サザンビークの結界使い (すけ)
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第一話 プロローグ

よう。俺はサザンビークで冒険者を職業にしているものだ。訳あって今、リーザス村にいる。名前は今はどうでもいいだろう。俺は君たちに今すぐに知らせたいことがある。それは

 

「私はゼシカ・アルバート。ねえ!?あなた、凄い魔法使いなんでしょ?私に魔法を教えてよ!」

 

俺は今、あのゼシカ(幼女)に話しかけられたってことだ。

 

 

なぜこうなったかを俺の紹介を踏まえながら示していこうと思う。少し長くなるが勘弁してくれ。

 

俺は日本からこのドラクエの世界に迷い込んだ所謂、別世界に迷い込んだ日本人だ。いつものように寝て、目が覚めたら見知った天井ではなく、ムカつくほど清々しい青空が俺の目に入った。俺は最初自分の家の天井に穴が開いたと思ったが、辺りを見回すと俺の家すら無い。混乱したさ。昨日は酒を飲んだ覚えも無いから何処かで酔い潰れて寝てしまったということもない。いや、俺そもそも酒飲めないな。ということはまさか俺は拉致られたのか?そんな風に嫌な思考が頭の中にぐるぐると回りながら俺はパンツ一枚で森の中をさまよっていた。

仕方がなかったんだ。俺は寝るときはパンツ一枚で寝る習慣があった。いないか?俺の他に寝る間はパンツ一枚になる習慣を持つやつが。きっといるだろう?

 

パンツ一枚で10分ほど森の中を歩いていると小さな小屋を見つけた。俺は警察に通報されることを覚悟しながらも、とりあえずその小屋に入ってみることにした。ここが何処なのか、そしてできることなら服を貸してもらうために。

 

 

中に入るとまず目に飛び込んできたのは、青く丸っこい物体。だが俺はその物体の正体を知っていた。

 

「ピキー!なんだお前は!今は爺さんはいないだっち!嘘じゃないだっち!」

 

そうスライムが独特な声を発しながら俺にそういった。

え?スライム、スライムなんで。てかスライムって喋るのか!?というかやばいぞ!これがあのスライムなら俺は間違いなく殺される。なにせおれは今、パンツ一枚な一般人なのだから。や、やばい、純粋に怖い。怖くて体が動かない。

俺が恐怖で動けなくなっていると、部屋の奥から何処か優しげな声が聞こえてきた。

 

「これ。あまり人を無闇に驚かすでない。いや、すまない。この子は魔物だが悪い子ではないのだ。許してやってくれ。」

 

「え?え、いや。こちらこそ勝手に家に入ってしまって申し訳ありません!しかもこんなに姿で。」

 

「こんな姿?すまない。生憎私は目が見えないのだよ。したがってそなたが今どんな格好をしているかがわからないのじゃよ。よかったら君の今の格好を儂におしえてくれるかな?」

 

「え!?えっと、それはその…」

 

「ほっほっほ。無理に答えなくてもよいぞ。そなたは素直なのじゃな。儂が目が見えないのなら嘘をついてもばれはしないものを正直に答えようとみせた。やはり儂の心眼に狂いはないようじゃな。どれ、なにか困ったことがあるのじゃろ?儂にできることなら手伝うぞ。」

 

そういって老人は優しく微笑んだ。俺は泣いた。こんな訳のわからない状況の中、不安と恐怖で一杯になっていた俺には老人の言葉はあまりに優しく、そして救いだった。

 

「あ"、ありがどうございまず!本当に、あ"りがどうございます!」

 

号泣しながら俺は精一杯の感謝の言葉を口にした。

 

 

 

 

 

あの感動の出来事から三年。俺は老人のもとで魔法の修行をしていた。ちなみにあの老人の名はフォルテットという。長いからこれからはフォル爺と呼ぶことにする。

俺はあの後自分が置かれている現状をフォル爺に包み隠さず全て話した。こんな荒唐無稽な話をフォル爺は信じてくれ、俺を彼の家に住まわせてくれることになった。なんでも、フォル爺には目が見えない代わりに心眼という人の本当の姿を見る目があるらしい。それは魔法のようで魔法でない、彼の長年の経験からできた技でありその精密さにはかなりの自信を持っていたようだ。だから俺の言葉に嘘がなく本当に困っていると確信できたと後に教えてくれた。

 

俺はこの家に居候させてくれるお礼にフォル爺になにかできることはないかと考えた。そしてフォル爺が高齢のため魔物退治が大変だという悩みを聞いた。だから俺は彼の力になりたくて彼に戦う術を教えてもらうことにした。

しかしフォル爺は猛反対。お前が魔物と戦っても死ぬだけだとバッサリと断られた。確かに俺は、あのスライムにすら恐怖で動けなくなるほどの臆病者。そりゃそうだ。平和な日本に住んでいたんだ、今の俺では戦闘なんてできるはずがない。でも、俺はフォル爺の役にとにかく立ちたくて必死にお願いをした。俺がお願いをする、フォル爺が断るを繰り返すこと30日。ようやくフォル爺が折れ、簡単な魔法なら教えてくれるという。ようやくだ。ここまで長かった。朝起きてお願いをして、日課である薬草取りに帰ってきたらお願いをして、昼ごはんを食べ終えたらお願いをして、家の近くにある畑を耕し終えて帰ってきたらお願いをして、晩御飯を食べ終わったらお願いをしてを30日間繰り返した甲斐があったよ。フォル爺も流石にこの生活にも耐えられなかったようで、諦めの表情を浮かべながら折れてくれた。そうして俺はフォル爺の元で魔法を教わりながら魔物退治をするようになる。

 

 

 

魔法を教わることさらに五年。俺はフォル爺の許しを得て魔物退治を行う職業、冒険者になった。ちなみにこの職業は俺が知っているドラクエにはなかった。よな?

もう10年近く経っているから記憶が曖昧だが、無かったはずだ。あったらすまん。ちなみに俺はps2のドラクエ8しかやっていない。

この職業は国や町村などから依頼を受け、魔物を討伐し報酬をもらう職業だ。まあ、よくある冒険者のイメージ通りでいいと思う。

俺は身元をはっきりと証明する術を持っていなかったので普通に働くことができなかった。だから自ずとこの職業を選択することになった。まずはこの家から近いことから、主にサザンビークからの依頼を受けることにした。

別に国から直接依頼を受けるほど一流ってわけでもなく、サザンビークにある冒険者への依頼をまとめる施設、所謂ギルドから依頼を受けているだけだった。そこで家の周辺にいる魔物退治をしながらギルドからの依頼をこなしていく毎日に明け暮れていった。この頃になると俺もかなり腕の立つ魔法使いになり、サザンビークでもそこそこ名の知れた冒険者として通るようになっていた。俺を最も有名にさせた要因はフォル爺の弟子という肩書きが大きいだろう。

なんとフォル爺、あの小屋に隠居する前はサザンビークの宮廷魔術師の筆頭だったそうだ。彼の弟子なら依頼も必ず成功させてくれるだろうと、俺を信頼して依頼をしてくれる人が増え、依頼をこなしていくうちに有名になったということだ。

有名になると、次第に国から直接依頼を受けるようになった。例えば大臣の護衛や王の息子の監視まで、冒険者が行わないようなことまで頼まれるようになっていった。

 

そして、大臣の息子ラグサットのリーザス村までの護衛の依頼を受けて俺はリーザス村を訪れ、幼き頃のゼシカに話しかけられたっていうわけだ。

 

長々と聞いてくれてありがとう。それじゃあ話を再開しよう。俺はいまゼシカに魔法を教えろと頼まれている。

 

「ねえ!?聞いてるの!?黙ってないで答えてよ!」

 

「ああ、すまない。少し考え事をしていたんだ。決して君の話を無視して別のことを考えていた訳ではないよ。」

 

「じゃあ教えてくれるの?私は早く兄さんみたいに魔法を使えるようになりたいの!だからお願い!」

 

そう言って彼女は上目遣いをしながら俺にお願いをしてきた。うぐ、これはきついな。こんな純粋な目でお願いをされたら断りづらい。でもここは心を鬼にして

 

「すまない。君に魔法を教えてあげたいところなのだが、俺の魔法はちょっと独特なんだ。だから君には使えないんだ。」

 

「なによそれ!!私には魔法の才能が無いって言いたいの!?あんたもお母さんみたいに私には戦うなっていうの!?」

 

どうやら俺の発言は彼女の逆鱗に触れてしまったらしい。

確かに先程の俺の発言はまるで彼女には才能が無いと言っているようなものだ。しかしそうでは無いのだ。

 

「いや、君に魔法の才能が無いと言いたい訳ではないよ。

むしろ君は俺よりも魔法使いになる才能がはるかにあると思う。そして俺は君に戦うなとは言っていないさ。戦う理由があるなら戦う力をつけるべきだと俺は思う。」

 

「じゃあどうして教えてくれないの?」

 

「言葉通り、俺の使う魔法は魔法使いが使うような魔法ではないんだ。君はいまメラは使えるかい?」

 

「うん。まだまだ弱っちいけど小さなメラなら使える。」

 

「凄いじゃないか。その歳でメラが使えるなんてやはり君には魔法使いの才能がかなりあるようだね。ちなみに俺はいまでもメラが使えないよ。」

 

「え?」

 

「さっきも言ったように俺は一般的な魔法使いが使うような魔法、メラやバギ、補助系の魔法も使えないんだ。」

 

「じゃあどうしてあなたは凄い魔法使いって言われているの?魔法が使えないんじゃ、魔法使いじゃないじゃない。」

 

「あはは、確かにそうだな。俺は普通の魔法は使えない。でも結界を張ることならできる。」

 

「結界?」

 

「ああ、そうだ。結界だよ。俺は結界を張ることしかできない魔法使いなんだ。」

 

 

 

さて、ここで結界とはなんだという疑問を持つ人がほとんどだと思うから説明しておく。

みんなは、なぜ街に入ると魔物が出ないのか疑問に感じたことはないだろうか。ちなみに俺はドラクエをプレイしている時に、そんな細かいことはまったく気にしていなかった。

しかし、いざドラクエの世界に入ってみると、その疑問は俺にも発生した。魔物に追いかけ回されながらフォル爺のいる小屋に逃げ込むと不思議と魔物達は寄ってこなくなるのだ。

俺はこの不思議な現象についてフォル爺に質問した。すると

 

「それは昔、儂が結界を張ったからじゃよ。」

 

と、あっけらかんとしながらそう言った。こうして俺の疑問は解決したのだ。

 

そして、俺は修行の初めにフォル爺にこう言われた。

 

「そなたは魔法の才能が無い。しかし魔力は膨大にあり、結界を張る才能がずば抜けて高い。故にそなたにはこれから結界を張る修行をしてもらう。」

 

なぜ結界が戦闘の役に立つのかなどの疑問は当時の俺は全く浮かんでいなかった、何故ならフォル爺を盲信的に信用していたからだろう。だから全力で結界を張る練習をした。いま考えるとおかしいだろう。本来結界とは外敵から身を守るために張られるものであるはずなのになぜ戦闘に結界が役に立つのかと。しかしこれがかなり役に立つものだった。簡単だ。結界を敵の周りに張り、結界の範囲を縮め、敵を押しつぶしてしまえばいいのだ。少々残酷な倒し方ではあるが、焼き殺したり切り刻むよりはマシだろう。それにこちらも命掛けだ。そんなことは言っていられない。こんなドライな感情に五年ほどでなってしまう程度にはこの世界には危険と悲劇で溢れている。

 

 

俺はゼシカに結界の使い方を簡単に説明した。

 

「へぇ!結界ってそんな使い方があるのね!でも結界って複数の魔法使いで張らないといけない程たくさんの魔力が必要って聞いたわ。それを一人で張るなんてやっぱり凄いのね!ラグサットもたまにはいいことを教えてくれるわ!こんな凄い魔法使いを紹介してくれたのだもの!」

 

ゼシカの言った通り、本来結界とは複数の魔法使いで張るものだ。それは結界を張るには膨大な魔力が必要であることと、様々な外敵を弾き飛ばすために複数の種類の魔力が必要であるからだ。俺は膨大な魔力とそして複数の魔力を持っていた。まさに結界を張る為だけにこの世に来たようだなと思ったよ。でも折角ならドラクエの魔法が使いたかった。俺の一番好きだった魔法、バイキルトが使えたらどんなに嬉しかったことか。

 

「あはは。ラグサット様のことをあまり悪く言わないでくれよ。彼は貴族を意識し過ぎて少々変わって映るかもしれないけど、紳士的なで良識のあるお方だよ。」

 

「ふーん。まあ、わかったわ。でも残念ね。折角、有名な魔法使いに会えたのに魔法を教えてもらえないなんて。やっぱり自分で身につけるしかないのかなー。」

 

ゼシカは泣きそうになりながらうつむいてしまった。

 

「…俺は魔法を使えないが見ることはできる。俺の師はかなり高名な魔法使いだったんだ、だから完成された魔法を見せて貰ったこともある。だから依頼の間なら君の魔法を見てあげることもできる。だからそんなに落ち込まないでくれ。」

 

「ほんと!!ありがとう!!やったー!!これで私も兄さんに追いついて見せるんだから!!」

 

先程の泣きそうな顔は何処へ行ったのか、彼女は嬉しそうにそう意気込んだ。…女は幾つであっても恐ろしいものだな、これからは気をつけよう。特に、女性経験がない俺は直ぐに騙されてしまうだろうからな。

 

こうして俺はゼシカの魔法を見ることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 



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第二話 ゼシカの成長

「メラ!」

 

ゼシカが呪文名を叫ぶ、すると彼女の手に小さな炎が宿る。

拳ほどの小さな炎であるが確かにそれはメラである。

 

あれから早速ラグサット様の護衛をする傍ら、彼女の魔法を見ることにした。彼女は原作の主人公なだけあって魔法の上達がかなり早い。俺はただ、完成されたメラのイメージを彼女に伝えただけであるのに彼女はそのイメージを取り込み、さらにメラの完成度を上げている。このままいけばフォル爺を超えるほどのメラゾーマを撃てるようになるかもしれない。ちなみに俺はフォル爺のメラゾーマを何度も受けたことがある。結界の修行の一環として大技を叩き込まれるという地獄の修行をした時だ。もう二度とやりたくない。だから俺は若干メラ系にトラウマがある。今も拳ほどの大きさのメラだが十分こわい。それがフォル爺以上になるかもしれないのだ、想像するだけで震えが止まらない。

 

「ふぅ…どう!前より良くなったでしょ!」

 

「ああ、かなり上達しているよ。このままいけばあと三年ほど練習すれば完璧なメラになると思うよ。」

 

「えー!まだあと三年もかかるのー。先は長いなー。」

 

「幼少期は魔力がまだ高くないからそもそも魔法を使えるだけ君は凄いんだよ。だからあと三年と言ったのも完璧なメラに必要な魔力が十分に備わる期間を言っただけさ。だからそう悲観しないで今はもっと形を整えて、魔力が備わったなら思いっきりメラを打ってみるといい。きっと自分でも驚くほどのものが撃てるはずさ。」

 

「うーん。わかった、今は耐えるわ…。でも三年後、あんたも驚くほどのメラをあんたにお見舞いしてあげるんだから!」

 

「いや、それは勘弁してくれ。」

 

俺は真顔でそういった。

 

 

 

 

 

 

 

 

私、ゼシカ・アルバートが彼と初めて出会ったのは私が十歳の誕生日に、婚約者とかいう将来結婚しなければならない相手と会うために夕食会を我が家で開いた時だった。

私は結婚なんてしたくなかった。私は兄さんみたいに強くなっていつか冒険者になるのが夢だったが、母には猛反対され終いには婚約者などという、いよいよ私の夢を潰すようなものまで用意してきた。だから私は夕食会で終始不機嫌であった。後々考えると、相手のラグサットには少し申し訳ないと思ったが私の怒りは収まらない。ラグサットが私の興味を引こうとあれやこれやと話をしてきたが全く興味がわかなかった。しかし、ラグサットの話の一つに私は興味を惹かれた。曰く、自分が付けている護衛はサザンビークでもかなり有名な魔法使いだ、曰く、彼がいなければサザンビークはこんなに平和に暮らすことはできなかった、そんな者を私は護衛につけているのだと。私はラグサットの自慢話には興味がなかったが、その魔法使いに興味をもった。私は兄さんほどではないが村の同い年の子達と比べるとかなり魔法が使える。だから私は魔法が好きだったし、将来、凄い魔法を使う魔法使いになるのが夢であり、そんな時に凄い魔法使いの話を聞いた、興味がわかないはずがない。私は夕食会の後日ラグサットの紹介のもと、その魔法使いと会うことにした。

 

 

彼は黒髪黒目で黒いローブを羽織っており、とにかく黒いという印象を受けた。そして何処か冷たい印象を持たせる冷たい雰囲気を醸し出している。私は彼に魔法を教えてとお願いするのが怖かったが勇気を振り絞って

 

「私はゼシカ・アルバート。ねえ!?あなた、凄い魔法使いなんでしょ?私に魔法を教えてよ!」

 

とお願いをした。

彼は無表情な顔で私をじっと見つめてくる。

まるで私の話を無視して何か別のことを考えているように感じて、つい大声をだしてしまう。

 

「ねえ!聞いてるの!?黙ってないで答えてよ!」

 

「ああ、すまない。少し考え事をしていたんだ。決して君の話を無視して別のことを考えていた訳ではないよ。」

 

私は驚いた。まるで先程まで私が考えていたことについて知っているような口振りで私に謝ってきたからだ。やはり魔法使いとは特別な存在なんだなと思った。

それから彼の魔法について聞き、彼に魔法を見てもらえることになった。嘘泣きをしたのは少し申し訳ないと思ったけど、どうしても魔法を上達させたかっんだもの、仕方ないわよね!

 

 

あれから私は彼の仕事の合間に村の中で魔法を見てもらっている。

彼は私の第一印象と違ってとても優しく丁寧に私に魔法のイメージを教えてくれる。おかげで自分でも魔法が上達しているのがわかる。イメージ次第で魔法はこんなに変わるものなのだと、とても感動した。だから私は村のみんなの役に立ちたくて、彼に魔物退治をしてもいいかと相談した、すると

「それはまだ駄目だ。前も言ったが君の魔法はまだ完全ではないんだよ。魔物と戦いながら魔法を発動するのはかなり大変なことで、しかも君はまだ魔物を倒すということを完全に理解できていないと感じる。だから今はしっかりと村の中で魔法の練習をすることだ。」

 

そう言われてしまった。

納得がいかないわ!だってこれほどの大きさのメラを撃てるのは兄さんを除いて村の大人達でもそれほどいないし、私より魔法がうまくなくても魔物退治をしている人もいる、私にできないはずがない。

そう思い私は家族と彼に内緒で夜、村の外にでた。

 

 

 

「わー。素敵…」

 

そう呟いてしまう程、夜の世界は幻想的だった。

月光と蛍が辺りを小さく照らし、昼の活気や喧騒とは真逆の静粛が私を出迎える。まるで別世界を冒険している様な気分がして心が躍る。

 

「(よし!早速、魔物を倒しに行きましょう。まずは弱い魔物から倒していこう。やっぱり最初はスライムぐらいがちょうどいいかしら)」

私は家にある魔物大全集という本に書いてあった最も弱い魔物を目標に夜の世界を歩いた。

 

 

 

夜の世界を歩くこと10分、草むらの中に隠れて辺りを見回してみると道の真ん中に青い影を見つけた。あれがおそらくスライムだろう。

「(どうやらまだ私に気づいていないようね。それならこのまま魔法を撃ちましょう。)」

魔法を撃つために神経を集中させる。体の中にある魔力を手の上に集め、メラに変換していく、さらに彼に教わったイメージを取り入れ威力を上げていく。

「(よし!できたわ!今までで一番いい出来かもしれない。」

ようやくスライムが私の存在に気づいたようだがもう遅い。私の魔法は完成している。

「メラ!」

拳ほどの炎がスライムに向かい

「ピキー!」

見事スライムに命中した。スライムは炎に焼かれ、そしてしばらくすると跡形もなく消えていく。体の中が少し熱くなる。

「(これがレベルアップなのかな。)」

噂では聞いていたが初めて感じる不思議な感覚に私は興奮と感動を覚えた。そして普段の私なら出さないであろう大きな欲が出てしまう。

「もっと強い魔物を探しましょう。今の私ならおばけきのこぐらいなら余裕なはずよ。」

そう思い付き、さらに夜の世界を歩くこと数分、おばけきのこを見つけた。そいつは私が想像していたものよりも巨大な体を持ち、かなりの力を有していると感じた。

「(確かに強そうだけど今の私なら大丈夫なはずよ)」

私は先ほどと同様に草むらの中に隠れメラを撃つ準備する。すると

「!!どうして!」

おばけきのこは私が魔力を高めるとすぐに私の存在に気づきこちらに向かってくる。このままじゃあ魔法は撃てないと思い、私はあいつから逃げるために全力で走る。しかしまだ十歳ほどの足の速さなどたかが知れていて、

「うぐ!」

私はおばけきのこに頭突きをくらってしまった。

吹き飛ばされ地面に体を擦る痛さと、頭突きされたお腹からこみ上げる吐き気、そして

「■■■!!!」

おばけきのこが叫びながらこちらに向かってくる恐怖に私の体は全く動かなかった。

「(こわい。こわいよ。こんなに魔物がこわいなんて知らなかった。こんなに攻撃を喰らうと痛いなんて知らなかった。嫌だ。死にたくない、まだやりたいことたくさんあるのに!)」

しかしやつは待ってくれない。私が恐怖しているのを知って、楽しんでいるかのようにゆっくりとこちらに近づいてくる。そして、赤い息を私に吐き掛けた。それは酷く甘く、私に睡魔という誘惑を誘う息だった。

「(眠い。…でもこのまま寝てしまえば本当に死んでしまう。でも眠ったまま死んでしまえば痛くないのかな…。でも嫌だなぁ。お母さんやサーベルト兄さんと会えなくなるのは。)」

そして私は深い眠りについた。眠る直前に何か暖かいのものに包まれるを感覚を感じながら。

 

 

 

 

 

 

 

「うぅ。」

「!!ゼシカ!!」

「あれ?サーベルト兄さん…?」

 

「よかった。目が覚めたんだな。本当によかった…。母さんに伝えてくる。お前はまだ寝ていろ。」

そう言ってサーベルト兄さんは部屋を出て行った。

あれ?私なんで無事なんだろう。確かおばけきのこに殺されそうになってそれで

 

「ゼシカ!!」

「お、お母さん…」

「体は大丈夫なの?どこか痛いとこはない?」

「う、うん。ないよ。」

「そう…」

 

そうお母さんがつぶやくと直後、私の頬に鋭い痛みが生じた。お母さんに頬を叩かれたのだと数秒経って気がついた。痛いが、どこか暖みのある痛みだった。

 

「本当によかった…。本当に…。」

 

お母さんが泣きながら私を抱きしめる。お母さんの体はとても震えていて弱々しく、普段の私を叱る強いお母さんの姿はそこにはなかった。

 

「ごめんなさい。」

私も涙が止まらなかった。お母さんがこんなに心配してくれていて、私を大切にしてくれていることに気づかず危険を犯した自分が情けなくて、お母さんにもう一度会えたことが嬉しくて。

私達は抱きしめ合いながらしばらく泣きあった。

 

 

「本当にごめんなさい。」

「今度という今度は許しません。しばらくは外出禁止、そして魔法の練習をするのを禁止にするわ。いいわね?」

「うん。わかったわ。本当にごめんなさい。」

 

「今回のことはさすがに僕も擁護できないかな。ゼシカ、君は母さんや僕、そして他の人達の信頼を裏切ってしまったんだ。しばらくは外に出られないことを覚悟しておいたほうがいい。」

「ええ。サーベルト兄さんも心配をかけて本当にごめんなさい。」

「ああ、もうこんなことはやめてくれよ。母さん、僕はメイドにゼシカの朝食を持ってくるように伝えてくるよ。」

 

「ええ、お願い。」

 

そう言ってサーベルト兄さんは部屋を出て行った。

 

 

「ねえ、お母さん。一つ聞いてもいいですか?」

「ふふ、ゼシカが敬語を使うなんて今回はかなり懲りたようね。で、なにかしら?」

 

「私はどうして助かったの?私は確かにおばけきのこに殺されそうになった、なのに今こうして生きてる。サーベルト兄さんが助けてくれたの?」

目が覚めてから感じていた疑問をお母さんに尋ねる。

 

「いいえ、違うわ。あなたに魔法を教えていた魔法使いの方があなたを助けてくれたのよ。」

「え、あの人が。じゃあお礼をしなくちゃ!あの人は今どこ?」

「ゼシカがあの魔法使いと会うことはできないわ。彼はもうリーザス村にいないもの。」

 

「え、なんで…。」

「なんでも、サザンビークで問題があったみたいよ。ゼシカの容体が安定したらすぐに村を出てってしまったわ。」

「そんな…。」

まだたくさん話したいことがあった、今回のお礼を言いたかった、そして何より彼の忠告を破ってしまったことを謝りたかった。なのに…。

 

「そう落ち込むことはないわ。三年後あなたの魔法を浴びるために彼はまたここを訪れてくれるそうよ。彼には変わった趣味があるようね。」

 

 

「…ふふ。そうね。とても変わってるわ。」

 

彼と魔法の練習をしている時の会話を思い出し、思わず笑ってしまった。

 

 

よし!三年後、彼に今回のことをたくさん謝って、彼が驚いて腰が抜けてしまうほどのメラをお見舞いしてあげるわ!

「随分と楽しそうな顔をしているわね…。今回のことを本当に反省しているのかしら?」

「!してます!してます!!本当にしてます!」

「全く…。」

 

まずはお母さんに許しをもらうのが先ね…。

 

 

 



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第三話 光の貴公子と黒き結界使いの死闘?

オリジナルキャラクターがメインとなります。ご注意を。


「あ!おかえりなさい!ラグサット様の護衛お疲れ様でした。帰られたところ早速で申し訳ないのですが、あなたに受けてほしい依頼があります。こちらをどうぞ。」

「ああ、ありがとう。」

 

 

俺はリーザス村から大臣の息子、ラグサット様の護衛を終えてサザンビークに帰ってきた。ゼシカが目が覚めるまでリーザスに居たかったが、至急サザンビークに帰ってこいとギルドの職員に言われそうもいかなくなってしまった。ちなみに、ギルドの職員はわざわざルーラでリーザスまで飛んできて俺に伝えてくる。この世界には電話というものはないが魔法がある。だから誰かに伝えたいことがあったら、伝えたい人の元に直接自分が向かえばいいのだ。しかし難点が一つ、それはルーラを使える者がかなり限られるということだ。原作でもルーラを使えるのは主人公とククールだけだったはず。つまり、将来大魔法使いになるあのゼシカでさえルーラを使えないのだ。これはもう魔法の練習とかでなんとかなるものではない。100%才能で決まってしまう。だからルーラを使えるやつは自分を天才だと思い、他を見下すやつが多い気がする。リーザスまで来た職員もそういったタイプのやつだ。名前はペーテルという。やつはドヤ顔でルーラを使い、決めポーズで俺たちの前に現れることから、俺たち冒険者の中ではドヤ顔の貴公子というあだ名で呼ばれている。奴は金髪で赤眼、さらにイケメンときた。俺が一番嫌いなタイプだ。そんなドヤ顔の貴公子にドヤ顔を見せられ、終いにはゼシカが目を覚ますのを待つことも止められた。奴の所為ではないのはわかっていたが、俺は無性に腹が立ったのでペーテルがルーラで俺をサザンビークまで連れて飛ぶ直前に、奴の頭上に魔力で隠した結界を張ってやることにした。やつはそのまま結界に頭をぶつけ5分ほど悶絶していた。あまりに痛そうだったので少し可哀想になってしまい、ペーテルにリーザス村の子供たちからもらったお菓子を分けてあげることにすると、やつは「一応、受け取っておこう!僕に受け取って貰えて君は幸せ者だな!後世に語り継いでもいいのだよ?」

と今まで見たことがないほどのドヤ顔を俺に見せつけてきやがったので、俺は結界を四重に重ねて奴の頭上にもう一度ぶつけてやることにする。今度は20分ほど気を失ってしまった。

 

そんなくだらないやり取りを行い、俺はサザンビークに再び帰ってきた。受付嬢に依頼書を受け取り内容を見てみる

 

「ダンビラムーチョの討伐?思っていたほど難関な依頼じゃないな。これなら俺じゃなくてもいいだろ?」

「はい。ダンビラムーチョの討伐のみならば、達成できる冒険者の方は沢山います。しかし、その…。なんていうか。」

「なんだ、歯切れが悪いな。とりあえず言ってみてくれ。」

受付嬢が気まずそうに

「ペーテルさんと一緒にダンビラムーチョを討伐して欲しいのです。」

最悪の依頼を俺に押し付けてきた。

 

 

 

 

「なぜ俺なんだ?それこそ俺じゃなくてもいいだろ。そもそもペーテルはギルドの職員だ。戦う必要がないんじゃないか?」

「ひっ!す、すみません。」

あまりに嫌すぎて、受付嬢にびびられてしまうほど俺は怒りの形相を浮かべてしまっているようだ。いかんいかん。彼女は何も悪くないのに彼女に当たっても仕方がない。

でも少し考えてみてくれ。俺はサザンビークで大事なことがあると聞いて、ゼシカの目が覚めるのを見届けることができず、急いで飛んできたんだぞ。しかも俺は非常に遺憾ながらルーラを使えない。だからペーテルと手を繋ぎながらここまでくるという誰得な状態のままここまで飛んで来たんだ。少しは怒りたくなるのも仕方がないだろう。

 

「少し強く当たってしまった。すまない。で、何故やつが魔物を狩る必要があるんだ?」

「は、はい。なんでも、ペーテルさんがデインの呪文を覚えたからだそうです。」

「なに!デインだと!?」

「はい。なのでこのままただのギルド職員として腐らせたくないと、上部とペーテルさんの要望で魔物を討伐する術を学ぶことが決定したんです。しかしペーテルさんは魔物討伐などほとんど行ったことがないので何が起こるかわかりません。そこで何が起こってもいいようにあなたと一緒に討伐させることが決定したんです。」

 

驚いた。ペーテルのやつは紛れもない天才だと言うのか!?ものすごく認めたくない。

 

話は少し変わるが、デインという呪文を知っているだろうか。ドラゴンクエストの呪文であり属性は光。ドラクエ8では主に主人公が扱っていたはずだ。まあ、彼はいきなりライデインを覚えていたがそんな者は稀だ、まずはデインを覚えるのが基本的だろう。この世界ではデインを扱える者は非常に少ない。それこそルーラを覚えている者よりも。故にデインを扱えるだけでそいつは魔法使いとして街や国専属の冒険者になることができる。さらに、この世界でのデインという魔法の存在は闇の魔物を払う呪文としてかなり強力なのだ。何故だか、この世界は一般の魔物の他に闇の世界からの魔物もごく稀に出てくることがある。レティシアの闇の世界に出現する魔物のことだ。あいつらが何故かこちらの世界にいることがたまにあるのだ。一体でも見つかれば付近の街の一流の冒険者たちがすぐさま討伐に向かう。奴らの強さはかなりバラつきがあり、見た目が弱そうな奴でもギガンテスの如き力でこちらに攻撃を仕掛けてくることがある。だから初級の冒険者たちが向かってしまうと油断して殺されてしまうことが多々ある。しかし、デインを覚えている者がいれば話は別だ。

闇の世界の魔物はデインにめっぽう弱く、とりあえずデインを敵に向かって放てばほぼ確実に消滅する。俺の友人にデイン系統の呪文を扱える者がいるが、そいつによると奴らにデインを外すことの方が難しいらしい。とにかく適当にデインを撃っても奴らは勝手に消滅してくれるらしい。羨ましすぎる。俺は勿論デインなんて使えない、だからごり押しで奴らを倒さなくてはならないのだ。めちゃくちゃ大変なんだぞ。あいつらは力が強い上に耐久力もある。だから囲んで潰そうとしても押し切られてしまいできない。さらに別の手段で攻撃を仕掛けても耐えやがる。耐久が特に高い奴との戦闘はまる1日かかったこともある。苦い思い出だ。

魔物が苦手とする結界を扱う俺でさえこれなのだ。他の冒険者、特に剣士は涙目だ。一流の剣士でなければ刃が全く通らずまるで相手にならない。剣士の友人によると、「闇の魔物が出てきたら俺は必ず逃げる。逃げる恥より刃が通らない恥の方が恐ろしいからだ。」だそうだ。

 

そんな闇の魔物を楽々倒せる魔法をドヤ顔の貴公子ことペーテルは覚えやがったのだ。もし俺が剣士ならペーテルに斬りかかっていただろう。

 

すまない。また話が長くなってしまった。先程の会話を忘れてしまっている人もいるかもしれないな。俺は今、受付嬢にペーテルと一緒にダンビラムーチョを討伐する理由を尋ねた所だ。

「なるほどな。確かにあいつがデインを覚えたのなら、職員のままにしておくのは惜しいな。わかった。この依頼を受けよう。」

「ありがとうございます!よろしくお願いします。」

こうして俺はペーテルとダンビラムーチョを討伐することになった。

 

 

「私はペーテル・マクスウェル!人は私を光の貴公子と呼ぶ!そしていずれ、あの七賢者をも超える伝説を作る男だ!さあ共に伝説を作りに行こう、結界使いよ!!」

いつものドヤ顔と謎の決めポーズを決めながらペーテルはふざけたことをぬかす。こいつとサザンビークの外に出てから30分ほど経つが、そろそろいい加減にしてほしい。

「大声を出すなといってるだろう!?魔物に気づかれちまったじゃねーかよ!お前は何度言えば学習してくれるんだ!?あーくそ!俺まで大声になっちまってる!!とりあえず敵に囲まれる前に逃げるぞ!」

「ふふ。逃亡も時には必要なことだな。いいだろう、ここは一度引く。しかし!私が再びお前たちの前に立ち、呪文を唱えた時がお前たちの最後!穢れのない光をもってお前たちを」

「いい加減にしろ!ベラベラ喋ってないでさっさと走れ!」

もう嫌になる。早く家に帰りたい。

 

 

 

「どうやら撒いたようだな。はぁ…。」

「ふはは!結界使い!もうへばってしまったのか?私はまだまだ走れるぞ!君もまだまだのようだな!」

「じゃあもっと走るか?そうだな、いっそベルガラックまで走るか?そうすればお前のその口も少しは閉じるだろう。」

「…いや、遠慮しておこう。私の使命はダンビーラムーチョを討伐することなのだからな!待っていろダンビーラムーチョ!貴様の悪行もそこまでだ!この光の」

「おい、ペーテル。早速お目当の奴が現れたぞ。戦闘をする準備をしろ。あとダンビラムーチョな。お前、イントネーション間違ってるぞ。」

 

俺たちからおよそ、100メートルほど離れた草むらにダンビーラムーチョ…くそ!あいつの妙なイントネーションに釣られちまった!ダンビラムーチョが姿を現した。どうやらこちらに気づいているようで結構な速さでこちらに向かってくる。

「おお!?現れたな、ダンビーラムーチョ!この私が直々に相手をしてやろう。」

ペーテルがサーベルを構えながらダンビラムーチョに斬りかかりに行く。ペーテルは魔法と剣を使う所謂、魔法剣士というスタイルをとる。無駄にかっこよくてムカつくな。

 

ペーテルがダンビラムーチョに向かってサーベルを突く。ダンビラムーチョはペーテルの攻撃を見切ってかわし、躱した体勢のままペーテルに斬りかかる。このままではペーテルは避けられないだろう。

「結界一式(護て)」

ペーテルの前に半透明の結界を張りダンビラムーチョの攻撃から身を守る。ダンビラムーチョは結界に攻撃を弾き飛ばされ、ペーテルの元から離れていく。

「おお!流石だな、結界使い!今のは助かったぞ。少々油断してしまったようだ。しかし次はそうはいかんぞ!私の奥義を見せてやろう!ダンビラムーチョよ!」

そう意気込むとペーテルは、一度サーベルをしまい魔力を練り始めた。ペーテルの手から淡い光が現れ始め、その光は段々と大きくなり、頭部ほどの大きさになる。そして

「喰らえ!デイン!」

デインをダンビラムーチョに放った。

ダンビラムーチョはようやく体勢を整えることが出来たがもう遅い。奴の前にデインが迫りそして、

「■■■■!」

轟音とダンビラムーチョの叫び声が聞こえ俺達はデインが命中したことを確信した。

「よし!どうやら私の奥義デインが命中したようだな。ふはは!ダンビラムーチョも存外たいしたことがないではないか。これならば今すぐにでもかの暗黒神も敵ではないかもしなんな!」

しかし

「知っているか?ペーテル。そういうのをフラグって言うんだぞ。」

少なくない怪我を負っているがまだまだ闘争心が折れていないダンビラムーチョが、魔法の衝突により発生した土埃の中から姿を現した。

「なに!?何故だ!確かに私のデインは命中した筈だぞ!」

今回なぜ上部がこいつにダンビラムーチョを討伐させたのかを俺はようやく理解した。おそらく、ペーテルの出かかった鼻を叩き折るためにこの地方でも強力な部類に入るダンビラムーチョを寄越したのだろう。おかしいと思ったんだ。ペーテルはギルドの職員で魔物の討伐などほどんど経験したことがない筈。そういうやつは戦闘を行う時、多少なりとも魔物に恐怖する筈だ。しかしこいつはダンビラムーチョにいきなり斬りかかったり、何の躊躇いもなく魔法を放つなど恐怖心というものがあまり見受けられなかった。魔物に恐怖心を抱かない事は一見勇敢のように見えるだろうがそれは全く違う。常に恐怖心を持ち恐怖の中で戦う勇気を持つことが勇敢と言うものだ。まあこれはフォル爺が言っていたことなんだけどな。とにかくやつにはそれが全く足りない。そういうやつはほぼ確実に魔物に殺される。

 

「ひっ!?」

ダンビラムーチョが怒りの形相をペーテルに向けながら走ってくる。ペーテルは自分の自信の魔法が通用しなかったことに驚愕し、ダンビラムーチョの決死の突進に恐怖を抱き動けなくなってしまっている。

「ペーテル!!しっかりしろ!避けるんだ!」

ペーテルは俺の呼びかけに何とか反応しダンビラムーチョの突進を辛うじてかわそうとする。しかし

「ぐぇ…。い、痛い。痛い痛い痛い!」

僅かにダンビラムーチョの攻撃はペーテルに当たりペーテルの右の腕をへし折る。

「ペーテル!今は痛がっている場合じゃない!立て!そしてやつを倒すんだ!」

俺の役割はペーテルを補助することではない。おそらくペーテルがこれから魔物討伐をやっていけるかどうかを見極めることが俺の役割なのだろう。だから心苦しいがここは手を出さない。しかし、もしあいつが諦めを見せたらその時は助ける。が、その時はペーテルにはしばらく魔物討伐に向かわせることはないだろう。上部もそういう判断で俺を寄越したんだと思う。

 

「うぅ。痛い、痛い。くそ。私は…。僕はこんな所で終わることはできないんだ…。」

しかしあいつは折れずに立ち上がって見せた。

「父上や母上、妹のためにもお前達を撃つと決めたのだ…。僕は、こんな所では終わらない。お前らなんぞに負けはしない!」そう言い放ちダンビラムーチョ向かってサーベルを抜き再び斬りかかる。ダンビラムーチョも突進の体勢を終え、再びペーテルに向かい斬りかかる。両者が交差する時

「うおおお!」

ペーテルのサーベルが眩しいほど輝き、ダンビラムーチョの刀を貫通し身体を突いた。そして

「■■■■■■!!!!」

ダンビラムーチョは断末魔を浴びながら消滅した。

 

 

「ふはは!!!結界使いよ、私はやったぞ!あの強力なダンビーラムーチョを見事討伐して見せたのだ!これを私達の伝説の第1章、光の貴公子と黒き結界使いの死闘と名付けようではないか。」

俺に肩を借りながらペーテルは嬉しそうに語る。

あの戦いの後、ペーテルは魔力切れを起こし立てなくなってしまった。当然だ、あいつはデインの他に何とホーリースラッシュまで放ちやがったんだ。かなり魔力を消費してしまっただろう。しかし、自信の危機に新たな力が解放するとかこいつはいよいよ主人公にでもなるつもりだろうか。俺はこいつが主人公のゲームをあまりやりたくないな。

しかしまあ、俺は少々こいつを見くびっていたようだ。

初戦闘で腕を折られ、怒りの形相を浮かべながら斬りかかられても恐怖心に打ち勝ち、見事敵を倒したんだ。こいつは立派な冒険者になる資格がある。

 

「俺をお前の伝説に巻き込まないでくれ。ところでペーテル、一つ聞いてもいいか?」

「ああ!構わない。なにせ、我が戦友の質問だ。私の答えられる範囲ならば答えてみせよう!」

「お前はこのまま本当に魔物と戦う道を選ぶのか?今のギルド職員としての生活も悪いものでもないだろう。デインを使えることは確かに闇の魔物に効果的だ。だが、ギルド職員であるお前が無理にやる必要もない筈だ。もし、お前が上に強制されているなら俺が何か言っておいてもいいぞ。」

「ふふ。結界使いは優しい男なのだな。私を心配してくれているのがよくわかる。しかし、私は戦う理由があるのだ。」ペーテルはいつものドヤ顔を止め、少し苦しそうにそう言った。

「…良ければ聞いてくれるか?結界使い。私の戦う理由を。」

「ああ、俺で良ければ。」

そしてペーテルは語る。彼が戦うと決めることになる過去の出来事を。

 

 

 

 

 

 

 

 



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