遊☆戯☆王DS(デュアル・ソウル) (Taga)
しおりを挟む

プロローグ「最初の転生者」

-俺は、一体何をやりたかったんだろう。

今日、午後4時39分の出来事である。俺は明日の高校の入学式に向けて、制服を着こなしていた。親からは絶賛され、その姿を妹に見せたら「ハイハイ、似合う似合う」でスルーされた。
軽く傷ついたが、それでもなお反応してくれた事に関しては少し嬉しかった。
そして、母さん突然「醤油が切れた!」と慌て、俺が「買いに行こうか?」と言い出した。そして俺は、いつものようにポーチを腰に付け、醤油を買いにスーパーまで出向いた。
渡された金額よりも少し高かった事に苛立ちながらも、とりあえずは買い終えた俺は寄り道もせずにそのまま家に帰ろうとした。
今現在、信号は赤だ。別に慌てる心配もなくゆっくりと信号が青になるのを待つ。
慌てても、得する事なんて無いからな。そう思いながら、信号が青になるのを確認して道へと赴く。
だが、俺は気づいてはいなかった。慌てる以前に、注意力が掛けていれば元も子もない事に。
道を渡り終える前に、急にトラックと思えるクラクションの音が耳に入った。それを最後に、この俺、入江康介(いりえこうすけ)としての意識が失われた。
気が付けば、俺の視線には・・・・・四肢が全て弾け飛び、臓器の一部が出て更に潰れているのも数個あり、頭が原型すら保っていない無惨にも砕け散った人の姿が目に映った。吐き気さえも覚えた。だが、俺はここにいる。だったらアレは誰だ?
そう思うも、遠のく意識の中でアレが自分だと思い知らされる。自分は魂だ。アレは魂を失った抜け殻だ。抜け殻に意味はない。主を失った犬のごとく、動かない。それが当たり前だ。
これから始まろうとしていた生活を前に、俺は・・・・・交通事故で死んでしまった。
両親に情けないことをしたなと反省する。たかが醤油を買いに行っただけなのに、こんな大惨事になろうとは。全く、最低最悪にも程がある。
だが、すでに時は遅い。このまま意識が失われる1秒でも前まで、自分の反省点を上げる。ほんっと、バカだったな、俺の人生は。
そうして俺は、この世から去ってしまった。


-貴方は、自分の運命を受け入れた。
-・・・・だから何だ? 俺に着せられた運命など、たかが知れたことではない。与えられた運命が絶望なら、敷いたレールの上を走るのが普通だろ。
-・・・・可哀想ね。
-可哀想? 俺は別に、自分が可哀想と思った事は一度もない。
-・・・・自覚はないのが当たり前。それが普通なのは分かっている。でも、まさかここに来る直前まで自分を罵るとはね。余程自分に自信がないと思ったわ。
-そりゃ、どうも。
-・・・・人生を、やり直す気はない?
-やり直す? それだったら転生して遊戯王の世界にでも行きたいモンだよ。俺の趣味はカードゲーム。別に最強の能力なんていらねーから、カードとの絆で相手をぶちどめしたい。それが俺の思惑だ。
-・・・・良いわよ。貴方の願い、叶えてあげる。
-オイオイ、ほんの冗談で言ったつもりなんだが。
-でも、一部に本音が入っていたわ。そう願うのなら、別の世界にでも行きなさい。
-・・・・なぁ、アンタは何者だ? 人生をやり直すだの、俺の願いを叶えるだの、まさか神様とでも言うんじゃねーだろうな。
-・・・・それはあえて言わない。私が誰であろうとも、貴方には関係ない事でしょ
-まぁな。お前が誰であろうとも、必要以上に責め立てる義務は俺にはない。全く、純理に反するよ。こんな会話。
-・・・・ふふっ、そうね。こんな会話、他には聞かれたくないわね。
-はっははは。面白いヤツだな、お前は。
-貴方ほどじゃないわ。だって、この短時間でここまで馬が合うのは初めてなのだから。
-俺って、誰にでも受け入れられやすいのか? それだったら嬉しいよ。
-と言うよりは、ただ単純に慣れやすいと言った方が正しいわ。さて、話を戻すけど。本当にいいの? 魂だけこの世に残り怨念体として生きる手段もある。
−だが、そんな事をやってもただクソつまんない人生となってしまう。んなモン、生きているだけでも面倒くさくていっそ死にたい気分になるだろう。俺は人生をやり直す。そして自分を変えてやる。
−・・・・いいわ。それが願いなら、聞いてあげましょう。別世界の自分を、救うとでも思って。

最後の「別世界の自分を救う」と言う言葉に疑問を抱きつつ。しかし少女の声が聞こえなくなったのと同時に何もかもが面倒くさくなってきたので、考えるのをやめにした。


デュエルモンスターズと言うカードゲームをご存知だろうか? 世界的に人気のあるカードゲームの一種で、そのおもしろさは誰もが楽しめる娯楽となった。

そしてそのカードゲームに関するアニメも放映されていた。そこでは全てがデュエルで決められると言った、無法地帯も空いた口が塞がらない暗黙のルールがある。

しかしデュエルが物事を左右する世界は、1つではない。

並行世界、あるいは別次元世界と言うのが存在する。アニメとは違いもっと別の方法でデュエルが主流になった世界や、過去からすでにデュエルモンスターズとして人々に不思議な力の象徴として語り継げられているような世界があってもおかしくない。

アニメも「別次元世界」に似た存在であり、その中の「想像」によって生み出されたのが「物語」である。

だがその分類ではなく、もっと違う。並行世界と別次元世界を組み合わせたような世界。彼が居た世界と人は同じで、しかし性格や物事の判断が違う、または同じと「元の世界に似て似つかない世界」があった。

彼が居た世界で優しかった人が凶暴だったり、逆に凶暴な人が優しかったり。しかし最悪な人が最悪なように「基準」となる判断はどこにもなく、むしろランダムに並べられた外れ混じりのビックリ箱のように、感で人を判断しなければ痛い目を見るような世界なのだ。

そんな世界は国があり、その国に日本と言う国があり。とある地域にて、2人の男女組が何かから逃げるように走っていた。

 

「はぁ・・・・はぁ・・・・」

「やだもう、何で僕がこんな目に遭わなければならないんだよぉ!」

女性は息を切らしながら、男性は弱音を吐きながら走っていた。

背後からは不良と思える人たちが5人ほど追いかけて来ており、皆が面白がるように笑いながら走っていた。

「オラオラ、その女をタスケルんじゃなかったのかぁ?」

「ヒャーッハー!」

どうにも世界末期にしか聞こえない不良組。しかし恐怖でピンチある事には変わりない。迫り来る危機に男性、入江康介は震えていた。

事の発端は、女性が不良組に囲まれていた事から始まる。

下賤な笑いで脅し、手を積んで無理矢理連れて行こうとしたりとかなりタチの悪い連中であると言えるような行動ばかりをしていた。

そんな中で偶然通りかかったのが、康介だった。

囲まれている人は、同じクラスの美山風香(みやまふうか)。康介が恋心を抱いている人であった。

しかし康介は弱虫で何もかもに消極的。挙句周りからはバカにされ続け、目を逸らしたいと思うばかりであった。

そんな彼に、声をかけてくれたのが彼女である。なので一目惚れと言うのか? 彼女が女神に見える程であり崇めたくなるまでに溺愛してしまっていた。

その彼女が、不良組に絡まれているのだ。助ける意義しかなく、無防備に立ち向かったら返り討ち。しかし隙を見て彼女と逃げ出したのは良かったものの、不良組が面白がって追いかけてくる始末。

自分の無力さを憎みながらとにかく前へ前へと足を動かす。

しかしその追いかけっこもすぐに終わりを告げた。

曲がり角を曲がった。しかしその先に道はなかった。

変わりに壁が行く手を遮るようにして立ちはだかり、後ろを見れば不良組が逃げ道を埋めていた。

「は・・・・お、わり」

「ちょっと、しっかりしなさいよ! ここまで逃げてきておいて呆然とするのは無しでしょ!?」

ユサユサと康介を揺さぶる風香。当の本人はただやられるがままに首を揺らしていた、

「ははっ、良いザマだなぁ。女を救うヒーロー気取りが追い詰められるなんて、ガキでもんな事はしねぇぜ?」

ぎゃっはははは!! と笑い出す不良組。

「そうだなぁ、ここで許してくださいと土下座してそこの女を大人しく引き渡せば見逃してもいいんだぜぇ?」

「っ! 僕は土下座するのは構わないけど、風香さんを引き渡すのだけはイヤだ!」

しっかり恐怖を噛み締め、ギッと不良組を睨む。

するとまたもや不良組から笑い声が聞こえてきた。

「あっははははは!! コイツぁおもしれぇや。ただのヒーロー気取りかと思えば、とんだ恋敵って訳か。この女を渡さないと、ほざきやがってよぉ」

ゼーハーと笑い疲れたのか? 体を上下に揺らすと、その狼のような目で康介を見る。

「いいぜぇ、俺だって男だ。ここは一つ、デュエルで勝負と行こうじゃねーか?」

デュエル!? 康介はびくっと体を浮かせた。

この世界での決めゴトは、全てデュエルによって決着がつけられる。雑魚は雑魚で強者に狩られ、強者は名誉のためにと弱者を狩る。まさにこの世界はそんな世界なのだ。

康介はデュエルの腕が良いとは言えず、しかも良いカードを手に入れたとしても「宝の持ち腐れ」と言う事で悪ガキから取り上げられて来た過去があった。

なので雑魚に近い腕前で、かつ良いカードもろくに持ちはしない。そんな彼に、勝つ術などどこにもなかった。

戦っても負け、諦めたら風香を連れて行かれる。どっち道、諦めるしかなかった。

「僕は・・・・・デュエルを・・・・・」

言いかけ、不良組が笑い出したその時であった。

『・・・・面倒くせぇ』

声が、頭に響いた。

誰のものかと一瞬辺りを見渡す。しかし誰かの声か把握できはしない。それになぜ面倒くせぇと言ったのか? 分かるハズもなかった。

しかしその声が次第に自分を飲み込むように強まっていく。

「え、ちょっと何これ!?」

『はぁ・・・・クッソ面倒くせぇ。あぁ面倒くさいったらありゃしない。いつまでこの時間を過ごさなければならんのだ』

苛立ちを含んだ声。そして、彼自身の意識が途切れ、変わりにそれが現れた。

悶えるように見開いた目は半眼となり、何もかもを諦めていますと言わんばかりに表情が死んでいた。しかもどこか眠たそうで、大あくびをしてだるそうな姿勢で歩き出した。

「あー、面倒くせぇ。だるいし疲れる。何で俺はこんな状況に陥っているんだろうなぁ?」

溜息混じりの声を出しながら、特に目的地すら定まっていない頭でただボーッと歩く。

何がどうなっているのかを飲み込めない不良組+風香はそんな様子を見て、ハッと我に返る。

「・・・・って、待てやゴラァ!」

1人が襲いかかろうと肩を掴む。

気だるそうに嫌な目つきでその人を見ると、舌打ちをして、

「んだよ、うっせーな。こっちは気分が優れないから放っておいてくれっつーの・・・・」

ここでやっと辺りを確認し、ポツンとなって一言。

「えっと、今どんな状況?」

そう言っているにも関わらず慌ててはいない。ちなみにその問いに答えたのは風香だった。

「・・・・え? キミ、自分で私を救っておいて何も覚えていないの?」

あぁ? とガン飛ばすも、風香の姿を見るなりまるで珍しい何かを発見したかのように若干引く。

「ちょっと待って。風香、だよな? アレ、いつものように貶す言葉はどうした?」

「そんな言葉はないわよ!! ってかキミにとって私はどんな性格よ!?」

あっれー? と首をかしげ、まっいいかと自己解決した。

そして目を動かし不良組を見終えると、ある程度の事柄は把握した。

「・・・・なるほどね、どうやらあの野郎は何も考えずに俺をここに送り込みやがったのか」

ボソッと言い、ハァと本日最大の溜息を吐く。

「ったく、しばらく何もない意思の中でさまよっていたにも関わらずこんなクソ面倒くさい事になっているのかよ。こっちの俺は一体何をしでかしていたんだ?」

頭を抱え考え込むも、すぐに吹っ切れる。

「んで、今から何が始まるんだ? 事と次第じゃ、こっちも手加減はしねぇぞ?」

相手を威嚇しながら手を握り締める康介。だが怖がるどころか逆に笑い返される。

「ぎゃっははははははははは!! 何か意味不明な事を言った後に事と次第じゃ手加減しねぇだと、こりゃ傑作だよ!!」

思いっきりバカにされた感があるが、あえて口に出さずにいた。

出したところで、厄介事にしか発展しないと分かっているからだ。

「あぁアレか? 怖気づきすぎてとぼけているのか? だったら教えてやるよ。俺とお前は、今からデュエルを始めようとしているのさ。どうだ、思い出したか?」

不良の1人が言った。しばらく康介は考え込み、

「えっと、それって本気か?」

尋ねる。

「ハァ? 本気も何も、それが常識ってモンじゃねーのか? お前小学校から出直せば?」

挑発するも、康介は乗らない。

体を震わせ、クックックと微かな笑いを出す。

「オイオイ、マジかよ。何か常識的な世界だなと思っていたら、まさか本当にデュエル脳世界だったとは。しかもこの状況、面倒くさいが楽しめる余地はありそうだ」

笑い出し、満面の笑顔をしながら。

「いいぜ。そのデュエル、俺は乗った」

指し、どこから取り出したのかが不明なデッキを手に持つ。

「んで、フィールドはどこだ? デュエルならばフィールドが必要だろ」

「フィールド・・・・デュエルプレートの事か? だったら今こいつらが用意しているから待っていろ」

そう言って、少しの間退屈な時間がやってくる。

康介はただジッと見つめている風香に近寄り、頭をボリボリ掻きながら。

「何だよ、そんな目で睨んできて」

「別に、ただとんでもなく性格変わったなって思って。さっきまでの弱々しさと言うの? 急に毒が抜けた感があって、ちょっと残念だなって思ってね」

呆れながら言い吐く風香に、康介は肩に重りが入り込んだような感触が全身を駆け巡る。

「お、お前。本当に風香かよ!?」

「だ・か・ら、キミにとって私はどんな人だと思っているのよ!!」

ギャァギャァと痴話喧嘩も大抵にしろと言うべき口論が続けられていた。

その様子を、ただ黙って周りは見ているしかなかった。どうにも弱気な僕が、かなり面倒くさがり屋で見ているこっちまでやる気が損なわれるような雰囲気を醸し出すダウナー系男子となっている。

対して美人とも言うべき風香。まるで女神が生まれ変わったような見た目で誰もが惚れ入るだろうと思えるような雰囲気を出す少女。

この似合いそうにない2人の口論など、聞くに値しない。そうリーダーである不良、水竹着等(みずたけぎら)は思っていた。

少し経ってデュエルプレートを用意した2人がやってきて、それぞれにデュエルプレートを差し出した。

「ほらよ、貸してやるから感謝しやがれ」

「・・・・これって、デュエルディスクじゃねーのか?」

「デュエルプレートだ。つべこべ言わずにさっさとやれ!」

怒鳴られ、ヘイヘイと言う事を聞かない生徒のような素振りを見せる康介。

本当にこの男は、さっきまでの男なんだろうかと疑問を抱く。しかしそれはこれから起こるデュエルで全てが分かるだろうと思い、着等は構える。

「覚悟はいいか?」

「いつでも。ってか、なにげに初デュエルディスクじゃね? 結構憧れていたから嬉しいかも」

何やら満足そうに呟き、お互いに目色を変える。

「「デュエル!!」」−LP4000−

先行は、康介からだった。

「俺のターン、ドロー! 俺は聖刻龍−ドラゴンヌートを攻撃表示で召喚!」

立体映像として何やら甲殻が現れると、それが分裂し始め形を作るとまるで粒子みたいな何かを発生させながら龍の形を作り出した。

腕を組み、その威圧を相手に見せつける。

『グルルルルルルルル!』−ATK1700・☆4−

「聖刻? そんなカード、聞いた事がないわね」

「気にするな、気にしたら負けだ。俺はカードを1枚伏せてターンエンド!」

カードが現れ、消えた。

そして相手のターンが始まる。

「俺のターン! 俺はカードを3枚セットして、ターンエンドだ!!」

2枚を伏せるだけ。何やら罠を張られている感がハンパなく、むしろこれで攻撃しようなら必ず返り討ちに合うのが見え見えの戦略だ。

さて、どう来るとばかりの視線。これでもし、このカードらを破壊しなければ落ち着いて攻撃はできまい。と着等は思い、笑っていた。

康介のターンが始まる。

「俺のターン。俺はドラゴンヌートでダイレクトアタック!!」

「なっ!?」

「なんの遠慮もなしに!?」

その場にいた全員が唖然とする。

そりゃそうだ。明らかな戦略を前持っていると知りながらにも関わらず、無防備に立ち向かわせるバカなど世界を探してもここにしかいないだろうから。

「セイクリッド・ナックル!」

ガン! と両手を殴り火花を散らすと、相手に向かって遠慮もなく殴りかかった。

見事にぶち当たり体を空中に放り込まれ、右足から着地して踏み所止まる。

「クッ、その過剰な自信はどこから来ているんだ!」−LP4000→2300−

「過剰? ハッ、舐めた口聞いてんじゃねーよ。お前の策略にあえて乗って、楽しもうって魂胆だ。クソつまらない結果よりも、楽しい結果の方がいいだろ?」

その言葉を聞いて、ただ呆然とした。

この男、一体何を考えているのだろう? そんな興味が、知らずのうちに着等に抱かせた。

「んで、お前の策を見せてくれよ。この俺を興奮させるようなとんでもないモンスターを呼び起こすんだろう?」

気が付けば、康介も楽しそうだった。まるでこれから起こり得る事を予測して、それに打ち勝とうとするバカそのものを連想させる。

面白い、やってやろうじゃねぇか。お前が思う以上の最強を見せてやるよ!

「俺はダメージを受けた時、手札のディプシーティド・グレシの効果発動! 相手からダイレクトアタックをされ戦闘ダメージを与えられた場合、手札から特殊召喚する!」

怨念とでも言うべきなのだろうか。火の玉が1体、姿を表した。

−ATK2000・☆7−

「更に罠発動! 同類による誘い! 自分がレベル5以上のアンデッド族モンスターを特殊召喚した場合、同名モンスターをデッキまたは手札から特殊召喚する事ができる! 俺はデッキに存在するもう1体のディプシーティド・グレシを特殊召喚!」

シュッと燃え上がり、またもや火の玉が姿を表す。

「この流れ、なるほど。エクシーズのためのフラグか」

「ははっ、これで準備は整った。しばらくコイツの出番がなかったから暴れたいとずっと俺のエクストラデッキで暴れていたんだよなぁ。しかし今日この場で、思う存分暴れるといい! 俺のターン!!」

グっと力を拳に集約させ、右手を上へ挙げる。

「俺はレベル7のディプシーティド・グレシ2体をオーバーレイ!!」

2体のグレシが球体となり、康介と着等の間に銀河を思わせる渦が発生した。

「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!!」

ボォン! と小規模のビッグバンが発生し、爆発した場所から1体のモンスターが姿を現す。

「現れよ力、墓場より暴れだせ! ダークスカル・フラッシュ!!」

全身は黒い骨だけでできており、支えるモノは何もない。なのに浮いている。まるで見えない何かによって骨と骨を支えられているように。

しかし何よりも驚くのは、その攻撃力だった。

−ATK3000・ランク7・Unit2−

「こ、攻撃力3000! これはなかなかに突破できるもんではないな」

「分かるか? だったら話は早いな! 俺はダークスカル・フラッシュの効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニット1つを使い、手札を1枚墓地へ送る事により、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して破壊する!」

ドクロ部分に球体の1つが吸収され、目がピカッと光る。

その瞬間、ドラゴンヌートが苦しみもがき、大きな雄叫びを上げた後、パァン! と粒子になって消え失せた。

「チッ、攻撃力3000で破壊効果か。コイツはなかなかの厄介だぞ」

苦虫を噛み砕いたかのような表情を見せ、難しい顔をする康介。

「っは! わざわざコイツを呼び起こしてくれてどうもありがとうな! おかげで俺の勝ちは決まったも同然だ!」

わっははは! と笑い出す着等。

だが、それと同時。粒子になっていたドラゴンヌートが集結し出し、塊を作った。

形が歪だったが、徐々に変形し出したかと思えばキチンとした龍の形になり始める。蒼く、蒼天の空を思わせる体のカラーに周りでバチバチと弾ける電撃。尻尾で起こる雷撃に、一瞬何事かと全員目を疑った。

そう、康介のフィールド上にモンスターが存在しているのだ。さっき破壊したのにも関わらず、そのドラゴンはあたかもそこに元からいました。と言わんばかりに平然と存在していた。

「なっ!? これはどう言う事だ!」

「残念だが、対象にする効果だった事に恨むんだな。聖刻龍―ドラゴンヌートはカード効果の対象になった時、手札、墓地、デッキからドラゴン族通常モンスター1体を特殊召喚する事ができる。俺はその効果でデッキから、エレキテルドラゴンを特殊召喚した! ただしこの効果で特殊召喚したモンスターは攻撃力、守備力は0になる」

−DEF0・☆6−

表示には、確かに攻撃力、守備力は0であった。

これで攻撃を行われても、一応ダメージは受けない。エレキテルドラゴンが守ってくれるおかげで、大ダメージだけは防げる。そう康介は思っていた。

だが、現実は違う。思いもよらぬ仕掛けが待ち受けていた。

「かっ、それがどうした! 俺は罠カード、挑発の十字架を発動! 自分フィールド上にアンデッド族モンスターが存在する場合、相手フィールド上に存在する守備表示モンスターを全て攻撃表示へと変更する!」

「なにっ!?」

−DEF0→ATK0−

気が付けば、攻撃する気で相手をエレキテルドラゴン威嚇していた。

「お前は言ったよなぁ? 攻撃力も0だと! だったらこのまま攻撃を通せばお前は終わりだ! 俺はまだ通常召喚を行なっていない! 俺は手札から十字架を背負う死者を攻撃表示で召喚!」

まるで拷問中みたいな、十字架を重たそうに背負う死人顔の宗教者が現れる。

−ATK1500・☆4−

「これで終わりだ! バトル、ダークスカル・フラッシュでエレキテルドラゴンドラゴンに攻撃! ブラックフラッシュ・スピア!!」

自分の骨を持つと、先が尖る。そして次々と自分の骨をつなぎ合わせ、長い槍となる。それをエレキテルドラゴンに狙いを定め、投げ槍のごとく勢い良く投げる。

エレキテルドラゴンに刺さると、両方光となって消えた。

しかし妙に暗い黒い光の塊が残っており、康介に目掛けて接近し、爆破した。

「ぐはっ!?」−LP4000→1000−

フィールド上には伏せカード1枚しか存在しない。しかも相手はもう1体、十字架を背負う死者が存在している。この攻撃が決まれば、負けたも同然。

「オラオラ行くぜ! バトル、十字架を背負う死人でプレイヤーにダイレクトアタックだ!」

グっと力を入れ、十字架を持ち上げる死人。

よろけながらもしっかりと康介に落ちるように狙いを定めている。ニッと気持ち悪く笑うと、康介目掛けて振り下ろした。

逃げ道などなく、ただ冷や汗をこめかみ辺りから垂らす康介。

「っ、勝ちなさいよ!」

と、その時に風香が叫ぶ。

ただ黙ったまま、康介は話を聞いた。

「勝ちたいんでしょ! ねぇ、私の事はどうでもいいから、勝ちたいんでしょ! だったら勝ちなさいよ、そしてこの場で逆転の劇を、見せてよ!」

その、言葉を聞いてやっと微笑みを見せた康介。

「・・・・それでこそお前だ。人の心をえぐるような言葉に、正直さを隠さない精神。この状況であっても、自分の心配よりも他人の心配をする。それでこそ、俺が憧れ、惚れた女だ」

「・・・・え!?」

サラッと告白されたようにも聞こえ、顔を赤らめる風香。

しかし全く気にする様子を見せず、迫り来る衝撃に耐えようとする様子さえも見せずにいた。

その理由として、罠カードを1枚、発動していたからだ。

「罠発動、ガード・ブロック! このターン自分が受ける戦闘ダメージは0になり、デッキからカードを1枚ドローする!」

薄いバリアが張られ、十字架を受け止める。

「そしてデッキからカードを1枚ドローする!」

手札増強で一歩リードしたかと康介は思う。

だが、上手は着等だった。

「戦闘ダメージだけを無効にしたところで、結局甘い事には変わりない! 罠カード、大地獄の大車輪を発動! レベル4以下の攻撃を行なったアンデッド族モンスター1体を選択して、そのモンスターを破壊する! そして、そのモンスターの攻撃力の半分のダメージを、お前に与える!」

急に十字架ごと爆散し、その破片が康介を襲った。

「クッ!」−LP1000→250−

「本当は警戒目的で伏せていたが、まさかこんな場面で役に立つとはな。さぁ、俺のターンは終了だ! 次のターン、お前が奇跡を起こさない限り、逆転は不可能だ!」

ただ立ち止まっているだけの康介。

髪がただれて表情すら読めないこれは諦めたか? 誰もがそう思った。

『・・・・もう、ダメだ』

康介の中で、誰かが呟いた。それがこの世界の自分だとは既に知っていた。

『相手フィールド上には攻撃力3000のモンスター、それにフィールドにはカードはない。こんな状況で、勝つ事なんて不可能だよ・・・・』

声が弱々しく、彼はすでに諦めているようだ。

・・・・ギリッ! 康介は歯ぎしりをする。ふざけんな、何がもうダメだ?

「お前、本気でそう言っているのか?」

『・・・・うん、こんな状況。僕でも初めてだよ。だからもう諦めても・・・・』

「っざけんな!!」

突然叫ぶ。それは紛れもなく、彼の本音だった、

「ふざけんな、何が諦めるだ! そんなクソ面倒な事、やる訳がないだろ! 状況は常に可能性によって支配されている。まだデッキからカードをドローし、ライフが残っている限り、可能性と言う物は残っている! このまま引き下がれるかよ。俺はお前ではない!」

苛立ちを含めたしわ寄せを見せ、デッキに手を置いた。

「お前が言う不可能が今なら、俺が可能性と言う未来を作り出す! 決して諦めず、立ち向かう精神を宿した本物のお前を俺が見せてやる!」

そして、カードを引いた。

「ドロォー!!」

見る。可能性を信じた結果が、一体どんな結末を見せるのかを。

「・・・・あぁ、俺は信じていたさ。もしこれで答えが導き出せないのなら、終わりを迎えていたからな。だりぃ中でも、面白みがあるのは素晴らしい」

うんうんと頷く康介。

さて。とばかりに気を取り直すと、引いたカードをチラッと見つめる。

『そ、そのカードは!!』

中にいる本来の「康介」が驚きのあまり声が裏返る。

そんなに珍しいのか? と鼻を鳴らし、デュエルプレートに差し込む。

「俺は魔法カード、死者蘇生を発動!」

「な、なにぃ!?」

「死者・・・・蘇生!! 伝説とも呼ばれる蘇生カードを、何でキミが持っているの!?」

全員が目を開いたり、腰を抜かしたりと。唖然と見据える者まで。この状況によって、更に康介の興奮が上がった。

「そこまでのカードだったのか。だったら結構面白い事になりそうだ! 死者蘇生の効果により、自分の墓地に存在する、聖刻龍―ドラゴンヌートを特殊召喚!」

ヴォンと、さっき倒されたばかりのヌートが蘇った。その瞳からは覚悟と根性が感じられた。

「だ、だがこれでもダークスカル・フラッシュには攻撃力が及ばない! どうやって倒そうと言うんだ!」

「確かに、今のままでは倒せない。だが、方法はある」

「なにっ!?」

「俺が一番警戒していたのは他でもない。その伏せカードだったんだよ!」

ほぼ全員が「え!?」と疑問を浮かべた。

「伏せカードは魔法であっても罠であっても警戒すべき罠。それがどんなカードであるかによって戦況は変わる。自らのライフを犠牲にする事によって、ある程度の状況把握が可能になった。まぁそれが故に、大ダメージは避けきれなかったが」

「何言っているの、康介?」

「だが、それがない今。お前を守る罠は削除された! これはつまり、攻撃力3000の壁さえ超えれば何も怖くない!」

「軽々と。そう簡単に超えられるとでも思っているのか!」

「できるかできないか、それはこのターンで全て明白になる。そもそもできなければ、俺はこんな優長とした発言などしていない! 俺は手札からドラゴン・ウィッチ−ドラゴンの守護者−を攻撃表示で召喚!」

守護者と言われ、どんなモンスターが出るのかと思えば。金髪で、後ろで1つにしているポニーテールで、スタイルの良い女性が現れる。

−ATK1500・☆4−

「ハッ、どんなモンスターかと思えば。ひ弱そうなモンスターだ」

「見た目で判断してもらったら困るぜ? 俺はレベル4の聖刻龍―ドラゴンヌートと、ドラゴン・ウィッチ−ドラゴンの守護者−をオーバーレイ!!」

2体が球体になり、地面に描かれた渦に飲み込まれる。

「2体のモンスターで、オーバーレイネットワークを構築! エクシーズ召喚!」

小規模のビッグバンが発生し、中から1体のドラゴンが現れる。

「全ての龍に力を! 竜魔人 クィーンドラゴン!!」

現れたのは、半身ドラゴンの少女だった。

片手に琴を持ち、もう片手でバリアを展開しているそれは、下半身が炎に包まれたドラゴンそのものだった。

−ATK2200・ランク4・Unit2−

しかし攻撃力は乏しい。

「・・・・は、ははっ。そんなモンスターでどう立ち向かうと言うんだ? えぇ!」

「誰がこのまま突っ込むと言った? 俺はクィーンドラゴンの効果発動! 1ターンに1度、オーバーレイユニットを1つ使う事により、自分の墓地からレベル5以上のドラゴン族モンスター1体を特殊召喚する!」

球体が琴に吸収され、琴が光りだす。

それにつられて演奏し始めると、下からエレキテルドラゴンが光となって現れた。次第に形となり、完全復活を果たす。

−ATK2500・☆6−

「ただしこの効果で特殊召喚したモンスターは攻撃する事ができず、効果も無効化されている」

「はっ、ただの置き物じゃねーか! そんなモンスター、いくら展開しようが俺には勝てねぇんだよ!」

悪あがきだ! と周りの連中も騒ぎ出す。

しかし康介は気にしないどころか、かなり涼しそうな顔で、

「ははっ、面白い事を言うね。お前らは」

そう告げた。

一瞬で皆が黙る。挑発かとも思えたが、目から感じられる威迫に言葉を失った。

「俺は勝つためにコイツを出したに決まっている。そうじゃなければ、悪あがきっつークソ面倒な事はしねぇよ。と言う訳で、遠慮なく行くぞ! 俺は魔法カード、受け継がれる力を発動!」

康介はカードを使う。このカードが、逆転への第一歩として発動される。

「自分フィールド上に存在するモンスター1体を墓地へ送り、同じく俺のフィールド上に存在するモンスター1体を選択して発動する! 選択したモンスターはこのターンの終了時まで、攻撃力を墓地へ送ったモンスターの攻撃力分アップする!」

「なっ、まさか!?」

「そのまさかだ。俺はエレキテルドラゴンを墓地へ送り、クィーンドラゴンを選択して発動する! 攻撃力を、2500ポイントアップさせる! よってクィーンドラゴンの攻撃力は4700だ!」

−ATK2200→4700−

「こ、攻撃力4000超えだと!!」

「まだだ、俺は更に速攻魔法。収縮を発動! フィールド上に存在するモンスターを選択し、そのモンスターの攻撃力を半分にする! 俺はダークスカル・フラッシュを選択、攻撃力を1500へとダウンさせる!」

−ATK3000→1500−

その凄まじい光景に、周りは息を呑んだ。

さっきまでフィールドを圧倒していたのが着等であったにも関わらず、その返しのターンでここまで逆転されたのだ。驚く以外に感情は見せないであろう。

「こ、こんな事が・・・・あって、たまるか」

薄れゆく声。しかし遠慮もなく康介は、バッと手を振りかざす。

「バトル、竜魔人 クィーンドラゴンで、ダークスカル・フラッシュを攻撃!」

その体を炎に包み込ませ、高く飛び上がる。

そして狙いを定め、まるで不死鳥のごとく急降下していった。

「バーニング・ドラグーン!!」

直後、ダークスカル・フラッシュの体を貫き、クィーンドラゴンは後方へと飛び立った。

『グ・・・ギギギギ』

奇妙な声と共に、ダークスカル・フラッシュはギギギと。まるで錆びたブリキ人形のような動きで康介を見ると、体の限界が到来し崩れ落ちた。

死に尽くし腐敗している体が瞬く間に闇へと姿を変え、消滅する。

それも束の間、着等に戦闘ダメージとしての衝撃が波として襲いかかり、その体を吹き飛ばした。

「ぐ、ぐぁぁぁぁぁぁぁ!!」−LP2300→0−

立体映像として出ていたモンスターは姿を消し、変わりに静寂感が周りを支配した。

誰もが予想もしていなかった結果。アレだけ弱気な僕だった康介がいきなり性格を変化させたように強気に、しかしやる気は見せないダウナーとなった。

それだけでも目の錯覚かと疑ったのに、ましてやデュエルでの勝利だ。これはもう別の誰かが康介に取り付いたとしか考えられない。だがそんなファンタジー的な発想など誰も持ち合わせてはおらず、康介に似た誰かが変わりにデュエルを行なっていたと言う自己解決で終わらせる者もしばし。

なので、それを見逃すようなヤワな真似などはしない。

「オイ、お前は誰だ!! 本物の康介はどうしたんだぁ!! 本物の康介が、あそこまでデュエルを行える訳がないだろうが!!」

不良組の1人が大人げなく首を突っ込む。

だが、帰ってくる答えは。

「ご、ごごごごごごごごゴメンなさい!!」

いつもの弱々しい康介だった。

ピクっと眉を動かし、襟元を掴む。

「あぁ? お前何様なんだよ! さっきのデュエルはモチロンノーカウントだ! もう1度デュエルを・・・・」

「やめろ、見苦しい!」

着等がギロッと睨み、不良の手を放せと訴える。

不良は顔を真っ青にして、すぐに康介から手を引いた。

「ゲホッ、ゲホッ。あ、あの。ありがとうございます」

「あぁ、ありがとうございますだと? 俺は負けた身だ。そんな言葉などいらねぇよ」

後ろを向き、ゆっくりと歩き出す。

その背中からは、不良と言うよりも一匹狼で渡り歩く「漢」を表したような雰囲気を漂わせた。不良組はその背中に憧れ、次々と追っていった。

と、ピタッと足を止める。

あえて顔を振り向かせず、言う。

「・・・・お前、名を何と言う?」

ビクっと怖気る。すると表情が柔らかくなり、苦笑しながら挑発気味に。

「・・・・入江康介。その名、忘れないように脳に焼き付けておけ」

「・・・・フッ、忘れるものか。お前の顔、そして名前。次に出会う時、リベンジさせてもらうためにもな」

その後、交わす言葉もなく沈む夕日に向かって着等は歩き出した。

背中が見えなくなったところで、ヘタヘタと康介は地面に沈んだ。

「あぁ・・・・もう終わった。あんな相手、僕が勝てる訳ないのに。どうしてくれるんだよ、僕!」

しかし当の康介は聞いておらず、逆に、

『・・・・ったく、軟弱だぞ俺。こんな性格だから、あぁやって不良に囲まれるんだろうが。それとも何だ? 俺と戦ってみるか? 結構楽しいぞ、弱者葬り去るの』

「最悪だよ! どうしてそんな人が僕の中にいるんだよぉ!!」

涙目になりながら、どうしようもない心の心境を口にした。

「・・・・ねぇ」

声が耳に届く。誰だと振り向けば、風香が優しそうな表情で康介を見つめていた。

慌てて飛び上がり、ビシッと気を付けの姿勢をすると固言葉で。

「はい、な、何でしょうか!!」

あ、いつもの康介だ。とクスっと笑い、微笑む。

「ありがとうね、私を助けてくれて。キミが助けなかったら、今頃いろいろと大切な何かを失っていたかもしれない」

「そ、そんな滅相もありません!」

「でも、それが事実でしょ? キミ自身が言っていた言葉、状況は常に可能性によって支配されているって。それはデュエリストとして心に響く言葉だったよ。諦めず、ただ可能性を信じて立ち向かう精神。私も羨ましがる話だよ。それに・・・・」

何やらゴニョゴニョと。

「あの時の言葉、本当なのかな? 確実に惚れたと聞こえたけど、でも聞き間違いだったら・・・・」

どこか女の子らしく、康介はドキッと心を跳ねらせた。

「・・・・ねぇ、僕」

『何だ、俺』

どこか気の抜けたような言葉。それでもと康介は自分自身に問う。

「僕は生まれ変わりたいと思っていたんだ。こんな弱々しい自分なんて、もう嫌だと。だから協力してくれないかな。僕の体を使ってもいい交換条件に」

しばらく黙っていたが、すぐに返答が来る。

『・・・・いいぞ。俺はお前の要求に協力してやる。そして、腐った根性ごと消し去ってやるからな。覚悟しておけよ?』

いい雰囲気だったのに、最後の言葉に何やら意味ありげな感がしたので。

「えっと、覚悟と言うのは?」

『具体的にはだな。1日1回の喧嘩に10セット5回の腹筋配筋腕立て伏せの体操。それとデッキ構築だ。これから面白くなりそうだ、なぁ俺よ?』

・・・・・。と固まる。

「・・・・えっと、康介くん?」

「は、はい!? ちょっと待っててね。そこまでやるの、ねぇ!」

『お前の枯れた感情を呼び起こすのには良い薬だ。せいぜい途中でぶっ倒れないように頑張れよ』

思いっきり笑い出す康介。

固まった表情が、徐々に涙目となっていく。

「・・・・や、いやですよ! そんな自分の自由を失ってまで生まれ変わりたくないです!」

「え、今どんな状況!?」

すると涙目だった顔が、どこか楽しげな表情へと変化する。

「あっはっは。お前、いじりがいがあるな。そうだ、ここに来る前に俺がどんな死を迎えたかを教えてあげよう」

「死!? 何の話をしているの!」

「あぁ? 本来の俺に、最も惨たらしい死に方をした俺の死に方を説明して喚かせようって思ってな」

「本来の俺!? ちょっと、キミは何を言って・・・・」

「あーあー、聞こえるか俺。醤油買うために横断歩道渡っている最中にトラックに跳ねられ、脳ブチ撒けた上に形すら残らず、手足全てが千切れ遠くに飛ばされ・・・・」

『いーやぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!! 想像したくない、でも声が脳に届くぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ!!』

片方の言葉でもがき苦しみ、片方の嘆きで楽しむ。

どうにも合いそうで合いそうにない2人のデュエリスト。その道のりが、今切り開かれたのであった。

どうしてこの世界に飛ばされたのか? その答えを知るべく、彼らは今日も。

 

デュエルを行う。

 

終わり

 

 




あとがき
ヒマだったんで、短編小説載せました。続きがありそうなフラグですが、短編です。どうしても聖刻出た時に小説考えたので何か凝った小説書きたいなと思い、元々書いていたGXの二次小説を改良し、こうやって作りました。
反省はしていません。ですが後悔はしています。
この小説を書くにいたって、別世界ではオリジナルカードを。こっち世界からはこっちのカードのみを使わせると言うこだわりを持ちました。これは他の世界との違いを見せるための演出です。
その中で、どうやってガチの動きではなく最初の攻撃力3000の壁を越えようかなと思いました。ですが実際聖刻出たのは、ヌートさんだけですが。反省しています。
やはりアニメみたいに最初の3000の壁を作るのって楽しいな。
それにしても、瞬間的に表現を表すって大変だなぁ。そう思います。
では、そろそろこの辺でお暇させてもらいましょう。感想や評価を楽しみに、今日も頑張ってライトノベル用の作品を創造します。
それでは、また会いましょう。



と、二次ファンで書いてはや数年。二次ファンにて小説の規制があって消したのですが、暇だったんで登録して投稿しました。
どうも、初めまして。そして知っている方は久しぶりです。ここでは虎を文字ってTagaとネームにしました。
Pixivにては別のネームで小説を連載中で、更にオリジナル小説も現在進行形で書いております。オリジナルはどこかの出版社に出す予定で、バイトと学校を両立しながら一生懸命書いております。
その中で、この小説も書いていこうと思います。しかし更新は絶対に遅いです。下手すれば1年に1話のペースになるかも知れません。ですが連載する気はあります。
まぁ、暇つぶし程度に見られたのなら光栄に思います。
それでは、そろそろ元の作業に戻りますのでこれで終わりたいと思います。

これから始まる物語は、果たしてどんな結末を迎えるのか? その前に完結するか怪しいですけどね(汗)

それでは次回から第1章のスタートです!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1章「二つの魂と、次なる転生者」前編

まずは書いていた部分まで。文章長くても、気にしないのがTagoクォリティ。つまりは自己中心的な心境から生まれる、斬新なアイディア。
つまりそれは、ダメじゃんそれ!?

っつー訳で、第1章の始まり始まり~。


そこは、何もない空間だった。

上も下も分からず、自分が右を見ているのか、もしかしたら左を向いているのかも知れない。いや、どの方向さえも見ていないかも。と言う疑問さえも生まれた。

見る限り、無限と続く真っ白な空間。手を伸ばしても、掴み取るモノなど何もない。

一体自分の身に何が起きたのかと振り返る。

しかし、何も思い出せない。必死に頭の中で検索するも、まるでファイアーウォールに引っかかったように激痛が走り思考を止めてしまうのだ。

それが故意であるかのように、誰かが記憶を操作しているのか? と疑問を抱くが、世の中にそこまで脳科学が発展しているとは思えないのでその考えを捨てる。

しかしオカルトから言わせてみれば、現代科学に隠された「超科学」と呼ばれるモノが存在する(らしい)ので完全には捨てきれなかった。

(・・・・一体、俺はいつまでここにいるんだ?)

ある種の不安が過ぎる。

もしこのまま一生謎の空間をさまようハメになったら、それはとんでもない恐怖だ。

楽しくもなければ窮屈でもない、しかしとにかく「暇」が日常的に永遠と起こり、面白みもない生活が待ち構えている。

そうなれば彼にとって、死んでいるのと同じである。

彼はとにかく暇を嫌う。曰く「面白みのない世界など、死んでいるのと同じだ」との事だ。

しかし、と彼は思う。

最近、自分に降り注いだ不幸は自分自身の存在意義を失わせていると感じた。

まず第1、高校生活が始まる前。自分の悪友とも言える人を失った。

事故でその原因はトラックの居眠り運転だったらしく、遺体は四肢をバラバラにされていたらしい。

まずそれで退屈となった。アイツのいない世界など、存在しない世界と同じだと言うように。

「・・・・つまんねぇ。だが、今が一番つまんねぇ」

彼のつぶやきが、空間へと消える。

「・・・・面白くねぇ。暇だ。俺は今、退屈を味わっているのか?」

誰もいないのに、尋ねる。

しかし返ってくるとは思わないので、そのまま考えるのをやめようとした。

ところが、その数秒後に声が届いた。

―退屈どころじゃない、屈辱を味わっている。

「あぁ、屈辱?」

―貴方が一番嫌う、何もせずにただ時が過ぎるこの時。これを屈辱以外に何と表記するべきなのか。思いつかなかった。

「・・・・それって、嫌がらせと表現しても良いんじゃないか?」

―・・・・そうとも、言える。

「大丈夫かお前。顔を赤らめている様子が想像できるぞ」

―・・・・気にしないで、いつもの事だから。

「それがいつもなら、相当恥をかいてばかりの人生だと認識するが?

―・・・・っ! 貴方、遊んでいない?

「ありゃ、バレたか。お前がついつい弄りがいがありそうだからつい」

―・・・・ついの問題? 私、怒るけど?

「スマンスマン。俺、優しさと外道で生きているようなモンだから」

―軽く矛盾が起きているような気がするのが気のせいにするわ。そうじゃなければ、疲れが溜まる一方だと思うから。

「そうか。だったらこの話はやめにしよう。で、お前は誰だ?」

やっとの思いで話を切らせ、彼は本来最初に言うべき発言をする。

声からの応答は少し時間を要するも、ちゃんと答えは返ってきた。

―異次元界を操る神。とでも名乗っておくわ。

思ってもいなかった痛い答えに、もちろん彼は言葉を失う。

「・・・・頭、本当に大丈夫か?」

―ここにいながらそれを信じないとはね。普通なら多少信じても良いと思うけど。

「残念ながら俺は、完全現実主義かつ怪奇現象大好きっ子だから信じない」

―だから矛盾が起きているから。いい加減信じないと、貴方の魂ここに置き去りにするよ?

「はぁ。俺、被害者なのによくぞ態度大きくできるな」

―・・・・もういい。この人と接していると疲れしか出ないと分かった。さて、本題に逃げるけど。

「さりげなく本音をこぼしているぞ?」

―うるさいです、黙りなさい。全次元のリア充など、消し飛べばいいのです。

「おい、嫉妬は見苦しいぞ?」

―口を慎みなさい。誰に向かってそんな口を聞いているのですか? 死にたいのですか?

「・・・・スミマセン」

―分かれば良いのです。さて、貴方は元の世界でとある運命に遭い死にました。

「サラリと現実吹っ掛けられた上に何、このピンと来ない実体感。むしろ今『貴方は生と死の狭間にいます』と言われた方が嬉しい気がするんだが」

―気にしないでください。それで貴方は今、次元と次元の狭間にいます。ここはごくまれに死んだ者の魂が迷い込んで来る場所です。以前、入江康介と言う男がここにやって来ましたが、どうにも貴方からその人と良く似た何かを感じます。

「・・・・ほぅ、あのクソ野郎がここに。んで、そいつは今、どこにいる?」

―どんな関係なのかは大体予測がつきましたので流すとしますが、あの人はデュエルが世の中のルールとなっている世界へと行きました。そこにいる自分を変えるために。

「・・・・んじゃ、俺もそこに行くわ」

―元からそのつもりでした。どうせ無駄死にした身なのです。そこで思う存分鬱憤でも晴らせばどうです?

「・・・・確実にその口。何を企んでいやがる?」

―別に、ただ。目的がないかと言えば、そうではありません。どうにも貴方は察しが良いのですね。

「そんな環境で育ったから仕方ないだろ。つーか、それはどうともして、お前は何が目的で俺をそこへと行かせる気だ?」

―それは、今言えません。しかし、後に分かる事です。

「・・・・まぁ、良いや。退屈さえ凌げれば、俺は何だって良い」

―・・・・交渉成立です。では体感時間で約数十から数百年後に意識がハッキリとすると思いますので突然に備えて覚悟を決めておいてください。

「す、数十から数百!? 待て、その間何をすれば・・・・。って、もう聞こえねぇ! オイ、姿を現しやがれ!!」

 

何もない虚空にて、1人の男は気力がなくなるまで騒ぎ続けた。

その姿に、声の主である彼女は呆れる以外の選択肢はなかったと後に語る。

 

→→→

 

日本国。

数世紀に渡って開発が進められてきたアジア総合国家の1つであり、国際交流の拠点でもあった。

元からあった独自の歴史に他国から入れられた様々な文化や発展により、その姿はやがて世界にまで知られるまでに至る。元は小さな島国だけに下に見られがちだったが、人の良さと大和の志を中心に発展してきた彼らの思想は決して小さなモノではなく、アジアの中心、日本に近い「台湾協和国」に並ぶ技術力で、世界でトップに君臨する「アメリカ平和合衆国」からも一目置かれている。

そんな世界でも、各国々での言葉や人種。宗教は違う訳であり、当然そこから戦争や差別がなくなる訳がなかった。

しかし全世界共通の事があった。それは、デュエルモンスターズと呼ばれるカードゲームである。

一体誰が、どのような経路で世界に伝えたのかは不明であるが、それが物事を決める手段として用いられていた。

ある時は政治に、ある時は遊びで友人同士と行い。またある時は、スポーツとして。

カードゲームだからスポーツは関係しないんじゃないかと思われるが、実はそうではない。

この世界で独自に発展した、デュエル方式があるからだ。体を動かしながら、戦略を組み立てながらするデュエルが。

 

→→→

 

私立、七色(なないろ)学園。

今から数年前に設立された新しい学校であり、ここでは文化や歴史。更には文系、理系などに分かれて授業を行なっていた。

今まさに学校が終わり、騒がしい時間帯。1人だけ、誰とも接する事もなくただボーッとしている男がいた。

彼の名は綺羅星遊丸(きらぼしゆうまる)。普通の人よりも背が小さく、何よりも気が弱いと言うとても相手にしてもらえなさそうな性格であった。

楽しそうに話している人たちを羨ましそうに見るも、自分にはそんな親しい仲間なんていないと嘆息し、すぐに教室を出る。

廊下を歩きながら、その寂しい人とばかりのオーラを纏いながら目的の場所へと移動した。

しかしその途中で、ささやき声が聞こえる。

「見ろよ、雑魚遊丸だぜ?」

「ははっ、あの女みたいな面。ボコしたくなるよなぁ」

「おう、後でやろうぜ? おっと正当として、デュエルで勝ってからだがなぁ」

「男女だ、気持ち悪いね」

「クススッ、どんな気持ちなんでしょうね。友達がいない、寂しさMAXなんて」

言われたい放題。しかし現実なので、何も言い返せない。

彼は生まれつき、男のDNAと女のDNAが混じって生まれた子なのである。心は根っからの男であるが、顔つきだけが女っぽい。しかも髪質も女性寄りで、体毛も生えてこない。それが原因で昔から虐められ、貶され続けてきた。

おまけに頭が良いのかと言われたらそうでもなく、むしろバカに近い。戦術も立てるのが下手で、毎回デュエルと言う名目の普段では禁止されている賭けデュエルを無理矢理やらされ、レアカードすら持っていない状況である。

「・・・・僕に居場所なんてあるって信じている事自体が間違いなんだよ」

遊丸はそう呟き、階段を登っていた。

向かう先は屋上。別に自殺する訳ではないのだか、しばらく1人でいたい身であるため、意味もなくたまにここにやって来るのである。

ドアノブを開けると、そこには殺風景が広がる。

別に何かがある訳でもなく、ただ空が青い意外に何も取り柄のない場所。しかし落ち着く気持ちがあるのは、彼が独りぼっちに慣れているからであろう。

腰を下ろし、ただゆっくりと動く雲を眺め、考える事さえも忘れてしまう。

いつしかここに来て、50分は経過していた。

遊丸は腕時計を見て、そろそろ帰ろうと立ち上がった。

すると、いきなり背後から。

「もう帰るの?」

と、女子生徒の声が耳に届いた。

体が飛び跳ねるまでびっくりして、すぐ後ろを振り向く。

そこには、興味深そうに遊丸を見つめる女性がいた。身長は約170辺りと、女子にしては高く桃色の綺麗な髪の毛に肩まで届いている。大人しそうな目をしているが、強豪デュエルリストの特徴であるどこか闘志を持つとばかりに目の奥では燃え上がっているよう。(に思える)

彼女の名を知らない人は、この学園にはいない。ここのナンバーワンデュエリストにしてデュエルチームと呼ばれる部活。ここでは『デュエル研究部』と言う名目となっているがそこの部長。

大和佐久絵(やまとさくえ)と言う。

ちなみにデュエルチームとは「デュエルを聖なる儀式としてイサカサマなく、正々堂々と戦う精神を宿した決闘者のチームによる絆を深める」をキャッチフレーズとして毎年行われている「全国デュエル選手権」に出場するための部活であり、それに出るために毎年入部する人が絶えないとも言われている。

しかし制限があり、今年は佐久絵を含めて5人となっている。しかし毎年は補充を含めて6人までとなっていたが、なぜか1人だけ空白の部分がある。

それを気にしても何も起こらないだろうと遊丸は気を取り直す。

「あ、あの。僕に何か用ですか? お金ならさっき取り上げられましたのでありませんが・・・・」

「ちょっと待って。取り上げられたって、それって普通に校則違反じゃない? 先生に言わないの?」

核心的な事を言う佐久絵。しかし遊丸は怯えるように。

「そ、その。相手の人が言ったら殺すと脅して、しかもその人は昔から僕のカードを奪い続けてきた人なので、強いし、敵わないし・・・・」

そう言いながら、目を逸らす。彼女をジッと見るめる事はできず、その美貌に顔が赤くなるのでそれを必死に隠そうとしている。

すると佐久絵は、そんな事も知らずにか、更に遊丸へと接近する。

ズイッと顔を近づけ、しっかりと目を見ながら。

「そんなオドオドしなくても大丈夫よ。私は貴方の味方だし、そこまで思いつめていたのなら、私が貴方を守るから」

ニッコリと、微笑んだ。

そんな姿に、遊丸は言葉を失う程その人に尊敬の意思が芽生えた。

これは異性としてではなく、デュエリストとして。1人の人間として器が大きく、自分をも認めてくれた。たったそれだけで、しかし彼にとってそれが故に惚れ込んでしまったのだ。

軽い人間だと思っても仕方がない。

「そ、その・・・・・」

「うん、もう何も言わなくても良いよ。貴方は自分が悲しい目に遭っていたからずっと落ち込みっぱなしだと思うけど、大丈夫」

ここで、彼女は1つ、提案した。

 

「デュエル研究部に入部すれば、仲間ができるから」

 

一瞬、瞬きをして戸惑った。

確かに残り1枠あるって話は聞いていた。しかしそれはこの学園なら誰もが欲しがる唯一の場所であり、しかもそこに所属しているメンバーは男女問わず全員美形の方々だけである。

余談ではあるが数日前に「その枠をよこせ」と不良男子が攻め寄ったところ、デュエルで敗北し挙句暴力で手に入れようとしたところメンバーの1人によって全治1週間の大怪我を負わせたと言う。

この騒動がきっかけで、誰もデュエル研究部に力ずくでも入ろうとは思わなくなった。

そんな意味で防御力の強い場所に自分が行って、誰からも受け入れられるかどうか? 否。普段から弱気な彼にとって、誰かと親しくすると言う事すら難があると言うのにそれは野獣の檻に入るようなモノだ。

なので、遊丸は。

「・・・・無理です。僕に仲間なんて、できっこありません」

佐久絵は深追いしない。

踵を返し、後ろを向いていながらも、

「時間はたっぷりある。その間に考えてきて。少なくとも私は、貴方にデュエルを単純に楽しんでもらいたいと思っているから」

それだけを残し、立ち去った。

「・・・・僕は、孤独が一番なんだ」

虚しい呟きは、風と共に空へと消えていった。

 

→→→

 

佐久絵に虐めを暴露したのが運の尽きだったらしく、帰ろうとした彼に待ち構えていたのは、いやらしい2人組であった。

彼らこそ、昔から遊丸からカードをデュエルで奪い、さっきも金を巻き上げた人物である。

苛立ちを浮かべ、遊丸を囲む。そして唾を飛ばしながら、

「オイ遊丸! よくも先輩に俺らの事をチクリやがったな! あぁ?」

「雑魚の弱虫は大人しく俺らの命令に従えば良いってモンをよぉ」

最悪だ。と遊丸は思う。

さっき廊下ですれ違う時、自分をこっそり尾行してきていたと考えれば迂闊に虐めを言わずに済んだモノを。

1人が遊丸の襟元を掴み、舌を出し、

「なぁ遊丸ちゃーん? 僕は言ったよねぇー。誰かにチクったら、殺すと」

ビクビクしながら、コクッと頷く。

「んだったら何でチクッたんだぁ? あぁ、こうなる事になって欲しいからかぁ。俺らに殴られたいからかぁ。とんだサドだなぁ、ヒャッハハハハハハハハ!!」

ゲスな笑い声。遊丸は死を覚悟した。

こう言った男のポケットには、大抵コンパクトナイフが仕込まれており力ずくで脅し、時には痛みを味わせたりするモノである。

「・・・・うーん、そうだぁ。こうしようぜぇ」

1人が提案する。

「俺たち2人と、お前1人でデュエルを行う。お前が勝てば今回の事は見逃してやる。だが、俺らが勝てば、お前のその面、切り裂き殴り放題しても良いって権利を貰うぜぇ。おおっと、拒否権はねぇよ。何だってお前は雑魚なんだからなぁ」

どうにも逃げ道はない。しかも強いカードはこの2人から奪われ、残るカードはあまり強くないカードばかりだ。

ろくに戦えそうにない今、遊丸はこの歳で泣きそうになっていた。

誰にも救われない。自分に味方などいない。しかも不利なデュエルばかりを行われ、否定すらできない。

殴られ蹴られはいつもの事だが、切り裂きは今回が初めてである。

女性っぽい顔に傷がつくと、後が残る。もちろんそれを言ったところで、「は、だから?」で済まされるだろうし、下手をすれば逆ギレで余計な傷を増やす。

しかも相手を見れば、すでにデュエルプレートを構えている。

もうダメだ。と思いながら、遊丸は自分のデュエルプレートを取り出し、デッキをセットしようとした。

その瞬間であった。

目眩が起きた。視線の先が歪み、頭がキン! っと激しい痛みが走った。

「っ!?」

しかし倒れれば不戦勝で自分が負ける。どうにか持ちこたえようとするも、無理だった。

倒れる寸前、脳内から。

『・・・・面白くなりそうだぁ』

と、今の状況を歓楽的に感じているような声が聞こえたような気がした。

 

→→→

 

倒れそうになった遊丸は、身をふらつかせるもすぐに踏みとどまる。

不良2人は心配などせず、笑った。

「オイ見ろよ、ストレスで胃に穴でも開いたぜ!」

「キャッハハハハハハハ! こりゃ立ってられねぇよなぁ。んじゃこの勝負、俺たちの勝ちって事で・・・・」

遊丸は何も反応せず、不良2人を睨む。

「ああ?」と挑発紛いに首を回すが、遊丸は怯えもしない。むしろその行為に対して、鼻で笑った。

「・・・・オイテメェ。さっき鼻で笑ったよなぁ?」

再び苛立ちを含めた声を出す。

が、遊丸は平然とした顔で。

 

「え、悪い? んな数千年前の不良もどきみたいな行為されたら誰だって笑うぞ? え、もしかして今、コント中? ゴメン、腹の底から笑えなかった」

 

素で言われ、不良2人はブチ切れる。

「んだとゴルァ!! 雑魚のクセに、誰に向かって口を聞いているか知ってんのか!!」

「あぁ? 雑魚のクセに大口叩きやがって!!」

叫び声が響く。が、遊丸はビクともしない。

聞き分けのきかない子供を見るみたいな視線を飛ばし、平然とした姿を保つ。

「お前ら、もしかして下の人に対してしか大口を叩けないタイプ? いるよねぇ、んな自分よりも上の奴に対してロクに強がりできないクズ。もしかして自分最強? 迷惑歓迎? 笑わせるねぇ。食物連鎖で言えばゴキブリに等しいぜぇ」

ゴタゴタと言いつつもデッキをセットし、プレートを展開した。

「おぉう、何だか凄いぞ現代科学。これは結構、これまで感じた退屈を凌げそうだ」

そう言って、目の前の不良2人組を見つめる。

凄い形相で遊丸を憎むようにして睨んでいた。

それ程までに馬鹿にされて歯がゆいのだろう。と改めて実感した。

「まっ、このデュエルに勝てば良いだけの話。んなレアカードばかりを寄せ集めて作り上げたようなデッキに負ける要素なんぞ、どこにもねぇしな」

わざと相手に聞こえるように言い放つと、ニヤリと悪意を込めた笑みを、浮かべた。

 

「退屈凌ぎだ。俺を楽しませなきゃ、ただじゃおかねぇからな」

 

→→→

 

遊丸。しかし彼は綺羅星遊丸ではない。

気以楽遊恪(きいらゆうかく)。それが彼の名だ。

彼はあくまで「退屈」を嫌う。なので相手がクソつまらない戦い方をしようなら、問答無用で叩き潰す。例え子供であろうとも始めたばかりの初心者であろうとも、自分が体感した長い時間を埋めたいが故に「面白み」を探そうとしていた。

彼は体感時間で約100年間、何もない空間で退屈な時間を過ごしていた。

眠りもせず、ただ過ぎ行く時間を限りなく感じ、結果。

 

己の欲望のためなら、例え相手がどうであろうとも関係ない。自己中心的な人格へと変わり果ててしまったのであった。

 

それを物語は、このデュエル。

相手は特に展開もせず、上級モンスターを出そうと奮闘する。

が、遊丸はそう甘くはなかった。

 

→→→

 

佐久絵は、たまたまその近くを歩いていた。

それが偶然なのか、それとも神が仕掛けた運命と言うのかは理解しようがない。しかし部活でのミーティングが終わり、明日の練習試合の内容を伝えて解散とした。

しかも周りには部活の仲間である大倉享(おおくらとおる)と入江(いりえ)ツバメと一緒に歩いていた、

ツバメは中学生だが、その腕前から特別に高校のデュエル研究部に身を置いている。その実力は格段と強く、彼女には兄がいるが、その兄から全ての栄養分を奪ったと言っても過言ではない程である。

享は無口で必要以上、あまり喋らないが心優しき少年である。

しかもその寡黙が女子のウケとなり、彼のファンクラブまであるぐらいだ。

デュエルの腕前は彼女に続いて2番目であり、その瞳の奥から溢れ出る闘志はまさに「強者を咬み殺す野獣」として周辺の人々から恐れられている。

常にボーッとしているものの、たまに言葉を発する。

「先輩。明日の練習試合、相手のハードル上げすぎている気がする・・・・」

「それは私も反省しているわ。けど、だからこそ私はあの強豪、小嵐(こあらし)高校とのデュエルを望んだのよ。考えて見なさい」

佐久絵は溜息をつきながら、

「私が推薦した訳でもないのに、私にベッタリな百合が1人。その持ち前の強さと勝ちにこだわる変態。その事から『変態暴君』とまで言われているバカ1人。そしてマトモな2人に私1人よ。どう見てもあの変態のせいで変態集団と化しているでしょ。どうにか1人だけ部長として推薦できる権利を得たけど、これをどう活用するか。さっき1人に声をかけたけど、乗る気じゃなかったしねぇ・・・・」

「1人? 部長が認める腕の強いデュエリストでもいたって事ですか?」

違う。と佐久絵は首を横に振り。

「全くの逆よ。この学園で最弱と言われている綺羅星遊丸、私が欲しい人材よ」

えぇ!? と2人は驚く。

無理もない。普通なら強者を選ぶべきの部長推薦。しかし実際は弱者である者を選ぼうとしている。これはいかなる事かとツバメは問う。

「部長! 我々は遊びでデュエルを行なっている訳ではありません!! そんな最弱のデュエリストを使ったとしても、ただ足でまといになるだけです!」

「それには同感。何を企んでいる、アンタは」

佐久絵は肩をすくめる。

そして2人の方を振り向くと毅然とした態度を取る。

「貴方たちには分からないでしょう。除け者とされている彼が、どんな気持ちでデュエルを行なっているのか」

うっ。と言葉を詰まらせる2人。

「嫌々されるがままにやられ、大切なモノを失う悲しさ。そして何もできない自分の無力さ。どちらも自分が未熟だから起こる事なのよ。けど、彼の中に秘めている悲しみはもうどうにもできない。さっき会った時にも、常に悲しそうな目をしていた。自分に幸せなどないと言わんばかりに」

夕焼けの赤い日に照らされながら佐久絵は視線を落とした。

もし、自分たちがきっかけを作りデュエルの楽しさを学べたら。恐らく佐久絵はそんな事を考えているのだろう。

その優しさは理解できる。佐久絵の優しさは、学園での人気の秘訣なのだから。

しかしそれはそれ、これはこれ。取り柄もない者が、ただ邪魔をするだけとなればこっちだって大迷惑だ。

「言いたい事は分かります。ですが!!」

意思を伝えようと声を大きめに発生させる。と、ここで異変が起きた。

周りに雲が現れる。日の光が若干降り注いでいるのが見えたのでこれは恐らく立体映像である事がすぐに理解した。

しかし何かおかしい。雲の質と言うのか? 雨雲みたいに黒っぽい雲。などと生易しい表現ではない。

もっと禍々しい。恨みと憎しみを持ったドロドロとした色の黒なのである。

「な、何なのコレ!?」

「・・・・近くでデュエルが行われている!」

享は辺りを見渡し、丁度体育館裏へと視線を移す。どうやらあのドロドロ雲の発生源はあそこらしい。

その証拠に一番色が濃い、何もかもを飲み込む。まるでブラックホールを思わせる渦が発生しているからだ。

「・・・・行ってみましょう」

佐久絵の意見に、反対する者などいなかった。

即座に走り出し、何が起きているのかを確かめに行く。

息を切らし、最初にたどり着いた佐久絵が目にした光景。それは、言葉を失いかけた。

 

そこには、悪夢と言うべき戦士が2体、相手を切り裂いていた。

 

→→→

 

2対1の変則デュエル。おまけに相手はここの学園でもあまり評価の良くない不良2人組だ。

対する1人の方は、遊丸であった。が、どうにも遊丸の様子がおかしい。

この状況に苛立ちを感じているように、目を尖らせていた。そこにはさっきまで人生を諦めていた死んだ目は消し飛び、代わりに生物を喰らわんとばかりに辺りを徘徊する野獣のようだった。

享とは違う、野生の獣。そしてフィールドを確認する。

相手フィールド上には攻撃力2000と2900のモンスターが2体。双者共にライフポイントは最初と同じ、4000のままだ。

対して遊丸のライフは残り100。このままでは遊丸の負けが確定する。

 

しかしそんな現状を嘲笑うかのように、それはいた。

 

遊丸のフィールド上には、2体のモンスターが存在していた。

青い甲冑に巨大な剣。それに神々しい光を放つ騎士。

雷を身にまとい、巨大なブレードを片手に敵を切り裂かんと威圧を感じさせる赤い戦士。

しかし恐れるのはここからだ。

赤い戦士のモンスター。その攻撃力は2000であったが、周りに浮遊していた2つの球体が剣に吸収されるが否や、その攻撃力が格段にアップする。

―ATK2000→4000―

「こ、攻撃力4000だと!?」

「嘘だろ。こんな悪夢、初めてだ・・・・」

不良2人、唖然としていた。

赤き戦士を操っている遊丸は、まだまだご満悦する様子でもない。今の状況を楽しんでいる訳でもなければ、圧倒的な力に浮かれもしない。

憤慨していた。手に力を入れ、関節をボキボキと鳴らす。

「・・・・つまんねぇデュエルをしやがって。お前らの面など見飽きた。今ここで、最初に宣言した通り、ただじゃおかねぇぞ」

クックック。と体を揺らし、しかしそこだけ楽しそうに歯をむき出しで笑い出す。

「聞け、そこの2人! 俺は逃げも隠れもしねぇ。復讐したければ弱気な俺でも良い、挑発して来い! 楽しめそうな時だけ、相手をしてやる!!」

2人は恐怖のあまり聞いていないとは分かっているものの、言葉を続ける。

「俺の名は気以楽遊恪! 面白みがなければ、作ってでも楽しむ馬鹿野郎だ!」

そう言うと、手札に残された2枚の魔法カードを発動させる。

その瞬間、赤き戦士の攻撃力が再び上がった。

―ATK4000→8000→16000―

それを見ていた誰もが、言葉を失う。

普通のデュエルでここまで攻撃力を上げたのは、多分この人が初めてだろうと。しかしそれ程までに面白さを求めていたんだろうとも伺える。

「ここでは曖昧な判定なんだろうな。だがそれがお前らにとっての命取りとなったぁ! せいぜい死にかけのゴキブリのごとく足掻いて見せな! 行け、エクスカリバー! カオス・ソルジャー―開闢の使者! そこにいる罪深き罪人を粉砕せよ!」

2体の戦士は、それぞれ違う目標に向かって動き出す。

モンスターの目の前に来たエクスカリバーは、巨大な剣を振りかざし相手モンスターを一刀両断で切り裂いた。

開闢の使者は相手モンスターを持ち前の剣を頭から突き刺すと、滑らせるように下へと剣を動かした。モンスターは真っ二つとなり、直後に爆発が起きる。

「一刀両断! 必殺真剣!! 開闢双破斬(かいびゃくそうはざん)!!」

叫んだ。それと同時に爆発に巻き込まれた2人が吹き飛ばされ、地面に叩きつけられるが否や1人はピクリとも動かなくなった。

「あ・・・・あぁ・・・・・」―LP4000→0―

「がはっ!?」―LP4000→3000―

ライフが残っている男は倒れるもすぐに立ち上がり、腰を抜かして逃げようとした。

が、遊丸の容赦のない攻撃は止む事はない。

「残念ながら、お前は負けだ。開闢の使者が相手モンスターを破壊した場合、続けてもう1度だけ攻撃を行える。これが力の差だ。せいぜい数百年ぶりのデュエルにしてはクッソつまんねぇデュエルだったよ。果てろ、糧」

再び構える開闢。そして遠慮もなく禍々しい光を放つ剣は、相手を問答無用で突き刺した。

「時空突刃・開闢双破斬!!」

刺された少年は実際に痛みはないが、代わりに衝撃を受ける。衝撃は攻撃力に比例して強まるために、想像を絶する衝撃が体を襲った。

もう1人は今が好奇とばかりに逃げていたが、遊恪が睨みつけると、それに応じる様な形でエクスカリバーが剣を投げる。剣は少年の真上から落下し、立体映像ではあるが串刺しになり、衝撃が襲う。攻撃力8000の威力は衝撃さえも感じさせないまま、その場で気絶させた。

「が・・・・どっ」―LP3000→0-

デュエルが終わる。

遊丸は相手を見下すと、何事もなかったかのように歩き出した。

反対側から何か声が聞こえるも、それを無視。他者の言葉など、耳に届ける意味すらない。そう考える。

しかし足を動かす毎に激しい疲れが生じる。いつしか呼吸は激しくなり、心臓も痛い程の鼓動を伝えるようになった。

(っ! 久々に体を使ったからか? それとも・・・・)

揺らぐ風景。そして頭から聞こえる声。

『・・・・キミは、誰?』

「・・・・俺か。俺は、この世界へと迷い込んだ、退屈を憎むバカだ」

それだけを言う。

体育館倉庫の表へと出たところで、遊恪の意識がプツンと途切れた。

倒れ、朦朧とする意識の中で誰かの声を感じ取った。走ってくる足音。そして揺れる体。微かにだが、3人の人影が見えた。

呼びかけているようだが、何も聞き取れない。

仕方ない。と遊丸は思い、最後の力を振り絞り。

「だ・・・い、丈夫、だ。俺は、眠るなど。退屈な、事を・・・・したく、な・・・・」

スッと肩の力が抜け、深い闇へと堕ちていった。




プロローグの転生者一体どこ行った!?
なんて思っている貴方、正論です。しかしこの物語は、後にいろいろな事をやりたいが故に変なフラグがさりげなく立つ場合があります。
さてと、第1章後半へと続きます。
あと、誤字脱字の指摘もお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第1章「二つの魂と、次なる転生者」後編

ここで前回は削除してしまったんだよなぁ。しかし考えてみれば、本編始まってもいねぇし、一番重要なところで終了だからね。
さてと、多分次回は数ヵ月後に更新だと思います。よくぞここまで書いたと自画自賛してみます。


気が付けばそこは、天井だった。

よくあるテンプレみたいな状況に、遊丸はただボンヤリとしていた。

起き上がり辺りを見渡して、ようやくここが保健室だと理解した。カーテンで仕切られたベッドから身を乗り出し、誰かいないかと周りを探し出す。

残念ながらいる気配すらしない。ここには自分1人だけしかいない。

「・・・・僕は、どうしてここに」

さっきまでの軌道を思い出そうと頭を悩ませる。

・・・・。・・・・・・・。・・・・・・・・・・。

澱んだ感情だけが募り、むしろ思い出したくない言動だけが頭の中を駆け回る。軽く目眩が起こる程の恥ずかしい言集ばかりだ。

さっきまでの自分に果たして何が起こったのかと頭を抱える。

「・・・・ダメだ。僕が思い付ける限りであんな行動を起こそうと思った発端が思いつかない」

『当たり前だ。俺がやった行為だ。お前が思い悩んで答えにたどり着けるとは到底思えない』

「それは言い過ぎ・・・・・え?」

遊丸の視線があちらこちらに向けられた。

しかし誰もいない。もう1度だけ言う。ここには自分1人だけしかいない。

だったらさっきの声は誰なのか? もしかして・・・・。と遊丸は顔を真っ青にさせ、腰を抜かした。

「ゆ、ゆゆゆゆゆゆゆゆゆ・・・・・幽霊!?」

いつしか涙目になり、ビクビクと震えていた。

しかしそれに対しての返答はなく、何事もなかったかのような静寂が遊丸の心を次第に落ち着かせていった。

「・・・・気のせい、だよね?」

誰に向かってでも言った訳ではない。しかし同意などされなくても、誰かに縋りたくなるのが人なのである。

心理的な不安定から生まれた問いに、誰も答える訳がなく・・・・。

「何が?」

背後から答えが届いた。

遊丸はビックリして数センチ飛び上がり慌てて後ろを振り向いた。

そこには放課後に出会い、自分に仲間となれと求めてきた人。大和佐久絵が居た。

嘆息しながら、ビビリ性の遊丸にズイズイ近づきながら指を突き立て。

「貴方、どうしてあんな場所にいたの?」

急に自分でも理解していない質問を吹っ掛けられた。

遊丸は必死になぜあの時、あの場にいたそもそもの発端となる事柄を思い出そうとする。

・・・・思い出した。あの時、2人組から絡まれて。

遊丸はすぐに保健室に備わっている巨大な鏡で自分の姿を見る。そこには、相変わらずの女顔が健在だ。

(・・・・じゃあ、一体何で僕は?)

渦巻く疑問。すると佐久絵はスッと遊丸の頬に手を触れさせた。

「ひっ!?」

「ジッとして」

何やら探すように頬を触り続ける。佐久絵が動く度に髪からシャンプーが発生させていると思われる良い匂いが鼻腔をくすぐる。ここの学校にはシャワールームもあるので、恐らくそこで使ったのであろう。

顔が芯まで真っ赤になり、恥ずかしそうにそっぽを向いた。

「・・・・大丈夫だったのね」

ふと佐久絵が呟き、遊丸から離れる。

「・・・・佐久絵先輩?」

「どうしたの? それに私の名前、知っていたんだ」

「先輩は有名人ですから、この学園で知らない人がいる方が珍しいですよ。ある意味、羨ましい部分もありますけど、恨めしい部分が大半ですので」

「恨めしい部分?」

聞き返す。遊丸は視線をそっとそらし、本心のままに口にした。

「言うなら、嫉妬です」

「・・・・?」

訳の分からないと言わんばかりに疑問を抱く佐久絵に、遊丸が言葉を続けた。

「僕とは違い、友達が多くおまけに信頼も厚い。そんな人がいるってだけでも僕は自分と比べがちですので」

「でも、私と貴方は違う。生まれも、生き方も。だけど誰にでも個性と言うのはある。貴方が抱えるコンプレックスだろうとも、それを逆転の発想によってプラスに変える事だって可能だよ? なのに最初から諦めるみたいな事ばかり言って」

「仕方がないじゃないですか。僕にはマイナスしかないのです。マイナスをマイナスと合わせても、プラスにはならずマイナスとしかならないように。僕は大人しくしていればいいのです」

沈黙だけが辺りを支配する中、遊丸は儚き心を露わにした。

「けどね、まだ貴方には可能性と言うのが・・・・」

言いかけたが、遊丸はその途端に表情を変化させた。

剣幕に身を委ねられ、言葉にはしないがこめかみをガリガリと掻き始め、ついにそこから出血してきた。

苛立ちが募った結果とも言うべきそれに、佐久絵は何もする事ができない。自分が優位な立場なのがそこまで嫌いなのか? それとも自分に対する劣等があまりにも憎いのか?

そのどれでもないとすれば、恐らくは嫉妬だ。

自分と佐久絵、全く釣り合わない2人を天秤に乗せて測っても結果が分かるように結果が分かりきっている事に対して憎かったのだろう。

「・・・・可能性なんて、たかが知れています。考えるだけでも反吐です。昔から、強者は弱者を支配するように、先輩も上の立場ですから」

「・・・・っ!!」

パァン!

遊丸の頬に何かが直撃する。

遊丸は思考がしばらく停止するものの、その正体が分かるまでに時間がかかった。佐久絵は掌を握り締め、遊丸の襟元を掴んだ。

「貴方は被害妄想をしすぎよ! 私がいつ支配する側になった? 私は純粋に、貴方にデュエルの楽しさを分かってもらおうとしているだけなのに! けど貴方はそれをないがしろにしている!」

その叫びは怒りと悲しみを含み、瞳からは透き通る程の涙が溢れていた。

しかし遊丸の心は変わらない。彼の腐りきった心に、彼女の涙など汚水に等しかった。

「ないがしろ? 違いますね、信じられないだけなんですよ。昔から騙され、何もかもを奪われた僕に一体何が残されていると言うんですか?」

「そ、それは!」

押され、言葉を失う。

気が付けば手が震え、握っていた手さえも力が入らなくなっていた。

「僕は騙されてはカードを奪われ、誰かに言おうとすればその人が既に息が吹きかけられ味方などいない。綺麗事など戯言の一環に過ぎなかった。殴れば誰かに言え。でなければ殴り返せ。そんな事をほざいたバカがいますが、それはまるで無意味。下手をすれば自殺行為に順じます」

死にかかった瞳からは、何も感じられない。

彼が今までに受けたイジメがどれだけ彼の心から綺麗を奪ったのかが伺えるまでだ。

佐久絵は怖気付いた。ここまで心が死に、尚かつ言葉でも人の事など何も考えず相手を傷つける発言までも平気で言う人など。

しかも彼はそこまで追い詰められてもなお、自殺などには結びつかなかったのが幸いだっただろうが逆に言えば自殺目前で足を停止しているとも言える状態だ。

人の腐った心により幾度もなく痛めつけられた、被害者。それが綺羅星遊丸だ。

「・・・・分かったわ。そこまで言うなら私はこれ以上追求しない」

ゆっくりと離れ、保健室の外へ出ようと足を動かす。

扉を開け、一度遊丸の方を振り向いた。

「けどね、私はまだ諦めない。貴方がそこまで考えるなら、こっちだって考えがあるわ」

それだけを残すと、ゆっくり扉を閉めた。

 

→→→

 

佐久絵がここまでするのには理由がある。

遡る事数年前の出来事である。彼女には弟がいた。

その弟は活発で、何にでも手を出すようなやんちゃ坊主であった。しかしそんな活発少年が突如、まるで火を消したかのように沈静化した。

最初は年齢が重なる事によって落ち着きを得たのかと思っていた。が、現実は違った。

彼のクラスにいたワルガキ、それも人をおもちゃとも受け取っているような思考者から虐めを受けていたのだ。

しかもただ虐めるだけではない。彼らの上に兄がいて、その兄は佐久絵と同じクラスの人間だった。いつもカッコつけ、未成年でタバコを吸うなどして度々先生から目をつけられている要注意人物として。

そんな人たちの弟で、しかも根が腐っているどころではなかった。ありもない事実を捏造し、それがいかにも事実であるかのように振舞うような人間であった。

なので、彼女の弟に「お前が俺たちに逆らえば、お前の姉が兄ちゃんたちに襲われる」と脅し続けた。

結果、弟は自分の存在により自分の姉が辛い目を見る責任を背負い、誰もいない公衆トイレの中で首吊り自殺を行なった。

本当はあるハズもない偽りが原因で命を絶ったのである。

その事を知ったのは彼が死んでから数日後であった。

しかし彼らは反省の色すら見せず、むしろ死んで喜ぶべき人だと絶賛していた。

流石の彼らの兄もこれには頭に来たらしく、その人たちが人間不信になるまでの酷い事が行われたらしい。

結局、親が死についての重さと罪についての云々を教えていなかった事が原因であった上に裏で二十歳ぐらいの自称「狂人」によって人殺し、恐喝についての知識を入れ込まれていた事が発覚。

本人は面白半分で教えていたのだが本当に恐喝へと結びつくとは思っておらず、怖くなり自殺を図るも失敗。警察に取り押さえられその場で逮捕された。

この事件は全国に行き渡り、どれだけ子供の理念が周りに影響されるのか。どれだけ道徳と正しい教育が必要なのかと言うのが伝わった事件でもあった。

彼女はその時の姉で、死んで間もない弟の遺体を間近で見てしまった人物であった。

発見したのは彼女で、その場で足が崩れ、泣き叫んだと言う。

彼はデュエルを始めたばかりで、デュエルの楽しさにさえ触れず亡くなった。

1度だけでもいいから、一緒に楽しみたかった。悔やみが彼女を襲い、今も心のどこかでさまよっている。

なので、同じような現状にある遊丸の事がかなり気にかかっていた。

入学当初、上級生から呼び出されては無茶なデュエルで敗北し、リンチを食らい挙句にデッキを没収されと。横暴に晒されながらも必死にそれを自分の中で消化しようとする。

見ていられる訳がない。タダでさえ過去に自分の弟が虐めで心が殺されたと言うのに、それを平然としていられる訳がない。

小さな親切大きなお世話とは言うものの、事前に自殺を防ぐのは親切ではない。だがそれを遊丸から見たら、さっきの言葉通りにしかならないであろう。

諦めている人生に何の意味などない。早く終わらせたい。だから放っておけ。

これが彼の思考である。

根が暗いとはよく言うが、これはダークマターに匹敵する暗さだ。目には見えない、辛さがある。

 

保健室から出た彼女は、しばらくその場で足を止めた。

何も聞こえない廊下。しかし微かに声が聞こえる。野球などの体育系の人たちの活発な声援だ。

それで明るくなるのならいいが、一向に暗くなる空と気持ち。

唇を噛み締め、手に自然と力がこもった。

 

「・・・・えぇ、分かっているわよ。追い詰められた人を見て救いたんなんて思う事がただのお節介だって。けどね、私はもう見たくないのよ。何も楽しさを分からないまま死にゆく人を見る苦痛は、好きで味わえるモノじゃないって」

 

どこにも発散されない苦しみが、彼女の心の中を巡る。

気が付けば、震えが止まらなかった。

 

→→→

 

夜。

佐久絵の近くには、小さな三等身のツバメが居座っていた。

これはこの世界での「アバター」と呼ばれる電話などで用いられる「ネットワーク世界での自分」である。

様々な種類があり、中には人ではない何かで登録している人がいるとかどうとか。

そのアバターツバメが、何やら喚いていた。

『ちょっと! 遊丸先輩から何も情報をもらっていないってどう言う事ですか!』

本人が喚けばアバターも似たような仕草で暴れだす。

佐久絵は頬に手を当て、反省の色を見せていた。

「ゴメン。ちょっといろいろとあったから忘れていた」

『忘れていたで済まされる問題じゃないでしょ! 第一、倒れていた生徒は怯えて何もモノすら言えない状態だったし、重要参考人として遊丸先輩から話を聞くとか言っていたのはどこのどなたですか!!』

「だから、ちゃんと反省しているよ。最も、あの場で遊丸・・・・もう一々アレだからゆーるでいいや」

『何ですか、そのゆるキャラみたいなネーミングは?』

「いいじゃん。可愛らしいあだ名だし。それは後にするけど、本来の目的。あの男子生徒2人が何であんな場所で倒れていたか? それと、あの時に現れた謎のモンスターの正体。恐らく相手は1人。その根拠に、あの2人はつるんでろくな事をしないバカだと話に聞いていたからね」

デフォツバメはうんうんと頭を頷かせ、佐久絵は言葉を続ける。

「そしてあの場所に倒れていたゆーる。正直、誰かから襲撃を受けたとは思えないけど、もしもの事があるからねぇ。今は何も言えないわ」

『言えないって。軽く考えれば襲われた1人だと考えるのが自然でしょう。それとも何ですか? あのデュエルを行なっていたのは遊丸先輩とでも言いたいのですか?』

疑い深くツバメは尋ねる。

佐久絵は冷静な声で、言い放つ。

「可能性は、低くないわ」

ツバメは言葉を詰まらせ、佐久絵の顔を睨む。

『・・・・その根拠は?』

「根拠なんてないわ。けど、何となくそんな気がするだけよ。案外予想って的中するモノでしょ? 例えで言えば、何となく応募したけど景品番号間違えていていいやどうせ当たらないしと諦めて応募した結果見事にその景品が当たるみたいな感じで」

『何ですか、その体験談。無駄に運気を消費したみたいで嫌ですよそれ。それはともかくとしましてですね、根拠のない空想なんてただの戯言に等しいですよ』

「それはそうなんだけどね、何にせまずはあの巨大モンスターが一体何なのかと明日の練習試合に備える必要もあるわ」

一旦肩の力を抜き、髪をまとめるとヘアーゴムでポニーテールを作った。

「でもねぇ、練習試合の前に1つだけ。問題が発生しているのよねぇ」

どこか虚ろな瞳になる佐久絵。

『問題?』

疑問視と表情から察する嫌な予感を感じ取ったツバメ。大抵こう言った外見完璧な人は何かしらズレている事が多々あるので、油断はできない。

目に力を入れ、どんな言葉が飛んで来ても驚かない覚悟を身に染み込ませる。

が、

「メインメンバーの白野原(しらのはら)ミスズが風邪で寝込んでいるのよねぇ。確実に明日は間に合わないって言っているし。だからと言って変待暴君の宮上聖也(みやうえせいや)は馬鹿やったおかげでやってしまった骨折で明後日まで何にもできないって。だから実質、私とツバメちゃん。それに享だけの参加となっているわ」

問題以前に、そんな状況となっていると言う事実を今知ったツバメ。

ズッコケ、アバターが尻餅をつく。

『それって本当に大丈夫なのですか!? 滅茶滅茶こっちが不利じゃないですか!!』

ギャァギャァと騒ぎ出す。

しかし耳を向けないどころか反省の色も見せない佐久絵に、その騒ぎは勝手に沈静化した。

項垂れ、どこか呆れを含んだ眼差しとなり、諦めた口調で、

『・・・・で、だから明日遊丸先輩を連れてこようって魂胆なんですね?』

しかし、「へ?」と疑問を抱くような素振りを見せる佐久絵。

これにはツバメは動揺しざるが得なかった。

『ち、違うのですか? さっきまでの流れから、そうなのだと思っていましたけど』

「何をそんな甘い事を言っているの?」

甘い事。

これに深い意味を感じ取ったツバメは、感で大体この人が何をしでかすかを予想した。

『あの、先輩? 流石に脅迫や恐喝はやめておいた方が・・・・』

「そんな事をやっても無駄よ。あの子に言葉で勝てる訳がないから」

だったらどうやって勝つのかと言う疑問が生まれる訳だが、一体どんな方法で連れてくるのかと何通りかを思いつくツバメ。

だが答えに行き着く前に佐久絵の口から直々に、発言された。

 

「手段がないなら力ずくでよ。享に頼んで、遊丸を拉致ってくるわ」

 

→→→

 

嫌な程に静まり返った夜。

無駄な物音さえも聞こえず、足音も虫の鳴き声もしない。

いや、今が本当に夜なのかも疑問に思う程だ。周りは暗く、言うなれば「不吉を呼ぶ夜」とでも言い表そう。

しかも、周りには何もない。否、ここが自分の部屋ですらないとも思えてきた。

遊丸は静かに目を開け、今自分がどんな状況なのかを確認する。

何もない、ただ灰色に広がる空間の真っ只中にいた。これが夢である事には間違いないと思い、何も動じずにボーッとしていた。

その時間は長く続かず、気が付けば目の前に・・・・。

 

自分がいた。

 

一瞬の瞬きで現れたそれは、かなりの不機嫌そうな表情をしており、しかも関節を鳴らしていた。

遊丸は怯え、それをただ見つめていた。

すると、もう1人の遊丸はドスを効かせた声で余計に苛立ちを露わにした。

「・・・・お前。マジでざっけんなよ?」

ただビクビクと戦く遊丸。手出しはしないものの、その威圧は並大抵の人が出せるモノではない。

「自分の弱さが当たり前? それ、俺に対して言ってんのか?」

「・・・・ぼ、僕に対してしか言っていな・・・・」

チッ。と舌打ちをし、口を黙らせる。

ビビリは大抵脅されれば手を出さずとも勝手に引いてくれる。雰囲気が怖い人なら尚更だ。

しかし彼の場合、本物の殺気と修羅を見せつけている。これはビビリじゃなくても自称不良でも尻尾を丸めて逃げるだろう。

戦場を知らない一般人がいざ戦場へと行かされその恐ろしさに腰を抜かすようにだ。しかし彼はこの例えで言えば兵士。それも熟練でたくさんの敵兵を地獄に送りつける死神だ。

普通とは違う。何かが、それは何か。

経験。境。人格。

言い出したらキリがない。そこまで彼の背後に見え隠れするモノとは何なのか。

本人にしか分からない、相当な過去が力の根源になっているだろう。

遊丸はやはり顔を崩さず目の前にいる腰抜けを睨んでいると、そこらへんに唾を吐き捨てた。

「・・・・お前が自分だと言うなら、俺はお前だ。他に誰とも言わねぇ。過去に何があったかは知らんが、お前は今のままで良いんだろうな。いや、今のままが良いんだろ?」

鋭い視線と言葉の適当な並べ方に戸惑いを見せるも、脳である程度整理整頓をしてやっと理解した。

「は・・・・はい」

素の答えで言ってしまった遊丸。

それが原因で、もう1人の遊丸の怒りの導火線に火が付いた。

遊丸の髪を掴み、荒々しい声で怒鳴り始めた。

「お前が良くても、俺が納得できねぇんだよ!! 何もしないまま過ごす? 退屈過ぎて死んでしまうわ!!」

どやされ、何も物も言えなくなった。

それが火に油を注ぎ、更に怒りを加速させた。

「お前が気が弱い原因はこっちが知った事じゃねぇ! 俺は退屈でしょうがねぇんだよ! お前が何か火種でも散蒔かない限り、俺はクッソつまんねぇ退屈味わせられなければならねぇじゃねぇか!!」

流石に自分勝手な意見だ。

それを感じて、遊丸は反論の意を表す。

「そんな、自分勝手じゃないですか」

暗い雰囲気を漂わせ、反論させないようにと被害者ぶった態度を取る。

が、相手がそれには通じない。

「あぁ? それは俺に言ってんのかぁ? 良い身分だなぁ。いつからゴタゴト言える立場になった!」

まるで相手の事など聞いていない。

遊丸はただその姿に呆気を取られた。

今までにない、新手のタイプ。他人の意思などおかまいなしに、勝手に話を進めた。

「俺はなぁ、面白みが欲しいんだよ! 根暗で! 怖気付き! 弱虫泣き虫のテメェには分からねぇと思うがな!」

・・・・・。

段々と、遊丸の中から何かが湧き出してきた。

言いたい放題言われ、とうとう本性が露となりかけている。

「・・・・だったら、アンタに何が分かるんだよ」

急にもう1人の遊丸は黙った。

これを機にと、自然と曝け出される本音が止まらないと言うまでに、

「アンタには分からねぇだろ! 劣等感に押され、頭もマトモじゃないバカで! おまけに騙されやすく人を信頼したが故に何もかもを奪われた奴の気持ちなんか! 僕はマイナスの中で生きりゃ良いんだよ! もう放っといてくれ! 嫌なんだよ、優等の身から言われる言葉なんか。悪魔の囁きに等しいんだよ!」

言い終わった途端、さっきまでの言葉に対して何も動じない声が聞こえてくる。

「・・・・それで、お前はその程度で自分に自信をなくしていたのか?」

「・・・・あぁそうだよ。いつもはビビリだのなんだのと言われているけど、僕は怒りを自分の中で消化して弱いフリをしていたんだよ。じゃなきゃ、孤独でいられないから」

「・・・・孤独を望む、ねぇ。その理由は何だ」

「っ!」

瞼が少し痙攣したように見えた。

何かしらの理由があるのは明白だが、今それを問いただしても無駄だとは遊丸は知っている。

「言わなくても良い。お前の暗い過去話なんか聞いていたら、退屈だろうから途中で眠ってしまいそうだからな。んなモン、別の誰かに聞いてやれ」

投げやりな言い方で済ませると、再び殺伐とした眼差しで遊丸を見据え始めた。

「お前が言う劣等感がデッキのせいだと言うなら、俺は仕方ないと思っている。世の中は力こそ正義。奪われて牙を失ったテメェに勝つ手段すら残されていないと言っても過言じゃないからな」

言われ、グっと心に言葉が突き刺さる。

だが、と遊丸は言うと。

「お前が変わるんなら、俺は協力してやろう。もしお前がこれを機に何かが変わり始めるとかなったら、少なくとも俺は退屈せずに済む」

何の話かサッパリ理解できない。と言うような顔をするも遊丸は、説明は面倒いと付け加え。

「何にせよ、今のままのデッキじゃどんな雑魚でも勝ち目はない。んな魔法も罠も入っていない通常モンスターオンリーのデッキじゃ、どんな相手でも太刀打ちできる訳がない。そこまで根まで掻き毟った野郎どものせいだろうがな」

ヤレヤレと首を横に振り、下げていたバッグの中から何かを取り出した。デッキケースだ。それもボロボロでかなり使い込んでいるようで魂を感じられる。

その中からデッキを取り出す。そして遊丸の手に、それを覆わせる。

「お前が信じれば、面倒な事は起こらずに済む。むしろ面倒事は俺に任せろ。デュエルでボコボコにした上に暴力的になってくれば俺が返り討ちにしてやる」

営業スマイルの満面な怪しい笑みを浮かべ、とりあえず安心感を与える。

遊丸はどうすれば良いか分からず、そのままその場で立ち尽くすしかなかった。

 

→→→

 

やる事が終わり、夢の中からもう1人の遊丸が出てくる。

実態はないが、そこにはいる。まるで幽霊のように半透明だが、勝手に近くにある椅子に腰を下ろした。

『・・・・自分を劣等として見ている俺、か。こうも生き方が違うと、弱々しい自分がくだらないと感じるな』

腕を組み、何様かと聞かれても俺様と返す傲慢さをうかがわせる。

『しかし、退屈せずには済みそうだ。俺が持つ可能性がコイツにもあるのなら、やる事は決まっている』

ニッヒと悪巧みを企んでいるのが見え見えな笑みを、彼は浮かべていた。

『さっきも言ったが、お前が自分の弱さを嫉妬するのなら俺が力を貸してやろうじゃねぇか。もしお前がそれなりの覚悟を抱き、かつ誰かを受け入れる心を持つのなら、な』

そこにあるのは可能性。ではなく、ただ暇を持て余すからやってあげます。と上からの視線を含んだバカの余計なお世話であった。

だが、そのバカは遊丸の姿を見て。なぜか自分の孤独と照らし合わせていた。

『・・・・チッ、何がマイナスだ。お前が掴んだチャンスをないがしろにしてんじゃねーよ。お前が望まなくても俺が望む。戦いと面白みさえも否定する言葉だぞ、それ。可能性がないのなら、俺が見せてやろうじゃねーか。諦めクソ野郎がただのクソ野郎と化するのも、時間の問題かもな』

言葉は汚いものの、彼のプライドに火が付いた。

最も、救ってやるとは言っていないのだがそれはただ恥ずかしいだけなのか? はたまた本気でそう言っているのか?

どちらの可能性も指摘できないまま、夜は過ぎていった。

 

→→→

 

次の日。

明け方の日差しは何よりも美しく、眩い光として遊丸の視界に入った。

眩しさで目蓋の裏が光り、目を開けずにはいられなかった。

まだ目覚ましがなっていない。となれば、別に起きなくてもいいだろうと自分で判断し毛布を頭からかぶり光を遮った。

今日は土曜日。週の疲れを取るために堕落する日だ。

遊丸はまるでここが自分の楽園だとも言うように安堵の表情で寝っ転がっていた。

日差しのせいか。段々と部屋が暖かくなり、快適な気温へと変化して行く。ポカポカとする陽気、機嫌もそこそこ良くなってくる。

昨日の苛立ちはなくなり、ご機嫌な雰囲気を漂わせた。

・・・・と、手元に何かがあるのに気がついた。

何かと思い、毛布から顔を出し確認する。

それが何なのか。知った瞬間に、今までの安楽的な思考が一気に苦痛の地獄へと変貌を遂げる。

デッキケースだ。それも昨日の、または今日の夜に見たあの夢と同じような。ボロボロのデッキケース。

愕然とした表情で、それを見つめた。

「ど・・・・どうして、こんなモノが。僕は一度もこんなモノを所持した覚えはないのに・・・・」

一生懸命思い返しても、当てはまる記憶など存在しない。

何度もそれを見つめては、深く悩む。

一体どうすれば、ここまで頭を抱えるまでに至るのだろうと自分でも驚きだ。下手すれば溜息だけで地球温暖化が進むかも知れない。

思いっきり溜息を吐き、肺の中の空気を全て抜くと心臓を落ち着かせた。そして改めて冷静に、デッキを開けて中身を確認する。

見た感じ、魔法使いを主体としたデッキ構築だ。それにほとんどの魔法カードは「魔導書」と書かれてあり、モンスターも「魔導」と言う名で大半締めくくられていた。

手短に見終えようと手と目を動かした。と、1枚だけ、目に止まるカードがあった。

十字架だが、上の部分が円を描いている絵柄のカード。そして名前を見ると、腰を抜かした。

「こ・・・・これは!?」

それはこの世界で「デュエルモンスターズの魔法三大神機」と呼ばれている伝説上でしか現れた事がない魔法カードの1つ。その名も「死者蘇生」である。

他にも、その神機の中に含まれている最強の破壊カード「ブラック・ホール」「強欲な壺」とあるが流石にそれは入っていないようだ。

だが、最低でもこの世界における「伝説」のカードが入っているのだ。驚かない方がおかしい。

改めてその効果を確認する。どれも1枚でデュエルを左右する重要なカードである事は間違いない。墓地からのノーコストリボーン。噂ではもう2枚の効果は、全てのモンスターを闇へと吸い込む最悪の効果。そして強欲で手札を増やすと聞いた事があった。

「で、でも何でこんなカードが。まさか偽装品じゃ・・・・」

遊丸は疑い深そうに見つめる。

このご時世、偽物で商品を売る愚か者などたくさんいる。見た目で判断しても、実際使うとなった途端にエラーが発生し偽装カード使用によるルール違反で負けるケースも少なくない。

法律でカード偽装の禁止はあるものの、とある一部の組織が今なお行なっている。

なので、このカードも同じように偽装かと疑う。だが、それを調べる手段は存在する。

遊丸は机の上から充電していたデュエルプレートを腕につけると、カード検索モードへと切り替える。

このモードは本物か偽物かの判別を行う専用のアプリで、プレートにセットする事で検索をかけそれが普通のデュエルで使用できるかどうかの審査がかけられる。

偽物だったらブザーが鳴り、本物だった場合は専用のアラームで知らせてくれるのである。

遊丸は恐る恐る「死者蘇生」のカードをプレートにセットしてみる。

数秒間カードを読み取る機能が働き、デュエルネットワークに検索を用いた。

しばらくして、プレートの方から「ピンポーン」と言う音が耳に届いた。つまり、本物だ。

唖然と、死者蘇生のカードを見出した。

本来このような貴重カードは博物館や研究用として大学の方にあるのが自然だ。実際、アメリカのとある博物館では「デュエルモンスターズ罠三大神機」の1枚、「聖なるバリア―ミラーフォース」が厳重に寄贈されているまでである。

しかもこのようなカードはこの世界で生み出されたモノではない。別の世界で生み出され、この世界に迷い込んだモノだと言われている。

だとすれば、このカードらがこの世界のカードではないと言うのは推測を立てれば分かる事だ。

おまけに、何1つとして見た事のあるカードなんてない。だとすれば紛いもなくこのカードらは、何かが原因で自分の手元に現れたカードだと思われた。

本来ならこんなカードを手にした瞬間、自分の力と履き違い実力を相手に見せつけ威圧を見せるのが一部の人間がやる事だ。

しかし、だからと言って手に入れた力に自惚れる遊丸ではない。

「け、けど。どうして僕の元に・・・・」

まず、その原因を突き止めるために思い返し出す。

つい昨日までこんなデッキを持っていなかった。だとすれば、夜中の間に誰かが渡した可能性が浮かび上がる。

だがどうして? 思い悩もうとする遊丸だったが・・・・

「遊丸、朝ごはんよ。早く降りてきなさい」

自分の母親が呼ぶ声が耳に届いたので、一時的に中断した。

あとで考えれば良いや。今日はたっぷりと時間がある。

しかし後に、彼は後悔した。

今日の自由など、無に等しかった事。そして昨日佐久絵に出会った事。その2つが、今日、彼を地獄のどん底へと突き落とす最大の決め手となった。

 

→→→

 

七色学園を含む全ての学校及び専用の施設には、地下部屋が完備されている。

ここには大型のコンピューターが、マザーコンピューターと思われるモノから小型の補助用のコンピューターまで備わっている。

その近くに、大型のカプセルらしき物体が横に4台並んでいた。大きさからして人が入れるまでのスペースがあり、中の様子は伺えないものの恐らく眠るかそれに属する事をやる為の機械だろうと推測が立つ。

と、見ればその近くに人が数人いた。

皆がここの制服を着ているのを見れば、ここの生徒だとすぐに理解できた。

その中の1人、背の高い桃色の髪の女性。佐久絵が腕を組みながら何かを待っていた。

「・・・・・・・・」

ただ言葉もなく、目を瞑りジッとしている。

そこへオズオズと、黒くまるで「カラス」のような外見を持つ大和を人で表したような少女。ツバメはその持ち前さえも縮こませながら尋ねる。

「あの、佐久絵先輩?」

「何、ツバメ」

返ってきた冷血な言葉に多少圧されるも、すぐに切り返し。

「今日は練習試合ですよね? 相手も近辺では名が知れている、嵐山高校でしたっけ? 貴女が何とかウチの顧問を説得して練習試合をお願いして何とか許可を得た」

「そうよ。で、何か問題でも?」

それだけを返し、言いたい事を今まで溜めていたツバメは思いっきり大声で・・・・。

「ありますよ!! そりゃ相手はそこまでしてやっと戦うと言った相手ですよ! それなのにメンバーは不幸ばかりで挙句この学園で雑魚と呼ばれている遊丸先輩使おうだなんて、正気の沙汰も定かじゃありませんよ!!」

ここが地下だと知ってか知らずか。声の響きは良いモノで、下手をすれば地上まで聞こえていてもおかしくはない。それどころかこの場にいる自分を除いた人たちが耳を押さえるまでであった。

現にここで作業をしている生徒数名と顧問である先生が涙目で、耳を押さえていた。

だが、佐久絵は気にせず涼しい顔でさっきと何も変化はない。

「・・・・正気の沙汰も、定かじゃないねぇ。それは貴女にも言える言葉じゃないの?」

肩まである髪を弄りながら、彼女はその視線をツバメに片目だけ向けた。

「雑魚だからと下に見ていたら、いつか痛い目に遭う。これが返り討ちの法則よ。案外力を蓄え、それを未だに解放していないとなれば綺麗な話よ」

「しかし、遊丸先輩はレアカードを根こそぎ奪われているとの事ですが。一応倒れていた男子生徒の話を聞く限り、ロクなカードを持ち合わせているとは思えません」

それがデュエルモンスターズでの法則だ。

例え強力な力を自分が秘めていたところで、結局はカードの強さで分けられる。それがこの世のルールである。

弱者は強者に屈さなければならない。そんな間違った発想の下で成り立っている。

奇跡など起きようが、結局そのターンで決めなければ返しのターンで戦況を覆されるのが厳しさだ。例え足掻いたとしても無駄足にしか終わらない。

それを十分に知っているハズなのに、どうして彼女がそこまで遊丸にこだわるのか? ツバメは理解できなかった。

・・・・と、近くから足音が聞こえてきた。

ツバメと佐久絵は音源が何なのかを知るため、そっちの方を振り向いた。

なぜかそれが何なのかを知った瞬間、ツバメは言葉を失いそれに対して目を見開いた。

「・・・・あの、佐久絵先輩?」

「なに?」

「アレ、何ですか?」

佐久絵は不思議そうな顔をして、

「見ての通り、享よ?」

「いいえ、そっちじゃありません」

愕然とツバメは享、の肩に担がれているそれを指した。

「・・・・何か?」

享が首を傾けた瞬間に、ツバメの限界が来たようで・・・・

「何か? じゃないでしょ!! そこにいるの遊丸先輩ですよね!? 何で享先輩の肩に担がれているんですか!?」

佐久絵は「あぁ、それね」と苦笑しながらハッキリと。

「聞いていなかったの? 昨日、言ったじゃない。享に頼んで、ゆーるを拉致ってくるって」

「本当に実行するとは思いませんよ! ってか遊丸先輩気絶していますよね!? 一体何をしたんですか享先輩ぃ!!」

ツッコミで激しい運動をしたみたいに息を切らし、未だに表情を崩さない犯罪予備軍2人を睨む。

当の本人は気絶しており、何も喋らない。

この状況で反論の意を示したのは、享だった。

「・・・・勘違いするな。これは、アレだ。ついつい可愛かったからちょっと持ち帰っただけだ。遊丸って名前だけしか聞いていなかったし、あの時だって不良2人を運ぶために見ていなかった」

「冷静な表情崩さずに言っても結局やっている事は犯罪以外の何者でもありません!! ってか可愛いからと持ち帰った!? ここの学園の女子に知られたら全員ドン引きしますよ!」

それでもなお、無言を通す享。

外見良し、ちょっと不思議系でクールな雰囲気醸し出しながら実際は小さくて可愛いいモノ好きの享。それで女子からのウケがないハズがない。

そう言うも、一応遊丸も一部のお姉様方からの人気はあるようで雑魚と認識されながら女子が手を出さなかったのは、そっちの圧力が意外にも強いからだとは遊丸を含め全員知らない裏の事実である。

もしこれがそのお姉様方に知られたらどんな反応を示すのかは大体の予想が立つものの、今は誰一人として気にしない。

知らない事実など、知らぬがマシだからである。

話がズレたが、ツバメの言葉にそっぽを向く享。

視線を上の空に向け、しかし地下なので天井しか見えず結局は天井を見上げて気にしない姿勢を見せた。

が、哀れみを含んだツバメの純粋な目には敵わず。疲れ果てたような仕草で担いでいた遊丸を下ろした。

「・・・・知れた事。俺は俺の筋で事を進ませる」

「カッコよく言ったようにしていますが、行動と言葉を比べる限り全然カッコよくありませんよ!! むしろこの人大丈夫なの? と心配しますよっ!!」

しかしツバメの言葉など無視し、享はジッと遊丸を見つめていた。

いい加減起きない遊丸。佐久絵は頬をバシバシと叩き、無理矢理起こさせる。

純粋でもなく、ただ疲れ果てたような眼差しを目蓋の裏から見せる遊丸。しばらくボーッとするも、すぐに状況がどんなモノなのだか把握できていないようで。

「え、何ここ? どこですか?」

慌て、パニックとなった。

そんな姿に、2人は子供を見るような目で愛でていた。

「・・・・やっぱり小動物は最高」

「あぁ、やっぱり子供は良いわぁ」

「2人して何サラリととんでも発言しているのですか!? まさか貴方達サド!? 救いようの無い程腐れまくれまくった心をしているのですか!?」

やはりと言うのかされどと言うのか、優秀な人ほど変態は多いと言うモノだ。

一体彼ら彼女らに常識と言うのがあるのかをそろそろ危険視しても良いのでは。とツバメは思い始めた。

と、澱んだ2人を無視するように遊丸はツバメの存在に気がついたようで。

「・・・・あの、誰ですか?」

若干まだ怯えながら、尋ねる。

純粋な瞳ではないものの、流石にこの状況で答える術を見いだせないツバメは本格的に困り果てた。

しかも頑なに2人を見ようとしない。当たり前かとツバメは納得し、少なくとも自分が何をすべきかを教えようと思い。

「遊丸先輩、悪い事は言いません。ここから逃げてください」

え? と遊丸は顔を引きずらせ。

「どう言う意味、ですか?」

「原因は、あの汚れた心を持った2人に訪ねて下さい。私はこれ以上犯罪者の肩を持ちたくありませんので」

そうは言うも、とりあえず自分が今危険な状態にいるとしか理解できていないようで。

「・・・・出口は、どこですか?」

自分のすぐ後ろに求めているモノがあるにも関わらずそう訪ねてくる。

もう疲れた。とツバメは頭を抱えて壁にもたれかかった。

ようやくいつもの調子を取り戻した佐久絵が、遊丸の近くへと寄って来る。

目をしかめ、警戒する。

「・・・・何ですか、先輩」

「言うわね。あの時は初対面でおどけていた貴方が、どうしてそこまで辛口を言えるのかを私は不思議でしょうがないわ」

遊丸は返す術がなく喉に息を詰まらせる。

「それはアンタには関係のない事でしょう」

「それが本当の顔ね。いつもは敬語で慕っているように見えて、実際は影から飼い犬のごとく睨んでいる。それはなぜか聞かせてもらおうか?」

笑顔でそう言ってくる佐久絵。

しかし遊丸は口を開こうとせず、しっかりと閉じた。

絶対に言おうとしない姿勢。このままじゃダメだ。この子は案外頑固な姿勢を崩さない。そう悟った佐久絵は、視線で享に伝える。

享は少し考えるも、仕方ないと自分に言い聞かせて動く。

遊丸の腕を抑えつけ、両手を使えなくした。

「な、一体何をするんですか!!」

しかし享は視線だけを逸らし、

「・・・・すまない。佐久間先輩の命令を無視すれば、こっちが痛い目を見る。あとでパフェ辺りぐらいは奢るから今は我慢してくれ」

「・・・・あの、先輩?」

涙目で、必死に訴えかける遊丸。

ツバメの方を振り向き、助けを求めるも彼女もまた口笛を吹いて知らんぷり。

「・・・・ゴメン、遊丸先輩。助ければ、私が痛い目を見るから今だけは我慢してね」

この場に味方がいない事を確認させられ、恐怖に突き落とされた。

一方の佐久絵は手をワキワキと動かし、徐々に距離を縮めていた。

「ちょっと、一体何をするのですか!!」

「何って、そこまで頑固な姿勢を見せられれば、こっちだって考えがあるわよ。忘れていないかしら? 私は言ったハズよ?」

満面の笑顔の裏に淀めく影。

簡単にこの先輩に逆らえばどうなるのか。その瞬間、お仕置きが待っている。そんな恐怖を既に植え付けられているのが、この2人だと瞬時に理解した。

気が付けば距離はすでに目と鼻の先。遊丸は佐久絵が悪魔に見えてきた。

そして脇の下辺りに手をやると、動かし始めた。

「うりゃ」

「にゃいっ!?」

ビクっと跳ねる。

良い反応に、うっとりと眺める佐久絵。

「な、ななななななななな」

みっともない声を出したと知った遊丸は、顔を赤らめ始める。

「虐めていたあの2人は、貴方が弱々しそうだったから手懐けようとしていたのは見えているわ。けど、案外そっちの顔も持っていたのならちょっと弄りたくなってきちゃったわ」

コショコショと擽り始め、必死になって声を出さずにする遊丸。

が、限界はすぐに来た。

「にゃにょにょー!」

「日本語で喋りなさい」

「ゆ、ゆるしふぇくりゃしゃい!」

しかし聞く耳持たず。ウリウリーと更に手を早める。

「は、はりゃりゅりゃりぇりゃー! ひゃくえひぇんふぁい、ふあくみゃりゃ!!」

ちなみに「あ、悪魔だ! 佐久絵先輩、悪魔だ!」と言っている。

「ほらほら、これで終わりじゃないわよ?」

ゾッと何か感じるも、くすぐったさで全てが吹っ飛んでしまった。

 

→→→

 

バタンと、床に倒れ込む遊丸。

息を荒げ、捨てられた子犬のように佐久絵を見上げていた。

「話してくれるよね? 貴方の本心を」

手をワキワキとさせ、脅しをかける。

首を横に振ろうとしたが慌てて縦に振った。

「は、ハイ!!」

そして距離を置くと、近くにいたツバメから「よく耐えたねー」と頭を撫でられた。

それを恥ずかしそうにし、遊丸の口が開く。

「・・・・言ったとは思いますが、僕は脅されたりして強者に抗えませんでした。実際、歯向かおうとしたものの、殴られ、地面にひれ伏せられた事がありました」

ピタリとツバメの手が止まり、遊丸は沈んだ表情を更に濃くする。

「その時、僕は思いました。結局弱者は強者に屈するしかありませんと。結局僕は、弱いままだと。そりゃ、強くなろうと努力はしていませんよ。けど人は生まれた時から、スキルと言うのは決まっていますから」

それは十分に理解できる。そうツバメは思った。

けれど、それで終わりで良いのだろうか? どうしても強くなりたかったら、周りに助けを求めるとかしてどうにかならなかったのだろうか?

この時のツバメは少なくとも疑問しか抱かなかった。

しかし、事情をある程度知っている佐久絵は溜息を吐きながら。

「・・・・ここで誰かに頼れば良いじゃない。とは言えないわね。デュエル記録を見させてもらったけど、貴方の周りには敵だらけね。流石の私でも、20対1の対決なんて負ける未来しか見えてこないわ」

え? とツバメはキョトンとなった。

それは正に苦戦モノ。例え1人2人倒しても、3人4人で敵討ちに来る。あまりに非道で汚いやり方である。

遊丸はその状態で今まで過ごしてきた。そりゃ人間不信になってもおかしくない。

それなのになぜ学校に通っていたのか。不思議でたまらなくなる。

「・・・・分かったでしょう。僕は孤独でいたい。チームデュエルだか何だか知りませんが、連携なんて僕に求めても」

言いかける。しかし佐久絵の一言で、遊丸は言葉を失った。

 

「えぇ、分かったわ。けど、それがどうしたの?」

 

鶴の一言とはこの事だ。一緒に聞いていた享やツバメでさえも唖然としてしまった。

付け足すように、佐久絵は続ける。

「私だって、そのぐらいは理解できるわよ。けどね、立ち止まり続けても何も始まりはしない。むしろ動けなくなるばかりなのよ。貴方の過去に何があったのかは深追いする義務はないわ。けど、これだけは言わせて」

ギッと目力を強め、佐久絵は自分の思いを放った。

「いつまでも目を逸らし続けて、一体何が得られるの? 孤独を通しても、居場所なんてどこにもない。逆に自分を追い詰めてしまうものよ」

「けど、先輩に僕の気持ちが分かる訳が・・・・」

反論を述べようとするも、それはまたもや佐久絵の言葉によって途切れた。

「・・・・痛い程分かるわ。同情される筋合いはないけど、私の弟はいじめによって命を絶ったわ」

「え!?」

遊丸は動揺する。

他の2人は知っていたようで、苦虫を噛みつぶしたような顔をしていた。

「だから私は誓ったの。もう誰も、孤独のままにはさせないと。1人で悩むよりも全員で悩んだ方が助かる術があると!!」

その瞬間、遊丸は考えた。

この人の言葉、表情に偽りなど見えない。ともなればこの過去は本当だと分かる。

「・・・・でも、変な話よね。全然関係ない私がこうやって説得しているのは。でもね、私はもう嫌なのよ。誰かを失い、目の前に救える人がいるのに救えないなんて」

気が付けば、佐久絵は大きな瞳から涙を零していた。溢れんばかりのそれは、頬を伝って下へと落ちる。

これには動揺し、どうすればいいか分からずあたふたとしだす。

しかし佐久絵は涙を拭き取ると、さっきまで濡れていた顔に笑顔を咲かせた。

「でもね、私はそれでも笑うわ。いつまでもイジイジと過去を引きずっても、何も起こりはしないもの」

「っ!!」

遊丸の心のどこかで、何かが割れるような感触がした。

佐久絵が伝えたかった事。それが何なのかを理解した上で、心の中にあった彼を束縛する何かが壊れたのだ。

遊丸は思った。

確かに先輩の過去は耐えられるモノではない。言いながら涙を見せたのが何よりもの証拠だ。けど、どうして弟を失ってもなおこうやって元気でいるのだろう。もしこれが彼女の強さなら、僕は浅瀬よりも浅い事柄を気にしていた。

人の命は決して軽くはない。それなのになぜ彼女は、笑顔でいるのであろうか?

それを考えても、恐らく彼女の事を知らない僕は答えを導き出せないであろう。なら、どうするべきか。

遊丸は決心し、暗いながらもどこか炎の灯った目と変わった。

「・・・・僕はまだ、貴方がたを信じた訳じゃありません。でも、先輩の強さに興味を持ちました。なぜ先輩は今、笑顔でいられるのか。僕が導けなかった何かを見つけ出すために・・・・」

アレ? と遊丸は疑問を抱いたまま固まった。

「・・・・何で僕、ここに連れて来られたのかまだ知らないんだった」

少なくともツバメだけはその言葉にずっこけて尻餅を打った。

「知らないのですか!! いや、知らなくて当然ですけどね!」

限りなく正論に近い正論だ。誰も反論の意など示さない。

当の佐久絵も「あっちゃー」と頭に手を当てていた。

そんな沈黙を崩したのは、ここに近づいてきた人である。

地下室へと歩いてくる音が聞こえ、誰かと思い振り返る。そこには、女性がいた。

白い研究員のような服に身をまとい、下にはタンクトップ。更に誰がどう見ても短すぎるミニスカートを穿いていた。

一歩動くだけでも限りなくアウトに近く、遊丸はそっぽを向き享は最初から興味なさそうにどこかを見ていた。

トレードマークと思える銀髪ストレートの頭をボリボリと掻き、気だるそうな言葉を吐く。

「んあ゛ぁ、だっりぃー。クソッ、こんな休日に何でガキどものためにわざわざ学校に出向かなきゃならんのだい。っつーか、少し寝坊して遅れてきたが、まだ滑り込みセーフってところだろう」

やる気すら見せない言葉に、一応教師だと思うがどこからどう見ても教師と思いたくない姿に誰もが溜息を吐いた。

遊丸だけ察せないままポカーンとしている。

「・・・・あの、変態先生?」

佐久絵がそれを言った瞬間、変態先生と呼ばれた女性は怒り出す。

「んだとぉ! それが教師に向かって言う言葉か佐久絵!! あたしにぁちゃんと返帯鈴(ぺんたいすず)って名前があるんじゃー!」

「先生、へもぺも変わらないと思います。ってか酒臭っ!! 貴方は一体今までどこを飲み歩いていたんですか!?」

佐久絵は返帯に近づいて、鼻を押さえる。

この教師はこの学園で一番適当かつだらけている子供に見せたいダメ大人の見本。しかも年下好きでこれまで手を出した生徒は数知れず。の変態である。

しかしデュエルの腕は学園一で、右に出ようなら完膚なきまで叩き止めされる「最強」でもあった。

だが性格が全てを壊している、言わば「バカ」であった。

「・・・・あぁ、ちょっと酔っ払いのオヤジ捕まえて奢らせていたんだわ。わっはっは。んで、私はタダ酒飲んだっくれた後、オジャンしてきた。最高だろう?」

今頃そのオヤジたちがどんな運命に遭っているのか。考えただけで呆れしか出なかった。

「・・・・んで?」

返帯は遊丸の方へと視線を向けた。

「この明らかに弄ったら面白そうなガキは何ぞ? もしかしてあたしのおもちゃにしても良いのか!」

「ダメに決まっています!! アンタなんかに渡したら、遊丸先輩は廃人と化して帰ってくる未来予想図しいか立ちません!!」

激しいツバメの抵抗に、腕をぶらつかせ「わーかったわかった」と適当に振舞った。

「じゃぁ何ぞ? 仮のメンバーか? それとも・・・・」

「正式なメンバーです!」

ハッキリと、佐久絵が断言した。

すると返帯は「ほぅ」と意外そうに遊丸を見つめると、ニヤニヤと気持ち悪い分類に入る笑みを浮かべた。

「確かにコイツからは、何かとてつもない何かを感じるなぁ。特に、内側にいるそれとか」

「っ!?」

察され、動揺に溶け込む。

「さ、さぁ。一体何の事やら・・・・・」

「ふーん、誤魔化しても無駄だよ? あたしにぁ分かるんだよ。隠しきれていない殺気と感情がね。どう見てもあたしを警戒あるいは引いているようにしか思えないがねぇ」

「あ、引かれているって自覚はあるんですか」

言われる。が、そんなどうでもいい事は放っておいて。と返帯は話の道を無理矢理変え。

「コイツがメンバーなのなら、一応これで部活は成立だ。良かったな、お前ら」

そうは言うが、誰一人として喜んでいない。

果たしてこれで良いのかと遊丸は思ってしまうも、心無しか享が「わーい」と感情を含んでいない喜びを表していた。

「お前ら、あとで覚えておけよ。しかし、今から始めるデュエル、そこの子犬君には教えているのか?」

いいや、と遊丸を除く全員首を横に振った。

ちなみに遊丸は「こい・・・っ」と呻いていた。

「・・・・いいえ、今から教えようとしていたところですのでご安心を」

享が静かに告げた。

話について行けていない遊丸は目を丸くして「え・・・・?」と呟いた。

「まぁ、アレです。今回我が校でも取り入れる事になりましたデュエルを、やろうとしているのです」

ツバメが補足し、佐久絵が付け足す。

「ゆーる、これから行うデュエルはチーム力と戦術を取り入れたデュエルよ。だから私に、力を貸して?」

天使顔負けの光り輝く笑顔。

それでも、重要な内容は聞いていない。

「えっと、そのデュエルと言うのは・・・・?」

すると返帯は、パソコンをいじくりながら答えた。

 

「プラットンデュエルよ」

 

これが、これから始まるプラットン{小隊}デュエルと、この世界が一体何なのかを知る物語の始まりであった。




そんな訳で、途中のおかしい文章を多少訂正しながら投稿します。やっとの思いで・・・・いや、Pixivの時よりはまだマシか。勢いで一気に十話まで投稿した日もあったからなぁ。低スペックパソコンで(今もだけど)
はてさて、次回はプラットンデュエルと、物語が始まります。ちなみに今は疲れ果てておかしなテンションになっています。多分後で後悔するような気がします。ってか毎日が黒歴史です。

そんなTagaですが、これからもよろしくお願いします。
それでは次回に向けて、デュエルスタート!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第2章「プラットンデュエル、バトルスタート! 前編」

1から書き始めて、数週間かかった。暇さえあれば書くのを週刊付なければ、続かんぞ。マジで。
そこは努力次第~っと。


プラットンデュエル。

それは、4人1グループの小隊で永続魔法「バトル・サイバーフィールド」の発動下で相手と戦う特殊デュエルである。

ルールとしては、以下で説明する。

 

「バトル・サイバーフィールド」が発動している場合、デュエルのルールをプラットンデュエル方式へと変更する。このカードがフィールド上に存在する場合、バトルフェイズとエンドフェイズの後に「エスケープフェイズ」が追加される。エスケープフェイズは任意に行う事ができる。エスケープフェイズ時、コインストを2回行う事ができる。この効果でコインストを行い2回とも表だった場合、自分はこのデュエルから離脱できる。1回表だった場合、自分のライフポイントを半分にしてこのデュエルから離脱する。2回とも裏だった場合、このデュエルからは離脱できず、相手ターンへと移行する。またデュエル中、相手の仲間か自分の仲間が参戦してきた場合、モンスターが存在しないプレイヤーへとターンが移る。モンスターが2人以上存在しない場合、そのプレイヤーの間でジャンケンを行い、勝った方にターンが移行する。この効果でターンを得たプレイヤーはこのターン、バトルフェイズを行えない。また、このデュエル中、1度だけ自分のカードを全てデッキへ戻す事によって別のデッキを使用する事ができる。その場合、ライフポイントは変わらず、デュエルが開始された場合には手札を5枚引いてスタートする。ただし開始ターンには攻撃できない。

 

デュエルではじゃんけんを行えないので、デュエルライフルと呼ばれる特殊デュエルプレートをどれだけ早く展開するかによって。簡単に言えば、早撃ちで決まる。

デュエルライフル自体に射撃機能が付いている訳ではないものの、その辺りの決め事を表現するためにライフルトリガーがついている。

また、デュエルライフルは従来のデュエルプレートに比べて重く大きいため、掌でしっかりと握り締めるためのトリガー付きのグリップが付いている。手札は専用のホルダーが装着されているので、落とす心配はない。

またトリガーには、エスケープフェイズ時にも使用される。エスケープフェイズは1と2があり、このフェイズ中は相手の隙を見て逃げ出すと言った方が正しい。プラットンデュエルではコインストの変わりに、このライフルを三発撃って、直撃したら失敗。掠った場合は一回分の効果が、全て避け切れたらエスケープ成功と言ったルールがある。ちなみに直撃したら衝撃が走るので、動く事が無理となる。

更に別デッキへの交換ルール。これは俗に「リロード」と呼ばれる。用はデッキ切れを起こしやすいデッキのために設けられたルールであり、長期戦となるにつれてこの効果も重要となる。

しかし大抵のデュエリストはデッキ1に執着心を燃やしているので、あまりこのルールは使われない。

そして「バトル・サイバーフィールド」の効果が、以下となる。

 

自分フィールド上にモンスターが存在しない場合に相手がダイレクトアタックを宣言した時、デッキの上からカードを1枚めくる。そのカードがレベル4以下のモンスターカードだった場合、そのモンスターを特殊召喚し攻撃を行ってきた相手モンスターと強制的にバトルを行う。また、このカードが発動している場合、手札のモンスター1枚を墓地へ送る事によりコインストを1回行う事ができる。この効果により表が出た場合、相手に墓地に送ったモンスターのレベル×300ポイントのダメージを与え、自分はデッキからカードを1枚ドローする。裏が出た場合、相手に100ポイントのダメージを与え、デッキからカードを1枚ドローする。この効果を発動した場合、自分はバトルフェイズを行う事ができない。

 

最初の効果は防衛効果。プラットンデュエルでは奇襲攻撃により突然バトルに入る場合が極めて多い。そこですぐに対応できた場合に取り入れられている。ちなみに反応が遅れた場合、相手からの攻撃はノーガードで行われる。攻撃を行う場合は、一定の距離を縮めないと行えないとのルールも存在する。

そして第2のコインスト効果。後方的に攻撃を行う人のために取り入れられている効果。つまりはスナイパー効果である。効果的にはこうなっているが、実際のデュエルではコインストを行わずに実際に狙って当たった場合に表の効果が適応される。つまりはどれだけ正確に狙えるかが鍵となる。中途半端な腕ではすぐに感づかれてしまい、たかが100ポイントのダメージしか与えられないまま居場所を突き止められてしまう。

スナイパー専用デッキでは、高レベルモンスターばかりが入っている。なので、レベル4以下のモンスターが極端に少なく、接近されたら迎撃されやすい。

ちなみに射程範囲はほぼ無いに近く、遠くの敵に対して安全的に攻撃が行えるとの利点がある。

それをうまく利用したデッキ構築を行うチームが多々ある。しかしチームの動ける駒が少なくなるなどの欠点を視野に入れ、あえて取り入れないチームも存在する。

こんな風に、様々なチームの姿が形成され、かなり特殊な下でデュエルを行うこのプラットンデュエル。この発端は古代の戦争が描かれた壁絵から得た戦術と、仲間との連携をヒントに現代アレンジを加えながら作成されたと言われている。

しかし実際にやるとするなら、騒音問題も発生するだろうし何よりもそれを使って迷惑行為を平気でやる若者が増えるだけ。それなら現実では禁止し、仮想空間でやってしまえば問題は無い。

そんな理屈で、アメリカから始まったこのデュエル。近年、日本にも上陸したとだけあって、規制と仮想空間の整備、そしてそれの導入が政府総出で成されていたのである。

今回、生徒会と教師の話し合いの元、七色学園にも導入され、その代表にデュエル研究部が選ばれた。

このデュエルは仮想空間で動きながら、相手を倒すゲーム。当然運動神経や策略用の頭脳が必然となる。生半端な腕など、すぐに撃たれてしまう。

絆によって仲間を救うか、はたまた見捨てて弱った敵を狩るか。その判断も必要になるので、冷血派と絆派とが分かれる始末。

どちらを取るも、甘さと非道が露となる。

どちらが強いか? そこは、アメリカも注目している部分であった。

 

→→→

 

「以上だ。ちなみにそこの棺桶もどきが仮想世界へのアクセス場所となっている。凄いぞ? 何にせ、疲労から小さな痛みぐらいならすんなりと再現されるからな。流石に大きな痛みは緩和されているが、それでも呻く程度には調整されている」

返帯が面白そうに告げる。もちろんプラットンデュエルなんて知らされていなかった遊丸にとって、痛みは好きで感じたいとは思わないし、何よりも運動が大の苦手だ。

顔を青ざめながら、遊丸は目の前の逃げたい現実に立ち呆けていた。

「・・・・あの、佐久絵先輩? そんな事、僕は聞いていませんでしたけど?」

すると佐久絵はまるで動じず、ハッキリと告げた。

「当たり前じゃない。だってゆーる、見るからに運動苦手そうだしこの事実言っていたら素足で逃げ出していたでしょうし。仕方ないって事で諦めて?」

まさかの故意的。しかも酷い言われ様。そして最後に願望系。最悪の三拍子に膝から折れる遊丸。心から折れそうになった。

「ひ、酷いです・・・・。僕は、ただ的になるだけなのに」

「的になるだけマシじゃない。狙われないよりは。あ、でもゆーるの可愛さに狙われない可能性だってあるわね」

更なる追い討ち。生粋のドSは、優しい心と罵倒する心の両方を持ち合わせていた。

救われない境地に自然と追い込まれる遊丸に、もはや哀れとしか思えないメンバー2人。そしてその代表として、ツバメが叫びを上げた。

「それ絶対に褒めてませんよね!? むしろ貶しているとしか思えませんっ!! 貴方は一体何を基準にしているのですか! もう遊丸先輩涙目ですよ! 試合が始まる前から心がへし折れていますよっ!!」

肩を上下に揺らし息を整え、そして獲物を狙う鷹のごとく佐久絵を睨んだ。

しかし佐久絵は至ってしらっと、おまけに悪いとも微塵も思っていないらしく、逆に熊のような眼光を飛ばしてきた。

鷹VS熊。この絵図からして、かなり異様とも思える。熊は地上の迎撃者となり、鷹は天からの照準者となる。ある意味兵士としてのスペックがすさまじい事が思い知らされた。

遊丸は享に助けを求めようと目を向けるが、当の享は半泣き状態の遊丸の、あまりの可愛い姿に無言でときめいていたりする。

はぁ・・・・。と肩を落とし、辺帯の方へ視線を変えた。

「仕方ないや。へん・・・・先生、今からそのデュエルを行うと言うのは分かりました。ですが、どうにも腑に落ちません。どうしてこんなデュエルを佐久絵先輩はやらせようと・・・・」

言いかけたが、その前に辺帯の拳が脳天を直撃した。ゴン! と割と笑えない音と共に、遊丸が呻きだす。その姿を見下しながら、辺帯は鼻を鳴らす。

「お前までこの私を侮辱するか! いいよーだ! 地獄に堕ちてしまえばいいんだ! ばーかばーか!!」

歳にも似合わぬ暴言。一応歳は25歳になったばかり、とてもではない言動が大人とは思えない。せいぜい小学生低学年レベルである。

しかし、と言わんばかりに視線を鋭くし、遊丸を睨み付ける。

「それは自分で考えな、ガキ。佐久絵が一体何故こんな体力と頭脳を有するデュエルをアンタにやらせようとしているのか? デュエルを通して、な」

それだけを言うと、未だに睨み合っている佐久絵とツバメに脳天チョップと言う奇襲をかけ、どうにか場を収めた。

ただし敵意が辺帯に向かれたが、それでも辺帯の狼よりも深い眼光によって一瞬で黙らせる。

とりあえず落ち着いたのを確認すると、辺帯は機械の近くに立ち、そして叫んだ。

「聞け、ガキ共!! 戦いとは、己の命を守り、そして仲間の命をも任される! 一筋縄で行くと思ったら大間違いだ。一人の油断が、後の敗北へと繋がる! 決して、気を緩めるな!! そして仲間を信じろ!! 誤った判断を下しても、仲間がそれを補う! 一人で戦っているとだけは思うな!! 近くには、仲間が居る。それが絆となる! 以上! これが私から言える全てだ。後は指令として命令を下す。各自Dゲートへと向かえ!!」

その威圧は、どんな教師よりもすさまじく。それが信頼できるような、馬鹿らしさを持っていた。

同時にこの言葉は、ここにいる遊丸以外の人を魅了していた。ここにいるメンバーは、デュエルを楽しむために、そして同時に相手と戦い、仲間を信頼したいと思っている連中ばかりだからだ。もちろん享も、無表情だがどこか笑みを浮かべ、ツバメは呆れを含めながらどこか楽しそうに笑っていた。

もちろん佐久絵も、苦笑こそはしていたがそれでもやはり笑っている。何故そこまで笑えるのか、遊丸には理解できなかった。

遊丸は分からない。どうして、人は笑う事ができるのか? 辛い事だけが、人生じゃないのか、と。

唇をかみ締め、棺桶もどき、D-GATEと表示されているそれを直視した。

―もしこれで答えが見つかるのなら、もしかすると・・・・。だが、それは妄言だ。現実がそう甘くは無いのは、自分が一番知っている。そのもし、は本当の意味でのもしだ。騙され、貶され、頼る者のいなかった人からしてみれば、絆なんぞ金箔よりも薄い代物に等しい。この程度で絆が生まれようなら、今までの自分は一体何だったんだ。無駄足にしか思えない。

・・・・けど!

「自分で言ったんだ。僕が見つけられなかった答えを、見つけるって。その言葉に二言は無いし、断る理由もない。そうさ、僕は・・・・!」

雑魚なんだから、諦めが悪い!! -

ガン! と突然頭をぶたれる。辺帯が「良い加減入れ」と威圧を送ってきていたので、遊丸は多少脅えながら既にメンバーが入っている仮想空間への入り口、Dゲートへと向かった。

Dゲートの中はカプセル状である。今は開いている状態で、中の装置が露となっていた。ベッド状になっており、頭部分には謎のヘルメットが装備されてある。そして腕にはデッキホルダーが2つある。つまりここにデッキを装着しろ、って意味であろう。遊丸はポケットの中からデッキケースを取り出すと、中にあったカードをそこにセットした。

もう一つホルダーが余分に余ってしまったが、仕方ないだろうと軽くスルーする方針を決めた。しかし急に頭の中がボーっとぼやけだす。体がまるで操り人形のように動き出し、無意識にどこからか取り出したデッキをセットした。

カードのスキャンが開始され、無事変な警報など鳴らずに済むと我に返る。なぜ頭がぼやけたんだろう? とは考える暇も無く慌てて自身もベッドに横となった。

ヘルメットをかぶると、光が遮られる。すると鈍い機械音が鳴り響いた。どうやら閉まりつつあるようだ。ガコンと言う音と共に、遊丸の意識が一瞬途切れた。だが次の瞬間には、なぜか廃墟となったビルとビルの間の、恐らく裏路地と思える場所にただ立っていたのであった。

 

→→→

 

一方、数分前の敵勢力。

七色学園と同じように地下室にその装置が備わっている。その装置側に、4人の男女と1人の教師がいた。

軽い説明があった後、少年は呆れたように物を言う。

「しっかし、この七色学園ですっけ? 舐めてんッスか? 今回が初めてと言っているにも関わらず、雑魚一人を差し出すとか、常識ないっしょ」

それに異論は無い、全員がそれを感じたからだ。もちろん敵勢力の情報はある程度公開されているものの、どうにも遊丸と言う少年のデュエル情報に、誰もが鼻で笑っている。

金髪の少年が代表みたいに言う。

「確かにデスネ。こんな子犬みたいな目をした奴が相手となると、ただの糧としかならないのデス。いいや、連中もそれが狙いなのかも知れまセンガ。しかしどの道、手加減などしませんガネ」

その横で不吉に笑う少女。わざわざ制服をゴスロリもどきに改造しているが、そこから余計に不気味さを醸し出していた。

「そうね。こんな子犬なんど戦場の中では却って邪魔。さっさと撤去するのが一番でしょうね。その時に悶える姿を想像しただけで、ゾクッと来るわね。うふふふふ」

袖から扇子を取り出し、仰ぎだす。その余風がもう一人の少年の髪を微かに揺らした。

その少年の方を見ながら、少女は楽しそうに聞いて来た。

「それで、リーダー。今回は一体どんな戦略をお考えで?」

特に表情と言う表情を浮かべていない少年は、ただ変わりない顔つきのまま口だけを微かに動かした。

「・・・・いつものように、俺が相手リーダーを倒す。プラットンデュエルでは、相手のリーダーを倒した時点でデュエルが終了する。今回もいつも通り俺が裏で行動し、リーダーを見つけて奇襲をかける。かける時間など、どこにもないようにな」

クスッと少女は薄く笑い、口元を扇子で隠しながら楽しそうに囁いた。

「早切りの刹那、ね。近隣校からその名で恐れられるだけあるわね、願橋刹那(ねがいばし せつな)先輩」

それを聞いた少年、刹那は目を尖らせ、少女の瞳を睨みだした。

「その名で呼ぶな志。虫唾が走る」

鋭い眼光、しかしそれをもろともしない少女、真内志(まない こころざし)は余計に楽しそうな瞳を見せ、特徴的な横ロールを揺らす。それを他のメンバー固言葉混じりのアメリカからの留学生、ネガイブ・ガルロードと相生火野利(あいおい ひのり)がジッと見つめていた。

どうにも志は怪しさだけを追求し、尚且つ相手の嫌がる態度を平然と取る毒を持った少女と言い表しても過言ではない。

しかしその腕は本物で、後方からの支援射撃や孤立した敵を掃除するのが彼女の仕事。つまりはスナイパーである。

まるで相手の闇さえも狙い撃つ彼女の腕は、言葉からも感じさせるように容赦が無い。プラットンデュエルではダメージが衝撃となってプレイヤーを襲う。それに与えるダメージが大きくなる程、衝撃が大きくなる。例え頭に向けて撃とうなら、下手して失神する危険性だってある。しかし彼女はそれを平然とやってのける。

そうした方が楽しいと感じているからだ。悶え苦しむ姿さえも快感としてしまう彼女は、一部で「冷酷瞳の狙撃女(コールドアイズ・スナイプ・ウーマン)」とまで呼ばれ戦かれている。

もちろん彼女はその名を気に入っている。自分をそのまま表した異名に、心を躍らせるまでであった。

なのでどんなに深い視線で睨まれても、もろともしない。むしろ満足そうにゾクゾクしていた。

「くすすす・・・・。流石は刹那、それでこそ子嵐高校のリーダーに相応しいわ・・・・」

その不気味な笑い声は、地下中に響き渡ったのであった。

 

→→→

 

以前の事があって、数分後。デュエル研究部チーム全員は無事に仮想世界へのログインが完了した。

最初遊丸は、ここが一体どこなのか理解できなかったものの、視界に佐久絵たちが入ったのと同時に、これがプラットンデュエルなのだと知らされた。

動こうとした矢先、腕がズンとした重みを感じる。見てみれば腕には、普通とは一回り違う大型のデュエルプレートが装着されていた。

今は展開されていないが、形からして見れば大型ランチャーを思わせる。それに下部には支えるためのグリップに引き金まで備わっていた。手札は、流石にグリップを握りながらは不可能なので専用手札ホルダーも常備されているようだ。デッキはずいぶんと後ろに備わっている。銃口もあるので、それを邪魔しないようにと設計されているようだ。

と、それを全て確認し終えたのと同時、電子音が鳴り響いた。

『デュエルフィールド、「廃墟の町」発動。コレヨリフィールドハ「廃墟の町」状況下ニテ支配サレマス。ルール変更。通常デュエルモードカラプラットンデュエル方式ヘト変更シマス。ネットワーク通信率百パーセント、敵勢力、「小嵐学園」ト断定。現在地ハ地図ニテ確認可能。コレヨリプラットンデュエルガ開始サレマス』

電子板が現れ、スタートまでのカウントダウンが開始される。

残り二分、その間こそが重要な時。デュエルフィールドはここへ入るまでは知らされず、放り出されてからしかフィールドの構成が知らされない仕組みとなっている。

佐久絵は周りを確認する。薄暗く、道も狭い。更にゴミが散らばったゴミ箱や誰が書いたかの分からない落書きが視界のいたるところから見えてくる。

(見るからに、ここは表ではないわね。地図を軽く確認したけど、ここと思われる場所と言えば・・・・。裏通りね)

検討が付き、ここが「廃墟の町」の裏通りである事を頭に入れた。

それだけでも十分な判断。場所と立ち位置を知るのも、勝利への第一歩なのである。佐久絵は司令塔でもある辺帯に通信を送り、応答を待つ。

「こちら佐久絵。応答を願います」

時間を待たずに、すぐに返答が返ってきた。

『はいよ、こちらは辺帯指令だ。何の用だ?』

だるそうな声に臨場感出す気が全く無い返事。だが一々そこを気にしていては始まらないので、用件を手短に使える。

「今現在、フィールドの隅にある裏通りに私たちの小隊は居ます。ここから先の判断を!」

言い終えた後、ふと遊丸を佐久絵は確認した。ただボケーっと突っ立っているだけで、頭をたまに動かしているぐらいだ。どうやら話の内容に付いて行けていないらしく、佐久絵からの視線に気付いた瞬間、固まって動かなくなった。

一応モニター越しに映像が伝わっているので、辺帯は遊丸の表情から気持ちを察した。

『あぁ、そう言えばここがどこだか子犬くんは知らないようだな。それじゃ説明するぞ? ここは廃墟となった町、の仮想空間だ。一応町の真ん中には大通りが存在するが、わざわざそこを堂々と歩く馬鹿はどこにもいまい。わざわざ的になりに行くようなモンだ。だがそこを超えなければ、向こうさんと接触はできまい。超えられるかわざわざ超えるか。その判断が重要不可欠だ。何にせ相手はスナイパー持ちだ。迂闊な動きをすれば、一瞬で片がつく場合もある。油断はするな』

声質が厳しくなり、言葉は続く。

『おまけにD・ランチャーのフィールド魔法ゾーンと中央魔法、罠ゾーンは使用不可。見てみろ、既にフィールド魔法である「廃墟の町」と永続魔法の「バトル・サイバーフィールド」が発動している。この二枚は実質破壊不可。おまけに効果には必ず従ってもらう。ちなみに効果を知りたかったらD・ランチャーの魔法、罠ゾーンにあるカード効果発動ボタンを押してみろ。すぐに表示されるハズだ』

そう言われ、遊丸は試しにD・ランチャーの魔法、罠ゾーンにカードが差し込まれてある部分に取り付けられてあるボタンを押してみた。すると目の前に電子板が表示され、イラストと共にテキストも綴られてあった。

「えーっと、フィールド魔法、「廃屋の町」。1ターンに1度、相手モンスターを戦闘で破壊した場合、相手フィールド上に存在するモンスター1体を選択して破壊する事ができる。またエスケープフェイズ時、コインストを1回だけやり直す事ができる。この効果は3ターンに1度しか発動できない・・・・か。戦闘で破壊できれば相手モンスターも巻き添えに出来る効果は嫌だなぁ。そもそも何で荒廃した町なのに破壊効果な訳?」

なんて愚痴を漏らす。すると遊丸の中から、声が聞こえてきた。

『・・・・成る程な、コイツぁフィールドをそのままモチーフにしてある訳か』

突然何ぞや!? とばかりに体を跳び上がらせた。ふと視線を感じたのでその先を辿れば、佐久絵から心配そうな目で見られたので「緊張しすぎただけです」と言い逃れる。

(さっきのは気のせい・・・・じゃないよね!? 一体何なのさ!!)

心の中で叫ぶも、声は止まる事を知らない。むしろ堂々と頭の中で語りかけてきた。

『まず破壊効果。攻撃を行えば、当然廃墟ビルは倒壊する恐れがある。だから余波でビルが崩れ、瓦礫によって押しつぶされるって意味だろう。そして次にエスケープ強化効果。入り混じっている町だ。逃げやすくはあるだろうな。そう言った観点から、こんな効果になっちまった訳か』

説明に納得しながらも、どこか釈然としない顔を見せる遊丸。

「・・・・でも、それじゃ盾をいくら置いても無駄じゃないか。守備表示にしても、破壊されたら同じ事。おまけに効果によって別のモンスターも破壊されてしまう。いくらモンスターを並べたところで、無駄になるんじゃ・・・・」

『馬鹿だろお前。誰が守れと言った?』

一思いに言い切る声。声は自信過剰的に、遊丸の中で叫んだ。

『攻撃こそが最大の防御! 相手よりも先に攻め立てろ!! それをやってのけてこそ、俺だと言うモンだ!!』

相当五月蝿かったのか? 耳を押さえる遊丸。それでもちゃっかり聞き取ったようで、歯軋りをしながら反論を出した。

「僕は僕!! キミとは違うんだ!」

『フン、知っている。俺もテメェみたいなメソメソ野郎と一緒にされたくはない。だからまずそこまでだ。後始末は俺がやる』

え? と意味が分からず、反射的に仰け反る。声は静かに、説明をする。

『良い所取りは俺の出番だ。なぁに、どんな状況下だろうと必ず勝って見せてやる。むしろ呆気無く勝ってしまえば、面白くないだろ。だから逆にピンチに陥れ』

どこか楽しげに、言葉の意味を受け止めても信憑性など何処にも無いものの、それでも何となく引き付ける何かがあった。

中の声は改まったように声質を和らげると、多少身を震わせている遊丸に言葉を送った。

『大丈夫だ、お前なら出来る。別世界の俺なら、尚更だ』

数秒間考え出す遊丸。一体自分の限界がどこにあるのか? そして、もしピンチに陥っても本当に中の誰かが助けてくれるのか? そんな興味が、次第に沸いてきた。

気が付けば震えは止まっていた。変わりに現状を思い出して、もし自分が負ければチームが不利に陥ってしまうと言った責任感が重りとなって彼に圧し掛かってきたが、それでも遊丸は背負う覚悟を決めた。

「でも、できるかできないかはまだ分からない。だから、やって見るよ! 僕の中の誰か!!」

もちろん聞いているのは中の誰かだけではないので、奇怪な目で遊丸を見つめるメンバー一同。それに気が付いて顔を赤らめるも、中の声は状況とは関係なく楽しそうな声を上げた。

『へっ、言うじゃねぇか。ならばその意気込み、存分に発揮させようじゃねぇか!!』

声が急に大きくなった。すると気が抜けるような錯覚に陥った直後、遊丸の中から何かが外へと抜け出した。それは体を秒感覚で震わせながら、悪巧みを企んでいるようなにやけ顔を作っている、自分の姿だった。

『俺の名は遊格! 丸いからと勘違いしていたら、角に当たって怪我するからな。退屈だった日々を帳消しにする勢いでかかって来い。俺が相手になってやる!!』

叫び声が、木霊となって辺りに響いた。だがメンバーは誰一人として気にする様子はない。まるで聞こえていなかったかのように。

しかし1人、遊格の隣でヘナヘナと腰を抜かす遊丸がいた。指しながら、その声の主に向かって驚きの声を上げる。

「き、キミは・・・・僕!?」

しかし声を無視し、眼中に姿を納める事無く、勝手に相手情報を閲覧し出した。表示されている電子板を指で軽く操作しながら、見た目、目つきなどで遊格は直感で対戦相手の中にいる強敵を探し出そうとしていた。その中で一人だけ、気になる情報があった。

子嵐高校3年、願橋刹那。その持ち前の素早さとモンスターの展開力から、周辺より「早切りの刹那」と呼ばれ恐れられているとの事だ。エースモンスターは「S・L(スピード・リベート) 光速のアンリミッター」と言うモンスターらしい。

詳しい内容や効果までは記されていなかったが、遊格は彼が放っているオーラに目を惹かれた。まるで強者を求め飢えた獣のような目をしている。彼からはデュエリストとは少し違う、純粋な血統魂が感じられた。

遊格の視線が更に濃くなる。期待に膨らんだ気持ちが、高ぶりを見せていた。

(来な、肉食獣。どんなに獲物を狩るのが早くても、強者相手に通用しねぇって事を思い知らせてやる)

一瞬だけだが、遊格の気迫が辺りを揺さぶった。

 

→→→

 

ほぼ同じ頃、子嵐のメンバーも仮想空間へのログインを果たした。志が怪しげな笑い声を響かせながら、普通のよりも一回り大型のD・ランチャーを構える。

「さぁ、始めましょう。プラットンデュエルがお遊びじゃないって事を、知らせてあげるわ」

グリップを握り締めると、デュエルフィールドが展開された。隠されていたモンスターゾーンが露となり、魔法、罠ゾーンの発動ボタンが点灯し出す。すると志のD・ランチャーは腕から外された。少し操作すると別のグリップが現れ、それを持つと別の場所からも取っ手が現れる。フィールドも多少変化し、上部分に長めのスコープが取り付けられた。

「クススス。今日の獲物は簡単そうですし、さっさと終わらせましょう。私の闘争本能が、敵を悲惨に撃てと騒いでいるわ」

明らかに危ない発言を全員が軽く無視し、立ち位置に付く。

デュエル開始まで残り一分。あちらとは違い子嵐高校は何回かは大会などに出場した経験もある。なので緊張などは見えず、平然とした格好で待っていた。

刹那も例外ではなく、リラックスした姿で軽く背伸びまで始める始末。雑魚相手にやる戦いなど、彼にとって退屈以外の何者でもない。何もかもが面倒くさいと思えていた。

(・・・・最近、面白いデュエルを行っていないな。俺が強いからか? それか周りがただ弱いだけか。どの道、刺激が足りない。俺が求める戦いとは程遠い・・・・)

肩をすくめようとした途端、謎の気迫が彼を襲った。

まるで心臓を抉るようなそれは、彼の思考さえも一時的に失わせる。

「・・・・っ!?」

ユラリと倒れかけるも、すぐに立ち直る。そして本能的に辺りを警戒する刹那。

(何だったんだ、さっきのは? 敵に、これ程の気迫を発せられる奴がいるとでも言うのか!? 馬鹿な! この俺が揺さぶられる程だぞ!!)

ギリリと歯軋りを鳴らしながら、敵情報を瞬時に確認しだした。しかしながらそのようなデュエリストなど何処にも見当たらない。唯一、享と言う男子生徒に目を向けたがコイツじゃないと一蹴。

残るメンバーも、女性2人に雑魚のような男子が1人。が、彼は雑魚のような男子、遊丸に目を付けた。資料用の写真からは何も感じられない。だが彼の中にある闘争本能が、まるで決定事項のごとく興味を示していた。

丸いと馬鹿にしていたら、痛い目に遭う。何故かそんな言葉が頭を過ぎる。

「面白い。どうも今回は、一筋縄じゃ行かなそうだな」

刹那は笑い出した。どうしようもなく可笑しく、かつ今までに経験した事の無いデュエルが待ち受けている。そんな気がしたからだ。

他のメンバーの1人、火野利が不審そうに声をかけてくる。

「あの、刹那サン?」

刹那は一瞥し、すぐに返した。

「・・・・いいや、何でもねぇよ」

それだけを言い、しかし裏では勝手に作戦を立てつつあった。彼は一度求めたモノに対しての執着心が根強い。なので教師からの命令であっても目的があれば無視をするし、そう言った部分が問題視されているが、本人は気にも止めていない。

なぜなら彼は、本物の決闘を望んでいるからだ。そのためなら、孤立しても構わないとも思っている。

(面白くなりそうだ。遊丸だったっけ? 俺の本能が、そいつを求めていやがる。最近は雑魚ばかりが相手だった。相手がとろいせいで、早切りなんぞの二つ名まで手に入れた。だが今回は早切りなんぞや役に立たねぇ。さて、あそこまで威圧を醸し出したんだ。どう出る、綺羅星遊丸!!)

彼の思惑が渦を巻く中、ついに開始のサイレンが響き渡った。

 

→→→

 

ビーッ! とサイレンが鳴った。その瞬間に、デュエルが開始された。

「みんな、準備は良いね!」

「はい、先輩!!」

「・・・・了解」

「う、うん!!」

それぞれが返事を返し、佐久絵を筆頭に各自が動き出した。

『それじゃ、子嵐高校VS七色学園のプラットンデュエル、バトル!』

辺帯の掛け声に便乗し、全員が叫ぶ。

「「「「バトルスタート!!」」」」-LP4000-×4

 

TURN1

 

Yumal

佐久絵たちが先行している間、遊丸は後方で待機を命じられた。だが遊丸は、敵との鉢合わせを恐れていたために、ビルの中に隠れる事とした。

とあるビルの目の前。そこに進入を果たそうと窓から身を乗り出す。

(僕の特技を取り込んで、絶対に敗北なんかさせない!)

そう思いながら辺りに注意を払い、小さな体を建物内へと進入させた。

着地したと同時、カチッと何かを踏んだ音がした。恐る恐る見てみると、そこには罠カードの姿が・・・・。

「・・・・え?」

突如、「建物の悲劇」と書かれたカードが発動した。直後にその場に閃光が迸り、消えた時には遊丸がその場で伸びていた。

「う・・・・うぅぅん」-LP4000→3500-

通信が入り、辺帯の声が耳に届く。

『あ、そう言えば罠の説明を忘れてた。戦場では油断大敵、野良の罠も仕掛けられているから気をつけるようにと言い忘れていたわ。まぁ、もう遅いし良いか』

笑いながらヘラヘラとする辺帯に、遊丸は最後の力を振り絞って、

「わ・・・・笑えま、せんよ・・・・」

ガクッと、その場で気を失った。

 

Sakue

「あーあ、やってしまったわね・・・・」

佐久絵は表通りを走りながら呆れていた。理由は言うまでも無く、遊丸の事だ。

ここでは、野良の罠カードが存在する。それは辺帯の説明で分かっている事。では一体どのような種類があるのか。佐久絵は遊丸に通信を入れ、気絶していると思われる遊丸に声を送った。

「良いかしら、ゆーる。聞こえていないと思うけど、説明だけは入れておくわ。野良の罠はいたるところに設置してあるわ。だから走っている時も気を緩めちゃダメ、待ち伏せしている時ももしかしたら罠が張ってあるかも知れないわ。油断して強襲でもしてみなさい。呆気無く失敗するから。ちなみにキミが踏んだ罠、建物の悲劇はモンスター1体を破壊して、プレイヤーに500ポイントのダメージを与える。モンスターがいなかったのは幸いだけど、衝撃で気を失ったようね。仕方ないわね、後で享に救出に向かわせるから、大人しくそこで待っていなさい。だって・・・・」

佐久絵は身を返し、近くにドアがあるにも関わらず窓からビルの内部へと侵入を果たした。窓枠近くに罠が張ってあったが、飛び越える事でそれを回避。そして反対側の窓へ近づくと、そこだけガラスがあったので蹴り破った。

その奥には、敵チームの一人が驚いた表情をしなら足を止めている場面に丁度直面した。佐久絵はすぐさまDランチャーを展開しデッキからカードを5枚ドローすると、デュエルモードへと移行する。

「強襲フェイズ! このフェイズでは手札に通常召喚可能なモンスターが存在すれば、召喚してバトルを行う!! 私は手札からレベル3のモンスター、ウィング・エンジェルを召喚!」―ATK1000・☆3-

折りたたまれている大きな翼が広がり、威風堂々とした姿が瞳に映る。相手は慌ててDランチャーを展開するも時既に遅し。翼から発せられた衝撃波によって、相手は体制を揺らがせる。

「クッ・・・・」-LP4000→3000-

相手は金髪を揺らし、その柔らかそうな瞳を動かして襲撃者を確認する。すると以外そうな声を上げ、Dランチャーを構えた。

「Oh、まさか相手リーダーのお出ましとはネ。しかもまさか裏路地にいる私に気が付くとハ、恐れ入ったYo」

軽い口調ともどかしい日本語。情報を閲覧した時に確認していた佐久絵は、彼が何者なのか把握していた。

「そうやって動いて来たからよ、ネガイブ・ガルロード。あえて表通りを走る事によって、想定もしていなかった動きに翻弄されるでしょ? だから例えスナイパーがいると分かっていても、そこに屈さずに堂々と来た訳よ。まぁ、スナイパーに狙われる危険性が一番だったからヒヤヒヤしていたけどね」

バサッと髪を手櫛で除けながら、余裕の表情を見せる。ネガイブはなるべく彼女と距離を置き、デッキからカードを5枚ドローした。

「へぇ、これはトリッキーと言うべきだネ。まさか誰もがやらないだろうと思う事を裏手に取るとは、だけど忘れていないヨネ? プラットンデュエルでは、相手リーダーが倒された時点で敗北が決定すル。さっさとYuを倒して私が勝利を掴むヨ!!」

気合十分の態度。佐久絵は微笑み、Dランチャーにカードを差し込んだ。

「寝言は寝てから言いなさい! 私は皆の思いを背負ってここにいるのよ、易々と負けてられるものですか!! 私はカードを2枚伏せてターンエンド!」

2枚のカードが佐久絵の左右に浮かび上がった。そしてターンは、ネガイブへと移る。ネガイブはカードを引き、手札に加える。

「私のターン! 私はスラッシュ・アタッカーを攻撃表示で召喚!!」―ATK1900・☆4-

細い斧状の武器を背負った若者が現れる。どこかアメリカンな雰囲気を漂わせる姿は、彼の祖国そのものを現しているようにも思えた。

「スラッシュデッキ。アメリカで最も流行あるデッキと聞いた事があるわ。そしてその初代使い手、ネガイブ・ガルロード。キミは優秀なデュエリストとしてアメリカの国際デュエル機関、アイディアル・パトリオットから絶大なデュエル賞を授かり、その名を世界に轟かした男ね。でもどうしてそんな男が、日本に留学しに来たのか知りたいわね」

「別ニ。ただ面白そうだったから来ただけだYo。アメリカとは違う戦いに興味を持っただケ。同じ先進デュエル国として、どれだけ立ち向かえるカ、限界を見たかっただけだYo」

ニッカーっと純粋な笑顔を振舞わせ、ネガイブはふんぞり返る。

「私は確かに世界に名を轟かせた! だけドそれだけの価値でしかナイ! 自分の足で歩き、走り、見つけ出してコソ意味がある! そう教えてくれた恩師がいる。だから私はそれに従うまで、確実に行き着く先が答えダト信じて、私はfightするのデス!!」

佐久絵はただポカンとしていたが、とりあえず意気込みの有り無しだけはしっかりと伝わった。彼の原動力が何なのかは関係なく、ネガイブのやる気が十分である。ただそれだけで、彼女は楽しくて仕方が無かった。

強者とのデュエルを望む、それは彼女だって同じ。しかしそれ以上に、遊丸にはそう言った人とデュエルをやらせたいと思っていたからだ。

彼らの熱き闘志を肌で感じさせたい。それは率直に思った事だった。

(けど、まずその本人を救出させないと元も子も無いわね。やばくなったらエスケープしてでも、助けに行かないと!!)

Dランチャーを構え、受けて経つ姿勢を大いに表した。

「そう、ならば来なさい。けど簡単には倒せないわよ。私のデュエルの恐ろしさを、真髄の奥まで味合わせてやるわ!!」

それを聞き、ニッとネガイブは楽しげに笑い出した。

 




そんな訳で、第2章が始まりました!
先の成り行きが不安で敷き詰まる中、一体どうやって完結させようと思ってしまう始末。と言うよりもここ数週間、文字が思うように書けないと言った現実が・・・・。
それでも、完結目指して頑張ります! 次回は気まぐれで投稿します。
それでは、これで俺のターンは終了だ!!

誤字脱字がございましたら指摘をお願いします。


目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。