バカと無双と下剋上 (走り高跳び)
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試召戦争編
振り分け試験


一度書いてみたかったAクラスアンチを書いていきます。でも、しばらくはアンチには入りませんが・・・
それでは、どうぞ!


 俺は大谷吉継。文月学園に通う高校一年生だ。

今日は進級直前の振り分け試験の日。だが…

(高虎がまだ来ていない…?)

俺の友人の藤堂高虎がまだ来ていないのである。あいつは成績優秀で身体能力も高い。間違いなくAクラスに入れるのだが…

「どうしたんだ、吉継。」

後ろの方から声がかかる。この声は間違いない。

「・・・雄二か。」

俺と高虎の悪友、坂本雄二だ。あまり成績が良いとは聞かないが、頭の回転はとても速い。

 

「珍しくボーッとしてたぞ。」

「ああ、心配させて済まない。試験まで後五分位なのに高虎が来てなくてな。」

「高虎が?」

 雄二が少し驚いている。無理もない。高虎は入学してから無遅刻無欠席だったのだからな。

「アイツが今日に限って熱でも出したのか?運悪いなあ。」

「もしこのまま来なかったら、あいつはFクラス確定だな。」

 文月学園の学年末の振り分け試験は、追試が無い。それ故に当日欠席は無得点となり、自動的に一番下のクラスであるFクラスに落とされる。

 「ところで、雄二はどうするんだ?」

「ん?どうするって?」

「お前の事だ。勉強はしていたのだろう?」

「まあ、申し訳程度にはやったが・・・Aクラスに入る気は無い。」

「・・・どういう事だ?」

「点数を調整して、Fクラスの代表になる。」

 一体目の前の男は何を言っているんだ。わざわざ下位クラスに入るなど。

「 最下位のクラスに入って、上のクラスを倒し、下剋上をしてみたいんだ。」

「・・・」

「勿論簡単に出来るとは思ってないさ。だが、だからと言って上で偉そうにしている連中に入りたくはない。」

「考え方がお前らしいな。」

 だが、この事を俺に話すと言うことは・・・

「・・・その計画に俺も乗ってほしい、という流れか。」

「そう言うことだ。学年トップ10に入るお前が一緒に居るなら心強い。」

「・・・断ることなど、出来ぬようだな。」

この言葉を聞いた雄二が顔を明るくさせる。

「そうか!それなら話が早い。頼んだぞ。」

そういって雄二は自分の席に戻って行った。

「はい、それでは席に着いて下さい。」

雄二が帰っていったとほぼ同時に試験監督の教師が入ってくる。

「あれは・・・古文の明智先生か。」

紫色の長い髪を後ろで結んでいて、長身で細身の先生。性格は温厚で生徒にも慕われており、教師の中でも一、二を争う頭の良さだそうだ。余談だが、娘もこの学校に通っている。

 「先生、高虎が来ていません。」

「高虎、と言うと藤堂高虎君ですね。・・・今日は風邪で休みのようですね。」

 (高虎が休みか・・・これであいつはFクラス。)

「では、問題用紙を配ります。一教科目は、現代国語です。」

問題用紙を丁寧に配っていく明智先生。俺の所にも配られ、全員に行き渡って少ししてチャイムが鳴る。開始の合図だ。

(問題は大した事無いな。Fクラスなら、どの程度の点数だろうか・・・)

点数を取らず、怠けているように見せない。それはとても大変な事であったのだ。

 



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新学期

前回の続きで教室に入る所までです。


 春休みを終えて、今日から高校二年生になる。

家を出てしばらく歩くと、見慣れた背中が見える。あれは…

「…高虎か」

春休みには顔を合わせなかったから、振り分け試験の前日以来だな。

少し早足になって高虎の近くまで行く。

「おお、吉継か。」

「この前は残念だったな。」

「ああ、本当にな。大事なときに風邪をひくとはついてない。」

 少し悔しそうな顔をしている。

「だが、二年生からは試召戦争がある。最底辺のFクラスでどこまで上がれるか試してみるさ。」

「ああ、そうだな。…誰だ?」

不意に後ろから人の気配があった。

 「よう、久しぶりだな。」

「おお、雄二か。」

俺と高虎の悪友の雄二。こいつはFクラス代表になると言っていたが、上手く出来たのだろうか?

「おはよう雄二。結局テストは上手く行ったのか?」

「多分な。俺と似たような奴が他に居たなら無理かもだが。」

「おいお前ら、何言って…」

今のところ俺と雄二しか知らない事だ。ばらすのは校門に着いてからだな。

 「俺と吉継が言ってる事か?そろそろ分かるさ。」

こんな他愛ない話をしているうちに学校まで到着した。

「・・・鉄人か。」

「西村先生とよべ、藤堂。」

  校門前には鉄人こと西村宗一が立っていた。脇に大きな箱を抱えている。

「おはようございます、西村先生。」

「おお、大谷か。横に居るのは坂本だな。」

「ああ、そうだ。」

他愛の無い挨拶をした後、鉄人が箱の中から三つの封筒を取り出す。

「三人とも受け取れ。中にお前たちのクラスが書かれている。」

「なあ、何でこんなややこしい事をするんだ?普通に掲示板に張り出すだけでも良いだろ。」

雄二が素朴な疑問を口に出す。

「他の学校とは違うという感じを出したいからだそうだ。」

「ほう・・・さて、上手く行ったか・・・?」

俺たちのクラスはこうだった。

『坂本雄二 Fクラス代表』

『大谷吉継 Fクラス』

『藤堂高虎 Fクラス』

 「俺は休んでたから仕方ないな・・・ん?お前達もか!?」

「ああ、そうだ。俺も吉継もFクラスだ。」

 高虎は俺と雄二がFクラスな事に驚いている。まあ、無理も無いが。 

「藤堂は休みだから仕方ないとしてだな・・・坂本、大谷、お前達は何のつもりだ?」

「俺はFクラスでやりたい事がある。そのために点数を調整した。」

「俺は雄二の話の流れを読み取って、それに乗ったまでです。」

 「そうか・・・まあいい、一年間悔いの無いようにしろよ。」

「「「了解!」」」

 クラスも分かり、俺達は揃って旧校舎の方に向かうのだった。  

「ところで雄二、お前がやりたい事って何なんだ?」

「そうか、高虎には言っていなかったな。・・・下剋上だ!」

高虎の問に、雄二が高らかに言う。

「下剋上?」

「ああ。この学校には試験召喚システムがある。これを使って最底辺から上まで行けるか試してみたいんだ。」

 雄二の説明を聞いているときの高虎はずっと驚いたままだったが、一通り聞いた後、高虎が雄二に、

「目標は?」

と聞いた。

「Aクラスだ。」

それに答える雄二。

「・・・分かった、協力しよう。俺もAクラスの豪華な設備が欲しいしな。」

「そうだな。さて、Fクラスはどのような教室だろうか。」

喋りながら教室まであるいて、俺がガラッと扉を開けるとそこは・・・

廃墟のような空間だった。

「・・・俺、振り分け試験の追試を受けさせてもらえるよう、掛け合ってくる。」

「それは出来ない流れだ。」

いきなり不安ばかりの一年の幕開けだ。



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宣戦布告

雄二と高虎、吉継を書き分けるのが難しいです。
因みに次回はDクラス戦です。


 とりあえず、教室に入ろう。何も始まらないしな。

「まだ俺達の他には誰も来ていない様だな。」

教室を見渡して、雄二が俺達に言う。

「そうだな。ところで、俺と高虎の他にFクラスに来るような奴は居るか?」

「おいおい、居ないだろ。学年下位50人に入る様な奴が俺達の周りに・・・居たな・・・三人・・・」

言葉の途中で思いついたのか、高虎が頭を抱える。

「ああ、明久、秀吉、ムッツリーニか。」

高虎の頭の中に浮かんだであろう三人を挙げてみる。「そうだな。あいつらは確実に来る。それと・・・姫路だ。」

先程の三人の他に、雄二がもう一人挙げた。

「ん?姫路って言うと・・・学年次席の姫路瑞希か?」

「そうだ。俺と吉継と姫路は同じ教室だったんだ。そこでテストを途中退席してた。」

「確かに途中で倒れた女子が居たな・・・そこまで気にしてなかったが、あれは姫路だったのか。」

 そこまで気にしてない、と言うよりは関心が無かったと言った方が正しいのかも知れないが。

 「結構良い人材が集まるかもな。」

「そうだな。わざわざ点数調整して代表になった甲斐があった。」

…それにしても、雄二は良くピンポイントでFクラス代表になれたな。何か根回しでもしていたのか?

同じことを思っていたらしく、高虎が尋ねていた。

「それで、どうやってぴったりFクラス代表になったんだ?姫路のような途中退席者が居たなら計画が狂う事だってあり得る。」

「ん、それに関しては少しだけ学園長のババアに協力して貰った。」

「協力…?意図的に点数を下げてもらったりしたのか?」

「いや、仮に点数が上回ったとしても、Eクラス程度の点数ならFクラス代表にしてくれる、との事だ。」

「なるほどな。」

 その時、扉がガラッと開いた。

「おお、雄二に高虎、吉継じゃな。」

入って来たのは雄二や高虎、俺の友人の木下秀吉。割と中性的な容姿で、よく双子の姉に間違えられている。

教師も間違える位だが、ヘアピンの付け方とかで見分けはつくのだ。

「どうしたのじゃ、吉継?ワシの顔をじっと見て…」

「いや、何でもない。ちょっとボーッとしていただけだ。」

「そうだ秀吉、俺や雄二、吉継の他にここに来そうな奴は誰だ?」

高虎が先程の話題を秀吉にも振っていた。

「そうじゃな…明久やムッツリーニ、島田は来るのではないか?」

島田?ドイツからの帰国子女と聞いているが、詳しいことは解らないな。

「島田ってどういう奴だ?俺は余り分からないのだが…」

高虎、本人が来たときに聞けば良いじゃないか…余り女子の事を詮索するのは良くないぞ。

「帰国子女らしいな。子供の頃からドイツに居たから、日本語でのコミュニケーションが苦手、と言っていたな。」

「帰国子女…そして日本語でのコミュニケーションが苦手と言うことは国語や古文での点数は期待出来ないな。」

「吉継の言葉に付け足すと、そもそも問題文を読むこと自体が難しい、と考えてもいいんじゃ無いか?」

「お主ら、手厳しいのう…」

済まない、秀吉。言い過ぎたかも知れない。

 「まあ、そんなとこだろうな。さて、ゆっくりと他の奴らの到着を待つか。」

雄二はそのまま自分の席に行き、突っ伏して寝てしまった。

俺達もすることが無くなったので自分の席に戻る。

「む?座席表はどこじゃ?」

「「自由席だ。」」

「設備が酷いのは仕方ないが、座席表も無いのじゃな…」

苦笑しながら秀吉も席に着いた。

~時間経過~

 チャイムがなり、席もほとんど埋まっている。

少しして、担任であろう教師が入って来た。

「皆さんおはようございます。Fクラスの担任の福原慎です。」

と、福原先生が黒板に名前を書こうとするが、チョークが無かったのか書くのを止めた。

「吉継…俺達大丈夫なのか?」

「俺にも分からん。」

たかとらの問いには俺も答えられない。ほんとに大丈夫なのかも俺には分からない。

 と、その時、扉がガラッと開き、二人の生徒が入って来た。

「遅れてすみません!」

「ごめんなのじゃ!」

片方は明久、もう片方のワイン色の髪をツインテールにしている女子は…誰だ?

「高虎、あの女子は誰だ?」

「俺も詳細は分からないが…確か明智先生の娘じゃないか?一度駅前のデパートであの娘と明智先生が一緒に歩いてたのを見たことがある。」

ほう、あれが明智先生の娘か…親バカなのは聞いていたが、あの見た目なら納得できる。

 「遅いぞ、クズ虫。」

「誰がクズ虫だ!」

「そうじゃ!わらわはクズ虫じゃないのじゃ!」

雄二の言葉に二人とも反応する。雄二は女子に失礼な物言いはしないと言った方が良いだろうか?

因みに島田と秀吉以外のクラスメイトは明智先生の娘に釘付けにされていた。

『すげえかわいいぞあの娘!』

『現実でツインテールの女の子に出会えるとは!』

『俺と結婚してくれ!』

「こいつらの頭の構造はどうなってるんだ?」

「高虎や俺には分からないだろうな。」

 誰かが結婚してくれと言ったとき、再び扉が開いた。顔を見せたのは明智先生だった。

「一応言っておきますが…私の娘に手を出そうものなら、有無を言わずに腕を切り落とします。」

早口で言ったあと、扉を閉めて戻って言った。

『…』

触れてはいけない何かに触れてしまった連中は、完全に黙り込んでしまった。

 「…とりあえず二人とも開いてる席に着いてくれ。」

雄二にそう言われて、二人とも近くの席に腰を下ろした。

「えー…それでは窓際の人から自己紹介をしてください。」

福原先生がそう言うと、順番に自己紹介をしていく。

「工藤信也です。特技は…」

「横溝浩二です。趣味は…」

次は明久の番か…

「吉井明久です!皆さん、ダーリンと呼んで下さい!」

『ダァーリーン!』

「…すみません、冗談です。」

一体何をやっているんだ明久は…

 明久な自己紹介が終わったとき、またしても扉が開いた。

「お、遅れてすみません…」

ピンク色の髪が目立つ元学年次席、姫路瑞希だ。

「姫路さん?」

明久が少し驚いた様に言う。

 他のクラスメイトも彼女を見て驚きを隠せない様だ。

『何で彼女がここに?』

『成績はトップクラスなんじゃ…』

次々と疑問の声が上がる。

「あ、あの…試験の日に体調を崩してしまって…」

 そう言って一番前の列の席に腰を降ろす。

「では、自己紹介を続けて下さい。」

その後も俺や高虎、秀吉、ムッツリーニや島田も自己紹介を終え、後は代表の雄二のみになった。

 「最後に代表の坂本くん、教壇に立って何か言ってください。」

雄二がゆっくりと教壇に向かっていく。

 「Fクラス代表の坂本雄二だ。とりあえず初めに聞いておこう。ここの設備は足の折れかけたちゃぶ台、ぼろぼろの窓、綿なしの座布団。対してAクラスはシステムデスクに個人用冷蔵庫にディスプレイもあるし、教材も無料で提供してくれるらしい。」

ここで一拍置いた。

「不満は無いか?」

『大有りじゃあっ!』

 高虎やムッツリーニ等も含むクラスの殆どが叫んだ。叫ばなかった秀吉、島田に姫路と明智先生の娘も不満があるに違いない。もちろん俺だって不満しかない。

「だろうな。俺だってこの環境は大いに不満だ。そこで皆に提案だ!この設備を試験召喚戦争でどうにかしようではないか!最終的にはAクラスのシステムデスクに変えようじゃないか!」

 雄二がそう言った瞬間、クラスが一瞬で静まりかえった。

『無理だ。』

『勝てる訳無い。』

一気にクラスの雰囲気が重くなる。

「大丈夫だ、このクラスにはAクラスにも対抗できる人材が多数いる!まずは、木下秀吉!」

「わ、ワシか?」

雄二に指名された秀吉が少し驚いていた。

『おお、木下秀吉といえば…』

『演劇部のホープ!』

『双子の姉が成績優秀なことで有名だな!』

 「次に…おい、いつまでも姫路のスカートの中を覗いてるな。」

「は、はわっ!?」

「…!?(ブンブン)」

「土屋康太。こいつはかの有名な寡黙なる性識者(ムッツリーニ)だ。」

『ば、バカな!?』

『こいつがあのムッツリーニなのか!?』

『いや、あの必死に否定するところ…まさにムッツリーニという二つ名に、ふさわしい!』

「それじゃ次だ。島田美波。」

「う、ウチも?」

「ああ、そうだ。こいつはドイツからの帰国子女。」

『帰国子女だと!?』

『そんな奴が居たのか。』

「姫路に関しては言うことが無いな。次は…大谷吉継に藤堂高虎だ!」

 俺達の名前が出たとき、皆驚いていた。

『大谷に藤堂だと!?』

『日本史や世界史で600点を越えたと言われる奴らか!?』

『一度は二人とも霧島さんに総合科目で上回ったとも聞いたぞ!?』

俺達はそこまで有名なのか…

「次に明智玉。明智光秀教諭の娘だ。」

雄二の言葉に皆反応しそうになるが、先程の事があって余り過激な言葉は聞こえなかった。

 「そして…吉井明久!」

その言葉が出てきたとたん、ヒソヒソ声で話していた連中が完全に静まった。

『誰だソイツ?』

「知らないなら教えてやろう…明久は観察処分者だ!」

 教室が次は先程とは別な雰囲気でざわめき出す。

『観察処分者って…』

『バカの代名詞だよな?』

「ち、違うよ!ちょっとお茶目な高校一年生に付けられる称号で…」

「そうだ、バカの代名詞だ。だが…教師の雑用によって召喚獣の操作は誰にも負けない。間違いなく役に立つだろう。」

 召喚獣の操作が上手いと聞いて、明久の評価が一変した。

『確かにそれなら大きい戦力になるな!』

『点数が低くてもな!』

何気にディスってる気もするが、それは置いておこう。

「もちろんこの俺、坂本雄二もいる。」

『坂本って言うと、悪鬼羅刹で有名な?』

『しかも小さい頃は神童と呼ばれていたそうだ!』

『こんなに凄い奴がいるなら本当にAクラスに勝てるんじゃないか?』

クラスの雰囲気がどんどん明るくなる。単純だな…

 「そうと決まれば早速仕掛けるぞ!高虎、Dクラスに宣戦布告に言ってくれるか?」

「…俺がか?」

「ああ。もしもその時に危険な目に遭いそうになったら常識の範囲内で反撃して良い。」

「了解だ。」

 高虎はゆっくりと立ち上がり、教室を出ていった。

 



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Dクラス戦1

Dクラス戦は何回かに分けて書こうと思っています。この戦いが終わったらAクラスアンチが入るかもです。



 教室を出てから五分ほど経った時、高虎が帰ってきた。

「おう、お疲れ。大丈夫だったか?」

「問題無い、何もされなかったぞ。」

「そうか、それで開戦時刻は?」

「午後二時とのことだ。」

あと5時間位か。午前中は通常授業になるのだな。

「よし、全員開戦までに準備を整えておけ。午前中は普通に授業だ。」

午前中は何事もなく終わった。

 「明久、ムッツリーニ、秀吉、姫路、島田、吉継、高虎、明智、一緒に屋上まで来てくれるか?」

「何をするんですか?」

「作戦会議だ。」

それだけ言うと、足早に雄二は屋上へと向かっていった。

 屋上に着き、皆が弁当や買ってきたパン等を食べ始める。・・・ただ一人を除いて。

 「吉井、そちはなぜ塩と水しか持ってきておらぬのじゃ?」

「あ、明智さん・・・ちょっとお金が無くてね。」

「明智、放っとけ。ゲームに金を使って食費にまで手を出すバカだ。」

「左様か。ならいいのじゃ。それより、明智では父上と同じじゃ!玉と呼んで欲しいのじゃ!」

下の名前か・・・明智先生に変な誤解をされなきゃ良いが。

「分かった、これからはそう呼ばせて貰う。さて、試召戦争についてだが・・・」

「少し良いか?」

秀吉が手を上げる。

「ん、何だ?」

「何故AクラスでもEクラスでもなくDクラスなのじゃ?」

「いい質問だな。まず、何故いきなりAクラスに仕掛けないのかだが・・・簡単だ。今のままでは絶対に負ける。」

だろうな。姫路や俺、高虎の点数がほとんど無く、明久を除いて召喚獣の操作をほとんどしていない。今のまま突っ込んでも玉砕に等しい。

 「つまりは、俺達に召喚獣の操作に慣れて欲しいと言った所か。」

「高虎の言う通りだ。」

「ても経験を積むだけなら木下の言う通り、Eクラスでも良かったんじゃないの?」

「いや、姫路に問題が無く、吉継に高虎がいる今、Eクラスは敵ではない。それならランクを一つ上げたDクラスに攻め込もうと思ったんだ。」

「つまり、Dクラスには簡単には勝てない、ってこと?」

 明久の言うことは間違っては居ないが…雄二からすれば倒しがいがある、って感じじゃないか?

「そうだ。お前達が上手く立ち回らないと勝てないだろう。今から編成を発表するぞ。」

編成と言ってもDクラスとぶつかるのは渡り廊下の一ヶ所のみ。姫路がテストを受け終わるまでどれだけ持ちこたえられるかにかかっている。

「まず、姫路に高虎に吉継。お前達は開戦してすぐ

テストを受け始めろ。」

「雄二、それなんだが…俺は振り分け試験の時、化学と数学は本気で受けたからその二つのみ300点を越えている。」

「マジか!それなら吉継は前線に出ろ。化学教師と数学教師を手配しておく。」

「頼んだぞ。」

「ああ。次に、秀吉。お前は吉継と一緒に先行部隊十五人を率いて戦え。指揮は吉継と秀吉で分担しろ。後ろに明久や島田の中堅部隊十五人を配置する。こっちは指揮権を明久に全委任する。」

「ぼ、僕に?」

「お前なら何だかんだで上手くやってくれると思っているんだが…」

まあ、他の奴らに任せたら不味いのは目に見えているしな。

「分かったよ・・・でもしくじっても文句は言わないでよ!」

「もししくじったら・・・両手の爪を剥がす。」

「コワッ!?」

 それくらい責任重大だと雄二は伝えたかったのだろう。逆効果になっている気もするがな。

「後の事は教室で言う。とりあえずさっさと昼飯食おうぜ!」

「そうだな。目の前に饅頭があるのに食べない訳には行かないよな!」

「高虎、ここは惣菜パンの流れでは無いか?」

「どんな流れだ。」

 

 と言った感じで平和に昼休みも過ぎて行き・・・

試験召喚戦争の開戦時刻まであと五分となった。

「吉継よ、お主は化学のフィールドにしか居ないのであったな?」

「ああ、総合科目や物理なんかで戦っても点数が無いからな。その分、何人か俺がいない方のフィールドに回してくれ。」

「了解じゃ。」

俺は秀吉と最終調整をしている。既にこちらには化学の布施先生がいる。俺は常にこの先生のそばで戦えば良い。

 キーンコーンカーンコーン・・・

チャイムが鳴った。Dクラスの生徒達がこちらに向かって来ている。

相手が連れている教師は・・・高橋先生か。秀吉側のフィールドは総合科目になるのだな。 俺の方にも向かって来ている。準備をしなければな。

「Dクラス鈴木二郎、Fクラスに召喚獣勝負を申し込みます!布施先生、召喚許可を!」

「承認します。」

化学のフィールドが展開される。いきなりだが、行ってみるか。

「サモン!」

「Fクラス大谷が受けます。サモン!」

互いの召喚獣が現れ、点数が表示される。

『 Dクラス 鈴木一郎

 化学     87点  』

     VS

『 Fクラス 大谷吉継

 化学    322点  』

 俺の召喚獣の見た目は、白い頭巾に白い装束、武器は仕込采(中に刀が仕込んである)。

「え?大谷?」

相手がキョトンとしている。今が好機だ!

「悪いが、一気に決める!」

持っている仕込采で頭部を叩く。相手の召喚獣は消えた。

 と同時に近くのロッカーから西村教諭が出てきて、鈴木を抱える。

「戦死者は補習だ!」

「い、嫌だ!鬼の補習は嫌だっ!」

「安心しろ、終わった時には趣味は勉強、尊敬する人は二宮金次郎と言った模範的な生徒にしてやろう!」

「そ、それはせんの・・・」

悲鳴を上げながら鈴木が連れ去られていく。

 「・・・死にたくなければ戦うのじゃ!サモン!」

「俺達だって死にたくないんだよっ!サモン!」

各地で戦いの火蓋が切られた。俺は果たして生き残れるのだろうか・・・

 



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Dクラス戦2

結構急ぎ足ですが、Dクラス戦、決着です。


Dクラスと戦闘を開始して30分が経過した。

戦線は何とか維持できている。それよりも心配なのはどれだけ戦死者が出ているかだが・・・

「秀吉、そっちの被害は?」

「戦死者は今のところ瀬戸と福村の二人だけじゃ。点数が危なくなって下がったやつは五人位かのう。」

「うむ・・・こちらは少し厳しい。既に戦死者が五人を数えている。何とか持ちこたえているが・・・」

 初めは300点以上あった点数もそろそろ250点を切ろうとしている。

まだ余裕の範囲内なんだろうが、不安を拭えない。

 「Dクラスの増援が到着したぞ!」

前線から悲鳴のような声が上がる。

新手の数は・・・十五人。戦死した奴を含めて三十人を前線に投入したか。

「このままでは不味いな。・・・秀吉、後方に控えている明久に前進するよう伝えろ!」

「う、うむ!」

秀吉が急いで旧校舎側に走って行く。

「お前たち、なんとか耐えろ。直にこちらも増援が来る!」

「援軍が来る前に潰すぞ!大谷を討ち取れ!」

Dクラスの五人程が一気に俺に勝負を仕掛けて来た。

「くっ・・・二人ほどここに来てくれ。俺一人では支えきれない!サモン!」

「Fクラス西村も行きます、サモン!」

「横溝も行くぞ、サモン!」

二人来てくれたか。これなら五人とも倒せるだろうか。 まずは一人目。弓矢を使ってくる召喚獣が相手だ。

「食らえ!」

点数は88点。心臓等に当たらない限り死なないが・・・

「はっ!」

仕込采で斬り落とす。そして、一気に間を詰めて斬りつける。

二人目。短刀を持っていて・・・忍者装束を着ているのか。こいつ相手なら直接勝負でも良さそうだ。

何より点数が52点と低い。他の奴と戦っていたのだろうか。とにかく攻撃される前に顔を采で殴りつけて撃破。三人目と四人目が同時にやって来る。

残る一人はFクラスの二人と戦っている。

一人は金属バットを持った不良、もう一人は鉄パイプを持っている。両方不良だな。

「鉄パイプはリーチが長いから気を付けた方が良いか。ならば・・・」

先に金属バットの方を片付ける。一人目の奴の様に間を詰めて撃破。

鉄パイプを持っている奴は一度攻撃を受け流し、隙が出来た所を突く。これで四人撃破だ。あと一人は西村と福村が倒してくれるだろう。

 「戦死者は補習だ!」

どこからともなく西村教諭が現れ、戦死した奴らを連行していく。

いま運ばれて行ったのは・・・Dクラスが六人、Fクラスが三人か。もう片方がまずい事になっているな。

「西村、福村、悪いが総合科目の方に行ってくれないか?押され気味の様なんだ。」

「「了解!」」

 二人が向こうへと向かっていく。

さて、こちらはあと七人か・・・前線にいるFクラスは合計十人。向こうは二十一人か。明久が来るまで果たして持つかどうか。

「大谷は強敵、数人で束になって潰すぞ!」

「そう簡単にやられたくはない。」

相手が七人全員同時に召喚する。点数は・・・低い奴で75点、一番高くて112点か。

俺の残りの点数は248点。まだ少し余裕があるが、200点を切らない様にしたいものだ。

「すぐに決めるぞ!総員突撃ー!」

いきなり全員で突撃か・・・リーチの無い武器の奴や、弓矢が武器の奴も居るのにな。

「ダメージ覚悟で突っ込む!」

一団となって突撃する集団を真っ向から迎え撃つ。

 ・・・相手の召喚獣が全て居なくなった。そして俺の点数は・・・

『Fクラス 大谷吉継

  化学   32点 』

ほとんど点数が無くなってしまった。次に誰か来たら間違い無く負けるな。

「大谷の点数が消耗している!討ち取れ!」

総合科目の方から三人こちらにやって来る。悔しいが、補習を受けるしか無いか。・・・ん?後ろが騒がしい。

「吉継、もう大丈夫だよ!サモン!」

明久達中堅部隊十五人が到着した。

「済まないな、明久。ここは任せて退かせて貰おう。」

フィールドにいた召喚獣を退かせ、明久に戦闘を継続させて俺は教室に戻った。

 「おお、吉継。生きて帰って来てくれて何よりだ。」

教室に帰ってすぐ、雄二が出迎えてくれた。

「ところで、高虎と姫路の補充テストは終わったのか?」

「ああ、今終わった所だ。俺の方の採点はおわって、今は姫路の方の採点をして貰ってる。」

 そうか、なかなか上手く事は運んでいる様だ。

「それじゃあ雄二、高虎、姫路、頼んだぞ。」

「おう!」

 姫路の採点も終わった。あとは平賀の周りの奴らを遠ざけ、姫路に止めをさして貰うだけか。

「よし、行くぞ野郎共!」

『オオー!』

全員出て行ったか。さて、俺はゆっくりと休むとするか・・・

 それから暫くして、Fクラスの勝利を伝える教師の声が聞こえてきた。

 



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下校前の争い

今回からAクラスアンチ要素が入ります。
苦手な人はブラウザバックを推奨します。


 今年初めての試験召喚戦争であるFクラスとDクラスの対決は、Fクラスが勝利した。

俺は勝ちが決まった時はFクラス教室に居たからその場を見ていなかったが、物凄い盛り上がりだったそうだ。 そして俺も雄二達が居る場所まで移動した。Fクラスの面々まだ勝利に喜んでいる。

「おお、吉継。」

「高虎か。どうやら勝った様だな。」

俺を見た高虎が嬉しそうにこちらに駆け寄って来る。

「戦後対談は終わったのか?」

「ああ、結局Dクラスの設備は取らない事になった。」

「何だと?」

 折角勝ったのに設備交換をしないだと?

「と言う事は、他の何かで埋め合わせをした訳だな。」

「察したか。俺達が次に攻め込むのはBクラス。その為の布石として、雄二の合図でB教室の室外機を壊して欲しいとの事だ。」

「室外機か・・・あいつかわ考えている事はなかなか難しいな。」 

 まあ、Dクラス相手でもかなり苦戦した。次は更に強いBクラスと戦う。有利になる状況は作っておきたいのだろう。

 「それじゃあ、教室に戻るぞ。雄二が俺達に話があるとの事だ。」

「これしか話さないのなら、わざわざここに来なくても良かったな。」

「ははは、そうだな。」

~移動中~

 「皆集まったか。」

教室に戻って他の奴等に帰るよう指示した後、雄二は昼休みに集めたメンバーを再び呼び寄せた。

「で、何の話?」

「今後の予定についてだ。」

今後の予定・・・Bクラスに宣戦布告し、それを破った後にAクラスに挑むと言った感じか?

「初めに言っておこう。今のままではAクラスには勝てない。」

雄二の言葉に俺と高虎を除いた全員が驚いた表情をする。

「な、なら何故雄二はAクラスに挑もうとしたのじゃ?わらわはこれ以上設備が悪くなるのは嫌じゃ!」

 明智先生の娘改め玉が雄二に戸惑いか交じった疑問をぶつける。

「落ち着け。俺は玉砕しようと思った訳じゃない。今から順を追って説明する。」

雄二が玉を宥める。

「俺は、Aクラス戦は代表同士の一騎討ちにしようと思っている。」

『一騎討ち?』

今度は皆がキョトンとした表情になる。

「まず、Bクラスに勝ってもBクラスに勝っても設備は交換しない。代わりにAクラスへの牽制を頼もうと思っている。」

 

「牽制・・・?どういうことですか?」

「仮に俺達がいきなり一騎討ちを申し込んでも、恐らくAクラスは良いと言わないだろう。だからその前に、Bクラスに動いて貰う。宣戦布告の準備がある、とな。」

「・・・分からない。」

「もしAクラスが拒否したら、Bクラスがすぐさま攻め込める様にするんだ。流石に補充期間が二日間あるとは言え、連戦は精神的に来るだろ。連戦を嫌がったAクラスは代表同士の一騎討ちを選ぶ、という事だ。」

 ふむ、なかなか面白いな。だが・・・

「雄二、俺は反対だ。」

「ん?どういうことだ吉継。」

「確かに精神的に来るだろうな。だが、Aクラスなら他のクラスと戦うとき、何も考えない事は無いだろう。恐らく、Bクラスと戦うときに使う教科を少なくして負担を減らす位は考えるだろう。」

「む・・・」

「それに、代表同士の一騎討ちと言うが、俺はそれで勝てるとは思わない。相手はあの霧島翔子だ。無理がある。」

 雄二は今回召喚の機会が無かった。それは代表故、後方に控えているからだ。恐らく次のBクラスでも召喚はしても一回程度。

「…俺も吉継に同意だ。言いたくないが、霧島には学力で敵わない。それに加えて操作もお前はしていない。それなら俺は総力戦でAクラスに当たった方が勝ち目はあると思うぞ。」

「ほう。それならどのような作戦があるんだ?」

尽く自分の考えを否定された雄二が若干苛つきながら高虎に詰め寄る。

「そうだな…霧島に一騎討ちで勝てる奴は居ない。それなら複数で取り囲むのが得策だ。」

「でも、どうやってその状況を作るのさ?霧島さんの回りにも間違いなく親衛隊はいるはずだよ?」

…そこが難しい。Aクラスは超高得点者の集まり。Fクラスの点数だと三人~五人程でないと太刀打ち出来ない。

「そこはまだ考えていない。」

「だろうな。まあ、Aクラスへの対策はま考えるとしよう。もう夕方の五時だし帰るぞ。」

雄二が立ち上がり、皆も立ち上がったその時…

 「…雄二、帰ろう。」

「邪魔するわね。」

「へえ~ここがFクラスか~」

三人の女子が入ってきた。霧島と、秀吉の双子の姉の木下優子、あと一人は…見たことが無いな。

「し、翔子…遅かったか…」

右隣では雄二が顔を青くしている。何でだ…?

首を捻っていると、後ろから高虎が肩を叩いて来た。

(そういや、雄二と霧島は幼馴染らしいぞ。)

(そうなのか。この怯え方からして、尻に敷かれている流れか。)

「…何をしてたの?」

「ん、ちょっとした話し合いだ。こいつらは俺の大事なてご…仲間だからな。」

手駒と言いそうになっていたのは気のせいだろうか?

「…何があっても教室は渡さない。」

「そうね。アンタ達みたいなバカにアタシ達が負けるこことは無いわ。」

木下姉の言葉にかなり棘があるな…腹が立つが反発しても意味が無いな。

「そ、そんなにバカ呼ばわりする事ないじゃないか!少なくとも姫路さんや高虎、吉継はバカじゃないよ!」

「うるさいわ観察処分者。三人ともそこのFクラス代表のバカに付き合ったり体調管理が出来てないバカなんだから間違えてないじゃない。」

 こいつの言う事も一理あるな。少なくとも俺は雄二のバカらしい賭けに付き合ってる訳だからバカだしな。

だが、高虎はどうだろうか。いつもは冷静だが頭に血が上ると凄く怒り狂うからな…

「…待てよ、あんた。」

そんなことを考えているうちに高虎が半ばキレていた。

「あんたに俺達をそこまで貶める権利があるとは思えんな。」

「何を言ってるのか分からないわ。アタシはAクラスよ?アンタより上なのよ?」

「上なのは教室のランクだ。身分は同じはずだろう。」

「黙りなさい!頭も素行も良くないFクラスと違って優等生なのよ!?」

「だから何だ!もし優等生なら思ったことをすぐ口に出すような事はしない!その程度の自制も出来ないならあんたは優等生じゃない、バカだ!」

「バッ…!?」

木下姉の顔が一気に真っ赤になる。言っちゃ悪いが、分かりやすいな。

「俺はあんたに正当な理由無くクラスメイトを馬鹿にされたくないだけだ。」

結局、高虎が怒っているのはそこだ。理由があるなら仕方ないと考える奴だからな。

おっと、木下姉が俯いている。…そのまま廊下に出て走り去って行った。

「ゆ、優子!」

もう一人の緑色の髪の見知らぬ女子も木下姉を追って去って行った。

「…」

口論のもう一人の主役は黙りこくったままだ。

「高虎、言い過ぎだ。吉継や姫路が馬鹿にされて腹が立ったのは分かるが…」

「…済まないな。あそこまで言うつもりは無かったんだが…」

「…雄二、私は優子を追いかける。先に帰って。」

「了解だ(これで下校中は自由だ!よっしゃ!)。」

心の声が丸わかりだぞ。口に出してないから鈍感な奴は気付いて居ないがな。

「秀吉、済まなかったな。お前の姉を泣かせてしまった。」

「いや、良いのじゃ。たまにはこういうことも経験しておかねば姉上も考えを改めぬであろう。」

「それでは皆で帰ろうぞ!」

 秀吉に高虎が話しかけ、会話が終わったのを確認した玉が、下駄箱の方に走っていく。

それを明久や雄二が走って追いかけ、姫路や島田、高虎に俺が笑いながら早足で着いていく。

新学期初日から色々あったなと思いながら、俺達は帰路に着いた。

 




Aクラスアンチ(予定)の、(予定)を外しました。
感想、アドバイス等を書いて下さるととても嬉しいので、何か思うことがあったら書いて下さい!


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Bクラス戦1

Bクラス戦も前・後編に分けます。
次回は・・・年明けになるかと思いますが、余裕があれば年内に出します。


Dクラス戦から三日後、補充試験を終えた俺達はBクラスに宣戦布告をした。現在は雄二が教壇で作戦の説明をしている。

「今回は敵を教室の中に押し込めなければならん。だから、渡り廊下の戦いでは負けられない。そこで・・・前線の指揮を、姫路、高虎、吉継にやって貰う。」

 点数の高いメンバーに指揮をとって貰おうと言う事か。だが、姫路にまともな指揮が出来るとは思えない。

「雄二、俺と高虎は良いとして、姫路に指揮官をさせるのはいささか荷が重くないか?」

「俺も同意だ。ここは、クラスメイトを上手く纏められる須川を指揮官にするべきだ。」

「そうか・・・なら須川、頼んだぞ。姫路は須川の指示に従ってフィールドを動いてくれ。」

「了解だ!」

「は、はい!」

「次に編成だが・・・俺を含めた本隊以外の十人、今回の作戦のカギになるムッツリーニ以外は全員前線で須川達と戦え。点数を消耗したら後ろの奴と交代して試験を受けに戻って来い。」

 とにかく力押しか。まあ、今回の作戦を達成するにはそれしか無いから仕方ないな。

「よし、あと少しで開戦だ!行くぞ!」

高虎が声を上げて廊下へ向かった。親衛隊やムッツリーニ以外の奴等がそれに続く。

「どうした、吉継?」

「いや、何でもない。」

少しぼんやりしてただけだし、問題無い。それじゃあ俺も行くか。

~時間経過~

 開戦と同時に、Bクラスの生徒が廊下に向かってきた。人数は十人程度。数学の長谷川先生もいる。

「Bクラス小野明が、Fクラスに召喚獣勝負を申し込みます、サモン!」

「Fクラス藤堂が受けてたつ!サモン!」

フィールドが展開され、互いの召喚獣が出てくる。

『 Fクラス 藤堂高虎 

  数学   344点  』

     VS

『 Bクラス 小野明  

  数学   155点  』

高虎の召喚獣は、白銀の鎧にレイピア、青い手拭いを巻いている。かなり良い装備だな。

「行くぞ!」

一気に敵の召喚獣に迫り、一閃。始まるや否や相手を倒した。

「戦死者は補習だ!」

廊下の奥から西村教諭がやって来て、小野を連行した。

 「このまま一気に方をつけるぞ!かかれっ!」

高虎の合図でFクラスが一斉に召喚した。この戦いは一対一出なくとも良いのが特徴だ。

「後には退けん!藤堂や姫路、大谷を先に倒せ!」

Bクラスも十人程が一斉に召喚する。

総力戦は避けられないか。被害が大きいから嫌なんだが・・・

 「姫路さん、あれを。」

須川が姫路に何か耳打ちしている。それを聞いた姫路も大きく頷き、召喚獣を一人前線に出した。

 「須川、どういうことだ?これは全員で殴り合いの流れだと思っていたぞ。」

「さっき坂本から点数の一覧を見せて貰ったんだが、姫路さんの数学が400を越していたんだ。ここまで言ったならわかるだろ?」

「・・・腕輪か!」

 腕輪は、テストで400点以上取る、若しくは総合科目で4000点以上取った場合に召喚獣に付いてくる。

合計十二科目なので、総合では、一科目平均333点程度。随分と基準が下がるな・・・

「良し、まずは突出した姫路から先に倒すぞ!」

明らかすぎる策に気付かずに、全員が姫路に向かって突進する。

「掛かりましたね!腕輪発動、『熱戦』!」

姫路が腕輪から強烈な熱戦を出し・・・

キュボッ。

 一瞬で全員の召喚獣が灰となった。

「戦死者は補習だ!」

またもや西村教諭が出現し、一度に十人を担いで連行する。

「吉継、合図を出せ!」

「道は開けた!このままBクラスのドアを塞ぎに行くぞ!」

『うおおおおおお!』

雄叫びを上げてダッシュするクラメイト。ここまで上手くいくものなのか?と思いつつ、俺もBクラスのある新校舎へ向かった。

 



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Bクラス戦2

年内どころか次の日に出せちゃいました。
次回から、Aクラス戦開幕です!


 Bクラスを教室の中に押し込む事に成功した。

「高虎、敵の人数、何人だ?」

「待ってろ・・・三十五人?後の四人は何処へ行ったんだ?」

先程廊下で十一人を倒した。そして今、教室に居るのは35人。後の四人は別行動。とすると・・・

「姫路。」

「?藤堂君、どうしましたか?」

「一度Fクラスに戻ってくれないか?もしかしたらBクラスの奇襲部隊が雄二を狙ってる可能性がある。もし居たらその場で他の奴等と連携して倒してくれ。居なかったら戻ってきていい。」

「はい!それでは失礼します!」

姫路が戻って行く。これで一時的とは言え大火力の人が一人抜けた訳だ。俺達でカバーしないとな。「高虎、左のドアの指揮を頼む。俺は右のドアを塞ぐ!須川、両方の戦死者をできるだけ把握して、人員を振り分けてくれ、頼んだぞ!」

「「了解だ!」」

 ・・・さてと、指示した手前、しっかりと自分のできることをしないとな。

「明久、行くぞ!サモン!」

「あっ、さ、サモン!」

 こちらの教科は物理。まだ点数は消費していない。

『 Fクラス 大谷吉継

  物理   335点 

  Fクラス 吉井明久 

  物理   65点   』

     VS

『 Bクラス 岩下律子 

   物理   155点

  Bクラス 菊入真由美

   物理   168点 』 

 「律子、まずは吉井から叩くわよ!」

「分かったわ!」

二人が一気に明久へ向かう。

「ちょっ、うわっ!」

明久がそれをかわし、受け流す。流石は観察処分者、操作が上手い。

「俺を忘れてくれるなよ。」

明久に集中している二人の真後ろに回り込み、首の後ろを刈る。

召喚獣の弱点は人の弱点と同じ、と前に明久に聞いた。つまり、心臓や首筋に攻撃を当てれば大ダメージとなる。

結果、二人の召喚獣は一撃で倒れてしまった。

 「ふう、無傷で勝てたな。」

「吉継、僕を囮にするとかなら始めに言ってよ!」

「ああ、済まないな。だが、相手がどう動くか分からないから何とも言えなかったんだ。」

あの二人が真っ先に俺の方に来ていたら、恐らく無傷では勝てなかっただろう。

少し高虎の方に目を向けてみよう。

「行くぞ島田!」

「勿論よ!」

『 Fクラス 藤堂高虎 

   数学   341点 

  Fクラス 島田美波

   数学   171点 』

島田は帰国子女故に国語が苦手だが、数学は強い。171点なら十分Bクラスと渡り合える。しばらくは大丈夫そうだな。

「おい、俺達が押されてるのか!?仕方ない、近衛部隊も前線に出ろ!」

根本が自分を守る近衛部隊を前線に押し出して来たか。点数は恐らく他の奴らよりも高い。

「皆、ここが踏ん張りどころだ!戦死を恐れず突っ込め!」

余り意識していなかったが、既にFクラスも八人もの戦死者を出している。更に点数が厳しい奴も少なくない。

「数学の点数が残ってない奴は左側へ行け!逆の場合も同じだ!持ち場を変わって効率良く戦え!」

一気にFクラスが総攻撃に移る。Bクラスも近衛部隊含めた代表以外の全員が召喚、白兵戦となる。

 「ふう、暑いな…窓を開けるか。」

根本が教室の窓を開ける。当初の作戦だとここからムッツリーニが入って根本を奇襲で倒す、という事になってるが、それが無くても勝てそうだな。

スタッ

 「…到着。Fクラス土屋康太が、Bクラス代表根本恭二に保健体育勝負を申し込む。」

「なっ!?お、お前は…」

『 Fクラス 土屋康太

  保健体育  441点  』

      VS

『 Bクラス 根本恭二

  保健体育  203点  』

さすがムッツリーニ。保健体育だけは超一流だな。

「寡黙なる性識者(ムッツリーニ)ー!」

「…覚悟。」

根本の召喚獣を一撃で葬り去る。

「そこまで!Fクラスの勝利です!」

 Bクラスもあっさりと撃破できたな…ここまで調子良く行くものなのだろうか?




書き忘れましたが、Bクラスの残りの四人は雄二を討ち取りに奇襲を仕掛けましたが、姫路さん達に返り討ちにあっています。


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戦後対談+Aクラス戦1

Bクラス戦の戦後対談とAクラス戦の初めをまとめました!
この戦争は少し長めに書こうと思います!


 「さあ、戦後対談を始めるか、Bクラス代表さん?」

試召戦争は俺達Fクラスの勝利。現在は戦後対談だ。

「くっ、あんな事で俺が負けるとは・・・!」

「完全な油断だな。あんたは近衛部隊まで前線に出した。そして上階から侵入を可能にした。もう少し深く物事を考えるべきだ。」

「 ・・・」

「戦争の検討はここまでにして、本題に行こうじゃないか。

まず、俺達はBクラスの設備は奪わん。」

雄二の言葉にBクラス中がざわついた。

「だが一つ条件がある。」

「な、何だ!?」

「CクラスがFクラスに宣戦布告するならば、代わりにお前達が戦え、それだけだ。」

「・・・拒否権は?」

「あるが、この教室とはオサラバだぞ?」

 根本がうつむく。確か、Cクラス代表の小山と付き合ってるんだったか?

 「仕方ない、承知した。」

「良し、頼んだぞ。俺達からは以上だ。Fクラス、教室に戻るぞ!」

これでCクラスと言う後背の脅威を除く事ができたな。

俺も教室に戻るとしよう。 

~移動中~ 

 「まずは、お前達に例を言う。ここまで来れたのはお前達の頑張りのお陰だ、感謝する。」

 教壇に立った雄二が深々と頭を下げる。

「次に、後日仕掛けるAクラスとの試召戦争の事だが・・・今まで通り、正面から戦うぞ。」

先程の笑みが消え、アイツには珍しい真面目な顔つきになった。

「吉継、何か失礼な事を考えなかったか?」

「?特に何も考えてなかったぞ。」

「それなら良い。そこで、今までとは違って、編成や立案を高虎や吉継にやって貰おうと思う。」

「と言うことは、わらわ達は高虎と吉継の指示に従って動く事になるのじゃな?」

「まあ、そんな感じだな。」

  この大事な勝負の準備を俺達に任せる。まさか・・・

「もしも負けた時、俺達に責任を押し付ける気か。」

「ギクッ」

分かりやすい程動揺している。やはりそういう事だったか。

「雄二、俺と吉継が話してる時、お前も来い、必ずだ。」

「・・・はい。」

 これで何かあった時は雄二に責任を押し付け返す事が出来る。重荷が消えたな。

「あの、質問なんですが・・・」

「ん?姫路さん、どうしたの?」

「今まで試召戦争に勝っても設備の交換はして来ませんでした。Aクラスに勝ったら、条件次第で交換は無しとかには・・・」

「「「しない。」」」

俺と雄二、高虎の声が被ってしまう。

とんでもない、システムデスクを手放すなど余程の事が無い限り承諾はしない。俺だってシステムデスクを使ってみたい。

「俺達の最終目標はシステムデスクだ。どんな示談も応じん。」

「でも、Aクラスの人達が体調を壊してしまったりしたら・・・!」

姫路は成績が良い。だから友人が多くAクラスに居るのだろう。友を心配する気持ちは分からない訳でもない。「その気持ち、分からなくもない。だが、Aクラスなら、仮に俺達に負けてもBクラスとかには勝てる。それに、俺としてはお前の体調の方が心配だ。たまに咳き込んでるだろう?」

高虎が姫路の体調を出しつつなだめる。

「でも…」

「ここで設備を変えなければ、俺や高虎や雄二が酷い目に遭う。納得してくれ。」

「…はい、分かりました!」

 こんな意見が出るなら、Bクラスと設備を交換した方が良かったんじゃないか?今さら言っても遅いが…

「話を戻すぞ。宣戦布告をいつにするかだが…」

「明日の午後で良いだろ。俺や吉継、姫路は殆ど点数消費が無い。そうじゃなくても数教科しか使ってないんだ。できるだけ早く終わらせたいしな。」

 今回使った教科は数学と物理、保健体育。保健体育はムッツリーニだけだから実質二教科か。

午前中に補充試験をして、午後に戦争か。なかなかハードだな。

「それじゃあ、高虎と吉継、Aクラスに宣戦布告してくれるか?」

「分かった。それじゃ、いくぞ吉継。」

「ああ。」

再び俺達は教室を出た。この前の言い合いで悪印象を持たれていなければ良いがな…

~移動中~

 「失礼する。」

高虎が扉をガラッと開ける。

「…どうしたの?」

Aクラス代表の霧島が俺達を出迎える。その後ろには姫路がいなくなった事によって次席となった久保利光がいる。

更にその後ろには…敵意を剥き出しにしたAクラスの生徒(特に女子)が多数いる。

俺は高虎に目で伝える。

(随分と嫌われてる様だな。)

(これで冷静さを失ってくれればこっちにとってはありがたい。)

(ああ、そう…)

「俺達Fクラスは、Aクラスに試験召喚戦争を申し込む!」

高虎が高らかに宣言し、それを聞いた皆がざわめく。

「…開戦時刻は?」

「そうだな…明日の午後一時半で良いぞ。」

「…了解。」

 これでやることは終わったか。だが、これで帰れるとは思えないな。何故なら…

「藤堂君、少し良いかな?」

霧島の後ろにいた久保利光が、怒気を伴って高虎に話しかけたからだ。

「?どうしたんだ?」

「前に、木下さんが君に馬鹿呼ばわりされて泣いていた、と聞いたんだけど、それは本当かな?」

 ああ、あのときに走り去ったのは泣いているのを見られたくなかったからか。

「泣いていたのは知らなかったが…バカはあんただ、と言った覚えはある。」

「それで何か言うことは無いのかい?」

高虎が謝ってくれる事を期待しているのか?どう考えても謝ることは無いと思うぞ。

「あの時、木下姉は俺達の事をバカと罵った。仮にそれが真実でも、そのような人を傷付ける事を包み隠さず言ってしまう頭をしているのはバカだ。俺もアイツと同じく真実を言ったまで、何も言うことなど無い。…吉継、帰るぞ。」

「…ああ。」

俺と高虎は呆気にとられている久保達を置いて、教室に戻った。

~次の日~

 「…以上が今回の作戦だ。おのおの、抜かるなよ!」

『おう!』

あと二分程度だ。始まった瞬間とにかく急がなければ…

「良し、畳は持ったな?始まったらすぐに廊下をそれで狭めろ!」

雄二が畳を持っている奴に確認をする。

 ここで少し作戦の一部を確認だ。まずは渡り廊下をFクラスの床から剥がしてきた畳で幅を狭くする。俺達は合計点数で圧倒的に負けているので、戦線を広げたくない。

そして、その狭い道をAクラスの生徒が通り、出口に差しかかった辺りで、俺達Fクラスが大人数で襲いかかる。

廊下の幅は人一人が通れる程度まで狭くする。途中でAクラスも気付いて畳をどけたりするだろう。もしそうなったら、俺や高虎、姫路で何とか支えるしかない。

キーンコーンカーンコーン…

「始まったぞ!総員、自分の持ち場につけ!」

その直後、畳を運ぶ者達と、俺や高虎、姫路率いる先陣は廊下に出て臨戦態勢に移った。

 「皆!相手はFクラス、恐れる事なんて何も無いわ!」

畳を置き終わると、木下姉の声が聞こえてきた。少し待つと、畳の道を彼女が通ってくる。

「来なさい、藤堂!アンタなんて一瞬で倒してあげる!」

「お前ら、まずはこいつからだ!明智先生、召喚許可を!」

「はい、承認します!」

明智先生は玉の父親で古文の教師。俺も姫路も高虎も古文は得意だ。都合が良い。

「Fクラス、藤堂高虎が受けて立つ、サモン!」

Aクラスとの決戦は、互いのエース級の生徒の衝突から始まったのだ。

 



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Aクラス戦2

今回は優子のアンチがきつめです。
苦手な人はブラウザバックを推奨します。


 ~高虎視点~

『 Fクラス 藤堂高虎 

   古文   351点  』 

      VS

『 Aクラス 木下優子 

   古文   347点  』

 「なっ…!?」 

点数は俺の方が上のようだ。だがたかが4点。少しの攻防でひっくり返る差だ。

木下の召喚獣は…緑色のスカートに中世のヨーロッパ騎士のような鎧、武器は…ランスか。リーチは負けてるから慎重に動かないとな。

「先手は取らせて貰うわ!」

早速召喚獣をこちらに突っ込ませて来た。とりあえず右に受け流して体勢を崩す。

「そこだっ!」

木下が立て直す前に背中を思い切り斬りつける。これでかなり削れれば良いのだが。

『 Aクラス 木下優子 

   古文   251点  』

 まあまあ、か。だが油断は禁物だな。テストの点数は攻撃力、防御力、体力、速度などのステータス全てを兼ねている。そのうちの体力が減少しただけだからな。

「この…まだ終わった訳じゃ無いわ!」

再び突っ込んで来た…が、少し工夫はしている。避けにくい様に、袈裟懸けの形で攻撃してきた。

「完全には防ぎ切れないか。なら…」

木下は俺から見て右側から斬りかかる。俺は、左から斬りかかる。不完全に防いで点数が削れるなら、相手の点数を同程度削る方が良い!

 

ザクッ!!

 

 鈍い音が二つ聞こえ、点数が更新される。

『 Fクラス 藤堂高虎 

   古文   233点  』

      VS

『 Aクラス 木下優子 

   古文   110点  』

 大分削れたな。木下の武器であるランスは突く方が威力が高い。特性を理解していなかった様だな。

これで点数は二倍近くある。殆ど勝ちは揺るがんだろうな。

敵の加勢が無ければな…

「優子、手伝うよ!サモン!」

 木下の後ろにいた緑髪の女子が召喚する。

『 Aクラス 工藤愛子 

   古典   312点  』

 「ボク達も負けたく無いんだよ!それに…優子を泣かせたのは絶対許せない!」

私怨をここに持ってきて欲しく無いな。関係を無駄にこじれさせたく無いんだよ。

「おっと、そんな事言ってる場合じゃないな。このままじゃ間違いなく負ける…」

「高虎、俺が工藤を抑える。早く木下を倒せ!サモン!」

『 Fクラス 大谷吉継 

   古典   355点  』

横から吉継が工藤の召喚獣を斬りつける。奴の召喚獣は、巨大な斧とセーラー服。防御力が低いであろう装備、かなり削れた様だ。一気に186点まで減った。

 「愛子!」

「友の心配をしている場合か?それっ!」

目をそらしている間に片をつける!と思って攻撃したが、上手くかわされてしまう。

「Aクラスの優等生が、アンタみたいなバカに負ける訳にはいかないのよ!」

木下が叫びつつ三たび召喚獣を突撃させる。冷静さを失っているのか、一回目と同じようにただ突っ込んでいるだけだ。

「…成績だけで人間を区別するようなあんたに、俺は負けん!」

左にかわして、首筋に俺の武器であるレイピアを添える。そのまま、打ち首にでもされた様に召喚獣の首が飛び、胴体も消滅する。

「そんな…嘘でしょ…!?」

「俺がさっき言った言葉を覚えてるか?成績だけで人を区別する。あんたは変な考えにとらわれてるんだ。その考えを変える事が出来たら…俺に勝てるかも知れないな。」

 「そう言うことだ。木下、補習だぞ。」

「いっ、いやあああ!」

何処からか現れた鉄人こと西村教諭が木下を連行する…前に、もう一人を抱えあげた。

「うう…負けちゃった…」

「勝負の流れが俺にあっただけだ。」

 工藤とか言う奴が吉継に負けた様だな。その横で吉継は何かカッコいい様なセリフを言っている。

「木下さんと工藤さんがやられた!?」

「一度退くぞ!想定外だ!」 

 Aクラスの連中が一斉に退いていく。何が想定外なんだ…今の俺と吉継はボロボロなんだから、力で押せばそのまま雄二の下に行けたのに。

「高虎、一旦俺達も退こう。作戦を練り直す。。」

「練り直す必要があるのか?」

「時間ができたからな。それまでは姫路を置いて相手を威圧する。」

 姫路だけでは少し不安だが…まあ良いか。

「少しの間離れる。敵がきたら頼んだぞ、姫路。」 

「はいっ!」

Aクラスとの決戦の初めの衝突は俺と木下の戦いだった。この戦いで感じたのは、アイツとは考えが正反対だ。木下は優等生に囚われている。恐らくだが…あの考えが変わることは無い。

(あれさえ無ければな…)

少し残念だと言う気持ちを抱えつつ、雄二達と作戦を練り直す為に教室へ戻った。



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Aクラス戦3

アンチ対象の話ですが、皆さんの意見を聞いて自分で考えた結果、Aクラスアンチは変わらないですが、途中で工藤さんに救済処置を取ろうと思います


 木下と工藤を討ち取り、作戦を変更するために一度教室へ戻る。

面倒だが、雄二に先に報告しなければならないしな。

 「少し済まない。」

「高虎と吉継?どうしたんだ?」

「木下優子と工藤愛子を討ち取ったぞ。それで、敵が退いて行った。」

 俺の言葉に、前半は喜色が出ていたが、後半、少し思案顔になった。

「退いたか・・・あの地点でAクラスを一人一人討ち取るのは無理か。」

「ああ、恐らく教室に籠城するだろう。」 

あちらから出てきて貰わないと、非常に困る。木下や工藤のような規格外の点数の奴は、あと三人程度とは言え、正面から戦って勝つ見込みは無い。

明智先生に見せてもらったデータでは、大体一教科平均の得点が200~250点。Fクラスの生徒が四、五人いないと敵わない位だ。

 「挑発でもしてみるか?」

「無駄だな。恐らくからかいに行った奴がリンチにあって終わりだ。」

雄二の提案を高虎が即却下する。

・・・案が思い付いた。あまり賢くは無いが、言ってみるか。

「いっそのこと俺達が近付こう。教室のドアの前辺りまで出てきたら流石に出てくるだろうし。」

「・・・現時点で一番良いのはそれか。分かった。雄二、ついてこい。お前を餌に釣り出すぞ。」

 雄二を見せて釣り出す、か・・・全軍で突撃してきたら厄介だな。そうなったらBクラスの時みたく、ドアを俺や高虎で塞ぐまでだが。

 「了解だ。だが、絶対に俺が戦う様な状況にするなよ。」

 雄二は頭の回転は速いが、テストで点数は出せていない。それ故に戦ったら瞬殺される危険性がある。

雄二を守りつつ、敵を包囲して討ち取る。なかなかに面白いし難しそうだな。

 「それじゃあ、姫路に知らせてくる。吉継、お前は雄二達本隊を連れて来い。」

「承知した。」

高虎が教室を出て、俺が雄二や親衛隊と共に少し時間を置いて出発する。

 その後、Aクラス教室のドアを完全に塞いだが…雄二が居るのを知った上で出てこないな。先程の衝撃がまだ残っているのか。それとも、秘策でもあるのだろうか。

「敵は出てこないな。」

「むう、わらわ達から仕掛けても教室内で戦ったら恐らく負けてしまうからな。」

俺の持ち場である渡り廊下側のドアには、玉が、もう片方には、高虎、雄二、明久、姫路、島田、ムッツリーニ、秀吉が居る。

間違いなく向こうに戦力が偏っていると思うが、仕方ないか。

「吉継、わらわに考えがある。少しだけ、相手に攻め込ませてくれぬか?」

「攻め込む?さっきお前が負けてしまうと言っていたが…」

「大丈夫じゃ!じゃが、吉継や他の皆も、何時でも召喚できるように準備をしてほしいのじゃ。」

…考えていることは大体分かった。だが、召喚も明久みたいに多数している訳でもなければ、姫路の様に点数があるわけでもない。途中でやられたりしないだろうか?

 「それでは行ってくるのじゃ!父上!」

「分かりました。承認します。」

父親の明智先生がフィールドを展開する。

「Fクラス明智玉がAクラスに召喚獣勝負を申し込むのじゃ!サモン!」

「いきなり一人で突っ込むとは、僕達をバカにしているのかい?Aクラス久保利光が受けます、サモン!」

久保利光。現在学年次席の秀才。木下や他のAクラス生と違って穏やかな性格をしている。

『 Fクラス 明智玉  

   古典   171点  』

      VS

『 Aクラス 久保利光 

   古典   362点  』

父が担当する教科だからか、中々に点数が高いな。

久保の召喚獣は戦前の将校が着ていた様な軍服に二つの鎌。

玉の召喚獣は黒と紫を基調としたドレスに…

「…素手か?いや、手首に腕輪があるな。」

腕輪を着けていた。どうやって攻撃するのか予想が出来ないな。 

「素手の召喚獣だなんて、随分と貧相だね!悪いけど、一撃で終わらせてもらうよ!」

 久保が鎌を振りかざす。そのまま玉の召喚獣は切り裂かれて終わる…と、誰もが思っていた。

「それっ!」

玉の召喚獣それを素手で受け止める。それを確認してすぐさまもう片方の鎌で腰を斬ろうとする。しかし、それも止められる。

「くっ…」

「吉継、今じゃ!」 

「!ああ、サモン!」 

思っていたのと違うが…考えている暇はない。

ちなみにだが、俺の考えていたのは、玉が敵を俺達の居るところまで引き付け、そこで大人数でボコボコにする…と言ったものだった。

『 Fクラス 大谷吉継 

   古典   288点  』

 工藤と戦う前は300点を越していたんだが、少し減ってしまったな。まあいい。このまま久保を仕留める!

「次席、助太刀するぜ!サモン!」

『サモン!』

教室の奥から10人程が召喚する。くっ、流石にこれでは無理か…このままでは俺も玉も戦死してしまう!

「一旦下がるのじゃ、吉継!」

 その時、玉の召喚獣が久保の武器を手放す。そして、召喚獣の腕輪からビームが出る。

「…!」

「吉継、この隙を逃すでない!」

玉の攻撃を受けた10人弱は宙に舞っている。ここでとにかく斬りまくり、全員討ち取る。

「行くぞ!」

召喚獣を一直線に進ませ、降ってきた召喚獣や、体勢を立て直そうとしている召喚獣をひたすらに斬りまくる。結果、数人は取り逃がしたものの、7人程討ち取る事ができた。

 「…このままじゃ埒が空かない。全員で討って出る!」

霧島が残る40人に突撃の命令を下す。

「翔子、面白いじゃねえか。俺らも行くぞ!」

Aクラス教室の中心で、AクラスVSFクラスの全面衝突が始まった。遅かれ早かれ、ここで決着がつくか。



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Aクラス戦4

Aクラス戦、これにて決着です。


 Aクラス教室の中心で、双方のクラスが一気にぶつかった。

「俺達は点数が無い!必ず二人以上の集団を作って当たれ!それか俺や吉継、姫路についてサポートだ!」

左では高虎が皆に指示を出している。

「Fクラス大谷、行きます!サモン!」

「Fクラス明智も行くのじゃ!」

『 Fクラス 大谷吉継 

   古典   288点 

  

  Fクラス 明智玉

   古典   159点  』

      VS

『 Aクラス 紺野洋平  

   古典   215点

  

  Aクラス 栗本雷太

   古典   223点  』

 二人とも、大した点数ではないか。他の場所でも皆が戦っている。助太刀が必要だし、すぐに倒さねばならぬな。

 「それっ!」

玉が腕輪からビームを出す。

「おっと、二度目は無いぜ!」

紺野も栗本もササッと左右に避ける。しかし、そこには他のFクラス生がいる。

「こっちにわざわざやって来るとはな!食らえっ!」

「うわっ!」

『 Aクラス 紺野洋平

   古典   112点  』

 完全に油断していたのだろう、一気に点数が減ったな。

「この隙を逃すな!近藤、玉、一気に紺野を倒せ!栗本は俺が討つ!」

二人に指示して、俺は栗本に突っ込む。向こうも玉砕覚悟で突撃して来る、痛手を負うがら仕方ないか。

『 Fクラス 大谷吉継

   古典   62点  』

      VS

『 Aクラス 栗本雷太 

   古典   0点   』

 何とかたおせたか…だが、古典のフィールドで戦うのは止めた方が良いか。

「俺は数学のフィールドに向かう。ここを支えてくれ!」

他のAクラス生が召喚する前に急いで離れる。後で事情を話して高虎に入って貰おう。

 さて、少し姫路達の方に目を向けてみよう。

こちらの教科は数学、姫路も島田も得意の教科だ。

『 Fクラス 島田美波

   数学   185点

  

  Fクラス 姫路瑞希

   数学   425点

   

  Fクラス 藤堂高虎

   数学   323点  』

 「姫路、準備をしろ!」

「は、はいっ!」

現在、この三人がAクラス生12人を相手に戦っている。

明らかに不利だが、高虎の狙いは大体分かる。

Aクラスは島田と高虎を集中して狙っていて、二人の背後にいる姫路に注意が行き届いていないのだ。

どんどん姫路の方に誘導されて、高虎と島田が横に飛ぶ。

「姫路、行け!」

「はい!腕輪発動、『熱線』!」

キュボッ

 姫路の熱線が敵の召喚獣を灰に帰す。12人一斉に戦死したのだから、被害は甚大だ。

「戦死者は補習だ!」

補習室に連行する西村教諭も大変そうだ。

「高虎、古典のフィールドに加勢してくれ。俺はもう点数が無い。」 

「分かった。ここはお前に任せるぞ。島田や姫路と協力してくれ。」

 高虎が移動する。向こうは誰も居なくなってかなり苦戦している様だな。そんなことを考えていると、前の方から声が上がった。

「霧島さんがきたぞ!」

代表が…?流石に見てられないと思ったのか?

「…Aクラス霧島翔子、行きます。サモン。」

『 Aクラス 霧島翔子

   数学   388点  』

流石学年主席、とても点数が高い。Fクラスの奴らがゴミのように飛んでいく。

「…瑞希、島田、大谷、相手をする。」

「良いのか?ここでしくじったら即敗けだぞ?」

「…私が出た方が勝てると思ったから。」

自分が戦っている間に雄二をクラスメイトに討たせるって事か。早めに終わらせた方が良いな。

「残ってる奴は総員で雄二を守ってくれ。姫路、島田、行くぞ。サモン!」 

『 Fクラス 大谷吉継

   数学   317点

 

  Fクラス 姫路瑞希

   数学   325点

 

  Fクラス 島田美波

   数学   173点  』

 二人ともさっきの戦いで消耗している。満タンで残ってるのは俺だけか…

霧島の召喚獣は、武者鎧に日本刀。学年主席に相応しい格好だ。

「…それじゃあ、先制攻撃はもらう。」

「っ!?」

驚くべき速度で島田の召喚獣に斬りかかる。島田は防御体制が取れていない。急いで救援しなければ!

ガギィン!という金属音がして、俺と霧島が鍔迫り合いをしている状態となる。

「大谷、ありがとね!それっ!」

体勢を立て直した島田が霧島の下半身を斬りつける。

『 Aクラス 霧島翔子

   数学   301点  』

致命傷にはならなかったが、大きな一撃となったな。

「…」

霧島が退く。それと同時に姫路が大剣で襲いかかり、それを受け流す。受け流すのを確認した島田と俺が挟み撃ちにして霧島がそれを防ごうとし、失敗して点数が減る。この行動が10秒程で行われた。

『 Aクラス 霧島翔子

   数学   243点  』

順調に削れているな。まあ、俺達もそれなりに点数は減っているんだが。

『 Fクラス 大谷吉継

   数学   277点

 

  Fクラス 姫路瑞希

   数学   305点

 

  Fクラス 島田美波

   数学   133点  』

 このままなら勝てるが、雄二の方が心配だ。どうだ…?

「そっちに一人、俺の回りには二人で良い!とにかく防げ、攻撃はしなくて良い!」

…まあ、大丈夫か。戦闘に戻るとしよう。現在は姫路と霧島が鍔迫り合いをしている。

ここで腕輪を使ったら一撃で終わるが…霧島はそれを読んでるだろうし、無理か。なら…

「そこに割り込む!」

仕込采に仕込んである刃を出し、横合いから斬りかかる。

「…!?」

霧島が下がる。良し、これで良い。

「大谷君、ごめんなさい!行きます!」

姫路が霧島に大剣を降り下ろした。…俺を巻き添えにして。

『 Aクラス 霧島翔子 

   数学   0点   』

      VS

『 Fクラス 大谷吉継 

   数学   0点   』

 俺も戦死したか。だが、これで良い。

「それまで!Fクラスの勝利です!」

明智先生の勝利宣言が高らかに響き渡った。



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戦後対談+夕食

今回で一区切り。
次回からは清涼祭編となります!



 「さて、戦後対談を始めるか。」

「…うん。」

俺達Fクラスは、Aクラスに勝利するという快挙を成し遂げた。戦後対談を見守っているFクラスの皆も笑顔だ。

「俺達からは何も言うことは無いな。設備の交換、それだけだ。」

「…交渉は?」

「無い。それでも良いだろ?明智先生。」

雄二のやり方で問題ないか、側にいる明智先生に尋ねる。

「はい。それでは設備の交換の手続きは、私がしておきます。Aクラスの方々は旧校舎の方へ行って下さい。」

 それを聞いたAクラスの皆は足取り重く出ていった。

…数人を除いて。最後に木下、久保、工藤、霧島が残り、俺達に言った。

「三ヶ月後、アタシ達は絶対にこの教室を取り返すから、覚悟してなさい!アンタ達なんかに負けっぱなしなんて絶対に嫌よ!」

「首を洗って待っててね。」

「…うん、次は負けないよ!」

「…雄二、帰ったら、覚えていて。」

「おい翔子!それは脅迫だ!」

 完全に悪役のそれだが、それはどうでも良い。俺達はAクラスのシステムデスクを手に入れたのだ。

「…お前達、席に着け。話がある。」

雄二が静かにそう言った。高虎や明久、秀吉達もキョトンとし、自由に座る。

「まず、お前達には心の底から感謝している。皆のお陰でこの豪華な設備を手に入れる事ができた。ありがとう!」

雄二が深々と頭を下げる。

「珍しいな、お前が頭を下げるなんて。」

「何言ってんだ高虎。俺だって礼を言うこと位ある。それとだ。」

礼だけではないのか、雄二が続ける。

「これからはこのクラスに多くの戦争が仕掛けられる。Aクラスだけではなく、Cクラスや、Eクラスなどからも来る、それらを跳ね返して行かなければならない。これからも頼むぞ!」

『おう!』

 ガラッ

ドアが開いた。あれは…明智先生?

「こんにちは。明日からあなた達の担任を務めさせて頂く事になりました。」

…え?

『えええええっ!?』

教壇にいた雄二や、普段大声を余り出さない高虎も叫ぶほど驚いている。

「ちょっと待ってくれ!福原先生はどうしたんだ!?」

雄二が動揺しつつ聞く。

「福原先生は、Aクラスの担任に変更となりました。よって、高橋先生は学年主任だが、担任を持たない事になりますね。」

「そ、そんなことは可能なんですか?」

姫路が明智先生に聞く。

「今まではこのような事は一度もありませんでした。ですが、あなた達がAクラスに勝つという、これも今までに例がない快挙を成し遂げました。それに…」

そこで一拍置く。

「高橋先生の意思でもあります。『ホームルームをあの教室でしたくない』と仰っておりまして…」

『…』

高橋先生らしいというか、何と言うか…可哀想になってきたな、Aクラスが…

「今日は試召戦争のみの予定日でしたね。そろそろ下校の準備を始めて下さい。」

まだ午後の三時半か。いつもより早く帰れそうだ。

「父上!父上は帰らぬのか?」

「私はまだ職員会議があります。一緒には帰れませんよ。」

「むう…」

玉が頬を膨らませる。仕方無いよな、明智先生も担任入りして忙しいだろうし。

 「吉継、俺達も帰るか。」

「そうだな、久し振りに長政様の家に寄ってみるか?」

長政様とは、俺や高虎が住んでいる下宿の大家で、俺達の父親とも知り合いらしい。

その縁もあり、長政様や妻のお市様には小さい頃から良くしてもらっている。

ちなみに、俺と高虎の下宿は場所が違い、結構離れているのだ。

「時間もあるし、行くか!」

高虎がカバンを取って早足で歩き始める。よっぽど嬉しいんだろうな…

~移動中~

 「「失礼しまーす」」

「はい、どなたですか…あら、高虎に吉継!」 

長政様の家に着いて出迎えてくれたのは、長政様の妻のお市様。

もう三十路にかかりそうな年齢らしいが、外見はとても若々しく、姫路や玉と並んでも年上には見えない方だ。

「長政様はいらっしゃいませんか?」

「今、夕食の買い物に行っています。もう少ししたら戻られるはずですよ。さあ、上がって下さい。」

リビングに上がり、お茶が出される。

「もう二人とも高校二年生ですか。どこに行っているのですか?」

「俺も吉継も、文月学園に通っています。」

高虎が受け答えをする。

「文月学園…試験召喚システムを導入しているあの文月学園ですか?」

「はい。ちなみに今日、試召戦争をしてきました。」

「まあ!どうだったんですか?」

「俺達の勝利に終わりました。設備を交換して、豪華な設備になりました!」

 高虎、余程嬉しいんだな。いつも物静かな高虎がここまで…

「そう…良かったですね。まだ一年は始まったばかりですし、いつまでも浮かれてはいけませんよ。」

「分かっております。皆で手にしたシステムデスクを手放しはしません!」

そう、これからだ。雄二の言う通り、色々なクラスが攻めてくるだろう。どれだけ守ることができるか、だな。

 「市、帰ってきたぞ!…おお、高虎に吉継ではないか!」

長政様が袋を持って買い物から帰ってきた。

「お邪魔しております。」

「ははは、そんなに固くならなくても良いぞ。それはそうと、珍しいな。」

「学校が少し早く終わり、暇が出来たので、ここに寄っていこうと思いました。」

「なるほどな。折角だし、夕飯でも食べて行かないか?ちょうど鍋でもしようと思っていたのだ。」

「な…長政様、良いのですか?」

「全然構わぬ。学校で何があるのか、等聞きたいしな。」

 ありがたい。お市様の料理はとても美味しいし、皆で食卓を囲むのも悪く無いな。

「それでは、ご馳走になりましょう。高虎、それまでに課題を終わらせるか。」

「そうだな。お市様、テーブルをお借りしてよろしいでしょうか?」

「はい。自由に使って良いですよ。」

お市様の許可を頂き、課題を荷物から出す。この量なら一時間足らずで終わりそうだ。

~更に時間経過~

 「出来上がりましたよ~」

「「おお!」」 

課題をおえ、長政様と談笑したりしている内に、夕食が出来上がった。とても美味そうだ。

「それでは、頂きます!」

高虎が一番に箸をつける。それを見て、俺や長政様、お市様も食べ始める。

「…美味しいです。」

「ふふ。そう言って貰えると嬉しいです。頑張って作った甲斐がありました。」

お市様も嬉しそうだ。

「そう言えば、そなたらは文月学園に通っているのだな。」

「はい。」

「あそこは、成績によってクラス分けされていると聞いたが…」

「そうです。俺と高虎は、一番下のクラス。腐った畳に脚の折れた卓袱台でした。」

 長政様とお市様の手が止まった。

「だが、下のクラスは試験召喚戦争…テストの点数によって強さが決まる召喚獣で戦う戦争に勝つことによって、上のクラスと設備を交換できます。」

「それで、そなたらは設備交換をしたのだったな。」

「豪華な設備と言っていましたね。どの様な設備なのですか?」 

「システムデスクに、デスクトップパソコン。ノートや文具、参考書も学校が支給してくれます。」

「「…」」

俺の説明にまたもや声を失った。同じ学費でこの格差は流石に酷いよな。

「高虎、吉継、良かったな。学校生活が楽しくなるだろう。」

「ただ、設備を落とされた人達は気の毒ですね。畳は腐ったら大変ですし、体調を崩さなければ良いですね。」

「交換したとき、首を洗って待ってろ、と言われましたよ。そうだよな、吉継。」

「ああ、まだこれで終わりではない。」

だが、こういう楽しいときは、そんなことは忘れていたいよな。

そんなことを考えている内に、鍋が全て無くなった。もう帰らねばならんな。

「ご馳走様でした。」

「ありがとうございます、長政様にお市様。突然押しかけて、夕飯までご馳走になってしまって…」

「良い。某も久々に会えて楽しかったぞ。これからもたまに来てくれると嬉しい。」

「いつでも遊びに来て下さいね。」

「はい。それではお邪魔しました。」

ドアを閉める。まだ四月だから、夜は少し冷えるな。

「それじゃあ、帰るとするか。」

「ああ。吉継、また明日な。」

 俺達の家は長政様の家を中心に、ちょうど反対方向、ここで帰り道が別れる。 

少し後ろに手を振り、俺達は帰路についた。

「」

 

 




今回出てきた浅井長政とお市は、今後もちょくちょくと出てきます。
結構展開が早いですね。書き忘れが無いか心配です。


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清涼祭編
清涼祭準備1


今回から、原作第2巻に入ります!


 FクラスがAクラスを降し、A教室を手に入れた俺達。その直後にEクラスが宣戦布告してきたが、姫路や明久等の活躍で完勝。設備の防衛に成功した。

そして時が流れ、他の学校で言う学園祭にあたる、清涼祭が近くなった。

「高虎、今日の午後から一週間は準備期間だが…」 「分かっている。そろそろ何をするか決めねばならんな。」

Fクラスは何をするかすら考えていない状況だ。それなのに雄二を始めとした男共はグラウンドで野球をしている有り様だ。

「今、教室に居るのは俺に高虎、姫路、島田、玉の五人か…」

 あ、西村教諭がグラウンドに現れた。皆逃げてるな…

しばらくしたら戻ってくるのだろう。

それまで紅茶でも飲んで待つとするか。

~時間経過~

 「それじゃあ、改めて何をするか決めるぞ。したいものがある奴は挙手だ。」

雄二がそう言うと、数人が手を上げた。なんだかんだ言ってやる気はあるのだな。

「それじゃあ、横溝。」

「ウエディング喫茶なんてどうだ?」

ウエディング喫茶?メイド喫茶とかなら想像できるが、ウエディングって何をするんだ?

「概要を教えてくれ。」

「店員がウエディングドレスやスーツ姿で接客するんだ。」

「却下。それらを買う費用が足りん。俺達Fクラスに割り当てられた費用は100万円。ウエディングドレスはお前達が思っているよりずっと高い。食材を買う費用が無くなるだろ。」

 前に真剣にやる気は無いって雄二は言ってたが、それなりにしっかりとやってるな。

「…次に、須川。」

「中華喫茶なんてどうだ?」

「大体内容は分かるが…どんなものを想像している?」

「簡単な飲茶と烏龍茶を出す店を考えてるぞ。」

 うん、まともな考えだな。こういう行事は飲食店が多いし、何か特徴がないと客は寄って来ない。

「うーん…この教室の質だったら、飲茶だけじゃなくてラーメンとか麻婆豆腐とかの料理もできると思うぞ。」

「そ、そうか?ならそれでも良いか…」

このまま中華料理店で決まる感じか。俺は余り料理は得意としないし、接客に徹する感じだな。

 「少し良いか?」

高虎がおもむろに手を上げる。

「ん?どうした?」

「そこまで中華にこだわらなくても、ファミレスみたいに何でも出せる店なら良いんじゃないか?予算が100万円あるのならかなりやる幅が広がる。他のクラスがやったりする喫茶より客は入るだろう。」

『確かにな…そっちの方が客も嬉しいか。』

『須川の中華も取り入れられるしな!』

「須川、何か反論は?」

「いや、無い。藤堂の意見に賛同する。」

和洋中全て揃えたら色々な層を取り込める。ただ、誰が調理をするかだが…

「俺からも言わせてもらう。高虎、調理係はどうする?和洋中全て揃えるのだぞ。」

「和食は俺に任せてくれ。中華は須川、できるか?」

「ああ、任せろ。」

「…(スッ)」

 ムッツリーニが手を上げる。あいつ、料理できるのか?

「ムッツリーニ、料理なんてできるの?」

「…明久、なめるな。」

できるんだな。しかも自信がありそうだ。

「で、問題は洋食だな。俺は和食、須川と康太は中華だし…」

「あ、あの…私ならできるかと…」

姫路か。何でもできそうだし、適任かもな。

「いや、姫路は数少ない女子だ。接客に回ってくれ。島田や玉も頼む。」

「分かったわ。」

「了解なのじゃ!」

 あの二人は料理は得意じゃ無さそうだしな。まあ、女子には我慢してもらうしかない。  

「それに、姫路は綺麗だから男性客が増える。頼むぞ。」

「き、綺麗だなんて…でしたら、私も接客ですね。」

姫路も納得してくれたか。

「じゃあ、僕がやるよ。レシピは調べれば良いし、一人暮らしだからいつも自炊してるし。」 

明久、一人暮らしなのか。それを言うなら俺や高虎も一人暮らしだからある程度はできる。

「それなら決定だな。あと、吉継。」

「?何だ?」

「お前も俺と同じ下宿だろう。ある程度自炊はできるだろうし、厨房に立て。」

 俺もか…だが、この状況で拒否はできない流れか。

「…分かった。たが、自信は無いからお前達のサポートで良いか?」

「ああ、済まないな。で、今言った人数だけで回すことができない。あと10人位、料理ができる奴が欲しいんだが…」

『じゃあ俺が…』

『あ、それなら…』

ちらほらと手が上がる。10人はいかないが、二つに分けて交代制で回すことはできるな。

「高虎、この人数で良いだろう。」

「そうだな…雄二、今手を上げてる奴と、俺に吉継、島田、康太、明久、須川が厨房に立つ。把握しておいてくれ。」

「ん、了解だ。そっちの仕事はお前に任す。次に、接客とテーブル等の準備をする班の二つに分ける。」

 こんな感じで割とスムーズに準備は進んで行くのだった。

とりあえず家帰ったら料理の練習でもするか…



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清涼祭準備2

今回も余り進展なしです。
書くのがむずい…


 厨房班、接客班、準備班を決めた次の日、準備班と共にテーブルの手配をしていた時、放送が流れた。

『Fクラス、藤堂高虎君、大谷吉継君、学園長室に来てください。』

この声は明智先生だ。一体何があったんだろうか。

「雄二、少し学園長室に行ってくる。」

「ああ、行ってこい。」

代表の許可を得られたし、行きますか。

~時間経過~

 「「失礼しまーす」」

学園長室に入る。今居るのは…学園長の藤堂カヲルと、明智先生か。

「おお、アンタ達が藤堂と大谷だね。」

「はい。」

白髪が多く混じっているせいか、少し老けて見える。

「何か失礼なこと考えなかったかい?」

「いえ、何も。」

「ならいいよ。さっさと話を終わらせようじゃないか。」

この学園長、話をする気があるんだろうか。

「一応聞いておくけど、清涼祭で召喚獣を使ったトーナメントがあるのは知ってるかい?」

「ん・・・吉継、知ってるか?」

「ああ。二、三年生合同の大会だな。」

 もっとも、Fクラスからは誰も出る予定が無い。店で忙しいから抜ける奴が出て欲しくない、と雄二が言っていたな。

「大谷、その大会の優勝商品は何かわかるかい?」

「確か・・・腕輪だったはずですが。」

教師がつけてる腕輪と同じ型だ、と説明があった。「今日アンタ達をここに呼び寄せたのは、この景品をアンタ達に回収して欲しいからさ。」

「ん?でも、何故俺や吉継なんですか?Aクラスの連中の方が確実では?」

「…余り大きな声では言えませんが、腕輪に欠陥が見つかってしまったのです。」

横から明智先生が答える。

「一定の点数以上になったら、腕輪が暴走してつけている生徒に被害が出る可能性があるんだよ。」

「例えば、どの様な事が…」

「服がいきなり破けたりします。」

それは大変だ。女子が使ったら大惨事じゃないか…

「でも、俺や吉継、姫路は点数がかなり高い部類だと思ってますが…」

「優勝し、腕輪を受け取ったら学園長室に持ってきて下さい。観客の前で使う訳ではありませんし。」

それならAクラスに依頼しなかった理由がますます分からない…だが、無闇に聞けないし、考えるのは止めた方が良いか。

でも、腕輪を無事回収できて、学園長に貸しができたら後々良いことがあるかもな。

「分かりました、引き受けましょう。ただし、お願いしたいことがあります。」

「ほう、何だい?」

「同じクラスの吉井明久、坂本雄二をこの依頼に参加させて良いでしょうか?」

 俺達だけでは心配だ。同じクラスのあいつらなら信頼できるしいいところまで勝ち進めるだろう。

「うーん…まあ良いよ。事情はアンタ達が説明しな。」

「ありがとうございます。それと、俺から幾つか宜しいでしょうか?」

高虎?何かおかしい所があったのだろうか…

「良いよ、言ってみな。」

「此度の依頼、他の者にもしているのでは?」

 先程俺が思った事だ。俺達だけに頼む様な事はしないと思ったのだろう。

「・・・明智先生、代わりに言ってくれるかい?アタシからはあまり言いたくない。」

「はい・・・二人とも、中々に鋭いですね。Aクラスの木下さんや霧島さんにも同様の依頼をしています。」高虎と俺の予想が的中したか・・・

あの二人はいつの間にが学園長と接触を・・・?

「話の始まりはAクラスの木下さんと久保君がここに来たところからです。『劣悪な環境で体調が悪くなった人がいる。改善して下さい。』と。」

「教室の改修をする代わりに召喚大会で優勝し、腕輪を回収しろと言った訳ですね。」

「勝手に理解してくれて助かるよ。」

「教室の改修くらいしてやっても良いのでは・・・」

高虎が疑問を投げ掛けた。体調を悪くする程の酷さなら、多少の改善はやむを得ないとは俺も思うがな。「その時に出した改善案に、きちんとした机と書いていて、さすがにそれはできないと学園長が断り、先程学園長が言っていた依頼が達成出来たら考える、と言うところでAクラスが了承した、と言う事です。」

 そりゃ無理だろうな。仕方ない。せめて脚の折れてない卓袱台とかだったら良かったのにな。

「それと、俺達がこの依頼を達成したときの報酬はどうなるんでしょうか。それがなければ依頼は引き受けかねます。」 

すっかり忘れてたな…タダで学園長に利用されるところだった。 

「そうだねえ…一度、可能な限りアンタ達個人のお願いを聞いてやろうじゃないか。あ、アンタ達の中には勿論吉井と坂本が入ってるよ。」

「…どう見る、吉継。」

「損な取引ではないと思うぞ。何か困ったことがあったら頼ることができる。」

「…分かりました、引き受けましょう。」

「そうかい、なら頼んだよ。」

「それでは、準備が残っているので教室に戻ります。」

「はい。お手数をおかけしました。」

 学園長室を出る。戻ったらとりあえず雄二と明久にこれを知らせねばならんな。

「吉継、急ぐぞ。雄二から早く戻ってこいと連絡があった。」

「分かった。」

~移動中~

 「おお、二人とも戻ってきたな。何の話だったんだ?」 

「実はな…」

~説明中~

「…と言うことだ。お前や明久にも大会に出て欲しい。」

「成る程、事情は分かった。ババアに貸しを作れるのは大きいし、喜んで大会に出よう。…にしても、Aクラスも関わってるとはな…」

「あいつらとお前や明久がぶつかっても勝ち目はない。後日、トーナメント表をいじって貰うように俺と高虎で掛け合ってみよう。」

「とにかくこの話は後だ。今は模擬店の準備をしないとな。戻るぞ、吉継。」

 高虎に手を引かれつつ、俺は厨房班がいる一角に戻った。

 



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清涼祭1

何かグダグダになってるかな?
とにかく続きです!これから再びAクラスのアンチが入ります!


 準備期間はあっという間に過ぎていき、いよいよ開催当日となった。

あの話し合いの後、高虎や雄二と学園長にもう一度会って、対戦相手の調整や、何回戦でどの教科を使うかなどを決めた。

 現在は、放送係から指示を待っている状況だ

「雄二、召喚大会の対戦表は貰ったか?」

「ああ、俺達の指定した教科、対戦相手になっていた。」

「あくまで俺達が有利に、か・・・Aクラスを優先しない理由は、何だろうな。」

高虎が隣で呟く。木下と言い合いしていたのだが、Aクラス自体を否定するわけでは無い様だ。

「余程教室の改修が嫌だったのだろう。金を惜しんでいるんだろうな。」

「俺達の清涼祭の予算は100万円だけどな・・・」

「あ、今ので少し思い出したんだが・・・」

雄二が愉快とでも言いたげな感じで話す。

「Aクラスの予算、0円らしいぞ。」

「「・・・」」

まあ、予想はできていたがな。0円は流石に酷いだろ、学園長。

 「メールで翔子から言われたんだよな。何を言えば良いか分からなかったからスルーしたけどな。」

 

「・・・吉継、設備交換して良かったな。」

「あの戦いで負けてたらどうなったことやら・・・おっと、放送が。」

午前9時になり、清涼祭が始まった。

「良し、接客班はいつでも来ていい様に準備を!厨房班は注文が来るまで待機だ!」

『承知!』

 何か侍っぽくなってきたな、と思いつつ、召喚大会の対戦表を見てみる。

「姫路や島田も出てるみたいだな。」

「俺・吉継のペアとは決勝まで当たらないな。明久や雄二ともそうだし。俺達が当たるのは…三回戦で霧島、木下ペアとか。」

意外に早く当たるな。準決勝までに当たるとはわかっていたが。学園長が早めに俺達とAクラスのどちらかを脱落させる気か。

「それ以前に一回戦、二回戦と勝って行かないとな。あと五分したらここを離れればならん。抜かるなよ、高虎。」

俺達の対戦は始まってすぐだ。一般公開は無いから気楽に戦おう。

 「言わなくても良い。とりあえず、食い物の材料だけでも出しておくぞ。」

厨房に向かい、野菜や肉を出してクラスメイトに指示を出す。人数は居るし、レシピは置いておいたから大丈夫だろう。

「それじゃあ、俺と吉継は大会に行く。康太、ここは任せるぞ。」

「…任せろ。」

 ムッツリーニが力強く返事をする。接客班にも特に何もないな。

「行くぞ。」

俺達は教室を後にした。

~移動中~

 初戦の相手は…Cクラスの新野と村田か。村田は良く知らないが、新野は放送委員だから割と有名だ。関わりが無いから詳しいことは知らん。

「それでは、召喚大会一回戦を始めます。教科は数学です。始め!」

「「「「サモン!」」」」

 点数が表示される。

『 Fクラス 大谷吉継

   数学   312点

 

  Fクラス 藤堂高虎

   数学   337点  』

      VS

『 Cクラス 新野すみれ

   数学   112点

  

  Cクラス 村田奈々

   数学   105点  』 

相手は二人とも標準的な点数だな。一対一を二つ作ってサクッと撃破しよう。

(高虎、村田を殺れ!)

(分かった、新野は任せた!)

目線で会話を交わし、各々自分の相手に突撃する。

「えっ、ちょっと…」

「きゃあっ!」

相手の二人は何もできずに一刀両断される。

「藤堂、大谷ペアの勝利です!」

「ふう…高虎、戻るぞ。」

「そうだな、早くしないと客が来る。」

対戦相手の新野と村田に一礼し、教室に戻る…と、途中でこちらにすごいスピードでやってくる奴がいた。

「…秀吉?どうしたんだ?」

「おお、高虎に吉継!すぐに戻ってきて欲しいのじゃ!」 

「何かトラブルでもあったのか?」

「Aクラスの一部がワシらの店の前で明久や島田らと言い合いをしておる!」

「「何だと!?」」

 何てことをしてくれたんだ、Aクラスは。下手にもめたら俺達の評判が下がる。

俺と高虎は客に気を付けつつ、廊下を走り出した。



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清涼祭2

意味不明な文章になっているかもですが、出来上がりました!
今回は少しキャラの立ち位置が変化します。


 確かにAクラスの生徒が五人ほど集まってるな。

おや、その中に工藤や久保もいる。

「かなり揉めてるな。高虎、どうする?」 

「とりあえず、相手の話を聞こう。それからだ。」

 もっと近づいて、話を聞いてみる。

「吉井君、おかしいと思わないの?君達みたいな人がこの設備を使うなんて。」

「さっきから久保くんは何が言いたいの!?」

「そんなことも分からんなんて、やはり吉井はバカだな!」

「なっ!」

「ちょっと!何でアキの事をバカにするのよ!この店と全く関係ないじゃない!」

「お前は黙れ!」

「日本語も自由に話せないバカは黙ってなさいよ!」

なんだ、ただのキチガイクレーマーか。ほっといた方が良いな。

 「秀吉、雄二はどこに行ったんだ?」

「鉄人を呼んできておる。」

じゃあ、もう少ししたら強制的に退散する事になる。それまで少し言い合ってみるか。

「高虎は明久と島田を連れて厨房に入れ。この場は俺が抑える。」

「承知だ、頼んだぞ。」良し、明久達も無事に戻ったな。

「少し良いか?」

「あ?お前は・・・大谷か。」

「さっきの話を聞いてる限り、お前たちのただのいちゃもんの様だったが。」

「大谷君、僕たちはいちゃもんをつけに来たんじゃ無い。君達に受けた被害を伝えに来たんだ。」

 被害・・・設備を落とされた事によって変わった事とかか?

「あのボロい教室に移った後、体調を壊した人が十人、そして、テストの点数が下がった人が多数・・・」

「それは被害じゃない。俺達に負けた結果だろう。教室位なら教師や高橋先生に頼めば多少は改善の余地はあるはずだ。」「・・・そして、今回の僕たちの清涼祭の予算は分かるかな?」

「 全く無いとかか?」

 雄二から既にその話は聞いているのだが、それをいったら何かややこしくなる気がするので敢えて久保に聞く形にする。

「そう。そのせいで初めに企画していたメイド喫茶をする事ができなくなったんだ。」メイド喫茶・・・霧島や木下達がやりたがるのだろうか?いや、そんな事はどうでもいい。

結局、Aクラスの逆恨みに過ぎなかったか。成績が優秀でも心が荒れるとこうなるのか。

 「何をしている貴様ら。」

そこで鉄人が登場。Aクラスの面々が顔を青くさせる。

「あ、いや、その・・・」

「我らに設備を交換されたことを恨みに思ってわざわざ客の前で騒いだ様です。」

嘘は言って言っていない…はず。

「全く…Fクラスに勝つ機会はまだあるだろう。とにかく全員補習だ!」

「少しお待ちください。」

 西村教諭を引き止め、工藤に話しかける。

「少し聞きたい事がある。」

「な、何?」

「今回の件あいつらの独断でやったことか?」

「…ボクもAクラスの雰囲気が嫌だから話すね。これは、代表と優子が提案したんだ。」

 やはり。久保はともかく、他の三人は特段ここに恨みは無い。いや、設備を交換された恨みはあるだろうな。

だが、営業妨害は関心しない。西村教諭に言っておこう。 

久保や他の人に聞こえない様に西村教諭に耳打ちする。

「西村教諭。今回の件、Aクラスの霧島と木下の指示、とのことです。」

「何だと?」

「あ、後工藤は何もしてません。連れて行かなくても良いです。」

「分かった。霧島と木下には、清涼祭が終わったら話を聞く。それではな。」

西村教諭は四人の男子生徒を担いで消えて行った。

「工藤、戻って良いぞ。」

「あ・・・大谷君、ありがとう。それじゃあ・・・」

比較的活発な部類に入るであろう工藤が弱々しく・・・霧島や木下とは仲が良かったのに、この違いは何だろうか。

「まあ、それは後で考えるか。」

店はまだ午前10時になっていないのに満席。俺も入らないといけないな。

「高虎、雄二、戻ったぞ。」

「おお、やっとか。話は後で聞く。今は高虎とかムッツリーニを手伝ってやってくれ。」

「了解だ。」

早速注文が入った。他にも二つほど溜まっているから急がないとな。

・・・あと一時間もしたら二回戦だ。それにその後俺達と同じく一回戦を突破した明久達も抜ける。店はうまく回るのだろうか・・・



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清涼祭3

遂に霧島さん、木下さんとの戦いが始まりました。
今回と次回の二話構成で行こうと思っています。


 厨房に立って時間が経過し、二回戦の時間が迫ってきた。

「そろそろ二回戦だ、俺と高虎は抜ける。上手く回しておいてくれ。」

「・・・できるだけ早く戻って来い。昼時で忙しい。」

ムッツリーニの言葉を流し、対戦場に向かう。相手は共にBクラス。点数ではほぼ間違い無く俺達が勝っている。

 「それでは、二回戦を始めます。教科は化学です!」

「「「「サモン!」」」」

『 Fクラス 大谷吉継

   化学   308点 

  

  Fクラス 藤堂高虎

   化学   322点  』

      VS

『 Bクラス 岩下律子

   化学   183点

 

  Bクラス 菊入真由美

   化学   165点  』

 どこかで見覚えがある二人だと思ったら、Bクラスと戦った時に明久と連携して倒した女子だった。「行くぞ。」

高虎が岩下に、俺が菊入に向かって突っ込む。そのままの勢いで斬りつける!

「うわっ!?」

 相手はギリギリ避ける。その時にグラッと体勢が崩れた。

「今度こそ決める。終わりだ。」

そのまま召喚獣を引き倒し、胸に采を刺す。急所を狙ったので菊入の召喚獣はたちまち点数が無くなり、戦死した。

さて、高虎の方はどうか。

「無駄だ!あんたは俺の召喚獣には近づく事はできん!」

「くっ・・・でも、いつか隙が・・・!」

レイピアで突きを繰り返し、岩下を近づけさせない。それに加えてあの言葉、完全に悪役な感じである。

隙を見出だそうとした岩下だったが、高虎の突きで少しずつとはいえ点数が減っていき、ついに0になってしまった。

「そこまで!藤堂、大谷ペアの勝利です。」

化学担当教師の布施先生の声が響き渡る。これで二回戦も突破だ。

「吉継、次が本番だ。次の相手は恐らく・・・」

「霧島、木下の二人だな。」

霧島もだが、木下が一番厄介だ。高虎に対する憎しみがある。

「その前に店だ。戻るぞ。」

「ああ。」

 三回戦は午後二時から。時間が結構空くので店に戻る事になった。 戻ると、廊下に行列ができる程繁盛していた。

「二人ともさっさと戻ってくるのじゃ!厨房班が回し切れておらぬ!」

玉の悲鳴に近い叫び声が聞こえる。両手に皿を持って接客している。

そして教室の奥では島田と姫路が疲れ切った表情で休んでいた。

「とにかく働くぞ。吉継は作業の遅い奴をサポートだ。俺も余裕があったら洋食のメニューを手伝う。」

「了解だ。」 この行列が無くなるまでは、召喚大会に行くなんて言えないな、と思いつつ、野菜を切り始める俺だった。

~時間経過~ 「それじゃあ皆、行ってくる。」

「俺と吉継のいない間、頑張って回してくれ。」「・・・ああ。」

「心配すんなって!大丈夫だ!」

 ムッツリー二と須川が元気よく返答する。

「そう言えば高虎、次の教科は何だ?」

「日本史。俺達が圧倒的に有利だな。」

この教科だけは、俺も高虎も誰にも負けない自信を持っている。

今回のテストも400点を越すことができた。余裕を持って挑めるぞ。

 っと、そんなことを考えている間に試合場に到着した。霧島も木下も待ち構えている。

「来たわね。今回は絶対負けないわよ。」

「・・・優子の言う通り。絶対に勝つ。」

 二人から出るオーラが凄いな。鳥肌が立ってしまった。

「・・・それでは始めましょう。教科は日本史です。」

「「「「サモン!」」」」

 四人の召喚獣が出てきて、点数が表示される。

『 Fクラス 藤堂高虎

   日本史  422点

 

  Fクラス 大谷吉継

   日本史  434点  』

      VS

『 Aクラス 霧島翔子

   日本史  352点

 

 Aクラス 木下優子

  日本史  344点  』

 よし。点数で差をつける事はできているな。

「高虎、木下を頼む。俺は霧島を討つ!」

「任せろ!」

「代表、大谷をやっちゃつて!コイツを片付けたらそっちに向かうわ!」

「・・・分かった。」俺VS霧島、高虎VS木下と言った構図となった。

(霧島の装備は武者鎧に日本刀。バランスが良い。被害無くして勝てはしないか。)

 正面から戦っても損害が大きい、ならば、

(腕輪を使ってみるか。)

  400点を越えている訳だし、使って損はない。試してみるか。

こう考えている間にも勿論戦いは繰り広げられている。そこで、俺はわざと斬り合いを止め、距離を取る。

「腕輪発動ーーー」

「・・・しまった!」

 もう遅い。発動と言った時点で止めることはできないんだがな。

俺の召喚獣は左腕の腕輪を光らせ采を振った。



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清涼祭4

やはりバトルシーンは書きにくい…
今回は霧島さんと木下さんとの戦いが終わり、その後の話し合いになります。


 召喚獣の采が白く光り、その光が無数の蜻蛉となって霧島の召喚獣に襲いかかる。 

「…!」

必死にかわそうと動き回るが、何発か当たってしまい、点数が大きく減った。

『 Fクラス 大谷吉継

   日本史  394点  』

      VS

『 Aクラス 霧島翔子

   日本史  221点  』

 俺も腕輪発動により、少し点数が減る。まあ、40点だけならどうと言うことは無い。

さて、高虎の方は…

「ふむ、流石にすぐは倒せんか。」

「当たり前よ!倒れるのはアンタよ!」

リーチは木下が有利だが、高虎が良く攻撃的を避け、なかなか双方点数が減っていない。

「頃合いか。腕輪発動!」

しばらく剣を交わしていた高虎が腕輪を発動する。木下はランスを斜めに構え、防御姿勢を取る。

「消えて無くなれ!」

 空に飛んだ高虎の召喚獣が叫び、レイピアを下に向かって突く。突く度に氷が木下に向かって飛んでいき、みるみる内に点数が減る。

『 Fクラス 藤堂高虎

   日本史  372点  』

      VS

『 Aクラス 木下優子 

   日本史  199点  』

 木下の召喚獣が攻撃に耐えきれずに吹き飛ぶ。その際に武器を手放してしまっていた。

「高虎!霧島に突っ込め!」

腕輪を使っていた時、丁度霧島との斬り合いが一段落ついていた時だった。ここで俺が助走をつけて木下を討てば一気に有利になる。

どうやら高虎は俺の意図を察してくれたらしい。

「了解だ!」

「…させない!」

同じく、俺の意図を読んだ霧島が木下の方向へ向かう。これは間に合わないか。

 「作戦変更だ!武器を取り上げる!」

高虎の召喚獣が木下のランスを持ち上げ、フィールド外へぶん投げた。

 「ああっ!?」

「…優子、落ち着いて。」

木下はこれで攻撃の術を失った。残る敵は霧島だな。

「霧島を先に討つ。吉継、行くぞ!」

「応!」

 高虎が正面から霧島に突っ込み、俺は迂回して背後に回る。

「させない!」

木下が体当たりで俺の体勢を崩し、時間を稼ごうとする。だが…

「無駄だ。」

首筋を仕込刀で切り裂く。召喚獣の首が胴体から離れ、点数が0点となった。

 「良し、急いで霧島の方に向かわないとな。」

体勢を整えて背後から斬りかかる。

「…予想済み。」

即座に防がれる。流石に成功はしないか。

「それならこれはどうだ!」

更に背後から高虎がレイピアで斬りかかる。防ぐ事ができず、鎧が切り裂かれる。

『 Fクラス 藤堂高虎

   日本史  325点  

 

  Fクラス 大谷吉継

   日本史  333点  』

      VS

『 Aクラス 霧島翔子

   日本史  63点  』

これで決まった、俺達の勝ちは。

「これで本当に終わりだ。」

背中を斬られて倒れ込んだ霧島の召喚獣の胸部を刺す。勿論点数は無くなった。

「そこまで!藤堂、大谷ペアの勝利です!」

 短いようで、妙に長い戦いだったな…

「そ、そんな…アタシ達が…」

「…まさか…」

相手の二人がその場に座り込んでぶつぶつ何かを言っている。「良し、帰るぞ。」

「ああ。」

俺達はその場から早足で立ち去った。

 「そう言えば、明久と雄二はどうだったんだ?」

「ああ、どうだろうな。教室に居た時に聞けば良かったな。」

 これでベスト8に入ることが出来た。二日目は決勝のみらしいので、今日はあと二試合だな。

 教室に帰ってみると、客はいるものの、昼時よりは遥かに少なかった。

「あ、吉継に高虎。どうだったの?」

「ああ、勝つことが出来た。明久達はどうなんだ?」

「何とかここまで勝ってるよ。でも疲れたし、次は姫路さんと美波のペアとの戦いだよ。」

 高虎は明久と召喚大会の話をしている。その程度の話をする暇が出来る位は空いている。

 「おお吉継。翔子と木下姉に勝ったらしいな。」

「雄二か。」

 雄二も接客を一時中断してこっちに来る。と、そこで思い出した。

「少し話をしたいんだが...」

「?今は少し忙しいし、一般客が帰ってからで良いか?」

「ああ、構わん。」

 そうか、じゃあ俺は仕事がある、と言ってレジに向かった。

~時間経過~

 四回戦と準決勝は、特に言うことが無い戦いだった。明久と雄二も四回戦で姫路、島田ペアを、準決勝て三年生を破って決勝に進む。

 つまり明日の決勝は、俺、高虎ペアと明久、雄二ペアが戦う事になる。

それは置いておいて...

「で、話とは何だ?」

 一般客やクラスメイトが帰宅した後、俺は話があると言って、高虎、明久、雄二、ムッツリーニ、秀吉、姫路、島田、玉を集めた。

「今日、途中でAクラスの奴らが何人かが外で騒いでいたのは覚えているな?」

「もちろんよ!あー、思い出すだけで腹が立つ!」

「ホントだよ!あれでお客さんが来なくなったらどうするのさ!」

 奴等を抑えていた明久と島田はう思い出して怒っている。

「あれは、霧島と木下の指示でやっていたらしい。」

「「なっ!?」」

雄二と秀吉が驚く。二人の身内や幼馴染が手を回していたのだから、無理もない。

「今日はあの一件だけで済んだ。明日がどうなるか分からないから、皆に言っておきたかったんだ。」

「…分かった。おい、ムッツリーニ。」

「…何だ?」

「隙を見て、今日の帰りにでもAクラスの様子を伺えるよう、カメラか録音機を仕掛けてくれないか?」

「…任せろ。」

 これで多少、対策をたてることはできるか。

「それならわらわも、父上に話してAクラスに注意するようにお願いするのじゃ!」

 玉も相当怒っているな。拳が硬く握られている。

「…翔子、何でそんな…」

「姉上…」

 あのような手を使うようになったAクラスもかわいそうだが、自分の大切な人間がこうなってしまった二人だな。怒る前にショックを受けている。

あと、姫路にも言っておかねばな。

 「…それと姫路。」

「?何ですか?」

「前に言ってた『仲良しの友達』とは、横田奈々の事だろう?」

「はい。」

「今日、島田の事をバカにしていたぞ。」

「…!そんな…」

 これは言わねばならない。Aクラスと争う上で、躊躇う奴がいてはならないからな。

「残念だが事実だ。」

「…」

 姫路は俯いたまま、教室を出た。

「高虎、俺達も帰ろう。」

「ああ。雄二、康太、玉、頼んだぞ。」

「「「応!」」」

 Aクラスがこのようになってしまうのは俺達にとっても学校にとっても良くない。

何か手を打てないものか…

 



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清涼祭5

今回はつなぎの様なものです。
次回は召喚大会の決勝戦となります。


 清涼祭二日目、俺と高虎、雄二にムッツリー二は、二日目開始一時間半前に教室に集まった。

「おはよう高虎、雄二、ムッツリー二。」

「ああ。早速だがムッツリーニ、カメラの映像を見ようじゃないか。」

「...了解。」

 言い終えると同時に、テキパキと準備を進める。将来はIT企業に入るのだろうか?

「...準備完了。」

「良し。高虎、吉継、来い。」

パソコンに映っている映像を見る。時間的には昨日の夕方の五時位の様だ。

『今日の作戦は失敗したわ。代表、明日はどうするの?』

『...街にいた不良を雇ってある。明日、藤堂と大谷、吉井に雄二が一斉に居なくなる時間があるから、その時を狙って姫路と島田を拐う。』

『だ、代表。それって誘拐じゃ...』

『何よ愛子。代表の考えにケチをつけるの?』

『い、いや、そうじゃないよ!』

『なら良いわ。で、その時間はいつなの?』

『...召喚大会決勝戦の時間。四人とも決勝に進んでる。』

『あ、そっか。藤堂と大谷も勝ち進んだのよね。』

『...そのせいで私達の設備は改善されない。』

『ホントよ!アイツら一体どうしてくれるのよ!』

『...』

『...それじゃあ、明日になったら朝礼前に皆を集めて知らせるから。』

『分かったわ!お願いね♪』

『...』

  「...翔子...」

雄二は一言そう言って黙り込んだ。

「許せん...霧島に木下...!」

拳をこれでもかと言う位に握りしめ、絞り出す様な声で憤る高虎。

「...これは、犯罪。」

呆然としているムッツリーニ。

「俺達がいない時を狙うか。その時教室にいるのは...男共か。」

俺はできるだけ落ち着こうとしたため、余りショックは無かった。

 「...そうだな。あいつらが居る時に堂々と狙う事はしないだろう。店をめちゃくちゃにしてでも守ろうとするはずだ。」

 雄二の推測は恐らく正しいだろう。ならば、女子が一人になる時は...

「なら、トイレに行ったり他の模擬店を回っている時か?」

「それだ!姫路と島田が単独行動になる時はそれしかない!」

雄二が叫ぶ。分からなかったのか。

「となると、護衛が必要か。高虎、どうする?」

「先に聞こう。吉継なら、どうする?」

「そうだな...クラスメイトに交代で見張って貰うとかか?」

あの連中なら喜んで引き受けてくれるだろうし。

「あいつらに見張られるのを姫路と島田がどう思うかだがな。俺としては、教師に相談するのが最適だと思っている。」

教師か…明智先生や西村教諭とかか?あの類の人たちなら不良を相手にしても怖くないだろう。

 「なら、今日の朝に明智先生に言おう。雄二、それで良いな?」

「ああ、任せろ。」

これでクラスメイトは守る事ができるな。

「…雄二。」

「ん?どうしたんだ高虎。」

「決勝戦は勝たせてもらうぞ。」

「ふっ、絶対負けんぞ。」

 さてと、あと後は朝礼を待つか…

~時間経過~

 「…と言うのがAクラスのもくろみだ。姫路と島田の護衛は鉄人にして貰う事になった。」

「雄二、わらわはどうなのじゃ?」

「お前は何もしなくても親父が守ってくれるだろ。」

聞いたところ、明智先生はかなりの親バカらしいしな。

 「以上だ。各々、抜かるなよ!」

『応!』

「良し、厨房班は準備を始めろ!開始と同時に客が来ると思え!」

じゃあ、俺も自分のやることをするとするか。そう頭で思って、俺も他の奴らとと共に厨房に入った。

 

 

 



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清涼祭6

清涼祭編、完結です。
次回からは強化合宿となります。


 「それじゃあ、行ってくる。」

「…四人とも、頑張れ。」

試合開始まであと三十分。俺に高虎、雄二に明久が店から抜ける。

「それでは、明智先生と西村教諭、お願いします。」

「はい、分かりました。」

「うむ。」

 俺達の試合がある辺りに霧島が雇った不良がこの教室に来る手はずになっている。

奴らに気付かれるとまずいので、二人とも客に扮しているのだが…西村教諭、全然馴染んでない。

 「鉄人、目立つな…」

「高虎、それは言うな。」

来なかったら誰も何も無くて良かった、となる訳だし、別に何も気にする必要は無い。

さて、色々考えている間に会場に到着した様だ。うむ、広いな。軽く1000人は入るスタジアムじゃないか。

「吉継、あれ…」

「ん?」

高虎が後ろを指差す。そこには…

「高虎、吉継!」

「頑張って下さいねー!」

「「長政様にお市様!」」

 まさか来ていたとは、驚きだ。

いやいや、それは関係ない。これからの戦いに集中せねばな。

 「吉継、決勝戦の教科は何だ?」

「確か、世界史のはずだ。」

世界史は苦手では無い。日本史の様に得意でも無いがな。

 「それでは、決勝戦を始めます。教科は世界史です!」

世界史担当の田中教諭がフィールドを展開する。

「「「「サモン!」」」」

『 Fクラス 藤堂高虎

   世界史  366点  

 

  Fクラス 大谷吉継

   世界史  383点  』

      VS

『 Fクラス 坂本雄二

   世界史  223点

 

  Fクラス 吉井明久

   世界史  128点  』

雄二も明久もそこそこの点数を出している。簡単には勝たせてくれないだろう。

雄二の召喚獣は暴走族の特効服にメリケンサック。明久は改造学ランに木刀か…明久は操作技術に気をつければ良し雄二は一撃の威力が強そうだな。

 「高虎、明久を頼む。」

「了解だ。」

高虎が明久に向かう。俺の相手は雄二だな。

「行くぞ。」

仕込んだ刀を出し、斬りかかる。が、メリケンサックで防がれる。

「甘い!それで俺を倒せると思ってんのか!」

もう片方の腕で殴りかかって来るが、間一髪避ける事ができた。…と思ったらすぐさま次の攻撃が繰り出される。身軽な装備故に速い!

点数には十分な余裕がある。すぐに決着を付ける必要は無い。

 「ぐはあっ!?」

隣から悲鳴が上がる。声の主は明久。どうしたのだろう。

『 Fクラス 藤堂高虎

   世界史  302点  』

      VS

『 Fクラス 吉井明久

   世界史  0点   』

戦死したらしい。…そうか、明久の召喚獣はフィードバックがついている。高虎の攻撃を受けて痛みが帰って来たのか。

「吉継、すぐに向かう!」

 高虎が雄二の背後を取ろうとする。

「やらせねえぞ。」

雄二はすぐに後退し、壁に背を付けた。あくまで正面から来い、と言う事か。なら、そうするしかないな。

 俺は首筋を、高虎は太ももを狙って斬りかかる。

雄二は良く反応し、俺の攻撃を防いだ。しかし太ももを防ぐ事ができず、深い傷を負った。そして雄二の召喚獣は足をやられたために動けない。

「これで終わりだ。」

「ちっ…!」

仕込み刀を喉に突き立てる。瞬く間に雄二の召喚獣の点数は0になり、消滅した。

「そこまで!藤堂・大谷ペアの勝利です!」

フィールドが消え、場内から歓声が上がった。これで学園長の依頼は達成できた。いや、一応準決勝が終わった時点で達成しているのだがな。

「それじゃあ俺と明久は店に戻る。お前達もババアと話したらすぐに戻って来いよ。」

そう言って雄二は明久を連れて帰っていく。悔しさが滲み出ているのが中々に面白い。

「さて、さっさと表彰式を終えるとしよう。」

「そうだな。」

………

 その後は特に何も無く、清涼祭は終わりを告げた。

不良は教室に来たらしいが、西村教諭と明智先生が撃退し、連行して行ったとのことだ。

そいつらの口からも霧島と木下の名前が出て、二人は学園長室に呼び出された。処分は厳重注意。成績優秀な彼女らを厳罰には処せないらしいな。

 店も元を取ることができたし、良い終わり方だったと思う。クラス内の打ち上げの後、長政様とお市様の家で晩飯をご馳走になり、長い二日間は終わりを告げるのだった。

次の大きい行事は…強化合宿か。

 

 



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強化合宿編
強化合宿1


強化合宿編、開始です。


 清涼祭からしばらく経過し、五月の下旬になった。

「明日から強化合宿か…」

強化合宿は五日間。今日の夜の準備が大変になりそうだな。

ん?前を歩いているのは…

「明久か。」

「あ、おはよう吉継。」

 いつもは遅刻寸前なのに、どういう風の吹き回しだ?

「少し早く目が覚めてね。家に居てもやることが無くて…」

「そういう事か。」

まあ、たまにはそういうこともあるよな。

 「ところで、お前は強化合宿に何を持っていく予定か?」

原則では、ゲーム機やマンガは禁止。トランプや小説等は持ち込み可能らしい。建前は勉強合宿だから当然とも言えるが…

 「うーん…あそこで没収されたらたまんないし、暇潰し程度にトランプとかを持っていくかな。あとはまだやってない宿題とか…」

「俺は小説を五冊ほど持っていく予定だ。自由時間は読書に徹する。」

集団で勉強しても効率が上がるとは考えにくい。他の学校との違いを出そうとしているのだろうな。

 そんな他愛の無い話をしている内に学校に着いた。

「ん?…何これ?」

「?」

 明久の方を振り返ると、手に白い封筒を持っていた。

「…お前に伝えたい事でもあるんだろう。ラブレターとかか?」

「もしそうだったら嬉しいな~!」

嬉しそうに封筒を破き、手紙を取り出す。そこにあったのは… 

『あなたの弱みを握っています。』

と書いてある紙だった。明久が悲鳴を上げていた。

………

 「と言う事があってだな。」

教室に着いて、すぐに雄二と高虎に相談した。

「明久、何か恨まれるような事したのか?」

「いや、特に何も無いけど…」

「自覚が無くとも恨みを買ってしまう事はある。まずは、これを出した奴の特定だな。」

 高虎がそう言って鞄からノートを取り出した。

「この時期に送って来ると言うことは、強化合宿で何か行動を起こそうとしているのだろう。」

「だがあの行事はクラス単位で行動する。明久だけをピンポイントで狙うとは考えにくい。だとしたら…」

「俺達全員が標的、か。」

高虎、俺、雄二の順番で話す。

「そう言えばだが、明久の弱みって何だろうな。俺も高虎も雄二も明久とは親しいし、行動パターンも大体把握できる。明久、お前は何か見られてまずい事があったりしたか?」

「いや、特にやましい事はしてないけど…」

「それじゃあ、この手紙はハッタリか。」

ハッタリ…ハッタリをする意味は何だ?相手は何も得をしない。だとしたら狙いは…

「相手は、俺達に良い思いをして欲しく無いのだろうな。」

「吉継どういう事だ?」

雄二が何を言っているんだと言いたげな目でこちらを見てくる。

「明久や俺達に恨みがあるなら、自分に利益が無くとも相手が損をすれば良い、と考えた。」

「でも、僕たちをそこまで恨む人って居るかな?こんな脅迫をするような…」

 少し前なら考え込んだのかも知れないが、今なら直ぐに分かる。

「「「Aクラスだ。」」」

俺、高虎、雄二の声がハモった。考えは同じか。

「翔子の指示の可能性があるな。不良を仕掛けてきて以来、もう会いたくないと言って会ってないが…」

 雄二と霧島、あんなに仲睦まじい(笑)様子だったのにな…

「他に関係してそうな奴は…」

「木下と久保だろう。特に木下はお前と相性が悪いし、二回も召喚獣の勝負で負けている。発案があいつと考えてもおかしく無い。」

清涼祭の時は不良を仕掛けてきた。こんな消極的なやり方をするだろうか…?たが、他に考えられる選択肢は無い…

 「吉継、お前はAクラスに親しい奴は居るか?」

「他のクラスに友人と言える奴は居ないが…」

言っている途中で思い出した。Aクラスで木下や霧島と親しく、このやり方を良く思っていない奴が。

「…これについて聞ける奴は居るな。」

「そうか。それなら、そいつに何か聞くことは可能か?」

 雄二が光明が見えたのか、明るい顔になった。

「今日の昼休みにでも試してみよう。」

「よし、じゃあこの話はこれまでだ。一応秀吉やムッツリーニ、島田に姫路に玉辺りには話しておく。」

雄二がそう言って自分の机に戻り、突っ伏して寝始めた。

「俺達も戻るか。」

「そうだな。さて、饅頭でも食べるか。」

高虎や明久も自分の席へと戻っていった。

 その後、他のクラスメイトも到着し、その度に雄二が説明していた。

そして朝礼で、明智先生が強化合宿のしおりを持ってやって来た。

「明日から強化合宿です。必要な物等は書いてあるので、自分で確認をして下さい。」

それなりに厚いな。自由時間は…午前、午後の勉強時間の合計四時間以外は自由か。中々に良いじゃないか。

「明日は一旦学校に集合して下さい。リムジンバスで現地に向かいます。」

リムジンバスをこんなことに使うのか。ホントに無駄使いだな。

「Aクラスはどうなるんだ?」

雄二が明智先生に聞く。

「現地集合です。」

「そ、そうか…」

雄二も流石に引いていた。今回行く場所、電車を乗り継いで数時間だ。大変だな。

「朝の連絡は以上です。それでは、一時間目の準備を始めて下さい。」

明智先生も教科書を出し、ディスプレイの準備を始めた。

~時間経過~

 昼休みになり、皆が昼飯を食べ始めた時、俺はAクラスがある旧校舎へ向かっていた。

しばらく待つと、明るい緑色の髪をした少女が出てきた。

「待て。」

「ん?キミは大谷君だっけ?どうしたの?」

「…少し話がある。」



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強化合宿2

大幅に投稿が遅れてしまい、申し訳ありません!
これからはできるだけ計画的に投稿しようと思います...


 「済まないな、時間を取らせてしまって。」

俺は工藤と共に他のAクラス生徒に見つからないような場所へ移動した。

「で、どうしたの?」

「少し聞きたいことがあってだな…お前のクラスで妙な動きは無かったか?」

「?どういう事?」

「聞き方が悪かった。俺達Fクラスに何か仕掛けようとしている奴は居なかったか?」

正直他のクラスのいさかいはどうでも良いしな…

「うーん、特に何も無かったと思うけど…でも、優子と代表、それに久保君は最近いつも三人で卓袱台を囲んでクスクス笑ってるけど…」

「…妙ではなく、怪しかったか。」

手紙の出し主はAクラスには居ないのか…?いや、手紙ならわざわざここに来て書かなくて良い。これじゃ、何もしようが無いな…

「済まん。時間を取らせてしまったな。」

「あ、いや…」

「それでは、俺は教室に帰るとしよう。」

何も収穫無しか…仕方ないが、悔しいな。

………

 「そうか、Aクラスではないか…」

雄二に報告すると、

「Aクラスと断定はできなかったか...」

と残念そうな顔をした。

「そもそも、Aクラスが書いたのか自体考え直す必要があるのでははいか?」「そうか...だが、他のクラスや学年に恨まれる様な事はしていないと思うが...」

「恨みだけではないのではないか?」

横から話を聞いていたらしい高虎が発言した。

 「ただの嫌がらせとも捉えることも出来る。そこまで深刻に考えんでも良いだろう。」

「確かに高虎の言うことも一理あるが...これから強化合宿だ。心配だな。」 雄二が珍しく情けない顔になった。

まあこの件に関しては余りにも情報が少ない。今ここで犯人特定は無理だろう。

そして、雄二は強化合宿で何か仕掛けられると考えているのだな。俺も、恐らく高虎も同じだが...

 「...学園長への貸し、ここで使うと言うのはどうだ?」

高虎がポツリと呟いた。なかなかの妙案だな。

「ババアの手を借りる?俺としては余り使いたくない手だが...」

「だが、あの貸しはクラス全体。俺や高虎、お前個人の権利では無い上に、使うのを渋るのもどうかと思うぞ。」「...そうか。俺としてはAクラスが攻めて来た時に使いたかったんだが...仕方無いか。」

 僅かに躊躇う感じではあるが、賛同してくれた。

「それなら話は早い。学園長室に行って事情を説明しよう。」

「ああ。吉継はここでメシ食ってろ。俺と高虎で行く。」

 そう言うとすぐに教室を出ていった。何だか俺達、忙しいな...

「大谷、何があったのよ?」

後ろから声が掛かる。これは島田だな。その後ろには姫路もいる。

「脅迫状の件で何も進展が無くてな...外部の人間の助けを求めようという結論に至ったんだ。」

「が、外部の人間ですか...?」

「言い方が悪かったな、学園長の事だ。このクラスの関係者ではないからな。」

 「ああ、なるほどね。良かったらアキ達に今の話しを伝えとくわよ。」

「いや、雄二達が戻って来てから相談結果と共に話して貰おう。あいつらの事だからあと5分程度で戻ってくるだろうしな。」そう二人に伝えて再び昼食を食べ始める。

~5分後~

 「戻ったぞ。」

「ああ、お帰り。どうだったんだ?」

「問題ない。合宿期間中、雄二や明久を初めとしたFクラス全体を守ってくれるそうだ。」

「西村教諭がか?」

「ああ。」

 あの教諭、力も頭もあるからな、頼りになりそうだ。

「雄二、どうしたの?」

 俺達の方に明久が駆け寄ってくる。

「ん、ムッツリーニ達もいる今ならちょうど良いか。明久、いつものメンバーを集めて来い。」

「?分かったけど...」

明久が自分の席まで戻り、ムッツリーニや秀吉、玉を連れて再びやって来た。

「それじゃ、説明するぞ...」

~説明中~

 「...という事だ。明久も必要以上に怯えなくても良い。」

「ありがとう雄二!キミに後で僕の昼ご飯の塩水でも分けてあげるよ!」

「要らねえよ!」

二人が小競り合いを始める。何だかんだ言っても仲良しだな、こいつ等。 さて、残ってる昼食をさっさと食べ終えて午後に備えるとしよう。



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強化合宿3

随分と遅くなってしまいました…
次回もいつになるか分かりません。ですが、完結までは確実に書ききるつもりでいます。


 時間は流れ、強化合宿の日を迎えた。

集合時間に間に合ったしまだ時間もある。と言うかまだ俺以外は来ていないな。こういう行事は普段遅刻寸前の奴が早く来てたりするものだが…

「ん?あ、吉継!」

「…考えた矢先に来たか。」

確かに明久はいつも遅刻or遅刻寸前だな。

「やっぱり吉継は早いねー」

「普段起きるのが早いからな。」

今日の集合時刻は学校の始業時間より少し遅い。普段が早い俺からすると学校についても暇な時間が増えるだけだ。他の奴らもさっさと来れば良いのだが。

「吉継、相変わらず早いな。」

「高虎か。」

高虎は普段から比較的、いや、結構早い方だ。それはともかく、普段から親しい奴が居てくれるのは嬉しい。いや、別に明久と親しくないわけでは無い。ただ、二人でしゃべるのが余り得意では無いのだ。

「他の奴らは居たか?」

「少し後ろに雄二が居たな。あとは…須川がそろそろ来るか。」

現在は午前八時。集合時間までまだまだ余裕があるし、徐々にくるか…

 その後、雄二と須川がほぼ同時に到着、ムッツリーニと秀吉、島田がさらに後、時間ギリギリに姫路が到着した。玉は明智先生と校舎から来た。

「はい、全員いますね。それではバスに乗って出発です。」

皆がぞろぞろとバスに乗り込む。一番最後に俺と高虎、雄二が入った。

 中は…とても広いな。飛行機のファーストクラス並の席の広さだ。幾らかかったのだろうか。

「丁度良い。バスに居る間は寝ておこう。」

高虎は席に座るなり目を閉じた。俺はどうしようか…本を読むにも乗り物酔いが怖いし、寝るにしてもそこまで眠くない。

隣の席で明久や雄二はトランプを始めているが、そんな気分でもない。

「…音楽でも聞いておくか。」

 去年買ったヘッドフォンを付け、アプリを起動して音楽を流す。アニメのキャラクターソングだが、中々に良い曲もある。これで一時間程度は稼げるか。

その後は、寝るなりトランプに参加するなりその時に考えるとしよう。

「シートベルトは締めましたね?出発しますよ。」

エンジンが掛かり、車が動き出した。そこまで振動は無いな。これなら本も読めるか?

カバンから本を取りだし、読んでみる。

これは…高虎に貸してもらった本か。歴史小説が本当に好きだな…

~移動中(書く内容が思いつきませんでした)~

 「よ、酔ってしまった…」

本を読んでいる途中でいつの間にか酔ってしまったようで、胃が…

「へえ、お前が酔うなんて珍しいな、ほれ。」

後ろから笑いながら雄二が水を差し出してくれた。

「ああ、済まぬ…」

500mlのミネラルウォーターを一気に飲み干す。

「宿舎に着いたらとりあえず戻せ。少しは楽になる。」

「ありがとう…」

 その後、他のクラスも到着し、全員が揃った所で合宿の開会宣言みたいなものが行われた。

次に部屋割りの表を渡された。俺と同じ部屋の奴は…

「雄二に高虎、明久が一緒か。」

他の部屋も見てみるが、とても教師が作ったとは思えないほど友達同士で固めてあった。俺達の事を良く見てくれているのだろうが、少し怖いな。

 部屋に入ってみると、かなり広い。一部屋辺り八人でも良かったのでは?と思ったほどだ。

「そう言えば高虎、雄二と明久はどこだ?」

「鉄人の所に行って、話し合いだ。しばらくしたら来るはずだぞ。」

ああ、脅迫状の事か。これからの打ち合わせか?今日は晩飯と風呂と就寝のみ。特に大きな行事は無いはずだが…

 バン!

「全員そこから動くな!」

部屋の扉が開かれ、大量の女子が入ってくる。先頭に居るのはCクラスの小山。後ろに霧島と木下が居る。

姫路と島田は…居ないようだな。 

「いきなり何の用だ。」

高虎が女子達を睨む。

「とぼけたって無駄よ!アンタ達が女子風呂にカメラを仕掛けたのは分かってるんだから!」

「「…はい?」」

 

 



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強化合宿4

強化合宿一日目、まだまだ続きます!


 「カメラだと?」

「そうよ!」

小山がポケットからカメラを取りだし、握り潰した。何故握り潰したのかは聞かないでおこう。

「…雄二はどこ?」

目からハイライトが消えた霧島が高虎に詰め寄る。

「アイツは鉄人の所だ。少し用事があってな。」

「…用事?」

(吉継、脅迫状の事、話して良いか?)

(ああ。)

「明久の下に脅迫状が届いてな。弱味を握っているみたいな内容だった。」

「…」

 霧島の表情は変わらなかったが、木下が少し眉をひそめた。…何か知っているのか?ここで問い詰めるのも良いが、暫く様子を見た方が良いか。

その前に、話を戻すか。

「で、何故俺達をカメラを仕掛けた犯人だと考えたのだ?」

「こんなことをするのはアンタ達しか居ないじゃない。」

木下が俺を睨んで、低い声で言う。失礼な奴だな、明久や雄二はともかく俺や高虎はそんなことしないぞ。

それに、しそうな二人は西村教諭の所に行っている。

秀吉とムッツリーニは…分からん。

「証拠が余りにも乏しいな。俺達がやったと言う確たる証拠は無いのか?それに、雄二達は解散後すぐに鉄人の所に向かった。何時カメラを仕掛ける時間があるんだ?」

「黙りなさい!みんな、この二人を捕まえるわよ!」

木下、頼むから聞く耳を持ってくれ…

「ちっ、吉継!雄二達が来るまで耐えるぞ!」

高虎が部屋の端に向かう。俺は高虎と反対の壁に背中を付ける。

「覚悟しなさい!」

縄を持った女子が三方向から襲いかかってきた。まず逃げ切ることは出来ない。なので…しゃがんだ。

「うわっ!?」

正面から突っ込んできた女子は壁に頭をぶつけ、左右から挟み込もうとした二人は正面衝突して気を失った。

高虎は上手く縄を避け、逆に女子を縛りあげている。因みに小山も縛られて部屋の隅に転がっている。

これ、雄二達に見られたらどう言い訳しようか…

と、少しぼんやりしていると、右側から殺気が感じ取れた。

「…覚悟。」

霧島がスタンガンを持って突っ込んできたのだ。

「なっ…!?」

どうにか避ける事ができたが、危なかった。少しでも触れたら気を失ってただろう。と言うか、殺る気満々じゃないか。

「…霧島、あんた、雄二に嫌われるぞ。」

凶器を持ち出したのを見て、高虎が呆れた声で霧島に話し掛ける。

「…雄二なら、分かってくれる。問題ない。」 

 何故、友人を襲った人間を信じると言った思考になるのだろうか。

清涼祭の一件で好感度はかなりダウンしている。これを雄二が見たら、どう思うのか。

「それに、アンタ達が悪いんじゃない。何があっても自業自得よ。」 

横から木下が付け加える。

「…高虎、西村教諭を呼んでくれ。話にならない。」

「俺もそれを考えてた。雄二を迎えに行くついでに行ってくる。」

 そう一言いって高虎は部屋を出ていった。

「ま、待ちなさい!何も先生を呼ぶこと無いじゃない!」

木下が部屋を出て行こうとした。

「どこに行くつもりだ?西村教諭に平等に話を聞いて貰おうと考えているのだぞ。」

「くっ…!」

 上目遣いで俺を睨み付けてくる。流石にここでボロは出さないか…

数分後、西村教諭に雄二、明久を連れてきた高虎が戻ってきた。

西村教諭は俺達と霧島、木下から話を聞いた後、俺達に非はないと判断したらしく、女子達を抱えて補習室に連行して行った。

晩飯前からこれか…今日は、もう何も無いと良いのだが。



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強化合宿5

大変遅れてしまいました…
やっと合宿一日目が終わりました。


 時間は経過し、晩飯の時間になった。

「…霧島や木下が俺達の部屋に突っ込んできたと言うことか。」

「姉上…」

「ですが、隠しカメラは仕掛けられていたんですね。」

「だからって、アキや坂本を真っ先に疑わなくても…」

雄二や明久には説明を済ませている。だがムッツリーニと秀吉、姫路に島田にはまだしていなかったので、説明した。

玉は…少し遠い所に居るな。後で話そう。

「正直、翔子や木下に何を言われても俺は余り堪えない。だが、あいつらは女子の中でも発言力が強い。学校中の女子を敵に回してこれからの学校で過ごせるとは思えん。」

「てことは、早く誤解を解かないといけないんだよね?

「おお。お前にしては頭の回転が速いな。」

「いや~それほどでも。」

 明久、別に褒めてはいないのだぞ。 

「で、誤解を解くに当たってだ。高虎と吉継の二人を中心に調べて欲しい。」

「俺と吉継が?何でだ?」

「俺は鉄人や明智先生と連携して別行動だ。明久は恐らく使い物にならんだろうしな。」

「ちょっと、酷いよ雄二!」

「ムッツリーニはAクラスの情報を集めてくれ。何かカギがあるかも知れないからな。姫路に島田、秀吉は女子との会話で掴めるものがあったら掴め。俺達には出来ない任務だ。」

「はいっ!」

「ワシは一応男なのじゃが…」

 元気出せよ、秀吉。

まあ今日は風呂に入って寝るだけだし、調査は明日以降になりそうだな。

~時間経過~

 晩飯を食い終わり、部屋に戻ろうとしたわけだが…

「坂本君と吉井君を呼んで来なさい。」

何で部屋の前に木下が居るのだろうか。高虎は飲み物を買いに行くからと遅れて来るだろうし、雄二と明久は西村教諭に呼ばれて女子の事情聴取の内容を聞いているはず。明久に聞かせてもどうにもならん気もするが、そこは考えないようにしよう。

「…部屋に戻らせて貰うぞ。」

そう言ってドアノブに伸ばした腕を木下が掴んだ。

「まだアタシの用事が終わってないわ。」

「雄二と明久なら俺は知らん。」

「そう言ったら逃れられると思ってるの?どうせ部屋に籠ってるんでしょ?」

知らんと言っているのに…つくづく人の話を聞かない奴だな。

「人の話を聞く気はあるのか?あの二人なら西村教諭と話してるはずだ。あと、呼んでどうするつもりだ?」

「自白させるのよ。俺達が盗撮をしましたって。」

「…あの二人がそのような言葉を吐くと思っているのか?」

「吐かせるわ。何としても。」

やっていない罪を認める何て事は拷問でもされない限りしないだろう。それは霧島や木下もわかっている。ならば、奴らがやることも自然と分かる。

「そもそも、俺達はアリバイを提示したはず。それが信じられないのか?」

「ええ。アンタ達の言葉何て信じるに値しないわ。」

「その信じられない相手から自白の言葉を頂いても、その言葉も信じるに値しないだろう。違うか?」

「…」

木下が言葉を詰まらせる。詭弁だが、相手が頭に血が昇っている時には効果が出るな。

「早く手を話せ。教師を呼ぶぞ。」

「…」

こちらを睨みつつ手を離し、無言で去っていった。

まあ別に、あいつの言い分を無視して部屋に入るのでも良かったか。合宿のしおりにも異性の部屋に入ってはいけないみたいに書いていたし、表向きは優等生のあいつだ。あからさまに規則を破る事はしないだろう。

 部屋に入って入浴の時間まで待っていると、高虎が炭酸飲料を片手に戻ってきた。

「遅くなったな。」

「いや、別に良い。それより、木下がこの部屋の前に来ていたぞ。」

「あいつの思考回路は理解できんな…で、何と言っていたんだ?」

「雄二と明久を連行して自白を強要する、って言っていたはずだ。」

「…あいつ、学年でトップクラスの成績だよな。何故ここまで堕ちてしまったんだろうな…」

 高虎が少し残念そうに呟いた。一年生の頃は高虎は霧島や木下を高く評価していた。『何でも器用にこなしているあの二人を、いつか追い抜いてやる』だったかな。

話を戻そう。木下や霧島が堕ちた原因は、十中八九俺達だ。設備交換で一気に劣悪な環境に放り込まれた訳だからな。ストレスも溜まるし、俺達への憎悪も掻き立てられただろう。

だが、同情はしない。やって良いことと悪いことの区別はしっかりとすべきだ。

「…早く風呂に入るぞ、高虎。」

「そうだな。もう俺達の入浴時間だ。」

明日から色々と大変だ。今日の疲れは今日の内に取らないとな。

 



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強化合宿6

二日目はもう何話か続きます。


 強化合宿も二日目を迎えた。朝飯を食べ終えたら暫く休憩があった後、昼飯の時間まで勉強時間だ。

「高虎、今日一緒の部屋に居るクラスはどのクラスだ?」

「Cクラスだ。飯の後にこっそり鉄人に聞いたが、当初の予定はAクラスだったらしい。昨日の揉め事があったから急遽変更したらしい。」

「しかし、勉強時間と言っても、見回りの教師も来ないし自由時間みたいなもんだよな。」

 体操服に着替えていた雄二が横から話に入った。

「ん?体操服着用だったか?」

「いや、個人的にこれが一番動きやすいからな。」

 ちなみに俺も高虎も体操服ではなく部屋着だ。そもそも体操服を持ってきてないしな。

「俺と高虎は適当に何かやった後情報収集に入る。雄二と明久はどうする?」

「他の部屋に侵入して情報を手に入れる。でも、女子からは避けられるだろうから有益な情報は入りにくいだろうな。ちなみに姫路と島田は俺達の部屋で女子を中心に色々聞いて貰おうと思っている。やることはお前達とそこまで変わらないな。」

 姫路達が女子を中心に回るんなら、俺と高虎は男子を中心に聞くか。

その後は部屋でのんびりとするとしよう。午後も四時間くらい自習時間があるわけだし。

~移動中+時間経過~

 よし、来週の授業の予習は終わったな。早速情報収集を始めるとしよう。

横に居る高虎とアイコンタクトをとる。

(高虎、俺は予習終わったぞ。)

(先に行動してくれ。俺もあと一問終わらせたら合流する。)

それじゃあ、行くとしよう。まずは…近くの奴に声をかけるか。

「…少し良いか?」

「ん?お前は…大谷か。どうした?」

「昨日の盗撮騒ぎで俺も女子に色々と迷惑していてな。知っている事が有ったら教えてくれないか?」

「えっと…ウチの代表が今日の夜の自由時間にまた部屋に押し入るって息巻いてたはずだ。男子は関係ないから介入する気は無いが…」

また部屋に来るのか…良い知らせじゃ無いが、有益な情報だ。雄二に相談して西村教諭を呼んでおくか。

「すまん、助かった。」

 軽く礼をしてその場を立ち去る。隣では高虎が何かを聞いている。向こうの方では姫路がCクラスの女子に勉強を教えつつ色々と話している。…ん?教えている相手は小山か。少し気になるし、話を聞いてみるか。

「小山さんは、どうして明久君と坂本君、大谷君と藤堂君の四人を盗撮の犯人と思ったんですか?」 

「まず…Aクラスの霧島さんと木下さんが言っていたことね。」

 霧島と木下が言ってたから、か…あの二人の発言力はやはり強いな。あの二人が非を認めてくれたら嫌な噂も嫌がらせも殆ど無くなるだろうが、寧ろ他の女子を焚き付けている感じだったな。

「他のクラスでも女子が色々言ってたわね。男子からは余り何も聞かなかったけど。大谷と藤堂はともかく吉井と坂本は仕方ない、みたいな感じかしら。」

「…そういいたくなる気持ちも分かります。」

「でも、何かAクラスだけは様子が違ったわね。男子も女子もFクラスに対する憎悪の気持ちが溢れてる感じだったわ。」

Aクラスは男子も似たような感じなのか。厄介だな…下手したら霧島や木下と一緒に久保とかも何かやって来るかも知れない。

 「勿論私も自分で考えた上で坂本達を犯人だと思っているわ。人の話だけで決めつけたくはないもの。」

考えた上で、か…俺達、思った以上に信頼されて無いんだな。

「姫路さんはどう思って居るの?」

「…私は…坂本君達は無実だと思います。」

小山に聞かれて少し躊躇ったが、姫路は俺達を指示してくれた。

「な、何でそう思うの!?」

「まず、坂本君と吉井君は西村先生の所に行っていました。それは知っていますか?」

「…ええ。」

「ここでこの二人の可能性は完全に無くなります。そして次。大谷君と藤堂君。この二人が女風呂に監視カメラを仕掛けるような人とは思えません。」

「で、でも…」

「勿論可能性はゼロと断言はできません。でも、私はみんなを信じたいんです。」

「…」

小山に迷いが見える。少し冷静に成ったら分かることだったんだ。普段の小山なら俺達が無罪と判断してくれるはずだ。

「…少し、頭に血が昇ってたのかもしれないわね。頭を冷やしてくるわ。」

「はい。」

 そう言うと、小山は静かに立ち上がって外に出た。

 それと同時に一人の女子が入れ替わりに入ってきた。

「吉継ら高虎、瑞希、美波、朗報じゃ!」

明智先生の娘の玉だった。確か明智先生が付きっきりで勉強を教えるとか言っていたな。親バカだよな、あの人…

「朗報?何のことよ。」 

「今回の盗撮騒ぎの真犯人が自首してきたのじゃ!」

「「「「!?」」」」

自首…?誰だ?それより、一体何故自首を…?



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強化合宿7

本日二話目です。
少し雑にし過ぎたかな…?


 「自首、か…で、誰だったんだ?」

落ち着いた様子で高虎が尋ねる。

「それは話せぬ、と父上が言っていたのじゃ。それと…」

そこで玉が言葉を詰まらせる。が、直ぐに再び話し始める。

「高虎と吉継は生徒指導室に来て欲しい、との事じゃ。」

「俺と高虎が…?ああ、そうか。」

被害に遭ったのは俺達の部屋だったな。

「分かった。高虎、行くぞ。」

「ああ。」

 立ち上がり、荷物を軽くまとめて部屋を出た。

~移動中~

 「入るぞ。」

「おう。」

中に入ると、西村教諭に明智先生、雄二に明久、そしてオレンジ色の髪をツインテールにした少女が一人居た。

「明久、この女子が…」

「うん。Dクラスの清水さん。この子が監視カメラを仕掛けた犯人だよ。」

 当の清水は俯いて表情が見えない。まあそれは余り関係無い。自首したのなら恐らく全てを話してくれるはずだ。  

「…とりあえず、事情を話して貰えるでしょうか。」

落ち着いた声で明智先生が話しかける。

「…」

それでも彼女は答えない。俯いたまま震えている。

「それでは少し聞き方を変えましょう。貴女の意思でやったのですか?それとも、誰かに頼まれたのですか?」

 そう聞くと、ゆっくりとだが話し始めた。

「…頼まれました。」

「っ!誰にだ!」

「ひっ…」

「西村先生、落ち着いて下さい…」

「あ、ああ。申し訳ありません。」

 西村教諭、明智先生に敬語なんだな。そんなことは別に良いとして、だ。

「誰に頼まれたんだ?」

「…Aクラスの霧島さんと、木下さんです…」

 …まさか、と一瞬思った。だが、すぐに納得は出来た。

確か工藤が、

「優子と代表、それに久保君は最近いつも三人で卓袱台を囲んでクスクス笑ってるけど…」

と言っていたな。あれは別に手紙を書いていたのではなく、これの打ち合わせだったのか…?

とにかく犯人が分かった以上、迅速に動いた方が良いだろう。

「明智先生、西村教諭、早速木下と霧島に呼び出しを…」

「吉継、まだ早い。」

 横から止めたのは雄二だった。

「…何故だ?清水から証言は取れている。」

「翔子と木下姉の事だ。アリバイや証拠隠滅位の事はするだろ。最悪清水を切り捨てる事だってするぞ。」

む、すぐに反論ができんな。

「なら、どうするのさ?」

「あと二日泳がせる。そして、決定的な証拠を掴んでやろうじゃないか。明智先生、鉄人、強力してくれよ。」

「分かりました。」

「西村先生と言え、全く…まあ良い。俺も出来るだけの事はやろう。」

 この二人を中心に、教師全体が動いてくれれば良いが…布施教諭とかは面倒くさがるだろうな。

あと、Aクラス内にも協力者が居れば楽なんだが…

「…工藤か。」

「?吉継、どうした?」

左から高虎が聞いてくる。

「いや、少し考え事をしていただけだ。Aクラス内に協力者を作ろうとな。」

「協力者だと?翔子や木下姉が動くとは思えんし、久保も恐らく動かんだろう。後は…工藤か?あいつも難しいと思うぞ。」

 「その工藤を動かす。雄二、俺に工藤の説得をさせてくれないか?」

ある意味賭けだがな。この短期間に心変わりしているかも知れない。しかもどうやって工藤と接触するかも考えていない。取り敢えず工藤が一人の時を狙って話し掛けるしか…

「…ムッツリーニに、工藤が一人になったら吉継の所に来いと話すよう言っておこう。」

「感謝する。」

これで会うことは出来るな。後は俺がどうにか説得しなければな。

「高虎に吉継、もう戻っても大丈夫だ。急に呼び出して済まなかったな。」

「構わん。また何かあったら言ってくれ。俺も吉継も出来るだけの事はやってやる。」

「ああ。」

取り敢えず戻ったら姫路達に報告しておくか…

 



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強化合宿8

かなり間が空いてしまった…
夏休み中は出来るだけ頑張りたいです。


 教室に戻り、姫路達に事の次第を伝えた。成績も良く、Aクラスに親しい者も多かったであろう姫路は、ショックを隠すことが出来ていなかった。

「そんな…霧島さん、木下さん、どうして…」

「み、瑞希、落ち着いて!」

姫路の様子を見た島田が姫路を励ます。友が自分や自分の友人達に危害を加えている…友情と友情の板挟みになっているんだろうな、恐らく。

 「姉上…そんなことをしても意味がないと、何故わからぬのじゃ…!」

秀吉は姉の行動に怒りが湧いてきているようだ。無理もない。

「まあ、このまま問い詰めても霧島も木下も白を切り続けるだろう。明日、明後日とあいつらを見張って証拠を掴む。俺や吉継、教師陣とかが中心に動く。」

高虎がこれからの方針を説明する。おっと、ムッツリーニに聞いておかないといけないものがあったな。

「工藤の事だが…」

「…既に雄二から聞いたし連絡もした。昼飯前に、一階のロビーで会おう、とのことだ。」

「済まん、恩に着る。」

仕事が早い。これで保健体育以外の成績も良かったら言うことが無い奴なんだがな…

 「話は其だけだ。昼飯の時間まで大人しくしておくぞ。」

「高虎、そういえば雄二と明久はどうした?」

「鉄人や明智先生と一緒にまだ清水から事情聴取をやってるはずだ。午前中はここに帰ってこないんじゃないか?」

「そうか。で、俺達はどうする?勉強はできるだけしたくないが…」

「トランプでもしよう。二人で出来るものとなると…」

「スピード、だな。」

そして俺と高虎は昼飯の時間まで延々とトランプで遊んでいたのだった。

~時間経過~

 「…吉継。」

「ムッツリーニ、分かってる。今から向かう。」

昼飯の前に少し用事がある。Aクラスの工藤に話をつけるのである。

「あ、大谷君。」

Aクラスの部屋から工藤がこちらにやって来る。

「ああ、呼び出して済まないな。少し手伝って欲しいことがあるんだ。」

「手伝って欲しいこと?何?」

「…Aクラスの様子や、霧島や木下、久保の言ってることややろうとしていること、逐一教えて欲しい。」

 俺がそういうと、一瞬にして工藤の顔が青ざめる。

「…気付いてたんだね。優子達をバックにキミ達を嵌めようとした事。」

「推理をしたわけでは無い。清水に聞いて、その場の流れで霧島や木下の名前が出てきた。久保は出てこなかったが…」

久保は恐らく話し合いに参加していただけなのだろう。直接俺達に危害を加えているわけでも無い。

「…拒否したら、どうするの?」

「霧島と木下にお前がFクラスと仲良くしてお前達を貶めていた、と話す。」

「…!」

 余り脅しは好まないが、俺達のためだ。誰も責める事は有るまい。

「…分かった。優子や代表にばれないように気を付けておくよ。」

「分かった、感謝する。それと、一つだけ忠告しておくぞ。」

もう背中を向けていた工藤を呼び止める。

「友の言うことが全てではない。一度、関係を見直す為にも霧島達と距離を置いたらどうだ?」

「…余計なお世話だよ。」

そう言ってAクラスの方に戻って行ってしまう。

仕方ないか。霧島や木下は工藤にとって大切な友人なのだろう。俺のような奴に距離を置けと言われて、はいそうですかとはならないだろう。

「…俺も昼飯食いに向かうとするか。」



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強化合宿9

強化合宿、まだまだ続きます。


 午前中の勉強も終わり、現在は昼飯の時間だ。色々考えることはあるが、今は忘れていよう。

「そういえば、この合宿が終わったら期末試験二週間前になるんですね。」

「え、嘘!?もうそんな時期なの!?僕何もやってないよ!」

「お前は元々何もしてないだろ。」

 左隣では明久と雄二、姫路が仲良さげに話をしている。

「だから、あの問題は□の中の数字は求めなくて良いの!土屋、何で分からないのよ!」

「…理解不能。」

「ワシも分からないのじゃ…」

右隣では島田がムッツリーニと秀吉相手についさっきまでやっていた問題の解説をしていた。

というか、もうそろそろ期末試験の時期か…高校生になって時間が流れるのが早くなった気がするな。

「吉継、午後はどうする?」

昼飯の卵焼きを頬張りながら高虎が聞いてくる。

「そうだな…やることもないし、読書でもしておこうかと思っている。」

「ああ…俺はどうするか。ひたすら携帯をいじる位しかやることが無いな。」

「使いすぎて通信制限食らっても知らんぞ。」

午前中にやること終えて暇なのはわかるが、そこまでやることが無いのか。ゲームもマンガも禁止だから確かに娯楽はほとんど無いが…

 「…御馳走様。高虎、先に戻っている。」

「了解だ。」

中々に上手い飯だったな。特に地元の野菜は美味かった。野菜は地産地消が一番だな。

~時間経過~

 「…暇だ。」

持ってきた小説も二時間で読み終わった。晩飯の時間である六時半まであと三時間半もある。

「吉継、お前も携帯いじってるのか。」

「持ってきた本も読み終わってしまってな。今更勉強はしたくないし、やることが無い。」

とはいえずっと携帯弄りは駄目だな。充電無くなるし、通信量もバカにならない。

「…トランプでもするか?」

「断る。」

「後はAクラスの部屋を覗き見る位しか無いな。」

「教師に見つかったら怒られる。却下だ。」

「…後は寝る位しか無いな。」

「…そうだな。」

そう言うと、高虎は机に突っ伏した。少しするとイビキも聞こえてきた。

「…俺も寝るか。もしかしたら夜に木下とか霧島とかが殴り込んでくるかも知れないしな。」

そして俺も机に突っ伏し、少しして意識が遠退いていった。

………

 「大谷、藤堂、起きなさい。もう晩ごはんよ?」

ユサユサと俺と高虎の体を島田が揺らす。すっかり寝ていたようだ。

「…島田、済まないな。俺も高虎も暇すぎて。」

「まあアンタ達はすぐに色々と終わらせちゃうからね。無理に私達に合わせなくても良いのよ。…藤堂、起きなさい!」

「痛っ!」

島田が寝ている高虎の背中に紅葉をお見舞いする。

「いてて…もう少し優しく起こしてくれ。」

「揺らしても起きなかったじゃない。さっ、行くわよ。」

そう言ってすたすたと去っていく。

「ああ、良く寝た…」

「島田が揺らしても起きなかったからな。じゃあ、飯を食いに行くか。」

「そうだな…」

 俺達も部屋を出て食堂に向かった。晩飯はビュッフェ形式で中々に美味かったが、特筆すべき何かは無かった。後は風呂に入って寝るだけか…その前にもう一波乱ある気もするがな…

「雄二、俺は今日は部屋のシャワーで良い。」

「ん、了解だ。吉継、明久、行くぞ。」

「俺もシャワーで良い。」

 大人数で風呂に入るのは慣れない。と言うか嫌いだ。

風呂は一人でゆっくりと入りたいものだしな。

「それじゃあ明久、行くぞ。」

「うん、了解。留守は頼むね。」

「任せろ。」

 二人が大浴場に向かう。二人だとこの部屋も広く感じるな。昨日は女子が多数来ていたから狭く感じたが…

「吉継、先に入って良いか?」

「良いぞ。」

 高虎が着替えを持ってユニットバスに向かう。さて、することも無いし、テレビでも見るか…ん?インターホンが鳴ったな。誰か来客だろうか。ドアに向かい、誰が来ているのかを確認する。

「…やはり、か。」

 来ていたのは予想した奴らだった。ここで居留守を使っても雄二と明久が迷惑を被るだけだ。出るとしようか。

「…何をしに来た。」



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強化合宿10

二日目が終わりました。三日目か四日目に召喚獣を出そうと思っています。


 「…アンタ、アタシ達が何の用で来たかくらい分かるんじゃないの?」

「…今日こそ罪を認めてもらう。」

来たのは霧島と木下か…久保と工藤は居ない様だ。工藤はこの二人に少なからず疑問を抱いている様だったし、恐らくこの二人が俺達を襲撃することを久保や他の女子達に知らせなかったのだろう。

「何の事かさっぱり分からん。お引き取り願おう。」

そう言ってドアを閉めようとすると、外側から木下がこちらを睨みながらドアを掴んだ。

「往生際が悪いわね!今ならアタシ達に謝れば許されるかもしれないのに、其すらも嫌なの!?」

「謂れの無い罪を着せられて其の謝罪をしろだなんて阿保らしい。」

「…私達のクラスも、他のクラスも、皆大谷達を疑ってる。謝罪して損はない。」

「得も無い。そのせいで盗撮犯のレッテルを貼られたら洒落にならない。」

 ダメだ、会話は成り立つが帰ってくれる様子が全く無い。高虎も雄二も明久も暫く帰ってこないだろう。

「…埒が空かないな。西村教諭に判断して貰うしか…」

「させないわ!」

木下が俺が携帯を取り出した瞬間、それを奪おうとした。もちろんされるがままではなく、ひょいと避けて通話ボタンを押す。

「もしもし、西村教諭でしょうか…はい、霧島と木下が…分かりました、それでは。」 

通話ボタンを切り、二人に向き直る。

「な、何よ…」

「悪く思うなよ、西村教諭がお前達を迎えに来るから其までここに引き留めておかねばならない。」

霧島の左腕と木下の右腕を掴み、近くにあった結束バンドで縛り付ける。

「あと一分位経ったら来るはずだ、大人しくしてろ。」

まあ、暴れたら暴れたでそれ相応の罰が待っているのは分かっているはずだから無いと思うがな。

 「大谷、遅れて済まないな。」

「ああ、夜にありがとうございます。二人は一応ここに居ますので、連れていって下さい。」

「了解だ。…全く、学年主席と優等生何だからしっかりしろ!反省するまで夜間通しで補習だ!」

西村教諭はそう言うと二人を担ぎ上げ、走って去って行った。トライアスロンが趣味と言っていたか。其だけであんな速く走ることが出来るのだろうか…色々と謎だ。

 「吉継?さっき鉄人が木下姉と翔子を担いで走っていたが、何かあったのか?」

ぼんやりと突っ立っていると、風呂から雄二と明久が帰ってきた。

「ああ。また俺に難癖をつけて冤罪を着せようとしてきた。」

「…翔子、お前はどうしてこんなことを…いや、理由は分かってるんだ。俺達が何とかしないとな。」

「そうだね。また雄二と霧島さんが何のしこりもなく仲良く出来るようにしないと!」

「明久…そんな表現、使うことが出来るようになったのか。」

「ちょっ、ひどいよ吉継!」

木下は秀吉の肉親、霧島は雄二の幼なじみ。二人にとって大切な人間だろう。俺が出来ることはあいつらがまた前の様に仲良くできる状態に戻すこと…ではなく、あいつらの嫌がらせから皆を守ること、かも知れん。その経過でまた元通りになったら一番良い。それが無理なら…その時はその時か。まだ考える必要は無い。

「…雄二。」

「ん、どうした?」

「友達関係は壊さないのが一番だ。だが、何れ壊れる関係を必死に繋ぎ止める必要は無い。」

「はは、分かってるぜそれ位。だが、それでも翔子は大切な幼なじみだ。出来る限り手は尽くしたいんだ。」

「その気持ちも尤もだ。俺に出来ることが有れば言ってくれ。高虎もきっとそれを望んでいるはずだ。」

「ああ、ありがとな。明久、吉継、戻ろうぜ。」

「うん。」

 そう言って部屋へと戻る雄二の背中は、少し寂しそうだった。

これで二日目も終わりか…あと三日で問題を解決しなければ。



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強化合宿11

今回はちょっと長めです。そして、戦争の気配がしてきます。


 強化合宿も三日目を迎えた。今日のやる事も二日目とはたいして変わらないな。昨日のうちにやりたい勉強はやったからずっと自由時間みたいなモンだが。

「吉継、高虎、今日は暇か?」

朝飯の時に雄二が俺達に聞いてきた。この言い方から雄二が何を言わんとしているかは直ぐに分かる。

「俺は暇だ。高虎は?」

「俺も特にやることは無いな。」

「なら都合が良い。勉強時間になったら生徒指導室に来てくれ。ムッツリーニが昨日のAクラスの様子を撮ってくれていたんだ。」

お、早速撮影に成功したのか。流石だな。

「分かった。姫路や島田や秀吉はどうする?」

「今日はFクラスだけで勉強だろ?須川とか他の連中の勉強を見てもらうように言っておく。」

 姫路はどの教科も出来るし島田も数学ならBクラスに引けを取らない。秀吉は…確か古文はまあまあ出来たはずだ。少なくとも他の連中よりは良い。これから今の設備を守るには点数の向上は必須だし、雄二の判断は正しいだろう。

「分かった。さっさと飯を食い終えて生徒指導室に向かう。」

「おう。」

~時間経過~

 「大谷も藤堂も来たか。」

「彼らも坂本君、吉井君と同室です。この問題に大きく関わっている生徒なので、私からも来るよう朝食後に言いました。」

「父上、今日は何をするのじゃ?」

「土屋君がこっそり仕掛けていたカメラの映像の確認です。」

西村教諭に明智先生、娘の玉も一緒だ。

「…再生開始。」

カメラをテレビに繋げ、再生ボタンを押す。皆、身を乗り出して画面を見る。

昨日のAクラスは他クラスとの合同では無いらしく、同じクラスの人間だけになっている。

「…木下姉と翔子、久保が近くに固まってるな。」

「工藤さんはすこし離れてるね。てっきりこの四人で固まってるのかとおもったよ。」

特に怪しい事はしていないな…他のAクラスの奴らも特に変な動きはしていない。

「む?今、霧島が木下に何かメモの様なものを渡したのじゃ。」

「本当ですね。そして、その紙に何か書いて霧島さんに渡していますね。」

残念ながら何を書いているのかは分からない。そしてその紙は霧島が畳んでポケットに入れてしまった。もう確認はできないだろう。

「…午前中は目立った動きはないな。」

「まだ何もないと決まった訳じゃない。土屋、午後の様子も見せてくれ。」

「…承知。」

 早送りにして昼食終了の午後一時まで進める。どんどん部屋にAクラスの生徒が入ってきて、少し後ろの方に木下が、更に遅れて霧島と久保が、最後に工藤が入ってきた。

そして勉強開始。初めは特に何もなかったが、一時間たった頃、霧島が木下、久保、工藤を自分の机の周りに集めた。

「霧島さんの周りに木下さん、久保君、工藤さんが集まってきましたね…」

「これから何を話すのかのう。」

 

『…集まったから、これから話をする。』

『そんなことわざわざ言わなくても良いのよ…』

『で、話し合いって言うのは何?』

『…私達の現時点の目標は?』

『霧島さん、いきなり何を言い出すんだ。Fクラスから僕達の設備を奪い返す事でしょ?』

『…それが、合宿の期間中に出来るかも知れない。』

『えっ!?でも、戦争禁止期間の三ヶ月は過ぎてないわよ?』

『…これから説明する。Fクラスを元の設備に戻して、私達が元の設備を取り戻すための作戦。』

 

 「…おいおい翔子、何考えてるんだ。」

雄二が呆れたような声を出す。この二人の関係、修復の道は遠いか…?昨日の決意が早速揺らぎそうになるな。

「…理解不能。」

ムッツリーニは難しい顔をして黙り込んだ。

「くそっ…今すぐAクラスに行って事情を聞いてやる!」

「落ち着くのじゃ鉄人!最後まで話を聞くのじゃ!」

「西村先生、落ち着いてください!」

曲がった事の嫌いな西村教諭を玉と明智先生の親子が必死に押さえている。と言うか玉も明智先生も力あるな。西村教諭、あの二人が押し戻そうとしているせいで前に一歩も進めてない。

「高虎、何が起こるの??」

「俺も分からん。ただ…俺達にとって良いことではけして無いだろう。」

明久と高虎はこれからの展望を語っている。

「まあとにかく、続きを見てみるぞ。」

止めていた映像を再生させる。

 

『…簡単に言うと、学年全体で試召戦争をする。』 『…?どういうこと?Fクラスとボクたちが戦うんじゃなくて?』

『他のクラスを巻き込んで、全体で戦争をする。』

『つまり…Fクラス派か、Aクラス派かを他のクラスに選ばせて、二チームで戦争をするってこと?』

『…そう。向こうは私達が騙したとはいえ盗撮犯の汚名が付きまとってる。多分、味方してくれるクラスは居ない。そして、その戦いに勝ったらAクラスとFクラスの設備を交換する。』

『でも、僕たちはまだ戦争禁止期間だ。そこまで僕達に有利に事が運ぶとは思えないけど…』

『大丈夫よ久保君。盗撮は犯罪よ。この学校から犯罪者が出る事を学園長も望んでいないはず。アタシ達の条件を拒否したら坂本達を警察に突き出す、と脅せば良いのよ。』

『…優子の言う通り。』

『だ、代表…そんなことしてもFクラスも他のクラスも得をしないし、それでFクラスと関係が直る訳じゃないし、止めようよ。』

『…それじゃあ、何か方法があるの?』

『いや、普通に二学期に仕掛けようよ。』

『それじゃ遅いのよ。最悪でも一学期には取り返さないと気が済まないわ。』

『…とにかく、ボクはこれに反対だよ…』

『…愛子、どうしたのかしら。まあ良いわ。一応聞きたいんだけど、どうやって他のクラスを味方につけるの?』

『それは僕も気になっていたんだ。何か良い方法があるのかい?』

『…DクラスとEクラスは私が直々に頼みに行く。Cクラスは代表の小山が一日目に私と一緒に部屋に押し入っているから、何もしなくても味方になるはず。Bクラスも、代表の根本が小山と付き合ってるから自然とこっちにつく。』

『なるほどね…まあ、DとEはどちらについても同じね。』

『この案を通したら僕達の勝ちって訳か。面白い事を考えたね。』

『…ふふ…』

 

 「…何だよ、自分達の逆恨みの為に他のクラスも巻き込むのか、翔子!」

怒りのあまり、雄二は握り拳を壁に叩きつける。

「…明智先生、霧島と木下、久保に呼び出しの放送を。」

「少しお待ち下さい。用意をします。」

明久とムッツリーニと玉が驚きでフリーズしている横で、教師陣が主犯共を呼び出そうとする。

 「少し待ってくれ。」

それを高虎が止める。何を考えているのか、顔には笑みすら浮かべていた。

「この戦争…敢えて乗ってやろう。あいつらに灸を据える為にもな。」



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強化合宿12

少し遅れてしまいました。申し訳ない…
あと、高虎の考えがそこまで深いものになりませんでした。何とか自分の思い通りに事は進むと思いますが…


 「…何をするんだ?」

雄二が不思議そうな顔で高虎に尋ねる。

「なに、あいつらは他のクラスが自分の味方をしてくれると考えている。逆に俺らの味方に組み込んでしまえば良い。」

「どうやってするの?霧島さん達が言ってたように、盗撮犯と思われてるんだよ?」

「昨日の小山と姫路の会話を聞いていたんだが…小山に俺達が本当に盗撮していたのかを疑っている節がある。そこで明智先生、少し動いて下さい。」

「…教師の私が皆さんの無実を伝え、Fクラス側にCクラスとBクラスを引き込むのですね。」

なるほどな…雄二や明久は小山の心境の変化を見ていない。見ている高虎や俺なら気付けるモノだな。

「だが、試召戦争に教師が介入するのは良く思えんぞ。」

西村教諭が難色を示す。

「明智先生はFクラスの担任だ。その担任が自らの教え子の無実を訴えても何の問題も無いはずだ。それにこれはただの試召戦争じゃない。Aクラスへの懲罰の様なものになる訳だから、普段のルールに則らなくても良いと思うぞ。」

高虎が即座に言い返す。前者の意見は少し賛同しがたいが、これがいつもの戦争と違うのは俺も同感だ。

「西村教諭、俺も高虎の意見に賛成です。確実に俺達が勝つ為に教師陣が手助けをしてくれるのはとても有難いかと。」

「鉄人、わらわからもお願いするのじゃ。高虎や吉継た達への誤解を解くために協力してほしいのじゃ!」

玉が頭を下げる。

「…明智先生、あなたは、どうしたいですか?」

西村教諭が明智先生に尋ねる。明智先生は少し考える素振りをした後、口を開く。

「…この戦争はAクラスを負かすための芝居、と考えれば藤堂君の案は名案かと思います。私も最近のAクラスは目に余るものがあると思っています。個人的には出来ることは最大限したいと思います。」

 明智先生が協力を約束する。その言葉を聞いた西村先生は放送器具を取りだし、放送をかける。

『現在宿舎内に居る教師の方々は、11時になりましたら生徒指導室にお集まり下さい。緊急の案件があります。』

俺達は一旦出来ることは無くなったな。部屋に戻ってゆっくりしていよう。

「雄二、明久、部屋に戻るぞ。お前達はここに来てから全然勉強してないだろ?」

高虎の言葉に二人はギクリと言う擬音が聞こえてきそうなほど肩を跳ね上げる。

「ま、まあな…」

「う、うん…」

「そろそろ期末試験だ。何かしらの準備をしないと悲惨な事になるぞ。な、吉継。」

「そうだな、高虎の言う通りだ。俺達は既にやろうと思っていたことはやった。お前達二人もやらなければいけない事があるんじゃないか?」

 俺達のやり取りを見ていた明智先生が横から口を挟んだら。

「そういえば…数学の長谷川先生からまだお二人の先月の課題が提出されてないと聞きましたね。」

「「ギクッ。」」

「それに…化学の布施先生からも、実験レポートがまだだとも言われました。それらはいつ頃に出すことが出来るのでしょうか。」

妙な笑顔を浮かべている。これでもう出しませんなんて口走ったらどうなるのだろうか。

「は、はは…合宿中に終えて出すつもりたったな…」

「ぼ、僕もそのつもりでいました…」

「では、部屋に戻りましょう。数学は姫路さんが一番得意とする教科ですから、わからなければ教えて貰うのも一つの手です。化学はそこまで難しくないので大丈夫でしょう。恐らく今日中には終わる量でしょう。」

「坂本も吉井も今日中に終わらせろ。今夜には学年全体での試召戦争の開催の発表をしなければならない。お前達が居なかったらFクラスは正常に機能しない。」

「…そんなの分かってるぜ。今日中に終わらせる。行くぞ明久!」

「ゆ、雄二、待ってよ!」

 二人が部屋から出ていく。あの二人なら何だかんだでどうにか出来そうだな。全く、あいつらは勉強に力を注げば軽くCクラス位なら行けるだろうに…

「では、俺と高虎もこの辺で。」

教師に軽く会釈して部屋を後にする。

「今夜からAクラスとの戦いが始まるのか…高虎、お前の策が上手く行くことを信じるぞ。」

「任せろ。今回もAクラスをギャフンと言わせてやろう。」

少し早いが試召戦争への決意を固め、皆が待つ部屋へと向かって行った。



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強化合宿13

他クラスへの調略回、一回に収まりませんでした。
次回には終わらせます。


 「お、終わった…」

「死ぬかと思った…」

結果だけ言うと、雄二と明久が溜め込んでいた課題の山は、怒濤の勢いでペンを動かして終わらせることに成功した。

「さあ、晩飯の後には学年集会がある。晩飯はしっかりと食え。」

「分かってるぜ、そんな事…」

フラフラになっている二人を高虎が支えて食堂に向かう。飯の後は学年集会、風呂、そして就寝か…

~時間経過~

 「突然皆を呼び出してしまい、申し訳ありません。」

学年全員が集まり、司会の明智先生が頭を下げる。

「本日、Aクラスの女子生徒からの申し出がありました。『盗撮をしたFクラスの生徒に制裁をしたい。』と。そこで我々教師陣は、試験召喚戦争で制裁を行うのはどうだと提案し、それで良いと返答を頂きました。」

ここで部屋がざわつく。

「お静かに。では簡単にルール説明をします。今回の試召戦争は、学年全員参加です。そして、『Aクラスチーム』と、『Fクラスチーム』に、クラス毎に別れてもらいます。」

またしても部屋がざわつき、CクラスやDクラスからは文句の声も出る。

「そして、明日の朝の九時までに、Bクラス、Cクラス、Dクラス、Eクラスの代表はどちらに付くかを紙に書いて提出して貰います。開戦の時間である午前十時の三十分前の九時半には発表します。」

 俺は最前列に座っていて、他のクラスの代表達の表情も見ることができる。

例えば根本。こいつはCクラス代表の小山とアイコンタクトをとって、どちらに付くかを話し合って(?)いる。

Dクラスの平賀は…少し悩んでいるな。点数の高いAクラスに付くか、そのAクラスの他、Bクラスや自らの率いるDクラスを破っているFクラスに付くか。

Eクラスの中林は…余り評判を聞いたことは無いが、良くも悪くも脳筋っぽい。俺や高虎が接触しなければ間違いなくAクラスに付くな。

「学年全体に伝えなければいけない事はこれだけです。最後に…B~Eクラスの体表のみ、ここに残って下さい。今回の戦争に関して話があります。それでは、学年集会を終わります。」

ぞろぞろと皆が集会用の宴会場を後にするのに続き、この後の話し合いに参加する俺や高虎、雄二も一旦退出する。その広い部屋に、明智先生、西村教諭の二人に根本、小山、平賀、中林の四人の合計六人が残った。

「これで全員出ていきましたね…では、少し話を始めます。」

「まず、お前達の意見を聞きたい。」

「意見?何のですか?」

根本が西村教諭に尋ねる。

「今回の戦争、Aクラスに付くのか、Fクラスに付くのかだ。初めに聞いておかねばな。」

この言葉を聞いて中林が真っ先に口を開く。

「Aクラス1択よ!盗撮犯の味方なんて、するわけが無いわ!」

「…これから俺が代表としてやっていくには、大義名分のあるAクラスに付くしか無いです。」

中林に続いて平賀もAクラスへ付こうと思っていると主張した。

「俺は友香と話し合って共同で決めようと思っています。友香、どうする?」

「私は…」

小山が言葉に詰まる。恐らく昨日の姫路との話し合いで色々と思うことがあるのだろうな。 

「…皆さんの事情は分かりました。では、私から話したいことがあるので聞いて下さい。」

明智先生が今まで見たことの無い真剣な顔付きになる。

「Fクラスの坂本君達は、盗撮を行っていません。」

「「「「!!」」」」

 四人の表情が驚愕に染まる。

「そ、それじゃあ真犯人は誰なんだ!?」

「お前のクラスの清水美春だ。実行犯はな。」

西村教諭が無駄に意味深な言葉遣いをする。

「…姫路さん、あなたの信じていたことはただしかったのね。」

「実行犯は、って…誰かの指示だったんですか?」

平賀が眉間にシワを寄せて尋ねる。

「Aクラスの霧島と木下だ。もっと言うと、学年全体の試召戦争をしたいと言っていたのもその二人だ。」

霧島と木下の名前が出るとは思わなかったのか、更に驚いた表情になる。

「ど、どうして二人はそんな事を…」

「そう思うのは当然ですね…三人とも、出てきてください。」

 明智先生の呼び出しに応じて、俺、高虎、雄二が部屋に入る。

「それじゃ、簡単に説明するか。まず…」

雄二の説明が始まった。



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強化合宿14

次回から本格的に戦闘が始まります。
出来るだけ早めに出したいと思っています。


 「俺達が試召戦争でAクラスに勝ったことは知ってると思う。それで俺達は設備の入れ替えを実行したんだが…それでAクラスの連中の恨みを買ってしまってな。」

雄二が簡潔に説明する。先の一言だけで霧島と木下が俺達を嵌めようとした理由が分かったのだろう。

「例えば、この前あった清涼祭でもあいつらは俺達の店の前まで来て営業妨害をして…」 

ここまで言い、雄二が西村教諭の方を見る。

(おい、不良を雇って姫路達を人質に取ろうとしてた事は言わなくても良いな?)

(むしろ言うな。俺達教師陣とお前達しか知らんことだ。外にバレたらほとんど処分の無かったことが問題視される。)

「…他にも色々あった。だから何かやって来るのではないかとは予測していたんだが、流石に覗き魔の汚名を着せてくるとは思わなくてな…結局学年全体を巻き込むことになってしまった。済まない。」

雄二が頭を下げる。ここまで頭の低い雄二はなかなか見れないな。

「…事情は大体分かったわ。明智先生と西村先生もFクラスが悪くないと言ってるし、Eクラスは明日はあんた達の味方になる。」

「なら俺達もFクラス側に付く。」

中林と平賀がこちら側に付くことを宣言してくれた。

後は根本と小山だが…

「…友香、俺はFクラスに付こうと思う。お前も俺も代表としてここで選択を間違える訳にはいかん。」

「…坂本君、藤堂君、大谷君。」

「ん?」

何だ?妙に弱々しい声だな…

「この前、何も分からずにあなた達の部屋に押し入って、確証の無い事でレッテル貼りをしてしまってごめんなさい。」

小山が頭を下げる。俺もだが、雄二も高虎も驚いているな。

「…気にするな。俺も高虎も吉継も、騙されてたお前達を責める気は無い。それよりも、もっと大事な答えを欲しい。お前達は明日、どっちに付く?」

「…Cクラスは、明日の戦争は、Fクラス側に付いて戦う。約束するわ。」

これで、全てのクラスが此方に付いたか…このまま相手をすれば、恐らく勝てる。

「…分かった。それにしても、根本まで俺達を支持してくれるとは思わなかったぞ。俺達に敗れた恨みからAクラス側に付くんじゃないかと内心ヒヤヒヤしてたしな。」

「なに、むしろお前達には教室の交換を無しにして貰った借りがあったからな。Aクラスに大義名分が無くなった今なら、こんな形で借りを返せる。」

今の今までAクラスを支持していた癖に…と思ったが事情を考えれば仕方ないか。それにしても、根本も平賀も雰囲気が変わったな。俺達に負けて代表としての自覚というか、責任の重さを痛感したというか…とにかく、威厳みたいな物があるな。

「良し、お前達から色好い返事を貰って何よりだ。この後時間があれば自分のクラスメイトに俺達の事情を伝えておいて欲しい。それと中林。」

「へ?私?」

「恐らくお前の所に翔子が来て、味方になって欲しいと言ってくるだろう。その時、一応頷いてくれ。拒否したら色々面倒だろうからな。」

「分かったわ。そう霧島さんに言って明日はあんた達に味方すれば良いのね?」

「そうだ。それじゃあ解散だ!」

雄二が話を終わらせ、他の奴らも自分達の部屋に戻っていく。

「俺らも帰るぞ。明日に備えてさっさと寝たい。」

「そうだな。…吉継、どうした?ボーッとしていたが。」

「いや、何でもない。」

ここでAクラスをに一撃与えれば、暫くは何もして来ないだろう。少なくとも、一学期の間は。

だが、二学期になれば直ぐにでも俺達に挑んで来るだろうし、それは良いにしても何かしらの嫌がらせもしてくるだろう。

一体何時までこんな無益な争いをすれば良いのだろうか…最近、そう思ってしまう。

…いや、それとこれとは別だな。今は明日の事を考えねば。

そうして俺達は部屋に戻って、風呂に入って夜の十時には床に付いた。

 

~時間経過~

 

 「明智先生、九時半になった。チーム分けの結果を見せてくれ。」 

「はい。これです。」

明智先生が雄二に一枚の紙を渡す。それをみて雄二はニヤッと笑い、俺と高虎の顔を見る。

「…全クラス、俺達の味方だ。」

まあ、予想通りだな。Aクラスが動揺しているのが目に見えるようだ。

さて、根本達を呼んで作戦会議の準備でもするか。

 



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強化合宿15

戦闘シーンはありません。本当に申し訳無い...
次回は完全に戦闘シーンとなると思うので、頑張って急いで投稿出来るようにします。


 「まず、お前達が俺達に味方してくれた事に感謝する。」

「なに、当たり前の事だ。」

形式的に礼を述べる雄二に根本がまたしても形式的に応える。

「それじゃあ作戦会議に入るか。まず、Aクラスの本陣は二階の臨時の職員室。俺達の本陣は四階の生徒指導室だ。高地の有利があって人数も有利。普通に戦えば負けないだろう。だが…」 

「人数は私達が不利ね。それに私達Eクラスはまだ試召戦争は経験してないし、役に立てるか分からないわ。」

「…だが、Eクラスには前線に出てもらう。さっさとこの戦いは終わらせたい。」

本陣の守備を任せると言うかと思ったが、前線に出すか。此方にしても自分達の損害を抑えられるし、Eクラスも召喚獣を操る技術を学べるから悪い話では無い。

「じゃあ、本格的に作戦に移る。まず、あいつらがこの教室に辿り着くには東の階段を通るか西の階段を通るかの二つの選択肢がある。」

「普通に考えれば高所の有利を生かして相手を倒していく…だよな。」

平賀の言っていることは間違っていないし、雄二の作戦ももちろん階段を使う。少し違うのは、三階の存在を雄二は生かしていることだ。

「とりあえず相手を四階の階段近くまで釣り出す。これは戦闘中に少しずつ上に退いていけば大丈夫だし、向こうが突撃してくるかもしれん。で、相手は補充試験を受ける為には四階から二階まで降りなければならない。そこで、三階の部屋にDクラスに潜んでもらう。恐らく点数消費が激しいだろうし簡単に討ち取れるだろう。」

「成る程な…俺達は労せずして活躍できるな。」

「で、大切なのはAクラスと正面から戦う奴らだ。それは…」

「私と根本君の出番ね。」

小山が笑みを浮かべて発言する。

「ああ。あとEクラスも戦えよ。そして、これが重要だ。」

雄二が一呼吸置いて話し始める。

「絶対にタイマンに持ち込まれるな。少なくとも三人一組になって戦わないと各個撃破される。」

こちらの戦力でまともにぶつかってやりあえるのは姫路に俺に高虎、それにムッツリーニの保健体育位。後はBクラスの高得点者が数人といったところだ。

「なら、どこで迎え撃つの?階段で大人数の戦いは難しいし。」

「階段を登り終わった所が一番だろう。後ろが階段だから向こうは交代に手間取る。」

ふむ、まあ上手く行きそうだな。一対多の状況をAクラス相手に持ち込めるかは分からないが…

「とりあえず配置は、三階にDクラス、四階東側階段にCクラスとEクラス、西側にBクラスと俺達だ。」

「雄二、仮にAクラスが四階に向かわずに三階の制圧に向かったらどうする?」

「更に後ろから迎撃だ。翔子の事だ、そこまで読んでくるだろうからあえて三階で留まることは無いだろうよ。」

俺の疑問にも雄二は自信をもって答えた。だが、まだ不安は尽きない。

「それなら、仮にAクラスが攻め登って来なかったらどうする。あいつらは俺達への恨みにとらわれているだけで阿呆ではない。ホイホイついてくることは考えにくいが…」

「…なら、吉継ならどうする?対案の用意があるなら聞くぞ。」

「あえて戦力を分散させよう。恐らくそうすると相手は各個撃破を狙って動き出すはずだ。だが、霧島含め近衛部隊まで動くとは考えにくい。手薄になった本陣を突けば終わりだ。それでも動かなければ…力攻めだな。」

一番悪手だが、これだけ戦力差があれば確実に勝てる。

 「…とりあえず、始まったら十人程度Fクラスから東側に陽動部隊を出す。そこにAクラスが食い付いたら西側からBクラスと俺達が攻め込む。それと同時に東側からもCクラスとEクラスも攻め込んでくれ。」

最終的に俺と雄二の案を混ぜた物になったか。

…そういえば、高虎は一言も話していないな。

「高虎は何か無いのか?吉継が提案してくれているし、話は聞くぞ?」

「初めから力攻めだ。変に作戦を出すより正攻法で行く方が手っ取り早い。」

考えは俺とほとんど同じか…

「だから俺は吉継の策を支持する。思うところは同じ様だしな。」

「そうか、なら良い。…それじゃあ会議もここまでだ!総員配置につけ!あと十分で戦争が始まる!」

~時間経過~

 戦争が始まって十分が経過した。須川達の陽動部隊はどうだろうか…っと、伝令が来たな。

「Aクラスおよそ三十人がやって来たとの事!現在は少しずつ退いて三階まで上がったと言っています!」

「良し、掛かったな!坂本、本陣に突撃だ!お前達、行くぞ!」

雄二に借りを返してやると息巻いていた根本がクラスメイトを連れて階段を降りる。

「Bクラスに遅れるな!俺達も行くぞ!」

『おうっ!』

「お、おうっ!」

姫路、少しタイミングが遅れたな。

まあ良い。俺達もAクラスに攻め込むか… 

 

 階段を降りて本陣に入る。すでに中ではBクラスとAクラスが白兵戦を繰り広げていた。だが…

「…霧島と木下、久保は動いていないな。高虎、姫路、仕掛けてみるか?」

「面白い。行ってみるか。…フィールドは日本史か。俺達の得意教科、絶対に負けん。」

そう呟き、高虎が奴らの目の前まで進み、言い放つ。

「Fクラスの藤堂がAクラス、霧島に召喚獣勝負を申し込む、サモン!」

「アタシ達も行くわよ、久保君!」

「分かってるよ、サモン!」

「姫路、行くぞ!サモン!」

「はいっ、サモン!」

六人の召喚獣が魔方陣から出てきて、点数が表示される。

『 Fクラス 姫路瑞希

   日本史  355点

 

  Fクラス 藤堂高虎

   日本史  502点

 

  Fクラス 大谷吉継

   日本史  517点 』

      VS

『 Aクラス 霧島翔子

   日本史  368点

 

  Aクラス 木下優子

   日本史  378点

 

  Aクラス 久保利光

   日本史  375点 』

 点数だけ見ると、姫路とAクラスの奴らは余り変わりが無い。とすれば...

「高虎は木下に、姫路は霧島に当たってくれ。久保には俺が行く。」

「了解だ。」

短いやり取りをし、久保と相対する。

...Aクラスの全員に言えるが、今までの覇気が無い気がする。自分達に味方が居なかった事がショックだったのだろうか。

「ねえ、大谷君。」

「...何だ?」

「僕は、Aクラスの設備を取り戻す為にこうやって戦ってる。」

「...」

「でも、こうして誰も僕達の味方をしてくれない。少しの間、考えてみたんだ。」

「...言ってみろ。」

「僕達のしてる事って、ただ単に他の人に迷惑をかけてるだけのものなんじゃないか、ってね。」

何か様子、というか雰囲気が変わったな。俺達に対する敵意が無い様に見える。

「...何故、その結論に至った?」

「仮に僕達のしている事が正しいのなら、賛同者は居たはず。でも、誰も賛意を表すクラスは無かった。つまり、僕達のしていることは間違いなんじゃと思ってね。」

「それについては俺からは何も言えん。自分で結論を出して、自分の考えに基づいて動け。」

ここで間違っていると言うのは簡単だ。だがそれを言ってしまうと久保は自分で善し悪しを考える事を放棄するかも知れない。それに、あいつもAクラス、阿呆では無い。少し考えれば気付く事だろう。

「それじゃあ、戦うか...って、何故武器を放り投げる?」

久保は自分の召喚獣の武器である鎖鎌を投げ捨て、フィールドの外に出した。

「言っただろう、僕たちは間違っているのかも、と。無駄に戦うのを避ける為にも、少し頭を冷やす為にも、ここで戦いたくはない。君が討ち取ってくれ。補習中にゆっくり考えるよ。」

「そうか。それなら...」

仕込采から刃を出し、首もとを斬る。点数はすぐに0点になった。

「久保、戦死者は補習だ。」

「...はい。」

久保が連行されていく。

「...アイツなら気付くだろう。心配要らないか。それよりも姫路達だな。」

思考を切り替え、俺は霧島相手に苦戦する姫路の助太刀に向かった。



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強化合宿16

次回は少し時間を巻き戻して、高虎VS優子の戦いを書いていこうと思います。


『 Fクラス 姫路瑞希

   日本史  288点 』

      VS

『 Aクラス 霧島翔子

   日本史  337点 』

 姫路が押されているか…召喚獣の操作だけなら姫路の方が勝っているはずだが、さすがは霧島。飲み込みが早かったか。

「はあ…はあ…」

「姫路、助太刀するぞ。」

「えっ、大谷君!?久保君はどうしたんですか!?」

「後で話す。今は霧島を倒す事だけ考えろ。」

姫路にそう言って召喚獣を霧島の方に突撃させる。勿論単調な攻撃が通用するはずもなく、日本刀で弾かれてしまう。

「…単純過ぎる。」

そのままカウンターでこちらに斬りかかって来るが、俺はそれを采で受け止める。

「姫路!」

「はい!」

姫路の召喚獣が大剣を振り下ろす。しかし霧島にも俺にも当たらずに空を切る。

姫路はそのまま霧島に斬り込み、霧島も姫路に向かって斬りかかり、大剣と日本刀の鍔迫り合いになる。

そこに俺が仕込采の刃を出して霧島の背後を突き、背中に刺す。

『 Aクラス 霧島翔子

   日本史  279点 』

鎧があるからそこまで大きいダメージでは無かったか。

すぐに霧島は刃を抜き、振り向きざまに俺に袈裟懸けをしてきた。

当然直撃するわけでもなく、召喚獣の上体をずらして避ける。

「…一体あなた達はどうやって他のクラスを味方につけたの?」 

ふいに霧島が聞いてきた。

「簡単だ。俺達の知っている、全ての事を話しただけだ。」

「…そう。」

「それより、そろそろお前を守る者が一人も居なくなるぞ?」

少し部屋の中に目を向ける。こちらは最低でも三人組を作れ、と言う雄二の指示が功を奏し、Aクラスを圧倒している。残っているAクラスの生徒は…霧島と木下を含めて六人か。元々居たのが二十人だったから既に七割が戦死している。

「…別に全員を討ち取る必要はない。雄二を討てば終わる。」

「そうだな。だから俺達はお前を雄二の所には行かせん。」

仮にここで姫路や俺や高虎が倒れても、何処かで他の奴が討ち取ってくれるだろう。

たが折角だし、自らの手で倒したい。負ける気は無い。

と、横から声が聞こえてきた。

「良し、木下は倒したぞ!」

「う、嘘でしょ…?」

『 Fクラス 藤堂高虎

   日本史  443点 』

      VS

『 Aクラス 木下優子

   日本史  0点  』

 点数の減少を見る限り、高虎が圧倒していた様だな。

ともあれ、これで三対一だ。

「どうする?あんたの右腕とも言える奴は討ち取ったぞ?」

「…それでも、私は負けない!」

霧島が高虎に斬りかかる。スピードに力を全て使っているのか今までに見たことも無い速さだ。

「くっ…」

高虎はレイピアを突き出して辛うじて難を逃れる。

「吉継!」

「分かっている。」

姫路との連携攻撃と同じ様に背後を突く…筈が、霧島がこちらの動きを予測していたのか迎撃してきた。

「ふっ!」

「…!」

三合ほど斬り合い、後方に退く。そして俺が退いた瞬間に霧島の後ろから高虎が、俺の後方からは姫路が霧島に襲いかかる。

「…危ない。」

横に飛んで逃げる霧島。地面に着地した瞬間に俺が斬りかかり鍔迫り合いに持ち込み…召喚獣の腕を掴む。

「高虎、今だ!」

「応!」

霧島は身動きが取れず、じたばたしている。そこに高虎がレイピアを繰り出す。俺は食らう瞬間に避けていたので何とか無傷で終えることができた。

召喚獣が吹き飛び、点数が大幅に減る。

『 Aクラス 霧島翔子

   日本史  7点  』

あと少し…

「姫路!」

「はい!」

姫路が大剣を振り下ろし、霧島の召喚獣は跡形もなく消滅した。

「そこまで!Fクラスの勝利です!」

俺達の勝利を宣言する声が聞こえ、この戦争は終わりを告げた。



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強化合宿17

今回は番外編みたいな位置付けです。
次回は戦後対談となります。


 『 Fクラス 藤堂高虎

    日本史  502点 』

       VS

 『 Aクラス 木下優子

    日本史  378点 』

 点数は俺が百点以上上で、腕輪も使える。普通に戦ったら間違いなく勝てる。

だが、油断は禁物。隣から霧島や久保が飛んでくるかも知れない。回りを見て、気を付けなければ。

「…行くぞ。」

木下の召喚獣に向かって突っ込み、斬りかかる。流石に簡単に斬られる訳もなくランスで防がれる。

「ほんっと、何なのよ!アタシ達は何も悪くないのに!」

「冤罪で皆を騙しておいて良く言うな。」

防いだ後にカウンターは出来なかったらしく、後ろに下がる。

こちらも木下を追い、喉に…っ!?

「それっ!」

目に見えない速さでランスが突き出される。当然避けることができずに肩に刺さった。

『 Fクラス 藤堂高虎

   日本史  443点 』

減った点数は60点弱か…まだ余裕はあるな。落ち着いて対応しなけらばな。

「ふん!所詮はFクラス、単純ね!」

で、コイツは今までの戦いから何を学んできたのか…

「まだ戦いは終わっておらん。」

再度突撃を敢行。先程と同じ様にランスを突き出して来るが、此方とて二の足は踏まない。軽く受け流して懐に入り、腹に蹴りを入れる。木下の召喚獣は態勢を崩してランスを取り落とした。

「よっと。」

「!」

軽く蹴り飛ばすとランスは手の届かない場所まで飛んでいった。

「これであんたは反撃する術も失った訳だ。」

そのまま奴の召喚獣の首を掴み、抵抗すらもさせなくする。

「…少し聞きたい事がある。」

「何よ。」

既に負けが決まっている木下は、こちらを恨めしそうに睨み付ける。

「俺達を盗撮犯に仕立て上げて本当にあんた達がAクラスの教室に返り咲くと思っていたのか。」

「思ってたわよ。アタシ達がその犯人を捕まえる。アンタ達は盗撮の汚名を被せられて罰として教室の設備が下がる。そこでアタシ達は犯人捕獲の功績でアンタ達の教室を手に入れる…何があっても成功すると思ってたわ。でも…!」

そこで一拍置くと、先程より目付きが一層きつくなり、声も荒げて叫ぶ。

「アンタ達が他のクラスに余計な事を吹き込んだせいで全てが台無しよ!遂に元の教室を取り戻せると思ったのに!どうしてくれんのよ!」

「どうするも何も俺達は必要なく着せられる汚名を着たくなかったから、真実を説明しただけだ。」

「そんなの知らないわよ!」

「俺達だってあんたのクラスの事情もあんたの事情も知らん。それより、さっさとこの戦いを終わらせて貰うぞ。」

そう言ってレイピアで喉を刺す。人間の弱点は召喚獣の弱点でもある。一撃で点数はゼロになった。

「後は鉄人が来るのを待つだけだな。」

「な…まあ良いわ。アンタ達の悪行を西村先生に伝えれば、アタシ達は…」

「木下、補習だ。色々と説明して貰うぞ。」

鉄人が木下を連行する。ちょっと前に久保も負けていたし、残りは代表の霧島のみ。

「後は霧島のみ…さっさと終わらせるか。」

俺はそのまま霧島の召喚獣に向かって行った。



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強化合宿18

一応はここで終わりですが、工藤さんと久保くんの話を次回に入れ、期末試験編に入ろうと思います。


 さて、試召戦争も終わってこれから戦後対談をしなければならないのだが…代表の霧島も西村教諭に連行されて未だに姿を見せていない。

「翔子も木下姉も久保も居ないな。」

「事情聴取でも受けているんじゃないか?久保は知らんが木下はそこで俺達の悪行を言うみたいに言っていた。」

ほう、木下がそんな事を…まあ無駄だろうがな。きつくお叱りを受けるだろう。

そういえば、久保はどうするんだろう。頭を冷やすと言っていたが…

「待たせたな。」

 と、そこに西村教諭が一人でやって来た。

「おい鉄人、翔子はどうした?これじゃ戦後対談できねえぞ。」

「あいつらをこの場に出すのは色々と危ないからな。俺が代理で来た。で、Aクラスへの処分だが…設備を1ランクダウン、これで良いか?」

処分としては妥当な所だろう。必要以上に締め付けると反発を起こす可能性がある。

まあ、何もしなくてもあっちから色々とやって来るのだがな…

「足りん。今回の事件の主犯の翔子と木下姉、久保には追加で処分をしてくれ。」

雄二がそれでは十分では無いと異を唱える。これ以上の処分…反省文や補習か?

「久保は補習を放課後に一週間、翔子と木下姉は観察処分者に任命してくれ。」

「…!」

西村教諭が目を丸くして驚く。俺の隣でも高虎が口を開けてフリーズしている。

少しして高虎が雄二に反論する。

「…久保の処分は必要だ。だが、霧島と木下を観察処分者にするのは不味い。明久の様に操作に慣れさせてしまっては…」

「それも考えての事だ。というか、その辺りの俺ら個人の事情を学園側が考えてくれるとは思えん。」

「うむ、そうだな。アイツらが強くなる分、お前達も強くなれば良いだけの話だ。観察処分者の話は俺が通しておく。」

「分かった。俺達から言うことは何もない。」

「では、これで戦後対談も終わりだ。午後からは何もないから部屋で明日の荷造りでもしておけ。」

そう言うと西村教諭は戻って行った。

「…はあ、これで終わりだな。翔子も木下姉もこれで懲りると良いんだが…それは無いな…」

「だが、霧島も木下も格段に強くなる…俺達も何かしらの対策をせねばな。」

「高虎の言う通りだ。明日にはここを出るし、期末試験も近い。それに向けて頑張るしか無いな。」

「坂本、藤堂、大谷、何してんのよ?これから部屋に戻らないと。」

 島田が横から話しかけてきた。いつ俺達のもとに来ていたんだ。

「ああ、分かってる。そういや明久とか姫路とか秀吉とかムッツリーニはどうしたんだ?」

「瑞希はもう部屋に戻ってる。アキと土屋は須川達と勝利を祝ってる最中よ。」

明久達らしいな。今日くらいは浮かれてても良いし、何よりAクラスに二回勝ったのだ(人数差があったとはいえ)。

「それじゃ、俺達も行くか。」

「そうだな。」

俺達はその後、クラスメイト達と一緒に勝利を祝った。

この日の午後も次の日も何もなく、無事に強化合宿は終わりをむかえた。



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強化合宿19

これで強化合宿は終了、次回から期末試験編です。


 四日目の夜、宿舎の中庭でボンヤリとしていると、少し離れた所に工藤と久保が居た。

ひそひそ声で話している訳でも無く、少し近付いて耳を澄ませばはっきりと話の内容が聞こえる。

「設備が1ランクダウンか…卓袱台からミカン箱にチェンジしちゃったね。」

「これも僕たちが代表や木下さんに流されてしまったんだ。僕も君にも非はあるよ。」

やはり今日の試召戦争の話か。もっと何か話さないのか…?

「他のみんなはどうなの?女子はいつも通り優子と代表の悪口を信じきって嫌な雰囲気だったよ。」

「男子も似た感じだよ。でも三、四人は少し代表達に疑問を持ち始めてる子は居る。」

 やはり女子は霧島達の影響力が強いか…アイツらが考え直してくれれば俺達もAクラスと無駄な争いをしなくて済むのだが。

「今回の事件は男子にとっては無関係だったしね。女子にとってもボク達Aクラス、Bクラス、Cクラスは関係あるけど他は関係無いし、色んな人に迷惑かけちゃったね。」

「そうだね…間違いに気付けた僕達はどうすれば良いんだろう。」

「取りあえず、霧島達から距離を置いてみたらどうだ?」

横から少し口を挟んでみた。こう言う話題なら俺が力になれるしな。

「わっ、大谷君。いつから居たの?」

「割と最初の方から聞いてたぞ。」

「それより、距離を置けと言うのはどういう事かな?」

久保が興味を示してきた。ここできちんと説明できればこの二人を霧島達から切り離せる。

「俺達がAクラスの設備を奪う前からお前達は基本的に霧島達と共に行動していた。だからあのグループを通してしか物事を見ることが出来なかった。で、アイツらと距離を置くと恐らくだが、お前達個人で物事を見ることが出来るはずだ。そこで見たものを判断し、自分達が本当に正しいことをしているのか、それとも間違っているのかと言うのを考えろ。」

 俺らしくないな、こんなに長く語ってしまうとは。だがこれで工藤と久保が自分で考えることをしてくれるのであれば大きな収穫だ。

「…もしそれで、ボクが代表や優子達と一緒になっちゃったらどうするの?」

「知らん。お前が考えて出した結論だ、俺がとやかく言う筋合いは無い。」

「今この場で決めてしまうのは良いかな。僕は補習の間、ずっと考えていたんだ。」

「それを俺に言わなくでも良い。お前は学年次席だ、クラスの中でもかなり発言力はあるはずだし、お前の行動でクラスの雰囲気が変わるかも知れんぞ。」

それで男子と女子で対立が始まると言う可能性も無いわけでもないがな。

 「ありがとう大谷君、ボクも少し考え直してみる。」

「僕は早速行動に移してみるよ。自分の考えを共有できる人が居ないかをまず見つけてみようと思う。」

「ああ、頑張れ。」

二人は何か吹っ切れた笑笑顔をして宿舎に戻って行った。時計を見ると既に夜の九時を回っていた。

消灯まであと一時間半か。ここで飲み物でも買って夜風に当たりながら十時位まで過ごすとするかな。



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期末試験編
期末試験1


二ヶ月空いてしまいましたが、新作が出来ました。
何時終わるかわかりませんが、頑張って完結までは書いていきたいと思います。


 「おう、吉継も高虎も早いな。」

「ああ、家に居てもすることが無いし、お前達と話していた方が良い。」

このように普段通り俺、高虎、雄二は話しているが、全員なにかしらの問題集や暗記帳、授業プリント等を見ながらになっている。

強化合宿が終わり、後二週間で期末試験が始まる。他の学校なら数日間かけてやるのだろうが、この文月学園では一日で終わらせてしまう。勿論この点数は試験召喚戦争にも影響して来るのでクラスの為にも手は抜けない。

「期末が終われば夏休みだ。吉継も高虎も何か予定は立ててるか?」

「いや、特に何も無いな。吉継はどうだ?」

「俺も、特に何かしようとは思っていない。」

今までもそうだったが、長期休みは家でゆったり過ごすことが多かった。親が旅行に連れていってくれる事もあったし、それがつまらない何て思ってもいないが本音を言うと遠出はしたくない。

「雄二は何か予定があるのか?」

「いや、特には。家で全く手をつけてないゲームをひたすら終わらせる位しかしないな。」

「意外だな。お前はアウトドア派だと思っていたぞ。」

「そういう高虎はどうなんだ。お前もスポーツ得意なんだろ?」

「俺は夏休みはバイトで終わりそうだな。」

バイトか…学校で禁止はされていないし、やってみても良いかも知れんな。

「ま、そんな事より目の前に迫ってる期末の対策だな。恐らく期末の前日とかに明久やムッツリーニが俺に泣きついて来るんだろうが…」

雄二がそこまで言った時、教室の扉が開く。始業までまだ相当時間はある。この時間帯に来るとしたら…島田や須川か?

「ん?こんな時間に他に…って、明久!?」

雄二が驚きの声を上げる。俺や高虎も声こそ上げないが目を見開いて驚いている事だろう。

「どうしたんだ!?何時も遅刻か遅刻寸前になるまで来ないお前が…」

「い…家に…」

家に?でも、アイツは確か一人暮らしのはず。

「姉さんが来たんだよ!」

姉…そういえば一年生の頃の自己紹介で姉が海外に居るって言っていたな。

「それがどうしたんだ?ここに早く来ることと何の関係が…」

「仕方ないじゃないか!姉さんより早く起きて先に朝食作らないと、何か分からないゲテモノを食べさせられるんだよ!」

姉がメシマズなのか…それは辛いな。

「それに…」

「それに?」

「元々は7月までしか居ない予定だったけど、期末の総合で1200点を超えなかったら、高校卒業まで居座るって言ってきたんだ!」

「…明久が、1200点ね…」

雄二が腕を組んで思案に耽る。確か強化合宿の時点で明久の総合科目の点数は900点程だったはず。それを1200まで上げるとなると…

「苦手科目の克服は必須か。」

「だな。高虎はどうだ?」

「俺も同意見だ。日本史が比較的上昇しているから、それを除いた教科をするべきだ。」

まあ、そうだな。で、明久の苦手科目は…古典だったか?

「もし、苦手科目の克服が出来なかったら…」

「姉が居座るだけだ。ってか、姉に教えてもらえばどうだ?」

「ええ、嫌だよ…一日で体がぼろ雑巾に…」

「どんな人なんだ、お前の姉は…」

明久の姉がどんな人かはともかく、明久に勉強を教えるのはいい機会かも知れんん。

「雄二、俺達でコイツに教えよう。」

「あ?吉継がそんなことを言うなんて珍しいな。」

「他人に教えることによって知識が定着してるかどうかも分かる。悪い話では無い。」

そういうと、雄二は暫く考える様に腕を組んで目を閉じた。

「やるなら俺達だけじゃなく、姫路や島田も誘うか。あと、秀吉にムッツリーニに。」

「そうだな。じゃあ、皆が来たらそれについて話し合うとしよう。高虎、それで良いか?」

「問題ない。」

高虎の同意も得た。俺や高虎は割と余裕があるから大丈夫か。後はこれが原因で雄二の勉強が疎かにならないようにしなくては…

まあ、他の奴らが来なくては何も始まらない。ゆっくりと待つとしよう。

 

 

 

 



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期末試験2

時間が空いたので投稿。


「…なるほどね。アキのお姉さんがこっちに来てて、期末試験で点数を取らないとずっと居座られるってことね。」

「ああ。明久のテストの点数が上がることはFクラスにとっても有り難い事だ。お前も古典を吉継や高虎に教えてもらえるし、悪い提案では無いぞ?」

「でも、ウチには妹の葉月が居るし、余り夜まで残ったり出来ないわ。」

「わらわも、父上が許可してくれるか分からないのじゃ…」

「むう…それなら後は、この教室で放課後残って下校時間まで勉強会、といったところかのう。」

なかなか皆の予定が合わないな。ここは秀吉の言うとおり、ここで自習といった形が良いか。

「仕方ない、誰かの家で勉強出来ると思ったんだが…それが実現すれば、俺も家でおふくろの飯を食わなく良かったんだが…」

ああ、何か前に言っていたな。 雄二の母親はメシマズだって。飯がまずいじゃなくてメシマズだって強調してたな。

「そういえば姫路の予定はどうなってる?」

「私は特に何もありませんよ。ただ、休日は出来るだけ家族と居たいので、土日は何も無かったら嬉しいです。」

「で、ここで放課後に勉強する、で構わないんだな?」

「はい。」

これで予定が合ったのが確認できたのは姫路、雄二、高虎と俺か(俺達は何処でも構わないから初めから数に含んでいる)。

「ムッツリーニに秀吉、島田、玉はどうだ?学校内なら何とかなりそうか。」

「…問題ない。」

「恐らく大丈夫じゃ。姉上もワシと離れたいじゃろうし。」

「大丈夫だと思うわ。後で両親に聞いてみるわね。」

「それなら父上も許してくれそうじゃ!後できちんと聞いてみるがのう。」

「良し、決まりだな。明日から早速始めるぞ。明久は今日からゲーム禁止な。」

「ええっ、そんな!」

明久が目指す点数は総合科目で1200点。日本史はすでに160を超しているし、不可能ではないな。アイツの場合はどれを上げるのが効率的か…

~時間経過~

放課後、帰宅準備に取り掛かっていると高虎が俺と雄二に声を掛けてきた。

「二人とも、少し良いか?」

「ん?別に構わんが…吉継は?」

「俺も別に急ぎの用事は無い。どうしたんだ?」

この三人で話すことは多いから特に何か重要な話かどうかも分からん。だが高虎の顔が少し複雑な表情なのが気になる。

「昼休みにBクラスの前を通ったときに気になる話が聞こえて来てな、何でもAクラスの成績が少し変わったらしい。」

「変わった?どういう事だ。」

「変わったと言うより、成績の二極化が起こったらしい。平均点には表れないから気づきにくいが。」

点数の二極化、か…久保や工藤はどちらだろうか。いや、それよりそうなった理由を確かめよう。

答えは簡単、『設備の低下によるモチベーションの変化』だな。

霧島や木下のような負けず嫌いなタイプは成績が上がる。設備が落ちたことでやる気を失った奴らは成績が下がる。

他のクラスの事だし平均点が結局変わらないのは何だかんだ有り難い。だが観察処分者になった二人の点数が上がるのは宜しくないな。これから何か対策を講じる必要があるか…

「気になる情報だが、一学期は恐らく戦争が無い。夏休みの間に考えれば何とかなるはずだ。とりあえず俺達は目の前に迫ってる期末試験があるしな。」

「だな。今は気にしなくて良いか。」

「それじゃあ高虎、雄二、帰るぞ。明久達が昇降口で待っている。」

「おう。」

明日から勉強会か…ここで出来るだけ点数を取っておかないと後々厳しいだろうな…二学期になったら恐らく戦争の繰り返しになる。他のクラスの連中も操作が上手くなるし、油断は出来ん。

 

 



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期末試験3

本日も投稿します。
文章中の問題に誤りがあるかも知れないので知らせてくれたら有り難いです。


打ち合わせを行った次の日の放課後、教室には俺を含め九人の生徒が残っていた。

「全員揃ったな。良し、始めるぞ。」

雄二が近くにあった席に座り、参考書を広げる。

「俺は明久を教える。姫路、吉継、高虎は他の奴らの勉強を見てやってくれるか?」

「分かりました。それじゃあ美波ちゃん、始めましょう。」

「了解よ。」

姫路は島田に古典を教えている。俺ら二人は…ムッツリーニ、秀吉、玉の三人か。

「高虎、役割分担はどうする。」

「国語、数学、英語は俺達二人でやる。理科は俺がやるから社会はお前がやってくれ。」

「了解だ。それじゃあそれぞれやる教科の道具を出してくれ。」

そう言うと、ムッツリーニは生物を、秀吉は日本史を、玉は物理を出した。となると、俺は秀吉に付きっ切りになるな。

「秀吉、現時点でどれ位どれ位覚えている。」

「う、うむ…始めの数ページと言った所だ。」

始めの数ページとなると…院政が始まってからか。今回の範囲はそこから鎌倉時代の終わりまだ。世界史も中世の中国をやっているから、平家滅亡からは世界史も並行してやっていこう。世界の流れを知っていると日本史はやりやすい。逆も言えることだがな。

「授業で特に分からなかった所は何処だ?」

「分からなかった、と言うより天皇の名前や平ナントカの様な名前がまぎらわしくて殆ど覚えておらぬ。何か良い覚え方は無いかのう。」

「ふむ…確かに似ている名前が多いから覚えにくいな。だが残した実績や時代もそれぞれ全く違う。まずその時代の出来事を先に覚えろ。その後に人名を覚えれば良い。」

平清盛、宗盛、知盛、資盛、源頼朝、義経、義仲…同じ苗字の人物が数多く出てくるから大変だ。だがこのあたりの時代をしっかりと抑えれば古文も少しだが上がるだろう。秀吉はFクラスの主戦力の一人、頑張って貰わねばな。

「…よし、恐らく覚えきったのじゃ。」

「それなら軽く確認するか。木曾義仲が討たれたのは何の戦いだ?」

「粟津の戦いじゃったか。」

「よし、次は…」

軽く五、六問出題したが、特に問題は見られなかった。このペースなら成績の大幅上昇も狙えるか。

さてと、隣はどうだろうか。

「閉鎖血管系の動物で脊椎動物、軟体動物の他には?」

「…環形動物。」

「浮力の大きさは?」

「F=qVgじゃな。」

「ふむ、少しやったら覚えるか…」

なかなか順調だな。まあ一度覚えるのは簡単だし、肝心なのはこいつらがずっと覚えているかどうかだ。反復練習は徹底させないといけないか。

「とりあえず今回の日本史の範囲はさらった。だが、これを忘れずに覚えるのが大事だ。しっかりと覚えるように徹底しろよ。」

「う、うむ。」

秀吉は根は真面目な奴だ。これだけ言っておけば大丈夫だろう。島田には姫路が、明久には雄二が、残りの二人には現在高虎が付いてるから何とかなるだろうな。

と、もう最終下校時刻まで後十分か。

「お前達、もう今日は終わりだから片付けろ。」

「え、もうそんな時間?」

明久が驚きながら時計を見る。ちらっと見ただけだがかなり集中して励んでいたようだ。だが直ぐに気を抜くかも知れんから常に尻を叩き続けなければならんか。まあそれは期末が終わってからだな。

家に帰ったら自分の勉強もしなくてはならん。なかなか忙しいな、楽しいから構わんが…



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期末試験4

駄文ですが今夜も投稿しました。
グダグダになっていますが、期末試験まで着実に向かっています。



勉強会も二日目。昨日と同じく雄二は明久に、姫路は島田に付いている。俺は昨日の秀吉と代わってムッツリーニを担当することになった。科目は秀吉と同じ日本史。

「…難しい。」

「とりあえず事件だったり政策の名前を覚えろ。その後に人名を嵌め込んでいけ。」

アドバイスや覚え方は秀吉と同じにする。昨日の様子を見た限り元々の頭は悪くないし、保健体育では学年最高得点を記録している。同じ暗記科目の地歴はコイツにとっては有利な科目になり得る。

「…確認を頼む。」

「よし、それじゃあ…」

昨日の秀吉の様には行かなかったが、数回繰り返して問題無い状態まで到達した。これならば何とかこのメンバーの点数は上げることが出来るだろう。願いが叶うならば須川達の点数も上がって欲しいが…

 

~時間経過~

勉強は順調に進み、下校時刻を迎える。早めに鞄の用意が出来た俺は一足先に下駄箱に向かって行った。

その時、俺達の教室の近くの図書室から見覚えのある人物が現れた。Aクラスの久保利光だ。

「ああ、大谷君か。キミも学校で試験勉強をしていたのかい?」

「試験勉強ではあるが…成績の悪い奴らへの指導だな、どちらかというと。」

ついでに、何故教室が空いているのにそこでやらないのか、と言うのも聞いてみた。

「あの教室埃っぽいじゃないか。それに、代表や木下さんも居る。あの二人や他のクラスメイトが出す殺気の様なものに僕は耐えられる自信が無くてね…最近は休み時間も殆ど図書室で過ごしてるよ。クラスから距離を置く事も出来るし。

「…工藤はどうした?アイツも恐らくお前と同じ考えだろう。」

「工藤さんはあの二人の側で考えが変わるように頑張るって言ってたよ。今まで一緒に頑張ってきた仲間なんだ、簡単に見捨てるなんて出来ないんだろう。」

工藤、お前の仲間に対する思いは尊敬に値する。だが、あいつらに近づき過ぎるとまた前のお前に戻ってしまうかも知れん…と少し思ったが、久保も居るし大丈夫か。何かあったらコイツが止めに入るなりするだろう。

「…なるほどな、アイツらしい。俺から言えることなんて無いし、工藤が上手くやってくれることを期待するしか無いな。」

「だね。僕は何か彼女の身にあったら対応出来るようにしておくよ。とりあえず期末試験、お互い頑張ろう。」

そう言って久保は旧校舎の方へ歩いて行った。アイツとはそこまで話したことは無かったが、面白い奴だ。俺もだが、雄二や高虎とも気が合うだろう。Aクラスを狂気から救える存在は、工藤の他には久保だけだな。他の連中も二人の姿を見て思い直してくれる奴が居れば良いのだが…

「おい吉継、置いてくぞー。」

「ああ、悪い。すぐ行く。」

久保と話している最中に高虎や雄二達に先を越されていたらしい。待たせるわけにもいかんし、急がねばな。

下駄箱へはや歩きで向かい、靴を履く。今は同じクラスだから皆で帰ったりできるが、来年はどうなんだろうか。俺も、高虎も、姫路も、恐らく雄二もAクラスを狙うことだろう。その時、明久やムッツリーニ、秀吉、玉は別のクラスになる可能性が高い。

(…よそう。今は期末の事だけ考えれば良い。)

そう思い直し、雄二達のいる昇降口に今度は駆け足で向かった。



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期末試験5

今日は夜に用事があるので昼間に投稿します。


 平日を乗り切り、今日は土曜日だ。試験前だから勉強に費やすことになると思うと少し憂鬱だ。とりあえず学校でやっていない国数英をやらねばな。この三つは文系でも理系でも大事だからしっかりと固めねば。

 

~時間経過~

 

 「…ふう、こんなものか。」

家でやると割りと捗るな。夕方まで掛かると思っていたが、まだ昼の三時だ。目標の量は達成したから少し外に出てスーパーで買い物でもするか。晩飯になりそうなもの、家に余り無かったしな。

 着替えて外に出てスーパーまでの道を歩くと、向こうから見覚えのある人がいた。あれは…

「あ、吉継。」

「お市様でしたか。買い物に行っていたのですね。」

「はい。平日は長政様の仕事を手伝う事が多くて余り買い物に行けませんからね。これから吉継も買い物ですか?」

「はい。夕食の材料を買いに行こうと思いまして。」

その後、お互いの近況を話し合って別れる。

 更にしばらく歩いてスーパーに到着した。とりあえず何を買おうか。豚肉が安いはずだったから、トンカツにでもするかな…そんなことを考えながら歩くと、またもや見知った顔を見つけた。だが先程の様に嬉しいわけではない。

「霧島と木下…あの二人が買い物か。」

良く見ると居るのは食品売り場ではなく日用品売り場だ。一見普通に切れたモノを買いに来ただけたが、それなら友人と一緒に行くだろうか。いや、普通に出くわしただけかも知れんな。とりあえず関わるのはよそう、自分の買い物だけしていれば良い。 

 結局豚肉や野菜を買って帰り、その日の晩飯はトンカツとなった。

 

~時間経過~

 

 「…秀吉が休み?」

週明けの月曜日、秀吉が腹痛を訴えて休んだ。話によると前日の日曜から既に腹は痛かったらしく、ずっとトイレに籠りっきりだったとの事だ。

「ああ。だが余りの痛さにまともに歩けないらしく、病院にも行っていないらしい。」

雄二が携帯の画面を見ながら深刻そうな面持ちで応える。病院にも行っていない…?それなら救急車を使えばいい話だろう。何故それもしないのか…

「アイツがメールでよこした話では、整腸剤とか下痢止めとかも飲んだが全く効かないらしい。これ、ヤバイんじゃ…」

「…!まさか!」

全く効かないで一つの結論に至ることが出来た。腹痛の原因は恐らく姉の木下だ。飯に何か入れたんだろう。其なら霧島と相談しているという理由があるから一緒に買い物していてもおかしくない。

だがそれを言おうにも何も証拠が無い。とりあえず秀吉を病院に連れていかねば…

「雄二、秀吉の家に救急車を。俺は西村教諭と明智先生に事情を話してアイツの家に行く。」

「え?吉継、急にどうして…」

「早くしろ。病院までは俺が行かねばならん。」

「わ、分かった。」

 これで後は事情を教師陣に伝えるだけだ。とりあえず職員室に行って話をせねば。と考えながら廊下を走ると向こうから明智先生が歩いて来た。

「明智先生!」

「大谷君?そんなに急いでどうしたんですか?」

「実は…」

事情を説明する。既に秀吉の欠席の連絡を受けていた明智先生は話を聞くとどんどん顔が険しくなっていく。

「分かりました。西村先生には私から説明しておきます。あなたは急いで木下君の家へ行って下さい。」

「分かりました。」

先生に一礼し、走り出す。秀吉、絶対に無事でいろ。

 



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期末試験6

時間余ったので本日二本目となります。


「秀吉の様子は?」

「昨日は腹痛で良く眠れていなかったのでしょう。ですが容態が安定して、今は良く眠っています。」

「そうでしたか…」

俺が秀吉の家に着くと、既に救急車で運び込まれている最中で、目の下に隈が出来てるしげっそりした感じだった。

「それで、腹痛の原因は…」

「恐らくですが、食中毒かと。胃液から洗剤の成分が出てきまして…」

「…」

洗剤、か。恐らく俺がさっき考えた通りの経緯なんだろう、証拠も何も無いが。となると、学校に帰って木下を問い詰めても何一つ事態は好転しないか。後は秀吉が起きるのを待つほか無いな。

「俺は一度学校に帰ります。放課後になったら教師を連れて伺いますので。」

「分かりました。それでは。」

医師に礼をして病院を出る。学校への帰り道、この問題を片付ける事が出来るかも知れない方法が思いついた。戻ったら早速頼んでみよう。

 

~時間経過~

 

「戻ったぞ。」

「お、吉継。どうだったの?」

教室に戻ると明久が駆け寄ってきて秀吉の事を尋ねてきた。

「あまり良くは無い。洗剤の入った飯を食わされていた様だからな。」

「せ、洗剤!?」

明久が驚いた顔をする。料理がある程度出来るコイツにとっては全く予想できない材料だろうし。

「そこでだ、ムッツリーニ。頼みがある。」

「…何だ。」

「Aクラスは今体育で居ないだろう。木下の机の近くにボイスレコーダーを設置してくれないか?」

「…?了解した。」

首を傾げながら天井裏へ消えていく。一旦はこれで良し。次は雄二や高虎に話さないとな。といっても向こうも俺の話を聞いていたらしい、話しかけてきた。

「木下姉にボイスレコーダ…アイツが怪しいと考えて居るのか、吉継。」

「少し違う。疑っているのは木下と霧島だ。」

「翔子?アイツが何か関係が?」

「土曜日に霧島と木下がスーパーに居てな。食料品コーナーじゃなくて日用品コーナーに居たんだ。これが木下一人なら何も疑わなかったが、友人二人で日用品を買いに行くというのは何か不自然だな、と。」

「だが、確固とした証拠が無いな。」

「高虎の言う通りだ。だからムッツリーニに調べてもらおうと思ってな。」

ただ、これで木下が白だったら誰がやったんだ、と言う疑問が残る。その時は秀吉に聞いてみる他無い…いや、言質を取っても秀吉には聞かねばならんか。とりあえず今は授業をしっかりと受けよう。

 

~時間経過~

 

「…取ってきた。」

六時限目の前、ムッツリーニがAクラス教室からボイスレコーダーを回収してきた。さて、これには何が入って居るのか…幸いにも今日は数学の長谷川先生が風邪で休んだことにより自習となっている。

「よし、聞くぞ。」

レコーダーの回りには勉強会のメンバー(秀吉除く)が集まっている。皆が居ることを確認し、雄二が再生ボタンを押した。

『さっき西村先生から連絡があったんだけど。秀吉が病院に搬送されたみたいよ。』

『え?それ、大丈夫なの?』

『…大丈夫じゃない、私と優子が洗剤を食事に混ぜ込んだのがばれるかも知れない。』

『え…?だ、代表、何を言ってるの?』

『あのバカ、何を言ってもアタシの言うことを全く聞かないのよ?少しは懲らしめないとと思ってやったのに。』

『…それに、苦しんでる間は学校に来れないし勉強も出来ない。木下はFクラスの主力だから、損害は大きい。』

『そういったメリットもあったのね…いや、そんなことより言い訳を考えないと!』

『…まずは知らないと、自分の考えを通す。それ以外には何も話さない。』

『そうね…何か変に喋っても不利にしかならないわよね…』

録音された内容は、彼女らの罪を確定させるのに十分なものだった。



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期末試験7

感想を寄せてくださった方の内容に非常に良いものがあったので採用させていただきました。


「…やはり木下と霧島が関与していたか。吉継の言う通りだった訳だ。」

「うむ、あの日の夕食の時、何か味に違和感があったのじゃが気付く事が出来なかったのじゃ。心配かけてすまぬのう。」

「お前が悪いわけじゃ無い、悪いのは翔子達だ。」

音声データを玉に渡して西村教諭の所に行かせ、残りの七人と明智先生で秀吉の居る病院にむかった。

「でも良かったです、木下君が無事で…」

「本当よ、一時はどうなる事かと思ったわ。」

島田と姫路も心から安心している様子である。その隣でも明久とムッツリーニが安堵の表情を浮かべている。

「それで秀吉、いつまで入院なの?」

「明後日には恐らく退院できているはずじゃ。試験もあるし、出来るだけ早く体調を戻さねばのう。」

「ですが、無理は禁物です。西村先生達も今回の事情は汲み取って下さるので、木下君だけ後で追試を特別に、ということもできますよ。」

明智先生がいつもの柔らかな笑みを浮かべて話しかける。この人割と若いが学校の中では発言力があるのだろうか。以前ならこんな処置は取らなかったはず。

「心配には及ばないのじゃ。腹も戻ったし今すぐ起きて動きたい位じゃからな。」

「…無理はするな。」

「分かっておる。」

そのような話が一段落すると、高虎が話題を変えた。

「それで、退院後はどうするんだ?家に帰ったらお前の姉がまた何かしでかすかも知れん。」

「た、確かにそうじゃな。父上も母上もしばらく出張でおらぬし…」

だが、自宅を出ても行き場が無い。俺と高虎の下宿は狭すぎて二人で住むなど出来ない。となると空いているのは一人暮らしの明久位か…いや、今は姉が来ていると言っていたな。

皆が腕組みをして首を捻っていると、明智先生が再び口を開いた。

「…学園長に掛け合って社宅を一部屋開けてもらいましょう。」

社宅…なるほど、考えたな明智先生。

「しかし、部屋の家賃等をワシは払えぬぞ。バイトもしておらぬし…」

「ご安心を。木下君を含めたFクラスの皆さんはAクラスの不正や非行を体を張って防いだりと実績がある。これを盾に迫れば卒業まで社宅を一部屋位は開けて頂けるはずです。」

「で、でもそれでダメだったら木下君は…」

「その時は私の家に招きます。恐らく娘も妻も喜んで迎え入れてくれるでしょうから。」

やはりこの人は良い先生だ。生徒の気持ちも分かってくれるし知恵もある。これに関しては明智先生に一任しても問題無いだろう。

「どうだ、秀吉。明智先生に任せて良いと俺は思うが。」

「…うむ、そうじゃな。明智先生、よろしく頼むぞ。」

「お任せを。それでは早速学校に戻って掛け合って見ます。」

そういい残して足早に部屋を去って行った。

「それじゃあ俺達も帰るか。また明日皆で来る。」

「玉ちゃんも一緒に来ますからね。」

「うむ、それじゃあの。」

さて、家に帰ったら晩飯食べてさっさと寝るか…

 

~三日後~

 

「おはようじゃ。」

『おお、秀吉!』

『俺達の希望が!』

秀吉が入院したと聞いてFFF団も活動を完全に停止していたが、今日からまたいつも通りになるな。

「ところで、社宅はどんな感じでしたか?」

「一人で暮らすには広すぎるくらいじゃが、とても居心地は良いぞ。」

月曜日、学校に戻った明智先生は一時間に及ぶ説得の末、学園長から了承の返事を出すことに成功した。その代償といっては何だが、木下と霧島の行為は家庭内の問題として不問に処されてしまった。

これにはFクラスから不満が噴出したが、被害者の秀吉が気にしないから怒るのを止めて欲しいという発言で収まる。

須川を始めとしたFFF団はAクラス何するものぞといった気概が出てきており、奴ららしくも無く勉強に精が出ている。

起きた事故は不幸なモノだったが、このクラスの団結力は一層強いものとなっただろう。



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期末試験8

一応これで期末試験編最終回です。 
次話は番外編として光秀と学園長の話を書こうと思っています。


 秀吉が復帰して勉強会も再開、その後も順調に試験対策が進んで試験当日を迎えた。

文月学園では十数教科の試験を一日ですべて行うと言う割と無茶なモノとなっている。その分体力のあるFクラスは頭の要領が足りん所以外は他クラスよりやや有利、更に今回はクラス全体がやる気に満ちている。もしかしたらEクラスの平均点を上回るくらいは出来るかもしれんな。

さて、俺も気合いを入れてがんばるとするか。

 

~時間経過~

 

 「試験終了です。筆記用具を置いてください。」

午後四時半、すべての試験が終了した。明智先生が皆のテスト用紙を丁寧に回収する。

「ふう、疲れたぜ。」

雄二も珍しく疲れた表情を見せている。まあコイツはなにも言わなくてもそれなりの点数は取るだろう。

「ふう、疲れた…とりあえず家に帰ったら寝よ…」

「…もう何もできない。」

明久は日本史、世界史、国語を、ムッツリーニは理科、数学を中心に頑張っていた。これらが上がったら良し、だな。秀吉は全教科バランス良く、島田は国語を中心に、だったか?皆、苦手教科を克服できたら良いのだが…

 俺、高虎、姫路は恐らく若干の点数低下がある。テストとテストの間の会話でもやはり二人から良い話は聞かなかったし、俺も何時もより手応えが悪い。まあ、クラスに貢献できたなら良しとしよう。

「高虎、手応えは?」

「良くて平均点400行かん。350は越えるだろうが…」

「俺も似た感じだ。少し姫路に劣る程度だろうな。」

日本史、世界史は俺と高虎で一位二位を独占できるだろうが、その他で毎回姫路に遅れを取っていて、総合科目で結局僅差で負けてしまう。

「いえ、私も今回は上手くいきませんでしたし…」

「それは俺も高虎も一緒だ。だが俺達の点数が落ちた分恐らく他の奴らの点数は上がってるはず。クラス全体としては大きく前進したぞ。」

「そうですね、美波ちゃんも明久君も頑張ってましたもんね。」

…ん?今気付いたが、何時の間に下の名前で呼んでいたんだろうか。

それにしても今日は疲れたな。帰ったら適当に飯食べて寝るか…

 

~時間経過~

 

 テストの結果は、俺個人としては少し下がったが、Fクラスとしては劇的な上昇があった。

まず明久。日本史と世界史で200点を越える快挙を為し遂げ、国語でも100点を越えた。その他の教科も80点前後になり、合計12教科(英語一つ、数学一つ、国語二つ、理科三つ、社会四つ、保健体育)で1200点を超えることとなった。明久はやっと姉が帰ってくれると喜んでいた。

次にムッツリーニ。理科、数学が共に150点を越え、保健体育も700点と言う異常な点数を叩き出した。その他の教科は70前後となり、合計で凡そ1800点となり、何と学年平均を越えた。

次に秀吉。全体的にバランス良く上がり、合計科目で1500点を越えた。本人曰く「まだワシは満足しておらん。」とのこと。これからもたゆまず努力を続けてくれるだろう。

次に島田。数学では250点を記録。苦手科目の国語もある程度克服し、60点を越えた。その他の科目も少し上がり、90点前後。合計で凡そ1300点。

次に玉。得意教科の国語は250点に上昇。その他の教科の平均点が150に乗り、合計点が2000点に迫った。明智先生も返却時に上機嫌だった。

そして雄二。何とコイツは全教科で200点を越えた。しかも数学、理科は250点を越え、合計は3000オーバー。Aクラスの中に入れても遜色無い点数となった。

俺、高虎、姫路にはそれぞれの点数が10~20点下がり、総合でも200点下がってしまった。それに関して雄二から済まないと頭を下げられたが、「皆が上がったからそれで良し。」と快く許した。

最後にFFF団。今までの一教科の平均点は60点だったが、大幅に上がり平均が80を越えた。

最終的なクラス全体の総合科目の平均点は1250点。Eクラスを追い越し、Dクラスに僅差で勝利。これを聞いてクラス中に歓声が沸き起こった。

ちなみにAクラスは高虎の言っていた通りに成績の二極化が起こりつつあるらしい。

下位の十人程度が既に根本を始めとしたBクラスの上位陣に負けてしまっているらしい。

それに対し、上位陣の成績は変わらず高い。特に霧島、木下の成績上昇が著しいとのこと。俺や高虎単独では厳しいのかもしれん。夏休みに何か対策を講じる必要があるな。

まあそんなことは後で考えれば良い。高虎も姫路も雄二も、他の皆も喜んでいるし、俺も今は皆と共に喜ぼう。



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期末試験9

番外編なので読み飛ばして頂いても構いません。
次回からは夏休み編となります。


「失礼します。」

そう言って学園長室に入ってきたのは、古典の教師でかつ二年Fクラスの担任である明智光秀。温和な性格で生徒からも慕われている。

「明智先生かい、どうしたんだね?」

イスに座って書類とにらめっこをしているのは学園長の藤堂カオル。明久や雄二からはババア呼ばわりされているが、この学校を作った中々のやり手だ。

「少し相談したいことが御座います。」

「相談?アンタがかい?」

「社宅の一室を開けてもらえないでしょうか。」

「社宅を?何だ、物置にでも使うのかね。」

「いえ…学園長、木下秀吉君はご存知でしょうか。」

「ああ、知ってるよ。Fクラスの。アイツがどうかしたのかい?」

「Aクラス所属の木下優子さん、それに加えてAクラス代表の霧島翔子さんによって食事に洗剤を入れられて現在入院中です。」

今日分かったことである、まだ西村から何も報告が無く知らなかったのか、光秀の言葉に目を見開いて驚き、直ぐに呆れ返った表情となる。

「何なのさ…清涼祭では不良を呼び込むし、強化合宿では下らない事をして学年全体を巻き込んだ戦争を起こすし…アタシの頭が足りないのかね。」

「それは何とも。話を続けます。それで、木下君自体は後二日したら退院するのですが、その後再び姉の木下さんと共に過ごさせるのは危険過ぎます。そこで…」

「木下に家を借りる力も無いから社宅を開けて住まわせよう、というんだね。」

「はい。」

藤堂は目を閉じて少し考えた後、結論を出した。

「却下。」

「理由をお聞かせ下さい。」

「今回の事件は聞いた限りでは家庭の問題。アタシ達がどうこうして良いような問題では無いよ。」

「この事件の非は間違いなく向こうにあります。しかし、今回の事件を起こしてしまった元凶は我々。何かあれば矢面に立たされるのは学園長です。そのためにも木下君を保護という名目で社宅に入れるのは賢明な判断かと。」

「それをしたら間違いなく霧島達が文句を言いにくるよ。家族と離れ離れにするなんて、みたいに詭弁を振りかざすのが目に見えているし、アタシは面倒だし。」

「ならば…社宅に木下君を迎える代わり、彼女達を不問にすると言うのは如何でしょう。」

家で 暴力やいじめを受けている生徒を守る、その上でそのいじめに関しては家庭の事情ゆえに関与しない。ということとなる。不問にするなら優子、翔子共に不満を述べることは無いだろうという光秀の考えだった。

「それでアイツらは納得するかね?」

「ほぼ間違いなく。姉の木下さんは木下君の事を快く思っていません。姉弟の仲を修復させるためにも、かつこれ以上木下君が悲惨な目に遭わない為にもこの処置は妥当かと。」

「…分かった。西村先生にもそう伝えておくよ。社宅の手配も今日中にしておくよ。」

「ありがとうございます。」

深く一礼し、光秀が退出する。それと入れ代わりで西村が入ってきて玉の持ってきた音声を学園長に提出、優子と翔子が関与していたことを確信した藤堂は先程光秀の言っていた事を西村に伝え、事は一段落した。

その後、この事件を原動力にFクラスは更なる高みに上り詰めていく事になる。



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夏休み編
夏休み1


肝試し編は原作との状況の違いで起きません。
かなり短い話になりますが、よろしくお願いします。


期末試験も終わり、待ち焦がれていた夏休みが来た…訳でも無い。

俺達Fクラスはかなりの授業時間を試召戦争やそれの補充試験に費やしたので、その分の補習が夏休み中にあるのだ。

勿論不平不満を言う奴らは居たが、設備がAクラスなのもあってそこまで多くはなかった。

で、肝心の補習の内容だが…基本的に一学期の総復習みたいな感じだな。思っていたより授業自体は進んでいたのか、新い内容が見当たらない。折角の夏休みを潰して来たのにこれは無いだろうと思い、二日目からは雄二や高虎と謀って後ろの席に座り、携帯で話をし始めた程だ。

雄二『暇過ぎるんだが。』

吉継『だが授業時間数が合わないのは問題だしな…』

高虎『帰りたい。』

雄二『いや、俺は帰ったら翔子が待ち伏せてるかもだしな…じゃなくてもこの教室涼しいし飲み物も多いから不自由しないな。授業受けなくて良いならずっとここに居たい。』

吉継『この補習終わったら教室閉めるって言ってたぞ。』

雄二『oh…』

高虎『あと何日だ、補習って。』

吉継『明後日までだったはずだ。』

チャットの内容はこんな感じである。雄二の言う通り、この教室が夏休みの間ずっと使えたら良かったんだが…特に旅行に行く訳でも無いからずっと家に居るだけだし。

「ふう…それじゃあ今日の補習はここまでだ。後は明日と明後日だから、サボらずに来いよ。」

補習担当の西村教諭はそれだけ言って出て行った。昔みたいに小言を言わなくなったのを見ると、Fクラスとしての信頼も十分にあると見てよいだろう。

「ふう…やる気も無いのに毎日学校に来るのも面倒だな。」

雄二が愚痴を零しながら俺の席まで来る。

「チャットで居心地良いとか言ってただろ、お前。」

「居心地は良いが鉄人が部屋に居るとな…」

「ああ…」

まあ西村教諭の事だし俺達が適当に授業を流してるのは知っているだろう。注意して来ないのは俺達の事を信頼しているのか、若しくは前列に居る少し危ない奴らに注意を向けているからか…どちらにしろ怒られることは無いだろう。

「じゃあ帰るか。吉継、高虎は何処だ?」

「もう出て行ったんじゃないか?バイトやってるはずだ。」

「バイト?何をやってるんだ?」

「スーパーでお中元の包装を何とかするみたいに言っていた。」

「ああ、期間限定のバイトか…家に居ても暇なんだろうな…」

下宿に居たらそりゃあやることは無いな。俺の場合はゲームもやらないし、家に居ると冷房代ばかりかかる。これからどうするかも考えないとな…

「そういえば雄二はどうするんだ?何処かに旅行に行ったりは…」

「いや、そんな予定は無い。一ヶ月間家でゴロゴロして終わるんだろうな…」

「お前もか。まあ一度くらい明久達も呼んでプールに行くくらいはしてみたいな。」

「あ、それ良いな。明後日補習終わったら行こうぜ。姫路や島田も呼んでおく。」

「それなら俺は高虎に声を掛けておこう。」

そんなことを言いながら廊下を歩いていると、旧校舎の方に大量の段ボールを持っている召喚獣が見えた。あれは…木下や霧島の召喚獣か。

「向こうに見えるの…翔子と木下姉の召喚獣だな。夏休みも呼ばれているのか。」

「Aクラスは色々とやらかしたからな…夏休みに呼び出されても不自然じゃない。」

「少しは頭が冷えれば良いんだが…夏だしどうだろうな。」

その問いに俺ははっきり答えられなかった。何て答えれば良いのか分からなかったのもあるが、工藤や久保が考えを改めているのを見る限りまだまだ改心する望みがあるが、霧島や木下があの調子だからな。

まあそんなことは置いておいて、夏休みをどう過ごすか、家に帰ったら考えるとしよう。

 



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夏休み編2

次回はプール回、その後は野球大会まで飛びます。


プールに行くことを高虎が了承した二日後、遂に夏期補習も最終日を迎えた。

「ようやく終わるな…」

備え付けの緑茶を飲みながら雄二が言う。コイツにとってはそこまで補習は必要としないからな。

「だな、これが終わったら一度自宅に戻って昼前に現地集合、だったか。」

今日行くプールは市民プールの様なモノではなく、リゾート施設の一つになっている所だ。話によると明久の姉も来るらしい。

「ああ。幸いにも今日は英語だけだ。十時半には学校を出られるぞ。」

「何だかんだで一日もサボらなかったな、お前は。」

「鉄人に絞られる事を考えたらサボるなんて選択肢は無くなる。」

「別に成績が悪い訳でも無いだろう。お咎めは無いとは言わんが軽いと思うが。」

そんな感じで駄弁っていると、高虎と姫路が到着した。

「吉継に雄二、早いな。」

「家に居てもすることが無いからな。お前はどうなんだ?」

「補習の後は基本的にバイトだからな…箱を包むだけの簡単な作業だがいかんせん数が多い。集中力が切れて家に帰ったら直ぐにベッドだ。」

「だから最近オンラインゲームもずっとオフライン状態だったのか。」

「雄二、そもそもお前だって言うほどやってないだろ…」

「まあそれは良いとしてだ。今日のこれからの予定は二人共分かっているな?」

「十二時に目的地のプールの入り口に集合、で大丈夫ですよね?」

「ああ。明智先生から許可が出なかった玉は昨日の夜に来ないと言ってきたから、島田に伝えて置いてくれ。」

「玉ちゃん、どうかしたんですか?」

「今日から関西に旅行に行くことを忘れていたらしくてな。」

関西、ねえ…家族旅行で何度が行ったことはあるな。京都に一泊、神戸に一泊だったか。

と、西村教諭がやってきたな。

「それじゃあ始めるぞ。席に着いて昨日やった最後のページを開け。」

さて、教科書を開いてその下にスマホを置いて…良し。

吉継『あと一時間』

雄二『授業始まるなり携帯開くのかお前。』

吉継『さっきの会話の流れからそうだろう。』

高虎『俺らは受けても受けなくても同じだからな。』

明久『皆キチンと授業受けようよ。』

高虎『そういうお前は携帯開くな。』

明久『すみませんでした。』

 

…明久、アイツ一列目だよな。アイツがばれたら俺らも一斉に検挙されるかも知れないな。どうしよう。まあ、真剣に受ける気なんて無いし、多少怒られても良しとするか。

~時間経過~

「良し。これで補習は全て終わりだ。良い夏休みを過ごせよ。」

西村教諭はそう言って足早に退出して行った。

「ああ~疲れた…」

明久が伸びをしながらこちらに来る。そりゃあ一列目なら西村教諭の目があるから緊張は解けないな。

「おう。一列目なんてツイてないな。」

雄二がニヤニヤしながらからかう。

「ホントだよ…もう少し早く来てたら良かった。」

「いや、普段から早く来いよ…」

高虎が呆れたように突っ込む。容赦なく突っ込んだり出来るのはコイツだけだな。

「まあそれは良いとして、さっさと帰るぞ。明久も家で姉貴が待ってんだろ?」

「おっと、そうだった。それじゃあまた後でね。」

鞄に荷物を詰め込んで明久が退出していく。

「良し、俺らも帰るとするか。吉継、高虎。」

「だな。」

二人も帰る用意を始める。ちなみに俺は既に終えているので何時でも帰れる状態だ。

「そういや吉継、真夏なのにマスクしてるんだな。暑く無いのか?」

「偶に外してるぞ。というか登下校中は外ししている。」

流石にプールに入るときは外さなければならんな…まあ常識か。

 



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夏休み3

夏休み編、短いですが終わりです。
次回からは二学期に入り、野球大会編になります!


家に帰って荷物を置き、水着や飲み物に詰め替え、制服に着替えて家を出る。ちなみに水着は昨日買ったものだ。水泳の授業では無いのだから、スク水はどうかと思ったまでの事だが。

近くのバスの停留所まで歩き、プールのある施設までバスで移動する。平日だしそこまで人は多くないだろう、と思っていたのだが、夏休みなのもあって中高生が多い。椅子は完全に埋まっていて、立つにも吊り革が足りない位だった。そんなこんなで施設に到着し、中に入る。まだ待ち合わせの時刻まで四十分はあるのに、既に高虎と島田が居た。

「島田も高虎も早いな。島田は姫路と来るものだと思っていたぞ。」

「始めの予定ではそうだったんだけどね。どの水着が良いのか迷ってるらしくて。」

「…迷うほど水着を持っているのか、姫路は。」

「何か一度に三つか四つまとめて買ったらしいわよ。」

水着って結構値が張るものだと思っているんだが…その場で決めれば良いのに何で幾つも買ったんだ。

「まあそれは良いとしてだ、吉継。雄二達は見なかったのか?」

「見なかったな。あいつらの事だしギリギリに来るんだろう。」

「だな…」

明久は下手すると遅刻するかも知れん。まあ遊びに行くだけだから多少遅れても咎めだてはしないがな。

 

~時間経過~

 

水着に着替え、プールの淵まで移動する。結果的に途中で電車の遅れがあって、姫路と明久が遅れてしまった。それでも五分程度だったので特に誰も責めたりはしなかった。

「ここに来たは良いが…何をして遊ぶかなんて考えてなかったな。」

運動神経は悪くないと自負しているが、水泳は少し苦手意識がある。泳げない訳ではないのだが、直ぐにスタミナ切れを起こしてしまうし、上がった後もしばらく頭痛に悩まされる。

「ん?吉継、どうしたの?」

「いや、何をして遊ぶか考えていただけだ。」

一般客も多いし、八人で固まって遊ぶなんて出来ないしな。ウォータースライダーにでも乗ってみるか、面白そうだし。

「ビーチボールは持って来たんだけど、これだけ混んでたら使えないかもね。」

「だな。…おっと、姫路と島田も来たか。」

女子更衣室から二人が出て来る。…ふむ。

「何よ大谷。何か変なの?」

「いや…少し考え事をな。」

分かってはいたが、差が凄いな。何処とは言わないが。姫路は出てきた瞬間周りの他の客の目線も集めてたし…というか、意外にも露出の多い水着だな。控えめな性格の姫路だからもっと布の多いモノでも着ると思っていた。

島田は…悪く言う気は無いが、予想通りだな。

「みんな集りましたし、どうやって遊びましょうか?」

「そうだな…一般客も多いし、集団で遊べたりはしない。基本的に自由行動だ。」

雄二が姫路の質問に少し考えてから答える。流石に他人に迷惑を掛けるわけには行かないし、やむを得ない判断だな。皆で来た意味があるのかが少々疑問だが…折角来たんだ、楽しむとするか。

まずはウォータースライダー。テレビで見たことはあるが、自分が滑った事は無い。というかかなり長いな…滑り終えるまででどれくらい掛かるんだ?…と、順番が回ってきたな。それじゃあ行くとするか、!

……

 

滑り終えると同時に水を飲んでしまったが、滑っている時は楽しかったし、かなりスピードも出ていた。また少し時間を置いてもう一度滑るか。

さて、他の奴らは何をして…ん?

「だ、誰か!秀吉の上の水着が外れてムッツリーニが!」

「おい、この出血量はマジでヤバくないか!?」

「…我が生涯に、一片の悔いなし…!」

…ウォータースライダーもう一度滑って、あいつら置いて帰るか。

後に聞いた話だが、西村教諭が何処からかこの話を聞き、夏休み中にも関わらず反省文を書くことになったらしい。

 

 



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体育会編
野球大会1


今回から野球大会に入ります。
長さは…どうなるか分かりません。まだ全て書ききっていないので…


夏休みは特にする事も無く、家でのんびりしたり図書館に涼みに行ったり、高虎と二人で長政様の家に遊びに行ったりして過ごした。刺激的な経験は無かったものの、それなりに楽しかった。

そして二学期。基本的には始業式の後に持ち物検査があるはずなのだが…何故か無かった。

「…吉継、これは何か裏があると考えた方が良くないか?」

不審に思った高虎が俺に尋ねてきた。

「あえて一日ずらして明日一斉に検挙する気だろう。今日は何も無かったから明日も無い、と考える奴も多いはずだ。」

「雄二には言ったか?」

「いや、まだだ。だが、言っておいた方が良いな。」

「だな。」

その後、俺と高虎で雄二に伝え、雄二が他のクラスメイト全員に伝え、明日も警戒するように、と釘を刺した。恐らくこれで没収される割合はかなり低くなるだろう。それでも持って来るバカは居るだろうが…

 

~時間経過~

 

「何だ、全然誰も持って来ていないのか?」

始業式の翌日、思っていた通り持ち物検査があった。Fクラスは事前に警戒するよう伝えていたのでバカなクラスメイト達もセーフ、没収された物は携帯に着いているストラップ程度の物で、マンガや小説を没収されるものは居なかった。

「始業式に無ければその次の日にあると言ってくれた奴が居てな。」

「ははは。流石に手の内を読まれていたか。」

西村教諭も没収物が少なく機嫌が良いのか珍しく笑っている。これを後五クラスやるのか…

「ふう、ほぼ無傷で終わることができたな。吉継に高虎、感謝するぞ。」

「…ありがとう。」

隣でムッツリーニも頭を下げる。そういえば何時もはコイツの情報網を駆使して持ち物検査の日程を調べていたな。夏休み明けで気が抜けていたのだろう。

「いや、例には及ばぬ。それはそうと、そろそろ体育会の季節だよな。」

「ああ。それがどうしたんだ?」

「確か、普通種目の裏で野球大会もやると聞いたが…」

「そうだな。俺達は特に楽しみにしていた訳では無いから余りやる気は無いが…」

「明智先生の話によると、今年は召喚獣を使った対戦になるらしいぞ。」

「…は?」

雄二が固まる。特にやる気も無いなら驚く事も無いだろうに、どうしたんだろうか。

「何でも、試験召喚システムの実験の一環らしくてな…」

「…優勝だ。」

「は?」

「召喚獣を使った勝負に今のAクラスが乗って来ないはずが無い。万一俺達が無様な負けを喫すれば何かしらの言い掛かりを付けて来るにちがいない。優勝して今度こそあいつらを骨抜きにするぞ。」

「そうか…だが、雄二がそんな事を言うなんて珍しいな。」

「…翔子を元に戻すにはこれしかない。この教室を明け渡しても恐らく無駄だ。」

雄二が悲しげな表情を浮かべて喋る。なるほどな…酷い仕打ちを受けても霧島とは幼なじみで、何とかして前の様な関係に戻りたいと考えているんだな。いや、今まで仲良くしてきたのだからそう考えるのは当然か。

「…お前の気持ちは分かった。この野球大会、全力を尽くして優勝を目指すぞ。」

「ああ。ところでどういった対戦形式なんだ?」

「まず同学年のEクラスとFクラス、CクラスとDクラス、AクラスとBクラスで対戦し、勝者が別学年の同じクラスの勝者と戦う。その後は…EFの勝者とABの勝者、CDの勝者と教師チームが戦う準決勝があって、最後に決勝がー」

「待て。俺の耳には教師チームと聞こえたんだが…」

「ああ。教師も出るらしいな。」

「…さっきの優勝宣言、撤回して宜しいでしょうか。」

「駄目です。」

さあ、雄二はどんな戦略を立てるのか、楽しみだ。

 



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野球大会2

私自身野球は殆ど見ないので、間違っている部分などあれば指摘して頂けると嬉しいです。


時は流れ、体育会の日となった。

先程野球大会の一回戦のオーダー用紙を出しにいった。スタメン九人にベンチが二人。二回戦以降は変わるかも知れんが、一回戦のメンバーは下の通りだ。

一番 中 土屋康太

二番 二 木下秀吉

三番 投 坂本雄二

四番 左 姫路瑞希

五番 遊 大谷吉継

六番 一 藤堂高虎

七番 右 明智玉

八番 三 島田美波

九番 捕 吉井明久

 

控え 須川亮 横溝浩二

 

俺自体は野球を見ることは殆ど無く、メンバー決めやポジションを何処にするかも完全に雄二や明久達に任せる事となった。まあ、何があっても最善を尽くさなければな。

「雄二、体育会の本競技はどうするんだ?」

「問題ない。近藤に一切を任せた。」

「そうか。なら気にする事は何も無いか。」

俺達の目標が野球大会の優勝だからといって、本競技を蔑ろにするのはアレだからな。勉強も運動も出来ないなんて言われたら笑えないしな。

さあ、野球大会の始まりだ。初戦のEクラスは難なく潰せるだろう。

 

~時間経過~

 

お互いのクラスが整列し、礼をする。向こうのメンツを見る限り…運動部所属の連中が多いか。予想したよりも厄介かもしれん。

「一応ルールを確認しておくぞ。この試合は原則五回まで。同点で最長七回まで延長され、そこでも勝負がつかなければ引き分けとなり、両チーム敗北扱いになる。そして一回ごとにフィールドの教科も変わる。後は…」

高虎が事前に渡されたプリントを見てクラスメイトに注意をする。アイツはああいった副リーダー的役割が増えたな。俺はどちらかというと計画や作戦の実行が多くなっているのと対称的だ。

「良し!初戦をきっちり勝って、目指すは優勝だ!」

『おうっ!』

試合が始まった。先攻はFクラスで、科目は物理。向こうのピッチャーは…代表の中林か。

『 Fクラス 土屋康太 

  物理   168点  』

VS

『 Eクラス 中林宏美 

  物理   103点  』

期末試験の点数が反映されているから、かなり高いな。Bクラス位の点数はあるな。

「ボール!」

外して来たか。恐らくはFクラスの中でも点数の高い奴だからと踏んでの事だろうが…

「ボール!フォアボール!」

ムッツリーニはフォアボールか。中林、秀吉を狙って来たのか。さあ、秀吉の点数は…

『 Fクラス 木下秀吉 

  物理   108点  』

「なっ…!?」

中林が驚きの声を上げる。たまたま点数の高い奴が居たわけでは無く、ここにいるFクラスのメンバーは皆点数は上がっている。それにアイツは気がつかなかったか…

「くっ…!」

顔を紅潮させつつボールを投げる。が、秀吉は難なく打ち返した。一、二塁間を抜けてライトの前に転がる。その間にムッツリーニは三塁へ、秀吉は二塁に進んだ。

で、次のバッターは…雄二だな。

『 Fクラス 坂本雄二 

  物理   273点  』

「嘘でしょ!?アンタら何でそんなに点数高いのよ!?」

「そりゃまあ、努力を重ねたからか?」

うむ、嘘は言っていないな。実際皆期末前には物凄く頑張っていた訳だしな。

「ふんっ!」

カキーン。

中林の投げた渾身の投球も雄二によってあっさりと打ち返される。点数差もあってか球はそのまま場外へ抜けて行った。スリーランホームランだ。

「そ、そんな…」

中林が呆然としている。…気の毒だが、まだまだ俺達の攻撃は終わらないがな…

『 Fクラス 姫路瑞希 

  物理   348点  』

「…もう嫌ぁっ!」

悲痛の叫びを上げるも、姫路は先程の雄二のようにあっさりとホームランを打った。

そして俺、高虎とホームランを連発し、この試合は俺達Fクラスの大勝利に終わった。



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野球大会3

「ふむ、このまま試合が終わるなら次は不戦勝になりそうだ。」

一回戦を終えて本競技で出番の無い俺は、三年EクラスとFクラスの試合を観戦している。五回表が終わって0-0。裏の攻撃はFクラスなので恐らく得点は出来まい。実際もうツーアウトなのにランナーが無い状況だ。もうチャンスは無いな…おっと、終わったか。引き分けだな。雄二に伝えに行くとするか。

 

~移動中~

 

「そうか、なら俺達の次の出番は三回戦だな。」

「ああ。で、Aクラス対Bクラスの試合は二年も三年もAクラスが勝ったらしい。」

三年の戦力は良く分からないがBクラスに大差で勝っている。対する二年Aクラスは何故か2-0というそこまで大差勝ちではない。主力を温存していたのか…?

「重ね重ね悪いが、二年と三年のAクラス対決、姫路と見に行ってくれんか?」

「分かった。少し休んだら動くとしよう。」

開会式から何も飲んでいなくて少し頭痛もしてきたからな。まあ少し休んだら治るだろう。

おっと、高虎がリレーに出ている。アイツ帰宅部の癖に良く陸上部の奴らに付いて行けるな…

 

……

 

「なるほど。Aクラスは主力を封じ込めているな。スタメンにも控えにも霧島や木下の姿が見えん。」

「何でそんなことをするんでしょうか?」

「教師チームと、俺達が居るからだろう。アイツらの事だから俺達が勝ち上がって来ると考えて、全力を以て当たろうと言う魂胆だ。」

仮にここで俺達に勝っても何もメリットが無いんだがな…下位クラスの後塵を拝するのは嫌なのだろう。かく言う俺達も取り組む理由が中々こじつけに近いモノだったが…召喚獣を使った勝負に負けたくないのだろう、何だかんだ言っても雄二は割と単純な奴だしな。

『 Aクラス 紺野洋平

  物理   184点  』

「あれ?紺野君の点数、低くないですか?」

「恐らく一回戦で使った教科…いや、違うな。となると…」

期末の時に言っていた成績の二極化か。Bクラス上位に劣る程度と聞いていたが、ここまで下がっているのか。

「素であの点数なんしょうか。」

「だろうな。あの教室に移って、さらに設備がランクダウンしているから相当厳しい状況なんだろう。それに対して霧島や木下とかの最上位陣は成績がかなり上がっていると聞く。ここで2Aが勝ったら次は俺達とだ。主力を惜しまず投入して来るだろうな。」

「…具体的な点数は分かりますか?」

「全教科お前の数学。」

「…」

唖然としているな。つまりは全ての教科で腕輪が使える訳だからどう足掻いても苦戦することは間違いない。こちらも総合戦力は期末で大幅に底上げされたがそれでもまだAクラスには遠く及ばないからな。どうやって渡り合うかは考えないと…ん?

「そういや、三年Aクラスの代表って誰だったか分かるか?」

「えっと…高城雅春、だったはずです。私も良く顔を知らないですけど…あれ?」

「俺も今年の始業式以外見ていないが…恐らく試合に出ていないな。この試合自体に興味が無いんだろうな、恐らく。」

実際、三年生の方が召喚獣の扱いには慣れているはずなのに3-1で二年生の方が勝っている。今が四回裏で二年生の攻撃なので、後一回で試合終了だな。

「このまま行けばAクラスとか…試合とか関係なく精神的に疲れるだろうな。」

「ですね…」

姫路もこれには苦笑いするしかない。さて、五回の攻撃もそろそろ終わるし準備を始めるか。

試合はそのまま二年Aクラスが勝利した。

 

~時間経過~

 

二回戦終了から三十分後、三回戦である二年Fクラス対二年Aクラスの戦いが始まった。向こうは霧島、木下、工藤、久保と主力を全投入してきた。こちらも一回戦を圧勝で終えたメンバーで迎え撃つ。戦うからには勝たねばな。

「それでは試合を始めます。礼!」

『宜しくお願いします!』




都合により三年生はこの章で出番がありません。後々出ては来ますが…


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野球大会4

久々の更新となります。
できれば今週中にもう一、二話書けたらと思っています。


野球大会三回戦、二年Fクラス対二年Aクラス。俺達のオーダーは以下の通り。

一番 中 土屋康太

二番 二 木下秀吉

三番 遊 大谷吉継

四番 左 姫路瑞希

五番 一 藤堂高虎

六番 右 明智玉

七番 捕 吉井明久

八番 投 坂本雄二

九番 三 島田美波

 

控え 須川亮 横溝浩二

 

一回戦から少し変えたが大幅な変更やポジション変更は無い。続いてAクラスのオーダーだ。

一番 捕 工藤愛子

二番 遊 佐藤美穂

三番 左 木下優子

四番 投 霧島翔子

五番 三 久保利光

六番 右 栗本雷太

七番 二 飯島卓也

八番 中 森兵恵

九番 一 時任正浩

 

控え 花岡麗 紺野洋平

 

一番から九番、更に控えも超豪華メンバーだ。期末で点数が上がった連中なのだろう、心してかからねばすぐにやられそうだ。

 さあ、試合開始だ。まずは俺達の攻撃。教科は…保健体育か。一番のムッツリーニが打席に立つ。

『 Fクラス 土屋康太

  保健体育 744点  』

      VS

『 Aクラス 霧島翔子

  保健体育 387点  』

倍近い差がある。流石ムッツリーニだな。

霧島の召喚獣が球を投げる。かなり速い。が、コントロールは余り良くないか。いや、まだ慣れていないだけか?ムッツリーニは身動きせず見送る。ボールだ。

二球目。霧島はど真ん中に投げてきた。ムッツリーニは難なく打ち、ツーベースヒットとなる。

 「良いぞムッツリーニ!」

雄二が叫ぶ。 Aクラスへの挑発だろうか。まあいい。次は秀吉の番だ。

『 Fクラス 木下秀吉

  保健体育 119点  』

霧島との差は三倍か。これでヒットを打つのは厳しいか?

霧島が投球する。秀吉はそれをバットに当てるが点数差が響いたのかほとんど飛ばずにサードゴロに終わる。

…次は俺の番か。仲間の声を背後にバッターボックスに向かう。

『 Fクラス 大谷吉継

  保健体育 357点  』

点数にそこまで差は無いが、負けている。慎重に行かねばな。

「…」

霧島が俺を睨み付ける。どのような心情なのかは知らないが、手加減はしてくれなさそうだ。

そんなことを考えていると、目の前を驚く程速い球が横切る。判定はボール。

「ふむ、想定していたより遥かに速いな。」

秀吉が打てなかったのも頷ける。得点の高い姫路や高虎、雄二なら打てるだろうが、毎回これが来るなら大分キツい。

そんな事を考えている間に霧島が第二球を投げる。

「…っ、これなら。」 

思い切り召喚獣にバットを振らせる。当たった。

「良し、走れ吉継、ムッツリーニ!」

ボールはライト前に落ち、向こうの栗本が取り損ねてあたふたしている。彼がボールを戻した頃には俺は二塁に、ムッツリーニはホームベースを踏んでいた。一点先制だ。

 さあ、次のバッターは姫路。点数は高いし上手く行けばホームランも夢では無いだろう。

『 Fクラス 姫路瑞希  

  保健体育 368点  』

「…瑞希、貴方には打たせない。」 

「絶対に打ちます。明久君や、坂本君、Fクラスの為にも!」

第一球、スライダーが来る。姫路、大きくバットを振るがファウル。

第二球は外角低めに投げてきた。打てないと判断した姫路は見送る。ボール。

第三球、真ん中ストレート。これを待ってましたとばかりに振り抜いた。

 キーン、という音が響いてセカンド、センターの頭上を大きく越え、得点板の向こうにボールが消えていった。ツーランホームランだ。

「やった!大谷君、やりました!」

「分かった、分かったから俺を抜かさないでくれ。アウトになる。」

これで3-0。幸先良いスタートになったな。

そしてこの後高虎がヒットを打ったが玉、明久、と三振、フライと二人連続で打ち取られた。 

一回表が終わり、向こうの攻撃となる。心して守らないとな…

 



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野球大会5

少し短いですが、Aクラスの攻撃になります。


 これからAクラスの攻撃で、一番は工藤愛子。保健体育を得意としているが、どれ程の点数だ…?

『 Aクラス 工藤愛子 

  保健体育 569点  』

 「…ちっ。」

雄二が舌打ちをしてこちらを向き、アイコンタクトを取る。

(敬遠で良いか?)

(仕方無いだろう。)

正直雄二の点数で太刀打ち出来るとは思っていない。

『 Fクラス 坂本雄二 

  保健体育 226点  』

上がったとはいえAクラストップ層にはまだ遠い。妥当な判断だろう。

そして四球とも完全に外して工藤を歩かせた。

 次の打者は佐藤美穂。メガネが特徴の女子でいかにも勉強が出来そうな見た目だ。

『 Aクラス 佐藤美穂

  保健体育 304点  』

さあ、雄二はどう出るか…低めに投げたか。これは打てないな…って、打ってきたか。大きく上がってセンターのムッツリーニがしっかりと捕球する。これで1アウトだ。

さて、三番は木下。一体どんな点数が飛び出してくる?

『 Aクラス 木下優子 

  保健体育 383点  』

「おお…」

霧島とほとんど同じ位取っているのか。他の教科もこれ位取っているだろう。かなり苦しい戦いを強いられるのは確実だな。

「木下姉。俺は直接お前と勝負する気は無い。どうせ勝てないからな。だから…歩いてもらう。」

工藤の時と同じく敬遠して歩かせる。別に構わんがランナーが一、二塁だぞ?次はエースの霧島なのにどうするんだ? 

「審判、タイム。Fクラス、集まれ!」

雄二が皆を集める。

 

~~~~

 

「次の向こうのバッターは翔子。で、ランナーは一、二塁。それが今の状況だ。」

「うん、それがどうしたの雄二?」

「正直ここでスリーランホームランを食らう可能性は高い。どうやってこの危機を乗り越えるか、お前らの意見を聞きたい。」 

コイツまさか何も考えてなかったのか。何も考えずに歩かせてたのか。

「打たせて取る方法も無くは無いが…俺の見立てではそのままホームランになる。」 

高虎の推測は恐らくほとんど間違えていないだろう。150点以上差があれば軽く触れただけでも相当飛ぶ。ならどうしたら…

「ま、テキトーにやったら良いんじゃない?ウチらも頑張るから。」

「ま、島田の言う通りか…済まなかったな。自分の守備位置に戻ってくれ。」

 

~~~~

 

 雄二が一球目を投げる。微妙な所だな、ボールかストライクか…

『ストライク!』

お、入ったか。

続いて第二球、外角低めの…カーブ。召喚獣、変化球も投げられるのか。

「…っ!」

霧島が振る。大きく右に逸れてファウルになる。ファウルだったとはいえ、あれだけ飛ぶのか。上手く打たれたらひとたまりも無いだろう。

第三球、同じく外角低め。これは…打たれた。レフト方向に飛んで…姫路がキャッチする。これでツーアウトか…あ、工藤が飛び出している!

「姫路、セカンドにボールを送れ!」 

「え?は、はい!」

姫路がセカンドの木下に送球し、飛び出た工藤の召喚獣をタッチ。これでスリーアウトだ。

「あちゃ~、完全に忘れてたよ。」

頭を掻きながらAクラスのベンチに戻る工藤。そこまで悔しさが窺えないな。まあそんな事は良い。取り敢えずしっかりと二回の攻撃をしないとな。教科は…日本史か。



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野球大会6

案外早く書けたので投稿します。
Aクラス戦はあと3、4回で終わらせようと考えています。
※打順やアウトカウントを間違えていたので直しました。


 二回表、こちらの攻撃は雄二からだ。

「高虎、この状況、どう見る。」

「少し不味いかも知れん。日本史は明久や俺達の得意科目、だが霧島がピッチャーな以上下手したら姫路や俺にまで回って来ないだろう。」

ふむ…お、二人の点数が出てきたぞ。

『 Fクラス 坂本雄二

   日本史 244点  』

      VS

『 Aクラス 霧島翔子

   日本史 402点  』

「…何だと?」

霧島、遂に400点の大台を突破したか…そう言えば腕輪が無いな。ムッツリーニの時もアイツの召喚獣に特に何も付いていなかったし。

「…」

霧島が第一球…を…

「うおっ!?」

雄二が驚いて飛び退く。無理は無い、一回の攻撃では見られなかった程に速い球だったからだ。

しかし、急に何故…?

「霧島さんの球、凄く速かったですね…」

「うむ、もしかしたら観察処分者になってから色々と召喚獣の動かし方を研究しているのかも知れないのじゃ。」

…そうか、ナイスタイミングだ玉。アイツは観察処分者であるが故に召喚獣の操作に慣れきって居るのか。元々覚えて慣れるのが早い霧島の事だ。それに技術が付いたら恐ろしい事になるな…まだ先だがこれからの戦争が怖い。

「…雄二、覚悟して。」

「そう簡単にやられるかよっ!」

内角高めのボールを綺麗に捕らえた…かに見えたがゴロだ。三塁の久保がキャッチして送球する。

「良し、オッケー…って、あっ!」

ファーストの時任の召喚獣が一塁を踏んでおらず、雄二の召喚獣が滑り込んでセーフとなる。はっきり言って運が良かったな。

「さあ次だ、頼むぞ。」

「…任せろ。」

 

~~~~

 

 「ごめん…」

「…済まない。」

島田ととムッツリーニが暗い顔でベンチに戻ってくる。二人とも空振り三振で手も足も出なかった。

さて、次は秀吉の番か。

『 Fクラス 木下秀吉

   日本史 138点  』

ふむ、やはり文系科目はそれなりにとれている。まだまだ伸び代がありそうだな。

 霧島の第一球。秀吉は敢えて見逃してどれ位速いかを見る。

…なるほど、思っていた以上だ。これを打つのは相当厳しいな。

そんな事を考えている内に第二球が投げられる。外角高めを打った。

『ファール!』

バットに当てることは出来たが右に大きく逸れる。これで1ストライク1ボールか(第一球はボール)。

第三球、これはど真ん中。秀吉もこれを逃さず打った。

「ふんっ。」

上手く打つことができ、レフト前にボールが飛ぶ。その間に秀吉は一類、雄二は二塁に進もうとした。

「飯島君!」

木下姉が飯島にボールを送球する。恐らく、急げば二塁は間に合うかも知れないと思ったんだろう。その判断は正しい、捕球する二塁手も木下姉や霧島の様な奴ならば…

「え…ちょっ、うわっ!?」

飯島は突然の事に反応できず、召喚獣の頭部が木下の投げたボールによって無惨に消し飛ぶ。

『 Aクラス 飯島卓也

   日本史  0点  』

…まさか、試召戦争でも無いのに戦死者が出るとは…ちなみに戦死した飯島の代わりとして控えの紺野が出てきて事なきを得ている。

というか、さっきの木下姉の送球、ボールが火を帯びていた様に見えるんだが…どこかの超次元サッカーの世界かと思ったぞ。

そしてFクラスの次の打者は俺。ツーアウトだが一、二塁にランナーが居る、チャンスだとFクラスの誰もが思っていた。

『アウト!』

それは二塁で起こった。リードしていた雄二が霧島の牽制球の余りの速さに対処できずに刺された。

…何となくもやっとするが、仕方あるまい。守備を頑張らねばな。

 

~~~~

 

 向こうのバッターは久保。恐らく期末での成績は上がってはいても下がることは無いだろう。

『 Aクラス 久保利光

   日本史 350点  』

先程の霧島の点数を見ていて麻痺していた訳では無い、コイツも十分に高い点数だ。

雄二の第一球、ど真ん中に投げた。久保は…見送った。

『ストライク!』

「…?」

雄二がキョトンとした顔をする。それを見て久保がふっと微笑む。

続く第二球、雄二は外角高めのストレート。ギリギリだが間違いなくストライクであろう場所だが…これも振らない。 

(まさか、久保は俺達と勝負する気は無いのか…?)

俺はそう考えてしまった。真意は久保に聞かないと分からないのだが、強化合宿で心境の変化の兆しを見せた奴だ、そう考えてしまう。

三球目、またもや外角高めに投げたボールを奴は何もせずに見送った。見逃し三振だ。

「…久保、どういう意図だ…?後で俺達に恩着せがましくしてこなけりゃ良いが…」

雄二、そこまで疑わなくても…いや、Aクラス生徒相手だ、そうなってしまっても不思議ではない。

 続く栗本は空振り三振に抑え、飯島に変わって出てきた紺野は五球ファールで粘ってからのライトフライに抑え、この回も無失点で切り抜ける事が出来た。

現在3-0。リードした状態で試合は中盤へと入っていく。



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野球大会7

次回でVSAクラスは終わりの予定です。


 三回の攻撃、教科は化学。そしてこちらのバッターは玉だ。

『 Fクラス 明智玉 

   化学  177点  』     

      VS

『 Aクラス 霧島翔子

   化学  399点  』

点数ではまあ間違いなく負けるか。

霧島が第一球を投げる。ボールだ。微妙な所だったが玉は良く見ていたな。

第二球、これは真ん中に来る。玉が芯で捕らえたがファール。惜しかったが、点数差を考えたらあれでも飛ぶかどうかは分からなかったな。

第三球、第四球は共にボール。これでスリーボールだが、霧島が仕組んだものではなさそうだ。

そして第五球もボール。フォアボールで玉が一塁に進む。

続くバッターは明久。

『 Fクラス 吉井明久 

   化学  83点  』

大分上がってきたが、まだ霧島には遠いか。仕方ない。

「それっ!」

第一球、ボールをバットにコツンと当てる。送りバントだ。

霧島は二人ともアウトにしようと二塁に投げるが玉が滑り込んでセーフ。明久も間に合った。

ノーアウト一、二塁。このチャンスで次のバッターは雄二。

『 Fクラス 坂本雄二

   化学   267点  』

お、中々高いな。これなら上手く行けばもう一点位は…

第一球、低めのストレート、ボールだ。

第二球、少し低めのスライダー、ん?結構遅いな。これなら…  

「よっと!」

おもいっきりバットを振り抜く。打球は左中間を抜け、その間に玉がホームに帰還。続く明久も三塁を蹴ってホームに向かったが木下の召喚獣のレーザービームのような豪速球に勝てずにアウト。何はともあれ4点目だ。しっかりと守ろう。

その後の島田はあっさり三振を取られ、攻守交代になった。

 

~~~~

 さあ、相手のバッターは森兵恵。点数は…

『 Aクラス 森兵恵

   化学  288点  』

霧島や木下の点数を見た後だからほっとするな。これなら油断しなければ打ち取れそうだ。

森は一球目、打ち返せない様なボールを打とうとして打ち上げてしまい、キャッチャーフライ。これでワンアウト。

続く時任正浩。点数は221点と割と低い。いや、これでようやくAクラスの平均位か。

こいつも難なくファーストゴロで打ち取る。さあ、打者が一巡して工藤の番だ。

『 Aクラス 工藤愛子

   化学  333点   』

お、ゾロ目だ。じゃない、割と高いな。打たれたら少し不味いが、雄二はどうする。

「……」

左目を閉じて何か考えている様子だ。敬遠するかどうか、だろうか? 

「…良し、行くぞ。」

一分程経過してから雄二が投げたのは…ど真ん中のスローボール。何をやってるんだ、アイツは…と思ったのだが、工藤はバットを少し低めに振る。

『ストライク!』

…雄二、それが狙いか。久保が何もせずに見送ったのを見て、同じくAクラスの体制に疑問を持つ工藤にも同じ事をしたんだな。目の付け所は良いが、下手したらホームランを打たれる。危なすぎるな…

結局工藤はその後の二球もボールに触れないようにスイングして三振でアウト。三回裏の攻撃は三者凡退で終わった。

4-0で俺達がリード。後二回守りきれば勝利だ。

 



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野球大会8

二年間放り出してしまい、申し訳ありません。
Aクラス戦と教師戦、一気に終わらせていただきました。


 四回表は一番のムッツリーニから、教科は英語だ。

『 Fクラス 土屋康太

   英語   73点  』

      VS

『 Aクラス 霧島翔子

   英語   344点  』

霧島の一球目は内角高めに来た。ムッツリーニも反応したが点数差が大きく押し負けてしまい、打ち上げてキャッチャーフライでアウト。

 さて、次は秀吉だ。

『 Fクラス 木下秀吉

   英語   122点  』

どれも基本的に3桁に乗ってるのは喜ばしい限りだ。

「…それっ」

「ぬおっ!?」

一球目は渾身のストレート。秀吉も反応できずに後ろに飛び退いてしまう。

二球目は打って変わってど真ん中にスローボール(とはいっても普通に速いが)。これなら打てると思い切りバットを振り抜いたが急速が遅かったこともありあり、打球が延びずセンターフライに終わった。

 さあ次は俺だ。

『 Fクラス 大谷吉継

   英語   318点  』

「ぐっ!」

霧島の召喚獣の手からのボールがすっぽ抜けてデッドボール。痛みは無いとはいえ召喚獣が痛そうにしているのは見ていて少々辛いものがある。

『 Fクラス 大谷吉継

   英語   146点  』

(肩に当たっただけでこんなに減るとは…)

常々思うけど、偶にダメージの出方がおかしいときあるよなあ。運が悪い。

まあ何はともあれ出塁し、四番の姫路に後を託そう。

『 Fクラス 姫路瑞希

   英語   339点  』

流石の点数だ、少し下がっていると言っても霧島と互角程度の点数を出せるとは。

「…っ!」

「きゃあっ!?」

「審判タイム!おい翔子!何やってんだ!」

またしてもデッドボール。しかもすっぽ抜けた訳でもなく明らかに姫路の召喚獣を狙ってきていた。

「…間違えた。」

「嘘をつくな!どう見てもわざとじゃねえか!おい審判、なにか言ってやれよ!」

「えっと…少し待ってください。西村先生を呼んできます。」

雄二がベンチからピッチャーマウンドに上がって自ら霧島に抗議する。審判として出席していた布施教諭は雄二の剣幕に押されて西村教諭を呼びに言ってしまった。

「吉継、これはどうなるんだろう?」

「分からん、ただ危険球で退場になる可能性はあるな。もしかしたら反則まけにするか…」

「そこまでするかな?」

「教師陣としてはこのイベントはそこまで大事じゃないだろうし、面倒になってそんな判断を下す可能性もあるだろう。それにやらかしたのが霧島だしな。」

まあ明久の言ってるようにそこまで大事にならないのかも知れんな。警告くらいで終わるのかも。…おっと布施教諭と西村教諭が戻ってきた。

「待たせて済まんな。布施先生から話は聞いた。」

そう言って深くため息をつくと、Aクラスの方へ向いた。

「今回は試召戦争のシステムを使ったから良いものの、実際の野球だと大変なことになるのかも知れんのだぞ?

「…済みません。」

「まあ今回の件で特に処分はするつもりは無いが、時間も少し押してるしAクラスの反則負けという事にさせてもらおう。」

 まさかの「もしかしたら」の結果になってしまった。Aクラスの連中は当然抗議をしているが、西村教諭は気にする素振りすら見せていない。

「呆気ない幕引きだな、吉継…」

「俺もそう思うぞ、高虎…」

 抗議中のAクラスと試合終了を喜んでいるFクラスの連中を横目に、物足りなさを感じつつ俺たちはそう呟いた。

昼飯を食ったら決勝戦か。教師チームがどれだけ強いのかは気になるな。

 

~時間経過~

 

 野球大会決勝戦はあっさり終わった。一言で片付けると「まるで試合にならなかった」だな。

全教科で650点を超える明智先生。

理数系で800点という人外な点数を叩き出している高橋教諭。

明智先生とほぼ同等な上に運動センスが抜群な西村教諭。

こちらの攻撃はものの数分で終わり、向こうの攻撃はいつまで経っても終わらずに続き、試合が終わってスコアボードを見ていると23-0という大差になってしまっていた。

明智先生いわく「50-0を想定していたので、皆さんは良く頑張った方です」とのこと。なんというか嫌味に聞こえるな…

まあ準優勝だし、Aクラスに勝ったのだから御の字だろう。

 二学期は始まったばかりだが、もう目立った催しは無いな…

 




本当にお久しぶりでございます。そして二年間放りっぱなしにしていた事をお詫びします。
当初は大学受験のために一年間で済ます予定でしたが、勉強不足のせいで浪人していました。
今後も忙しいとは思いますが、できる限り投稿は続けるつもりなので気長に待っていただけたら幸いです。
野球大会はこれで終わります。次の章は他クラスとの連続戦争になります。
それでは次回、またお会いしましょう。


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設備防衛編
設備防衛戦1


会話文多めです。


 体育大会が終わって少し経った日の朝のこと。

「おう、早いな吉継。」

「お前も早いな、雄二。」

すぐにでもAクラスが攻め込んで来ると踏んでいたが、そうでもないようだ。これは真偽の程は分からないが、以前言っていたAクラスの成績の二極化が原因で下位の連中を鍛えて元の成績に戻すまで時間がかかるからとの事らしい。

「ところで雄二よ。いい加減霧島や木下の態度に不満があるAクラス生が出てこないのか?」

「良く分からないんだよ…この前休日に久保と会って話した時には、アイツと工藤含めて10人弱は居るっぽかったんだがな」

進級早々豪華な設備が脚が折れかけている卓袱台と綿がロクに入っていない座布団に変わり、清涼祭ではクラスの代表が不良を呼んで悪事を働こうとし、木下と霧島の嘘に騙されたことで全クラスを敵に回した上に更に設備ランクを落とされるという目に遭っている。そろそろ霧島たちに文句の一つでも言いたいやつが出てきても良いんじゃないかと思っていたが、それよりも俺達から設備を取り戻したいという気持ちがあるのだろうな。まだ10人程度しかそういう奴が出てこないのはそういう事だろう。

「やっぱり俺達への反発が強いんだろうな。」

「俺達は学園の規則に従って戦っただけだ。翔子もそれは分かっている筈なんだがな…」

雄二は何だかんだ文句や言いたいことが沢山あるのだろうが、今までの付き合いもあって見切りを付けられないのだろう。霧島もその雄二の苦悩を分かってほしい所なのだが…

 「失礼するわね。」

教室のドアが開き、緑色の髪色をした少女が入ってきた。確か、Cクラス代表の小山友香だったか。

「どうした小山。」

「まずは体育大会でAクラスに勝てておめでとう。」

「素直に受け取っておこう。それでどうした?まさかそれだけを言いに来た訳じゃないんだろ。」

「ええ、じゃあ本題に入るわ。私達CクラスはFクラスに対して試験召喚戦争を申し込みます。」

まあクラス代表がわざわざ来たってことはそれくらいしか考えられん。なんにせよ俺達のほうが設備が上な以上受けて立つしか無いな。

「了解した。開始時刻はいつ頃だ?」

「私達も作戦をクラス全体に説明する時間が必要だから、10時以降が望ましいわ。」

「じゃあ10時半で良いか?」

「大丈夫よ。それじゃあまた戦後対談で会いましょう。」

そう言って小山は教室を去っていった。初めの印象は割とキツい感じのお嬢様みたいな感じだったが、そこまでではないな。

「さて、作戦を立てなきゃな。高虎が出たらお前が説明してくれ。」

「分かった。雄二はクラスの連中の点数をもう一度纏めておいてくれ。」

さあ、忙しくなるぞ。

 

~時間経過~

 

 「全員集まってるな?それじゃあ今回の作戦を伝える。」

朝礼を終えて明智先生が出ていった後、教壇に立った雄二が全体を見渡す。

「今回は今までとは違って防衛戦だ。Dクラス、Bクラス、Aクラス戦とは違って守りに徹するぞ。そして敵が少なくなったタイミングで総攻撃を仕掛ける。」

今回からは設備奪取ではなく設備防衛が目的だからな。積極的に攻勢に転ずる必要性はない。

「それだけで良いの?」

「ああ。打って出ても勝ち目は十二分にあるし、もしムッツリーニが根本にやったように奇襲を仕掛けられても撃退する自身はある。だがもう無理して勝ちに行く必要性は無いしな。」

「問題は小山がどこに本陣を置くかじゃな。それでわらわ達の防衛ラインも変わってくるであろう?」

玉の言うとおりだ。現在のFクラスとCクラスは教室が隣同士。そんな状況でいきなり総力戦は向こうもやりたくないだろう。

「そうなんだよな…この階の旧校舎側の空き教室に来てくれたら楽なんだがな。4階に行かれたら攻め上る必要があるから面倒だし。」

そう雄二が呟いたところで、長谷川先生がクラスの本陣の位置の確認にやってきた。どうやらCクラスは4階に行ったようだ。

「それにしても、そこまで単純な戦い方で良いんでしょうか?向こうは色々策を巡らせていると思いますし、にらみ合いになったらいつまで経っても勝敗がつきません。」

「姫路の思いも分かるが、向こうは攻めに来ている方だから、戦端を開く意思が見えなくなると自動的にアイツらの負けになる。今回はそうやって地道に勝とうと思う。」

「…だが、つまらないのは事実。俺や明久が陽動として動いてCクラスを撹乱したりはできるぞ。」

「それは吉継や高虎も言っていた。まあでも今回は採用しないぞ。」

面白そうではあるが下手に戦力分散はさせたくないだろうし仕方ないか…

「それなら雄二。総攻撃の段になったらやってみて良いんじゃない?うまく行けば近衛部隊を引きはがせるから楽に勝てるよ。」

「確かに一理あるな。どうだ吉継、高虎?」

「それなら良いと思うぞ。」

「吉継に同意だ。これから続く戦争の作戦を立てるときのデータにもなる。」

終盤なら敵の数も少ないしな。

「よし、それなら総攻撃時には二手に分かれるぞ。本体は俺が率いる45人で新校舎側の階段から攻め上る。高虎、明久、ムッツリーニ、近藤、英の五人は階段で俺達より先行して一度1階へ行き、旧校舎側からCクラス本陣を目指せ。行けるな?」

『おう!!』

「よーし、それじゃあ配置に付け!!守り切るぞ!!」

これから始まる他クラスとの長い戦争の日々が始まろうとしていた。

 



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