超中学生級の介入 (雨の日)
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1話

 希望ヶ峰学園の学園長を名乗るモノクマという一見ぬいぐるみにしか見えない存在から聞かされた話を整理するために苗木たち希望ヶ峰学園78期生は食堂に集まっていた。

 

「さっきの話って本当のことなのかな?」

 

「わからないわ。外部のことを知るすべが私たちにはないもの」

 

「でも外の世界が滅んでいるってのは流石に・・・・・・」

 

『そうですね。ただ言われただけでは信じられませんよね』

 

「! 誰?」

 

 78期生の誰でもない声変わり前の少年のような声が突然食堂に響き、霧切は声の聞こえたほうに振り返った。そこには誰もいなかった。ただ、羽が生えたモニターのようなものが浮かんでいた。そのモニターにはスーツを着た少年が映っていた。

 

『私ですか? 私は超中学生級の交渉人である近藤渡です』

 

「超中学生級?」

 

『はい。皆さんは超高校級という肩書を持っていますよね? そんな肩書があるのなら超中学生級や超小学生級という肩書があってもおかしくないと思いませんか?』

 

「確かに」

 

『理解していただいたところで本題です。こちらに質問したいことはありますか? できる限り答えさせていただきます』

 

 それを聞いて江ノ島は内心焦っていた。この後の質問によって妹の計画が破たんする可能性が頭によぎったからだ。ただ質問することを止めたりするすべを彼女は持っていなかった。そんなことすれば周りにあやしまれるからだ。下手すれば黒幕と通じていると暴かれてしまう。どうすればいいか悩みながらも表情は変えないようにする。相手は超中学生級の交渉人。顔色一つから何かを読み取られる可能性がある。

 

 顔を見渡せた78期生は話し合いの末に霧切と苗木に質問を任せることにした。この2人なら変な質問はしないだろうししても他の人が修正できると判断したのだ。2人を制圧する位大神には簡単なことでもあるというのもあった。

 

「できる限りということは答えられないこともあるということかしら?」

 

『ええ。例えばこちらの本拠地などは答えられません』

 

「どうしてかしら?」

 

『我々と貴方たち共通の敵が存在しているからです。本拠地を攻められるとあなた方との通信などに支障が出ますので』

 

「? 攻められる? 攻められても警察がいるんだし問題ないんじゃ?」

 

『警察はいまろくに機能していません。といいますか今治安維持を行っていた組織は軒並み機能停止状態です』

 

「えっ! どうして」

 

『そちらでどんな説明をされたのかは私は知りませんが今、外の世界は世紀末一歩手前くらいの状態です』

 

「ならどうやって通信を行っているのかしら?」

 

『超中学生級のメカニックと超中学生級のプログラマーによって作成された通信機器搭載型モニターを超中学生級のカメラマンが見つけた監視カメラの死角から超中学生級のパイロットによって中に入れただけです。中継機器は超中学生級の大工と超中学生級の偵察兵が設置しましたので破壊されることはないはずです』

 

「そう。なら次の質問よ。私たちの状況をどうやって把握しているのかしら?」

 

『そちらに設置されているカメラで全世界放送されているからです』

 

 そういわれて全員は思わず食堂にあるカメラに視線を向ける。これは自分たちを監視するためのものだと思っていたが全国に今の状況を中継するためにもつかわれているようだ。なら当然の疑問が浮かんでくる。

 

「この状況も黒幕は見ているはずよね? 何故妨害しようとしないのかしら?」

 

『内通者がいたとしたら今妨害したら黒幕と通じていると言っているようなものですからやらないのでしょう。黒幕自身が動かないのは私にもわかりませんが動けば不都合なことでもあるのでは?』

 

「不都合なこと・・・・・・」

 

『例えば協力者である誰かに変装で自分を演じてもらっているためでれないとか』

 

「いえ、それならモノクマを使えばいいわ」

 

『モノクマ? そっちにもいるんですか。』

 

「モノクマを知っているの?」

 

『ええ。敵の主武器ですからいろいろなタイプが確認されています。あれのせいで羽山あやかさんは・・・・・・』

 

「あやか! あやかがどうしたんですか!」

 

 自分の知り合いの名前が出て思わず舞園は声を上げる。それに渡はしまったと思ったのかちょっと動揺したような顔になる。そのまだまだ経験が足りない年相応な様子に相手は歳下なのだと苗木たちは認識を改めた。苗木たちはいつの間にか渡を無意識に何をいっても動揺しない一流の交渉人だと認識していたのだ。

 

『羽山あやかさんはモノクマに誘拐されそうになっているところを発見してこちらで保護しました』

 

「そう。他にこちらの身内についてわかっていることはあるかしら?」

 

『他ですか? ・・・・・・大和田さんのチームの人を何人か保護しています。それ以外はどうだったでしょうか』

 

 渡は霧切から質問を受けて手元にある資料を見る。その中にはこれまで保護した人たちの情報がかなり詳細に載っている。その中から苗木たち78期生に関係する名前をいくつか発見して報告していく。

 

『・・・・・・以上ですね。』

 

「そこに載っていない人たちはどうなっているのかしら?」

 

『・・・・・・わかりません。一応今動かせる人員すべてを動員して無事な方を探していますが・・・・・・』

 

 渡の言外に言いたいことを悟って苗木たちは顔色を悪くする。自分の身内が死んでいるかもしれない。それも自分たちの記憶では世紀末一歩手前の状態になるような出来事なんてないのだ。思わず現実逃避にはしろうとしてしまう人がいてもおかしくない。ただ、渡の表情や言葉から嘘ではないということが苗木たちには嫌でもわかってしまう。

 

『ただ・・・・・・』

 

「ただ、なに?」

 

『希望ヶ峰学園のOBを中心に結成された組織があるそうですのでそちらに保護されている可能性もあります』

 

 渡の可能性の提示に苗木たちの顔色が若干よくなる。希望ヶ峰学園卒業生はすごい才能を持っている人たちが多い。それなら渡たちが把握していない人たちを保護している可能性も十分ある。

 

『こちらでもどうにかして貴方方を救うために作戦を練ります。それまで何とか耐えてください』

 

「わかったわ」

 

 渡は霧切の言葉を受けてすぐにモニターを学園から離脱させた。そのすぐ後に食堂にモノクマが現れた。そのとても慌てたような表情に苗木たちは何があったのかと思わずモノクマに目を向ける。

 

「君たち、今食堂で何かしてた? 突然カメラの映像が途切れたんだけど」

 

「ええ。ここからの脱出についてちょっと話し合いをね」

 

「脱出? ウププ、ウプププ。もしかして誰かを殺す気になったの? 学園長としてはその姿勢は嬉しいけどさ。校則のこと忘れてないよね?」

 

「もちろん」

 

 霧切はモノクマの様子とその後の会話から渡との会話をモノクマが把握していないことを確信した。他の人も同様のようで先ほどの会話についてモノクマに言う人はいなかった。ただ、渡が黒幕が知らないということを把握していなかったことに疑問を持つ者もいたが。

 

 それから定期的に報告される渡たちからの情報によって何とか殺し合いをせず過ごした苗木たちは渡たちが練った作戦によって無事に学園を出ることに成功した。

 

 そのことに黒幕である江ノ島は笑いながら絶望し、その様子を見ていた超中学生級のカウンセラーと超中学生級のセラピストは処置無しと匙を投げた。そして希望ヶ峰学園のOBが中心になって構成された組織未来機関に江ノ島を引き渡した。その後、速攻で彼女は処刑されたらしい。

 

 未来機関との協力は渡たちの組織の長が交渉に失敗したため渡たちは78期生とともに独自の路線で動くことになった。世界を救うためのその過程で77期生や78期生の身内を救い、何度も未来機関とぶつかりながら一部の地域の復興を成し遂げた。



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第1の動機

 モノクマがいつまでも誰かを殺さない苗木たちに業を煮やして動機を配った。それは苗木たちの親しい人間に何かが起きたかのように見えるDVDだった。

 

「これを今更見せられてもな」

 

「渡っちの話が本当ならこれは本当のことなんだべな」

 

『何かありましたか?』

 

「おっ! ちょうどいいところにきたっぺ」

 

 葉隠と桑田が見せられたものに対して話していると羽が生えたモニターが飛んできた。どうやら渡たちがまた設置されたカメラの死角をぬくことに成功したようだ。おそらく今はまたあの時のように黒幕には食堂の様子が見えなくなっているだろう。

 

『? 何か訊きたいことでも?』

 

「ええ」

 

 霧切は渡に先ほど渡されたDVDについて話しをした。それを聞いた渡は手元にある資料に目を向ける。それは先ほど整理した保護されたメンバーの情報をまとめたものだった。

 

『まずこちらから伝えられるそれについての情報は舞園さんの所属していたアイドルグループを全員保護したことくらいですね』

 

「本当ですか!?」

 

 報告を受けた舞園さんは思わず大声を上げた。そして眼尻には涙が浮かんでいる。よほど嬉しいらしい。周りにいた女性陣もそんな舞園と喜びを分かち合っている。

 

『はい。後は苗木こまるさんの所在が分かったくらいですね』

 

「こまるの!?」

 

『塔和シティという所に監禁されているそうです。もしかしたら他の人質もそこにいるかもしれません。今、超中学生級のスパイが侵入できないか探っている途中です』

 

 この情報を受けて苗木たちは渡たちの組織の実力を高く評価した。たったの数日でここまでの情報を集めて救出計画を進行をするのは普通無理だからである。

 

「すごいわね」

 

『いえいえそんなことありませんよ。我々はある超高校級の才能の持ち主によってまとまっているだけでその人がいなければここまでのことはできなかったでしょう』

 

「へーその凄い人ってどんな人なの?」

 

『名前は涌井修。才能としては超高校級の指導者というらしいですね。希望ヶ峰学園75期生ですので78期生である苗木さんたちの3つ上ですね。』

 

「もしかして私たちと会ったことあったり?」

 

『どうなんでしょう? 涌井さんが自分の過去を私たちに話してくれたことがないので』

 

 その名を聞いた瞬間、江ノ島はみんなに気づかれないようにしながら冷や汗を大量にかきはじめた。涌井は江ノ島にとって恩人のような存在であり絶対に敵に回してはいけない存在だったからである。

 

 涌井修。彼は本物の江ノ島をして分析できないと言わしめる意味不明な存在であり才能の名前も希望ヶ峰学園がとりあえずつけただけで本当は違うものであるらしい。ただ江ノ島の戦闘技術の向上に協力してくれた1人であり彼女個人としては嫌いではない人だったりする。

 

 本物の江ノ島が何度も彼を分析しようと会いに行き当時の彼氏に連れ戻されるということを繰り返したほどの人物。まあ彼は本物の江ノ島に興味がなかったらしく何をしてもほとんど反応しなかったおかげで江ノ島の彼氏と嫌悪な関係になることもなかったそうだが。

 

『・・・・・・今はこれぐらいですね何かありましたらまた連絡します』

 

「ええ、頼んだわ」

 

 その後もいくつか報告するべきことを伝えた後モニターはアクロバティックな動きを見せながら苗木たちの視界から消えた。おそらくカメラの死角をぬっていくために必要だったのだろう。

 

 飛んでいったモニターを見送った苗木たちは机に何かが置いてあるのを発見した。それは小型のモニターのようなものでそこには『羽山あやか』と表示されている。

 

「これってもしかして・・・・・・」

 

 霧切がモニターに触れるとそこに女性の姿が映しだされた。その女性はモニターに表示されていた人物、羽山あやかである。

 

「あやか!」

 

『さやか! そっちは大丈夫・・・・・・なわけないわよね。こっちはモノクマとかいうぬいぐるみに襲撃を受けたりして大変だったけど、今は渡くんたちに保護されて暴動の鎮圧とかをやっているの』

 

「それって大丈夫なの? 目立てばまた襲撃を受けるんじゃ・・・・・・」

 

『そこはしっかりと対策を取ってくれているわ。超中学生級のボディーガードの久留井くんとか超中学生級の兵士の沢村くんが護ってくれているから』

 

「そうなんだ」

 

 舞園と羽川がそんな風に近状を話しあっていると食堂にモノクマがやってきた。

 

「ウププ。見たよ。またカメラがおかしくなったから様子を見にきたら君たち外と連絡を取り合っていたんだね。先生は悲しいよ。せっかく殺し合いになるかと思っていたのに」

 

「モノクマ!」

 

「そんなことするならボクにも考えがあるよ」

 

 モノクマはどこから取りだしたのか手に何かのスイッチのようなものを持っていた。それに苗木たちは嫌な予感がよぎる。

 

「じゃじゃーん! なんとこのスイッチはとある場所を爆破するためのものです」

 

「とある場所?」

 

「そう! とある場所」

 

「もしかして人質のいる場所?」

 

「ウププ! 朝日奈さん、正解! これはとある人物の人質のいる場所を爆破するものなんだ」

 

「悪趣味な!」

 

 モノクマの説明に顔色を悪くするもの怒りに顔をしかめるものなどそれぞれ反応する。それを見ながらモノクマは笑みを浮かべる。

 

『まあそのスイッチは偽物だろうがな』

 

 モニターから羽山とは違う声が聞こえた。それは編成期を迎えて低くなった男性の声。おもわず苗木たちはモニターの方を向くとそこには黒いスーツを着た眼光鋭い男性が羽山の隣りに映しだされていた。

 

「誰?」

 

『俺の名前は久留井夢生。超中学生級のボディーガードだ』

 

「ああさっき話題に出た」

 

『? まあいい。その話はあとで羽山嬢から聞こう』

 

 横で羽山が聞かれたくないことを聞かれたような顔になった。舞園はそんな羽山の様子に困惑する。久留井について羽山は名前をだしただけで特に何も言っていなかったので別にさっきの話題を出されても問題ないはずなのだ。

 

「そうだね。後で聞きなよ。で? なんで君はこれが偽物だって言えるんだい? 直接見たわけでもないのに」

 

『直接見なくてもわかる。その大きさの物から出せる電波が届くのは学園内までだ。そして、学園内に苗木殿たち以外の人は1人以外いない』

 

「ならその人が人質かもしれないじゃん?」

 

『はっ! その1人というのは黒幕であるお前の中の人のことだ』

 

「中の人なんていない!」

 

『そうか』

 

 久留井はモノクマの言葉を聞き流した。着ぐるみの中には誰もいないと大人が子供に誤魔化すかのような態度に内心呆れていた。

 

「聞き流したね! もう怒ったぞ!」

 

 モノクマは頭から湯気をだし顔を真っ赤にして怒っているかのような表情を取りながらスイッチを押した。ただ、数秒たっても何も起こらない。モノクマは不思議そうな顔をしながら何度もスイッチを押す。

 

「なんで? なんで何も起こらないんだよ!」

 

『俺との会話に夢中になって周りに目を向けていなかったようだな。門の辺りを見てみろ』

 

 久留井に言われた通り黒幕が門につけられているカメラを見ると門の前にパラボラアンテナのようなものがいつの間にか設置されていた。そこから何かの電波がでているのがわかる。おそらくこの電波によってスイッチが正常に機能しないのであろう。アンテナはマシンガンのぎりぎり射程外の設置に設置されているため壊すこともできない。

 

「くぅ! 覚えてろよ!」

 

 モノクマは捨て台詞をはいてどこかに逃走した。その様子に苗木たちは胸のすくような思いだった。

 

『覚えておこう。お前が負け犬だということをな』

 

 久留井はいなくなったモノクマにそう吐きすてるとモニターから姿を消す。羽山はその様子に苦笑いを浮かべながらモニターの中央に戻る。

 

『私たちと通信していることをモノクマが把握したみたいだしこれでいつでも話ができるわね。何か訊きたいことがあればこのモニターから連絡して』

 

「わかったわ」

 

 霧切の返事を聞いてモニターが通信終了の表示になる。このモニターは話し合いの結果、石丸が持つことになる。彼ならどっかに落としたり変な使い方をしないであろうという考えからだ。



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第2の動機

 モノクマから告げられた新たな動機、それは全員の知られたくない秘密であった。知るはずがないと食ってかかる者もいたが直接モノクマに渡された封筒の中の紙に記されたものをみて何人かは顔色を悪くした。おそらく本当に知られたくない秘密が書かれていたのだろう。

 

 頭の整理やらなにやらのために大多数の人間は食堂に移動した。そこでモニターに着信があり渡が表示される。放送で動機について知り心配になったのだろう。

 

「本当に私たちの秘密を知っていたようね」

 

「そうだね。でもどうやって調べたんだろう?」

 

「どうやってでしょうね」

 

 霧切と苗木はそう話しながら明らかに顔色が悪い大和田に顔を向ける。そんな2人から見られている大和田は顔を真っ青にして小声で何かをブツブツ言っている。

 

「・・・・・・知られたらチームが・・・・・・兄貴との約束が・・・・・・男として・・・・・・」

 

『大和田紋土さん、よろしいでしょうか?』

 

「・・・・・・! あっ? なんだよ? 俺になんの用があるってんだよ、ああ!?」

 

 自分の世界に入っていた大和田に渡が声をかける。それに反応が遅れながら大和田は返事を返す。その様子から即急に今の状態を改善しないとまずいと渡は悟り手元にとある資料を持ってくる。

 

『はい、まず誰にもモニターを見られないようにしていただけますか?』

 

「? ちっ! わかった。兄弟、ちょっとこれ借りていっていいか?」

 

「構わないぞ、兄弟! あとできちんと返してくれよ」

 

「あたりめえだ!」

 

 大和田は訳が分からないながら渡の指示に従いまず石丸から許可をもらいモニターを持ち自室に移動した。

 

「これでいいか? それで何の用だ? つまらないことだったら後で覚えていろよ」

 

『まず今送信した資料に目を通してください』

 

「あっ? ・・・・・・こりゃあチームのやつらの!?」

 

 大和田は渡に言われるがままにモニターが受信した資料に目を通す。そこには大和田のチームクレイジーダイアモンド古参の者の証言が載っていた。特に大和田の目を引いたのは兄である大亜が紋土をかばって死んだということを生き残っている古参の者全員が知っているという所だった。これに大和田はおもわず驚いた。

 

「なんでだ!? このことは誰も知らねーはず! てめえまさかあいつらに告げ口したとかしたりしてねえよな!?」

 

『違います。大和田紋土さんのチームの人は大和田紋土さんのお兄さんの死を知って現場に行きこのことを知ったそうです。見る者が見ればどんなふうに死んだかわかるもんだ、なんて言われてしまいました』

 

「じゃあどうして・・・・・・どうしてあいつらは俺を責めねえ! 俺は、俺は・・・・・・つまらねえ意地と焦りで兄貴を殺しちまったんだぞ!」

 

『私がそう訊いたらこう返されました。何故責めねえといけねえんだ? 総長が自分の意志でやったことに俺らがケチつけられるわけねえじゃねえかっと』

 

「そりゃあそうだけどよ・・・・・・」

 

『そしてこうも言ってました。いまの首領は総長の死をかってに自分のせいにして自分だけで背負いやがった。俺らがそんなことで離れるような屑に見えるってのかっと』

 

「うう・・・・・・ウオォォォーーー!!」

 

 大和田は思わず涙を流していた。自分はチームの人間をどこかで信じていなかったのだということに気づいて。そんな奴に何も言わずにチームのみんなはついてきてくれていたのだという感謝で。

 

『・・・・・・もう大丈夫そうですね』

 

 渡はその様子から大和田が人を殺す可能性が低くなったと判断した。何かのきっかけで衝動的に暴力に走りそうになるかもだが殺しまでは多分いかないだろう。いや、当たり所が悪かったら・・・・・・という考えがよぎり慌ててその考えを頭からおいだす。

 

『他の方で問題になりそうなのは腐川冬子さんと不二咲千尋さんですね・・・・・・まああの2人なら何とか自分で乗り越えてくれるでしょう。ただ・・・・・・』

 

 渡は一つ懸念事項があった。腐川の秘密を知ったらここにいる人たちはどのように行動するのだろうということだ。彼女の秘密は多重人格のことに違いないと渡は確信していた。何故ならもう一人の腐川に渡は会ったことがあったからだ。

 

 超高校級の殺人鬼、ジェノサイダー翔。これが腐川のもう1つの人格の名前だ。才能の名の通り何人もの人を殺している危険人物だが獲物にする人間を選んでいるらしくよほど気に入らなければ殺しはしない。彼女は殺した死体を鋏で磔にして近くに血ミドロフィーバーと残すという特徴がある。

 

 ただ、くしゃみをすれば腐川の人格は入れ替わるということから隠しきれるはずがなく、1年もあればおそらく全員知ることになっていただろう。そして、1年間誰も殺さなかった彼女のことを気にする必要はないのだが今その記憶が苗木たちにはない。だからこそ警戒したり自衛のために殺そうとしたりする人が現れる可能性がある。

 

『彼女のことですから十神白夜さんには話している可能性がありますね』

 

 渡は少し悩んだ後とある人を探しに向かった。その人の名前は向井坂臓。組織内で数少ない超高校級の司書という肩書きを持つ男性だ。目元まで前髪を伸ばしていて暗い印象を初対面ではもたれやすいが前髪をしっかりと整えればジェノサイダーのお眼鏡にもかなうほど容姿が整っていたりする。ちなみに向井は第75期生で涌井と同期だったりする。

 

 向井は腐川さんの本の大ファンで腐川さんの出した本を全部持っていて感想を編集部に送ったりもしていたし話題に出すと普段は無口な彼が饒舌に話してくれる。向井なら腐川さんの問題をどうにかできると渡は判断したのだ。

 

「腐川、次はおめえだとよ」

 

「なに? 今度は私? まさか・・・・・・私が人をこ、殺すって思っているの!?」

 

 渡は大和田に頼みモニターを食堂にいた腐川に渡してもらった。一緒にいた十神は金切り声を上げる腐川に顔を歪ませる。

 

『はい、この中で先ほどの動機で人を殺しかねない人は大和田紋土さんと腐川冬子さんの2人だけですから』

 

「はあ? 他にもいるでしょ! オーガとか」

 

『大神さくらさんの秘密はこちらではつかめませんでしたが今の様子を見る限りやりそうには見えませんので』

 

 話題に出た大神は朝日奈と雑談に興じていた。殺気を放っていたり顔色が悪かったりといった変化は見うけられない。それに大神の性格から果たし状などを送って正々堂々真っ向から挑むだろうと渡は判断していた。

 

「お前が苗木たちが話していた渡という男か?」

 

『おそらくそうでしょうね。私が超中学生級の交渉人の近藤渡です』

 

「・・・・・・1つ訊きたい。十神財閥はどうなった?」

 

『十神財閥は崩壊寸前まで来ていますね。何とか踏みとどまっている状態です』

 

「崩壊寸前だと? 何故そんな状況になった? 俺が卒業するまでなら十分今の規模を維持できるくらいの備えをしておいたはずだ」

 

『十神白夜さん以外の十神家の人間が死んでしまったからです』

 

「なに!?」

 

 渡の報告に流石の十神も驚きを隠せない。証拠のためにと渡に見せられた親族の死体の写真から十神は渡の発言が真実だと何とかのみこむことができた。

 

『崩壊寸前の状態を何とか維持できているのは十神白夜さんが生き残っているからです。十神白夜さんが死んだ場合十神財閥は滅ぶでしょうね』

 

「そんなことになるものか。俺は十神白夜。超高校級の御曹司である選ばれた人間だ。こんなゲームすぐにクリアして今まで以上に十神財閥を発展させてやる」

 

『誰かを殺されるのは困るんですが・・・・・・え? わかりました。伝えておきます』

 

 モニターに映しだされている渡が誰かから受けた連絡に驚きの表情を浮かべた。その後すぐに十神にある写真を見せる。

 

『この方に見覚えは?』

 

「・・・・・・うちの執事だな。それがどうした?」

 

 映しだされた写真は燕尾服を着た初老の男性だった。怪我をしているようで腕や足など至る所に包帯が巻かれている。その写真に十神は思わず目を見開く。どうやらこの男性は十神の知り合いで執事をしていたようだ。

 

『先ほど保護したと連絡を受けまして一応お知らせしておこうかと』

 

「・・・・・・そうか」

 

 渡の報告に十神は安堵の笑みを思わず浮かべた。まあ本人は今どんな顔をしているか自覚していないが。十神にとってアロシャニスはそんな反応を無意識にしてしまうほど大事な人だったのだろう。

 

『十神白夜さんに伝えることは以上ですね。腐川さんに変わっていただけますか?』

 

「わかった」

 

 機嫌の良い十神は素直に渡の頼みを聞き腐川にモニターを渡した。

 

「それで? あんたは私の説得でもする気? 年下の癖に生意気よ! そっそれにこの秘密は・・・・・・」

 

『いえ、後のことは向井さんに任せていますから』

 

 腐川の発言を遮り渡はモニターから消える。そして新たに向井がモニターに現れる。今回は前髪をしっかりと整えており根暗な印象はもたれないだろう。

 

『久しぶりです。覚えていますか?』

 

「・・・・・・もしかして向井さんって向井君のこと!」

 

 何かのイベントで会ったことがあったのだろう。腐川は向井の声と顔から何とか思いだし大声を出す。その様子から向井は腐川に忘れられていないことを確信しホッとした。もし忘れられていたらと渡に今の苗木たちの状況を聞かされてからやきもきしていたのだ。

 

『腐川さん・・・・・・』

 

 向井は夕食までの間に何とか殺害を踏みとどまらせようと腐川に様々な話をした。その時の腐川の様子に苗木たちは言葉を失った。とても可愛らしくまさに恋する乙女のような腐川の様子に思わず十神が声を失ってしまうほどだったし桑田や葉隠は近寄ることができなかった。

 

 こうして2人が殺害を諦めたことによって期限の24時間が経つまで誰も人殺しを行うことはなかった。モノクマは面白くなさそうな顔をしながら全員の秘密を言っていった。その中で腐川の秘密に注目が集まった。その様子にモノクマは笑みを浮かべた。ようやく殺し合いが起きると。



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秘密の発表後 涌井との初接触

 秘密の発表が終わり苗木たちは食堂に戻ってきた。その中の数人は顔色を悪くして腐川を見ている。腐川の秘密であるジェノサイダー翔に怯えているようだ。

 

「腐川さん、私はあなたのことをどうこうとかは言わないわ」

 

「僕もだよ! 腐川さんは腐川さんでジェノサイダーはジェノサイダーなんでしょう?」

 

「えっええ。私にあいつになった時のおこなったことの記憶はないの」

 

「嘘じゃねえべな?」

 

「こっこんな状況で嘘をついても仕方がないでしょ!」

 

「渡っち達が腐川っちに接触したのには理由があったんだべな」

 

『その通りです・・・・・・私は腐川さんがジェノサイダー翔になっているときに会ったことがあるんです』

 

「えっ!」

 

『殺されかけてぎりぎりで助けてもらったんですよ』

 

 腐川の顔色は渡の話を聞いて悪くなっていった。そんな腐川の様子を見て苗木が腐川とモニターの間にまるで腐川をかばうように立った。

 

「渡くん腐川さんを責めないでよ! 腐川さんは何も悪くない! 悪いのはジェノサイダーだよ!」

 

『・・・・・・そうですね、すいません。こんなんじゃ交渉人失格ですよね。少し頭を冷やしてきます』

 

 渡も言わなくていいことを言ったと思ったのか苗木に言われてすぐにモニターから消えた。そしてモニターには向井と苗木たちが知らない男性が映しだされた。その男性を見て江ノ島は思わず顔を強張らせた。

 

『渡もまだまだ経験が足りないな』

 

『いやあの歳でよくやっていると思うぞ』

 

「えーと・・・・・・」

 

『ああ、自己紹介をしていなかったな。俺は涌井修。ここにいる奴らをまとめているものだな』

 

「あなたが!」

 

 涌井を初めて見た苗木たちは驚いた。格好としては黒いシャツに黒いズボンを着てその上に白衣を纏っているという普通の科学者とかが来ていそうな格好だが髪型がおかしい。右半分は黒髪が逆立っていて左半分は金髪のストレートになっているのだ。

 

『で? 秘密を聞いてお前らはどうするんだ?』

 

「それは・・・・・・」

 

『ジェノサイダー翔だから隔離する? そんなことしたら黒幕の思惑通りじゃねえか。ついでにつまらない』

 

『つまらないとかいうな、修。彼らにとっては重要なことなんだぞ』

 

「涌井さんのおっしゃる通り隔離なんてしませんわ」

 

 涌井の言葉にかえしたのは腐川と接触することが少ないセレスだった。これに苗木たちは驚いた。セレスから隔離しないといいだすなんて思ってもいなく、逆に説得しないといけないと思っていたのだ。

 

『ほう? それはどうしてだ?』

 

「セレス殿」

 

「決まっているでしょう? そのほうが面白いからですわ」

 

『面白い?』

 

「ええ。このゲームに最後に勝つのは私です。なら、その過程でどんな障害が現れても問題はありませんわ」

 

「・・・・・・黙って聞いていれば好き勝手なことを。この十神白夜を甘く見ているな。最後に勝つのはそいつではなく俺だ」

 

「あら? どこかで負け犬が吠えていますわね」

 

「貴様!」

 

 十神は思わず立ち上がりセレスを睨みつける。セレスはそんな十神の様子を微笑みながら見つめていた。十神の睨みつけはセレスに何のダメージも与えられなかったようだ。

 

「なんでセレスさんは十神君を挑発しているの?」

 

「セレスさん、数日前に十神君とポーカーをやって大勝したらしいよ」

 

「そうなの?」

 

「うん、それからセレスさん。十神君をあんな風に挑発するようになったの」

 

 苗木はこっそり隣に座っていた朝日奈から事情を聞いて十神の方に顔を向けた。朝日奈との会話は普通の声量で行われたから十神にも聞こえていたはず。それでも否定しないということは朝日奈の話は事実なのだろう。

 

 十神は素直にお礼を言ったりできないひねくれた性格をしている。そんな十神をセレスは挑発して勝負に持ちこんだのだろう。そしてセレスが勝った。超高校級のギャンブラーの肩書きは伊達ではないのだ。

 

『で? 結局どうすんだ? さっきのはそこの嬢ちゃんの独断だった見てえだが』

 

「・・・・・・隔離はしないわ」

 

『そうか』

 

 霧切はもし自分たちと何らかのつながりがあるのならもう少し心配するなりなんなり反応があるはずなので涌井と自分たちはそこまで親しくなかったのだろうと頭の中で答えが出した。ただ、答えをだしてすぐにそれは違うとその推理を否定しようとしている自分に顔には出さないが驚いていた。

 

「・・・・・・質問があるのだけれどいいかしら?」

 

『構わねえぜ。言ってみな』

 

「貴方が結成した組織の名前は?」

 

『リジェネーションだがそれがどうかしたか?』

 

 話をいきなりぶった切って訊いてきた霧切に涌井は答えながら困惑した顔を向ける。ただ、霧切は涌井の答えを聞いた後何かを考えているのか腕を組み何かを考えはじめた。その様子に答えが返ってこないと涌井は悟った。

 

『他に聞きてえことはあるか?』

 

「外は荒廃してんだろ? なら外に出ねえほうがいいのか? ここにいたほうが安全なのか? ・・・・・・すまねえ、いろいろとこの短期間で起きすぎて頭の整理がつかねえ」

 

『ほう、大和田も成長しているようだな。確かにそこにいれば基本的に安全だ。ただ、それでも外に出なければならない事情がある』

 

「それって・・・・・・」

 

『そこにある食料は無限ではない。いつかは尽きる。そして今お前らを殺しあわせようとしている奴は世界をこんな風にした元凶だ。そいつに罪を償わせなければならねえ』

 

 涌井の言い分はもっともなことだった。モノクマがどこから補充しているのかは不明だが物資は有限だ。だからこそ苗木たちを殺し合わせて物資の使用量を節減しようとしているのかもしれない。まあ他にも理由があるのだろうけど。

 

「確かにな」

 

『他にもその学校に残っている資料から復興に役立つものを見つけたいとか戦力が少しでも欲しいとか細かい理由もあるがな』

 

「うぷぷ。うぷぷぷぷ。困るなあ。せっかく殺し合いが起きるかもって思っていたのに。余計なことをして」

 

『はっ! お前の都合など知るかよ。俺は俺のやりたいようにやるだけだ』

 

「そう! ならこれを聞いてもまだこいつらは殺し合いをしないかな?」

 

『どうせ裏切り者がいるとかだろ? そしてこっちの調べた限りだと裏切り者は大神だな』

 

「・・・・・・さくらちゃんがそんなことするはずないじゃん!」

 

 モノクマの言葉を遮って涌井が言った言葉に場は静まった。ここにいる誰もが涌井の言葉を理解できなかったのだ。それからすぐ朝日奈が怒鳴ったことによって全員の意識が戻ってきた。

 

『そうだな。普通なら大神もそんなことはしない。だが、人質がいるなら話は別だろ?』

 

「えっ」

 

『大神の道場の人間が全員モノクマに連れ去られたことをこちらは確認している。そして1人を除き全員死んだこともな』

 

「なに? それは本当のことか、涌井よ」

 

『ああ、ケンイチロウとかいう大神と同じくらいのスペックを持った人間以外死んだみたいだぜ?』

 

 涌井の言葉に大神は静かに涙を流した。その後、苗木たちに道場の人間たちを人質にとられ裏切り者になるように言われていたことを語った。

 

「大神さんの件はこれでいいわね」

 

「そうだね。大神さんの性格なら今後僕たちを裏切るとかできそうもないしね」

 

「念のために腐川さんと大神さんを一緒にしておけば問題が起きてもすぐにわかるでしょ」

 

「ちぇっつまらないなー」

 

『あいつの思惑通りに進ませるかよ』

 

「あいつ? 涌井さん。今回の件の首謀者について何か知っているの?」

 

『ああ。ただ今言っても意味がねえ』

 

「それはどういう意味?」

 

『首謀者はお前らのクラスの人間だ・・・・・・16人目のな』

 

「16人目!?」

 

 モノクマは不満をこぼしながら食堂から消えた。その様子を眺めながらつぶやいた涌井の発言に霧切がくいついた。涌井はめんどくさそうな顔になりながら正直に答える。その答えに苗木たちは驚く。自分たちの知らない16人目の人物。

 

「誰なの?」

 

『これ以上は自力でたどりつきな。お前らが俺の後輩だというのならたどりつけるはずだ』

 

 霧切の質問には答えず涌井はモニターから消えた。向井はそんな涌井の様子を苦笑いしながら見送り一礼してから同様にモニターから消えた。



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希望ヶ峰学園脱出

 涌井に言われてから苗木たちは学園中の調査を進めていたが結果は芳しくなかった。1階のみしか解放されていない現状ではわからないことが多すぎるのだ。最低でも3階くらいまで解放されないとどうしようもないだろう。

 

「どうしようか。僕たちが調べられるところは全部調べたよね?」

 

「そうね。あのシャッターをどうにかできないかしら?」

 

「さくらちゃんでもどうしようもなかったんだよね」

 

「すまない。我の力不足で」

 

「いやいやそんなことないよ」

 

「そうよ。私たちでもどうしようもないもの」

 

 現状の手詰まり感で食堂に集まっている人たちの顔が暗い。朝日奈が何とか明るくしようといろいろとやっているがどうしようもない状況だった。

 

「渡くん、そっちはどうなの?」

 

『何とかマシンガンへの対抗手段は開発できましたが扉の破壊または壁からの侵入手段を模索中といったところですね』

 

『渡、侵入手段の確立に成功したぞ?』

 

『えっ? 本当ですか?』

 

 モニターに移されている渡に告げられた涌井の言葉に苗木たちの顔が明るくなる。もし涌井の話が本当ならこの学園から脱出できるかもしれないのだ。

 

「それって本当?」

 

『ああ。ついさっき超中学生級のカメラマンが侵入経路の選定してな。そこに超中学生級の偵察兵を向かわせた。もうすぐつくんじゃないか?』

 

 涌井の言葉の直後、廊下から何かを破壊する音が響いた。その音は徐々に食堂に近づいている。戦闘可能な人は戦闘態勢を取って非戦闘員は食堂の奥に移動した。

 

「監視カメラの破壊を確認。カメラ越しに確認した顔を多数確認。最終確認、貴方たちが希望ヶ峰学園78期生で間違いないでしょうか?」

 

 食堂に入ってきて人物はすぐにカメラを破壊した。その後苗木たちに問いを投げかける。その入ってきた人物は女性だった。背格好はそんなに高くないが目が違った。どこまでも見通すんじゃないかと錯覚させられそうになる程鋭い。そして首に双眼鏡をかけていて両手にサバイバルナイフを持っている。服装は軍の迷彩服に近いものを着用している。おそらく彼女が涌井の言っていた人だろう。

 

「ええそうだけれどあなたは?」

 

「菜緒は藤代菜緒。超中学生級の偵察兵の肩書きを涌井様から賜りました」

 

『もうついたか』

 

「はい、涌井様。菜緒は涌井様の期待に応えて見せましたよ」

 

 菜緒はモニターに満面の笑みを向ける。それは相手を盲目に信じているような笑みで苗木たちはそれをみて若干顔色が悪くなった。

 

『よくやった。とりあえず扉の所までそいつらを誘導してくれ。扉はこっちでどうにかするからよ』

 

「わかりました、涌井様。・・・・・・いきましょう」

 

「・・・・・・いきましょう」

 

「そうだね。今は涌井さんたちを信じないと」

 

「もし罠だったらどうするべ?」

 

「ここまでやってきてそれはないんじゃないかな?」

 

「万が一のために警戒はしておいた方がいいだろうな」

 

 菜緒は涌井からの指示に従い苗木たちを連れだそうとする。苗木たちは顔を見合わせて少し話しあった後、菜緒を警戒しながらも脱出できる可能性にかけて菜緒に従うことにした。

 

 道中黒幕からの妨害もなく到着した。それを不思議に思いながら苗木たちは扉を見上げる。この扉をどうにかすると言っていたが涌井はどうするのだろうか。不安と期待が入り混じった目で見つめていると静かにだが確実に扉が開いていく。

 

『扉の開閉及び黒幕の確保に成功』

 

「えっ?」

 

 モニターから聞こえた声に霧切は驚きの声を上げる。それは今まで聞いたことのない声だった。少なくとも涌井たちではないと断定できる。霧切は菜緒についていくときに持ってきたモニターをみるとそこには男性が映っていた。背は中学生の平均程で目を閉じているように見えるほど細い目をした茶髪のどこかの学校の制服を着たその男性は手にパソコンを持っていた。

 

「あなたは?」

 

『私は神崎瑠衣。超中学生級のプログラマーを名乗らせてもらっています』

 

「! あなたが」

 

 同学年にいる肩書きを持つ人に霧切は驚く。モニターのプログラムを作った人物であり自分たちの恩人の1人である。

 

「僕と同じ才能?」

 

『そのようですね』

 

 不二咲と瑠衣は互いに数秒見つめあった後プログラム談議に入った。それをあえて霧切は止めなかった。開いていく扉の前の光景に声を失っていたからだ。そこにはおびただしい数のマシンガンで撃たれた跡を体中に残した状態の死体が横たわっていたのだ。その少し遠くにパラボラアンテナが設置されていてそこから何かの音波が出ている。

 

「これは・・・・・・」

 

「貴方方を助けようとして亡くなった方たちですよ」

 

 みんなが絶句している中状況の説明をしたのはモニターで何度もみた男性、渡だった。苗木は顔色を悪くしながら渡に近づいていった。

 

「! 渡くん! どうして止めなかったの!」

 

「私たちはその時結成されていませんでしたから」

 

「ならどうしてこのままにしているの!」

 

「先ほど瑠衣さんがシステムを掌握するまで近づけばマシンガンを撃たれていたんですよ? 死体の回収は不可能でした」

 

 渡の答えを理解しながらもどこか納得できない苗木たちに渡は慰めの言葉をかけたりせず黙って見守っていた。この問題は苗木たち自身が見て許容しないと意味がないことだと涌井が言っていたからだ。

 

「渡くん、涌井様は?」

 

「近くまで来ていますよ。黒幕の護送とかいろいろとやっているようですが」

 

「そうだ! 黒幕。僕たちを殺し合わせようとした黒幕って誰だったの?」

 

「知ったところで意味がないと思うのですが・・・・・・まあ苗木さんたちは知っておくべきですね」

 

 渡は苗木たちに黒幕である江ノ島について説明した。殺しあわせようとした思惑などすべてを。苗木たちは証拠と共に説明された計画に顔色を悪くしていった。2年間ともに絆を育んだ相手を殺してしまうかもしれなかったのだ。当然といえよう。

 

 そして、一緒にいる江ノ島の変装をしていた戦刃はこの状況からの挽回は無理であると悟り菜緒による拘束を素直に受けた。この絶望的状態で笑える彼女に苗木たちは理解できないという視線を向ける人や話を聞いていてある程度性質を理解した人は憐みのような感情をのせた目線を向けた。

 

「・・・・・・こんなところですね」

 

「渡、説明は終わったか?」

 

「はい」

 

「涌井様!」

 

 説明が終わったころ、涌井が苗木たちの所にやってきた。長身でどこか威圧感のようなものを発する涌井に思わず苗木たちは後ずさった。その様子を面白そうに見ながら口を開く。

 

「お前らはこれからどうする?」

 

「どうするって?」

 

「俺らとくるか独自に動くか未来機関とかいうOBどもが作った組織に行くかってことだ」

 

「えーと・・・・・・どうしよう?」

 

 苗木たちは悩む。今の情勢などの情報が全くない苗木たちにこの問いは答えづらいものだった。そのことに気づいているのか涌井は参考資料として全員に今の情勢についてまとめたものと各組織についてまとめたものを手渡した。

 

 苗木たちは話しあった結果、消去法であるが全員涌井とともに行くことに決めた。未来機関につく選択肢は資料を見て不自然な部分を霧切が指摘し涌井が正直に答えたことによって消え、自力ではどうしようもないことが情勢の資料を見て大和田にもわかったためそちらも消える。残った涌井たちの組織につくという選択肢は隠していることもあるだろうが他の選択肢よりはましだったのだ。

 

「それじゃあ行くか」

 

 涌井たちは苗木たちの決断を聞くとすぐに出発するべく移動を開始した。そして苗木たちはそんな涌井たちについていく。これからどうなるかわからないが明るい未来になるように努力しよう。石丸は使命感に燃え、十神は不敵に笑う。不安がないわけではないがそれでも前に進んでいかなければならないとその場にいた全員が自然と理解していた。



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超中学生級の才能の持ち主たち

ここでは涌井修の組織リジェネーションに所属している超中学生級の持ち主のデータを載せていきます。
話が進むごとに更新しますのでネタバレが嫌な方はあまり見ない方がいいです。


名前:近藤渡 こんどうわたる

性別:男性

身長:中学2年生の平均よりちょっと低い

体重:中学2年生の平均よりちょっと軽い

国籍:日本

年齢:14

好きなもの:会話

嫌いなもの:雨

才能:交渉人

 

 この小説のメイン人物の1人。超中学生級の交渉人と涌井に命名された人物。黒髪黒目のザ・日本人という容貌をしている。話すことが大好きで感情が表にでにくいところからこの才能になったのだろうと本人は推測している。

 基本的に丁寧語で話すが気に入った人物にはため口になることもある。彼と仲良くなるためには何度も会話をすることが1番の近道である。彼の親しい人のラインははっきりしており、苗字と名前から名前だけで呼ばれるようになればそれなりに親しくなったといえるラインであだ名で呼ぶ段階に入ると親友とか恋人とかそういうラインになる。

 

名前:久留井夢生 くるいむう

性別:男性

身長;羽山あやかより少し高い

体重:中学3年生の平均より少し重い

国籍:日本

年齢:15

好きなもの:歌

嫌いなもの:銃

才能:ボディーガード/ボイストレーナー

 

 羽山あやかたちアイドルグループの護衛をやっている人物の1人。目つきが悪く普通にしていても睨んでいるように見える。父親が自衛隊の隊員でその伝手で護身術などを学んでいたためこの才能になったらしい。

 銃と相性が悪いらしくボディーガードなのに使うことができないが身体能力がとても高く銃弾を見切り掴むことができる。

 爆発物に詳しく時限爆弾を解体することも可能だったりする。

 冷静沈着で大抵のことには動じない。

 彼と仲良くなるには歌が1番有効な手段だ。どんな歌だろうと最後まで聞いてくれてしっかりとしたアドバイスもくれる。そのこともあって超中学生級のボイストレーナーという肩書きをつけられたほどだ。まあ基本的に人に名乗る時にはこの肩書きを名乗らないのだが。

 彼とある程度仲良くなったかわかるのはこのボイストレーナーの肩書きを教えてもらえるかでわかる。教えてもらえればそれなりに親しくなった証拠になる。ちなみに羽山は教えてもらっている。

 

名前:沢村拓斗 さわむらたくと

性別:男性

身長:中学1年生の平均より少し高い

体重:中学2年生の平均くらい

国籍:日本

年齢:13

好きなもの:銃

嫌いなもの:車

才能:兵士

 

 羽山あやかたちアイドルグループの護衛をやっている人物の1人。中学生にしてはがっしりとした体格をしている強面な無口の少年。

 頭が足りていないのか誰かに指示されないと動くことができないという弱点を持つ。ただ、命令されればどんな手段を使ってでも遂行する様子から才能名が決められた。

 アイドルに興味がないらしく羽山たちに迫ったりしないことから護衛の役割を命令され、粛々とこなしている。

 彼と仲良くなるには銃の知識が必須である。銃の話題であれば彼はいつまでも語ることができるくらい銃に詳しい。

 仲良くなったとはっきりわかるものは彼にはない。

 

名前:藤代菜緒 ふじしろなお

性別:女性

身長:中学2年生の平均くらい

体重:中学2年生の平均より少し重い

国籍:日本

年齢:14

好きなもの:涌井、双眼鏡

嫌いなもの:涌井に近づく女

才能:偵察兵

 

 涌井が大好きなミリタリーオタクだった少女。ミリタリー知識と涌井への愛によって変貌した身体能力、特に涌井を5キロ以上先から見つけることができる視力であらゆる所へ偵察をおこなっていたことから才能名が決まった。

 涌井が絡まなければできる女風に見える。一人称が菜緒で涌井に対する態度と他へ向ける態度が違いすぎるなど残念な部分が多々ある。

 目つきが鋭く首に双眼鏡をいつもぶら下げている。ちなみにこの双眼鏡は涌井が彼女に贈った最初のプレゼントだったりする。

 彼女と仲良くなるには涌井について知る必要がある。出なければ彼女の話についていけなくなる。

 仲良くなったとはっきりわかるのは話し方の変化である。事務的な喋りでなくなればそこそこ仲良くなったといえる。

 

名前:神崎瑠衣 かんざきるい

性別:男性

身長:中学3年生の平均

体重:中学3年生の平均より少し軽い

国籍:日本

年齢:15

好きなもの:パソコン

嫌いなもの:雑音

才能:プログラマー

 

 不二咲と同じ才能を持つ男性。プログラムについて話しだすと止まらなくなる。プログラミング能力は確かで様々なプログラムを作成して組織に貢献している。そのためこの才能名がついた。

 目はほとんど開いていないように見えるほど細く茶髪に染めている。

 彼と仲良くなるにはパソコンの知識が必須である。なければ話についていけなくなる。

 彼と仲良くなったとはっきりとわかる時はプレゼントである。ストーカ気質というか親しい相手のことを全て知りたいという欲求からか監視カメラや盗聴器などをそこそこ親しくなるとプレゼントされる。



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