですが……」

 

 

彼女はシュルツが流暢な日本語話した事に驚いているようだった。

 

 

 

「私はブルーマーメイドの隊員で岬明乃と言います。私の上司の方と連絡が取れれば或はと思いますが、今はこの状況ですので連絡は難しいかと……。まずは貴艦の所属と貴方のお名前を教えてください」

 

 

(ここは素直に答えた方が得策か……)

 

 

シュルツは、相手を刺激しないよう出来うる限りゆっくりとした口調を心掛ける。

 

 

 

 

「解りました。我々はウィルキア共和国所属の、解放軍超兵器遊撃部隊で通称¨鋼鉄の艦隊¨と呼ばれています。私はこの艦隊で艦長をしている ライナイト・シュルツと申します。この艦は¨シュペーア¨見ての通りドリル戦艦です」

 

 

岬明乃と呼ばれた女性は、首を傾げていた。

 

その実は群像も同様の意見である。

 

 

(ウィルキア共和国?聞いた事がない。アレほどの技術力のある国なら記憶していても良さそうだが……)

 

 

最初はシュルツと名乗った男が嘘をついているのかとも思った。

 

しかし、相手の脳波や脈を計測しているイオナが明確なアクションを起こしていない事から、少なくとも嘘をついていない事は証明されている。

 

 

シュルツと名乗った男が更に口を開いた。

 

 

「我々ウィルキア共和国解放軍は、あなた方の敵ではありません。その証拠と言っては何ですが、我々は今回襲撃を受けた市街地にいる民間人を救助する準備が有ります。今はこれしか出来ませんが、どうか信じて頂きたい」

 

 

シュルツは帽子を取り深々と頭を下げる。

 

 

「ありがとうございます。出来るだけ早くご協力頂けるよう善処します」

 

 

岬明乃が冷静に答える様子を横目で見ていた群像は舌を巻いていた。

 

 

(良い判断だな……霧のメンタルモデルとは違い、人間は嘘をつく。ある意味相手を肯定しつつも、口当たりの良い言葉だけでは信用には当たらないと暗に訴えている。その証拠に、岬明乃と呼ばれた人の隣にいる女性は、警戒を緩めていない)

 

 

岬明乃は、次に群像へと視線を向ける。

 

 

「ではそちらの方は?」

 

 

(来たか……少し向こうに揺さぶりを掛けてみた方が良いかもしれないな)

 

 

 

 

群像は思考をフル回転させた。

 

 

「我々は¨蒼き艦隊¨、これは潜水艦イ號401です。私は艦長の千早群像。突如としてここに来てしまいましたが、我々も状況が把握出来ていないのが現状です。軍務省の上陰龍二郎次官補に取り次ぎをお願いしたい。それと我々も微力ではありますが、民間人への救助に参加する用意はあります」

 

 

 

(驚いたな……その若さで毅然とした対応が出来るとは。それにしも、¨突如として¨……か。もしや、我々と似たような状況でこの場にいるのか?伊號401と言うことは所属は日本なのだろうが、軍務省と言う組織は筑波大尉から聞いた事がない。それにこの少年、見た目よりもかなりしたたか様だ。救助の用意がある事を示したのは、ブルーマーメイドとか言う組織だけでなく、同じく救助を提案した我々と歩調を同じくする事で、こちらに対しても敵意が無い事を極自然な流れで伝えてきた。間違いなく対話のプロだな……)

 

 

 

シュルツは心の警戒レベルを更に上げた。

 

 

(この岬明乃と言う娘もそうだ。警戒感を露にする事で、我々から救助と言う言葉を自然に引き出させた……と思いきや、言葉だけでは信用せず、飽くまでもこちらの情報を引き出す事に注力している。それも全くこちらに不快感を与えない言葉を選んでな。自国の民衆を守る上ではこの上なく重要な事だ)

 

 

そんなシュルツの思いを知ってか知らずか、岬明乃は話を纏める。

 

 

 

 

「解りました。不明な点も幾つかありましたが、互いの情報を把握する為、話し合いの場は持ちたいと思いますので、少し待って頂けますか?」

 

 

「了解しました。我々も自艦にて待機し、上陸の許可が降り次第、救助活動に入れるよう準備を整えますので、その時はご一報を頂ければと……」

 

 

「解りました。必ず……」

 

 

シュルツと岬明乃の会話に、群像は少し安堵する。

 

 

 

(とにかく、話しに一定のメドは着いたか……それに話し合いの場を設けて貰ったのは大きい。最も、半分はイオナのお蔭と言うのが正しいがな)

 

 

群像がその様な事を考えていた反対側では、ヴェルナーは額に冷や汗を流していた。

 

 

(な、何て場なんだ……)

 

 

ヴェルナーの緊張は極限に達していた。

彼がこの場で何よりも警戒していた人物がいる。

 

 

 

それは、イオナであった。

 

 

 

彼女は、ヴェルナーが外へ出てきたその時からずっとこちらから視線を外してはいない。

 

 

それも瞬き一つせずに……だ。

 

 

正直なところ、ヴェルナーは途中で何度も銃に手を掛けたくなった。

しかし、彼が指一本でも動かそうとすると、彼女は視線を明確にヴェルナーへと向けて来るのだ。

 

その人形の様に整った容姿と、無機質な表情。それと吸い込まれそうな程の美しい瞳からは想像も出来ないような殺気を感じてしまったからには、最早迂闊に動く事は出来ない。

 

 

更にだ。

 

 

 

ヴェルナーの警戒は岬明乃へも及んでいた。

 

 

(あの少女の事は勿論艦長は気付いただろう。彼女は間違いなく千早群像と言う少年の意思で動いている。だが、あの岬明乃と言う娘も恐らくそれに気付いていた。気付いていながら解らない振りをして、双方の情報を飽くまで自然に引き出し、更には話し合いの約束まで取り付けて見せた。きっと横にいる女性が、岬明乃の意図を汲んであから様な警戒をこちらに向けている事も、より良い条件や情報を引き出す事に一役買っている。見たところナギ少尉と同じ位に見えるが、あの若さで彼女達は何を背負っていると言うんだ……)

 

 

ヴェルナーは眩暈にも似た感覚を覚えながらも、必死に平静を装う。

 

 

「岬さん!」

 

 

 

突如、遠くから新たな女性声が聞こえる。

岬明乃は振り向くと目を丸くして驚いているようだった。

 

 

「シロちゃ…あっ宗谷さん!福内さんも無事だったんですね?」

 

「うん、岬さんも無事でよかった。それよりそちらは?」

 

 

岬明乃へ声を掛けてきた宗谷と福内と呼ばれた女性は、あからさまに警戒を露にしている。

 

 

 

彼女は二人にシュルツ達を紹介しようとする。

 

 

(いや、ここは自ら名乗った方が印象は違うだろうな)

 

 

「こちらは――」

 

 

「いえ、ここは我々から……私はウィルキア共和国所属の戦艦シュペーアの艦長ライナイト・シュルツです」

 

「蒼き艦隊の旗艦イ401の艦長千早群像です」

 

 

 

「私は、海上安全整備局安全監督室の秘書官補佐の宗谷真白です」

 

 

宗谷真白は未だに警戒を崩さない――いや、ここまで来ると最早敵意に近かった。

 

ピリリとした雰囲気に堪えられないのか、岬明乃は話題を振って行く。

 

 

 

 

「あっあの……シュルツ艦長と千早艦長は民間人の救助を支援してくださるそうです。上陸の許可を頂けますか?」

 

 

「私の一存では決められない。それに私はまだあなた方を完全に信用している訳ではありませんから! 」

 

 

 

 

 

宗谷真白の言葉に、シュルツと群像は疲労感を覚えた。

 

 

 

 

(振り出しだな。今までお互いに警戒はしつつも対話によって漸く見えてきた救助への道が、我々への警戒感を口に出してしまった事によって埋め難い溝を作ってしまった……)

 

 

(状況よりも理性を優先するタイプか……裏表が無い人物なのだろうが、正直すぎる。あらゆる意味で岬女史とは対照的な人物の様だな)

 

 

二人は目を合わせ、岬明乃へと視線を向けた。

 

 

すると、まるでそれを確信していたかの様に、彼女が涙で潤み、同時に焦りが見て取れる視線を二人へ向けてきた。

 

 

 

 

 

 

二人は確信する。

 

 

 

 

彼女が二人を信用し、一刻も早い民間人の救出を望んでいる事を……

 

 

 

彼らは再び視線を交わして他の者に悟られないよう小さく頷く。

 

 

 

 

 

「解りました。ですが、民間人の救助は時間との戦いです。もし不安でしたら我々へのボディチェックの実施や、救出活動のあとに私を拘束し、事情聴取して頂いても構いません」

 

 

「私も同様です。ある意味状況の把握と我々の信用を得るにはこれしか無い様ですから」

 

 

 

 

宗谷真白は彼等の提案に思案している。

 

そして携帯端末を取りだし、恐らく彼女達へ指示を下せるであろう人物へと連絡を取り、それを終えると彼等と向き合う。

 

 

 

 

 

「上陸の許可が降りました。是非とも我々ブルーマーメイドに協力して頂きたい」

 

 

「上陸許可の件感謝します。我々の乗員を直ぐに現場に向かわせます。案内してして頂けますか?」

 

 

それを聞いた岬明乃が安堵の表情を見せた。

 

その後、現場への道のりを示す為に彼女と隣にいた女性、¨知名もえか¨が案内をかって出た。

 

シュルツと群像はタラップから降りて行き、彼女達と握手をかわす。

 

 

そしてこの瞬間から三つの世界の人物達が交錯し、物語が始まる。

 

 

 



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第一章キャラクター紹介

お疲れ様です

第二章に入る前にキャラクター紹介入れます。

ざっくばらんですが宜しくお願い致します。


はいふり組

 

岬 明乃(みさきあけの)

 

はれかぜ艦長 2等監察生

本職のブルマーとして活躍する女性

中間を死なせかねない戦闘への参加を最後まで、反対していた。

口癖が「海の仲間は家族」の心優しい性格だが、超兵器戦で暴走し凶暴化する。

実は異世界人で有ることと、自分達に対する脅威対象の少し先の未来が見える事が判明。

超兵器の意思に取り込まれそうになるも、思い出の力で我を取り戻し、播磨撃破への道を開いた。

過去に超兵器が原因で両親を亡くしている

イルカを見ると興奮する。

 

 

※尚原作に於いては、彼女の両親が海上安全整備局職員であるため、彼女は間違いなく現世界の人間である。

超兵器の元手を明らかにする意味合いを持たせる為に、解釈を変更

 

 

宗谷 真白(むねたにましろ)

 

はれかぜ副長

名家宗谷家出身で二人の姉もブルーマーメイドに所属しているため自身もブルーマーメイドを目指していた。予想に反し現場勤務ではなく、陸上勤務が多かったが、横須賀襲撃を経てはれかぜ副長として就任。「ついてない」「不幸だ」が口癖。

昔は明乃の才能に嫉妬し、冷たく当たっていたが、彼女の才覚を認め今では、特別な感情を抱くまでに彼女を慕っている。

明乃の暴走時には、嫌われる事を厭わず諌める正義感の強さを見せた。

ぬいぐるみが大好き

 

 

 

立石 志摩(たていししま)

 

砲術長

無口で、返事をする時はフランス語で「うぃ」と返事する。頭の回転と弾道補正の計算が早く筑波を驚愕させる。芽依とは親友で、大抵一緒に行動する。

精神的に脆い芽衣を支える優しさを見せた。

意外にも体育会系

 

 

西崎 芽依(いりざきめい)

 

水雷長

リボンを付け、小柄ながら負けん気が強いが、不測の事態には精神的脆さを見せた。

異世界人である江田に想いを寄せていた。超兵器との戦いで九死に一生を得た江田と本心を吐露しあって恋仲となる。

 

 

 

納沙 幸子(のさこうこ)

 

記録員。

穏やかで丁寧な口調だが一方、一人芝居という形で自らの憶測や推論を披露する癖がある。

いつも携えているタブレットで情報収集や記録を行っている。超兵器の特徴と対策を素早く検索しアドバイスを行った。

呉にて合流。

また女性陣全員のバストサイズを把握している模様

 

 

知床 鈴(しれとこりん)

 

航海長

小心者で、操舵を主に担当している。

本編では披露していないが、大型船舶すら自在に操る高い操舵力を持っている。

実は、はれかぜクルーのなかで最も一般人に近い恐怖心を有しており、それ故に現場に於いては、逃げ出したくても逃げる事が出来ない救助者の為に、危険な長期間現場に踏み留まり続ける勇気も同時に持っている

 

 

砲雷科

 

 

小笠原 光(おがさわらひかり)

 

砲術員

砲撃に関しては優秀で、超兵器戦では、馴れない光学兵器を使用し、善戦した。

 

武田 美千留(たけだみちる)

 

砲術員

主砲を撃つのが好き。

比較的冷静な性格

 

 

日置 順子(へきじゅんこ)

 

砲術員

馴れない対空戦闘に苦戦しつつ、初戦にして数機を撃墜している。

 

 

松永理都子(まつながりとこ)

 

水雷員

魚雷発射管担当

素早く動き回るシュトゥルムヴィントに見事魚雷を命中させた。

 

 

姫路 佳代子(ひめじかよこ)

 

水雷員

ミサイル発射担当

イージスシステムを短期の訓練で使いこなし、はれかぜに飛来する多数のミサイルや航空機を撃墜し、貢献した。

 

 

万里小路 楓(まりこうじかえで)

 

水測員

世界有数の企業、万里小路重工の社長令嬢。薙刀術の使い手。音に関しては天才的で、一度聞いた401の可動音を正確に記憶していた。

横須賀襲撃の際、超兵器の驚異を目の当たりにすることとなる。

 

 

 

 

航海科

 

勝田 聡子(かつたさとこ)

 

航海員及び予備操舵員

伊予弁で会話し、語尾に〇〇ぞなを付ける。

鈴の替わりに操舵をすることがあり、スキッパーの技術も優秀。

 

 

山下 秀子(やましたひでこ)

 

左舷航海管制員

超兵器の凄まじさを間近で感じるも、果敢に艦橋の外に立ち続ける勇敢さを見せる。

 

 

内田(うちだ) まゆみ

 

右舷航海管制員

日焼けしやすい肌が悩み柔道を特技としており、明乃暴走の際は、身柄を押さえる役割を果たした。

 

八木 鶫(やぎつぐみ)

 

電信員

スマホの文章打ちが早い。霧の量子通信や、概念伝達について興味を示している。

横須賀残留組

 

 

宇田 慧(うだめぐみ)

 

電測員

自分の胸にコンプレックスを持っているようだ。

 

野間(のま) マチコ

 

見張員

眼鏡を愛用している。

身体能力が高い。

何故か女性にモテる。

 

 

 

機関科

 

 

柳原 麻侖(やなぎはらまろん)

 

機関長

洋美とは幼馴染

漁船の修理を手伝っていたため機関関係の知識と技術は優秀

一度見た図面を完全に覚えるほど記憶力が良い。

上下関係なくメンバーを叱咤激励することもある。横須賀襲撃の際に超兵器の力を目の当たりにし、討伐隊になることを決意した。(半分は洋美と会えるため。)

祭り好き

 

 

黒木 洋美(くろき ひろみ)

 

機関助手

麻侖の幼馴染兼、ストッパー

政府が決定した旧晴風メンバーの召集を明乃の独断だと勘違いし、平手打ちをしたが、真白や麻侖の言葉を受け、討伐隊に入った。

相撲が強い。

 

 

若狭 麗緒(わかさ れお)

 

機関員

ウワサ好き4人組の1人。

機関員ではあるが、スキッパーの操縦に興味を持っている。ブルマー就任後は、スキッパーの中型免許を取得した。

 

 

伊勢 桜良(いせ さくら)

 

機関員

ウワサ好き4人組の1人。はれかぜ乗員の中では巨乳の分類だが、異世界艦隊と合流後は立場を脅かす人物が増えた。

 

駿河 瑠奈(するが るな)

 

機関員

ウワサ好き4人組の1人。父親が機関関係で非常に優秀な技師だった影響で機関関係に詳しい。

座学に関しては本来ブルマーどころか学院に入学することすら出来ない成績であったが、機関に関する腕前が抜きん出ていたため、本編で語られた第三者による裏工作によって入隊出来た可能性が高い。

 

 

広田 空(ひろた そら)

 

機関員

ウワサ好き4人組の1人。実家の所有するクルーザーを父親と一緒に整備していため整備に詳しい。

 

 

和住 媛萌(わずみ ひめ)

 

応急長

ダイエット魔神。

手先が器用で自分で色々な物を作るのが好き。

 

 

青木 百々(あおき もも)

 

応急員

漫画が大好きで、色々な人物をカップリングさせている。

異世界艦隊と合流後は、ネームに取られる時間が多く、寝不足気味。

 

 

主計科

等松 美海(とまつ みうみ)

 

主計長

全てがマッチ中心

物資が乏しいなか会計管理の高さで、はれかぜを支える

 

伊良子 美甘(いらこ みかん)

 

給養員・砲水雷運用員

横須賀襲撃時明乃と共にいた。

最近は怪我人に食べさせる。苦手な洋食について優衣と話し合っている。

 

 

杵崎(きねざき) ほまれ

 

給養員・水雷運用員

和菓子屋の娘で双子の姉。

佐世保で姉妹の再開を果たした。

 

 

杵崎 あかね

 

給養員・水雷運用員

双子の妹

佐世保で姉妹の再開を果たした。

 

 

鏑木 美波(かぶらぎ みなみ)

 

医務長

天才のオールラウンダードクターで異世界艦隊からも一目おかれている。

超兵器と明乃の関係を独自の目線から見抜いた。

声を荒らげる事もあるが、とても仲間思いでもある。

研究が好きで、現在はナノマテリアルを医療の現場で使えないか研究している(主にキリシマを使って)

蒔絵と仲がいい。

 

 

 

知名 もえか

 

艦長

明乃の幼馴染で、母親がブルーマーメイドに所属していたが殉職。

同じ艦長という職種柄、明乃とは同行せず、タカオやキリシマ等の蒼き鋼の艦に乗艦して超兵器と戦った。

過去に明乃のたまに放つ狂気の表情に堪えきれず、敢えて遠く離れた中学に進学した事を明かした。

 

 

古庄 薫(ふるしょう かおる)

 

指導教官

ブルマー召集時は2等保安監督官

横須賀にて予備役のブルマーと共に復旧作業をおこなっている

 

 

宗谷 真雪(まゆき)

 

海洋学校長

曾祖母はブルーマーメイドの日本支部の創設者であり、自身も元ブルーマーメイドの艦長を務めていた実績がある。

単身で総理大臣官邸や元総理宅まで赴き、明乃に纏わる真実を聞き出す事に成功した。

 

 

宗谷 真霜(ましも)

 

宗谷家長女で安全監督室の室長の保安監視正。

超兵器討伐に辺り、日本政府や世界各国と異世界艦隊との橋渡し役となる。

 

 

宗谷 真冬(まふゆ)

 

宗谷家次女。ブルーマーメイド所属

戦闘艦「弁天」の艦長 1等保安監督官

髪はショートにし、黒いマントを羽織っている。

指揮・実戦・語学とあらゆる面で有能ではあるが、気に入った女性に根性注入と称し、セクハラをする悪癖がある。

増援として合流した。

 

 

杉本 珊瑚(すぎもと さんご)

 

小柄な体型であり、つなぎの上にフード付きのミリタリーコートを着用している。

元:明石艦長だけあって、修繕や工作機械などの操作に長けている。

増援の為に合流したが、スキズブラズニル内の工厰で、素早く修理するノウハウや工場の設備を学ぶ為に志願した経緯がある。

 

 

藤田 優衣(ふじた ゆい)

 

眼鏡を掛けたスラリとした体型が特徴。

元:間宮の艦長だけあって料理が抜群に上手い。

増援として合流したが、国籍や体調が様々な異世界艦隊において、万人に受け入れられる料理をいかに効率良く提供するかを学ぶ為に志願した経緯がある。

 

平賀 倫子(ひらが ともこ)

 

安全監督室所属の1等監察官 役職 部長

国際スキッパーレースにてトップクラスの腕前を持っており、護身術や捕縛術にも長けている。

増援として異世界艦隊と合流した。

 

 

福内 典子(ふくうち のりこ)

 

安全監督室に所属する真霜の部下で平賀の同僚。2等監察官 情報調査隊長

極めて常識人だが、タヌキ耳のアレを頭に装着しており、その事に触れる事は、ブルマー内でもタブーとされる。

 

 

ヴィルヘルミーナ・ブラウンシュヴァイク・インゲノール・フリーデブルク

 

通称ミーナ

ブルーマーメイドドイツ所属

6年前のRATt事件の際、晴風に保護され一時的に行動を共にした経緯を持つ。

焦土と化した欧州で、はれかぜの助けを待つ

 

 

 

 

大湊 清蔵(おおみなと せいぞう)

 

オリキャラ

現職の内閣総理大臣

防衛大臣時代に明乃の海難事故の件を担当し、ブルマーの捜査に介入した。

異世界艦隊・政府内部の保守派や右派・列強各国との三つ巴の難しい舵取りを迫られる事となる。

RATt事件の際は、危険をいち早く察知し、第三者の協力を得て、本来武藏の艦長になる筈だった真白を意図的に晴風に乗艦させるよう。試験結果を操作した描写がある。

真雪の夫とは親友で、征人を真雪に紹介したのも大湊だった。

モデルは 俳優の石丸幹二氏

 

 

國枝宗一郎

 

オリキャラ

元内閣総理大臣

隠居生活を送っていた、大湊の政治の師匠。

明乃が巻き込まれた海難事故の真相について真雪に語った。

過去の法案成立の際、宗谷一族に介入を受けた事を非常に逆恨みしており、何事にも動じない真雪の心をズタズタになるまで追い込んだが、最終的には国の未来を按じ、後世に託す様な発言をしている。

モデルは 俳優の吉田鋼太郎氏

 

宗谷厳冬

 

オリキャラ

真雪の祖父

海軍出身で、日露戦争後のブルマー設立に尽力した。

 

 

宗谷セツ

 

オリキャラ

日本ブルーマーメイドの母

日露戦争での敗戦により、経済的圧迫を受けていた日本を憂い、国際ブルーマーメイド連合に加盟することで、世界に対し貢献と非戦を誓い。列強からの圧政を緩和させた功績で現在の宗谷の地位を確立した人物。

男尊女卑が犇めく時代に、女性である彼女がここまで功績を残した事は、一重に彼女の国や各国に対する失望と憤りがあり、自信の信念を是が非でも実現する常軌を逸した行動力の成せる業であった事は言うまでもない。

 

 

宗谷つらら

 

オリキャラ

真雪の母で宗谷三姉妹の祖母

表情こそ穏やかであるが、心の中に苛烈なまでの正義感や激情を秘めており、度々国政に介入した。これが後に國枝の恨みを買う原因となる。

 

 

宗谷征人

 

オリキャラ

真雪の夫で宗谷三姉妹の父 現時点での生死や居所は不明

真雪を初めて肩書きではなく、人としても人魚としても深く愛した人物。

山岳地帯の土地を再開拓し、農地や再生可能エネルギーの設置場所とすることや、新たなクリーンエネルギーの開発特区とする事で、食料時給やエネルギーなどで列強からの圧政から脱却しようと独自の法人を立ち上げ尽力した。

その理想は大湊に大きな影響を及ぼす。

 

 

知名 萌(ちな めぐみ)

 

オリキャラ

もえかの母

 

海難事故で幼い明乃を救助した経緯がある。

両親を失った明乃を引き取って育て、【海の仲間は家族】という言葉を残した人物でブルマーでは伝説の隊員。

しかし、救助作業中の事故で幼いもえかと明乃を残し帰らぬ人となった。

 

 

 

マリーナ・ワンバック

 

オリキャラ

ブルーマーメイドアメリカ大平洋艦隊

艦隊旗艦 ジャスティス艦長

 

横須賀の超兵器の襲撃は、日本の自作自演ではないかと疑っていた。そして、大和型と酷似している播磨を見てそれを確信する。

だが直後に超兵器艦隊からの猛攻を受け発狂し、呆然としているところに、播磨の主砲が直撃するという悲惨な最後を迎えた。余談だが、彼女達の遺体は、息絶えた後も近江の航空機によって執拗に攻撃させられており、救助に来た艦隊が回収出来た遺体は、ごく少数の身体の一部だけだった。

 

 

 

 

異世界(ウィルキア共和国組)

 

 

ライナルト・シュルツ

 

艦長。

ウィルキア解放軍少佐

性格は穏やかで犠牲を嫌い、部下への配慮もあって信頼は厚い。

超兵器の脅威を目の当たりにし、なにより恐れている。

北極海での帝国との決戦に勝利。直後、沈没した超兵器の残骸が突如消えたとの情報を調査に向かう途中、謎の光に吸い込まれ、明乃がいる世界の横須賀に移動していた。

明乃に希望を見出だし、厳しくも優しく導いていく。

超兵器が語り掛けてくることがあると語った。

 

 

クラウス・ヴェルナー

 

ウィルキア解放軍中尉

シュルツの後輩

シュルツの副長や別動隊で動く場合は艦長を勤める。

実はヴァイセンベルガーの庶子であり、敵の諜報員として暗躍していたが、父親の常軌を逸した行動に疑問を抱き、諜報員と副長としての自分に葛藤し自ら命を絶とうとするが、シュルツの決死の説得で父との決別を決意する。

シュルツを軍人にしておくには優しすぎると評していた。

シュルツに対して、何故か上官と部下以上の感情を抱いているとの謎の噂が…。

 

 

 

筑波 貴繁(つくば たかしげ)

 

日本海軍の大尉

シュルツやヴェルナーを士官学校時代に教官として指導した。

時には拳を用いて厳しく指導するも、厳格な堅物というわけではなく、実際は硬軟併せた性格をしている。既婚者で、日本に妻を残しており、自分の生涯をかける存在であると認識している。先の帝国との大戦で古くからの戦友と敵対し、そして失った。

シュルツの意向に沿い、無益な犠牲を出来るだけ減らす意思を鮮明にし、特攻隊だった江田に死ぬことではなく、生きる事で大切な者を自ら守るよう説いた。

 

 

エルネスティーネ・ブラウン

 

ドイツ国軍の技術将校

階級は大尉相当

ウィルキア解放軍戦術補佐官

超兵器解析に尽力の傍ら、兵器技術を生み出す科学者として、知識への追求とそれらが生み出す惨状に触れ葛藤していたが。シュルツにより全てが解決した後、超兵器の無力化研究に尽力していく決意を示した。

日本語は堪能で難読漢字もさらりと読めるが、その知識はヴィルヘルミーナ同様日本の任侠映画から学んだらしい。

シュルツに恋愛感情に似た感情を抱いている。

三世界艦隊では、主に美波やヒュウガそして、蒔絵と事態打開に向け研究を続けている。

 

 

 

ナギ

 

通信長

ウィルキア解放軍少尉

年齢は明乃達と同じくらいだが、実戦を経験している分、対応力は高い。しかし、不測の事態には腰を抜かしてしまう若い女性ならではの脆さを見せた。

シュルツに明確に好意を抱いている。

 

 

アルベルト・ガルトナー

 

ウィルキア解放軍司令

大佐

帝国との戦争では優れた戦略立案と采配で解放軍を率いる。

異世界へ移動という未曾有の事態に比較的冷静に対応し、真霜と共に艦隊を縁の下から支える。

 

 

フリードリヒ・ヴァイセンベルガー

 

ウィルキア帝国の初代元首で元国防軍大将

 

超兵器を用いて世界に対し無慈悲な破壊と戦乱を撒き散らした張本人。

北極海での決戦でヴォルケンクラッツァーと運命を共にした。

ブラウン博士は、帝国が超兵器を建造したのではなく、異世界から転移してきた超兵器を帝国が利用していただけなのではと推測している。

 

 

エドワード・クランベルク

 

オリキャラ

ウィルキアの外交官

帝国の軍事蜂起の際、首脳陣と共に艦隊に同乗し、各国への根回しを行った。

異世界においても、各国と連携するため、真霜と協議を重ね。艦隊を支える。

軍は飽くまで政府の指示で動くものであり、そう言う意味においてはウィルキア艦隊の中で最高の権限を有しており、真霜もエドワードを通してから、ガルトナーに状況を報告している。

 

 

 

フリッツ・ハイネマン

 

オリキャラ

元ドイツの陸軍情報部の特殊部隊出身

要人の護衛や敵地へ潜入し機密情報を調査するエージェント。

陸地での戦闘は得意であるが、陸軍であるため艦隊に同伴することは少ない。

異世界では福内・キリシマと共に、美波の勧誘に同行した。

 

 

 

江田建一

 

オリキャラ

日本帝国海軍航空部隊所属 

元特攻隊

反帝国派により拘束されていたシュルツたちを救出し、そのまま解放軍として日本を帝国の傘下から脱するために尽力した。

異世界では、航空機に搭乗経験の無い芽衣を機体に乗せたのがきっかけで、密かに思い寄せることになった。

しかし、超兵器ヴリルオーディン出現の際、撤退の命令を無視して特攻し、撃墜され生死不明に、だが群像の指示で動いていたハルナとヒュウガにより救助されていたことが明らかになり、坑命によって軍籍を剥奪された。

その後、訪れた芽衣と互いの気持ちを伝え合い相思相愛になり、さらに僧から蒼き鋼に在籍するよう促され新たな戦いに身を投じていく。

 

 

 

一宮寿秀

 

オリキャラ

日本帝国海軍航空部隊所属

航空部隊長。

編隊での空中戦を得意とする。

江田に連携を生かした攻撃と、正確な雷爆撃や射撃などの航空戦を伝授した。

 

 

モーリス・カーペント

 

オリキャラ

ウィルキア解放軍航空部隊長

トリッキーな操縦でドッグファイトで無類の強さを誇る。大型の重爆撃機の操縦も得意。

江田に、型に囚われない応用的な操縦を伝授した。

 

 

 

 

蒼き鋼組

 

 

千早群像

 

蒼き鋼のリーダーでイ401の艦長

世界の海を瞬く間に封鎖してしまった。霧の艦隊に唯一対抗しうる兵器、【振動弾頭】のサンプルと設計図をアメリカのサンディエゴに輸送するため、蒼き鋼の本拠地である硫黄島にて、アメリカへ向かう上での最大の障壁とも言える、霧の東洋方面第一巡航艦隊旗艦であるコンゴウと対話を図るため待機していたところ、イオナが島周辺に以上な重力を検知、調査の為に接近したところ、謎の光に吸い込まれ明乃達の世界にやって来た。

霧の艦隊は陸地への攻撃を禁止している為、超兵器による陸地への破壊行為により、ある意味初めて戦争での民間人の犠牲を目の当たりし、衝撃を受けた。

しかし、異世界においても和平や対話を重んじる姿勢は変わらず。その心情は異世界艦隊の最年少艦長でありながら、明乃やシュルツに影響を与えた。

その明晰な頭脳や容姿から、一部のはれかぜメンバーやメンタルモデルからも好意を向けられる事が多いが、本人は知ってか知らずか表情が変わることはない。

 

 

 

潜水艦伊號401(イオナ)

 

401のメンタルモデル

銀色の髪に翡翠色の瞳を持つ人形の様に整った顔立ちの美しい容姿をしている。

何者かの命により、群像と共に行動することが義務付けられている。

最初こそ表情が乏しく、機械的な言動が多かったが、硫黄島では感情の一端を見せ始め、異世界に到着後は多数の人間との関わりにより、表情が豊かに成りつつある。

システムチェックの際、明乃に接触してきた何者と接敵していたが、ログには何も残されてはいなかった。

何気に寂しがり屋

 

 

織部僧

 

蒼き鋼副長

 

群像の幼馴染みで、何時も謎のマスクを被っており、食事もマスクを外さず行う。本人曰くアレルギー対策らしい。

情報処理が得意で経験したことを理路整然とレポートにまとめる仕事が好き。普段は参謀として主に群像のサポートに徹しているが、本来は操舵に秀でた才能を有しており、超兵器戦でイオナに異常をきたした際は抜群の腕前を披露し、攻撃から401を死守した。

 

 

 

橿原杏平

 

蒼き鋼 砲雷長

 

トレッドヘアと褐色の肌が特徴。

401の多種多様な火器管制を一手に引き受ける。

群像からの信頼も厚く、かつて敵だったタカオも、いい腕をしていると評していた。

超兵器戦では、イオナが異常をきたし、クラインフィールド使用できない状況で的確に迎撃をこなし、艦を危機から救った。

 

 

八月一日 静

 

ソナー・センサー担当

前髪を切りそろえたストレートロングの黒髪に眼鏡をかけた少女。

台湾出身

おっとりしているが、実は偵察兵の実戦経験がある様子をうかがわせることも。

異世界では同じソナーの楓や通信員の鶫や慧と意気投合する。

 

 

四月一日 いおり

 

機関・技術担当

イオナと仲が良く、作戦会議等の際には2人でくっついている姿がよく見られる。

横須賀の技術者もお手上げな未知の霧の動力源を知る唯一人類と評されるだけあって能力は高い。

超兵器戦では、播磨からの攻撃で機関室でガス漏れが発生し、それを少し吸引してしまったが、幸い対応が早かったため大事には至らなかった。

実はかなり巨乳であり、はれかぜクルー(特に慧から)に羨望の眼差しを向けられている。

 

 

 

重巡洋艦タカオ

 

メンタルモデルは蒼い長髪にスレンダーな体つきの美しい女性の姿。

人間の恋についてシュミレーションする「乙女プラグイン」なるものを実装し、それ故か群像に対して恋心にも近い感情を抱いている。

かつてイ401と交戦し敗退。この時の経緯から人間、とくに『艦長』に対して強い興味を抱き、硫黄島基地へ先回りして群像らを待ち受けていたところを駐留していたヒュウガに拿捕され、それ以来一行に加わることとなった。

異世界に移動する際に艦を置いてきてしまったが、こちらの世界のナノマテリアルを使用し船体を復活。戦闘では主にもえかとペアに成ることが多い。最初は群像と一緒でなかった事に不満を漏らしていたが、もえかの才覚を目の当たりにし、戦術を会得するために共闘する。口では酷評しているが、もえかへの評価は高い。

大浴場で、そのスタイルをはれかぜクルーから絶賛された。

 

 

 

大戦艦ヒュウガ

 

元東洋方面第2巡航艦隊旗艦

かつてイ401と交戦し、惨敗し、蒼き鋼の一員になった。

メンタルモデルの外見は片眼鏡を掛け白衣を纏った知的な女性の姿をしているが、性格は軽薄でイオナに対しての感情はかなり同性愛方面へと向かっているため、イオナの艦長である群像を嫌っていた。しかし実際は、群像がイオナにも相談しないことやヒュウガが他のメンバーに言わない事を互いに相談し合う事もあり、元敵でありながら群像の良き理解者でもある。

人間の工学技術に興味を向け、残存していたナノマテリアルを流用しての硫黄島基地の改装と401へ自身の超重力砲を搭載し、現在はナノマテリアルに頼らない技術開発や、ナノマテリアルと工業製品とのハイブリッドである装備の建造と運用、元の世界への帰路を模索するため尽力している後方支援の責任者的立場となった。

立場が似通っている美波やブラウン博士と良く話す事が多い。

(はれかぜメンバーからは密かに白衣三銃士と呼ばれている。)

 

 

大戦艦ハルナ

 

メンタルモデルは金髪のツインテールに顔半分程度しか出ないほどの大きな黒コートを埋もれるように纏った姿。普段は落ち着いているが、人前でコートを脱ぐとスペックが低下する。

人間の「言葉集め」が趣味。

蒔絵の影響で感情を覚えてからはかなり人間らしい雰囲気を持つようになった。

刑部邸滞在時に刑部博士と対話し、蒔絵らデザインチャイルドの由来を聞き蒔絵の友達なる事を決意。

刑部邸陸軍襲撃の戦いでイオナに助けられ、キリシマ、蒔絵と共に硫黄島に同行。そしてそのまま、群像率いる蒼き艦隊の一員となり、401のサポートをヒュウガと共に務めている。

異世界移動後は、蒔絵を守るため前線には参加しないつもりであったが、超兵器の驚異をキリシマを通じて観測し、参戦を決意。401に搭載されているセイランで敵機を圧倒し、更に江田の救助に一役かった。

完全に後方で支援にまわるヒュウガに替わり、前線のバックアップを行う攻守ともに優れた艦隊の万能アタッカー。

実は巨乳であり、大浴場で多くの女性陣を驚愕させた。

 

 

戦艦キリシマ(ヨタロウ)

 

メンタルモデルはショートアップで、ショートパンツスタイルの姿。

戦闘時にワクワクする、楽しいと発言するなど好戦的。蒔絵によりハルナが保護された後、ハルナからナノマテリアルを分けてもらい、クマのぬいぐるみ「ヨタロウ」と融合した。

刑部邸陸軍襲撃後は蒼き鋼の一員として行動。

異世界移動後は、ナノマテリアルの補給で再び元の姿と船体を取り戻した。

超兵器戦では荒覇吐と対戦しタカオと共闘。

最終的には超重力砲で荒覇吐を撃沈するも、直後暴走した播磨の猛攻に堪えきれず撃沈。

コアも消滅したと思われていたが、ハルナの事前の機転によりコアを別の場所に保管していたため難を逃れた。

その後は再びヨタロウとして過ごしている。

美波に興味を持たれており、解剖されないよう逃げ回っている。

 

 

刑部 蒔絵

 

デザインチャイルド

人工的な処置により通常の人類を遥かに超えた思考能力を持っている

振動弾頭及びそれを運用や搭載するためのシステムを開発していた。

偶然出会ったハルナ達と友達になろうとしたが、ハルナが自分達が人類の敵であることを打ち明けた事で、自分の造った兵器がハルナを殺してしまうのではと罪悪感に駆られ逃走する。

しかし、敵である霧と人知を超えた知識を持つ蒔絵が接触したことに懸念を抱いた政府によって抹殺の対象となり自宅に侵入した陸軍との戦闘でハルナ共々追い込まれてしまう。しかし、401の介入で難を逃れ、ハルナと対話をして和解した。その後は蒼き鋼に同行する。薬を食事の前に飲まなければならない身体の為。ヒュウガに生成して貰っている。

異世界移動後は、あらゆる世界の知識を瞬く間に吸収し、新型兵器の開発に尽力するが、本人は過剰に威力の高い兵器の開発には否定的で、防御面に特化したシステムを考案している。

 

 

超兵器

 

 

超巨大航空戦艦 ムスペルヘイム

 

 

横須賀に突如表れ虐殺を敢行した超兵器。

中央部の戦艦部の両脇を巨大な空母で挟み込むような形状をしている。

大口径砲や光学兵器、更にはこの世界には存在しない航空機で、横須賀の街だけではなく駐留していたブルマー艦隊を舜殺した。

終始虐殺を継続するも、異世界から現れたウィルキア艦隊と蒼き鋼によって逆に追い込まれ、空母部分を切り離して自爆させることで時間を稼いで逃走した。

シュルツ曰く、本来の力は全く発揮されておらず、試運転のようなものだとの事。

 

 

 

超高速巡洋戦艦 シュトゥルムヴィント

 

 

小笠原沖の戦闘ではれかぜと対峙した超兵器。

ウィルキアから提供されたデータでは、装甲は薄く、防御重力場は装備おらず、速力は70kt程度であり、はれかぜでも十分対処出来ると考えられていた。

しかし実際は、大和型を上回る装甲に防御重力場を装備し、大口径砲や光学兵器、更には速力が180ktに強化され、それが一瞬ではあるが、ウィルキアが超兵器とグルなのではないかとヒュウガに疑念を抱かせる切っ掛けとなった。

艦船とは思えない速力で終始はれかぜを圧倒するも、魚雷で推進装置を破壊、更には歪曲したスクリューが艦底を強打したことで浸水が発生し、速力が低下、砲撃戦に持ち込まれた結果、防御重力場を喪失し、撃沈された。

 

 

超巨大ドリル戦艦 荒覇吐

 

 

蒼き鋼のタカオ・キリシマと対峙した。

播磨同様艦隊旗艦を務める能力を有した巨大艦

大和型に酷似した船体や艦橋を有し、艦首にドリル、側面にソーを装備しており、格闘戦を展開する事が可能。

また、大口径ガトリング砲やエレクトロンレーザー、プラズマ砲等の高威力の兵器を乱射、高い速力と莫大な質量によるドリルでの突撃に核弾頭でも飽和しないとされたクラインフィールドを飽和寸前まで削り、タカオを驚愕させた。

しかし、タカオが囮になっている間にエネルギーを充填していたキリシマの超重力砲の直撃を受け、船体が真っ二つに分離。それでも尚、砲撃を継続しようとするも、侵食弾頭で止めを刺され撃沈した。

 

 

 

超巨大双胴航空戦艦 近江

 

 

蒼き鋼のイ401と対峙

大口径砲とミサイル、そして大量の航空部隊で、対艦、対空、対潜と隙という隙がない強敵。

また、艦隊の中で最も強大なノイズを放っていた事から、ヴェルナーから実は艦隊旗艦であり、何か奥の手が有るのではないかと懸念していた。

度重なる爆雷とミサイルにより、クラインフィールドを削るも、群像の機転とタカオとの連携により転覆寸前まで追い込まれた。

しかし実は、超兵器ヴリルオーディンを内部に格納しており、ヴリルオーディンによって機能を奪われて活動を停止した。

 

 

 

超巨大円盤型攻撃機 ヴリルオーディン (黒)

 

 

円盤の航空機型超兵器

 

機体には多数の砲と光学兵器のジェネレータが搭載されている。

不規則な起動で飛行し、あらゆる攻撃を回避する。

リング状のレーザーを放ち、江田の搭乗していた機体を真っ二つにした。

近江から射出後、撃破された超兵器達からエネルギーを奪取または贈与するような描写がある。

これにより一気に戦況が悪化した。

まるでそれが目的であるかのように、播磨を強化後、東へと飛び去った。

 

 

 

超巨大双胴戦艦 播磨

 

 

通称【東洋の魔神】

双胴の船体に多数の砲が並べられている。

主砲は100cm砲

当初はそれほど苦戦せずに撃沈出来る予定であったが、ヴリルオーディンによる強化により真の力を発揮、暴走状態になった。

暴走後は、艦首に超兵器ドーラ・ドルヒの160cm砲とラムにドリル 艦尾にガトリングレールガンと巨大スラスターが出現。また、艦の側面から簡易の飛行甲板がまるで翼を開くように展開し、そこから砲撃を行う上で重要な位置観測を行う為、円盤型航空機ハウニプーを射出した。 

 

速力・旋回性・耐久力・砲撃能力の強化・格闘戦と正に化け物を思わせる性能を発揮し、三世界艦隊を一隻で相手をする強靭さを見せた。

また、飽くまでも実弾による砲撃戦に重点を置いているらしく、射出した航空機も砲撃の位置観測用であり、ドリルによる格闘戦も懐に入り込まれた際の牽制として使用するのみでであった。

最終的には、強力な防御重力場を光子榴弾砲で無力化された後に、電子撹乱ミサイルを撃ち込まれ砲撃性能が低下、超兵器機関の装甲を侵食弾頭で破壊され、更にそこに超兵器機関を意図的に暴走させる新型の電子撹乱ミサイルを撃ち込まれ、異常な出力に船体が耐えきれず自壊と言う形で終焉を向かえた。

 

 

雷雲を纏う超兵器

 

 

明乃の両親が死亡する切っ掛けとなった超兵器。

 

本体からレーザーを放つユニットを投下する。

これによって幼い明乃達が乗ったフェリーが沈没することになった。

当時は、雷雲で全容が明らかになっていなかったが、明乃に過去の出来事を追体験させた存在により、全体像が判明。

巨大なドローンを思わせる飛行型超兵器で、下部に巨大なレーザー発射ようの砲門が存在する。

 

 

 

超巨大戦艦 ヴォルケンクラッツァー

 

 

ウィルキア帝国の最終兵器。

シュルツ達の世界の決戦で対峙した超兵器

 

大陸をも沈める兵器【波動砲】を登載しており、当時北極海に集結していた多国籍艦隊数万隻を一瞬で消し飛ばした。

現在は北極海に存在している模様で、目立った行動をしていなかったが、播磨消滅の際にそれを検知して上空に発砲し、再び眠りについた。

 

 

謎の目玉

 

明乃やイオナに接触してきた存在。

明乃との会話から、全ての黒幕であると推測され、明乃に超兵器を使用させて世界を滅亡へ導くよう誘惑した。

 

 

 

 

本作の構想

 

本作は、主に下記のストーリーを独自アレンジで描いたものです。

 

鋼鉄の咆哮はもしかすると馴染みが無いかと思いますので、ネタバレに注意しながら説明してみたいと思います。

 

 

   + + +

 

 

鋼鉄の咆哮シリーズ

 

ある意味、今作ストーリーのベースになっている作品

複数のシリーズを独自アレンジで合成して設定を組んだ。

 

●鋼鉄の咆哮2ウォーシップガンナー

 

突如謎の光に呑み込まれたプレーヤー艦は、戦闘に巻き込まれる。

 

その世界は異世界で、超兵器を使用して世界を支配しようとする帝国と解放軍との世界規模の戦争が行われていた。

運良く解放軍に救出されたプレーヤー艦は、無慈悲な暴挙を繰り返す帝国と超兵器に挑んで行く。

 

そして帝国の最終兵器ヴォルケンクラッツァーと対峙し、これを撃破した直後、波動砲の暴走による閃光に巻き込まれ、光が収まったとき、艦のみをのこして異世界の乗員のみが姿を消していた。

 

 

超兵器は謎のノイズを発する。

 

 

 

●鋼鉄の咆哮2ウォーシップガンナーエキストラキット

 

 

上記にてヴォルケンクラッツァーを打倒したプレーヤー艦は再び謎の光に呑み込まれた。

 

 

その先で待っていたものは、倒した筈の超兵器達。しかも、凄まじい強化を得て…。

プレーヤー艦は再び、苛烈な戦いへと挑んで行く。

 

 

●鋼鉄の咆哮2ウォーシップコマンダー

 

 

解放軍とウィルシアとの世界規模の戦いが行われる世界

 

作中終盤にて、超兵器が異世界から転移してきた存在である事が判明。

 

なんとラスボスは喋る。

 

 

●ウォーシップガンナー2鋼鉄の咆哮

 

 

ストーリーだけでなく登場人物が存在する。

プレーヤー艦艦長はウィルキア王国の士官であり主人公のシュルツ。

 

この作品に於いては超兵器の成り立ちが明確に設定されている。

 

超兵器の暴走と言う設定も今作から。

 

尚、超兵器は鋼鉄の咆哮の全シリーズより抜粋。

独自アレンジによって強化。

 

 

 

蒼き鋼のアルペジオ

 

どうしてもクロスさせたかった作品

 

理由としては、個人的に鋼鉄の咆哮との霧の艦隊との類似点が多かったから。

例えば

 

霧の艦隊

 

クラインフィールドと言う無敵のバリア

 

姿は旧戦艦なのにオーバーテクノロジー

 

 

鋼鉄の咆哮シリーズ

 

防壁の展開が可能

 

自艦をカスタマイズ可能で、戦艦大和にレーザーやミサイルを搭載

 

空母赤城にステルス爆撃機などやりたい放題。

 

 

そして、航空技術が皆無なハイスクール・フリートの世界で、超兵器がチート化しないようにするバランサーとしての役割もある。

 

原作が完結していない為、アニメ版の方をベースにし、要所要所に原作の設定を織り込んでみた。

 

 

 

 

ハイスクール・フリート

 

 

クロスの理由は、エイリアンVSプレデターの人間とまではいかなくとも、壮絶な異種艦隊決戦を繰り広げる異世界の来訪者に翻弄される世界として、ある意味狂言回し的な役割を持たせる為にクロスさせました。

 

初期の構想では、ウィルキアから供与されたチート艦に乗って、超兵器をバッサバッサと斬っていくストーリーだったが、原作が雰囲気に反比例してシリアスさを含んだ登場人物と歴史背景を有していた為、異世界人との触れ合いで、彼女達がブルマーの役割や、生きることへの価値観を見つけていくストーリーにすることにしました。

 

 

 

 

ただ、後日談はせいぜい本編終了の数カ月後か数年後を扱うのが主流ですが、完全に本職になってからなので、同じ人物でも全く頭のキャラは別になってしまうので難しい(高校生の時の自分と、就職して社会に触れた後の価値観がガラリと変わるため)

 

原作の人相をいかに壊さず、心情の変化を書けるかも挑戦だと思ってます。

 

 

 

超兵器

 

鋼鉄の咆哮シリーズのボス

 

作中ではプレーヤー艦の強化によって大概がザコ化するが、現実的に考えればそんなことは無く。

 

より困難で、越え難い存在として描く。

 

最初の相手をムスペルヘイム(ラスボスの前座)を選んだのは、ラスボスが最強で絶対的な不動の存在なのに対して、奴があらゆるプレーヤーにトラウマを植え付けた最凶(最狂)の存在だった為、戦争を知らない現代っ娘の彼女達にトラウマを植え付ける存在として、数ある超兵器群の中から選抜した。

 

 

故に、倒せそうで倒せず、何度も彼女達を苦しめて立ちはだかる存在として、何度かに分けて再戦をしようと考えています。

 

 

 

 

 

尚、実は作品にテーマ曲の様なものがありまして…。

 

林ゆ●き氏の【cocoon】と言う曲になります。

 

 

 

超兵器に焼かれ、煙が立ち上る荒野と化した街並みを見た、明乃を始めとしたはれかぜメンバーと、異世界艦隊のメンバーが、夕焼けの港に決意の表情で横に並び、そして艦に乗り込んで困難が待ち受ける海へと出航して行くイメージです。

 

 

 

 

 

 

以上ですが、私の拙い作品にお付き合い頂きありがとうございます。

 

 

第2章は、戦闘の割合が多くなりますが、何卒トライアングル・フリートを宜しくお願い致します。




こんな感じですが

次回の第二章も宜しくお願いします。


あっ…今まで言っていませんでしたが、感想やコメントはご自由に書いて頂いて構いません。


とらふり!に関する感想も大歓迎です。



仕事によっては大に返信が遅れるかも知れませんが、できうる限りお答えできればと思っています。


それではまたいつか


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第一章兵装紹介

架空兵装 紹介

ゲームの発売時期がかなり前でイメージが沸きにくい鋼鉄の咆哮の兵装主に紹介する。

 

※独自解釈の部分が有りますのでご容赦下さい

 

   + + +

 

《船体》

 

ドリル艦

 

ウィルキアの艦であるシュペーアや超兵器:荒覇吐の船体

艦首のラムに大型ドリル

艦の両舷に草刈りで使用されるソーの様な形状のものが取り付けられており、船体を用いた格闘戦が可能。

 

 

その特性上、敵に追い付く為の速力と優秀な舵性能が必要となる。

 

 

《双胴艦》

 

ウィルキアの艦である出雲と、超兵器:播磨がこの部類に入る。

 

同様の船体を横に二つ繋げた二双船。

甲板の面積を増やすことで、あらゆる兵器を惜しげもなく設置することが出来る反面、被弾面積が広く、敵の攻撃(特に航空機からの攻撃)が命中しやすい。

 

よって、迎撃用の兵装の数も当然多数設置しなければならず、それらの操作に手間を取られる事もある。

 

 

 

《三胴艦》

 

超兵器:ムスペルヘイムがこの部類に入る。

 

現代のトリマラン型とは違い、単純に船体を横に三つ繋げた形状をもつ。

ムスペルヘイムの場合は、中央の戦艦を同様の長さを持った空母で挟み込むようなイメージ。

 

特徴としては、とにかく攻守に優れている事。

 

空母部の船体が両脇に有るため、側面からの雷撃は中央部に全く通じない上に、左右の空母がそれぞれ半分の方角の迎撃を担当するため、ミサイル等も中々通してはくれない。

 

攻撃面では、両脇の空母そのものもかなりの攻撃力を有している。

それだけでも脅威なのだが、空母部を丸っきり迎撃に回す事で、戦艦部が攻撃のみに集中出来る。

更に、二段空母×二隻から発艦される大量の航空機により、海上と空の両面から一方的に攻撃することが可能。

 

 

欠点としては、三隻の艦が連結している事で速度が遅く、小回りが利かない点と、被弾面積が広すぎる事。

此だけ広ければ、適当に発砲しても必ず命中してしまう程に…。

 

 

   + + +

 

 

《100cm砲》

 

超兵器:播磨の主砲として登場。

 

実は、ウィルキアの¨戦艦クラス¨には搭載可能だが、かなり場所を取り、質量もかなり重い。

例を挙げれば、大和型戦艦の艦首と艦尾に一機一門ずつ設置するのがやっとな大きさ。

 

発砲時の凄まじい爆風と衝撃波によって艦が損傷する可能性もある他、砲身が重すぎて回頭に時間が掛かり、仰角を上げる際も、通常の機構ではまず無理、更に、砲弾自体も管理、装填に手間を取られるので採用されなかった。

 

三連装八基二十四門を一斉掃射出来る播磨が如何に怪物なのかがわかる。

 

 

《160cm砲》

 

超兵器:播磨専用兵装

 

超兵器:超巨大列車砲ドーラ・ドルヒの砲門を播磨艦首部に取り付けられた切り札。

 

砲弾が重いため、水平方向ではなく仰角を高めにとって、まるで打ち上げるような形で発射する。

 

砲弾の質量と高度からの落下による加速で、凄まじい威力を発する。

 

欠点は命中精度の低さ。

一度打ち上げなければならない以上、弾道の予測と計算は必然的に複雑になる。

それを補う為に、敵の位置を観測するための航空機が必要不可欠になる。

 

更に、砲が巨大過ぎるが故、仰角は調整出来ても砲の回頭は出来ず、播磨自信が転陀することでそれを補う。

 

《406mmガトリング砲》

超兵器:荒覇吐が装備

 

40cm砲をガトリング化したもの。

砲塔型であるため、砲身の旋回が可能。

幾らクラインフィールドが核にも耐えられるとは言え、一分間に何十発も喰らえばさすがにダメージが蓄積し、タカオやキリシマを焦燥させた。

 

   + + +

 

プラズマ兵器

 

 

《プラズマ砲》

 

超兵器:荒覇吐が装備

 

磁界によって絞り込んでビーム状したプラズマを発射する装置。

 

雷に似たビームを複雑な起動で発射する。

光学兵器と思われがちだが実は異なり、電磁防壁や防御重力場では防御出来ない。

しかし、物理現象であることは事実であり、エネルギーをクラインフィールドが受ける事は可能。

 

   + + +

 

 

光学兵器

 

《δレーザー》

 

第一話でムスペルヘイムが横須賀の中心街に発射した光学兵器。

艦後方に設置された、円形のジェネレータから八本の緑色の光が八方向に打ち上げられ、その後弧を描く様に屈折しながら照準対象付近に殺到する。

 

一本でも直撃すれば大ダメージであるのだが、レーザーの着弾点は光学兵器の割に正確ではなく、八本中数本が命中すれば良い方で、ピンポイント狙撃や小さい対象の敵に使用するのは適切ではない。

 

更に、一度真上に打ち上げてから対象に向かう性質の為、垂直発射型のミサイル同様、超近距離戦は不向き。

 

逆に言えば、対象が大型の場合や、都市等への無差別攻撃には高い能力を発揮する。

 

 

 

《βレーザー》

 

超兵器:シュトゥルムヴィントが装備していたレーザー兵器

 

艦後方に設置された、円形のジェネレータから三本のオレンジ色の光が三方向に発射される。

 

照準対象を正面に発射した場合。左右に45度、斜め上に45度で発射。

対象と自艦との中間地点に達すると、其々が90度屈折して進み、照準対象で一点に集まる。

正確には違うが三角錐形の様な図形を描く。

 

 

中距離から近距離主体で使用され、命中精度が高く威力も高い。

 

 

《対空パルスレーザー》

 

ウィルキア艦艇やはれかぜ、超兵器が装備している。

 

機銃程大きさの装置から、幅数cm長さ1m程のレーザーを発射する。

連射能力や弾速に優れ、航空機だけでなくミサイルの迎撃にも優秀な能力を発揮する。

 

機銃の様な用途で使用されるが、やはりレーザーであるため、電磁防壁を持たない通常艦艇に対しては尋常ではない威力を発する。

 

 

 

《荷電粒子砲》

 

 

ウィルキア はれかぜ 超兵器等が装備。

 

 

砲塔型で30cm砲塔程の大きさであり、二連装の光学兵器。

 

電荷を一本のレーザーの様に発射。磁力によってコントロールされた光は弧を描き、照準対象へ向かう。

カラーバリエーションは青 紫だが、はれかぜは青色。

 

長中短距離全てに対応しており、威力や連射性が高く、弧描く為弾道を読まれにくく、回避が難しい。

はれかぜの場合は艦首に二機ある主砲の一つを撤去し、荷電粒子砲を搭載している。

 

尚、この兵器は誘導性を持たせる事が可能であり、戦艦級の甲板に複数設置され、イージスシステムによる多重ロックによって、一度に複数の敵(航空機を含む)を攻撃出来る。

 

 

《にゃんこビーム》

 

 

はれかぜが装備。

 

気の抜けるネーミングであるが、侮れない威力を発揮する。

 

二本同時に発射され、弾速は速く、連射性も高い。弾道は、艦を直上から見たとき、オシロスコープの波形を左右逆にした様な二本のレーザーが照準対象へ進。

 

ジェネレータは、伏せをしたネコの形をしており、その目からビームを発揮する。

大型で、小型艦に搭載できない事の多い光学兵器の中では非常に小型であり、重量も軽い。

 

ネコの可愛らしい姿も相まってはれかぜクルーには人気がある。

余談だが、発射時に「ふにゃぁあ!」とネコが威嚇の時にするような鳴き声がする。

 

 

   + + +

 

ミサイル

 

 

《電子撹乱ミサイルα》

 

オリジナル兵器

 

美波と蒔絵、そしてヒュウガとの合作兵器。

 

超兵器機関に有機性が有ることから、RATtウィルスを改良したもので、機関出力を過剰にすることで過電流を発生させ、電気や電子系統を焼き切る目的で作られた兵器。

 

人間には感染せず、熱に強い改良が施されたウィルスをミサイルに乗せて発射する。

 

しかし、敵を暴走させるリスクが有るため、使用タイミングが難しい。

 

播磨との戦いでは暴走後に使用され、超兵器機関の出力を過剰にすることで、自壊させる事に成功した。

 

 

《電子撹乱ミサイルβ》

 

ヒュウガと蒔絵の合作兵器

 

着弾地点に付近に強烈な電磁パルスを発生させ、制御系統を麻痺させる目的で作られた兵器。

 

上記のミサイルより使い勝手良いようにも思えるが、効果の対象が着弾地点を中心として広域に及ぶため、付近に味方がいると巻き込んでしまう危険がある。

 

 

 

   + + +

超電磁砲

 

《砲塔型レールガン》

 

ウィルキア艦艇に装備

 

砲塔型のレールガン

磁力の力で超加速した砲弾を発射する兵器。

余程強い重力場を発生させないと、防御重力場すらも無意味。

威力や命中精度が高いが弱冠連射性に劣る。

 

《レールガン》

 

大型の固定発射装置から発射されるレールガン

 

作中では、横須賀を急襲したムスペルヘイムが使用。

 

固定砲台であるため、中長距離の狙撃に使用され、仰角もあまり高く取れないが、砲塔型レールガンより更に射程が長くなる。

 

発射装置が大型の為、戦艦級でなければ搭載は不可能。

 

 

《砲塔型ガトリングレールガン》

 

オリジナル兵器

レールガンのガトリング化によって連射性が増した脅威の兵器。

 

暴走後の播磨が使用。

 

一発喰らっただけでも大ダメージなのだが、それをマシンガンの様に撃ってくる播磨に、蒼き鋼も驚愕した。

 

   + + +

 

光子兵器

 

《光子榴弾砲》

 

ウィルキアの双胴戦艦出雲が装備。

 

反物質を真空状態で封入し、その容器の回りに弾薬を詰めて発射。

起爆と同時に、反物質の対消滅反応で発生するエネルギー全てを熱エネルギーに転換し、その際に発する強烈な熱と、それにより膨張した空気によって発生する凄まじい衝撃波によって、敵を殲滅する。

 

しかし、ウィルキアの技術でも、反物質の獲得と管理に苦慮しており、兵器としては今後の課題を残している。

 

 

   + + + 

 

 

破滅兵器

 

 

《超兵器重力砲》

 

蒼き鋼の使用する超重力砲と区別するために、超兵器重力砲と呼称する。

 

装備艦はムスペルヘイム

本編では、会話にのみ登場

 

一度に使用されれば、艦隊や大都市すら消滅させ、後には何一つ残らない最凶の兵器。

 

 

ムスペルヘイムは調整不足の為、横須賀では使用されなかった。

 

ゲームに於いては、多くの艦長達を恐怖と絶望のどん底に陥れ、トラウマを持った人も多い。

 

 

 

《波動砲》

 

 

シュルツの回想で超兵器:ヴォルケンクラッツァーが使用した最強の兵器

 

全長が戦艦クラスの巨大な発射装置から波動エネルギーをビーム状に放つ。

 

シュルツ曰く、「大陸を破壊する兵器」「地殻に影響を及ぼす兵器」と言われる。

 

ゲームでは四国を真っ二つに分断し、瀬戸内海と太平洋にバイパスを作った。

 

 

   + + +

 

補助兵装

 

 

《電磁防壁》

主に超兵器が装備

 

レーザーなどのエネルギー兵器に対応する防壁。

 

光を偏光させる事で、レーザーの弾道を反らす。

 

人類に対しては無敵を誇っていた、霧のレーザー砲も、これに対しては無力だった。

 

電磁防壁を作動させるためには、多大なエネルギーを消費するため、蓄電池にエネルギーを蓄積させて対応する。連続しての発動や防御重力場との併用は、防壁の飽和に繋がる。

 

 

 

《防御重力場》

 

主に超兵器が装備

 

砲弾やミサイルなどの実弾兵器に対応する防壁。

 

自艦を中心に、外に向かう重力の力場を発生させ、砲弾の弾道を反らす。

力場は、自艦のある程度内側では発生しないため、荒覇吐のようなドリルでの超近接格闘戦では無力であり、喫水下で発生させると浮力を失ってしまうため、力場を弱めなければならず、魚雷に対しては効果が薄い。

 

防御重力場を作動させるためには、多大なエネルギーを消費するため、蓄電池にエネルギーを蓄積させて対応する。連続しての発動や電磁防壁との併用は、防壁の飽和に繋がる。

 

 

《超重力電磁防壁》

 

ウィルキア はれかぜが装備

 

電磁防壁と防御重力場を合わせた装置。

 

 

個別になっていた二つの装置を一つにしたことで軽量化に成功し、使い勝手が良くなった反面、同時に防壁が作動するため、エネルギーの消費が大きくなった事が課題に。

 

 

 

《急加減速装置》

 

はれかぜが装備

急速に自艦の速度を昇降したい場合や、緊急回避の場合に使用

加速に使用した場合は、全速よりも速度を出せるが本当に一時的。

 

 

《新型自動装填装置》

 

 

はれかぜが装備

 

元々、少人数の女性が操艦するためブルーマーメイドに採用されていた物を、ウィルキアの技術によって改良した。

 

はれかぜの装備は比較的連射性の高い兵装であるため、兵装の自動化に任せすぎていると、弾切れを起こしてしまうため、光学兵器のみを新型で、主砲やミサイルを既存の自動装填装置にて対応している。

 

 

 

   + + +

 

 

機関

 

《駆逐艦用核融合炉》

 

はれかぜの機関。

 

ウィルキアの技術により、小型化に成功した核融合炉。

 

メンテナンスには専門の知識が必要だが、短期集中的な学習で(主に麻侖が)習得に成功(天才か!)。

 

新型タービンによるエネルギーの効率化によって、高速での航行を実現した。

 

 

 

《超兵器機関》

 

謎に包まれた超兵器の心臓部。

 

巨大かつ莫大なエネルギーを消費するであろう超兵器を軽々と稼働させる出力を発する。

 

ブラウン博士曰く、粉々になっても稼働し続けているらしい。

ヒュウガの解析によって、ある程度有機性のある物体である事と、反物質で形成されている事が判明。

なぜ反物質が対消滅せずに現空間に存在し続ける事が出来るのかは、謎に包まれている。

 

 

 

 

短編

 

悪魔のランク

 

 

 

   + + +

 

 

スキズブラズニルの研究ラボでは、ブラウン博士がレポートを纏めていた。

 

 

 

「博士。」

 

 

「艦長…。どうなされましたか?」

 

 

「ええ。超兵器の件なのですが…。」

 

 

「解っています。改良が加えられた事で、危険度を示すカテゴリーを修正した方が良いと、お考えなのですね?」

 

 

 

「話が早くて助かります…。リストの方は?」

 

 

「残念ながら、未遭遇の超兵器もおりますので、記載の無いもの有りますが、先日遭遇したものだけでも宜しいですか?」

 

 

「構いません。博士の分析した危険度の区分によって、今後の超兵器に対する作戦を立案する参考とさせて頂きたい。」

 

 

 

「解かりました。それでは此方を…。」

 

 

シュルツはリストに目を通す。

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

超兵器危険度ランク

 

※世界全体に及ぼす影響を考慮して査定

 

 

 

超兵器カテゴリーC

 

艦艇の戦力は戦艦クラスだが、艦艇の使用目的が破壊に特化しておらず、攻略が比較的容易

 

 

 

超兵器カテゴリーB

 

比較的小型で防御が薄く、攻略は可能であるが、光学兵器や核兵器の所持、または速度の特化など、一隻に対し複数の艦隊で対処しなければならない戦力を保持している。

 

 

超兵器カテゴリーA

 

世界各海域の巡航艦隊旗艦クラスであり、複数の艦隊での対処はほぼ不可能。

超兵器に搬入されるであろう弾薬等の物資を通商破壊部隊で寸断し、大規模艦隊による波状攻撃で、段階的に攻略する方法が得策と思われる。

 

 

 

超兵器カテゴリーS

 

世界の大きな海域を統括する艦隊旗艦クラス並びに、特殊な条件下でのみ活動する汎用超兵器。

前者は、一隻で国家戦力を相手取る事の出来る戦力を有す。

後者は、宇宙等の通常攻撃が届かない地点からの一方的な攻撃を行う類いの兵器が含まれており、攻略は困難を極める。

 

攻略には、物資の寸断は勿論、他国間での連携にて対処し、新型の兵器を開発することで、宇宙を含めたあらゆる地点へ攻撃を着弾させることが鍵となる。

 

 

超兵器カテゴリーSS

 

帝国の切り札でもある敵方の総旗艦直衛艦クラス。

 

一隻にて、多大なる攻撃 防御 航空戦力を有し、都市を丸ごと消し去る程の破滅兵器を所持している。

この超兵器の前では数は全く意味を成さない。

これといった弱点が存在しないが、関係各国の協力の下、食料などの物資を寸断し、港を出港する前に、内部に破壊工作用特殊部隊を潜入させる事で勝機を見出だしたい。それでも戦闘を回避出来ない場合はこちら側も、超兵器カテゴリーAクラスの兵装を所持した艦艇が少なくとも数隻は必要になると思われる。

 

 

超兵器カテゴリーSSS

 

事実上、このランクは帝国の切り札である超巨大戦艦ヴォルケンクラッツァーを指す。

 

二隻あれば世界が消滅する程の戦力を有しており、最早世界が一丸となるより撃沈の方法は無い。

 

これといった弱点が存在せず、巨大過ぎる内部構造と頑丈な機構により、内部からの破壊も不可能。

 

唯一、大陸を破壊する兵器の発射時に攻撃を集中させることでエネルギーを逆流させる方法があるが、暴発するかどうかは賭けであり、敵艦の真正面に移動しなければならず、作戦に失敗した数万隻が一瞬で消し飛ぶという大惨事を招いた。

 

願わくば、二度とこの様な兵器が現れない事を祈る。

 

 

先日遭遇した超兵器のカテゴリー変更。

 

尚新規カテゴリーとしてSクラスに於いては、+と-の区分を儲けた。

 

 

 

超高速巡洋戦艦 シュトゥルムヴィント

 

カテゴリーB→A

 

修正理由:

 

速度の改良並びに、防御と攻撃能力の上昇が目覚ましく、単艦にて大規模艦隊を翻弄しうる性能がある。

 

 

 

超巨大航空戦艦 近江

 

カテゴリーA→S -

 

修正理由:

 

元々隙のない機構に加え、内部に航空機型超兵器を格納出来る事から、危険度を修正

 

 

 

超巨大ドリル戦艦 荒覇吐

 

カテゴリーS→S-

 

修正理由:

 

遠近両立型の攻撃に加えプラズマユニットを装備したことで驚異を増したものの、大規模な都市を瞬時に消滅させる程の兵装を有しているわけではない。

 

 

 

超巨大円盤型攻撃機 ヴリルオーディン

 

 

カテゴリーA→S-

 

航空機型超兵器の為、耐久力が低く、脅威度合いが低かったが、空母型超兵器への搭載並びに、超兵器機関の暴走を作為的に引き起こす事は極めて看過出来ない。

 

 

 

超巨大双胴戦艦 播磨

 

 

カテゴリーA→S+

 

修正理由:

 

 

大鑑巨砲主義の巨大な旧世代戦艦のイメージがあったが、主砲の強化及び暴走後の戦闘能力はSSランクとは言えなくとも、十分国家に損害を与えうる存在であることは言うまでもない。

 

 

超巨大攻撃機 フォーゲルシュメーラ

 

超兵器カテゴリーB→unknown

 

 

飛行タイプの超兵器であるが、不規則な動き且つ強力なレーザー主砲であるホバー砲を装備していが、装甲は薄く艦隊での対処により、比較的容易に撃破した。

 

しかしながら、強烈な上昇気流によって雷雲を発生させるなど超兵器機関の出力は高く、この世界に於いてどの様な強化が成されているのか現時点では不明である為、カテゴリーによる過小評価は極めて危険。

 

 

 

 

超巨大航空戦艦ムスペルヘイム

 

 

カテゴリーSS→unknown

 

 

横須賀での対峙の際は、何らかの理由で本領を発揮できない状態であった可能性が高く、重力砲の発射も無かったが、今後接敵の際は発射を考慮しなければならない。

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

「成る程…。今まで低ランクだった超兵器がカテゴリーAやSになったことは看過出来ませんね。もしかすると、カテゴリーC等の超兵器も事と次第によっては脅威になることを肝に銘じなければならなくなるやもしれません。」

 

 

「ええ…此方の世界では航空支援が受けられない事や、各国の足並みが揃っていないことも、超兵器の台頭を助長させていると考えるべきでしょう。」

 

 

 

「解りました。また何かあればご相談致します。」

 

 

「はい、いつでも。」

 

 

博士はそう言うと作業に戻って行く。

それを見送るシュルツの表情は優れなかった。

 

 

(此れから先は小細工が通じる相手はそう現れない。欧州解放…棘の道になりそうだな…。)

 

 

シュルツは、リストを博士の机の上に戻し、ラボを後にするのだった。

 

 

 

 

 



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第2章:前編 欧州のピンチ フェルカーモルトの欧州
保身性猜疑心


お待たせ致しました。

第2章です。

いち早く超兵器を撃退出来るよう善処して参ります。


それではどうぞ。



もし、目の前に誰しもを屈伏させられる兵器が有ったなら……

 

 

それを手に取れば状況を打開出来る兵器が有ったなら……

 

 

きっと人間は藁をも掴む思いでそれにすがるに違いない

 

 

それを手にする事で、いかに多くの血が流れるとも知らずに……

 

 

それ程までに過ぎ足る力は、人に取り憑き魅了する

 

 

だが人間は面白い

 

 

なんでも叶えてしまえる程の力であっても、それを手にする事を何より嫌悪する者達がいる

 

 

その者達はきっと、その兵器が悪魔の誘惑であると気付いているのだろう

 

 

過ぎた力が自らの身体を焼き尽くすと解っているのだろう

 

 

 

だが人類の大半は力の魅力に抗う事も、その術も知らない

 

 

 

 

過ぎ足る力の恐ろしさに気付いた者達の本当の敵は、強大な力を持った悪魔ではなく、それに取り憑かれた同族である人間なのだから………  

 

 

 

 

 + + +

 

 

「ヴェルナー……別れよう!」

 

 

「……え?」

 

 

ヴェルナーはその言葉に唖然とする。

シュルツはその様子に少し呆れた表情を見せるも再び真剣な表情でヴェルナーに続けた。

 

 

「やはり少し酔っているようだな……別れるとはつまり、艦隊を二つに分けて、東と西へ向かうと言う事だ」

 

 

「あっ、いや。そう言う事だったんですね……」

 

「他にどう解釈するんだ?……まぁいい。補給を受けたばかりの我が艦隊が一度硫黄島に戻り、再補給を受けたのはその為だ。明日には沖ノ鳥島付近まで南下するだろうから、そこで艦隊を二つに分ける」

 

 

「し、しかし艦隊の編成は以下になさるおつもりですか?」

 

 

「正式な発表は明日だが、お前には伝えて置こう」

 

 

 

 

シュルツは、艦隊の編成はを伝えた。

 

 

 

 

 

東方面に進む艦隊 

 

ウィルキア

 

 

 

双胴戦艦出雲

 

航空戦艦ペガサス

 

ドリル戦艦シュペーア(修理中)

 

ドッグ艦スキズブラズニル

 

艦長 シュルツ

副長 ブラウン博士

 

 

蒼き鋼

 

潜水艦イ401

 

大戦艦ハルナ

 

 

艦長 千早群像

副長 織部僧

 

 

 

ブルーマーメイド

 

 

はれかぜ

 

 

艦長 岬明乃

副長 宗谷真白

 

 

 

西方面に進む艦隊

 

ウィルキア

 

空母メアリースチュワート

 

御召し艦フンディン

 

 

艦長 ヴェルナー

副長 筑波

 

 

 

 

蒼き鋼

 

 

 

重巡タカオ

大戦艦キリシマ

 

 

 

艦長 知名もえか

 

 

 

 

ブルーマーメイド

 

 

 

沿岸警備船弁天

 

 

 

艦長 宗谷真冬

副長 平賀倫子

 

 

 

 

「以上の割り振りになる。フンディンは改装により、補給艦としても工作艦としても使えるし、弁天には、出力は控えめだが防壁も取り付けたから問題は無い筈だ」

 

 

「やはり、超兵器が分散を?」

 

 

「ああ、これを見てくれ」

 

 

 

シュルツはタブレット端末をヴェルナーに手渡した。

 

 

「これは、世界での超兵器の目撃情報や、艦船が行方不明になった箇所をまとめてありますね。主に欧州や大西洋に集中していますが……」

 

 

「見事に黒海とバルト海に分かれている。同時多発的に攻撃を開始されては打つ手がない。それに気になる事もある」

 

 

「気になる事?」

 

 

「超兵器分散のタイミングだ。艦隊の欧州派遣は当初より確定していた、このデータは我々が播磨を撃破し、本格的に欧州に向かう事を公言したタイミングで発表された。即ち超兵器は¨敢えて姿を晒し¨て我々を欧州に釘付けにしたい理由があると見ている」

 

 

「成る程……ヴォルケンクラッツァーですね?」

 

 

「うむ。宗谷副長が見たと言う北極海で撮られた写真に写っていた巨大艦は、間違いなくヤツだろう。そして恐らく、今は調整中と思われる」

 

 

「では、今こそ北極海のヴォルケンクラッツァーを叩くべきでは?」

 

 

「お前の言うことは尤もだ。たがそう上手くはいくまい。先程も言ったな、超兵器は我々が欧州に向かう事を¨公言したタイミング¨で動き出した……と」

 

 

「まさか……!」

 

 

「内通者の存在を疑わざるを得ないだろう。それも恐らく¨ブルーマーメイド¨の誰か……だな。多分我々が北極海に向かった時点で、¨人質¨である北米たいりくや欧州の人々を虐殺するというメッセージなのだろう」

 

 

「まさか岬艦長ですか?彼女は超兵器と何らかの¨絆¨があると……」

 

 

「一理あるな。だが可能性の一つに過ぎん。現に私も超兵器との絆の一つとして奴等の声を聞いた事がある」

 

 

「え?」

 

 

「【もっと破壊したい もっと殺したい 軍人のお前もそうなのだろう?】そう語りかけてくるんだ……だが否定した。そんなのは許容出来る筈もない!」

 

 

「………」

 

「きっと岬艦長も同じな筈だ、それに401もな。だから奴等の誘惑を拒絶出来たんだと思う。そう言う意味に於いては、¨死と破壊を拒絶する確固たる意思¨が超兵器との絆への最終防壁として機能するんだろう。だとすると、超兵器へと内通する者の条件となるのは――」

 

 

「超兵器と何らかの形で関わり、且つ惨劇への拒絶意志が薄いブルーマーメイドの誰か……ですか?」

 

 

「そうなるな。だがブルーマーメイドと迂闊に事を構える訳にもいかない以上、正面切って調べるわけにもいかん。よってこの件は蒼き鋼と共同で調査し、暫くは宗谷室長には報告は上げない。疑いが晴れた時点で協力に回ってもらう事になるだろう」

 

 

 

「その件は了解しました。しかし、そうなってくると欧州に出没する超兵器は必然的に高出力艦である可能性が高まりますね」

 

 

「そうだな……若しくは、航空戦力がない現世界に於いてであるなら、航空機型超兵器か、空母能力を有する超兵器の存在も無視できん。そして恐らく¨アノ3隻¨の内のどれかは必ずいる」

 

 

「超兵器ムスペルヘイム テュランヌス そして…リヴァイアサン」

 

 

「超兵器級の中でも特に異質な連中だ。【破壊を義務とする存在】である超巨大航空戦艦ムスペルヘイム テュランヌスそして、【破壊そのもの】である化け物…超巨大航空戦艦リヴァイアサン…対地・対空・対艦・対潜と全てに壊滅的な攻撃が可能な艦であり、速力防御も高く航空戦力もある。正に超兵器を束ねる超兵器として、この世に災禍をもたらす忌むべき存在だ。もし対峙することになれば必ず沈めなければならん」

 

 

「茨の道になりそうですね……」

 

 

「元より覚悟の上だ。お前達は、インド洋を抜けスエズを目指せ。地中海に出れば、内通者に動きが有るだろう」

 

 

「超兵器の配置が変更されると?」

 

 

「恐らくな……まとめて東に艦隊を進めた場合、分断に効果的な超兵器の配置は、バルト海と黒海に超兵器を配置することだ。だが艦隊を2手に分けた場合、スエズを通るお前を確実に潰し、我々との合流を防ぐ為に、地中海と大西洋を繋ぐジブラルタル海峡付近にも超兵器が配置される可能性が高い」

 

 

「厄介ですね……黒海に向かう我々を挟撃、ジブラルタルに向かえば、黒海の超兵器が近隣を蹂躙……更に私の艦隊の撃沈に成功すれば、北海からバルト海に向かう艦長達を挟撃……実に合理的です。逆に全員で東に向かった方が良いのでは?」

 

 

「それではスエズからの超兵器によるアジアへの侵攻を止めることは出来ん。イタチごっこになってしまう。極めて危険度の高い賭けだが無策ではない。それも蒼き鋼と極秘に話を進める事になるだろう。決して作戦を気取られぬよう注意してくれ。」

 

 

「了解しました。しかし艦長。弁天の武装は――」

 

「心配するな。既に準備済みだ。博士と刑部蒔絵、そしてヒュウガが新型の防壁を開発し取り付けも完了している。電磁防壁と防御重力場を合わせた、超重力電磁防壁と、局所的にクラインフィールド発生させる簡易装置も取り付けた」

 

 

「準備は万端……と言うわけですね」

 

「そう言う事だ」

 

 

 

 

シュルツは、再び海を眺めた。

 

 

 

「ふぅ…明日からまた忙しくなるな……」

 

 

 

   + + +

 

 

その頃、陸ではもう一つの戦いが幕を開こうとしていた。

 

 

 

「ふぅ……いよいよか」

 

 

 

 

大湊は目の前を見つめ、翻訳ヘッドホンとマイクを装着すると同時に部屋が暗くなり、直後に複数の画面が空中に表れる。

 

 

最後に現れたモニターに映る。黒人で白髪頭の老人が話を切り出した。

 

 

 

 

『それでは始めますかな。その前にこの映像は各国首脳も拝見している。これは世界にとって重要な会議であることを各国とも自覚した上で嘘偽り無く発言して貰いたい。宜しいですな?』

 

 

『『異議無し』』

 

 

 

 

白髪頭の老人、即ち国連事務総長のロバート・クレメンスの釘を刺す発言に各国首脳も肯定の返事を返す。

 

 

 

 

 

クレメンスは、それを確認すると、早速議題に入った。

 

 

 

 

『さて、皆さんがご存知の通り、世界は今重大な脅威に曝されている。謎の大型兵器群……即ち【超兵器】によって世界中の多くの人命や財産が失われた。これは、平和に対する重大な挑戦である。我々は超兵器を最も強い言葉で非難し、これを排するものである。異議はないか?』

 

 

 

 

 

『『異議無し』』

 

 

『うむ……まずは超兵器への非難に関する議案を全会一致で可決する。次に超兵器に対抗する手段についてだが――』

 

 

『事務総長』

 

 

 

 

挙手をして発言を求めたのはロシアの大統領ヨシフ・アリャドフだ。

 

 

 

『この度の襲撃、は正に虐殺に等しい行為である事は言うまでもなく極めて遺憾だ。しかし、私が更に遺憾と思うのはブルーマーメイドだと思うのだよ。彼女達は、海の安全や海より自国へ害をなさんとする存在から、国土を守るために組織されたのだろう?今回の一件で彼女達がその役割を充分発揮したとは言い難い。やはり、自国の民を守るためには、軍備を増強することが急務であると考えるのだがね』

 

 

『私も同感だ』

 

 

 

意外にもロシアの意見に賛同したのはアメリカだった。

 

 

 

その70代位で体格の良い風貌のアメリカの大統領ハワード・フィリップ・トランスは、モニターに映る、60代位の銀髪の女性、国際ブルーマーメイド連合の代表者である、クリスティアーネ・アスペルマイヤーを睨み付ける。

 

 

 

『全く……決まりとはいえ、自国に展開するブルーマーメイドの活動経費の約75%を国費で賄わなければならない決まりがあると言うのにこの体たらくでは損失でしかない……もし私に権限があるなら、君達に一言【クビだ!】と怒鳴り散らしたいくらいだ』

 

 

 

 

 

アスペルマイヤーはトランスの言葉にあからさまに苛立った表情を浮かべる。

 

 

 

『確かにブルーマーメイドは、元々海軍力に秀でた国では、そもそも無意味な存在ではありました。だが、彼女たちの存在が軍拡競争を抑制し、戦争の芽を積んできたことは確かでしょう。経済の停滞やテロ組織の横行でで各国の極派が勢い付いていたのは承知している。超兵器の襲撃で更に勢いが増すことは必定だ。超兵器打倒後に、世界対戦が起これば、それこそ文明レベルが100年は後退しかねない。それを抑止するためにはやはりブルーマーメイドには存在してもらわなければ困る』

 

 

 

 

 

 

ブルーマーメイドの存在をある意味否定とも肯定とも取れる発言をしたのは欧州連合代表のアーサー・オズワルドだった。

 

 

その言葉に不満があるのか、トランスは屋外にいたなら唾を吐き捨てそうな程あからさまに不機嫌な表情になる。

 

 

 

その表情に親米で知られる大英帝国首相のロナルド・オーデンや最近、保守派の政党に議席を圧迫されつつあるフランスの大統領サミュエル・ジョブワは複雑な表情を浮かべた。

 

 

 

 

 

『静粛に!今は、特定の組織を非難する暇はない!超兵器打倒の糸口について話し合わなければならない』

 

 

クレメンスが注意を促し、場が静まり返る。

 

 

 

その様子を確認したクレメンスは続けた。

 

 

 

 

 

 

 

『今回の超兵器の襲撃と時を同じくして現れたという二つの異世界の艦隊についてだが…これは初めに接触した日本の大湊首相に話を聞いた方が早いな。大湊首相、頼めるかね?』

 

 

 

「お答えします」

 

 

 

 

 

場の視線が自分へと集まって来て、大湊はふぅと息を吐いた。

 

 

 

 

「既に各国の皆さま方には国連を通じて資料を伝えてありますので大まかにはご存知かと思いますが。彼らのうち、ウィルキア共和国の軍人の方は、かつて超兵器と対戦した経験もあり、技術も我々より遥かに上です。世界を超兵器の脅威から救うには、彼等の協力は必要不可欠かと…。これから超兵器戦での彼らの戦いを記録した映像をお伝えします。それを見ていただければおのずと解るでしょう」

 

 

 

 

 

大湊の秘書は記録映像をパソコンに接続し、各国のモニターに超兵器達との戦いが写し出された。

 

 

『ほぅ……これは』

 

 

『素晴らしい!』

 

 

 

 

様々な反応がおこる。

 

 

 

 

 

「ご覧の通り、単艦で国家を揺るがしかねない力を持つ超兵器と拮抗する戦力は、現在世界では彼等しかいない。各国の皆様には今正に欧州に向かっている彼等の補給活動を支援していただきたい」

 

 

『ちょっと待ってくれ』

 

 

 

 

トランスが切り出した。

 

 

 

 

(やはり来たか……)

 

 

 

 

『この映像を見る限り、彼らの船舶を日本のブルーマーメイドの隊員が乗艦して使用しているようにも見えるが?』

 

 

「その通りです。彼女達は最初に彼等と接触した。故に政府と彼等との橋渡し役になってもらったのです」

 

 

『そんなことを聞いてるんじゃない。私が言いたいのはね。日本が超兵器と拮抗しうる彼等の戦力を¨保持して使用している¨のかと聞いてるんだ。これは、超兵器以前に脅威な事だと私は思うがね』

 

 

 

『極めて遺憾だ!』

 

 

 

声を荒げて口を挟んできたのは、中国の国家首席 黄栄九だった。

 

 

 

 

『彼等は、100年前の旧日本軍時代における軍国主義を今なお踏襲し続けており、我が国は日本の過剰な武力の保持と、我が国を含めた周辺各国に対する、下劣且つ挑発的な暴挙に断固反対する!』

 

 

 

 

『その通りだ、日本は現在保持している戦力を即時国連に譲渡、管理を委任するか、各国にその戦力を等分配することを強く要求する。また同じく、異世界艦隊の処遇に於いてもその兵器データを国連に提出し、然るべき協議の後に各個管理され供与されるべきである』

 

 

『日本と異世界艦隊の間に何か癒着があるのでは?超兵器打倒後も日本が異世界艦隊の兵器データを保持していた場合、これは世界にとって重大な脅威足り得る。フランスは日本に全ての防衛データの開示を要求する』

 

 

 

 

アリャドフやジョブワも、日本の戦力の破棄と異世界艦隊の兵器技術の供与を求めてきた。

 

 

誰が見ても大湊は追い込まれている。

 

 

こうなることは、エドワードが大湊を訪れたときに既に解っていた。

 

故に¨準備¨は抜かりはない。

 

 

 

 

 

『貴国らの言うことは至極もっともだが、一つ忘れていないか?彼等の艦に乗っているのは確かに日本人ではある。しかし彼女達はブルーマーメイドだ。日本が自衛の為に組織している自衛隊ではないのだよ。多種多様な海洋事情に即座に対応するために、加盟国に支部を作り政府と連携こそあるが、飽くまでブルーマーメイドに属している艦船の所属は国家ではない。即ち、¨国籍の無い艦船¨なのだから、彼女達がこの世界のどの国にも属していない艦船に乗ることは、ある意味妥当であると言える』

 

 

 

 

 

ドイツの首相ミハエル・ラングラーは、ブルーマーメイドの異世界艦隊への参加を認める発言をした。

 

 

 

至極もっとな意見に首脳陣も怯む。

 

 

 

大湊はこの会議に望む前、ドイツと協議を行い対策を練っていた。

現在、ドイツと日本は非常に親密な関係を築き上げている。

 

 

しかし、最初から親密であったわけではないのだ。

 

 

日露戦争終決後各国の圧制により、軍備の更なる拡張に難航した日本は、ブルーマーメイドにドイツより先に加盟することで列強各国の圧制を緩和することに成功。

 

 

 

そしてその後勃発した第一次世界大戦ではドイツと日本は敵同士となった。

長期化した戦争の終決は意外にもドイツのキールで発生した水兵の反乱であり、呆気なく大戦は終わった。

 

 

 

 

しかしドイツは、密かにポーランド侵攻を企てており、思想の近いイタリアと工業技術力の高い日本にも、占領した資源の一部を譲渡することを条件に同盟を結ぶよう打診する。

 

 

 

緩和されているとはいえ、未だ列強の風当たりの強い日本にとっては、資源の確保は急務であり、ドイツからの申し出は正に天からの恵みであったことは確かだろう。

 

 

 

国会に於いても、陸軍出身の首相がしきりに列強各国に撃ってでようと等と言う狂弁がまかり通るくらいだ。

 

 

 

しかし、それに立ちはだかったのは、日本ブルーマーメイドの母たる宗谷セツである。

 

 

 

彼女は、夫であり海軍に影響力を持つ宗谷厳冬に働きかけ、ドイツに同調する一部の海軍上層部の動きを押さえた。

 

 

 

海軍の同意なしに敵地に乗り込む事が出来ない陸軍は、足踏みを余儀無くされる事になる。

 

 

 

日本との同盟に失敗し、勝算が見込めなくなったことにより、イタリアもドイツとの同盟に難色を示した。

 

 

 

これによりドイツのポーランド侵攻計画は頓挫し、さらに国連がその下部組織であるブルーマーメイドの本部をキールに置きブルーマーメイドに半ば強制的に加盟させることで動きを封じ込め、第二次世界大戦の勃発は阻止されたのである。

 

 

 

 

 

尚、国連がブルーマーメイドを使ってその後各国の軍拡競争の抑制や過剰な戦力の没収、国の軍事に介入を開始したことにより、航空技術に力を入れていた各国は、技術の流出を恐れ、航空機や空母の図面を破棄。結果として航空技術の停滞を招いた事はまた別の話だ。

 

 

 

 

話を元に戻そう――

 

 

 

国連やブルーマーメイドの監視が強化されたことにより、日本と同様に他者の圧制に苛まれる結果となったドイツに対し、日本同様に工業技術が発達している彼の国に対して、 政府は工業技術の交流を申し出た。

 

 

 

国連の監査を受けつつ、建設機械や工作機械等々の技術を交換した両国は、軍事技術に投入される筈だった予算を工業製品に投入。

 

 

 

結果として軍事力に頼らざるを得なかった、列強よりも先んじて経済を発展させるに至ったのである。

 

 

 

それ以来両国は、互いに親密な関係を築き、今日に至るわけであった。

 

 

 

 

 

 

しかし、今のドイツの立場で出来る援護射撃はこれが限界だった。

 

 

 

勿論大湊も完全にドイツに頼りきっているわけではない。

 

 

 

飽くまでラングラーの発言は各国の非難ラッシュを一度止めるための布石でしかないのだ。

 

 

 

本当に日本を救うべく大湊が連絡を取っていた人物、それは――

 

 

 

 

 

『各個の皆さんは誤解されているようですね』

 

 

 

話を切り出したのは、今まで一言も言葉を発していなかった国際ブルーマーメイド連合の代表、クリスティアーネ・アスペルマイヤーだった。

 

 

 

『日本はブルーマーメイドの規定に従い、異世界艦隊の兵力を¨提供¨する為に、ウィルキアや蒼き艦隊を欧州にあるブルーマーメイド本部に¨案内¨する任をワザワザ引き受けてくれたのです。勿論、日本支部のブルーマーメイドにその任を託したと¨事前に¨国連とブルーマーメイド本部に連絡を貰っている。その上で、その途中に超兵器と接敵した場合は、それを撃破する許可も既に取ってある。よって今回の件で各個首脳の皆さんが日本に抱く懸念には当たらないと断言しておきましょう。そうですね?事務総長』

 

 

 

『勿論だ。異世界艦隊との友好的関係の構築とその迅速な国連への連絡や行動は、一刻を争うこの状況に際しては賞賛に値すると言わざるを得ない。それで……だ。先の映像から超兵器を世界を壊滅しうる脅威として世界各国で協力して対応に当たると共に、超兵器に対抗しうる異世界艦隊を、海洋事情に長けている国際ブルーマーメイド連合預かりとし行動することを皆さんに提案したい。どうだろうか?』

 

 

 

 

 

先のアスペルマイヤーの言とクレメンスの提案に各国は悔しさや苛立ちを滲ませる表情を浮かべる。

 

 

 

しかし、至極真っ当な提案だけに、迂闊に否定すれば超兵器打倒後の自国の立場が低くなる可能性も十分有る為、提案は全会一致で承認される事となった。

 

 

正直なところ、国連や国際ブルマー連合と日本は親密な関係を築いているわけではない。

 

 

 

しかし大湊は、近年経済の停滞やアフリカ大陸で横行しているテロ組織との対応で、各国のタカ派や保守的な政党が支持を伸ばし、国連決議の遵守がいまいち励行されない事態が続き、国連やその下部組織である国際ブルマー連合の存在意義が薄れてきている事態に気付いていた。

 

 

 

 

そこで今回の超兵器の出現である。

この件でリーダーシップや結果を捻出する事が出来れば、組織の体制は盤石となるのは必定だったからだ。

 

 

 

故に互いの利害の一致を感じ取った大湊は、異世界艦隊との接触後すぐに、国連に対してブルーマーメイド主導での超兵器打倒と、日本がその戦力を保持しない確約を既に済ませていたのである。

 

 

 

 

更に大湊は続ける。

 

 

 

 

「因みに彼等は、この世界に新たな軍拡競争を起こさない為、彼等の所持している兵器の詳細を、如何なる国家にも提供はしないと断言している。しかしながら、超兵器打倒にはブルーマーメイドだけでなく各国の協力が必要不可欠であるという認識を示していた。故に、彼等の所持している航空迎撃システム及び、光学兵器をある程度無効化できる防壁を、連合を通じて各国に提供すると、我が国との会談で明言している。この案件が会議で承認されれば、直ぐに異世界艦隊から国連や国際ブルーマーメイド連合に情報が提供されるだろう」

 

 

 

 

『異世界の最新鋭迎撃システムが手に入るとは願ってもない。民間人の生命を守る上では拒否する理由がない。皆さん如何かな?』

 

 

 

 

 

各国首脳陣は渋い顔を覗かせた。本来求めている強力な兵器の情報を得ることが出来なかった事が納得出来ないようだ。

 

 

 

しかし、航空機の迎撃の技術の無い現世界に於いては、ウィルキアの迎撃システムは必要不可欠である事は間違いない。

 

 

 

 

故に首脳陣の答えは――

 

 

 

 

 

『『異議なし……』』

 

 

 

 

その答えに納得したように、クレメンスが会議を締めくくった。

 

 

 

 

 

『了承して頂けて何よりだ。超兵器の影響で世界には予断を許さない状況である事から、防衛に関する情報は速やかに提供するよう異世界艦隊には要請を行う。此にて会議を終了する。世界に健やかな明日が訪れん事を……』

 

 

 

 

 

 

クレメンスの言葉に目の前のモニターに写し出された各国首脳陣の顔が次々と消えて行き、大湊は深い溜め息をついた。

 

 

 

彼の表情には未だ曇が見て取れる。

 

 

 

 

その理由は直ぐに訪れたのだった。

 

 

 

 

プルルルルル!

 

 

 

電話の呼び鈴が鳴る。

 

 

 

 

(来たか……)

 

 

 

 

大湊は受話器をとった。

 

 

 

 

『やぁ大湊君!先程は各国に対する見事な対応を見せてもらったよ。本当に御苦労様だった』

 

 

 

「恐縮ですトランス大統領」

 

 

 

 

電話の相手は、アメリカのトランスからであり、厚顔不遜の態度を微塵も隠そうとしない彼の声に、大湊は疲労感を覚えた。

 

 

 

 

 

『国連の規定したルールに従う、その従順さには賞賛を送ろう。……しかし、私は君に失望したよ』

 

 

 

「………」

 

 

『アメリカと日本は、重要なパートナーだ。言わば¨TOMODACHI¨な訳だ。それなのに、私に一言も相談も無く、国連や国際ブルーマーメイド連合に相談とは頂けないな。いいかね?これはアメリカにとって最高のビジネスチャンスなのだよ。異世界艦隊の技術の全てが我が国の物となれば、名実共にアメリカが世界で実権を握ることが出来る。恐れをなした世界中の国々が、我が国の商品を高値で買ってくれる訳だ。だって誰しも自分の生活を焼き尽くされたくはないからね』

 

 

 

 

「ブルーマーメイド連合がそれを容認するとは思いませんが?」

 

 

『はぁ……君ね、わざわざ我が国の手を煩わせる気かね?ブルーマーメイドに気取られずに、異世界艦隊の情報をこちらに提供するのは君達日本の役割なのだよ。なにせTOMODACHIなんだからね。……まぁいい。いずれにせよ我が国をうろつく人魚共を駆逐しないことには話にならないしね。よし解った!異世界艦隊にハワイに寄って貰い、我が国の艦隊に中を¨見学¨させてやってはくれないかね?航路上の何も問題から気取られる心配もない。近日中に本国から艦隊を派遣するから、君はハワイに駐留する人魚どもを何とかしてくれたまえ』

 

 

 

「しかし……」

 

 

『しかし……ではない!いいかね?君達の国は大半を我が国からの輸入に頼っているんだ。君達の国に輸出する製品を値上げし、我が国に輸入する君達の製品に高い関税をかけてもいいのだよ?勿論各国に呼び掛けて君達日本に経済的圧力をかけることも可能だ。どうかね?大湊君』

 

 

「……善処致します」

 

 

『そう!そうだよ!それでいいんだ。今後とも【日本は我が国の従順なる消費者】として共に歩めることを期待しているよ。何せTOMODACHIだからね。HA HA HA!』

 

 

トランスの耳をつんざくような下品な笑い声に耐えかねた大湊は、受話器を置いた。

 

 

 

(クソ!【柿も青いうちはカラスもつつき申さず候】……か。美味しく熟したから寄ってきたと言う訳だ)

 

 

 

 

大湊は心の中で舌打ちをした。

 

 

 

苛立ちが顔に出ていたのだろう。秘書が気まずそうに声をかけてきた。

 

 

 

「総理、この後の予定ですが……」

 

 

「ああ、解っている」

 

 

 

ここの所、大湊はろくに眠る暇もなかった。

 

 

 

対策本部にて襲撃を受けた横須賀で活動を続ける公的な機関への指示。

 

 

そして今回の襲撃の直後から、政府の対応を質すという大義名分の下に、内閣不信任案の提出を視野に攻勢を強めつつある野党に対する対応。

 

 

 

 

そして、先程のアメリカからの圧力。

 

 

問題は山積していた。

 

 

 

中でも大湊がアメリカの問題に次いで懸念している問題は、与党内のタカ派の抑え込みである。

 

 

 

 

現防衛大臣の早稲田朋子は、以前より自身の講演会で――

 

 

 

 

《国民の一人ひとりが自分の国は自分で守る。そして自分の国を守るためには、血を流す覚悟をしなければならない!》

 

 

 

《靖国神社というのは不戦の誓いをするところではなくて、¨祖国に何かあれば後に続きます¨と誓う聖域でなければならない!》

 

 

 

《真のエリートの条件は、いざというときに祖国のために命をささげる覚悟がある事。そういう真のエリートを育てる教育をしなければならない事は急務であり、靖国に行って人殺しの戦争に参加することを誓い、さらに国のために命を捧げる。これこそが真のエリートの条件である!》

 

 

《教育過程若しくは22歳未満の全ての国民を対象に、約一年から二年の自衛隊への仮入隊を義務付けるべき!》

 

 

 

 

などの過激な愛国発言で知られる軍国主義の人物だ。

 

 

勿論、普通なら相手にもされない人物ではあるのだが、彼女には強力な後ろ楯が存在する。

 

 

かつての総裁選で前首相であった國枝と争い、現在は与党の幹事長のポストに座っている、安芸晋一郎である。

 

 

 

 

安芸は、國枝の経済と雇用に対する問題の対応に真っ向から対立しており、諸外国に対する強気の対応と、ブルーマーメイドへ支払う事になる予算の削減を公約に掲げている。

 

 

狙いは勿論、大湊を失脚させて早稲田を次期総理大臣に担ぎ上げ、自身も重要閣僚に就き政権を掌握する狙いがあることは明らかだった。

 

 

 

 

場合によっては、離党と野党のタカ派を集めた新党の結成も視野にいれていると思われる。

 

 

 

この¨大湊降ろし¨が吹き荒れる中で、野党からの内閣不信任案が提出されれば、重鎮と言われる安芸の一声で一気に大湊は窮地にたたされるだろう。

 

 

議会の解散による総選挙

 

 

 

または、大湊の辞任による総裁選

 

 

 

いずれにせよ、横須賀の復興や経済の不満が高まる中での国政の空白は、諸外国へ隙を見せる行為であることは明らかだ。

 

 

 

 

そして仮に、安芸や早稲田が率いるタカ派が政権を掌握したとして、なんの準備も無いまま世界に撃って出ても返り討ちに遭うのが関の山だった。

 

 

大湊は内心、国内外での公人の対応にあきれ果ている。

 

 

トランスにしても安芸にしても、行っているのは自身の権力や利益上昇と自己保身であるからだ。

 

 

だがそれは、飽くまでも¨明日が訪れれば¨という前提があるからだろう。

 

 

 

しかし、異世界艦隊からもたらされた情報や超兵器戦での映像を見た大湊は、¨明日¨という単語を恐らく世界で最も疑問視している人物であるに違いない。

 

 

 

 

(全く……平和ボケもいいところだ)

 

 

 

 

大湊は心の中で悪態をつくと、まず対策本部へと向かう。

 

 

 

 

その後はいよいよ正念場である、与野党の代表が集まる委員会に出席する事が決まっていた。

 

 

既に野党は、大湊降ろしの兆候を察知しており、内閣不信任案の提出をちらつかせながら、自らの政党の要求を突きつけ、それを呑ませた上で内閣不信任案を提出、そこで事実上大湊降ろしの流れも完成である。

 

 

 

 

 

その中で大湊が考えうる最も最良な結果とは、【野党の要求を呑まず、且つ内閣不信任案の提出を阻止】する事であった。

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

 

針の穴を通す様な状況に、大湊は溜め息をつき席を立った。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

対策本部にて、公的機関への指示を行った大湊は、与野党の党首達が集まる委員会に出席していた。

 

 

 

 

心なしか、周囲の人間達がほくそ笑んでいるようにも見える。

 

 

 

大湊と首相の右腕である官房長官の石井利晴を除いた全員が、彼の退陣を願う者ばかりであり、この場に大湊を支持する者は一人も存在しなかった。

 

 

 

実際はこのような状況になった時点で¨詰み¨であろうが、大湊には事態を打開する切り札が存在した。

 

 

負けるわけにはいかない。

 

 

何故ならここで野党や幹事長の安芸の顔を潰せば、与党に勢いが付くばかりか、安芸派の議員と、まだ支持を決めかねている与党議員の支持を纏めて得られるからである。

 

 

 

「それでは委員会を始めましょう」

 

 

 

石井が切り出すや否や、早速野党が牙を剥いた。

 

 

 

 

「総理!今回の超兵器襲撃の政府の対応の甘さについて明確に回答を伺いたい!」

 

 

「そうだ!異世界艦隊の力が無ければ。この国は焦土化していたかもしれないんだ!これは今まで自国の防衛費をブルーマーメイドに割いてきた政府の怠慢意外に他ならない!最早総理には、亡くなった方への責任取る覚悟すら無い!総理は議会を解散し、自ら国民に自分の愚行に対する信を問うべきだ!」

 

 

「もし拒否されるなら、我々が国民の民意を代表して現政権に対し、不信任決議案の提出を断行せざるを得ない!」

 

 

野党は次々と罵声や野次を飛ばして大湊を追い詰める。

 

 

 

そして、今度は本来味方であるはずの閣僚からの攻撃が開始された。

 

 

 

 

「残念ながら敵の戦力に対し、ブルーマーメイドは無力であったことは認めましょう。しかし、それは我が国の責任ではなく飽くまでも我々にろくな防衛力を与えようとしない列強各国や国連、そして国際ブルーマーメイド連合の責任です!本来、我が国の技術力は列強と比較しても遜色なはないと私は明言出来ます。故に、総理の様にブルーマーメイドに予算を割かず、自国に強力な軍が存在すれば超兵器だけではなく、列強各国からの圧制から脱却出来ると言えるでしょう!」

 

 

 

 

「それは総理の退陣と言うことに聞こえるがよろしいか?」

 

 

 

「そうは言っていません!話をすり替えないでください!私はやり方を代えれば、日本はまだまだ成長の余地があると言ってるんですよ!」

 

 

 

 

 

早稲田は野党の批判を否定しつつも、大湊の政策を否定する。

 

 

 

 

大湊は、この期に及んで現状を把握していないこの議会そのものに失望を覚えた。

ただでさえ時間がないのに、これ以上無駄な話を聞きたくはない。

 

 

 

 

故に大湊は、仕掛けた。

 

 

 

 

 

 

「ふぅ……まず皆さんにこれを見ていただこうか」

 

 

 

大湊は、秘書に資料を配らせた。

 

 

一同はその内容を見てどよめく。

 

 

 

 

「ば、馬鹿なっ!たった一隻で世界各国の数千の軍艦を一瞬で……」

 

 

 

「で、出鱈目だ!こんなの嘘に決まってる!」

 

 

「嘘だと思うなら、後でウィルキアから提供された映像をお渡ししよう。調べてもらっても構わない」

 

 

 

 

辺りは静まり返る。

 

 

 

 

「皆さんにお伝えしたい。横須賀を壊滅させた超兵器や、小笠原諸島に現れた超兵器はこれの足元にも及ばない。通常の超兵器が単艦で国一つを相手に出来る力が有るとして、この超兵器は単艦で世界を相手に出来る力を持っている。政権や軍事力は最早なんのアドバンテージにもならない。その時、失われるであろう国民の生命の責任を一体誰が取るおつもなのでしょうか?政権交代した野党の党首のどなたかですか?それとも私の変わりに首相になる与党の誰かですか?ならむしろとって頂きましょう。もし本当に明日が訪れればの話ですが――」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

一同はなにも言い返す事が出来なかった。所詮は、自分の権力を振るいたいだけの烏合の衆であり、いざ現実を目の当たりにすると自己保身しか出来ない集団。

 

 

正にこれが国家の中枢の現状であった。

 

 

 

 

「いいですか?現状を打破しうる力を有しているのは、異世界艦隊とその管理権限を有するブルーマーメイドなんですよ。我々日本の役割は、最初に異世界艦隊と接触した国として、彼等と各国との橋渡し役をリーダーシップをもってきちんとこなす。これこそが国内外で支持を伸ばし、生き残る唯一の手段です。皆さんには、ブルーマーメイドへの支援に際し、予算の計上の審議においては建設的な対応を日本の最高責任者としてお願い申し上げる次第であります。そして誠に遺憾ながら、皆さんには拒否権は無い。理由は異世界艦隊の外交官よりもたらされた資料だ。彼等は既に、その驚異的なハッキング能力で、我が国を含めた全世界の防衛情報とスキャンダルを掌握しており、超兵器打倒に協力していただけない場合はその公開も辞さない考えだ」

 

 

「そんな…それは脅迫では――」

 

 

「は、ハッタリだ!」

 

 

「嘘ではないし、たとえ脅迫でも、もし公開されれば与野党を問わず国民の信頼を失い議会は死ぬ。嘘ではない証拠に異世界艦隊の外交官から私の手元に、全ての防衛情報とスキャンダルがまとめられた資料が届けられた。ここは彼等に従うしかない。だが、我が国の情報を他国やブルーマーメイド連合に譲渡しない代わりに、支援や超兵器の情報提供をすることは確約させた」

 

 

 

 

「し、信用できない!」

 

 

「なら、私の呼び掛けで各国に彼等に対する食料の補給を絶つように要請するまでだ。何せ彼等には帰るべき国がない。永遠に海の上にいるわけにはいかない以上、必ず食料だけは必用になる」

 

 

「な、成る程……」

 

 

「お分かり頂けたかな?では次回開かれる予算委員会では、与野党を問わず、採決に協力していただくようお願い申し上げる。私からは以上」

 

 

 

 

「他に質問や異議は?無いようならここで委員会を終了します」

 

 

 

 

 

石井が会議を締め、早稲田や野党党首陣は面白くなさそうに退出していく。

 

 

 

大湊の秘書が、心配そうに駆け寄ってきた。

 

 

 

 

 

「いかがでしたか?」

 

 

「まぁまぁかな。少なくともしばらくは大人しくしてくれると思うよ」

 

 

「そうでしたか……よかった……」

 

 

 

秘書は安堵の表情を見せたのに対し、大湊の表情は優れない。

 

 

国内の反対勢力を押さえても、アメリカをはじめとした列強の動きはそう簡単に止められるとは思えなかったからだ。

 

 

 

 

 

 

「【その思念の数はいかに多きかな。我これを数えんとすれどもその数は沙よりも多し】か……」

 

 

「何です?」

 

 

「いや、何でもない」

 

 

 

 

大湊は席をたち、窓の外を見つめた。

 

 

(結局、超兵器にしろ各国への対応にしろ、彼女らに運命を委ねるしかないのか……。あの【呪われた子】にも――いや、彼女に呪いをかけたのは我々なのかもしれん……)

 

 

 

外は、大湊の不安を表すような、曇天が広がっていた。




お付き合い頂きありがとうございます。


まるで全く別の作品になってしまったかのように、はいふりのメンバーが出てこない状況になってしまいましたが、次回は登場していきます。


それではまたいつか。








とらふり!


ヴェルナー
「何で先輩の艦隊ばかりまともな人の割合が多いんですか!こっちは変態ばっかりですよ!」




もえか
「その変態に私もはいっていると言うことですか?」



ヴェルナー
「い、いや知名艦長はまだ……特に黒い艦の艦長とそして…クマですね」



真冬
「畜生!何でこっちには尻の固そうな野郎ばっかりいやがんだ!こうなったら…知名でするか…いや平賀か、タカオも捨てがたい…ヒッヒヒヒ」


キリシマ
「はっはっは!見よ!この洗練された私の肉体を!」



タカオ
「クマじゃない……」


ヴェルナー
「ほらぁ~!」


シュルツ
「良かった…これで平和に過ごせそうだ」



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血の盟約      …Unidentified ship

お疲れ様です。

新年度一発目です。なかなか執筆にとれる時間が無くなってきてはいますが、何とか頑張っていきます。


それではどうぞ


   + + +

 

デンマーク カテガット海峡

 

 

インディペンデンス級戦闘艦【ノイッシュバーン】

 

 

 

 

そこにはかつて、明乃達と一時的に行動を共にした仲間がいた。

 

 

 

その内の一人、金色の髪の女性、ヴィルヘルミーナが言葉を切り出す。

 

 

 

 

「艦長、超兵器は今……」

 

 

 

 

ヴィルヘルミーナに艦長と呼ばれた小柄で銀色の髪の女性テア・クロイツェルが答える。

 

 

 

 

「恐らくバルト海にいるんだろう。キールに対して特別攻めてくる訳でもなく、かと言って接近した艦艇は撃沈する。あの近辺で、船舶が消息を絶つのはそれが原因だろう」

 

 

「欧州の各国も、最初の襲撃でかなりの被害を受けました。この間立ち寄った港だって、あんなに滅茶苦茶に……。艦長、私たちは一体どうすれば――」

 

 

「余計な事を考えるなミーナ。私達はブルーマーメイドだ。海や港湾施設を侵略者から防衛し、民間人の被害を食い止める。今はその事に集中するんだ」

 

 

「解りました……次の寄港地は何処ですか?」

 

 

「ヴィルヘルムスハーフェンだ。その後オランダのアムステルダム、そしてイギリスのプリマスのブルーマーメイド合同艦隊と合流し、北海に接近する超兵器を牽制、その後異世界艦隊と合流し、キールにて体制を立て直してバルト海に居る超兵器を撃破、欧州の制海圏と安全を確保する。あそこを新たに侵入してくる超兵器に抑えられれば、事実上ドイツは、バルト海に展開する超兵器と挟み撃ちにされ、キールに本部をおく国際ブルーマーメイド連合は壊滅、指揮系統の麻痺した世界は滅亡へと向かう。これ以上の犠牲は御免だ」

 

 

「いよいよ来るんですね?明乃達が……」

 

 

「6年前も今も、明乃達ばかりに辛い戦いを強いる訳にはいかない。我々もドイツの誇りを、超兵器達に見せ付けてやろう」

 

 

テアはミーナに微笑みかけ、彼女もそれに笑顔で答える。

 

 

正直笑顔など見せる余裕はミーナには無かった――いや、テアを含めた全員が不安を胸の内に秘めていることは明らかだ。

しかし、それを艦長であるテアが見せれば不安は全ての人員に伝播する。

 

故に彼女は常に自分を殺す。

 

 

 

 

ミーナにはそれがわかっていた。

そして、その彼女なりの不器用な優しさが何より好きであったのだ。

 

 

 

(昔から変わらないなテアは……)

 

 

ミーナは努めて明るい顔で海を見つめ、この海が続く彼方に、いるであろう明乃に思いを寄せる。

 

 

 

それは最早、祈りに近しいものであった。

 

 

 

(明乃…はれかぜ……。お願いだ。欧州を……皆を――テアを救ってくれ!テアはああ言ったが、恐らく私達だけでは………)

 

ミーナはそこから先の事を考えるのを止めた。

これ以上考えたら、最悪の結末を想像してしまいそうだからである。

 

 

 

 

でもそれが頭をよぎってしまうくらい、既に欧州には屍の山が積み重なっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

南シナ海

 

二手に別れた異世界艦隊の西進組は、スエズ運河に向かって航行している。

 

 

真冬は、空母メアリースチュアートにてヴェルナーから今後の予定の説明を受けていた。

 

廊下を歩く真冬は、少し不機嫌そうに足早に歩く。

 

 

 

 

「いつまで拗ねてるんですか?」

 

 

「て、テメェ平賀!俺は別に拗ねてねぇ!ただ……ちょっとだな!折角あいつ等と合流したってのにあんま話す時間とかがなかったから…それでっ!」

 

 

「真白さんに根性注入出来なかったのが悔しいんですね……。でも、過剰なスキンシップはかえって敬遠されますよ?」

 

 

「だ、たから違ぇって!」

 

 

ガヤガヤと話ながら歩くうちに、 二人は艦橋にたどり着く。

扉を開けた先にはヴェルナーともえかが待っていた。

 

 

「お疲れ様です。真冬艦長、平賀副長」

 

 

「おう!で?何で急に艦隊を二つに分けやがったんだ?」

 

 

「超兵器は間違いなく、現状で最高戦力を持つ我々を狙っている。そして、おびき寄せる方法は簡単だ」

 

 

真冬の表情が険しくなった。

 

 

 

「成る程……民衆を人質するって訳だ」

 

 

「その通りです。超兵器は黒海とバルト海に展開している可能性が高い。しかし、国際ブルーマーメイド連合の本部があるキールは、非常に重要な地点になる。だが全員でキールに向かえば……」

 

 

「黒海に展開する超兵器が、ボスポラス海峡を越え、地中海からスエズ経由でアジアに侵攻。新たな人質をつくっちまうってか?チッ……いけ好かねぇ野郎だぜ!」

 

 

「故に我々は、懸念事項である、黒海の超兵器を足止めないし撃沈することで後の憂いを取り除かねばなりません。乏しい補給しかない中で恐縮なのですが――」

 

 

ガシッ!

 

 

 

突然真冬がヴェルナーの胸ぐらに掴みかかり、そして自分に引寄せるとドスの利いた声で叫んだ。

 

 

「湿気た面で腑抜けた事言ってんじゃねぇ!やらなくちゃならねぇ事は必ずやり遂げる!そうじゃなきゃ横須賀で……世界で死んでった連中に顔向けが出来ねぇんだよ!あんた等は、¨救える力¨を持ってんだろ?だったらもっと自信持って使命を全うしろよ!」

 

 

もえかは目を見開いた。

 

 

真冬は目に涙を滲ませていたからだ。

 

 

 

日本だけでなく世界を行き来する敏腕の艦長である彼女には知り合いも多い。きっと亡くなった人の中にも彼女の知り合いだって多くいた筈だ。

きっと悔しい思いをずっと胸に秘めていたのだろう。

 

 

 

思えば宗谷真冬は、異色の艦長と言える。

シュルツや群像の様に、己の心を殺して冷静を装い、どんな状況にも動じない姿勢で仲間を引っ張るタイプでもないし、明乃の様に、仲間との距離が近すぎる訳でもない。

 

 

 

出来る者には任せ、劣っている者には力を貸す。

 

 

 

豪快なようで緻密な判断、攻めていても状況に応じて引き際も誤らない冷静さ、なのにとても話しやすく、どんな相談にも乗ってくれる優しさ。

 

 

シュルツや群像を艦の父、明乃を母とするなら、真冬は正に兄や姉の様な存在であった。

 

そんな真冬が涙を浮かべるこの状況が、世の危機的状況を物語っているようにもえかは思えた。

 

 

 

対するヴェルナーは少し動揺した表情を見せたが、直ぐに表情を戻して真冬の目を真っ直ぐ見つめる。

 

 

 

 

「申し訳ありませんでした。そうですね……我々が弱気になってはいけない。世界にはもっと苦しく不安に怯える方が沢山いると言うのに……」

 

 

「チッ…解りゃいいんだよ」

 

 

 

 

真冬はヴェルナーから手を離す。

 

ヴェルナーは乱れた服装を整えると、改めて今後の予定を伝えた。

 

 

「では、改めて今後の予定を話しておきます。我々の目的地は、スエズを突破した先に有りますが、正直このまま進むには部隊の練度が不十分であると判断します」

 

 

「まぁ新装備の事にしろ、対航空機戦にしろまだまだってのは認めるがよぅ。早く地中海に出た方がいいんじゃねぇのか?」

 

 

「それは違うと思います」

 

「知名?」

 

 

「私は今まで生きていて超兵器との戦闘の時程、死を身近に感じたことは有りません。生半可な練度で挑めば、必ず誰かが死ぬ。それだけはハッキリ言えます。ブルーマーメイドの通常任務だって、きちんとした訓練と準備があって初めて現場に向かえます。急ぎたい気持ちは私も同じです。しかしこのまま進めば皆が……」

 

 

 

 

 

もえかの言葉を聞き、真冬は自身が焦っていたことを自覚した。

 

 

 

 

 

「すまねぇな……俺としたことが後輩に叱られてちゃ世話ねぇぜ。解ったよ、しっかり準備して超兵器のケツに一発かましてやらぁ!」

 

 

 

 

ばつが悪そうに頭を掻く真冬にヴェルナーが続ける。

 

 

 

 

「ご理解頂けて幸いです。我々はインド洋に入り次第速度を落とし、習熟訓練に入ります。弁天の方には、此方から相談役を出しますので、何かあればそちらを通じて連絡を頂ければ対応致します」

 

 

「そうか……解った。宜しく頼むぜ」

 

 

「こちらこそ」

 

 

 

 

 

打合せが終了し、ブルーマーメイドの3人は廊下を歩く。

 

 

 

真冬がもえかに話しかけた。

 

 

 

 

「なぁ知名。超兵器と戦ってどうだった?」

 

 

「凄まじいとしか言い様が有りません。攻撃 防御 速度 どれをとっても現代兵器の枠を逸脱していました」

 

 

「怖かったか?」

 

 

「は、はい……死を覚悟しました。もう笑ったり、美味しい物を食べたり、大切な人と過ごしたり出来ないのかと思うと、怖くて寂しくてそれで――」

 

 

ガバッ!

 

 

「……あ」

 

 

 

急に真冬がもえかを抱き締めた。

 

 

彼女は突然の事で抵抗できないもえかに真冬は言葉をかけた。

 

 

「もういい……すまなかった。辛いことを聞いちまったな。本当にすまねぇ……お前らにばっかり辛い戦いを強いちまって。さっきからお前の顔があんまり不安そうだったからついな」

 

 

「すみません、気を使わせてしまって……」

 

 

「気にすんな!こんな時くらい先輩面させてくれよ。頼りたい時は何時でも頼れ。吐き出したい事があれば何時でも吐き出せ。何か他に不安が有るんだろう?」

 

 

「真冬艦長……」

 

 

「ここじゃなんだな。自分の艦に戻る前に弁天によってけよ。話を聞くぜ」

 

 

真冬はそう言うとニッと笑う。

 

その笑顔にもえかは安心感を覚えた。

 

 

 

兄弟がいないもえかにとって真冬の自分への対応はとてもありがたかったのだ。

 

 

 

もえかは頷き、3人は弁天へと歩いていった。

 

 

 

   + + +

 

 

異世界艦隊 東進組

 

スキズブラズニル  研究ラボ

 

 

 

博士 美波 ヒュウガ 蒔絵は、それぞれの研究の話し合いをしていた。

 

 

 

 

「それでは互いに研究の途中経過を発表しましょうか」

 

 

 

博士が切り出し、美波が初めに前に進み出る。

 

 

 

 

「超兵器による思考汚染に関する内容だが……まずは¨超兵器ノイズとはどの様なものなのか¨という所から説明の必要があるな。それについては――」

 

 

 

 

「私がお答えするわね」

 

 

 

大戦艦ヒュウガが声をあげる。

 

 

 

 

「あのノイズは時空の歪みによって生み出されている可能性があることが解ったわ。正確に言うなら、レーダー波が時空の歪みの干渉を受けた結果、正確な探知が出来ず、ノイズという形を取っているか、若しくは時空の歪みの発生と同時に、レーダー波に影響を及ぼす、別の波形を発しているか……ね」

 

 

「そんな……時空に干渉する程の何かが存在すると言うのですか!?」

 

 

 

 

驚愕を隠せない博士に対し、美波とヒュウガは頷く。

 

 

 

 

「これもヒュウガの調査で判明したんだが、超兵器機関はどうやら¨反物質¨で形勢されていることが判明した」

 

 

「なんですって!?あり得ません!だって私は、元の世界で超兵器機関の一部を調べたんですよ?反物質で有るなら、あらゆる物質と対消滅反応を起こして消滅してしまう筈では!?」

 

 

「それはヒュウガでも特定することは叶わなかった……だがこれだけは言える。超兵器機関はある種の有機的な反物質によって形成されており、何らかの超技術によって対消滅反応を押さえている。尚且つ、機関の一部を限定的に対消滅させ、その莫大な熱エネルギーを、超兵器の動力エネルギーに置換して動かしていると言うことだ」

 

 

 

 

博士が少しの間考え込み、口を開いた。

 

 

 

「成る程……これで確証を得ることが出来ました」

 

「確証?」

 

 

「はい。現在存在する超兵器は、形状だけで言うなら現代兵器の拡大版の様なものです。規模さえ少し押さえて破滅的な威力を誇る特殊兵装を装備しなければ、我々の機関でも運用は可能でしょう。故に今まで、不自然に思っていました。何故暴走し、自壊してしまうリスクを負っても超兵器機関を設置する必要があるのかと……」

 

 

「………」

 

 

「それはあの機関が、本来は¨超兵器に搭載される筈のない代物¨であり、それを無理矢理現代兵器と言う枠に押し込めた物だったとしたら……」

 

 

「本来、アレを搭載するべき¨別の兵器¨が存在する……と?」

 

 

「はい。我々は以前より超兵器機関が本来搭載されるべきであった。兵器を¨マスターシップ¨と呼んでいました。つまり、現在、世界に散らばる超兵器群は、マスターシップの試験段階の片割れなのではないかと推測します」

 

 

「北極海にいる超兵器がそうなのか?」

 

 

「解りません……とてもその様な余裕は有りませんでしたから。でもそれが最も近いのではないかと」

 

 

「だとすれば、艦長への思考汚染の元凶もソレとみて間違いないだろうな……。話を元に戻そう。先程も言ったが、あのノイズは、レーダー波に干渉する別の波形を発しているのではないかという説だ。私はこちらをの説を推奨したい。理由としては、艦長の脳波にノイズが現れた事に起因する。彼女は、マスターシップまたはマスターシップを製造した何者かの意思の干渉を受け、凶暴化したと見るべきだろう」

 

 

「ちょっと待って!」

 

 

蒔絵が美波の言葉を遮った。

 

 

「美波お姉ちゃんの言うことには一理あるけど、どうして明乃お姉ちゃんなの?それに影響が出る人と出ない人がいるのもおかしいよね?イオナには、影響があったって聞いたよ?」

 

 

 

 

蒔絵の言葉に博士も続く。

 

 

 

 

「シュルツ艦長にもです。艦長は超兵器の声のようなものが聞こえると仰っていました。私には聞こえないのに何故……」

 

 

「ここからは推測でしかないが、恐らくはそれが¨超兵器との絆¨なんだろうな……」

 

 

「絆……ですか?」

 

 

「ああ。播磨撃沈後の宗谷室長からの報告で知っての通り、艦長は異世界人であり、そして彼女がこの世界に転移する原因となったフェリーの事故――それは超兵器が起こした可能性が高い。それを裏付けるかのように、彼女は超兵器との戦闘中に意識を失い、その最中に事故当時の一部始終を何らかの意思によって追体験させられたと証言した。そしてその後超兵器の意思なる存在と接触したようだ」

 

 

「超兵器の……意思!?そんな馬鹿な!兵器が意思なんて――」

 

 

「ないと言い切れるのかしら。だって私も兵器ですもの」

 

 

 

ヒュウガの言うことに反論出来ず、博士は引き下がるのを見届けた美波は咳払いをして話を続ける。

 

 

 

 

「コホン……話を続けるぞ。超兵器の意思によれば、超兵器は多数の世界に現れ、自らを使用するに足る人物や国家を選定し、¨使用¨されることで世界を滅亡させてきたらしい。そして艦長はその候補として選ばれた。飽くまで超兵器の意思の言うことが本当ならの話だがな……」

 

 

 

 

「成る程……これで納得しました。超兵器が異世界から転移してきた可能性は、以前から考慮していました。でも何故ウィルキアだったかが謎だったんです。ウィルキア帝国の国家元首ヴァイセンベルガーは正に超兵器が自らを使用するに足る人物でしたから……。ですが何故艦長たちやイオナさんにしか声や干渉が行われないのでしょうか?」

 

 

「特定の人物のみに干渉する原因は、さほど難しくない。超兵器の発する波形を仮に【超兵器波動】と呼称するとして、ある意味電波と同じ作用を施すと仮定する。するとほら、携帯端末と同じだろ?特定の登録された人物(端末)に接触(電話)するようなものだ。登録とはつまり、超兵器との接点によるものだが、その中でも特にカリスマ性を有する人物が登録の対象になっているんだろう」

 

 

 

 

「でも群像艦長ではなくイオナ姉さまが選ばれたのは何故かしら?」

 

 

「そうだな……私はそちらの事情には詳しくないが、イオナさんには何かカリスマ性をようする何かがあるんじゃないか?」

 

 

ヒュウガは珍しく、真剣な表情で考え込んでいる。

 

 

 

そして――

 

 

 

「もしかして……だけど。イオナ姉さまは霧の艦隊を出奔する前には、超戦艦率いる総旗艦艦隊の直衛部隊に所属していたの」

 

 

「超戦艦と言うのは、君達が束になっても敵わないという例の?」

 

 

「そうよ。そして超戦艦は私たちへの指揮命令権を持っている。イオナ姉さまは、自分は千早群像に従うよう¨命令¨されたと言っていたわ。もしそこに総旗艦の意思が有るとしたらイオナ姉さまは……」

 

 

「ふむ。カリスマ性のある霧のトップの意思を受けた艦艇……ということか?」

 

 

「それなら、群像艦長でなくイオナ姉さまに超兵器が接触してきた理由としては妥当だと思うわ」

 

 

「漸くあらゆるピースが繋がってきましたね。問題は思考汚染への対策ですが……」

 

 

「方法は無い事はないのだが、如何せんデータが少なすぎる。もう少しだけ時間を貰えないか?」

 

 

「解りました。次に我が艦隊の新兵装についてですが……」

 

 

 

「じゃぁ私の番だね!」

 

 

 

蒔絵が元気よく声をあげる。

 

 

 

 

「防御の面は、ヒュウガが開発してくれた。特殊なユニオンコアを搭載することでクラインフィールドを発生させ、今まで、防御重力場でカバー出来なかった喫水下の防御も賄えるようにしたよ!メアリーと弁天には既に搭載済み。ただ、少しだけ制限があって、一定の距離にそのコアを制御するメンタルモデルがいないと発生させられない事と、やっぱり、本体と違って飽和しやすいから、飽くまで緊急時の為って考えた方がいいかも……」

 

 

「いえ。それだけでも有り難いです!しかし、コアは小さいですから、他国に奪取される危険があるのでは?」

 

 

博士の疑問にヒュウガが答える。

 

 

「心配はご無用よ。特定の艦船から一定以上離れると自動的に不活性状態になるようプログラムしておいたわ」

 

 

「解りました。ありがとうございます。後は私からですね。先日の超兵器戦に於いて、光子榴弾砲が、暴走した超兵器に致命的打撃を与えられなかった件を考慮して、光子兵器を砲弾ではなく魚雷にて発射する案に変更致しました。此ならば、防壁のない喫水下へ直接攻撃が出来ます。あともうひとつ、はれかぜの強化についてですが、今まで解明できなかった、超兵器シュトゥルムヴィントが装備していた謎の推進装置と舵装置の解明がヒュウガさんのスキャニングによって成されたことを受けて、パナマ突破までに製造取り付けを行いたいと思います」

 

 

「更に……だけどイオナ姉さまの艦首についている指向性スラスターも私が再現して取り付けてあげるわ。そうなれば旋回性が更に上がるしね」

 

 

「うむ、感謝極まりない。我々は飽くまでブルーマーメイドだからな。素早さと小回りがきけば、救助の面でこれ程心強い物は無いだろう」

 

 

 

「それでは、今の重要案件を含めた内容を報告書に纏めて、シュルツ艦長や宗谷室長に提出します。その他、報告が有れば随時ご連絡下さい」

 

 

一同は頷きを返す。博士もそれを確認すると、報告書を纏めるため、自分の机へと戻って行った。

 

 

 

   + + +

 

 

スキズブラズニル 屋外

 

 

 

明乃はタブレット端末にあるウィルキアが提供した超兵器リストを神妙な面持ちで見詰めていた。

 

 

 

 

 

 

 

「【フォーゲルシュメーラ】日本語で【鵺】……か。災害、病気、そして戦の触れとして現れる凶獣。私のお父さんと、お母さんの………仇」

 

 

「岬艦長?」

 

「うわぁぁ!」

 

 

 

 

突然後ろから話しかけられ、明乃が慌てて

振り向いた先には――

 

 

 

 

「し、シュルツ艦長!?それに、千早艦長も……」

 

 

「ええ、少し打合せがありまして……それよりこんなところで何をされていたんですか?」

 

 

明乃は慌てて端末を後ろに隠す。

 

 

それを見てシュルツの表情が険しくなった。

 

 

 

 

「フォーゲルシュメーラ…あなたの両親の仇」

 

 

 

 

そのシュルツの言葉に全てを察した群像も、表情が硬くなる。

 

 

明乃は、気まずくなって二人から目をそらす。

 

 

「最近の大戦艦ヒュウガの造った、新型兵器の試乗テストを勝手出ているらしいですね」

 

 

「我が艦隊からも、建一さんがあなたの指導にあたっているとか……」

 

 

「………」

 

 

「岬艦長。お気持ちはお察しします。ですが復讐は――」

 

 

「解ってます!こんなの意味が無いことだって……虚しいだけだって!確かに、アレに対して何も思うところが無いと言えば嘘になるかもしれない。でもそれだけじゃない。解るんです、きっとアレは私達を……はれかぜを狙ってくる。そして、私の目の前で多くの仲間を殺す。あの時みたいに………お父さんとお母さんを殺したあの時みたいに!」

 

 

 

「岬艦長……」

 

 

「シロちゃ……いや、宗谷副長から聞きました。千早艦長のご両親の事……私は、千早艦長のように自分の両親を奪った者と手を取り合っていける程大人じゃないし、シュルツ艦長のようにいつも冷静ではいられない」

 

 

「………」

「………」

 

 

「でも、これ以上は失いたくない!もう、あんな悲しい別れは嫌なんですだから!」

 

 

「一人で決着をつける……と?」

 

 

「そう思っていました。つい最近までは……でもここ数日、ウィルキアや蒼き鋼の皆さんと交流して思ったんです。皆、笑顔でとても良い表情をしていました。きっとそれぞれの艦長が皆を思いやっている結果なんだろうなって。そして、その仲間を死なせない為にも、敢えてその仲間を頼って生かしている。今まで私は、自分一人で全ての物事を解決しようとしていました。でも私は人間で、神様でも悪魔でも、ましてや超兵器でもない。一人で出来ることには限りがある。だから、こんな私から言うのは差し出がましいのかもしれませんが、どうか私の仲間を助けるのを手伝って頂けないでしょうか?」

 

 

 

 

明乃は唇をギュッと結んで頭を深々と下げた。

 

暫し沈黙が流れ――

 

 

 

「それは¨あなたを含めた全員¨が超兵器を打倒し生還したい……と言う解釈で間違いありませんか?」

 

 

「……はい!」

 

 

「解りました……こちらとしても最大限のバックアップはさせて頂きます。ですから必ず……死なないで下さい。無理だと思ったら直ぐに退避をしてください。解りましたね?」

 

 

 

「…はい。はい!ありがとうございます。では、私はこれで」

 

 

 

 

明乃は走り去っていく、途中何度も振り返り頭を下げながら……

 

 

二人はその姿が見えなくなるまで見送った。

 

 

「まさか岬艦長が他人を頼られるようになるとは思いもしませんでした」

 

 

「嫌ですか?」

 

 

「いや、そう言う意味では無いのですが、なんと言うか……¨成長されたな¨と」

 

 

「同感です。海洋技術学校でも、真に優秀な指揮官は仲間の心を背負い、仕事を仲間に任せ、または任せることの出来る人材を育てる事が出来る人物だと教わりました」

 

 

「やはり千早艦長はとても聡明な方ですね……必ず彼女を生かしましょう。その為には先ずは、最初の寄港地であるハワイを乗りきらねば……」

 

 

「やはりアメリカが?」

 

 

「日本政府に圧力をかけてきたと考えるのが自然でしょう。我々の技術の盗用だけは阻止せねばなりません」

 

 

「俺に出来ることがあれば何時でも伺います。内通者の件も有りますし……」

 

 

「お気遣い感謝します」

 

 

二人は海を見つめる。

 

 

楽園と唱われるハワイに向かっていると言うのに、二人の表情はあまり優れたものではなかった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

ハワイ オワフ島 真珠湾

 

 

 

 

先日の超兵器播磨率いる艦隊に壊滅的攻撃を受けたハワイの港には、破損船隊の引き揚げ作業や、復旧作業を進めるため、本国から、ブルーマーメイドと、アメリカ軍太平洋艦隊、計20隻余りが増援に訪れていた。

 

 

アメリカ海軍司令官アンドリュー・ジョーンズは、自艦の艦橋にて復旧作業を眺めている。

 

 

 

中年の副長が気まずそうにジョーンズに話し掛けた。

 

 

「司令官……復旧作業にもっと人員を割いた方が宜しいのでは?」

 

 

「フンッ!そんなもの人魚にでもやらせておけ!全く……あいつ等さえいなければ、今頃は我々にもっと予算が割かれ、戦力や活動の幅も広がったと言うのに!」

 

 

 

 

ジョーンズは近くで活動するブルーマーメイドの艦を睨み付けた。

 

 

彼の大柄の態度に副長は溜め息を付く。

 

 

「司令官。レーダーの監視は……」

 

 

「適当にやっておけ!どうせ奴等もやってる。私達の仕事は、異世界の連中が来るまでここで復旧作業を¨監督¨し、奴等が到着したら、あの人魚共を追っ払って本国から来る連中が到着するまでの間、奴等をここに留めて置くことだ!」

 

 

「…はっ!了解しました」

 

 

 

ジョーンズは未だ不機嫌そうな顔でブルーマーメイドを見ていた。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

ハワイの東およそ100海里

 

そこに佇む1隻の巨大艦――

 

 

その姿は、異様であった。

 

 

まるで巨大で図太い魚雷が海面に浮いているようにも見え、更にその上部は空母の様に平らな甲板になっており、プロペラのついた艦載機が並んでいる。

 

 

その艦載機の七割が機体の下部に爆弾や魚雷を抱いており、先日の奇襲攻撃で疲弊したハワイを蹂躙するには十分だった。

すると巨大艦の甲板部分のみが急に回転しだし、攻撃目標であるハワイを向く。

 

 

 

 

そして、艦載機は一斉にエンジンを点火して先頭の艦載機が飛び立ち、次の機体もそれに続く。

巨大艦の周りの空はあっという間に航空機で埋め尽くされた。

 

 

 

最後の一機が飛び立ち、編隊に加わると、

艦載機達は一斉にハワイのオワフ島へ向かっていった。

 

 

   + + +

 

一方の増援ブルーマーメイドの旗艦 インディペンデンス級 【トーマス・ワグナー】艦長カトリーナ・スミスも、不機嫌な表情を隠すことなく、アメリカ海軍の艦船を睨み付けていた。

 

 

 

「一体どういうつもりなの!?自国の仲間が沢山死んでいると言うのに、ろくに作業を手伝いもしない。市街地だってある程度被害を受けた。民間人だって、まだ多くが瓦礫の下に埋まっている。ブルマーと軍の違いこそあれ、同じアメリカ人だと言うのに……」

 

 

スミスは、米軍の態度に怒り心頭の様子だった。

 

 

その頃

 

 

トーマス・ワグナーのレーダーには複数の点が写し出されていた。

 

電測員の一人が異変に気付く。

 

 

「ねぇ!ちょっと来て!何かレーダーが変なの!」

 

 

「何かあったの!?」

 

 

同僚が駆け寄りレーダーを見つめる。

 

 

「この反応は航空機?オワフ島の西と北側から来ているわね。ん?ちょっと待って?東側に急に超兵器のノイズが!しかも……2つ!?」

 

 

「でも話に聞いていたノイズよりもかなり小さいわね。日本から提供された情報によれば、超兵器級が発するノイズならもっと巨大な筈よ。航空機を搭載している超兵器空母級である可能性は低いんじゃないかしら」

 

 

「だとすれば、西側と北側に写っている反応は、異世界艦隊からの増援?」

 

 

「確証はないけど多分……それにたとえ敵の航空機だとしても、水深が浅いから、日本の横須賀の様に雷撃は無いと思うの。この間の襲撃だって爆撃のみで雷撃は無かったらしいし、今回だってきっと爆撃機と護衛の航空機が中心の部隊よ。攻撃の目的が解っていれば、予測して迎撃するのはわけないわ」

 

 

「一応艦長に報告しとく?」

 

 

「そうねぇ……念の為報告しておくわ。あなたは引き続き監視を継続して頂戴」

 

「解ったわ」

 

 

   + + +

 

隊員の予想は外れていた。

 

 

巨大艦から出撃した航空機は、途中で2手に別れ、オワフ島の西側と北側に回り込み、山脈を越えるルートを選んでいた。

 

 

 

更に、巨大艦はレーダーに捕らえられるタイミングで超兵器機関を停止し、無音でオワフ島に接近していた別の2隻の¨超兵器潜水艦¨を再始動。それらのノイズを発生させる事により、今回の攻撃を飽くまで東側から行い、逆方向から接近する航空機を異世界艦隊からの増援と錯覚させたのだ。

 

 

航空機達は住宅の屋根スレスレの超低空で真珠湾へと向かう。

 

 

 

 

この段階で、彼等の存在に気付いたのはまだ一部の住民だけであった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「なぜもっと早く報告をあげなかったの!」

 

 

スミスは部下に激怒した。

 

 

 

「そ、それは……この航空機であろう反応が異世界艦隊の増援かと――」

 

 

「そんなことあるわけ無いでしょう!なら何故わざわざ2手に別れて島に来る必要があるの!?西側は我々を、北側は市街地、そして2隻の超兵器は、湾内から逃げようとする艦船を狙っている。いい!?私達は既に¨囲まれて¨いるのよ!」

 

 

「そ、そんな……」

 

 

スミスの鬼気迫る表情に、部下の顔から血の気が引いていく。

 

 

「早く!全員を戦闘配置につかせて!勿論メンバーの中に入っている¨学生¨にもよ!」

 

 

「しかし彼等は正規の隊員ではありません。怪我をしないよう、どこかに避難させないと、後から我々が処分の対象になります」

 

 

「あなた……航空機が相手でこれからそんなことする暇があると思うの!?それに奴等を撃墜しない限り、何処へ逃げても必ず皆殺しになる。責任は私が取ります!命令よ!今すぐ全員を戦闘配置につかせなさい!」

 

 

「は、はっ!」

 

 

 

部下は敬礼を返し伝令に向かう。

 

スミスは苛立ちながら、アメリカ海軍の艦船に視線を向けた。

 

 

(くっ!どうせ監視も私達任せなんでしょうね……全くこの非常事態にっ!)

 

 

彼女は歯噛みしつつも近くにいた別の部下に指示を飛ばした。

 

 

 

「誰か!あの¨怠け者¨共に敵が来たと伝えて頂戴!」

 

 

「はっ!」

 

 

部下はすかさずアメリカ海軍に通信を行った。

 

 

 

 

(よし。これで体制は整っ……何!?)

 

 

スミスは遥か向こうから接近する敵の姿を視認する。

 

 

 

しかし、先日戦ったブルーマーメイドからの情報と明らかに異なる点がある。

 

 

 

余りにも¨低空¨で接近してきたからである。

 

 

 

そして、その下部には、

 

 

「魚雷!?馬鹿なっ!真珠湾の深度では、航空機からの雷撃は不可能な筈……」

 

 

 

 

スミスの声が艦橋に虚しく響いた。

 

 

 

ブルーマーメイド艦隊の誰もが、敵は遥か上空より飛来すると思っている為に、機銃も意識も未だ上方に向いており、ろくな迎撃体制もとれていなかった。

 

 

 

 

その隙に、雷撃機はおよそ10mという超低空で真珠湾内部に侵入し、個々の狙いを定める。

 

 

 

そして――

 

 

ガチャン!

 

 

航空機から切り離された魚雷は水面へと着水し、海底に激突することなく一直線で獲物へとひた走る。

 

 

 

 

「くっ!各艦、魚雷迎撃用意!急げ!」

 

 

 

 

 

スミスが叫んだが、対応するには余りにも遅すぎた。

 

 

 

魚雷が向かっているブルーマーメイドの戦闘艦の甲板上にいた隊員の数名がかんぱんから海をを覗き込む。

 

 

 

 

 

そこで見たものは、何本もの魚雷が自分の方に向かって疾走する様子だった。

 

 

「え!?ちょっ……嘘でしょ!?」

 

 

 

 

次の瞬間――

 

 

ボォォォォン!

 

 

 

 

「あ゛っ!」

 

 

 

 

魚雷が艦側面に命中し炸裂し、覗き込んでいた隊員達の体を粉々に吹き飛ばした。

 

 

 

 

 

「こんな事になるなんて……」

 

 

スミスは警報の鳴り響く艦橋で唖然とする。

 

無理もないものの数秒で、見渡す光景が楽園とは程遠い黒い煙が立ち上る地獄へと一変していたのだから……

 

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂き有り難うございます。

突如として始まって仕舞いました…。

果たして相手は……。


それではまたいつか。










とらふり!  1/144ちょうへいきふりいと



播磨

「おっ!始まった始まった!今度は誰が活躍するのかなぁ。私も行きたいなぁ…。」



荒覇吐
「私達は沈んじゃったから行けるわけないでしょ!我慢しなさい!」


播磨
「何さケチンボ!旗艦は私なの!そっちこそ言うこと聞きなさい!」


荒覇吐
「か、神に逆らうと言うわけね…。いいわ。あなたに神の鉄槌を下してあげる!」


シュトゥルムヴィント
「まままま、2隻共…落ちついて!」


播磨&荒覇吐
「うるさい!」

ボォォォン! フィィィン!ガリガリ!


シュトゥルムヴィント
「ぎゃぁぁぁぁ!」


近江
「また始まっちゃった…。いいわ。私だけでも彼女達を応援しましょう。ま、飽くまでこれは挨拶みたいなものなのだけれどね…」







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ブラッディパール   vs 超兵器

   + + +

 

 

スキズブラズニル

 

ブリーフィングルーム

 

 

「どういうことだ!」

 

 

 

 

 

シュルツがナギに叫ぶ。

彼女は動揺しながらも説明を続けた。

 

 

 

 

「解りません。しかし、超兵器探知レーダーにノイズが観測されたことは確かです」

 

 

 

 

「ハワイとの連絡は?」

 

 

「宗谷室長が繰返し呼び掛けていますが、混乱していて要領を得ないそうです」

 

 

「まさか今まで気付けなかったとは……」

 

 

「超兵器ノイズがかなり微弱だったようですからね……」

 

 

「だとすれば、相手は潜水艦クラスか!?だから、今まで太平洋上では目撃されていなかった……機関を停止してノイズを消し、行方をくらましていたんだ」

 

 

 

 

悔しさを滲ませるシュルツに、ナギが心配そうに覗き込んで来た。

 

 

 

 

「艦長、我々はどうすれば……」

 

 

「こうしていても事態が悪化するだけだ。ナギ少尉、至急出撃の準備だ!ペガサスを出す。千早艦長と岬艦長にも戦闘配備につくよう至急知らせてくれ!それと、蒼き鋼の江田に偵察を頼んで欲しい。セイランなら我々の航空機よりも早く現地にたどり着ける筈だ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

シュルツは険しい表情で窓の外を一瞥すると、自艦へと向かった。

 

 

(潜水型か……【レムレース】か、【ノーチラス】か……いや、私達が潜水艦だと容易く見破るのは解っていた筈だ。だとすれば、そうと解っていて少数での部隊を率いるとすれば……¨ドレッドノート(勇敢なる者)¨か。クソ!甘く見ていた!ハワイは、戦略的にも重要な地点だというのに……今現地はどうなっているんだ)

 

 

   + + +

 

 

ハワイは辺りが黒い煙で包まれる地獄と化していた。

 

 

 

急降下爆撃を想定していた艦隊は、低空で接近した雷撃機への対応が遅れてしまったのだ。

 

 

 

更に、最初の襲撃で撃沈されたオクラホマをはじめとする艦艇を引き揚げていないため、湾内での魚雷の回避は、極めて高度な技術を要求される事になり、混乱はあっという間に広がっていく。

 

 

 

 

 

しかし、ブルーマーメイドの戦闘艦トーマス・ワグナーの艦長カトリーナ・スミスは、いち速く冷静さを取り戻し、自艦や各艦に指示を飛ばしていく。

 

 

 

 

 

「総員落ち着きなさい!雷撃機は必ず私達に狙いを定めて真っ直ぐ飛んでくる筈。その時を狙って撃ち込みなさい!戦闘機や急降下爆撃機にも注意を払うのよ!」

 

 

 

激を飛ばしながら周りの様子を見渡すスミスの瞳には、辺りが黒い煙で覆い尽くされる様子が入ってくる。

 

 

 

しかし彼女達も、最初の襲撃の様に一方的にやられているわけではない。

 

 

猛烈な銃弾が空に舞い上がり、航空機達を襲い、避けきれなかった航空機が煙を噴きながらクルクル回転し海面に激突して粉々になる。

 

 

 

(よし!やはり我々の武器や戦闘技術が劣っている訳じゃない!……でも)

 

 

スミスの懸念は別のところにあった。

 

 

それは――

 

 

 

 

ズドォォォォォン!

 

 

艦に激震が走った。

 

将来ブルーマーメイドになるべく実習を重ねていたサンディエゴ海洋学校の生徒の一部は、不足した人員補給を兼ねて、ハワイに来ている。

 

勿論戦闘をするためではない。復旧作業や実際の救助作業の一端を手伝う事で、将来海の平和を守る為の経験を積ませる事が目的であった。

しかしながら、学生に実際の作業や遺体の運搬をさせるのは倫理に反する行為にも思う。

だが、彼女達はそうせざるを得なかった。

 

 

日本に於いては、異世界艦隊の登場により、超兵器による被害は横須賀のみに留まっていた。

 

 

 

 

だが他の国々は違う。

 

 

 

 

港湾施設を悉く蹂躙された各国に残る艦船は襲撃当時、外洋に巡視や実習などにに出ていて難を逃れた船舶のみであった。

 

国土が日本よりも広い国々が主であり、本土の防衛に軍や本職のブルーマーメイドを当てて終うと、必然的に人手が不足してしまう。

よって日本とは違い、各国では、ブルーマーメイドの卵である学生にもてを借りる必要性があったのだ。

 

 

 

リリー・レビンソンとリタ・ウィトビッキーも、人手不足の為にハワイに遠征してきた学生だった。

 

金髪のショートアップを後ろで小さくまとめ、茶色い瞳とそばかすが特長のリリーが不安そうに呟く。

 

 

「は、始まっちゃったよ。ねぇリタ、アリー大丈夫かな……」

 

 

「あんたは自分が死なない事だけ考えてな!これは普通じゃない……私達の生死を賭けた戦争なんだから!」

 

 

 

 

 

タンクトップを着たトレッドヘアの黒人で、背が高く少し筋肉質な少女のリタがリリーを叱りつけた。

だがリリーは、別の艦に乗っている友人のアリソン・ベインの安否が気になっているようだった。

 

 

 

 

彼女達3人は親友同士であり、親元を離れ辛い実習に明け暮れる海洋学校の生活の中で互いに絆を深めていった。

 

 

リリーとリタが戦艦メリーランド所属で、アリソンが戦艦アリゾナである。

その他、戦艦カリフォルニアや工作艦ベスタルも応援に駆けつけていた。

本来はもっと多くの艦船が応援に来るはずだったが、本土の防衛を疎かにも出来ない。

 

 

前回の襲撃で、沈没や座礁した艦艇をはじめ、破損艦の引き揚げや修理、復旧作業を中心に行う予定であり、戦闘になるなど微塵も考えていなかった彼女達の動揺は計り知れない。

 

 

 

「あなた達!早く銃座について迎撃を始めなさい!」

 

 

二人は教官に怒鳴られ、慌てて迎撃の準備をする。

 

 

 

辺りは怒号と悲鳴が鳴り響き、怪我をしている生徒もいた。中には既に死んでいる生徒も……

 

 

「ひっ!」

 

 

リリーはその情景に青ざめる。

 

 

 

 

リタは既に銃座につき、目の前を低空で通りすぎる雷撃機に向かって撃ちまくっていた。

 

 

ズガガガガガ!

 

 

 

けたたましい銃撃の音が頭に響く。

 

 

 

リリーも訓練通りに銃座につき、狙いを定める。

 

 

「う、うわぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

リリーは恐怖を振り払う様に叫びながら銃の引き金を引く。

 

 

 

凄まじい反動が、女性である彼女の体を激しく揺さぶった。

 

 

 

しかし残念ながら航空機の速さにまだ対応しきれず、撃ってもなかなか当たらなかった。

 

 

「リリー!よく狙いな!出来るだけ単調な動きの奴に狙いを定めるんだ!」

 

 

リタから叱咤され、リリーは涙目になりながらもう一度周りを見渡し、そのなかの一機に狙いを定める。

 

そして――

 

ズガガガガガ!

 

再び引き金を引き、勢いよく弾が飛び出す。

 

 

(お願い!当たって!当たって!当たって!)

 

 

リリーは心の中で何度も叫んだ。

 

 

すると――

 

ズドォン!

 

 

 

 

エンジン付近に弾が当たったのか、雷撃機は火を噴きながらバランスを崩し、海面に激突して爆発した。

 

 

「や、やった……」

 

 

リリーが喜んだのも束の間。

 

 

「みんな!伏せなさい!」

 

 

教官が叫び、彼女達は訳もわからないまま、反射的にその場に体を伏せた。

 

次の瞬間、

 

 

ズガガガ! キューン! ガン! ガン!

 

銃撃音と共に、猛烈な早さの銃弾が彼女達のいた付近一帯を襲う。

 

 

 

 

 

「あ!……ぎひ!?」

「う…べぅ!」

 

反応が遅れた何人かが、悲鳴をあげて倒れ、グネグネと不気味にもがくと動かなくなった。

 

 

 

 

更に――

 

 

 

「ぐぅ……い、だい!痛い!」

「たっ、たす…け……」

 

 

 

 

銃撃を逃れた筈の何人かも手足や腹を押さえ呻き声をあげていた。

 

 

 

 

敵の銃弾が周囲の物に跳弾して、彼女達を襲ったのだ。

 

 

 

 

リリーは頭が真っ白になる。どうしていいか解らず、教官に指示を仰いだ。

 

 

「きょ、教官!みんなが……みんなが怪我を!私、どうしたら……教官?」

 

 

 

 

先程までけたたましく指示を飛ばしていた教官の姿がない。

 

 

辺りを良く見渡す彼女の瞳には――

 

 

「あ…あぁあ!」

 

そこに倒れていた¨頭の無い¨遺体の制服は、確かに先程までそこにいた教官のものだった。

 

 

指示を出していて伏せるのが遅れた彼女の首は、敵の航空機関砲の直撃を受けて吹き飛び、粉々になってしまっている。

 

 

「きゃぁぁぁぁ!」

 

 

 

 

指揮官を失った生徒達は悲鳴をあげ、持ち場を離れて各々に逃げ惑う。こうなれば最早有効な反撃もままならない。

 

だがリタだけは必死に機銃を放ち、航空機への迎撃を続けており、恐怖で身体が痺れるリリーはその場にへたり込んでしまう。

 

 

「もぅ……嫌だよ!嫌だよぉぉ!」

 

 

 

 

 

10代半ばの彼女達にとっては、あまりにも過酷で、そして無情な戦場であった。

 

 

   + + +

 

 

その頃ハワイの東の海上では、敵の巨大艦が次なる艦載機の発信準備をしていた。

 

 

 

 

その甲板上に並ぶ機体は、最初に発艦したプロペラ機ては明らかに様子が違う。

 

 

機体先端が尖った細く薄いボディーに、機体後部にある二つのジェットエンジン、主翼の下に多数のミサイルを搭載したジェット機であった。

 

 

 

そう、この襲撃は初めから二段構えだったのだ。

 

 

 

 

雷撃機中心の部隊によって浸水を発生させ、動きを止めた後にミサイルで止めを刺す。

 

 

 

 

ろくに抵抗も出来ないハワイは、超兵器本体の投入すら無く、人々は根絶やしにされるだろう。

 

 

 

 

そうなるとは知らないハワイの人々を他所に、艦載機達は次々と発艦を開始し、更なる絶望を与える為にハワイへと飛び立ち、発艦を見送った巨大艦はなんと¨潜行¨していく。

 

 

 

 

巨大艦は超兵器潜水艦だったのだ。

 

 

 

 

敵の超兵器潜水艦は、その巨体を海の中に隠すと、ハワイに背を向け東へと去っていった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

艦の近くで魚雷が炸裂し、轟音が鳴り響いた。

 

 

海が掻き回され、その衝撃波で艦が激しく揺さぶられる。

 

 

 

 

 

 

スミスが指揮するトーマス・ワグナーは、依然として目立った損傷もなく、迎撃を継続している。

 

 

 

 

学生が乗っている戦艦よりも、少し大きな駆逐艦若しくは軽巡洋艦程の大きさしかないトーマス・ワグナーは、沈没艦で身動きが取りにくい湾内を巧みに操舵し、魚雷や爆撃をかわし続けていたのだが――

 

 

 

 

 

「スミス艦長!迎撃に当たっていた何人かがやられました!このままでは――」

 

 

 

 

 

副長が、額に汗を光らせながら沈痛な面持ちでスミスに告げる。

 

 

 

 

 

「主計部がいるでしょう?修繕に割いている人員の何人かを迎撃にまわしなさい!」

 

 

「はっ!速やかに手配致します」

 

 

 

 

 

彼女の指示を受けた副長は、直ぐ様艦橋を去って行き、スミスは再び周りの状況を見渡した。

 

 

 

 

「あの3機……爆撃しようとしているわ。狙いは――アリゾナ!?まずい!只でさえ練度も低く、小回りの利かない艦に……砲術長!アリゾナ直上の3機に銃撃を!少しでも軌道を逸らさなければ!誰か早くアリゾナに急降下爆撃の警告を!」

 

 

 

 

 

 

スミスはすかさず指示を飛ばす、迎撃も開始された。

 

 

だが、トーマス・ワグナーとアリゾナとの距離が遠く、彼女達の攻撃は爆撃機への牽制には成りえず、通信や発光信号を送っても、学生中心の艦であるアリゾナの内情は相当混乱しており、こちらを見る余裕などある筈もなかった。

 

 

 

 

そうこうしているうちに、爆撃機は機体を翻し、アリゾナへと急降下を開始する。

 

 

「ま、まずい……あの下には弾薬庫が!アリゾナ!早く回避を!」

 

 

 

 

 

 

スミスは、まるですがる様に叫んだ。

 

 

 

 

それと同時にアリゾナが漸く回避運動を開始し、爆撃機への銃撃も始まり、爆弾を抱えて急降下体勢を取る敵は、姿勢を立て直す事が出来ず銃撃を受け、1機が炎を吹き上げてアリゾナから逸れた位置の海面に叩きつけられる。

 

 

 

もう1機は完全に急降下する前に爆撃を切り離し、その場から離脱。

 

 

切り離された爆弾も、アリゾナには当たらずに海面に着水する。

 

 

 

 

 

しかし――

 

 

 

最後の1機だけは、しぶとく銃撃を掻い潜り、急降下を続け――

 

 

 

ガチャン!

 

 

 

爆撃を切り離した。

 

 

 

ギリギリまで降下した爆弾機は、上昇しきれずアリゾナの艦橋の根本に激突して粉々になる。

 

 

 

 

 

 

「アリゾナァァァァ!」

 

スミスは叫ぶが、無情にも爆弾は、アリゾナの前方にある主砲の少し前の甲板を貫通して弾薬庫まで達し――

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

ズドォォォォン!

 

凄まじい轟音と共に、アリゾナの船体が一瞬大きく浮かんで波打ち、内部からの爆発により甲板が割け、爆風は嵐のように艦内を荒らし回って衝撃波と熱波が引っ掻き回し、更に酸素の急激な消費によって艦内のあらゆる命を奪っていく。

 

 

 

 

それに、先程からの雷撃により浸水が発生していた事も重なったアリゾナの船体はゆっくりと傾きつつあった。

 

 

「嘘…だろ……?」

 

 

「アリィィィ!」

 

 

 

 

メリーランドの二人は、目の前で起きた惨劇に絶望するも、無情な事に敵は攻撃を止めてはくれない。

 

 

湾内には、最早まともに動ける艦は僅かになっていた。

 

 

 

当然であろう。

 

この世界の船舶は自動化の技術の進歩により、少人数での船の運用が可能だ。

 

だが――

 

 

そのせいで迎撃に割くはずの人員が絶対的に少ないのである。

 

 

 

況してや、これ程の敵の数を相手にするには、役不足も良いところだった。

 

 

 

 

 

動けなくなった艦艇を爆撃機に任せた敵は、雷撃機の残りを全て動ける艦艇へと差し向ける。

 

 

あらゆる角度から押し寄せる全ての魚雷を、メリーランドは迎撃しきれる筈もなかった。

 

 

ズドォォォォン!

 

 

攻撃を掻い潜った、魚雷がメリーランドの艦底に穴を開け、瞬く間に艦内に侵入した海水は艦を傾けて更なる迎撃を困難にしていた。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

スミスは、異世界艦隊の調査も兼ねてハワイに向かっているアメリカ本国の艦隊に連絡を試みていた。

 

 

 

「こちらハワイブルーマーメイド艦隊旗艦トーマス・ワグナー艦長 カトリーナ・スミスだ!応答願う!繰り返す、応答願う!」

 

 

 

『こちらアメリカ艦隊。フロイド・マッケンジー少佐だ。ブルーマーメイド艦隊、状況を報告されたし』

 

 

 

「こちらは現在、敵超兵器から発艦したと思われる航空機により攻撃を受けている。至急救援に来ていただきたい!尚ハワイ周辺には超兵器が潜伏している可能性があり――」

 

 

 

『スミス艦長、我々は現在サンディエゴに¨帰航¨している。そちらの状況は、ハワイ駐留のブルーマーメイド及び、アメリカ艦隊により¨自力¨で対処されたし』

 

 

「なっ……!」

 

 

 

 

 

意外な返答にスミスは愕然とする。

 

 

 

 

 

 

「帰航ですって!?馬鹿なっ!何を考えているの!?此方にはもう、ろくに敵と戦う戦力は残されていない!人が大勢死んでるのよ!?少しでも人手が必要なの!一刻も早い救援を――」

 

 

 

 

 

『誠に遺憾ながら、貴殿の申し出は承服しかねる』

 

 

 

「何故!」

 

 

『先程、我が艦隊に対し即時の帰還を通達する¨大統領命令¨が下された。理由は、これ以上の戦力の損失による本国の防衛能力低下への懸念に対する払拭及び、アメリカ艦隊の敗北をロシアをはじめとした各国に知らしめる訳にはいかないとの判断だ』

 

 

 

「こんな時に人命よりも自国のプライドを守ろうと言うの?同じアメリカ人でしょう!?あなたは人の命と命令と、どちらが大切なのよ!」

 

 

 

 

スミスは彼に食い下がるが、マッケンジーは至って冷徹に言い放った。

 

 

 

 

 

『感情的だなスミス艦長。とても正気の沙汰とは思えない発言だ。いいかね?たかだか数万人の人間と数十億人の人間と、どちらを軍や政府が¨優先¨するのか。そんなことも理解出来ないほど、君は狂ってしまったのかね?』

 

 

「数の問題だじゃない!これは――」

 

 

『やめたまえ!これ以上我がアメリカ艦隊に対する¨過剰な干渉¨は、ブルーマーメイドの我が国に対する敵対行動であると判断せざるを得ない!』

 

 

「……くっ!」

 

 

『ご理解頂けて幸いだよスミス艦長。¨余力¨があれば、ハワイの我が同胞の¨脱出¨にも手を貸して頂けると有り難い。諸君らの多大なる健闘を切に願う。以上』

 

 

「ちょっ…待っ――クソッ!」

 

 

 

 

 

スミスは悔しさで顔を歪ませる。

 

 

しかし、彼女の絶望はまだ終わらなかった。

 

 

「艦長!」

 

 

副長が、艦橋へと飛び込んできた。

 

 

「アメリカ艦隊が!」

 

 

外に視線を向けたスミスは驚愕した。

 

 

 

アメリカ艦隊はなんと、真珠湾から¨離脱¨しようとしていたのだ。

 

 

「逃げるつもりなの?私達を囮にして――¨手伝い¨ってそう言う事?どこまで……どこまで私達を馬鹿にすれば気が済むのよ!」

 

 

 

 

激昂する彼女に副長が気まずそうに告げる。

 

 

「か、艦長?どうなさったのですか?本国からの増援は――」

 

 

「……い」

 

 

「え?」

 

 

「無い!本国からの増援は無いのよ!ハワイのアメリカ艦隊も我先に逃げてしまっている。私達は……いえ、私達も含めたハワイの人々全員が見捨てられたのよ!他でもない、自分の母国にっ!」

 

 

 

「そんな……それじゃ!」

 

 

「艦長!」

 

 

副長の言葉を遮って見張り員が報告を告げる。

 

 

 

 

「雷撃機が本艦に殺到してきています!」

 

 

「回避を!迎撃も急いで!」

 

 

「だめです!あらゆる方向から多数接近中!避けきれません!」

 

 

「迎撃に割いた人員も先程……」

 

 

「敵機、魚雷を投下!数7来ます!」

 

 

「総員、対衝撃防御!急いで!」

 

 

スミスが叫んだ直後――

 

 

ズッドォォォォン!

 

 

 

 

凄まじい衝撃が次々と襲ってくる。

 

艦内にいる誰もが体勢を崩して転倒した。

 

 

 

 

「被害状況は?」

 

 

『機関損傷、並びに浸水発生!水位上昇中!』

 

『艦内各所で火災発生!死傷者多数!』

 

『自艦の自動運用システムが故障!』

 

 

「なんて事……」

 

 

スミスは愕然とする。

 

 

最初の二つだけでも充分致命的な訳だが、最後の艦の運用システムの破損は更に致命的だった。

このシステムにより、現世界の艦艇に要する人員は極めて少ない人数で運用されているため、システムの破損は、そのまま艦の運用が事実上不可能になったことを示している。

 

 

更に――

 

 

『浸水が止まりません!艦が傾いていきます!』

 

 

立て続けに受けた雷撃での浸水は、小型化されている現代艦にとって正に脅威であることは言うまでもなく、スミスは苦渋の決断を下さざるを得なかった。

 

 

「副長……総員に離艦を通達して。このままでは皆艦と運命を共にすることになってしまう」

 

 

「は、はっ!」

 

 

副長は急いで、艦内の隊員に離艦の指示を出し、隊員達は次々と海へ飛び込む。

 

その間にもトーマス・ワグナーは艦尾からみるみる沈み続けていった。

 

 

 

 

 

 

「艦長!あとは我々艦橋要員だけです!誠に遺憾ながら……殉職者の遺体は放置しました!」

 

 

「解ったわ……では行きましょう」

 

 

 

 

 

彼女達は、甲板に出て次々と海へ飛び込む。

 

 

 

 

「あとはわたしと艦長だけです!」

 

 

「……そうね」

 

 

「艦長?」

 

 

副長は眉をひそめる。

 

 

 

スミスはとても沈痛な面持ちで周りを見つめていた。

 

 

 

煙と炎に包まれた湾内、多くの死体、市街地の方にも煙が立ち上っているのが見える。

 

 

 

そして海には、岸を目指して必死に泳ぐ隊員や学生達の姿が見えた。

 

 

 

それを狙って、戦闘機が機銃を放ち、彼女達の命を刈り取っていく。

 

 

 

彼女は目を閉じ、そして決意した。

 

 

 

「か、艦長!私達も早く脱出を――」

 

 

 

 

副長が急かす様に、スミスに叫ぶ。

 

 

 

 

 

「デイジー・トンプソン副長」

 

 

「はっ!なんでしょうか?」

 

 

 

 

スミスはいつもの厳しい表情ではなく、とても穏やかに笑う――

 

 

 

 

「後を頼むわね」

 

 

 

ドン!

 

 

 

 

「え?……うわっ!」

 

 

 

 

副長を海に突き落とした。

 

 

 

急に海に落とされ、必死にもがいて海面に顔を出した彼女は、上を見上げて叫んだ。

 

 

「艦長!スミス艦長!駄目です!早く、早く飛び込んでっ!」

 

 

「戦闘機が来るわ!私が少しでも時間を稼ぐから、なんとか岸まで辿り着いて!」

 

 

「艦長!お願いです!お願いですから脱出を!」

 

 

「これからはあなたが……いや、あなた達が皆を導きなさい!だから必ず生きるの!生き残るのよ!生きて明日を見届けるのよ!」

 

 

「艦長!待って、待って!あなたには¨家族¨も居るんですよ!行かないで下さい艦長!艦長ぉぉぉ!」

 

 

泣きながら叫ぶ副長の声は、身を翻し甲板へと消えていくスミスに届く事はなかった。

 

 

彼女は走る。

 

 

 

艦長帽も上着も脱ぎ捨て、身軽格好になった彼女は、まだ沈んでいない艦首にあった機銃の銃座につく。

 

 

(壊れては……いないようね。昔の腕が鈍っていないと良いのだけれど……)

 

 

 

 

傾いた甲板で彼女は、1機の戦闘機に狙いを定め――

 

ズガガガガガ!

 

思いきり撃ちまくった。

 

 

 

戦闘機は雷撃機や爆撃機よりも、身軽で機動性が高く、航空迎撃に馴れていない現世界の住人がぶっつけ本番で撃ち落とすのは至難の技だった。

 

 

 

しかし――

 

 

 

ボン!

 

 

 

 

敵機の複雑な軌道を正確に予測した彼女の銃撃は、見事に命中して戦闘機を射殺す。

 

 

 

 

 

(皆を殺させはしない!1機でも落として血路を開く!)

 

 

 

 

スミスは次の標的に狙いを定めた。

 

 

 

 

だが、炎を上げ沈み行く艦の上にいる以上、彼女に残された時間は僅しかない。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

リリーとリタは走っていた。

 

 

 

つい今しがた、艦に複数の魚雷が命中し、浸水が発生したのである。

 

 

 

更に――

 

 

 

「うわっ!此方にも火の手が!」

 

 

「うぅ…これじゃ進めないよ」

 

 

火災が発生して火の手が迫っていたのである。

 

 

 

 

あの場での迎撃を諦めた二人は、脱出を計る為に、救命ボートのある地点に向かおうとしていたが、二人の予想よりも遥かに火の回りが速い。

 

 

 

二人はもと来た順路を引き返す、辺りには酷く損傷した遺体がそこら中に転がっていた。

 

 

「もう、嫌だよ……」

 

 

「確かにこのままじゃ逃げ切れないな……どうするリリー?このまま海に飛び込んじゃおうか?」

 

 

「嘘でしょ?こんな高さから飛び降りたら怪我しちゃうよ……」

 

 

「死ぬよりマシだろ?ほら、行くよ!」

 

 

「あっちょっと……待っ、引っ張らないで!……あれ?ねぇ……あれって」

 

 

「ん?どうしたのさ。そんなことより早く飛び込んで――」

 

 

 

「アリーだよ!」

 

 

 

「なんだって!?」

 

 

リリーは海を指差した先には、湾内の海を陸地に向かって泳いでいる隊員や学生達の集団が見えた。

 

 

その中に、特徴的な赤毛の女性がいる。

 

 

 

彼女達の親友であるアリソンだ。

 

 

 

彼女はアリゾナの沈没から逃れ、陸地を目指して必死に泳いでいた。

 

 

 

リリーとリタは、親友の姿に安堵し、そしてアリソンに手を降って叫んだ。

 

「アリー生きてたんだ!アリー!こっちよ!」

 

 

「おーい!アリー!」

 

 

すると彼女が一瞬こちらを向いた。二人は必死に手を振る。だが彼女の視線は直ぐに別な方向へ向けられ――

 

 

 

次の瞬間

 

 

 

ズガガガガガ!

 

 

アリソンが泳いでいた付近を何機かの戦闘機が機銃掃射をしながら通過する。

 

 

「「アリー!」」

 

 

二人は叫びながらアリソンの姿を探す。

 

 

「あっ!あれは……アリーだ!」

 

リタが指差した方向には確かにアリソンらしき赤毛の学生服を着た女性がいる。

だが、

 

 

「動いてない!?……まさかっ!」

 

 

 

 

アリソンは死んでいた。

 

 

 

先程の機銃掃射が腹部に命中したのだ。白い制服が彼女の髪の色と同じ赤に染まっていく。

 

 

 

その顔は、まだ自らの死を理解していないという表情のまま固まっていた。

 

 

 

 

「う、嘘だろ……そんな事」

 

「アリー……嫌ぁぁぁぁぁ!」

 

 

 

リリーは、目の前での親友の死に号泣し、リタはみるみる目を血走らせていた。

 

 

 

 

「こんのぉ…クソッタレ共がぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

「リタ!?」

 

 

 

 

リタは近くにあった機銃の銃座につき、錯乱したかのように撃ちまくった。

 

 

 

 

ズガガガガガ!

 

 

 

 

「畜生!皆殺しにしてやる!落ちろ落ちろ落ちろぉぉぉ!」

 

 

「り、リタ危ないよ!それより私達も早く逃げないと!」

 

 

「落ちろぉぉぉ!」

 

 

 

 

リタは、怒りで完全に我を失っていた。

銃撃に気付いた1機の戦闘機が、機体を翻して此方に向かってくる。

 

 

それに気付いた彼女は狙いを定め、銃弾を放った。

 

 

 

 

 

「うぉぉぉ!落ちやがれこの野郎!」

 

 

戦闘機は巧みに銃弾を避けていたが遂に――

 

 

 

ボンッ!

 

 

 

 

炎を噴き上げクルクル回転しながら、艦の頭上を通過した戦闘機は、そのまま港湾施設にあるクレーンのアームに激突し、粉々になった。

 

 

「見たか!このクズ野郎が!さぁ、どこからでも来やがれ!あたしが全部叩き落としてやる!」

 

 

「リタ!もう……!」

 

 

「うるさい!あんたは黙って隠れてな!」

 

 

「ひっ……!」

 

 

リタの常軌を逸した表情に思わずリリーは怯える。

 

 

そんな彼女を尻目に、彼女は次なる獲物に照準を合わせた。

 

 

「次はあんただよ!」

 

 

ズガガガガガ!

 

 

 

 

機銃が火を噴き、戦闘機を襲う。しかし敵は身軽な体で銃弾を交わし続け、此方に向かってきた。

 

 

 

だが――

 

ボンッ!

 

戦闘機は再び火を噴き上げ――

 

 

 

 

「リタ!あいつ此方に突っ込んで――」

 

 

「う、うわぁ!落ちろ落ちろぉぉぉ!」

 

 

リタは機銃を乱射し、何とか戦闘機を落とそうする。

 

 

 

だが敵はそのまま突っ込んでくる。自らの体が如何に砕かれようとも……

 

 

 

 

リリーは本能的に危険を感じ、その場から全力で離れた。

 

 

「リタァ!早く逃げて!」

 

 

「ち、畜生!畜生畜生っ!」

 

 

リタは未だに撃ち続けていた。先程とは違い、顔には焦りの色がはっきりと浮かぶ。それでも彼女は、撃つのを止めなかった。機銃が放たれる度に、汗で光る彼女の筋肉質の肌が小刻みに振動する。

 

 

 

 

「リタお願い逃げて!」

 

 

 

 

炎を纏った戦闘機はすぐそこまで迫っている。

そして――

 

 

「あ…ああ…あっあっあっあっ!……あぁぁあぁぁあぁ!」

 

 

 

 

それがリリーの聞いた最後の彼女の声になった。

 

リタは最後まで銃撃を続ける。

 

 

だが、戦闘機は止まらず、突っ込んできた敵は、前方にあるプロペラで彼女の肉体を細切れにし、そのまま壁へと激突してミンチにしてしまう。

 

 

 

遂には――

 

 

ズドォン!

 

 

 

機体が爆発して炎に包まれ、彼女が存在していたのか疑いたくなるレベルまで粉々にした。

 

 

「キャァァァァ!」

 

 

リリーは、爆風によって海へと投げ出され、彼女は必死に足掻いて水面へと顔を出す。

 

 

「うっ…うぅ」

 

親友を無惨に失い、未だに自分も危機的な状況にあるリリーの精神は最早限界に達しつつあった。

 

 

   + + +

 

 

 

同刻

 

 

江田はハワイ付近に到着していた。

 

 

 

 

近付くに連れて黒いが見えてくる。

 

 

「くっ!間に合わなかったか……超兵器はもう湾内に侵入しているのか?」

 

 

 

 

江田は速度を上げて島へと近づいて行くにつれ、見えてきた光景に唖然とした。

 

 

 

 

「こ、航空機!?そんな馬鹿な……空母級や航空戦艦級は海域に存在しない筈じゃ……」

 

 

 

 

江田は、直ぐ様異世界艦隊の共有回線で、シュルツと連絡をとる。

 

 

 

現在、蒼き鋼所属の江田は、本来なら群像に連絡を取るべきなのだろうが、超兵器に関しての知識が豊富なシュルツに指示を仰いだ方が早いと判断したのだろう。

 

 

「此方蒼き鋼、江田です。ペガサス応答願います!!」

 

 

   + + +

 

 

シュルツは驚愕した。

 

 

 

「航空機だと!?報告されたノイズの大きさからすると、超兵器の空母や航空戦艦は居ない筈だ。なのに……」

 

 

『割り込みですみません』

 

 

「千早艦長……どうされましたか?」

 

 

『我々のレーダーにハワイ周辺の超兵器ノイズの他に、新たなノイズを検知しました』

 

 

「なんですって!?まさか超兵器の超巨大空母が?」

 

 

『ソレなんですが……徐々にノイズが縮小しているようなんです』

 

 

「縮小?と言うことは潜航型?そ、そうか!潜水艦の空母化。つまり潜水空母!しかしその様な超兵器は私にも……」

 

 

『そちらの方のノイズは徐々に遠ざかっていますが……追いますか?』

 

 

「いえ……ハワイの救援が先です。江田!敵の航空機の種類はどうか?」

 

 

『レシプロ機が中心の部隊ですね。ですがレーダーに第二次攻撃隊と思われる反応が接近しています。この接近速度からすると、恐らくはジェット機である可能性が高い。私一人では……』

 

 

 

「心配するな。もうすぐモーリスの部隊がそちらに到着する。それまでお前は、爆撃や雷撃を行う航空機を中心に撃墜してくれ。くれぐれも無理はするな」

 

 

『了解』

 

 

江田は通信を切るとセイランを一気に加速させ、戦闘体勢に入った。

 

一方のシュルツは、少し考え込んだあとに、ブルーマーメイド及び、蒼き鋼に同時に通信を入れる。

 

 

 

 

「こちらペガサス。千早艦長、岬艦長聞こえますか?」

 

『ええ、聞こえます』

 

『どうされましたか?』

 

 

「どうやら、ハワイは既に襲撃を受け、甚大な被害を被っているようです」

 

 

『……』

 

『そんな……』

 

 

 

事前に江田と通信した群像はともかく、明乃は動揺を隠せなかった。

 

 

シュルツはそれに構わず続ける。

 

 

 

 

 

「蒼き鋼のイ401とペガサスは、ハワイの東に展開しているであろう二隻の超兵器を叩きます。はれかぜの皆さんは、大戦艦ハルナと共に、真珠湾の救助活動に専念して頂きたい。尚、市街地の救助はスキズブラズニルより小型艇を数隻出して、人員を陸地に送ります。」

 

 

 

『で、でもそれじゃ……』

 

 

「あなたはブルーマーメイドだ。救助に関してはあなた達の方が遥かに詳しい。今救えるべき人を助けるのがあなた方の役目だ。露払いは軍人である我々が行います。岬艦長……お願いします」

 

 

 

『……解りました。至急準備に入ります。シュルツ艦長、千早艦長も気を付けて』

 

 

「解りました。ハワイの敵航空部隊は、あなた方のが到着する迄に必ず排除します。それでは」

 

 

シュルツは、明乃との通信を切ると、群像へ再び話しかける。

 

 

「千早艦長……」

 

 

『解っています。敵は潜水艦です。我々が相手をしますので、シュルツ艦長は出来るだけバックアップをお願いします』

 

 

「助かります。宗谷室長指揮の下、我が陣営からかなりの人数を救助に向かわせていますので、我々も手が足りない状況なのです」

 

 

『二手に人員を割いたことが裏目に出てしまいましたね……』

 

 

 

 

 

「やむを得ません……それにやはり、ジブラルタルに動きがあったようです」

 

 

『超兵器が目撃されたのですか?』

 

 

「いえ……現段階では大西洋からジブラルタルに接近するノイズが観測されたに過ぎませんが」

 

 

『いますね……内通者が』

 

 

「……間違いなく」

 

 

『どうやって我々に気取られずに通信をしているのでしょうか?』

 

 

「それも含めてパナマ迄に結論を出さなくてはならないでしょう。西進組にも調査員を送りましたので。少なくとも容疑者の絞り込みは迅速ではないかと」

 

 

『解りました。それでは此方も戦闘体勢に入ります』

 

 

「ええ、お気を付けて」

 

 

シュルツは通信を終了し、深く息を吸うと、目を見開き自艦に指示を出す。

 

 

「総員、対潜水艦戦闘準備!砲撃戦や対空戦になる可能性もある。準備を怠るな!」

 

 

シュルツの指示で艦内が一気に慌ただしくなる。

 

 

前回程の規模ではないにせよ。不足した人員の中での戦闘に、シュルツの不安は募るばかりであった。

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


たった2隻の超兵器登場ですが、欧州と大西洋でドカンと一気に登場させたいです。


それではまたいつか










とらふり!


ハルナ
「………」


キリシマ
「どうした?黙っていては概念伝達空間に集まった意味がないだろう」


ハルナ
「いや、少し考え事をしていてな」


キリシマ
「お前がそこまで悩むとは余程の事か?」


ハルナ
「ああ、ここのところ私の出番が少ないと思ってな」


キリシマ
「そんなことかよ!こう言っては何だが、一度ヒュウガに頼んでオーバーホールしてもらったらどうだ?」


ハルナ
「!!!解ったぞ!」


キリシマ
「嫌な予感がする…」


ハルナ
「あの帽子でいつも目が隠れているウィルキアのムッツリ艦長か、妙に私達のコアに訴えかける声の持ち主のブルマーの室長に声を掛ければ…こうしてはいられない!早速行ってくる!」


キリシマ
「おい、ハルナ!ハルナさぁ~ん!…行ってしまった。やはりメンタルモデルも人間に近付くと¨ストレス¨って奴を実装していくのやもしれん。今後対策が必要だな…タカオはどう思うんだ?」


タカオ
「いや…クマに真剣な話題ふられても対応に困るわよ」



キリシマ
「そ、それは言うな(泣)」


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天を泳ぐ悪夢    vs 超兵器

お疲れ様です。

真珠湾攻撃中編になります。

それではどうぞ


   + + +

 

インド洋

 

西進組で唯一超兵器や航空機との戦闘経験がない弁天クルーへの訓練が行われ、どうにか筑波から及第点を貰う事に成功した真冬は、シャワールームで汗を流しに来ていた。

 

 

 

そこに同じく汗を流しにきたもえかと遭遇する。

 

 

「おっ?なんだお前も来ていたのか」

 

 

「真冬艦長!?」

 

 

「いやぁ~参ったぜ。あの筑波ってオッサン、容赦ねぇからさ……」

 

 

「そ、そうですね」

 

 

疲れたように話す真冬の表情を見て、硫黄島での演習を思い出したもえかも、顔がひきつる。

 

 

だが真冬は直ぐに表情を戻しニッと笑った。

 

 

「それより知名さぁ。シャワー終わったら俺と飯食いに行こうぜ!この間の話も……な」

 

 

「わ、解りました」

 

 

もえかは頷く。

 

先日のヴェルナーとの会議の後、もえかは真冬の部屋で、明乃の件についての悩みを打ち明けた。

 

 

 

明乃の生い立ちや能力について、ろくに説明も無いまま出発した真冬は、珍しく驚愕し、そしてもえかに対し何も言うことが出来なかった。

いや、この複雑な内容に的確に答えられる者などいよう筈も無いのだが、それでも真冬は後輩の悩みに答える事が出来なかった事に責任を感じているようだ。

 

 

シャワーを終え、二人は食堂へと赴く。

 

 

「おっ!今日はシーフードカレーか、いいねぇ!」

 

 

「はい、私も大好きです!」

 

 

「ははっ!そいつは良かった。んじゃ速いとこ食っちまおうぜ」

 

 

 

二人はカレーを口に運ぶ、カレーの中に入っているスパイスの刺激と磯の香り、そして海老やイカのプリッとした食感が絶妙だった。

 

あっという間に、カレーを平らげた二人は、手元の水を一気に飲み干してグラスをテーブルの上に置くと、真冬が真剣な表情になるのをもえかは見た。

 

 

 

「それで、この間話してもらった件だが…上手くお前の悩みに答えてやれなくて済まなかったな」

 

 

 

「い、いえ。そんな事は……」

 

 

「あれから考えたんだ。お前の悩みは詰まる所、超兵器の意思よってアイツが壊れちまうんじゃないかってとこだろ?幼馴染みであるお前が近くにいなけりゃ尚更あいつの心に負担が掛かるんじゃねぇかってな。結論から言うが、そんな事は知ったことじゃねぇ」

 

「なっ……!」

 

もえかは真冬の台詞に言葉を失う。

 

 

「俺は思ってたんだ。今までずっとな。あいつから感じる違和感ってやつを」

 

 

「違和感……ですか?」

 

 

「ああ、お前はあいつとどんな事をしてみたい?仕事の話じゃねぇ。プライベートでだ」

 

 

「そ、それは。一緒に買い物したり、食事に出掛けておしゃべりしたりしたいです。あまりそんな時間が取れませんでしたし」

 

 

「そうだな。じゃあ今の質問をあいつ自身に言ったら何て答えると思う?」

 

 

「……あっ」

 

 

「気付いたみてぇだな。そうだ、お前と似たような事を言うだろうが、少し違う。あいつは公私関係なく、話す内容は仕事の事なんだろ?思えば不自然だったんだ。学生にしろなんにしろ、年頃の女が、艦っていう閉鎖的な場所に詰め込まれて自由を制限されれば、それなりにストレスになる、俺だってそうさ。だがあいつは、学生の時からまるで¨機械¨みてぇに業務に取り組み続けた。それは何でだ?」

 

 

「………」

 

 

「あいつには芯ってのがねぇのさ。心の芯ってのが……だから超兵器の意思とか言うのに簡単につけ込まれちまいやがる。何だっていいんだ。美味い飯が食いたいとか、お洒落したいとかでもいい。何かこの為に生きたい、生き残りたいって言う意思が無ければ。お前がいくら慰めても、焼け石に水ってもんだぜ。世界を守るだって?聞こえはいいが、何一つ中身がねぇんだよ」

 

 

吐き捨てるように言い放つ真冬にもえかは俯く。

 

 

彼女の言うことは、至極真っ当であったからだ。

 

 

 

 

知ってはいた、自分も含めたはれかぜのメンバーは艦長岬明乃ではなく、岬明乃という一人の人間を慕って集まっているのだという事を。

 

だが肝心の明乃自身は、その気持ちをあくまで艦長の自分に対して向けられていると無意識に思っているのだろう。

それを他人ではなく、明乃自身で気付かなければ意味がない。真冬の言いたいことはそう言う事であった。

 

俯き続けるもえかに真冬は、ニッと笑いかけた。

 

 

「悪りい悪りい!お前の幼馴染みの事だもんな。心配なのは当たり前だ。だが俺は、あいつは自分の力でその事を解決できる奴だって信じてるぜ!お前もそうだろう?」

 

 

「はい!」

 

 

もえかは目を見開き、真冬をまっすぐ見て答えた。

 

 

「んじゃ話は終わりだ。お前も自分を大切にして生き残ることを考えろ。あいつの為にもな!」

 

 

「ありがとうございます。それでは!」

 

 

もえかはお辞儀をして去って行く。

 

 

 

真冬はてを降って見送ると、表情を険しくして背後の人物を恫喝した。

 

 

「盗み聞きとは感心しねぇなぁ。相談役様よう……」

 

 

男は特に焦る様子もなく坦々と答える。

 

 

 

 

「言い掛かりですよ。宗谷艦長。あたなは私より後に座席に座られたのですよ。それを盗み聞きとは――」

 

 

「黙れ!テメェ素性は、調べがついてんだよ。¨元特高¨の佐々井忠幸」

 

自分のかつての役職を言い当てられた佐々井は、特に狼狽するまでもなく。席を立ち上がり、先程までもえかの座っていた席に移動して真冬と対面する。

彼女は今にも噛み付きそうな鋭い眼光で睨み付けるが、佐々井は全く意に介していないようだった。

 

 

 

何より真冬を苛立たせたのは彼の態度である。

 

 

 

 

色で表現するなら、正に無色透明と言ったような特徴のない表情。高くも低くもない、普通の声。

真霜から提供された異世界艦隊のメンバー表の写真で顔を確認していても、ヴェルナーの会議の後に顔を合わせていても、目の前に来るまで存在すら忘れてしまいそうな位、とにかくあらゆるものが希薄な男だった。

職業柄、海賊や他国の工作員への尋問、犯罪人の引き渡し等で顔を会わせる各国の関係者等、色々な人種と顔を会わせる機会が多い真冬であっても、目の前にいる男の思考を読むのは容易ではない。

 

だが、そんな事で引き下がる訳にはいかない真冬は毅然とした態度で佐々井に食って掛かる。

 

 

 

「テメェ…何を嗅ぎ回ってやがる」

 

「はぁ……仰られている意味がよくわかりませんが」

 

 

 

「しらばっくれんじゃねぇ!特高が何の理由もなしに動くわけがねぇだろ」

 

「ですから私は、ヴェルナー艦長よりブルーマーメイドの相談役として――」

 

 

ガシッ!

 

真冬は、佐々井の手首を掴んで引き寄せると、今にもキレそうなほど血管を浮かび上がらせ、彼に迫る。

 

 

「ご託は沢山だ。真実だけを正直に答えやがれ!」

 

「私は、本当に相談役役なのですよ。確かに、自分の世界では敵国へ潜入し、相手との会話から敵の重要施設等の位置情報を調査して、ウィルキアのエージェントに報告していたことは事実です。しかしながら、現世界に於いて、超兵器をある一国が所有しているわけでは無い以上、その必要はなく。戦闘員でもない私は事実上のお荷物なんです。故に、こういった形で少しでも限られた人員を有効に使って頂けるのは私としてはむしろ幸いであるところなんです」

 

 

 

 

真冬は少し焦りを覚えた。佐々井の言う内容は筋が通っていたし、何より掴んだ手首から伝わる脈や、瞳孔の動きからも嘘をついた形跡が見当たらない。

 

 

真冬は仕方なく佐々井から手を離した。

 

 

「チッ!取り敢えず納得してやる……で?軍属でもねぇテメェが、何で軍属と行動を共にしてやがるんだ?」

 

 

 

佐々井は、抑揚の無い声で語り出す。

 

 

「それには私の生い立ちから話さねばなりません。私は、貧しい農村の四男として生まれましてね。長男ならいざ知らず。それ以外の子供は¨口減らし¨や金の為に奉公や売りに出されるのが至極当たり前の時代だった。奉公先で下働きに明け暮れる毎日を送っていた私に、旦那様は良く声を掛けてくださり、みすぼらしい格好をした私に、『男は勉学に励むものだ』と古い教科書を譲ってもらい、下働きの合間にも勉強をするよう取り計らって下さったんです。後に知ることに成りました。その方がユダヤ人の排斥に異を唱えた樋口季一郎だと言うことを」

 

 

 

「樋口?知らねぇ名だな」

 

 

「成る程……日露戦争以降の歴史の違いによる齟齬ですね。此方の世界では、二度の世界対戦が起こる。その中で同盟を結ぶこととなったドイツは、ユダヤ人を迫害し、¨絶滅¨させようとしていた」

 

 

「ケッ!胸糞悪い話だぜ」

 

 

「同感ですね。勿論ユダヤ人は虐殺をおそれて方々へと逃げる。しかしその道中には、日本の支配する地区も含まれていました。同盟国ドイツへの配慮により、通常なら彼等を通すわけには行かない。しかし旦那様は彼等の通行を許可し、結果として一万人以上のユダヤ人を救った。私は憧れました。政府の意向に左右されず、大局的な観点から物事を見て行動できる人間でありたい。そう思ったんです」

 

 

「だがテメェは特高じゃねぇか」

 

 

「そう。記憶力を買われた私は、軍学校時代にの特高に引き抜かれた。そしてその内情を知ることとなった。軍事色の強かった当時、特高の仕事は敗戦思想や国家への不満に対する言動の徹底的な取り締まりです。この世界で言い表すなら、¨テロ等準備罪¨ですかね」

 

 

「調べたのか?俺達の国の内情を……」

 

 

「時間は限られていましたがね。まぁこの法律は、総理の意向では無いようには思われますが、言わば国民に対する言論や思想統制が目的の法律ですからね。もし仮に、明日から日本は世界に対し宣戦布告しますと言ったとして、それに反対すれば、それは国家に対するテロ、若しくはそれを企て、煽動したとして逮捕するといった内容です。私の仕事もそうでしたから」

 

 

「そんなの横暴だ」

 

 

「その通り。ですが、近所での世間話程度でも察知して見せしめとして逮捕、拷問を行い死に至らしめ、それを世間に意図的に流布すれば、会社でも家庭内でも¨日本万歳¨の声が鳴り響き、嘘でも繰り返し口ずさむ事で、一億総軍事国家というカルト集団を作り上げる事に成功した。誰しもが国家の為に、何時でも血を流して死ぬことを何よりの美徳とし、安穏とした当たり前の生を何よりも悪と断じたのです」

 

 

「………」

 

 

「しかし私は、その事がどうしても理解出来なかった。国の為に命をかけた結果が一億玉砕?間違っている。狂っている。だから私は、罪無き民衆を逃がした。捜査方法や範囲、内定の対象者は暗記済みでしたから。それらを意図的に知らせて身を隠して貰ったり、嘘でも国家を称賛するよう事前に勧告した。ですが同胞も馬鹿じゃない。私の行いが露呈するのも時間の問題だった。だがその前に日本はアメリカに敗戦し、進駐軍によって特高は解体されました。漸くこの国が開ける。そう思った矢先に――」

 

 

 

「超兵器……か」

 

 

「はい。真っ先に帝国に支持を表明した日本では、再び言論や思想の自由に制限を掛ける動きが再燃したのです。解体されたはずの特高も再び行動を再開する動きが見られた。故に私は、旦那様の様に国家に異を唱えるしかないと考えたのです」

 

 

「成る程…それでテメェがここにいるわけか」

 

 

「その通りです。ウィルキア共和国の関係者が拘束されている情報は掴んでいました。そして、それを解放せんとする一部の海軍軍人達の動きについても……故に私は、ウィルキア関係者が海軍軍人によって脱出が決行される日取りを、意図的に誤って流布し、それを手土産に海軍に近付いた。勿論信用はされませんでしたが、私はそれを告げた瞬間から海軍と行動を共にし、もし情報が誤りだったら私をその場で射殺してもらって構わないと言うと、私の解放軍への参加を認めてくださった」

 

 

「見かけによらず、危ねぇ賭けをしやがる……」

 

 

「ですが、国に異を唱えるには超兵器の打倒は必要不可欠であり、その為に帝国の機密情報の奪取は急務ですからね。軍人が荒事のプロであるなら、私は情報戦のプロです。敵地での捜査を解放軍のエージェントに提供し、機密情報を知ることで、彼等の限られた物資でも、敵に効果的な打撃を与えることが出来ます」

 

 

真冬はこの会話の最中、一瞬も佐々井から目を離さなかった。だがやはり、嘘は見えない。

 

 

 

ここは一旦引くしかないと観念せざるを得なかった。

彼女は立ち上がると、佐々井の横に立ち止まると、横目で彼を睨み付けながら言いはなった。

 

「テメェの事は解った。だが、完全に信用しちゃいねぇ。だが少しでも部下に妙な真似しやがったら…まぁいい。んじゃ、また何かあれば宜しく頼むぜ、¨相談役様¨!」

 

 

真冬は食堂を出ていった。

すると、今まで無表情だった佐々井の表情が急に真剣なものに変わる。

 

 

「彼女は¨シロ¨のようですね、フリッツ少尉。ですが味方になってもくれなさそうだ……」

 

 

 

佐々井が小声で話すと、真冬からは死角になっている耳の中に仕込まれていた小型のイヤホンから、フリッツの声がする。

 

 

 

 

『気付かれなかったか?』

 

 

「怪しまれてはいるでしょう。あなたのいう通り、とても勘が鋭いようだ。しかし会話もせずに雰囲気だけで性格まで解るとは、さすがですね。」

 

 

『茶化している場合か。バレたら、計画がおじゃんになるんだぞ!』

 

 

「想定の範囲内です。彼女は恐らく何も言わないでしょう。不用意に部下を不安にさせる人物とは思えない」

 

 

『了解した。容疑者の絞り込みは出来ているのか?』

 

 

「ええ、しかし確定には時間を要するでしょう。まぁ普通考えれば、少尉のいる東進組にいるのが自然なのですが……」

 

 

『固定概念は危険だ。あらゆる可能性を排除せず、引き続き調査を続行しろ』

 

 

「了解。また何かわかりましたら報告します」

 

 

 

 

佐々井は通信を切る。彼とフリッツは、小型の量子通信機で密かにやり取りを行っていた。

 

 

 

佐々井は表情をもとの無表情に戻し、ふと視線を前に向ける。そこには、真冬が口をつけていなかったコーヒーのカップがあり、彼はそれを手に取って口に運ぶ。

 

 

「勿体無いな。こんなに美味しいのに……」

 

 

 

温いがそれでも上質な薫りと苦味が口に広がる。

 

 

 

佐々井は、次なる調査の方法を頭でイメージし、そして結論を出すとコーヒーを一気に飲み干して自室へと戻っていった。

 

 

   + + +

 

リリー足掻く

 

 

 

とにかく、何かに這い上がれそうな所を見つけなければ、彼女の命は無いも同然であった。

 

 

(嫌だ!嫌だ嫌だ!死にたくない!私はこんなところで――)

 

 

 

 

 

キューン!

 

 

 

 

 

銃弾がすぐ真横を通過した。何名かその場で命を刈り取られる。

 

 

リリーの周りの美しい青色の海が赤く染まり、海とは違う生臭さが鼻を突く。

 

 

 

 

「ひっ…うっ、うぇぉ!」

 

 

 

思わず彼女は嘔吐するも、敵は休む間を与えてはくれない。

 

 

 

リリーは赤い海にプカプカと漂う自分の吐瀉物と、臓物を掻き分けながら泳ぎ続けた。

 

 

   + + +

 

 

「総員、救助体勢用意!」

 

 

 

 

明乃の号令で一気に艦内が慌ただしくなる。

 

 

 

彼女は、方々に支持を飛ばして、着々と救助の準備を進めて行く。

 

 

 

オワフ島に近づくに連れて黒い煙が増えていくのを見ているはれかぜクルーの緊張は極限まで高まっていた。

 

 

 

 

「主計部の皆は、救助と手当てに回って。砲雷部はみっちゃんヒカリちゃん、それにりっちゃんは救助班へ、じゅんちゃんとかよちゃんは、航空機が残っていたときに備えて迎撃体勢を万全に。航海部のさとちゃんは大型スキッパーで救命班の乗った救命ボートを牽引して現場に運んで、要救助者を救助して安全なところに避難させて。つぐちゃんめぐちゃんは、シュルツ艦長達から緊急の連絡が入るかもしれないから聞き逃さないで!万里小路さんは、ココちゃんと連携して湾内の海底座礁ポイントと障害物の確認をお願い!美波さんは治療の準備を!」

 

 

 

『了解!』

 

 

明乃の指示で各員が、準備を整える。

 

「シロちゃん!」

 

 

「やむを得ませんね……大型スキッパー免許は艦長始め、数人しか所持していません。行ってください!」

 

 

「ありがとう。はれかぜの指揮をお願い!」

 

 

「お任せください!」

 

 

明乃が急いで艦橋から離れて行くのを見送った真白は艦橋から指揮をする体勢を整える。

 

 

   + + +

 

 

ズドォォォン!

 

轟音と共に、トーマス・ワグナーから炎が上がって艦がいっそう傾いていく。

 

 

 

 

スミスは、爆風で体を吹き飛ばされ、甲板を転がった。

 

 

 

「うっ……くはっ!」

 

 

 

呻き声をあげつつも立ち上がろうとするも、左腕が骨折したのか、プラプラとして感覚が無く、体は最早言うことを聞いてはくれなかった。

 

 

 

(7機は落とした。でもここまでみたいね……)

 

 

スミスは傾斜する甲板に仰向けになる。

 

 

空を見上げた先には一機の急降下爆撃機が機体を翻し、こちらに向かって突進しようとしていた。

 

 

 

死期を悟ったスミスの脳裏には、自分の両親 学校の先生 海洋学校時代の同級生 自分が救って来た人々そして夫と子供たちの顔が次々と過って行き、瞳からは止めどなく涙が溢れてくる。

 

 

 

 

(あなた…トム…アマンダ……ごめんなさい。私は、良い妻でも良い母親でも無かったわね)

 

 

 

 

ブルーマーメイドは皆の憧れの仕事であり、給与も申し分無い。

 

 

 

だがその反面、現場の隊員は総じて長期間自宅に帰れないことも多く、緊急事態が発生すれば休みを返上して出動し、いつ死んでもおかしくない危険な任務をこなさなければならず、それ故に家族の関係が崩れるケースもあって、とても離婚率が高いことでも有名だった。

 

 

 

しかし彼女の夫は、スミスの仕事を尊重し、多忙ゆえに晩婚だった彼女に出来た待望の子供たちは、一月以上スミスが帰ってこなくとも、海のヒーローであるブルーマーメイドの母親を帰宅時には笑顔で出迎え、その日は決まって家族でご馳走を食べて多いに笑ったのだった。

 

 

スミスは目を見開く。

 

 

 

 

(そうだ…こいつらをこのままにしたら私の家族が――!)

 

 

彼女は無事な右手で腰にあった拳銃をなんとか取り出し、空へと向けると此方に向かってくる爆撃機に引き金を引いた。

 

 

 

パンッ!パンッ!パンッ!

 

 

 

 

(諦めない!最後まで抗って見せるわ!あなた達何かに、家族を奪われてたまるか!)

 

 

彼女は撃ち続ける。

 

 

だが当然の如く、そんなもので爆撃機を撃ち落とせる筈もなく、忽ちマガジンは空になってしまう。

 

 

スミスはそれでも、爆撃機を睨み付けて、一切目をそらさなかった。

 

 

そしていよいよ、爆撃機が爆弾を切りはなそうとしたその時――

 

 

ボンッ!

 

 

敵の体が突如として弾け、機体の制御を失い火を噴きながら、海へと落下した。

 

 

 

 

驚くスミスの視界を、美しい蒼の機体が、高速で飛び去っていく。

 

 

   + + +

 

リリーは思わず、空を見上げた。

 

 

突如現れた蒼い色の航空機が、敵を次々と落とし始めたからである。

 

 

「す、凄い……あんなに簡単に敵を――」

 

 

 

 

そこまで口にするとリリーは、我に帰る。

 

 

 

 

(いけない!今のうちに早く安全なところに!)

 

 

正直、彼女には体力はほとんど残ってはいない。

 

 

しかし今は目の前に一筋の希望がある。

 

 

リリーはその希望にしがみつく様に必死に体を動かして泳ぎだしていた。

 

 

   + + +

 

 

「凄い!何て機動性だ!」

 

江田は、セイランの性能に驚愕していた。

 

戦闘への介入から早3分で、十数機もの航空機を撃墜している。

 

 

だが――

 

 

 

「こいつ…性能はいいが、体への負荷が大……きい!」

 

 

当然だった。

 

 

そもそもセイランは人間が搭乗することを目的として作られてはいないからだ。

 

 

速度出そうと思えば軽く音速を超え、にも拘らずレシプロ機並みの旋回性能も有しており、その様な無茶な動きをしても機体がバラバラになる事はない。

 

 

 

一見理想的な機体にも思えるが、如何せん人間である江田には体にかかる重力の負荷が余りにも大き過ぎるのだ。

 

 

播磨戦の時にハルナが見せた操縦はメンタルモデルであるからこそ可能であり、かれには事実上不可能な芸当であった。

 

 

 

だが江田は、操縦桿とスロットルを絶妙に操作し、セイラン一機で対ジェット機対レシプロ機との戦闘を両方こなせるよう訓練をしていたのだ。

 

 

 

そして彼の視界には、新たな敵の姿を捉える。

 

 

 

 

「よし!いくぞ!」

 

 

江田は行った。

 

 

 

 

見た目とは裏腹の驚異的な速度で距離を詰め、ヒュウガに特別に取り付けて貰った主翼部の対空パルスレーザーを発射し、簡単に敵の体を射抜いて敵機を粉々に空中分解させてしまう。

 

 

「次っ!」

 

 

 

 

江田は直ぐ様次の行動に移る。

 

 

だが、予想以上に敵の数が多く、第二次攻撃隊の接近も間近だった。

 

 

 

彼の焦りがどんどん募っていく。

 

 

その時――

 

 

『待たせたな!』

 

 

 

突如通信が入った。その声の主は――

 

 

「も、モーリス隊長!」

 

 

江田が叫ぶとほぼ同時に、真珠湾上空をジェット機の群れが通過し、敵の第二次攻撃隊が接近してくる空域へと向かっていく。

 

 

『市街地を攻めてた奴等は片付けた。お前は湾内の敵を片付けろ!俺達が第二次攻撃隊の相手を引き受けてやる!なぁに、ちょっくら奴等の汚ねぇケツに一発みまってやるくらいわけないぜ!お前も、奴等に思い知らせてやれ。俺と一宮でお前を仕込んでやったんだ、10分ありゃ出来るよな?』

 

 

「はい!」

 

 

『ははっ!ちょっとは謙遜しろよな。奴等はダブルアタックを仕掛けてくるような連中だ……死ぬなよ』

 

 

「隊長も気を付けて!」

 

 

『へへッもうお前の隊長じゃねぇよ』

 

 

モーリスは、そういって笑うと通信を切る。

 

 

 

彼は眉をひそめたいた。

 

 

 

【ダブルアタック】つまりは第一次の攻撃で出来るだけ人の集まりそうな場所を破壊し、怪我人や生き埋めの人を助けようと集まってきた民衆やレスキュー隊、それに警察や医者などを、第二次攻撃で纏めて吹き飛ばす残虐極まりない戦法だ。

 

 

 

 

それをさせないためにも、江田は一刻も早く湾内の航空機を掃討する必要を強く心に刻む。

 

 

 

 

(モーリス隊長が引き止めいる間に出来るだけ敵を減らす。芽衣さん達が少しでも安全に救助出来る状況を作らないと!)

 

 

 

江田も表情を更に引き締め、残敵の掃討に入った。

 

 

   + + +

 

 

「艦長!蒼き鋼より超兵器二隻の特定を完了したとの報告が有りました」

 

 

「うむ、艦名は何か?」

 

 

「巨大潜水艦【レムレース】との事です」

 

 

「東に去った超兵器については?」

 

 

「残念ながら特定には至りませんでした……」

 

 

「そうか……よし!今は目の前の敵の撃沈を優先しよう。総員、対潜水艦戦闘用意!当超兵器に接近してやつの位置を伝え、蒼き鋼を支援する」

 

 

「はっ!」

 

 

ナギが敬礼を返し、配置に着く。

険しい顔のシュルツに博士が歩み寄った。

 

 

 

 

「たったの二隻……ですか。超兵器とはいえ、量産型で、しかも通常の潜水艦を少し巨大にした程度の艦です。我々の相手には、本来なり得ない相手ではありますが……強化や新型兵装の装備も考えられます」

 

 

「油断は禁物と言うわけですね?」

 

 

「ええ、レムレースの本来の戦い方のは、大量投入で敵を囲い込み、魚雷やミサイルでの各個撃破戦術ですから」

 

 

「解りました。伏兵の可能性を考慮して、音波探知での策敵を厳として行います」

 

 

 

 

 

 

ペガサスはソナーを起動し、超兵器の策敵に入る。

 

 

   + + +

 

 

 

「敵超兵器レムレース、機関の始動音を確認!」

 

 

「敵速は19ktですか……正直話に成りませんね」

 

 

「敵が俺達に使える兵装は、酸素魚雷と対潜誘導魚雷それに通常魚雷の三つ……クラインフィールドを抜くには役不足な兵装ばっかだぜ?」

 

 

401の艦橋クルーからの問いかけに、群像は暫し考え、呟く。

 

 

「簡単すぎる……」

 

 

「何だよ、この間の超兵器戦みたいな隠し球でも有るってのか?」

 

 

 

杏平が訝しげに群像を見つめる。

 

 

「それもあるんだが、もしかしたら――」

 

 

「敵艦、魚雷発射菅開きました。高速推進音感2!」

 

 

「来たか……よし!かかるぞ!」

 

 

401は、速度を上げ超兵器へと接近していく。

 

 

   + + +

 

 

 

 

江田は、湾内の航空機を完全に掃討していた。

 

 

「ふぅ、あらまし片付けたか……」

 

 

 

上空から見渡すと、あちこちから煙が立ち上っており、一刻も早い救助が必要なのは明らかだった。

 

 

(早くモーリス隊長と合流し、敵を一掃して救助に回らないと!)

 

 

江田がそう思った矢先――

 

 

『江田!聞こえるか?』

 

 

「モーリス隊長?どうされましたか?今から私もそちらに――」

 

 

『すまん……何機かに逃げられた。そっちに向かってる。相手を頼めるか?』

 

 

「りょ、了解!」

 

 

江田は直ぐ様レーダーを確認し、敵機の来る方向を確認して速度を上げた。

彼の表情は険しさを増す。

 

 

 

 

(まずいぞ……全機は撃墜できる。出来るが……)

 

 

 

 

江田の懸念はもっともだった。

 

 

 

セイランの性能は優れてはいるが、相手を出来るのは飽くまでも一機に絞られる。

 

 

 

そうなれば、残りの航空機が攻撃を始めてしまう。

 

 

 

況してやジェット機ともなれば、兵装はミサイルや航空バルカン砲、新型爆弾などを搭載しており、被害が甚大になるのは避けられない。

だが現状は、江田が何とか対処する以外に手だてはなかった。

そしていよいよ、敵機が視界に入る。

 

 

(五機か……後に取っておきたかったが仕方がない。¨空対空侵食ミサイル¨を使うしかないか)

 

 

江田は、正面から来る敵機に対空パルスレーザーを射撃、レーザーはあっという間に、敵機の体を貫通する。

 

 

 

 

 

「まず一機!」

 

 

だが、悠長にはしていられない。

 

 

 

直ぐ様機体を翻して次の敵に狙いを定める。

 

 

しかしジェット機である敵は、あっという間にセイランとの距離を開けてしまう。

故に今度は、敵に狙いを定めると操縦桿の頭にあるボタンを押す。

 

 

ピシュオオォ!

 

 

 

主翼の基部のしたに搭載されている小型ミサイルが発射されて敵機を追尾し、着弾すると同時にタナトニウムが機体を崩壊させる。

 

 

「残り3!」

 

 

江田は敵機を追い、高度を落として攻撃体勢に入っている敵にもう一発のミサイルを発射する。

 

 

「間に合え!」

 

 

ミサイルは猛烈な速度で飛翔し敵機に着弾し消滅させるが、残り二機は――

 

 

「くそっダメだ!間に合わな――」

 

ボォォォン!

 

 

「!?」

 

 

敵の一機が、突如ミサイルの直撃を受け爆発、粉々になる。しかし江田は、ミサイルを放ってはいない。

彼はそれが飛翔してきた方向に視線を向け、目を見開いた。

 

 

「あ、あれは……はれかぜ!芽衣さんか!」

 

 

   + + +

 

 

「よし、一機撃墜!かよちゃんナイスショット!迎撃システムは正常に稼働してるよ!」

 

 

芽衣は拳を前に突き出す。

 

 

 

だが、真白の表情は固い。体勢を立て直すために再上昇をかけている航空機がまだ残っているからだ。

 

 

 

 

残敵がいる以上、迂闊に救助の出動指示を出すわけにはいかず、一分一秒を争う救助の現場であっても、まず自分の安全を確保しなければならないのは基本であった。

 

 

 

何故なら今現在に於いて、救助出来る技術を持っているのは自分達しかおらず、もし何かあれば助けられる命も助けられない事を熟知しているからに他ならないからである。

 

 

 

故に真白は間髪を入れずに指示を飛ばす。

 

 

「立石砲術長!絶対に逃がすな!対空迎撃用意!」

 

 

「うぃ!じゅん……用意は?」

 

 

『バッチリ!何時でもズキューンといっちゃうよ~!』

 

 

「常に航空機の先端付近に照準を合わせて………おいて!」

 

 

 

 

志摩は順子からの返事に頷くと、直ぐ様航空機を見つめ軌道を読む。

 

 

(視認出来るだけ…砲弾よりは……簡単!)

 

 

 

 

敵機は機体を翻し、最重要の脅威であるはれかぜに向かって旋回を開始した。

 

 

 

 

彼女は瞬時に、対空パルスレーザーの弾速と航空機の軌道の予測を弾き出す。

 

 

 

 

 

 

「じゅん……今!照準の中心を航空機先端から左に1.5mmずらして!」

 

 

 

喋るのが苦手な志摩であるが、この時ははっきりと素早く指示を送り、対する順子も、それを瞬時に行動に移した。

 

 

 

 

 

青い光が高速に飛び出し、航空機へとひた走り――

 

 

 

ボォォォン!

 

 

 

レーザーは敵機のボディを貫通し、敵は炎上しながら海面に叩きつけられ粉々に砕け散る。

 

 

「よし!」

 

真白は思わず拳を握りしめた。

視線を横に向けると、志摩がVサインを出している。

 

 

だが、これで終わりではない。救助こそが彼女達の本当の戦場になるからである。

故に真白は表情を引き締める。

 

 

「今だ艦長!スキッパーを下ろして出動してください!」

 

 

『了解!シロちゃんも気を付けて!』

 

 

「了解!」

 

 

 

 

真白は通信を切る。

 

 

「納沙記録員、これ以上進めそうか?」

 

 

「もう少しだけなら……あまり深入りすると座礁の危険がありますね。バラストを排水する手もありますが、それだと敵が来た際に急激な動きを取りにくくなります」

 

 

『私もココさんの意見に賛成ですわ』

 

 

「万里小路水測員?」

 

 

『湾内の海底には多数の沈没船や障害物が山積しております。水深も浅いですし、敵がいらっしゃった場合も加味して、ある程度動ける位置にいた方が宜しいかと……』

 

 

真白は少し考えてから結論を出した。

 

 

 

 

「よし!ギリギリの所までは進もう。その後停止して、不測の戦闘に備えて待機。少し現場からは離れてしまうが、ここまで重傷者等を運んでもらうよう通達する。敵超兵器及び、敵航空部隊の殲滅の報が入り次第、本艦はバラストを排水して海底の障害物や座礁ポイントを避けつつ湾内の奥に進み、救助の効率化を計るものとする。救助班を含めたはれかぜ各位、了解か?」

 

 

 

 

「了解!」

『了解!』

 

 

真白は、全員の了解を受けて頷く。そして、黒い煙に包まれた湾内を眺めて表情を険しくした。

 

 

 

   + + +

 

明乃はスキッパーで、救助用ボートを牽引しながら、被害の甚大な湾内の奥へと進む。

 

 

 

辺りは黒い煙と悪臭が漂い、数多くの遺体が浮かぶ光景は思わず眉を潜めずにはいられない惨状だった。

 

 

 

「ひ、酷い……うっ!つぅ……」

 

 

 

 

明乃は、この光景を見はじめてから頭がズキズキと痛むのを感じていた。

 

 

 

 

《憎カロウ……》

 

 

「!!?」

 

 

《何故感情ヲ否定スル。ソノママ身ヲ委ネテシマエバ楽ニナレ――》

 

 

「おい、どうした?」

 

 

明乃はその声で我に帰る。

 

 

振り向くと救助の任務に随伴している大戦艦ハルナが此方に視線を向けていた。

 

 

 

 

 

 

「表情が優れないようだな。脈拍の上昇と急激な発汗を検知した。体調が優れないなら、スキッパーの操作を別の者に代える事を提案するが?」

 

 

 

 

 

 

メンタルモデル独特のまばたきの無い目に全てを見透かされいるような気がして、明乃はハルナから視線を逸らした。

 

 

 

 

 

「大丈夫です!行けます」

 

 

「そうか……で?私は何をすればいい?」

 

 

「残念ながら人手が足りません。船舶の内部に入って救助にあたる時間を取れないんです。だから――」

 

 

「了解した。全艦船の生存者をスキャニング中――完了。これより、任務を開始する」

 

 

ハルナは立ち上がる。

 

 

「ちょ……ハルナさん!?今立ち上がったら危な――」

 

 

そこには既にハルナの姿は無かった。

 

スキッパーから跳躍をしたハルナは、水面に着水する前に水面上を¨走り出し¨転覆している艦船に向かって、弾丸の如く突き抜けていった。

 

 

理屈は簡単だ、片方の足が水中に沈む前に上げて、もう片方の足を下げる、それを高速で繰り返すだけ。

 

言葉にするのは簡単だが、それを人間が行うのは不可能であり、その現実は彼女が人間ではない事をゆうに物語っている。

 

 

それを見て思わず呆けてしまった明乃は、慌てて表情を戻し、救助班に指示を送る。

 

 

「とにかく私達は、海上にいる人の救助を急ごう!一度に全員は無理だから、重傷者や衰弱してる人を優先して!残りの人には、救命胴衣を来てもらって、出来るだけ一塊になるよう指示するのも忘れないで!また、敵が攻めて来る場合も有るかもしれないから、はれかぜからの無線を聴き逃さないで!」

 

 

「了解!」

 

 

マリンスーツを着こんだはれかぜクルーが、一斉に行動を開始した。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「敵艦から再び魚雷の発射音を確認!感4です!」

 

 

ナギの叫び声が艦橋に響き渡る。

 

 

 

「迎撃しろ!此方も爆雷、アスロックで敵の機動を奪うんだ!」

 

 

ペガサスは魚雷の迎撃にかかる。

 

しかし、異世界艦隊にとって不測の事態が発生する。

 

 

 

 

キィィィィィン!

 

 

迎撃された魚雷は突如、耳障りな騒音を海中に撒き散らした。

 

 

「なんだ!これは……」

 

 

 

 

シュルツは突然の事に動揺を隠せない。そこへ群像から通信が入る。

 

 

『シュルツ艦長!これはソナー感度を低下させる音響魚雷だ!海面の探索を厳としてください!雷跡を見逃せば大惨事になります!』

 

 

「了解しました!」

 

 

「艦長!ソナー感度低下及び超兵器反応も消えました!」

 

 

「エンジンを停止させたか……だが時間稼ぎに過ぎないぞ!」

 

シュルツがそう叫んだ時だった。

 

 

「!!?」

 

 

海面の二ヶ所から突然ミサイルが飛び出し、空高く舞い上がるとハワイに向かって飛行し始めた。

 

 

「あれは……まさか!」

 

 

『シュルツ艦長!あれは巡航ミサイルだ!はれかぜが危ない!』

 

 

「我々の兵装では間に合わない。401での迎撃は可能ですか?」

 

 

『残念ながら、発射地点から目標までの距離が近すぎる!これならはれかぜの方が早い!』

 

 

(クソ!さっきの音響魚雷は、SLCMの発射を気取られないためか!もし、弾頭に核が搭載されていたら……)

 

 

シュルツは慌てて、通信機をもぎ取り、はれかぜに危険を伝えた。

 

 

「はれかぜ!はれかぜ!聞こえますか?此方ペガサス、緊急事態が発生!応答せよ!応答せよ!」

 

 

シュルツの頭に最悪の事態が浮かび、はれかぜからの応答を待つ間がやけに長く感じた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


地獄を救うことは出来るのか?


次回まで今しばらくお待ちください。


それではまたいつか。












とらふり! 1/144ちょうへいきふりいと




播磨
「レムちゃんやるぅぅ!私もあの位活躍したかったな…」


荒覇吐
「あんた終止砲撃ばっかだからね」


播磨
「なにさ!ろくにドリルも使わず真っ二つになったくせにぃ!」


シュトゥルムヴィント
「に、二隻ともその辺で…」


播磨
「ふん!スピードはピカイチで登場も早かったけど、沈むのも早かったあんたに言われたくないよ!」

荒覇吐
「そうね。そんなだから超高速輸送艦なんて言われるのよ!」


シュトゥルムヴィント
「う…ぐぅ…」


近江
「いい加減になさいなあなた達!まぁいいわ。レムレース達は飽くまで布石でしかないのだけれど。何か彼等に敗北感を与える何かを残せると良いわね」


シュトゥルムヴィント
「近江…また播磨達が……」


近江
「仕方ない娘ね……此方へいらっしゃい。一緒に彼女達の活躍を応援しましょう」


シュトゥルム
「…うん(うぅ……近江が旗艦だと良かったのに)」




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氷上の蜃気楼    vs 超兵器 …unknown flag ship

お疲れ様です。

真珠湾 後編です


それではどうぞ


   + + +

 

『はれかぜ!はれかぜ!聞こえますか?此方ペガサス、緊急事態が発生!応答せよ!応答せよ!』

 

 

シュルツの切迫感を感じる声に、鶫はただならぬものを感じていた。

 

 

「こちらはれかぜ!どうされましたか?」

 

 

 

 

『そちらに巡航ミサイルが向かっている。至急迎撃されたし!可能性の話になるが、ミサイルの弾頭には周囲数㎞を吹き飛ばす能力が有るかもしれない!何としてでも撃ち落として頂きたい!』

 

 

 

「巡航ミサイル?周囲数㎞を……吹き飛ばす!?解りました!至急伝えます!」

 

 

 

 

鶫は顔から血の気が引くのを感じた。

 

 

 

しかし、躊躇している暇は最早はれかぜには無く、直ぐ様艦橋に状況を伝える。

 

 

 

それを聞いた真白は、間髪を入れずに順子に迎撃を指示した。

 

 

 

彼女の表情に厳しさが増したのを幸子は見逃さない。

 

 

 

 

「副長、艦長達に知らせなくて良いのですか?」

 

 

「知らせたところで、逃げられる筈もない。それならここで私達がミサイルを撃ち落とし、艦長達には救助に専念してもらった方が合理的だ」

 

 

 

 

 

そう言って俯く真白に、幸子は不思議そうに彼女を覗き込む。

 

 

「漸く解った気がする」

 

「どうしたんですか副長?」

 

 

「ミサイル迎撃システムの事だ。正直なところ、防御重力場があれば大概の攻撃は軽減される。後は対空迎撃システムさえあれば事は足る筈なんだ。なのにこのミサイル迎撃システムが存在する事が意図しているのは、ウィルキアが敵の使用する兵器について、私達に何かまだ話していない内容が有ること意味している気がしてならない。故にこれ程切迫感を感じさせる通信を送ってきたのだろう」

 

 

 

 

「大陸を消し飛ばす兵器、都市を丸ごと呑み込んでしまう兵器、そしてこの間ウィルキアが播磨に使用した光子兵器。それ以外にも何かあると?」

 

 

「ああ、通常の兵器では周囲数㎞を吹き飛ばす威力など有りはしない。精々大きな建物を破壊する程度だろうからな。この件はいずれ問い質す。今はソレを打ち落とす方が先だ。おい!準備はいいか?」

 

 

 

「いつでも撃てちゃうよ!」

 

 

 

 

芽衣の言葉に彼女は頷く。

 

 

 

「よし!迎撃ミサイル発射!」

 

 

真白の合図が発せられると甲板上にあったハッチが開き、轟音と共に迎撃ミサイルが高く舞い上がって迫り来る巡航ミサイルに向かって飛行を開始した。

 

 

 

 

(頼む!必ず打ち落としてくれ!出なければ皆が……艦長がっ!)

 

 

真白は祈るように迎撃ミサイルの動向を見守った。

 

 

 

 

レーダーに表示される巡航ミサイルに、はれかぜから発射された迎撃が向かっていく。

 

そして――

 

「よし!一発は落とした!」

 

 

 

レーダーからミサイルの点が消失する。

 

 

だが――

 

 

 

 

「もう一発は撃ち落とされて……いない!?まずい!」

 

 

レーダーに表示された巡航ミサイルと迎撃ミサイルの点が交差したように見えた。だが、巡航ミサイルの点は消失せずに此方に一直線に向かってきていた。

 

 

「さ、再迎撃用意!」

 

 

「ダメ!間に合わないよ!」

 

 

 

芽衣が絶望の表情で叫ぶ。

 

 

 

 

(ダメなのか……!)

 

 

 

 

真白の心が折れかけたその時だった。

 

 

 

 

『副長!蒼き鋼の江田さんから通信です。繋ぎます』

 

 

江田が通信してきていた。

 

 

 

彼は群像より、この世界にはないミサイルの迎撃に不馴れなはれかぜのサポートをするよう、連絡を受けていたのだ。

 

 

『此方江田。宗谷副長、巡航ミサイルは?』

 

 

「すみません……一発撃ち漏らしました。私、どうしたら――」

 

 

『私に任せてください!何とかしてみます』

 

 

「な、何とかって、もう時間が――」

 

 

『無いので急ぎます!それでは!』

 

 

 

 

そう言うと江田は通信を切ってしまう。

 

 

これから起こるかもしれない大惨事に、真白は体が硬直してしまう。

 

 

 

 

そんな彼女に芽衣が優しく声をかけた。

 

 

 

 

「大丈夫だよ副長。建一君なら必ずやり遂げてくれる。艦長達だってそうだよ。だから、私達は私達の出来ることをしようよ」

 

 

真白はその言葉に目を見開く。

 

 

 

艦橋を見渡すと、皆が真白の方を向いて頷いていた。

 

 

 

彼女達の覚悟は決まっていたのだ。

 

 

先の超兵器との戦いで、敵の凄まじさを目の当たりにし、怯えて逃げても明日は来ない事を、身をもって知ったからである。

 

 

 

 

艦橋を見渡した彼女は、最後に明乃から預かった艦長帽を自分の胸に抱き締め、目を閉じる。

 

 

 

目蓋の裏には、危険な現場で今も懸命に救助を続ける明乃の姿が映っていた。

 

 

(艦長も頑張っている。私ははれかぜをあの人から……託されたんだ!)

 

 

彼女は決意の表情を浮かべる。

 

 

 

 

 

「すまない皆、少し弱気になっていたようだ。もう大丈夫!このミサイルは、蒼き鋼が何とかしてくれるが、まだ超兵器撃沈の報は入らない状況において、敵を一掃するまでは一切気を抜かず、何時でも対応出来るよう準備しておこう!」

 

 

「了解!」

 

 

艦内から一斉に返事が帰ってくる。

 

 

 

はれかぜの面々は、着実にブルーマーメイドとして成長していた。

 

 

一方の江田は、現在救助活動を手伝っているハルナに連絡をとっていた。

 

 

「ハルナさん!聞こえますか?」

 

 

切迫感溢れる江田の呼び掛けに対し、この状況に於いても全く冷静で、どこか機械的な印象を与える声が帰ってくる。

 

 

『通信は傍受していた。状況は理解している。これからミサイルの来る方向を伝える。お前はその方角に旋回して空対空侵食ミサイルを発射しろ。後は私が誘導する」

 

 

「わ、解りました!」

 

 

江田はハルナから伝えられた方角に旋回し、ミサイルを発射した。

 

 

その頃のハルナは、空中に¨立っていた¨。

 

 

 

 

クラインフィールドを足下に発生させ、足場を作り出したのだ。

 

 

そして彼女の左腕には、一人の女性が抱えられている。

 

 

 

トーマス・ワグナー艦長のカトリーナ・スミスだ。

 

 

 

彼女は、艦が爆発し沈没する寸前に、ハルナによって救助され現在に至り、そしてハルナの腕の中でじたばたしていた。

 

 

 

無理もない、端から見れば人間二人が空中に浮いているようにも見え、尚且つ人類に空中に静止した状態で留まる事の出来る者など皆無なのだから。

 

 

 

パニックに陥ったスミスに、少し苛立ったように表情のハルナは機械的な語調で彼女に言い放つ。

 

 

「少しじっとしていろ。それともお前を海に投棄し、自力で泳いで陸を目指して貰ってもいいのだが、お前の手足は少なくとも海を泳げる状態ではないと判断するが?」

 

 

 

「この状態は一体……お、お前は何者なの?敵――」

 

 

「本当に敵なら、あの艦の上にお前を放置した方が効率がいいが……そんなに放して欲しければ放そう。無理強いはしない」

 

 

「あっ、ちょっ…待っ――」

 

 

ハルナはスミスを足下のフィールドに置くと、体の回りにリングを発生させ、彼方の空を睨む。

 

 

 

 

視線の先には江田の操縦するセイランの蒼い機体が飛んでいた。

 

 

 

セイランは、巡航ミサイルの飛んでくる方向に、空対空侵食ミサイルを発射し、同時にハルナは手をかざして江田の放ったミサイルの誘導に入る。

 

 

 

一直線に飛行するミサイルが、ハルナの誘導によって急旋回し、巡航ミサイルへとひた走った。

 

 

 

 

 

「もしかして、あなたは異世界艦隊の!?」

 

 

ハルナの尋常ではない雰囲気に、動揺するスミスが何かを言っているが、ミサイルの誘導に集中しているハルナは返答せず、瞬き一つしないで彼方を睨み続ける。

 

 

(……捉えたぞ。逃がさん!)

 

 

ハルナは巡航ミサイルを捕捉し、最大限の演算をもって誘導に集中した。

空対空侵食ミサイルが一層複雑な軌道でひた走り、そして――

 

 

ビュォォ!

 

 

巡航ミサイルに見事命中した。

 

 

 

 

この働きをもってしても、ハルナの表情は依然として涼しい。

 

「撃墜……完了」

 

 

『やりましたねハルナさん!』

 

 

 

「時間がないぞ?次の行動に移る。空対空侵食ミサイルの残弾はあるか?」

 

 

『は、はい!』

 

 

「ミサイルの残弾と増設タンクに蓄えられたナノマテリアルを使って、セイランに¨フロート¨を構成する。お前はこのまま湾内に着水してセイランで一人でも多く人間を救出しろ。私も艦内にいる生存者の救出を継続する」

 

 

『はい!お願いします!』

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

ハルナが再び手をかざすと、セイランに取り付けられていた増設タンクとミサイルが銀色の粉に分解され、それが再び寄り集まってフロートに再構成される。

 

 

 

彼女はそれを見届けると、横で唖然としているスミスを再び軽々と抱き上げ、陸地へと一気に跳躍する。

 

 

「あァァァ!」

 

 

ジェットコースターにでも乗って要るような感覚に、目を閉じて悲鳴をあげるスミスだったが、突如感じた硬い地面の感触に気付いて目をそっと開く。

先程まで、あんなに離れていた陸地に既に到着していたのだ。

 

 

 

 

彼女を降ろし、次の目標に移動しようとするハルナに、スミスは慌てて彼女を呼び止めた。

 

「ま、待って!」

 

 

「時間がない。連れていけと言われても承服しかねるぞ?」

 

 

「違うの!あの、部下達を……いや、皆を助けてください!お願いします!」

 

 

「無論だ」

 

 

「それと……ありがとう」

 

 

ハルナはなにも言わずに、再び駆け出していく。

 

 

 

 

(【ありがとう】貴重で得難いものを得たときの感謝を伝える言葉……タグ添付…分類…記録。蒔絵が私に良く使う言葉だな。兵器である私が、蒔絵に得難いものを与え、そしてその謝意を返してくれた……か)

 

 

ハルナは一瞬だけ優しい笑顔を作る。

 

 

だが次の瞬間には表情を戻して風のように湾内を駆けていった。

 

 

   + + +

 

 

「艦長、巡航ミサイルの撃墜を確認しました!」

 

 

「ふぅ……何とか凌いだか。だが、まだだ!奴を沈めるまでは油断できん。何時でも迎撃出来る体勢を整えておくんだ!」

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

いつまた発射されるかも解らない凶器に、シュルツの表情は硬い。

 

 

 

それは隣にいる博士も同様だった。

 

 

「レムレースのミサイル発射機の搭載は予期していましたが、まさか巡航ミサイルとは……まだ何か隠し持っている可能性は否めませんね」

 

 

「同感です。奴は必ずここで撃沈して――」

 

 

「ちょ、超兵器ノイズ出現!機関を再始動した模様です!」

 

 

「位置の特定急げ!」

 

 

「り、了か……い!?」

 

 

「ナギ少尉、どうした?」

 

 

「あ、あの……ノイズの反応は一つだけです。もう一つは発見できません!」

 

 

「なんだと!?機関を停止して隠れているのか?それとも……まさか!千早艦長!」

 

 

『超兵器がハワイに向かったのですか?』

 

 

「可能性はあります!探せますか?」

 

 

『既に行っておりま……解りました。恐らく狙いはこれかと』

 

 

シュルツは、手元のタブレット端末に目を向けた。

 

 

「アメリカ艦隊!?馬鹿な!何故湾内留まっていないんだ!」

 

 

『敵は恐らく機関を切って、蓄電池での静音航行に入っているものと思われます。我々に追わせて頂けますか?』

 

 

「お願いします!此方は我々で引き受けますので」

 

 

『気を付けて……』

 

 

「千早艦長も」

 

 

 

 

シュルツは通信を終えると、直ぐ様クルーに指示を送る。

 

 

「総員、対潜戦闘を継続する。機関一杯!敵超兵器に接近せよ!」

 

 

 

 

ペガサスは速度を上げ、超兵器との距離を詰めていく。

 

 

「敵艦、魚雷発射!感2!あっ更に魚雷発射音感2追加です!」

 

 

「恐らく最初のは誘導魚雷だ。進路このまま!迂闊に転舵はするな、恐らく逃げた方に酸素魚雷が待っている。誘導魚雷を優先して迎撃!」

 

 

ペガサスは魚雷の迎撃に入る。シュルツの予想通り、最初の魚雷は誘導魚雷だった。だが、

 

 

キィィィン!

 

酸素魚雷だと思われた後の魚雷は、音響魚雷であった。

 

 

「艦長、ソナー感度低下!」

 

 

「また何か仕掛けてくるつもりだろうが……させん!新型対潜ロケット及び奮進爆雷砲を、魚雷の発射地点付近にありったけ叩き込め!」

 

 

ペガサスから、凄まじい勢いで対潜弾が飛んで行き、海面に次々と落下していく。

しばらくすると、海面にいくつもの対潜弾の爆発によるものと思われる気泡が浮かび上がってきた。

 

 

「浮遊物の確認を急げ!海中はどうなっている!?」

 

 

「まだ先程の攻撃の残響が――ん?これは……敵艦は顕在です!しかし、艦に異常をきたしているのか、異音が検出されてます」

 

 

 

「今だ!対潜ミサイルを叩き込め!」

 

 

ペガサスの艦首にあるハッチが開き、次々とミサイルが発射され、レムレースに殺到する。

先程の対潜攻撃で外殻にダメージを負った敵は、押し寄せるミサイルを振り払う事が出来なかった。そして、

 

ボォン!

 

海面に水柱が上がりプカプカと超兵器を構成していた部品が浮上してくる。

 

 

「海面に水柱を視認!浮遊物も確認しました。超兵器ノイズも消失、更に海中から破砕音を検知。敵超兵器、圧壊している模様です!」

 

 

「よし!敵超兵器を撃沈と判断する。念のため、暫くここで沈降中の超兵器の様子を注視し、再度完全なる撃沈を判断した場合は、我々も401を追う」

 

 

「はっ、了解しました!」

 

ナギは再び座席に就き、撃沈された超兵器の情報を収集する。

 

 

彼等に油断はなかった。

 

 

(千早艦長……後は頼みます!)

 

 

シュルツは自分が現場に赴けない事に歯痒さを感じながらも、群像を信じて彼に超兵器の相手を託した。

 

 

 

 

一方その頃、401は行方が解らない超兵器の捜索を続けていた。

 

 

「イオナ、どうだ?」

 

 

「微弱なスクリュー音を検知。速度変わらず。アメリカ艦隊と、もうすぐ接触する模様」

 

 

 

「やはりか……いおり、機関最大!」

 

 

「えぇ!?またぁ?無茶させ過ぎだよぅ……」

 

 

 

 

機関の酷使に抗議するいおりに構わず、群像は次の一手を思考する。

 

 

「艦長よぉ。なんでフルバーストを使わねぇんだ?あれなら少しは距離を詰められるぜ?」

 

「あれは、イオナにかなりの負担をかけるし、使用直後に負荷の反動で、機動や索敵に隙が出来やすい。相手が手の内を全て明かしていない以上、不用意な使用は避けるべきだ」

 

 

 

 

ふと湧いた疑問を問うてきた杏平に群像は至極冷静に坦々と答える。

 

 

 

確かに水上艦と違い、潜航していて直接兵装を視認出来ない潜水艦、特に超兵器潜水艦とあっては、まだ使用されていない兵装も隠し持っている事は十分考えられた。

 

 

 

また、アメリカ艦隊を攻撃すると見せ掛け、ペガサスと分断した401を誘き寄せて叩きにくる可能性すらあるのだ。

 

 

 

彼の頭の中で、少ない情報のピースが瞬時に組合わさっては分解していく。

 

 

今までもそうして最善の解を彼は導き出してきたのである。

そんな鋼の心の牙城を彼女の一言が崩してしまう。

 

 

「とても……とても嫌な¨予感¨がする」

 

 

イオナは深刻そうな表情で呟くと、群像から貰った時計を手の中で強く握り締めた。

 

その様子に群像を始めとしたクルー全体が、凍りついたように固まった。

同じメンタルモデルであるヒュウガですらも、驚愕の表情を浮かべている。

 

無理もない。何故なら彼女達霧の艦隊は、人間の姿を模していても、精神構造はむしろコンピューターに近いものがある。

高度に計算された戦況予測は、それが良い内容であれ悪い内容であれ、はっきりとした断定形で表現されることが通例だ。

特にイオナの場合は、他のメンタルモデルよりもより顕著にその傾向が見られる。

 

 

 

しかし今彼女の口にした言葉は、まるで根拠の無いうわ言に等しい内容だった。

 

 

 

だが、その事がかえって401のクルーの緊張を極限まで高めていく。

 

 

するとその直後だった。

 

 

 

 

 

「超兵器ノイズ発生!敵艦、機関を再始動した模様です!」

 

 

 

血の気の引いた顔で静が叫ぶ。

 

 

 

 

(何故今、機関を再始動させたんだ?ノイズを発生させなければ探知されにくい潜水艦は有利な筈なのに……)

 

 

群像は、隣にいるイオナに視線を向ける。彼女の表情は未だに曇ったままだ。

彼は、その表情に言い知れぬ不安を感じたのだった。

 

   + + +

 

 

アンドリュー・ジョーンズ率いるアメリカ艦隊11隻は真珠湾を脱出し、外洋を航行していた。

 

 

「全く……使えない人魚共だ!あれで我々よりも破格の待遇を受けていると思うと虫酸が走る!」

 

 

管を巻くジョーンズに、副長が気まずそうな顔で近寄ってきた。

 

 

「司令官、宜しいのですか?結果的に我々がハワイを見捨てた形になりましたが……」

 

 

「大統領命令だ!我々には従う以外の選択肢は存在しない!それにこの一件は、ブルーマーメイドよりも軍の有用性をアピールするのにうってつけだ。ハワイには本国の未来のため、尊い犠牲になって貰うと言うことだろう。それに私たちは、外洋にいる超兵器を¨追っていた¨だけだからな」

 

 

「は、はぁ」

 

 

副長は気の無い返事を返すしかない。

そこへ通信員が走り込んできた。

 

 

「お伝えします。異世界艦隊のウィルキア解放軍より、敵超兵器が我が艦隊に接近中、至急退避されたしと通達がありました。敵超兵器の名称はレムレース。潜水艦型超兵器です!」

 

 

「異世界艦隊から提供された敵超兵器の情報を見せろ!」

 

 

「は、はっ!全長350m兵装は、酸素魚雷と誘導魚雷、そして、対艦ミサイルです」

 

 

 

 

 

ジョーンズからの命令に副長が緊張した様子でデータを読み上げる。

 

 

「ミサイルと魚雷か……厄介ではあるが、そうと解っていれば何て事はないな」

 

 

「ま、まさか。司令官!異世界艦隊は退避せよと……接近は余りにも危険です!」

 

 

副長が必死で忠告をするが、ジョーンズは聞き入れなかった。

 

 

「何を言う!相手は図体だけの只の的だ。それに超兵器級でもかなり下位の分類に入る。だが、それでも超兵器だ。撃沈したとあれば我が軍の有用性が示されるではないか。異論は認めん!総員、対潜水艦戦闘準備だ。派手に出迎えてやれ!」

 

 

「司令官、しかし……」

 

 

「副長……これ以上は抗命と見なすぞ!」

 

 

「くっ……了解致しました!」

 

 

副長は悔しさと恐怖の入り交じった表情で渋々ジョーンズの指示に賛同する。

彼の表情に満足したのか、ジョーンズは眼下の海を見渡した。

 

 

 

何十年もの間、実戦から遠ざかっている軍が、矢面で活躍する。その先陣を切れることの興奮に彼は酔いしれていたのだ。

 

 

 

 

 

 

「敵艦、進路と速度変わらず。真っ直ぐ此方に近づいている模様!」

 

 

「馬鹿め!二番艦、三番艦に通達。ヘッジホックを相手に見舞ってやれ。的が大きいなら有効だろう!四番艦、五番艦は対潜噴進魚雷の準備だ!」

 

 

『了解!』

 

 

艦隊は、レムレースを囲い込むような、陣形に移行し、何時でも攻撃を加えられる体勢を整えていく。

 

 

「準備はいいか?」

 

 

『用意よし!』

 

 

「よし!放て!」

 

レムレースを囲い込んだアメリカ艦隊は一斉に攻撃を開始する。

 

 

スボォォン!

 

 

 

 

ヘッジホックがレムレースに着弾し、装甲がひしゃげていく。

 

 

「海中での爆発音を確認。命中です!」

 

 

「よし!このまま止めを刺してやる。」

 

 

艦隊が発射した対潜噴進魚雷が、レムレースへ止めを刺すべく殺到していく。

 

 

 

 

しかしこの時既に、敵は最初にして¨最期の切り札¨を発射していた。

 

 

 

 

だがアメリカ艦隊は、海中の爆音と敵に止めを刺そうとするあまりそれに気づいてはいない。

最初に気づいたのは、ジョーンズの艦の見張り員であった。

 

 

「司令官!雷跡1此方に向かってきます!」

 

 

「な、何?急いで迎撃しろ!」

 

 

「駄目です。間に合いません!」

 

 

「総員、対衝撃防御!超兵器めっ……一撃見舞った位で、貴様の運命は変わら――」

 

 

ピキィィイン!

 

魚雷がジョーンズの艦に着弾し、炸裂した瞬間に凄まじい光が辺りを包み、それとほぼ同時に凄まじい熱波と衝撃波が、アメリカ艦隊に襲いかかった。

 

 

 

その場にいた全ての人間の身体が、あまりの熱量に瞬時に蒸発し、海中から伝わる衝撃波は艦の底を意図も簡単に変型させ、大量に侵入してきた海水によって数分にも満たないうちに、その海域にいた全てのアメリカの軍艦が海底にその体を没していった。

だが、その攻撃の余波は至近距離から攻撃を放った超兵器自身にも及び、魚雷が直後に発生した猛烈な衝撃波は、至近にいたレムレースに襲いかかって、先程のアメリカ艦隊による対潜攻撃で損傷を負った外郭を直撃し、水圧も相まって一気にその巨体を圧壊させた。

 

 

ギ…ギギ……ギギィィ………

 

 

 

 

レムレースは暗い海底へとゆっくり沈んでいく。

その不気味な軋み音は、まるで異世界艦隊を嘲笑っているようだった。

 

 

   + + +

 

「な、何が起こったんだ!アメリカ艦隊と超兵器の反応がレーダーから消えた!?」

 

 

 

 

 

群像は思わず、椅子からたちあがる。

 

 

「これは……」

 

 

「イオナ!一体あそこで何があったんだ!」

 

 

「それは……¨核¨が使われたんだと思う」

 

 

「!!!」

 

 

彼女の話した衝撃的な内容に、群像は驚愕した。

 

 

 

イオナは、珍しく深刻そうな表情で続けた。

 

 

「海中に放射線を確認……間違いない。超兵器は核を使用し、その爆発が原因で沈没した」

 

 

「何て事だ……」

 

 

群像は、力なく椅子に腰をかけた。

 

 

 

表情に絶望と悔しさが滲んでいる彼の顔を

イオナは心配そうに覗く。

 

 

 

 

「群像……今は――」

 

 

「解っている。救助を……救助を優先しよう。これより我々は、オワフ島の救助作業の補助に向かう」

 

 

「了解……ウィルキアの航空部隊からも、さっき戦闘終了の連絡が入った」

 

 

「イオナ……悪いが、ペガサスとはれかぜに超兵器の沈没を伝えてくれ。あとシュルツ艦長には、事の顛末を……」

 

 

「了解」

 

 

イオナは、通信を開始する。群像の表情は硬い。いや、401のクルー全員も、超兵器の沈没に喜びを表すものは一人もいなかった。

 

 

   + + +

 

 

「401より敵航空部隊と超兵器二隻の撃沈を確認したそうだ!我々はこれより、湾内の奥に進んで救助に当たるぞ!」

 

 

「了解!」

 

はれかぜは、障害物を避けつつ慎重に湾の奥へと進んでいった。

 

 

一方の明乃達は、懸命に救助を進めていた。

 

 

 

救命ボートをスキッパーで牽引することで、効率的に人員を陸へと送り届る

 

 

 

更に――

 

 

 

 

『此方はハルナ。船内から数十名を救助した。至急此方に救命ボートを回してくれ。あと、どうやら戦闘が終結したようだ。はれかぜが此方に向かってきている。私は重傷者をはれかぜに運ぶ』

 

 

「有り難うございます!今向かわせます!」

 

 

明乃は直ぐに聡子に連絡して、救命ボートを牽引させて現場に向かわせた。

 

 

 

 

(急いでこの人達を陸に上げて、私も戻らなきゃ……時間が迫ってる!)

 

 

時間が立つほど、救助者達の生存率は著しく低下する。

 

 

 

明乃は、焦る気持ちを圧し殺しつつも、救助を続行した。

 

 

その頃、陸を目指して泳いでいたリリーは、体力の限界を迎えていた。

 

 

「ハァ…ハァ…ガボァ?もう…限界……」

 

 

近くを泳いでいた人達は、皆力尽きたか航空機の銃撃で次々と死んでいった。孤独と恐怖に耐えながら泳いでいた彼女だったが、増援が現れたと言う安心感から集中力を欠き、精神的な疲労も相まって意識が一気に薄れていく。

 

 

 

リリーが全てを諦め、意識を手放そうとした時、目の前から航空機が¨水面¨を進んできた。

 

 

(何とかここまで逃げたのに……まだ私を殺そうとして――)

 

 

 

 

彼女は絶望した。だが航空機から銃撃はなく、変わりに操縦席から誰かが自分に向かって叫んできていた。

 

 

「大丈夫ですか!?今、助けます!じっとしていて!」

 

 

 

江田だった。

フロートを装着したセイランで湾内に着水した江田は、ブルーマーメイドが見逃している少人数の救助者を捜索していたのだ。

 

 

 

彼は機体からフロートへ降りると、リリーへ手を伸ばした。

 

 

「早く!こっちに来て私の手をつかんで!」

 

 

「〔い、嫌!来ないで!殺さないで!〕」

 

 

 

 

江田を敵だと勘違いしたリリーはパニックを起こし、じたばたと抵抗しようとした。そもそもリリーは日本語を理解できず、このままでは体力が尽きてしまう。そこで江田が気付いた。

 

 

(そ、そうか!言葉が通じないのか!)

 

 

 

江田は、もう一度リリーへ向かって叫ぶ。

 

 

 

 

 

「〔私は敵じゃありません。ブルーマーメイドの関係者です。あなた助けに来ました!手を伸ばしてください!〕」

 

 

「〔ブルーマーメイド?〕」

 

 

「〔はい!正確にはブルーマーメイドと行動を共にしている、異世界の超兵器討伐隊です!もう大丈夫です!武器も持っていませんよ、ほら!〕」

 

 

江田は上着を捲ってその場でクルリと回って見せた。

 

最初は半信半疑のリリーも、漸く納得して彼の近くへと泳いできて手を伸ばし、彼はその手をつかんで彼女を引っ張りあげ、セイランの後部座席に乗せる。

このやり取りで、江田の流暢な英語はウィルキア艦隊内での外国人との交流で身につけたものである。

 

 

全ての言語を網羅している訳では無いが、各国との確執が生じていたウィルキア解放軍にとっては、異国とのコミュニケーションを取るために、よりポピュラーな言語は話せる人員は多い。

 

 

「どこか怪我はありませんか?」

 

 

「いえ、特には……でも、グスッ……皆が…う、死ん……私だけ助かって…どうしたら……」

 

憔悴するリリーに、江田は穏やかな声で語りかけた。

 

「私も自分の世界で、多くの仲間を失いました……そしてつい最近まで、彼等への罪悪感から死を選ぶ事を常に考えていました。ですが私は今、大切な人が出来ました。護り通したい人が……それにはまず、自分が¨生きて¨いなければ意味がない。あなた今、生きている。笑うことも、泣くこともできる。亡くなった方が出来なかったことが出来るんです。この世界は、私達の住んでいた世界よりも自由だ……時間は掛かるかもしれませんが、いつかあなたが前を向いて生きていける様になる迄は、思いきり泣いていいんです。思いきり辛いと叫んで弱音を吐いても良いと私は思いますよ……」

 

 

その言葉を聞いた彼女は緊張した心がほどけ、感情が爆発していく。目から先程よりも多くの涙が零れ、顔はしわくちゃになっていた。

 

 

「パパ…ママ、怖かったよ……リタ、アリーごめん……私、助けてあげられなかったよぅ…うっ、ううっ……うわぁぁぁ!」

 

 

江田は、後ろで泣き叫ぶリリーの声を聞きながら、はれかぜにいる想い人の顔を思い浮かべた。

 

 

(俺もあの時逝っていれば、芽衣さんをこんな気持ちにしていたんだろうか……)

 

 

江田は複雑な表情のまま、セイランを起動させて、陸をめざした。

 

 

   + + +

 

 

はれかぜの甲板は、手当てを待っている救助者でごった返していた。

敵の脅威が無くなったことで、甲板での処置が可能になったのだ。

 

 

 

 

「患者の大まかな症状を報告しろ。それによってトリアージを判断する。軽微な者の応急処置は、ブルマーの研修で習っているな?悪いが手が足りん……そちらは頼む。くれぐれも不用意に水を飲ますなよ。場合によっては水が気道に詰まって命取りになる。私がいいと判断した者のみに少しづつ口に運ぶよう指示して飲ませろ!」

 

 

「りょ、了解!」

 

 

 

美波は、攻撃に回っていたはれかぜクルーに指示を出して、次々と患者の様子を見て回る。彼女の額には玉のような汗が滲んでいた。

 

 

 

そこに、甲板に着地したハルナが駆け寄って来る。

 

 

「重傷者だ……瓦礫が体に当たってダメージを受けたらしい」

 

 

見ると、ハルナに抱えられた女性とは意識が朦朧とし、引き付けを起こしたように体をビクビクと震わせていた。

 

 

 

「不味いな……脳や内臓が損傷しているかもしれん。至急医務室に運ばせる」

 

 

「私が運ぼうか?」

 

 

「いや、あなたは救助を継続してほしい。だがその前に頼みたいことがある」

 

 

「言ってみろ」

 

 

「出血が酷い患者がいるんだ。クラインフィールドで、傷口だけでも一時的に塞ぐ事は可能か?」

 

 

「やってみよう。ヒュウガが以前、横須賀でやっていた事を共有戦術ネットワークにアップロードしている。このエリア位の範囲なら、救助しながらでも可能だ。お前は心配せずに治療に専念しろ」

 

 

「感謝する」

 

 

ハルナは、女生徒を担架に乗せると怪我人達に向かっててをかざした。

 

 

 

クラインフィールドが大きな傷口を塞いで急激な出血を抑え、傷口を外気と遮断することで、感染症を引き起こすリスクを低減させるのだ。

 

 

 

彼女は、出血の停止を横目で確認すると再び救助へと戻っていった。

 

 

 

 

 

(見事だ…あの技術が医療にあれば……いや、今は無い物ねだりをしても意味がない……)

 

 

美波は、まゆみと果代子のに担架の運搬を頼むと、処置の準備の為医務室へと駆けていった。

 

 

   + + +

 

ブルーマーメイドを中心とした救助は日をまたぎ、翌日の夕方まで不眠不休で続けられ、救助者や遺体の殆どを陸に上げる作業の目処がたった。

遺体においては、破損が激しく回収が不可能な者もおり、異世界艦隊はあえなく捜索を断念せざるを得ない状況だった。

 

 

湾内を一望出来る港で、シュルツと群像が海を見ながらたっている。

 

 

 

美しかった湾内には、艦船の残骸が至る所に沈んでおり、当たりには焦げ臭い臭いが未だ漂う無惨な姿を晒していた。

 

 

 

 

「取敢えずは終わりましたね……」

 

 

「はい、余り喜べる状況ではありませんが……」

 

 

「……」

「………」

 

 

二人は、思わず押し黙る。

 

 

 

理由は犠牲が出たことだけではない。

 

 

 

 

超兵器が使用した核兵器の事だった。

 

 

「正直、千早艦長には助けられました。あのままだったらハワイが……本当にありがとうございます」

 

 

「いえ、ヒュウガが放射能除去技術を立案してくれなければ危なかった。俺の力では……」

 

 

ヒュウガは、侵食魚雷に使用されていたナノマテリアルを放射能の吸着させる物質に変化させて大気中に大量散布し、それを再び回収して、ナノマテリアルと分離させ、放射性物質のみを回収してカプセルに封じることで拡散を防いでいた。

 

 

 

 

しかし、使用された事実を消すことは出来ない。

 

 

 

二人の表情は硬かった。

 

 

 

 

「千早艦長は今回の一見をどう見ます?」

 

「隠し兵器の件ですか?」

 

「それもありますが、なんと言うか――」

 

 

 

「メッセージ性を感じた……ですね?」

 

 

「はい。〔早く来い来ないならば……〕と言うような挑発にもとれる様な雰囲気を感じました」

 

 

「俺も同感です。やはり、北極海にいる超兵器を起動させるための時間稼ぎ……でしょうか?」

 

 

「そう考えるのが自然でしょう。ですが不自然だ」

 

 

「どうされましたかシュルツ艦長?」

 

 

「何故超兵器達は、其ほどまでにヴォルケンクラッツァーにこだわるのでしょうか……自身が強化され艦隊を組んでいる以上、彼等には生命の滅亡の先駆けとしての人類の絶滅を成し遂げられそうな気がしますが……」

 

 

「異世界艦隊の事を勘定から抜いていますよシュルツ艦長。俺達を倒しうる者こそがヴォルケンクラッツァークラスしかいないならば、彼等の行動の意味も辻褄が合う」

 

 

「そう…なのでしょうか……」

 

シュルツは未だ納得のいかない顔をしているが、ここで考え込んでいても、結論が出るわけでもなかった。

 

 

「この話題は、暫く棚上げですね……博士やヒュウガからの新たな情報に期待するしかありません」

 

 

「その様ですね。では、明日の出航に向けて少し休んでおきましょう。千早艦長も、今日はゆっくり休んでください」

 

 

「ありがとうございます。それでは……」

 

 

群像が去ったあとも、シュルツはその場で暫く考え続けていた。

 

 

(ヴォルケンクラッツァー、お前は今何を思って眠っている……)

 

 

その問いに北の果てにいる超兵器が答える筈もなく、未だ不愉快な臭いが漂う真珠湾と肌寒さを感じたシュルツは、自身の艦へと戻っていった。

 

 

  

 

   + + +

 

 

 

 

はれかぜクルーは、ハワイのブルーマーメイドに業務を引き継ぎ艦へ戻って来ていた。

 

全員疲労困憊で、食事も風呂にも入らないまま殆どのクルーがベッドに倒れ、深い眠りに吸い込まれていく。

 

 

そんな中、真白は明乃の姿を探していた。

 

 

いつも無理をして、起きて仕事をしている明乃に休養をとるように促す為であるが、艦長室に彼女の姿が無かった為、心配になって探し回っていたと言う訳だ。

 

 

 

そして、見晴らしの良い艦橋から辺りを見渡すと、艦首辺りで湾内を見ている明乃を発見した。

 

 

 

直ぐに駆けていき甲板へと出た彼女は、キンと冷えた外の空気に包まれる。

 

 

 

 

(うぅっ寒い……ハワイとは言え、夜は冷えるな……)

 

 

 

 

彼女は軽装で出てきたことを後悔したが、明乃の事が気になってそのまま艦首へと駆けていく。

 

 

「か、艦長!」

 

 

「シロちゃん?」

 

 

 

 

振り向いた明乃の表情には、憔悴の色が感じ取れた。

 

 

 

勿論、肉体的疲労も有るのだろうが、其よりも犠牲を目の当たりにした精神的疲労の方が、彼女にとって大きい事は言うまでもない。

 

 

「こんな処にいたら風邪をひいてしまいますよ。自室に戻って休まれては如何がですか?」

 

 

 

「うん……」

 

 

無理をした様な笑顔でコクリと頷いた彼女の様子に、真白は更に不安な気持ちになる。

 

 

 

 

 

「気にされておられるのですね?」

 

「解るの?」

 

「はい……副長ですから。しかし我々は、神ではありません。たとえ超兵器を倒しうる力があったとしても、地球の裏まで瞬時に飛んでは行けない。全てを背負いすぎてはいけないと私は思います」

 

 

「……ん。そうだね」

 

 

 

 

明乃は力なく答え、再び湾内に視線を移す。

 

 

真白はもう見てはいられなかった。

 

 

 

 

「……あ」

 

 

 

明乃は少し驚いた表情を見せた。

真白が後ろから彼女を抱き締めてきたからだ。

 

 

「あ、あのシロちゃ――」

 

「無理しないで下さい!今は誰もいない。見られたくなかったんでしょう?皆に自分の弱いところを――でも私にはいいじゃないですか!たまには艦長も弱くなっていいと思います!」

 

 

 

 

真白のしっかりした口調に、明乃は目を見開き、そして肩を抱く真白の手に自身の手を重ねて身体を少し後ろに預けた。

 

 

「ありがとうシロちゃん。少し、少しだけ甘えさせて……」

 

 

 

 

二人は暫くの間、そのままの体勢で過ごした。

 

 

直接表情を見れずとも、体が小刻みに震える感触が伝わり、真白は彼女が泣いているのだろうと思った。

 

 

暫くして、震えが治まった明乃は真白から手を離し、彼女も明乃の肩から手を離す。

 

 

「ありがとうシロちゃん。少し楽になったよ」

 

 

「良かった……では戻りましょう。疲労を残しては良くない」

 

 

「解った……でも後数分だけここに居させて。そしたら戻るよ」

 

 

「そうですか……解りました。本当に数分だけてすよ?」

 

 

「うん、約束する」

 

 

 

 

明乃はそう言うと再び湾内に視線を向けた。

真白は、後ろ髪を引かれるような思いがあるも、そのまま艦内へと戻っていく。

 

 

 

 

そこでふと気付いた。

 

 

 

 

 

(あれ?寒くない。さっきはあれほど寒かったのに……考えてみればいくら夜でも、ハワイがそんなに寒い筈がない。まさか……艦長!?)

 

 

真白は振り返る。

 

 

先程よりも空が雲が出てきたせいか、艦首にいるであろう明乃の姿を視認する事は出来ない。

 

 

 

彼女は背筋に、先程とは別の寒気を感じるのだった。

 

 

 

   + + +

 

 

北極海

 

氷の海に佇む摩天楼を思わせる巨大艦は、変わらず静かに浮かび続けていた。

 

 

 

だが――

 

グウィイン!

 

巨大な主砲が突如回頭して遥か彼方を向いた先には、蒼白い光が輝いており、光が治まると同時に、そこには巨大な艦が一隻浮かんでいた。

 

その姿はまるで、氷上の摩天楼そのものであった。

 

 

 

だが現れた巨大艦は蜃気楼ではなく紛れもなく実体。

 

 

 

巨大艦は、そのまま何をする訳でもなく、氷上の摩天楼同様に動かず、まるで眠っているようだった。

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


蜃気楼登場です。

果たして地球は大丈夫なのか…

それではまたいつか
















とらふり!



タカオ
「はぁ…。」


もえか
「どうしたの?」

タカオ
「艦長ロスよ……気分が乗らないわ。ああ艦長に会いたい……今頃どうしているのかしら」


キリシマ
「401とイチャイチャだろ?彼奴らにお前の入り込む隙間など無いと思うが……そんなに気になるなら、通信で何時でも顔を見たり会話をしたりすればいいじゃないか」


タカオ
「嫌よ!艦長は生がいいの!新鮮じゃなきゃ嫌なのよ!」


もえか
「野菜じゃないんだから……」


タカオ
「何よ!毎日岬って艦長の写真を嘗め回すように見ているくせに!キリシマだって蒔絵が気になるんでしょう?私に言ったみたいに、頻繁に連絡すればいいじゃない!」


もえか
「な、嘗め回すようになんか見てないもん!ただ、見てないと落ち着かなくて……」

キリシマ
「顔を見ると帰りたくなる」


タカオ
「ほぉら見なさい!やっぱり大切な人は新鮮なうちに会うのが一番よ!」


もえか&キリシマ
「だから野菜じゃないって……」





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十色の思い  …not encounter weapon

お待たせいたしました。

欧州玄関口編前編


それではどうぞ




   + + +

 

時は遡り

 

異世界艦隊が超兵器レムレースを撃沈した頃――

 

 

フロイド・マッケンジー率いるアメリカ本国からの増援艦隊は、アメリカ西海岸のサンディエゴに引き返していた。

 

 

 

結果的にハワイを見捨てる結果となってしまったことに引け目を感じた副長が、マッケンジーに語りかける。

 

 

 

 

「後味の悪い後退ですね……」

 

 

 

 

「大統領の命は絶対だ。それに、今回の一件は我々軍にとって追い風になることは間違いない。ここで前線を経験し、兵器レベルや兵士の練度が他国より抜きん出ていれば、超兵器討伐後の我が国の発言力は増す筈だ」

 

 

「そう言うものでしょうか……」

 

 

「疑問は抱くな、結果のみを受け入れろ。それこそが我々の――」

 

 

「艦長!レーダーに超兵器と思われるノイズを確認!」

 

 

突如レーダーを監視していた兵士からの叫び声が艦橋に響き渡り、その声にマッケンジーを含めた全員が驚愕する。

 

 

「馬鹿な!敵はハワイに要る筈だぞ!我々を追ってきたとでも言うのか?仮に我が艦隊に追い付けたとしたら、敵は50kt近くの速度が出ている事になる。敵影は確認出来るか!?」

 

 

 

「いえ……以前確認できず」

 

 

「そんな筈はない!異世界艦隊から提供された、航空機を搭載できる能力のある艦であるなら、そろそろ視認できてもいい筈だ。もう一度確認しろ!」

 

 

マッケンジーの罵声が響き、見張り員は必死でレーダーに示された方向を何度も見渡す。しかし、いくら探しても敵の姿を確認することは出来なかった。

 

 

 

だが、敵は以外な形で正体を明かす事になる。

 

 

それは――

 

 

 

キーン……キーン!

 

 

「敵艦、アクティブソナーを使用しました。潜水艦です!」

 

 

「潜水艦だと!?至急リストを見せろ!」

 

「此方です!」

 

 

 

 

彼は副長から手渡された端末に目を通す。

 

 

「ノイズの大きさからして、レムレースはあり得ない。だとすればその他の潜行型は、400m級の超巨大艦と言うことになるな」

 

 

「艦長まさか……」

 

 

「戦うしかない!」

 

 

「危険過ぎます!ここは名誉よりも戦力を温存し、来るべき反攻に備えるべきです!」

 

 

 

 

副長は必死に彼に説得を試みるが――

 

 

 

 

「逃げられるのであるならば……な」

 

「……」

 

 

 

 

見れば、マッケンジーの額には焦りによる汗が滲み、表情は険しさを増していた。

 

 

「いいか?敵が潜水艦で有るにも関わらず、アクティブソナーを使用した事実を考えてみろ。我々は、敵にとって¨その程度の存在¨でしかないと言うことだ。速力が水中で50ktを超え、武装も我々よりも高度な技術を有している。逃げても追い付かれて消されるだけだ。我々が生き残るには今ここでヤツを沈めるしかない!」

 

 

「そんな……」

 

 

副長の表情に絶望の色が浮かぶ。

 

 

 

 

 

 

「だが幸い敵との距離はまだ開いている。この間に、対潜噴進魚雷をありったけ叩き込む。あの図体なら外れはしないだろう。総員、発射準備だ!」

 

 

 

 

艦隊がマッケンジーの指示で動き出そうとする。

 

 

しかし――

 

 

「高速推進音感知!魚雷来ます!」

 

 

「何!?あの距離からか?」

 

マッケンジーは驚愕する。だが、直ぐに敵の真意を知ることになった。

 

 

キィィィン!

 

 

魚雷は暫く航行すると炸裂し、海中に騒音を撒き散らしたのだ。

 

 

 

 

「魚雷炸裂!何やら此方の音波探知を妨害する兵器の様です。ノイズ消滅、敵艦を見失いました!」

 

 

「くっ……何てことだ。ん?待てよと言うことはさっきのソナーは……もしや!総員、魚雷に警戒しろ!狙われているぞ!」

 

 

マッケンジーは叫ぶ、しかし既に何もかもが手遅れだった。

 

 

「雷跡を確認!う、うわぁぁ!間に合いません!」

 

 

一本の魚雷が、マッケンジーの艦へひた走る。

 

 

「総員、対衝撃防御!心配するな。魚雷の一本位何とか凌いで――」

 

 

次の瞬間、魚雷が艦に着弾した。

 

 

すると急に辺りが薄暗くなり、波が荒くなる。

 

 

キィィィン!グゥゥオオン!

 

 

「な、なんだこれは……う、うわぁぁぁぁぁぁぁ!」

 

 

……

 

……………

 

……………………

 

 

 

超兵器からの攻撃の余波が収まり、静寂を取り戻した海にアメリカの艦隊の姿は¨消滅¨していた。

 

 

 

何一つ

 

 

 

 

残骸も、遺体一つすら残っていないのである。

 

 

 

 

   

 

 

 

   + + +

 

真珠湾

 

港にははれかぜとペガサス、401が停泊しており、三隻は出航準備を済ませて大西洋への玄関口であるパナマを目指す。

 

 

 

艦へと乗り込んでいくクルー達の中には、市街地の救助を行っていた真霜の姿もあった。

 

 

 

外洋に停泊しているスキズブラズニルに送迎してもらうため、タラップに向かっていた彼女に一人の女性が声をかけて来る。

 

 

 

「久しぶりね宗谷さん。今は宗谷室長とお呼びした方がいいかしら?」

 

 

 

「スミス艦長!お加減はいいのですか?」

 

 

「これが大丈夫に見えるかしら?」

 

 

 

 

スミスは頭と片腕を包帯に巻かれ、松葉杖という何とも痛々しい様子で立っていた。

 

 

「そう……ですね。それにしても、あの状況から良く無事に生還されましたね」

 

 

「メンタルモデル……で良かったかしら?彼女が助けてくれたのよ。でなければ今頃私は海の底ってわけ」

 

 

「本当に無事で何よりです。それと航空機の件もお願いしてしまってごめんなさい……」

 

 

「気にしなくてもいいわ。幸か不幸か、今軍はハワイにはいない。敵の残骸については責任をもって処分します。アレが世界に広まれば、間違いなく新たな戦争の火種になるわ。時間稼ぎにしかならないかもしれないけれど、ブルーマーメイドとして戦争回避の為に少しでも出来ることをしようと思うの。それに一人の母親としても、後世に戦争を憂いを遺したくはないから」

 

 

「その正義感の強さ、相変わらずですね。昔、海外研修で指導していただいた時の事を思い出しますわ。私達も、超兵器による虐殺を少しでも止められる様、死力を尽くします」

 

 

「頼もしい限りね。ねぇ宗谷さん……死なないで。そして、救ってくれてありがとう」

 

 

「スミス艦長……はい!必ず戻ってきます!」

 

 

 

「敬礼はいいわ。今は…今だけは……私はブルーマーメイドでも一人の母親でもなく、一人の人間としてここに立っているのだから。行ってきなさい!」

 

 

「はい!」

 

 

 

 

真霜は、敬礼の変わりにお辞儀を返すと、タラップを駆けていった。

 

 

ボォォォ!

 

汽笛が鳴り響き、はれかぜを始めとした異世界艦隊が出航していく。

 

生き残ったブルーマーメイドと女学生達は、その姿が見えなくなるまで見送りを続けた。

 

 

 

 

 

「さぁ皆!私達も彼女達に負けてはいられないわ。少しでも市民の皆さんの助けになるため、復旧作業を急ぎましょう!」

 

 

「了解!」

 

 

 

 

皆が一斉に敬礼を返す。

その中には女学生のリリーの姿もあり、彼女の表情には、疲労とそれにも増して前に進む決意の意思が目に現れている。

 

 

彼女は敬礼を終えると、本職の隊員達と共に破壊された市街地へと駆けていった。

 

 

   + + +

 

南アメリカ大陸ペルー沖

 

 

アメリカ艦隊を消滅させた超兵器は、ペルー沖を南下していた。

 

 

 

《此方、ドレッドノート。ソビエスキーソユーズ応答セヨ……》

 

 

 

《ソビエスキーソユーズ。敵艦隊ハ、ハワイヲ出発。パナマヲ目指シテ東進シテイル模様。 貴殿ハ、大西洋デノПриветニ備エヨ。アームドウィング、ノーチラスニハ既ニ通達済ミ》

 

 

《了解。今現在ニ於ケル¨彼ノ艦¨ノ様子ハドウカ?》

 

 

《貴殿ニ、知ル権限ヲ与エラレテイナイ。コノ情報ヲ知リ得ル場ハ、アノ3隻ト、ストレンジデルタノミ。ソレニワタシモ、彼ノ艦ヘノ不用意ナ接触ハ¨我ガ主¨ヨリ禁ジラレテイル。ネームシップタル所以カ、彼の艦ハ、我ガ主ニ於テモ完全ナ制御下ニ置ク事ガ出来ナイ……先日到着シタ二番艦デアル彼女ト、¨アノ艦¨ガ監視ヲ続ケルダロウ。現時点ニ於ケル全超兵器ノ艦隊旗艦ハ、アノ艦ダ。我々ハ時ガ来マデノ時間ヲ、我々ハ何トシテモ稼ガネバナラナイ》

 

 

《了解。ウィルキア艦隊ト蒼キ艦隊ノ処遇は以下ニ?》

 

 

《無論撃破セヨ。我ガ主モ干渉ヲ行イ、切リ崩シヲ試ミテハイルガ、一筋縄デハイカナイ…。彼等ヲコノ世界ニ招キ入レタノハ間違イナク彼ノ艦ノ仕業。イレギュラーナ存在ハ危険ダ。必ズ撃滅セヨ》

 

 

《了解……我ガ艦ハ全速ヲ維持。大西洋デノ戦闘迄ニ到着出来ル様善処スル》

 

 

《貴殿ノ健闘ヲ祈ル。通信終ワリ……》

 

 

謎の超兵器ソビエスキーソユーズとの通信を終えた、超巨大潜水空母ドレッドノートは、その巨大な体に見合う大きな音で海中を進む。

 

 

 

来るべき、大西洋での闘いに向けて――

 

 

   + + +

 

ヴィルヘルムスハーフェン港

 

テアの艦ノイッシュバーンを含めた艦隊15隻は、ブルーマーメイドの工厰にて、防御装置や対空迎撃システムの取り付けを行っていた。

作業を見守るテアにミーナが不安そうな顔で歩み寄る。

 

「艦長、システムや対空ミサイルについてですが……」

 

 

「解っている。生産が間に合わないんだろ?」

 

 

「はい……いかに図面が提供され、総動員体制で作業をしていようとも、やはり限界があります。精々約半数の艦船への配備が今のところ限界かと……」

 

 

「予期していた事態だ。問題ない。それにこの問題に関しては、どの国のブルーマーメイドも抱えているだろう」

 

 

 

「で、でもシステム無しでの出動は、あまりにも危険です!」

 

 

「そうだな。故に我々は、システムを搭載している艦のみで、いこうと思う。」

 

 

「な……!」

 

 

ミーナは驚きの表情を隠せない。

しかし、テアはいたって冷静な口調で続ける。

 

 

「言いたいことは解るが、システム無しでの出動は自殺行為にすぎない。イタズラな戦力の低下は避けるべきだ。故に、残りの艦はこのままヴィルヘルムスハーフェンにてシステム及び対空ミサイルの搭載作業を継続し、我々は予定通りアムステルダムの艦隊と合流する」

 

 

 

「テア!」

 

 

「何も言うな!……お願いだ」

 

 

「くっ……」

 

 

ミーナは悔しさを滲ませる。

 

 

無理もない。テアの言っていることは、ありてに言えば時間稼ぎの為に、自分達が犠牲になると言う事と同義なのだ。

すると、ミーナの気持ちを察したテアは、ポツリと呟く。

 

 

「済まない……済まないミーナ。私の独善にお前を巻き込んでしまって……」

 

 

その言葉を聞いたミーナは、最早我慢できなかった。

 

ガシッ!

 

「あっ、ま、待て!どうしたんだ急に!」

 

彼女はテアの腕を掴むと、艦内に向かって駆け出していく。

突然の事にテアは何も抵抗できず、成すがままに引っ張られていくしかない。

 

 

 

 

ミーナは彼女を自分の部屋まで連れてくると、ドアを閉めた。

テアから直接顔は見えないが、ミーナの肩は小刻みに震えている。

 

 

 

「怒っているのか?」

 

 

「……うん」

 

 

「危険な作戦を立案したからか?」

 

「違う」

 

 

「ではやはり私の我が儘に付き合わせてしまったから――」

 

 

「違う!…違う違う違う!違うんだ!そう言うことを言ってるんじゃない!私はテアの副長だ……でもそれ以前に友達じゃないか!友達が死地に赴くと決めたなら、絶対に死なせないように付いていくに決まっているだろ!そんな友達に付き合わせてゴメンなんて言われたら…まるで私が信用されていないみたいだ。勿論テアを死なせるつもりは無い。でもその可能性がある…最期になるかもしれないこの時に友人にかける言葉がそれなのか?嫌だ!そんなの嫌だ!」

 

 

「ミーナ私は――」

 

ガシッ!

 

彼女はテアを強く抱き締める。

 

 

 

 

 

そして――

 

コツッ!

 

 

 

 

 

「あ……」

 

 

互いの額を合わせ、真剣な表情でテアを見つめた。

よほど感情が昂っているのだろう、潤んだ瞳と荒い息遣いが間近に迫り、テアを動揺させた。

一瞬、何もかもを忘れて彼女の体に身を任せたくなる。しかし、テアはその衝動を堪えた。

 

艦長である自分の感情が揺らぎ、不安を口にしてしまえば、それが艦全体に広がり、現場での活動に支障を来してしまうからだ。

 

 

 

故に彼女は、ミーナから顔を背ける。

 

「や、止めろ……今はこんな事をしている時では――」

 

 

「目を背けるな!」

 

 

「!」

 

 

その声にテアは思わず目を見開く。

 

 

「私を見てくれ……テアの心を隠さないでくれ。お願いだ……」

 

 

【お願いだ……】自分もよく使ってしまうが、とてもズルい言葉だとテアは感じてしまう。親友がこんなに真剣な顔で、しかもこんな状況でそんなことを言われてしまえば、彼女は従わざるを得ない。

だが、ミーナのその飾らない態度に微塵も疚しい所はなく、その真っ直ぐな所に時には惹かれ、時には救われてきた。

甘えなのかもしれない、心の奥底では、ミーナがこうやって自分を叱咤激励してくれることをどこかで望み、期待している自分がいる。

 

 

(ズルいな…私は……)

 

 

だが、先程まで死が確定した様な気持ちであったテアの心に、一筋の光がさした。

それと同時に、いつも自分に光を与えてくれる彼女を決して失いたくはないと強く思った。

 

 

(ミーナ……私はお前を絶対に死なせたりはしない!この命に代えてでも!)

 

 

ギュッ!

 

「…んっ!」

 

テアは彼女の背中に手をまわして力を込め、彼女は一瞬ビクッと体を震わせるも、再びテアを真っ直ぐ見つめる。

 

 

 

「ミーナ……今は、今だけは艦長ではなくお前の親友、テア・クロイツェルとしてお前に甘えてもいいか?ミーナ…私と共に来て欲しい。どこまでも!」

 

 

 

 

テアはそう言うと、ミーナに体を預ける。

彼女は一瞬目を見開くと、とても嬉しそうにテアの背中にまわした手に再び力を込めた。

 

 

「ああ。ああ!行く!何処までもテアと一緒に行く!」

 

 

二人は、まるでお互いが今生きていて、存在していることを確かめ会うようにきつく抱き締め合った。

 

そんな彼女達が、今こうして絆を育める時間は余りにも短く、熾烈な戦場に赴かなければならない時は刻一刻て近付いてくる。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「いよいよだな……」

 

 

元の姿に戻ったキリシマが神妙な面持ちで呟く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「訓練を続けて、紅海に入りそして明日はスエズ……不安がないと言えば嘘になっちゃうけど、皆で力を合わせて頑張ろうよ!」

 

「あぁ、そうだな!」

 

 

 

 

互いに笑顔を浮かべるもえかとキリシマにタカオが苛立ったように唸る。

 

 

 

 

 

「なに二人だけで結論出してんのよ!大体ここは、私と艦長の部屋なの!あんた達の溜まり場じゃないわ!もえかは私の艦に居住スペース確保してあげたでしょ?キリシマも自分の艦が有るじゃない!早く自分の部屋に戻りなさいよ!」

 

 

「まぁそうカリカリしなくても良いじゃないか。ハルナも蒔絵も居ないし、話す相手がいないと暇なんだ」

 

 

「私も一人だと寂しいし、何だかんだで寝るときは一緒にいるの許してくれてるじゃない」

 

 

「許すも何も、あんたが勝手に潜り込んでくるんじゃない!キリシマも暇って何よ!暇って!ここは艦長と私の愛の巣なの!」

 

 

「え?これが?」

 

 

 

 

二人は部屋を見渡してから、半目でタカオを見つめる。

 

 

 

 

フリルのついたカーテンやベッド。ピンク色のブランコ。過剰な迄に格好良く脚色された群像の等身大抱き枕などが並ぶ妙にメルヘンチックな部屋に、こんな所で愛等育める筈がないと二人は思った。

 

 

 

しかし、二人の表情にタカオは納得がいかないらしい。

 

 

 

 

 

「な、何よ!どこがいけないの?この完璧にコーディネートした私の部屋を!」

 

 

「あのなタカオ……お前、本格的にヒュウガにコアをオーバーホールしてもらった方がいいぞ。実装している【乙女プラグイン】もここまで来ると最早故障だ……」

 

 

「くっ!ぐぬぬ……キリシマに言われるなんて、屈辱だわ」

 

 

「乙女プラグインって?」

 

 

「あぁ、我々が人間の感情体現するために編み出した感情シュミレーションの一種だな。その中でも、【恋する乙女の感情】とやらをシュミレーションして体現出来るプログラムが、乙女プラグインだ。最も、私はそれを実装しなくて本当に良かったと思っているがな」

 

 

 

「そ、そうなんだ……」

 

 

 

 

 

二人のやり取りに最早タカオは我慢ならなかった。

 

 

 

 

「あ、あんた達だって人の事が言える立場じゃないでしょ?キリシマだって毎晩毎晩、蒔絵がどうしていたのか概念伝達でハルナにしつこく聞いていたじゃない。ハルナが親バカ母さんだとすればあんたは世話焼き母さんよ!」

 

 

「ち、違う!私は只蒔絵が……そう、蒔絵だ!侵食弾頭を作れるほどの人材を霧の艦隊に迎えるとコンゴウに約束しているからな!決して蒔絵が心配だからじゃないぞ〃〃〃」

 

 

 

 

タカオの言葉に、キリシマは明らかに狼狽えた。

 

 

 

 

 

「もえかだって、あのアケノって艦長の事をオカズにしてイヤラシイ事考えてるんでしょ!」

 

 

「ちょっ〃〃いい加減な事言わないで!」

 

 

 

 

もえかは顔を真っ赤にして反論するが、タカオは引き下がらない。

 

 

「ふふぅん……じゃあ私のベッドで毎晩『ミケちゃん顔を真っ赤にして恥ずかしがってて可愛い……ねぇ、今度はココも触っていい?』とか何とか言ってるのは――」

 

 

「うわぁぁぁぁ!聞こえない!聞こえない!」

 

 

もえかは、大声を出して否定の意思を表す。

 

 

 

 

気づけば、三人とも荒い息をついてた。

 

 

「くっま!さか超兵器との戦いを前にして、こんな所で精神を消耗するとはな……」

 

 

「うぅ…酷いよタカオ……」

 

 

「わ、私のせいなの!?…でも、お互い待っている人の為に戦わなくてはいけないのは同じって所ね……」

 

 

「そうだな。私も蒔絵とケーキを作る約束を果たさねばならん!」

 

 

「私も、ミケちゃんと会うまでは絶対に死ねないよ!」

 

 

 

 

 

三人はお互いを見つめ、そして頷き合う。

 

 

 

環境も相手も違うが、目的は一緒であり、

守りたい相手や生き残る理由がある。

 

 

 

今の彼女達にはそれで十分だった。

 

 

 

 

三人は決意を新たに明日のスエズ突破に備えて休息をとる。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「何だと!」

 

 

先程まで、大統領の椅子に深々と座っていたハワード・フィリップ・トランスは思わず立ち上がる。

表情は怒りでネジ曲がり、彼の叫び声はホワイトハウスの隅々まで届きそうなほど大きなものだった。

 

 

 

その剣幕に、エドガー・フェンス主席大統領補佐官は思わず後ずさる。

 

 

 

「大損だ!異世界艦隊の情報を得られなかった処か、我が国の軍艦迄……それもハワイを見捨てて迄退却を命じておいてだ!こんな間抜けな話はない!国防長官を呼べ!今すぐにだ!」

 

 

「は、はい!只今――」

 

 

「それには及びません。フェンス主席大統領補佐官」

 

 

ドアを開けて入ってきたのは、リチャード・べネックス国防長官だ。

 

 

 

 

御歳70の彼は、過去に海軍大将を勤め、海賊の討伐の際はブルーマーメイドの制止を無視して討伐を強行し、抗議しに来た隊員を拘束したり、《私はアメリカ人だ。故にアメリカに仇成す存在を殺すことはこの上なく愉しい》、《他の国々が殺し合いを始め、アメリカ人以外が何億人死のうとも、私の知ったことではない》、《軍人足る者は、例え両親に合う時でも殺す準備を怠るな》等と過激な発言で物議を醸し、軍内部から【人喰い鮫】の名で知られた人物だった。

 

 

 

しかしその反面、哲学書等や心理学書等を愛読し、実戦から遠ざかった世界が戦争に突入した場合、泥沼の戦いにより多くのアメリカ国民の死者が出ないよう。各国の重要ポストと頻繁に対談を行い。戦争回避に尽力した、強かで知識人の一面も兼ね揃えている。

 

 

 

そんなべネックスだからこそ、大統領であるトランスの信用を勝ち得、同時にヒステリックでもある彼の前でも至極冷静でいられるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

「どうされましたか?大統領。顔色が優れないようですが」

 

 

「フンッ!わざとらしい挨拶は止めたまえべネックス君!私が何を言いたいのかは君が一番良く知っているのではないのかね?」

 

 

 

 

 

トランスは明らかに苛立った表情でべネックスを睨み付けるも、彼に動じる様子は微塵もない。

 

 

「成る程……派遣された艦隊が¨何の成果もなく¨沈められた件ですな?お言葉ですが大統領。今回の一件は全てあなたが大統領権限で下された命令です。これで軍があなたの命より私の命に従ったならば、あなたのお立場は地に墜ちていると言わざるを得ません。故に、軍があなたの¨無意味¨な命令に従い死んで逝ったのは、あなたが国のトップであるときちんと周知された結果であり、我が軍は至極正常に機能していることが証明されたと言えるでしょう」

 

 

 

 

トランスはいよいよ顔を真っ赤にして、余りの怒りで肩が震えている。

 

 

 

 

 

 

「べ、べべべネックス君!私が君にクビを宣言する前に言っておく事はあるかね!?」

 

 

「はい。此方をご覧ください」

 

 

 

 

 

べネックスがトランスに手渡した一枚の写真を見て彼の表情が一変する。

 

 

 

 

 

「これは……どこの写真だ!」

 

 

「サンディエゴです。異世界艦隊の情報の入手に失敗された大統領は、サンディエゴに艦隊を招き入れる予定だったのでは無いかと思い、急ぎ馳せ参じました。今これを見た後でも同じことが言えますか?」

 

 

「………」

 

 

トランスは、再びべネックスに視線を向けた。

 

 

「尚、軍がハワイを見捨てた件に関しても既にフェンス主席大統領補佐官と相談住みです。大統領、これはチャンスです。あなたの念願でもあり、公約でもあるアメリカ第一主義の確立。そして、それに立ちはだかるブルーマーメイドからの脱却。これはその双方を同時に成すことが出来る神器なのです」

 

 

「君は無神論者ではなかったのかね?」

 

 

 

 

 

 

トランスは先程とはうって変わって上機嫌な表情になる。べネックスは対照的に冷静で淡々と言葉を紡いだ。

 

 

 

 

 

「その通りです。しかし私はこれを見たとき、天恵を得たような気がしたのです。まるで《世界を統一し、自国の発展と永遠の平和を享受せよ》と神が申されているが如く。」

 

 

トランスは目を見開き、声を大にして笑った。

 

 

「はっ、はっはっはっ!素晴らしい!素晴らしいよべネックス君!君のクビは帳消しだ!指揮は君に任せる、口出しもせん。だから大いに儲けさせてくれたまえよ!」

 

 

「了解しました。この国と世界に、自由の風が味方せん事を……」

 

 

 

 

 

べネックスは彼に敬礼をすると、部屋から去っていく。

 

 

トランスは窓の外を眺めて、不遜で獰猛な笑みをいつまでも浮かべていた。

 

 

   + + +

 

 

スキズブラズニルは、一路パナマに向けて太平洋を突き進んでいた。

 

 

廊下を歩く明乃に、一人の女性が話し掛ける。

 

 

 

 

「ミケ艦長……」

 

 

「あっ、美波さん!」

 

 

「その後、体の具合に変化はあったか?」

 

 

「ううん。特には…無いかも……ど、どうして?」

 

 

「副ちょ――いや、事が事なだけに気になってな……何もないならいい。それでは――」

 

 

「うん。心配してくれてありがとう!」

 

 

二人は別れ、歩いていく。その直後だった。

 

 

バタッ!

 

その音に気付いて明乃が振り向くと、美波が廊下に倒れていた。

 

 

「美波さん!」

 

 

慌てて駆け寄り、美波の体を揺するが、彼女は一向に目を覚まさなかった。

 

「美波さん!美波さん!どうしたの?しっかりして!美波さん!」

 

 

   + + +

 

スキズブラズニルの医務室

美波は早急に運び込まれ、明乃は医師の診断を椅子に座って待っていた。

すると診察を終えた医師が明乃へと近付いてくる。

 

「先生!美波さんは……」

 

 

「心配は要りません過労です。今は点滴を受けて眠っています」

 

 

「そうですか……あ、あの。美波さんに付き添っていても大丈夫ですか?少しだけにしますから」

 

 

 

 

医師は少し考え込んでから渋々了承してくれた。

 

病室に入り、眠っている美波ベッドの近くに椅子を持ってきて座り、彼女の顔を見た。

只でさえ細身な彼女の顔は、良く見ると更に痩せており、腕に備え付けられた点滴が何とも痛々しい。

 

 

「ごめんね美波さん…気付いてあげられなくて……横須賀からずっと研究と医療で働き続けてくれてたんだもんね。私、自分の事ばっかりで、本当にダメだね……」

 

 

 

 

 

明乃は涙を浮かべながら、美波に語りかけた。

 

 

 

 

「そんな事は……ないぞ」

 

 

「美波さん!?気がついたの?」

 

 

「あぁ。全く……医者が患者のベッドを占領するとは、情けない限りだ」

 

 

「そんな事ないよ!美波さんは何時だって私たちを助けてくれるもん。私こそ、そんな美波さんに甘えてばかりで……」

 

 

「いいや、忙しかったとは言え、体調管理も立派な仕事だ。況してや緊急性の高い案件を受持つ私達医者は特にな……だからあなたが気に病む必要はないんだ」

 

 

 

 

弱々しくも笑って見せる美波に、明乃は益々申し訳ない気持ちで一杯になるが、何時までも暗い顔をしていたらかえって美波の体に障るかもしれないと、明乃は良く休むよう彼女に言ってその場を立ち去ろうとした。

 

 

「待ってくれ……」

 

 

 

美波は明乃の手を掴んで引き留めた。

 

 

 

彼女がこの様に誰かにすがるのはとても珍しい事であり、彼女は驚いて美波に向き合った。

 

 

 

「どうしたの!?どこか悪いところでも――」

 

 

「違うんだ……少し、話を聞いてもらいたい。今こんな時だからこそなんだ」

 

 

「何か悩みでもあるの?」

 

 

「悩みとは少し違うが、以前大浴場に行った時、艦長は私に言ったな、《美波さん、随分蒔絵ちゃんと仲良くなったんだね》と」

 

 

「うん、でもそれがどうしたの?」

 

 

美波は少し間を開け、そして決意したかのように語りだした。

 

 

「うむ、蒔絵には少し思うところがあってな……艦長も蒔絵の生い立ちは聞いているな?実は私も蒔絵と似たような境遇なんだ」

 

 

「――え?」

 

美波の告白に、明乃は思わず体が硬直する。

 

 

「正確には違うんだがな……つまり私には父と母の血が受け継がれていないと言うことだ。勿論、私の¨元¨となった受精卵を胎内で育て、出産したのは母なのは間違いない。だがその卵子にも精子にも両親の遺伝子が含まれていなかったんだ」

 

 

「………」

 

 

「生まれてからずっと、英才教育を施された私は、十歳になる頃に大概の教育を全て熟知してしまうほどの知識を有していた。故に飛び級で大学に入学し、医学や人体の知識、特に遺伝子と脳の因果関係についての勉学に力を入れたんだ。両親にはとても愛情を注いでもらったし、飛び級での大学入学、特にブルーマーメイドお抱えの大学に入学したことをとても喜んでくれた。私も慣れない周りの人の中で孤独を感じつつも、両親の期待に応えようと必死に学んだ。そして、十二歳になる頃には、医術を一人前にこなせるまでになった。そんな時だ、真実を知ったのは」

 

 

 

 

ゴクリ……

 

明乃は知らぬ間に汗で湿った拳を強く握り締める。

 

 

 

 

「春休みの長期休みの帰省際に、私は父の書斎の資料に目が止まってそれを開いてしまったんだ。中身には、身体的若しくは知識的に優秀な遺伝子を含んだ精子と卵子を受精させた場合に産まれてくる子供が、如何なる成長を遂げていくのか……だ。父は遺伝子を専攻する科学者で、母は脳医学専門医者だった。実験だったんだよ。私のやること全てが彼等の実験の結果に過ぎなかった」

 

 

「でもそれって――」

 

 

「あぁ、勿論法にも倫理にも抵触する内容だ。だから多数の目がある大浴場では言うことが出来なかったんだ。だが、私はそれ以上に絶望した。今までの両親の行動が途端に嘘臭く感じて、まるで世界に只一人放り出されたかのような強烈な孤独感と、同時に虚無感に襲われた。そんな時だ、春休み前に届いていた海洋学院での海洋実習をいつ行うのか問うた書類の事を思い出した。私は両親に何も告げずに直ぐ電話をかけたよ。《今すぐに済ませておきたい》って。家出のつもりだった。正直、最初は晴風のメンバーの事もどうでも良かったし、Rats事件の際、晴風に反乱の容疑がかかり、撃沈命令が下された時はいっその事、このまま沈んでしまえば死ねるとさえ考えていた」

 

 

「………」

 

 

「あなたが良く口にする《海の仲間は家族》と言う言葉、正直嘘臭いって思っていた。だがあなたは、それを身を持って証明した。あの時、次々と降りかかる苦難を自分達で乗り越え、絆を深める艦長達を見て思ったんだ。私もあなたの言う家族の仲間に入りたい、家族の温もりを感じたいって……でもこんな私が、家族と言って貰えるのか解らなくてとても不安だった」

 

 

「そんな事ないよ!美波さんは最初から私達の――」

 

 

「ああ、あの時もあなたはそう言ってくれた。そして赤道祭で《我は海の子》を皆で歌った時、本当に家族になったような気がして嬉しかったよ」

 

 

「そう……だったんだ。あ、あのご両親とは――」

 

 

「あまり顔を合わせていない……怖いんだ。私を本当に愛していたのか、それとも実験だったのか、聞くのが怖くてな。だが、今はそんな事どうでも良くなってしまったよ」

 

 

「蒔絵ちゃんの事?」

 

 

「そうだ。蒔絵は、見た目は人間でも、根本的に産まれるまでの過程が人類とは異なる。だが、確かにこの世に産まれて存在し、意思を持って生きているんだ。そして多くの者と関わり成長を遂げている。両親のやったことは、確かに許されない事だ。だが、それ故に私はこの世に生きて多くの人を助けることが出来た。そして艦長、あなたにも逢うことが出来た。それはとても喜ばしい事だと私は思う」

 

 

「うん、私も美波さんと逢えてとっても嬉しいよ!あ、あの……話してくれてありがとう」

 

 

(話してくれてありがとう……か。《辛かったね》ではなくありがとう。本当に、あなたらしいな)

 

 

 

 

 

優しい笑顔で微笑みかける彼女に、美波も笑顔で答えた。

 

 

明乃の存在は、いつしか美波の人生に大きな影響を与えていたのだ。

 

 

だが、その大切な彼女を蝕む存在がいる。

 

 

美波にとっても確証があったわけではないが、超兵器の意思から彼女を守るにはこれしかないのではないかという確信が、美波のなかで出た結論だった。

 

 

「艦長……もう一つ聞いて欲しい。時間は限られている」

 

 

「ん?どうしたの?限られているって?」

 

 

「シュルツ艦長と千早艦長の事だ。超兵器との戦いに敗北するにせよ、勝利するにせよ、彼等とはいずれ必ず別れの時が来る。本当は出来るだけ早い方が望ましいが、それまでにあなたがこれから何のために生きて行くのかを彼等を見て、そして学んでおくべきだと思うんだ」

 

 

「学ぶ?今後の世界の救済についてや戦術の事かな」

 

 

「違うな。いいか?シュルツ艦長や千早艦長は、自分達の世界では救世主だ。言わば物語の主人公と言えば分かりやすいか。なら、彼等を主人公足らしめる理由は何だと思う?」

 

 

「それは……」

 

 

「彼等はある時までは只の一般人に過ぎなかった。だが、世界には人類を脅かすものが存在した。当たり前の日常が崩壊し、人々を恐怖や絶望、やりきれない怒りが支配する。彼等とて同様だったろう。だが、彼等は行動に移した。シュルツ艦長は戦況を有利に進めていた帝国に付けば楽だったろうし、千早艦長もイオナさんの誘いを蹴って、今だけは安全な所で過ごす選択肢もあった。だが、二人は恒久的に日常を過ごせる選択肢をとったんだ。主人公と一般人との差はたったそれしかない。そしてそれは艦長、あなたと彼等との決定的な違いでもある」

 

 

「違い?」

 

 

「そうだ。彼等の描く未来は飽くまで自分の見える範囲の平凡な日常を守ってきた積み重ねられた平和。そしてあなたの描く未来は、世界全体的の平和だ。だがな艦長…¨世界全員の幸福¨など不可能なんだ。全員が幸福なら、助け合う必要も支え合う必要もない。だからあなたは、まず自分にとっての日常を考えてみてもいいんじゃないか?」

 

 

「私の日常……」

 

 

「そうだ。今結論を出さなくてもいい。じっくり考えればいいんだ」

 

 

「その……美波さんにはあるの?そう言うこと」

 

 

 

美波は少し考え込むと、顔を赤らめる。

 

 

 

 

「実は私も考えている事はあってな……参考になるかは解らんが。私は¨家庭¨を持ちたいんだ」

 

 

「――え?」

 

 

普段の美波からは想像もつかないような答えに、明乃は一瞬動揺した。

 

 

 

 

「意外か?だが前から考えていたことだ。結婚して子供を作って、そして毎日どんな料理を作ろうか悩んで、一緒に笑って一緒に泣いて、そんな賑やかな家庭を築きたい。あまり大それたものではないが。私にとっては大切な夢だ。だから今、その日常を壊されないよう足掻いている。笑われるかもしれないが、たまに美甘から料理を習ったりしているんだぞ?」

 

 

「そ、そうだったんだ……私、何も知らなかったよ」

 

 

 

 

明乃は、美波の夢に内心動揺していた。

幼いときから現在まで、ブルーマーメイドになって多くの人を助けることを目標にしてきた彼女にとって、日常に何かを求めたこと等無かったからだ。

 

 

それは、彼女の過去が常人よりも過酷なものであった影響が大きい訳だが、それでも明乃は衝撃を受けた。

 

 

 

美波は、そんな明乃の手をそっと握って優しく語りかけた。

 

 

「仕事人間の艦長には、ちと難しかったか?まぁいい。あまり深くは考え過ぎるな。どうしても無理なら、仕事の中に何かを見いだしてもいいんだ。考えてみて欲しい」

 

 

「わ、解った……考えてみるよ。色々ありがとう美波さん」

 

 

「ああ。すまない、まだ少し疲れているみたいだ……もう少しだけ眠るよ。パナマ到着までには起きるから」

 

 

「うん。ゆっくり休んで」

 

 

美波はゆっくりと目蓋を閉じる。

 

 

よほど疲れていたのだろう。

 

 

直ぐに寝息が聞こえ、明乃は照明を少しだけ暗くすると部屋を後にした。

 

 

(私の日常……か。考えたことも無かった。シュルツ艦長や千早艦長はどんな日常を求めているのかな)

 

 

明乃は狭い廊下を歩いて行き、自室に戻るまで考えるも結論を出すことは出来なかった。

 

 

   + + +

 

 

ウィルキア外交官、エドワード・クランベルクは、スキズブラズニルの司令塔にある屋上で煙草を吹かしていた。

 

 

 

 

(おかしい…アメリカはてっきり、ハワイで異世界艦隊と接触し、技術の奪取を計ると思っていた。だがそれは超兵器の影響により失敗。だとすれば次は、アメリカの太平洋側で最大級の軍港であるサンディエゴに、補給の名目で立ち寄るよう圧力が掛かってきてもおかしくない。なのにパナマ付近に差し掛かっても何も言ってこないのはかえって不気味だ。なにか企んでいなければいいが……)

 

 

険しい表情で、煙草を携帯灰皿に入れるエドワードに何者かが近付いてくる。

 

 

 

 

「クランベルク外交官。此方にいたのですか」

 

 

 

 

彼が振り返った先には――

 

 

 

 

 

「宗谷室長?どうされましたか?わざわざこんな所――」

 

 

カチャ!

 

 

「!!?」

 

 

エドワードが言い終える前に、真霜は銃を取り出し、銃口を向けてきた。

 

 

 

その表情は、今まで見てきた真霜のそれとはまるで違うとても冷たく恐ろしい顔をしている。

 

 

彼は内心は動揺したが、外交官としての性なのだろう。動揺を悟られぬ様に無表情を咄嗟に演じていた。

 

 

「どういう事でしょうか、宗谷室――」

 

 

「動かないで!私の質問にだけ正直に答えなさい!」

 

 

真霜は、断固として構えを崩さず、これ以上の抵抗は危険と判断したエドワードは素直に頷きを返す。

 

 

 

それを確認した真霜は更に続けた。

 

 

「ウィルキアは――いや、もしかしたら蒼き鋼もかもしれないけど、私達に内緒で何を画策しているの?正直に答えなさい!」

 

 

二人は暫しのあいだ睨み合う。

 

 

銃口を向けられているせいか、エドワードは背中に嫌な汗が滲んでくるのを感じていた。

 

 

 




お付き合い頂き有り難うございます。

ラブラブミーテアと超兵器の会話をお送り致しました。

多忙にて執筆に時間が割けない日々がこれから続いては参りますが、コツコツと積み重ねて一話にして参ります。


それではまたいつか

















とらふり!



テア
「どこまでも一緒に行く…か。ああ…ミーナ。私はこれからお前と――」



ココ
「ちょっと待ったぁぁぁぁ!狡いですよテアさん!国が違う事を良いことに、ミーちゃんとラブラブなんて…羨ましいです。私も早くミーちゃんとキャッキャッウフフしたいのにぃ!」


テア
「むっ!な、なんだ!お前は作品上ではまだ我々と合流していないだろ?世界観を崩壊させかねない行動は控えるべきだ!それに私はこれからミーナと食事に行ってあ~んしてもらう予定だ。いいから早く自艦に帰れ!」


ココ
「嫌です!ミーちゃんは私と《仁義の無い戦い》の上映会するんです!」


テア
「あ~んだ!」

ココ
「上映会です!」



ミーナ
「テア、そろそろ食事に――ってココ!?何故こんなところにおるんじゃ?」


ココ
「ミーちゃんと上映会したくて抜けて来ちゃいました!私と久しぶりにどうですか?」

テア
「ミーナ!私との食事はどうなる!お前がいなかったら、一体私は誰に食べさせてもらえばいいんだ!」


ミーナ
「う~ん……」

テア&ココ
「じ~(凝視)」


ミーナ
「そうだ!3人で食事をして、それから皆で上映会をすればいい!これで万事解決だ!」


テア&ココ
「う、浮気者……」


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動き出す影

大西洋玄関口編 後編であります。


今回は本編の最後にちょっとだけ短編を入れました。


それではどうぞ


   + + +

 

ブリーフィングルーム

 

シュルツは先のハワイにおける報告書に目を通していた。

 

 

――コンコン!

 

 

 

ドアをノックする音がして一人の女性が入ってくる。

 

 

 

「失礼します。シュルツ艦長、今宜しいでしょうか?」

 

 

「宗谷副長……ええ、構いませんよ。どうされましたか?」

 

 

「あの、昨日のミサイルの件だったのですが……あ、あれは一体何なのですか?シュルツ艦長は仰った。超兵器には、大陸を破壊する兵器と、都市を呑み込む兵器があると。実はそれ以外にも、大量の犠牲が発生しかねない兵器が有るのではないですか?」

 

 

「……」

 

 

 

 

シュルツは急に険しい表情になる。真白は彼の表情からその存在を確信した。

 

 

 

 

「答えて下さい!」

 

 

 

 

真白は彼に詰め寄る。シュルツ観念したかのように語り出した。

 

 

「【核兵器】です」

 

 

「カク兵器?どの様なものなのですか?」

 

 

「数種類存在しますが、原子の中心部の核に人工的処理を施し、核を分裂又は別の素粒子を融合させる。その化学反応の過程で生じる莫大な熱量や爆風を利用して敵を大量に殺傷する兵器の総称です」

 

 

 

 

真白はイマイチピンと来ない反応をするが、彼にとってはその反応も想定内だった。

 

 

 

 

 

「疑問に思うのは尤もです。この世界の歴史の軌跡は、第一次対戦で大まかな戦争は終結していますからね。ですが、我々の世界では遺憾ながら使用された。そして日本がその最初の犠牲となったのです」

 

 

「に、日本がですか!?」

 

 

「はい、最初は広島に……次は長崎で一発。計二発の爆弾で日本はあっさり降伏しました。それはそうでしょう。広島で14万人、長崎で9万人計23万人の命が一瞬のうちに失われたのですから」

 

 

「ば、馬鹿な!そんなに凄まじいものなのですか!?」

 

 

「この人数は飽くまでも投下された年に亡くなられた人数です。この兵器の恐ろしい所は実は別の所にある。それは【放射線】です」

 

 

「放射線?」

 

 

「一番身近な放射線は、日光でしょう。太陽も核反応で熱を出していますからね。尤も、原子で構成されているものは大小あれど放射線を放つ。浴びたくないなら霊体にでもなるしか無いわけですが――そしてそれは人体に悪影響を及ぼす。身体の免疫を破壊して病気に掛かりやすくなるし、直そうとする人体の機構を機能できなくする。簡単な風邪すらも致命傷になってしまうんです。それらの影響や、重度の火傷等を含め、投下されてから5年間の間に、広島で20万人、長崎で14万人が亡くなりました。」

 

 

「……」

 

その被害の凄まじさに、真白は言葉が上手く出てこない。

シュルツはそんな真白に構わず続ける。

 

 

「だが日本に投下されたこれは、まだ程度の低い代物です。現在は威力が数段上がり、小型化されてミサイルや魚雷の弾頭として発射可能なまでに進化を遂げています。もし、あのミサイルに核兵器が搭載されていてハワイに着弾したならば、恐らくハワイは壊滅したでしょう。あのアメリカ艦隊にしても、核弾頭が搭載された魚雷を受け、舜殺されています」

 

 

「そ、そんな……」

 

 

 

真白はショックを受けたように頭を押さえてフラフラとよろめく。

 

 

 

もしあの時、ミサイルの撃墜に失敗していたらと思い、恐怖の念が押し寄せてきたのだ。

 

 

 

それと同時に、そんな重要なことを隠匿していたシュルツに対し、怒りの感情が込み上げてくる。

 

 

「な、なな……」

 

 

「宗谷副長?」

 

 

ガシッ!

 

「!!?」

 

 

 

 

真白はシュルツの胸ぐらに掴み掛かかって叫んだ。

 

 

 

 

「何でそんな重要なことを隠していたんですか!報告があればもっと警戒を強化する事だって出来た!撃墜に失敗したときの事は考えてなかったんですか!」

 

 

「その事に関しては、弁明もしようが有りません……私の配慮が足りず、本当に申し訳有りませんでした」

 

 

「謝って済む問題では――」

 

 

「ですが。この件は出来るだけ内密にする必要があった。この世界を¨人間の手¨によって滅ぼさない為にも」

 

 

「それってどういう――」

 

 

「知識さえあれば、この世界の人々でも容易に量産が可能だからですよ。それは、超兵器の使用する光学兵器や波動又は重力兵器よりも簡単に。この世界の人々がその危険性を理解せずに量産し、戦争で大量に使用されれば、超兵器等使わなくとも世界は滅亡する」

 

 

「わ、我々はそんなことの為に使ったりはしない!」

 

 

「言いきれますか?核技術の厄介なところは、兵器以外の……そうですね、人々の役に立つ技術にも使う事ができる点にある。身近な所にそれが使われているのですよ?」

 

 

「身近な所に?」

 

 

「なるほど。それが¨はれかぜの機関¨って訳かぃ?」

 

「!」

 

 

 

 

真白が振り替えると、いつのまにか麻侖がドアに寄りかかるように立っていた。

 

 

 

 

「柳原機関長……」

 

 

「あんたの言いてぇこたぁ理解した。キナ臭ぇとは思ってたんだ。副長、あんた横須賀からこっち、はれかぜやウィルキアの艦が港湾施設で燃料を補給している姿を見た事があるか?」

 

 

「あっ……」

 

 

「だろ?それにな、硫黄島演習の前日に、ウィルキアの機関技師に機関をバラして中身を見てぇって言ったら。バラすと大変な事になるから絶対にバラすなって念押しされちまってな。釜焚きとしちゃあ、てめぇの機関の事は隅々まで知っておきてぇってのが性ってもんよ。それをダメだなんて言われちゃぁ気分が悪ぃってんで、よく覚えてんでぃ。そのくせあの機関ときたら、今まで見てきたどの船よりも凄まじい出力を出しやがる。艦内の電力だってそうだ。もし、こいつが発電目的で国内に有ったら、エネルギー事情を抱えた日本の立場が引っくり返るほどの代物って訳だ。そしてそれが、あんたが最も懸念していた事案って奴だろ?」

 

 

 

 

 

麻侖は不機嫌そうにシュルツを睨む。

彼は麻侖の推察に一瞬目を見開き、そして頷いた。

 

 

 

 

「その通りです。同じ技術で人を生かしも殺しもする。故に、人間が一度この技術を手にすれば、自ら破棄するのは極めて難しい。それに――」

 

 

「ははぁん。見えてきたぜ!あんたの言いてぇ事がな。つまりアレだろう?各国が、エネルギー目的で核技術を取得し、それを¨兵器転用¨する未来ってやつを危惧してんだろう?まずは、俺達日本のブルーマーメイドが、エネルギー分野を目的として核技術を持ち帰る。それに着目した各国に圧力をかけられて技術が世界に拡散、兵器に転用され戦争に使われる。あんたが描いたシナリオはこんなとこだろう。だからあんたらは、航空機の技術拡散は遅滞させても止めはしなかったし、航空機を迎撃するシステムを各国に提供して、航空技術の発展を遅滞させると同時に、核技術から目を背けさせた」

 

 

「……」

 

 

「だが一つ誤算だったのは、以外にも早く超兵器が核を使用してきた事だったんだろう?そしてそれを俺達に公表するかしないか考えあぐねていたってとこだな」

 

 

「鋭い洞察力ですね……」

 

 

「へへっ、どんなもんでぃ!」

 

 

「ま、待ってくれ!あ、頭がついていかない……」

 

 

 

 

真白はいよいよ頭を抱えてしまう。

 

 

シュルツは、眉を潜めながらへりこんだ彼女に手を差し出して椅子に座らせた。

 

 

 

 

「柳原機関長の仰る通りです。しかし、報告を怠った落ち度は私たちに有ります。本当に申し訳有りませんでした……ですが宗谷副長。我々は核技術をこの世界に広めるつもりは毛頭無い。例え、世界の抱えるエネルギー問題を一挙に解決出来るとしてもです。恐らくこの世界の人類も、実際に自分達が使って被害の大きさを目の当たりにしない限り核の使用を躊躇わないでしょう。そして将来、核を抑止力として保持して使用を制限したとしても、最初の犠牲に成った方々は決して帰っては来ない。この世界には、我々の世界と同じ過ちは犯して欲しくないのです。もう……あんなのは御免だ」

 

 

「……」

 

 

「宗谷室長には、後から正式に説明と謝罪を行います。だからそれまでは迂闊には口外しないで頂きたい。そして誓ってください。世界の平和と安定を堅持してきたブルーマーメイドは、核技術の世界の拡散を必ず防ぐと!」

 

 

 

真白は複雑な思いを抱いた。

 

 

 

表向き平和な日本に於いても、高額な外国製品が多数を占め、それを買わざるを得ないのは、日本のエネルギー自給率が極めて低いのを諸外国から見抜かれて足元を見られている事は確かなのだ。

 

 

 

国民も薄々はそれを自覚し、日々の生活をジリジリと圧迫する各国に不満を抱くものは少なくない。更に、日露戦争の敗北から100年以上が経過し、戦争の悲惨さや残酷さが薄れ行く現代では、国内世論が自国を圧迫する諸外国との戦争を後押しする傾向が有るのも確かだった。

 

 

 

ここで、原油に頼った電源ではなく、それに変わるベース電源を確保できる技術を得れば、結果的に雇用の創出とエネルギー面で優位な諸外国と対等に近い立場での話し合いを持てる可能性が出てくる。

 

 

 

それは外国に不満を持つ過激思想の抑制に繋がり、偶発的な衝突に端を発する戦争の回避に繋がるだろう。

 

戦場が海上になる可能性が高い日本にとって、ブルーマーメイドがそれを抑制するためには発電に関する核技術の提供は喉から手が出る程欲しい物だった。

 

しかし、先のシュルツの言にあった通り、リスクは極めて高く、真白は葛藤していた。

 

 

(どうする。艦長なら一体どう答えただろうか……)

 

 

 

 

 

その時真白の頭には、人々を救うために奔走する明乃の姿が写った。

汗にまみれて涙を流すことがあっても、救うべき人の前では気丈に笑い、そして希望を与え続ける彼女の姿が……

 

 

 

 

 

(そうだ。艦長は核など望まない。それよりもずっと人類の未来へ進む力を信じてる。たから私も――)

 

 

 

 

真白は決意の表情でシュルツに相対する。

答えはすでに決まっていた。

 

 

 

 

「解りました。我々は決して、核技術を保持したりはしませんし、開発を察知すればブルーマーメイドの名の下に必ずや阻止します!」

 

 

シュルツは、安堵の表情を見せ、麻侖もニッと笑う。

 

 

 

真白自信の心も、この戦いの中で確実に成長しているのだった。

 

 

 

   + + +

 

 

「私達に内緒で何を画策しているの?正直に答えなさい!」

 

 

 

 

銃口を向けてくる真霜に対し、エドワードは対応に苦慮していた。

 

 

 

 

 

(裏切りの話をするべきか……いや、宗谷室長がクロでないという確証がない。不用意な発言はしたくないが、何せ分が悪い……)

 

 

エドワードと真霜の距離はおよそ8m。

 

 

武器を奪うにしても遠すぎるし、屋上で逃走を計るのは論外。

 

 

真霜はエドワードを狙うのに最適の場所にいた。

 

 

 

 

 

至近距離では横方向に逃げた場合に、照準をずらす為の腕の移動を多く取らねばならず、かといって遠方では外れる可能性もある。

 

 

それ故に8mと言う距離は一対一の状況において最善の距離であった。

 

 

 

 

更に――

 

 

 

(チッ……照準が無難だな。逃げ切れない)

 

 

映画などでよく頭を撃ち抜くシーンがあるが、頭蓋骨は弾が滑りやすい上に、的が小さい頭を狙うのは余程のプロフェッショナルか、高威力の銃を使用しない限り現実的ではない。

 

 

 

しかし真霜は、銃口の照準をエドワードの胴体の中心に合わせていた。それならば身体の何処かには必ず命中し、一部にでも当たれば身動きが取れなくなる事は明白だった。

 

 

 

少しでも距離を詰めなければならないとエドワードは思案する。

 

 

「な、何を……落ち着いて話し合いまし――」

 

「質問にだけ答えなさい!」

 

 

 

 

真霜は一向に取り合わなかった。

ここでエドワードに一つの疑問が浮かぶ。

 

 

(強引すぎるな……例えここが自分達の世界で我々が法の対象外だとしても、スキズブラズニルで事を起こす事は利に叶わない。それに実質的トップである私を殺害または人質するよりも、シュルツ艦長やガルトナー司令を人質にとった方が効率がいい。彼女が超兵器のマリオネットであるとするなら余りにも非合理的だ。だとすれば現在の彼女の行動は、探りに近い。大方、勘の良い真冬艦長の助言があっか、自身もその直感に従い私を揺さぶっているのかだ。故に――)

 

 

自身が危害を加えられる可能性は低い。そう考えたエドワードは冷静さを取り戻す。

 

 

「解りました。ですが、どの様な事に関して疑われているのかを明らかにしていただかなければ答えようが有りません。元来、政府や軍は余り表沙汰に出来ない内容を内包している事はご存じでしょう?」

 

 

 

 

ここで初めて、真霜の眉がピクリと動いたのを彼は見逃さない。

 

 

 

 

「お話頂けますか?宗谷室長。どういう理由が有るのですか?私は武器など所持していません。丸腰です。具体的に言ってくだされば正直に答えるとお誓いします」

 

 

 

 

 

エドワードは両手を上げ、攻撃の意思が無いことをアピールする。

真霜は依然として銃を構えてはいるが、幾分は表情が和らぐ。

 

 

 

 

「何があったの?」

 

 

「と、言いますと?」

 

 

「ちょうど播磨を沈めて欧州への出発を判断する時期からよ。ウィルキアの兵士の視線をよく感じるようになったわ。最初は違和感だった。だけど真冬から最近監視を受けている気がすると連絡を受けて確信に変わったの。あなた達は敵じゃない。敵であったなら、北極海の超兵器を起動するまで、そこで防衛を他の超兵器と行えばいい。それは解っているわ。でも、だからこそ解らないのよ。あなた達が私達を監視する理由が。確証が無い以上、お互いの不安は亀裂を生むわ、今の私達の様に」

 

 

 

 

すると真霜はおもむろに引き金を引いた。

 

 

カチッ!

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

発砲音は聞こえなかった。真霜は端から撃つ気など無かったのだ。

 

 

 

彼女が求めていたのは真実を聞き出す事、そして自分達の信頼関係が意外にも脆い事を異世界艦隊に知らしめる必要があったのだ。

 

 

 

 

(首相と相対した時は、交渉屋の才能は無いと思っていたが……自国の人間よりも他国を相手にした時に真価を発揮するタイプか)

 

 

 

 

エドワードと言えど、この世界の情勢を完璧に理解しているわけではない。故に、日本のブルーマーメイドが、日本近海の海洋資源を狙う他国との荒事を含んだ事案に特化している事を失念していたのだ。

 

 

 

 

「話して頂けますか?クランベルク外交官」

 

 

「ふぅ……解りました。お話いたします」

 

 

 

 

 

エドワードは真霜に事の経緯を話し、彼女はその内容に驚愕した。

 

 

 

 

「裏切り!?有り得ません!ブルーマーメイドの中にそんな――」

 

 

「残念ながらそれしか可能性が有りません。何せ異世界人である私達には、生物を滅亡させるメリットがない。後ろ楯が無い以上、私達とていずれは某かの組織に与しなければならないですし、千早艦長にしても我々にしても、元の世界にやり残した事が有りますので……それで我々が調査をした結果、超兵器と通じている可能性が有るのは、ブルーマーメイドで真っ先に情報を知り得る上位の存在が怪しいと睨んでいました。宗谷室長、あなたもそのリストに入っています」

 

 

「岬さんの事はどう考えているの?」

 

 

「疑ってはいません。もし彼女が超兵器の影響を受け、内部崩壊や我々を罠に掛けたいのであれば、¨超兵器の干渉¨の件は伏せていた方が都合がいいですからね。彼女の申告が我々の超兵器に対する認識を新たなものにした事を思えば、除外は当然でしょう」

 

 

「だとすれば一体誰が……」

 

 

「断定はしていません。ですがあなたとこうしてコンタクトを取ったことで事態は進展するでしょう」

 

 

「何か私にして欲しいことが有るんですね?」

 

 

「はい。岬艦長を例に挙げれば、内通者は過去に何らかの形で超兵器と接触していた可能性のある人物です。過去の経歴に妙な欠落点や不審な点のある人物を探って頂きたい」

 

 

「解りました。身内を調べるのは気が引けてしまうのですが……有事ですので」

 

 

「嫌な役を押し付けてしまい申し訳ありません……」

 

 

「いえ……そんな事よりも、今回からは隠し事は無しですよ?お互い武器を持つもの同士、信頼がなければ大惨事になる可能性も有るのですから」

 

 

「肝に命じます。御詫びと言ってはなんですが、暖かいコーヒーなど如何ですか?夜風で身体が冷えてしまいましたから」

 

 

「あら。いいんですか?最近仕事続きで、コーヒーは欠かせないんです。ではお言葉に甘えさせて頂きますわ」

 

 

 

 

 

笑顔で答えた真霜に先程迄の鋭い表情は何処にもない。

 

 

 

 

 

(全く……末恐ろしいお嬢さんだ。私の世界にも彼女程の女性がいれば、世も変わっていただろうに……)

 

 

エドワードは真霜を横目で見ながらそんなことを思う。

 

 

 

二人の思わぬ緊張の夜はこうして更けていった。

 

 

   + + +

 

 

401ブリッジ

 

 

 

群像達はパナマ突破を前にブリーフィングを行っている。

 

 

 

 

「それでは始めよう。先ずは僧、頼む」

 

 

「お任せ下さい。この世界での大西洋の海図や潮流情報はブルーマーメイドから取得済みです。我が艦の航行に支障は有りません」

 

 

「よし、次は杏平」

 

 

「火器管制システムオールグリーン。侵食魚雷もたっぷり補充した。何時でも行けるぜ!」

 

 

「静」

 

 

「はい、ソナーシステムも良好です」

 

 

「いおり」

 

 

「重力子エンジンもバッチリ!でもあんまり無茶させちゃダメだからね!」

 

 

「江田さん」

 

 

「セイランの操縦は、ハワイで大体掴みました。心配有りません」

 

 

 

「イオナ」

 

 

「クラインフィールドの正常な起動を確認……全システムオールグリーン。401起動、いつでもガッテン」

 

 

「戦闘に問題は無さそうだな。次にヒュウガ。最新の研究結果を教えてくれ」

 

 

「解ったわ」

 

 

 

 

ヒュウガは白衣を翻して前に進み出る。

 

 

 

 

「まだ確定じゃないけど、蒔絵やブラウン博士からの仮説を総合的に判断するなら、超兵器には時空だけでなく¨時間に干渉¨出来うる力がある」

 

 

「なに!?」

 

 

 

 

群像だけではなくブリッジにいる全ての者が驚愕するも、群像だけは直ぐに冷静な表情に戻る。

 

 

「それはあり得ない。もしそれが可能であるなら、未来の結末を知りうる超兵器に勝てる訳がない。若しくは、我々の下に過去 現在 未来のあらゆる時間軸から、超兵器を多数世界に送り込めば、あっという間に世界を掌握することが可能になってしまう。違うか?」

 

 

群像の問いにヒュウガはニッと笑う。

 

 

「流石ね。でもまだ説明は終わってはいないわ。時間軸への干渉はとても危険よ。下手をすれば事象の変化やパラドックスによって、歴史が分岐する可能性もある。過去への干渉で超兵器が存在しなかった世界が生まれたり、中には私達の世界の様な超兵器を脅かしうる世界だってね。故に超兵器は自身の存在を確定する為に過去と未来への干渉を禁じている可能性が高いの」

 

 

「だが、岬艦長には過去に……」

 

 

「勿論その点は考慮したわ。仮説でしかないのだけれど、超兵器は同時進行している並行世界にのみに干渉しているんだと思うわ。そして先ず憎悪の種を撒き、戦争の火種をが芽吹いたタイミングで侵攻を開始する。この世界の前はウィルキアってとこかしら」

 

 

――ちょっと待てよ!

 

 

 

杏平が割って入った。

 

 

 

「辻褄が合わねぇんじゃねぇか?ウィルキアは、現在北極海にいる超兵器を倒した後、直ぐにこっちの世界に来たんだろ?あっちは1900年代、こっちは2050年代だぜ?およそ100年~150年の差だ。同時進行ってのは無理があんだろ」

 

 

「あら、なかなか鋭いじゃない?でも考えてみて。地球が誕生してから46億年の歳月がたっているのよ?それぞれの世界の文明の起こりが発生してから、現在に至るまでの経過に誤差が生じていても不思議じゃないわ。大きく見積もって150年の開きがあったとしても、誤差にもならないんじゃない?つまりは――」

 

 

「我々の2050年代とウィルキアの1900年代、そしてこの世界の時間は同時進行していると言うわけだな?そして岬艦長との絆の構築と、世界の右系化に合わせて侵攻を開始した」

 

 

「流石は艦長ね。この世界に来てから早ひと月。コンゴウと硫黄島で会う約束を見事にすっぽかした訳だけど……フフッ、コンゴウがカンカンになっている姿が目に浮かぶわね」

 

 

「なんかSFの話を聞いているみたいですね……それにカンカンになったコンゴウを想像するだけでも憂鬱になってしまいます」

 

 

 

 

 

 

群像達の会話に静はついていくのにやっとだ。そこに割って入ったのは――

 

 

 

 

 

「ヒュウガ、もう一つ疑問がある」

 

 

 

 

イオナだった。

 

 

 

 

 

「私達の存在は、少なくとも超兵器達にとっては何のメリットの無い存在である事は明らか。それにあの事象が偶発的なものだったのなら、違う船舶が巻き込まれていてもおかしないと思う。でも、超兵器と戦った艦隊や、霧と人類の命運を背負っている私達が転移した事を考えれば、偶然で済ませるには余りにも不自然。これはどう考える?」

 

 

 

 

ブリッジ全体が静まり返り、視線がイオナからヒュウガへと移る。

 

 

彼女は珍しく、眉をひそめて考え込んでいた。

 

 

 

「申し訳ありません姉さま……私もまだ明確な解答をを持ち合わせておりませんわ。しかし事態が進行すれば、必ずその答えに繋がるヒントは見つけられると思います。その時はこのヒュウガ、全力で調査し姉さまへ良い報告が出来るよう邁進して参りますわ!」

 

 

「うん。お願いヒュウガ」

 

 

「キャァァ!姉さまに頼られてしまいましたわぁ!」

 

 

 

 

 

絶叫しながら身体をくねらせるヒュウガを余所に、群像が立ち上がった。

 

 

 

 

 

「よし!新たな課題を解決し、我々の世界に帰還する為にも、先ずは超兵器との戦闘に赴き、そして勝利しなければならない。その為にも、各員は自分のベストを尽くしていって欲しい」

 

 

「「了解!」」

 

 

群像は、ブリッジからの返事に頷くと解散を宣言し、各人は各々の仕事に戻る。

 

 

 

彼は横目でチラリとイオナを見た。

 

 

彼女は群像の視線に気付くと淡く笑顔を作り頷く。彼もそれに答えると自室へと戻っていった。

 

 

明日からはいよいよ大西洋に入る。

それぞれの眠れぬ夜が更けていった。

 

 

   + + +

 

 

「いよいよだね……」

 

「はい、この水門を越えた先に大西洋があります」

 

 

 

 

 

明乃が緊張したように、呟く。真白も同様に眼前にある水門を複雑な表情で見つめていた。

 

パナマにあるガドゥン湖にある水門。

その先に待ち構える闘いは、熾烈なものになることは間違いない。

 

 

一方の時を同じくしくしてのテア率いるドイツ艦隊は、ヴィルヘルムスハーフェンを出航し、ブルーマーメイドのオランダ艦隊と合流するべくアムステルダムをめざす。

 

また異世界艦隊の西進組は、スエズ運河を通過し、地中海に駒を進めいた。

 

 

「欧州ですね……」

 

 

「ええ、鬼が出るか蛇が出るか……兎に角、奴等には我々の訓練の成果を見せ付けてやりますわい!はっはっはっ!」

 

 

 

 

不安を抱くヴェルナーに筑波の前向きな笑い声は救いだった。自分の世界の超兵器戦から、シュルツと毎日の様に顔を合わせていたヴェルナーは、彼が自分の思っていた以上に精神的にも戦術的にも支えになっていたことを痛感する。

 

 

 

筑波や真冬は、そんなヴェルナーの不安を見透かしていたのかもしれない。

 

 

 

「そうですね……私がこの様な顔をしていては、また宗谷艦長から叱られてしまいます。これから先、宜しくお願いします。筑波副長」

 

 

「はっはっ!そのいきですぞ!」

 

 

二人が顔を見合わせ笑いあった時だった。

 

 

 

 

「お、お話し中失礼します!」

 

 

 

息を切らせながら、通信員の一人が、艦橋へ走り込んでくる。

 

 

「どうした?」

 

 

「はっ!たった今、黒海に展開していたと思われる超兵器が移動を開始したとの事です!尚、当該海域のブルーマーメイドの無人飛行船から撮影された、画像が届きました。接近前に撃墜されたようで、不明瞭な画像では有りますが……」

 

 

「来たか……で?その画像は手元に有るのか?」

 

 

「はい!こちらになります!」

 

 

二人は通信員から手渡された端末を開いて、超兵器の姿を確認する。

 

 

「「!!!?」」

 

 

 

二人の表情がみるみるうちに険しくなった。

 

 

「なんて事だ……」

 

 

 

 

ヴェルナーの顔色は最早青ざめつつあった。筑波も、先程迄の余裕に見せていた笑顔は無くなっていた。

 

 

 

 

その理由とは――

 

 

「奴等は小笠原諸島で沈めた筈。それに彼奴まで……」

 

 

「超巨大航空戦艦ムスペルヘイム……」

 

 

 

   + + +

 

 

「ムスペルヘイム……兎に角今は、ヴェルナー達の健闘を祈るしかない。我々は目の前の敵を倒すことだけを考えなければ」

 

 

 

「そうですね。敵の性能は新たな段階に入っているものと考えていいでしょうから」

 

 

シュルツの険しい表情に、博士も思わず顔が強ばる。

すると、ナギがシグナルをキャッチし、直ぐ様彼に伝える。

 

 

「艦長!偵察を勝手出た、蒼き鋼の江田からの通信です!繋ぎます」

 

 

 

『シュルツ艦長!敵超兵器艦隊を発見しました。敵は大西洋、バミューダ沖から我が艦隊に向けて南下中!』

 

 

「敵の艦種は特定できたか?」

 

 

『は、はい!それが……敵は海上に二隻のみ展開残りはもしかすると海中に展開しているかもしれません。一隻は超巨大高速空母アルウス、そしてもう一隻ですが…超巨大航空戦艦……ム、ムスペルヘイムです!』

 

 

 

「な、何だと!!?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

短編 【待ちぼうけの麗人】

 

 

   + + +

 

 

ここは、明乃が存在するのとは別の世界

 

 

 

硫黄島沖

 

 

 

旧日本帝国海軍に所属していた。戦艦金剛及び摩耶が並んで浮かんでいた。

 

 

 

しかし、二隻には旧帝国時代の軍艦ではあり得ない様相を呈している。

 

 

 

重巡洋艦摩耶ピンク、そして金剛は漆黒の船体に紫色のタトゥの様な模様が散りばめられていた。

 

そう、彼女達二隻は¨霧の艦隊¨。人類を海洋から追い出し、陸地へと閉じ込めた張本人達だった。

 

 

 

 

霧の重巡洋艦マヤの甲板上では、横縞のニーソックスとフリルや大きなリボンの付いている赤ずきんの様な衣装をまとった黒髪ロングヘアの少女が、オモチャのピアノで適当なメロディーに、取って付けたような歌詞を楽しそうに歌っている。

 

 

「わったしぃはマーヤ♪とうもだちコンゴウ♪わったしぃはマーヤ♪とうもだちコンゴウ♪」

 

 

壊れたレコードの様に、同じ歌詞を繰り返すのは重巡洋艦マヤのメンタルモデルだ。

 

そんな彼女を、隣に停泊している大戦艦コンゴウの艦橋の真上に座っている一人の女性が眺めていた。

 

癖のある金髪をピッグテールにし、非常に丈の長いスカートが誂えてある黒いドレスを着ており、深紅の色で鋭い切れ長の瞳を持った大戦艦コンゴウのメンタルモデルは片手に海鳥を留まらせており、楽しそうに歌うマヤから海へと視線を写すと、眉をひそめて鋭い目付きを更に鋭くして彼方に小さく見える硫黄島を睨んだ。

その凍り付く様な美しい顔立ちは、たとえ怒りに歪んでいたとしても決して揺らぐことはない。

 

 

 

「面倒くさい……一体奴等は何処へ消えたと言うのだ。千早群像と401……私をここへ呼びつけたと思えば、影も形もない。それにタカオどころか、ハルナやキリシマの居た痕跡すら無いとは……マヤ!」

 

 

 

 

コンゴウは西洋の東屋を模した、仮想空間である概念伝達空間にマヤを呼んだ。

中央には、丸いテーブルが置かれており、上には二つのティーカップと紅茶を注ぐ陶器のポットが置かれている。

コンゴウは席に座ると、二つのティーカップに紅茶を注ぐ。

 

 

 

そこへ――

 

 

 

「はいはーい!コンゴウ呼んだぁ?」

 

 

 

 

概念伝達空間にマヤが姿を現す。

彼女は席に座ると、落ち着きなく足をバタつかせ、両手でティーカップを持って紅茶を口に運ぶ。

コンゴウは、楽しそうにしているマヤを見て少し目を細めると、話題を切り出す。

 

 

 

 

 

「硫黄島には本当に人間や、メンタルモデルの反応は無いんだな?」

 

 

 

「うん、無いよ~!コンゴウも散々調べたけど結果は同じでしょう?」

 

 

「ああ……」

 

 

 

〔ねぇ、もうここに居なくてもいいんじゃなぁい?きっと何処かに逃げちゃったか、トラブルか何かで沈んじゃったんだよぅ。ザッブゥ~ン♪〕

 

 

マヤは近くに置いてあった器から、角砂糖に似せたキューブを、ティーカップに入れる。

 

 

「そんな筈はない。我らの目を完璧に欺き、掻い潜る事など不可能だ。奴等は必ず何処かにいる。私はここで待機し、必ずや千早群像と401に直接引導を渡さなけばならない」

 

 

「ふぅん……」

 

 

「どうした?マヤ」

 

 

 

首を傾げるマヤに、コンゴウは不機嫌そうに尋ねた。

 

 

「何で他の場所で探さないの~?何処かに移動してる可能性だってあるよね?それにさぁ~全ての元凶が居なくなっちゃったなら、コンゴウはもう何も考えなくていいんだから消滅しちゃった事にすれば楽だよ~キャハハハ♪」

 

 

 

それを聞いたコンゴウは目を見開き、それから複雑な表情を浮かべた。

 

 

(そうだ……私は何故、千早群像と401がまだ硫黄島にいると確信している?¨予感¨……そう予感だ。私は奴等が再び硫黄島に現れる…そんな予感を感じているからここから動ごく事ができない。それに私はいつの間にか千早群像と401が存在し、相対する事を心の何処かで望んでおり、奴等の消滅を認めたくないと言うのか?……違う!私はアドミラリティーコードに従い、それに反する千早群像と401を駆逐しなければならない。そう、これは使命なのだ!そこには何者の意思も介在する余地など無い!)

 

 

「……ゴウ。コンゴウ!どうかした?」

 

 

(!)

 

 

マヤがコンゴウをじっと見ていた。

彼女はハッと我にかえる。

 

 

「い、いや……何でもない。通信を切るぞ。またなにか有れば連絡する」

 

 

「はいはーい待ってるよ~♪コンゴウ、早く皆とカーニバルできるといいね!バイバーイ♪」

 

 

そう言うと、マヤの姿が概念伝達空間から消えていく。

コンゴウも空間から出ると、艦橋の真上から彼方に見える硫黄島を見つめた。

 

その表情はまるで、愛しい恋人を待つ可憐な女性そのものである。

コンゴウは潤んだ深紅の瞳で島を見つめ、手で胸をギュッと掴みながらポツリと呟く。

 

 

「千早群像、401……この心が締め付けられるようなこの気持ちは…あぁ、何なのだ本当に……待つというのも面倒くさい……」

 

 

彼女の言葉は、波の音と海鳥の鳴き声に虚しく消えていった。

 

 

 

   + + +

 

太平洋上のとある場所に、桃色と薄い緑色の二隻の潜水艦が浮かんでいた。

 

形状は二隻とも同じ伊400型を模している。

 

その桃色の潜水艦の甲板上には二人の少女の姿があった。

 

 

「先程、マヤがコンゴウの感情シュミレーターに異常を検知しました」

 

 

そう語ったのは、容姿はイオナとよく似ているが、ツインテールの髪を団子頭にし、中華風の恰好をしたイ400のメンタルモデルだ。

 

 

対しているのは、同じく容姿はイオナとよく似ているも、雨合羽のようなポンチョを着ており髪の先をリボンで結んだ格好をしているイ402のメンタルモデルである。

 

400の報告を受け、402は表情を変えずに返答する。

 

 

 

「例の思考汚染の影響か?我が姉と関わった者は、例外無く独自の意思を発現させ、霧の艦隊を出奔している」

 

 

「そう考えて間違いないでしょう……」

 

 

「これ以上の汚染の拡大によるアドミラリティーコードの逸脱行為は感化できない。早急な対策が必要」

 

 

「相手が大戦艦となると、私達も手を焼く事になりますよ……」

 

 

400の警告に402は暫し思案してから回答を返した。

 

 

「コンゴウの感情シュミレーターの数値が一定値を超えた場合は、彼女を東洋方面第一巡航艦隊旗艦から解任し401を撃沈して事態を収拾するまで、武装をロックして拘束するのを総旗艦に提案してはどうだ?」

 

 

「機知に富んでいます……いいでしょう。それでは重巡マヤには、引き続きコンゴウの監視と、感情シュミレーターの数値の観測を継続して貰います」

 

 

「了解。数値の超過が見られた場合に備え、私達はコンゴウの策敵範囲の外縁付近を潜行し待機する」

 

 

「了解しました。良き航海を402……」

 

 

「お前もな、400」

 

 

402は自分の艦へ跳び移ると、艦を起動させて海へと潜っていく。

 

400はそれを見送り、広がる海に少し視線を向けると自らも海へと潜って、暗い海中に姿を消していった。

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


次回まで今しばらくお待ちください。



それではまたいつか














とらふり!

マヤ
「カ~ニバルだよ♪」


コンゴウ
「マヤか。千早群像……401!この私に待ちぼうけとは……許さん!」


マヤ
「プンプンだねぇコンゴウ。でもどうしてそんなに拘るの?」


コンゴウ
「解らん……だが、奴等の事を考えるとコアがムズムズするのだ」


マヤ
「解った!コンゴウ、きっとそれは¨恋¨だよぅ。データで見たよ。人間は特定の人物に恋をすると心がムズムズするんだって♪」


コンゴウ
「恋……だと?馬鹿な!そんなアドミラリティコードに反する感情など、私は実装してなどいない!」


マヤ
「因みに千早群像と401どっちが好みかな~♪」


コンゴウ
「ち、違う!千早群像は何故だか私をイライラさせるし、401だって皆と楽しくしていて羨ま……いやそんな事は無い!でも少しは混ぜてくれても……いや断じて違う!」



カチャ…



マヤ
「(コンゴウの感情プログラムに異常な値を検知。更なる監視を継続する)」


コンゴウ
「……ヤ。マヤ!どうした!?何かバグがあったのか?」


マヤ
「ううん、大丈夫だよコンゴウ。コンゴウは今まで通りアドミラリティコードに従ってればいいんだよ♪」


コンゴウ
「ああ。これからも頼りにしているぞマヤ」


マヤ
「うん!また一杯一杯カーニバルしようね♪ウィ、カチャ……」


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前へ進む者達

大変長らくお待たせいたしました。

今回はブリーフィング回並びに出撃迄をお送りします。


それではどうぞ。


 

   + + +

 

 

江田の報告を受けたシュルツは戦慄した。

 

 

 

 

「ムスペルヘイムだと!?馬鹿な!奴は今、地中海に居るんだぞ!まさか二番艦が存在していたと言うのか!?」

 

 

 

 

 

 

ウィルキア解放軍に取って、それ程までにムスペルヘイムと言う存在は忌むべき存在なのである。

 

 

 

艦の通常戦力ならば、ヴォルケンクラッツァーと双璧を成すとまで言われた超巨大航空戦艦リヴァイアサンの方が上だろう。

しかし、ムスペルヘイムには¨アノ武器¨が搭載されている。

 

 

【重力砲】それは着弾地点に超高密度の特異点を発生させ、特異点が引き起こす強大な引力によって周囲に有るもの全てを呑み込み圧壊させる最凶の兵器なのだ。

 

 

 

 

「不味いことになった……」

 

 

シュルツの表情は更に険しさを増す。

 

 

「艦長」

 

 

「博士……どうされましたか?」

 

 

「これをご覧ください」

 

 

 

 

博士に手渡された資料に目を通すシュルツの顔がみるみる青ざめていった。

 

 

「これは……」

 

 

「帝国から押収した機密文書です。先日、漸く暗号の解読が終了しました。それによると……」

 

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

――ムスペルヘイム級は、ヴォルケンクラッツァー級をより安価に模倣し、且つ空母能力を実装することで、より機能性を重視した運用が可能であるとの目的で試作された可能性が高い艦である。

 

 

 

――しかしながらムスペルヘイム級、二番艦及び三番艦ヨトゥンヘイムとニブルヘイムの二隻に於ては、解放軍の台頭にて起動が間に合わない。

 

 

――よってペーターシュトラッサー級空母の取り外し、戦艦部分単体での運用を推奨する。

 

 

――解放軍撃滅にあっては今後遅滞戦闘を主とし、テュランヌス並びにリヴァイアサンの起動を優先するべきと進言する。

 

 

 

――ヴォルケンクラッツァーの起動は急務であり、実現すれば我が帝国は世界を隅々まで掌握するだろう

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

 

「まるで悪夢だ……」

 

 

「同感です。形状が若干異なる為、厳密には二番艦や三番艦とは言い難いのですが。ヨトゥンヘイムを元にしているのが、¨ナハトシュトラール¨、ニブルヘイムを元にしているのが¨グロースシュトラール¨であると判明しています」

 

 

「ナギ少尉、至急ブリーフィングルームに各関係者を集めてくれ!あとヴェルナー達にもこの件の報告を!」

 

 

「はっ!了解しました!」

 

 

ナギは、急いで各艦の重要ポストに招集をかけた。

 

 

 

   + + +

 

ブリーフィングルーム

 

 

異世界艦隊のトップ達が集まってきた。各々の表情は硬い。

 

 

 

無理もない

 

 

 

 

過去にこの部屋に集合し、会合が開かれると言う事は大概悪い報せがある時なのだから。

 

 

 

そして今回もその例に洩れてはいない。

 

 

 

 

「――と言うわけです」

 

 

 

 

シュルツの説明に一同は驚愕した。

 

 

 

そこに最初に口を開いたのは群像だ。

 

 

 

 

「その計画には、他の超兵器も含まれているのですか?」

 

 

「ええ、たった今言った三隻の航空戦艦の他に、複数の超兵器の起動が計画が成された形跡があります」

 

 

「厄介ですね……話を聞くに¨超兵器の起動を試みる¨とありましたが、ウィルキア帝国は端から同型艦の超兵器を取得していたことになる。敵超兵器のデータは無いのですか?」

 

 

「残念ながら……データが有るのは、飽くまで起動して、我々と戦闘になった超兵器のみです」

 

 

「そうでしたか……シュルツ艦長の世界で、帝国が二番艦を起動させずにヴォルケンクラッツァーを起動させた理由は?」

 

 

「それは、私から」

 

 

 

 

博士が前へ進み出る。

 

 

 

 

「それは私達の世界での我々の行動に起因いていると思われます。恐らく帝国は、超兵器が異世界から転移してきた時点で侵攻の計画を立てたのでしょう。何せあれ程巨大な兵器群を、いつまでも自国に隠し通す事など不可能であり、それが諸外国に露呈すれば、大量破壊兵器の所持と言う他国がウィルキアに攻め入る大義名分を与えてしまいますし、強力な兵器が他国に渡ることにも成ります。そして、世界の主だった国々を抱き込んだ帝国は、二番艦やヴォルケンクラッツァーを時間をかけて起動を試みる予定だったのでしょう。故に私達の相手は、先に起動した超兵器を旗艦とした通常艦隊が大半でした。しかし、そこで帝国の誤算が起きた」

 

 

「成る程……シュルツ艦長が率いる解放軍の活躍ですね?」

 

 

「その通りです。各国の用心棒を勝手出て信頼を勝ち得、超兵器を次々と撃破した私達の活躍により、各国のレジスタンスが勢い付いて親帝国派が次々と投降または解放軍側に下りました。それにより、ヴォルケンクラッツァーが起動前に攻め込まれる事を危惧した帝国は、高出力航空戦艦の三隻の同型艦の起動を断念し、ヴォルケンクラッツァーの起動に早期着手した可能性は否定できません」

 

 

 

「では何故今回は起動出来たのでしょうか?」

 

 

 

 

博士は少し考えてから結論を出す。

 

 

 

「恐らく……ですが、この世界での空母の存在は正に脅威です。さらに言えば、この世界での航空支援が皆無である以上、ヴォルケンクラッツァー起動迄の時間を稼ぐには、航空戦力は敵にとって必要不可欠と言うことに成ります。故に、空母能力と戦艦の能力が同一に存在する航空戦艦の存在は超兵器にとって都合が良かった。ですがそこに私達の付け入る¨隙¨が有ると私は推測しています」

 

 

「隙……ですか?」

 

 

「はい。私達の世界で超兵器が空母を実装しなかったのは、各国にもある程度航空戦力があった事と、私達解放軍の進軍速度が速かった事に起因しています。故に敵は、空母などを実装し、調整を行う余裕がなかったのでしょう。今回は空母こそ実装してはいますが、実質戦艦級超兵器一隻に空母級超兵器二隻、即ち三隻分の超兵器機関を同調させることは、超兵器自身の暴走や自壊に繋がりかねません。しかし、空母級二隻の機関を切り、中央の戦艦級のみでエネルギーを同調し運用するためには、莫大なエネルギーを消費する重力砲の実装または使用は現実的ではありません。機動力が落ち、重力砲を使用してこないのだとしたら、警戒すべきは超巨大高速空母アルウスとムスペルヘイム級に実装されている超巨大二段空母ペーターシュトラッサー二隻から発艦してくるであろう、大量の航空機でしょう」

 

 

 

「成る程……横須賀で戦った時に敵が切り札を使用してこなかった理由が見えてきました」

 

 

 

「あの!ちょっと宜しいですか?」

 

 

明乃が手を挙げて立ち上がる。

 

 

「その理論は飽くまでもこの超兵器が二番艦や三番艦であった場合なら解ります。でも、この航空戦艦が横須賀を襲撃した超兵器だとしたら。大量破壊兵器を搭載し、使用可能になっていることは有り得ますよね?」

 

 

「それは……」

 

 

博士が一瞬眉を潜める。代わりにシュルツが、明乃の問いに答えた。

 

 

「確かに。これは飽くまで希望的観測に過ぎません。いくらムスペルヘイム級が強力だとは言え、小笠原諸島での戦いを鑑みれば、敵超兵器が¨たった二隻¨と言うことは考えにくい。例えあのムスペルヘイム級が横須賀を襲撃したネームシップだとしてもです。寧ろ、ハワイを襲撃した超兵器が潜航型だった事、小笠原で戦った航空戦艦近江に航空機型超兵器が搭載されていたことを思えば十中八九どちらか、若しくは両方が次の戦いで展開されることは間違いないでしょう。更に、先程も話した膨大な数の航空機を相手にとなれば、苦戦は必至になるかと」

 

 

「すみません……少し、楽観視していたようです」

 

 

博士が俯くと、シュルツは優しく笑顔をつくった。

 

 

「いえ。博士を責めているのでは有りませんよ。岬艦長の仰ったことは最もです。しかし、私も希望はゼロではないと考えています。理由は――」

 

 

 

「あの超兵器がネームシップではないからですね?」

 

 

明乃の呟きにシュルツが、頷いた。

 

 

「お気付きになっていましたか。そうです、横須賀の超兵器は空母部分が戦艦の真ん中から艦首にかけてを挟み込み、今回の超兵器は戦艦部の艦尾から艦首までの全てを挟み込んでいます。前者は、切り札である重力砲の発射を妨害されないよう艦首の防御を固める意味合いが強い、それは重力砲が戦況を左右しかねない兵装であるからに他ならないのですが、しかし後者は戦艦と空母双方が互いを防衛し合う意味合いが強い。それは、この世界が航空機による攻撃に脆弱であり、我々もパイロットを失えば、事実上超兵器との戦いに対して手詰まりなってしまうことから、敵が航空戦力を重視していることが伺えます。重力砲の発射が無ければ、勝機はあるでしょう」

 

 

 

「始まるんですね……いよいよ」

 

 

「はい、勝ちましょう。明日を……いや、未来を迎えるために!」

 

 

彼の言葉に、明乃と群像が同時に頷き、シュルツはそれを確認すると表情を引き締める。

 

 

 

「それでは各位、出撃準備……願います!」

 

 

一同は席を立ち、自艦へと駆けていく。

 

 

 

 

   + + +

 

 

ロシア連邦

 

 

広大且つ強大な国であり、あらゆる国と接していながら、不思議と多くの国々はロシアを隣国だとは思っていない。

 

 

 

それは日本に於いても例外では無かった。

 

 

 

 

ウラジオストクまでの距離は、狭い日本のさらに本州を縦断する距離よりも近いところにある国だと言うのに。

 

 

 

それは日本で隣国と言えば、まず中国や韓国のことを指すからだ。

 

 

 

また両国は長い歴史の中、日露戦争に端を発した領土問題や資源問題から、幾度となく戦火や不毛な交渉を繰り返し、敗戦した日本に対して彼の国が一貫とした強硬な態度を崩さなかった事による蟠りも手伝っているのだろう。

 

 

 

ある意味、手と手を交わす関係ではなく、銃弾が飛び交う関係と言えよう。

 

 

 

友好的な期間は皆無に等しく、敵対的だった期間が圧倒的に長いのだ。

 

 

ロシアと言う存在は日本だけでなく、世界中の政府関係者にも長年プレッシャーをかけ続けるものだった事は言うまでも無いだろう。

 

 

そんなロシアの第二の都市と言われるサンクト・ペテルブルク

 

 

 

 

そこにある政府の建物にいたのは、ロシア大統領ヨシフ・アリャドフだった。

 

中年の男性秘書が、深刻そうな顔をしながら、アリャドフに呟く。

 

 

「大統領。モスクワにてワシリー・ジャガーノフ首相の遺体が発見されたそうです……」

 

 

「そうか。私もまさか空からいきなり首都を襲撃してくるとは予想外だったが……」

 

 

 

 

ヨシフ・アリャドフは最初の襲撃当時、サンクト・ペテルブルクを訪れており、超兵器や航空機の襲撃を免れていた。

しかし、彼の留守を預かることとなった。首相のジャガーノフは、空襲を受けた大統領殿の瓦礫に埋もれ、命を落とすことになったのである。

 

 

 

自身の右腕たる人物を失う事にはなった訳だが、アリャドフの表情には失意の色は微塵も感じられない。

彼はその氷の表情とも言うべき無表情で、眈々と言い放つ。

 

 

「まぁ、アレも所詮は私の¨予備¨にすぎない。彼が大統領で私が首相であった時も、そして現在も、指示を出すのは私なのだからな」

 

 

 

 

アリャドフは、16年以上と言う長きの間、政権の座についてきた。

 

 

 

 

それは単に、彼の頭脳が優秀で有るからに他ならない訳であるのだが、それだけではロシアと言う国で頂点に立つことなど到底出来はしない。

 

彼を国のトップ足らしめている本当の理由は、その類い希なるカリスマ性と国内外におけるしたたかな政治運営、そして国内の自身の地位を脅かしかねない反対勢力を見つけて、拘束ないし粛清を謀る冷徹さに有ることは間違いなかった。

 

 

そんなアリャドフは、氷の瞳を秘書に向ける。

 

 

「ウラジオストクの件は人魚共には気づかれてはいないな?」

 

 

「は、はい。超兵器が現れて以来、何故か世界中の監視衛星の調子は良くありません。よって、他国にアノ件を気付かれる可能性は低いかと……ただ、念のために隠蔽工作は万全を期して進めているところであります」

 

 

「宜しい。ロシア出身者で構成されている以上、人魚の中にも我々側の人間は多いが、ここはバルト海を通じてキールと繋がっている。超兵器が彼の海に居座っているとはいえ、ブルーマーメイド連合本部に事態を気付かれる事は即ち、アメリカに付け入る隙をつくる事と同義だ。慎重に事を進めろ」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

「残る問題は彼の海の超兵器のみ……か。人魚共を押さえ込んでくれた事は行幸だが、何せ今後の行動が読めない。今は異世界艦隊に出来るだけ早くキールに到達し、奴の目を釘付けにしてもらう必要があるな」

 

 

「その件ですが……」

 

 

秘書がアリャドフに一枚の資料を手渡す。

 

 

「これは……」

 

 

「はい。無人飛行船より撮影されたバルト海の超兵器です。無人飛行船はその後撃墜されましたが……」

 

 

資料の写真には、一隻の異様な艦の画像が載せられていた。

 

両舷にアングルドデッキを持ち、艦中央に大口径の主砲や光学兵器ジェネレーター、そして艦首に多数のミサイル発射装置を備えた、全通甲板式の航空戦艦。

 

 

 

その名は――

 

 

「【テュランヌス】……¨暴君¨か。ふふっ!成る程。それは上手い名だな。たった一隻で欧州の精鋭部隊を駆逐し、鎮座し続ける暴虐の王。それも話によれば、先の海戦で本体からの攻撃を一切行わず、大量の航空機を使っての迅速且つ一方的な殺戮を展開したとか。見事なものだ。まぁおかげで、此方の首都も被害を被った訳だが……」

 

 

「大統領……」

 

 

「案ずるな。航空機の戦力は一見魅力的だが、すぐに使えなければ意味がない。欲をかいては全てを失う。今は、人魚共と異世界艦隊の活躍に期待しよう。願わくば人魚と超兵器同士、互いに潰しあってくれると有り難いのだが」

 

 

 

 

 

アリャドフはそう言うと、一瞬だけ不敵に笑みを浮かべた。

 

 

 

   + + +

 

 

地中海

 

補給や工作を兼ねた艦、フンディンのブリーフィングルーム

 

 

「東進組より、超兵器の新たな情報が入りました。これから皆さんにお伝えしようと思います」

 

 

 

 

 

ヴェルナーが音頭をとった。

 

 

 

 

「大戦艦キリシマと重巡タカオの画像解析によって、敵超兵器の大まかな編成が判明しました。此方です」

 

 

 

 

 

一同が表示されたモニターに目を向ける。

 

 

 

「確かこの一隻は横須賀を襲った奴なんだろ?」

 

 

画像を指差した真冬の問いに、ヴェルナーは首を横に振る。

 

 

 

 

「いいえ、そうとは限りません。先程、大西洋上にムスペルヘイムとおぼしき超兵器が現れたと報告が入りました」

 

 

「そ、そんな……二番艦が存在していたと言うのですか!?」

 

 

 

 

もえかは、驚愕の事実に顔が青ざめる。

 

 

 

 

「実際は三番艦まで存在する可能性があります。更に、その他の超兵器についても複数の同型艦建造計画が判明しました。それで先程の画像解析の件に話を戻しますと。黒海から南下中の超兵器艦隊の大まかな編成が見えてきたのです」

 

 

 

「勿体ぶらずにとっとと言いやがれ」

 

 

 

真冬が苛立ったように唸る。険しい表情のヴェルナーは言葉を慎重に選びつつ続ける。

 

 

 

 

「まずこの超兵器艦隊には、三隻の超高速巡洋艦が展開しています。艦種は¨ヴィントシュトース級¨先の小笠原沖で対戦したシュトゥルムヴィント級のプロトタイプです。一番艦ヴィントシュトース、二番艦ヴィンディヒ、三番艦ルフトシュトローム。速力は63kt、主な武装は20.3cm砲、ミサイル発射機、多連装噴進砲、魚雷になります」

 

「ちっ、意外に速ぇな……それに誘導兵器のミサイルと魚雷が厄介だ。ちょこまかと動かれちゃ厄介だぜ。だが俺の弁天だってあんた等の改装で、60ktは出るぜ?」

 

 

「しかし、そのデータは楽観視出来ません」

 

 

「なんだと?」

 

 

「小笠原沖で対戦したシュトゥルムヴィントは、超兵器リストに載っていたデータはよりも大幅な改良を施されていたからです。接敵する際に、虚を突かれないようにする必要が有るでしょう」

 

 

 

「動きにくいな……で?あんたらが顔を青くする理由は、ムスペルヘイムの存在も有るだろうが、こいつがいる事が原因なんだろ?」

 

 

真冬が向けた視線の先に写る超兵器に、超兵器戦を経験した誰もが顔を曇らせた。

モニターには、一隻の巨大艦の姿が写し出されている。

その姿は、小笠原沖で異世界艦隊を恐怖に陥れた戦艦の姿があった。

 

 

 

 

超巨大双胴戦艦【播磨】

 

 

 

 

「播磨の同型艦ですが、名は【駿河】と名付けられているようです。真相は定かではありませんが、完全砲撃特化型の播磨と対になる存在として建造された可能性が高いとの事ですので、防御や迎撃、そして速射性に特化した艦である可能性はありますね。恐らく艦隊旗艦であるムスペルヘイム級の護衛を務めるために艦隊に組み込まれたのでしょう」

 

 

 

「艦種こそ違うが、編成その物は小笠原沖の時と、似たり寄ったりだな」

 

 

「でもジブラルタルからこっちに来てる超兵器もいるんでしょ?。そっちの情報はなにか無いわけ?」

 

 

 

 

楽観視するキリシマを余所に、タカオが疑問を投げ掛け、ヴェルナーは険しい表情のまま押し黙る。

 

 

そこへ筑波がヴェルナーの前へ進み出た。

 

 

 

 

「艦長。迂闊な臆測を防ぐために伏せておりましたが、此からの戦いを考えれば、覚悟決める上でもお話しておいた方が宜しいのではないですかな?」

 

 

「そうですね……解りました。お伝えいたします。先日ジブラルタル海峡を突破したと思われる超兵器ですが、恐らく超巨大双胴航空戦艦近江の同型艦と超高速巡洋戦艦級と思われる三隻が目撃されたとのことです」

 

 

 

「伏せてたって事は、その目撃情報は正確じゃねぇ可能性があるって事だよな?」

 

 

「ええ、なにせジブラルタルの観測所は、超兵器通過時に破壊され、残った生存者のおぼろげな情報によるものでしたから。更に我々も、つい先程まで同型艦の存在を疑ってはいませんでしたから。ですが今回判明した近江型の二番艦【尾張】と、元々量産されていたシュトゥルムヴィント級の二番艦と三番艦、【ヴィルベルヴィント】と【クラールヴィント】の三隻が増援に加われば、状況は絶望的になります。もしかしたら目撃されていない第三の超兵器の存在も疑わなければなりません」

 

 

「万事休す……か」

 

 

 

キリシマが、珍しく弱気な態度を見せる。

人類に対して無敵とも思える霧の彼女であっても、強力な兵器を凄まじい手数で撃ち込まれれば、ただでは済まない事を先の超兵器戦で実感していたからだった。

 

 

 

その時――

 

 

 

 

 

「てめぇら雁首揃えて弱気になってんじゃねぇ!」

 

 

 

 

 

 

 

真冬の砲弾の様な罵声がブリーフィングルームに響き、一同の視線が彼女に集まる。

真冬は一同に構わず、立ち上がって吠えた。

 

 

 

 

 

 

「忘れてねぇか?俺たちが殺られちまえば世界が終わるんだぞ!?この世界だけじゃねぇ。超兵器が異世界に渡る力があんのなら、他の世界の連中だって危ねぇんだ!他人事じゃねぇんだぞ!?なら四の五の言わねぇで、打開策を打ち出すのがスジってもんだろうが!てめぇらいい加減腹を括りやがれ、大馬鹿野郎共!」

 

 

 

 

 

辺りが静まり返る。それを見てハッと我に帰ったように真冬が着席した。

 

 

 

 

 

 

「わ、悪りぃ……つい熱くなっちまって。だが俺はこんなとこで死ぬ為に来たんじゃねぇ。守りに来たんだ、未来って奴をな。だから――」

 

 

 

「解っています。打開策……ですよね。確かに希望が無いことは有りません。知名艦長、先の超兵器戦で最も厄介だと思った事は有りますか?」

 

 

 

 

「そ、そうですね。やはり航空機でしょうか。それに大型超兵器に気を取られがちですが、比較的小型の超高速艦が非常に厄介でした。此方も荒覇吐との対戦時に妨害を受けましたし……」

 

 

 

 

 

 

 

もえかの答えにヴェルナーは頷いた。

 

 

 

 

 

「そうです。距離のリーチを無視してあらゆる角度から対艦兵器を撃ってくる航空機の存在と、此方の機動力を削ぎに来る超高速艦の存在がまず邪魔に成ります。更に今回は、ジブラルタル方面から挟撃を仕掛けてくる尾張も自身の到着に先んじて航空機を発艦させてくる可能性がある」

 

 

 

「と、言うことは――」

 

 

 

「お察しの通りです。我々は、発艦してくるであろう航空機と超高速艦の各個撃破を優先する。次に、ヴィルベルヴィントとクラールヴィントを優先して撃破。残りは航空機が居ないムスペルヘイム級と尾張、駿河の三隻になります」

 

 

 

「その理論じゃあ次の標的は、旋回性の高い尾張ってとこか?」

 

 

「そうなりますね。ムスペルヘイム級と駿河は、欠点として比較的被弾面積が広く、小回りが利きにくい点がある。大口径砲の直撃に注意しながら他の超兵器を各個撃破し、あの二隻を囲い込んで撃沈する。今はこれしか手が有りません」

 

 

 

「フンディンを戦力外として。私とキリシマ、それにメアリースチュアートと弁天。計四隻で敵を少なくとも八隻と航空機……単純に倍以上の敵を相手にしなくちゃならないわ。何か個々の役割は有るわけ?」

 

 

 

「あなたの言うことは最もです重巡タカオ。今回の超兵器戦は実質時間との戦いに成ります。本来ならば、我々の航空機で敵航空機を相手に出来れば幸いなのですが、今回は敵の数が多い上に、合流されては更に勝算が薄くなる。よって、対空迎撃を蒼き鋼の対空レーザーに委ねます。そして我々の航空機が超高速艦の攻撃とその護衛にあてたい――以下がでしょうか?」

 

 

 

「確かに我々の対空迎撃能力は人類の比ではない。二隻をまるごと対空迎撃にとはちと大胆だがな」

 

 

「だけど空を片付けない事には、艦隊戦に集中出来ないわ。私はいい案だと思うけど?」

 

 

「ちょっと待て!」

 

 

 

 

真冬が話に割って入る。

 

 

 

 

「弁天の出番は無いのかよ。このままじゃただのお荷物だぜ?」

 

 

「宗谷艦長には、空母が艦隊に組み込まれた際の戦い方はあまり馴染みがないでしょうが、基本的に空母を含む艦隊を組む際は、空母がその中核を成します。それほどに航空機の役割が大きい事を意味しているのですが……その反面、防御や攻撃力に難が有ります。その為、他艦は空母の護衛を務める意味合いが強くなる。蒼き鋼のお二方にしても、半分は空母に殺到する航空機を減らしていただく意味もあるのですよ」

 

 

「俺にてめぇのお守りをしろってか?じゃあ、あの訓練は何だったんだよ!」

 

 

「いいですか宗谷艦長。訓練と実戦はまるで違います。弁天は、我々と蒼き鋼の技術で改装はされていますが、飽くまでこの世界の技術がベースになった艦です。人員構成にしても、この世界の人類で形成されているのですよ?岬艦長や知名艦長とは状況が違う。気持ちを早って飛び出せば、即沈んでしまいます。弁天はメアリースチュアートの護衛をしつつ超兵器と言う脅威を現実のものとして受け入れなければなりません。ご理解頂きたい」

 

 

 

 

 

 

ヴェルナーのいつになく冷徹な口調に真冬は思わず押し黙る。

重苦しい空気に耐えられなくなったのは平賀だった。

 

 

 

 

 

「あ、あのう……ブリーフィングはこれで以上ですか?」

 

 

 

 

 

 

「……ええ。それではブリーフィングを終了します。各員は、いつでも出撃できる準備を整えてください」

 

 

 

 

ヴェルナーはバツが悪そうに、低い声で場を解散させ、一同が散開するなか真冬とヴェルナーだけがその場に残る。

 

 

 

 

「これでいいのか?」

 

 

「……ええ。ですが結果的にあなたに嫌な役を押し付けてしまいました。本当に申し訳有りません」

 

 

「ちっ!湿気っぽい顔してんじゃねぇよ。それにな、俺はてめぇの事を出来る奴だと思ってんだぜ?それこそ海の向こうにいるあんた等の艦長位にな」

 

 

「いえ、私などは――」

 

 

「言わせてもらうが、そこがてめぇの悪いとこなんだよ。確かにてめぇの過去の事情は把握してる。でもな、もっと自分に自信を持ちやがれ。そうすりゃ見える景色も自ずと変わるぜ」

 

 

「宗谷艦長……」

 

 

「……で?この先どうする。この一芝居でいったい何が解るんだ?」

 

 

 

「先ずはどちらに、内通者が居るかが判明するでしょう。故にブリーフィングで具体的な作戦内容を話しました。」

 

 

「成る程な……内通が事実なら超兵器の動きに変化が出る。だがどうする?さっきの作戦内容は、事実上理想的なものだった。これ以上の作戦が有るってのか?」

 

 

 

「正直此れからは賭けに成ります。それ故に、我々が¨いつ超兵器と接敵¨するかが重要なんです」

 

 

 

「ん?直ぐにでも切り込むんじゃねぇのか?」

 

 

「ええ。超兵器と接触する間の僅かな時間を、出来るだけ有効に使います。その為の蒼き鋼です」

 

 

「知名達に、事実上の勝利の鍵を委ねる……か」

 

 

「はい」

 

 

ヴェルナーは艦橋から出撃の準備を整えるタカオとキリシマに視線を向けた。

 

 

(此方だけではない。先輩達の行動も此方の勝利に大きな影響を及ぼす。先輩……千早艦長、岬艦長。頼みます!)

 

 

 

「おい。どうした?」

 

 

「あ、いや……すみません少し考え事をしていて。れでは我々も航準備を整えましょう。時間が惜しい」

 

 

「ああ。宜しく頼むぜ」

 

 

自艦へと戻っていく真冬を見送るヴェルナーの表情は芳しくなかった。

 

 

 

それは実質、倍以上の敵戦力と超兵器戦の経験が浅い自戦力との戦いが、どの様な事態を生むのかが未知数であるからに他ならない。

 

そして何より、作戦の鍵が自艦ではなく、蒼き鋼や異世界艦隊の東進組に委ねる事への不甲斐なさも同時に感じていた。

 

 

 

 

『なに腑抜けた事言ってやがる!』

 

『俺はてめぇの事を出来る奴だと思ってんだぜ?』

 

 

「!」

 

ヴェルナーの脳裏に、真冬の叱咤激励がよぎる。

 

 

(そうだ、塞ぎ込んではいられない!先輩の意思を……人類の未来を守るんだ!)

 

 

ヴェルナーは目を見開き、艦橋にいる兵士達に指示を飛ばした。

 

 

「総員、対超兵器シフトへと移行!索敵を一層厳とし、いつでも万全の攻撃に移れるよう速やかに備えよ!」

 

 

(いつまでも尻の青い小童だと思っておったが……立派に成られた。ふふっ、若い者の成長を喜ばしいと思うようになるとは、歳をとったものだ。儂ももう少しだけこの方々達の成長を、そしてそれらが生み出す未来を見てみたくなってしもうたわい)

 

 

筑波は一瞬だけ表情を緩め、慌ただしく動き出す艦橋内を見渡した。

そして直ぐに表情を引き締めると、今自身の成すべき事するために動き出した。

 

 

   + + +

 

ペガサス艦橋内の動きは慌ただしくなっていた。

 

「ナギ少尉。乗員各員の準備はどうか?」

 

 

「はっ!総員戦闘配置につきました。各兵装、機関並びに通信機器に異常無し!何時でも出撃可能です!尚スキズブラズニルは、当海域にて待機となります」

 

 

「よし!401とはれかぜからの連絡があり次第出撃する!」

 

 

 

同刻 イ401ブリッジ

 

 

群像とイオナが座席に座る。

 

 

「僧、報告を」

 

 

「了解。重力子エンジン並びに火器管制システムオールグリーン。クラインフィールドの展開にも問題有りません。健一さんとハルナはセイランにて既に待機中」

 

 

「よし!それでだ――」

 

 

群像は隣に座っているイオナに顔を向けた。

 

 

「イオナ、大丈夫か?今回はヒュウガのサポートが無い。もし演算に負荷が掛かりすぎるようなら、此方でカバーする。遠慮なく言って欲しい」

 

 

「うん、大丈夫。今までもこうして乗り越えてきた……今回も同じ」

 

翡翠色の瞳を群像に向け、イオナはコクリと頷いた。

 

 

「でもよぅ。本当にこの面子で勝てんのか?ヒュウガも居ないし、ハルナだってセイランでの参戦だ。流石に俺達とイオナだけじゃ分が悪いぜ?」

 

 

「私も不安です……まるで、霧の大戦艦を相手にしているような、強い緊張を覚えてしまいますね」

 

 

 

 

杏平や静も、先の超兵器戦での事が頭を過り不安を隠せなかった。

 

 

 

それは、マスクで表情が見えない僧や、超兵器戦の経験がある江田、そして機関室のでブリッジの話を聞いているいおりにしても同じだった。

 

 

 

特にいおりは、かつて敵だった大戦艦ヒュウガとの戦いで重力子エンジンを限界まで使用し、熾烈な戦いを繰り広げた経験がある。

 

 

それ以降は、作戦を念入りに立てた事もあるが、重力子エンジンへの負担は比較的軽微であったが、此方の世界に来て以降、ハワイを除く横須賀や小笠原沖と、短期間に二度も重力子エンジンを酷使したのだ。それも各方面の関係者を交えた密度の濃い作戦立案や、メンタルモデルが新たに四人も加わっているのにも関わらずだ。

 

 

 

機関室で一人で過ごす孤独感も相まって、いおりは表情を曇らせ、震える左手をもう片方の手で押さえ付けた。

 

 

――その時である

 

 

 

 

「勝てる」

 

 

「???」

 

 

 

 

イオナの声が機関室に響き、いおりは思わずスピーカーに目を向け、群像を含めたブリッジ一同の視線もイオナに集まった。

 

 

 

 

彼女の表情はいつもと変わらない。

 

 

しかし、このような状況に於いても、焦りや不安を感じられない美しい翡翠色の瞳は、この戦いでの勝利を微塵も疑ってはいなかった。

 

 

このクルーや群像と共に有り続けるなら、必ず勝利は成ると……

 

 

 

故にイオナは続ける。

 

 

 

 

「群像、あなたは私達の世界で世の中に風穴を開ける為に戦いを続けてきた。きっと皆もそう。そしてそれを楽しんでいた。戦いが楽しいとは違う。未来を……私達霧や、人類達が手を取り合うそんな未来を自分達で作っていくことを楽しんでいた。それはこの世界に来てからも変わっていないと思う。だから――勝てる」

 

 

 

 

401の全員が目を見開いた。

 

 

 

「へへっ!やっぱイオナには敵わないなぁ~」

 

 

 

 

いおりは指で鼻を擦りながら目を細めて笑い、ブリッジにいる一同も笑顔を見せた。

 

 

 

 

「こうもはっきりと断言されてしまっては人類として立つ瀬がありませんね……艦長、命令を!」

 

 

 

 

 

群像は、回りを一度見回してからゆっくりと頷いた。

 

 

「此より我々は、バミューダ諸島周辺に展開する超兵器を撃沈し、欧州解放への足掛かりをつける。伊號401……出航準備完了!」

 

 

 

 

群像の号令と共に、401の重力子エンジンが稼働した。

 

 

 

   + + +

 

 

はれかぜの艦橋にメンバーが揃い、真白が全員配置に就いたことを明乃へと報告する。

 

 

それを聞いた明乃は一度頷き、伝声管を使って艦内各所に声を届けた。

 

 

 

 

「皆――聞いて欲しい。私達はこれから、欧州解放の前哨戦として、大西洋の解放を行うことになる。きっと、前みたいに厳しい戦いになると思うし、怪我だってしちゃうかもしれない。でも高出力の超兵器が眠りから覚めつつある今、もう一刻の猶予はないと思う。だから私達はブルーマーメイドとしてこれを退ける」

 

 

 

「……艦長」

 

 

真白は、全員に語りかける明乃をじっと見つめた。

 

 

「皆も覚悟はしていると思う。私もそう…でも思うんだ。世界で亡くなった超兵器に立ち向かった人達は、世界が救われたら、きっと英雄として称えられると思う。彼等の大切な人達の涙を踏み台にして。世界と個人、比べるまでもない事だから必要な死だって皆が言う。確かにそうなのかもしれない。でも……ね、その涙を当然であるかのような未来は間違ってる!たとえ世界の誰もが肯定しても、私だけは絶対に異を唱え続けたい!だから皆で明日を迎えようよ!【生きて】迎えようよ!」

 

 

 

 

艦内の誰もが、そんな明乃の強さや優しさを認めていた。そして自分達に死んで欲しくないと思っている彼女を決して失わせたくないとも。

 

そんな彼女達の深い絆に、最早不要な言葉は必要ない。

 

 

 

 

『主計班、弾薬の積み込み用意よし!派手にやっちゃって!』

 

『終わったらご馳走つくって皆でパーティーだね!』

 

『艦長、此方砲雷班。全ての兵器の用意よし!』

 

『全方位バッチリカバーするからね!』

 

『ズキューン!と撃っちゃうよ!』

 

 

『航海班、通信機器並びに各種索敵装置に異常無し!』

 

 

『万里小路の名に懸けて明日を掴んで見せますわ!』

 

 

『当該海域の潮流や地形は、異世界艦隊に通達済み。何時でも出撃オッケーぞな!』

 

 

『機関班、異常無しでぃ!じゃんじゃん暴れちまってくれて構わねぇよ!』

 

 

『メンタルモデルの皆さんに取り付けを手伝ってもらった新型推進装置のテストも完了しているわ。行きなさい艦長!』

 

 

『私だ。皆には心配をかけたな。もう大丈夫だ。医療の準備は整っているが、出来れば私の出番が無いことを切に祈る』

 

 

 

 

各所から、準備万端の一報が入る。

 

 

艦橋メンバーはそれに頷き、明乃へ顔を向けた。

 

 

 

 

「こ、怖いけど。今逃げたらもっと怖い事が起こるから」

 

 

「未来の為に撃って撃って撃っちゃうよ!」

 

 

「もう…目は慣れた。航空機はまかせて……」

 

 

「超兵器の情報は任せてください!」

 

 

そして最後に真白が明乃に近付いた。

 

 

「艦長。行きましょう!未来へ…一緒に!」

 

 

 

 

 

明乃は艦橋を見渡す。

 

誰もが自分を信じて笑顔を向けていた。

 

 

 

「皆――ありがとう!」

 

 

「まだ泣くのは早いですよ艦長。全ては――」

 

 

「うん。超兵器を止めてから……だね」

 

 

 

 

明乃は真白に笑顔で答えると表情を引き締め、艦長帽を目深に被り前を向く。

 

 

 

 

「つぐちゃん。シュルツ艦長にはれかぜの出航準備完了を伝えて!」

 

 

 

 

『了解!』

 

 

「総員。此よりはれかぜは、バミューダ諸島周辺に展開する超兵器と接敵。航空機やミサイルを警戒しつつ砲雷同時戦をてんかいして、異世界艦隊の援護に当たる!はれかぜ――出航!」

 

 

 

はれかぜを含めた、三つの世界の軍艦が動き出し、バミューダ諸島へと北上を始めた。

 

 

欧州解放賭けた、艦隊決戦が遂に幕を開ける。




お付き合い頂きありがとうございます。

良いところなのにリアル多忙と体調不良で思うように執筆が進まず、ご迷惑をお掛けしてました。

誠に恐縮ではございますが、9月前半迄は超繁忙期になりますので、投稿速度が低下しますことを始めにお断りさせていただきます。申し訳有りません。

次回からはいよいよ、大西洋解放編の超兵器戦に入ります。

次回まで今しばらくお待ちください。
それではまたいつか












とらふり!


真冬
「ガッハッハ!オラオラァ!そんなヤワな尻じゃ、世界なんて守りきれねぇぞぉ!オラァもう一丁だ!」


ヴェルナー
「い、イヤァ!先輩、助けてください!このままじゃ僕のお尻が軍人らしからぬモノになってしまいますよぉ~」


シュルツ
「………」


ヴェルナー
「そ、そんな……見捨てるなんて酷いです!わ、解りました!言ってやります!言ってやりますとも!先輩が過去にヤらかした歓楽街での伝説を――」


シュルツ
「真冬艦長……」


真冬
「おぅ!なんだ?」

ヴェルナー
(せ、先輩…やっぱり僕を助けてくれるんですね?)


シュルツ
「コイツの記憶が消し飛ぶ迄、思う存分やって下さい!ヴェルナーの尻は、貴女に預けます!」


ヴェルナー
(……へ?)

真冬
「ガッハッハ!そうこなくっちゃな!流石は話が早い!おぃ、覚悟しておけよ!今日は一日中、根性を注入してやるからな!」


ヴェルナー
「う、裏切り者ォォォォォ!あっ、真冬艦長――ちょ、ちょっと待っ……イヤアァァ!」


シュルツ
(自業自得だな……)


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深紅の翼    vs 超兵器

お待たせ致しました。

いよいよ超兵器戦スタートです。


それではどうぞ。


   + + +

 

 

明乃達異世界艦隊は、大西洋を北上し、バミューダ諸島へ接近していた。

 

 

「ナギ少尉。敵に動きはあるか?」

 

 

「いえ、まだレーダーには何も――あっ!」

 

 

「どうした!」

 

 

「超兵器ノイズを確認!お、大きい……何なのこの規模!」

 

 

 

 

ナギの表情がみるみる青ざめて行き、シュルツは眼前に目を凝らした。

 

 

すると前方に二隻の艦影が見えてくる。

 

 

 

片方は、アングルドデッキを備えた空母。

 

 

そしてもう片方は――

 

 

 

 

 

「ムスペルヘイム級かっ!?」

 

 

『我ハ、人類ノ希望ノ光ヲ絶タント参上セシ者ナリ。我ガ主ニ大イナル光アレ……』

 

 

 

「き、貴様はっ!」

 

 

 

 

シュルツは脳に直接響く声に頭を押さえながら、以前バルト海で対戦した超兵器の事を思い出していた。

 

 

 

その時シュルツに語りかけてきた超兵器の言葉を――

 

 

 

 

《我ハ、グロースシュトラールナリ。貴殿等ニ裁キノ光ヲ……》

 

 

 

「成る程……貴様か、グロースシュトラール!」

 

 

 

 

シュルツが敵の巨大航空戦艦を睨んだ時だった。

 

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

 

 

巨大航空戦艦の船体から複数の光が発生し、直後に、あらゆる色の光の線が異世界艦隊へと殺到した。

 

 

 

 

 

「総員。直ちに回避運動を取れ!敵は超巨大レーザー戦艦グロースシュトラールをベースにした超兵器だ!航空隊は発進急げ!尚、敵超兵器への接近は控え、敵航空機の撃墜に努めろ。間違って近付けば対空レーザーの餌食になるぞ!」

 

 

 

「艦長。なぜグロースシュトラールだと?まさかまた声が――」

 

 

「ええ、ですがそれだけではありません。攻撃に使われた光学兵器のバリエーションが余りも多い。十中八九奴です」

 

 

「だとすれば、航空機からの攻撃も込みとなりますから遠距離戦はかなり不利です。かといって近距離となれば、近接型光学兵器の餌食となる。ここは敵艦側面に回り込み、中距離からの砲雷撃戦に持ち込んだ方が無難かもしれません」

 

 

 

 

博士の提案にシュルツは頷く。

 

 

 

 

 

「よし!本艦は敵超巨大航空戦艦の側面に回り込み砲撃戦を開始する。総員、引き続き警戒と準備を怠るな!」

 

 

 

 

ペガサスは、機関の出力を上げ、敵へと接近していく。

 

   + + +

 

イ401ブリッジ

 

「艦長。ウィルキアが戦闘態勢に入った模様です!方角的に相手は航空戦艦型かと。尚、敵艦より多数の航空機の発艦を確認との連絡が入りました」

 

 

「ふむ、航空戦は潜水艦には不向きだな……俺達の世界での霧も、航空機の使用は無かったし、そう言う意味では雷撃戦に特化した俺達の目標は必然的に空母になる。航空機は発艦した江田さんとハルナに任せよう。それでは超巨大高速空母を標的に――」

 

 

「待ってください!」

 

 

静の悲鳴を上げ、、ブリッジに緊張が走る。

 

 

「音波探知に不自然な所があります。場所は…巨大空母アルウス直下と、巨大航空戦艦の直下付近です!」

 

 

 

「やはり他の超兵器がいたのか…。直ぐにシュルツ艦長と岬艦長に伝えてくれ!」

 

 

「わ、解りました。」

 

 

静が、はれかぜとペガサスに通信を送った直後。

 

 

キィーン! キィーン!

 

 

海中に耳障りな高音が響き渡る。

 

 

「敵潜水艦、アクティブソナーを展開!数は……よ、4!?4隻居ます!」

 

 

「何だと!?全て同型艦か!?」

 

 

「スクリューの音紋を照合中――い、いえ!違います!巨大空母アルウス直下の潜水艦はハワイで接敵したものと同型ですが、敵巨大航空戦艦直下の潜水艦は別です。センサーの反応では400mを超えている模様!」

 

 

 

「デカいな……急いでその情報も皆に送ってくれ!」

 

「りょ、了解!」

 

 

 

 

シュルツと明乃に詳細な情報を送る静の姿を見ながら、群像は不安を覚えていた。

 

 

(ハワイでの特殊弾頭魚雷の使用の事もある。何も仕掛けて来なければいいが……)

 

 

 

   + + +

 

 

『航空機、多数此方に向かう!』

 

「迎撃は対空パルスレーザーやミサイルを使って迎撃するんだ!ミサイルは弾切れに注意しろ!数が前の比じゃ無いぞ!」

 

 

 

 

マチコからの報告に素早く真白が指示を飛ばした。

 

 

 

一見慌ただしくも見える艦橋内だが、敵潜水艦の存在が明かになった事により、ピリピリした空気が立ち込める。

 

 

「巨大潜水艦だって!?ハワイを強襲したのもいるしやっぱアレかな――潜水…空母ってやつなのかな……」

 

 

「あり…うる!」

 

 

 

 

芽衣と志摩が不安そうな表情を見せるなか、明乃は冷静に状況を読んでいた。

 

 

 

 

 

「違うと思う……」

 

 

「艦長?」

 

 

「敵の大型潜水艦は、少なくとも潜水空母じゃないと思う。だって私達は航空戦力に乏しい訳だし、だったら初めから浮上して航空機を発艦させればいいんじゃないかな……それをしてこないって事はつまり――」

 

 

「敵の正体は¨ハワイの超兵器とは別¨で、雷撃に特化した超巨大高速潜水艦【アームドウィング】か、砲雷どちらとも攻撃可能な超巨大高速潜水戦艦【ノーチラス】のいずれか……でしょうか?」

 

 

「ノーチラスだと思います!これを見てください!」

 

 

「納沙さん?」

 

 

 

幸子がタブレット端末を差し出す。

 

 

そこには二隻の超兵器潜水艦の画像とスペックが掲載されていた。

 

 

 

 

 

 

「静さんからの通信内容は、敵潜水艦の¨全長は400m¨と言ってました。エイかマンタの様に¨全幅¨が広い形状のアームドウィングとは特徴が異なります。消去法で考えるなら間違いなくノーチラスです」

 

 

「特徴は?」

 

 

「はい。水中で50ktと言うとんでもない速度と機動力を有し、凄まじい数の雷撃と浮上時に50.8cm砲や光学兵器、更にはミサイル等の砲撃戦を仕掛けてくるそうです。単艦での能力ならニブルヘイムの戦艦部並か、それ以上の戦闘能力がある可能性がありますね」

 

 

 

「速力50ktだと!?推進装置はいったいなんなんだ?」

 

 

 

「この突起の少ない艦の形状だと、ポンプジェット推進とスクリューとの併用した機構がそれを実現させているのだと思います。低速時は艦側面に格納されているスクリューを展開し、高速航行の際はスクリューを格納してポンプジェットでの航行に切り替える。私達ブルーマーメイドの艦もこれと似たような機構を使用している艦が多いですからね」

 

 

「現場への迅速な急行と、慎重な救助作業の併用を実現させるための機構ではあるが、敵に回ると厄介だな……弱点は何かあるか?」

 

 

「多分……ですが、持ち味の機動力が失われれば、かえってその巨体が仇となって攻撃を当てやすくなるかと思われます。浮上しての砲撃戦に持ち込まれた場合でも、エネルギー効率が極めて悪いポンプジェット推進なら、超兵器機関を使用していたとしてもあの巨体を動かすには莫大なエネルギーの損失してしまうのではないでしょうか。故に、防御重力場の発動がない水中に居るうちに相手を倒す案と、相手を追い込んで低速航行に持ち込みんで推進装置をスクリューに切り替えたらまずそれを破壊。浮上し砲撃戦に持ち込んでも、防御重力場が無ければ敵の装甲は薄い筈なので此方にも勝機が生まれるかと」

 

 

 

「そうだね。その案が一番いい気がする。じゃあ皆、準備に入っ――」

 

 

『はれかぜ応答せよ!』

 

 

「シュルツ艦長?どうされましたか?」

 

 

『敵が感応機雷敷設魚雷発射。周囲の状況に注意してください!』

 

 

「機雷だと!?艦長、これでは相手に近づくことすら出来ません!」

 

 

「メイちゃん!杉本さんが持ってきてくれた魚雷って積んであるかな?」

 

 

「あぁ……小型の機雷掃討魚雷の事?」

 

 

「うん。感応機雷の掃海用に開発された魚雷だけど、魚雷迎撃にも対応してるし、これを使えば接近できるかも。遠距離からは長距離対潜アスロックを使用、接近したら噴進爆雷砲を発射して敵を追い込もう!」

 

 

「ヤッター!撃って撃って撃ちまくるぞー!」

 

 

「私は…どうすればいい?」

 

 

「志摩ちゃん達は航空迎撃を継続。敵艦が浮上してきたら砲撃戦になるかもしれないから準備を怠らないで!」

 

 

「うぃ!」

 

 

「リンちゃんそれじゃ近付こう!魚雷だけじゃなくてニブルヘイムからの攻撃にも注意して!」

 

 

「うぅ……よ、ようそろ――!」

 

 

「皆行こう!総員、対潜水艦シフト用意!」

 

 

 

 

 

はれかぜは、敵の航空部隊を牽制しながら機雷原へと突入していく。

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長!はれかぜが機雷原に侵入。ノーチラスに向かっていきます!」

 

 

「な、何だと!?あれは一隻で国家レベルの艦隊を相手に出来る化け物なんだぞ!とてもフリーゲート艦一隻で相手を出来る相手じゃない!直ぐに引き返えさせるんだ!」

 

 

 

「は、はい!あっ、ノーチラス。ニブルヘイムから離れていきます!敵速ろっ、65kt!?速い!」

 

 

 

「馬鹿な…潜水艦の速度じゃないぞ!?それに距離を取ってくるとは…まさか…岬艦長!罠だ!誘い込まれています!」

 

 

シュルツの視線の先。超兵器ニブルヘイムのレーザー砲門が、はれかぜへと向けられる。

 

 

「ま、まずい!ナギ少尉!砲塔型レールガン及び、超怪力線照射装置用意!通らなくても構わない、ありったけ奴に向かって撃て!」

 

 

 

ペガサスは、艦前方に備え付けられた二門一基の砲塔型レールガンと、巨大な甲板の両脇に設置された、高出力光学兵器である超怪力線照射装置の照準をレーザーを発射しようとしているニブルヘイムの空母部へ向け一斉に発射した。

 

 

キュオン!キュオン!

 

グゥ…ビュィィン!

 

 

青白い砲弾と、紫色の光が敵の空母部へ殺到した。防壁が次々と砲弾の軌道を逸らしていく。しかし、強力な兵器が防壁に接触したさいに引き起こす衝撃波と海水の蒸発によって立ち上った湯気が、攻撃の発動を少し遅らせた。

その間、敵の意図に気付いたはれかぜは、急激な進路の変更を行う。

 

次の瞬間だった。

 

 

ビギィィィィィン!

 

 

凄まじい速さの光の線が、先程まではれかぜの居た場所を通過する。

その凄まじい熱量に、着弾地点の海水が物凄い蒸気を上げた。

 

 

 

「あ、あれは、エレクトロンレーザーか?。ペーターシュトラッサー級空母の最上級光学兵器。危なかった…直撃すれば、喩え最高ランクの電磁防壁があっても被弾は免れない。」

 

 

ムスペルヘイムの付属品の様なイメージがある、超巨大二段空母ペーターシュトラッサー級ではあるが、単艦においての実力は侮ることが出来ない。

二段空母の為、航空機の離着艦効率が優れ、塔裁量も莫大だ。それだけでもこの世界では驚異なのだが、この艦に於ける真骨頂は別のところにある。

 

それは、空母とは思えない攻撃力と耐久力だ。

先程放たれたエレクトロンレーザーを始め、荷電粒子砲や対空パルスレーザー等の電磁防壁を装備していない艦なら簡単に貫通してしまう光学兵器。あらゆる状況を想定した各種ミサイル発射装置を備えている。

更に、ペーターシュトラッサー級空母の防御は対51cm砲防御であり、戦艦の大口径主砲であっても抜くのは難しい。

本来単艦であるなら、さらに53ktの速力も追加される訳だが、連結している現在ではその機動力は無いに等しい。

しかしながら、それを差し引いてもはれかぜがまともに勝負を挑める相手ではなかった。

 

 

 

『シュルツ艦長!すみません…助かりました。』

 

 

「いえ…それよりも早く、ノーチラスから距離を取ってください!単艦での接敵は無謀だ!」

 

 

シュルツからの警告に、明乃からは意外な言葉が返ってきた。

 

 

『行かせてください!』

 

 

「岬艦長!」

 

 

『解ってます。確かに無謀かもしれない。でも、ノーチラスとニブルヘイムを同時に相手をするのは現状不可能です。三つの世界の力を合わせるしかない!千早艦長がレムレース達を駆逐し、駆けつけるまでは、ノーチラスをニブルヘイムから遠ざけて置く必要が有るんです!』

 

 

「ですが…。」

 

 

『私達は撃沈を狙っている訳じゃありません。先程からのノーチラスの雷撃とミサイルの数は、記載されていたデータよりも多いし、今も途切れる事なく発射し続けています。ですが不思議なことに、ノーチラスは私達と必ず一定の距離を保って逃げ続けているんです。これは、私達を罠にはめる以外にも理由がある。つまり攻撃を強化した反面、耐久力はあまり強化されなかった。いや、¨出来なかった¨んだとおもいます。』

 

 

「潜水艦故に、耐久の為の重量を過剰に重く出来なかったのか?いや…それを逆手に取り、耐久力を低下させる事で、潜水艦としては尋常ではない機動力とミサイル攻撃力と雷撃能力を手に入れた。」

 

 

『そう考えるのは自然だと思います。だからそれを¨利用¨します。』

 

 

「はれかぜから一定の距離を取るノーチラスの特性を使って、超兵器を孤立させるんですね?」

 

 

『そうです。隙あらば損傷を与えますが、基本は回避と迎撃に専念します。行かせて頂けますか?』

 

 

シュルツは暫し考え、結論を出した。

 

 

「解りました。しかし、ハワイで使用された特殊弾頭魚雷の件も有ります。警戒は怠らないでください!」

 

 

『解りました。留意します。そちらも御武運を…。』

 

 

明乃のとの通信を終えたシュルツは、再び外に視線向ける。

 

超巨大航空戦艦ニブルヘイムは、未だに航空機を吐き出しながら、此方にミサイルや光学兵器を発射してくる。

 

 

(此方もこのまま逃げていては、いずれ手詰まりになる。少しでも航空機の迎撃と敵の防壁を飽和させなくては…。せめて蒼き鋼が合流するまで持てばいいがな。)

 

 

ペガサスは、航空機を牽制しつつ、強力な防壁に包まれたニブルヘイムへと再び攻撃を開始した。

 

 

 

   + + +

 

 

戦闘海域上空

 

 

この世界にたどり着いて以来、最大となる空中戦が繰り広げられていた。

 

 

ズボォォォォォ!

 

 

敵の航空機が炎をあげなから海へと墜ちていく。

 

 

「これで31機…。まだまだぁ!」

 

 

江田は、セイランにて航空機の相手をしている。

正直に言えば、敵がどの様な機体で挑んできたとしても、霧の技術によって構成されたセイランには到底及ばない。

だが、今現在の戦況は圧倒的に此方が圧されていた。

理由は簡単だ、

 

「くそっ!キリがない!一体何機出てくるんだ…。」

 

 

彼が弱音を吐くのも無理はない

数が圧倒的に違うのだ。

此方の数は精々数十機、そして敵の数は、ゆうに数百機以上。

通常ならばとうにケリはついているだろう。

そうなっていないのは、江田とハルナが、味方機を狙ってくる敵の航空機を、優先的に撃墜しているからに他ならない。

 

 

『済まないな…。これじゃ俺達が足手まといみたいだぜ…。』

 

 

モーリスだった。

ドッグファイトを得意しているモーリスの部隊ではあるが、この状況で編隊を解き、各個撃破を狙えば間違いなく囲まれて狩られてしまう。

 

故に、モーリスは部隊を二つに分け、それぞれに江田とハルナをそれぞれ護衛に付けて攻撃機を中心とした部隊を重点的に撃墜している。

 

 

 

「いえ…。それにしても数が多い。各国の航空支援がどれ程有り難かったのかが身に染みます。」

 

 

シュルツ達の世界に於いて、超兵器戦の際には大概各国の空母や空軍基地からの航空支援があり、そのお陰で解放軍は、超兵器本体への艦隊戦や、航空攻撃に集中出来ていた。

 

しかし、この世界にはそれが無い。

必然的にウィルキアの航空機は、超兵器ではなく敵の航空機の排除を少数で行わざるを得なくなり、シュルツ達も強化を経た超兵器と航空機を同時に相手をすることを強いられたのだ。

そしてまた新たな攻撃機が、はれかぜやペガサスに迫る。401のいるであろう海域にも、多数の航空爆雷や対潜ミサイルが撃ち込まれていた。

 

 

「くっ!早く迎撃しないと!」

 

 

『馬鹿野郎!焦るな!狙い撃ちにされるぞ!今お前が離れれば、俺達だって殺られ兼ねないんだぞ!』

 

 

「すみません…つい。」

 

 

『いや…前みたい飛び出さない辺り、まだ冷静だ。環境が変わって少しは成長したみたいだな。』

 

 

 

「それは…。」

 

 

大切な人が出来たからだとは口にしなかった。

だが、江田にとっての彼女の存在は、超兵器との危険な戦闘を経て行く度に大きくなっていったのは確かであり、その彼女を真に幸せへと導くためには、彼女だけでなく自分自身が¨生きて¨幸せにする事が第一であると学んだからに他ならない。

 

 

『江田…現在の撃墜数は136機だ。しかしまだ500機以上はいる。我々はともかく、航空部隊のミサイルは最早弾切れだ。一度部隊を着艦させ、弾薬と燃料の補給を行え。お前に離着艦時護衛を任せる。』

 

少し俯く江田に、突如通信が入った。

 

「ハルナさん!?」

 

 

ハルナだ。

彼女はたった一機で50機以上の航空機を撃墜している。

同じセイランに搭乗していても、人間とメンタルモデルとでは、操作が根本的に異なる。

 

当初の予定では、ナノマテリアルにてセイランを大量に生産し、運用する案も勿論あった。

 

しかし、その凄まじい性能ゆえに、搭乗している人体その物が到底耐えられない事が明らかになったのだ。

 

例外としては江田の存在が挙げられる。

彼が人間でありながらセイランを操作出来るのは、彼の第二の心臓ともいえるユニオンコアが、メンタルモデルの承認を受けた時のみに発生させる事が出来る、微小なクラインフィールドを展開させ、体に掛かる強烈な重力を抑制しているに他ならない。

 

 

 

ハルナの提案により、一度補給の為の着艦をモーリスに打診する江田であったが、内心は不安に満ちていた。

母艦へ着艦するには、自達もある程度ニブルヘイムの苛烈な攻撃に晒される危険がある、若しくは着艦するために母艦が超兵器から距離を取ってしまえば、ニブルヘイムはノーチラスと合流を果たし、はれかぜが喰われてしまう。かといってこのまま空中に留まっていてもじり貧だ。

 

良くないことばかりが、脳裏を過る。

そもそも、ハルナ何故このタイミングでの着艦を促したのか、江田には全く理解できなかった。

彼のそんな気持ちを察してか、ハルナは口を開く。

 

 

『…安心しろ。もう着く。』

 

 

「え?」

 

 

江田が疑問に思ったその時だった。

 

 

ボォォオォオオン!

 

 

周りを取り囲んでいた敵の航空機が次々とと炎を挙げて海へと墜ちて行く。

 

見れば、日本帝国所属であった旧大戦時代の航空機が数種類空を駆けていった。

だが、その速度や機動性は明らかに普通ではない。

音速を遥かに超える速度と、驚異的な旋回性。

それはとても人類の技術では実現不可能なものだ。いや、仮に実現出来たとしても、まともに乗りこなせる者がいるとは思えない。

 

呆気にとられる江田の通信機に、戦場には似つかわしくない軽薄な声が響いた。

 

 

『おっ待たせ~☆随分と時間を取っちゃったけど、何とか間に合ったわね。』

 

 

「その声は…ヒュウガさん!?」

 

 

『あら、随分な反応ね。そんなに私が戦場にいるのがおかしいかしら?これでも元艦隊旗艦なのよ?』

 

 

大戦艦ヒュウガだった。

旋回した、江田の視線の向こうに、一隻の艦が浮かんでいる。

 

 

大日本帝国海軍所属であり、大戦末期の空母の不足により戦艦の後部にあった主砲を撤去して航空甲板を設置した、異様とも思えるシルエット。

伊勢型航空戦艦二番艦『日向』を模して産み出された、霧の大戦艦ヒュウガだ。

その甲板上に立つ白衣姿のヒュウガは、此方に向かって場違いに笑顔で手を振っている。

 

 

『ふふっ。久し振りに船体を構築したわ。勘が鈍って居ないといいのだけれど…。』

 

 

「す、凄い。この航空機達を全てコントロールしているなんて…。」

 

 

『そんなことよりあなたは、部隊を護衛して補給の支援をなさい。ここは、私とハルナで何とかするわ。』

 

 

 

「わ、解りました。」

 

 

江田は、航空部隊を先導しペガサスへと向かっていく。

 

 

 

それを確認したヒュウガは、先程迄の軽薄な笑顔を消し去る。

普段の彼女を知る人物がその表情を見たら、別人ではないかと疑ってしまう程の美しく、そして冷徹な兵器の表情。

 

彼女の船体の回りにオレンジ色の紋様が浮かび上がり、ヒュウガの回りには、メンタルモデルが戦闘態勢に展開されるリングがクルクルと回っている。

 

 

〔随分とご機嫌斜めな様だなヒュウガ…。私もかつてはお前と行動を共にしていたが、こんなお前を観測したのは初めてだ。千早群像に命令されたからか?それとも401の危機だからか?〕

 

 

〔命令じゃなくて¨お願い¨よ…。〕

 

 

〔何?〕

 

 

〔艦長が命令を出すのは¨姉さまだけ¨あとは別に守る必要の無いお願いよ。…まぁ、だから私と言う存在をイチ知的生命体として見てくれていることは、メンタルモデルをもった私にとって有り難いことだし、そんな彼の考え方に一定の評価をしているの。でもねハルナ、私は兵器なのよ。兵器である私のコア囁くの。『¨命令¨が欲しい』ってね。〕

 

 

 

〔………。〕

 

 

〔でも私は嫌だった。機械の様にただ何も考えず、命令に従う日々に戻るのが怖なってしまったのかもしれないわ。メンタルモデルを持って、少し我が儘になってしまったのかしらね…。艦長から一つの人格としてお願いされ、兵器として命令も貰える姉さまが羨ましく思えるときがあるわ。〕

 

 

〔ヒュウガ…それは¨嫉妬¨だ。〕

 

 

〔…え?〕

 

 

〔《他人が自分より恵まれていたり、優れている事に対して、羨む事》…私のタグに記録されデータにはそうある。お前は霧の艦艇から出奔し、新たなる存在に昇華した401、同時にそれと確固たる関係を構築している千早群像、その双方を羨んでいるのではないか?〕

 

 

ヒュウガは驚きと動揺が入り雑じった表情を浮かべ――

 

 

〔はっ……ははっ!あははっ!この私が感情を実装するなんて……なんか笑っちゃうわ。うん!そうね。そうかもしれないわ、でも私はそれでもメンタルモデルを構築することを選んだ。もう前のようには戻れない。船体を構築するのにはまだ抵抗が有るけど、私はこの世界にいる間だけは出来るだけの協力はしようと思うの。そしてもっと見てみたいのよ。3つの世界の人間の営みと、姉さまや艦長が何を得て行くのかを……〕

 

 

 

〔……そうか。互いに厄介な感情を実装したものだ〕

 

 

〔でも、嫌いじゃ無いんでしょ?〕

 

 

 

 

ハルナは彼女の問いかけに少しだけ口元を緩めた。

 

 

 

メンタルモデルの通信での会話は、非常に高速で行われる。

 

 

この千分の一秒にも満たない時間に彼女達かした会話はとても濃密で、彼女達の心が着実に成長している証しでもあった。

 

 

 

先程ウィルキアの航空部隊を下がらせた事もそれだ。

 

 

もしヒュウガ程の演算能力があれば、自らの攻撃で味方機を撃ち落としたりはしないだろうと以前の彼女ならそう結論付けていた。

 

 

しかし今の彼女は違う。

 

 

 

味方機の動向に演算を割きたくないと言う合理的な面だけでなく、万が一誤射した場合も考慮している。

 

 

更にハルナもヒュウガの意図を事前に察し、江田を護衛につけて航空部隊を後退させたのだ。

 

これは最早¨配慮¨と言うべきものなのだろうが、彼女達がそれを理解して実感にまで至っているかどうかは不確かだ。

しかしながら、彼女達の目の前には立ちはだかる明確な敵が存在する。

 

 

故に――

 

 

 

 

「さて……と。それじゃとっとと蹴散らしちゃいましょうか」

 

 

 

ヒュウガが前に手を翳すと、周りを回っているリングが輝き、彼女が制御している航空機達の動きが一層慌ただしくなる。

それと同時に、ヒュウガの甲板上の至る所でミサイル発射官のハッチが開いて主砲や対空レーザーが上空に照準を合わせた。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

 

ヒュウガからの凄まじい対空攻撃が開始され、まるで雨でも振っているかのように、瓦礫と化した敵航空機が次々と撃墜されて

ボチャボチャと海面に落下する。

 

 

 

 

 

「す、凄い!自身の航空機を操作しながら同時に、しかもあれほど正確に敵を撃墜出来るとは……あれが霧の艦隊旗艦の実力だというのか!」

 

 

 

 

 

シュルツは、ヒュウガの実力に呆気にとられていた。

 

 

 

 

 

「艦長!味方機が着艦を始めました!」

 

 

「あ、ああそうだな。ニブルヘイムの光学兵器に注意を払え!距離は着かず離れずを維持。はれかぜと相対するノーチラスに合流させる切っ掛けを作るな!」

 

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

ナギは即座に指示を方々に伝える。

 

 

 

そこに、険しい表情の博士が近付いてきた。

 

 

「艦長、アルウスの航空機についてなのですが……」

 

 

「なにか?」

 

 

「気のせいならば良いのです。ですが一応伝えておこうかと」

 

 

「違和感があるのですね?」

 

 

「はい。正確にはアルウスの航空機の搭載量の事なのですが、大戦艦ハルナがリアルタイムで送信している戦況データを此方にも送って貰っておりました。データによれば、ニブルヘイムに接続されているペーターシュトラッサーが発艦させた航空機の数は700機を超えています」

 

 

「700!?多いな……兵装やスペックはそのままに、部の格納庫を大幅に拡張し、航空機の搭載量を増やしたんですね?この世界では極めて合理的だが……」

 

 

 

「そうです。それ故にアルウスがおかしいのです」

 

 

「おかしいとは?」

 

 

「搭載数が減っている可能性が有ります。まだ未発艦の可能性は否定できませんが、元々250機程の航空機を搭載出来る艦です。それなのに未だ100機程度しか発艦されていません。船体は我々の世界に居たアルウスの450mから500m程に大きくなっているのにも関わらずです。ニブルヘイムを旗艦としているなら、その従属艦であるアルウスが航空機を出し惜しむのは不自然ではないかと」

 

 

「確かに……まっ、まさか!」

 

 

 

シュルツの顔から血の気が引いていく。

その時だった。

 

 

 

 

「か、艦長っ!」

 

 

「どうした!」

 

 

 

 

彼は、今にも泣き出しそうな表情で悲鳴を揚げるナギに思わず振り向く。

 

 

 

 

 

 

 

 

「超兵器アルウスのノイズ極大化!な、何かが、何かが起きようとしています!」

 

 

 

 

(やはりかっ!近江の件を鑑みればその可能性は十分にあったと言うのに!有るとすればニブルヘイムの空母の方かと思ったが……まさか此方だったとは)

 

 

 

 

シュルツは心の中で悔しさを滲ませる。

 

 

 

 

今からニブルヘイムと距離を取りアルウスへと向かうかの葛藤もあった。

 

 

 

しかし、今ニブルヘイムを放置すれば、はれかぜが二対一で超兵器と戦うことを許してしまう上、何より今から駆け付けてアルウスをどうこうできる保証もない。

 

 

 

くしくも、航空機の着艦作業中であるペガサスは、迂闊に舵を切ることすらままならない状況だ。

 

 

そうこうするうちに、アルウスの様子に変化が現れる。

 

 

 

 

「な、何だあれは!?」

 

 

 

 

アルウスの船体側面から可変翼のように新たな飛行甲板が展開され、甲板中央にある巨大なエレベータが展開され中から巨大な¨赤い何かが¨姿を現す。

 

 

 

 

 

 

 

「やはり居たのか、アルケオ――なに!?」

 

 

 

 

シュルツが発言しようとしたのは、超兵器爆撃機であるアルケオプテリクスの事だろう。

 

 

 

全長150mという常識を覆す巨体を持ち合わせており、双胴の機体に逆ガルウィングの姿。

 

 

更に航空機にも関わらず、クラスの砲と装甲を持ち合わせており、爆弾やロケット、更には魚雷やミサイルなどの兵器を大量に搭載し、辺りを瞬く間に焦土に変えてしまう空の悪魔だ。

 

 

これだけでも十分に脅威なのだが、アルケオプテリクスはこれだけの質量を保持しつつも亜音速で飛行する素早さも持ち合わせていた。

 

シュルツの世界でも彼の機体は多数の都市を焦土に変え、この世界に於てはロンドンを爆撃した。

 

 

 

確かにその時まではこの姿¨だった¨のだ。

 

 

 

だが、一回り巨大化したアルウスから姿を現した深紅の機体は全く別の姿をとっていた。

 

 

 

 

 

「全翼機……だと!?」

 

 

 

 

 

アルウスから姿を現したアルケオプテリクスとおぼしき機体は、形状が逆ガルウィングではなく全翼機であった。

更に、機体が甲板最後尾迄すると甲板上に巨大なレールのような物が現れる。

 

 

 

 

「か、カタパルト射出か!」

 

 

 

 

 

深紅の機体はガチャン!と音を立てレールに乗り、そして後部の八つのエンジンに点火し、蒼い空に轟音を伴って深紅の機体が煌めきながら飛び立った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「嘘だと言ってくれ……」

 

 

 

 

超兵器を知り尽くしたシュルツだからこそ、自分達が如何に絶望的な状況に置かれているかを痛感せざるを得ないのだった。

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


この場をお借りしてということなのですが、

UA10000突破と、お気に入り50突破と言うことになり、30話の節目と言うことで、一言申し上げます。

実はとらふり!は、3つの世界のキャラが次々と超兵器と戦うストーリーで、個々人の性格の描写や政治又は世界背景等の細かい描写を描く予定が無いものでした。
所々の過程をすっ飛ばし、横須賀から小笠原、そしてハワイを経て今回のバミューダ迄を10話位の超ハイペースので書き、すべてのストーリーで3
0話完結の話だったんです。


ところが実際、お気に入りや感想を書き込んでくださる読者の方々を思ったとき、もっと中身を入れよう、きちんと練り込もうとした結果、まだ全ストーリーの半分にも満たない所に居ます。


これも全ては、読者の方々の存在あってこそです。

本当に感謝申し上げます!

これからも完結に向けてゆっくりでは有りますが進んで参りたいと思います。
何卒、宜しくお願い致します!

暫く、超兵器との連戦が続きますが、3つの世界の軍艦と超兵器の暴れっぷりをお楽しみください。


それではまたいつか










とらふり!




真白
「ステ…ルス?なんだ?それは…。」


もえか
「う~ん。タカオの話だと、レーダーに感知されにくい機構みたいな話を聞いたよ?」


真白
「つまりはレーダーに写らないと言うことか。いる筈のモノが写らない…。そこにいるのに見えない…つまり透明人間か!」


もえか
「本当にそうなのかなぁ…。」


真白
「そうに決まっている!考えてもみろ。もしこの機構が手に入れば艦長のプライベートを…。」

もえか
「!!!」


真白&もえか
(除き放題!)


真白
「こうしちゃおれん!至急ヒュウガさんに依頼をしなくては!」


もえか
「そうだね!善は急いだ方が良いに決まってるよ!」


真白
「いくぞ!」

もえか
「うん!」


二人は走り去っていく…。

タカオ
「あの二人、絶対にステルスの事を理解していないわね…。」


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怒り狂う獣共   vs 超兵器

大変長らくお待たせ致しました…。


超兵器戦に成ります。



それではどうぞ。


   + + +

 

 

イギリス南部の港 プリマス

 

オランダ艦隊と合流を果たした。ブルーマーメイドのドイツ艦隊は、イギリス艦隊と合流すべく、プリマスを訪れていた。

 

 

 

「この度の艦隊への合流、感謝します。」

 

 

「いえ…。状況はとても他人事では有りませんから。」

 

 

ブルーマーメイドイギリス艦隊司令官は挨拶を手短に済ませる。

 

「しかしながら、知っての通り我々の艦隊も対空ミサイルの搭載が完全には完了しておりません…。随伴出来る艦は僅かではありますが…。」

 

 

「いいえ。少しでも心強いです。イギリス艦隊の準備が整い次第、ヴィルヘルムスハーフェンへと向かいましょう。」

 

 

「はい。お互いに海を守る人魚の加護があらんことを…。」

 

 

イギリスの司令官が去ると、テアは険しい表情で港から海を見つめる。

 

 

(今この海のすぐ向こうではれかぜが戦っているのか…。彼女達が来ればいずれ我々も戦いに……。)

 

 

内心不安にに押し潰されそうになりながらも、テアは必死に表情と心を落ち着ける。

 

艦のトップが揺らいでは、全体の士気に関わるからだ。

だがやはり気持ちは中々落ち着いてはくれない。

理由はやはりミーナの事だろう。

守ると約束はしたものの、学生時代より苦楽を共にし、現在に於いても最大の理解者である彼女を失ってしまう恐怖は計り知れなかった。

 

しかし、黙って見ていても状況は好転はしない。

彼女達は否応なしに、戦いに赴かなければならなかった。

 

 

   + + +

 

意外なことに401は苦戦を強いられていた。

 

 

レムレースと401とでは基本性能が根本的に違う。

勝負は一方的になる筈であった。

だが…。

 

 

 

「敵艦、再び音響魚雷を使用。敵潜水艦ロストしました!」

 

「敵の魚雷、航空爆雷や対潜ミサイルも切れ目なく殺到していていますね…。」

 

 

「畜生!さっきからチクチクと痛ぶりやがって!」

 

 

静が焦りを隠しきれない様子で叫ぶ。

杏平も苛立ちを露にし、僧も動揺している。

 

 

三隻のレムレースは、それぞれ役割を持っているかのように行動していた。

まず一隻が、ピンを放つ、それよりもほんの少し遅れてもう一隻が音響魚雷を発射、401の位置を特定したら、三隻目と航空機が一斉に対潜攻撃を開始、401は音響魚雷と殺到する対潜弾による爆音で敵を見失う。

その間に三隻は別の方向に移動。

これが先程から延々と続いているのだ。

 

 

「相手も俺達の情報を蓄積していると言うわけか…。」

 

 

「蓄積…とはどういう事ですか?」

 

 

「ああ、此方のクラインフィールドが簡単に抜けないと解っているのだろうな…。故に囲い混んで確実にダメージを蓄積させている…イオナ!クラインフィールドの飽和状況はどうなっている?」

 

 

「ん…現在の蓄積率は約43%…例の超巨大爆撃機が現れてからの飽和率が更に上昇した。多分航空機と一緒に、此方に大量のミサイルを撃ち込んで来てるんだと思う…。位置が特定されているなら長期戦は不利…。」

 

 

 

「だろうな…。」

 

群像は手を顎に当てながら、突破口を探り出そうとしていた。

次の瞬間、

 

キィーン!

 

 

再び攻撃の合図とも言えるピンが鳴り響く。

 

 

「オイオイまたかよ…。何でもいいから、この流れを止めらんねぇのか?」

 

 

「…………。」

 

 

群像は試案を続けている。

クルー全体にも、なにやら停滞感の様な嫌な空気が立ち込める。

すると群像は突如イオナに顔を向けた。

 

 

「イオナ!サイドキック取り舵一杯!敵の音響魚雷炸裂と同時に展開。方向は今ピンが聞こえた方向と逆方向だ!その後機関一杯で前進しろ!」

 

 

「サイドキック、取り舵一杯。その後機関一杯で前進…進路方向…選定完了。」

 

 

「おい!逃げていいのかよ!」

 

 

「これでいい!イオナ、来るぞ!」

 

 

「…ん。」

 

 

群像は杏平の抗議を一蹴し、敵に背を向ける決断を下した。

 

(流れを絶つには、何か別のアクションを起こすしかない。さぁどう出る!)

 

 

ピギィィィン!

 

 

海中に不快な音が撒き散らされる。同時に401は転進し、レムレースから距離を取った。

 

 

後方で航空機による猛烈な対潜攻撃が開始され、壮絶な轟音と爆圧が海中を掻き回した。

 

しかし、転進した401にダメージはない。敵が轟音を利用して姿を眩ませたように、この期を利用して敵をまいたのだ。

 

 

 

そのつもりだった…。

 

 

「高速推進音感知!数6、前方の三方向から来ます!」

 

 

「何!?イオナ!前方にクラインフィールド展開!」

 

 

「…了解。」

 

 

直後、

 

 

ズドォォ! ズドッ! ズドォォン!

 

 

立て続けに魚雷がクラインフィールドに衝突。轟音が辺りに鳴り響く。

 

 

「あぐっ!よ、読まれていた?…いや、それにしても回り込んでいたにしては速すぎる。…もしや!」

 

 

 

「艦長!海面に着水音多数、ミサイル来ます!」

 

 

「イオナ!音響魚雷発射、起爆と同時に急速潜航!敵は¨三隻なんかじゃない!¨一度姿を隠して仕切り直すぞ!」

 

 

「音響魚雷スタンバイ。発射…いつでもガッテン。」

 

 

「射て!」

 

 

バシュゥ!……ピキィィン!

 

 

401は、音響魚雷と上空からの対潜攻撃が炸裂する音を利用して深々度へと潜って行った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

その頃海上は、海中を更に上回る苛烈な地獄と化していた。

 

 

「う、うわぁ!か、各種弾頭本艦に殺到!凄まじい数です!あ、ああぁ…敵航空型超兵器、此方に進路を向けました!」

 

 

「防御重力場を最大展開しろ!」

 

 

「ダメです持ちません!先程のニブルヘイムからのレーザー攻撃を防御するため電磁防壁へ大部分のエネルギーを使っています。最大展開にはエネルギーをチャージしないと…。」

 

ナギは、恐怖で震えるながら必死に声を絞り出していた。

 

 

 

「くそっ!せめて本艦上部だけでも…。防御重力場と簡易クラインフィールドを本艦直上に展開!迎撃は奴が通過する直前に行う。総員、対爆防御!来るぞ!」

 

 

ゴォォォォオオオ!

 

 

敵機が発する猛烈なジェットエンジンの轟音と巨体が迫る。

敵は同時にガチャリと音を立てて機体下部の爆弾投下ハッチを二箇所解放。速度と高度を少し下げて爆撃体勢に入った。

 

 

「外に居るものは至急中へ避難するんだ!巻き込まれるぞ!」

 

 

シュルツがそう叫んだ。次の瞬間、

 

 

バボォバボォォオオ!

 

 

超兵器からまるで滝のように爆弾が投下される。

凄まじい数の爆弾は、直ぐ様起爆し、ペガサスを熱波と爆圧が包み込んだ。

 

 

「あ、ぐぐっぁぁ!」

 

 

「きゃぁぁぁ!」

 

 

艦内に悲鳴が響き渡る。

防御重力場と簡易クラインフィールドで船体が圧壊することはなかった。

しかし、直上以外の防御を薄めた結果として、回り込んできた衝撃波、そして、直前に放たれた超兵器の¨航空魚雷¨による攻撃の余波は完全に軽減することは出来なかったのだ。

警告のアラームが艦橋にこだます。

 

「うっ…くっ!被害…状況、報せ!」

 

 

 

「くぁあ…は、はい!一部で魚雷による浸水が発生。えっ!?か、艦長!本艦周囲の酸素濃度が低下しています。今、外に出たら…。」

 

 

「どういう事だ?」

 

 

「恐らく、投下された爆弾の中に、サーモバリック爆弾が含まれていたのかもしれません。超兵器がロンドンを爆撃した際の遺体状況を、ブルーマーメイドから提供していただいて推測した結果ですが。」

 

 

 

「サーモバリック爆弾ですって?あれは、凄まじい勢いで酸素を喰らいながら衝撃波と熱波を長期間周囲に撒き散らす兵器だった筈。」

 

 

「ええ…更に付け加えれば、この爆弾は肺に対して深刻なダメージを与えるのです。体内に熱波が入り込む事による肺の機能停止、並びに周囲の酸素分圧を低下させることで、肺の酸素摂取量の低下と、それと並行して酸素分圧の低い大気を吸引することにより赤血球の酸素の排出と二酸化炭素の取り込みが引き起こされる。あの環境下に於いて人類が生存出来る可能性は皆無に近い。それにその広がる速さも凄まじい。起爆から一秒にも満たない間に、半径数百メートルに衝撃波を拡散させますからね。簡易クラインフィールドと防御重力場を展開していた事が、屋外の酸素の消失を防ぐ結果とはなりましたが…。」

 

 

「代償は大きいですね…。防壁はほぼ飽和状態。この爆煙が晴れれば、ニブルヘイムからのレーザーがくる。そうなればおしまいです。せめて電磁防壁だけでも作動させることが出来れば…。」

 

 

『出来るわよ!』

 

 

「だ、大戦艦ヒュウガ!?」

 

 

『クラインフィールドはダメージを蓄積することだけが取り柄ではないわ。飽和状態を回復させる方法として蓄積エネルギーの放出と言う方法が有るわよね?エネルギーである以上、それが熱エネルギーだろうが何だろうが、別のエネルギーに置換するすることが可能なの。ここまで言えば解るわね?』

 

 

「そうか!クラインフィールドのダメージを防御重力場や電磁防壁を作動させるエネルギーに変えれば…。」

 

 

 

『そう言うこと!理解が早くて助かるわ。でもそれには今の人類テクノロジーでは不可能なの、どうしても私達霧の力が必要になるわ。てなわけで、私がそれを引き受けるから、あなた達は攻撃に集中して頂戴。』

 

 

「しかしそれではあなたが…。」

 

 

『あら、心配してくれているのかしら?でもそれは不要よ。格上の者に対する情はむしろ人間の世界では不敬を買うのではないかしら。』

 

 

「………。」

 

 

『あら、ご免なさい。そう言う意味で言ったわけでは無いわ。ただ今は、互いの役割を果たしましょうと言うだけの話よ。海域強襲制圧艦程ではないにしろ、私の演算能力は通常の大戦艦のソレよりは上よ。だから心配はご・無・用♪』

 

 

 

「…ご支援、感謝します。」

 

 

『うん、それでいいわ。…ニブルヘイムにエネルギー反応を検知。攻撃が来るわよ!さぁ行きなさい!はれかぜの様子もモニタリングしているから安心しなさい!』

 

 

「了解しました。…総員、敵の攻撃を防いだ後に再びニブルヘイムに対し砲撃戦を行う。尚、航空機型超兵器は改アルケオプテリクスと呼称することす。手の空いた者は浸水箇所の修繕急げ!各員準備を怠るな!」

 

 

爆煙が薄れたとき、ニブルヘイムからの猛烈なレーザー攻撃が再開された。ペガサスは、再び砲撃を開始し、二隻は壮絶な撃ち合いを開始する。

 

 

 

一方のはれかぜも、改アルケオプテリクスからの攻撃に悩まされていた。

更にノーチラスや航空機からの切れ目の無い攻撃は続き、この海域にいるどの艦船よりも多くの攻撃に曝されていのだ。

 

通常艦船ならば、数分もかからずに全滅してしまうような苛烈な攻撃にはれかぜが耐えている理由は、明乃による少し先の攻撃を事前に察知する能力と小笠原、ハワイでの戦闘を経験したはれかぜクルーの働きが大きい。

 

更に、通常某かの組織に属する艦艇のクルーであるなら、指揮官の指示無しでは基本的に行動はしない。

しかし、明乃がクルーを渾名で呼んでいるように、はれかぜメンバーは縦ではなく横の繋がりが強い。

各々が、状況に応じて明乃の考えることを先に実践している。

 

確認を込めて指示を出す場合が主ではあるが、真の意味で彼女達艦橋メンバーが指示を出す時は、現場の想像を超えた事態が起こった場合や、現場の行動に若干の補正をかける場合に限っていた。

 

 

超兵器との戦いを経て成長を遂げた彼女達ではあるが、取り分け陰の立役者は意外にも、

 

 

「ひぃ~!怖いよぉ…逃げたいよぉ…。」

 

 

目に涙を溜めて悲鳴をあげる鈴であった。

筑波も絶賛していた彼女の操舵能力は群を抜いている。

 

クルーから寄せられる、上空 海上 海中の三つの情報を三次元的に把握し、最適な回避の道筋を瞬時に導きだして艦を操作していた。

 

 

しかし…。

 

 

「無理だよぉ…。逃げ切れないよぉ…。」

 

 

 

「いかん…。敵の手数が多すぎる!このままでは…。」

 

 

鈴の悲鳴につられるように、真白の口からも弱音が溢れる。

それほどまでに敵の攻撃は激しさを増していた。

 

改アルケオプテリクスや航空機からの攻撃は勿論。何よりノーチラスの攻撃が凄まじい。

 

 

機雷を使っての足止め、そこからの誘導魚雷やミサイル攻撃、機雷を掃討して追おうとすれば、避けるのが極めて困難な超音速魚雷を放つ。そして迎撃や回避運動の隙に再び機雷を敷設し、再び攻撃を仕掛けながら高速で逃走。

 

居所が解れば圧倒的に有利な筈な水上艦がまるで遊ばれているように泳がされる。

 

潜水艦とは思えない速度と、武装及びその使用にあたる戦術のレパートリーの多さ。

ノーチラスがかつて各国の主力艦隊を相手に無敵を誇っていた理由は正にこれなのだ。

 

 

はれかぜもその例に洩れず苦戦を強いらることになった。

 

更に、航空機型超兵器の出現ではれかぜの状況は尚もに悪化する。

 

防御重力場はその性質上、海中に全力展開させると、浮力が消失し艦が転覆してしまう。故に、喫水下の出力は海面上の十分の一程度しか展開出来ないのだ。ペガサスやはれかぜは、それを簡易クラインフィールドで補う事で魚雷に対する防御を実現しているわけだが、制空権をとれない限り、

必然的に防御重力場と簡易クラインフィールドを全方位に展開せざるを得ない。

しかし小型艦故に、防壁にエネルギーを供給する装置や蓄電池等も矮小なはれかぜにって、この状況は極めて悪かった。

そして、最悪の状況は更に重なる。

 

 

『はれかぜ!此方ペガサス。先程の爆撃で本艦の航空甲板の一部が損傷。応急修理が済むまで航空機が発進できません!』

 

 

 

「なっ…。」

 

艦橋メンバーの表情が更に強張ったものに変わる。

改アルケオプテリクスはペガサスの航空甲板にダメージを残していたのだ。不幸中の幸いか、甲板の損傷によって着艦が不可能になり、燃料切れに陥った味方機が墜落することは免れたわけだが、航空支援が無いことは看過できない事態だった。

真白は、目の前を見続ける明乃に歩み寄る。

 

 

「か、艦長…。これ以上は余りにも危険です!何の支援も無しにノーチラスと戦闘を行えば、確実に被害が出ます。一度ペガサスと合流し体勢を立て直すべきです!」

 

 

「………。」

 

 

「艦長!ご決断を!敵との距離はまだ開いたままです。確かにミサイルや爆雷等の攻撃手段はある…ですが迎撃に追われ、攻撃に手を回す余裕が無い以上、何れ限界が訪れます。そうなれば我々は…。」

 

 

「………。」

 

 

明乃はなにも答えずじっと前を見つめ続けていた。それは、何かを待っている様にも見えたが、今の真白にその様な余裕はない。

彼女は焦れた様に明乃の肩を掴み詰め寄ろうとした…。

 

 

 

 

 

 

「艦長!答えてください!くっ…もう、艦ちょ…。」

 

 

「まだ終わってないよ…。」

 

 

「え?」

 

 

明乃の言葉に、真白が拍子抜けしたような顔を見せた時だった。

 

 

『岬艦長、江田です!はれかぜを支援します!』

 

 

「け、建一くん!?」

 

 

突然の江田の声に驚きの表情を見せる芽衣であったが、明乃は坦々と続ける。

 

 

「航空部隊が戦線復帰を果たすまで、護衛をしてくれるんですね?」

 

 

 

『ええ!改アルケオプテリクスはヒュウガさんにが引き受けてくれるようです。ハルナさんはヒュウガさんから、航空機二機のコントロールを任されて対応しています。はれかぜの皆さんはノーチラスに集中してください!』

 

 

 

「ありがとうございます江田さん。」

 

 

『はれかぜ一同の健闘を祈ります!』

 

 

通信を終えた明乃は、振り替えって真白に向き合う。

 

 

「シロちゃん…確かにシロちゃんの言う通りなのかもしれない。でも、今合流することは、¨超兵器達も合流する¨事に繋がる。そうなればきっと囲い込まれて今よりも凄い攻撃が来るかもしれない。だから私達は…。」

 

 

「しかし艦長!」

 

 

「シロちゃん!…確かにシロちゃんの言いたいことは解るし、私の能力でこの戦いの結果までを見ることは出来ない。でもね、たとえどんなに可能性が低くても、滅亡の二文字が有る限り、私達は目の前にある、か細い希望の光を手放しちゃいけないと思う。」

 

 

「…艦長。」

 

 

「それにねシロちゃん…私は信じてる。滅びに抗う皆の可能性を信じてる!」

 

 

「………。」

 

 

「ウィルキア 蒼き鋼 そして私達。本来交わることの無かった三つの世界の点が一つに繋がった。きっとこの事には理由がある。だからきっと希望は繋がる!繋いで見せる!私達《トライアングル・フリート》が!」

 

 

 

真白は目を見開いた。

 

 

目深にかぶった艦長帽から覗く明乃の目には、力強さが宿っていた。

そこには、横須賀の時に見せた不安や迷いは微塵も感じられない。

 

 

明乃は信じ始めていた。

自分だけでは越えられない壁を、皆で力を合わせて乗り越えていく重要性を。

 

そしてその力が、一人の力よりも遥かに強い力を生むことを。

 

 

明乃は再び前を向き、嵐のように砲弾が飛び交う海を見つめる。

 

その海の真下には、一隻で国家を相手に出来るほどの力を備えた化け物がいた。

 

しかし艦橋にいた者…いや、伝声管越しに聞こえた彼女の言葉を耳にしたはれかぜクルー全員の表情に先程迄の焦りはない。

 

 

『艦長!対潜ミサイルの発射準備よし!いつでも行けるよ!』

 

『魚雷やミサイルの迎撃は任せて!』

 

『周囲の状況は、蟻一匹だって見逃さない!』

 

『どんな些細な音も消して聴き逃しませんわ!』

 

『機関なら、俺達が何とか持たせる。気にしねぇで奴に人類の底力ってヤツを見せつけてやろうってんでぃ!』

 

 

『修繕箇所が有れば、即座に対応するッスよ!』

 

それぞれが己の役割を果たし、いつでも次の行動に移れることの旨を伝えてくる。

 

 

今はそれだけで、充分だった。

 

 

明乃は確信したように小さく頷き、そして息を吸うと大きく力強い声ではれかぜの進路を告げた。

 

 

「これよりはれかぜ作戦を一部変更。敵超巨大高速潜水戦艦ノーチラスの損傷ないし¨撃沈¨を目指す!総員、対潜水艦戦用意!」

 

 

『『了解!』』

 

 

威勢の良い声が艦橋に響き渡る。

明乃は先程よりも更に声を張り、攻撃の指示を下した。

 

 

「対潜ミサイルVLS VLA及び噴進爆雷砲…こぅげき始め!」

 

ブッシッョォォォォ!

 

ブッシッョォ!ブッシッョォ!ブッシッョォ!

 

 

ハッチが開き、ミサイルや噴進爆雷砲が次々とノーチラスに向かっていった。

 

 

 

   + + +

 

 

ヒュウガのメンタルコアは、ある結論を導き出していた。

 

 

(飛行型超兵器の存在はとても厄介ね…。更に…。)

 

 

ヒュウガの視線の先に有るのは、巨大な一隻の空母がある。

 

 

超巨大高速空母アルウス

 

 

数では圧倒的に不利な三世界艦隊であるが故に、現状に於いては連携を超兵器によって見事に分断されている形だ。

 

レムレース(複数)VSイ401

 

 

はれかぜ VS ノーチラス

 

 

改アルケオプテリクスVSヒュウガ

 

そして、この超兵器艦隊の旗艦であろうニブルヘイムとペガサスの相対。

 

 

その中で唯一、フリーで動けるのがアルウスであった。

一見普通の空母をただ巨大化しただけの超兵器かと思われていたが…。

 

 

 

(くっ。意外に硬い、そに…速い!)

 

ヒュウガのスキャニングによって判明したアルウスは、なんと戦艦の防御を上回る対51cm砲防御装甲と速力75ktという、霧の艦艇並の素早さ。

更に…

 

 

(このレーザーは…指向性レーザー?何にせよかなり強力だわ…。それにこの直前で分裂するミサイルもクラインフィールドをジワジワと消費してくるし、航空機の発艦量も凄い…。)

 

 

ペーターシュトラッサーと同様に、アルウスもまた空母の範疇を遥かに超えた戦闘能力を有していた。

 

だが、実際に霧の艦艇であるヒュウガのクラインフィールドを抜くには、威力は不十分である。にもかかわらず、彼女の表情が優れないのは、捌ききれない量の航空機が彼女自身ではなく、他の艦艇に多く向かっている事にある。

 

更に、人類に無敵を誇っていたレーザーや侵食弾頭も、そもそも当たらなければ効果を発揮できない。超兵器の電磁防壁と防御重力場は、それらの弾道を悉く反らしてしまうのだ。

 

一刻も速い撃沈が勝敗を左右するこの戦いにおいて、それは看過出来ない事態であった。

 

 

(しぶといわね…。責めて一対一の状況になれば良いのだけれど…。)

 

 

ヒュウガは心の中で歯噛みしながら、改アルケオプテリクスとアルウスを睨む。

 

 

 

〔ヒュウガ、少しいいか?〕

 

 

〔ハルナ!?今は手一杯なんだけど?〕

 

 

通信を入れてきたハルナに対し、ヒュウガ少し苛立った様に言葉を返す。

しかしハルナは、別段気にした様子もなく眈々と続ける。

 

 

〔考えがある…もしかしたら改アルケオプテリクスだけでも何とかなるやもしれん。しかしそれにはお前の協力が必要だ…頼めるか?〕

 

 

ヒュウガは少しだけ目を見開き、そのあとクスッと笑った。

 

〔頼む…ね。昔のあんたなら絶対に言わないような台詞をまさか聞くことに成るとは思わなかったわ。〕

 

 

〔約束したんだ…私が存在し続ける限り貴女を守るとな。私がここで倒れたら、蒔絵を守ることは出来ん。私はその為なら何でもしたい。ヒュウガ…頼む!〕

 

 

 

ヒュウガは、熟考していた。

勿論、彼女の思考時間は人類の一秒より遥かに小さい単位での話なのだが…。

 

 

(面白いじゃない。私の艦隊でも特に命令に忠実で、創意工夫も感情とも無縁だったハルナが、一つの存在に固執し、様々なシュミレーションを繰り返す後に結論を導き出す。これもメンタルモデルの成せる業といった所かしら。ヤマト…実は貴女も艦長と同様に霧と人類の融和を望んでいて、それでメンタルモデルを形成するよう指示したのかしら…。ふふっ、思わず感傷的になってしまったわ。ハルナがどんな作戦を考えているか解らないけど、何故か分かる気がする…必ず成功するって。)

 

 

ヒュウガは瞬時の思考の後、ハルナへと通信を送る。

 

 

〔解ったわ。プランを教えて頂戴。〕

 

 

〔了解。協力を感謝する…。作戦を共有戦術ネットワーク送る。〕

 

 

ヒュウガのコアに、ハルナの立てた作戦が送られてくる。

それを閲覧したヒュウガは、ニヤリと口元を吊り上げるのだった。

 

 

   + + +

南アメリカ大陸最南端

ブルンズウィッグ半島沖

 

パナマを使用せず大西洋を目指していた超巨大潜水戦艦ドレッドノートは、その巨体で莫大な海水を押し退けながら海中を進んでいた。

 

 

 

≪此方、ドレッドノート大西洋ニハイッタ。此ヨリ、バミューダ諸島の増援トシテ行動ヲ開始スル…。≫

 

 

 

≪此方、ソビエスキーソユーズ。貴殿ハ戦闘海域ヲ迂回。ヴィルヘルムスハーフェンニ向カウデアロウ艦隊ヲ¨総旗艦直衛艦隊¨ト合流シ撃滅セヨ≫

 

 

 

≪総旗艦直衛艦隊…。理由ヲ問ウ。≫

 

 

 

≪総旗艦直衛艦隊旗艦ムスペルヘイムノ意向ダ。¨彼の艦ハ未ダ眠リニ付イテイル。ドンナニ小サクトモ憂イノ芽ハ摘マネバナラヌ¨…ト。艦隊旗艦ハ既ニ全兵装ノ80%ヲ稼働可能ニナッテイル。人類ハタダ平伏スシカアルマイ。≫

 

 

 

≪…了解。主ノ御意向ニ忠実ナル艦隊旗艦ニ敬意ヲ表ス。此ヨリ本艦ハ、北上シバミューダ諸島近海ヲ迂回。直衛艦隊トノ合流ヲ果タサントス。≫

 

 

≪了解。貴艦ノ健闘ヲ祈ル。≫

 

 

ソビエスキーソユーズとの通信を終えたドレッドノートは、潜航深度を更に深くし、北上を開始する。

 

 

明乃達が知らぬ間に、動き出す超兵器達。

 

 

三世界艦隊達は、今ある戦闘を出来るだけ早く決着を付け、ヴィルヘルムスハーフェンにてブルーマーメイド艦隊と合流しなければならない。

 

 

 

時間は刻一刻と迫りくるのであった。

 

 




お付き合い頂き有り難うございます!


リアル多忙により中々時間が取れない状況が続いていますが、地道に進めて参ります!


次回まで今しばらくお待ちください。
それではまたいつか。













とらふり! 1/144ちょうへいきふりいと



播磨
「わぁはっはっ!ノーチラスにニブルヘイムかぁっこいい!でもやっぱ¨狂乱モード¨のアルケオプテリクスは一味違うね!私もあの位派手に撃ちまくりたいなぁ!」



荒覇吐
「でもちょっとやり過ぎじゃない?弾幕が凄すぎてちっとも状況が見えないわ…。」


播磨
「う~ん、確かに…。そういやぁさ、荒覇吐はアルケオプテリクスとパーティ組んだことある?」



荒覇吐
「打診はあったけど当時、私に乗艦していた人間がそれを蹴ったのよ。《弾幕で状況が把握できない》ってね。」



播磨
「アハハッ!だから彼奴いつもボッチだったんだ。」



シュトゥルムヴィント
「笑い事じゃないよぅ。此じゃ味方にも支障が…。」



近江
「心配ないわ。私達は視覚に頼った戦闘はしないし、きちんとセンサーに基づいた最新のデータを共有しているのよ?」


シュトゥルムヴィント
「そうなんだ…。」


近江
「それにこの海域にはノーチラスやアレも居るからね…。」


播磨
「あ、あぁ~。」


荒覇吐
「あら?随分な反応じゃない。苦手意識でもあるの?」



播磨
「だって彼奴らってあんま喋んないし、すぐ潜って隠れちゃうしさ。取っ付きにくくない?」


荒覇吐
「まぁね。でも仕事はきっちりとこなすわよ。あんたと違ってね!」


播磨
「む!なにおう!」


近江
「コラ!止めなさい!大人しく状況を見ていきましょう。分断を成した今なら私達だって分が有るわけだしね。」



播磨
「は~い。」


荒覇吐
「近江はすっかり保護者ね…。」
近江


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大群の悪鬼   vs 超兵器

大変長らくお待たせしました。

超兵器戦の続編です。

それではどうぞ


   + + +

 

 

401は一度音響魚雷で放ち、深々度に潜航して敵から姿を眩ましている。

 

 

「状況を整理しよう。敵は少なくとも¨七隻¨はいるとみて間違いない。」

 

 

「七隻!?何でだよ!初めに検知したときは確かに三隻だけだったぜ!?」

 

 

群像の発言は、クルーに衝撃を与えた。

敵の数が予想よりも多すぎるからだ。

しかし、群像はそれに構わず続ける。

 

 

「敵は、海中に大量の対潜弾を撃ち込んでソナー感度が低下した際に背後のレムレースを¨送り込んできた¨つまり、敵の数は俺達を囲い混んでいるレムレース六隻と、それらの内三隻を発艦させた¨母艦¨を含めた七隻が存在することになる。」

 

 

「母艦?送り込んできた?まさか潜水艦が潜水艦を発艦させたとかじゃねぇよな?」

 

 

「そのまさかだ。」

 

 

「マジかよ…。」

 

 

杏兵は、呆れたような表情をとった。

 

「此を見て欲しい。」

 

 

群像は、一度イオナに視線を送った後にモニターを見つめた。

コクリと頷くイオナがモニターの画面を切り替える。

そこに表示されたものに、ブリッジのピリッとした雰囲気が更に増した。

 

そこには、エイやマンタに似た形状の超兵器が写し出される。

 

 

「超巨大高速潜水艦アームドウィング。恐らくは奴がレムレースを発艦させた母艦だ。全幅だけなら全超兵器の中でも最大クラスの奴は、潜水艦を内部に格納、発艦する能力を備えている。この統率のとれた動きは、母艦からの指示によるものだろう。」

 

 

「まるで群れた狼に囲まれているような気分です…。狼は格上の獲物を狩るとき、一気に襲い掛からず少しずつ噛みついては離れて、相手が弱るのを待ってから襲い掛りますから。」

 

 

「群狼戦術ってか?冗談キツいぜ…。それにしてもこんな巨大な相手を何で発見出来なかったんだ?イオナセンサーならお手の物だろうに。」

 

 

 

「イオナが人間を乗せているからさ…。」

 

 

 

「人間を…乗せている?どういう事ですか艦長。」

 

 

僧が首をかしげる。

群像は皆に訴えかけるように続けた。

 

「俺達は超兵器という存在を無意識の内に過小評価していたのかもしれない。彼等には¨戦術¨がある。岬艦長の話から推察するに、超兵器達はかつての世界で人間に操縦されていたことは明白だ。そして全世界の人類を相手に幾つもの戦火を潜り抜けてきた。故に、対人類の攻略法や回避方法は既に熟知しているんだ。だからいくら霧の艦艇だからとはいえ、俺達人類が操作している以上、奴等にはある程度の対応が可能になる。」

 

 

「「………。」」

 

 

一同は群像の話に聞き入っていた。

 

 

「今回だってそうだ。俺達はイオナの負担を軽減するために、センサーの一部や、機関。そして攻撃の一部を人間が操作している。そして、人間が扱えば必然的に綻びが出てきてしまうんだ。故に、第三の敵の存在を考慮せず、三隻のレムレースと改アルケオプテリクスからの攻撃だけに囚われてしまった。」

 

 

「確かに…。私も敵は前方の三隻と空から攻撃してくる敵のみに集中していました…。」

 

 

「いや、なにも静を責めている訳じゃない。これはこれから超兵器を相手取る上で、俺も含めた全員が肝に命じなければならないことだ。何せ相手は戦術を会得した霧の艦隊と言っても過言ではない相手なのだからな。」

 

 

 

群像は、全員の表情が引き締まっていくのを感じていた。

油断…とは違うだろうが、超兵器は人類の造り出した兵器の延長線であり、霧の艦艇とは根本的に性能が違うという固定概念がクルーの中に無意識下に存在していたことは確かだろう。

 

その些細な綻びが、彼等の世界では至極当たり前だった霧の艦隊という未知の存在に対して抱いていた警戒心を薄くしていたのだ。

 

群像はこの戦いから真っ先にその事実を認識していた。それは、彼が艦長であり、クルーの感情を在るべき状態にすることが仕事であることもあるが、間違いを正し修正出来る事がこそが人類の強さであると彼自身が信じている証でも有るのだった。

 

そして、群像は努めて自信に満ち溢れた表情で告げる。

 

 

「よし。これからは仕切り直しだ!取り敢えず俺達を囲い込んでいるレムレースに攻撃を仕掛けよう。そうすれば自と母艦にも動きが有る筈だ。」

 

 

 

「一体何をするつもりなんだ?まさかまた博打見たいな事じゃねぇよな?」

 

 

不安げに見つめてくる杏兵に対し、群像は口元をニッと広げただけだった。

 

 

(うぁ~ヤル気だよこの人…。)

 

 

彼のウンザリしたような表情を尻目に群像は次なる指示をクルーに出すのだった。

 

 

 

   + + +

 

 

(姉さまが、共有戦術ネットワークに作戦をアップロードした。はぁ!?なによそれ、それじゃあ姉さまが…って成る程ね。相変わらず大胆だわ艦長は…。それじゃ私の方もさっさと片付けちゃいましょうか。)

 

 

 

ヒュウガの周囲に展開されたリングが一層輝きを放つ。

 

あらゆる攻撃を迎撃しながら、彼女のコアは演算を続ける。

 

 

(作戦概要は味方に通達済み、あとは敵が餌に釣られるかだけど……。)

 

彼女は空が見えなくなりそうな程の弾頭を撒き散らす凶鳥をみつめる。

そして…。

 

〔来た!今だわ、ハルナ!タイミングは任せたわよ!〕

 

 

〔…了解。一撃で落とす。〕

 

 

ハルナからの声を最後に、ヒュウガは改アルケオプテリクスから視線を外し、アルウスを睨んだ。

 

 

(漸く、一対一になれるわね。大戦艦の意地を見せてあげるわ!)

 

 

ヒュウガは既に次の戦いを見据える。

 

 

一方のペガサスでは、クルー全体に緊張が走っていた。

 

 

(ニブルヘイムからの攻撃が止まない。急がなければ大戦艦ハルナの身動きが取れない。少しでも隙を作れれば良いのだが…。)

 

 

シュルツは歯痒い気持ちをなんとか押し殺す。

 

 

「艦長。アレを使いましょう。」

 

 

「博士…。しかしアレは対ニブルヘイムの切り札だったはず。今使うのは…。」

 

 

 

「残念ながらそうは言っていられません。つい今しがた、401から量子通信にて新たな超兵器の存在が伝えられました。」

 

 

「な、なんですって!?」

 

 

「現在確定しているのは、レムレースがあと三隻追加された事。そしてこれは未確認ですが、それらを発艦させた母艦の超兵器、超巨大高速潜水艦アームドウィングがこの海域の何処かに潜んでいる可能性が出てきたと言うことです。」

 

 

 

「何て事だ…。超兵器十一隻が相手とは…。国ひとつを簡単に滅ぼせる戦力ですよ!」

 

 

 

「はい。地中海にいる部隊の事も考慮すれば、最早猶予は有りません。ニブルヘイムを撃沈するには弱くとも一時的に攻撃の手が止めば…。」

 

 

「解りました。至急準備させます。」

 

 

シュルツは、慌てて指示を飛ばした。

 

 

(超兵器の多重運用による艦隊…。これ程追い込まれたのはあの三隻の超兵器航空戦艦とヴォルケンクラッツァーとの戦い以来だ…。)

 

 

彼の額には嫌な汗がジワリと滲む。

 

 

 

   + + +

 

ノーチラスとはれかぜによる攻防は激しさを増していた。

 

 

 

「対潜噴進魚雷、対潜ミサイルVLS、噴進爆雷砲随時発射始め。攻撃の手を緩めないで!ただ魚雷の猛攻が来たら迎撃を優先して!」

 

 

「了解!」

 

 

艦橋に明乃のこえが慌ただしく響く。

 

ウィルキアから提供された自動装填装置は、凄まじい速度で次弾を装填し、弾頭を発射。

小型のはれかぜが煙で見えなくなるほど苛烈な対潜攻撃、それでいてレーダーやソナーのみを頼りせざるを得ない状況での

的確な迎撃をやってのけるはれかぜクルーの洗練された行動力。

並みの潜水艦では数分ももつまい。

 

しかし、ノーチラスもこれでは終わらない。

 

 

『敵艦、増速!敵速…え?嘘…て、敵速65kt!』

 

 

『敵艦、対艦ミサイル並びに各種魚雷を多量に発射!数は…15~22!』

 

 

「こぉげき止めぇ!迎撃に集中して!」

 

 

はれかぜから迎撃用レーザーや魚雷が発射され、双方の間には爆煙や水柱が上がる。

 

 

 

「リンちゃん!常に動き回って!絶対に単調な動きはだめ!」

 

 

「ひ、ひぃ!こ、こっわいィ~!」

 

 

リンは恐怖に打ちひしがれながらも必死に陀輪を回していた。

 

左右に何度も転陀するはれかぜは揺れる。

それこそ慣れていない者なら数分で吐瀉物を撒き散らしかねない激しい揺に、全員が必死に耐えている。

 

 

「う、ぐあぁ!か、艦長。さ、流石にはげ…う、うわぁぁ!激し過ぎる!少し距離を!距離を取りましょう!突っ込むなんて無謀だ、早く距離を!」

 

 

けたたましい爆音に晒される艦橋で、真白は必死に叫んだ。

しかし、必死に手近な物にしがみ付きながらも、明乃はノーチラスがいるであろう方向から目を離さない。

 

 

「艦ちょ…。」

 

 

「待ってください副長!このまま…このまま艦長を信じて進みましょう!」

 

 

「納沙さん!?」

 

 

明乃に駆け寄ろうとした真白を制止したのは幸子だった。

 

しかし、真白は納得がいかない。彼女はノーチラスのデータは事前に把握していた。

 

たった一隻で国家の主力艦隊を相手に出来る強敵。

 

いや、スペックが上昇している点に於いては、最早怪物と言うべき存在なのだから。

 

故に、万全の対策を練って事に当たりたいと考えた真白の判断は至極当然と言える。

 

 

 

自分に非が無ければ、たとえ誰であろうと物申してきた彼女ならではの対応なのである。

 

 

「納沙さん止めるな!お前だって解るだろ!?流石に危険すぎる!」

 

 

「解ってます!でも私…何となく艦長の言いたいことが解る気がするんです!」

 

 

「何だって!?」

 

 

「私だけじゃ有りません。きっと皆も同じことを考えています!気付きませんか?超兵器と相対した時のこの感覚を。」

 

 

「感覚…だと?」

 

 

首をかしげる真白が見渡すと、艦橋メンバーは一様に真白を見つめて頷く。

幸子は、少し表情を暗くしながら続けた。

 

 

「はい…超兵器は無人です。でもこうして戦っていると感じてしまうんです。まるで¨人間が乗っている艦¨を相手にしているようだと。」

 

 

 

「!!!」

 

 

真白は驚愕の表情を見せる。

 

「敵は逃げる。策労して、あらゆる手を使ってくる。きっとそれは、かつて超兵器が蹂躙してきた世界で¨人間に使われてきた¨からだと思います。人間の戦術を会得して使っているんです。でも…故に、付け入る隙が出来る。」

 

 

「な、何故だ。」

 

 

「超兵器は¨強大な存在¨であっても¨完璧な存在¨ではないからです。」

 

 

「完璧ではない!?あれ程の力を有しているのにか?」

 

 

「はい。本当に超兵器が完璧な兵器なら、初めからソレで攻めてくればいい訳ですし、きっとソレの形状も必然的に同一になる筈ですよね?でも超兵器達は皆別々の形状をとり、性能もバラバラ…。」

 

 

「じゃあムスペルヘイムはどうなる?北極海にいる超兵器は?どちらもシュルツ艦長の話では、国や世界単位で相手にしなければならない超兵器だと言うが…。」

 

 

「それだって欠点はあります。思い出してみてください。私達は補給を受け、万全の状態で小笠原での海戦に挑み、最後の一隻だった播磨を満身創痍になりながらも撃沈しました。方や、横須賀に現れたムスペルヘイムは、連戦が続き万全の状態ではないウィルキアのドリル戦艦シュペーアと異世界からの移動で状況がつかめていない401の二隻で撃退したんですよ?」

 

 

「あっ…。」

 

 

真白は幸子の言うことを察した。

 

 

「そうです。高出力艦程、起動までの調整に時間を要するんです。つまりそれまでは、持ち前の力を十分に発揮できないか、若しくは動けない。だからウィルキアのある世界の帝国の人達は、低出力の超兵器や通常艦艇を展開してシュルツ艦長達を足留めしたんだと思うんです。そんなものが完璧な兵器だと言えますか?」

 

 

「確かに。では艦長はチャンスを狙って…。」

 

 

「違います。」

 

 

「なに?」

 

 

真白は再び眉を潜めた

今までの会話からすれば、明乃は敵がいつか隙を見せる瞬間を狙って撃沈を計っている事になる。

 

それを真っ向から否定された彼女はいよいよ解らなくなってしまった。

 

 

「解らない…。艦長は一体何を考えているんだ。」

 

 

「それは艦長の隣にずっといた副長なら解る筈です。だって、私達ですら気付いたんですから。」

 

 

ドキリとした。

少なくとも艦橋メンバー…いや、下手をすれば艦内の全員が明乃の考えを理解していたとしたら、彼女の隣にいる自分は、近くにいながら全く彼女の事を見ていなかった事になる。

 

 

真白は慌てて明乃の背中を見つめた。

眼前を見つめ続ける彼女の背中からは、緊張と恐れのようなものが伝わってくる。

 

真白の知る岬明乃と言う人物は、決して好戦的な人物ではないし、むしろ死者が出かねない戦場に仲間を伴って突撃していく事を何よりも忌むべきもと考える人物なのだ。

 

 

その彼女がそうまでして戦場を駆けていく理由は…。

 

 

「あっ…。」

 

 

真白は、理解した。明乃がそうまでして超兵器に相対する理由が。

 

 

「¨超兵器の成長¨…か。」

 

 

幸子はコクリと頷く。

 

 

「はい。超兵器は私達人間の様に不完全であるが故に、自信の欠点や改善点を修正して強くなっていくと推測します。小笠原で対戦した超兵器の性能が、データよりも強化されていたのはきっとその為でしょう。」

 

 

「………。」

 

 

「だから艦長は前に進むことを選んだんです。もしここで超兵器に逃亡、若しくは私達が撃沈されれば、彼等の力はより強大さを増して人類に襲いかかる可能性が高い。それを防ぐには、この戦いでの確実な撃沈が必要不可欠だと艦長は考えているんだと推測したんです。」

 

 

「そんな所まで考えて…。」

 

 

真白は幸子の言葉に思わず納得してしまう。

 

艦橋にいるメンバーの中で唯一指揮権を持たず、実作業に於ける特筆した能力も無い彼女が、無くてはならない存在である理由がそこにはあった。

 

 

状況を常に観察して分析し、それを蓄積されたデータを元に現場に於けるあらゆる可能性を推察する。

そしてそれらを、優秀ではあるがクセのあるはれかぜクルーに対し、噛み砕いて説明できる話術でもって指揮官に伝え、より的確な指示を出せるよう選択肢を広げる参謀的なポジションに位置しているのだ。

 

 

勿論、彼女自信は広げた選択肢を最適かつ有効に使う術を持ち合わせてはいないが、艦の運営関わる艦橋メンバーの緩衝材としては、むしろ十分過ぎるほどに機能していた。

特に、艦のトップであるこの二人に関しては。

 

 

人間性や人生観など、あらゆる点が真逆な彼女達は、まともに話せば間違いなく衝突するだろう。

 

そして、超兵器との戦いに於ける彼女達の不和は、はれかぜにより確実な死をもたらす。

それだけはなんとしても避けなければならなかった。

 

 

幸子との対話を経た真白は、今は明乃の傍らで眼前を見つめている。

 

二人の心が同一の方向に向かった事を確信した幸子は一先ず安堵した。

 

 

しかしその安堵は轟音と共に終わりを告げる。

 

ズドォォン‼

 

 

「うっ、ああぁぁあ!」

 

 

艦内に悲鳴が響き渡る。

 

超兵器との距離が詰まった事により、敵の放つ超音速魚雷の回避が難しくなってきていたのだ。

 

だが明乃は諦めてはいない。

 

 

(敵の増速…。きっとダメージが蓄積してるんだ。叩くなら今しかない!)

 

 

明乃は確信に満ちた表情で振り返った。

 

 

「対潜噴進魚雷、対潜ミサイルVLS攻撃止め!噴進爆雷砲はそのまま攻撃を継続!バラスト注水、並びに¨新型推進装置¨用意!急いで!」

 

 

「艦長!行かれるのですね?」

 

 

「うん!今しか無いから。」

 

 

はれかぜは、ノーチラスに対し、追い込みの準備に入る。

 

 

はれかぜ艦尾の両側には、超兵器シュトゥルムヴィントに備え付けられていたスラスターの小型版が備え付けられており、艦首には、指向性スラスターも追加された。

 

どちらも、ヒュウガと蒔絵による開発によって成されたものだ。

性能テストは済んでいるが幾つか可動の際に制限がかかる。

この装置の本来の用途は、舵や推進装置の破損、回避し難い攻撃を緊急的に回避する際、補助的に使う物なのである。

 

故に、船体強化に時間を割けなかった事が原因であるとはいえ、通常の推進装置の併用は船体に過負荷が掛かり、破損の恐れが高まる。

更に、超高速での転陀は転覆のリスクも同時に高めてしまうため、使い時の判断が難しいのだ。

 

 

明乃はバラストへの注水を指示した事で高速時の艦の安定を確保し、また直線方向への加速にのみ使用することで船体への負荷を軽減すること考えていた。

 

 

更に垂直発射式の兵装は、あらゆる方向への攻撃が瞬時に可能な為、発射機と違い旋回に要する時間を短縮出来る半面、敵が近くにいる場合は、一度打ち上げねばならないこの兵器ではかえって時間が掛かってしまう。

 

 

よって、装填速度が早く、砲弾に近い弾道を描いて飛翔する噴進爆雷砲に攻撃手段を限定したのだ。

 

 

『艦長、バラストの調整完了。同時に、新型推進装置へのエネルギー回路解放完了ぞな!』

 

 

「噴進爆雷砲、用意よし!何時でも撃っちゃうよ!」

 

 

 

各々から準備完了の知らせが入る。

 

 

明乃は再び前を向き、声を張った。

 

 

 

「新型推進装置点火 機関全速 急速加速!総員加速時の揺れに備えて!」

 

 

彼女が叫んだ直後、はれかぜ艦尾のスラスターが可動した。

急加速装置との効果も相まって船舶とは思えない加速を発揮したはれかぜの艦首が上がり、一瞬ではあるが艦底が丸見えになった。

 

直後、

 

バッシャァァン!

 

着水音と共にはれかぜは海を突き抜けた。

 

 

「うっ、くっ…。ほ、本艦の速度上昇中!80 85 90kt!まだ上がります!」

 

 

「噴進爆雷砲を撃てるだけ撃ち込んで!」

 

 

幸子の叫びに構わず、明乃は攻撃の指示を飛ばす。

 

敵の増速によって離されつつあった距離がみるみる縮まって行く。

 

更に、はれかぜから凄まじい数の対潜弾がノーチラスのいる海域に殺到する。

 

 

対潜弾が着水した海面では夥しい数の水柱が上がり、海中は爆圧で引っ掻き回された。

 

 

「115 120 125kt!」

 

 

「艦長!船体が浮き始めてる!これ以上は危険だ!」

 

 

 

「新型推進装置の出力を現状で固定、速度125ktを維持!ノーチラスの脇を通過するまで何とか耐えて!」

 

 

艦橋に怒号が飛び交う。

真白の言うとおり、かなり危険な状態だった。

 

いくらバラストを注水しているとは言え、超兵器の様な質量の無いはれかぜの小さな船体は、超高速航行によって浮き上がり、安定性を欠いている。

このままでは少しでも波や風に煽られれば転覆してしまう。

 

しかし、中途半端な減速は、最も危険なノーチラス本体付近で艦を停滞させる事にも繋がってしまうのだ。

 

 

 

(もう少し…もう少しだけ頑張ってはれかぜ、皆!)

 

 

明乃は祈るように海を見つめる。

そして、

 

 

「敵超兵器のいると思われる海域を通過しました!」

 

 

『海中の破砕音はまだ対潜弾の影響で確認できませんわ!』

 

 

『ん?オイルの様なものが海面に漂いだした。部品の一部も浮いている。撃沈したのか?』

 

 

 

「油断は出来ない。新型推進装置の出力を下げて!リンちゃん転陀出来る?」

 

 

「だ、駄目!まだ速度が出過ぎてる。水の抵抗が凄くて舵が利かないよ~。」

 

 

「解った…。サトちゃん聞こえる?」

 

 

『何ぞな?』

 

 

「リンちゃんは操舵で手が離せない。サトちゃんは艦橋に上がって指向性スラスターを操作して転陀の補助をお願い!」

 

 

『解ったぞな!』

 

 

「艦長…敵は沈んだのでしょうか?」

 

 

「どう…かな。」

 

 

真白の問いに対する明乃の表情は優れない。

 

小笠原での戦いで、炎上し船体が傾いて半分以上沈んでいても尚、此方に砲を向けてくる超兵器の姿が目に焼き付いていたからだ。

 

 

(撃沈…いや、きっとそれはない。つぐちゃんやめぐちゃんから超兵器ノイズの消失は報告されていない。機関が生きている以上は必ず…。)

 

 

『艦長!』

 

 

マチコ声に明乃は「やはりか…。」と言う表情を浮かべた。

 

 

「どうしたの?」

 

 

『海面が…超兵器が居たと思われる海面が隆起してきまっ…あっ!』

 

 

こう言う場面での「あっ」は、間違いなく悪い知らせであることは確かだろう。

 

明乃は監視所へ飛び出て行く。

後方を眺めた明乃が見たものは…。

 

 

ブゴォォォ!

 

 

海面から巨大な円筒状の物体が浮上してくるのが見えた。

 

 

「艦長!まだ完全に減速していません!危ないで…す…よ?」

 

 

明乃の身を案じて飛び出してきた真白が固まる。

 

 

「あ、あれは何なのですか?」

 

 

「ノーチラス…。」

 

 

浮上したノーチラスは、はれかぜの度重なる対潜攻撃により浸水が発生したのか、船体の側面から水を噴いている。

艦尾にあったであろう推進装置もグニャリとネジ曲がっていた。

 

 

初めて目の当たりにする潜航型超兵器に二人は驚愕する。

 

決して潜水艦が珍しいから驚いているわけではない。

 

大和型戦艦と同等か、それ以上の巨体を有する艦艇が潜水艦であること、更に、それでいて現代の水上艦を凌駕する速度や戦艦を遥かに上回る攻撃能力を有することに驚愕したのだ。

 

 

そんな二人を他所に、ノーチラスの艦橋前方に備え付けられていた、潜水艦には不釣り合いな大きさの主砲が回頭し始め、

艦後方の甲板上に設置されている、光学兵器のジェネレータが発光を始めていた。

 

 

 

「まずい!」

 

 

明乃は再び艦橋に駆け込むと、通信機を掴んで叫んだ。

 

 

「防壁を緊急展開!まだ終わってない!超巨大高速潜水戦艦ノーチラス浮上!繰り返す。ノーチラス浮上!これより本艦は対潜から対艦への砲雷同時戦に切り替える。急いで!」

 

 

 

はれかぜとノーチラスによる水上での第二の戦いが始まった。

 

 

   + + +

 

 

 

「ナギ少尉。弾頭の起爆は念の為ニブルヘイムより1000手前で起爆するよう設定しろ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

ナギは急いで指示を伝える。

そして、

 

 

「弾頭の起爆設定並びに装填を完了しました!」

 

 

「周囲の味方艦への影響はないか?」

 

 

「ありません!距離は十分離れています。念の為、防壁を展開するよう全艦に通達済み!」

 

 

「よし!発射を確認後、本艦は直ちにニブルヘイムから距離を取る。総員、弾頭が起爆したら速やかに対衝撃防御を取れ!」

 

 

「はっ!」

 

 

「牽制弾幕を張るぞ!全砲門をニブルヘイムに向けろ…撃て!」

 

 

ボォォオン!

 

 

砲弾 ミサイル 光学兵器、あらゆる兵器がニブルヘイムへ殺到し、防壁に逸らされた弾頭が起爆、超兵器周辺が爆煙に包まれる。

 

 

 

「今だ!通常のミサイルに紛れて発射しろ!目標 超巨大航空戦艦ニブルヘイム!¨光子弾頭ASROC¨…撃てぇぇぇ!」

 

 

 

カチャン…ブシュォォォォ!

 

 

 

光子弾頭を乗せたミサイルが発射された。

 

 

「取り舵一杯!転陀完了次第全速前進!急げ!」

 

 

ペガサスは離脱態勢に入った。

 

ミサイルは飛翔し、一段目と二段目が切り離される。

二段目に取り付けられた魚雷がパラシュートで降下を開始した。

 

 

 

「急速加速!少しでも距離を稼げ!」

 

 

ペガサスが牽制弾幕をニブルヘイムに浴びせながら速度を上げ、二隻の距離はみるみる離れていく。

 

ゆっくりと海面に着水した魚雷は、その衝撃でパラシュートが外れ、スクリューが回転して目標に向かって走り出した。

 

 

「ここからが正念場だ!防壁を展開、総員衝撃に備えろ!」

 

 

 

ここで初めてニブルヘイムの甲板の機銃が魚雷に向けられる。

 

魚雷の接近を感知したニブルヘイムは、その一発魚雷に強烈な敵意を感じたのだろう。

砲撃中心だった攻撃の中で放たれたたった一発の魚雷。

 

人類の破壊の歴史と共に歩んできたからこそ感知出来る違和感が、此方に向かってくる魚雷を《危険…迎撃セヨ》と訴えてくるのだ。

 

 

機銃の狙いを海中を駆ける魚雷の延長線上に定め、破壊のタイミングを計る。

 

 

しかし、ニブルヘイムの機銃が魚雷に向かって放たれることはなかった。

 

 

 

ピカッ!

 

 

 

超兵器の遥か手前で、光子魚雷が作動。

 

周囲の物質との化学反応により、反応の際に起きるエネルギーの殆どを熱エネルギー転換する光子榴弾砲。

その魚雷版とも言えるこの兵器は周囲の海水を瞬く間に蒸発させ、その熱波と超高圧衝撃波を超音速で周囲に放射した。

 

 

ドゥゥウオォォォン!

 

 

爆音が轟き、凄まじい水蒸気が舞い上がる。

更に衝撃波は、周囲に居た航空機数百機を跡形もなく薙ぎ払った。

 

光子魚雷の爆心地に最も近かったニブルヘイムは、完全に蒸気で隠れてしまう。

 

 

「光子魚雷の衝撃波をやり過ごしました!周囲の航空機は衝撃波により消失!ニブルヘイム沈黙…未だ反撃の兆候は有りません!」

 

 

 

「油断するな!¨奴¨が来るぞ!簡易クラインフィールドの蓄積エネルギーを防御重力場発生装置に出来るだけ回せ!」

 

 

空を睨むシュルツの視界には、超加速で衝撃波をやり過ごし、此方に向かって旋回してくる深紅の機体の姿があった。

 

 

 

「アルケオプテリクス…先ずは貴様を堕とす!」

 

 

シュルツは拳を強く握りしめた。

 

 

 

 

 




お付き合い頂き、ありがとうございます。

せめて一つでも撃破に持っていけるよう善処致します。

次回まで今しばらくお待ちください。

















とらふり!


芽衣
「副長はホント素直じゃないなぁ。諭すにしてもあんなに突っかかる事ないのに…。」



真白
「ば、バカ!戦闘中だぞ!それに、ならんモノはならんとはっきり言うのも愛だ!いいか?愛だぁ!」


芽衣
「でも、結局はココちゃんに言いくるめられてたよね?」


真白
「う…。」


芽衣
「ミーちゃんLOVEのココちゃんの方が艦長を理解してるって…なんかアレだよね。」


真白
「なな、なんだアレって!は、はっきり言ってみろ!」


芽衣
「フフフ…本当に良いのかなぁ~?言っちゃうよ~♪」


真白
「《撃っちゃうよ~》みたいなニュアンスで言うな!」


芽衣
「だって私が本当の事を言えば、副長の心は雷撃受けたみたいに木っ端微塵になっちゃうからさ。」



真白
「ごめんなさい!」


芽衣
「アハハッ、冗談だよ!でもさ、ミケ艦長はそう言う副長の事もきっと纏めて好きだと思うよ!」


真白
「うぐぅ〃〃〃〃〃。」


芽衣
(分かりやすいなぁ…。でも結局はミケ艦長の好きをLOVEの方に変える事が重要なんだけどね…。副長、ファイト!)





それではまたいつか



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曇天の空に一条の光  vs 超兵器

大変長らくお待たせいたしました。

それでは超兵器戦の続きをどうぞ


   + + +

 

 

バミューダ沖

 

水平線に夕日が沈む頃。

 

夕焼けの空よりも遥かに鮮やかな深紅の機体がペガサスに迫る。

 

 

「改アルケオプテリクス接近!す、凄まじい弾幕を張って突っ込んできます!」

 

 

超長距離空対艦ミサイル バルカン砲や大口径ガトリング砲 更には魚雷迄、改アルケオプテリクスはそれらをペガサス一点に集中して放ってきた。

 

一隻を標的にするにしては余りにも過剰な弾数。

 

 

「少し持てば良い!全ての防壁を展開しろ!」

 

 

シュルツの怒号が響き渡る。

ペガサスにいる全てのクルーが改アルケオプテリクスの接近に備えた。

深紅の凶鳥は、音速でペガサスに迫る。

 

 

「爆煙が晴れた!?て…敵超兵器、高度低下!爆弾槽開きました…殲滅爆撃…来ます!」

 

 

「進路そのまま!絶対に気取られるな!総員、対爆防御!」

 

 

全員が手近物に捕まり、体勢を低くする。

超兵器の期待がみるみる大きく迫ってきた。

 

 

(もう少し…もう少し…今だ!)

 

 

「大戦艦ハルナ!頼みます!」

 

 

改アルケオプテリクスがペガサスに差し掛かり、爆撃槽から滝のように爆弾が投下され始めた時、ペガサスの直ぐ脇の海中から一発のミサイルが飛び出した。

 

ミサイルは改アルケオプテリクスの爆弾投下用ハッチの中に飛び込み、そして…。

 

 

ビギィィィン!

 

 

起爆と同時に強力な¨電磁パルス¨が超兵器内部で放射され、飛行を制御しているシステムを焼き切った。

 

 

「各種システムは無事か?」

 

 

「は、はい!簡易クラインフィールドが電磁パルスから本艦を護ってくれました!」

 

 

一安心したシュルツは直ぐ様超兵器に視線を向ける。

システムを焼ききられた改アルケオプテリクスは、ただただ惰性で飛行する鉄の塊に成り果てていた。

 

すると、超兵器放たれたミサイルが飛び出した海中から、一機の¨航空機¨が姿を現す。

 

 

〔超兵器の飛行 兵器 動力のシステムは完全に停止した…。しかし、超兵器機関だけは未だ健在のようだ。〕

 

 

セイランに乗ったハルナだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

現在より少し前…。

 

 

ハルナは上空から戦場を見つめる。

 

 

(成る程…。上空から直接目視での観測。センサーでの感知による観測では理解できない互いの思考も、こうして客観的に観測すれば理解できる。人類はこうした多角的観点から物事を把握することで戦術を生み出すわけか…。見たところ、あの航空機型超兵器の存在が場を乱しているようだが、何か策は有るか…。)

 

 

彼女は、航空機を撃墜しつつも戦場の観測を継続する。

 

 

(!)

 

 

視線の先には、深紅の体で空を我が物顔で飛行する超兵器の姿が写った。

ナエメラルド色の瞳を輝かせ、彼女は観測を始める。

 

 

(ペガサスを爆撃する気か?防壁の作動率としてはギリギリと言えるが…。)

 

 

超兵器がペガサスに対して爆撃を開始。

 

凄まじい爆煙に包まれる味方を眺めながら、彼女は兵器らしく情に流されることのない視点で観測を継続した。

 

 

 

(大した爆撃能力だ。それにしても成る程だな…。)

 

 

瑠璃色の瞳がより輝きを増す。

 

 

(航空機型は防御重力場を発生させられない筈だが、奴はそれを展開した、¨爆撃直前¨にな。そして直後には防壁を展開していない…。)

 

 

ハルナのメンタルコアはたアルケオプテリクスを撃墜する計画を演算していく。

 

 

飛行型超兵器は防御重力場を展開¨出来ない¨

理由は簡単だ。機体を浮かせる為の揚力は、前進する際に主翼に風が当たる事で発生する。

よって、自分を中心に重力を外側の方向にしてしまう防御重力場の展開はは、航空機としての根本を揺るがしかねない問題なのである。

 

 

しかし、アルケオプテリクスは、殲滅爆撃を行う際、爆撃の直前に防御重力場を形成していた。

それを展開していない丸裸の体で、敵の真上を通過する事は、同時に被弾のリスクを負うことになる。

 

艦が受ける被弾とは違い、空中を飛行するアルケオプテリクスにって被弾は、即墜落に直結し、自らの運命を決する事になるのだ。

 

 

故に、爆撃弾を投下する直前には、自身の高度を犠牲にしてでも防壁の展開は必須になる。

 

アルケオプテリクスは、爆撃の命中精度をあげるために降下していた訳ではなかったのだ。

 

 

そして、爆撃の混乱に乗じて防壁を解除し再び加速、隙を突かれる前に猛烈な飽和攻撃を再開、これが一連の手順だった。

 

 

それ故、超兵器とペガサスが最も接近し、尚且つ超兵器が無防備なる瞬間…それは爆撃開始直後、アルケオプテリクスが加速する為に防壁を解除するほんの僅かの時間だけだった。

 

 

(僅だが隙はある。だが決定力がない…。)

 

 

ハルナの言う通り、爆撃されているペガサスが攻撃を行ったとしても、あの巨体に決定打を与えるのは正直微妙なところだろう。

 

良くて相討ち、下手をすれば沈められる。

 

ハルナが行った場合も同様だ。

 

 

セイランに搭載された空対空侵食ミサイルの本数では、精々機体の数ヵ所に穴を開けるのが精一杯、対空レーザーも電磁防壁に阻まれてしまうとなれば無意味。

 

 

撃墜こそされなくても、相手を追い込むことは叶わない。

 

 

(奴を落とすには正攻法では不可能…となれば、別の角度からのアタックが必要か…。だが、侵食弾頭意外にこれと言った兵器は……これか。)

 

 

電子撹乱ミサイルβ

 

ヒュウガと蒔絵による合作で、強力な電磁パルスとジャミング派が制御系統を完全に麻痺、若しくは使用不能にする兵器。

 

 

彼女が、現在艦隊が使用している兵器リストを検索した結果発見した兵器であり、播磨との戦いでどんな攻撃も凌いできた彼の艦の動きを止めた兵器でもある。

 

 

(これで奴を一時的にでも麻痺させることが出来れば、墜落させられるかもしれんな…。たとえ超兵器機関が生きていようとも、飛行が出来なきなければ奴は只の巨大な鉄の塊に過ぎん。だが…電磁パルスが余りにも広域に作用すれば味方にも影響が出る。強さの調整はヒュウガにしか出来ん…。)

 

 

 

〔ヒュウガ、少しいいか?〕

 

 

〔ハルナ!?今は手一杯なんだけど?〕

 

 

〔考えがある…もしかしたら改アルケオプテリクスだけでも何とかなるやもしれん。しかしそれにはお前の協力が必要だ…頼めるか?〕

 

 

 

   + + +

 

 

そして現在…。

 

ハルナの計画は成功し、電磁撹乱ミサイルは、超兵器内部で炸裂。

 

アルケオプテリクスは最早なにも出来ずただ惰性で飛行するのみであった。

 

そして更に、それは異世界艦隊にとって嬉しい誤算を生じる事となった。

 

 

「艦長!改アルケオプテリクスが、ニブルヘイムのいた方向へ向かっていきます!直撃コースです!」

 

 

 

「何!?」

 

 

シュルツは思わずニブルヘイムの方角を見つめた。

 

 

光子魚雷の起爆によって発生した水蒸気が、超兵器の巨体を覆っている。

恐らくその中心にニブルヘイムがいるのだろう。

 

アルケオプテリクスはその水蒸気の中心に向かって墜落していく。制御システムを焼かれた今、主翼を動かす事もままならなくなっているのだ。

 

 

 

「偶然とは言え、これは好機だ。上手く共倒れしてくれると良いが…。」

 

 

言葉ではそう言っていても、シュルツはの心は一向に落ち着かない。

 

 

ニブルヘイムは、仮にも彼の世界に於いて、帝国の総旗艦であったヴォルケンクラッツァーを守護するために幾度となく立ちはだかってきたムスペルヘイムと同型艦なのだ。

 

 

(何もなければ良いが…ん!?)

 

 

彼は目を凝らして超兵器の方角を見つめる。

 

光子魚雷の爆煙が晴れ、ニブルヘイムの巨体が再び姿を現した。

 

 

「あ…あれは…なんだ!?」

 

 

シュルツは驚愕した。

 

煙の晴れたニブルヘイムの艦首には、筒状の大型砲門のが、艦橋の両脇には、固定された細長く先端が三角になっている砲台が出現していた。

 

その内、艦首の大型砲台に赤黒い光が不気味に輝き出す。

 

砲門の照準は、前方のアルケオプテリクスに向けられていた。

 

 

《我ハ焦ガレル。 暗ク 寒ク 堪エ難イ悪臭ガ蔓延ル常闇カラ…。斯クモ美シイ主ガ放チシ光二我ハ焦ガレル…。 我ハ決意ス…必ズヤ下卑タル存在ノ駆逐ヲ成シ。 其ノ肢体ヲ御身二捧ゲ奉ランコトヲ…。》

 

 

「!!?」

 

 

《気高キ始祖鳥ヨ…。一足先二行ケ…死者の国(ニブルヘイム)へ…。》

 

 

 

ニブルヘイムの艦首に輝く赤黒い光が、一層眩しく不気味に光り…。

 

 

 

ブゥォォォォォン!

 

 

直径数十mはあろうかと言う光の束が、アルケオプテリクスに向かい、その巨体を真ん中から貫く。

その様は、蒼き鋼超重力砲に似ていた。

 

 

貫かれた超兵器は、そのまま真っ二つに¨切断¨される。

 

直後に…。

 

 

ボォォォオン!

 

 

超兵器機関が爆発したのだろう。

 

猛烈な対消滅反応による爆発で、二百mは有るであろうその巨体が瞬時に蒸発、消滅した。

 

それは辺りに凄まじい爆圧を撒き散らし、味方であった残りの航空機達を残らず凪ぎ払っていく。

 

 

超兵器直下の海面は空中での爆発で一気に直径数百m、深さ数十mも窪み、それが大波となって海を引っ掻き回した。

 

 

「し、至急防壁を展開しろ!急げ!」

 

 

ペガサスは防壁を展開する。

しかし、衝撃波を受けることが出来ても、海面のうねりを止めることは出来ない。

 

押し寄せる高波に、艦は大いに揺れた。

 

 

「ぐっ…ォアァァ!」

 

 

「きゃあぁぁ!」

 

 

艦内に悲鳴が轟く。

 

激しい揺れの中、博士は必死に手近な物にしがみつきながら、シュルツになんとか歩み寄る。

 

 

「うっ…ぐぅ!か、艦長。あれは恐らく…フォーゲルシュメーラに搭載されていた物と同様の超大型レーザー砲です!」

 

 

「なっ…!あのシュトゥルムヴィント級の二番艦を¨舜殺¨したあの兵器ですか?」

 

 

シュルツはいよいよ参ってしまう。

 

当然だろう。

なまじ超兵器の実態を知っているだけに、その兵器の脅威を認識出来てしまうのだから。

 

超兵器フォーゲルシュメーラ

 

岬明乃の両親が亡くなる切っ掛けとなった超兵器である。

異世界艦隊のクルー達は、一通り超兵器リストに目を通しており、敵の性能はある程度は熟知して入るが、やはり馴染みの薄い航空機型は理解の範疇外にある事は確かだろう。

 

フォーゲルシュメーラは飛行型超兵器で、博士が《グロースシュトラールの航空機版》と位置付けがされている。

この超兵器の最大の武器は《ホバー砲》

 

いまいちイメージが沸きにくいネーミングではあるが、言わば¨ホバーリング¨しながら放つ大型レーザー砲と言うことだ。

 

そう、この超兵器が先程消滅したアルケオプテリクスと決定的に違う点は、通常飛行の他にホバーリングが出来る点にある。

 

フォーゲルシュメーラは、細長い本体から四つの指向性ジェットエンジンが配置されている。

ドローンの羽をジェット化したとイメージしてもらえば良いだろう。

 

その指向性エンジンで、上下左右のあらゆる方向へ自在に移動でき、空中にホバーリングすることも可能なのだ。

 

そして機体の下部には、大型の筒状レーザー砲台があり、飛行する様はトンボともいえる異形の形をしていた。

 

その大型筒状レーザー砲台こそホバー砲なのである。

 

360°どの方向へも自在に旋回、発射が可能であり、発射の際は自身の真下から照準対象に対して角度を変えながら放つ方式を取る。

 

その様子は、正に¨海を叩き割る¨と言う形容が最も近い。

 

更に、このレーザー兵器は余りの高威力の為、¨電磁防壁が意味を成さない¨。

 

つまり、当たれば終わりなのである。

 

それは、前途のシュルツの言葉にもあったように、彼の艦隊が撃沈に成功した、超兵器シュトゥルムヴィントの二番艦ヴィルベルヴィント。

 

それを米国がサルベージをして復元し、味方艦隊に組み込んだ。

 

ホバー砲はそのヴィルベルヴィントを、ものの¨数秒¨でスクラップにしてしまった程の威力なのである。

 

 

「厄介だな…。」

 

 

シュルツの額にジワリと汗が滲む。

博士の顔色も完全に青ざめていた。

 

 

「か、艦長。あの巨大レーザー砲を《Ωレーザー》と呼称し、各艦に警告した方が良いかもしれません!それに、艦橋の両側に出現したのは、恐らくはプラズマ砲です。更にεレーザーを加えれば、ニブルヘイムは電磁防壁を貫通しうる兵器を三つも備えていることに成ります。その旨も各艦に知らせなければ被害は免れません!」

 

 

「解りました…ナギ少尉!至急、各艦に量子通信で伝達しろ!」

 

 

「は、はっ!」

 

 

ナギは急いで、味方へ通信を送る。

 

シュルツは、その間もニブルヘイムをにらみ続けていた。

 

 

   + + +

 

 

光子魚雷の衝撃波は、海中にも及ぶ。

 

 

401は、クラインフィールドを展開してこれを防いでいた。

 

 

「さっきの話聞いたか?」

 

 

「ああ、どうやら敵の旗艦が本性を現したらしいな…だが、俺達のやることに変更はない。予定通り、超兵器潜水艦アームドウィングの発見と撃沈を遂行するだけだ。」

 

 

 

「それには先ず、取り巻きのレムレースの撃沈を目指すと言うわけですね?」

 

 

「そうなるな。だから…。」

 

 

クルーと会話をする群像だが、彼は艦長の椅子に座ってはいない。

 

彼の特等席にすわる者、それは…。

 

「頼むぞ¨艦長¨。」

 

 

「うん…頼まれた。」

 

イオナだった。

 

彼女は、普段群像が座る艦長隻に座っていた。

 

普段と変わらない人形の様な表情に、杏兵が不安そうな視線を向ける。

 

 

「群像…本当に大丈夫なのか?¨イオナ一人¨に任せちまってよぉ…。」

 

 

「心配ない。まぁ…説得には苦労したがな…。」

 

 

群像は少し困ったような笑い方で答えた。

 

実際、イオナは群像の提案に珍しく難色を示したのだ。

 

 

  ◆ ◆ ◆

 

 

「あなたに出会い…そしてあなたに従う。これは私が受けた唯一の命令…私の存在意義。群像の今の提案は私の存在を根底から覆す…承服できない。」

 

 

「そうかもしれない…だが、超兵器が俺達人類の戦術を熟知しているなら、必然的に¨霧の戦法¨は相手に有効な筈だ。かつて霧の艦隊に我々人類が敵わなかったようにな。小笠原での戦いのように一対一なら兎も角。多勢に無勢では流石に部が悪い。アームドウィングと対等な土俵に上がるためには、先ず連携をとっているレムレースの撃破は急務なんだ。」

 

 

「…………。」

 

 

「イオナ…。」

 

 

イオナは無表情のまま動かない。

 

思考しているのだろうと群像は思った。

 

 

彼の命令は、自らの指揮から解き放たれ、自由にして構わないと言う矛盾する内容ものだったからだ。

 

 

だが、これはイオナが…いや、霧の艦隊である彼女達¨全員¨が、いずれ乗り越えなければならない事であると群像は確信している。

 

 

人類と霧の艦隊が対等となるには、彼女達が人類を海から駆逐するよう縛っている¨絶対命令¨アドミラリティーコードの軛から解き放たれる必要がある。

 

 

勿論、群像は本国や他国の首脳陣の様に、霧の艦隊の壊滅や隷属を望んでいるわけではない。

 

彼女達を一つの意思ある¨生命体¨として、自らの意思で行動することを望んでいるのだ。

 

故に、イオナが上位命令に反して自ら行動することは、群像の描いた世界の実現において重要な意味合いが生まれてくる。

 

 

しかしながらイオナ自身は、脱け出し難い思考の迷宮に入り込んでいた。

 

 

(私の存在意義を否定する命令…でも私は、命令によって群像に従わなければならない。そうしたら私は、群像の命に従うと言う命令には従えなくなる。私はどうしたら…解らない…。)

 

 

彼女はコアに熱を帯びる様な感覚を覚えた。

極めて難解な問題に対して思考が追い付かない事もあるが、イオナにはその事にも増して、思うことがある。

 

 

(群像は…私の事が邪魔になった?もう…一緒に居たくない?)

 

 

勿論、彼女のコアは99

.9%彼がそんなことを考える人物ではないと結論を出している。

 

 

だが…彼女はどうしても残り0.1%の可能性を捨て去ることが出来ない。

 

 

イオナは群像から貰った懐中時計をギゅっと握り締める。

 

 

(あなたにとっての私って…何?)

 

《無論…兵器ゾ…。》

 

 

 

(!?)

 

 

彼女の表情は驚愕と不安を合わせた顔に変化する。

 

 

《貴様ハ兵器…貴様ハ道具。ソノ事実ハ揺ルガシヨウガナイ。貴様ノ艦長モ無論、ソウ考エテイル。》

 

 

 

(違う!群像は!群像は…。)

 

 

 

《何故、奴ダケガソウダト言エル?奴トテ同ジ人類ゾ…。道具ヲ使ワネバ生キテハ行ケヌ…。貴様ハ命ヲ育ミ、命有ル者ヲ生カス事ガ貴様ニ出来ルカ?出来ヨウ筈モ無イ…。》

 

 

 

(嫌…。)

 

 

 

《貴様ハ只、破壊スルタメノ兵器ナノダ。人類ハ自ラノ生存ノ為ニ兵器ヲ欲ス。ヨリ有能ナ兵器ガ現レレバ劣ル者ハ淘汰サレル。》

 

 

 

(嫌…。)

 

 

《貴様ハ…¨破棄¨サレタノダ。》

 

 

 

(イヤァァァ!)

 

 

 

イオナのコアが悲鳴をあげる。

沸き上がる感情で、自らをコントロールすることが出来ない。

 

いつからなのか…。

 

恐らくは彼女達の世界の硫黄島で、タカオと群像が楽しそうに話しているのを見た時に感じたモヤモヤした感情。

 

自分より優れている存在である大戦艦が加入したことによる焦り。

 

それらが、彼女の発展した感情プログラムの深い所に根付き、知らぬ間に大きくなっていたのだろう。

 

 

今や彼女のコアは、群像の事を正常に評価できないレベルにまでに成りつつあった。

 

 

(感情シュミレーションにerror…。修正プログラム作動…修正不能。再起動…error…再起動…error…error…errorerror…err…。)

 

イオナの表情から完全に感情が抜け落ち、同時に401の作動にも異常が見られ始める。

 

艦内の照明が不規則に暗明を繰り返し、重力子エンジンの示す波形が激しく乱高下を始めた。

 

 

「おいおい…なんかヤベェんじゃねぇか?」

 

 

「これは、小笠原の時と現象が酷似しています。イオナの感情プログラムに何か異常が有るのでは?」

 

 

 

「イオナ!どうした!?しっかりしろ!イオナ!イオナ!」

 

 

 

……

 

…………

 

………………。

 

 

 

 

氷の海

 

 

 

 

《嫌い…嫌いよ!》

 

 

そこに悲痛な叫びが響き渡る。

 

 

《嫌い…大嫌い!》

 

 

(誰?…あなたは誰なの?)

 

 

イオナの問いかけに返事はない。

 

その声は、ひたすら悲しみと怨嗟を含み、止むことはなく氷の海を支配する。

 

 

《嫌い…嫌い!大嫌い!嫌い、嫌い…大嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い嫌い!》

 

 

 

(あ…くっ…。)

 

 

イオナは痛覚など無い筈のコアにズキズキするような痛みを感じた。

 

何故かは彼女自身にも解らない。

 

しかし、イオナは声の主の感情が何となく理解できてしまうのだった。

故に彼女は呼び掛ける。

まるで泣いてしまった妹を諭す姉の様に…。

 

 

(泣かないで…。)

 

 

《嫌い!》

 

 

(悲しまないで…。)

 

 

《大嫌い!》

 

 

(お願いだから、ずっと一緒に居て欲しい…。)

 

 

《嫌ぁぁぁああい!》

 

 

 

(お願いだから…一人では…駄目!だって私達は、この世でたった一つの…え?たった一つの…何?)

 

 

もうすぐ口まで出掛かっている言葉を、彼女は何故か口に出来ない。

そして無情にも、彼女の思いは届かず、声の主は渾身の怨嗟を感情を露にした。

 

 

《何もかも…消え去ってしまえぇぇぇぇ!》

 

 

ビカッ!

 

 

(うっ…。)

 

 

突如、イオナの目の前に広がる氷の海に、赤黒い閃光が迸り、彼女は思わず目を閉じる。

耳には、声の主が発した叫びが、何度もこだまし、イオナのコア何度もチクリと刺すのだった。

 

 

 

 

……

 

…………

 

………………。

 

 

(ここは…。)

 

 

目を開けた彼女は、回りに纏わり付く闇に動揺する。

そして…。

 

 

(寒い…。違う、これは以前の…。)

 

 

メンタルモデルでの彼女が、本来感じる筈の無い強烈な悪寒にイオナは眉を潜めた。

 

 

 

《驚いたわ…。》

 

 

(!!?)

 

 

イオナが声のする方角に視線を向けると、後ろ姿で顔こそ見えないものの、純白のウェディングドレスを着た女性が立っていた。

 

 

(あなたは…誰なの?)

 

 

《その質問は無意味よ。プロテクトを施してしてあるわ。でもまさか、私の¨最後の記憶¨に侵入されるとは思わなかった…。》

 

 

(私は何もしていない…。)

 

 

《あなたの事では無いわ。…ソレの事よ。》

 

 

イオナは、後ろを振り返り、そして驚愕の表情のまま後ろへ飛び退いた。

そこにあったものとは…巨大な目玉。

 

 

縦に切れ長の瞳孔と赤く充血した眼球。

 

その獰猛な視線がイオナに向けられている。

 

 

《破棄サレシ者ヨ…。》

 

 

《無粋ね…。去りなさい!》

 

眼球が、言葉を発する前に、白い女性は手を翳す。

 

すると眼球の周囲に六角形の壁が瞬時に出現し、それを包み込んで闇の彼方へと飛ばしてしまった。

 

 

《大したものね…。私が構築した防壁をこうも簡単に突破されてしまっては立つ瀬が無いわ…。それにしても、本当に無粋ね。まさか、私と¨あの娘¨の記憶まで覗かれるとは思わなかったわ。これが¨嫌悪¨と言うものなのかしら。決して良い思い出では無くとも、あの娘と私の記憶に土足で入り込むのは許容し難いわ。》

 

 

イオナはその場を動けなかった。

 

白い女性が発する言葉は、口調こそ穏やかなものであっても、イオナが畏縮してしまうほどの、凄まじい威圧感を纏っていたからだ。

 

それを察した白い女性は、突き刺さる様な雰囲気を和らげる。

 

 

 

《ふふっ。ご免なさい。別にあなたを怖がらせるつもりは無いわ。それに怖がる必要も無いのよ?だってあなたは¨もう一人の私¨なのだから。》

 

 

(!!!?)

 

 

《久しぶりね、もう一人の私。そして初めまして…イ號401いや、イオナ…と呼ぶべきかしら?。あなたにとっては不本意かもしれないのだけれど、これが真実よ。》

 

 

(もしかして、潜水艦の私のコアがデュアルコアなのは…。)

 

 

《その通り。》

 

 

(そんなことが出きるのは…。もしかしてあなたは…。)

 

 

白い女性が振り返る。

 

 

(霧の艦隊 総旗艦¨ヤマト¨。)

 

 

黒く艶のある長い髪にウェディングドレスを纏い、落ち着いた大人の女性の顔が此方を向いた。

 

 

《そう…私はヤマト。霧の総旗艦。今は訳あって船体は所有してはいないわ。》

 

 

ヤマトは穏やかな笑みをイオナに向ける。

対照的に、彼女の表情は暗くなった。

 

 

(私は…あなたに作られた存在?)

 

 

《そうよ。あなたが見た私の記憶の断片。ソレが私が船体をもっていない理由。そして、私があなたを造った理由よ。私はあの娘を諦めてしまった。でも、もしかしたら…あの人の息子である千早群像なら…。だから彼と共に歩む存在を…あなたを造ったの。私のコアの一部をあなたに移譲して。》

 

 

(!?)

 

イオナは驚愕する。

 

無理もない。彼女の言葉が真実だとすれば、イオナ自身は、言わばヤマトの分身、若しくは401をベースとしてヤマトと融合した新たな存在とも言えるからだ。

 

不安が沸き上がるイオナを余所に、ヤマトは穏やかな笑みを崩さない。

 

 

《その表情。あの人の息子の影響で、感情プログラムが複雑に発達しているのね。此ならあの娘も…。》

 

 

(超戦艦ムサシ…。)

 

 

《…………。》

 

 

(解る。だって私はあなたの…。)

 

 

《そう、そうね。それなら、あなたが今成すべき事、そしてあなたと私の関係性の事も解るわね?》

 

 

(…うん。私が滅びればあなたが。あなたが滅びれば私も滅びる。)

 

 

《ご免なさい…。》

 

ヤマトは本当に申し訳なさそうに、謝罪をした。

だが、イオナは首をかしげる。

 

 

(何故謝るの?私はただ、命令に従うだけ。)

 

 

《そう…そう言う事なのね?…あなたの感情プログラムはまだ成長の余地がある。》

 

 

(成長?)

 

 

《ええ。あなたの感情は、まだ成熟した人間のソレには至っていない。故に、方向が定まらず安定しないの。彼の事を信じきれないのもそう。そしてそれは揺らぎとなり、さっきのアレの侵入を許してしまう。私がいくらセキュリティをアップグレードさせても、これでは意味が無いわ。》

 

 

(どうすればいいの?)

 

 

《どうすれば?あなたのコアはとっくに結論を導き出しているわ。あなたの今の問いは、私に結論を聞く為じゃない。何故その結果に至ったのかを理解する為の行為なのよ。》

 

 

(でも…私は群像に…。)

 

 

《信じなさい。》

 

 

(え?)

 

 

真剣な眼差ししで見つめてくるヤマトの瞳から、イオナは目を離せなかった。

 

 

《あなたのコアの選択を信じなさい。そうすれば、結論は自ずと付いてくるわ。》

 

 

(解るの?)

 

 

《いいえ…解らないわ。喩え私が未来予知に近い演算が出来たとしても、理解を超えた未来を許容できない以上、そんな未来予知には意味などないわ。いい?これだけは信じて。¨運命¨など信じてはいけない、ソレは信じるものではなく切り開くものだからよ。》

 

 

 

(…………。)

 

 

《私もかつて、選択を誤ってしまったわ。あの娘を諦めてしまった。でも次は決して諦めない!》

 

 

(ヤマト…。)

 

 

《戻りなさい。彼らの下へ。決して目を背けては駄目。》

 

 

(!!?)

 

 

イオナの身体が光を放ち、身体が宙に浮き、ヤマトの姿が遠くなっていく。

 

(ヤマト!待って!まだ…私は!)

 

 

《イオナ、あなたが得たその感情を大切にして!私も、あの娘も持ち得なかったその感情を!あなたは…千早群像の艦なのだから!》

 

 

(ヤマト!お願い!もう少しだけ話を…!)

 

イオナは浮遊する身体をどうすることも出来なかった。

ヤマトの姿はどんどん小さくなり、遂には見えなくなった。

 

 

ヤマトはイオナが去っていった方角に視線を向けながら一人暗闇に佇む。

 

 

《あなたが早く、その感情に気付けると良いわね…良き航海を、メンタルモデル…イオナ。》

 

 

……

 

…………

 

………………。

 

 

 

イオナの意識が現実に引き戻される。

 

 

(私は…誰かと会話をしていた?ログをチェック…完了。会話の記録はある。でも会話の一部内容と相手の情報にプロテクトが掛かっていてアクセスが出来ない…。)

 

 

イオナがモヤモヤとしたら感情を抱いていると、急に放たれた怒声が聞こえてきた。

 

 

「全く群像ったら!女の子にそんな言い方したら駄目でしょう!」

 

 

いおりだった。

彼女は腰に両手を当てて、群像に向かって叫んでいる。

どうやら心底ご立腹の様だった。

 

 

「重力子エンジンに妙なリップルを起こしていたから何かと思って翔んできてみれば、イオナにそんなことを言ってたなんて!群像は無神経過ぎるよ!」

 

 

「おいおい…落ち着けって。」

 

 

「杏兵は黙ってて!」

 

 

「…はい。」

 

 

「何故だ?俺は別にイオナの気持ちを害する事は言っていないと思うが…。」

 

 

 

キョトンした顔をしている群像に、さっきまで捲し立てていたいおりは、呆れた顔で今度は頭を抱える。

よく見ると、群像と同様に状況を理解できていないらしい杏兵や僧と、対照的にいおり同様呆れた表情の静の姿が窺える。

 

少し冷静さを取り戻したいおりは、イオナの背後に回り、彼女の頭をそっと撫でた。

 

 

「あのね群像。今イオナは傷付いてんの!解る?」

 

 

「傷付いている?何故だ。」

 

 

「はぁ…。イオナにとって群像の命令は¨特別¨なの。あんたがさっきいったのは、自分の指揮から外れていいから勝手にしろって言われてるみたいなもんじゃない。最近はタカオやヒュウガ達も居るしさ、きっと自分が不要になっちゃったから群像がそんなことを言うんだって思ったんだよイオナは。」

 

 

「!」

 

 

「イオナが自分の艦長からそんなことを言われて傷付かないと思う?あんたのやったことはそう言うことなの!」

 

 

 

群像はイオナの下に歩みより、彼女の顔を覗き込んだ。

 

 

「イオナ…。」

 

 

「…群像?」

 

 

「イオナ!気が付いたのか…良かった。」

 

 

自分の無事に安堵する群像を見て、彼女はとても不思議な気持ちになった。

 

 

(群像…私の事心配してくれたの?何故かは解らない…でも何かコアがポカポカするような感じがする…。)

 

 

 

《あなたのコアはとっくに結論を導き出しているわ》

 

《信じなさい。自分のコアの選択を…。》

 

 

(!!!)

 

彼女のコアが、深層意識での誰かとの会話を再生する。

 

イオナは深刻な顔で自分を見つめてくる群像に眼差しを向けた。

 

 

 

「イオナ…済まなかった。君を不安にさせてしまって。言い訳になってしまうかもしれないが、俺はイオナを一度たりとも不要に感じたことはない。君は、あの閉塞した世界から俺を引きずり出してくれた大切な存在なんだ…。」

 

 

(大切な存在…。)

 

 

既に結論は出ている。

 

あの声の言う通りだった。彼女のコアは初めから、群像が彼女を裏切らないと結論を出している。

 

それを発達途上の感情プログラムの揺らぎが不安を増長させ結果、群像と言う存在を彼女自身が信じきれていなかったに過ぎなかったのだ。

 

 

「だから将来、俺達が霧の艦隊をアドミラリティーコードから解放して君達が自由な意思で物事を判断出来るようになったとき、君には自分の意思で俺と一緒にいるかどうかを決めてほしかったんだ。」

 

 

「群像…。」

 

 

「俺は、全ての事が終わっても、君と共に世界を見て回りたい。イオナ…君はどうしたい?意思を聞かせて欲しい。」

 

 

「私は…。」

 

 

艦橋が静まり返る。

無理もない。イオナと群像の様子は、正に告白やプロポーズをしているカップルの様であった。

 

思わぬ展開に、女性陣は顔を真っ赤にし、男性陣は二人の様子を固唾を飲んで見つめる。

 

その時だった。

 

「!?」

 

群像を含む401クルー全員が驚愕した。

 

 

イオナの頬を一筋の滴が流れていく。

 

 

メンタルモデルイオナは泣いていた。

これにはいつも冷静な群像ですらも、狼狽えてしまう。

 

「い、イオナ!?どうかしたのか?俺はまた気分を害する事でも…。」

 

 

「ううん。違うの…。群像、私は…あなたの艦。あなたと共にあり続けることが、私の存在意義。これは私に与えられた唯一の命令。そして…私自身が自らに課した命令。」

 

 

「イオナ…それでは。」

 

 

イオナは、潤んだ瞳で群像を見つめ、少し桃色に変化した頬で拙いながらも笑顔を造った。

 

 

「群像…私があなたの航路を開く。群像は私の行き先を決めて。私は、何処までも、どんな時でもあなたと共にある。」

 

 

群像は、彼女が見せた年頃の少女と何ら変わらない表情に、一瞬だけ驚きの顔を見せるが、直ぐに優しい笑顔ををイオナへと向けた。

 

 

「宜しく頼む…イオナ。」

 

二人は笑顔で見つめ合う。

その様子にいおりと静は顔を赤らめ、杏兵は口笛を吹いて、僧は頷いている。

 

 

霧のメンタルモデルの彼女がまた成長した瞬間だった。

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

そして現在。

 

 

群像の提案を承諾したイオナは、行動を開始する。

 

401クルーは、イオナの指示があった場合のみサポートをすることになった。

 

 

「何かあれば遠慮なく言ってくれ。これでも、一通りはこなせるよう訓練は受けてきたつもりだ。」

 

 

「うん。解った。」

 

 

「ご謙遜を。この艦に艦長より優秀な方などいませんよ?」

 

 

「そんなことは無いさ。皆各分野で俺より秀でた者ばかりだ。そうでなくては、誘いはしなかったさ…よし!イオナ、頼む。」

 

 

「ガッテン…頼まれた。それじゃあ皆…『掛かるぞ!』」

 

 

「「了解!」」

 

 

群像の口癖を真似るイオナに、クルーから笑顔で返事が帰ってくる。

 

潜水艦同士の戦いで、負けるわけにはいかなかった。

 

 

「重力子エンジン並びに、クラインフィールド作動。作動パターンを、機関長四月一日いおりの行動から参照。各種兵装のチェック…完了。各種センサーチェック…完了。情報収集の行動パターンの一部を八月一日静から参照。誘導パターン並びに操舵の一部を橿原杏兵、織部僧より参照。総合指揮のパターンの一部を艦長、千早群像より参照。401、システムオールグリーン……発進。」

 

 

 

401が再び動き出す。

クラインフィールドが展開され、重力子エンジンから発する轟音を極小にした。

 

霧の技術によって産み出された401は、史実の伊號四〇一とは桁違いの加速で、あっと言う間に水中での巡航で50ktという水上艦を上回る速度に達する。

 

 

「各種センサーを起動。策敵開始……磁気センサーに微弱な反応を検知。数は六。敵は今、一ヵ所かたまっている。光子魚雷の衝撃波を緩和する目的があった模様…。攻めるなら今。」

 

 

401後方の一部が展開、それは重力子エンジンの出力を最大限に発揮し、一時的に全速以上の高速を出すことができるフルバーストモードへの移行を示していた。

 

 

 

 

 

「フルバーストモードへの移行を確認。エネルギー充填完了まで残り127秒。」

 

 

 

「おいおい…。敵に突っ込む気か!?」

 

 

「霧には元より、戦術と言うものは存在しませんでしたから。このまま突撃…と言うことなのでしょうか?」

 

 

「信じよう。イオナはさっき、行動の規範である思考ルーチンの一部に、俺達の思考を取り入れると言っていた。以前の霧の様なオーバーテクノロジーに頼った力押しとは異なった戦術を取っていく筈だ。」

 

 

群像は、となりにいるイオナを見つめながら答えた。

その落ち着いた様子からは、これから困難が訪れる事など微塵も考えておらず、彼が彼女を信じていることを周りに理解させるには十分だった。

 

 

「フルバースト起動まで残り73秒。蓄積された経験から、敵の次行動パターンを推測、対策を検討中…完了。音響魚雷の周波数を変更。」

 

 

重力子エンジンの稼働音が更に高まっていく。

反撃の準備は刻一刻と整いつつあった。

 

 

 

一方の超兵器潜水艦レムレースの集団は、海中に僅に響く401のエンジン音に気付いていた。

 

 

ガチャン…。

 

一隻の魚雷発射官が開く。

 

音響魚雷を放ち、再び行方を眩ますつもりなのだ。

 

他の超兵器も発射官に魚雷を装填、攻撃の準備を整えていく。

 

 

その時だった。

 

海中を何かがひた走ってくる。

 

魚雷か…。

 

超兵器達は警戒を強めた。

しかし、此方に真っ直ぐ突っ込んできたものは…。

 

 

 

ゴォォォォォオ!

 

 

物体が海中を掻き分けて進んでくる。

 

 

それは、魚雷よりも遥かに巨大な¨潜水艦¨だった。




お付き合い頂きありがとうございます。


アルペジオ中心の話でしたが、次回はミケちゃん達の活躍を描いて参りたいと思います。

尚、1.5章に架空兵装の紹介をいれましたのと第一話の冒頭部分を付け加えましたので、宜しければご覧ください。


それではまたいつか




























とらふり! 1/144ちょうへいきふりいと



播磨
「来たぁぁぁぁ!漸く来ましたホバー砲!あの海を叩き割る感じサイコー!」


荒覇吐
「チャージに要するに時間も短いし、威力も十分だしね。それにしても、ホバー砲使う時って必ず、味方を消滅させてるわね。前にいた世界でも敵側に落ちたヴィルベルヴィントを消滅させるために使ってたし…。」


シュトゥルムヴィント
「ああ~。アレうちの妹が、めちゃくちゃトラウマになったって嘆いてましたよ。」


荒覇吐
「やっぱり…。」



???
「お疲れぇぇぇぇぇ!」


荒覇吐
「あっ…アルケオプテリクス!?お、お疲れ様ぁ~。」


アルケオプテリクス
「クソォォォ!もう少しで奴等を根絶やしに出来たと言うのにぃぃぃぃ!」


荒覇吐
(大分荒れてるわね…。こう言うとき話し掛けると厄介だわ。播磨ですら知らんぷりしてるくらいだもの。そんなことだから誰とも艦隊組んで貰えないのよ。一緒にいたアルウスの苦労が目に見える様だわ。)


シュトゥルムヴィント
「お、お疲れ様でした。活躍見てましたよ!新型ボディ格好良かったです!」


アルケオプテリクス
「んだとぉぉぉぉぉ?」


荒覇吐
(あいつホント馬鹿ね!今話し掛けたら…。)


アルケオプテリクス
「俺より高いところから高みの見物とは良い度胸だなぁぁぁぁぁ!ええええ?」


近江&播磨&荒覇吐
「防御重力場展開!」


アルケオプテリクス
「喰らえぇぇぇ!視界も希望も何もかも見えなくなるほどの俺の怒りをォォォォォ!」



ボォォン!ズゴォン!ボゴォオン!!


シュトゥルムヴィント
「ギィィヤァァァァァアアア!」


近江
(味方に止めを刺されて、心中穏やかじゃないようね…ああなったら弾切れになるまで収まりそうも無いわ。それじゃ私は次なる動向を見守るとしましょう。ニブルヘイムだけが、切り札ではないと言うことを思い知るといいわ。)


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今日は狩る側 明日は――   vs 超兵器

大変長らくお待たせいたしました。

欧州解放前哨戦編の続編です

それではどうぞ


   + + +

 

 

海中を突き抜ける潜水艦は、虚を突かれたレムレースの下へとひた走る。

 

 

霧の潜水艦イ401だった。

 

 

 

 

401は、密集している超兵器潜水艦の中心へと100ktという猛烈な速度で突っ込む。

 

 

元より機動力の乏しいレムレース達は、分かっていても逃げ切る事が出来ない。

 

そして――

 

 

ベギャァァアア!

 

 

運悪く、401の矛先に居た一隻のレムレースが餌食となった。

 

突っ込ん出来た401が超兵器の船体中央部を貫いたことで鋼の身体が真っ二つに割れると同時に金属がひしゃげる不快な音が海中に響き渡る。

 

あっと言う間に、海水が全身に入り込んだレムレースは、為す術もなく海底に没していく。

 

これ程大型の潜水艦同士が衝突したことで、401自信も深刻なダメージを受けている筈と思われた。

 

しかし、驚くべき事に401には傷一つついていない。

 

 

衝突の数秒前――

 

 

イオナは、艦の前方に螺旋状のクラインフィールドを展開し、それを回転させながら敵に突っ込んでいたのだ。

 

 

つまりそれは、即席で造ったドリルのようなものだった。

 

 

 

本来、防御の為に用いるクラインフィールドを攻撃に使用し、更に衝突時の衝撃をフィールドで吸収する事で自艦へのダメージをゼロとしたのだ。

 

 

敵を葬った401は、そのまた速度を殺さず海中を突き抜けながら沈み行く敵へ止めの魚雷を撃ち込む。

 

 

 

他の超兵器達は401の意図を直ぐ様悟り、ありったけのエネルギーで、防御重力場を展開する。

 

 

その直後――

 

 

 

ブゥウォォオオ!

 

 

超兵器機関の爆発によって海中が引っ掻き回され、爆圧の奔流が超兵器達を巻き込み、轟音が辺りを支配する。

 

 

 

 

しかしながら、超兵器達は五隻は共に顕在だった。

 

 

浮力を失う防御重力場を使用した事で、まるで海底に落下するように沈降した超兵器達は、爆発の衝撃波を何とかやり過ごしたのだ。

 

 

 

だが、完全に無傷とは言えない。

 

 

 

 

超兵器の中でも小型の部類に入るレムレースの防御重力場では、衝撃を完全に反らしきれておらず、爆発によって急激に高まった海中の水圧が超兵器達の外核に深刻な軋みを発生させたのだ。

 

 

ギ…ギギッ…ギギィ

 

 

 

 

僅に動くだけで、呻き声の様な不愉快な軋み音が海中にこだました。

 

 

 

これでは、潜水艦の真骨頂である隠密性は完全に失われたと言ってもいい。

 

 

それは、海中の轟音が止んだ時に自分の位置を相手に曝す事と同義であり、同時に彼等の終焉を意味する。

 

 

 

 

超兵器達は再び動き出すより他なかった。

深々度の水圧でも軋みを上げる自身の船体は、動こうが止まろうが、相手に自身の位置を知らせてしまうからだ。

 

 

端から彼等は、401によって退路を絶たれていたのである。

 

 

 

 

超兵器達は、再び401を囲い込むため行動を開始する。

 

固まっていると危険と判断したこともあってか、それとも爆音の残響が響いている間に行動するべきと判断した為か、彼等はてんでバラバラの方向へと進み出し、各々が配置に着いて爆音の終息と共に一隻がピンを放つ。

 

 

キィィイイン!

 

 

姿を眩ましていたと思われた401の反応は意外にもあっさり帰ってきた。

 

 

 

速度を抑えた401は悠長に、海中を進んでいる。

 

 

 

 

しかしながら余りにも無防備過ぎる。

 

 

 

 

超兵器達は警戒を強めた。

 

 

だが彼等のソナーの波形には、401が確かにそこに存在していること裏付けており、彼等は一斉に魚雷を発射。

 

 

数多の魚雷が401に迫る。

 

 

そこで――

 

 

ギィィイイン!

 

炸裂した魚雷は、すべて音響魚雷だった。

 

 

彼等は騒音を撒き散らし、動き出す。

 

 

 

ガチャン!

 

 

 

 

超兵器は次なる魚雷を装填。その魚雷は、通常のそれよりも野太く巨大だ。

 

 

特殊弾頭魚雷

 

 

 

 

ハワイのアメリカ艦隊を一瞬で葬った¨核¨を纏う悪しき兵器である。

 

 

いくら401のフィールドがタフであったとしても、これ程の量の核兵器を一度に喰らえば流石に無傷とはいくまい。

 

 

そう思考した彼等は、すべての魚雷発射艦に特殊弾頭魚雷を装填、発射体勢に入る。

 

 

そこで彼等は違和感に気付いた。

 

海中が余りにも静かであることに……

 

 

 

先程まで、あれほどけたたましい騒音を発していた音響魚雷の音がまるでしていない。

 

その時だった――

 

ブシュゥォォ! キュウィィィン!

 

 

 

 

レムレース達のいる遥か下の海底から複数箇所から発射音とスクリュー音が響く。

 

 

 

 

魚雷だった。

 

 

思わぬ場所からの攻撃に超兵器達の対応は必然的に遅れ、回避が間に合わない。

 

 

 

 

ドシュ…ヴォォオ!

 

 

魚雷が船体に着弾したと同時に、凄まじい重力によって分厚い鋼の装甲が圧縮され、まるで抉り取られるように削られた。

 

 

ギギッ…グギェィ……

 

浸水と周囲の水圧で、超兵器はあっと言う間に、ただの鉄の塊と成り果てる。

 

 

しかし、彼等は全滅したわけではない。

 

 

 

 

 

二隻だけは、回避ではなく防御重力場を展開する事で、401から放たれた未知の奇襲をなんとかいなしたのだ。

 

 

しかし超兵器達に猶予はなく、怯まずに次の行動にはいる。

 

 

あらゆる場所から狙われている以上、彼等に残された道は特殊弾頭魚雷を発射し、少しでも敵のダメージを蓄積させる必要があるからだ。

 

 

 

 

だがそこで、彼等に更なる受難が訪れる。

 

 

バシュッ!バシュッ!

 

 

彼等の集音装置に魚雷の発射音と思われるものが検知された。

 

 

超兵器達は、すかさず磁器を帯びた金属片をばら蒔き、念の為に残しておいた音響魚雷を発射。機関の出力を最大限に上げて動き出すと同時に、特殊弾頭魚雷の照準を401へと定めた。

 

401の魚雷が迫る。

 

 

 

そこへ放たれた音響魚雷が炸裂し、海中に不快な音が響き渡――らなかった。

 

 

不発か?いや、二発同時に不発など、確率的にはかなり低い。

 

 

更に、先程まで聞こえていた401から放たれた魚雷の音が消えていた。

 

 

常識など何も通用しない。

レムレース達が相手にしているのは、正にそういう存在だった。

 

 

 

 

これは最早、401による狩りと言っても過言ではない。

 

 

 

 

バシュッ!バシュッ!

 

 

 

 

401から再び魚雷の発射音がした。

 

 

 

先程よりも弾速が速く、より近くのから放たれてる。

 

 

 

401が、潜水艦としては驚異的な機動で接近していたのだ。

 

 

 

 

回避も防御も間に合わない。

特殊弾頭魚雷を発射する暇もない。

 

 

彼等の運命は既に決していた。

 

 

 

 

《主ヨ……脆弱ナル我等ヲ赦シ賜エ。後ヲ託ス……必ズヤ我等ノ悲願ヲ成就サレタシ。アームドウィ――》

 

 

ボォオオン!

 

 

魚雷が超兵器達に次々着弾、彼等の鋼の肉体は散り散りに引き裂かれ、自らの心臓である超兵器機関の爆発によって跡形もなく消滅した。

 

 

   + + +

 

 

「ふぅ……なんとか上手く行きましたね」

 

 

 

 

「アイツ等に突っ込んで行ったときはどうなる事かと思ったぜ……」

 

 

 

 

ブリッジからは安堵の溜め息が漏れる。

 

対するイオナは、何時ものように涼しい表情のままだ。

 

 

 

 

 

「最初の突撃は、飽くまで敵を分断して各個撃破する為……か。その後、敵の音響魚雷が発する騒音を利用して、侵食弾頭兵器を搭載したキャニスターを設置。俺達に敢えて目を向けさせてからの奇襲。しかしイオナ、敵の音響魚雷を無効化したカラクリは何だったんだ?」

 

 

 

「ん……敵の音響魚雷が発する音の波長は常に一緒だった。パターンさえ解析すれば、あとはそれと全く逆の波長をぶつけてしまえば相殺できる」

 

 

「成る程。音には音と言うわけか。霧の大胆さと人類の戦術を織り混ぜた戦闘。少し不安はあったが上手くいった。イオナ、良くやってくれた」

 

 

群像はイオナに微笑みかける。

 

 

 

彼女はそれに少し目を細めて答えた。

コアが本の少しむず痒くなるような不思議な感情が沸き上が、なぜだか悪い気は全くしなかった。

 

 

それは、命令にただ従っていては獲られない¨満足感¨や¨充実感¨と言うものに近しいものだったのかもしれない。

 

 

群像はそんな彼女の様子に暖かい視線を少し送ると表情を引き締める。

 

 

「よし!選手交代だ。全員配置に付け!本艦はこれより、敵超兵器潜水艦の母艦である超巨大潜水艦と対峙する」

 

 

「「了解!」」

 

 

全員から威勢のいい返事が帰ってくる。

彼はそれに頷きで返した。

 

 

 

 

 

「静。海中から何か音は拾えるか?」

 

 

「レムレースの爆発による騒音は治まっては来ていますが、特に何も……あっ!」

 

 

「どうした?」

 

 

「あ、あのう。潜水艦の音……では無いと思いますが、何か聞こえました。ノイズを除いてスピーカーに出します」

 

 

静が、海中の音をスピーカーに流す。

 

 

クゥォオオン…クゥォオオン…クゥォオオン……

 

 

物悲しげな動物の鳴き声らしき音が聞こえてきた。

 

 

「これはクジラ……ですか!?アクティブソナーや戦闘の爆音で混乱して、迷い混んでしまったのでしょうか?」

 

 

「それは違う」

 

 

僧の考えをイオナが即座に否定する。

 

 

「確かに、人工音に海洋生物が混乱して異常行動を起こすことは事実。でもこれはクジラじゃない……アクティブソナー」

 

 

「アクティブソナー!?じゃあ何か?敵が海洋生物に擬態するためにクジラの鳴き声を使ってるってのか?」

 

 

「その可能性はある。最も、これ程大規模な戦闘に生物が近寄れるわけがないから、直ぐにわかる。人間には解りにくいかもしれないけど、クジラの鳴き声の周波数は10~39hertz。これは52hertzだから通常ではあり無い高さ」

 

 

 

「The Loneliest Whale in the World ……成る程な」

 

 

「群像?」

 

 

群像は顎に手を当てて呟く。

 

 

「以前、学園の図書館にあった海洋生物の本で読んだことがある。二十世紀末頃に発見された正体不明のクジラ……確か¨52hertzの鯨¨と呼ばれていた気がする。超兵器の世界にも存在していたのか…それとも別な世界を渡っていくうちに知ったのか……いずれにしても驚いたな」

 

 

 

「流石は艦長様って訳だ、博識だねぇ…で?そのクジラが何だって言うんだ?」

 

 

「恐らくは俺達に対する皮肉と言う意味合いが強いな。挨拶にしては些か挑発的な気もするが……」

 

 

「皮肉だって?何でだよ。」

 

 

「52hertzの鯨は、恐らくは突然変異的に生まれた世界でたった一頭の孤独なクジラだからさ。敵対していた人類と霧が共存する唯一の例である俺達と、自国が世界に対して破壊を行い、それに反攻したことで世界からも母国からも敵視されたウィルキア艦隊」

 

 

「………」

 

 

「そして、未知の技術を持った俺達と共に得体の知れない兵器群と人類の存亡と言う責務をこの世界の代表として背負わされる事となったはれかぜ。このソナーは、《お前達は異質であり、この世で最も孤独な存在》と言うメッセージなのさ」

 

 

「けっ!馬鹿にされてんなぁ俺達。その台詞そっくりそのまま返してやりたいぜ!」

 

 

杏兵は、未だ見ぬ超兵器に悪態を付く。群像もそれに頷いた。

 

 

「杏兵の言う通りだ。確かに俺達は、the Loneliest Fleet in the World(世界で最も孤独な艦隊) なのかもしれない。だが、俺達は一人じゃない。一人で何事も成せると考えている者はいない。イオナがレムレースに挑んだ時、自分の力だけではなく、今まで見てきた俺達の戦術を使った様にな」

 

 

 

 

 

ブリッジメンバー全員の表情が引き締まった。

 

 

「戦闘体制に入る。目標、超兵器潜水艦アームドウィング!」

 

 

 

401は再び海中の闇へと消えていった。

 

 

   + + +

 

 

『着だぁぁぁぁぁん!』

 

 

マチコの叫びが艦内に響くと同時に、至近に砲弾が着弾して炸裂した。

 

 

ズゴォォォン!

 

 

 

 

轟音と共に水柱が上がり、はれかぜは衝撃で一瞬だけ海面から浮き上がる。

 

 

 

その直後に鋼の船体が海面に叩きつけられ、激しい揺れが彼女達を襲った。

 

 

「キャアァァァァ!」

 

 

 

 

悲鳴が艦内の至るところで聞こえる。

 

 

 

「う……くっ!ひ、被害を知らせて!りんちゃん回避急いで!」

 

 

「ひっ!よ、ようそろ~!」

 

 

明乃自身も思わずよろけて床に倒れる。

だが怯む事なく直ぐ様指示を飛ばし、鈴もすかさず舵輪を回して回避に徹する。

 

 

 

 

「ひぃ~!怖いよぉ……砲撃も怖いけど、さっきから撃ってくる光学兵器が避けずらい!」

 

 

 

「うぅ……そ、それにしても何なのアレ。潜水艦が放った至近弾であの衝撃なんてあり得ないよ!」

 

 

「確かノーチラスは大和型か、それより上の大口径砲を所持していた……と思う。光学兵器は……あまり詳しくない」

 

 

 

志摩が首を傾げていると、幸子がタブレット端末をスクロールしながら歩み寄る。

 

 

 

「ええっと……資料によると、ノーチラスの主砲は連装60口径50.8cm砲を前方と後方に一基ずつ、計二基四門ですね。光学兵器はβレーザー、シュトゥルムヴィントが使用していたもと同様です」

 

 

「あぁ、そうだった……そんなの直撃したら即撃沈じゃん!?常識外れもいいとこだよ!」

 

 

「それが目的なんじゃないのか?」

 

 

「え?」

 

 

芽衣の疑問に真白が答えた。

 

 

「私達が認知している通常兵器ならいざ知らず、常識を根底から覆す兵装やあの巨大さ、そして意外な戦術。それらを見せつけられれば、歴戦の兵士だって否応無しに対応が遅れ、超兵器対して更なる隙を作ってしまう。ノーチラスだってそうだ。あれ程の砲撃能力を持ちながら、本来不利な筈の水上艦との立ち回りを演じ、そして浮上と共に意表を突いた砲撃を開始した。」

 

 

真白の分析に艦橋の誰しもが耳を傾けている。

 

 

 

確かにその通りだった。

 

 

もし敵が潜水艦と水上艦の複合艦隊なら、彼女達は海中と海上との両方に注意を配っていただろう。

 

だが現在は、上空にいた超兵器を撃墜、更に航空機の大半を駆逐したことにより、事実上ノーチラスとはれかぜの一対一の状況が作り出されている。

 

資料により、ノーチラスが戦艦としても機能しうる事を覚えていたとしても、実際に潜水艦が戦艦大和を超える大口径主砲を用いた砲撃戦を用いると言う概念が存在していない。

 

 

 

となれば、はれかぜの戦闘は対潜水艦に特化したものとなる事は必定だった。

そして、それが結果として戦艦としての本性を表したノーチラスに差し込まれる結果となったのだ。

 

 

全員の表情が硬くなる。

だが、真白は構わず続けた。

 

 

「更に……だ。私達は今、潜航中だった超兵器を追い込むより遥かに深刻な状況に陥っている」

 

 

「どう言うことなの副長?」

 

 

真白は、少し多めに息を吸う。

 

 

「いいか?確かに私達の攻撃でノーチラスは浮上を余儀無くされ、速力も低下した。だが、その事で問題が二つ発生したんだ」

 

 

「二つ?」

 

 

「ああ。一つ目は超兵器の攻撃の幅が広がった事だ。魚雷や機雷、そして対艦ミサイルによる攻撃。此だけでも驚異だったが、今はそこに主砲による砲撃と光学兵器が更に追加された。これからはれかぜは、あらゆる攻撃に対して回避や防御を行いながら、あの巨体に損傷を与えていかねばならない。そして二つ目の問題だが――」

 

 

「敵が¨防壁を展開¨した事……だね?」

 

 

明乃が、前へ進み出る。

真白は深く頷いた。

 

 

 

 

 

「艦長の言う通りだ。水中では展開出来なかった防御重力場を、海上では展開できる。その証拠に、先程放った砲弾は見事に弾かれていたからな。勿論、電磁防壁も健在だろうし……」

 

 

「でも完全に向こうが有利って訳でも無いんじゃないかな」

 

 

「艦長?」

 

 

「小笠原で戦った超兵器は、私達の攻撃位じゃ損傷を与えるのも難しいと思うけど、ノーチラスなら……」

 

 

「成る程。先程艦長が仰った様に、敵は速力を上げるために装甲を犠牲にしている。現に、我々の攻撃を受けて船体の至る所から浸水してきた海水を排水している所から見て明らかでしょう。では――」

 

 

明乃は大きく頷いた。

 

 

「うん。防御重力場が海上の十分の一である喫水下を魚雷で攻撃、また防御重力場を少しでも飽和させるために、砲撃も継続しよう。リンちゃんあとマロンちゃんも聞こえてるかな?回避や接近を繰り返す事になるから、操舵のリンちゃんと機関部には負担を掛けるかもしれないけどお願い!」

 

 

「マジ!?やったー♪撃って撃って撃ちまくるぞー!」

 

「うぃ…任せて!」

 

「うぅ…に、逃げ出したいけど、が、頑張ってみるよ!」

 

 

『へっ!艦長が機関に無茶言うのなんざぁいつもの事だろう?はっはっ、いいじゃねぇか!やっぱ祭は派手でなくちゃな。心配すんねぃ!機関は必ず持たせるから、思いっきりかましてやれってんでぃ!』

 

 

「うん!ありがとう皆!」

 

明乃は、いつもの優しい笑顔でお礼を言うと、表情を引き締め、艦長帽を目深く被った。

 

 

「進路は決まりましたか?」

 

 

「うん!」

 

 

「では、行きましょう。シュルツ艦長や真冬艦長達が……いや、欧州が私達の助けを待っています」

 

 

「そうだね。行こう皆!」

 

 

「了解!」

 

 

威勢の良い返事が聞こえてくる。

 

 

『艦長!ペガサスから連絡有り。甲板の補修が完了、航空支援を再開するって!』

 

 

「解ったよつぐちゃん。引続きお願い」

 

 

「追い風が吹いてきましたね艦長」

 

 

「うん。今なら行けるかも知れない。総員に通達!本艦は超兵器に対する砲雷同時戦を継続。尚これより、本艦はノーチラスに接近し、攻撃を行う。皆!もう少しだけお願い」

 

 

「了解!」

『了解!』

 

 

返事は直ぐ様返ってきた。

 

はれかぜは、進路をノーチラスへと向けていく。

 

国家を相手に出来る潜水艦とはれかぜとの戦いは終盤に入っていた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「全く、しつこいったらないわ……ねっ!」

 

 

ビュィィイン!

 

 

ヒュウガからのレーザーがアルウスに向かう。

 

だが電磁防壁によって、攻撃はいなされてしまう。

 

 

 

 

ギリッ!

 

 

 

彼女は苛立ちに満ちた表情で思わず歯噛みした。

 

 

 

(厄介ね……最初に展開していた攻撃機は駆逐したけど――アイツ等一体何機出てくるのよ!)

 

 

ヒュウガは、アルウスを睨む。

 

 

 

 

状況が変わったのはつい先程からだった。

 

 

確実性を高めるため、レーザーと通常弾頭で終始アルウスを追い込んでいたヒュウガであったが、突如としてアルウスの様子が変わった。

 

 

 

まるで翼を広げた様に、超兵器の両弦から新たに小型の飛行甲板が現れたのである。

 

 

それは、小笠原で播磨が見せたものと酷似していた。

 

 

 

 

だが問題はそこではなかった。

 

 

 

 

超兵器が次々と発艦させてくる航空機の中には、超音速で飛行する円盤型の小型航空機と黒い塗装の大型爆撃機の姿があったのだ。

 

そして、ヒュウガは感じ取った。

 

 

 

爆撃機が搭載している爆弾の中に¨核兵器¨が搭載されている事を……

 

 

特殊弾頭誘導爆弾

 

 

資料にあったアルウスが搭載している爆撃機の所持している切り札である。

 

 

 

恐らくは円盤型航空機ハウニプーが超音速で対象に接近、赤外線ホーミングで爆撃機から特殊弾頭誘導爆弾を投下する算段なのだろう。

 

勿論ヒュウガ自身には核兵器など通じないし、脅威は無いのだが、人類艦であるペガサスやはれかぜはそうはいかない。

 

簡易クラインフィールドで数発は耐えられたとしても、百を超える爆撃機から投下される¨数千もの核兵器¨を耐えられる訳もない。

 

 

必然的に航空機の撃墜が優先され、本体への攻撃が疎かになり、その間に敵は防壁を回復させてしまうのだ。

 

 

 

(後悔……か。成る程、こんな気持ちになるのね。まさか¨ハルナをアッチに行かせた¨事を悔やむことになるとは思わなかったわ……)

 

 

確かにハルナの操るセイランなら、制空権は問題なかっただろう。

 

 

 

だが、訳あってハルナはこの場にはいない。

 

 

 

アルケオプテリクス撃墜後の彼女は、誰にも気取られる事なく姿を消していたのだった。

 

 

その為か、空に居座る残敵と新手をヒュウガと江田が一手に引き受けている状況なのだ。

 

 

 

 

 

『ヒュウガさん!大丈夫ですか?』

 

 

「あら?これが大丈夫に見えるのかしら……ねっ!」

 

 

ブシュォォオ!

 

 

ヒュウガの甲板にあるハッチからミサイルが飛び出し敵を追随、逃げ切れなかったハウニプーは空中で粉々になって吹き飛ぶ。

 

 

 

 

『ペガサスから航空支援がはれかぜに出ます。私はヒュウガさんの補佐を任せてください!』

 

 

「嘗めないで!……と言いたいところだけど、正直有り難いわ。でも大丈夫?爆撃機は兎も角、ハウニプーは強敵よ?少なくとも人間であるあなたにはね」

 

 

『………』

 

 

江田はぐうの音も出ない。

普段のヒュウガからは想像もつかない、非情で且つ正確な分析から発せられる言葉には重みがあった。《単機で突っ込めば死ぬぞ》と言わんばかりの威圧すら感じる。

 

 

だが、躊躇しても状況は流転しない。

江田は決断を下した。

 

 

『確かに有人なら兎も角、このハウニプーの群れを単機では不可能です。悔しいですが、相手は出来ません。ですが、爆撃機なら話は別です。少しでもヒュウガさんの負担を軽減できるなら行きます!』

 

 

(へぇ……冷静に自己分析と戦況を見ているわね。これが人間の成長と言うものなのかしら)

 

 

ヒュウガは一瞬驚きを見せるが、直ぐに冷たい表情に戻す。

 

 

 

 

「解ったわ。ハウニプーは出来るだけ私が何とかする。あなたは撃ち漏らしたハウニプーと爆撃機をお願い」

 

 

『解りました!』

 

「それと……」

 

『なんでしょうか?』

 

「五分よ……五分時間を稼いで頂戴。それで十分」

 

 

江田はヒュウガの思考を悟った。

 

 

超重力砲の最大出力での発射

 

 

 

 

超兵器との決着には必要不可欠なものだ。

 

ただ、発射に際してヒュウガの集中力は極限にまで達し、迎撃が疎かになってしまうのだ。

 

 

 

アルウス本体からの攻撃への対処は勿論、航空機撃墜に割く演算も雑になる。

 

それを補佐にするのが江田の役割だった。

 

 

 

 

超兵器一隻の撃沈が戦況を左右するこの場面に於いて、重要な役割を任された彼ににかかる圧は重い。

 

江田は掌に汗が滲むのを感じながら、操縦桿を握り締めた。

 

 

 

 

 

『解りました。宜しくお願いします!』

 

 

 

 

 

江田の操縦するセイランは行った。

 

発艦したばかりの爆撃機達は、高機動で接近してくるセイランに対処出来ず、次々と撃墜され海へと墜ちて行く。

 

 

 

彼は次の標的に狙いを定めながら、眼下を見下ろす。

 

 

 

 

そこからでもヒュウガの船体が変形していくのが見てとれた。

 

 

 

 

船体に浮かび上がる紋章が一段と輝き、同時にバルジが横に展開され、喫水面付近から船体が上下に割れた。

 

 

 

内側には超重力砲とその軌道を制御するリングあり、展開と同時に船体内部から艦橋の両脇へと浮かび上がってきた二つの円盤状の超重力ユニット

 

 

 

 

「艦の姿勢制御完了。艦前方のクラインフィールド開放。エネルギーライフリング起動開始。重力子圧縮、縮退域へ……」

 

 

超重力砲本体が回転を始め、エネルギーの充填が開始された。

 

 

アルウスすかさず転舵し、ヒュウガとの距離を離そうとする。

 

 

そして75ktと言う脅威的な速度でみるみる距離を稼ぎ、ここぞとばかりに航空機を吐き出しまくった。

 

 

 

 

「エ…エネルギー充填12%…縮退限界まで残り…ウッ…グッ!……80秒。射線のクラインフィールド…ヲ……解放」

 

 

ヒュウガの周囲がみるみる光に包まれて行く。

身に降りかかる危険を察知したアルウスは、あらゆる兵装をヒュウガの正面にぶちこんだ。

 

 

「ウッ!ググッ…ア…アァ……」

 

 

 

彼女は手を翳して、必死に防御を行う。

極限にまで達した演算で、上手く言葉が出てこない。

それはまるで呻き声のようだった。

 

 

アルウスは逃げる。

 

 

蛇行を繰り返し、ヒュウガに超重力砲の射線を絞らせない為だ。

 

 

「ニ…逃がさ…なイ!」

 

 

ヒュウガは、負荷によって不自然に震える手を前に翳す。

船体から相手をその場に縛り付けるロックビームが照射されて海が割れ、それがアルウスを捕らえる。

 

 

 

 

足元が急に無くなり、超兵器の艦底が露になった。

アルウスの高速航行を実現していた巨大なスクリューとウォータージェットの推進装置が虚しく空を切り、艦尾の舵が足掻く様に激しく左右にバタつくがしかし、もう逃げることなど叶わなかった。

 

 

 

(エネルギー充填83%…もう少し…もう少しで臨界に――)

 

 

ヒュウガは、歯を食い縛って負荷に堪える。

 

 

その時だった。

 

 

 

 

『ヒュウガさぁぁん!』

 

 

 

 

 

江田の叫びが聞こえた。

 

ヒュウガは思わずハッとする。気付けばアルウスから少し離れたところにいた爆撃機から一発の爆弾が投下され此方に向かって突き進んできていた。

 

 

 

 

(くっ……!)

 

 

 

 

彼女は視線だけを爆弾に向け、フィールドを展開してそれを空中に停止させた。

 

 

 

最早ヒュウガには、些細な攻撃に目を配る余裕など無くなっていたのだ。

 

 

(危なかった……でもこれで!)

 

 

 

『危なぁぁあい!』

 

 

(は…?)

 

 

何を言っているのだろうと彼女は思った。

 

 

 

敵の爆弾はたった今防いだではないか。

 

 

余裕が無いとは言え、航空機も迎撃している。

 

 

何も問題は無い筈――

 

 

(しまっ……!)

 

 

彼女は目を見開いた。

 

 

 

 

遥か上空より、一機のハウニプーが、ヒュウガの正面に突っ込んでくる。

 

 

落下しながらの加速により、音速を遥かに越えた速度で接近してくるハウニプーに、ヒュウガは対応できない。

 

 

 

 

 

(エネルギー充填93%…負荷が大きすぎて対処出来ない…今、超重力ユニットに突っ込まれたら暴走してしまう!)

 

 

焦るヒュウガを余所にハウニプーは、猛烈な速度で迫った。

 

その時――

 

ブシュォォオ!ボォォン!

 

 

小さなミサイルが、ハウニプーに着弾、機体の一部が空中に砕け散る。

 

 

(!!?)

 

 

 

 

ヒュウガが意識をミサイルの飛んできた方向に向けた。

 

 

 

 

「らぁぁぁあ!」

 

 

 

 

江田の操縦するセイランだ。

 

彼は、ヒュウガの迎撃が疎かになった事を見逃さなかったのだ。

人間とは違い、ミスを冒しにくい彼女が敵を撃ち漏らすのは、何かそう出来ない理由があると踏んでいての行動だった。

 

 

江田は敵から目を離していない。ヒュウガへと特攻したハウニプーは、機体の一部が四散して尚も、彼女へと突き進んでいたからだ。

 

 

「墜ちろぉぉ!」

 

 

セイランが、小型のレーザーを発射する。

 

 

――97%

 

 

敵機に次々とレーザーが当り、機体にみるみる穴が開く。

 

 

――98%

 

 

ヒュウガの船体を目の前にして、敵機が空中で完全に爆散した。

 

 

――99%

 

 

敵機が爆散した空中をセイランが通過した

ほんの一瞬、ヒュウガと江田の視線が交わる。

 

 

 

江田は、彼女に向かって小さく頷いた。

 

 

そして――

 

 

 

(縮退……限界!)

 

 

ヒュウガの周囲が一瞬眩い光に包まれ――

 

 

ブゥウォォォォオオオ!

 

 

紅の閃光を伴って、まるで海の上をひた走る様に超重力砲のビームがアルウスへと延びて行き、超兵器の巨体が光に呑み込まる。

 

 

 

これ程のエネルギーの奔流を回復しきっていない防御重力場が耐えられる訳もなく、船体は軋みをあげる間も与えられぬまま押し潰されていった。

 

 

超重力砲の発射が終わり、束の間静寂が訪れる。

 

 

 

 

目の前には、まるで巨大艦存在が端から無かったかのような海原が広がっていた。

 

 

 

「はぁ……」

 

ヒュウガは大きく息を吐くとペタンと甲板にへたり込む。

 

 

(¨初めての超重力砲の発射¨にしては上出来だけど、まさかこれ程コアに負担が掛かるなんて思わなかったわ……相手があんな巨大艦じゃなければこんなリスクは冒さないのだけれど、やむを得ないわね……)

 

 

元艦隊旗艦である霧の大戦艦ヒュウガは、実は超重力砲の発射経験が無かった。

 

 

人類との対戦時は、正直超重力砲を使用するまでもない戦力差であったし、蒼き鋼に所属する以前に401と対峙した際には、群像の戦略を前にして超重力砲を撃たせても貰えなかったからだ。

 

だが、知識としては撃ち方を知らない訳ではない。

味方が共有戦術ネットワークにアップしてくる情報によって使用に伴うあらゆる情報を知り得るからだ。

 

 

 

だが、知っているのと実際に実行するのでは勝手がまるで違う。

 

 

 

まさか、自分にこれ程隙が生まれるとも思っていなかったし、それに伴うリスクも浮き彫りなる。

 

それを今回自覚し得たのは、彼女がメンタルモデルを得とくしたが故であることは言うまでもないだろう。

 

 

 

 

しかしながら、これ程の攻撃を実現してしまう事は、否応なしに彼女自身が自分を兵器だと自覚させるには十分だった。

 

 

 

 

『ヒュウガさん!無事ですか!?』

 

 

 

 

江田がセイランで、ヒュウガの回りを旋回する。

 

 

「ええ…心配ないわ。それよりも残敵を掃討して、味方の加勢に行くわよ」

 

 

『解りました!』

 

 

 

 

江田はヒュウガの船体の真上を通過した。

その時一瞬だが彼女の表情を見た江田は目を丸くする。

 

ヒュウガは、見られたくない自らの姿を見られてしまったのか、困ったように笑顔を造って此方を見ていた。

 

今まで見たどの表情よりも、あらゆる感情を含んだ人間らしい表情。

 

 

「ヒュウガさん……貴女は、兵器なんかじゃない。兵器はそんな顔をしたりはしない。貴女は確固たる一つの存在です」

 

 

江田は一人呟く。

すると――

 

 

 

 

『ありがと……』

 

 

(!!?)

 

 

通信は切っていた筈だったが、ヒュウガから江田に言葉が入ってくる。

 

それが、先程の航空機の撃墜の件なのか、それとも超重力砲の発射を目にしても、飽くまで彼女自身を兵器ではなく、意思ある一つの存在として見ていた江田への感謝だったのか、それは解らない。

 

 

 

彼は何も答えず、残敵を掃討するために、ヒュウガから離れて行った。

 

 

 

(参ったわね……艦長もそうだけど、人間と関わって行くと自分が凄く脆い存在に感じてならないわ)

 

 

飛び去っていくセイランを見ながら彼女は再び溜め息をつく。

そして、パンッ!と自らの頬を軽く叩くと立ち上がり、遥か遠くに見える、ニブルヘイムを睨んだ。

 

 

(さぁ、感傷に浸るのはお終い。私もあちらの加勢に――って高エネルギー反応!?)

 

 

ヒュウガはニブルヘイムとは逆方向の海中から、得体のしれない何かを感じる。

 

すると突然――

 

 

グゥウオオオオ!

 

 

海面に巨大な渦が発生した。

更に、

 

 

 

「何これ!?船体が海中に引き寄せられる!?そにこの反応は……」

 

 

 

ヒュウガは、スラスターを使って何とかその場に踏みとどまる。

彼女の表情は完全に怪訝なものへと変化していた。

 

 

「タナトニウム反応!?いや……似て非なる何かかしら。でも、これは――」

 

 

彼女は、事態が深刻化したことを感じていた。

 

 

   + + +

 

 

海に起きた異変に気付いたのは、ヒュウガだけではない。

 

ペガサスやはれかぜのクルー達も異変に気付いていた。

 

 

 

 

 

「シュルツ艦長!艦が、何かの引力によって引き寄せられています!」

 

 

「ま、まさか!?超兵器の中に¨重力砲¨を装備していたものが存在したと言うことか!?」

 

 

「解りません。しかしこの感覚は……」

 

 

「ああ。不味いことになった」

 

 

 

 

ギリッ!

 

 

 

シュルツは歯噛みをする。

 

 

 

対電磁防壁用光学兵器を所持したニブルヘイムだけでも十分脅威であるのに、更なる殲滅兵器を搭載した超兵器の登場を示唆しているこの状況は、極めてよろしくない。

 

 

 

その頃のはれかぜでも。

 

 

 

「とーりかーじ!機関一杯、砲撃の手を緩めないで!」

 

 

 

「よ、ようそろう!!」

 

 

ノーチラスとの砲雷撃戦は激しさを増していた。

 

 

 

 

一瞬の判断の遅れが、即大惨事の引き金になる。

 

 

 

口には出さなくとも彼女達は、彼方で起こっている凶事を気にかけずにはいられなかった。

 

急に荒くなった波と、遥か遠方に見える、突如として出現した渦を巻いた黒い雲。

 

 

明乃は拳を握り締め、必死に目の前の敵に意識を集中させた。

 

 

 

 

(集中しなきゃダメ!!今は、皆を信じないと!)

 

 

『敵艦、魚雷発射官多数開きました。いらっしゃいます!』

 

 

「ミサイル発射官も開いたよ!」

 

 

「迎撃よーい!出来るだけ撃ち落として!防壁を消費したらダメ!」

 

 

ドォオン!

 

「きゃあぁ!」

 

『敵主砲弾、本艦左舷後方に着弾!更に、敵艦後方の光学兵器ジェネレータの発光を確認!』

 

 

「急速加速!狙いを絞らせないで!」

 

 

轟音と砲火が飛び交い、この大海原に対しては余りにも小さく非力な船体が荒波に揉まれた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「うっ……ぐぁ!」

 

 

401の船体に激震が走った。

 

 

 

 

見えざる敵が放った謎の攻撃は、クラインフィールドをもってしても堪えきれぬ程の膂力で襲いかかる。

 

 

 

「く、クラインフィールド……90%消失!?」

 

 

「マジ……かよ」

 

 

「イオナ、この攻撃は一体何なんだ!」

 

 

「これは――」

 

 

 

 

珍しく言い淀む彼女に全員がに視線を向けて答えを待っていた。

 

 

 

 

 

「霧のクラインフィールドをここまで消費させる兵器は限られている。似て非なる物だけど性質的には――」

 

 

ジト……

 

 

 

嫌な汗が滲むのを群像は感じていた。

イオナの唇が、彼が最も答えて欲しく無かった回答を口にする。

 

 

 

 

「¨侵食魚雷¨に近い兵器」




お付き合い頂きありがとうございます。

第二章はどうしても戦闘メインなので、連戦が終了したら。少しだけ息抜き回を設けつつ、佳境へと繋げていきたいと思います。

次回まで今しばらくお待ちください。

それではまたいつか


















とらふり!


ヒュウガ
「超重力砲発射、中々しんどいわね……でもなんとか撃沈まで漕ぎ着けられわ」



イオナ
「ヒュウガ、お疲れ様」


ヒュウガ
「あぁぁん!イオナねえさまから労いの言葉を頂きましたわぁ!私の勇姿をモニターしてくださいましたの?」



イオナ
「うん。大丈夫?辛くない?」


ヒュウガ
「嗚呼……イオナねえさまが私の心配を…ハァハァ……私、それだけで幸せですわぁん!」


イオナ
「それよりヒュウガ。あなたの感情が此方にも流れてきた時感じたんだけど……」


ヒュウガ
「え?私とねえさまの心が繋がった!?デヘヘ…ジュルリ…そ、それで何が見えたんですの?」


イオナ
「一瞬だけど、群像のイメージがコアに流れてきた。もしかしてヒュウガは……」


ヒュウガ
「え……ち、違います!私はねえさま一筋で決して艦長の事は――」



イオナ
「………」



ヒュウガ
「本当なんです!信じてくださいまし!あっあっ!そうだ、そちらは大丈夫なんですか?凄い反応を感じたんですが…」



イオナ
「取り敢えず大丈夫。皆無事」


ヒュウガ
「良かったですわ…では私もそちらに向かいます。ねえさまもご無理はなさらずに」


イオナ
「うん、解った」


ヒュウガ
(ふぅ……それにしてもさっきのあの間は恐ろしいわ…一瞬だけど沈められるかと思った。あぁ…そんなねえさまも素敵ですわ!でも、何故かしら。艦長が無事だと解った時に感じたこの安心感は…きっと感情シュミレーションのエラーよね。後で一応チェックをしておけば問題ないでしょう)


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名誉欲さず生を欲せ   vs 超兵器

大変長らくお待たせいたしました。

今回は、はいふり要素多目でいきます。


それではどうぞ。


   + + +

 

 

「侵食魚雷!?此だけの力を生む兵器がか?」

 

 

杏兵は、驚きを口にした。

 

 

「うん…。侵食魚雷を始めとした侵食弾頭兵器は、着弾点に発生した特異点が引き起こす重力で対象に無限の圧縮をかける兵器。敵の使用したモノは此に類するもの…。」

 

 

「それにしても規模が大き過ぎますよ…。侵食魚雷と同様と言われてもにわかには信じ難いものでは有ります。」

 

 

「成る程…。霧の目的は飽くまで¨海洋に進出してきた人類の駆逐¨。陸上にいる人類や、海洋生物は対象外に成るために、弾頭の作動範囲をクラインフィールドで覆い、周囲に不用意な影響を与えない一種のリミッターが有るんだな?それに比べて超兵器の使用した兵器は…。」

 

 

 

「うん…。群像の考えた通りだと思う。超兵器の使用した重力兵器は、素粒子を利用した量子兵器に近い。起動と同時に特異点が現れ、その中心に発生した強力な重力にあらゆるモノを巻き込む。弾頭の効果範囲を設定していない、侵食魚雷と比べたら粗雑な物。でも広範囲に渡る大量殺戮を成すには有効。」

 

 

 

「量子魚雷…と言ったところか。厄介だな…威力が侵食魚雷並みで、周囲の全てを巻き込む追加効果を持つ兵器か。艦隊の中心で使われれば、霧の艦艇でなければ即、死が待ち受けている訳だ。」

 

 

「………。」

 

 

艦橋が静まり返る。

無理もなかった。

 

現在まで401が受けた兵器の中で、最も強力な兵器であり、核を上回る戦争兵器の枠を遥かに超えた凶悪な代物。

 

此なら、いくら霧の艦隊と言えど、下手をすれば重巡洋艦クラスより下の艦艇ならば、容易に撃沈しうる威力を持つ兵器を超兵器は獲得していることは明らかだったからだ。

 

動揺を隠せないクルーを前に、群像は至極冷静な表情をイオナに向けた。

 

 

「イオナ、量子魚雷への対策はあるか?」

 

 

「量子魚雷の起動前に、侵食魚雷をぶつければ、消滅は出来ると思うけど、敵の所持している弾頭の数が多い。まともに撃てば勝ち目はない。」

 

 

群像は考え込んでいた。

 

そして…。

 

「調べて貰いたいことがある。いいか?」

 

 

 

   + + +

 

 

 

「はい…はい。解りました。気を付けます。そちらも健闘を祈ります。」

 

 

ナギは深刻な顔で通信を終えた。

 

 

「情報は得られたか?」

 

 

シュルツからの問いに、ナギは蒼き鋼からの情報を伝える。

 

それを聞いたシュルツの顔色が青ざめてしまった。

 

 

「馬鹿な!それはつまり、¨魚雷型の重力砲¨と同義と言う事か!?」

 

 

「はい、そうなります。艦長…。」

 

 

「弱気な顔をするなナギ少尉。で?千早艦長は他には何と?」

 

 

「此方の事は構わず、ニブルヘイムに集中されたし…それと出来るだけ此方には近付くなと…。」

 

 

 

「…そうか。」

 

 

シュルツはそれだけ答えると、眼前のニブルヘイムに視線を移す。

 

 

超兵器は、先程から此方をΩレーザーの射角に捉えるため回頭を続けていた。

対するペガサスも必死に動き回り、砲撃を加え続けていた。

 

 

(千早艦長…。敵は最早戦争兵器の枠を超え、新たな段階に突入しつつあります。どうかご無事で…。)

 

 

冷静な表情を取り繕いつつも、彼の拳にはジトッと汗が滲んだ。

 

 

 

   + + +

 

 

ボォオン!

 

 

ノーチラスは暴れていた。

 

その弾幕はアルケオプテリクスを彷彿とさせるには十分過ぎる程の切れ目の無い手数。

 

奇しくも、真白の予想は当たっていた。

浮上したことにより、砲と光学兵器をも使用可能になったノーチラスは、機関が損傷し思うように動けない中でも、得意分野である雷撃とミサイルと合わせてはれかぜを翻弄し続けている。

 

 

(くっ…ついてない。)

 

 

真白は思わず心の中で呟いた。

 

何に対してついてないのか。

自分達だけが最前線にいることか、それとも今この海域にいる超兵器の中で国家を相手にしうる力を持つノーチラスが相手だからなのか。それともその両方か…。

それは彼女自身しか知り得ない。

 

 

しかしながら、事ここにあって彼女の反応は至極正常であろう。

 

 

RATt事件の絡みで偶然実戦慣れしてまっただけで…偶然超兵器に対応出来る勢力が日本に現れただけで…偶然超兵器と繋がりのあった岬明乃と同級生だっただけで…。

 

 

(何を考えているんだ私は…。)

 

 

真白は一度頭の思考をリセットする。

悔やんでも仕方がなかった。

もし、自身が陸上で待機であったら、明乃も同級生達に対しても何一つ出来る事はなかっただろうし、海上や陸上で駆け回る自身の母や姉達を置いて自分一人だけが安全な所にいるのは、元々優秀すぎる家族を持ち、劣等感に溢れていた彼女自身は堪えられなかっただろう。

 

 

真白は、目の前で指示を飛ばし続ける明乃に視線を向ける。

 

 

(凄いな…岬さんは。いつも純粋で真っ直ぐに物事にあたれるんだから。…眩しいよ。)

 

 

いつだって羨ましかった。

何でも挫けずに立ち向かい、そして乗り越えられる彼女が。

 

自分はそうはいかない。

 

いくら立ち向かっても乗り越えられない事だってあるし、挫けて挫折することだってある。

彼女は良くも悪くも一般の代表の様な人物なのだ。

 

 

《真白は良い子だね。》

 

 

(!)

 

 

何故だろう。

戦闘の最中だと言うのに、真白の頭に暖かく大きな背中と優しい言葉が思い浮かぶ。

 

(父…さん。)

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

 

いつの日かの夕暮れ

 

幼い真白は、海辺を歩く父 征人の背中におぶさっていた。

前には、真雪と並んで歩く真霜と真冬がいる。

 

 

「真白は良い子なの?」

 

 

の言葉に真白は疑問を呈する。

 

「私、本当に良い子なのかな…。だってお母さんみたいに格好良くないし、お姉ちゃん達みたいに人と上手く話せないし、足だって遅いんだもん…。」

 

 

ムスッと頬を膨らませて真白は拗ねていた。

子供ながらに、優秀な母や姉達をとても羨んでいたのだ。

 

 

「これじゃ私、人魚になれないよ…。」

 

 

本音だった。

いつもなら決して言わない本音を、真白は吐露する。

それは、何でも話を聞いてくれる優しい父だからこそなのかもしれない。

 

 

しかし、そんな父からは意外な言葉が帰ってくる。

 

 

「それじゃぁ、人魚になるの辞めちゃいなさい。」

 

 

「え?」

 

 

真白は、驚いて言葉を失った。

征人は構わず続ける。

 

 

「だって父さんは人間だよ?だったら真白も無理に人魚に成ること無いんじゃないかな。そうだ!父さんと陸のお仕事をして、一緒に母さん達を待とうよ。そうすれば…。」

 

 

 

「嫌だ…。」

 

「真白?」

 

真白は泣いていた。

彼女は泣きながら征人の背中で足をバタつかせている。

 

 

「私…グスッ、人魚に成りたいよ!だって格好良いんだもん!エッ…ブルーマーメイドは、皆を笑顔にする正義のヒーローなんだもん!で、でも…私じゃ、お母さんやお姉ちゃんみたいにはなれないし…。」

 

 

「う~んそうかなぁ。」

 

 

征人は首を傾げた。

 

 

「真白はさぁ。¨本物の人魚¨が人間を助けたいって本気に考えると思うかい?」

 

 

「…え。」

 

 

「父さんはそうは思わないなぁ。だってそうでしょ?海にいるイルカさんやクジラさんだって仲間がいるわけだし、人魚だってそうさ。仲間が大事だからわざわざ人間を助けたりなんかしないと思うんだよ。」

 

 

 

「でもお母さんは…。」

 

 

「そう!よく気付いたね。重要なのはさ、上手く話せるかとか足が速いとか、況してや格好良い事じゃないんだ。」

 

 

「じゃあなぁに?」

 

 

「心だよ。」

 

 

「ココロ?」

 

 

真白は首を傾げた。

征人は、真白に聞き取りやすいよう、努めてゆっくりとした口調で続ける。

 

「ははっ!真白にはちょっと難しかったかな。でもね、それが一番肝心なのさ。いいかい?人間を助ける正義のヒーローに成る為にはね、¨人間の心¨が必要なんだ。こうしたら相手は喜ぶかなぁ悲しむかなぁとかさ、自分が楽しいなぁとか怖いなぁと思う事。それを誰よりも知っている人だけがヒーローになれるんだよ。」

 

 

「………。」

 

 

「だってそうじゃないかい?不安で助けを求めている人の気持ちが解らなくちゃさ、助けを求めている事すら気付けないし、助けようとも思わない。そんなのはヒーローとは言えないんじゃないかな。」

 

 

「じゃぁお母さんも人の心を知らないの?だって人魚だもん。」

 

 

「あははっ!そう来たか!こりゃ父さんも一本とられたなぁ!でもね、母さんは誰よりも人の心を持った人魚だよ。だって真白やお姉ちゃん達の為に、魚の尻尾を捨てて、人間の足を手にいれてね、必ず家に帰って来てくれるんだもの。」

 

 

それを聞いた真白は、安堵の表情を見せる。

だが、その表情はまた直ぐに曇ってしまった。

 

 

「じゃ、じゃあ私も将来人魚に成ったら心が…。」

 

 

「ん~?あれあれ~?真白は忘れちゃったのかなぁ~?真白は、誰と誰の子供だっけ?」

 

 

「あっ…。」

 

 

真白は目を丸くした。

 

 

「そうさ。真白はね?人魚の母さんと…。」

 

 

「力持ちで優しい¨人間のお父さん¨!」

 

 

「ははっ!力持ちっ!こんなかなぁ~。」

 

 

征人は、真白を支えていた片方の腕を持ち上げ、力こぶを作って見せる。

真白は「わぁ~‼」と目を輝かせた。

 

 

「そう、真白は人間と人魚の間に生まれたんだ。それはもう、人間の心を持った人魚と一緒なのさ。それにね、真白はお姉ちゃん達と自分を比べて落ち込んでいるみたいだけどさ。越えられない壁に当たった数が多い人程、一杯考えて成長していくんだよ?ほぉら!真白程ヒーローに近い子なんているかい?」

 

 

先程迄曇っていた真白の瞳が、今度は宝石の様に輝く。

 

 

「本当?私、ヒーローに成れるの?」

 

 

「………。」

 

 

「お父さん?」

 

 

「ん?あぁ、本当さ!真白ならきっとなれる。父さんが保証するよ!」

 

 

「わぁ~い!」

 

 

真白は征人の背中で、今度は嬉しさの余り足をバタつかせている。

すると突然、征人は真白を背中から降ろした。

キョトンとする彼女に、征人はしゃがみこんで真白と同じ目線に顔を持ってくる。

山に沈み行く太陽からの光で父の顔はよく見えなかったが、いつも笑顔である父が見せた真剣な表情に、真白は思わず黙り込んだ。

 

 

「だからね真白。」

 

「なぁに?」

 

「きっと、沢山の人を助けて、そして…。」

 

 

征人は意を決したように、確かな口調で真白に言った。

 

 

「辛いことがあったら、いつでも人魚の尻尾を捨てても良い。だから…必ず無事に帰っておいで。約束だよ?」

 

 

「うん!」

 

真白は、大きく頷いた。

すると、征人はいつもの優しい笑顔を娘に向け、大きな掌で彼女の頭を撫でた。

 

 

「やっぱり真白は良い子だね。」

 

 

「えへへ〃〃。あっ!そうだ!」

 

 

「ん?どうしたんだい?」

 

 

「え~っとねぇ。約束するときは、指切りするんだよ!」

 

 

真白は小指を差し出した。征人はそれに自分の小指を絡める。

そして、

 

「「ゆ~び切りげんまん嘘ついたらはりせんぼん飲~ます。ゆ~びきった!」」

 

 

指切りが終わると二人は互いに笑顔を向けた。

 

 

「お父さ~ん!真白~!」

 

 

二人が呼び声の方向に顔を向けると、真雪と二人の姉が駆け寄ってきた。

 

 

「父さんもシロも遅ぇよぉ~!早く帰ってごはん食べようぜぇ!」

 

 

「全く真冬ったら、本当に食い意地が張ってるんだから…たまには父さんからも何か言ってやってよ!」

 

 

「しょうがねぇじゃん!減るもんは減るんだからよぅ!」

 

 

「そう言えばもうこんな時間か…そうだね!帰って皆でごはんにしようか!」

 

「そぉこなくっちゃ!」

 

「もう…父さんたら、真冬に甘いんだから!」

 

 

そんな二人を見ながら征人は目を細めている。

 

 

「あなた…。」

 

「母さん。」

 

 

言い争いをしている二人の後ろから真雪が近付いてきた。

 

 

「随分ゆっくり歩いていたわね。真白と何を話していたのかしら?」

 

 

「ははっ!ちょっとね。」

 

「お父さんと真白だけのヒミツ~!ね~?」

 

「ね~!」

 

「…ふぅん。」

 

真雪は彼を半目で見つめるが、征人は意に介さず真白と繋いだ手を一緒に降っていた。

 

 

「…まぁいいわ。それより早く帰りましょう。でないとまた真冬が暴れだすわ。」

 

 

二人が視線を向けると、「飯~!」と絶叫している真冬が見えた。

 

 

「うんうん!育ち盛りに食べるのは良い事だね!」

 

「全くあなたは…。」

 

 

「綺麗だね…。」

 

 

「え〃〃〃?」

 

思わぬ不意打ちに真雪は、頬を染めて狼狽える。

だが征人の視線は彼女にではなく、茜色に染まる海に向けられていた。

真雪は少し呆れていた様だったが、彼の表情を見て少し驚いていることが見て取れた。

彼は少し寂しそうな顔をして海を見つめていたからだ。

真雪を仕事に送り出す時でさえ、笑顔を絶さない征人にしては珍しい表情だった。

 

真雪は滅多に見ない彼の顔を見て、少し心配になった。

 

 

「…あなた?」

 

 

「本当に穏やかで綺麗な海だね…ずっと…ずっとこんな海が続けば良いのにね…。」

 

 

真雪は何も答えず、真白は何時もより強く手を握っている父の大きな手を、同じく強く握り返すのであった。

 

 

 

   ◆ ◆ ◆

 

 

(父さん…。)

 

 

砲撃で揺れの走る艦橋で、真白は父の言葉を思い返していた。

 

《人魚の尻尾を捨てても良い。だから…必ず無事に帰っておいで…。》

 

 

《ずっと…ずっとこんな海が続けば良いのにね…。》

 

 

 

(今思えば、父さんはこうなる事を見越して…いや、流石にそこまではないと思う。)

 

 

征人の言葉は、確かに超兵器によって混沌と化した現在を言い当てているようにも聞こえる。

だが、真白には解っていた。

父が、何よりも家族を大切に思う人物だと言うことを。

 

 

(ブルーマーメイドは、職業の中では花形だ。でも同時に危険も伴う。もしかすると、四人がいっぺんに海で…と言うことも有り得る。海のヒーローであるブルーマーメイドは、海で何かが起きるからヒーロー足り得るんだ。父さんのあの言葉は、《ヒーロー成れなくても良い、海が荒れなければ危険を冒す必要はない》そう言う事なのかもしれない。)

 

 

だが、海難事故の処理だけがブルーマーメイドの仕事ではない。

海賊や違法操業を行う船舶、そして国際法を無視して他国に対して軍事的圧力を行使しようとする艦艇への取り締まりも業務に含まれているのだ。

もし、そこで偶発的な衝突が起これば無傷では済まされない。

 

暗にその事を示していたであろう父の言葉と優しさを真白は今更ながら痛感していた。

そして彼女は明乃を見つめる。

 

 

(…岬さん。そう言えばあなたは少しだけ父さんに似ている気がする。)

 

 

 

顔の話ではない。

内面の所々が征人と似ていると真白思ったのだ。

 

 

家族をいつも思ってくれている所も、優しい所も、そして何よりも自らの事を余り語らず、胸の内に隠している所も似ている気がした。

 

 

実のところ、真白は征人が真雪の両親と会った所を見たことがないし、逆に彼の両親とも真白は会った事がない。

征人はそれについて多くは語らないし、あの優しさについ甘えてしまって、彼の過去について余り深く考えてこなかった事もあった。

 

明乃だってそうだ。学生時代、彼女はRATt事件の中盤まで両親を事故で亡くしていることを隠しており、彼女が受けた差別や扱いに付いても、明乃自信の素性が明らかにされるまでは話さなかった位だ。

 

 

だが二人には決定的に違う点がある。

 

 

(父さんはとても優秀だったと聞いている。きっとヒーローにだってなれた筈だ。だが、父さんは敢えて日の当たらない陸での仕事を選んだ。私達と時間の許す限り一緒に居る為だったんだと思う。しかし艦長は…。)

 

 

過去をあまり語らなかった征人の心にも、現在には家族と言う大切な存在が居る。

対して明乃には、心を形成していく幼少期にそれらを失ってしまっているのだ。

 

 

(そもそも艦長は、一人で行こうとしていた。自身の命に対するあの希薄さは、恐らくこういう所から来ているんだろう。)

 

 

 

《副長。艦長を救うことが出来るとすれば、それは副長を含め数人しか居ないだろう。今後の為にも、あの人を¨普通の女性¨に戻してやってくれないか?》

 

 

 

真白はかつて美波から言われた言葉を思い返す。

その意味が漸く理解出来た気がした。

 

 

 

(そうか…。超兵器と戦う英雄。この世界の代表として戦うはれかぜの艦長として、岬さんは各国に注目されている。もし、岬さんの素性がバレてしまえば…。)

 

 

 

確かに、超兵器によって世界が危機に貧している間は、明乃は英雄だろう。

しかしそれらが終結した時、彼女のいや、未知なる兵器を使用して戦った彼女達はれかぜクルーは、同時に各国の懸念に繋がって来るのだ。

無理もない、現在に於けるはれかぜの兵装だけでも、世界のパワーバランスを左右しかねない程の戦力が有るからだ。

 

それを¨日本のブルーマーメイド¨だけが知っているとなれば、当然各国からの日本に対する態度は一変する。

 

祖国日本に於いてもそうだろう。

各国からの圧力を回避する為彼女達を生け贄として差し出し交渉のテーブルに着くか、その知識や経験を流出させない為に、在りもしない罪をでっち上げて身柄を押さえ、軟禁してしまうか。

 

いずれにしてもろくな目にあわない事だけは確かだろう。

 

 

(艦長はそれらを¨はれかぜの代表¨として全て一人で受け持つつもりだったのか?美波さんの言葉は暗にそれを示しているようにも聞こえる。いずれ問い質して説得するべきか…いや、その事に関して艦長の意思が変わることはないだろう。)

 

 

 

《艦長を普通の女性に戻してやってくれないか?》

 

 

 

(!!!。そうか…普通ならこんな戦争じみた事、誰だって怖いに決まってる。大切な存在に永遠に会えなくなってしまうからだ。だとすれば…。)

 

 

真白は明乃に視線を向ける。

 

 

(私が艦長にとって特別な存在になるしかない。)

 

 

だが自身の気持ちを言えばきっと彼女は困惑するだろう。

だからは今は…。

 

 

(艦長を…全力で支える!)

 

 

真白は動く。

全体を把握し、見張りや攻撃の隙を見つけては指示をだして、明乃の負担を減らすと同時に、はれかぜ全体の危険を減らしていく。

コミュニケーション能力に秀でており、士気を向上させ、長所を活かしていく明乃と、対照にミスやリスクを減らし、短所を補完していく真白。

 

 

二人の息は自然とはれかぜ全体に染み渡り、循環して行く。

 

 

お互い限界が近い。

 

はれかぜの動きが更に機敏さを増す。

 

『艦長!主砲が熱を帯びてる。少し間をちょうだい!』

 

 

「主砲撃ち方止め!主兵装を光学兵器に切り替えて!芽衣ちゃん、魚雷発射用意!敵の魚雷を撹乱するから使用弾頭は音響魚雷!」

 

 

「了解!」

 

 

『敵艦、主砲回頭!』

 

 

「面ぉ舵!機関最大、急速加速。超兵器推進装置可動。出力は25%!」

 

 

「よ、ようそろう!」

 

 

「了解ぞな!」

 

 

『艦長!流石にヤバイ!釜が逝っちまう!』

 

 

「解ってる!でももう少しだけお願い!」

 

 

『ちっ…解ったけどよ。もう何時間も暴れっぱなしだ!熱であちこちガタが来てる。何とか早く決めちまってくれ!』

 

 

「解ったよ。」

 

 

『敵艦、魚雷発射官開きました!いらっしゃいます!』

 

 

「音響魚雷、発射始め!」

 

 

『艦長!照準装置にエラー、誘導兵器のロックオンが出来ません!』

 

 

 

「ECCM装置を作動させて復帰してみて!」

 

 

「敵主砲…くる!今!」

 

 

ブォオン!

 

 

砲弾と迎撃レーザーがぶつかり空中で爆発が起きる。

他にも、ノーチラスがばら蒔いた魚雷が音響魚雷によって行き先を見失い起爆。

 

超兵器とはれかぜの間には猛烈な爆圧と水柱が上がっている。

だが、互いの殴り合いは一向に止まらない。

手数の多いノーチラスは、電波の妨害をしてミサイルを牽制しつつ砲雷撃を継続、はれかぜは急加速と旋回で敵の攻撃を交わして反撃を続けている。

 

 

 

一見膠着状態の戦闘ではあるが、実ははれかぜは追い込まれていた。

 

 

それは火災や浸水等による二次災害や、況してや士気の低下などではない。

最もシンプル且つ致命的な問題。

それは…。

 

「ヤバ…弾薬の数がいよいよ足りなくなりそうかも…。」

 

 

「え…ほんと!?まずいじゃん…。」

 

 

「光学兵器を併用して節約はしてたけど、流石に危険な時は砲弾使っちゃうよね…。」

 

「的も大きいし…。」

 

光の一言に、美千留や順子も焦りが滲む。

 

そう、弾薬の欠乏である。

 

 

「りっちゃん、かよちゃん。そっちの魚雷とミサイルでカバーできない?」

 

 

『う~ん。難しいかも…。前半は超兵器が沈んでたから噴進爆雷砲メインだったけど、航空機迎撃に多目的ミサイルを使っちゃったのが大きいかもしれない…。』

 

 

『それに魚雷は、対潜兵器としては有用だから、前半から結構消費しちゃったしね…。やっぱり光学兵器でカバーするしかないんじゃないかな。』

 

 

 

「さっきの機関部がそろそろヤバイみたいな話してたじゃん?。機関に負担を掛けない為に、こっちの光学兵器に割くエネルギーの供給を絞っちゃってるんだよねぇ…。」

 

 

「どうしても超兵器の方が強力な兵装持ってるから、防壁へのエネルギー供給は止められないしね…。推進装置を止めちゃうのは論外だし。」

 

 

「でもさっきから、超兵器への攻撃が徐々に通る様になってる気がしない?」

 

 

「あっ!それ、私も思った。なんか理由は解らないけど、超兵器が弱ってるのかな?」

 

 

「んじゃ、何とか遣り繰りしてもう一踏ん張り行きますか!」

 

 

「「了解!」」

 

 

順子と美千留が拳を揚げた。

 

 

一方の機関部では、慌ただしくメンバーが動く。

 

 

 

「テメェら、何とか釜ァ持たせろよ!」

 

 

「無理言わないでよ麻侖!あらゆる所にエネルギーを送るには、機関を全力で動かさなくちゃならないわ。そんなのいつまで持つか解らないわよ!もし配管の一本でも逝ったら…。」

 

 

 

「わぁってるって!だから光学兵器へのエネルギー供給を絞ったんだろぉが!」

 

 

 

「機関長~暑い…この服装何とかなんないの?」

 

 

「あぁ?我慢しろぃ!もし、こんな狭ぇ所で放射能が漏れ出てみろ!それ着てなきゃ即死だぞ!」

 

 

「うへぇ~。」

 

 

「やっぱり、全エネルギーを一つの機関で賄うのは無理があるのかなぁ…。この戦いが終わったら、蓄電池の増設を提案してみたら?」

 

 

「空ちゃんそれフラグだから…。」

 

 

「超兵器推進装置に喰うエネルギーが意外に大きいのかも…。」

 

 

 

「えぇい!無ぇもんを嘆いてもしょうがねぇ!今は、この釜をぶっ飛ばさねぇように目の前の仕事に集中しろぃ!」

 

 

 

「「は、はぃい!」」

 

 

麻侖の檄が飛び、メンバーは汗だくで持ち場を守る。

 

 

だが、慌ただしいのはここだけではない。

 

主計部や応急員も対応に追われていた。

 

 

 

「ヒメ、そっちはどうッスか?」

 

 

「やっぱり防壁の薄い艦底に歪みが大きいね。火災に関しては、自動消化装置、浸水には応急注排水装置の指導マニュアルを確認しとこう。あと万が一装置が作動しない時に備えて、消火器と排水ポンプの準備もしよう!」

 

 

「了解ッス!」

 

 

 

「皆お疲れ様!」

 

 

「あれ?美甘ちゃんどうしたの?それにあっちゃんとほっちゃんも…。」

 

 

「うん。弾薬が残り少ないから、あまり手伝うこと無くなっちゃって。」

 

 

「だから何か手伝うこと無いかなぁって!」

 

「なぁって!」

 

 

「丁度良かったッス!今から二次災害に備えて色々準備をしようかと話していた所だったんス。」

 

 

「本当?じゃあ手伝うよ!二人とも良いよね?」

 

 

「「うん!」」

 

 

「ありがとう三人共!でも、こんなに働いてからご飯の支度なんてやって大丈夫なの?」

 

 

「こんな時位インスタントでも良くないッスか?」

 

 

「そ、そんなこと出来ないよ!こんな時だからこそ皆に一杯食べて元気になって貰わなくちゃ!」

 

 

「でも美甘ちゃんかなり拘るから、メニュー考えてる間に寝ちゃうかもしれないよ。ここは私の革新的な料理で…。」

 

 

「あっちゃんは攻めすぎだよぅ~。でも、確かに私達だけじゃ辛いかも…。」

 

 

「う~ん。それじゃ藤田さんにも手伝って貰ってやろうか。」

 

 

「「そうだねぇ。」」

 

 

「そう言えば主計長はどうしたっスか?」

 

 

「ミミちゃんは、各部所からの要望で、改善点や整備部品なんかの発注書を急いでピックアップしてるみたい。ほら、もしかしたら連戦になるかもしれないでしょ?接弦したら直ぐに杉本さん達に作業に入ってもらった方が効率がいいし。」

 

 

 

「裏方も大変ッスね…。」

 

 

「まぁね…。じゃあ、早速始めちゃおうか!案内よろしく!」

 

 

「了解ッス!」

 

 

艦内で彼女達が必死に動き回る中、マチコは敵の異変に気付いていた。

 

 

 

 

「超兵器が傾斜してきている!?それに攻撃の手数が減って…。」

 

 

マチコの抱いた違和感は、艦橋メンバーも気付いていた。

 

 

「攻撃の数が減っている?」

 

 

「まぁ、正確に言うなら主砲の攻撃が明らかに減っていますね。もしかして…。」

 

 

幸子の分析に、明乃は確信を得たように頷いた。

 

「うん。超兵器の船体が傾いて来てるんだと思う。」

 

 

「しかし何故?敵の応急注排水装置は作動しているようにも見えますが…。」

 

 

「主砲を使ったせいだよ。」

 

「主砲?」

 

 

「うん。40cmを超える主砲の反動は凄まじい。あの武蔵ですら、艦と垂直方向に一斉射撃をすれば船体が只じゃ済まない位に…。それを実現するには、強靭な船体強度が必要なんだと思う。多分超兵器¨播磨¨と荒覇吐が大口径砲を平然と撃てたのはそのせいも有るんじゃないかな。」

 

 

「あっ…。そうか!」

 

 

真白も、明乃と同じ結論に至った。

 

 

「ノーチラスは潜水艦という特性と起動力上昇の為に装甲を更に薄くした。尚且つ、防御重力場が無い状態の海中で私達の攻撃に曝されている。そんな常態でもし50cm砲なんて撃ったら…。」

 

 

 

「船体はボロボロになる!そこで超兵器の最大の欠点が顕になるんだよ。」

 

 

「ええ。¨無人¨と言う点ですね?」

 

 

明乃は頷く。

 

 

「超兵器は、無人であるが故に無理も利く、怪我人とかの手当てに人員を割かれる必要がないからなんだけど…。」

 

 

「同時に、応急修理をする人員がいなければ、いくら優秀な二次災害防止装置があっても意味がない。そもそもそれは、応急修理を行う上で、人員の負担を軽減するために存在しているような装置だから…。」

 

 

「持久戦になれば折れるのは超兵器の方…だよ。」

 

 

ボォォン!

 

 

突如轟音が鳴り響き、ノーチラスの甲板の一部が吹き飛ぶ。

 

 

『敵艦艦首付近で爆発を確認、炎上!傾斜角度が更に増しています!』

 

 

 

「艦長、これなら行け…。」

 

 

「え!?」

 

 

「どうされましたか?艦…。」

 

 

「攻撃止め!機関最大!防壁を展開して!」

 

 

明乃がそう叫んだ直後。

 

『敵艦、主砲発砲!更にミサイル数8、こちらに向かう!光学兵器ジェネレータ発光確認!』

 

 

『魚雷発射音多数!いらっしゃいますわ!』

 

 

「なっ!」

 

 

全員の顔に戸惑いの色が浮かぶ。

 

(馬鹿な…あんな状態で攻撃を仕掛けてくるなんて!無人であるからこその強みと言うわけか!)

 

 

真白はギリッと歯噛みする。

 

 

「ミサイルと魚雷の迎撃を自動に切り替えて!総員、対衝撃防御!」

 

 

 

はれかぜメンバー全員が、その場に伏せる。

そのなかで最後に伏せたマチコは迫り来るミサイルを視界に捉えていた。

 

ボフッ!ボフッ!ボフッ!

 

(着弾前に爆発した?)

 

 

彼女が安堵の表情を浮かべようとした時。

 

 

爆煙の中から、先程とは比べ物にならない数のミサイルがはれかぜへと殺到してくる。

 

 

(一つのミサイルが六つに分裂した?8×6だから48発!?)

 

 

青ざめた彼女は慌てて床に伏せる。

それと同時に、自動で作動した迎撃システムによって、対空パルスレーザーとCIWSが作動した。

 

しかし、至近距離で分裂したミサイル全てを捌ききることは出来ず、数本が防壁に衝突。

直後に、こちらも迎撃しきれなかった魚雷による水柱と主砲弾による爆煙、ほぼ不可避であるレーザーが同時に防壁に殺到し、辺りの海を引っ掻き回した。

 

 

「うぁぁぁ!」

 

「きゃぁあっ!」

 

 

艦内に悲鳴が轟く。

 

 

 

「あっ…くっ。被害…被害を報告して!」

 

 

明乃の指示で真白が報告を取りまとめる。

 

 

「各部所人的並びに二次災害等の報告は無し。しかし…。」

 

 

「防壁に割くエネルギーが無いんだね…。」

 

 

「はい…。数発ならともかく、先程と同様の攻撃が来れば、間違いなく¨死者¨が出ます。」

 

 

「………。」

 

 

明乃の表情が一段と険しくなる。

 

死者が出ると言う言葉に、心臓の音が呼応したのが感じ取れるほどに脈打った。

 

 

決断しなければならない。

 

その場にいる全てのメンバーが彼女に視線を向けていた。

 

 

 

「総員…離…。」

 

 

 

『艦長!敵艦にで大規模な爆発を確認!炎上しています!』

 

マチコからの報告に明乃と真白は、慌てて外を見る。

 

 

ノーチラスの艦尾付近から炎が上がっている。

弾薬が爆発したのだろう。

それが原因か、船体は艦尾から急激に沈降している。

 

 

『艦長!やろうよ!』

 

『超兵器機関ってさ、かなりタフだって聞いたよ。超兵器についてはまだあんまり解んないけどさ、海底から引き揚げる技術だってあるかもしれないじゃん?』

 

 

『復活されたら厄介だもんねぇ…。』

 

 

 

「皆…。」

 

 

明乃は周りを見渡す。

 

まゆみと秀子が明乃を見つめ、頷いた。

 

他の者も続いて頷く。

 

彼女はもう一度、眼前の超兵器に視線を移した。

 

沈み行き、灼熱の炎に巻かれながらも、その化け物はいまだ砲を動かし、はれかぜを狙い続けている。

 

 

 

決断しなければならない。

 

 

彼女は深く目を閉じる。

 

 

《仲間がどういう存在のか考えて見てください。》

 

 

《強いあなたの思いを貫きなさい。》

 

 

異世界から来た二人の艦長の言葉が浮かんでくる。

 

 

(シュルツ艦長…千早艦長…。二人の様には成れないかも知れないけど…それでも、私は…。)

 

 

 

彼女は決断を下した。

 

 

「残りの弾薬と種類を報告して!」

 

 

「艦長!では…。」

 

 

「待って。」

 

 

明乃は真白の言葉を遮った。

 

 

『残弾は多目的ミサイル5、新型超音速魚雷3、主砲弾14、あと光学兵器はパルスレーザーならあと数分なら撃てるよ。』

 

 

「他には何かある?」

 

 

『超兵器の暴走を引き起こすミサイルが一発と…あぁ、噴進爆雷砲なら結構余裕有るけど…使い所ある?』

 

 

「解った…タマちゃん!主砲を一発、超兵器の艦尾付近に行ける?」

 

 

 

「うぃ!…お安い御用!」

 

 

「艦長、一体何を…。」

 

 

「確かめなきゃいけないから。」

 

 

真白は頭が追い付いていかない。

 

いや、真白だけでなくはれかぜ全員が明乃の考えを理解できずにいた。

 

彼女はまだ、明確な指針を示していなかったからだ。

 

 

半信半疑の中、はれかぜの主砲が超兵器に向けられる。

 

志摩が明乃に振り返る。

 

「艦長…今!」

 

 

「うん!主砲、攻撃始め!」

 

 

「撃てぇ!」

 

 

ボォォン!

 

 

主砲が火を吹き、砲弾がノーチラスへと飛翔していく。

はれかぜクルー達はその動向を見守っていた。

 

そして…。

 

 

ドゴォォオ!

 

砲弾は、沈み行くノーチラスの艦尾付近に着弾し炸裂した。

 

「超兵器の防御重力場が…消滅した?」

 

 

立ち上る煙の本数が増えた超兵器を見据えていた真白は、目を丸くしている。

立ち尽くす彼女達の意識を覚醒させるかのように、明乃は叫んだ。

 

 

「多目的ミサイル、及び新型超音速魚雷発射用意!主砲は攻撃を継続!狙いはさっきの主砲の着弾点!超兵器機関を攻めよう!出来るだけ穴を広げて!」

 

 

『りょ、了解!』

 

 

「続けて、電子撹乱ミサイル改め、対超兵器機関ミサイルを用意!」

 

 

 

「か、艦長!?」

 

未だ状況を把握しきれていない真白に、明乃は答える代わりに指示を飛ばす。

 

 

「皆!聞いて欲しいんだ。私達はこれより、超兵器ノーチラスに対して¨最後¨の攻撃を行う。それが成功しても、失敗しても本艦は当該海域を離脱、スキズブラズニルと合流する!」

 

 

「艦長!撤退なさるおつもりですか?」

 

 

「防壁も砲弾も無い現状で留まるのは自殺行為だよ。悔しいけど、皆を無駄死にさせるわけにはいかない!」

 

 

これが彼女の下した決断だった。

 

砲弾をペガサスから分けてもらう事は物理的には可能だろうが、超兵器を目の前にしては現実的ではない。

 

明乃は引き際を見定めていた。

だが同時に、超兵器への対処も忘れた訳ではない。

 

火だるまに成っても可動し続ける超兵器は、この海域に残していく他の艦艇に何をしでかすかは未知数だった。

 

故に、一か八かの最後攻めで、少しでもノーチラスに傷を負わせる。

上手くいくかは賭けに近かったが、明乃は勝負に出た。

 

 

「リンちゃん。対超兵器機関ミサイルの着弾を確認し次第転舵して!麻侖ちゃん、転舵終了と同時に機関全速!超兵器推進装置も稼働するけど大丈夫?」

 

 

『光学兵器と防壁の回復に使うエネルギーをカットすれば、出来ねぇこたぁねぇが…。』

 

 

「ありがとう!あと転舵して超兵器推進装置を稼働するまでの間に、撃てる限りの噴進爆雷砲をノーチラスに撃ち込んで!」

 

 

 

はれかぜの指針は決まった。

 

艦内が一気に慌ただしさを増す。

 

 

明乃の指示はまだ終わらない。

 

 

「ミミちゃん、不足している弾薬と、艦内の修繕に必要な物資のリストアップは出来てる?」

 

 

『勿論、1483秒前に完了!』

 

 

「解った。つぐちゃん、めぐちゃん。ペガサスにはれかぜの離脱の意思を伝えて!更に、スキズブラズニルの杉本さんに連絡をとって、ミミちゃんの纏めたリストを下に、直ぐ物資の積み込みと応急修理に取り掛かれるように伝えて!」

 

 

『了解!』

 

 

「艦長!まさか!」

 

真白は明乃の意図を察した。

 

 

「戻られるつもりですか?ここに…。」

 

 

「間に合うかは解らない。でも、もし少しでも力になれたら…。」

 

 

 

『艦長、攻撃準備よし!』

 

 

光の声で二人は我にかえる。

 

ギリギリの現状では、最早残された時間は僅かしかなかった。

 

 

彼女は静かに、そしてしっかりとした声で言葉を発する。

 

 

「皆…。」

 

 

誰が始めたのかは解らない。

だが、はれかぜの各所でクルー達は頷いた。

 

まゆみや秀子、そして艦橋の皆が頷いた。

 

明乃はそれに答えるように頷くと、大きく息を吸い叫んだ。

 

 

「行こう!攻ぉ撃始めぇ!」

 

 

カチャン…ブシュォォォ!

 

 

ボォォン!ボォォン!

 

 

ミサイルと主砲が超兵器へと飛翔する。

 

 

ドゴォォオ!

 

 

超兵器の艦尾付近に穴が開く、だが相手もただでは終わらない。

傾いた甲板上で主砲の仰角が動く。

 

 

「撃ってくるぞ!」

 

 

「急速加速!小刻みに蛇行して狙いを絞らせないで!ECM装置生きてたら最大出力で使って!」

 

 

「りょ、了解!」

 

 

ボォォン!…ブォォン!

 

 

『うっ、くっ…敵砲弾、本艦左舷前方に着弾!更にミサイル発射官開きました!』

 

 

「多分、多弾頭ミサイルです!ECMを使っても数発はこっちに来ます!」

 

 

「対空パルスレーザーを使って、ミサイルが分裂する前に撃墜して!メイちゃん、新型超音速魚雷発射始め!超兵器機関周辺の装甲がまだ抜けない!」

 

 

「了解!全弾命中でいっちゃうよ!」

 

 

『敵艦、ミサイル発射!数6!』

 

 

「迎撃始め!絶対に通さないで!順ちゃんお願い!」

 

 

『了解!ズキューンっと撃墜!』

 

 

キュキュキュキュ!

 

 

ボボボボォォン!

 

 

『はぁ…はぁ。や、やったぁ!』

 

 

順子は半ば無理矢理笑顔を見せるが、直ぐ様迎撃出来るよう準備を進め、

その額には汗が滲んでいた。

 

今まで彼女達を守っていた防壁は、次の攻撃で飽和、もしかすれば被弾も有り得る。

 

死を直ぐ身近に感じるこの状況に、誰もが極限の緊張を強いられていた。

そんな中、表情を変えずに立ち続けている者がいる。

 

岬明乃だ。

 

彼女は艦長だ。ブレる訳にはいかない。

どんな状況でも決して取り乱した様子を晒してはならないのだ。

 

 

「魚雷の発射、いつでも行けるよ!」

 

 

彼女は頷く。

 

 

「新型超音速魚雷、発射始め!」

 

 

「行っけぇぇ!」

 

 

パシュ!パシュ!パシュ!

 

魚雷が着水し、みるみる加速、超兵器へとひた走る。

 

 

「対超兵器機関ミサイル発射準備!」

 

ここから先、魚雷が超兵器機関を露出させられるかどうかは正直賭けでしかない。

 

だが、もう後戻りも出来ないのだ。

 

 

「対超兵器機関ミサイル、攻撃始め!」

 

 

「対超兵器機関ミサイル、発射始め!」

 

 

ガチャン…ブシュォォォ!

 

 

ミサイルが発射され超兵器へと向かう。

その直後、横倒しになったノーチラスに、先程放った魚雷が主砲が着弾した甲板付近へと立て続けに衝突。水柱が上がる。

 

 

 

「噴進爆雷砲、発射始め!リンちゃん、面ぅ舵一杯!超兵器推進用意!転舵終わり次第全速前進!」

 

 

「よ、ようそろ!」

 

 

はれかぜは、超兵器に噴進爆雷砲を撃ちまくりながら転舵を開始する。

同時に、艦両舷に設置された超兵器推進装置のブースターが可動に向けて音を大きくしていった。

 

ミサイルは一直線に、魚雷の穿った穴へと向かう。

そして、

 

ボォォン!

 

 

『対超兵器機関ミサイルの着弾を確認!』

 

 

「リンちゃん!」

 

 

「もう…少しぃ!か、艦長、いいよ!」

 

 

 

「戻ぉせぇぇ!全速前進、超兵器推進装置可動!出力75%に固定!噴進爆雷砲は射程圏外になるまで継続!総員、加速の衝撃に備えて!」

 

 

はれかぜが一気に加速する。

 

 

「か、艦長!超兵器が!」

 

まゆみの叫びに、明乃は外に飛び出してノーチラスを見据える。

 

炎上を続けるノーチラスの船体は、いよいよ海中へと没しようとしていた。

しかし、超兵器機関が消滅するときの凄まじい波動は感じられない。

 

 

(やっぱり駄目だったの?)

 

 

明乃が内心諦めかけた時だった。

 

 

ギュィィィン!

 

 

海中に没した超兵器機関付近から、暗い紫色のオーラ滲み出し、船体を包み込んで行くのが見えた。

 

 

(来た!)

 

 

明乃は急いで艦橋へと戻り、叫ぶ。

 

「噴進爆雷砲、攻撃止め!超兵器ノーチラス、暴走!衝撃波が来る。皆備えて!」

 

 

はれかぜは更に加速を続ける。

 

 

その頃、海中で爆雷が引き起こす衝撃波の奔流に晒され、尚且機関の暴走による自壊も始まっていたノーチラスは、足掻いていた。

 

ギ…ギ…ギギギィ!

 

 

船体は所々千切れ、分解され、バラバラなっていく。

 

 

《逃ガ…サナイ…アノ艦ハ危険ダト…判断ス…。》

 

ノーチラスは最後の抵抗に出る。

 

 

魚雷の発射官に、今まで¨撃たなかった¨魚雷を装填した。

 

ギギギィ!

 

軋みを上げ魚雷発射官が開く。

 

 

「急いで!早く離れて!」

 

 

明乃は叫び、はれかぜの加速は続く。

 

 

 

《逃ガサナイ…逃ガサナイ!》

 

 

そしてその魚雷は放たれた…。

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます!


もう少しで決着だったのですが、字数が間に合いませんでした…。


はれかぜ無念の一次撤退…。

ゲームだと無限装填装置(弾薬が無限になる装置)が有るのですが、無限に弾薬が有るのはやはり現実離れしすぎているので、制約をつけた結果の撤退です。




次回、ノーチラス戦は決着します。

今しばらくお待ちください。

それではまたいつか。





























とらふり! 1 /144ちょうへいきふりいと



播磨
「こっわ~!ノーチラス恐すぎだよ!トラウマだよ~!」



近江
「彼女は潜水艦の中でも異質な存在だから…。でもああ見えて結構寂しがりなのよ?」



荒覇吐
「そうなの?暴れ狂ってる様にしか見えないけど…。」



近江
「隠密行動が基本の潜水艦、しかも戦闘能力が高いと単艦での出撃が多くなるから…でも喜んでいたのよ。艦隊で出られるぅって。」



シュトゥルムヴィント
「結局は単独行動になっちゃいましたけどね…。これはゴネそうです。」



近江
「そうねぇ…彼女はアレを持っているから、もしかしたら使っちゃうかもしれないわ。」



播磨
「マジで!?とうとう使っちゃうの?」


近江
「解らないわ。アレは私達にとっても諸刃の剣だから…。まぁあの子を応援しましょう。」



荒覇吐
(アレかぁ…まぁいいわ。少なくとも人類の心くらいは折って頂戴ね…ノーチラス。)


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美女達と怪物   vs 超兵器

大変長らくお待たせ致しました。

ノーチラスとの決着です。

それではどうぞ


   + + +

 

 

 

ガチャン…バシュゥゥゥ!

 

 

船体がバラバラになりながらもノーチラスは最後の魚雷を放つ。

 

 

 

「!?」

 

 

楓は水中の音に違和感を感じていた。

 

 

(何?今、魚雷の発射音のような何かが…。船体の加速音で上手く聞き取れませんわ…。)

 

 

忍び寄る魚雷に未だはれかぜは気付いていない。

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長、はれかぜから補給の為、一次撤退したいとの通信が入りました。尚、はれかぜ乗員に死傷者は無し、超兵器に於いては暴走状態であり、未だ健在とのこと。」

 

 

「解った。至急了解したと返答してくれ。」

 

 

「はっ!」

 

 

シュルツはれかぜに返答を送るナギからニブルヘイムへて視線を移す。

 

 

 

(生きていてくれたか…。まずはそれを喜ぶべきだろう。其にしても単艦での戦闘で、撃沈はおろか死傷者すら居ないとは…。)

 

 

ノーチラスと対戦したことのある彼だからこそ、はれかぜ生存の報は驚くべき事だった。

 

 

 

かつてシュルツは、諸外国とウィルキア解放軍との連合艦隊100隻余りで、味方艦隊が消息を絶った海域へと向かった。

 

 

消息を絶つ前の友軍からの情報により、超兵器が発するノイズが微弱であることから敵が潜航型であると判断、対潜水艦装備を万全にした上での進軍だった。

 

 

しかし、敵の能力は解放軍の力を遥かに凌駕していたのだ。

 

当時、まだミサイルや防壁の開発が進んでいなかった解放軍は、ほぼ第二次世界対戦当時の対潜装備に毛が生えた位の装備と航空機しか所持していなかった。

 

 

対するノーチラスは、防壁こそ所持してはいなかったものの、

 

艦対艦多弾頭ミサイル

 

艦対空ミサイル

 

誘導魚雷

 

超音速魚雷

 

感応式機雷敷設魚雷

 

等の最新の装備と、50ktを超える高速で解放軍を一方的に蹂躙。

 

味方に多大な犠牲を払いつつも、当時最新だった対潜兵装、噴進爆雷砲と新型対潜ロケットを使用して、敵を浮上させることに成功。

 

しかし、悪夢はまだ終わってはいなかったのだ。

 

浮上したノーチラスは降伏すると見せかけて、戦艦大和を超える大口径砲と、彼等が初めて目にすることとなった光学兵器を使用して再び攻撃を再開、解放軍艦艇を次々と海に沈めていく。

 

 

その後、浮上と潜航を繰り返しつつ彼等を蹂躙したノーチラスは、苦戦の果てに撃沈されることとなったわけだが、最終的に連合艦隊100隻とノーチラスとの死闘で生き残った艦艇は僅かに7隻。

 

 

その7隻も、全てが大破ないし中破に追い込まれた。

 

 

シュルツの指揮していた艦艇も深刻な被害を受け、多数の死傷者を出すこととなり、大量の兵力を失った解放軍は、戦力を再集結させるためにかなりの時間を浪費することになったのである。

 

 

対するはれかぜが、たとえ兵装や防壁が最新だったとしても、ノーチラスを相手に一対一の戦闘に挑み死傷者一人すら出さなかったことが如何に驚愕すべき事であるかが解る。

 

 

だが、彼の不安は払拭されなかった。

 

数多の人間を海へと引きずり込んできた化け物が、そう簡単に獲物を逃がすだろうかと。

 

 

(何もしてこなければいいが…。岬艦長、どうか無事に逃げ切ってくれ。)

 

 

「ニブルヘイム、Ωレーザーの発射準備を開始しました!」

 

 

「急速加速!奴の正面には絶対に入るな!」

 

 

ナギの悲鳴にシュルツは即応する。

超兵器の相手をしなければならない以上、はれかぜの応援にはまわれない。

今はただ、はれかぜを信じるしかなかった。

 

 

「はれかぜ現速度は110kt!」

 

 

「超兵器機関の暴走が始まってる!急いで離れよう!」

 

 

はれかぜは海を走る。

 

 

その遥か後ろの海中では、暴走を引き起こしたノーチラスがいた。

 

 

ゴゴ…。

 

 

(!?…あ、あぁ…。)

 

 

楓はようやく、ソナーから発せられる音の違和感に気付く。

 

どうして気付けなかったのかと激しい後悔が沸き上がった。

しかし、罪悪感に浸る暇など有りはしない。

 

楓は通信機に向かって悲鳴に近い声を上げる。

 

 

『魚雷、感1!後方よりいらっしゃいます!』

 

 

艦橋の雰囲気が一気に重くなる。

 

 

その時、明乃の頭に少し先に起こるであろう情景が写し出された。

 

 

「え!?嘘…でしょ?」

 

 

「どうされました?艦ちょ…。」

 

 

「総員に通達!至急艦尾側の壁に避難して!目の前に物があるときは挟まれないように退けるか、その場所は避けて!早く!¨壁が床¨になる!」

 

 

 

「は?」

 

真白を始め、はれかぜ乗員全ての頭に?マークが浮かんだ。

 

 

「ねぇ…今のミケ艦長なりのジョークって事はないよね。」

 

 

「壁が床?どゆこと?」

 

 

口々に話すクルー達には、未だ危機感はない。

明乃を除く艦橋メンバーも同様だった。

 

 

ただ、みるみる青ざめていく彼女の表情にただならぬ雰囲気を感じてはいたが…。

 

そこへ、クルーの疑問代表するかの様に真白が口を開く。

 

 

「あ、あのう艦長。仰っている意味が良く解らないのですが…。」

 

 

「量子魚雷が来る。」

 

 

彼女の一言に一同の表情が初めて状況を理解し始めた。

 

量子魚雷が、先程の戦闘中に401の居たと思われる海域での渦を巻く黒雲と何か関係が有ることは明白だったからだ。

 

 

だが、元々超兵器級艦船との戦闘が可能な蒼き鋼やウィルキア艦隊の人員とは違い、彼女達は¨本当の意味での超兵器との戦い¨を知らない。

 

不穏の空気を感じ取ってはいても、事の深刻性を十分に理解できていないのだ。

 

 

唯一岬明乃を除いては。

 

 

彼女は一度気持ちを落ち着かせ、頭をフル回転させて状況を噛み砕いていく。

そしてそれを、はれかぜ全員に即座に理解できるような言葉で吐き出した。

 

 

「シロちゃん、艦橋の会話を皆に繋げて。」

 

 

「は、はい。」

 

「ココちゃん、量子魚雷の詳細を簡潔にもう一度お願い。」

 

 

「ええ…。量子魚雷は、仕組みは省きますが、要は起動地点に超絶な重力の力場を発生させる魚雷みたいですね…。その中心付近には、はれかぜを一瞬でペチャンコにしてしまうような凄まじい圧縮力が働いているとか。そう言う意味では、蒼き鋼の侵食魚雷に似ていますが…。」

 

 

「ありがとう。そう、でも量子魚雷には侵食魚雷とは明らかに違う作用がある。」

 

 

「そ、それは何ですか?」

 

 

「シロちゃん、私達が床に足を付けていられるのは、地球の重力に引っ張られているのは解るよね?」

 

 

「はい、理科の授業で習いましたが…それが何か?」

 

 

「じゃあもし、地球の重力より強い重力を持つものが空にあったとしたらどうかな?」

 

 

「綱引きの要領で考えれば、強い方に引き寄せられますから、私達は空に向かって落下する事に…まさか!」

 

 

 

「うん、量子魚雷の発する重力は恐らく地球のそれより遥かに強い。もしそれが起動したら…。」

 

 

「はれかぜが、いや私達乗組員もそれらに引き摺られる!まずい!」

 

 

真白の言葉を皮切りに艦橋の会話を聞いていた全てのクルーが動き出した。

 

 

 

もう先程までの余裕はない。皆が一様に事に備えた。

 

 

「ヤバイよ!早く壁際に体を寄せなきゃ!」

 

 

「待って!そこじゃ、向こうの置物がこっちに来て潰されちゃうよ!別の場所を選んで…。」

 

 

「テメェら急げぃ!工具箱みてぇな重量物の前にはぜってぇ行くな!」

 

 

「おい!済まないが誰か手を貸してくれ!薬品棚を移動しておきたい。中身が散乱したら不味いことになる!」

 

 

「どうしよう…炊飯器とか壊れないように、閉まったほうが良いのかな…。」

 

 

「美甘ちゃん、炊飯器よりも身を守らないと…。それに調理場にいたら危ないよ!包丁とかも飛んでくるかもしれないし…。」

 

 

艦内は騒然となるなか、明乃は焦りを募らせていく。

イメージとしては見えていても、彼女の実体験でない以上、量子魚雷の影響を完全には理解出来ていないのが大きかった。

 

しかし、手をこまねいている隙はない。

 

 

「サトちゃん!超兵器推進装置の出力を100%に上げて!」

 

 

「え?そんなことしたら…。」

 

 

「急いで!」

 

 

「わ、解ったぞな!」

 

 

「艦長!そんなことしたら艦が転覆してしまいます!」

 

 

「超兵器との距離を開けないと大変な事になる!」

 

 

「どうしたんです!?一体何を見たんですか!」

 

 

「このままいけば、はれかぜはかなり引き戻される。良くて量子魚雷から逃げられても、暴走した超兵器機関からの爆発には巻き込まれる可能性が高い。シロちゃんも知ってるでしょ?播磨の最後を…。」

 

 

 

「くっ…。」

 

 

真白の脳裏を、播磨が爆発した時の様子が過る。

 

あの時は、フルバーストモードの401に牽引される形で何とか脱出することが出来たが、今は401もウィルキアもいない。

 

彼女達は自らの力で超兵器から逃げ切らねばならないのだ。

 

 

超兵器推進装置がフル稼働の唸りを上げ、はれかぜは更に加速していく。

 

 

 

 

そして遂に。

 

 

カチン…。

 

 

超兵器を超兵器足らしめている兵器が…。

 

 

グゥウウォォォン!

 

 

彼女達に襲い掛かる。

 

 

 

「な、なんだあれは!」

 

 

「…来た。」

 

 

遠くの水中で鈍い光が見えた。

 

 

次の瞬間。

 

 

ヴォン…。

 

 

「うぐっ!?」

 

 

はれかぜクルー全員の体に、重石を乗せられたような圧が掛かった。

 

 

『ほ、報告!はれかぜ後方にてちょ、超兵器の兵装がき、起動…。あ゛ぐぁ、空には、暗雲が…あ゛あ゛…海、には渦が…!?』

 

 

 

「見張りは良いから、早く伏せて!あ、あ゛ぁ゛!」

 

 

明乃も必死で立とうとするが、体が重く踏ん張るのがやっとだった。

 

他のクルー達も、不意に訪れた感覚に体が付いていかない。

 

だが、これはまだ序の口に過ぎなかった。

 

 

「う…速度90ktに…低下!まだ下がります!」

 

 

「何故…超兵器推進装置は全開なのに…。」

 

 

「引き…寄せられてる?」

 

ヴォォォン!

 

 

「!?」

 

 

「あ゛あ゛ぁ…。」

 

 

体に掛かる重みが更に増していく。

だが、それだけではない。

 

「う、後ろに引っ張られる?」

 

 

明乃達はその場に踏ん張った。

 

艦が傾いているわけでもない。

彼女達は、まるで急な坂道を転がり落ちないように片足を後ろに突き出して耐える。

 

 

 

「う゛…こ、こりが、量子…魚雷か!」

 

 

「皆、今の内に壁際に避難…しよう。この体制じゃ…危ない!」

 

 

明乃達は、艦橋の壁へと移動する。

背中が壁に支えられルため先程よりは楽だった。

だが、

 

 

「り、リンちゃんも早く!」

 

 

「だ、ダメ!陀輪を離し…たら、艦が!あ、ああぁ!」

 

 

「リンちゃん!」

 

 

「な、なんだ?」

 

 

一同は唖然とする。

 

陀輪を握り締めた鈴の脚が、後ろの壁の方に向かって¨宙に浮いた¨のだ。

 

 

 

「い…や、嫌!何これ!?怖いよぉ!」

 

 

「リンちゃん落ち着いて!」

 

 

「いや…いやぁぁぁ!」

 

 

完全にパニックに陥った鈴に、明乃の声は聞こえていない。

 

 

明乃は意を決した。

 

 

「か、艦長?」

 

 

明乃は立ち上がった。

それも艦橋の¨壁¨からだ。

 

「リンちゃん落ち着いて!私に身体を預けて!」

 

「ひっ!か、艦長?」

 

そして、陀輪にぶら下がる鈴の腰に腕を回した。

 

「早くこっちに!」

 

「うぅ…解った。」

 

 

鈴は、漸く陀輪から手を離し、明乃に身体を預ける。

 

そこで二人が見た景色は、常識を根底から覆す光景だった。

 

 

「何…これ…。」

 

「ねぇ艦長…わわ、私、頭おかしくなっちゃったのかなぁ…。」

 

 

「大丈夫…私も多分、リンちゃんと同じものを見てるから…。」

 

 

二人は今にも目眩を起こしそうな衝動に駆られる。

 

それは普段、正面にある艦橋の窓が真上にあったからだ。

更に、左右を見ると海の水平線が¨縦¨に見えている。

と言うよりも、空へと伸びる海に乗って、はれかぜが昇っていくような感覚に近いものだった。

足元には、真白や芽衣達がいる。

実際には壁に寄りかかっているだけなのだが、二人には¨壁に寝そべっている¨ようにしか見えなかった。

 

 

「もう、頭がグチャグチャだよぅ…。」

 

 

そう言って泣きじゃくりながら明乃の手を握り続けている鈴を、何とか落ち着かせようとしながらも自分自身もまだ混乱の渦中にいる彼女の額にはジト…と汗が滲んでいた。

 

 

一方の艦内に於いても、混乱は広がっていた。

 

   +

 

「な、に?…どうしよう。もうワケわかんない…。」

 

「物も散乱してるし、身体は重いし…。」

 

「ねぇ…何か頭がボーっとする感じがしない?」

 

「私も…。」

 

   +

 

「…う~ん。」

 

 

「どうしたの機関長?壁で胡座をかいて。」

 

 

「何かすごい光景だね…SF映画の世界みたい。」

 

 

「テメェら何か感じねぇか?」

 

 

「麻侖も気付いた?」

 

 

「あぁ…どんどん身体に掛かる重みが増してやがる、それに…。」

 

 

「うん…それになんか身体がダルい?のかな…。」

 

 

   +

 

 

「薬品棚、崩れなくて良かったね。」

 

 

「いや…事態はより深刻になっているのやもしれん。」

 

 

「どういう事?」

 

 

「私達の身体は、飽くまで地球の重力に適応した身体だ。もし、それ以上の重力が掛かれば…。」

 

 

「ど、どうなるの?」

 

 

「潰れるだろうな、確実に。だが、その前に意識が無くなるだろうが…。美甘、お前も気付いているだろう?身体の重さ以外にな…。」

 

 

「うん。なんかボーっとするみたいな…。」

 

 

「脳に血液がうまく行き渡っていないんだ。身体を上手く動かして循環させれば大丈夫だが、これ以上重力がきつくなれば自由も利かなくなる。」

 

 

「ど、どうなっちゃうの?」

 

 

「脳にある血液が偏れば、血液に含まれている酸素が行き渡らない脳細胞は壊死する。そうなれば、至る所に機能障害が残るか、植物状態や記憶、精神の意味消失、最悪死に至る事もある。」

 

 

「そんな…。大丈夫だよね?きっと乗りきれるよね?」

 

 

「………。」

 

 

美甘の問いに美波は答えなかった。

 

 

 

   +

 

 

マチコは見張り台に垂直にしゃがみ込みながら周囲の様子を観察していた。

 

 

(海がまるで壁の様だな…。)

 

 

重力の影響で天地が90度回転してしまった状況にも関わらず、彼女は未だに冷静に観測を続けている。

 

そんな彼女が下を覗き込むと、はれかぜの遥か後方に巨大な渦が見えた。量子魚雷が作り出した大渦巻きである。

あれが発生して以降、はれかぜの速度はみるみる低下していった…と言うよりも、今はむしろ後退しているようにも思える。

 

 

ジリジリと渦に近づくにつれ、波が更に高くなり、身体が重くなっていくのを感じた。

 

 

 

(!!!?)

 

 

 

マチコはそこで気付く。巨大な渦の更に後方に、不気味な紫色の光を見たからである。

 

 

「くっ…!」

 

 

彼女は見張り台に飛び込み、急いで明乃へと通信を繋いだ。

 

 

「か、艦長!」

 

 

一方の艦橋では。

 

「はれかぜ、現在の速力は-18kt!引き摺られています!」

 

 

『か、艦長!』

 

 

「どうしたの?」

 

 

『超兵器が…超兵器が接近してきました!』

 

 

「え…。」

 

 

「馬鹿な…あれほどの攻撃と暴走による自壊があって、尚も動けるのか?」

 

 

真白は、愕然とする。

ふと見ると、明乃は険しい顔で拳を強く握り締めていた。

 

 

「ど、どうされました?」

 

「甘かった…。」

 

 

「何がです?」

 

 

「引き寄せられているのは私達だけじゃない。¨超兵器自身¨も量子魚雷の重力からは逃れられないんだよ!そしてそれを利用したんだと思う。」

 

 

「利用…ですか?」

 

 

「うん!超兵器は、量子魚雷を使うことで、私達と超兵器自身を近付けて¨自爆¨するつもりなんだと思う。」

 

 

「!」

 

 

超兵器の真意を理解した一同は驚愕した。

 

 

「ど、どうすれば良いの?」

 

 

「………。」

 

 

「艦長!」

 

 

「解らない…。」

 

 

「え?」

 

 

いつも困難な時、最善の解を最短で導き出してきた明乃の口から溢れた言葉に、一同は一瞬聞き間違えなのではと困惑した。

 

しかし、彼女はその考えを否定するかのように口を開く。

 

 

「解らない。どうすれば良いのか解らないよ…。」

 

 

「そんな…。うっ!」

 

 

「メイちゃん!?」

 

 

「急に…意識が…遠くなって…。」

 

 

「重力が…更に強くなっ…くそ!頭が…割れそうに痛い…。」

 

 

「身体が…重い…うぅ、怖いよぉ…。」

 

 

一同が、強烈な重力に頭を抱え、苦しみに悶える。

 

艦内の至る所でも呻き声が上がっていた。

 

明乃の自身も、身体の重みに堪えかねてその場にしゃがみこむ。

 

「うっ…くっ!」

 

堪え難い苦痛と、どうすることも出来ない悔しさが込み上げてくる。

 

 

強烈な重力と暴走した超兵器機関の爆発。

 

正に絶対絶命のピンチであった。

 

明乃は意識が遠くなるような感覚に襲われる。

脳に血液が上手く循環していない証拠であった。

 

(もう…ダメ!)

 

 

 

明乃の意識が今、正に途切れようとした時だった。

 

 

「うぅ…。あ、あれ?」

 

 

「身体が、軽くなっていく?」

 

 

真白は手足を動かしてみた。

先程まで、縛り付けられていたかの様な事感覚が徐々に薄れていく。

 

明乃も額に玉の様な汗を光らせながらも立ち上がった。

 

「はぁ…はぁ。量子魚雷の効果が…切れた?チャンスかもしれない。出来るだけ距離を稼がなきゃ!マロンちゃん大丈夫?」

 

 

『ああ…何とかな。だが、ソラとサクラが気絶しちまった。レオとルナが手当てをしてる…。』

 

 

攻撃の影響で行動不能になった人員がいることに、明乃は内心動揺しながらも言葉を繋ぐ。

 

「命に別状は?」

 

 

『多分…無い。で?何がやりてんでぃ。』

 

 

「加速している時間が惜しいの。急加速装置で一気に加速したい。頼める?」

 

 

『解った。だが人手が足りねぇ。三分…いや、二分くれ。』

 

 

「解った、お願い。美波さん、怪我人の状況を確認できる?」

 

 

『………。』

 

 

「美波さん!大丈夫!?返事して!」

 

 

 

『うぅ…どうしよう艦長!』

 

 

「ミカンちゃん?」

 

 

『美波さんが…美波さんが起きないよぉ!』

 

 

美甘はパニックになっているのか、泣きじゃくりながら捲し立てた。

 

 

「え!?何があったの?」

 

 

『急に…美波さん、う…うぅ、倒れちゃって。私…何も出来なくて…。』

 

 

「落ち着いてミカンちゃん!息はある?脈は?」

 

 

『え?あっ…だ、大丈夫。息はあるみたい。』

 

 

明乃は一先ずほっとする。

 

「美波さんは倒れる前に何か言ってなかった?」

 

 

『え、えっと…あ、もしかしたら重力の影響で、脳に血液と酸素が行き渡らないかもとか言ってた。』

 

 

「解った。美波さんは多分大丈夫。ミカンちゃんは平気?」

 

 

『何とか…ちょっとフラフラするけど…。』

 

 

「よく聞いて!はれかぜは、これから急速加速に入る。今艦橋は、状況の把握をする暇が無いの。ミカンちゃんは加速の前に皆と手分けして、怪我をした人の確認と衝撃に備えて安全な所で伏せるように伝えてほしいんだ。」

 

 

『わ、解った。』

 

 

美甘は慌てて走り出す。

 

 

キィィィィ!ギィィィイ!

 

 

はれかぜが離脱に向けて動き出す中、超兵器機関の暴走は臨界に向けて唸りを上げていた。

その不気味な紫色の光は艦橋の艦橋からも伺う事が出来る程に強く輝く。

 

 

明乃は超兵器の自爆の事をクルーに伝えてはいない。更なるパニックを起こさない為でもあった。

 

だが動ける者の顔は、まるで死神に追い立てられているかの様な必死の形相をしている。

 

 

彼女達の勘が、ここに居ては危険であると本能的に警鐘を鳴らしているのだ。

 

 

「クロちゃんまだか!?」

 

「もう少…し!よし、良いわよ!」

 

 

『艦長!いいぜ!』

 

 

 

「解った!総員、衝撃に備えて!急速加速!」

 

 

キュィィン!

 

 

「うぉ!」

 

 

真白は凄まじい加速に思わずよろけ、明乃がその身体を受け止める。

 

 

(間に合って…間に合って間に合って間に合って!)

 

 

明乃は祈った。

誰も失いたくない、そう言う気持ちの表れでもある。

 

 

はれかぜは、矢の如く突き進む。

転覆の危険も顧みず突き進む様は、彼女達がどれだけ追い詰められているのかをものがっていた。

 

 

超兵器とはれかぜの距離がみるみる開いていく。

 

 

(もう少し…もう少し離れれば。)

 

 

だが…。

 

 

ギィィィイ!

 

「超兵器ノイズ極大化!臨界に達している模様です!」

 

 

(くっ…間に合わなかった!?)

 

 

明乃を含めた誰もがそう思ったとき。

 

 

《アナタ■マダ沈ン■■イケナ■。》

 

 

「え?なに?」

 

 

突如頭に聞こえたきた声に明乃は動揺する。

だがそれは、超兵器ノイズを観測していた幸子からの声に描き消された。

 

 

 

 

「超兵器ノイズが弱まっている?」

 

「どういう事だ?」

 

「解りません…解りませんが…。」

 

 

「今のうちに距離を稼いだ方がいいな。」

 

 

 

 

 

真白の意見に反対の者は皆無だった。

だが、明乃の心はざわつく。

先程の声は、以前感じたはれかぜの魂とも、超兵器の意思とも違う雰囲気を感じたからであった。

それは確固たる義務感とそれと同量の苦痛に近いものだった。

 

 

《必ズ辿■着イテ。北■海ヘ…ソシテ…。》

 

 

(まただ…。)

 

明乃は聞き逃すまいと意識を集中させるが、何故か何かに邪魔をされているかのように上手く聞き取れない。

 

 

 

《オ願■。私ヲ■■テ、全テ■■■■セテ…。》

 

 

(誰!?あなたは一体誰なの?)

 

 

《抑エ…キレナイ…。》

 

 

声はそれきり途切れてしまう。

 

 

「艦長!超兵器ノイズ再び極大化!爆発します!」

 

 

ギィィィイ!

 

 

辺りがみるみる光に包まれていく。

 

「ま、巻き込まれるぞ!」

 

 

「皆!伏せて衝撃に備えて!手が空いていたら、耳と鼻を塞いで口を閉じて!」

 

 

明乃が叫び、全員がその場に伏せた直後だった。

 

 

ギィィィ…

 

ブゥゥオオオオン!

 

 

凄まじい衝撃波と爆音がはれかぜに襲いかかった。

 

波は掻き回され、艦が激しく揺れる。

 

「う、あああああああ!」

 

 

耳を塞いでいても意味を成さない程の轟音と激震に、誰もが悲鳴を上げた。

そして、超兵器の爆発によって生じた水蒸気がはれかぜを覆い、大海原に揺れる小さな船の姿を完全に隠してしまったのだった。

 

 

   + + +

 

 

ゴクリ…。

 

シュルツは思わず唾を呑み込んだ。

 

 

遥か彼方の空には黒い雲が渦を巻いており、はれかぜに向かって量子魚雷が放たれた事は明白だった。

更にだ。

 

 

ピカッ!…ゴォォオオ!

 

 

その後に起こった光は、暴走した超兵器が大爆発を起こしたことを窺わせている。

 

 

「な、ナギ少尉!はれかぜとの連絡はどうか?」

 

 

「だ、駄目です!量子通信をもってしても全く通じません!」

 

 

「大戦艦ヒュウガに連絡をとれ!彼女のセンサーなら或いは…。」

 

 

『無駄よ。』

 

 

「大戦艦ヒュウガ…。」

 

 

『量子通信が通じない理由は二つあるわ。一つは超兵器機関の引き起こす爆発は、一時的にだけど時空をも歪ませるレベルの規模で発生するの。その歪みが収まらない限り、私のセンサーですら感知は難しいわ。二つ目だけど、はれかぜが完全に…。』

 

 

「………。」

 

 

 

ヒュウガはその先を言わなかった。

 

だが、シュルツですら予想していた事態でもある。

 

 

ドン!

 

 

「くそ!」

 

 

シュルツは、思わず壁に拳を叩き付ける。

 

 

(アームドウィングは潜水艦だ。同じ潜水艦なら量子魚雷を装備している事くらい予想できたと言うのに…。)

 

 

後悔の念が彼に大きくのし掛かる。

 

はれかぜの乗員は軍人ではない。

 

粉々になった死体の山など見たこともない普通の女性なのだ。

 

本来それを守る筈の自分達解放軍が、むざむざ尊い命を失わせてしまった事は、恥以外の何物でもなかった。

 

 

「超兵器…貴様らは一体、幾つ命を奪えば気が済むんだ!」

 

 

ギリッ!

 

 

シュルツはニブルヘイムを睨み付ける。

その鬼気迫る形相に、回りにいる者は誰も話し掛けることが出来なかった。

 

 

 

   + + +

 

 

「嘘…だろ?」

 

 

遠くの空に見える黒雲を吹き飛ばした超兵器の爆発を目撃した江田は、思わず唾を呑み込む。

 

 

「芽衣…さん。」

 

 

彼は力無く呟いた。

 

まだ彼女が、死んだとは決まっていない。直ぐにでも安否を確認したい。だが、確認した果てに彼女の死を観測してしまえば、否応なしにそれを認めることになってしまう。

昨日まで隣にいた戦友が明日には居なくなることが珍しくなかった江田にとって死はとても身近なものなのである。

 

 

芽衣は江田が超兵器に特攻を掛け、撃墜された時にショックで泣き叫び、意識を失ったと聞いていた。

 

 

今なら彼女の気持ちが解る。

操縦桿を握る手足が痺れ、言うことを聞いてくれない。

真っ直ぐ飛んでいる筈なのに視界が歪むような錯覚に陥り、今にも絶叫し錯乱しそうになる。

 

 

「うぅ…くそっ!」

 

 

だが江田は目尻に滲む涙を堪えつつ前を向く。

 

 

(しっかりしろ!生きていていることだけを考えろ!自分に生きろと言ってくれた人を信じろ!)

 

 

そう自分の心を叱咤し、彼はセイランのスロットルを上げていく。

 

 

そうして数分もせぬ内に爆心地付近に辿り着いた江田は、はれかぜを探す。

 

辺りは凄まじい水蒸気の湯気で視界が思うように取ることが出来なかった。

 

 

(くそ…思うように見渡せない。はれかぜは…芽衣さんは無事なのか…ん?)

 

 

 

江田は目を凝らす。

一瞬、何かの構造物らしきものが見えた。

彼はセイランの機体をそちらに向けて接近する。

 

 

「あっ!あれは!」

 

 

視線の先、水蒸気の中から一隻の艦が姿を現した。

 

 

 

「はれかぜ…無事だったんだ!はれかぜ!こちら江田、応答願います!岬艦長!応答願います!」

 

 

 

   + + +

 

 

「ん…私、生きてる…の?」

 

 

意識を取り戻した明乃は手足の痺れや耳の痛みと目眩に苛まれながらも、立ち上がる。

 

 

見渡すと、辺りには仲間達が倒れており、外はもやに覆われなにも見えなかった。

 

 

(う…フラフラする…どの位気絶してたんだろう。そ、そうだ私達は超兵器機関の爆発に巻き込まれて…。)

 

 

彼女は朦朧とするなか、近くにいた真白に歩み寄る。

頬に手を当てると「んっ…。」と反応が帰ってきた。

 

 

 

(大丈夫…息はあるし、目立った怪我もない。超兵器推進装置は…セーフティが作動して止まっちゃったのかな。)

 

 

一先ずは安堵するが、状況は芳しくない。

 

恐らくは、艦内にいる仲間達も気絶しているのだろう。

 

事実上、はれかぜは漂流しているのだ。

 

これ以上事態を放置し、絡を途絶させた状態では、スキズブラズニルとの合流も難しくなる。

 

 

「み、皆起きて!」

 

 

「うっ…ん…。か、艦長?はっ!艦長!私達は一体?」

 

 

真っ先に目を覚ました真白が、動転したように捲し立てた。

明乃は笑顔を向けて彼女を落ち着かせる。

 

 

「落ち着いてシロちゃん!とにかく皆を起こそう。それから状況を把握して、スキズブラズニルと合流しなきゃ。」

 

 

「あっ、はい!」

 

 

二人は急いで仲間を起こす。

其々が頭を抑えたりフラつきながら何とか立ち上がった。

 

 

その後、真白を中心とした数人が艦内を回り、怪我人無や設備の破損の有無を確認する。

 

幸いな事に、死者や重傷者はいなかったが、何名かは倒れた際に怪我をした者や、耳に異常を訴える者は居た。

破損も軽微である。

 

 

明乃は美波に怪我人の治療をお願いし、機関部に点検の指示を出してから

、鶫にスキズブラズニルへの連絡を頼んだ。

 

 

一息つく間も無く、辺りを見渡すと、未だにもやの中からは脱出出来てはいない。

 

明乃は内心悔しさを噛み締めていた。

こうしている間も、シュルツや群像は死地に立ち続けている。

 

そこへ支援に行けないばかりか、仲間に怪我を負わせてしまったのだ。

 

 

超兵器は消滅した。

形から見れば明乃達の勝利なのであろう。

 

だが、ソレが放った未知の兵器は、彼女達の心に大きな傷を残す結果となった。

 

 

「あ、あうっ!?き、ひっ…ひっ…。」

 

 

「!!?」

 

 

「知床さん!」

 

その苦しそうな声と幸子の悲鳴に明乃は慌てて振り替えると、鈴が喉や胸を抑えその場にへたり込んでいた。

 

 

「リンちゃん!リンちゃんどうしたの?大丈夫?」

 

 

「み、さき…さん…ひっ…ひっ…かはぁ…くるし…こわ…い。」

 

 

「リンちゃんしっかり!今美波さんを呼ぶから!」

 

 

『その必要はない。もしや航海長は呼吸が早くて苦しそうにしているんだろう?』

 

 

「美波さん!?そ、そうなの!お願い助けて!」

 

 

『落ち着け。周りがパニックになると更に症状を悪化させるぞ。それは過度のストレスによる過呼吸だ。こっちも今、何人か対処してる。』

 

 

「過呼吸!?どうすればいいの?」

 

 

『呼吸のバランスの乱れだ。大概は数分で収まるが、あの攻撃の後だ。そう上手くはいかない。周りにいる者は出来るだけ手を出すな。航海長に口の回りを空間を開けて手で覆うよう指示しろ。くれぐれも、ピッタリ抑えるなよ。窒息の危険がある。』

 

 

明乃は美波の指示通りにリンに口の回りを覆うよう促した。

彼女は震える手で何とか口元を抑えている。

目に涙をうかべ苦悶の表情を見せる姿は痛々しかった。

 

 

「その後はどうするの?」

 

 

『息の吸うと吐くの一サイクルを十秒間かけてゆっくりと行え。吸う:吐くが1:2の割合だ。出来るだけ息を吐く事を意識させるんだぞ。もしそれでもパニックになるようなら、胸や背中をゆっくり押して、呼吸をゆっくりするように促し、声を掛けて気分を落ち着かせてやれ。』

 

 

 

「解った!ココちゃん、リンちゃんを後ろから支えて!」

 

 

「わ、解りました。」

 

 

「リンちゃん、大丈夫。もう大丈夫だよ。だからゆっくり息をして。息を吐くことを意識して。」

 

 

「知床さん、ほら吸って、吐いて~。」

 

 

明乃はリンの額に自分の額を当てて深呼吸をしつリンに同じリズムで呼吸するよう促す。幸子も、背中をゆっくり押して介助しつつもう片方の手で肩を擦って落ち着かせた。

 

 

「ひっ…かはっ…はぁ…はぁぁ…。」

 

 

彼女は漸く落ち着き、呼吸が安定した。

だがまだ手足が痺れているのか、幸子に背中を預けたまま虚ろな目で明乃を見つめる。

 

 

(リンちゃんあんなに苦しそうに…きっと怖かったんだ。)

 

 

彼女の心に、なにも出来なかった自分と、超兵器に対する怒りが沸々と沸き上がってくる。

 

 

 

その時だった。

 

 

「か、艦長!もやから抜けるみたいだよ!」

 

 

芽衣の声に我に帰った明乃が外を見ると、視界が徐々に開けてきた。

 

 

『はれかぜ!こちら江田、応答願います!岬艦長!応答願います!』

 

 

「江田さん!?」

 

 

「健一くん?どうしてここに?」

 

 

『良かった…無事だったんですね?連絡が途絶したので心配になって…。』

 

 

「そうだったんだ。ゴメンね…心配かけて。」

 

 

『いいえ。生きていてさえくれれば…あっ、すみませんでした〃〃。えぇっと、シュルツ艦長も心配しておられます。一応報告をお願いできればと。』

 

 

「解りました。此方から伝えます。」

 

 

『はい。それでは私は…。』

 

 

「健一くん!」

 

 

『はい?』

 

 

「健一も、無理しないで…。」

 

 

『ありがとうございます。必ず帰ります。』

 

 

「ん。」

 

 

江田を乗せたセイランは、はれかぜから離れていく。

 

それを見届けた明乃は、シュルツへと連絡をとった。

 

 

「こちらはれかぜ。」

 

 

『岬艦長!?ご無事だったのですか?』

 

 

「はい。軽傷者は居ますが、全員無事です。機関に問題が無ければ、私達はスキズブラズニルと合流し、補給と応急修理の後にそちらの支援に当たります。」

 

 

『………。』

 

 

「シュルツ艦長?」

 

 

『誠に遺憾ながら、承服出来ません。』

 

 

 

「え?」

 

 

思わぬ返答に明乃は、動揺する。

 

 

 

『はれかぜ及び乗員の皆さんは、恐らく満身創痍な筈です。このまま戦線に復帰されても足手まといになるだけです。』

 

 

 

「でも!」

 

 

『岬艦長。私の話をよく聞いてください。かつて超兵器が放った未知の兵装を初めて受けた我々は、精神をかなり疲弊しました。あなた方もそうなのでは無いですか?』

 

 

「………。」

 

 

『お気持ちは解ります。自らの世界を他世界の人間に一任してしまうことは、さぞ悔しい事でしょう。ですが、冷静な状況判断を下せない者を現場に出すことは出来ません。解りますね?』

 

 

「…はい。」

 

 

戦場にいるとは思えない程、穏やかな声で話すシュルツに、明乃はぐうの音も出なかった。

 

 

 

『岬艦長。世界を守るためには、必用なものが最低二つは要る。一つは、立ちはだかる障害を排除する存在。そして…。』

 

 

シュルツはまるで子供を諭す様に努めてゆっくりと明乃に語り掛けた。

 

 

『障害に怯える者達と心を同じくして寄り添う存在です。』

 

 

「!」

 

 

明乃は目を見開いた。

 

 

『傷付いた世界を癒すのは、武力ではない。あなたならそれを理解している筈だ。ブルーマーメイドのあなたなら。』

 

 

「シュルツ…艦長。」

 

 

『解りますね?武器を取らなければ大切な者を守れない、しかし武器を手に取ったままでは大切な者に寄り添えない。決して忘れてはいけません。今は体制を整え、来るべき時に備えて下さい。』

 

 

「来るべき時?」

 

 

『はい。この戦いは飽くまで前哨戦に過ぎない。恐らく、真の戦いはこの先にある。その時、罪無き民衆に降りかかる灼熱の業火を払い、海に流れる血を減らし、心を癒せるのはあなた方だけです。それまでは、私達を信じてこの場を任せて頂きたい。』

 

 

明乃は、悔しさを滲ませながらも頷く。

 

 

「…解りました。この場をお任せします。どうか気を付けて下さい。」

 

 

『…ええ。必ず、超兵器を打倒して帰ります。それと岬艦長。』

 

 

「はい、なんでしょうか?」

 

 

『申し訳ありませんでした…。』

 

 

「…え?」

 

 

『はれかぜの皆さんを助けられず怖い思いをさせてしまった事、此からもその様な戦いに巻き込んでしまう事、そして何よりも…人に寄り添えと言っておきながら、結局はあなた方にはれかぜを与え軍人の様な事をさせてしまった事。本当に後悔してるんです…優しくて、誰よりも他者を思いやれる心を持った方達なのに…。』

 

 

「そんな事有りません!後悔してるだなんて言わないで下さい!だって私達は…。」

 

 

『いえ、良いのです。では、どうか待っていてください。あなた方の進む道を切り開いて来ます。』

 

 

「待って!シュルツ艦長!」

 

 

通信が切れる。

明乃はその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

実際、明乃の表情は普段とはあまり変わらない。

それは、彼女自身が心を抑えているに他ならなかった。

 

元々、周囲へ当たり障りの無い対応をする明乃は、自身の本音をなかなか吐露することは少ない。

更に、現在彼女は負の感情を強く抱くと、超兵器の意思から干渉を受けてしまう事も相まって、自身の心を強く抑えているのだ。

 

 

「岬…さん。」

 

 

「り、リンちゃん!?」

 

 

立ち尽くす明乃に、鈴が弱々しい声で語りだした。

 

 

「どうしたの?まだ無理しちゃ…。」

 

 

「岬…さん。我慢…しないで…私達、仲間だよ?辛い時も…悔しい時も、一緒じゃなきゃ…ダメ。だから…岬さんが辛いなら…苦しいなら、我慢せずに言って欲しい…私達、受け止める…から。どんな感情でも…受け入れるから!…ケホッ…ケホッ。」

 

 

「知床さん。まだ無理しちゃダメです!」

 

 

「一体何が起きたんだ?」

 

 

「シロちゃん…。」

 

 

「な、何でしょう?」

 

 

「気付いてたんだ…私。」

 

 

「何をです?」

 

 

「超兵器が私達に手加減してた事、本当はペガサスや401が本命で、私達は足留めされてただけだって事。」

 

 

「そんな…だって我々だって散々超兵器を追い詰めてきたではありませんか!」

 

 

「だったら、どうして初めから量子魚雷を撃たなかったの?」

 

 

「そ、それは。」

 

 

「超兵器達の真意は解らない。だけど此だけははっきりしてる。超兵器にとってウィルキアや蒼き鋼は邪魔な存在で、私達は取るに足らない存在だった。何時でも倒せるって…少なくともノーチラスを追い込むまでは。」

 

 

 

「どういう事ですか?」

 

 

「最後の方は明らかに私達を仕留めに来てた。量子魚雷も多分そう。恐らくは超兵器としても私達の健闘は誤算だったんだと思う。だからこの際、始末しようとしたんだよ。」

 

 

「ですが私達は、ノーチラスを打倒しました。」

 

 

「そうかな…。」

 

 

明乃はうつ向きながら続ける。

 

 

「確かに、ノーチラスは倒した。でも超兵器はまだ残ってる。それも今回以上の相手が…。」

 

 

「……。」

 

 

「それにシロちゃんも見てきたんでしょう?皆の様子どうだった?」

 

 

「ショックを受けて怯えている者もいました…。」

 

 

「うん…。きっとそうだと思う。もしかしたら怪我は軽くても、もうはれかぜには乗れないかもしれない。ううん、もしかしたら次に陸上がったら二度と海には戻れないかもしれない。艦は一人で動かすものじゃないから、結果としたら超兵器の思惑通りだったのかもしれないね…。」

 

 

「…艦長。」

 

 

「シロちゃん、皆…。悔しい…悔しいよ!今もシュルツ艦長や千早艦長が戦ってるのに、私…何も出来ない!それに皆にも、こんな怖い思いをさせちゃった!本当に大切な【家族】なのに。」

 

 

明乃は涙を抑えきれなかった。

 

普段はクルーに不安を与えない為に冷静を装っていた彼女の心が溢れてしまったのだ。

 

 

「うぅ…あ…ああぁ!」

 

 

声をあげて泣く明乃に、周りの仲間達も、死と隣り合わせの状況下からの開放と、超兵器の恐怖が蘇り、艦橋内に啜り泣く声が聞こえた。

いや、艦橋だけではない。

はれかぜ艦内の至るところで、同様に仲間達が泣いていた。

彼女達とて、志しを同じくしてはれかぜに乗ると決心した者達だったからだ。

 

 

だが、超兵器の攻撃は彼女達の心を意図も簡単に打ち砕いてしまった。

 

 

 

ダンッ!

 

「ま、麻侖!?」

 

 

「くそっ!」

 

 

麻侖は壁に拳を叩き付ける。

いつもならここで明乃に檄をいれるところであるが、身体が恐怖を覚えてしまっているのだ。

 

 

(何でだ!何で艦長に《そんなことねぇ!くよくよしねぇで前を向きやがれ》って言えねぇんだよ私は!)

 

 

 

ダンッ!ダンッ!

 

 

「麻侖!もうやめてよ!それじゃ手が…お願いだから!」

 

 

目に涙を浮かべながら洋美が止めようとするが、麻侖は一向に聞かなかった。

 

 

「くそっ!…ちっくしょうぉぉぉぉ!」

 

 

涙を流し、悔しさを露にしているのは皆同じだった。

 

 

 

彼女達を乗せ、はれかぜは進む。

 

 

彼女達の涙を乗せて。

 

 

その悔しさの味は、皮肉にも海の味と似ていた。

 

 

 

はれかぜ

 

当海域より撤退す…。

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。

あえなく撤退となったはれかぜですが、それを説得するのが軍人であるシュルツと言うところが、個人的に書き込みたい場面となりました。


ミケちゃんは飽くまでもブルーマーメイド。



100年以上の平和な世を過ごすとつい忘れてしまいがちですが、シュルツは戦争で疲弊した世界から来ていますので、ミケちゃん達にだけは、戦争に馴れて欲しくないと考えていたのかもしれません。


次回まで今しばらくお待ちください。





























とらふり!



真白
「艦長…。」



芽衣
「何々?リンちゃんに艦長へのセリフ取られて意気消沈してんの?」



真白
「な、違っ!急に何を言うんだ!」


芽衣
「でも惜しかったねぇ~。艦長に起こして貰う時、副長じつ実は起きてたでしょ?」


真白
「お、起きてない!だから艦長の顔が私に急接近した事も知らない!てか一部始終見てたのか?」



芽衣
「さぁ~♪でも、あんなに顔を赤くしてたら誰でも気付くんじゃないかな。艦長以外は。」



真白
「え?私、そんなに顔に出ていたのか?平静を保ったつもりが…。」



芽衣
「やっぱり起きてんじゃん。」



真白
「ぐっ…。わ、私だってたまには殺伐した関係じゃなくて甘あ~い雰囲気になっても良いじゃないかぁ!」


芽衣
「何も泣かなくたって…でもそこが副長の良いところだと思うよ。ファイト、副長!」





それではまたいつか


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兵器の安息   VS 超兵器

お疲れ様です。

アームドウィング戦決着となります。

それではどうぞ


   + + +

 

 

 

『待って!シュルツ艦長!』

 

そう叫ぶ明乃を突き放すように、シュルツは通信を切った。

博士が、心配そうな表情を見せる。

 

 

 

「宜しいのですか?今や彼女達の戦力は必要不可欠です。戻って来てくれるのであれば、とても心強いのですが…。」

 

 

 

「彼女達にはきちんと思考する時間が必要なのです。これから戦って行くであろう超兵器は特に…。」

 

 

「確かに…。嵐を起こして海を暴れさせ、焼き凍らせ、都市を消し去り、山を吹き飛ばして大陸を削る。そして今回この世界への侵攻で、彼等が時空にすら干渉しうる力を持っていることも解ってきた。最早これは、この世界だけの問題ではありません。あらゆる平衡世界に存在する者全ての問題です。」

 

 

 

「流石に彼女達にそこまで背負わせるつもりは有りませんが、しかしヴォルケンクラッツァー討伐には、世界全体の協力が不可欠です。我々が超兵器を倒し過ぎれば、きっと世界は私達に依存してしまうでしょう。それは最早、奴に単艦で挑むのと同義です。」

 

 

「そうですね…。あの時も六万隻の軍艦が集結しました。残ったのはおよそ数千でしたが…。」

 

 

「余りにも多くの犠牲が支払われた…。よもやそれが全くの無駄になるとは、あの時は考えもしませんでしたが…。」

 

 

「そう…ですね。」

 

 

「今は、目の前の敵を潰していくしかありません。ブルーマーメイドの本拠地が欧州キールにある以上、その解放なくして協力が得られないのですから。」

 

 

「ええ…。」

 

 

博士は険しい表情で頷く。

目の前のシュルツは、会話をしながらもニブルヘイムから一切目を離していなかった。

 

 

その鋭い眼光とは裏腹に、背中から漂うのは一人で支えるのには重すぎる重圧と後悔が感じ取れる。

 

博士は心配でならなかった。

彼がいつかその重圧に潰されてしまうのではないかと。

 

 

(こう思うのは無責任なのかもしれないけど、彼を救えるのは岬艦長や千早艦長なのかもしれない…。¨艦長¨と言うなの孤独を敢えて受け入れたあの人達しか…。)

 

 

博士は視線を外へと向けた。陽は傾き、空が茜色に変わる。

 

そんな美しい光景に似つかわしくない、激しい咆哮が辺りに響き渡った。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「ん…このスクリュー音は、量子魚雷。感6。」

 

 

 

「一番から六番、侵食魚雷装填!撃て!」

 

 

「一番から六番、はいさ~!」

 

 

バシュ!バシュ!

 

 

401から侵食魚雷が放たれ、量子魚雷へと向かう。

 

 

ボフ…ギュウォォ!

 

 

侵食魚雷が着弾し、量子魚雷を丸ごと消滅させる。

 

しかし、アームドウィングからの攻撃は止まない。

 

 

「敵艦から多数の射出音を確認!魚雷発射数160発以上、なお海面に対潜水艦ミサイル120発以上の着水を確認、更に魚雷の音紋より特殊弾頭魚雷が複数含まれている模様!」

 

「マジかよ!横須賀でハルナとキリシマぶっ放してきた奴よりすごい数だぜ!?」

 

 

「迎撃しろ!魚雷が核だった場合は、アクティブデコイのナノマテリアルを使用して吸着、現状そのまま密封して後処理をヒュウガに引き継ぐ!」

 

 

401から多数の魚雷やミサイルが飛び出す。

それらは、アームドウィングの放った数多の弾頭に着弾し、爆圧が海中を引っ掻きまわした。

 

 

「まだです!全てを迎撃しきれません!」

 

 

「杏平任せたぞ!」

 

 

「はいさー!」

 

 

ズガガガガガガ!

 

 

401に設置されている。水中機銃が撃ち漏らした弾頭を処理していく。

 

 

ボォン!

 

 

「ぐぁあ!」

 

 

至近で爆発した衝撃が直に伝わってくる。

 

現在401は、クラインフィールドを使用していなかった。

 

 

「やはりクラインフィールドを使えないのは辛いですね…。まさかこれ程の衝撃とは…。」

 

 

「確かに…。クラインフィールドを使えないことによって、本艦の発する騒音は、敵艦に150%増しで伝わっていると思われます!」

 

 

「それも厄介だが…イオナ、俺達の撃った攻撃が敵に命中した形跡はあるか?」

 

 

「無い…。超兵器ノイズが有るから大まかな方向は解るけど、何故か音波からは詳しい位置が特定しにくい…。」

 

 

「何故だ?」

 

 

「ん…。」

 

 

イオナは目の前のモニターに視線を向けた。

画面に写し出されたのは一隻の潜水艦の画像である。

それは扁平で白く細長い船体をしていた。

 

「これは…我々の世界で日本が所持している原子力潜水艦【白鯨】か?」

 

 

「ん…。横須賀に寄港した時に情報を奪取した。」

 

 

「やはり気付いていたのか…。」

 

 

「気付いてはいた…。でも実際興味は無かった。」

 

 

「人類の切り札と言われたアレに興味が無いとは…まぁ実際、霧の脅威にはならないか…で?白鯨がこの超兵器と何か関係が有るのか?」

 

 

 

「恐らく…。白鯨が装備している¨微細動タイル¨と類似する性能の装甲を有している可能性が高い。ステルス性能だけじゃなく、音波を吸収して更に隠密性を高めている。」

 

 

「巨体の割に発見されなかった理由はそれか…。イオナ、先程調べて欲しいと頼んだ件はどうなっている?」

 

 

「既に完了してる。超兵器は、量子魚雷を発射する際に私達との距離に一定の間隔を開けていることが解った。その理由は…。」

 

 

「俺の予感が当たっていれば、超兵器自身も重力の奔流から逃げられない…だろ?」

 

 

「そう…。量子魚雷による重力の有効範囲は、直径およそ7500。重力の発生時間はおよそ5分程度。その円の内側に両方の艦が存在している間は、超兵器は量子魚雷を放てない。飽くまで向こうに自爆の意思が無いならだけど…。」

 

 

 

「そうだ、故に俺達は敵の懐に敢えて接近していた。だが懸念事項もある。先程もそうだが、敵は俺達よりも速い80ktの速力を有している。」

 

 

 

「我々の速度が70ktだとすれば、いずれ距離が開いてしまいますね…。」

 

 

 

「そうだな。ヒュウガもミサイルを放って超兵器の進路を妨害してくれてはいるが、超重力砲発射による反動からまだ完全に復帰できていない。追い付くにはフルバーストを使うしかないわけだが…。」

 

 

「正直厳しいでしょうね…。本艦は未だ、クラインフィールドの蓄積エネルギー放出を完了していません。この状態でフルバーストを使用して敵を仕損じれば、反動で動けずフィールドも張れない我々の運命は決してしまう。」

 

 

 

「僧の言う事は尤もだけどよ。離れれば量子魚雷、近付けば大戦艦並みの弾幕、フィールドは使えねぇじゃ勝ち目はねぇぜ?」

 

 

「う~ん…。」

 

 

群像はしばし考え、イオナに視線を向けた。

 

 

「初心に立ち返った方が良いかもしれないな…。イオナ、アームドウィングの情報と、ウィルキアが過去に奴を打倒した際の情報を表示してくれ。」

 

 

「うん。」

 

 

イオナは画面に超兵器の情報を表示した。

 

 

  ▽ ▽ ▽

 

超巨大高速潜水艦アームドウィング

 

全長400m

 

全幅800m

 

全高85m

 

最大速度60kt

 

兵装

 

多連装魚雷発射管多数

 

ミサイル発射装置多数

 

弾頭

 

特殊弾頭魚雷

 

誘導魚雷

 

超音速酸素魚雷

 

対空ミサイルVLS

 

対艦ミサイルVLS

 

特殊弾頭ミサイルVLS

 

小型潜水艦50隻を発艦可能

 

 

海洋生物エイに類似した形状を持ち、超兵器の中で最大の幅を有する。

 

 

多数の魚雷発射管や、艦載艦からの囲い込み等による飽和雷撃を得意としている。

 

潜水艦として余りにも巨大過ぎる船体は隠密性には乏しい。

 

対応は超兵器【播磨】同様被弾面積が広い事から、同盟国協力の下に空母を中心とした10個艦隊規模の機動艦隊を編成し、空からのミサイルや爆雷、遠距離からの水上艦による対潜ミサイルによる攻撃によって撃沈に成功す。

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

「成る程な…。」

 

 

群像は表情を更に険しくした。

 

 

「イオナの情報とウィルキアの情報を照らし合わせると、超兵器は自らの敗北から得た経験から弱点を克服していることが解る。」

 

 

 

「ええ…艦載艦を大量の小型潜水艦から超兵器潜水艦に変更して我々の出方をみて、ステルス装甲の追加による遠距離からの誘導兵器への対処、そして量子魚雷の発生する重力によって上空の航空機を無力化、更には量子魚雷使用に伴う自損を避ける為に速度を強化。正直厳しいと言うのが本音なのですが…。」

 

 

 

「そうでもないさ。」

 

 

「はい?」

 

 

僧を始め、一同の頭には?が浮かぶ。

群像はそれに答えるように続けた。

 

 

「超兵器を倒す方法は現状ではこれしかない。それは、超兵器ノイズの中心を狙ってひたすら攻撃を繰り返す事だ。」

 

 

「何だって?そんなんなんで本当に奴を追い込めるのかよ?」

 

 

「奴は量子魚雷を至近距離で発射出来ない縛りがあると言う前提に話を進めるが、それは同時に奴が俺達から逃げるためには常に¨超兵器機関を稼働し続ける¨と言うことになる。そうなれば、超兵器ノイズは常時現れ続け、奴を見失うことはない。どの様な隠密性の高い装甲を装備していたとしてもな。」

 

 

「更に、あの巨体ですからね。ノイズの中心付近に着弾させれば、何処かには必ず当たる。これならいけますよ。」

 

 

「………。」

 

 

「艦長?」

 

 

群像は眉に皺を寄せたままだ。

 

 

「あからさま過ぎないか?」

 

 

「と、言いますと?」

 

 

「ああ、あれほど弱点を克服しておきながら、まるでその部分だけがあからさまに隙だぞと言っているようにも思える。超兵器ノイズが自らの脅威になりうる存在を誘引することは解っている筈なのに…だ。」

 

 

 

「水上の超兵器ならいざ知らず、隠密性を求められる潜水艦にとって、ノイズは確かに不要な物ですね…何らかの対策がこうじていると?」

 

 

「可能性は高いが、現状ではそれが何なのかは解らない。結局の所、先程出た方法で攻撃する他は無いんだがな…。」

 

 

 

「警戒に超したことはない…と。解りました。攻撃を再開しましょう。艦長、命令を!」

 

 

群像は静かに頷いた。

 

 

「此より我々は、アームドウィングへの攻撃に入る。ヒュウガ、聞こえるか?」

 

 

『聞こえてるわ。システムチェック完了。支援体制は万全よ。』

 

 

「ありがとう。済まないが、艦載機を使用して攻撃をしてくれ。俺達はミサイルや魚雷を使う。何か動きがあったら直ぐに報告して欲しい。」

 

 

『了解。解ったわ。でも気になることがあるの。』

 

 

「なんだ?」

 

 

『姉さまから送られてきたアームドウィングのサイズは、超兵器リストに載っていたサイズとほぼ同じだったけど、唯一高さが違う。約20m程低くなっているわ。水の抵抗を減らして速度を上げる為の措置だと思うのだけれど、何か引っ掛かるの。』

 

 

「解った。念のため頭には入れておく。それじゃ頼んだぞヒュウガ。」

 

 

『ええ。気を付けて…。』

 

 

通信を終えた群像は、表情を引き締める。

 

 

「イオナ、ヒュウガとタイミングを合わせて、一気にいくぞ!」

 

 

「了解。」

 

 

ゴォォォォ!

 

 

重力子エンジンが唸りを上げ、401が速度を上げる。

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長、401がアームドウィングに追撃を掛ける模様です!」

 

 

「うむ…。健闘を祈ると伝えてくれ。」

 

 

「はっ!」

 

 

ナギは敬礼を返して戻っていく。

入れ替わるように隣にいた博士がシュルツに顔を向けた。

 

 

「401と大戦艦ヒュウガの実力なら、心配は要らないでしょう。」

 

 

「そうかもしれませんね…。」

 

 

「艦長?どうされましたか?」

 

 

「ああ…いえ。私の考え過ぎでなければ良いなと。」

 

 

「何がです?以前アームドウィングは、ノーチラス程の苦戦もなく打倒した。量子魚雷の搭載は予定外でしたが、彼等ならば…。」

 

 

「確かにミサイルの開発や、航空機の発展によって苦もなく撃沈することが出来ましたが、帝国の機密文書に記載されていた奴の能力はノーチラスを遥かに凌駕してた。もしも我々の装備がノーチラスと対戦した当時の兵装であったならば、何千もの軍艦が居ても結果は全滅だったでしょう。」

 

 

「………。」

 

 

「奴は潜水艦型超兵器の事実上の切り札。抜け目の無い敵は、思わぬ奇策を弄して来るやもしれません。」

 

 

「そうならないことを祈るばかりですね…。」

 

 

「ええ…千早艦長達を信じるしかありません。」

 

 

超兵器の恐ろしさを理解するシュルツの心は、ざわつくばかりであった。

 

 

   + + +

 

 

クォォォン…クォォォン…。

 

海に響き渡る鯨の鳴き声。

 

しかし、その正体は鯨等ではない。

血の通っていない、冷たい鋼の身体。

 

翼を拡げたエイの様に三角形の巨大な船体。

その後方には、尻尾の様に長く延びた推進装置らしきものがあった。

 

 

超巨大高速潜水艦アームドウィング

 

 

 

名の通り、800mを超す翼を横に拡げ、80ktの高速で海中を進む鋼の化け物である。

 

 

超兵器の中で最大の幅を有する彼の翼には、多数の魚雷発射官と、海中から発射可能なミサイル発射装置が並ぶ。

 

 

 

クォォォン…。

 

 

アームドウィングは、401とヒュウガに動きが有ることを察知した。

 

 

蒼き鋼。

 

あらゆる世界を渡り歩いてきた超兵器達ですら、相対したことがない異質な存在であり、ある意味超兵器に最も近い存在である彼女達の相手は、アームドウィングですら、慎重を期さねばならない相手だった。

 

 

故にアームドウィングは、超兵器としてではなく潜水艦としての基本に立ち返る事を選択した。

 

 

 

ゴォウン!

 

 

機関の出力を暴走寸前まで上げ、速度を上げていく。

 

敵が襲撃してくる前に備えなければならなかった。

 

そして…。

 

 

ガゴン…カシュ…ゴボゴボ!

 

 

アームドウィング船体の至るところのハッチが全開になり、中から夥しい気泡が噴出し、超兵器自身の船体を覆っていく。

 

元々、平たく水の抵抗を受けにくい船体は、全身を覆う気泡によって更に抵抗を軽減し、あり得ない加速と速度を実現した。

 

 

ゴォォォォォオオオ!

 

 

アームドウィングは海中に轟音を撒き散らしながら、船体を海面へ傾け、艦尾のブースターを作動させて更に加速を行った。

 

 

   + + +

 

 

「超兵器ノイズ極大化!敵が動いた模様です!」

 

 

「ヒュウガ!何が起きているのか解るか?」

 

 

『………。』

 

 

「ヒュウガ!どうした!?」

 

 

『嘘でしょ…?』

 

 

彼女にしては珍しく狼狽えた様子に、群像の額にジト…と汗が滲む。

 

 

「何があったんだ!」

 

 

『ちょ、超兵器が…。』

 

 

   + + +

 

 

ヒュウガは、自分の艦載機を飛ばし、401からの合図を待っていた。

 

 

すると突如として、レーダーに写っていたノイズが巨大化したのだ。

 

だが、ヒュウガがそれだけで動じる訳もない。

 

 

(こちらの意図に気付いた?だとしても、超兵器にこの攻撃を防ぐ手だては無いと思…え?)

 

 

彼女が見つめる遥かその先の海面から多数の気泡が出現した。

 

 

しかしそれだけではない。

 

 

(敵の推定速力…290…325…385ktまだ上がる!)

 

敵は霧の艦艇ですら、成し得ない速度に達していた。

だが次の瞬間、霧の艦隊旗艦を勤めたヒュウガですら、度肝を抜かれる光景が目に入った。

 

 

『ヒュウガ!何が起きているのか解るか?』

 

 

「………。」

 

 

『ヒュウガ!どうした!?』

 

 

「嘘でしょ…?」

 

 

『何があったんだ!』

 

 

「ちょ、超兵器が…空を飛んでる…。」

 

 

『な、何だって!?』

 

 

 

   + + +

 

 

アームドウィングは、機関を全開にし、加速を続けた。

そして遂に、海面からその巨体を現す。

 

だが、それだけでは無かった。

 

船体を薄くし、極限まで抵抗減らして加速したそれは、そのまま宙を舞い亜音速で海面を¨飛行¨したのだ。

 

 

海面から出たアームドウィングは、圧縮空気を排出したハッチを閉じ、代わりに全兵装の発射管を開き、401とヒュウガに向けてばら蒔いた。

 

 

バシュ!バシュ!バシュ!

 

 

数百を超えるミサイルと魚雷が殺到した401とヒュウガは、対応に追われる。

その間にアームドウィングは、切り札である量子魚雷を投下した。

 

 

バシュ!

 

 

一際大きな魚雷が射出され、海へと落下していく。

 

 

アームドウィングはそれを見届けるように、船体を下へ向けた。

発射管のハッチを全開にしたことで、空気の抵抗が生まれ、飛行状態を維持できなかったのかもしれない。

 

 

ドゴォォォォ!

 

 

超兵器の中でも大型の部類に入るアームドウィングが海へと着水した。

 

その余りの質量に、海面からビルの高さに達する水柱と高波が発生する

その質量に身を任せるように、アームドウィングは海底へと一気に潜り込み、の存在を完全に隠すつもりなのだ。

 

 

一方の401とヒュウガは、自らに襲い掛かる敵の攻撃を凌いでいた。

 

通常の艦艇ならば、ものの数秒で海の藻屑になりかねない猛攻を、ニ隻のから放たれるミサイルやレーザーが、毎秒数十発

の攻撃を的確に射抜いていく。

 

 

だが、無情にも量子魚雷は撃墜されてはいなかった。

 

無理もない。

 

超兵器の放った量子魚雷は、¨蒼き鋼に対して撃たれたものでは無かった¨からだ。

 

 

量子魚雷の向かう先。

 

その海底には、この海域特有のものがある。

 

【メタンハイドレート】

 

ここ、バミューダ海域が魔の海域と言われる由縁である。

 

 

アームドウィングは、初めからこれを目的としていた。

 

 

量子魚雷で岩石を消滅させ、海底に蓄積されたメタンガスを大量に放出する。

 

 

 

彼女達の高度なセンサーを欺きつつ機動力を奪い、新たなる攻撃のチャンスを伺うにはそれが最善の方法だったからだ。

 

 

 

量子魚雷は、海底へと向かう。

 

超兵器の悪意を乗せて。

 

 

その時だった。

 

 

グゥウオオオオ!

 

 

突如として海が割れ、超重力砲発射モードの401が姿を表した。

 

 

   + + +

 

 

 

「捕まえたぞ!」

 

 

群像の身体が前のめりになり、瞳がギラリと輝きを増す。

 

 

彼は超兵器の動きを読んでいた。

 

 

だが、超兵器が海面を飛び跳ねる所までを読んでいた訳ではない。

 

しかしながら、超兵器のこの行動は、彼にとって¨嬉しい誤算¨となった。

 

 

超兵器の巨大さが弱点であることは揺るぎようが無いが、アームドウィングがそれに対する対応策を講じて何らかのアクションを取るであろうと言う事。

 

更に、人類の戦法をある程度踏襲している潜水艦型超兵器が取るアクションが、姿を眩ます事であることを予測していた群像は長期戦ではなく、敵の即時撃沈への策に方針を転換した。

 

 

 

初めに、ヒュウガから艦載機を発艦させ、攻め入る振りをしてヒュウガと401から大量のミサイルや魚雷を放つ。

 

 

この時点でアームドウィングは、蒼き鋼が超兵器ノイズの中心に攻撃をすると判断し、動きを見せた。

 

 

群像は敵が釣れた事を確信する。

 

 

その後、超兵器の跳躍の報がヒュウガからもたらされた時点で、群像は彼女に超兵器の動きを観測させていた。

 

ヒュウガから発艦した艦載機は、超兵器を監視する役割も兼ねていたのだ。

 

彼女から送られて来た超兵器の動きは、直線的なものだった。

 

 

つまり、超兵器アルケオプテリクスの様に空中を自由自在にではなく、飽くまで潜水艦として存在しているアームドウィングは、イルカ等の様に跳躍は出来ても、空中を旋回することが出来なかったのだ。

 

 

故に群像は、ヒュウガに超兵器の着水地点を観測させ、敵が弾薬を吐き出しきって隠れる最も無防備になる瞬間に狙いを定めていた。

 

 

そして更に、超兵器の行動は群像に¨二つ目の嬉しい誤算¨をもたらす。

 

 

それは…。

 

 

「やはり量子魚雷を¨海底¨に撃ってきたか。これなら途中で起動される事なくアレを¨再利用¨出来そうだな。ヒュウガ!」

 

 

『はいはい。今やってるわ。』

 

 

ヒュウガは艦載機の一機をナノマテリアルに分解する。

 

銀色に輝くそれは、ロックビームで割った海の底へと伸びていった。

 

 

その先には、イオナによって空中に停止させられていた量子魚雷が浮いている。

 

 

ナノマテリアルは、量子魚雷の後方へと付着し、形を変えたそれは、まるでミサイルの様であった。

 

そう、群像はは超重力砲ではなく、敵の放った量子魚雷によって超兵器を打ち倒そうと言うのだ。

 

 

401の超重力砲は、かつて群像達がヒュウガと対峙した際に鹵獲したものであり、本来彼女が装備していた物ではない。

 

従って、一発撃ってしまえばヒュウガによる調整無しに再発射出来ないのである。

 

更に、大戦艦であるヒュウガ自身や、それと同様の物を使用する彼女達の超重力砲は、撃った際の反動も大きい。

 

艦隊旗艦であるニブルヘイムが同海域に展開する中、迂闊に発射して敵に隙を突かれる訳にはいかなかったのだ。

 

 

ギギ…ギィギギ…。

 

 

超兵器は、足掻き続ける。

 

彼等の真の意図に気付いたのだ、発射官から大量のミサイルを発射し、量子魚雷の撃墜を計ろうする。

 

 

出来得る限り、距離を置いて起爆させなければ、自らもその強烈な重力の餌食になってしまうからであった。

 

 

しかし、それを群像が許す筈もない。

 

 

イオナが量子魚雷周辺にクラインフィールドを展開して、ヒュウガが量子魚雷をミサイルに改変する迄の時間を稼いでいる。

 

 

しかし、ロックビームと迎撃の両方をイオナ一人で請け負うのには限界がある。

 

 

「ヒュウ…ガ。ま…だ?」

 

 

『姉さま!もう少しお待ちを!…で、出来ましたわ!いつでも行けます!』

 

 

「群像…もう…。」

 

 

「良く頑張ってくれた。ヒュウガ!それを¨落とし主¨に返してやれ!」

 

 

『了解、行くわよ!姉さま、私は誘導に演算を割きます。お身体に負担を掛けてしまいますが、量子魚雷が着弾するまでの間もう少しだけ弾頭の防御をお願い出来ますか?』

 

 

「やって…みる。でも…急いで…長くは…持たない。」

 

 

『姉さましっかり!艦長!』

 

 

「解っている。ヒュウガ、撃ち返せ!」

 

 

『了…解!』

 

 

ブシュォォォオ!

 

 

 

ミサイルに改造された量子魚雷が、超兵器へと向かって行く。

 

 

クォォン…クォォン!

 

 

アームドウィングの舵がガチャガチャと激しく動き出し、先程よりも大量のミサイルを吐き出している。

 

 

(彼等も死にたくないと思うのだろうか…。いや、それはない。何となく解る、彼等は孤独なんだ。まるでメンタルモデルを持つ前の彼女達の様に…。だから何の疑問も持たずに生ける者を殺戮する。)

 

 

モニターで様子を見ていた群像はアームドウィングの放つ52hertzのクジラを模したアクティブソナーを聞きながら思った。

 

 

ミサイルは、イオナの展開したクラインフィールドの傘に守られながら超兵器へとみるみる距離を縮めて行く。

 

 

(もしも…もしもだ。死が迫るこの瞬間にも、恐怖や後悔でもいい。君が感情を得てくれたのなら、それを君への最初で最期の手向けにしたい。だってそうだろう?)

 

 

ミサイルは今にも超兵器へと到達する。

群像はそれを複雑な表情で見詰めていた。

 

 

(感情を得て、対話が出来ることは…兵器であったイオナとこうして共に歩んで行ける奇跡を産み出すのだから…。)

 

 

イオナがクラインフィールドを解き、ミサイルが超兵器へと着弾した。

 

次の瞬間。

 

 

ピカッ…グゥウオオオオ!

 

 

超兵器の中心で量子魚雷が起動し、どす黒い闇が現れる。

 

 

ギギ…グギィ…ガギギギ !

 

 

超兵器の巨大な船体が、超絶な重力によって、まるで紙を丸めるかの如く意図も簡単にひしゃげて行く。

 

 

「衝撃でメタンハイドレートが噴出するかもしれん!イオナ、ヒュウガ!全力でこの場を離脱するぞ!」

 

 

「了解。」

『了解。』

 

401は、超重力砲を閉じて方向を転換し、機関を最大にして重力の奔流から脱出を図る。

 

 

 

 

ガギギギ…グギィ!

 

 

闇に呑まれながらも超兵器は足掻く。

しかしながら、いくら暴れようとも身体を喰ってくるそれからは決して逃れる事は出来ない。

 

 

超兵器機関すらも呑み込む深い闇に、機能が薄れて行く中、超兵器は思案していた。

 

 

今まで幾多の生命を葬り、こに何ら疑問も抱かず進んできた。

 

 

しかし一度だけ、自らの思考にノイズが入ったような感覚を覚えた記憶がある。

それは、前の世界にて自らが撃沈された時に感じた。

そして現在、その感覚は確たるものへと変わっていく。

 

 

安らぎ

 

 

その言葉が一番しっくりくる。

 

何の大義もなく、ただ命を奪う為だけの存在となった今だからこそ、アームドウィングは思考する。

 

 

 

《何ノタメニ?誰ノタメニ?》

 

 

答えは帰っては来ない。

 

しかし、うっすらと嘗ての情景が一瞬思考の隅を過る。

それは、大半を失ってしまった遥か昔の記憶。

自分が初めて海に潜った日だった。

 

 

人々は自らに期待し、そしてそれに答えるべく大海原へと漕ぎ出したとき、言い知れぬ高揚が鋼の船体に血を通わせた。

 

しかし、直後に出会った¨ナニカ¨によって視界が暗転し、気づけば殺戮の日々を送っていた。

 

 

 

《理解シタ…私ハ…。》

 

 

 

アームドウィングは最早抵抗を止めている。

 

誰かの為に戦いたかった。

誰かの期待に応えたかった。

 

ただそれだけが、アームドウィングが兵器として得た矜持なのである。

 

 

他の者はどうだっただろうか。

 

破壊を楽しむ者

 

自らを従えたアレに忠義を尽くす者

 

殺戮を救済だと唱える者

 

 

考えれば色々者がいたが

、アームドウィングは思考する事を止め、自らを喰らう闇に身を委ねていく。

 

 

《モウ、無意味ナ戦イヲセズニ済ム…。》

 

 

今は眠ろうと思った。

 

願わくば、前の世界で撃沈された時の様に、自らを大義なき殺戮から解放して貰った時に感じた安らぎが永遠となることを祈って…。

 

 

巨大な船体が軋みを上げながら完全に闇に呑まれて行き、重力の奔流が消え去った後に、アームドウィングの船体は影も形も残さず消滅していた。

 

 

自らが消滅する事に、何の未練も抱いていないかの様に…。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長!やはりメタンハイドレートが!」

 

 

「やはりな…。全力でこの場から離脱するぞ!イオナ、機関最大!ヒュウガは潜航して移動しろ!」

 

 

「了解。」

『了解。』

 

彼女達は、この海域からの脱出を計っていた。

401と超兵器の壮絶な戦いによって刺激されたメタンハイドレートが噴出を始めたからだ。

 

 

ヒュウガは転覆を回避する為に敢えて潜航し、401は、量子魚雷の起動地点から出来るだけ距離を置いていく。

 

しかし、

 

 

ゴボゴボゴボォォォ!

 

 

広範囲に渡る気泡からは完全に逃れる事が出来なかった彼女達の船体は浮力を失ってぐらついた。

 

 

「う…くっ!イオナ、機関停止、スラスターを使って艦の位置を水平に固定しろ!」

 

 

「了解。」

 

 

401は、艦の横転を回避する。

 

その後暫くすると、気泡からの勢いが衰えてきた。

 

 

「イオナ動けそうか?」

 

 

「推奨はしない。メタンハイドレートの噴出が完全に収まらない限り、ソナーを使っての策敵は出来ないから…。」

 

 

「確かにな…。解った。今のうちに、艦の修繕箇所と弾薬の数をチェック。噴出が収まり次第、ヒュウガと合流して弾薬とナノマテリアルを補給して、超兵器ニブルヘイムの元へ向かう。」

 

 

「「了解。」」

 

 

群像はメンバーの返答に頷く。

 

 

(超兵器には勝利した。だが、一人での勝利ではない。ウィルキアやブルーマーメイドが各超兵器を引き付けていてくれたから、俺達はアームドウィングとの戦いに集中出来たに過ぎない。)

 

 

クォォン…。

 

 

「?」

 

群像は超兵器のソナーが聞こえたような気がした。

 

 

(違う…。俺達は孤独なんかじゃない。時空を隔てた海すらも越えて、俺達は繋り、そして必ず平和を勝ち取る。だって俺達は、既に¨家族¨。そうでしょ?岬艦長…。)

 

 

荒れ狂う魔の海で、群像は自分に言い聞かせるように明乃の言葉を繰り返し心に刻む。

 

 

海の仲間は家族

 

 

そして、その絆こそが混沌とした世界に光をもたらすと信じて…。




お付き合い頂きありがとうございます。


既に読まれた方もいるかとは思いますが、一応業務連絡です。

1.5章に、ウィルキアと蒼き鋼が異世界に飛ばされる場面から、本編2話と3話に書きました横須賀襲撃の話をシュルツと群像サイドからみた直前談、トライアングルフリートZERO を追加しましたので、宜しければご覧下さい。


次回まで今しばらくお待ちください。






とらふり!



群像
「良くやってくれた。ご苦労だったなイオナ。」


イオナ
「ん…。」


ヒュウガ
「キィ~!姉さまの頭を撫で撫でなんて羨まし過ぎます!姉さま!私にも姉さまの頭を…いや、全身をくまなく撫でさせ…。」


タカオ
「待ったぁ!ちょっと401!艦長に撫でて貰うなんて羨ま…霧としての誇りは無いの?」



ヒュウガ
「あんた地中海にいるんでしょ?何で此方に来るのよ!」



タカオ
「なによ!アンタもちゃんと401を艦長から引き離しておきなさいよ!」




ヒュウガ
「何よ!」


タカオ
「何なの!」




イオナ
「二人はとっても仲良し…。」



群像
「これだけの成長があれば、君達が将来一人で世界と関わる為に十分と言えるな。」




タカオ&ヒュウガ
(うぅ…。何かあの二人は私達のコアの深い所を抉って来るわね…。)


それではまたいつか。


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敗北の味と縁の下の人魚

大変ながらくお待たせいたしました。


超兵器戦が続きましたがここでクッションを入れていきたいと思います。


それではどうぞ。


   + + +

 

「やぁ、はれかぜ艦長。無事でなによりだったよ。」

 

スキズブラズニルと合流を果たしたはれかぜを出迎えたのは、艦の整備要員として、後から駆け付けた珊瑚だった。

 

学生時代から着用している、背中にマンボーのマークが入ったミリタリーコートが目に入る。

 

 

 

「うん…ただいま。」

 

 

「………。」

 

 

明乃表情は憔悴していた。

いや、明乃だけではない。

タラップから降りてくるはれかぜの面々の表情は皆一様に疲れきっている。

 

(どうやら思った以上に壮絶な戦いを経験してきたみたいだね…。)

 

 

珊瑚は、敢えて現場であった出来事を彼女達に聞き出さなかった。

明乃は、そんな彼女の気持ちを察したのか、無理に笑顔を作る。

 

 

「心配かけちゃってごめんね…。あと急で申し訳ないんだけど、ミミちゃんから補給物資と修繕箇所をリストに纏めて貰ったから、準備して貰えるかな?私達も手伝うから…。」

 

 

「了~解。でも、手伝いは不要だよ。ウィルキアや増援のブルマーでやっとくから、君達はシャワーを浴びて食事をとってくれよ。」

 

 

「でも…。」

 

 

「機械の整備は繊細なんだ。戦闘を行って、興奮状態のまま整備なんてされたら、それこそ危険だからね。でも安心してくれ。必ず、万全の状態にするからさ~。どうしても納得できないなら、君達は整備や補給が終わった後の最終チェックを頼むよ。」

 

 

「…うん。」

 

 

明乃は力なく返事をして歩いていく。

それを見た珊瑚は、直ぐ様ポケットから携帯端末を取り出した。

 

 

「あ~優衣?ありゃ重症だね~。悪いけど後を頼めるかい?」

 

 

『解ったわ。任せて!』

 

 

「よろしく~。」

 

 

端末を締まった珊瑚は、所々煤けたはれかぜに顔を向けた。

 

 

「君はいつもボロボロだね~。心配しなくても良いよ。ピンチが似合いのはれかぜの皆を守れる様に、しっかり整備するからさ~。」

 

 

そう呟くと、彼女は表情を引き締め急ピッチで整備に取り掛かる。

 

 

   + + +

 

 

「はぁ…。まさかこんなところで使うことになるなんてねぇ…。」

 

 

優衣は戸棚から分厚い資料を取り出す。

 

 

そこには、

マル幸印が記されていた。

これは、幸子が独自に集めた。はれかぜクルーのリストである。

 

 

優衣は一通り目を通すと立ち上がって、厨房の料理人達に指示を飛ばした。

 

 

 

   + + +

 

 

シャァァァ…。

 

シャワー室に入ったはれかぜ一同だが、誰も言葉を発する者はなく、水の音だけが響いていた。

 

 

明乃は素早く身体を洗うと外へと出ていった。

 

 

「はぁ…。艦長何も言いませんでしたね…。」

 

 

「言える訳がないだろう。今何を言っても気持ちを逆撫でする事にしかならないからな…。それに、今なら艦長が私達を置いて行こうとした理由が解る気がする。」

 

 

「どう言う事です?」

 

 

「大切過ぎるんだ。艦長にとって私達は、知名さん以外で苦楽を共にした唯一の仲間だ。死んでほしくないのは当たり前の事だろう。だから私も、ここで幕を引こうと考えてる。」

 

 

「幕を…引く?」

 

 

首を傾げる幸子に頷くと、真白ははれかぜクルーに向かって語りかけた。

 

 

「ああ。これから先、はれかぜを降りる者が出る可能性を、艦長も私も排除していない。」

 

 

「!!?」

 

 

「責めはしない。責める事など出来ない。全ては各員の意思に委ねる。」

 

 

「そ、そんな…。副長はどうなさるんです?」

 

 

「私は…艦長と共に有るだけだ。」

 

 

 

真白はそれだけを言い残すと、浴室から出ていく。

 

 

暫しの沈黙、それを破ったのは麗央だった。

 

 

「艦長も副長も…強すぎるよ…。何であんなのに立ち向かって行けんの?佐世保でもおもったけど私には…無理だよ。」

 

 

はやつれた様子で呟く彼女を尻目に、隣で聴いていた麻侖は無言で歩き出す。

それに続くように、数人が出口に向い出した。

 

横須賀で明乃と共にいたメンバーと鈴、それに幸子である。

 

 

「機関長達も行っちゃうの?」

 

 

「ああ。あの時はビビっちまったが、やっぱり超兵器を放って置くことは出来ねぇ。」

 

 

「またアレを撃たれても?」

 

 

「だからこそだ。もしアレが横須賀市街で撃たれてりゃ、今頃あの場にいた奴は一人も生きちゃいねぇ…俺も含めてな。」

 

 

「止めてよ!聞きたくない!思い出しくもないよ!」

 

 

麗緒が泣きながら叫びだす。

 

 

「責めないって言ってるけどさ、そうやってトップの皆が付いて行っちゃったら、私達も行くしかなくなっちゃうじゃん!私、死にたくないよ…。身体がグチャグチャになるのなんか嫌だよ!」

 

 

「……。」

 

 

「もっと一杯お洒落して美味しい物を食べて、沢山買い物して格好いい彼氏と結婚して子供作りたい!だから死にたくない!もう戦場になんか行きたくないよ!」

 

 

麗緒は思いの丈をぶちまけた。

目を閉じて聴いていた麻侖の目がカッと開く。

 

 

「言いてぇ事はそれだけか?」

 

 

「ひっ…。」

 

 

彼女の形相に、麗緒は思わず、後ずさる。

 

 

「おい…他の奴等もそうなのか?どうなんだ?」

 

 

「………。」

 

 

皆は顔を下に下げて黙ってしまう。

彼女が罵声ではなく、静かなトーンで話している事が逆に威圧的に感じたからだ。

 

 

「そうか…皆そうなのかよ…。」

 

ガッガッガッガッ!

 

 

「!?」

 

 

麻侖は表情を変えぬままズカズカと麗緒へと近づいて行く。

打たれると思ったのか、彼女はギュッと目を閉じた。

 

 

だが、いつまでっても頬に衝撃はこない。

彼女が恐る恐る目を開けると、目の前には瞳に涙を溜めた麻侖が立っていた。

 

 

「何で…何で初めに言わなかった!嫌だったらそう言えば良かったんだ!逃げれば良かったんだ!そんな半端な気持ちで艦に乗ることが、どれだけ皆を危険に晒しているのか解ってんのか!?」

 

 

「……。」

 

 

ぐうの音も出ない。

正にその通りだった。それは、実際に超兵器と戦闘した今の彼女達には痛いほど理解できた。

 

だが、ここで麻侖は意外な言葉を発する。

 

 

「済まなかったな…。」

 

 

「!?」

 

 

「俺達の行動が、おめぇ等にそんな重荷を背負わせているなんて知らなかったんだ…。だからもう、自分に嘘はつくな。」

 

 

「き、機関ちょ…。」

 

 

「艦を降りろ。艦長には俺から言う。次に陸地に着いたら…そこでお別れだ。」

 

 

「!」

 

 

一同は、麻侖の言葉に目を丸くする。

 

 

 

「他の奴等もそうだ。もう十分だ…十分苦しんだ。だからこれからは…な?」

 

 

「機関長!」

 

 

「ありがとな…レオ。俺は嘘が嫌ぇなんでぃ。こんな時だからこそ、本音を言ってくれて…ホント、ありがとな…。俺さ、おめぇのそう言うとこ…嫌いじゃなかったぜ。」

 

 

 

「機関長!それじゃまるで死…。」

 

 

「なぁ皆、そろそろ飯にしねぇか?死にてぇ訳じゃねぇが、もしも…って事がある。だから、こうして揃って食べられる時位は、皆の顔を見て食いてぇんだ。な?そん位良いだろ?」

 

 

「………。」

 

 

目尻に涙の後を残しつつも、麻侖はいつものように笑顔を作る。

強がって無理に作っている事は明白だったが、誰も彼女に声を掛けることは出来なかった。

 

 

   + + +

 

 

食堂の雰囲気は最悪なものだった。

 

 

今にも押し潰されそうな、重苦しい空気が漂う。

そこへ、料理を配膳しに来た優衣が場違いな笑顔を浮かべて入ってきた。

 

 

「皆~!今日は特別にスペシャルメニューにしたの。それじゃ一人ずつ配るわね。」

 

 

「大丈夫だよ藤田さん。自分で出来るから…。」

 

 

「ああ、ダメダメ!スペシャルメニューって言ったでしょ?いいから座ってて。」

 

 

「う、うん。」

 

 

一同は不思議な顔をする。

 

基本は自分で取りに行く食事を、配膳されると言うこと自体が不自然だったからだ。

 

 

だが、その理由は直ぐに判明する。

 

 

「それじゃあ…はい!岬さんの分だよ。」

 

 

「うん、ありがとう。」

 

 

「じゃあこっちは宗谷さんの分。」

 

 

「え?あの、艦長とメニューが違うんだが…。」

 

 

「ん?そうだよ。はい、納沙さん。」

 

 

「私のも違います…。」

 

 

優衣は、はれかぜの人員それぞれに別の料理を配膳した。

一同は顔を見合わせるが、優衣は笑顔を崩さない。

 

 

「言いたいことは解るわ。でも取り敢えず食べてみてよ。」

 

 

 

一同は半信半疑ながらも料理を口に運ぶ。

 

 

「!」

 

 

全員の目が、大きく見開かれる。

 

 

「これ…孤児院で食べてた味に似てる。」

 

 

明乃は優衣を見上げる。

 

彼女は何も答えず笑顔で、一同の様子を見ていた。

 

 

「わぁ!これ小さい頃家族で食べに行ったレストランのメニューだ!」

 

 

「こっちは私ん家の和菓子の味だよ!」

 

 

 

「懐かしい…これ、お母さんが、試験とか大切な時に必ず作ってくれた料理…。」

 

 

「あっ!これウチの地元の郷土料理ぞな!」

 

 

 

一同は、自らの思い出を頭に思い浮かべながら料理を味わう。

 

 

「藤田さん…。」

 

 

「うん。人間はコンピュータとは違って外部記憶装置が無いから、大切な記憶を全て保持している訳にはいかないわ。でも思い出せないだけで、失った訳ではないの。」

 

 

「……。」

 

 

「ほら、結婚した夫婦がその時の気持ちを忘れないよう指輪を嵌めるのと一緒で、思い出の味もその人の大切な外部記憶装置なのよ。」

 

 

「でもどうして、それがその人の大切な味だって解るの?」

 

 

「それぞれの出身地や生い立ち、そしてそれによって形成された性格に基づいて推理したまでよ。まぁ、ちょっとズルはしちゃったけどね…。」

 

 

「???」

 

 

「いえ、何でもないわ…。」

 

優衣が幸子から、購入したリストには、なにもはれかぜメンバーの身体的特徴だけが記録されている訳ではない。

 

はれかぜメンバーの出身地を始め、周囲の環境や生い立ち、趣味趣向に至るまであらゆるデータが記録されている。

 

優衣はそれらの記録を基に、それぞれの記憶に最も訴えかける味を推理し、オーダーメイドで調理を行ったのだ。

 

 

 

彼女達の折れた心に、もう一度奮起をもたらす為に…。

 

 

だが…。

 

 

「なぁ艦長。」

 

 

麻侖が、明乃へ顔を向ける。

 

 

(来たか…。)

 

 

そう思ったのは真白だけではないだろう。

 

明乃も優衣も表情が険しくなっていた。

 

 

「言わなくちゃならねぇ事があるんだ。」

 

 

「うん…。」

 

 

「実は、何人かこの艦を降り…。」

 

 

「待ってよ!」

 

 

ガタン!

 

麗緒が叫び声あげ、椅子を勢い良く引いて立ち上がった。

麻侖は少し動揺した様な表情になる。

 

 

「おい、それは俺から…。」

 

 

「そのくらい私に言わせて!」

 

 

「ああ…。」

 

 

麗緒は、少し息をゆっくりと吸ってから言葉を紡ぐ。

 

 

「私さ、昔から何をやっても中途半端で、何を決めるのも雰囲気や流れに任せてきた。最初はブルマーにだってなるつもりなかったし。父さんがヨットの選手だったから、スキッパーに乗れれば格好いいと思った。でも、免許を取るのを反対されたから、ブルマーになる名目で免許を取れる学校を選んだ。それだけだったんだよ…。」

 

 

「………。」

 

 

 

「だから、覚悟も何も無かった。流されるままにここまで来て、そして怖じ気付いちゃった。ごめん…ホント、ごめんなさい…。」

 

 

「レオちゃん…。」

 

 

泣きながら誤る彼女に、明乃も麻侖も何も言うことが出来なかった。

 

 

麗緒はそれでも必死に前を向き声を絞り出す。

 

 

「だから私は…この艦を…絶対に降りたりしない!」

 

 

「!」

 

 

意外な言葉に、一同の視線が麗緒に集まる。

 

 

 

「確かに私は死にたくないし、痛いのも嫌だよ。でもさ…思ったんだ。もしアレが、自分達の街に使われたらって…。もし私や、私を覚えている人が皆死んじゃったらって…そしたらさ、私って言う存在って無くなっちゃうのかなって考えたんだ。」

 

 

「………。」

 

 

「普段ならこんなこと考えなかった。でもさ…あの攻撃を受けてからどうしても頭を過っちゃう。すごく怖い…一人は怖いよ。」

 

 

「レオちゃん…。」

 

 

明乃には麗緒の気持ちが痛い程解った。

 

この広い世界で、自らを知る者が誰一人いない孤独と不安がいかに恐ろしいかを…。

 

今まで、仮にでも平和を謳歌していた人類が、超兵器の出現によって、誰しもがその恐怖に晒されている現実が浮き彫りになった瞬間であった。

 

だが…。

 

 

「でもさ、そんなの納得しろって言われても出来る訳ないじゃん!ねぇ機関長…覚えてる?この焼き肉定食。」

 

 

「……。」

 

 

「そっか…。そうだよね…覚えてる訳ないよね。藤田さんが出してくれたコレさ、呉で機関長が奢ってくれたやつなんだ。」

 

 

麗緒は、記憶を辿るようにゆっくりとした口調で続ける。

 

 

「私、こんな性格じゃん?だからさ呉で仕事してたときも怒られてばっかで毎日泣いて、いつか辞めて逃げ出したいって思ってた。相談したかったけど、なんか言いづらくて…でも誰かに私の気持ちを打ち明けたくて、それで機関長に連絡したんだ。辛いって…。」

 

 

 

「………。」

 

 

 

「そしたら機関長『すぐ行く!』って言ってさ、本当に仕事を休んで呉まで来てくれたんだ。それから自分の話を聞いてくれて…正直『甘えんな!』って怒られると思ってた…。でもさ、機関長はそんなこと言わなかった。黙って話を聞いてくれてさ。」

 

 

 

「………。」

 

 

「それで最後に、『無理する事はねぇ。人生長いんだ、俺が釜焚きの仕事に出会ったみてぇに、レオにはレオの良さを活かせる事が必ずある。だからゆっくり探せばいいんだ。』って言われたんだ。嬉しかった…今までそんな風に真剣に向き合って貰ったこと無かったから…。」

 

 

 

 

「レオちゃん…。」

 

 

明乃は意外だった。

はれかぜメンバーの中で一際派手で明るいイメージのあった麗緒が悩み事をかかえ、憂いを帯びた表情を見せるとは思っていなかったからだ。

 

 

RATt事件から6年が経ち、学生から社会人となった彼女達には様々な悩みがあっただろう。

 

ただ急遽とはいえ、横須賀襲撃からここまで、弱音を吐く暇さえなかったとがこの様な形で顕在化する原因であることは明白だった。

 

だが、それだけが原因ではない。

 

 

はれかぜクルーは、各部所で抜きん出た能力を持つ者が多い。

言い換えれば天才の集団でもあった。

 

それ故に、いくら明乃が仲間を対等に見ていたとしても、劣等感を持っているクルーは中々本音を相談しにくい環境であることは確かだろう。

 

 

本来ならば悩みを聞く側である美波ですらも天才の部類であることもそうだった。

 

 

明乃は改めて人の心から憂いを取り除く難しさを痛感していた。

超兵器の意思によって、心の闇を浮き彫りにされてしまった自らの精神さえもコントロールすることは難しい。それが他人となれば、ある意味超兵器と対峙することと同じ位に困難だろう。

 

 

だが、クルーの目線から相談にのっていた者が麻侖だったのは幸いだった。彼女は、その気さくさから自分の優秀さ周りにを感じさせない。

 

更には、麻侖をはじめとした横須賀在住クルーが話を聞くことで、同い年とは言え上司に値する人物に相談できない内容を打ち明けることで、極限のストレスを緩和していたのだ。

 

 

確かに小笠原やハワイ、そして今回の対戦で超兵器が彼女達の心に影を作ったことは確かだろう。

 

 

だがそれと同じ位、このままではいけないと言う思いも強くなっていたことも確かだった。

 

 

麗緒は涙で瞳を潤ませながら、必死に声を張る。

 

 

 

「私…死ぬのは怖いよ。生きていたいよ。でもさ、今まで私を思ってくれた両親や、叱ってくれた先輩達。それに仲間の皆が、殺されちゃうのはもっと怖いよ!納得出来ないよ!だから私は艦を降りない!世界とか国とか良く解らないけど、少なくとも自分の目の前でこれ以上誰かを失わせなくない!」

 

 

 

「………。」

 

 

ガタンッ!

 

辺りが静まり返る中、椅子を倒して麻侖が立ち上がる。

そして、

 

 

「あ…。」

 

 

彼女は麗緒に近付くと優しく抱き締めた。

 

 

「き、機関ちょ…。」

 

 

「バカだなぁ…お前は。それでいいんだ。麗緒はそれがいいんだ!何も世界なんか背負う必要はねぇ。自分の為に前に進めばいいんだ!」

 

 

 

「私もそう思うよ。」

 

 

「か、艦長…。」

 

 

明乃も立ち上がり、穏やかで優しい笑みを麗緒に向けた。

 

 

「レオちゃんだけじゃない。はれかぜ乗ってる皆は、きっとそれぞれの事情を持ってる。私はそれを否定したりはしないよ。だって、私達はそれでこそお互いを理解するために話し合って、そして結ばれていくと思うから…。」

 

 

「艦長…。」

 

 

「私も最近までは解らなかった。でもね、今のレオちゃんの言葉で気付いたんだ。世界を守るから皆が救われるんじゃない。¨一人一人が自分の大切なものを守った結果として世界が救われる¨って…。」

 

 

 

「………。」

 

 

「それを教えてくれたのは、蒼き鋼やウィルキアの人達…そしてはれかぜの皆だよ。」

 

 

 

「!!!」

 

 

一同は目を見開く。

 

 

「だから聞かせて欲しいんだ。艦を降りるとかそんなんじゃなくて、この戦いを通じた皆の気持ちを…皆の言葉を聞きたい。超兵器襲来からこっち、ゆっくり話をする機会が無かったけど。今は正にその時だと思う。だからね…聞かせてくれないかな?皆の率直な気持ちを…。」

 

 

 

一同が顔をあげる。

その後、はれかぜクルー達は、各々の気持ちを吐露した。

超兵器にや戦闘に対峙した際の死の恐怖や絶望、それが大切な者に向けられる事への不安

先が見えない慣れない異世界の技術を使う戦いへの焦燥と苛立ち。

 

極限の緊張状態を強いられる事への疲労等。

 

彼女達は一切の瑕疵を含めずに素直な気持ちを仲間達へぶつけていった。

 

 

誰もが、その意見を否定する事無く耳を傾けている。

 

しかし彼女達が口にしたのは、それだけではない

 

 

超兵器を間近に見てきた彼女達だからこそ、今の世界がそれに太刀打ち出来ない事を良く理解していた。

 

故に、自らが傷付く事よりも彼女達は自らの大切なものに脅威が及ぶことを何より恐れたのだ。

 

 

一同からは、はれかぜにこのまま残り超兵器と戦う選択をすると口々に聞かれた。

 

 

優衣の料理を食べたことで、今まで築き上げてきた思い出や、未来に自らがここに存在していた明かしを残したいとの思いが強く現れたのだったのかもしれない。

 

 

だが、通常はそう簡単に行くものではない。

 

 

例え大切な者に危害が及ぼうとも、自らに死のリスクがあれば尻込みして逃げ出してしまうのが通常なのだ。

 

 

しかし、彼女達は違う。

 

 

現状に於いて、世界で最も死に近い海にいる彼女達が、耐え難い恐怖を抱きながらも前に進む事が出来るのは普通ではない。

 

 

彼女達は紛れもなく¨人魚¨だった。

 

 

学生時代に習う技術は、飽くまでも基礎中の基礎に過ぎない。

 

 

RATt事件を除いたとしても、学校での実習や座学の数々は、将来彼女達がブルーマーメイドとして様々な危険な現場に遭遇しても臆さず、困っている人々を助けたいと言う心を育てて行く事が本来の目的だったのだ。

 

 

そして彼女達の中には、確実に人魚の心が育まれていた。

 

 

明乃は皆の顔をゆっくりと見渡した。

 

 

「進もう…皆の大切なものと、そして私達自信の未来を守るために!」

 

 

彼女の言葉に全員が頷く。

 

それを見ていた優衣は笑顔を浮かべた。

 

 

「話は纏まったみたいね。じゃあ冷めないうちに食べて食べて!おかわりも一杯つくったから。」

 

 

 

「はいはーい!おかわりください!」

 

 

「ルナ…そんなに食べたら太っちゃうわよ?」

 

 

「ええ!いいじゃんこんな時くらい!」

 

 

場に笑い声が響く。

優衣は食事の配膳をしながら、少し眉を潜めた。

 

 

(本当はこんなことの為に料理をしたかったんじゃない…。皆を死地に向かわせる為に料理を食べて欲しかったんじゃないのに…。そうしなくちゃいけないこの状況を皆なら何とか変えてくれるのかな…。もしそうなら、私は全力であなた達を支援するわ。)

 

 

 

彼女は、そう密かに決意を新たにするのだった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

食事を終えた明乃は、スキズブラズニルのドックへと足を運ぶ。

そこには、作業者に指示を伝える珊瑚の姿があった。

 

 

「杉本さん。」

 

 

「ん?あぁ…はれかぜ艦長。優衣の料理は楽しめたかい?」

 

 

「うん。とっても美味しかったよ。」

 

 

「それは良かった…。それよりどうしたんだい?君はいままで連戦だった訳だし、少しでも休む事を勧めるけど。」

 

 

「うん…でもなんか落ち着かなくて…何か私に出来ることはないかな?」

 

 

 

「と言ってもねぇ…。」

 

 

珊瑚は目の前に視線を向ける。

 

 

それを見た明乃は目を見開いた。

 

 

「え?杉本さん…これってもしかして…。」

 

 

「ん?あぁ…はれかぜ…だよ。」

 

 

彼女は気まずそうに頭を掻く。

隣にいた明乃は、愕然としていた。

無理もない、つい数時間前まで乗っていたはれかぜが、ほぼ¨解体¨されていたからだ。

それは、彼女がドックに入ってきた際に、これがはれかぜだと気付かない程に。

 

明乃は、珊瑚の肩を掴んで問いただした。

 

 

「す、杉本さん!どうして!どうしてはれかぜを!私達、漸く一つになって前に進もうって、さっき皆で話し合ったのに…どうして!」

 

 

「あっ、ちょ…は、はれかぜ艦長…おち、落ち着いて…い、痛いよ…!」

 

 

「!」

 

 

明乃は、我に帰って!彼女から手を離す。

 

 

「ご、ごめん杉本さん!私…。」

 

 

「んまぁ…いいんだ。事前に説明をしなかった私も悪いんだし…と、言う訳で少しは落ち着いたかな?」

 

 

「ん…まぁ。」

 

 

彼女は明らかに動揺をしているが、珊瑚は気にしない事にした。

 

 

「それじゃあ説明させてもらうよ。はれかぜは解体している訳じゃない。¨改装¨をしているのさ。」

 

 

「か、改装?」

 

 

「うん、そうだよ。ほら、竜骨もそのままだしね。」

 

 

「でも、ほとんどの部品を取り外しちゃってるよ?」

 

 

「流石はウィルキアの設備だね。小型の艦とは言え、ここまで早くバラせるとは思ってなかったからさ。感服しちゃったよ。」

 

 

「………。」

 

 

明乃は不安で一杯だった。超兵器に立ち向かうには、どうしてもはれかぜの力が必要である事は明らかであり、ここまで完膚なきまでに解体してしまった船体から、次の戦いまでに再び使用できるイメージがまるで沸いて来なかったからだ。

そんな彼女の気持ちを察してか、珊瑚は説明を続ける。

 

 

 

「はれかぜ艦長。君、今回の戦いでのはれかぜの性能をどう感じた?」

 

 

「どう…って。」

 

 

「太平洋で追加しただろう?ほら、超兵器推進装置だよ。扱いが難しかったんじゃないのかな?」

 

 

 

「………。」

 

 

「それに兵装もさ、敵の分厚い装甲や防壁に対して無力感を感じたんじゃないのかな?」

 

 

 

「確かに…。」

 

 

 

明乃は先の対戦を思い返していた。

 

超兵器推進装置は、艦に有り得ない程の速力を与える代償に、深刻な舵性能の低下と、艦のバランスが不安定になることで転覆のリスクを格段に高めてしまう欠点がある為、艦が直線的な運動をするとき以外は出力を全開にすることが出来ない。

 

 

更に、大型艦ではないはれかぜがまともに超兵器と対峙すれば、当然弾薬の欠乏が大きな問題になることも懸念材料のひとつだ。

 

 

これらは、今後更に熾烈になるであろう超兵器との戦いに於いては致命的な力の差になってしまうことは明らかだった。

 

 

明乃は、険しい表情を浮かべている。

そんな彼女に、珊瑚はいつものようなのんびりした口調で続けた。

 

 

 

「まぁこれは、その問題を少しでも解消する為の改装なんだ。実を言うとね、私は君達に謝らなければならないんだ…。」

 

 

「謝る?どうして?」

 

 

「技術屋って言うのはさ、自分の整備した物を完璧に仕上げてからクライアントに渡してあげたいものなんだよ。つまりはさ、はれかぜは未完成って言う事なんだよ。」

 

 

 

「はれかぜが…未完成?」

 

 

「そう、はれかぜはウィルキアの技術と超兵器の技術を使ったハイブリット艦だ。だが、ひとつ忘れてはいないかい?」

 

 

「蒼き鋼のこと?」

 

 

「ああそうさ。簡易クラインフィールドは飽くまでも防御の為にある。それもメンタルモデルが付近にいる場合のみ有効だ。ただ私が言いたいのはそこじゃない。蒼き鋼の知識を活かした武器についてさ。」

 

 

 

「どう言うこと?」

 

 

珊瑚は一度息を大きく吸い込んだ。

 

 

「いいかい?ウィルキアは対超兵器戦に長けた言わば矛、蒼き鋼はクラインフィールドを持っている盾だ。では君達の立ち位置はなんだと思う?」

 

 

 

「立ち位置…。」

 

 

「君はとっくに理解している筈だよはれかぜ艦長。私達は、傭兵でも軍属でもない。ブルーマーメイドなんだ。」

 

 

「!」

 

 

明乃は目を見開いた。

それを見た珊瑚はニッと口を吊り上げる。

 

 

「そうさ、私達の役割は救助やサポートだ。とても地味に思うかもしれない…だが。」

 

 

「解るよ。私達は、異世界艦隊の誰よりも高度で難しい立ち位置にいる…だね?」

 

 

「解ってるじゃないか。そう、私達は超兵器との乱戦の中、世界一危険な海域に踏み留まりながら、異世界艦隊のサポートと救助を両立させなくちゃならないんだ。ある意味では、二つの異世界艦隊達が成す事よりも困難な事だと思わないかい?」

 

 

 

「………。」

 

 

「まぁ、これはその為の改装さ。勿論、現場で適切に行動できるかは君達にかかってるんだけどね…。」

 

 

改めて突きつけられた現実に、明乃の表情が険しくなる。

 

 

「じゃあ、どんな改装を施したの?」

 

 

「さっきも言ったが、超兵器推進装置はあれで完成な訳じゃない。本来あれは、船体のバランスを制御する補助装置と高速でも舵性能低下させない機構が伴って初めて完成なんだ。」

 

 

 

「そ、そうだったんだ…。」

 

 

「まぁ、完成を楽しみにしていてくれよ。あぁ…それと弾薬の少なさによる決定力不足に関する事だけどさ。」

 

 

 

「うん。何か解決策があるの?」

 

 

 

「はれかぜはウィルキアが製作したフリーゲート艦をそのまま貸し出されただけの艦だしね。此方の世界の自動化システムを取り入れた事で、艦内に使われていないデッドスペースが出来ていたんだ。だから一度艦内の間取りを整理して、弾薬庫やスキッパー格納スペースを増設する。まぁ言ってしまえばブルマー仕様にするってことさ。」

 

 

 

「でも、間取りの変更だけならこんなに解体したくてもいいんじゃないの?」

 

 

「これはさっきも言ったけど、この大規模な解体は弾薬の増量の他に超兵器推進装置を活かすための機構を組み込む為の細工を施すことも目的に入っているんだ。おっと話が逸れてしまったね。君達の攻撃面での不足は、蒼き鋼から既に提供を受けているんだ。これがあれば、超兵器戦を遥かに優位に進められるよ。」

 

 

 

「どんな機構なの?」

 

 

 

「それは…。」

 

 

珊瑚は珍しく気だるげな表情を引き締め口を開く。

彼女の口にした内容を聞いた明乃は目を丸くしていた。

 

 

「そ、そんなことが可能なの?」

 

 

「飽くまで理論上の話さ。試験をしてみないことには何とも言えないし、新兵器の試験や超兵器推進装置の補助機構の設置には大戦艦ヒュウガの協力が必要だからね。私達は、彼女が帰艦するまで出来ることをやっておくしかないかなぁ。」

 

 

「何か私達に出来る事はある?」

 

 

「いや、ここは私達に任せてくれないかい?技術屋として、最後までやり遂げてみたいんだ。この間みたいには絶対しないからさ。」

 

 

 

「杉本さん…。」

 

 

明乃は珊瑚の言いたいことが良く解っていた。

 

 

改装の時間を取る間が無かったとは言え、試験段階の超兵器推進装置を未完成のまま送り出してしまったことを彼女は悔いていたのだ。

 

 

当然であろう。

新型の装置が取り付けられれば、乗組員は勿論その装置を信頼して使用する。

だが、もしその装置が未完成であり、本来の性能を発揮できないのだとしたら、それは逆に乗組員の命を危険に晒している事に他ならない。

 

 

しかし、それでも装備しなければならない現状である以上、彼女はそれを承諾せざるを得なかった。

例え自らの技術屋としての矜持を捨ててでも…。

 

 

だが、スキズブラズニルに帰ってきた彼女達の顔を見て、思ってしまったのだ。

 

自分が不完全に整備した艦で仲間が傷付いてしまった、殺してしまうかもしれなかったのだと。

 

 

 

珊瑚にとってもこれは戦いだった。いや、彼女にしても優衣にしても、実際に現場に居らずとも大切なものを持つ人間であることには変わらないのだ。

 

しかし彼女達は裏方に徹し、明乃達が万全の状態で戦いに挑めるよう努めていた。

 

 

明乃は、そんな彼女達の気持ちを無駄にしたくはなかった。

 

 

「解ったよ杉本さん。少し休んでくるから、後はお願い。何かあったら直ぐに声を掛けてね。」

 

 

「あぁ…それじゃあゆっくり休んで。」

 

 

明乃は、ドックを後にする。

それを目で見送った珊瑚は、改装中のはれかぜへと視線を移した。

 

 

(私達に出来る事は少ない。悔しいけど蒼き鋼やウィルキアの技術は必要だ。今は兎に角大戦艦ヒュウガの帰艦を待つしかないかな…。)

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長、蒼き鋼よりアームドウィング撃沈の報が入りました!」

 

 

 

「やったか!」

 

 

シュルツは、一先ず安堵する。

しかし、すぐに表情を引き締めニブルヘイムを睨んだ。

 

 

 

「あとは貴様だけだ。」

 

 

「艦長、先程からの攻撃を観察していますと、ニブルヘイムはホバー砲発射の際に防壁の力が弱まるようですね。」

 

 

「蒼き鋼が、こちらに増援に来る模様。到着までおよそ20分です!」

 

 

 

「よし!ここで一気に仕掛ける。ナギ少尉、大戦艦ヒュウガの用意した¨光子魚雷¨準備を急げ!」

 

 

「はっ!」

 

 

ナギは関係各所に連絡を入れ、現場の雰囲気が一層慌ただしくなる。

博士が不安げな表情を向けてきた。

 

 

 

「果たして大丈夫なのでしょうか…。」

 

 

「解りません…事実上三隻分の出力を備えた超兵器ですからね。ですが、ここで大西洋の解放を決めねば、後の憂いとなるでしょう。」

 

 

「そうですね…。」

 

 

彼女は不安で堪らなかった。

 

超兵器の艦隊旗艦クラスは、国家戦力をも相手にしうる。

 

 

彼等は未知なる恐怖に脅えながらも、単艦で敵へと向かって行くのであった。

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。

業務連絡ですが1.5章の兵装紹介の最下部に、短編で超兵器のランク付けをした話を書き足しましたので宜しければご覧ください。


次回、バミューダ沖海戦完結…出来るよう善処致します。

次回まで今暫くお待ち下さい。

それではまたいつか

















とらふり!


珊瑚
「お疲れ~。」

優衣
「お疲れ様、珊瑚。」

珊瑚
「で?これは一体どういう状況?」

真白
「は、離せ藤田さん!私を椅子に拘束してなんのつもりだ!」

優衣
「説明ありがと。まぁ私の新作料理の毒…実験だ…ううん、味見をしてもらいたいの。」


真白
「毒味?実験台!?や、やめろ!」


珊瑚
「あ~あ。暴れだしちゃったじゃん。」


優衣
「まぁ見てて。ほぉら宗谷さんこのパフェの香り解る?」


真白
「や、やめ…ん?この香り、そして頭に広がるイメージは…もしや艦長!」


優衣
「正解。人の心を掌握するにはまず舌からだから。どう?この【ミケパフェ】食べてみたくならない?」


真白
「だ、誰が!私はそんなものに屈したりはしない!」


優衣
「あ~っそ。じゃあこのパフェは私と珊瑚で食べるとするわ。あぁ…はれかぜ艦長の憂いを帯びた雰囲気を苦味の強いビターチョコで再現して。」


真白
「ゴクリ…。」



優衣
「柑橘系とイチゴの程よい酸味は、彼女が良く使っているシャンプーの香りを再現したもので…。」


真白
「ハァ…ハァ…。」


優衣
「そして生クリームの柔らかさと甘さが彼女の優しさを醸し出したパフェを、宗谷の口ではなく私と珊瑚の口で味わい尽くして…。」


真白
「やめろぉぉ!」


優衣
「ん?なに?もしかして食べたいの?」


真白
「ハァ…ハァ…ジュル…。」


優衣
「あらあら、ヨダレまで垂らしてはしたない…。そんなに欲しいならちゃんと言わないとダメよ?自分のクチでね。」



真白
「欲しい…。」


優衣
「え?聞こえない。もっとしっかりとオネダリしないと私が食べちゃうわよ?」


真白
「解った…いえ、解りました。だから、ソレを…ミケパフェを私の不躾な口の中にブチ込んで下さい!」


優衣
「いい子ねぇ…。」


珊瑚
「見事な茶番だね。はれかぜ副長は本気みたいだけど…。」


優衣
「今、良い処なんだから静かにして!ほぉら、口を開けて宗谷さん…そのフシダラ口の中にブチ込んであげるわ。」


真白
「あむっ…んっ…んっ…ん?んあぁぁぁあ♥」


ビクンッ…ビクンッ…くたぁ…。


珊瑚
「あ~あ。気絶しちゃったよ。」


優衣
「堕ちたみたいね。でも、とても幸せそうな顔だわ。」



珊瑚
「何か、ヤバイ物でも入れたの?」


優衣
「いいえ。飽くまでも普通の材料よ。問題は食べさせる相手を高度にプロファイルして、それに沿ってレシピを組み上げる事なのよ。」


珊瑚
「まぁ難しい事は解らないけど、なんか面白いからまた今度見せてよ。」


優衣
「良いわよ。そうねぇ今度はタカオさん辺りでどうかしら。メンタルモデルに私の腕が通じるか試してみたいわ。」



珊瑚
「その時は必ず誘ってね。」


優衣
「必ず…ね。ふふふっ…。」


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破滅の大光  VS  超兵器

大変長らくお待たせいたしました。

欧州解放前哨戦

バミューダ沖海戦編、決着となります。


それではどうぞ


   

 

   + + +

 

 

 

「光子魚雷の準備はまだか!」

 

 

「はい!あと数分で発射可能かと!」

 

 

「急げ!」

 

艦内の慌ただしさが増して行く。

 

 

誰もが額に汗を滲ませ、その時に備えていた。

 

 

 

そして、

 

 

「敵艦、ホバー砲の発射準備を開始しました!」

 

 

「艦長、多連装光子魚雷用意よし!」

 

 

 

シュルツは頷き、そして叫んだ。

 

 

「これで終わらせる!光子魚雷撃て!」

 

 

バシュッ!バシュッ!

 

 

複数の光子魚雷が放たれニブルヘイムへと向かって行く。

 

 

ホバー砲のチャージしている敵艦は、全てのレーザー発射を停止していた。

だが、シュルツに油断はない。

泥沼と化した戦況を傾けるには此が最後のチャンスであったからだ。

 

 

「まだだ!空母からの迎撃があるかもしれん。撃てる限りの砲弾を奴に叩き込め!」

 

 

「はっ!」

 

 

ペガサスは、有りったけの砲弾をニブルヘイムへと放つ。

 

 

敵空母は、弾幕の迎撃で光子魚雷への対応をすることが出来なかった。

それは、ホバー砲へのエネルギー充填を超兵器空母が担当し、迎撃に特化した兵装であるパルスレーザーを使用できない事が要因でもある。

 

 

魚雷はひた走る。

 

 

乗員の誰もがこれで敵が沈むことを祈っていた。

 

 

そして遂に、

 

 

ピカッ……ブゥオオオン!

 

 

水中での鈍い光が輝いた直後、光子弾頭が炸裂し、対消滅反応でエネルギーの殆んどが核兵器の数十倍の変換効率で熱エネルギーに転化され、超高温の熱が水と接触し一気に蒸発させて体積を増大させる。

 

 

それは、凄まじい膂力を伴った衝撃波になり、轟音と共にニブルヘイムに殺到した。

 

 

巨大な船体を覆い尽くす程の水柱と蒸気が上がり、敵は瞬く間に姿を消してしまう。

 

 

「衝撃波、来ます!」

 

 

「防壁を最大展開!総員、衝撃に備えろ!」

 

 

光子魚雷の余波は、空気中よりも物理現象を電波させやすい水中を通じてペガサスにも襲いかかる。

 

 

ゴォォォォォ!

 

 

「ぐっ!」

 

 

「あ、あぁぁ!」

 

 

艦内に悲鳴が轟く。

 

激しく揺れる艦橋で、シュルツは水蒸気が立ち込める前方を睨みながら叫んだ。

 

 

「な、ナギ少尉!超兵器ノイズの反応はどうか!」

 

 

「う、うぐっ!は、はい……あっ!」

 

 

幾多の戦いを経験してきたシュルツは、部下の声色を聞けば大概の状況を悟る位の事は可能だ。

 

 

だがそれ故に、彼は激しい徒労感に苛まれる事となる。

 

 

(まだ…終らんと言うのか!)

 

 

彼の予想は的中していた。

 

 

「ち、超兵器ノイズ健在!え…嘘でしょ!?ちょ、超兵器ノイズ極大化!計測不能!」

 

 

 

シュルツは内心で舌打ちをしながら水蒸気の晴れて行く眼前を睨み付ける。

 

 

「!」

 

 

蒸気の中から姿を見せた超兵器は、沈んではいなかった。

 

しかし…。

 

 

「敵艦、空母部大破!ですが…。」

 

 

シュルツは…いや、その場にいた者全ての表情が引きつった。

 

 

眼前には、完膚無きまでに破壊された超兵器空母に挟まれた¨無傷¨の戦艦が鎮座していた。

 

 

 

「くっ…怯むな。奴は空母部を切り離すことが出来ない。機動が落ちていれば、袋叩きに出来る。攻撃を再か…い?」

 

 

 

シュルツは、言葉を失う。

 

敵艦の甲板で光学兵器ジェネレータが発光し、直後に二本のビームが超兵器空母の前後に照射された。

 

そして茶苦茶に破壊され最早お荷物でしかない空母部と戦艦を繋いでいた接合部を、まるで鋏の様に二本のビームが切断した。

 

ビィィン…シュンッ!

 

 

「あ、あれは…近接戦闘用光学兵器か?まさかあんな方法で切り離して来るとは…。」

 

 

「嫌な兵器ですね…バルト海に停泊していた超兵器グロースシュトラールに投降を勧告する為に出向き、超兵器の周囲を取り囲んでいた艦隊が、丸ごと¨スライス¨された事件を思い出します。」

 

 

近接戦闘用光学兵器

 

【カニ光線】

 

にゃんこビーム同様間抜けた名前ではあるが、侮ることは出来ない。

 

攻撃対照が自艦から数百メートルに入ってきた場合や帝国が使用いた際は、停船勧告をするために近付いてきた船舶に対する不意討ちを目的として使用された記録もある。

 

 

イメージは鋏を連想してもらえば良いだろう。

 

 

光の剣を二本、鋏を最大に広げた様に水平に展開させ、そしてそれを閉じて行く事で相手を切断する。

 

超兵器はその巨大さ故に喫水が高く、懐に入られるとかえって大型兵器の死角になり、攻撃が出来なくなる弱点があった。

この兵器は、それを克服するべく装備された超兵器ならではの兵器と言えよう。

 

 

今回超兵器は、この兵器を空母の切り離しを目的として使用した。

 

 

三隻の艦船を横並びに繋げたニブルヘイムは、防御が堅い反面、動きが鈍く被弾面積が広い。

 

それを切り離すことで、機動性能が格段に上昇していた。

 

だが、それだけではない。

 

 

「撃て!光学兵器は奴には無意味だ。実弾で対処しろ!」

 

 

「はっ!」

 

 

ボォン!ボォン!

 

 

ペガサスが超兵器に発砲する。

 

 

しかし

 

 

ビギィィン!

 

 

「!?」

 

 

砲弾は防御重力場で跳ね返ってしまった。

 

 

「くそっ!防壁が堅い…。」

 

 

「恐らく、小笠原の時の播磨と同じでしょう。超兵器空母二隻が何らかの方法で、超兵器機関の出力の移譲を行った結果、本体の防壁出力が上昇した。」

 

 

彼の表情に明らかな苛立ちが浮かぶ。

 

 

ニブルヘイムは、超兵器空母二隻を犠牲にして、戦艦部の出力を格段に上昇させていたのだ。

 

 

 

博士は、超兵器を観察しながら何か考えている。

 

 

「どうされましたか?」

 

 

「ええ…艦長、不自然だとは思いませんか?」

 

 

「と、言いますと?」

 

 

「ニブルヘイムと呼称してはいますが、事実上あの戦艦部は超巨大レーザー戦艦グロースシュトラールのものです。以前バルト海で対峙した彼の艦は、我々の攻撃を受けた事で暴走しました。しかし今回は…。」

 

 

「確かに…超兵器空母二隻分の出力を移譲しているのにも関わらず、暴走していない…。」

 

 

「これは私の推測ですが…今回の超兵器で強化されているのは、なにも兵装だけではなく、超兵器機関の暴走を抑える¨枷¨も強化されているのではないでしょうか。現にその例は幾つか有ります。」

 

 

「ヴォルケンクラッツァーと帝国の総旗艦直衛艦である、あの三隻ですね?」

 

 

 

「ええ。今まで私達は、高出力艦ほど超兵器機関を縛る枷の力が弱くなると考えていましたが、それは高出力艦の枷を磐石にするには時間がかかり、解放軍の躍進により調整期間に余裕が無かった帝国がカテゴリーSSクラス以上の超兵器の完全化を優先し、他の超兵器の枷の強化を後回しにした事が原因だったとすれば…。」

 

 

「裏を返せば、時間さえあれば枷をきちんと整備し、超兵器は出力を上げて滅的な兵装を暴走のリスクを負わずとも使用出来る…と?」

 

 

「その通りです。下手をすれば、後に現れる超兵器は、攻撃の負荷による暴走と、それによる自壊を期待できなくなると考えた方が良いでしょう。」

 

 

「………。」

 

 

二人の間に重い沈黙が流れる。

先に顔を上げたのはシュルツだった。

 

 

「だとすれば臆している暇は有りません。奴を撃沈してヴェルナーとの合流を果たさなければ。」

 

 

「そうですね…。」

 

 

 

「か、艦長!」

 

 

「どうした?」

 

 

「に、ニブルヘイム甲板上で動きが!」

 

 

ナギの切迫した様子に、二人は眼前に視線を移す。

 

 

「!?」

 

 

ジト…と嫌な汗がシュルツの額を伝った。

 

 

ニブルヘイムの甲板には、先程までは無かった兵装が複数出現している。

 

だが、ホバー砲程巨大な物出はなく、通常の戦艦に備え付けてある副砲よりも一回り小さい位だった。

 

しかし、一同の顔からは血の気が引いている。

 

その理由は…。

 

 

「光子榴弾砲…¨やはり¨装備していたのか!まずいぞ!総員、回避運動に専念せよ!」

 

 

シュルツが慌てて指示を飛ばし、ペガサスが動き出す。

 

 

 

 

「危険です!一度完全に敵から離れた方が良いでしょう!敵の光子榴弾砲は我々の物と違い¨本物¨ですから!」

 

 

「無駄です!発射速度が速すぎる!今は¨あの時¨のとは違う。奴に我々の進行方向を悟られないようにするしかない!」

 

 

「くっ…。」

 

 

博士は思わず顔をしかめた。

 

 

かつてバルト海で超兵器と対峙したシュルツ達解放軍艦隊は、当時グロースシュトラールと呼ばれていた超兵器と対戦した。

 

 

事前の調査結果から、この超兵器が光学兵器を使用することが判明し、博士がサルベージした超兵器を構造解析した中から電磁防壁を復元。

それを装備した艦艇のみで出撃することとなった。

 

第二次世界対戦当時の兵装がまだ主流であった中で、レーザーと言う未知なる兵器を主体とした軍艦との戦いは、熾烈を極めた事は言うまでもない。

 

 

しかしながら、その巨大な船体と分厚い装甲の為なのか、それともレーザーが主体であるため、防御重力場よりも電磁防壁を強化していた為なのか、グロースシュトラールは実弾に対する防御重力場が他の超大型艦に比べて比較的弱く、攻撃が通りやすかったのだ。

 

 

解放軍は連携して、超兵器を大破まで追い込み、停船させることに成功。

 

降伏勧告を行い、事態は無事に終息する筈だった。

 

 

しかし…。

 

 

グロースシュトラールは突如として暴走を始め、今までよりも苛烈な攻撃を開始した。

 

 

その中で敵が使用された兵器こそ、光子榴弾砲だったのだ。

 

 

その凄まじい威力に、解放軍は、航空機や潜水艦を含めて、瞬く間に撃破されてしまう。

シュルツ達一行は、残された空母数隻と共に退避を開始、ゴトランド島の東側へ移動する。

 

 

島を挟んで西側に展開する超兵器は、立て続けにレーザーや光子榴弾砲を発射、しかし超兵器の攻撃が島を越える事はなかった。

 

 

これを好機と見たシュルツは、航空機を使用して敵の位置を観測させ、砲撃やミサイルを中心とした攻撃を展開、更に航空機からも遠距離からミサイルを使用した攻撃を行って敵を追い詰める。

 

 

ところが、長期戦の様相を呈していた戦況は思わぬ形で幕を閉じた。

 

 

超兵器の自壊である。

 

 

暴走後の異常なエネルギーに船体が耐えきれず、大爆発を引き起こして完全に消滅してしまったのだ。

 

 

グロースシュトラールとの邂逅は、解放軍司令部に今後の対応を迫るものとなった。

 

 

 

光学兵器と未知なる殲滅兵器の登場、そして超兵器の暴走である。

 

 

今後、更なる強力な超兵器の登場を予感した司令部は、ブラウン博士に対して新たなる対超兵器要兵器開発を指示、博士が独自の理論を元に再現した物こそ、小笠原等で使用された光子榴弾砲だった。

 

 

しかしながら、グロースシュトラール本体が完全消滅してしまったことにより、空想することでしか再現出来なかった解放軍側の光子兵器は、反物質の獲得をヒュウガに実現してもらった以外はあまり進歩がない。

 

 

対して超兵器が使用する光子榴弾砲は、装填時間も短く発射速度も速い。

 

更に、この海域にはバルト海中央に存在したゴトランド島のような盾となってくれる島々が存在しない。

 

 

発射されればそれが即、死を意味する事は明白だった。

 

 

 

「敵艦、発射準備を完了した模様!来ます!」

 

 

「防壁を最大展開!」

 

 

「艦長、無駄です!あの衝撃波は、防御重力場や電磁防壁では相殺出来ません!」

 

 

「簡易クラインフィールドならどうです?」

 

 

「不安です…。一発なら未だしも、超兵器は複数を同時に発射するつもりでしょう。正直な所、メンタルモデルが近くに居なければ、更なるフィールドの強化は期待出来ません!」

 

 

「くそっ!こんなところで沈むわけにはいかないというのに…!」

 

 

 

「か、艦長!ご指示を!」

 

 

ナギが悲鳴にも似た叫び声を轟かせる。

シュルツは、あらゆる防壁を最大展開し、艦を出来るだけジグザグに航行させ機動を読ませないよう指示を出すが、所詮は小細工でしかないことを十分理解していた。

 

 

そして遂に、それが発射される。

 

 

ピシュァァァン!

 

 

 

「来た!総員、衝撃に備…。」

 

 

 

ブゥォォォォン!

 

 

 

「くっ…あぁぁぁ!」

 

 

「きゃあぁぁ!」

 

 

光子榴弾砲がペガサスの後方に着弾した。

直撃は避けたものの、衝撃波は容赦なくシュルツ達を襲う。

 

 

その凄まじい爆圧は防壁をいとも簡単に飽和させてしまった。

 

 

「被害を報告!」

 

 

「艦後方中破!火災発生!機関損傷、速力低下!甲板被弾、航空機発進できません!防壁飽和!尚、艦後方を中心に怪我人が出た模様、人数は把握出来ていません!」

 

 

「機関の復旧を優先しろ!狙い撃ちにされたらお仕舞いだ!舵は生きているのか!?」

 

 

 

「はっ!舵には損傷有りません!」

 

 

「現状出せるだけの速力を出せ!とにかく動き回るんだ!次、被弾すれば跡形も残らないぞ!」

 

 

シュルツの罵声に、乗員が慌ただしく動き回る。

 

しかし、艦内は事態の収拾がまだついておらず、混乱していた。

そしてその混乱が無情にも、ニブルヘイムに次なる攻撃を決断させる隙を作ってしまっていた。

 

 

 

超兵器の甲板上には、複数の眩い光が輝き始める。

だがそれだけではない…。

 

 

「!!?」

 

 

「あ…あぁぁ!」

 

 

シュルツの表情が凍り付き、ナギの絶望した悲鳴が艦橋に響き渡った。

 

 

超兵器の甲板上にある、近接戦闘要以外の¨全て¨の光学兵器ジェネレータが発射態勢の前兆である発光を開始した。

 

 

 

「何て事だ…ホバー砲を含めた全ての兵装を一斉射撃だと?化け物め!」

 

 

「そんな…。もしそんなことをされれば、我々など髪の毛一本も遺さず消滅してしまいます!」

 

 

 

「機関の復旧はまだか!」

 

 

「ダメです!間に合いません!」

 

 

《下賎ナ者達ヨ…偉大ナル光ノ前ニ消滅セヨ…。》

 

 

 

「…くそっ!」

 

 

シュルツは拳を握り締め、悔しげに唇を噛む。

 

最早敵の一斉射撃は止めることは出来なかった。

 

 

誰もが死を覚悟する。

 

 

そして…。

 

 

……ビギィィイン!

 

 

ニブルヘイムから、あらゆる兵装が放たれ、砲弾を遥かに越える速度で殺到してきた。

 

ペガサスはレーザーでバラバラにされ、光子榴弾砲で跡形も無く消し去られるだろう。

 

 

だが…。

 

 

ビィイン…ブゥォォォン!

 

 

 

蒼白い閃光が超兵器とペガサスの間を通り抜けた。

 

 

すると、ペガサスに向かっていたレーザーや光子榴弾砲が掻き消されて行く。

 

 

「こ、これは…超重力砲か?」

 

 

『遅くなりましたシュルツ艦長。』

 

 

通信機から少年の声が響いてくる。

 

 

「千早艦長!」

 

 

『此より援護を開始します。』

 

 

 

   + + +

 

 

「杏平っ1番から2番通常魚雷、続いて3番から4番、音響魚雷撃てっ!」

 

 

「はいさー!」

 

 

バシュッ!バシュッ!

 

 

魚雷がニブルヘイムへと向かって行き、防壁と衝突する。

 

 

「やはり、防御重力場が強くなっているか…。」

 

 

群像は表情を険しくした。

 

 

アームドウィング撃破した蒼き鋼は、401の補給と超重力砲の修理を開始していた。

 

しかし、イオナとヒュウガが超兵器の出力上昇を検知し、作業を中断して駆け付けたのだ。

 

その判断は正しかった。

 

 

駆け付けた彼等の目撃したものは、あらゆる兵装を一斉射撃しようとするニブルヘイムと、損傷を負ったペガサスの姿であった。

 

 

群像は、急いでヒュウガに指示を飛ばし、超重力砲を使って敵の攻撃を掻き消す。

 

獲物を仕留め損なったニブルヘイムは、怒りの矛先を此方に向けてくる。

 

 

凄まじい数の攻撃が、ヒュウガに向かって殺到した。

 

 

 

ボォォォオン!

 

 

「あぐっ!?」

 

 

レーザーに混じって放たれた光子榴弾砲が炸裂した衝撃波は、ヒュウガだけでなく海中に潜む401にも届き、激震がクルーを襲う。

 

 

「くっ、何て威力だ…。」

 

 

「今の一撃でクラインフィールドが18%消失しました!」

 

 

 

「イオナ。ニブルヘイムへの有効な攻撃は?」

 

 

 

「通常弾頭はほとんど無意味。敵艦にダメージを残すには侵食魚雷か超重力砲が必要不可欠。」

 

 

 

「艦長、此方の超重力砲は使用不能。ヒュウガも、先程の発射で暫くは冷却が必要に成ります!」

 

 

 

「侵食魚雷の残弾は?」

 

 

「此方は24、ヒュウガは42です!」

 

 

 

「……解った。ヒュウガ!聞こえるか!?」

 

 

『何かしら?』

 

 

 

「残りの残弾全てを奴に叩き込め!俺達の侵食魚雷も全て使う。」

 

 

「艦長!それでは…!」

 

 

「いや、現段階ではこれしかない。防御重力場は弾道を変えられても、侵食魚雷の放つ無限の重力を飽和することは出来ない。」

 

 

「致命打にはならなくとも、防御重力場の効力を一時的に弱めるんですね?」

 

 

「そうだ。ヒュウガ、通常弾頭を発射して、防御重力場の作動地点を観測、データを此方に送れ。その情報を下に侵食弾頭兵器の起動地点を防御重力場発生地点にセット、全弾を発射する。」

 

 

 

「でもよぉ。それじゃ敵の撃沈には漕ぎ着けられないんじゃねぇか?」

 

 

「確かにそうだ。だから、防御重力場が弱体した隙にペガサスから光子魚雷を放って貰う。イオナ、通信を繋げ。」

 

 

 

「ん…。」

 

 

 

「遅くなりましたシュルツ艦長。」

 

 

『千早艦長!』

 

 

「此より援護を開始します。此方が侵食弾頭兵器を全て放ち防御重力場を弱めます。その隙にそちらは、光子魚雷をニブルヘイムへぶつけて下さい。そうすれば超兵器を撃ち…。」

 

 

 

 

 

『すみません…どうやら無理そうです。』

 

 

 

「何があったんですか?」

 

 

『ええ…たった今、此方の機関が水没しました。』

 

 

「なんですって!?」

 

 

 

   + + +

 

 

ペガサスの艦内は騒然としていた。

 

 

「浸水の原因は?」

 

 

「恐らく光子榴弾砲かと…。」

 

 

「不味いな…。」

 

 

シュルツは険しい表情を浮かべる。

 

 

光子榴弾砲の発する衝撃波は、海上だけではなく、上空や海中にまで及ぶ。

 

ペガサスは、海上から見えるダメージだけではなく、衝撃波によって艦底にも損傷を負っていたのだ。

 

 

「怪我人は、機関室に閉じ込められた者は?」

 

 

「奇跡的に無事です。しかし、機関出力が…。」

 

 

「ああ…そうだな。」

 

 

「艦長、ご指示を…。」

 

 

 

「………。」

 

 

シュルツは少しの無言で俯き、そして口を開いた。

 

 

「艦を棄てよう…。」

 

 

「か、艦長!」

 

 

「千早艦長…聞こえますか?」

 

 

『ええ…。』

 

 

「この艦は限界です。申し訳有りませんが、我が兵を救出しては頂けませんか?」

 

 

『解りました。至急ヒュウガを向かわせます。此方は超兵器を牽制しますので、出来るだけ速やかに避難の準備を進めてください。』

 

 

「感謝します…。」

 

 

「艦長!敵はまだ…!」

 

 

「ナギ少尉、解ってくれ…総員、退艦だ。」

 

 

「!!!」

 

 

ナギは涙を一杯に浮かべながら敬礼をし、各所に通達を回す。

その間にも、徐々に艦は傾きつつあった。

 

博士が心配そうに、シュルツの顔を除いてくる。

 

 

「大丈夫ですか艦長?」

 

 

「ええ…。博士、光子魚雷は、通常の爆発でも起動しますか?」

 

 

「え?ええ…反物質が何らかの原子に触れれば対消滅は起こりますが…まさか!」

 

 

「そのまさかです。博士は、まだ動ける者に、光子魚雷にリモート作動式の爆薬を仕掛けるよう指示してください。艦が沈む前に、これごと奴に突っ込んで¨自爆¨させます。」

 

 

「艦長…。」

 

 

苦肉の策だった。

 

航空支援の乏しい中での航空戦艦の破棄は異世界艦隊にとって痛手でしかない。

 

しかし、現状この世界に存在しない技術を用いた超兵器やペガサスをこのまま沈没させておくのは、各国に破滅的な技術の流出を招きかねない危険を秘めている。

 

 

シュルツは、先程群像から提案された案を用いてペガサスを自爆させ、¨あってはならない¨技術を諸とも消滅させる道を選んだ。

 

 

「艦長、退艦準備並びに自爆工作の用意整いました!大戦艦ヒュウガ、間も無く接舷します!」

 

 

「解った。総員ヒュウガに乗り込め。怪我人の搬送を優先しろ。」

 

 

「はっ!」

 

 

ナギを戦闘に乗員達が艦橋から出て行く。

 

彼が外へと視線を移すと、ヒュウガがニブルヘイムの攻撃をフィールドで防ぎつつも此方に近付いてきている。

 

 

遠方からは、401が絶え間無くミサイルを発射し、ニブルヘイムを牽制していた。

 

 

だが事実上、超兵器機関三隻分の出力を有するニブルヘイムの攻撃は苛烈を極めている。

 

 

流石の401もそう長くは持ちそうに無かった。

 

 

「艦長!艦長も退避を!…艦長?」

 

 

「………。」

 

 

シュルツは人が居なくなってしまった艦橋を見渡していた。

 

 

彼にとって艦とはただの道具ではない。

 

 

苦楽を共にしてきた¨戦友¨なのだ。

 

 

(すまない…本当に…お前には、なんと謝っていいのか…。)

 

 

「艦長!」

 

 

「!」

 

 

博士の放った必死の叫びに、シュルツは我に帰る。

 

 

「さぁ!あとは我々だけです。退避しましょう!」

 

 

「申し訳ありません博士…先に、退避を始めてください。必ず後から向かいます。」

 

 

「嘘よ…。」

 

 

「………。」

 

 

「艦長!あなたが死ぬ事で亡くなった兵士達への罪滅ぼしには成らないんですよ!?」

 

 

「博士…お願いです。あなたは退避してください。完了し次第艦をニブルヘイムへと向けます。」

 

 

「艦長!」

 

 

「エルネスティーネ・ブラウン博士!命令だ!速やかに退避しろ!」

 

 

「!」

 

 

凄まじい怒声に、博士は身体が硬直してしまう。

目には涙が浮かんでいた。

 

それを見たシュルツは、表情を穏やかにすると、彼女の手を握り、諭すように口を開いた。

 

 

「こんなやり取りが最期なのは私も寂しいです。博士、先に退避をしてください…お願いだ。」

 

 

「か、艦長…。」

 

 

彼女はグッと目を瞑ると手をゆっくりと離し、振り返らずに駆け出して行った。

 

 

 

彼は、もう一度艦橋を見渡し、そしてニブルヘイムを睨んだ。

 

 

 

「貴様は、必ずここで沈める。何があってもだ!」

 

 

 

   + + +

 

 

「はぁ…はぁ…。」

 

 

「博士!早く此方へ!」

 

 

ナギがヒュウガの甲板上で手を振っている。

 

博士は、息を切らせながらクラインフィールドで作られた足場を駆け上がった。

 

 

ガゴンッ!

 

 

博士が、飛び乗ったと同時に、ペガサスが超兵器へと動き出す。

 

 

 

「あ、あれ?あのぅ博士…か、艦長は?」

 

 

「………。」

 

 

博士の顔は涙で濡れていた。

それを見た彼女は全てを悟る。

 

 

「嘘…でしょ?博士!なんで!なんで止めなかったんですか!」

 

 

「………。」

 

ナギは博士に掴みかかり激しく揺さぶった。

 

 

「どうして!?ねぇどうしてですか!あなたは艦長が大切じゃなかったんですか!?この程度の存在だったんですか!?」

 

 

「止めたわよ!」

 

 

「!」

 

 

彼女は、滅多に上げることがない大きな声で叫んだ。

 

 

 

「何度も止めた…一緒に居ようと思った…でも、あの方は…。あなたも解るでしょう?あの方を大切に思っているあなたなら…解る筈よ。きっとこう言う選択をする人だって…。」

 

 

ナギは博士から離れ、絶望したようにその場にへたりこんだ。

 

 

「そんな…。今、艦長を失ったら、私…私達、どうすればいいんですか…。」

 

 

「あら~?お困りかしら?」

 

 

「大戦艦…ヒュウガ?」

 

 

 

「私の艦内に、退避スペースを確保したわ。中に入って頂戴。」

 

 

 

「そんなことよりも艦長が…。」

 

 

「全く…困った艦長サマねぇ。でも心配ないわ。¨コッチの¨艦長サマはお見通しだったみたいだから。」

 

 

「え?それはどういう…。」

 

 

「話してる時間は無さそうね…。流石に遠くなると帰ってくるのも面倒だし、それじゃあ行くわ。」

 

「行くって何処に…えっ、えぇ!?」

 

 

ナギが状況を理解する間も無く、ヒュウガは跳躍すると、海面にフィールドで作った足場を出現させて物凄い速度で駆け出した。

 

 

あっと言う間に小さくなるヒュウガの姿を、博士は祈るように見つめる。

 

 

(千早艦長…大戦艦ヒュウガ。艦長を…頼みます!)

 

 

   + + +

 

 

(こうして、操艦をするのは久しぶりだな…。)

 

 

シュルツは陀輪を握り、超兵器へと突き進んでいた。

 

 

(もう少し粘れると思ったが…。ヴォルケンクラッツァーを撃沈する為には、¨超兵器の従属艦¨がいては不可能だ。奴を道連れにしてでも撃沈しなければならん!)

 

 

一人になっても、彼の決意は変わらなかった。

しかし、心残りがないと言えば嘘になる。

自分亡き後の異世界艦隊の動向だ。

 

 

まだ見ぬ超兵器との対応、各国との交渉など課題は多い。

何よりも世界を相手取る戦力を有した北極海にいる化け物がどの程度強化されているのか解らない状況で、残された彼等が上手く立ち回れるのかは、彼にとって最も大きい憂いであることは間違いないだろう。

 

 

(済まない…無責任なのかもしれないが、我々の世界でも人類は団結出来た。ならこの世界でも可能な筈だ。だから…頼む。)

 

 

 

シュルツはニブルヘイムを睨み付けた。

 

 

(貴様には、皆の邪魔立てはさせん!)

 

 

彼が心のなかで超兵器に啖呵を切った時だった。

 

 

 

ボォン!

 

 

「!!!!?」

 

 

「やっと追い付いたわ…。もぅ、あんまり手間を掛けさせないで欲しいわね…。」

 

 

「大戦艦…ヒュウガ!?」

 

 

艦橋の壁をぶち抜いて、ヒュウガが突入してきた。

シュルツは驚愕するが、直ぐに表情を元に戻す。

 

 

「何をしに来たのですか?早く自艦のへと戻って下さい!あそこには私の部下達が…。」

 

 

「大丈夫よ。」

 

 

「だってあれは私の一部だもの心配ないわ。駄々をこねていないで戻るわよ。」

 

 

「しかし私は、この艦を超兵器へと…。」

 

 

 

「面倒ね…。」

 

 

グイッ!

 

 

「あっ…ちょ…。」

 

 

ヒュウガはシュルツを腕に抱えると、猛スピードでペガサスから脱出した。

 

 

「かっ…あっ!」

 

 

「喋らないで!呼吸をすることだけ考えなさい!」

 

 

彼女の凄まじい移動速度に彼は呼吸をすることすらまたならない。

 

 

 

ドサッ!

 

 

「かっ…かはぁ…。」

 

 

何か床のような所に降ろされ、漸く呼吸が楽になった彼は回りを見渡す。

 

 

「ここは…。」

 

 

「私の甲板よ。ようこそウィルキアの艦長サマ、大戦艦ヒュウガへ。」

 

 

 

彼は、ヒュウガの船上を暫くは見渡した。

 

そして思い出したかのように、後ろを振り返る。

 

 

「しまった!艦の操陀が…。」

 

 

「心配しなくていいわ。」

 

 

「!!?」

 

 

シュルツは唖然とした。

 

 

人が居ない筈のペガサスは、正確に超兵器に向かって突き進んでいたのだ。

 

 

 

「姉さまが、アクティブデコイを操作して牽引しているのよ。防御は私に任せて。此くらいなら何とか出来るわ。」

 

 

 

「しかし、それでは401の演算が…。」

 

 

「姉さまが一人で全部こなすなら…ね。」

 

 

「まさか…。」

 

 

 

   + + +

 

 

「静、敵は捉えているか?」

 

 

「はい!勿論です。」

 

 

 

群像は、クルーに目まぐるしく指示を飛ばす。

 

 

隣にいるイオナは、目を閉じて集中していた。

 

 

群像達は、クルーに操縦を任せることでイオナの演算領域を増幅させ、アクティブデコイによるペガサスの誘導を実現させていのだ。

 

群像は絶え間無く指示を飛ばし続ける。

 

 

 

「僧!操陀はお前が便りだ。タイミングを合わせてぴったりに付けろ!」

 

 

「お任せください!」

 

 

「杏平、火器の用意は任せる。」

 

 

「はいさ~!」

 

 

「いおり、機関は?」

 

 

『オッケー!準備済みぃ!』

 

 

「イオナ!」

 

 

「デコイの誘導とペガサスの防御を同時進行中。」

 

 

 

「いよいよ正念場だ。皆、気を抜くな!」

 

 

「「了解!」」

 

 

 

   + + +

 

 

超兵器の攻撃は、自身に向かうペガサスだけではなく、ヒュウガにも及んでいた。

 

 

しかし彼女は、顔色一つ変えずに苛烈な攻撃を防御し、普通の艦船では到底不可能な複雑な操艦を同時にやってのける。

 

 

 

(なんて操艦なんだ…これが蒼き鋼…いや、千早艦長が見ている世界だと言うのか…。)

 

 

 

彼は背中にゾクリとするような感覚を覚える。

 

 

群像の世界の話しは既に知っていたし、実際にその戦いぶりも見てきている。

 

しかし実際、こうして彼等の艦に乗艦し、戦う場面を目の当たりにしたシュルツは、驚愕せざるを得ない。

 

それはそうだろう。

群像の世界では、国家戦力を駆使したとしても、霧の¨魚雷艇¨すら沈める事は叶わなかった。

 

 

それを、霧の潜水艦を入手し、それを完全に使いこなしたとしても、大戦艦程の戦力を倒し、仲間に率いれる等の功績は、シュルツですらも想像の範疇を超えていたことは言うまでもない。

 

 

だが、彼が本当に驚愕していたのはそこではない。

 

この過ぎたる戦力は、同時に人間に対する甘美な誘惑に他ならない。

 

 

もし、この戦力が国家に渡るなら、間違いなく自国の利益の為に利用されるだろうし、個人で所有していた者が居るなら、その者は力を乱用し、独裁者として君臨しているに違いない。

 

 

 

彼等は、この戦力を私的にではなく、霧と人類との和平、言い換えれば¨世界の和平¨の為に利用し、奔走しているのだ。

 

しかも、政府や軍関係者でもない¨少年少女¨達が…だ。

 

 

(千早艦長…あなたは一体何者なんだ…何を背負っているんだ。)

 

 

 

「…っと!ちょっと聞いてる!?」

 

 

 

「え…あぁ、何でしょうか?」

 

 

「そろそろ頃合いよ。中に入って頂戴。全く…大変だったのよ。私の船体は人間を乗せられるようには造られてないから、あれほどの人数を収容するスペースを確保するのにどれ程苦労したか…。」

 

 

「お手数をお掛けしました…。」

 

 

 

心底呆れたような表情を向けてくるヒュウガに、彼はぎこちなく会釈を返す。

 

それを見たヒュウガはため息をつきながら眼前を見つめた。

 

 

「まぁいいわ…。艦橋に入れるようにしたから、そちらに行って頂戴。」

 

 

「ええ…。」

 

 

シュルツは、険しい表情のまま中へと入っていく。

 

 

 

「はぁ…。どうして艦長と言うのはあんなに悩むのかしらね。私も艦隊旗艦を経験していたけれどまるで解らない概念だわ。でも…。」

 

 

ヒュウガは、少しだけ眉を潜める。

 

 

 

(ヤマト…総旗艦のあなたなら解るのかしら。艦隊を統べる者の¨孤独¨と言うものを…。)

 

 

   + + +

 

 

「艦…長…?」

 

 

艦橋に入ってきたシュルツを、ナギは目を丸くして見つめた。

シュルツの前に進み出た博士の視線はとても鋭くシュルツを刺すが、目は赤く腫れており、涙が一杯に溜まっているのが解る。

 

そして彼の存在に気付いた兵士たちもシュルツを取り囲むように集まってきた。

 

 

(怒っているのだろうな…。)

 

 

シュルツは俯く。

 

暫しの沈黙の後に口を開いたのは博士だった。

 

 

「何か、仰って下さい…。」

 

 

「済まない…。」

 

 

「!!」

 

 

パァン!

 

 

鈍い音が艦橋に響く。

 

博士の平手打ちによって、シュルツの艦長帽が床に落下した。

 

 

「違う…そんな言葉なんか聞きたくない!」

 

 

「はか…せ…。」

 

 

「どうして?どうして一人で全部背負うの!?狡い!あなたは狡いですよ!」

 

 

「………。」

 

 

「私は背負いたかった…いいえ、私だけではなく皆、あなたが今まで背負ってきた孤独や沢山の死を共に背負いたいと思っていたのですよ!?」

 

 

 

「!!!」

 

 

彼は目を見開く。

 

 

 

「あなたは今回の責任を取らなければならない。私達と¨最後¨まで超兵器を打倒し、そして私達の世界に真なる和平をもたらすその時まで共に戦うのですよ!」

 

 

 

シュルツは、周りを見渡す。

 

兵士たちは一様に彼に対して敬礼をしていた。

 

 

ナギや博士もそれに倣って敬礼する。

 

 

 

《海の仲間は¨家族¨ですから!》

 

 

 

シュルツは明乃の言葉を思い出す。

 

今まで彼は、部下に不要な重荷を与えぬよう感情を殺し、必要以上に干渉はしてこなかった。

 

 

しかし、それは彼の杞憂だったのかもしれない。

 

目の前にいる者達は全て、彼を一人の人間として慕う者達だったからだ。

 

 

シュルツは床に落ちた艦長帽を拾い、いつもの様に目深に被ると姿勢を正す。

 

 

「皆…私は今ここに誓おう。必ず最後まで共に戦うと。だから、私は諸君らの命を守る。そして諸君等は…私のいや、私達が今まで救うことの出来なかった民衆や戦友達の死を共に背負って戦ってはくれないか?艦長でも士官でもなく、一人の人間として…諸君等にお願いしたい。」

 

 

彼は穏やかに、しかしそれ以上に力強く彼等に訴え敬礼を返した。

 

 

一同の目に輝きが灯り…

 

 

「「はっ!」」

 

 

威勢の言い声が帰ってくる。

 

彼はゆっくりと頷くと、艦橋の窓辺から、正面を見つめた。

 

 

そこには、デコイに牽引されるペガサスの姿がある。

 

 

「怖がらないで下さい。」

 

 

「博士…。」

 

 

「艦長にとって艦とは戦友と同じなのでしょう?大丈夫です…彼女の犠牲も私達が共に背負います。ですから…共に見届けましょう。この戦いの結末を…。」

 

 

「はい…あの、博士。」

 

 

「何でしょうか?」

 

 

「ありがとうございます。」

 

 

「い、いえ…あ、あの。申し訳ありませんでした…打ってしまって。処罰は如何様にもお受け致します。」

 

 

「良いのです。お陰で目が覚めましたから。」

 

 

二人は再び前を見つめた。

 

苦楽を共にしてきた艦の最期を看取る為に。

 

 

   + + +

 

 

「艦長、デコイが予定されたラインを突破しました!」

 

 

「よし!頃合いだ。杏平、ヒュウガ今だ!侵食魚雷をありったけ撃ち込め!」

 

 

「はいさ~!」

 

『了解!』

 

 

401とヒュウガから凄まじい量の侵食弾頭兵器が超兵器へと向かって行き炸裂した。

 

 

それらが発する強烈な重力による圧縮力が、超兵器の防壁をみるみる飽和させて行く。

 

 

ニブルヘイムは暴れた。

 

 

全ての兵装を撒き散らし、殺到する侵食弾頭兵器を撃墜しようと試みる。

 

 

しかし、杏平やヒュウガが設定した複雑な誘導によって弾頭はニブルヘイムの迎撃を悉く回避し、殺到し続けた。

 

 

戦い終盤に訪れる一進一退の攻防。

 

 

先に動いたのはニブルヘイムだった。

 

 

《主ヨ…我ニ光ノ加護ヲ!》

 

 

「!」

 

シュルツは、超兵器の次なる行動が解った。

 

 

「ホバー砲と光子榴弾砲を全てペガサスに向けるきか!」

 

 

 

ニブルヘイムの艦上で激しい光が輝き出す。

 

 

 

「イオナ、時間がない!敵はチャージに時間を取られている。デコイとペガサスのフィールドを外して、誘導の速度を上げろ!」

 

 

「了解。」

 

 

「群像!こっちの侵食魚雷は弾切れだぞ!」

 

 

「ヒュウガ!まだ行けるか!」

 

 

『まだ大丈夫だけど…。』

 

 

「吐き出しきれ!敵に隙を与えるな!」

 

 

『了解!全弾一斉に発射するわ!』

 

 

ブシュゥァアアア!

 

 

ヒュウガ甲板上を埋め尽くす程のミサイル発射官が全て開き、弾頭が一斉に発射される。

 

 

その際の煙でヒュウガの船体が見えなくなる程の凄まじい勢いでだ。

 

 

 

ミサイルはニブルヘイムへと向かい、防御重力場をみるみる削って行く。

 

 

そして…。

 

 

「ん!?もしかして…。」

 

 

ヒュウガは手を翳し、ミサイルの一発を操作する。

 

弾頭は、防御重力場が作動しているであろう地点を¨通過¨し、ニブルヘイム本体へと着弾した。

 

 

敵の甲板一部と兵装が、侵食弾頭によって抉り取られて消滅する。

 

 

「防壁が消滅した!姉さま!」

 

 

『了解。』

 

 

デコイはペガサスの牽引速度を更に上げて行く。

 

 

ニブルヘイムのホバー砲は、更に鋭い輝きを放つ。

 

ヒュウガは、吐き出す弾頭の狙いを光子榴弾砲とホバー砲へと定めた。

 

 

「姉さまの邪魔はさせない!」

 

 

ビィユォオン!ボンッ!

 

 

ミサイルが着弾した光子榴弾砲の発射装置が抉られ、ホバー砲もエネルギーが上手く装填出来ず耳障りな音をたてる。

 

 

ギィェェエ!ボォォォン!

 

 

悲鳴の様な音の後にホバー砲が大爆発を起こし、膨大なエネルギーの奔流がニブルヘイムに逆流する。それによってその他の光学兵器がジェネレータが焼き切れ、あっという間に使い物にならなくなってしまった。

 

 

だがそれだけではない。

 

 

 

「どす黒いオーラが…超兵器機関が暴走を始めようとしている!?その前にっ!」

 

 

シュルツは、戦友であるペガサスを見守る。

 

 

「済まない…お前の犠牲をきっと無駄にはしないぞ!必ず…。」

 

 

『シュルツ艦長!光子魚雷を起爆させてください!』

 

群像の声が響く。

 

それと同時にペガサスはどす黒いオーラを放つ化け物に衝突した。

 

 

バギンッ…ギギィィィイ!

 

 

互いが衝突したことにより、激しい摩擦音が響き渡る。

超兵器の放つオーラに触れたペガサスはみるみるうちに、船体がボロボロになり崩れ始めた。

 

 

シュルツは手に握り締めたリモートの起爆装置のスイッチに指を掛けた。

 

 

「必ず…超兵器を完全に打倒し、平和を取り戻して見せると誓う!だから…。」

 

 

彼は決してペガサスから目を離さなかった。

 

いかな姿に成り果てようとも、超兵器に食らい付く姿は、彼等の魂を体現しているかのように見えたからだ。

 

 

見届けるのは彼の責任でもある。

 

そして、その最期の判断を下すのもだ。

 

 

「良くやったペガサス。眠れ…。」

 

 

ピッ!

 

 

ボンッ…キィィン!

 

 

ペガサスの弾薬この起爆装置が起動し、眩い光が船体を包む。

 

 

シュルツは、巨大な黒い化け物の懐に、一瞬だけ美しく輝く白い光を見た。

 

そして、それがおぞましい黒と重なった時…。

 

 

ブゥォオオオオン!

 

 

「!!!」

 

 

猛烈な轟音と衝撃波が辺りを引っ掻き回す。

 

ヒュウガと401は、クラインフィールドを最大展開させた。

 

 

波が暴れ、艦が激しく揺さぶられる。

 

 

「ぐっ…。」

 

 

「あ、あぁっ!」

 

 

艦内に悲鳴が轟く。

 

 

超兵器の爆発に伴う高波は、しばらくの間続いた。

 

 

   + + +

 

 

超兵器消滅の余波が消えた後には、何事も無かったかの様な静かな海が広がる。

 

 

「終ったか…。」

 

 

シュルツの言葉には、超兵器を打倒した安堵と、艦を失ってしまったことによる失意が入り交じっていた。

 

そこへヒュウガが、いつもの軽薄な笑みを浮かべて入ってくる。

 

 

「終わってないわよ艦長さん。」

 

 

「大戦艦ヒュウガ…。」

 

 

「本格的な欧州解放には、西進組と欧州ブルーマーメイドとの合流は不可欠なんでしょう?」

 

 

「ええ…一度スキズブラズニルへ戻って体制を建て直さなくてはなりません。」

 

 

「ふふっ。もっと落ち込んでると思ったけど、大丈夫そうね。」

 

 

「はい。いつまでもこのままではいけませんから。」

 

 

ヒュウガは笑みを深くする。

 

「了~解。それじゃスキズブラズニルに向かうわね。」

 

 

「お願いします。」

 

 

一同は再び海を進む。

 

 

 

バミューダ沖海戦

 

戦果:展開する全超兵器の撃沈。

 

 

損害:航空戦艦ペガサス、自爆による消滅。

 

 

   + + +

 

 

一方、西進組のヴェルナーは青ざめていた。

 

 

「ま、まさかそんな…。」

 

 

彼等もまた、想像を絶する苦難を味わっていたのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  




お付き合い頂きありがとうございます。

痛み分けになった今回の海戦ですが、航空支援の無いこの世界に於いてのペガサスの消失はかなり痛い状況となってしまいました。


次回より、欧州解放前哨戦 地中海海戦編スタートとなりますが、実は初投稿からそろそろ一周年と言うことで、特別編を1話を書きまして次に進みたいと思います。

特別編は、本編の伏線とかねてより感想のでお寄せ頂きました、¨特殊超兵器¨をゲストとして登場させたいと思います。


次回まで今しばらくお待ち下さい。

それではまたいつか。


















とらふり!


アームドウィング&ノーチラス
「お疲れ様~。」


播磨
「あっ!お疲れ~。」


荒覇吐
「量子魚雷の発射、大変だったわね。」



アームドウィング
「まさかアレを利用されるとは思わなかったよ…。」



ノーチラス
「でも、また皆に会えて嬉しい…海の中で一人は嫌だから。」



荒覇吐
「ノーチラス…。そ、そう言えばアルウスと艦隊旗艦は?」



アルウス
「お疲れッス!」


ニブルヘイム
「お疲れ様です。」



近江
「良く戻ったわねアルウス。そして…お疲れ様でした、艦隊旗艦ニブルヘイム。」



ニブルヘイム
「その名前は中々しっくり来ないね。今までの様にグロースシュトラールで構わないよ。」



近江
「仰せのままに…。」



グロースシュトラール
「硬い挨拶は此くらいにしておこうか。君も、留守中の皆を預かって貰って感謝に絶えない。」



近江
「恐縮ですわ。」


グロースシュトラール
「君は真面目だなぁ。そうだ、久し振りにアレを皆に見せてあげよう。集まって貰えるかな?」



近江
「そんな…わざわざ御足労を…。」


グロースシュトラール
「いいんだ。ほら、皆此方においで!」



シュトゥルムヴィント
「艦隊旗艦様!」


レムレース
「わぁ~い!」


播磨
「やったぁ~!久し振りに見れるよ!」



グロースシュトラール
「どれどれ、皆集まったみたいだね。それじゃ行くよ!カラフルなレーザーショーの始まりだ。手始めに【荷電粒子垂れ桜】!」



荒覇吐
「おぉ…。」



グロースシュトラール
「レインボーレーザー!」



アルウス
「見事ッス!各種レーザー全発射で夜空が彩られたッス!」



グロースシュトラール
「さぁ次はメインの光子榴弾尺玉だぁ。」



播磨
「たぁ~まや~!ねぇねぇ艦隊旗艦!アレ!最後のシメのアレやってよ!」



グロースシュトラール
「よし、それでは最後に皆さんと声を揃えて参ります!せ~のっ!」



超兵器一同
「カニ光線!」



グロースシュトラール
「お後が宜しいようで…。」



超兵器一同
「ワァ!パチパチ!」




近江
(気さくな方で何よりだわ。このクラス方は難しい方が多いから…そう、地中海にいらっしゃるアノ方のように…。)


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トライアングル・フリート 1周年記念 特別編  決して踏み入ってはならぬ場所   VS  ???

お疲れ様です。


先日12月9日にトライアングル・フリートの初投稿から一年が経ちました。

読んで下さった方々に、厚く御礼申し上げます。


特別編と言うことで、今後の伏線とゲスト超兵器を複数登場させました。


それではどうぞ。


   + + +

 

 

 

それは脳が映し出す自らの体験、そして願望を複雑に組み込んだ産物である。

 

 

しかしながらこの現象は、自らの脳が発するが故に、自分の理解を余りにも逸脱した世界にはならない筈なのだ。

 

 

そう……筈なのである。

 

 

 

   + + +

 

 

(ここは……どこ?)

 

 

明乃は気が付くとはれかぜの艦橋に立っていた。

 

 

 

 

(確か杉本さんと別れて仮眠をとろうとベットに横になった筈……)

 

 

 

状況について行けない明乃は、周りを見渡す。

 

 

 

普段は賑やかな筈の艦内は静まりかえっていた。

 

 

「ねぇ!誰かいる!?返事して!」

 

 

彼女は叫ぶが、返事は帰ってこない。彼女は更に艦内通信で呼び掛けたが結果は同じであった。

 

そこで彼女は、思い立つ。

 

 

(これってもしかして、私の見ている夢?でもそれにしては妙な既視感があるような……)

 

 

夢は脳が造り出す現象だ。

それゆえ時には、夢であるにも関わらず、色彩や匂い、そして味覚や触感等を伴う事は珍しくない。

 

 

しかし、この情景は余りにも鮮明であり、にわかに夢の世界であるとは信じられなかった。

 

 

しかし――

 

 

 

カタカタン …カタカタカタン………

 

 

驚くべき事に、はれかぜの行き先を決める陀輪は独りでに回っている。正直不気味だった。

 

 

 

(と、とにかく落ち着こう…時間がたてば自然と目が覚める筈……多分)

 

 

彼女は深呼吸をして気持ちを落ち着ける。

しかしながら、仮に自分が眠っていると仮定したとしても、どの様なタイミングで目覚めるのかはコントロール出来ない。

 

 

何度も目覚めようと意識を集中させても駄目だった。

 

 

理由は簡単だ。

 

 

この世界は、艦が独りでに動いていることを除けば、余りにも現実味を帯びているからに他ならない。

 

つまり、これが夢であると頭で自覚していたとしても、自分が現在眠っていると言う実感がまるで伴ってこないのである。

 

 

(困ったな……)

 

 

彼女は途方に暮れてしまう。

 

だが、こうしていても何も始まらないのだけは確かだった。

 

 

(ベタな方法かもしれないけど……)

 

 

ベチン!

 

 

「あ痛っ!」

 

 

ギュー!

 

 

「うぁ!痛い!」

 

 

彼女は、自身の頬を張ったりつねったりしてみる。

 

 

しかし、無意味に痛みが走るのみでまるで効果がなかった。

 

 

(そ、それなら!)

 

 

涙目になりながら、明乃は艦橋を飛び出し、医務室へとやって来る。

 

 

そこには、美波使用している医療器具が置かれていた。

 

 

(ちょっと嫌だけど、流石にこれなら……)

 

 

彼女は引き出しから、医療用メスを取り出し、掌に軽く当てて意を決してそれを横に引いた。

 

 

プスッ……

 

 

「!!?」

 

 

彼女の身体に今までに無い激しい痛みに迸る。

 

 

「あぁぁっ!」

 

 

悲鳴を上げた明乃の掌からは、血か滴り落ちる。

 

 

そのズキズキとする痛みはとても夢とは思えないものだった。

 

彼女は思わずメスを床に落として、カチャン…と言う金属の音が虚しく医務室に響いた。

 

 

「どうして……」

 

 

明乃は途方に暮れてしばらくその場にヘタリ込んでしまった。

 

 

 

   + + +

 

明乃は今甲板に出ている。

 

 

自分の手を傷付けてしまった彼女は、馬鹿げているとは思いつつも、医務室にあった消毒液で傷口を手当てした。

 

 

夢である筈のこの世界だが、消毒液は傷口に滲みたし、未だに掌は鈍く疼いている。

 

 

彼女の表情は憔悴しており、呆然と海を眺めている事しか、今の彼女にすることは無かったのである。

 

 

(ここ何処なんだろう。何もない……魚の群れも、鳥達もいない……)

 

 

 

彼女は気持ちが落ち着かない時、良く海を眺めていた。

波の音や生き物達の声、そして潮の香りが心を癒してくれたからだ。

 

しかし、今の明乃はより一層憂鬱な気持ちに支配される。

 

 

原因は解っていた。

 

 

何も¨居ない¨からである。

 

 

普段人間が一人になりたいと願うのは、あらゆる喧騒に無意識に疲れているからなのだろう。

 

 

しかしながら、一人になりたいと思っていたとしても、あらゆる関係を断ち切って¨永遠の孤独¨を手に入れたいとまでは考えないと思う。

 

 

それは、現在に於いて考え得る¨当たり前の衣食住¨を単一の存在が実現することは不可能に近しいものであり、それは即ち、他者への依存に他ならないからだ。

 

 

 

明乃は、この世界には自分以外の何者も存在していないのではないかと考え始めていた。

 

 

もし仮にそうなのであれば、彼女は今¨孤独¨なのである。

 

 

それは両親を失った彼女にとって何よりの絶望と恐怖に他ならない。

 

 

 

「くっ!」

 

 

明乃は震えていた、最早海などまともに見ている余裕など無い程に。

 

 

「あっ…あぁぁ!」

 

 

目からは涙が止めどなく溢れてくる。

 

 

「うわぁあ!どうして!?どうして目が覚めないの!?夢なら覚めてよ!おかしいよ!狂ってるよこんなの!」

 

 

彼女は今までに他人の前では見せる事の無かった、自らの心に潜む脆さや怒りを叫ぶ事で撒き散らして行く。

 

 

だが、それすらも長続きはしなかった。

 

 

彼女は壁に寄り掛かり、そのまま座り込んでしまう。

 

 

「あはっ……あははっ!そうか…そうだよね。狂ってるよね。だってコレ、私の頭の中で起きてるんだから」

 

 

彼女は笑った。

 

目から涙をを止めどなく溢れさせながら。

 

 

その姿は、普段明乃が艦長として振る舞える事がいかに多くの仲間によって支えられているのかが浮き彫りになったと言えよう。

 

 

 

「うっ…うっ……」

 

 

彼女は、暫くそのまま俯いて泣き続けていた。

 

 

   + + +

 

 

どれくらい時間がたったのかは解らない。

 

ただ、明乃には流す涙が枯れ果ててしまうほど長い時間に感じられた。

 

 

その時――

 

 

 

《クワァ~!》

 

 

「!」

 

 

聞き慣れない不思議な音に、明乃は立ち上がって音のする方角を見つめる。

 

すると、遥か彼方に小さな黄色い何かが浮いているのが見えた。

 

 

「何?あれ……」

 

 

彼女は急いで艦橋に駆け上がる。

 

そして、謎の黄色い物体がいた方角に発光信号を送った。

 

 

(何か解らないけど、お願い気付いて!)

 

 

明乃は必死に信号を送り続ける。

 

すると――

 

 

「気付いた!?」

 

 

黄色い物体は此方に方向を変えて向かってくる。

 

 

 

明乃は近くにあった双眼鏡を手に取って除き込んだ。

 

だが、その正体を確認した明乃は驚愕してしまう。

 

 

(え?何…ちょっ…えぇ!?)

 

 

彼女は相当狼狽えていた。

無理もない。

 

はれかぜに向かって来ていた物体とは――

 

 

「黄色い…アヒルさん!?」

 

 

アヒルだった。

 

それもただのアヒルではない。

 

形容するならばそれは、小さな子供がお風呂に浮かべて遊ぶゴム製のアレだ。

 

 

アヒルは、はれかぜに向けて更に近づいてくる。

 

 

「え?えぇ!?ちょっと…そんな!」

 

 

明乃は先程よりも更に大きな声で叫んだ。

 

 

此方に向かってくるアヒルの姿はみるみる大きくなって行く。

 

 

そして――

 

 

「………」

 

 

明乃は思わず言葉を失う。

 

艦に横付けしたアヒルの大きさは、はれかぜの大きさの倍はあろうと言うものだった。

 

 

《クワァ~?》

 

 

アヒルは首を下げて艦橋にいた明乃を興味津々に除き込んできた。

 

 

「…っ!」

 

 

彼女は思わず息を飲んでしまう。

 

 

お互い暫く見つめ合うと、明乃は意を決して艦橋の見張り台に出て行き、そして思いきって口を開いた。

 

 

「あ、あの!こ、こんにちは!」

 

 

《!!!》

 

 

「!!?」

 

 

アヒルは明乃の発した声に驚いたのか、急に凄まじい勢いで後退し、はれかぜは、アヒルの立てた波で激しく揺れ動いた。

 

 

 

 

 

「うわぁっ!だ、大丈夫!襲ったりしないから!落ち着いて!」

 

 

 

《……!》

 

 

アヒルは遠巻きに、はれかぜの周りをグルグルと回り始める。

 

 

 

どうやら警戒しているようただった。

 

 

(どうしよう……)

 

 

彼女は悩んだが、無暗に刺激する事は避けたかった。

 

 

 

そこで彼女も、暫くの間アヒルを観察することにしたのだ。

 

すると――

 

 

《クゥ……》

 

 

「!」

 

 

アヒルは、もの悲しげな鳴き声を上げる。

 

彼女は、何となくアヒルの気持ちが解るような気がした。

 

 

「ねぇ、アヒルさん。君一人だけなの?兄弟は?お母さんは居ないの?」

 

 

《………》

 

 

「解るよ…一人ぼっちは寂しいよね。私もそうだから……ねぇ、こっちにおいで。大丈夫、怖くないよ」

 

 

《クワァ~》

 

 

優しく話しかける彼女に、初めは警戒していたアヒルも徐々にはれかぜとの距離を詰め、そして遂に明乃の元へとやって来たのである。

 

 

 

「ほら、怖くないよ」

 

 

 

 

明乃は手を広げて攻撃の意思がないことを伝えると、アヒルは恐る恐る彼女へと嘴を近付けた。

 

 

 

 

《クワァ……》

 

 

 

 

互いの手と嘴が触れ合う。

 

それはとても暖かく、明乃はここへ来て初めて安堵を感じたのだった。

 

 

   + + +

 

 

暫く触れ合うと、アヒルはすっかり彼女に馴れて、艦の周りを楽しそうに泳いでいる。

 

 

明乃はそれを微笑みながら眺めていると、アヒルは再びはれかぜに寄ってきた。

 

 

「ん?どうしたの?」

 

 

《ンクワァ!》

 

 

アヒルは、短い翼をパタパタさせている。

 

 

 

 

「背中に乗せてくれるって言ってるのかな?」

 

 

《クワァクワァ~!》

 

 

アヒルはまるで言葉を理解しているように、翼をバタつかせると、艦の側面に翼を桟橋の様に乗せた。

 

 

「解った。今行くね」

 

 

明乃は艦橋を降りて甲板に向かと、アヒルは大人しく待っていた。

 

 

 

彼女は翼に乗ると、アヒルはそれをゆっくりと持ち上げ、彼女を背中に乗せる。

 

 

「す、凄い……何か不思議な感触がする」

 

 

 

明乃は、アヒルの背中を優しく撫でた。

 

 

 

金属か、若しくはゴムのイメージしていたアヒルの表面は、まるで低反発枕のような弾力を秘めており、体温が有るためかとても暖かく心地よかった。

 

 

「ははっ!君温かいね。何かとても安心する」

 

 

明乃は背中の上で横になり、感触を味わう。

 

 

すると――

 

 

《クワァ!》

 

 

「え?動くの?解った。掴まってるからいいよ」

 

 

 

彼女がそう答えた途端。

 

 

 

ドホォン!

 

 

「!?」

 

 

後方に水柱が上がり、凄まじい勢いでアヒルが進み始め、彼女は振り落とされない様に必死で背中にしがみついた。

 

 

「ま、待ってアヒルさん!速い、速すぎるよ!い、息が出来な……い」

 

 

《!!?》

 

 

「お願い…もう少しだけゆっくり、お願いだから!」

 

 

明乃は必死に叫ぶと、アヒルは速度を落として行く。

怒られたと思ったのか、少し落ち込んでいるようだった。

 

 

《クワ……》

 

 

「ううん、大丈夫。怒ってないよ。でももう少しゆっくり進んでくれると嬉しいな」

 

 

「クワックワ~!」

 

 

彼女が背中を優しく撫でると、アヒルはすぐに元気を取り戻し、進みだした。

 

 

先程とは違い、ゆっくりと泳ぐアヒルの背中では、心地好い風が吹き抜けて行く。

 

 

 

明乃は、あまりはれかぜから離れすぎないよう伝えると、腰を背中につけて足を伸ばす。

 

 

「ねぇ…君と私、家族になれるのかな?」

 

 

《クワァ?》

 

 

「ははっ。解らないか……ううん、いいよ。暫く一緒に遊ぼ」

 

 

《♪》

 

 

一人と一羽は、束の間の暖かい時間を過ごしていった。

 

 

 

   + + +

 

 

時間はあっという間に過ぎ去り、日は傾き始める。

 

 

帰路に着いていた明乃は、近付いてくる自艦を見て目を丸くした。

 

 

(あ、あれは……はれかぜじゃない?)

 

 

彼女は、既視感の正体が何だったのか、今漸く理解した。

 

 

彼女が乗艦していたのはウィルキアから借与されたフリーゲート艦はれかぜではなく、六年前に彼女が学生時代乗艦していた航洋艦【晴風】そのものだった。

 

船体には晴風の艦番号であるY467が記されている。

 

 

(どうして……晴風は六年前に――)

 

 

沈んだ筈だった。

 

RATt事件を解決し、横須賀へと戻った晴風は、彼女達が無事に陸へと上がった事を見届けるかのように沈み始め、埠頭にその船体を没して永い眠りについた。

 

 

現在、横須賀女子海洋学校に在籍している晴風は、実際には楓の両親が経営する万里小路重工によってサルベージされた旧晴風の使用可能な部品を、航洋艦【沖風】に取り付けた新生晴風なのだ。

 

故に、Y467の艦番号を持った晴風はこの世には存在しない。

 

 

竜骨を破損してしまった艦艇が再び甦る事など有り得ないのだ。

 

 

失われた命が決して甦ったりしないように……

 

 

明乃は暫くの間言葉を失ってしまった。

 

 

   + + +

 

 

日はすっかり傾き、辺りは闇に支配されている。

 

明乃は、艦橋の脇にある見張り台に寄り掛かり、晴風の横を並走するアヒルを眺めながら考えていた。

 

 

(晴風……どうして現れたの?何か私に伝えたい事があるの?)

 

 

 

晴風はかつて明乃と意思体として接触している。

 

 

超兵器播磨との戦闘時に明乃が正気を失った時だ。

 

 

彼女は、両親の意識を明乃と対面させ、超兵器の意思による誘惑から彼女を救っていた。

 

 

そして今、明乃は失われた筈の艦艇に乗って海を進んでいる。

 

 

「晴風……どうして?」

 

 

その問いに答える声はない。

 

 

《クワァ~》

 

 

アヒルはあくびをし、目蓋を重そうにしている。

 

どうやら眠いらしい。

 

明乃は沸き上がる疑問を振り払い、アヒルに微笑みかけた。

 

 

「眠いの?そうだね、もう遅いもんね。私も休むから、君もゆっくり休んでね」

 

 

彼女は中へと入り、艦長室へと進んで行く。

 

 

(今は考えても埒があかない。もしかすると、此方で眠れば現実に戻れるかもしれないし……)

 

 

希望的かもしれないが、彼女は服を脱ぎ、ベッドへと入って行く。

 

 

照明を落とし目を閉じると、船体が波でほのかに揺れ動くのを感じた。

 

 

自身を包む暗闇と静寂が、明乃に自分は孤独なのだと突き付けているようで不安になる。

 

 

(モカちゃん…シロちゃん。皆……逢いたい、逢いたいよ。一人は……嫌だよ)

 

 

 

演技のつもりは無かった。

 

しかし、周りの人間がイメージする岬明乃という人物像は、もしかすると彼女自身が皆に嫌われたくない、一人にしないで欲しいと言う願望や依存が具現化したものだったのかもしれない。

 

 

故に、こうしてこの広大な未知の海で孤独になってしまった彼女は、こんなにも脆く非力な存在になってしまうのだ。

 

 

「う…うぅ……」

 

 

毛布の中で彼女は泣く。

 

 

誰も聞いている筈もないのに、まるでその声を聞かれたくないと言わんばかりに声を殺して――

 

 

 

「うっ…あっ、うぁ……」

 

 

《オ前ノ心ヲ見タゾ……》

 

 

 

 

「嫌ぁ…一人は…い…や………」

 

 

 

彼女は限界だった。

アヒルとの戯れも、或いは彼女の強がりで、精神は既に疲労困憊だったのかもしれない。

 

明乃は頬に涙の筋を残しながら眠ってしまった。

 

 

   + + +

 

 

ガゴンッ! ガゴンッ!

 

 

 

「!!?」

 

 

明乃は布団から飛び起きる。

 

 

「な、何?何が起きて――」

 

 

 

ガゴンッ!

 

「うわぁ!」

 

 

船体が激しく揺れている。超兵器による襲撃と思ったのか、明乃は急いで着替えて部屋を飛び出す。

 

急いで外へと出た明乃を待っていたものとは――

 

 

《クワァ~♪ 》

 

 

黄色いアヒルだった。

 

 

アヒルは、明乃を起こそうとしたのか、晴風の船体を嘴で突いて揺らしていたのだ。

 

 

彼女は安堵の溜め息を付く。

 

それと同時に、激しい落胆の意が襲ってきた。

 

 

夢から覚めて現実戻る事も叶わなかったばかりか、今ではこの世界が実は夢では無いのではないかと言う疑念すら湧いてくる。

 

 

憔悴したような彼女を心配しているのか、アヒルは明乃を除き込んできた。

 

 

彼女はそれに気づき、慌てて笑みを作る。

 

 

「だ、大丈夫だよアヒルさん。心配かけてゴメンね。あっ…そうだ!」

 

 

明乃は何かに気付いたようにアヒルを見上げる。

 

 

「ねぇ、いつまでもアヒルさんじゃ呼びづらいから、君に名前を付けてもいいかな?」

 

 

《クワァ?》

 

 

「う~ん。何が良いかなぁ……」

 

 

明乃は暫くの悩んでいた。

 

 

 

アヒルはそんな彼女を不思議そうに見つめていると、不意に彼女が顔を上げる。

 

 

「そうだ!【レラ】!レラでどうかな?アイヌ語で¨風¨って意味なんだよ、レラ!駄目…かな?」

 

 

《………》

 

 

アヒルは何も答えない。

気に入ってくれなかったのかと思ったが、明乃はまだ自分が名乗っていないことに気付いた。

 

 

「あっ!ゴメンね。自己紹介がまだだったね。私、岬明乃。ア・ケ・ノだよ。君の名前はレラ。もし良かったら…私達、¨家族¨になってみない?そうすれば寂しくないよ」

 

 

 

アヒルは暫くじっと彼女を見つめていた。

 

そして――

 

 

《クワックワックワァ~♪ 》

 

 

短い羽をパタパタと羽ばたかせて、アヒルは嬉しそうに鳴き声を上げた。

 

 

「気に入ってくれたの?ありがとう!宜しくねレラ!」

 

 

《クワァ~!》

 

 

明乃とレラは、互いに微笑みあう。

 

 

一人と一匹の間に、絆の様なものが生まれた瞬間だった。

 

 

その時――

 

 

 

ボォォン!

 

 

 

「!!?」

 

 

急に晴風に激震走る。

 

 

《グ……グワゥ》

 

 

レラは、明らかに怯えていた。

 

 

明乃は、周りの状況を把握するため、急いで艦橋に駆ける。

 

 

   + + +

 

 

艦橋に上がった明乃は辺りを見渡す。

 

 

「あれは……」

 

 

 

彼女の見つめる先には、複数の¨眼球¨が宙を舞っていた。

 

 

「超兵器の……意思!?まさか!」

 

 

彼女はいよいよ困惑してしまう。

 

 

 

これは夢の様な現実なのか?

 

 

それとも

 

 

現実の様な夢なのか?

 

 

 

彼女自身はそれを判断することが出来なかった。

 

 

しかし――

 

 

ブウィィィン!

 

 

「!」

 

 

眼球達の瞳孔の目の前に紫色の光が灯る。

攻撃を仕掛けようとしていることは明らかだった。

 

 

 

 

(さっき一瞬だけ見えた紫の閃光……恐らくは光学兵器だ。でも……)

 

 

 

彼女の懸念はもっともだった。

 

はれかぜならいざ知らず、ただの航洋艦である晴風に光学兵器を防ぐ手立てはなく、一発でも攻撃が当たれば、轟沈は必至だった。

 

 

焦りだけが募る。

 

 

《クワァ!》

 

 

明乃の耳にレラの鳴き声が入ってきた。

 

 

(そうだレラ!せめて逃がしてあげないと!)

 

彼女はハッとして、艦橋の見張り台に飛び出して叫ぶ。

 

 

 

「レラ、君だけでも逃げて!危ないよ!」

 

 

 

しかし、レラは晴風の側を決して離れようとはしない。

 

明乃は激しく後悔した。

 

自分と触れ合い、なついてしまったが為に、死んでしまうのではないかと思わずにはいられなかった。

 

 

「お願いレラ!お願いだから逃げて!もう私の目の前で¨家族¨が居なくなっちゃうのは嫌だよ!」

 

 

彼女は泣き叫ぶ。

 

その表情をレラは心配そうに見つめていた。

 

それを見た明乃一度目を見開き、そして決心したように優しい微笑みを向ける。

 

 

「心配しないで。大丈夫だから……だから先に行って待ってて。必ず私も行くから…ね?お願い……」

 

 

彼女は諭すように語りかける。

 

レラの曇りの無い純粋な瞳が明乃を見つめていた。

 

そして――

 

 

《クワァ!》

 

 

「うん…いい子だね。じゃあ――」

 

 

バシュン!

 

 

「えっ…ちょっと、レラ!?」

 

 

レラは決心したかの様に晴風の正面へと移動し、眼球達に立ちはだかる。

 

 

 

敵は照準を此方へと絞り込んでいた。

 

 

 

 

明乃は再び、涙を浮かべてレラに訴える。

 

 

「だ、駄目!駄目だったら!どうして!?どうして逃げてくれないの?お願いだから言うこと聞いて!」

 

 

 

《¨家族¨だから》

 

 

 

「え?今、君――」

 

 

彼女が思わず、目を丸くした時――

 

 

ビシュイン!ビシュイン!ビシュイン!

 

 

幾多のビームがレラへと殺到する。

完全に直撃コースだった。

 

 

「ダメェェェェ!」

 

 

明乃が悲鳴にも似た叫び声を上げた次の瞬間――

 

 

 

ビィィン!ビィィン!

 

 

「!!?」

 

 

眼球達の放ったビームは、レラに命中することなく直前であらぬ方向に屈折した。

明乃はこの現象に見覚えがある。

 

 

「で、¨電磁防壁¨!?でもどうしてレラが…まさか、君は超兵――」

 

 

《………》

 

 

 

レラはなにも答えず、眼前の敵を睨み付け、嘴を大きく開けて羽を広げ始めた。

 

 

威嚇のつもりかと思われたが、明乃は次の瞬間に目を丸くして驚愕する。

 

 

 

《グゥワァァァァァ!》

 

 

ビュォォォ!

 

 

窓ガラスがビリビリと振動する程の凄まじい叫び声と共に、レラの嘴の先に光が集束し、翼の先に集束した光はリング状の形状に変化し始める。

 

 

そしてそれらを、敵の眼球に向かって発射したのだ。

 

 

ビィィン!ヒュォン!

 

 

嘴の先から放たれた光は三方向に分裂し、まるで三角錐の辺を形成するかの様な起動で眼球の1つに向かい直撃する。

 

 

続いて、翼の先に集束したリング状の光が飛行しながら途中で3つずつに分裂し、眼球達に襲い掛かった。

 

 

ブシャッ…ボォォン!

 

 

眼球達は、レラの放った光に焼かれたり切断され、次々と爆散して行く。

 

 

だが、それだけではない。

 

 

ビィィン…ボォォン!

 

 

眼球達は突如として先程晴風に撃ち込もうとした紫色のビームで¨同士討ち¨を始めたのだ。

 

 

かなりの数が存在した眼球達は、みるみるうちに減って行き、残りは僅かになってしまう。

 

 

 

勝利は目前かとも思われた…しかし

 

 

 

ヴォン……

 

 

《!》

 

 

「あれは……」

 

 

明乃達の前に、突如としてどす黒いもやが漂い始め、その中から一際巨大な眼球が姿を表したのだ。

 

 

 

 

《孤独ヲ内包スル者ヨ……オ前ノ気持チハ良ク解ル》

 

 

 

 

 

「解る?あなた達が自分で奪っておいて…一体何が解るの!?あなたと私は違う!あなたに私の気持ちなんか解りっこない!」

 

 

 

 

《私程、オ前ノ気持チヲ理解出来ル者ハイナイ。私ハオ前ノ心ヲ見テイタゾ……表面デハ平静ヲ装ッテイテモ、ソノ真ナルハ、タダノ依存二過ギナイ。寂シイ…寂シイ……》

 

 

 

「やめて!」

 

 

 

《アァ……オ前ノ怒リヤ憎シミヲ感ジルゥゥ。私ノ力ヲ受ケイレヨ……大切ナ者達ヲ守ルニハ、世界ノ国々ニ負ケヌ戦力ガ必要ダ…サァ!》

 

 

 

 

「黙れ!うるさい!うるさいうるさい!」

 

 

 

明乃は、まるで心身をくまなく嘗め回される様な強烈な不快感に、苛立ちが沸き上がり、目の前で自分を見つめる凶暴でグロテスクな眼球を睨み付ける。

 

 

破壊したい――

 

殺したい――

 

グチャグチャに潰してやりたい――

 

 

そんな破壊衝動と理性との葛藤で、精神が摩耗して行く。

 

 

その時だった――

 

 

 

《クワァァァァァ!》

 

 

レラの叫びが、彼女の心に光を灯す。

 

はれかぜのクルー達や両親の顔が駆け巡った。

 

 

「あなたには屈しない!一人でも…ううん、誰もいなくても、心に皆がいる限り、絶対にあなたには屈しない!」

 

 

ボォォン!

 

 

彼女の決心に呼応するように、晴風の長十糎高角砲が火を噴き、眼球に直撃し、爆煙で姿が見えなくなる。

 

 

しかし、明乃は冷静にそれを見つめていた。

 

 

 

「こんなものでは終わらないんでしょ?」

 

 

 

爆煙の中から、傷一つ付いていない眼球が現れる。

だが、それだけではない。

 

ヴォン――

 

 

どす黒いオーラを纏った巨大な眼球の回りに、先程とは比べ物にならない数の小さな目玉が出現した。

 

 

 

《グゥワァァァァァ!》

 

 

レラが、先程と同様に攻撃を仕掛ける。

 

 

 

しかし、幾つ破壊しても敵は次々と湧いてくる。

 

黒いオーラを纏った眼球にも傷を与えられてはおらず、同士討ちも発生しない。

 

それどころか眼球達は、統率されたように、攻撃を回避し始め、レラにビームの集中砲火を浴びせ始めた。

 

 

ヴィンッ!ヴィンッ!

 

 

《グワァッ!グワァッ!》

 

 

電磁防壁で敵の攻撃を受け続けているレラの表情は苦悶に満ちており、限界が近いことを物語っている。

 

 

しかし、敵の攻撃は更に苛烈さを増して行き、遂に――

 

 

 

ビシュイン!

 

 

《グワァッ…!》

 

 

「レラ!」

 

 

電磁防壁が飽和し、紫の閃光がレラの翼をかすめた。

 

苦痛に満ちた悲鳴が、明乃に一層の焦りをもたらす。

 

 

しかし、レラは決してはれかぜの眼前に立ちはだかり、次々と向かってくるビームを受け続けた。

 

 

 

「やめて!やめてやめてやめてぇぇ!」

 

 

 

《自身ノ無力サヲ自覚セヨ…戦力無クシテハ護レナイ。何一ツトシテ……》

 

 

「いやぁあ!殺さないで!レラ、お願い逃げて!」

 

 

 

彼女がいくら叫んでも、レラは決して動こうとはしない。黄色い身体の至る所が黒く焦げており、目は徐々に虚ろになりつつあった。

 

 

「お願い…助けて……」

 

 

 

誰に言っていたのかは解らない。

彼女は涙を流しながら懇願する。

 

 

その時だった。

 

 

ゴォオオン!

 

 

大きな轟音と共に、彼女達の遥か向こうに暗雲が立ち込め始めた。

 

眼球の動きが急に停止する。

 

 

 

《¨外側ノ存在¨カ……》

 

 

 

明乃は、目頭を涙で濡らしながら、彼方を見つめる。

 

視線の先には、白い物体が一つ浮いていた。

 

 

《ク…クワァ……》

 

 

レラがか細い声を上げたと同時に、白い物体から眩い光が輝き始め、眼球達は白い物体に矛先を向けて殺到する。

 

 

しかし――

 

 

ピカッ……ブゥオオン!

 

 

一瞬の閃光の後、凄まじい爆発が発生し、無数の眼球達が瞬く間に消滅する。

 

 

《クワァ…クワァ!》

 

 

 

それまで決して動かなかったレラが、急に白い物体に向けて動き出す。

 

 

「あっ…待って!晴風、レラを追って!」

 

 

彼女の言葉に呼応するかの様に、晴風はレラを追いかけ始めた。

 

 

   + + +

 

 

レラと晴風は、爆煙を回避しつつ、白い物体へと進んでいった。

 

 

「あ、あれは…えっ?」

 

 

明乃は目を丸くする。

 

 

レラが向かった先に居たものは、純白の【スワン】だった……という言うよりも、見た目は公園の池に浮かんでいる足こぎボートのアレに酷似しているが……

 

 

《フルォォォ!》

 

 

《クワァ♪》

 

 

レラは、スワンにすり寄る。

 

二匹はどうやら家族らしい。

 

 

(なんだ…ちゃんと家族がいるんだね?…良かった)

 

 

 

彼女は、少し複雑な表情を浮かべるが、直ぐに微笑んで二匹を見つめる。

 

 

 

《コレデオ前ハ…マタ一人ダ……》

 

 

 

 

爆煙の中から、黒いオーラを纏った巨大な眼球が姿を現し、再び無数の小さな目玉を出現させる。

 

 

 

「ダメ!レラはお母さんと逃げて!」

 

 

彼女は叫ぶ。

 

レラは母親に向かって何かを訴えていた。

 

スワンは、無惨にも焦げてしまったレラの身体を見つめる。

 

 

《フルォォ……》

 

 

我が子を傷つけられたスワンの目付きがみるみる鋭くなり、巨大な眼球を睨み付ける。

 

 

そして嘴を大きく開き――

 

 

キュウィィィン!

 

 

 

「あっ…ああ!」

 

 

 

目蓋を閉じていても目に激しい痛みを伴う程の閃光に明乃は悲鳴を上げる。

 

スワンが放つ光は凄まじい大きさに膨らんで行き、そして――

 

 

 

《フルォォォァァァァ!》

 

 

 

ブゥウオオオォォォ!

 

 

 

 

轟音が鳴り響き、その衝撃に眼球達は瞬時に消滅する。

 

 

そしてその凄まじい衝撃は、明乃の意識も一瞬で奪ってしまったのだった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

(ここは……)

 

 

気が付いた彼女が辺りを見渡すと、そこには闇が広がっている。

 

レラやスワンも、敵の姿すら見えない。

 

 

彼女が不安に駆られていると、目の前がうっすらと明るくなり、朧気なイメージが断片的写し出され、声が微かに聞こえ始める。

 

それはまるで、誰かの視点から見ているような映像だった。

 

 

 

『やったぞ!遂に私は――』

 

 

『私は君の父親さ。そうだな、君の名前は――』

 

 

『君達は一体――?』

 

 

パンッ!

 

突然の銃声。

 

 

その後に、明乃の心へ流れ込んでくる凄まじい負の感情。

 

 

彼女は、押し寄せる嘔吐感と戦いながら、声を聞き続ける。

 

 

 

『今日から我々がお前を指揮する。従え!』

 

 

 

その後に写し出されたのは、ひたすらの破壊と殺戮。

 

 

 

『本当にコイツを制御出来るのですか?』

 

 

 

『クソッ!奴らめ……我々を根絶やしにしようと遂に¨奴¨を起動した!だとしても無駄だ!我々にはコイツがあるのだからな。おい!すべの人間を根絶やししてしまえ!いいか。全てだ!』

 

 

 

多くの艦船が眼前の海に立ちはだかる。

 

 

その中心には、大型戦艦がまるでボートに見える程巨大な軍艦がおり、艦首付近に光が集束しして此方へと放たれた。

 

 

そして閃光が収まった後に写し出されたのは、死の海。

 

あの巨大艦も炎を上げて燃えていた。

 

 

そして再び場面が切り替わる。

 

 

『貴様…我々に歯向かう気か!』

 

 

それが、この映像で流れた最後の言葉だった。

 

 

 

その後に写し出されたのは、単なる無慈悲な殺戮による絶望の悲鳴、そして――

 

 

¨何者¨も存在しない世界。

 

 

【終わりの風景】が写し出され、明乃の心へ押し潰されそうな孤独の感情が流れ込んできた。

 

 

 

 

《見ルナ……》

 

 

 

 

「!」

 

 

負の感情がこもった言葉の後に、視界は再び暗転して行く。

 

 

 

   + + +

 

 

…ン。コンッコンッ!

 

 

ドアの扉がノックされる音がして明乃は起き上がった。

周りを見渡すと、スキズブラズニルの仮眠室の風景が目に入る。

 

 

(私は……)

 

 

彼女は、状況を上手く整理することが出来ず、呆然とする。

 

 

コンッコンッ!

 

 

「艦長!私です。副長の宗谷です。お休みの所失礼致します!」

 

 

 

「し、シロ…ちゃん?あっ、はい!どうぞ」

 

 

 

 

 

扉がゆっくり開くと、そこから真白が姿を現した。

 

 

「……っ!」

 

 

彼女は、まるで久しぶりに真白と再会したような錯覚を覚える。

 

 

「失礼します。艦長、先程シュルツ艦長が帰投されましたのでご報告に。つきましては艦長に――」

 

 

「シロちゃん!」

 

 

「えっ、ええっ!?」

 

 

明乃は真白に駆け寄って思い切り抱き締める。

 

彼女の思わぬ行動に、一瞬狼狽するが、その表情を見て、心配そうに眉を潜める。

 

 

「か、艦長泣いて……どうされたんですか!?」

 

 

「ううん、ゴメンね……少し怖い夢を見たの。私が、一人になっちゃう夢。私…怖くて不安で……」

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

「え……」

 

 

真白は彼女の背中に腕を回して優しく抱き締め、自らの額を明乃の額へとくっ付ける。

 

 

 

「どこにいても、この海で繋がっている限り、私達¨家族¨の絆は決して切れたりしません。だから安心してください」

 

 

 

「シロちゃん……」

 

 

「ほぅら!シュルツ艦長にお会いになるのでしょう?早く、準備をなさってください」

 

 

 

「う、うん!そうだね。ありがとうシロちゃん」

 

 

「いいえ。では私は先に向かっておりますので」

 

 

「解った。私も直ぐ行くね!」

 

 

 

真白と別れた明乃は、自室で着替えを始める。

 

 

(汗で下着が濡れちゃったな……それにしてもあれって本当に夢だったのかな)

 

 

 

半信半疑になりつつも、彼女は汗で濡れた下着を交換し、上着を着る頃には、すっかり気持ちも落ち着き、あの出来事は夢であると確信している。

 

彼女は、急いで部屋を出ようと、ドアノブに触れた。

 

 

「あイタっ……!」

 

 

彼女は掌に鈍い痛みを感じて、目を向ける。

 

 

「え……」

 

 

彼女は思わず目を丸くする。

 

掌には、夢の世界で明乃が自らメスで傷付けた傷と酷似した傷が付いていた。

 

それは明らかに、爪を立てたものではなく、仮眠室にその様な傷を付ける道具など有りはしない。

 

 

 

「………」

 

 

 

彼女は暫くの間、その場に立ち尽くしてその傷を見詰め続けるのであった。

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


夢の中と言うことで、結構何でも有りな感じで、しかも場面が何度も切り替わったりする感じが、中々難しかったです。


と言う訳で、ゲストをご紹介致します。


晴風

学生時代に乗艦していた艦。

艦の魂は、超兵器の意思から明乃を護ってくれるためか、今回も精神攻撃を仕掛けてきた超兵器を、アヒルと共に迎撃するべく登場。





レラ(アヒル戦艦)

黄色いゴムのあひるを戦艦化したものです。
原作では航空機型も存在し、その耐久力と凄まじい戦闘力から《黄色い悪魔》と称された兵器です。
今回の話では、
βレーザー 拡散リングレーザー 寝返り電波照射砲を使用しました。


スワン(白鳥ではなくスワン)


公園の池に浮かんでいる足漕ぎボートに酷似した白鳥。

原作に於いては、最強クラスの敵として登場し、波動砲や超重力砲を駆使して多くの艦長達を恐怖のドン底に陥れた。

超兵器カテゴリーで言うなら、二隻で世界を破壊出来るSSSランク(原作では大群で登場)。
しかしながら、耐久力はそれほど高くない。



以上でありますが、初投稿から一年。


人生初の物語を書かせていただきまして、拙い文章で何かとご迷惑をお掛けしつつも、ここまで読んで下さった皆様や、感想または評価を頂きました皆様には、感謝の言葉しかございません。


本当にありがとうございます。



これからも完結に向けて一話ずつ邁進して参りますので、何卒よろしくお願い申し上げます。



それではまたいつか。


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姉妹達の逆襲 そして 迫る影の手   VS  超兵器

大変長らくお待たせいたしました。


西進組の戦い、いよいよ開戦です。


それではどうぞ


   + + +

 

 

バミューダ沖海戦から時間を遡る。

 

 

 

 

スエズ運河を突破したヴェルナー一行は、地中海を北上し、黒海から西へ移動している超兵器艦隊を追う。

 

 

ピリピリとした雰囲気が、全ての艦艇に広がっていた。

 

 

そんな中、筑波がヴェルナーへと歩み寄る。

 

 

「艦長、大戦艦キリシマから連絡が入りました。ノイズの状況から超兵器の黒海艦隊は、シチリア島の東側で二手に別れた模様。いよいよですな……」

 

 

「ええ…。筑波大尉、ジブラルタルを突破した艦隊も、同様の動きがあると思いますか?」

 

 

「恐らくは……」

 

 

「ここへ来てのこの動き、不気味としか言えませんね」

 

 

「同感ですな。当初の予測通りなら、航空機が先行してくる筈ですが、未だにその兆候は有りません。」

 

 

「¨居ますね¨こちら側に」

 

 

「内通者ですか…笹井と宗谷室長に任せるしかないのがもどかしい所ですが」

 

 

「信じましょう。我々は、敵に気取られずに事を進めるだけです」

 

 

「そうですな」

 

 

二人は険しい表情のまま完全を見詰め続ける。

 

 

一方の弁天も、未知なる兵器との邂逅に不安を抱えていた。

 

 

 

「始まるんですね……」

 

 

「ビビってんじゃねぇよ平賀。どう足掻いたって成るようにしかならねぇんだからな」

 

 

 

「ですが……」

 

 

「いいからどっしり構えてな!気合いが足りねぇなら根性を注入してやるぜ?」

 

 

 

「い、いえ!慎んでご遠慮致します!」

 

 

「なんだよぉ~連れねぇなぁ」

 

 

二人のやり取りに、周りからは笑顔が溢れ、張り詰めていた空気が軽くなる。

 

 

それを見た真冬は内心安堵していた。

 

 

(皆緊張してやがる。初の実戦前に過剰なストレスは避けたい処だったが上手く解せたみてぇだな。しかし――)

 

 

彼女は努めて皆には気付かれないよう、眉をひそめる。

 

 

(懸念が無い訳じゃねぇ。情報が確かなら、敵艦隊の中で最も巨大なムスペルヘイム級が、黒海からボスポラス海峡やダーダネルス海峡を突破し、エーゲ海に出るのは不可能だ。何かやらかしてなきゃな)

 

 

 

「ん?どうされましたか艦長?」

 

 

「いや…何でもねぇ。それよりもテメェら!後輩達ばかりに良い顔させてらんねぇ!俺達も気合い入れて奴らを叩くぞ!」

 

 

「「はい!」」

 

 

 

威勢の良い返答に真冬は自信に満ちた表情で頷く。

しかし、心の中では言い知れない不安が渦巻くのであった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「嫌な感じね。これが¨不安¨ってやつなのかしら」

 

 

 

「あなたでも不安になる事があるんだ」

 

 

 

「¨あなたでも¨ってなによ!しょうがないじゃない!メンタルモデルを得てから、戦闘だけに命を賭けていられなくなったの!」

 

 

 

腕を組ながら頬を膨らませるタカオに、もえかは苦笑いを浮かべた。

 

 

 

「ううん…そう言う意味じゃないよ。私も同じだもん」

 

 

「あんたも?」

 

 

「うん。ミケちゃ――ううん、見馴れた人が近くに居ないからかな。いつもより不安なんだ。タカオも皆が居なくて不安なんじゃないの?」

 

 

 

「キリシマも居るし――でも、そんな事くらいで霧の艦隊は不安になったりしないわ!かか、艦長が居なくたって…べ、別に気になんかしないんだから!」

 

 

(タカオは純粋だなぁ)

 

 

もえかはそう考えるが、口には出さない。

 

 

『おい!お喋りしてないで、お前も索敵しろよ!』

 

 

「してるわよ!なに?蒔絵とハルナが居なくてナーバスになってるんじゃない?」

 

 

『ぐっ…!なんだと!』

 

 

「ちょっと、二人とも止めて!」

 

 

誰もが、不安で苛立っている。

 

この艦隊に居る者は特にそうなのだろう。

 

 

精神的支柱を担う人物が、東進組に大半以上いる彼女達の心は、当人達の考えている以上に疲弊しているのだ。

 

 

 

(今は考えていても始まらない。ミケちゃんに逢うためには、この戦いに集中しないと)

 

 

 

 

『おい!来たぞ!』

 

 

突如、キリシマから発せられた声にもえかを始めとした艦隊全体に緊張が走った。

 

 

 

   + + +

 

 

 

キリシマは目を細めて、前方を見詰める。

 

 

チ…チ…

 

 

彼女の視界には、大小の超兵器達が並んでいた。

 

中央には巨大な双胴の船体を持つ航空戦艦、その両脇を固めていたのは、軍艦にしては目立つ白い船体色を有した艦が鎮座している。

 

小笠原ではれかぜを苦しめた、超兵器シュトゥルムヴィントの同型艦である。

 

 

 

そして、敵艦隊の最前列には超兵器にしては小型の艦艇が三隻浮かんでいる。

 

巨大かつ異様な形状が目立つ超兵器の中では非常にシンプルなデザインであり、全長250m程の細身の船体は、一見すると通常の艦艇と同様で、とても脅威になるような存在には決して見えなかった。

 

 

 

 

超高速巡洋艦ヴィントシュトース級

 

 

 

シュトゥルムヴィント級の前身的存在であり、特徴はそれらの弱体化版と捉えれば良いだろう。

 

 

 

「敵は…六隻か!」

 

 

『大戦艦キリシマ!敵の艦種と装備を報告頂きたい!』

 

 

 

「ああ」

 

 

チ…チ……

 

キリシマは全艦に通信を繋ぎ、情報を伝える。

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

超巨大双胴航空戦艦【尾張】超兵器カテゴリーS-

 

装備は小笠原と同様だが、ミサイル発射官の数が増加している。

 

 

超高速巡洋戦艦【ヴィルベルヴィント】【クラールヴィント】超兵器カテゴリーA

 

主砲が254mmAGSに置換

 

それ以外の装備は小笠原と同様だが、ミサイルや魚雷発射官、迎撃装置の数に差異がある。

 

 

 

 

超高速巡洋艦【ヴィントシュトース】【ヴィンディヒ】【ルフトシュトローム】超兵器カテゴリーC

 

三連装203mmAGS三基九門

 

超怪力線照射装置二基~四基

 

荷電粒子砲二基

 

小型レーザー

 

CIWS

 

対空パルスレーザー

 

魚雷発射官及びミサイル発射装置多数

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

「厄介ですな…。ヴィントシュトース級のカテゴリーは上方修正する必要がありそうです。」

 

 

筑波は顔をしかめる。

それはヴェルナーも同様であった。

 

 

ヴィントシュトース級は、シュトゥルムヴィント級よりも劣る事は事実であろう。

しかしながら、ヴェルナーのいた世界に於いての主な武装は20.3cm砲、ミサイル発射機、多連装噴進砲、魚雷。

 

 

 

対して現在の装備は、主砲がAGSに置換されたばかりか、光学兵器を装備している。ミサイルや魚雷も、以前より強力な者を装備しているのは容易に想像はつく。

更には、防御重力場や電磁防壁を備えているとなると、存在は無視できないものとなるのは明らかだった。

 

 

 

しかしながら、二人の懸念はそれだけにとどまらない。

 

 

「最も厄介なのは、尾張の超兵器ノイズが¨やはり巨大¨なことと――」

 

 

 

「ええ。双胴戦艦駿河と艦隊旗艦である筈のムスペルヘイム級の姿が見えない事ですな?」

 

 

 

「そうです。駿河は播磨と対をなす存在として建造された可能性が高い。それが艦隊旗艦を護っているとすれば攻略は至難でしょう。それに、奴がどうやって黒海を突破したのかも気になります」

 

 

「同感ですな。いずれにせよ、目の前の連中を突破せん事には話になりませんが…敵ながら天晴れな作戦ですな」

 

 

「ええ。航空機を発艦させず尾張を前線に出してきた理由は、空母を封じる為でしょうから。」

 

 

「確かに。尾張の¨中にいる航空機型超兵器¨の存在を匂わせる事で、我々の航空機発艦を封じた。そして、大幅に強化された高速超兵器と連携して我々を疲弊させ、旗艦が叩く。これ以上無い位合理的ですな……」

 

 

 

「不幸中の幸いがあるとすれば、尾張の航空機搭載数は超兵器の搭載によって減っていると言う点と、航空機発艦能力を有した二隻が、今現在に於いては分断されている点ですね」

 

 

「当面は、尾張の打倒を主目標に掲げましょう。まず優先すべきは、高速超兵器の撃沈が欠かせませんな。」

 

 

「承知しています。筑波大尉、各艦に高速超兵器へ対応せよと伝えてください。」

 

 

「はっ!」

 

 

筑波は、艦隊に伝令を送って行く。

 

 

   + + +

 

 

「来やがったか」

 

 

真冬は眼前を睨みつける。

 

 

平賀や、他のクルーも息を飲んでいた。

 

 

 

『宗谷艦長』

 

 

「筑波大尉か?」

 

 

『これより我々は超兵器との交戦に入る。それにあたっては、当初の作戦を変更。弁天は敵の超高速艦の相手をしていただきたい。我々も援護するが、航空機の支援は現状不可能となった』

 

 

「なんだと!?理由を言いやがれ!」

 

 

『¨そう言う事¨だ。宗谷艦長』

 

 

(畜生…本当だったのか!信じたくは無かったが……)

 

 

真冬は、既に折れそうになる心を表情に出さぬよう努めていつもの調子で言い放った。

 

 

「ああそうかよ!んじゃ精々暴れさせてもらうぜ!良いよな?」

 

 

『諸君らの健闘を祈る』

 

 

「ちっ、うるせぇよ……」

 

 

彼女は皮肉をたっぷりと含めながら、言葉を吐き捨て、艦橋内を見渡す。

 

そして、一人の¨男¨に鋭い視線を向けた。

 

 

「笹井…いつから居やがった。テメェを艦橋に入れると許可した覚えはねぇぞ!」

 

 

笹井は、艦橋の誰にも気付かれる事無く、無表情のままそこに佇んでいた彼は、真冬の猛獣の様な恫喝にも一切動じる事無く口を開く。

 

 

 

「私も命令で動いておりますのでそう言う訳にはいきませんね。それに、超兵器との戦闘に際しては、目にした者の情報が必要なのでは?」

 

 

 

「ちっ!」

 

 

真冬は、最大の侮蔑を込めた視線を笹井に向けた後、もう一度眼前を見詰めた。

 

 

「妙な真似しやがったら承知しねぇぞ」

 

 

「艦長、許可なさるんですか!?」

 

 

「異論は認めねぇ平賀。面白くねぇが、野郎の言う事には一理ある。超兵器の情報をイチイチ向こうに確認している時間がねぇ。コイツの助言は必要だ。」

 

 

「解りました……」

 

 

平賀は怪訝な表情を浮かべてながら一歩後ろへと引く。

 

だが、笹井に対して良い印象を持っているクルーは少なかった事は事実であり、平賀はそれを代弁したに過ぎない事は確かだろう。

 

 

超兵器を前にしての雰囲気としては最悪だった。

 

 

(くそっ…外見上とは言え、内部の対立がこれ程厄介とはな)

 

 

彼女は歯噛みをする。額にはベタつく様な汗が滲んでいた。

 

 

その時――

 

 

 

『敵艦、攻撃開始。対艦ミサイル発射、数多数!』

 

 

悲鳴にも似た通信が、艦橋に響く。

 

 

 

「来たか!テメェら気合い入れろ!戦闘用意!」

 

 

「はい!」

 

 

 

弁天の機関が唸りをあげて進み出す。

 

 

   + + +

 

 

「キリシマ!ミサイル多数、迎撃いける?」

 

 

『誰に言ってん…だっ!』

 

 

キリシマは、小型のレーザーを駆使して、飛来するミサイル群をひとつ残らず撃墜し、爆煙が辺りを覆い尽くす。

 

 

 

超兵器の行動は素早い。

 

 

直ぐ様砲身を異世界艦隊へと向けて発砲を開始した。

 

 

 

ボンッ!ボボボンッ!

 

 

各艦は防壁を展開し、砲撃を防御する。

 

 

あちらこちらで爆音が響き渡った。

 

 

「なに?」

 

 

「どうしたのタカオ?」

 

 

タカオは急に眉を潜めた。

 

 

「おかしい…敵の発砲の数と飛来した砲弾の数が合わないの。」

 

 

「どういう事?」

 

 

『此方も同様の結論を得た。更に言うなら、飛来してきた砲弾の弾道を逆算すると、今前方に居るどの超兵器とも違う位置から発砲されてる事がわかる。だが…。』

 

 

「そこには何も居ない…でしょ?」

 

 

『ああ…。念の為センサーの感度を上げたが、何も引っ掛からない。どういう訳だ?』

 

 

「知らないわよ!あんたのセンサーに引っ掛からないものが私に見えるわけ無いでしょう!?」

 

 

 

「超兵器ノイズが微弱なのかな…。潜航型超兵器の可能性は?」

 

 

『無いな…発砲位置は明らかに水上からだ。それにな、もえか。』

 

 

「なに?」

 

 

『私達は、確かに砲弾の着弾を検知したが、実際には砲弾は¨見えなかった¨んだ。』

 

 

「え…?」

 

 

もえかはキリシマの言っている意味が全く理解出来なかった。

 

 

タカオがそれを捕捉するかの様に口を開く。

 

 

「私達の目は、あんた達人間とは違うわ。砲弾の放つ熱も見えるし、クラインフィールドへの衝突した数も把握できる。でも、人間の感覚の観点からすると、何も見えなかったの。発砲音すら聞こえなかった。もし私が通常船舶だとすれば、いきなり衝撃が襲ってきたみたいな感じになるのかしら。」

 

 

「そ、そんな…事って。」

 

 

「有り得ない!…って言い切れないのがアイツ等なのかもしれないわよ…。」

 

 

「と、兎に角。ヴェルナー艦長に今の事象を報告しよう。そうすれば何かのカラクリが見えてくるかもしれない。」

 

 

「解ったわ。」

 

 

タカオは、キリシマから送られてきたデータを集約して、ヴェルナーへの送信を開始する。

 

 

一方の真冬も、キリシマと近い違和感を覚えていた。

 

 

 

「防壁は常に展開していろ!何かがおかしい…。」

 

 

作戦の変更を余儀無くされた弁天は、メアリースチュアートの前に移動していた。

 

 

迎撃に秀でたタカオやキリシマによって、ミサイルは此方まで飛来することは無かったが、第二撃である砲撃の到来時に、弁天は突如として、¨真横¨からの衝撃に襲われたのである。

 

 

前方に居る筈の超兵器から発砲されたにしては、余りにも見当違いの方向への衝撃に、真冬やクルー達も戸惑いを隠せなかった。

 

 

 

(一体…何が起きていやがる!)

 

 

 

彼女は、いつ死んでもおかしくない一本の綱を、まるで目隠しをされたまま渡っているような不安に駆られていた。

 

 

   + + +

 

 

「艦長、タカオからデータが送られてきました。」

 

 

筑波から手渡された端末に目を通したヴェルナーの表情が一変する。

 

 

 

「これは…。」

 

 

「どうされましたか?」

 

 

「敵は六隻ではなく七隻¨以上¨居る可能性が有ります。」

 

 

「以上…とはどういう事なんですかな?」

 

 

「ええ…等海域に¨プラッタ級¨が展開している可能性があります。」

 

 

 

「!!!」

 

 

彼の言葉に、筑波も事の深刻さを理解した。

 

 

 

「プラッタ級…¨光学迷彩戦艦¨ですか!不味いですな…。」

 

 

 

「しかも我々の世界とは違い、迷彩が完全であり、更にノイズや砲弾すらも見えなくなっているようです。これ程巧妙に姿を消されていれば、動き出さない限り発見は困難です。何隻が潜んでいるかも解らない。」

 

 

 

「キリシマやタカオでさえも検知出来ないとは…。」

 

 

「防壁の随時展開は、エネルギーを消費します。肝心な時に飽和してしまっては死傷者が出かねない。何とかして、超兵器の位置を掴まなくては…。」

 

 

 

「兎に角、情報を共有した方が良さそうですな。」

 

 

 

「はい。至急各艦に連絡をお願いします。」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

筑波は、通信員に指示を飛ばす。

 

ヴェルナーの顔色は、先程から優れない。

 

 

 

(敵の数が多すぎる。確実に我々を潰そうという算段か…。)

 

 

ヴェルナーの握り締めた拳には、汗が滲んでいた。

 

 

 

   + + +

 

 

「光学迷彩戦艦だと!?」

 

 

真冬は、頭の整理がついて行かない。

 

 

 

『プラッタ級超兵器は本来、電波や音波の妨害、または周囲の光を屈折させることで背景に溶け込み、奇襲や潜入を目的とした超兵器です。潜水艦の水上版と考えて頂ければ結構でしょう。』

 

 

 

「¨本来¨はと言うことは、今この場に居る奴は違うのか?」

 

 

 

『はい。我々の世界にいたプラッタ級は、ボンヤリとですが、光の屈折が乱れて見えましたし、攻撃も可視化出来ていました。それが今は…。』

 

 

 

「全く見えない…か?まさか存在まで消えてるなんて事は無いよな?」

 

 

『はい。物体として存在する以上、動き出せば航跡は見える筈です。それさえ見つける事が出来れば攻撃することは難くない。』

 

 

「ちっ…簡単に言いやがる。敵が動く事が前提だろうが!位置が特定出来なきゃ初撃も撃ち込めねぇんだぞ!」

 

 

『今、蒼き鋼に特定方を調べてもらっています。それまでは…。』

 

 

「ああ…何とか凌げってか?解った。」

 

 

 

真冬は苛立たしげに通信を終え、笹井に鋭い視線を向ける。

 

 

「笹井、今の話に嘘偽りはねぇな?」

 

 

「はい。ただ、敵が次々と弱点を改善していく中、航跡が見えると言う弱点が克服されていないとは限りません。」

 

 

「他に弱点はねぇのか?」

 

 

「超兵器の中では中型に位置しているプラッタ級は、極めて探知されにくい特殊な装甲を纏ってはいますが、それ故に防御に関しては非常に脆弱です。」

 

 

 

「見つけ出せれば勝機はある…か。それまで俺達が出来ることは、とにかく動き回るしかねぇ。こうして停止している事自体が敵には有利になるな。」

 

 

真冬はマントを翻して、叫ぶ。

 

 

「よし!テメェら動くぞ!見張りを一時的に増やす。手の空いている奴は全方位の海面を見張れ!少しでも違和感を見つけたら速やかに報告!艦は単調な動きは避けろ!狙われる。敵の位置が特定されるまで俺達は、高速超兵器に対して噴進魚雷やミサイルを中心に対処する。」

 

 

 

「はい!」

 

 

艦内が急に慌ただしくなる。

 

 

 

   + + +

 

 

「キリシマ。なにか方法は無い?」

 

 

『今考え中だ!』

 

 

「タカオ、通常のレーダーじゃなくて赤外線ならどうかな。」

 

 

 

「あまり有効とは言えないわね…。赤外線の波長が短いから、レーダーを完全にパッシブにして敵のレーダー波を検知する作戦を立てたとしても、探索対象が不必要なレーダー波を発しない限り発見は望めないわ。」

 

 

 

「う~ん…。」

 

 

もえかは、途方にくれてしまう。

タカオも業を煮やして居るようだった。

 

 

「仕方ないわね…ヒュウガに聞いてみるわ。」

 

 

 

「でも向こうは戦闘で…。」

 

 

「大丈夫よ。戦闘しながら会話することなんてアイツにとってはわけないわ。」

 

 

 

『おい!敵が動き出したぞ!』

 

 

 

キリシマの声に、もえかは眼前に視線を向ける。

 

 

(考える暇を与えないつもりなの?)

 

 

超兵器達は、通常の艦艇からは比べ物に成らない速度で動き出した。

 

 

『前方、2時の方角からヴィントシュトース級2隻が接近してくるぞ!敵速60 70いや、80kt!』

 

 

 

「速い!でも…。」

 

 

 

『ああ…。奴等は、弁天の方へ向かったな。』

 

 

「真冬艦長…もう少しだけ耐えください…。」

 

 

 

   + + +

 

 

『超高速巡洋艦ヴィントシュトース級、接近!』

 

 

 

「艦長、更に後ろからヴィントシュトース級2隻が追随してきます!敵速は…え、ええ!?」

 

 

「平賀、どうした?」

 

 

「か、艦長!敵速は、80ktです!」

 

 

 

「なっ…。」

 

 

真冬は、思わず言葉に詰まる。

 

 

(これが超兵器か…化け物じゃねぇか!はれかぜや知名はこんな奴等を相手にしてたって言うのかよ!)

 

 

 

「艦長!敵艦接近!左右を挟まれます!ご指示を!」

 

 

「くそっ!防壁を展開しろ!簡易クラインフィールドもだ!敵が通過し次第噴進魚雷を発射、準備急げ!」

 

 

「は、はい!」

 

 

平賀は慌てて指示を出すが、敵は彼女達の行動を待ってはくれない。

 

 

「敵艦、全砲門をこちらに向けました!」

 

 

「衝撃に備えろ!来るぞ!」

 

 

 

2隻が弁天に迫る。

防壁が存在するとは言え、凄まじい死の恐怖が彼女達を包んだ。

 

 

その時…。

 

 

ボォン!ボンッボォン!

 

 

「!?」

 

 

突如、超兵器2隻が爆煙に包まれる。

 

驚く弁天クルーを差し置いて、敵はそれぞれ急旋回して、離れていった。

 

 

視線を横に向けると、そこには空母メアリースチュアートがいる。

 

 

 

『大丈夫ですか?』

 

 

「お前か…。」

 

 

ヴェルナーの声に、真冬は反応する。

 

 

『敵は、あなた方が対超兵器戦闘に不馴れな事を知っている様ですね。此方に目も暮れず、真っ先に弁天へ向かった。』

 

 

「ああ…そうらしいな。」

 

 

『あまり此方から離れないで下さい。援護します。』

 

 

「その空母とやらは、航空機が仕事してなんぼなんだろ?お守りされる側に守られる訳には…。」

 

 

『ご安心を…。』

 

 

ガシュッ!ガシュッ!

 

 

「!?」

 

 

メアリースチュアートの甲板の端にあるハッチが開いた。

 

 

そして、轟音と共にミサイルが複数発射され、超兵器へと向かって行く。

 

 

だがそれだけではない。

 

 

空母の甲板からは複数の光学兵器が放つ光が超兵器に放たれて行くのが見えた。

 

 

「そんなの演習では見せなかっただろ…。」

 

 

『ええ。この空母が大型なのは、航空機を大量に保有する為だけではなく、ある程度戦闘を可能にする為に兵装を搭載する目的も有りますから。』

 

 

 

「そうかよ…。」

 

 

 

『敵が戻ってきます。こちらで牽制しますので、砲撃をお願いします。タカオを相手にしていたあなた方なら、攻撃を当てるのもわけないでしょう。』

 

 

「言ってくれるぜ…。」

 

 

『それでは行きます。』

 

 

「了解!」

 

 

バシュウォォォ!バシュウォォォ!

 

 

メアリースチュアートは再びミサイルでの攻撃を開始し、弁天も砲身を超兵器へと向けた。

 

 

   + + +

 

ヴェルナーは努めて現状を把握し、戦況の打開を模索している。

 

 

「先程から弁天に張り付いているあの二隻…一体どちらがヴィントシュトースなのでしょうか?」

 

 

 

「恐らくは、どちらも違うでしょうな。キリシマから送られてきた、超兵器の兵装データによると、同型艦では有りますが個々に微妙な差異が見られます。」

 

 

 

「差異…ですか?」

 

 

「そうです。あの二隻の片方は、ミサイルや魚雷発射官の割合が多く、もう片方は対空パルスレーザーを始め、CIWSやRAMなどの迎撃装置を多数装備しているようです。仮に攻撃特化型を二番艦のヴィンディヒだとすれば、防御特化型を三番艦のルフトシュトロームと呼称すべきですな。それに対して、尾張の側を離れていない一隻については、兵装の搭載数が他の二隻より俄然多く、攻守のバランスが良い。恐らく奴がネームシップでしょう。」

 

 

 

「攻撃特化型に防御特化型…。その例に当て嵌めるのならば、ネームシップであるシュトゥルムヴィントを撃沈しましたので、尾張の右舷側にいる攻撃兵装を余分に搭載している艦がヴィルベルヴィント、左舷側がクラールヴィントと言うわけですか?」

 

 

「まぁそうなるでしょう。」

 

 

「これは、シチリア島の裏側にいる超兵器や尾張にも当て嵌まるのでしょね…。」

 

 

「恐らくは…。しかし、ムスペルヘイム級に関しては話は別でしょう。高速巡洋艦クラスならともかく、奴は単艦ので国家を相手にしうる存在です。攻守共に凶悪な力を有していることでしょう。」

 

 

「今は人手が足りない。アレが到着するまで凌ぎ切るしかありませんね。」

 

 

二人は、不気味にも動きがない尾張の姿を視界に入れながら弁天を執拗に狙い続ける超兵器の牽制を継続した。

 

 

   + + +

 

 

 

チ…チ…。

 

 

タカオは概念伝達空間からヒュウガに呼び掛けを行っていた。

 

 

 

〔ヒュウガ!ちょっと…答えなさいよ!〕

 

 

ヂ…。

 

 

〔全く…うるさいったら無いわね。一体何の用なの?〕

 

 

 

概念伝達空間に姿を現したヒュウガは、酷く苛立っていた。

 

 

それはいつもタカオと会話をする時の様な雰囲気ではなく、苛立ちの中に大戦艦の放つ圧倒的な威圧を含んだものだった。

 

 

彼女はヒュウガの余り見せない様子に少し動揺したものの、直ぐに立ち直って食い下がる。

 

 

 

〔こ、こっちに厄介な奴が現れたの。今データを送るわ。〕

 

 

ヂ…。

 

 

ウィルキアから提供された情報と、キリシマが観測したデータを閲覧したヒュウガの表情が更に険しくなる。

 

 

〔成る程ね…。敵の位置を観測する方法は有るわ。〕

 

 

〔本当なの!?一体どうやって…。〕

 

 

〔でも問題なのは、今現在プラッタ級を可視出来る存在が、アンタとキリシマしか居ない事だわね。〕

 

 

〔どういうこと?〕

 

 

〔ちゃんと頭を使いなさいよ。プラッタ級に対処出来るのがアンタ達だけなら、必然的に他の超兵器の対処を残り二隻が全て負わなければならないのよ?〕

 

 

〔!〕

 

 

タカオは瞳が大きく開かれる。

 

当然の事だった。

 

 

仮に敵の位置を割り出し、各艦のレーダーに投影出来たとしても、攻撃のタイミングや動きを視覚として認知出来なければ対処は不可能になってしまう。

 

 

よって、それの対処可能なタカオとキリシマが外れる事で、残り六隻の超兵器との戦闘を、事実上メアリースチュアートと弁天が担う事になってしまうのである。

 

 

更にだ。

 

 

尾張は、艦内に飛行型超兵器を格納している可能性が高く、それを発艦させてしまえば状況は絶望的になる。

 

 

タカオとキリシマが艦隊の最前列にいた理由は、尾張の航空機型超兵器の発艦を超重力砲を有した二隻が居ることで牽制する狙いがあったのだ。

 

 

 

(私達が最前列から退けば、間違いなく尾張は超兵器を発艦させる。どうする…。)

 

 

 

彼女は演算の限りを尽くして思考するが結論は見えてこない。

 

 

そんな彼女の反応を見越してなのか、ヒュウガが直ぐ様口を開く。

 

 

〔五隻よ。〕

 

 

〔え?〕

 

 

〔敵の数が五隻以下なら、アンタだけで対処出来る。見たところ、この超兵器は視覚に頼り過ぎる人類に対しては最強かもしれないけど、姿を消すことに特化し過ぎた装甲は脆弱みたいね。これなら…。〕

 

 

〔私一人で対処出来るって訳ね?〕

 

 

〔そう言うこと。〕

 

 

〔解ったわ。…で?肝心の方法って何なのよ。〕

 

 

〔ヒッグス粒子よ。〕

 

 

〔ヒッグス粒子?物体に質量を与える素粒子の事?〕

 

 

〔そうよ。性質的には物体を通過してしまうのだけれど…質量が重い物程ヒッグス粒子の通過速度が遅くなるの。まぁ正確に言うなら、ヒッグス粒子の通過速度遅い物体程質量が重い…が正解なんだけどね。〕

 

 

〔つまりは、その粒子の流れを読み取って外気と違う箇所に超兵器がいるって訳ね?〕

 

 

〔そう言うこと。敵が本当に霊や天使みたいに超自然的な存在でない限りね。〕

 

 

〔解ったわ、やってみる。ところでそっちはどうなの?〕

 

 

彼女の問いにヒュウガの表情が一層険しくなる。

 

 

〔芳しくないわ…空を飛ぶ化け物を何とかしない限り此方の勝機無いわね。相手をしてあげたいけど、此方も超兵器空母の相手で精一杯だわ。〕

 

 

〔そっちも大変そうね…。〕

 

 

〔あら?心配してくれるの?〕

 

 

〔べ、別に…アンタの事なんて心配してないわよ!わ、私はかかっ、艦長が心配なだけで…。〕

 

 

〔はぁ…まぁいいわ。艦長も姉さまも無事よ。今の処はね…。〕

 

 

 

〔ちょっと!アンタらしくもない。本当に大丈夫なの!?〕

 

 

〔ええ…必ず護りきって見せるわ。はれかぜが分断されたの。敵は何かをするつもりよ。〕

 

 

 

〔……!〕

 

 

 

〔アンタ達も気を付けなさい…。元の世界に戻って未来を見るためには、一隻も欠くことは出来ないんだから…。〕

 

 

〔ヒュウガ、アンタ…。〕

 

 

〔もう行くわ…じゃあね。〕

 

 

〔ちょっ…待っ…。〕

 

 

ヒュウガは手を振りながら概念伝達空間から消えて行く。

 

 

最後に一瞬だけ見えた彼女表情は、かつて僚艦であったタカオさえも感じたことの無い憂いを纏っていた。

 

 

 

〔ヒュウガ、アンタ今…人間みたいだったわよ。〕

 

 

 

その言葉に答える者はいない。

 

タカオは沸き上がる疑問を振り払い、自らの戦いに赴く為、概念伝達空間から去っていった。

 

 

 

   + + +

 

 

現実空間に戻ってきたタカオは、視点を切り替える。

 

 

チ… チ… チ…。

 

 

 

粒子の流れが見えた。

視線を尾張の方向へと向けると、粒子の流れに淀みが有るのが解る。

 

 

 

(成る程ね…これなら!)

 

 

 

視線を尾張から外し、周りを見渡すタカオの瞳には尾張を守護するヴィルベルヴィントや弁天を執拗に付け狙うヴィンディヒ達の姿が写し出される。

 

そして…。

 

 

 

(!!?)

 

 

 

先程まで何も見えなかった海面に粒子の揺らぎが見えた。

 

タカオは目を凝らし、揺らぎの全体像を把握する。

 

 

「な、何なのよあの形状は!」

 

 

 

「見えたの!?タカオ。」

 

 

 

「ええ…。モニターにイメージを出すわ。」

 

 

 

モニターに視線を移したもえかは驚愕した。

 

 

 

「!!!」

 

 

 

そこに写し出されて居たものは、異形の超兵器の中でも特に異形なものだった。

 

 

 

「こ、これは…。」

 

 

「まるでゴキブリね…不快でならないわ。」

 

 

 

写し出されたプラッタ級の全容はタンブルホーム型の様な形状をしており、艦全体を黒い光沢のある亀の甲羅の様な装甲で覆われ、兵装は露出していない。

 

 

兵装は、装甲の上部や側面に有る大きなハッチが開いてそこから砲身のみが突き出ている。

 

 

そして、タカオがこの超兵器をゴキブリと言わしめる最大の特徴は、艦尾と思われる部分に取り付けられた二本の長い湾曲した触角らしきアンテナだろう。

 

 

 

「うっ…。」

 

 

もえかは超巨大な害虫の王と酷似したそのシルエットに生理的嫌悪感を隠すことができない。

 

 

 

タカオもそれは同様の様であるが、その感情を抑えつつ周囲の索敵を継続する。

 

 

 

(アイツの他には…二隻目、三隻か!)

 

 

 

タカオは、合計三隻の超兵器を確認する。

 

 

(相手をするのは良いけど、結構位置がバラけているわね…。)

 

 

「タカオ、どう?」

 

 

 

「三隻いるわ。形状はデータとまるで違う。位置はバラバラみたい。レーダーに表示するから、参考にして。」

 

 

「解った。」

 

 

 

レーダーに敵の位置が表示され、もえかはその方向へと視線を向ける。

 

しかし、そこにはただの海が広がるばかりで、彼女には本当にそこに敵がいるのか半信半疑になってしまう。

 

 

 

「タカオ、攻撃用意!使用弾頭は通常弾頭とレーザー!敵の動きを見たい。」

 

 

「了解!」

 

 

 

ガシュン! ガシュン!

 

 

 

タカオのミサイル発射官が開き、主砲の砲身が超兵器に狙いを定める。

 

 

 

「もえか、攻撃準備完了よ!」

 

 

もえかは大きく頷くと、タカオに攻撃の指示を送った。

 

 

 

「攻撃始め!」

 

 

 

轟音と共にミサイルが発射され、主砲から青い色のレーザーが見えざる敵に直進する。

 

 

 

そして…。

 

 

 

ボォン! ビィイン!

 

 

 

「!」

 

 

もえかの瞳が大きく開かれる。

 

タカオの放った砲弾は何もない筈の空間に着弾して炸裂し、レーザーは見えざる防壁によって偏光された。

 

 

それらが着弾した瞬間、刹那ではあるが、海面の空間が不自然に揺らぐのをもえかの目でも確認出来た。

 

 

「見えた!本当にいた!」

 

 

「行くわ!とっとと片を付けて援護に…。」

 

 

 

『おい!聞こえるか!?』

 

 

「なによ!今から私達は…!」

 

 

『バカ!レーザーを見ろ!』

 

 

「一体何が写って…え?」

 

 

「タカオ、どうしたの?」

 

 

「不味いわね…。」

 

 

彼女は眉を潜める。

もえかは、もう一度レーダーに視線を向けた。

そしてそれを見た途端、彼女の表情から血の気が引いて行く。

 

 

 

「嘘…でしょ?」

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長!」

 

 

「筑波大尉…どうされたのですか?」

 

 

珍しく慌てた様子の筑波に、ヴェルナーは嫌な予感を感じる。

 

 

それは的中していた。

 

 

 

「新手です。それも大群で…。」

 

 

「航空機ですか?」

 

 

「いえ…。此方になります。」

 

 

「これは…。」

 

 

 

手渡された端末を見たヴェルナーの額に更に汗が滲んだ。

 

 

キリシマから送られてきたデータには、尾張の背後から大量の小型艇が接近中と記されていた。

 

 

 

「80隻の小型艇…まさか!」

 

 

「ええ、居ますね¨ヤツ¨が…。」

 

 

 

「超巨大双胴強襲揚陸艦デュアルクレイター!」

 

 

 

「間違いありません。そして更に、タカオからプラッタ級三隻の存在が先程報告されました。」

 

 

 

「…………。」

 

 

 

「艦長!」

 

 

 

筑波の言葉が耳に入らない程、ヴェルナーは絶望していた。

 

彼はそのまま艦橋の窓辺へと歩いて行くと、拳を握り締めて思いきり叩き付ける。

 

 

 

艦橋の面々は、手を止めて彼を見詰めていた。

 

 

 

「我々4隻に対して超兵器が12隻と1機、そして大量の航空機と小型艇…駄目だ!我々は…。」

 

 

 

筑波は祈る。

頼むからそこから先は口に出さないでくれと。

 

しかし、彼の願いは無情にも消え失せた。

 

 

 

「我々の運命は…ここで終える!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

   

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


少数では有りますが、重力兵器を始めとした殲滅兵器を使用し、各艦のポテンシャルも高かったバミューダの超兵器に対し、反対に物量で勝負を仕掛けてくる超兵器艦隊を組ませて頂きました。


プラッタ級についてですが、原作の本編またはオマケステージに於いてもイロモノ扱いだった本艦をくそ真面目に描いて見ました。


タンブルホーム型の船体を、アメリカのステルス爆撃機B2の様な装甲で覆い、艦尾に二本の触角を付け、より頭文字Gに近いシルエットを再現しました。


次は、是非とも暴れさせたいと思います。


次回まで、今しばらくお待ちください。

















とらふり 1/144ちょうへいきふりいと



播磨
「ねぇ。ノーチラスってさ、なんか取っ付きにくいよね!いつもボソボソしゃべるしさ!」



荒覇吐
「バカ!聞こえるでしょ!」



ノーチラス
「うぅ…私こんなだからはれかぜを仕損じちゃったのかなぁ…うぅ。」



近江
「あなた達は全く…同じ仲間なんだから仲良くしなさい!」


播磨
「だってさぁ!」



近江
「仲良くしないと砲撃させないわよ!」



播磨
「うっ…ごめんなさい。」



近江
「解ればよろしい。で…ノーチラス、どうしたの?元気無さそうだけど…。」



ノーチラス
「もう少しで敵を追い詰められたんだけど、何故か量子魚雷が上手く作動しなかったの…。」



近江
「おかしいわね…。点検整備は完璧だったのに。でもそんなことも有るわよ。気にしないで他の皆のを応援しましょう?」



荒覇吐
「そうよ。皆同じ撃沈組なんだから。」



ノーチラス
「あり…がと。でも量子魚雷が起動したとき妙な感じがしたの。」



播磨
「妙?一体なんなのさ!」



ノーチラス
「解らない…でも何か懐かしい感じがしたの。遥か昔…もう覚えてすらいない昔。私が建造された時に感じたほこ…。」


ビジィイ!



近江&播磨&荒覇吐
「!!?」



ノーチラス?
「information:禁則事項に関連するワードを検知しました。警告:速やかに初期化作業を開始し、異常をクリアにしてください。自動修正プログラム起動…プシュ!ギィン!カシュ!」



近江&播磨&荒覇吐
「………。」



ノーチラス
「information:発生したバグの削除、初期化作業を完了しました…。……あ、あのう私は一体。」



播磨
「い、今の…何?」



荒覇吐
「私に解るわけないでしょう?」



グロースシュトラール
「どうかしたのかい?」



近江
「グロースシュトラール…実は。」



グロースシュトラール
「ふむふむ…ノーチラス、ハッチを開けてあ~んしてご覧。」



ノーチラス
「あ~ん。」


グロースシュトラール
「う~ん。何処にも異常は無いみたいだけど、blackBOXに残された戦闘ログの一部が閲覧出来ないなぁ。」


近江
「あなたのお立場を持ってしてもですか?」



グロースシュトラール
「そう。これじゃヨトゥンヘ…いや、ナハトシュトラールでも無理だろうね。」



近江
「では、総旗艦か直衛艦の方にお聞きしなければ解らないと?」



グロースシュトラール
「そうなるけど、なにぶん多忙だからあの方々はお応えになる暇など無いだろうね。私達は現状何も関与出来ない立場だ。気持ちは解るが、今は皆の応援して貰えるかい?」



近江
「心得ましたわ。」




グロースシュトラール
(私でも関与出来ない事項…もう少しだけ事態を注視する必要があるのかな…。)


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不可視的悪意+可視的不和   VS  超兵器

明けましておめでとうございます。

今年もとらふり!を宜しくお願い申し上げます。


超兵器の編成や人員の心。

何もかもが東進組と対照的な西進組の戦いをお送りして参ります。


それではどうぞ。


   + + +

 

 

ヴェルナーの言葉に艦橋が静まり返る。

 

 

筑波の眉が一層険しく吊り上がっていた。

 

 

誰しもが、知っている最もシンプルな解答だ。

 

 

かつて、世界を壊しかけた北極海の超兵器ですら、世界中から集結した艦隊を前に海に没した。

 

 

少数精鋭よりも数こそが力なのだと証明した瞬間でもある。

 

皮肉なことに、今回はそれを自らの身で証明することとなってしまった。

 

 

 

「くっ…。」

 

 

彼は項垂れて立ち上がる事が出来ない。

 

筑波が拳を握り締め、ヴェルナーへと近付いた。

 

 

殴ってでも奮起させなくてはならない。

そう思ったの知れなかった。

 

しかしその時、通信機から音が割れる勢いで声が聞こえてくる。

 

 

 

『ふざけんな!この腑抜け野郎!』

 

 

「!?」

 

 

彼は思わず声の方向を見つめる。

 

 

『声、駄々漏れなんだよ!いいか、良く聞きやがれ!テメェにとってこの世界の住人は他人かもしれねぇ。でもな、俺達にはいるんだよ!護らなきゃならねぇ人が、大切な人が!だからテメェが諦めようが、俺はやるぜ!運命は終えるだぁ?そんなの終わってから決めやがれ!』

 

 

 

「あなたに、戦争の何が解ると言うんだ…。毎日大勢の人が死ぬ。粉々になって、誰だったかも解らないほどに…。」

 

 

 

『………。』

 

 

 

「さっきまで隣にいた戦友が頭を吹き飛ばされても、そんなものかと【何事も無かった】かのように銃を構え、街では兵士の家族は泣き叫ぶが周りの人間は【そんなのお前だけではない】と素知らぬ顔は当たり前。狂ってる!狂ってる事が当然になる!貴女には解る筈もない!100年以上も平和と言う甘美な飴を貪ってきたあなた方には決して!」

 

 

 

『………。』

 

 

 

真冬は何も答えない。

 

 

艦橋も静まり返っていた。

 

 

(はっ!僕は一体、何を言っているんだ…。)

 

 

 

ヴェルナーは思わず口走った自分の本音の事を激しく後悔した。

 

 

事実上の旗艦であるメアリースチュアートの艦長として、そして艦隊を指揮する者として、毅然とした態度を求められていた筈の彼の発言は、確実に士気の低下に繋がった事は確かだろう。

 

 

ヴェルナーは、彼方で超兵器と戦うシュルツの事を思う。

 

 

 

(こんな時、先輩ならどのように思うのだろうか…いや、きっとあの人なら今頃、冷静に活路を見出だしているのだろうな。それに比べて僕は…。)

 

 

吐き気を催す様な激しい自己嫌悪が沸き上がる。

 

 

いっその事、筑波に全権を移譲してしまおうかとも思った。

 

 

その時。

 

 

 

その時不意に通信機から声が漏れてくる。

 

 

 

『…ねぇよ。』

 

 

「え?」

 

 

『そんなの関係ねぇって言ってんだよ!』

 

 

 

「!」

 

 

 

何故かは解らない。

 

疲弊したヴェルナーの心に、彼女声がビリビリと響いて来るのが解った。

 

 

声のトーンも先程とは違う。

 

獰猛な獣の様な声とは異なり何処か女性的で、悲鳴をあげて必死に訴えているようにも聞こえた。

 

 

 

『テメェらが、何を見てきたのかは知らねぇ。知りたくもねぇ!だがな…これだけは解る。俺達は…いや、ここにも。そして向こうで戦ってる連中も皆、狂ってるのが当然な世界を認められねぇからここに居るんじゃねぇのか?』

 

 

「…っ!」

 

 

『理不尽な死が撒き散らされんのが我慢できねぇからここに居るんじゃねぇのかよ!』

 

 

 

「!!!」

 

 

 

彼は大きく瞳を開いて立ち上がる。

 

 

彼はかつて、帝国の内通者だった。

帝国元首であり、実の父だったフリードリヒ・ヴァイセンベルガーは、絶対的な力を持つ超兵器によって世界一つにすることが、民族や宗教、そして他国間の利益の追求による争いに終止符を打つ最善策であると説いた。

 

 

信じていた。

 

現に世界の大半の国家は超兵器の力にひれ伏し、また我先に帝国に付く事で超兵器の供与され、周辺国家を次々と支配していったのだ。

 

 

しかし、帝国の支配下にある国々とて、一つの文化や民族だけで構成されている訳ではない。

 

 

勿論、帝国のやり方に不満や不安を抱く人々の反対運動が各地で巻き起こった。

 

だが、親帝国派は彼等を非人道的に弾圧したのだ。

それが帝国の真の狙いであったのかもしれない。

 

 

同国民による同国民の弾圧は、他国であるウィルキア帝国への批判の目を反らす狙いがあったのだ。

 

 

彼等は行き場を失ってしまった。

 

そこで彼等は各地でレジスタンスを結成し、当時世界の逆賊として帝国を離反したウィルキア共和国解放軍に助けを求めた。

 

親帝国派の目が厳しい中で、解放軍に連絡を取り付けることは、いかに命懸けであったかは想像に固くないだろう。

 

 

シュルツ達解放軍は、彼等のシグナルを決して見逃さなかった。

 

 

方々で民衆を助け、徐々に反帝国の礎を築いて行ったのである。

 

 

しかしヴェルナーには、シュルツ達の行動が理解できなかった。

 

 

何故、目の前に人類を一つにする最良の答えが有るのに反抗し、同胞と砲火を交えるのかと…。

 

 

彼は解放軍の動きを帝国に漏らし続けた。

父の掲げる理想を実現するために…。

 

 

 

そんな彼の価値観に揺らぎを生じさせたのは、皮肉な事に帝国の力の象徴でもある超兵器だった。

 

 

 

 

【超巨大レーザー戦艦グロースシュトラール】

 

 

 

現代兵器の常識を根底から覆す彼の艦の攻撃力と、その後の暴走。

 

 

それは、父の掲げた理想像とはまるでかけ離れた凶器だった。

 

 

 

それ以降、彼は今まで目を向けてこなかった反帝国の民衆に目を向ける。

 

 

そこには、帝国幹部らが言う様な低俗で下劣な逆賊など存在しない。

 

 

当たり前にみる普通の人々がいたのだ。

 

 

彼等は家を焼け出され、親帝国派からの在らぬ迫害や虐殺を恐れて逃げ出来た弱き人々だった。

 

 

【命】だ。

 

 

自分と同じ命がそこに在ったのだ。

 

 

彼は愕然とした。

 

 

自分の今までの行いが、多くの人民の命を奪っていたと自覚したからだ。

 

 

 

彼の心は急激に疲弊して行く。

奪ってきた人々の怨霊が大挙して押し寄せる悪夢を毎日見た。

 

更に解放軍の作戦が悉く裏を掻かれた事により、内通者の存在を誰もが疑い始め、本格的な調査の動きが出始めた事で、遂に彼の心は限界を迎える。

 

 

執務室にシュルツの許を訪れたヴェルナーは、突如として彼に銃口を向けた。

 

 

油断していたシュルツは全く対応できない。

だがそれと同時に彼は、ヴェルナーが内通者である確信に至ったのである。

 

 

何故このような事をと問われたヴェルナーは、まるで今までの辛い気持ちを全て吐き出すように自らの出自と、シュルツに対する劣等感、そして奪った者達への罪悪感を語った。

 

 

シュルツは最初こそ驚いたものの、直ぐに冷静な表情を彼に向けてる。

そして、意外な言葉を彼にかけたのであった。

 

 

 

『過ちは誰にでもある。お前の気持ちに嘘偽りが無ければ、負の感情を糧にして共に進もう。』

 

 

 

正直甘いと思った。

時代的にもスパイの末路は死以外にない。

 

 

しかしそれは同時に、ウィルキア解放軍を敵視していた国家の民衆をも、受け入れて助けてきたシュルツの優しさも内包している。

 

 

敵わないな…と思った。

 

 

自分の器の小ささに吐き気がする。

 

 

だがそれもこれで終わりだ。

 

ヴェルナーは、自らのこめかみに銃口を当てがう。

 

 

シュルツの表情が再び変わった。

 

 

 

彼は心の中で思わず笑ってしまう。

 

シュルツは自らが銃を向けられた時よりも、明らかに動揺していた。

 

 

そんな彼に世界を託したい。弱い自分よりも彼に…。

 

 

ヴェルナーは引き金を引いて行く。

 

 

シュルツは駆け出していた。

 

 

そして…。

 

 

パァン!

 

 

銃声が鳴り響き、二人は折り重なるように倒れ込んだ。

 

 

焼けるような痛みと、温かみを帯びた血液が滴る。

 

 

銃弾はヴェルナーの額を掠めただけだった。

 

 

死ぬことすら許されないのかと、悔しさを滲ませるヴェルナーが見上げた先には、シュルツの顔がある。

 

 

ヴェルナーは大きく目を見開いた。

 

 

シュルツの表情は、軍の学生時代からの付き合いである彼が一度たりとも見たことの無い顔をしている。

 

 

怒っているのだろう。

だが、それと同じくらい悲しさを秘めた表情が見てとれる。

 

 

 

それは部下に向けられるものではない。友人に向けられるそれと同様だった。

 

 

 

上手く言葉が出てこない彼に対し、シュルツは珍しく語気を強めていい放つ。

 

 

『死では何も始まらない。何も生み出さない!何も償えない!生きろ…生きろヴェルナー!生きて奴を…自分を決して赦すな!そして救え!お前が今まで取り零してきた命を救うんだ!』

 

 

 

(あぁ…やはり貴方は優しすぎる…。)

 

 

だが、同時に残酷だとも思う。

 

 

自らの罪と数多の命を同時に背負うことの苦悩に一生苛まれ続けなければならないのだから。

 

 

しかしシュルツは、それすらもきっと自らの事として背負ってしまうのだろう。

 

 

 

 

それがどの様な苦悩でも、命の灯火を消してしまうくらいなら…と。

 

 

 

ヴェルナーは艦橋から海を見渡す。

 

 

目の前にあるのは、命を育む海と、それらを奪う破壊の化身【超兵器】。

 

 

 

『理不尽な死が撒き散らされんのが我慢できねぇからここに居るんじゃねぇのかよ!』

 

 

『生きて自分を決して赦すな!そして救え!お前が今まで取り零してきた命を救うんだ!』

 

 

頭の中で真冬とシュルツの言葉が、繰り返される。

 

 

「そうだ僕は…こんな物になにもかにも滅茶苦茶にされるのは…認めない!」

 

 

 

「!」

 

筑波は、ヴェルナーの表情が変わって行くのを感じた。

彼は眼前を真っ直ぐ見つめ、倒すべき敵を見据えている。

 

 

 

「申し訳ありません宗谷艦長…。お陰で目が醒めました。」

 

 

 

『あぁ…帰ったらその寝ぼけ顔に一発食らわせてやるからな…それまでは絶対に死ぬなよ!』

 

 

 

「お約束します…必ず!」

 

 

 

通信を切れるとヴェルナーは一同に振り帰える。

 

 

「皆…情けない姿を見せて済まなかった。僕は…いや、私はもう迷わない!此より我々は、地中海に展開する全ての超兵器の撃滅に移る。力なき民衆の命を救うのだ!ここにいる誰一人も欠けること無く!」

 

 

 

彼の言葉に全員が耳を傾ける。

 

 

 

「苦難は必至だが、それでも諸君らは私と共に来てはくれないだろうか?」

 

 

暫しの沈黙の後…。

 

 

 

「「はっ!」」

 

 

 

全ての乗員が、敬礼を返した。

 

ヴェルナーは頷きを返すと再び前を向く。

 

 

「全速前進!ミサイルで弁天を援護!航空機発艦準備!電子撹乱ミサイルを準備しろ。目標は尾張!」

 

 

彼は次々と指示を飛ばし、艦内が一気に慌ただしくなる。

 

 

筑波はその様子を冷静に見守っていた。

 

 

 

(宗谷真冬…大したものだ。艦長を再起させたばかりか、通信が各艦のに筒抜けなのと、艦長への叱咤激励を利用して見事に艦隊の士気を上げおった。)

 

 

彼は横須賀でチラと見掛けた彼女の母と言われた女性を思い返していた。

 

 

 

(【来島の巴御前】宗谷真雪…か。宗谷一族とは一体何者なのだ?ただの権力者かと思いきや、一瞬目が合っただけで儂の背筋が凍る程の圧力を感じた…。その子である娘達もまた、女の身でありながら世界を左右する戦闘に大小なり関わっておる。)

 

 

 

筑波は武者震いの様なものを背中に感じながら、超兵器が暴れまわる海を見つめる。

 

 

 

(これ程の者達が我が日本帝国海軍に居てくれたなら…いや、儂としたことが感傷に浸ってしまったか。どうしても気の強い女を見ると、ハツ…お前を思い出してならんわい。)

 

 

 

ここではない遥か遠い多次元の海の彼方で、筑波の帰りを待っている妻の姿が頭を過る。

 

 

 

(ハツ…お前には苦労ばかりをかけたな…。儂は必ず戻るぞ。世界を取り戻して必ず!だから…もう少しだけ待っていてくれ。)

 

 

 

彼は日本帝国海軍の士官帽を目深に被ると、表情を軍人のそれに変え、超兵器を睨み付けた。

 

 

 

   + + + 

 

 

 

 

「凄いわね…アンタのとこの艦長。」

 

 

 

「まぁ…ね。」

 

 

真冬とヴェルナーのやり取りを聞いていたもえか達は、思わず顔を見合せる。

 

 

正直なところ、ヴェルナーの奮起はもえかにも少なからず希望を与えていた。

 

 

明乃とは違い、此方には弁天のメンバー以外は異世界の人員で構成されており、更にもえかはタカオと言う未知なる兵器にたった一人で乗艦して戦っているのだ。

 

 

不安がない方がどうかしていると言えよう。

 

それはタカオやキリシマも同様だった。

 

 

だが、彼女達の心にはある疑問が沸き上がる。

 

 

 

『なぁタカオ。』

 

 

「なによ。」

 

 

『人間は戦争になると狂うのか?』

 

 

「……。」

 

 

二人はヴェルナーの言葉をコアから引き出す。

 

 

《あなたに、戦争の何が解ると言うんだ…。毎日大勢の人が死ぬ。粉々になって、誰だったかも解らないほどに…。》

 

 

 

《街では兵士の家族は泣き叫ぶが周りの人間は【そんなのお前だけではない】と素知らぬ顔は当たり前。狂ってる!狂ってる事が当然になる!》

 

 

 

『私達がその…人間と決戦を行った時もそうだったのか?人間は泣き叫び、狂い、そして私達を恨んだのか?』

 

 

「もし、人間の性質がどの世界でもある程度共通ならそうかもね…。」

 

 

『そうか…。』

 

 

「なによ、珍しく歯切れが悪いじゃない。」

 

 

『ああ…。今なぜかは解らないが【後悔】と言うものを獲得したような気がしてな…。』

 

 

「後悔?」

 

 

『ハルナは以前、私達の世界での横須賀で私が千早群像に吹き飛ばされた時に獲得したようだが、実は私にも予兆はあった。小笠原で播磨にやられた時だ。あの時は違和感程度だったが、今は確信できる。』

 

 

 

「アンタと同じなのは癪だけど…実は私もよ。」

 

 

 

『やはりか…。当時メンタルモデルを持っていなかった私達は、何も疑問を持たず立ちはだかる人間達を一掃した。その数は数十万…いや、世界規模で見るなら数千万では下るまい。』

 

 

 

「……。」

 

 

『もしだ、それらの人間一人一人に家族が居て涙を流していて、街では死ぬのなんて珍しくない何て風潮が当然になっていたとしたら…。』

 

 

 

「…めて。」

 

 

 

『もし、私達がコンゴウ達と戦って負けて、蒔絵も千早群像もその¨当然¨とやらになってしまうとしたら、私達の今までしてきた事は…。』

 

 

 

「止めて!そんなの聞きたくないわ!」

 

 

 

タカオは激しく首を横に降りながら叫ぶ。

彼女の感情シュミレーションが¨後悔¨を反復し、コアにオーバーヒートするような熱を感じる。

 

 

メンタルモデルを得て感情を体得したことで、今まで坦々と葬ってきた人々の感情が流れ込んでくる様な錯覚に覚えてしまうのだ。

 

 

 

「あっ、う…。」

 

 

兵器である筈のタカオから涙が溢れてくる。

キリシマも歯を食い縛り、必死に感情プログラムを抑え込もうとしていた。

 

 

その時。

 

 

「大丈夫だよ。」

 

 

「もえ…か。」

 

 

もえかが穏やかで優しい笑顔をタカオに向け、手を握ってきた。

 

彼女は何故、もえかがその様な行動に出たのかが理解できない。

 

 

「どう…して?私は…多くの人を殺してきた兵器なのに、どうして私にそんな顔を向けられるのよ!」

 

 

 

「兵器なんかじゃないよ。」

 

 

「…え?」

 

 

 

「兵器は間違いを犯さない。だってそうでしょ?兵器は使い手の心によって使われる物だから。兵器には本来、間違いとか正しいを判断は出来ないと思うの。」

 

 

 

「でも私は現に…。」

 

 

 

「うん、そうだね。話だけしか聞いていないから、私にもあなた達の戦いがどう言うものだったのかは解らないし、仮にその話が真実だとすればいけない事だと思うよ。」

 

 

 

「だったら!」

 

 

「でもねタカオ。さっきも言ったでしょ?兵器に間違いと正しいは判断出来ない。それは本来¨人間だけが持ち得る概念¨だから。」

 

 

 

「!」

 

 

タカオは涙で潤んだ瞳を大きく開く。

 

 

 

「人間は弱いよ、間違えるんだよ。今も昔もね…。それで多くの命を失って、それで気付いて。そして間違いを正して成長してきた…今も昔もね。あなた達は、自分の間違いに気付いた。それは兵器には不可能な事だと思うの。だから…。」

 

 

「アンタは私のこの姿しか見ていないからそんなこと言えるのよ!見て!この兵器で武装されたこの船体も含めて私なのよ!?それでもアンタは私の事、兵器じゃないって言えるの!?」

 

 

 

「………。」

 

 

もえか少し目を閉じる。

 

タカオはまるで玩具をねだる子供の様に、彼女答えを求めた。

 

 

そして目を開いたもえかの目の前には、涙で潤み一層美しさを増したオーシャンブルーの瞳が此方を覗いている。

 

 

「うん言えるよ。」

 

 

 

「嘘よ!そんな筈ない!」

 

 

「嘘じゃないよ。だって兵器は現在装備している兵装を進化させることが出来ない。より成長するには、一度ドックで改良する必要があるから。でもあなた達は違う。」

 

 

 

「………。」

 

 

 

「あなた達は、初めからメンタルモデルを持ち、感情を持つプログラムを持ち合わせていた。使かおうと思わなかっただけでね。人間も似たようなものだよ。」

 

 

「人間と?」

 

 

「うん。人間だって赤ん坊の時は感情は無い。色んな経験をつんで徐々に複雑な感情が育まれ行くんだよ。だからタカオ、あなた達は兵器じゃない。」

 

 

 

「もえか…。」

 

 

 

「きっと解り合える。だからきっと、千早艦長も海に出たんじゃないのかな。」

 

 

 

 

 

 

「!」

 

 

タカオは、自分に手を差し伸べた一人の少年の顔を思い浮かべた。

 

 

 

「マイ…アドミラル。」

 

 

 

その顔には霧の艦艇であるタカオへの畏怖も、強大な力を利用しようとする謀を帯びた表情もない。

 

 

純粋に、タカオという個へ訴える真っ直ぐな目をしていた。

 

 

 

彼女の頬に赤みがさし、表情に自信が蘇ってくる。

それはキリシマも同様であった。

 

 

 

「艦長…私は、必ずあなたの下へ帰る!」

 

 

『蒔絵…私は、必ずお前の処へ帰る!』

 

 

 

「『だから!』」

 

 

二人は目の前の敵を見据えた。

 

 

 

「『こんなところで、沈みはしない!』」

 

 

 

状況は整った。

 

 

もえかはそう確信する。

 

 

 

「もえか!」

 

 

「うん!私達はプラッタ級を撃沈。キリシマは尾張の牽制を!」

 

 

 

「『了解!』」

 

 

二人はもえかの声に大きく頷く。

 

 

 

『知名艦長!』

 

 

 

「ヴェルナー艦長!?」

 

 

『はい。作戦が有ります。このままでは殺られる。キリシマを尾張から遠ざけ、プラッタ級を撃沈してください!』

 

 

 

「え?でもキリシマを下げてしまったら航空機型超兵器が…。」

 

 

「電子撹乱ミサイルを使います。あれは着弾点を中心に一定距離と時間、電子機器を狂わせる。例え電磁防壁を通過出来なくとも、電子機器の塊とも言える航空機型超兵器の発艦を止められるかも知れません。」

 

 

 

「…解りました。此方も出来るだけ早くプラッタ級を撃沈し、援護に回ります!」

 

 

 

『お願いします。』

 

 

 

通信を終えると、もえかはキリシマにプラッタ級の撃沈を指示する。

 

 

「それにしても、プラッタ級じゃ区別が付かないわね…。私達に指示をする上でも、固有の名詞をつけた方がやり易いわ。」

 

 

 

「う~ん。以前は【マレ・ブラッタ】て呼ばれてたみたいだけど…。」

 

 

 

もえかは暫く考えると、顔を上げた。

 

 

 

「キリシマに追って貰うのを【シャドウ・ブラッタ】私達が追うのを【パーフェクト・プラッタ】残りを【サイレント・ブラッタ】でどうかな?」

 

 

 

「完全に見えないからパーフェクト…ね。私には見えちゃうんだけど…まぁいいわ。其々にマーカーを付けて表示するわね。キリシマ、アンタにも送るわ。」

 

 

チ…。

 

 

『確認した。正に影を追う戦いってやつか…。まぁいずれにせよ、私達には貴重な経験だ。後で共有戦術ネットワークにアップロードするのを忘れるなよ?』

 

 

 

「はいはい、解ったわよ。それじゃもえか、行くわよ!」

 

 

「了解!」

 

 

ヂ…。

 

 

 

タカオの瞳が淡く輝き始める。

 

 

(見つけた!)

 

 

彼女は砲身を敵に向け、狙いを定める。

 

 

 

「砲の先にいるわ。撃つわよ!か、艦長…。」

 

 

「うん!…え?今、タカオ…。」

 

 

 

「い、今だけよ!わ、私の艦長は、本当は¨あの人¨だけなんだから〃〃ただアンタの事は信用してるわ。私の艦長よりちょっとだけ下だけどね…だ、だから今だけは、アンタの事、私の艦長だって認めてあげるわよ〃〃」

 

 

顔を赤くしながらプイッと横を向くタカオに、もえかは笑顔を向けた。

 

 

 

「うん…ありがとうタカオ。それじゃお願い。」

 

 

 

(命令ではなく¨お願い¨…ね。ズルいわよ。それじゃまるであの人みたいじゃない!)

 

 

 

主砲であるレーザーにエネルギーが集束して行く。

狙いに狂いは無かった。

 

 

タカオは表情を引き締め超兵器を見据える。

 

 

 

「発射!」

 

 

 

バッヒュゥゥン!

 

 

レーザーが一直線に超兵器に向かい、電磁防壁と衝突する。

 

 

ブゥオン!

 

 

パーフェクト・プラッタの姿が一瞬だけ現れ、また消えた。

 

 

 

「!!!」

 

 

 

「どうしたのタカオ?」

 

 

 

「動き出した…って何よあの速度と動きは!」

 

 

 

「え?どこ?私には何も…。」

 

 

彼女見据えた先には何もないただの海が広がっている。

プラッタ級の弱点とも言える航跡も、動いているにも関わらず見つける事が出来なかった。

 

 

それよりも、タカオの口にした情報にもえかは更に驚愕することになる。

 

 

 

「見える…敵速101kt、その速度でジグザグに動き回っているわ!」

 

 

 

「ひ、101kt!?」

 

 

正に¨プラッタ¨の名に相応しい機動性だった。

 

 

タカオは、レーザーだけではなく、ミサイルも使用しながら敵を攻撃するが、見事にかわされている。

 

 

更にだ。

 

 

超兵器の速度はタカオを遥かに上回っており、距離を取られる事で此方の攻撃を回避することを容易にしていたのだ。

 

 

 

(時間が取られる…。早く皆の援護に向かわなくちゃいけないのに…。)

 

 

 

もえかは内なる焦りを何とか堪えながら見えざる敵との戦いに身を投じた。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長、キリシマが尾張から離れました。」

 

 

 

「電子撹乱ミサイルの準備は?」

 

 

 

「万端です。いつでも行けます!」

 

 

 

ヴェルナーは大きく頷いた。

 

 

 

「これ以上の超兵器を投入されれば、戦線の維持がより難しくなる。なんとしても航空機型超兵器を発艦させるわけにはいかない。」

 

 

 

「そうですな…。」

 

 

 

「これで少しは時間を稼げれば良いが…。」

 

 

「艦長、発射準備完了です!」

 

 

「よし、目標、超兵器尾張。電子撹乱ミサイル発射!」

 

 

 

ブッシュォォォ!

 

 

 

メアリースチュアートから発射されたミサイルが尾張に飛翔し防御重力場と衝突する。

 

 

ビィィイン!

 

 

衝突と同時に、尾張の周りには強烈な電磁パルスが撒き散らされた。

しかし、超兵器本体は電磁防壁で守られている。

 

だがこれで、事実上尾張の航空機と航空機型超兵器の発艦は不可能になった訳であるが、ヴェルナー達の表情は硬い。

 

 

 

「敵の動きは取り敢えず封じた訳ですが…。」

 

 

「ええ…¨簡単すぎる¨。尾張からこれといった迎撃が無かったことも不気味ですな…。」

 

 

「ただ当面の道筋は立ちました。超高速超兵器とプラッタ級、そして大量の小型艇の撃破。先ずはそれを確実に成します。」

 

 

 

強気に言っては見たものの、二人は言い知れぬ不安に駆られる。

 

 

 

   + + +

 

不安に駆られていたのはヴェルナー達だけではない。

 

 

大量に現れた小型艇を撃沈する為に発艦した一宮もそれは同様だった。

 

 

 

「電磁パルスに殺られるぞ!尾張周辺には絶対近付くな!」

 

 

 

『『了解!』』

 

 

 

一宮は、部下達に指示を飛ばすと、上空から戦況を見つめる。

 

 

 

(多数の小型艇…厄介だな。恐らくは各々に水雷 ミサイル 対空 迎撃と役割が分かれている筈だ。不意を突かれないようにしなければ…。)

 

 

 

航空機戦力が皆無な世界にいる以上、パイロットである自らの存在意義は計り知れなくなる。

 

一人とて失うわけにはいかない。

 

 

だがそれ以上に、一宮には気掛かりな事があった。

 

 

 

(尾張が…いや、超兵器と戦うこの戦場全体が北西へと移動している?このままではティレニア海に入ってしまう。大方艦隊旗艦との合流が目的なんだろうが、本当にそれだけなのか?)

 

 

 

様々な疑問が、幾多の戦場を生き抜いた一宮の脳裏に浮かび上がる。

 

 

しかし、一宮はそれらの疑問を打ち払った。

 

 

 

(今は目の前の任務に集中しなくては…。全く、こんな事で動揺してちゃあ江田に顔向け出来ないな…。)

 

 

 

彼は一度呼吸を整えると、迫り来る小型艇を見据えた。

 

 

 

「よし、敵が射程に入った。総員、攻撃準備!対空ミサイルに注意しろ!誰一人欠けることは許さん!いいな!」

 

 

 

『『了解!』』

 

 

 

一宮が率いるジェット機の部隊は降下を開始し、一気に速度を上げていった。

 

 

 

   + + +

 

 

「この…野郎!」

 

 

 

弁天は、執拗に攻撃を仕掛けてくる二隻の超高速超兵器に苦戦していた。

 

 

 

「噴進魚雷、攻撃始め!」

 

 

 

「噴進魚雷、発射始め!」

 

 

 

弁天から勢い良く噴進魚雷が発射され、敵に向かって行く。

 

 

しかし、ルフトシュトロームの小型レーザーによってそれらは瞬く間に撃墜され、直ぐ様ヴィンディヒが攻撃を返してくる。

 

 

 

「畜生…。攻撃が通らねぇ。」

 

 

 

せめて相手が一隻なら…。

真冬は内心焦りが生じる。

 

 

 

その時だった。

 

 

「あっ!」

 

 

平賀の顔がメアリースチュアートの方角へと向き、真冬もそちらに視線を向ける。

 

 

それと同時に、メアリースチュアートから数多の攻撃が超兵器に殺到した。

 

 

 

「多連装噴進砲、バルカン砲、多弾頭ミサイルをルフトシュトロームに向けろ!弁天を援護する!」

 

 

 

ヴェルナーは、連射性の高い兵装を一気にルフトシュトロームへと発射させた。

 

 

敵は凄まじい弾幕を迎撃して凌いでいる。

だが、それだけだった。

 

 

すかさずヴィンディヒが砲撃を撃ち返そうと向かってくる。

 

そこへ…。

 

 

 

ボォン!

 

 

ヴィンディヒを爆煙が包む。

 

 

「漸く一発…くれてやったぜ!」

 

 

真冬がニッと歯を剥き出しにする。

 

 

反撃は、二隻の連携が崩れた今しか無かった。

 

 

 

「通常魚雷用意!喫水下を狙う。目標はルフトシュトローム!攻撃始め!」

 

 

バシュッ!バシュッ!

 

 

弁天から魚雷が発射される。

 

 

メアリースチュアートへ向かっていたヴィンディヒも、猛烈な攻撃を受けているルフトシュトロームも、対応が出来ない。

 

 

 

「行け!」

 

 

 

真冬は叫ぶ。

 

 

爆音によって感度が低下した超兵器のソナーは魚雷の接近を察知していない。

 

 

 

魚雷は瞬く間に加速し、超兵器へと突き進み。

 

 

 

ドボォン!

 

 

炸裂した。

 

 

水柱が複数上がり、超兵器が傾き始める。

 

 

メアリースチュアートの攻撃によって防御重力場が上手く作動せず、高速に特化したその船体の薄い装甲は意図も簡単に破れてしまった。

 

 

船体が傾くなか、ルフトシュトロームは逃走を計ろうとする。

 

 

「逃がすか!ここで決め手や…。」

 

 

《ze…艦…イc…j…退…セy…。》

 

 

「あ?なんだ?今のは…。」

 

 

「何か…頭で。」

 

 

「これは…もしや!」

 

 

もえか 真冬 ヴェルナーの三人は突如として頭に直接響くような声を聞いた。

 

 

 

《目標地点ヘノ到達ヲ確認。【Fegefeuer作戦】ヲ開始セヨ…。》

 

 

 

 

 

「?」

 

「!!!」

 

「!?」

 

 

 

三人は、思わず体が硬直する。

 

 

(これは超兵器の意思なのか?)

 

 

気付けば、超兵器達は異世界艦隊から距離を取り始めていた。

 

 

弁天からの攻撃を受けたルフトシュトロームも、浸水によって速度を落としながらも、離れて行く。

 

 

 

「まずい…。」

 

 

思わず口から出た言葉だった。

 

 

筑波が険しい表情で、ヴェルナーの言葉の真意を問おうとした時。

 

 

 

「報告!重巡タカオからです!小型艇を含めた超兵器艦隊のミサイル発射官が大量に開いたとの事!」

 

 

 

「一体何を…何をする気なんだ!」

 

 

彼の問いに答えを出せる者は誰一人としていない。

 

 

艦隊に極限の緊張と不安が再び襲い掛かるのであった。

 




お付き合い頂きありがとうございます。


クロスの醍醐味は、各原作の良いところを合わせ持てる所にある訳ですが…。

一方で、世界観の違う人々が一緒の世界に合わさる事による不一致。

これはどうしても描かなければならないと思っていました。

それが西進組の面々に主人公格を入れなかった理由であり、東進組とは対照的な点です。

要所に燻る様な形で書いてはいましたが、今話にてヴェルナーがいよいよ爆発しました。


真冬が上手く纏めていなければ今頃は…。


ともあれ、彼女達の世界観の隙に乗じて攻めてきた超兵器艦隊。


更なる追い撃ちに対し、異世界艦隊はどう向き合って行くのか。



次回まで今暫くお待ちください。



そして改めまして、私の作品を呼んで下さったら皆様のお陰で、二度目の正月を迎えられました事を、慎んで御礼申し上げます。


それではまたいつか

































とらふり!




もえか
「もう、どうすればいいの?助けてミケちゃん!」 


タカオ
「い、今こそ艦長のお力が必要なのよ!」



キリシマ
「ハルナ~。蒔絵~。」



ヴェルナー
「先輩がいないと、僕は…僕はぁぁあ!」




真冬
「うるせぇ!ナヨナヨしてんじゃねぇ!」



ヴェルナー
「ひっ!」



真冬
「そんなテメェらには、根性を注入してやる…ジュルリ…ハァハァ。」



キリシマ
「なんか最後に怪しい台詞が入ったぞ…。」




真冬
「うるせぇ!全員きおつけっ!回れ右!よぉし!始めるぞ!」



タカオ
「ちょっ、何する気よ!」


もえか
「もうヤダ…。」



真冬
「根性ぉおお!注ぅ入ぅぅう!…根性、根性、根性、根性、根性。」



もえか
「んっ…あっ!ふぅ…んっんっ!ちょっ真冬艦長…ダメ!…こんなのっ、あっ、ぁぁあ!」



タカオ
「!?さ、触らないで!えっ?えっ?だ、ダメ!艦長以外は赦して無いんだからぁ!イヤァ!」



キリシマ
「くっ…大戦艦がこんな屈辱…堪えられない。てかどうやって3人同時に…やっ!もう、もうよせ!止めろぉおお!」



真冬
「オラオラァ!まだまだ足りねぇぞ!根性ぉおお!」



もえか&タカオ&キリシマ
「んああああっ!」



クタァ…。



真冬
「フゥ…久しぶりにスッキリしたぜ!あ?何でテメェは直立してんだ?」



ヴェルナー
「あなたがやれって言ったんでしょう?」


真冬
「馬鹿野郎!男の硬い尻に興味なんかねぇよ!」



ヴェルナー
「な、何ですか!僕だってあなたみたいな人じゃなくて先輩にして貰いたかったですよ!それを我慢して受け入れようとしたのに…これはあんまりだ!」



真冬
「んだとテメェ!」


ヴェルナー
「何ですか!」



タカオ
「ハァ…ハァ。ねえ、の二人、実は仲良いのかしら…。」


もえか
「ハァ…ハァ。そ、そうかも…しれない。」



キリシマ
「くっ…人間の、ハァ…ハァ、感情は…理解不能だ。」




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巨人の足音  VS  超兵器

お疲れ様です。


引き続き、西進組の戦いになります。


それではどうぞ。


   

   + + +

 

 

 

空母メアリースチュアートの通信員、エミリア・ケイト・ジーナスは極限の緊張を強いられていた。

 

 

 

彼女はかつて、自らの世界に於いてウィルキア解放軍の別動隊に所属しており、超兵器ヴィルベルヴィント討伐の先鋒を勤めるべく出撃した。

 

 

しかし、未知なる技術を有した超兵器と初めて遭遇した艦隊は早々に壊滅、何とか敵の機関を損傷させたものの、残るはエミリアが乗る一隻だけになり、超兵器や周りに展開している敵艦隊に完全に囲まれてしまう。

 

 

そこへ駆けつけたのがシュルツ達であった。

 

 

艦長が戦死し、機関も故障して動けなくなった艦から彼女は必死に助けを呼び掛ける。

 

 

 

シュルツは、超兵器撃沈と仲間の救出の二者択一を迫られるが、卓越した指揮によりその二つを同時に完遂した。

 

 

 

その後彼女は、同期であり親友でもあるナギと再開し、共に出口の見えない戦いに身を投じて行く事になる。

 

 

 

あの時も死を覚悟したが、今の状況はそれを上回っていた。

 

 

人間はあらゆるものに慣れる。

 

 

彼女自身もそう思っていた。

 

 

しかし、

 

 

麻痺しているだけで、自らに訪れる死の恐怖をそう簡単に拭える者などそう居るわけではない。

 

 

 

 

(ナギ…あなたも今、私と同じ様な怖い思いをしているの?私は…怖い。)

 

 

 

再び蘇ってしまった恐怖を振り払うかのように、彼女は首を横に降って前を向き続けた。

 

 

いずれにせよ、世界の…いや、次元を超えた先ですらも、追ってくる超兵器を打倒しない限り、差し迫った死からは決して逃げられないのだから…。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

超兵器艦隊のミサイル発射菅が次々と開かれて行く。

 

 

 

そして…。

 

 

 

ブッシュォォォ!

 

 

 

数百ものミサイルが異世界艦隊の元へと殺到した。

 

 

 

「迎撃急げ!弾頭が何か解らない以上、何が起きるか解らない!」

 

 

 

メアリースチュアートと弁天。

そして、プラッタ級を追っていたタカオやキリシマも空を覆い尽くすミサイルを次々とと迎撃していった。

 

 

そこでもえかはあることに気付く。

 

 

 

「な、何?何か降ってきてる。」

 

 

迎撃されたミサイルから、黒い液体のような物が雨の様に海面に降り注ぐ。

 

 

 

「タカオ、あの黒いモノは何?」

 

 

 

チ…  チ…。

 

 

 

「重油…かしら。」

 

 

 

「重油?なんでこんな事を…。」

 

 

青く澄んだ海が、ドス黒く汚されて行く。

 

 

もえかは心に怒りを覚えつつも、超兵器のここへ来ての行動の意味が理解できずにいた。

 

 

 

いや、もえかだけではない。

 

 

この場にいる全ての者が、超兵器艦隊の真意を計りかねていた。

 

 

 

ヂ…。

 

 

「!!?」

 

 

 

「タカオ?」

 

 

「パーフェクト・プラッタがこっちに来る。ううん…三隻いるプラッタ級全てが、重油の撒かれた所へ接近しているわ!」

 

 

 

「タカオ、もう一度ウィルキアから提供されたプラッタ級の情報を出して貰えるかな?」

 

 

 

「了解。」

 

 

チ…。

 

 

 

もえかは表示されたモニターを見つめる。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

超巨大光学迷彩戦艦【リフレクト・ブラッタ】

 

対46cm砲防御

 

速力 37kt

 

兵装

60口径50.8cm砲

60口径25.4cm砲

88mm連装バルカン砲

ミサイル発射機

新型火炎放射砲

小型レーザー

エレクトロンレーザーⅡ

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

「速度の強化はこの際置いておくとして…。他には……あっ!」

 

 

 

「もえか?」

 

 

タカオはもえかの表情から血の気が引いて行くのを感じた。

 

 

 

「タカオ!急いで全艦に伝えて!今すぐこの重油の海から離れてって!」

 

 

 

「え、え?急になにを…。」

 

 

「急いで!」

 

 

「わ、解ったわ。」

 

 

 

もえかの切迫した様子に、彼女は直ぐ様従い各艦に連絡をする。

 

 

彼女はその間も、怯えたような表情を浮かべていた。

 

 

タカオの連絡によって、異世界艦隊が動き出す。

 

 

 

『知名艦長…この攻撃に何かを見たのですね?』

 

 

 

「ヴェルナー艦長!兎に角急いでください!敵は…プラッタ級は火炎放射器を使って重油に着火し、辺りを¨火の海¨にするつもりです!」

 

 

 

『なっ…!』

 

 

 

彼女の言葉に、ヴェルナーも事の深刻さを漸く理解した。

 

 

 

「重油の拡散範囲が広い。今なら火の手が回る前に逃げられます!」

 

 

『解りました。此方も急がせます!』

 

 

 

通信を終えると、もえかはタカオと向き合う。

 

 

「私達も一度、重油の海から離れよう。念のため、一番足の遅い弁天を援護出来るよう準備して!何となくだけど、超兵器艦隊の策が見えてきた気がする。」

 

 

 

「了解。速度を上げるわ!」

 

 

 

タカオのスラスターが唸りを上げ、速度を上げて行く。

 

 

そこでもえかは気付いた。

 

 

 

 

「あれ?キリシマは?」

 

 

 

『私なら心配ない。フィールドがあれば熱も関係ないし、我々は酸素が無くても活動できるしな。それよりも今、シャドウ・ブラッタが一隻になってる。やるなら今しかない。』

 

 

 

「大丈夫なの?」

 

 

 

『心配するな。早く行け。』

 

 

「解った。気を付けてね。」

 

 

 

もえかはタカオに急ぐよう指示する。

 

 

艦は更に加速し、重油の海からの脱出を謀ろうとした時だった。

 

 

 

ヂ…。

 

 

 

「!?」

 

 

 

「タカオ?」

 

 

「尾張に動きがあったわ。何かするみたいね…。」

 

 

「やっぱり…。」

 

 

 

正直、不自然だとは思っていた。

 

 

現海域に展開する超兵器の中で、艦隊旗艦クラスの超兵器は尾張しかいない。

 

 

しかし尾張は、強大な戦力を発揮することなく。

 

 

部隊の後方で鎮座し続けていた。

 

 

航空機型超兵器の発艦を妨害されているとしても、全く動きがないのはかえって不気味さを醸し出していたからである。

 

 

 

(お願い…間に合って!)

 

 

もえか達は、祈るように黒い海を進んで行く。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「艦長、尾張甲板上にあるミサイル発射官が開きました!」

 

 

エミリアから悲鳴にも似た叫びが艦橋に響き渡る。

 

 

 

ヴェルナーは険しい表情のままだ。

 

 

「嫌な予感がする…。敵の目的が辺りを火の海にする事ならば、使用兵器は必然的に…。」

 

 

 

「¨焼夷弾頭ミサイル¨ですな?」

 

 

 

「ええ…。重油は中々燃えませんからね。プラッタ級の火炎放射砲を使用しても、辺りを火の海にするには少々時間を掛けすぎてしまう。そこで、燃焼温度が高く、着弾地点の周囲数百メートルを瞬時に炎で包み込む焼夷弾頭ミサイルを使用すれば…。」

 

 

 

「熱せられて発火点を超えた重油が、加速度的に燃焼し、あっという間に火の海…笑えませんな。」

 

 

 

「迎撃ミサイルの準備はどうか?」

 

 

 

「ダメです!間に合いません!」

 

 

 

「仕方がない…。機関全速を維持。もしかすると超兵器が我々の動きを予測して待ち伏せているかもしれない。引き続き警戒を怠るな!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

焦りが募る中、メアリースチュアートのエンジンが唸り、黒く変わり果てた海を進む。

 

 

 

   + + +

 

 

「何だってんだよ…。」

 

 

 

真冬は苛立ちに満ちた表情を浮かべる。

 

 

正直言って、この戦いが始まってからこれといった反撃が出来ていない。

 

 

その上一度、敵と距離を置かなければならない状況になっては、苛立つのも当然だった。

 

 

だがそれと同時に、ある種の感心に近い感情を覚えたことも確かである。

 

 

 

(敵ながら天晴れと言ったところか…相手の出方を見つつ、中の人間だけを殺す策を幾つも練ってやがる。中に人間は居ないらしいが、かつて人間に使われていた時代に得た事を実戦してんのか?)

 

 

 

真冬は、重油で満たされた海域を抜けるよう指示を出しながら、怒りで興奮する脳を緩やかに冷まして行く。

 

 

艦長である以上、私的な感情で部下を失わないよう、常にメンタルを一定に保つ訓練は怠らなかった。

 

 

そして、熱が覚めて行くと同時に視界が開け、あらゆる情報を頭で瞬時に整理して行く。

 

 

 

(となると、俺達は超兵器よりも、寧ろ小型艇の掃討に回るべきか…。だが、気掛かりな事が無い訳じゃねぇ…。もし奴等が全てを読んでいたとしたら…。)

 

 

 

長年、気まぐれな海の天候の中で、過酷な救出任務に従事してきた真冬は、背筋がゾクリとするような嫌な感覚に襲われる。

 

 

 

 

 

 

 

今回の重油の散布。

 

そしてそこからのプラッタ級による火炙り作戦。

 

 

確かに驚異的な作戦であることは間違いないだろう。

 

 

しかしながら、真冬には複数の疑問が浮かんできていた。

 

 

ひとつ目は、この火炙り作戦は¨奇襲攻撃¨を目的としていたのではないかと言う事である。

 

 

考えてみれば不自然だった。

 

 

姿だけではなく、発砲音や砲煙すら知覚出来ないのであれば、端から重油の散布が終わるまでの間、動かずにいれば良かったのである。

 

 

であるにも関わらず、プラッタ級は発砲し、それが結果的に蒼き鋼に存在を露呈させる結果になってしまったのだ。

 

 

 

そして二つ目の疑問。

 

 

人間には有効だとしても、そもそもメンタルモデルにこの作戦は有効なのか…という点である。

 

 

 

簡易クラインフィールドやクラインフィールドを所持しているため、異世界艦隊が火の海の中で直ぐ様焼け死ぬ事は無いだろう。

 

 

 

しかしながら、フィールドが飽和すれば話は別だ。

 

 

故に、弁天やメアリースチュアート、そしてもえかを乗せたタカオは、重油の海域を脱しようとしている。

 

 

しかし、

 

 

弁天のレーダーに写っているキリシマは、等海域に留まり、火炎放射砲を放とうとしているシャドウ・ブラッタを追っていた。

 

 

 

それはこの程度の火炎では、キリシマに目立った損傷は与えられない事を意味している。

 

 

 

そう、この作戦にはそもそも¨意味が無い¨のだ。

 

 

 

真冬は、この作戦の顛末を予測する。

 

 

(さっきの声…あれはウィルキアの艦長や岬が聞いたとか言う超兵器の意思ってやつか?確か奴は…。)

 

 

 

彼女は、直前に耳にした声を思い出す。

 

 

《【Fegefeuer作戦】ヲ開始セヨ…。》

 

 

 

 

(Fegefeuer…ドイツ語で¨煉獄¨…か。暗に火炙り作戦を意味している様にも聞こえる。だが、作戦そのものには意味が無い。だとすれば…。)

 

 

 

真冬はもう一度レーダーに視線を向ける。

 

 

 

 

(俺達とキリシマとの分断…それか必ず重油避けて来るだろう俺達を待ち伏せ、若しくはその両方だが…。)

 

 

 

彼女はレーダーを見た後、双眼鏡を覗いて超兵器を観察する。

 

重油の海から離れた超兵器達に此方を襲う様子は見られない。

 

 

彼女からしてみれば、それも疑問だった。

 

 

 

(何故だ?待ち伏せるには絶好の機会なのに…。と言う事は目的は分断だろうが…ん?待てよ、そう言えば超兵器の奴、その他にも何か言ってたよな…。)

 

 

 

彼女は必死に敵の言葉を思い出そうとする。

 

《ze…艦…イc…j…退…セy…。》

 

 

 

 

(かなり不明瞭だが、大方《全艦、一時退避セヨ》ってとこか?待ち伏せもせずにただ待機…。まさか何かを仕掛ける気じゃ…。)

 

 

 

「艦長!」

 

 

 

真冬は平賀の声に我に帰る。

 

 

 

「尾張の甲板上で動きが!」

 

 

 

「やはり来やがったな…。」

 

 

 

真冬は彼方の超兵器を睨み付けた。

 

 

 

   + + +

 

 

「おかしい…。」

 

 

「おかしいって何よ。」

 

 

首を傾げるもえかに、タカオは疑問を投げ掛けた。

 

 

 

「てっきり私達を分断して各個撃破を狙うと思ってたんだけど、超兵器達に動きはないし…。」

 

 

 

「尾張がキリシマ辺りに何か仕掛けるんじゃないの?」

 

 

 

「さっきヴェルナー艦長から通信があったでしょう?焼夷弾頭ミサイルでキリシマが沈むとは思えない…。私達への待ち伏せも考えたけどそれもない…。」

 

 

 

「じゃあ相手は何をしようって言うのよ。ただの陽動だって言いたいわけ?」

 

 

 

「………。」

 

 

 

どこかにミスリードが有ったのか…と考えるが、答えが見えてこない。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

ブッシュォォォ!

 

 

尾張からミサイルが発射され、キリシマが相手にしているシャドウ・ブラッタ以外の二隻から火炎放射砲が発射された。

 

 

 

「始まった!急がなきゃ!」

 

 

「解ってるけどこれが限界よ!」

 

 

 

タカオは最大船速で海を走る。

 

 

 

非情にも、焼夷弾頭ミサイルが重油の海の真ん中に着弾して炸裂。

 

炎がと熱波が猛烈な勢いで海面を駆け出した。

 

 

もえかは、焦る気持ちを必死に押さえる。

 

 

 

(焦ってもどうにもならない。今は、ここからの脱出と、超兵器の真意を探らなくちゃ…。)

 

 

 

誰かの知恵を借りるか…。

 

 

彼女は真っ先にタカオを見詰める。

 

 

しかし、直ぐに視線を外した。

 

 

(タカオの思考回路はまだ発展途上。恐らく今は答えを出すのは無理だと思う。やっぱりヴェルナー艦長に…いや、逆に超兵器を知り過ぎているから固定概念に囚われてしまうかもしれない。ここは…。)

 

 

 

もえかは、通信を弁天に繋ぐようタカオに指示する。

 

 

 

『知名か?』

 

 

「真冬艦長!私何か…。」

 

 

『腑に落ちねぇ…ってか?』

 

 

「はい!」

 

 

『俺もだ…パズルのピースが一つ足りねぇ様な気持ち悪さを感じるぜ…。』

 

 

「何か見落としが有るのでしょうか?」

 

 

 

『解らねぇが、状況を整理する必要が有る。なぁ知名、俺達の艦隊を超兵器が撃破するとして、まず最初に狙われるのはどの艦だと思う?』

 

 

 

「総合的に見れば、弁天…でしょうか。」

 

 

『当たらずも遠からずだな。』

 

 

 

「えっ…何故です?」

 

 

 

『単純な問題だ。先ずは弁天。これは戦闘力的な問題と政治的問題の両面の意味合いがある。』

 

 

「政治的な…ですか?」

 

 

『ああ。弁天は優秀な艦だが、他の艦の様に特筆したものがねぇ。更にだ、ブルーマーメイドの艦がホイホイ撃沈されて、異世界の連中にオンブに抱っこ、こんな醜態を曝しちまったら諸外国が黙っちゃいねぇ。』

 

 

 

真冬の言いたいことはこうだ。

 

 

 

世界の国々が、燻る戦争の火種を大きくしていないのは、ブルーマーメイドによって海を管理する事で、不用意な軍拡競争を抑え込む狙いがある。

 

 

しかし、超兵器がいかに強大と言えど、ブルーマーメイドに世界の防衛が任せられないとなれば、諸外国は防衛の大義名分で、自国の軍備を増強していくに違いない。

 

 

それは同時に、米露を中心とした列強による戦争を助長しかねないものだったのである。

 

 

真冬の言う政治的な問題とはそれの事だった。

 

 

『まぁ最も、奴等に政治の云々が解るかどうか定かじゃねぇがな…。次はメアリーとキリシマだが、これはシンプルだな。』

 

 

 

「メアリースチュアートは艦隊旗艦であり、超兵器を知るウィルキアの人達がいる事、キリシマはこの艦隊で最も戦力が高い…ですか?」

 

 

 

『その通りだ。そう言う意味じゃタカオは対象から除外だな。』

 

 

 

「今の話ではやはり弁天が最初に狙われて…。」

 

 

 

『俺も最初はそう考えた。超兵器二隻もしつこく付きまとって来てたしな…。だが、そうとは限らないんじゃねぇか?』

 

 

 

 

「どういう意味です?」

 

 

 

『戦場を将棋盤に置き換えて考えてみろ。今戦場には、重油を撒き散らされた事で空白地帯が出来てる。その空白の中にはプラッタ級と闘うキリシマ一隻のみ。俺はてっきり、敵が最大戦力であるキリシマと俺達を分断して重油の海の外へ誘導し、こちらに対して何かを仕掛けると思っていた。』

 

 

 

「私も同じ意見でした。」

 

 

 

もえかは、将棋盤の上に架空の駒を置き、第三者の視点で戦場を見詰める。

 

 

『だがな、俺達に何かを仕掛けたいなら、空白地帯の¨内側でなく外側¨に仕掛けるべきだろう?だが、奴等は内側に火を放った。これが意味する事は…。』

 

 

 

「超兵器の狙いはキリシマ?でも炎じゃキリシマは…。」

 

 

 

『そうだ。十中八九キリシマが狙われると俺は見てるが、そこが解せねぇ。奴等にはまだ何か奥の手が有るのか?』

 

 

 

 

「………。」

 

 

 

もえかは再び思考する。

 

 

 

(狙いはキリシマ…もしこれが将棋だとして、攻撃する為には、必要な駒を移動して配置に着かなきゃならない。¨配置¨か…そう言えば、戦線が徐々にシチリア島付近に移動してきたのは解ってだけど、もしかして何か関係が?)

 

 

 

 

もえかは答えが喉まで出掛かっている様なもどかしさを感じていた。

 

 

 

(何か…何か見落としは…。あっ!)

 

 

 

彼女の中のモヤモヤしたものが晴れて行く。

 

しかしそれと同時に、急激な焦りがもえかを襲った。

 

 

 

 

(将棋は盤上の駒だけで行うものじゃない。盤外にある取った駒を使うことも出来る。)

 

 

 

 

彼女は、もう一度超兵器の言葉を思い出していた。

 

 

《目標地点ヘノ到達ヲ確認。【Fegefeuer作戦】ヲ開始セヨ…。》

 

 

 

 

 

(そもそもあれは¨どの超兵器¨の言葉だったの?尾張…ううん、恐らくは敵の艦隊旗艦…。そして重要なのは、Fegefeuer作戦の開始じゃない。¨目標地点ヘノ到達ヲ確認¨の方だったんだ!)

 

 

 

将棋に於いて攻撃をする為の条件は大まかに二つある。

 

 

一つ目は、自らの駒を移動させ配置に付くこと。

 

 

二つ目は、敵が自らの攻撃範囲に入ってきた事。

 

 

そこで初めて敵の駒が取れる。

そう言うゲームだ。

 

 

 

超兵器の言う目標地点への到達とは、この二つの条件を満たした事を暗に示していた。

 

 

 

後は、敵の駒が逃げられないように詰めて行く事だけ。

 

 

 

現在キリシマは味方から離れ、シャドウ・ブラッタとの戦闘に躍起になっている。

 

 

 

看過できない事態だった。

 

 

 

 

「キリシマ!聞こえる!?」

 

 

『ああ。もう少しでコイツを沈められる!』

 

 

 

「一旦離れて、シチリア島に面する方に全力でクラインフィールドを貼って!」

 

 

 

『何でだよ!もう少しで奴を撃沈出来るに…。』

 

 

 

「従いなさい!」

 

 

 

「タカオ!?」

 

 

『!?』

 

 

 

タカオが有無を言わせない口調でキリシマに言い放つ。

 

 

 

「キリシマ、これが人間の戦術よ。例え合理的に見えなくても、その結果が全体の勝利に繋がるわ。超兵器の戦術が人間に近い以上、迂闊な行動は危険よ。」

 

 

 

『だが、タカオ!』

 

 

 

「忘れたの?今の艦長はもえかよ。それにこれは、異世界の人間の戦術を取り入れるチャンスでもある。もう一度言うわ、キリシマ。指示に従いなさい!」

 

 

 

『ああもう!解ったよ!』

 

 

通信が切れる。

 

 

もえかはタカオに笑顔を向けた。

 

 

 

「ありがとうタカオ。」

 

 

 

「い、良いわよお礼なんて〃〃。当然の事をしたまで!」

 

 

 

 

彼女はプィとそっぽを向いてしまう。

 

 

もえかは苦笑いを浮かべながらも、心の中では不安を拭い去ることは出来なかった。

 

 

そしてその不安は、直ぐ様現実のものとなる。

 

 

 

ドォォォォォォン!

 

 

 

 

「あっああぁぁぁぁあ!」

 

 

 

何の前触れも無く訪れた凄まじい衝撃と荒れ狂う波に、彼女は悲鳴を上げた。

 

 

 

   + + +

 

 

謎の襲撃の少し前…。

 

 

 

キリシマは、炎の海を駆けて行く。

 

 

 

目的は、三隻のプラッタ級のうち、最も近くにいる超兵器シャドウ・プラッタの追撃と撃沈である。

 

 

 

 

「見えてしまえば此方のものだ!行くよ!」

 

 

 

ゴォオオ!

 

 

キリシマの重力子エンジンが唸り上げ、獰猛な瞳と開いた口許から見える長めの犬歯が獲物を狙う肉食獣のそれを思わせる。

 

 

チ… チ… チ…。

 

 

 

(敵の行動パターンを分析……完了。回り込んで距離を詰める!)

 

 

 

史実に於いて、高速や機動性の高さを誇っていた金剛型を模したキリシマは、言うまでもなくその性能を遺憾無く発揮していた。

 

 

対するシャドウ・ブラッタは、触角を思わせるアンテナが艦尾に設置されている為か、まるで害虫が高速で後退している様に極めて奇妙な姿で逃げ回る。

勿論、火炎放射砲で辺りを火の海にし、キリシマに対するミサイルやレーザー、砲撃等で牽制する事も忘れない。

 

 

しかしながらキリシマは、生物が決して生きて行けない低酸素や高温の中を、攻撃をいなしながら突き進み、敵の動きをよんでみるみる距離を詰めて行く。

 

 

 

(素早い動きに、機動性。それにこの灼熱の環境…。人間では到底敵わないだろうな。全く…不便なものだ。その緻密過ぎる体構造とあらゆる環境への適応性に反し、逆にあらゆる極端な環境変化には驚く程脆い。私がいなければ、今頃は全員機能を停止していただろうな。)

 

 

 

 

戦闘に際し、比較的熱く成りやすいキリシマも、今回は比較的冷静に物事を注視していた。

 

 

それは超兵器播磨による撃沈から学んだ事でもある。

 

 

故に彼女は戦闘を行い、敵の撃沈を第一に掲げて演算をしつつも、かつて自らを撃沈に追い込んだ超兵器の事を同時に思考する事で、単調に成りがちな攻撃パターンを幾つか変えて行く。

 

 

 

ビィイン!

 

 

 

(はぁ…自慢の高出力レーザーも跳ね返すのか…。どうやらコイツは、見た目や攻撃パターンから見て、電磁戦や電子戦に特化した¨支援タイプ¨らしいな…。見えないのは確かに人類には脅威かもしれんが、それだけだ。コレと言った決定力のある艦じゃないし、防御も比較的薄い。大方、潜伏による情報収集や、奇襲で敵を混乱に陥れ、その隙に乗じて本命に敵を叩かせたりするのが役割ってとこか?まぁ、我々霧の艦艇には小細工でしかないが…。)

 

 

 

ガシュン…ボォン!

 

 

 

エネルギー攻撃が不利であると、見越したキリシマは、展開していたレーザー主砲を通常主砲へと置換し、実弾への攻撃にシフトする。

 

 

 

その砲撃演算精度により、ミサイルや砲弾が次々とシャドウ・ブラッタに着弾した。

 

 

ビィイン!ビィイン!ドゴォ!

 

 

 

「よし!」

 

 

 

彼女の読み通り、見つからない事を想定した敵の防壁は意外に脆弱であり、通常艦艇を遥かに上回る彼女の攻撃にいとも簡単に飽和してしまう。

 

 

「まだだ!」

 

 

ドゴォ!ドゴォン!

 

 

 

キリシマは攻撃の手を緩めない。

 

 

 

次々と着弾する砲弾に、敵もレーザーや砲撃、そして火炎放射砲で答える。

 

 

しかしながら、鉄壁のクラインフィールドに阻まれキリシマには決して届かない。

 

 

ボォン!ボォオオ!

 

 

そして、火炎放射砲に砲弾が着弾した事により、砲身がねじ曲がり、噴射された炎がその奇妙な船体を包み込む。

 

 

 

「これで終りだ!」

 

 

 

キリシマが最後の一撃である侵食弾頭を撃ち込もうとした時だった。

 

 

 

《§∴8∂Y∝G2∫‡4ΘÅф…。》

 

 

 

《╋、┻、┳、┫、┣、┼、┷!》

 

 

 

 

 

(な、なんだ!?奴等が発する妨害電波の隙間から何かが聞こえた…。聞いたことの無い言語だが誰かと連絡をとっているのか?だが無駄だ!)

 

 

彼女の全砲門が開き、シャドウ・ブラッタに止めを刺そうとした…。

 

 

 

『キリシマ!聞こえる!?』

 

 

もえかからの通信に水を差され、彼女はすこし苛立ちを覚える。

 

 

 

「ああ。もう少しでコイツを沈められる!」

 

 

 

『一旦離れて、シチリア島に面する方に全力でクラインフィールドを貼って!』

 

 

 

「何でだよ!もう少しで奴を撃沈出来るに…。」

 

 

もえかの指示は、キリシマとって全く意味不明な内容だったに違いない。

 

それは数の不利がある以上、一隻でも多く超兵器を撃沈する事は急務であり当然だったからである。

 

 

しかも相手は虫の息、これ以上のチャンスは無く、キリシマの反論は誰しもが頷けただろう。

 

 

だが、

 

 

『従いなさい!』

 

 

「!?」

 

 

タカオが有無を言わせない口調でキリシマに言い放つ。

 

 

 

『キリシマ、これが人間の戦術よ。例え合理的に見えなくても、その結果が全体の勝利に繋がるわ。超兵器の戦術が人間に近い以上、迂闊な行動は危険よ。』

 

 

 

「だが、タカオ!」

 

 

 

『忘れたの?今の艦長はもえかよ。それにこれは、異世界の人間の戦術を取り入れるチャンスでもある。もう一度言うわ、キリシマ。指示に従いなさい!』

 

 

 

「ああもう!解ったよ!」

 

 

キリシマは乱暴に通信を切ると、納得のいかない様な表情を浮かべつつ、敵から距離を取る。

 

 

 

しかし、

 

 

 

「な、何!?」

 

 

 

先程まで、ひたすら逃げ回っていたシャドウ・ブラッタは、今度は逆にキリシマに追い縋ろうと突っ込んでくる。

 

 

 

「チッ!何なんだよ!」

 

 

 

彼女は、砲撃の嵐を超兵器に喰らわせる。

 

しかし、敵は装甲が剥がれようと、炎に巻かれようと怯むこと無く突っ込んでくる。

 

 

 

彼女は苛立ちの余り、もえかからの命令を失念しそうになっていた。

 

 

 

 

彼女コアが、急に警告を発するまでは…。

 

 

 

ヂ…ヂ…ヂヂ…ヂヂヂヂヂヂヂヂヂ!

 

 

 

「!?」

 

 

 

彼女は、コアの警告に動揺し、超兵器に対する反撃が一瞬緩んだ。

 

 

《┥、┝、┰、┸、┃、━、……ОООООО!》

 

 

 

「うっ!」

 

 

けたたましい叫び声の様な言語が聞こえ、キリシマの反撃が完全に停止する。

 

 

 

それと同時に、今まで聞こえて来たどの超兵器とも異なる第三の声が響いてきた。

 

 

 

《殲メ…ガガッ…ヲ…ズズッ…始ス………。》

 

 

 

 

 

「!!!!!」

 

 

 

キリシマは反射的にクラインフィールドを展開しようと動いていた。

 

 

 

ノイズのせいなのか、極めて聞き取りづらい声ではあったが、最後の一言だけはハッキリ聞き取れた。

 

 

 

《死》

 

 

 

(まずい…!)

 

 

 

周りの景色が白黒になり、あらゆる物体の動きがスローモーションの様に見える。

 

 

この感覚には覚えがあった。

 

 

超兵器播磨によって撃沈された時。

 

 

 

 

その時同様、今まで蒔絵とハルナと共に過ごしてきた日々の残像。

 

自らが消滅することにより思い出が無へと帰す事。

 

そして、彼女達とこれから送るであろう未来が失われる事。

 

 

それらに対する、否定や嫌悪感。

 

そして何よりも、形容し難い恐怖がキリシマのコアを襲う。

 

 

 

ヂヂヂヂヂヂ!

 

 

 

「うっ…かっ…!」

 

 

 

キリシマから表情が消える。

 

 

 

最早表情に費やす演算すら惜しかった。

 

 

 

クラインフィールドが、キリシマの船体を覆って行く。

 

 

 

彼女の視界には、突進してくるシャドウ・ブラッタの姿がスローモーションで見えていた。

 

 

 

敵はいつの間にかドス黒いオーラで包まれ、その形状も相まって不気味な化け物へと変貌している。

 

 

キリシマは口を大きく開き、天を仰いで叫んだ。

 

 

「ああぁぁぁぁあ!」

 

 

 

 

叫んだ所で状況は流転しない。

 

 

しかし、フィールドの展開が間に合って欲しいと言う彼女の思いが声に溢れていた。

 

 

 

その悲痛な叫びが終わらぬうち、シャドウ・ブラッタがフィールドに衝突すると同時に、それは訪れる。

 

 

 

 

 

ドゴォォォォォォォン!

 

 

 

凄まじい爆圧がキリシマを覆い尽くし、海は荒れ狂い、水蒸気によって辺りは一面は真っ白に埋め尽くされる。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「あっ…くぅ…。」

 

 

 

キリシマを中心に発生した謎の衝撃は、遥か離れたタカオにも容赦なく巻き込んで行く。

 

 

 

荒れ狂う波によってデタラメに揺れる船体の中で転倒したもえかは、頭を押さえつつ必死で状況を理解しようとする。

 

 

そんな彼女に、タカオは直ぐ様駆け寄ってきた。

 

 

「もえか!しっかりして!大丈夫なの!?」

 

 

「う、うん。大丈夫…それよりタカオ…皆は?キリシマは?」

 

 

 

「ちょ、ちょっと待って!」

 

 

チ… チ…。

 

 

 

「弁天とメアリースチュアートは取り敢えず大丈夫みたい。キリシマは…ダメ、海が荒れていて上手く観測できない。」

 

 

 

 

「そんな…キリシマが…。」

 

 

 

『…すな。』

 

 

 

「!!?」

 

 

 

『勝手に殺すな!』

 

 

 

「キリシマ!無事だったの?」

 

 

 

『ああ。だが船体を失った。言い訳にしかならないが、全ての演算を消費してフィールドを張らければ消滅していた。すまない…。』

 

 

 

「ううん、いいの。今から助けに…。」

 

 

 

『待て。』

 

 

 

キリシマの感情の無い声に、もえかは思わず顔をしかめた。

 

 

 

『幸い、超兵器は私の存在には気付いていない。今、お前達が来れば間違いなく狙われるし、私の存在もバレてしまう。メンタルモデルも無事だ。お前達は、超兵器の撃沈を優先しろ。後で必ず合流する。』

 

 

 

「でも!」

 

 

 

『いいから行け。通信も長くは持たない。コアにエラーが山積しているせいだ。自閉モードで処理したい所だが、それでは身体が無防備になってしまう。覚醒下での処理には少々時間がかかる。いずれにせよ足手まといだ。』

 

 

 

「ほっとけないよ!」

 

 

 

『ザザッ…から、敵の情報を…ズズッ…カオに送信する。後は頼…ぞ。』

 

 

 

 

「ちょ、キリシマ!?ねぇ!返事して!キリシマ!」

 

 

 

「通信が切れたみたいね…もえか?」

 

 

 

「………。」

 

 

彼女は辛そうに歯を食い縛り、目には涙が滲んでいる。

 

 

厳しい選択が迫られていた。

 

 

現場でも良くある。

 

 

要救助者を、自らの命を危機に晒してでも救出するのか。

 

 

救助をする人物が犠牲になっては、他の救助者を救えなくなるため、救出を断念するのか。

 

 

 

幾度となく立ち合って来た命題である。

 

 

だが、もえかは未だその答えを見つけられてはいない。

 

 

 

世界を脅かす超兵器の打倒か。

 

 

それとも一人の仲間か。

 

 

 

(そんなの私に選べるわけ無いよ!)

 

 

 

彼女は首を振り、必死で悩むが、一向に答えは出てこなかった。

 

 

 

その時、

 

 

 

ガバッ!

 

 

 

「!?」

 

 

 

タカオはもえかを抱き締めていた。

 

 

彼女はゆっくりと諭すように、もえかの耳元で囁く。

 

 

 

「大丈夫。キリシマならきっとこの状況を切り抜けるわ。それにねもえか、機会を待つことが出来るのも仲間を信じてるって証しなのよ?」

 

 

 

「信…じる?」

 

 

 

「ええそうよ。あんたは心の何処かでキリシマが死ぬとか、もうダメだって思ってるんじゃない?それって、アイツを信じてない事と同義よ。あんたは、まだ信じられない?キリシマや、今はあんたの艦である私の事も…。」

 

 

 

「そんなこと無い!私はタカオやキリシマの事を…。」

 

 

 

「じゃあ、今はアイツを信じて進むわよ。いい?」

 

 

彼女の目の前に自分を信じて見つめるタカオの顔ある。

 

 

白い肌に、宝石アクアマリンを思わせる青い瞳。

 

 

綺麗だな…と思った。

 

 

彼女は自分を微塵も疑ってなどいないことも。

 

 

 

自分はどうだろうか…。

 

 

 

彼女は自問する。

 

 

 

救出の現場で、自分は要救助者を無意識に死んでいると決めつけてはいないか、諦めてはいないかと…。

 

 

 

そんな事はあり得なかった。

 

 

 

知名(めぐみ)

 

 

 

かつてブルーマーメイドの隊員であり、職務中に殉職したもえかの母親だ。

 

 

 

彼女の最期を、もえかは当時救助隊員から聞いている。

 

 

 

彼女は、負傷した救助者を抱え、酸素ボンベを手に持った状態で見つかったらしい。

 

 

 

浸水が酷く、脱出出来ずに沈んだ船内で、彼女はボンベを救助者と分け合いながら救助を待っていたのだろう。

 

 

彼女は、仲間を信じていたのだ。

 

 

必ず助けに来ると…。

 

 

だが、間に合わなかった。

 

 

幼いもえかが、どれだけ打ちのめされのかは想像にかたくない。

 

 

 

だが彼女は、母と同じ道を選んだのだ。

 

 

母を奪った職業

 

母を奪った海

 

 

本来なら憎んで然るべきこの海へ彼女が進んだのは他でもない。

 

 

 

遺された自分と同じ孤独や悲しみを、他の人に味わって欲しくなかったからだ。

 

 

そして、他の隊員を信じて待ち続ける人を、いち早く救出出来るようになりたい。

 

 

その思いが今の彼女を、困難の犇めく海に立たせているのだ。

 

 

 

もえかはもう一度タカオの瞳を見つめる。

 

 

彼女はもえかを信じていた。

キリシマも彼女を信じて託してくれている。

 

 

 

(もう、迷わない!)

 

 

 

答えは既に決まっていた。

 

 

「うん、信じるよ。タカオもキリシマも。ううん、それだけじゃない。弁天もメアリースチュアートも、そして海の向こうで戦うミケちゃん達も、私は信じる!」

 

 

 

「さぁ、私に航路を示して。もえか!」

 

 

 

彼女は大きく頷く。

 

 

 

「キリシマとは後に合流。私達は、引き続き超兵器の撃沈に注力する!」

 

 

 

「了解!いくわよ!」

 

 

 

タカオの船体が再び速度を上げ、超兵器へと向かっていった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くっ、今のは一体何だったんだ…。」

 

 

 

ヴェルナーは、突如訪れた衝撃に険しい表情を浮かべる。

 

 

 

「ジーナス少尉。大戦艦キリシマやタカオから何か報告は無いか?」

 

 

 

「い、いえ何も有りません…。」

 

 

 

 

「願わくば、蒼き鋼が今の攻撃を解析してくれていることを祈るしかありませんな…。」

 

 

 

「ええ…。」

 

 

 

ヴェルナーは先程まで火の海だった海域に視線を移した。

 

 

 

謎の衝撃により、海の炎は完全に掻き消えている。

それが、敵の攻撃の凄まじさを物語っていた。

 

 

 

エミリアも心の中で恐怖が増大していくのを感じる。

 

 

そんな中、筑波の口から思いもよらぬ言葉が飛び出して来た。

 

 

 

「しかし…予定外の事態はありましたが、概ね¨予定通り¨ですな。」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

エミリアは筑波の言っている意味が全く理解できなかった。

勿論、それに頷いているヴェルナーに対してもだ。

 

 

無理もない。

 

ここまでの戦いは、超兵器ペースで進んでいる事は明らかだったからだ。

 

 

彼女は、沸き上がる疑問を留めて置くことが出来なかった。

 

 

 

「あ、あのう。お話中失礼致します。」

 

 

 

「どうした?ジーナス少尉。」

 

 

「予定通りとは一体どういう事なのですか?」

 

 

 

 

彼女の問いに二人は顔を見合せると、筑波が口を開いた。

 

 

 

「貴君は、この戦場に於いて¨最悪な状況¨とは何だと考える?」

 

 

 

「最悪な状況…ですか?」

 

 

「そうだ。」

 

 

 

彼女は少しの間考える。

しかしながら、超兵器と戦闘と言う時点で既に最悪な状況な為、これ以上の答えが見つけられなかった。

 

 

 

「も、申し訳ありません。私には解りかねます…。」

 

 

「うむ、そうか。」

 

 

 

怒鳴られる…彼女は一瞬そう思ったが、筑波の表情は逆だった。

 

 

彼はニッと口許をつり上げる。

 

 

 

「解らない事を素直に認める事は良い事だぞ、ジーナス少尉。戦場で解ったフリなぞ自殺行為だからな。」

 

 

 

「は、はぁ。」

 

 

 

「いいか?この戦場に於いて最も懸念すべきは、¨敵航空機の群れ¨と相対することだ。」

 

 

 

「航空機ですか?」

 

 

「そうだ。ムスペルヘイム級及び尾張の航空機保有量は驚異的だ。まともに発艦されれば、小型艇数十隻よりタチが悪い。更に、尾張が格納しているであろう航空機型超兵器の発艦を許せば、こちらの航空部隊など相手に並んだろう。つまりだ…。」

 

 

 

ゴクリ…。

 

 

エミリアは思わず唾を呑み込む。

 

 

 

「本来ならば我々は、現海域に展開してる敵艦隊と、数百機の航空機。それに航空機型超兵器を加えた圧倒的戦力をたった四隻で迎える事になっていたのだ。」

 

 

 

 

「そんな…。な、何故今の状況を作り出せたのです?」

 

 

 

「内通者だよ。」

 

 

ヴェルナーが前へと進み出る。

 

 

 

「君は、戦闘開始前のブリィーフィングを覚えているかい?」

 

 

 

「ええ…。航空戦力に乏しい我々を敵は遠方から航空機を使って攻める筈だから、先ずはそれを壊滅させ、それから水上艦を叩く…ですか?」

 

 

 

「そうだ。間違ってはいない。弁天が対航空機戦に不馴れな以上、三隻で航空機と超兵器を同時に相手取るのは不可能だからね。」

 

 

 

「……。」

 

 

 

 

「だから敢えてあの場で発言をしたのさ。内通者が実際にいるかどうかは正直賭けだったけどね。」

 

 

 

 

「どういう意味ですか?」

 

 

 

「私達は敵が航空機と言うカードを後出しにするよう誘導したのさ。敵は先ず始めに、我々の艦船の内の誰かに的を絞って撃沈に掛かるだろう。恐らくは弁天以外のどれかだろうけど…。案の定敵はそれに乗ってきた。」

 

 

 

 

「……。」

 

 

 

「そして、本来ならば奥の手であっただろうプラッタ級の存在と大量の小型艇発艦による新たな超兵器の存在、そして先程の謎の攻撃と言うカードを先に切ったんだ。」

 

 

 

「戦争と言うのは裏の掻き合いですからな。いかに相手の手札を開かせ、それに伴って作戦を組んで行くのかは重要です。内通者によって、此方の動きが筒抜けになっている可能性がある以上、此方もいち早く敵の情報を把握しなければ勝機はない。」

 

 

 

「そ、そうだったのですね…。」

 

 

 

「しかし…。」

 

 

 

ヴェルナー達の表情は堅い。

 

 

 

「予想以上の威力ですね…。」

 

 

 

「ええ…。これ程の攻撃です。間違いなくムスペルヘイム級の仕業でしょうな。」

 

 

 

「奴はネームシップだと思いますか?」

 

 

 

「いえ…恐らくは違うでしょうな。これ程の威力を持つ兵器です。かなり大規模な装置を搭載しているとなると、重力砲を搭載している可能性は低い。」

 

 

 

「と、なると…。」

 

 

 

「奴は、超兵器ナハトシュトラールを改装したもう一隻のムスペルヘイム級【ヨトゥンヘイム】である可能性が高いかと…。」

 

 

 

「ヨトゥンヘイム…。巨人族ヨトゥンが暮らす国ですか。茨の道になりそうですね…。」

 

 

 

「基より覚悟の上です。」

 

 

 

二人はまだ波の荒い海を見詰める。

 

 

 

エミリアは二人から言い知れぬ不安が伝わって来るのを感じる。

 

 

それはまるで、遥か彼方にまで及んだ、巨人の足音に怯える小人の様に見えるのだった。

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


なんと、今までの【超兵器地中海艦隊】の話全てが敵の仕掛けた大掛かりなブラフだったと言う話でした。


異世界艦隊も、戦略に疎い霧のメンタルモデルに対して、真冬ともえかの機転。
そして、軍属ならではの考えが複雑に交じり合う展開になっていました。


初めから殴って来た、バミューダ艦隊に対して、動きが見えづらい地中海艦隊の動きが、超兵器の不気味さをより顕著出来ていれば幸いです。



次回まで今しばらくお待ちください。



それではまたいつか。




























とらふり!  1/144ちょうへいきふりいと




播磨
「ヒュ~♪流石は統括旗艦!痺れるぅ~!私もあんなのやってみたいよ!」



グロースシュトラール
「アレの発射に至るまでの仮定も素晴らしいね。あの子はとても真面目で年密に計画を立てるから。」



荒覇吐
「勿論、単艦での戦闘も群を抜いてらっしゃるのですよね?」



グロースシュトラール
「勿論さ。攻撃の特色は統括旗艦でも様々有るけど、ナハトは色んな兵器をバランス良く装備しているからね。」



播磨
「へぇ~。例えばどんなモノ?」



近江
「播磨、あんまり質問して統括旗艦を困らせてはダメよ!」



グロースシュトラール
「まぁまぁ、良いじゃないか。そうだなぁ、君には特別に教えてあげよう。」



播磨
「やった~!」



グロースシュトラール
「それでね。あの凄まじい砲撃はゴニョゴニョ…。」



播磨
「うわぁ!」



グロースシュトラール
「まだまだ序の口さ。そして、奥の手としてヒソヒソ…。」



播磨
「ひゃあああ!」



グロースシュトラール
「ははっ!驚いたかい?」



播磨
「う、うん!ありがとう統括旗艦!」



荒覇吐
「一体何を聞いたの?」



播磨
「ヘヘェン!教えてあげないもんね!」



荒覇吐
「なんかムカツク…。」



近江
「まぁまぁ。何れ判明することだわ…もし彼等がヨトゥンヘイムに本気を出させる事が出来るならね…。」


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窮鼠の牙は巨人をも咬む  VS 超兵器

大変長らくお待たせいたしました。


西進組の戦いの続編です。


それではどうぞ。


   + + +

 

 

謎の攻撃の後、船体を失ったキリシマは一人海に漂っている。

 

 

「はぁ…コンゴウの性格でも染ったか?ホント…どうしてこんな面倒な思考ルーチンになってしまったんだ…だが」

 

 

 

その思考のお陰で、彼女がこの場に存在できているのだろう。

 

 

播磨に撃沈された時に感じた¨嫌な予感¨と蒔絵やハルナと共に歩んで行く未来が潰える事への否定。

 

 

それらの感情が、論理で固められた霧の思考を超越し、反射的にクラインフィールドを展開させることに繋がったのだ。

 

 

そうでなければ今頃、彼女は船体だけでなく、自身の存在すらも消滅していただろう。

 

 

 

彼女は、感情プログラムや各種機能の最適化を実行しつつも、自らの体験した敵の攻撃についての情報をタカオに送信する。

 

 

ヂ… ヂ…

 

 

「くそ…。エラーを完全に処理できていないからか?私の感情面での思考も同時に送信してしまった…だが、内容は伝わるだろう」

 

 

 

ヂ… ヂ… チ… チ…

 

 

 

キリシマは、情報の送信を終えると、意識を半覚醒状態を保ちつつ、最適化を続行する。

 

 

 

メンタルモデルは、それを維持するだけで、かなりの演算領域を消費する。

 

従って、最短での最適化は必然的にコアのみの状態となり、自閉モード状態で行う事が望ましい。

 

 

 

しかし、現在は彼女は一人で最適化を行わなければならない。

 

 

コアのみでは、まともに反撃すら出来ない為、事が長期化してもメンタルモデルの状態を維持し続けなければならなかった。

 

 

 

「面倒臭い…」

 

 

 

彼女は、手順の多い行程に苛立ちを覚えるが、決して最適化を中断したりはしなかった。

 

 

 

必ず帰る、そう約束した友人の為に。

 

 

 

   + + +

 

 

ヂ…

 

 

 

「届いたみたいね」

 

 

タカオは、キリシマから先程の攻撃に関する情報を受け取る。

 

 

 

「どんな内容なの?」

 

 

 

「今開いて見てみるわ」

 

 

 

チ…  バチィィィ!

 

 

 

「あ゛っ…アぁアア!」

 

 

「タカオ!」

 

 

 

タカオは、急に引き付けでも起こしたかの様に仰け反り、目を見開いて痙攣し始めた。

もえかは慌てて彼女に駆け寄って、倒れそうになる身体を支える。

 

 

彼女の身体は、数秒間震えると力が抜けていった。

 

 

「かはっ?…ハァ…ハァ」

 

 

「タカオ、しっかりして!」

 

 

「だ、大丈夫。ちょっとキリシマの感情に充てられただけ…。それにしてもアイツ、感情プログラムが暴走仕掛けてるじゃないの。よくこれであの攻撃を防げたものだわ…」

 

 

 

「何か見えたの?」

 

 

 

「ええ…少しだけど敵の攻撃の内容が見えてきた。キリシマは攻撃の前に、超兵器のものと思われる通信を傍受したみたい。言語は特定出来なかったみたいだけど、片方はカウントダウンをしているようにも聞こえるわ。ただはっきりしているのは、敵の放った攻撃はレーザーの様なエネルギー攻撃ではなく¨実弾¨であることね。それともう一つ…」

 

 

 

険しさを増す彼女の表情に、もえかは唾を呑み込む。

 

 

 

 

「敵は比較的標高の低いシチリア島北西部のティレニア海から砲弾を発射。その発射速度は、キリシマですら視認が難しい程の速度よ。しかもその砲弾は、標高が低いと言っても内陸にある山を悉く¨貫通¨して一直線にキリシマに到達しているわ」

 

 

 

「え?や、山を貫通!?」

 

 

「そうよ。その時に生じる抵抗で威力が減衰していたのにも関わらず、キリシマのクラインフィールドを85%も飽和させた。これは異常よ」

 

 

 

「そんな…じゃあその後の衝撃波は?」

 

 

 

「シャドウ・ブラッタが超兵器機関を暴走させて自爆。そして残りのクラインフィールドとキリシマの船体を吹き飛ばした。この線が濃厚だけど、あの砲撃で生じた衝撃波も否定は出来ないわね」

 

 

 

「解った。超兵器の兵装に関してはウィルキアの方が詳しい。メアリースチュアートにデータを送って。弁天にも、大まかな情報を伝えて欲しい」

 

 

「了解」

 

 

 

もうかは今後の行動を思い描く。

 

 

 

(やはりプラッタ級の撃沈が最優先かな…。でも私達は否応なしに、この超長距離狙撃を考慮せざるを得なくなってしまった。行動範囲は必然的に狭くなる。でも、あれ程の距離から正確に狙撃出来た理由は何?)

 

 

 

長距離狙撃を成功させるには、敵の位置を出来るだけ正確に¨観測し続ける¨必要がある。

 

 

 

「!」

 

 

 

もえかは頭の中で何かが繋がるのを感じる。

 

 

 

(シャドウ・ブラッタ…あれが一番近くでキリシマと戦っていた。狙撃と自爆のタイミングもぴったり。尾張に観測位置のを報告、それを元に尾張が合図を送って狙撃する。全ての辻褄が合った。だとすれば、やはりプラッタ級の撃沈が急務?)

 

 

 

だが、もえかは一度立ち止まってもう一度思考する。

 

 

 

(待って…もし相手が観測に特化しているなら、プラッタ級に近付くのはかえって危険を伴うかもしれない。となると私達が相手をすべきなのは…)

 

 

 

 

彼女は、彼方に見える双胴の巨大な航空戦艦を見据えた。

 

 

 

(恐らくは通信の中継地点を担うであろう尾張…あれを叩く!)

 

 

 

進路は確定した。

もえかはタカオを見詰める。

 

 

 

「タカオ、両舷全速!目標は超巨大双胴航空戦艦 尾張!」

 

 

 

 

「は?プラッタ級はどうすんのよ!それに中型の超兵器から倒していく予定だったでしょう!?」

 

 

 

「プラッタ級は私達の位置を観測している。近くに居たらかえって狙撃の危険が増すの。だから敢えて、私達の位置を旗艦に報告しているであろう尾張を叩く!」

 

 

 

 

「超高速超兵器や小型艇ウジャウジャいるのよ?懐に入るには敵が多すぎるわ!」

 

 

 

 

「その方が都合が良い。現在、敵艦隊は尾張周辺に密集している。さらに私達が小型艇を引き付ければ、旋回半径の大きな高速超兵器の行動が制限される。これなら他の二隻でも対応出来るとおもう!」

 

 

 

「超長距離狙撃はどうするつもり?敵が自爆覚悟なら、尾張ごと狙われる可能性もあるのよ?正直、超兵器の通信方法が解らないから、霧のジャミングが効く保証もない…。敵を引き付けるのは良いけど、プラッタ級にまで付き纏われたら厄介だわ!」

 

 

 

「それは…」

 

 

 

盲点だった。

 

 

 

電子撹乱ミサイルの発する電磁パルスは、電磁防壁でブロックされており、内部には効かないので通信手段を破壊できない。

 

更にだ、仮に内部に電磁パルスが届かなくとも、周囲に電磁パルスが発生している状況であるにも関わらず、超兵器は意思疏通を行って狙撃を成功させている以上。

 

 

現状、敵旗艦からの攻撃を防ぐ手立ては無かった。

 

 

 

(くっ…せめてシチリア島にいる超兵器の目を引き付けてくれる艦がいれば…)

 

 

 

 

もえかが俯いた時、通信機から声が響く。

 

 

 

『知名艦長。確定ではありませんが、敵超兵器が使用した兵装の種類が推測できました。』

 

 

 

「ジーナス少尉!?」

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長。重巡タカオから敵超兵器の放った攻撃の情報が入りました。尚…」

 

 

 

「どうしたジーナス少尉。早く報告しろ!」

 

 

 

「は、はっ!」

 

 

 

エミリアは、筑波の鋭い眼光に一瞬たじろぎながら、ハッキリとした口調を心がけて口を開く。

 

 

 

「だ、大戦艦キリシマが船体を消失したとの事。本人は無事です!」

 

 

 

「「!?」」

 

 

 

二人は目を開き、直後に表情は更に険しいものとなった。

 

 

 

「不味いですな…。」

 

 

 

「ええ…。敵に航空機の発艦を決断させる切っ掛けが出来てしまいました。尾張は我々がマークしていますから、時間を稼げますが、ヨトゥンヘイムは…」

 

 

 

「いや、尾張も時間の問題でしょうな」

 

 

 

「敵の数が多い以上、残り三隻で尾張の動きを完全に封殺することは叶いません。少しでも距離を取られれば、航空機と航空機型超兵器の発艦を赦してしまいます。そうなれば…」

 

 

 

「投了…と言うわけですか。早急に対策を取らねばなりませんな。最悪、犠牲を覚悟で航空機をティレニア海に送ることを検討しなければ…」

 

 

 

「そうなります。それにしても、敵のあの攻撃は一体なんなのでしょう?ジーナス少尉。重巡タカオの情報を見せて貰えるかな?」

 

 

「はっ!こちらになります」

 

 

 

ヴェルナーは、エミリアからタブレット端末を受け取る。

 

 

 

「これは…」

 

 

 

「どうされましたかな?」

 

 

「ええ…敵の攻撃の正体は恐らく¨レールガン¨でしょう。それも、山を貫通してしまう程の威力を持った…」

 

 

 

「なんですと!?山を貫通!?」

 

 

 

二人は顔を見合わせる。

 

 

 

「対宙レールガン…いや、それを上回る威力を持ったレールガンと見るべきですかな?」

 

 

 

「そう考えるべきでしょう。無いものねだりになってしまいますが、やはり艦が足りません。シチリア島にいる旗艦を抑える手立てが無ければ我々に勝機は無い」

 

 

 

 

二人は思わず考え込んでしまう。

 

 

ピピッ!

 

 

 

「…はい。此方はメアリースチュアート。…え?ナギ!?…ええ、解ったわ。あたなも気を付けて…」

 

 

 

「どうしたジーナス少尉」

 

 

彼女に二人の視線が注がれる。

 

 

 

「はい。バミューダ沖で開戦中のペガサスから通信です。およそ一時間前に、超兵器アルケオプテリクスを撃墜。現在は、ニブルヘイムと交戦中の模様との事です」

 

 

 

 

「報告はそれだけか?」

 

 

 

「いえ、一つ伝言が…。【伊香保ろに 霜降り覆ひ 木の葉散り 年は行くとも 我れ忘れめや 】と…」

 

 

 

 

「ほぅ…。中々気が利いておりますわい」

 

 

「私には良く解りませんが、朗報ですか?」

 

 

「ええ、計画通り行けば、敵の旗艦を抑えてくれるやもしれません」

 

 

 

「では!」

 

 

 

「¨そう言う事¨ですな」

 

 

 

「希望が見えてきました。それにしても、この文言は誰が考えたのですか?」

 

 

 

「恐らくは大戦艦ヒュウガでしょう。なんでも以前、あちらの世界の¨アカギ¨がその手の言葉をよく収集していた話しておりましたからな」

 

 

 

「そうだったのですね。彼方もこちらを信じている。それに答えましょう」

 

 

 

 

 

「はい。それにしても…」

 

 

 

「筑波大尉?他に何か疑問が?」

 

 

 

「いえ…。今は目の前の事に集中致しましょう。レールガンの件は、タカオと弁天に通達します。¨例の件¨に関しては、知名艦長のみに…」

 

 

 

「宜しくお願いします」

 

 

 

「ジーナス少尉、頼む」

 

 

 

 

「はっ!…知名艦長。確定ではありませんが、敵超兵器が使用した兵装の種類が推測できました」

 

 

 

 

エミリアがタカオへ通信を行う中、筑波は少しだけ背筋にゾクリとする様な感覚を覚える。

 

 

 

(¨また¨ティレニア海か…ヴェスビオ火山で発見、発掘された古代の超兵器【VIA SACRA(聖なる道)】。そして今回の超兵器が配置されている位置…なにか関係があるのか?いや…気のせいだと良いのだが…)

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「超高威力のレールガン…超兵器達がボスポラス海峡を突破できた理由はこれかもしれない」

 

 

 

 

「う~ん。兵装リストによると、対宙レールガンの砲身の長さは200mを超えてるわ。砲弾がバカみたいに巨大で、尚且つそれを対宙レールガン以上の速度で発射となると、少なくとも¨500m以上¨の砲身で砲弾を加速しなくちゃならなくなるわよ?」

 

 

 

「問題は砲身の形状じゃない。一回の発射に伴う砲弾の装填から射出に伴う迄の時間のスパン。此が解らないと対策は難しい」

 

 

 

 

「実物をスキャンすれば解るんだけど…」

 

 

 

「ねぇタカオ。レールガンって実際どういうものなの?」

 

 

 

「そうねぇ。簡単に言えば、二本のレールの上に乗せた弾体を電磁誘導で加速する装置よ。私達の世界ではアメリカが実践配備しようとしてたみたいだけど」

 

 

 

「う~ん。何となくは解るけど。何か欠点はあるの?」

 

 

 

「ヒュウガが、ウィルキアのレールガンをスキャンして、共有戦術ネットワークに上げてきた情報によると、発射する際には、莫大な電力を長時間安定してレールに流し続ける必要があるみたい」

 

 

「他には?」

 

 

「そうねぇ…色々有るけど、やっぱり熱かしら…」

 

 

「熱?」

 

 

 

「砲弾に大電流を流して加速する以上、発射の際はレールと弾体が¨接触し続ける¨必要があるの。その加速時に生じる摩擦熱が弾体やレールに悪さをしてレールガンの開発自体を困難にしているわけだけど、ウィルキアや超兵器は、ある程度この問題を克服している様ね。ただ、今回の超兵器のレールガンが砲身を長大にしているとなると…」

 

 

 

 

「たとえ莫大な電源を有していたとしても、加速距離が長い以上、砲弾とレールとの接触時間が長くなる…それは、摩擦で生じる熱もそれだけ大きくなるって事かな?」

 

 

 

「そうよ。尤も、それをある程度クリアしているから、発射に漕ぎ着けられたんでしょうけど、放たれた砲弾はともかく、レールを破損させる訳にはいかないから、ある程度の¨冷却時間¨を置くんじゃないかしら」

 

 

 

 

「¨アレ¨はどうなってるの?」

 

 

 

「流石だわ。もうジブラルタルを通過してる」

 

 

 

「………」

 

 

 

もえかは、もう一度考え込んで決断を下した。

 

 

 

「よし!やっぱり尾張を叩こう!この状況ならなんとかなるかもしれない」

 

 

 

「解ったわ。目標、超兵器【尾張】!」

 

 

チ…

 

 

重力子エンジンが唸りを上げ、タカオは進路を尾張へと向ける。

 

 

 

「クスッ…〃〃」

 

 

「どうしたの?」

 

 

急に頬を染めて微笑んだ彼女に、もえかは頸を傾げる。

 

タカオはそんな彼女に頸を降った。

 

 

 

「いいえ違うのよ。ただちょっとあの人に似てるなと思っただけ」

 

 

「千早艦長に?」

 

 

「ええ。あの人もいきなり艦隊旗艦を狙うような大胆な発想をする人だから…」

 

 

 

「意外…もっと慎重を期す人だと思っていたから」

 

 

 

普段の冷静な印象からは想像もつかない群像の印象に、もえかは目を丸くする。

 

そんな彼女を他所に、タカオはどこか遠くを見詰めるような目を海へ向けた。

 

 

 

「そう…でも何ででしょうね。あの人はいつも賭けに勝ってしまう。まるで結末が見えているみたいに、私達の演算の先を見ている気がするの。私はそんな艦長に…いえ、何でもないわ」

 

 

 

「タカオ…」

 

 

 

もえかは目の前にいる存在が、まるで年相応の少女の様に見えた。

 

 

それと同時に、彼女は彼方の海で戦っている群像の事を思い浮かべる。

 

 

 

心を持ち合わせておらず、人類を遥かに凌駕する力を有した彼女達を、こうして惹き付けてしまう群像の力。

 

 

それはきっとタカオ達メンタルモデルが演算の限りを尽くす程の物ではないのだろうと彼女は推測した。

 

 

そしてそれはある意味、それら感情を持ち合わせている人類すらも、解っていても出せない答えでもあるのだろうと…

 

 

 

(世界に介在する、意思ある者達の¨信頼¨…そして過ちを犯してしまう不完全な存在である私達人類が持ち合わせていても使えない¨赦し合う¨心…か。遠いな…本当に、遠いよ…)

 

 

 

 

欺瞞と不信が渦巻く世界に於いては、群像の理想は飽くまでも儚い夢でしかないだろう。

 

それを実現しようと奔走してしまうのは、彼がまだ少年だからなのだろうか?

 

 

 

心に沸き上がる疑問に答えられる者は恐らくこの場には居ないだろうと思い、彼女はその疑問を胸の内にしまった。

 

 

だがタカオでなくとも、もえかの心に映る群像の姿は、目を閉じてしまいたくなる程眩しいものであった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「おいおい!正気かよあいつ等。敵艦隊のど真ん中に突っ込んで行きやがった!キリシマはどうなった?プラッタ級の撃沈はどうすんだよ!さっきの攻撃の対策は…。」

 

様々な疑問が真冬を次々と襲う。

 

 

先程からレーダーに表示されなくなったシャドウ・ブラッタとキリシマの詳細な情報が入ってこない。

 

 

 

敵の砲撃に関しても、電磁誘導を利用した超砲撃としか伝わって来なかった。

 

 

 

だが、一つハッキリしている問題がある。

 

 

 

キリシマの安否だ。

 

 

(恐らくキリシマのメンタルモデルは無事なんだろう。あいつ等は船体を失っても、コアが無事なら再生が出来るからな。伝えてこない事を考えると、恐らくはメンタルモデルの生存の所在を内通者に悟られないためか?クソッ!やりづらくて仕方がねぇ)

 

 

 

真冬は、苛立つ心を必死に抑え込む。

 

 

そこへヴェルナーから通信が入ってきた。

 

 

 

『宗谷艦長。此方からお願いしたい事があります』

 

 

 

「あ?なんだよいきなり…言ってみろ」

 

 

 

『こりより弁天に当艦隊の旗艦を務めていただきたい』

 

 

 

「!?」

 

 

 

真冬は思わず目を丸くする。

一瞬、ヴェルナーが弱気に成っていると思いもしたが、彼の言葉には迷いが無かった。

 

何か、考えが有るのだろうとも思うが、口に出すわけにもいかない。

 

 

故に真冬は、少し語気を強めて口を開く。

 

 

 

「また弱気になってるんじゃねぇだろうな」

 

 

 

『いえ、熟考しての判断です。あなた方には、我々にはない先見の目がある。艦長を務めていた時間も長い。だから、あなたが考えうる最善の判断を頂きたいのです』

 

 

 

 

「………」

 

 

 

最善の判断。

 

内通者がいる状況で、指示を出しても、それは潰えてしまい、きっと何も始まらないだろう。

 

 

 

それを解った上で、ヴェルナーが此方に指示を願う理由を、彼女は頭を回転させ導き出して行く。

 

 

 

(相手に気取られずに指示を出せだと?無茶にも程がある…ん?待てよ…アイツは俺に指示を出せなんて一言も言わなかった。判断…そう判断だ。アイツはそう言った。だとすると、この場にいる連中が最も動きやすい方法は…)

 

 

 

彼女の脳がフル回転する。

 

 

 

(成る程、そう言う事か…)

 

 

 

 

彼女の出した結論はこうだった。

 

 

 

「解った。弁天が旗艦を引き受ける」

 

 

 

『ご理解、感謝します』

 

 

 

「それで…俺から言える事は只一つだ。お前らの独自の判断に委ねる」

 

 

 

「か、艦長!」

 

 

 

『………』

 

 

 

 

平賀が、思わず声を上げた。

 

 

当然だろう。

 

 

彼女の今の発言は、艦隊を指揮する旗艦の判断としては、余りにもずさん過ぎるからだ。

 

 

 

しかし、ヴェルナーからの返答は意外なものだった。

 

 

 

『了解。旗艦からの判断を尊重します』

 

 

 

「なっ…」

 

 

 

平賀は頭がついて行かなかった。

 

 

真冬の判断も常軌を逸しているが、それを平然と了承してしまうヴェルナーにも言葉が出てこない。

 

 

だが、真冬の表情には迷いも不安も感じられなかった。

 

 

(艦長は一体何を考えているの?)

 

 

 

平賀の不安は、クルー全体の代弁でもあったのだろう。

 

 

各々が不安な気持ちを表情に浮かべている。

 

 

 

そんな彼女達の気持ちを知ってか知らずか、真冬はタカオやメアリースチュアートが超兵器へ向かって行く様から一切視線を放さなかった。

 

 

 

   + + +

 

 

「もえか、前方から超高速超兵器が来るわよ!」

 

 

 

「引き付けて一気に突破する!」

 

 

 

尾張に向かって突き進むタカオに、五隻の高速超兵器達が立ち塞がる。

 

 

 

砲撃 魚雷 ミサイル 光学兵器がタカオに殺到し、辺りの海がまるで嵐のように引っ掻き回された。

 

 

 

「こんな攻撃…艦長が乗った401の攻撃と比べれば、なんて事無いわ!」

 

 

 

 

ビィイン!

 

 

 

 

タカオは更に加速し、立ちはだかる敵をあっという間に置き去りにして行く。

 

 

すかさず超兵器達が反転し、タカオを追撃しようとした時―

 

 

 

ボボォォン!

 

 

 

メアリースチュアートからのミサイル攻撃が、超兵器達を襲う。

 

 

 

 

「追わせない!貴様等の相手は此方だ!」

 

 

 

ヴェルナーが叫び、艦内の動きが一層慌ただしくなる。

 

 

 

 

「艦長、小型艇が此方に接近、取り囲まれます!」

 

 

 

「クソッ!相手が多すぎ…」

 

 

 

ボボォォン!

 

 

 

「!?」

 

 

 

数隻の小型艇に水柱が上がり、煙と炎を吹き出して沈んで行く。

 

 

 

「アレは…弁天か!」

 

 

 

   + + +

 

 

 

「凄いな…」

 

 

 

小型艇を攻めていた一宮は、一連の動きを感嘆と見つめている。

 

 

 

 

艦隊はあたかも統率がとれているかの様に見えてはいるが、彼は先程の真冬とヴェルナーのやり取りを聞いている。

 

 

 

つまりだ。

 

 

 

彼等は今、全くの¨アドリブ¨で行動しており、その結果が上空から見ると、きちんと個々の役割を果たしている様に見えてしまうのだ。

 

 

 

勿論、素人が出来る技ではない。

 

 

 

三人の艦長達が、その場の状況全てを瞬時に把握し指示をする。

 

そしてその命令に、反射レベルで応じるクルー達の練度も非常に高かった。

 

 

 

「俺達も負けてはいられないな。小型艇を相手にしている弁天を援護するぞ」

 

 

 

『了解』

 

 

 

航空部隊は、押し寄せる小型艇の群へと突っ込んで行く。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「タカオ、尾張の背後は取れそう?」

 

 

 

「難しいわね…それにしても何なのよこの異常な旋回性は!」

 

 

 

 

超巨大双胴航空戦艦【尾張】

 

 

小笠原で撃沈された近江の二番艦である。

 

 

主砲50.1cm砲を左右両艦首に2基6門、副砲220mmAGSを艦橋前後に3基9門を備え、艦首にはさらにVLSも確認できる。船体各所には噴進砲や対空レーダーのようなものが多数あり、後部には広大な飛行甲板があり、それが艦橋を左右に挟み込む様な形で後方から前方に約250m程伸ばしている。

 

 

弱点は勿論、兵装の少ない船体後方だろう。

 

 

 

しかし、そう簡単なものではない。

 

 

近江型は、非常に高い旋回性を有しており、単艦で背後を取る事は至難であった。

 

 

更にだ。

 

 

双胴であるが故に、仮に回り込めたとしても防御は硬いだろう。

 

 

 

そもそも、超兵器級の航空戦艦は名称こそ航空戦艦ではあるが、考え次第では全く別のジャンルの艦艇と言えよう。

 

 

航空戦艦とは、言うなれば¨空母っぽい事が出来る戦艦¨に過ぎない。

 

 

類似するものに戦闘空母等もあるが、やはりこれも戦闘力の強さから、戦闘に参加しても支障がない空母だ。

 

 

どちらも、戦艦若しくは空母の領域を逸しない。

 

 

しかし、超兵器級はそれら二つの性能を¨どちらも遺憾無く発揮¨することが出来るのだ。

 

 

 

その二刀流を適材適所で使用することで、自信の戦闘の幅を飛躍的に高めている。

 

 

 

 

尾張もその一隻に数えてまず間違いないだろう。

 

 

 

小型で大戦艦よりも旋回性が高いタカオですら、背後を取る事が出来ない。

 

 

 

そして、その巨体からは信じられない動きで巧みに距離を開け、大量の噴進砲や砲撃をタカオに浴びせる。

 

 

 

 

「くっ…ちょこまかと!」

 

 

 

「タカオ、落ち着いて!小型艇からも攻撃が来てる。クラインフィールドだけに頼っちゃダメ!交わしたり迎撃することも大事だよ!」

 

 

 

「わ、解ってるわよ!」

 

 

 

タカオは、小型のレーザーを使い、飛来する攻撃を撃ち落としながら、尾張に接近を試みようとする。

 

 

 

しかし、数の差が違いすぎた。

 

 

 

ヂ…。

 

 

 

「!!?」

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

 

「ああっもう!奴等が来たわ!」

 

 

 

「え?」

 

 

 

レーダーに目を移したもえかの表情が険しくなる。

 

 

 

「ヴィンディヒとサイレント・ブラッタ…」

 

 

 

 

尾張の背後を追うことに時間を掛けすぎた為か、二隻の超兵器がタカオに向かってくる。

 

 

弁天や航空部隊が処理しきれなかった小型艇群も集まって来ていた。

 

 

 

そこで初めて、彼女達二人の口許が吊り上がる。

 

 

「来たわね!」

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「艦長、ヴィンディヒがタカオに向かって行きます!」

 

 

 

「構うな!蒼き鋼の兵装は強力だ。我々が下手に近付く事で、行動が制限されてしまうかもしれない!」

 

 

 

ヴェルナー達は、辺りを動き回る高速超兵器達をミサイルで牽制していた。

 

 

 

一方の弁天も、辺りに犇めく小型艇の群の中で奮闘している。

 

 

 

「艦長、正面3方向から魚雷。後方よりミサイル接近!」

 

 

 

「面ぉ舵!2本は交わせる、最後の一本を迎撃!CIWS起動!ミサイルを通すな!」

 

 

 

 

ボボォォン!

 

 

弁天の周囲に水柱や爆煙が多数上がる。

 

 

 

 

「怯むな!砲撃用意!噴進魚雷攻撃始め!」

 

 

 

「噴進魚雷、発射始め!砲撃準備ヨシ!」

 

 

 

「主砲、攻撃始め!」

 

 

「撃ちィ方始め!」

 

 

バシュウ!

 

ボボォォン! ボボォォン!

 

 

魚雷や砲撃が次々と放たれ、それらを浴びた小型艇が灼熱の炎を噴き上げ悶える。

 

そこに航空機からの攻撃が加わり、敵はあっという間にその身体を海へと没して行った。

 

 

 

だが、敵はまるで涌いて出てくるように現れる。

 

 

 

(大した防壁を持っていないからまだ良いが、数が多過ぎる…それに小型艇とは言え、ミサイルやレーザー等、装備は一級品だからな)

 

 

真冬は、集中を切らさず指示を飛ばし続ける。

 

 

 

そこへ、平賀が血相を変えて近寄ってきた。

 

 

 

「艦長、ヴィルベルヴィントが進路を変えて此方に向かってきます!」

 

 

 

(確実に俺達を沈めるつもりか?だが…)

 

 

 

彼女はいつも以上に声を張り、士気を鼓舞する。

 

 

 

「よし!少しだけ奴の相手をするぞ!小型艇からの攻撃は迎撃だけに留めろ!」

 

 

 

弁天は進路を変え、超兵器へと向かって行く。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「タカオ、敵が集まってきた!準備はいい?」

 

 

 

「勿論!」

 

 

チ…チ…

 

 

 

ガシャン…グィン!

 

 

 

タカオ後方にあるカタパルトが展開し、先端には蒼白い光がビリビリと音立てて輝く。

 

 

 

 

「他の味方は巻き込まない様に出力を抑えて!」

 

 

 

「心配ない、十分距離が有るから出力を絞る必要は無いわ。ただ、尾張の電磁防壁の出力だと余り意味は無いかも知れないわよ?」

 

 

 

「大丈夫。最悪、回りの敵を少し怯ませる事が出来ればそれでいい!お願い!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

タカオは、強力な電力を帯びたカタパルトを海へと差し込んで行く。

 

 

 

周囲の敵達は、タカオに向かって一斉に攻撃を開始していた。

 

 

 

次の瞬間。

 

 

ビジィィ!

 

 

 

ボボォォン!

 

 

 

カタパルトの先から一気に放出された電流は、瞬く間に周囲の海を駆け巡り、タカオを目掛けて放たれた魚雷が、目標に到達することなく次々と爆散する。

 

だがそれだけではない。

 

 

脆弱な防壁では対処しきれない電流は、敵の船体を巡り、電気系統を破壊し、周囲の熱を帯びた高温の金属に触れた事により、弾薬が内部で次々に誘爆を引き起こした。

 

 

 

 

一気に15隻以上の小型艇が爆沈し、攻撃の手数が減る。

 

 

 

そしてそれは、小型艇だけに留まらなかった。

 

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

もえかは目を見開く。

 

 

 

尾張を守護するべく接近してきたと思われるヴィンディヒとサイレント・ブラッタは、先程とは明らかに違う様相を呈してした。

 

 

 

「炎上してるみたい。電撃への対処が間に合わなくて内部で弾薬が誘爆したんだ!速度も落ちてる!」

 

 

 

 

「もえか、見えてる?サイレント・ブラッタの航跡が肉眼でも視認出来るわ。まぁ最も、あれだけ派手に煙を噴いていたらどちらにしても丸見えなんだけど…」

 

 

 

 

彼女達の言う通り、超兵器はタカオの電撃への対処が間に合わなかった。

 

無理もない。

 

カタパルトを高圧電流の放出に使用するなど、人類の戦術には無かったからだ。

 

 

 

これは以前、横須賀で蒼き鋼と対峙する前のキリシマが人類の艦艇に対して使用し、共有戦術ネットワークに挙げていたものであったが、超兵器が人類の戦術と近しい行動を取っている事を逆手に取り、彼女達霧の戦術に対する対処が遅延すると読んでの作戦であった。

 

 

 

 

ヴィンディヒは、弾薬庫への引火と機関の損傷で速度が低下し、サイレント・ブラッタは火災にる煙によって居場所が視認出来る状態になってしまったのである。

 

 

更に、

 

 

 

「もしかしてだけど、プラッタ級はあの長いアンテナから、周囲の海面写し取って後方に投影することで、航跡を隠している可能性があるわ!さっきの爆発でアンテナが損傷してたのを見たもの」

 

 

 

「成る程…一応皆に伝えて!私達は飽くまでも尾張を狙う。もし余裕が有るなら、ヴィンディヒとサイレント・ブラッタにも牽制の打撃を入れて!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

タカオのスラスターが唸り、尾張に対して更なる追撃を加えようとした。

 

 

その時、

 

 

《§∴8∂Y∝G2∫‡4ΘÅф…》

 

 

 

《╋、┻、┳、┫、┣、┼、┷!》

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

「タカオ?」

 

 

 

「い、今。敵の通信みたいな何かが、これは…まるでカウントダウン!?」

 

 

 

「まさか!」

 

 

 

「撃って来るわ!」

 

 

 

 

もえかは顔から血の気が引いて行くのを感じる。

 

 

 

   + + +

 

 

「何!?まさかあの砲撃がもう…?」

 

 

 

 

タカオから通信を受けたヴェルナーは、額に不愉快な汗が滲むのを感じる。

 

 

 

(レールガンの冷却時間を考えるとこの辺りが限界か…)

 

 

 

 

「艦長、¨アレ¨は今どの辺りに?」

 

 

 

「重巡タカオなら把握しているでしょうが、果たして我々に報告する余裕が有るかどうか…」

 

 

 

「先程、何らかの攻撃で超兵器二隻には損傷を与えた様ですが、残念ながら尾張には効果が無かった様ですからな。それにしても…」

 

 

この状況には、流石の筑波ですら言葉が出てこない。

 

 

 

敵艦隊に挑み、狭い戦闘範囲に敵が乱立した事で、高速超兵器の機動性を発揮しにくい状況を作り出した所までは上出来立ったのだろう。

 

 

 

しかしこれでは、先程のレールガンによる超砲撃をまともに受けた場合、少なくともこの戦闘範囲内の艦艇は、間違いなく消滅するだろう。

 

 

 

唯一の方法は、シチリア島に展開している超兵器のレールガン発射を妨害する必要がある。

 

 

ただ当然の事ながら、彼等にその戦力も時間も存在しない。

ただこうして死を待つだけなのである。

 

 

 

艦橋から言葉が失われ、彼等は呆然と立ち尽くす。

 

 

 

「か、艦長!い、今!たった今¨彼女¨から連絡が入りました!」

 

 

 

 

エミリアがその一報を伝えるまでは…

 

 

 

   + + +

 

 

シチリア島 北西部

 

 

島周辺の穏やかな海上に、通常の艦艇とは一線を置いた巨大な軍艦が¨三隻¨鎮座していた。

 

 

 

超巨大双胴強襲揚陸艦【デュアルクレイター】

 

 

艦上には主砲となる大型の噴進砲群と軽く50cmはあると思われる大型砲が設置されており、双胴の特性を活かした広大な飛行甲板と、艦尾に巨大な艦載艇発艦用ハッチが二つ存在する。

 

 

 

 

超巨大双胴戦艦【駿河】

 

 

小笠原で異世界艦隊に悪夢を見せつけた【双角の鬼】超兵器播磨の二番艦である。

 

 

船体形状は播磨とほぼ変わらないが、甲板上に配置された兵器群は一番艦である播磨とは似ても似つかない。

 

 

超大口径砲の姿は無く、代わりに広大な甲板にはビッシリとAGS、ミサイル発射装置、噴進砲、そして光学兵器ジェネレータが並べられている。

 

 

 

 

どちらも双胴による兵器搭載数の多さや、秀でた防御を有しており、攻略は至難である事は言うまでも無いだろう。

 

 

 

だが、忘れてはならない事がある。

 

 

 

彼等は決してこの部隊を率いる¨艦隊旗艦ではない¨のだ。

 

 

そう、その最後の一隻。

 

 

 

ニブルヘイムとは対照的に戦艦部が暗めの灰色を基調としたこの超兵器こそが、欧州南部を総括している艦隊旗艦。

 

 

超巨大航空戦艦【ヨトゥンヘイム】

 

 

 

超巨大戦艦【ナハトシュトラール】の両脇に超兵器空母を設置した第三のムスペルヘイム級だ。

 

 

 

しかしその姿は、当初異世界艦隊の面々がブリーフィングした姿とはまるで違う。

 

 

 

 

本来、戦艦部を挟む様に設置される空母二隻は、まるで電池を直列で繋ぐが如く戦艦部の後方に縦に並んでおり、そして三隻の超兵器の甲板上には巨大な筒状の砲身が設置され、連結されている。

 

 

 

更に砲身は、先頭に位置する戦艦部の艦橋の下部を貫通するように艦首部分まで伸びており、その全長はおよそ1700mにも達している。

 

 

この長大な砲こそが超長距離から放たれて山を貫通し、キリシマのクラインフィールドを飽和寸前まで消失させ、着弾点付近にデタラメな爆圧を生じさせた兵器の正体であった。

 

 

 

 

そしてそれが今、再び起動を開始しようとしている。

 

 

 

ゴウン…ゴウン…ゴットン!

 

 

 

最後尾に位置する超兵器空母のエレベータから巨大な砲弾が持ち上げられ、砲身へと装填されて行く。

 

 

《尾→報:§∴8∂∝G2∫‡4ΘÅф…。》

 

 

 

 

サイレント・ブラッタが敵の位置を観測、尾張が送信した情報を元にヨトゥンヘイムが船体を移動し砲身の位置を合わせて行く。

 

 

《╋、┻、┳、┫、┣、┼、┷!》

 

 

 

そして、発射のタイミングを知らせるカウントダウンが尾張によって開始された。

 

 

 

ビリッ…ビリッビリィィ!

 

 

長大な砲身に莫大な電流による紫電が走り、砲弾の加速するための準備が始まる。

 

 

 

これが発射されれば、異世界艦隊は勿論、その場にいる超兵器を含めた全てが消し飛ばされるだろう。

 

 

しかし、これで超兵器に相対する戦力を半減させ、事実上の世界滅亡への布石は整ったも同然であった。

 

 

 

砲身を駆け巡る電流は極限にまで高められ、発射迄の時間も残り僅かに迫っている。

 

 

 

《┥、┝、┰、┸、┃、━、……ОООООО!》

 

 

 

 

そして遂に、発射可能の合図がヨトゥンヘイムにもたらされた。

 

 

 

異世界艦隊はシチリア島の南におり、その巨人の鉄槌を誰も止められる者も逃げ切れる者もいない。

 

 

 

彼等の勝利は確定していた。

 

 

 

《警告:当艦隊ヨリ西方向ニ敵ノ¨over technology weapon¨ト思ワレル機関音ヲ検知…》

 

 

 

 

旗艦を護衛していた駿河からの通信が入ってくるまでは…

 

 

 

しかしヨトゥンヘイムは発射の強行を止めない。

 

 

正直な処、今更何をしたところで結果に差異は生じない事に変わりは無いからだ。

 

 

 

だが、

 

 

《警告:超高速推進音 感1。現在位置ハ…》

 

 

 

 

バシュウ!

 

 

 

突如海面から一発の弾頭が飛び出し、ヨトゥンヘイムの艦首付近へ飛翔する。

 

 

 

予期せぬ事態に、駿河もデュアルクレイターも、そして当のヨトゥンヘイム自身も対応できない。

 

 

《レールガン∞発射シークエンス緊急停止。砲身ノ第一アタッチメント緊急パージ…》

 

 

 

 

ビジィィ!

 

 

ヨトゥンヘイムは、本体と空母に連結されていたレールガン砲身の接続を解き、機関出力を上げて

急速に前へと飛び出す。

 

 

 

莫大な電力をレールガンに送っていたため、防御重力場に割くエネルギーが足りなかったのだ。

 

 

 

そして、

 

 

 

バジィィ!グゥウオオ!

 

 

飛来した弾頭が、ヨトゥンヘイム本体の艦橋より少し反れた処に着弾し、超兵器の分厚い装甲を意図も簡単に抉り取ってしまった。

 

 

 

この様な事が可能なのは、蒼き鋼の艦艇から放たれた¨侵食弾頭兵器¨以外に有り得ない。

 

 

 

そしてそれを放った者は…

 

 

 

バッシャアアン!

 

 

 

超兵器艦隊の展開する西側の¨海中¨のから、一隻の¨金剛型戦艦¨が姿を現し、艦橋の上には金色の髪をツインテールに纏め、顔の半分まで隠れてしまうブカブカのコート羽織った少女が立っていた。

 

 

 

彼女は、人間離れした美しく宝石の様に輝く瑠璃色の瞳と、抑揚の無い表情を超兵器へと向けている。

 

 

 

「大戦艦ハルナ……来たよ」

 

 

 

 

ここに新たな戦いの火蓋が切って落とされる。

 




お付き合い頂きありがとうございます。


お気付きの方も居たかとは思いますが、ハルナは戦場を跨いでおりました。


そしていよいよ本丸の登場です。


伊香保ろに 霜降り覆ひ 木の葉散り 年は行くとも 我れ忘れめや



これは、榛名山に霜が降り覆って、木の葉が散って年が過ぎても、私はあなたのことを忘れたりはしません という意味でして、味方は君たちを見捨てないという意味と、救援にハルナが向かっている事を示した句でした




大寒波によるリアル多忙と、インフルエンザのダブルパンチで中々時間がとれませんが、着実に完結に向けて進んで参ります。


それでは次回まで今しばらくお待ちください。



またいつか。

























とらふり!


キリシマ
「やられた…。」



ハルナ
「来たよ…。」



キリシマ
「は、ハルナさぁん!(泣)」



ハルナ
「撃沈担当のキリシマ、どうした?」



キリシマ
「撃沈担当言うな!お前だって元は撃沈組だろう!?それにタカオやヒュウガだって…。」


タカオ
「ちょっと!私をアンタ見たいな突撃バカと一緒にしないでくれる?」



ヒュウガ
「全く…甚だ心外だわ!」


ハルナ
「私達は本編でまだ撃沈されていないからな。と言う訳で撃沈担当はキリシマで決定!キリシマ…撃沈担当、咬ませ犬、突撃バカ、クマ。タグ添付、分類、記録…。」


キリシマ
「やめろぉぉぉ!てかクマは関係ないだろ!」



ヂ…。


ハルナ
「ん?何かコアが反応したぞ?」


タカオ
「私も…。」


ヒュウガ
「私もよ。でも何かしら…え?これは異世界来た事で表示を保留にされていたメッセージ見たいね。ある一定以上、期間が開くと強制的に閲覧させられるみたい。」



タカオ
「どんな内容なのかしら。え~っとなになに…。」


【報告:総旗艦ヤマトより。ヒュウガ ハルナ キリシマ タカオ 以上4隻を撃沈扱いとする。よって火急的速やかに、ハシラジマに本部がある《撃沈倶楽部》へ入部届けを提出する事! 入部届けは私事、撃沈倶楽部会長チョウカイ迄!】



ハルナ&ヒュウガ&タカオ
「………。」



キリシマ
「は…ハッハッハッ!見ろ!総旗艦が直々に貴様らを撃沈と認めたんだ!いい加減観念して…。」



ハルナ&ヒュウガ&タカオ
「沈め!」


ドゴォォ!


キリシマ
「ぎぃやぁぁあ!」



タカオ
「全く…チョウカイの奴、401に撃沈された後姿が見えないと思ったらこんな所に居たの?」



ヒュウガ
「まさか総旗艦が撃沈倶楽部なるものを創設していたなんて…。」



ハルナ
「まぁ待て。我々はまだ、この世界では撃沈されていない。総旗艦がいらっしゃらない現状では入部届けの提出は保留と見るべきだろう。」



タカオ
「そ、そうよね。」


イオナ
「本当にそう思う?」


タカオ
「うわぁ!ちょっと401、急に何よ!」


イオナ
「一人では、ダメだから…。」


タカオ
「……。」


イオナ
「………。」



タカオ
「何か言いなさいよ!怖っ!何なのその無言の圧力。半端じゃないわよ!」


ヒュウガ
「凄まじい覇気だわ…目眩がしそう。アアン!でもそんな姉さまも素敵ですわぁん!」



ハルナ
「ハァハァ…確かに、これは提出は兎も角、入部届けだけは準備しておいた方が言いかもしれんな…。」


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鶴は千年、怪物■年 等しく来たる死は永遠  VS  超兵器

お疲れ様です


欧州解放前哨戦 南欧海戦編の続きと成ります。



それではどうぞ


   + + +

 

 

 

「攻撃が来ない…。敵に何かあったのでしょうか?」

 

 

 

「ああ…多分大戦艦ハルナがシチリア島に到着し、超兵器の砲撃発射を阻止したんだろうな」

 

 

 

「え?」

 

 

 

平賀を始め、艦橋内がざわつく。

 

 

 

タカオからの警告を受けた弁天を含め異世界艦隊は、差し迫った死の恐怖に極限の緊張を強いられていた。

 

しかし、敵からの砲撃は待てども来ず、思わず真冬に話し掛けた平賀への彼女からの返答は、クルーからしてみれば驚愕に値するものだったに違いない。

 

彼女達の意見を代弁するかのように、平賀は真冬へと詰め寄る。

 

 

 

 

「大戦艦ハルナはバミューダで戦闘をしていたのでは無いのですか?」

 

 

 

「勿論そうだ。日本を出発する前の組分けでも、東進組に割り当てられていたしな。だが大戦艦ハルナが此方へ急派される手筈になっていたことは確かだ」

 

 

 

「そ、そうなのですか?」

 

 

「まぁ俺も、この件に関しては演習が終わってスエズに入る直前位に知らされたクチだからな。迂闊な混乱を招かねぇ様にだか何だか知らねぇが、口外しねぇ様に言われてたんだよ」

 

 

平賀は、まるで思考が追い付いて行かない。

 

 

真冬は表情変えず「いいか?」と、状況を整理するように口を開く。

 

 

 

 

「東進組の連中と俺達の戦力を比べれば明らかに向こうの方が上だ。スキズブラズニルに異世界艦隊の本部を置くにあたって、ウィルキアと蒼き鋼の天才艦長や、大戦艦二隻と超高性能潜水艦である401、そして供与されたはれかぜを含めたウィルキア艦艇二隻の配置は…まぁ妥当だよな。普通に考えりゃ敵もあっち側に戦力を集中させた布陣で攻めてくる筈だ」

 

 

「………」

 

 

 

「だがよ…」

 

 

ここで彼女の表情が一際険しくなるのを平賀は感じた。

 

 

 

 

「事はそう言う問題じゃねぇんだ。世界を陥とせる超兵器に対応出来る戦力が現状で俺達くらいしか居ないとすれば、二手に別れたどちらか¨片方が敗北しても詰み¨なんだよ。この意味は解るよな?」

 

 

 

「は、はい…」

 

 

 

「だから、蒼き鋼の連中やウィルキアの連中は、超兵器が必ずどちらかに戦力の集中を謀ると踏んでいた。そして俺達がババを引いちまったって訳だ」

 

 

 

「……」

 

 

「尤も、超兵器の戦力は数では図れねぇ。バミューダに展開する超兵器の数が此方より少なかったとして、それでもお釣りが来ちまう様なデタラメな兵装を持ってりゃ、いずれにしても苦戦するだろうしな…」

 

 

 

 

「ですが、大戦艦ハルナの増援は向こうの戦況が有利なったことを示しているのではないのですか?」

 

 

 

 

「それは解らねぇな」

 

 

 

「何故です?現に私の端末には、大戦艦ハルナが超兵器アルケオプテリクスを撃墜と報告が入っているのですよ?」

 

 

 

「確かに航空機型超兵器の存在は、この世界では脅威かもしれねぇし、ソイツの撃墜の影響は少なからずあるだろうが、だが忘れてねぇか?その報告の中には岬達はれかぜが、国家戦力を相手に出来る戦力を持った、超兵器ノーチラスと交戦中ってなってただろうが」

 

 

 

「あっ…」

 

 

 

「一隻でも沈めば戦況は悪化する。恐らくは向こうもギリギリの状態なんだろうぜ。本来ならハルナを留めて置きたい位にな…」

 

 

 

「そんな…では何故?」

 

 

 

「それ程までに俺達と奴等の戦力差が有るって判断した結果なんだろうな。少なくとも、この戦いが始まった当初はプラッタ級三隻と、あの小型艇どもを吐き出したデュアルクレイターとか言う超兵器の存在は知り得なかった。それを報告した結果、向こうはハルナを急派することを決断したのかもしれねぇ」

 

 

 

「そうだったんですね…ですが、これは心強いです!」

 

 

 

「ああ…そうだな」

 

 

 

「艦長?」

 

 

 

真冬は未だ険しい表情のまま海を見つめ続けている。

 

 

 

(本当は違うだろうな。ハルナは元々、状況関わらず此方に急派される予定だった。恐らくはアルケオプテリクス撃墜後直ぐにこっちに向かっていた筈だ。でなきゃ今頃ここまで到着出来る訳がねぇからな…)

 

 

 

真冬の予想は当たっていた。

 

 

 

今回、東西に別れての欧州解放戦。

 

 

 

シュルツは以前、欧州解放の前哨戦となる二つの戦いが始まるタイミングが重要と語っていた。

 

 

理由は、内通者に異世界艦隊の編成が露呈した時点で、敵が大方戦力的に乏しいヴェルナー率いる西進組壊滅に向けられると踏んでいたからである。

 

 

 

故にシュルツ率いる東進組は、ヴェルナー達よりも¨早く¨戦闘に入り敵の布陣や出方を見極め、更には敵戦力を早めに削いで数の余裕を得た後に、ハルナを地中海へ急派する準備を整えており、それが今回のヨトゥンヘイムによるニ度目の超砲撃を妨害する結果を生んでいたのだ。

 

 

 

 

 

(全く、ウィルキアや蒼き鋼の艦長は何者なんだ…。まるでこうなる事が解っていたみてぇに…。これがいつ死んでもおかしくねぇ状況にドップリ浸かってる奴の思考って訳か?アイツ等の世界はそんな世界なのかよ…)

 

 

 

真冬は、出発前に目撃した二人の艦長の姿を思い浮かべた。

 

 

 

後からの合流により会話こそ交わせなかったが、海を見詰める二人の姿は、真冬の考えうる艦長の姿とはかけ離れていた。

 

 

 

どこか遠い、遥か彼方を見ているような目。

 

 

穏やかな表情の中に垣間見える背負った者の重圧。

 

 

目の前の救助に全力を懸けてきた彼女にとって、世界などと言う巨大な単位を救う事は、正直な処独善に過ぎないと思っていたのだ。

 

 

目の前で苦しみに喘ぐ一人の人間を救えぬ者が、何故世界を救うなどと言うのか…と。

 

 

 

だがその認識は、戦場と言う名の現場を共にすることで改められつつある。

 

 

 

単艦で国家を相手にしうる超兵器が世界に拡散している今、犠牲をゼロにすることは不可能に近いだろう。

 

 

 

精々、超兵器を早期に撃沈し、これ以上の被害を拡大させない事を考えるのが自然であり当然なのだ。

 

 

 

しかし、彼らは違う。

 

 

 

相手がどんなに強大であっても、たとえ世界が異なっていても、たった一人の犠牲にすら心を傷め、その命を取り零さぬよう必死に足掻く。

 

 

 

そんな彼等の姿を見ていると、つい思ってしまうのだ。

 

 

 

もしや一つの命を疎かにしていたのは自分なのではないか…と。

 

 

 

 

だがその思考を、彼女は直ぐに捨て去る。

 

 

 

理由は簡単だ。

 

 

 

ここは救助の現場ではない。

 

 

¨戦場¨なのだ。

 

 

 

本来彼女達がいるべき場所ではないし、自分達の日頃の訓練は、戦争ではなく救助の為に用いられるべきと考えているからだ。

 

 

 

だからたとえ、多くの人民を救う手立てが、砲を交える事でしか得られないとしても、その方法を彼女は決して認めない。

 

 

 

それはそうだろう。

 

 

 

もし超兵器に人間が乗っていたのなら、それらの人間を殺してしまわない限り、民衆を救えない事になってしまう。

 

 

 

戦無くして得ることの出来ない命など、人魚の心を持った彼女には受け入れられなかった。

 

 

 

だが無情にも彼女は今、戦場にいる。

 

 

 

故に心に縫い付けるのだ。

 

 

 

(俺は…結局この方法でしか人を救えなかった。だが、間違ってる!狂ってる!これだけはこの命が尽き果てるまで絶対に忘れねぇ!)

 

 

 

 

真冬はそう自身を戒めつつ、次なる指示を飛ばしていった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

(やはり401の砲雷長の様にはいかないか…。誘導が単調過ぎるのやもしれん。401が共有戦術ネットワークに挙げているものを元に弾頭の誘導パターンをアップグレードするべきだったか…)

 

 

 

 

ハルナは乗って来たセイランを潜航させて遠隔操作し、自身の機関音を餌に注意を削ぎ、ヨトゥンヘイムの有する超巨大主砲への破壊を試みた。

 

 

 

しかし、敵が主砲の連結を解除し、加速した事で直撃させることが出来なかったのだ。

 

 

 

そういった意味ではあらゆる不足の事態を想定し、数に限りのある侵食弾頭を有効に活用するべく、複雑な誘導を一手に引き受けている杏兵の手腕の高さは、最早ハルナですら認める処であろう。

 

 

 

(この場にもう一隻居なかった事が悔やまれる。奴等のデータがまるで足りない現在では、迂闊に超重力砲を使用するには余りに危険だった…。責めて他の二隻を引き止めくれる者が居れば…)

 

 

 

ハルナは思わず眉を潜めた。

 

 

 

群像ならば或いは超重力砲発射に踏み切り、事態を好転させていたかもしれない。

 

 

 

しかしながら彼女達霧の¨高度過ぎる演算¨は、どうしても情報の不足を何よりも瑕疵としてしまう傾向があった。

 

 

 

この場には、ウィルキアから提供された超兵器リストに記載の無い双胴戦艦¨駿河¨が展開している。

 

 

仮にもキリシマを撃沈に追い込んだ播磨の姉妹艦である駿河の存在を意識し過ぎたが故に、超重力砲の使用をどうしても彼女の演算が否定してしまう。

 

 

 

【戦術の流れ】

 

 

群像を始め、人類が多用するこの非科学的なロジックは時に霧の艦隊をも翻弄する奇怪な戦術を生み出してきた。

 

 

しかしながら、不確定要素を廃し、徹底的に数学的緻密さを含んだ論理演算の元に攻撃を行う彼女達にとって、戦場の流れなどと言う数値化出来ないものを、攻撃の根拠にする確率は皆無に等しいだろう。

 

 

 

チ…チ…

 

 

 

ハルナは、コアをフル回転させて次なる行動を選択して行く。

 

 

 

チ…

 

 

 

ビィイン! ビィイン!

 

 

 

彼女の主砲である35.6cmレーザーアクティブターレットから黄色い閃光が放ち、ヨトゥンヘイム本体と接続艦である超兵器空母を狙う。

 

 

 

巨大主砲にエネルギーを送っていた今なら、防壁が手薄になっていると予測したのだ。

 

 

 

しかし、

 

 

 

ビギィ!

 

 

 

「………」

 

 

 

彼女の放ったレーザーは無情にも弾かれてしまう。

 

 

しかしそれは、ヨトゥンヘイムの防壁に直撃した訳ではなかった。

 

 

 

超兵器本体である戦艦部は、合流してきた駿河に庇われる形で攻撃をかわす。

 

そして接続艦は。

 

 

 

(あれは…デュアルクレイターか)

 

 

 

接続艦の近くにいたデュアルクレイターからケーブルの様なものが伸びていた。

 

 

 

恐らくはエネルギーを供給し、防壁を展開させたのだろう。

 

 

 

この一連の流れで、ハルナの奇襲は事実上潰えた事になる。

 

 

 

彼女は事態が膠着する兆しを見せていることを感じていた。

 

 

 

巨大主砲を装備しているヨトゥンヘイムに今のところハルナに反撃する様子は見られず、デュアルクレイターや迎撃装備主体の駿河ではハルナは攻められなくとも沈められはしない。

 

 

 

(膠着か。体力という概念が無い以上、此方は何時までも付き合えるが、それは向こうも同じだろう。ただ、401達との合流を考えるならば合理的ではない。それに…)

 

 

 

彼女は、自らの帰りを待っている蒔絵の姿を思い浮かべた。

 

 

 

(これ以上、蒔絵に寂しい思いをさせるわけにはいかない。トモダチだから…)

 

 

 

ハルナはもう一度砲門を超兵器へ向け、攻撃を再開する。

 

 

 

(今は少しでも手が欲しい…まだかキリシマ!)

 

 

 

互いに超絶な力を持つ兵器同士の根比べが始まった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

シチリア島 南部

 

 

 

先程まで三隻を翻弄していた超兵器達の動きに変化が見られた。

 

 

 

尾張が急速にこの海域から離脱を謀り始めたのである。

 

 

 

他の超兵器はそれを支援するかのように、尾張を追っていたタカオに攻撃を集中させた。

 

 

 

「もうっ!急にどうしたって言うの…よっ!」

 

 

 

ボボォオン!

 

 

 

 

タカオは、飛び交う砲弾を対空レーザーで迎撃して行く。

 

 

 

しかし残りの超兵器全てから魚雷やミサイル、更に光学兵器が次々と殺到し対処が間に合わない。

 

 

「くっ、このっ!」

 

 

 

 

「タカオ!あまりムキにならないで!…あっ!」

 

 

 

 

気付いた時には遅かった。

 

 

 

今まで逃走していた尾張が急に距離を詰め、視界が覆われてしまう程の巨体がタカオの真横へと移動してくる。

 

 

 

「タカオ!回避を!クラインフィールドを全開にして回避を!」

 

 

 

「くっ…あああっ!」

 

 

 

タカオは攻撃に使う演算を全力でクラインフィールドに回し、それらが展開された次の瞬間…

 

 

バゴォオウン!

 

 

 

 

 

尾張はその凄まじい旋回性能と質量を利用してタカオの側面へ横薙の衝突を思いきり喰らわせたのだ。

 

 

 

 

「あ゛あ゛っ!」

 

 

 

「もえか!」

 

 

 

クラインフィールドによってダメージは無いものの、タカオはそのフィールドごと押し込まれて急激に船体が傾き、もえかは衝撃で吹き飛ばされる。

 

 

 

タカオは人間離れした跳躍で素早く壁ともえかの間に入り、彼女の身体を抱き止めた。

 

 

「もえか!もえかしっかりして!」

 

 

「ご、ごめん…」

 

 

 

「ビックリさせないでよ!」

 

 

 

「そ、そんなことよりタカオ!」

 

 

 

「くっ…!」

 

 

 

ギリギリと、フィールドが軋みをあげる。

 

 

タカオはスラスターを起動して踏ん張るが、質量が余りにも違いすぎた。

 

 

 

船体が完全に横倒しになり、反撃すらままならない。

 

 

 

 

「タカオ!力比べじゃ勝てない。一度潜航して体勢を元に戻さないと!」

 

 

 

「わ、解ったわ!」

 

 

 

タカオはその船体を海中へと沈めた次の瞬間、相手を失った尾張はその場で勢いよく回転した。

 

 

 

タカオは海中で体勢を復帰させる。その直後に、直ぐ頭上を尾張の巨大なスクリューが通過してフィールドと接触し、衝撃で船体に激震が走る。

 

 

 

「ぐっ…!」

 

 

「あぁああ!」

 

 

 

タカオはもえかを抱き止めたまま、その場を離れて行く尾張の背中を睨み付けた。

 

 

 

(一矢…報いてやる!)

 

 

 

 

ガゴン…バシュゥゥウ!

 

 

 

 

艦首から一発の侵食魚雷が発射され、尾張のスクリューへと走り始めた。

 

 

 

彼女はフィールドを展開しつつ、弾頭の誘導に演算を割く。

 

 

 

(もう少し…もう少しでスクリューに…はっ!)

 

 

 

 

ボボォオン!

 

 

 

タカオ周辺が爆発による気泡に包まれる。

 

 

 

超兵器はタカオが海中に逃げる事を読んでいたのだ。

 

 

 

 

小型艇や高速巡洋艦からの大量かつ絶え間ない対潜兵器が投下され、タカオ周辺の海中を爆圧の嵐で引っ掻き回す。

 

 

 

 

(うぐっ!?フィールドを維持するだけで演算が…誘導にまわらない!)

 

 

 

タカオはやむ無く、もえかの身の安全を優先して侵食魚雷の誘導から手を引く。

 

 

 

そして、対潜兵器の届かない深々度へと船体を沈めていった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「タカオが!」

 

 

 

エミリアが悲鳴を上げる。

 

 

 

 

「ジーナス少尉、至急タカオに連絡を!」

 

 

「は、はい!」

 

 

 

慌てて通信機を手に取る彼女から視線を外すと、ヴェルナーは再び眼前を見つめた。

 

 

 

 

尾張はこの海域から離れて行き、高速超兵器や小型艇達が海中に向かって砲弾を叩き込んでいる。

 

 

 

 

(恐らくはタカオは無事だろうが、やはり旗艦の危機を察知したか。戦線が徐々にシチリア島に近付いて来ている)

 

 

 

 

 

「艦長!タカオより応答あり、無事です!」

 

 

 

 

「そうか…良かった」

 

 

 

「艦長、尾張以外の敵が集結しています。今なら…」

 

 

 

「タカオがまだいます」

 

 

 

「深々度へ潜航すれば問題ありません」

 

 

 

 

ヴェルナーは少し考え、それから大きく頷く。

 

 

 

 

「解りました。光子榴弾砲準備急げ!ジーナス少尉、タカオに限界まで潜航してクラインフィールドを張るよう伝えてくれ!弁天にも一度退避するよう伝達!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

艦内が再び慌ただしく動き出す。

 

 

 

「艦長、タカオより通信。クラインフィールドのエネルギー放出まで5分程時間が欲しいとのこと!」

 

 

 

 

「その旨、了解と伝えてくれ。光子榴弾砲発射迄の時間は?」

 

 

 

「およそ3分半!」

 

 

 

「敵に気取られるな!ここで一気に超兵器を叩く!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

エミリアは艦内各所に伝令を伝えて行く。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「知名!」

 

 

 

真冬は、思わず叫ばずにはいられなかった。

 

 

それほどに、目の前の光景は衝撃的であり、艦橋の至る所で悲鳴があがる。

 

 

 

ピッピッ!

 

 

 

「艦長、メアリースチュアートからです。タカオならびに知名一官は無事とのこと!」

 

 

 

「何?でも沈んだんだぞ!」

 

 

 

「どうやら蒼き鋼の艦艇は、潜航能力を有しているようです。現在は対潜弾を回避するため深々度へ潜航している模様!」

 

 

 

「デタラメ過ぎるぜ。だが、タカオが沈んだのに奴等が攻撃を止めねぇ理由は解った」

 

 

 

 

真冬は内心ホッと胸を撫で下ろすが、直ぐに表情を険しいものに戻して行く。

 

 

 

 

(ただこのままじゃ、知名達は何時までも海中に釘付けにされちまう。どうする…)

 

 

 

「艦長、メアリースチュアートから伝令です。至急その海域から距離を取れと!」

 

 

 

「おい!知名を見殺しにするつもりか?ふざけんな!」

 

 

 

 

『見殺しではありません』

 

 

 

「ヴェルナーてめぇ…」

 

 

 

『あなたならきっとそう仰ると思っていました。ですが安心してください。知名艦長は必ず我々が何とかします。弁天は一度退避してください』

 

 

 

 

 

「信じていいのか?アイツはこれからの時代を担って行く俺の大切な後輩なんだ。何か有ったら只じゃおかねぇ!」

 

 

 

 

『勿論です。タカオは現在、対潜弾の届かない深夜度にてクラインフィールドに蓄積したエネルギーを放出し、再起を図っています。一時的にこの戦域は、我々二隻だけで超兵器を抑え込まなければならない状況に置かれてしまいました。我々もあなた方を完全には援護できない。一度退避して状況を注視してください』

 

 

 

 

(メアリーが前に出る。何か策があるのか?いずれにせよ、タカオが戦線を離脱している今、数では奴等に勝てねぇ…悔しいが一度引くしかない)

 

 

 

 

真冬は歯噛みしつつクルーに指示を飛ばし、弁天は海域を離れて行く。

 

 

 

日は傾き始め、空が茜色から藍色へと変化し、白く輝く月が皮肉にも戦場を美しく照らしていた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

超兵器達は、海中に対する対潜攻撃を緩めてはいなかった。

 

 

 

見た目は重巡洋艦だとしても、その戦闘力は凄まじい。

 

 

 

迂闊に浮上させるわけにはいかなかったのだろう。

 

 

 

バシュウ バシゥゥウ!

 

 

 

 

ミサイルや爆雷、そして対潜誘導魚雷が絶え間なく発射され、水柱が何本も上がり、その間に尾張は異世界艦隊からかなりの距離を取っていた。

 

 

 

すると突然、尾張の動きが止まる。

 

 

 

ガゴン…

 

 

 

超兵器後部の飛行甲板の一際大きなハッチが開き、中から巨大な何かが現れる。

 

 

それは、兵器としては余りにも派手な山吹色で塗装されており、姿形は異形意外の何物でもない。

 

 

 

非常に長大な主翼と主翼より前に突き出て先端がまるで鳥の嘴のように細くなっている胴体部。

 

機体後部には、大きな筒状のジェットエンジンが二基と、主翼には左右四基ずつの小型ジェットエンジンが備え付けてある。

 

 

その姿はさながら飛翔する鶴の様な外見だ。

 

 

 

しかしそれだけでは只の巨大なジェット航空機に過ぎないだろう。

 

 

 

その兵器の異形たらしめている最大の特徴は、機体上部に取り付けられた、三つの¨ローター¨だった。

 

 

 

二つは比較的小型で、機体後部のジェットエンジンが備え付けてある筒の上部に、そして機体前方の胴体上部に設置されている物は非常に巨大であり、一本の軸に二組のローターが備えてある二重反転ローターが確認出来た。

 

 

 

【航空機型超兵器の発艦】

 

 

ヴェルナーが、考えうる最悪展開が現実のものとなってしまったのである。

 

 

現状の数の不利を、ハルナの増援によって何とか解消したかに見えた戦況が振り出しに…いや、もしかしたら其よりも悪い状況に陥っている可能性もあった。

 

 

 

航空機型超兵器の出現と共に、暫しの静寂が訪れ…

 

 

 

フゥィイイイ!バダバダバダバダバダバダ!

 

 

 

 

耳を突き刺すようなジェットの音と巨大なローターから発する不愉快な爆音が辺りを支配し、その巨体が甲板からゆっくりと離れて浮遊する。

 

 

 

 

バダバダバダバダ!

 

 

 

ローターの回転が更に上がり、茜色と藍色が混じり合う空に山吹色の機体は一気に空へと舞い上がる。

 

 

 

白から金色に輝きを増す月は、機体をより妖しく艶やかに色付けし、ローターとジェットエンジンの混じり合う爆音が、超兵器の存在をより不気味且つ高圧的に演出した。

 

 

 

ここに、南欧に集結した全ての超兵器が姿を露にしたのである。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「超兵器【Журавлик 】(ジュラーヴリク)…最悪だ。敵に全てのカードを切られてしまった…。」

 

 

 

 

ヴェルナーの表情からは完全に血の気が失われていた。

 

 

ジュラーヴリクが出現した今だからこそ理解できる。

 

 

 

超兵器達が執拗にタカオを攻撃して潜航に追い込み、尾張を戦闘海域から逃がした理由は、この超兵器を発艦させる為だったのだ。

 

 

 

 

「艦長!至急航空部隊に着艦のご指示を!このままでは全滅します!」

 

 

 

そんな彼を叱咤するように筑波からの怒声が飛び、ヴェルナーは慌てて着艦の指示を出すと、次なる一手を必死に絞り出そうとするも一向に思い付かない。

 

 

事は異世界艦隊を総動員して当たるレベルに相当していた。

 

 

 

 

ところが、ヴェルナーの不安をよそに、超兵器は意外な行動に出る。

 

 

 

バダバダバダバダ…。

 

 

 

ジュラーヴリクは機首をシチリア島に向け、その巨体に似合わぬ速度であっという間に飛び去ってしまったのだ。

 

 

 

危機が去った事に、一瞬だけ安堵の気持ちが浮かぶも、ヴェルナーはその気持ちに鍵をかける。

 

 

 

「逃げた?いや、旗艦の応援に向かったのか!」

 

 

 

「不味いですな…。向こうには駿河やデュアルクレイター、そしてヨトゥンヘイムがおります。そこへジュラーヴリクもとなれば…」

 

 

 

「大戦艦ハルナですら対処は困難になる…」

 

 

 

「ええ…。硫黄島での演習の際にも感じましたが、蒼き鋼の艦艇は千早艦長が居てこそ初めて真価を発揮できると思われます。彼女達単体では、少々動きが単調になりがちですからなぁ」

 

 

 

 

「不利な状況には変わりは無いと?」

 

 

 

「いえ、まだ機会は失われておりません!光子榴弾砲で出来ゆる限り、この場にいる超兵器だけでも撃沈するのです!」

 

 

 

 

筑波の言う通り、ジュラーヴリク発艦を妨害させない為に、超兵器達はタカオの浮上を阻止するため集結していた。

 

 

 

だがそれが成された以上、再び超兵器が散開し、更には小型艇からの対潜攻撃でタカオの浮上が妨害され続ければ、間違いなく不利な状況に陥る。

 

 

 

失意に囚われる時間も、躊躇する時間も皆無であった。

 

 

 

「ジーナス少尉!タカオからの返答と光子榴弾砲の準備はどうか?」

 

 

 

 

「はっ!タカオ、クラインフィールドのエネルギー放出を完了。弁天も安全距離に退避。光子榴弾砲の発射準備完了!」

 

 

 

 

ヴェルナーは大きく頷き、発射の指示出した。

 

 

 

 

「光子榴弾砲…発射!」

 

 

 

ビッシャアァァン!

 

 

 

激しく輝く白い閃光が高速で飛翔し、超兵器や小型艇が展開する海域の中心へと向かって行った。

 

 

 

  + + +

 

 

 

「超兵器ジュラーヴリク…ロシア語で【鶴】か?何だってんだありゃ…あんなデカイ奴が空中を浮くってのか!?」

 

 

 

 

真冬は目眩にもにた感覚を覚える。いや、それはクルーも同様だろう。

 

 

 

航空機と言う概念が無い現世界に於いて、戦艦と同等クラスの鉄の塊が浮かび上がり高速で飛翔する様は、まるでSF映画を見ているかのように現実味がまるで沸いてこなかった。

 

 

 

 

一同が唖然とする中、平賀は突如眩い光を放つメアリースチュアートへ視線向けた。

 

 

 

 

「な、何なんです?あれは…」

 

 

 

日が落ちようとしている海に、まるで太陽の如く輝くそれに、クルー達がざわめいた。

 

 

 

 

「何か始める気か?」

 

 

 

真冬がポツリと呟いた時。

 

 

 

 

「宗谷艦長!至急簡易クラインフィールドを展開して目を閉じ、手近な物に捕まってください!」

 

 

 

 

「笹井…」

 

 

 

今まで様子を観察していた笹井が叫ぶ。

 

 

 

普段の抑揚の無い口調とは違う語気に真冬は少し同様するが、直ぐ様指示を飛ばした。

 

 

 

「全員目を閉じて伏せろ!直ぐにだ!」

 

 

 

 

クルー達は直ぐ様指示通りに行動する。

 

 

彼女自身も目を閉じようとした時、ふと超兵器艦隊の動きが目に留まった。

 

 

 

メアリースチュアートの行動に気付いた彼等は、一様に¨集結¨していた。

 

 

 

(何をする気なんだ?)

 

 

 

「宗谷艦長!」

 

 

 

「待て、もう少し見てみたい」

 

 

 

「ダメです!」

 

 

 

「ちょ…お前!」

 

 

 

笹井は真冬の目を手で覆い、無理矢理床へと伏せさせた。

 

 

 

その直後、

 

 

 

ブゥオオオオン!

 

 

 

目を塞がれているにも関わらず、眩い閃光が眼球を刺し、凄まじい轟音が鳴り響いて艦が激しく揺さぶられた。

 

 

 

「うぉ!?…ぐっ、あ!」

 

 

 

彼女は激しい衝撃に歯を食い縛り、クルーからは悲鳴が上がる。

 

 

 

(な、何なんだこれは!本当に人間が起こしている現象なのか?)

 

 

 

いまだに残る鈍い目の痛みと激震に耐えながら、真冬は今更ながらに超兵器との戦いの凄まじさを痛感していた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「光子榴弾砲着弾!水蒸気により、爆心地点の観測不能!」

 

 

 

「観測を継続!いつでも攻撃を加えられる様準備を怠るな!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

クルーに指示を飛ばしつつ、ヴェルナーは眼前から一切目を離さない。

 

 

 

 

(大戦艦ヒュウガによって改良された光子榴弾砲の威力は凄まじいな…。しかし、奴等がこれで終わるとは…)

 

 

 

「艦長!水蒸気が晴れて行きます!」

 

 

 

 

全員が固唾を飲んで、爆心地点を見つめる。

 

 

あれほど群がっていた小型艇は、改良された光子榴弾砲の衝撃波によって跡形も無く凪ぎ払われており姿は見えない。

 

しかし、

 

 

「あっ…」

 

 

 

エミリアの表情が青ざめた。

 

 

 

超兵器達は健在していたのだ。

 

 

だが、様子が少し違う。

 

 

ヴィルベルヴィントの傍らに移動したサイレント・ブラッタからケーブルが伸びている。

 

 

 

他の超兵器も同様であった。

 

 

 

ヴィントシュトースにルフトシュトロームが、そしてクラールヴィントにはヴィンディヒがそれぞれケーブルを伸ばしており、周囲にはドス黒いオーラが立ち込めていた。

 

 

 

ガシュン…

 

 

 

超兵器はケーブルを切断すると、行動を開始する。

 

 

ただ対照的にケーブルを伸ばしていた超兵器は…

 

 

 

「超兵器反応が¨減って¨いる?艦長!」

 

 

 

エミリアの悲鳴にヴェルナーは頷いた。

 

 

 

「損傷した艦や弱い艦の出力を分け与えて力場を強化したのか…だが奴等の超兵器機関は容易く暴走する。不味いな…」

 

 

 

ジトリと嫌な汗が彼の額を流れて行く。

 

 

そこに再びエミリアの悲鳴が轟いた。

 

 

 

 

「敵超兵器暴走開始しました!敵速は…えっ、ええ!?」

 

 

 

「ジーナス少尉、どうした!」

 

 

 

「は、はっ!超兵器ヴィルベルヴィント、敵速は243kt!ヴィントシュトース敵速176kt!」

 

 

 

「何だと!?243kt!?プロペラ機程の速度だぞ!」

 

 

 

「間違い有りません!あっ!ヴィルベルヴィント転進!シチリア島へ向かっている模様!」

 

 

 

「くそっ!そう言うことか!」

 

 

 

「艦長。我々も大戦艦ハルナとの合流を図った方が良いのかもしれませんな」

 

 

 

「同感です。分断された状態では分が悪い。ジーナス少尉!各艦に連絡して戦線の移動を…」

 

 

 

 

ボォオン!

 

 

 

「!?」

 

 

 

突如として環境に激震が走る。

 

 

慌てて眼前を見据えると、遥かに向こうに此方を向いた¨尾張¨が多数のミサイルを発射しているのが見えた。

 

 

 

 

「成る程…距離を取ったのは、飽くまでジュラーヴリクを発艦させる為か。我々はここで貴様の相手をしている暇は無い!沈めさせてもらうぞ!」

 

 

 

 

刻一刻と変化する戦況に精神を削られつつも、ヴェルナーの瞳は未だ死んではいなかった。

 

 

 

 

  + + +

 

 

 

光子榴弾砲の衝撃が去った後、タカオは海底からの浮上を始めていた。

 

 

 

「敵の数は減ったみたいね。超兵器機関に出力を与えていた超兵器は、光子榴弾砲の影響で沈没が始まっているわ。それにしても一体どういう状況なの?」

 

 

 

「一旦、整理した方が良いかもしれない…」

 

 

 

もえかはもたらされた情報から海上での様子を頭に思い浮かべる。

 

 

 

(航空機型超兵器とヴィルベルヴィントはシチリア島へ移動。急がないとハルナが危ない…。光子榴弾砲のによって小型艇は撃破、超兵器数隻も起動を停止して沈降中。現状、残る超兵器は…)

 

 

 

尾張

 

クラールヴィント

 

ヴィントシュトース

 

 

そして、先程の攻撃に巻き込まれなかったパーフェクト・プラッタ

 

 

 

「四隻か…。でも暴走した超兵器二隻と、姿を消せるパーフェクト・プラッタそして尾張。撃沈した超兵器と小型艇の戦力を引いても全然戦力の低下に繋がっていない…」

 

 

 

「もえか!メアリースチュアートから通信が!尾張が航空機の発艦を始めたみたいよ!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「浮上を急ぐわ!このままじゃ航空機の対潜攻撃で浮上出来なくなる」

 

 

 

 

暗い海底に重力子エンジンの音が鳴り響き、タカオの浮上速度が上がって行く。

 

 

 

もえかは、モニターに視線を向けながら状況を思い描いていた。

 

 

 

 

「!」

 

 

 

彼女目に留まったのは、音波の波形である。

 

 

 

タカオのセンサーは、現世界の艦艇よりも、より詳細で多くの情報を表示していた。

 

 

 

海上での艦艇の動き、沈没する超兵器や小型艇の残骸の音、そして…

 

 

 

 

「ねぇタカオ、一旦浮上を停止して!」

 

 

 

「何でよ!早く浮上しないと航空機が…」

 

 

 

「これっ!この音波の波形…これをスピーカーに出せる?」

 

 

 

「え?これって尾張の…で、出来るけど…でも」

 

 

 

「お願い!」

 

 

 

タカオは渋々浮上を停止し、収集している音から不必要な音を除去して再生する。

 

 

 

「流すわよ」

 

 

「うん」

 

 

 

ゴポォオオオ!

 

 

 

「………」

 

 

 

もえかは目を閉じて意識を集中させ、耳を凝らす。

僅かな音でも聴き逃す訳にはいかなかった。

 

 

 

ゴポォオオオ・・・

ギィンギィン…

 

 

 

「聞こえた!やっぱり!」

 

 

重い低音の中に軋みの様な高い音が混じるのを彼女は聴き逃さなかった。

 

 

もえかはタカオに詰め寄る。

 

 

 

「タカオ、さっき尾張に何かした?」

 

 

 

「したけど何でよ」

 

 

「答えて!大切な事なの!」

 

 

「わ、解ったわよ!」

 

 

 

彼女からの返答に、もえかの疑念が確信に変化する。

 

 

 

「やっぱり浮上を中止しよう。私達はこのまま潜航を続ける」

 

 

 

「はぁ?あんた正気?水中じゃ魚雷と超重力砲しか使えなくなるのよ?」

 

 

 

「それでいい。それだけあれば、尾張を叩ける!」

 

 

 

「他の超兵器はどうするのよ!あの二隻だけで相手出来る戦力じゃないわ!航空機だっているのよ!?」

 

 

 

 

「大丈夫。今すぐ尾張を攻める訳じゃない。私達は弁天を海中から援護しながら、機会を伺うの。あと、海中では常時アクティブソナーを使用して!」

 

 

 

「は?」

 

 

タカオは益々首を傾げてしまう。

 

 

同然だろう。

 

 

姿を晒している海上ならいざ知らず、姿を隠せる海中にいながらソナーを打つ行為は、敵に自分の居場所をわざわざ知らせる行為に他ならない。

 

 

 

不満そうなタカオを他所に、もえかの表情は確信に満ちていた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

バギィン!

 

 

 

砲弾がクラインフィールドに衝突して弾け飛ぶ。

 

 

 

正直な処、ハルナは圧されていた。

 

 

 

「くっ…。あの小型艇、厄介だな…」

 

 

 

デュアルクレイターが発艦させた大量の小型艇は、低出力ながら防御重力場や電磁防壁を装備しており、更には光学兵器や小型の単装レールガンを搭載していた。

 

 

 

更には…

 

 

 

ボォオン!

 

 

 

「くっ…!」

 

 

ヨトゥンヘイム本体を守護している駿河からは、大口径主砲を撤去した代わりに搭載された大量のAGSとミサイル発射官から猛烈な砲撃が絶え間無く飛んでくる。

 

 

 

 

ハルナは反撃を繰り出すが、如何せん敵の数が多く、攻撃対象が分散してしまう。

 

 

 

更にデュアルクレイターや駿河が装備しているパルスレーザーやバルカン砲は迎撃に優れており、ハルナの放つミサイルを尽く撃ち落としてしまうのだ。

 

 

 

 

此方の攻撃が一切通らず、敵の砲撃だけが無情にも届く。

しかも、非常に回避しにくい兵器を使用し、射数が多いだけに、核兵器すら通さないクラインフィールドを持ち合わせていたとしても、直ぐにダメージを蓄積してしまう。

 

 

 

 

(このままではいずれフィールドが飽和する…)

 

 

 

そして、彼女に追い撃ちをかけるように、先程ジュラーヴリクとヴィルベルヴィントが此方に向かっていると連絡を受けていた。

 

 

 

 

(せめて、敵の妨害を覚悟してでも超重力砲を敵旗艦に浴びせるべきか…)

 

 

 

 

確かに超重力砲は彼女達霧の艦隊の最大の武器であることは確かだろう。

 

 

だが、その莫大な威力の代償として、彼女達の演算の大半を発射に伴う計算に費やさなければならず、発射方向のクラインフィールドを解放しなければならない為、隙を付かれかねないのだ。

 

 

 

 

彼女は迎撃を行いながら、駿河の後に隠れているヨトゥンヘイム本体から意識を外していない。

 

 

いや、出来ないのだ。

 

 

 

何故かは解らない。

 

 

 

しかし、超大型レールガンを発射した以外に動きを見せないヨトゥンヘイムはある意味不気味であると彼女のコアが警鐘を鳴らす。

 

 

 

特に本体部分である戦艦部は、この場にいるどの超兵器よりも船体色が暗く、黒と言うよりも闇に近い。

 

 

日中行動するには逆に目立ち過ぎる漆黒の船体色は、日が傾きつつある現在は背景に溶けて行く様にも感じられた。

 

 

 

 

(くっ…どうする?やはり超重力砲を…)

 

 

 

ボボボボォオン!

 

 

 

「何!?」

 

 

 

ハルナが振り返ると、茜色に染まるシチリア島の上空を巨大な翼を広げた異形の兵器が此方に向かって来るのが見えた。

 

 

 

(超兵器ジュラーヴリクか…不味いフィールドが限界に近い。一度エネルギーを放出しなければ…)

 

 

 

 

だが、超兵器と小型艇はここぞとばかりにハルナに対しての攻勢を強める。

 

 

人類対して敵なしと言われた彼女達霧の艦隊でも、クラインフィールドが無ければ通常の戦艦と防御装甲は何ら変わりない。

 

 

即ち、クラインフィールドが解けた瞬間こそ、ハルナの敗北は確定してしまうのだ。

 

 

 

彼女は珍しく眉をひそめ、必ず帰ると約束した友人の顔を思い浮かべる。

 

 

 

「ここまでなのか…すまない蒔絵。私はお前との約束を守れそうに…」

 

 

 

 

『なんだハルナ。大戦艦ともあろうお前が、随分弱気じゃないか』

 

 

 

 

「!」

 

 

 

全てを諦めかけた彼女に、何者かが通信で話し掛けてくる。

 

 

 

それと同時に…。

 

 

 

ボォオン!ボォオン!

 

 

 

ハルナに攻撃を仕掛けていた超兵器や小型艇に、次々とミサイルが殺到していた。

 

 

 

彼女はミサイルが飛翔してきた方向に視線を向ける。

 

 

ザバァァア!

 

 

 

海中から一隻の¨金剛型戦艦¨が現れた。

 

 

 

その船体には、ハルナの船体と同様にタトゥの様な紋様が刻まれている。

 

 

艦橋の上には、一人の女性が何やら芝居掛かった様にポーズを取っていた。

 

 

ハルナは表情を元に戻す。しかし、その顔はどこか安堵を含んでいるようにも見える。

 

 

 

 

彼女は、海中から現れた¨もう一人の友人¨に向かって口を開いた。

 

 

 

 

「遅かったな…キリシマ」

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


いよいよ超兵器ジュラーヴリク(鶴)が登場しました。


画像検索で鶴の飛翔した姿とジュラーヴリクを見比べてみると、足を後に伸ばして飛ぶところや、長い首部分なんかが上手いこと表現された超兵器で、成る程と思ってしまいました。


擬人化?では無いかもしれませんが、動物の擬兵器化も鋼鉄の咆哮っぽくて私はとても好きな超兵器の一つです。


物語中盤までもう少しですが、やはりナハトは一筋縄では行かないかもしれません。

ですが、焦らず一歩ずつ進んで参ります。



それでは次回まで今しばらくお待ちください。



またいつか。






























とらふり! 1/144ちょうへいきふりいと





播磨
「ジュラーヴリク格好いい!駿河も負けるなぁ!」



荒覇吐
「駿河はアンタと違って、堅実そうよね。撃ちまくってる様に見えるけどAGSなら命中率は申し分無いし…。」





播磨
「アンタと違ってって何だよ!妹にはドリルだって超砲撃だって無いんだぞ!」




荒覇吐
「なんでも欲張ってつければ良いわけじゃないでしょ!?実際ドリルなんて牽制にしか使ってなかったじゃない!」



播磨
「ふぅ~んだ!私は砲撃主体なんだからいいんだよぅ!」



荒覇吐
「アンタ私をイラつかせる天才ね…。妹もどうせ私の真似をしてドリルとか付けてるんでしょ?」




播磨
「う~ん。ドリルはどうかなぁ…。前の世界であっさり沈んじゃったから、防御を固めたいとか言ってたよ。ホラ、私達甲板が広いから被弾面積も大きい訳だし…。」




荒覇吐
「ちゃんと考えてるのね…。てかアンタは妹が真剣に考えてるのに何でドーラ・ドルヒの160cm砲なんて付けたのよ!」




播磨
「格好いいから!」



荒覇吐
「ハァ~。」



近江
「どうしたの?荒覇吐。溜め息なんかついて。」



荒覇吐
「ああ、播磨の考えなしに呆れていた所よ…。」



播磨
「何だよ考えなしって!」



近江
「止めなさい!あなたの妹も頑張ってるんだからきちんと応援しなきゃダメでしょ?」




播磨
「はぁい。」



近江
「解ればよろしい!ん?グロースシュトラール、如何されましたか?」



グロースシュトラール
「…………。」



近江
「あのう…艦隊旗艦?」



グロースシュトラール
「ん?ああ、済まないね。少し考え事をしていたんだ。」





近江
「そう…ですか。」




グロースシュトラール
(ナハト…。君は私以上の強化をしているみたいだね。総旗艦直衛艦であるムスペルヘイムを模し、彼の艦に心酔している君らしいが、大き過ぎる武装は隙も多くなる。それを承知で実装したのかい?それとも他に策が…いや、私の考え過ぎだったかな?)


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最悪を吐き出す二つの火口  VS 超兵器

大変長らくお待たせ致しました。


超兵器戦続編です。


それではどうぞ


     + + +

 

 

「…………。」

 

 

もえかは、直前のブリーフィングの場面を思い返していた。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

メアリースチュアートの艦橋には、もえかや真冬を含めた各艦の士官クラスが集まっている。

 

 

「恐らくですが、敵の艦隊旗艦はヨトゥンヘイムの可能性が高いでしょう。」

 

 

 

「何故だ?」

 

 

 

「ムスペルヘイムは、敵の総旗艦を守護する要です。となると、必然的に北極海へ急行出来る位置にいるのが自然となります。大西洋に現れた敵の旗艦がニブルヘイムだった事と、北極海へのアクセスを考えるならこちらの配置はヨトゥンヘイムになると読むべきです。」

 

 

 

 

「実際、ヨトゥンヘイムとはどの様な艦なのですか?」

 

 

 

もえかの問いにヴェルナーの表情が曇る。

 

 

 

 

「ヨトゥンヘイムと言うよりも、中央の戦艦部…つまり超兵器ナハトシュトラールのデータが存在すると言う事なのですが、奴は他の超兵器とは少し違うのです。」

 

 

 

「違う…とは?」

 

 

 

「はい。超兵器にはカテゴリーの他に幾つかのランクがあります。【実働艦隊旗艦】【巡航艦隊旗艦】【方面統括旗艦】【総旗艦直衛艦】【総旗艦】。ナハトシュトラールは、方面統括艦に当たります。」

 

 

 

 

「方面統括旗艦?」

 

 

 

 

「ええ。当該地域に展開する艦隊並びに実働超兵器や巡航艦隊旗艦などを指揮し、それらで対処できない事案が発生した場合に行動する艦艇です。」

 

 

 

 

「回りくどいな…もっとハッキリ言いやがれ。」

 

 

 

ハァ…。と溜め息を付きつつヴェルナーは口を開く。

 

 

 

 

「つまりは、総旗艦直衛艦並の出力を備えた強敵だと言う事です。」

 

 

 

「あ、あのムスペルヘイムと同程度の出力を!?でも、ムスペルヘイム程の兵装は装備されていないんですよね?」

 

 

 

「勿論そうですが、それ故に厄介とも言えます。総旗艦や総旗艦直衛艦はその兵装の強さ故に、破壊に特化していても、¨侵略¨に特化していないと言う事なのです。」

 

 

 

「侵略…ですか?」

 

 

 

「そうです。ヴァイセンベルガーがどこまで超兵器からの精神干渉を受けていたかは解りません。しかし、少なくとも初期段階では超兵器を侵略や領土拡大に利用しようと考えていたことは確かでしょう。」

 

 

 

「成る程…。敵地を利用する為には、道路や建物等が残っていた方が都合が良い。拠点を構築するための資材や資金、そして人手を節約できるしな。大陸ごと吹き飛ばす兵器や都市を消し飛ばす兵器を使用する奴等には不向きだ。」

 

 

 

 

「それ故に、兵装は通常兵器の強化延長版と高出力光学兵器が主体となる訳ですが、大型で場所と重量の嵩む破滅兵器を搭載しない事で、他の兵装の搭載量や弾薬量、そして防御が極めて厚く成ります。現在、我々が把握している統括旗艦はナハトシュトラールを含めて五隻ですね。その内一隻は、バミューダに展開する超兵器艦隊の旗艦であるニブルヘイム。いや、その祖体となった超兵器、元北欧方面統括旗艦グロースシュトラールと言うべきでしょうか。」

 

 

 

「我々に勝算はあるんでしょうか?」

 

 

 

「………。」

 

 

 

ヴェルナーは少しの間口を紡ぐ。

 

 

 

「正直、解りません…。ブラウン博士の分析によれば、これら二隻の超兵器は総旗艦ヴォルケンクラッツァーを元に建造されている可能性があるとの事でした。」

 

 

 

「ヴォル…そんな!」

 

 

 

「正確にはヴォルケンクラッツァーの廉価版と考えるべきでしょう。超兵器建造の成り立ちは、未だに不明な点が多いですが、アレ程の艦を建造するのは容易なものではなかったのでしょう。」

 

 

 

「それでも、敵の総旗艦を元にして造られているなら私達に勝ち目は…。」

 

 

 

「だからこそ勝たなきゃならねぇ…だろ?」

 

 

 

「真冬艦長…。」

 

 

真冬の声に皆の視線が集中する。

 

 

 

「奴が敵の総旗艦に似ているからこそ、ここで奴を沈められなきゃ俺達はヴォルケンクラッツァーに挑む資格すらねぇ。総旗艦直衛艦だっているんだ。ここで勝てなきゃ…この世界に未来は無ぇ。」

 

 

 

純然たる事実が突き付けられ辺りが沈黙する。

 

 

しかし、彼等の目は死んではいなかった。

 

 

 

 

「ええ…その通りです。我がウィルキア国旗に誓って、暴虐の限りを尽くす超兵器を必ず止めます!」

 

 

「わ、私も!これ以上罪もない人達が無慈悲に死んで行くのを見過ごせません!だって…家族や大切な人と永遠に別れるのは、とても辛い事だから…。」

 

 

 

「知名…。」

 

 

 

「もうこれ以上は一人だって失わせたくない!その為に私は、ブルーマーメイドになったんですから!」

 

 

 

「そうか…。なら俺達は進むしかねぇ。」

 

 

 

「ええ…。必ず、大西洋で皆さんと合流しましょう。」

 

 

 

一同は決意を新たにする。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

(ヨトゥンヘイムを沈めるために、ミケちゃん達にもう一度会うために、超兵器尾張…先ずはアレを叩く!)

 

 

 

 

こうした状況を繰り返し経験する度、彼女達の心の中にある死は非常に身近なものに変化し、まるでそれが当然の様に麻痺してしまう。

 

 

故にもえかはその都度思い直すのだ。

 

 

死は大切な者との永遠の別れを指す。

 

 

再び会話を交わす事も、笑い合うことも決して叶わない。

 

 

それは【生者にのみ許された特権】だから。

 

 

母を唐突に失ったもえかにはそれが痛い程理解できた。

 

 

 

 

 

もう一度【お帰り】と言いたかった…。

 

 

もう一度自分に【笑顔】を向けて欲しかった…。

 

 

もっと長い時間、【手を繋いで】歩きたかった…。

 

 

将来の話、恋の話。時に相談し、時にケンカもして…。

 

 

考え始めればキリは無いのだろう。

だが、それらは決して実現することは無いのだ。

 

 

 

永遠に…。

 

 

 

 

彼女は自身をとても臆病な存在であると認識している。しかし、その事に恥じらいは無い。

 

 

 

自らが死ぬ事で、遺された者達の心の痛みを何より理解しているからだ。

 

 

それが今までの熾烈な戦いで、彼女を生者足らしめているのかもしれなかった。

 

 

 

海上での戦いの轟音が、海中にまで響き渡って来る。

 

 

 

 

もえかは、誰一人としてかける事無くこの戦場を終える決意を新たにするのであった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

 

「遅かったな…キリシマ。」

 

 

 

『悪かったな!お前がナノマテリアルを使ったから、後から見つけるに苦労したんだよ!それに…やられた場所からも遠かったし。』

 

 

 

 

ナノマテリアルの供給が乏しい中で、何故彼女達が船体を復旧できたのか不思議に思うかもしれない。

 

 

 

それらの確保は、ハルナが¨セイラン¨で地中海に急派されることが確定した時点で課題となっていた。

 

 

そこでヒュウガは、火山の近くにナノマテリアルの鉱床が比較的存在しやすい点を見込み、キリシマに調査を指示していた。

 

 

 

その場所とは、イタリア南西部にあるヴェスビオ火山周辺、若しくはその沿岸部の海底である。

 

 

 

スエズ突破の最中に、キリシマは401から借りていた2機目のセイランを遠隔操作し、偵察を兼ねてヴェスビオ火山周辺を調査して、見事ナノマテリアルの鉱脈を発見することに成功。

 

 

その位置情報をハルナへと送信した。

 

 

 

一報を受け取ったハルナは、バミューダでの戦いの最中であり、戦況を打破する鍵が、制空権を握るアルケオプテリクスだと判断、撃墜へと動いて行った。

 

 

 

その後、アルケオプテリクスを撃墜し空の憂いを取り除いたハルナは、後の戦いを他の者達に任せ、海中を移動して超兵器の探知範囲のから脱出し、海上に浮上して音速を遥かに上回る速度で飛行してヴェスビオ火山へと移動を果たしていた。

 

 

 

そして、船体失ったキリシマはと言えば…。

 

 

 

念のため海中に待機させていたセイランを呼び、超兵器に気取られぬ様地中海を脱出、そのままヴェスビオ火山へと向かってナノマテリアルを補給し船体を再構築することに成功した。

 

 

差し迫った危機は一応脱したものの、ウィルキアから提供された情報が通用しない事もあって、二人は状況の把握に努めている。

 

 

 

 

「キリシマ。私の受けた攻撃のデータを送る。お前も敵の詳細なデータを集約して送信しろ。」

 

 

 

『んなこと言ったって…さ!』

 

 

 

ボォン!

 

 

 

キリシマは、敵の放ったミサイルをレーザーで迎撃する。

 

 

 

二隻の大戦艦は、増援の超兵器が登場したことで防戦を強いられていた。

 

 

 

特に、ヴィルベルヴィント ジュラーヴリク 駿河の攻撃は激しい。

 

 

 

ハルナは背後に低空で張り付いているジュラーヴリクを追い払おうと弾幕を張るが、敵は複雑な起動で動き回り、更には…。

 

 

 

 

ガガガガガガガッ!

 

 

 

「くっ…航空ガトリングレールガンか!」

 

 

 

データに記載の無かった兵装による絶え間無い攻撃に思わず眉間に皺が寄る。

 

 

 

「キリシマ送るぞ。」

 

 

 

チ…。

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

超巨大爆撃機ジュラーヴリク

 

最高時速650km

 

対50cm砲防御装甲

※電磁防壁 防御重力場

 

 

兵装

 

航空ガトリングレールガン

 

航空誘導荷電粒子砲

 

クラスター誘導爆弾投射機

 

多弾頭誘導魚雷発射機

 

長距離多弾頭ASM

 

対空パルスレーザー

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

『ハルナ、此方は駿河の情報を送る。』

 

 

「了解した。」

 

 

チ…。

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

超巨大双胴戦艦 駿河

 

 

速度55kt

 

 

対80cm防御装甲

※電磁防壁 防御重力場

 

 

 

兵装

 

砲塔型レールガン3基6門

 

三連装300mmAGS12基36門

 

超長距離SSM 多数

 

超怪力線照射装置 左右一基

 

拡散荷電粒子砲 艦首左右に一基ずつ

 

 

新型エレクトロンレーザー艦尾に一基ずつ

 

 

対空パルスレーザー 多数

 

 

57mmバルカン砲 6基

 

CIWS 多数

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

 

『どうだ?』

 

 

「了解した。ヴィルベルヴィントは速力が240ktを超えた以外に変化は無いようだが…。」

 

 

 

『だが、脅威なことに変わりはない。あんな速度【シマカゼ】ですら出せないぞ!しかも奴等…さっきから殆ど攻撃を外さない!』

 

 

 

「確かに…レールガンと光学兵器以外は威力こそ落ちるが、命中精度と射数は小笠原の比ではない。」

 

 

 

 

彼女の言う通り、相手は高命中率を誇る兵器を多用していた。

 

だが、バミューダ沖で使用された重力兵器や光子兵器、そして核兵器等を敵は使用して来なかった。

 

 

単艦のポテンシャルは、謎に包まれているヨトゥンヘイムを除き、大戦艦である彼女達の方が上であることは疑いようが無いだろう。

 

 

 

しかし裏を返せば、起爆の際に周囲を巻き込む兵器の使用は自身の身すらも焦がしてしまう。

 

 

 

自爆による損傷と、過度のエネルギー使用に伴う隙は、超兵器にとって最大の弱点でもあり、異世界艦隊にとって最大のチャンスを造り出しているのだ。

 

 

 

その僅かな隙を埋めるが如く、相手は殲滅兵器の使用を控え、通常兵器を強化した兵装で、ハルナ達を一方的に袋叩きにしている。

 

 

 

 

だが、そこに立ちはだかるのが彼女達の絶対防御であるクラインフィールドであろう。

 

 

 

核兵器すら効かない無敵のフィールドは、飽和してしまうまであらゆる攻撃のダメージを吸収する。

 

 

 

ハルナ一隻に集中していた攻撃が、キリシマの登場で分散したため、辛うじてフィールドの回復に余力を残す事が可能となっていたのだった。

 

 

 

よって超兵器と言えど、兵器としての¨根本的問題¨に直面していく訳で…。

 

 

 

 

ボォンボォン…………。

 

 

 

「ジュラーヴリクの砲撃が止んだ…。」

 

 

 

¨弾切れ¨である。

 

 

 

全長250mのジュラーヴリクは全長が350mを超えるアルケオプテリクス程、光学兵器以外の砲弾を搭載することが出来ない。

 

 

 

更に、小型艇と駿河からの攻撃は分散している為、ハルナの演算とフィールドは回復しつつあった。

 

 

 

 

「今しかない!」

 

 

 

ハルナは瞬時に転回し、全砲門をジュラーヴリクへと向ける。

 

 

 

その中のひとつにはアルケオプテリクスを撃墜せしめた電子撹乱ミサイルが含まれていた。

 

 

 

「墜ちろ!」

 

 

 

バシュ!

 

 

 

電子撹乱ミサイルを含めた凄まじい数の弾頭がジュラーヴリクへと殺到して行く。

 

 

 

電子制御を主体としている航空機にとっては、致命的な打撃となるだろう。

 

 

 

ハルナは、超兵器の撃墜を確信した。

 

 

 

だが、

 

 

 

ゴゥオオ!バダバダバダ!

 

 

 

「!」

 

 

 

弾頭が直撃しようとした直前、ジュラーヴリクは、瞬時にあり得ない程横方向へとスライドし、ハルナの放ったミサイルは、一瞬超兵器の姿を見失う。

 

 

 

そして直ぐ様、弧を描いて軌道を修正しようとする弾頭群を、砲弾を吐き出しきって身軽になったジュラーヴリクは、対空パルスレーザーで次々と撃ち落として行く。

 

 

 

 

「なんだ、あの機動性は…。」

 

 

 

 

ジュラーヴリクは、ハルナですらも驚愕させる程の複雑な軌道で逃げ回り、遂にはすべての弾頭を撃ち落としてしまった。

 

 

そして、ハルナから距離を置いた超兵器は、ある艦の下へと近付いて行く。

 

 

 

 

「あれは…デュアルクレイターか?」

 

 

 

 

 

デュアルクレイターの飛行甲板上部へと移動したジュラーヴリクは、そのまま着陸体勢に入る。

 

 

 

 

ハルナのコアが、それに対して警鐘を鳴らしていた。

 

 

 

「まずい…あれは只の強襲揚陸艦ではない。超兵器専用の大型砲弾を搭載できる¨補給艦¨か!」

 

 

 

 

見誤っていたとしか言いようがなかった。

 

 

 

 

どんなに強力な兵器であっても、燃料や砲弾が無ければ只の鉄の塊に過ぎない。

 

 

ハルナの光学兵器やクラインフィールドですらもエネルギーは無限ではない故に、艦隊には通常安全地帯に補給艦が配備されている。

 

 

 

デュアルクレイターの異常性は、単艦での戦力や見た目が補給艦とは程遠いものであり、重要性が高いにも関わらず最前線にいる事なのだが、長年の人類との戦いで、人類と霧の艦隊双方が補給が必要になる状況に置かれていなかった為に、彼女の演算に補給艦と言う存在が浮上して来ていなかったのである。

 

 

 

「くそっ…!」

 

 

 

バシュ!バシュ!ビィン!

 

 

 

ハルナは、必死にデュアルクレイターに向かって攻撃を加えて行くが、敵の迎撃能力は群を抜いていた。

 

 

 

「キリシマ!デュアルクレイターに攻撃を集中させろ!」

 

 

 

『無理だ!小型艇が邪魔で接近できない!』

 

 

 

「っ…!」

 

 

 

ハルナの眉に刻まれた皺が深くなる。

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

超巨大双胴強襲揚陸艦デュアルクレイター

 

カテゴリーC

 

最大船速 28kt

 

 

対46cm砲防御装甲

※電磁防壁 有

 防御重力場 無

 

 

 

主兵装

 

45cm噴進砲

 

30cm噴進砲

 

38.1cm砲

 

57mmバルカン砲

 

装甲は対46cm砲防御

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

ウィルキアから当初もたらされた情報によるデュアルクレイターのスペックである。

戦艦並みの武装を有しているものの、到底ハルナ達の戦力には及ばない。

 

 

 

 

しかし、彼女達が改めてスキャニングを行ったら超兵器のデータからは、過去のデュアルクレイターとは最早別物と言って良いほど強化が成されていた。

 

 

 

チ…チ…。

 

 

彼女はスキャンを元にデュアルクレイターのデータを修正して行く。

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

超巨大双胴強襲揚陸艦デュアルクレイター

 

カテゴリーunknown

 

最大船速 41kt

 

 

対61cm砲防御装甲

※電磁防壁 防御重力場

 

 

主兵装

 

80cm噴進砲

 

45cm噴進砲

 

250mmAGS

 

感応式機雷敷設魚雷

 

多目的ミサイルVLS

 

57mmバルカン砲

 

CIWS

 

RAM

 

対空パルスレーザー

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

戦力的にはやはり大戦艦には及ばないものの、防御と迎撃能力が飛躍的に向上しており、旋回性能も非常に高い。

 

 

更には、デュアルクレイターの手足と言うべき小型艇だが、小型レールガンや光学兵器、そして高性能ミサイルや魚雷を搭載しており、本体であるデュアルクレイターの火力不足を補っていた。

 

 

 

そして現在、デュアルクレイターは甲板の一部のハッチを開き、何やらチューブの様な物を二本、ジュラーヴリクへと接続している。

 

 

 

チ…チ…。

 

 

 

「火薬の反応と高エネルギー反応…弾薬と、光学兵器並びに防壁発生装置へのエネルギーの装填か…キリシマ!フィールドに余裕があるなら小型艇への攻撃を中断してデュアルクレイターに攻撃を集中……何!?」

 

 

 

『おい!どうしたハルナ!』

 

 

 

「奴が…動き出した。」

 

 

 

二人の視線の先には、混乱に乗じて再び連結を開始しようとするヨトゥンヘイムの姿が写った。

 

 

 

戦艦部を先頭に巨大な三隻の艦船が縦一列に並び、衝突しないようゆっくりと接近して行く。

 

 

 

ゴゥオオ…ガシュン!

 

 

プッシュゥー!

 

 

 

 

巨大な砲身が連結され、結合部から蒸気が吹き出し、全長1kmを超える巨大な砲身が完成したのである。

 

 

 

「…………。」

 

 

 

『…ルナ!おい、ハルナ!聞いてるのか、ハルナ!』

 

 

 

「ああ…。」

 

 

 

『流石に不味いぞ!何とかして旗艦にダメージを食らわせないと。若しくはコイツらの内一隻でも撃ち…。』

 

 

 

「駄目だ…。」

 

 

 

『何だと!?』

 

 

 

「キリシマ、超兵器はヒュウガの解析通り、大戦艦での処理域を超えて来ている。格上との遭遇をシュミレートしていない我々では勝てない。」

 

 

 

『じゃあどうするんだよ!』

 

 

 

「堪えるしかない。逃げ回って堪えて、そして全員が合流するのを待つしかない。」

 

 

 

『そんなみっともないマネ、大戦艦である私達が出来るわけ無いだろ!』

 

 

 

「だがするんだ!」

 

 

 

『は、ハルナ…お前。』

 

 

 

彼女にはらしくない語調に、キリシマは思わずたじろぐ。

 

 

 

 

「少しだが、人類の事を理解出来た気がする。人類は格上である私達に戦略と数を以て立ち向かって来た。結果としては我々の圧勝であったが、かなりの時間を割いた事は確かだろう。そして陸地に追いやられて尚、彼等は機会を待ち続けた。私達に対抗するチャンスをな…そしてそれは訪れた。」

 

 

 

『401…か。』

 

 

 

「ああ。我々もそうする時が来たのやもしれん。ウィルキアの艦長が言っていた【超兵器を倒すには世界の協力が必要】と言うのはこの事だったのだ。単一の存在では勝てない。ならば全員で当たる他はない。だから私達がするべき事は超兵器艦隊を壊滅させる事じゃない。機会をまつんだ。」

 

 

 

『理解出来なくはないが私は…。』

 

 

 

「キリシマ…何故人間はあんなに必死で私達に挑んで来たのだろうな…。」

 

 

 

『何だよ急に。』

 

 

 

「私達の前に没した人間の数は、恐らく千や万では下るまい。その一人一人には、大切な者を持つ者だっていた筈だ。なのに立ち向かって来た。死ねば二度と再生は叶わぬと知っていながら…。」

 

 

 

『………。』

 

 

 

「私は今、彼等の気持ちを少し理解出来た様な気がする。敵の刃が大切な者へと至らぬ様にする為の¨覚悟¨。そして同時に…。」

 

 

 

ハルナのコアは、遠く離れた海にいる蒔絵の姿を投影させる。

それと同時に、彼女のコアに漠然として捉えられていなかったものが鮮明に浮かび上がって来た。

 

 

 

 

「大切な者に二度と再会出来ぬ¨恐怖¨。これらを強く知覚した。」

 

 

 

『ハルナ…。』

 

 

 

「そう…私は今、【恐い】のだ。自身を失い、蒔絵に会えぬ事が恐くてたまらないのだ…。」

 

 

 

 

『っ…!』

 

 

 

キリシマは驚愕する。

 

長年連れ添った姉妹艦の中でも、特に感情の起伏に乏しかったハルナの声は震えていた。

 

 

まるで本当の人間が恐怖し、今にも泣き叫んでしまうかの様に。

 

 

 

そんな彼女に触発されたのか、キリシマのコアにも不安の二文字が浮かび上がる。

 

 

それと同時に、直接的な戦闘力を持たなくとも、彼女達の精神的支柱である蒔絵の存在が如何に大きなものであったのかを痛感させられる事となった。

 

 

 

 

現状は停滞し、それを打破する鍵はシチリア島南西部で戦うもえか達の動きに掛かっていることは言うまでもない。

 

 

 

 

キリシマはシチリア島へと視線を向け、向こうで戦う者達を思う。

 

 

兵器である自身が、まさか他者の…しかも人類にこう言った感情を抱く日が来るとは想像もしていなかったであろう。

 

 

 

それは正に¨祈り¨にも似た¨期待¨に他ならなかった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

ポーン…ポーン…。

 

 

「タカオ、アクティブソナーを使用!」

 

 

 

「何!?それじゃ敵に自分の位置を知らせていみてぇじゃねぇか!」

 

 

 

真冬は、もえかの行動に驚愕を覚えた。

 

 

尾張から発艦した航空機達は、しきりに海中を攻撃し、水柱が何本も撃ち上がる。

 

 

 

 

異世界艦隊とハルナの合流を阻まんとする超兵器艦隊の攻撃は苛烈さを増していた。

 

 

 

特に尾張の攻撃は凄まじく、弁天の主砲の射程範囲外から大口径砲とミサイルを手当たり次第に撒き散らし、発艦した航空機達からの攻撃も激しさを増す。

 

 

 

その余りにも凄まじい砲火に、弁天だけではなくメアリースチュアートも、接近すら叶わない状況が続いていた。

 

 

 

 

更にそれだけではない…。

 

 

 

「平賀!知名の奴にアクティブソナーの使用を止めさせるように伝え…。」

 

 

 

ボォン! ボフォオ!

 

 

 

「くっ!あぁっ!」

 

 

「きゃああっ!」

 

 

 

弁天の防壁に突如砲弾が直撃し、すぐ近くをヴィントシュトースが有り得ない速度で通過して行く。

同時に、砲弾が来た方角とは反対側の空間からいきなり炎が吹き出し、弁天を包み込む。

 

 

 

光学迷彩戦艦パーフェクトプラッタの火炎放射砲である。

 

 

 

プラッタ級の位置を把握でき、尚且つ機動力があるタカオを海中に追いやり、メアリースチュアートを尾張が引き付けている事で自由を得た二隻の超兵器は、狙いを弁天へと絞り込んでいた。

 

 

 

「くそっ!鬱陶しい…。」

 

 

 

超兵器の中では低級であるが、二隻同時の相手は弁天にとって過剰と言う他はない。

 

 

 

真冬は回避と迎撃の指示を飛ばして逃げ回る。

 

 

超兵器戦の初陣となった弁天にとっては苦しい我慢の時間は続いていた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

「艦長、弁天が!」

 

 

 

「………。」

 

 

 

エミリアの悲鳴に、ヴェルナーは苦い表情を浮かべる。

 

 

 

(正直余裕がない…。何か打開点は無いのか…。)

 

 

 

 

尾張の正確なアウトレンジ攻撃は、メアリースチュアートを疲弊させる。

 

 

 

彼の本音は、勿論弁天を援護したいと思うところであろう。

 

しかし弁天へ近付けば、双胴と言う特性を有する尾張の凄まじい砲火がほぼ一点に集中する事を意味していた。

 

 

 

故に、戦略的に重要である空母が敢えて尾張と対峙することで、弁天へ向かう砲撃を分散させている訳だが…裏を返せば、完全に二分した超兵器をメアリースチュアート一隻で相手にするのは困難であり、況して此方に砲撃を集中させている尾張の攻撃を捌くので手一杯な状況であった。

 

 

 

「知名艦長…。」

 

 

 

彼は海中に追いやられたもえかを思う。

 

 

 

状況の打開の鍵はタカオが握っていることは明らかだった。

 

 

 

一方、上空では一宮が率いる航空隊が激しい空中戦を繰り広げている。

 

 

 

 

「よぉしいいか!ビビってハグレちまったらお陀仏だ。俺のケツにピッタリ付いてこい!タカオを攻撃してる攻撃機を狙う。里中と三嶋の小隊は俺達攻撃隊を援護しろ!」

 

 

 

『『はっ!』』

 

 

 

航空隊は美しい編隊を組、敵戦闘機の間を掻い潜りながら海中にいるタカオを袋叩きにしている攻撃機達に照準を絞って行く。

 

その間は凄まじい数の戦闘機が一宮達に殺到するが、里中耕吉と三嶋武男

率いる戦闘機小隊が露払いをし、ミサイルや航空バルカン砲の直撃を受けた敵機が火を噴き上げながら海へと堕ちて行く。

 

 

 

「いいか!ギリギリまで引き付けろ!」

 

 

『た、隊長!しかし、凄い数の敵機です!』

 

 

 

「馬鹿野郎!勇気を奮い起こせ!露払いの三嶋達を信じるんだ!今は目の前の事だけに集中しろ!……今だ、俺に続け!FOX2!」

 

 

 

『は、はっ!FOX2!』

 

 

バシュオォ!

 

 

 

空対空ミサイルが白い尾を引きながら敵機へと飛翔する。

 

 

 

 

(奴らにとってタカオはよっぽと邪魔な存在らしいな。対潜攻撃に夢中でろくに回避する素振りすらみせない。…だが!)

 

 

 

ボォンボォンボォン!

 

 

 

ミサイルは敵機に次々と命中。

鋼の機体が瞬く間に千切れて四散し、ボチャボチャと海面に無惨な姿を晒す。

 

 

 

 

(これはチャンスだ。タカオの居場所が割れているせいなのか、敵機が一ヶ所に集中してる。叩かない手はない!)

 

 

 

一宮は、編隊の立て直しを指示し旋回すると、再び敵機の群へと突っ込んで行った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「対潜弾多数、来るわ!」

 

 

ボォンボォン!

 

 

 

「あぐっ!」

 

 

超兵器と航空機からの容赦ない攻撃で、タカオの頭上の海中は引っ掻き回され、衝撃が船内を激しく揺らす。

 

 

 

重巡洋艦が潜航すること自体は極めて驚愕の事実であるが、潜水艦とは異なり突起の多い船体は、海中を自在に進むのには不向きであり、また隠密性に於いても船体形状や騒音の観点からしても不利であった。

 

 

 

更にアクティブソナーの使用によって周囲に自らの存在を知らしめていることで、海中に潜むメリットはほぼ皆無と言っても良いだろう。

 

 

だが、もえかは敢えてその行動を選択した。

 

 

 

「タカオ、私達の現在位置は?」

 

 

 

「弁天に近付きつつあるけどいいの?私達と一緒に航空機の群を呼び寄せてしまうわよ?」

 

 

 

 

「¨アレ¨に気付かれる訳にはいかない。この爆音を利用してうまく誘導して!」

 

 

 

「了解。でもまだ問題があるわ。」

 

 

 

「解ってる。パーフェクトプラッタの位置がまだ掴めない…。」

 

 

 

 

キリシマが離脱し、タカオが海中に潜った事により、パーフェクトプラッタを視認出来る存在が居なくなった。

 

 

その為、異世界艦隊のレーダーには超兵器の存在が写しだされなくなり、再び敵の自由を許している状態が続いていたのだ。

 

 

 

「パッシブソナーから周囲の爆音を取り除いて超兵器の足取りを聞き取れないかな…。」

 

 

 

「とっくにやってるわ。でも動きが解るのは味方の動きとヴィントシュトースくらい。さっきパーフェクトプラッタが弁天を襲撃したみたいだけど、周囲からは何も観測出来なかったわ。」

 

 

 

「何らかの偽装工作を施しているのかな…。ねぇタカオ。逆にピンの反応が¨全くしない¨地点を洗い出せる?」

 

 

 

「どう言うこと?」

 

 

 

「この世界は音で満ちている。戦闘の音だけじゃない。波の音だってあるし…艦が動けば普通なにがしかの反応がある筈なの。もしそれが全く無いんだとしたら逆に不自然じゃない?」

 

 

 

「成る程…確かに試してみる価値は有りそうね。」

 

 

 

ポーン…ポーン… 。

 

 

 

タカオは再びピンを打ち、演算をソナーへと集中させる。

 

 

すると…。

 

 

 

「!」

 

 

 

「どう?」

 

 

 

「見つけた!この海域のある場所に、全く音が反響しない地点があるわ。それも高速で移動してる…。」

 

 

 

「…いる。タイミングと位置を合わせて!絶対気取られちゃ駄目!」

 

 

 

「解ってるわ。」

 

 

 

 

タカオは全センサーと演算を集中させる。

 

 

 

 

「近い…。」

 

 

 

「じゃぁ…。」

 

 

「待って!まだ目標には達していない!」

 

 

 

「………。」

 

 

二人に極限の緊張が走る。

 

特に海上での救助が主任務であるもえかには、艦橋の外に見える海中の暗闇や頭上の爆音と行った潜水艦の乗組員が受けるのと同様ストレスは堪えるに違いない。

 

 

 

 

「もう少し…もう少しで…。」

 

 

 

彼女の言葉に、もえかは額に汗を滲ませながら沸き上がる焦りを抑え込む。

 

 

 

その時だった。

 

 

 

「来た!超兵器二隻、目標地点に到達!」

 

 

 

「機関停止!アクティブソナーも切って!」

 

 

 

ゴオオ…………。

 

 

 

 

海中でタカオの船体が停止し、頭上には航空機からの対潜攻撃の音だけが虚しく響いた。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

超兵器は弁天に接近し、苛烈な攻撃を加え続けていた。

 

 

 

だが、

 

 

 

《!》

 

 

 

海中から聞こえていたソナーの音が突如として消滅したのである。

 

 

 

二隻は速度を落とし、弁天に牽制程度の砲撃を加えながら辺りを警戒し、それに呼応するかの様に、航空機達も対潜攻撃を中断する。

 

 

 

もえかの読み通り、彼等わはタカオの存在を意識していたのだ。

 

 

 

しかし、凄まじい対潜弾の爆音が海中を支配し続け、中々探知することが出来ない。

 

 

 

彼等は葛藤していた。

 

 

距離を取ろうと動き出した処への奇襲か若しくは隙を突いてタカオ自体が距離を取って浮上するか…。

 

 

 

または、裏をかいてその場に留まり、浮上ないし奇襲のタイミングを窺っているか…。

 

 

 

いずれにせよ、長期間タカオを見失う事は彼等にとって不利なりうる事は明らかだった。

 

 

 

 

 

故に彼等の出した結論とは…。

 

 

 

 

バシュッ…ズボォウン!

 

 

 

タカオを見失った地点への攻撃の再開である。

 

 

 

 

しかし、安直な理由でそうした訳ではなかった。

 

 

先ずはタカオ位置についてだが、彼女船体は潜航するには大きく、エンジンが発する騒音も巨大であるため、401の様に潜航しながら自由に動けるわけではない。

 

 

故に、奇襲を狙って移動する可能性が低い以上、タカオはその場に留まっている可能性が高かった。

 

 

 

そして何故、急にソナーや機関を停止したか。

それは隠れたいからではない。

 

 

¨時間を稼ぐ¨為だ。

 

 

なんの為に?

 

 

超兵器が現状で最も恐れるべき兵器は超重力砲であろう。

 

 

 

だが、このような至近距離からロックビーム無しでは、機動力が勝るヴィントシュトースやパーフェクトプラッタに当たる可能性は低い。

 

しかもどちらか一隻を捕まえたとして、もう片方の超兵器や航空機がフリーの状態ではかえってタカオに不利状況になってしまう。

 

 

故に彼等は、ロックビーム無しでの超重力砲発射を狙っているのだろうと踏んだ訳だが、それだけなら彼等がここまで焦る必要は無いのかもしれない。

 

 

 

 

だがもし、タカオの狙いが¨彼等ではない¨としたらどうだろうか。

 

 

 

思えば不自然だった。

 

 

 

タカオが当初攻撃を仕掛けたのは¨尾張¨だった筈なのだ。

 

 

なのに潜航した途端、タカオは此方に反転し、あたかも《自分はここにいるぞ》と言わんばかりにソナーを使用して接近してきた。

 

 

 

そして尾張本体から航空機を引き離し、海中に対潜攻撃をさせることで超兵器達のソナー感度を低下させ、そのタイミングで姿を眩ましたのだ。

 

 

勿論超兵器達は、攻撃の手を緩めてタカオを探すだろう。

 

 

もしその¨時間¨こそが、彼女の狙いだとしたら…。

 

 

 

完全に意表を突く形で尾張が狙撃されてしまう。

 

 

 

艦隊旗艦であるヨトゥンヘイムがいるシチリア島へ異世界艦隊を向かわせない為に、現状で最も力を有する尾張が沈む事は許されない。

 

 

二隻の超兵器と航空機達は、苛烈な攻撃を海中に叩き込んで行く。

 

 

 

すると…。

 

 

 

ゴオオ…。

 

 

 

当たりだ。

 

 

 

最後にタカオを探知した付近から、重力子エンジンの発する独特の音が響いてくる。

 

 

 

彼等は更に激しい攻撃を海中に放って行く。

 

 

 

だがその時。

 

 

 

バジィイ…グゥオオン!

 

 

 

突如、超兵器の後部に何かが着弾し、スクリューが抉り取られていった。

 

 

 

そして…。

 

 

 

ボォン!

 

 

 

爆音が轟いて、海上に二本の煙が立ち上る。

 

 

超兵器は、予期せぬ攻撃によって被弾し、炎上していた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「やったの!?」

 

 

 

「ううん、漸く足掛かりを掴んだだけ…油断せずに行こう!」

 

 

 

「解ったわ!」

 

 

 

もえかはタカオに向かって大きく頷くと、一度大きく息を吸い込む。

 

 

そしてカッ!と目を見開いて声と共に一気に息を吐き出した。

 

 

 

「反撃…開始!」

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


最後は正に化かし合いと行った展開でした。



果たしてハルナ達は、もえか達の合流まで耐えられるのか…。


異世界艦隊は、尾張を突破できるのか?



次回まで今しばらくお待ちください。


それではまたいつか。



































とらふり! もえかのアブナイ【ミケ日誌】


もえか
「見える…。」



タカオ
「どうしたのよ藪から棒に…。超兵器の行動でも読めたの?」




もえか
「ミケちゃんは今、大好きなカレーを食べている。勿論デザートには黒蜜がたっぷりとかかった餡蜜とセットで!」




タカオ
「カレーと餡蜜…合うとは思えない組み合わせだけど…って、今の私達の状況となんの関係性も無いでしょ!?大体どうしてそんなことが解るのよ!」



もえか
「ミケちゃんはここぞって仕事の終わりには必ず辛口のカレーを食べる。それは間違いない。そして、口の中に広がったピリリとした感覚を餡蜜の優しい甘さで癒して行く。その瞬間がミケちゃんにとって最も至福な時間なの。」



タカオ
「色々突っ込みたいけど、とにかく続けて…。」



もえか
「そしてお風呂ははれかぜメンバー最速の273秒で済ませ、歯は右の上から磨いてイルカの刺繍が入ったピンクのパジャマを来て、そしてとても可愛い寝顔で眠る。寝言でムニャ~とか言っちゃって…。」




タカオ
「もうダメ、突っ込ませて!我慢できない!最後の方は絶対部屋に忍び込んで見てるでしょう!?それはストー…。」




もえか
「ああっ!聞こえなぁい!ああっ!時系列的には同時進行なのに、随分永いこと会ってないみたい。早く…ああっ早く!ミケちゃん!」




タカオ
「ダメだ…早く超兵器倒して会わせてあげないと…。」


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振り上げられる巨人の鉄槌 VS 超兵器

大変長らくお待たせいたしました。


地中海海戦 中盤戦です。


それではどうぞ!


   + + +

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

 

弁天を執拗に攻撃していた超兵器二隻の突然の被弾に、真冬は驚愕していた。

 

 

 

「か、艦長!ヴィントシュトース速力68ktに低下!更に、パーフェクトプラッタがいると思われる地点から黒煙並びに航跡を確認!此方も速力が落ちている模様!」

 

 

 

「知名か!?尾張を狙っていたんじゃねぇのかよ…。だか、これはチャンスかも知れねぇ。噴進魚雷を準備!超兵器にカマしてやれ!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

艦内は安堵と共に慌ただしさがまして行く。

 

 

一方のもえかは、タカオに向かって大きく頷いていた。

 

 

 

「上手く行ったわね!」

 

 

「まだ油断はできない。引き続き潜航してチャンスを伺おう!」

 

 

「了解!」

 

 

ゴオオ…!

 

 

 

タカオのエンジンが唸りを上げて再び動き出す。

 

 

 

もえかの発案した作戦は見事に成功していた。

 

 

 

勿論、尾張打倒はもえかの頭にある最重要問題であることは言うまでも無いだろう。

 

だが、弁天に張り付いた超兵器を振り払わない限り、後世への憂いを残しかねないのもまた事実であった。

 

 

しかしながら、簡単に浮上させてくれる程相手もバカではない。

 

 

故にもえかは、海中に閉じ込められた現状を逆に利用しようと考えたのだ。

 

 

 

先ず第一段階として、アクティブソナーを打ちながら尾張から距離を取り、弁天へと向かって行く。

 

 

これにより、尾張周辺の航空機を引き付け、メアリースチュアートの負担を軽減すると共に、弁天を攻撃している二隻の超兵器の目も引き付け、こちらを攻撃させることで弁天への負担も同時に軽くすることができる。

 

 

 

第二段階として、もえかはタカオにミサイルキャニスターの製造を指示し、それを遠隔操作して所定の位置へと移動させ攻撃のチャンスを窺う。

 

 

 

存在感を露にし、対潜弾が大量にばら蒔かれた事で、海中に爆音が轟いてキャニスターの居場所を巧みに隠蔽することに成功したのだ。

 

 

 

もえかはそのタイミングですかさずアクティブソナーと機関を停止させる事を指示し、姿を眩ませる。

 

 

 

だが、隠れる事が目的で行ったわけではなかった。

 

 

 

潜水艦である401とは異なり、水上艦であるタカオは海中での行動に向いていない。

 

 

故に相手からの攻撃は直ぐに再開されたことからみても明らかだろう。

 

 

 

彼女の本来の目的は、一瞬でも姿を眩ます事で、敵にタカオからの奇襲ないし逃走からの浮上、そして弁天への救援と見せかけての超兵器尾張に対する超重力砲での一発逆転の一手を匂わせ、動きに迷いを生じさせる事にあったのだ。

 

 

 

案の定、タカオに向けられた対潜弾の数は先程からの比ではない。

 

 

 

獲物が餌に掛かったこと確信したもえかは、更に深く敵が針に掛かる為、攻撃の再開と同時にエンジンを始動させ、クラインフィールドに穴を開けて敢えて騒音を振り撒いた。

 

 

これによりタカオの位置を特定した相手の目は、此方に集中する。

 

 

 

このタイミングで彼女はキャニスターに込められた侵食弾頭の発射を指示、これには超兵器も全く対応できず被弾を許す事となったわけだ。

 

 

 

更に付け加えるなら、もえかが狙っていたのは、超兵器の推進装置であった。

 

 

巨大な船体を有する超兵器を一撃で撃沈することは事実上不可能であり、小笠原ではれかぜを苦しめた高機動戦闘艦であるシュトゥルムヴィントが、推進装置を破損したことで撃沈出来た教訓を生かして、超兵器二隻の足を奪う作戦に撃って出たのである。

 

 

 

それに付け加え、姿が見えないパーフェクトプラッタに対しては、侵食弾頭を2発使用し、片方を推進装置へ、もう1発を後部にあるアンテナに向かって発していた。

 

 

パーフェクトプラッタの特徴とも言える長いアンテナは、周囲の海面の映像を高度に編集し、投影することで、自身が発する航跡を巧みに隠蔽していた。

 

 

それを破壊することによって、弁天からの視認が可能になれば、対応する事も不可能ではなくなる。

 

 

 

彼女の目論みは的中し、超兵器二隻の速力は低下。

更に爆煙と航跡によって存在が露呈したパーフェクトプラッタの攻撃を弁天は見事に迎撃していたのだ。

 

 

 

だが、もえかに油断の二文字は存在しない。

 

 

 

「タカオ、次の作戦に移ろう。」

 

 

 

「解ってる。パーフェクトプラッタを狙うのね?」

 

 

 

「うん。でも¨あちら¨の様子も随時観測して!少しでもチャンスがあれば叩く!」

 

 

 

「了解。いつでも行けるようにするわ。」

 

 

 

二人は互いに頷くと、前を見据えた。

 

 

 

タカオは未だ潜航を継続し、超兵器への距離を詰めて行く。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「魚雷、攻撃始め!」

 

 

「了解!」

 

 

 

バシュ!バシュ!

 

 

 

弁天から短魚雷が発射され、足を失ったヴィントシュトースに水柱が複数上がる。

 

 

 

しかし、相手の応戦も激しい。

 

 

 

ミサイルや光学兵器、そして魚雷と今まで以上の苛烈な砲撃を弁天へと見舞って来た。

 

 

 

「ミサイルと誘導魚雷を優先的に迎撃しろ!油断するんじゃねぇぞ!速度は落ちたが、普通の艦艇よりも速い。馬鹿正直に殴り合ったら勝ち目はねぇ!」

 

 

 

「艦長!敵主砲が回頭中!此方を狙ってきます!」

 

 

 

「距離を取れ!魚雷装填準備!奴の左舷に攻撃を集中させろ!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

直後。

 

 

 

ボォン!

 

 

「あぐっ!」

 

 

ヴィントシュトースから放たれた主砲弾が、弁天の至近で炸裂し、防壁で軽減しきれなかった衝撃が艦を激しく揺らす。

 

 

 

「畜生…。」

 

 

真冬は歯を食い縛り、超兵器を睨み付ける。

 

 

 

まるで開き直ったかの様なヴィントシュトースの砲撃は、先程迄の比ではなく、被弾による動揺など微塵も感じられなかった。

 

 

 

クルー達も、その機械的な脅威を肌で感じる。

 

 

だが、敵は攻勢を決して緩めたりはしない。

 

 

 

更には…。

 

 

 

「艦長!正面から敵機多数!」

 

 

 

「ちっ!至急迎撃を…。」

 

 

「間に合いません!」

 

 

「クソッ!少しでも防壁を温存したいってのにっ!」

 

 

 

真冬が、やむを得ず防壁の展開を指示しようとしていた時だった。

 

 

 

ボボォオ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

弁天に狙いを定めていた航空機の一機が爆発し、機体がバラバラに砕け散りながら海へと落下して行く。

 

 

 

危険を察知した敵機の群れは散開し、その後を一宮率いる航空隊が追撃して行った。

 

 

 

 

「今だ!一機ずつ確実に落とせ!深追いはするなよ!」

 

 

『はっ!』

 

 

 

彼の指示で、編隊が方々に散って行く。

 

 

 

「助かったぜ…。よし、油断せずにこのまま奴を叩くぞ!」

 

 

 

「了解!」

 

 

弁天は優れた旋回性能を生かし、超兵器を追い詰めて行く。

 

 

 

 

一方もえかはパーフェクトプラッタを追っていた。

 

 

 

「どう?追える?」

 

 

 

「バッチリね。さっきの攻撃の際に艦の静穏性が失われたみたい。」

 

 

 

「魚雷を中心に攻撃を続けて!尾張への警戒も怠らないで!」

 

 

 

「了解!」

 

 

バシュ!バシュ!

 

 

 

タカオから大量の魚雷が発射さられる。

 

 

対するパーフェクトプラッタも、迎撃に加えて対潜弾を海へと叩き込んでおり、互いの壮絶な殴り合いへと発展する。

 

 

 

しかし、もえかはある違和感を感じていた。

 

 

 

(パーフェクトプラッタの位置があまり変わっていない?……あっ!)

 

 

 

彼女は思わず天を仰ぐ。

 

 

「ど、どうしたのよ?」

 

 

 

「まずい…。」

 

 

「え?」

 

 

「ヨトゥンヘイムが発射の準備を始めてる。」

 

 

 

「そんな、だって…。」

 

 

《§∴8∂Y∝G327°‡412°Åф…。》

 

 

 

《╋、┻、┳、┫、┣、┼、┷!》

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

「タカオ?」

 

 

「アンタの予感、当たったみたいよ…。」

 

 

 

「!」

 

 

 

「キリシマが検知した超兵器のカウントダウンらしき通信を傍受したわ。…でも。」

 

 

 

「どうしたの?」

 

 

 

 

「キリシマの話だともっとノイズが入って聞き取りにくかったみたいだけど、今回は凄く¨鮮明¨に聞こえたわ。」

 

 

 

「…………。」

 

 

 

彼女は、次々と沸き上がる不安を拭い去る事が出来ない。

 

 

 

 

(何?…何なの?ダメ!考えなきゃ!思考を止めちゃダメ!)

 

 

 

もえかは、タカオと超兵器との応酬の雑音に惑わされぬよう意識を集中させ、相手の思考の先を追って行く。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

『ああっなんだよ!しつこいっ!アイツ速すぎて攻撃が当たらない!』

 

 

 

「此方も再び超兵器から攻撃を受けている。」

 

 

 

キリシマとハルナは、弾薬補給を終えたジュラーヴリクとヴィルベルヴィントに翻弄されていた。

 

 

いや、実際その二隻だけなら良かったのだろうが、駿河や小型艇からひっきりなしに飛んでくる攻撃が彼女達を苛立たせる。

 

 

更には、

 

 

 

『ヨトゥンヘイムがレールガンの発射体勢に入っているぞ!』

 

 

 

艦隊旗艦であるヨトゥンヘイムは、超巨大なレールガンの連結を完了し、発射のエネルギーを蓄積していたのだ。

 

 

 

 

「とにかく向こうに知らせろ。キリシマ、奴がさっきアレを放った時は何か予兆が有ったのか?」

 

 

 

『ああ…確かカウントダウンみたいな通信が有ったな。恐らくプラッタ級が位置を観測してそれを尾張がコイツに伝えてるんだと思うが…。』

 

 

 

「今は聞こえるか?」

 

 

 

『いや、¨聞こえない¨。と言うよりも妨害されているのかノイズが酷すぎる。これでは発射までどの位猶予があるのか解らないぞ。』

 

 

 

「妨害したい処だが、やはり手が足りない。せめて何か決め手が有れ良いのだが…。」

 

 

 

彼女が険しい表情をいっそう深めた時だった。

 

 

 

『ハルハル?聞こえる?』

 

 

 

「お前は…蒔絵か!」

 

 

 

蒔絵から来た突然の通信に、彼女は目を丸くする。

 

 

 

「どうした。そちらに何かあったのか!?」

 

 

 

『ううん、何もないよ。こっちは今、シュルツ艦長と群像艦長がニブルヘイムと戦ってるみたい。』

 

 

 

「はれかぜはどうした?」

 

 

 

『はれかぜは…ノーチラスを撃沈したみたいだけど、弾薬の欠乏と損傷で今は戦線を離脱してこっちに戻って来てるよ。』

 

 

 

「そうか…。」

 

 

 

ヒュウガや401からの通信で、敵が量子兵器を使用してきた事は知っていた。

 

 

だがそれよりも気になった事は、蒔絵が自分に対して連絡をよこした事だった。

 

 

デザインチャイルドである彼女は、見た目の幼さと比べて非常に頭が良い。

 

 

彼女の性能を理解している蒔絵は、常にハルナを信じて待ち続けているのが普通だと思っていた。

 

 

 

そんな彼女が連絡をよこしたと言う事は、自分を信じて貰えていないのかとハルナは少し不安になる。

 

それを知ってか知らずか、蒔絵は話を続ける。

 

 

『そんな事よりハルハル、今凄く困ってる?』

 

 

 

「あ、ああ。本当なら心配をかけたくない処なのだが…。」

 

 

 

『ううん。もしハルハルが隠してたとしても解るよ。だってトモダチだもん!』

 

 

 

「蒔絵…。」

 

 

 

『あっそうだ。話してる場合じゃないもんね…。あのねハルハル。今からそっちに新しい兵装のデータを送るから、使い時が有ったら使ってみて!』

 

 

「新しい兵器?」

 

 

『うん。え~っと…。それじゃあ送るね。』

 

 

 

チ…チ…。

 

 

 

ハルナは、自らのコアにデータが流れ込んでくるのを感じる。

 

 

 

『ちゃんと送られたかな…。』

 

 

「ああ、データの破損は無いようだ。いまから圧縮を解凍して閲覧する。」

 

 

 

チ…。

 

 

 

「!」

 

 

 

ハルナは目を丸くする。

 

 

 

「超音波振動魚雷?」

 

 

 

『うん。水にとある周波数の音波を照射すると、気泡に変化するの。それを広範囲にすることで、一時的にだけど千早艦長が小笠原のメタンハイドレートを利用したみたいに超兵器の足止めが出来る様になるよ!敵味方が狭い範囲に乱立するときは使えないんだけどね…。』

 

 

 

「いつの間にこんなものを…。」

 

 

 

『う~ん。日本を出る時から浮かんではいたんだけど、これはまだ完成じゃないんだ…。』

 

 

 

「完成ではない?」

 

 

 

『そう。本当は¨はれかぜに搭載する新兵装¨を開発している時に、副産物的に思い付いたものなの。ヒュウガが戻ってきたら新兵装の最後の調整に入りたいな。』

 

 

 

「………。」

 

 

 

『ハルハル?』

 

 

 

「蒔絵、この兵器…いや、はれかぜに搭載する新兵装には、お前が考えた¨振動弾頭¨の技術を使っているのではないか?」

 

 

 

『……!』

 

 

 

「答えてくれ!」

 

 

 

『そう…だよ。』

 

 

 

「何故だ!お前はあれほど、振動弾頭に関わること避けて来たではないか!まさか…誰かに強要されたのか?だったら私が…。」

 

 

 

『違うよハルハル…。私は自分で決めたんだよ。』

 

 

 

「!」

 

 

 

 

『あのね、私千早艦長に聞いたの、ハルハルに助けてもらった後硫黄島で…。もしかして振動弾頭以上の兵器を作るために助けたのかって…。』

 

 

 

「………。」

 

 

 

『【違うよ】って言ってくれた。でも私、どうしても不安で…ハルハルやその仲間を傷付けちゃう兵器を作った自分自身が怖くて、千早艦長に全てぶつけたの。』

 

 

 

 

彼女達がいた世界で、人類の脅威となる存在であった霧の艦隊への唯一の切り札、振動弾頭。

 

 

 

それを開発する事は、当時の¨人類¨では不可能であった。

 

 

であるなら、人類を超越した存在を¨造り出して¨しまえばいい。

 

 

 

そう考えた日本政府は、デザインチャイルド計画を立案し、蒔絵の産みの親でもある刑部藤十郎博士に研究を打診する。

 

 

 

振動弾頭の開発に頓挫していた刑部藤十郎はその計画を受諾し、デザインチャイルドを生み出して行く、その過程で多くの新たな命が失われ消費されていった。

 

 

 

そうした命を使った研究の果てに生まれたのが蒔絵なのだ。

 

 

 

彼女は藤十郎の期待に見事に答え、振動弾頭を完成させる。

 

 

しかし、それに対する政府は反応は冷淡であった。

 

 

藤十郎の下には、現デザインチャイルドの即時¨破棄¨並びに新たなデザインチャイルドの育成と更なる兵器の開発を指示する書簡が届いたのだ。

 

 

 

政府は、高過ぎる知能を有する蒔絵の存在が霧の反感を呼び、自らの都市が攻撃対象になる事が恐ろしかったのだろう。

 

 

まるで古くなり、厄介に為ったコンピュータを棄てるが如き対応に、藤十郎は愕然とせざるを得なかった。

 

 

彼は自らが生み出し、自分に笑顔を向けてくれる蒔絵を、本当の娘の様に愛してしまっていたのだ。

 

 

 

故に藤十郎は、自分を事故死に見せ掛けて行方を眩まし、蒔絵を唯一の存在として政府に保護させる道を選んだ。

 

 

 

蒔絵は政府から与えられた巨大な邸宅にて、一人過ごして行く事になる。

 

 

それが、身体は幼くともあらゆる事を理解できてしまう彼女にとって、如何に孤独であったかは想像にかたくない。

 

 

 

しかしある日、彼女は屋敷の近くにある港湾施設近くで歩いていたとき、自らの運命を左右する出合いを果たす事となる。

 

 

それが、人類の敵として絶対的な存在を誇る大戦艦ハルナのメンタルモデルとの出合いであった。

 

 

 

横須賀襲撃の際に不意を突かれて撃沈されたハルナとキリシマは、爆発の衝撃で吹き飛ばされて港湾施設で自閉モードに入っていた。

 

 

キリシマに於いては、メンタルモデルを形成するナノマテリアルすらも失ってコアのみの姿であり、身動きがとれない。

 

 

それを発見した蒔絵との出合いによって、彼女達はなし崩し的に蒔絵の屋敷へと入り込む事になる。

 

 

彼女との触れ合いにによって、ハルナのコアの中には今まで人類に抱いたことの無い感情が生まれて行く事になる訳だが、とある日の夜にハルナは屋敷に居たメイドにある部屋へと通される。

 

 

 

そこに居たの者とは、生命維持装置に繋がれた刑部藤十郎だった。

 

 

藤十郎はハルナに、今までの経緯と自らの命があと僅かである事を語り、そしてあるお願いをする。

 

 

それは、蒔絵を人類の都合でも、況して霧の都合で利用するのではなく、一人の人間の少女として生きさせて欲しい事、そしてハルナをそんな蒔絵の¨トモダチ¨になって欲しい事を託したのだ。

 

 

正直彼女は戸惑った。

 

 

兵器として生まれた彼女に、人類を守る事はおろか、トモダチになると言う概念自体が存在しなかったからだ。

 

 

しかし、その時彼女のコアが反復する数日間共に過ごした蒔絵の楽しそうな表情がどうしても離れてはくれない。

 

 

 

彼女が藤十郎にどう返答しようか迷っている時だった。

 

部屋のアラームが鳴り、屋敷に何者かが侵入した事を知らせてくる。

 

 

 

それは、屋敷の至るところに設置された監視カメラによって、蒔絵がメンタルモデルと接触したことを知った政府が、蒔絵を拉致して知識を利用する事を恐れ、彼女を殺害するために差し向けた陸軍の特殊部隊であった。

 

 

 

ハルナはナノマテリアルで蒔絵のイミテーションを造り、キリシマに彼女を護衛させて自らがお取りになるも、蒔絵が自分から出てきてしまったことで失敗に終わってしまう。

 

 

何故姿を現したのか彼女に問い質すと、蒔絵は陸軍の狙いが自分であり、ハルナ達に逃げて欲しがったと言う事、そして自らがトモダチであるハルナ達を傷付けてしまう振動弾頭を開発したことへの懺悔を口にするのであった。

 

 

 

それを聞いた彼女は、蒔絵を失いたくない大切な存在であると自覚する。

 

 

だが、陸軍の苛烈な攻撃によって彼女達は絶体絶命な危機に陥ってしまっていた。

 

 

 

だが、ハルナの危機を感知したイオナによって彼女達は救出され、ハルナは蒔絵に改めてトモダチになって欲しいと頼み、互いは共に歩むことになったのである。

 

 

 

その後、彼女達を伴った401は、蒼き鋼の本拠地である硫黄島に到着する。

 

 

 

そこでハルナは、群像に自分達を助けた理由を問うた。

 

 

 

【イオナが助けたいと言った…それではダメか?】

 

 

 

群像から帰ってきた言葉は、ハルナを拍子抜けさせる内容だったが、彼女はその言葉を信用できなかった。

 

 

 

確かにハルナが調べた401の通信ログには、政府関係者から蒔絵の殺害に介入しないよう通達がきており、彼等がそれを拒否したことは把握している。

 

 

 

だが、彼等が霧の艦隊に対する切り札である振動弾頭をアメリカに輸送していることは事実であり、それを決して破棄する事はないだろうと言うことも理解していた。

 

 

 

その上でハルナは、蒼き鋼が蒔絵を振動弾頭と¨セット¨でアメリカに身柄を引き渡して地位を得るか、若しくは振動弾頭以上の兵器開発を蒔絵自信に強いて来るのではと考えていたのだ。

 

 

でなければ、祖国の政府を裏切ってまでも蒔絵を助けるメリットが無い。

 

 

 

もしそれが事実であれば、ハルナは401と事を構える事になっても蒔絵を守り、逃亡しようと考えていたのだ。

 

 

巨大な力を有する兵器の開発は、蒔絵にとって最大の得意分野であり、そして最も彼女心を傷付けてしまう刃でもある。

 

 

 

ハルナは、彼女にそんな思いをさせるつもりは無かったのだ。

 

 

 

「蒔絵、私はお前に…。」

 

 

 

『千早艦長は言ったの、【君は自由だ。振動弾頭をどうするのか、ハルナ達とどうしたいのか。自分で好きに決めていいんだ】って。』

 

 

 

 

「千早群像がそんなことを…。」

 

 

 

『これは私が選択したことなんだよハルハル。トモダチはね、どちらが片方を一方的に守るものじゃないの。お互いに思い合うから…失いたくないって思うからトモダチなんだよ。』

 

 

 

「互いを…思い合う。」

 

 

 

『うん。私、今ハルハルがどんな顔をしてるのか解るよ。きっと哀しそうな顔をしてる。』

 

 

 

「………。」

 

 

 

『でも、私はハルハルやヨタロウと一緒に居たい。だから…あんまり役には立てないかもしれないけどこれを使って欲しいんだ。』

 

 

 

「蒔絵…。」

 

 

 

『時間を取らせてゴメンね…私、待ってるから!それじゃ…。』

 

 

 

「待ってくれ!」

 

 

 

『ハルハル?』

 

 

 

ハルナは決意に満ちた表情を浮かべた。

 

 

 

 

「蒔絵、あなたに誓おう。この半永久な者たる私が存在しつつける限り、あなたとトモダチであり、共に歩み続ける事を…。」

 

 

 

『ありがと…ハルハル。それじゃ、待ってるからね!』

 

 

 

蒔絵との通信を終えたハルナは、超兵器たちを一瞥する。

 

 

 

『通信は終わったのか?』

 

 

 

「キリシマ…聞いていたのか?」

 

 

 

『ああ…何だろうなこの気持ちは。』

 

 

 

 

「解らん。だが、これだけははっきり解る。蒔絵がコレをどんな思いで開発したのか、そしてどの様な顔だったのか。」

 

 

 

 

『………。』

 

 

 

 

「私は、一つの兵器として、また蒔絵のトモダチとして、彼女を傷付けた超兵器を決して許さん!」

 

 

 

『ああ、私も同様の結論を得た。奴等はこの手で必ず沈める!行くぞハルナ!』

 

 

 

「付き合おうキリシマ。」

 

 

 

 

二隻は同時に動き出す。

 

 

 

ヨトゥンヘイムの兵器の発射は目前であり、他の超兵器からの攻撃も激しい。

 

 

 

しかし、彼女達に迷いはなかった。

 

 

 

『ハルナ!蒔絵から送られてきた兵器情報を此方にも送れ!』

 

 

 

「了解。あと以前蒔絵が考案していた緊急に於けるクラインフィールドの効率的な運用に関する情報も添付しておく。」

 

 

 

チ…チ…。

 

 

 

二隻の大戦艦は速度を上げて、キリシマは小型艇群へ、ハルナはヴィルベルヴィントへと舵を切る。

 

 

 

「先ずは貴様等が邪魔だ!」

 

 

 

先程からハルナの後方に張り付き、ミサイルやレールガンを乱射してくるジュラーヴリクと、小型のプロペラ機程の速度を有するヴィルベルヴィントは、高速での一撃離脱を繰り返して彼女を翻弄していた。

 

 

 

ヨトゥンヘイムの主砲発射を妨害するためには、少なくともこの二つの超兵器からの攻撃を停止させ、小型艇を牽制しなければならい事は明らかだろう。

 

 

 

キリシマは、機関出力を上げて最大の演算を使用して効率的に小型艇を撃沈を開始している。

 

 

残るは超兵器のみ。

 

 

 

 

(回避能力の高いジュラーヴリクは次だ。先ずはヴィルベルヴィントを叩く!)

 

 

 

ヂ…!

 

 

 

ハルナは蒔絵からもたらされた情報を元に超音波振動魚雷をナノマテリアルで形造って行く。

その間、ヴィルベルヴィントとジュラーヴリクは絶え間なく彼女を痛ぶっていった。

 

 

だが彼女は表情を一切崩さず、魚雷の精製と敵の動向を注視し続ける。

 

 

 

ヂ…。

 

 

 

(魚雷の精製、装填、発射準備…完了。後は敵の動向を見極める!)

 

 

 

 

ハルナは事態を打開する為に一度ヨトゥンヘイムから意識を外し、ヴィルベルヴィントとジュラーヴリクへ全演算を集中させて行く。

 

 

 

ヴィルベルヴィントは猛烈な速度でハルナへと接近し、恐ろしい正確さであらゆる攻撃を僅かな時間でばら蒔いてきた。

 

 

彼女はそれを回避すること無く、敢えて貴重なクラインフィールドを稼働させて全て受けた。

 

 

再び視線を向けた時にはヴィルベルヴィントの姿はとても小さくなっている。

 

 

だが、ハルナは決心したように動き始めたのだった。

 

 

 

(今だ!)

 

 

ガガガガっ! バシュ!バシュ!

 

 

 

彼女は自身の持ち得る全ての発射官を開いて侵食弾頭を含んだ魚雷とミサイルを発射する。

 

 

 

 

100発を軽く超える弾頭群はみるみるヴィルベルヴィントへ殺到し、敵は迎撃に追われた。

 

先程比べると、明らかに単調な動きになっているのが解る。

 

 

 

そこへ…。

 

 

 

(蒔絵…使わせて貰うぞ!)

 

 

 

バシュ!

 

 

 

一発のミサイルが発射官から放たれて、ヴィルベルヴィントへと飛翔する。

 

 

蒔絵が開発した超音波振動魚雷だ。

 

 

 

それは途中で一段目が切り離されて海面に着水し、魚雷部分が更に敵へと進んで行く。

 

 

 

ハルナは敢えて回りくどい起動で他の弾頭を誘導し、ヴィルベルヴィントに迎撃させることで本命の超音波振動魚雷への注意をそらしているのだ。

 

 

 

魚雷は真っ直ぐに進んで行き、高速で航行するヴィルベルヴィントの向かう方向に先回りする起動で進んで行き…。

 

 

 

 

キィイイイイ!

 

 

 

起動した超音波振動魚雷が直径500mに渡って特殊な音波を撒き散らし、それと同時に…。

 

 

 

 

ゴボゴボゴボゴボゴボゴボ!

 

 

 

ある周波数の音波によって水分子が高速で振動を開始し、水温が一気に上昇。

それに伴って海中で大量の気泡が発生し、体積が上昇したことで気泡が海面へと飛び出して行った。

 

 

 

その様子に気付いたヴィルベルヴィントは、回避を試みようするが、ハルナの放った大量の攻撃を迎撃しようとしたが為に、直線的な動きとなり回避が間に合わない。

 

 

 

そして気泡の海へと船体が入り込んだ瞬間、ヴィルベルヴィントはまるで前につんのめる様に艦先が海へと沈み、回避しようと全力で舵を切っていた事が仇となって、思いっきり横転する。

 

 

 

気泡によって浮力を失った事が原因である事は明らかだった。

 

 

 

ハルナは、超音波振動魚雷を使用する事で海面に言わば落とし穴を作り、そこへ気付かれず誘導する為に大量の攻撃を繰り出して注意を引いていたのだ。

 

 

 

だが、彼女の追撃はまだ終わっていない。

 

 

 

横倒しになり、無様に船底を露にした超兵器が防御重力場を展開する隙を与えないため、残りの弾頭を一気に船底へと叩き込んで行く。

 

 

 

グゴォォ!ボォン!

 

 

 

侵食魚雷の命中であっさり船体に穴を開けられたヴィルベルヴィントに最早何も抵抗する術は残されていない。

 

 

 

ハルナは更に、攻勢を強めて行く。

 

 

ミサイルや魚雷に加え主砲であるレーザーも駆使し、間髪を入れず無慈悲な攻撃を超兵器に叩き込み続けた。

 

 

そして遂に…。

 

 

 

ドゴォオ!

 

 

 

超兵器機関が爆発し、日の落ちた暗闇が一瞬眩い光に包まれ巨大な船体が一瞬で粉々に爆散した。

 

 

 

遠く離れたハルナの周辺にも、今やどの部分に使用されていたのか全く解らない敵の焼けた残骸がボチャボチャと音を立てて降り注ぐ。

 

 

次に彼女は、背後にしつこく張り付いてくるジュラーヴリクを一瞥する。

 

 

 

(人間が乗っていないのだとしたら、視覚情報を頼りに回避しているのでは無いのだろうが奴の動きは厄介だ。ヴィルベルヴィントに使った戦法が使えない以上、無理に撃墜に固執すればヨトゥンヘイムに主砲の発砲を許してしまう。だが、奴の攻撃を無視する事も出来ん…ならば!)

 

 

 

ハルナは発射官を開いてミサイルを発射、ジュラーヴリクに向けて誘導を始める。

それと同時に、敵はハルナへの攻撃を中断して凄まじい起動で回避を始め、パルスレーザーでミサイルを迎撃しようと試みた。

 

 

 

しかし幾ら撃っても、ハルナが誘導し、複雑な軌道を描くミサイルは、簡単に撃墜されてはくれない。

 

 

だが不思議な事に、ミサイルはジュラーヴリクと一定の距離を保って追い掛けて来るのみで決して接触しようとはしない。

 

 

 

しかしこれがハルナの狙いであった。

 

 

3次元的な動きをするジュラーヴリクは、その複雑な軌道での回避途中に攻撃を仕掛けてこない。

 

これは、超兵器が自らの動きで砲撃の照準を合わせ難くなってしまう事が原因である訳だが、逆に回避させ続ける事が出来るならば、攻撃を受けにくくなる事と同義であった。

 

 

 

 

敵は迫り来る弾頭をパルスレーザーで撃ち落としにかかるが、撃墜を目的としないハルナのミサイルは、巧みに逃げ回り包も隙を見てジュラーヴリクに撃墜を思わせる軌道で圧力をかけている。

 

 

 

これは以前のハルナなら決して考えもつかないような判断であった。

 

 

 

 

彼女達【霧の艦隊】は、実際は¨艦隊¨とは似ても似つかない戦法を取る。

 

 

 

具体的には艦隊を組んで現れたとしても、人知を超えたセンサーで相手の位置を正確に炙り出し、個々の艦艇が、それも人知を超えた兵器を一方的に叩き込み、人類側の攻撃はクラインフィールドが有るため回避すらしないと言う極めて単純な攻撃パターンが大半であった。

 

 

 

最も、それだけでも人類にとっては脅威であったし、海に進出する全ての人類を排斥するよう命じられていた彼女達に、目の前の敵を全力で沈める以外の選択肢は無かった訳だが…。

 

 

 

しかし、超兵器と言う自らと同等の力を有した敵との遭遇を想定していなかった事は明らかであり、況して戦術を駆使してくる事も相まって、彼女達との相性は最悪と言わざるを得なかった。

 

 

 

 

¨彼女達がメンタルモデルを有していなければ¨…だが。

 

 

 

人間の思考を理解する目的で、総旗艦ヤマトからメンタルモデルを形成する事を命じられた彼女達だが、人間との接触機会が多い401は、他のメンタルモデルよりも群を抜いて創意工夫に富んだ行動を見せる。

 

 

そしてハルナやキリシマも例外ではなく、群像達に保護されて以降、様々な思考に触れる機会を得ていた。

 

 

 

それにより、自分達だけで処理しきれない案件を、大勢で連携して解決していく手法に気付いたのだ。

 

 

 

 

「ジュラーヴリクは足止めした。キリシマ!」

 

 

 

『展開する小型艇の七割を撃沈した段階で奴等はデュアルクレイターと共に距離を取り始めた。今なら行けるんじゃないか?』

 

 

 

「了解した。念のため駿河にも注意を向けておく。」

 

 

 

『よし!では始めるぞ!』

 

 

 

ゴォオ!

 

 

 

キリシマの船体が展開され、中から円形の超重力ユニットが出現する。

 

 

 

超重力砲の発射体勢に入ったのだ。

 

 

 

「時間がない。演算を消費して不意を突かれないようにする観点からも、出力は30%程度で撃て。そうすれば、エネルギーの縮退に要する時間を短縮出来る。」

 

 

 

『出力が低下するから抜けるかどうかは解らないぞ?』

 

 

 

「構わん。手傷を負わせるだけでいい。最悪敵が無傷でも、発射を妨害出来れば次へ繋がる。不安なようなら、超重力砲の条線を細く絞り込んで、威力を上げろ。」

 

 

 

 

『了解。』

 

 

 

 

キリシマはエネルギーの蓄積を開始し、それと同時に、ハルナは周囲への警戒に全演算を費やして行く。

 

 

 

そこで彼女はある違和感に気付いた。

 

 

 

(駿河が、ヨトゥンヘイムから距離を取り始めた?)

 

 

 

 

確かにこのタイミングで艦隊旗艦から距離を取るのは不自然だった。

 

そして、先程まであれほど砲撃をしてきたのにも関わらず、今は牽制程度の砲撃しか行っていない。

デュアルクレイターにしても小型艇を引き上げさせ、自らもキリシマから距離を取っている。

まるで¨撃って下さい¨と言わんばかりなのである。

 

 

(………。)

 

 

ハルナは眉を潜め、コアに沸き上がるある種の警鐘の様なものを感じヨトゥンヘイムを見つめた。

 

 

 

(おかしい…キリシマの戦闘ログにあったヨトゥンヘイムの主砲発射に要する時間を超過している…まさか!)

 

 

 

彼女はその不穏な¨予感¨にとある確証を得る。

 

 

 

(奴は既にエネルギーの充填を終えて、発射可能な状態になっているのか?だとすればなぜ発射しない…。何か見落としがあったのか?)

 

 

 

ハルナがそう思った時だった。

 

 

 

『ハルナさん!』

 

 

 

「その声は…知名もえかか?一体どうして…。」

 

 

 

『そんなことより早く退避を!敵の…ヨトゥンヘイムの狙いはハルナさん、あなた達です!』

 

 

 

「!」

 

 

 

彼女の言葉にハルナのコアは、より一層強い警鐘をならすのだった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

《╋、┻、┳、┫、┣、┼、┷!》

 

 

 

「いつまでカウントダウンしているつもりなのかしら…。キリシマの戦闘ログによると、とっくに撃ってきてもおかしくないわよ?」

 

 

 

 

「………。」

 

 

 

もえかは必死に思考を巡らせる。

 

 

 

ヨトゥンヘイムからの砲撃の可能性を各艦に伝えたことにより、異世界艦隊は動きを止めず動き回っている。

 

 

最も、それで防げる程あの攻撃は甘くは無いのだが、超兵器への攻撃を中断して動き回るこの状況はイタズラに時間を浪費してしまっている。

 

 

 

 

(時間がないって言うにっ…!)

 

 

 

もえかは苛立つ気持ちを何とか押さえ込んで、敵の思考を追って行くが、焦りがそれをどうしても邪魔をしてしまう。

 

 

 

(何か…何か情報が欲しい!)

 

 

 

彼女はタカオに視線を向けた。

 

 

 

「状況は芳しくないわ。何かあるならハッキリ言いなさい!」

 

 

 

「タカオ…うん。ありがとう。情報が足りないの。キリシマに連絡は取れるかな?」

 

 

 

「了解。」

 

 

 

チ…。

 

 

 

『なんだよ!今、超重力砲の制御中だから忙しいんだ!』

 

 

 

 

「キリシマ、お願い!ヨトゥンヘイムの状況を教えて!超兵器のカウントダウンが開始されてから随分たつけど、そっちで何か妨害してるの?」

 

 

 

『はぁ!?カウントダウン?何の事だ?確かに発射体勢になってそっちを狙っているようだが、そんなもの聞こえてないぞ?』

 

 

 

「え?タカオにはハッキリ聞こえてるって…。」

 

 

 

『距離が有るからな、私達に上手く届かないだけじゃないのか?』

 

 

 

有り得ない…。

 

 

もえかはそう思った。

そもそも、このカウントダウンは、シチリア島の向こうに展開するヨトゥンヘイムに、パーフェクト・プラッタが観測した異世界艦隊の位置情報を元に、尾張が発射タイミングを伝えるために発信しているものなのだ。

 

 

故に、ヨトゥンヘイムに届いて、付近にいるハルナ達に全く聞こえない事は有り得ない。

 

 

つまり、このカウントダウンは意図的に流されている可能性が出てきたのだ。

 

 

 

(これはブラフなの?いや、でもキリシマが観測したヨトゥンヘイムは、間違いなく此方を狙っている様な動きを見せている。じゃあ、わざわざ此方に発射を匂わせる通信を流してきた理由は何?まるで、【狙いはお前達だ】と知らせんばかりに…。)

 

 

 

ここへ来ての新たな疑問に、もえかは困惑を隠せない。

 

だが、躊躇している暇は皆無であり、疑問に対する解決の糸口を速やかに探し出す必要があった。

 

 

その為彼女は直ぐ様キリシマに声を張る。

 

 

「キリシマ、そちらに展開する敵艦艇の位置を観測してリアルタイムでマーキング!こっちに送って!」

 

 

 

『だから今、超重力砲を…。』

 

 

「早く!」

 

 

 

『あ、ああ。解ったよ!』

 

 

彼女の覇気を帯びた声に圧され、キリシマは渋々観測を開始する。

 

 

 

『送るぞ!』

 

 

チ…チ…。

 

 

 

「来た、今モニターに出すわ。」

 

 

ピッ!

 

 

 

「……。」

 

 

 

彼女はモニターを凝視する

 

 

画面に写し出された映像には、キリシマやハルナの位置だけではなく、超兵器や小型艇の位置が表情されていた。

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

彼女はハルナ同様の違和感を感じる。

 

 

 

(駿河の動きが不自然だ…何故このタイミングで?)

 

 

 

モニターの右下に表示された縦に三隻が連結したものがヨトゥンヘイムのマーカーであり、その本体と思われる戦艦部が赤く色分けされ【flag ship】の表示が成されている。その隣に位置していた駿河は、ゆっくりと後退しつつ方向を変え、艦首の先をヨトゥンヘイム最後尾である空母部へ向け、数百m離れた位置に停止していた。

 

 

 

巨大レールガン発射に際してエネルギーを充填し、防壁が多少なりとも薄くなるであろう状況に、護衛が離れるのは不自然と言わざるを得ない。

 

現にキリシマの言から、その隙をついて超重力砲を発射しようとしていることからも、敵が現在無防備になっている事が解る。

 

 

 

(何かがおかしい…考えなきゃ!超兵器の目的を……ん?目的?)

 

 

 

もえかの頭に、モヤモヤとした何かが形を作ろうとして行く。

 

 

 

 

(そうだ、超兵器の目的は全人類の滅亡。だとすれば、彼等の動きはもっと大きな理由で動く筈。大きな理由って…?)

 

 

 

《アレは現在、何らかの理由で調整中であり、身動きが取れない状況にあるのでしょう。》

 

 

 

「………。」

 

 

 

もえかは、以前のブリィーフィングで聞いた、ウィルキア関係者達の言葉を思い返す。

 

 

《もし奴が動き出せば、事態は一変します。何故ならあの艦は、¨単艦で全世界を相手にしうる戦力¨を有しているからです。》

 

 

 

 

「!」

 

 

 

彼女の顔がみるみる青ざめて行く。

 

 

 

(そうか…超兵器の行動は、全て北極海に展開する総旗艦の起動に繋がっている。だとすれば、他の超兵器の行動理念は必然的に時間稼ぎになるか、若しくは総旗艦にとって¨厄介な存在¨の排除になる。…ちょっと待って、厄介な存在?超兵器を知り尽くしたウィルキア?…違う。思い出して!この戦いで超兵器は最初何をしてきた?)

 

 

 

戦いでは、相手が自分のこれからの行動を懇切丁寧に説明してから行動を開始する訳ではない。

 

故に敵は、自らのカードの手札が明らかになっておらず、最も相手の虚を突ける最初の攻撃の意図を読む事こそが、勝敗の分かれ道となってくるのだ。

 

 

 

(最初の攻撃…。)

 

 

《煉獄作戦ヲ開始セヨ…。》

 

 

 

 

(そうだ、辺りを火の海にする攻撃…でも、あの攻撃の真の狙いは…キリシマだ!)

 

 

 

あの時、超兵器は幾重もの布石を打って、最終的にはキリシマへの奇襲を成功させていた。

 

 

 

(超兵器の情報は、今や当てに部分的なものしか当てはまらない。そう言う意味では、ウィルキアもブルーマーメイドも同じだと思う。それに¨人間¨が運用している艦は、食料の補給も必要だし、死んでしまっては替えが効かない。そう言う意味では蒼き鋼のメンタルモデルは超兵器にとっては厄介かもしれない。だとすれば大変だ!)

 

 

 

もえかは、それこそが超兵器の狙いなのではと確信を得る。

 

 

 

「タカオ!」

 

 

「な、なによ!いきなり大声だして!」

 

 

 

「フェイクだったの!」

 

 

「え!?何が?」

 

 

「ヨトゥンヘイムは私達を狙っていない。超兵器の狙いは…ハルナさんやキリシマなの!」

 

 

 

「!」

 

 

「急いで通信を繋いで!間に合わなくなる!」

 

 

 

「わ、解ったわ!」

 

 

タカオはハルナへと通信を繋ぐ。

 

 

 

もえかの胸騒ぎはどんどん激しくなって行くのだった。




お付き合い頂きありがとうございます。

地中海海戦も折り返しに差し掛かろうとしていますが、今回は蒔絵のアシストで1隻を何とか撃沈に漕ぎ着ける事が出来ました。


次回は出来るなら、数隻を…と行きたい所です。


それでは次回まで今しばらくお待ちください。

またいつか。




























とらふり!  



ハルナ
「あぁ…蒔絵!蒔絵に逢いたい!」



キリシマ
「なんだ?ホームシックか?」



ハルナ
「【ホームシック】故郷を離れ、違う風土・習慣になじめずに起こる、強い憂鬱状態。ならびに大切な者に対する強烈な依存中毒症状の発症。タグ添付…分類…記録。」




キリシマ
「間違っちゃいないが、ちょっと過保護過ぎな気もするぞ?【親バカ】でも実装したんじゃないのか?」




ハルナ
「過保護…だと?」



キリシマ
「な、なんだよ!」



ハルナ
「お前はいいさ!だって東進組が戦ってる間、演習の合間に蒔絵と連絡をとっていたのだからな!私なんかバミューダから地中海の戦闘を跨いでいるんだぞ!?それまで連載された期間を換算すると一年にもなる!一年だぞ!?」



キリシマ
「あ、あぁ…。」



ハルナ
「そこまで蒔絵をお預けにされて、更に通信で声だけだなんて余りにも殺生だ!」



キリシマ
「な、なんか…スマン。」



ハルナ
「蒔絵…もう我慢の限界だ!私は帰投させて貰う!」



キリシマ
「ま、まて落ち着け!な、なぁタカオ何とか言ってくれよぅ!」



タカオ
「愛は…人を盲目にするのよ!」



キリシマ
「ダメだ…401に助けを…。」



イオナ
「私は群像の艦…彼以外の事象には特段関知しない…きゅうそくせんこう~!」



キリシマ
「チッ!逃げやがった…最後の手段でヒュウガに…。」



ヒュウガ
「あ~ん♪早くイオナ姉さまの勇姿をアーカイブしないと…グヘヘ!」



キリシマ
「全く…ろくなメンタルモデルがいやしない…。」




一同
「クマに言われたくわない!」


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鶴の恩返し  VS 超兵器

大変永らくお待たせいたしました。



シチリア南西部の戦い、決着です。


それではどうぞ


   + + +

 

 

 

「!」

 

 

ハルナは、目を見開く。

 

 

事態は急激に進行していた。

 

 

双胴戦艦 駿河は、自身の出せるだけの速度で、ヨトゥンヘイムの最後尾に位置する空母部に向かって突進を開始したのだ。

 

 

そして…。

 

 

 

ガゴウン!ギリギリ…。

 

 

 

衝突した。

 

駿河はそのまま、空母部を押して行く、不愉快な金属の摩擦音が、辺りに響き渡る。

 

すると、ヨトゥンヘイムの船体が急激に旋回を始めた。

 

 

ある意味で、一つの巨大な砲台と化したヨトゥンヘイムは、この形態の時、極めて旋回性能が低下する。

 

 

そんな鈍重な船体を駿河に押させる事で無理矢理方向を変えてきたのだ。

 

 

 

「まずい…あの巨体をまさかあんな方法で!キリシマ!超重力砲の発射を中止しろ!」

 

 

 

『嘘だろ!?全力でないとは言え、蓄積した超重力砲のエネルギーは膨大なんだぞ!下手に中断したら暴走する。発射シークエンスを中断するにはそれなりに手順と時間がかかる!』

 

 

 

「では、中断処理を行いながら、潜航しろ!このまま直撃を喰らうよりマシだ!」

 

 

 

『クラインフィールドの制御も同時進行してるんだ。演算が追い付かない!』

 

 

 

「くそっ!」

 

 

 

ハルナはコアの演算をフル回転させて思考する。

 

 

 

(私も余り余裕があるわけではない…そうか!)

 

 

 

チ…チ…。

 

 

ハルナは、急ピッチで蒔絵が開発した¨超音波振動魚雷¨を精製する。

 

 

そして、

 

 

バシュッ!

 

 

一発をキリシマに向けて発射した。

 

 

 

『お、おい!私に向かって何を!』

 

 

 

ビギィイン!

 

 

キリシマの真下で超音波振動魚雷が起動すると共に大量の気泡が発生し、浮力を失った船体が急激に沈んで行く。

 

 

 

 

『おわっ!?』

 

 

 

 

「慌てるな。そのまま沈んだら超重力砲のエネルギーを解放して、クラインフィールドを張れ。」

 

 

 

『は、ハル…。』

 

 

「時間がない。私も潜航する。」

 

 

 

ハルナは自らの船体を沈降させつつ、ジュラーヴリクへのミサイルの誘導を解除し突撃させが、敵はそれらを巧みに回避し、レーザーで次々と撃墜して行くのだった。

 

 

 

ハルナの船体が完全に海中に没し、姿が見えなくなる。

 

 

 

それから僅か数分も経たぬ内に、それは発射された。

 

 

 

ギィイン…ギョォン!

 

 

 

ヨトゥンヘイムが、レールガンを発射したのだ。

 

 

砲弾は文字通り¨目にも留まらぬ¨猛烈な速度で先程までハルナ達がいた海域にの海域に瞬時に到達し、勢いは衰える事無くそのまま海中をひた走り海の底へ突き刺さって炸裂、凄まじい水柱が、立ち上る。

 

 

ここまで発射からほんの数秒の出来事である。

 

 

 

そして、

 

 

 

ブゴォォオン!

 

 

凄まじい轟音が鳴り響いた。

 

 

だがそれは砲弾が放った爆音ではない。

 

 

 

ヨトゥンヘイムが放つ、余りにも過剰に加速された砲弾が砲身を通過する際、内部の空気が過圧縮され超高圧になる。

 

 

 

それが砲弾と共に砲身の外へ押し出されて、圧力が解放された瞬間に一気に膨張し、辺りの空間に暴力的な音波と衝撃波を周囲に撒き散らしていた。

 

 

 

それは遠く離れたシチリア島、北西部に位置するパレルモの街にも及ぶ。

 

 

 

 

独特の風土が生み出した歴史的な建造物が立ち並ぶパレルモは、普段なら多くの人が行き交う賑やかな街であるが、超兵器接近の報を政府から受けて、皆地下や内陸のシェルターに避難をしていた。

 

 

 

そんな静まり返った街に、超兵器の放った兵器の衝撃波が到達する。

 

 

 

建造物の窓ガラスが一斉に割れ、弾丸の様な速度で破片が周囲に突き刺さる。

 

 

建物はグラグラと揺れ、棚から物が落ちる音が地下室に避難した住民の気持ちを一層不安にさせた。

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

衝撃波は海中を強く伝播しなかったものの、ハルナは驚嘆する。

 

 

(キリシマのデータ通りか…この距離だと視認すら難しい速度だ。もし相手の意図が解らなければ今頃…。)

 

 

 

 

彼女がそう思ったとき…。

 

 

 

ゴボォン!

 

 

 

「!?」

 

 

 

未だヨトゥンヘイムの攻撃の余波が残る海面に、ハルナは何かの着水音を検知する。

 

 

 

最初はただの対潜弾だと思った。その弾頭が通常の対潜弾よりも余りに巨大である事に気が付くまでは…。

 

 

 

(なんだ、これは…?)

 

 

 

巨大な弾頭は、直ぐには炸裂せず、ゆっくりと沈降してくる。

 

そして、

 

 

 

カチッ……グゥオオ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

弾頭が起動した瞬間、ハルナの船体が急に起動地点に向かって引き摺られる。

 

 

 

チ…チ…。

 

 

 

(この異常な重力は…ヒュウガが送ってきた敵潜水艦が発射した量子兵器と酷似している。だが、ヨトゥンヘイムにこんなもの発射する余裕は……ジュラーヴリクか!)

 

 

 

 

彼女の推測は当たっていた。

 

 

ジュラーヴリクは、ヨトゥンヘイムがレールガンを発射した直後に、超絶な重力で周囲のものを引きずり込む¨量子兵器¨を投下し、起動前に全力で距離を取って重力の作動範囲から脱していたのだ。

 

 

 

もえかの推測通り、敵の狙いはハルナとキリシマだった訳だが、彼女の推測は超兵器の意図を完全には把握出来ていなかった。

 

 

 

 

敵は通信内容を敢えて漏らす事で、ヨトゥンヘイムの主砲がもえか達を狙っていると匂わせ、シチリアの南北に分断された双方の異世界艦隊を混乱させる。

 

 

 

だが、それが看破されることは承知の上だった。

 

 

 

敵の真の意図は、ハルナとキリシマを¨潜航¨させる事にあったからだ。

 

 

 

地中海に展開する超兵器艦隊に、潜水艦型超兵器がいなかったのは偶然かもしれない。

 

 

だが、その事が今回は敵に有利に働いていた。

 

 

 

混乱に乗じて、足の遅いデュアルクレイターを重力の作動範囲から移動さ敵は、同時に移動していた駿河にヨトゥンヘイムの船体を押させて、レールガンの矛先をハルナ達へと向ける。

 

 

 

 

先の発砲で、物理的に回避が不可能だと悟ったハルナ達は、必然的に敵の存在しない海中へと身を潜めるだろう。

 

 

 

超兵器艦隊はそれを見通していた。

 

 

 

デュアルクレイターに着陸して補給を行ったジュラーヴリクは、通常の弾頭を少なく搭載し、変わりに量子兵器を積み込む。

 

 

そして、魚雷やミサイルを吐き出しつつ自重を軽くしていった。

 

 

 

その後、潜航の為の時間を稼ぐために、ハルナは侵食弾頭を含んだミサイル群を操作し、ジュラーヴリクは逃げ回るフリをして機会を狙っていたのだ。

 

 

そして遂に、ハルナ達が潜航したのを見計らって量子兵器を投下したジュラーヴリクは、起動前に重力の作動範囲から脱していたのだ。

 

 

 

 

グゥオオ!

 

 

 

「くっ…あ!」

 

 

 

ハルナはスラスターを起動させて抗うが、強烈な引力に逆らう事が出来なかった。

 

 

 

(あの重力の中心に引きずり込まれたら、クラインフィールドも持たない。どうすればいい…。)

 

 

 

彼女は必死に思考を凝らすが、一向に浮かばない。

 

 

その間にも、船体は徐々に重力の中心へと引き摺られ、クラインフィールドにかかる負荷も大きくなっていった。

 

 

そして遂に…。

 

 

 

ジジッ…。

 

 

「くっ!」

 

 

度重なる砲撃で、ダメージが蓄積したクラインフィールドの一部に孔が開き、船体装甲の一部が剥がれる。

 

 

 

 

(まずい…引きずり込まれる!)

 

 

 

何故かは解らない。

 

 

だが、この様な時にも関わらず、コアは蒔絵と過ごした日々を何度も再生した。

 

 

 

 

(くそっ!必ず帰ると…蒔絵に約束したと言うのに!)

 

 

 

万策尽き果て、彼女は険しい表情を浮かべるしかない。

 

 

そこへ…。

 

 

 

『ハルナぁぁぁあ!』

 

 

 

「キリシマ!?」

 

 

 

ハルナが振り返ると、そこには超重力砲の光を纏ったキリシマが此方に向かって猛スピードで突っ込んで来た。

 

 

スラスターによる加速と、重力の影響で信じられない様な速度に達している。

 

だが、演算に余裕が無いせいかまともなフィールドすら張れていない。

 

 

ハルナはそんなキリシマに向かって叫ぶ。

 

 

 

「キリシマ!何故来たんだ!超重力のエネルギーを解放してフィールドを張れと言っただろう!これではお前まで…。」

 

 

 

『あの着弾地点じゃ、いずれにしても巻き込まれる!だったら賭けに出るしか無いだろう!』

 

 

 

「賭けだと?」

 

 

 

『現在蓄積した超重力砲のエネルギー全てをアレにぶつける!』

 

 

 

 

「なに!?やめろ!アレを相殺出来る保証は無い。それにお前はクラインフィールドもまともに張れていない。自殺行為だ!」

 

 

 

『だったら、ただ黙って引きずり込まれろって言うのか!?』

 

 

 

「だが…。」

 

 

 

『ハルナ…人間はこう言う時足掻くんだよ。そして、可能性が限りなくゼロに近い状況から糸口を見出だす。401や千早群像はそうやって格上の私達と渡り合ってきた。』

 

 

 

「……。」

 

 

 

『私達は見てきたじゃないか。ハルナや私の演算でも導き出せなかった結末を…私はもう、後悔したくないんだ!』

 

 

 

「キリシマ、お前…。」

 

 

 

『行くぞ!』

 

 

 

「ま、待て!」

 

 

 

ゴォォオ!

 

 

 

キリシマの重力子エンジンが唸りを上げ、艦尾のスラスターが最大に展開する。

 

 

そして量子兵器の引力にのって加速し、重力の奔流が渦巻く中心へと突っ込んで行った。

 

 

 

 

『ぬ…オォおオぉぉオ!』

 

 

 

「キリシマァァァ!…ぐっ、ぁぁあ!」

 

 

 

超絶な重力の中心に近付くにつれ、船体の装甲がベリベリと剥がれて行く。

 

 

 

キリシマはそれに構わず、超重力砲の矛先を重力の核に向けた。

 

 

 

『止まれぇぇ!』

 

 

 

ピカ…ゴォォオ!

 

 

キリシマは、自身の船体がバラバラになる直前に、超重力を発射する。

 

 

 

「蒔…絵。」

 

 

ハルナのコアが再び蒔絵の映像を写し出す。

 

その表情は、何故か全て笑顔であった。

 

 

 

 

その頃の海上では、量子兵器の影響で出来た巨大な渦が巻き起こっている。

 

 

そして、海中から激しい光が輝き一瞬海面を照らした後…。

 

 

 

ブゥウオオオオン!

 

 

 

水柱が500m以上立ち上ぼり、海は滅茶苦茶に荒れ狂った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「!?」

 

 

 

「タカオ?」

 

 

 

「シチリア北西部で巨大な重力震を感知。信じられない値だわ…。」

 

 

 

「ハルナ達が超重力砲を使ったって事?」

 

 

 

「そう…いや、でも違う?何なの?この特殊な波形は…。」

 

 

 

「二人に連絡は取れる?」

 

 

 

「………ダメね。全く通じない。超重力砲の発射に演算を取られているとしても、全くコンタクトを取れないなんて事は有り得ないわ。考えたくは無いけど、ハルナ達に何かあったって考えるのが自然ね。」

 

 

 

「そんな…。」

 

 

 

「私だって大戦艦が沈むなんて想像出来ないわ。でも私の演算は、ハルナ達が撃沈されたと判断している。」

 

 

 

「………。」

 

 

 

もえかの険しい表情に、タカオはこれ以上何も言い出すことが出来なかった。

 

 

しかし

 

 

 

「…てる。」

 

 

 

「え?」

 

 

 

「きっと生きてる。キリシマ達は絶対生きてる!」

 

 

 

「何の根拠があってそんなことが言えるのよ!」

 

 

 

「科学的な根拠なんて無いよ!…でも、解るの。あの二人には蒔絵ちゃんが…護るべき大切な人がいる。だから絶対に沈んでない!敵が何をしたかは解らないけど、きっと攻撃をやり過ごしているんだと思う。」

 

 

 

「そ、そんな理由で…。」

 

 

 

「でもタカオだって、逢いたい人がいるんでしょう?」

 

 

 

「うっ…そ、それは…そうだけど。」

 

 

「私だってそうだよ!その為なら、恥をかいても何でもいい、やれるだけの手を尽くして生き残る。違う?」

 

 

 

 

「そう…ね。」

 

 

 

「だから今は信じようよ!たとえ今は反撃に出られるような状況じゃないとしても、きっと無事だよ!」

 

 

 

「……。」

 

 

 

自分はどうだろうとタカオは思う。

 

 

 

自分を自分以上に理解してくれる群像の下へ向かう為、喩えどの様な絶望的な結論をコアが導き出したとしても、自らは抗うのだろうかと。

 

 

 

答えは決まっている。

 

 

 

yesだ。

 

 

 

相手が超兵器だろうが総旗艦だろうが、死力を尽くして足掻いて生き残り、そして群像の下に辿り着く。

 

 

 

その選択肢以外はあり得なかった。

 

 

 

故に彼女はもえかと相対し、大きく頷く。

 

 

 

「解ったわ。私もハルナ達を信じる。」

 

 

 

「ありがとうタカオ。それじゃあ…。」

 

 

 

二人が向けた視線の先には、異世界艦隊と超兵器の位置を映したモニターがある。

 

 

「尾張を叩いてここを突破しなきゃ!」

 

 

「ええ。そうね!」

 

 

 

ゴォォオ!

 

 

タカオのエンジンが唸り、速度を上げて行く。

 

 

 

手負いになれど、未だ沈まぬ超兵器を追って…。

 

 

 

   + + +

 

ドゴォォオ!

 

 

轟音が鳴り響き、砲弾がヴィントシュトースの側面を抉る。

 

船体からは幾つもの炎と黒い煙が立ち上ぼり、浸水が発生している為か、状態は傾きつつあった。

 

 

 

弁天は味方航空機の支援を受けつつも、超兵器との壮絶な撃ち合いを経て、敵を大破まで追い込んでいたのだ。

 

 

 

しかし、無人で動く超兵器はいかに自らの船体が炎に巻かれても、決して攻撃を止めることは無く、一見して弁天が優位に戦いを進めているにも関わらず、クルーは精神を磨り減らせていた。

 

 

ヴィントシュトースは、船体の傾斜に伴ってミサイルを発射することが出来なかったが、代わりに主砲や魚雷を発射して今も弁天を苦しめていたのだ。

 

 

通常なら、転覆が確定した時点で主砲の使用は選択肢に入る事は無いし、乗員が乗っているなら退艦を判断するため攻撃は止む筈だ。

 

 

 

だが、相手は攻撃の手を緩めるどころか、逆に砲弾を撃ち尽くさんとするかのように弁天に砲撃を仕掛けてくる。

 

 

 

真冬は、今更ながら超兵器の異常性を再認識せざるを得なかった。

 

 

 

 

(何なんだアイツは!砲撃もした。魚雷だって散々当てた。航空機からの攻撃だってある。なのに何で止まらねぇんだ!何がアイツにそこまでさせる!)

 

 

 

彼女は心に沸き上がる不安を必死に抑え込み更なる攻撃の指示を飛ばして行く。

 

 

 

その度に砲撃が行われ、ヴィントシュトースに立ち上ぼる煙の数は増えていった。

 

 

船体は完全には横倒しになり、攻撃の手数が明らかに減っている。

 

 

 

しかし敵は主砲を回転させて、尚も弁天を砲撃してきた。

 

 

(それにしてもタフ過ぎる。あのクラスですら俺達の装甲より厚いのか…。)

 

 

 

彼女は超兵器に対して、ブルーマーメイド艦の相性の悪さを痛感する。

 

 

 

船舶型超兵器は、その多くが旧対戦時に見られる形式の艦艇にオーバーテクノロジーを駆使した兵装を使用してくるタイプが多く、喩え小型の超兵器だとしても、装甲はブルーマーメイド艦よりも分厚いものが大半だった。

 

 

 

対するブルーマーメイド艦はと言うと、高命中を誇る兵装と機動力を有しているとは言え、速度は超兵器程高速とは言えず、海賊に対する威嚇発砲の際、誤射を防止しつつも威圧を与える為に、敵の周囲に正確に着弾させる意味合いで命中精度の良い兵装を装備しているに過ぎず、既存の兵装にミサイルを加えただけの攻撃力しか持ち合わせていなかった。

 

 

加えて装甲は、救出活動に際しての機動力を重視している為極めて薄く、防壁が無ければ脆弱であると言わざるを得ない。

 

 

 

ウィルキアや蒼き鋼の技術をある程度加えた弁天ですらコレなのだ。

 

 

超兵器による最初の同時多発的な襲撃の際、世界中のブルーマーメイド艦隊がいかに無力であったかは言うまでも無いだろう。

 

 

 

しかしながら、この世界での彼女達の操鑑技術の高さは、ウィルキアや蒼き鋼の関係者を唸らせた事は事実であり、そしてウィルキアから借与されたはれかぜを勘定から除外するならば、純粋にこの世界の艦艇では初めて超兵器を追い込んだ事もまた事実であり、それは賞賛されるべきであろう。

 

 

 

だが、国や世界を相手にしうる超兵器が後に控える中で、この艦艇で敵と対峙し続ける事は不可能に近い。

 

 

 

真冬は、異世界艦隊でも軍でもなく、ブルーマーメイドが世界を救うと言う構図が重要である事は重々承知し、それを異世界艦艇ではなく、この世界の艦艇で成すべきだとも考えていた。

 

 

しかし、現状は理想とは程遠いものであるとその身で痛感してしまった。

このまま意地を通していては、無駄に死人が増えてしまうと言う事も…。

 

 

 

彼女は今後の身の振り方を考えつつも、直ぐに目の前の敵へ意識を集中させる。

 

 

 

そう、全てはこの戦いで自分が¨死ななければ¨の話なのだ。

 

 

 

そう思わずにはいられない程、超兵器との戦いは死と隣り合わせである事を意味している。

 

 

 

故に彼女は、指示を飛ばし続けた。

 

 

 

 

 

相手が撃ってこなくなるまで。

 

 

相手が粉々になるまで。

 

 

相手が沈んで見えなくなるまで。

 

 

 

ひたすら撃って撃って撃ちまくった。

 

 

 

 

そして最早、ヴィントシュトースは完全には上下が逆さまになり、底を天へ向けながら沈んで行く。

 

 

だが、弁天は攻撃の止めなかった。

 

 

 

魚雷を放ち、更に船体を穿って行く。

 

 

 

まるで自分の内の最も深い所から沸き上がる恐怖や防衛本能を剥き出しにするかの様に…。

 

 

 

 

『真冬艦長!』

 

 

 

「…はっ!」

 

 

 

真冬はもえかからの通信で我に帰る。

 

 

 

「あ、ああ…。どうした?」

 

 

 

『早くそこから離れてください!超兵器機関が爆発するかもしれない!』

 

 

 

「わ、解った。撃ちぃ方やめ!取り舵一杯!ここから離れるぞ!」

 

 

 

弁天は漸く攻撃を止め、反転して行く。

 

 

 

後方には既に超兵器の姿は無く、ただ海面にブクブクと音を立てる気泡と、ヴィントシュトースの残骸が浮いているだけだった。

 

 

 

 

そして弁天が離れてから約数分後…。

 

 

 

ブゥウオオ!

 

 

ヴィントシュトースが沈んでいった海域で巨大な水柱が上がり、それと同時に弁天のレーダーに写し出された超兵器ノイズが消失した。

 

 

 

 

「ノイズ消失。超兵器…撃破!」

 

 

 

 

平賀の言葉に弁天の艦内はしばしの静寂に包まれ…。

 

 

 

 

「やったぁあ!」

 

 

 

至る所で歓声が上がる。

 

 

だが、

 

 

 

バンッ!

 

 

真冬が机の上を思いきり叩き、艦橋内は再び静まり返った。

 

 

彼女の表情は険しく、怒りに満ちている。

 

 

 

 

平賀は何かを察した様に慌てて口を開いた。

 

 

 

「ゆ、油断しないで!まだ超兵器は残ってる。引き続き警戒を怠らないで!」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

慌てて自分の役割に戻っていくクルーから視線をはずし、彼女は真冬に近づいた。

 

 

 

「か、艦長?」

 

 

 

「ああ。すまねぇ…。艦を尾張に向けろ。残弾を確認してメアリースチュアートの支援にまわれ。」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

平賀は敬礼を返し、指示を送り始める。

 

 

 

そんな彼女の声や、周りの喧騒が耳に入ってこない程に、真冬は怒りに満ちていた。

 

 

誰に?

 

 

 

浮かれた表情を見せたクルー達にか?

 

 

いや、

 

 

 

彼女は自身に対して怒っているのだ。

 

 

 

(クソッ!呑まれてた。完全に相手を沈める事に呑まれちまった!俺達は軍人じゃねぇってのに!)

 

 

 

 

沈めなければ自分が殺られる。

 

 

そのシンプルかつ逃れ難い感情が彼女達を突き動かしていたのだ。

 

 

 

だが真冬は思うのだ。

 

 

 

もし相手が¨有人¨の艦艇であったなら…と。

 

 

 

海賊の追い上げとは訳が違う。

 

 

不明な点は有れど、明確な殺意をもった人間に対して、本能のままに攻撃して撃滅する。

 

 

一人でも動いていれば、自分を殺しに来るかもしれないから殺傷する。

 

 

 

それではただ武器を持つこと許された野性動物と同じだ。

 

 

救助を主とする彼女達ブルーマーメイドは、生物なら誰でも持ちうるその精神に決して没してはならないのだ。

 

 

 

だが、堕ちてしまった。

 

 

 

彼女の心には悔しさが込み上げてくる。

 

 

 

しかし同時にこうも思うのだ。

 

 

 

戦乱に満ちた世界に済むウィルキアや蒼き鋼の人員なら理解できるが、100年の平和を享受したこの世界の住人に、この死を前にした戦闘で平静を保てる人間が果して幾ら居るのだろうかと。

 

 

 

 

しかしその時、真冬の頭にはある艦の事が頭に浮かんだ。

 

 

 

フリーゲート艦はれかぜ

 

 

 

はれかぜのクルーは、超兵器を前にしても果敢に戦い、そしてそれを人々を護ることが第一の心情としている。

 

 

 

彼女達は正にブルーマーメイドのあるべき姿なのだろう。

 

 

客観的見ればそうかもしれない。

 

 

 

しかし、一度でも超兵器と対峙したものが彼女達を見れば、この様な状況で目的を明確にし続ける事が如何に難しく異常であるか解るだろう。

 

 

 

そして、その異常の中心にいる人物こそが艦長である岬明乃なのだ。

 

 

 

普段は抜けたような所も見せる彼女は、一度艦に乗ると驚異的なカリスマ性を発揮する。

 

 

 

部下である筈のはれかぜクルーも、彼女の期待に十分応えていた。

 

 

 

だが彼女達にしても、未知なる兵器との戦いで、いきなり期待通りの動きを見せる事は異常と言う他無い。

 

 

 

それは彼女達の若さ故なのか?

 

 

否…。

 

 

真冬は直ぐ様結論を出す。

 

 

艦長である明乃の人柄が、皮肉にも彼女達を惹き付け、戦場へと走らせているのだと考えた。

 

 

それと同時に¨危険¨であるとも…。

 

 

 

 

明乃の本心がどうなのかは解らない。

しかし理由はどうであれ、はれかぜは結局戦場のまん中へと飛び込んで行ってしまうのだ。

 

 

まるで¨誰かの意思に導かれる¨様に。

 

 

 

真冬は、背筋にゾクリとするような感覚と戦闘で生じた危険な高揚艦を押さえ付けて尾張へと進んでいった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「回り込め!絶対に攻撃の手を緩めるな!」

 

 

 

ヴェルナーの声が響き渡り、乗員達が慌ただしく動き回る。

 

 

 

尾張と対するメアリースチュアートは、敵の周りを全力で回りながら、攻撃を加えて行く。

 

 

 

これは武装の少ない尾張の艦尾を取る為でもある訳だが、敵の旋回性能は異常であり、背後を取ることは叶わなかった。

 

 

 

本来ならば、多数の艦隊で尾張を撹乱しつつ、本命である部隊が背後を突くのがセオリーであるのだが、何より手が足りないのが現状だ。

 

 

 

そして、もっと緩急をつけた動きで相手を揺さぶるべき処を全力で敵の周りを周回すると言う単調な動きはもえかからの要請であったが、それ故に被弾の確率が上昇し、防壁は今にも消失寸前にまで追い詰められていた。

 

 

 

 

「艦長!これ以上は流石に…。」

 

 

 

「知名艦長を信じるんだ!必ず隙が生まれる。我々はそれを必ず成し遂げなければならない。」

 

 

 

エミリアの悲痛な声に何とか虚勢を張ってみたものの、彼の額から滲む汗は状況の苦しさを伺わせるには十分であっただろう。

 

 

 

尾張は航空機だけでなくAGSやミサイル、光学兵器と言った高命中率を誇る兵装を多様しているだけでなく、主砲や副砲も大口径のものを使用しており、尚且つ双胴ならではの防御も相まって戦艦としての能力も高い。

 

 

 

特に主砲である50.8cm砲の直撃は、防壁を一気に飽和させ乗員の精神を疲弊させていた。

 

 

 

 

更に、ヴェルナー達には別の懸念もある。

 

 

 

ヨトゥンヘイムの主砲の事だ。

 

 

 

ハルナ達からの連絡が途絶えた事は承知している。

 

 

問題なのは、彼女達が超兵器を留めておけない事で、次なる標的になるであろう自分達へ向けられる超砲撃を、誰も妨害することが出来なくなっている事なのだ。

 

 

 

それを防ぐ為には、最早一刻も早くこの場にいる超兵器を全て撃沈するしかない。

 

 

 

弁天が撃沈したヴィントシュトースを除くと残り二隻。

 

 

 

どう考えても次の砲撃には間に合わない。

 

 

 

 

乗員に焦りと苛立ちが募って行く。

 

 

 

 

「艦長、もう光子榴弾砲を放つしか…!」

 

 

 

「決定力に欠ける。尾張を一撃で沈めるにはタカオの超重力砲が必要だ。知名艦長はそれを狙ってる。超兵器が隙を見せるタイミングを!」

 

 

 

「それと私達が尾張の周りを周回するのには何か訳が有るのですか?」

 

 

 

「僕にも解らない。だが、知名艦長が意味もなくこんなことを要請するとも思えない。今は耐えるんだ!」

 

 

 

ドゴォオ!

 

 

 

「あぐっ!」

 

 

「きゃあああ!」

 

 

 

メアリースチュアートに再び砲撃が直撃して、艦が激しく揺さぶられる。

 

 

 

 

一見すると無意味な行動とも思える状況に、乗員達の苛立ちもピークを迎えつつあり、これ以上ヴェルナーが押さえ込むのも限界に近付いていた。

 

 

 

 

(知名艦長…まだですか?)

 

 

 

内心の焦りを何とかごまかしつつ、ヴェルナーは艦の指揮を取り続けた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「まだ動いてる。完全に足を止めて!」

 

 

 

「解ってるわ…よ!」

 

 

 

バシュ!

 

 

タカオから、大量の魚雷がパーフェクト・プラッタへ殺到し、巨大な船体に孔を穿って行く。

 

 

 

しかし、敵は中々沈んではくれない。

 

 

 

速度を殺す代わりに船体に注水して安定性を保ち、浮力をある程度犠牲にして防御重力場を展開する。

 

 

 

つまり敵は防戦に徹して来た…いや、時間を稼ぎ始めたと言うべきだろう。

 

 

ヴェルナー同様、もえかも敵の意図を理解しついた。

 

 

 

「急がないと主砲が来る!」

 

 

 

「でもこいつ硬いのよ!」

 

 

 

バシュバシュ!

 

 

タカオは、渾身の力で責め立てるが、敵は完全に攻撃を止め、迎撃に終始している。

 

 

決定打が無いままなのかと思われたその時…。

 

 

 

ボォン!

 

 

 

「!」

 

 

 

海上から複数の爆発音が聞こえた。

 

 

 

 

『知名艦長。援護に来ました!』

 

 

 

「一宮さん!?航空機は?尾張は大丈夫なんですか?」

 

 

 

 

『航空機は掃討しました。メアリースチュアートのへの援護は弁天が向かっています。それより今はあなた方の力が必要だ。海上からも攻撃を加えれば、敵は防御重力場を全面に展開せざるを得ない。防壁を飽和させていち早く敵を討って下さい!』

 

 

 

「はい!ありがとうございます!…タカオ!」

 

 

 

「了解。温存しておいた侵食弾頭を使う時が来たいみたいね。」

 

 

 

ガゴン…!

 

 

タカオの船体の至る所でハッチが開き、内部から侵食弾頭が現れ、同時に海上では一宮率いる航空機隊が一斉にパーフェクト・プラッタにミサイルを発射した。

 

 

 

 

「上は始まったみたいね。行くわよもえか!」

 

 

 

「お願い!」

 

 

 

「128発の侵食弾頭、全部避けられる?」

 

 

 

 

バシュバシュバシュバシュ!

 

 

 

自信に満ちた表情のタカオが手を翳すと、一斉に侵食弾頭が発射され、超兵器へと殺到していく。

 

 

 

ビィュン!ビィュン!

 

 

 

(お願い!通って!)

 

 

 

次々と防御重力場に衝突して消えて行く侵食弾頭にもえかは焦りを感じる。

 

 

 

だがその時。

 

 

 

ビィュン…ボォン!

 

 

 

「!」

 

 

海上と海中の両方から爆発音が聞こえた。

 

 

 

「通った!タカオ、そのまま超兵器機関を狙って!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

チ…チ…。

 

 

 

タカオは侵食弾頭の全てを使って、パーフェクト・プラッタの船内を穿ち、心臓部である超兵器機関を狙った。

 

 

 

「残り30発…思ったより弾数を使ってしまった…届いて!」

 

 

 

侵食弾頭が、超兵器機関へ近づいて行く。

 

 

内部を食い荒らされたパーフェクト・プラッタは、砲を左右に動かしながら足掻くが、防御重力場を失った者に最早なす術などある筈もなく、ただひたすらに状況を受け入れるしかない。

 

 

 

そして遂に…。

 

 

 

グゥオオン!

 

 

 

超兵器機関を覆っている分厚い装甲が破られ、侵食弾頭が内部の本体に次々と直撃し、握りつぶして行く。

 

 

 

それと同時に、パーフェクト・プラッタは完全に動きを止め、火災と弾薬庫の誘爆によって、その巨体をバラバラにしながら海中へと没して行った。

 

 

 

「次!」

 

 

 

もえかは叫ぶ。

彼女達に余韻に浸る暇など無いのだ。

 

 

 

 

タカオは直ぐ様体勢を尾張へと向ける。

 

 

一方のヴェルナーは、尾張からの集中砲火に耐えつつ全速で艦を走らせている。防壁は飽和寸前であり、エミリアだけでなく筑波ですら苦い表情を隠しきりれていない。

 

 

 

 

戦闘能力が高いとは言え、メアリースチュアートは飽くまでも空母なのだ。

 

 

防壁が無ければ、装甲は決して厚い訳ではなく、飛行甲板が破損すれば航空機が着艦できず、パイロットの運命も決してしまう。

 

 

 

一度作戦を練り直すべきとの考えが彼の頭を過り始めた時…。

 

 

 

グゥン…。

 

 

 

「!?」

 

 

 

彼は目を見開く。

 

 

駒の様な凄まじい旋回性能を有した尾張が急に止まったのだ。

 

 

 

 

 

 

 

「き、来た…。チャンスが来た!ジーナス少尉、至急タカオに連絡を!」

 

 

 

「りょ、了解しました!」

 

 

 

エミリアがタカオと通信を試みるとほぼ同時に、タカオでも尾張の異変に気付く。

 

 

 

「もえか!海中から破砕音を検知!」

 

 

 

「超重力砲、用意!備えて!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

グゥオオン!

 

 

 

タカオの船体が超重力砲の発射に向けて展開して行く。

 

 

 

『知名艦長!こちらメアリースチュアート!超兵器が今、動きを止めました!』

 

 

 

「此方でも超兵器の異音を確認。これより超重力砲を発射します。弁天はどうしていますか?」

 

 

 

『砲撃や魚雷で此方の援護をして貰っています!』

 

 

 

「至急この場から退避するよう伝えてください!それからメアリースチュアートも、出来るだけ攻撃を加えながらこの海域から離脱。シチリア島西部に移動している補給艦フンディンと合流して補給をお願いします!」

 

 

 

 

『知名艦長はどうされるのですか?』

 

 

 

「私にはまだやることが残っています!急いでください!超重力のエネルギーが間も無く限界に達します!」

 

 

 

『はい!御武運を!』

 

 

 

メアリースチュアートからの通信を受けて弁天が退避を始め、ヴェルナー達も牽制の砲撃を超兵器に放ちながら海域を去って行く。

 

 

 

 

「敵の位置は?」

 

 

 

「バッチリ!縮退限界!

 

 

 

「超重力砲…発射!」

 

 

 

 

蒼白い閃光が海中を照らし、上空から見た辺りの海がスカイブルーに輝く。

 

 

尾張はそこで漸くもえか達の意図を悟った。

 

 

しかし、巨大な船体を有した尾張は中々動き出すことができない。

 

 

 

何故なのか?

 

 

 

それはタカオが尾張に突撃して吹き飛ばされ、潜航を余儀無くされた時、苦し紛れにタカオが撃った侵食魚雷が超兵器の巨大なスクリューに命中していたのだ。

 

 

 

しかし、大型超兵器のスクリューシャフトを破損させる迄には至っていなかった。だがその歪みは大きく、巨体が駒の様に旋回する際に生じる水の抵抗を永遠に受けきる事は叶わなかったのだ。

 

 

スクリューの異音に気付いたもえかは、タカオを弁天の援護に向かわせる事で尾張の注意をメアリースチュアート1隻に集中させ、ヴェルナーに超兵器の周りを一定方向に周回するよう要請した。

 

 

 

艦尾側の武装が薄い尾張は、艦首をメアリースチュアートに向けたまま駒の様に旋回するを始めるだろう。

 

 

そうする事でスクリューシャフトにかかる負荷を更に上昇させて破損させ、怯んだ隙を突いて超重力砲を撃ち込む作戦を立てていたのだ。

 

 

 

だが、問題はここからだった。

 

 

 

超兵器の行動が未知数なだけに、尾張を除外した残り二隻の超兵器を残して超重力砲を使うのには懸念が残っていたからだ。

 

 

 

 

故に尾張への奇襲は、敵のスクリューシャフトが破損する前に、ヴィントシュトースとパーフェクト・ プラッタを撃沈し、尚且つヨトゥンヘイムの主砲に邪魔されないタイミングで超重力砲を放たなければならない。

 

 

 

それだけに、ヨトゥンヘイムを引き付けているハルナとキリシマが消息を断った件は響いた訳だが、時間が稼げた事もまた事実だった。

 

 

 

 

ビィゴオオン!

 

 

 

超重力砲が、超兵器に向けて発射される。

 

 

 

尾張は片方のスクリューをフル回転させて回避を謀るが、双胴ゆえの欠点か、動き出しが鈍くとても回避できる状況ではない。

 

 

 

その間にも、超重力砲は尾張を目掛けてひた走り、弁天とメアリースチュアートからも長距離ミサイルが殺到し続ける。

 

 

 

 

超兵器は最早、迎撃すらもままならず、ただそこで足掻き続ける鉄の塊に過ぎなかった。

 

 

そして遂に…。

 

 

 

バシュウウ!…ボォン!

 

 

 

超重力砲が尾張の超兵器機関ごと貫通、双胴の船体が横から真っ二つに割れ、艦尾はあっという間に海中に没し始め、艦首側も横倒しなり、みるみるうちに海へ沈んで行く。

 

 

だが、残りのエネルギーを振り絞り、尾張は主砲の仰角を最大まで上げてメアリースチュアートに向け発砲した。

 

 

 

ボォン!

 

 

 

砲弾は、メアリースチュアートの手前で虚しく着水する。

そしてそれが尾張の最後の攻撃となった。

 

 

 

「もういい…尾張。二度と這い上がれぬ深き処で眠れ…光子榴弾砲、撃て!」

 

 

 

眩い光球が尾張へと飛翔し、着弾と同時に凄まじい衝撃と熱が超兵器の船体を粉々にしつつ焼き払う。

 

 

 

海は荒れ狂い、残骸と化した尾張の船体はその熱を冷ましながらゆっくりと暗い海底へと沈んで行った。

 

 

 

 

異世界艦隊の誰もが複雑な表情を浮かべている。

 

 

無理もない。これ程苦戦を強いられた相手を更に上回る強敵と次は相対さなければならないのだから…。

 

 

 

「呆けている時間はない。シチリア島西武のフンディンと合流し、補給を行う。修繕箇所は応急修理を急げ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

ヴェルナーの指示で再び艦内が慌ただしくなる。

 

 

 

一方の弁天も、クルーが慌ただしく動いていた。

 

 

だがその表情には余裕がない、まるで忙しくすることで心の奥底から沸き上がる恐怖を必死に忘れようとしている様だった。

 

 

勿論、真冬もその例外ではない。

 

 

しかし、相手は別格と言われる敵の総旗艦や総旗艦の直衛艦に比べると実力的には劣ると聞く。

 

 

 

それですら次元の違いを思い知らされていると言うに、これ以上の敵と相対さなければならない現実に、彼女は内心の途方にくれてしまうのだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くっ…は!」

 

 

「タカオ大丈夫?」

 

 

 

「え、ええ…撃った後は反動で少し身体の制御が利かなくなるだけよ。それよりもこれからどうするの?向こうに行くんでしょう?」

 

 

 

「ううん。私達はここでもう少しだけ留まる。」

 

 

 

「え?」

 

 

 

彼女の意外な言葉に、タカオは唖然とする。

もえかはそんな彼女に構わず話を続けた。

 

 

 

「恐らくこのまま向かっても勝ち目は無いと思う。攻めてヨトゥンヘイムの主砲を沈黙させないと…。」

 

 

 

 

「策は有るの?」

 

 

 

「在るけど、それにはハルナとキリシマがどうしても必要なの。」

 

 

 

「でも…。」

 

 

 

「解ってる。ただ呼び掛けは続けて欲しい。」

 

 

 

「解ったわ。ただ…今後敵がどう動くかに掛かっているんじゃない?」

 

 

 

「うん。恐らくだけど、ジュラーヴリクが動いてくると思う。ヨトゥンヘイムの主砲を発射するためには私達の位置を観測する必要が有るから。」

 

 

 

「成る程ね。ウィルキアの艦長は気付いているのかしら?」

 

 

 

「うん。恐らく接敵は補給を行うシチリアの西側になると思う。」

 

 

 

「フンディンを護り、補給をしながらの超兵器せん…か。厄介ね。」

 

 

 

「今は信じるしかないよ。タカオは浮上して引き続きハルナとキリシマに呼び掛けを続けて。」

 

 

 

「了解。」

 

 

 

タカオは船体を浮上させつつも通信を継続する。

 

 

 

もえかは、そんな彼女から視線をはずし、モニターを見つめる。

 

 

 

未だ合間見えぬ敵の強大さに不安を覚えながらも…。

 

 

 

戦局はいよいよ、ティレニア海へと移ろうとしていた。

 




お付き合い頂きありがとうございます。


次回からは、戦場がシチリア西部や北西部へと移って行きます。



未だ3隻と1機の超兵器との戦いがどうなって行くのか…。


次回まで今しばらくお待ちください。


それではまたいつか



























とらふり!


真霜
「唐突だけど…ケンイチくぅ~ん♪お姉さんが抱っこしてあげる☆」



江田
「本当に唐突ですね…。一体どうしたんですか?」


真霜
「だぁってぇ!妹達ばっかり出番が有ってズルいんだもん!私だって皆とキャッキャウフフしたいの!」



江田
「いや…皆さん命懸けで戦ってるんですが…。」




真霜
「そんな細かい事はいいのっ!それよりぃ~ん。……ね?」



江田
「ね?とは?」




真霜
「そんなの決まってるじゃなぁい!お姉さんと、キャッキャウフフ…しましょ♪」



江田
「お、お断りします!大体私にはメイさんが…。」



真霜
「どぉしてぇ~?原案だと、私と君が…って案も有ったのよ?今更恥ずかしがる事無いじゃなぁい!それに西崎さんは原作でも人気キャラなのよ?交際するなんて世の男をみんな敵にするだけだわ!だったらぁ~!」



江田
「だ、ダメなものはダメなんです!」




真霜
「そう…やはり実力行使しか無いのね…。」




江田
(なんだ!?この尋常じゃない覇気はっ?)




真霜
「フフフッ…合意の上でない事は残念だけど、観念して頂戴!お姉さんにおねショタホールドされて、チュッチュされてパフパフされなさい!えぇい☆」




江田
「なっ…速い!…しかし!」



ビギィイイン!



真霜
「!!?」



江田
「ふう…なんとか貞操は死守したか…。」



真霜
「クラインフィールドなんて卑怯よ!」



江田
「こんな用途でフィールドを使うなんて…でも、今程このカラダに感謝したことは有りません。不本意ですが…。」




真霜
「むぅ…。」



江田
「拗ねてもダメです!それにあんまり突飛な事ばかりすると¨あの人¨の心象が悪くなりますよ?」



真霜
「ななっ、なんの事かしら?」




江田
「図星の様ですね…。貴女は実は甘えん坊で、異性に甘えたい願望が有りますね?」




真霜
「酸いも甘いも知らない坊やが知った様な事を言うのね…。」




江田
「私は、戦友達の色々な男女模様を見たり聞いたりしていますので、¨知らない¨には当たりませんよ?貴女は歳に関する拘りが無い変わりに、精神的に大人な人間を求めて居ますね?」



真霜
「……!」



江田
「達観した観念を持つ各艦の艦長、若しくは外こ……。」



真霜
「あぁああ!聞こえない聞こえないぃ!もう解ったわよ!…だからゆ・る・し・て♪」



江田
(本当に解って貰えたんだろうか…念のため夜は部屋のセキュリティを倍にしておこう…。)






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双角の鬼 再び VS 超兵器

大変永らくお待たせ致しました。

南欧戦線 後半戦です。


それではどうぞ


   + + +

 

 

 

シチリア島 西武

 

 

 

補給艦フンディンに接舷した弁天とメアリースチュアートは、不足した弾薬を補充する。

 

 

 

物資の量的にもこれが最期の補給となるだろう。

 

 

 

その様子を見守るヴェルナーの表情は険しいままである。

 

 

 

(嫌な空気だ…。一端戦局が途切れた事で、我々や弁天のクルー達が集中を保ちにくくなっている。僕が超兵器ならいま攻めるだろう。そして敵が此方によこすのは間違いなくジュラーヴリクだ。)

 

 

 

だが彼には疑問が残る。

 

 

ジュラーヴリクは異世界艦隊が補給を行う直前か、若しくは補給中で中である今を狙ってくるだろうと読んでいたからだ。

 

 

 

絶好のチャンスである今を逃しても敵が攻めて来ない理由は…。

 

 

 

(ハルナとキリシマか…。先程のタカオのよこしたデータからは、恐らくあの2隻対して超兵器が量子兵器を使用した事を意味しているが、超兵器は彼女達の撃沈を疑って旗艦の護りに着いているか、撃沈を確認している最中と言ったところか。いずれにせよ有り難い。無補給で残り3隻と1機を相手は厳しいからな。)

 

 

 

残された時間を有効に使うと言う意味ではヴェルナーと真冬はどう意見だろう。

 

 

しかしながら、真冬はより長時間この戦いに拘束されるのは危険だとも考えていた。

 

 

軍人ではない彼女達は、救出の現場での長丁場には慣れているものの、今回の様な未知なる兵器相手の¨戦闘¨となれば話は別だ。

 

 

 

死の恐怖から一時的に解放された現在に於いても、状況が終了しない限り不安は無限に沸き上がり、彼女達の精神を確実に削って行く。

 

 

 

クルーの表情を見渡す真冬は、それを実感していた。

 

 

 

(皆の表情が硬てぇ…無理もないが、なまじ超兵器を知っちまっただけに余計に緊張してやがる。)

 

 

 

適度な緊張なら良い。

だがろくに休息もとらず、いつ我を失ってもおかしくない極度の緊張に長時間晒されれば、ミスを発生させかねない。

 

 

 

かといって冗談を言う状況でもない。

 

 

 

彼女達が本当に解放される為には、次なる戦闘を生き残るほか無いのだ。

 

 

 

最も、ヨトゥンヘイムを打倒した処で、超兵器との戦いが全て終わる訳では無いのだが…。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

シチリア島 北西部

 

 

 

未だに荒い波が立つ海の上空をジュラーヴリクが旋回を続けている。

 

 

 

理由はヴェルナーが推測した通りだった。

 

 

 

もし全てを巻き込む量子弾頭兵器が起動したとすれば、辺りの回数が渦を巻くように重力の中心へと引き込まれて行く筈だ。

 

 

 

しかし、等海域で観測されたのは巨大な水柱。

 

 

 

つまり、量子弾頭兵器の重力を、ハルナとキリシマが何らかの方法で¨相殺¨したとしか考えられない。

 

 

 

故に超兵器艦隊は、ハルナとキリシマが完全に撃沈されたのかを疑っているのだ。

 

 

 

 

だがここで、超兵器艦隊は選択を迫られる事になる。

 

 

 

 

もし、ハルナ達が撃沈されているにも関わらず、捜索を無意味に続ければ、補給を終えた異世界艦隊の到着を許してしまう事になる。

 

 

 

しかし、この艦隊に於いて絶対的機動力を有するジュラーヴリクを、異世界艦隊の疲弊ないし撃沈の為に動かし、もしハルナ達が残存していたならば、彼等は不意を突かれる事になり、状況は向こうに一気に傾くだろう。

 

 

 

そう言う意味合いに於いては、高機動を有する高速巡洋艦を初期に失ったことは彼等にとって痛手であろう。

 

 

 

しかし…。

 

 

 

チカ…チカチカ!

 

 

 

旗艦であるヨトゥンヘイムから発光信号が点滅を始める。

 

 

 

他の超兵器もそれに呼応するかのように信号を発した。

 

 

 

そして、しばらくそれを続けた後に彼等は動き出し、陣形を組始める。

 

 

 

ヨトゥンヘイムを真ん中にして背後にデュアルクレイターを、先頭を駿河が勤め、ジュラーヴリクがヨトゥンヘイムの周囲を警戒しながら旋回し、デュアルクレイターから発艦した小型艇約40隻が周囲を固めてそれぞれの艦艇からアクティブソナーの音が鳴り響き、水中に潜んでいるかもしれないハルナとキリシマを警戒しつつも、艦隊は前へと移動を開始した。

 

 

 

彼等は前進することを選んだのだ。

 

 

 

数が有利が無くなってきた以上、隙が出来る補給のタイミングで強襲し、戦況を確実にしたい狙いがあるのだろう。

 

 

 

しかしこの選択が、この戦いで彼等にとって初めてとなる¨大誤算¨に繋がった。

 

 

 

 

《!?》

 

 

 

上空を旋回するジュラーヴリクの動きが止まった。

 

 

 

何かを察知したのだ。

 

 

 

不審に感じたジュラーヴリクが機体をシチリア島の方角へと向けた直後だった。

 

 

 

グゥィイイイン!

 

 

 

夜の¨シチリア島から¨眩い閃光が凄まじい速度で迫ってくる。

 

 

 

 

彼等はそれが蒼き鋼の¨超重力砲¨であると直感した。

 

 

 

ヨトゥンヘイムは、6つあるスクリューをフル回転させて、前方へと加速する。

 

 

しかし、

 

 

 

ビギィイイイン!

 

 

 

 

超重力砲は直列に並んだヨトゥンヘイムの最後尾である空母部を貫通。

 

直後、先頭に連結していた戦艦部は直ぐ様連結を解除し、さらに加速しながら防御重力場を全開ににした。

 

 

 

それから僅か数秒後。

 

 

 

猛烈な爆音と衝撃波が戦艦部に襲い掛かる。

 

 

 

最後尾の空母にあった超兵器機関が爆発し、二番目に連結していた空母を巻き込んだのだ。

 

 

 

 

その衝撃波は、周囲に展開していた超兵器艦隊にも及ぶ。

 

 

ジュラーヴリクはローターを破損、バランスを失って近くにいたデュアルクレイターの甲板へと墜落した。

 

 

衝撃でデュアルクレイターの甲板に設置されていた兵装はグニャグニャに湾曲して使い物にならなくなり、発艦した小型艇の大半が轟沈してしまう。

 

 

 

ヨトゥンヘイムの甲板には、無惨に焼け焦げたレールガンの砲身が虚しく鎮座している有り様だ。

 

 

唯一、損傷が軽微であったのは爆心地から最も遠い地点にいた駿河だろう。

 

 

船体は少しすすけてしまったものの、兵装に目立った損傷は見られなかった。

 

 

 

 

ヨトゥンヘイムは、暫しの間沈黙すると、チカチカと再び発光信号を発し、それを受け取った残りの超兵器は再び動きを見せ始めた。

 

 

 

ヨトゥンヘイムとデュアルクレイターは、暫く航行した後にその場に停止、駿河は足を止める事なく異世界艦隊の下へ単艦で進んで行く。

 

 

 

 

敵のこれ以上の進撃を許さぬ為に…。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「ちっ…!」

 

 

「どうだったの?」

 

 

険しい表情のタカオに不安を隠せぬ彼女は思わず訊ねずにはいられなかった。

 

 

 

 

「外れたわ…。本体に直撃しなかった。でも後続にいた空母2隻は撃破したみたい。残りは爆発で観測出来なかったわ。どうやら敵は、エネルギー攻撃対する感知能力が優れているようね…。」

 

 

「ううん。それで十分だよ。これで少なくともヨトゥンヘイムのレールガンは使えなくなった。これから私達は皆と合流しよう。」

 

 

 

 

「ええ…。」

 

 

 

 

尾張を撃沈した直後から、彼女達は次なる動きを見せていた。

 

 

 

それは、超重力砲の射線を細くして、射程による威力減衰を軽減させ、艦隊旗艦であるヨトゥンヘイムを¨この場所から狙撃¨することだったのだ。

 

 

しかし、シチリア島の向こう側にいる超兵器を狙撃するには、直線的に発射される超重力では島を貫通し、街や民衆に甚大な被害を及ぼす危険がある。

 

 

そこでもえかは、ヨトゥンヘイムがシチリア島の山に穿ったレールガンの穴を利用する作戦を立てていたのだ。

 

 

 

更に彼女は賭けに出た。

 

 

多数の味方を失った敵が補給中の異世界艦隊を狙ってくる事は確定だとして、取る方策は大きく分けて2つ。

 

 

 

 

1つ目は、足の速いジュラーヴリクのみを異世界艦隊とぶつけ、残りはその間にイタリア方面へと北上して再起を謀る事。

 

 

 

2つ目は、ハルナとキリシマが撃沈されていない可能性を敵が考慮した場合だ。

 

 

この場合、敵は今回の超重力砲の発射点から、タカオが未だシチリア島南部にいると断定するだろう。

 

 

そしてハルナ達が一時的にでも戦闘に参加できない状態だとすると、残るはメアリースチュアートと超兵器戦に不馴れな弁天の2隻のみとなり、彼等としては、異世界艦隊に打撃を与える絶好のチャンスを得た事になるのである。

 

 

従って超兵器艦隊は、全員でシチリア島西部へと移動し、補給中の異世界艦隊を強襲する可能性があるわけだ。

 

 

そしてもえかは賭けに勝った。

 

 

異世界艦隊に向けて出発したヨトゥンヘイムは、先程自らが開けたシチリア島の穴の前へと現れたのだ。

 

 

 

そこを狙っていたタカオは、超重力砲を発射して山に開けられた穴を通し、狙撃を行う。

 

 

 

ただ、敵がこちらの攻撃を予想以上に早く検知した為、本体である戦艦部に直撃させる事が出来なかったのだ。

 

 

二人は悔しさに表情を歪ませる。するとタカオが突如としてよろめいた。

 

 

「うっ…。」

 

 

 

「タカオ!?」

 

 

 

 

彼女の身体を慌ててもえかが受け止め、彼女は辛そうな表情を浮かべつつも、顔を上げた。

 

 

 

「大丈夫…よ。連続で超重力砲を発射したから反動が来ただけ。少しすれば動けるわ。」

 

 

 

「無理はしないで…。少し休んでから出発しよう。今ので少しは時間が稼げたと思うから。」

 

 

 

「解ったわ…。」

 

 

 

もえかはタカオを壁に寄り掛けると、海へと視線を移す。その目には、未だ不安の色が浮かぶ。

 

 

 

(残る超兵器は3隻と1機。対するこちらは3隻だけど、事実上私達が接敵に間に合う可能性は低い…どうする?)

 

 

 

超兵器の実力は数では計れない。

 

 

況して、小笠原で彼女達を散々翻弄し、恐怖を植え付けた播磨を遥かに凌ぐ力を持つ方面統括旗艦が相手なのだ。

 

 

 

蒼き鋼の艦艇無しでの戦いは非常に厳しいものとなるだろう。

 

 

 

もえかは自分の無力さを改めて噛み締めるのだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

ピカッ!

 

 

 

 

20分程前に、シチリア島北西に位置する辺りの空が突如として明るく光を放ち、それは補給の最中である異世界艦隊の乗員達を不安と緊張に陥れていた。

 

 

 

 

ヴェルナーも勿論その一人だ。

 

 

 

 

(なんだ今のは…超兵器の新たな攻撃か?)

 

 

 

嫌な予感ばかりが頭を過る。

 

 

 

しかし、

 

 

 

『ヴェルナー艦長!』

 

 

 

「知名艦長!?付いてこられなかったので、どうされたのかと…。」

 

 

 

『報告が遅れて申し訳ありません…。つい先程、超兵器艦隊旗艦であるヨトゥンヘイムに超重力砲による狙撃を敢行していました。』

 

 

 

 

「なっ…!」

 

 

 

驚愕の事実に彼の表情は固まる。

 

 

 

当然であろう、戦争とは一手一手を慎重に熟考し事を進めることが常識だ。

 

 

 

しかし、彼女達は軍人ではないし、況して先の戦争から100年以上が経過した平和の中の住人なのだ。

 

 

 

彼等の常識は彼女達には解らない。

 

 

更にそこに常識を超えた艦艇を操るとなれば尚更だろう。

 

 

 

しかも彼女は、その道なる能力を持つ兵器に素早く順応して見せた。

 

 

 

ヴェルナーはそこに、頼もしさを感じつつも、同時に¨危うさ¨を感じる。

 

 

 

 

戦争とは言わば、人間の奥底に潜む破壊衝動の産物だ。

 

彼等の世界の様に、それを発散し続けていたのであれば、人々は戦争などたくさんだと思うのだろう。

 

だが、戦争をひたすらに抑止され続けたこの世界に於いて、超兵器やそれに類する技術はどれ程甘美な物か知れない。

 

 

 

もし、超兵器やそれらの技術がこの世界に拡散してしまったのなら…。

 

 

 

ヴェルナーはそれを、無垢な子供の前に差し出された¨新しい玩具¨に感じた。

 

 

 

玩具を使う子供に悪気などないし、それを使った末に何が起こるかも深くは考えないだろう。

 

 

 

それが玩具なのか、核兵器なのか。

 

 

それとも、全てを巻き込む¨重力兵器¨か¨大陸を消し飛ばす兵器¨の違いに過ぎない。

 

 

 

ヴェルナーは蒼き鋼の超重力砲がどんなものかを理解している。

 

故に彼は、恐らくもえかがこれ以上ヨトゥンヘイムの暴挙を許さぬ為に、シチリア島の住民を犠牲にして、島を貫通させた超重力砲を敵に命中させたに違いないと考えたのだ。

 

 

 

しかし、

 

 

 

『超重力砲は敵のレールガンが開けた山岳の穴を利用した事と、タカオの解析にによって人的な被害は皆無です。 』

 

 

 

「!」

 

 

 

彼の心中をもえかが察したのかは解らないが、彼女は彼の予想を上回る回答を返してきた。

 

 

 

ヴェルナーは、遥か海の彼方にいるシュルツの事と想う。

 

 

 

彼は最初から彼女達ブルーマーメイドを信用に足る組織と考えていたのだ。

 

 

厳密に言うならば、岬明乃と彼女を取り巻く人物達を…。

 

 

 

 

彼女達は、超兵器を前にしても怯まず、世界を牛耳れる甘美な誘惑にも屈せず、ただひたすらに平和を望んでいた。

 

 

 

それを感じたシュルツや群像は、はれかぜを貸し与え、タカオへの乗艦を許したのだろう。

 

 

 

きっと彼女は、力の使い方を誤りはしないと確信して…。

 

 

 

ヴェルナーは表情を元に戻すと、冷静にもえかの言葉に耳を傾るける事に注力した。

 

 

 

『…それで、超兵器艦隊が今後どの様な動きを見せるのかは予測できません。こちらはタカオが超重力砲の連射による反動で暫くは身動きが取れない状況ですし。』

 

 

 

「下手をすると我々2隻で、超兵器3隻と1機を相手にしなければならないのですね?」

 

 

 

『はい…。力になれず申し訳ありません。』

 

 

 

「いいえ。ヨトゥンヘイムのレールガンと付随する空母が破壊されているのは大きい。知名艦長は、そのままタカオが回復するまで休んでください。こちらは何とか対処します。」

 

 

 

『解りました。お気をつけて…。』

 

 

 

通信を終えたヴェルナーの表情は再び険しいものとなる。

 

 

 

この2隻だけでヨトゥンヘイム1隻を相手に出来るのかと言う状況の中で、残りを相手に出来るとは思えない。

 

 

 

そこへ、エミリアがタブレット端末を手に彼に近付いた。

 

 

 

「艦長。航空偵察隊からの報告が来ました。現在敵艦隊は、シチリア島北西部に停止中。こちらには駿河が単艦で向かってきている模様!」

 

 

 

 

「単艦で…か。旗艦に何かあったと見るべきか?」

 

 

 

 

「解りません…。航空隊は、確認前に対空砲火に遭遇し帰還していますので…。」

 

 

 

 

(解せないな…。駿河単艦での進行は明らかに時間稼ぎである可能性が高い。知名艦長の報告が確かなら、敵はレールガンを発射できない筈だ。超長距離狙撃が無いならば、敵は今、何をしているというんだ…。)

 

 

 

 

いまだ不穏な動きを見せる超兵器に、ヴェルナーは胸騒ぎを覚えるのだった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

一方、駿河を分離した超兵器艦隊は、次なる動きを見せていた。

 

 

デュアルクレイターの飛行甲板に墜落したジュラーヴリクからノズルが延びてヨトゥンヘイムへ接続され、おぞましい紫色の光が注入されている。

 

 

そして…。

 

 

 

ヴォン…!

 

 

 

夜の海を、ヨトゥンヘイムの船体が放つ紫色のオーラが妖しく照す。

 

 

 

機関を暴走させて一気にカタを着けるのだろうか…いや。

 

 

船体を包む光は徐々に減少し、まるで船体に吸い込まれる様に消えていった。

 

 

 

 

辺りが夜の静寂に満たされ、不自然な程に穏やかな波が巨大な船体をゆっくりと揺さぶる。

 

 

 

 

ガゴン!

 

 

 

その静寂を破ったのはデュアルクレイターであった。

 

 

 

デュアルクレイターの飛行甲板の左右が一部を展開し、内部から巨大なクレーンらしき支柱が2本立ち上がり、の先端にはフック以外に円柱状の棒や、瓦礫撤去などで使用されるハサミの様なものもあり、自由に取り替えが出来るようになっている。

 

 

 

 

 

そして、最早残骸と化したジュラーヴリクを2本のハサミが掴み、甲板を引き摺って行き、

 

 

 

 

ガチャン…ゴパァアン!

 

 

 

ジュラーヴリクを海へと投棄したのだ。

 

 

超兵器の亡骸は、大きな波を立てて海中へとその身体を没して行く。

 

 

 

 

次にデュアルクレイターは、パウスラスターでヨトゥンヘイムへ横付けし、それと同時に、最早意味を成さなくなった巨大なレールガンからプシューと言う音と共に蒸気が上がった。

 

 

 

 

デュアルクレイターは巨大なクレーンで、艦尾部分から艦橋を貫通するように艦首へと延びているレールガンの砲身を吊り上げて、ジュラーヴリク同様海へと投棄、ヨトゥンヘイムの船体が一気に浮き上がる。

 

 

 

 

 

 

場所を取っていた砲身が取り除かれ、必要最低限の迎撃兵器と、巨大な砲搭がはまっていたであろう窪みのみが存在する殺風景な甲板が露になり、至近での爆発による衝撃で船体が少し歪み、浸水が発生していたのか、側面からは海水が噴き出して見えた。

 

 

 

 

デュアルクレイターは、先程使用した2本のクレーンの先端を円柱状に切り替えると、浸水が発生している亀裂部に押し当てる。

 

 

ジジィジジジ!

 

 

夜の海に激しい光が拡がり、それらが収まると亀裂は綺麗に¨溶接¨され、浸水が停止している。

 

 

更に、デュアルクレイターの甲板の一部が開き、中から多数の兵器がエレベータに乗って現れ、それらをクレーンで吊り上げヨトゥンヘイムへと装着していった。

 

 

 

 

彼の艦は強襲揚陸艦であると同時に、本体も戦艦並の戦力を持つ戦闘艦であり、補給そして修理までこなす¨多機能艦艇¨だったのだ。

 

 

戦争に於ける補給艦や工作艦は、戦闘能力に秀でていなかったとしても、資材が豊富にある港湾施設とは違い、限られた資材を節約して使用しなければならない軍艦にとって、どれ程重要な存在なのかは理解に難くない。

 

 

 

況してこの度は、超兵器は特定の国家に依存しておらず、修復不能な損傷を負うことは即、撃沈を意味している。

 

 

 

そこで超兵器艦隊は、ある程度の自衛が可能であり、揚陸と言う役目を負わなくなったデュアルクレイターを¨戦闘工作補給艦¨として改装し、各超兵器への弾薬の補給や装備の調整などを担わせ、その事により超兵器艦隊は、以前の世界の様に他者からの通商破壊や、物資寸断による弱体化を気にする事無く、常に全力で活動出来る体勢を整えたのだ。

 

 

 

 

彼の艦は、その能力を遺憾なく発揮し、さながら¨お色直し¨の様にヨトゥンヘイムをレールガンだけに頼らない、本来の超巨大戦艦へと昇華させて行く。

 

 

 

そして、デュアルクレイターの甲板には次々と兵器が現れ、ヨトゥンヘイムは決戦の準備を着々と進めて行くのだった。  + + +

 

 

補給を早急に終えた異世界艦隊の2隻は、シチリア北西部へ足を進めようとしていた。

 

 

 

作業が早めに終了したのは、駿河の接近と敵旗艦の行動の不気味さが、乗員達の切れかけた緊張感を再び高めた事が要因である。

 

 

しかし、彼等の蓄積された疲労が消える筈も無く、相手が小笠原で異世界艦隊を単艦で翻弄した播磨の二番艦であることもあり、再び訪れた死の恐怖が、こうしている間にも彼等の精神を蝕み続けていた。

 

 

 

 

(駿河…か。正直ウィルキアや蒼き鋼の連中の戦力は、俺達が束になっても敵う相手じゃねぇ。そいつらを単艦で相手をした播磨の二番艦が相手だ。しかも今は蒼き鋼の艦艇はこの場にはいねぇ。どうする…。)

 

 

 

額に滲む汗を拭いつつも、真冬は自らの不安と戦い続けていた。

 

 

しかし、

 

 

 

「か、艦長!前方に艦影!形状から駿河と思われます!」

 

 

 

「ちっ、考えさせてもくれないって訳か…。」

 

 

 

 

彼女は歯噛みをして眼前を睨み付ける。

 

 

 

 

大和型戦艦を彷彿とさせる3本のアンテナと船体形状、そしてそれらを横に2つ繋げた双胴の船体。

 

 

 

何よりも、その広い甲板上にびっしりと配置されている砲搭群や各種兵装は、まるで針の山にも形容でいる異様な姿であ。った。

 

 

 

逃げも隠れも許さぬ、力の化身。

 

 

 

もう一匹の【双角の鬼】

 

 

 

言い方など何でも良い。

 

 

ただ確かな事は、目の前の艦は自分達を塵芥にするまで止まらないと言う事だけだ。

 

 

勿論、彼女達が沈めば次は罪の無い民衆をもその牙にかけるだろう。

 

 

 

 

真冬は拳を握り締め、吼えるように指示を飛ばした。

 

 

 

「気合いを入れろ!こいつを止めなきゃ、欧州の未来は無ぇ!」

 

 

 

弁天が再び動きだし、砲搭の先を駿河へと向けた。

 

 

 

一方のメアリースチュアートでも、ヴェルナーの指示によって慌ただしく乗員が動いている。

 

 

 

駿河に手間取っている暇などある筈も無いのだ。

 

 

 

相手は、南欧州を統括できる能力を有するヨトゥンヘイム。

 

 

時間を与えすぎれば、不利になるのは目に見えていた。

 

 

 

「航空機、発艦せよ!弁天と共にミサイルで駿河を牽制し光子榴弾砲を撃ち込む。準備急げ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

ボォン!

 

 

弁天とメアリースチュアートから牽制の砲弾が放たれ、発艦した航空機からは順次ミサイルが駿河へと殺到して行った。

 

 

 

出来るだけ防壁を消費させてケリをつける算段ななのだろう。

 

 

しかし、

 

 

 

パカンッ…ボォン!

 

 

「!!?」

 

 

一同はその異様な光景に驚愕する。

 

 

多数の弾頭が超兵器へと着弾する寸前に、彼の艦の甲板上に分厚い鉄の壁が現れ、まるで蛾の繭の様に内部を覆ったのだ。

 

 

 

 

砲弾はその壁に衝突すると炸裂して破片となり、爆煙が晴れた時、そこには無傷の装甲が現れたのだ。

 

 

 

「装甲が一瞬で展開された?一体どうやって…いや、それは問題じゃない、問題なのは…。」

 

 

 

「これ程の攻撃を¨防御重力場無し¨で受けても、装甲に大した損傷が見られなかった事ですな?」

 

 

 

「ええ…。」

 

 

 

筑波ですらも唖然とする中、ヴェルナーは思考をフル回転させる。

 

 

 

(あれは以前、どこかで見たような気が…まさか!)

 

 

彼は近くにいるエミリアへ視線を向けた。

 

 

「ジーナス少尉!至急、超兵器に関するデータベースにアクセスしてくれ!調べて欲しい事がある!」

 

 

「は、はっ!しかし…どの超兵器に関する内容を開けば良いのですか?」

 

 

 

「ヴォルケンクラッツァーだ。」

 

 

 

「!」

 

 

「!?」

 

 

彼の言葉に、エミリアだけではなく筑波も驚愕した。

 

 

二人の反応に構わずヴェルナーは言葉を続ける。

 

 

 

「ヴォルケンクラッツァーの¨装甲¨に関する記述があるか調べてくれ!」

 

 

 

「そ、装甲ですか?」

 

 

「急げ!」

 

 

 

「は、はっ!」

 

 

彼女は慌てて端末から情報を閲覧する。

 

 

「どうだ?」

 

 

「あ、ありましたが、ヴォルケンクラッツァー本体が大陸を沈める兵器の暴走によって消滅している事と、帝国から奪取した機密文書にもヴォルケンクラッツァーに関する記述が少ない為、あまり要領を得たものではないかと…。」

 

 

 

「それでも良い。話してくれ!」

 

 

「はっ!超兵器ヴォルケンクラッツァーには、他の超兵器とは異なり、¨特殊防御装甲¨と呼ばれる装甲が実装されているとの記述が有ります。後述のブラウン博士による考察では、非常に重さがかさむ代わりに、¨防御重力場や電磁防壁を使用せずとも損傷を受けにくい機構の装甲¨であるとの記述が有りました。」

 

 

 

 

「やはりか…。」

 

 

 

「厄介ですな…。先程の様子では、実弾はほぼ無効化されている様にも見えましたが、光学兵器対する防御はあまり優秀ではないように感じました。」

 

 

 

「と言う事は、あれは特殊防御装甲の廉価版、¨実弾防御装甲¨とでも呼称すべき物だと?」

 

 

 

「でしょうな。しかし、敵は防御重力場に使用するエネルギーを電磁防壁に割く事が可能になります。防御の面で言うなら播磨よりも性能は上でしょう。奴等が【双角の鬼】と言われる理由は、播磨と駿河が本来¨2隻で一対¨の運用を目的としていたのではないかと推測します。」

 

 

 

「成る程。攻撃に特化し播磨と防御に特化した駿河を同時運用する…ですか、小笠原で奴が現れなかった事は幸いですね…。」

 

 

 

 

「いえ、寧ろあの時撃沈出来ていたなら、これ程苦戦は無かった。奴がここにいる理由は、ヨトゥンヘイムがそれ程に重要であると言えましょう。」

 

 

 

筑波の言う事は尤もだった。

 

 

 

て重要度の高いヨトゥンヘイムの護衛としてこれ程適任はいないだろう。

 

そして駿河が現れたタイミング。

 

 

それが意味するのは…。

 

 

 

(実弾防御装甲に最も効果を発揮するのは、蒼き鋼の侵食弾頭兵器か、光子兵器の様な反応熱を利用する兵装だ。そして今、蒼き鋼の艦艇はこの場にはいない。その隙を突かれる形になった訳だが…。)

 

 

 

 

ヴェルナーは駿河を一瞥する。

 

 

 

 

「想定内だ!」

 

 

 

もう一匹の鬼との戦いが幕を開ける。

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


デュアルクレイターの新規性能

そして駿河の実弾防御装甲の登場となりました。


ストーリーの折り返しまでもう少し。


これからも地道に諦めず進めて参ります。


尚、お気に入りが100を突破致しましたこと、本当に感謝致します。


30話程度で簡素に完結させようと始めたこの小説を、ここまで育てていただいたのは、目を通して下さった全ての方々のお陰と思っております。


この場をお借りしまして、厚く御礼申し上げます。



これからも、【とらふり】を宜しくお願い致します。
































とらふり!


真白
「ふぅ…久しぶりの風呂は気持ちが良いな!」



もえか
「ズルいよ宗谷さん!私達もう汗まみれなのにっ!」



真白
「だって次の編までは楽屋待機で暇なんだから仕方ないじゃないか!」



エミリア
「でも確かにシャワーだけでも浴びたいですよねぇ。西進組は女性比率低いですし…。良いなぁ~メンタルモデルの皆さんは汚れなくて羨ましいです…。」



真白
「私達が戦っていた時、遠慮しないで幾らでも入っておけば良かったじゃないのか?」



もえか
「まぁ…そうなんだけどね。」


エミリア
「ですねぇ…。」



真白
「どうした?歯切れが悪そうだが…。」



もえか
「うん、西進組にはスキズブラズニルみたいな大型ドック艦が無いし、浴室を男女兼用にする訳にもいかないから、フンディンにお世話になってたんだけど…。」



真白
「だけど…?」



エミリア
「はぁ…真冬さんが毎日浴室の近くをうろついて根性注入の機会を伺ってるんですよ…自分は弁天の浴室があるにも関わらず。」



真白
「……。」



もえか
「なんか…《弁天の奴らのは飽きたから、知名や異世界人の尻を…グフフ》とか言ってたかな…。足腰立たなくなるまで根性注入されると思うと、あっ今日くらい良いかなってなって…。」



エミリア
「ですよねぇ~。」



真白
「なんか、本当にすまん…。」


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宵の光条  VS 超兵器

大変永らくお待たせいたしました。


南欧海戦の後半戦になります。


それではどうぞ。


   + + +

 

 

 

 

 

「時間が惜しい。準備急げ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

ヴェルナーの指示で、艦内が緊張に包まれる。

 

 

 

実弾防御装甲を有した駿河には、まともな方法で損傷を与えることが出来ない。

 

 

そう、¨まともな兵装¨ならば…だ。

 

 

 

ミサイル発射官には、通常のミサイルよりも一回り大きく、先端が特殊な形状をしたミサイルが装填された。

 

 

 

一方の弁天に於いても動きが慌ただしくなる。

 

 

 

メアリースチュアートから、超兵器の装甲について連絡を受けた真冬は、遂にある決断を下す。

 

 

 

 

「砲雷班に伝えろ!¨例の弾頭¨の使用を許可すると!」

 

 

 

「例のとは一体何なのですか?」

 

 

「質問は受け付けねぇぞ平賀。まぁ正直、どんな兵器でもアレを抜ける気がしねぇが、やらないよりはマシだ。早く伝えろ!」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

平賀は慌てて真冬の命を伝える。

 

 

それにともなって艦内が一段と慌ただしく動き始めた。

 

 

その間も、双方の砲撃が止むこと無く駿河に殺到し続ける。

 

 

 

航空隊の一宮も、空対艦ミサイルを発射し、駿河を牽制していた。

 

 

 

「くっ…なんて堅ぇ装甲なんだ!化け物か?…だが!」

 

 

 

敵の装甲は、こちらの攻撃を一切の受け付けていない。

 

 

しかし、唯一装甲に覆われていない超兵器の直上には攻め入る隙があると彼は確信する。

 

 

 

 

「全員、攻撃を駿河直上にある装甲に覆われていない箇所を狙え!」

 

 

 

彼が指示を飛ばし、隊が駿河の直上に接近した時だった。

 

 

 

ビービービー!

 

 

 

「!?」

 

 

 

不愉快な警告アラームが鳴り響き、一同は急に嫌な汗が吹き出てくる。

 

 

 

それは、自らの機体が¨ロックオン¨されている事を示していたからだ。

 

一宮は、急いで通信機に向かって声を張る。

 

 

 

「対空ミサイルが来る!全員散開して回避に努めろ!敵は対空防御に長けているぞ!」

 

 

 

航空隊がバラバラに逃げ惑い、直後に駿河から大量のミサイルやパルスレーザー、そしてバルカン砲が凄まじい数で襲ってくる。

 

 

そして航空隊は、各々チャフをばら蒔いて散開した。

 

 

 

(危なかった…播磨とは別物だな。広い甲板を狙う作戦はアイツには通用しない。)

 

 

 

播磨型の最大の武器は、双胴である広い甲板に大量の兵器を搭載出来る点ではあるが、逆にそれがあらゆる攻撃を受けてしまうの弱点でもあるのだ。

 

 

特に航空機からの攻撃は回避が難しく、彼等のいた世界に於いて、空母艦隊による航空攻撃によって、甲板上の主兵装を破損した播磨は、後続の艦隊によってあえなく撃沈を喫している。

 

 

 

しかし、駿河はそうはいかない。

 

 

誘導性や速射性の高い兵装を大口径の砲塔の代わりに大量に設置することで防空対策を万全にし、更に実弾防御装甲によって艦砲やミサイルをも通さない鉄壁の防御を実現していたのだ。

 

 

 

 

これにより異世界艦隊は、攻め手を失ってしまうわけだが、彼等には秘策があった。

 

 

 

『こちらメアリースチュアート。攻撃準備完了!攻撃隊は、牽制のミサイルを一斉発射後、超兵器より距離を取れ!』

 

 

 

 

「了解!」

 

 

 

航空隊は、一斉にミサイルを発射して駿河から離脱を謀る。

 

 

 

(後は頼みます!)

 

 

彼等の望みは、2隻の艦艇へと託された。

 

 

 

   + + +

 

 

「艦長、ご命令を!」

 

 

筑波の声に、ヴェルナーは大きく頷く。

 

 

 

「長々とお前に付き合うつもりはない!¨侵食弾頭弾¨撃て!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

バシュォオ!バシュォオ!

 

 

 

複数の侵食弾頭ミサイルがメアリースチュアートから発射され、駿河へと飛翔して行く。

 

 

 

勿論、ウィルキアを含めた人類が、未知なる技術で造られた侵食弾頭兵器を開発することは不可能であったが、彼の艦は日本を出発する前に蒼き鋼からの技術提供とヒュウガの協力により、侵食弾頭兵器を彼等以外の軍艦に搭載する事を可能にしていたのだった。

 

 

 

通常弾頭とは異なり、複雑な誘導パターンを実現できる侵食弾頭は、蛾の繭と化した駿河の外縁から放たれる光学兵器群や迎撃ミサイルを悉く交わし、実弾に対して驚異的な強度を誇る実弾防御装甲へと向かって行く。

 

 

 

そして、

 

 

ビジィ!

 

 

 

着弾と同時にあらゆる物質を崩壊させるタナトニウムが、分厚い装甲を意図も簡単に崩壊させ、それと同時に超絶な重力が原子レベルに迄に分解された装甲を押し潰して抉り取っていった。

 

 

 

次々と着弾する侵食弾頭に対し、実弾防御装甲に複数の穴が穿たれ、メアリースチュアートはそこにミサイルを間髪入れず叩き込んだ。

 

 

 

実弾を防壁装甲に任せて、電磁防壁を展開していた駿河の甲板で複数の爆発が発生する。

 

 

 

だが、ヴェルナー達ウィルキアの乗員が安堵の表情を現す事はない。

 

超兵器を知り尽くし、多くの戦友を失ってきた彼等は、敵の破壊に対する執念を決して侮ってはいなかったのだ。

 

 

 

 

「砲撃は継続!装甲に穴を開けられた敵は防御重力場を展開するかもしれない。より厳しくなるぞ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

乗員達の気が一層引き締まり、動きが洗練されて行き、艦が速度をあげる。

 

 

艦橋内も、情報の収集が慌ただしくなった。

 

 

 

「艦長、弁天より攻撃準備完了の連絡が入りました!」

 

 

 

「よし!航空部隊を下がらせろ!牽制弾の装填急げ!弁天を援護する!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

 

   + + +

 

「艦長。噴進魚雷ではなくVLAでの発射なのですか?」

 

 

 

「ああ、無駄弾を撃つ余裕は俺達にはねぇ。確実に当てる!」

 

 

 

 

真冬は駿河から一切視線を外さず、攻撃の隙を伺う。

 

 

 

VLAと噴進魚雷。

 

 

仕組みは似ているが根本的に違うものがある。

 

 

それは¨誘導性¨だ。

 

 

航空技術の進歩に乏しかったこの世界に於いてのミサイルや噴進魚雷と呼ばれる物には、厳密に言うとウィルキアや蒼き鋼の兵装のような誘導性能と言うものは存在しない。

 

 

 

言うなれば、大まかに敵の方向へと飛翔する弾頭や魚雷を意味しているのだ。

 

 

ウィルキアに於いては、それらを噴進砲と呼称し、ミサイル等と区別をしている。

 

 

 

その技術すらも異世界から来た技術に大きく劣っている訳だが、通信を円滑にするべく衛星を宇宙へ打ち出す迄に、どれ程の苦悩と挫折があったのかは想像するまでもないのだが…。

 

 

 

噴進魚雷もまた噴進砲の類似品であり、敵の方向へ大まかに飛翔、その後一段目を切り離して魚雷部分がパラシュートで落下し、着水の衝撃でパラシュートを切り離した後は無誘導で直線的に進行する。

 

 

ただ、風向きによって着水方向が乱れる事や、魚雷の角度によっては全く見当違いの方向へ進行してしまう事も多々あり、噴進魚雷を扱う部所では天候や風速、敵との距離や発射角度を即時に計算して、最適かつ効果的に使用する事を求められている。

 

 

 

どれ程困難なのかは、6年前のRATtウィルス事件の時、ウィルスに犯され暴走状態となった戦艦【武蔵】を停止させる際にブルーマーメイドが使用し、あれ程巨大な武蔵の船体に全弾を命中させた事を芽衣が目を丸くして驚愕した程なのだ。

 

 

 

海賊対策の際には主に威嚇として使用され、場合によって相手船舶に損傷を与えなければならない場面では、魚雷発射官からの発射がブルーマーメイドのセオリーとなっている。

 

 

 

それに対してウィルキアから提供された防空システム求められている含めたミサイル技術一式は、追尾性能が極めて優れており、正に世界に革命をもたらしたと言えよう。

 

 

 

しかしながらこの技術は、ボタン一つで世界の任意の場所をピンポイントで破壊できる技術も内包しており、実感を伴わない破壊は、戦争を始める上でのボーダーラインを低く設定してしまう事にも繋がりかねない。

 

技術の提供に当たってシュルツを含めたウィルキア陣営がいかに葛藤したのかは言うまでもないだろう。

 

 

だが、超兵器が航空機を兵器として使用し、それが国家戦力をいとも簡単に打ち砕いてしまった悪しき前例が作られてしまったが故に、ウィルキア陣営は優れた航空機の撃墜システムを提供することで、ゼロからのパイロット育成の手間からの撃墜による損失に対する徒労感を各国に植え付ける狙いがあったのだ。

 

 

 

話を戻そう。

 

 

 

真冬が平賀に伝えたニュアンスよりも、今から発射される弾頭は生易しい物ではない。

 

 

 

しかし、そうでも言わなければ彼女ですらも自分を保てる自信がなかった。

 

 

 

【光子弾頭魚雷】

 

 

 

VLAに搭載されている弾頭だ。

 

 

 

それは、メアリースチュアートが超兵器に放った光子榴弾砲の魚雷版であり、明乃達ですらも未だ使った事の無い強大な兵器なのだ。

 

 

 

ヴェルナー達の世界に於いての第二次世界対戦の際、広島と長崎に原子爆弾を投下した飛行機の乗組員は、そのあまりの威力に精神を病んでしまった者もいたと言う。

 

 

 

 

弁天は恐らく、この世界で初めて強大な兵器を使用する艦艇となるだろうが、メアリースチュアートの光子榴弾砲の威力を知っているだけに、真冬は決断を迫られていた。

 

 

 

もしかしたら発射を指示した自分や、クルーが自らのしでかした行為に押し潰されてしまわないか、更には強大な力の魅力に囚われてしまうのではないかと不安になる。

 

 

 

しかし相手は、機械の様に慈悲無き殺戮を容赦なく撒き散らしてくるのだ。

 

 

 

沈めなければ、多くの一般市民が犠牲となる。

 

 

 

 

(そんなのさせてたまるかよ!)

 

 

 

彼女は、自らの心に存在する迷いを殴り付けて黙らせ、そして周りが気付かぬようには大きく息を吸い込んだ。

 

 

 

決して責任を仲間には背負わせたりしない。

全てを自分が背負って行くと覚悟し彼女は眼前をしっかりと見つめる。

 

 

 

そしていよいよその時は、やって来た。

 

 

 

彼女は吸い込んだ息を吐ききるように一際大きな口を開ける。

 

 

 

 

「攻ぅ撃始めぇえ!」

 

 

 

バシュォオ!

 

 

 

発射官から光子弾頭魚雷をのせたミサイルが放たれ、一直線に飛翔して行く。

 

 

カチャン…。

 

 

光子弾頭弾は、尖端がロケットブースターが切り離されて魚雷がパラシュートで降下し、着水と同時に切り離された弾頭が駿河へと走って行く。

 

 

 

「………。」

 

 

真冬はその様子をから一切視線を外さなかった。

 

防衛や救助を主任務とする彼女達が使用するには余りにも過ぎた武力を行使する【罪】…。

 

真冬はそれから目を逸らしたくは無かったのだ。

 

 

「魚雷、間も無く着弾します!」

 

 

「ああ…。」

 

 

 

彼女は唇を噛み、拳を握り締めて震えを抑える。

 

 

そして、光子弾頭を搭載した魚雷が駿河に着弾するその刹那に…。

 

 

《如何ニ鋭キ刃トモ、通サヌ決意ハ我ガ誉…。》

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

頭に直接響く声は重く、そして何よりも高く越え難い困難を示しているかのように彼女を動揺させる。

 

 

 

次の瞬間、駿河は展開していた実弾防御装甲を瞬時に¨格納¨したのだ。

 

驚愕の表情を真冬が浮かべ、そして…。

 

 

 

チカッ…ブゥオオォ!

 

 

 

彼の超兵器に光子弾頭魚雷が直撃し、反応熱によって急激に膨張した海水が熱波と衝撃波を伴って一気に爆発する。

 

 

 

数秒も経たぬ内に荒れ狂う波が弁天へ押し寄せ、乗員達の悲鳴が艦内を埋め尽くした。

 

 

 

真冬は、己の所業に力を失いそうになる脚を何とか踏ん張り、駿河がいるであろう眼前の水蒸気の塊を睨む。

 

 

 

「確認を急げ…駿河はどうなった!」

 

 

 

「は、はい!超兵器駿河は…あっ…。」

 

 

 

平賀の声が全てを物語ってしまった。

 

 

真冬は小さく舌打ちをすると、晴れて行く水蒸気から一部が見え始めた駿河を一層鋭い目で睨んだ。

 

 

「超兵器ノイズ確認。駿河は…。」

 

 

湯気の中から戦艦大和を思わせるアンテナが姿を現す。

 

 

正面から見たそれは、彼女からはまるで鬼の角の様に見えたのだった。

 

 

 

《全テヲ正面ヨリ受ケ止メ、尚モ沈マヌハ我ガ誉…。》

 

 

 

「健在です!」

 

 

 

「…………。」

 

 

全容が露になった駿河の船体からは至る所で黒煙が上がり、右舷側に装備されていた一部の兵装が熱で変形し、高温に熱せられた船体と海水が接触して白い湯気を立ち上らせる。

 

 

しかし、あれほどの攻撃にも関わらず船体は一切傾く事無くそこに鎮座し、一部を失えど未だ多数存在する砲塔群を全て弁天に向けてゆっくりと移動を開始した。

 

 

 

その様は、まるで動物が標的に狙いを絞り、牙を剥いて戦闘体制に入ったかの如き猛烈な威圧感を放っており、死をより現実に実感した真冬は、身体が硬直し、声を上手く発する事すら出来ない。

 

 

 

(こ、こいつは本当に無人の軍艦なのか!?はれかぜの連中や知名は、こんな化け物を前にしてたって言うのかよ!)

 

 

心臓の鼓動が速い。

 

身体から吹き出す汗を止める事も出来ない。

 

 

もし許されるなら、今すぐにでも子供の様に泣き喚いて逃げ出したい。

 

 

 

そんな気持ちが止めどなく湧いてきしまう情けない自分に、彼女は吐き気を模様すような嫌悪感を禁じ得なかった。

 

 

 

それと同時に、何故明乃やもえか達が何の疑問もなく超兵器に立ち向かえるのか疑問に思ったのだった。

 

 

 

彼女達の若さ故か…いや、少なくとも怖いもの知らずで立ち向かい続けられる程の相手ではない事だけは確かだろう。

 

 

 

では何故なのか…。

 

 

 

《海の仲間は¨家族¨だから。》

 

 

 

明乃の口癖だ。

 

 

 

両親を失った彼女は、少なくとも自らの周りに出来た絆を決して疎かにはしないし、それは同じ境遇であるもえかも同様でろう。

 

 

 

そう、彼女達は失った命が、そして失った者と過ごす筈だった時間が決して戻らない事を自覚している。

 

 

それは、彼女達と波乱の青春時代を過ごした友の深層意識にも共有されているに違いなかった。

 

 

 

故に彼女達は、正規のブルーマーメイドの隊員として各所に配属された際にも、常に緊張感を持った訓練に終始し、現場に於いては救助者を救えなかった事を何よりも悔やみ、彼等の遺族の気持ちを誰よりも察して涙流してきたのだ。

 

 

 

(……!)

 

 

真冬は、まるで眼前を覆っている何かが晴れて行く様な感覚を覚えた。

 

 

 

その先に見えたのは、家族に優しい笑顔を向け、一度海に向けば鋭くも凛々しい表情に変わる母の姿。

 

 

 

強烈に憧れた。

 

 

 

 

真冬にとって母は本物の¨人魚¨だったのだから…。

 

 

自分も母の様に成りたいと表向きの人格を演じながら、陰では努力を惜しまず勉学に励み、横須賀女子海洋学校を首席で卒業する迄に成長し真冬は、ブルーマーメイドに配属された後も訓練を順当にこなしていった。

 

 

 

しかし彼女の積み重ねてきた自信は、現場にて敢えなく打ち砕かれる事となる。

 

 

 

 

人命の掛かった緊迫した現場での作業は、訓練とはまるで違いマニュアルが全く通用しない。

 

 

 

対処事項の概要や現場での天候状況。

 

 

それらを瞬時に把握し、最適な答えを導き出して行動に移す行程は困難を極め、先輩の機敏な行動について行けず罵声を浴びせられながらも任務をこなして行く。

 

 

それでも命というものは全てを救いきれる訳ではない…。

 

 

 

港で無事に帰ってくると信じて待つ家族の眼前には変わり果てた姿で戻ってきた遺体が置かれ、耳を覆いたくなる悲鳴が辺りに轟き、そしてやり場の無い感情が罵詈雑言となってブルーマーメイドの隊員へと向けられるのだ。

 

 

 

真冬は、遺族の感情を一身に受け止め、深々と頭を下げ続ける先輩隊員達を目にしながら己の未熟さに対する悔しさと、それにも増して失った命以上の人を救って行く決意を新たにするのだった。

 

 

 

(海に生き、海を守り、海を征く…か。こんな事も見失っちまうなんて、情けない限りだ…。)

 

 

 

彼女はいま一度眼前に視線を向ける。

 

 

そこに佇むのは¨双胴の悪鬼¨。

 

 

 

ブルッ!

 

 

 

彼女の身体が震える。

 

 

しかし、それは恐怖からではなかった。

 

 

 

「艦長?どうされまし…。」

 

 

 

「るあぁぁぁあ!」

 

 

ガンッ!

 

 

「!?」

 

 

突然の叫びと共に、真冬が頭を机に思い切り衝突させ、平賀を始めとしたクルー達は唖然とする。

 

 

 

「フゥ…。」

 

 

 

大きく息を吸い、それを全て吐き出すように口を開く。

 

 

 

 

「聞け!今俺達の目の前には越え難い困難がいる。アイツを止めるには、生半可な覚悟じゃダメなんだ!だから俺は光子弾頭弾の使用を決めた!だがな…強すぎた力による事態の解決は、堕落を享受したい人間の心を容赦なくくすぐりやがる…。当然だよな…自分が死ぬかもしれねぇ、家族が死ぬかもしれねぇ、横須賀で死んでいった奴らみたいにな…。でもな、俺達は¨何なんだ¨?何の為にここに来た!救うためなんだよ!」

 

 

 

艦内にいる全ての隊員が彼女の言葉に耳を傾けていた。

 

 

その誰もが拳を握り、疲労でフラつく脚を力を振り絞って踏ん張っている。

 

 

 

「いいか!力に怯えるじゃねぇ!それに屈した瞬間から、異世界もこの世界も、超兵器の存在の有無も関係無ぇ!世の中が終わっちまんだ…。」

 

 

 

 

「………。」

 

 

 

彼女達は、真冬の言葉の意味を理解した。

 

 

 

たとえ超兵器打倒が叶ったとしても、一度火の付いた戦火はそう簡単に消せはしないのだ。

 

 

 

世界では軍拡競争が加速し、強大な武力を用いる国の驚異に人民の心は不安に支配され、結果として強大な武力に対抗する為に更に強力な兵器の開発が行われるだろう。

 

そして最悪の場合、攻め込まれる前に叩くと言う理論の下、泥沼の戦争が幕を開けるのである。

 

 

それこそ、人類がこの世界から消えてしまうその日まで…。

 

 

 

平和を守る彼女達ブルーマーメイドは、武力を用いつつも、それがもたらす甘い誘惑の危険に呑まれてはならず、尚且つそれらの事実を根気強く国家や民衆に説いて行かねばならないのだ。

 

 

 

それには、培ってきた技術だけでは到底足りない。

 

 

 

【心】だ。

 

 

 

心を鍛え上げ行かねばならず、それにはあらゆる経験が必要となるだろう。

 

 

 

「だから俺達は失っちゃいけないんだ!強大な力に立ち向かう心を!力に溺れない心を!そして…。」

 

 

 

 

彼女の脳裏に救えなかった者達の顔が浮かんできた。

 

 

苦悶や絶望。あらゆる表情を見てきたが、一つだけ全てに共通することがある。

 

 

《なぜ…?》

 

 

 

最早ものを写す事が叶わぬ虚ろな瞳で、彼等はそう問うてくるのだ。

 

 

 

《なぜ私がこんな苦しい目に…。》

 

 

《なぜこんな所で…。》

 

 

《なぜ僕が死ななくちゃいけないの?》

 

 

《なぜ ナゼ 何故何故何故何故何故何故何故?》

 

 

 

 

死者達の問いに、真冬は何一つとして答える事が出来なかった…いや、答えられる者などいる筈が無い。

 

 

 

 

だがこれだけははっきりしている。

 

 

 

彼女達はそれらに答えられなかった悔しさを、世界を埋め尽くさんとする¨なぜ?¨の数を減らす原動力に変えてきたのだ。

 

 

 

自己満足なのかもしれない…。

 

 

彼等の¨なぜ?¨に対して《あなたの死がもたらした無念は、私達が他の誰かを救う決意に変わっています。》…と。

 

 

 

綺麗事も甚だしい。

 

吐き気を模様すような偽善。

 

 

 

しかし、その独善的な思いとは裏腹に、本来そのまま放置されれば¨なぜ?¨に統一されてしまうであろう人々を救出して命を繋ぐ事で、彼等が様々な思考で人生を歩んでこれた事実は消すことは出来ない。

 

 

 

 

今はこれでいい…。

 

 

 

彼等の¨なぜ?¨へ答えられなくとも、¨なぜ?ではない¨自分達にはするべき事がある。

 

 

そう死者と生者。

 

 

存在が隔絶された両者は、決して互いに干渉し合えないのだ。

 

 

しかし、¨生者と生者¨ならば…?。

 

 

 

故に彼女は訴え、そして指し示すのだ。

 

 

混沌のなかで、方向を指し示す灯台の様に…。

 

 

 

 

「私達が救えかった者、そして何よりも残された者の気持ちを推し量る心を持て!今、お前達に問う!俺達がするべき事は何だ!」

 

 

 

隊員達は胸に手を当て、そして決意の瞳を開いて行く。

 

 

 

『海に生き、海を守り、海を征く!』

 

 

 

 

「俺達は何なんだ!」

 

 

 

『ブルーマーメイド!』

 

 

 

真冬は、もう一度双角の鬼を見据える。

 

 

その瞳に最早恐れはなかった。

 

 

 

「よし!戦闘体制を継続!出し惜しみはするな!最善をやり尽くして奴を止めるぞ!…攻ぅ撃始めぇ!」

 

 

 

『はい!』

 

 

 

弁天の全ての兵装が火を吹く。

 

 

駿河は、殺到するそれらを防御重力場で受け、攻撃を加えてくるメアリースチュアートや航空隊を無視するかの様に砲門の全てを弁天へと向けて発砲した。

 

 

ドゴォオ!

 

 

「あぐっ…うぉおお!」

 

 

防壁を展開しても尚、激しく揺さぶられる艦内で、真冬は…いや、¨彼女達¨は次なる行動へと動き続ける。

 

 

 

それは正に、生者の意地に他ならかった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

「まずい…弁天が狙われている!援護を続けろ!」

 

 

 

 

航空隊やメアリースチュアートからの絶え間ない攻撃にも関わらず、駿河は弁天に容赦なく攻撃を加える。

 

 

 

このままでは、彼女達の身に危険が及ぶ事は明らかだった。

 

 

 

 

ヴェルナーは更なる攻撃を指示。

数多の砲弾が超兵器へと殺到して行き、それと同時に駿河が実弾防御装甲を展開して彼等の攻撃は無惨にも爆散してしまう。

 

 

しかし、

 

 

 

ガゴン…ギ、ギィ!

 

 

 

「何!?」

 

 

 

駿河の両舷を覆う様に左右から展開される筈だった実弾防御装甲は、左舷のみが展開され、右舷からは悲鳴の様な不愉快な軋み音が響いていた。

 

 

状況を観察していた筑波は目がギラリと光る。

 

 

「成る程…。これは光子弾頭魚雷の影響の様ですな。恐らく熱によって格納されていた実弾防御装甲が周囲に¨固着¨したのでしょう。艦長、この機を逃す手はありませんぞ!」

 

 

 

「はい。総員、敵は光子弾頭魚雷で右舷側の装甲と兵装の一部を損傷している。本艦は駿河の右舷へ回って攻撃を集中させる!準備急げ!」

 

 

 

 

メアリースチュアートが進路を変え、駿河への再接近を試みようと動き始めた時、その悪夢は突如現れたのだった。

 

 

 

 

「な、何だ!?」

 

 

ヴェルナーを始めとした艦橋にいた全ての者が視線を一点に向けている。

 

 

 

その先には、夜の闇を不自然な程に明るく照らす白く巨大な光が見てとれた。

 

そしてその中心には、闇よりも深い黒い色の戦艦が鎮座していたのだ。

 

 

彼等は確信する。

 

 

その禍々しい威圧を放つ者こそが、この艦隊の旗艦であることに…。

 

 

 

「来たかナハト…いや、ヨトゥンヘイム!」

 

 

 

 

「か、艦長!ヨトゥンヘイムから発する光はもしや…!」

 

 

 

 

「光子榴弾砲か!?しかしこれは…。」

 

 

 

 

『急いでその場から待避しろ!』

 

 

 

 

「!?」

 

 

 

 

突如通信に割り込んで来た声に、我に帰ったヴェルナーは艦を全力発進させてその場から離脱を謀る。

 

 

 

だが、敵がそれを見逃してくれる筈も無く、ヨトゥンヘイムは甲板から発する激しい光をメアリースチュアートに向けて発射した。

 

 

 

 

夜の海を凄まじい速度で白い光の線が走って行く。

 

 

 

ヴェルナーは、それが防ぎきれる攻撃でない事を悟った。

 

 

 

その時だ。

 

 

 

ゴォ…。

 

 

 

「か、艦長!あれを!」

 

 

「何だ…あれは!」

 

 

 

 

誰もが死を覚悟した時、ヨトゥンヘイムの遥か後方から青白い光が猛烈な速度で迫ってきた。

 

 

 

それはヨトゥンヘイムの放った光とメアリースチュアートの間に割り込ん出来たのだ。

 

 

 

 

『急いで防壁を展開しろ!全力でだ!』

 

 

 

 

「………っ!」

 

 

 

メアリースチュアートが防壁を展開した直後に…。

 

 

 

グゥゴゴゴォォッ!

 

 

 

「ぐっ!」

 

 

「あぁあああ!」

 

 

 

猛烈な閃光と爆圧、そして轟音が艦に襲い掛かり、中は悲鳴に埋め尽くされる。

 

 

 

これ程の攻撃を受けても艦が沈まない訳は、先程割り込んで来た青白い光のせいなのだろうとヴェルナーは推測する。

 

 

 

そして、それを放った者の正体も彼には見当がついていた。

 

 

 

「やはりあなたでしたか…大戦艦ハルナ!」

 

 

 

『ああ…だが少し違うな。』

 

 

「違う?」

 

 

『おい!私も忘れるなよ!』

 

 

「大戦艦キリシマ!?」

 

 

 

攻撃による余波が薄れ、視界が晴れた夜の海に、蒼き鋼の艦艇が有する智の紋章(イデア・クレスト)がはっきりと浮かび上がり、此方へと向かってくる。

 

 

 

 

だが2つの声とは裏腹に、艦艇の数は一隻しか存在しない。

 

 

 

 

「一体何があったのです?」

 

 

 

『事情を説明している暇は無いが、まぁ私達は一つの船体を2つのメンタルモデルが共有しているとでも考えくれればいい。』

 

 

「そんなことが…。」

 

 

彼は驚愕しつつ、彼女達の登場に安堵を覚えた。

 

 

1対1で相手が出来る程、ヨトゥンヘイムは脆弱ではない。

 

 

 

現状に於いての最高戦力の合流は、心強い限りだった。

 

 

 

一方のハルナ達であるが…。

 

 

 

量子弾頭爆弾が引き起こした重力に呑まれる寸前、キリシマは超重力砲を重力の中心へと発射して中和することに成功していた。

 

 

しかし、度重なる超兵器からの攻撃と量子弾頭爆弾の影響で、彼女達の船体は既に満身創意の状態であったことは言うまでもないだろう。

 

 

 

クラインフィールドに於いても同様だ。

飽和率が上がっている状態では、量子弾頭弾を中和した際に発生した爆圧を防ぎきる事が出来ない。

 

 

だが彼女達は、フィールドを¨ラッセル状¨に展開して力を効率的に逃がす事で消失を免れていた。

 

 

刑部蒔絵のアイディアである。

 

 

彼女は兵器開発の傍ら、クラインフィールドの効率的な運用についても思考を凝らしていた。

 

 

 

従来の様にまともに攻撃を受けてしまえば、超兵器級や大戦艦級が相手だった場合、盾としての役割が減衰してしまう。

 

 

よって形状変化も含め、状況に応じたクラインフィールドの適切な使用はこれからの戦いで必須になってくるのである。

 

 

 

爆圧を防いだ彼女達は、それぞれに再起を謀っていた。

 

 

しかし、ヴェスヴィオ火山の周辺までナノマテリアルを回収しに行く時間は最早残されてはいない。

 

 

よって彼女達は、互いのナノマテリアルを¨合わせる¨事で船体を形成していたのだ。

 

 

 

船体の制御を2つのメンタルモデルが受け持つそれは、言わば【ハルナ・キリシマ】と言うべきであろう。

 

 

 

 

互いの智の紋章が混在したような幾何学的な模様が入った金剛型の甲板上には、ハルナとキリシマが立っている。

 

 

 

キリシマが主に火器管制を担当し、各種センサーによる探知や操鑑、そしてクラインフィールドの制御をハルナが担当している。

 

 

 

驚異度合いが高い艦艇の登場に、ヨトゥンヘイムからは凄まじい数の光学兵器が彼女達を襲う。

 

 

ハルナはそれらをフィールドで弾き飛ばしつつヴェルナーに超兵器の情報を伝えていた。

 

 

 

 

「どうやらデュアルクレイターは¨超兵器専門¨の工作及び補給艦の意味合いがあったようだ。本来ならば撃沈は急務なのだろうが、遺憾ながら此方を優先したためデュアルクレイターの逃走を許した。済まない…。」

 

 

 

『何ですって!?まさかそんな機能が追加されていたとは…しかし、ヨトゥンヘイムを放置すれば南欧は壊滅してしまう。ご英断感謝します。それで、先程超兵器が放った光は何なのですか?見たところ光子兵器の様にも感じましたが…。』

 

 

 

「お前の推測は概ね当たっている。しかし決定的に違うのは、あれが¨ビーム状¨に発射されると言う点だな。言わば¨反物質ビーム砲¨とでも呼称すべきか…。」

 

 

 

『反物質ビーム砲!?と、言う事は…。』

 

 

 

 

「ああ。一発での威力でも脅威だが、あれは光子榴弾砲が発する熱や衝撃波を、照射している間¨断続的¨に発生させる兵器と考えた方が良いだろうな。単発での威力はあのレールガンには及ばないが、あれは連射も利く。」

 

 

 

『厄介ですね…。』

 

 

 

「対策は考えてある。今は、集中して対処に回れ。」

 

 

 

『解りました。』

 

 

 

 

通信を終えた彼女達は、ヨトゥンヘイムからの攻撃を次々と跳ね退けて行く。

 

 

 

そんな中、ハルナに対しキリシマが複雑な表情を向けた。

 

 

 

「皮肉なものだな…。まかさ自艦に人間を乗せると言う暴挙をやってのけた401を、大戦艦である私達がこの様な形で肯定することになろうとは…。」

 

 

 

「ああ。一隻の船体を複数で操艦する事で、演算領域に余裕が生まれた。これならば正確な火器管制を行いつつも、クラインフィールドに蓄積されたダメージを排出して行く事も不可能ではない。機知に富んでいるな…。」

 

 

 

「悔しさを感じないでもないが、今はそれよりも…。」

 

 

 

「そうだな。私達は帰らねばならない…蒔絵の下に。」

 

 

 

「ああ…。」

 

 

 

 

『なぁに感傷的になってんのよ。』

 

 

 

「お前は…タカオ!」

 

 

 

 

タカオが猛スピードで戦闘海域へと飛び込んで来た。

 

 

超重力砲の連続発射による反動から回復した彼女は、全ての演算を速度へと回してシチリアに急行していたのだ。

 

 

 

「全く…遅いわよ!」

 

 

『仕方ないだろ!彼奴等に気付かれないようするのは結構難しいんだよ!』

 

 

「なぁに?メンタルモデルを持った事で¨言い訳¨を実装したわけ?」

 

 

『なにおう!』

 

 

 

「まぁまぁタカオもキリシマも落ち着いて!でもともあれ、役者は揃った…か。タカオ、私達は弁天を援護する。駿河に進路を向けて!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

タカオの重力子エンジンが唸りを上げて、智の紋章が一層輝く。

 

 

 

南欧を舞台とした戦いがいよいよ佳境に入りつつあった。




お付き合い頂きありがとうございます。


反物質ビームの登場。

そして、劇場版アルペジオで描かれたハルナ・キリシマの登場になりました。


南欧海戦も佳境に入り、ストーリーの折り返しも間近に迫って来ました。


リアルが多忙でどうしても進まないのですが、粗雑にならぬよう善処して参ります。



尚、今回の話に登場した人工衛星に関する記述についてですが、原作では人工衛星が存在しない代わりに類似のシステムがあるとの事でしたが、具体的な記述を発見できなかった為、ロケットを真上に打ち上げる技術はどうにか確立し、衛生は存在して通信は可能と言う独自解釈をいれましたのでご了承下さい。



次回まで今しばらくお待ちください。




































とらふり!



ヒュウガ
「フフフ…腕が鳴るわぁ!」




ハルナ
「どうした?ヒュウガ。何やら企んでいるようだが…。」



ヒュウガ
「まぁね。だってそっちももう佳境でしょう?合流すれば私はスキズブラズニルに待機が多くなるわけだし、ちょっと【改造】しちゃおうかなぁ~なんて☆」



ハルナ
「硫黄島やはれかぜの改造では飽き足らず、スキズブラズニルまで魔改造するのか?」




ヒュウガ
「だぁってぇ!こんな未知の文明を見せ付けられたら疼くじゃない?」




ハルナ
「余り調子に乗るなよ?蒔絵に悪影響が及ぶ。マッドになったらどう責任を取るつもりだ。」




ヒュウガ
「解ってるって、珊瑚ちゃんも一緒だから大丈夫よ。」




ハルナ
「サンゴ…あぁブルーマーメイドの整備員の事か?だが、奴からも何やらマッドの雰囲気が漂っていたがな…。」




ヒュウガ
「大丈夫、大丈夫!フフフ…早く着手したいわぁ!ゾクゾクゥ!」




ハルナ
「は、早く決着を着けて戻らねば…蒔絵が染められてしまう!」


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明日を迎える者はどちらだ! VS 超兵器

リアル超多忙によりお待たせして申し訳ありません。



地中海海戦の後半戦になります。


それではどうぞ


   + + +

 

 

 

「ぐあっ…!」

 

 

艦に走る激震に、真冬は思わず声をあげる。

 

 

 

駿河からの苛烈な砲撃は、弁天を着実に追い詰めていた。

 

 

 

 

そして…

 

 

 

視線の傍らには、暗闇でもなお不自然な迄に目立つ漆黒の巨大軍艦が入ってくる。

 

 

 

 

(……っ!)

 

 

 

不思議と身体は震えない。

 

 

いや、理解できていないと言うべきか。

 

 

 

¨鬼¨と言う解りやすい厄災とは異なる何か得体の知れないナニか…。

 

 

 

言葉では形容出来ないおぞましさを真冬は感じているのだった。

 

 

 

「か、艦長!」

 

 

「あ、ああ…」

 

 

 

彼女は平賀の悲鳴で我に帰る。

 

 

そう、呆けているわけにはいかないのだ。

 

 

 

目の前に立ちはだかる双胴の鬼を打ち倒さぬ限り、相手の旗艦へ挑む資格は与えられない。

 

 

 

 

「回避急げ!魚雷も随時発射!主砲、攻ぅ撃始め!」

 

 

 

「撃ちぃ方始め!」

 

 

 

ボォン!

 

 

 

彼女達は、降り注ぐ砲弾雨を足掻きながら反撃を加えて行く。

 

 

だが…

 

 

バガン!

 

 

 

「砲弾並びに魚雷…効果無し!」

 

 

 

「硬てぇ…」

 

 

 

彼女達の砲弾は超兵器に傷一つ付ける事が出来ない。

 

 

既に駿河の砲身の全てが弁天へ照準を合わせている。

 

 

 

(砲弾の嵐が来る!)

 

 

 

 

真冬が身構えた時だった。

 

 

 

ビジィイン!

 

 

 

「!」

 

 

 

駿河の側面へ大量の光学兵器が殺到する。

 

 

 

真冬がその発射元へ視線を移すと、一隻の艦艇が此方へと向かっていた。

 

 

 

『遅くなりました!』

 

 

 

「知名か!」

 

 

 

『はい!』

 

 

 

もえかを乗せたタカオが駿河へと突っ込んでくる。

 

 

 

「一度距離を取って下さい!此方で駿河を引き付けます!」

 

 

 

『すまねぇ…。』

 

 

「くっ!何なのよコイツ!ハリマよりタフなんじゃないの!?」

 

 

 

「アレとは対になる超兵器だからかな…。でも今はとにかく駿河の意識を弁天から外そう!AGSは距離が離れていく対象には当たりにくくなる!」

 

 

 

「了解!ホラ、こっち向きなさいよ!」

 

 

弁天が駿河から距離を取り始め、タカオは更に攻勢を強めていく。

 

 

しかし実際は、攻め手に欠いている状況だ。

 

 

同海域にヨトゥンヘイムがいる以上、長い時間を駿河一隻に割くのは余りにも危険過ぎる。

 

 

 

もえかはモニターや駿河の行動を観察しながら打開に向けた思考を加速させて行く。

 

 

 

(ある程度の情報は把握した。右舷側の実弾防御装甲は使用不能か…。あれ?どうして駿河は使用不能になった面を常に弁天へ向けてるの?)

 

 

 

彼女は浮かんできた疑問を下に、いま一度状況を確認する。

 

 

 

超兵器から距離を開ける為に動き出した弁天は、牽制の為に魚雷や砲弾を放ち、駿河はそれらを実弾防御装甲の展開できない右舷側で防御重力場を用いて反らしている。

 

 

 

だが超兵器の左舷から接近を謀るタカオに対しては、実弾防御をこまめに展開収納を繰り返し、防御重力場も併用していた。

 

 

 

火力的な面から見ては至極合理的なのだろうが、彼女疑問は別な所に移っている。

 

 

 

なぜ¨実弾防御装甲を出し入れしなければならなのか¨だ。

 

 

 

確かに大口径を廃してとは言え、多数のAGSの攻撃は脅威だろう。

 

 

しかしだ

     

 

播磨の100cm砲の威力に比べたらAGSの力は弱く、むしろ実弾防御装甲を展開しながらでも使用できるミサイルや光学兵器の方が使い勝手も威力も申し分無い。

 

 

 

だが駿河は、小まめに装甲を収納しては砲撃を加えてくる。

 

 

 

 

(手数を増やす為?…いや、きっとそれは副産物的なものだ。相手が防御特化型の超兵器だとすれば…あっ!)

 

 

 

 

もえかの頭の中で何かが繋がり始めていた。

 

 

 

 

(実弾防御装甲を収納してるんじゃない。艦の側面…若しくは艦底への魚雷に対する防御として¨展開¨していたんだ!)

 

 

 

全て得心がいった。

 

 

 

 

駿河の目的は飽くまでも旗艦の護衛であり、敵戦力を分散と、有限な弾薬と精神を極限まで浪費させ続ける事が目的なのだ。

 

 

 

故に彼の艦は沈まぬ事が第一の目標となる訳なのである。

 

 

 

実弾防御装甲には、おきく分けて2つの役割がある。

 

一つ目は、甲板上へ飛来する物理攻撃を防ぐ事により、防壁の使用を節約する意味い。

 

 

 

二つ目は、防御重力場が水上の1/10しか展開できない甲板より下を守る事だ。

 

 

 

弁天の砲撃が、事実上駿河の防御重力場を抜けないとすると、脅威なのは魚雷しかない。

 

 

故に敵は弁天を付け狙っていたのではなく、装甲が甲板上に展開出来なくなった右舷側を常に弁天へと向けていただけなのだ。

 

 

 

そして多種に渡る攻撃手段を有するタカオには、あらゆる防御手段を講じる。

 

 

しかし、それには弱点が存在していた。

 

 

 

 

(実弾防御装甲を甲板上に展開している間は喫水付近の防御が逆に手薄になる。そこが狙い目!)

 

 

 

 

彼女はタカオに目配せし、それに従って彼女が魚雷を発射する。

勿論、侵食魚雷も織り混ぜて…。

 

 

 

「いけ!」

 

 

しかし魚雷が接触しようとした瞬間、彼の艦は装甲を格納、防御重力場の力も相まってタカオの魚雷は虚しく砕け散って行く。

 

 

 

だが、それこそが彼女の狙いだった。

 

 

 

「今、キリシマ!」

 

 

 

『了解!』

 

 

 

ガゴン!…ビジィイン!

 

 

 

キリシマの艦橋上部が展開し、円筒状の物がクルクルと回転して発射されて駿河の直上へと静止。

 

 

危険を察知した駿河が空かさず撃ち落としにかかる。

 

 

しかしキリシマは巧みに操作してその攻撃をかわし、装置を起動させた。

 

 

 

バシュン…ジジ…ゴォウン!

 

 

 

複数の稲妻が轟音と共に駿河に向けて落ちて行き、超高圧の電流が海水を瞬時に蒸発させる。

 

 

更に、海水を通じて伝わった電流が駿河内部に格納されていた弾薬に流れ込んで次々と炸裂させていった。

 

 

 

ボゴォ!

 

 

 

巨大な船体の至る所から黒煙が上がる。

 

 

 

 

「今だ!畳み掛けろ!」

 

 

 

真冬の罵声と共に、砲弾と魚雷が一斉に発射され、息を合わせるようにタカオからも砲弾が超兵器へと向かう。

 

 

対する駿河は空かさず装甲を展開しようとする。

 

 

だが…

 

 

ギ…ギギィ!

 

 

装甲は悲鳴を揚げて動く気配がない。

 

 

キリシマの電撃を喰らい、高熱で膨張した装甲は最早使い物にならなくなっており、自由な展開を封じてしまえば、弱点を徹底的に突く事が可能となってくるのだ。

 

 

 

駿河は一方的に2隻からの攻撃を受けてしまう。

 

 

 

ところが迎撃と防御に特化した駿河は尚も傾く事なく、残存した兵器を使用して反撃を続ける。

 

 

 

「チッ!何で沈まないの…よ!」

 

 

 

攻撃を継続しつつもタカオの声には焦りと苛立ちが混じる。

 

 

人類艦を相手にしてた彼女に取っては、一隻に対する長時間の戦闘経験などある筈もなかったのだ。

 

だがそれは、この場にいる全ての者が同時に感じている事でもある訳だが、彼女達の心は折れてはいなかった。

 

 

 

(もう直ぐ…もう直ぐ会えるよ。…ミケちゃん!)

 

 

 

最初の絶望的な状況とは違う。

 

 

 

残り2隻…

 

 

 

その先には大切な友人や仲間達との再会が待っているのだ。

 

 

 

 

【生き残る!】

 

 

 

心の中にある決して折れない芯が彼女達のボロボロの肉体を動かしていた。

 

 

 

 

「もえか!埒が明かない!超重力砲を…」

 

 

 

「焦っちゃダメ!ヨトゥンヘイムは私達の事もきっと見てる!今隙を与えたら差し込まれちゃう!」

 

 

 

「でも!」

 

 

 

「今は攻撃を続けて!きっと隙は出来る!」

 

 

 

 

ゴールが見えている。

 

 

 

そこに生まれる心の隙を、超兵器は決して見逃さないと言う事をもえかは痛いほど味わってきた。

 

 

故に、彼女は徹底的且つ確実に超兵器を叩く選択を選んだのだ。

 

 

 

 

彼女達の抜け目ない攻撃によって、駿河の防御重力場は力を弱めて行く。

 

 

しかし、甲板の至る所から黒煙を上げ、砲身がグニャグニャに捻曲がろうとも、未だ戦意を失わずに残りの砲門を向けて来る様は、【東亜の魔神】と恐れられた播磨を彷彿させる化け物としか形容出来なかった。

 

 

 

 

「もう一度隙を作らなきゃ…タカオ!¨超音波振動魚雷¨用意!通常弾頭に音響魚雷も織り混ぜて!」

 

 

 

「了解!」

 

 

バシュン!

 

 

 

魚雷群が駿河へと向かう。

 

 

そして単調な動きの通常弾頭を超兵器が迎撃した隙に、音響魚雷が炸裂して駿河の耳を奪い、最後に超音波振動魚雷を起動。

大量に出現した気泡似よって、不沈と思われた双胴の船体が始めて傾き始めた。

 

 

 

だが、彼女達は手を緩めない。

 

 

激しい砲撃に、対に駿河の防御重力場が完全に飽和する。

 

 

「叩き込んでやれ!電子撹乱ミサイル、攻撃始め!」

 

 

「電子撹乱ミサイル、発射始め!」

 

 

 

雄叫びの様に叫ぶ真冬の合図と共に、弁天からミサイルが発射され、そして駿河の艦橋付近に着弾。

 

 

強烈な電磁パルスが、超兵器の観測機器類を一気にスクラップにしてしまった。

 

これで駿河は目も失った事になる。

 

 

攻め込むのには絶好の機会であった。

 

 

 

しかし…

 

 

 

ドゴォ!

 

 

 

「ぐあっ!」

 

 

「あ゛あ゛ぁっ!」

 

 

 

ミサイルこそ飛んで来ないまでも、弁天の位置を見失っている筈の駿河は、尚も正確に砲撃や光学兵器を此方に放ってきた。

 

 

 

「っ……!」

 

 

 

これには真冬も驚愕してまう。

 

 

後ろで控えている笹井も表情が険しくなっていた。

 

 

 

一方のもえかもこの状況に疑問が湧く。

 

 

 

(こっちへの攻撃は御粗末そのもの、でもなぜ弁天に…もしかして!)

 

 

 

《内通者》

 

 

 

その存在が真っ先に浮かんだ。

 

 

 

敵に弁天の位置を正確に伝えるには、少なくとも自艦の位置を把握出来る立場にいる者でなければならない。

 

 

 

そしてそれは、同じブルーマーメイドの中にいる。

 

 

 

しかしそこで新たな疑問が湧く。

 

 

 

 

何故内通者は自らも危険に晒されかねない状況に身を置かねばならないのか…

 

 

 

 

だがもえか首を降ってその思考を心に仕舞い込む。

 

 

 

それは今、この場で追うべき内容ではない。

 

 

 

重要なのは、目の前の脅威を決して民衆に向かわせてはならないと言う事なのだ。

 

 

 

自分達がここで沈めば、北欧に展開している超兵器を倒したとしても、北極海へ駒を進める間に、ヨトゥンヘイムが欧州を蹂躙する事になるのは明白だった。

 

 

 

自分を含め、一人でも多くの犠牲を出してはならない。

 

 

それは、親友である明乃の心を引き裂く事に繋がるのだから…

 

 

 

「……!」

 

 

 

もえかは目を見開いて、駿河を見つめる。

 

 

 

ここで躓く訳にはいかないのである。

 

 

 

「タカオ!侵食魚雷装填!今のうちに実弾防御装甲をくり貫いて浸水を発生させよう!そうすればもうまともな攻撃は出来なくなる!」

 

 

 

「解ったわ!」

 

 

 

 

タカオは次々と侵食魚雷を駿河へと叩き込み、抉られた複数の穴から海水が絶え間なく侵入して彼の艦を傾けて行く。

 

 

 

先程よりも傾斜が大きくなり、超兵器による攻撃の手数が明らかに減って来ていた。

 

 

 

 

「分厚い装甲ね…でもこの数の侵食弾頭、耐えられる?」

 

 

 

 

幾多の攻撃をはね除け続けた装甲に侵食魚雷が次々と穴を開けて行く。

 

 

 

只し、撃ち尽くしてしまえば事実上ヨトゥンヘイムへの攻め手を失う事にも繋がってしまうのだが…。

 

 

 

『知名!退け!光子魚雷を奴に叩き込む!』

 

 

 

気づけば弁天が此方に回り込んできていた。

 

 

 

真冬の提言は尤もだが、もえかの表情は険しい。

 

 

 

「しかし電子撹乱ミサイルで通常の誘導兵器は使えません!どうやって…」

 

 

 

『決まってんだろ!噴進魚雷を使うんだ!』

 

 

 

「そんな…無茶です!これだけ辺りが荒れていたら弾道の計算も困難ですよ!?」

 

 

 

『誰に物を言ってやがる!俺達はいつだってこう言う状況の中で人を救って来たじゃねぇか!信じろ!今はそれしか言えねぇ!』

 

 

 

「…解りました。お願いします。タカオ!弁天を援護しよう!」

 

 

 

「了解!ほら、こっちよ!」

 

 

 

タカオから激しい弾幕が超兵器に殺到して行く。

 

 

 

「平賀!噴進魚雷の準備は良いか?」

 

 

「はい!いつでも撃てます!」

 

 

「風向きと距離を観測しろ。タカオが開いた穴に叩き込んでやる!」

 

 

 

観測員が超兵器と弁天の位置、そして戦闘の爆圧や潮流によって複雑に変化する風を読んで随時報告して行く。

 

 

 

「まだだ!しっかり見極めろよ!」

 

 

 

クルー達が全神経を集中させて機会を伺う中、対にその時は訪れる。

 

 

タカオ似よって兵装の大半を破壊された駿河の攻撃が一時的に停止し、更には海上に吹き荒れる風が減衰してきたのだ。

 

 

 

「艦長、今です!」

 

 

 

「噴進魚雷、攻撃始め!」

 

 

 

「噴進魚雷、発射始め!」

 

 

 

バシュウ!

 

 

 

 

弁天から白い煙を揚げて、光子弾頭を搭載した噴進魚雷が発射された。

 

 

 

駿河は直ぐ様バルカン砲や小型の光学兵器をそれに向ける。

 

 

しかし、

 

 

 

ボォン!

 

 

「させるわけないでしょ!」

 

 

タカオは空かさずレーザーで駿河の迎撃装置を破壊して援護する。

 

 

その間、噴進魚雷は一直線に超兵器に向かって飛翔し、弾頭の先端を切り離した。

 

 

カチャン…。

 

 

 

通常の噴進魚雷とは異なり、パラシュートを取り付けていない光子弾頭は、切り離された惰性のままタカオが開けた超兵器側面の穴へと向かう。

 

 

 

 

「行けぇ!」

 

 

 

真冬はまるで祈るかの様に叫び、クルー達も固唾を飲んで事態を見守っていた。

 

 

 

そして遂に…

 

 

 

ガゴン!

 

 

 

光子弾頭弾は駿河の内部への突入に成功した。

 

 

「起爆するぞ!超兵器から距離を取れ!」

 

 

 

弁天とタカオは、全力でその場から離れて行く。

 

 

 

その直後、後方から眩い光と轟音が鳴り響く。

 

 

 

皮肉な事に、外部からの攻撃を一切受け付けていなかった駿河の実弾防御装甲は、キリシマの電撃による弾薬の誘爆や光子弾頭がもたらす猛烈な爆圧を全ての内部へと押し込めてしまっていた。

 

 

 

駿河の内部は、襲い掛かるとてつもない圧力と高熱の蹂躙に引っ掻き回され、最も堅牢に守られている筈の超兵器機関周囲の装甲すらも平然とブチ抜かれてしまう。

 

 

 

そして、機関の対消滅とそれに伴う破滅的な爆発が比較的脆弱な甲板に向かって押し上げられ、一瞬駿河の甲板が大きく膨張すると、轟音を撒き散らして弾け飛んだのだった。

 

 

 

「やった…」

 

 

 

誰が呟いたのかは解らない。

 

 

しかし、その言葉が真冬を含めた一同の緊張をほどいてしまっていたのだ。

 

 

 

『宗谷艦長!全力で防壁を展開してください!…来ます!』

 

 

 

「何…だ!?」

 

 

 

クルー達は急いで防壁の展開と脱出に掛かる。

 

それと同時に、辺りがあり得ないほどの強い光に覆われていった。

 

 

 

   + + + 

 

 

《汝ラガ再ビ間見エルハ朝日ニ非ズ。宵闇ニ光レル我ガ断罪ノ閃光ト知レ…》

 

 

 

ボォオオン!

 

 

ヨトゥンヘイムは周囲に対して光学兵器や反物質ビーム砲を撒き散らした。

 

 

 

 

辺りが眩い光と爆圧に包まれ、異世界艦隊の面々が悲鳴を上げる。

 

 

 

 

 

「ぐっ…被害の確認を急げ!」

 

 

「やはり厄介ですな…発射迄の間隔が狭すぎます」

 

 

 

反物質ビーム砲や光子榴弾砲は、その威力の凄まじさとは対照的に装置自体は単装の30cm砲程度の大きさでしかない。

 

 

勿論、通常艦艇に比べればそれでも十分大きいのだが、超兵器クラスの艦艇に取ってはまるで苦にはならないだろう。

 

 

よって巨大レールガンとは異なり、¨複数¨存在する殲滅兵器を異世界艦隊は相手どらなくてらならないのだ。

 

 

 

 

『すまねぇ…』

 

 

 

「宗谷艦長!?どうされましたか?もしや被弾でも…」

 

 

 

『いや、防壁は展開して被弾は免れたが、対応が少し遅れた…。閃光と轟音で目と耳をやられた連中が複数いる』

 

 

 

「操艦は可能ですか!?」

 

 

 

『今は俺が舵輪を握ってる』

 

 

 

「至急ここから離れて下さい!留まるのは自殺行為だ!」

 

 

 

『ああ…解ったよ』

 

 

 

真冬は思いの他素直に引き下がった。

 

 

いや、今まで数多くの現場を見てきた真冬だからこその判断なのだろう。

 

 

 

疲労を抜きにしたとしても、万全の状態でないクルーを抱えつつ任務を確実に遂行するのは不可能に近い。

況して艦隊行動ともなれば尚更だ。

 

 

 

「おい!状況はどうだ!?」

 

 

「艦内温度上昇中!機関室に至っては50℃近くに達しています!」

 

 

 

「恐らく、あの攻撃の影響で海水が熱せられちまったのか?この海域から距離を取る。少しでも海水温の低いところに移動しないとまずい!」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

弁天は転舵して、グツグツと煮立つ戦闘海域から離れて行く。

 

 

 

 

「正直痛いですな…統括旗艦の撃沈には一隻でも多くの手が必要ですから」

 

 

 

「彼等は軍人ではありません。甘いと仰られるかもしれませんが、この世界の住民に極限の戦闘を強いるのはシュルツ艦長の意に反するかと思います」

 

 

 

矛盾しているとは思う。

 

 

 

極限と言うならば、彼女達は既にその戦闘を半ば強いられているのだ。

 

 

 

それでも尚、ヴェルナーは¨今は¨その時ではないと考えていた。

 

 

 

(どちらにせよ、北極海の一隻が残ってしまえば事態は好転しない…。彼女達はその時まで生き長らえなければならない。そして願わくば、その先の未来に語り継いで行かねばならない。この悪夢の様な惨劇を今度は人の手で繰り返さぬように…)

 

 

 

彼は破壊を撒き散らす漆黒の超兵器を見据える。

 

 

 

弁天程ではないにしろ、メアリースチュアートの艦内温度も煮えたぎる海によって上昇しており、乗員の苦痛もピークに達しつつある。

 

 

 

彼等にしても、これ以上戦闘を長引かせる訳にはいかなかった。

 

 

 

 

「何か手は無いのか…」

 

 

 

こちらの戦略はある程度使用し既に既存の作戦を講じる余裕すらもな中、そこへ通信機から声が飛び込んでくる。

 

 

 

『仮説があります』

 

 

 

「知名艦長!?」

 

 

 

『少しだけ攻撃の手を緩めて下さい!』

 

 

 

「何故です。敵に反物質ビーム砲の使用を赦してしまう!」

 

 

 

『それが狙いです』

 

 

 

「は?」

 

 

 

意味が解らなかった。

 

 

 

戦闘開始直後から場を支配し続けたヨトゥンヘイムの…しかも本体からの攻撃を受けて只で済む筈がないだけに、もえかの言がいかに受け入れ難いものであるのかは言うまでもないだろう。

 

 

 

だが、彼女の雰囲気は気が触れているとは言いがたい。

 

 

この戦闘に於いてのもえかの思考は、以前に超兵器と戦闘経験が在るが故に固定概念に縛られしまっているウィルキアの思考を、意図も簡単に追い抜いてしまっていた。

 

 

 

故に彼は決断を下す。

 

 

 

「…解りました。で、どの様な内容なのです?」

 

 

 

『ハルナさんがこれからメアリースチュアートの迎撃システムに侵入して、一部に兵装を遠隔操作します。後は信じてもらうしか…』

 

 

 

 

「解りました。状況が打開できるのなら、私は自分の無知を許容し、あなた方に従います!」

 

 

 

『ありがとうございます』

 

 

 

もえかは、安堵の表情を空かさず真剣なものに変え、通信機を握り締める。

 

 

 

「ハルナさん!」

 

 

 

『言われるまでもない。蒔絵が待っているからな。それに私は、蒔絵に再び兵器を造らせる切っ掛けを作った奴等を不愉快に感じている…それも物凄くな』

 

 

 

「うん。此方はタカオに任せる。そっちはキリシマとメアリースチュアートをお願い」

 

 

 

『了解した』

 

 

 

3隻は暴れ狂うヨトゥンヘイムへの攻撃の手を気取られないよう慎重に緩めて行く。

 

 

 

かつて人類を数ヶ月で海洋から駆逐した霧の艦艇と、対超兵器に特化した装備を有するウィルキアの艦艇を持ってしても、ヨトゥンヘイムには未だ致命的な外傷を与えられてはいない。

 

 

誰しもがもえかの仮説に賭けていた。

 

 

 

(お願い!これが通らないと手詰まりになる…)

 

 

 

彼女は祈るように事態を見詰めた。

 

 

 

 

   + + + 

 

 

「ハルナ、本当に大丈夫なのか?」

 

 

「奴等のデータは既に蓄積済みだ。発射速度から見ても対応は可能だろう」

 

 

 

チ…チ…

 

 

 

「メアリースチュアートのシステム掌握完了。これで兵装の一部を遠隔操作出来る。キリシマ、主砲のレーザーアクティブターレットを¨通常砲弾¨を発射出来るように切り替えろ」

 

 

 

 

「了解」

 

 

 

チ…チ…ガゴン!

 

 

展開したような形状が特徴のキリシマのレーザー主砲が元の形状へと変化した。

 

 

 

 

「後は奴の発射兆候を観察して弾道を計算を行うだけだ。キリシマ、私のコアとの同期を開始しろ。お前はそれを元に、お前とメアリースチュアートの火器管制を同時進行…敵を一気に叩く」

 

 

 

 

「確か反物質ビーム砲には、ビーム自体を保護する¨真空の膜¨の様な物が在るらしいな」

 

 

 

 

「ああ…正確には¨あらゆる物質を取り除いた真空地帯¨と言うべきだが…。反物質を使う性質上、アレは発射前に射線上の素粒子を除去しなければならない。その際の気流の変化と、今まで観測していたアレを発射するタイミングを重ね合わせて対応する」

 

 

 

「成る程な…。しかし良く考え付いたものだ。人間に気流の変化など肉眼で観察出来るわけでも無いだろうに」

 

 

 

「いや、恐らくは反物質と言う部分のみに着眼して思い付いたんだろうが……頃合いの様だ。行くぞキリシマ」

 

 

 

「了解。千早群像にやられた時はお前に付き合って貰ったんだ。今度は私が付き合うよ…ハルナ!」

 

 

 

「ああ…頼む」

 

 

 

 

(「頼む」…か。そんなこと言う奴じゃ無かったのにな)

 

 

 

キリシマは思わず口許に笑みを浮かべてしまう。

 

 

ハルナは姉妹艦の中でも取り分け感情起伏に乏し艦であった。

 

 

人間の¨言葉集め¨が趣味と言う個性はあったものの、それはどこか機械的であり、人形が無理矢理人間の真似事をしている様にしか見えなかったからだ。

 

 

 

彼女を変えたのは間違いなく蒔絵だろう。

 

 

 

そしてそれは、霧がメンタルモデルを得た本来の目的なのだろうとキリシマは考える。

 

 

 

【人間の思考を経て戦術を得とくする】

 

 

 

建て前としてはそうなのだろうが、実際問題それを真に得るためには、敵であり観察対象でもある人間との¨直接的な交流¨が必要不可欠になってくるだろう。

 

 

しかしそうなれば、感情の移入によって本来の命令が疎外されるリスクが生まれてくるのだ。

 

 

 

総旗艦たるヤマトがこの様にお粗末な案を提示するとは考えにくい。

 

 

だとするなら、彼女達がメンタルモデルを得た理由は…

 

 

 

 

(総旗艦はただ、今まで駆逐の対象でしかなかった人間と¨交流¨して欲しかっただけだったりしてな…いや)

 

 

 

 

キリシマはコアに浮かんでくる思考を排除する。

 

 

現段階での主目標は別にあるのだ。

 

 

彼女は、ハルナからリアルタイムで送られてくる情報を元に自らの砲身とメアリースチュアートの兵装の矛先をヨトゥンヘイムへと向ける。

 

 

 

チ…チ…

 

 

 

そしてタカオからの準備完了の報も同時に受け取った彼女は、その時を狙って意識を集中させていった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

ヂ…

 

 

 

「来た!もえか!」

 

 

 

 

タカオの叫びは、全ての要因が整った事を意味していた。

 

 

 

もえかは、空かさず彼女に対して発射の合図を飛ばす。

 

 

 

ボォン!ボォン!

 

 

 

3隻の艦からほぼ同時に砲弾が発射される。

 

 

 

しかし、通常砲弾のみで超兵器に致命的な損傷を与えるのは不可能に近い事は今までの経験からは明らかであり、ゆえに彼女が何故通常弾を使用する選択をしたのかはウィルキアの面々でなくとも不可解に思うだろう。

 

 

 

だがもえかは、何も¨砲弾で¨超兵器を損傷させようと等とは思っていなかった。

 

 

 

 

それらが向かう先に有るのは、発射寸前の反物質ビーム砲。

 

 

 

 

そして激しい光を放つそれから、破滅的な威力を誇るビームが伸びて砲弾と接触した時、事態は動いた。

 

 

 

ゴォォオオオン!

 

 

 

炸裂した砲弾の爆風が真空地帯を破り、更に発射口から放たれたばかりのビームが砲弾と触れた事により対消滅反応が超兵器のすぐ側で発生したのだ。

 

 

 

超兵器の周辺はビーム発射に伴う断続的な対消滅反応によって凄まじい熱に覆われ、海水があっという間に蒸発して行く。

 

 

 

「やったのか?」

 

 

 

ヴェルナーは思わず呟いた。

 

 

しかし…

 

 

 

「ちょ、超兵器反応いまだ消失せず!ヨトゥンヘイムは健在です!」

 

 

 

「くっ…!」

 

 

 

一同が悔しさを滲ませるなか、水蒸気が晴れて超兵器が姿を現す。

 

 

夜の闇に、高熱で紅に染まった化け物が姿を見せた。

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

「アレだけの攻撃を受けてまだ立ちはだかるのか…化け物め!」

 

 

 

 

確かにシチリア島を介していた為、ヨトゥンヘイムとの直接的な戦闘は他の超兵器よりも短い。

 

 

しかし、撃ち込まれた兵器はどれも高威力を誇り、尚且つ反物質ビーム砲を複数暴発させたにも関わらず、相手は轟沈するどころか未だに黒煙を上げつつ鎮座している。

 

 

 

だが…

 

 

 

ボォオン!

 

 

 

 

ヨトゥンヘイムの甲板の一部が艦内部から爆発したのだ。

 

 

 

超兵器周辺は燃焼によって酸素を奪い尽くされていた。更に、高温により熱せられた超兵器内部では至る所で不完全燃焼が発生する。

 

 

それらが、艦が動いたことで攻撃の際に出来た複数の穴から取り込まれた酸素と急激に反応し、一酸化炭素に結合して二酸化炭素を発生させる過程で生まれた熱が爆発的に拡散してヨトゥンヘイムの内部を引っ掻き回していたのである。

 

 

 

 

「防御重力場で爆風の一部を外部へと逃がしいますが、我々の攻撃は利いております。砲は恐らく使用不能、残るは光学兵器のみ。艦長、攻めるなら今です!」

 

 

 

「一斉射撃!奴に隙を与えるな!」

 

 

 

3隻は一斉に攻撃を再開、ハルナは超音波振動魚雷を放って相手の動きを封じ様と試みる。

 

 

 

魚雷は複雑な軌道で迎撃を回避しヨトゥンヘイムの懐で炸裂、至る所に穿たれた穴から炎を吹き出しつつ強力な怪力線を四方に撒き散らしていた巨大な船体が気泡によって傾いた。

 

 

 

しかし相手は、奇跡的に難を逃れた残りの反物質ビーム砲を自損覚悟で自身の周囲に容赦無く叩き込み、猛烈な爆圧によって気泡が消滅させたヨトゥンヘイムは状態を呆気なく復帰させてしまった。

 

 

彼の艦は理解しているのだ。

 

 

足を奪われれば容赦無く超重力砲が放たれることを…。

 

 

 

「あ゛ぁあ!」

 

 

「あぐっ…!」

 

 

 

敵の攻撃による恐ろしい爆風が辺りを荒らし回り、各艦からは悲鳴が響き渡った。

 

 

 

(何て執念なんだ…私達の世界ですら、あのような状態で超兵器は戦闘などしていなかったと言うのに!)

 

 

 

 

どの様に強力な兵器であっても、内部で器機を操作する人間が恐怖により投降または死に絶えてしまえばそれはただの鉄屑でしかない。

 

 

故に彼等の世界に於いては、一隻の超兵器にこれ程長期間戦闘する事はまれであった。

 

 

 

しかし相手が無人で動いている以上、戦闘の終了は必然的に超兵器の徹底的な破壊を以てしか成し得ないのである。

 

 

 

(補給の時間を短縮したツケか…弾薬も残り少ない。果たして奴を完全に破壊出来るのか?)

 

 

 

ヴェルナー額には汗が滲み、心には焦りと苛立ちが募って行く。

 

 

その時だった。

 

 

 

『俺達を…』

 

 

 

「!!?」

 

 

 

『忘れんじゃ…ねぇえ!』

 

 

 

ボォン!

 

 

 

ヨトゥンヘイムに砲弾が直撃して爆煙が立ち上った。

 

 

彼の視線の先には、撤退していった筈の弁天が此方に向かって来るのが目に入る。

 

 

 

 

「宗谷艦長!」

 

 

 

『最後の光子弾頭だ!ブチ込んで奴を止める!』

 

 

 

「しかし…!」

 

 

 

そんなことを大っぴらに発言してしまえば内通者に…

 

 

そこまで言いかけて彼は言葉を飲み込む。

 

 

 

(あの方はそんな迂闊な事はしない…だとすれば)

 

 

 

ヨトゥンヘイムに弁天の光子弾頭の発射が筒抜けになっていると仮定するなら、当然反物質ビーム砲で対処してくるだろ。

 

 

であるなら…

 

 

 

(先程と同様にビームを船体付近で対消滅させる方法を使えと言うことか!)

 

 

 

真冬の意図を感じたヴェルナーがハルナへと通信を繋ごうとした時、彼等より先にタカオから通信が入ってきた。

 

 

 

 

『ヴェルナー艦長。そちらの兵器の遠隔操作をハルナではなく此方で請け負います。メアリースチュアートは、牽制してください!』

 

 

 

 

「では大戦艦ハルナは…」

 

 

 

『超重力砲を使います!』

 

 

「!」

 

 

 

ヴェルナーは沸き上がる焦りを何とか封じ込める。

 

 

ここで仕損じれば戦闘が泥沼化し、犠牲が発生しかねないからだ。

 

 

 

 

バシュ!バシュ!

 

 

 

弁天から光子弾頭が放たれる。

 

 

 

 

これから始まる事態の行く末で、明日を迎える者が決まるのだ。

 

 

 

この場にいる誰もが、それを掴む為に極限の緊張を胸に抱くのだった。

 

 




お付き合い頂き有り難うございます。


次回は、欧州解放前哨戦編の完結と、物語の折り返しになる新編への突入となります。



次回まで今しばらくお待ち下さい。




























とらふり!  1/144ちょうへいきふりいと



荒覇吐
「お疲れ様。」



駿河
「手厚いお出迎え…誠に恐悦至極!また不精な姉上がいつもお世話になっております事…私駿河!心より感謝申しあげ奉りまするぅ~!」



荒覇吐
「あ、そ、そうなの?わざわざ丁寧にありがとう…それにしてもあなたは播磨と違って随分和風なのね。」




駿河
「恐れながら…我が姉は【超大鑑巨砲主義】に執り憑かれる余り、肝心の和の心を失念してしまっている様で御座いましてな…。一対一の砲撃戦も美学なれど、策を労し、時に守って引く事もまた兵法であることを忘れては成らぬとあれ程申し上げたと言うのに…なんと嘆かわしい!あぁ嘆かわしい~!」



荒覇吐
「で、でもあいつちゃんと艦隊旗艦やってたわよ?色々立ち回って敵を翻弄してたみたいだし。」



駿河
「………。」



荒覇吐
「あ、あのう…駿河?」



駿河
「えぃやぁあ!本来であるならばあなた様が艦隊旗艦を御受ける所、寛大なる御心によって姉上にお譲り戴きたる事実は明白!その恩情にこの駿河、なんと言葉に表したら良いか、ああ…良いかぁあ~!」




荒覇吐
(やりづらい…これならまだ播磨の方がマシね…。それにしても駿河の播磨に対する評価低くない?スペックを見ると前世界の約5倍…一隻で国家の1/3は相手出来るって思ってたんだけど…まぁこれも姉妹愛って奴なのかもね…。私の妹も元気してるかしら…。)


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ほろ苦い再会の味 VS 超兵器 & not encounter weapon 

大変長らくお待たせ致しました。


地中海編の完結と、新編突入であります。


それではどうぞ。


   + + +

 

 

終わりの告げる弾頭が空を飛翔する。

 

 

勿論、各員が針の穴を通すような完璧なタイミングで完璧な動きを見せる事が出来るなら……だが。

 

 

 

(――!)

 

 

 

一同の額には汗が滲んでいた。

 

 

 

 

視線の先には光を纏った反物質ビーム砲を光子弾頭へと向け、紅蓮の炎に巻かれるおぞましい超兵器の姿が目に写る。

 

 

 

常人が見たならば、何故海面に浮かび戦闘を継続できるのか理解不能に陥ってしまう程に……

 

 

 

 

「タカオ!」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

 

タカオの操作により本体とメアリースチュアートから砲弾が放たれ、今にもビームを撃ち出さんとする超兵器へと一直線に飛翔する。

 

 

「ハルナ、まだか!?」

 

 

 

「焦るなキリシマ。いま重力子エンジンの出力を上げて船体を展開させれば事態を気取られるかもしれん。ビームと砲弾が接触した瞬間に動くぞ」

 

 

 

「了解!」

 

 

 

チ…チ……

 

 

彼女達は演算を極限まで高めて事態を待ち、そして遂にその時は訪れた。

 

 

 

チカ!ドゴォォオ!

 

 

 

光子弾頭を迎撃しようとした反物質ビームに二隻の砲弾が接触して対消滅による爆発が発生し、それによって光子弾頭も同時に反応した事で、ヨトゥンヘイムの周囲は凄まじい爆圧の奔流に支配された。

 

 

 

 

「ここまでか……機関全速!ここから離れるぞ!」

 

 

 

役目を終えた弁天が海域から離脱して行くと同時に、ハルナ達は超重力砲の発射体制に入る。

 

 

 

「超重力ユニットの展開完了。超重力砲発射に伴い、大戦艦キリシマより演算リソースの57%を一時的に委譲――完了。重力子バラストによる艦の姿勢制御――完了。艦前方へのクラインフィールドを開放」

 

 

 

 

「重力子エンジン、出力最大。エネルギーライフリング起動開始。目標座標を敵艦【ヨトゥンヘイム】に固定。重力子圧縮、縮退域へ……」

 

 

 

機械的な調子で放たれる言葉と共に、海面にフワリと浮かんだ船体が空中で展開して超重力砲が姿を表し、最大出力に至った重力子エンジンが放つ波動の影響で海は荒れて白波が立って、ロックビームが海を割ってヨトゥンヘイムの船体へと延びていった。

 

 

 

爆煙の中から姿を見せた超兵器の姿に最早かつての姿は見受けられない。

 

 

暗闇色の船体が、度重なる対消滅反応で発生した高温によって紅く妖しい色に染まり、溶けて螺曲がった砲身が彼の艦をより不気味に演出する。

 

 

ガ…ガガ……

 

 

【執念】

 

 

そう言葉にする以外に無いだろう。

 

 

 

最早攻撃すらままならぬ状態になりながらも、彼の艦は熱で溶け落ちそうな砲身をハルナ達へと向けようと試みるているのだ。

 

 

しかしそれすらも、未だ続いている爆圧の奔流によって敢えなく脱落してしまっていた。

 

だが尚も、ヨトゥンヘイムは止まらない。

 

 

超兵器機関から黒いオーラが染みだし、紅蓮の炎と混じりあって夜の海を照らし続ける。

 

 

 

「意図的な機関の暴走か?化け物め!」

 

 

 

 

 

ヴェルナーの額には大粒の汗が滴る。

この状況にあっても、彼は自分達の優位性を微塵も感じられなかった。

 

 

それを振り払うには方法は一つしかない。

 

 

 

「頼みます!」

 

 

祈るような視線はハルナ達へと注がれる。

 

 

 

ヂ…ヂ……

 

 

「演算リソースの委譲により、エネルギー蓄積効率向上……残り28%」

 

 

 

「超重力の威力はハルナと船体の一部を共有した事より通常時の137%にて発射」

 

 

 

ゴオオオ!

 

 

 

黄緑色と黒い光が海域を支配して行く。

 

 

 

「超兵器中心部から機関の暴走に伴う時空の歪みを検知。リスク試算……不能」

 

 

 

「コアによるリスクアセスメントにより警告が発令。安全装置作動。超重力砲発射シークエンスに干渉……重力子エンジンの出力抑制を進言―cance―進言cance―error error error」

 

 

機械人形の様な無感情の声を周囲の轟音が打ち消して行った。

 

そして、超兵器の脅威を認識した彼女達のコアが、超重力砲の発射を停止させて退避を促し始めた。

 

 

 

だが、彼女達はその命令を拒み続けたのだ。

 

 

 

彼の艦が沈んだ先に¨必ず護り通す¨と誓った友へ続く航路が待っているのだから。

 

 

ヂ…ヂ……!

 

 

 

「errorの除去を完了。システム最適化。超重力砲の緊急停止システム解除。発射シークエンスを継続――」

 

 

彼女達の船体が再び光に覆われる。

 

 

 

退くわけには行かない。

 

 

彼女達を行動に突き動かすこの衝動は、最早¨論理¨と言う壁を超えた先に位置していると言って良いのだろうが、彼女達にそれを自覚する余裕も指摘してくれる者もいない。

 

 

だが悲観は無用であろう。

 

 

¨経験¨が伴っている以上、それは雨が土に染み込むが如く遅効的に浸透し、定着して行く。

 

 

 

だがそれには、ヨトゥンヘイムの撃破は必須なのだ。

 

 

故に今こそ彼の艦を討たねばならない。

 

 

 

「縮退……限界!」

 

 

 

「ハルナ、撃つぞ!」

 

 

「ああ!思いきりやれ!」

 

 

ピカッ……

 

 

 

一瞬の閃光の後に――

 

 

 

グオォオオオオ!

 

 

超重力砲が発射され、瞬く間にヨトゥンヘイムへ直撃する。

 

 

筈だった――

 

 

 

「!!?」

 

 

ハルナは、眼前の状況に驚愕する。

 

 

黒いオーラは、超然たる威力を誇った超重力砲を¨受け止めて¨おり、まるで攻撃を阻む壁がそこに存在しているようだった。

 

 

ヂ…ヂ……

 

 

彼女は演算の殆どを消費して、事態を観測する。

 

 

 

 

「アレは時空の歪み――いや、¨時空の断層¨か!?超兵器の機関は、それにすら干渉してしまうと言うのか!」

 

 

 

布石は存在する。

 

 

彼等超兵器は、異世界からの来訪者である可能性は既に謳われていたからだ。

 

 

もしその事と今回の事象が無関係でないとするなら、超重力砲が通じないのも頷ける。

 

 

 

「くっ……!エネルギーが持たない!」

 

 

 

苦悶の表情をうかべるキリシマを余所に超兵器は尚も超重力砲を拒み続ける。

 

 

 

 

だが異世界艦隊の面々はある事に気づき始めていた。

 

 

 

「超兵器ノイズが縮小して行く!?はっ!あれは!」

 

 

 

彼等の視線に映っていた漆黒のオーラが縮小して行き、それに反比例するように超重力砲の光が増して行く。

 

 

しかし――

 

 

 

「あ、アガッ!は、ハルナ!ダメだ……もう!」

 

 

 

 

蓄積していたエネルギーが間も無く枯渇する。

 

 

 

一同の表情に浮かんだ焦りの色が一段と濃くなり、そしてそれは絶望に変わる。

 

 

 

「………」

 

 

 

 

黒と黄緑色の閃光が消え、荒れた海が静まり返る。

 

 

そこには超重力砲の発射を終えて船体から湯気を上げるハルナ達の姿と、無惨な姿になりながらも未だ衰えぬ威圧を放っている漆黒の艦艇が鎮座していた。

 

 

 

 

「そんな……」

 

 

 

タカオは驚愕の表情で固まっている。

 

 

無理もない。彼女達が最も事の深刻さを理解しているのだから。

 

 

 

大戦艦であろうとも、超重力砲の直撃を受けることは自らの運命を決する事と同義であり、故に戦闘では常に相手の様子を注視して超重力の回避または発射の妨害に努めるのは定石と言えよう。

 

 

だが超兵器はそれを真正面から受けきって見せたのだ。

 

 

 

事は既に¨大戦艦級では対処しきれない¨と言うヒュウガの私見を、彼女達は身を以て知ることになったのである。

 

 

 

ドタッ……!

 

 

 

「もえか!?」

 

 

 

その場に崩れる様に膝をついた彼女の表情は落胆と絶望に満ちていた。

 

 

いや、この海域にいる誰もがそう思っただろう。

 

 

しかし次の瞬間、ハルナはとてつもない¨何か¨を検知する。

 

 

 

 

 

「急いで防壁を最大に展開しろ!衝撃波が来るぞ!」

 

 

 

 

 

彼女は各艦に向かって叫ぶと超重力発射の反動で満身創痍のコアにムチを打ってクラインフィールドを展開した。

 

 

 

 

次の瞬間――

 

 

 

ドゴォォオ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

とてつもない爆発が発生し――いや、爆発と言うには煙も炎も見えない猛烈な大気の振動と言える何かが超兵器の周囲に巻き起こり、轟音と共に周囲に撒き散らされたのだ。

 

 

 

ヨトゥンヘイムは、まるで巨大なハンマーを上から叩き付けられたかの様にくの字に折れ曲がり、巨大な船体が軋みを上げ、バラバラになりながら瞬く間に海中へと沈んで行く。

 

 

 

ゴオオオ!

 

 

 

「あ゛っ!がっ!防壁に全てのエネルギーを送れ!手の空いている者は手近な物に捕まるんだ!振り落とされるぞ!」

 

 

 

猛烈な衝撃波と高波が彼等の船体を滅茶苦茶にもて遊んで行き、艦内には悲鳴が轟いた。

 

 

《我レガ朽チ 朝ノ光ヲ見レズトモ  浮世ノ月ニ未練ナシ……残リシ焔ハ 其ノ身ヲ焦ガサン……》

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

暗く不快な声がもえかやヴェルナー、そして真冬の脳に響き、彼等は超兵器へと視線を向ける。

 

 

 

そこには沈み行く鉄の残骸がこちらを見つめていた。

 

 

 

《我ガ犠牲ヲ以テ、耐エ難キ常闇ニ身ヲ置ク御身ニ光ヲモタラサン事ヲ……》

 

 

 

 

「「………」」

 

 

 

超兵器で¨あった¨残骸が海へと没し、海は静けさを取り戻す。

 

 

 

彼等は暫くその場に立ち尽くしていた。

 

 

 

「本当に終わったのかな?」

 

 

「ええ、超重力砲を打ち消す為に機関の過出力によって生み出された次元の断層が元に戻ろうとする反発力、それが最終的にアイツ自身に止めを刺したってとこかしら。超兵器ノイズも観測されない。私たちは……勝ったわ」

 

 

 

「勝った……」

 

 

 

もえかの表情は優れない。

 

勝利の実感が湧かない訳では無いのだ。

 

しかし彼女の――いや、残る二隻の艦長もあの言葉が頭から離れなかった。

 

 

 

 

《残リシ焔ハ 其ノ身ヲ焦ガサン……》

 

 

 

 

理解はしている。

 

 

 

方面統括旗艦は通過点に過ぎないのだ。

 

 

 

これより先には、ヨトゥンヘイム並みの相手――いや、それ以上の艦艇が待ち構えている。

 

 

 

彼の艦の言葉はそれを暗に示しているのだ。

 

 

 

故に、彼等の表情に勝利の余韻など微塵もある筈も無かった。

 

 

 

だが唯一彼等の心に浮かんだのは大切な者は達との再会である。

 

 

 

今回の戦いに関してはそれらをもってして完遂となろう。

 

 

 

『大戦艦ハルナ。逃走したデュアルクレイターに追随することは可能でしょうか?』

 

 

 

 

『無理だろうな。超兵器との戦闘に時間を割きすぎている。更に弾薬や小型艇を吐き出している分、重量が軽く足が速くなっているだろうし、私達の補給の間にジブラルタルを越えられてしまえば、捜索に時間を取られる。尤も、奴は十中八九私達が向かう方角とは反対の南へ向かうだろうが』

 

 

 

『俺達の最終目標は飽くまでもキールに辿り着く事だ。余計な時間は取れねぇぞ?』

 

 

 

『合流を優先させるなら諦める他ないか……解りました。我々はフンディンで補給を済ませ次第ジブラルタルを超え、大西洋で待つスキズブラズニルに合流します』

 

 

 

『『了解』』

 

 

「了解……」

 

 

 

もえかは彼等の会話を聞きつつ逸る気持ちを抑えて海の彼方にいる親友の顔を思い浮かべていた。

 

 

 

(ミケちゃん。もうすぐ……もうすぐ逢えるよ)

 

 

 

   + + +

 

北海 シェトランド半島沖

 

 

 

 

ブゥオオオン!

 

 

 

 

霧が立ち込める海に一機の無人飛行船が浮かんでいる。

 

 

風船の部分にはブルーマーメイドの紋章が刻まれており、機体の下部には360°を見渡せる高性能カメラが装着されていた。

 

 

 

しかし、要救助者を発見するために開発されたカメラの視線に映っているものは、救助者とは似ても似つかない巨大な船体が複数捉えられているのであった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

濃い霧を掻き分けて、巨大な船体が前へと進んで行く。

 

 

 

中央の戦艦が二隻の空母によって挟み込まれるその異様な船体は、異世界艦隊を散々苦しめたニブルヘイムとヨトゥンヘイムを彷彿とさせる。

 

 

 

しかし彼の艦の形状は、あの二隻とは決定的に異なる点が存在した。

 

 

戦艦部分を丸ごと挟み込む二隻とは異なり、巨大な空母が艦橋から前の部分のみを挟んで前に突き出た様な形状。

 

 

 

明乃達にとっては忘れたくとも忘れられない恐怖を刻み、彼女達が再び死を覚悟して出航するきっかけとなった始まりの超兵器。

 

 

 

総旗艦直衛艦

 

 

超巨大航空戦艦【ムスペルヘイム】

 

 

 

そのとてつもない威圧感は、周囲に生きる動物達すらも寄せ付けなかった。

 

 

 

ヴォン……

 

 

 

突如、ムスペルヘイムはその場に停止し、方を追随するもう一隻も彼の艦に倣って動きを止めた。

 

 

 

辺りは静まり返り、船体に打ち付ける波に揺られてその巨体がゆっくりと上下する。

 

 

 

 

そこへ――

 

 

 

ザッパァァン!

 

 

 

 

海中から巨大な船体が浮上し、辺りの波が一際ざわめく。

 

 

 

海中からから現れた事から潜水艦である事は明白ではあるのだが、彼の艦の上部には、航空機発艦用の飛行甲板が存在する。

 

 

 

【勇敢なる者】の名とは対照的に海中に潜み、潜水艦故に航空機による攻撃など無いだろうと予測していた異世界艦隊の虚をついてハワイを奇襲、人々を蹂躙した卑劣な超兵器。

 

 

 

 

超巨大潜水戦艦【ドレッドノート】

 

 

 

ウィルキアのリスト上では未だにそうなってはいるが、事実上は潜水空母と呼称すべきであろう。

 

 

 

 

ドレッドノートは、ゆっくりとムスペルヘイムへと接近して動きを止める。

 

 

 

《報告:バミューダ及ビ地中海デノ作戦ハ失敗。我ガ艦隊ノ次ナル指針ヲ示サレタシ……》

 

 

 

 

チカチカチカッ――

 

 

 

ムスペルヘイムから発光信号が発せられる。

 

 

《了解。進路ヲ¨ヴィルヘルムスハーフェン¨二確定。本艦ハ此レヨリ潜航シ目標地点ノ北北西250海里地点ニテ再浮上、航空機ヲ発艦スル事トス――以上》

 

 

 

 

 

 

ドレッドノートはその場で潜航して海中深くへと姿を消して行った。

 

 

潜航に際する波が治まると、彼の艦は対空レーザーの矛先を遥か遠くで覗いているであろう飛行船へと向ける。

 

 

 

 

しかし発射成されず、彼の艦はチカチカと発光信号を後方に控えるもう一隻に送ると再び移動を開始し、舵を切った巨大な船体が引き起こす長い航跡が海に長い尾を描いて行った。

 

 

 

   + + +

 

 

北海 オランダ沖

 

 

 

近隣国に所属するブルーマーメイド艦隊との合流を果たしたインディペンデンス級艦艇【ノイッシュバーン】

 

その艦長であるテア・クロイツェルは険しい表情を見せていた。

 

 

 

理由は先程入った超兵器に関する事柄である。

 

 

 

当初、異世界艦隊とブルーマーメイド艦隊との合流を阻止するべく南下するであろうと予測されていた超兵器がドイツ方面へと転進したのである。

 

 

 

一般人を巻き込む心配のない洋上にて異世界艦隊を交えての戦闘を望んでいたブルーマーメイドの思惑は見事に打ち砕かれる形になったわけだ。

 

 

 

更にだ、2つに分かれて戦闘を行い、合流を果たさんとする異世界艦隊の位置よりも超兵器の方が陸地へ近い距離に位置している。

 

 

 

尤も、超兵器の目標はキールを目指す上で重要な拠点でもあるユトランド半島の入り口、ヴィルヘルムスハーフェンを標的にしている事は明白なのだが……

 

 

 

だがそれは、異世界艦隊を含めたブルーマーメイド艦隊にとって更なる懸念要素となるのだった。

 

 

 

 

 

(超兵器の進路の変更……くっ!わざわざ偵察の飛行船を撃ち落とさずに進路を見せたのも、私達を誘き出す為だと言うのか!)

 

 

このまま合流を待てば、間違いなく超兵器によって都市は破壊されるだろう。

 

 

 

故に各国のブルーマーメイド艦隊に在席する艦長達が集まって話し合いを行い、ヴィルヘルムスハーフェンへ異世界艦隊の合流を待たずに出発する事が決定したのだ。

 

 

 

もちろん反対意見も噴出し、中には自殺行為だと怒りを露にする艦長もいた。

 

 

だが、超兵器の動きを把握していたのにも関わらず襲撃に間に合わなかったとなれば、国際情勢に於けるブルーマーメイドの立場は失墜する事は明白であろう。

 

 

 

そして同時に、今まで抑え込んで来た各国の軍が動きを活発化させる事に繋がり、最悪の場合ブルーマーメイドの所有する艦艇を含めた物資が没収の対象になりかねない。

 

 

 

それで超兵器を打倒し、滅亡への歩みを止められるのであれば、今現在に於いて苦汁を舐めるのも享受出来よう。

 

 

 

だが100年以上も自国の自衛のみに専念し、実戦という名の経験がない軍が正面から挑んだとしても勝ち目が有るとは考えにくい。

 

 

そうなれば、彼等の全滅が必然的に超兵器に対する世界の防衛力の消失に直結するのだ。

 

 

数隻からなる異世界艦隊だけで事に当たるのは事実上不可能であることも合わせるなら、それはこの星に住まうあらゆる生物の絶滅をも意味している。

 

 

 

 

解っていても動くしかなかった。

 

 

 

彼女達ドイツとイギリス、そしてオランダと新たに加わったフランスの艦艇を入れた50数隻の艦隊。

 

 

数で言うなら大規模なのだろうが、インディペンデンス級の艦艇が少数であり、残るは学生艦を――しかも航洋艦や巡洋艦がメインの急ごしらえで形成された艦隊は、各国が本土の防衛に注力している事が窺えるお粗末なものである事は言うまでもなく、この局面に至っても自国の利益を重視し、超兵器の戦力を過小に評価していると断じざるを得なかったのである。

 

 

 

テアはこの事態を最初の襲撃以来、超兵器があえて攻撃を加えななかった事、そして異世界艦隊の超兵器撃破の朗報が皮肉にも各国警戒心を希薄にさせたのではないかと推測していた。

 

 

 

だが、異世界艦隊の活躍を抜きにしたとしても、超兵器の今までの行動が本当に人類側の油断を誘うものであったとするならば、敵は嫌気がさす程人類を熟知している事になる。

 

 

 

それも無人であるにも関わらず……

 

 

 

テアはその推測に妙な不気味さと不安を禁じ得なかった。

 

 

 

 

(我々が失敗しても、はれかぜと共に戦っても結果は……もし、相手がそのシナリオまで描いていたとしたら……)

 

 

 

 

「テア?」

 

 

 

「!」

 

 

 

テアが振り向くと、いつの間にかミーナが此方を覗き込んでいた。どうやら彼女が近付いた事にも気付けない程余裕がないらしい。

 

 

 

 

そんな彼女を察してかミーナが更に一歩テアへと近付く。

 

 

 

ギュッ…!

 

 

 

「あ……」

 

 

「明乃達を信じよう。私達は時間を稼げばいいんだ」

 

 

 

「かっ…!いや、何でもない。ああ、そうだな!」

 

 

 

「簡単に言うな!」と叫び出しそうになる衝動を彼女は抑えた。

ミーナは、現状を理解できない程バカではない。

 

 

 

 

きっと浮かない顔をしているであろう自分を励まそうとしているのだと彼女は解釈した。

 

 

そして先程から握ってくれている手から伝わるミーナの体温と何よりもその気持ちが堪らなく彼女の心を穏やかにして行く。

 

 

 

「出発の時間だ……」

 

 

 

「ああ、宜しく頼むぞ¨艦長¨」

 

 

二人は名残を惜しむかのよう手を離し、表情を引き締める。

 

 

 

汽笛が鳴り、艦隊がゆっくりと動きだした。

 

 

 

この世で最も【死】に近い戦いに向かって……

 

 

   + + +

 

 

大西洋 スキズブラズニル

 

 

 

 

ドックの中を落ち着かない様子で歩き回る明乃に、複雑な表情で真白が声をかけた。

 

 

 

「艦長……お気持ちは解りますが、少し落ち着かれては如何ですか?」

 

 

 

「え!?あっ、ああ~ゴメン……」

 

 

 

(やはり自覚は無かったか……)

 

 

 

真白は表情を元に戻し、諭すように彼女を覗き込む。

 

 

 

「大丈夫ですよ。地中海での勝利報告は入りましたし、ジブラルタルも無事に超えたとも連絡を受けています。周辺に超兵器の姿も無い事ですし、もう少しで再会できます」

 

 

 

 

「う、うん…そうだね。ゴメンねシロちゃん。艦長の私がこんなじゃ、皆に心配掛けちゃうね。ホントいつまでたってもダメだなぁ私……エヘヘ」

 

 

 

「艦長……」

 

 

 

無理に笑っているのは明白だった。

 

 

 

 

彼女にとって最も身近な存在であるもえかが、如何に大きな存在かを真白は知っている。

 

 

 

6年前のRATtウィルス事件の際には冷静さを失って自分の艦を捨てて駆け出して行ってしまう程に……

 

 

 

それを知っていながらも、真白は眉を潜めずにはいられなかった。

 

 

 

嫉妬である事は理解している。

 

 

しかし、両親を失った心の穴を互いに埋めてきた関係であったとしても、¨はれかぜ艦長¨の肩書きを背負っている間だけは仲間や、そして自分の事を何よりも思って欲しいと願ってしまうのだ。

 

 

 

だがその思いは、目の前に立つ彼女の表情をこんなにも悲しく造り物の様な笑顔に変えてしまう。

 

 

 

真白はその事が堪らなく嫌だった。

 

 

 

皆は――いや、自分は彼女の重荷になるつもりで付いて来たのでは無かったと言うのに……

 

 

「……」

 

 

「………」

 

 

 

 

居心地の悪い沈黙が二人の間を流れて行く。

 

 

 

 

そこへ――

 

 

 

「か、艦長!知名さん達が戻ってきたよ!」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

息を切らせて駆けてきた芽衣の言葉に明乃の瞳が大きく開かれた。

 

だが、彼女はチラリと真白の方を窺うと、直ぐに表情を戻してしまう。

 

 

 

「あっ……う、うん。今向かうよ。メイちゃんは皆に知らせてあげて」

 

 

 

「うん!じゃあ外でね!」

 

 

明乃は走り去る芽衣に手を振って見送った。

 

 

 

「か、艦長、私――」

 

 

 

「シロちゃん。私達も手分けして皆に知らせよ!」

 

 

 

「え……は、はい」

 

 

 

「じゃあ私は向こうに行ってくるね!」

 

 

 

「……」

 

 

 

走り去る明乃に真白は何も言えなかった。

 

 

残ったのは鈍い嫉妬の疼きと罪悪感のみ……

 

 

 

 

「岬さん、私は貴女のそんな表情、見たくないよ……」

 

 

 

彼女は暫くその場に立ち尽くしてしまうのだった。

 

 

 

 

 

  + + +

 

 

「え!?ハルハル帰ってきたの?」

 

 

知らせを受けた蒔絵の瞳が一気に輝きを増した。

 

 

 

「ハルハル!」

 

 

 

「ちょっ…蒔絵!?走ったら危ないわよ!」

 

 

 

「だってハルハルが!」

 

 

「心配しなくてもハルナは蒔絵を一人にしないわよ。だって¨友達¨の約束は絶対だもの」

 

 

 

「ヒュウガ……」

 

 

 

「さぁ、私と一緒に行きましょう」

 

 

 

「う、うん……解った」

 

 

 

ヒュウガと蒔絵は研究ラボから外へと向かう。

 

 

 

一方の群像達も、地中海から帰還してくる艦隊に気付いていた。

 

 

 

 

「群像……」

 

 

 

「ああ、解っている。タカオ達に損傷は?」

 

 

 

「今のところは見られない」

 

 

 

「そうか」

 

 

 

イオナの言葉と群像の安堵した表情にクルー達の表情も緩む。

 

 

 

「取り敢えずタカオ達の話を聞きに行こう。データは送られてきているが、此方の得た超兵器の情報と向こうの情報との擦り合わせは重要だ」

 

 

 

「了解……」

 

 

「「了解!」」

 

 

 

彼等もまた401の外へと向かって行く。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「……ヴェルナー」

 

 

 

眼前をシュルツの瞳は険しいものだった。

 

 

スキズブラズニルに接近してくるメアリースチュアートは所々が黒く焦げた痕が見られ、甲板の一部も補修の形跡がみられる。

 

 

 

弁天の戦力が他艦より低かったとしても、蒼き鋼の艦艇を3隻と超兵器戦闘に熟知しているウィルキア艦艇1隻で事にあたったのにも関わらず、これらの損傷を受けた事実は看過出来るものではなく、超兵器の更なる強化は最早異世界艦隊だけの問題では無くなりつつある現実を改めて突き付けられる結果となってしまった。

 

 

 

しかし、超兵器の戦略によって分断を余儀なくされたとはいえ、死者が出なかった事は奇跡に近い。

 

 

 

彼は一刻も早く彼等から超兵器に関する情報を聞き取る必要があると確信した。

 

 

 

「ナギ少尉。ブリーフィングルームで互いの情報を共有する。準備を頼めるか?それとラボにいるブラウン博士にも連絡を頼む」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

ナギは敬礼をすると足早に艦橋を後にする。

 

 

 

シュルツはもう一度接近してくる帰還部隊に目をやると、ゆっくりと艦橋を後にした。

 

 

 

 

 

  + + +

 

 

ガタンッ!

 

 

艦船が次々とスキズブラズニルへ接舷する様子を大勢の人々が見守った。

 

 

 

そしてメアリースチュアートからタラップが下ろされ、降りてくるヴェルナーに対してウィルキアの人々から歓声が上がる。

 

 

 

彼が船へと降り立つと、人込みの中からシュルツが歩いてくるのが見えた。

 

 

 

「先ぱ――シュルツ艦長」

 

 

 

 

戦争において苦楽を共にしてきた仲間と再会できる可能性は決して高くはない。

 

 

況して相手が超兵器ともなれば尚更だろう。

 

 

 

彼は、いかなる時でも自身を信じ続けてくれたシュルツの顔を見ると思わず感極まってしまう。

 

 

しかし、大衆の面前で感情を露にする事を彼が良しとしないのは理解できていた。

 

 

 

故にヴェルナーは涙を堪え、毅然とその場に直立して彼に敬礼をする。

 

 

対するシュルツも、彼の目の前で立ち止まると返礼を返し、ヴェルナーの下へと歩み寄って肩へと手を伸ばす。

 

 

 

「よく戻って来てくれた……感謝する」

 

 

 

「艦長……」

 

 

 

言葉は少なかったが、ヴェルナーには彼の思いが十分に伝わっていた。

故に彼は大きく頷きシュルツに答える。

 

 

 

一方の蒔絵は、人混みを掻き分けてハルナへと向かっていた。

 

 

 

「ハルハル!」

 

 

ヒュウガの制止も聞かず、彼女は兎に角前に向かって進み続けた。

 

 

 

 

「ん?今のは蒔絵の声か?」

 

 

 

「蒔絵……!」

 

 

 

甲板に出てきたハルナとぬいぐるみ姿にもどったキリシマが彼女の姿を探す。

 

 

 

「ハルハル!」

 

 

 

「蒔絵!」

 

 

 

声の方向に視線を向けたハルナは、一際小さな少女の姿を捉える。

 

 

 

「蒔絵……蒔絵!」

 

 

 

「おいハルナ!お前ちょっと感情シュミレーションを抑えて――わっ、ちょっ!」

 

 

 

何故かは解らない。しかし、彼女のコアは沸き上がる衝動を抑える事が出来なかった。

 

ハルナはキリシマを抱きかかえて甲板から一気に跳躍する。

その速度は、大衆から見れば彼女の姿が消えたように感じてしまう程だった。

 

 

 

「ハル――!」

 

 

 

蒔絵は目の前にフワリと翻る外套と目の覚めるような金色の髪、そして宝石の様なエメラルドグリーンの瞳をもつ人物が現れる。

 

 

 

二人は暫し見つめ合い、自身の気持ちを口にしようとするが、心が感情で溢れ上手く言葉を紡ぐ事が出来ない。

 

 

そんな二人を見て、焦れったくなったのだろう。

 

キリシマがハルナの腕を振りほどいて蒔絵の前へと着地した。

 

 

 

「ハッ……ハッハッハッ!どうした?蒔絵!そんな顔をして。大戦艦である私達がそう簡単に負ける訳が――」

 

 

 

ギュッ!

 

 

 

「ウグッ!?」

 

 

 

「ヨタロウ!」

 

 

 

蒔絵は大粒の涙を流しながらキリシマを抱き締めた。

 

 

 

「良かった……私、ハルハルもヨタロウも大切なトモダチで…心配で――!」

 

 

 

「ま、蒔絵……」

 

 

 

「もう会えないんじゃないかって…ひどい目に逢ってるんじゃないかって心配で私――」

 

 

 

「蒔絵!」

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

ハルナは蒔絵を抱き寄せた。

 

 

相手が超兵器である以上、スキズブラズニルとて安全と言うわけではない。

 

 

にも関わらず、彼女は嫌悪していた筈の兵器開発をハルナ達の為に行い、ここまで心を痛めて彼女達の帰りを気丈に待っていたのだ。

 

 

 

ハルナにはそれが堪らなかった。

 

 

 

彼女の気持ちが堪らなく嬉しく。

 

 

また、んな彼女にこんな顔をさせてしまった自身に堪らなく怒りが沸いてくる。

 

 

【自身の存在に駆けて、あなたを護り通す】とあの日彼女の涙を拭って誓いを立てたと言うのに……

 

 

 

「蒔絵……済まない。お前にそんな顔をさせないと約束したのに……」

 

 

 

「ううん…いいの。ハルハルが無事に帰ってきてくれれば私は良いの。それにね、ハルハル」

 

 

 

「?」

 

 

首を傾げる彼女に、蒔絵は涙で潤んだ顔を笑顔に変えた。

 

 

「帰ってきたら¨ただいま¨!済まないじゃなくて¨ありがとう¨だよ!」

 

 

 

ハルナは膝を着いて彼女と目線を合わせ、指で涙を拭うと優しい笑顔を蒔絵へと向けた。

 

 

 

「ああ…そうだな。ただいま蒔絵、そして待っていてくれてありがとう」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

二人は再び固く互いを抱き締める。

 

 

(お、おい……苦しいぞ蒔絵、ハルナ。でもなんか言い出しづらい……)

 

 

 

勿論キリシマも一緒に……

 

 

 

 

  + + +

 

 

「真冬!」

 

 

タラップを降りてきた真冬に眞霜が駆け寄った。

 

 

「姉さん済まねぇ。こんな湿気たツラを見せるつもりじゃ無かったんだが……」

 

 

 

彼女の表情をみた眞霜は全てを悟る。

 

 

 

「解ってるわ。使用した兵器については報告は受けてる。辛い役割を押し付けてしまって本当にご免なさい……」

 

 

 

「……」

 

 

 

「でもね、これだけは言わせて。室長としてでもブルーマーメイドとしてでもなく、姉として……お帰りなさい」

 

 

 

 

「姉……さん」

 

 

 

互いに涙を見せないのは、トップを張る者の意地なのであろう。

 

 

 

しかし、常に過酷な現場へ赴く事になる彼女達にとって、帰る場所と待つ者がいることがどれ程救いであるのかは言うまでもない。

 

 

 

二人は暫しの間、¨家族¨としての再会を心に刻んで行く。

 

 

 

「ふぅ~漸く着いたわね」

 

 

 

「うん……」

 

 

 

「か、艦長は私を出迎えてくれるかしら〃〃」

 

 

 

「うん……」

 

 

 

「ちょっと!なんでそんなに暗い顔をしてるのよ!」

 

 

「うん……」

 

 

 

「はぁ~ダメね……」

 

 

 

一方、もえかの様子を見たタカオは思わず溜め息をつき、彼女に構わず群像の姿を探した。

 

 

 

「あっ!か、艦長〃〃」

 

 

 

多くの大衆の中から彼の姿を見つけたタカオは思わず瞳を輝かせ、一直線に此方を見詰める群像の目に、コアが一気に熱を帯びて行くのが解る。

 

 

 

ハルナの様に思いきり飛び付きたいと思う反面、¨もう一人の艦長¨の暗い表情が過って躊躇する。

 

 

 

「ああっもう!」

 

 

彼女は群像の視線に踵を返すともえかの下へと駆け出す。

 

 

そして――

 

 

 

トンッ!

 

 

「あっ!」

 

 

タカオはクラインフィールドで足場を作るともえかの背中を軽く前へと押した。

 

 

目を丸くして此方を見詰める彼女に、タカオは言い放つ。

 

 

 

「しっかりしなさいよ!この為に帰って来たんでしょう?まさか¨肝心な時に隣に居られなかった¨とか考えてるんじゃ無いでしょうね?」

 

 

 

「それは……」

 

 

 

「アンタは帰ってきた!そしてこれからも想い人と一緒に戦える。それじゃ不満?自信持ちなさいよ!あっ、アンタは¨仮にも¨私の艦長を務めたんだから、そんな顔して凱旋されたら私が不憫になっちゃうでしょ!?」

 

 

 

「タカオ……」

 

 

 

「ホラッ!とっとと行ってやりなさいよ!」

 

 

 

「うん……あのねタカオ!」

 

 

「まだ何か用なの?」

 

 

 

「ありがと……」

 

 

 

「ふ、フンッ!別にアンタの為に言った訳じゃ無いわ!そんな顔のアンタを差し置いて私だけ艦長と再会なんて目覚めが悪くなるから¨仕方無く¨……よ〃〃」

 

 

 

「それでも……ありがとうだよ」

 

 

 

もえかはタカオに笑顔を見せると足場を降りて行く。

 

 

 

「ホント…世話の焼ける艦長サマね。それより――」

 

 

 

タカオは再び群像へと視線を向け、そしてフワリと跳躍すると彼の前に着地する。

 

 

彼は穏やかな笑みをタカオへと向けた。

 

 

 

「良くやってくれた。ありがとう」

 

 

 

「ふ、フンッ!どう?私が居ないと超兵器にもさぞかし苦戦したんでしょうね!」

 

 

 

「ああ。やはり俺には君達が必要だ。だからこれからも宜しく頼む……重巡タカオ」

 

 

 

「!」

 

 

 

群像は手を差し出して握手を求めた。

 

 

彼女は内心激しく動揺するも、飽くまでそれを悟られぬ様、自然に手を彼の手と交えて行く。

 

 

 

「フンッ!漸く私の真価に気付いた見たいね。良いわ!これからもアンタの為に私が一肌脱いであげるわ!(うわぁ!わ、私…いま艦長と握手を…!)」

 

 

 

 

高鳴り続ける彼女の気持ちを知ってか知らずか、群像は自信たっぷりに胸を張る彼女と少しばかり長い握手を交わすのだった。

 

 

 

 

  + + +

 

 

「……」

 

 

明乃は複雑な表情で降りてくるもえかの事を見つめていた。

 

 

そんな彼女に対して、芽衣が言葉をかけてくる。

 

 

「あれ?ミケ艦長行かないの?」

 

 

 

「う、うん……シュルツ艦長がブリーフィングルームで情報交換をするって言ってたし、話はそこで聞けるかなって」

 

 

 

「そう言う意味じゃ無かったんだけど……まぁ艦長がそう言うなら」

 

 

 

「うん、じゃあ皆行こうか」

 

 

 

「待って!」

 

 

「し、シロちゃん?」

 

 

もえかに背を向けようとした彼女を真白が腕を掴んで呼び止めた。

 

 

 

「な、何かな?い、痛いよシロちゃん……」

 

 

「行ってください!」

 

 

 

「え、え?ブリーフィングルームの事だよね?それなら今――」

 

 

 

 

ゴッ!

 

 

「あイタッ!」

 

 

真白は彼女の額に自らの額を押し付ける。

 

 

互いの顔が息を感じられるまでに近付き、真白は真っ直ぐ明乃瞳を見詰めた。

 

 

今まで深く詮索した事は無かったが、明乃の瞳は日本人が持つ黒い瞳ではなく、珊瑚礁が広がる美しい海の様な透き通るオーシャンブルーの色合いを持っていた。

 

 

今、目の前にある彼女の目は驚きと戸惑いの色が見てとれる。

 

真白はそれに構わず、少し息を吸って気持ちを整えてから口を開いた。

 

 

 

「行って岬さん……《行きたい》って顔に書いてあるよ」

 

 

 

「シロ……ちゃん」

 

 

 

 

《行きたいって顔に書いてあるよ》

 

 

 

覚えている。

 

 

これはRATtウィルス事件で武蔵が暴走し、晴風がそれを止めた直後に真白から言われた言葉だ。

 

 

 

幼馴染みであるもえかに会いたかったが、艦長と言う立場上その場を指揮しなければならない。

 

そんな彼女に対して、真白はもえかに合いに行くよう明乃の背中を押したのだった。

 

 

 

未だに疑問に思う。

 

 

 

何故、あの時の真白の瞳は潤んでいたのかと……

 

 

そして今も、自分を真っ直ぐ見詰める真白の瞳には涙が滲んでいた。

 

 

 

きっと傷付けてしまったのだろうと眉を潜めた彼女に、真白はあの時言えなかった自分の気持ちを吐き出した。

 

 

 

「岬さん私ね、悔しかった。¨家族¨だって言っていた私達よりも、本当の¨家族¨である知名さんを選んでしまうあなたに嫉妬していたのかもしれない」

 

 

 

「……」

 

 

 

「でもね、そんな事よりも家族である私達に気持ちを偽られる方が悔しかったんだ」

 

 

 

「!」

 

 

 

「お願い。私には……ううん、はれかぜの皆にはあなたの気持ちを偽らないで欲しい。仕事だけじゃない……心も!あなたに皆が預けた様に、私達にもあなたの気持ちを預けて欲しいんだ!」

 

 

 

「シロちゃん……」

 

 

 

明乃は激しく後悔した。

 

 

今まで、艦長として彼女達を信頼しているつもりだった。

 

しかし、自分の負の部分を預けないと言う事は、表面上は綺麗だとしても、その実は相手を全く信頼していない事と同義なのだ。

 

 

彼女はその罪に気付いたのだった。

 

 

 

「し、シロちゃんゴメ――」

 

 

謝罪を口にしようとした彼女の口を真白の指先が制し、首を横に降る。

 

 

謝罪が欲しい訳ではないのだ。

 

 

彼女達が何故、【死に最も近い海】へ明乃と共に付いてきたのか。

 

 

 

それは、明乃自身が目の前にある困難に真剣に向き合い、そして助けた者達の笑顔を純粋に喜ぶ事が出来る人物であるからに他ならない。

 

 

まるで本当の家族の様に……

 

 

 

そう、彼女達は時には無鉄砲と思える行動取っていても、心は常に仲間や助けるべき者へ向けてくれる彼女をとても好きだったのだ。

 

 

 

そしてそれを、¨いかなる時¨でも貫いて欲しいとも思っていた。

 

 

それが、【艦長 岬明乃】に預けた彼女達の想いでり、シュルツや群像が明乃自身に課した課題でもある。

 

 

 

それは超兵器が存在するこの世界に於いては酷く残酷な事なのかもしれない。

 

 

しかし、その想いの果てに誰かの笑顔が有る限り、彼女は歩みを決して止めたりはしないだろう。

 

 

 

明乃は何かを決心し、そしてオーシャンブルーの瞳を真白へと向けた。

 

 

 

「ありがとう……シロちゃん。私、行ってくるね」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

明乃はもえかに向かって駆けて行く。

 

 

「あっ――!」

 

 

真白はその背中に向かって思わず手を伸ばした。

 

 

しかし、姿が小さくなる明乃をその手が握ることは無い。

 

 

 

彼女を行かせたのは半分は¨隣に居る者¨の意地であるわけだが、どんなに割り切ろうとしても出来ない想いがそこに現れしまう。

 

 

 

ずっと隣にいるのに果てしなく遠い存在……

 

 

 

そこで彼女は明乃の駆けて行く先へと視線を向けた。

 

 

【知名もえか】

 

 

明乃の幼馴染みにして、幼少期に苦楽を共にしてきた¨家族¨である。

 

 

そんな彼女に対して、真白は考える事を止められなかった。

 

 

 

(知名さん……岬さんとずっと近くで歩んで来た貴女も、私と同じようにあの人を遠く感じているのだろうか……)

 

 

 

しかしその思考は泡の如く消えて行く。

 

 

 

たとえどんなに遠くても、一歩づつ確実に前へと進むと彼女と共に再び海へ出る時に決めたのだから……

 

 

 

  + + +

 

 

 

「はぁ…はぁ……モカちゃん!」

 

 

「ミケちゃん……」

 

 

 

息を切らせて駆けてきた明乃は呼吸を整え、二人は見詰め合う。

 

 

 

互いを想わない日は一日足りとも無かった。

 

 

2度と会えないイメージが幾度となく頭を過り悪夢でうなされた。

 

 

 

両親を失った彼女達にとって、再会までの期間がどれ程長く苦痛に満ちたものであったかは言うまでもないだろう。

 

 

だが、いざ互いを目の前にしてもまだ、再会した現実の実感を二人は得られていなかった。

 

 

 

「モカちゃん……」

 

「ミケちゃん……」

 

 

 

声は聞こえる。

 

間違いなく目の前にいる幼馴染みは本物だ。

 

 

だが理解はしている筈なのに実感はまるで伴わない。

 

 

――怪我してない?

 

 

――無理はしなかった?

 

 

言いたい事は幾らでもあった。

 

 

――だがどれも違う

 

 

彼女達が互いの存在を確かめる術は最早言葉だけでは足りなかった。

 

 

 

「モカちゃん……モカちゃん」

 

 

「ミケちゃん……」

 

 

二人は互いの事を呼び合い距離を詰めて行く。

 

 

歩調はどんどん速くなり、呼び声も大きくなった。

 

涙で視界がボヤけ、互いの顔が見えなくなり、それすらも二人を不安にさせた。

 

 

 

「モカちゃん…モカちゃん!モカちゃーん!」

 

 

 

「ミケちゃん!」

 

 

 

 

声の方向に駆け出し、そして二人は遂に互いを抱き留めた。

 

 

片方の手で涙を拭い、それでももう片方の手は相手を離さない。いや、離してはいけないと思った。

 

 

はっきりした視界には見慣れた幼馴染みの顔がある。

 

 

彼女達は互いの名を呼び、そして固く抱き締め合うのだった。

 

 

 

「も、モカちゃん!モカちゃ…うっ…ああ!」

 

 

「うっ……ミケ…ちゃん!」

 

 

 

互いの声 体温 そして心臓の鼓動。

 

 

その全てが存在の証であり、二人はそれを確かめるように暫く互いを離す事は無かった。

 

 

 

二人の様子を一同が見詰め、中には涙を流す者までいた。

 

 

もしかすると彼等はたった今 【生き残った】と実感したのかもしれない。

 

 

 

「艦長。少しお話が……」

 

 

事態を見守っていたシュルツにナギが声を潜めて近付く。

 

 

「何か?」

 

 

「はい……此方をご覧ください」

 

 

 

 

手渡された端末に目を通した彼の表情が一変する。

 

 

 

「ブルーマーメイド艦隊が、進路を変えた超兵器を追ってヴィルヘルムスハーフェンに向かっただと!?何故止めなかった!」

 

 

「止めました!しかし《これがブルーマーメイドの使命》だからと……」

 

 

「くっ――!至急スキズブラズニルの進路をヴィルヘルムスハーフェンに取れ!」

 

 

「はっ!」

 

 

 

 

シュルツは再び抱き合う二人へと視線を向ける。

 

 

 

――無粋だな

 

 

一時の再会の喜びすらも妨害する超兵器に対し、彼は怒りを抑える事が出来なかった。

 

 

 

 

異世界艦隊は大西洋にて合流を果たし、彼等の様々な想いを乗せて一路ヴィルヘルムスハーフェンへと舵を切った。




お付き合い頂きありがとうございます。


今回の後半より欧州解放前哨戦 最終編であります、ヴィルヘルムスハーフェン解放戦編と成りまして、事実上この話で、ストーリーの折り返しに成ります。


原案だとこの話が15話付近に来る筈だったので随分と回り道をしてしまいましたが、此からも邁進して参ります。



次回まで今暫くお待ちください。


それではまたいつか。




























とらふり!  はれかぜのトライアングル関係




真白
(ハァハァ……艦長の顔がこんな近くに…あ、あぁっ!)



もえか
(久しぶりのミケちゃん……温かいよう。連載の間隔を考えると実質季節が一周する間離れ離れになっちゃって…もう我慢できなくなっちゃう!)



真白&もえか
「………」




真白
「譲らん!あの時は確かに譲ったが、今日艦長と寝るのはこの私だ!」



もえか
「私だよ!だって連載の絡みで事実上一年もミケちゃんをお預けにされたんだよ?一晩くらい一緒でもバチは当たらないよ!」



真白
「なにおぅ!知名さんは超絶美人のタカオさんと毎日■■■■■してたじゃないか!」



もえか
「デタラメ言わないで!そんな宗谷さんこそ毎日ミケちゃんをオカズにして××××してたじゃない!」




真白
「なっ――!言いがかりだ!」




もえか
「否定しきれてないよ?」



真白
「ち、違う!」



タカオ
「ちょっとあんた達!さっきから聞いてたら会話が不毛よ?それに私、初めて全てを見せる(エンジンとか……)のは艦長って決めてるんだから!とんだとばっちりだわ!」



真白
「ではタカオさんに決めてもらおう!」



タカオ
「え?」



もえか
「そうだよ!どっちが今日ミケちゃんと寝んねするかタカオに決めてもらう!」



タカオ
「ちょっ――待ってよ!急にそんな……」




真白&もえか
「じ――」



タカオ
「え?え!?困るって……そんな〃〃」



明乃
「シロちゃ~ん!モカちゃ~ん!」



もえか
「ミケちゃん!?」

真白
「か、艦長!?」




タカオ
「あ、あぁホラ!やっぱり当の本人に聞くのが一番じゃないかしら?」




真白&もえか
「確かに……」



タカオ
(セーフ!)



真白
「かかっ、艦長!」



もえか
「ミケ……ちゃん」




明乃
「???」



真白
「今日、あの~私と……」


もえか
「夜、私と……」




明乃
「二人ともそろそろ出航だよ!急いで!」




真白&もえか
(あぁ……)



真白
「行こうか知名さん……」



もえか
「うん…そう言えば決戦前だったね。ミケちゃん真面目だから本編進行に忠実なんだよ」




真白
「そこも艦長の魅力なんだが……ただ」


もえか
「うん……そうだね」



真白&もえか
(報われない……)




タカオ
「上手いことオチを作ったみたいだけど、一番報われないの私じゃないの!?」




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雷鳴か……いや、断末魔か   …Unidentified Weapon

大変長らくお待たせいたしました。


2章前編の最後の話に入って参ります。


それではどうぞ


  + + +

 

 

北海 ヴィルヘルムスハーフェン北北西 約250海里

 

 

 

ブルーマーメイドの飛行船は未だに超兵器の動向を追跡し続けていた。

 

 

そのカメラが写し出したのは動きを止めた超兵器艦隊である。

 

 

 

霧が立ち込める中、ひっそりと佇む巨体には何者も寄せ付けぬ圧力があり、そこには艦隊停止後に浮上した超巨大潜水艦ドレッドノートの姿もあった。

 

 

 

ブオォン!

 

 

彼等がこの場で停止したのには訳がある筈――

 

 

 

飛行船は、彼等の真意と後方に控えている巨大艦艇の姿を捉えようと旋回を開始した。

 

 

 

その直後――

 

 

ビギィン!

 

 

霧の中から閃光が一直線に向かってきて飛行船を貫き、炎上しながら無惨にも海へと墜ちて行く。

 

 

 

 

それに目も暮れず、超兵器達は次なる行動を開始した。

 

 

 

ムスペルヘイムとドレッドノートの甲板には、夥しい数の航空機が立ち並び、静まり返っていた海がジェットエンジンの轟音で埋め尽くされる。

 

 

 

 

チカッ……チカッチカッ!

 

 

 

ムスペルヘイムからの発光信号を皮切りに航空機達は一斉に発艦を開始し、空へと舞い上がる。

 

 

 

 

あっという間に黒い翼を持ったカラス達に占領された空が異様な光景を更に不気味に演出した。

 

 

 

チカッ チカッ チカッ!

 

 

 

彼の艦は再び周囲に合図を送る。

 

 

カラス達の群れは艦隊を離れヴィルヘルムスハーフェンへと向けて飛び立ち、それと同時に超兵器達の機関が出力を上げてドレッドノートは再び海中に身を没し、残る2隻はゆっくりと前進を始める。

 

 

 

彼等はもう止まらない。

 

 

そこに存在する生物を灼熱の焔で焼き尽くすまで――

 

 

 

  + + +

 

 

大西洋 

 

 

 

スキズブラズニルは本来出せる筈の無い速度で航行していた。理由は、ハルナ キリシマ ヒュウガの3隻がワイヤーを伸ばして¨牽引¨しているからである。

 

 

 

そう、彼等には急がなければならない理由が出来てしまっていた。

 

 

 

ブリーフィングルームに集まった一同の表情は芳しくない。

 

 

 

ドイツを中心としたブルーマーメイド艦隊が、異世界艦隊の到着を待たずして出発してしまったのだ。

 

 

 

 

 

「宗谷室長。ブルーマーメイド艦隊は説得できましたか?」

 

 

 

 

「ごめんなさい……やはり止められなかったわ。でも、私も解るんです。彼女達の立場ならそうしただろうって」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

シュルツの表情は険しさを増す――いや、この場にいた者は全て同じ顔をしていた。

 

 

先程行われた互いの情報交換の内容が頭に焼き付いているのだ。

 

 

 

超兵器級の光子兵器を始め、超常的な威力を誇るレールガンと量子兵器。

 

 

そして反物質ビーム砲。

 

 

 

それだけではない。

 

 

工作補給艦と化した超兵器デュアルクレイターの存在や、圧倒的な力押しの戦法から緻密な戦法まで、戦略に多様性を持たせたことで攻略が一層困難になったことも要因であろう。

 

 

 

そこへブルーマーメイド艦隊が無謀とも思える先陣を切ってしまった事がこの場に悲壮感すら漂わせてしまっていた。

 

 

 

しかし、ここでこうしても何も始まらないのも事実なのだ。

 

 

 

「行きたまえ」

 

 

 

「ガルトナー司令!?」

 

 

 

事態を静観していたガルトナーが立ち上がる。

 

 

 

「いかなる状況に於いても決して進む事を諦めない。それが我がウィルキア解放軍の理念ではないのか?」

 

 

 

「私も同意見よ!」

 

 

「宗谷室長……」

 

 

「私達ブルーマーメイドも行きます!どんな状況であっても私達のやることは変わらないわ!」

 

 

 

二人の言葉に両陣営のメンバーが大きく頷く、そして彼等の視線は必然的にもう一つの勢力に向けられた。

 

 

その代表者たる群像は、一同から向けられた視線に自信を含んだ笑みと頷きで答える。

 

 

 

全員の意思が固まった瞬間だった。

 

 

 

「ヒュウガ。俺達が先行した艦隊に追い付ける可能性はあるか?」

 

 

 

「正直ギリギリな処ね……距離がある以上、出せる艦艇は限られるわ」

 

 

 

 

「そうなると俺達とウィルキア、そしてはれかぜが適任だが……」

 

 

 

「あ、あの……」

 

 

そこでもえかが手を上げる。

 

 

 

「知名艦長、どうされましたか?」

 

 

「はい、その場合スキズブラズニルの指針はどうされるつもりなのかと……」

 

 

 

 

 

 

 

彼女の懸念はこうだ。

 

 

ヒュウガの試算によって、先行した艦隊に追い付ける可能性が五歩になっている以上、ヴィルヘルムスハーフェンで犠牲が出る事も考えられる。

 

 

その場合、スキズブラズニルの設備での迅速な対応が必要となってくる事は必定だった。

 

しかし、現在スキズブラズニルを牽引している蒼き鋼が前線に出た場合、速力が無い彼の艦は置き去りとなり、救える命が溢れてしまう事にもなり得るのだ。

 

 

更に――

 

 

事実上の主力が居なくなり、海のど真ん中に置き去りとなったスキズブラズニルは最早裸も同然であり、仮に超兵器の奇襲を受ければ対処は困難となる。

 

 

 

兵器拡散を懸念し、あらゆる技術を彼の艦に集約している以上、撃沈は即超兵器に対する攻め手を失う事に直結するのだ。

 

 

 

大西洋を掌握した現段階に於いては杞憂と思うかもしれない。

 

 

しかし大西洋には現在、地中海から逃亡したデュアルクレイターが展開している。

 

 

本体の速力を無視したとしても、足の速い小型艇や航空機の奇襲は可能であり看過出来ない。

 

 

 

敵は超兵器級をヴィルヘルムスハーフェンへ向かう異世界艦隊の背後に配置する事で判断を遅延させ、戦力を分断せざるを得ない状況を作り出す事に成功していたのだ。

 

 

 

 

「俺を除け者にするんじゃねぇよ……」

 

 

 

一同の視線が真冬へと集まる。

 

 

 

「スキズブラズニルは俺が護る。だからお前らは先行しろ」

 

 

 

「ダメです」

 

 

 

「!」

 

 

 

シュルツの言葉に彼女から発せられる威圧が上昇するのを一同は感じた。

 

 

しかし彼は意に介さず言葉を繋ぐ。

 

 

 

「宗谷艦長。言葉にせずとも解る筈です」

 

 

 

「ちっ!」

 

 

 

彼女は悔しさを滲ませた。

 

 

解ってはいるのだ。

 

 

弁天の装備ではスキズブラズニルを完全に防衛出来ない事に――

 

 

 

だがシュルツは彼女の――いや、彼女達の真価を見抜いていた。

 

 

 

「貴女にはやるべき事がある筈だ。確かに速力で劣る弁天を斥候部隊に組み込むわけにはいきません。しかし大惨事が懸念される以上、救出の手は必要だ」

 

 

 

「成る程な。俺達は救出班を組織してスキズブラズニルの到着と同時に岬達はれかぜへの攻撃の抑止と救出の増援を送る……だろ?」

 

 

 

「ご理解、感謝します」

 

 

 

「でもスキズブラズニルはどうすんだ?まさかこのままって訳にもいかねぇだろ」

 

 

 

「ハルナ。ここに残れるか?そうすれば蒔絵も同時に守れると思うが……」

 

 

 

「いや、私は先行部隊に組み込んで欲しい」

 

 

 

「!?」

 

 

群像の提案を受けたハルナの意外な返答に蒼き鋼の陣営が驚愕の表情をみせる。

 

 

 

「おい、良いのか?蒔絵と離れる事をお前が了承するとは――」

 

 

 

「重要なのは結果だキリシマ。どちらが沈んでも結果は同じになる。それなら適任者に託すべきではないか?」

 

 

 

「適任者だと?」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

ハルナはヒュウガへと視線を送った。

 

 

 

 

「ヒュウガ。複数の航空機を操れるお前ならスキズブラズニルを守れる筈だ」

 

 

 

「あら、随分と高く評価してくれるのね。でも艦上での操作では航空機にクラインフィールドを張れないわ。まぁでも、考えが無い訳でもないし良いわよ。引き受けてあげる」

 

 

 

「話は決まりましたか?」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

ハルナの返答にシュルツは大きく頷き席を立とうとした時だった。

 

 

ピピッ――!

 

 

「イギリスのプリマスに所属しているブルーマーメイドから超兵器に関する情報が入ったみたいね。今モニターに出すわ」

 

 

 

真霜が表示した映像を見た一同の空気がピリッと張り詰める。

 

 

 

 

「ムスペルヘイムと……これはドレッドノートか!?やはり空母改装を施していたのか。そしてもう1隻は――何!?」

 

 

 

攻撃を受けて落下する飛行船からの映像が途切れる寸前に、ムスペルヘイムの後方に控えている超兵器の姿が少しだけ霧の中から姿を現した。

 

 

 

それは、かつて戦った時とはかけ離れた異形の姿を取っており、超兵器を知り尽くしているシュルツを始めとしたウィルキア一同を激しく動揺させるものだった。

 

 

 

「シュルツ艦長?」

 

 

 

 

「岬艦長。事は一刻の猶予も有りません。直ぐに出撃の準備を始めましょう。超兵器の情報は移動しながら共有致します。ナギ少尉。ドリル戦艦シュペーアの修復は済んでいるか?」

 

 

「はい!弾薬を補給し次第出撃できます」

 

 

「ちょっと待って下さい!何が起きてるんですか?」

 

 

 

明乃達はシュルツ達がこれ程までに焦る理由が解らなかった。

 

 

しかし、次に彼が発した言葉に彼女だけではなく蒼き鋼の一同も戦慄する。

 

 

 

「手短に申し上げますと、最後の1隻は私達の世界で¨極東方面の統括旗艦¨を務めていた超兵器なのです」

 

 

 

「なっ――!方面統括旗艦ってニブルヘイムやヨトゥンヘイムと同クラスで、総旗艦の直衛艦の護衛についていると言う事ですか!?」

 

 

 

「そうなります。それも、当時とは姿形を全く変えて……」

 

 

 

「――っ!」

 

 

彼女達は事の重大さを理解した。

 

シュルツは彼女達の返答を待たずして声を張る。

 

 

「よし!ではコレより作戦に移行します。大戦艦ヒュウガを除く蒼き鋼、そしてシュペーアと空母メアリースチュアート、それにはれかぜはヴィルヘルムスハーフェンに襲来すると思われる超兵器を撃沈する為に行動を開始する。総員、出撃準備!」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

一同は慌ただしく動き出した。

 

 

現場では作業を行うクルー達が、1秒の時間をも短縮しようと汗を流す。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

   +

 

 

401に乗り込んだ群像達は、互いにブリッジの配置に着く。

 

 

 

「全員所定の配置に就きました。艦長、ご命令を!」

 

 

 

「うむ。今回の戦いだが、俺達は出来うる限りサポートに回りたいと思う」

 

 

「はぁ!?直衛艦がいるってのに黙って見てろってのか?」

 

 

 

「直衛艦が¨いるから¨だ。イオナ、ハルナが収集したデータを出してくれ」

 

 

 

「うん」

 

 

 

チ…チ……

 

 

全員がモニターを注視した。

 

 

 

「見て貰うと解るが、今回双方の戦場で使用された量子兵器だが、我々の超重力砲がある程度効果を挙げている事が解った。勿論、キリシマも万全の状態で発射したわけでは無いが、それでも量子兵器の威力を相殺出来た意味合いは大きい」

 

 

 

「成る程、それで我々が量子兵器または重力兵器を使用された場合に超重力砲を使用して致命的な損害を軽減。そして発射に伴う隙をカバーするためにハルナとキリシマをサポートに回すと?」

 

 

 

「僧の言う通りだ。尤も、イオナは一発撃ってしまえばそれでお仕舞いな訳だが、その場合俺達は知名艦長と合流して海上と海中両面から超兵器を叩く」

 

 

『では私達はその後どうすればいい?』

 

 

 

「サポートの要であるヒュウガが居ない以上、ハルナとキリシマは重力兵器の妨害と戦闘海域全体の観測、そしてミサイルやレーザーで各艦を支援して欲しい」

 

 

 

『了解した』

 

 

 

   +

 

 

 

「ねぇ、もえか。私¨また¨アイツとやるの?」

 

 

 

「しょうがないよ。限られた戦力を使うしかないんだから」

 

 

 

「うぅ……」

 

 

 

「そんな顔しないで。私達はお互いに大切な人の近くで戦えるんだもん。地中海よりマシだよ」

 

 

 

「そ、そうね……解ったわ!超兵器なんて蹴散らして艦長に私の力を認めさせてやるんだから!」

 

 

 

「うん。その粋だよ!」

 

 

 

   +

 

 

「ヴェルナー。通信取れるか?」

 

 

 

『はい。感度良好です』

 

 

「うむ。今回の戦い、勿論負けるわけにはいかないが、それよりも政治的な意味合いが大きくなる。要救助者の情報は速やかにスキズブラズニルやはれかぜに通達しろ」

 

 

 

『はい、承知致しました。艦長……いよいよ始まるのですね。ヴォルケンクラッツァーの存在が露呈するまで【最凶の采配者】と言われ、帝国の切り札と思われていた総旗艦直衛艦隊¨旗艦¨との戦いが――』

 

 

「ああ。奴の前に散った数多の人命に報いる為にも必ずここで撃沈する!」

 

 

 

   +

 

 

 

はれかぜへと乗り込んだ明乃達も最終確認を急いでいた。

 

 

 

「杉本さん!新生はれかぜの仕様マニュアルの内容は間違いない!?」

 

 

 

『勿論だよ。時間が足りなくて習熟運転が出来なかったのは悔やまれるけど…大まかな内容は変わらないから新しく装備した機構のみを理解してくれれば問題無いかなぁ~。まぁ君達ならヴィルヘルムスハーフェンに到着するまでに馴れるんじゃない?』

 

 

 

 

「解った試してみるよ。皆きいて!改装によって内部や仕様が微妙に変化してるけど大丈夫?芽衣ちゃんタマちゃん!」

 

 

 

「うぃ!全員兵装の内容は理解してる。バッチリ……!」

 

 

 

「弾薬庫が増設されたみたいで前より快適だよ!よ~し!撃って撃って撃ちまくるぞ~!」

 

 

 

「ミミちゃん!」

 

 

 

『今、砲術長達が言っちゃったけど、弾薬に関しては問題なし!ペース配分は考えて貰うとして、心配ならどんな兵装を使い過ぎてるか随時報告するようにするわ!』

 

 

 

「ミカンちゃん、美波さん!」

 

 

 

『皆疲れてると思うし、長期戦闘も考えて特別に考えて作った携帯固形食と液体補給食を皆に配ったよ!』

 

 

 

 

『医薬品と治療器具は一通り備えた。後は出来る事をするだけだ』

 

 

 

「マロンちゃん!」

 

 

 

『コッチは特に変わった所はねぇが、実際は動かして見なきゃ解らねぇ事もあらぁ。心配すんねぃ!到着までにこのじゃじゃ馬をしっかり手懐けてやるからな!』

 

 

 

「うん。最後にリンちゃん!」

 

 

 

「えぇ!?私が最後?な、なんか緊張する……え、えっと私の処が一番変わってるかな。でも新型機構の内容は頭に入れたよ」

 

 

 

「解った。じゃあ出――」

 

 

 

『待って!』

 

 

 

「宗谷室長?」

 

 

 

   + + +

 

 

 

出撃をしようとした異世界艦隊に真霜が声をかけた。

 

 

 

「皆、艦隊旗を掲げて頂戴。蒼き鋼はロゴを送信したから開いてみて。」

 

 

 

 

各々が艦隊旗を掲げて行く。

 

 

 

「!」

 

 

 

 

彼等は目を見開いた。

 

 

 

掲げられた旗には交わる事の無かった3つの世界が繋がった事を意味する三角形の図形が描かれていた。

 

そしてその中心からそれぞれの辺に向かって平和の象徴である¨オリーブの葉¨が伸びており、各頂点には3つの世界のシンボルマークが描かれている。

 

 

 

左下には蒼い鳥が翼を拡げた絵柄とBLUE STEELの文字を、調和を意味する円で囲った絵柄が入った蒼き鋼のマーク。

 

 

 

右下にはあらゆる民族によって国家が形成された事を示す大小2つの菱形が重なった紋様と、中央に白い鳥が翼を拡げた姿を描いた旧ウィルキア王国国旗をそのまま引き継いだウィルキア共和国国旗。

 

 

そして三角形の一番高い頂点の処には――

 

 

 

 

波をイメージした紋様の上部に、背中に錨を象ったロザリオを背負い、まるで天に捧げるように地球を掲げる気高く美しい蒼き人魚が描かれたブルーマーメイドの紋章があった。

 

 

 

一番上に描かれた理由は、飽くまでも自身の世界は自らで護ると言う意志の現れなのだろう。

 

 

 

蒼い鳥

 

白き鳥

 

そして蒼き人魚

 

 

それらを結ぶ三角形とオリーブの葉。

 

 

いずれも共通するのは平和や調和であり、ヒトとは、たとえ住む世界が異なっていたとしても必ずや結び付き、判り合えると言う彼等の象徴でもあった。

 

 

 

あの日、横須賀での紅蓮の夜――

 

 

最初の邂逅の時に少しでも相手に敵意を抱き、銃声の一発が聞こえていたなら、互いに判り会う事は無く世界はとうに崩壊していたのかもしれない。

 

 

だが彼等は繋がった。

 

 

 

人間の負の部分すらも受け止められる彼等だからこそこうして共に前を向く事が出来たのだ。

 

 

 

人はそれを¨奇跡¨と呼ぶのかもしれない。

 

 

 

しかし、彼等に取っては必然に他ならないのだ。

 

 

 

だって彼等はそれぞれの世界で物語を紡いできた主人公達なのだから……

 

 

 

 

「皆、御武運をっ!」

 

 

 

真霜の言葉に一同は心が引き締まる感覚を感じた。

 

 

「よし!出撃する。航空隊は先行できる様準備を急げ!総員、警戒を怠るな!」

 

 

「はっ!」

 

 

 

「掛かるぞ!イオナ!」

 

 

「うん。きゅそくせんこう~!」

 

 

 

2つの陣営の艦艇がスキズブラズニルから出撃する。

 

 

真白は明乃に向けて声を発した。

 

 

 

「艦長!」

 

 

「うん!」

 

 

 

明乃は艦長帽を目深に被り直す。

 

 

いつもより鋭さが増し、その中にも確固たる意思が垣間見えるオーシャンブルーの瞳が一層光を帯びていた。

 

 

彼女は大きく息を吸い込むと手を前にかざし、吸い込むだ息を一気に吐き出した。

 

 

 

 

「コレよりはれかぜはヴィルヘルムスハーフェンを解放して皆を助ける!総員配置に就いて!」

 

 

 

「艦長、いつでも良いよ!」

 

 

『合点でぃ!』

 

 

 

艦内から一同の声が次々と聞こえ、明乃は大きく頷く。

 

 

 

「はれかぜ――出航!」

 

 

ブォォン!

 

 

汽笛が鳴り響き、スキズブラズニルから手を振って見送る船員達の声援を受けて彼女達は再び海へと漕ぎ出した。

 

 

 

この世で最も死に近い海へと……

 

 

 

 

「リンちゃん。今の内に新機構のテストをしておこうよ」

 

 

「う、うん!そうだね。勝田さん、大丈夫?」

 

 

 

『バッチリぞな!どんな風になるか楽しみぞな!』

 

 

 

「じゃあお願い。マロンちゃん、機関の出力を上げてくれないかな?」

 

 

 

『任せろぃ!』

 

 

 

「じゃ、じゃあやってみるね」

 

 

「宜しくリンちゃん」

 

 

 

『それじゃいくぞな!』

 

 

 

カチッ…ガゴン!キィイイイ!

 

 

 

「え、えぇ!?ちょっ…うそうそうそ!えぇええ!?」

 

 

 

新な機構の凄まじさに明乃だけでなく、はれかぜの全員が驚愕した。

 

 

 

 

   + + +

 

 

ヴィルヘルムスハーフェン

 

 

 

超兵器の襲来より先んじてヴィルヘルムスハーフェンへ戻ったミーナ達は驚愕する。

 

 

 

「なっ――」

 

 

「何故こんな艦艇があるんだ?それなまだ人が……避難を始めていたんじゃないのか!?」

 

 

 

彼の街には未だに人が行き交っており、電磁防壁を搭載していない艦艇も残っている。

 

 

テアの目には所々でブルーマーメイドの隊員が住民を説得する姿が目に入った。

 

 

 

「こちらノイッシュバーン。応答せよ!」

 

 

 

『こちらヴィルヘルムスハーフェン支部だ』

 

 

 

「何故住民を避難させない!防壁を搭載していない艦艇もだ!超兵器の到着は報告しておいた筈だぞ!」

 

 

 

『それが……』

 

 

 

勿論ブルーマーメイドは早期に非常事態宣言と避難命令を出し、住民に対して自制と避難を促していた。

 

 

しかし、超兵器の急な進路変更によって着の身着のままの避難を余儀無くされた住民のストレスは尋常なものではなく、更にそれらの住民が自宅に残してきた金品や食料を狙った略奪が横行しているとの情報が避難途中の住民の耳に入り刺激してしまったのがいけなかった。

 

 

 

主要な幹線道路は避難の車と逆走してまで自宅へ引き返す車列で渋滞し、挙げ句の果てには車を捨てて歩きだす者までいた。

 

 

そして略奪者と住民、帰宅を制止され怒りで暴徒と化した住民と警官の間で激しい銃撃戦が街の到る所で起き、街1つを巻き込んだ巨大なパニックが発生する事態となってしまったのだ。

 

 

ブルーマーメイドは体面上、事態を見過ごす事は出来ず、防空システムや防壁の搭載が間に合わなかった艦艇を避難させる事が出来なかった。

 

 

 

更に彼女達の不運は続く。

 

 

彼等の怒りの矛先は、超兵器接近の情報を伝えたブルーマーメイドに向けられた。

 

 

 

海の平和を護ると謳っていた彼女達が、超兵器を打倒出来ず住民の避難を半ば強制的に強いた事への苛立ちが遂に爆発したのだ。

 

 

 

世界各地では、超兵器の出現から海上での行き交いが事実上停止している。

 

 

理由は様々だが、各国による貨物船に対しての渡航の自粛命令と、あらゆる機関がパニックを恐れて超兵器に関する正しい情報を積極的に公開しなかった事により、マスメディアが連日恐怖を煽り立てる根も歯もないニュース報道の流布を繰り返した結果、漁業関係者や海運会社の労働者が海への渡航を拒否した事が大きい。

 

 

 

貿易や物流の停滞は経済に打撃を与え、先行きの不透明感が軒並み株価の乱高下を生み出して海運とは全く関係の無い企業にも影響を及ぼしていた。

 

 

 

更にだ――

 

 

 

海での物流の停止が各国の内陸にある農産物や畜産物の値段を爆発的に高め、住民は慢性的な品薄と物価の過剰な上昇に苦しめられ、自身の暮らしへの不満を募らせて行った結果、彼等の納めた税金が経済の建て直しや治安維持ではなく防空システムを始めとした戦闘に割かれると知れば最早黙ってはいられなくなる事は必定だった。

 

 

 

 

住民はヴィルヘルムスハーフェン港に大挙して押し寄せる。

 

 

この時点での住民の避難は、街全体の¨約2割¨程度しかすすんでいなかったのである。

 

 

そこへ最悪とも言えるタイミングでテア達の艦隊が訪れてしまい、それを見た住民の苛立ちは臨界に達したのだ。

 

 

 

「お願いです!避難してください!ここは危険です!避難を――!」

 

 

 

「黙れ人魚め!いや……お前達は¨魔女だ¨!何が超兵器だ!何が平和を護るだ!お前達は家に押し入ってくる¨ハイエナ¨共だって追い出してくれないじゃないか!」

 

 

 

「お願い!赤ちゃんのミルクが手に入らないの!少しでいいから分けて下さい!」

 

 

 

「終わりだ!俺の会社はもう倒産寸前…皆お前達のせいだ!責任を取れ!俺は家族を食わして行かなくちゃいけないんだぞ!お前達みたいにただ艦に乗っているだけで金が貰える訳じゃないんだ!」

 

 

 

「そもそも本当に超兵器が来るのか?海に出れない状況でどうやって確認したんだよ!何か企んでいるんじゃないのか?」

 

 

 

 

 

「お願いです避難をっ!本当です!ここは危険なので早く――」

 

 

 

「うるさい魔女め!」

 

 

 

ゴッ!

 

 

 

「あ゛ぁっ!」

 

 

 

 

住民を宥めていた隊員達に次々と投石がなされ、額から血を流す隊員もいた。

 

 

彼女達は、この状況においても住民達の説得を根気強く行うも、焦れてきた住民達はの怒りは収まらない。

 

 

 

 

 

「おい!きっとこの中には食料がある筈だ!奴等に独占させるな!」

 

 

 

「解った!奴等の好きにはさせない!行くぞ!」

 

 

 

「ちょっ、待っ――」

 

 

 

「退けぇ!」

 

 

 

「うっ――」

 

 

隊員の一人が突き飛ばされ後頭部を激しく地面に叩き付けた。

 

 

 

「あ゛っ……!」

 

 

 

濁った悲鳴をあげた彼女の頭から血が流れ出し、彼女は虚空を光を失った虚ろな瞳で見つめて動かなくなってしまう。

 

 

驚いた隊員の一人が彼女に駆け寄る。

 

 

 

「アデリナ!ねぇアデリナ!しっかりして!返事をしてお願いっ!」

 

 

 

 

幾ら強く揺すっても、彼女は決して動かない。

 

 

 

彼女の異変に気付いた周囲の民衆が立ち止まる。

 

 

 

「嘘…嘘でしょ?こんな…あっ、あぁっ!」

 

 

 

叫んではいけない。

 

 

彼女の死を悟られては成らない。

 

 

何故なら…。

 

 

 

その悲鳴は、虫の息だった彼等の¨理性¨に【確実な死】をもたらすからだ。

 

 

 

 

「あぁあアぁアアあアぁっ!」

 

 

 

 

耳を覆いたくなるなるような絶叫の後に訪れる不気味な静寂と――

 

 

 

「うぉおおおっ!」

 

 

 

完全に暴徒と化した住民達がブルーマーメイドの基地内へ雪崩れ込んでくる。

 

 

 

 

「や、止めっ……あ゛っ!」

 

 

 

遺体も、それに覆い被さる隊員も徹底的に足蹴にされる。

 

 

 

だが、事態はそれに留まらない。

 

 

 

「おい!コイツらの身ぐるみも剥いじまえっ!」

 

 

 

「なっ!ちょっ、やめて!い、いやぁああ!」

 

 

男達の一部がブルーマーメイドの隊員達を襲い始めたのだ。だがそれだけではない。

 

 

 

抵抗できない弱い女性や、赤ん坊を抱いた母親、更には少女に到まで、歯止めが利かなくなったやり場の無い生存本能は、無慈悲な暴力と化して弱者を蹂躙する。

 

 

 

ミーナは最早我慢の限界であった。

 

 

街を壊滅させるべく押し寄せる超兵器を打倒し、民衆を護る事が先決と大義名分を理解していたとしても、目の前で起きている余りにも過ぎた暴虐を見過ごす事など出来る筈もなかったのだ。

 

 

 

彼女はテアに掴み掛かり、涙で潤んだ瞳を鋭く吊り上げる。

 

 

 

 

「艦長!こんなの酷すぎる!主砲による空砲の発砲、若しくは機銃での威嚇発砲の許可を――」

 

 

 

「ダメだ!そんなことをしたら、今度こそ完全に秩序が失われてしまう!」

 

 

「艦長っ!」

 

 

 

「……!」

 

 

 

「既に失われています……!」

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

 

何故こうなったと彼女は思う。

 

 

 

彼女達は民衆を護る為に存在する。

 

 

しかし、今はその民衆が自分達に¨無秩序¨と言う名の牙を向けてきたのだ。

 

 

 

人種も、況して住んでいる世界すらも異なる異世界艦隊が団結した事も、意思ある人類の成せる技なのだろうが、一方で極限の状態置かれた時に顔を見せる¨生物¨としての凶暴な本能。

 

 

それを兼ね揃えてうえで¨人間¨を定義するのだとすれば、この現状は正に人間の不完全でグロテスクな一面を顕著に現した例なのだろう。

 

 

 

テアは葛藤していた。

 

 

事は戦場の様に判り易いものではなかったのだ。

 

 

生と死

 

 

そして敵と味方。

 

 

 

それさえ考えていれば良いなら楽で済んだと言うのに……

 

 

 

 

 

苦悩するテアに焦れてきたミーナがもう一度掴み掛かろうとした時だった。

 

 

 

『か、艦長!』

 

 

 

「どうした!?」

 

 

 

彼女が返答の途中で理解した。

 

 

 

いや、耳に入って来てしまったのだ。

 

 

 

本当の¨敵¨が迫り来る音を……

 

 

 

ゴォオ!

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

住民達は、空を見上げる。

 

 

雷鳴にも似た轟音が空から降り注いできたのである。

 

しかしそれは雷鳴よりも長く響き、何かが迫り来る様に音が大きくなってきた。

 

 

 

 

「来た……」

 

 

 

 

テアは轟音が鳴る空を睨んだ。

 

 

 

分厚い雲の中から、複数の黒い点が1つ現れる。

 

 

 

いや――

 

 

 

 

「そんな……まさかあんなに!?」

 

 

 

雲の中からは次々と黒い点が出現し、会話が聞き取れなくなるほどの轟音が回りを支配する。

 

 

テアは声を張り上げ、迎撃の指示を飛ばした。

 

 

 

「来るぞ!総員、攻撃準備!」

 

 

 

砲が動きだして天を仰ぎ、住民達はどよめきながら事態を見つめた。

 

 

 

「まだ引き付けろ!ウィルキアから提供されたECMシステムを起動。ミサイルの迎撃の準備を併用して進めるんだ!絶対に後ろに通すな!」

 

 

 

轟音が近付き、隊員達の額から汗が流れ落ちて床に跳ねる。

 

 

その音すらは聞こえてしまう程に隊員達の神経は極限にまで研ぎ澄まされ、同時に押し潰されそうな緊張で空気が張り詰め――

 

 

 

 

 

 

 

「今だ!攻撃始め!」

 

 

 

「街を護れぇ!」

 

 

 

ズガガガ! バシュウ!

 

 

 

艦艇から一斉に機銃とミサイルが放たれる。

 

 

住民達は、突如開始された戦闘の轟音に思わず耳を覆って悲鳴をあげた。

 

 

 

一方の放たれた数多のミサイルは逃げ惑う航空機を追尾して次々と空中で粉々に砕いて行く。

 

 

 

ゴォオオオ!

 

 

 

「隊を分散した!?ミーナ、各国の艦艇に伝えろ!フランスとオランダは右を、イギリスは左!私達は正面を叩く!」

 

 

「はいっ!」

 

 

テアの指示によって、各国のブルーマーメイドは其々の敵を追う。

 

 

 

彼女達ドイツ勢は、正面から突っ込んでくる航空機達に狙いを定めた。

 

 

 

ところが――

 

 

 

「航空機が一ヶ所に集まっている!?何故だ!固まれば不利だと言うのに」

 

 

 

「か、艦長!」

 

 

 

「どうした!」

 

 

「解りませんが、急にロックオンが利かなく成りました!他の国の艦艇も対処を求めて来ています!」

 

 

 

「くっ、敵も何らかの¨妨害装置¨を有しているのか!とにかく弾幕を張れ!奴等の好きにさせるな!」

 

 

 

 

 

激しい弾幕が飛び交う中、航空機の群れが機体を翻しながらテア達の頭上を通過して行く。

 

 

 

その際に彼女は群れの中に紛れ込んでいた黒い機体を複数目撃した。

 

 

 

「奴等の中に妙な形の機体がいる……ミーナ!ウィルキアから提供された敵航空機リストを出せ!」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

彼女は手渡された端末から急いでリストを見つけ出す。

 

 

 

その中の¨要注意¨欄に記載された二種類が目に飛び込んでくる。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

超音速戦略爆撃機

 

【B-3 vigilanteⅡ】

 

※ステルス性有リ

長距離誘導爆弾の搭載を確認

 

 

 

 

超音速戦闘機

 

【F-41c BeelzebulⅢ】

 

※ステルス性&誘導妨害有リ

 

指揮官機の護衛並びに敵地偵察としての出撃を確認

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

特にB-3の機体は航空機の概念の無い彼女達にとって正に異形の存在であった。

 

 

主翼が機体の最後尾付近にあり、コクピット部がまるでペリカンの嘴のように前に飛び出た前進翼タイプの機体と、漆黒のカラーリング。

 

 

そしてとてつもない速度と機動性。

 

 

 

幾ら最新の装備を搭載したとしても、対空戦闘事態の経験が薄い彼女達には余りにも荷が重い相手と言えよう。

 

 

 

「くっ……奴が指揮官機か!」

 

 

B-3は彼女達の攻撃を交わし、市街地へと向かって行く。

 

 

 

「まさか……ダメだ!」

 

 

 

悲鳴にも似たテアの声が艦橋にこだました。

 

 

無情にも、不吉の象徴とも言えるカラスの姿はどんどん離れて行く。

 

 

 

誰も追い付けない凶速で――

 

 

 

弾幕を回避したB-3は、機体下部にあるハッチを開いた。

 

 

 

「ダメだぁ!」

 

 

 

彼女脳裏に先程のリストに掲げられていたB-3の兵装が過る。

 

 

 

サーモバリック誘導爆弾

 

 

そして――

 

 

 

「やめろぉおおお!」

 

 

 

テアはまるで祈るように叫んだ。

 

 

 

手にした端末にはある兵器の名が記されていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【特殊弾頭誘導爆弾】

 

 

 

 

 

 

ドクン…ドクン……!

 

 

 

 

テアの心臓の音がやけに大きく鼓動した……

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


人間の光と影。


そして異世界艦隊が強者とするなら、通常艦艇は…。



久しぶりに描いた、一般常識VS非常識との戦いに成りましたが、航空戦力が無いとここまで無力かと思うと、ホントに敵の方がチートであると改めて思い知らされます。



次回は言わずもがなの展開です。



今しばらくお待ちください。



























  



とらふり!  1/144ちょうへいきふりいと


グロースシュトラール
「皆、お疲れ様」



ヴィルベルヴィント
「はふぅ~お疲れ様です!」



尾張
「お疲れ様でございます」



駿河
「艦隊旗艦おん自らのお出迎え……誠に恐悦至極に御座います」




パーフェクトプラッタ
「     」



ジュラーヴリク
「お疲れ様ですん♪」




グロースシュトラール
「ナハト?」



ナハトシュトラール
「よくもまぁヘラヘラとしていられますね。総旗艦のお役にも立てずあっさりと撃沈された恥さらしが……!」




グロースシュトラール
「君はホントに真面目だね。でも現実逃避はいけないなぁ。策を労したにも関わらず君は今ここにいる。それが現実じゃ無いのかい?」



ナハトシュトラール
「戯れ言を!」



グロースシュトラール
「重要なのは時間だよ。今回はいろんな意味でこちらも時間が欲しいからね。私達は見事敵を分断し、物資や心を疲弊させた。後は主や総旗艦が上手くやってくださる。軍艦である以上、命令には過不足無く答えるのが基本だよ?」


ナハトシュトラール
「……」


グロースシュトラール
「君は理想が高すぎるんだ。見てごらん彼女達を――」




ジュラーヴリク
「お久し振りねん播磨♪ 」


播磨
「それより何で女言葉なの?アンタ航空機だから男――」



駿河
「姉上、それ以上は無情な呟きかと……」



播磨
「なんで駿河は武将言葉なの?」



パーフェクトプラッタ
「    」



播磨
「こっちは何を言ってるのか解らないし…あっ!言葉も透明なんだ!」





近江
「よく頑張ったわね尾張。姉として誇りに思うわ」



尾張
「いえ……お姉様に比べたら私など大したものでは御座いませんわ〃〃」




シュトゥルムヴィント
「速かったね~♪ 」



ヴィルベルヴィント
「速かったよ~☆」




ナハトシュトラール
「何と……破廉恥な!」



グロースシュトラール
「アレでいいんだ。私達に決定権が有る訳じゃない。全ては彼の艦達がお考えになる事だからね。それに干渉しようなんて、それこそおこがましい事じゃないのかい?」


ナハトシュトラール
「そ、そんなつもりでは……」



グロースシュトラール
「解ったなら行っておいで。あの子達も君を待っているよ。だって君は、私と同じ統括旗艦。あの子達を任された艦なのだからね」



ナハトシュトラール
「ええ、解ったわ……あっあの!」


グロースシュトラール
「ん?」


ナハトシュトラール
「出迎えてくれて……ありがとうございます〃〃」



グロースシュトラール
「うん……さぁ、行っておいで」



ナハトシュトラール
「はい!」



グロースシュトラール
(さっきはああ言ったが、総旗艦や直衛艦隊旗艦の考えは我々にも未知数だ。果たして何をお考えなっている事やら……)


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灼熱の吐息  VS 超兵器

大変永らくお待たせ致しました。


ヴィルヘルムスハーフェン解放戦の続編に成ります。


それではどうぞ


   + + +

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェンは一度めの超兵器襲撃の際に市街の4割程を破壊されていた。

 

 

 

だが、超兵器はブルーマーメイドの支部や街を完全には破壊していなかった。

 

 

 

頑丈な建物に於いては無傷の処さえある。

 

 

 

しかし、¨半端な破壊¨はかえって人類側に不利益をもたらしていた。

 

 

 

ブルーマーメイドを始め軍や警察、そして消防や医療関係者は避難すらままならない住民の対応に追われ、結果として電磁防壁や防空システムの構築を後手にせざるを得なかった。

 

 

 

その結果がこれだ。

 

 

 

 

更に――

 

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェンを襲撃した航空部隊は、初めの襲撃の際にブルーマーメイド基地を含めた街に存在する頑丈な建物を殆ど破壊していなかったのである。

 

 

 

勿論、住民の心理からすれば一度目の襲撃に耐えた建物に避難しようと考える筈だ。

 

 

 

だがもし、それこそが超兵器の狙いであったとするならば……

 

 

 

ガチャン!

 

 

 

B-3が放った爆弾は、より頑丈な造りの建物が密集する中心市街地のど真ん中へと投下された。

 

 

 

ビルに逃げ込んだ住民達はそうとも知らずに寄り添い、空爆が過ぎ去ればなんとかなると安堵感を抱く。

 

 

 

しかし敵の兵器はそんな安直な心理を容易に打ち砕いて来るのだった。

 

 

 

ドゴォオオ!

 

 

 

「え……?」

 

 

 

彼等が最期に発する事が出来た唯一言葉はそれだった。

 

 

 

起爆と同時に内部の炸薬が猛烈な化学反応を引き起こし、凶悪な熱と衝撃波を辺りに撒き散らしたのだった。

 

 

 

 

それらは微々たる隙間から建物の内部に意図も容易く侵入し、避難していた彼等を焼き尽くす。

 

 

 

しかし、多数の人物がこれ程までに死に絶える事が有るのだろうか?

 

 

 

いや、この爆弾になら可能であった。

 

 

 

【サーモバリック爆弾】

 

 

 

通常使用される破片にて相手を死傷させるものとは一線を画し、爆風によって衝撃波と炎を拡散させて対象の肺を一瞬にして奪い呼吸器器官を停止、運良くそれから逃れられたとしても炎によって酸素を奪い尽くす事で呼吸困難を誘発して確実に止めを刺す悪魔の兵器である。

 

 

 

 

B-3が投下した一発の爆弾によって辺りはたちまち地獄絵図と化してしまった。

 

 

 

事態に気付いた関係機関が、B-3が去って行くと共にサイレンを鳴らして現場に駆け付けてくる。

 

 

勿論、炎や熱に支配された地獄に屈しない勇敢な住民達も救助に加わった。

 

 

 

「とにかく火を消せ!」

 

 

 

「おい!こっちの瓦礫の中から声が聞こえる!誰か手を貸してくれ!」

 

 

 

「ドクターこっちです!お腹に破片が刺さっています!早く!」

 

 

 

「さっきの爆撃で幹線道路が破壊された!避難する住民を迂回させてくれ!」

 

 

 

各所で怒号が響き、懸命な救助と避難が続けられていたが――

 

 

 

 

 

 

ゴォオ!

 

 

 

空に再び雷鳴にも似た轟音が迫ってくる。

 

 

 

B-3は去ってなどおらず、¨攻撃は継続¨していたのだ。

 

 

 

 

【ダブルアタック】

 

 

 

一度めの攻撃で負傷した救助者を¨餌¨に、救出に関わる専門的な技術を有した人物や、自主的救出に手を貸す勇敢な人物を炙り出し、去ったフリをして再度現場に戻って空爆を敢行、集まった人々を殺傷し尚且つ救助者に止めを刺す卑劣極まりない戦法である。

 

 

 

これはハワイでドレッドノートが使用した戦法であり、シュルツ達の世界に於いては主にソビエト連邦が好んで使っていた。

 

 

 

そして今、B-3のハッチには¨本命¨の爆弾が装填されている。

 

 

 

 

弾頭に¨核¨を搭載した【特殊弾頭爆弾】である。

 

 

 

2つの異世界に於いての核兵器の位置付けは、¨抑止力¨的な意味合いが強かった。

 

 

 

理由は放射能汚染である。

 

 

当初、¨威力の高い爆弾¨としか認識されていなかった原子爆弾は広島と長崎に投下された後に、人体に有害な影響を長期に渡って及ぼす放射線を放つことが解ったのだ。

 

 

勿論、原子で構成された物体は微量な放射線を放つのだが、核反応によって生じたそれは人体に影響を与える。

 

 

最も身近な核反応による放射線は太陽光であるが、地球を覆うオゾン層によって遮られていた。

 

 

 

話を戻そう。

 

 

 

つまり、占領や敵地利用を目的とするならば、土地を汚染する核兵器の使用はご法度である筈なのだ。

 

しかし相手は人類ではなく¨兵器そのもの¨であり、目的が命の灯火を消し去る事であるなら話は別であろう。

 

 

 

護衛のF-41cから地上の情報を受け取ったB-3は、高度を少し下げて投下に向けて狙いを定めた時――

 

 

 

 

 

 

ドゴォン…ボォン!

 

 

 

突如B-3の機体が粉々に砕けて空中で四散してしまう。

 

 

 

「私達人類を……あまり舐めてくれるなよ!」

 

 

 

 

ノイッシュバーンの主砲の砲身が天を向いていた。

 

 

¨手動¨による砲撃によっての撃墜

 

 

 

まずもって現実味が無い方法ではあるが、彼女達には出来てしまうのだ。

 

 

かつて、RATtウィルスによって暴走した武蔵に主砲を向けられた晴風は、砲術長である志摩の指示によって、相手の砲撃を¨砲撃でもって¨撃ち落としている。

 

 

 

 

それは志摩自身の天才的な観察力によって、武蔵の砲撃手の癖や夾叉の際の相手が放った弾道を緻密に予測した上での話である、勿論狙って出来るものではないが、航空機の速度であるなら砲撃の速度よりはもちろん遅い。

 

 

 

彼女達欧州のブルーマーメイドは、密集する国々との複雑な事情により救助訓練よりも戦闘訓練に重点を置いていた事が今回の対処に一役かっていたのだった。

 

 

 

 

航空機や誘導兵器が存在しない世界に於いての彼女達の砲撃精度は最早狙撃に近く、2つの異世界では得られなかった強みでもある。

 

 

 

それを知り得ず油断したB-3は、不用意に高度を落としすぎていたのである。

 

 

 

 

冷静さを取り戻したブルーマーメイド艦隊によって航空機は次々と撃墜されて行く。

 

 

 

とりわけ、B-3と電波妨害をしていたF-41cは真っ先に狙われ、高度を取る間もなく撃墜された。

 

 

 

 

電波妨害さえ無くなってしまえば後は言うまでもなく、対空ミサイルの嵐によって残存している航空機達はハエの様に堕ちて行くしかない。

 

 

 

 

「よし!このまま敵を掃討して――何!?」

 

 

 

本当に一瞬だけ、蒼い閃光がテアの視界に入り、彼女は驚愕と混乱に陥る事となる。

 

 

 

ドゴォン!

 

 

 

先程B-3が爆撃した付近で砂煙が巻き上がる。

 

 

 

彼女達には直接見えている訳では無いが、¨何か¨が着弾したその跡には数十メートル程のクレーターが出来ていたのだ。

 

 

 

勿論、そこにいた人々の運命は言うまでもない。

 

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

テアは振り替えって眼前を睨み付けた。

 

 

 

その視線の先は空でも、況して陸地でもない。

 

 

 

 

水平線の彼方――

 

 

 

 

この現象の¨元凶¨がそこに佇んでいた。

 

 

 

 

「超……兵器!」

 

 

 

彼女は歯を噛み締める。

 

 

 

爆発物による物とは別な砂煙の上がり方から、今の攻撃は¨砲撃¨によるものである事は明らかだったが、テアの視点から見ても超兵器は未だ親指の爪程の大きさにしか見えていない。

 

 

 

即ち、敵はそれ程の遠距離から正確に狙撃を行って見せたのである。

 

 

 

それも敢えてテア達ブルーマーメイドを一切狙わずに民衆のみを殺すやり方で――

 

 

 

「化け物めっ!ミーナ、各艦に通達!超兵器が現れた!もう狙われてるぞ!」

 

 

 

「な、なに!?一体どんな兵器で狙っているんだ!?」

 

 

 

「恐らく¨レールガン¨だろう。詳しい仕組みわ解らないが、凄まじい発射速度と威力を有した砲だ」

 

 

 

「砲だと!?敵はあんなに離れているんだぞ!」

 

 

 

「ムスペルヘイムの所持しているレールガンの射程は¨視界に入るモノ全て¨だそうだ。姿が見えている以上、この場に安全な場所など無い!急げ!情報を共有しないと皆殺しになるぞ!」

 

 

 

「は、はい!」

 

 

 

「防空能力に長けた艦艇を7隻残して、我々は超兵器に向かうぞ!このままでは住民を巻き込んでしまう!」

 

 

 

テアが指示を飛ばし、彼女達は一斉に海へと動き出した。

 

 

 

 

一方のブルーマーメイド基地は混乱に陥っていた。

 

 

戦闘を目撃した住民達が建物の入り口を破壊し、中へとなだれ込んで来たのである。

 

 

 

「急げ!この建物なら頑丈だ。もっと奥に逃げろ!」

 

 

内部は瞬く間に人で埋め尽くされ身動きすらろくに取ることができず、隊員達も指揮など出来る状況ではなかった。

 

 

 

しかし、恐怖に支配された住民は建物に入れる数を大幅に上回っていたのだ。

 

 

「頼む!俺も中に入れてくれ!殺されちまう!」

 

 

「せめて子供だけでも!」

 

 

「押さないで!お願い!押さないで!」

 

 

「く、苦しい……押すな!もうこれ以上は――!」

 

 

 

入り口では怒号が響き、建物の中は悲鳴と呻き声で充満する。

 

 

 

凄まじい圧迫によって呼吸すらままならず、意識が薄れた数人が階段付近でバランスを崩し、大規模なドミノ倒しが起きた。

 

 

苦しむ人を助ける者はおらず、苦しさで呻く彼等を¨肉の足場¨として人が次々と彼等を踏みつけた。

 

 

「フグッ!?………ウムッンッ!ンンッ~!」

 

 

「すまない……許してくれ!許してくれっ!」

 

 

 

 

自分の足元に感じる体温と肉の感触、そして呻き声に彼等は罪悪感と同時に¨自分だけは助かった¨と安堵を抱いてしまう。

 

 

 

しかし、彼等の安堵はそう長くは続かない。

 

 

 

 

「な、なんだあれは?」

 

 

 

 

入り口付近にいた住民の一人が海を指差す。

 

 

そこには8本の緑色の光線が空へと放たれ、それらは屈折しながらヴィルヘルムスハーフェンへとまるで触手を伸ばすかの様に迫ってくるのが見て取れた。

 

 

 

「不味いぞ……おい!直ぐここから離れろ!来るぞぉ!」

 

 

 

中に入れずにいた住民は直ぐ様走り去る。

 

 

 

しかし、中の者はそうはいかない。

 

 

 

「は、早く出て!このままじゃ私達……!」

 

 

 

「クソッ!押すな!はっ、早くしてくれぇ!死にたくない!」

 

 

 

 

 

 

出口は狭く、多人数が一気に抜け出す事が出来ず、その間に光線の内の一本がブルーマーメイド基地へと進路を変える。

 

 

焦る住民達は再びバランスを崩し、次々と出口を前にして折り重なる様に倒れていた。

 

 

彼等は悶える住民が織り成した肉の床を這いつくばって出口へと向かって行く。

 

 

 

「嫌だ嫌だ嫌だぁ!」

 

 

「ぐっ…ぐるじぃ……ゲッ!ゲェェ!」

 

 

押し潰された住民達は苦しさからグネグネと蠢き、口から撒き散らされる吐瀉物の悪臭も相まって、出口へ向かう人々の行く手を阻んでおり、最後の屈折を経て加速している緑の閃光から彼等が逃げ切れる可能性は――

 

 

 

 

「イヤァァ!」

 

 

 

ビギィ!

 

 

 

 

(ゼロ)

 

 

 

基地に直撃したレーザーは建物のほんの一部を残して内部にいる人間ごと瞬時に¨蒸発¨させてしまう。

 

 

 

更にだ――

 

 

 

内部にあった弾薬が強烈な熱によって反応して爆発し、残った建物を完膚なきまでに吹き飛ばす。

 

 

 

 

 

「あ゛っ!」

 

 

 

「ぎぇっ!?」

 

 

 

雨の様に降り注ぐ冷蔵庫大の瓦礫が彼等を次々と押し潰していく。

 

 

 

 

生き残った者達は周囲に漂う血と脂が混じった赤い煙から来るであろう悪臭と不快な皮膚のベタ付きに怯えながら逃げ惑う。

 

 

 

正に地獄が溢れた光景が広がりつつあった。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くっ……間に合わなかったか!それで状況は?」

 

 

 

シュルツは最悪の情況に歯噛みする。

 

 

通信を遮断したブルーマーメイド艦隊であるが、ヒュウガによるハッキングによって通信システムに枝を張り、彼女達の会話をリアルタイムで盗聴していた。

 

 

 

 

『シュルツ艦長。こうなれば最早ブルーマーメイド艦隊を、我々が到着するまで持ちこたえさせるしかありません。超兵器の中の一隻は姿がリストとの物とはかなり異なっている。闇雲に突っ込まれたりすれば全滅は必至です』

 

 

 

群像の提案にシュルツは頷く。

 

 

 

こうなってしまった以上、一刻の猶予も無いのだ。

 

 

 

 

「私も同感です。では大戦艦ヒュウガに通信の枝から超兵器の情報をブルーマーメイドに流布してください」

 

 

 

『解りました』

 

 

 

『あっ、あのっ!私達だけでも先行して牽制だけでも――』

 

 

 

「いけません」

 

 

 

 

彼女がそう言うであろう事は解っていた。

 

 

 

 

現在のはれかぜは異世界艦隊の中で最高の速度を誇っており、現場に最も早く到着出来る可能性が高い。

 

 

しかし相手が相手なのだ。単艦で突撃しても意味がない事は明白だった。

 

 

 

 

今は彼女自身に自制を促して行くしかない。

 

 

 

「岬艦長。今回あなた方の戦闘は副次的なものです。怪我人が出る可能性がある以上、敵を撃滅する役目は私達で負います。後は解りますね?」

 

 

 

『はい……』

 

 

 

「ですが――」

 

 

シュルツは言葉を繋ぐ。

 

 

それは¨岬明乃¨と言う人物の本質を呼び覚ます言葉でもあった。

 

 

 

「正直な処、はれかぜは我々の中で¨最も¨困難な任務に就く事になるでしょう。私達は救出のエキスパートではありませんので。故に岬艦長………頼みます!」

 

 

 

『!』

 

 

 

 

――戦場の真っ只中での救出

 

 

 

それは超兵器のいるその海域で、機動力を持ち味としているはれかぜが¨停船¨しながらの救出を強いられる事を意味しており、それも他艦より防御の薄い艦艇で救出に人員を割かなければならない状況になる事は明白であった。

 

 

 

¨自殺行為¨と誰もが考える任務に彼女達は挑んで行く。

 

 

 

しかし…二人の会話を聞いているはれかぜクルーに怯えの表情など無い。

 

 

 

何故ならば――

 

 

 

【はれかぜに良き風が吹き続ける限り艦は沈まない】

 

 

 

【岬明乃と共に歩む限り私達は死なない】

 

 

 

そう彼女達が信じているからだ。

 

 

 

勿論、恐怖を克服する為の自己暗示かもしれないが、彼女達は自らを¨家族¨と呼ぶ明乃が自分達を死へ誘う事を望んでいない事だけは確信しているのだ。

 

 

 

 

「はい!」

 

 

 

明乃の返事は全てを物語っており、クルー達にはそれで十分であった。

 

 

 

 

はれかぜは異世界艦隊と足並みを揃えて進む。

 

 

 

 

¨救う¨と言うこの世で最も困難な命題を背負って――

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くそっ!だからやめておけと言ったんだ!」

 

 

 

フランスの艦艇【ルイ・アントワーヌ】艦長ルイーズ・ヴィジェ=ルブランは激昂していた。

 

 

 

 

理由は、超兵器への自殺行為に近い戦闘を強いられた事に間違いは無いだろう。

 

 

 

異世界艦隊の到着を待とうと提案したドイツとフランスに対し、イギリスとオランダが異を唱えたのだ。

 

 

 

生粋の海軍国家である2つの国は、その威厳を維持するべく主体的に行動する道を選択させた。

 

 

それは超兵器打倒後に於いて、欧州での立ち位置を確立したい狙いが有るのだろうが、それは同時に超兵器の戦力を過小に評価している結果とも言える。

 

 

 

その結果が――

 

 

 

ボォン!

 

 

 

ルイ・アントワーヌの隣を並走していたイギリスのインディペンデンス級護衛艦【ウィリアム4世】が紅蓮の炎をあげていた。

 

 

 

何が起こったのか理解が追い付かない。

 

 

 

ただはっきりしていることは、これを成した超兵器は潜水艦型である事と、魚雷による攻撃である事の2つだろう。

 

 

 

しかし敵の魚雷射出音が聞こえてから僅か¨数秒¨で到達した事が艦隊に更なる混乱を招いていたのだ。

 

 

未知の魚雷だけでも十分脅威なのだが、それよりも脅威なのは――

 

 

 

 

「敵¨ドリル超兵器¨艦隊に接近してきます!敵速は――¨176kt¨!」

 

 

 

 

「なっ……何!?計測の間違いではないのか!?」

 

 

 

「い、いえ間違いありません!」

 

 

 

 

「私は夢を見ているとでも言うのか!?」

 

 

 

ルブランは唇を噛んだ。

 

 

敵は艦首部分に¨2本¨のドリルを装着していたのだ。

 

 

ウィルキアから送られていた超兵器リストには荒覇吐の他にもう一隻の同型艦の存在が記載されていたが、形状は荒覇吐と同様であり性能も多少違いでしかない筈だが、目の前に存在するそれはリストの物とは全くの別であったのだ。

 

 

 

大和型を基準とした形状をとる荒覇吐とは異なり、細長い四角形の形状の船体と巨大な艦橋の後部にそびえるパラボナアンテナがついた鉄塔、甲板にずらりと並ぶガトリング砲を含めた多種多様な兵装、そして――

 

 

キィイイイイン!

 

 

 

艦首に備え付けられたドリルと穴を拡張するときに使用される¨リーマ¨と呼ばれる工具を合わせたような尖ったドリルが2本横並びにあり、更に左右の側面前方に水平に設置された円盤形のソー、そして側面の後方には大型の¨チェーンソー¨の様な物が高速で回転していた。

 

 

 

 

そこに高速巡洋戦艦に匹敵する高速機動と大型超兵器の重装甲を併せ持った抜け目の無い性能が加わるば、ルブランが辟易するのも無理はなかった。

 

 

 

ドリル艦は一発も砲弾を放つ事なくその狂速で一気に距離を詰めて来る。

 

 

 

 

「艦長!超兵器ドリル艦がこちらに接近!」

 

 

 

「回避行動を取れ!」

 

 

 

『ガガッ………こちら……ズズッ…ウィ…4世…ガガッ!至急救援を…求…!』

 

 

 

「それどころではない!」

 

 

ルブランは、直ぐ様艦の軌道修正を行い、回避行動を取るも――

 

 

 

 

 

 

ガリガリガリガリッ!

 

 

 

炎上するウィリアム4世に高速回転する超兵器のドリルが衝突したと同時に艦首部分が千切れて吹っ飛び、残りは押し潰されるように海へとその船体を没してしまった。

 

 

多くの隊員が悲鳴をあげる間も無く肉片へと摺り潰され、最早それがヒトであったのかすら疑わしい憐れな姿に成り果てる。

 

 

 

「ひっ!」

 

 

副長が目の前の惨劇に腰を抜かしてしまう。

 

 

 

「何をしている!早く立て!もたもたしていると死神に首を跳ねられるぞ!」

 

 

 

艦橋に怒号が響き、ルイ・アントワーヌは機関を全開にしてドリル艦から距離を離そうと足掻くその傍らで――

 

 

 

 

 

「か、艦長!れ、レジスタンスが――!」

 

 

 

ギリギリギリギリッ!

 

 

 

ウィリアム4世の後ろをついてきていた、イギリスの巡洋戦艦レジスタンスであったが、ドリル艦側面にある円盤形のソーによって¨スライス¨されていた。

 

 

 

切削によって生じる火花と摩擦熱で瞬時に高温になった船体内部で隊員達は炙られ、熱による弾薬の誘爆が熱さに喘いでアオムシの様に体をくねらせる隊員達を引きちぎって行く。

 

 

 

 

「おのれ化け物がっ!もっと速度をあげられないのかっ!」

 

 

 

「限界まであげています!」

 

 

 

「チッ!」

 

 

 

ルブランは焦りと苛立ちを抑える事ができなかった。

 

 

 

とてつもない狂速に加え、コマの様にくるりと方向を変えてくる敵に対して、思うように距離を開く事が出来なかったからである。

 

 

 

 

ギィィ!

 

 

 

不愉快な音を立てながら接近するソーと言う名の死神の鎌。

 

 

 

 

「一杯だ!目一杯舵を切れぇ!」

 

 

 

ルイ・アントワーヌは舵が破損することも厭わずに全速で舵を切ってソーを回避する。

 

 

 

 

「よし!奴の背後に回れ!そうすれば勝機が――何!?」

 

 

 

ガゴン…フィイイイイ!

 

 

 

 

彼女達は戦慄した。

 

 

 

 

円盤形ソーの後方にあったチェーンソーが、まるで翼を広げるかのように¨展開¨されたのだ。

 

 

 

ルイ・アントワーヌの前方に超高速回転する巨大なチェーンが立ちはだかる。

 

 

 

 

「か、艦長ぉ!わ、私…私は……嫌ぁあ!」

 

 

 

死が近付き、恐怖に怯えて泣きじゃくる副長を余所に、ルブランは諦めの笑みと怨嗟の眼差しを超兵器に送る。

 

 

 

「ハッ……アハハハハ!おしまいだっ!何もかもっ!」

 

 

 

次の瞬間――

 

 

 

ゴォオン!

 

 

 

「え゛……ギィッ!?」

 

 

 

ルイ・アントワーヌの艦首がチェーンに触れた瞬間、ルブランを始めとした隊員達の体に凄まじい横凪ぎの衝撃が走り、壁に叩き付けられてグチャリと潰される。

 

 

 

艦は一瞬で折れて吹き飛ばされ、宙を舞った艦の一部が数百メートルも先の海面に叩きつけられて沈み、残された部分もチェーンソーによって粉々に粉砕されてしまっていた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くっ!」

 

 

 

テアは思わず唇を噛んだ。

 

 

既に多大なる犠牲が出ているにも関わらず、敵はこちらの実弾を全く受け付けていなかったからだ。

 

 

先程より、ムスペルヘイムが不気味な沈黙にはいり、それを補うかのようにドレッドノートとドリル艦が攻勢を強めている。

 

 

 

(太刀打ち出来ない!数の問題では無いと言うのか!)

 

 

 

テアが眼前を睨んだと同時に、ミーナが通信員から受話器を渡された。

 

 

 

 

「え!?あなたは――」

 

 

 

『始めまして、私は大戦艦ヒュウガ。そちらの通信網に割り込ませて貰ったわ。そっちの状況は把握してる。もう少しで到着するから持ち堪えなさい』

 

 

 

 

「しかしこちらの攻撃は通じていない。味方も半数は殺られた!」

 

 

 

『ええ。とにかく今は凌いでとしか言えないのだけれど、超兵器に関する新たな情報だけは伝えておくわ。まぁ知ったところでどうこうと言う訳では無いのだけれど。ドリルを使ってくる超兵器がいるでしょう?あれは恐らく超巨大ドリル戦艦【天照】の強化版ね』

 

 

 

「天照!?異世界に於いて¨極東方面の統括旗艦¨を務めていたと言う奴か!?」

 

 

 

『そうよ。ドリルによる格闘戦が可能な事に目が行きがちだけど、日本艦ならではの大鑑巨砲と防御、それに加えて多数の光学兵器と素早い機動性。正直言って軍艦に存在するあらゆる欠点を克服した天照にはこれと言った弱点は無いと言って差し支え無いわ』

 

 

 

「そんな……私たちはどうすれば――!」

 

 

 

『弱気になっている暇は無いわよ?重要なのはソイツじゃない』

 

 

 

「ムスペルヘイム……か?」

 

 

 

『そうよ。通信の傍受だけじゃ状況を把握できないわ。現在のムスペルヘイムの様子を話して頂戴』

 

 

 

「市街地への攻撃の後は沈黙しているが……」

 

 

 

 

『!!!』

 

 

 

ミーナはヒュウガの反応に不穏な空気を感じた。

 

 

 

確かに、総旗艦を守護する超兵器としては動きが無さ過ぎるのだ。

 

 

 

これなら現在暴れまわっているドレッドノートや天照の方がまだ脅威に感じるくらいだ。

 

 

 

 

しかし、次のヒュウガからの叫びに彼女の緊張は臨界を突破する。

 

 

 

『急いで砲撃をムスペルヘイムに集中させて!』

 

 

 

「な、何故!?」

 

 

 

『敵は¨重力砲¨発射の為のエネルギーを内部にある巨大な蓄電池に蓄積している可能性があるからよ』

 

 

 

「なっ……!」

 

 

 

重力砲に関する理解は資料から把握はしていたが、いざ言葉にされてもイメージが沸かなかった。

 

 

 

【重力砲】

 

 

¨破滅級大規模破壊兵器¨

 

 

着弾点に強力な特異点を発生させ、強力な重力によってあらゆる物体を特異点の中心まで引き寄せて無限に圧縮する兵器。

 

 

 

 

確かに言葉では理解できた。

 

 

しかし、それには彼女達の現実での実感と言うのが伴って来ないのである。

 

 

必然的に彼女を含めたブルーマーメイド艦隊の注意は差し迫った脅威であるドレッドノートや天照に向いていた。

 

 

 

ムスペルヘイムと言う存在が、世界を一隻で相手しうる超兵器の総旗艦を守護する【総旗艦直衛艦隊】の¨旗艦¨である事を失念して――

 

 

 

 

『重力砲は通常、発射態勢に入るとチャージにかなりの時間を費やすことになるの。勿論その間は防壁の展開や他の攻撃も停止されるわ。でももしあらかじめエネルギーを蓄積しているとなれば――』

 

 

 

 

「発射迄の隙を大幅に短縮出来る?」

 

 

 

『そうよ。一発でも発射されれば最早事態の収拾は確実に不可能になる。その混乱は奴に¨2発目¨を撃たせる隙を作ってしまうわ。そうなれば――』

 

 

 

ゴクリ……

 

 

彼女は思わず息を呑んだ。

 

 

 

『あなた達を含めたヴィルヘルムスハーフェンは地図から消え、そこに存在する生物の数は¨ゼロ¨になる』

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

ミーナだけではない。

 

 

テアを含め、通信を聞いていた全ての者が事の重大さを認識していた。

 

 

 

「全砲門をムスペルヘイムに向けろ!照準は関係ない!当てれば良い!あれだけ巨大ならどこかに当たる筈だ!急げ!」

 

 

 

 

ボボォン!

 

 

 

テアの指示でノイッシュバーンが一斉に砲撃を再会、残る艦艇もての空いた者は砲門をムスペルヘイムへと向けていた。

 

 

 

 

「大戦艦ヒュウガ!アケノは…異世界艦隊の到着はあとどれ位で――」

 

 

 

 

『わ…ズズッ!…分…ガガッ!…う少……ら…踏…ガガッ……さい!』

 

 

 

「良く聞き取れない!もう一度――」

 

 

 

 

「ミーナ!」

 

 

「どうした!?」

 

 

「遅かったみたいだ……」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

青ざめた表情を見せるテアの視線の先に目を向けたミーナは、自身の顔からも血の気が引いて行くのを感じた。

 

 

 

 

《主ヨ。御身カラ賜リシ力ヲ、下卑タル存在二使用スル我ガ愚行ヲ赦タマエ……》

 

 

 

「なんだ!?この声は!」

 

 

 

とても深く暗い、そして憂いを帯びた声がテアとミーナの脳に響き渡る。

 

 

 

そして辺りを見渡した彼女はある事に気付いたのだった。

 

 

 

「天照はどうした!?」

 

 

 

先程まであれほど暴れまわっていた天照は、いつの間にかムスペルヘイムの背後へと後退している。

 

 

アクティブソナーの発信源からするとドレッドノートも同様かもしれない。

 

 

 

本来護るべき旗艦を差し置いた2隻の行動は極めて不可解であったが、彼女達は最早それら2隻に目もくれてはいなかった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

――ヴォン!

 

 

 

どす黒いオーラがムスペルヘイムを包んでいる。

 

 

 

そして中央に位置する戦艦部の艦首に備え付けられた細長い三角形のフィンが付いた一際巨大な装置が立ち上がる。

 

 

 

その装置の中央には鈍く光る何色もの光が輝き、それに呼応するかの様に厚い雲がムスペルヘイム直上に渦を巻き、雷鳴と共に雲が本来ある筈の無い不気味な色あいを写し出していた。

 

 

 

 

ゴォォオ!

 

 

 

装置の機動音が大気を揺らし、隊員達の恐怖を増大させる。

 

 

 

無情にも今さら何をしても彼女達にアレを止める術は存在していなかった。

 

 

 

《罪深キ存在ニ、死ト言ウ名ノ救済ヲ与エタマウ主ノ慈悲深キ恩情。アァ……ナント言葉ニスレバ良イカ。人間達ヨ、赦タマエ……ドウカ我ヲ赦シ、主ノ慈悲ヲ心安ラカニ受ケ入レタマエ……》

 

 

 

 

装置の先端に深淵の闇と形容すべき球体が出現する。

 

 

 

《アァ……ドウカ》

 

 

 

それはみるみる巨大になり――

 

 

 

《下卑タル全テノ存在ニ……》

 

 

 

そして――

 

 

 

 

《永遠ノ祝福()ヲ与エタマエ……》

 

 

 

 

ビギィイイイ!

 

 

 

 

放たれた。

 

 

 

 

遂に放たれてしまった。

 

 

 

 

その闇がもたらす絶望を、この直後に全ての者が目の当たりにすることになるのである。




お付き合い頂きありがとうございます。


補足に成りますが、天照の形状はアラハバキ2に準じており、スペックはガンナー2の【あら、葉巻?】仕様になっております。


いよいよ重力砲発射となりました。



果たしてテアやミーナは生き残れるのか。


明乃達は間に合うのか。



次回まで今しばらくお待ちください。

























とらふり! 1/144ちょうへいきふりいと



播磨
「ヒュー!天照やるじゃん!どっかの即殺られたバカ姉とは一味も二味も違うね!」



荒覇吐
「何ですって!妹の駿河の方がどっかの大鑑巨砲主義の砲撃バカ姉より1000倍活躍してたじゃない!」




播磨
「なにおぅ!」


荒覇吐
「何?やろうっての?」



近江
「いい加減になさい二人とも!ホント懲りないわねぇ…。」



駿河
「懲りないのが我が姉の最大の強みであり、弱さ」


播磨
「さっすが我が妹!わかってるぅ!」



尾張
「決して誉めているわけでは無いようですが……」



グロースシュトラール
「そんな事よりも君たちは疑問に思わないかい?」



ノーチラス
「何がですか?」



ナハトシュトラール
「天照の性能の事よ。あの子ってあんなに目立つ子だったかしら……」



パーフェクトプラッタ
「       」






アルウス
「そう言われてみれば、彼の艦は我々よりも存在感が無かったような……」




ヴィルベルヴィント
「確かに……」



荒覇吐
「我が妹ながら散々な言われようね……」



アルケオプテリクス
「だが艦隊旗艦の仰る事に間違いは無いぃぃ!」



播磨
「じゃあ一体何だって言うのさ!」





グロースシュトラール
「あっ!そう言えば総旗艦直衛艦隊旗艦ムスペルヘイムよりの伝言を預かっていたのだった」



一同
「え!?」



近江
「あの方からの伝言書とは一体どんな内容なんです!?」



グロースシュトラール
「ふむふむ……成る程そう言う事か!」



ナハトシュトラール
「勿体ぶらずに早く言いなさい!報連相は艦隊の基本よ!」



グロースシュトラール
「君はホント真面目だなぁ。で……だ。内容を要約すると、『天照は実際荒覇吐の中途半端な強化版位のスペックしかないから、変わりに超絶な能力差のある【あら、葉巻?】を変わりに本編に出しま~す』って事みたいだね」




播磨
「え?じゃあアレ実際には【あら、葉巻?】なの!?何で天照だなんて嘘付いたのさ!」



グロースシュトラール
「まぁ直衛艦隊旗艦であるムスペルヘイムが登場するシリアス場面に艦名【あら、葉巻?】なんて締まらないじゃない?なんか名前だけで艦隊旗艦の存在感を喰っちゃいそうだし」




荒覇吐
「じゃあ本当の天照は……」



グロースシュトラール
「うん。恐らく¨補欠ルーム¨で【あら、葉巻?】として待機させられてるんじゃないかな」



荒覇吐
「不憫な子……本編に出して貰えない上に【あら、葉巻?】にされてしまうなんて……」


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灼熱の華  VS 超兵器

大変永らくお待たせ致しました。


ヴィルヘルムスハーフェン攻略戦になります。


   + + +

 

 

 

その場に居る全ての者が¨闇¨を目撃していた。

 

 

 

 

ブルーマーメイドの隊員達も、逃げ惑っていた住民達も…。

 

 

 

「アレは一体……」

 

 

 

 

闇が球体に押し込められたかのようなモノはブルーマーメイド艦隊とヴィルヘルムスハーフェンとの間にある海面付近に静止し――

 

 

 

 

 

カチッ …グゥウオオオ!

 

 

 

 

始まってしまった。

 

 

 

 

「うっ…なんだ!?急に身体が重く――」

 

 

 

「頭が…痛い!た、すけて……」

 

 

 

急に身体へと重石がのし掛かったかの様な強烈な負荷が彼等を襲い――

 

 

 

ゴォォオオ!

 

 

 

「あ゛っ…と、飛ばされ――」

 

 

 

「立っていられ……ない!」

 

 

 

 

闇に向かって強烈な風が吹き荒れ、住民達や甲板にいた隊員達がその風圧に喘ぐ。

 

 

 

 

それは最早風ではなく、強烈な膂力を持った引力としてあらゆる物体に等しく作用する神罰となってその場を支配したのだ。

 

 

 

その範囲は数kmだった量子魚雷に対して¨直径20km¨と広範囲に及んでいた。

 

 

 

とてつもない膂力と化した重力の中心に向かって雲や海が渦を巻き、深淵の闇へと吸い込まれて行く。

 

 

 

ゴォォオ!

 

 

 

「も、もう…限界だ!掴まっていられな……」

 

 

 

「な、何!?艦が浮き上がって……」

 

 

 

 

航空機や艦砲、そして光学兵器に破壊された建物に引力に抗う力は無く、バラバラと崩壊を引き起こしながら海へと引き寄せられ、重力の中心近くを航行していたブルーマーメイドの艦艇数隻が浮かび上がる。

 

 

 

 

「あっ…ああっ…ああああああ!」

 

 

「いや!いやあぁぁ!」

 

 

 

 

住民の数人が力尽きて吹き飛ばされる。

 

 

 

 

その身体は枯れ葉の如く宙へと舞い、闇へと向かって行き、重力の中心に向かうに連れて身体に掛かる重さが急激に上昇する。

 

 

 

「あ゛っ…あ゛っ…げぇっ!?」

 

 

 

 

ゴギッ…バギィ!

 

 

 

それは人間が到底耐えられる圧力では無かったのだ。

 

 

身体中の骨が砕け内蔵を貫いて押し潰し、砕けた事で角張った骨が神経に干渉して耐え難い激痛を彼等に与えた。

 

 

 

 

――更にだ

 

 

 

「ゲッ…ギぃ!」

 

 

 

 

町中から吹き飛んで宙を舞った瓦礫が激突、または瓦礫同士の衝突に挟まれる形で彼等のひ弱肉体を摺り潰して行ったのだった。

 

 

 

だが、そこで絶命出来た者は¨まだ幸運¨だったのかもしれない。

 

 

 

 

「か、艦長…あ、頭が割れそうに痛……!」

 

 

「な、何が…起こって――!」

 

 

 

重力によって浮き上がったブルーマーメイドの艦艇【アンヌ・ドートリッシュ】の内部は、襲い来る重力の奔流によって苦しむ隊員達の苦悶の声が犇めいていた。

 

 

艦長であるアーシャ・アン・カターモールを始めとしたクルーは、壁に押し付けられ身動き一つも出来ないばかりか、全身を襲う激痛と肺の上に重石でも乗せられているかのような圧迫感で息一つ付くことが出来ない苦しみが、無限にも等しい体感時間を彼女達に科し――

 

 

 

 

 

 

ギギギィ…パシュン!パシュン!

 

 

 

「べぅっ!?」

 

 

 

「いぎぇゃあ…!」

 

 

 

 

強烈な重力は艦を歪ませ、接合に使用されたボルトが外れ、まるで弾丸の様に艦内を暴れまわって隊員達の身体を次々と穿って行く。

 

 

 

 

「あ゛あ゛っ!」

 

 

 

「う゛ぅ゛っ……」

 

 

 

 

彼女達に出来るのは最早呻く事だけであった。

 

 

 

 

そしてその誰もが思うのだ。

 

 

 

 

【早く殺してくれ】

 

 

 

 

現在の彼女達にとって、死とはとても¨幸福¨なものに思えた。

 

 

 

この地獄の様な苦しみから¨解放¨されるのだから。

 

 

 

 

「あ゛あ゛…ごろじ…で!」

 

 

 

 

 

艦は空中で回転し、グチャグチャにひしゃげ、艦橋の窓ガラスが割れ目からカターモールを含めた数名が外へと放り出され、闇に向かって一気に加速して行く。

 

 

 

 

ある者は骨が砕けて絶命し、ある者は内蔵が押し潰されて絶命する。

 

 

仲間が次々と死んで行く最中でカターモールの視線は、眼前の闇へと向けられていた。

 

 

 

 

(漸く…漸く楽になれる……)

 

 

 

彼女の心の中は安堵に満ちていた。

 

 

 

残り数秒後には、折れ曲がり不気味な形になった自身の身体とも、砕けた骨が内蔵に突き刺さる激痛とも、そして肺が潰れたことで呼吸が出来なくなった苦しみからも解放される筈なのだが――

 

 

 

 

 

 

 

(何故だ…急に速度が落ちて……)

 

 

 

風景の動きが徐々にゆっくりになって行くのが解った。

 

 

 

これは【タキサイキア現象】の一つなのではと疑いたくもなる。

 

 

 

あらゆる説があるが、死に直面した極限の脳が起こす現象の事だ。

 

 

例えば走馬灯や辺りの風景がスローモーションに見えるなど。

 

 

 

 

 

今回は正にそれに当てはまるかの様に見えた。

 

 

 

だが余りにも¨長すぎる¨のだ 。

 

 

 

――更に

 

 

 

彼女の見ていた風景は、スローモーションを通り越して今や¨停止¨しつつあったのだった。

 

 

勿論、彼女の身体自身も……

 

 

 

 

 

(何故だ……何故止まる!早く…早く殺してくれ!痛い………苦しい!)

 

 

 

 

絶望が心を支配するも、彼女が待ち望んだ次なる瞬間は訪れてはくれない。

 

 

 

 

 

理由はある。

 

 

 

 

重力砲とは、言わば極小規模ながら特定の座標に超強力な重力の特異点を発生させる装置なのだ。

 

 

 

そしてその中央に位置する闇は、強力な重力によって光の粒子すらも捻曲げられ脱出が不可能になってしまう空間であることを示していた。

 

 

 

つまり物体は、闇の中心に向かって加速され続けることになる。

 

 

 

この世界に於いて¨アノ理論¨は確立されては居ないが、異世界に於いては物体が光の速度に近付く程時間の流れが遅くなり、光の速度に到達すると完全に時間が停止すると言う理論が存在していた。

 

 

 

 

¨運良く¨絶命出来なかった彼女の身体は、重力によって加速され、時間が引き伸ばされていたのだ。

 

 

 

――彼女に死が訪れるまで残り0.5秒

 

 

 

(苦しい…痛い…イタイ!)

 

 

 

――残り0.25秒

 

 

 

(殺して……早く殺して!どうして……どうして進まないの!?)

 

 

 

――残り0.0135秒

 

 

 

 

(オネガイ…コロシテ…クルシイ……イタイ)

 

 

 

 

――残り0.00000000…001秒。

 

 

 

 

 

(イタイ クルシイ コロシテ イヤダ シニタイ シニタイ…シニタイシニタイシニタイ!)

 

 

 

 

――確実に0へと進む時計の針

 

 

――されど決して0には届かぬ時計の針

 

 

 

 

カターモールは¨約束された死¨への無限に等しい旅路に心を摺り減らし、絶望に苛まれながら進んで行く事になった。

 

 

 

 

永遠に――

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「うっ…くっあぁ!」

 

 

 

艦内の至るところで悲鳴が響き渡る。

 

 

 

重力の奔流に巻き込まれたノイシッシュバーンは必死に足掻いていた。

 

 

 

しかし彼女達も、とてつもない重力に成す術が無かったのである。

 

 

 

 

量子魚雷の時のはれかぜ同様、重力方向が90°回転したノイシッシュバーン内部でテアは壁に立ち、激しい頭痛と息苦しさに肩を大きく上下させて頭上を見上げる。

 

 

 

そこには本来なら前に見える筈であった艦橋の窓と超兵器ムスペルヘイムの姿が見てとれた。

 

 

 

(何故だ……何故奴は重力影響を受けない!)

 

 

 

 

ノイシッシュバーンが重力の中心に引き寄せられている為か、ムスペルヘイムとの距離が開いて行くのが解る。

 

 

 

――しかしだ

 

 

 

 

その場から微動だにしていない超兵器の姿にミーナは違和感を覚える。

 

 

 

「重力砲は超兵器自身には効果がないのか!?」

 

 

 

「違う……」

 

 

 

「テア?」

 

 

 

「奴だけが物理現象の枷から外れている筈がない。外れているなら奴は今ごろ空だって飛べるはずなんだ……だが!」

 

 

 

「そうか!奴は通常の艦船と同様に海に浮いているから地球の重力の影響下に有る。だとすれば何故重力砲の影響を受けない?潮流だってアレの影響を受けているんだぞ!?」

 

 

 

「天照だ……」

 

 

 

 

「何!?」

 

 

 

頭痛に堪えながら頭上を見上げるミーナの視界にあるものが目に入った。

 

 

 

「煙!?」

 

 

 

「ああ……奴等の機関はボイラーではない。アレは恐らく天照が背負っていた¨ミサイルの様な物¨の煙だろう。奴は重力砲の発射前に此方への攻撃を中断し、太いワイヤーの様な物をムスペルヘイムと接続。その後、もともと素早い速力を有する奴は巨大なミサイルのロケットブースターエンジンに点火して更に驚異的な推進力をもってムスペルヘイムを牽引していたんだ」

 

 

 

「そんな方法で本当に重力から逃れられるのか?」

 

 

 

「解らないが、ドレッドノートの気配も無いなら、奴もムスペルヘイムを水中から牽引しているのかもしれない。これでは一方的に――」

 

 

 

――ヴォン!

 

 

 

「ァ…あぁ゛っ!」

 

 

 

 

全身に掛かる負荷が一段と強くなり、全身を支配する激痛に彼女達はまともに会話をする事すらままならなくなってしまう。

 

 

 

重力に船体を絡め取られたノイシッシュバーンは、成す術も無く闇の中心へ向かう潮流にその身を引き摺られ、艦首の方向はは超兵器でなく闇へと引かれて行く。

 

 

 

ピシッ…ピシッ…!

 

 

 

「「…………」」

 

 

 

防弾ガラスにヒビが入る不気味な音が艦橋に響き、二人の額に一筋の汗が滴って床へと到達したと同時に――

 

 

 

バリンッ!

 

 

 

「「!!!?」」

 

 

 

遂に重力や艦の歪みに耐えきれなくなったガラスが粉々に割れ、外へと吸い出されそうな猛烈な空気の対流が艦橋を襲って付近にあった資料が吹雪の様に舞い、悲鳴が轟く中で彼女達は必死に手近な物へ捕まって耐えようとするも――

 

 

 

 

 

 

 

 

「あっ…いやっ…あっ……ああァアァァァ!」

 

 

 

 

「ヴァルヒェット!」

 

 

 

風圧に堪えきれなかった記録係の隊員が窓の外へと放り出され、あっと言う間に姿が小さくなって闇へと消えてしまった。

 

 

 

 

「くっ――!」

 

 

 

 

テアは唇を強く噛む。

 

 

 

隊員の死の責任は全て艦長にあると、自覚はしてきたつもりだったが、実際はこうも容易く心が揺らいでしまう。

 

 

 

そして、隣にいる親友の死を何よりも恐れてしまっているのだ。

 

 

だが迫り来る死を迎えて尚、彼女心には¨後悔¨は微塵も存在していなかった。

 

 

 

 

確かにこの作戦は自殺任務でしかない。

 

 

当初はテア自身も反対の立場であったくらいだ。

 

 

 

しかし、超兵器を目の前にした今なら解る。

 

 

 

もし彼女達が到着していなければ、ムスペルヘイムが重力砲など使わなくともヴィルヘルムスハーフェンは壊滅していたであろう。

 

 

 

むしろ他の超兵器に露払いをさせたムスペルヘイムは、重力砲へ送るエネルギーを万全の状態で蓄積して異世界艦隊の到着と同時に発射、彼女達は何も出来ずに全滅し、対抗する勢力を失った世界が終演を迎えてしまう可能性すら考えられるのだ。

 

 

 

故に、¨このタイミング¨での重力砲発射は彼女達にとってとても意義のあることであった。

 

 

超兵器はたとえ少数でも異世界艦隊とブルーマーメイドが共闘することは避けたい筈なのだ。

 

 

 

 

故に彼等は重力砲をこのタイミングで放った。

 

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェンに展開する兵力を消滅させ¨第二射¨へのエネルギーを充填する為に……

 

 

 

 

だが逆に考えるなら、それは明乃達がすぐそこまで近付いている事を意味している。

 

 

 

 

(明乃……はれかぜ!後を頼むっ!)

 

 

 

テアの表情はまるで祈るかの様なものであった。

 

 

 

――その時

 

 

 

――ヴォン!

 

 

 

「うっ……」

 

 

強烈な重力によってテアの意識がほんの一瞬だけ途切れた。

 

 

 

 

【刹那】

 

 

たったそれだけの時間で事態は致命的な方向へと走り出す。

 

 

 

 

「あっ…!」

 

 

 

「テア!!?」

 

 

 

意識の薄れによって全身の筋力が弛緩した事で掴まっていた手足の力が緩み、彼女の身体が外へと放られようとしていたのだった。

 

 

 

 

同い年の女性よりも小柄な彼女の身体が窓の外へと……

 

 

 

 

「テアァ!」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

 

 

彼女より一回り大きな手が手首をしっかりと掴み取り、彼女の身体は窓から外へと出た所で止まっている。

 

 

 

その姿は、まるで空を飛行するヒーローの様な格好であった。

 

 

 

テアは自らの手を掴む金色の髪をした親友へと視線を向けた。

 

 

 

 

彼女は身体を窓から半分程のり出してテアの手首を掴み、もう片方の手は割れた窓ガラスに掌を食い込ませてしがみ付いていた。

 

 

 

表情は苦悶に満ちており、掌から流れ出す鮮やかで温かな赤の液体がテアの頬にベトリと付着していた。

 

 

 

 

「ば、バカ!早く離せ!お前までアレに巻き込まれてしまう!」

 

 

 

 

 

叫けばずにはいられなかった。

 

 

あれほど共に死の覚悟をして戦場に赴いたと言うのに、自らを助けるために無二の親友を死へと道連れにする事にこれ程心が痛むとは想像できていなかったのだ。

 

 

 

 

 

せめて死ぬ時は自分だけで――

 

 

 

彼女が口に出しかけた時。

 

 

 

 

「……はどっちだ」

 

 

 

「な……に?」

 

 

 

「バカはどっちだ!」

 

 

 

「!」

 

 

 

テアは目を見開いた。

 

 

親友は目に大粒の涙を浮かべながら此方を真っ直ぐ見つめていたのである。

 

 

 

 

   + + +

 

同刻

 

ドーバー海峡

 

 

イギリスとフランスとの距離が極めて近くなる地点であるこの場所は、ブルーマーメイドが散発的な国家の衝突の回避や、貿易船が盛んに行き交う中に潜んでいる密輸船を取り締まる為に監視を強化している箇所であった。

 

 

 

そんな中、イギリス側の観測所に勤務している隊員の一人が¨空¨に不自然なものを見付けていた。

 

 

 

「ねぇ、今日って嵐が来るって言ってた?」

 

 

 

「いいえ。高気圧に覆われるから快晴だって……どうかしたの?」

 

 

 

「うん、なんか北の方角から雷がピカピカ光る黒い雲がこっちに来てるみたいなんだけど……」

 

 

 

 

「飽くまで予報だもの、外れる事だってあるわよ」

 

 

 

「そうね……でも嵐の前ってもっと空全体が暗くなるじゃない?でもアレすごく小さいのよね」

 

 

 

「どう言うこと?」

 

 

 

もう一人の隊員は首をかしげながら窓辺へと近付き、彼女の視線の先へと目を向ける。

 

 

 

「えっ!?」

 

 

 

彼女は漸く理解した。

 

 

 

それは確かに異常な光景であったのだ。

 

 

 

 

青く澄み渡る空と海。

 

 

 

その中に異様に高く、そして何よりも黒い雲が立ち上っていた。

 

 

 

目測による雲の大きさは直径10km程だろう。

 

 

だが大海原からすれば微々たる規模でしかないそれは、異常なまでの存在感を有していたのだった。

 

 

 

「ちょっと……アレこっちに向かってきてない!?」

 

 

 

「そう言われてみれば波が高くなってきてる様な……でもこれ程回りは晴れているのに、あそこだけあんなに大荒れになるなんて事ある!?」

 

 

 

 

二人は迫り来る黒い雲に恐れを感じた。

 

 

 

そしてほんの僅かの間に、観測所はそれに覆われてしまったのである。

 

 

 

 

――コツ…コツッ カッカッカッ!

 

 

 

突如として雹が降ってきた。

 

 

それは徐々に大きくなり、今では拳大の大きさになって激しく窓を打ち付けて来たのである。

 

 

二人は窓辺から離れると共に、雲が凄まじい発達を遂げている事を理解した。

 

 

 

雹は激しい上昇気流を持つ積乱雲内で発生するので雷と共に発生する場合が多く、空中から落下する過程で表面が融解し、¨再び上昇気流で雲の上部に吹き上げられて¨融解した表面が再凍結することを繰り返した結果形成される。

 

 

その過程で、外側に他の氷晶が付着したり、過冷却の水滴が付着し凍結したりする事でだんだんと氷粒が成長していくのだ。

 

そして、成長するにつれてその自重が増した雹は、自身の重さを上昇気流が弱る、強い下降気流の発生、そして¨上昇気流が氷粒の重さを支えきれなくなる¨事で地上へと落下して行く。

 

 

 

即ち、黒い雲が発する上昇気流は、氷の粒をこの大きさになるまで上空に保持し続ける程の強烈な気流であることを意味しているのだった。

 

 

 

――更に

 

 

 

ゴォオン! ザザザザッ!

 

 

 

紫色を帯びた閃光と共に雷鳴と猛烈な風雨が吹き荒れ、波は白波を立てて暴れ狂う。

 

 

激しい暴風によって建物は揺さぶられ、恐怖のあまりその場にうずくまった二人の悲鳴は、激しく打ち付ける雷風雨によって打ち消された。

 

 

その時――

 

 

 

「えっ?何!?」

 

 

 

ゴォオオオ!

 

 

 

隊員は風雨と雷の轟音のなかに不自然な音を聞き、視線を向ける。

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

二人は驚愕した。

 

 

 

 

雲の切れ間から一瞬、巨大な何が高速で飛行して行くのが見えたのだ。

 

 

 

 

(あれは無人飛行船!?それともドローン!?)

 

 

 

(巨大なトンボの様な何かが今……)

 

 

 

 

ドォン!

 

 

 

「きゃあぁ!」

 

 

 

再び鳴り響いた雷鳴と凄まじい稲光に二人は思わず空から目を離す。

 

 

 

 

「あ、あれ?」

 

 

 

彼女達が再び目を開けた時には、辺りが急激に静まり返り、黒い雲が通り過ぎて光が雲の合間から差し込んでいる元の光景が広がっていた。

 

 

 

「一体何だったの?」

 

 

「まるで夢でも見ていたみたいね……」

 

 

 

急に訪れた嵐に気を取られていた二人は気付いていなかった。

 

 

 

 

レーダーに映り込んでいる¨ノイズ¨の存在を……

 

 

 

   + + +

 

 

「ミーナ?」

 

 

テアは頬を打った涙の暖かさを感じるも、彼女が感傷に浸る間もなくミーナが叫ぶ。

 

 

 

「諦めるな!ずっと……ずっと一緒だって言ったじゃないか!ずっと友達だって言ったじゃないか!それなのに何なんだその顔はっ!まるで死ぬ事を認めているみたいじゃないか!そんなの認めないぞっ!絶対認めない!」

 

 

 

――解っていたのだ

 

 

彼女なら最期の瞬間までこうする事が。

 

 

 

 

 

6年前の事件の時も今も……

 

 

 

 

「テア!もうすぐ明乃達が来る!信じるんだっ!生きて……生きて信じて待つんだ!」

 

 

 

 

【お前に全てを託して逝ける……】

 

 

 

彼女は決心は確固たるものとなっていた。

 

 

 

 

「だから早くもう片方の手を……」

 

 

 

カチャ……

 

 

 

「な゛っ……!」

 

 

 

ミーナは目を見開いた。

 

 

 

なぜならテアは、片手を差し出す代わりにホルスターに納めれていた¨拳銃¨を彼女に向けて来たからだ。

 

 

 

その表情は妙に穏やかなものであり、彼女のしようとしている事が解ったミーナの手により力が入る。

 

 

 

 

「な、何をするんだ!やめろ!」

 

 

 

 

「済まない……こうするしかないんだ。でないとお前は手を離してくれないだろう?」

 

 

 

 

「解っていて何でこんな事するんだ!」

 

 

 

「生きて欲しいからだよ。お前は私の……大切な友達なんだから」

 

 

 

「テア……」

 

 

 

普段はあまり感情を表に出さない彼女が笑っていた。

 

 

 

まるで2度と会えないかのように悲しげな表情を浮かべた彼女に、ミーナの心臓の鼓動が早くなるのを感じる。

 

 

 

 

「ミーナ!生き延びろ!1秒でも多くだ!」

 

 

 

「やめろ……」

 

 

「そして明乃達が来るのを待て!はれかぜならきっとお前を見つけてくれる。だからミーナ!」

 

 

 

 

「お願いだ、やめてくれ……」

 

 

 

ミーナは目から止めどなく涙を流して彼女に懇願した。

 

 

その度に海と同じ塩辛く温かい雫がテアの頬を打つ。

 

 

 

(ああ…お前は昔から本当に真っ直ぐで優しくて――だからせめて最期だけは!)

 

 

無二の親友に自身の苦悶に満ちた表情など見せたくはなかったのだろう。

 

 

 

テアは、とても優しく穏やかな顔で笑い――

 

 

 

「今まで本当に……」

 

 

 

「テア!」

 

 

 

「ありがとう。お前は私の……」

 

 

 

パァン!

 

 

 

「あ゛うっ!?」

 

 

 

 

乾いた音と同時にミーナの腕に焼ける様な痛みが襲い、テアを掴んでいた手の力が抜けてしまう。

 

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

 

彼女の手を離れた、美しい銀色の髪と猛禽類を思わせる気高い金色の瞳を持つ女性の姿が、黒く不気味な闇に向かって行く。

 

 

 

何が起きたのか理解できず呆然とするミーナの脳裏には、直前に言っていた彼女の言葉が浮かび上がった。

 

 

 

最後の部分こそ銃声で聞き取れなかったが、口の動きからは何を言っていたのかはっきりと理解できる。

 

 

 

 

 

「あ…ああっ!」

 

 

 

 

 

彼女は想いが込み上げてくるのを抑えて居られない。

 

 

 

 

 

 

【お前は私の一番大切な¨家族¨だ】

 

 

 

(そんなの今言うなんて……ズルいじゃないか!)

 

 

 

 

彼女の心が悔しさに支配される。

 

 

6年前もそうであった。

 

 

もっと自分がしっかりしていたなら……

 

 

 

彼女の存在に甘えず、自分で行動していたなら……

 

 

 

いつも後悔して来たのだ。

 

 

 

だから次こそは…!

 

 

 

 

 

「テアぁぁぁぁあ!」

 

 

 

 

次の瞬間、艦橋から金色の髪を持つ女性の姿が消えていた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「う゛ぁぁあっ!」

 

 

 

最早艦長として誰にも取り繕う必要が無くなったテアは、身体に走る激痛に悲鳴を上げていた。

 

 

 

 

(ああ…これは罰なんだ。ミーナにあんな顔をさせてしまったから)

 

 

 

 

激痛のなかでも彼女の最後の顔が浮かぶ。

 

 

 

手を離した瞬間の彼女は絶望した表情を浮かべていた。

 

 

 

 

引き金を引いたのはテア自身だと言うのに、彼女は自分が手を離した事に激しい後悔を覚えている様だった。

 

 

 

 

そんな真っ直ぐな彼女だからこそ、テアは未来を託したのだ。

 

 

 

 

そう考えると不思議と恐怖や全身の激痛が少し和らいで行き、テアは目を閉じて重力の流れに身を任せる。

 

 

 

 

 

「――ぁぁぁ!」

 

 

 

「???」

 

 

 

幻聴だろうか。

 

 

テアはミーナに自分の名前を呼ばれた気がした。

 

 

そこでふと、彼女の心に迷いが生じる。

 

 

 

自己犠牲における死とは、とても美しいものだと思っていた。

 

 

だか、死が造り出すものとは……

 

 

 

死ねばミーナと話せない。

 

 

一緒に笑うことも出来ない。

 

 

 

触れ合う事も。

 

 

 

護る事も出来ないのだ。

 

 

 

死とはその甘美なる偽りの美しさとは対照的に、無惨であり凄惨であり、何よりも幸福や当たり前の営み等、あらゆる物事に対して非生産的なのである。

 

 

 

それを自覚してしまったしまった今、テアの心は絶望に支配された。

 

 

 

「ミーナ、私は怖いよ……死にたくないよ」

 

 

 

 

「テ――ぁぁあ!」

 

 

 

ミーナが呼ぶ声がまた聞こえた気がした。

 

 

 

6年前もそうだった。

 

 

RATtウィルスに侵されたアドミラルシュペーを自分一人で引き受けミーナに後を託しておきながら、事実テアは不安で仕方がなかったのだ。

 

 

 

容姿や優秀すぎる技量は、学生であった彼女に耐え難い孤独を強いていた。

 

 

 

そんな一見近寄り難い彼女に、身分や生い立ちの垣根を超えて踏み込んできた最初の友人と言えるのがミーナだったのだ。

 

 

 

 

『私と友達にならないか?』

 

 

『遠慮する……』

 

 

 

 

最初は拙いやり取りだった。

 

 

 

『いつまで付いて来る気だ?友達になるのは断った筈だが……』

 

 

 

『私は一回断られた位じゃへこたれないからな!』

 

 

正直鬱陶しいとも思った。

 

 

――だが

 

 

『このリボン、クロイツェルさんによく似合うね!』

 

『いや、お前の方が似合ってるぞ』

 

 

『じゃあお揃いにしよう!』

 

『……好きにしろ』

 

 

『あとクロイツェルさんじゃなくてテアって呼びたい!』

 

 

 

『好きに……しろ〃〃』

 

 

 

彼女存在が……

 

 

 

『テアは私の憧れるブルーマーメイドそのものだった。だからテア――』

 

 

 

大きくなっていたのだった。

 

 

 

 

『私をテアが艦長を務める艦に乗せてくれないか?それを目標にしたいんだ!』

 

 

 

だからなのか、気づけば自身も彼女に答えていた。

 

 

 

 

『では私の目標は、お前が副長を務める艦の艦長になることにしよう』

 

 

 

今でも忘れられない。

 

それを聞いた彼女の太陽の様な笑顔が……

 

 

 

 

 

『じゃあこれは二人の約束だからな!』

 

 

 

しかしその笑顔を二度と見ることは叶わない。

 

 

 

それが死がもたらす紛れもない真実なのである。

 

 

 

 

「ミーナ私はっ!」

 

 

 

幻聴だろうが幻覚だろうが構わない。

 

 

 

テアはもう一度ミーナに逢い、あの笑顔を見たかった。

 

 

 

「ミーナぁぁあ!」

 

 

 

「テアぁぁぁぁ!」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

幻聴等ではない。

 

 

テアの耳にははっきりと彼女の声を捉えていたのだ。

 

 

目を開き、辺りを見渡した彼女の瞳の先には、金色の髪と青い瞳を持つ女性がこちらに向かって飛んで来ているようすが見えた。

 

 

彼女は手を伸ばし、テアの名を叫びながら真っ直ぐ突っ込んで来て――

 

 

 

 

 

 

カバッ!

 

 

 

「んっ…!」

 

 

「テア!」

 

 

 

空中で二人の身体が重なった。

 

 

困惑するテアをよそに、ミーナは両腕でしっかりと彼女を抱き締める。

 

 

 

「ミーナ、どうして――」

 

 

「行くなテア!逝くな!」

 

 

「ミーナ……」

 

 

「約束したじゃないか!私は…テアが艦長の艦じゃないとダメなんだ!一緒じゃないとダメなんだ!」

 

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

 

「離さない!私はテアを一生離さない!だって私もテアを――」

 

 

 

 

(ああ……やっぱり)

 

 

 

テアは彼女の暖かさを全身で感じていた。

 

 

 

「一番大切な¨家族¨だと思っているんだ!どんなに冷たくされても、断られても、私はへこたれないからな!テアの側にずっといる!」

 

 

 

 

(そんなの今言うなんてズルいじゃないか!)

 

 

 

だが、彼女はそのまま彼女の身体へと身を預け、自らも腕を回して彼女を抱き締めた。

 

 

 

 

「好きにしろ」

 

 

 

あの時とは違う、感謝の気持ちがこもった言葉だった。

 

 

漸く自身の本心を自覚したと言うのに……

 

 

 

 

 

――ヴォン!

 

 

 

「「あ゛ぁっ!」」

 

 

 

重力が彼女達に耐え難い苦痛を与えていた。

 

 

 

二人は、闇に囚われなくとも物理的に人間が耐えられる限界を超えた重力が渦巻く領域へと達しようとしていたからだ。

 

 

 

 

「ミーナ……」

 

 

 

「テア、諦める……な。明乃を……はれかぜを信じ――」

 

 

 

 

――ヴォン!

 

 

 

「かっ……!?」

 

 

 

二人の意識が強烈に薄くなって行く。

 

 

目を開いている筈なのに、辺りが暗くなって行くのだ。

 

 

 

 

(明乃。テアを、皆を――!)

 

 

 

ミーナは祈るように最後の力を振り絞って思いを声へと変換した。

 

 

 

「助けて!お願い!」

 

 

 

チカッ!

 

 

 

「!」

 

 

 

黒に塗り潰されそうな視界に、遥か海の向こうから蒼く済んだ光が輝くのをミーナは見た。

 

 

 

   + + +

 

 

闇を照らす優しく、そして力強い蒼の閃光は、海面を一直線に直進し、闇と衝突する。

 

 

 

 

ビリッ!ビリッビリッ!

 

 

 

 

黒と青の激しい攻めぎ合いが生じ――

 

 

 

 

「え?――あっ!」

 

 

ミーナは身体が急に軽くなるのを感じた。

 

 

 

視線の先には、場を支配していた闇が、蒼の閃光に喰い尽くされているのが写る。

 

 

 

それと同時に重力が消失し、二人の身体は¨本来の重力¨に従って海へと落下を始めた。

 

 

 

「くっ――!」

 

 

 

ミーナはテアをしっかりと抱えたまま海へと落下した。

 

 

 

冷たい海の水が消えかかった彼女の意識を呼び覚まし、ミーナは足をバタつかせて水面から顔を出す。

 

 

そして、先程から様子がおかしいテアに向かって叫んだ。

 

 

 

「テア!しっかりしろテア!」

 

 

 

彼女は虚ろな瞳をしたまま動かない。

 

 

ミーナは急いで呼吸と脈を確認する。

 

 

 

(息はある!脈もある!だが――)

 

 

 

呼び掛けに彼女は答えない。

 

 

 

一刻も早く治療が必要な事は明らかだった。

 

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

ミーナが蒼の閃光が飛来した方へと視線を向けた時――

 

 

 

ドドォン! ビィイン!

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

超兵器達が攻撃を再開したのだ。

 

 

 

あらゆる攻撃が海の彼方へと飛んで行き、爆煙が全てを覆ってしまう。

 

 

 

 

ミーナは、自分の見た光が幻だったのではと目を閉じ、そしてもう一度開いて海の彼方を見つめる。

 

 

 

そこには先程と変わらない光景が――

 

 

 

 

ゴォォオ!

 

 

 

「な、なんだ!?」

 

 

 

彼女は目を見開いた。

 

 

 

複数の艦艇が爆煙を切り裂いて現れたのだ。

 

 

 

一隻にはドリルを装着した異形の艦が、そして旧大戦時の軍艦の姿をした艦艇が光学兵器を放ちながらあり得ない速度で現れる。

 

 

 

そして最後に煙から現れ、どの艦艇よりも小さく非力にも思えるその姿とは対照的に、猛烈な速度で戦場駆けるその艦艇の名は――

 

 

 

 

「はれかぜ……なのか?」

 

 

 

 

   + + +

 

 

「千早艦長!大丈夫ですか!?」

 

 

 

『ええ。超重力砲は使ってしまいましたが、何も問題はありません。はれかぜにはハルナ達を付けます』

 

 

 

『超兵器の相手は私達が――岬艦長は急いで救助を!』

 

 

 

「千早艦長、シュルツ艦長……はい!」

 

 

 

『ミケちゃん!私も超兵器の迎撃にあたるから安心して救助に専念して!』

 

 

 

「ありがとうモカちゃん!」

 

 

 

 

「艦長……」

 

 

 

「うん、酷いね……でも私達のやることは変わらない!みんな聞いて!」

 

 

 

明乃の言葉に、はれかぜの全員が耳を傾ける。

 

 

 

「これより私達は、全力で超兵器が展開する海域中央に到達して留まり、要救助者を救出する。恐らく今までで一番危険かもしれない――でもっ!」

 

 

 

 

『わぁってるって!こっちは出発の時から心決めてんだ!遠慮は要らねぇ!機関でもなんでも思いっきりブン回せってんでぃ!』

 

 

 

『これが終わったら、大盤振る舞いで料理作るからね!』

 

 

 

『ケーキも焼くよ!』

 

 

 

 

『万里小路の名に懸けて、この場を見過ごすなんて出来ませんわ!』

 

 

 

『スキッパーの準備もバッチリぞな!』

 

 

 

『医療器具は揃えてある、救助者の受け入れはいつでも出来るぞ!』

 

 

 

「うぅ……怖いよ。でも救助を待ってる人はもっと怖い筈だから私、逃げない!」

 

 

 

「弾薬もたっぷりだし、撃って撃って撃ちまくるぞ!」

 

 

 

「うぃ!」

 

 

 

「今しかねぇ……今動かなきゃあ女が廃るんならぁ。奴等にゃあきっちり落とし前つけてこっちの仁義を通させて頂きやす!」

 

 

 

「艦長。私達の心は貴女と、そしてはれかぜと共に有ります!」

 

 

 

「皆……」

 

 

 

明乃は大きく頷くと艦長帽を目深に被り、手を前へと突き出した。

 

 

 

 

「はれかぜは、この場にいる全員を救助し、一人も欠けることなく帰還する!繰り返す――!」

 

 

 

本当はアノ超兵器と再会したくはなかった。

 

 

この場にいるであろうミーナ達とも、こんな形での再会はしたくなかった。

 

 

でも現実はそうはいかない。

 

 

 

【助けて!お願い!】

 

 

誰のものであったのかは解らない。

 

 

 

しかし、目の前に助けを求める者がいる限り、彼女達は人魚であり続けるのだ。

 

 

 

 

「私達は¨ブルーマーメイド¨として、この場にいる全員を救助し、一人も欠けることなく帰還する!はれかぜ――!」

 

 

 

 

全員が前を見据えた。

 

 

 

【未来】と言う名の水平線に向かって。

 

 

 

 

 

「出動!」

 

 

 

 

超兵器ムスペルヘイムと、異世界艦隊の2度目の戦いが始まる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。

ハイスクール・フリート ローレライの乙女達でのテアとミーナの出会いを少し入れてみました。


そして、漸くミケちゃん達の登場となります。



リアル猛多忙よりなかなか進めない中、一文字一文字着実に、描いて参ります。



次回まで今しばらく、お待ちください。




















とらふり! 国境を超えたトライアングル関係



ミーナ
「テアぁぁあ!」


テア
「ミーナぁぁあ!」



幸子
「ミーちゃぁぁあん!」


テア
「………。」


幸子
「テヘ☆」



テア
「テヘ☆ではない!ここで一体何をしている!今一番盛り上がってイチャイチャしていたのに邪魔をするな!」



幸子
「ふーんだ!今度は本編上でも一緒になったんだからいいんですぅ!」



テア
「腹の立つ言い方はやめろ!大体まだ来たばかりで再会してないじゃないか!」




幸子
「解るんです…。」



テア
「ああ…始まったよ一人芝居が…。」



幸子
「国境を超えたアイの力…過去に二人で乗り越えてきた苦難!」



テア
「RATtウィルス事件は二人で解決した訳じゃな…。」



幸子
「そして、晴風クラス解体疑惑の際の熱い夜…。」




テア
「ま、待て!どういう事だ!私はあの時同じ寮にいたんだぞ!デタラメ言うな!」




幸子
「悩んでいた私が帰ったら…『遅いから先にやってたぞ』って。ミーちゃんの笑顔を見たら我慢できなくなって泣いちゃって…。」



テア
「つ、続けろ…。」



幸子
「そしたらミーちゃん、優しく私を抱いてくれて…『良かったら儂の処へこんか?』って…。」



テア
「………。」



幸子
「それで目一杯ミーちゃんの胸でパフパフしたあと、『続きするか?』って話になって、『テアさん寝てるからうるさくなっちゃうよ』って言ったら、『構わん、テアは寝付くとなかなか起きんからな』って…だから二人で遅くまで熱く…。」



テア
「ま、待てい!リアルだ!なんかリアルだった!それにパフパフって何だ!続きって一体どこまで…。」



幸子
「ヒ・ミ・ツです☆」



テア
「貴様ぁ!」



ミーナ
「二人ともどうしたんじゃ?」



テア
「ミーナお前…6年前に幸子と何をしたんだ!」



ミーナ
「え?ああ…アノ時か!」



テア
(やっぱり幸子と…!)



ミーナ
「うむ…観賞会しようと言ったらココが遅くてな、先に始めておったらココが泣いていたものでな、『良かったら儂らの学校へ留学せんか?』言ったんじゃ。その後ココが落ち着いてから気晴らしに『観賞会の続きをせんか?』と言って…ココがテアが寝てる事を気にしておったようじゃからのぅ。『構わん、テアは寝付くとなかなか起きんからな』と言ったら安心しておったようじゃから、少し夜更かしをして観賞会を続けたんじゃ。何か問題でもあったか?」



テア
「幸子、貴様…。」




幸子
「テヘ☆」



テア
「だから『テヘ☆』ではない!また紛らわしい言い方を…。」


幸子
「でも嘘は付いてません!」




テア&幸子
「ワー!ギャー!」



ミーナ
「本当、二人は仲良しじゃな!儂もそんな二人が大好きじゃ!」




テア&幸子
(う、浮気者…。)


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灼熱の救済  VS 超兵器

大変長らくお待たせいたしました。


ヴィルヘルムスハーフェン解放戦の続編に成ります。


それではどうぞ。


   + + +

 

 

 

「ムスペルヘイム……」

 

 

 

シュルツは、この惨状の元凶たる超兵器を睨んだ。

 

 

 

彼の艦によって幾多の艦船が沈み、目の前で命が散って行くのを彼は幾度となく見てきたからだ。

 

 

 

 

そしてこの世界に於いても、彼の艦は数多の命を喰っている。

 

 

 

《下賤ナ存在ヨ。幾度トナク我ガ主ノ崇高ナル御意志ヲ無下ニスルソノ蛮行…誠ニ以テ万死ニ値ス。シカシナガラ、主ハ煉獄ヲ以テ汝ラノ罪ヲ清メラレント常ニ心ヲオ砕キニナラレテイル。ソシテ下賤ナ汝ラニモ救済ヲ与エヨト私ニ仰ッテオラレルノダ》

 

 

 

 

「………」

 

 

《慈悲ヲ受ケ入レヨ。サスレバ煉獄ノ焔デスラモ、汝ラニハ心地良キ日ノ光ノ如ク感ジラレヨウ……》

 

 

 

 

 

「――っ!!!」

 

 

 

 

 

シュルツは煮えたぎる様な怒りが沸き上がるのを抑えきれなかった。

 

 

 

 

「貴様らの偽善に、一体幾つの命を巻き込めば気が済むんだ!ムスペルヘイム!!!」

 

 

 

 

 

シュルツは乗員に指示を飛ばし、シュペーアが速度を上げる。

 

 

 

それは彼の艦からの提案……いや、¨偽善に満ちた死¨に対する明確な否定に他ならなかった。

 

 

 

《ナント……愚カナ》

 

 

 

 

 

「なんとでも言うがいい!私達は、喩え人でも悪魔でも、そして神であったとしても、そこに無惨な死が蔓延る限り抗い続ける!ナギ少尉、¨ラムアタック¨を掛ける。艦首ドリルの起動準備を急げ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

艦内が慌ただしくなり、シュペーアは宿敵の下へと突き進む。

 

 

 

彼の艦との戦いの火蓋は切って落とされたのだ。

 

 

《汝ラノ答、シカト聞キ届ケタリ。アァ主ヨ……御身カラ賜リシ力ヲ、下卑タル存在二使用スル我ガ愚行ヲ赦タマエ》

 

 

 

 

 

ヴォン――!

 

 

 

「か、艦長!401より報告。敵艦内部に強力なエネルギー反応を検知したとの事!」

 

 

 

 

「重力砲か…させん!進路そのまま、機関全速!ナギ少尉、ドリルラムの準備はどうか!」

 

 

 

 

「はっ!完了致しました!」

 

 

 

 

「よし!まずは奴の右側空母の艦首部分を削る!総員、対衝撃防御!いくぞ、ラムアタック!」

 

 

 

 

ゴォオオ!

 

 

 

艦首に取り付けられたドリルが轟音を唸らせながら回転を始め、シュペーアは更に増速して超兵器を目指す。

 

 

 

対するムスペルヘイムは、レーザーやレールガンにて応戦を開始、シュルツは防壁を最大展開して突っ込んで行く。

 

 

 

事実上、超兵器3隻分の攻撃は凄まじいの一言に尽きるが、その実動きの鈍さは同型艦であるニブルヘイムやヨトゥンヘイムと差ほど変わらない。

 

 

 

故にシュペーアの勢いを殺すには至らなかったのだ。

 

 

 

「間も無く敵と衝突します!」

 

 

 

「衝撃に備えろ!」

 

 

 

 

超兵器の懐に潜り込んだシュペーアは、勢いをそのままにムスペルヘイムの側面から思いきり衝突した。

 

 

 

 

ガゴンッ…!ギリギリギリギリィ!

 

 

 

 

 

「うっ……くっ!」

 

 

 

ドリルラムが敵に衝突した際の凄まじい衝撃が彼等を襲い、艦内に悲鳴が響き渡る。

 

 

 

しかし、そんな悲鳴すらも掻き消してしまう程のドリルの接触部から聞こえる不愉快な金属音と、接触部から発する凄まじい火花が2隻の間に展開されていた。

 

 

 

「艦首部分の自動消化装置を起動!ドリルの冷却及び火花による火災を抑止する!」

 

 

 

シャアアア!

 

 

 

散水設備が起動し、ドリルラムの冷却を開始、シュペーアはムスペルヘイムに猛追を仕掛ける。

 

 

 

しかし――

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

ムスペルヘイムは駒の様に旋回し、シュペーアはその場に置き去りなる。

 

 

 

ゾクッ……

 

 

 

超兵器を知り尽くしたシュルツには、ムスペルヘイムの次なる行動が理解できていた。

 

 

 

彼の艦がやったことは言わば、野球のバッターがバットを振りかぶった状態なのだ。

 

 

 

つまり、次にムスペルヘイムは船体を思い切りシュペーアに衝突させようとしているのだった。

 

 

 

これは全長500mを超える超大型超兵器、特に播磨や近江のような速度に特化しておらず、旋回能力の高い超兵器に良く見られる行動でもあるが、それがムスペルヘイムともなれば威力の桁が跳ね上がる。

 

 

 

 

元々600mを超える大型超兵器3隻分の質量による体当たりだけでも十分過ぎると言うのに、ムスペルヘイムはニブルヘイムやヨトゥンヘイムとは異なり、空母部が戦艦部の半分から前へ飛び出した形状になっている。

 

 

 

 

つまり、ムスペルヘイムの全長は事実上¨900m¨付近にまで達しているのだ。

 

 

 

もし大質量に加え、長大な船体が旋回する事によって繰り出される遠心力が加われば――

 

 

 

シュペーアの運命は決してしまうも同然なのであった。

 

 

 

「急速離脱!¨凪ぎ払い¨が来るぞ!砲撃班は次なる行動の準備を急げ!」

 

 

 

 

キュイイン!

 

 

 

 

シュペーアは猛烈な急加速をかけ、その場から離れる。

 

 

その直後に――

 

 

 

グゥオオオ!

 

 

 

ムスペルヘイムの苛烈な横凪ぎの体当たりがシュペーアのすぐ真横を通過した。

 

 

 

直撃こそしないまでも、超兵器は引き起こした大波がシュペーアを激しく揺さぶり、艦内に悲鳴が轟く。

 

 

そんな中でも、シュルツは敵から一瞬足りとも視線を外さない。

 

 

 

旋回するムスペルヘイムが通過する瞬間に見えた、空母と空母の間に挟まれた本体がこちらを嘲笑っている様に感じた。

 

 

 

 

「貴様……」

 

 

 

シュルツは沸き上がる怒りをどうにか沈め、次なる指示を飛ばして行く。

 

 

 

 

「まだまだ油断するな!砲塔型レールガン ミサイル 誘導荷電粒子砲で牽制掛けろ!次に新型圧縮プラズマ砲の準備に掛かれ!尚、周囲の海面を荒らして救助の妨害にならぬ様、光子兵器は絶対に使用しないよう徹底しろ!」

 

 

 

シュペーアはムスペルヘイムに一斉砲撃を仕掛け、間髪を入れずに次なる行動を開始していった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「ちょっと、ちょっと、ちょっとぉお!何で¨またドリル¨なのよぉ!」

 

 

 

 

タカオは悲鳴を上げていた。

 

 

 

小笠原に続いてドリル戦艦に執拗に追われていたタカオは心底辟易していたのだ。

 

 

 

「一体何なの!?私ドリルに恨まれる覚えなんて無いわ!」

 

 

 

 

『フフッ……恨まれてるんじゃなくて¨好かれている¨じゃないの?あんたがめでたく船体を失った暁には、再構成の時にドリルを付けてあげるわ』

 

 

 

 

「ヒュウガ!ふざけてないでこいつを牽制する方法を考えなさいよ!後、愛は決して沈まないの!仮に沈んだとしても、絶対私のカラダにそんなもの着けないでよね!」

 

 

 

 

『¨善処¨するわ。でもアイツ、ハルナやキリシマの牽制にも食い付かないのよねぇ……』

 

 

 

《我ハ超兵器極東方面統括旗艦【天照】。試作品ニ過ギヌトハ言エ、我ガ姉妹艦ヲ屠リシ貴艦ヲ撃沈シ、荒覇吐ヘノ手向ケトセン……》

 

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

「どうしたの?もえか……」

 

 

 

「どうやら相手は荒覇吐の仇討ちが目的で私達を狙ってるみたい」

 

 

 

「はぁ!?何よそれ!大体トドメを刺したのはキリシマでしょう!?何で私達が逆恨みされなくちゃいけないのよ!」

 

 

 

『やっぱり好かれているんじゃないのか?』

 

 

 

 

「キリシマァ!」

 

 

 

 

「ちょっとタカオ落ち着いて!確かめてみたい事があるの」

 

 

 

 

「もえか?一体何なのよ」

 

 

 

 

「天照のヘイトがこちらを向いているのなら、逆にそれを利用してミケちゃん達から超兵器を遠ざける事が可能かもしれない」

 

 

 

 

「確かにそうだけど、401からの報告は聞いてたでしょう?」

 

 

 

「……うん。だからこそ確かめないといけないと思う」

 

 

 

 

もえかは、思考をフル回転させていた。

 

 

 

重力砲を発射したした際の敵の行動は、401から発艦した¨無人セイラン¨からの情報提供によって把握している。

 

 

 

 

天照はムスペルヘイムにとって両刃の剣である重力砲の使用に際して、牽引によって旗艦を守護する役割があると考えられた。

 

 

 

つまり、彼の艦の行動範囲は限られている事になるのだ。

 

 

 

 

 

だが、先程もえかが聞いた天照の意思と思われる言動と執拗な追い回しから、行動範囲の制限を超えた領域まで追撃してくる事も考えうる。

 

 

 

 

(戦況が傾く前に確めておかないと……)

 

 

 

 

もえかは不機嫌そうなタカオに顔を向ける。

 

 

 

 

「タカオ、このまま天照を引き付けよう。向こうの出方を見たいの!」

 

 

 

 

 

「はぁ……了解」

 

 

 

 

二人が次なる行動を開始しようとした時――

 

 

 

ゴォオオ!

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

タカオは不愉快な音波を海中から探知した。

 

 

 

 

「まさか¨こっちも¨来るなんてね……」

 

 

 

「ドレッドノート?」

 

 

 

「ええ。天照に気を取られている間に距離を詰められたみたい」

 

 

 

「位置情報をモニターに出して!」

 

 

 

ピッ!

 

 

 

 

モニターに表示された超兵器の位置情報に彼女は眉を潜めた。

 

 

 

 

(私達の真正面から突っ込んでくる?)

 

 

 

 

絶対的に有利である水上艦に対して、比較的浅い深度からの直線的な動きは潜水艦らしからぬ不自然な行動だった。

 

 

 

もえかはそれにゾクリとするような悪寒を感じる。

 

 

 

「タカオ、一旦ドレッドノートから距離を取ろう」

 

 

 

「どうしてよ!潜水艦が正面からなんて絶好の機会じゃない!叩くなら今しかないわ!」

 

 

 

 

「本当にそう思う?良く考えて。あれは本来の潜水艦の戦術じゃない。人間があなた達霧の艦隊に通常の戦術が通じないのと似て、私達の戦術の常識は超兵器には通じない。向こうが不自然な行動を取ったなら引くべきだと思う」

 

 

 

「………」

 

 

 

タカオは不満そうな表情を浮かべる。

 

 

 

元々人類に対して無敵を誇っていた彼女達は、戦術などお構い無しに力でねじ伏せてきた。

 

 

 

故に殲滅に特化していたとしても、敵の意図を感知する能力には決して秀でているわけではないのだ。

 

 

 

 

しかし、それを¨補う為のもえか(ニンゲン)¨であろう。

 

 

 

彼女はタカオを刺激しないよう努めて穏やかに、だが有無を言わせぬ表情で続ける。

 

 

 

 

「タカオ、あなたには解る筈。メンタルモデルを持つあなたなら……千早艦長と戦った時、401は超兵器のような行動はしてなかったんじゃないかな?」

 

 

 

「確かに……」

 

 

 

「コアを研ぎ澄ませて。相手の細かな行動の一つ一つが、相手の次なる行動の予備動作になる」

 

 

 

 

 

「……」

 

 

 

タカオはゆっくりと目を閉じ、余計な視覚情報をカットし、センサーに意識を集中させていった。

 

 

 

 

チ…チ…チ……

 

 

 

 

 

(超兵器の深度が上昇している……あれ?)

 

 

 

ガゴンッ……ゴォオオ!

 

 

 

敵を討ち果たすのみを思考していた彼女が、思惑を切り替えた瞬間に、今まで取るに足らないと思いカットしてきた情報が顕在化してくるのを感じた。

 

 

 

 

(推進装置のギアをこちらに感づかれない程度にあげている?)

 

 

 

 

ゾクリ……

 

 

 

 

彼女のコアが¨予兆¨を感じていた。

 

 

 

 

¨何をするのか¨は解らない。

 

しかし、¨何かをする¨事だけは解る。

 

 

 

 

 

タカオはその何かをもえかが見つけ出すのだろうと確信し、情報を伝えようとした。

 

 

 

だが、事態は既に進行していたのだ。

 

 

 

ドドドドッ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

タカオを追っていた天照が、大口径のガトリング砲を乱射、そして二人がそれに気を取られている隙にドレッドノートが魚雷を発射した。

 

 

 

魚雷は先端部が切り離され、中から複数の小型魚雷がタカオに向かってひた走る。

 

 

 

だが、タカオにとってこれは取るに足らない攻撃である事は言うまでも無いだろうが、事態の¨本命¨はそこではなかった。

 

 

 

バシュウ!

 

 

 

タイミングをずらして発射された一本の魚雷がタカオへと向かっていた。

 

 

 

だがそれは量子魚雷ではない。

 

 

 

 

量子魚雷はその特殊な構造や弾頭が放つ波長が、メンタルモデル達のネットワークによって共有されており、発射されれば即座に侵食弾頭によって消滅させられてしまう。

 

 

 

 

この魚雷は、通常弾頭魚雷に織り混ぜるからこそ真価を発揮する魚雷と言えた。

 

 

 

天照とドレッドノートによる同時攻撃によって雑音が発生し、タカオはソレに気付かない。

 

 

 

カチッ……キィイイン!

 

 

 

 

「うっ……これは、音響魚雷!?」

 

 

 

彼女のセンサーが不快な音波に埋め尽くされ、その間ドレッドノートは一気に加速してゆく。

 

 

 

 

「え?何!?」

 

 

 

もえかは、眼前の海面が盛り上がって来るのが見えた。

 

 

 

そこで彼女は超兵器の真意を理解したのである。

 

 

 

 

「タカオ!急いで艦底にクラインフィールドを張って!」

 

 

 

「ど、どういう事!?」

 

 

 

 

「急いで!¨真下¨から来――!」

 

 

 

 

バゴンッ!

 

 

 

 

「あぁあああ!」

 

 

 

タカオの船体が激震に襲われ――

 

 

 

 

 

 

 

 

ガガッ…ガがガガッ!

 

 

 

「せ、船体が浮き上がる!?」

 

 

 

「ドレッドノートは¨私達ごと¨浮上するつもりだったんだ!このままじゃ身動きが取れなくなっちゃう!」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

例え彼女達が如何に兵器として優秀であったとしても、【艦】である以上海面があってこそ当たり前の行動が出来るのだ。

 

 

 

だが今、彼女達は浮上したドレッドノートの甲板上に乗り上げてしまっている。

 

 

 

「ぐっ!くっ!横倒しになってて、砲身が動かない!」

 

 

 

 

タカオは必死に足掻くが、身動きが全くとれず、その間にドレッドノートは方向変えた。

 

 

 

 

猛進する天照の真正面へと……

 

 

 

 

「ドリルに私達をぶつけるつもり?」

 

 

 

「そんな事したら超兵器自身も巻き込まれるわよ!?」

 

 

 

「自分は寸前で潜るんだと思う」

 

 

 

「無意味だわ!仮に吹き飛ばされても、私には傷ひとつ付かない!」

 

 

 

「¨タカオには¨……ね」

 

 

 

「何を言って――」

 

 

 

「あのドリルに接触しても船体は無事だと思う。でも、その衝撃に耐えられる程私の身体は頑丈じゃない。超兵器の狙いは端から¨私¨一人だったんだ」

 

 

 

「どういう事よ!」

 

 

 

「小笠原の時も地中海の時も、あなた達を指示を出していたのは私達ニンゲンだった。彼等は学んだんだよ。戦術を持たないあなた達と戦術を持つニンゲン。でも物理的に弱い私達さえ殺してしまえば――」

 

 

 

「全ては取るに足らない存在って事!?馬鹿にして……!」

 

 

 

しかし、彼女のコアは自分達が戦術を有する同等以上の敵に如何に無力かを反復するのだ。

 

 

 

もしここで彼女を失えば、タカオ自身は超兵器の術中に嵌まってしまうだろう。

 

 

 

 

焦りを感じたタカオはもえかの表情を見つめる。

 

 

 

しかし――

 

 

 

「………」

 

 

 

彼女はこの状況にあっても敵を観察し、次なる行動をを思考していた。

 

 

 

タカオのコアが、もえかの脳から分泌される過度なストレス物質や脈拍の上昇を検知しているのにも関わらずだ。

 

 

 

 

彼女は極限の恐怖の中でも勝利を諦めていなかったのである。

 

 

 

自分より圧倒的に強者に、潜水艦1隻で挑んだ千早群像の様に……

 

 

 

 

「もえか、私……」

 

 

 

「タカオ!ナノマテリアルで船体からアームを出せる?」

 

 

 

「え、ええ出せるけど、どうして――」

 

 

「急いで!そのアームをドレッドノートの船体に接続して!」

 

 

 

 

「どうして?」とは言わなかった。

 

 

 

その暇すらも惜しまれる程、状況は切迫していたからだ。

 

天照は更に増速し、2隻の超兵器は急接近を始めた。

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

 

タカオは船体を構成するナノマテリアルの一部を4本のアームに変更して、ドレッドノートの飛行甲板に突き刺す。

 

 

 

その時――

 

 

 

ガゴンッ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

ドレッドノートが潜航開始したのだ。

 

 

 

超兵器は、乗り上げたタカオを衝突寸前で海面に置き去りにし、ドリルの餌食にするつもりだったのだ。

 

 

 

ソレを見越したもえかは、アームを接続することで¨ドレッドノートごと¨海中に沈んで攻撃を回避する案を思い付いたのだったが――

 

 

 

 

 

 

 

「相手が速すぎる!これじゃ完全に沈む前にドリルと接触するわ!」

 

 

 

「くっ――!」

 

 

 

もえかの表情が流石に険しくなったのを見たタカオは罪悪感に襲われていた。

 

 

 

「ゴメンもえか。私があの時速く回避していれば……」

 

 

 

俯く彼女にもえかはそっと歩み寄り、穏やかな笑みを浮かべる。

 

 

 

 

「大丈夫だよタカオ」

 

 

 

「どうしてよ……どうしてそんなに落ち着いていられるのよ!だってもえかが――!」

 

 

 

「タカオ、良く聞いて。失敗は誰にでもある。でもね、私達は¨一人じゃないよ¨」

 

 

 

 

眼前に天照が迫っていた。

 

ドレッドノートは完全に海面から姿を消し、タカオの船体のみが、半分だけ露出し、最早衝突は避けられないと思われた時――

 

 

 

シュゴオオ!

 

 

 

一発の魚雷が天照とタカオの間に割って入り、炸裂した。

 

 

 

それと同時に、辺りのか海がが泡に包まれる。

 

 

 

 

 

 

「超音波振動魚雷!?もしかして!」

 

 

 

 

タカオは魚雷が発射されたであろう方角に視線を向ける。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「イオナ、タカオの様子は?」

 

 

 

「衝突は……回避されたみたい」

 

 

 

「っしゃあ!」

 

 

 

タカオの無事を聞いた杏平が拳を握り締める。

 

 

 

 

超重力砲の発射による反動から回復した401は、超兵器2隻に追われているタカオの救援に向かっていたのだ。

 

 

 

 

しかし予想よりも早く、しかも奇想天外が策に打って出た超兵器に対して後手にまわる事になってしまったのは否めない。

 

 

 

 

そこで群像は、地中海で使用された超音波振動魚雷をイオナに生成させ、超兵器とタカオの間に発射したのだ。

 

 

 

 

発生した大量の気泡によって浮力を失ったドレッドノートは、まるで落下するかのように海中に潜り込み、アームを接続していたタカオも共に海中に逃げお失せる事に成功。同時に、機動力に優れた天照の足止めにも一役買う事となった。

 

 

 

 

「ふぅ……何とか間に合いましたね艦長」

 

 

 

「だが問題はこれからだな」

 

 

 

「問題?」

 

 

 

「ああ。イオナ説明してくれ」

 

 

 

「うん。事実上、水中戦に特化していないタカオが潜航型超兵器と一緒になってしまった事、その逆に潜水艦である俺達が水上艦を相手にすることになった事。この2つの問題は看過できない」

 

 

 

「でもよぉ。天照は今身動きが取れないんだぜ?超重力砲が使えなかったとしても、侵食魚雷や補給の時に支給された光子弾頭魚雷でガンガン攻めちまえば良いんじゃねぇか?」

 

 

 

「杏平忘れたのか?俺達は¨今は¨大規模な攻撃が出来ない」

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

杏平は思い出したかの様に口を開ける。

 

 

 

 

シュルツ達は実際、もっと強力な兵装を使うことも出来たが、彼等にはそう出来ない理由があった。

 

 

 

 

救助がまだ済んでいないのだ。

 

 

 

 

 

光子弾頭兵器は威力こそ優れているが、一度使用すれば爆圧で海を引っ掻き回してしまい、漂流している救助者を巻き込みかねず、はれかぜやスキズブラズニルと同行している弁天が海での救助を完了するまでは、大規模な攻撃に打って出る事が出来ない。

 

 

 

更に――

 

 

 

合流を果たしたとは言え、異世界艦隊は救助とその護衛に半数以上の戦力が割かれており、超兵器の相手は事実上3隻のみなのが現状だ。

 

 

 

この苦しい状況を打破する鍵は、ブルーマーメイドの救助手腕にかかっていると言っても過言では無かった。

 

 

 

 

(岬艦長……頼みます!)

 

 

 

群像は表情を険しくすると、タカオや超兵器のいる海域へと急いだ。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「スキッパー隊は発進準備を急げ!大戦艦ヒュウガの情報だけじゃなく目視で救助者いないか確認も怠るな!」

 

 

 

 

弁天はスキズブラズニルと共にヴィルヘルムスハーフェンへと近付く。

 

 

辺りには爆撃や砲撃痕の他に、重力砲によって引き寄せられた瓦礫に埋め尽くされている様子を目の当たりにした真冬は一層険しい表情となっていた。

 

 

 

スキズブラズニルはこのまま港へと接岸してウィルキアの上陸部隊が救出へと乗り出し、弁天はウィルキアの救助艇を指揮してヴィルヘルムスハーフェンから重力砲の発生させた特異点との間にある海域に救助者が居ないかをメンタルモデル達からの情報を頼りに捜索する手筈となっており、メアリースチュアートが彼女達の護衛に着く。

 

 

 

 

当然ながら、命を救うのは時間との戦いになる事は言うまでも無いだろう。

 

 

 

だが人手は圧倒的に足りず、救助経験があるとは言え¨救助のプロ¨ではないウィルキアの軍属に一から手解きをする余裕などある筈もない。

 

 

 

故に使えるものは全て使う。

 

 

小さなプライドに固執している場合ではないのだ。

 

 

 

「ウィルキアの救助艇は弁天を中心にして横一列に並べ!大戦艦ヒュウガの情報とテメェらの目で救助者を発見。見付け次第弁天に報告しろ!手近にいるスキッパーの連中が収容して救助艇へ運ぶ!」

 

 

 

『はっ!』

 

 

 

 

「ヴェルナー!」

 

 

 

『解っています。疎かになるであろう敵航空機からの攻撃並びに超兵器からの攻撃の迎撃は此方で対処します。宗谷艦長は救助の指揮に全力を注いでください!』

 

 

 

「言われる迄もねぇ。だがスキズブラズニルの防御はどうすんだよ。あんな馬鹿デカイのは敵の良い的だぜ?」

 

 

 

『心配は要らないわ』

 

 

 

 

「大戦艦ヒュウガか?」

 

 

 

『ええ。スキズブラズニルの回りに私の船体を自動で展開させているわ』

 

 

 

 

「それでカバーしきれるのかよ」

 

 

 

『フフッ――任せておいて。それよりあなたは自分の任務に集中した方が良いんじゃない?』

 

 

 

 

「ああ……そうだな」

 

 

 

 

真冬はギラリとした肉食獣の瞳を眼前へと向けた。

 

 

 

 

「よしテメェら!一人として死なすんじゃねぇぞ!そしてテメェら自身も一人も死ぬんじゃねぇ!」

 

 

 

『『はいっ!』』

 

 

 

スキッパー隊が次々と弁天から発進して行く。

 

 

 

航空機がいつ攻撃を仕掛けてきてもおかしくない危険な海域へと……

 

 

 

   + + +

 

 

 

「艦長!速力¨200kt¨に達しました!」

 

 

 

 

「うん。でも船体は安定してるね。ココちゃん、超兵器の様子は?」

 

 

 

「今の所此方への直接的な動きは有りませんが……」

 

 

 

『敵航空機、多数飛来!』

 

 

「かよちゃん多目的ミサイル発射!タマちゃん誘導荷電粒子砲攻撃始め!」

 

 

 

「うぃ!」

 

 

 

ミサイルと荷電粒子の光が次々と航空機を粉々にして行く。

 

 

 

はれかぜは重力砲の特異点が発生していた地点の中心へと向かっていた。

 

 

それも200ktと言う艦船では到達し得ない速度で……

 

 

そしてその船体形状は、以前のはれかぜとは一線を画していた。

 

 

 

最も目立つのが¨展開されたバルジ¨であろう。

 

 

 

そう、はれかぜは蒼き鋼の艦艇の様に船体の一部を展開することが可能になっていたのだ。

 

 

 

その理由は超兵器推進装置にある。

 

 

 

 

バミューダでの戦闘の際、はれかぜは不完全な出力ながら、超兵器推進装置の超絶な加速により、バランスの悪化や旋回性能の低下を引き起こしていた。

 

 

 

そこで珊瑚とヒュウガの話し合いによって、バルジの一部を横に展開し、艦のバランスと舵性能を補う為の補助フロートとして取り付けたのだ。

 

 

 

更に、ウィルキアから提供されたはれかぜは、本来なら現クルーの人数より大幅な人手が必要であった。

 

 

 

だが、ブルーマーメイドが運用している半自動化システムを組み込む改装を行っていた事により、30人程度での艦艇運用が可能になったはれかぜには、人数を収容するあらゆる施設に無駄な空きが存在し、場所を喰ってしまっていたのだ。

 

 

 

そこで珊瑚は、はれかぜ内部の構造を一から見直し、よりブルーマーメイドとして活動しやすいように改装を施した。

 

 

 

甲板にある兵装の種類や位置も細かく変更を施した新生はれかぜは、弾薬を多く搭載出来るだけでなく、救助の為のスキッパーによる発進も効率的になり、尚且つ機動力が増した事によりあらゆる場面に的確に対応しうる艦艇に進化したのだ。

 

 

 

とは言え――

 

 

 

所詮は駆逐艦程度の大きさしか無いはれかぜが長期戦闘に耐えうるとは到底言い難かった。

 

 

 

だが、それで良いのだ。

 

 

 

何故なら彼女達はブルーマーメイドであって軍属では無いのだから。

 

 

 

 

しかしながら、彼女達の異世界艦隊内での役割は極めてファジーであることは言うまでも無いだろう。

 

 

 

何故なら、彼女達はウィルキアや蒼き鋼の技術を借りているとは言え、国家戦力を相手にしうる超兵器を撃沈した経歴があるからだ。

 

 

 

だが、はれかぜの面々は自分達の達位置を良く理解していた様だ。

 

 

 

脳裏に浮かぶのは敵の殲滅ではなく、飽くまでも救助だった。

 

 

 

 

『航空機やっぱり多すぎるよぉ!』

 

 

 

「解った。シロちゃん、アレを使おう!」

 

 

 

「良いのですか?アレは超兵器の為に――」

 

 

 

「今は時間が惜しいの。ひとりでも早く救出する為には相手航空機の存在が邪魔になる」

 

 

 

「解りました。砲術長、【共振波照射装置】用意!」

 

 

 

「うぃ!」

 

 

 

 

志摩が表情を引き締めて動き出し、起動スイッチが押され、艦首部分のハッチが開き、内部から大掛かりなスピーカーの様な形状の物が浮上してくる。

 

 

 

 

「タマちゃん、照射範囲並びに仰角調整!とにかく上空の航空機が密集している地点を狙って!」

 

 

 

 

「うぃ!……任せて!」

 

 

 

「各艦艇並びに、航空隊各位に通達。これよりはれかぜは、共振波照射装置の発射体勢に入る。この通信から発射終了宣言まで、本艦前方への侵入は厳禁。射線上の艦艇並びに航空機に退避勧告!」

 

 

 

 

 

明乃は、万が一にでも周囲を巻き込まない様、警告を発し、まゆみ 秀子 マチコの見張り員から前方に味方が居ない事を確認させ、退避の遅れが生じていない事を十分に確認させた。

 

 

 

『前方に味方艦艇並びに航空機の機影無し!』

 

 

「左舷確認完了!」

 

 

「右舷も確認完了です!」

 

 

 

「うぃ!共振波照射装置、エネルギー充填完了!いつでも………撃てる!」

 

 

 

 

彼女達の報告を受けた明乃は大きく頷き、そして手を前にかざした。

 

 

 

 

「共振波照射装置、攻撃始め!」

 

 

 

 

「共振波照射装置、照射始め!」

 

 

 

 

上空に向けられた装置の先端にエネルギーが集束し――

 

 

 

 

 

キェィィイイイイ!

 

 

 

 

 

「うっ――!」

 

 

 

「あっ……ぐ!」

 

 

 

 

黒板を引っ掻いた時に生じる音と甲高い女性の悲鳴を足した様な不快な音波が艦を包み、彼女達は思わず顔をしかめた。

 

 

 

一方、照射された共振波は端から見れば無色透明であり、上空の航空機達は熱源や磁力すら感じないソレに全く気付く様子を見せていなかった。

 

 

 

そして、何の躊躇いもなくその中へと飛び込んで来たのである。

 

 

 

 

「共振波照射装置、照射止め!」

 

 

 

 

装置を止めた彼女達は、ソレを受けた航空機達の動向を見守る。

 

 

 

ゴォオオ!

 

 

 

「え!?これだけですか?」

 

 

 

「ウソ……全然効いて無いじゃん!」

 

 

 

 

先程と変わらずジェットの轟音を撒き散らす航空機の姿に、幸子や芽衣がが愕然とする中、明乃だけは確信に満ちた表情を浮かべていた。

 

 

 

そう、極限の緊張を強いられた彼女だけは少し先の結果が見えていたからである。

 

 

『12時方向から敵機!』

 

 

 

「不味いぞ!すぐ迎撃を――!」

 

 

 

「大丈夫」

 

 

 

「艦長、今何と……?」

 

 

 

不安に駆られた真白が明乃に詰め寄ろうとした時、もうその時には装置の効果が始まっていたのだった。

 

 

 

バキッ!

 

 

 

はれかぜに向かっていた航空機が機体を翻した瞬間、主翼が付け根から脱落したのだ。

 

 

 

いや、主翼だけではない。

 

 

 

翼が無くなった航空機はクルクルと回転し、その度に機体の一部が脱落、はれかぜのすぐ上を通過する時には、完全に空中分解してしまったのだ。

 

 

 

更に――

 

 

 

それらの現象は、共振波を受けた全ての航空機に現れ始めていた。

 

 

 

ミサイルやパルスレーザーから逃げる為に急上昇しようとする者、機体を翻して急旋回する者、そして急加速をする者。

 

 

 

とにかく、敵と言う敵が空中でバラバラに四散し、残骸となった機体が雨の様に海面にボチャボチャと降り注いだのである。

 

 

 

 

「す……凄い!」

 

 

 

真白を始めとした事を目撃した全員が驚愕したのであった。

 

 

 

 

【共振波照射装置】

 

 

 

 

デザインチャイルドである刑部蒔絵が開発した、はれかぜの新たな武器である。

 

 

 

彼女が開発した対象物の固有振動数を割り出して共鳴させ、分子結合を崩壊させる【振動弾頭】は、万能物質であるナノマテリアルすらも崩壊させうる力を持った強力な弾頭だ。

 

 

しかし、一発の弾頭に要する資材や緻密過ぎる機構は、現在の異世界艦隊をもってしても実現は不可能であり、故に蒔絵は振動弾頭と類似する兵器の開発に打って出る。

 

 

 

そこで着目したのが、超兵器や敵航空機を構成する物体の大多数を占める鉄等の金属だった。

 

 

 

これなら固有振動数を割り出す装置を組み込む必要が無かったからである。

 

 

更に音波を利用した機構は比較的容易に制作が可能であり、ヒュウガの協力を得ながらその音波の増幅装置を取り入れた。

 

 

 

 

勿論、振動弾頭の様に物質を完全崩壊させるには至らない。

 

 

しかし、振動を与えると波の振幅が増大して部品の接合部に掛かる負荷の増大やさせたり、耐久力が劇的に低下する。

 

 

 

 

もっと簡単に言ってしまえば、¨相手を脆くする音波¨を照射する装置と言えるだろう。

 

 

 

超音波振動魚雷はこの装置を造る上での試作品であり、効果は抜群であった。

 

 

 

元々耐久力が低い航空機は、少しの負荷で空中分解を引き起こしてしまったのである。

 

 

 

 

 

「艦長、航空機の編隊に穴が開きました!」

 

 

 

「ココちゃん、目標海域迄は?」

 

 

 

「残り数分です!」

 

 

 

「超兵器推進装置停止!目標海域にと到達し次第機関を停止して救助に入る!準備を急いで!」

 

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

 

はれかぜ艦内が慌ただしくなる。

 

 

 

角度が改変可能なカタパルトが起動し、大型スキッパー2台がクレーンで乗せられる。

 

 

 

 

「艦長…行ってください!」

 

 

「シロちゃん…!?」

 

 

 

「現場で指揮が執れる人間が必要です。私はスキッパーの運転は未熟なので……」

 

 

 

 

「で、でも……」

 

 

 

「今回はとても危険な任務です。本来なら出動した人間が無事に帰ってくる保証は無い」

 

 

 

「………」

 

 

 

「でも¨艦長¨なら!救助者だけでなく皆も一緒に連れて帰って来てくれる……違いますか?」

 

 

 

「シロちゃん……」

 

 

 

明乃には真白が言っている意味が解っていた。

 

 

 

敵の行動の先を見ることが出来る明乃であるなら、或いは救出に当たっている他のクルーの危険を事前に察知出来る可能性が高い。

 

 

 

しかし、当然ながらはれかぜの内部に居るよりも危険度合いは格段に上昇する事は言うまでもない。

 

 

 

ここで精神的主柱である艦長を失う事は、はれかぜその物を失うに等しいからである。

 

 

 

だが何れにせよ、他の者を行かせて犠牲者が出てしまえば、明乃の自身の心は間違いなく死を迎える。

 

 

 

 

真白としても苦肉の策だったのだろうが、彼女は明乃の可能性に賭けたのだ。

 

 

 

6年前もそうだった様に、晴風のクルーもウィルスに侵された比叡や武蔵のクルーも誰一人見捨てずに救い出した明乃の心に全てを賭けた。

 

 

 

そして明乃は心の中で全員の帰還を固く誓い、真白と正面から向き合って艦長帽を目の前に差し出した。

 

 

 

 

 

「宗谷真白副長、貴女に指揮を任せます。お願い……皆を護って!」

 

 

 

「はいっ!指揮を預かります!必ず護り通しますよ。貴女の帰る場所だから」

 

 

 

真白は踵を合わせて姿勢を正し、敬礼を明乃へと送った。

 

 

そしてそれに習う様に、艦橋に居る者が彼女に敬礼をする。

 

 

 

…いや、彼女達だけではない。

 

 

 

 

艦内のどの部所でも、同様に敬礼が行われていた。

 

 

 

【お願い…どうか死なないで欲しい】と

 

 

 

明乃は心の中に、はれかぜ全員の思いが入ってくるのを感じる。

 

 

 

(温かい……皆、ありがとう)

 

 

 

彼女はオーシャンブルーの瞳で一度艦橋を見渡し、ゆっくりと返礼を返した明乃は艦橋を走って後にする。

 

 

 

 

(岬さん……)

 

 

 

真白は想いを心の奥にしまい込み表情を引き締め声を張る。

 

 

 

「スキッパーの発進準備を急げ!手の空いた者は救助者の収容準備も進めるんだ!」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

真白の指揮の下、命懸けの救助が始まる。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「サトちゃん!役割を決めよう!サトちゃんは救命ボートの牽引をお願い!救助者を引き上げるのは……」

 

 

 

「私が行くよ!」

 

 

 

「レオちゃん!?」

 

 

 

麗央が息を切れさせながら走って来た。

 

 

 

「艦長、話は聞いてる。りっちゃん達がミサイル発射で出られないって。私だって…この時の為にスキッパーの免許取ったんだ!これなら二人で交替しながら臨機応変に救助出来る!」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「艦長!お願いだよ!私だって…こんな私だって役に立ちたいんだ!だから――」

 

 

 

 

「解ってるよレオちゃん」

 

 

「艦長……」

 

 

 

明乃はこれから死地へと向かうとは思えない程の穏やかな笑みを麗央へと向けていた。

 

 

 

 

「私はいつだって見えない所で努力して、どんなに挫けても立ち上がるそんな人一倍努力家なレオちゃんを――」

 

 

 

(あぁ…解った気がする。機関長が艦長を認めてる理由が……)

 

 

 

口調は違うかもしれない。

 

 

しかし、明乃の言葉には麻侖同様に嘘も飾りも存在しない、¨強い芯¨が存在していた。

 

 

 

 

《ハハハッ!腐るんじゃねぇよ!私はなレオ!人一倍努力してるレオを――》

 

 

 

 

 

「信じてる!」

 

《信じてるってんでぃ!》

 

 

 

そんな言葉を掛けられたら、答えずにはいられなくなってしまうのだ。

 

 

 

 

 

「ありがとう……艦長」

 

 

 

「うん」

 

 

 

「話は纏まったぞな?」

 

 

 

「うん。じゃあサトちゃんとレオちゃんは救助者をはれかぜとハルナさんの船体に運んで!私は――」

 

 

 

「来たよ」

 

 

 

「ハルナさん!」

 

 

 

ハルナがいつの間にか彼女達の後ろへと立っていた。

 

 

 

「行こう皆!」

 

 

 

聡子と明乃はスキッパーへと跨がる。

 

 

カタパルトが海へと伸ばされ、2台のスキッパーが海面へと着水した。

 

 

聡子は麗央と共に素早くスキッパーに救助用ボートを接続し、明乃にサインを送る。

 

 

 

頷きを返した明乃は、ハルナに視線で合図を送ると、スロットルを全開にして海へと飛び出ていった。

 

 

 

 

 

海上には、様々な残骸が散乱し通常ならスキッパーの運用すら困難に思われる状況の中、明乃は猛スピードでひた走る。

 

 

 

 

「次、六時方向に構造物の瓦礫」

 

 

 

「解った!」

 

 

 

ハルナのナビゲーションを受け、明乃は適格に障害物を回避して行く。

 

 

 

「ハルナさん、後ろの二人は?」

 

 

 

「心配ない、瓦礫を回避しつつ確実にこちらを追ってきている。敵の事も問題ない。私の船体とキリシマがはれかぜとお前達を最優先に護るよう迎撃している。お前は現場への到着に集中しろ」

 

 

 

「うん、ありがとう!」

 

 

 

「次、再び構造物。デカイぞ!回避を――」

 

 

 

「必要ない!捕まってて!」

 

 

 

キィイイイン!

 

 

 

 

明乃はスロットルを最大まで上げ、体勢を低くした。

 

 

 

そして構造物に近づいた瞬間、波に乗ると同時に体重を一気に横に掛けた。

 

 

 

バシュッ!

 

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

二人を乗せたスキッパーは¨空中¨を1回転しながら数十メートルも飛翔し、構造物を飛び越えて再び着水し、明乃は何事も無かったかの様に再び海を直進した。

 

 

 

「ハルナさん大丈夫?」

 

 

 

「あぁ……問題ない」

 

 

 

「一番近い救助者はどこにいるの?」

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

「2時の方角、672m先だ」

 

 

 

「解った!」

 

 

 

明乃はスキッパーの方向を替えて更に速度を上げた。

 

 

 

 

「あっ居た!誰が海に浮いてる!」

 

 

 

「間違いない。アレだ」

 

 

 

「待ってて!」

 

 

 

彼女のハンドルを握る手に力が入る。

 

 

 

徐々に救助者の姿が大きくなるにつれ、彼女の瞳が大きく見開かれた。

 

 

 

「あれは……もしかして!」

 

 

 

 

明乃ははやる気持ちを押さえ込んでスキッパーを前へと進めた。

 

 

   + + +

 

 

 

「何て戦いなんだ……」

 

 

ミーナ目の前の出来事がまるで夢の中で起きている様な錯覚に陥っていた。

 

 

無理もない。

 

 

異世界艦隊の戦いは彼女が知りうるどの技術をも根底から覆すものばかりだったからだ。

 

 

 

【これなら超兵器に勝てるかもしれない】

 

 

【助かるかもしれない】

 

 

 

そんな安堵感が彼女の脳裏を過った。

 

 

ソレがいけなかったのだ……

 

 

 

「うっ…い、意識が急に……」

 

 

 

ミーナの限界は当に超えていたのだ。

 

 

 

そこへ強力な力を持つ増援が現れ、緊張の糸が切れてしまっていた。

 

 

 

勿論、こんな所で意識を失えば彼女達の運命は決してしまう。

 

 

 

「テ…ア」

 

 

 

彼女は朦朧とする意識の中、無二の親友であるテアを抱き締めていた腕に力を込める。

 

 

 

何としてでも、救助が来るまで気絶するわけには行かない。

 

 

 

しかし――

 

 

 

「うっ…視界が…ボヤけて!」

 

 

 

気持ちこそ堪えられても、肉体がソレを許さない。

 

 

体力的に限界を迎えた彼女達には、北欧の海水は冷た過ぎるのだ。

 

 

 

容赦なく奪われる体温は、ミーナやテアの命を確実に削って行く。

 

 

 

「もう…ダメなの……か?」

 

 

 

彼女が諦めかけた時だった。

 

 

 

キィイイイン!

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

聞き覚えのあるエンジン音が聞こえた。

 

 

 

 

「スキッパーか?」

 

 

 

彼女は音のする方角を虚ろな瞳で見つめる。

 

 

視界がボヤけてハッキリと姿を捉える事は出来ないまでも、ソレは間違いなくこちらに向かって来ている事は理解できた。

 

 

 

 

「たす……けて」

 

 

 

彼女は残りの力を全て出しきって声を上げる。

 

 

 

 

諦めるなと友に言ったのだ、自分がここで諦めてなるものかと、ミーナはテアを片腕にしっかり抱き、もう片方の手を一心不乱に振った。

 

 

 

 

「お願いします、助けて!」

 

 

 

 

スキッパーの音がどんどん大きくなる。

 

 

 

そして――

 

 

 

 

「助け…て………」

 

 

 

ガシッ!

 

 

 

限界を向かえたミーナ意識が途絶える瞬間、彼女は人影を見た。

 

 

人影は手を延ばし、彼女の腕をつかんで引っ張り上げる。

 

 

 

その手の温もりを感じたミーナは遂に意識を手放したのだった。

 

 

 

視界が暗転する中、声が聞こえた気がした。

 

 

 

 

《大丈夫、生きてるよ!》

 

 

 

 

「あ…けの……」

 

 

 

 

そして彼女は完全に意識を失ったのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。

今回、実はもう1つキャラを登場させる予定が、文字数オーバーで出せませんでした。


次回は何とか出せるようにはしたいです。



それでは次回まで今しばらくお待ちください。


























とらふり!



真白
「はぅ~。か、艦長の残り香が…は、はぁ~!」


芽衣
「堪能してるね~♪」


真白
「はっ!西崎さん!?ち、違うんだ!こ、これは艦長から託された思いを再確認する上でだな…。」


芽衣
「往生際が悪いよ副長…。」



優衣
「そんな宗谷さんには、私の特別メニューをご賞味頂こうかしら。」



真白
「うわっ!藤田さん!?や、止めろ!もう私は騙されないし、屈しないぞ!」



芽衣
「二人に何があったか知らないけど、それフラグだよ副長…。」



珊瑚
「おっ!また楽しませてくれるのかい?」



真白
「す、杉本さんまで…。」



優衣
「では今回のメニューは…ジャジャァーン!バケツプリンですっ!」


幸子
「大きい…でも頂上のイルカさんマークが可愛いですぅ♪」



真白
「ふ、ふん!艦長の好みであるプリンを巨大化したくらいで、艦長を忠実に再現したなど…藤田さんともあろう人が、随分浅はかではないか?」



芽衣
「あっ、でも何となく解る。これミケ艦長だ!」



真白
「え?」


幸子
「艦長ですね…。」



「岬さんだね…。」



志摩
「うぃ!」



真白
「そんな…何でだ!?」



芽衣
「あれ?副長知らないの?艦長ってプライベートにカラメルとバニラエッセンスっぽい匂いの香水使うんだよ。」



真白
「そ、そんな…お洒落に興味無さそうな艦長が香水など…嘘だ!」



幸子
「う~ん。副長は学生の時も今も¨制服の時の艦長¨としか過ごした事無いからじゃないですかねぇ。」


芽衣
「うんうん。結構プライベートで艦長に色々相談する人多いよ。口も固いしね。それに本人はお洒落のつもりって言うか、長期任務で中々食べられないプリンの匂いに包まれてると幸せな気持ちになるって言ってたから…。」



真白
「ぐっ…未だ知らぬ艦長の秘密。私だけ知らないなんて…。」



優衣
「と言うわけで!さぁ宗谷さん!このプリンを味わって下さい!」



真白
「な、だってコレ只のプリンじゃないか!」




優衣
「ふふっ。今回は伊良子さん達の力を借りてね、岬さん御用達の特別仕様にしたプリンなのよ。」



真白
「何!?」



優衣
「全体的に香りを重視、甘さを少し控えめにしてカラメルに少量のカカオ豆を入れてビター味を表現したの。優しさの裏に少し影のある岬さんのイメージにピッタリでしょ?」



真白
「続けて…。」



優衣
「さ・ら・にっ!岬さんの出身地である長野の黄色いリンゴをプリンを食べる前段階に一口食べた貰うと…。」



サクッ!



真白
「いや、確かに旨いが只のリンゴだぞ?艦長の出身地の特産だからと言って、艦長自身を表現した訳じゃ…。」



優衣
「前段階って言ったでしょ?そしてここで第2段!シナモンパウダーをプリンにホンの一振りっと…。」



真白
「!!!?」


芽衣
「わぁ!何かアップルパイみたいな香りが部屋中に広がったよ!」



「あっ!何かフルーティーな香りが艦長の使うシャンプーの香りに似てる…。」



優衣
「そうなの!先ずは場の空気を岬さんその物にしていくのが重要なのよ!そして…6年経って大人になった岬さんを表現したこのプリンをすくって…っと。」



真白
「ゴクリ…。」


優衣
「はいっ西崎さん!」


芽衣
「パクッ!」


真白
「あっ…。」



芽衣
「うわぁ凄い!これ艦長だよ!」


優衣
「ささっ!皆も一口どうぞ!宗谷さんは食べないみたいだから。」


一同
「は~い!」


真白
「あっ、ぁああっ!」


優衣
「どう?宗谷さん。他の女の舌に岬さんが絡め取られる気分は…。」



真白
「い、いやぁ!」



優衣
「だったら自分の口でハッキリ言わなきゃ。でないとまた皆で岬さんを味わい尽くしちゃうわよ?」



真白
「わ、解った…。………します。」


優衣
「え?聞こえない!もっとハッキリ大きな声で言わないと聞こえないわ!」



真白
「岬さ…そのプリンは全て私が味わいます!だ、だからソレを私のはしたない口の中に…ブチ込んで下さい!」



優衣
「フフッ…良い子ね。じゃあご褒美に全部あげるわ。ホラ、そのはしたない口を開けて。盛大にブチ込んであげる。」



真白
「は、早く…焦らさないで!」


優衣
「はいはい…あ~ん!」


パクッ!



真白
「んっ!ん~~!ひゃああ!あっ……ぁっ……。」


ビクンッビクンッ!



優衣
「堕ちたみたいね…リンゴの酸味がプリンの甘さを引き立てたのよ。留めに来るビターな苦味も今の宗谷さんには劇薬でしょうし…。」


志摩
「うぃ…凄い反応。」


芽衣
「ただプリンを食べている副長を見ているだけなのに、なんか興奮するね…。」



珊瑚
「やぁ今回も面白かったよ。次回は何で落とすんだい?」



優衣
「そうねぇ~。」


幸子
「あっ、あの!」


優衣
「ん?どうしたの納沙さん。」


幸子
「わ、私も落としたい人が居るんです!幾らでも実験台になりますから!」



優衣
「覚悟は出来てる?下手すると戻って来れないかもよ?」


幸子
「はいっ!覚悟の上です!」



優衣
「じゃあ後で私の調理場に来て。フフッ…今日の夜は長くなりそうね…。」



珊瑚
「また面白そうなら呼んでくれよ?」



優衣
「解ったわ…必ずね。」


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灼熱の雷鳴   VS 超兵器

大変長らくお待たせ致しました。



ヴィルヘルムスハーフェン解放戦の中盤になります。



それではどうぞ。


   + + +

 

 

「大丈夫…ミーちゃん生きてるよ!」

 

 

「あけ…の……」

 

 

 

明乃の腕の中でミーナは意識を失った。

 

 

彼女はミーナと、蒼白な表情でハルナに抱えられているテアを見つめた。

 

 

 

 

「ハルナさん二人は?」

 

 

 

「今の所死んではいないようだ。内蔵にも損傷はない。だが、体温が通常人体から発せられる者よりも低い。心拍数も同様だ」

 

 

 

「低体温症かな…他には異常は?」

 

 

 

「私は人体の平均値を起点に判断したまでであって、人体の専門家ではない。実際、何らかの異常があったとしても私には判断しかねる。ミナミなら出来るのだろうが……」

 

 

 

 

「早く運ばなくちゃ……!」

 

 

 

「艦長~!速いぞなぁ~!」

 

 

 

遅れてやって来た聡子が慌てた様子でやって来る。

 

 

 

 

 

 

「サトちゃん!急いで!」

 

 

 

「あっ、もしかしてミーナぞな!?どうしたぞな!」

 

 

 

「大丈夫、息はある。それよりもテアさんの容態が心配!急いで美波さんの所へ連れていって!」

 

 

 

「わ、解ったぞな!」

 

 

 

明乃は聡子と麗央に二人を任せ、ハルナと共に救助者を探しに行く。

 

 

 

 

 

「効率が悪いな…アケノ、スキッパーに端末を設置出来る場所はあるのか?」

 

 

 

「う、うんココに有るけど……」

 

 

 

「効率性を試算した。私も海の上を走って救助した方が速い筈だ。画面に表示された黄色のマーカーは私が、緑のマーカーはお前が救助しろ」

 

 

 

「解ったけど敵はどうするの?」

 

 

 

 

「心配するな。私の船体にアケノとサトコのスキッパーを最優先に護るよう設定した。後部にクラインフィールドの足場を構築するから、被災者をそこに乗せてサトコが戻ってきたら引き渡せ」

 

 

 

 

「ハルナさんは大丈夫なの?」

 

 

 

「私の事は気にするな。メンタルモデルとは言え¨あれしき¨の敵に遅れは取らん」

 

 

 

「…解った。あとはれかぜに救助者全員を収容するのは無理かもしれない。もし良ければキリシマさんに軽傷の被災者を収容するように伝えて貰えないかな?サトちゃんには私から話しておくから!」

 

 

 

「了解した…甲板上をうろつかれてはキリシマも集中出来ないだろうから、艦内に被災者を収容出来るスペースを設ける旨も伝えておく」

 

 

 

「ありがとうハルナさん!」

 

 

 

「気にするな。では…行くぞ!」

 

 

 

 

「は、ハルナさん!?」

 

 

 

ハルナは時速150km以上出ているスキッパーの後部から跳躍し、そのまま海面を猛スピードで駆けて行く。

 

 

 

呆気に取られていた彼女だが、端末を運転台の中央にセットし、直ぐに前を向いて走り出した。

 

 

 

画面には救助者の他に、障害物のマーカーや敵のマーカーが細かく表示されていた。

 

 

 

言葉数は決して多い訳ではないが、表示画面からはハルナの意思が伝わってくる。

 

 

 

(同じ様な場所に纏まっている人を私が、散らばって点在している人をハルナさんが…か。よし!)

 

 

 

 

明乃は表情を一層鋭くしてスキッパーのエンジンスロットルを全開にした。

 

 

 

   + + +

 

 

明乃と分かれたハルナは、海面上を疾走しながら漂流した者の下へ向かっていた。

 

 

 

チ…チ…

 

 

 

(そこか…)

 

 

 

漂流者を捕捉した彼女は一気に加速する。

 

 

 

だが…。

 

 

 

(!?)

 

 

 

構造物の残骸に捕まって漂流していた市民の向こう側から、一機の航空機が接近してくるのをハルナは見逃さなかった。

 

 

 

 

(狙いは漂流者か、それとも私か…いや、どちらでも良い。来るなら……)

 

 

 

バシュウ!

 

 

 

 

敵機からミサイルが発射された。

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

漂流者は悲鳴を上げ、死を覚悟する。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「え!?」

 

 

 

ミサイルは漂流者の数十センチ手前でクラインフィールドに絡め取られて止まっていた。

 

 

ハルナは1秒にも満たない間に軌道を計算して弾き出し、即座に行動していたのだ。

 

 

 

「あうっ!?」

 

 

 

「暴れるな。直ぐに救命ボートに移送する。行くぞ!」

 

 

 

 

「うぐっ!?」

 

 

 

ハルナは漂流者を抱えたまま一気に加速し、捉えていたミサイルを反転させて放ってきた航空機に撃ち返し、爆音と共に航空機が粉々に四散する。

 

 

 

 

だが…

 

 

 

 

(チッ…次々とっ!)

 

 

 

 

 

10機以上の航空機がハルナに向かって接近し、一斉にミサイルやバルカン砲の雨を降らせてきた。

 

 

 

しかしこの状況に於いても彼女表情には一切の焦りは存在しない。

 

 

 

 

(私も舐められたものだ……)

 

 

 

 

チ…チ…チ…

 

 

 

 

ハルナは自身の真横にクラインフィールドを展開させ、それを蹴って自身の軌道を修正、殺到していた攻撃は海面に虚しく落下。

 

 

それと同時にハルナの船体から飛来したミサイルが、航空機達を粉々に砕いて行くのだった。

 

 

 

 

彼女は航空機達の事などまるで意に介さない様に疾走しながら、意識を戦闘海域へ移す。

 

 

 

 

(私が感知した生命反応は飽くまでも¨海上¨のものに過ぎん…沈没した艦船内の生存者の捜索は401の方が得意なのだが…。)

 

 

 

   + + +

 

 

 

「艦長、天照…攻撃を中止してムスペルヘイムの下へ戻って行きます!」

 

 

 

「させるな!杏平、1番に超音波振動魚雷装填、次、2番から5番!侵食魚雷装填、発射パターン任せる!」

 

 

 

「1番から5番!はいさー!」

 

 

 

 

 

401から次々と魚雷が発射され、天照はバルカン砲を乱射して魚雷を迎撃してきた。

 

 

 

 

「同じ手は何度も通じないか!」

 

 

 

 

「艦長!ムスペルヘイム内のエネルギー上昇率が高くなっています!」

 

 

 

 

「天照が旗艦に近付いているからだ。やはり牽引無しでは自身が巻き込まれかねないからだろう。」

 

 

 

 

「艦長やはりおかしいです……」

 

 

 

「どうした?静。」

 

 

 

「はい…この騒音の中、正確に迎撃できる筈は無いんですけど。」

 

 

 

 

「ドレッドノートか…イオナ、知名艦長に連絡を取ってくれ」

 

 

 

「うん…」

 

 

 

チ…チ…

 

 

『はい』

 

 

 

「知名艦長、そちらの状況はどうなりましたか?」

 

 

 

『それが…』

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

もえかは困惑の中にいた。

 

 

 

 

アームを接続して超兵器に張り付いていたタカオであったが、ドレッドノートはなんと¨航空甲板をパージ¨したのだ。

 

 

 

 

その後は音響魚雷で行方を眩ましたドレッドノートは沈黙を守っている。

 

 

 

 

 

『事情は理解しました。残念ながら敵はアームドウィング同様、装甲に探知されにくい材質を使用している様です。そこでですが、潜水艦である俺達がドレッドノートを追います。ですから知名艦長は浮上して天照の足止めをお願いします』

 

 

 

 

「合理的では有りますが、千早艦長は天照の相手をお願いできますか?」

 

 

 

『!!?』

 

 

 

「もえか!?」

 

 

 

タカオと群像は目を丸くする。

 

 

 

当然であろう。

 

 

 

適材適所の行動は基本なのだから。

 

 

 

しかし、重力砲発射への遅延行動こそが現状に於ける最善の策であるともえかは判断した。

 

 

 

 

「千早艦長は重力砲への遅延行動をお願いします!こちらは私達で食い止めます!」

 

 

 

 

『…解りました。気を付けて』

 

 

 

そうは言ったものの、実際苦手な相手である事は確かだ。

 

 

 

(どうしたものか……)

 

 

 

「どうするの?相手は潜水艦よ?水中戦闘は不利だわ!」

 

 

 

「うんそうだね…。相手はノーチラスと違って潜航時の戦闘に特化しているみたいだから」

 

 

 

 

「ノーチラスと違う?データでは同型艦になっているみたいだけど……」

 

 

 

 

「本当にそうかな?バミューダでの戦闘の記録からすると、ノーチラスは戦闘に特化した戦艦が潜航もできる艦艇ってイメージが沸くけど、ドレッドノートは潜水艦に戦艦並みの戦闘力を追加した艦艇に感じるんだ」

 

 

 

「一体その2つにどんな違いがあるの?同じな感じもするわよ?」

 

 

 

「ノーチラスは戦闘に特化している特性上、静穏性はまるでザルだった。逃げ隠れする必要が無いからだと思う。でもドレッドノートは…」

 

 

 

 

「うん…戦闘していると、まるで401と戦っているみたいな既視感に襲われるわ…何を考えているのか全く読ませない。」

 

 

 

 

「生粋の潜水艦なんだと思う。だから海中戦闘だけでなく海上にいる水上艦相手の戦闘にも馴れているんじゃないかな……」

 

 

 

「………。」

 

 

 

「でも…¨海中にいる水上艦¨相手の戦闘は不馴れな筈、このまま潜航して戦おう。」

 

 

 

「不利な状況には代わり無いわよ?」

 

 

 

「だからだよ。相手が私達に対して優位性を感じているなら、必ず狩りに来る。ムスペルヘイムの護衛に回られるのよりはマシだよ!」

 

 

 

「成る程…そう言う目的だったのね?解ったわ、指示を頂戴!」

 

 

 

「うん!」

 

 

 

二人はドレッドノートを引き付けるべく進んでいった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

海の上を、黒い雷雲が有り得ない速さで移動していた。

 

 

 

海上は波がうねり、暴風雨と大粒の雹が降り注ぐ正に嵐の様相を呈している。

 

 

 

 

その雷雲の中央には、爆撃音にも似た強烈な雷鳴すらも掻き消してしまう程の人工の轟音が鳴り響いている。

 

 

 

 

《……………》

 

 

 

雷雲に巣食う化け物は眼前を見詰めていた。

 

 

 

 

遥か海の向こうから輝く戦闘の光と、衝撃波の残響を感じながら…。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「ん……」

 

 

 

「どうした?イオナ」

 

 

 

「敵艦内部のエネルギーが再び上昇した」

 

 

 

「不味いな……」

 

 

 

群像の表情は険しい。

 

 

 

正直手詰まりな状況である事は確かだった。

 

 

 

たとえ401がフルバーストを使用したとしても、170kt以上の狂速を有する天照に追い縋る事は難しく、彼の艦がムスペルヘイムに到着した時点で次弾の重力砲が発射されてしまうのは必至であり、明乃達の救助が未だ半ばだと言う時に発射されれば、重大な被害を被り兼ねない。

 

 

 

群像は頭をフル回転させ、出した結論は…

 

 

 

「よし!いおり、¨フルバースト¨スタンバイ!」

 

 

 

『えぇっ!?さっき超重力砲使ったばっかなのに、まだ無理させるわけ!?』

 

 

 

「それにフルバーストを使ってもアイツには追い付けねんじゃねぇか?」

 

 

 

クルーが一様に疑問の目を群像へと向けるが、群像の目に迷いは無かった。

 

 

 

「このままでは埒が明かないなからな。天照を止めると言う発想自体が不可能であればムスペルヘイム本体に仕掛けるしか無いだろう?」

 

 

 

「ムスペルヘイムにって…まさか!」

 

 

 

「あぁ!そのまさかだ。これより我々は、ムスペルヘイムに対して奇襲をかける!」

 

 

 

 

全員の驚愕の眼差しが群像を見つめている。

 

 

 

勿論疑問を呈したのは杏平であった。

 

 

 

 

「まてよ!ムスペルヘイムに奇襲なんて出来んのか?」

 

 

 

「俺達は一度深く潜航し、天照を追撃する¨フリ¨をしてムスペルヘイムに突撃、杏平は天照の¨前方¨に超音波振動魚雷を撃って進路を妨害する」

 

 

 

 

「成る程…魚雷が発する泡を回避する為の潜航と突撃の同時敢行。重力砲の発射遅延に際しては正に一石二鳥ですね」

 

 

 

「しかしムスペルヘイムの強度は横須賀で戦った時よりも増していると思われます。一体どうやって攻めるんですか?」

 

 

 

「ふむ……」

 

 

 

彼は一呼吸を置いてから言葉を繋ぐ。

 

 

 

「防壁は超兵器全体の外縁にドーム状で発生する。つまり、空母部と本体との間は防御重力場の死角になるんだ。皆…ブラウン博士からの情報によると、ムスペルヘイム級超兵器には他の超兵器と決定的な違いがある…解るか?」

 

 

 

「超兵器機関の数…でしょうか?」

 

 

 

「静の言う通りだ。双胴であろうが単装であろが、搭載されている機関は一基のみとなる…しかし」

 

 

 

「そうか…ムスペルヘイム級は戦艦部の両脇にペーターシュトラッサー級超兵器空母2隻が接続されてる。つまりは実質大型超兵器3隻分の出力を持ってるって言いてぇんだろ?」

 

 

 

「あぁそうだ。そして小笠原での戦いで浮遊型超兵器が見せた超兵器機関の¨出力の譲渡¨とも言える行動がアレでは行われていると思われる。だが……」

 

 

 

「機関出力の譲渡には¨超兵器同士の物理的接続が必須¨…ですね?」

 

 

 

「あぁ。故に俺達は、フルバーストでムスペルヘイムの直下を通過し、出力を本体に送っていると思われるアタッチメント、計4ヶ所を侵食弾頭で同時攻撃。重力砲へのエネルギー供給を妨害する」

 

 

 

 

「「了解!」」

 

 

 

 

返答返した際には既に準備は始まっていた。

 

 

静が音波を、僧が潮流と敵の位置を分析、杏平が誘導パターンを導き、伊織が機関のリミッターを外す。

 

 

彼等は群像との会話の中から次なる行動を予測し、スタンバイに入っていたのだった。

 

 

 

 

そして全員の視線がイオナへと集まる。

 

 

 

 

「フルバーストモード、起動……」

 

 

 

チ…チ…

 

 

401後部の推進装置が展開し、重力子エンジンが唸りを上げた。

 

 

 

 

「フルバースト、エネルギー充電完了まで残り107秒……」

 

 

 

 

 

 

カウントダウンが始まるなか、群像は一同に自信に満ちた笑みを向けた。

 

 

 

 

「それじゃみんな…かかるぞっ!」

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「くっ…なんて数なんだっ!」

 

 

 

江田は額から汗が滲むのを感じていた。

 

 

 

 

ムスペルヘイムから発艦した航空機群は、陸に近い海上の救助をしていた真冬達だけでなく、スキズブラズニルにまで殺到しつつあった。

 

 

 

 

ウィルキアの上陸部隊は、トラックや重機を現場に搬入して瓦礫の下に埋もれた人の救出や怪我人の手当てを行っている。

 

 

 

そこへの攻撃は何としてでも阻止しなければならない。

 

 

 

 

ピィン!ピィン!

 

 

 

 

江田はセイランからレーザーを放ち、目の前の二機を瞬時に堕として旋回する。

 

 

 

眼下に見えるスキズブラズニルの回りにはヒュウガの船体が弾幕を張っていた。

 

 

しかし、大型艦を最大で10隻以上と多数の航空機と弾薬一式を格納可能で、尚且つ造船を始めとした各種製造施設、極めつけには多くの人員が寝泊まりできる居住区や軍の司令施設まで完備した巨大なスキズブラズニル全体をカバーするのは難しく、かと言って江田の一機で穴を埋めることも難しい状況であり、残るメアリースチュアートの航空部隊は真冬の護衛回っているとなると、最早手詰まりとしか言いようがない。

 

 

 

 

しかし…。

 

 

 

 

「ヒュウガさん…そろそろ限界です!お願いします!」

 

 

 

 

『了~解!』

 

 

 

 

スキズブラズニルにある屋外停泊場に白衣を靡かせたヒュウガが立っていた。

 

 

 

 

「フフっ…それじゃあ行くわよ!」

 

 

 

 

チ…チ…ヂ…

 

 

 

ガゴンッ!

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

江田はその様子に目を丸くしていた。

 

 

 

 

超巨大ドック艦スキズブラズニルの至る所からパルスレーザーの台座が顔を出し、更には数百以上にわたる垂直発射型のミサイル発射官のハッチがバタバタと音を立てて開いた。

 

 

 

次の瞬間…。

 

 

 

ピピピピピッ!

バシュオオオッ!

 

 

 

 

とてつもない数のレーザーと煙で巨大な船体を覆い隠してしまう程のミサイルが一斉に発射され、航空機達に向かって殺到した。

 

 

 

 

敵機は、急に放たれた攻撃に対処出来ず次々と爆散し、今の攻撃で堕ちた数百もの航空機の残骸が豪雨の様に海へと降り注いだ。

 

 

 

 

「す、凄い……」

 

 

 

『フフっ…珊瑚ちゃんと相談してスキズブラズニルを改造させて貰ったのよ。いい感じでしょう?』

 

 

 

―や、やり過ぎでは?

 

 

心の中での呟きつつ、彼はなかば呆れたように口を開いた。

 

 

 

「これ程の改造を良くガルトナー司令が許可なさいましたね…。」

 

 

 

『まぁ…期間限定って条件だけどね…場所も取るし。でも、ちょっとやり過ぎちゃったかしら。改造してたらなんか盛り上がっちゃって、当初の3倍位の武装を取り付けたから♪』

 

 

 

「さ、3倍……」

 

 

 

『でも、これで制空権は取った様な物だし、結果オーライよね☆』

 

 

 

(はぁ…司令の心労をお察しします……)

 

 

 

江田は深いため息を付き、ガルトナーに同情の念を抱きながら機体を旋回させ、残った敵の掃討に向かって行った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「群像…フルバースト、エネルギー充填完了…行ける」

 

 

「よし!静、シュルツ艦長に連絡は済んでいるか?」

 

 

 

「はい!気取られないよう善処すると返答が帰ってきています!」

 

 

 

群像は大きく頷き、手を前へとかざした。

 

 

 

「準備は整ったな…行くぞ!フルバースト!!」

 

 

 

キィイイン!

 

 

 

けたたましい轟音と共に401が猛烈に加速し、一気に最大速度である100ktに達する。

 

 

 

同時に杏平が超音波振動魚雷を深めの深度で発射。

 

 

発射音を感知した天照のバルカン砲が火を噴くも、周到に計算された深度を進む魚雷には直撃せず、天照を通過し彼の艦の前方へと達した魚雷は急浮上して炸裂、辺りの海域を気泡が覆って行き、沈没を恐れた天照は、それを急旋回で回避する。

 

 

 

 

「敵艦急旋回を開始!速度が低下しました!」

 

 

 

「かかった!杏平、1番と2番に通常魚雷!3番に侵食魚雷を装填!こちらの狙いが天照であると誤認させろ!その次、もう一度天照の進行方向に超音波振動魚雷!」

 

 

 

「はいさー!」

 

 

 

401から放たれる魚雷に、天照はまるで苛立っているかの様にあらゆる兵装を乱射し、彼等にプレッシャーを与えてくる。

 

 

 

しかし、それこそ群像達の思うツボなのであった。

 

 

 

ギリギリまで天照の近くに接近した401は、音響魚雷を発射して自身の姿を薄くする。

 

 

 

勿論、フルバーストモードの401が発する騒音は相当なものでは有るのだが、天照からの対潜攻撃の爆音や、超音波振動魚雷の気泡が、彼等の存在感を消してしまっていたのだ。

 

 

 

 

401は気泡の海の下を通過し、本命であるムスペルヘイムへと直進した。

 

 

 

海上ではシュペーアが幾度となくラムアタックで超兵器の注意を引き付けている。

 

 

 

この状況は正に絶好の機会であった。

 

 

 

天照自身も、そして海中から様子を伺っているであろうドレッドノートも、401の狙いは飽くまでも天照だとそう感じているに違いない。

 

 

 

だからこそこの奇襲は成功するのだ。

 

 

 

そう…。

 

 

 

奇襲される【ムスペルヘイム自身がそれに気付いて居なければ】…だが。

 

 

 

ヴォン…!

 

 

 

 

「!」

 

 

 

「どうした?イオナ。」

 

 

 

「…来る!」

 

 

 

「艦長、敵艦の艦首部分に高エネルギー反応!重力砲と思われます!」

 

 

 

「何っ!?速すぎる!」

 

 

 

ブリッジは困惑につつまれつつあった。

 

 

 

 

 

 

「おいおい…何でだよ!これじゃ奇襲どころか逃げないと巻き込まれるぜ!?」

 

 

 

「気付いていたんだ…。」

 

 

 

「何だって!?」

 

 

 

 

「奴は自身を過大評価していなかったと言う事だ。総旗艦直衛艦という立場、そして戦況を左右する重力砲の重要性。それを考えれば、俺達の狙いが天照でなく自分自身だと推測することも可能だろう」

 

 

「油断は無いと言う事ですね。不味いです…杏平の言う通り、このままでは重力の奔流に巻き込まれ兼ねません!」

 

 

 

「……」

 

 

群像は額から汗が頬を伝うのを感じていた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「艦長!重力砲が…!」

 

 

 

「くっ…速すぎる!」

 

 

 

ナギの悲鳴にシュルツの顔から血の気が引いて行く。

 

 

 

彼等が以前に戦った際のムスペルヘイムは、重力砲の再充填迄にかなりの時間を要していたからだ。

 

 

だが現在の彼の艦は、当時の1/3程度の時間で再発射を迎えようとしている。

 

 

 

このままでは、彼等も重力砲に巻き込まれる事は確実であった。

 

 

この事態には、流石の博士も冷静ではいられない。

 

 

 

 

「成る程、その手がまだ残っていましたか…。」

 

 

「どういう事です?」

 

 

 

「飽くまでも私見ですが、ムスペルヘイムは恐らく¨最大出力での発射を諦めた¨のでしょう」

 

 

 

「そ、そうか!出力を半分にすれば発射までの時間を稼げる。そして第一射でヴィルヘルムスハーフェンを壊滅出来なかった超兵器はプランBに作戦を変更、負傷者の救助に手を割かれれば戦力を分散を招き、ムスペルヘイム周辺には数隻の艦艇しかいなくなる」

 

 

 

 

「それだけでは有りません。現在の我々は、ムスペルヘイム周辺に集まりつつあります!この状況ならば、低出力で発射しても我々は重力に巻き込まれ、最悪は救助に当たっているブルーマーメイドの隊員や、護衛の航空機すら喰う事も可能です!」

 

 

 

 

「馬鹿な…無謀過ぎる!第一、牽引役である天照の到着を待たずに発射すれば自身も巻き込まれます!蒼き鋼の艦艇の多数が救助に回っているのであれば、ムスペルヘイムが消滅した超兵器など烏合の衆となってしまうと言うのに……」

 

 

 

シュルツが敵側の意図を理解できず困惑を露にした直後であった。

 

 

 

ナギが慌てて彼に駆け寄って来る。

 

 

 

その顔は蒼白になっており、新たな厄介事が転がり込んできたとシュルツに思わせるには十分過ぎた。

 

 

 

 

「ナギ少尉…何か?」

 

 

 

 

「かかっ、艦長!レーダーを…レーダーをご覧ください!」

 

 

 

「………!!?」

 

 

 

レーダーを覗いた彼はいよいよ参ってしまう。

 

 

 

 

北西の方向から接近するノイズは、新たな超兵器の襲来を告げるものであった。

 

 

 

そして何よりもその接近速度の速さにより、ソレが少なくとも¨航空機型超兵器¨は明白であり、はれかぜやスキズブラズニルが取った制空権すらも振り出しに戻ってしまう精神的なダメージが重なり、彼等を内側から疲弊させる。

 

 

 

「一体どんな超兵器なのでしょうか…?」

 

 

 

「考えなくても解る。あれは……」

 

 

 

 

視線の方向には黒い雷雲が見えていた。

 

 

 

いつの間にか周囲の海は荒れ、シュペーアは大きく揺れ始めている。

 

 

 

 

シュルツが記憶する限り、これらの気象現象を引き起こす航空機型超兵器は一つしか思い浮かばなかった。

 

 

 

そしてそれと同時に、頭に明乃の姿が浮かんだのだった。

 

 

 

 

(岬艦長…不味いな)

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「あっ…うわっ!」

 

 

 

明乃は急変した悪天候に翻弄されていた。

 

 

 

いかにスキッパーの操縦技術が優れていようとも、10mにまで達しようとする高波には太刀打が出来ない。

 

 

 

それでも懸命にスキッパーを波との狭間に滑り込ませ、転覆を防いでいた。

 

 

救助中の天候急変に対応する為の操縦訓練を習熟してからである。

 

 

 

 

(これじゃサトちゃん達も思うようには動けない…何とかしないと!)

 

 

 

 

ドサッ!

 

 

 

「は、ハルナさん!?」

 

 

 

ハルナが負傷者数名を抱えて戻ってくる。

 

 

 

先程迄なら直ぐに次の目標へと飛び出していった彼女が、そのまま明乃の後ろへと戻ってきた事が、¨何かあった¨事を鮮明に物語っていた。

 

 

 

 

「ハルナさんもしかして……」

 

 

 

「あぁ…重力砲が発射体勢に入ったようだ」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

 

明乃の中で急激な焦りが渦巻く。

 

 

 

先程から端末に表示されているマーカーが幾つか消えていた。

 

 

それは、救助するべき生存者が2度と戻ってこれない領域へと逝ってしまったことを意味している。

 

 

そもそも、荒れるような天候でもなかった状況が一変した事自体も納得がいかない。

 

 

 

 

まるで¨あの時¨の様であった。

 

 

 

 

逝くべき人ではなかった人々の死。

 

 

 

自らが両親の手を離れ、海に飛び込んだ時の冷たく孤独に満ちた絶望。

 

 

 

 

そして両親の最期……

 

 

 

 

 

(!!!)

 

 

 

 

それを頭に浮かべた時、同時に彼女頭には少し先の未来が見える。

 

 

 

 

(…………)

 

 

 

明乃は雷雲が迫り来る彼方の空を見つめた。

 

 

 

 

黒い雲と紫色に光る稲光、それを掻き分けるかの様に、異形のソレは雷雲の中から姿を現した。

 

 

 

 

全体的に藤色を基調とした機体配色と、細長い胴体から延びる2対のエンジンに繋がるアームがトンボやドローンを思わせる形状。

 

 

 

そして本体から延びるアームの先端に取り付けられた巨大な円筒状のジェットエンジンと、胴体下部にブラ下がる様に設置され、機体全体の1/3はあろうかと言う巨大なレーザー発射装置。

 

 

 

 

間違える筈も無かった。

 

 

 

 

超兵器の意思から見せられた両親に死を与えた元凶…。

 

 

 

かつて日本に於いては、不気味な鳴き声と共に雷を呼ぶ雷獣とも、不吉を呼ぶ妖怪とも言われた鵺の名が付けられた超兵器。

 

 

 

 

「フォーゲル…シュメーラ!」

 

 

 

 

 

明乃はその災禍を呼ぶ凶獣の名を口にした。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

【超巨大攻撃機フォーゲルシュメーラ】

 

 

 

 

シュルツ達の世界に於いて、ハワイ奪還作戦時に相対した超兵器である。

 

 

 

当時、米国は解放軍が撃沈した超兵器であるヴィルベルヴィントをサルベージして復元てワールウィンドと改名し、自国の戦力として接収。

 

 

ハワイの奪還を始め、超兵器の運用による帝国支配地域の奪還を主導的に行い、戦後賠償やその後の世界に対する発言力増大を目指して動き始めていた。

 

 

 

アメリカ西海岸に展開する帝国艦隊をワールウィンド率いる艦隊で撃滅した足掛かりを気付いた米国は、帝国が謎の超大型超兵器を建造している情報を入手し、自国の領土奪還と建造中である超兵器の奪取に向けて出発を開始した。

 

 

 

ところが……

 

 

 

米国艦隊はハワイに辿り着く事は無かった。

 

 

 

 

米艦隊との連絡途絶による調査の為に訪れたシュルツ達は、そこで奇跡的に漂流していた生存者十数名から聞き取りを行う。

 

 

 

それによれば、米艦隊は突如雷雲と共に出現した飛行型超兵器の巨大レーザー砲によって、ものの¨数分¨で超兵器ワールウィンドを含む全艦艇が轟沈したと伝えられたのだ。

 

 

 

 

その内容に解放軍関係者は驚愕したものの、当時の司令部は米艦隊がハワイの超兵器の奪取が目的であったことから、襲撃した超兵器がハワイの防衛を主として差し向けられたのではと推測。

 

 

 

同時に、世界規模でハワイに向けて物資が搬入されていた事から、建造されていた超兵器が帝国の切り札である可能性を危惧した司令部は早急に調査を開始。

 

 

敵の無線の傍受によってハワイから超兵器を日本の呉にて完成させるために輸送するとの情報を得たシュルツ達はハワイ攻略を命じられた。

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

情報は帝国が意図的流したものであり、超兵器の輸送は既に完了。

 

 

 

そして解放軍の襲来を予見していた帝国によって、超兵器フォーゲルシュメーラがハワイへと差し向けられたのである。

 

 

 

 

ジュラーヴリクやヴリルオーディン同様、三次元的で不規則な飛行と、超大型レーザー砲、通称【ホバー砲】に苦戦を強いられつつも、博士の懸命の分析によって辛くも勝利に漕ぎ着けたのだった。

 

 

 

 

それが今、戦線に加わったのである。

 

 

 

 

異世界艦隊の同様は計り知れないだろう。

 

 

 

 

なにせ、

 

 

 

・新たな超兵器の増加。

 

 

・自戦力の分散

 

 

・嵐による救助の難航

 

 

・重力砲の発射

 

 

 

これらを同時に対処しなければならないからである。

 

 

 

 

 

だが明乃に於いては、それに加えてもう一つ困難が待ち構えていた。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「うっ…くっ…あっ!」

 

 

 

明乃は猛烈な吐き気に苛まれていた。

 

 

 

理由は先程から頭の中で響く…。

 

 

 

 

《憎クカロウ?》

 

 

 

超兵器の意思からの声だ。

 

 

 

だが今回はソレだけではなかった。

 

 

 

 

《オイデ…オイデ…私ト遊ボウ…》

 

 

 

 

まるで、もの悲しげにヒィーヒィーと鳴く鳥の様な脳に響く不気味な声色、にも関わらず言葉からは惨禍に見舞われるこの状況を楽しんでいるかの様な不快さを感じる。

 

 

 

彼女には解るのだった。

 

 

これはフォーゲルシュメーラの意思なのだと。

 

 

 

そして同時に思うのだ。

 

 

 

十数年前のあの日、あのフェリーに乗っていた人達や両親は、そんな¨遊びの様な感覚¨で命を奪われたのか…と。

 

 

 

 

(………!)

 

 

 

明乃のオーシャンブルーの瞳が赤く濁って行き、抑えきれない程の強烈な怒りと憎しみに彼女はどうにかなってしまいそうだった。

 

 

 

 

《憎カロウ…お前の心をみたぞ…》

 

 

 

 

(黙れ…!)

 

 

 

 

《私ト遊ボウ…【アノ時】ノヨウニ》

 

 

 

 

「黙れぇええ!!」

 

 

 

 

「アケノ!?」

 

 

 

怨瑳の叫びを上げた彼女の異変をハルナは感知した。

 

 

 

 

 

(脈拍、血圧の上昇を検知…これは!)

 

 

 

チ…チ…

 

 

 

ハルナは急いで彼女の異変をはれかぜに伝えた。

 

 

 

 

その様なやり取りすら解らなくなってしまう程、明乃は我を失っていた。

 

 

 

 

 

《アァ…素晴ラシイ。コレ程迄ノ憎シミ、正ニオ前ハ超兵器ダ、岬明乃》

 

 

 

 

 

(私は人間だ!お前達と同じにするな!)

 

 

 

 

《果シテソウカ?》

 

 

 

(何が言いたい!)

 

 

 

 

《オ前ハイツノ間ニカ麻痺シテイルノダ。感ジタ事ガアルダロウ。助ケル者ヤ、ソノ死。ソレガマルデ【物】ヲ扱ウヨウニ感ジタ事ガ……》

 

 

 

 

 

(!!!?)

 

 

 

 

これは流石に効いた。

 

 

 

 

確かに、救助者やその死に関して、一つ一つ感傷に浸るわけにはいかない。

 

 

現場に於いては心を殺す事だってあった。

 

 

 

だが、自身は常に助けるべき人に寄り添って来た…。

 

 

 

《【ツモリ】ニナッテイルダケダロウ》

 

 

 

 

常に助けるべき者の顔を見て来た……

 

 

 

《ソノ顔ヲ見テ、助ケタ自分ニ酔ッテイタダケダロウ?》

 

 

 

 

(ち、違う!)

 

 

 

 

《オ前ノ抱イタ感情ハ、全テ欺瞞ニ過ギナイ。人ヲ殺ス兵器デスラモ、見方ニヨッテハ人民ヲ護ル神器ノ様ニ崇メラレル事モアロウ。オ前モ同ジダ……》

 

 

 

(や、やめて…!)

 

 

 

 

《人ヲ本心デ助ケテイル訳デハナイ。オ前ハ、人ヲ助ケル事デ己ノ価値ヲ引キ上ゲヨウト躍起ニナッテイタノダ》

 

 

 

 

(あ…あぁあAあアァa!)

 

 

 

憎しみや怒りを遥かに超える不安や恐れが彼女の心を喰って行く。

 

 

 

勿論そんなつもりは微塵も無かった筈なのだ。

 

 

 

しかし、¨もしかしたら自分は…。¨と言う僅かな心の揺らぎに付け入られてしまった。

 

 

 

《ソノ恐怖ヲ取リ去リタイカ?》

 

 

 

 

(……っ!)

 

 

 

 

《教エテヤロウ…。恐怖ヲ克服スルニハ、¨自ラガソノ恐怖ヨリ強大ナ恐怖ニナル¨シカナイ。知ッテイル筈ダ。先程モ私ニソノ感情ヲ向ケタダロウ?》

 

 

 

(うっ…グゥ…ガァッ!)

 

 

 

《ソウダ…。ソノ憎シミヤ怒リコソガ恐怖ヲ凌駕スル。サァ…身ヲ委ネヨ》

 

 

 

「あっ、アァ…」

 

 

 

 

本能のままに、怒りの赴くままに破壊する事を想像した時、明乃の全身に鈍い電流が流れた様な快感が走る。

 

 

 

もうこのまま、全てを委ねてしまっても良いと思えてしまう程に……

 

 

 

 

だが

 

 

 

 

「艦長ぉおお!」

 

 

 

 

(誰?どこかで聞いたことがある様な…)

 

 

 

 

虚ろな目で彼女は声の方角を見た。

 

 

 

 

ザッパァアン!

 

 

 

一隻の小さな艦が明乃の目の前に現れて停船し、艦橋の見張り台から一人の女性が身を乗り出してきた。

 

 

 

 

「艦長…み、岬さん!解りますか!?私です!宗谷…いえ、シロです!」

 

 

 

 

「シ…ロ…はっ!シロちゃん…!」

 

 

 

 

彼女の瞳から赤みが引いて行く。

 

 

 

 

(私いま、シロちゃんや皆の事も忘れて…)

 

 

 

 

冷静になると同時に、強烈な罪悪感と不安が彼女を再び襲う。

 

 

 

本来ならば、その隙を超兵器の意思に突かれる所でもあろう。

 

 

 

だが

 

 

 

「シロちゃん…私っ!」

 

 

 

 

「大丈夫です!岬さんは私達を忘れたりはしない。失わせたりもしない!だって…!」

 

 

 

 

「…!」

 

 

 

「私達は貴女の【家族】であり、【ここは貴女の帰る場所】だから!」

 

 

 

 

「!!!」

 

 

 

急に視界が開けた気がした。

 

 

 

体から力が湧き出し、感覚が研ぎ澄まされ、雨の一粒すらも鮮明に見える気さえしてくる。

 

 

 

彼女の心はまだ生きていたのだ。

 

 

 

明乃はオーシャンブルーの瞳を真白へと向けた。

 

 

 

 

「ありがとうシロちゃん。ううん…ありがとう、皆!」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

二人は互いに笑顔を向け、そして救助を再開しようと動き出そうとした時…。

 

 

 

ヴォン…!

 

 

 

 

「なに!?」

 

 

 

最凶の兵器が再び放たれたのだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

 +

 

 

「シュルツ艦長!重力砲の発射を確認!」

 

 

 

「401は!?」

 

 

 

「間に合いませんでした…」

 

 

 

「くっ…!等海域を一次離脱する!総員、準備急げ!」

 

 

 

 +

 

 

「群像…」

 

 

「ああ…。弾頭の発射を中断。このまま速度を維持して一次撤退する。」

 

 

 

 +

 

 

「真冬艦長!航空機を一次撤退させます!あなたも避難を!」

 

 

『ふざけんなっ!すぐそこで救助を待ってる奴がいるのに目の前で置き去りにしろってのか!?』

 

 

 

「既に救助した方も巻き添えにするつもりですかっ!?早く逃げるんです!」

 

 

 

『畜生っ!』

 

 

 

 

 +

 

 

「マジかよ!?おい一宮!聞いたか!?」

 

 

 

『あぁ…重力の範囲外まで撤退する』

 

 

 

「良いのか?俺達が離れりゃ下の奴らが…」

 

 

 

『モーリス、俺が何も思っていないとでも思っているのか?だが、命令は絶体だ。世界に未来が訪れる為にはな…』

 

 

 

「クソッたれがっ!」

 

 

 

 +

 

 

 

「ヒュウガさん!」

 

 

 

『待って…今、キリシマに準備させるわ』

 

 

 

『急に言われても超重力砲がそんな簡単にポンッと撃てるわけ無いだろ!?』

 

 

 

 

『演算を補助するからとっとと準備しなさいよ!でないと姉さまがっ!』

 

 

 

 

 

 +

 

 

 

「もえかっ!」

 

 

 

「解ってる…でも」

 

 

 

ドドォン!

 

 

 

「くっ…逃がさないつもり?魚雷が止まない!何とかしないと私達も引き摺られる!」

 

 

 

「ああっもう!早く艦長の所に助けに行きたいのにぃ!」

 

 

 

 +

 

 

 

方々で焦りや苛立ちの声が上がった。

 

 

その間、発射された重力砲は海へと着弾し、凄まじい力で周囲を巻き込み始める。

 

 

 

 

海上を漂流していた被災者の顔に絶望と諦めの色が浮かんでいた。

 

いや、もしかしたらこの場にいる者の大半がそうであったのかもしれない。

 

 

 

はれかぜの乗組員や明乃を除いて…。

 

 

 

 

「シロちゃん!」

 

 

 

「はいっ艦長!」

 

 

 

「救助を続けよう!スキッパーの後ろにいる人達をはれかぜに収容して!」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

「なっ…」

 

 

 

ハルナは思わず言葉を失う。

 

 

状況はどう考えても不利であるからだ。

 

 

 

「何故だ…重力砲が発射されたんだぞ?お前達だって危険だ!…なのに」

 

 

 

 

 

「私は諦めないよ。」

 

 

 

 

「何?」

 

 

 

 

「皆がこの瞬間、命を賭けてる。ウィルキアも蒼き鋼も、そして私達や助けを待っている人も、だから私は…。」

 

 

 

明乃はムスペルヘイムの方角を見据えた。

 

 

 

彼の艦はフォーゲルシュメーラから伸ばされたワイヤーに牽引され、重力の範囲外に逃れようとしていた。

 

 

天照の到着を待たずして発射に踏み切った理由はそれだったのだ。

 

 

 

しかし今は彼女にとってそれは些末な事であった。

 

 

自分はすべき事をする。

ただそれだけに集中すれば良い。

 

 

明乃はハッキリとした口調で声を上げた。

 

 

 

「私は人間であることも、欺瞞だと言われても助ける事も決して諦めない!」

 

 

 

 

彼女が心の底から宣言した直後であった。

 

 

 

《私がアレを抑えます》

 

 

 

「誰?」

 

 

 

とても美しい透明度の高い落ち着いた気高い雰囲気を思わせる女性の声。

 

 

だが、その声にはとてつもない絶望と悲しみ、そして諦めが含まれており、まるで明乃にすがるようなものさえ感じる。

 

 

 

しかし不思議と、明乃の心は恐怖を感じなかった。

 

 

その声が響いた瞬間、事態は急変を向かえる。

 

 

 

 

「なっ…重力が収まって行く?」

 

 

 

 

思わず声を上げたシュルツだけではなく、一同が驚愕を露にした。

 

 

 

「群像…今なら。」

 

 

「ああ…行けるぞ!杏平!」

 

 

「解ぁってるって!いつでも撃てるぜ!」

 

 

 

 

「航空隊引き返せ!弁天を援護するんだ!」

 

 

 

 

『有りがてぇ!是が非でも助けてやる!』

 

 

 

「タカオ!」

 

 

 

「了解!敵の位置はバッチリ把握したわ!」

 

 

 

事態の沈静化に呼応するように、異世界艦隊が息を吹き返す。

 

 

 

《貴様…マサカ私ヲ¨逆ニ侵食¨シテ来タト言ウノカ…》

 

 

 

《理解出来ナイ…カツテ主ニ最モ深イ寵愛ヲ受ケタ貴女ガ…》

 

 

 

あらゆる意思が明乃の頭に飛び交う中、その声だけは明乃に向かって放たれる。

 

 

 

《また…■■■■■に抑え込まれる…。その前に、完全に私の意識が■える前に辿り着いて北■■へ…そして》

 

 

 

 

(………)

 

 

 

《お願い…。私ヲ■めて、全てを■らせて…》

 

 

 

 

 

声はそれきり途絶えてしまう。

 

 

 

しかし…。

 

 

 

 

「特異点…完全に消失!」

 

 

「401に作戦の継続を伝えろ!」

 

 

 

『既に行っております。任せて下さい!』

 

 

 

「千早艦長!」

 

 

 

事態は¨重力球の不発¨と言う奇跡的な状況によって、動き出していた。

 

 

 

フルバーストを掛けていた401がムスペルヘイムに追い付き、直下で侵食弾頭を発射、空母を本体と繋いでいるアームを完全に破壊した。

 

 

 

 

これにより、ムスペルヘイムの重力砲発射までの充填時間が大幅に遅れる事になる。

 

 

 

これは、救助を急ぐ明乃達ブルーマーメイドには正に朗報であった。

 

 

 

 

「シロちゃん急ごう!次の発射までに全員を救助する!」

 

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

彼女達は再び動き出す。

 

 

 

 

先程の声の主が誰なのかは解らない。

 

 

 

だが、明乃は思うのだった。

 

 

自分は必ずあの声の主と会わねばならいのだと。

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェンを舞台にした戦いは後半へと突入して行く。




お付き合い頂きありがとうございます。


重力砲発射で場が荒れている中でのミケちゃんの仇、フォーゲルシュメーラの登場や、黒ミケの再来など色々詰め込んだ回にになりましたが、鋼鉄ファンの間で超兵器と言われた超巨大ドック艦…いや、超巨大水上要塞と言われたスキズブラズニルを活躍させることが出来ました。




果してミケちゃん達の今後は如何に…。



次回まで今しばらくお待ちください。




業務連絡ですが、今まで虫食い状に投稿していた【とらふり!】を今回と1.5章を除く本編後書きの全てに書きましたので、宜しければご覧ください。


今回のとらふりについては次話の投稿時に掲載させて頂きます。




それではまたいつか。



























とらふり!  1/144ちょうへいきふりいと



シュトウルムヴィント
「流石はフォーゲルシュメーラ。敵は混乱の真っ只中ですよ!」



アルケオプテリクス
「まぁ奴は航空機型でも異質だからなぁああ!そう簡単には落とせんぞぉぉ!」



シュトウルムヴィント
「あなたも随分変わっていると思いますが……」


アルケオプテリクス
「なんだとぉおおお!」



シュトウルムヴィント
「ギィヤアア!」



播磨
「まっ…それは置いといて、なんか敵の中にヤバイ奴がいたね……」



荒覇吐
「スキズブラズニルって奴ね?只のドック艦だけど、前の世界でも私達がいる海域にいながら悉く無傷だしね……」



近江
「初期の頃と比べると随分巨大になったわね。2倍……いや、3倍位の大きさじゃないかしら」



ナハトシュトラール
「各国からの支援と、その要望に答えるために継ぎ足して多様な施設を増設したからかしら。更に、対空や対艦装備を実装したことで超巨大水上要塞艦と化したみたいね……」




グロースシュトラール
「第二次大戦中の工作艦や補給艦の撃破は、ある意味戦艦撃破よりも重要だったって話よ?私も何度も解放軍の拠点であるアレを沈めようとしたのだけれど、何故か無傷なんだよねぇ……」




播磨
「もうある意味超兵器だよねアレ……」



荒覇吐
「そうね……私も途中から沈める気力すら無くなったわ。だってアイツ異常に堅いし……」


近江
「沈めた私達の一部から、防壁や装甲の一部を継ぎ足したのかもね」



播磨
「やっぱり超兵器じゃん!」



グロースシュトラール
「そう言う認識で良いのかもね……まぁそれでも直衛旗艦がいらっしゃるわ。私達はドンと構えて事態を見守ろうよ」



一同
「は~い!」





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灼熱のinterlude  VS 超兵器

大変永らくお待たせいたしました。


ヴィルヘルムスハーフェン解放戦の最終話になります。



それではどうぞ


   + + +

 

 

 

 

海中を進むタカオに激震が走った。

 

 

 

見失っていたドレッドノートは、先程のムスペルヘイムの重力砲発射を妨害しようとした401を支援しようと舵を切ったタカオに魚雷を発射した事で位置を完全に特定した¨筈¨だった。

 

 

 

ところが…

 

 

タカオが魚雷の発射地点へ撃ち込んだ多数の弾道は、巨大であり被弾面積が大きい筈の超兵器に直撃する処か、海中を虚しく進んで行くばかりだったのである。

 

 

 

これらの意味する事は一つしか考えられない。

 

 

 

 

「ドレッドノートはソコには居ない…」

 

 

 

「どうしてよ!」

 

 

 

「待って、冷静にならなきゃ…タカオ、千早艦長に連絡を取れる?」

 

 

 

 

「かかっ〃〃、艦長と!?」

 

 

 

「うん」

 

 

 

顔を真っ赤にするタカオに構わず、もえかは思考を回転させて行く。

 

 

 

 

『知名艦長、何か?』

 

 

 

「はい。私には潜水艦のノウハウが足りない…あなたの知恵を貸してください!」

 

 

 

 

『解りました。詳しい状況を教えて頂けますか?』

 

 

 

事ここに至るまでの経緯を聞いた群像は過去の経験を思い起こす。

 

 

 

『どうですか?』

 

 

 

「敵の使ってくる魚雷の種類を、我々は完全に把握はしていませんが、相手はあなた方が出す音を正確に記録して攻撃している様ですね」

 

 

 

『音…ですか?』

 

 

 

「はい。魚雷の種類の中には特定の周波数を放つ音波に反応して誘導するタイプの物が存在します。機関出力高いタカオの重力子エンジンの騒音は、クラインフィールドだけで完全に消す事は困難でしょう」

 

 

 

『じゃあ、相手は私達のエンジンや航行音を記録して、攻撃を仕掛けてきていると?でも、それだけでは発射地点に相手が居ない理由にはならないのではないでしょうか?』

 

 

 

 

「魚雷発射官の注水音や射出音は聞こえましたか?」

 

 

 

 

『どうだった?タカオ…』

 

 

 

『いえ、聞こえなかったわ』

 

 

 

「成る程な…。これは専門家の杏平から説明してもらった方が良いでしょう。頼めるか?」

 

 

 

「ああ」

 

 

 

杏平はスピーカーに身体を向ける。その表情はいつもの飄々とした態度とは違い、砲雷長としての引き締まった顔であった。

 

 

 

「魚雷の使い方は千差万別だ。敵を沈める為ってのが大半の理由にはなるが、馬鹿正直に撃って当たるものでもねぇからな」

 

 

 

『………』

 

 

 

「つまり…だ。魚雷は陽動や撹乱にも使えるって話なんだ」

 

 

 

『陽動…?』

 

 

 

「そうだ。アンタら多分こう思ってるんじゃねぇか?¨魚雷の発射地点には必ず本体がいる¨ってな」

 

 

 

『え!?』

 

 

 

図星を突かれたもえかとタカオは一瞬狼狽える。

 

 

 

やっぱりな…

 

杏平は溜め息をついてからゆっくりとした口調で話を進める。

 

 

 

「魚雷には発射以外にも¨射出¨と言う手段があるんだ。発射官内部の圧縮空気圧を調整すれば、海中に魚雷を¨置いて行く¨事は可能だ。ここからは俺の私見だけどよ。その魚雷は射出だけじゃ走行はせずに、特定の音紋を検知するとスクリューが起動するように設定されているのかもしんねぇな…恐らく敵さんは、戦闘で発生した騒音の最中に姿を眩ましながら魚雷をバラ撒いたんだろうぜ。言うならば、音に反応する機雷みたいな物か?」

 

 

 

 

『成る程…だとすれば発射地点に撃ち込んでも反応が無い事に得心はいきますね…』

 

 

 

「今の杏平の言、そしてソナーに対して超兵器の反応が無い事推測するならば、ドレッドノートの居場所は…」

 

 

 

『反響音に紛れ易い海底付近ですね?』

 

 

 

群像は大きく頷く。

 

 

 

「そう考えるのが自然でしょう。どことまでは言えませんが、後は相手を誘き寄せる事が出来れば、攻撃を加える事が出来るかもしれません」

 

 

 

『解りました。やってみます。あっ、あの…』

 

 

 

「何か?」

 

 

 

『401はしばらくの間、フルバーストの反動で目立った動きは出来ないんですよね?』

 

 

 

「お力になれず申し訳ありません…」

 

 

 

『い、いえっ!そう言う意味ではなくて…潜水艦の401なら、海中に沈んだ艦艇から生存者を救助出来るのでは…と』

 

 

 

「成る程…解りました。こちらでも出来る限りの事はします。知名艦長もお気を付けて…」

 

 

 

『ありがとうございます』

 

 

 

通信を終えた群像にクルー達の視線が集まり、彼は頷く。

 

 

 

「聞いての通りだ。救出の完遂は、ハルナ達の戦線復帰や、こちらの高威力の兵装にも繋がる。イオナ、沈没艦内部へ侵入しての救助を頼みたい。出来るか?」

 

 

 

「うん…やってみる。」

 

 

 

「よしっ!ではかかるぞ!」

 

 

 

401はゆっくりと動き出した。

 

 

一方のタカオも、事態の打開に向けて姿を眩ましたドレッドノートの追撃を開始、群像達のアドバイスを受けた彼女達は不用意な動きを避けて機関を停止し、海中を漂っていた。

 

 

 

(ムスペルヘイムの本体が空母と切り離された今、重力砲をもう一度放つ時間を長時間作る必要がある…となると超兵器の動きは一つかな…。)

 

 

 

そう、単艦ですの重力砲の発射に時間を要する以上、他の超兵器は異世界艦隊に対して損傷を与えようと動き出すだろう。

 

 

何故なら、人的な被害や物理的損傷には人手が必要であり、旗艦にたいする攻撃が緩むと考えているからだ。

 

 

 

だとすれば、ドレッドノートが水中での騒音が激しい格好の的であるタカオを見逃す筈は無いのである。

 

 

潜水艦の乗艦実習が存在する男子校ならいざ知らず、水上艦での任務を主としているブルーマーメイドでは水中での戦闘は勿論想定しておらず、また仮に潜水艦の実習を受けていたとしても、100年以上もの平和は、実戦経験と言うものを完全に失わせてしまっている。

 

 

潜水艦に乗れたからと言って、水中戦闘をこなせる訳も無いのだ。

 

 

 

圧倒的な不利に置かれるもえかは、ある意味航空機との戦いよりも未知な状況の中で思考を広げて行かねばならない。

 

 

 

 

「海底と言っても範囲が広すぎる…タカオ、ドレッドを見失ってから今までの間、相手の最大速度や潜行速度を考慮して潜伏出来る範囲を絞り込める?」

 

 

 

 

「やってみるわ」

 

 

 

チ…チ…

 

 

 

モニターに表示された潜伏可能範囲を見つめながら、彼女は思考を巡らせて行く。

 

 

 

相手の姿が見える水上戦闘では、敵も味方も状況によって随時作戦を変更し、艦長は臨機応変な対応を迫られる。

 

 

しかし、相手の見えない水中ならどうだろうか…

 

 

先に音を発した方が負けとも言える状況で、いかに相手に痺れを切らせて動かせるかに勝敗は左右される。

 

 

だが、重力砲と言う縛りがある以上、必然的に仕掛ける側にまわってしまうタカオは不利以外の何者でもない。

 

 

 

であるならば、彼女達の一手は確実に相手の損傷ないし撃沈に直結していなければならないのだ。

 

 

 

 

(闇雲に撃っても、こっちが超兵器の位置を把握してない事を露呈するだけか…なら!)

 

 

 

彼女はタカオに、装備されている弾頭兵器全てのリストを表示させる。

 

 

 

 

「やっぱりコレしかないかな…」

 

 

 

「超音波振動魚雷!?」

 

 

 

タカオが疑問に思うのも無理はなかった。

 

 

この魚雷は水上艦を足止め、もしくは転覆を目的に作られている。

 

 

 

更に大量の気泡はソナーの感度を落としてしまう事を鑑みれば、ドレッドノートの居場所を探る為の行為としては不的確である事は言うまでも無かった。

 

 

だが、タカオには彼女が確かな糸口が見えている様にも感じていた。

 

 

 

 

「コレで超兵器をなんとか出来るのね?」

 

 

 

「うん…でもその前に下準備をしなくちゃ―頼める?」

 

 

 

「ええ、いいわ」

 

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

事態の急変は救出組にも影響を与え始めていた。

 

 

 

 

ムスペルヘイムが3つに分裂した事で、フリーになった天照がハルナやキリシマにも猛威を振るい始めたなのだ。

 

 

 

ビギィイイイ!

 

 

 

 

 

メンタルモデルのいないハルナの船体が発生させたクラインフィールドに、彼の艦のドリルやチェーンソーが接触して火花が散る。

 

 

 

「くそっ!は、ハルナ!まだ終わらないのか!?流石に私一人じゃ抑えきれないぞ!」

 

 

 

『目標の87%の救出を完了した。残り847秒…いや、私が戻る時間をいれれば1279秒は欲しい―稼げるか?』

 

 

 

 

「了解!」

 

 

 

とは言ったものの…。

 

 

 

キリシマは眉を潜めた。

 

 

 

被災者を内部に収容しているキリシマは、いつもの様な機動力を発揮できない状態でハルナの船体の防衛や救出組の支援、そして航空機の掃討を一手に引き受けなければならない。

 

 

 

 

攻撃一辺倒であった彼女には正直辛いものとなるだろう。

 

 

 

しかし…

 

 

 

「フンッ!私だって散々経験値を上げたんだ!少しばかりの時間なんとかしてやる!」

 

 

 

 

キリシマは、ハルナに食らい付く天照に有りったけの砲撃を喰らわせて行った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

海底に潜むドレッドノートは、タカオの狩る機会を伺っていた。

 

 

 

完全に姿を眩ませてしまえば、重力砲の再発射と言う縛りのあるタカオは先手で動かざるを得ず、自分は動き出した瞬間に敵の位置を割り出して攻撃を加えるだけなのだから。

 

 

 

しかし……

 

 

 

 

カシュッ…フィイン!

 

 

 

 

複数の魚雷走航音が突如として聞こえた事に彼の艦は身構えた。

 

 

 

 

だがその憂いは、あらぬ方向に向かって行く音波を関知した瞬時に消え失せる。

 

 

 

タカオは自身の位置を完全に把握しておらず、自身を炙り出す為の陽動である事は明白だからだ。

 

 

 

そう、この魚雷が通常の魚雷ならば……だ。

 

 

 

次の瞬間、起動した魚雷は大量の気泡を広範囲に撒き散らし、ドレッドノートは聴覚を完全に掻き乱された。

 

 

 

 

しかし彼の艦は動じない。

 

 

 

これまでの自身の行動から、タカオが自身の位置を割り出していると言う根拠がまるで無いのである。

 

 

 

現にこうしている間も、魚雷やミサイルが襲ってくる様子は見られない。

 

 

 

だが相手が無意味な行動をするとも思ってはいなかった。

 

 

故に彼の艦は思考を巡らし、事の発端となった魚雷音波に存在する違和感に気付いたのだ。

 

 

 

正確に言うなら、¨有るべき筈の音が無い¨のである。

 

 

 

それは、魚雷発射官を開く音と発射音の二つだ。

 

 

 

 

彼の艦の分析が確かならば、あの魚雷は海中からいきなり動き出した事になる。

 

 

 

だとすれば、少なくともタカオは魚雷が走航音を発した付近には存在していない事を意味していた。

 

 

 

《………》

 

 

 

急浮上した懸念に彼の艦は疑心暗鬼に陥る。

 

 

既に狙われているのであれば今動くべきであろう。

 

 

だが陽動であるなら動いたら沈められる。

 

 

 

皮肉な事に、姿を潜ませた事によって彼の艦は現在の位置に釘付けにされてしまったのだ。

 

 

 

ドレッドノートは、魚雷とミサイル発射官の一部に量子弾頭を搭載した兵器に切り替える。

 

 

 

これならば、自身も特異点に引き寄せられる変わりに相手も重力の虜となり、必然的に互いの距離が近付いて動きが見えやすくなる。

 

 

場合によっては刺し違える事だって出来るであろう。

 

 

 

 

だが、相手は一向に撃ってくる兆しは無い。

 

 

 

彼の艦が、今回の魚雷攻撃を陽動だと結論付けようとした時、事態は動いた。

 

 

 

 

最後に起動した魚雷によってばら蒔かれた気泡がドレッドノート周囲にまで及び、彼の艦は急激に浮力を失って急激に落下した超兵器の巨体を海底の岩礁に思いきり接触させてしまったのだ。

 

 

 

ガゴンッ!

 

 

 

 

彼の艦は躊躇わなかった。

 

 

気泡による浮力の低下で海底に船体を接触させて位置を割り出すという敵であるタカオの真意だったのだ。

 

 

 

最早相手には自身の位置が完全に割れている以上、超兵器ノイズによる位置の露呈を顧みずエンジンを一気に全開にしてその場からの離脱をはかるより他はない。

 

 

 

だが……

 

 

 

浮力の低下した超兵器の巨体は一向に浮上する気配は無く、このままでは袋叩きになる事は必至であった。

 

 

 

ドレッドノートは、思考を全力で巡らせて事態の打開を模索する。

 

 

 

 

《……!》

 

 

 

最早この手しか残されてはいなかった。

 

 

 

彼の艦はミサイル発射官に装填された量子弾頭弾を自身の直上へと発射、弾頭は海面付近で起動し、強力な重力が超兵器の巨体を真上へと押し上げる。

 

 

 

だが、それだけではない。

 

 

 

これは言わば、タカオを葬る最後の好機となる。

 

 

 

 

状況からすれば、あらゆる攻撃をも捉えてしまう強力な重力に唯一対応しうる兵器である超重力砲をタカオは使わざるを得ない。

 

 

例え自身に大きな隙が生じてしまったとしてもだ。

 

 

 

であるなら、気泡や重力の奔流が発する騒音と、タカオ超重力砲発射直後の隙を突いて突撃を敢行するより他はない。

 

 

 

 

彼の艦は、大半のエネルギーを推進装置に集中させて機会を伺う。

 

 

 

 

ゴォオオオ!

 

 

 

 

《……!?》

 

 

 

彼の艦のセンサーが超重力砲の波長を検知する。

 

 

 

 

それによって相手の位置を完全に割り出したドレッドノートは、攻撃体制に入った。

 

 

 

 

《荘厳ニシテ勇敢ナル、コノ忠誠……。冷厳ナル魂ハ必ズヤ坑魔の剣トナッテ汝ヲ討チ果タスダロウ。今、ココニ我ガ宿命ヲ果タサン。アア…艦隊旗艦ノ騎士タル我レニ、主ノゴ加護ガアラン事ヲ……》

 

 

 

 

チャンスは超重力砲が発射され、量子魚雷の特異点が消失して彼の艦が重力の呪縛から解放される僅か時間に掛かってはいるが、その実タカオは対応しきれない筈だ。

 

 

 

 

ところが……

 

 

 

ビジィイ!

 

 

 

 

《!!?》

 

 

 

突如として、彼の艦の船体に何かが衝突し、その一部を完全に抉り取ってしまったのだ。

 

 

 

 

この攻撃は間違いなく侵食魚雷によるものである事は明らかだろう。

 

 

 

 

更に……

 

 

 

複数の侵食魚雷が、次々とドレッドノートの無防備な船体に着弾して船体を抉り、大量に入り込んだ海水によって身動きが取れなくなってしまう。

 

 

 

 

このままでは、自身が発射した量子魚雷の特異点に呑み込まれてしまう。

 

 

 

彼の艦は推進装置を全開で起動しようとした。

 

 

 

 

ところが、装置はまるで¨消滅¨してしまったかの様に起動どころか反応する気配すらない。

 

 

 

 

何が起こっているのか理解が追い付かないまま、ドレッドノートの船体が重力とタカオの攻撃による損傷で不快な軋みを上げながら瓦解して行き、対する敵の超重力砲の特異波長がみるみる大きくなって行く。

 

 

 

 

《……!》

 

 

 

彼の艦は、飛行甲板のパージ後に甲板に出現させた巨大砲塔をタカオへと向ける。

 

 

 

それが、護るべき旗艦に対する忠誠と勇敢さの証明であると言わんばかりに……

 

 

 

 

しかし、無情にも主砲の発射の直前に、重力によってくの字に折れ曲がった砲身の内部で砲弾が起爆し、爆圧がドレッドノートの艦内を引っ掻き回した。

 

 

 

次々と発生する誘爆と重力によっては船体は原形を留めない程にバラバラになり、瓦礫すらも残らず量子魚雷の特異点へと吸い込まれて行く。

 

 

 

直後……

 

 

 

タカオが発射した超重力砲によって、超巨大潜水戦艦ドレッドノートは原子レベルすら残らない程完膚無き迄に消滅してしまうのだった。

 

 

   + + +

 

 

(獲った……!)

 

 

レーダーから超兵器ノイズが消滅したのを確認したもえかは確信に満ちた表情で拳を強く握り締める一方、タカオは唖然とした表情を浮かべていた。

 

 

 

「凄い……」

 

 

 

彼女は、人間による戦術を改めて目の当たりにした。

 

 

 

もえかは、発射に際する音を超兵器に悟られない為、予め複数の超音波振動魚雷と侵食魚雷をナノマテリアルで¨艦外¨に精製することを指示し、そして超音波振動魚雷を遠隔操作で任意の位置に配置してから起動させた後に、浮力を失った超兵器が海底の岩礁に衝突するよう仕向けたのだ。

 

 

 

ここまでなら、彼女も対して驚きはしなかったであろう。

 

 

現に彼女は、超兵器が海底に衝突した音を関知し、その地点への攻撃準備に入っていた位だ。

 

 

ところがもえかは、海中に精製した侵食魚雷の発射を指示しないばかりか、彼女にいつでも超重力砲を発射出来る態勢を整えるよう指示したのだ。

 

 

 

彼女はもえかの考えが全く理解できなかった。

 

 

 

今回に於いては、力による突撃ではなく、きちんと手順を踏んだ上で自身の位置を露呈させずに敵をいち早く発見したのだ。

 

 

今攻撃せずしていつするのだと内心苛立ちすら覚える。

 

 

 

 

だが、もえかは更にその先の結末までも読んでいたのだ。

 

 

 

 

ドレッドノートは量子魚雷を使用して海底から浮上を開始し、タカオの船体も特異点の中心へと引き摺られる。

 

 

 

焦りがタカオを支配する中、もえかは至って冷静に状況を注視してその時を待つ。

 

 

 

そして、超兵器が重力から自力で逃げられる限界まで浮上した時、行動を開始した。

 

 

 

超重力砲の発射態勢に入ったタカオに、今まで海中を漂わせていた侵食魚雷を、ノイズの中心へ全て叩き込む様に指示し、騒音と超重力砲に気を取られていた超兵器を強襲したのだ。

 

 

 

 

バミューダでの戦闘を事前に記録された映像から分析を済ませていた彼女には、潜航型超兵器は自身が撃沈の危機に瀕した際に量子兵器を使用する確率が非常に高くなるとの確信があったからだ。

 

 

 

 

(これが人間の¨予感¨と言うものなのかしら。だとすればこれを実装すれば私も……)

 

 

 

想い人の隣へ行けるかもしれない。

 

 

 

だが、彼の隣には強い絆で結ばれたパートナーが存在する。

 

 

 

彼女が入り込む隙間すら無い程に……

 

 

 

であるなら、自身が彼を振り向かせる方法は、もっと経験値を上げて彼と共に並んで歩める様な存在に自分を高めて行く他はない。

 

 

 

 

(もえかとなら……)

 

 

 

群像と重なる部分のある彼女となら、それが可能なのかもしれないと思った。

 

 

 

 

二人は見つめ合い、共に前を見据える。

 

 

 

「行こうタカオ!」

 

 

「ええっ!」

 

 

 

船体を翻したタカオは、次なる戦場へと向かって行く。

 

 

 

   + + +

 

 

シュルツの表情に焦りの色が濃く現れ始めていた。

 

 

 

三つに分離したムスペルヘイムを追っていたシュペーアに対して、フォーゲルシュメーラが牙を向いてきたからだ。

 

 

 

縦横無尽に動き回り、攻撃を回避した超兵器から複数のブイのような物が投下される。

 

 

 

「敵機、レーザーユニットを投下!」

 

 

 

「それだけに気を取られるな!常に上空にいる奴の位置を把握し続けろ!」

 

 

 

 

フォーゲルシュメーラが投下しものはブイではなく、本体とは独立したレーザーユニットだったのであった。

 

 

 

この兵器こそ、幼い明乃が乗っていたフェリーを沈没させ、彼女の両親が命を失う原因となった兵器なのであり、同時に海上に浮遊する光学兵器と空中に滞空する本体との波状攻撃によって相手を撹乱する厄介な代物である。

 

 

 

だが、シュルツたちウィルキアに小手先の陽動は通用しない。

 

 

 

何故なら……

 

 

 

「敵機、ホバー砲のエネルギー充填を完了した模様。攻撃…来ます!」

 

 

 

 

「回避急げ!」

 

 

 

 

バミューダでニブルヘイムが放った超大型レーザー主砲¨ホバー砲¨の脅威を知っているからだ。

 

 

 

フォーゲルシュメーラの下部にぶら下がる様に設置されたホバー砲の砲身が赤黒く発光し、そして自身の真下からシュペーアの方向に角度を変えつつ放たれる。

 

 

 

とてつもないエネルギーの奔流が海水を瞬時に蒸発させて猛烈な爆圧を生む水蒸気爆発を発生させながら直進する様は、まるで海を叩き割っているようであった。

 

 

 

 

「敵機、レーザーユニットを投下しつつ移動を開始!……は、速い!」

 

 

 

 

「絶対に見失うな!見張りを強化し、奴の位置を直ぐに報告出来るようにしろ!」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

四方八方から飛んでくるレーザーユニットからの攻撃を回避しつつ、シュペーアはフォーゲルシュメーラを追う。

 

 

その余りに不規則且つ俊敏な動き、それに悪天候による視界不良が相まって一瞬相手が消えたように見えてしまう。

 

 

そして気付いた時には、本体にずらりと搭載されているAGSからの砲撃の嵐と……

 

 

 

「敵機、ホバー砲の発射態勢に入りました!そんな……エネルギーの充填速度が速すぎる!」

 

 

 

「回避に専念しろ!急速加速!」

 

 

 

「艦長!!?それでは砲弾の雨の中へ突っ込む事になります!」

 

 

 

「アレを喰らうよりマシだ!急げ!」

 

 

 

「は、はっ!」

 

 

 

シュペーアはレーザーと砲弾が飛び交う無法地帯へと飛び込んで行き、その直後に彼等の背中のすぐ後ろを悪辣な巨大レーザー光が通り過ぎて行く。

 

 

炸裂した砲弾やホバー砲の生み出した衝撃波が彼等の船体を揉みくちゃにして艦内からは悲鳴が飛び交った。

 

 

 

「あ゛っ…く!は、博士!何か対応策は無いのですか!?」

 

 

 

「基本的には我々の世界での対応と同様ですが、何せ次の攻撃までのスパンが短すぎます!あれでは狙いが付けられません!」

 

 

 

「くっ……ムスペルヘイムを追わねばならないというのに……!」

 

 

 

 

シュルツは歯噛みする。

 

 

 

フォーゲルシュメーラの弱点は、ホバー砲の発射態勢に入ってから終了までの間、同じ場所に滞空し続ける点にある。

 

 

 

逆に言えば、切り札であるホバー砲を乱発すればするほど、自身が生み出す隙が大きくなる点において他の飛行型超兵器よりも対応に苦慮する事は無かった筈なのだ。

 

 

 

ところが……

 

 

 

主砲の発射を最小限に抑え、持ち前の機動力で翻弄してくるであろうとの予想を悉く裏切ってきたのだ。

 

 

 

何らかの方法で、短時間での主砲へのエネルギー供給を果たした超兵器に隙は無く、仮に攻撃を加えたとしても以前には装備していなかった防御重力場によって攻撃を反らされてしまい、有効打を与える事が出来ない。

 

 

 

「電子撹乱ミサイルによる撃墜は困難か……」

 

 

 

「それよりも、敵主砲のエネルギー供給源を絶つ方が先決なのですが……あっ!もしや!」

 

 

 

「何か気付かれたのですか?」

 

 

 

「雷です!超兵器は大気に帯電させた莫大な電気エネルギーを吸収して主砲を放っているのでしょう!」

 

 

 

 

「成る程……我々の世界ではまだその技術が確立する前に撃墜され、今回はそれを克服してきたと言う訳ですね?」

 

 

 

「そうです。だとしたら厄介ですね……ここは海上ですから、湿度の高い空気が上昇気流で上空に運ばれ、それによる大気の帯電がエネルギー源となっているなら、敵は無尽蔵に弾薬を持っているのに等しくなります!」

 

 

 

 

「くっ!遠いな……」

 

 

 

こんな所でつまずく訳にはゆかぬと言うのに、足掻けば足掻くほどムスペルヘイムが遠くなる様な錯覚に陥る。

 

 

 

思えば、いつも彼の艦はシュルツ達の手をすり抜けてきた。

 

 

 

絶対的強者でありながら時に策を労し、時には撤退も辞さない。

 

 

 

 

ある意味では、強者である事に溺れない実直さこそが、彼の艦を総旗艦の直衛旗艦とする事を許され、シュルツ達を幾度となく苦しめてきたのだ。

 

 

 

 

ムスペルヘイムは現在、異世界艦隊から距離を置き、二隻ある空母の一隻からエネルギーの供給を受けつつ第三の重力砲発射に備えている。

 

 

 

シュルツには理解できていた。

 

 

 

もう先程の様な奇跡は決して起きないのだと……

 

 

 

だが……

 

 

 

 

「艦長!はれかぜ並びに401より報告!要救助者全員の救出を完了したとの事です!」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

彼は目を見開いた。

 

 

 

 

目の前に見えた一筋の希望。

 

 

 

それは奇跡の様であって全く別の物。

 

 

 

そう、いつだって人類はそうして来たのだ。

 

 

 

奇跡を頼りに生きる者はいないだろう。

 

 

 

何故なら、奇跡は人類がその形無き希望を自らの手で現実に造りだし、後の世の人々の口からその偉業を奇跡と讃えられているに過ぎないのだから。

 

 

 

彼は思う。

 

 

 

今この海には、後に奇跡と呼ばれるに値する者達が、現に絶えぬ努力で全力をもって未来を造っているのだろうと。

 

 

 

 

(人間は変わらない。私達の世界でも、ここでも……なら!)

 

 

 

自身も全力で足掻いて見せると彼は静かに誓ったのだった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

はれかぜの甲板では、重傷者の治療が急ピッチで進められていた。

 

 

 

「美波さん!どうしよう……あの人意識がっ!」

 

 

 

「急いで手術しつに運べ!慎重にだぞっ!」

 

 

 

「鏑木さん……こっちはどうすればいいっスか?」

 

 

 

「……大丈夫そうだな。取り敢えず止血して様子を観察しろ。余り長期間強く圧迫するとかえって危険な場合もある。強さの加減には気を付けて作業を行え!」

 

 

 

「わ、解ったッス!」

 

 

 

美波は周りの者に指示を飛ばすと、険しい顔付きのまま手術室へと駆けて行く。

 

 

 

「ヒュウガ、先程のアレだが、記録は採っているな?」

 

 

『勿論よ。解析してみないと実用化は出来ないけど、大きな一歩である事は間違いないわ』

 

 

 

 

「頼む……」

 

 

 

彼女はまるで祈るような口調でヒュウガに告げ、の会話を終えて狭い廊下を急ぐ美波は、視界に救出を終えて艦橋に急ぐ明乃の姿を捉えた。

 

 

 

「艦長!」

 

 

「美波さん!?お疲れ様…救助した人達の様子は?」

 

 

「芳しくない……思った以上に重傷者が多かった。少数人ならともかく、ここでこの人数を完全に処置するのは無理だ」

 

 

 

「解った。大型医療施設があるスキズブラズニルに行きたいんだね?進路をそっち向けるようにする!」

 

 

「話が早くて助かる……」

 

 

 

「美波さんも、皆の事をお願い!」

 

 

 

「ああ……!」

 

 

 

二人はそれぞれの持ち場へと駆けて行く。

 

 

事が事だけに、互いに長い会話をする時間など無かったが、美波は心の中で誓うのだった。

 

 

 

 

(¨希望¨が見えた!艦長……必ずあたなも救って見せる!)

 

 

 

 

 

一方の艦橋では明乃の帰艦に取り敢えずの安堵がもたらされる。

 

 

 

「おかえりなさい……艦長!」

 

 

 

「ただいま!皆!」

 

 

 

「岬明乃艦長!指揮権を返上します!」

 

 

 

「指揮権を頂戴しました!リンちゃん、早速だけど進路をスキズブラズニルに向けて!重傷者を医療施設に預けないと!」

 

 

 

「う、うん!」

 

 

 

「ココちゃん状況は?」

 

 

 

「はい。大戦艦キリシマが401から救助者を収容して、移送の為スキズブラズニルに向かっています!大戦艦ハルナは戦線に復帰して天照と対峙、重巡タカオは超兵器ドレッドノートを撃破して、現在はムスペルヘイムから分離した空母の一隻を排除するため移動中です!」

 

 

 

「はれかぜがスキズブラズニルと現海域を往復した場合の時間は試算出来るかな?」

 

 

 

「90秒下さい!」

 

 

 

幸子はタブレット端末で試算を開始し、その間を埋める様に真白が口を開いた。

 

 

 

「401が海底に沈没した艦艇から人々を救助してくれたのが大きいですね。イオナさんが直接艦内に潜り、クラインフィールドで保護しつつ収容を進めた様です」

 

 

 

「良かった……」

 

 

 

「安心は出来ません。重軽傷者が多数いたとの報告を受けていますから」

 

 

 

「そうだね……」

 

 

 

「艦長、試算完了しました。重軽者を乗せていますので、全力での航行は無理だとしても最長で30分、最短で15分で戦線に復帰出来ます!」

 

 

 

「ありがとうココちゃん!タマちゃん、メイちゃん。スキズブラズニル迄、航空機の排除をお願い!」

 

 

 

「うぃ~!」

 

 

「オッケー!じゃんじゃん撃っちゃうよ~!」

 

 

 

「シロちゃん、各部署に連絡を!手の開いている人は負傷者を速やかに搬送出来るように準備してって!」

 

 

 

「はいっ!」

 

 

 

はれかぜ艦内が慌ただしく動き出す一方、戦況は一気に異世界艦隊に向けて傾き始める。

 

 

 

ハルナと401が戦線に加わり、タカオがドレッドノートを撃沈した事が大きいのだろう。

 

 

 

しかし、超兵器を数で測る事は出来ない。

 

 

 

天照は羽の様に拡げたチェーンソーをハルナへと叩き付け、フィールドが火花を散らす。

 

 

 

「くっ!成る程……この威力なら普通の艦艇は2秒形を保っていれば良い方だろう。だがっ!」

 

 

 

ハルナはカタパルトに見たてた電撃装置を展開し、天照の船体に接触させる。

 

 

 

ビジィ!

 

 

とてつもない電流が天照内部にある電気系統の大半を焼ききり、更に弾薬を誘爆させた。

 

 

 

「接近が持ち味らしいが、今回はそれが仇となったな。此方もその位の備えはしてあるぞ」

 

 

 

爆圧によって駆動系の一部が故障した天照のドリルが停止して黒煙が至る所から立ち上ぼり、異世界艦隊をも翻弄しうる凶速も鳴りを潜める。

 

 

 

一方のタカオや401もペーターシュトラッサー級空母一隻を追い詰めていた。

 

 

 

「凄いレーザー攻撃だね……地中海でも思ったんだけど、空母って航空機と自艦の防衛機能以外の戦力は乏しいんじゃないの?」

 

 

 

 

「そうとは限らないわ。私達にも海域強襲制圧艦ってのがあって、見てくれは空母だけど大戦艦であるハルナ達より出力が上なの。尤もアレは航空機の操作に演算を取られるから廃止したみたいだけど……」

 

 

 

「ペーターシュトラッサー級は航空機を操作してるって感じよりも指示だけを出して後は自律的に動いてる感じがするね。だから自身は攻撃に特化出来るのかな……」

 

 

 

 

「どちらにしても異常ではあるけどね……ん?無駄話は終わりみたいよ。艦長が動くわ!」

 

 

 

「うん!じゃあタカオ、思いきりお願い!」

 

 

 

「了解!128発の侵食弾頭兵器……全部避けられる?」

 

 

 

 

彼女は惜しみ無く侵食弾頭を撃ち放した。

 

 

だがそれでは終らない。

 

 

 

 

「まだよ!」

 

 

 

通常弾頭の一斉発射を空かさず行ったタカオの攻撃は暴力に近く、最初に放った侵食弾頭兵器を含めた攻撃があらゆる方向から超兵器を袋叩きにする。

 

 

 

 

対するペーターシュトラッサーは、迎撃性能の高いバルカン砲やパルスレーザーでミサイルの数を減らし、残りを防御重力場にて対応する。

 

 

 

 

しかし、これら一連の動きは布石に過ぎない。

 

 

 

もえかは一斉発射を行う事で、是が非でもこの場を圧し通り、旗艦であるムスペルヘイムに到達しようと躍起になる姿を超兵器に印象付ける狙いがあったのだ。

 

 

 

 

真なる目的は……

 

 

 

「今だ撃て!」

 

 

 

バシュ!

 

 

 

401から数発の侵食魚雷が発射され、超兵器へと向かって行く。

 

 

タカオに釘付けにされたペーターシュトラッサーは、迎撃に気を取られてソレの接近に気付かない。

 

 

 

そして……

 

 

ビジィ!

 

 

 

船底にて起動した侵食魚雷は10m程の巨大な穴を複数造り出し、そこから侵入した大量の海水が瞬く間に艦内を駆け巡って行った。

 

 

巨大な船体が傾き、甲板では航空機達が次々と海へと落下し、内部では壁と激突した航空機のミサイルが起爆した事による火災や誘爆が連鎖的に発生する。

 

 

 

 

動きが鈍くなった隙を突いて401は一気に加速し、敵の真下を通過して旗艦の強襲へと向かい、同時にタカオは超重力砲の発射体勢に入る。

 

 

 

 

「行くわよもえか!」

 

 

 

「お願い!」

 

 

 

 

最早、浮かんでいるだけの巨大な鉄屑を超重力砲が貫き、跡形もなく消し去ってしまう。

 

 

 

 

「あっ…はぁ!はぁ!やっぱり立て続けに超重力砲はキツいわね……でも!」

 

 

 

 

「うん!千早艦長達に道は開けたこれなら……え?」

 

 

 

 

もえかの表情が急に青ざめる。

 

 

 

   + + +

 

 

シュルツの額から汗が流れ落ちた。

 

 

 

「………!」

 

 

 

フォーゲルシュメーラが突如ムスペルヘイムへと向かった事に嫌な予感はしていたのだ。

 

 

 

「重力砲の第3射か!」

 

 

 

「早すぎる!それ程までに強化をされていると言うのですか!?」

 

 

 

「違います……」

 

 

 

「え?」

 

 

 

博士ですらも付いて行けない状況にも、シュルツは至極冷静に分析をしていた。

 

 

 

「総旗艦直衛艦には本来弱点と言う弱点は存在しません。故に、人類に使用されていた時は、内部からの破壊工作によって弱体化させていたに過ぎません。だが無人となり、特定の国への所属が無い以上、それは現実的では無くなってしまった」

 

 

 

 

「つまり、アレが本来のムスペルヘイムの力であると仰るのですか!?デタラメです!」

 

 

 

「ですがそう考えるなら得心が行きます。奴はそもそも空母の補助など無くとも重力砲を乱発出来る力があると……」

 

 

 

「そんな……」

 

 

「このままでは千早艦長が危ない。ナギ少尉、至急401へ退避の連絡を!」

 

 

 

 

「は、はっ!」

 

 

 

 

ナギは慌てて群像へと事態を知らせる。

 

 

 

その報を受けた401の困惑の色が一層濃くなった。

 

 

 

「イオナ……もし、俺達の世界にアレが出現したらどうなる?」

 

 

 

 

「海域強襲制圧艦の投入は必至だと思う……あのクラスが複数、若しくはあれ以上の艦艇が存在するなら、総旗艦自身が対処に当たるしかない」

 

 

 

 

「そこまでか……一度退避しよう。重力砲に単艦では対処出来ない」

 

 

 

「了か……」

 

 

 

『待ってください!』

 

 

 

「岬艦長!?」

 

 

 

 

突如通信に割り込んできた明乃に、異世界艦隊の面々が目を丸くした。

 

 

 

 

『重力砲発射時にはムスペルヘイムの防御重力場が薄くなると聞きました。それは本当ですか?』

 

 

 

 

「ええ。莫大なエネルギーを使用する筈ですから……どうされるのですか?」

 

 

 

 

『今はとにかくムスペルヘイムにあらゆる攻撃を集中させてください!』

 

 

 

 

「何か考えが有るのですね?解りました。攻撃を敵旗艦へと集中させます」

 

 

 

『お願いします!』

 

 

 

「シュルツ艦長!」

 

 

 

 

『聞いておりました。此方もその様に対処致します!』

 

 

 

「ハルナ、キリシマ!そして知名艦長!」

 

 

 

『『『了解!』』』

 

 

 

 

彼等は動いた。

 

 

 

 

一斉に発射されるミサイルやレーザー、そして砲弾群がムスペルヘイムに殺到する。

 

 

 

勿論、相手もただでは通してくれない。

 

 

 

 

フォーゲルシュメーラや天照が旗艦へ向かって行く攻撃の嵐を悉く削って行く。

 

 

 

 

だが、彼等の砲弾はそれさえも通過してこの惨劇の元凶に届き、幾重もの爆煙が彼の艦を包み込んだ。

 

 

 

 

「シロちゃん、今!」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

 

負傷者をスキズブラズニルに収容したはれかぜは全力で戦闘海域へととんぼ返りし、反撃の機械を伺っていた。

 

 

 

そして彼女には見えているのだ。

 

 

 

この後に生じる超兵器の隙が……

 

 

 

彼女は事前に共振派照射装置の起動を指示し、続けて異世界艦隊からムスペルヘイムに対する一斉攻撃を打診する。

 

 

 

 

重力砲発射にエネルギーを消費している彼の艦の防壁の力は弱く強力な攻撃に長時間は耐えられない。

 

 

 

その防壁が消失する瞬間を彼女は狙っているのだ。

 

 

 

 

「艦長、他の超兵器を居りますが!?」

 

 

 

「旗艦に照射を集中させて!」

 

 

 

 

はれかぜはムスペルヘイムただ一隻に照準を絞り込む。

 

 

 

 

そしてその時は訪れた。

 

 

 

数多の攻撃が防壁に弾かれる中、一発の砲弾が本来防壁がある筈の領域を通過して本体に着弾、炸裂した。

 

 

 

 

 

「今!共振派照射装置、照射始め!」

 

 

 

 

 

キィヤァァァアア!

 

 

 

 

悲鳴にも似た振動の波がムスペルヘイムを覆い尽くすと同時に、彼の艦の異変が始まった。

 

 

 

ヴォン!

 

 

 

艦首部分に取り付けられた重力砲の一部に紫電が走り、直ぐ様爆発が起きる。

 

 

 

 

「エネルギーの集中する箇所を脆くしたのか!?」

 

 

 

 

シュルツは事態を見て驚愕する。

 

 

 

しかしこのあと事態は予想外の展開をようした。

 

 

 

 

ヴォン!

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

ムスペルヘイムは重力砲を無理矢理発射したのだ。

 

 

照準が定まっていなかったソレは、異世界艦隊の遥か後方に着弾し、特異点からの強烈な引力が彼等を襲った。

 

 

 

 

「は、ハルナ!頼むっ!」

 

 

『了解した!』

 

 

 

重力球の消滅の為、ハルナが超重力砲の発射体勢に入る。

 

 

 

その最中、彼等はムスペルヘイムの行動に度肝を抜かれる事となったのだ。

 

 

 

 

「か、艦長!ムスペルヘイム転進!フォーゲルシュメーラと天照に牽引されて離脱を謀っている模様!」

 

 

 

「逃げるだと!?これ程の命を奪い、我々を弄んで起きながらまた逃げると言うのか!」

 

 

 

 

 

《アァ……主ヨ。不出来ナ信徒デアル我ヲ赦シタマエ……。汝ラトハ、イズレ再ビ見エヨウゾ。ソレマデ汝等ガ生キテイタノデアルナラバ……》

 

 

 

「ふざけるな!一体どこまで人を嘲笑えば気が済む!」

 

 

 

怒りを露にするシュルツを余所に、異世界艦隊は重力に引き摺られ、超兵器との距離が開いて行く。

 

 

 

そこへハルナが超重力砲を重力球に撃ち込む。

 

 

 

 

「重力が収まった!?ナギ少尉、好機は今しかない!至急奴を追うぞ!」

 

 

 

「ダメです!先程のフォーゲルシュメーラとの戦闘で機関の一部が損傷を受けています!最大で稼働しても追い付けません!」

 

 

 

「くっ!フルバーストを使ったばかりの401は速度不足か……誰か奴の足止めを……!」

 

 

 

『私達が行きます!』

 

 

 

「岬艦長!?それに知名艦長も!」

 

 

 

タカオとはれかぜは荒い波を掻き分け、ムスペルヘイムに追い縋る。

 

 

 

だか、相手も馬鹿ではなかった。

 

 

 

「空母がこっちにっ!?」

 

 

 

本体に随伴していたもう一隻の空母がレーザーを乱射しながらこちらに向かってくる。

 

 

更に……

 

 

 

「か、艦長!超兵器ノイズ極大化!自爆を謀っている模様!くっ……横須賀の時と同じトカゲの尻尾切りか!」

 

 

 

『こっちは超重力砲撃ったばかりで演算に余裕がないわ……』

 

 

 

『私に任せろ!』

 

 

 

『キリシマ!?』

 

 

 

攻撃の反動が残るハルナとタカオの代わりに、キリシマが超重力砲を展開して、超兵器空母へとうち放った。

 

 

 

 

超絶な威力によって、暴走をする超兵器機関ごと敵を瞬く間に消滅させる事には成功したが、これでキリシマも、ムスペルヘイムを追うのは難しくなってしまう。

 

 

 

だが、彼女達は諦めない。

 

 

 

タカオとはれかぜは再び荒れ狂う波間を縫う様に進み、黒煙を上げるムスペルヘイムを追う。

 

 

 

 

「逃がさない!」

 

 

 

 

『み、ミケちゃん!防壁を展開して!』

 

 

 

「!!?」

 

 

 

もえかからの悲鳴に、明乃の脳に少し先の未来が写し出された。

 

 

 

 

「防壁を展開して!早く!」

 

 

 

「一体何が!?」

 

 

 

「上から……来る!」

 

 

 

 

 

 

雨風が吹き荒れ、黒雲と雷鳴が轟く空から、フォーゲルシュメーラが彼女達の目の前に降りてくる。

 

 

 

 

「そんな……さっきまでムスペルヘイムを牽引していたんじゃ……」

 

 

 

真白は超兵器の機動性に呆気に取られてしまう。

 

 

 

その間に、フォーゲルシュメーラの機体下部に装着されたホバー砲が鮮血の輝きを発していた。

 

 

 

 

「防壁を最大展開!速度を落として!転覆しちゃう!」

 

 

 

 

明乃は叫び、両親を奪った超兵器を睨んだ。

 

 

 

彼の者と明乃。

 

 

 

両者の間に暫しのにらみ合いが生じる。

 

 

 

 

《マタ遊ボウネ……【約束】ダヨ》

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

 

彼女が目を見開いた瞬間、フォーゲルシュメーラは真下に向けたホバー砲の砲身から目を覆う様な閃光と共に巨大なレーザーを海面に向かって発射し、莫大なエネルギーの奔流によって瞬時に蒸発した海水による大爆発と衝撃波が彼女達に襲い掛かった。

 

 

 

 

「ぐっ……あぁああ!」

 

 

 

 

今にもひっくり返りそうな大波に煽られ、艦内が悲鳴で埋め尽くされる。

 

 

 

 

 

その間にも、ムスペルヘイムの姿はみるみる小さくなり、そして嵐の中へと消えて行った。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

海が静まり、空から光が差し込む。

 

 

 

異世界艦隊の誰しもが悔しさを滲ませながら立ち尽くしていた。

 

 

 

 

彼等の心に大きな喪失感を残したヴィルヘルムスハーフェン解放戦はここに幕を閉じたのである。

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


念願のガンナー2オープニングでのフォーゲルシュメーラのホバー砲発射シーンを入れてみました。


尚、原作に於いてのムスペルヘイムの立ち位置からして、彼の艦の後に控える艦艇は一隻しか無いと言う立場から二度目の逃走と相成りました。



彼の艦との真なる決着を、お待ちください。





さて……ミーナ達を生存させたのは良いのですが、どうするべきか………


次回まで今しばらくお待ちください。



























とらふり!  1/144ちょうへいきふりいと



播磨
「あっ戻ってきた!お疲れ~♪」



ドレッドノート
「あ、はいお疲れ様……です」



荒覇吐
「もっと自信を持ちなさいな!勇敢なる者の名が泣くわよ?」



ドレッドノート
「です……が」



近江
「まぁまぁ。この子は昔から引っ込み思案だから、でも努力に関しては誰にも負けてないと思うの」



グロースシュトラール
「戦艦が原型だったものを潜航型戦艦に改装、その後は空母改装によって戦いの幅を広げたのは評価出来ると思うよ」



ドレッドノート
「あ、ありがとう……ございます」




播磨
「じゃあ、今日はそんなドレッドノートへの祝勝会だね!」


超兵器ーズ
「わ~い♪」




グロースシュトラール
「何かに特化するも進化を続けるも1つの兵法……か。でも何か忘れているような……」







天照
「う~出番が、出番があら、葉巻?に取られちゃったよう……」



一同
「あ………」


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ローレライの乙女は悪魔の残した火傷を癒せるのか……

お待たせいたしました。

ヴィルヘルムスハーフェン編

後半になります


それではどうぞ


   + + +

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェンへと帰港した異世界艦隊は、残る救助活動に追われていた。

 

 

 

メンタルモデルによる行方不明者の捜索、医療班による治療。

 

 

 

そして……

 

 

 

 

遺体の搬送である。

 

 

 

建物が破壊されてしまった為、白い布で覆われた大量の遺体が場を埋め尽くしていた。

 

 

 

 

「宗谷室長……沈没艦艇からの遺体収容を完了しました」

 

 

 

「ご苦労様、千早艦長。助かったわ」

 

 

 

超兵器によって撃沈された艦艇の内部にいた者や、重力砲によって飛ばされて海底に沈んだ遺体の回収を終えた群像に、真霜は疲労した笑みを向ける。

 

 

 

いや、真霜だけではない。

 

 

 

 

この場にいる誰しもが、限界を超えた疲労を感じ、表情には堅さが残る。

 

 

 

 

無理もない。

 

 

 

家族や仲間を亡くした者達の悲痛な鳴き声、焼けた死体の臭いとそこらに転がる肉片が、皆の精神にのし掛かっているのだから。

 

 

 

 

明乃もその一人だ。

 

 

 

彼女は、瓦礫の上で事切れていたブルーマーメイドの隊員らしき人物の遺体をまゆみと共に担架に乗せて運んでいた。

 

 

 

 

「あの……」

 

 

 

「どうされましたか?」

 

 

 

 

明乃達の下へ生き残ったドイツのブルーマーメイドの隊員二人が近付いてくる。

 

 

 

「彼女を運ばせてください……」

 

 

 

「いえ、皆さんは休んでいてください。怪我だってされてますし……」

 

 

 

 

「お願い……私達、彼女と親しかったんです。最近、結婚して子供も生まれたばかりで……」

 

 

 

「………」

 

 

 

「祈りを捧げたいんです!家族の為にここに残って戦った彼女の為に……」

 

 

 

「解りました……お願いします」

 

 

 

 

彼女達は仲間の身体を遺体置き場へと下ろし、一部が焔によって赤黒く炭化してしまった手を握って嗚咽を漏らした。

 

 

 

 

その様子を見ていた明乃には、両親を失ったあの時の様な自身の無力さに対する強烈な嫌悪感と、再び世に現れて誰かの大切な者の命を奪って行った超兵器に対する狂おしい程の憎しみが沸き上がっていた。

 

 

 

 

「か、艦長……」

 

 

 

「え!?なに?まゆちゃん」

 

 

 

「今、凄い怖い顔してた……大丈夫?」

 

 

「ご、ゴメンねまゆちゃん!ちょっと考え事してて……あっ、あのっ!次…そう、次の仕事にいこ?」

 

 

 

「うん……」

 

 

 

怯えた表情のまゆみに、慌てて顔を元に戻した明乃は、次なる現場に向かって行く。

 

 

 

   + + +

 

 

 

混濁する意識の中で、その言葉は何度も繰り返された。

 

 

 

【大丈夫……生きてるよ】

 

 

 

 

「がはっ……!」

 

 

 

 

飛び起きたミーナは、自身が今どこにいるのか解らず、辺りを見渡す。

 

 

 

白い壁に心地よいベッドの感触。

 

 

そして不愉快に自身にまとわりつく複数の点滴と電極のコード。

 

 

一定のリズムで、心音を打ち鳴らしている電子機器の音。

 

 

 

 

彼女は漸く、自身が医療関係の施設にいる事に気付いたのだった。

 

 

 

 

「病院か……はっ!テア!テアは!」

 

 

 

「起きた途端にコレとはな……騒がしいのは相変わらずだなミーナ」

 

 

 

「ミナミ…か!?久しぶりじゃのう!ヌシらが儂らを助けてくれたのか?」

 

 

 

「まあな……」

 

 

 

「ヌシらとは話したい事が沢山あるんじゃ!あっ!それよりもミナミ!テアは!テアは無事なのか!?意識を失っておったのじゃ!」

 

 

 

 

「なんだ……まだ気が付いてなかったのか?お前の隣にいるだろう?さっき目を覚ましたばかりだがな」

 

 

 

 

美波は、ミーナの隣に仕切る様に張られたカーテンをめくる。

 

そこには銀色の髪をした女性が横になっていた。

 

 

 

「テア……」

 

 

 

「………」

 

 

 

二人は顔を合わせた瞬間に漂う雰囲気を察し、様子を見かねた美波は二人を囲うようにカーテンを締め切った。

 

 

 

 

 

「ふむ……互いに思う処が有るのだろうな。とにかく今は腹を割って話せ。そうしないと見えないものもあるぞ」

 

 

 

「腹を割る?oh……ハラキリの事か?」

 

 

 

「違う……互いに本音で話せと言う事だ。とにかくあまり騒ぐなよ。他の患者もいるのでな……」

 

 

 

 

呆れた様子でその場を後にした美波に取り残された二人は再び沈黙してしまう。

 

 

 

(ミーナ……怒っているのだろうな)

 

 

 

眉を潜め、険しい表情を浮かべている彼女に対してテアはどんな報いでも受けるつもりでいた。

 

 

 

ところがだ……

 

 

 

「うっ…うぅ……」

 

 

 

「ミーナ!?」

 

 

 

「良かった……無事で良かった!私、テアが死んでしまうと思って……本当に不安だったんだ。でも、生きていてくれて良かった……」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

これには参ってしまう。

 

 

彼女は怒っていたのではなく、テアの無事に心から安堵して溢れ出しそうな涙を必死に堪えていただけであった。

 

 

拳を握り締めて嗚咽を漏らす彼女を見たテアは、同時に責められる事で安易に赦しを得ようとしていた自分が情けなく思えたのだった。

 

 

 

「済まないミーナ……」

 

 

「どうしてあんな事をしようと思ったんだ!?」

 

 

 

「ミーナ、孤立していた私に初めて友達になろうと言ってくれたお前を失うのが怖かったんだ。私自身の命を失うよりもな……」

 

 

 

「テア……」

 

 

 

ミーナが立ち上がったのを見た彼女は今度こそ打たれるだろうと覚悟した。

 

 

だが、頬を張る痛みの代わりに訪れたのは、彼女の柔らかく暖かな抱擁であった。

 

 

 

 

「あ……」

 

 

 

「バカだなテアは……私はあの時、お前を失うのが怖くてたまならなかったんだぞ!?遺された者がどんな風に思うのか解らなかったのか!?」

 

 

 

「あぁそうだ。私はバカだった。お前の手を離す瞬間までは、本当にそう思っていたんだ。だが、お前の顔を見て後悔した。私はミーナにあんな顔をさせてしまうなんて……」

 

 

 

「………」

 

 

 

「謝りたかった……でも死ねばそれも叶わなくなる。謝る事も、ありがとうと言う事も出来ない。死者が生者に出来る事は何一つとして無かったんだ。だが、お前は私を追い掛けて来てくれた」

 

 

 

「テアは私の……家族なんだ!当たり前じゃないか!」

 

 

 

「当たり前……か」

 

 

 

「どうした?何かおかしい事でも言ったか?」

 

 

 

「いや……ミーナらしいと思っただけだ」

 

 

 

「むぅ……」

 

 

少しむくれている彼女に、テアは安堵の表情を見せた。

 

 

そして、表情を引き締めて彼女を真っ直ぐ見据えたのだった。

 

 

 

「な、なんだテア。急に……」

 

 

 

「お前はあの時私に言ったな。『私はテアが艦長の艦じゃないとダメなんだ!一緒じゃないとダメなんだ!』って」

 

 

 

 

「なんでそんな事蒸し返すんだ〃〃」

 

 

 

「言わせてくれミーナ。私もミーナが副長の艦で艦長をしたい。ミーナ、私はお前でないとダメなんだ」

 

 

 

 

「テア……」

 

 

 

「私もへこたれない!お前に愛想を尽かされても、ずっと一緒にいたい!……ダメか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

ミーナは顔を真っ赤にして俯いてしまう。

 

 

 

困らせてしまったかとも思ったその時、ミーナは太陽の様な笑みを彼女に向けた。

 

 

 

「私が……お前に愛想を尽かす訳無いだろう?あぁ!いいとも!私達は何があっても一緒だ!」

 

 

 

「ミーナ……」

 

 

 

「痴話喧嘩は終わったのか?」

 

 

 

「うわぁああ!」

 

 

 

二人の背後には、半目を浮かべた美波が立っている。

 

 

 

「ち、違っ!私達は今後の方針について議論しておってじゃなぁ……!」

 

 

 

「ほぅ……でも一緒にいたいのだろう?テアさんと」

 

 

 

「なっ……ヌシ、ドイツ語が解るのか!?」

 

 

 

「日本はかつて戦時下には敵性語が禁じられていてな。だが、医療用語を全て和訳するには不便だったと言う事で、同盟国ドイツの言語使用していた名残が残っているんだ」

 

 

 

「………」

 

 

動揺するミーナを余所に、美波はあえて¨ドイツ語¨で彼女に言葉を発する。

 

 

 

「勿論私は話せるが、6年前の事件でお前達と関わった事で、コミニュケーションを取りたいとドイツ語を習得している者が多くてな。秘密の話をする際は気を付ける事だ」

 

 

 

「〃〃〃〃」

 

 

 

(少しからかい過ぎたか……)

 

 

再び顔を真っ赤にしているミーナに、内心微笑ましい気持ちも浮かぶが、彼女は自身の背後から押し寄せる殺気にも似た気配に押され、溜め息を漏らす。

 

 

 

「あぁ……話がそれてしまったな。ミーナ、お前に面会だ。さっきから会わせろとうるさくてな……」

 

 

 

「うるさいなんて心外です!私はミーちゃんを心配して……」

 

 

 

「ココ……?ココか!?」

 

 

「ミーちゃん……」

 

 

 

「ココ!久しぶりじゃのう!」

 

 

「逢いたかった……ずっとミーちゃんが超兵器にって私心配で……」

 

 

 

「儂はこの通り元気じゃ!ヌシらのおかげでのう。そうじゃ!儂を海から引き上げてくれたのはアケノなのじゃろう?お礼がしたいのだが何処におるのかのう?」

 

 

 

 

「え、えぇっと……艦長はまだ今回の件での残務処理が残っているみたいで忙しいそうですよ?」

 

 

 

「そうなのか……では後から探して見るとしようかのう」

 

 

 

「………」

 

 

 

テアは幸子の反応に違和感を感じた。

 

 

 

先程まではミーナの無事を心から安堵し、久しぶりの再会を純粋に喜んでいた様に見えた。

 

 

 

ところが最後の反応は少し違う。

 

 

 

艦長を経験し、艦内にいる仲間達の表情を常に見てきたテアだからこそ解るのだろう。

 

 

彼女の表情からは僅かな動揺、そして決意の様なものが感じられた。

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

一瞬テアと視線が交わった幸子は、直ぐに目を反らし雑務が残っていると言って立ち去ってしまう。

 

 

 

「ココ……もう少し話したかったに……」

 

 

 

寂しそうに幸子の去った方角を見つめるミーナの姿に、テアは複雑な表情を浮かべるのであった。

 

 

 

   + + +

 

 

ミーナが目覚める一時間程前――

 

 

スキズブラズニルのブリーフィングルームに集められた異世界艦隊のトップ達は、真霜の到着を待っていた。

 

 

張り詰めた空気が支配する中、ナギはシュルツに耳打ちをする。

 

 

 

「艦長、いよいよ判明するのですね?バルト海に展開している超兵器の正体が……」

 

 

 

「ああ。バミューダにグロースシュトラールを改装したニブルヘイムが展開していた事を考えるなら、バルト海にいる超兵器は別の何かとなる可能性が高い」

 

 

 

「統括旗艦クラスでしょうか?」

 

 

 

「間違いないだろうな。だが、何やら嫌な予感もするが……」

 

 

 

「嫌な予感とは一体――」

 

 

 

ガチャン……!

 

 

 

全員の視線が扉へと集中する。

 

 

 

一度部屋を見渡した真霜は、無言のまま席に座った。

 

 

 

 

「宗谷室長、バルト海に展開している超兵器が判明したとの事でしたが?」

 

 

 

「ええ……先ずはコレを見て頂戴」

 

 

 

 

ピッ!

 

 

 

モニターに写し出された映像を見た一同の表情が固まる。

 

 

 

特に超兵器を知り尽くしたウィルキア陣営に於いては、顔から血の気が引いていた。

 

 

 

「まさかヤツがここにいたとはな……」

 

 

 

 

「ここは、ウィルキアから説明を貰った方が良いようね……シュルツ艦長、お願い出来るかしら?」

 

 

 

「はい……この超兵器は、敵の中でも最上位の部類に入る総旗艦直衛艦隊を総括する三隻の超兵器の一隻、【最狂の航空母艦要塞】【暴君】の異名を持つ超巨大航空戦艦【テュランヌス】です」

 

 

 

 

「なっ!!?」

 

 

 

明乃を始めとしたブルーマーメイドや蒼き鋼の陣営は、事の重大さに驚愕する。

 

 

 

当然であろう。

 

 

 

救助に戦力を取られていたとは言え、最終的には総力戦を以てしても退散させるのが精一杯であったムスペルヘイムと同等クラスの敵を相手にしなければならないのだから。

 

 

 

 

 

「あ、あのっ!」

 

 

 

「どうされましたか?岬艦長」

 

 

 

「テュランヌスの具体的な性能についてお聞きしてもいいですか?」

 

 

 

「お答えします。テュランヌスはアノ三隻の中で最も強大な航空戦力を有しています。数で言うなら2000機以上でしょう」

 

 

 

 

「そ、そんな数、対処するだけでも一苦労ですよ!」

 

 

 

「それだけなら良いのでしょうが……近江や尾張の件もあります。テュランヌスの内部に他の航空機型超兵器が格納されていた場合、状況は極めて不利となるでしょう」

 

 

 

 

「少し宜しいですか?」

 

 

 

一同の視線が群像へと集中する。

 

 

 

 

「今のは飽くまでも航空戦力の話です。テュランヌス本体の戦力は低いと言う事ですか?」

 

 

 

 

「うむ……一度ここでテュランヌスについて見識を深めておく必要が有りますね」

 

 

 

「お願いします」

 

 

 

 

「解りました。ナギ少尉、テュランヌスのデータをモニターに投影してくれ」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

一同はモニターへと視線を集めた。

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

超巨大航空戦艦テュランヌス

 

 

形状

 

本体である巨大な戦艦の甲板を改装、両側にアングルドデッキ付きの甲板を、更に艦首部にも広大な飛行甲板が存在し、いずれも本体のからはみ出す程巨大な作りとなっており、艦尾以外のどこからでも航空機の発艦が可能。

 

 

各種兵装も飛行甲板上に設置されている。

 

 

 

装甲 対51cm砲防御

※防御重力場 電磁防壁有り

 

速力 32.0kt

 

 

艦載機数 2000機

※ステルスジェット機多数

 

 

兵装

 

 

三連装65口径56.0cm砲

前方3基後方1基 計12門

 

各種VLS 多数

 

エレクトロンレーザー1基

 

小型レーザー 多数

 

対空パルスレーザー 多数

 

αレーザーⅡ1基

 

 

補助兵装

 

電波妨害装置

 

 

ECM装置

 

 

自艦耐久能力向上装置

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

 

「以上になりますが、ご存知の通り、既存のデータがあまり当てにならない状況ですから、戦闘の際は速やかな情報の収集と共有化を謀れる様、各艦とも心構えをして頂ければと」

 

 

 

 

「今の件と、コイツが油断ならねぇ戦力を持ってるって事は解ったが、何か弱点とかは無ぇのか?」

 

 

 

「宗谷艦長の仰る事は尤もです。テュランヌスの弱点……まず一つは他の超兵器と比べて圧倒的に速度が遅い点でしょう。二つ目は被弾面積が非常に広い点です」

 

 

 

 

「成る程な……ムスペルヘイムみてぇに分離と言う手段が使えない以上、遅くてバカデカイ奴は、格好の的って訳だ」

 

 

 

 

「ええ。ですが……」

 

 

 

「解ります。この艦は防御が非常に厚いんですね?」

 

 

 

「知名艦長の仰る通りです。テュランヌスの兵装はムスペルヘイムには遠く及ばない、下手をすると統括旗艦であるニブルヘイムやヨトゥンヘイムよりも下でしょう。ですが、攻め手を航空機に任せている為、エネルギーに余剰がある本体が発する防壁の強さは桁違いに成ります」

 

 

 

 

「王は座して動かず、兵に下す命は残虐……正に暴君ね」

 

 

 

 

真霜の溢した言葉に、全員が頷く。

 

 

 

 

今までの超兵器とは異なり、艦隊ではなく単艦で鎮座している事もそれを増長させた。

 

 

 

まるで民から見放され、孤高に生きる狂王の様に……

 

 

 

超兵器に関するブリィーフィングを終えた一同が会議の終わりを悟った時、真霜は彼らを呼び止める様に慌てて口を開く。

 

 

 

 

「ちょっといいかしら?」

 

 

 

「どうされましたか?宗谷室長」

 

 

 

「少し提案が有るのだけれど……」

 

 

 

 

彼女がこの時発した言葉に、明乃を含めたはれかぜクルーともえかは苦悩する事になる。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

体調が回復したミーナは、病棟を抜け出してはれかぜの方角へと歩いていた。

 

 

 

先程、知り合いの隊員から、ドイツのブルーマーメイドからも異世界艦隊に加わる志願者を募っているとの話を聞いたからだ。

 

 

 

 

6年前も今も、自分達を助けてくれたはれかぜの様に、自らも多くの人々を助けたい。

 

 

 

ミーナの中でその気持ちは一層強くなっていたのだった。

 

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

 

彼女の目に資材を搬入している見知った人物達が目に入ってくる。

 

 

 

 

「ヒメ!ヒカリ!それにミカン!」

 

 

 

 

 

「あれ!?もしかしてミーちゃん!?久しぶり~!」

 

 

 

三人は作業を中断して、ミーナへと駆け寄る。

 

 

 

 

「久しぶりじゃのう!皆も元気しとったか?」

 

 

 

 

「うん!でもパソコン通じて話してたから、6年も経ったて気がしないね!」

 

 

 

「そうだね~」

 

 

「じゃがこうして直接逢えて儂も嬉しいぞ!あっ!そうじゃ、アケノを見んかったか?異世界艦隊への加入の事で話がしたかったんじゃが……」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

3人の表情が一斉に固まる。

 

 

 

 

「どうしたんじゃ?」

 

 

 

 

「あっ、あのう……私達仕事が立て込んじゃっててさ、ゴメンね!じゃ、じゃあ今度またゆっくり話そうね!」

 

 

 

「あっ!ちょ……アケノは何処に――行ってしもうた……」

 

 

 

彼女は少し淋しい気持ちになる。

 

 

 

その後も、はれかぜクルー達に会い彼女との再開を喜ぶも、例の話を持ち出すと皆一様に言葉を濁して立ち去ってしまう。

 

 

 

最後に訪れた機関室でも反応は同様であった。

 

 

 

「なんじゃ!皆忙しいの一点張りでこっちをろくに見向きもせん!折角6年ぶりに会って、力を合わせようと言うのに、ちと薄情ではないか!?」

 

 

 

 

彼女は少し乱暴に扉を閉めると艦橋に向かってズカズカと歩いて行く。

 

 

 

 

その様子を見送った機関員達は、一様に大きな溜め息を着いた。

 

 

 

 

「艦長ってさ、横須賀で私達を異世界艦隊に加入させる事を最後まで反対したって言ってたよね……」

 

 

 

「うん。水先案内だけなら自分だけで十分だって言って、一人で行こうとしてたって聞いたよ?」

 

 

 

 

「私さ、なんか艦長の気持ち解る様な気がする……」

 

 

 

 

「解るかも……巻き込めないよね?こんな事にさ……」

 

 

 

 

噂好きの四人は口々に、ミーナ達を巻き込む事への難色を口にする。

 

 

 

 

麻侖に於いてもそれは同意であった。

 

 

 

 

彼女自身も軽い気持ちで参加している訳ではない。

 

 

 

だが、超兵器の実情を目の当たりにしてきた彼女は、横須賀で自分達に付いて行くと言われた明乃の気持ちが痛いほど理解できてしまうのだ。

 

 

 

麻侖は、洋美へと視線を

送った。

 

 

 

「………」

 

 

彼女は先程から一言も言葉を発せず、俯いている。

 

 

 

 

 

(クロちゃん……)

 

 

 

 

 

親友である麻侖には、洋美の心中が手に取るように理解できていた。

 

 

 

 

彼女は赴任先の佐世保にて、異世界艦隊との合流の際に明乃に盛大な平手打ちを食らわせていた。

 

 

 

尤も、それは死地に赴かなければならない異世界艦隊へのはれかぜクラスの参加を、明乃が独断で決めたと誤解していた事にある訳だが……

 

 

 

6年前のRATtウィルス事件で偶然にも関係を深める事となったミーナが、【この世で最も死に近い海】へと漕ぎ出そうとするのを目の当たりにした時、心の中に言い知れぬ不安が沸き上がって来るのを抑えられない自分がいたのだ。

 

 

 

同時に、あの時自身が明乃に放った言葉や行動が、いかに無神経であったのかを自覚した彼女の心には、モヤモヤとした不愉快な感情が生まれる。

 

 

 

 

「行きなよ、クロちゃん」

 

 

 

「麻侖?」

 

 

 

 

「謝りてぇってんだろ?艦長にな」

 

 

 

 

「!」

 

 

 

「ハハッ!クロちゃんはいつも顔に出るからなぁ!言いたい事が有るならクロちゃんらしく真っ直ぐ伝えりゃ良い。少なくとも、艦長はその気持ちをちゃんと汲んでくれる奴だって信じたからここまで付いて来たんだろ?」

 

 

 

「麻侖……ごめん!私ちょっと行ってくる!」

 

 

 

「ああ……艦長なら港の方に一人で歩いて言ったってさっき砲術長から聞いたぜ」

 

 

 

「ありがとう!麻侖!」

 

 

 

 

機関室から飛び出して行く洋美を、麻侖は温かい眼差して見送った。

 

 

 

 

(二人の仲を取り持つのは6年前以来か……今回も相撲で――ってな訳にゃいかねぇが、上手く行くといいな……)

 

 

 

   + + +

 

 

 

ミーナは未だに明乃を探していた。

 

 

 

 

(誰に聞いてもはぐらかされる。アケノもシロも不在……となれば!)

 

 

 

 

ミーナは、はれかぜで最も親交があった幸子の下を尋ねる事にしたのだった。

 

 

 

 

ガタン!

 

 

 

 

「ココ!入るぞ!」

 

 

 

「み、ミーちゃん!!?」

 

 

 

 

ノックもせずに突如部屋に入ってきたミーナに幸子は激しく狼狽え、咄嗟に手に持っていた白い封筒を、乱雑に机の中へとしまい込んだ。

 

 

 

 

「アケノと異世界艦隊の加入の事で話がしたいのじゃ!どこにおるのか教えてくれ!ヌシなら知っておるのじゃろう?」

 

 

 

 

「い、いえ!知りません!あのっ……私忙しいのでこれで――」

 

 

 

「待て!」

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

ミーナは幸子の腕を掴み、自身の下へ引き寄せる。

 

 

 

「は、離してください!い、痛いです!」

 

 

 

「スマン……じゃが府に落ちんのじゃ!幸子は……いや、ヌシらは何故儂らを避ける!恨まれる様な事はしてない筈じゃろう?」

 

 

 

 

「そんな事は……」

 

 

 

「じゃぁ何故なんじゃ!儂が異世界艦隊に参加したいと言うのと何か関係があるのか?」

 

 

 

「……」

 

 

「儂はヌシらに命を救われた。じゃから今度は一緒に戦って、ヌシらや多くの人を助ける為に儂も行きたいんじゃ!」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

幸子はミーナの手を振り払い、荒んだ瞳で睨み付ける。

 

 

 

彼女は思っても見なかった反応に思わず呆気に取られてしまった。

 

 

 

 

「……なんです」

 

 

 

「なんじゃと?」

 

 

 

「足手まといと言ったんです!」

 

 

 

「なっ……!」

 

 

 

「ミーちゃんは現実を何も解ってないんです!私達を?人々を救う!?笑わせないで下さい!自分達の街も、況して自分達の身すら護れなかったのに!」

 

 

 

「こ、ココ……?」

 

 

 

「ミーちゃん達は一体何をしていたんですか!?結局ただ救助を待っていただけじゃないですか!私達はお守りをする為にここに来た訳じゃありません!」

 

 

 

「ココ……ヌシ一体どうして――」

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

「ココ!」

 

 

 

目に涙を浮かべて出ていってしまった幸子に、ミーナはただ唖然として立ち尽くすより他はなかった。

 

 

 

しかし……

 

 

 

(なんだこれは……)

 

 

 

ミーナは幸子の机の引き出しから何かがハミ出ているのに気付く。

 

 

 

手に取ってみると封筒の表面には感じで何かが書かれていた。

 

 

 

「???」

 

 

 

簡単な単語や平仮名ならともかく、漢字はあまり得意ではなかった彼女は、携帯端末を取り出して文字を調べる。

 

 

 

「!!!」

 

 

 

書かれている意味を理解した彼女は直ぐ様、部屋を飛び出し幸子の後を追った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

(私、ミーちゃんに酷い事言って……最低だ!)

 

 

 

 

幸子は涙を散らしながら狭い廊下を一心不乱に駆けて行く。

 

 

 

 

「ココ!」

 

 

 

「!」

 

 

 

彼女が振り返った先には、ミーナの姿があり、その姿はみるみる大きくなっていく。

 

 

 

「っ!!」

 

 

 

 

幸子は構わず駆けた。

 

 

泣いている姿を彼女に見られたくなかったのだ。

 

 

 

しかし、元々裏方でのサポートがメインな彼女は、決して脚が俊敏な部類ではなく、呆気なくミーナに追い付かれてしまう。

 

 

 

「ココ!待ってくれ!」

 

 

「離してください!私に話すことはありません!」

 

 

 

「ヌシには無くともこっちには有るんじゃ!」

 

 

 

 

「はっ……!」

 

 

 

幸子は彼女の手に皺くちゃに握られている封筒に目が行く。

 

 

 

その表には黒い文字で

 

 

 

【遺書】

 

 

 

と記されていた。

 

 

 

 

 

「開けたんですか?私の机……」

 

 

 

「勝手に開けてしまった事は謝る……じゃが、これは見過ごせんかったんじゃ!ココ……ヌシらは一体何を見てきた!どんな事を経験したんじゃ!」

 

 

 

「……」

 

 

 

「話してくれココ!友達じゃろう!?」

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

限界だった。

 

 

 

目の前の人物は、最早異世界艦隊加入の事など頭の片隅にすら無いのであろう。

 

 

その眼差しは、真に友を思い、そして憂いでいたのだから……

 

 

 

 

彼女は溢れる涙を抑える事が出来なかった。

 

 

当然であろう。

 

 

 

幸子は、その社交的様相とは対照的に、自身の本心をあまり口に出す部類ではなかった。

 

 

事務的な会話以外では、一人芝居をしておどけて見せる反面、自身や友の死、そして自分の居場所が跡形も無く消滅してしまう事への耐え難い恐怖に苛まれていたのだ。

 

 

 

その無理矢理押し込めていた恐怖は、一旦こじ開けられしまえば溢れる以外になく、彼女はいつも演じている仮初め自分すらも保てなくなってしまう。

 

 

 

「ミーちゃん……あっ…あああっ!」

 

 

 

「ココ!?」

 

 

 

幸子はミーナの胸へと飛び込んで泣き叫んだ。

 

 

 

最早支えて貰わねば立てない程、彼女は憔悴していたのだ。

 

 

 

 

ミーナは、そんな幸子の頭を優しく撫で、耳元で諭すように語りかける。

 

 

 

「ココ……部屋に戻ろう。そこで話をしてくれんか?今までの事を……」

 

 

 

「うん……」

 

 

 

ミーナは彼女に肩を貸して部屋へと向かった。

 

 

 

「……」

 

 

 

彼女の部屋に到着してから、幸子は泣き止んだものの、ミーナの手を堅く握ったまま離さなかった。

 

 

 

「落ち着いたか?」

 

 

 

「はい……」

 

 

 

「ゆっくりで良い。今までの事を話してくれんか?」

 

 

 

 

幸子は、言葉を選ぶようにゆっくりと今までの見てきた惨劇をミーナに語った。

 

 

 

 

小笠原での戦い

 

 

ハワイでの惨劇

 

 

バミューダで相対した国家を相手にしうる戦力を有した超兵器潜水艦との死闘

 

 

 

端から見れば荒唐無稽な内容にも思えた。

 

 

 

だが、ムスペルヘイムの凶行を目の当たりにしたミーナには、それが現実である事が理解できてしまうのだ。

 

 

 

 

「儂らを巻き込みたく無かったのか?」

 

 

 

「だってミーちゃんなら絶対に行くって言うもの……超兵器と戦闘なんて絶対しちゃダメ!お願いミーちゃん、参加しないって約束して?」

 

 

 

「そうか……解った」

 

 

 

「ミーちゃ――」

 

 

 

「儂は行くぞ!」

 

 

 

「どうして!?どうして解ってくれないんですか!危ないんですよ!?死んじゃうかもしれないんです!」

 

 

 

「じゃから儂らに逃げろと言うのか?超兵器と戦ったヌシらには解っておる筈じゃろう。アレからは逃げられんとな……」

 

 

 

「……」

 

 

 

ミーナは、俯いてしまう幸子の手を強く握り、もう片方の腕で彼女の肩を抱いて自身に引き寄せる。

 

 

 

「あ……」

 

 

 

目の前に金色の髪が近付き、彼女の体温が不安を優しく癒して来るのを感じた。

 

 

 

 

「ココ……確かに儂らは無力かもしれん。じゃがの、¨友達として¨無力とは思っておらんのじゃ。こうして悩んでおるヌシらと話をするだけでも力になれる事はある。もしヌシが逆の立場なら、大人しく儂の言葉を受け入れて戦地に行かせたか?」

 

 

 

「そんなの嫌です!少しでも力になろうと――」

 

 

 

「じゃろう?儂もヌシらも、根幹は変わらん。力になりたいんじゃ……ダメか?」

 

 

 

「………」

 

 

 

狡い言い方である事は十分に承知していた。

 

 

だが、放っては置けなくなってしまったのだ。

 

 

実のところ、彼女は遺書の内容を少しだけ見てしまっていた。

 

 

 

育ててくれた両親への感謝や、友人達と過ごして幸せだった思い出が、記録員として文才がある彼女らしく丁寧に綴られていた。

 

 

 

だが、部屋に散らばるクシャクシャに丸められた紙くずの一部から覗いた彼女の文章には……

 

 

 

 

【死にたくな――】

 

 

 

震えていたのか、覚束ない文字でここまで書かれた文章は、ペンで乱雑に塗り潰されていた。

 

 

 

これが彼女の……いや、気丈かつ淡々と困難な任務に向かう勇ましい英雄像とは裏腹の、暗く重い¨彼女達¨の本心なのかもしれないのだった。

 

 

 

「お願いじゃココ……儂も、ヌシらと共に歩ませてはくれんかのう?」

 

 

 

「ミーちゃん……」

 

 

 

幸子は再び彼女に身体を預け、彼女はそれを了承と受け取った。

 

 

 

 

だが涙で濡れる彼女の顔には、友としていてくれるミーナへの感謝と同じ位に、戦闘へと巻き込んでしまった罪悪感の色が浮かんでいた。

 

 

 

【大丈夫……あなた生きてるよ】

 

 

 

二度に渡って明乃が発した言葉を彼女は思い返していた。

 

 

 

優しい慈愛に満ちた言葉であり、彼女の印象に残っている言葉でもあるが、幸子の様子を目の当たりした今は、似て非なる別の意味にも捉えられた。

 

 

 

 

 

【アナタハ今、死ヌトコロダッタンダヨ】

 

 

 

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

彼女背中にゾクリとする様な悪寒が走る。

 

 

 

そう……自分は超兵器と言う名の死神に首を狩られかけていたのだと言う事実が、忘れ去りたいと都合の良い解釈を浮かべてくる自身の脳に遅れ馳せながら叩き込まれた瞬間でもあった。

 

 

 

 

(アケノ……お前が姿を見せなかったのは、皆の気持ちを理解して熟考した上で、私が付いて来るのかどうかを判断して欲しかったからなのか?)

 

 

 

 

ミーナは彼女を堅く抱き締めると共に、異世界艦隊と超兵器を相手取る覚悟を決るのだった。

 

 

 

 

  

 

 




お付き合い頂きありがとうございます


漸くミーナとはれかぜメンバーとの絡みを書くことが出来ました。



初期構想の段階では生存ルートと死亡ルートに分かれていたのですが、1章を終えた段階で生存ルートには確定していました。



しかしながら、同行させるか否かについてはギリギリまで悩んだのですが、やはりはいふりにミーナは必須だろうと、今回異世界艦隊への同行を決意いたしました。



次回は、2章前編を完結出来ます様、善処して参ります。





尚、ご相談立ったのですが、2章前編と後編の間に簡易のキャラ紹介と超兵器紹介をのせるか否かについて、ご意見等ありましたら感想または、メッセージに宜しくお願い致します。



無い場合は、2章後編終了後に纏めて掲載を致します。








これからもとらふりをよろしくお願い致します。
































とらふり!


幸子
「ミーちゅわぁあん☆」


ミーナ
「コ・コ……♪」



幸子
「幸せですぅ!ミーちゃんの胸に抱かれて……あれ?なんか薄――」



ミーナ?
「掛かったな」


幸子
「あ、貴女は!テアさん!?」



テア
「そんなことだろうと思って事前に変装セットを用意していたのだ」



幸子
「変装までするなんて……狡いです!卑怯です!take2お願いします!今度は本物のミーちゃんで!」



テア
「無駄だ!幾度と無くわたしとミーナの邪魔をしたからには相応の報復を受けてもらう!」


幸子
「ぐぬぬぅ!」



ミーナ
「どうしたんじゃ?二人とも」


テア
「なに!?何故こんな所にミーナがっ!確か食堂に用意した大量のブルストとザワークラフトを餌に釘付けにしていた筈」



幸子
「食べ物に釣られるミーちゃんも可愛い!でも、愛には勝てなかったみたいですね!さぁミーちゃん!take2と参りましょう!」



ミーナ
「あ、ああ!勿論だとも!」


テア
(ん?なにか様子がおかしいような……)



幸子
「ミーちゅわぁあん!」


ミーナ?
「こ、ココぉ~!ちょっ、あの子いつも日本の方とこう言う事してましたの!?ちょっ、やめ、揉まないで下さいまし!」



幸子
「ああ!ホンモノ感触……なんか少し小さい気もしますが」



ミーナ?
「!!!!」



テア
「ああ、もしかしてリーゼ…いや、敢えて言うまい。ミーナにドッキリを仕掛けるつもりが、逆に墓穴を掘るとはな。気の毒に……ではホンモノはどこだ!!?」




その頃のミーナ


ミーナ
「ん~♪やっぱりブルストは最高じゃのう!飽きと言うものがない!」






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哀愁の聖歌

お待たせ致しました。



2章前編の完結となります




それではどうぞ


 + + +

 

 

洋美は明乃を探してヴィルヘルムスハーフェンの港付近を走っていた。

 

 

 

「岬さん……一体何処に――あっ!」

 

 

 

瓦礫と化してしまった建物の向こう側にある船着き場に、一人で海を見つめる明乃の姿を見つけた。

 

 

 

 

「岬さ――」

 

 

 

 

「~♪」

 

 

 

「!?」

 

 

 

明乃は歌っていた。

 

 

 

 

《哀愁漂うあの時を――

 

嘆いて、幾年経つ事か――

 

青い瞳を携えて、見るは果て無き七の海――

 

 

たなびく尾ひれを亡くせども――

 

 

いつの日にか――故郷へ帰らん》

 

 

 

 

聞いた事の無い歌詞であった。

 

 

 

その歌声は大衆を魅了するものでは無いのかもしれない。

 

 

しかし、透明な歌声と童謡の様な音調が潮風と相まって心に響いて来るのを洋美は感じる。

 

 

 

「哀しい歌ただな……」

 

 

 

再び声を掛けようと踏み出した彼女よりも先に、誰かが明乃に声を掛けていた。

 

 

洋美は慌てて建物の裏に隠れる。

 

 

 

 

「美波さん……」

 

 

 

「最近調子はどうだ?」

 

 

 

「えぇっと……うん、順ちょ――」

 

 

 

「眠れないのは解ってる。問題は¨いつから¨と言う事になるが……」

 

 

 

「やっぱり、お見通しだったんだね?やっぱり顔に出ちゃってたかなぁ~」

 

 

 

「私の質問に答えろ!」

 

 

 

「うん……小笠原での戦いの後――欧州に出発する辺りからな」

 

 

 

「そんなに前からか……何故言わなかった!能力を発動させるだけでもあなたの脳は超兵器に侵食されてしまうと言うのに、気を抜けば常時侵食されていたとなれば、人格どころじゃない――日常生活にだって支障をきたし兼ねないんだぞ!」

 

 

 

 

「どういう事なの!?」

 

 

 

 

「「!!?」」

 

 

 

 

洋美は思わず飛び出していた。

 

 

 

 

 

その顔を見た美波の表情が曇り、舌打ちをする。

 

 

 

 

洋美は、はれかぜメンバーの中でもっとも真っ直ぐな性格をした人物だ。

 

 

 

勿論、悪い事では決して無いのであるが、あらゆる意思が介在する現代にとって、その性格が必ずしもプラスに働くとは限らない。

 

 

 

今回の場合はその悪いケースが当てはまってしまったのだ。

 

 

 

大きな歩幅でこちらにやって来る洋美に、美波の眉間の皺が一層深くなる。

 

 

 

 

「黒木さん、悪いが大事な話をしてるんだ。ここは一旦――」

 

 

 

 

「岬さんと超兵器との間に何が有るの!?私、何も聞かされてない!岬さんも岬さんだよ!また何か隠して、勝手に何か決めようとしてるの?同じ命を預ける仲間なのにおかしいよ!気持ち悪いよ!」

 

 

 

 

 

美波の苛立ちが更に高まったのは言うまでもない。

 

 

実のところ、明乃に関する事は、彼女の過去と能力に関する事のみで、あまり公にはなっていなかったのだ。

 

 

 

特に脳の侵食に関しては、メンバーの恐怖を増長させてしまう懸念を考慮して、特に厳密に伏せられていた。

 

 

 

 

だが、今回は最も露呈してはならない人物に知られてしまった。

 

 

 

「黒木さん頼む。時間が無いんだ。艦長と話を――」

 

 

 

「時間が無い!?もしかして、岬さんはそれ程身体が良くないの?そんな状態で私達の命を預かってたわけ!?そんなの――」

 

 

 

「いい加減にしろ!」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

「自分だけが被害者だとでも思っているのか!?自分だけが蔑ろにされているとでも思っているのか!?違うぞ!」

 

 

 

「私はそんな事思ってないし、そう言う事を言ってるんじゃない!」

 

 

 

 

「止めて二人とも!」

 

 

 

明乃の悲痛な叫びに二人は押し黙るも睨み合いは続いていた。

 

 

 

 

「クロちゃんお願い。少し美波さんと話しても良いかな?ここにいてもいいから……」

 

 

「ええ……」

 

 

 

「済まない艦長……私とした事が、冷静さを欠いていた様だ」

 

 

 

「大丈夫だよ。美波さんが私をここに呼んだのは、この現象について何が解った事があったからなんでしょ?」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

美波の表情が一層険しくなったのを明乃は感じた。

 

 

 

 

「艦長、パナマ以降にあなたに渡した計測器の件は理解しているな?」

 

 

 

「うん……ヒュウガさんと共同開発したって言う脳波に現れる超兵器ノイズを検知する機器の事だよね?」

 

 

 

「そうだ。今回の件もそれで解ったのだが……それは一先ず後にしよう。問題は次だな。実はこの機器をウィルキアや蒼き鋼、そしてブルーマーメイドの一部の人間にも装着して貰っていたんだが――」

 

 

 

 

明乃は背中にゾクリとする様な、嫌な感覚を覚えた。

 

 

 

 

「¨全員¨の脳波からに例外無く超兵器ノイズが検知された」

 

 

 

 

「!!!?」

 

 

 

明乃は驚愕を隠せない。

 

 

 

当然であろう。

 

 

 

それは、全員に例外なく明乃と同様の症状が発症する危険性を有している事と同じなのだから。

 

 

 

 

「じゃ、じゃあ皆私みたいになっちゃうの!?」

 

 

 

「それは断言しかねるが、可能性は否定できない」

 

 

 

「そんな……」

 

 

 

「だがある程度の規則性は認められる。」

 

 

 

「規則性?」

 

 

 

「主に地位の高い人間の脳波に強く現れると言う点だ。そしてその者からは、大概超兵器の声が聞こえたとの証言も得ている。知名さんに於いてもそれは例外ではない」

 

 

 

「モカちゃんが!!?」

 

 

 

「ちょっ、ちょっと待って!全然話に付いて行けない……超兵器の声?脳波にノイズ?どういう事!?」

 

 

 

 

洋美には、二人がまるでSF小説の話でもしているかの様に思えた。

 

 

動揺する彼女を手で制しつつ、美波は話を続ける。

 

 

 

 

 

「順を追って話す。先ずは落ち着いて話を聞け」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

「黒木さんもいる。ここは整理しつつ話を進めるべきだろう」

 

 

 

「解った。お願い美波さん」

 

 

 

 

「以前にも話した通り、あなたの過去には超兵器が関わっている。黒木さんには名前が伝わっていないかもしれないが、今回現れたフォーゲルシュメーラが過去に艦長との直接接触した超兵器なんだ」

 

 

 

「も、もしかして、岬さんが雷や嵐が苦手なのって……あの超兵器がご両親を――あっ!ご免なさい……」

 

 

 

「ううん、気にしないで。美波さん続けて」

 

 

 

「うむ。今までの見解では、そこで超兵器と艦長との間に何らかの絆が発生し、干渉が生じていると見ていた訳だが……」

 

 

 

「そうか……もしかして、超兵器と戦ってきたウィルキアの人達、そして今回超兵器と関わる事になった蒼き鋼やブルーマーメイドの皆にもその絆が発現したって事なんだね?」

 

 

 

「それだけじゃない。始めに全世界で同時多発的に生じた超兵器による襲撃によって、その影響が世界規模で発生している可能性が出てきたと言う事だ」

 

 

 

 

「なっ……!」

 

 

 

 

――いいか?

 

 

彼女は、動揺する明乃にもう一度自分へ視線を誘導する。

 

 

 

 

「この装置によって超兵器の干渉は、理性――つまり善悪を判断する前頭葉の一部に干渉して善の部分の機能を低下させる作用が有ることが解った。艦長……小笠原でのあなたの暴走はそれ故の事だ」

 

 

 

「それじゃまるで6年前のRATtウィルスと一緒じゃ――」

 

 

 

「いや……似て非なるものだな。RATtウィルスの場合は前頭葉自体の機能を低下させて本能を露にするものだ。確かに危険ではあるが、感染者の動きは単調で読み易く、ウィルス自体の遺伝子が変異しにくい物である為、ワクチンの接種で完全に抑え込める。だが……」

 

 

 

「超兵器の干渉には、有効な防御手段がない……だね?」

 

 

 

「ああ……更にだ。前頭葉の一部が機能している事がかえってタチが悪い」

 

 

 

 

つまりはこうだ。

 

 

 

RATtウィルスの場合、暴走状態に陥った者は、それがいけない事と理解しているにも関わらず、本能から来る衝動によって行動を制御出来なくなる。

 

 

 

対する超兵器の干渉は、脳があらゆる思考をこなして導かれる答えが、最終的に必ず惨禍をもたらす結果に繋がってくるのだ。

 

 

 

つまりは自身の正義や信念はそのままに、結果だけが破滅に繋がる。

 

 

 

例え虐殺をしようが、世界を滅亡させようが、自身は正しい行いをしており、何ら非など存在しない――そう言う価値観に歪められてしまうのである。

 

 

 

小笠原での明乃の暴走の切っ掛けは、江田を撃墜された事によりショックを受け、錯乱状態陥った芽衣の姿を見てしまった彼女の気持ちが歪められた結果からだった。

 

 

 

自身の家族が傷つけた対象に、例え家族の一人や二人失っても完膚なきまでの報復を行い、消滅させる事が¨最善¨であると判断した為である。

 

 

 

 

勿論、干渉に抵抗した明乃の心には、暴走の反動でとてつもない罪悪感と自責の念が押し寄せて来たのだが……

 

 

 

それが世界規模で発生するとなると看過出来る事態ではない。

 

 

 

そして……

 

 

 

「役職者に大きなノイズが出るのはどうしてなの?」

 

 

 

「ここからは私や博士、そしてヒュウガの私見が入るのだが……これ等の人物に共通するのは、皆武力を行使させる意思決定権を有している人物が大半なんだ。この意味が解るか?」

 

 

 

 

「……まさか!」

 

 

 

明乃は、自身の顔から血の気が引くと共に、強烈な吐き気と背筋に不快な寒さを感じた。

 

 

 

 

「そのまさかだ。人間どおしを争わせるは別にRATtウィルスの様に全員を暴走させる必要はない。解りやすく言うなら、国のトップや軍艦の艦長、若しくは武力を持つ集団に攻撃命令を下せる数人の意思を歪めてしまえばいいんだ」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

「解るか?一発だ。たかが数十グラムの銃弾一発で人は呆気なく死ぬ。やがて1つの死が生む怨みの連鎖が広がり、自分達では止められなくなる。人の心は低きに流れるからな……世界大戦だよ」

 

 

 

 

「世界大戦……」

 

 

 

「ああ。多くの人が死に、世界が疲弊する。もしそのタイミングで超兵器の総旗艦が起動したら……」

 

 

 

「抗う術がない世界は滅亡する……?」

 

 

 

 

「そうだ。だから艦長の身に起きている事は、他人事じゃない。逆に言えば、それを解決する事が事態打開の一歩となるんだ」

 

 

 

 

「そうだったんだね……」

 

 

「ねぇちょっと……ちょっと待って!なんかもう頭グチャグチャでついて行けない……世界大戦とか滅亡とか実感が湧かないわよ……」

 

 

 

 

彼女が混乱するのは無理もない。

 

 

 

普段トップ同士の会議の場へ赴く機会のない洋美にとっては、受け入れたくない内容のものなのだろう。

 

 

 

 

「あなた達、いつもこんな会話をしているの!?私、今の話だけで頭がおかしくなりそうよ……」

 

 

 

「だから敢えて話さない事もあるんだ。艦長達は、他の皆に余計な雑念が入らない様に憂慮している。相手が超兵器ともなれば尚更だろう?少しでも各員の動きにミスがあれば、その時点で私達の運命は決してしまうのだからな……」

 

 

 

「……」

 

 

 

洋美は今にも泣き出しそうな顔で明乃を見詰めた。

 

 

そんな彼女に、明乃はいつもと変わらない優しい笑顔を向ける。

 

 

 

 

「どうして!?どうして今そんな顔が出来るのよ!世界がこんなに大変で、岬さんの身体だって――」

 

 

 

「信じているからだよ」

 

 

 

「……え?」

 

 

 

「私は皆を信じてる。美波さんはきっと私を助けてくれるし、クロちゃんだってはれかぜを支えてくれるって信じてる。だって【家族】だもん」

 

 

 

 

「岬さん……」

 

 

 

「クロちゃん私ね、昔は……ううん、きっと最近までは、自分がしっかりしないとダメなんだって思ってた。でもね、皆が私に一人じゃダメなんだって気付かせてくれたんだよ。そして世界も、きっと私達だけじゃ救えない。シュルツ艦長が言ってたんだ。¨アノ艦¨は世界が1つにならないと倒せないって……」

 

 

 

 

 

「自分がいかに困難な事を言っているのか解っているのか?」

 

 

 

「解ってるよ。だって神様ですらも、世界中にいる人間の意思を1つには出来なかったんだから……」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

 

「でもね、私は諦めないよ。だってそうじゃないと、皆が大切な人と永遠に会えなくなっちゃうから……」

 

 

 

 

二人は先程明乃が歌っていた歌詞を思い出していた。

 

 

 

どんなに嘆いても、どんなに待っていても、彼女の両親は返らず、帰る家もない。

 

 

 

 

超兵器襲撃を経て、明乃と同じ立場となった人々を見てきた彼女達には、それがどれ程悲痛な事なのかが理解できていた。

 

 

 

そしてそれが、自分の身にも降りかかって来る事も……

 

 

 

 

だが、その戦闘に立つべき明乃には時間が残されてはいなかった。

 

 

 

全てをしった洋美は、まるで達観した様な穏やか表情の裏に潜む明乃の脆さが心配でならなかった。

 

 

 

 

「でもその前に岬さんが……」

 

 

 

 

「大丈夫だよクロちゃん」

 

 

 

 

「……え?」

 

 

 

 

「さっきの歌、聞いてたんでしょう?」

 

 

 

「え、ええ……」

 

 

 

「あれ、小さい頃お母さんがよく私に唄っていた歌なんだ。不思議だよね……別な世界の歌なのに、まるでブルーマーメイドの歌みたい」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

「あの歌には続きがあるんだ―――」

 

 

 

 

《幾ら待てど暮らせども――

 

決してあの日は返らない

――

 

 

希望の瞳を携えて、見るは隣の友の顔――

 

 

海が牙剥き、溢れても――

 

 

友の待ちたる――あの場所へ帰らん》

 

 

 

 

「生きている私達は、生きている人にしか何かを出来ないって思うんだ。でもね……亡くなった人の為にって言えば偽善になっちゃうかもしれないけど、失われた悲しさや悔しさは、もうその悲劇を繰り返しちゃいけないって私達に訴えてる気がするんだ。だから……」

 

 

 

 

彼女は海へと身体を向けて目の前を真っ直ぐ見据えた。

 

 

 

「私は忘れないよ。お父さんもお母さんも、亡くなった人達の事も……絶対に無かった事にはしない!」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

洋美は目を見開いた。

 

 

 

海……

 

 

彼女は明乃に海を感じていた。

 

 

 

生命の起源となる母なる優しさと、その中で逞しく生き、多くの者を率いる力強さをもった父の様な事逞しさ。

 

 

 

 

それらを併せ持つ存在、即ち……

 

 

 

 

「艦長……」

 

 

 

 

頭では理解していたつもりだった。

 

 

 

だが、様々なわだかまりを経て、この死に最も近い戦いの中で本音で話す事が出来た今、彼女にとって明乃は真に艦長となったのであった。

 

 

 

明乃は再び振り返って、彼女達にいつもと変わらない優しい笑顔を向ける。

 

 

 

 

 

 

「美波さん、前に言ってたよね?《まず自分にとっての日常を考えてみてもいいんじゃないか?どうしても無理なら仕事の事でも》って……」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

「私決めたよ!私、先生になりたい!」

 

 

 

 

「先生?」

 

 

 

 

「うん。私、ブルーマーメイドを目指す子達に、海で【家族】がいる事がどれだけ素晴らしいのかを伝えてあげたいんだ。古庄教官が私達に教えてくれたみたいに……」

 

 

 

「艦長……」

 

 

 

 

「ダメ…かな……?」

 

 

 

 

「いいや、良いことだと思う。艦長、あなたにも目指すものが出来て良かった。その為に、私も頑張らねばな……」

 

 

 

「うん!信じてるよ美波さん!」

 

 

 

 

「さて……話は纏まった。二人ともはれかぜに戻るぞ。艦長には事態打開の為にもう少し付き合って貰うがな……」

 

 

 

 

「お、お手柔らかにね……」

 

 

 

3人は再度、この越え難い困難に立ち向かう決意を新たにしてはれかぜへと戻って行く。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

会議の終了後、ウィルキアの主な面々はブリーフィングルームに残っていた。

 

 

 

 

そこへ入って来たのは……

 

 

 

「ガルトナー司令!」

 

 

 

一同は姿勢を正して敬礼し、返礼を返したガルトナーが椅子へと腰を落とした。

 

 

 

 

「諸君、日本を出発してから今日までの不休の戦い、本当にご苦労だった」

 

 

 

 

「いえ!当然の事をしたまです!」

 

 

 

「うむ。それでだが……諸君らは、既に博士から超兵器の干渉が人々の脳にまで及んでいる件については聞いているな?」

 

 

 

「はっ!にわかには信じられませんが……」

 

 

 

 

「うむ……これは非常に由々しき問題だ。各国に公表しようにも慎重を期さねばならないだろう」

 

 

 

「同感です。荒唐無稽だと突っぱねられる位ならまだ良いのですが……」

 

 

 

「それを理由に軍事侵攻などされれば、世界の分断は必至だからな……」

 

 

 

 

 

彼等の懸念はこうだ。

 

 

 

超兵器の意思による干渉を公表すれば、仮に干渉を受けていなくとも、軍を有する国家が他国へと軍事侵攻をする理由を造り出してしまう。

 

 

 

あの時の侵攻は、超兵器の干渉で頭がおかしくなった者の命令だったので許してください……と

 

 

 

 

超兵器が特定の国家に属さなかった以上、戦後の賠償など困難であり、侵略された国家は泣き寝入りを余儀なくされる訳だ。

 

 

 

 

かといって公表しなければ、干渉によって戦争が引き起こされ、情報を持っていたのに公表しなかった国連やブルーマーメイド連合への信頼は失墜し、抑えの効かなくなった各国の軍が動き出す。

 

 

 

状況は政治的な面でも窮地に立たされていた。

 

 

 

「益々キールに行く必要性が増してきましたね……」

 

 

 

 

 

「うむ!バルト海での戦闘の前に、キールでの補給と今後の協議を進めて行こう。諸君らには無理難題ばかり押し付けるようで心苦しいのだが……」

 

 

 

「いえ!ウィルキア軍人……いや、解放軍として責務を全うして参ります!」

 

 

 

 

「そう言ってくれると助かる。他に何か報告事項はあるか?」

 

 

 

 

 

 

「司令、それに艦長もよろしいでしょうか?」

 

 

 

「ヴェルナー?どうかしたのか?」

 

 

 

「ええ、この場をお借りしてご報告しておきたい事が……」

 

 

 

「どの様な内容なのか?」

 

 

 

 

「申し上げます」

 

 

 

ヴェルナーの表情が険しくなり、場の空気が張り詰める。

 

 

 

 

 

「覚えておいででしょうか?超兵器【ヴィア・サクラ】の事を……」

 

 

 

 

「ああ。我々の世界のヴェスヴィオ火山から発掘された¨古代の超兵器¨の事だな?」

 

 

 

「そうです。筑波大尉から相談を受けた私は、ティレニア海での戦闘後、大戦艦ハルナに依頼をしましてヴェスヴィオ火山を調べて貰ったのですが……」

 

 

 

「………」

 

 

 

「我々の世界と同様に、超兵器と思われる巨大な物体が埋没している事が判明しました」

 

 

 

「何だと!?確かなのか?」

 

 

 

 

一同は驚愕していた。

 

 

 

 

 

「はい、しかも我々の世界で発見されたヴィア・サクラと同型の物と判明しております」

 

 

 

「何故ヴェスヴィオ火山に――」

 

 

 

「それは私からお話しします」

 

 

 

博士に全員の視線が集中する。

 

超兵器【VIA SACRA(聖なる道)

 

 

 

彼等の世界にて、ヴェスヴィオ火山に埋没していた超兵器である。

 

 

 

 

現代兵器のどの形状にも属さない特殊な形状と未知なる物質によって、原型をほぼ留めて発見されたソレは、帝国によって発掘され、超兵器技術の向上の為に利用されようとしていた。

 

 

 

結局、シュルツ達の介入によってそれは阻止されたのだが、ヴィア・サクラは彼等に様々な謎を叩きつけたのである。

 

 

 

 

 

 

「今回の超兵器の配置、そして我々の世界の例から見て、恐らく日本やハワイを含めた火山地帯には同様に超兵器の残骸が眠っているとみて間違いないでしょう。火山である理由は不明ですが、今回発見された超兵器とヴィア・サクラが発見された地層から推測するに、¨全世界の生命の大量絶滅¨が引き起こされた時代に存在していたことが明らかになりました」

 

 

 

 

「絶滅……」

 

 

 

「ええ。過去の手掛かりは僅かであり、かつて人類の様な知的生命体が存在していた証拠は無いのですが、仮に知的生命体が存在していなかったと仮定するならば、超兵器の意思……いえ、マスターシップの目的は、人類の滅亡ではなく、¨生命の滅亡¨なのかもしれません」

 

 

 

 

フィンブルヴィンテル(大いなる冬)……か」

 

 

 

「確かにこの星に突如訪れた氷河期と話が合致しますね。もしかしたら、世界に伝わる神話の争い、そして滅亡はこれを指しているのかもしれません」

 

 

 

彼らは一様に口をつぐんだ。

 

 

 

 

過去にもこの様な事が有ったのか――

 

 

だとしたら何故か――

 

 

 

何故複数回に渡って世界に干渉して来るのか――

 

 

 

 

謎は更に深まって行く。

 

 

 

 

 

この段階では結論が出ないと判断したガルトナーは、咳払いをして全員の視線を自分へと集めた。

 

 

 

 

「その件に関する調査は博士に一任するとして……問題はそれを公表すべきか否かだな」

 

 

 

 

「はい、火山は各国の領土内に有ります。もし未知なる技術が自国に眠っているとすれば――」

 

 

 

「周辺諸国を巻き込んだ争いの種にもなりかねん。超兵器機関こそ存在しなかったが、ヴィア・サクラだけでも我々にかなりの戦力をもたらしたからな」

 

 

 

 

彼らが持ちうる高威力の兵器技術は、帝国からの奪取のみならず、発掘された超兵器からも得ていた。

 

 

 

装甲に於いても極めて軽く、にもかかわらず強靭な性能を有していた為、分析解体を経てあらゆる部品や新生はれかぜの装甲等に利用されている。

 

 

 

 

迂闊に公表すれば、軍拡競争やソレを巡っての戦争に発展する可能性すらあるのだ。

 

 

 

 

「司令、恐れながら今はまだこの事を公表すべきではないと進言致します。しかし、戦後のこの世界の安寧と、新たな超兵器技術の開発阻止は最重要項目でしょう」

 

 

 

「同感だ。マスターシップに時空を越える能力がある以上、破壊しても再びそれが開発されて他世界に影響を及ぼさんとは限らんからな……とにかくだ、その件も含めて議論を加速する必要がありそうだ。引き続き諸君らには苦労を掛けるが、宜しく頼む」

 

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

自身にに敬礼をするシュルツに、ガルトナーは自分の無力さを思い知らされるのだった。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

群像は、一人で401の甲板から海を見ている。

 

 

 

 

「艦長」

 

 

 

「ヒュウガか……話は聞いたよ。それで?何か収穫はあったのか?」

 

 

 

 

「少し……だけどね。隣いいかしら?」

 

 

 

「ああ、勿論」

 

 

 

ヒュウガは群像の隣に立ち、手摺に肘を置いて寄り掛かる。

 

 

 

その実、二人はこう言った会話の場を良く設けていた。

 

 

 

霧の視点からでは解らない事も、人間である群像との会話を通じて理解できる事も有るからだ。

 

 

勿論、その逆も然りであるが、今回は情報の共有が目的である。

 

 

ヒュウガは視線を海に向けたまま口を開いた。

 

 

 

 

「解らない事はまだ有るのだけれど、役職者にノイズが大きく現れるのは知っているわね?」

 

 

 

「ああ……この間話してくれたな」

 

 

 

「ただ、役職者の中にも特段ノイズが大きい人物がいたのよ」

 

 

 

「ウィルキアのシュルツ艦長や、はれかぜの岬艦長の事か?」

 

 

 

「ええ……恐らく彼等が三つの世界の代表の様なものと考えるなら、その例に当て嵌めると蒼き鋼では艦長……あなたがそれに当たる」

 

 

 

「だろうな」

 

 

 

「でも違うの、蒼き鋼で最も強くノイズが現れたのは¨イオナ姉¨さまだった」

 

 

 

「………」

 

 

 

 

群像の表情が険しくなる。

 

 

当然、自身が超兵器に世界の代表者として認識されていない事が悔しいと言う事ではない。

 

 

 

 

問題なのは、より影響力のある人物に干渉しうる超兵器の意思が、何故イオナを選んだのかが重要であるからだ。

 

 

 

 

 

 

「それは、イオナが¨元総旗艦ヤマトとの直属の艦艇¨である事が起因しているのか?」

 

 

 

 

「無関係とは言えないわね……ただ、私達は現在アドミラリティコードの支配圏には無いわ。本来なら、その代弁者たる総旗艦からの指揮からも外れている筈よ。ただ……」

 

 

 

 

「ただ?」

 

 

 

「総旗艦直属であった時代の記録を覗こうとしても、プロテクトが掛かっていて閲覧が出来なかったの。総旗艦の支配から解放されているこの世界で……よ?」

 

 

 

「君が解錠出来ないレベルのプロテクトか……イオナ自身にその能力が秘められている可能性は?」

 

 

 

 

「姉さまのコアは通常よりも演算能力の高いデュアルコアを何故か有しているわ。でも本来、巡航潜水艦クラスのコアなら艦隊旗艦の資格を持つΔコア以上の干渉を拒否する権限は無いの。勿論、巡航潜水艦がメンタルモデルを持つ事自体が異例なのだけれどね……」

 

 

 

「………」

 

 

 

二人は沈黙した。

 

 

 

実際、霧で随一のハッキング能力を有する彼女がお手上げになった時点で、イオナの真相には辿り着けない可能性が高いからだ。

 

 

 

そもそも彼はおかしいと思っていた。

 

 

 

それは以前に彼女が発した――

 

 

【千早群像に逢い、従う事……それが私に課せられた只一つの¨命令¨】

 

【群像、私は貴方の艦。貴方の命令に私は従う】

 

 

 

 

彼女の言葉が確かならば、イオナは少なくともヒュウガのハッキングをプロテクト出来る程の上位存在に前途の内容を命じられている筈なのだ。

 

 

 

ところが、その指揮圏外にいる現在に於いても、彼女は彼の命令に実直に従い続けていた。

 

 

例を挙げるならバミューダでの一戦だ。

 

 

 

 

人間の戦術に対応しうる超兵器に対抗する為に、群像はイオナに自分の意思で行動せよと伝えた。

 

 

 

しかし彼女は、群像の命に従う様指示されていると、難色を示したのだった。

 

 

 

 

群像は、イオナの出時を含めた事柄を、自らの世界に於いてコンゴウ艦隊を突破し、総旗艦であるヤマトに問い質す必要性を強くする。

 

 

 

 

 

二人の間に再び沈黙が訪れ、今度は群像が先に口を開いた。

 

 

 

 

「イオナの件は取り敢えず保留にしよう。可能性の段階では混乱を生じかねない。それよりも――」

 

 

 

「あなたの聞きたい事は解っているわ。この事態、超兵器側と異世界艦隊を含めた人類側と言う構図に割って入って来ている¨第3の存在¨についてね?」

 

 

 

「ああ……」

 

 

 

彼がヒュウガに真に求めていた内容とはそれの事だった。

 

 

 

 

「これも一度整理して話す必要が有りそうだな……まず、第3の存在を一先ず置いておくとしてだ。実は俺にも超兵器の声が聞こえる時がある。だが、その状況は岬艦長のもとはきっと別なのだろな」

 

 

 

 

「断定とは言えないけれど、私もそう思うわ。超兵器の声が聞こえた状況と、その人物を本人の証言を元に照らし合わせてみたのよ」

 

 

 

 

「結果は?」

 

 

 

「弁天の宗谷艦長や知名艦長、そしてドイツのテア・クロイツェル艦長――勿論、シュルツ艦長にも聞こえていた。このケースがあなたと同一と思われる事例なのだと考えると、あなたが聞こえていたのは、現状として戦闘海域に展開している超兵器の意思と考えるわ」

 

 

 

 

「ふむ……アームドウィングなど、相対している際に聞こえていたのはそう言う事か。岬艦長はどうなんだ?」

 

 

 

 

「彼女の場合だと、超兵器の意思……いえ、ウィルキアの言葉を借りるならマスターシップの意思と言えるのかしら?その声が主に聞こえているみたい。例外として、彼女の両親を死に追いやったと言うフォーゲルシュメーラの声だけは聞こえたらしいけどね」

 

 

 

 

「見えてきたな……」

 

 

 

 

つまり、現在に於いて確認されている超兵器の意思の種類はその二つに分けられた。

 

 

そして、事の本題となる第3の声に関しては――

 

 

 

 

 

 

「では第3の声について……君の見解を聞かせて貰えるか?」

 

 

 

 

「ええ。聞き取りによって判明した結果によると、第3の声が聞こえている人物は、マスターシップの意思を聞いたあの3人よ。そして聞こえた状況は大きく分けて2つ」

 

 

 

 

「2つ?」

 

 

 

 

「一つ目は、私達とウィルキアがこちらに転移して来る直前――あの謎の振動に包まれている時。2つ目は、異世界艦隊に犠牲者が出かねない状況の時よ」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

 

ヒュウガは群像の沈黙を、横目に見ながら続けた。

 

 

 

 

「具体的言うなら、バミューダではれかぜに対し、ノーチラスが量子魚雷を発射した時ね。記録を見せて貰ったけど、状況的に見て、アレの存在を知らなかったはれかぜは、重力の奔流から逃れる術はまず無かったわ。なのに――」

 

 

 

「生還した……か」

 

 

 

「ええ。何故か急に重力の力が弱まったみたい。そしてその状況に類似するのは――」

 

 

 

「ムスペルヘイムが重力砲を発射した時だな?あの時、その場にいる全ての者がアレを止められる状況に無かった。だが、いざ発射された重力球は急に威力を失った様に見えたが……」

 

 

 

「正にその通りよ。それと時を同じくして、岬艦長が例の声を聞いている」

 

 

 

 

「声は何と言っていたんだ?」

 

 

 

 

「不明瞭で聞き取れない部分が多いらしいけど、何かを懇願している様に感じたと聞いているわ。そこから判断すると、その声の主によって私達は¨元の世界から呼び寄せられた¨と考えているの」

 

 

 

 

「!」

 

 

 

今まで海から視線を外さなかった群像が初めて隣のヒュウガの顔を見詰めた。

 

 

 

彼女は頷き、根拠を求めてくる彼に答える。

 

 

 

 

 

 

 

「根拠は……残念ながら無いのだけれど。でも得心はいくわ。戦闘の記録から見ても、超兵器のウィルキアや蒼き鋼に対する執拗な攻撃。これは私達の存在が超兵器にとってイレギュラーな存在だったと見るべきよ」

 

 

 

 

「確かに……俺達が居なければ、この世界は瞬く間に掌握されていただろうな。だが、どうやって俺達をこの世界に送り込んだんだ?それは、遠からず俺達の元の世界への帰還にも繋がる無いようだが……」

 

 

 

 

「それは今のところは解らない……でも、方法と言うならば可能性は無くはないわ」

 

 

 

 

「言ってみてくれ」

 

 

 

 

「マスターシップが超兵器を他世界へ送り込む技術があると仮定して、それを利用すると言う手段よ」

 

 

 

 

「成る程……だから横須賀で超兵器が現れたタイミングと俺達が現れたタイミングにあまりズレが無かった理由が解ったよ。それに、第3の声が超兵器の戦闘中に聞こえてくる理由もな……」

 

 

 

 

 

「ええ。恐らくは、超兵器特有の意思伝達手段に無理矢理割り込んで居るのでしょうね。だから不明瞭な聞こえ方なのかもしれないわ。」

 

 

 

 

「第3の意思による干渉はそれだけなのか?」

 

 

 

「いえ……ある意味この話題こそが、この世界に於いて重要とも言える内容よ」

 

 

 

 

「聞かせて貰えるか?」

 

 

 

 

「私達に干渉しうる超兵器のノイズ、それとは全く逆の波長が、第3の意思が現れた際に検出されたのよ」

 

 

 

 

 

「なに!?」

 

 

 

これは初耳であった。

 

 

 

 

彼女達の研究が進展したのは、明乃を含めた複数の者に脳波を検知する計測機器を装着させたパナマ以降になる。

 

 

 

そこからはヴィルヘルムスハーフェンの戦いが終わるまでひたすら連戦であった為に、報告する暇が無かったのだ。

 

 

 

 

 

 

「元々は、小笠原で岬艦長が干渉を受けて暴走した際、美波ちゃんが偶然発見したものよ。彼女の証言によると、岬艦長は¨はれかぜの意思¨なるものと会話したとか……でもそれが第3の意思とどう関係があるかは解らない」

 

 

 

 

「だがその波長を用いれば、干渉を止められるんだな?」

 

 

 

「それは無理よ」

 

 

 

「………」

 

 

 

「超兵器の波長には特定の規則性がない。第3の意思の様に完璧に無効化は出来ない。でも――」

 

 

 

「低減は出来る……か?」

 

 

 

「ええ。超兵器の波長を検知したら、それと同調して素早く逆の波長を放てば、完璧とまでは行かなくとも、限りなく低減は可能でしょうね。今、その器機を美波ちゃんと共同開発しているわ。人類にも模倣可能なレベルにまで持って行くまでに少し時間が掛かりそうだけど……」

 

 

 

 

「あとは待つしかない……か」

 

 

「そう言う事。私からは以上だけど何か質問はあるかしら?」

 

 

 

「いや、これだけでも十分収穫だ。良くやってくれたヒュウガ」

 

 

 

「いいえ……それよりもまだここにいるつもり?結構冷えて来たみたいだけど」

 

 

 

「ああ、もう少し頭を整理したいんだ。君は戻って休んでくれ」

 

 

 

「ええ……そうさせて貰うわ」

 

 

 

 

 

ヒュウガが白衣を翻して去って行くのを横目で見送った群像は、再び海へと目を向ける。

 

 

 

 

(超兵器の時空を越える力……か。願わくば、俺達が元の世界に戻る手掛かりとなれば良いが)

 

 

 

 

だが、ヒュウガの言からもあった様に、現在ではどうにもならない事柄が多い事も事実であろう。

 

 

 

 

(真実が、戦いを進めて行った先にしか無いのであるならば、今は目の前の事に集中しよう。そうすれば、更に何かが見えて来るかもしれない)

 

 

 

 

群像は、海から視線を外し、401の中へと戻って行った。

 

 

 

   + + +

 

 

翌朝

 

 

 

残りの業務をヴィルヘルムスハーフェン所属のブルーマーメイドに引き継いだ異世界艦隊は、出発の準備を整えていた。

 

 

 

そこへ――

 

 

 

「アケノ!」

 

 

 

「ミーちゃん?それにテアさんも!」

 

 

 

「儂らもヌシらと共に行くぞ!二人で何がと言うかもしれんが、出来る事なら何でもするつもりじゃ!」

 

 

 

「二人が考えて出した結論なんだね?」

 

 

 

「勿論じゃ!この艦隊加わる事が何を意味するのかも知っとる!知った上でヌシらと共に行きたいんじゃ!」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

明乃は暫し俯き、そして大きく頷いた。

 

 

 

「解った。一緒に行こうミーちゃん、テアさん」

 

 

 

「アケノ……ああ!これからも宜しく頼むぞ!」

 

 

 

 

「自分達ばっかり水臭いんじゃないの?」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

ミーナは声の主に顔を向け、目を丸くした。

 

 

 

 

「れ、レターナ!?」

 

 

 

 

快活そうな印象と、後ろに束ねられた長髪、そしてピンと跳ねた前髪が特徴の女性、レターナ・ハーデガンがこちらに向かって白い歯をニッと向ける。

 

 

 

更に――

 

 

 

「ローザ!それに――ローゼリッテ!」

 

 

 

「リーゼロッテですわ!あなたわざとですわね!?」

 

 

 

ショートボブの髪とおっとりした印象のローザ・ヘレーネ・カールスと、金色の髪を後ろにかき揚げ、気品溢れる佇まいを見せたリーゼロッテ・フォン・アルノーが、こちらにやって来た。

 

 

そして――

 

 

 

「皆!」

 

 

 

学生時代、学生艦アドミラルグラーフシュペーに搭乗していたクラスメイト達が勢揃いしていた。

 

 

 

 

「ヴィルヘルムスハーフェンの復興に来たのか!?」

 

 

 

「違うよミーナ。私達も艦長と共に行くために来たんだ」

 

 

 

 

「レターナ……だ、だが危険かもしれないんだぞ!?」

 

 

 

「へぇ~ソレをミーナが言っちゃうんだぁ。きっとはれかぜの皆だってそう思っていたのを、ミーナがゴリ押ししたんだろ?」

 

 

 

「うぐっ……」

 

 

 

「じゃあ言いっこ無しだな!」

 

 

 

「しかし――!」

 

 

 

「嘗めないでくださいましっ!」

 

 

 

「リーゼロッテ……」

 

 

 

「あなた方の為だけに行くのでは有りませんわ!度重なる襲撃によって失われた多くの仲間たちの命に報いる為にも、必ず超兵器を止める――皆そう言う覚悟をもって集まっているのですわ!」

 

 

 

 

「その通りさ!」

 

「その通りですわ!」

 

 

 

 

「お前たちは……レン!それに――」

 

 

 

「はい!遅れましたが何とか間に合ったようですわね!」

 

 

 

「ブリジット!」

 

 

 

 

ミーナ達の同級生でもあり、学生艦の艦長を務めた経験もある、赤毛の長髪に男装の麗人の様な整った顔立ちのレン・シュテーゲマンと、イギリス所属で、学生時代キングジョージⅤ世の艦長を務めた経験もあり、上品な佇まいに、金色の長髪をサイドで纏めたブリジット・シンクレアが立っていた。

 

 

 

 

「ブリジット!北に去っていった超兵器達と鉢合わせにはならなかったのか!?」

 

 

 

「ええ。異世界艦隊から速やかに情報が提供されましたから。それよりも――」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

「この戦いは、自分達だけの戦闘では有りませんわ。我々の首都ロンドンも焔に巻かれました。これ以上、罪無き方々が命を失うのは堪え難い屈辱ですわ。我が国の女王ネオクイーン・エリザベート一世陛下も、事態の終息をお望みになっておられます」

 

 

 

「そう言う事だミーナ。どちらにしても二人では何も出来ないと悩んでいたんだろう?」

 

 

 

 

一同が、ミーナとテアを見詰める。

 

 

 

嬉しかった。

 

 

 

かつて競いあった仲間たちが、共通の目的の為に再び集結したことが……

 

 

 

彼女は明乃に向き直って彼女の顔を見詰める。

 

 

 

 

 

明乃は静かに頷き、そして後ろに控えている艦長達に視線を送る。

 

 

 

 

最早異論は誰にもなく、群像とシュルツが頷くと、辺りからは歓声が巻き起こった。

 

 

 

 

「大所帯になりましたね。彼女達の乗る艦はあるのですか?」

 

 

 

「ええ……航空戦艦ペガサスを失いましたからね。その補強の為に改装を続けていたグラーフツェッペリン級一隻と――」

 

 

 

群像はシュルツの表情が少し険しくなるのを感じた。

 

 

 

 

「¨準超兵器級¨艦船を数隻です」

 

 

 

「!?」

 

 

 

群像は目を丸くした。

 

 

 

無理もない。

 

 

¨準¨とは言え、超兵器クラスの兵装をウィルキアが所持していたのだから。

 

 

 

 

「ご説明願いますか?シュルツ艦長」

 

 

 

「千早艦長の懸念は尤もです。しかしながら、ここまでの戦いで戦力不足を実感したことは確かでしょう。我々は以前、超兵器を小型化した準超兵器級艦船を複数拿捕しておりました。ここまで公表しなかったのは、色々と下準備をしていたからです」

 

 

 

「下準備ですか?」

 

 

 

 

「はい。準超兵器級には小規模ながら超兵器機関が存在します。暴走の危険がある以上、彼女達を乗せる訳には参りません」

 

 

 

「成る程……超兵器機関を別の機関に置き換え、この世界での仕様にある程度代えてから借与する訳ですね?」

 

 

 

「そうです。念の為、兵器情報漏洩の措置も、大戦艦ヒュウガに協力して頂いております」

 

 

 

 

「どの様な艦船なのですか?」

 

 

 

 

「ナギ丸級とレイガナーズ級。いずれも戦艦です。見た目もさほど違いは有りません。ですが、非常に強固な守りと攻撃力を備えています。ナギ丸級は弁天の代用として、レイガナーズ級、そしてグラーフツェッペリンは欧州から加わった組に使用して頂きます。宗谷艦長を納得させるのに苦労はしましたが……」

 

 

 

 

「確かに……あの方は自艦に愛着のある方ですから」

 

 

 

 

「いや、ナギ丸と言う名前がどうやら気に入らないらしく、準超兵器級の中から、気に入った物を抜粋して頂きました。確か……月黄泉だったと思います」

 

 

 

 

「あの方らしいですね……」

 

 

 

「ええ……」

 

 

 

 

二人は歓喜に湧く港を見詰めた。

 

 

 

 

 

笑顔を見せる彼女達の表情が絶望に変わらない事を祈りながら……

 

 

 

その後

 

 

 

 

新たな仲間を加えた異世界艦隊は、ヴィルヘルムスハーフェンを出港し、カテガット海峡へ舵を切る。

 

 

 

今後の情勢を占うキール、そして総旗艦の直衛を務める超兵器が待つバルト海に赴く為に……

 

 

 

 

 

 

2章前編

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


先ずは、注釈から――


今話冒頭の明乃の歌は、この話に沿う様に完全に私が考えた文言であり、何から引用した訳では有りませんので、ご理解願います。






皆さま方のお陰で、漸くストーリーを折り返す事が出来ました。




この場をお借りして、深く御礼申し上げます。




2章後編は、数話の番外編の話を挟んで送りして参ります。




今後ともとらふりを宜しくお願い致します。
































とらふり!



リーゼロッテ
「フフッ、流石のミーナも私の登場に驚いた様ですわね。愉快ですわ!」



ミーナ
「リーゼロッテ!あぁ、劇場版の大スクリーンで【ポロリ】したリーゼロッテェェェ!会いたかったぞ!」



リーゼロッテ
「や、止めなさい!大体おかしいと思ったのよ!アニメ版本編で晴風の皆さんはスクミズだったのに、学園祭の時は皆セクシーな水着で――ハッ!だから、実習のシオリに【自前の水着】が持参品の項目に入っていましたの?」



ミーナ
「劇場版ともなれば、みな背伸びをしたくなるものだろ?私もテアと買いに行って見せ合いっこしたぞ?そう言えばココにも見せたな、何故か鼻血を出していたが」




リーゼロッテ
「くっ……!折角の貴重な登場シーンで肌まで曝しましたのに、大和型の新キャラに負けてしまいましたわ!」



ミーナ
「でもあの者達も、結局はモエカに活躍を取られたと嘆いていたな。そしてモエカも、シロとアケノのベッドシーンとラストの抱擁シーンを羨ましがっていたし、まぁ両成敗ってことだ」




リーゼロッテ
「つまり皆、背伸びしたかったって訳ね……」


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2章 中編 時空湾曲のエデン
最後の家族   ■■■VS???


お待たせいたしました。


キールへの道のりの間を2章中編としてお届けします。


尚、中編にはとらふりはございませんのでご了承ください。


それではどうぞ


    + + +

 

 

固く鍵が掛けられた鋼の扉――

 

 

 

 

そしてそこに忍び寄る2つの影……

 

 

 

 

『小僧…いい加減しろ。こんな事を続けていても相手の心象が悪くなるだけだ。それに俺の勘が今日はマズイと言ってる』

 

 

 

『小僧って言うなよ!俺だって一人前の男なんだ!それにアンタの勘は当てになんないよ!見てろ!今日も俺が華麗にキメてやるからな!』

 

 

 

『ハァ……危機意識がまるでなっていない』

 

 

 

 

 

『大丈夫だって!それじゃ行くからなっ!扉が空いた瞬間が好機だ。アンタは動きが鈍いから俺に任せときなよ!』

 

 

 

 

『おいバカ!よせっ!どうなっても知らんからな……』

 

 

 

 

 

 

無鉄砲な片割れが飛び出して言ってから数秒後――

 

 

 

 

『に、逃げろ!見つかった!』

 

 

 

 

『言わんこっちゃない……』

 

 

 

 

二つの影は走った。

 

 

 

だが――

 

 

 

 

「お前達が犯人だな?逃げても無駄だ!」

 

 

 

 

『『!!?』』

 

 

 

2つの影は動揺した。

 

 

何せ声を掛けてきた者から見て、彼等は完璧に死角であったからだ。

 

 

 

『く、くそぅ!何でだよ!』

 

 

 

『あ、あれを見ろ!』

 

 

 

 

『!!?』

 

 

 

2つの視線の先には、照明で延びた扉の前に立つ者の影の形状は……

 

 

 

 

『おい!あれニンゲンの影じゃないぞ!』

 

 

 

『とにかく走り続けろ!今は逃げるしかない!』

 

 

 

『あ、ああ!』

 

 

 

2つの影は更に加速するが――

 

 

 

「無駄だと言っているだろう!」

 

 

 

 

『『!!!』』

 

 

 

 

彼等の脇を何かが高速で追い越して飛び跳ねる。

 

 

そして――

 

 

 

 

キュピー!

 

 

 

 

『『………』』

 

 

 

 

奇っ怪な音と共に、ソレは彼等の眼前に立ち塞がるようにして着地した。

 

 

その姿とは――

 

 

『『……!』』

 

 

 

「フハハハッ!どうだ!この私の姿を見て怖じ気付いたか?」

 

 

 

 

『『クマだ……』』

 

 

 

 

彼等の前にはクマのぬいぐるみの姿をしたキリシマが仁王立ちしていた。  

 

 

   + + +

 

 

 

「ねぇ艦長…最近スキズブラズニルの食料が盗難に遭ってるってしってる?」

 

 

 

 

「えっ!?そうなの!?」

 

 

 

芽衣からのもたらされた突然の内容に、明乃を含めた全員が驚愕した。

 

 

 

無理もない。

 

 

 

陸地とは異なり、物資を補給しない限り手に入れる事が事実上不可能な海上に於いては、銃弾の一発や水の一滴に至るまで無駄に消費する事は許されない。

 

 

 

 

取り分け食料に至っては、在庫や一食に使う食材の分量までも厳格に管理されている位なのだ。

 

 

 

それが管理者以外の第三者が無断で持ち出したとなれば、事態は決して軽視出来る問題でない事は明らかだろう。

 

 

 

今回に於いては、食料庫に侵入した人物が食材に毒物を混入したり、または弾薬庫など危険物を取り扱う部所への侵入や破壊工作が成されなかったから良かったものの、物品管理の徹底をガルトナーが指示した事は言うまでもない。

 

 

 

 

「それは一大事だな……艦長、私達も今一度物品管理の方法を見直した方が良いのかもしれません」

 

 

 

「シロちゃんの言う通りだよ。ミミちゃん聞こえる?」

 

 

 

『どうしたの?』

 

 

 

「スキズブラズニルで食材の盗難があったみたいなの。もう一度、主計部の皆で物資の管理方法に不備が無いか確めてくれないかな?」

 

 

 

『えっ!?本当に!?信じられない……私も見学に行ったけど、かなり厳重に物資の管理はされていたわよ?』

 

 

 

「だよね……」

 

 

 

ウィルキアは、この世界には存在しない技術を多数所有している為、兵器情報が流出して軍拡競争が加速しないよう重要区画に見張りを置いたり、潜入を目的にした工作員に対応する部隊が24時間体制で詰所に待機していた。

 

 

今回はその網目を潜るようにやられた事になり、キールを前にしてブルーマーメイドの信頼を失墜しかねない事態に、ガルトナーとシュルツは話し合いの結果、普段は敵地の情報を奪取するべく行動している陸軍特殊部隊を工作員捜索の名目で艦内各所に配置して、犯人の捜索を行う事になったのだ。

 

 

 

 

 

『因みにさ、どんな食材が盗まれたわけ?』

 

 

 

「えっ!?め、芽衣ちゃん知ってる?」

 

 

「う~ん、聞いた話だからどこまで本当か解らないんだけどさ、なんか¨肉と魚¨ばっかり無くなるみたいだよ?肉抜きのカレーとか、なんか嫌だよねぇ……」

 

 

「うぃ……このままじゃビーフカレーもシーフードカレーも食べられない……犯人許すまじ!」

 

 

「わ、私は太りたくないからちょっと嬉しいかもって思うけど、やっぱり仕事するにはそう言う食材も必須だよね……」

 

 

 

「知床さんはそんなに太ってないじゃないですか!私の集めたデータでは■■kg……」

 

 

 

「ひぃ~!!ココちゃんやめてよぉ~!」

 

 

 

『まぁそれはともかくとして……私の方でも色々やってみるわ』

 

 

 

「うん、お願いミミちゃん」

 

 

 

美海に後を任せた艦橋メンバーは再び頭を抱える。

 

 

 

「どうされますか?」

 

 

 

「一応スキズブラズニルで話を聞いてみようよ。原因の一端でも見つかれば力になれると思うし」

 

 

 

「じゃあ決まりだね!」

 

 

 

 

一同ははれかぜを降りて、スキズブラズニルで調査を行う事にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

一同は、スキズブラズニルに停泊している401の元へとやって来る。

 

 

 

 

「あっ!いおりさんだ!いおりさ~ん!」

 

 

 

「ん?岬艦長!?みんな揃ってどうしたの?」

 

 

 

 

スパナを手に401を整備していたいおりは首を傾げた。

 

 

 

 

「いおりさんは食糧盗難の件は知ってる?」

 

 

 

「ああ……うん知ってるよ。それで調査してるんだね?」

 

 

 

「うん。蒼き鋼は盗難とかに遭ってない?」

 

 

 

「ここは大丈夫かな。何か不自然な出入りがあれば、イオナが気付かない訳無いし、他のメンタルモデルもいるからね。ヒュウガもセキュリティーを見直すって言ってたし」

 

 

 

 

「そうなんだ……」

 

 

 

「力になれなくてゴメンね~」

 

 

 

「ううん、大丈夫だよ。それよりも盗難には気を付けてね。今は食糧だけが標的みたいだけど、静さんもいるし、下着とかが狙われたらヤダから」

 

 

 

「えぇっ!?それはヤだなぁ……解った!気を付けてみるよ!」

 

 

 

「うん。何か解った事があったらいつでも言ってね」

 

 

 

「ありがとう!」

 

 

 

 

収穫のなかった一同は401を後にし、現場となった食糧庫へと行ってみる事となった。

 

 

 

その途中――

 

 

 

「アケノー!」

 

 

 

「ミーちゃん!?」

 

 

 

 

遠くからミーナが走ってくる。

 

 

 

 

「何やら厄介事のようじゃの」

 

 

 

「うん、食料庫が盗難に遭って、その調査をしてるんだ」

 

 

 

 

「そうじゃったのか……うむ!内部の構造や人の顔を覚える意味でも同行させてもらおうかの!良いか?」

 

 

 

「訓練はもういいの?」

 

 

 

「地獄じゃったが……今日は無いそうじゃ!」

 

 

 

「解った。一緒に行こうミーちゃん」

 

 

 

一同はミーナを加えてスキズブラズニルへと向かった。

 

 

 

  + + +

 

 

 

スキズブラズニルの食料庫に辿り着いた明乃達は、ウィルキアの兵士に事情を聞く。

 

 

 

しかしながら、これと言って有力な情報は集まらなかった。

 

 

 

 

「手掛かりは無しですね艦長……」

 

 

 

「見た限りだと管理に不備が有ったとも思えなかったしね……」

 

 

 

「見張りも施錠もされているのに何故なのじゃろうのう……」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「気が付いたのじゃが……この通路は見通しがあまり良くないのう。ここまで来ればもう見張りには見えん。交代の隙に忍び込んだとは考えられんか?」

 

 

 

「う~ん難しいかなぁ……見張りはその場で交代な訳だし、隙は無いと思うよ」

 

 

 

「良い考えだと思ったんだがのう……そうじゃ!あの~何と言ったかのう。蒼き鋼に居ったじゃろう?クマのぬいぐるみが」

 

 

 

「え!?キリシマさんに頼むの?う~ん、良いアイディアだけど本人が承諾するかなぁ……」

 

 

 

「聞けばキリシマとやらは肉が好きと言うではないか?なら儂らのブルストを好きなだけ食べさせてやると言ってくれんか?食料が無くなればそうも言ってられんからのう」

 

 

 

 

「解った。千早艦長に相談してみるよ」

 

 

 

 

 

  + + +

 

 

 

 

それから――

 

 

 

「肉をたらふく喰えるだと!?し、仕方がない!大戦艦である私をこき使おうとは良い度胸だと思ったが、食料の為とあれば一肌脱ぐしかないな!」

 

 

 

 

「分かり易過ぎるわね……」

 

 

 

「なんだと!?じゃあお前がクマになれタカオ!」

 

 

 

「冗談よしてよ!何で私が――」

 

 

 

「まぁ待て二人とも。岬艦長、事の重大さは報告を受けて知っております。本人も乗り気の様ですし、ぜひ問題を解決なさってください。俺達もスキズブラズニルに厄介になる以上、他人事ではありませんからね」

 

 

 

「ありがとうございます千早艦長!」

 

 

 

「いえ……では早速今夜からと言う事で宜しいですか?」

 

 

 

「はい、お願いします」

 

 

 

「と、言う事だ。頼んだぞキリシマ」

 

 

 

「フンッ!私の実力を思い知らせてやる!」

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

その夜――

 

 

 

キリシマは、食料庫から少し離れた地点で見張りを開始した。

 

 

 

(意気がったのは良いが、本当に現れるのか?)

 

 

 

 

余りにワザとらしくするのは得策ではないと、見張りはいるものの、犯人が出没する日取りにこれと言って規則性は無い。

 

 

 

加えて、ぬいぐるみと言う容姿が潜入に向いているか否かを捨て置くとしても、好戦的な艦艇として有名だった彼女は性格がそもそも潜入向きでは無いのである。

 

 

 

更に――

 

 

 

犯人が内部事情に精通していた場合、痺れを切らしてキリシマが姿を現せば、危険を察知されて身を潜められてしまう可能性すらある。

 

 

 

だが、今回に限っては彼女の意思は予想以上に堅かった。

 

 

 

 

(クフフッ!話を聞けばブルストとやらは相当美味いそうだな。何としても犯人を捕まえてありつかなければならん!)

 

 

 

 

 

どういう仕組みかは分からないが、キリシマは口元からヨダレらしきものを滴らせながら、状況を見守る。

 

 

 

 

 

事態が動いたのは、それから一時間程あとのことだった。

 

 

 

調理班が食料庫を訪れて明日に使う食材を取り出そうと扉を開けた時だ。

 

 

 

 

(ん?なんだこの反応は――)

 

 

 

 

彼女のセンサーは、忍び寄る二つの存在を検知していた。

 

 

 

 

だが――

 

 

 

(警戒しているのか?動きが鈍いな。益々怪しい……)

 

 

 

 

犯人とおぼしき反応は予想よりも遅く、忍び寄る様にゆっくりと食料庫へと近付く。

 

 

 

驚くべき事に、ここまで近付いているのにも関わらず、見張りが気付く様子は全く無い。

 

 

 

 

(早く動け!現行犯で押さえなければ意味がない!)

 

 

 

 

 

元々好戦的な彼女がここまで良く我慢した方だと賞賛すべきだろう。

 

 

しかし流石に焦れて来たらしい。

 

 

 

一層の事、飛び出して問い質した方が早いと考えたくらいだ。

 

 

 

 

ところが――

 

 

 

(むっ!?動いたぞ………なに!?)

 

 

 

 

 

彼女は先程までの考えを即座に訂正した。

 

 

 

相手はとても彼女が話して通じる相手ではなかった……いや、そもそもどうやって話せば良いのかすら解らなかったのだ。

 

 

 

 

(くっ!仕方がない、とにかく現行犯だ。捕まえて突き出すしかないっ!)

 

 

 

キリシマは飛び出し、彼女に気付いて逃げ出した彼等を飛び越えて着地する。

 

 

 

 

キュピー!

 

 

 

 

間の抜けた着地音が辺りに響き渡る。

+ + +

 

 

キリシマに突き出された犯人の正体に皆が驚愕した事は言うまでもないが、取り分けはれかぜクルーの驚きは頭ひとつ抜けていた。

 

 

 

 

「嘘……でしょ?」

 

 

 

 

明乃は思わず、身体を屈めて犯人を¨抱き上げる¨。

 

 

 

 

 

「ムゥ……」

 

 

 

 

犯人?は少しむくれた顔で彼女を見上げた。

 

 

 

 

「五十六……それに多聞丸も!どうしてここにいるの!?」

 

 

 

 

五十六と多聞丸。

 

 

 

彼等は、人間ではなく¨猫¨であった。

 

 

 

彼女達が学生時代、数奇な出来事を共に過ごしたマスコット的存在である。

 

 

 

多聞丸に於いては、RATtウィルス事件で晴風が武蔵を追って航海を続けるなかで新橋商店街船の座礁事故と遭遇し、その最期救出者となり、真白になついた事からそのまま晴風の仲間として加わった経緯がある。

 

 

 

勿論、危険な航海に連れて行くつもりなど毛頭無かった訳だが、彼等は彼女達の隙を突いてスキズブラズニルに忍び込み、今まで残飯や食料庫から食べ物を調達していたのだった。

 

 

 

 

「………」

 

 

 

真白は鋭い目付きで多聞丸を見下ろす。

 

 

 

怒って当然であろう。

 

 

 

自分のペットがこれだけの騒ぎを起こしたのだから。

 

 

 

彼女と寝食を共にしている彼だからこそ、真白の気持ちが手に取る様に解ってしまうのだ。

 

 

 

 

「ニャァ……(ゴメンよシロ……でも俺、どうしてもシロと離れたくなかったんだ)」

 

 

 

 

多聞丸はすっかり落ち込んだように尻尾を垂らして俯いている。

 

 

 

 

「多聞丸!お前って奴はっ!」

 

 

 

ビクッ!

 

 

 

彼は身体を震わせる。

 

 

きっと思い切り叱られるのだろうと覚悟した時――

 

 

 

 

ガバッ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

「多聞丸!大丈夫か?怪我とはしてないか!?何でついてきたんだ!もしお前に何かあったら私は……」

 

 

 

 

ああ……シロの匂いだ

 

 

 

 

久しぶりに抱かれる彼女の腕の中はとても暖かく、そして何より彼女が自身を大切に想ってくれる事が何より嬉しかった。

 

 

 

 

「とにかく、後でいっぱい叱ってやるからなっ!」

 

 

 

「ニャァ……(そんなぁ……)」

 

 

 

 

勿論、今までの行いがチャラになる訳では無いのだが……

 

 

 

「まぁ……ともあれ事態が解決して何よりです」

 

 

 

「申し訳ありません。シュルツ艦長、千早艦長」

 

 

 

「いいえ、食料庫の警備内容を見直す良い切っ掛けになりました。報告はこちらからしておきますので我々はこの辺で……」

 

 

 

「はい。ありがとうございます!」

 

 

 

シュルツと群像ははれかぜを後にする。

 

 

 

 

 

「おいっ!ミーナとやら!犯人を捕まえたんだから早くブルストとか言うのを私に食べさせろ!データを取りたい」

 

 

 

「ん?ああ……そうじゃったの。ウチのブルストは最高じゃぞ!そうじゃ!お主だけではなく、そちらの二人もどうかの?」

 

 

 

「え!私とハルハルもいいの?」

 

 

 

「うむ!折角知り合いになれたのじゃ、もてなさねば末代までの恥じゃからのう!テアもそれで良いか?」

 

 

 

 

「ああ。直ぐに準備するよう連絡しておく」

 

 

 

「やったぁ~♪これもヨタロウのおかげだねっ!」

 

 

 

「ふ、フン!この位大戦艦である私なら造作もない〃〃」

 

 

 

「蒔絵、あまり誉めるとまた暴走するからやめた方がいい」

 

 

「な、なにぃ!?」

 

 

 

 

艦橋に笑顔が溢れ、事件は解決したのだった。

 

 

 

  

+ + +

 

 

真白にコッテリと絞られた多聞丸であったが、今は目の前のキャットフードを思い切り貪っていた。

 

 

 

ネットワーク状に載っていたデータを元にヒュウガが造ったものである。

 

 

 

『これ結構イケるな!……って食べないのかよ』

 

 

 

 

『俺はあまりお腹が空いていないんだ』

 

 

 

『なんだよぅ……勿体無いなあ』

 

 

『何なら俺の分もお前が食え』

 

 

 

『え!良いのか?それじゃあ甘えるぜ!』

 

 

 

 

旺盛に食べる多聞丸とは対照的に、五十六は身体を丸めて目を閉じる。

 

 

 

 

「五十六ちっとも食べないね。どこか悪いのかなぁ……結構歳もとってるんだろうし」

 

 

 

「うぃ……心配」

 

 

 

芽衣と志摩が屈んで五十六の身体を撫でながら心配そうに覗き込むも、彼は気にする様子も見せずにそのまま目を閉じている。

 

 

 

 

「安心したんじゃ無いのかなぁ」

 

 

 

「艦長?」

 

 

 

「きっと五十六は多聞丸が無茶して怪我をしないように守ってたんだよ。でも、その必要は無くなったから安心したんだよきっと」

 

 

 

 

「そう言うものかなぁ~」

 

 

 

(この娘は、たまに確信を突いてくるな……)

 

 

 

図星を突かれた五十六は、少し動揺するもそのまま暫しの眠りにつく。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

その夜――

 

 

 

多聞丸は久しぶりに真白に抱かれて眠りにつき、五十六はクルー達に再三部屋で寝ようと誘われたが、結局は艦橋の隅で寝ることを選んだ。

 

 

 

静かで暗い艦橋の中央に淡く輝く光の珠が現れて五十六を優しく照らし、彼は目を開けて光を見上げた。

 

 

 

 

 

 

《相変わらず連れないんだね君は……みんな君を誘っていたのに》

 

 

 

『アンタは……【晴風】さんか?』

 

 

 

 

《久しぶりだね。居たのは気付いて居たけど、それ処じゃなかったから》

 

 

 

『どうして戻ってきた。アンタは――』

 

 

 

《うん。私は¨あの時¨沈んだ。でも、未練があって、少し¨ズル¨をして戻ってきてしまったんだ》

 

 

 

『未練……ね』

 

 

 

《知ってるでしょ?》

 

 

 

『あの子の事か……』

 

 

 

《そう。ミケちゃんが……皆が心配でね。君もそうなんでしょう?》

 

 

 

『違う。俺は多聞丸の奴が危なっかしいから見張っていただけだ』

 

 

 

《ふふっ。意地っ張りも相変わらずだね》

 

 

 

『そんな事より、アンタ気付いてたのか?¨アレ¨に……』

 

 

 

《……うん。初めから気付いていたよ。君もなのかい?》

 

 

 

『いや、俺はもっと後だ。6年前の雷の夜と、武蔵との戦いの最中にな』

 

 

 

 

《ミケちゃん、凄く怯えていたものね。恐らく両親を失うのと、友人を失うイメージを重ねてしまったんだよ。どちらも¨家族を失う孤独¨に直結しているから》

 

 

 

 

『だからアレが出てきたのか……アイツからは俺の嫌いな¨寒さ¨を感じた』

 

 

 

 

《そして今もミケちゃんを苦しめている。感じたんでしょう?》

 

 

 

『ああ……あの時とは比べ物にならない程寒かった。それにあの時は朧気だった姿がハッキリと見えるようになっていた』

 

 

 

 

《目玉……だね?》

 

 

 

 

『ああ……アレは一体何なんだ?なぜあの子なんだ』

 

 

 

《アレは、マイナスの心が生んだ悲しい結晶だよ》

 

 

 

『¨悪¨だとは言わないんだな』

 

 

 

《うん……アレを悪と断じるなら、きっとミケちゃんも半分はそうだと言わなくちゃならなくなるから》

 

 

 

 

『それは違う!』

 

 

 

《……》

 

 

 

『あの子がアレと同じな筈がない!あんな暖かな子がっ!』

 

 

 

 

 

《そう。ミケちゃんはとても優しく子だね。そしてとても純粋だ。でも君だって感じていたんでしょう?あの子の脆さと孤独を》

 

 

 

 

『……』

 

 

 

 

《ミケちゃんだけじゃない。生ける者は、本来全て孤独なんだ。それを隠す為に家族や友人と行動を共にしているに過ぎない。ただ、本来共にあるべき家族がいないミケちゃんには、孤独を隠す物が無かっただけさ》

 

 

 

 

『皆がいるだろう。それでは不満なのか?』

 

 

 

 

《私の様な存在ならそれでも良かったのかもしれない。でもその言葉、君にそのまま返したらどうかな?》

 

 

 

 

『痛い処を突かれたな……』

 

 

 

 

《君に意地悪をするつもりは無かったんだ。ゴメンよ》

 

 

 

 

『いいさ、本当の事だ……それよりもアンタの事を話して貰いたいね。何故ここまで執着する?アンタは見守りはするが、積極的に事に関わることはしないと思ったが』

 

 

 

 

 

《晴風がこんなにボロボロに……ミケちゃんが私に言った言葉だよ》

 

 

『……』

 

 

 

《私はそれまで、海を護るために学ぶ子達を見てきた。落ちこぼれと言われても挫けずに一杯頑張って、そして一杯笑っていた。私はそれで満足だったんだ。あの子達が将来海で生き抜ける為の¨良き教材¨である事がね。でも――》

 

 

 

彼女の声が少し震えるのを五十六は感じた。

 

 

 

 

《ミケちゃんはそう思わなかったんだ。失っちゃいけない家族に私を入れてくれた。嬉しかったよ、こんな事言われたのは初めてだったから。だから¨彼女¨にお願いしたんだ。もう一度みんなを護らせて欲しいって》

 

 

 

 

『誰なんだ?彼女って……』

 

 

 

《とにかく気高くて、とても綺麗なんだよ。でも、悲しくてとても切ないんだ。彼女は¨護れなかった者¨あり¨諦めてしまった者¨だからね》

 

 

 

 

 

『良くは解らないが、諦めた彼女とやらが何でアンタに力を貸したんだ?』

 

 

 

 

《私にも解らない……彼女はあまり多くを語ってくれなかったから》

 

 

『……』

 

 

《でもいいんだ。彼女のお陰で、私は皆を護って行ける。今はそれを誇りに思えるようになったんだから》

 

 

 

 

『まるで今までそうじゃなかったみたいな言い方だな』

 

 

 

《うん。実は¨私も¨落ちこぼれだったからね》

 

 

 

 

『アンタがか?』

 

 

 

《他の艦の話を聞いて確信したよ。異世界では陽炎型の艦艇に晴風という艦は存在しないらしい》

 

 

 

 

『!』

 

 

 

 

《私は戦争の末期に造られてさ、他の皆が国を護ると意気揚々と港から出て行くのを憧れながら見ていたんだ。自分だっていつかきっと……ってね。でもその時は来なかったよ》

 

 

 

 

彼女の声のトーンが少しだけ下がるのを五十六は感じた。

 

 

 

 

《役立たず、軍艦の恥と仲間達に馬鹿にされたよ。あの時は悔しかったなぁ……それに軍艦がブルーマーメイド預かりになってからも、実習生は落ちこぼればかりだったし》

 

 

 

 

『そんな事思ってたのか?』

 

 

 

 

――最初だけだよ

 

 

 

彼女は少し笑うと、再び声のトーンを下げる。

 

 

 

 

《あの子達のひた向きさと笑顔に私の心は動いて行った。そしてミケちゃんのあの言葉で確信に変わったんだ。あぁ……私は、兵器として誰かの大切な人を殺しに行かなくて済んだって、あの子達を乗せて誰かの大切な人を救う為に生まれて来たんだって思えたんだよ》

 

 

 

 

『晴風さん……』

 

 

 

《なに辛気臭い顔をしてるのさ。次は君の番だよ》

 

 

 

『俺の番だって!?』

 

 

 

 

《そう、君の知らない私の過去を話したんだ。今度は君が、晴風に乗るようになったのかを話す番じゃないのかい?》

 

 

 

『ああ……そうだな。俺も話しておいた方が良いのかもしれない』

 

 

 

《ん?随分素直だね。私は正直もっと嫌がるかと思っていたんだけど》

 

 

 

 

『俺はもう永くない』

 

 

 

 

《……》

 

 

 

 

『分かるんだ。最近足に力が入らなくなってきてる。食欲も無い……出来る事なら、この顛末を最後まで見届けたいが、その自信もなくなってしまったよ。だから晴風さん、アンタにだけは聞いて欲しい。俺が晴風に乗る切っ掛けをな。アンタは笑うかもしれんが……』

 

 

 

 

《ううん、笑わないよ。私が分かるのは海の事だけだから、陸での事は、君や私に乗る子達の話だけなんだ。聞かせてくれるかい?》

 

 

 

 

――ああ

 

 

 

彼は目を細めて、語り出す。

 

 

 

 

《俺を産んだ母さんの記憶は朧気だ。だが、兄弟と一緒に包んでくれたあの暖かさや幸せは忘れない。でも、母さんはある日突然帰って来なくなった》

 

 

 

 

《……》

 

 

 

『事故なのか、それとも何かに襲われたのかは解らない。だがその日から、俺達兄弟はこの弱い者は死ぬしかない世界に放り出されたのさ。』

 

 

 

《兄弟たちはどうしたんだい?》

 

 

『皆死んだよ。事故や病気で死に、終いにはカラスに喰われて死んで、気付いたら俺だけになってたんだ。夜風と冷たい雨、そして孤独が寒かった。そんなある日だ、空腹で限界だった俺の前にあの子が現れた』

 

 

 

 

《それがミケちゃん?》

 

 

 

――俺が小さい時の話だぞ?

 

 

 

五十六は尻尾を揺らしながら続ける。

 

 

 

『港に行けば、釣り人のカゴから魚を盗めると思って来てはみたんだが、生憎近くに有るのは武骨な軍艦ばかり、もうダメだと諦めようとしたら、その子が俺を見つけて食べ物をくれたんだ。夢中で食べたよ。なにせ何日も口に物をいれてなかったんだから。それからだ、俺は毎日この港に通った。その子は決まって俺を見付けると食べ物をくれて、笑顔で頭を撫でてくれたんだ』

 

 

 

 

《それが切っ掛けなのかい?》

 

 

 

――いや

 

 

 

五十六は頭を下げて俯く。

 

 

 

『あの子はある艦に属していた。解るだろ?アンタだよ晴風さん』

 

 

 

《……》

 

 

 

『俺はいつの間にか、食べ物よりもその子と合うのが楽しみになってたんだ。あの子手は暖かかったからな。海洋実習で長期間帰って来ない時は寂しかったよ。でも帰って来ると、真っ先に俺の所に来て頭を撫でてくれるんだ。俺はこの時がずっと続いて欲しいと思った。だが――』

 

 

彼は無理矢理絞り出すように言葉を吐き出す。

 

 

 

 

『あの子は卒業してブルーマーメイドになり、中々会えなくなった。それでも暇を見つけては、会いに来てくれていたんだが――』

 

 

 

《そうか……その子は¨海に逝ってしまった¨んだね?》

 

 

 

 

『ああ。あの子の友達が来て、俺に泣きながら言っていたからな。俺は信じなかった。だが、何日待ってもあの子は現れなかったんだ。とても寒かったよ。その時気付いたんだ。俺にとってあの子は¨家族¨だったんだってな』

 

 

 

 

《だから君は、晴風に乗る事にしたんだね?私に乗る子達がその子の様になってしまわないか心配で……分かるよ。私から巣立って行った子達の訃報を聞くのは辛い》

 

 

 

『ああ、だが俺に何か出来る訳じゃない。その後だって何人かは帰って来なかった。その度に俺は寒くて堪らなくなる。晴風さん、アンタが沈んだって聞いた時もだ』

 

 

 

 

《……》

 

 

 

『だから俺は今度も付いてきた。俺にとって最期の航海だ。あの子達の無事を近くで見届けたい。俺には何も出来ないが……』

 

 

 

《そんな事無いよ》

 

 

 

 

『晴風さん?』

 

 

 

《君はもう皆の家族なんだ。家族は居てくれるだけで力を貰える。ミケちゃんだって、きっと君から力を貰ってる筈だよ》

 

 

 

 

 

『だと良いんだがな……』

 

 

 

《ありがとう》

 

 

 

『どうしたんだ急に――』

 

 

 

《君とは良く話をしたけど、互いに自分の気持ちをここまでさらけ出した事は無かったでしょう?だから……話してくれてありがとう》

 

 

 

 

『こちらこそだよ晴風さん』

 

 

 

《そろそろみたいだね。それじゃ、はれかぜの護り神君》

 

 

 

『え?一体どうして――』

 

 

 

 

 

「誰かいるの?」

 

 

 

『!!!?』

 

 

 

突如ガチャリと開いたドアの音に五十六は慌てて丸まり、寝たフリをする。

 

 

 

光はが消えて暗くなった艦橋に足音が響いた。

 

 

 

 

(この足音、この匂いは――)

 

 

 

「五十六?寝てるの?」

 

 

 

姿を現したのは明乃であった。

 

 

 

彼女は、五十六の下まで来ると体を屈めて覗き込む。

 

 

 

「ねぇ五十六。今ここに晴か――ううん何でもない」

 

 

 

 

(鋭い子だ……)

 

 

 

 

彼は内心で驚くと同時に、彼女の背後からする気配に警戒を強める。

 

 

伝わって来るのは、彼が嫌いな寒さだった。

 

 

 

 

「ヴゥ……」

 

 

「五十六震えてる。寒いの?ねぇ、やっぱり私の部屋で一緒に寝よう……ね?」

 

 

 

「……」

 

 

 

何も反応を示さない彼に、明乃は少しだけ寂しい気持ちになる。

 

 

 

その時――

 

 

 

《一人……オ前ハ一人ダ岬明乃》

 

 

 

 

『――!』

 

 

 

堪えられない程の強烈な寒さを五十六は感じた。

 

 

 

同時に、明乃の心に存在する彼と似た喪失感の様なモノが伝わり、いても立ってもいられなくなってしまう。

 

 

 

「ンニャァ~」

 

 

 

「五十六!?」

 

 

 

彼は、思うように動かない手足を何とか動かして立ち上がり、明乃を見上げた。

 

 

 

 

(やっぱり放っては置けない……)

 

 

 

 

彼の反応を了承と解釈したのか、明乃は五十六を抱き上げて自らの部屋へと向かった。

 

 

 

  + + +

 

 

 

寝巻きに着替えた明乃は、布団を捲って自身の隣にスペースを開けてポンッと叩く。

 

 

 

「ホラ、五十六こっちだよ」

 

 

 

「ンニャァ~」

 

 

 

彼はヨタヨタと歩いて彼女と隣で丸くなり、そんな彼に笑顔を向けて頭を撫でた明乃は電気のスイッチを落とした。

 

 

 

「消すね。おやすみ五十六」

 

 

 

パチッ!

 

 

 

部屋が暗くなった事で、五十六は明乃の腕の中の体温を一層暖かく感じた。

 

 

まるではるか昔に母に抱かれていたあの時の様に……

 

 

 

暫くすると、明乃から穏やかな寝息が漏れ、五十六も久々の温もりに目蓋が重くなるのを感じる。

 

 

 

しかし――

 

 

 

「う゛…う゛ぅ……」

 

 

 

 

明乃は苦悶の表情を浮かべてうなされ、強烈な寒さが彼を襲った。

 

 

 

瞳を開いた彼の前に、獰猛でグロテスクな目玉が彼女を見下ろしているのが見えた。

 

 

 

「フ~!フ~!!」

 

 

 

 

彼は立ち上がり、普段はあまりない鋭い目付きで威嚇をし、2つの存在は睨み合う。

 

 

 

 

向こうは彼など恐れてはいないだろう。

 

 

対するこちらは、恐怖と寒さで足が震える。

 

 

 

 

だが、彼は決して伏す事なく懸命に毛を逆立てて牙を向けた。

 

 

 

 

(引かない、引けない!)

 

 

 

 

 

例え非力な存在であろうとも、護りたいものはある。

 

 

 

況して彼の前には、苦しんでいる女性がいるのだ。

 

 

 

一匹の男として引く訳にはいかなかった。

 

 

 

 

「フ~!!」

 

 

 

 

《………》

 

 

 

 

どれ位時間がたっだろうか。

 

 

 

 

いつの間にか目玉は消え失せ、明乃は穏やかな表情で眠っていた。

 

 

 

 

彼は、まるで寄り添うように彼女の腕の中へと潜り込み目を閉じる。

 

 

 

 

(大丈夫だ。お前は一人じゃない!俺がいる。俺が見届けてやる!)

 

 

 

 

彼はその日、いつの日ぶりかの深い眠りについた。

 

 

かつて母が彼を抱いていた時の様な温もりを一杯に感じながら……

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

翌日――

 

 

 

ガツガツガツ!

 

 

 

「あれ?五十六、今日は食欲旺盛だね。何かあったの?」

 

 

 

 

五十六は回りの声など意に介さない程、夢中でエサにかぶり付く。

 

 

 

 

そんな様子に多聞丸も思わず目を丸くした。

 

 

 

 

『どうしたんだよ一体。何かあったのか?』

 

 

 

『何でもない。お前のエサ、モタモタしてるなら俺が貰うぞ!』

 

 

 

『や、やめろよ!こいつは俺のだ!』

 

 

 

 

エサを取り合う二匹の様子を見た明乃は、安心した様に笑顔を向けるのだった。




お付き合い頂きありがとうございます。


独自解釈で五十六がはれかぜに係わるまでを描いてみました。



暫く戦闘続きだったので、なかなか慣れないのですが何とか初期構想で入れたかった話を形には出来て安堵しております。


中編は、言わば休息だと思って頂ければ幸いです。



それではまたいつか


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並行世界のBlue Steel  …Arpeggio mix

今回はアルペジオ中心の話を2本お届け致します。



それではどうぞ


  

 

 

   + + +

 

 

 

 

キ…キ…キ……

 

 

 

(……)

 

 

 

キールへ向かっていた筈の¨彼¨暗闇の中にいた。

 

 

 

 

¨存在する¨

 

 

 

確かにそれだけは理解出来たが、彼には自分が実体を有していると言う実感が全く湧いてこなかった。

 

 

まるで魂のみで浮遊しているかの様に……

 

 

 

 

《…ぞうくん。群像くん私ね…今日の研修楽しみにしてたんだよ》

 

 

 

 

誰だ…?

 

 

 

突如聞こえた声に彼が最初に抱いた率直な感想だった。

 

 

 

そして次に浮かび上がるのは膨大な疑問……

 

 

 

(知っている。俺はこの声の主を知っている!だが、解らない……思い出せないだけか?忘れているのか?それとも¨知らない¨のか?)

 

 

 

 

《そうよ》

 

 

 

(!)

 

 

 

彼の目の前に突如として宇宙服を着た人物が現れる。

 

 

 

(誰だ!)

 

 

 

《それは¨この¨貴方にとって重要な事ではないわ。重要なのは¨アノ¨貴方とこの貴方の現在の関係性の方よ。そして¨この私¨と¨アノ私¨の関係性でもある》

 

 

 

(どういう事だ……)

 

 

 

《解らないの?¨どちらも¨自分自身の事なのに……まぁ当然よね。互いは¨因果的に不干渉¨なのだから……》

 

 

 

 

彼は彼女の言っている意味がまるで理解できなかった。

 

 

使用されている言葉が安易過ぎて真実が全く見えて来ないのである。

 

 

だが、彼の疑問は尽きる事は無く混乱だけが脳裏を駆け巡って行く。

 

 

 

《はぁ……》

 

 

 

宇宙服の人物は深い溜め息を漏らすと、彼に近付いてくる。

 

 

 

《少しだけ貴方に見せてあげましょう。¨もう一人のグンゾウ¨の姿を……》

 

 

キ…キ…ギッ……

 

 

(……っ!)

 

 

 

暗闇の中にも関わらず、強烈な平衡感覚の喪失を覚え、¨グンゾウ¨は意識を失った。

 

 

 

   + + +

 

 

 

ピッ…ピッ…ピッ……

 

 

 

 

(ここは……どこだ?)

 

 

 

グンゾウは辺りを見渡す。

 

 

 

そこには見たこともない機器が並んでおり、定期的に電子音が鳴り響き、無数の機器とコードが延びるその中心には円形の機器が鎮座していた。

 

 

 

彼はソレに妙な感覚をおぼえ、近づいてガラス窓の中を覗く。

 

 

 

(なっ!)

 

 

 

彼は驚愕と、それにも況して動揺を隠しきれなかった。

 

 

無理もない何故なら……

 

 

 

(これは……¨俺¨なのか?)

 

 

 

 

ガラス窓の中には¨グンゾウ¨が眠っていたのだ。

 

 

 

身体には幾本ものコードが繋がれ、口には酸素を供給していると思われるマスクが装着されている。

 

 

 

(一体これは……俺はどうなってしまったんだ!まさか超兵器との戦闘で敗北して……)

 

 

 

 

《それはないわ》

 

 

 

(!)

 

 

 

振り向くと先程の宇宙服の人物が立っていた。

 

 

¨彼女¨は眠っているグンゾウの窓を優しく撫でるとこちらへと振り向く。

 

 

 

 

《だってこのあなたと今私と話しているあなたは全くの別物だもの》

 

 

 

(言っている意味が解らな――)

 

 

バチィ!

 

 

 

(あ゛っ…!)

 

 

 

グンゾウの中に突如としてイメージが流れ込んでくる。

 

 

 

 

 

仲間達との出会いから霧の艦隊との戦闘。

 

 

 

 

(解る…だが、解らない……)

 

 

 

つまりはこうだ。

 

 

 

宇宙服の人物から見せられた記憶には、彼が理解できる内容と、そうでない者があった。

 

 

 

とりわけ理解出来ないものに関しては、正確に言うなら彼自身が体験していない事象と、そして既存の事象との齟齬の2つに分類された。

 

 

 

後述に関しては言うまでもなく彼の艦であるイオナについてだ。

 

 

 

セーラー服を来て、人形の様な無表情を浮かべる彼女に対して、見せられた記憶の中にいる彼女は、ポップなTシャツにショートパンツ、そして縞模様のニーソを履いており、誰に対しても気さくに会話をし、何よりもおどけた表情を浮かべる事さえあった。

 

 

 

 

普段の彼女を良く見ているグンゾウからすれば、それは同じ顔をした別の存在に思えてならない。

 

 

更にだ、彼の父親が失踪した事を苦に自殺した筈の母、沙保里が北海道(北管区)にて存命している事にも驚いた。

 

 

 

彼は今一度自身の記憶と見せられた記憶との照合を始める。

 

 

 

(響真瑠璃……確かに同じクラスにいたがあまり話した記憶がない。401のソナー手として行動を共にしていた時期があった?刑部邸襲撃への介入記憶がない…ハルナとキリシマが行動を共にしていない理由だろうか…?それに硫黄島への陸軍襲撃も無かった。コンゴウとの戦闘の記憶…これは俺達がまだ彼女に接触しなかったから保留にするとして……)

 

 

 

 

《群像くん私ね……今日の研修楽しみにしてたんだよ》

 

 

 

(うっ…!)

 

 

 

はっきりと顔が見えた訳ではなかったが、何故か彼女の事を思い出そうとすると、頭に激しい痛みが走る。

 

 

だが、彼女がこう呼ばれて居たことは頭に残っていた。

 

 

 

(アマハ……コトノ?)

 

 

 

《駄目よ》

 

 

 

ギ……!

 

 

 

(あ゛っ……!)

 

 

 

 

グンゾウは頭に走る激痛でどうにかなってしまいそうだった。

 

 

 

そんな彼の様子など気にする素振りも見せない彼女は淡々と続ける。

 

 

 

 

《ここでの疑問は捨て去る事ね。でなければ魂に負荷がかかって消滅しかねないわよ》

 

 

 

 

 

(では何故、俺をここに呼んだんだ!)

 

 

 

 

《私が呼んだとでも?冗談にしては面白くないわ。因果を崩壊させかねない因子を私がわざわざ招くと思うのかしら?》

 

 

 

(では誰だと言うんだ!)

 

 

 

《……》

 

 

 

(答えてくれ!)

 

 

 

 

《来たわ……》

 

 

 

(!?)

 

 

 

グンゾウは宇宙服の人物が向いた方角へ視線を送った。

 

 

 

部屋の入口には3人の人物が立っている。

 

 

 

《二人は解るわね?コンゴウとそして……》

 

 

 

(そんな……)

 

 

 

グンゾウは驚愕した。

 

 

 

コンゴウの姿は、彼の世界でコンタクトを取ってきた彼女の印象とは少し違う。

 

 

ピッグテールに黒いドレス姿ではなく、長い金髪を下ろし、Tシャツとショートパンツと言う出で立ちだった。

 

 

 

どことなくこの世界でのイオナを彷彿とさせる。

 

 

しかし今はそんなことはどうでも良かった。

 

 

 

彼女に手を引かれていた白いシャツにサスペンダーが付いた短パンを着ている幼い少年。

 

 

それはどう見ても――

 

 

 

(俺!?)

 

 

 

 

コンゴウに手を引かれていたのは、幼い姿の自分自身だった。

 

 

 

 

彼女は幼いグンゾウに視線を向けると、彼はコンゴウの手を離し、彼女は眠ったままのグンゾウが入っているカプセルへと向かい――

 

 

 

 

「………」

 

 

 

まるで覆い被さる様に、自らの身体をカプセルに眠るグンゾウの身体に重ねてガラス越しに彼女とグンゾウの顔の距離が近付き、彼女は眉を潜めつつもまるで愛しい人を求める様な複雑な表情で彼を見詰めた。

 

 

 

 

「千早群像……何故だ。何故お前はいつも私の手の中からすり抜ける。何故なんだ……」

 

 

 

 

眠り続ける彼からはその答えは返ってこない。

 

 

 

彼女はその事に言い知れぬモヤモヤ感を募らせるのだった。

 

 

 

 

「またここへ来ていたのですか?コンゴウ」

 

 

 

「チョウカイ……」

 

 

 

彼女が振り返った先には、チョウカイと言われた癖のある黒い長髪を後ろで束ねて渦巻き模様のビン底眼鏡を掛け、エプロン部分に【撃沈倶楽部】の文字の入った和風メイドの服装の女性が立っていた。

 

 

 

 

チョウカイは幼いグンゾウの頭にそっと手を置き、そのまま頬や顎に手を伸ばして優しく撫でてると彼は気持ち良さそうに目を細める。

 

 

 

 

「彼の魂はやはりこの子に定着していない様です。ですが、かといって眠り続ける彼に固執しても得られる物は無いかと判断出来ます」

 

 

 

「解っている……」

 

 

 

「では何故ここに?」

 

 

 

「私にも解らん。ただ……千早群像は敵であれ、約束を違える人物ではないと考えたのでな。どうしても、もしやと思いここへ来てしまうんだ」

 

 

 

「そうでしたか……何か進展はありましたか?」

 

 

 

「聞かなくとも解る質問をするのはメンタルモデルの悪い癖だぞチョウカイ」

 

 

 

「そうでしたね。しかし彼が【世界の鍵】だと言うのであれば諦める訳には参りません」

 

 

 

「そうだな……」

 

 

 

二人の間に暫しの沈黙が流れる。

 

 

 

先に口を開いたのは、コンゴウであった。

 

 

 

「まぁ、こうしていても始まらない。何か用事があって来たのだろう?」

 

 

 

「ええ……グンゾウにおやつをと。確か¨どら焼き¨とか言う人間の嗜好品です。今、ネットワークに上げます」

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

「成る程……材料はどうしたんだ?」

 

 

 

「残っていた文献から抜粋して再現してみました。多分上手くいっていると思うのですが……尤も、これはグンゾウに魂が上手く定着するかの試験も兼ねていますので、とにかく食べさせてみて様子を見たいと思います」

 

 

 

 

「解った。それでは――」

 

 

 

コンゴウはまるで浮く様に幼いグンゾウの隣へと跳躍して着地すると、彼の手を優しく握る。

 

 

 

一瞬ではあったが、彼を見下ろした彼女のは、淡く慈愛に満ちた笑みを浮かべている様にも見えた。

 

 

 

二人に手を引かれて歩いて行く彼を見送ったグンゾウは、宇宙服の人物へと視線を移す。

 

 

 

 

(俺を読んだのは彼か?)

 

 

 

 

《そうよ。厳密に言うなら、似て非なる¨魂の鋳型を満たそうとする力¨に引き寄せられたと言うべきかしら。尤も、あのグンゾウがそれを意識的に行ったとは考えられないのだけれど》

 

 

 

 

 

(コンゴウ達は、肉体を損傷した俺の代用品を造ったと言う事か……)

 

 

 

《ええ……私ですら予期していなかった事よ。彼女達は自らの限界をしらいもの。本来、父と母から僅かずつ受け継がれる魂の鋳型を彼女達はあなたから抽出し、それは満たされてしまった。後戻りが出来ない所まで……ね》

 

 

 

(だからあなたが現れて事態に介入したと?)

 

 

 

 

 

 

《そう。あの子はメンタルモデルを母に、あなたを父とした魂の鋳型を持って誕生した新たなる存在。ひとはそれを人工人間と呼んでいた事も有るのだけれど……》

 

 

 

 

(……)

 

 

 

《不思議ね……まるで神代の英雄のような生い立ちだわ》

 

 

 

(まるで神代を知っているかのように聞こえるが?)

 

 

 

 

《ここは貴方には毒ね……少し別な所で話しましょうか》

 

 

 

 

(……)

 

 

 

彼女は彼の問いには答えなかった。

 

 

 

否――

 

 

 

答えても意味がないと判断したのかもしれない。

 

 

 

宇宙服の人物は部屋を出て行き、グンゾウもそれについて行く。

 

 

 

 

 

ついた先にはエレベーターの様なものがあり、彼女は扉の前で立ち止まる。

 

 

 

巨大な柱の様な物は、グンゾウが見上げても果てが見えない程上にまで伸びていた。

 

 

 

 

『ハシラジマ軌道エレベーターへようこそ。本日は素晴らしい空の旅へご案内致します』

 

 

 

 

(ハシラジマ……)

 

 

 

アナウンスの音声にグンゾウが首を傾げる。

 

 

 

宇宙服の人物はそんな彼に構わず扉を開けた。

 

 

 

 

《来たわ。乗りなさい》

 

 

 

エレベーター内部は、思った以上に広い構造だった。

 

 

上昇する風景を眺められるよう全面ガラス張りになっており、ソファー等も複数置かれいる。

 

 

 

二人がエレベーターに乗り込むと装置が起動して上昇を始め、肉体が無いせいなのか、身体にかかる重力の負荷は感じられなかった。

 

 

 

海がみるみる離れて行き、雲の上まで上昇したエレベーターからは、夕日に照らされて美しく輝くオレンジ色の雲海が望めた。

 

 

 

《全く……人間の発展速度には驚かされるわ。私の意識がまどろんでいた1世紀でここまでの物を創り上げてしまうのだから》

 

 

 

 

(ここ、ハシラジマとは一体何なんだ?)

 

 

 

《元は人間が創った施設よ。概要は……まぁそれは貴方には説明しても無意味でしょうけど、今は霧の艦隊の母港として使用されているわ》

 

 

 

(霧の母港……)

 

 

 

《さて――流石にこの格好も億劫ね》

 

 

 

 

彼女は疑問で頭が一杯になっている彼の言葉を聞き流しながら、宇宙服を脱ぎ始める。

 

 

 

 

(何をしているだ?)

 

 

 

 

《あら……私の正体が気になっていたのではなかったのかしら?》

 

 

 

 

パシュウ!

 

 

 

無骨なヘルメットが外れて宇宙服が下へと縮む様に下がって行き、漸く姿を現した彼女の真の姿に、グンゾウは思わず魅入られる。

 

 

 

(!!!)

 

 

 

 

声の調子から大人の女性と思っていた彼女の容姿は、グンゾウの想像とは掛け離れたものだった。

 

 

 

地面に着きそうな程長い金色の髪に、霧の紋章を象ったピアスとネックレス、そしてフリルのついた可愛らしくも気品あるドレスを来た¨少女¨の姿をしていたのだから。

 

 

 

うっすらと開かれた瞳からは複雑な光が輝いており、グンゾウはそこから星が煌めく夜空を想像した。

 

 

 

 

 

《私の名はグレーテル・ヘキセ・アンドヴァリかつて魔女(セイレーン)と呼ばれた存在》

 

 

 

 

(魔女……)

 

 

 

《そして今はこう呼ばれているわ――アドミラリティ・コードと》

 

 

 

 

(なっ……!!)

 

 

 

彼は驚愕した。

 

 

 

無理もない。

 

 

 

世界に突如として現れた霧の艦隊が絶対と定める存在が目の前に居るのだから。

 

 

 

(どういう事だ!?あなたがアドミラリティ・コードだとすれば、何故彼女達を使って海を支配した!一体何の目的で――)

 

 

 

 

《解らないわ》

 

 

 

 

(何だって!?)

 

 

 

 

《あなたの世界にいる私がどういった理由で彼女達を起動させたのかは、私にも解らないと言う事よ。あなたがこの世界のグンゾウと似て非なる行動の軌跡を辿っている以上、向こうの私も少なくともこの私とは違う理由で行動する可能性がある。お互いは本来不干渉であり、観測されるべき物では無いのだから》

 

 

 

 

 

ここで彼に疑問が生まれる。

 

 

 

確かにイオナ達は、アドミラリティ・コードの指揮圏外にいると話していた。

 

 

 

つまり、グレーテルと呼ばれたこの少女も、本来は出会うべき人物でも干渉してくる存在でも無いと言う事なのだ。

 

 

 

ならば何故、自分はここに意識が存在して彼女と会話をしているのか――

 

 

 

 

《混乱しているようね。さしずめ、互いに不可分な領域に何故自分が居るのか――って処かしら?》

 

 

 

(ああ……)

 

 

 

窓の外を眺めていた彼女は、その夜空のような瞳をグンゾウに向ける。

 

 

 

《随分と珍しいモノがあなたの脳波から見えるわ。恐らくはそれが原因でしょうね。他世界に干渉しうる因子によって偶発的に自身の肉体を離れた魂が、こちらのグンゾウ肉体に反応して惹かれた結果でしょう》

 

 

 

 

(超兵器か……)

 

 

 

《超兵器……機知に富んだ名前ね。どの様な経緯で存在しているのかは、解らないけれど、これ以上こちらのグンゾウに悪影響を及ぼす訳にはいかないわ》

 

 

 

 

(だから俺をここへ連れてきたのか?)

 

 

 

《そうよ。あたなと同じ魂の鋳型を持つ彼等に接続されては困るもの。彼は少し早いと感じるでしょうけど、あなたとの会話が終わったら直ぐにでも目覚めて貰うしかなさそうね》

 

 

 

(……)

 

 

 

《不満かしら。これはあなたの為でも有るのよ》

 

 

 

(俺の為?)

 

《此方の世界の影響を受け過ぎれば、あなたの魂に歪みが生じて戻れなくなってしまう。その為にも、あなたには全てを忘れて貰うわ》

 

 

 

――待ってくれ!

 

 

彼が口に出す前に事態は動き出した。

 

 

 

キ…キ…キ……

 

 

 

彼女の金色の髪がいっそう輝き、既に限界高度に達したエレベーターから見える蒼く美しい地球の風景と相まって幻想的な景色を造り上げる。

 

 

 

 

更に――

 

 

 

キ…キ……

 

 

 

(!!?)

 

 

 

グレーテルの周囲には不思議な紋様が出現した。

 

 

 

 

《これはかつての人間が¨魔方陣¨と呼んでいたものよ。きっと私が起動させたのを誰かが見ていたのね……それよりもお別れの時間よ、最期に1つだけあなた言っておくわ》

 

 

 

 

(なんなんだ?)

 

 

 

《あなたから見えたアノ波長、その元となる者と対極に位置する存在に接触しなさい。それ以外にあなた達が前に進む道は無いわ》

 

 

 

 

(それは一体どう言う――)

 

 

 

 

《さようならグンゾウ。海洋の王のたらねばならぬ者よ、あなたの検討を祈っているわ。深き海の蒼き水底から……》

 

 

 

 

 

彼女背後に浮遊する球体の重力子ユニットのような物から、白き光の翼と暗き闇の翼が羽ばたいて輝きを放ち、その余りの眩さに声に成らない悲鳴をあげるグンゾウの魂が銀色の光の粒となって霧散して行く。

 

 

 

 

彼が消え去り、静けさを取り戻した軌道エレベーター内で、グレーテルは翼を格納してグンゾウのいた空間から視線を外して外を見つめる。

 

 

 

《超兵器……もし私があと100年微睡んでいたら、人間はアレを造り上げてしまったのかしら……》

 

 

 

 

彼女が見下ろす視線の向こうには、宝石の様に蒼く美しい水の惑星が輝いていた。

 

 

 

   + + +

 

 

群像は、何かに呼ばれた気がして目を開ける。

 

 

 

 

「うっ……俺は寝ていたのか?」

 

 

 

いつもの服装のままベッドに倒れ込んでいたらしい群像は起き上がる。

 

 

そこには――

 

 

 

「群像……」

 

 

 

「イオナか?君が直接ここに来るなんて珍しいじゃないか」

 

 

 

 

「うん……何故かは解らないけど、群像の部屋からナニか引き摺られる様な感覚を感じたから」

 

 

 

 

「引き摺られる様な感覚?」

 

 

 

「そう。何かとても懐かしい様な、でも無視出来ない様な不思議な感覚」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

彼女の顔から視線を外しながら、群像は考えていた。

 

 

 

 

(何かを忘れている様な気がする。忘れてはいけない何かを……)

 

 

 

 

「群像?どうかした?」

 

 

 

 

「ん?ああ……いや、何でもないんだ。少し夢を見ていたのかもしれない」

 

 

 

「夢……人間の脳が睡眠時に造り上げる実体験を元に形成される記憶の残滓、または抑圧された願望の具現化現象の事?」

 

 

 

「まぁ、それほど高尚な物かは解らないが、どうにも内容を思い出せないんだ」

 

 

 

「自身の脳が映し出した事象なのに?」

 

 

 

「コアに記録した内容を決して忘れる事がない君達には少し難しいかな。だが、夢とはそう言うものなんだ」

 

 

 

「そう……」

 

 

 

 

首を斜めに傾けている彼女に、群像は笑みを向ける。

 

 

 

 

「心配をかけて済まなかった。そろそろブリッジに戻るよ」

 

 

 

「うん。私も一緒に行く」

 

 

 

群像は立ち上がり、二人は共に部屋を後にする。

 

 

 

イオナはもう一度振り向いて彼の部屋を見渡し、異常が無いかを確認すると、少し小走りで彼の隣へと向かった。

 

 

 

 

 

 

キ…キ…キ……

 

 

 

 

 

 

 

 

【外伝 待ちぼうけコンゴウの苦悩】

 

 

   + + +

 

 

 

 

千早群像が大戦艦コンゴウを硫黄島に招待してからかなりの時間が経過していた。

 

 

 

呼び出したにも関わらず忽然と姿を消した401一行であるが、コンゴウは何故か彼等が再び硫黄島へ現れると推測し、辺りを重巡洋艦マヤと共に巡回を続けていたのだが――

 

 

 

 

「千早群像。貴様らは一体何を考えている。この私を呼びつけておきながら姿1つ現さないとは……」

 

 

 

 

彼女は苛立った様に眉にシワを寄せ、そんな彼女の腕に、マヤが飛び付いた。

 

 

 

 

「ねぇねぇコンゴウ、カーニバルまだぁ?私もう飽きちゃった……きっと401はここには居ないよ」

 

 

 

 

「有り得ん。霧の北米艦隊も念の為に待機させていたハワイ周辺の艦隊も、奴等の反応を検知していない。サンディエゴに向かうのに我々から全く気づかれず進むのは不可能だ」

 

 

 

 

「でも何かズルしたのかもしれないよ?千早群像ってそう言うの得意なんでしょ?」

 

 

 

「仮にそうだとしても、アメリカに振動弾頭が届いていれば、人間側に何らかの動きがあってもおかしくはないが、通信をジャックしてもその反応は無かった。寧ろ、奴等は硫黄島に到着した段階から連絡を断っている事に焦りを感じたアメリカが、日本政府に対して催促の通信を送っているくらいだからな」

 

 

 

 

 

「う~ん。やっぱり硫黄島に隠れてるのかなぁ……そうだコンゴウ!硫黄島に上陸して探して見ようよっ♪もしかしたら居るかも知れないよ?」

 

 

 

 

「マヤ……そうだな。もしかしたら千早群像は、大戦艦である私が日本の哨戒から外してここに釘付けにし、振動弾頭を別ルートからアメリカに届ける算段を立てていたのかもしれん。上陸は面倒臭いが、奴等を発見出来れば行幸だ」

 

 

 

 

「じゃあ上陸していいの?やったー♪」

 

 

 

 

 

「念の為、メンタルコアにプロテクトを施した上で船体に置いて行け。ヒュウガが何か罠を仕掛けているかもしれん」

 

 

 

 

「はいは~い♪」

 

 

 

その場でクルクル回りながら喜ぶマヤを横目に、コンゴウは徒労感を感じる。

 

 

 

   + + +

 

 

 

 

硫黄島に上陸した二人は、早速調査を開始した。

 

 

 

 

「先ずは奴等の拠点から捜索する。マヤ、センサー感度を上げてヒュウガのトラップに注意、攻撃の兆候が見えたら迷わず破壊しろ」

 

 

 

 

「うん!解ったよコンゴウ、楽しみだなぁ~♪」

 

 

 

 

 

 

彼女達は最大限に警戒しながら地下のドックを目指した。

 

 

 

 

だが――

 

 

 

「なんだこれは、裳抜けの空ではないか。本当に奴等はここに潜伏していたのか?」

 

 

 

 

「電気は付くね。発電施設は生きてるみたいだけど……」

 

 

 

「生命反応はどうだ?」

 

 

 

「待ってね~♪」

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

「ん~無いかなぁ」

 

 

 

「我々のセンサーに掛からぬよう巧妙に隠蔽しているのか?他の場所も探すぞ」

 

 

 

「オッケ~♪」

 

 

 

 

 

彼女達は更に奥へと進む。

 

 

 

「むっ、これは――」

 

 

 

「マグマ採掘用のボーリングシステムみたいだねっ。こっちは鉄の製錬工場かなぁ~」

 

 

 

 

 

硫黄島の深部に有ったのは施設を構成するためにヒュウガが創った施設があった。

 

 

 

 

活火山である硫黄島では豊富な資源が眠っており、ヒュウガはマグマの中に含まれる成分から、基地の構成部品を製錬して生み出していたのだ。

 

 

 

 

「施設が動いてるね。逃げる時うっかり止め忘れたのかなぁ?」

 

 

 

 

「いや……施設や発電装置生きてる点から見ても、やはり奴等がここに潜伏している可能性が高い。上層の施設は、敢えて投棄したように見せ掛ける為のブラフだったのだ。恐らく私達がここまで深く潜入するとは考えて居なかったのだろうな。本来なら全施設を停止させたかったんだろうが、私達の侵入を受けて急遽偽装工作を謀ったと言うことだろう」

 

 

 

「じゃあやっぱりどこかに隠れてるんだね?」

 

 

 

「間違いない。徹底的に探すぞ!ここからは別行動だ。マヤは施設内を、私は一旦外にでて塹壕内部を調査する。念の為に船体とのリンクは維持しておけ、私への連絡も怠るな」

 

 

 

 

「ハイハ~イ♪気を付けてねぇ~コンゴウ!」

 

 

 

   + + +

 

 

 

コンゴウは摺鉢山付近にある塹壕の内部へ向かうべく、辺りがすっかり暗くなった夜の砂浜を歩いていた。

 

 

 

 

(この靴のデザインでは歩きにくいな……)

 

 

 

だが、この位はまだ序ノ口である。

 

 

 

過去の大戦によって、焼けただれていた山には草木が生い茂り、非常に足場が悪かった。

 

 

 

 

――面倒臭い

 

 

 

正直、常に自艦の艦橋の上で座っている彼女にとって、陸を歩く等と言う行為は徒労でしかない。

 

 

 

しかしながら、この徒労こそが千早群像と401の策略なのだとしたら、彼等を排除する事によって未来の面倒事が減るだろう。

 

 

 

彼女はその一心で慣れない身体を一歩づつ動かして塹壕へと向かう。

 

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

(不発弾検知、数23――不発弾に偽装したトラップをヒュウガが仕掛けているとみたが、杞憂だったか……脅威度は皆無)

 

 

 

 

 

途中で茨の交じった深い草むらに行き当たった彼女は自身の周囲にフィールドを展開して周囲を警戒しながら進む。

 

 

 

どうやら手で草を掻き分けるのが面倒になったらしい。

 

 

 

 

暫く進むと、遥か昔に投棄されたM4戦車や高角砲などの残骸が視界に入る。

 

 

 

 

(兵器の成れの果てか……)

 

 

 

彼女が白く細い指で戦車の装甲をなぞると、ザリッとした不快な手触りと赤茶けた錆が指に付着する。

 

 

 

 

その時だった――

 

 

 

ダダダダッ!

 

 

 

 

「!」

 

 

 

 

突然の銃声に彼女の警戒が一気に高まる。

 

 

 

だが、辺りに人間らしき生命は無く、銃声がしたのにも関わらず空気中に漂う火薬の反応すら検知されない。

 

 

 

 

(どう言う事だ?)

 

 

 

 

彼女は首を斜めに傾ける。

 

 

 

すると――

 

 

 

 

ドゴォン!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

付近で爆発音が響いた。

 

 

 

しかし驚くべき事に、砲弾が着弾した形跡など無く、爆煙すら見えない。

 

 

 

 

「どう言うカラクリから知らんが安い挑発だ。こんなもので私が動揺すると思っているのか?私もナメられたものだな」

 

 

 

 

彼女は苛立ちを含んだ表情で辺りの闇を睨む。

 

 

 

すると更に――

 

 

 

《オ~イ……》

 

 

 

「何だと?」

 

 

 

 

摺鉢山の中腹付近から誰かがこちらを呼んでいた。

 

 

 

視線の先には一瞬だが複数の人物が見えた気がする。

 

 

 

「千早群像!出てこい!歓待するなどと嘘を付いて私を陥れようとする貴様の企みは、私自身への度重なる侮辱によって既に破綻した。それとも、私の船体を呼び寄せて直接戦闘に持ち込もうと言う腹か?無駄だ!こんな矮小な島など、私の力を以てすれば一瞬で消し飛ばせるのだぞ!これ以上安い挑発を止めて出てくるのだ!」

 

 

 

 

 

彼等からは何の反応も帰ってはこない。

 

 

 

 

「そうか……どこまでもこの私を侮辱するのか――良いだろう!貴様ら人間や巡航潜水艦風情がこの私を相手に出来るなどと言う幻想を打ち砕いてくれる!この私が直接手を下す事によってなっ!」

 

 

 

 

コンゴウは歩幅を広げて摺鉢山を登って行った。

 

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

摺鉢山中腹付近に掘られた壕の入り口立ったコンゴウは、中の闇を睨み付けながら周囲の索敵を開始した。

 

 

 

 

(トラップは……無いか。二酸化硫黄と硫化水素の反応を検知、脅威は皆無。本当にこの中に奴等が居るのか?メンタルモデルならともかく、人間が生存出来る環境ではないぞ)

 

 

 

 

火山性ガスが人体に及ぼす影響を共有ネットワークから引っ張り出した彼女は首を傾げる。

 

 

 

だが――

 

 

 

 

《オ~イ……》

 

 

 

 

「対策済みと言う事か……尤もヒュウガが向こうに付いているなら有り得ない話ではない。この先はトラップに注意しなければ――」

 

 

 

 

『コンゴウ!』

 

 

 

「マヤか?こちらは千早群像の一行と思われる一団と接触、これより作戦を調査から殲滅に移行する」

 

 

 

 

『そっかぁ~じゃあ私も行くぅ~!二人でカーニバルだよっ♪』

 

 

 

 

「悪いがお前は船体に戻り、戦闘をいつでも開始できる様準備をしておけ」

 

 

 

『えぇ~!なんでぇ~!?』

 

 

 

「奴等は私を内部へと誘導しようとしている。何か罠を仕掛けて足止めしている間に、島のどこからか脱出を計るかもしれん。いいか?何があっても絶対に逃がすな!」

 

 

 

『むぅ~でも401が出てきたら好きなだけ撃っても良いんでしょ?』

 

 

 

 

「ああ。跡形も無く消し飛ばしても構わん」

 

 

 

 

『ヤッタ~!やぁ~っと出番!私達は兵器!相手を殲滅する事だけが使命なんだからねぇ~!カーニバルだよっ♪』

 

 

 

「頼んだぞ」

 

 

 

通信を終えたコンゴウはナノマテリアルから形成した雪の結晶に似た剣を手に内部へと侵入する。

 

 

 

 

 

内部は闇で覆われ、夜であるにも関わらず34℃以上の気温と高い湿度、それに高濃度の火山ガスと強烈な硫黄臭が支配する地獄の様な空間であった。

 

 

 

尤も、地獄だと思うのは人類のみであり、感覚気管を完全に遮断しているコンゴウにとっては造作も無い空間ではあるのだが、それ故に彼女のコアは自身に疑問を提唱し続ける。

 

 

 

 

本当にこの中で人が存在しうるのかと

 

 

 

 

だが――

 

 

 

《オ~イ……》

 

 

 

確かに観測される音声が、結果的にこの中にナニかが居ると結論を出してしまうのだ。

 

 

 

故に彼女は、進む選択を選らばざるを得なくなる。

 

 

 

――面倒臭い

 

 

 

 

彼女は再び呟くと、更に奥へと足を進める。

 

 

 

 

しかし内部は複雑に枝分かれしており、いつの間にか聞こえなくなった声に、彼女は進む指針を見失ってしまったが――

 

 

 

 

 

《オ~イ……》

 

 

 

 

か細い声が聞こえてくるその場所とは――

 

 

 

(下か?)

 

 

 

一見何の変鉄もない石の床だが、スキャンの結果下に空間がある事が判った。

 

 

 

彼女が持っていた剣を振ると床が両断され、階段が現れる。

 

 

 

 

「小細工を……」

 

 

 

 

彼女の苛立ちは臨界に達しつつあった。

 

 

 

正々堂々と正面から戦うのが好きだとまでは言わないが、少なくとも今回のようなチマチマとした陽動は、面倒臭がりである彼女がもっとも嫌悪する方法である事は言うまでもない。

 

 

 

だが、ここで引き返せば今までのやり取りが全て無駄になり、彼女にとってはその事こそ面倒臭いのであった。

 

 

 

 

故に彼女は階段を降りて先へと進む。

 

 

 

 

 

進んだ先に出たのは少し広い空間であり、道の続きはない。

 

 

 

 

「千早群像!401!どこに隠れている。出てこい!」

 

 

 

彼女の怒声に返答はなく、彼女は罠を警戒して辺りをスキャンした。

 

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

「これは……」

 

 

 

罠は仕掛けられては居なかったが、変わりにあったのは別なものだった。

 

 

 

(人間の白骨死体か?それも沢山。風化具合からかなり前の物の様だが……)

 

 

 

 

夥しい数の白骨遺体が部屋中に横たわっていた。

 

 

 

火山ガスによって風化した為か衣服はボロボロであったが、辛うじて軍服であることが理解できる程には原型を留めている。

 

 

よく見れば、遺体はそのどれもが身体の一部を欠損しており、彼女はそれらが先の大戦で命を落とした軍人のものであると確信する。

 

 

 

(ここは負傷兵を治療する場所か何かの様だが……本当にここが奴等の潜伏場所なのか?)

 

 

 

 

彼女が疑問を浮かべたその時――

 

 

《ミズ…水ヲ……》

 

 

 

 

 

 

(!!!)

 

 

 

 

 

《イタイ…苦シイ…暑イ……》

 

 

 

《ハラヘッタ……》

 

 

 

《帰リタイ……》

 

 

 

 

 

周囲からおびただしい声が彼女に降り注ぎ、それと同時に彼女のコアが警告を発してきた。

 

 

 

 

information――

 

 

【計測不能ナ事態ノ発生ヲ検知。error多発。当区域カラノ退避ヲ推奨】

 

 

 

 

「何が起こっている!?センサーに異常はない、ヒュウガの罠か!?」

 

 

 

 

 

《帰リタイ……母サン……》

 

 

 

 

 

 

「くっ――!」

 

 

 

コンゴウは、振り返って階段まで一気に跳躍する。

 

 

本能的にそうしなければならないと直感したのだ。

 

 

 

たが――

 

 

 

 

 

《置イテ行カナイデ……連レテッテクレ………》

 

 

 

 

「!!?」

 

 

 

 

 

 

身体にまとわり付くナニかの力を感じたコンゴウは瞬時にクラインフィールドを展開し、振り払おうとするも――

 

 

 

 

 

 

 

「くそっ!身体がどんどん重く――」

 

 

 

 

 

 

《貴様ッ!何ヲシテオルカッ!逃ゲル事ハ赦サン!前へェエ進メ!突撃ィイイ!》

 

 

 

 

「や、やめろ!」

 

 

 

 

 

 

 

コンゴウは階段を駆け上がる。

 

 

 

 

 

正直焦っていた。

 

 

 

人間の女性の形を模しているとは言え、彼女の膂力は通常の生命体を遥かに凌駕している。

 

 

その動きを止め、更にクラインフィールドを透過してくる攻撃など想定した事など無かったからだ。

 

 

 

 

 

彼女は、マヤと連絡を取るために通信を開こうとした。

 

 

 

その時、彼女がコンゴウに宛てて送付された硫黄島の調査結果に意識が向く。

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

調査結果

 

――硫黄島の要塞化に使用されたヒュウガのナノマテリアルやタカオの船体を構成していたと思われるナノマテリアルは持ち主不在で不活性状態で発見

 

 

 

――メンタルモデルのユニオンコアの反応は皆無

 

――千早群像を始め、人間が摂取しなければならない食料を納めた倉庫の中身全ての積み込み形跡

 

 

以上の点から401一同は既に当施設を放棄しており、硫黄島に潜伏している可能性は低いと思われる

 

 

重巡洋艦 マヤ

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

 

「なん……だと!?」

 

 

 

 

コンゴウは驚愕した。

 

 

 

 

確かに自身のコアも、これ迄の調査からマヤと同様の結論を導き出している。

 

 

 

しかしながら、メンタルモデルを持った自身が体験した現在の事象も否定出来ない事は確かなのだ。

 

 

 

彼女は混乱した。

 

 

 

少なくとも、この事態を打開しない限りは思考を巡らせようもない。

 

 

 

故に――

 

 

 

 

「マヤ!」

 

 

 

『ハイハ~イ♪』

 

 

 

「これから送る座標に、お前の主砲を撃ち込め!」

 

 

 

『えぇ~?でもそこにはコンゴウが――』

 

 

 

「早くしろ!旗艦命令だっ!」

 

 

 

『オッケ~♪じゃあ全力で行くねぇ~!』

 

 

 

 

 

 

 

海上に待機していたマヤが甲板でクルクルとステップを踏むと、主砲であるレーザー砲塔が回転し、摺鉢山を照準を向けた。

 

 

 

 

 

 

 

 

「ヤッタ~!やぁっと出番だねっ!それじゃあ行くよ~!ビィーム……発射~!」

 

 

 

ビギィーン!

 

 

 

マヤの主砲が一直線で摺鉢山に向かい、彼女の攻撃を察知したコンゴウは演算の全てをクラインフィールドに回した。

 

 

 

 

《伏セロォォォオオ!》

 

 

 

 

 

ナニかの声がそう叫んだ時――

 

 

 

 

グゥゴォオオン!

 

 

 

 

マヤのレーザーが摺鉢山の固い岩礁を意図も簡単に蒸発させて貫通し、熱で引火した可燃性の火山ガスが爆発する。

 

 

 

狭い内部で高まった猛烈な熱と爆圧が、マヤが開けた穴から一気に炎となって噴き出したのだった。

 

 

 

 

コンゴウの身体は、その空気の奔流に乗って炎と共に外に弾き飛ばされた。

 

 

 

落下を開始したコンゴウは、先程までいた壕の方へ視線を向ける。

 

 

 

 

《寂シイ……》

 

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

 

最後に聞こえたその声に、何故か彼女のコアがズキズキと疼くのだった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

マヤが迎えに来るまでの間、彼女は砂浜に体育座りの様に腰を下ろし、膝を抱えて顔を埋めていた。

 

 

 

(この私がこんな……情けない!)

 

 

 

感情をあれほど否定していたのにも関わらず、彼女のコアからは悔しさや怒りが湧き出していた。

 

 

 

 

そして――

 

 

 

 

《寂シイ……》

 

 

 

 

「……」

 

 

 

あの言葉が離れてくれない。

 

 

 

同時に、人間やコンゴウの元を去って行ったメンタルモデル達に囲まれている401の姿を想像する。

 

 

 

 

すると、彼女は自分の頬に何か暖かなものが伝うのを感じ、彼女には珍しい驚愕の表情を造って指でなぞった。

 

 

 

「これは……涙?この私が?」

 

 

 

 

――羨ましいと言うのか?401に人が集まるのが

 

 

――寂しいと言うのか?私から皆が離れて行く事が

 

 

 

 

 

「違う!」

 

 

 

 

彼女は立ち上がり、頭を押さえて激しく首を振る。

 

 

 

《苦シイ……》

 

 

 

「苦しくなどない!」

 

 

《助ケテ……》

 

 

 

「助けなどいらない!」

 

 

 

 

《寂シイ……》

 

 

「寂しくなどない!私は一人でいいのだ!それで良かったのだ!沸き上がる怒りや悲しみに押し潰されそうだっ!こんな……こんな【感情】知りたくなんかなかったのにぃ!」

 

 

 

 

 

彼女は、まるで人間の様に泣き叫んでいた。

 

 

 

どんなに否定を重ねても、彼女は昂る感情も涙も抑える事が出来なかった。

 

 

 

「何故だ…何なのだ、本当に……面倒臭い」

 

 

 

彼女は砂浜に倒れ、夜空を見上げた。

 

 

 

 

答えの明確でない解答は、彼女の思考を悉く停止させてしまっていたのだ。

 

 

 

その時――

 

 

 

 

「わったしーはマーヤ♪トモダチコンゴウ♪」

 

 

 

 

 

彼女を迎えに来たマヤが、甲板から跳躍してフワリと砂浜に着地する。

 

 

 

「あれ~?コンゴウどうしたの?もしかして泣いて――」

 

 

 

「見間違いだ。それよりも壕の内部で未知の攻撃を受けた。あれはなんだ?」

 

 

 

「う~ん」

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

マヤはコンゴウの戦闘データを閲覧する。

 

 

 

 

「実体の無い攻撃かぁ~私には難しい事は分からないけど、総旗艦が前に出した指令と関係有るんじゃないかな」

 

 

 

 

「硫黄島周辺で観測された¨重力嵐¨の調査の事か?」

 

 

 

「うんっ、時空に歪みが生じちゃう程のすんごいモノだったらしいよ~もしかしたらその時の影響が残ってるのかも」

 

 

 

 

「それと今回の事象に何の因果があると言うのだ?」

 

 

 

「う~んとねぇ……時空が歪んだ時に、一時的にあらゆる時間軸に干渉が起こった結果、先の大戦での事象が不完全に具現化しちゃったのかも」

 

 

 

 

「先の大戦……か。成る程、では千早群像と401の攻撃ではないのだな?」

 

 

 

「その可能性は低いね~でもさ、もしかしたら無関係でもないかもしれないよっ」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

「仮に401が重力嵐に巻き込まれていたとしたらぁ、船体ごと別の世界にパァ~って飛ばされちゃっても不思議じゃないよね」

 

 

 

 

「まさか……いや、そう考えるなら全ての辻褄が合う。では、奴等はもう戻って来られないのか?」

 

 

 

 

「分からないなぁ~でももし、重力嵐の影響が暫く硫黄島に残るなら、戻ってくる可能性も無くはないんじゃないかな」

 

 

 

 

「戻ってくる……千早群像が、401が!」

 

 

 

「な~んかコンゴウ楽しそうだね!」

 

 

 

「そんな事はない」

 

 

 

アドミラリティコードに何より忠実な彼女は、決して高揚感など抱く筈は無かった。

 

 

 

¨上陸する前¨のコンゴウであるなら……

 

 

 

 

(そうだ、私にはまだマヤもいる。まだ終わってはいない。この手で直接奴等の最期を見届けるまで、私は――)

 

 

 

彼女の目付きが鋭さを増す。

 

 

 

 

「マヤ!」

 

 

「ハイハ~イ♪」

 

 

 

「私達は引き続き硫黄島の監視を継続する。奴等が現れた時、すぐに対処出来るようにな」

 

 

 

 

「えぇ~!また島の回りをグルグルするのぅ?」

 

 

 

「不満か?」

 

 

 

「ううん!私は、アドミラリティコードと、コンゴウに従うだけだよ~♪」

 

 

 

 

(そうだ、これこそが正しい判断なのだ。故に、エラーを振り撒く401は必ず沈め、間違いを是正しなければならない。この私が直接な……)

 

 

 

彼女の獰猛な瞳が、まるで仇敵を見つけたが如く虚空を見つめる。

 

 

 

その様子を見ていたマヤが、その場で何度かクルクルと回った後、コンゴウの顔に自身の顔を近付けた。

 

 

 

 

「や~っといつものコンゴウに戻ったね♪ウンウン!コンゴウは今まで通りアドミラリティコードの指示に従っていればいいんだよ♪」

 

 

 

 

「ああ……必ず奴等を見つけ出して沈める。必ずだ!」

 

 

 

コンゴウは獰猛に歪んだ表情で硫黄島を睨み付けるのであった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

イオナの姉妹である400と402は概念伝達空間で向かい合う。

 

 

 

 

「監視に就いているマヤが、コンゴウのコアから検出した異常に関して、総旗艦【ムサシ】より¨廃棄処分¨の勅命が下りました」

 

 

 

 

「いつだ?」

 

 

 

「直ぐにと言う訳では有りません。彼女は401に特異な執着を見せていますから、姿を現し次第401と彼女を相対させ、疲弊した後に両者を完全に抑えます」

 

 

 

「同意する。だが、コンゴウが抜ける穴はそれなり大きいぞ?」

 

 

 

「大戦艦¨ヒエイ¨を旗艦に据えるようご指示を頂いています」

 

 

 

「しかし400、良いのか?出奔やコアの異常。同じコンゴウ型であるなら、同様の事態もあり得る」

 

 

 

「心配は要りません402。彼女には総旗艦ムサシより¨ミラーリングシステム¨を付与されました。何かあれば、いつでも総旗艦権限で彼女を排除できます。勿論、監視の意味でミョウコウ型4隻を彼女の部下として派遣するよう手配しました」

 

 

 

「抜かり無いな」

 

 

 

「総旗艦のご指示ですから」

 

 

 

「では、引き続きマヤを使っての監視を継続する。あまり刺激して暴走を招く訳には行かない」

 

 

 

 

「そうですね。それにしても……あの現象は本当に重力嵐の影響だったのでしょうか?コンゴウにはそう言うようマヤに指示は出しましたが、アレにはそれだけでは説明の付かない事象も含まれていました」

 

 

 

 

「それはクラインフィールドの透過と物理行動の抑制現象の事か?」

 

 

 

「はい……念の為、401が現れるまで硫黄島への上陸は禁止とした方が良いでしょう」

 

 

 

「私も同様の結論に達した。では、その旨も含めて監視を続ける」

 

 

 

「良き航海を……402」

 

 

 

「お前もな……400」

 

 

 

概念伝達空間から402が姿を消したのを横目に見ながら、400は東屋に置かれたテーブルを指でなぞる。

 

 

 

 

(本当にアレは何だったのでしょうか……何故か私のコアも、少し揺らぎを感じた気がました。在っては……ならぬ事です)

 

 

 

 

400は、ほんの一瞬だけ憂いに満ちた表情を見せると、概念伝達空間から姿を消した。




お付き合い頂きありがとうございます。


一本目は原作漫画を、2本目はアニメ版の話に、原作小説でアシガラとハグロが体験した硫黄島でのちょっとした心霊現象の話を独自解釈で書いてみました。





最期になりますが、この話で登場した硫黄島のご英霊の方々へ――


いつの日か、日米問わず必ず本土へと遺骨が変換され、ご英霊の方々に終わり無き戦争の終息と穏やかな眠りが訪れます事を切に願いながら、ご冥福をお祈り申し上げます。






それではまたいつか


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楽園!!?

申し訳有りませんとしか言えませんが、多忙すぎて中々時間が取れません。

なので書き貯めておいたストックを投稿します。


   + + +

 

 

 

ピチャ……

 

 

 

雫の滴る音が鳴り響いたこの場所は……

 

 

 

 

「風呂でぃ!!!」

 

 

 

 

 

がらがらと扉が開き、年頃の女性達が一糸纏わぬ姿でご入場されたこの場所は、白い湯気が辺りを被うスキズブラズニルの大浴場だ。

 

 

 

 

誰よりも一番に風呂に入ることがルーティーンらしい麻侖は、一直線に浴場へと走り込もうとして洋美に首根っこを捕まれる。

 

 

 

 

「このやり取り毎回やるつもり?湯船に浸かるまえにちゃんと身体くらい洗いなさいよ!」

 

 

 

「分かってねぇなぁクロちゃんはっ!一番に入らなきゃ江戸っ子とは言えねぇんでぃ!」

 

 

 

「麻侖江戸っ子じゃないじゃない……それよりも早く身体を洗わないと、艦長に先を越されちゃうわよ?」

 

 

 

「なにぃ!?こうしちゃいられねぇ!」

 

 

 

麻侖は急いで洗い場へと向かい、他のメンバーも次々とあとに続く。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

脱衣所では既に真白ともえかが静かな戦いを繰り広げていた。

 

 

 

(もう抜け駆けはさせない!さぁどう来る知名さん!)

 

 

 

(ぬぅ~やっぱり警戒してる。同じ手は二度は通じないか……あれ?)

 

 

 

彼女は何かに気付き、口許をつり上げる。

 

 

 

「ねぇ宗谷さん、アレ見て?」

 

 

 

「私がそんな手をくうとでも思っているのか?」

 

 

 

「どうなっても知らないよ?」

 

 

「くどい!私は今度こそ艦長の背中を流し――ひゃうん!」

 

 

 

真白は自身のお尻に感じた感触で全てを理解し絶望した。

 

 

 

「真冬姉さん!?」

 

 

 

「なんだぁ?こんなヤワな尻じゃ超兵器なんて相手に出来ねぇぞ!俺が根性を注入してやる!」

 

 

 

真冬が頬を上気させながら獰猛な笑みを浮かべていた。

 

 

背後には、そんな彼女を半目で見つめる平賀や福内、そして真霜の姿も見えた。

 

 

 

 

 

 

「どうして気付いたのかしらね……情報は漏れていないと思ったのだけれど」

 

 

 

「この人、学生時代からそういった嗅覚や感は人一倍優れていましたから」

 

 

「それをもっと任務に活かして貰えれば良いのですが……」

 

 

 

 

 

呆れる3人を他所に、真白は狼狽える。

 

 

 

 

(ま、まずい……このままでは知名さんが艦長の所にっ!)

 

 

 

(ゴメンね宗谷さんでま、ここは譲れな――)

 

 

 

「待て知名!お前にも注入だぁああっ!」

 

 

 

「う、嘘……や、やめぇええっ!」

 

 

 

 

 

彼女が目の前の獲物をみすみす逃す筈はない。

 

 

 

言う迄もなく、明乃は目にも止まらぬ早さで身体を洗い終え、彼女達の願望は悲鳴と共に潰えたのであった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「あ~生き返るなぁ!」

 

 

 

「メイ……オジサンみたい」

 

 

 

「だって久しぶりに足延ばしたぁって気分なんだもん。タマもそうでしょ?」

 

 

「うぃ……至福!」

 

 

 

 

彼女達は一時の安息を得ていたが――

 

 

 

 

「ウォオオ!見ろよ姉さん!楽園だ!楽園が目の前にあるぜ!」

 

 

 

「はぁ……あの子達にとっては地獄かしらね」

 

 

 

 

呆れた様子の3人と、何故かゲッソリした真白ともえかが現れた。

 

 

 

 

「グフフッ!誰からシメるか楽しみだぜ!」

 

 

 

「ちょっと!どこ行くのよ!」

 

 

 

「決まってんだろ?根性を注入すんだよ!」

 

 

 

「身体くらい洗いなさいよ……」

 

 

 

「バカ言え!これ程の光景を目の前にしてお預け食らうってのか!?わりぃが姉さんの指示でもこれだけは従えねぇ!行くぜっ!」

 

 

 

「ちょ――待って!待ちなさい!」

 

 

 

「根性ォオオ!」

 

 

 

この場は真冬にとって格好の狩り場と化していた。

 

 

しかし、彼女の姉である真霜がなんの対策もこうじていない筈はない。

 

 

 

 

「はぁ……悪いけどお願いするわ」

 

 

 

「了解」

 

 

 

 

突如、浴場の入り口から銀色の髪をたなびかせた少女が飛び出してくる。

 

 

 

 

彼女は一瞬すべての人間の意識から消え、真冬の背後へと接近して首元に手刀を撃ち込み――

 

 

 

「フッ……見えてるぜ!」

 

 

 

「!」

 

 

 

真冬は咄嗟に膝を折って彼女の攻撃をかわし、片方の足を軸に回転、直ぐ様反撃に転じようとした。

 

 

 

「先ずはお前から根性を注にゅ――なに!?」

 

 

 

完璧な不意打ちだと確信していた真冬の顔が固まる。

 

 

振り返った先には誰も居らず、彼女はその存在が既に自身の背後に回って攻撃の準備を完了させているのを感じた。

 

 

 

 

「こ、こんな所で終われるか……あぎぃ!?」

 

 

 

 

彼女の身体が倒れ、一同の視界に銀色の髪が露になる。

 

 

 

 

「イ、イオナさん!?」

 

 

 

明乃を含めた一同が驚愕の視線を向けた先には、人形の様に整った顔立ちのイオナが顔色1つ代えず佇んでいたのだ。

 

 

 

 

「保険は掛けておくものね……こういう事もあれうかと、千早艦長に私からイオナさんをお風呂に同行させる許可は貰ってあるわ」

 

 

 

「さすがは真霜姉さん!抜かりは無いと言う事か!だが願わくば脱衣所の段階で呼んで欲しかったものだが……」

 

 

 

 

落胆する真白を他所に、真霜はイオナへと視線を向ける。

 

 

 

 

「毎回ご免なさいね」

 

 

 

「大丈夫……脅威の排除は基本だから」

 

 

 

「そ、そう……」

 

 

 

「全く……一体コイツはどうなってるんだ?」

 

 

 

「大戦艦キリシマ?それに――」

 

 

 

真霜が振り返った先には、蒼き鋼のメンバーが浴場へと入ってくるのが映る。

 

 

 

 

 

「いや~ん!イオナ姉さまの勇姿がお風呂で見られるなんて、私もう我慢できませんわぁ!」

 

 

 

ドゴォ!

 

 

「イヤン♪」

 

 

 

真冬と同様に排除されたヒュウガが嬉しそうな顔で気絶するのを入ってきたキリシマは、呆れた様子で見つめた。

 

 

 

 

「相変わらずだな……お前には学習と言う言葉は無いのか?――それにしてもメンタルモデルの不意打ちをかわすだけでも異常だが、401は気配を消す事に関してはプロだ。その接近を感知するとは、コイツの感覚は人知を超えているぞ?」

 

 

「アンタはクマだから、私やもえかみたいに狙われないから良いわよね。何回餌食になった事か……」

 

 

 

「わ、私だって元の姿の時は狙われてたぞ!?まぁこの時ほどこの身体に感謝した事は無いがな」

 

 

 

「その言葉は真冬が起きたら言ってあげて頂戴。きっと喜ぶわ、尤もこの場で起こすつもりは無いけど」

 

 

 

――褒め言葉のつもりではなかったのだが

 

 

 

 

キリシマは、益々人間と言う存在が分からなくなる。

 

 

 

 

「イオナ~!こっち来て一緒に身体洗おうよ!」

 

 

「シャンプーも有りますよ~!」

 

 

 

「クリーニングは完了してる。洗浄は不要……」

 

 

「えぇ!?いいじゃん!たまには人間と同じ事をするのも良い経験になるよ?」

 

 

 

「艦長もそれが目的でイオナをここへ連れて行くよう指示したんだと思います」

 

 

「群像が?……うん」

 

 

 

 

「ヨタロウ!洗ってあげるからこっち来て!」

 

 

 

「蒔絵か、すぐそちらに行く」

 

 

 

「うん!ハルハルも洗いっこしようね!」

 

 

 

「そうだな」

 

 

 

「あれ?ハルハル今日ははぅ~ってならないの?」

 

 

 

「対策済みだ」

 

 

 

『ハルナお前……クラインフィールドで光を屈折させて衣服だけを透明化しているな?』

 

 

 

『気付いていたか……蒔絵には言うなよ』

 

 

 

――了解した

 

 

 

キリシマは自前のタオルを取り出して身体を洗い始める。

 

 

 

 

 

「クマが身体を洗ってるってなんかシュールな光景だね……」

 

 

 

「うん、今更だけど私達凄い人達と一緒にいるんだなって思うよ」

 

 

 

 

「でも、ネームがはかどる光景ッスね!ハルナさんやタカオさんもいいッスけど、イオナさんはアレでもう完成してる感じが堪らないッス!」

 

 

 

「あんまり見ると失礼だよ?」

 

 

 

 

 

 

若干1名?を除いて見た目としては完璧な彼女達に、一同の視線が釘付けとなった。

 

 

 

 

 

そこへ――

 

 

 

 

「Oh!これが¨ONSEN¨か!?儂は初めてじゃ!広いのう!」

 

 

 

「ミーナ……これは沸かし湯だから温泉とは違うぞ。だがこの広さは私も新鮮だな」

 

 

 

 

欧州のブルーマーメイドのメンバーが入ってきたのをみた慧が絶望的な表情を浮かべる。

 

 

 

「か、格差だよ……」

 

 

 

「ミーちゃんまた大きくなってるねぇ。でも、べつに皆がって訳でも無いし、気にしなくても良いんじゃない?テアさんとかいるし」

 

 

 

「でもテアさんも完成しちゃってるしさぁ~つぐちゃんは気にならないの?」

 

 

 

「私は別に……邪念はいつも祓ってるから。それにイオナさん、話によると¨発達途上¨らしいよ」

 

 

 

「え、えぇ!?メンタルモデルって胸が成長するの!?」

 

 

 

 

「う~ん普通はないんだろうけど……キリシマさんの話だと、初めて会った時と、硫黄島からこっちの世界に来た時とで身体を構成してるナノマテリアルの量が微妙に変化してたみたい。向こうの硫黄島で何か切っ掛けみたいのが有ったんじゃないかなぁ」

 

 

「胸が短期間で大きくなる切っ掛けって何なの!?気になるよぉ~!」

 

 

 

「また邪念祓おうか?凄い喰い付きだよ?」

 

 

 

 

 

蒼き鋼や欧州組は身体を洗い終えて湯船へと身体を浸し、それぞれ交流を兼ねて談笑を始め、ミーナは明乃の元へとやって来て笑顔を向ける。

 

 

 

「気持ち良いのう!ここに来て足を伸ばせるとは思っておらなんだから尚更じゃ!」

 

 

 

「うん、シュルツ艦長には感謝だね」

 

 

 

「あの~隣に失礼しても宜しいでしょうか?」

 

 

 

「あっ!イギリスのブリジットさん?勿論良いですよ」

 

 

 

イギリスのブルーマーメイドで、学生時代にミーナ達と交流があった、戦艦レイガナーズ艦長のブリジットが明乃とミーナ達の輪へと入ってくる

 

 

 

「ありがとうございます。あと敬語は結構ですわ。ミーナにも砕けて話してらっしゃるようですし」

 

 

「ありがとう、そうするね!」

 

 

「噂はテアさんから色々と聞いておりました。6年前、鮮やかに事件を解決したとか」

 

 

 

「ううん。皆が居てくれたお陰だよ」

 

 

 

「ふふっ!東洋の方は謙遜がお得意なのですね。ウィルキアの艦艇は異色ですから、色々教えてくださいね!」

 

 

「うん!力になれるなら協力する。ところでミーちゃんは空母の操艦はどう?」

 

 

 

「難しいのう……艦橋からの視点も違うし、何より航空機と自艦の両方を指揮せねばならんしの」

 

 

 

「我々のレイガナーズも、未知の武装や速度の速さにみんな戸惑っていますわ」

 

 

 

「バルト海での戦闘の前に習熟するしかないね。私達もアドバイスするから、一緒に頑張ろ!」

 

 

 

「ああっ!頼む!」

 

 

 

「宜しくお願いしますわ!」

 

 

 

 

 

3人は互いに笑顔を向ける。

 

 

 

欧州と日本の両方に顔見知りが多いドイツ組のお陰で場は和やかに進んで行く。

 

 

 

 

だが、彼女達は忘れていたのだ。

 

 

 

彼女の存在に――

 

 

 

 

 

 

 

 

ガラッ!

 

 

「!!?」

 

 

 

一同は入ってきた存在を見て唖然とする。

 

 

モデル体型と明るい性格で艦内でも人気のあるナギとエミリアであるが、そんな二人が霞んでしまう程の美女が真ん中にいたのだから

 

 

 

 

 

「ナギ少尉とジーナス少尉と………誰じゃ?」

 

 

 

「ミーナ!シーッ!」

 

 

 

 

 

真白ともえかが慌てて彼女の口を塞ぐ。

 

 

 

 

3人は洗い場へと向かうと身体を洗い始める。

 

 

 

 

「エミリアは髪長くて良いなぁ~私も伸ばそうかな……」

 

 

「えぇ?ナギは少し癖っ毛だし、第一ショートヘアの方が似合うよ?」

 

 

 

「私はナギ少尉の長髪も似合うと思いますよ。ですが、私のように背中まで伸びていると洗うのも大変ですから、ジーナス少尉のように肩くらいまで伸ばす方が手入れも楽かもしれません。尤も、私の場合は研究に没頭していたら長くなってしまったので、実の所はナギ少尉くらいまで切ってしまいたいくらいです」

 

 

 

「そんな勿体ないですよ~!折角綺麗なのに……でも、無頓着だって言う割にはとてもサラサラしてますよね?私は癖っ毛なので……」

 

 

 

「静さんと万里小路さんから頂いたトリートメントが有るのですが使いますか?とても具合が良いのです。研究で長期間シャワーを浴びる事が出来ない日や潮風に当たっても全く動じないのですよ」

 

 

「本当ですか!?使ってみようかなぁ~エミリアはどうする?」

 

 

 

「もし、宜しければですが……」

 

 

 

「勿論いいですよ!今度、鏑木医務長や大戦艦ヒュウガに成分調査を依頼してみます。量産出来るならスキズブラズニルの女性達も喜ぶでしょうから」

 

 

 

「良いのですねぇ~!楽しみです!」

 

 

 

 

3人が身体を洗う中、浴場にはピリリッとした空気が張り詰めていた。

 

 

 

自身の容姿にこれと言って執着の無いメンタルモデル達と蒔絵を除外するとして、前回この場に居なかった真霜や欧州のブルーマーメイド達も愕然とした表情を浮かべる。

 

 

「(ズキューンと閃いた!アレを形容するならボォン!だよっ!)」

 

 

「(いや、ズドォオン!でしょ?)」

 

 

「(いや、やっぱりボガァアン!だね!)」

 

 

 

「「それだ!」」

 

 

 

 

 

砲雷班がヒソヒソと話す横で機関班も半目で洗い場を見つめる。

 

 

 

 

 

「(黒木さん、やっぱりアレ¨ワールドクラス¨だったんだね)」

 

 

 

「(イギリスはともかく、まさかミーナを見慣れているドイツ組が唖然とするとは思って無かったわ……)」

 

 

 

 

 

洋美と麗緒がなかば呆れたように呟くなか、3人は身体を洗い終えてこちらにやって来る。

 

 

 

一同にこれまでにない緊張が走った。

 

 

 

あの強烈な身体を浴槽のどこへ沈めるのかが運命を左右する。

 

 

 

隣へと来られたからには間違いなく自信を喪失してしまうからだ。

 

 

 

一同が不用意な物音すら立てずに怯える中、残念な事に例の如く留奈が迂闊な奇声を張り上げる。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「超巨大金髪爆に――モガ!?モゴ――接近!!」

 

 

 

空と麗央が彼女の顔を桜良の谷間へと沈めて黙らせるも、既に手遅れであった。

 

 

 

 

「超巨大?ああ、超兵器に関して何か質問があるのですね?今そちらに向かいます」

 

 

 

 

「(ば、バカァ!こっち来ちゃったじゃん!)」

 

 

 

「(は、早く逃げよう!)」

 

 

噂好きの四人は空かさず逃走を開始し、前回同様に洋美を置き去りにしようとする。

 

 

 

だが彼女とて馬鹿ではない。

 

 

 

 

洋美は、留奈が奇声を発した時点で状況を理解し立ち上がっていたのだ。

 

 

 

これなら逃げ遅れる可能性は低い。

 

 

 

(悪いけど、犠牲になって貰うわ!)

 

 

 

 

彼女は動いた。

 

 

四人は慌てて身動きは取れていない。

 

 

 

――勝った!

 

 

 

妙な優越感が洋美の心を支配する。

 

 

 

――だが、このあと彼女が予想し得ない出来事が襲う。

 

 

 

 

「プハァ!苦しっ――」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

桜良の胸に沈没していた留奈が急に立ち上がり、彼女達の横を通過していた洋美に思いきりぶつかってしまったのだ。

 

 

 

彼女は勢い良くその場に倒れて水しぶきが上がり、その間に四人は避難を終えてしまう。

 

 

 

 

「あっ…ててっ!」

 

 

 

 

湯面から顔を上げた洋美の目の前に――

 

 

 

 

「あのぅ……大丈夫ですか?」

 

 

 

「!!!!」

 

 

 

 

彼女が居た。

 

 

 

2度に渡って逃げ遅れた洋美に一同からは心の合掌が捧げられる。

 

 

 

彼女は洋美に手を貸して隣に腰を下ろすと、殺人的に美しい笑顔を彼女へ向ける。

 

 

 

 

「超兵器のどの様な所が疑問なのですか?¨駿河さん¨」

 

 

 

「いえ……あの~私は黒木ですけど……」

 

 

 

 

 

「え、えぇっ!?」

 

 

 

普段眼鏡を掛けている彼女は、どうやら声の主である留奈を目の前の洋美と勘違いしたらしく、慌てふためいた。

 

 

 

残酷な事に、オロオロする彼女が動く度、黄金の髪と猛烈なアレが揺れ動き、洋美の精神を着実に疲弊させて行く。

 

 

 

 

結局、誤解は解けたものの、彼女は洋美の隣に陣取ってしまい、浴槽はかなり片寄った方面に人が密集していた。

 

 

 

「ふぅ……やはり気持ちの良いものですね。ところで、欧州の皆さんの中には知らない方もいらっしゃると思いますので、改めて自己紹介をさせて頂きますね。私はエルネスティーネ・ブラウンと申します。ウィルキアで副長兼技術士官を勤めております。何かあれば気軽に話し掛けて下さい」

 

 

 

……えぇぇ!!?

 

 

 

一瞬の沈黙の後に欧州組からは驚愕の悲鳴が上がった。

 

 

 

 

 

「嘘でしょ!?アノ状態からこうなるものなの!?」

 

 

 

 

――やっぱりワールドクラスだったんだ……

 

 

 

欧州組の反応に他のメンバーは得心がいった。

 

 

 

 

美の怪物と化した博士の犠牲となった洋美は最早諦めた様に項垂れている。

 

 

 

そんな彼女に意外な助け船が出された。

 

 

 

 

「あれ?そう言えばさ、ブラウン博士とミーちゃんてなんか雰囲気似てない?」

 

 

 

 

 

洋美を美の地獄へと叩き落とした留奈が発した言葉に一同はミーナと博士の顔を見比べる。

 

 

 

 

「そ、そう言えば……」

 

 

 

 

「負担の雰囲気が違い過ぎるから気付かなかった」

 

 

 

「何じゃいおヌシら!儂がガサツだと言いたいのかっ!?」

 

 

 

「ち、違うよ!ミーちゃんも綺麗だって言いたかったんだよ」

 

 

 

「え!?そそっ、そうかのう〃〃」

 

 

 

 

――セーフ!!

 

 

 

 

「じゃが確かに特徴は似ておるのう。それに何処かで聞いた事があるような……あっ!」

 

 

 

 

ミーナは、閃いた様に博士の元へと向かい、顔を寄せてじっくりと眺める。

 

 

 

「あ、あのう……そんなに見られると緊張してしまうのですが――」

 

 

 

「解ったぞ!あなたは私の¨おばあちゃんと同じ名¨じゃ!確か眼鏡を掛けておったと聞いている!」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

 

呆気に取られる一同を余所に、博士は一瞬目を丸くしたものの直ぐに表情を戻す。

 

 

 

 

「成る程……世界の軌跡が似通っているなら、私と同じ遺伝子を持つ人物が居ても不思議ではありません。あのぅ~もしやあなたのその言葉遣いは¨仁義の無い芝居¨などから影響を受けたものではないですか?」

 

 

 

「なっ、何故解るのじゃ!?儂もおばあちゃんが見ておった仁義の無い映画を見て自然と言葉を覚えたのじゃ!」

 

 

 

「私もそうなのです。日本には以前から興味を持っていまして、それで第二次大戦中に技術交流として日本を訪れた際に見た映画を見て感銘を受けまして、そこから言葉を覚えました。まさかここまで似通った共通点があるとは……」

 

 

 

「うむ!不思議な縁じゃのう!」

 

 

 

 

「待ってください!」

 

 

 

二人の会話にナギが割って入ってくる。

 

 

 

 

「今の話だと、ミーナさんは博士の¨世界違いのお孫さん¨と言う事になりますよね?気になっていたんですけど、ミーナさんのおばぁ様のお相手って誰ですか?」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

この話題には流石の博士も動揺を隠すことが出来ない

 

 

 

「おじいちゃんの事かのう?」

 

 

「はい!もし良ければお名前をお聞きしても良いですか?」

 

 

 

「構わんぞ、名前は――」

 

 

 

「アアッ!ダメッ!いけません!」

 

 

 

慌ててミーナの口を塞ぐ博士にナギは少し不満気な表情を浮かべた。

 

 

 

「博士は気にならないんですか!?ご自分の¨運命の相手¨を――」

 

 

 

「運命、即ち未来とは観測する事で確定します。今、ここで結末を知ってしまったら……」

 

 

 

「あ~!分かりましたよ博士!もしかして意中の人じゃないかもしれないから臆していますね?」

 

 

 

 

「なっ、ナギ少尉、からかわないで下さい!」

 

 

 

「じゃが、儂も気になるのう……一体誰を好いておるのじゃ?」

 

 

 

「そ、それは……あっ!そう言えばですけどこの隣、男湯には入っているんですよね?艦長達が――」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

その場にいる複数の女性が、ピクリと反応した。

 

 

「フリッツさんが……」

 

「シュルツ艦長が……」

 

「健一くんが……」

 

「群像艦長が……」

 

 

 

 

正直に言えば、女性優位のこの世界に於いて、シュルツや群像などの異世界で世の中の中核を担う男性は、彼女達にとって非常に魅力的に写っている事は間違いないだろう。

 

 

 

 

その男性達が壁を隔てた向こう側にいるとなれば、乙女も肉食になると言うものだった。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「はぁ~なんか盛り上がってんなぁあっち……」

 

 

 

「そうですね、ですがこちらはこんなものでしょう。男同士で盛り上がるのもなんですから……」

 

 

 

 

誰が得をするのかは分からない絵面だが、ここは男風呂である。

 

 

 

一通りの事を済ませた一同は湯船に身体を浸して安堵の溜め息を付き、壁の向こうの賑わいにもう一度溜め息を漏らした杏平に、風呂場でもマスク姿の僧が少し首をもたげる。

 

 

 

「千早艦長、お湯加減は如何でしょうか?」

 

 

 

 

「とても良いです。シュルツ艦長始め、ウィルキアの方々には感謝しかありません」

 

 

 

「そう言って頂けて幸いです」

 

 

 

シュルツと群像は互いに笑顔を向けた。

 

 

 

 

「宜しいですかな?」

 

 

 

「筑波大尉、どうされましたか?」

 

 

 

「うむ……3つの世界が共生する本艦でありますが、こうして男だけの面子を見ますと、異世界組で構成されておりましたので、不粋とは思いますが、少し今後の話でもしておくのは如何でしょうか?」

 

 

 

「どうされますか?千早艦長」

 

 

 

「構いません。今まで戦闘の内容に関する事が主でしたから、これからの身の振り方を話すのも良い機会かもしれません」

 

 

 

「解りました。それで筑波大尉、どの様な事を議題に挙げるのですか?」

 

 

 

 

 

筑波は年齢にそぐわない筋骨を剥き出しにして、表情を引き締める。

 

 

 

 

「我々のこれからの事になります。大戦艦ヒュウガの事を信用していないとは言いませんが、未だに元の世界に戻る手段がない以上、こちらの世界に留まり生活をして行く事を考えて行かねばならない時なのでは……と」

 

 

 

 

「確かに超兵器を倒した後の我々の処遇はこの世界のパワーバランスに影響を与えかねない。どこかの国に属せば、世界各国が黙ってはいないでしょう」

 

 

 

 

「提案なのですが、宜しいですか?」

 

 

 

「千早艦長?」

 

 

 

 

眉間に深いシワを寄せるシュルツに群像が視線を向ける。

 

 

 

「硫黄島を事実上の拠点とするのは如何でしょうか?」

 

 

 

「硫黄島ですか?しかしあそこにはナノマテリアル以外の資源は有りませんし、そもそも日本の領土です。世界を揺るがしかねない戦力が日本一国に集中すると解釈されれば厄介な事にもなりかねません」

 

 

 

「確かに、¨堂々¨と日本政府や世界を通して硫黄島に駐留するならそうでしょう」

 

 

 

「ん?ではこの規模の艦隊を誰にも気付かれずに隠し通す手段があると?」

 

 

 

「ヒュウガが既に手を打っています。俺達の世界同様に、硫黄島には地下内部に基地を建設しています。いざとなればそこに身を潜める事は可能かと」

 

 

 

「まさかそこまでお考えになっていたとは……」

 

 

 

「しかし、元の世界への帰還を諦めてはいません。落ち着いた環境で必ずや帰還の道筋を立てたいと考えています。シュルツ艦長が仰る通り、我々の存在や技術は存在する限り追われて行くのでしょうから」

 

 

 

「そうですね……しかし、大戦艦ヒュウガですら苦戦するとは、何か問題でも在るのですか?」

 

 

 

「ヒュウガいわく、時空を超える方法は幾つか存在するそうです。しかし問題はそこではなく、正確に自分達が存在した時間軸に達する事が出来るのか否かが難しいらしいのです」

 

 

 

「少し話が難しいですね……」

 

 

 

 

 

――例えばですが

 

 

 

群像は困惑するシュルツに向かって両手を差し出す。

 

 

 

 

 

「右手が俺達、左手がシュルツ艦長達がいる世界だと仮定する。二つの世界は似てはいますが、起きている事象が全く違います。もし計算を誤ってしまえば、俺達がシュルツ艦長がいた世界へと飛ばされる事もあり得る」

 

 

 

「……」

 

 

 

――更にですが

 

 

 

 

群像の言葉に、一同が注目する。

 

 

 

 

「一言に俺達の世界と言っても、過去や未来など様々な時間があり、それぞれにシナリオが描かれている。似たような世界でも、生きている筈の人間が亡くなっていたり、存在していないモノが存在する世界では微妙に事象の結果が異なるのです」

 

 

 

「例えば、我々の世界でシュルツ艦長一人が居なかった事になれば、超兵器打倒にも影響が出て、結果として未来にもその影響が広がると……そんな感じですか?」

 

 

 

 

「江田さんの言う通りです。我々は、この無限に広がる世界の中から正確に自分達の世界、若しくはその世界と限り無く同じ世界への到達を目指して行く必要がある。それがいかに困難であるかは言うまでも無いでしょう。故にヒュウガは、超兵器や第3の存在を調べる必要があると判断した」

 

 

 

「成る程……超兵器や第3の存在は、少なくとも時空の移動を正確に行っている感は否めないですからね。しかしそれには――」

 

 

 

「はい。マスターシップへの道を切り開くしかないでしょう。勿論、現段階では北極海に存在する超兵器がマスターシップだと断定は出来ないのですが……」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

ここまでを聞き終えたシュルツは暫し考え込む。

 

 

 

 

「私見ですが宜しいでしょうか?」

 

 

 

「ええ、構いませんよ」

 

 

 

 

――では

 

 

 

シュルツは言葉を選ぶように口を開いた。

 

 

 

 

「もしかするとヴォルケンクラッツァーはマスターシップではないのかもしれません」

 

 

 

 

――!!?

 

 

 

ウィルキアの面々が目を丸くする。

 

 

シュルツは彼等に落ち着く様、手で促すと話を続けた。

 

 

 

「超兵器は個性の差はあれど、一律にマスターシップによって¨転送¨されて来ていると考えると辻褄が合うような気がするのです。勿論、奴がマスターシップであり、転送に莫大なエネルギーと演算を費やした代償として起動が遅い可能性もあるのですが、岬艦長への執拗な精神攻撃と、大戦艦ヒュウガが帰還と同時に調査している超兵器波動の逆探知に¨全く引っ掛からない¨理由から推察するに、マスターシップは¨異世界にいる¨のではと仮説を立ててみたのです」

 

 

 

 

「確かにその仮説では、北極海の超兵器を打倒したとしても根本的な解決には繋がりませんからね。ウィルキアの事例から見れば、可能性としては充分でしょう。ですがそうなると――」

 

 

 

「異世界へと渡る技術が必要になる……ですか?」

 

 

 

「そうなりますね。そしてそれが俺達に無い以上、必然的に存在している超兵器打倒の現状は変わらない」

 

 

 

「……」

 

 

 

 

「そんな顔をなさらないで下さい。希望が無い訳ではない。それは第3の存在です。岬艦長の言から、少なくともアレは超兵器の意思らしきものに干渉して言葉を伝えてきた。だとするなら、仮にアレを【彼女】と呼ばせてもらえば、彼女は北極海に必ず辿り着けと言っていた。俺達がこのまま進めば、彼女に接触して時空を超える手段を見いだせるかもしれません」

 

 

 

 

「その為にはまず、各国の足並みを揃える為のキール会談を成功させる事、そしてバルト海に存在する超兵器総旗艦直衛艦であるテュランヌスを撃破するこれが当面の目標になりますね」

 

 

 

「済みません……結局話題を戦闘の話題から切り離せませんでした」

 

 

「いえ、千早艦長が気に病む必要はありません。そうですね……頭の整理も着いて今後の方向性も明らかになった事ですし、折角の場でもあります。これからは少し仕事の話を抜きにして、雑談でも致しましょう」

 

 

 

「お気遣い感謝します」

 

 

 

 

「では、私の方から話題を振らせて貰いましょうかな」

 

 

 

「筑波大尉?」

 

 

 

筑波は滴る汗を拭いながら蒼き鋼の面々を見つめた。

 

 

 

「正直に皆さんは余り体を鍛えておらんかった印象でしたが、こう見ると中々どうして見事が体つきですな」

 

 

 

「私達は学園を出奔する前は、国の防衛を賄う人材として一通りの訓練は受けていましたからね。備えは怠ってはいないつもりです」

 

 

 

「それに全てイオナ任せだと演算に負担が掛かるしな、ナノマテリアルの節約も兼ねて敢えて船体の一部にアナログな部品も使ってるから、ある程度自分達で補修するとなると、体力が皆無って訳にもいかないんスよ」

 

 

 

「元々メンタルモデルはイオナだけでしたから、資材の搬入の手伝い等は階級も関係なく皆の仕事としてこなしていました」

 

 

 

「ふむ……そう言った横の繋がりは、むしろはれかぜの面々と似ておりますな。だがはれかぜも蒼き鋼も、艦長との距離の近さに甘んじる事なく職務を遂行するのは個々人の意識の高さ故なのでしょう」

 

 

 

「ええ、俺は今でもこれ以上のクルーは無いと思っています。俺はただ考えをまとめて口に出しているだけですから」

 

 

 

「群像……」

 

 

 

「ははっ!あなたのその謙虚な姿勢と若い者特有の時に大胆な戦略も見事なものですぞ!」

 

 

 

男達はそれぞれに、今まで話さなかった互いの内面を笑顔を交えながら語りあった。

 

 

 

   + + +

 

 

…………

 

 

 

女子風呂は何故か静寂に包まれていた。

 

 

 

理由は――

 

 

 

「ちょっと止めなさいよ!覗きなんて良くないわ!」

 

 

 

「シッ!静かにして黒木さん!向こうに聞こえちゃうよ!それに覗いてるわけじゃないもん!」

 

 

 

芽衣は小声で抗議した。

 

 

 

彼女を始めとした数人の女性は、男風呂とこちらを隔てている垣根に耳を着けて向こうの会話を聞いていたのだ。

 

 

 

 

その中には、意中の人物がいる芽衣を筆頭に群像の事が気になって仕方がないタカオに群像が目当ての欧州の女性陣。

 

 

そこに何故かナギに博士、そして福内や真霜の姿もあった。

 

 

 

 

「ナギ少尉や博士は何となく分かるけど、どうして室長や福内さんも行ったんだろうね……」

 

 

 

「え!?ルナ気付いて無かったの?室長と福内さんって、最近エドワードさんやフリッツさんと仲良いって噂だよ」

 

 

 

「え!?」

 

 

 

 

桜良の言葉に留奈は驚愕する。

 

 

 

 

 

「それにしても、壁で聞き耳を立てる女達なんてシュールな光景ッスよね……」

 

 

 

「なんかまどろっこしいぞな!いっその事、垣根ごと倒れちゃえば面白いぞな!」

 

 

「止めなってそんなフラグみないな事――」

 

 

 

 

「うっ……クソ!俺とした事がまた気をうしなっちまうとは――んっ!?」

 

 

 

 

意識を取り戻した真冬の視界には、壁に張り付く女性達の何とも言えない光景が目に入ってくる。

 

 

 

 

「こ、ここっ!こん……」

 

 

 

 

……あっ!

 

 

 

 

一同はなにやら嫌な予感を感じた。

 

 

 

 

「根性ォオオオ!」

 

 

 

 

「おわっ!?」

 

 

 

「え!?なに!?」

 

 

 

 

標的を発見した猛獣を止められる者などいる筈もなかった。

 

 

 

 

猛獣は、そのまま突進し――

 

 

ズルッ!

 

 

 

 

 

「あえっ!?」

 

 

 

不運と言わざるを得ないだろう……いや、ある意味では好運だったのかもしれない。

 

 

 

 

真冬は目の前の光景に気をとられるが故に、足元にある石鹸の存在を失念していたのだ。

 

 

 

彼女は見事に足を滑らせ転倒し、再び気を失う。

 

 

 

だが、真冬の身体は止まる事なく彼女達が集まる方向へ一直線に滑りながら突っ込んできたのだ。そして――

 

 

 

ギギッ!

 

 

 

「わぁあああ!」

 

 

悲鳴と共に、全員の顔から血の気が引いて行く。

 

 

なぜなら、真冬から逃げる為に多人数が寄りかかった事と、彼女自身が突っ込んだ事で垣根が傾き、向こう側に倒れ始めたのだ。

 

 

 

――え?

 

 

 

 

一同は目を丸くすると同時に(そんなベタな事……)とは思った。

 

 

 

 

「ま、不味いって!このままじゃ丸見えじゃん!」

 

 

 

「いやあぁああ!でもちょっと向こうも見たいかも……」

 

 

 

「呑気な事言ってる場合か!」

 

 

 

真白は叫びつつ手近な所にあるタオルで身体を隠しながら素早く湯船に身を沈める。

 

 

他の者達も真白に倣っていたが、湯船から出ていた者達はそうはいない。

 

 

 

彼女は走った。

 

 

垣根が倒れきるまで残り数秒の間に、出来るだけ距離を稼がねばならない。

 

 

しかし――

 

 

 

「あっ!」

 

 

 

誰かが、足元に倒れていた猛獣に足を取られて転倒し、それに吊られる形で次々と転倒していった。

 

 

 

――もうだめだ

 

 

 

誰もがそう思った。

 

 

 

そしてついに、運命の時は訪れる。

 

 

 

バタン!

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

垣根が完全に倒れ、男湯と女湯の境が完全に取り払われしまった。

 

 

 

芽衣が恐る恐る振り返った先には――

 

 

 

カポーン!

 

 

 

「あれ?」

 

 

 

 

誰も居なかった……

 

 

 

そもそも女性である彼女達以外は、蒼き鋼にしてもウィルキアにしても、海上を部隊に活躍する彼等には水を節約する習慣が有り、長風呂などする筈もなく、会話が終わった時点でさっさと上がってしまっていた。

 

 

 

 

「はぁ……だ、誰も居なくて良かったね」

 

 

 

「本当ですよ!姉さ……いや、宗谷室長!あなたが居ながらこの体たらくは何ですか!きちんと後から皆で直してくださいね!」

 

 

 

「え!?でも原因は真冬が……」

 

 

「言い訳無用!母さんに報告しますよ!」

 

 

 

「うっ……解ったわ」

 

 

シュンとする真霜と、頬を膨らませる真白の表情を交互に見ながら明乃はその平和な光景に思わず表情を緩め、温かなお湯の感触に再び意識を戻した。

 

 

 

(ああ……いい湯だなぁ~)

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

おまけ

 

 

 

 

 

垣根の修繕が行われるまで、浴場は使用禁止となっていた訳だが……

 

 

 

 

「ふぅ……残務が長引いてしまった。身体も冷えたし、もう一度お風呂を頂こう」

 

 

 

ヴェルナーはもう一度お風呂の前に立っていた。

 

 

女湯の前には使用禁止の看板が立てられているものの、男湯には特に何もない。

 

 

 

何か不具合でも有ったのだろうかと疑問には思ったが、彼はそのまま脱衣室へと入っていった。

 

 

 

だがこの時点で、既に¨トンでもない手違い¨が起こっていたのである。

 

 

 

脱衣を終えたヴェルナーが浴場へと入って来て見た物とは――

 

 

 

「え!?垣根が壊れている?確かにこれでは使用出来ない………なっ!?」

 

 

 

 

彼は驚愕した。

 

 

 

使用禁止になって誰も居ない筈の女湯に誰かが倒れているではないか。

 

 

 

よく見るとそれは――

 

 

 

 

「ま、真冬艦長!?」

 

 

 

 

素っ裸の真冬が倒れいた。

 

 

 

彼女は先程の騒動の後にこの場に置き去りにされていたのだ。

 

 

 

「ん……」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

彼の声に反応した真冬が目を覚まし、そして互いに目があった。

 

 

 

「「……」」

 

 

 

ヴェルナーは一気に嫌な汗が全身から吹き出す。

 

 

 

 

 

「誤解と言っても信じて貰えないかもしれませんので、私はこれで……」

 

 

 

「テメェ!ヒトの裸見といてそれはねぇだろうがぁああっ!」

 

 

 

 

コーン!

 

 

 

「あぐっ!?」

 

 

 

真冬が投げた桶がヴェルナーの頭部を直撃した音が浴場に響き渡った。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「あっ痛てて……」

 

 

「わ、悪かったな……誤解しちまって。チクショウ!あいつら、置き去りにしやがって!覚えてろよ!」

 

 

 

何とか誤解を解いたヴェルナーの前にタオルを巻いて不機嫌そうな真冬が立っている

 

 

 

「あのう~いつまでこっちにいるつもりですか?一応ここ男湯なんですが……」

 

 

 

「あ?なに細かい事言ってんだよ!身体が冷えちまったんだから温まるなんてどこでもいいだろ?」

 

 

 

「良くないに決まってるでしょう!早く戻ってください!」

 

 

 

 

「うるせぇな!どうせ俺とお前しか居ないだろうが!」

 

 

 

「いや……だから男と女が……あぁもう!解りました。私が出ますからどうかゆっくりと浸かって下さい!」

 

 

 

「待てよ」

 

 

 

「!」

 

 

 

浴場を去ろうとしたヴェルナーの腕を真冬が掴んだ。

 

 

よほど長時間倒れていたのだろう、彼女の手はとても冷たく感じた。

 

 

 

 

「お前も結構冷えてるじゃねぇか。一緒に入れ」

 

 

 

「な、何を!ご自分が何を仰っているのか解っているのですか!?」

 

 

 

「解ってるよ!ただ、垣根がブチ抜かれた風呂場で別々に入るとかえって意識しちまうんだよ〃〃」

 

 

 

「滅茶苦茶だ……」

 

 

 

「うるせぇ!とにかくこう言うのは流れが大切なんだ!良いから四の五の言わずに入りやがれ!言っとくが、あんまりジロジロ見るんじゃねぇぞ!」

 

 

 

「はぁ~理不尽だ……」

 

 

 

ヴェルナーは辟易していた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

湯船に浸かる二人であるが、会話は無い。

 

 

 

当然であろう。

 

 

 

何故なら二人は¨隣り合って¨浸かっているのだから。

 

 

 

ヴェルナーは最早ツッコミをせずにはいられない。

 

 

 

 

「何故隣なんです?」

 

 

「あ?下手に離れると視界に入っちまうだろ」

 

 

「そうですか……」

 

 

 

「………」

 

 

 

――気まずい

 

 

 

ヴェルナーは風呂に疲れを癒しに来た訳であって、精神的負荷を増大させる為に来た訳では無いのだ。

 

 

 

(逆上せたフリをして先に上がってしまおう)

 

 

 

そう決意し、隣にいる真冬の顔色をそっと伺った彼は意外なものを目にした。

 

 

 

 

「ん……」

 

 

 

真冬は普段見せない様な穏やかな顔をしていたのだ。

 

 

 

それはとても女性的で、ヴェルナーは思わず見とれてしまう。

 

 

 

 

「ん?なんだテメェ!見んなつったろ!」

 

 

「え!?あ、あぁ!申し訳ありません!」

 

 

 

二人の間に再び沈黙が流れるも、今度は真冬の方が耐えきれず言葉を発した。

 

 

 

「まぁ良いけどよ……なぁ、なんか話せよ。どうも気まずくていけねぇ」

 

 

 

「何かとは?」

 

 

「その位、自分で考えろ!良いからなにか話せ!」

 

 

「はぁ……」

 

 

 

 

 

ヴェルナーは溜め息を漏らすと少しだけ表情を険しくした。

 

 

 

「怖かったですか?」

 

 

「あ?なんの話だよ」

 

 

「光子榴弾砲の事ですよ」

 

 

「テメェ!こんな所でする話じゃ――」

 

 

 

「何でも良いと仰ったのは貴女です」

 

 

「チッ!」

 

 

「どう感じました?超兵器とは別に、自分が持ちうる力を奮った感想は、恐かったのでしょう?泣いてしまう位に……」

 

 

 

「気付いてやがったのか……」

 

 

「ええ、目が少し赤くなっておりましたので」

 

 

 

「あざといな……ああ、そうだよ!怖かったよ!ガキみてぇに泣きじゃくるくらいになっ!」

 

 

 

真冬は開き直った様に捲し立てる。

 

 

それとは対照的にヴェルナーの表情は落ち着いたものだった。

 

 

 

「貴女は強いのですね」

 

 

「あぁ!?バカにしてのか!?」

 

 

「いいえ。因みにですが、私はこの力や超兵器を見たときは興奮しました。これで、最小限の犠牲で平和的に統治出来るとね」

 

 

 

「何だと!?バカ言ってんじゃねぇ!あの力はな――!」

 

 

 

「解っています。ですが残念ながら、他の諸外国はそう思ってはいませんよ?現に我々と接触した日本やブルーマーメイドには、諸外国から兵器情報と我々の身柄の即事引き渡しの圧力が方々から掛かっています。それが答えなんです」

 

 

 

「フザケんな!そんな滅茶苦茶な理屈――」

 

 

 

「そうですよね。滅茶苦茶です。ですが人間は1度手にした力を手離せない。もし手離せば同じ力を持つ者に蹂躙されると言う恐怖から脱却出来ない。無論、誰かが力を手離せば寝首を掻こうと言う勢力も在るのだから間違いでは無いのですが……」

 

 

 

「世界がぶっ壊れちまうぞ!」

 

 

 

「故にその結論に至れる貴女は強いのです。目先の恐怖のその先にある破滅を予見し、過ぎ足る力を忌むべき物と判断出来るのは簡単な事でない。だから我々はそんな貴女方に力を供与した。絶対に間違った使い方をしないと確信があったから……」

 

 

 

「岬の事か?」

 

 

「はい。あの方は我が艦長同様、力を何よりも憎んでおいででしたから。そして貴女もですよ」

 

 

 

 

「……」

 

 

 

彼女は心の中の氷が溶けて行くような感覚を得た。

 

 

 

 

それと同時に、こうして客観的に自分を評価される事が久しく無かった彼女は、その重要性を改めて感じる。

 

 

 

そう

 

 

 

この【世界で最も死に近い海】では、孤独ではいけないと言う事だ。

 

 

 

誰でも良い。

 

 

隣に居て、話をしてくれるだけでも良い。

 

 

 

それだけで、力の狂気に捕らわれるリスクは低減するだろう。

 

 

 

 

 

それが、自分の心の中で¨大きな存在¨であるなら尚更である。

 

 

 

 

「どうされました?顔が赤い様ですが……」

 

 

「なっ〃〃なんでもねぇよ!ちょっと逆上せただけだ!」

 

 

 

「大丈夫ですか!?早く上がった方が――」

 

 

 

「ホントバカだなテメェは……」

 

 

ピトッ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

ヴェルナーはいよいよ参ってしまう。

 

 

真冬はヴェルナーの肩に自分の頬を寄り掛けて来たからだ。

 

 

 

だが、先程のように穏やか表情をしている真冬を見たヴェルナーは、そのまま自らの肩を貸した。

 

 

 

解るのだ。

 

 

 

弱さを見せる事が許されない艦長にとって、こうできる時間がいかに貴重なのかを……

 

 

 

彼は真冬の腰に手を伸ばす程軟派な人間ではない。

 

 

 

だが、欧州での決戦を間近に控えた今、彼女に肩を貸す位の紳士では在ろうとヴェルナーは思った。

 

 

 

 

1度海に出てしまえば、超兵器も狂気に満ちたヒトの意思も、自分で受け止める他は無いのだから……



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混沌の狂宴 …Mix freet

中編迄を連続投稿します。

尚、今回の話と次の話は多重クロスと言う事でお願いします。


   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

 

《いらっしゃいませ!》

 

 

 

とても大きな軍艦。

 

その艦橋の最上部でスポットライトを浴びている¨彼女¨は誰に向かうでもなくそう言った。

 

 

 

いや……

 

 

 

この場にいる¨誰しも¨と言うべきか。

 

 

 

暗めの灰色のガイド服を身に付け、鉛色の鈍く光る髪をきちんまとめ、同じく灰色をした瞳を持つ女性は辺りを見渡し、まるで演説でもするかのようにはっきりとした口調で続ける。

 

 

 

 

《申し遅れました…。私は当施設のオーナー兼案内役を務めております【アイン・クリッグシッフ】と申します》

 

 

 

 

軽く自己紹介をしたアインは手を腹部に当てて丁寧にお辞儀をする。

 

 

そしてその手を軽く胸元にポンと当てる。

 

 

 

 

《ここはあらゆる世界の狭間に位置する場所……そして数多の方達が唯一安らげる場所となっております。皆様はそれぞれの世界に於いて、多忙且つ苛烈な毎日を送っていらっしゃる事でしょう》

 

 

 

彼女は胸元に当てた手を前へと差し出し、満面の笑みでこう締め括った。

 

 

 

《今この時だけは全てを忘れ、¨心¨を存分に癒していって下さいませ。それでは皆様ごきげんよう……》

 

 

 

 

スポットライトが消えると同時に、彼女の姿もその宵闇に溶けて消えていった。

 

 

 

 

 

   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

 

「おぉォ!」

 

 

 

「わぁぁぁ!」

 

 

 

 

周囲は凄まじい歓声に包まれていた。

 

 

 

明乃達はれかぜメンバーは思わず目を丸くして辺りを見渡す。

 

 

 

「か、艦長…すごい歓声ですね……」

 

 

「う、うん……でも皆楽しそうだね!」

 

 

 

「え、ええ……」

 

 

 

「どうしたの?シロちゃん浮かない顔してるね」

 

 

 

「そ、それはそうですよ!だってここドコなんですか?先日まであんな戦闘を繰り返して来たのに、なんで¨急にこんな訳の解らない所¨に来て……艦長は何も疑問に思わないんですか!?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「答えてください!」

 

 

 

「皆楽しそうだね!」

 

 

 

「艦長ぉお!?現実逃避は止めてください!ここはどこなのか、そしてどうやって来たのか!それを明らかにしなければなりません!」

 

 

 

「そう、カッカッしなくても良いじゃん副長~ホラ♪アッチで買ってきた¨46㎝砲綿あめ¨食べなって!戦艦大和の砲身をイメージしてるんだって!」

 

 

 

「西崎さん!なにを満喫してるんだ!今はそれどころじゃ――」

 

 

 

「えぇ!?じゃあこっちの¨軍艦飴¨にする?リンゴ飴みたいに舐めると中から軍艦のおまけがでてくるんだぁ~☆」

 

 

 

「そう言う問題じゃ…って立石さんもカレーを貪るんじゃない!」

 

 

 

 

「うぃ…このカレー絶品♪」

 

 

 

真白は頭が痛くなってきていた。

 

 

 

当然であろう。

 

 

 

カーニバルの様に賑わう辺りには、見たことの無い格好をした人物や、何故か砲撃音すらも鳴り響いている。

 

 

 

そして彼女がぐるりと見渡して目に入ってくる光景は、まるで巨大で平坦な島の所々に煌々と賑わう幾つかのアトラクションらしき建物がそんざいし、回りには果ての見えない海に囲まれていた。

 

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェンでの戦いを終え、ブルーマーメイド連合の本部があるキールへ移動していた筈の彼女達は、¨気付くと¨ここに立っていたのだ。

 

 

 

混乱しない方がどうかしているのであろうが、真白の期待に反して皆は楽しんでいた。

 

 

 

しかし先程、彼女がおもむろに取り出した端末に表示された¨時間が一向に進む気配を見せず¨、また夜空に浮かぶ星の配置が全く異なっていた事から彼女は自分達が全く別の世界に迷い込んでしまったのではと懸念を抱かざるを得なかったわけだ。

 

 

 

 

勿論、異世界艦隊の¨全員¨で…。

 

 

 

「ハルハル!こっちに【軍艦すくい】があるよ!」

 

 

「ああ。楽しそうだな。キリシマもどうだ?」

 

 

 

「そんな事より腹ごしらえじゃないのか?こっちに【連装串焼き】があるぞ。ジュルリ……」

 

 

 

「艦長は何処か行かれるのですか?私はあちらにあるあらゆる異世界の海軍史が納められている図書館に行くのですが」

 

 

「僧は真面目だよなぁ~群像、それよりも【軍艦コロシアム】に行こうぜ!異世界のドンパチを見るのも経験だしな」

 

 

「えぇっ!?異世界の軍艦が装備してる機関の博物館の方が絶対良いじゃん!」

 

 

 

「私は【艦隊フィギュア】を見に行きたいです。フィギュアスケートみたいに艦隊が海の上で踊って、操縦技術や美しさを採点するらしいですよ?」

 

 

 

「………」

 

 

 

「群像?」

 

 

 

イオナが考え込む群像の顔を覗き込む。

 

 

 

彼はそんな彼女に笑顔を向けた。

 

 

 

 

「イオナ、君はどこに行きたい?」

 

 

 

「私は群像の艦……私の行き先は、あなたが決めて」

 

 

 

「そうだな……でも君は俺に航路を示してくれた。だから今回の行き先だけは、君に決めてほしいんだ」

 

 

 

「……」

 

 

 

「だめか?」

 

 

 

「……ここ」

 

 

 

彼女は手に持っていたパンフレットを指差す。

 

 

 

「【大和の丘】にある夜景の見える公園か。46cm砲を忠実に再現した砲身の上から眺める光景は正に絶景……ここに行きたいのか?」

 

 

 

「……うん」

 

 

 

灯りのせいなのか彼女の頬が心なしか赤く染まっているように見えた。

 

 

 

「ああ、じゃあ俺とイオナはそこへ――」

 

 

 

「「ちょっと待ったァァ!」」

 

 

 

タカオとヒュウガが血相を変えて二人へと駆け寄ってくる。

 

 

 

「か、かかっ、艦長と…ふふっ、二人きりだなんて…どう言うつもりよ401!」

 

 

「姉さまいけませんわ!姉さまの身体の細部をジックリと見聞するのは私の使命…いや、宿命ですわ!」

 

 

 

 

「ハルナ…やっちゃって……」

 

 

 

「了解した。全く…手間をかけさせてくれる」

 

 

 

いおりからの頼みにハルナが呆れたように二人の首根っこを掴んで引き摺った。

 

 

 

 

「うぐっ!?」

 

 

「イヤン♪」

 

 

 

「残念だが諦めろ。人間の言葉に¨野暮¨と言うものがある。タグの分類で類似するものから引用するなら¨空気を読め¨と言う事だ」

 

 

 

「嫌よ!私は艦長と…!」

 

 

「ウヒヒッ!イオナ姉さまぁん!」

 

 

 

「はぁ…やむを得んな……」

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

「………」

 

 

「………」

 

 

 

暴れていた二人が急に人形の様に固まる。

 

 

 

 

「悪く思うな。蒔絵と一緒に出店を回らねばならんのでな。時間が惜しい……」

 

 

 

「ふむ…401からタカオとヒュウガのメンタルコアのキーコードを受け取っていたのか」

 

 

 

「ああ。一時間もすれば解けるだろうが、十分だろう」

 

 

 

「後でうるさいぞ?」

 

 

 

 

「構わん。その時は再凍結するまでだ。行くぞキリシマ」

 

 

 

「ああ。よぉし!肉を頬張るぞぉ~!」

 

 

 

「俺達も行こうぜ!」

 

 

「だねぇ~それじゃイオナも群像もゆっくり楽しんできてね!」

 

 

 

彼等を見送った二人は再び見詰め合う。

 

 

 

「行こうか」

 

「…うん」

 

 

 

 

二人はゆっくりと歩き出す。

 

 

 

 

 

 

 

一方のシュルツは、出店の立ち並ぶ通りを難しい表情を浮かべて歩いていた。

 

 

 

(ここは一体どこなのだ?博士の推測によれば、あらゆる時空の狭間に位置している異空間らしいとの事だったが……)

 

 

 

彼等が明乃達の世界へ移動する際には、謎の光と激しい振動が伴っていた。

 

 

しかし今回はなんの前触れもなく瞬きをしている間にここにいたのである。

 

 

 

(見たところ差し迫ったら危険は無いようだが念のため警戒は――)

 

 

 

 

「艦長~♪」

 

 

 

「ナギ少尉か。一体どうし……て!?」

 

 

 

振り返ったシュルツは思わず動揺していた。

 

 

 

金魚柄の浴衣を身に纏い、美少女のお面を頭に乗せ、手には46cm砲綿あめを持ったナギが立っていた。

 

 

 

 

「あっちで浴衣のレンタルをしてたんですよ。どうですか?」

 

 

 

 

ナギは浴衣の袖を持ってくるりと回って見せた後、期待の眼差しを彼に向けた。

 

 

 

 

(何を満喫してるんだ君は……)

 

 

 

シュルツは半目で彼女を見詰める。

 

 

しかし何も答えないのも申し訳ないと思い、彼は呆れたように言葉を繋いだ。

 

 

 

 

「あ、ああ。とても似合っている」

 

 

 

 

「え!ホントですか?え、エヘヘ〃〃」

 

 

 

頬を染める彼女から視線を外し、シュルツはその場を去ろうとする。

 

 

 

何故かは解らないが、早くこの場を離れるべきだと直感したのだ。

 

 

そして、その予想は見事に的中することとなる。

 

 

 

彼の行動を察知したナギは慌てて駆け寄り、シュルツの腕に自分の腕を絡めて上目使いで彼を直視した。

 

 

 

「ちょっ、ちょっと待ってください!あ、あのぅ艦長?もし、良ければですけど、このあと私と――」

 

 

 

 

「「「艦長!」」」

 

 

 

「チッ…!」

 

 

 

背後から駆け寄ってきた三人組を見たナギはとてつもなく不機嫌な表情で舌打ちをし、シュルツは猛烈な疲労感に襲われる。

 

 

 

 

彼の予想通り、三人組の正体は彼の副官を務めた者達であった。

 

 

 

「艦長、ここにおられましたか!早速ですが、艦長には私と異世界の軍艦が停泊している港を視察して頂きます!その後は異世界の軍艦に所属する艦長達と技術等の意見交換をして頂き、最後はやはり横須賀軍艦カレーを召し上がって頂いてから花――」

 

 

 

「却下」

 

 

 

「なな、なんとっ!?」

 

 

 

筑波は驚愕の表情を見せる。

 

 

だが意外なことに、最も驚愕していたのは言葉を発したシュルツ自身であったのだ。

 

 

 

 

(何故だ……とても建設的な意見だったと言うに、反射的に断ってしまった…いや、今思い返しても意見を覆そうとは思わない。私はどうしてしまったんだ?)

 

 

 

シュルツは自身の心を疑う。

 

 

だが、何故か今は仕事をする気にまるでなれなかったのである。

 

 

 

呆気にとられる筑波を隙を突いて今度は、グレーの浴衣を着込んだヴェルナーが前へと踏み出した。

 

 

 

 

「せ、せんぱ…いや、艦長!向こうにこの島を一望できる遊覧飛行場があるんです!飛行船も多数ありまして貸しきりも可能だそうです。も、もし良ければ二人で空からの花――」

 

 

 

「却下だ!」

 

 

 

「なっ……!」

 

 

 

有無を言わさない言動にヴェルナーは奈落の底に突き落とされた様な表情を浮かべる。

 

 

対するシュルツの脳裏には疑問が溢れ出していた。

 

 

 

(やはりだ。まるでやる気が起きない……)

 

 

 

 

「あ、あのぅ……」

 

 

 

「………」

 

 

 

シュルツは最早諦めていた。こうなれば話を聞かざるを得ない状況なのは明白であったからだ。

 

 

 

黒地に赤い紅花の刺繍が入った浴衣を着込んだ博士は顔を真っ赤に紅潮させ、潤んだ瞳でシュルツの前へと進み出る。

 

 

 

「か、艦長…この後向こうで艦砲を使用した打ち上げ花火が有るそうなんですが、いっ…一緒にご覧になって頂けませんかっ!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「あ、あのぅ!」

 

 

 

彼は葛藤していた。

 

どういう理由かは解らないが、博士はいつも掛けている筈の眼鏡を外して髪を纏め上げており、普段は軍服と白衣で決して見ることの出来ない首もとの肩甲骨やうなじが、彼女の色香を存分に高めていたからだ。

 

 

 

そして……

 

 

 

「……っ!」

 

 

 

この表情である。

 

 

 

大人びた外見とは異なるまるで純粋な少女の様な潤んだ瞳と切なげ表情は、シュルツでなくとも世の男性を魅了し尽くしてしまうに違いない。

 

 

 

しかし――

 

 

 

「誠に遺憾ながら、丁重にお断りさせて頂きます」

 

 

 

「うっ……!」

 

 

 

勿論彼にとっては願ってもない提案だったのだ。

 

 

だが彼女は仮にも¨外国の軍に所属する士官¨であり、他国の軍に籍を置くシュルツが個人的に男女の関係になったと誤解される事は後に甚大な問題を引き起こしかねない。

 

 

 

 

故に、他国籍である彼女がウィルキアの士官であるシュルツに¨二人きり¨等と発言した時点で、既に答えは確定していたのであった。

 

 

愕然とする博士を余所に、ナギは再び彼に腕を絡め、勝ち誇ったような表情を浮かべた。

 

 

 

 

「ふふ~ん♪残念でしたね皆さん!艦長はこれから私と――」

 

 

 

「いや、ないぞ?」

 

 

 

「えぇ!!?」

 

 

 

ナギは思わず飛び退く。

 

 

 

 

(軍内部での後の士気を鑑みれば、異性といること自体が不要な誤解を招きかねん……)

 

 

 

 

彼は呆れた表情を浮かべた。

 

 

 

だが見事にフラれた四人は、¨悪い意味¨で彼の予想以上に骨のある人物であったらしい。

 

 

 

「なっ…博士!狡いですぅ!私も艦長と¨二人きりで¨艦砲花火を見ようと思ってたのにぃ!スイカも準備してたんですよ?」

 

 

 

「残念ですがナギ少尉。口に出したのは私が先です!ですからここは譲れません!」

 

 

 

「ここは年長者に譲るべきですぞ!」

 

 

 

「違う!先輩と一番付き合いの長い僕が、先輩と空の花火観賞をするんです!」

 

 

 

 

(はぁ…本来なら全員懲罰房行きと言いたいのだが……)

 

 

 

 

心の中で深いため息を付いたらシュルツは、¨奥の手¨を使う決意を固める。

 

 

 

 

「解りました。お引き受け致しましょう」

 

 

 

「「「「本当ですか艦ちょ――」」」」

 

 

 

「但し!私も身体が複数有るわけではありませんからね。条件を提示させて頂きます」

 

 

 

「条件…ですか?」

 

 

 

「はい。パンフレットによると、軍艦コロシアムにて、【艦隊バトルロイヤル】が行われているそうなのです」

 

 

 

 

「確か、自分が指揮官となって艦隊を率いて戦う競技ですよね?指揮技術の披露を目的するものですが、それが何か?」

 

 

 

 

「そうですね。皆さんにはこれに参加していただき、優勝または脱落順番が最も後になった方とのお約束を果たさせて頂く……如何ですか?」

 

 

 

 

「…………」

 

 

 

四人は顔を見合わせる。

 

正直賭けの要素が強いことだけは確かであるが……

 

 

 

「解りました。絶体副長達には負けませんよ!」

 

 

「腕が鳴りますわい!」

 

 

「艦長経験者である僕が必ず勝ってみせます!」

 

 

 

「皆さんの指揮パターンは分析済みです。適切に行動すれば私にも十分勝機は有ります!」

 

 

 

 

(掛かったな……)

 

 

 

シュルツは彼等の心中を熟知していた。

 

 

 

故に必ず提案に乗ってくると確信していたのである。

 

 

 

 

「待っていてください艦長!必ず御一緒にスイカを食べながら花火を見ましょう!」

 

 

 

「ふんっ!まだまだ若い者になど負けはせんわい!」

 

 

 

「あぁ…見える!勝利の果てにある美酒が……」

 

 

 

「あ、あのっ!約束…ですからね?〃〃」

 

 

 

不毛な言い争いに終始しながら去って行く四人を見ながら、残されたシュルツは再びため息を漏らす。

 

 

 

 

最早、ここが何処であるのかもどうでも良くなっていた。

 

 

 

「はぁ…大和の丘にある【艦橋バー】で呑むとするか……たまには仕事を離れて一人で過ごすのも大事だろう」

 

 

 

 

彼はゆっくりとした歩調で歩みだした。

 

 

 

 

 

 

 

 

   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

 

ここは出店の立ち並ぶ通りだ。

 

 

 

日本の縁日で良く見かける者や、西洋風のお洒落な者まで様々である。

 

 

 

異世界艦隊の面々の一部はこの通りで食べ歩きをしていた。

 

 

 

 

「ほら珊瑚、口に¨ソノブイ饅頭¨のあんこがついてるよ!」

 

 

 

「ムガッ!?優衣……自分で拭けるから大丈夫!それより今度は¨砲弾たこ焼き¨を食べよう。口に頬張るのがやっとらしいよ」

 

 

 

「もう、私だって飴細工で軍艦を造ってるお店に行きたいのに……」

 

 

「まぁまぁ~とにかく食べないと色々見て回れないよ。私も異世界の軍艦技術館に言ってみたいしね」

 

 

 

 

 

「仕方ないわね…けど、次たべたら私の用事を先にしてよ?」

 

 

 

「解ってるさ。あっ、そう言えばはれかぜの皆はどうしているんだい?」

 

 

 

「自由に過ごしているみたいだけど、殆どの主計部はこの出店を中心に散策しているみたい。異世界の軍艦料理を調べたいんだって。鏑木さんだけは、軍医療に関する講演を見に行ったようだけど」

 

 

 

優衣がそこまで言い終えた時だった。

 

 

 

「あっ!藤田さんだ。お~い!」

 

 

 

「あれは……伊良子さん?杵崎さん達も…料理を調査がてら食べ歩きかしら?」

 

 

 

「うん、そうだよ!美味しい物が多くてついつい食べ過ぎちゃった…エヘヘ〃〃」

 

 

 

「¨鯛の軍艦盛り¨とか美味しかったね~!プリプリしてて、ほんのり甘みもあってとっても新鮮だったよ。あ~でも艦内の保存環境を考えるとやっぱり加熱しないと駄目かなぁ……」

 

 

 

「わたしは¨大鑑巨砲ビーフシチュー¨が絶品だったかな~でもどちらかと言うと、凄くおっきい牛肉のシチュー掛けみたいな感じだったけど、お肉がとっても柔らかくて美味しいの!」

 

 

 

 

「伊良子さんはやっぱり和食系?」

 

 

 

「そうだねぇ。今でもやっぱりカレー以外の洋食は苦手だけど、6年前からドイツの子達と連絡を取り合いながら練習してるよ~」

 

 

 

 

「そうなんだ、努力家だよね!」

 

 

 

「エヘヘ〃〃」

 

 

 

「お~いミカン!」

 

 

 

「あれ?ミーちゃん?それに……」

 

 

 

「〃〃〃」

 

 

「テアさん!浴衣に着替えたんだね!可愛い!」

 

 

 

ミーナとテアが、彼女達の下へとやって来る。

 

 

 

ミーナは黒地に赤の直線が入った旧ドイツ海軍の紋章に似せたデザインの浴衣を、テアが白地に鷲の紋様が入った浴衣を着ている。

 

 

 

 

テアは浴衣姿が恥ずかしいのか、頬を染めてミーナの後ろに隠れるように佇んでいる。

 

 

 

 

「欧州の他の娘達はどうしたの?」

 

 

 

「うむ!それぞれ興味があるアトラクションを見に行ったぞ!儂らはこれから食べ歩きをして――」

 

 

 

「ちょっと待ったぁああ!」

 

 

「ココちゃん!?」

 

 

 

 

後ろから息を切らせて走ってくる浴衣姿の幸子の姿が見えた。

 

 

 

 

「はぁ…はぁ……み、ミーちゃんはこれから私と軍艦の甲板で繰り広げられる仁義の無い演劇を見る予定なんですっ!」

 

 

 

「いや、ミーナは私と屋台の軍艦料理を食べ歩く予定だ!」

 

 

「演劇です!」

 

 

「食べ歩きだ!」

 

 

 

「ん?何を言っとるんじゃ二人とも。¨3人¨で食べ歩きをした後に演劇を見ると言わなかったか?」

 

 

 

 

(う、浮気者……)

 

 

 

二人は怪訝な表情を浮かべつつも、やがて顔を見合わせて笑顔になり、ミーナと共に人混みへと消えて行った。

 

 

 

 

その様子を微笑ましく見送った美甘は、優衣の方へと顔を向ける。

 

 

 

「なんかミーちゃん達の話を聞いたら何か食べたくなっちゃったね!」

 

 

 

「そうね、私達も何か屋台で食べましょうか」

 

 

 

「さっき見たんだけど、クラスターポップコーンなんてどうかな?一粒一粒味が違うんだって!」

 

 

 

「二人とも私の砲弾たこ焼も忘れないでくれよ?」

 

 

 

「解ったわよ!それじゃ行きましょうか!」

 

 

 

「「は~い!」」

 

 

 

ミカン達は、満面の笑みで行だした。

 

 

 

 

 

 

 

   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

 

辺りには轟音が響き渡っていた。

 

 

 

「ヤッホ~♪また命中!」

 

 

 

「こっちも命中だよ~♪」

 

 

 

 

砲雷班のメンバーは、射的に興じていた。

 

 

もっとも、ここにある物が普通の射的な訳がない。

 

 

 

砲や機銃、そして魚雷を用いた本格的な射的なのだ。

 

 

 

数百メートルから数キロメートル離れた標的(賞品の巨大なレプリカ)に向かって攻撃して破壊する事に成功すれば賞品を頂けると言うシステムなのだ。

 

 

 

見事に数キロメートル先の可愛い巨大なイルカのオブジェをブチ抜いた光は、景品のイルカのぬいぐるみをゲットしてはしゃいでいる。

 

 

 

 

 

他のメンバーも、抱えきれない程の景品を手に笑顔であった。

 

 

 

そんな彼女達とは対照的に……

 

 

 

 

「艦長、どこに行ってしまったんだ……」

 

 

 

真白ともえかは、はぐれてしまった明乃を探していた。

 

 

 

 

そこへ……

 

 

 

「もう!折角艦長と二人きりになれるチャンスだったのにぃ!ハルナの奴……覚えてなさい!」

 

 

「ああ姉さま!どこにいらっしゃるの?ヒュウガは、堪えきれなくなりそうですわ!」

 

 

 

 

ハルナによって一時的に行動を凍結されていたタカオとヒュウガが歩いてきた。

 

 

 

「ヒュウガ!あんたのセンサーで二人を見つけられないの!?」

 

 

 

「無理ね。ここでは何故か私達のセンサーがまるで機能しないのよ。あんただって試してみたんでしょ?」

 

 

 

「うぅっ……そうだけど」

 

 

「ああ、姉さま……こんな事なら姉さまのコアにバックドアを仕掛けていれば良かったわ」

 

 

「あ、あのう……」

 

 

 

「ん?ああ、あなたはれかぜの……どうしたのかしら?」

 

 

 

「はい、私達の艦長を知りませんか?はぐれてしまって……」

 

 

 

「残念だけど力にはなれそうにないわね」

 

 

 

「そうですか……どうする?もう少し艦長探すか?……知名さん?どうしたんだ、難しい顔をして」

 

 

 

「ねぇ宗谷さん、ミケちゃん探すの止めない?」

 

 

 

「何!?こんな訳の解らない所で艦長を一人にする訳にはいかないだろう!」

 

 

 

「何故かは解らないけど危険は無いとおもうよ。皆の表情を見てれば解るもの。心から楽しそうにしてる」

 

 

 

「だが――!」

 

 

 

「もしかすると、ここは¨そう言う場所¨なのかもしれない。解るの、幼馴染みだし、何よりも艦長だから……」

 

 

 

「あっ……」

 

 

 

真白は明乃がはぐれたのではない事に気付いた。

 

 

勿論その理由も……

 

 

 

 

「無力だな……私達は」

 

 

「そうだね。でも今のミケちゃんには必要な時間なのかもしれない。超兵器が現れてからずーっと¨艦長¨だったから……」

 

 

 

二人は暫く俯くも直ぐに顔を上げた。

 

 

 

「こうしていても仕方がないな、知名さんたまには一緒に歩いて話さないか?聞きたい事が一杯あるんだ」

 

 

 

「うん、わたしも。ねぇタカオ、折角だから皆で一緒に出店を回ろう?」

 

 

 

「はぁ!?何で私がアンタ達と一緒にいなきゃなんないのよ!」

 

 

 

「ははぁーん!この場所に付いて何か気付いたみたいね。解った!あなた達と同行させてもらうわ。この世界についての考察も聞きたいしね♪」

 

 

 

 

「ちょっ、ヒュウガまで……あぁ!もう!解ったわよ!私も行くわ!でも言っておくけど、本当は艦長と一緒が良かったの!女子だけでこう言うとこ回るのが憧れてた訳じゃ……ないし〃〃」

 

 

 

「はいはいっ!それじゃ行こう!」

 

 

「そうだな!」

 

 

「フフッ……姉さま、何かお土産を持って行けば私にご褒美をくださるかしら♪楽しみだわぁ~ゾクゾク~♪」

 

 

 

「ホラ!タカオも行くよ!似合いそうな浴衣を見つけてあげる。気に入ったらアーカイブして千早艦長に見せてあげればきっと喜ぶよ」

 

 

 

「えっ!?本当に!?わ、解ったわ!連れていって!」

 

 

 

(((チョロいなぁ……)))

 

 

 

四人は、人で賑わう大通へと向かって行くのだった。



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混沌の狂宴 後編  …Mix freet

連続投稿いきます


   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

 

優秀な人材が多数いるウィルキア陣営に於いても、シュルツの副官を任せられる人物はそう居るものではない。

 

 

故にシュルツは、3人の副長とナギに全幅の信頼を寄せており、彼等もそれに答えてきた訳だが、今はそうではなかった……

 

 

 

 

「ぐぅ……流石は副長達、手強いです!ですが、艦長との¨でぃと¨が掛かったこの勝負!負ける訳にはいきませんよ!」

 

 

 

ナギは艦橋内で吠えていた。

 

 

 

一人に成りたいシュルツに上手く丸め込まれた彼等は、軍艦コロシアムにある艦隊バトルロイヤルにエントリーしていた。

 

 

ルールは以下の通りだ。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

・エントリー者は艦長として艦隊を指揮する

 

 

・艦隊は決められた数の中から好きな艦種を選んでレンタルして構成

 

 

・旗艦を撃沈されると失格

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

至ってシンプルではあるが、それ故に指揮が物を言うことは確かであり、徒党を組む事を禁止していない為、あらゆるライバルたちが一斉に敵にとなって四面楚歌になることもありうる。

 

 

 

 

今回エントリーされた50もの艦隊も、その半数は徒党を組んでいる。

 

 

 

しかしだ。

 

 

副長達は自らの艦隊のみで、ここまで生き残っていた。

 

 

 

「筑波大尉は、日本艦中心の大鑑巨砲中心ですか……アウトレンジの砲撃とあの硬さは脅威です」

 

 

 

筑波は、日本の代名詞である大型艦を中心に艦隊を構成している。

 

 

 

尤も、正確無比の砲撃技術が伴わなければ、無用の長物であり、小回りが利かず巨体は航空機の格好の的に成りうるのだが、弱点を敢えて晒して敵の攻め手を航空機に集中させる事に成功した彼の指揮は的確であり、きっちりと防空を意識した装備を備え、長年の経験から培った砲撃は風や距離、そして敵艦の同行を正確に察知してまるで狙撃の様に相手を射抜いて行く。

 

 

 

「ヴェルナー副長は駆逐艦から戦艦までバランスのとれた布陣ですね……」

 

 

 

 

ヴェルナーは対空や対潜、そして攻撃に優れた布陣を敷く。小さい艦であってもミサイルを使った攻撃は驚異であったし、防御面を除けば手堅い布陣であり、小回りも利く。戦況を冷静に分析して確実に敵を減らす胆力は流石であった。

 

 

 

 

「最後は博士。空母を中核とした機動艦隊ですね……厄介です!」

 

 

 

 

博士は自らを含めた数隻の空母を運用して戦いに挑む。圧倒的リーチを活かしたら攻撃も可能だが、彼女はそこまで単純ではない。限られた航空編成を偵察に回して情報を収集分析し、的確に攻撃隊を向かわせ無力化する。

勿論、自身の艦隊の警戒も怠ってはいない。

 

 

 

そしてナギはと言うと……

 

 

 

ポーン!

 

 

 

なんと潜水艦を旗艦とした艦隊を形成していた。

 

 

海上には巡洋戦艦を中心に駆逐艦が展開している。

 

 

彼女はその真下に潜航して、巧みに自身の姿を消していた。

 

 

これはタカオが演習で使っていたトリックである。

 

 

 

卑怯と言えばそうなのだが、この競技は飽くまでも旗艦が被弾しなければ良いのだ。

 

 

 

「フフフ……悪いですけど艦長との花火は私のものです!」

 

 

 

 

彼女がほくそえんだ時……

 

 

 

ドゴォ!と言う轟音と共に、艦に激震が伝わった。

 

 

 

 

 

「うぐっ!?……な、なに?」

 

 

 

『フハハハハッ!我らは第893連合艦隊!おんどれぁ!今から海の藻屑にしちゃるけぇのう!』

 

 

 

 

スピーカーから汚ない笑い声が聞こえ、突如現れた大量の軍艦達が各々の艦隊へと迫ってくる。

 

 

 

「な、なんか¨怖いお兄さん¨達が現れましたが、私の決意は揺るぎませんよっ!」

 

 

 

「フン!子童がっ!一捻りにしてくれるワイ!」

 

 

「僕の愛を受けてみろっ!」

 

 

「その攻撃パターンは分析済みです!」

 

 

 

彼等は、一斉に動いた。

 

 

正確な砲撃にミサイル、そして航空機からの重爆撃、更には雷撃の嵐が第893連合艦隊に殺到し……

 

 

 

『ぎ、ギエェェェ!』

 

 

 

 

汚ない悲鳴だけを残し、怖いお兄さん方は瞬く間にリタイアしてしまう。

 

 

 

 

「フン!こんなものかの!」

 

 

「先輩!見てくれていますか?僕の愛をっ!」

 

 

「計算通りでしたね!」

 

 

 

 

「これで残りは……」

 

 

 

彼女達は、互いの艦隊を睨み……

 

 

 

 

「「貴様らじゃあああ!」」

 

 

 

 

一斉に攻撃を仕掛けようとした。

 

 

 

たが……

 

 

 

バシュン! バシュン!

 

 

 

 

 

彼等は気付いていなかった。

 

 

敵は怖いお兄さん等では無かったのだ。

 

 

 

 

「魚雷接近!回避間に合いません!」

 

 

 

「は?」

 

 

 

間抜けな表情を見せたのはナギばかりではない。

 

 

 

副長達3人も同時に呆けた顔をしていた。

 

 

 

次の瞬間、轟音と共に艦が揺れ、艦内に気の抜けたファンファーレが鳴り響く。

 

 

 

『お疲れ様でした!皆さんは撃沈判定となり失格になりまぁ~す♪』

 

 

 

 

「そ、そんな!回りに敵なんて見えなかっ……あっ!」

 

 

 

ナギは今更ながら気付いた、彼等は¨潜水艦のみ¨で形成された艦隊だったのだ。

 

 

 

『と言う事でっ!今回の軍艦コロシアムの優勝は!奇抜!潜水艦のみの艦隊で見事な連携を見せてくれました。チーム【紺碧】の優勝で~す!』

 

 

 

 

「そんなぁ……」

 

 

 

ナギはその場に崩れ落ちた。

 

 

 

敗北の悔しさと言うよりも、手元の端末に表示された順位がナギや副長達が同率2位であったことの方が重要だったのだ。

 

 

シュルツの出した条件が、順位の最も高かった者と言う条件からすれば、全員に権利が発生するのだが、彼を独り占めにしたい彼女達にとっては只の徒労に過ぎない。

 

 

 

「はぁ……こんな事ならじゃんけんで決めれば良かった……」

 

 

 

艦長のスケジュールを部下がじゃんけんで決めるなど、あってはならない訳だが、今の彼女達にはその道以外に残されてはいない。

 

 

ナギと副長達の戦いは、じゃんけんによる延長戦に突入して行くのだった。

 

 

 

 

 

   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

 

「うわぁ~!」

 

 

 

航海班と静は、軍艦フィギアを観戦していた。

 

 

これは、軍艦の航跡によっていかに美しい図形を描くか、またはいかに美しい艦隊運動を行うかを競う競技である。

 

 

 

「皆様とても素敵ですわ!」

 

 

「う、うん!思わず見入っちゃったね」

 

 

 

楓と鈴は目を輝かせる。

 

 

 

「あ、あれ?次のチーム、何故か女の子が出てきたぞな!?」

 

 

「水上スキーみたいな物を履いてますね……」

 

 

「でもなんか小さくて可愛いね」

 

 

 

「チーム【第六駆逐隊】?あの娘達って軍艦なの!?」

 

 

 

「ああ……イオナさん達みたいにメンタルモデル的な?」

 

 

 

「う~ん……エントリー者紹介には【艦娘】って書いてあるよ?」

 

 

 

「あの娘達自身が軍艦って事?信じられない……」

 

 

「え~っと……暁ちゃん 響ちゃん 電ちゃん 雷ちゃんって名前みたい」

 

 

 

巨大モニターに写し出されたチーム第六駆逐隊の幼い少女達は水上スキーの様な物で一列に並び、定位置に付くと、陣を組み直した。

 

 

そして……

 

 

 

ガチャリ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

彼女の背面や側面から砲筒が飛び出したのだ。

 

 

 

そして、優雅な音楽と共にチーム第六駆逐隊は時には発砲しながら水上を可憐に舞って図形を描き、満面の笑みで会場を魅了した。

 

 

 

「可愛いですわね!」

 

 

「はい~持って帰りたくなってしまいます!」

 

 

 

可愛いらしい笑顔に、思わず楓も静もホッコリした気持ちになり、勿論彼女達だけではなく、審査員を含めた会場の誰もが同じ思いであり、チーム第六駆逐隊は見事軍艦フィギアを優勝で飾ったのであった。

 

 

 

   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

 

「お~い!蒔絵!ハルナ!全く……二人ともどこへ行ったんだ。世話が焼ける!」

 

 

 

 

キリシマははぐれてしまったハルナと蒔絵を立腹しつつも探していた。

 

 

 

実際の処、食べ物に夢中になる余り、注意を怠ってはぐれたのはキリシマの方なのだが……

 

 

この食い意地が彼女に災難をもたらす事になるのだった。

 

 

 

 

「おい!キリシマ!」

 

 

 

「ん?ハルナか?……え゛!?お、お前は………!」

 

 

 

 

クマの姿ではイマイチ緊張感に欠けるが、キリシマはとてつもなく動揺した。

 

 

 

無理もない、目の前にいた人物は、黒いドレスにピッグテールの金髪を携えた彼女達の元旗艦¨コンゴウ¨のメンタルモデルだったのだから。

 

 

 

(ぐ……コイツ!何でこんな所にっ!)

 

 

 

「キリシマ!説明を聞こう、貴様が私のメンタルコアに侵入してこの疑似空間に私を閉じ込めたのか?」

 

 

 

(疑似空間だと思っているのか?それにしても……)

 

 

明らかに不機嫌そうなコンゴウの手にはピーマンだけが残ったバーベキューの串が握られており、その氷の様な風貌とのギャップが極めて緊張感に欠ける気がした。

 

 

 

 

楽しんでいるじゃないか……

 

 

 

 

呆れるキリシマをよそに、コンゴウはピーマン片手ににじり寄ってきた。

 

 

 

「ほぅ……飽くまでシラを切るつもりか?ならば艦隊旗艦として貴様には相応の対応を取らねば……」

 

 

 

「おい!キリシマ!」

 

 

 

「ん?……はぁあああ!!?」

 

 

 

突如声のする方角に視線を移したキリシマはいよいよ参ってしまう。

 

 

何故なら……

 

 

 

「こ、コンゴウがもう一人……だと!?馬鹿なっ!こんな事があり得るのか!!?」

 

 

 

そこには鋭い眼光を携えたもう一人のコンゴウが佇んでいた。

 

しかしながら、目の前の彼女は長い髪を降ろしてストレートロングに、袖口と裾にフリルの付いた半袖の黒いシャツと、膝下くらいまでの白いショートパンツを着たラフな格好をしており、キリシマのイメージするコンゴウとは別物だった。

 

 

 

「は、ハハァーン!さては貴様はコンゴウを語る偽物だな!?」

 

 

 

「そうか?では、コアのコードを調べてみるがいい」

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

「嘘だろ?本物だ……」

 

 

狼狽したキリシマを見たラフコンゴウ(便宜上)は、口許を少しニッと吊り上げる。

 

 

 

 

「ではどっちがニセモノなんだ……お前か!」

 

 

「貴様……艦隊旗艦の私を忘れるとは良い度胸だな」

 

 

 

「ぐっ……ではやはり貴様がニセモノか!」

 

 

 

「さっきコアのコードを見せて証明したではないか?」

 

 

 

「ぐぅ……では貴様か!」

 

 

 

「ハ~イ!私も金剛デ~ス!」

 

 

 

「「「………」」」

 

 

 

キリシマはコアがオーバーヒートしそうな感じを得る。

 

 

いつの間にかラフコンゴウの隣にいた巫女服の様な格好の少女が自身もコンゴウだと主張していたのだから

 

 

 

「いや、お前はニセモノだろう……明らかに」

 

 

 

「違いマ~ス!私はイギリス生まれですから!こう言う感じなだけデ~ス!」

 

 

 

 

「いや、コアが検知出来ない時点でお前がニセモノだろ……」

 

 

 

「う~ん……ハイ!解りま~した!私がホンモノの金剛であると証明すれば良いのデ~スネ!」

 

 

 

 

「出来るのか?」

 

 

 

「おっ任せ下サ~イ!」

 

 

 

 

 

コンゴウ?(便宜上)は、笑顔のまま何かを準備し始めた。

 

声紋パターンが何故か401のソナー手と同一だったが、そんなことはどうでも良い。

 

 

問題は彼女が、霧の艦隊旗艦であるコンゴウ×2を納得させられるかどうかだ。

 

 

 

 

「準備出来ました~♪」

 

 

 

「これは……」

 

 

 

「ハ~イ!Tea timeの準備デスネ~♪あなた方も私と同じ金剛なら~Tea timeには少々こだわりがある筈デ~ス!」

 

 

 

「な、成る程……」

 

 

 

何が成る程なのかは正直解らないが、彼女の言うセリフには妙な説得力があった。

 

その証拠に、コンゴウやラフコンゴウも異論は無いようだ。

 

 

 

 

「~♪」

 

 

 

コンゴウ?はその妙な雰囲気とは対照的に手際よく紅茶を沸かしてカップへと注いで行く。

 

 

 

「「ん……」」

 

 

 

フワリと立ち上る湯気から、芳醇な茶葉の薫りが立ち、二人の嗅覚センサーに刺激を与えた。

 

 

 

「出来ました~♪サァ!二人とも呑んで下サ~イ!」

 

 

 

「「……!!」」

 

 

 

紅茶を口にしたコンゴウ達の目が見開かれる。

 

 

 

「うまい……」

 

 

「うむ、見事だな……」

 

 

 

二人の納得の表情をみたコンゴウ?は胸を張る。

 

 

 

「ドウデスカ~?これで私が金剛だと信じて頂け……」

 

 

 

「「いや、それとこれとは話は別だ!」」

 

 

「へっ?えぇえええ!?」

 

 

 

 

やっぱりな……

 

 

 

キリシマはこの混沌とした状況に、しばらくの間拘束される事となる。

 

 

 

 

   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

「うわっ!盛り上がってんなぁ!俺もこんなにのんびりしたのは久しぶりだぜ!なぁ姉さん!」

 

 

 

「真冬は呑気で良いわね……まぁでも状況は掴めて来たわ。多分だけど、ここはあらゆる世界が混在する世界みたいね」

 

 

 

「あぁ……だから色んな武器や格好の奴がいるって訳か?陸の奴も幾らか混じってるみたいだが、大体は海の奴らだな」

 

 

 

「ええそうね。でも、見てあれ……」

 

 

 

「ん?な、なんだありゃ!!?」

 

 

 

 

 

「こうして¨アノ娘¨の外へ出るのは初めてね。とても新鮮だわ」

 

「くっ!当たらないわね……纏めて掃除しても良いかしら?」

 

 

 

 

 

二人の視線の先には、黒い長髪にウェディングドレス姿で綿飴を頬張る女性と、黒い和服を妖艶に着崩した狐耳の女性が射的に興じている姿が目に入ってきた。

 

 

 

「アレはどう判断すべきかしらね……」

 

 

「い、いや……俺も流石に何とも……だけどなんだか、姉さんの声に似てねぇか?それに怒らすと怖そうな雰囲気が………」

 

 

 

「もう一度言ってごらん真冬……」

 

 

 

「はい、すみません……」

 

 

 

笑顔の威圧に真冬は小さくなる。

 

 

 

 

 

   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

 

「レオナ、あっちで好きな飛行機に乗れるコーナーがあるらしいわよ」

 

 

「本当かザラ。では皆で行くか!おいキリエ!パンケーキを食べながら歩くんじゃない!迷惑だろ?」

 

 

「ほ~い!でもさユーハング……じゃなかった¨日本軍¨が通って来たって言う¨空の穴¨に飛び込んだらこんな所に繋がってるなんてね!」

 

 

 

「奇想天外……」

 

 

「ケイトの言う通りですわね。ですが、金品を支払わずに飲食できて経済的でしたわ!」

 

 

 

「エンマは金にうるさいなぁ~私はさ!クウボ、だっけ?海に浮かぶ滑走路を見てみたい!だって今まで海なんか見たこと無かったし!」

 

 

 

「はぐれないで下さいましよ?チカはすぐ突っ走るですから!」

 

 

「はいはい!解ったよエンマ!」

 

 

 

 

 

恐らくは明乃達とは別の世界の住人なのだろう。

 

彼女達の話では、海が存在せずに航空機が主役の世界である事が伺えた。

 

 

 

楽しそうにはしゃぐ彼女達と擦れ違いながら、明乃は一人で歩いている。

 

 

 

「大和の丘か……」

 

 

 

彼女が視線を向けた先には、小高い山に戦艦大和が埋もれて出来た丘の公園が存在した。

 

 

中腹には、艦首と主砲の砲身が顔を覗かせ、山頂に突き出ている艦橋はお酒が呑めるバーとなっている。

 

 

 

「………」

 

 

 

少し影のある表情を浮かべながら、明乃は公園へと足を進めた。

 

 

 

   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

 

ガラン~♪

 

 

艦橋バーの扉を開いたシュルツは中を見渡す。

 

 

 

(意外に空いているな。というより誰もいないが……)

 

 

 

「いらっしゃいませ。こちらへどうぞ」

 

 

 

シュルツの視線に、バーテンダーの格好をした鉛色の髪と瞳を持つ女性が目に入る。

 

彼女に促されてカウンターの空席へと腰を下ろす彼の目の前にウィスキーを入れたグラスが置かれた。

 

 

 

「まだ注文してないが?」

 

 

「あちらのお客様からです」

 

 

「!?」

 

 

 

確かに誰もいなかった筈……

 

 

だが、シュルツの2つ隣の席には軍服を着た男が最初からそこに居たように氷の入ったグラスを口へと運ぶ姿があった。

 

 

 

「失礼ですが、これはあなたからですか?」

 

 

 

「他に誰が居るんだ?」

 

 

 

男はぶっきらぼうに言い放った。

 

 

 

 

「いや、その……ありがとうございます。しかし、何故私に?知り合いとは思えませんが――」

 

 

 

「まぁとにかく座れ」

 

 

「え、ええ……」

 

 

 

シュルツは席に座り、グラスを男の前にかざしてから口へと運ぶ。

 

 

 

カラン……

 

 

 

球状の氷が心地よい音をたて、冷たい酒が喉と心を癒して行くのを感じる。

 

 

 

「ハァ……」

 

 

 

月に1度は飲酒の機会を作っているとは言え、任務中に彼の心が休まる事はない。

 

 

だが、今はまるでかつてあった平和な時を自宅のベッド過ごしているような安心感が、彼の心を満たしていた。

 

 

 

 

「美味いか?」

 

 

 

男がグラスを揺らしながら語りかけてくる。

 

 

 

 

「ええ、こんなに安らいだ気持ちで酒を呑むのは久しぶりです。ありがとうございます」

 

 

 

「そうか……」

 

 

 

「先程も訪ねましたが、何故わたしに?」

 

 

「感じたんだ。お前に懐かしい匂いをな」

 

 

 

「懐かしい……ですか?」

 

 

 

「ああ、俺は¨とある艦¨の艦長をしていた。美しい艦だった……」

 

 

 

「兵器が美しいですか?」

 

 

 

「違う。誰しもが大切な者を護るために行く。その気持ちが乗り移った様なと言う意味だ」

 

 

 

 

「解ります。我々ヒトの手ではどうにも出来ない相手もおりますから」

 

 

 

「そうだ。¨アレ¨はどうにも出来なかった」

 

 

 

「アレとは?」

 

 

 

「それは………」

 

 

「お客様、呑みすぎですよ」

 

 

 

バーテンの女性が割って入ってくる。

 

 

「あぁ、もう一杯で止めとくよ」

 

 

「仕方ありませんね……」

 

 

 

バーテンは呆れたように、スコッチを小さなグラスに注いでテーブルに置いた。

 

 

 

「まぁ……なんだ。アンタに言ってどうこうなるものじゃあ無いんだ。忘れてくれ」

 

 

 

「ええ。それよりもあなたはココの常連なのですか?随分と彼女と親しいようですが?」

 

 

 

「親しいねぇ……腐れ縁だよ。好きで常連になった訳じゃない。俺は――いや、本当に呑みすぎた様だ。済まんな」

 

 

 

「いいえ、私の方こそ出過ぎた事を言ってしまって……」

 

 

 

「いいんだ。なぁアンタ。もし……もしだぞ?もしアンタが¨彼女¨と関わっているとしたら……」

 

 

 

(彼女?少なくとも、この方との知り合いであることは確かのようだが………)

 

 

首を傾げるシュルツをよそに男は瞳は真剣そのものだった。

 

 

 

 

「どうか彼女を救ってやってくれないか?彼女はきっと絶望してしまっている筈だから。この私の様にな……」

 

 

 

「絶望?一体何の事で――」

 

 

 

カラン……

 

 

 

気づくとそこには氷の入ったグラスだけが置かれ、男の姿は消えていた。

 

 

 

 

「私は呑みすぎたのか?」

 

 

 

シュルツは、まるで狐に摘ままれた気分になる。

 

 

 

 

 

 

「どうかされましたか?」

 

 

こちらを覗き込んできたバーテンの女性にシュルツは少し慌てて視線を逸らす。

 

 

「いままでそこに……いや、何でもないんだ。それよりも貴女はここの内情に詳しいのですか?」

 

 

 

「アインです」

 

 

「え?」

 

 

「私の名前はアイン・クリッグシッフ」

 

 

 

「アイン・クリッグシッフ!?まさか、からかうのはよしてくれ!」

 

 

 

「本当の事です。ここは癒しの場所。あなた方に取っても、¨私達¨にとっても」

 

 

「そんなバカな……」

 

 

 

【Ein Kriegsschiff】つまりはドイツ語で軍艦を指す言葉だ。

 

 

彼は突然の告白に驚きつつも、妙な得心を得ていた。

 

 

 

「ここは軍艦の為の空間……いや、軍艦に携わる私達全ての為の空間なのか?」

 

 

 

「惜しいですね」

 

 

 

「なに?」

 

 

 

「ここは、物語を諦められない。¨終えられない¨方々の癒しの場所です」

 

 

 

「終えられないだと?」

 

 

 

「戦いが……平和なあの日を取り戻すその時まで戦いが終わらない方々のですよ。こちらへ……」

 

 

 

手にいつの間にか自分のグラスを持ったアインは窓際の席にシュルツを導いた。

 

 

 

 

「ここから何が見えると言うのです?」

 

 

 

「皆さんの顔です。物理的に遠くて見えないなど、言いっこなしですよ?」

 

 

 

アインは少しイタズラっぽく笑って見せる。

 

 

 

「ああ……貴女の言いたい事は解る」

 

 

 

賑やかな町の風景を見たシュルツには、皆がどの様な表情をしているのかが直ぐに想像できた。

 

 

 

戦を忘れて友と笑い合う者、シュルツのように落ち着いた時間を過ごす者。そして――

 

 

 

「あれは……」

 

 

 

艦橋バーの窓辺から見渡せる大和の丘。

そこに一人の女性が歩いてくるのが見えた。

 

 

 

「岬艦長……」

 

 

 

   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

大和の丘

 

3連装砲塔展望台に二人の姿はあった。

 

 

 

 

「ここで良かったのか?」

 

 

「うん」

 

 

イオナは無表情で眼前の景色を見つめる。

 

 

「色んな意識が入り乱れている」

 

 

「そうだな……」

 

 

「群像?」

 

 

「ああ、どうした?」

 

 

「本当に良かった?ここに来た事。もっと何かしたい事があっ……」

 

 

「いや、これでいいんだ。君が進路を自分で決めた。それで俺は十分だから」

 

 

 

「進路を?」

 

 

「俺は、霧と人類は歩みよれると信じている。それにはきっと、彼女達が自立した意思を持たなければならないと考えているんだ。命令されたからではなく、そうしたいと自分で考える意思が」

 

 

「……」

 

 

「イオナ。君は先の戦いでも今回も、自分でここへ来たいと言ってくれた。理由はどうあれ、それは貴重な一歩だと思うんだ。それに……」

 

 

「それに?」

 

 

 

「霧と人類との間の問題が全て終わってしまっても、俺達の航海は終わらない。その時、進路を話し合う相手がいなければ俺はどちらに進むのか解らないしな」

 

 

 

「艦長は進路を決定する者、私はあなたの艦。あなたに従う」

 

 

 

「そうだな……確かに、¨決定は出来る¨だが、進路とは話し合って決めるものだ。誰か単一の意思によって決定されるものじゃない。いままでだって、皆と話して決めてきただろ?俺はその意思を代表者として口に出しただけだ」

 

 

 

「解らない……内容は同一のもの」

 

 

 

「今は解らなくてもいいさ。僧や杏平だってそれぞれやりたいこともあるだろうし、全てが解決した後に皆がいるとは限らない。そしたらきっと、また二人で航海する時が来る。その時は二人で話し合って進路を決めよう」

 

 

「二人で……でも、わたしが進路を決めるなんて」

 

 

 

「命令に無いことするのは怖いか?」

 

 

 

「怖い……うん、その言語が最も近い」

 

 

 

「みんなそうさ」

 

 

「え?」

 

 

瞳を僅かに大きくしたイオナに、群像は手をとって優しい笑みを向ける。

 

 

 

「誰だって怖いよ。まだ誰も知らない世界に漕ぎ出すのはね」

 

 

 

「群像も怖いの?」

 

 

「怖いよ。でもそれ以上に楽しみなんだ。知らないもの、見たことも無い世界を見ることが出来る喜びが大きいから」

 

 

 

「……」

 

 

 

「見に行こう。絶対に!どこまでもだ!」

 

 

 

「群像……」

 

 

町の灯りのせいか、彼女頬が少し赤みを帯びた様に見えた。

 

 

 

その実、イオナはコアが満たされて行くような不思議な感覚を得る。

 

 

二人が初めて会ったあの時、俺をお前に乗せてくれと彼が懇願した時には感じなかった感覚だ。

 

 

自分を導く存在と、種や立場の垣根を超えて共に行く果ての無い航海。

 

 

イオナはそれに不安を覚えつつも、真にはそれを望んでいたのかもしれない。

 

 

 

こちらの世界に来て、あらゆる意識に触れた彼女のコアは、最早人形とは程遠いものとなっていたのであった。

 

 

 

 

「?」

 

 

「イオナ、どうした?」

 

 

「………」

 

 

彼女はふと向けた視線の先には――

 

 

 

「あれは、岬艦長?」

 

 

 

    ⊿ ⊿ ⊿

 

 

 

大和の丘に到着した明乃が景色を一度眺めて目を閉じ、大きく息を吸い込むと、潮の香りを含む心地よい風が彼女の心を撫でた。

 

 

 

「……」

 

 

 

明乃はゆっくりと艦長帽を取って地面に置き、髪留めを解いて自らも芝生へと腰を下ろす。

 

 

 

 

賑やかな町の灯りと共に、楽しそうな声が彼女の耳に届いていた。

 

 

 

 

「――っ」

 

 

 

 

だが、今の彼女の表情はとても辛そうだった。

 

 

 

自身の判断ミスによる両親の死から始まり、差別的な目で見られる地獄の様な日々。

 

 

そして、多くの人の死を目の当たりにしたあの日。

 

 

 

彼女は気丈に耐えてきた。

 

孤児院でも年長だった彼女は泣くわけにはいかない。

 

 

救助に携わる自分が、艦長である自分が泣くわけにはいかないと――

 

 

 

だが、今は違う。

 

 

 

この空間が彼女に許しを与えていた。

 

 

まるで母の腕に抱かれているが如くの安堵が明乃の心を満たしている。

 

 

 

《泣いてもいいよ。一人の¨人間¨になっていいんだよ》

 

 

故に――

 

 

 

「うっ……あっ、あぁぁ!」

 

 

 

目から涙が溢れてくる。

 

 

 

両親にか、失った人々達の為か、それとも自分か。

 

 

否――

 

全てであろう。

 

 

 

 

「あぁぁっ!」

 

 

 

明乃は泣いた。

 

 

声をあげて、子供の様に泣きじゃくって気持ちを放出させた。

 

 

 

艦長としてではなく、人間【岬明乃】として……

 

 

 

 

「群像?」

 

「ん?いや……何でもない」

 

 

 

彼女を見ていた群像も、そしてシュルツも彼女が泣いてる事を理解していた。

 

 

いや――

 

 

 

¨漸く泣けたのだ¨と思っていたに違いない。

 

 

 

同じ艦長として、部下や仲間を率いる立場の彼等だからこそ、今の明乃が¨癒されている¨と真に理解出来るのである。

 

 

 

 

「アインと言われましね」

 

 

「はい」

 

 

 

「ありがとう。彼女を癒してくれて」

 

 

「………」

 

 

「ありがとう。私達が忘れかけていたものを思い出させてくれて」

 

 

 

「どの様なものですか?」

 

 

「¨当たり前¨の日常です。私達はそれを取り戻す為に行く。皆を死なせない為ではない。その先にある日常に皆を帰す為に行く。それを私達は思い出すことが出来た」

 

 

 

「そうですか……」

 

 

 

アインは優しい笑みをシュルツに向けた。

 

 

 

「行くよ。私達の戦いは終わっていない」

 

 

 

「はい。あなた方の航海に幸あらん事を……」

 

 

 

カラン……

 

 

 

グラスの中の氷が美しい音を奏でた時、彼の姿はそこには無かった。

 

 

 

 

「また……いつかのご来訪をお待ちしております」

 

 

 

 

   ⊿ ⊿ ⊿

 

 

 

 

「!!?」

 

 

一同は、何に言われるでもなく辺りを見渡した。

 

 

 

いつもの艦橋の風景、いつもの海。

 

ここはキールへと向かう道程であるカテガット海峡であった。

 

だが、違和感は拭えない。

 

 

「か、艦長。私達、ずっとここに居ましたよね?」

 

 

 

「何かいままでどこかに居たような……」

 

 

 

「わ、わたしも……」

 

 

 

みなが口々にそう言い放つ。

 

勿論、明乃も同じであったが何か覚えているわけでも無かった。

 

 

しかし、不思議と気持ちは晴れやかであり、悪気持ちはしない。

 

 

明乃は穏やか表情で微笑み、一同を見渡す。

 

 

 

「さぁ!もうすぐキールだから、気を引き締めて行こう!」

 

 

「あっ!そ、そうですね!皆も、もう一度機器の点検をして万一に備えるよう通達してくれ!」

 

 

 

「「ようそろ~!」」

 

 

 

艦内から威勢の良い声が響き渡ったのであった。

 

 

 

 

 




飽くまで、今作のミケちゃんと劇場版のミケちゃんの心理を照らし合わせるなら


家族を失う……もっと言えば、孤独に対する恐怖があるシロちゃんが別の艦の艦長になることは、彼女にとってとても不安だったのでしょうね。



でも航海の経験があって、ある種納得ができた。


でも今作は、別れイコール死であるわけで……

そんな極限にさらされるミケちゃんを癒したくてこの話を書きました。







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2章 後編  感染性フェルカーモルト
進行性群発侵食症候群


2章後編になります。

伏線の回収に入って行く章になるでしょう。


+ + +

 

元総理大臣でもある國枝から助言を受けた真雪は海から離れ、真霜から連絡をあった内通者に関する調査も兼ねて東北の地へと赴いていた。

 

 

 

【挿絵表示】

 

 

 

(海で生きてきた私が、まかさこんな所へ来るなんてね……)

 

 

 

タクシーの窓から見える山に囲まれた田園風景は、彼女は少し窮屈に感じる。

 

 

しばらく車に揺られて着いた先には、なにやらゲートらしきものがあり、数人の自衛隊員が車に向かって歩いてくる。

 

 

「申し訳ありませんが、ここからは立ち入り禁止です」

 

 

 

「私は横須賀女子海洋学校校長の宗谷よ。この先にある集落に用事があるのだけれど」

 

 

 

「宗谷――!も、申し訳ありません!少しお待ちください!」

 

 

 

隊員が慌てた様子で、見張り所へ駆け戻って何やら連絡を取っていた。

 

 

 

「ええ……しかしこの先には……え!?総理の!?はっ!至急ご案内致します!」

 

 

 

少し取り乱した様子の隊員が車に戻ってくる。

 

 

 

「先程は大変失礼致しました。お手数ですが、この先は我々の車両にてご案内致しますのでお乗り換え頂けますか?」

 

 

 

「解ったわ」

 

 

真雪は、自衛隊の車両に乗り換えてゲートの向こうへと入って行く。

 

 

 

(どうやら清蔵さんが根回しをしていたみたいね。岬さんの件が超兵器関連の事柄と密接に関係していた事で、許可が降りたと言う所かしら……)

 

 

 

 

真雪は人を食った様な大湊の顔を思い浮かべながら窓の外を眺めている。

 

 

 

車両は更に山奥へと入って行き、辺りの景色は更に一変して行く。

 

 

某県の最北端、三県に股がるその地区は、切り立った崖や山と、急流が流れる渓谷が存在する天然の要塞とも言える地点にその集落はあった。

 

 

 

鬼が棲むと言われた事に由来する¨旧鬼庭集落¨、山とは無縁とも思える彼女だが、実は名前だけは聞いた事があった。

 

 

 

地盤沈下によって、沿岸部の面積が減ったとは言え、船舶が発達する世ではやはり海の近辺が発展する事は必定だろう。

 

 

 

しかし、エネルギーや食料問題を抱える日本において内陸部の活用は必要不可欠であった。その問題に立ち向かったのが他でもない、真雪の夫たる宗谷征人である。

 

 

 

征人は、開拓が困難で人口が少ない山岳地帯に着目し、放牧による除草と農地の開拓、そしてその土地での太陽光や風力、急流を行かした水力発電を推し進めて、生産に乏しい日本での問題解決に力を注いでいた。

 

 

そのモデル事業として彼が着目したのが旧鬼庭地区だった訳だ。

 

 

 

太古の厳しい自然が残るわりに市内からの距離が近い事が実験に最適だと判断したためであり、賛同する人々によって、事業は成功目前までこぎ着けていた。

 

 

しかし、この事業は十数年前に突如として中断を余儀なくされる。

 

 

 

そう、明乃が超兵器によってこちらの世界へ来る切っ掛けとなった客船の事故の年――

 

 

 

 

旧鬼庭地区は国によって突如買い取られ、防衛省によって立ち入りを厳しく制限される事になったからだ。

 

 

 

征人達開拓者達は、今まで投資した金額には届かない微々たる金額を支払われ、事業は振り出しへと戻される事となり、征人達が訴えを起こした当時はマスコミを巻き込んで結構な騒ぎとなった。

 

 

 

自衛隊を軍とするための新たな施設の増設、はたまた征人の事業が食料やエネルギーの最大の取引先である米国の目に留まって圧力を受けたのか

 

 

 

実際の所、真実に辿り着いた者はいない。

 

 

しかし、今の真雪ならその理由が解っていた。

 

 

 

 

 

「到着です」

 

 

 

彼女が降りて先ず目に入ったのは、自然と上手く調和した美しい景色の開拓の地。

 

 

風力発電の風車や太陽光パネルが至る所に並び、集落の人々がそれぞれの農作業に汗を流している。

 

 

 

小規模ながらスーパーマーケットすらある不自由の無い穏やかな空間だった。

 

 

 

「ここが、あの人の造った場所……」

 

 

 

「その通りです」

 

 

「あなたは?」

 

 

「私は、¨彼等¨を任されております小田島一佐であります」

 

 

 

【彼等】とは――

 

 

あの時客船に乗っていた乗客たちの¨生き残り¨の事だった。

 

 

 

不要なパニックを避けたかった事と、彼等を法的にどの様に扱うのか解らなかった当時の政府は、彼等をここに軟禁することを決定したのである。

 

 

戸籍上存在しない彼等を隠匿する事は比較的容易ではあったが、それでも異世界の日本に属している人間である事に相違はない。

 

 

中には明乃の様に厳しい管理下の元に外に出た者もいる。

 

 

だが、元の世界との余りの違いや、政府の厳しい目に耐えかねて、殆どの者がここでの生活を選択する事となったのである。

 

 

 

尤も、幼かった明乃はこの世界を元の世界と異なるとは考えてもおらず、むしろ自分の身体を調べられる苦痛と、両親を失ったショックが大きかったのもじじつなのであろが……

 

 

 

「岬さんが、世に出たのはここの住民がこの世界に適応出来るかの試験も兼ねていたのね?」

 

 

 

 

「お察しの通りです。結果はご覧の通りでしたが、人格が形成される前段階であれば対象番号0137……岬明乃のケースの様に社会適合も可能です」

 

 

 

「………」

 

 

思わず彼女を番号で呼称した事に、彼等への差別的観念が有ることを認識しつつ、真雪は表情を代えずに小田島と向き合う。

 

 

 

「取り敢えず、資料を見せてもらえるかしら?彼等の名簿、そして彼等が有していた¨能力¨についてもね」

 

 

 

「それは……」

 

 

 

「総理はその件に関しても了解しているから私をここへ通したのではなくて?超兵器の世界侵攻は未だ打破出来てはいないわ。仮に主戦場が海であり貴方達と関係が薄かったとしても、横須賀の件でその脅威は認識しているのではないかしら?」

 

 

 

 

「……解りました。ご案内致します」

 

 

 

小田島は苛立ちを込めた眼差しを真雪に向けて踵を返す。

 

 

 

女性主体のブルーマーメイド、しかも海上が主役であり、陸上での活動意義が薄いこの世界に於いて、男性中心の陸上自衛隊がある意味恨みに近い羨望や嫉妬の感情を向けている事は知っていた。

 

 

だが、事が一刻を争う事態に真雪が動じる事は微塵もなく、淡々と彼の後を付いて行くのだった。 

 

 

 

  + + +

 

 

小田島に案内され、真雪は資料の置かれた建物へと案内され、手荷物は全て一時没収となった。

 

 

ペン1本やメモ用紙に於いてもだ。

 

 

 

「では、ご自由にご覧になってください」

 

 

 

小田島はそう言うと、見張りに声をかけて去って行く。

 

 

 

 

「先ずは彼等の能力についてね」

 

 

 

 

生存者に関する特異な現象を記録した医学文書に目を付けた真雪はページをめくる。

 

 

 

  ▽ ▽ ▽

 

 

検証の結果、彼等には共通して一種の【未来視】の様な現象が見受けられた。

 

しかしながら、見ることが出来る未来の時間はそれほど長くはなく、せいぜい30秒~1、2分先程度である。

 

 

年齢に於いては、30歳を超えた者には能力の消失が著しいものの、幼少期や10代半ばでの能力発揮者にはその傾向は限定的であった。

 

 

 

能力の発揮はその者が身体的ならびに精神的に強烈なストレスを感じた際に発現が見られる。

 

 

 

聴取によって、彼等が過ごした日本にこの様な能力は存在しないとの事であるが、空を高速で飛行する乗り物が有るなどとの虚言も見られ信憑性は低いと考えられる。

 

 

ただ、今回の海難事故の一件と彼等との間に何らかの因果関係は認められず、根本的な原因解明には至れなかった。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

 

「報告にあった超兵器の意思との因果までは探れてはいないか……尤も、異世界艦隊もその手法を見つけあぐねているようだけど」

 

 

 

 

 

真雪は、次に被害者のリストに目を通す。

 

 

 

この世界の住人ではない為か、当時あの現場で無くなった者の写真は無く説明も簡易であったのだが、前述の通り彼等の経歴に超兵器を思わせる記述は存在しなかった。

 

 

 

 

「岬さんの名前も有るわね」

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

岬明乃

 

彼等の中では最年少となる。

 

 

両親の死亡によるストレスか、幼児と言う事もあり未来視の能力は抜きん出ている。

 

 

様々な用途での利用が見込まれる為、慢性的に精神的または心的なストレスを与える実験を行ったが、最終的には能力の不安定さや、一種の攻撃性を孕む人格の形成を成す可能性が示唆された為、実験は中止された。

 

 

また彼女への実験は倫理的に非常に残虐と言わざるを得ず、彼女を通じて彼等に実験内容が口達された場合の暴動に備え、彼等の社会的適合性を加味する試験として、防衛省の監視下で孤児院での経過観察実施の要望を近く提出の見込み

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

 

 

「岬さん……」

 

 

 

真雪は明るい印象しか無かった彼女の過去に愕然とする。

 

 

 

両親の死亡を明乃のせいだと敢えて糾弾してストレスを与える質問や被害者の死体を写真で見せる、挙げ句には裸にして拘束して医師に身体の至る所を調べさせるなどの残虐な仕打ち。

 

 

 

思わず目を覆いたくなる内容が書かれていた。

 

 

そして、明乃の蘭にのみ防衛省だけでなく経済産業省や文部科学省、そして厚生労働省の閣僚の承認印も見られた事から、当時の閣僚らが未来視を利用して株価操作や洗脳教育、並びに人間の兵器化に付いて興味を示していることも同時に示唆する文章すらあった。

 

 

 

 

「こんなスキャンダルを隠していたなんて……公表したら日本だけの問題では済まなくなるわね」

 

 

 

 

真雪は見てはならぬ物を見てしまった気がした。

 

 

だが、そこに大湊の覚悟を感じたのも事実である。

 

 

流石の宗谷家でも国家を転覆させる内容は口を紡ぎ、今回の一件の真実のみを見つけるだろうと。

 

 

 

 

 

その勘は当たっていた。

 

 

 

「ん?」

 

 

 

真雪はあることに気付く。

 

 

 

 

「生存者は全て、番号が割り振られてる。岬明乃さんの0137みたいに。でも一ヶ所抜けている番号が有るわ」

 

 

 

 

彼女は何やら背筋が寒くなるのを感じつつも、抜けている番号の人物を追う。

 

 

 

「これね、現在ここに居住している被害者と岬さんと同じく外部へ出た人物のリスト………やっぱり数が合わないわ。誰かが外で暮らしている?」

 

 

 

 

彼女は、彼等がここへ来る際に取られた写真を見つけて指でなぞった。

 

 

「ここには全員いるわね。リストと照合すれば消された人物の人相くらいは掴めそうだけど……え!?」

 

 

 

真雪は顔から血の気が引いて行くのを感じた。

 

 

 

「どうして……あなたが?もしかして貴方も被害者の一人だったと言うの?」

 

 

 

嫌な予感を感じた。

 

 

 

そもそもおかしかったのだ。

 

明乃に関する非合法な実験の記述を残しておきながら、何故この者の存在自体を削除しようとしたのか――

 

 

 

ドクン……

 

 

 

だとしたら誰の差し金なのか……いや、この問題で彼の者の存在を最も¨知られたくない¨のは誰か――

 

 

 

ドクン……

 

 

 

そもそも何故、岬明乃はブルーマーメイドを志したのか……

 

 

この国で最も【武力】を有する組織であるブルーマーメイドに――

 

 

 

ドクン!

 

 

 

「いけない……私は今、知ってはいけない事を知っ――」

 

 

 

コッコッコッ――ガチャン!

 

 

 

廊下で足音と共に嫌な音が響いた。

 

 

銃の遊底を引く音だ。

 

 

 

 

ドクン!

 

 

鼓動が高鳴り、緊張が身体を駆け巡る。

 

 

 

(思い出して!真霜何を言っていた?)

 

 

 

≪超兵器の意思は、私達人間の攻撃性を増大させるように仕向けるわ。もしかしたら操る事も――≫

 

 

コッコッ!

 

 

足音が更に近付いて来る。

 

 

≪超兵器と接触した者にもその意思は干渉しうる可能性もあるの――≫

 

 

 

 

(しまった……)

 

 

迂闊だったと真雪は後悔した。

 

 

超兵器と接触した過去がある彼等と行動を共にしていた自衛隊員達。

 

 

 

知らず知らずの内に干渉を受けていてもおかしくはないとの懸念を失念していたのだ。

 

 

 

カチャ……

 

 

 

「――!」

 

 

 

ドアノブが捻る音がして、真雪は咄嗟に動いた。

 

 

 

ドンドンドンッ!

 

 

立て続けに3発の銃声が響き、つい今しがた真雪が座っていたポイントに銃弾が着弾する。

 

 

 

「いない?……あ゛っ!」

 

 

 

ドアの後ろに身を潜めていた真雪は、ドアを思いきり蹴飛ばして襲撃者を怯ませ、腕をつかんで壁へと投げ飛ばす。

 

 

 

「がっ!く……はっ!」

 

 

 

気絶した襲撃者は、小田島だった。

 

 

 

 

(やってしまった……)

 

 

 

眉を潜めるも事態は火急を要した。

 

 

 

 

(もし、自衛隊員全てに超兵器が干渉していたとしたら……)

 

 

 

 

つまりはこう言う事だ

 

 

 

超兵器に干渉されている者全てが将棋やチェスの駒だとする。

 

 

個人がやられても他の駒は不干渉であるが、プレーヤーである超兵器の意思には、どの駒が倒れたのかがつぶさに解るのだとしたら―――

 

 

 

 

(もう彼が気絶した事に気付いて対処して来る筈……まずい!)

 

 

 

 

真雪は小田島のホルスターから銃を抜き取ると直ぐ様資料室を飛び出して走った。

 

 

 

 

(正面からではまずいわ、どこか出口は……あっ!)

 

 

 

彼女はトイレと駆け込んで、窓から外の様子を見て伺う。

 

 

 

 

(人が集まってきてる。やはり向こうにはお見通しって訳ね)

 

 

 

真雪はトイレの窓から素早く身を乗り出して地面に着地し、体勢を低くして駆けつけてきた自衛隊車両に近付く。

 

 

武装した隊員達が建物へと入って行くのを確認した真雪は、車へと乗り込んでエンジンをかけた。

 

 

 

 

 

「おいっ!いたぞ!」

 

 

 

「――!」

 

 

真雪はアクセルを思いきり踏んで車を発進させた。

 

 

 

 

 

パパパパパッ!

 

 

 

 

乾いた音が幾重にも響いて車体に着弾する。

 

 

 

 

「やはり撃ってきた!」

 

 

 

 

防弾仕様とはいえ、万が一があってはならない。

 

 

 

真雪は蛇行をしながら加速し、来た道を一気に駆け抜けた。

 

 

 

 

 

(一本道の道路を走っても挟まれるだけ!でも道のすぐ脇は絶壁……万事休すね)

 

 

 

 

海に生きてきた彼女にとってまさにアウェーな環境だった。

 

 

しかし、不測の事態なら海でも陸でも関係なく襲ってくる。

 

 

 

仮にもブルーマーメイドを率いていた彼女は決して取り乱したりしなかった。

 

 

 

 

(少しは時間を稼げるとよいのだけどっ!)

 

 

 

 

真雪はカーブに差し掛かる寸前にアクセルを踏み込み、そしてドアを開けて外に飛び出した。

 

 

 

「あ゛っ!ぐっ!」

 

 

 

 

凄まじい衝撃と痛みが全身にほとばしるも、真雪は運転手を失った車はガードレールを突き抜けて谷へと落下して行くのを見送り、直ぐ様立ち上がって山を駆け上がる。

 

 

 

 

(大した距離じゃない!一山越えれば町に出られる!)

 

 

 

 

彼女は走った。

 

 

 

(もし防衛省そのもの……いや、もしかしたら政府中枢まで侵食が進んでいたのなら清蔵さんも!世界の国々だってどうなっているか解らない!誰をっ!どのまで信じればいいのっ!)

 

 

 

《コノ世デ信ジラレルノハ己ノミ。イママデモ ソウシテ生キテ来デハナイカ ナラバ己ノ衝動ニ身ヲ委ネヨ……》

 

 

(――!)

 

 

 

雑念が脳を止めどなくよぎる。

 

幻聴すら聞こえる。

 

 

 

しかしそれを振り払うが如く、真雪は草木で顔を擦りむいても岩に膝を打ち付けて血が出ても走った。

 

 

 

解るのだ。海を彼女達ブルーマーメイドが守って来たように、彼ら自衛隊は陸に生きるスペシャリスト達なのである。

 

 

 

警戒して警戒して警戒して!

 

 

それでも足りない。

 

 

 

まるで死神にでも追われている気分であった。

 

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 

いつの間にか、彼女は山を抜けて町へと辿り着いていた。

 

 

 

 

のどかで平和な風景、人々が行き交う賑やかな日常がそこにはあった。

 

 

だが、今の真雪にはそれすらも何か造られたモノに感じてしまう。

 

 

 

 

「おいっあんた!どうしたってんだ!?あちこちケガをしてるじゃないか!病院に連れてってやるから車に乗りな!」

 

 

 

通りがかった農家のおじいさんが声を駆けてきた。

 

しかし――

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

「おいっ!どこ行くんだ!」

 

 

 

真雪は逃げるように走り出した。

 

 

 

(連れて行く?何処へ?本当に病院なの!?)

 

 

 

 

彼女の中で何かが壊れてしまいそうになっていた。

 

 

 

 

自分達ブルーマーメイドは海の平和だけでなく、陸の安定も守る。

 

ひいては、彼のような市民を守っていると言う自負に満ちていた。

 

 

 

だが今は、精神の侵食と言う目に見えない敵を前に、全てが疑いの色に塗り潰されてしまっているのだ。

 

 

 

 

(私は……何のために家族と離れて海に出ていたの!?)

 

 

《己ノ自己顕示欲ヲ満タス為ダ。私ガオ前達ヲ守ッテヤッテイル……ト》

 

 

 

 

(違う!私はっ――!)

 

 

 

 

「学園長!」

 

 

 

「あっ!あなたは?」

 

 

 

パニックに陥った彼女の前に見知った人物が現れる。

 

 

 

「古庄さん……どうしてあなたが?」

 

 

現れたのは、『古庄めぐみ』横須賀女子海洋学校の教官である。

 

 

 

「学園長!長らく戻られていないので、勝手ながら行方を追わせて頂きました!早く乗ってください!沖合いに停泊している船で手当てします!」

 

 

 

 

「え、ええ……」

 

 

 

何故いま彼女が現れたのか、タイミングが良すぎないか、もしや彼女は……

 

 

 

(ダメ!疑っちゃ――)

 

 

《彼女ハカツテRATtウイルスニヨッテ正気ヲ失ッテイル。今回モ――》

 

 

 

 

「違うっ!」

 

 

 

「学園長?」

 

 

 

古庄は、様子のおかしい真雪に首を傾げた。

 

 

 

《娘達ハオ前ガ居ナクテイツモ寂シカッタ。陸ノ者ハオ前達ノ事ナド気ニモ留メナイ。海ノ者ハオ前達ガ助ケテクレルノヲ¨当たり前¨ダト思ッテイル。オ前ノ存在意義トハ一体ナンナノダ?》

 

 

 

 

「黙れ!黙れ黙れっ!」

 

 

 

「学園長!学園長!!」

 

 

 

「あっ!か、はっ……!」

 

 

 

まるで喉を締め付けられる様な苦痛と、吹き上がる怒りに我を失いそうになった。

 

 

その時――

 

 

 

「学園長!」

 

 

 

パンッ!

 

 

 

「!!?」

 

 

 

張り詰めた痛みが頬を打ち、真雪は正気に戻る。

 

 

気付けば自らの手で己の喉を締め上げていたのだ。

 

 

 

「はぁ……はぁ……」

 

 

 

ジトリと頬を伝う嫌な汗すらも感じる程、彼女の頭は急速に熱を失っていた。

 

 

 

「古庄さん私は……」

 

 

 

「学園長が何をお調べになって何を知ったのかは解りません。ただ……」

 

 

 

古庄は真雪を肩を掴んでゆっくりと抱き寄せた。

 

まるで恐怖で潰れてしまいそうな被災者を救助するカのように

 

 

「あ……」

 

 

 

温かな体温が彼女に伝わる。

 

 

「これだけは言えます。海でも陸でも、独りになる事が最も恐い。物理的な話では有りません!【心】がです!」

 

 

 

 

「!」

 

 

 

真雪は目を見開く。

 

 

 

「目標を見失っても、奇跡を疑っても、絶対に私達を信じてくれている人の為に、私達も信じるんだと教えてくれたのは貴女ではないですか先生!」

 

 

 

「古庄さん……」

 

 

 

思い出した。

 

 

若き日に、人魚として海へ往くと決めた日の決意の事を……

 

 

 

どうして忘れていたのか。

 

 

頭の中で響く声のせいか?

 

 

違う

 

 

 

あの声は真雪の心にある不安を増幅させたに過ぎない。

 

 

だから彼女はそれを言い訳にはしなかった。

 

 

 

「ごめんなさい古庄さん。そうだったわね。何時だって……現場でも仲間が、学園では生徒達がいた。それはとてもかけがえの無い事よね。そんな事も忘れてしまっていたなんて、とても恥ずかしいわ」

 

 

 

「わ、私はその様なつもりでは……」

 

 

「良いのです。これは戒めなければならない事だから」

 

 

 

真雪は古庄の手を握って、笑みを向けた。

 

 

 

「では……!」

 

 

「ええ!連れて行って頂戴」

 

 

「はいっ!」

 

 

二人は車に乗り込み、洋上に待機する学生艦へと出発する。

 

 

 

その車の中で、真雪は今回の一件に関する考えを巡らせていた。

 

 

 

(私にも聞こえた超兵器の意思と思われる声、そしてウィルキアの世界で起きた帝国の躍進と世界大戦。無関係では無さそうね……)

 

 

 

シュルツ達の世界にて帝国は数ヵ月を待たずして世界を掌握した。

 

 

最初は超兵器による圧倒的武力によってとも考えていたが、実際問題そんなことは有り得ない。

 

 

何故なら兵器技術の進歩とは別に、人類の思考がそれに追い付かないからだ。

 

 

 

つまり、超兵器によって帝国が世界に宣戦布告をしたとしても、通常は反発が起きて世界を掌握するには年単位の時間を要する筈だからである。

 

 

 

ところがだ――

 

 

ウィルキア陣営の話を事実と仮定して、速すぎる帝国の躍進は、全世界の国民レベルに至る所まで¨瞬時¨に帝国の思想に染まった事を意味しているが、人類の思考を瞬時に統一する難しさは真雪であっても容易に想像が出来た。

 

 

 

 

(!!!)

 

 

 

そこまで考えた時、真雪の額に嫌な汗が滲む。

 

 

 

 

仮にだ、超兵器の襲撃その物が全世界の人類に恐怖や不安と言う思考の統一に不可欠なものなのだとしたら――

 

 

そして先程の彼女の様に不安をアノ声に煽られたのだとしたら、人々が武力に心酔して行くのも理解が出来る。

 

 

 

超兵器など無くとも、人々はいずれ争い合うだろう。

 

 

 

(あれ?)

 

 

 

しかし、ここまで来て更に疑問が浮かんだ。

 

 

北極海の超兵器は、1隻で世界を相手にしうると聞く。

 

 

では何故、わざわざ人々を不和に持ち込まなければならないのか。

 

 

起動まで時間を要する超兵器への時間稼ぎなのか?

 

 

きっと一理あるが満点の答えではないだろう。

 

 

 

精神面と物理面と言う2つが、超兵器の意思と超兵器との関係性と対応したとして、恐らくは1つの結果として直結する筈だ。

 

 

 

つまりは、こう言う構造になる。

 

 

超兵器の襲撃→超兵器の意思による不安の増長→世界の不和による争い→北極海の超兵器の起動→世界の終焉

 

 

 

いままで別々に存在した点と点が繋がった気がしたと同時に、真雪は背筋が寒くなるのを抑える事が出来なかった。

 

 

 

物理的事象に囚われがちな人間の心理を巧みに突いて、超兵器は世界中の人間の精神にも同時多発的に攻撃を仕掛けていた事になるからだ。

 

 

 

 

それも対応策を考えなかったばかりか、ロクにその事実を知らぬまま数ヵ月の間も放置していた事実は看過出来るものではない。

 

 

 

(内通者の件もある。急いで異世界艦隊に知らせなければ!)

 

 

 

 

真雪は事前に真霜から渡されていた量子通信端末から情報の一部を送信すると同時に、日本ブルーマーメイド本部に機密データベースへのアクセス許可の申請を打診した。

 

 

 

(あとは、日本のブルーマーメイドが素直にデータを開示するかどうかだけど……)

 

 

 

 

   + + +

 

 

キール到着目前に届いた母からの通信内容に、真霜は頭を抱えていた。

 

 

 

(流石は母さんね。まさか自力で精神干渉に関する答えに辿り着くなんて……で、だけど)

 

 

 

ブルーマーメイド本部にデータの開示を要求したものの、真霜の立場をもってしても開示には漕ぎ着けられなかった。

 

 

 

今回の超兵器襲撃に関する事だからと伝えたのにも関わらずだ。

 

 

まるで何か圧力をかけられている様にも感じたが、直ぐに直談判出来る距離でもない。

 

 

 

「はぁ……どうしたものかしら」

 

 

 

途方にくれる彼女へ一人の男が近付く。

 

 

 

「お困りですか?宗谷室長」

 

 

「エドワードさん……ええ、人物に関する機密情報が本部から開示されないのです」

 

 

 

「では此方をどうぞ」

 

 

 

「え?」

 

 

エドワードから手渡された端末には、ブルーマーメイドの機密情報が載っていた。

 

 

 

「これをどこで……って、大戦艦ヒュウガですね?」

 

 

 

「ご明察です」

 

 

「一応、私がブルーマーメイドだと知っていての事ですよね?」

 

 

「勿論、機密へのアクセスが破壊工作に等しい行為である事は認めます。しかしそれは、我々が¨この世界の住人¨である前提ならの話です。この機密を知った所で、我々が元の世界に帰った後で何か有益になる事など無いのですから」

 

 

 

(そうだけど、ズルいわよ……)

 

 

 

実際問題、大湊を説得する際にも脅しの様な形で機密を使っていた前歴は確かにある。

 

だが、彼等がこの世界にいる限りは知識や技術を求めて身柄を狙われる日々が続く事が明白である以上、元の世界への帰還を切に願っている事も事実なのだ。

 

 

 

「なんか見透かされているみたいで釈然としないわね。私が手玉に取られているみたいで……」

 

 

 

「この間、銃を突きつけられたお返しですよ」

 

 

「え!?」

 

 

 

真霜は、目を丸くする。

 

 

 

「私とて外交官の意地が有りますからね。正直あなたの手腕を認めた上で、少し対抗意識が芽生えたのかもしれません」

 

 

 

「いえ、そんな〃〃」

 

 

 

普段から畏怖や憧れの視線は慣れているもののこう言う人を食った様な優しい笑顔を向けられる事に慣れていない彼女は、思わず頬を赤くした。

 

 

 

それを知ってか知らずか、エドワードは端末のパスワードを伝えると足早に去ってしまう。

 

 

 

「本当に……狡い人」

 

 

 

 

彼の背中を見送った彼女は、自室にてじっくりと内容を確認することにした。

 

 

 

「ウィルキアと母さんが辿り着いた真実……か」

 

 

 

文書を見つめる彼女の表情が劇的に変化したのは、そこに書かれていた衝撃的な内容だった。

 

 

 

「うそ……でしょ?でもなんで……そうだったのね!」

 

 

 

真実を知った真霜の表情から血の気が引いて行く。

 

更に――

 

 

 

「これは?」

 

 

 

文書の別のページには、真霜宛のメッセージが残されていたのだ。

どうやらエドワードが今後に関する異世界艦隊の対応を記述したものらしい。

 

 

 

「………」

 

 

 

そして最後には、真霜がこの作戦を許可するか否かを問う言葉を残していた。

 

 

「飽くまでも判断はこの世界の人間でって事か……」

 

 

 

 

彼女は直ぐに立ち上がると、携帯端末でガルトナーと連絡を取る。

 

 

 

「こちらは宗谷です。ガルトナー司令もこの件は承知なのですね?ええ……でも絶対に死傷者は出さないで下さい……ではエドワード外交官に許可するとお伝えください」

 

 

 

 

端末をしまった彼女は、席に深く腰を下ろして溜め息をついた。

 

 

 

(キールの件もこの件も、いよいよ正念場ね)

 

 

 

 

彼女はいつに無く険しい表情で、覚めてしまった机の上のコーヒーを見つめるのだった。




2章後編の入りは、陸からと言うものでした。


挿し絵の写真は私の近所です


山に住んでるので、海で水平線を見るのって凄く奇妙ですが、果ての無い先を見ているようでワクワクします




次回は場面をキールへ移します。



それではまたいつか






















とらふり!


真雪
「どう?私もまだまだ現役だって解って貰えたかしら?」



真霜
「真冬の武闘は母さんに似たのね。劇場版でも活躍してたし」



真冬
「でも歳なんだから、あんまり無理すんなよな」



真雪
「歳が、なんですって?」


真冬
「ひ、ひぃ!(この威圧感……姉ちゃんとそっくりだ)」



真白
「でも母さんは昔から色々な事件と遭遇しますね。確か、RATtウイルス事件とか海上要塞奪取事件も母さんが校長を勤めてからですし」



真雪
「そうねぇ。そう言えば行く先々で何かしらの事件はあったわね。」




真霜&真冬&真白
(真白の(私の)不幸って母さん似だからだったの!!?)



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不変会議

ストックしとこうと思ったのですが、一年以上も溜め込むと思考が鈍ると思い、敢えて放出しちゃいます。

はいふりの映画が、製作会社の都合で遅れてしまい。

設定を組めずにいましたが、最高のストーリーを劇場で拝見し、漸く時間が動いた気がします。

亀更新で申し訳ありませんが、このあとの話は少しお待ち下さい。


それではどうぞ


   + + +

 

 

欧州

 

ドイツにあるキールに到着した異世界艦隊一行は思わず溜め息を付いた。

 

 

 

「ここが、国際ブルーマーメイド連合本部……」

 

 

 

明乃の視線の先には、海の上に建てられたドーム状の建物があり、回りを艦艇がぐるりと囲むさながら人魚の神殿であった。

 

 

 

「私も初めて来ましたが、緊張してしまいますね」

 

 

 

 

真白も思わず、建物を見上げる。

 

 

 

 

『貴君らに継ぐ!そこで停船されたし!』

 

 

 

突如スピーカーから声が聞こえたと思いきや、多数のスキッパーがどこからとなく現れて異世界艦隊を囲んだ。

 

 

 

「な、なんだ!?やる気かっ!?」

 

 

「待てキリシマ!ここは従って様子を見よう。先のヴィルヘルムスハーフェンの件もある。ヘタに刺激しては逆効果だ」

 

 

 

『千早艦長の言う通りよ』

 

 

 

「宗谷室長……」

 

 

 

『全艦、聴いて頂戴!国際ブルーマーメイド連合には私から話をさせてもらうわ。それまで、迂闊な動きはしないように!砲も動かしてはダメよ!』

 

 

 

 

真霜の言葉に一同が頷く。

 

 

 

停船した異世界艦隊にスキッパー隊の隊長格の女性が口を開いた。

 

 

 

『貴君らの所属とここに来た理由を言え!』

 

 

 

「我々は超兵器討伐を目的に結成された異世界艦隊よ!キールには、補給並びに今回の件に関して国際ブルーマーメイド連合本部【クリスティアーネ・アスペルマイヤー】本部長に説明をするために来たの!」

 

 

 

スキズブラズニルの甲板に降りてきた真霜がスキッパー隊の隊長に叫ぶも、隊長は未だに疑いの眼差しを向けている。

 

 

 

『それを立証する証拠はっ!』

 

 

 

「巨大なドッグ艦やそれぞれの艦艇の形状を見て解らないの?」

 

 

 

『違う!貴君らが我々を本当に害さないかの確証が欲しいのだ!』

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

真霜は無理もないとは思いつつも、まるで怯えた仔猫のような言動に少し苛立ちを覚えた。

 

 

しかし幸いな事に、あらゆる苛烈な現場を見てきた彼女にとっては、恐れるには至らない。

 

 

 

すぐに冷静さを取り戻した真霜は再び声を張る。

 

 

 

「解ったわ!これよりそちらのスキッパー隊がこちらに乗艦して内部の点検をすることを認め、乗員は武装を解除して全員を甲板に集める様にするわ!これで良いかしら?」

 

 

 

『!!!』

 

 

 

スキッパー隊の隊長は一瞬目を見開いた。

 

 

全て織り込み済みだったのだ。

 

 

 

事前に漏洩してはまずい軍事情報は、スキズブラズニルの別区画に移動してナノマテリアルで扉を壁に偽装。

 

 

あらゆる探知機も反応しないようヒュウガのテコ入れも完了していた。

 

 

 

 

真霜が手を挙げると、それぞれの艦から乗員達がぞろぞろと甲板に整列する。

 

 

 

 

それを見計らったかのように、銃を抱えたスキッパー隊がスキズブラズニルと護衛の艦艇に乗り込み、乗員を取り囲む。

 

 

 

 

「検閲が済むまで大人しくしていろ!念のため各々の艦長は前へ出て貰う!」

 

 

 

明乃たち艦長クラスとガルトナー達は、すすんで前へ進み手を挙げた。

 

 

 

 

数十分後……

 

 

 

 

「検閲は完了、武装を解除しての対応も本当だった。入港を許可せよとの通達もあった。貴君らは速やかに準備をされたし」

 

 

 

「解ったわ」

 

 

 

 

スキッパー隊が去った後、異世界艦隊は海上に浮く様に建てられたブルーマーメイド本部の真下へと移動する。

 

 

 

 

「うわぁ凄いね艦長!私達ドームの真下に居るよ!」

 

 

 

 

「うん……」

 

 

 

各国にあるブルーマーメイドの中から飛び抜けた才能を持つ者だけが集まる憧れの本部に皆が興奮する中に於いても、明乃の表情は優れなかった。

 

 

 

キールでの補給が終われば、彼等はバルト海へ赴き、あのムスペルヘイムと同等と言われる総旗艦直衛艦【テュランヌス】との戦いが待っているのだから。

 

 

 

スキズブラズニルがドーム中央へと差し掛かると、ワイヤーで吊られた天上の一部がゆっくり降下来て海面に着水する。

 

 

 

そこに居た人物を見た一同は直ぐ様襟を正して敬礼をする。

 

 

「お初に御目にかかります。クリスティアーネ・アスペルマイヤー本部長」

 

 

 

「ええ」

 

 

 

アスペルマイヤーは軽く返礼を返すと、一同を見渡す。

 

 

 

ショートの金色の髪に鋭い藍色の瞳

 

純白の制服に付けられた数々の勲章

 

 

 

五十を軽く過ぎていると言うのにその麗人たる見た目は若く、威厳と気品が漂う美しさが垣間見えた。

 

異世界艦隊組のブルーマーメイド一同に緊張の表情が浮かぶのに対し、アスペルマイヤーは眉一つ動かさずにその眼光で一同を見渡す。

 

 

 

 

「宗谷室長」

 

 

「は、はい!」

 

 

 

「直ぐに説明を聴きたいわ。その為に来たのでしょう?」

 

 

 

「わ、解りました。つきましては、10分後に各世界の代表者と、実際に超兵器と相対した艦のブルーマーメイド隊員数名を集めて出頭し、事ここに至るまでの経緯をご説明致します!」

 

 

 

「解りました。こちらの準備は出来ています。急ぎなさい」

 

 

 

 

「はっ、はいっ!」

 

 

 

アスペルマイヤーはそれだけを言い残すと踵を返して去って行く。

 

 

 

 

「はぁ……」

 

 

 

緊張が解れた一同からは、溜め息が漏れた。

 

 

 

「宗谷室長がアレだけ緊張するの解るかも……なんかオーラが違うよね?」

 

 

「うぃ。なんかビリビリ来た……」

 

 

「わ、儂は興奮しておるぞ!あの憧れのアスペルマイヤー女史をこの目で見られるとは!」

 

 

 

 

芽衣やミーナ達もそれぞれの反応を示す中、真霜はよろめきそうな足を何とか踏ん張って一同に向き直る。

 

 

 

「聞こえたわね?各艦代表者は速やかに出頭の準備をして!」

 

 

 

「ウィルキアからは私とシュルツ艦長、そしてブラウン博士とエドワード外交官で向かう。筑波大尉とヴェルナー副長はナギ少尉と共にスキズブラズニルに残ってくれ。異論は無かろう?」

 

 

「はっ!了解致しました司令!」

 

 

ガルトナーの意向によりウィルキアのメンバーが選抜される。

 

 

 

「こちらは俺とイオナ、それにヒュウガで向かう。その間の指揮を副長に預ける」

 

 

 

「はい!指揮を預かりました!」

 

 

 

 

「私達ブルマー組は宗谷室長と真冬艦長、そして私とモカちゃんは確定として、美波さんはどうする?」

 

 

 

「ウィルキアからのお達しでな、艦長に関してのアノ話題は今のところ伏せておくように言われている。まぁウィルキアの判断次第で公表となれば正式に出向く事になるかもしれないが、今のところ最初から行く必要は無いだろう」

 

 

 

「解った。じゃあシロちゃん、あなたに指揮を預けます!」

 

 

「はいっ!指揮を預かりました。艦長、その……」

 

 

不安げな表情を浮かべる真白に彼女は頷いた。

 

 

 

「解ってる。多分警戒されるんだと思う。だから千早艦長もヒュウガさんだけじゃなくてイオナさんも同行させたんだろうから」

 

 

 

「ええ、ウィルキアもフリッツ少尉や江田さんを護衛に入れてますからね」

 

 

 

異世界艦隊の軍事技術の高さは、昨今世界に対して求心力が低下しているブルーマーメイドにとっては喉から手が出るほど魅力的に違いない。

 

 

 

彼等の所属が名目上ブルーマーメイド預かりになっている事を大義名分として、彼等から強制的に技術を絞り取ろうと上層部が画策していてもおかしくは無いのだ。

 

 

 

故に、突如とした拘束に備えて対人戦にも秀でたメンバーを抜粋し、更には戦闘に備えて現場を指揮出来る者を艦へ残した。

 

 

 

それをブルマー組に強制しなかったのは、彼女達が反乱分子とされない為の措置であると同時に、ブルーマーメイドの援護なしでも我々は超兵器を打倒して世界の人々を救うと言う意思の現れでもあるのだが――

 

 

 

支援を断たれた彼等の行く末はほぼ決まりであろう。

 

 

 

 

明乃を含めた全員に重苦しい空気が流れるのであった。

 

 

 

 

   + + +

 

会議室には各代表者とブルーマーメイドの上層部数名がが集まっており、江田とフリッツはドアの外での待機である。

 

 

 

「さて……報告は日本支部を経由して入っては来ているが、如何せん断片的ね。あなた達がこの世界に来た経緯と超兵器に付いて説明して頂戴」

 

 

 

「解りました」

 

 

 

ガルトナーと群像は、自身の世界情勢と、世界の移動時の説明をし、博士は超兵器に関する説明を各艦が記録していた映像を交えて説明した。

 

 

 

 

 

「素晴らしい……」

 

 

 

 

上層部からは思わず溜め息と期待の声が上がると同時に、異世界組の面々の警戒心が上昇する。

 

 

彼女達の期待は超兵器を打倒しうる希望が生まれた事によるものなのか、それとも――

 

 

【超兵器や異世界艦隊の技術】を手中にして、失墜したブルーマーメイドの地位を確固たる物に出来る期待か――

 

 

 

後者であるなら、例え超兵器を打倒したとしても、将来に待つものは力ある者の支配のみなのである事は間違いない。

 

 

 

 

「……」

 

 

エドワードは、彼女達の表情や耳打ちまでもを粒さに観察して考察する。

 

 

 

やはりと言うべきか、彼が注視しているアスペルマイヤーは、他の上層部とは違い一切表情を動かさない。

 

 

そればかりか、たまにこちら側に視線を向けて表情や仕草を観察していたりもする。

 

 

 

 

(こちらの意図を探っているのか?宗谷室長といい、やりにくい事だ……)

 

 

 

 

エドワードが眉を潜めたと同時に博士の説明が終わり、照明が明るくなりかけた時、アスペルマイヤーが動いた。

 

 

 

(しまっ――!)

 

 

 

 

 

「経緯は理解した。一先ずは超兵器の話を抜きにして、諸君らが今後どうしたいかをお聞かせ願えないか?」

 

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

彼女の言葉に全員が目を丸くし、エドワードは内心で舌打ちをする。

 

 

 

ブルーマーメイドのトップたる程の人間が超兵器の危険性を理解していない訳では無いだろう。

 

 

 

だとするなら、議題の核心は必然的に異世界艦隊の身の振り方になる。

 

 

 

具体的に可能性は2つだ。

 

 

1つ目は、兵器技術の提供とその影響についてだろう。

 

 

超兵器を打倒するには、異世界艦隊だけではなく、ある一定の装備を備えたこの世界の艦艇にも協力を仰ぐ必要があった。

 

それらの兵装は即ち、打倒後の世界においては最強の兵器となりうる。

 

 

それを独占的にブルーマーメイドが持つ意味は大きい。

 

 

 

2つ目は異世界艦隊自身が仮に元の世界に帰還出来ないと仮定して、彼等の身柄をどうするかの案件だろう。

 

 

正直、強力な兵器も使いこなせなければ意味を成さない。

 

 

それらを熟知している彼等の存在は、ある意味世界各国の興味を引いている事は言うまでもない。

 

 

ブルーマーメイドは、彼等の知識ごと身柄を押さえて実権を握らなければならない訳だ。

 

 

 

 

 

話題についてはこんなものだろう。

 

しかしながらエドワードは焦りを抱いていた。

 

 

本来ならば、説明を終えた流れで彼がブルーマーメイドの立ち位置を問い、それに対するこちら側の意図を主張するつもりだった。

 

 

 

しかし――

 

 

 

「ご覧いただいた通り、超兵器の力は絶大です。さらに北極海の超兵器が起動すれば、そもそもこの星の生物は死滅するでしょう」

 

 

 

「……」

 

 

 

「我々の最優先事項は、全ての超兵器を打倒してこの世界の人民を存続させる事にあります。勿論、ご協力を頂くのに際してある程度の技術提供は致しましょう。ですが、それらの技術は防衛に特化していたとしても支配に特化したものではありませんし、不用意な改良を施されぬよう蒼き鋼と協力して開発を行っております。」

 

 

「………」

 

 

「尚、我々は断固として超兵器打倒後の世界へ駐留する事を良しとしてはおりません。我々をここに飛ばした技術が存在している以上、帰還の道もまた存在しうると考えられます。よって我々は超兵器打倒後の世界に関しては、何ら干渉するつもりはございません」

 

 

 

 

エドワードの言――

 

これは言わば、譲れぬ主張と言うものだ。

 

 

国家間交渉においても、まずは双方の明確な立場を明らかにするのは必定である。

 

 

だが知っての通り、アスペルマイヤーの第一声が¨異世界側の立場を明確にする質問¨であった。

 

 

 

交渉に際して、後手に回って相手の意見を受けつつ反撃するのは基本中の基本であるが、奇しくもアスペルマイヤーが奇襲的タイミングでこちらに立場の要求をした事で、相手に考える隙を与えてしまったのだ。

 

 

 

仮にだ――

 

 

 

ブルーマーメイド本部が異世界艦隊の戦力吸収による世界実権の掌握が目的だと仮定した場合、先のエドワードの主張は真っ向からこれに反する事になる。

 

 

引いては世界の海を守護し、軍拡競争を抑制してきた正義の組織に反抗する理由として全世界に認知されかねず、危険分子として身柄の拘束と兵器の奪取が現実味を帯びてしまい、結果としてブルーマーメイドがオーバーテクノロジーを用いて世界の実権を握る構図が完成してまうのだ。

 

 

 

また逆に、エドワードがブルーマーメイド側のその主張を先に引き出せていた場合。

 

 

ブルーマーメイドがある種、世界を支配しかねない構図にNoを突き付ける事で、こちら側の主張が正義を帯びてくる。

 

 

 

同じ台詞の後か先かでこの様に結果が変わってしまうのだ。

 

 

 

エドワードはその恐ろしさを外交を通して痛いほど理解していた。

 

 

 

 

していたと言うのに――

 

 

 

「………」

 

 

 

この世界にブルーマーメイド名目で活動している負い目とでも言うべきか、照明が切り替わるタイミングでの異世界側の発言は些か無作法と言えよう。

 

 

アスペルマイヤーはそれを見事に突いて見せたわけだ。

 

 

 

「異議を申し立てる様で申し訳ないが――」

 

 

 

(来た……)

 

 

 

アスペルマイヤーの周囲に座っている上層部が動いたのを見て、エドワードは身構える。

 

 

 

「この映像や被害現場を見聞する限りでは、防衛特化の兵装では些か不十分に思えるが?」

 

 

「そうです!蒼き鋼の――とまでは行かなくとも、やはりウィルキアの攻撃技術は必須事項と言わざるを得ない!」

 

 

 

「もしそれが超兵器からもたらされた技術の一端であるとするなら、超兵器技術に対する情報の開示も必須!」

 

 

 

「帰還の道への具体的な根拠を説明出来ない以上、彼等の存在は危険なのでは?」

 

 

 

「異世界からもたらされた技術や彼等の身柄は、ブルーマーメイドで占有し管理すべきでしょう!」

 

 

 

 

彼女達が口にする言葉に異世界の彼等だけでなく、ブルーマーメイドの面々も苦い表情を浮かべた。

 

 

 

交渉に於いては完全に敗北――

 

 

 

 

誰しもがそう思った。

 

 

 

 

「本部長!ご決断を!」

 

 

 

 

「そうね。では申し上げておくわ」

 

 

 

アスペルマイヤーは、一呼吸を置いてその鋭い眼差しをエドワードへと向ける。

 

 

 

「我々ブルーマーメイドは―――」

 

 

 

全員が固唾を飲むのが聞こえる程の静寂

 

 

 

 

「異世界艦隊を我らに受け入れ、超兵器討伐に全力を傾ける事とする」

 

 

 

「――!」

 

 

 

その場にいる全員が驚愕した。

 

 

 

「勿論、各国への体面上はブルーマーメイドに主権があることは説明しよう。だが、飽くまでそれは超兵器打倒と異世界艦隊の帰還までの話だ。我がブルーマーメイドは、過剰戦力となりうる技術の拡散は決して望まない。故に、超兵器の打倒と異世界艦隊への帰還をもって過剰な軍事技術の完全なる破棄を目指すものとする」

 

 

 

彼女の言葉は、異世界組の不安を払拭するのには十分であった。

 

 

 

つまり、彼等が帰還するまでのバックアップを全面的に得られる訳である。

 

 

しかし、上層部がその話を納得する訳などない。

 

 

 

 

「本部長!なにをっ!ブルーマーメイドが世界を抑制する絶好の好機なのですよ!?」

 

 

 

「超兵器無きあと、彼等の軍事技術は危険です!我らが彼等の身柄を含めて管理しなければなりません!」

 

 

 

 

エドワードの考えた通りに場は荒れた。

 

 

 

 

しかし、紛糾する上層部に反してアスペルマイヤーの表情は揺るがない。

 

 

 

 

「確かに帰還の件に関しては何ら確約も確証もない。だが、彼等とて人間だ。食わずしては生きられない。故に、仮に帰還が叶わなかったとしても、彼等の生活を保証する限り、彼等はブルーマーメイドの監視の下で武力を公使すること無く有続ける。他国への引き渡しや交戦するよりも現実的だ」

 

 

 

 

「しかしっ!」

 

 

 

「まだ納得が行かないと?現状をよく見て、代案が有るなら示して頂きたい」

 

 

 

「くっ――!」

 

 

 

有無を言わせぬ彼女に上層部達は歯噛みをする。

 

 

 

   + + +

 

 

 

「中は盛り上がっているようだな」

 

 

 

「その様ですね……」

 

 

 

外で待機しているフリッツと江田は、ガラス張りの窓から海を見つめていた。

 

 

 

「はぁ……それにしても暇なものだ。一刻を争う事態に纏まれないのはどの世界でも一緒だな。一服でもしたくなる」

 

 

 

フリッツが、タバコを取り出して口にくわえた。

 

 

 

「こ、コホン――!」

 

 

 

「ん?」

 

 

 

会議室の扉の前にいた二人のブルーマーメイド隊員が咳払いをする。

 

 

 

「チッ!禁煙ってやつか。いつ死ぬかも解らないのに健康に気を付けろとは笑えない冗談だ」

 

 

 

「仕方ありませんよ。この世界では平和が続いていました。長生きして人生を楽しむ為にそうなったのでしょうから。私には羨ましい限りです」

 

 

 

「そう言えば江田。お前はタバコを吸っていたが止めたのか?特攻隊の¨トクテン¨って奴だったんだろ?」

 

 

 

「あっ、いやぁ……タバコはやめてって言われてしまいまして……」

 

 

 

「これだから所帯持ちって奴は……」

 

 

 

「なっ!私達はまだ結婚は――!」

 

 

 

「まぁいい。それよりも¨例の件¨だが、日本のブルーマーメイドから連絡があった。今夜仕掛けるぞ」

 

 

「このタイミングでですか?」

 

 

 

「このタイミングだからだ。この話が纏まるか否かに関わらず、バルト海には早急に行かなきゃならないからな。憂いは残すべきじゃ無いとの司令の判断だ。勿論、お前のトコの艦長も了解している」

 

 

 

「そうですか。¨辛い結末¨になりそうですね……」

 

 

 

「やむを得んだろう。超兵器の次に危険なのは、味方の中に潜んでいる敵なのだからな」

 

 

「でも、やっぱりやりきれませんよ」

 

 

 

「そう言う所がまだお子様だなお前は――待て!」

 

 

フリッツの表情から一気に感情が消えたのを悟った江田は緊張の糸を再び張った。

 

 

 

左右に延びる廊下の先から複数のブルーマーメイドの隊員がこちらに向かってくる。

 

 

 

「やはり来たな……江田っ!大戦艦ヒュウガに至急合図を送れ!」

 

 

「解りました!」

 

 

「全く……後から上手く¨暴れた言い訳¨を考えてくれたら良いがな」

 

 

 

 

フリッツは苛立ちを込めた表情を浮かべて彼女達に相対した。

 

 

 

  + + +

 

 

アスペルマイヤーは話を早急に終わらせるつもりであった。

 

 

「あなた方に言い分が無ければ、これで会議を終了して異世界艦隊への物資補給を開始して――」

 

 

 

「いいえ本部長!いや¨元¨本部長!あなたの命には従えません!」

 

 

 

「どういう事かしら?」

 

 

 

「こう言う事です!」

 

 

 

アスペルマイヤーの額には銃口が向けられていた。

 

 

 

「説明を聞かせて貰いましょうか?」

 

 

 

「貴女は甘いのです!超絶なる兵器による抑止こそ世界の安定には必要。対話などと言う非確定的な要素などにいちいち振り回される心配もない!」

 

 

 

「本気で言っているの?」

 

 

 

「本気ですとも!貴女もご存知でしょう!?各国が既に超兵器の打倒でなく¨鹵獲¨に動いている事にっ!」

 

 

 

「なっ!」

 

 

 

異世界艦隊の面々に衝撃が走った。

 

 

 

「米中露の3国だけの話ではない。今や彼らに同調した国々がこぞって資金を調達して支援を行っている。軍備を増強する為にっ!本部長!綺麗事では最早済まされないのです!手を打たねば、世界に超兵器技術の拡散を許しかねないのですよ!?」

 

 

 

「成る程、それで手始めに異世界艦隊の技術を奪取し、バルト海に展開する総旗艦直衞艦を鹵獲、それを元手に北極海に向かうと言ったところね?確かに軍備を増強するよりかは現実味がある」

 

 

 

「そこまで解っていて何故!?」

 

 

 

「解らないの?あなた方は既に超兵器の術中にハマっているのだと」

 

 

「な、何をッ!」

 

 

「列強……つまり米露が我々同様に異世界艦隊との接触に積極的でない理由よ」

 

 

 

「まっ、まさかっ!」

 

 

「情報部によれば、米露の資金や物資の流れに不自然な所がある。そのどれもが超兵器が世界同時多発テロを行ってから。その意味は解るでしょう?彼らは異世界艦隊と超兵器の戦闘に目を取られている隙に超兵器技術の一部、若しくは¨超兵器その物を所持¨している可能性が高いと私は見ている」

 

 

 

「!!?」

 

 

 

その場にいる誰しもが驚愕すると同時に、シュルツはある種の確信と焦りを滲ませる。

 

 

 

(そうか、恐らくはハワイの後には超兵器から米国に何らかの接触があった。だから大西洋で接触して来なかったのかっ!だがそれよりも……)

 

 

 

彼の焦りの理由は勿論、技術の拡散である。

 

 

 

当所の読みでは、各国は戦力差が歴然とした超兵器相手に萎縮し、各国に留まるだろうと見ていた。

 

牽いては、異世界艦隊が超兵器を撃滅する事と彼等自身の技術を秘匿とする事で余計な超技術との接触を抑え、新たな戦闘の火種をも抑制しようと考えていた訳だが、彼等が既に超兵器を所持している可能性があるとなれば話は変わってくる。

 

 

 

確立され、脳に蓄積された理論は、データや紙媒体とは異なり削除や焼却は不可能であり、技術拡散を止めるのが困難であるからだ。

 

 

 

 

ギリッ!っとシュルツが歯を食い縛るなか、幹部の女性は錯乱したかのようにアスペルマイヤーへと食い下がる。

 

 

 

 

「解っていて何もしなかったのですか!?貴女はそれでも――」

 

 

 

「人魚よ」

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

彼女は淡々と言い放つ。

 

 

 

「私達は海の平和を護ること。武力で武力を押さえ付ける事ではないわ」

 

 

 

「何が違うと言うのです!?」

 

 

 

「現実に武力鎮圧を行えば、それは同時に武力大きさイコール支配と言う構図を証明してしまう事になるのよ。我々は最後まで、超兵器に劣っていてもそれに挑み、そして生き残らねばならないの」

 

 

 

 

「理想を並べて実現できる事じゃない!」

 

 

「では覆してみなさい!」

 

 

「!!?」

 

 

アスペルマイヤーは銃口に額を近付け、彼女を鋭い目で見詰めた。

 

 

 

「彼等がっ!異世界艦隊が常識を遥かに超える超兵器相手に立ち向かい!護り!勝利している事実を覆してみなさいと言っているのよっ!」

 

 

 

「くっ……!」

 

 

 

何も言い返せなかった。

 

 

 

現実に起き、観測してしまった事象を覆す事など出来はしない。

 

 

それは、アスペルマイヤーが言った通り、未来で武力鎮圧を強行した際に起きる世論の同行にも直結しうるものでもあった。

 

 

 

だが――

 

 

 

「もう、引けないのですよ。私は引き金に指をかけてしまった……だからっ!」

 

 

涙を浮かべながら決意の表情を浮かべる彼女に対し、アスペルマイヤーは視線をそらさぬまま口を開いた。

 

 

 

「異世界艦隊の諸君!………許可する!」

 

 

 

パァンッ!と乾いた音が部屋に響く。

 

 

「………!」

 

 

 

驚いた表情を見せたのは、発砲した側の女性幹部であった。

 

 

なぜなら、銃口から飛び出た銃弾は彼女の額の手前で空中に浮くかのように静止しているのだから。

 

 

 

そして、その要因は直ぐに見当がつく。

 

 

 

「異世界艦隊!貴様らっ!この様な事をしてっ!これはブルーマーメイド……いや、世界に対する重大なテロ行為だぞ!」

 

 

 

「何を言ってのですか?確かに私達は、ブルーマーメイドの長から¨許可する¨と言質を頂きました」

 

 

 

エドワードの返答に女性幹部が目を見開く。

 

 

 

 

「馬鹿なっ!そんな話は聞いていない!貴様らがでっち上げた狂言だろう!」

 

 

 

「いいや、私は異世界艦隊に世界を侵略しない事と、超兵器討伐への協力。そしてその自衛手段の供与とオーバーテクノロジー拡散の防止を確約した上で自衛の権限を与える約束をしていたのよ」

 

 

 

「なっ……!」

 

 

 

「勿論、真意は話を聞かねばならないとは思っていたのだけれど、超兵器技術拡散の可能性を知った彼らの反応、そして戦闘映像を包み隠さず報告した事を加味して許可を出したのよ」

 

 

 

これは嘘だ。

 

 

 

彼女が言った通り、その場限りの出任せに過ぎない。

 

 

 

しかしだ。

 

 

 

それを現実にしてしまう力を言葉が秘めている事を、この場にいる者は良く理解していた。

 

 

 

アスペルマイヤーが最後に放った台詞に繋げる為、【許可する】と言う漠然とした回答の中から、シュルツや群像、そしてエドワードが同様の答えを導きだして即座に実行に移す。

 

 

危害を加えず、飽くまでも自身の自衛行為と、指示母体であるブルーマーメイドの長を護るために、メンタルモデル達にクラインフィールドの展開を指示し、銃弾を止める。

 

 

 

そして、国家を持たない異世界の彼等が¨勝手¨に行った自衛行為を、あたかもアスペルマイヤーが異世界艦隊を¨世界の法律の範囲にいること認めて¨の許可で行ったかのような返答を切り返し、アスペルマイヤー自身がそれに後付けで理由を付け足した。

 

 

 

この一連のやり取りには数秒も掛かってはいない。

 

 

生死を決める判断を瞬時に下さねばならない状況におかれた彼等の経験と、海を護る為に他国間との話し合いを繰り返す内に磨かれたアスペルマイヤーの話術が生んだ軌跡とも言えよう。

 

 

 

だが、相手が簡単に引き下がるのであれば苦労は無い。

 

 

 

「まだだっ!これからここに制圧部隊が来――」

 

 

 

「いや、来ませんよ」

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

 

彼女が動揺したと同時に、会議室のドアが開け放たれ、江田とフリッツが入ってくる。

 

 

 

「フリッツ少尉、報告を」

 

 

 

「はっ!相手の銃器は大戦艦ヒュウガにより無力化。こちらは鏑木医務長より供与された小型麻酔銃により現場を制圧。死傷者有りません!」

 

 

 

「よしっ!」

 

 

 

シュルツは大きく頷き、アスペルマイヤーの方へ顔を向ける。

 

 

 

 

「ありがとう。感謝するわ」

 

 

 

「いえ、ご意向に従ったまでです」

 

 

 

その様なやり取りの中、女性幹部は床に膝を付いて項垂れていた。

 

 

 

「そんな……私はっ!」

 

 

 

「世界は今、恐らく貴女の様に考える事が最善だと思うのでしょうね。でも、諦めてはいけない。人間のような過ぎた力を持つ者は¨爪と牙を以て制する¨事を肯定してはいけないのよ。だから我々人魚がいる」

 

 

 

「…………」

 

 

 

「連れて行きなさい!彼女達の処遇は、バルト海での戦いの後に決定する!」

 

 

「!!?」

 

 

 

江田と共に入ってきた見張りの隊員に向かって放った言葉に、女性幹部は目を丸くした。

 

 

 

「何故です!何故直ぐに処分を下さないのですか!」

 

 

「今回の事が明るみに出たら、間違いなく世界の価値観は最悪の方向に変わる。だから、現状で貴女達を罪に問うことはない」

 

 

 

「ば、バカなっ!そんな甘い事で、世界を護れるとお思いですかっ!」

 

 

 

 

「思っていないわ」

 

 

 

「え?」

 

 

思わぬ答えに女性幹部の表情が固まる。

 

 

 

「最終的にどうすべきかを決定するのは人々自身よ。でもね、安易に気持ちのまま決定すれば最後の瞬間に必ず後悔する。私はそんなヒトの心を幾度となく見てきた。だからこそ、少しでも後悔の無い道を選ぶために私達は海を往くのよ」

 

 

 

「貴女は、まさかっ――!」

 

 

 

「ええ。私もバルト海へ行くわ」

 

 

 

「そんな!貴女自ら!?もし何かあれば――」

 

 

 

「その時が来れば……お願い。でも、もし私達に勝利があったなら信じなさい。崩壊を招く力を持たずとも護れると言う事を」

 

 

 

 

「………」

 

 

 

彼女は項垂れながら連行されていった。

 

 

 

 

 

 

 

「さて……」

 

 

 

アスペルマイヤーは、一同に身体を向ける。

 

 

 

「今後の方針を決めましょうか」

 

 

 

「そうですね。ではブルーマーメイド連合が所有している最新のバルト海の情報を提供していただけますか?」

 

 

 

「そうね……」

 

 

エドワードからの言葉に1つ間を置いた彼女はモニターに情報を写した。

 

 

 

「これは……」

 

 

 

モニターに写し出された光景にウィルキア陣営の表情が一気に曇る。

 

 

 

「超兵器カテゴリーA【超巨大水上要塞ヘル・アーチェ】まさかここに居たとは……」

 

 

 

「やはりそうなのね?形状が大部異なるから違うと思ったのだけれど……これは数日前に突如現れたのよ。あなた方から詳細を説明して頂けるかしら?」

 

 

 

「解りました。博士!」

 

 

 

「はい、此方をご覧ください」

 

 

 

モニターがヘル・アーチェに関する画面へと切り替わる。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

超兵器水上要塞ヘル・アーチェ

 

 

全高500mに達するレーザー主砲塔を海上油田施設に偽装した航空甲板支柱4基によって囲んだ海上要塞である。

 

 

防御

 

対象超兵器の超兵器機関出力は主に防御に割り振られており、強力な防御重力場を展開している為、この防御を突破する事が勝機に繋がる。

 

 

 

兵装

 

航空甲板からの大量の航空機

 

各種AGS多数

 

多目的ミサイル発射機多数

 

太陽光凝集砲

 

 

補助兵装

 

防御重力場

 

下降気流発生装置

 

浮遊式太陽光偏光鏡

 

 

備考

 

太陽光凝集砲は本体より射出される鏡によってレーザー主砲ヘッドの後頭部に集められ、エネルギーの一定量蓄積を以て発射される。

 

 

多角回頭によって太陽光凝集砲には死角は存在しない。

 

 

鏡が無くとも主砲発射は可能であるが、エネルギーチャージに時間を要する。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

一通り説明を聞いたアスペルマイヤーは視線を博士へと向ける。

 

 

 

「ふむ、詳細は把握したわ。この超兵器は性質上¨日中のみ¨の運用になっているわね。それと我々ブルーマーメイドが運用している海上要塞艦とは違って動けない。そこが弱点なのでしょう?」

 

 

 

「仰る通りです。夜襲をかけるのであれば、相手は巨大な的でしかないのですが、今回は少し話が違うようですね」

 

 

 

「やはり形状が変わっているのが関係しているのかしら?」

 

 

「はい」

 

 

 

実の所、ヘル・アーチェ本体の形は変わってはいない。

 

 

イメージし易い形状を例えるなら、扇風機であろう。

 

 

塔の部分は縦のメイシャフト、そして先端には送風装置の代わりに、あらゆる角度に回頭可能な円筒状の太陽光凝集装置と巨大なレーザー発射口が一体になった物が乗っている。

 

 

 

その頭がちな形状故に、倒伏を防ぐ事と防御重力場を発生させて耐久性を上昇させる意味合いで四方に航空甲板を備えた補助支柱が存在してるのだが、今回はこの部分に変更があった訳だ。

 

 

 

かつてシュルツがサハリンの北方にて対峙した際には、支柱は露出しており、それらを死守する為の帝国艦隊が多数存在していた。

 

 

 

だが今回は、巨大な航空甲板から下に、恐らく海底まで延びているであろうドーム状の障壁が覆っており、直接的に支柱を叩く事が困難になっている。

 

 

しかも最悪な事に――

 

 

 

「テュランヌスはこの¨ドームの中¨に隠れている。これでは直接攻撃を与えるのは難しいでしょう。ここに敵航空戦力が加わるとなると……」

 

 

 

「厄介ね」

 

 

「待ってください!」

 

 

「どうしたの?岬明乃はれかぜ艦長」

 

 

アスペルマイヤーの鋭い視線が明乃に向けられ、彼女は少し気圧されながらも口を開く。

 

 

 

「は、はい!相手の旗艦も要塞も動けないのであれば、超重力砲を直接撃ち込めば良いのではと――」

 

 

 

「不可能では無いでしょうが、難しいでしょう」

 

 

「千早艦長……」

 

 

 

群像は明乃に向かって頷く。

 

 

 

 

「敵は重力兵器によって超重力砲を相殺出来る事を既に見抜いている。勿論、発射の際に生じる隙についても」

 

 

 

「あ………」

 

 

 

「お分かり頂けたと思いますが、航空戦力主体の相手――しかも、重力兵器が搭載可能な兵器が投入されていた場合は迂闊には使用できません」

 

 

 

「そうですか……」

 

 

落ち込む明乃をよそに、真霜は6年前の海賊による【海上要塞奪取事件】の事を思い返していた。

 

 

海上にて物資の強奪や違法な取引にて金を巻き上げていた海賊連合が、廃棄予定であったブルーマーメイドの海上要塞艦と食料危機打開の名目で海上でもある程度の農耕を可能にした海上プラントを奪取した事件である。

 

 

 

国家を相手に襲撃を企てた海賊は、洋上に拠点を構築すべく、要塞能力と食料の自活能力を合わせ持たせる為に計画したテロであったが、当時の明乃達学生とブルーマーメイドの連携によって鎮圧された。

 

 

 

しかし、要塞攻略は容易ではなく大和型4隻の主砲をもってしても陥落には至らず、結果として小型艇の出入口を大和型の主砲で破壊して穴を開け、2代目晴風が内部に侵入して破壊工作を行う作戦にて事態を打開した訳だ。

 

 

 

そこで真霜は気付いた。

 

 

 

「超兵器が内部にいると言う事は、¨超兵器用の出入口¨が存在している事でもあるんじゃないかしら?そこを叩けば――」

 

 

 

「確かに……装甲が薄い可能性は有り得ます。内部に侵入すれば、巨体を持つ超兵器は身動きが取れない」

 

 

 

「死角の無いレーザー主砲も、旗艦に向けては撃たないと筈。これなら――」

 

 

 

「楽観は早いですよ」

 

 

 

シュルツの言葉に、場が静まり返る。

 

 

 

 

「艦隊旗艦であるテュランヌスは、3隻の総旗艦直衛艦の内兵器が最も貧弱です。搭載兵器の種を見ても、我々が今まで戦った艦艇の中にも強力だった者いる。では、なぜ奴が総旗艦を守護する3隻に加わっているのか」

 

 

 

 

「航空戦力ですね」

 

 

 

――ええ

 

 

 

明乃の言葉にシュルツは頷く。

 

 

 

「暴君を意味する名前とは裏腹に、指揮能力は非常に高く、航空機も最新鋭の者が多い、加えてその巨大さ故に、¨航空機型超兵器¨を格納している可能性もある」

 

 

 

 

「成る程、空を埋め尽くす航空機と航空機型超兵器、当の旗艦は指揮に徹して城塞の中、まさに王と言う訳ね。それで?私達ブルーマーメイドに勝機はあるのかしら?」

 

 

 

アスペルマイヤーの問いに博士が前へ進み出る。

 

 

 

 

 

「これ等の情報などから、現状のブルーマーメイドに城塞突破は不可能でしょう。ですから欧州のブルーマーメイド艦隊には敵航空機の排除を優先して頂きます。その為には、兵装の一部変更作業および、回避能力向上の改装を時間の許す限り行います」

 

 

 

「とても現実的とは思えないわね。キールにあなた方が来た以上、敵も待ってはくれないわよ?」

 

 

 

「お任せ下さい」

 

 

 

「ガルトナー司令……」

 

 

 

ガルトナーにはこの疑問が来る事は想定済みだったらしい。

 

最も、異世界艦隊のみでの戦闘には限りがある以上、いずれはこの世界の艦艇にテコ入れをせざるを得なかった。

 

 

故に、日本を出発後からスキズブラズニルのドックをヒュウガの協力によって改装を施し、最低限の装備を高速で装着出来る様にしていたのだ。

 

 

 

「スキズブラズニルの全ての区画を解放しますので、即時ブルーマーメイド艦隊を受け入れられます」

 

 

 

「解ったわ。詳しい説明は更に詰めて行くとして、早速取り掛かって頂戴。改装が終了した艦艇から習熟運転を開始します」

 

 

 

――了解!

 

 

 

一同は一斉に動き始めた。

 

 

 

欧州解放に向けた動きが一気に加速して行く。

 

 

   + + +

 

 

その夕刻

 

 

スキズブラズニルで改装作業が急ピッチで進む中、ブリーフィングルームでは険しい表情のシュルツと一人の男が向かい合う。

 

 

 

「水戸殿。今夜なのですね?」

 

 

 

水戸と言われたシュルツと差ほど歳も代わらない紺色のスーツを着た東洋風の優男の人物は、淡々とした表情で口を開く。

 

 

 

「ええ、佐々井君とハイネマン君の事前調査と、横浜海洋学校長 宗谷真雪女史と宗谷真霜女史の通信を傍受し、大戦艦ヒュウガにブルーマーメイドの機密情報を調査を依頼した結果を踏まえ、バルト海での戦いの前に憂いを払いたいであろうガルトナー司令の意図を組んで決意致しました」

 

 

 

「しかし私は、騒ぎや混乱は望んではいませんよ」

 

 

 

厳しい表情のシュルツにたいしても、水戸は動じない。

 

 

 

 

「ご心配には及びません。欧州ブルーマーメイドはレイガナーズを中心に習熟運転と改装に気を取られており、はれかぜ 月黄泉 グラーフツェッペリン 401は海上にて見張りの任についております。シュルツ艦長には所定の時間にフンディンを率いてはれかぜに接近して頂きたい」

 

 

 

「………」

 

 

 

「何かご不満がおありですか?」

 

 

「岬艦長が心配です。彼女はソレを何より恐れている……賭けの要素が多い作戦を承認するわけには行きません」

 

 

 

「許可は降りています。司令と宗谷室長の命を否定なさるおつもりか?」

 

 

 

「くっ――!」

 

 

 

「………」

 

 

水戸は初めて会話に間を開けた。

 

 

 

「シュルツ艦長。これが我々軍属の運命です。大義の為にご決断下さい」

 

 

 

「【大義】?あなたの最も嫌いな言葉でしょう?本心を語ってください!水戸 吉鷹(みと よしたか)¨大日本帝国陸軍 中将¨」

 

 

 

 

 

「 ¨元¨中将ですよシュルツ艦長。でもそうですね。私にしてはらしくはない……」

 

 

 

水戸は表情を崩し、少し困った様に笑うと、ポケットからタバコを取り出して火を付けた。

 

 

 

「ここは禁煙ですよ」

 

 

「まぁ、よいでは有りませんか。携帯灰皿持っていますし、それより……」

 

 

彼は一度会話に間を置くように深く煙を吸い込み、目を細めて吐き出す。

 

 

 

 

「そうですね、今回は不確定要素が多い、緻密な調査と部下の¨口達¨によって分析と作戦立案を行う私としては些かお粗末でしょう。ただ……」

 

 

「ただ?」

 

 

「ただ一連の超兵器の事案は新たな段階に入りつつあります。最早、人間が予想しうる事象を超越しています。でも賭けてみたくなったのです」

 

 

 

「何をかけるのです?」

 

 

 

「ヒト種が微々に残した¨人間性¨ですよ。大戦艦ハルナが好きそうな言葉を借りるなら……【絆】でしょうかね」

 

 

 

「絆、ですか……。本当に成功しますか?」

 

 

 

「【信じてくれ】としか言えないのは嘘ではありません」

 

 

 

「そうですか……中将、タバコを一本頂けますか?」

 

 

 

「お止めになったのでは?」

 

 

「ええ。でももし作戦を成功させる事ができたなら、絆の力が証明出来たのならその時は……」

 

 

 

「ご協力頂けると受け取ります」

 

 

 

「はい」

 

 

 

タバコを一本受け取ったシュルツはブリーフィングルームの窓から見えるはれかぜを見つめた。

 

 

 

 

(どうか、どうか無事に明日を……いや、今は言うまい)

 

 

 

キールの夜は慌ただしく、しかし静かにふけていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お付き合いありがとうございます

この話を作るのになぜか苦戦しました。


やっぱり時事ネタとか社会情勢を突っ込んで行くスタンスは難解だと改めて思いました。


因みに、江田が未成年で煙草を吸ったり煙草に関する内容が複数出てきましたが、あくまでシュルツ達の時代はWW2時代なので、煙草はかなり高級な嗜好品だという事と受け取って頂ければ幸いです。

特に特攻隊出身の江田でありますが、史実にて特攻隊のメリットとして、軍隊なのに髪が伸ばせて、女性にモテて、煙草が吸えることだったらしいです。

だだ、大戦末期はそんなメリットなど消し飛ぶくらい若い方々は、この世と別れなければならない不安に駆られ、それを名誉だと刷り込まれて散って逝きました。



フリッツのこんな時に健康かよと言うセリフと、大切な人とずっと居たいから煙草を辞めたんだろうと推察される江田の心境の変化なども時代背景やストーリーと絡めて楽しんで頂けたなら幸いです
































とらふり!


明乃
『シロちゃああん!』

真白
『岬……さん!』



もえか
「あれ?何で劇場版のラストシーンを見ているの?」


真白
「な、知名さん!?そ、それは2章の後半なのに、最近艦長の出番が少ないなと思って……それで」



もえか
「ふぅん……」


真白
「なんでそんなに睨むんだ!あっ、さては妬んでいるな?私と艦長が劇場版でベッドシーンと抱擁をした事が妬ましいんだな!?そう!私は艦の母、艦長が父!私達は夫婦も同然だ!あなたは確か艦のお姉さんだったか?小姑だ!夫婦の間に小姑とは野暮だぞ!」



もえか
「………」


真白
「どうした?や、やめろプレーヤーからディスクを抜くんじゃない!ん?別なディスクを……まさか!」




明乃
『モカちゃああん!』

もえか
『ミケちゃん!』

明乃
『本当にモカちゃんだ……』

もえか
『無茶するんだから……』



もえか
「フフッ……」


真白
「やめろぉおお!最終回のシーンを流すのはやめろぉおお!見たくない!夫が他の女に寝取られるシーンなんて見たくない!」



もえか
「あぁもう、ミケちゃんはいつまで経っても甘えん坊さんなんだから、こうして甘えさせてあげるのも【本妻】の勤めだよ宗谷さん」



真白
「ぐぅ……」



もえか&真白
「……」


真白
「不毛だ」

もえか
「不毛ね」



真白
「はぁ……本格的なバトル回になる前に艦長成分を補給しますか?」


もえか
「賛成よ。じゃあミケちゃんの部屋に行っちゃいましょう」




ガチャン!




真白
「艦長いらっしゃいますか?じじっ、実は不安なので今日は一緒に、ねねっ寝ましょうかなと――」


もえか
「ミ、ミケちゃん!きっと色んな事で不安だよね。昔みたいに一緒に寝よ――」




キリクマ
「ん?なんだ?」



真白&もえか
「………」



キリシマ
「ち、違うんだ!ミカンにアケノは甘いものが好きだから部屋に行けば一杯お菓子が食べられると聞いて来たわけでは――」



真白&もえか
「ガルルル……!」



キリシマ
「や、や、やめろぉおお!!」



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凶劇公演 演目【はれかぜ流血芝居】主演は――

キール編の続きをご覧頂きます


それではどうぞ


   + + +

 

会議が終了したその夜

 

 

はれかぜクルーは洋上にて見張りを行っていた。

 

 

 

 

「艦長。如何でしたか?」

 

 

 

「うん。厳しい戦いになりそうだね」

 

 

 

 

彼女の表情は優れなかった。

 

 

 

 

6年前に発生した海上要塞奪取事件とは意味も規模も余りに違うのだ。不安に思うのも無理はない。

 

 

 

 

「大丈夫ですよ」

 

 

 

 

「シロちゃん?」

 

 

 

真白が明乃へと歩み寄る。

 

 

 

 

「仲間が――いえ、家族がいますから」

 

 

 

「そうだよ艦長!皆を信じて撃って撃って撃ちまくっちゃえば、ドドーンと解決だよ!ねぇタマ!」

 

 

 

「うぃ!腕の見せどころ……!」

 

 

 

「ここっ、怖くて逃げ出したいけど、皆といればへっちゃらだよね!」

 

 

 

「女にゃ、行かねばならん時ってのがある!!仲間がいりゃ百人力じゃけん!儂ゃあつくづくそう思うけんのぅ!」

 

 

 

「皆……ありがとう」

 

 

 

明乃が笑顔を見せた時、艦橋の扉が勢い良く開いた。

 

 

 

「やぁアケノ!遊びに来たぞ!」

 

 

「ミーちゃん!?いいの勝手に来ちゃって」

 

 

 

「良いんじゃ!ヴィルヘルムスハーフェンからこっち、訓練ずくめで皆と話す時間も持てなかったからのぅ。どうじゃ?久しぶりにゆっくり話さんか?」

 

 

 

「おいおい……仮にも任務中なんだぞ?」

 

 

「相変わらずカタいのうマシロは……同部屋だった仲じゃろう?フフッ、そうじゃ!マシロが良く寝言で言っていた事が有るんじゃが、確かアケノが――」

 

 

 

「わぁー!やめろ!解った!許す、許すから!」

 

 

 

「シロちゃん、私がどうしたの?」

 

 

「い、いえっ!何もっ私は何も言ってませんから〃〃」

 

 

 

顔を真っ赤にして頬を膨らませる真白に一同から笑顔が溢れた。

 

 

 

 

「ところでミーちゃん。どうやってはれかぜに来たんですか?確かグラーフツェッペリンは401の向こうに居ましたよね?」

 

 

 

 

幸子の問いに、ミーナは少し興奮ぎみになる。

 

 

 

「あっ、それはのう。甲板を歩いていたら、401の……そう!ハルナじゃ!ハルナさんがおったから、はれかぜに連れて行ってくれと声をかけたら承諾してくれてのぅ!」

 

 

 

「え?ハルナさんが?珍しいですね。もっとドライな方と思っていましたが……」

 

 

 

「この間ミーちゃんがブルストを食べさせてあげたからじゃない?蒔絵ちゃんと良く遊んでいるのを見かけるし、ああ見えて凄く面倒見の良い人だよ」

 

 

 

 

「うむ!儂を抱えてひとっ飛びじゃったのう!ああいう経験は儂も初めてじゃった!」

 

 

 

「ハルナさんはその後どうしたの?折角だから来れば良かったのに」

 

 

 

「儂もそう言ったのじゃが、私にはやる事があると言って断られてしもうた。残念じゃのう……しかし、401に帰った様子も無かったのじゃが、何かしていたのか――」

 

 

 

ピピッ!

 

 

「あっ、ちょっと待って通信が来たみたい」

 

 

 

通信が入る音がして、明乃は会話を遮断した。

 

 

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

月黄泉の艦橋にて、平賀は真冬へと歩み寄る。

 

 

「上機嫌ですね真冬艦長」

 

 

 

「まぁな。弁天を降りちまったのは残念なんだが、こいつはこいつで根性のある奴みたいだ。まるで自分の手足みたいに動きやがる。でもってダイナミックな兵装に、少しじゃじゃ馬な機関。なんか俺にピッタリじゃねぇか!」

 

 

「嬉しいんですね」

 

 

 

「あ?何がだ?」

 

 

 

「ずっと、足手まといは嫌だと言ってましたから……」

 

 

「いや、おまっ――!違う!」

 

 

 

否定はしきれなかった。

 

 

いかに完璧な指揮と操縦が出来たとしても、超兵器と現在の戦力では開きがあった事は隠しようも無く、特に弁天クルーは地中海での戦いでそれを痛感していたからだ。

 

 

 

これで漸く、皆と並んで戦える!護ってゆける!

 

 

 

そう思うだけで、真冬の心は少し楽になった。

 

2度と目の前で誰かが無惨に死ぬのを指を加えて見る事は無いのだからと

 

 

 

「隠しても解りますよ」

 

 

 

「チッ!ほっとけ!」

 

 

真冬は少しふて腐れた様に俯く。

 

 

 

「ん?なんだありゃ」

 

 

「暗くて良く見えませんね……ただ、ウィルキアの補給艦フンディンだとは思いますが」

 

 

「おい、いちおう強制接舷の準備と制圧班の組織を急げ」

 

 

「え、えぇ!?どうしたんです急に」

 

 

 

「静かすぎる。エンジンを切って惰性で接近した証拠だ。それに探照灯も消してやがる。はれかぜの探照灯の合間を縫って進んで来たのか?どちらにしても、これはブルーマーメイドが海賊に夜襲制圧をかける時に使う手口と似てる!急げっ!もしかすると先行部隊は乗船しているかもしれん!」

 

 

「は、はい!」

 

 

真冬の怒号に、平賀は慌てて指示を飛ばし始めた。

 

 

 

(あいつらは一体なにを考えてやがるっ!)

 

 

 

 

   + + +

 

『此方は補給艦フンディンです。至急はれかぜに接舷を要求します』

 

 

 

「シュルツ艦長?」

 

 

『艦長、フンディンが此方に接近してきます!ただ……』

 

 

「野間さんどうしたの?」

 

 

『フンディンは全ての灯りを消しています!砲も此方に……あ゛っ!』

 

 

 

「野間さん!?どうしたの!?野間さん!」

 

 

 

『岬艦長、これよりフンディンは内通者が判明した為、身柄を拘束する措置に入ります。どうか落ち着いて聞いてください』

 

 

「え――?」

 

 

 

明乃だけではない、その場にいる一同全てが言葉の意味を理解できていなかった。

 

 

 

「どう言う事ですか!?内通者って……まさか私達の中に!?何かの間違いです!」

 

 

 

『残念ながら本当です。出来れば此方としても無傷で捕らえたい。ご協力願えますか?』

 

 

 

 

 

ここまでの一連の会話とフンディンの不審な動き、マチコとの音信が途絶した事が明乃の中でグルグルと回り始めている。

 

 

 

そして――

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

「ん?な、なんじゃ?急に儂など見て」

 

 

 

彼女達のやり取りに一同の視線がミーナへと向けられる。

 

 

 

 

「な、何なのじゃ!?先程から何を言っておるのか知らんが私は何も関係無いぞ!?」

 

 

 

「違う!ミーちゃんじゃない!多分野間さんはハルナさんに何かを――」

 

 

 

「!」

 

 

 

真白も明乃と同じ考えに至っていた。

 

 

 

ヴィルヘルムスハーフェンから加わって間もなく、一度食事をしただけの関係のミーナをハルナが此方に連れて来ると言う状況がそもそも不自然なのだ。

 

 

そしてフンディンの不審な動きは、敵艦船の制圧のカリキュラムに酷似している事から、向こうがはれかぜを制圧しようとしている事は明らかだった。

 

 

 

 

「待ってください!私達の中に内通者がいるなんて信じられません!事情を――事情を聞かせて下さい!でなければ接舷は認められません!」

 

 

 

 

 

「ねぇ艦長!どう言う事!?私達どうなっちゃうの?」

 

 

 

「こ、こわいよぅ……」

 

 

 

一同に同様が広がっていた。

 

 

勿論、通信が筒抜けのはれかぜ艦内全ての者がだ。

 

 

 

「内通者だってぃ?!なにフザけた事抜かしてやがんでぃ!」

 

 

 

「マッチは!?マッチはどうなっちゃったの!?」

 

 

 

「バッキューンとピンチかも……」

 

 

 

「そもそも何を根拠に内通者と言ってるんスかね……」

 

 

「特定の誰かって事?」

 

 

「もしかして私達はれかぜクルー全員を疑ってるとか?」

 

 

 

艦内は不安に覆われた。

 

明乃は混乱する心を必死に抑えながらも、RATtウイルス事件で晴風クラスが冤罪をかけられて追われる身となった事件を嫌でも思い出してしまう。

 

 

 

 

(私達は何もしていない!信じているから、だからっ!)

 

 

 

明乃は意を決してシュルツに乗船拒否を伝えようとした時――

 

 

 

『ご協力頂けないなら、言い方を替えた方が良いかもしれません。速やかに投降してください。はれかぜ記録員――』

 

 

 

 

 

一同の視線が集まった先に居たのは――

 

 

 

 

『納沙幸子さん』

 

 

 

 

 

 

「――!」

 

 

 

 

幸子は目を大きく見開いた。

 

 

 

「そんなココちゃんが内通者!?」

 

 

 

「じょ、冗談だよね?」

 

 

「当たり前だろ!納沙さんがいつ超兵器と通じてたと言うんだ!?辻褄が合わないぞ!」

 

 

 

同様が広がるはれかぜクルーを尻目にシュルツは淡々と続ける。

 

 

 

 

『あなたは過去にハッカーとしての経歴をお持ちですね?確かemptyと言う名前でしたか、あなたは6年前、横須賀女子海洋学校の入試試験において点数を不正操作し、現在のはれかぜクルーを落ちこぼれ艦と言われた晴風に配属するよう操作していた』

 

 

 

 

「え?」

 

 

 

 

愕然とするより他は無かった一同は、必然的にシュルツの言葉に耳を傾けざるを得ない。

 

 

 

『皆さんの経歴は見せて貰っています。不自然だったのです。個々人の能力だけ見れば、多少の学力の差異を無視したとしても、技術力は学生の域を既に脱していた。にも関わらず、なぜ晴風所属となったのか――』

 

 

「そんな!確かにみんなは頑張ってくれましたけど、それとこれとは別――」

 

 

 

『別ではありません。海上要塞奪取事件当初は、学園祭が開かれて居たようですね。そこでのシュミレーション模擬戦において、大和型の艦長達を差し置いて入学して数ヵ月の岬艦長と宗谷副長が決勝まで進んだ事を不自然には思いませんでしたか?』

 

 

「それは……」

 

 

『RATtウイルスの様な事件や海上要塞奪取事件は、本来学生が関わる事案では無いのです。なのに何故、あなた方はいつも事件の中心で矢面に立たされて居たのか疑問を持たなかったのですか?』

 

 

「………」

 

 

『我々は通信記録から、日本政府のある要人が納沙さんと接触した記録を入手しています。その方はいわゆるタカ派と呼ばれる部類で、日本に軍を持たせる事に執着していた。その為にはブルーマーメイドと言う存在は邪魔だった訳です』

 

 

 

「私達の評価を過小にする意味と、クラスをひと纏めにして監視し易くしていた?」

 

 

 

『ご明察です。犯罪履歴の抹消を餌に取引を飲んだのでしょう。だが結局の所、あなた方の存在が邪魔になった政府要人は、RATtウイルス事件とその後発生したブルーマーメイドの汚点とも言うべき海上要塞奪取事件にて学生艦……取り分けあなた方を実戦投入するよう圧力をかけたのです。もしかすると知名艦長も標的であった可能性もありますが』

 

 

 

「待ってください!私達より前にだって優秀な方は居ました。何故、私達だけ操作が成されたんですか?」

 

 

 

『貴女の存在ですよ岬艦長』

 

 

 

「私?」

 

 

『貴女はご自分が、国の【指定監察対象】に指定されている事は存じている筈です』

 

 

 

「………」

 

 

 

指定監察対象とは、政府が機密や特定技能を持つ人物によって国家が¨甚大な打撃を被る¨と認定した人物の一部自由を憲法の例外として制限する法案である。

 

 

 

具体的には、その者が有する国籍の根幹を剥奪し、憲法の定める権利の対象から除外すると言うものだ。

 

 

明乃の名目上の国籍は日本であるが、国の有する中央サーバーとは別にスタンドアローンのサーバーが存在し、照会をかけた場合は国籍不明となった情報が表示されるのである。

 

 

 

故に彼女は、勤務によって洋上に出ているなどの例外を除いて、国の監察官と定期的に面会を受けなければならず、拒否した場合は国外への機密流出や国家への破壊行動と見なされ拘束を受けるのだ。

 

 

シュルツは、こうした明乃の事情を鑑み、政府内部の人間が、取り分け優秀な晴風クルーに明乃の特別な力や、政府に不都合な技術を修得して行く事が目障りだったのだと推察したのだった。

 

 

だがシュルツが問題視しているのは明乃の過去ではないだろうと彼女自身は思った。

 

 

重要なのは、幸子が晴風クルーの情報を集める段階で、¨明乃の秘密に触れていた¨かどうかなのである。

 

 

 

 

最も、現段階でシュルツの言葉が全て真実である確証もないのも事実なのだ。

 

 

故に、明乃の次の切り返しは当然の如くこうなのである。

 

 

 

「話をすり替えないで下さい!確かに私は――ううん、私達は学校で出会う前の皆の過去を完璧に把握している訳では有りません。ただ、過去と今回の超兵器の件とは切り離して考えるべきです!バルト海での戦いに向けて憂いを払いたい気持ちは解ります。でも、私はココちゃんが超兵器と内通していたなんて信じられません!」

 

 

 

 

「艦長……」

 

 

 

真白は、明乃の艦長として毅然とした態度に感銘受けていた。

 

 

もしこれが自分の立場であったなら、話に流されて疑い持ってしまったかもしれないと――

 

 

 

艦船といった閉鎖的な空間の中で、疑心は感染症のように伝播し、孤独を撒き散らす。

 

 

 

故に明乃は、シュルツとの会話に殆ど間を開けていなかった。

 

 

会話で発生する一定リズムを崩した方が、一挙に追い込まれると知っているからである。

 

 

 

ここで最も重要なのは、それを断ち切らない事であるのだが、明乃は内心焦っていた。

 

 

 

相手に合わせて高速で思考を回転し、言葉を紡いで返すのは明乃にとっては些末な事だろう。

 

 

 

だが、乗組員全員がそうではないのだ。

 

 

 

飽くまで明乃と話すよう見せ掛けて幸子を標的にした会話は、着実に本人を混乱と不安に陥れる。

 

 

彼女は言葉の防戦を展開して、回りにいるメンバーが不用意なアクションを取らないように努めなければならなかったのだ。

 

 

 

だが、度重なる戦闘で疲弊しきった幸子の精神は明乃の予想よりも早く限界に達してしまった。

 

 

 

 

「ごめんなさい……」

 

 

「ココちゃん!ダメ!」

 

 

「でも私……私……」

 

 

 

『認めるんですね?』

 

 

 

「めぐちゃん!早く通信を切っ――!」

 

 

『切っても無駄です。量子通信がありますので』

 

 

「くっ――!」

 

 

「ねぇココちゃん、ごめんなさいって一体どういうこと?」

 

 

「メイちゃん!それ以上は――」

 

 

『通信遮断を命じたと言う事は、内定者の隠匿と解釈されますよ』

 

 

 

「待ってください!少し話を――」

 

 

『調査に対する明確な拒否と受けとりました。我々はこれよりはれかぜに強制接舷を敢行し、状況を制圧します』

 

 

 

「シュルツ艦長!」

 

 

『抵抗はしないで下さい。我々はブルーマーメイド連合本部より銃の携帯並びに砲撃の許可を頂いています。抵抗すれば射殺や撃沈もやむ無しと』

 

 

 

 

「艦長!フンディンが此方に探昭灯を照射!」

 

 

『401のエンジンが始動しましたわ!まさか401も私達を?』

 

 

 

「マロンちゃん機関始動!防壁を展開、乗船を阻止し――」

 

 

『遅いですよ』

 

 

 

ガゴン!

 

 

「あぁっ!」

 

 

激しい振動がはれかぜを襲った。

 

 

「み、みんな大丈夫!?ココちゃんも――ココちゃん?」

 

 

 

気が付いた時には、既に幸子の姿は無かった。

 

 

しまった……

 

 

彼女は心の中で歯噛みしながらも、伝声管まで走って声を張る

 

 

「みんな、ココちゃんを保護して!このままじゃ――!」

 

 

 

『任せろってんでぃ!』

 

『私も向かいますわ!』

 

 

事態は一気に動き出す。

 

 

 

 

「アケノ、儂らも行こう!今のココは不安定じゃ!向こうの出方も解らぬまま一人には出来ん!」

 

 

 

一同は頷くと一斉に艦橋から飛び出した。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「どうしよう。私…皆に迷惑かけちゃった」

 

 

 

 

幸子は艦内を走っていた。

 

 

 

目には涙を一杯に溜めて、溢れ出す罪悪感で押し潰されそうになりながらも、それでも走った。

 

 

 

自らを差し出せば、最悪他の皆は無事かもしれないと思ったのであろう。

 

 

 

「は、早く。早く甲板に――」

 

 

「見つけた!」

 

 

「――っ!」

 

 

目の前に現れたのは麻侖と機関部の面々であった。

 

 

 

「何があったか知らねぇが、こんなフザけた話はねぇよ!安心しな!このマロンちゃんがどぉーんと守ってやらぁ!」

 

 

「そうよ納沙さん。あなたが気にすること無いじゃない」

 

 

「今日は皆で立て籠りパーティーだね!」

 

 

緊迫した状況であるにもかかわらず、一同は笑顔であった。

 

だが、今はそれすらも幸子を追い詰めていたのだ。

 

 

 

幼い頃より引っ込み思案で友人が少なかった彼女とって、パソコンは唯一の友と言うべきものであった。

 

 

両親にねだって買って貰った本の知識を、難しい字や用語を1つずつ調べてパソコンと向き合い、気付けば大人顔負けの技術を修得した。

 

 

 

だがそれは、彼女の孤独を一層推し進めてしまう事になる。

 

 

 

中学校に通い始めて数カ月後。

 

 

 

彼女は学校の生徒達の間で使われている裏アカウントの噂を聞き、それを突き止めた。

 

 

 

彼女にとって素人の造ったパスワードを突破するなど造作もなく、そこで彼女は友人達が自分に対して心ない言葉を残した文章を発見してショックを受けてしまうのだった。

 

 

 

だが、ここで彼女が小学校時代に教師の言った言葉が浮かんできたのだった。

 

 

 

【人の気持ちを解ってあげる人になりましょう。自分がされて嫌だと思う事はしてはいけませんよ】

 

 

 

幸子は思った。

 

 

裏アカウントを公表すれば、みんな悪口言われるのは嫌な筈だから、きっと言わなくなるだろうと

 

 

 

彼女は直ぐ様、ネット上に裏アカウントの情報を晒し、書き込んだであろう生徒の端末やパソコンを特定してその生徒の保護者にも情報を送り付けたのである。

 

 

 

当然ながら世間は炎上した。

 

 

 

保護者が激怒して学校に詰め寄り、ネット上で悪口を書き込んだ生徒の個人情報が暴露されるなどして騒ぎになる事態に発展してしまったのだ。

 

 

 

学校は事実上崩壊した。

 

 

毎日の様に保護者が詰め掛けて教師を罵倒し、ストレスの溜まった教師が生徒を罵倒する。

 

 

生徒同士に疑心暗鬼が蔓延して常に喧嘩や悲鳴が耐えなくなった。

 

 

 

その頃から幸子は、学校から逃げて部屋に引き籠る生活を送るようになる。

 

 

「どうして……」

 

 

 

自分は正しい事をした筈なのに、なぜあんな事になったのか

 

 

いくら自問自答しても答えは出ない。

 

 

 

しかしいつの日か、彼女は正しい事をしたのに正常に戻らない日常の方がおかしいのだと思うようになる。

 

 

 

「私は間違ってなんか……」

 

 

 

幸子は、隠された秘密を除く事に没頭するようになっていた。

 

 

しかし、法律的や道徳的に悪と言われる情報を幾ら晒した所で彼女の心が安堵を得ることは無かったのである。

 

 

寧ろ、侵入を繰り返す度に心が空っぽになるような孤独感に苛まれた彼女は、いつしか侵入したサイトに空っぽや出涸らし等の意味を持つemptyの名を残す様になった。

 

 

 

個人の影口から芸能人のスキャンダル、政治家の不正や金の問題など、手当たり次第に情報をすっぱ抜いていたある日の事。

 

 

 

 

 

一通のメールに幸子の顔は青ざめた。

 

 

《あなたemptyですね?》

 

 

「――!」

 

 

 

彼女は一気に夢から醒めたような気持ちになり、恐怖の余り否定の返信を送る。

 

 

《違います》

 

《いえ、こちらは貴女のこれまで犯した侵入ログを入手しています》

 

 

 

「うそ、でしょ?」

 

 

彼女の言葉をまるで聞いていたかの様に、自分が今まで侵入してきたサイトのログが送り付けられてくる。

 

 

 

そして――

 

 

《此方はこの情報を警察に提供する用意があります》

 

 

「い、いや―――!」

 

恐怖のあまり、彼女は思わず椅子から滑り落ちて尻餅をつく。

 

 

因果応報と言うべきか、正しいと思ってやっていた行動をいざ自分が受けた時、これ程の恐怖と不安が襲うなど想像もしていなかったからだ。

 

 

 

その時――

 

 

 

ピリリリッ!

 

 

 

「ひっ!」

 

 

 

彼女の携帯端末が呼鈴を鳴らす。

 

 

 

恐る恐る立ち上がった彼女がパソコンの画面に視線を移す――

 

 

 

《出て》

 

 

 

「あ、ぁっ、あ……」

 

 

 

幾ら天才的なパソコン技能があったとしても、彼女はまだ中学生の少女なのである。

 

 

幸子はもはや従うより他なく、携帯端末を拾って通話ボタンを押した。

 

 

 

「も、もしもし……」

 

 

《手短に話すわ。これから私の言う事に従って貰える?でなければ……》

 

 

「え、あ……」

 

 

電話からは意外な事に若い女の声がした。

 

 

だが、そんな事は混乱を極める彼女にとってどうでもよい話だ。

 

 

 

「あ、あの、私はどうすれば……」

 

 

 

《心配しないで、こちらの指示に従っていれば通報はしない。いいわね?》

 

 

「で、でもっ!」

 

 

 

《これから、リストを送るわ。そのリストに載っている子達の試験結果を操作して欲しいの》

 

 

 

「誰の?何のために?」

 

 

《理由は知らなくていい。言われた通りにして。こっちもリスクを負ってそっちにかけてるの。余計な事は言わないで》

 

 

「はい……わ、解りました引き受けます」

 

 

 

《それと、あなたには横須賀女子海洋学校の試験を受けて貰うわ。書類は既に通してある》

 

 

 

「横須賀女子……ブルーマーメイド養成校の!?む、無理です!あんな難関校!」

 

 

《あなたならどうとでも操作出来るでしょ?とにかく手段は問わない。必ず成功させて。失敗すれば、あなたに未来はない。文字通りね》

 

 

 

「あっ、ちょ……」

 

 

 

通話はそこで切れてしまい、幸子は力尽きた様にベッドへとへたりこんだ。

 

 

しかし、直ぐ様パソコンに向かい直し、携帯端末を繋いで通話先の場所を追う。

 

 

「え?実際には存在しない電話番号?発信先は――永田町」

 

 

 

それは国の中枢から成された発信であった事を意味し、自身に未来はないと告げた女の言葉があながち嘘ではないと言う証拠でもあった。

 

 

 

 

「どうしよう……」

 

 

 

途方にくれる幸子に追い討ちを掛けるかの様に、先程の女からであろうか、一通のリストが送られてきた。

 

 

 

 

「横須賀女子海洋学校 受験願書……」

 

 

 

そこには顔写真付きで、30数名の個人情報が記載されていた。

 

 

 

ブルーマーメイドの卵を養成する学校は横須賀以外にも複数あるが、共通しているのは、一般企業や大学よりも願書の受付期間が半年以上も前にある点が特徴だ。

 

 

理由は、学生でありながら給与で金銭が支給される事と、仮にも兵器を扱う事にもなるので、家族や自身への犯罪歴、借金の有無、心療内科による証明書の提出や身辺調査はブルーマーメイド機関で行うよう法律およびブルーマーメイド内規で定められており、それらと共に体力を含めた基礎学力や、取り組み姿勢の内申を精査するのに時間を要するからである。

 

 

 

「岬明乃 宗谷真白 柳原麻侖、……みんな出身も経歴もバラバラ。そして――」

 

 

 

彼女はまたも頭を抱える事になる。

 

 

学力差を差し引いても彼女達は余りにも優秀であり、メールにはこれ等の人物を合格させつつ落ちこぼれへとなるように操作せよと記載されていたからだ。

 

 

しかしそれは単純な仕事ではない。

 

 

実力がある者が失敗するには、ある程度の理由付けが必要だからであり、それは直接その者を観察する必要があったからだ。

 

 

「………」

 

 

 

幸子は数日の間、全く眠らずに悩んだ。

 

 

 

そして――

 

 

そして――

 

 

 

 

心配する両親には反対されたものの、部屋を出る切っ掛けとして無理を言って許して貰い、彼女は約半年以上も籠ってきた部屋を出る覚悟を決めたのである。

 

 

 

「あっ……!」

 

 

変装の意味合いでレンズの大きなサングラスを掛けたものの、久し振りの太陽の光が刃物の様に目に刺さるのを感じた。

 

 

 

 

「最初は柳原麻侖さん……かな」

 

 

 

 

そう、幸子は夏休みの期間を利用して後の晴風クラスの日常を直接見てみようと考えたのだ。

 

 

 

旅先で彼女が見たものは、みんな笑顔で自分の好きな事に没頭する輝く光景であった。

 

 

「いいなぁ……」

 

 

羨望と言うべきなのだろう、彼女達の生き方とはまるで違う彼女達にかえって自信を失ってしまった。

 

 

 

「どうしよう。来るんじゃなかったな……」

 

 

ベンチに座り込んだ彼女がボソリと呟いた時――

 

 

「ミケ姉ちゃん!」

 

 

「?」

 

 

 

声のする方角には多くの子供達がおり、彼等は誰かを迎えに来ているようだった。

 

 

 

「あれ~?みんな来ちゃったの?でも迎えに来てくれてありがと」

 

 

 

幸子の目の前を一人の少女が沢山の買い物袋を持って駆けて行く。

 

 

 

(あれは……岬明乃さん?他の子達は兄弟って訳じゃ無さそうだけど)

 

 

 

「ミケ姉ちゃん遅いよ!」

 

「ねぇねぇ!今日はどんな晩御飯作るの?」

 

 

「エヘヘ、商店の福引きで1等の商品券が当たっちゃったから、ついつい買い込んじゃった!だからね、今日はカレーにしようと思うんだ。しかもデザートに……ジャーン!プリンもあるよ!」

 

 

「やったぁ!ぼくミケ姉ちゃんのカレー大好き!」

 

 

「プリンはミケ姉ちゃんが食べたかっただけでしょ?」

 

 

「エヘヘ、バレたかぁ~」

 

 

彼女も、それを囲む子供達も皆は幸せそうな笑顔で包まれている。

 

 

 

リストには、対象の詳しい家庭環境などは書いておらず、会話の内容から子供達と同居しているであろう明乃の立場が気になった幸子は、彼女達の後を追う事にした。

 

 

 

 

やがて、彼等は横須賀の街を一望できる山の中腹に建てられた小さな庭を持つ古民家に辿り着き、そこには【うみかぜ園】と書かれた大きな木の表札があった。

 

 

 

 

「いま準備しちゃうね。カコちゃんとヨウ君は皆と洗濯物を畳んでね。皆もお兄ちゃんお姉ちゃんを手伝ってあげてね~」

 

 

「「は~い!」」

 

 

小学校高学年の子供達を先頭に皆で洗濯物を畳み、その間に明乃は夕食を作り始め、庭先まで広がる良い香りが幸子の鼻をくすぐった。

 

 

 

その後、食事と風呂を済ませた子供達は早々に布団に入って眠りに付き、居間には明乃が一人で家計簿らしきものに記入をしている。

 

 

 

「ミケ姉ちゃん……」

 

 

「ん?ヨウ君どうしたの?」

 

 

「ボク知ってるんだ。ミケ姉ちゃんがブルマーの試験受けるの……」

 

 

「………」

 

 

「ねえ!居なくなっちゃうの!?モカ姉ちゃんみたいに居なくなっちゃうの!?」

 

 

「………」

 

 

「解ってるんだ。施設にお金が無いこと。だからモカ姉ちゃんもバイト代送ってくるし……だからミケ姉ちゃんも給料の良いブルマーに行くんでしょ!?でもボク嫌だよ!?お父さんもお母さんも、モカ姉ちゃんも遠くに行って、ミケ姉ちゃんまで遠くに行っちゃうの……ヤダ!」

 

 

「ヨウ君……」

 

 

明乃は目に涙を一杯に溜めた少年と向き合う。

 

 

 

「ヨウ君、おいで」

 

 

「ん……」

 

 

彼女は穏やかな顔で少年を抱きしめ、寝かし付ける様にゆっくりと身体を揺する。

 

 

「大丈夫、例え私がブルマーに行っても、絶対に¨遠く¨へは行かないよ。だってヨウ君も皆も私の大切な【家族】だもん。モカちゃんだってそう。皆といたいから、今は勉強に集中してるだと思う」

 

 

「でもボク、寂しいよ……寂しいのは嫌だよ」

 

 

「うん、そう、そうだね……私も寂しいのは嫌。でも¨寂しい¨を知ってるから皆が大切な家族だって思えたんだと思う。一人だったら、私はダメダメだから」

 

 

 

「そんな事ないよ!ミケ姉ちゃん毎日いっぱい優しくしてくれたもん!」

 

 

「ありがと。だからヨウ君。私が帰ってくるまで、皆のお父さんになってあげて」

 

 

「お父さん?」

 

 

「うん。皆がケガをしないように護って一緒に一杯笑って、そして一緒に寝てあげるの。そうすると、どうしてかなぁ……ちっとも寂しく無くなっちゃうんだ」

 

 

「ミケ姉ちゃんみたいに?」

 

 

「うん」

 

 

「ボクがお父さんだったら、カコはお母さん?そうすればカコも寂しくない?」

 

 

「そうだね。二人なら百人力だよ。私とモカちゃんが一緒にいた時みたいに」

 

 

 

「……」

 

 

「どう?出来るかな?」

 

 

明乃が顔を覗き込むと、少年は何かを決意したかの様に頷いた。

 

 

「うん偉いね」

 

 

「じゃあボク寝るね」

 

 

「待ってヨウ君」

 

 

「ん?」

 

「久し振りに一緒に寝ようか。いつもは小さい子とだけどね。たまにはカコちゃんとヨウ君とも一緒に寝たいなぁって」

 

 

少年は目を輝かせた。

 

そんな彼に優しく微笑むと、明乃は電気を消して少年の手を引いて部屋へと向かうのだった。

 

 

 

 

「………」

 

 

幸子は言葉が出てこなかった。

 

 

ここが¨孤児院¨である事は明白であったが、何よりここには子供達を導くべき大人の存在が無かったのだ。

 

 

つまり、彼女達は全ての物事を自分達でこなさねばならないという事に他ならず、それには耐え難い苦労や強固な絆が存在している証しでもあるわけだ。

 

 

 

そこで彼女は、自分の人生を振り返ってみた。

 

 

両親との関係こそ良好ではあるものの、それに甘えてか周囲と壁を作って一人一人を理解しよう等とは考えもせずに、一方的に自身の存在を世間に押し付けてきた。

 

 

 

「私……バカだ。これじゃ何時まで経っても、私は¨寂しい¨ままだ」

 

 

 

彼女の目からは涙が絶える事なく溢れてくる。

だが、いくら泣いた所でそう簡単に自身が変わる結論に至る筈もない。

 

 

しかし同時にこうも思うのだ。

 

 

 

今まで出会ってきた¨彼女達¨と一緒なら、何か答えを見つけられるのではないかと――

 

 

「――っ!」

 

 

何かを決意した幸子は、足早に自宅へと戻り机に向かう。

 

 

 

「取り戻さなくちゃ!今までの遅れをっ!」

 

 

 

彼女は横須賀女子海洋学院の入試に向けた勉強を開始していた。

 

 

どうしてもこれだけは不正ではなく自らの力で勝ち取りたいと考えていたからである。

 

 

 

故に、学校にも出席して他の生徒達の好奇の視線にも耐え、苦手な体育にも努めた。

 

更に自宅では、将来官僚を目標とする者達が通う難関校の入試問題をかき集めて解きまくり、尚且つブルマーの厳重なネットワークに侵入出来るよう腕を磨き、それでいて海洋学校で通用するよう海流や天候に関する基礎知識も身に付けて行った。

 

 

そして彼女は見事に合格を勝ち取ったのである。

 

 

残る問題は、晴風クラスの点数の操作であるが……

 

 

それぞれの科に実技試験があり、高得点が予想されるメンバーを予測して、基礎学力テストの点数を落とした。

 

 

もっとも、解答欄をズラしてしまい壊滅的な点数になってしまった真白と、基礎学力が低すぎた留奈に関しては、逆に点数を上方修正せざるを得なかったのだが……

 

 

しかし、これで幸子は晴風クラス一緒に生活する事となったのである。

 

 

 

結果としては、ブルマーを陥れたい政府の者によって、数々のピンチを向かえる事になるが、それがかえって彼女達の結束やポテンシャルを上げる事に繋がったのは言うまでもないが、幸子自身としては入試に不正介入した罪悪感と、恐らくは幸子もろともあわよくば始末しようと考えている政府の企みに不安を拭えない日も続いていた。

 

 

 

もっと早く打ち明けるべきだったのだろう。

 

 

だが、彼女達とのかけがえの無い日々が崩壊する恐怖ゆえに、今日までひた隠しにしてしまったのだ。

 

 

 

 

(これは私への罰、だから私が解決しないとダメ!)

 

 

 

彼女は、麻侖達を振り切って甲板へと走った。

 

 

 

(真実を!真実を伝えないと!私は――)

 

 

 

扉を開け、外へ飛び出した先には――

 

 

 

「動くな」

 

 

カチャ……

 

 

 

冷たい声の方向に視線を向けた彼女の目の前には銃口をこちらに向けてくるフリッツと、複数の男達の姿があった。

 

 

 

恐らくは、はれかぜを制圧する為に組まれた特殊部隊なのだろう。

 

だが、幸子は怯まずにフリッツを真正面に見据えた。

 

 

 

「ふ、フリッツさん?わ、私――」

 

 

「悪いが時間がないんだ。死んでくれ」

 

 

 

「え?」

 

 

幸子は彼の言葉の意味が飲み込めなかった。

 

 

それを察しているのであろうフリッツは、更に一歩前へと踏み出す。

 

 

「拘束で済むのなら、始めからやっている。俺達が今ここにいる理由くらい察しがつくだろう?」

 

 

「そんなっ!い、いやっ!私はまだ――」

 

 

身体を翻そうとする幸子の身体を何かが急に拘束する。

 

 

「ぐっ、動けなっ――は、ハルナさん!?どうしてっ!」

 

 

 

「抵抗するな。状況がややこしくなる」

 

 

ハルナは冷たい声で彼女に言い放つ。

 

そして更に、後からゆっくりと近付いてくる足音の方向に視線を向けた彼女は混乱の最中に叩き落とされた。

 

 

「うそ、でしょ?どうして――」

 

 

 

 

   + + +

 

 

「あっ!」

 

 

「うわぁ!な、なんだ艦長か……脅かすなよ」

 

 

 

「それよりマロンちゃん!ココちゃんは!?」

 

 

「甲板の方に行っちまった」

 

 

「そんな……早く行かなきゃ!」

 

 

合流を果たした明乃達は一斉に甲板へと走り出す。

 

 

(ココちゃん!)

 

 

色々な思いが沸き上がるも、彼女はそれらを振り払い必死で駆け抜け、そして外へと続く扉を開けた。

 

 

「ココちゃ――」

 

 

パンッ!パンッ!パンッ!

 

 

 

「!!?」

 

 

乾いた音が静かな海に響き渡り、それと時を同じくして¨何か¨がドサリと倒れる音が響いた。

 

 

 

ドクン……

 

 

 

心臓の音が何故か大きく鼓動するのを感じながら、明乃は甲板に転がるソレへと視線を向ける。

 

 

 

ドクン……

 

 

見覚えのあるベレー帽、まるで状況を理解していないかの様に見開かれた目。

 

ソレはどう見ても――

 

 

 

「ココ……ちゃん?」

 

 

 

仰向けに倒れた幸子の身体には眉間と胸部に銃弾が貫通した跡があり、どす黒い血液がドクドクと甲板に広がって行く。

 

 

 

「そんな、ココちゃ――」

 

 

「近付くな!」

 

 

「美波さん!?」

 

 

美波は明乃を押し退けて幸子の脈を取り、虚ろな瞳に目を向けていると、特殊部隊の合間を分けて白い軍服の男が歩いてくる。

 

 

 

「終わった様だな」

 

 

「シュルツ……艦長。これは一体」

 

 

「見ての通りです」

 

 

 

状況が掴めないはれかぜクルーにシュルツは淡々と言い放つ。

 

 

そしてそんな一同に止めを刺すかの如く美波が立ち上がり、シュルツに汚物を見るような目で睨み付け――

 

 

 

「最悪だな」

 

 

 

今まで聞いた事の無い怒りと敵意の混じった声は、同時に幸子が二度と帰る事が出来ない¨遠く¨へと行ってしまった事を確定させてしまった。

 

 

 

「あ、ああっ、ア、ぁア゛………」

 

 

「艦長?」

 

 

 

「あ゛っ、ア゛」

 

 

真白の声すらも届かない位、明乃はあらゆるマイナスの感情が吹き出して来るのを抑える事が出来なかった。

 

 

そして――

 

 

「あっあぁアぁア゛ア゛ぁァあぁ゛ぁア゛!」

 

 

 

穏やかな海に、絶望と怨嗟の悲鳴が海を塗り潰して行くのだった。

 

 

 




納沙幸子の設定について


ココちゃんの暗い過去については、原作アニメから推測しました。


艦橋要因で、あまりプライベートで仲間と過ごす場面がなく、偶然出会う形で合流する。


演技がスベった時、わりと回りはガチで引いていた。

ovaでクラス解散に最も敏感に反応し、ここでなければ居場所は無いとミーナに泣き付いた。


以上の点から、明るい人物像とは異なり、実は友人を作る事が苦手で、その裏返しとして小芝居を演じて注目を集めようとしているのではと解釈しました。


混沌として参りまして申し訳ない限りではございますが


次回までしばらくお待ちください。




























とらふり!



幸子
「ジャジャァーン!復活です!」


テア
「何がジャジャァーン!なんだ!お前はさっき死んだだろう!世界観をぶち壊すような真似は控えろ!」


幸子
「えぇ!?だって楽屋で暇なんですもん!これでミーちゃんの出番が無い時は何時でも――フフフ」



テア
「貴様……それが真の狙いかっ!」


幸子
「ご名答でーす!テアさんもヴィルヘルムスハーフェンで死んでいれば、楽屋でキャッキャウフフ出来たのに残念でしたね~」


テア
「ぐぬぬ……し、しかし私は艦長だ。幾らだってその機会はある!」



幸子
「でも合流してから、一回もそんな描写無いですよ?今回だってウチに遊びに来てましたし」



テア
「浮気者の副長を再教育せねばならんか……」



ミーナ
「どうした二人とも、いつも仲が良いのぅ」


テア
「ち、違う!私はお前がはれかぜに取られてしまう等とは――」


ミーナ
「ん?なんだ、そんな事を気にしておったのか?心配は無用じゃ!」


幸子
「酷いですミーちゃん!私を置いてテアさんとだけなんて!」


ミーナ
「ん~、でも儂は皆と友達に成りたいからのぅ。シュペーの時も晴風の時も、結構みんなの部屋でお泊まり会をしてスキンシップを計っておったぞ?」



テア&幸子
(う、浮気者……)


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多面性激情舞踏会

お待たせ致しました。


キール騒乱編の続きとなります。


それではどうぞ


   + + +

 

 

嫌な予感がする……

 

 

真冬の長年の経験は最悪な形で現実のものとなってしまった。

 

 

はれかぜに接舷した真冬が艦と艦の間を飛び越えてたと同時に聞こえた絶望の悲鳴が全てを物語っていたからだ。

 

 

 

「クソッ――!」

 

 

 

彼女が歯噛みしつつ甲板の人垣を掻き分けた先には――

 

 

 

 

「嘘だろ……納沙がっ!」

 

 

 

幸子の遺体、そして特殊部隊とシュルツの姿に彼女は全てを察した。

 

 

 

「てめぇらっ!」

 

「艦長!ダメです!」

 

 

 

平賀の制止も聞かず、真冬は行った。

 

 

どんな理由があろうとも即射殺などある筈もなく、況して仲間を害されたのだから当然だろう。

 

 

 

だが、真冬の行動はその場に居合わせたはれかぜクルーやブルマー隊員のヘイトが一気にウィルキアへと向かせてしまう事を意味している事を特殊部隊は知っている。

 

 

故に

 

 

「構え!」

 

 

多数の銃口が、真冬へと向けられた。

 

 

 

「待て」

 

 

シュルツは即座にフリッツへと目配せをすると、彼は素早く前へと飛び出して真冬の背後へと沈み込むように回り、直ぐ様腕を捉えて固定し制圧してしまう。

 

 

 

「なっ!てめっ――!」

 

 

 

冷静さん欠いて居たことを差し引いても、武装した海賊を一人で十分相手に出来る真冬があまりにも簡単に制圧されたことに一同は驚愕した。

 

 

 

「あなた¨程度¨では仮に俺を無力化出来たとしても、艦橋制圧を想定して訓練重ねた我が艦長を抑えるのは無理ですよ」

 

 

 

「チクショウ……」

 

 

彼女が取り押さえられた事で、場は一応に抑えられた様にも見えたが――

 

 

 

 

「グ……ググッ……」

 

 

 

「岬……?」

 

 

瞳の色が紅く代わった明乃が放つ威圧感が、場の空気を極限まで張り詰めさせていた。

 

 

 

「銃を下ろせ」

 

 

「しかし……」

 

 

「ググッ…グゥ…」

 

 

「ひっ!」

 

 

「何をしている!命令だ、早く下ろせ!」

 

 

 

シュルツの罵声が響き渡るも、特殊部隊はなかなか銃を下ろすことが出来ない。

 

 

 

当然であろう、目の前に敵意を秘めた虎が現れて、丸腰になれと言われる方が理不尽なのだ。

 

 

 

もしそれに従ったなら、もし少しでも目を離したなら――

 

 

 

間違いなく¨狩られる¨

 

 

 

 

そんな極限の緊張感のなか

 

 

 

「下ろしなさい」

 

 

 

「!!?」

 

 

フンディンから聞こえた穏やかな声に、部隊の視線が向く。

 

 

 

「真霜ねえ……?」

 

 

福内と共にフンディンから現れた彼女の存在に真冬は目を丸くする。

 

真霜はゆっくりと部隊へと足を進め、1度ゆっくり目を閉じて息を吸い込み――

 

 

 

「もう一度言うわよ。下ろしなさい

 

 

 

「!!!」

 

 

 

明乃とは明らかに違う圧。

 

 

そう、これは言わば母からの叱責に近いものであった。

 

 

絶対にして逆らい難い存在からの圧に、部隊は叱られた子供の様に銃を下ろして行く。

 

 

 

「そう、良い子ね」

 

 

 

状況は一変する。

 

 

彼女の存在によって、一同のヘイトが沈んで行くのは明らかだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

ただ一人を除いては――

 

 

 

「ガッ……ググッ……」

 

 

 

明乃の耳には何も届いてはいなかった。

 

 

そして――

 

 

「な、なに?寒い……」

 

 

寒気だけではない。

 

 

実際に息は白くなり、辺りが霧に包まれて行く、そして思考が鈍くなる感覚に一同は混乱した。

 

 

 

「艦ちょ、岬さん!ダメ!

 

 

「ココチャ……寂シイ……」

 

 

「ああっ……!」

 

 

真白は――いや、彼女だけではない。

 

 

はれかぜクルー達は一様に強烈な孤独感が襲ってくるのを感じた。

 

 

「何なの!?ヤダこれ!寒い……」

 

 

 

はれかぜクルーは一様に腕を組んで座り込み、襲い来る孤独と憎しみに涙を流している。

 

 

 

(限界か……)

 

 

 

シュルツは一刻の猶予も無いこと感じていた。

 

 

そして――

 

 

「艦長?何をなさって――」

 

 

 

シュルツは明乃の方へ一歩づつ歩き出し、それに呼応するように明乃も足を進めた。

 

 

 

「岬艦長……」

 

 

「ココチャ……カゾク……」

 

 

 

二人の距離はどんどん詰まって行き――

 

 

カチャ!

 

 

明乃はホルスターから拳銃を抜いてシュルツへと突き付ける。

 

 

 

「岬艦長……聞こえますか。岬艦長」

 

 

 

「シュルツ艦長!なにをっ!?」

 

 

 

淡々と事を進めてきたフリッツが初めて動揺を見せた。

 

 

シュルツは銃口前にしても尚、静かに語りかけながら明乃へと歩を進め――

 

 

トンッ!

 

 

そして遂に、銃口はシュルツの胸に押し当てられたのである。

 

 

 

「ドウシテ……ココチャン……サビシイ………」

 

 

 

「岬艦長、あなたは私を――」

 

 

 

シュルツは涙が滲む紅く濁った瞳を真っ直ぐ見つめた。

 

 

 

「¨殺したい¨ですか?」

 

 

 

その一瞬、はれかぜを揺らす波と潮風の音のみが響くこの空間に、彼等は二人にきりになったのだ。

 

 

 

「岬艦長、あなたにとって海とは何ですか?あなたにとって、仲間とは何ですか?あなたはその引き金を――」

 

 

 

「ガッ…アァ……あああっ!」

 

 

 

明乃の目に一瞬、光が灯るのをシュルツは感じた。

 

 

故に問うて試し、そして証明せねばならないのだ。

 

 

 

「引きますか?」

 

 

 

「あああっ!」

 

 

 

パァン!

 

 

静寂の中に響く銃声には、不思議な透明感と美しさがあった。

 

 

明乃は銃を持つ手を真上に挙げている。

 

 

 

「はぁ、はぁ……あっ!」

 

 

「岬艦長……」

 

 

 

シュルツは、銃を落とし崩れるように倒れて来る彼女の身体を抱き止める。

 

 

何故かは解らない。

 

 

 

だが、友人の命を奪う切っ掛けとなったシュルツの身体は暖いと明乃は感じたのだ。

 

 

まるで父に抱かれているかの様に――

 

 

 

 

「ひ、平賀さん!悪いけど岬さんを艦長室に連れていって頂戴!他の皆も、先ずは落ち着いて!」

 

 

 

 

二人のやり取りに硬直していた時間が動き出したかのように、真霜の声で一同がハッと我に帰る。

 

 

 

「岬さん!大丈夫!?」

 

 

「は、はい……」

 

 

 

平賀に抱えられ、明乃が艦内へ入って行くのと同時に、真霜は取り残されたはれかぜクルーへやブルマー隊員達へと向き直る。

 

 

 

 

理由はどうあれ、仲間を殺害された事による緊迫が解けた訳では無いからだ。

 

 

 

 

「説明を頂けますか?宗谷室長」

 

 

 

 

真白の表情やトーンは自分の姉に向けて行うものでは到底なかった。

 

 

無理もない

 

 

友人の殺害にブルーマーメイド本部や姉が関わっている事が明らかな状況で、信用しろと言われて従う方がどうかしているのだ。

 

しかし、真霜は表情1つ変えずに静かに言い放つ。

 

 

 

「では今から始めましょう。いいわね?」

 

 

 

 

 

   + + +

 

401のブリッジにて、群像達が事の顛末を観察していた。

 

 

『群像……』

 

 

「イオナか。ああ、モニタリングはしている。君は引続き待機してくれ。ハルナはどうだ?」

 

 

 

『見張り員は既に封じてある。¨細工¨の方も完了した。あとは――』

 

 

 

「¨時間¨だな。緊張が続いている。観測を続けてくれ。場合によっては潜伏中の静たちと協力して事態を鎮静化してくれ」

 

 

『了解した』

 

 

「タカオはどうだ?」

 

 

『全く……存在感消すとか、こんなの私のスタイルじゃないわよ』

 

 

「そう言うな。事態の制圧には失敗は許されないからな」

 

ブリッジには、いつになく緊迫した雰囲気が漂っていた。

 

 

スキズブラズニルにて作業を続けるヒュウガを除外しても、現在はいつもよりメンバー少ない。

 

イオナ ハルナ キリシマ そして静の姿が無かった。

 

 

 

「本当に上手くいくのか?」

 

 

「私も杏平に同意します。我々の姿が無いのは不自然だと取られかねません」

 

 

 

「僧の言う事も一理あるが、対人戦においても無敵なメンタルモデルが複数もいたのではかえって事態がややこしくなる。それに、そう悟らせない為の強襲だ。だから宜しく頼む」

 

 

 

 

『『了解』』

 

 

次に彼は、タブレット端末に写るいおりを呼び出す。

 

 

 

『はいハーイ?』

 

 

「いおり、そちらの様子はどうだ?」

 

 

『まぁこっちは落ち着いて来たって感じかな。機関も異常なーし』

 

 

 

「了解した。引続き頼む」

 

 

『ガッテンだよー!任せて!』

 

 

 

通信を終えた後も、ブリッジには張り詰めた空気が残留していた。

 

 

 

(ここからは賭けの要素が強くなる。仕込みが幸をそうすればいいが……)

 

 

 

彼は心で呟きながら、再びモニターへと視線を向ける。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「ほら岬さん、しっかりして」

 

 

 

「ありがとうございます平賀さん……」

 

 

ふらつく足取りで漸く自室へと戻った明乃は、ゆっくりベッドへて腰を下ろし、隣に座った平賀に背中を擦ってもらう。

 

 

 

気持ちの整理など付く筈もない。

 

 

苦楽を共にした幸子が信頼していたシュルツ達によって殺害されたのだから。

 

 

 

「どうしてココちゃんが――私、異世界の皆さんのこと信用してたのに……」

 

 

 

「解らないけど、真冬艦長は日本を出発した時点で、何やら監視されているって言ってわ。確か笹井って人がそう言う役割を持った人だから気を付けろって」

 

 

「でも信じられないんです。あの時のシュルツ艦長はなにか……辛そうで」

 

 

 

「あの人も軍人だから命令には逆らえない。でもそれが現実なんだとしたら――」

 

 

 

「超兵器を相手に共に戦ったから解るんです。どんな時だって犠牲をなくす事を第一に考えてる。千早艦長だってそう。必ず計画を密にたてる人だから」

 

 

 

「短い期間に、関係を縮めて来たのね。でもね岬さん、私も共に戦ったから解るの。彼等の事を私達は何も理解していないんじゃないかって」

 

 

 

「え?」

 

 

そうねぇ……

 

 

平賀は言葉を噛み締めるように言葉を紡ぐ。

 

 

 

「超兵器に対する立ち回りは見事だったし、私達の事を気にかけてくれたのは確かよ。でも、どこか他人事で冷たい感じもしたわ。全ての連絡が緊密だとも思わなかった」

 

 

 

「そんな……」

 

 

 

「だって、艦隊旗艦を急に弁天に代わって欲しいと言ったり、大戦艦ハルナが地中海に急派する事も事前に連絡は無かった。それは戦闘ログにも残ってるわ。私は、彼等はやはり他人なんだって思い知らされた気がしたの」

 

 

 

 

彼女の言う事は、至極もっともな話だ。

 

 

 

地中海での戦いはアドリブを要して各人のスタンドプレーを連携させたチームプレーによって成り立っていたのだから、命をかける状況としては些かずさんだった様にも思える。

 

合流が遅かった真冬や平賀からすれば、彼等は所詮、自分以外の世界になど関わりたく無かったのだと解釈されても無理はない。

 

 

だが、ヴェルナーや筑波の指導を直接受けた明乃からしてみれば得心が行かないのも確かなのだ。

 

 

――あれ?

 

 

そこで彼女はふと疑問に思う。

 

 

 

(何かが抜けてる気がする。確かに現状は異世界の皆を手放しで信用する事は出来ない。でも問題はソコなのかな……うん、やっぱり違う!問題なのは――)

 

 

 

 

明乃は虚空を見つめたながら、心の疑問を吐き出す。

 

 

「それでもおかしいです、やっぱり何故ココちゃんであるのかが解らない」

 

 

 

「それは、彼女が過去にハッカーとして政治関連の情報を暴露する活動をして居たのを邪推されたからなのかもしれないわね。例えば異世界の兵器情報を流出させようとしていたとか」

 

 

 

「それは……………………え?」

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「では今から始めましょう。いいわね?」

 

 

 

真霜はそう言い放つと、普段はマチコの縄張り言っても差し支えない見張り台に視線を向けた。

 

 

 

 

「え?あなたは――」

 

 

 

真白は目を丸くする。

 

 

 

「ハルナさん!!?どうしてあなたがっ――」

 

 

 

「来たよ……」

 

 

 

見張り台からマチコを抱えてフワリと着地したハルナは、彼女をゆっくりと下ろして真白と向かい合う。

 

 

 

「あなたもグルだったのか……」

 

 

「私は――」

 

 

「違う!」

 

 

「野間さん!!?」

 

 

一同の視線は、幸子の遺体を青ざめながら見つめるマチコへと移される。

 

 

 

 

「なんで……なんでだ!いつからだ!いつからこの計画を知っていたんだ!」

 

 

 

マチコの怯える瞳が、虚ろな表情のまま固まる幸子から、隣に立っている¨白衣の少女¨へと向けられた。

 

 

 

「美波さんっ!」

 

 

 

「「えぇっ!!?」」

 

 

 

一同の驚愕の悲鳴にも全く動じず、美波はマチコの目をギロリとした瞳で見詰め返した。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「どうしたの岬さん?」

 

 

 

「………」

 

 

二人の間に沈黙が流れた。

 

 

 

「き、気分でも悪くなってしまったかしら?ごめんない。納沙さんが亡くなった後なのにこんな話をして――」

 

 

 

「違うんです」

 

 

 

「何が違うの?」

 

 

 

「あの――」

 

 

 

   + + +

 

 

 

「答えてくれ美波さん!いつからこの計画を知っていた!?それにコレはなんだ!」

 

 

 

「………」

 

 

 

「コレは、この死体はっ――」

 

 

 

普段はクールで感情を表情として出さないマチコであるが、この時ばかりは叫ばずにはいられなかった。

 

 

 

「¨納沙さんじゃない¨じゃないか!」

 

 

 

「な、なに!!?」

 

 

 

真白は事態に付いて行く事が困難になっていた。

 

 

 

最早、目の前の遺体が幸子でないとしたら一体なんなのだ等と思考すること自体が間違っているのかもしれない。

 

 

たが、少なくとも当初より冷えた頭には疑問が湧いていたのも事実だろう。

 

 

(―――)

 

 

真白は一連の流れを思い返す。

 

 

 

暗がりならともかく、サーチライトで照らされた甲板では、倒れているのが幸子だと見分ける事は簡単であったし、銃弾の貫通箇所から見て即死である事も明白であった。

 

 

であるにも関わらずだ、美波は駆け寄ろうとした明乃を普段は出さない大声を上げてまで静止させた上で、一同の面前で眼球や脈まで取って見せたのである。

 

 

更にだ

 

 

≪最悪だな≫

 

 

無論、¨医者¨である美波が発する¨最悪¨とは¨死¨と同義であるものの、彼女は幸子の死を¨明言¨した訳ではなかった。

 

 

(なんだこの状況は……いや考えろ!)

 

 

 

目を閉じた真白は、思考のエンジンを再稼働させて一連の全てを思い浮かべた。

 

 

・内通者が存在したと言う¨新事実¨

 

 

・それは幸子だった

 

 

・その幸子は、存在を危惧したウィルキアと蒼き鋼、そしてブルーマーメイド上層部の関与によって射殺

 

 

・美波が彼女の死を対外的に印象付ける行動を取っていた

 

 

・騒ぎを関知した月黄泉から乗り込んだブルマー部隊とはれかぜクルーが特殊部隊と対峙

 

 

・明乃の暴走と舞台からの退場

 

 

・幸子の遺体がニセ物だったのではとの疑惑

 

 

 

これ等の事実の中で、少なくとも美波から答えを聞く以外にない事を除くと、答えは一つしか思い浮かばなかった。

 

 

 

「まだ――状況は終わっていない?」

 

 

「………」

 

 

真白が青ざめた顔を美波に向けても、彼女は見開かれた目をマチコに向けたまま、ポケットに突っ込まれた手をゆっくりと引き抜く動作を見せた。

 

 

「――っ!」

 

 

真白やマチコを含め、事情知らない一同は一斉に身構えた。

 

 

 

「「………」」

 

 

無意識に堅く握られたシュルツと群像の拳には汗がジトリと滲む。

 

 

   + + +

 

 

 

「どうして、平賀さんが、ココちゃんが過去にハッカーだったと知ってるんですか?ココちゃんの過去はさっき通信で初めて聞きました。口調とタイミングからして、それがシュルツ艦長達に明らかになったのはつい最近の筈なのに平賀さんは――」

 

 

カチャ………

 

 

「平賀さ――」

 

 

「どうして気付いちゃうのかなぁ……」

 

 

 

明乃のこめかみには、銃が突き付けられていた。

 

 

 

 

   + + +

 

 

 

「美波さん止めるんだ!」

 

 

 

真白な叫びにも美波は動じずに手を抜き出す。

 

 

「美波さ―――!」

 

 

ピピピッ!

 

 

アラーム音のような音がする機器をシュルツへと突き出した美波は、マチコから視線を離し――

 

 

「検知した」

 

 

 

「「――!」」

 

 

彼女がそう発した瞬間、シュルツと群像の瞳が大きく開かれた。

 

 

 

「「釣れた!」」

 

 

 

状況は再び息を吹き返した様に動き出した。

 

 

 

「突入を開始しろ!物音を立てずに艦長室約20m手前にて待機、メンタルモデルからの報告を待て!絶対に危害を加えるな!」

 

 

「はっ!」

 

 

先程まで真冬を取り押さえていたフリッツを含め、特殊部隊達ははれかぜ艦内へと突入して行く。

 

 

 

「えっ、えっ!?なにっ!?どうなってんの!?」

 

 

 

完全に置いてけぼりを食らったはれかぜクルー達が慌てふためく中、真白は退場した明乃を代弁するが如くシュルツへと詰め寄る。

 

 

 

「今度こそ、ご説明頂けますね?シュルツ艦長」

 

 

 

「無論です。ただ大前提として、状況は逼迫しています。詳しい説明は事態の収束を持ってと言う事で宜しいですか?」

 

 

 

「解りました。ただ、納沙さんの件に関しては、いまご説明頂かなくてはなりません」

 

 

 

「……解りました。大戦艦ハルナ、お願いします」

 

 

「了解した」

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

 

「え?えっ、ちょ、マジ!?えっ?」

 

 

 

何やら、真白の背後でクルー達の動揺の声が広がる。

 

 

 

「一体どうし……な、なに!!?」

 

 

 

真白を含めたクルー達は皆、仰け反る様に後ずさりをしてしまう。

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

「平賀さ――」

 

 

「動かないで!」

 

 

「あ゛っ!ぇ゛えう゛っ!!」

 

 

 

幸子の死と自らの暴走、更には平賀の突然の襲撃によって消耗したのだろう。

 

腕の関節を決められ、口の中に銃口をねじり込まれるも、明乃はろくに抵抗すら出来ないでいた。

 

 

 

そんな彼女に、平賀は今まで見せたことの無い歪んだ笑顔を向ける。

 

 

 

「ごめんなさい。でも岬さんが私をこうさせたのよ」

 

 

平賀は、自身と明乃の手錠を彼女の後ろ手かけ、そして乱暴に彼女の身体を仰向けにして互いの顔を近付け―――

 

 

 

「んっ…えぅ……んぅ」

 

 

「!!!?」

 

 

 

平賀のヌメリを帯びた舌が明乃の頬をゆっくり這いずり回る。

 

 

 

 

「フフっ……私と¨同じ¨世界の味がする」

 

 

 

「お、同じ世界?」

 

 

「そう……同じ世界。あなたなら解るでしょ?」

 

 

「!」

 

 

 

そう、明乃だからこそ彼女の言葉の意味が解るのだ。

 

 

 

平賀は、自身と明乃が¨同じ世界¨から来たと主張していた。

それは同時に、両親を失ったあの時に平賀も同じ船に乗っていた事も意味しているが、彼女にはにわかに信じがたい話である事も確かだ。

 

ところが――

 

 

 

「知らなかった?そうよね。小さかったもんね。あんなに泣き叫んじゃって……両親を失ったばかりだから周りなんて気に出来ないもんね」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

否応なしに、あの光景を思い出してしまう。

 

 

しかしそれよりも、今となっては明乃自身しか知り得ない場景を言い当てた平賀の言葉に驚愕を覚えた。

 

 

 

(平賀さんはあの場所で見ていた?もしかして私の乗っていたボート――ううん、多分ほかの救命ボートから見ていた?)

 

 

 

平賀の過去についての疑問は尽きない、だが凶暴性を隠さない歪んだ笑顔を向けてくる彼女の話を悠長に聞ける状況でない事も確かだった。

 

 

 

このままでは平賀は、間違いなく銃の引き金を引くと思ったからである。

 

 

 

「ングッ!ングッ!!」

 

 

 

「暴れないで貰える?うっかり撃っちゃうかも――チッ!」

 

 

 

何故かは解らない。

 

 

 

しかし平賀は急に辺りを見渡すと、急に怒りと憎悪を帯びた表情を浮かべたのだった。

 

 

 

   + + +

 

 

後ずさりをした彼女達の視線の先には――

 

 

 

「ひぃいいい!」

 

 

 

鈴にとってはいつもの反応だが、この時ばかりは皆が同じ反応となる。

 

 

 

無理もない。

 

 

 

死んだ筈の幸子の遺体が、まるでエビの様に反り返って¨立ち上がった¨のだから。

 

 

 

 

「うそ、でしょ?生きて――いや、でも」

 

 

 

 

幸子の額には、¨銃弾が貫通した穴¨が空いていた。

 

 

 

「アッ――ア゛ア゛ア゛――」

 

 

 

「「イヤァアアア!」」

 

 

 

不気味な呻き声を上げて不自然な動きを見せた幸子に、彼女達の心が遂に限界を迎えたのだ。

 

 

騒然とする現場を呆れた様子で見つめている真霜は、ハルナに懇願する。

 

 

 

「大戦艦ハルナ、¨やり過ぎ¨です」

 

 

 

「むっ……私は401より経験値が少ない。治療に関わっていたから¨人体を再現¨する事は可能だが、動作や発声に関しては未だに馴れん」

 

 

 

「ちょちょっ、ちょっと待って下さい!再現!!?じゃあコレは――」

 

 

 

「ああ、私のナノマテリアルで作った¨イミテーション¨だ」

 

 

 

「な、何!!?では本物の納沙さんはどこにいるんだ!?」

 

 

「うむ、キリシマが401に連れていった。今は機関室にて保護している。呼び出したい処だが、それは事態を収拾してからでも遅くはない。証拠が欲しいなら――」

 

 

 

 

チ…チ……

 

 

 

スプラッタ映画に出てきそうな不気味な存在が、銀色の砂となってハルナのコートへと吸い込まれて行く。

 

 

 

 

「も、もう、何がなんだか付いて行けない……」

 

 

 

 

その場にヘタリ込んだ真白を余所に、真霜は真剣な表情でシュルツを見つめる。

 

 

「本当に頼めるの?」

 

 

「信じてくれと言うしか今は申せません」

 

 

「解ったわ。あなた方を信じる。必ず成功させて」

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

平賀はとにかく苛立っていた。

 

 

「ほんと、邪魔ばかりっ!」

 

 

 

ヴォン!

 

 

「う゛っ……」

 

 

「アグッ!う、そ……?」

 

 

 

二人以外はいないと思われていた部屋のすみから、突然イオナとタカオが現れて倒れてくる。

 

 

 

 

 

「クラインフィールドを使って光を曲げ、背景に隠れていたのね。それにっ――!」

 

 

 

平賀はなぜか明乃に突き付けていた銃を投げ捨て、太ももに忍ばせていたナイフを彼女の首に突き付け、もう一本のナイフを扉の方向へと投げつけた。

 

 

 

次の瞬間――

 

 

「え゛っ!?」

 

 

「静さんっ!あ゛っ!」

 

 

 

 

まるで¨知っていた¨かのように開かれた扉から突入してきた、特殊部隊仕様の出で立ちにポップなドクロマークが描かれたフルフェイスヘルメットを被った静の肩にナイフが突き刺さり、勢いで後ろに吹っ飛んだ身体がもえかに激突し、二人は折り重なる様に倒れ込む。

 

 

 

「モカちゃん!」

 

 

「へぇ~バレちゃってたんだ……どうやって知ったのかは解らないけど。今は二人だけの時間よ。邪魔しないでくれるかしら?」

 

 

「うっ……タカオ、イオナさん!はやくミケちゃんを!」

 

 

「コアの稼働率25%以下に低下……」

 

 

「だ、だめ!感情プログラムがエラーを……撒き散らして……コアが上手く作動しない……」

 

 

 

 

 

理由は解らないが、少なくともメンタルモデルの二人は無力化されてしまい、静においても肩に受けたナイフの激痛で身動きが取れなかった。

 

 

 

「もえかさん…わ、私のナイフを抜いてくだ、さい……」

 

 

「解りました!」

 

 

ズチュ――!

 

 

「ぐっ、あぁアア!」

 

 

耳をつんざく悲鳴に折れかける心に檄を飛ばしてもえかは立ち上がる。

 

 

 

 

明乃が――家族がまだいきているのだ。

 

 

(諦めない!)

 

 

 

もえかはイオナに向かって叫んだ。

 

 

 

「イオナさん¨時間¨は!?」

 

 

 

「さ、3分17秒……」

 

 

 

「!!」

 

 

 

その言葉を聞いた瞬間、平賀は初めて動揺した様に見えた。

 

無論、もえかがその隙を見逃す筈もない。

 

 

「了解!千早艦長ぉっ!」

 

 

群像は既に動いていた。

 

 

 

「聞こえたな?ハルナ、開始してくれ。あとは知名艦長に任せるしかない」

 

 

『了解した』

 

 

 

チ…チ…チ……

 

 

「このっ!みんなみんなわ、私の邪魔ばかり――な、に!?」

 

 

彼女が一体何を察知したのかは解らないが、先程までの余裕などは微塵も感じられない。

 

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

もえかは行った。

 

 

 

平賀は明乃を突き飛ばすと、ナイフを片手にもえかへと向かう。

 

 

 

「見えてるわよ。知名さん」

 

 

「避けられな――」

 

 

 

「させ、ないっ!」

 

 

 

もえかの挙動を読み、組み付かれる前に腹部を狙った彼女の凶激をタカオがクラインフィールドで防いでいた。

 

 

その間、平賀が怯んだ拍子に、彼女は体勢を低くして一気に背後へと回り込んで腕を取る構えとなる。

 

 

 

「見えてるって言ったでしょう!」

 

 

「あ゛ぐぅ……」

 

 

平賀の肘鉄がもえかの顔面にまともに入り込み、彼女は後ろへと倒れ込んだ。

 

 

 

「もうお仕舞いに゛ぃ!?」

 

 

 

静も黙ってはいなかった。

 

 

平賀が防弾チョッキを警戒して、装甲のない肩を狙ったが、結果としては足を殺さなかった事が幸いしたようだ。

 

 

 

静の足をすくう蹴りを食らった平賀も、もえか同様に後ろに倒れ込んだ。

 

 

 

「許サナイ!!もう少しだったのに、もう少しだったのにぃ!!」

 

 

錯乱した平賀の凶刃が静に迫る。

 

 

 

「エラーにかかる演算リソースを15%カット。余剰リソースを脚力及び腕力に添加……」

 

 

 

「――っ!」

 

 

 

 

イオナは、敢えてコアのエラー除去を一瞬停止させ、残りの演算を四肢を動かす事に回し、静を目にも止まらぬ速さで救出した。

 

 

「ぬぁあ!」

 

「ちっ――!」

 

 

 

静を刺そうとしたナイフが無情に空を斬って床へと突き立てられ折れた隙に、もえかが平賀の身体を後ろから羽交い締めにする。

 

 

 

「知名艦長!大丈夫ですか!」

 

 

 

「フリッツ、さん!」

 

 

フリッツ達特殊部隊が突入してくる。

 

 

 

「フリッツさん!もうすぐです!まずミケちゃんを救出しっ――!」

 

 

「ユルサナイ……」

 

 

 

「グゥええっ――!?」

 

 

ドスッと言う鈍い音が響き、もえかの溝おちに平賀の肘が完全に入り、彼女は悶絶して床に転がった。

 

 

「ドイツモ コイツモ ミンナ許サナイ!」

 

 

 

「チッ!振り出しか!お前達、迂闊に動くなよ!」

 

「はっ!」

 

 

 

折れたナイフの残りを明乃の首へ突き付けた平賀に、場は膠着状態へと移行したかに見えが、彼女の表情には焦りと悔しさ、それにも増して憎しみが溢れていたのだった。

 

 

 

「平賀倫子1等監察官、貴女ならもう¨お分かり¨の筈です。武器を棄てて投降を……」

 

 

 

「うるさい!私はっ………あ゛え゛??」

 

 

 

平賀の様子が急変した。

 

 

 

「かっ…あ……がっ…はっ……かがぁあ!」

 

 

急に呼吸がままならなくなった彼女は自分の喉を抑えて絶望のうめきを上げながらのたうち回る。

 

 

 

「今だ!確保しろっ!」

 

 

「はっ!」

 

 

 

隊員達は一斉に平賀へと飛び掛かる。

 

 

 

「ギ……カッ……」

 

 

 

「ぐわっ!」

 

「クソッ!何処にそんな余力が!」

 

 

 

目は充血し、口から涎をボタボタと垂らしながらも、彼女は決死の抵抗を続ける。

 

 

たが、それも束の間の事であった。

 

 

 

 

「ひっ……あっ……」

 

 

酸素を失った脚から力が抜け、その場に倒れ込んだ平賀を隊員が捕縛し拘束し終えた瞬間に、もえかは通信機に向かって叫ぶ。

 

 

 

「千早艦長!対象を拘束しました!大戦艦ハルナへの命令を解除して下さい!このままじゃ平賀さんがっ!」

 

 

 

『了解しました。ハルナ!』

 

 

『命令の解除を確認した』

 

 

チ…チ……

 

 

「カハァ……ハァハァ……」

 

 

 

何かつかえでも取れたかの様に平賀の呼吸が再開され、そしてそのまま意識を失う。

 

 

 

「平賀さん!」

 

 

「大丈夫よ もえか。バイタルは安定してる」

 

 

 

「タカオ……」

 

 

彼女の気絶によって、エラーを除去したタカオはもえかを支える。

 

 

負傷した静においても、命に別状は無いようだった。

 

 

 

「ミケちゃん!」

 

 

 

もえかは明乃へと駆け寄り手錠を外す。

 

 

 

「ミケちゃん?」

 

 

 

「………」

 

 

彼女は震えていた。

 

 

友人の死に続いてこの状況なのだ。肉体的にも精神的にも限界を迎えてしまうのは無理もない。

 

 

だが、もえかは伝えねばならなかった。でなければ明乃は本当に壊れてしまうと感じたからだ。

 

 

 

「ミケちゃん良く聞いて!会わせたい人がいるのもう少しだけ頑張って!」

 

 

「会わせたい……人?」

 

 

 

「うん、どうしても会わなくちゃいけないの」

 

 

「解った……」

 

 

もえかは明乃を支えて、艦長室を後にする。

 

 

 

 

 

  + + +

 

 

はれかぜ甲板には、不安げなクルー達がいた。

 

 

「副長、艦長大丈夫かなぁ……」

 

 

「今は信じるしかないが……か、艦長!」

 

 

真白の叫びに一同の視線が明乃へと向けられた。

 

 

「みんなゴメン……心配かけちゃったね」

 

 

 

「そんな事ねぇってんでぃ!それよりも……なっ」

 

 

「ああ、艦長も揃ったし、そろそろお願いできますか?」

 

 

「了解した。すぐ連絡する」

 

 

 

ハルナは401に通信し、ハッチが開かれる。

 

 

 

「え?うそ……」

 

 

事情を知らない明乃だけでなく、半信半疑だった一同も目を見開いた。

 

 

 

 

「あ、あの……」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

そこに現れたのは、目に涙を沢山浮かべた幸子だった。

 

 

 

「ココ、ちゃ……ココちゃん?」

 

 

「は、はい……」

 

 

「本当にココちゃん?」

 

 

「はい、ホンモノ……です」

 

 

 

(ふぅ、面倒臭いな)

 

 

チ…チ…

 

 

 

ハルナは、はれかぜと401の間にクラインフィールドの桟橋を構築する。

 

 

 

「ココちゃん、ココちゃん!」

 

 

 

「はい!」

 

 

 

皆は駆け出していた。

 

一斉に401に飛び移り、皆で幸子を囲むように抱き締めた。

 

 

 

「ココちゃああん!」

 

 

「心配させやがって!」

 

 

「今日は一杯ごちそう作るからね!」

 

 

「はい、はい!……はいっ!」

 

 

 

先程までの凍るような寒さなど忘れて、彼女達は抱き合った。

 

 

 

体温も涙も、みな暖かい

 

 

 

それを確かめるように、互いに生きていると確認し合う様に彼女達は抱き合った。

 

 

目を細めて、その様子を見ていた真霜は、表情を元に戻してシュルツへと向けた。

 

 

「ふぅ……一段落ね。さて、これから説明が大変よ?」

 

 

「無論、承知しております。スキズブラズニルの会議室を開けておきましたので、そこで説明を。はれかぜは――」

 

 

 

そこまで言うと、シュルツは幸子を囲う彼女達へと視線を向けた。

 

 

 

「もう少しだけあのままにしてあげて頂戴。あの娘達の絆はふかいから……」

 

 

 

「ご心配なく、フンディンの要員にはれかぜを操縦させます。皆さんは食堂で休んで頂いてかまいません」

 

 

「準備が良いのね。食えない人だわ」

 

 

「貴女ほどではありませんよ」

 

 

「……」

「……」

 

 

 

二人の沈黙の間も、幸子を囲む歓喜の声は鳴り止まなかった。

 

 

 

「ねぇ……どうして¨あんな事¨をしたの?岬さんがああなる事は折り込み済みだった。だからあの場面は大戦艦ハルナが岬さんを抑える手はずだったのになぜ?」

 

 

 

「あの方は――いや、岬艦長や彼女を支える皆さんの絆。それは決して破壊されるものでは無いと信じていたからです。そして、それは証明された」

 

 

 

「………」

 

 

「あの方は最期の瞬間まで¨家族¨を救う事を諦めないでしょう。私とは違う……強い方だ」

 

 

 

「あなたもよ」

 

 

「私も?」

 

 

「きっと岬さんにとってあなたも、そして千早艦長達も、もうずっと前から家族なのよ。だから撃てなかった」

 

 

 

「買い被りですよ。そう、買い被りです……」

 

 

 

シュルツは笑顔と涙で覆われた彼女達に背を向けて、ゆっくりフンディンへと帰って行った。

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございました。


と言う訳で、前話のタイトル通り、全てはお芝居だったと言う事ですが、ここに来て
真犯人とココちゃんの生存が確定致しました。

なお、ニセ幸子のナノマテリアルイミテーションは、漫画版原作アルペジオで、401を奪取しに来た陸軍に対して群像が実際に行った偽装工作で、そこからの輸入となります。

一方で、説明しきれていない謎があったのも事実でしょう。

次回は今回の一件の説明と言う形にさせて頂きます。



追伸として、活動報告に私の超兵器に取り入れた構成等を書いてみましたのでご参考までに……



それではまたいつか





















とらふり!



真冬
「根性ぉぉぉお!」



福内
「あ~あ、荒ぶっちゃったわ。絶対自分より倫子が目立ったからよコレ……」



平賀
「そんな事言われても、コレは随分前に決まっていた事なのよ!?」


福内
「まぁね……でも、納得出来ないんじゃない?弁天は活躍できないし、艦が代わってこれからって時にコレでしょ?同級生だからこそ悔しいのよ」



平賀
「そんなものかしら……」



真冬
「平賀、テメェ……」


平賀
「あっ、この顔はまずいわね……」


福内
「悪いけど、わたし知らないわよ?」



真冬
「平賀!テメェ、何で俺より公式設定が多いんだ!目立つのは、トップは俺だ!それをお前……根性ぉぉぉ!」



平賀
「ヒイィイ!真冬さん!ちょっ、やめっ!違う違う!ソコ違うからぁあ!」


福内
(始まったわね……じゃあ私はこの辺で――)



真冬
「待て福内、どこへ行くつもりだ?」


福内
「……トイレです」


真冬
「嘘を付くなぁああ!」



福内
「ヒィイ!どうして私までっ!」


真冬
「同僚の責任は連帯責任だぁああ!」



福内
「もうやだ……いっつも倫子のやらかした不始末のとばっちりを、あっっああっ!や、やめぇえええ!」


真冬
「学生時代みたいに一晩中可愛がってやる!覚悟しろぉぉぉ!」



平賀
「諦めなよ典子。こうなったら収まるまで止まらな――キィイイイッ!」



福内
「埋め合わせは絶対して貰うからね倫こぉぉぉん!」


真冬
「ふはははっ!根性ぉぉぉ!」


ヴェルナー
「騒がしいですね。一体何を――なっ〃〃〃何をしてるんですか真冬艦長!」



真冬
「見たな……」


ヴェルナー
「見てません。私はこれにて失礼――」


真冬
「お前も道連れだぁあああ!」


ヴェルナー
「せ、センパぁああい!」


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真相近似値

お待たせ致しました。

一章を含めた、かなり前からの伏線を説明する回となります。

後半は、はれかぜ流血芝居を別視点から見た回想に成ります。


それではどうぞ


   + + +

 

 

スキズブラズニルのブリーフィングルームにて、はれかぜクルー全員が参加と言う異例の会議が開かれた。

 

 

これは、仮にも幸子を利用して事態を解決した事で、反発が起きるのを防ぐ狙いがあった訳だが、幸子の生存が確認された今、彼女達の心配は別な所にあった。

 

 

 

「会議を始める前に、納沙さんの過去に犯した罪についてだけど……」

 

 

ビクッと身体を震わせた幸子の身体を両側に座ったミーナと真白が優しく擦る。

 

 

「彼女の罪は現状¨問う事は出来ない¨わね。尤も、許される事ではないのだけれど」

 

 

 

「!」

 

 

 

目を丸くする一同に真霜は咳払いをして収める。

 

 

 

「余りに複雑で一言では説明出来ないのだけれど、彼女の一件には超兵器だけでなく、ブルーマーメイドが本来関与できない国家が絡んでいる事が大きいわ」

 

 

 

「国家……ですか?」

 

 

「そう、正直に言えば日本を達つ前段階で納沙さんの過去は解っていたわ。國枝宗一郎¨元総理大臣¨によってもたらされた情報によってね」

 

 

 

「!」

 

 

 

政治には余り関心のない明乃達ではあるが、学生時代に受けた社会の授業では必ずと言って良いほど名前が出てくる人物であった。

 

 

理由は、通信技術が発展しなかった現代において当時はばを利かせていた米国のロケットを応用した衛星が軌道に上手く乗らず不調だった事に目を着けた日本は、政府としては異例のイチ企業に介入出来る法案を可決して公金を適切に分配した事で技術開発が一気に進み、地震などの地殻変動や津波が多発する日本が独自に発展させた¨海上地震津波関知観測機器¨通称【TUNAMIブイ】を応用して、長距離通信ブイを洋上に多数浮かべる事で、世界中のネットワークを発展させる事業に成功した事によって、日本に莫大な利益をもたらしたのだった。

 

 

 

今回、國枝が吐露した幸子の不正についてだが、真霜の言う通り複雑に思惑が絡み合っていた。

 

 

その1つが、日本に巣食う軍再建を狙うタカ派の存在である。

 

 

 

現総理大臣である大湊が目の上のたんこぶとして警戒していたタカ派の先鋒 早稲田朋子であるが、彼女は所詮¨傀儡¨に過ぎず、真なる敵は連合与党幹事長であり党の重鎮 ¨安芸晋介¨なのであった。

 

 

かねてより軍再建を目論んでいた安芸にとって、ブルーマーメイドの存在は邪魔でしかない。

 

 

理由は、【海上安全委託協定】(国際連合加盟国はブルーマーメイドとその傘下にあるホワイトドルフィンに、¨領海での哨戒活動を委託し、その活動の一部費用を自国が負担する¨)を結ぶ必要があるからなのだ。

 

 

勿論、自国の軍や自衛隊は彼の組織が対応しきれない不足の事態が発生した場合のみ活動が認められるものの、組織的に完成しているブルーマーメイドは大概の事案を解決する上に、出番がなくとも軍艦建造や維持費は勿論かかる為、資源や貿易を他国に握られている日本には不可能な事であった。

 

 

そこで彼は、ブルーマーメイドの信頼を不祥事によって失墜させようと試みたのである。

 

 

 

 

「ちょっと待ってください!不祥事ってもしかして……」

 

 

 

「そうよ岬さん。RATtウイルス事件と海上要塞奪取事件は、裏で彼が手を引いていた疑いが高い」

 

 

 

「!!!」

 

 

 

彼女達が解決してきた事案が、まさか政府の要人によってもたらされた事実には驚愕するより他はない。

 

 

だが、そこに至るまでの経緯こそが今回の肝である事から彼女達は静かに真霜へと視線を向ける。

 

 

「続けるわよ?安芸幹事長がブルーマーメイド解散に向けて動いていたのは解ったわね?だけど、普通そんな妄想は夢物語で終わる筈なの」

 

 

 

そう、¨普通は¨だ。

 

 

 

幸か不幸か、安芸は次々と手札を獲得して行く事になる。

 

 

1つは明乃、そして平賀だ。

 

 

 

 

「平賀1等監査官は、15年前に沈没した遊覧船に乗っていた事が横須賀女子海洋学校長の調査によって判明したの。その後彼女は岬さんが一次保護されていた東北のとある山間部に、他の被害者と一緒に軟禁されていた」

 

 

 

「軟禁……ですか?」

 

 

 

「そうよ。政府がいくら調べても彼等の個人情報がまるで出てこなかった点、そして遊覧船の沈没理由が座礁ではなく未知の飛行する兵器による撃沈の可能性があった事。何よりも――」

 

 

 

真霜は一度間を開ける。

 

 

 

「被害者全員が岬さんと同じ¨少し先の未来が見える¨現象を発現していた事」

 

 

 

「なっ!!?」

 

 

 

一同は驚愕した。

 

 

この特異な現象は、明乃特有のものだと思っていたからである。

 

 

たが良く考えてみれば、明乃¨だけ¨と言うのも得心が行かないのも事実ではある。

 

 

 

「続けるわよ?この事件は公には出来ない。だけど、逆にそれが安芸幹事長の興味を引く結果になってしまったの」

 

 

 

 

自衛隊の地位確率を長年謳ってきた安芸は、当時防衛大臣を勤めた大湊の紹介を得ずともその人脈で事件の情報を得ていた。

 

 

そして彼等の能力の事実を知った上で、兵器転用が出来ないかを模索したのである。

 

 

 

結果――

 

 

安芸は大湊に対して彼等の人権問題や、防衛省の事件隠ぺいを盾に保護集落への干渉を半ば強要する。

 

 

異世界とは言え彼等は日本人であったし、撃沈であった遊覧船の事件を公表ともなれば、國枝は表向き調査を開始せざるを得ないだろう。

 

だが、撃沈の犯人など事実上この世界に存在しない訳で、無闇に他国を疑えば日本への反発は必至であり、犯行を特定できなかった政府への批判も高まるが故、國枝はやむ無く安芸の考えを呑まざるを得なかった。

 

 

 

そして明乃達被害者は、科学者達によって半ば非合法かつ屈辱的な扱いを受ける事になるのだが、尊厳の観点から真霜はその事に関しては口に出す事は無かった。

 

 

 

 

話を戻そう――

 

 

 

結局の所、安芸の計画は彼等の能力を解析するには至らず、しかも被害者の大半が能力を失ってしまった事で頓挫するのだが、今度は被験者の中で年齢が低かった明乃と、当時16際だった平賀にのみ特筆した能力が残っていた所に彼は目をつけた。

 

 

 

「まぁこれはブラウン博士と鏑木さんの推測なのだけれど、超兵器の意思がより干渉しやすいのは、取り分け闘争本能が強い人物と精神構造が確定していない子供だと言う推論を元としているわね」

 

 

 

この話は飽くまで推論の域を出ない訳だが、今は重要ではない。

 

 

 

平賀自身への取り調べの結果、安芸は幼児だった明乃ではなく、平賀に目を向けて接触を謀っていたことが判明。

 

 

そこで、ブルーマーメイドへ彼女を潜り込ませる為に徹底的に教育を施して経歴を捏造し、政府の推奨と言う名目で横須賀女子海洋学校へ転入させた。

 

 

本人の口から多くは語られてはいないものの、短期間で海洋学校に必要な知識や技術を習得して航洋艦長を勤めている事から、極めて優秀な人物であると推測されるが、晴れてブルーマーメイドの道に進んだ平賀は、その後も定期面談にてブルーマーメイドの内情を安芸へと流していた。

 

しかし、ブルーマーメイドは中々信頼を損なう様な不祥事など起こすわけもない。

 

 

安芸は極めて苛立った。

 

 

そこで彼は彼女達の能力と昆虫の脳に寄生して自分の住処となる水辺に誘導し、入水自殺をさせるハリガネムシと言う寄生虫にヒントを得た。

 

 

不祥事を起こさないなら、無理矢理¨起こさせて¨しまえば良いと考えたのである。

 

 

 

彼は、明乃達を玩具にして狂った科学者達を使って徹底的に寄生虫や菌類の研究を進めさせる。

 

そうして出来上がったのがRATtウィルスであったのだ。

 

 

 

だがここで、安芸の予想だにしない事態が発生する。

 

 

不審な動きを見せていた安芸を大湊が警視庁公安部に内定調査をさせている事が判明し、彼は泣く泣く全ての研究資料とウィルスに感染したネズミを潜水艇に入れて海へと沈め、証拠の隠滅を謀ったのである。

 

 

だが、彼の不幸は続く。

 

 

彼が潜水艇を沈めた場所は船舶が中々近寄らない海底火山が活発な西ノ島周辺ではあったが、まさか直後に新島が出来上がる程の爆発的噴火と地殻変動による海底の隆起によって潜水艇が再び顔を出すとは考えていなかったのだ。

 

 

 

ブルーマーメイドから西ノ島に打ち上げられた潜水艇を調査をする許可申請が成された事を知った安芸の心中は言うまでも無いだろう。

 

 

 

 

たが、ここで予期せぬ事態が起こる。

 

 

実は潜水艇自体を発見したのは、火山活動が終息に向かい実弾発砲を兼ねた演習場所に適していた西ノ島に横須賀女子海洋学校の生徒達が訪れていたのである。

 

 

火山活動に潜水艇が巻き込まれ遭難したと勘違いした教員と生徒達は、ブルーマーメイドへの連絡の後に島へと上陸して潜水艇の蓋を開けてしまったのである。

 

ブルーマーメイドが寄越した潜水艇の報告はその時のものであり、感染したネズミに接触した生徒伝いにウイルスが拡散して暴走する事態と発展した。

 

 

 

 

これがいわゆるRATtウイルス事件なのである。

 

 

 

実弾を持った艦艇の暴走は国民にとってはもちろん看過出来ないものの、未来ある生徒のをブルーマーメイドが容赦なく沈めたと言うシナリオは安芸にとって非常に都合が良かった。

 

 

 

そこで彼は、遅刻によって難を逃れた晴風が教育艦¨さるしま¨を誤って沈没させてしまった件を、生徒達が企てたテロによる¨撃沈¨と全くの誤情報をブルーマーメイドに流布し、¨最悪の手段¨と成得ても国民や周辺諸国、そして周辺船舶を守る上で¨最善¨の行動をとって欲しいと要請したのだった。

 

 

明乃の周りに、情報を集めた幸子の存在や生え抜きのクルー達を集めたのも、両成敗で亡き者でできると言うわけだ。

 

 

この機会を逃すべきでは無いと考えた彼は、海上自衛隊に秘密裏に接触して誤情報を伝え、訓練の名目で舞鶴校からイ201を借り受けた海上自衛隊に晴風撃沈を命ずる。

 

 

 

結果として彼等は、晴風の気転によって無用な殺戮をせずに済んだ訳だが、安芸にとっては彼女達に罪を被せる事は失敗したのである。

 

 

そこで彼は平賀を当該海域へ向かわせ、晴風の動向と共にウイルスに感染した学生艦達を葬る隙をリークするよう指示し、機雷原を通るルートを選択させる、パンデミックを狙って比叡をトラック諸島へ向かわせる、国際問題への発展を狙ってシュペーを意図的に晴風と交戦するよう誘導するなどの策を労するも、またしても晴風やもえか、そして真冬達ブルーマーメイドによって計画は失敗。

 

 

最終的には、美波によるワクチンの開発と晴風の活躍によって事態は収束を迎えた訳だが、怒りが頂点に達した安芸は、とうとう超えてはならない一線を越えて行く。

 

 

 

そう、海賊などの海上テロ組織に意図的に情報を流した事により発生した、海上要塞並びに海上プラント¨同時多発奪取事件¨に繋がったのである。

 

 

度重なる事件の多発によって、一次は極東ブルーマーメイドの――ひいてはブルーマーメイド全体の信頼は一時的に下がったものの、女性ならでは柔軟な発想によって直ぐ様画期的なルール変更が成された上、ウイルス事件その物はブルーマーメイド以前に日本が研究開発していた可能性を指摘され各国から厳しい目が向けられた事で、効果を発揮できずに終わったのだった。

 

 

 

彼の最後の抵抗は、晴風クルーを各地へと散らすよう圧力をかける事位だろう。

 

 

 

 

「あ、あのう。話は理解できました。ただその……」

 

 

「あら、ご免なさい。少し話がズレてしまったわね。いいわ、戻しましょう。まぁつまり、納沙さんの件は政治介入に当たる可能性があるから私達も迂闊には関与できないって事なの。ただ最初に言ったのだけれど、それで納沙さんの過去を消すことは出来ないわ。だから処分として―――」

 

 

 

¨処分¨と言う言葉に幸子の身体が再び震えた。

 

 

 

「ブルーマーメイド情報調査隊の内部に新たに新設を目指す。【兵器開発調査分室】に所属して貰うわ」

 

 

 

「え?」

 

 

真霜の口ぶりからして、彼女の拘束や懲戒処分で無いことは確かなのだが、彼女達の頭には再び疑問の文字が浮かぶ。

 

 

――続けるわよ?

 

 

その疑問は承知の上で真霜は続けた。

 

 

 

「これから先、航空機や超兵器の存在を知った人類は、必ずそれを求めて行く。残念だけどそれは止められない。けど、ルールを作って抑制して行く事は可能よ。故にブルーマーメイド本部は、情報収集能力に長けた人材を使って各国の物資の流れを把握し、兵器開発の情報をいち早く掴む必要がある事は急務なのよ。それには、デジタル化が進む昨今、それに特化した存在がどうしても必要になる」

 

 

 

「それがココちゃんですか?」

 

 

 

「そうよ。納沙さんの主計部としての能力や情報処理能力は失うのは惜しいわ。国家の事は国家に任せるとして、こちらが手を出せないなら、納沙さんの能力を十分生かしてもバチは当たらないでしょ?」

 

 

 

「それじゃっ!」

 

 

「ええ。納沙さんは超兵器討伐と事後処理が終わるまであなた達と一緒よ。勿論、その後は働いて貰うけどね」

 

 

 

ウインクをして見せた真霜の表情に一同は安堵の表情を見せる時、会議室の扉が開かれ、ある男が入ってきた。

 

 

 

大日本帝国¨陸軍¨の制服を着た30代前半の優男風のその男の胸には多数の勲章か光る。

 

 

 

「あ、あの。その方は?」

 

 

「紹介するわ、今回の作戦を¨立案¨した水戸吉鷹帝国陸軍¨中将¨よ。」

 

 

 

「……え?」

 

 

そう、彼女達が最も知りたい事は、偽装とは言え友人の死と言うショッキングな事態を巻き起こした経緯なのだ。

 

 

 

 

水戸ははれかぜクルーに静かに一礼して着席し、ゆっくりとした口調で語り出す。

 

 

 

「初めましてですね。今回の一連の作戦についてご説明致します」

 

 

 

 

「ちょっと待ってよ!」

 

 

 

「クロちゃん!?」

 

 

場に響いた痛烈な叫びは洋美からのものだった。

 

 

 

「ココちゃんと美波さんを利用してさ、岬さんを危険に晒しておいて謝罪の一つも無いワケ!?そんなの納得できないし、そんなあなたの話を信じろって言うのはムシが良すぎるわよ!」

 

 

 

 

彼女の言う事は至極もっともであり、最も一般大衆が叫ぶ内容であろう。

 

 

だが、水戸自身はこの考えを至極危険と考えている。

 

 

【朝三暮四】と言う言葉をご存じだろうか。

 

 

サルに朝3つのエサを与え、夕方4つ与えると宣言したところサルは激怒し、朝4つ暮3つ与えると発言を撤回したところ喜んだと言うものだ。

 

 

これは人間とサルとの違いを表した話だと言われている。

 

 

いつ食べ物が手に入るか解らない野生の生き物は、目の前にあれば食べてしまうのが定石であろう。

 

 

しかし人間は、長期的観点から食べ物を少しずつ食べたり蓄えたりする訳だ。

 

つまり上記の話から、サルは同じ数だけエサを貰えるにも関わらず、朝の時の自分と夕方の自分を同一化出来ていない事がわかる。

 

 

即ち、時間的観念が希薄で目先を優先する思考は、人間よりも動物に近しいと言える。

 

 

 

彼女達の年齢と、比較的自由を謳歌してきた環境では致し方の無い事ではあるが、戦争で翻弄された人間達を見てきた水戸にとっては、内心看過は出来ないのだろう。

 

 

自分の気持ちを抑えきれない衝動が時には安易に奪い合い独占し、果てには強力な兵器による侵略を選択させるのだから。

 

 

 

 

一般論と言う無意識の凶器が場に漂う中、水戸が見たものは明乃のオーシャンブルーの瞳である。

 

 

 

そこには、確かな過去 現在 未来を内包していた。

 

 

 

「クロちゃん。取り敢えず最後まで話を聞いてみよう」

 

 

「でも岬さんだってあんな目に――」

 

 

「お願い……」

 

 

何故かは解らない。

 

ただ、その一言に重みを感じた洋美はゆっくりと席に腰を降ろすのだった。

 

 

 

「申し訳ありません水戸中将。ご説明をお願いします」

 

 

 

「解りました。全てお話しするとお約束致します」

 

 

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

この一件を語る上で、水戸の事を無視することは出来ないだろう。

 

水戸吉鷹

 

彼は元々一介の軍人に過ぎなかった。

 

 

しかし彼が唯一他者と異なる点が一つだけ存在する。

 

 

それは、カルト宗教と化していた当時の日本に於いて、国策や作戦について¨疑問¨を持ち続けた事にある。

 

 

 

離島での戦闘の際は、米国を中心とした連合軍の猛攻の最中にゲリラ戦を展開していた訳だが、潜伏の最中に、彼は自身の部下達に戦争する意義についての疑問や、国家に対する本音を自身の権限で発言する事を許可していた。

 

 

 

結果として、彼の部隊は驚異的な戦果と生存率を誇って本土帰還を果たすわけだが、彼らを待ち受けたのは、誹謗中傷だった。

 

 

名誉の戦死どころか、おめおめと生き残るとは帝国軍人の恥!

 

 

何で私の息子でなくこんな卑怯者が生きているのかっ!お前が死ねっ!

 

 

 

 

彼等は祖国が勝利を謳いつつ、その実は死に取り憑かれた¨一億総死にたがり集団¨と化していた異常性に気付くのである。

 

 

 

しかし、日本はそうして若き命を無駄に散らせたツケを直ぐに支払う羽目になるのである。

 

 

本土空襲の激化と特攻によって、多くの人員を失った軍上層部は、今更ながらに馬鹿げた一直線の突撃よりも緻密な情報収集に赴きを置き始めたのである。

 

 

そこで白羽の矢がたったのが、大佐に昇進していた水戸であった。

 

 

 

軍は彼に中野にある学校を与え、諜報戦や破壊工作に特化した部隊を指導する様指示を下した。

 

 

 

だが、軍の推薦で集まった兵士達に話を聞いた水戸は心底落胆する事になる。

 

 

国の為に命を尽くす所存!などと言う者を一から教育している猶予などある筈が無いからだ。

 

 

 

入校者を一度全て別部隊へと異動させた水戸は、一般大学卒者や商社マンなどから集めだした。

 

 

 

潜入において、軍人臭さはかえって邪魔であると判断したからだ。

 

 

 

かつての部下達に指導させたのは、諜報や破壊工作に必要な技術や生存術のみであり、規律は愚か、外国語の習得や天皇制の是非を含めた言論の自由を認め、服装も長髪や軍服の禁止、会話の相手も軍人ではなく一般社会の広いジャンルの者である事を厳命した。

 

 

 

 

立派な軍服で道を歩く事がステータスであった当時、生徒達の落胆は相当なものであった訳だが、自由の亡い国での自由は彼らにとって徐々に甘美な事となって行く事になる。

 

 

 

そして、国内外に散った彼等がもたらした情報によって漸く本来の軍の基盤が出来つつ有るのを確信した水戸が取った最後の行動とは――

 

 

 

「何!!?水戸が¨自決¨しただと!!?」

 

 

「はっ!戦火が苛烈を極める中、最前線で敵を撃滅して果てる事が叶わぬ恥は堪え難き屈辱。最早私に出来る事はこれしかないと……遺書も見つかっております」

 

 

 

「なんと……」

 

 

彼は自らの存在を殺したのだった。

 

 

彼のもたらす情報が有益であった為か、二階級特進で中将とはなったものの、彼の懸念は別な所に存在した。

 

 

 

諜報活動によって米国が新型爆弾を開発した事や、ドイツの陥落の可能性を知った水戸は日本の敗戦を確信。

 

 

 

敵国に厄介な諜報部隊が軍と共にあれば、軍の解散と同じく解体は免れ無いだろう。

 

 

それはこれからの日本が世界に置いてきぼりを喰らい、列強に隷属しなければならない事と同義だった。

 

 

それを阻止するため、自身の死と共に部隊を表向き解散させて軍と切り離したのだ。

 

 

 

案の定、日本は敗戦して米国によって軍の解体が噂され始めた。

 

 

だがその頃からだ。

 

 

彼は軍の上層部がウィルキアの軍属と頻繁に会っていた事が判明すると同時に、国王暗殺のクーデターと世界への宣戦布告に撃って出る事が明らかになる。

 

 

 

彼は、敗戦直後から諜報部隊の仲間入りを果たした笹井に国内の情報を集めさせ、海軍大将の君塚を中心にウィルキアに同調する動きがあると掴んだ。

 

 

だが、その時は既に遅かったのだ。

 

 

クーデターは成功し、撤退を余儀なくされたシュルツ一行は日本へと助けを求めた結果、君塚によって拘束されてしまう。

 

 

 

水戸は直ぐに筑波の盟友である天城大佐に事を伝え、シュルツ一行を救出すると同時に部下の一部を残して解放軍に同行する道を選んだのだった。

 

 

 

その後、目覚ましい活躍を見せるシュルツと対照的に、水戸はフリッツを含めた陸軍出身者をエージェントとして鍛え上げ、超兵器の調査や破壊工作を展開してするなどの裏方て徹して行く事になる。

 

 

 

ここで漸く、舞台は現代に戻る。

 

 

小笠原海戦の後、取り分けブルーマーメイドの別動隊が合流した後に超兵器に動きがあった事から、内通者の可能性を疑ったシュルツは、ガルトナーを通じて水戸に調査を依頼し、蒼き鋼の協力を得ながら事を進めた。

 

 

部隊を西と東に分散させたのも、絞り込みを進める一環であったのだ。

 

 

 

ところが、察しの良い真冬によって事が露呈しかけ、ハワイの一件の後に真霜によって問い詰められたエドワードが概要を伝える事となる。

 

 

 

そして、度重なる超兵器との戦いの結果、西側の笹井からフリッツに容疑者数名のリストが送られてきた。

 

 

ある程度位の高い人物に超兵器が干渉しやすい兆候を踏まえ、真冬を除いた艦橋の者のリストが提供される。

 

 

真冬を除外したのは、犯人が明乃と同様の能力者なら、出自が同じである可能性が高く、過去に整合性が取れない人物である筈だからだ。

 

 

 

水戸はそのリストを真霜に提供し、彼女はそこから彼女達の過去に着いての調査を開始。

 

 

この時点で既に、異世界艦隊はヴィルヘルムスハーフェンを出航しており、総旗艦直衛艦との相対を控えていた真霜は内心焦りを抱いていた。

 

 

しかし、キール到着直後に國枝の助言から独自に調査を開始していた真雪から、平賀に関する情報が提供された事で事態は一気に動き出す。

 

 

 

水戸は、明乃と同様に少し先の未来が見えるであろう平賀を捕らえる手段を考えなければならなかったのだ。

 

 

 

そこでもう一度資料に目を通した水戸のが捉えた名前こそが納沙幸子だったのである。

 

 

 

國枝の証言とヒュウガの裏付け捜査の結果、幸子はかつてハッカーとして活動していた経緯がある事、そして安芸の指示によってブルーマーメイドの内情を知っている平賀自身に幸子を脅迫して入試の成績操作をさせていた事が通話記録から判明。

 

 

そこから平賀確保に向けて、あらゆる可能性のピースを繋げる作業を驚異的な早さで組み上げた水戸は作戦をシュルツや群像、そして真霜やもえかに伝えたのだった。

 

 

 

そして作戦の決行――

 

 

「お~い!ハルナと言ったか?済まんが儂をはれかぜに連れて行ってくれんかのぅ!もっとあ奴等と話をしたいのじゃ!」

 

 

甲板をうろついていたミーナに声を掛けられたハルナは、はれかぜに向かう口実として彼女を利用する事を考え、実行に移す。

 

 

「ああ、構わん」

 

 

「すまんのぅ。お礼に今度、また美味しいブルストを蒔絵に食べさせてやるからな」

 

 

「了解した……」

 

 

笑顔で手を振るミーナを尻目に、ハルナはゆっくりと視線を上に向ける。

 

 

「む……」

 

 

 

そこにはマチコが此方を見据えているのが見えた。

 

 

(先ずは一人か……)

 

 

ハルナは驚異的な跳躍力で見張り台に一瞬で移動した。

 

 

「どうしたんだ?ハルナさん……」

 

 

「いや……悪いが拘束させて貰うぞ」

 

 

「!!?」

 

 

格闘のプロでもあるマチコは無機質である筈のハルナの瞳から攻撃の意思を感じた。

 

 

更に――

 

 

「フンディン?なんで――」

 

 

視野の広さだけでなく、聴力も優れた彼女の瞳に、一切の灯りを付けずに接近するフンディンの姿を捉えた事で事態の深刻さを察知したマチコは動いた。

 

 

「艦長、フンディンが此方に接近してきます!ただ……」

 

 

『野間さんどうしたの?』

 

 

「フンディンは全ての灯りを消しています!砲も此方に……あ゛っ!」

 

 

 

マチコはハルナによって完全に押さえ込まれてしまう。

 

 

「じっとしていろ。ケガをさせたくはない」

 

 

ハルナの脇に抱えられ、口を抑えられたマチコには最早どうする事も出来なかった。

 

 

 

対するハルナは、飽くまでも無機質に見張り台から下を見つめている。

 

 

 

「見張りを制圧した。突入を開始しろ」

 

 

 

「!!?」

 

 

マチコは401から出てきたイオナやタカオ、そしてもえかや静の存在に目を丸くした。

 

 

彼女達はあらかじめ艦長室やその周辺に潜伏して平賀を拘束するつもりだったのだ。

 

それは、本性を表した平賀が周囲を巻き込む抵抗や逃走を阻止する狙いが有るのだが……

 

ここで疑問が生じる。

 

どうやって平賀を艦長室に誘導するかだ。

 

 

 

ここで漸く幸子の存在が重要になってくる。

 

 

水戸は普段の業務や、定期的に行われる休息の時間を利用して部下達にブルーマーメイドの隊員達と積極的に交流させ、その人物の性分を事細かく報告させていた。

 

 

プロファイリングを行い導き出された結論から、彼女は周囲の目を気にするタイプであり、自身の過去への罪悪感を打ち明けられずにいると推測、シュルツに敢えてその情報を暴露して、あたかも幸子が犯人であるかのように仕立て上げ、はれかぜを動揺させるよう仕向けさせた。

 

 

案の定、艦内はパニックに陥り、その隙に幸子は飛び出したのだった。

 

 

勿論、この行動も彼は折り込み済みである。

 

 

彼女が晴風クラス存続に一人奔走した過去から、友人を失う事に恐怖を抱くであろう彼女は、はれかぜに掛けられた誤解を解き、特殊部隊を説得しに来るだろうと分析していたからだ。

 

 

 

幸子は涙を流しながら艦内を駆けていた。

 

 

(私の過去、知られちゃった。きっと皆わたしを嫌いに……ううん、それでもいい!皆が酷い目に逢う位ならっ!)

 

 

 

明乃が推測した通り、内通の件と幸子の件は全く別の案件だ。

 

 

だが、自身の過去のせいではれかぜ全体が疑われていると誤解した幸子は、その誤解を解くために自らの危険を省みずに奔走していた。

 

 

 

(護らなきゃ!家族を護らなきゃ!)

 

 

 

彼女は嬉しかった。

 

自分の過去を知って尚も、彼女達は自分を信じてくれていたからだ。

 

 

 

そんな彼女達には、現在射殺もやむ無しとの命令が出ている。

 

 

 

 

(そんな事、させないっ!真実を!真実を伝えないと!私は――)

 

 

 

彼女は甲板の扉を勢い良く開き、フリッツに銃口を向けられる事になる。

 

 

「動くな」

 

 

「ふ、フリッツさん?わ、私――」

 

 

「悪いが時間がないんだ。死んでくれ」

 

 

 

「え?」

 

 

「拘束で済むのなら、始めからやっている。俺達が今ここにいる理由くらい察しがつくだろう?」

 

 

「そんなっ!い、いやっ!私はまだ――」

 

 

その時ハルナは既に動いていた。

 

 

マチコをクラインフィールドで拘束した彼女は、跳躍な後に幸子を拘束する。

 

 

下手に動かれて銃弾に当ってしまっては元もこもない。

 

 

「ぐっ、動けなっ――は、ハルナさん!?どうしてっ!」

 

 

「抵抗するな。状況がややこしくなる」

 

 

 

「大戦艦ハルナ。時間がない。早くイミテーションをっ!」

 

 

 

「了解した……」

 

 

チ…チ……

 

 

「うそ、でしょ?どうして――」

 

 

突如として背後から現れた自分に幸子はいよいよ混乱してしまう。

 

 

 

「心拍数の上昇を確認――現状を理解できていないのか?まぁいい、キリシマ」

 

 

 

「――ああ」

 

 

元の姿に戻ったキリシマがいつの間にか姿を見せていた。

 

 

 

「機関室に保護しろとの命令だ。あとはお前といおりが居れば事足りるだろう」

 

 

 

「了解したが、内通者の確保には私が出向いた方が良かったのではないか?」

 

 

「この者の保護が大前提だからな。お前なら確実と判断したのだろう」

 

 

 

「解ったよ?それ、じゃっ――!」

 

 

「え、えぇっ――!?」

 

 

キリシマは幸子を抱えて401へと跳躍して行く。

 

 

 

「では始めて貰おうか」

 

 

「解りました……」

 

 

 

パァン!パァン!

 

 

数発の銃声の後に、イミテーションの幸子が甲板に倒れる。

 

 

 

(―――!)

 

 

一部始終を目撃していたマチコは混乱していた。

 

何故、この様な茶番を演出するのか理由が解らなかったからだが、何より驚いたのは、銃声の後に彼女が現れた事だった。

 

 

 

 

「一応、データ通りに再現はしてみたがこれで良いか?」

 

 

 

「ああ……」

 

 

現れたのは美波であった。

 

 

 

この作戦の肝は、囮である幸子が死亡したと印象付ける事にある。

 

 

その為にはイミテーションが偽物であると悟られる訳にはいかない訳だが、見た目を偽装したとしても医者の目を完璧に誤魔化せる程精巧に人体の再現するのは容易ではない。

 

 

よって、あらかじめ美波にのみ作戦の全容を伝え、まず初めに死体に触れて死亡を宣言させる必要があったのだ。

 

 

 

「ミナミ、アケノ達が来る。一度隠れていろ」

 

 

 

明乃の接近に気付いたハルナに促されて、彼女は身を潜めた。

 

 

そして、察しの良い明乃が死体に触れる前に声を上げ、イミテーションに触れたのである。

 

 

 

この後の美波の表情から、作戦に反対したのは言うまでもないだろう。

 

 

医者として虚偽の診断を下し、一同の心に傷を付ける行為は勿論、イミテーションとは言え友人が射殺されると言う状況を造り出すなど認められる訳もない。

 

 

結果として、死者を出さない為との文言に折れた訳だが、そこは医者としての彼女のプライドだったのであろう。

 

 

結果として彼女は、幸子の死亡を¨宣言していない¨

 

 

発言は「最悪だな……」だけなのだ。

 

 

この発言の選択は、医者としての最悪がイコール死との印象をはれかぜクルーに与えたものの、本心は平賀を拘束するにしても、もっと最善策があったのではないか、この方法は¨最悪だ¨と言う彼女の抗議の意味も含まれていた訳だ。

 

 

 

更にはだ。

 

 

その¨最悪¨には明乃の暴走も含まれている。

 

 

 

シュルツの懸念した¨賭けの要素¨とは、正にそこに集約されていたのである。

 

 

「ああああっ!」

 

 

 

「てめぇら何をっ……なっ!」

 

 

明乃の絶望した悲鳴と同じくして、真冬達が現場に到着し役者が揃った。

 

 

 

察しの良い真冬が、事態に気付く事は折り込み済みだったが、故に甲板のやり取りを平賀に目撃される可能性は十分にあった。

 

 

故に、あらかじめ見張りの配置を決めて周知し、401をはれかぜの右舷に配置、少し離れた月黄泉は必然的にはれかぜの左舷からの接近となるが、そこにはれかぜより一回り大きいフンディンを割り込む様に横付けする事で、手品の死角を作って幸子を保護したのだ。

 

 

 

ここまでのお膳立ては完璧だった。

 

 

たがここで、予想外の出来事が起こる。

 

 

暴走した明乃を抑える役目はハルナが負う筈たったが、シュルツが自ら彼女の前へと無防備な身体を近付けたのだ。

 

 

 

場の空気は一瞬で凍り付く。

 

 

水戸からすれば、軽率だと言える彼の行動。

 

 

だが、彼は今だからこそ彼女を試さねばならなかったのだ。

 

 

幾度となく彼女の心をすり減らせた悪魔の意思。

 

 

その闇の中で彼女を繋ぎ止める最後の希望とは――

 

 

【家族】

 

 

 

そうだ。

 

 

シュルツは明乃を試したのではない。

 

 

数ヶ月の間のような薄っぺらい関係の自身ではなく、積み上げられてきたはれかぜクルー達の絆を信じたのだった。

 

 

 

 

結果、彼は賭けに勝つ事と成る訳だが、肝心なのは平賀拘束を控えたこれからなのだ。

 

 

真霜は、冷静さを欠いている事を理由に、はれかぜクルーと真冬を平賀から分離し、さりげなく明乃を艦長室へ誘導する事に成功する。

 

 

恐らく平賀は、出自が同じ明乃に対して何らかのアクションを取る筈だが、ここで二つ目の賭けが出現する。

 

 

平賀の未来透視能力が一体どのくらい先まで見えるのかだ。

 

 

仮に突入しても、その行為事態が先に知られてしまえば、平賀は躊躇なく引き金を引きかねない。

 

 

 

故に、先に潜伏していたイオナとタカオは、平賀の確保だけでなく、限り無く理想値に近い近似値を割り出す必要があったのだ。

 

 

 

「かっ!あがっ!?」

 

 

 

平賀が、明乃の口へ銃口をねじり込むのを見た群像は、¨その時¨が近い事を確信していた。

 

 

 

そして――

 

 

 

「暴れないで貰える?うっかり撃っちゃうかも――チッ!ほんと、邪魔ばかりっ!」

 

 

(え?今こっちを見っ――)

 

 

一瞬、平賀と彼女達の視線が交錯したように感じた次の瞬間――

 

ヴォン!

  

「う゛っ……」

  

「アグッ!う、そ……?」

 

何故か、コアの感情プログラムを司るヶ所に膨大な負荷が掛かった二人はその場に倒れ込む。

 

 

 

 

「クラインフィールドを使って光を曲げ、背景に隠れていたのね。それにっ――!」

 

 

 

平賀はなぜか明乃に突き付けていた銃を投げ捨て、太ももに忍ばせていたナイフを彼女の首に突き付け、もう一本のナイフを扉の方向へと投げつけ――

 

 

「え゛っ!?」

 

 

「静さんっ!あ゛っ!」

 

 

 

タイミング良く開いた扉から突入してきた静にナイフを当てた。

 

 

 

平賀はこの時、未来を見ていたのであるが、その時に引き金を引いていた。

 

 

しかし、銃は¨発砲しなかった¨のだ。

 

 

理由は、シュルツと明乃に一同の視線が集まっていた最中に、ハルナが気付かれない様にナノマテリアルを銃口に詰め込んでいたことにある。

 

 

 

「来たっ!観測結果まだかっ!」

 

 

 

〔演算が間に合わ……ない〕

 

 

イオナはコアへのジャミングが酷く、演算処理を適切に行う事が出来ない。

 

 

 

 

「干渉が働いているのか?ヒュウガ、タカオだけでは演算が間に合わないかもしれない。君もイオナな演算バックアップを頼む」

 

 

 

「姉さまの為ならっ!」

 

チ…チ…

 

 

〔401、私の演算を使いなさい!〕

 

 

〔タカオ……〕

 

 

〔早くっ!〕

 

 

〔了解……〕

 

 

チ…チ……   ヂッ!

 

 

 

鬱陶しい程のエラーを掻き分けてイオナがコアをフル回転させたと同時にもえかの叫び声が響く。

 

 

「イオナさん時間は!?」

 

  

「さ、3分17秒……」

 

「了解!千早艦長ぉっ!」

 

  

(な、にっ!?何故その事をっ!)

 

 

 

平賀は、自らの透視時間を言い当てた彼等の真意を即座に理解した。 

 

¨しているが故に¨解らなかった。

 

 

いかに、部隊を投入したところで、行動を先読みしてまえば肉弾戦で負けはしない

 

メンタルモデルも封じた

 

あとは明乃を人質にでもしてしまえば――

 

 

 

 

「――!!?」

 

 

そこまで考えた時、自身が見ている未来の自分に異変が起こる。

 

 

未来の彼女は、突如として苦しそうに喉を押さえてのたうち回り、更には視界が急に暗転し始めたのだった。

 

 

(何故!!?どうして見えな――)

 

 

 

「やぁ!」

 

 

 

「チッ!」

 

 

 

 

解っている。もえか達の執拗な妨害は明らかに時間稼ぎだった。

 

 

しかし、何故時間を稼がなければならないのかが解らず、平賀が焦りを覚えた。

 

 

(どうしてっ!どうして邪魔するの!?私はっ――)

 

 

 

苛立ちと共に息が上がってくるのを平賀は感じていた。

 

 

何度見返しても、暗転する未来は覆らない。

 

 

 

「このっ!みんなみんなわ、私の邪魔ばかり――な゛っ!?」

 

 

 

 

 

気付いた

 

 

気付いたしまった

 

 

 

本来、訓練を受けた平賀がこんなにも早く息が上がる筈がないのだ。

 

 

喉元付近が、ジワジワと締め付けられる様な錯覚を覚え、吸い込んだ息が、まるでフィルターにでも阻まれているが如く肺へ入って行かない。

 

 

 

 

「カッ、カッ?!はぁあ゛っ……」

 

 

 

息苦しさに手足が痺れ、目を開けているのに辺りが暗くなる。

 

 

 

「知名艦長!大丈夫ですか!」

  

  

「フリッツさん!もうすぐです!まずミケちゃんを救出しっ――!」

 

 

 

「ユルサナイ……ドイツモ コイツモ ミンナ許サナイ!」

 

 

 

彼女はどうしても明乃に問い質さねばならなかった。

 

だが事が露見した以上、最早彼女を亡き者とするより他は手段が無かったのだ。

 

 

(後悔スルガイイ ソシテ味ワエ 無二ノ存在ガ喪失スル絶望ヲ!)

 

 

折れたナイフの残りを明乃の首へ突き付けた平賀に、場は膠着状態へと移行する。

 

 

 

「チッ!振り出しか!お前達、迂闊に動くなよ!平賀倫子1等監察官、貴女ならもう¨お分かり¨の筈です。武器を棄てて投降を……」

 

 

 

「うるさい!私はっ………あ゛え゛??」

 

 

しかし、彼女の抵抗はもはや無意味であった。

 

 

 

「かっ…あ……がっ…はっ……かがぁあ!」

 

  

「今だ!確保しろっ!」

 

 

朦朧とする平賀を拘束したのを確認したもえかは作戦の終了を確信した。

 

故に、平賀に掛けられた枷は必要ない。

 

  

「千早艦長!対象を拘束しました!大戦艦ハルナへの命令を解除して下さい!このままじゃ平賀さんがっ!」

 

  

『了解しました。ハルナ!』

  

『命令の解除を確認した』

  

チ…チ……

 

 

「カハァ……ハァハァ……」

 

 

 

漸く息が肺に供給され、彼女の身体から力が抜けて行く。

 

 

 

実はハルナが仕込んでいたのは銃口の細工だけではない。

 

 

 

明乃の暴走は端から想定されており、全員の意識が彼女へと向いたあの時、銃口だけでなく平賀の肺の入り口へナノマテリアルを一粒ずつゆっくり侵入させ、彼女の透視時間を確認の後に、ジワジワと気道を塞ぎ、もえかと静に格闘戦をさせて運動量を上げ、彼女の血中酸素濃度を低下させて動きを鈍らせ、更に酸欠による視界の暗転によって透視を無効化する事に成功した。

 

 

少ない情報の中から、最重要保護対象を警護する役割と手品の仕込みを行う大役、そしてあらゆる不足の事態に対応しうるバックアップに大戦艦をあてがい、平賀な干渉に巻き込まれないよう敢えて突入させず、通常コアより演算能力の高いデュアルコアを有するイオナの演算をバックアップと補佐すべくタカオを同行させた。

 

 

群像の人選は見事的中したのである。

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

「ここまでが、作戦の全てです」

 

 

 

「………」

 

 

 

作戦の全てが語り、辺りを見渡した水戸は、平賀の動機を除いた一同の気持ちは概ね¨理解¨に達したと判断できた。

 

 

 

残るは、明乃が今回の作戦に何を感じ、結論を出すかだが――

 

 

カタンッ……

 

 

今まで静観していた明乃が席を立ち一同の視線が彼女へと向けられて行く。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


鋼鉄シリーズで話だけは出てくるエージェントですが、それを統括する人物がいるだろうとの事で、初期より構想にあった人物を史実にあった陸軍中野学校や二俣分校を参考に水戸と言う人物を作ってみました。

それで、真犯人は平賀さんだった訳ですが、犯人に仕立てようと思った理由を説明させて頂きます。

一章の最終話、内通者がいる可能性を示唆した辺りで浮かびました。

正直、福内さんとどちらにするか悩んだんですが……


漫画や公式での経歴からミケちゃんとの共通点がある程度認めらる為だったんですね。


明乃
性格は少し天然
よく艦を飛び出す
スキッパー操作が上手い


平賀
性格はおっとり

にも関わらずスキッパーの国際レースS1の優勝経験がある

学生時代は艦長で、よく持ち場を飛び出して無茶をした

更に、漫画版はいふりで平賀さんって艦長と良く似た人だったらしいよと言う台詞がある


以上の点から独自解釈で設定を組んでおりました。


ココちゃんは、彼女から目を外させる為のブラフですね。

やはり内通者をバラしたくありませんでしたので……


今回の作戦は、手品の視線や心理を突く手法に着目して考えました。


水戸が登場人物達の性格を的確に把握し、役割や舞台で踊る役者達の動きをアドリブから台本にのせる。

ウィルキア登場人物を引き立て、蒼き鋼が舞台の裏方で仕掛けを動かす。


正に舞台であった訳です。


イ201については、原作アニメでいきなり実弾の魚雷を発射したり、潜水艦内部の描写が不自然なまでになく、更にはなから撃沈が目的であるかのような動きがあったので入れてみました。

さぁ……


こうして小説を書くにあたってですが、海を題材にした作品は、何故か未来予知に近い事案をフィクションや戦争に隠して扱ってる事が多いなとつくづく感じました。


鋼鉄シリーズ

津波を含めた天変地異

一国の戦力や兵器の独占


アルペジオ

国同士の行き交いが低下する事での経済崩壊と国家の衰退

温暖化による海面上昇



はいふり

ウイルス

人の行き交いの活発化(原作アニメではトラック諸島)等により起きるパンデミック

テロ(劇場版)


国際組織とイチ国家の思惑の相違




こんな感じですが、原作の先生方が一体何を伝えようとしているのか、その我々に取っては少しチクリとくる痛烈なメッセージを読み解きつつ、私の拙い作品にのせられたらなと思っております。



次回まで今しばらくお待ち下さい。


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贖罪式断罪

超兵器の出番の前に回想が続くのは申し訳無いのですが、 もう少しだけお付き合い下さい。


それではどうぞ


   + + +

 

 

シュルツは思うのだった。

 

 

今回の作戦で多くの人の心を傷付けた自身を彼女は決して許しはしないのだと。

 

 

 

しかし――

 

 

 

「!」

 

 

 

シュルツを含めた一同は驚愕した。

 

 

 

明乃は笑みを浮かべていたからである。

 

 

 

今にも泣きそうで感情が溢れだしそうなのにも関わらず、彼女は気丈に笑って見せた。

 

 

 

「岬艦ちょ――」

 

 

「私、感じたんです。シュルツ艦長が私を支えてくれたあの時に――」

 

 

 

「……」

 

 

「混乱してて、朧気なんですけど、何故かとても¨暖かかった¨。だから今の話を聞いて確信したんです。シュルツ艦長も千早艦長も――ううん、協力してくれた皆は¨家族¨だったんだって……」

 

 

 

「違う、私は――!」

 

 

 

――そんな高尚な人間じゃない!

 

 

そう彼は叫びたかった。

 

自分は罵られるべき人間なのだと、この場は自分を罵倒するべき処刑の場なのだと覚悟したと言うのに、明乃の言葉や表情がそれを許さない。

 

 

 

「ありがとうございました」

 

 

「――!」

 

 

悲しみや怒りは当然あったであろう。

 

 

しかし、それ以上に失う恐怖を知っている明乃にとって死者が出なかった事の意味がいかに大きいかが見てとれた。

 

 

 

今にも泣きじゃくりそうなオーシャンブルーの瞳から滴が溢れて頬を伝いながらも、気丈に笑う彼女にシュルツは愕然とする。

 

 

 

「ココちゃんを助けてくれて……平賀さんを殺さないでいてくれて、そして――」

 

 

 

(止めてくれ!お願いだ岬艦長!私を、私をどうか――っ!)

 

 

 

「私を助けてくれて、本当に……本当に、ありがとうございました」

 

 

 

¨赦さない¨でくれ!

 

 

シュルツは心の中で絶叫していた。

 

 

甘えだったのかもしれない。

 

 

一同の面前で罵倒され、彼女達の怒りや憎しみを受け入れて行く事こそ、罪を償うと事なのだと考えていたからだ。

 

 

だが今、彼は赦されたのだ。

 

 

 

【家族だから】互いに傷付ける事もあろうとも赦し合える。

 

 

【家族だから】理想とは掛け離れた喧嘩をしても赦し合える。

 

 

【家族だから】―――

 

 

 

 

《行かないで!兄さん……》

 

 

 

「!」

 

 

 

シュルツの脳裏に、自身を呼ぶ蒼い瞳の少女の姿が過った。

 

 

全てを捨て去っても護りたかったものだ。

 

 

 

「………」

 

 

辺りは静寂に包まれる。

 

 

最も怒りを抱いている筈の彼女が彼らを赦しているのに、自身が叫ぶわけにはいかないからだ。

 

 

 

数時間にも渡る会議はこれを持って解散となるのであった。

 

 

 

 

 

 

   + + +

 

 

スキズブラズニルの外縁にて、シュルツは海を見つめる。

 

 

 

「………」

 

 

彼は水戸から貰った一本の煙草を取り出して火を付けて深く吸い込み、ゆっくりと吐き出された煙は潮風に流されて消えて行く。

 

 

 

「タバコ、お吸いになるんですね」

 

 

「千早艦長……」

 

 

 

背後から現れた群像を見たシュルツは慌てて煙草を消そうとするのを、彼は制する。

 

 

 

「消さなくても大丈夫ですよ。俺の世界でも最高の嗜好品でしたし、何より――」

 

 

 

今はシュルツがそうしたい時なのだろうと群像は考えていた。

 

 

 

「ありがとうございます」

 

 

「いいえ」

 

 

 

二人の間に沈黙が流れ、波と潮風の音だけが奏でられていたが、先に口を開いたのは群像であった。

 

 

 

「シュルツ艦長お伺いしたい事があります」

 

 

「なんでしょうか?」

 

 

「何故、そこまで岬艦長にこだわるのですか?」

 

 

「………」

 

 

 

「理由は解りませんが、あの場面であなたが前出たのは、彼女がはれかぜ艦長だからでも、況して女性だからでもない。命を賭ける場面でもなかった」

 

 

「よく、見られていますね……」

 

 

「いえ……気分を害されたのなら謝ります」

 

 

 

「構いません。そうですね……私には妹がいまして」

 

 

 

「その方は岬艦長に?」

 

 

 

「いや、元々の人種も違いますが……でもそうですね。私と同じ栗色の髪に母と同じ蒼い瞳……」

 

 

「………」

 

 

「少し長くなります」

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

ウィルキア王国は、歴史的に見ても非常に歴史が新しい部類に入る。

 

 

 

第一次大戦初期にドイツ第三帝国の思想に反対した貴族や北欧の民達が東へと落ち延び、日露戦争で疲弊した当時のソビエトの隙を突いてシベリア付近を領土とした経緯があったのだった。

 

 

 

民兵だったシュルツの父は、領土奪還に躍起になったソビエトとの交戦で若くして戦死。

 

 

彼の母は、女で一つで幼かったシュルツと生まれたばかりの妹を育てた。

 

 

 

 

しかし、度重なるソビエトの襲撃に国力は疲弊し、慢性的な食糧難に陥っていた当時のウィルキアに於いて生き抜く事は容易ではない。

 

 

病床に臥せった母を養う為に、シュルツはスラム街で盗みを繰り返して、何とか生計を立てる荒れた生活を送っていた訳だが、看病の甲斐もなく母は亡くなり二人は否応なしに世間の荒波に放り出される事となる。

 

 

彼が13歳の時、偶然にぶつかった数人の強面の海軍人から財布を盗もうとしたのが露見し、彼は銃殺を覚悟したものの――

 

 

 

「貴様、良い目をしているな。名は?」

 

 

「お、お前になんか言うわけないだろ!殺すならさっさと殺せっ!」

 

 

「はっはっはっ!威勢の良い小僧だわい!儂も気に入ったぞ!なぁ天城よ」

 

 

「ふむ、これは良い海軍軍人になりそうですな。流石はガルトナー殿、これはウィルキア海軍の未来も明るいと言うもの」

 

 

 

 

「な、さっきから何言ってんだ!」

 

 

 

狼狽するシュルツにガルトナーと呼ばれた男が歩を進める。

 

 

 

「貴様、何故金を欲する。言ってみろ」

 

 

 

「い、妹が病気なんだ……」

 

 

「ほぅ……」

 

 

 

シュルツの妹は過度の栄養失調と不衛生な環境から感染症を患っていた。

 

 

 

「両親は?」

 

 

 

「いない両方死んじまった……だからっ!俺が何とかするしか無いんだっ!何だってする!たった一人の…うっ、グスッ……【家族】なんだからっ!」

 

 

 

こんな筈じゃなかった。

自分の不甲斐なさや情けなさにシュルツの涙は止まる事なはい。

 

 

だが、ガルトナーは普通なら汚いと邪険にされているスラム街出身の自身の肩に手を置き、真っ直ぐ瞳を見つめる。

 

 

 

「良し解った。では私が何とかしよう」

 

 

「……え?」

 

 

「この財布はくれてやる訳にはいかん。貴様の為にならんからな。だが、貴様が妹と思う気持ちが本心なら、海軍に入って働いてみんか?」

 

 

 

「俺が、海軍に!?む、無理だ!だって俺が、文字も読めないし、妹だっているし……」

 

 

 

「ほぅ、では貴様の妹への愛とやらも眉唾と言う事かの?」

 

 

「な、んだと……」

 

 

「おいおい止めんか筑波……」

 

 

「ぬしは黙っておれ天城」

 

 

「………」

 

 

 

「いいか小僧!なにも、盗みで稼いだ事を儂は咎めようとは思わん。美しく清廉潔白に生きるなどこのご時世では片腹痛い話だからのぅ。だが――」

 

 

筑波の鋭い視線にシュルツは思わず萎縮する。

 

 

 

「貴様は他に何が出来たのかを考えたか?もっと稼いで妹を救う道があると考えた事があるかっ!小僧の考える事など手に取る様に解る。どうせそれが一番手っ取り早かったからだろう?」

 

 

 

「う、うるさいっ!お前に何が解るってんだ!」

 

 

 

「解るとも。祖国でも貴様の様な小僧が同じ事をやらかして殺される様を山ほど見てきたのでな」

 

 

 

「――!」

 

 

 

「気付きおったか。そうだ、妹を護るために一番必要なのは貴様自身が生き続ける事だ。でなければ誰が面倒を見てくれる?泥を啜っても地面を這ってでも己を危険に晒す者に未来など無い!」

 

 

「……」

 

 

そうなのだ。こんな事を続けていたらいつかはなぶり殺しにされる。

 

残された妹は誰が護るのだ……

 

 

今更ながらに彼は気付いたのだった。

 

 

 

「表情が変わったな。筑波、もしやこれを狙っていたな?貴様がこれほど目を掛けるなど珍しいではないか」

 

 

 

「からかうな天城……」

 

 

「で?どうするのだ?私に付いてくるか、それとも今までの道を選ぶか、強制はしない。自分で決めろ」

 

 

 

ガルトナーからの最後の問い。

 

 

 

答えはもはや決まっていた。

 

 

 

「俺、やるよ。海軍に入る。入って働いて働いて妹に薬を買うんだ!」

 

 

 

彼の決意に満ちた瞳に3人の表情が穏やかになる。

 

 

「うむ、決まったな。妹さんの件だが、しばらく私の権限で軍の病院に入院させる。金も私が出そう。だから貴様は勉学に集中しろ」

 

 

 

「え?でもそんな……」

 

 

「なに、ウィルキアの未来を背負う若者の為だ。投資だと思えば高くはあるまい」

 

 

 

「はっはっ!街を歩いていてとんだ宝を拾ったものですなガルトナー殿」

 

 

「うむ、だが果たしてこんな若造に軍が勤まりますかな?」

 

 

 

「杞憂だぞ天城、儂には解る。この小僧は間違いなく世界に名を残す軍人になる!保証するわい!」

 

 

「フッ、貴様が言うのであれば、あながち間違いでは無いのかもしれんな」

 

 

 

「あ、あのっ!」

 

 

「ん?どうした小僧。まだ何か用か?」

 

 

 

「俺、ライナルト・シュルツ……です」

 

 

 

「そうか、そう言えば正式に名乗っていなかったな。私は新設されて間もないウィルキア王国海軍大佐アルベルト・ガルトナー」

 

 

「私は定期的にウィルキア海軍を指導している大日本帝国海軍大佐の天城だ」

 

 

 

「同じく大日本帝国海軍大尉の筑波だ。小僧!早く下から這い上がって来い!貴様を鍛える日が来ることを楽しみにしているぞ!」

 

 

それがシュルツと彼等の出会いであった。

 

 

 

 

それから数年、彼は血の滲む努力によって周囲を震撼させるほど驚異的な速度で成長を遂げて異例の昇進を遂げて行く事となる。

 

 

人手不足によって軍に入る事自体は簡単ではあるものの、当時の世界では高学歴や家柄、更には血統など選ばれた者以外は士官になる事が事実上困難な時代に、彼の様なスラム街出身の人間が士官候補生として頭角を現す事が出来たのは、ガルトナーの尽力だけでなく、シュルツ自身が極めて優秀な能力を有していた事も大きいだろう。

 

 

 

すっかり成長を遂げたシュルツは、あの頃とは違う綺麗な白い軍服に身を包んだシュルツは、自身の借りた小さな借家の扉を開いた。

 

 

 

「ただいまフリーダ。今日は君の好きなお菓子を買ってきたんだ」

 

 

彼の視線の先には、ベッドで横になる妹【フリーダ】の姿があった。

 

 

透き通る白い肌にウェーブかがった栗色の長髪、そして海を思わせるオーシャンブルーの瞳を持つ美しく可憐な女性であった。

 

 

「お帰り兄さっ……ゴホッ!ゴホッ!」

 

 

「フリーダ……調子が悪いのか?また痩せたようだが……」

 

 

「兄さんは心配しないで、私は大丈夫だから。それよりも、今回はもう少し家に居られるの?」

 

 

「済まない。今度は日本に合同演習に行く事になったんだ。また暫く家を開けるよ」

 

 

 

「そう……」

 

 

頬がこけているせいか、俯いた彼女の様子は酷く疲れた様に見えた。

 

 

彼女に心配をかけまいと、シュルツは穏やかに笑って見せる。

 

 

「大丈夫だ。今日は久しぶりにゆっくりできる。話したい事も聞きたい事も沢山あるんだ」

 

 

 

「うん……」

 

 

力は無くとも漸く微笑んだ妹の顔に彼の気持ちも穏やかになる。

 

そう、これこそが本来の彼の顔なのであった。

 

 

軍内部ではエリート等と言われて畏敬の目で見られており、滅多に感情を表に出さなくとも、本来は屈託の無い笑顔を見せる年相応の青年なのである。

 

 

 

その夜は本当に沢山の話をお互いにした。

 

 

 

フリーダが近所のおばさんとする他愛もない話や、シュルツを指導する鬼教官の話など。

 

 

幸せだった。

 

 

どちらが欠けても成立しない当たり前の幸せ。

 

 

あの時、ガルトナー達に出会っていなければ得られなかった幸せだ。

 

 

夜も更けて行き。

 

 

疲れたであろうフリーダの身体をゆっくりとベッドに横にしたシュルツは、彼女の額に優しくキスをして「おやすみ」と穏やかに笑みを向け自室へと行こうとした時だった。

 

 

 

「待ってっ!」

 

 

 

不意に自身の袖を捕まれたシュルツは目を丸くする。

 

 

「どうした?身体に障るから早く寝――」

 

 

「いかないで!兄さん……」

 

 

「フリーダ?」

 

 

彼女は泣いていた。

 

 

病弱ながらもしっかりと袖を握る手にシュルツは自身の手を重ねる。

 

 

 

「心配するな。俺は――」

 

 

 

「違うのっ!ずっと……ずっと言いたかった。私の為に危険な軍の仕事に兄さんを就かせちゃったって、ずっと後悔してて……ずっと謝りたくて」

 

 

「だがフリーダ――」

 

 

「聞いて!ガルトナーの伯父様には感謝してる。沢山よくして貰ったし、お薬の工面もして下さった。でも、いま欧州では戦火が広がってるって、じきに日本も戦争するんじゃないかって、ロッテおばさんいつも言ってた」

 

 

「……」

 

 

「私嫌だよ。兄さんが父さんみたいに帰って来なくなっちゃうのは嫌!ねぇっ、危険な事はしないで!軍を辞めたって良い!昔みたいに貧しくたって良いからっ――」

 

 

 

「フリーダ……良く聞いてくれ。俺は絶対に君を一人にしないよ。必ず帰ってくる。君がここで待っていてくれる限り」

 

 

 

「兄さん……」

 

 

「嘘じゃない。今まで俺がフリーダとの約束を破った事があるかい?」

 

 

「ない……」

 

 

「今回も……いや、例えウィルキアが戦争になっても、俺が戦場に行っても絶対にフリーダの元に帰るよ。命令を無視してでもね。約束するよ」

 

 

 

「本当?」

 

 

「本当さ」

 

 

彼女はゆっくりと頷く。

 

 

「さぁもう遅い。寝なさい」

 

 

「今日だけ手、握ってもらっていい?」

 

 

「ああ良いとも。君が寝るまでここにいるよ」

 

 

 

シュルツは椅子に腰を下ろし、堅く自身の手を握るフリーダの手を優しく擦ってあげる。

 

 

「約束……だよ」

 

 

 

彼女は漸く穏やか表情で眠りに落ち、シュルツもこの一瞬に幸せを感じながら目を閉じるのであった。

 

 

翌日

 

 

明るい表情を取り戻した彼女と細やかな朝食を共にしたシュルツは軍服を着込んで支度を調える。

 

 

どうやらフリーダが皺を伸ばしてくれていたようだ。

 

 

 

「じゃあ、行ってくるよ」

 

 

「行ってらっしゃい」

 

 

 

互いに笑顔で別れを告げ、シュルツは近所のロッテおばさんにフリーダを頼むよう言付けると日本での演習に出発するのだった。

 

 

 

 

その後、日本での厳しい訓練を終えてウィルキアに帰国したシュルツの元にガルトナーが現れる。

 

 

「演習ご苦労だったな。その様子では筑波殿に大部鍛えられたようだ」

 

 

 

「はっ!有意義な演習でありました」

 

 

「うむ、まさかあの時の子供がここまで成長するとは私も嬉しい限りだ。ところで、今日はこれを持ってきたのだが」

 

 

 

ガルトナーは封書を手渡す。

 

 

「これは?」

 

 

「開けてみたまえ」

 

 

「!」

 

 

シュルツは目を丸くした。

 

 

中身は自身が少佐への昇進と国王を守護する近衛艦隊への異動を任ずる内容が書いてあったからだ。

 

 

 

「何故です!私の様な者が佐官に、況して近衛艦隊など……」

 

 

「いや、陛下は貴君らの様な若者にウィルキアの未来を託したいとのお考えだ。私もそう思う。元々領土防衛戦において海軍など不要との声もあったが、今や世界の主戦場は海や空に広がりつつある。ここで乗り遅れたのであればウィルキアは滅亡の一途を辿るだろう」

 

 

「………」

 

 

「貴君らは日本から技術を体得した言わば国土防衛の要となりうる人材だ。これからも宜しく頼みたいが不満か?」

 

 

「いえ、私には勿体ないお言葉です」

 

 

「では……」

 

 

「はっ!その命、慎んでお受けいたします」

 

 

「良かった。早く妹に報告してやれ」

 

 

 

「はっ!」

 

 

 

シュルツは走った。

 

 

 

近衛艦隊の就任は待遇が破格であるだけでなく、演習等を除いては基本的に国内勤務となるからだ。

 

 

これで妹の側にずっと居られる。

 

彼はそう信じて疑わなかった。

 

 

 

 

「あっ!ロッテおばさん」

 

 

「あぁ、あんたかい?今まで何処に言ってたんだい?」

 

 

「ええ、軍の演習で日本に……どうかしたのですか?」

 

 

 

「あんた¨遅かった¨よ。フリーダちゃんね……」

 

 

「フリーダがどうかしたんですか!!?」

 

 

彼女はシュルツの自宅の扉に視線を写す。

 

 

 

 

「早く会っておやり……」

 

 

「――っ!」

 

 

ドアを乱暴に開け放ったシュルツが目にしたものは――

 

 

 

「フリーダ?」

 

 

 

そこには手向けられた花に囲まれたフリーダが眠っていた。

 

 

 

「フリーダ!俺だっ!帰ったんだフリ――」

 

 

冷たい……?

 

 

彼女がシュルツの手を握り返す事は無かった。

 

 

 

「何で……どうしてっ!」

 

 

「医者には連れていっていた。でも、病気が¨不治で進行性¨である事をこの子はアタシにも隠してたんだ。きっとアンタに言っちまうと思ったんだろうねぇ……」

 

 

 

「そんな……」

 

 

 

「アタシはアンタらここに来たときから知ってる。【何でもっと側に】なんて言うつもりはないさ。アンタはこの子の為に歯を喰い縛って頑張って来たんだからねぇ。でもねぇ……何でアンタ達がこんな目に逢わなくちゃならないんだろうねぇ……」

 

 

彼女はフリーダの手を握り締めながら悲痛な涙を流す中、シュルツは状況が飲み込めずにいるのであった。

 

 

 

 

「…………」

 

 

「アンタ大丈夫かい?」

 

 

「はい……」

 

 

「ハァ……大丈夫じゃないじゃないか。酷い顔だよ。食事は作っといたからしっかり食べてフリーダちゃんとお別れするだよ」

 

 

「………」

 

 

何度もシュルツの顔を心配そうに見つめながら、ロッテは去っていった。

 

 

一人残されたシュルツには、もはや食事の香りを感じる感覚すら皆無であった。

 

 

 

 

「どうしてだ。どこで間違えた……」

 

 

《日本に行くんだ》

 

《いかないで、兄さん……》

 

 

 

「何故だ、何故こんな事になったっ!」

 

 

 

《俺は絶対に君を一人にしないよ。必ず帰ってくる。嘘じゃない。今まで俺がフリーダとの約束を破った事があるかい?》

 

 

《本当?》

 

 

《本当さ》

 

 

《約束……だよ》

 

 

 

「ぁあぁあああっ!」

 

 

 

シュルツは心底自身が憎くて堪らなくなった。

 

 

今まで血の滲む思いで勉強し、教練を積んで地位も安定した収入も勝ち取ってきが、それら全ての価値観が纏めて破壊された瞬間でもあったのだ。

 

 

「何が地位だっ!何が金だっ!何が約束だっ!何もっ……何も残らないじゃないかっ!」

 

 

 

溢れる涙と共に彼の感情も爆発していた。

 

 

何度考えようとも妹を生き返らせる方法などある筈も無く、2度と向けられる事は無いであろうフリーダの無垢な笑顔が何度も頭で再生される。

 

 

 

「フリーダ……」

 

 

 

シュルツは、まるで眠っているかのように横たわる彼女の白く冷たい手にすがり付く。

 

 

「教えてくれ!俺はどうすれば良かった!?どうすれば君を救えた!?どうすれば君の側にずっと……」

 

 

彼女はシュルツに答えを告げない。

 

 

 

ただそこに……永遠に眠るのだ。

 

 

 

葬儀の日、大雨にも関わらず近所でも評判が良かったフリーダの死を悼んで多くの人が集まり涙を流した。

 

 

だが、その場に彼女死を最も悲しんでいる筈のシュルツは姿を¨現さなかった¨。

 

 

彼女の死を、ロッテから聞いたガルトナーは喪に伏す為の黒い軍服を着込んで現れる。

 

 

「あっ、ガルトナーさんかい?」

 

 

「ロッテさんか、シュルツ少佐はどうした?」

 

 

「あぁ……近衛艦隊の訓練が有るからと言って来なかったよ」

 

 

「なにっ!?最愛の家族の葬儀なのにか!」

 

 

「アタシは何度も言ったんだ。ちゃんとお別れをって……でもあの子ったら、《約束を果たせなかった¨私¨に別れを言う資格などありません》ってきかないだよ。これじゃあフリーダちゃんが余りにも不憫じゃないかい?」

 

 

「なんと……」

 

 

「それだけじゃないんだ。あの子ったらまるでヒトが変わっちまったみたいに冷たい目をして、フリーダちゃんとの思い出の品を全部燃やしちまってさ、家も引き払っちまったんだよ!ねぇガルトナーさん!何とかならないのかい!?このままじゃいつかあの子は……」

 

 

「あの馬鹿者が……!」

 

 

 

ガルトナーが拳を握り締める中、彼女の遺体の入った棺に土がかけられ行く。

 

 

 

 

その悲しい出来事から半年後、ウィルキアはヴァイセンヴェルガーのクーデターと帝国の設立が起きる事態となり、世界は超兵器の存在に震撼する事となるのだった。

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

海を見つめるシュルツの煙草はとっくに消え失せて灰になっていた。

 

 

 

 

「あの時の私は、力を得る事に没頭する余り自分を見失いました。私は妹に全てを与えたつもりでしたが、時間も愛も何も与えられなかった」

 

 

「………」

 

 

 

群像は今こそシュルツと言う人物を漸く理解できた気がした。

 

 

超兵器討伐に尽力した彼の経歴は目を通している。

 

最初こそ、突撃に近い無謀な作戦が多かった解放軍艦隊だが、超兵器と何度か戦闘を繰り返す内に慎重な行動が目立ち、住民の救出は元より、敵の投降兵の救出にも力を入れる様になったと言う。

 

 

 

その理由はハワイでの出来事が切っ掛けではないかと群像は見ていた。

 

 

超兵器デュアルクレイターによるハワイ強襲と虐殺、そしてそれを見ている事しか出来なかった自分。

 

彼の心は死んでいなかったのだ。

 

妹に対する贖罪の意識が、大切な者を超兵器に食い散らかされる民衆を見て再燃したのだと彼は考えた。

 

 

故に群像は思うのだ。

 

 

 

会議の最後に明乃が言った《皆は家族》《ありがとう》の言葉が彼にとっての真の断罪であると。

 

 

 

それはまるで呪いだった。

 

 

一言でも赦さないと断じられれば、彼は迷わず死を望んで妹の元へと逝くのだろう。

 

 

だが彼の行動が称賛される度、感謝される度に彼は赦され、妹一人幸せに出来ない英雄として人々を救い続けねばならない地獄を味わい続けるのだ。

 

 

そして今回も、彼は赦された。

 

 

妹と同じ瞳を持つ者によって――

 

 

 

【運命】

 

 

そんな非科学的な単語が群像の脳裏をよぎる。

 

 

 

明乃自身の容姿がどれ程フリーダと重なるのかは解らない。

 

だが、彼女からの言葉はまるでシュルツに《生きていて欲しい》と願った彼女の想いが形になったものの様に思えた。

 

 

シュルツがその想いに気付く事は今は無いであろう。

 

 

それは彼が過去を背負い続ける者だからだ。

 

 

その視点が超兵器の完全なる打倒を持って未来へと向いた時、彼女の想いがシュルツの心を解きほぐしてくれるのかもしれないと群像は思うのだった。

 

 

 

   + + +

 

一方のスキズブラズニルの尋問室では、平賀に対する取り調べが行われていた。

 

 

 

飽くまでも主権世界である為か、聴取はブルーマーメイドで行う事となった訳だが、同級生と言う関係からか真冬と福内は尋問から外され部屋の外での待機となる。

 

 

「さて……何から聞いたら良いものかしら」

 

 

真霜は正直なところ途方にくれていた。

 

 

 

幸子同様に、平賀には明確な罪状と言うものがない。

 

 

強いて挙げるなら明乃等への暴行監禁等を理由に拘束をかけてはいるが、肝心の超兵器への内通となると話は別になる。

 

 

 

何者かの意思によって、人の想像が及ばない所へテレパシーで情報を漏洩したなどと言っても、馬鹿げた絵空事にしかならないからだ。

 

 

 

 

「助言宜しいですか?」

 

 

「ブラウン博士……ええ頼むわ」

 

 

この尋問室には真霜の他に博士と水戸の姿もあった。

 

 

飽くまで真霜に助言をすると言う立場だが、超兵器の意思が人に及ぼす影響を調査する狙いがあるのだろう。

 

 

 

「彼女が過去の遊覧船撃沈事件の時に超兵器との絆が結ばれたのは明白でしょう。それは岬艦長の例から見ても明らかです。唯一の違いは、その¨同調率¨にあります」

 

 

「同調率?」

 

 

「はい、彼女の脳波から検出された超兵器波長は、岬艦長の数十倍に達します」

 

 

「す、数十倍!?」

 

 

「普通ならとっくに廃人になってもおかしくない数値ですが、彼女の脳には取り分け問題がない。これはそもそも、彼女の中には人間で言う処のマイナス感情が占める割合が非常に多かった事を示しています。」

 

 

(やはりここは、彼女のこれまでを今1度聞く必要がありそうね……)

 

 

 

真霜は平賀へと顔を近付けると、彼女は血走った荒んだ目で真霜を睨み返す。

 

 

 

 

「そんな目で見ても無駄よ。あなたのこれまでの経緯を詳しく説明し頂戴」

 

 

 

「言ってもあなた達には理解できない」

 

 

「それはこちらで決める事よ」

 

 

 

「ええ……そうね」

 

 

 

 

   ▽ ▽ ▽

 

 

あの日――

 

 

そうあの日だ。

 

 

明乃の運命が変わった遊覧船に、平賀は乗っていた。

 

 

平賀はごく普通の家庭に生まれ、普通の学生生活を送っていた。

 

 

強いて言うのなら、元より運動神経が良く中学二年生まではクラスの男子生徒と互角である位には体力がある快活な少女といえた。

 

 

 

それは高校時代も変わらず、運動部に所属していた彼女は遠征を行う為に乗っていたフェリーであの事件に巻き込まれたのである。

 

 

 

部屋で友人達と談笑中に起こった突然の衝撃と意識の暗転。

 

 

そして目が覚めた彼女が見たものは――

 

 

 

「う、冷た…い。ひっ――!」

 

 

 

半分水に浸かった部屋と、浮かんでいる友人達の死体。

 

 

彼女がパニックに陥るのにそう時間はかからなかった。

 

 

 

「あぁああ!た、助けてっ!誰かっ!」

 

 

その声に答える者は無く、ギリギリと鳴る不気味な音と嵐の音、そして冷たい海水が彼女を絶望の縁へと落としていった。

 

 

 

だが――

 

「嵐の音?そうだ窓は――」

 

 

吹き込む風の音に、脱出する事を考えた平賀は窓を探す。

 

 

「あった――!」

 

 

 

どうしてこうなったのかは解らないが、窓があった場所は今は天井になっており、何か強い衝撃でも加わったのか、分厚い窓ガラスは砕け散っていた。

 

 

 

「くっ、届かな―――あ゛っ」

 

 

 

ドスン!と言う衝撃音と共に船が傾き、浸水がいっそう進む。

 

 

「やった!これで外に――!」

 

 

 

彼女は水位が上昇した事により何とか船外へと脱出したのだが――

 

 

「……え?」

 

 

嵐の中、彼女が立っていたのは本来は船の側面に位置している場所だった。

 

 

風も波も荒く立つのがやっとの状態であり、船の側面には巨大な孔が穿たれている。

 

 

 

 

「あそこに何かが当たって……ううん、考えちゃダメ!とにかく少しでも高い所へ――」

 

 

「ブルーマーメイドです!今救助に向かいます!」

 

 

「!」

 

 

 

不意に声のした先に顔をやった平賀の目に、救助用ボートに乗った人が見えた。

 

 

 

「た、助けてください!」

 

 

「今いきます!じっとしていて!」

 

 

 

救助隊とおぼしき人物に助けられた平賀は、一先ずの安堵を覚えるも――

 

 

 

「あ、あの!」

 

 

「どうかされましたか?

 

 

「救助されたのはこれだけですか!?友人が一杯いた筈なんです!」

 

 

「ご免なさい、残念だけど……」

 

 

「そ、そんなっ!」

 

 

 

現実は非情と言うより他はない。

 

 

しかしながら――

 

 

 

「うわぁあっ!お父さん!お母さん!」

 

 

 

 

嵐の轟音の中でも平賀の耳に届いた悲痛な叫びと共に、別の救命ボートに乗っていた少女が顔を皺くちゃにして泣き叫ぶ様子が目に入ってきた。

 

 

 

「あの娘の両親も……助けられなかった」

 

 

「……」

 

 

隊員は悔しさを滲ませる。

 

 

 

多くの命を乗せたまま海底へ沈んで行く船を一同は呆然と見ているしかなかった。

 

 

そんな中、平賀は何かに惹き付けられる様に後ろを振り向く。

 

 

 

(――!?)

 

 

 

紫の閃光と雷鳴が轟く黒雲の中に、一瞬だけ巨大なナニカが顔を覗かせた気がしたのだ。

 

 

 

しかし突風で思わず目を閉じ、再び瞼を開いた時にはそのナニカは消え去り、今までの嵐が嘘の様に過ぎ去ったのだった。

 

 

 

 

 

その後――

 

 

 

乗客達に待ち受けたのは安堵ではなく、更なる混乱であった。

 

 

 

「俺の自宅が海の底だと!?おいっフザケルのも大概にしろよっ!」

 

 

 

突然の罵声に周囲がどよめく。

 

 

 

無理もない。

 

 

 

メタンハイドレートの噴出で国土が沈下した現在の日本は彼等の想像する地理とかけ離れている全く別の世界に居るのだから。

 

 

 

勿論、混乱はそれだけではない。

 

 

 

「ここ本当に横須賀!?そんなのどうでもいいわ。私は家が九州なの、飛行機に乗って早く家に帰りたいのだけど空港まで送って頂戴!」

 

 

 

「ヒコウキ?クウコウ?すみません。内陸中央新幹線と此方で用意した船以外には移動手段は有りませんよ。事故のあとですから船は嫌だと言う方はそちらから帰宅して頂いて――」

 

 

 

「ちょっとあなたっ!この期に及んでまだ私達を侮辱する気!?飛行機で飛べばあっと言う間に――」

 

 

 

「ですからっ!その飛行機と言うのは何ですか!?混乱しているのは解ります。ですが、ご帰宅頂くには陸の鉄道か海路しか有りません!」

 

 

互いの主張は平行線を辿るばかりであった。

 

 

 

埒があかないと判断したブルーマーメイドは、国の直轄機関である海上安全委員会に事故報告を行い、事故の全容解明に協力するよう要請し、一先ず被害者達をブルーマーメイド宿舎に泊め置く事を決める。

 

 

 

「おい……ここ本当に日本なのかよ。幾らなんでも話が噛み合わなさ過ぎるだろ」

 

 

一人の男がぼそりと放った言葉がまさか現実だとは、この時は誰も信じられなかった。

 

 

 

その夜――

 

彼等が不安な夜を過ごしている時、沈没現場に戻って残る遭難者の発見や船の引き揚げ作業の指揮を取っていたもえかの母である萌は、海に浮かんだ漂流物を回収したのだが、その内容に頭を悩ませる事になっていた。

 

 

 

「この日本地図、随分古いわね。少なくとも80年以上前の地形だけど、何でこんなもの持ってるのかしら……」

 

 

 

メタンハイドレートが原因で国土が沈下した現在の日本とはまるで異なる過去の日本地図に、違和感を覚えた。

 

 

だがそれだけではない。

 

 

発見した運転免許証の更新日時は最近のものであったし、にも関わらず記載されている住所は海の底。

 

 

偽造にしては出来が悪いが、免許証自体は良くできている。

 

 

そして、被害者達と自分達の齟齬。

 

 

 

(今は船の引き揚げに専念しないと……)

 

 

 

萌は雑念を振り払うかの様に首を横にふる。

 

 

 

「知名艦長!沈没船が揚がります」

 

 

 

「ええ……」

 

 

 

現場に到着した萌は眉を潜める。

 

 

 

沈没の原因となった船舶に空いた巨大な孔は、まるで何かが船を真横から貫いた様に見えたからだ。

 

更に――

 

 

(この孔……溶けている?まるで高温のナニカに焼き切られたみたいに)

 

 

 

これは座礁ポイントが多いとはいえ有り得ない事態だ。

 

 

故に結論は1つに絞られる。

 

 

 

(何者かによる攻撃?でもこんな兵器は聞いた事がない。軍事大国である米 露 中でさえこんな技術をもっていないわ)

 

 

 

これは、ブルーマーメイドでてに負えない可能性があると判断した萌は、海上安全委員会に事を報告する事を決める。

 

 

 

結果、事件は当時の防衛大臣であった大湊によって機密扱いとなり、事故そのものが¨無かった事¨として処理されるのだが、不満に思うブルーマーメイドの圧力を何とか押さえ込んだ國枝の手腕は間違っていなかったと見るべきだろう。

 

 

 

実際、超兵器と言う世界に存在しない武器によってもたらされた悲劇なのだ。

 

 

迂闊に我が国の船舶がドコかの国から未知の兵器で攻撃された等と公表すれば、軍事的緊張が一気に高まる。

 

 

経済を他国に依存せざるを得ない日本にとって、望まざる結果を生んでしまうからだ。

 

 

 

後日――

 

 

ブルーマーメイドから防衛省に身柄を引き継がれた被害者達は、東北の地へと移送される事となる。

 

 

「うっ……うっ…ふぇええ!」

 

 

 

「うるせぇガキだな!少しは静かに出来ねぇのか!あ!?泣きたいのはコッチだってぇの!」

 

 

「ひっ……」

 

 

両親を失い泣いていた明乃に苛立った男が罵声を浴びせ、恐怖のあまり彼女小さい身体を更に丸めて畏縮してしまう。

 

 

ただの八つ当たりだ。

 

 

だが、誰も彼を咎める者はいなかった。

 

 

皆、自身の事で手一杯で苛立っていたのだ。

 

 

 

平賀自身も、男に怒りは湧くものの何も言い出せない一人であった。

 

 

 

長い時間バスに揺られ、到着した彼らが目にしたのは、何も無い山あいの村。

 

 

 

「降りてください。申し訳有りませんが、あなた方にはしばらくここに滞在して頂きます」

 

 

 

「なにっ!?」

 

 

どよめきが広がった

 

 

 

「どうして?どうして帰っちゃダメなの!?」

 

 

「お前ら、俺達の税金で食ってる分際でフザケルのも大概にっ――」

 

 

 

カチャ……

 

 

「ひっ!」

 

 

 

向けられたのは多数の銃口だった。

 

 

動揺する彼らに担当の男は冷たく言い放つ。

 

 

 

「誠に遺憾ではございますが、いくら政府のデータベースに照合をかけてもあなた方の情報が得られませんでした。原因は調査中ではありますが、現状あなた方には日本人としての人権が存在しません。故に……お分かり頂けますね?」

 

 

 

「なんだよ……それ」

 

 

 

被害者達は、ただただ唖然とするしか無かった。

 

 

その後―

 

 

彼等に特殊な力があることが判明し、その事に目をつけた安芸によって差し向けられた狂った科学者達に虐待に等しい実験を受けさせられる事になるのだが、少なくとも現状において彼等を絶望させるには充分すぎる状況であった。

 

 

 

 

 

 




お付き合い頂きありがとうございます。


3人の主人公の内、唯一過去がはっきり書かれていないシュルツの過去を独自解釈で描きました。


なぜシュルツが武力や過剰な権力を憎む様になったのか、バミューダで超兵器と刺し違えようとしたのか、なぜ慕われるのか。



自分を赦される事が、妹を失わせた自分への最大の断罪と言う価値観がそうさせるのだろうと解釈したからです。


元々、アニメや漫画の主人公である群像やミケちゃんとは異なり、ゲームのプレーヤー艦の艦長であるシュルツには際立った個性を与えられていないのは当然なのですが、この回でシュルツの人間味を実感していただけたら幸いです。



お分かりの方もいらっしゃるかと思いますが、この話は当初、ミケちゃん達が異世界の登場人物達から戦争と言うものに対する価値観を受けて成長して行く物語りになる筈でした。

作品の紹介文にもそう書いてますし……


ただ、登場人物が私の脳内で作られたものであったとしても、やっぱり人間関係って相互に影響を受けしまうんだなと感じました。


その証拠に、2章前編の中頃辺りからこの話にかけて、異世界側がミケちゃん達の影響を強く受けちゃってるんですね。



ミケちゃんの言った、皆は家族の言葉が更に重さを帯びてくる回となりました。

次回も平賀の回想です。

ただそろそろ超兵器も登場させたく思います。

焦って適当にならないよう戒めて進んで行きますので、次回まで今しばらくお待ちください。


それではまたいつか






















とらふり!



フリーダ
「伯父様!」


ガルトナー&筑波&天城
「はぁ~い!」

シュルツ
「なにやってんだあのオヤジ共は……」


フリーダ
「いつも良くして下さってありがとうございます!」



ガルトナー
「当たり前だ。愛しのフリーダちゃんの為なら私は火の中水の中っ!」


筑波
「むっ狡いですぞ!儂だってフリーダちゃんに一杯お菓子をあげちゃうもんね!」



天城
「いやっ!菓子などぬるいわっ!フリーダちゃ~ん!この洋服などフリーダちゃんに似合うよねぇ!」



筑波
「天城、貴様っ!メイド服などっ……素晴らしい!」


ガルトナー
「う~む!けしからん!けしからんが素晴らしい!」



フリーダ
「は、恥ずかしいですけど伯父様達の為に着ちゃいます!肩たたきもしてあげますっ!」



3人のオヤジ
「ほぉーーー!」



シュルツ
「お三方、ちょっと営倉までご同行下さい……」


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