城下町のダンデライオン-Begins of KUUGA- (ノアJAM)
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EPISODE1 親友
それでは、お楽しみください。
私の名は、櫻田総一郎。今、この時代では「アンノウン」や「アギト」なる存在が語られているが、これは今突如として現れていた訳ではない。今から20年程前にはもう、今とは違う存在「未確認生命体」が出現していた。無論、それを倒す存在も。
公には、「未確認生命体第4号」とされているが、私は彼の本当の名を知っている。
彼の名は、「相馬雄介」。またの名を……「クウガ」
九郎ヶ岳遺跡 pm.23:12
相馬雄介は、櫻田王家直属の使用人である。
雄介は、主人である「櫻田総一郎」と「櫻田五月」と共に、先日古代文明の遺跡が発見された九郎ヶ岳に来ていた。
「雄介、君はもう少し使用人らしい事は出来ないのかい?」
「は?ちょっと待てよ、俺は使用人である前に、お前の幼馴染でもあるんだぜ、総一郎」
「公私混合するなって事でしょ?そのくらい自分で考えなさいよ、相馬君」
「さっちゃん……お前もかよ」
すると、遺跡から発掘チームの一人がベルトのような装飾品を持って、雄介たちの下へ駆け寄って来た。
「陛下、遺跡の中からこのような物が」
そのベルトを見た瞬間、雄介の脳裏に突如イメージが流れ込んできた。
そこは、現代ではない場所。化石化したベルトをつけた20歳前後の青年が、人間とも動物ともとれない異形の生物に向かって戦っているイメージだった。
その時、青年はベルトを中心に赤い身体をした戦士に姿を変えていた。
「ボソギデジャスゾ、クウガ‼(殺してやるぞ、クウガ‼)」
イメージはそこで途切れた。
現実に戻った雄介は、ベルトを見ながら呟いた。
「……何だったんだ、今の?」
「雄介、どうかしたのかい?」
「相馬君?」
「いや…何もない」
雄介は誤魔化していたが、総一郎と五月にはそれが嘘だと分かっていた。
突然、遺跡の中からとてつもない爆発音のような音が聞こえてきた。
「…⁉」
「様子見てくる。総一郎とさっちゃんはここにいて‼」
雄介は、総一郎と五月の制止を振り切って、遺跡の中に入っていった。
遺跡に入った雄介が見た光景は、正に地獄だった。
自分の足元から奥の棺にかけて、何人もの遺体が転がっていた。
「何だよ……これ」
雄介はゆっくりと奥の棺を見る。すると、突然棺が轟音を立てて転がり落ちた。その奥から人の形をした何かが姿を現した。
「何だ…人…なのか?」
「ゾボザパ、クウガ……(クウガは、どこだ?)」
その何かは、雄介が持っていたベルトを見て呟く。
「ゴセパ、デスドン、クウガ(それは、クウガのベルト)」
「何を……言ってんだよ」
そして、その何かは雄介に襲い掛かった。
雄介は、目の前まで迫った何かから身を守るため、咄嗟に殴り飛ばした。その時、拳が一瞬緑色に変色したことには雄介本人も気づかなかった。
異形の何かがよろめいた時、雄介は外に飛び出した。
雄介が外に出ると、そこはまるで戦場だった。
発掘チームの簡易テントは全て炎上し、地面には何人もの人の遺体。
炎上するテントの光で、雄介は総一郎と五月の姿を見つけ、駆け寄る。
「2人とも無事だったか‼」
「雄介⁉一体これはどうなっているんだ…」
「分からない、何か化け物みたいな奴が遺跡から出てきて……」
雄介は総一郎の背後から白い縄のような物体が迫っている事に気づいた。その物体の主は、人の形をしているが、明らかに人間ではなく、蜘蛛を人の形にしたような姿をしていた。
「2人ともどっかに隠れてろ…」
「相馬君⁉」
「コイツつけてみる‼」
雄介は迷う事なく、ベルトを自分の腰に付けた。
その瞬間、ベルトは雄介の身体に入り込んでいった。その時雄介は、自分が何をするべきなのかをぼんやりとだが見えた。
(……このままじゃ、俺もあいつらも死ぬ‼)
「俺が、守らなきゃいけないんだよ‼」
そう叫んだ雄介は、迫り来る怪物を殴り飛ばした。
すると、雄介の腕が白を基調とした別のモノに変わった。その事を確認した雄介は、一心不乱に怪物を攻撃する。
次第に雄介の身体は、白い異形の姿に「変身」した。
「バゼザ……バゼ、ゴラゲグビ、クウガ‼(なぜだ……なぜお前がクウガに‼)」
雄介は、後々の世に伝説として語り継がれる戦士「クウガ」になった。
「ギベ、クウガ‼」
「戦うしかないみたいだな……」
「ギラン、ゴラゲグビ、ダゴゲバギゾ、ボン、ズ・グムン・バ‼」
「ジョリガゲセ‼」
「今の俺は、どう見える?」
EPISODE2『変身』
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EPISODE2 変身
櫻田総一郎と櫻田五月は、相馬雄介の姿を見て驚愕した。
先程まで「人間」の姿をしていた雄介が、突然白い何かに「変身」したのだ。総一郎は変身した雄介と、彼と戦っている蜘蛛のような姿をした異形の何かを見て、震えた声で言った。
「そんな……あの色は…」
「総ちゃん?」
「あの蜘蛛みたいなものからは、破壊と殺戮の色しか感じられないんです。それに、白い存在は、間違いなく相馬雄介なのに……さっきまで見えていた雄介の色が、今は全く見えないんです」
総一郎は、他人の感情を色で読み取る事が出来る能力を持っている。
一方、雄介は蜘蛛のような怪人から「クウガ」と呼ばれるものに変身し、戦っていた。
「何だかよく分かんねぇけど、とにかく戦うしかないみたいだな……おりゃあ‼」
雄介は拳を握り、蜘蛛怪人に向かっていく。
「ギラン、ゴラゲビ、ダゴゲバギゾ、ボン、ズ・グムン・バ‼(今のお前に、このズ・グムン・バは倒せないぞ‼)」
蜘蛛怪人=ズ・グムン・バは、向かってくる雄介に向かって、口から糸を吐き出した。
雄介は咄嗟にその糸を掴む。
「バビ⁉(なに⁉)」
グムンの糸を掴んだ雄介は、そのまま自分の方へ糸を引く。
そして、グムンが雄介の前に来た瞬間、雄介は右足でグムンの胸部にキックを浴びせた。キックと同時に糸は衝撃で引きちぎれ、グムンは奥の遺跡の柱に叩き付けられた。
だが、グムンは立ち上がった。
「ボンデギゾバ?(この程度か?)」
「(流石に、もっと気合い入れなきゃダメらしいな…)」
雄介がそう思った時、先程キックを放った右足が熱くなるのを感じた。
「(…⁉よし、行くか‼)」
雄介は、身構えてからグムンに向かって走り出す。それと同時に、グムンも雄介に向かって走り出す。
「ギベ、クウガ‼(死ね、クウガ‼)」
雄介とグムンとの距離が徐々に縮まっていく。雄介は飛び上がり、先程と同じ位置にもう一度キックを放った。
「デヤァァァァ‼」
グムンは、キックを受けて数メートル程飛ばされた。だが、グムンはもう一度立ち上がった。
「ラザラザザ……グゴ‼(まだまだだ……うぉ‼)」
立ち上がったグムンは突然苦しみだした。
すると、雄介がキックした部分に、何かの紋章のようなものが浮かび上がり、グムンの身体にひび割れが生じていた。
「ラガバ…ボンゴセグ……ギソゴドビビ⁉(まさか…この俺が……白ごときに⁉)」
ひび割れは、腰の装飾品に達した。
「ボソグ……ボソギデジャス…クウガ‼(殺す……殺してやる…クウガ‼)」
グムンは、雄介に言いながら爆散した。
グムンを倒した雄介は、いつの間にか人間の姿に戻っていた。雄介はすぐに、総一郎と五月の所へと走っていった。
「2人とも大丈夫か⁉」
「雄介…君は……一体」
総一郎が言いかけた時、雄介がそれを遮った。
「今の俺は、どう見える?」
「え?」
「お前の目に、今の俺はどんな色に見えるのかって聞いてんだよ」
「分からない……色は見えているのに、どう言えばいいのか…」
「ならいいさ」
「相馬君、どういう事?」
五月が雄介に問う。
「どんな色にしろ、色が見えているのなら、少なくとも俺は人間だって事。今はそれだけでいい…そう思わないか?総一郎」
雄介は笑顔とサムズアップで答えた。
「そう……だな。今は私もそう思う事にするよ」
「あぁ……とにかく、今はここを離れるぞ」
雄介は、総一郎と五月を連れて一度櫻田城へと戻った。
九郎ヶ岳遺跡 am.02:11
雄介が、ズ・グムン・バを倒した地点から、あまり離れていない森の中、月の光に照らされながら森を歩く人影がある。その影は、森を彷徨っているというより、ある場所まで、迷う事無く進んでいるようだった。
そのまま影は森の中を歩いていると、ふと足を止めた。どうやら、ここが影の目的地だったらしく、影は両手を広げて呟いた。
「ジョリガゲセ‼(甦れ‼)」
すると、空から青い雷が影の前に落ちた。
そこから、人間の手のようなものがいくつも地面から這い出るように次々に現れた。
「俺にしか出来ないなら、やるしかないだろ?」
「ボンドグン、ボグギゾ、ゴギゲデジャス…」
「俺がなったのは白だった……本当は赤じゃなきゃいけない気がするんだよ」
「ゲゲルゾ、ザジレスゾ」
EPISODE3 『恐慌』
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EPISODE3 恐慌
国王・櫻田総一郎は、昨夜の一件の事から眠る事が出来なかった。それは、総一郎の妻・五月も同様だった。
櫻田城 am.09:00
身支度を終えた総一郎と五月が自室を出ると、そこには昨夜蜘蛛のような生物と戦い、撃破した相馬雄介の姿があった。
「よう、二人とも……眠れたか?」
「いや、あれほどの出来事だったんだ。眠れる訳ないだろう」
「私も同じ……相馬君は?」
「俺は戻ったら、すぐにバタンキューだったさ。久々に体力消耗したって感じだな」
雄介は能天気に言った。
「雄介、なぜあんな行動をしたんだ?」
総一郎が雄介を問い詰める。
「確かに軽率な行動だった。でも、あの時俺が戦わなかったら、あの場で全員死んでたよ」
雄介は、いつもと同じ調子で言った。
「大丈夫だ。またアイツみたいなのが来ても、俺が戦って倒せばいい‼」
「しかし、それでは君の身体が……」
「俺がやるしかないから……何かよく分かんないけど、あのベルトを着けた時、視えたんだよ。これは俺がやらなきゃって……俺にしか出来ないなら、やるしかないだろ?」
「…とにかく、一度身体を調べてもらう必要がある。すぐに彼の所に行った方がいい」
「彼って……まさか、木野のとこか?勘弁してくれよ。俺、アイツの事苦手なんだよ」
某所 am.11:00
「ガヅラダダバ…ゼパ、ゲゲルゾ、ザジレスゾ(集まったな…では、ゲゲルを始めるぞ)」
「ラデ、ゴオマグ、ギバギゾ(待て、ゴオマがいないぞ)」
人気のない場所に、数人の男女が集まっている。彼らは、全く謎の言葉で会話していた。
「ガギヅパ、グゼビ、ザジレデギス、ゾゲゲル(アイツは、既にゲゲルを始めている)」
「チ……ガデデバ、ボドゾ(チ……勝手なことを)」
「ギギジャン、ゴオマブビゼ、ザジレジョグジョ(いいじゃん、ゴオマ抜きで始めようよ)」
「ゴグザバ、ラズパ……バヅー(そうだな、まずは……バヅー)」
「ゴセグ、パパンビンレバ(俺が一番手か)」
「ドググビヂゼ、バギング、バギンビンザ(二日で、81人だ)」
「サブショグザ(楽勝だ)」
王家警備局・会議室 pm.13:00
櫻田城にある会議室では、昨夜の九郎ヶ岳遺跡での事件と、連続して発生している謎の生物による殺人事件の対策会議が開かれていた。
その場には、総一郎と雄介も参加していた。
「それでは、改めて未確認生命体に関する情報を整理したいと思います。まずは、こちらから…」
スクリーンに、落雷直後のに撮影された画像が映し出されていた。
「この画像では不鮮明ですが、便宜上これを第0号とします。続いて第1号と第2号。1号は、2号と争って死んだようです」
「仲間割れか?」
「しかし、2号は1号と腹部の装飾品が異なる事から、同一の存在ではないと思われます」
「他に何か、未確認生命体について情報はありますか?」
総一郎が他の情報を求めると、警備隊のの一人が報告した。
「九郎ヶ岳遺跡周辺に、集団の墓のようなものが発見されたと、再度現場に向かった調査隊の報告が、先程上がりました。それと、その墓から一斉に何かが出現したとの報告も入っています」
「その墓の数は?」
雄介が問う。それに対する答えは……
「最低でも……200」
その数に、会議室にいた全員は言葉を失った。
櫻田城・某所 pm.18:27
対策会議を終えた雄介は、日が沈み、街灯やネオンの光が輝く街の風景を眺めていた。
「こんな所で何してるの?相馬君」
「…なんだ、さっちゃんか」
雄介に声をかけたのは、五月だった。雄介は五月を見ることなく、気のない返事をした。
「なんだじゃないでしょ、あなたそれでも櫻田家の使用人なの?」
「使用人の前に、俺は総一郎とさっちゃんの友達だ」
五月と会話はしているものの、雄介は一向に、五月の顔を見ようとはしなかった。
「……ねぇ、答えにくいなら無理には聞かないんだけど」
「……何?」
「会議で何かあったの?総ちゃんに聞いても全然答えてくれないし」
「……別に…」
雄介は、少し言葉を詰まらせて答えた。
「出た」
「は?」
「相馬君って、隠し事してるときは必ず少し間を置いてから(別に…)って答えるのよね」
「……何で分かるんだよ?」
「能力……とまではいかないけど、なんとなく分かるもんよ」
「…敵わないな」
雄介は会議での決定事項「未確認生命体が出現した場合、発見し次第射殺せよ」を五月に伝えた。無論、総一郎がこれに対し「第2号は対象から除外すべきだ」と異を唱えたが、最終判断は現場に委ねるという形で決定された事も五月に伝えた。
「何よそれ…相馬君はそれでいいの?」
「いいさ」
「何で⁉どうしてそんな簡単に言えるの?自分が死ぬかもしれないのに、そんな軽く…」
「軽くなんかない……俺の願いは、この国の人々皆が、笑顔で平和に日々を過ごす事…でもそれは、俺一人の力ではどうにも出来ない。それが出来るのは、国王である櫻田総一郎と、櫻田五月だけだ。……つまりな……ざっくり言えば、国民を笑顔に出来る二人の笑顔を守りたいって事さ」
雄介は少し微笑みながら五月にサムズアップした。
「ねぇ、相馬君」
「ん?」
「前から聞こうと思ってたんだけど、それって……」
五月の声は、突如鳴り響いた警告音でかき消された。
「出たのか……行ってくる‼」
「相馬君‼……気を付けて」
「おう‼」
市街地 pm.19:02
雄介が警備隊より早く現場に到着すると、そこには九郎ヶ岳の有り様だった。
「そんな……間に合わなかったのか」
雄介は拳を強く握りしめた。すると、どこからか翼の羽ばたく音が聞こえてきた。その音は徐々に近づいていき、遂に雄介の真後ろに来ていた。
危険を察知した雄介は、横に転がった。すると、雄介を襲ったモノの正体が月明かりに照らされて、その姿を現した。
「蝙蝠?……いやいや、ここはゴッサムじゃないんだから、さっさと出て行ってくれないかねぇ…オリャア‼」
雄介は、その姿を見た瞬間、別の未確認生命体だと悟り、攻撃を始めた。そして徐々に白い身体・未確認生命体第2号に姿を変えた。
雄介は、2号に変身して蝙蝠の未確認生命体を何度も殴っていたが、怯む様子もなかった。
「何だ…効いてないのか⁉」
「バンザ?ゴン、ボヅギパ……(何だ?その拳は……)」
未確認生命体は、雄介を強引に引きはがした。
「ボンドグン、ボヅギゾ、ゴギゲデジャス(本当の拳を、教えてやる)」
未確認生命体は、雄介を殴り飛ばした。殴られた雄介の身体に、トラックに轢かれたような衝撃が走る。
その勢いで、雄介はアスファルトを滑るように飛ばされ、元の「相馬雄介」の姿に戻った。
「ゴラゲゼ、バギング、ドググド、パパンビンレザ(お前で、19人目だ)」
ゆっくりと近づく未確認生命体に対し、先程の衝撃が強すぎたため、雄介は身動きできずにいた。
(このままじゃ……死ぬ‼)
雄介がそう思った瞬間、大型車のライトが雄介たちを照らした。国の警備隊が今到着したのだ。
すると、未確認生命体は、ライトの光から逃げるようにして、夜の闇に消えた。
櫻田城 pm.19:30
国の警備隊により保護された雄介は、櫻田城に戻っていた。城に戻った雄介を、総一郎と五月が出迎える。
「雄介、大丈夫だったか?」
「……何も、出来なかった……自分には力がある。守る事が出来ると思ってた。…でも、本当はそう思い込んでただけで、誰一人守れていなかった」
「でも、それは未確認生命体が……」
「それでも、結果はこれだ‼何の罪もない18人が死んだ。彼らだけじゃない、九郎ヶ岳では、何人死んだ?これも、俺の戦う覚悟が半端だったからだ」
雄介は、静かに自分の拳を握りしめていた。
「戦う覚悟って、どういう事?」
五月が問う。
「俺が初めてベルトを着けた時、頭に流れたイメージでの2号は赤い姿をしていた。でも、俺が変身したのは白だった。本当は赤じゃなきゃいけない気がするんだよ」
雄介は、総一郎と五月に背を向けた。
「雄介、どこに行くんだい?」
「少し、一人にしてくれ」
雄介は、城の外に出て行った。
「雄介……」
「仕方ないわよ、突然別なものに変わったんだから。戸惑うのは当たり前でしょ?私たちに出来るのは、今迷ってる友達を支える事……でしょ、総ちゃん」
総一郎と五月は、手始めに城の敷地内にある教会に向かった。
「こんな奴らのために‼」
「あなたも、誰かを亡くされたんですか?」
「これ以上誰かの笑顔が消えていくのを見たくない‼」
「それが、亡くなった皆さんに対する償いだと思うから」
「だから、そこで見ていろ‼」
「(…………変身)」
「ゲガゴゾ、ラロスダレザ‼」
EPISODE4 『決意』
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EPISODE4 決意
総一郎と五月は、敷地内の教会に来ていた。
「総ちゃん、どうして教会に?」
「雄介は、何かあると必ずここに来るんですよ、昔からね。……アレ?いないみたいですね」
教会に雄介の姿はなかった。
しかし、月が満ちる夜に紛れて、二人のいる教会に近づく異形の存在に気づく者はいなかった。
「ヅギパ、ガギヅザバ……(次は、アイツらか……)」
櫻田城付近 pm.20:00
雄介は、自前のバイクに乗って城付近の河原に来ていた。
「本来の赤い姿……どうやったら赤になれるんだか……そういや、戦った未確認は、俺のことを“クウガ”って呼んでたな……分からん‼」
雄介は草むらに寝そべり、なにを思うこともなく月を眺めていた。
「……こんなに月はきれいなのによぉ、何で未確認なんかが出るんだか」
「あなたも、誰かを亡くされたんですか?」
雄介は突然声をかけられた拍子に、勢いよく起き上がった。
「うおぁ‼…あぁびっくりした……」
「あ、スミマセン…突然声をかけたりして。ご迷惑でしたよね」
「いえ、全然。こっちこそスミマセン。誰かいるとは思わなくて……俺、相馬雄介って言います」
「私、須藤舞です」
雄介は、出会った女性「須藤舞」と初対面でありながら、どこか落ち着きを覚えていた。
「そいえば、舞さん。さっき俺に声をかけたとき、(あなたも)って言ってたけど、舞さんは誰かを亡くされたんですか?」
「…はい、先日九郎ヶ岳遺跡で起きた事件で」
舞は、顔を俯かせて言った。
「あの時、私はこっちにいたんですけど、遺跡調査団の中に、私の父が参加していたんです」
「そうだったんですか…お父さんが……」
「…未確認って、何なんでしょう……」
「え?」
「どうしてあんな簡単に人を殺せるのかって、……父や他の人たちが何をしたっていうんですか、どうして殺されなくちゃいけなかったんですか‼」
雄介は、答えられなかった。いや、それ以前に、自分は答えるべきなのか分からなかった。
あの時の雄介は、目の前にいる総一郎と五月を救ったが、その代わりに調査団は全滅。雄介は無意識の内に、人の命を秤にかけていたことに気づいた。
「どうして未確認が出るのか、どうして舞さんのお父さんたちが殺されなきゃいけなかったのか、その理由は俺にも分かりません。でも、一つだけ分かるのは、これ以上未確認を放っておいたら、被害者は増える一方です。そして、その分人々の笑顔も消えてしいってしまう。俺はそんなのゴメンです。例え、誰かが笑顔をなくさなきゃいけないのなら、全て俺が背負います。それが、俺が亡くなった皆さんに対する償いだと思うから」
「雄介さん……アレって何でしょう?」
舞が月を指さした。雄介も月を見ると、何やら奇妙な物体が空を飛んでいた。
それは正しく、総一郎と五月を狙う未確認生命体第3号「ズ・ゴオマ・グ」だった。
(未確認⁉あの方角って……城か⁉……総一郎、さっちゃん)
雄介はバイクに跨り、エンジンをかけた。
「雄介さん⁉急にどうしたんですか⁉」
「ゴメン舞さん、俺行かないと」
「行くって…どこに?」
「笑顔を守りにってとこです……それじゃ、また」
雄介はそのまま櫻田城へと向かった。
櫻田城・教会 pm.20:17
総一郎と五月は、今の状況を理解できなかった。二人の目の前には、蝙蝠のような異形の者が教会のステンドグラスを割って侵入していた。その者は雄介とも、雄介に倒されたものでもないことから、未確認生命体第3号だと総一郎は確信した。
第3号が教会内に侵入した際に、その翼が、立ててあったロウソクを倒し、その炎が教会を包み始めた。
「ボセゼ、バギング、ドググド、ドググ、ビンレザ…(これで、20人目だ…)」
第3号は、五月を見て言った。続いて総一郎を見ると……
「ゴラゲパ、ヅギゼザ。ラズゴグザグ、ヂゾグデデジャス(お前はついでだ。マズそうだが、血を吸ってやる)」
五月に狙いを定めた第3号が、五月に襲い掛かろうとしたとき、教会の扉を突き破った一人のライダーが、第3号を跳ね飛ばした。
「雄介…⁉」
「相馬君…⁉」
そのライダーは、相馬雄介だった。バイクは第3号を跳ね飛ばした後、炎の中に転がり、炎に包まれた。
「総一郎、さっちゃん……俺、戦うよ」
雄介は静かに言った。一方、第3号は雄介に襲い掛かる。
「こんな奴らのために、これ以上誰かの笑顔が消えていくのを見たくない‼……まず最初は、お前ら二人の笑顔を守りたい‼……だからそこで見ていろ‼俺の…戦いを‼」
雄介が第3号の前に立ち、両手を腹部にかざすと、ベルト「アークル」が出現した。
―――――邪悪なるものあらば、希望の霊石を身に付け、炎の如く邪悪を倒す戦士あり
(…………変身)
雄介は精神統一をして、アークルに力を込めた。
直後、雄介は第3号に殴りかかる。その拳は、白の時とは違い、確実に第3号の急所を捉えていた。
すると、徐々に雄介の身体が変わっていく。今度は白ではなく、赤い姿をしていた。
やがて、雄介の姿は完全に赤い戦士へと変わった。
「バゼ、ゴラゲグビ、クウガ⁉(なぜ、お前がクウガに⁉)」
第3号に対し、戦士「クウガ」が言った。
「ゴラゲゾ……ダゴグダレザ‼(お前を……倒すためだ‼)」
赤いクウガ「マイティフォーム」は、第3号を掴み、教会の外へと連れだした。
その直後、クウガは第3号によって敷地内の建設中現場まで飛ばされた。
総一郎と五月は、クウガが第3号を外に連れ出した時に教会の外へと脱出した。
「五月さん、大丈夫ですか?」
「私は大丈夫。…それよりも、相馬君は……」
「今の雄介なら、きっと大丈夫です。……雄介を信じましょう」
クウガは、第3号との死闘を繰り広げていた。しかし、夜の戦いでは少々クウガに分が悪かった。
「ゴラゲゼパ、ボン、ダゴゲバギパ、ズ・ゴオマ・グ‼(お前では、このズ・ゴオマ・グは倒せない‼)」
「ダゴギデジャス、ゲガゴゾ、ラロスダレビバ‼(倒してやる、笑顔を守るためにな‼)」
第3号「ズ・ゴオマ・グ」は、夜の闇に紛れながらクウガを襲う。
闇に紛れるゴオマに対し、クウガはゴオマが飛び立つ時に発する僅かな音を頼りに戦っていた。
「ゾボザ…………⁉ゴボザ‼(どこだ…………⁉そこだ‼)」
クウガは思い切り自身の真上に拳を突き上げた。すると、滑空してきたゴオマの腹に直撃した。
戦いは長時間に渡り、やがて朝を迎えることとなった。
ゴオマはクウガを殴り飛ばす。
「ドゾレザ……(とどめだ……)」
ゴオマはクウガに迫る。……が、朝日が射す地点に射しかかった瞬間、ゴオマが日を拒むように逃走した。
「……ビゲサセダバ…(……逃げられたか…)」
クウガは朝日に包まれて、「相馬雄介」の姿に戻り、守るべき友人の下へと戻った。
櫻田城・教会跡 am.06:30
雄介が教会に到着すると、近くの林で総一郎が五月を抱きながら気にもたれかかって眠っていた。
「……無事だったか…」
雄介は、総一郎と五月が目覚めるまでその場に残ることにした。
数分後、目を覚ましたのは五月だった。
「……相馬…君?」
「…よっ」
「アレは……どうなったの?」
「逃げられた。…多分、昼間は心配ないと思うよ」
「そう……総ちゃんは⁉」
雄介が五月と反対側を指さすと、総一郎が雄介にもたれかかるように眠っていた。
「…ハァ、ここにペンがあったらなぁ……」
「え?」
「いやぁ、コイツの瞼にペンで目を書いてやろうかと思ってさ」
「少しは大人になった方がいいと思うぞ、雄介」
総一郎が目を覚まして雄介に言った。
「‼……いつから起きてた?」
「君が五月さんと話している時から」
「マジかよ……」
「それより、私はなぜ君の肩に?」
総一郎の問いに、雄介が答えた。
「ヒ・ミ・ツ」
「……相変わらずだな、君は」
三人は、城の警備隊が到着するまで、つかの間の休息を取ることにした。
「キョグギン、ジャンママ、ズ・バズー・バザ」
「……ガゴビ、バダダ」
「ボボバサ、ダダビゴドギデジャス」
EPISODE5 「跳躍」
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EPISODE5 跳躍
某所 am.08:41
「ガバンクウガグ、ガサパセダ⁉(赤のクウガが、現れた⁉)」
「ゴグザ、ババシ、クウガゾ、ギダレヅベダゼ(そうだ、かなりクウガを痛めつけたぜ)」
「ゴラゲパ、バデデビ、ザジレダゾ、ゲゲル(お前は、勝手にゲームを始めた)」
「ゴセパ、ダザ……クウガド、ダダバギ、ダバダダ、ザベザ(俺はただ……クウガと戦いたかっただけだ)」
「ザラセ‼…ログ、ゴラゲビ、ギバパバギン、ゲゲル(黙れ‼…もう、お前にゲームの資格はない)」
「……」
「……グゼビ、バズーグ、グゴギデギス(……既に、バズーが動いている)」
「バズーグ?(バズーが?)」
「パパン、ビンレザ(1人目だ)」
市街地 am.09:00
一日の始まりは、警備隊への一報だった。
『未確認生命体出現との市民からの通報。付近の隊員は、至急現場に向かってください』
城で一報を聞いた雄介は、警備隊とともに現場に向かうことにした。
現場に到着した雄介らが見たものは、これまでの未確認生命体とは違うものだった。
「ゲロボグ、ジヅンバサ、ブスドパバ(獲物が自分から来るとはな)」
未確認生命体は市民と警備隊員を次々に殺害していく。
そして、雄介を見て何かを言った。
「ヅギパ、ゴラゲザ(次は、お前だ)」
雄介は、未確認生命体を見ながら、心の中で静かに闘志を燃やした。
「(……変身)」
徐々に雄介の身体が赤の戦士(クウガ)へと変わった。
「クウガ…⁉ゴセパ、キョグギン、ジャンママ、ズ・バズー・バザ(クウガ…⁉俺は、驚異のジャンパー、ズ・バズー・バだ)」
「バセガグ、ヅロシパバギ…ゴラゲゾ、ドレス(馴れ合うつもりはない…お前を止める)」
クウガがバズーに突進してキックを放つ。
だが、バズーはクウガのキックが届く寸前に、クウガの視界から姿を消した。
「…‼ビゲダ?(…‼消えた?)」
「ゴセパ、ボボザ‼(俺はここだ‼)」
バズーの姿は、クウガが立っている位置からはるか高い位置にあった。
「フッ…ボボラゼ、ボギ(フッ…ここまで来い)」
バズーは、クウガをあざけ笑うように言った。
クウガは、バズーの位置まで跳ぼうとしたが、届くことはなかった。
バズーはクウガに向かって飛び蹴りを浴びせた。
「ボンデギゾバ、クウガ‼(この程度か、クウガ‼)」
バズーはまた高く跳び上がり、建物の屋上に着地した。
「ロドド……ロドド、ダバブ…ロドド、ダバブ、ドダバギド‼(もっと…もっと高く…もっと高く跳ばないと‼)」
クウガが「もっと高く跳びたい」と願い、もう一度跳び上がる。
今度は、今までよりも高く、バズーと並ぶほどに跳び上がり、遂にバズーの前に立った。
その時、クウガの身体は赤から青に変わっていた。
「……ガゴビ、ババダ…(……青になった…)」
「ゴグザ‼ゴンガゴゼボギ‼(そうだ‼その青で来い‼)」
赤から青へと変化したクウガと、「青のクウガ」を望んでいたバズーがぶつかり合う。
戦う中で、クウガはある事に気づいた。
「……マンヂリョブグ、ジョパブ、バデデス⁉(……パンチ力が、弱くなってる⁉)」
赤から青になったことで、クウガのジャンプ力が上がった反面、全体の攻撃力が赤と比べて落ちていた。
「ジョパギバ、クウガ(弱いな、クウガ)」
バズーは徐々にクウガを追いつめる。
「ギブグギギ…(死ぬがいい…)」
バズーは、クウガを抱えた。
「ボボバサ、ダダビゴドギデジャス(ここから、叩き落してやる)」
バズーは、クウガを50mはあるであろう地上に叩き落し、クウガの前から姿を消した。
バズーに叩き落されたクウガは、全身の激痛で立ち上がることが出来なかった。
やがて、「クウガ」の姿から、「相馬雄介」の姿に戻った。
市街地 am.09:30
バズーの姿が見えなくなっても、雄介は立ち上がれずにいた。
「クソッ……敵わなかったのか⁉…あの二人の笑顔を、守らなきゃ……いけないのに」
そんな雄介に、駆け寄る者がいた。
「……‼雄介さん⁉」
「舞さん…どうしてここに?」
昨日出会った「須藤舞」だった。
「たまたまです。雄介さんこそどうして…しかも、ボロボロじゃないですか‼」
「話せば長いです」
「とにかく、傷の手当てをしないと」
舞は、雄介の身体の傷を調べ、具合を確かめていった。
「舞さん、手際いいですね……何か、医者みたいだ」
「みたいって……一応、医者なんですよ…まだ研修医ですけど」
「そっか…納得」
「全身打撲ですね……生きてるのが不思議なくらい」
「見た目より、タフなんで……」
舞に支えられた雄介は、その足で舞の研修先の病院へと向かった。
「ガデ……ガギバギザン、ゲゲル」
「俺の事だよ、クウガって」
「ガギゴン、ゲロボパ……ゴラゲザ、クウガ」
「だから……アンタの笑顔を、俺に守らせてくれ‼」
EPISODE6 「青龍」
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