くだらない悲劇に終止符を (ラグライズ)
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1話
暗い。先がまるでみえない。そんな空間に何で僕は居るんだろ?思い出せない。
『聞こえていますか?感じていますか?』
ー何処からか女の人の声が響いてくる。優しい声だ。
『貴方はこれから絶望にまみれた世界を救わねばなりません。それが貴方の宿命なのですから。』
ー宿命?世界を救う?
途方もない言葉に目眩がする。壮大過ぎるだろ。
『そうです。貴方は『導く者』。悲劇を終わらせることを願い、闘い続けることを選びました。恐らく記憶にはないでしょう。貴方はこれまで4つの世界を渡り、その全てを救いました。そして、今回、貴方が降り立つ地は人類とは異なる生物により滅亡の危機に晒されています。』
ー滅亡。世界すら滅ぼす敵にどう立ち向かえと?
『貴方には"力"があります。過去の世界から得た"力"が。』
ー力。
『そうです。さぁ、お行きなさい。貴方の望みのままに。』
そう言って声の主の気配が消えた。
何かに引っ張られる感覚と共に意識が薄れていく。
目を覚ますと幾多の画面が目に入った。体を起こすと軽い頭痛がする。
『オキタ、オキタ!』
操縦席の隣に置いてあった赤くて丸い物体が喋った。
自立AIでも積んであるのだろうか?
『ハロ、ハロ!』
ーハロー?あ、君の名前か。挨拶じゃないのか。
どうやらこの耳らしきものをパタパタさせている物体はハロと言うらしい。
『ハルト、元気カ?元気カ?』
ー元気かどうかはわからないなぁ。
体調は頗る良い。でも、何故だか頭痛が治まらない。それにしても僕は何のコックピットに乗っているんだろうか?
『ハロ、元気!お前モナ!』
ーはは、可愛いなぁ。でも、少し黙っててね。
飛行機とは違う。電車やバスでもない。これはもっと複雑な何かだ。そう、例えるならアニメなんかでたまに見る人型ロボットのそれに近い?
ティキィン
ー?!。何か来る?!
画面には外の様子が写っていた。というより全面見える。
そこには白い何かが大量に向かってきていた。見ているだけで嫌悪感を現すような外見。一目みて分かってしまう。あれは僕の、いや、人類の敵だと。迷わずレバーを掴む。何となくだけどわかる。これの動かし方が。
ー行くよ、
独特の起動音と共に揺れる。恐らく座っていたのだろう。立ち上がると化け物の群れがよく見える。10や20じゃすまない。何百という大群だ。それでも何故か僕には恐怖はなかった。無謀なのか狂っているのか。いや、これは安心感だ。僕と/ならやれるという。
武装の確認をしながら僕は眼前の敵を睨み付ける。
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初陣
腰に差してあった実体剣『エクスカリバー』を抜いて化け物の群れに飛び込む。2本の剣を合わせツインブレードに変える。それを振り回しながら小さくて赤い何かを切り刻む。思ったより耐久力は無さそうだ。続いて何か蟹と蜘蛛と人を足して割ったみたいな化け物を袈裟斬りする。その間に飛び付こうとしてくるちっこいのには脚部ビームブレイド『グリフォン2』で対処していく。それでも数は減らない。
ーうっとうしぃな。はぁぁぁ!!
再び『エクスカリバー』を2つに分けてひたすら切る。
ティキィン
ー?!
何か嫌な感じがした。全てを砕かんばかりの何かが迫ってきているイメージ。咄嗟に『ルプスビームライフル』を取りだし嫌な感じがする方へと発砲する。一直線に進んでいく桃色のエネルギーは強固そうな外殻に覆われていた何かを貫く。あんなのに突撃されたらヤバそうだ。化け物を振り払い、後ろに下がる。
ー仕方ないか。
幸いにも今は周りに奴等以外の敵はいない。なら。
二挺の大型ライフル『ツインバスターライフル』を取り出す。これの威力は核兵器と匹敵する程。味方が入り乱れている戦場では使いづらいものだ。なぜ、そんなことがわかるのか。僕にはわからない。でも、みすみす死んでやる意味もない。だから、これを使う。
ーターゲットロック。目標、眼前の敵。
とある人物を自身に投影する。自身は最強であると暗示をかける。そしてー
ー排除開始!
引き金を引く。
凄まじい出力のビームが放たれる。化け物の群れはその光に焼かれながら吹き飛んでいく。ビームを出しながらそれを横に振るう。さながらそれは巨大な剣の様に敵を焼き払う。
ー敵は・・・まだ居るのか。
『ツインバスターライフル』を背中のバインダーに仕舞いながらレーダーを確認する。点の数は圧倒的に減ったけど、遠くの方にいる奴は倒せてない。今まで何もしてこない所を見ると射程外なのかもしくわ何かしら条件があるのか。
ーもしかして。
対空特化とか?空を飛んだ瞬間、撃ち込んでくるとかそういった類いか?めんどうだな。
ーこれかな。
脚のすね当りが開き中から2つのパーツが排出される。それを繋げると『GNスナイパーライフル』 へと戻った。それを構え集中する。スコープ越しに見える姿はでっかい目玉をくっつけた化け物だ。取りあえず狙撃してみる。
一筋の閃光が目玉の化け物を貫く。うーん。向こうも此方には気づいてる筈。なのに反撃もしてこないなんて。
ーというより、狙撃は苦手だなぁ。・・・突っ込むか。
そう、決めると『GN ドライブ搭載型ウィングバーニア』を噴かせながら空に上がる。そして、超高速で目玉の化け物目掛けて突っ込む。すると、ロックオン警報と共に白ぽい光線が飛んできた。ビーム?いや、レーザーだ。どうやら、あの目玉がレンズの役割をしているらしい。関係ないけど。腹部から『アーマーシュナイダー』を取り出す。逃げ出そうとする奴の背中に飛び乗り切り落とす。レーザーは盾で防ぎエネルギーを吸収させる。どうやら、/には相手の光線系統の攻撃は効かないようなギミックがあるらしい。ライフルを撃ち込みながら敵の残数を数える。
ー3,2,1。
暫く射ち続けて漸く殲滅出来た。それにしても赤井血を出すとは。こいつらは、なんなのだろうか。
そんな事を考えていると緊張が解けて僕は眠りについた。
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Gベース
目を覚ますと/は操縦していないにも関わらず動いていた。画面を見るとオートと出ている。
ーオート操縦機能があるのか。
と言っても戦闘は出来ないらしい。あくまでパイロットが気絶あるいは生命の危機に瀕した際の応急措置みたいなものだ。と傍らに置いてあった、マニュアルに書いてあった。
『ハルト、オキタ!』
ーおはよう。ハロ。
嬉しそうに耳(?)をパタパタさせているハロを撫でながら今、何処に居るのかを確認する。外は暗い。真っ暗だ。さっきまで明るかった筈だ。そんなに眠っていたのか?
少しづつ明るくなっていく。暗闇を抜けるとそこは見たこともない設備が、幾つも稼働している部屋だった。
ーここは?
"お帰りなさいませ。陽斗様。"
何処からか声が響いてくる。一瞬脳裏に何かが横切った。けど、直ぐに消えてしまう。
"私は人工知能です。呼称アルムです。ここはGベース。主に機体の生産、整備、設計等や食料等の物資の生産を行っております。"
ーGベース・・・。
頭の奥の方でうっすらと何かがーやはり消えていく。何なんだ?
゛陽斗様。これよりこの施設は貴方の思想通りに運用されます。貴方が望んだ理想の為にご活用ください。゛
ーありがとう、アルム。じゃあ、早速だけど、今、この世界で起きていることを簡単に説明してくれる?゛
゛yes、マスター。
まず、/の交戦した敵、彼等はBETAと呼ばれる地球外起源種です。゛
ーBETA。
゛はい。細かい分類は後程説明します。彼等の目的は【炭素系生物の殲滅】のみです。彼等は自らが【創造主】と呼ぶ存在、珪素系生物のみを生命と定めそれ以外を殺戮しているのです。゛
なんだそれは?つまり、奴等は自分達の勝手な考え、それだけで人を、いや、命を奪っている?
ーふざけるな!
激情が溢れ出す。奴等への怒りや憎しみが思考を浸食していく。
゛・・・。彼等の襲撃により現状、約60億人存在した人類は約10億にまで激減しました。恐らく他の生物も絶滅あるいはそれに、近いものかと。
彼等の基本戦術は人海戦術。つまり、物量によるごり押しが主でした。しかし、恐るべし学習能力で制空権を奪い去り、兵器をものともせず効率的に破壊していきます。そんな状況下で人類が作り上げた兵器があります。゛
ーそれが、ガンダム?
゛いえ、Gベース及びガンダム含むMS(モビルスーツ)はまた別の技術です。その兵器の名は【戦術機】。現在も新型開発が行われている人型兵器です。゛
ー戦術機。
ガンダムは別の技術だって?アルム、君は何を隠している?疑わずにはいられない。だって、その【戦術機】がBETAに有効であったならこの世界はー
゛すいません。マスター。秘匿事項は多数あります。しかし、今のマスターにはお話しすることは出来ません。゛
読心術でも、持っているのかこの人工知能は。でも、【今は】話せないなら仕方ないことか。
そう思っているとけたたましい音が鳴り響いた。
ーなに?!
゛BETAが出現したようです。場所はここから遠いソ連領カムチャツカ基地かと。゛
ー当然、人が居るんだよね?
゛肯定です。゛
ー助けに出る!
゛補給は既に済ませてあります。更に装備も換装しておきました。マスターに合わせデスペラードパックかインファイトパックへと。゛
言われて確認すると確かに装備が変わっていた。
ーありがとう。アルム!
礼を良い、近くにあったカタパルトに乗る。
゛システムオールグリーン。カタパルトスタンバイ。発進どうぞ。
ー/ガンダム、望月 陽斗!命を救くう!
口上と共に僕と/は飛び立った。
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カムチャツカ基地防衛戦
どうやら、今の装備は高機動を想定しているらしい。凄まじいGで若干息苦しい気もするけれど文句は言ってられない。高速で飛行しながらレーダーを確認する。
ーもう少しか。
戦闘に備えて腰に差していた『ガーベラストレート』と左腕についている『GNソード』を構えておく。
『ハルト、ロックオン、ロックオン!』
ーあの時の目玉か!
レーザーを撃ってくる目玉のBETA。あいつは厄介だ。先に潰しておくか。『GNソード』の盾の部分でレーザーを防ぎ吸収しながら突っ込む。姿が見えると同時に更に加速。瞬時に間合いを詰めて両断してやる。『ガーベラストレート』を投げて2匹を串刺しにして近くの奴を『グリフォン2』で引き裂く。駒の様に回転しながら滑る様に移動して切り払う。レーダーに写っている目玉のBETAの数は大したことはない。何百居ようがまとめて切り裂くだけだ。
ーうぉぉぉぉ!
自身を鼓舞するように叫びながら剣を振るい続ける。『ガーベラストレート』を引き抜き、凪ぎ払う。『GNソード』で袈裟斬りする。2本の剣で切り刻む。ありとあらゆる方法で目玉を排除していく。ちらりと戦場を見ると明らかにボロボロなロボットが必死にBETAに応戦していた。とは言えあれじゃあやられるのも時間の問題だ。レーザーを撃ってくる個体はもう殆んど殲滅した。後は!
ーはぁぁぁ!!
バーニアを噴かせながら白と赤で埋め尽くされた大地に飛び込む。勿論、策もなく飛び込む筈もない。幾ら/が強くても数には勝てないからだ。だからー
ー『ビット』!
僕の呼び掛けに応えて/の各関節部に備え付けられていた自動迎撃兵器『ソードビット』を展開する。都合8つの剣は僕に近づいてくる敵を攻撃する。その切れ味は鋭い。あの堅そうな外殻に覆われていた何かを容易に切り裂いている。細かいのと堅そうなのは『ビット』に任せて蟹と蜘蛛と人を足して割ったみたいな化け物を相手にする。『ガーベラストレート』と『GNソード』をしまい、『シュペールラケルタビームサーベル』を2本取りだし繋ぎ合わせる。ツインブレードに変えたそれを回転させながら突っ込む。ミキサーの様にBETAの群れを刻みながらボロボロの機体の前まで移動する。
ー大丈夫ですか!?
危険だけど無線をオープン回線に変えて呼び掛ける。
『あ、ああ。何とか無事だ!何処の所属かはわからないが感謝する!』
男の人の声が聞こえてきた。若いなぁ。案外少年兵とかその辺りなのかも。取りあえず後ろに被害が出ないようBETAを始末する。
ー動けそうですか?!
『脚をやられてる!動くのは無理だ!』
見ると確かに脚部が片方ない。あの機体は飛べないらしい。しょうがない。
僕はボロボロの機体の腕を掴み、空へ舞い上がる。辺りを見渡しても他のロボットは見えない。撤退したか或いは。考えても仕方ないと首を振って思考を切り替える。
『ば、バカ!空は!』
ーあの目玉なら殲滅済みです!
『な!?光線級が全滅?!あ、あんたがやったのか?!』
ー今は無駄話している暇はないです!
眼下のBETAを睨み付ける。この際だ。別にいいかな。
ーアルム!
゛了解。マイクロウェーブ照射。゛
遠方から放たれた細い光を胸の中心部で受け止める。『ツインバスターライフル』同様、これも威力が有りすぎる兵器だ。でも、今は奴等しか居ない。なら!
ー『ツインサテライトキャノン』!
インファイトパック唯一の射撃兵装『ツインサテライトキャノン』。色々と面倒な条件が揃わないと使えないが今回は条件は整っている。放たれた極太の光線は奴等の中心にぶち当たり爆発する。余波だけでも十分に破壊力のあるそれは暫く光続けていた。
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5話
ようやく『ツインサテライトキャノン』の残光が消え始めた。さっきから宙ぶらりんになっていたロボットの腕が嫌な音をたてているので取りあえず降ろす。
『すまない。俺はユウヤ。ユウヤ・ブリッジスだ。
所属はアルゴス試験小隊で階級は少尉。この『不知火・弐型』のパイロットをしている。あんたは?』
ー僕は陽斗。所属は無くて階級もない。この『/ガンダム』のパイロットをしてます。
『・・・あんた、日本人か?』
ーえっと、どうでしょう。僕は前の事を覚えてないので。
そう、目が覚めてから一向に昔の事を思い出せない。何でなんだろ?
『あ、悪い事を聞いたな。悪かった。っと、ため口で話していたが良かったか?』
ー構いませんよ。
『悪いついでにその戦術機について教えてくれ!光学兵器やあの運動性能はどうやったら出せるんだ?』
弱ったなぁ。どうやらビームとかの兵器はBETAの専売特許になってるみたいだ。厄介な。
ーすいません。これは秘匿事項なので教える訳には。
『だ、だけど何処にも所属はしてないんだろ?だったら!』
ー申し訳無い。色々と事情があるんです。
『そう、か。』
悔しそうな声色で呟くユウヤ少尉。罪悪感が滲み出てくるけれどあまり、『ガンダム』については語らない方がいいかも知れない。
『・・・。とにもかくにも、一度基地まで来てくれ。というか送ってくれ。』
どうやら、近くに安全な場所があるらしい。人も多くはないけど居るみたいだし。・・・。あれ?何で僕はそんな事がわかるんだ?
軽い頭痛も再発してるし。何なんだ一体。
゛陽斗様。『ガンダム』、いえ『MS』 について語らない方針は実に有効です。今は彼等に強過ぎる力を持たせる訳にはいきませんから。゛
やはり、アルムは何かを知っているらしい。帰ったら色々と聞いておこうか。まずはユウヤ少尉を近くの基地まで運んでそれからかな。
そう考えながら僕はまたロボット『不知火・弐型』の腕を掴んで飛び上がる。
ぞわりとした感覚がほんの一瞬だけ駆け消えていった。
何だって言うんだ。本当に。
『どうした?』
ーいえ、何も。
用心だけはしとかないとな。
警戒心をMAXまで引き上げて飛び立つ。
あ、幾つか武器を落としたままだ。ま、いいか。
後々、僕はこの考えをした自分を恨み続けることになるとは思ってもいなかった。少し考えればわかる筈だったのになぁ。
『な、なぁ。なんか、早くないか?Gが凄いんだが?』
ーそうですか?まぁ、いいじゃないですか。
『能天気か?!』
そんな会話をしながら目的地を目指す。
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あの日の天使1
何とかカムチャツキー基地に着いた。確か本当はもう少し長い名前らしいけど覚えてないや。
『よし、基地が見えてきた。あいつらも無事に逃げ切れてたな。』
ーそう言えば、なんで単機で交戦を?
『ああ、本当はあと一機と交戦してたんだが、あの物量に押されてな。俺はどうしてもあいつらを逃がそうとー』
そこまで言って声が止まった。どうしんたんだろう。
『な、なぁ、戦術機の掌程のパーツを見なかったか?!』
ーこれのことですか?
何か重要そうな物だったからつい拾ってしまったパーツを腰から外す。所々かじられているけど修復は容易いな。
『嘘だろ。パーツが無事だったのもそうだがあのBETAの大群からこれを回収したのか?!』
ーええ。/の性能があればこれくらいは。
『ガンダム…か。その戦術機があれば、もっと多くの命を救えるんだろうな。』
ー…強すぎる力は争いを生みます。少なくとも今は同じ人間同士で争っている暇はないですから。
『…だよな。』
何か思うところがあるのだろうか?ブリッジス少尉が黙っちゃった。とは言え。何れは公開するつもりだけれども。少なくともMSの技術をどうにかして戦術機に使えないかとは考えている。
ーそろそろ降下します。出来るだけゆっくりと下ろしますけど衝撃に注意して下さいね。
『ああ。』
ゆっくり慎重にブリッジス少尉の乗る戦術機を降ろしていると基地の方から誰か走ってきた。
「ユウヤ!」
『唯依!』
どうやら知り合いみたいだ。名前で呼びあってるし特別な関係なのかな?
ブリッジス少尉は機体から降りると名前を呼んだ女の人に近づいていく。ブリッジスさん日系の外国人だったのか。さっき名前を呼んでいた唯依さん?は日本人みたいだけど。
「無事で良かった。本当に。」
「ああ。あいつに助けられてな。」
ブリッジス少尉がこっちを指差している。
僕も/から降りた方がいいかな。
「あいつ?…。」
あれ?唯依さんが/を見て固まっている。得たいの知れないものだから警戒してるのかな?
「あれは…あの戦術機は!」
「知ってるのか?」
「ああ。日本の…《嵐山防衛戦》の時に現れた戦術機に似てる。私達を、救ってくれたあの戦術機に。」
《嵐山防衛戦》?何の話だろう?
もしかして、僕の過去が分かるかも。
僕は/から降りるとブリッジス少尉の元へと向かい、話しかける。
ー初めまして。
僕は紅月 陽斗です。
「…篁 唯依中尉です。私の隊の者を救助して頂き助かりました。感謝します。」
ーいえ、困っている時はお互い様ですから。
それより、篁中尉。/について、何か知っているんですか?」
「え?…あの戦術機の衛士は貴方では?」
ー(衛士?パイロットのことかな?)/の衛士は確かに僕です。でも、《嵐山防衛戦》やその前の事を覚えていなくて。良ければお話を聞かせてください。」
「…わかりました。」
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あの日の天使2
side唯依
私は語り始める。運命の日、【帝都】が燃えたあの日を。
それは唐突に起きた。
【BETA】の大陸上陸。それは私の友人から恋人と親戚を奪い、
日本を蹂躙し始めた。
私達新兵は補給基地の防衛を命じられある者は不満を、またある者は不安を洩らしていた。しかしー
「大変ですわ!」
友人ー山城上総からの伝達に戦慄した。後方であるこの補給基地目掛けて【BETA】が向かって来ているのだと言う。
私は悟った。
(防衛線を食い破られた!)
人類は滅びの道を辿っているのか。
幾度となく脳裏を過る疑問。答えは見つからないまま、私は初陣することになる。
専用のカラーリングを施された【戦術機】を駈り戦場へと降り立った。
燃える炎が戦闘の激しさを物語る。ごくりと唾を飲み込むと同時に中隊長から連絡が入る。
「我々の果たすべき最優先事項は光線級の殲滅だ!各機、目の前の【BETA】を始末しながら進め!」
「了解!」
全員が返事を返し、前方に注意を向ける。
「…来た!」
硬い外殼に覆われた破壊の化身【突撃級】が地響きを立てながらその名の通り突撃してくる。
『うわぁぁぁ!!』
雄叫びを挙げながら
友人ー甲斐志摩子がマシンガンを乱射しながら突っ込んでいく。あれじゃ駄目だ!【突撃級】は正面からの攻撃じゃ倒せない!
「志摩子!訓練を思い出して!【突撃級】は!」
「っ!わかってる!」
私達は【光線級】の射程高度に入らないように飛び上がり、【突撃級】の無防備な部分に銃弾を叩き込む。倒れふす【突撃級】を見て、志摩子は歓喜の声を挙げた。
『やった!』
私も少しだけ油断していたのかも知れない。
だから気づかなかったのだ。志摩子は【光線級】の射程高度に達していたことに。
アラートが鳴り響く、モニターには光線注意の文字が赤く浮かんでいた。
隣を見ると誰が狙われているのかはっきりと分かる、分かって、しまう。
「高過ぎる!」
「えっ?!」
警告をしても遅いかもしれない、しかし言わずには入られなかった。
辛うじて捉えた閃光。それは志摩子の搭乗する【戦術機】を
貫くー
前に消え去った。
「…は?」
「えっ?!えっ?」
思わず間抜けな声が出た。そこには先程まで姿形も無かった見慣れない【戦術機】が。
ボディを赤く間接部位のみ白く染めたトリコロール。
天使の様な純白の翼。
V字のアンテナを持つ丸みのある頭部。とても最前線で戦うとは思えないスマートなフォルム。何もかもが異質だった。
ーあー、大丈夫ですか?
オープン回線で話し掛けてくる。声質はまだ幼い子供の様な声だ。
『え?あ、はい。』
ー良かった。間に合ったみたいですね。
僕もこの戦線に加勢します。
私達はこの日、初めて心の底から神に感謝することになる。
それが私達と天使との出会いだった。
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あの日の天使3
天使の力は圧倒的だった。美しい波紋を描く刀を振りながら片手間に【光線級】をマシンガンで撃ち抜いていく。しかも、上空を自在に飛びながらだ。【光線級】の前で空を舞うのは自殺行為。
それは今を生きる者なら誰もが知っていることだ。
だが、天使は違った。飛び交う閃光を軽やかな動きでかわす。反撃とばかりに弾丸を浴びせる。一連の動きを事も無げに行っている。機体性能だけでなく衛士の腕も我々を遥かに凌駕していた。
『すっご…。』
『なんて機動力なの!あの【戦術機】は一体、何処の国が製造したの?!』
『…凄まじいわね。』
『う、うん。』
皆もあの【戦術機】の動きに驚愕しているらしい。
目の前にまだ敵が居るというのに。我ながら馬鹿だと思う。
『何をやっている!あの【戦術機】が何処で作られたかは知らんが負けていられるか!【BETA】を駆逐するぞ!』
『『『…っ!了解!』』』
中隊長の号令で我に帰り、私達は【BETA】への攻撃を再開する。ふと気づいた。レーダーが回復している?
【光線級】の影響で【重金属雲】が発生している場所ではレーダーは機能しない。それが機能回復していると言うことは…
ー【光線級】の駆除は完了しました。
私の考えを肯定するように未知の【戦術機】の衛士から通信が入る。
誰かの息を呑む音が無線越しに聞こえた。
『…あ!やった、やったよ!唯依!私達、【死の8分】を乗り越えたんだ!』
【BETA】との戦闘において一般の衛士が生存している確率が最も高い時間、それが8分。それを乗り越えれば一流の衛士だと言える。それを乗り越えたと喜ぶ友人
石見 安芸に私は返事を返そうとした。
そのとき、見てしまった。安芸の乗る【戦術機】に【突撃級】が向かっていく瞬間を。
「安芸!」
咄嗟に【戦術機】の手を差し出す。届かないかも知れない。それでも、と思った。志摩子の時もそうだった。一瞬の油断が全てを浚っていく。
【突撃級】の外殼が安芸の【戦術機】に触れるより早く、突然、【突撃級】が姿を消した。瞬きの合間に見えた黄色の光はなんだったのか、わからなかったが安芸の【戦術機】の前には巨大な穴が空いていた。
『えっ?あれ?』
「安芸!大丈夫?!」
『あ?ゆ、唯依?うん。大丈夫、だけど。』
ー戦場で油断しない!死にたいのか?!
『ひぅ?!』
今まで穏やかな口調で通信していた相手からの怒号に私も驚いた。
ー…まぁ、無事で良かったです。それよりも
それよりも?なにか、あるのだろうか。
ー今すぐ、撤退してください。
「…は?」
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