さあ!始まらない! (まだはげ)
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さあ!始まらない!

グラン君はストーリー人物を知ってる場合と知らない場合がありますのでご注意を。
あと原作と違う設定が若干あります。けど大体同じなので大丈夫です。


☆月→日

3歳になり、この世界の文字も段々書けるようになってきたので今日から日記をつけることにする。

まずは前世の事から書こうと思う、忘れちゃ困るしね。俺は前の世界でトラックに轢かれて死んでしまった、なんかもうそりゃあっけなくですよ。どうせなら美少女とか助けて死にたかった。で、自分の頭やら口から出てくる血を見ながらあぁ...死ぬんだなぁ...て思って目を閉じたら

 

転 生 し た

 

まるで意味がわからんぞ!?なにが起こったのか分からない俺は、俺の母親らしき人に持ち上げられたり、おばあさんにたらい回しにされながらその小さな体で泣いていた。

 

☆月€日

この世界に転生して3年。気になっている事がある。この世界はどこかおかしい、物理法則とかその他もろもろがおかしい。俺の家にいる母さんは手から火を出せるし、たまに村にやって来る騎空士とか名乗るやつらは自分よりも重そうな岩を砕いたりする。極め付けはこの島だ、なんとこの島空に浮いているのだ。明らかにおかしいと思いながらもこの世界にとっては普通だ。というか心当たりがある。

 

これ、グランブルーファンタジーの世界じゃね?えっヤバくね。

 

+月○日

俺はこの世界がグランブルーファンタジーだと気付いた日から魔法と剣の修行を始めた。

というか俺グラン君じゃん!?なんで気づかなかったし!?鏡とか見てこの世界の俺はイケメンになるなーとか言ってる場合じゃ無かった。

このグランブルーファンタジー、略してグラブルと前世では呼ばれていたこの世界では主人公が存在する。何を隠そうこの俺がグラン君なんだけど。そしてそのグラン君は物語の序盤でヒュドラという魔物に殺されてしまうのだ。これはまずい。誰かに戦闘の技術を教えてもらわないと15歳で死ぬ。

 

そう思ったのだけどもこのグラン君ボディはコミュ症だった。口が動きません、隊長!こうして戦闘の修行をしようにも師匠がいない俺は一人で剣を振り回していた。

そうして何日か経った後、いつものように剣を馬鹿みたいに振り回していると、いつの間にか俺の背後に人が立っていた。そしてその人が次の日から修行をつけてくれるらしい、やったね!タエちゃん、師匠ができたよ!いや、本当に魔法は独学じゃ無理だったんでありがたい。俺が風の魔法を成功させた時に、冷や汗を垂らしながら流石あの人の息子だね...と言っていたのが少し気になる。

 

そして驚き、俺の師匠は近所に住む婆さんだ。うん、もう一度言おう。婆さんだ。

 

いやなんでだよ!?

 

確かにこの人強いんだけどさあ...あとたまにレスラーとか歌舞伎の衣装とかを着せようとするのはやめて欲しい

 

#月・日

久しぶりに日記を書く、あの婆さんに修行をしてもらってから長い時間が経った。

あれから10年、俺も今では13歳だ、その間いろいろな事があった。

森の洞穴で一ヶ月暮らしてこいと放り出されたり、その洞穴でビィ君とあったり、それから帰ってきたら母さんが父親と一緒に旅に出たとか言われて愕然として次の日からのご飯の事を考えたり、師匠に殺されかけたり、素振りしていたら剣が3つに増えて驚いたり....思い出したくない事ばっかだった....

楽しい事を思い出そう、そうそうついに師匠に勝つ事ができた。あの婆さん頭可笑しい。なんであんなアクロバティックな動きができるんだよ、クラス4とかなんとか言ってたけどあの人の存在が可笑しいわ。そして俺も婆さんを倒した事でジョブチェンジが出来るようになったらしいです、けれども婆さん曰くお前はジョブなんかつけなくてもいいそうだ。というか原作グラン君はあの婆さんを独学で倒してたのかよ。凄すぎワロタ。というかそれを倒すヒュドラ強すぎワロエナイ。うそっ...私の戦闘力低すぎ...

 

=月☆日

今年で15歳になった、死んでしまう歳だ。南無。原作グラン君が勝てなかった敵に勝てるわけがない...もうだめだ...おしまいだ...逃げるんだ...

そうは言っても問屋はおろしてくれないのでして、とうとう帝国の戦艦がやってきた。すごく...大きいです...

 

=月:日

戦艦がやってきた日から3日が経った、結果から言うと俺は助かった。

その日は俺はいつものように魔物を倒し、もとい食いに行こうと森に行ったら急に空が暗くなった。

そして空を見たら戦艦ですよ、思わず立ち止まってたら目の前に水色の髪の毛をした女の子が転がり込んできた。その後ろには帝国の軍人さん。あれ?これもしかしなくても原作始まっちゃった?

軍人さんをサクッと倒してとりあえずルリアちゃんらしき人を助けると、すっごい美人さんが現れた。自己紹介してもらうとやはりキャタリナさんだった。やべえ、惚れてまう。すっごいいい匂いする。

キャタリナさんはこのルリアちゃんを助けるために軍を抜けてきて今この島で逃走中らしい。

そんな事を話していると目の前に軍人さんがまた現れた、この人はポンメルンさんかな?かな?じゃねぇ!?逃げなきゃヤバイ!!ヒュドラ出されたら死ぬぅ!ヒュドラ出されたぁ!首切ったぁ!終わり!

えっ?だったよ。なんか体が動いてた。あの時ほど師匠に感謝した事はないね、うん。けど俺の外道な奇襲攻撃に一同ドン引き。キャタリナさん、そんな目で俺を見ないで。

その後はポンメルンさんが今日は見逃してやるですネェ!て言って帰ってくれた、ありがとう。おかげで命が助かった。2体目出されたらどうしようもなかった。後にその事をキャタリナさんに久々に動いた口で言ったら冗談はよしてくれ、と言って笑われてしまったけど。解せぬ。

で、ルリアちゃん達なんだけども帝国から逃げなくちゃマズイらしいから旅をする事にした。というか旅を今してる。助けた後にルリアちゃんから一緒に旅をしませんか?って言われて全力で首を前に傾けた。前世で美少女助けて死にたいって言ってたしね。よーしいっちょルリアちゃんの為に頑張っちゃうぞー




ジョブチェンジ→原作でもグラン君しか使えない、ただしクラス4は婆さんを倒さないと変更できない。この小説のグラン君はクラス4です。
婆さん→謎の婆さん。昔グラン君のお父さんと冒険してたらしい。原作でもその無駄に洗練された動きと担当声優くじらさんの気合たっぷりなボイス、「老婆が唐突にウェポンバーストを発動しチャージターンMAX!」等のシュールなメッセージは必見。ちなみに結構強いので注意(wikiより)
ヒュドラ→原作でグラン君を唯一殺した相手。お父さんはルリアが居なかったらどうするつもりだったんだ...
グラン→これの主人公。ゲームと違い、色々いじり過ぎたせいで話がおかしくなっている。グラブルは初めてラカムさんと出会った頃までしかやっていない。ちなみにゲームで女の子を選ぶとジータという女の子になる。
グランとジータは全空で一番多い名前らしい。

こんな感じで下に用語を書いていきます。


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ポート・ブリーズにて

前話の出来事
平和な世界で暮らしていた一人の男性は女性を庇うことも無く、普通にトラックに轢かれグランブルーファンタジーの世界に転生した。転生したのはこのゲームの主人公であるグラン君。そのためなのか身体能力、魔力共に化け物の域へと成長した彼は、原作でメインヒロインであった少女『ルリア』。その少女を守る騎士『カタリナ』を助ける。原作とは違い最初の戦闘では死ななかった彼は、前世では女の子を助けて死ねなかった後悔から今度こそ女の子を助けようと空の旅へと旅立つ。


°月×日

あの俺の死亡イベント回避の日から5日後、俺らは空を旅してポート・ブリーズ島に不時着した。そう、不時着した。危なかった...キャタリナさんがあんなに運転ができないなんて知らなかった。

咄嗟の判断で俺の飛翔術を使って二人を抱いて逃げてしまったけど体に触ったから怒ってないよね?キャタリナさーん、目が怖いデスヨー。何をブツブツ俺を見て言ってるのですか、セクハラで訴えられてしまうのだろうか...そんな事を考えてると顎髭を生やしたダンディなお兄さんが此方にやってきた。

お兄さん曰く、なんでこんなに運転しやすい島で騎空艇が墜ちるんだ、お前らは騎空士やってんのなぜまともな操縦士がいないんだ、船が可哀想だ、この街はいい操縦士がいるから探していけ、だそうだ。あらやだイケメン、ご親切にアドバイスをくれた。

その後お互いに自己紹介をするとラカムというらしい、この人がラカムか。原作メンバーの一人じゃん。というかここでゲーム辞めちゃったからここまでしか知らないんだけどね。こんな風に転生するんだったらもうちょっとやっとけばよかった....

俺らはその後、街の方向を教えてもらい街に向かった。何から何まで親切だったなぁ。

 

°月〆日

とりあえず昨日、ラカムさんに言われたように俺たちは騎空士に必要不可欠な操縦士さんを、キャタリナさん達と別々に探した。また墜落したら困るしね。

俺はキャタリナさん達と別れた後に、酒場に情報収集しに行ったんだ。で、気付いた。俺ってばコミュ障じゃん!?何でキャタリナさん達と別れてんの!?そして俺は情報収集しようにもできず一人で酒をちびちび飲んでいた。

そしたらさぁ、目の前に迷子の子供がうろついてたんだよ。で、みんな酒場に子供が一人でうろついてるのに気にもしないで通りすぎたりしてるから不思議と思いながらも危ないからその子供を庇護した。

座らせてるだけだと可哀想に感じて、ほらこれ食べなー、とかこれ飲みなーとかやりまくってると、凄い嬉しそうに食べたりするからおじいちゃん達の気持ちがわかってしまった。何これすごいかわいい。

子供曰く、操縦士さんはみんな出払ってて今このポート・ブリーズ島には居ないそうだ。なんで俺の言いたい事がわかったんだって俺がそういう目をしていたのか、これでも全空一の商人ですから〜、と、言われてしまった。商人ごっこでもやってるのかな〜、可愛いな〜と微笑ましく思っていると、私、この後用があるのでそれでは〜、と言って行ってしまった。帰り際にアガント高原にラカムという腕が良い操縦士がいるから尋ねてみては〜、とも言われた。ラカムさん、あんた操縦士だったのか。

その後、キャタリナさん達と待ち合わせ場所で合流するとさっきの子供と一緒に話していた。胡乱げな目で見ていると、キャタリナさん曰くハーヴィン族の商人、シェロカルテさんだそうだ。ハーヴィン族は背は小さい為子供に見えるがこの人はちゃんとした大人らしい。まじかよ。頭とか撫でちまったよ。セクハラまたしちまったよ。そろそろ捕まるんじゃね。

そして、シェロカルテさんはさっき俺にしたのと同じ説明をして、ラカムさんに会ってみないか?という事を話していた。

是非ともラカムさんには入って貰いたいなあ。親切心溢れる兄さんとか前世で欲しかった。

 

°月=日

昨日シェロカルテさんにオススメされた通り、今日はラカムさんを探しにアガント高原に来ました、パチパチ〜。アガント高原で俺たちが最初に見たのは騎空艇だった。いやすっごいね!騎空艇ってあんなにデカイと思わなかった。帝国の軍艦に負けてないんじゃないかな。

そんな事を思いながらラカムさんを探していると、帝国の軍人さん達を見つけてしまった。とりあえず、此方は追われてる身だから隠れていると、物騒な話が聞こえてきてしまった。

この島は帝国に服従しない。帝国に服従しないから島を壊す、子供かな?って思ってると言ってるの子供だった。子供が指揮とってんのかよ、帝国は。

そうして内心呆れてるとキャタリナさんが、ふざけるな!と言って特攻してしまった。おおい!?キャタリナさん!?キャタリナさんが特攻してしまったので俺も特攻せざるを得なくなってしまった。

俺も一緒に帝国の軍人さん達を倒してると、なんかおっぱいデカイ人と剣で戦う事になってしまった。剣で戦ってるとおっぱいについつい目がいって集中できない。手加減してるのか、と怒られてしまったけどしてません。あなたのおっぱいを見てるだけです。さーせん。

その後、途中から合流してきたケモミミの人がおっぱいの人に魔法をかけたのか、すっごい速度が速くなった。えっちょ、キャタリナさん見てないで助けてくださいよ、ブツブツ何言ってんすか。そうして俺は思わず魔法も使っちゃったよ。なんか冷めた目で見られたけど。ごめんね、剣の勝負なのに魔法使って。ここは撤退するぞって言って帰っちゃったよ。

その後騒ぎを聞きつけたラカムさんが、俺の隠れ家に来いって言ってくれたので遠慮なくお邪魔する事にした。

 

°月:日

ラカムさんの隠れ家に退避した後に、俺たちはラカムさんを騎空士の操縦士として勧誘した。

結果をいうとNO。なんでも、ラカムさん曰く空がラカムさんを捨てたそうだ。

ラカムさんは外にある、あの騎空艇に小さい頃から惚れていて昔からあの船に乗るんだと操舵技術を磨いたり、修理したりしてたんだそうだ。また空に飛ばせてやろうって。何このイケメン。ポート・ブリーズ島は島の守り神、ティアマトのおかげで年中良い風が吹き、ラカムさんは凄腕の操縦士。墜ちる事は万に一つも無いって時に

 

墜ちた

 

ラカムさんが抱いていた想いも何もかもと一緒に。

だからラカムさんはもう操縦士をやる事は無いし、一緒に旅もしないんだそうだ。ヤベェ、これは誘えねえ。想像以上に重たいんですが。これからの旅どうしよう。

 

°月$日

山みたいな蛇と戦った。何言ってるか自分でもわからん。

ラカムさんの話を聞いた後、俺たちは街に戻ろうと外に出ようとした。軍人さん達の話では島が危ないらしいからね、街のみんなに知らせないと。

そして外に出たらびゅうびゅうの嵐ですよ。えっやばくね、ラカムさんが言う事にはこんな風ポート・ブリーズでは吹いたことが無いらしい。えっ、もっとやばくね。とりあえず街のみんなを避難させようと騎空艇で逃げようと思ったら帝国の軍艦に撃ち落とされてるし、というかラカムさんカッケェ、撃ち落とされた騎空艇からケモミミ少女助けちゃったよ。やっぱりあの人と旅したいなぁ...と思いながらも俺も飛翔術でナチュラルに女の子達にセクハラしながらみんなを救出。みんな口開けてないで手伝ってよ、いやマジで。

そんな事をしてると帝国の軍艦からあの子供の声が聞こえた。子供曰くこの島の守り神ティアマトを暴走させるようにしたから、こんなに嵐が吹いているらしいです。なんでもほっといたら島ごと空の下に落っこちるとか。いやほんと馬鹿じゃねえの!?何やってくれてんの!?

この暴走を止めるにはティアマトを殴って止めるしかないってウソン、えー本当でござるかぁ...まじかぁ....

いや、けど神様の場所なんて分からないからやばくね、って思ってたらルリアちゃんが上に居るって突然言い始めた。なんでもルリアちゃんにはそういう神様を従える力があるらしい、それで帝国から追われてたとか。そうだったんだぁ。へぇ、なんも知らんかった。

とりあえずこの嵐を止める方法が出来たからさあ行こうってなったけど、忘れてた。操縦士いねえよ、この島。いやまあ後ろにラカムさんが居るけどさぁ...あんな話聞いた後に操縦してくれとか普通言えないって。あっコミュ障だから元から言えないや、ちくせう。だけどもそのとき、グラン君ボディは無言でラカム君に手を差し出した。ラカムさん戸惑ってます。当たり前だよなぁ!?無言で手を差し出されても何?って感じだわ。でもなんやかんやでティアマトに居るところに連れて行ってくれるそう。まじか。

で、着きました。ティアマトの居るところに。でっか!!!?何あれでっか!!!??嘘やん、今この乗ってる騎空艇よりもデカイんですけど。ルリアちゃんが少し弱らせて下さい、そうしたら力を吸収できる、言うけど無理ー!あんなん無理ー!!なんか撃ってきたああぁ!!?ファランクスIII!!

とりあえず防げたけどどうやって倒せば良いか分からん、そう思ってたんだけど剣に魔法載せてエクスカリバーもどき一発撃ったら終わった。あるぇ〜?ルリアちゃん弱ってなくても力を吸収できたやん、俺必要ないやん。ルリアちゃんは俺のおかげ言ってるけど全部ルリアちゃんの力じゃね?

その後はなんやかんやあってラカムさんがティアマトにいつも島を守ってくれている礼と感謝をして嵐は止んだ。

嵐が止んだ空めっちゃ綺麗でした。こういう空の事を騎空士達は「遥かな空」、グランブルーというらしい。なるほど確かに原作の名前になるほどの綺麗な空だと思った。

 

♪月$日

そうして俺らはポート・ブリーズに帰ってきた。街のみんなが感謝の言葉を言ってくれるけど素直に受け取れないぞ。俺何にもしてないし、ルリアちゃんが居ればよかったんじゃねって思ってるし。

けどまあそんな事は街の人達は知らないわけで、シェロカルテさんを経由して大宴会を開いてくれた。この酒場はシェロカルテさんの物だったらしい。すげえ。

ところで大ニュース。ラカムさんが俺たちの操縦士になってくれる事になった。てっきりこの島に残るかと思っていたからビックリした。ラカムさん曰く、ティアマトもこの島もなんとかやるだろうし、此処は帰ってくる場所である。そして操縦士はやっぱり空を飛ばないと!らしい。なんだこのイケメン。トラウマ乗り越えちゃったよ。

そして宴会の時間は流れていき、ラカムさんから質問が来た。団長は誰なんだと。えっ?キャタリナさんじゃないの?と思ったのだけどもキャタリナさんは俺が団長だと思っていたらしい。そうこうしているうちに俺が団長をやる事に。このコミュ障ボディは何にも口を開いてくれなかったよ....

何はともあれ、無事に操縦士も仲間に入りました。

 

^月:日

さあポート・ブリーズから飛び立つぞ、というけども次の島を決めてなかった。なんじゃそりゃ。けれどもそこでシェロカルテさん登場。なんでも騎空士にちょうど頼みたい事があってバルツ公国に向かって欲しいのだとか。

ラカムさんも騎空艇(グランサイファーというらしい)の整備のために丁度いいと言っていた。バルツ公国は工業が盛んで有名なのだと。

次の目的地が決まり旅立とうした時、騎空艇の下から声が聞こえた。みんながラカムさんが空に還る時を見たかったんだそうだ。ラカムさん人望ありすぎぃ!みんなラカムさんの事応援してたんだろうなぁ...泣かせる...

そうこうしている内に出発。ラカムさんが操る騎空艇は特に墜ちることもなく平和に進んでいった。




飛翔術→グラブルの世界では天才しか扱えないそう、もしくは生涯をそれに費やすか。
帝国の子供→フュリアス、言動が子供すぎてハーヴィンだと見抜けなかったグラン君
おっぱいさん、ケモミミの人→スツルム殿とドランクさん。いいよねこの二人。
エクスカリバーもどき→そのままの意味、6属性全部混ぜてぶっぱするだけ、ティアマトも吹っ飛ぶ、すごい(小並感)
ケモミミ少女→サイコミ見ればわかる、あの子プレイアブルにして欲しい
6属性→風水土火光闇の6属性。グラブルの世界だと一人につき1属性が基本だとか、二つとか持ってるとレア。その割には水着とかになると属性が変わる。グラン君は全部持ってます。原作通りです。
ファランクスIII→相手からの攻撃を70%カットして弱体耐性も上げる技。75%にしてくれ。ティアマトの攻撃の30%はラカムの操縦技術でカット


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カタリナ目線

きっと私のしている事を見て、馬鹿だと罵る奴も居るだろう。こんな事をしても成功するなんて思わない。しかし、見捨てるなんて事は出来なかった。

 

「ここから、逃げ出さないか?」

 

今思うとあれが運命の分かれ道の一つだったんだろう。この事に、私は後悔をしない。この私が助けようとした少女の髪のような、どこまでも続く青い空に誓うーー

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「...くっ、ルリア!逃げろ!遠くまで逃げろ!」

 

あの時の私の選択によってルリアは外に出られた。しかし余りにも敵は強大だった。私達を追いかけてくる帝国兵は無尽蔵に湧いてきて、体力のみがどんどんと減っていく。

 

(せめてルリア...君だけでも逃げてくれ...!)

 

あの時の選択は間違いでは無かった。ただ余りにも無謀すぎた。そんな時だった。彼に会ったのは。

 

 

(.....っルリア!)

 

何とかして帝国からの追手をまく事に成功した私は、ルリアの事を探して見つけた。たがそこには見知らぬ少年も立っていた。敵かと思い、ルリアの前に立ち、少年を観察する。

 

その少年はまるで無機質な機械のようだとカタリナは感じた。何ものにも動じず、感じない。そんな瞳を持っていた。そしてその少年の近くには帝国兵が転がっていた。

 

「...君がやったのか?」

 

無言で頷く、信じられない事にこの少年は帝国兵を倒してしまったらしい。

 

(驚いたな....)

 

帝国といえば、このファータ・グランデ空域で一番大きく、強大な国家。そんなことは子供でも知っている。そしてそこで訓練されている兵士が弱いわけも無く、こんな辺境の島にいる子供が倒せるはずが無かった。

 

「私の名前はカタリナ・アリゼという。君がルリアを守ってくれた事を本当に感謝する。ありがとう」

 

私が自己紹介をすると彼は小さいながらも、よく通る声で「グラン」と私に言った。

 

互いの自己紹介が終わり、私はこの少年に今の自分達の状況を伝えた。彼を危ない目に遭わせてしまった責任があり、説明をしなければいけないと思ったからだ。また、事情を詳しく話せば、帝国兵を倒す程の腕前を持つ彼が、こちらの仲間になってくれるかも知れないという薄汚い算段もあった。

 

(私は一体こんな子供に何をしているのだろうな...!)

 

こんな事を考える自分に腹が立つ。腕が立つだけのまだ年端もいかない少年を、大人達の汚い世界に放り込もうとしている。

しかしあの空に誓った通り、私は自分のしている事に逃げる訳にはいかなかった。

 

グランに状況を説明し終えると、まるで図っていたかのようなタイミングで帝国の軍人が現れた。

 

(ポンメルン大尉...いや、ポンメルンか...厄介だな)

 

ルリアを苦しめていた元凶。彼は魔晶という新たな帝国の兵器を持ってきたと自慢げに語っていた。それを使えば魔物を操る事も可能らしい。

 

「おやおや...カタリナ中尉ではありませんか...その後ろには青い髪の少女、それとガキ一匹ですか...まさか逃げられるとは思いませんでしたネェ。偉大なる帝国に刃向かおうとはいい度胸ですネェ!星晶獣を操るにはその少女は不可欠ですからネェ、返してもらいますよぉ!」

 

そう言うとポンメルンの身体から怪しい瘴気が溢れでた。そしてあたりが光に包まれた後、7本の首を持つ魔物が現れた。ヒュドラだ。こんなもののためにルリアを苦しめていたのか、帝国は。そう思うと許せなかった。

 

「クックック、素晴らしいですネェこの力!まずはそこのガキからですネェ!!」

 

そう言ってポンメルンはヒュドラにグランを襲うように指示を出した。

ヒュドラは龍の魔物の一種であり、七本の首を持ちその全てが自立して正確無比に相手を襲う魔物であった。こんな所に居ていい魔物の強さでは無い。

 

だが、そのヒュドラが動く事は無かった。

 

「...ハッ?」

 

首が、切られていた。あれだけの強大な魔物がただの置物と化していた。

 

「なアアぁ!?バッ馬鹿な!?ヒュドラが一撃でやられてしまっただとぉ!?」

 

唖然としてみているしかなかった、視認できない速度で戦闘が行われたのだ。無理がなかった。

 

彼はあの一瞬でヒュドラの首を全て切り落としたのだ。

 

下手をすれば全空の脅威、十天衆にも届き得る力。いや、もしかしたらそれすらも超えているかもしれない力。そんな力をどこで手に入れたのか、どのようにして手に入れたのか。何もかもが不明だった

 

(グラン...君は一体...)

 

 

 

 

 

その後、ポンメルンは撤退をしていった。ポンメルン自身は戦闘ができるタイプでも無く、事務仕事の方で階級を上げたタイプなのでヒュドラ以外、戦闘の手段が無かったのだろう。

 

あの戦闘と呼んでいいのか分からない戦闘が終わったあと、私達はグランを旅に誘った。ポンメルンに顔を見られてしまった以上、この少年も帝国に指名手配されてしまうだろうからだ。

 

(意図してやった事とはいえ心が痛むな...)

 

そんな私の心情を知って知らずか彼は私の提案に乗ってくれた。全力で首を傾けてくれた。まるで全然気にしてないと言うように、寧ろ自分から付いていきたいというかのように。

 

(優しいんだな、君は...)

 

少し、許されたような気になった。そして同時に思った。この少年も絶対に守り抜こうと。戦闘では敵わないかも知れないが他の部分で支えてあげようと。

そうして私たちの旅は始まった。この青い空をどこまでも駆け抜けていく長い旅が。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えっ?ヒュドラをもう一体出されたら危なかっただと?何を言ってるんだ君は」

 

冗談は下手なようだ

 

 

 




ファータ・グランデ空域→今の空域、アプデで最近新しい空域ができた。
カタリナ・アリゼ→カタリナさんの本名。かっこいい。
魔晶→ルリアの力を利用して星晶獣の力を操れるようにした物、使いすぎると精神が壊れるらしい。
星晶獣→それぞれの島にいる守り神みたいな感じのイメージ、これによって島の特産などが違う。
十天衆→その名の通り十人で構成され、一人で国を滅ぼすほどの力をもつ騎空団。実際化け物。私はFateのアーチャーが好きなんでシエテ(中の人が同じ)取りました。ちなみにゲーム内で取るには死ぬほど長い時間と素材を必要とする。
倒れていた帝国兵→死んでないから安心してください


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バルツ公国にて

前島の出来事
グラン達の中には騎空挺の操縦士が居なかったため、ポート・ブリーズという島へと落下してしまう。 そこで出会った『ラカム』という操縦士を仲間に入れたいグラン達はどうすれば仲間になってくれるのかを考えていた。ラカムには空のトラウマがあり簡単には仲間にはならない理由があった。しかし、そこへ島の星晶獣を狙った帝国からの魔の手が迫る。ポート・ブリーズを守りたい一心でラカムは空へのトラウマを乗り越えた。そしてラカムは帝国を退ける協力をしたグランに恩返しをする為に仲間になる事を決意したのであった。


/月〆日

来たぜ!バルツ公国!やはり新しい島に来ると興奮する。なんか冒険が俺を呼んでいる気がしない?えっ呼んでない?そうですか...

話を戻して、暑いねこの島。なんでもキャタリナさん曰くこの島の中央には火山があってそのおかげで何時も暑いんだとか。溶岩とかどこに行ってんのって?この島の下に行って鍾乳洞として固まるらしい。

そして、この島の人達はその溶岩の鉱石とかを利用して船や武器などの商売をしている。今回俺達がこの島にやってきた理由の一つだね。俺らの船の修復をしなければ。この島についてからラカムさんのテンションが上がりすぎてキャラ崩壊している。ポート・ブリーズでの幼女を助けたかっこいい姿はどこかに行ってしまった。あんたそんなにグランサイファーが大事ですか...

 

で、もう一つのこの島にやってきた理由。シェロカルテさんに頼まれた依頼、この島、バルツ公国で人探しをしなくてはならない。そうしなければ俺たちの路銀が稼げないのだ。働かざるもの食うべからずだよ。実際問題、今日泊まる宿代ですら怪しい。

しかしここで俺達はある事に気づいた。

 

あれ?誰もシェロカルテさんから依頼の話聞いてこなかったけど、俺達一体誰を探すのん?

 

/月○日

危ねえ、本当に危なかったよ。あの後誰を探すのか分からなかった俺たちは、とりあえず船の修復に必要な部品を探す事にした。要するに誰を探すのか分からないから先延ばしにした。いや、まあ?詳しい事話さなかったシェロカルテさんも悪いと思うし?この団の誰も聞こうとしなかったんだから俺の責任でもないし?あっ、俺団長だからそういう事聞くべきでしたか...すいませんでした...調子乗ってました...

そんな事を思いながら一人で落ち込んでいると俺たちの目の前にシェロカルテさんが現れた。何故ここにいるし。商人は何処にでもいて何処にでもいないものとかいうけど明らかに時空を超えてきてますよ。

とりあえずシェロカルテさんが依頼主さんを紹介してくれる事になったので後を追いかけて行く。あの、どんどん路地裏に入っていくような気がするんですけど大丈夫なんですかね....

そうして歩く事大体10分。俺たちはなんだか怪しそうなバーについた。シェロカルテさん曰く、この依頼は極秘任務だからこういう誰も居ないところで話すんだそうだ。大丈夫じゃなかった、大問題だ。どこのどいつだよ、初めての依頼が極秘任務とか。チャレンジャーすぎだろ。俺だよバカ。

ここまで来たからにはしょうがない。腹をくくって入ってみると中にはガタイのいい男性が一人。この男性はバルツ公国の特務官であり、秘密諜報官でもあるそうだ。やべえ、お偉いさんだ。どんなどえらいことをお願いされんだかオラワクワクすっぞ(白目)

そうして軽く現実逃避している間に任務の内容をこの男性から語ってくれた。

 

バルツ公国の大公様がいなくなった。この国のトップが居ないので仕事が回らず、大公様の反対勢力も抑えきれなくなってきている。この任務はもう聞いたとは思うが極秘任務だ。この事を聞いてしまったんだからもちろん手伝ってくれるよね?断ったらどうなるかはわかるよね?

 

だ、そうだ。ふぁっ○ゅー(真顔)

 

/月°日

俺らの初依頼はバルツの大公様を無事に連れ戻してこいとの極秘任務でした、まる

フザケンナ、いやマジでフザケンナ。どこのどいつだよそんなやばそうな依頼引き受けたの!?俺だよ?何してんの!?もう二度と依頼の内容を聞かずに引き受けるのは無しにしようと心に誓った...

過ぎたものはしょうがないとばかりにみんなが一生懸命に街の人に大公様を見なかったかを聞いている。ありがとうございます。

えっ、俺?喋れないから待機だよ。マジ役立たずニート。ワロエナイ。働かざるもの食うべからずって昨日の日記には書いたけど、これ俺の飯無いんじゃないかな...?

そんな事を思いながら今日の飯の心配をしていると、ふと後ろの建物の角から見られている気配を感じた。

俺があんまりにも暇そうだから働けってルリアちゃんが急かしに悪戯しに来たのかな?悪戯に引っかかるのも悪くないけど....ねぇ?美少女が驚く姿って見たくない?

そう考えた俺は何も気づかないふりをして市場に向かって歩き出す。そうすると面白いぐらいにルリアちゃんの気配が付いてくる。そして俺は建物の角を曲がったふりをして、飛翔術で宙に浮かび、ルリアちゃんから俺の姿を見失わさせて逆に上から驚かした。

おおー!いい悲鳴です。口をポカーンと開けて、バルツに着いたからか少し肌が褐色に焼け...てい...て、髪が金....色....?だと....!

 

うん、誰?

 

/月*日

何処かの誰だかもわからない金髪美少女を大人気なく空中から騙しうちで脅かしました。

犯罪者だコレ。今回ばかりはマジであかん。逃げねば。

そう思い、空に逃げようとしたが団の皆がこの美少女の悲鳴を聞きつけぞろぞろと集まってきてしまった。

いや、あの、これは...その...違うんです。ただ少し美少女の驚いた顔がみたかっただけなんです。ただ美少女の対象が少し違った、違っただけなんです。

ヤバイぞこれは、人生最大の危機だ。美少女襲って牢屋にぶち込まれるとか人生終わったようなもんじゃねえか。

しかし、俺が危惧していたような事は起きず、まさかの展開で、美少女は俺たちに向かって襲ってきた。あの人を何処にやったって叫んでるけどあの人って誰ですか。というかちっこいのに魔法が強くて笑えない。何この子?天才?

とりあえず襲ってきたからね、正当防衛だからね。仕方ないね?俺、これを武器に全力で牢屋に入れられるの誤魔化すよ?

まあ、なんやかんやで沈静化完了。子供相手に剣使うのとかちょっと危なすぎるんで魔法で麻痺らせました。狩猟する時にやたら便利だったこの魔法は、婆さんが初めて見た時に無言で蹴りを入れられた。なんでや。

そして麻痺で体が動かないであろう美少女に団の皆が自己紹介。美少女の口だけは動くようにしてあったので、美少女の方も声が小さいながらも自己紹介。

名前はイオ・ユークレース。ザガっていう人を探しているらしい。で、最近島にやってきた俺たちが街でこそこそ誰かを探していたから俺たちを怪しんで着いてきたとの事。

ザガって人はイオちゃんの魔法の師匠。この人は魔導師でもありながら工匠としての腕前も一流らしい。イオちゃんの自慢気な顔が可愛いです。

そうしてイオちゃんは彼と一緒に工匠や魔導師の修行をしていた。

しかしそんなある時帝国の使者がやってきて、それからザガさんの様子は変わってしまったらしい。何かの研究をしたまま何処かへ姿を消してしまったとか。イオちゃんはザガさんを元に戻して連れ戻す為にずっと探しているんだそうだ。

そこまで言ってイオちゃんは涙目になって言葉が止まってしまった。

....美少女にここまで言われて一緒に探さないとか言う奴おりゅ?いやおらん(反語)

うん、もう大公探しとかどうでも良いや。ザガさん探そうや、初任務は失敗で良いよ。みんなもそう思うでしょ?久しぶりに動いた口でザガさんを探す事を伝える。みんなうなづいてくれてよかった。

まあどうせシェロカルテさんも初任務で極秘任務とか成功すると思ってないでしょ。きっと予防線張ってるよ。張ってるよね?張ってるかなぁ...張ってるといいなぁ....

 

こうして、俺たちのザガさん探しが始まった。

 

/月:日

まず最初に、ザガさんを探すにあたって俺たちが捜索する位置を決めた。イオちゃんはザガさんがよく行くところはもう全て行ってあるらしく、探してないところはもうそれこそ、島の最下層に有る鍾乳洞の中に作られた工場ぐらいなそうだ。

ただ、ここは騎空船でも乗り込みづらく、島から落ちてくるマグマにも注意しなければならないため、飛翔術でも使わない限り入る事は不可能なそうだ。へー、そうなのか。何故そんなところに造ったし。ん?いやまてよ...中に入るのに飛翔術が必要って...?

 

あっ、俺使えるじゃん。嫌な予感しかしねえ。

 

行きたくないよぉ!そんなところ!マグマが固まって鍾乳洞が出来るって事はマグマがそこにあるって事じゃん!?

そう思った俺は全力で行きたくない意思を込めた目をイオちゃんに送る。するとイオちゃんから悲しみの表情が出てきた。目に水が溜まっていく。あっあっあっ!

 

不肖、グラン!やらせて頂きます!!

 

いやだってねえ....勝てないでしょあんなん....

その後のイオちゃんがめっちゃいい笑顔だったので全部チャラにはなりました。可愛い。ロリコンになる。

 

/月×日

アツゥイ!

いやまあそりゃあマグマの中に突っ込んでるようなものなんだから当たり前なんだけど、なんだよこの暑さ。水魔法で帳消しにしとかないと一瞬で丸焦げだぞ。ところどころに転がってる鎧の破片みたいなのも邪魔だし、イラついてきた。誰か飛翔術だけじゃなくて水魔法も必要って付け足しとけよ。

とか思っているうちに中にある工場みたいなところへ到着。ついでにあまりの暑さで俺のイラつきもマックスまで到着した。

ストレス発散でそこらにあった鎧を唐突にぶった斬る。どうせこんなにたくさんあるんだしいいよね?というか斬らせろ。やってらんねえんじゃあ!こんなところに人が居るわけねえだろぉ!!何故誰も気づかないし!!なんか鎧が若干動いてたような気がするが気にしないで斬っていく。

そうしてひと暴れし終わると背後から人の気配。居たし。普通に人居たし。なんかドン引きされてるけどそりゃ唐突に暴れ出したりする人に関わりたくないよね。あっけど自己紹介し始めた。

彼女の名前は黒騎士。エルステ帝国最高顧問で七曜の騎士が一人らしい。

まず言わせてくれ、七曜の騎士ってなんだよ。何この人中二病患者か何か?自分で作っちゃったの?そういうかっこいいの。というかそんな人を最高顧問に置いちゃう帝国ってなんなんだよ。この間も子供を大将に置いてたし。アホ?アホなの帝国って?

そんな失礼な事を思っていると帰っちゃったよあの人。やべえ、なんも話し聞いてなかった。名前しか聞いてねえぞ。

というか入れ替わるようにして奥から出てきたあのジジイはなんだよもう。人いねえと思ったけど結構いるじゃん。

ジジイの名前はザガ。

...ん?ザガ?ザガ!!?お前本当にここにいたのかよザガァ!!俺がここに来る元凶じゃねぇか!!帰るぞゴラァ!!

ところがこのジジイ帰らずにここに残ってこの鎧の研究を続けるとか言いやがる。アホか、イオちゃん悲しむぞ。というか暑さで死ぬぞジジイ。

というかジジイがいきなり語り出したんだがどうすりゃええの?長くなりそうですか?そのお話。暑いんですけど。

とか言ってる間に長い、過去のバルツの歴史が語られた

 

 

 

ーーかつて、覇空戦争と呼ばれる歴史があった。その戦争ではあまりに多くの空の民の命が失われた。空の民と戦った星の民は強大で、特に星の民が扱う星晶獣にはとても歯が立たなかった。空の民は考えた。どうにかしてあの獣を倒せないか、と。そうして空の民は思いついた。生身では歯が立たなくても兵器なら...

そして空の民はこの島に目をつけた。元々工業が盛んだったこの島では、兵器を作ることは造作もないことだった。

戦況は変わった。元々数では勝っていた空の民が兵器を手にしたことによって、戦力が増強されたからだ。空の民は喜んだ。これで勝てると。

しかし戦況はまた変わった。唐突に持ち始めた兵器を不思議に思った星の民が調べた結果、この島から作られていることがわかってしまった。ゆえに星の民はこの島を狙った。自らの兵器を生み出させるための奴隷として働かせるために。そして星晶獣をも作れるようにと。

星の民から受ける扱いは拷問だった。妻とも、子供たちとも会えず、この50度を優に超える、灼熱の地で星の民を呪いながら死んでいくのだ。彼らは等しく、消費物の扱いであった。

この島のドラフが何故、工業に関して優秀なのか。それは遥か昔に奴隷として働かされたドラフの技術を受け継いできたという悲しみの歴史だ。

だが、ドラフ達も黙ってはいなかった。黙るわけがなかった。彼らは星の民の技術を利用して星晶獣を創り上げた。星の民に刃向かうための牙を手に入れるために。

そうして出来上がった星晶獣、名前はコロッサス。鉄の巨人。

これでやっと思い知らせてやれる。俺らの牙を奴らに喰らわせてやる。

ドラフの、誰もがそう思ったーー

 

だが、計画はばれた。

 

星の民は激昂し、星晶獣までも取り出してドラフを殲滅しようとした。彼らに残された選択肢は一つしかなかった。

 

ーーコロッサス、起動。<次元断>発動いたします

 

次元断が発動した。工場を作っていた鍾乳洞は砕け散り、火山は噴火し、かろうじて避難船に逃れていたドラフ以外の島の生物は死滅した。島の周りに浮いている岩の塊、あれは昔の次元断の衝撃で砕け散った鍾乳石であるーー

 

 

 

 

重い、長い、暑い。三拍子揃ったザガさんの話は終わった。クソ長え、それにおもいよ。

いや、確かに悲しい話ですよ。正直ドラフの奴隷のところとかむかつきが止まらなかったもん。星の民とか今後見かけたら全力でエスケープしようとか思ったもん。けどさぁ、

 

星の民ってこの時代にいなくね?

 

あれ?おかしいこと俺言ってないよね。なんかザガさんそれでも止まれないとか言ってるけど止まってよ!誰をぶっ潰すんだよアンタ!?

コロッサス完成させたとか嘘だよね、嘘だと言ってよバーニィ!!

 

そうして過去のドラフにとっては希望、俺にとっては絶望が、ザガさんの奥からやってきた。オワタ。

 

/月¥日

久しぶりに死ぬかと思った。あの戦い。

どうやらザガさんはコロッサスを完全に完成させてはいなかったらしく、次元断を俺の剣で弾きかえすことができた。ザガさんはめっちゃ驚いてたが。

だがしかし受け止めたはいいものの、地面で受け止めてしまったら昔のバルツみたいに、ひどい災害が起こってしまう。

ゆえに飛翔術で踏ん張って空中で止めたところ、魔力が尽きた。そして水魔法を使えなくなった事によって襲いかかる灼熱の嵐。正直死んだと思った。

そして脳が沸騰するかと思う程の暑さのせいで、まともな思考ができなくなった俺は思った。

 

そうだ外に吹き飛ばしてぶっ潰そう

 

そこからはあほだった。コロッサスに剣をぶっ刺して、コロッサスごとぶん投げる。そして、鍾乳洞ごと破壊しながら島の外に行ったコロッサスを、剣を回収しながらぶった斬った。改めて思うとアホすぎだろ俺。そりゃ後から追いついてきたザガさんも口ポカーンですわ。師弟揃って口ポカーンさせてしまった。

そうしてコロッサスはぶっ壊れた。南無。ついでにザガさんからへんな気の塊が出てきた。なんだこれ。とりあえず斬る。この気の塊の正体を後でルリアちゃんに聞くと、過去のドラフの怨念が集まってた魔晶だそうで、これがザガさんを操ってたそうだ。怨念こええ。南無南無。こんなもんで人を操れんのかよ...

またもなんやかんやで解決してしまったこの事件。

けどおっかしいな...なんか忘れてるような...!?あっやべ思い出した

 

大 公 様 忘 れ て た

 

どうやってシェロカルテさんに言い訳しよう...

 

/月:日

じゃんじゃじゃ〜ん!今明かされる衝撃の真実ぅ〜!

 

大公様はまさかのザガさんでした。

 

嘘だろと思ったがシェロカルテさんの反応を見る限り本当みたいだ。

マジか、というか国のトップが簡単に操られてたとか大丈夫か。おい。依頼の方も偶然とはいえ、達成したので生活費をゲット。

そしてイオちゃんとザガさんの感動の対面。イオちゃんも元気になったようだし、初依頼も解決。俺の努力は無駄ではなかった。すべて偶然だがな!

しばらく俺が依頼達成の満足感に浸っていると、イオちゃんがトテトテと俺の方向にやってきた。かわいい。どうやら俺に、お話があるとの事。

話の内容はこんな感じだった。

ザガ師匠が操られていた経緯を知りたいから私も船に乗せて!ついでに私に魔法を教えてください!とのこと。

全力でオーケー。むしろこれ、断るやつがいるのかと。魔法を教える事に関してはザガさんがいるのに良いのかと思ったが、ザガさんが教えてもらうように言ったのだとか。ナイスゥ!美少女に魔法教えられるとかご褒美以外の何物でもない。あっ、でもこの子天才だったような...あれ?この子に魔法抜かされたら俺の立場なくね....あっやばいわこれ。団長降ろされちゃう。

そんなことを危惧していると次の目的地の島が決まった。島の名前はアウギュステ。なんか最近やたら帝国が居るんだそうだ。そこで、今回のような事にならないように阻止するのが、シェロカルテさんからの次の依頼とのこと。

 

そして名物はなんと海らしい。水着を見られると思うとテンション上がってきた。早く行こうぜ!

 

 

 




魔法で麻痺→チート、ゲームでは麻痺欲しさに十天衆ソーンさんを求める人が続出している。魔法で麻痺はゲームではありません。というかあってはいけない。ゲームバランス的に。
おりゅ?→グラブルでの最高の煽り言葉。アンチラおりゅ?と、水ゾおりゅ?は私に言ってはいけない言葉。
水魔法→深く考えてはいけない。そのままの意味でどうぞ。
七曜の騎士→ゲーム公式チートキャラ。その名の通り七人いて、こいつら一人一人が一つの空域を支配できる強さ...らしい。ぶっちゃけそんなに強くない。
覇空戦争→空の民と星の民が空を賭けて戦った戦争。物語にも深く関わってくる。
空の民→カタリナ達の事。
星の民→ブリテンでいうと、蛮族達です。普通に言うと侵略者。なんか強そうに書かれているがこいつら自身は強くはないらしい。こいつらが操る星晶獣が強すぎたのだとか。よく、公式がイベントを作るたびに星晶獣をおいてけぼりにさせたりして星の民のクズ度が上がっていく。
そこらにあった鎧→グラン君、普通にぶっ壊してますがコロッサスの副産物みたいな物。本当ならこれを利用し黒騎士は逃げるつもりだったがそんな事する必要がなかった。ただ、ぶっ壊されはした。
次元断→コロッサスの必殺技。ゲーム内屈指の最高ダメージ...かと思いきや上がある。
コロッサス→ユーザーからは親しみと憎悪を込めてクソッソソと呼ばれる事もしばしば。何故そう呼ばれるのかと言うと、防御が上がりオート回復がつくシェルターという技。上で紹介した次元断。その二つが合わさると救援に行ってもあまり稼げない。倒すのが遅くなるといったまさに初心者ブレイカー。そして苦労して倒しても、他の星晶獣と比べるとあまり強くない武器が当たりというクソの塔。みんな行きたくないため救援欄にいつまでも残る。私は行くから出してください。
コロッサスぶった斬り→そのままの意味でどうぞ。


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アウギュステ列島にて

前島の出来事
騎空挺と操縦士を得たグラン達は騎空挺の部品集めと『シェロカルテ』という商人から受けた依頼のためバルツ公国へ。そこで渡された依頼の内容とはこの国の大公を探し出して欲しいという機密依頼だった。あてもなく街で聞き込みをしていたグラン達であったが、突然謎の少女に喧嘩を売られる。その少女の名前は『イオ』といい大公の娘といっても過言ではない人物であった。その少女が持っていた誤解を解き、グランはバルツ公国最下層へと向かう。そこでは大公が過去にバルツを破壊した星晶獣コロッサスを復活させようとしていたのだった。何とかしてコロッサスの暴走を止めたグランは大公から魔導の素質があるイオを預かり育てて欲しいと頼まれる。こうしてイオを仲間にしたグラン達は次の依頼を果たす為アウギュステ列島へと向かう。


♪月€日

ウェミダー!カップルで来ているリア充は8キロ!

やっぱり海はいいね、心が癒される。この磯風と屋台で焼いている焼きそばの混じった匂いとかも最高ですよ。なんか少し磯風に変な匂いが混じってるような気もするが気のせいだろう。

ルリアちゃんとイオちゃんは初めて見た海に驚いているようだ。そりゃそうか。俺も初めて海を見た時は海の偉大さに圧倒されたしな。その後すぐに海ではなく人の波に流され迷子になって、ライフセーバーのオッチャンに助けて貰ったのもいい思い出だ...いい思い出デスヨ?

 

今俺たちがいるアウギュステ列島は、海を特産とする島であり、全空に出回っている魚や貝なんかはここからの輸出が主らしい。

また、ポート・フリーズ空域では、この島にしか海が無いので帝国との中立を保てる比較的珍しい島だ。魚とか食えなくなったら困るしね。

しかしここ最近この島で、やたらと帝国の関係者が現れるのでその原因を突き止めるのが今回のシェロちゃんからの依頼。

 

だが、しかし。俺たちは最近働きすぎなんじゃないかと思う訳ですよ。思いかえせばルリアちゃんとの出会いからティアマトとの激闘、さらにはバルツの大公様探し。これではいかん、みんなに休暇をあげないと。これは決して自分が休みたい訳では無い。決して水着が見たいという訳では無いのだ。イイネ?

という訳でアウギュステ列島についた瞬間、俺はみんなに休暇を出した。こんな時には喋れるのね、俺の口。みんなも賛成してくれて良かった。

特にイオちゃんとルリアちゃんの喜び様がこっちまで嬉しくなりそうだった。日に日にロリコンに近づくていくのが感じられる今日この頃です。

まあシェロちゃんも流石に切羽詰まった状況の依頼を出す訳も無いだろうし、今日一日ぐらいは羽目を外して遊んでも大丈夫だろう。

 

そう思ってた時期が私にもありました。

 

えっ、なんか銃持ってる連中に囲まれたんですけど。ドウユウコト。

 

 

 

♪月°日

あの後、変な連中に囲まれた俺たちはとりあえず彼等を無力化した。変に撃たれても困るので全員麻痺らせた。

なぜこんなことをしたのか彼等に聞いてみても話してはくれなかった。ていうか此方を帝国の関係者だと勘違いしているようで警戒心が全く解けない。なんで俺らを帝国関係者だと思ってんだこいつら。

ん?帝国の関係者....あっ(歓喜)

 

こいつらシェロちゃんの依頼の事知ってんじゃね?

 

やっベー、不審者退治ついでにシェロちゃんの依頼の方も早く終わりそうだ。早くこいつらから情報聞いてみんなと海で遊ばないと(使命感)

そう思い、軽い精神系の魔法をかけようとした。

しかしその瞬間、頭に猛烈な危機感を感じた俺は、急いで風魔法の盾を張った。すると何かを防いだ衝撃が。恐る恐る何を防いだか見てみるとそこには親指サイズの大きな銃弾があった。

撃たれた方向を見るとそこにはノースリーブのダンディなおっさんが。俺が弾丸を防いだのをみて少し唖然としていたが、気を取り直しして銃を連射して来た。危ねえなこのおっさん。こいつらの仲間か?

この銃弾がルリアちゃん達の方向に行くと危ないので銃弾を剣で切り裂きながらとりあえず頭に峰打ちを叩き込み、昏倒させておく。

なんだったんだろうと思いながらも、スイスイと手を縛りつけていくと、唐突にラカムさんがオイゲン、と叫んだ。

えっなに、ラカムさんの知り合いなのこの人。思いっきり殴っちゃったんだけど。

 

♪月+日

危ねえ。あの後ラカムさんの知り合いらしき人を介抱し二時間後、ようやく目を覚ました。どんだけ強く昏倒させたんだよ俺。そのことについて謝ると、気にすんなと笑って許してくれたこの人はマジで感謝です。

この人の名前はオイゲンといい、ラカムさんがこの人を知っていたのは子供の頃、この人と操舵の修行の為、一緒に旅をさせて貰ったからだそうだ。なんと、面倒見のいい。ルリアちゃんとかイオちゃんレベルのいい子の女の子じゃないと面倒なんて見れる気しないぞ俺。おかしいな、自分で言ってて中々クズいぞ。

なぜ俺に向かっていきなり銃を撃って来たかというと、まずは自警団について話す必要がある。

この島は元々、漁業やそれにまつわる仕事なんかで生活をする人が多い。だがつい一ヶ月前から、海の匂いが変わり始めたんだそうだ。また、海からの変な匂いが強くなっていくのと比例して帝国兵がこの島に増え始めたらしい。さらに、海で採れる魚の量も減っていき、流石にこれはおかしいと帝国の立ち入りを禁止したんだそうだ。

そうすると帝国からの宣戦布告、つまり戦争状態に入ることになった。元々この島では軍などはない為、自分達でこの島を守ろうと決心したのが自警団を組んだ理由らしい。

自警団は島で見かけない顔を見つけたので俺たちの様子を見ていたが、キャタリナさんの防具に帝国の印が付いていたのに気づいたので話を聞こうと俺たちを囲ったらしい。そしたら俺がいきなり麻痺らせたので帝国の関係者だと勘違い。うん、囲った瞬間に俺が麻痺らせたのが悪いな!話し合いとか一切考えてなかった...脳筋過ぎる....

今回の事について彼方から謝ってきたが、此方があっちの立場だったら同じようにするので全然気にしてないです。むしろボコしちゃってこちらこそごめんなさい。いやほんとにすいません。

そして話を進めていくと、事態は俺が思っていたよりも深刻なようだ。この島では戦える人など全然居なかった為、戦況は不利。もはや蟷螂の斧らしい。

だが、つい最近帝国が海を汚している原因が分かったので今はみんな戦争の最終決戦に向けて備えてるんだそうだ。

とりあえずシェロちゃん、話が違い過ぎるんですが。

というかここまで話聞いちゃったらオイゲンさんを手伝うしかないんですけど....もう...ね?

 

♪月○日

海を汚している原因は帝国の作っていた兵器でした。ぶっ壊しました。楽しかったです。明日は水着が見れるといいです。

 

うん、現実逃避はやめよう。帝国の兵器が海を汚す原因だったのは間違いのない事実だったけど、帝国の真の狙いはこの島と本格的な戦争を起こすことだった。

どうもこの島にも星晶獣が眠っており、その星晶獣の司る力はこの海全体に行き届く強大な力だ。その力を自在に操る為にこの島を征服しようとするのが目的だった。

そして俺たちが兵器を壊したため、帝国側が一方的に仕掛けた小さい戦争状況から、帝国が本気で攻め込んでくる理由を作ってしまった。

 

この情報は兵器をぶっ壊した際にいた帝国兵から聞き出した。聞くんじゃなかった。

もうすでに帝国は兵を集めており、この島を今にも襲おうとしているらしい。今にもっていうか明日に襲ってくるらしい。ヤバイ。逃げたい。この島の戦力では戦争にすらならない程いるらしいし、無理だろこれ。まさに絶望的状況だ。

けど俺以外のみんなはやる気満々なんだよね、なんでそんなにやる気あるの?イオちゃんも俺との修行成果を見せつけると言っても俺なんて大したことしてないからやめよ?ね?あっ、駄目ですかそうですか...

オイゲンさんが本当にいいのか?なんて聞いてくるけど拒否なんてできない状況。

最後の砦のオイゲンさんに行きたくないのを察して貰えるようにまっすぐ見つめると、感極まった様に有難うと言われてしまった。あっもう駄目だこれ。オワタ。

 

♪月>日

決戦当日、空が黒で覆われた様に戦艦が浮いていた。うん、無理っすねこれ。帰りましょうよ。ねえ。

 

なんていってる暇も無く、砲弾が降り注いでくる。本日、砲弾の雨のち雨。現実が無情すぎる件について。

島の住民達は既に昨日の時点で島の外で退避しているため危険は無いが、味方の戦艦に被害が出てしまうため飛翔術で飛び回りながら砲弾を切り裂いていく。ついでに戦艦のエンジン部分を切断する。間に合わなそうな部分はファランクスで防ぐが数がいかんせん多過ぎる。

島の人たちも頑張ってはいるんだけど多勢に無勢、キツイものがあった。地上部隊の方はカタリナさん達が守っているが大丈夫かこれ?

 

今回の戦争の作戦としては、俺が飛翔術で被害が出ない様にしつつ戦艦を落としていく。地上部隊はキャタリナさん達で抑えるといったもの。

……すいません、今更だけど俺の負担多くない?俺が昨日戦争するの嫌だから放心してた時の作戦会議。俺に役割置きすぎてないですかね。みんな嫌いなのかな俺のこと。泣きそう。

すぎたことはしょうがないとしておいて、十を叩き切って全く減らない帝国の戦艦に辟易としてきたところ、唐突に目の前の軍艦が水に飲まれた。

 

えっなに今のこわい。なんで水が空飛んでるんだし。そう思っている間にもどんどん水が帝国の戦艦を飲んでいく。そしてとうとう軍艦が半分くらいになると帝国の戦艦達は去っていった。何だったんだあの水。海に戻っていく水に感謝を告げる。

 

とりあえず帝国が去っていったことをカタリナさん達に報告しに戻ると暗い顔をして俺を待っていた。

なんでも、あまりにも海を汚しすぎた為この島の星晶獣の回復力を上回ってしまった。その為海を使って船を喰らい、回復を補おうとしたとのこと。それがさっきの水の正体。

そして今、その水はこの街を喰らおうとして向かっている。

 

.....オワタ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・オイゲン目線

 

「ーーそういう訳だ、すまねえな。あんなに戦艦を叩き落としてもらったのによ...ここにいたら俺たちも危ない、島の外に逃げるぞ」

 

誰もがうなづいたその言葉に、こいつは首を振った。

 

元々こいつと出会ったのは2日前の事、自警団が怪しい集団と交戦中という連絡を受けて駆けつけた時に出会った。

俺が駆けつけた時には自警団は皆やられてしまっていて、自警団の中の一人が自警団を倒したと思われる奴に尋問されていた。そいつの手に集まっていく魔力の高まりにヤバイと判断した俺は躊躇なくそいつの頭を狙い、手に構えた銃で撃ちこんだ。潜在的な恐怖、そういうものをそいつから嗅ぎ取ったからだ。

俺が発砲した銃弾は吸い込まれるようにしてそいつの頭に叩き込まれたかのように見えた。しかし銃弾は空中で静止してしまっていた。魔法だ。こいつは完全な死角にいた俺を察知していた。

銃弾を止めるのですら並大抵の魔法使いではできはしない。ましてや俺の銃弾は魔物すらも屠る一撃だった。目の前に起こった出来事を信じられないでいると、急に背後から頭に強い衝撃がきて、俺は昏倒させられた。

 

その後、結果的に言うとそいつは敵ではなかった。依頼がここの島の情勢に関係があり自警団を襲ったのは単に自己防衛のためだったらしい。しかしへんなやつではあった。

こっちがこの島の事情を話しただけなのにわざわざ帝国の兵器破壊の手伝いをしてくれ、さらには帝国との戦争にまで参戦してくれる。依頼というものがどういうものなのかは分からないがいくらそれとはいえやりすぎじゃないかと、なぜか奴と一緒にいたラカムに聞くと、依頼の話はもう終わっているらしい。

今回の依頼は帝国がなぜアウギュステにいるかを調べるだけであって、別に帝国を追い返してくれとは言われてはいない、と。

じゃあなんであいつは手伝ってくれるんだと聞くとラカムは困ったように答えた。

 

ーー単純さ、お人好しなんだよ。それも特大の、な。

 

 

思わず苦笑いをしてしまう。帝国の兵器の破壊なんていう危険な物も、文句一つ言わずに手伝ってくれたこいつはラカムの言う通り特大のお人好しだ。こんな高波が迫っている時でさえも諦めないでなにかしてくれようとしている。何をしようとしているか分からないが、こんなお人好しを死なせちゃあいけない。そう思い俺は決意して言う。

 

「ありがとうよ、坊主。お前さんのお人好しに何回も俺たちは助けられた。だかなぁ、もう駄目だ。波がもう来ようとしている。見えるだろう?あの高波が。いくらお前さんでも...!?」

 

そこまで言い、俺の言葉は止まった。

 

ーーなんなんだ、これは。

 

突如こいつの体から放たれるとんでもない魔力の奔流。世界が震え、止まったかのように思えた。

ゆっくり、ゆっくりとグランが海へ歩いて近づいていく。誰もこいつを止めようとしない、いや恐怖で止められなかった。

 

そして俺は恐怖の最中、ここにきて自分のしていた勘違いに気づいた。

 

普通、魔法使いとは自分の属性の魔法を使い敵を殲滅する、いわゆる固定砲台のような役割を果たす。だがこいつはどうだ。

 

俺はまだ、こいつが属性魔法を使っているのを見た事がねえじゃねえか...!?

 

その事実に畏怖する。魔法使いにとって属性魔法を使っていないと言う事は本気を出してはいないという事。大砲に砲弾を入れずに戦っているようなものだ。そんなことをしては戦う事なんてできはしない。

数日間の俺たちの戦闘を思い出してみても、こいつはずっと剣で戦うか無属性魔法の麻痺と飛翔術しか使っていない。

何故属性魔法を使っていない事に気付かなかったかというと、こいつの戦い方があまりにも綺麗だったからだ。こいつの剣の腕前は凄まじく、魔法使いである事を忘れるほどだった。あっという間に戦闘は終了し、俺たちは何故属性魔法を使わないんだとすら思わなかった。

また、物珍しい無属性魔法の使い手でもありこっちの方に関心が寄せられた。麻痺の魔法というのは見た事も聞いたこともないし、飛翔術なんてものは全空を股にかける十天衆が使っている魔法であり、凡人が一生努力しても使えるかは分からないレベルの魔法だ。

こちらに関心が寄せられるのはもはや火を見るよりも明らかだった。

 

目の前の空気が凍っていくのを感じた。際限なく高まっていく魔力に俺たちはただひたすら立ち尽くしていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ヤバイ、今度こそ本当に終わった。

島ごと波に飲まれるとかどんだけだよ、とか思っている内にもう波の影見えてるし。はえーよ、ホセ。何メートルあるんだこれ。

オイゲンさん、無理っす。逃げよう言ってもこんなに迫ってきてちゃ間に合いませんて。

もう、開き直った俺はどんどん海に近づいていく。若干キレ気味なのは最近理不尽な目に色々会っているからだ。どうせみんな波に飲まれるくらいなら俺は最後まで抵抗してやる。

最近イオちゃんと魔力の修行をしていて若干上がった俺の魔力を限界まで絞り出す。後のことなんて知らないです。あっ血管切れた。

 

そうして俺の気分としては最悪。今まで使った魔法としては最高の魔法が炸裂した。

 

うまくいくといいなぁ....

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

♪月*日

俺、大復活!ビィ君がいうには俺は約二日間寝ていたらしい。俺の周りをみんなが目を覚ますのは今か今かと待っていてくれた。凄く嬉しい。

俺が最後にやった魔法とは、海を全部凍らせることだった。所詮水だし凍れば動けなくなると思ったけど正解だったぽい。失敗したらどうなってたかは分からないけど成功したから天才でよくない?褒めてくださいお願いします。そのあとはルリアちゃんがなんとかしてくれるだろうと思ったけど本当になんとかしてくれると思わなかった。

ただし今回の代償として一週間は魔法は使えなさそうだ。そんな事が珍しくこの口からぽろっと出てしまうと、横にいたオイゲンさんが魔法が使えるようになるまでいつまでもアウギュステに泊まってくれていいと言ってくれた。

どうやら俺は、アウギュステを救ったヒーローであり、恩人なのでどうしても恩を返したいとのこと。マジですか。

ただ、この話はキャタリナさんによって却下された。曰く、黒騎士とやらが現れてルーマシー群島で待つと言われたそうだ。

ルーマシー群島にも星晶獣が居て、そいつらがまた厄介な事をするから困るから早く行かねばならないという事を俺を見ながら申し訳なさそうに説明してくれた。あれ?俺お荷物みたいな感じです?

というか黒騎士ってあのバルツ公国で会ったちょっと痛い人でしょ。倒しておけばよかった....帝国関係者だから倒しても問題なかったはず。

また、オイゲンさんが仲間に入った。アウギュステ列島は自分の故郷だからそれを傷つけた帝国が許せないらしい。あと俺への感謝も含まれているそうだ。もっと褒めてくれてもばちは当たらないから褒めたまえ。

そうして、俺たちの次の目的地はルーマシー群島となった。

 

 

……あれ、そういえば水着一回も見れてなくね、おかしくない?俺の癒しはどこいった。

 




ウェミダー&8キロ→海だーと弾けろ。FF12のヴァンのセリフの空耳。
アウギュステ列島→よく夏のイベントがここの話になる。そして夏のガチャもここが舞台となる。そしてよく死者が出る。
休暇→無い、諦めろ。プレミアムフライデーってなんだよ(哲学)
風魔法の盾→小型版ファランクス、便利
親指サイズの銃弾→調べてみると世界最大の銃弾は手のひらサイズあってビビりました
オイゲン→私が唯一持ってるリミテッド。なおリミテッドストーリーで過去に囚われるなとブーメランを投げた模様。
帝国が作っていた兵器→アドウェルサの事、原作と違い完膚なきまでに叩き潰された。
帝国の軍艦→グラン君に落とされまくった哀れな物。落とした軍艦は海に落ちた。
魔力の奔流→グラン、切れた!
高波→ちゃんとゲームでは名前が付いていて「渾身のダイダルフォール」というお名前。ちなみにオイゲンさんが逃げようと言った時点では島から出るのは間に合っていた。グラン君がパニクっていただけである。
アウギュステ列島の星晶獣→ゲームでの名前はリヴァイアサンという。通称うなぎ。通常の方はギリギリヨダ爺で削りきれない。マグナと呼ばれる難しい方ではリフレクトで反射がくるため初見でwiki無しでいくと痛い目をあう。また、私みたいに脳筋だと、死んでも良いやと思いディスペルを積まないで風パで突撃をかける人もいる。正直こちらの方が断然早い。それもこれも他のマグナと比べてデバフ耐性が弱いからである。武器は結構良いのを落とすので装備を水から始めるのも悪くない。
水着→毎年ガチャで死者がでる。水ゾおりゅ?と友達に言ったら水ベアおりゅ?と言われて死にました。煽るのはやめておきましょう。


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ルーマシー群島にて

前島での出来事
アウギュステでの依頼は帝国の配下が何か怪しい事をしているのでそれを探って欲しいという内容だった。しかし、初めて海を見るルリアとイオの興奮した様子を見たグランは休暇を決意する。海で遊ぼうとする団のメンバー。だがそれは叶わない夢であった。なぜか周りを武装した者達に囲まれたグラン達はそれを撃破する。しかし其の者達は島の自警団であり、グラン達は島に詳しい自警団に協力をすれば依頼も完遂できるのではと考えた。そこで出会った自警団のリーダー『オイゲン』と共にこの島を帝国の領土にしようとする計画を邪魔をしていたグラン達であったが、帝国の兵器によりアウギュステの星晶獣リヴァイアサンが目覚めてしまう。グランの捨て身の魔法により海ごと星晶獣を凍らせひとまずは解決したが、グランは後遺症によりしばらくは魔法が使えなくなってしまった。だが、帝国の計画を聞く限りではのんびりとしていられないグラン達は、帝国幹部である黒騎士の行方を追いルーマシー群島へと旅立つ。


&月%日

ウィイイイイッス!!どうも、グランで〜す!

えー、こないだは依頼ついでに海で遊ぼうとアウギュステ列島に行って来たんですが...水着を着た人、なんと0人でした....

泣いてねえし、別に泣いてねえし。ただ目から汗が出てるだけだし。

 

そんなこんなでテンションだだ下がりのまま、ルーマシー群島へ到着。

そんなテンションの俺を迎えてくれたのは、ルーマシー群島の圧倒的な大自然だった。うわぁ.....森かぁ...実は俺、虫嫌いなんだよね...

 

あれは確か、まだルリアちゃん達と出会う前にザンクティンゼル島の森でビィ君と魔物を楽しく狩っていた時の事。

だいぶ魔物を狩り終えて、今日の飯ぐらいならもう大丈夫だな。と思っていた時に突然雨が降り出した。

突然降ってきた雨を避けるため俺たちは近くにあった洞窟に入ったがこれが間違いだった...

そこの洞窟は暗く、何も見えなかったため服を乾かすついでに火の魔法で、明かりをつけた。

そうして明かりをつけた俺はちょうど近くにあった物干し竿みたいな棒に服をかけ、服を乾かすためにその下に火をおいた。

 

そう、何故か動いている物干し竿に。

 

今思うとなんでそんな都合よく物干し竿みたいな棒があると思ったんだ俺。アホか。

結果をいうとその棒は、超巨大ゴキ○リの触角だった。

俺たちと同じく雨宿りをしていたそいつは突如触角を触れられ、なおかつその下を火で炙られたんだ。大パニックだろう。その後の俺らの方が大パニックだったが。

その後、なんやかんやで森を半分焼失させた事について師匠にめっちゃ怒られた事は内緒だ。俺も実は何をやったんだかは覚えてない。ビィ君に聞いても震えて答えてくれないし。そんなにゴキ○リが怖かったんだろうか。まあ俺も怖かったんだがな!正直もう思い出したくない....

 

まあそんな訳で俺は虫が嫌いだ。見るだけならまだいいが触るとSAN値がゴリゴリ削られる。あんまり虫が居ないといいんだけどなぁ....

 

そんな事を思いながら、先導していくカタリナさん達に着いて歩いていくと、見覚えのある店の名前が掲げられた建物に俺らはついていた。

 

 

&月@日

俺らがついた店の名前とは「よろず屋、ルーマシー群島店」。つまりシェロちゃんの店だ。カタリナさん曰く、ここで黒騎士のような人物を見なかったかを聞くようだ。ついでにアウギュステ列島での報酬金も貰う。

中に入って見ると、シェロちゃんがにこやかそうな笑顔を浮かべて此方に近づいた。

いらっしゃい〜なんていつもの気の抜けた声を出しているがこの人は本当にどこにでもいるな。最後に会ったのなんてバルツ公国だから結構遠いはずなのに...

 

とりあえず、アウギュステの依頼の件の報告と黒騎士の情報について聞く。

アウギュステの依頼については大変シェロちゃんに驚かれてしまった。帝国の目的を知りたかっただけでそこまでしてくれるとは思っていなかったと言われた。俺も魔力が一時的に使えなくなるまで頑張るとは思ってなかったわ。

受け取った依頼金は元々の依頼金よりもかなり多めだったが、これはアウギュステを救ってくれた分ということ。なんでもあそこが潰されると商人にとっても大打撃で、これでも安いくらいだとか。これはありがたく貰っておいた。

黒騎士についての情報は残念ながら聞いてはいないと言われた。

その代わり、俺たちにまた二つ依頼を頼みたいとの事。その依頼の内の一つの内容とは、一人の女の子を預かって欲しいというものだった。

正直、俺は大賛成だったがオイゲンさん達は反対。これからこの森を捜索するのに少女を連れて歩くのは危険すぎるからというのが理由だった。俺の、少女だから、という理由になってない理由とは違う。

だがそれも、その少女の姿を見て皆の目の色が変わった。俺の反応はというとめちゃくちゃ美少女で興奮していた。何アレ、めっちゃ可愛い。人形みたいなんですけど。

この美少女の名前はオルキスといい、魔物が居る森で歩いていた所をある人に保護され、このよろず屋にいるらしい。依頼とはこの島にいるはずの連れを探して無事に送り届けること。

そこまでシェロちゃんが言うと、この依頼に反対派だったみんなが何故か賛成してくれた。みんなはこの子の連れに覚えがあるだった。なんでだろ。

もう一つの方の依頼はある人物が俺に会いたがっているらしい。案内人をつけるからある特定の場所まで来てくれというもの。

正直行きたくない。怪しい匂いしかしないし特定の場所とか罠があってもおかしくない。

だがそんな考えは案内人の姿を見て吹っ飛んだ。なんだこの美人。

艶のある魅力的な髪を腰までたらし、豊満な胸にキュッとしまった腰。それでいて出るところは出ている。正に美女というのに相応しい人だった。

いつの間にか手に出ていたOKサイン。それを見てシェロちゃんは満足そうにうなづいていた。俺を謀ったな!?

とりあえずその日はもう日が暮れて来たので依頼は明日に持ち越し。

案内人のロゼッタさんという名前の美人のお姉さんに自己紹介をして、その後はよろず屋に泊まらせて頂いた。

 

&月#日

よろず屋に泊まった翌日、俺たちはオルキスちゃんを連れて昨日出会った案内役のロゼッタさんに連れられて森へ出た。

しかしまあロゼッタさん本当に綺麗な人だなぁ...なんかやたら薔薇を服にくっつけてるけどそんなに好きなんだろうか。

そんなたわいも無いことを考えていると魔物が現れた。ザンクティンゼルでもよくいた、狼に似た奴らだ。こいつら弱いくせにやたら数が多いからめんどくさいんだよなぁ....

オルキスちゃんとルリアちゃんに怪我をさせる訳にはいかないのでみんなで魔物を蹴散らし終わると、大丈夫ですかー、と何処かから声が聞こえた。

声が聞こえた方向をみると誰かが森の奥からやってくる。そうして森の奥から現れたのは目にも鮮やかな緋色の甲冑をつけた大柄の人物だった。

 

どうやらロゼッタさんから話を聞くとこの人物が俺と会いたがっていた人のようだ。俺たちの事を待っていたら、こっちから物騒な物音がしたから助けに来てくれたらしい。優しそうな人でよかった。

ただ、改めて自己紹介すると驚くべき事が分かった。なんとこの人黒騎士と同じく、七曜の騎士とかいう集団の中の一人だとか。

もちろんそう言った瞬間警戒してルリアちゃん達を背後に隠したが、そんなに警戒する必要もないとの事。

七曜の騎士とはお互いが干渉しあってはならず、正確には黒騎士とも仲間ではないので俺に会いにきたのは本当に個人的な事だと言った。

 

じゃあその個人的な理由はなんだとそういう目でこの人を見ると、トチ狂ったような妄言をほざいた

 

ーー私と、手合わせをして見てはくれませんか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・カタリナ目線

 

「グランと手合わせ...だと.....!?」

 

突如申しだされたその言葉に皆、驚いていた。

それも当然だ。なにせ七曜の騎士との手合わせなのだから。

七曜の騎士とは色の名を冠した七人の騎士のことであり、そのあまりの強さに一つの空を一人で征服できるとまで言われている。

そんな七曜の騎士の中でも今、目の前にいるこの男は別格だった。

こいつがさっき言った七曜の騎士という情報が正しければこいつは緋色の甲冑をつけている。つまりこいつは緋色の騎士バラゴナ・アラゴンだ。

私が帝国にいた頃の噂では緋色の騎士は七曜の騎士の中でも特に武芸に秀で、この空の中でも最強とされ緋色の鬼とまで言われていた。何やら問題があり帝国の騎士を辞めてしまったらしいが....

何故こんな人物がグランと手合わせしたいのかよく分からなかった。

 

「何故...といった顔をしていますね」

「っお見通しか...!ああ、何故貴方はグランと手合わせをしたがる。貴方はもう帝国の騎士では無いはずだ!彼と戦う理由など無い!」

「はい、帝国は関係ありません。ただーーーこれは世界の最強を背負う者の使命なのです」

「何を.....?」

「理解は求めていません。ただ、そこの彼がルリアを連れている以上私は戦う必要がある」

 

そういって緋色の騎士は腰に吊るしてあった剣を抜いた。

 

「さあ...かかってきて下さい、七曜の騎士が一人、バラゴナ・アラゴンの実力を見せましょう」

「.......」

 

グランは何も構えなかった。剣も構えも取らず、ただ緋色の騎士の目をいつも通りの空を想起させるような蒼い目で見つめているだけだった。

長いようで短い時間が続き、緋色の騎士が痺れを切らしたように言う。

 

「...其方がこないのであらば此方からいきます。くれぐれも恨まないように」

 

瞬間、緋色の騎士の姿が消えた。いや、消えたのでは無い。目にも留まらないスピードでグランの後ろに回り込んでいた。

このままでは切られるーーそう私が気付いた時にはグランを守るための水の盾も既に追いつけなかった。

だが、しかし思っていた事態にはなってはいなかった。

 

「よく、防ぎましたね...中々本気を出したのですが....」

「........」

 

いつの間に抜いたのか。グランの手にはたった今まで腰にあった剣が握られていた。こちらも見えなかった。

緋色の騎士もこれには驚いたのか上ずった声で賞賛をあげる。

 

「今ので貴方の実力は私の想像以上だと確信しました...申し訳ありませんが手加減などできるレベルなどではありませんね....!」

 

緋色の騎士のスピードがまた上がったように感じられた。まるで鬼のような猛攻が続く。それをグランは全て軽くいなしていき、時には反撃をする。そんな、とてもじゃないが割って入ることなど出来ないレベルの戦闘に私は軽く息をついた。

そしてその戦闘を見ていたイオが今思い出したのか、焦ったように言う。

 

「ねえ、そういえばグランってまだ魔法が使えないじゃない!不味いわよ!」

「!そうだった!グランはまだ魔力が回復していなかった!」

 

その事実に驚いたオイゲンとラカムが思わず叫ぶ。

 

「なにぃ!?と言うことは...あいつはいま強化魔法すら使ってねえのか!?」

「おいおい...それであの動きは冗談だろ...!」

 

グランは今、魔法を使えない。そんな状況下の中、最強と名高い緋色の騎士と戦っている。

元々グランは生粋の魔法使いというわけでも無く、剣の腕前も凄まじいものであったが、それでも自分の使える武器を一つ失っているような状態で全空最強とほぼ互角の戦闘をしているのはまさに異常としか思えない。その事実に皆、驚愕し畏怖した。

いつまでも続くかのような剣の演舞。しかし突如鋭い鉄の音が止み、緋色の騎士が距離を離しグランに話しかける。

 

「...どうやらこのままでは埒があかないようですね....驚きました。その歳でそれほどの剣術を極めているとは」

「.....」

「...周りで見ている皆さんは下がっていて下さい。今から放つ技はとても危険なので。そしてこの技は貴方のお父様から教えて貰った技です」

 

そうして緋色の騎士は剣を持った両腕を天にかざす様に剣を持ち上げた。そしてその剣に大地が震える程の火の属性の力が集まっていく。

 

「ーー輝ける命の奔流!束ねるは龍の息吹!受けてみよ!!

 

 

ーーーテンペストブレード!!」

 

そういい、緋色の騎士が剣をグランに向かって振り下ろした瞬間。

凄まじい程の衝撃波と爆風に似た風が私達を襲った。咄嗟にルリアとオルキスを守るため体で抱える。だがしかしそれでも私達は吹き飛ばされた。

ようやく衝撃波が落ち着いてきた。私は急いでグラン達のいた方向を見た。

 

「グラン!大丈...夫....か.....?」

 

思わず言葉が切れる。私は自分が見た光景が信じられなかった。

 

緋色の騎士が剣を振った後の空間が割れていた。

 

この世界は四大元素である火、水、風、土で出来ている。だからそれを断ち切る程の強い力であれば文字通り、世界を断ち切り壊す事は可能だ。

 

しかし、それは机上の空論であり実際に出来るはずがない!!

 

だが現に緋色の騎士は世界を断ち切ってみせた。また、剣の振り抜いた衝撃波で目の前の森が破壊尽くされ無残な姿を晒されていた。

さすがの緋色の騎士もこれほどの技を撃ち、無事ではすまなかったらしく、片膝をつき激しく息を吸うようにして呼吸をしている。

ただ私は、剣を振っただけでこの災厄を招いた緋色の騎士を同じ人間とは思えはしなかった。

化け物、まさにこう言い換えるしかない。

 

だが、それを上回る男が居た。

 

「....ふぅ、貴方の勝ちです。私はこの通り魔力と体力を使い果たし、もう立つことも厳しい状態です。まさかここまでやるとは.....お見事でした。黒騎士は彼方に居ます。早く向かうといいでしょう」

 

そういい、緋色の騎士は去っていった。あれだけの一撃を受けたにもかかわらずまだ立てているグランを残して。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

&月?日

もう絶対美女になんか釣られない。絶対にだ。

なんで俺は最近こんなボロボロなんですかね....あの男まじで許さねえ。黒騎士の情報置いてってくれたのはありがたいけどさぁ....

というかあの人親父のこと知ってそうだったけど誰だったんだよ結局。俺の事ぼろくそにしてっただけじゃねえか。

あの後、あの変な人に絡まれた後、俺たちは緋色の人が指し示してくれた方向にいき黒騎士を追った。正直体はボロボロだったけど行くしかないでしょ、俺がモタモタしてる間に黒騎士がどっか行っちゃうかも知れないしね。

一応途中で休憩も挟んだし大丈夫でしょ。スープを飲んで、初めてしたらしい火傷に悶えていたオルキスちゃんが可愛かったです。

黒騎士がいたのはでかい遺跡の前だった。ロゼッタさんが言うには「忘却の遺跡」という名前の遺跡らしい。でかい。

どんどん遺跡の中を進んで行くと、本当に黒騎士の姿が見えて若干ビビった。だって七曜の騎士の全員がさっきの緋色の人並みの強さって事もあり得るわけでして。そうなるともう一戦戦わなくてはいけないわけで。うん。死ぬ。過労で死んでしまう。

黒騎士がこちらに気づきオルキスちゃんに目が行くとめちゃくちゃ睨まれた。えっ、なんで。私の人形によくもって言われたけど、確かにオルキスちゃんは人形のように可愛いけど貴方のじゃ無いんですが。

そうして無理やり黒騎士がオルキスちゃんを連れて行こうとする。

あっ、ちょっ犯罪ですよ!美少女攫っていく黒い鎧を着た人なんて通報待ったなしですよ!!

流石に不味いと思った俺はオルキスちゃんを助ける為に黒騎士の背後に回り込み回し蹴りを食らわせる。反応が遅れたのかもろにくらわせたのでオルキスちゃんの手を引いて離脱。ってめっちゃ怒ってるー!

やべえってあのロリコン不審者!鎧きてるから顔見えないのに激怒してんの分かるのってすげえ。ほらオルキスちゃん涙目じゃん!美少女泣かせるとかどんな教育したんだこいつの親は!

とりあえずルリアちゃんにオルキスちゃんを任せて、みんなで黒騎士と戦う事にする。

すると流石に五対一は不味いと感じたのか去っていってくれた。不機嫌さがMAXでクソ怖くてちびりそうだった...

ロリコンから美少女を守れてよかったです....いやほんと。今度会ったら滅却しないと(使命感)

 

&月:日

この島から黒騎士を追い出せたのでこの島にいる意味はあまり無くなった。

あまり、というのはオルキスちゃんの連れがまだ見つかって無いからだ。なんか団の皆はオルキスちゃんと一緒に旅をするような口ぶりなので俺もそれに乗っかっておく。やってる事が黒騎士と同じじゃね?と思ったら駄目だ。あ、あんなロリコンと一緒にしないでよね!ただオルキスちゃんがついてきたそうな顔をしてたから連れて行くだけなんだから!勘違いしないでよね!

無事にもう片方の緋色の騎士の依頼は達成できた為シェロちゃんから報酬金を貰っておく。あのおっさんは意外と金持ちだったそうで懐に余裕がだいぶ出来たとカタリナさんが言っていた。

しかし、それだけで安心してはいけないのでシェロちゃんから新しい依頼を受ける。新しい依頼の内容はアルビオンと呼ばれる島の当主が最近活躍している俺らに会いたがっているから会いに行くというだけの依頼。ぶっちゃけいけばいいだけなのですごい楽。また、当主の人が客人という事で料理なんかも振るまってくれるようだ。これで報酬金も中々の額なんだからもう行くしか無いでしょ!

また、新しい戦闘員としてロゼッタさんがついてきてくれる事になった。魔物退治でも大丈夫だったし戦闘員扱いです。薔薇を使って攻撃するという発想は無かった...

こうして俺らの仲間が新しく二人増え、その両方が可愛い女の子という、俺がすごい嬉しい結果のまま次の島へ行く事になった。




ウィイイイス!→某有名ユーチューバーの挨拶。オフ会は0人だった。
ルーマシー群島→森に囲まれた島。特に特徴がないかと思いきや割と深い設定がある。この島は一度火事で8割の植物と9割の動物が死んでいて、植物は生き残る為に島の植物全てと合体したとか。ナメック星人かお前らは。
ロゼッタ→公式で盛大にネタバレされている人物。まだ物語を進めてなければ公式サイトを見てはいけない。
オルキスの連れ→黒騎士の事。未だにグラン君は、オルキスと黒騎士が一緒にいるのを見た事なかったため黒騎士はロリコン扱いです。
緋色の騎士→ゲーム公式チート。単体ならグラン君のお父さんを除き最強クラスだとか。最近では剣の衝撃で星晶獣の眠りを覚ましてしまったうっかりさん。
テンペストブレード→ゲーム内のグラン君が最初に使える技。ちなみに緋色の騎士が言っていた決め台詞はFateのエクスカリバーです。
四大元素→火、水、風、土でグラブルの世界は出来ている。水素とかはあるかどうか明言されていない。多分無いと思う。あとの残った光と闇の属性は心に関係してくるらしい。
オルキス→おらん。つい私の願望がでて旅に同行させてしまった。原作では黒騎士と行ってしまいます。
ルーマシー群島の星晶獣→居るんだけど今回は出てこない。多分もうこの小説に出てこない。のため説明します。ユグドラシルといい、ゆぐゆぐという愛称でプレイヤーとチャラ男に呼ばれている。私は星晶獣の中で一番ゆぐゆぐが可愛いと思っている。異論は認めない。このゲームは風属性が異常に強く、結果的に風属性が弱点のゆぐゆぐが弱いと思われがちだが割と強い。風じゃなくて他の属性で挑むとその強さがよくわかる。マグナと呼ばれる方では着ているドレスが派手になり小林幸子と呼ばれることもある。可愛い。星晶獣モードの時は巨大な姿だが、平時には普通の人間とそう変わらない大きさである。
エルセムには渡さねえ、私の方がゆぐゆぐ愛してる。


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アウギュステ後 イオ・ユークレース

遅れて申し訳ないです、アルビオンはちょっと待ってください。



私には二人の魔法の師匠がいる。

 

一人はザカといい、私のたった一人の大切な家族。怖い外見をしているけど中身は誰よりも優しい事を私が一番知っている。

 

もう一人はグラン。つい最近出会ったのだけど、今では私の大切な人。

これはそのグランの話。

 

 

私の第二の師匠、グランについてまず最初に抱いた印象は無口だ。滅多な事では喋らないし、喋ったとしても基本的に必要最低限。顔が整っているのもあってちょっと威圧感が凄い。

しかし、冷たく厳しいかというとそうでもなくて誰にでも優しくみんなからの人望も厚い。

戦闘に関しての腕前も凄まじいものであり、魔法だけでなく剣の使い手でもある。

剣と魔法、両方とも使えるというだけでも中々いないというのにそのどちらもが人外レベルまで達しているから驚きだ。

彼は一体幼少期にどんな訓練をしていて、どんな人に教わっていたのか....少し気になる。

カタリナに聞く限りでは普通の村に住んでいたらしいが彼みたいなのがいる村とか絶対普通の村じゃない。なにかあると私は踏んでいる。

 

そんなグランだが意外と可愛いところがある。

 

アウギュステ列島に依頼で赴いた時の事だ。

アウギュステ列島には二つの名産品があり一つは美味しく新鮮な魚、もう一つは島全体を覆うかのような大量の水。これは海というらしい。

初めて見た海はとても美しく、水が何処までも青く、まるで磨き上げられた青銅の鏡のような色をしていてとても感動したのを覚えている。

さて、そんな海があるアウギュステに着いた私達。海では魚を取ったり泳いだりすることが出来るらしいが、勿論私達は依頼で来たわけだから海で遊ぶ訳には行かない。残念だけども海で遊ぶことはできそうにない... そう思っていた。

だけども私達に団長であるグランが言いわたしたのは1日の休暇だった。

彼が喋ることなんか滅多に無いし、何より海で遊べると知った時のルリアの目があまりにも輝いて居たからだろう。ラカムとカタリナもしょうがないなとうなづいていた。ラカムの手が小さくガッツポーズしていたのは気付かなかったふりをしてあげよう。私も初めての海ではしゃいでたしね。

 

しかしその後、帝国兵のいざこざや、なんやかんやがあってグランだけが海に入る事が出来なかった。

アウギュステの星晶獣、リヴァイアサンの暴走による高波から島を救った代償に、一時的な魔力欠乏による気絶の状態が続いたからだ。

その時のカタリナ達と私は何も役に立てなかった自分に落ち込んでいたけど、オイゲンが落ち込んでいる私達を励まそうと海へ連れ出してくれた。

 

後で魔法の師事をしている時にグランにその話をすると何故か凄く妙な顔をして私の事を見ていた。

彼は無口だけでなく顔の表情も余り変わらないためこの状況はかなり珍しい。

どうしたのかと聞くと彼はただ一言、羨ましいと言った。

彼も海に入りたかったのだ。そういえば最初に休暇を取ろうと言ったのはグランだし、思えば帝国兵を相手どるのもいつもと違い、なんだか気迫が増していたような気がする。

いつも凛々しく、帝国兵なんか相手にならないような強さをしている人が海で遊べなかっただけで拗ねている。

そう考えると今でも少し笑ってしまう。今度アウギュステに行った時には一緒に海で遊ぼうと思う。水着という海専用の服があるらしいからそれも一緒に買いに行こうかな。楽しみにしておこう。

 

 

 

また、アウギュステ後の私とグランの話だ。

 

彼がアウギュステで魔力欠乏により倒れてしまった後、私は見ているだけで何も出来なかった自分を恥じて今まで以上の魔法の修練をした。

駄目だ、こんな私だと彼の魔法を教わっている私が彼の魔法を乏してしまう。もっと頑張らないと... !

そんな強迫観念が私の背中を押していた。

 

しかし、いつの間にか限界を超えて修練をしてしまったらしく私まで魔力欠乏による気絶をしてしまった。私はグランほどの魔力は無かったので気絶は短かったが。

 

気絶から回復すると団の大人達に無理をするなと怒られてしまった。私はまだ子供なのだからと。

そう言われた私は思わず自分の部屋を出て騎空挺の甲板に出た。

いつの間にか夜になっていたらしく、冷たい夜風が体に突き刺さる。

急に部屋を飛び出した私を心配してくれたのか、グランが後からついて来た。

彼は私の隣に立ち、ただじっと遠く彼方の空を見つめていた。多分これは彼は気付いていたのだろう。最近の私が思い悩んでいたことに。

だから今、彼は私の話を聞こうと私が悩みを言いやすいように何も言わず待っているのだ。彼にまで心配をさせてしまっていたなんて....申し訳なさで自分の胸がいっぱいだった。

 

 

「ごめんね、グラン」

「.......」

 

一言話すと自分のなかで悩んでいたものが堰を切ったように言葉となって出てきてしまった。

 

「私ね、グランがアウギュステで倒れた時に思ったの。グランはすっごく強いけどそんなグランに教えて貰っている私が弱くちゃあなたまで馬鹿にされちゃうって。それで修練も今まで以上にやったんだけど...それで身体を壊すなんて...ほんと」

 

「...大丈夫」

「えっ....?わっ」

「大丈夫、大丈夫」

 

そう言ってグランは私の頭に手を乗せた。グランの手のひらの暖かさが私の頭に伝わってくる。そして何故だか妙な既視感を私は覚えた。

 

(何か懐かしいな...なんでだろう...)

 

そうだ、たしか昔こうやって貰った思い出がある。

あれは確か私の両親が事故で亡くなった後の時の事だけどもその時もこうやって自分の無力さと、これから先どうしていこうかと思い悩んでいた。

大好きだった両親がいなくなり、頼れる親族も居なかった私は自分の家の前に膝を抱え込んでただひたすらに毎日泣いていた。

そんな時に突然現れた師匠は私をこういう風に頭を撫でて貰ったんだっけ。

あの時の私は泣いていてばかりだったけど、師匠が毎日私に手品をして段々と笑顔になる日が多くなった。師匠は手品の事を魔法と言って言っていたけども、あれは確かに人を笑顔にさせる魔法だ。

 

そして今更気づいた。

 

(ああ...似ているんだなぁ、師匠と)

 

自然と笑みがこぼれる。何を勘違いしていたのだろうか、グランは私が魔法が出来ても出来なくても気にするような人じゃない。

 

 

(バカみたいに親切で、アホみたいにお人好しで、けれども...私と師匠を救ってくれたヒーロー)

 

「ーーありがとう、グラン」

「....?」

「ふふっ、何でも無いわ。今は私の魔力が回復してないから... 魔法理論の勉強をしましょ! そうね、次に学びたい魔法はね...?」

 

貴方のその顔を、いつか笑顔にできる魔法を。

 

 

 

 

 




十天最終解放発表の時の私→ ァ '`,、'`,、('∀`) '`,、'`,、シエテサ-ン!
最終解放素材発表後の私→( ˙-˙ )エッセルサンオイデ
我々はエッセルさんを先に取るのです。我々は賢いので。

いつも感想、評価ありがとうございます。みなさんのひとつひとつに本当に励まされてます。


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アルビオン編

前島での出来事
黒騎士を追い、ルーマシー群島へと降り立ったグラン達はシェロカルテから二つの依頼を受け取る。それは一人の迷子の少女『オルキス』の連れを探して欲しいというものと、ある人物に会って欲しいというものだった。ある人物に会う為に謎の美女『ロゼッタ』が案内人として同行する。しかし、そのある人物とは全空の中でも最強クラスであるバラゴナという者であった。何とかして勝ったグランは黒騎士の居場所を教えてもらう。教えてもらった黒騎士がいるという遺跡に着くとそこで見たのは少女オルキスをグラン達が連れているのを見て激昂する黒騎士の姿であった。だが多勢に無勢を悟ったのか撤退をする黒騎士。連れであった黒騎士が去ってしまったのでこのままグランに同行をするオルキス。案内人であったロゼッタも気になるとの理由でグラン達の仲間となった。


カツカツと乾いた靴の音が静かに部屋へ響き渡っていく。通常、来賓室として扱われるこの部屋は持ち主の意向により紅く塗られていた。

 

「ーーしかしさぁ、酷いもんだよね。まさか自分の敬愛している先輩を騙しちゃうんだもの」

 

大人、というには背が低い人影が挑発のように呟く。その声は部屋に響きもう一人の女の方向にも伝わっていく。

 

「… 何が言いたいのですか」

 

ーーここで殺ってしまっても構わないんですよ

 

言葉には出さなかったが殺気を出しつつ聞いてやる。もう例の物は受け取ったのでこいつに用はない。あとはこいつの問題だ。

 

「いやいやぁ!別に全然。寧ろ大歓迎だよ!君の目的と僕らの目的が互いにとって好都合だっただけの話だ。何も問題なんか無い」

 

此方の殺意を感じ取ったのか少し慌てたようにおどけてみせる。その男の何もかもが彼女を苛つかせた。

しかし今はこいつの態度にどうこうしている余裕はない。

 

「では… 作戦通りに。失敗がない事を」

「うん、そっちこそ失敗しないようねーー」

 

そう言い残してハーヴィン族の男が部屋から出ていった。何が失敗などしないようにだ。彼など一度ポート・ブリーズでの作戦を失敗したというのに。

 

明かりなど何も無い暗闇の中、少女の持つその目だけが爛々と、狂気の情熱を彩るかのように映していた。

 

「待っていてくださいね… お姉様」

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

 

アルビオン城塞都市は帝国には属しては居ないが帝国寄りの島ではある。

何故属してはいないのに帝国寄りのなのかというと、この島のある特徴が関わってくる。

この島は島全体が軍人を育成する学校となっていて、ここを卒業した生徒はどこかの国に仕える事となる。つまり、今の時代では帝国が一番この空域で幅を利かせている訳だから帝国寄りになるのは当然の事だとこの学校出身者らしいカタリナさんに聞いた。

さて、何で突然こんな話をしてると思う?

 

帝国兵に囲まれちゃってんだなーこれが。

 

いやー迂闊だった。そりゃあ俺たち帝国から指名手配されてんのに帝国寄りの島に来てんだもの。帝国兵もいるよね。

この程度の人なら全然余裕なんだけどこの間の時みたいに紅いおっさんレベルの人が来る事もあるんだから気をつけないと。

そんな事を考えながら全ての帝国兵を意識を叩き落とすと後ろから手をパチパチと叩く音が。振り向いて見ると燃えるような紅い服を着た華やかな金髪美人がいた。街にうろついていたらまず間違いなく男はみんな振り向くだろう。最近美人にしか会ってないような気がする。嬉しい。あとスカートの丈が短くて見え、見え…ないか。チッ。

 

「素晴らしい剣の腕前でしたね… お仲間の皆さんもぞれぞれ連携が取れていてとてもレベルが高かったです」

 

美人に手放しで褒められて野郎連中の鼻の下が伸びる。瞬間、イオちゃんとルリアちゃんからの目線がキツくなった気がした。イカンイカン。

女子の冷たい冷気に当てられたまま、ラカムさんが冷や汗をかきながら質問をする。

 

「賞賛ありがとうよ、嬢ちゃん。ところで嬢ちゃんは一体何者だ?此処にいると嬢ちゃんまで俺たちに巻き込まれちまうぞ」

 

その質問を待っていましたとばかりに彼女は微笑んだ。

 

「ああ… それならご安心なく。

 

ーー私、この島の領主ですので」

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・・・

 

「領主… !領主てことはあんたが俺たちを呼んだのか!?」

「ええ、自己紹介が申し遅れました。私、この島、アルビオンで領主をやっておりますヴィーラ・リーリエと申します。以後、お見知り置きを」

 

みんながみんな驚いている。まじかよ、こんな美人が領主の島とか俺が住みたいわ。どれだけ酷い政策取られても許せそう。むしろそういうプレイか何かで… げふんおほん。

そうしてヴィーラさんはおもむろに俺たちの事を見渡し、カタリナさんの姿が目に入った瞬間何か人が変わったかのような雰囲気を感じた。

 

「お久しぶりですね、お姉様。お元気でいらっしゃったでしょうか?」

「六年ぶりか… ヴィーラ。君も変わりないようで何よりだ」

「ええ、私は変わってなんかおりませんとも。そう、何も。お姉様は少し… いえ何でもありません」

 

親し気に話し合う二人。ヴィーラさんとカタリナさんは知り合いだったのか。領主と知り合いって凄いな。

そこまでの会話を聞き、ルリアちゃんが心底ビックリしたような顔をしてヴィーラさんに問いかける。

 

「お、お姉さまってことは… もしかしてカタリナの妹さんですか!?」

 

その質問にその美しい金髪を左右に振りながら答える。

 

「いいえ、残念ながら私とお姉様は血の繋がりはありません。ここで話すのもお姉様に失礼ですし城へ向かう道中で話すとしましょう」

 

そう言ってヴィーラさんは背をくるりと俺たちに向け、スタスタと歩き始めた。くるりと回った時にスカートがふわっとなってとても素晴らしい。ええとても素晴らしい。後もうちょいまくれればもっと素晴らしかった。

 

城へ向かう道中、魔物がまた出てくると思ったので先に回って退治をしておく。何故かって?美人に良いところ見せたいからに決まってるよな。ルリアちゃん達に怪我させたく無いのもあるけどね。ロリを傷つける奴は処す。古事記にも書かれてる事実だ。

 

このアルビオンでは街中であろうとも魔物が出る。いずれ国に仕える騎士になる奴らが集まる街なのだから自分の身は自分で守らせるためにわざと魔物を放しているらしい。

ぶっちゃけ年寄りとかどうしてんだか気になる。俺の師匠みたいな奴らばっかなのかなこの世界の老人は。怖すぎるんだが。

 

そういえばヴィーラさんとカタリナさんとの関係ってどんな感じなんだろうか。

 

ヴィーラちゃんはお姉様呼びだったし…

 

 

こんな男だらけの軍事学校で数少ない女子生徒だったヴィーラさん。野郎どもの欲望の視線を浴びながらも必死に毎日を生きて頑張る健気な彼女。

しかし、彼女が夜に出歩いていると彼女をつけ狙う芋野郎供が襲いかかってくる!当然多勢に無勢。ヴィーラさんはピンチになってしまう。

そこに颯爽と助けに現れたカタリナさん!

ヴィーラちゃんを襲う芋野郎どもを秒殺したカタリナさんは彼女を慰める為に二人は夜の街へとーー

 

最高かよ。アルビオン城塞都市。いや俺の妄想なんだけどさ。誰だよ芋野郎って。

 

そうこうしている間に城へ到着したようだ。妄想と戦闘ばっかで本当のカタリナさんとヴィーラさんの関係の事に聞き耳たてられなかったし。アホか。あとでルリアちゃんに聞いてこよう。

 

「お姉様、お疲れ様でした。休憩を取りたいところですが… 少し急ぎましょうか、彼は器量が狭いですし」

「彼?とは、一体誰の事だヴィーラ」

 

カタリナさんが問うと、かしこまったようにヴィーラさんが裾を直して答えた。

 

「ーーエルステ帝国将軍、フュリアスでございます」

 

 

 

・・・・・・・

 

「ちょ、ちょっと待てよ!帝国の将軍だぁ!?俺たちはお前が俺たちの活躍を聞いたから会いに来いって言ったから来たんだぜ!?帝国の将軍様なんかと会いにくる為に来たわけじゃねえ!」

 

ラカムさんがもっともな正論をヴィーラさんにぶつけた。そうだよ(便乗)

 

「それについてはお姉様に謝らなければなりませんね、申し訳ありませんでした。ですが貴方達にとっても決して悪い話では無いはずではありましたし、大丈夫だとは思われます」

 

ヴィーラさんは素っ気なく対応を返して俺たちを城の中へと先導する。えぇー、帝国の将軍が待ってるとか行きたくない…

 

そうこうしている間に城の中をぐるぐると目が回りそうなほど進み、とうとう将軍がいるという部屋に着いてしまった。中に入ってみるとそこで偉そうに座っていたのはポート・ブリーズで出会ったあのガキ。お前フュリアスって名前だったのかよ。

開口一番、こいつは甲高い声で俺たちに向かって囃し立てながら笑った。

 

「いやぁ、まいったよ!君たちがこんなに強いなんて思わなかった。… だからさぁ、いい加減、割りにあってきて無いんだよねぇ」

 

カタリナさんが訝しげに聞き返す。

 

「割りに合わない…とは?」

「言葉の通りさァ!そこの蒼の少女と黒騎士の連れ。その二人を研究すれば確かに帝国は星晶獣をも操る力を手に入れる事が出来るかもしれない。けど謎が多すぎるのさ!これじゃあ君達を追い回して捕まえたとしても精算が合わない。だから僕たちはもう君達を追わない。晴れて自由の身って奴だ!」

 

突然言い渡された帝国側からの発言に皆驚いている。というか怪しすぎるぞコイツ。俺はまだポート・ブリーズでやったことを覚えてんだからな。

 

「信用できないって顔してるね」

 

めっちゃビクぅってなった。こいつエスパーかよ。

 

「今回取りやめになった理由としてはね、君の存在が一番大きいんだよ」

 

えっ、俺ですか?

 

「君、バラゴナをルーマシーで退けたそうじゃないか。嘘の噂かと思ってお前達がこの島に着いた時にうちの精鋭を差し向けたんだけど帰ってこないしね… これは本物みたいだ。お前みたいな化け物と真っ当に戦ってまでして、そこの二人は手に入れるものじゃあない」

 

はぇー、あの紅い人はそこまで凄い人だったのか。道理で頭おかしい強さだと思ったわ。

 

「じゃあね!また今度会うときは一緒にお茶でも飲みかわそうじゃないか」

 

そこまで言ってフュリアスは言いたい事を言って満足したのか、部屋を出て行ってしまった。

降って湧いたような出来事に呆然としている俺たちの前にヴィーラさんが出る。

 

「皆様、今は色々思うところがあるでしょうし一度城に泊まってみてはいかがでしょうか?私達も貴方方を客人として呼んだので客室は空いておりますし、御食事もご用意させております」

「あ、ああ… そうだな、その言葉に甘えさせていただこうとしよう、グラン良いか?」

 

断る理由なんて無いのでうなづいておく。こんなデカイ城に泊まれる事なんて中々無いからルリアちゃん達がめっちゃ楽しそうだし。ぶっちゃけ俺もめっちゃ楽しみだけど。

 

「ふふ… 分かりました。それでは部屋に案内しますね。付いてきてください。城には大浴槽もあります。その後にお食事にしましょう。どうぞ旅の疲れを癒してください」

「やった、お風呂!私もそろそろ体を拭くだけは嫌だったのよねー」

 

お風呂という言葉に嬉しそうな反応したのはイオちゃんだ。実はこの世界において、というか騎空士において風呂は結構貴重な物である。水の確保と火が必要になってくるからだ。水は魔法で出せるんだけど火の方は加減が効かないんだよね… あんまり強すぎると船まで燃やしちゃうし。ただやっぱりお風呂というのは何処の世界でも同じで好きな人が多いものだ。俺も久しぶりに肩までゆっくり浸かりたい。

そんな久しぶりの、魅力的な提案に反してビィ君は難色を示した。

 

「うぇー… オイラ風呂は嫌いだぜぇ… なんだってあんなもんに入んなくちゃいけないんだぁ?」

「あっ、駄目ですよ!ビィさん!お風呂はきちんと入らなくちゃ!」

 

ルリアちゃんがそう言ってビィ君を説得する。蜥蜴って水嫌いだったかな...?

そんな風呂に入るのを嫌がるビィ君を見かねたのかカタリナさんが一つ提案をする。

 

「ならばビィ君。私と一緒に入らないか?」

 

俺からビィ君に向かって膨れ上がる嫉妬の殺意。許さん。人間じゃないとしてもカタリナさんの裸を間近で見るとか許さん。むしろ俺が見たい。

 

「ぐ、グラン?ヴィーラも落ち着いてくれないか!?」

 

カタリナさんが叫ぶようにして静止した。ヴィーラさんもやっぱりそう思うよなぁ!?

そう思ってビィ君の近くにいたヴィーラさんを見ると怒りの形相でこちらを見ていた。えっ、俺に対して怒ってたんですか。なんかどん引きされてそうな顔でもあるし動物に怒るなんて器が小さいって思われたかな… 最悪だ。

 

「お姉様、部屋を三つとります」

「あぁ、いやしかしだな。我々は人数もそんなに多くないから二つで充分だと… 」

「ご遠慮なさらずに。団長さんもそれでよろしいですね」

 

謎の迫力を感じてうなづく暇も無く承諾されてしまった。そうしていつの間にか部屋に着いていたのか、彼女にカタリナさんが部屋に連れられて行く。ほんと仲良いなあの二人。マジで妄想展開ありえるんじゃないか?

このあと部屋に行った二人はーー

 

「グラン、何してんだ?俺たちもさっさと入るぞ」

 

この後の二人を妄想をしようとしたらラカムさんに不思議そうな顔をされてしまった。危ねえ危ねえ。こんな妄想バレたら社会的に終わる。

 

そんなこんなの出来事があり、俺たちはゆっくりと食事までの時間を過ごした。

風呂サービスシーン?オイゲンさんの筋肉が凄かったです(腐った目)

 

・・・・・・・

 

ヴィーラさんのはからいによりやたらと豪華で滅茶苦茶美味しかった食事をした後、俺は食後の運動として散歩をしていた。食べてすぐ寝ると太るからね。気をつけないと。修行もしてるからそうそうそんなことは無いとは思うけど気をつけて損はない。

そうして城内をフラフラと散歩しているとカタリナさんが此方に背を向け、夕焼けを見ていた。まだ後ろにいるこっちには気づいてないらしい。

 

…… これは、驚かすチャンスでは?

 

バルツではルリアちゃんに仕掛けるつもりが人違いで失敗したけど今度はちゃんとカタリナさんだ。間違いない。髪色も同じだし。美人だし、なんだあの美人。夕焼けに合いすぎだろ。惚れてまうわ。

話は脱線したけどいつもはクールなカタリナさんの驚いた顔を見るなら今しかない。急いで脅かす準備をする。

 

まず、魔法で作った水を用意します。風呂から取ってきておいた石鹸を取り出します。後でルリアちゃん達と遊ぼうと思ってたんだよねコレ。卑猥な意味じゃないぞ、そこ。

後はいい感じに混ぜる!後はちょっと魔法で空気に静電気を留まらせておいて.... 喰らえ!必殺シャボンランチャー!!

 

風魔法で大量に送り出したシャボン玉が静電気のおかげで地面に着かずにカタリナさんの周りを漂う。大成功ですね。昔でん○ろう先生の番組を見ていてよかった。

周りを突如シャボン玉に囲まれたカタリナさんは滅多に見ることのない顔をしていた。美人はどんな顔しても絵になるな。羨ましい。

流石に俺のことに気づいたのかカタリナさんが振り返る。

 

「グラン、君だったのか… 驚いた。なんとも幻想的な光景だ。ありがとう」

 

笑いながらカタリナさんがこっちにお礼を言う。いえいえ、こっちこそご馳走様です。

 

「しかしグランは何故ここに居るんだ… ん、いやまさか… 」

 

食後の散歩中ですが

 

「いやはや、君には全てバレてしまっていたか… 心配をかけたな。すまない」

 

えっいや何が?

クエスチョンマークで頭が一杯になっているとカタリナさんの驚く程に整った顔が俺に向かってやってきた。

 

「そして礼を言う。ありがとう、グラン。ーーもう私は迷う事はない。そう約束しよう」

 

そう言ってカタリナさんは去っていった。何か決心したようだけど俺何かしたのかな... 気になる...急展開すぎてついていけなかったぞ。

 

 

 

「お姉様、やはり貴女は…… それに貴方も一体... ?どこまで知っているんですか」

 

うぉう!?いつの間にか背後にヴィーラさんが立っていた。脅かした罰、因果応報ってやつですか。

 

「…… まあいいでしょう。貴方にはすでに…ふふっ」

 

怖っ!えっ何!?俺なんかされたの?!最後の含み笑いなんだったんだよ!?可愛いけど怖いんですけど!?

肝心な俺が何をされたのだかもわからずヴィーラさんも去ってしまった。やべぇよやべぇよ...

 

 

・・・・・・

 

 

カタリナさんとヴィーラさんの会合後、俺は女子部屋の方に向かって行った。シャボン玉が予想以上に上手くいったので早くルリアちゃん達にも見せたい。あの少女達の笑顔でこの荒んだ心を癒されたい。あわよくばそのまま囲まれて寝たい。

 

そんな事を思いながら部屋に入ると中にはオルキスちゃんしか居なかった。あれ、他の皆はどこいった?

そんな疑問が顔に出てたのかオルキスちゃんが部屋の窓を指差す。街の方角だった。なるほど遊びに行ったのか。

なんでオルキスちゃんは行かなかったんだ?

 

「貴方を待ってた」

「......」

 

くっそびびった。えっ何どんだけ分かりやすい顔してんの俺って。もう今日だけで心を読まれたの2回目なんですけど。

 

「貴方に聞きたい事がある」

 

ほほう、お悩み相談とな?思春期だろうし色々あるだろうなぁ… 恋の相談とかばっちこいだぜ。二次元に限るけど。

閑話休題、オルキスちゃんが真面目な顔してるからこっちも真面目に返してあげないと。

 

「貴方は...貴方はなぜ仲間を守るの」

 

貴女みたいな美少女助けて死にたいって思ってたらこうなってました。くっそくだらない理由です。

どうしよう、真面目に返すとふざけた回答になっちゃったのだけども。こんなの言っちゃ駄目だろ。どう答えりゃいいんだ教えてくれグランさん!

しばらくなんで返せばいいのか迷っていた俺はとうとうオルキスちゃんに返す言葉を見つける。

 

「誰かを... 」

「....?」

 

「誰かを助けるのに理由はいらない」

「... !」

 

昔このゲームをやった時は滅茶苦茶かっこよかったなー。女好きの主人公が男を助ける時のセリフだぜ、これ。俺とは大違いだ。

俺の名言(違う)に満足したのか少し考えた後にすくっと立ち上がり此方に背を向けた。

 

「....旅、楽しかった。ありがとう」

 

そう言ってオルキスちゃんは部屋の外に出た。なんか最後に笑ってた気がしたのは気のせいかもしれない。

あれ、これってもしかして別れの挨拶だったのかな。アルビオンで連れの方見つかったの?それは良かったけど凄い短い間の旅だったな。

 

こうして女子部屋には一人の洗剤を片手に持った男だけが残った。虚しい。

 

 

 

・・・・・

 

 

 

 

いつの間にか持っていた物。問いかけても分からなかった物。

 

私に与えられた優しさではない。それは彼女に向けられた優しさ。だけどそれが私には嬉しかった。嬉しいという感情を覚えられた。

 

私も...与えられるだけじゃなくて返したい。

 

(アポロもそうだったのかな...?)

 

少女は戻る、一つの小さな旅を経験して。

 

元々持ってなどいなかった。分からなかった。これが、感情。あの騎空士は言った。誰かを助けるのに理由はいらない。私のそこには感情があっただけだった。

 

「ん?君は、黒騎士の… ああ、なるほど。戻りたいって訳か。いいよ!誰かこいつを連れていってやってくれ!」

 

答えは出た。もう迷わない。

 

オルキスじゃなくて、私の… 初めてのワガママをーー

 

 

 

 

 

 

・・・・・・・

 

 

やたらと腹が痛くて真夜中に目が覚めてしまった。トイレが何処だか分からない。助けて。割と限界に近いんだが。城が無駄にでかい所為でここがどこだかも分からなくなってきた。

 

そうやって少し城の中を探索していると光がドアの隙間から漏れてきている部屋を見つける。よっしゃあ!トイレの場所を教えてもらおう。

そう思い思いっきりドアを叩き開ける。こちとら余裕がない。早く教えてくれないとマズイことになる。

 

「っ!貴方は… !何故そこにいるのですか!!」

「グラン!無事だったのか!」

 

部屋の中に居たのは剣を抜いているヴィーラさんとカタリナさん達だった。あとついでに帝国のガキと帝国兵さん達もいた。えっ、なんでみんな居るの?あとトイレの場所教えてくれないですか?

カタリナさんが心底嬉しそうに俺の無事を確認する。お腹の調子は無事では無いですよカタリナさん。

 

「おい、おかしいじゃないか!なんでお前がここに居るんだ!!?キサマァ!毒はどうしたんだ!!」

 

どうやら俺がきたことによって動揺しているような様子のフュリアスが、ヴィーラさんに向かって吠える。

 

「… おかしいですね。夕食に混ぜておいた毒は、確かに致死量には至らないですが一週間は動けない筈だったのでしたが…」

「まともな戦闘じゃこいつには勝てない!だから作戦を邪魔されないように毒を盛ったのに!!」

 

クソガキが凄い発狂してる。ざまあ。というか毒盛ったって事はこの腹痛はそれのせいだったって事ですか。毒の耐性はザンクティンゼルでサバイバルしてたから結構自信有るけど、それで腹痛って事はそれって致死量じゃ……

とりあえず、毒だったって事が分かったのでクリアオールで治しておく。毒だったら治せるからね、この世界。

 

「クソぉ!まさか毒も効かないような化け物だったとはね… 誤算だったよ」

 

バリバリ効いてました。滅茶苦茶お腹痛かったです。

 

「… なあ、一つ提案があるんだけど、いいかい?君もここに来たという事は、もう事のあらましは分かっているんだろう?」

 

分からないです。何でお前はここに居るんですかマジで。

 

「アルビオンの星晶獣、シュヴァリエが真の騎士を決める戦い。勝者がシュヴァリエの加護を受け、この島に生涯領主として取り憑くことになる」

 

今初めて知りました。星晶獣が領主を決めるって何だそれヤバそう。生涯とか制約キツすぎませんかね。

 

「僕としてはどっちが勝ってもいいけどあの二人にとっては因縁のついた大切な戦いらしい。だったら邪魔なんでせず君も大人しくここであの二人を見ているべきなんじゃないかなァ?もちろん僕らも手出しはしないよ」

 

引きつった顔のまま此方に条件を持ちかけるチビ。

 

「グラン…ここは私に任せてはくれないか?」

 

そう言って俺とフュリアスの話を傍で聞いていたカタリナさんが俺に近づく。

 

「君がここに駆けつけてくれたのは本当に嬉しい。だがこれは私と彼女との騎士の矜持をかけた試合なんだ。… 君にも、少し頼りすぎてしまった。もうそんな訳にはいかない」

 

カタリナさん達の過去の事情はよく分からないけど貴女方の戦闘に手出しする気はないです。ヴィーラさん怖いし。

その意思を込めて俺がうなづくと、見惚れるような笑顔を見せてカタリナさんも同様にうなづいた。

 

「ありがとう、グラン。さて、ヴィーラ…… 始めるとしよう。悪いがここは勝たせてもらう。私を信じてくれたグランの為にも負ける訳にはいかない」

 

そういってカタリナさんは自分の剣をヴィーラさんに向けて構えた。

その様子を見てヴィーラさんは低く響くような笑い声をする。

 

「ふ、フフ… やっと分かりました。この島で初めてお姉様を見受けした時から消えなかった違和感… もうお姉様は昔のお姉様では無かったのですね」

 

笑っているのに切なげな顔をするヴィーラさん。彼女もカタリナさんに向けて剣を構えた。

 

「私も、あの時の私ではもうありません。ゆめゆめ楽になど勝てると思わないよう、全力でお願いします」

 

こうして、ヴィーラさんとカタリナさんの一騎打ちが始まった。

 

・・・・・・・

 

 

カタリナさんが流れるような剣裁きでヴィーラさんに猛攻を仕掛ける。しかしそれをヴィーラさんが裏手に返し剣の勢いをつけさせて逆に戻す。だがそれも読んでいたのか鎧の肘当てで上手く流す。いずれも一歩間違えれば即終了。そんな見ているこちらがヒヤヒヤするような場面は先ほどから何回も繰り返され、かれこれ十回に達していた。

 

「っふふふ……剣が疼くな!ヴィーラ!」

「うふふふっ、はぁっはっ!そうですわねお姉様!!」

 

あかん、変なスイッチ入っとる二人共。アドレナリン出すぎじゃないか。

 

「ここで終わらせるのには勿体無いが… そろそろ決めさせてもらう!」

 

カタリナさんが床を蹴ってヴィーラさんに向かって走りだした。持っていた剣に魔力が溜まっていき水の魔力の蒼に変わっていく。

 

「我が奥義、お見せしよう!アイシクルネイル!!」

 

ヴィーラさんへと向かっていくカタリナさんの蒼。それに対抗してヴィーラさんの剣にも紅い魔力が満ちていく。

 

「紅く咲かせて差し上げます!リストリクションズ・ネイル!!」

 

紅と蒼。両方の魔力がぶつかるーー かと思われたその瞬間、カタリナさんの剣から魔力が消えた。

 

「なっ…!」

 

まさか自分の奥義を消すとは思っても見なかったのだろう。ヴィーラさんの顔が驚愕に染まる。

そうしてカタリナさんは自らの剣を腰から上へとヴィーラさんの剣をすくいあげるようにして弾いた。

 

「しまっ…!?」

 

ヴィーラさんの身体に大きな隙ができる。頭上に剣を持ち上げさせられた格好で胴がガラ空きになったのだ。

その隙を見逃すカタリナさんでは無く、その胴に剣を叩き込む。

 

「ぐァ…!」

 

流石に直撃した剣の威力には耐えられなかったのだろう。ヴィーラさんがその場に崩れ落ちた。

 

 

「はぁ、はぁ… 作戦は一つではないぞ。ヴィーラ」

「そう、でしたね… お姉様が良く学生時代に言っていた言葉でした… まさか自分の奥義を解くとは… お見事でした、お姉様」

 

小さく自分に言い聞かせるように呟いたヴィーラさんの顔は、何故かとても嬉しそうに見えた。

 

「ヴィーラ、たしか君はこの勝負が始まる前に私が変わってしまったと言っていたな。… 私は私の中の、大切な物を守りたかっただけだ。私は何も変わってなんかいないさ」

 

ヴィーラさんにカタリナさんがそう言い、手を差し出す。

 

「君も、その大切な物の中に入っている。もうこの手を離さない」

「っ、ぅあ… 」

「私は君を一人には、絶対にさせない」

「ぉ、お姉様… 」

 

ヴィーラさんの目尻に涙が溜まっていき、彼女はそのまま我慢しきれず、体に抱きついた。カタリナさんがイケメンすぎてやばい件について。あの人男だったら全空一のモテ男だよ… ヴィーラさん顔真っ赤じゃん…

 

「っ!シュヴァリエ……」

 

そんな二人を邪魔するように現れた紐のような触手のような… そんな物がついたクリオネに似た、ビィくん位の大きさの生物が部屋に現れた。シュヴァリエとヴィーラさんが呼んでいたからあれが星晶獣らしい。なんか今までに見た奴と違ってちっこいな…

 

「来たか、シュヴァリエ… 」

「お姉様… 本当によろしいのですか?シュヴァリエを受け入れればお姉様は生涯この島に…」

「ああ、その事については打算がある。ヴィーラ、君が心配しているような事は起きないだろう… 君も、もしかしたら助かるかもしれない」

「えっ…?」

 

そこまで言ってカタリナさんはシュヴァリエに近づいていく。

しかし俺達はすっかり戦いに気を取られ一つ忘れていた事があった。

 

フュリアスとその愉快な仲間たちの存在だ。

 

・・・・・・・・

 

 

それは、カタリナさんがシュヴァリエに近づいた時に起こった。突如としてカタリナさんへと飛来する銃弾と矢の雨。

 

魔法による壁を貼り、防ごうとしたが間に合わない事に気付き急いでカタリナさんの前に出る。

 

「………っ!」

「グランッ!フュリアス貴様らァ!!」

 

どうやら撃ってきたのはフュリアスらしかった。らしかったというのは俺が撃ってきた方向を確認できないからだ。絶賛ぶっ倒れ中。銃弾10発くらい食らったんじゃないかな… カタリナさんと頭だけは何とか守ったけど血の量がマジでヤバイ。死んじゃう。お腹痛い。ヒールかけてるけどきいてんのかこれ。

 

「あは、アハハハハハ!なんだこれは!とんだ幸運じゃないか!!まさか一番厄介な君がこんな奴を庇って死んでくれるなんてねェ!!」

「幸運…!幸運だと貴様ァ!」

「おいおい、あんまり怒らないでくれよ?元々僕らは君を狙うつもりだったんだ。此奴を狙うつもりなんて僕は更々になかったんだよ。僕は悪くない」

 

カツカツと此方へ歩いてくる音が地面についてる耳から伝わってくる。こいつ自分の靴に何か入れてやがるなチビ。上げ底か?

 

「アルビオンの星晶獣シュヴァリエ……真の騎士が加護を受ければそれは国を守るほどの力になる。けどさあ、さっき気付いちゃったんだよねェ!」

「一体何の話しをしている!それに気付いただと…!何に気付いたと言うんだ!」

「シュヴァリエの力の条件にだよ。… 本来星晶獣ってのは大きさが小さくなればなるほど弱くなる筈なんだ。例外はいるけどね。けれどシュヴァリエは国を守れる程の力を持っているのに、そんなにも小さかった。これって可笑しいだろう?何か条件があるに違いないと思った訳だ」

 

確かに。ティアマトとかリヴァイアサンとか 頭おかしいぐらいデカかったもんね。

 

「そう!シュヴァリエの力が発揮出来るのは真の騎士が加護下に入った時だけ。僕はこの仮定を立てた。そこの女と君が決着がついた時に、一時的に主人を決めようとしてそこの城主から離れる瞬間の、弱い状態のシュヴァリエをいただこうとしたんだよ」

「だがもし私が負けていたらどうするつもりだったんだ…!元々のシュヴァリエの主人はヴィーラだ。私が負けてもシュヴァリエは現れない!」

 

カタリナさんが声を震わせてフュリアスに叫ぶ。その様子を見てフュリアスが心底おかしそうにあざ笑う。

 

「その心配はしなかったなぁ〜?君って元々帝国にいたでしょ?だから君のデータは帝国にあるんだよ。君がどれくらい強かったか、なんて物は丸わかりさァ!ましてやそこの城主は十年前の決着とやらに拘ってシュヴァリエを使おうとすらしなかったしね。これじゃ結果なんて見えきってるよ」

 

協力してくれてありがとうねなどと笑うフュリアス。ムカつく絶対殴るこいつ。

 

「そうしてシュヴァリエが宿主を離れ、顕現した時に君を狙ったんだけど… 当たりも当たり!目的は違ったがこいつが引っかかってくれたって訳だ!この化け物さえ居なくなればもう君達にくだらない策を労する事も無い。笑いが止まらないよ」

 

そう言いながら俺の頭を蹴り飛ばす。まじブッコロ。

 

「フュリアス貴様ァアあ!!」

「おっとぉ、動かないでよね。今君達の命は僕らが握ってるんだからさ。君らもこいつみたいに死にたくないでしょ、ホラホラァッ!」

 

また思いっきり蹴り飛ばされた。その後の追撃で後頭部を連続で踏みつけられる。

痛くないけどコロス。絶対コロス。

 

「アハハッハァ!よくもポート・ブリーズでは馬鹿にしてくれたなァ!この野郎がァ!……あ〜もういいや。おい、誰かここに蒼の少女を連れてこい」

「ハッ、分かりました!」

 

体の中の血を流しすぎ、朦朧としてきた意識の中、フュリアスの甲高い声が傷跡に響く。蒼の少女…?

 

「蒼の少女…ルリアの事か!なぜここに連れてくる!」

「決まってるだろぉ?今の此奴の無様な姿を見せてやるのさァ!随分と此奴に懐いて居たようだからね、もう一度捕らえられていた頃と同じように絶望させてあげるんだよォ!もう二度と脱走なんてする気が起きない程心を痛めつけてやるんだ!」

 

はっ?今何言ったこいつ。ルリアちゃんを絶望させるとか言ったか?

 

「ッこのゲスがァ!どこまで腐りきっている!!」

「どこまでも、さ。アハッハハハ!!……おいそこの、何をしている。さっさと蒼の少女を連れてこい。何故そこで待機している」

「ハッ、いやそれが… 連れの仲間の方はどうしましょうか?」

 

その帝国兵の問いかけにフュリアスもとい改めてクソチビはこんな事を言った。

 

「全員ぶち殺せ」

 

その瞬間、俺の中で大切な何かが切れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・・・

 

「全員ぶち殺せ」

 

顔を背けたいほどのクズ。フュリアスが言ったことは到底許される事ではなかった。

ヴィーラが冷たい目線でフュリアスを見つめる。

 

「ーーあまり、舐めないで頂きたいですね。先ほどから黙って聞いていればお姉様の大事な場所をなくさせるなど… させると思いですか?」

「させると思いですかって?逆に聞くけどさぁ…今の一騎打ちで疲弊した君達で僕らを止められるつもりなのかなァ?無理だよねぇ!

君達はもう立っているだけでフラフラじゃないか!」

「ック…!」

 

その通りだった。今はもう魔力不足による疲労困憊とあの一騎打ちによるダメージでこうして立っている事すら厳しい。ましてやヴィーラは私の全力の剣をくらっていた。私よりもダメージの量は大きいだろう。

言いようのない悔しさがこみ上げる。私のせいでグランだけでなく他のみんなまでもが… !強い自責の念と恥が私の足を止めた。

 

「あっはハハハ!!いい顔だよ!その顔が見たかったんだ僕は!じゃあお礼にまずは裏切り者の君から殺そうとするかな。死んだ君を見る蒼の少女の反応が楽しみだよ」

「ッ!お姉様ァ!」

 

フュリアスの持っている銃口が嘲笑うかのようにして、近づく。

その持つ指には撃鉄が触れられ、引き金を絞られている。

 

「じゃあね!色々と君には助かったよ!」

 

走馬灯のようにあらゆる思い出が脳裡を去来した。下らないとすら思えた出来事や些細な場面があっという間に頭から溢れでて、私の中の多くの顔が瞼に重なりあう。

 

どん、と破裂するような音がした。勢い良く空気を跳ね返すような衝撃が伝わる。

 

ーーああ、死ぬのか。私は

 

…… だがしかし、自分が想像していた痛みがいつまでたってもやってこなかった。感覚が麻痺したとかそういった類でも無かった。

自分が感じた恐怖のためかいつの間にか瞑っていた瞼をゆっくりと、開く。

 

 

そこには信じられないような光景があった。

 

「な、なんで… なんでお前が立ってるんだよォおおお!なんでなんでなんでダァ!!クッソォオオおお!!」

 

おおよそ常人では立ってはいられない程のおびただしい血を流し、それでも真っ直ぐに前を見つめる、グランが私の前を護って立っていた。

 

「ーーーーーー 」

 

チラリと私の方を見る。その目は何時もと同じような底の知れない無機質な色。無機質ながらも優しさの溢れる目。

 

しかし、今は何故かゾっと鳥肌が止まらなかった。

 

グランに声をかけようと前に出る。だが自分の身体が板のように硬直しているのに気づいた。膝がわなわなと震えているのを感じ、まるで氷漬けにされてしまったようだった。

 

敵を見れば帝国兵や、あれだけ叫んでいたフュリアスでさえも止まっている。

 

 

ふと、まるで散歩でもするかのように一歩、フュリアスに向かい彼が踏み出す。

それを見たフュリアスがほとんど絶叫に近い声を出す。

 

「お、おいお前ら何をしてるんだ。見てないで早くあいつをぶっ殺せよ!早く!」

 

そうするとその声で我に返ったのか、グランに向けて銃を構えておびただしいほどの銃弾を放つ。しかしそれらは魔法によって彼に届く前に全て止められてしまっていた。

撃たれている間にも彼はどんどんフュリアスへと近づいていった。ゆっくり、ゆっくりと銃弾の波をかき分けていく。

 

そしてとうとう、彼はフュリアスの前までついてしまった。

彼の前に立ったフュリアスは恐怖からなのか、顔が蒼白になり今にも昏倒してしまいそうだ。何か言おうとしているのか口をしきりに開けているか声が出せていない。彼に反撃をしようにも銃すらもきかない。まさに八方塞がりだった。

 

「……… 」

「っひゃすけ、たすけてくれ!お願いダァ!僕はまだ死にたくない!僕は、まだ!ッグァ… !」

 

フュリアスの首を、彼が軽々と持ち上げた。呼吸が出来ないのか辛うじて喉から出た空気が音になる。

 

「ヒュッ…ぐげ… オぁ… ぁっ」

 

彼の手からぎきぎッという骨の音がする。ひどく嫌な予感がした。腹の奥から酸がせりあがってくる。

 

 

ーーボキッ

 

 

あ、と声を漏らしたのは誰だったのだろうか。それは驚くほどあっさり、人の命が終わったとは思えない程簡単にへし折られた。

 

彼が、人を殺めた。

 

思えば彼が殺人という行為をしたのを見たことは無かった。どんな敵と戦ったとしても、例えばあの緋色の騎士との勝負でさえも絶対に命をとろうという動きはしなかった。

剣士の世界では命を奪う事に躊躇をしていれば自分が斬られる。隙を見せて殺されるのは自分だ。戦うという事はその覚悟を持つ事。それは両者にとって暗黙の了解だ。しかもあの時の相手はあの緋色の騎士だ。少しでも隙を見せていたら彼は死んでいただろう。

 

一度その事についてルーマシーを出た後に聞いたことがある。

何故君は殺そうとしなかったんだ、と。今思えば意地の悪く、嫌な質問だがその時の私は問わずにはいられなかった。

 

彼は私の質問を聞き少し迷った後、遠くで遊んでいるルリアとイオ、それにオルキスを眺める。追いかけっこだろうか、走りながら息切らしながらも、楽しそうにして笑っている。

その様子を見ながらグランは目を細め、何か尊そうに呟いた。

 

ーー守りたい、あの笑顔を

 

自分の体に戦慄が走った。そうだ、戦闘をしていたのは何も自分だけでは無い。あの年端のいかない少女達も見ていたのだ。戦いは悲しみを生み笑顔を無くす。その悲しみを彼女達には感じて欲しくは無かったのだ。

 

なんという深い優しさだろうか。自らの命がかかっている状態ですら少女達の事を気遣う精神。それに心を打たれずにはいられなかった。

 

しかし、その精神にフュリアスは触れてしまった。つまるところ彼の逆鱗に触れてしまったのだ。彼の自らの命よりも大切な物を傷つけようとした。それが結果として彼の命を落とした。

 

 

「ひ、ひぃっ!化け物がァ!く、くるなぁああ!!」

 

フュリアスが殺された事により場は恐慌状態に陥った。ある者は銃を乱射し、ある者は泣き叫び、ある者は茫然自失としてしまっていた。

しかしそれら全ての意識を、感情も無く、只々作業のように彼はいとも簡単に失わせる。

 

全員を気絶させ終わると、グランはフュリアスの亡骸の元へ戻った。

 

彼はフュリアスの胸ぐらを掴みながら、力なく身体が垂れ下がり首があらぬ方向へ向いているフュリアスの身体を確認していく。

 

「彼は一体何を… ?」

 

ヴィーラが不安げに呟く。先ほどまでの彼の蹂躙を見たからだろうか、指先が震えてしまっている。かくいう私も足元が未だに震えていた。

今はヴィーラも私も、彼が何をするのか不安で仕方がなかった。

 

彼の一挙一動に注目していると、フュリアスを掴む手に魔力が集まっていくのを感じる。やがて彼は魔法の詠唱を、まるで唄うかのように口ずさんだ。

 

ーー湧き上がる命の泉よ、万物に宿りし生命の息吹よ、紡ぎしは抱擁の女神たる癒しの旋律

 

突如始まった詠唱に思わず聞き惚れてしまう。

 

「これは… なんとも綺麗な… 」

 

悲しいほどに美しい声。この世のものとは思えないほどの浄らかさを感じた。

 

ーー溢れる慈しみの光を、訪れぬ終焉。永劫足り得る光の奇跡に名を与え、いま希望を宿す

 

そこまでの詠唱を聞き、ヴィーラが何かに気づいたのか怪訝気に数秒だけ唸る。するとハッとしたように目を見開く。

 

「まさか… !いや、そんな… 信じられない!」

 

全身の神経を緊張させ、グランを見つめる彼女。その額にはうっすらと汗が滲んでいた。

 

「どうかしたのか、ヴィーラ。彼が今どんな魔法を唱えているのか分かったのか?」

「…… はい、恐らくは。ですが、コレは余りにも信じがたい事実だと…!」

 

そう言いながらもグランから目を離そうとはしない。何か神々しい物を見る目でグランを見ている。

 

「…… 一体彼は、グランは何をしているんだ。教えてはくれないか」

 

その私の問いに答えるべきかどうか迷ったのか少し考え込み、ヴィーラは決心した顔で答える。

 

「… 死者の魂を現世に呼び戻す大魔法、蘇生魔法でございます」

「なん… だと…!?」

 

驚きで言葉が出てこない。そんなバカな事がありえるのか。

 

「ええ… 回復系魔法の中でもトップクラスの性能を誇るそれは、まさに奥義といっても過言ではありません。」

「ああ、一度耳に挟んだ事がある。私も一応回復魔法を習得しているからな。人を蘇らせるという奇跡に、昔は憧れたものだ」

 

人が死んでも生き返れるならば戦いにおいてそれは圧倒的アドバンテージを生み出す。

戦闘以外においても、日々魔物に怯える人々からしたら、なんという安心のできる魔法なのだろうか。もう魔物による命の殺戮は無いのだから。

 

「しかしこの魔法には一つの大きな欠点がある… そうですね、お姉様?」

「ああ… そうだな」

 

そんな汎用性が高く、強力な魔法だがやはりどんなものにも欠点がある。

 

この魔法の大きな欠点、それは習得が非常に難しいということだった。

莫大な素質、なおかつ命を削るような努力。それでやっとこの魔法は振り向いてくれる。

 

「その余りの難しさに、習得しているのは十天衆の一人とゼエン教の秘蔵っ子ぐらいだと聞いていたが… 」

「ええ、私もです。まさかこんな所にもう一人の使い手がいたとは… !」

 

そんな私たちの話をよそに、彼は詠唱を淡々と進めていく。どうやら最後の節にまで入ったようであり、透き通るまでの光が強くなっていく。

 

ーー天よ、死の淵に眠る者に、再び光を

 

 

神々しくも優しい光にフュリアスが包まれた。蘇生魔法という物は初めて見るが、なるほど確かに蘇生という物にふさわしい美しさだ。その光景にしばし圧倒される。

 

光が止むと、人間の首とは思えない方向に曲がっていたフュリアスの首も治っていた。

ヴィーラが横たわっているフュリアスに近寄り生死を確認する。

 

「大丈夫です、正常に脈も刻まれています」

 

どうやら蘇生魔法は無事に成功したらしい。彼が失敗するなんて事はあまり想像はできないが、それでも蘇生魔法という特大の代物だ。少し信じられなくもあった。

 

「ホッ… まさか本当にやってしまうとはな」

 

安心して息をつく。

 

「グラン、君も… 」

 

大丈夫か、そんな労いの言葉を彼に声をかけようとした時だった。

 

隣にいた彼の身体がグラりと揺れ、体が斜めに崩れていく。周りの物が遅く見えた。ドサっと音がして、それが彼が倒れた音だと気づいた後、我を取り戻す。

 

「ッグラン!大丈夫かッ、おい返事をしてくれグランッ!」

 

彼の身体を大きく揺さぶる。思い返してみれば私を助けにきた時、彼は全身が血まみれでなぜ立っているのか不思議ですらあったのだ。あの状態で動けば、下手をすると死ぬ恐れすらある。そんな重要な事を先ほどまでの事態ですっかり頭から抜け落ちていた。

 

「いけません、お姉様。彼の傷が悪化してしまいます。ひとまずは落ち着いてください」

「っ…!ああ…すまない。焦っていたようだ」

 

ヴィーラの落ち着いた声が、私を止めた。そうだ、負傷人に向かって何をしているんだ私は。余りにも焦りすぎていた。

 

「とりあえずは医務室まで運びましょう。彼処には医師も居ますし、エリクシールもあります」

 

そう言って彼女は彼を担ぎ、救護室に向かって歩き出そうとする。しかし彼を担ぐ体力すら残ってすらなかったのか、よろめいてしまった。

 

「私が彼を持とう。ヴィーラは医務室までの案内を頼む」

「申し訳ありません… お姉様のお手を煩わせるなど…」

「いいんだ、元はといえば私との勝負で君の体力を奪ってしまったものだ」

 

そう言ってすまなそうにしているヴィーラから彼を受け取る。

 

(軽いな…)

 

鎧のお陰で幾分か増えているであろう体重。しかしその分を差し引いても彼の身体は軽かった。

こんなにも軽い身体で、普段の私達を守ってくれている。助けてくれている。今回も私を心配して付いてきてくれたのだ。

思えばあのヴィーラとの確執に悩み、黄昏ていた私を励ましてくれた時から、彼は私を守る気でいたのだろう。

そう思うと感謝の念が尽きなかった。

 

(絶対に生きててくれ、グラン… !)

 

まだ、私は君を支えられてはいないんだ。

 

・・・・・・

 

彼が医務室に入って、いくらたったのだろうか。時間だけが無常に過ぎていき、しんとした廊下は不安の念をかきたてた。

そんな不安を知らず、ガチャりとドアノブが回った。彼の治療が終わったのだ。

 

「っ、ヴィーラ。グランの様子はどうだ?」

 

今しがた医務室から出てきた彼女に彼の安否を問う。

ヴィーラはその美しい金の髪を、横に振りながら答えた。

 

「命に別状は無いそうです。医師によれば傷は既に回復魔法によってほとんど塞がれていて、今回倒れたのはただの貧血だと」

 

その言葉に安心し、いつの間にか入っていた全身の力が抜けていく。

 

「ああ、ありがとう。そうか、ただの貧血か。よかった…」

 

彼が無事であった。ただそれだけが嬉しく破顔してしまう。

 

「… 凄まじいまでの精神力ですね、ただでさえ集中力が必要な蘇生魔法を、あの倒れる寸前の状態で成功させたのですから」

 

心底感心したように小さくヴィーラが呟いた。

確かに魔法というのは集中力というものを使う。それは詠唱を行なったり、魔法陣を描くなど人によって違うが、どれもこれも貧血の状態でやれるかと言えば、皆首を横に振るだろう。そんな魔法の中でも最上級の蘇生魔法だ。少しでも集中力が欠けていたら成功はしなかっただろう。

 

「彼の出身地はさぞかし高名な所なのでしょう。あれだけの魔法と戦闘技術が残っている島は限られていますし… 伝説のカルム一族の末裔という可能性も… !」

 

そう言ってヴィーラが早口で憶測を立てていく。彼の強さに驚いた者は皆そう思うだろう。彼は一族から英才教育を受けていたからあんなにも強いのだと。

だが、違う。

 

「… 言いづらいがヴィーラ、彼は独学だ」

「えっ…」

「彼の出身地はザンクティンゼルという辺境の島であり、師と呼べる者はたった一人の老婆だったらしい。そこで魔法を学んだそうだ」

「ろ、老婆?老婆というと老いた女性を指すあの…?」

「ああ、その老婆だ。昔は名のある騎空士だったようだが… 」

 

前に彼から聞いた話だ。あまりにも無口な彼に、謎が多すぎて前に質問の時間を取った時に聞いた事だが、いずれも信じていいものか分からないような事ばかりだった。

 

「曰く、三歳から剣術と魔法を自分から学んでいたらしい。十を超える歳の頃には大抵の属性魔法は出来るようになっていたとも言っていた」

「十… !?」

 

絶句して言葉が口から出てこないようだ。普段の冷静な彼女からは想像のできない、呆気にとられた顔をしている。当時、彼から話を聞かされた私もこんな顔をしていたのだろうか。少し気恥ずかしい気分になる。

 

「ヴィーラ、君は確か二属性持ちだったな。確か土と闇だったと記憶してるが」

「はい。… もしかしてですが」

 

まだあるのかと、彼女がうんざりとした顔でこちらをみる。残念ながらまだある。それも、とびっきりのが。

 

「彼は世にも珍しい六属性持ちだ。しかもそれらを全て達人級にまで鍛え上げ、尚且つ無属性までも習得している」

「…本当に人間ですか、あの方は」

 

諦めの入った顔に変わる彼女。

属性というのはそれぞれに、火だったら水。風には火というように大きくダメージをくらってしまったり、与えたりする相性というものがある。

それを上手くカバーをしながら戦うのがこの空での基本的な戦闘方法で、自らの属性を使いこなせてやっと一流とよばれる。

しかし稀にヴィーラのように二属性や三属性を操る者もいる。そういった者たちは大抵は得意な方の属性を伸ばし、もう片方はサブウェポンとして使うのだが、それでも大きなアドバンテージだ。一つ属性が増えるだけでも弱点が減るのだ。

そこにおいて彼は異常すぎる。六属性を操るということはつまり、弱点がない。しかもそれら全てをメインウェポンとして扱えるということは相手に応じて弱点をつけるのだ。ヴィーラが呆れるのも無理はなかった。

 

彼に関係する話はそこからも止まらなかった。彼が普段している訓練、イオに魔法を教えてあげていること、彼の使う飛翔術で空に飛べたこと… 彼の情報は余りに少ないのに、何故か彼に関する事はスラスラと喉の奥から湧き出てきた。

そんな私の様子を見て、ヴィーラが安心したように微笑む。

 

「… どうやら、私が今回した事は全て杞憂だったようですね。本当に、申し訳ありませんでした」

「そういえば、なぜ今回ヴィーラは私達を罠に嵌めるような真似を…?」

 

改まって思い返して見ると少し変だ。彼女が私を呼んだ理由も、一言手紙をくれればいい話ではあるし、そこからのフュリアスとの関係性。所々に引っかかりがあった。

 

「そうですね… ここまでの迷惑をかけてしまった私には、今回の騒動を話す義務があります」

 

姿勢を整え直し、真面目な顔でこちらを見直す彼女。少しの深呼吸の後に覚悟を決め、語り始める。

 

 

「ーー元は、一つの報せから始まりました」

 

 

 

 




星晶獣の大きさの設定→色々な私の妄想入ってます。公式ではいってないので注意です
二属性やら三属性→運営がこれ書いてる間に闇属性カタリナ出したため説得力がない。小説はこんな感じなんです、信じてください…
オルキス→抜けた。早い。だって私が持ってないから。
カルム一族→十天衆の一人、シスさんの一族。そのあまりの強さと有名さにこの一族の島は観光地となっているほど。
蘇生魔法→グラブル世界ではレアだが他のゲームとコラボすると割といる。あと厳密にいうと十天衆の使う蘇生魔法はドラクエでいうとリザオリク、FFでいうとリレイズでちょっとグラン君が使ったのとは違う。最近自分が死なないメガザルも追加された。詠唱の台詞はテイルズから引用。
ゼエン教の秘蔵っ子→HLでおなじみソフィアさん。ベホマ、ザオラル、クリアという便利さからHLでは永遠の5番手。かつてはSSRのハズレ枠と言われたがザオラルの上方修正と高難易度クエが出るたびに活躍の場が広がった。エロい。
フュリアス→殺したかったけど死んでほしくはなかった。当初の予定では生き返らせた後に、もう一回首の骨を折る予定だったが、それだとグラン君がサイコパスすぎたので中止。彼はいま独房にいます。

次はヴィーラさん視点という名の説明回。過去編もやります。
いつも感想、評価ありがとうございます。毎回楽しみに読ませてもらっています。


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ヴィーラ・リーリエ 過去

前島での出来事
シェロカルテからの依頼でアルビオンへと旅立つグラン達。その依頼の内容とはアルビオンの領主『ヴィーラ ・リーリエ』がグラン達に会いたいというものであった。到着したグラン達に待っていたのは豪華な待遇であったがヴィーラと先輩後輩の関係であったというカタリナの表情は憂鬱であった。そんなカタリナを見て励ましたグランだが、皆が寝静まった夜にグランはカタリナとヴィーラ 、そして帝国幹部である『フュリアス』が怪しげな取引をしているのを見たグランは部屋へと突入する。昔の因縁があったヴィーラとカタリナの決闘が終わり、一件落着と思っていたグランだが、その隙を突かれフュリアスはカタリナ達に向かい銃弾や矢を放つ。何とかして庇ったグランだが、フュリアスはここにいるもの全てを皆殺しにしてルリアを攫うとのたまう。その余りの非道さに激昂したグランはフュリアスを殺してしまうのであった。しかし全身に銃弾や矢を受けたグランはその後直ぐに倒れてしまう。そしてヴィーラは何故このような事を計画したのかカタリナに話し始めるのであった。


まずは一つの報せから、とは言ってもあまりにも急ですね。

 

そうですね… まずは順を追って私の過去から話していきましょう。お姉様にも、まだ私の口から話したことはないはずです。

 

私はファータ・グランデ空域のとある島の商家の末娘として生まれました。

 

私は自分から言うのも少しアレな話ではありますが幼い頃から他人よりも聡く、優れた子供ではあると自覚をしておりました。

 

兄がまだ数字の勉強をしている時には私にはもう家の手伝いができるぐらいの勉学は身につけられていましたし、同年代の子供やさらにその上の大人と比べてみても剣の腕前、魔法の練度。どれを取っても負け知らずであり私には出来ないものなんてありませんでした。

もちろんやってすぐに出来ない物もありましたがそれすらも練習を繰り返せばいずれは必ず出来るようになるものばかりでした。

 

そして私は思います。

将来はこんな小さい商家なんてものからは出ていき自分だけの騎空団を作り、そこで自分の優れた才能を十分に生かし私だけの空を駆け巡るのだと。

 

自分には出来ないものなんてない。私が一番優秀なのだと思っていました。

 

十二歳になった時の事です。毎年私の家では小さいながらも家族間の間で各個人の誕生祭が行われていました。

 

しかしその年は違いました。

やたらと豪華な食事と場。段々と増えていく会った事の無い豪華な飾り物をつけた集団。その中には私と同じくらいの年齢の子供もいました。

明らかに毎年行われる物とは違う誕生祭で私は戸惑いを隠せませんでした。

 

結局、その見たことも無い人達とは一言も喋りませんでしたがちらちらと此方を伺っていた事は分かりました。

そしてその誕生祭の終わりに、何時もはあまり私とは喋らず仕事場で書類の山を片付けている父が、今日の夜に話があるから自分の部屋に来いと言うのです。

 

私はこの話の内容の事を推測しました。父は過去一度たりとも自分の部屋に呼び寄せて話をするなんて事はした事がありません。それだけ重要な事なのだろうと思われました。

 

そして一つの結論に至ります。

ああ、これはこの商家を継いで欲しいという話なのだろうと。

あの見知らぬ人達は父の知り合い商人でこれからこの商家はこの私が継ぐから私の顔を一目見ておこうときたのだと納得がいきました。それならばあの集団に子供がいたこともあのような飾り物を着けていたことも納得できます。これから先、あの子供は私と商売で長い付き合いをすることになるのですから今のうちに顔合わせはしておいた方がいいでしょう。

 

しかし残念ながらその話には乗れません。

何故なら将来私には自分だけの騎空団を作る予定があるのです。そう断るつもりでした。

 

扉を叩き、父に入る許可を得ます。何気に父の部屋に入るのは初めてのことでした。

部屋の中に入ると父は重苦しい顔で机に肘をつき、こちらを真っ直ぐと見据えていました。

少しの間でしょうか、父は口を開け閉めさせ言おうか言わまいか迷っているようでしたがとうとう決心したのか少しの深呼吸をしました。

 

そして当時の私にとって衝撃的な宣告をします。

 

 

「ヴィーラ、お前は今年の夏に嫁に行け」

 

驚きでした。私はてっきり後継の話をするのかと思っていたので、この話は寝耳に水といってもいいぐらいでした。

 

あまりに突然な宣告に呆然としていた私ですが、父はそんな私に何故結婚の話を持ちかけたのか、その理由を語っていきました。

 

「お前は女だ。これまでは家の事を手伝わせていたが、これからはそうもいかない。

今日誕生祭に来ていた集団がいただろう。あれはこれからこの商会と贔屓になる貴族だ。お前にはそこの架け橋となって貰う」

 

ショックを受けました。女という理由一つでこんなにも嘲られるなんて。こんなにも低く見られていたなんて。

私は、女としてしか見られていなかったなんて。

 

「お前は優秀だからな。何処へ出しても恥ずかしく無い。それこそ貴族連中になど遅れを取らないだろう。

だからヴィーラ、ヴィーラ… ?おいヴィーラ何処へいく!待て!」

 

気がついたら足はもう私の部屋へと早々と動いていました。

剣を持ち、荷物をまとめ、今までに家業を手伝い稼いできた金を持ってまだ暗い真夜中の街へと飛び出します。

もちろん後ろから商家からの追っ手が来ましたがそんなものに捕まることはありませんでした。

 

「今ならちょうど、旅行用の騎空艇が港にあるはず…!」

 

旅行用の騎空挺は、客に船の振動で不快感を与えないようにゆったりと進むためその性質上日が出ている内には出発をせず大体真夜中に出発しちょうど朝ごろに到着をするようにします。真夜中に街に着いたところで宿も観光もできないという理由のためです。

つまり、深夜の今ならまだ間に合うはず。

その事を商家に居た頃の私は知っていましたので見事港に辿り着き島からの脱出に成功しました。

 

 

そしてこの日以来、私は故郷に帰ったことはありません。

 

 

ふふっ、意外…という顔をされてますねお姉様。私はこれでも結構無茶をやる性格なんです。

その後の家族ですか?噂では父も母もその後を継いだ兄もそれなりには元気にやっているらしいです。

ただ、私とはもう会うつもりは無いようで元々娘など居なかったことにされているようですが。

 

さて、続きを話しましょうか。

島を脱出した後、私はしばらくの間酒場に泊まっていました。

考えなしに出てきたはいいもののその時の私にはお金も足りないため騎空艇を持てません。

金を稼ごうと働こうにもまだ子供のために安い賃金で終わってしまう。これではその日の給料でその日を暮らすようなものでとても貯金などできるものではありません。

そして当たり前の事ですが自分から商売をしようにも子供の言うことなど誰が聞いてくれれでしょうか。

家に居た頃は裏方で数字の計算や在庫の確認のチェックや仕入れなどを考えればそれだけで表に出なくても良いものでしたが、いざ子供が商売を始めるというのはとてもではありませんが難しいものでした。

そしてそんな現実的な事に悩み段々と持ってきていた貯蓄が少なくなってきた頃、私は酒場に貼ってあったある張り紙を発見します。

 

それは、城塞都市アルビオンへの入試張り紙でした。

 

私はアルビオンという名前をその頃は知りませんでした。ですが要項を見ていくと、それはその頃の私にうってつけのものでした。

 

我ら城塞都市アルビオンは将来有望な若者を育てんとす。

よって剣、魔法、学が優秀であり、かつ多大な才能を持ち合わせている者。城塞都市アルビオンへと来るべし。

なお特待生になった者、すべての学費、生活費を免除するものとする。

 

この張り紙を見た後の私はすぐに街の図書館へ行きアルビオンについて調べました。

お姉様も知っての通りアルビオンは優秀な兵士を育てる学校です。魔物や世界に関する知識、身体の動かし方を効率的に学べる場としてこれ以上のものはありません。

アルビオンは騎空団を立ち上げようとしていた私にもってこいの場でした。

特待生制度というものも私にかかれば絶対に受かるという自信がありました。

しかし私が調べた中でも最も心惹かれた部分があります。それは卒業後の就職先が安定しているところです。私の場合卒業したところでまだまだ若造と呼べる年です。仕事もできることは少ないでしょう。ですがこれならば年や性別に関わらず、早く確実に仕事に就く事が出来るのです。

卒業した後は何処かの国の兵士にでもなり四、五年金をかせいだ後に騎空団を立ち上げればいい。そう思いました。

 

そうして私はアルビオンへと向かいます。

 

また意外…という顔をなされてますね。そうです、私には元々立派な騎士になろうなんて気はありませんでした。

ただ、その選択が大きな変化をもたらしたのも事実です。

 

話を続けます。

アルビオンへと到着し特待生入試にも合格をはたした私に怖いものなどありませんでした。

ただ… 一つだけ問題がありました。

 

それはやはりここでも女扱いをされる事。

いえ、女扱いだけなら別にいいのです。私は自分でも容姿の方は整っていると理解をしていますから。

ですが訓練や研修などで男性を私が負かした後に、いつも言われた言葉は今でも覚えています。

 

「女なのだから手を抜いてやった」

 

ああ… やはりお姉様も言われた経験があるのですね。

そうです、私はこの言葉が悔しかった。ただ一言女だからという言葉で自らの行為は本気ではなかった。こいつ自身には俺は負けてない。という自尊心を満たすための虚勢。

私が今までにしてきた努力、性格、行動。その全てを一言で奴等は壊していきました。

それこそ言った奴ら全員を生まれてきた事を後悔するよう完膚なきまでに叩き潰してやるほどには憎らしくもありました。

 

ウフフ、少しズレましたね。話に戻りましょうか。

私はこの事が原因で、今でも男性は苦手です。あのような下卑た者ばかりではないと、今回の件で分かりましたが… それでもやはり。

 

そんな問題を抱えながらアルビオンに来てから大体一年が経った時に、私はある運命的な出逢いをします。

そうです、私の人生の中で最も大切な物。

お姉様との出逢いです。

 

お姉様もあの日の事は覚えていらっしゃるでしょうがあえて語らせていただきます。

 

あの頃の私は簡単に言うとやさぐれていました。

世界の男は全てが愚かに見えましたし、女性はそれについて何の疑問を抱かない。それどころかそのような男について行こうとすらする。はっきり言って私には理解が出来ませんでした。

こんな事で良いのか、私はやっぱり女として扱われる他ないのか。その事に苦しんでいた時期でもあります。

 

そんな事に悩みながら、その日のうちの授業を終え私は日課の自己鍛錬をおこなっていました。

少し自己鍛錬に夢中になりすぎてしまい、すっかり日が暮れ辺りはかすかな月と電灯の光だけになり流石に帰ろうと訓練でかいた汗を拭き息をついた時のことです。

 

私は背後から突然魔物に襲われました。

 

意図していなかった腰部への強烈な一撃に私は悶えます。

アルビオンでは魔物は常に訓練になるようにと街中をうろついています。それは強さの強弱はもちろんありますが、所詮は獣です。気配を隠す気もなくまた、それを考えて行動するわけでも無い。

私は鍛錬が終わった後の、散漫した注意力の時ですら魔物の気配に気づかないなんて事は一度たりとも無かった。

 

しかし魔物の接近に気づかないほどアルビオンでの窮屈な生活は私の心を疲れさせていました。自分でも気づかないうちに心の中を病んでいたのです。

 

抵抗する力も精神力も無く、後はこの魔物に殺されてしまうだけ。そう考えるとなんだか心が楽になり身体が軽くなった気持ちで目を瞑ります。もうこの世界も自分の夢もどうでもよくなっていました。ただ終わって欲しい。その気持ちで一杯でした。

 

しかし、いつまでたっても魔物は私に襲いかかりません。

 

不思議に思った私は閉じていた目を開けるとそこには私と同じくらいの女生徒が魔物と戦っていました。

 

その戦いぶりは見事というほかなく、私が疲れていた時とはいえ不意を突かれるほどの強さを持った魔物を一方的なまでに圧倒していきます。

 

鉄すらも楽に噛み砕きそうな強力な牙を細剣で見事にさばききり、ついには氷魔法で氷塊にしてしまったのを私は呆然としながら見ました。

 

「君、大丈夫か! 怪我はしていないか」

 

その人は戦いが終わると勝利の余韻に浸る事無く私の身を真っ先に案じました。

あまりに咄嗟の事に、自分のことを言われていたのを分からなかった私は返答を返す事ができません。

 

「おい、大丈夫か! しっかりしろ! 近くの医者は何処にいたか…!」

 

返事が出来ないほど私が酷い怪我をしたと勘違いをしたのかあたふたとしている姿。

その姿をみて、無礼なのですが少し緊張が解けた私は身体の方は少し腰に傷はあるが大丈夫な旨を伝えます。

 

「そうか、よかった… しかし一応医者には行っておこう。こういった怪我は後に残るからな」

 

そう言って私の腰に手を当てます。何をするのかと思うと、腰のあたりが暖かい光と共に痛みがなくなっていったことから回復魔法という事が分かります。

 

「ああ、いやコレか? 最近身につけたばかりだが気休めにはなる筈だ。不快と思ったならば謝ろう」

 

そんな事は無いと激しく首を横に振ります。あまりに振りすぎて首が痛くなってしまい、途中で首を押さえました。

 

「アッハハ!それだけの元気があるなら大丈夫そうだな」

 

そんな私の姿を見て吹き出した彼女。その姿も様になっていて、私はまじまじと観察をします。

笑う彼女の顔は本当に優しそうで、その目には確かな知的な光と暖かさ。風になびいているブロンドの髪は月の明かりに反射し神秘的な雰囲気を醸し出していました。

 

「私の名前はカタリナ・アリゼ。君の名は?」

 

ーー私の名前は、ヴィーラ・リーリエと申します

 

かすかに震えた声で言うと、未だ座りこんでいた私に彼女が手を差し出します。

顔が自分でも赤く染まっていくのが分かりました。それと同時に彼女を直視出来ないほどの眩しさを覚えた自分にも気づきます。

 

まるで彼女は、私が憧れた女性の姿そのものでした。

 




ヴィーラ・リーリエ→SR持ってないからフェイトストーリー全く分からないです。申し訳ない。設定違ったら言って下さい。あとリミヴィーラのフェイトエピを誰か教えてもらえるとありがたいです…!

ちょっとレズっぽい女の子がガチレズになって、それなのに男主人公だけは何故か気になってくるって展開良いですよね… 何がとは言いませんが。何がとは言いませんが良いですよね。ハイ。
説明回は次です。すみません。


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