ヤンデレな彼女達 (ネム男)
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春が来たと思ったら

※これは作者の自己満足作品です。ヤンデレはいいぞ( ˘ω˘ )


 

「あの……ずっと、あなたの事が好きでした!私と……付き合ってください!」

 

「……へ?」

 

高校1年生の6月のある日。俺にも春がやってきた瞬間であった……

 

俺の名は--佐藤 拓也--。成績は良くもなければ悪くもなく、運動もそこそこできる普通の男子高校生だ。

そんな平凡な俺がこの日の放課後、綺麗で長い金髪の女子生徒から告白された。

告白した彼女の名は--サリア・ローザ--。隣のクラスの女子生徒だ。フランス人であり成績優秀、運動神経も抜群で、クラスの学級委員も務めており、皆の憧れの存在だ。

そんな完璧美少女がこんな平凡な俺に告白してきたのだ。喜ぶ前に何か裏がありそうな気がして警戒していた。

 

「えっと……告白相手を間違ってませんか?」

 

「いえ、何も間違っていません。私は拓也さんに告白しています」

 

「誰かに罰ゲームとかで命令されたとか……」

 

「そんなことは断じてありえません。私は自分の想いを正直に伝えています」

 

「………」

 

彼女の瞳は真っ直ぐに俺を見つめている。どうやら嘘はついてないらしい。

俺は思いっきり右の頬を抓ってみる。

……普通に痛い。どうやら夢ではないようだ。ということは……

 

「……えええええええええ!?」

 

遂に俺にも春がやってきたぁぁぁぁぁあ!!

 

 

と口で驚きつつ内心でめちゃくちゃはしゃいだ。

 

「あの……ご迷惑だったでしょうか?」

 

「いやいやいや!全然!むしろ夢ではないかと思ってめっちゃパニクってるところ!」

 

「ふふふ♪夢じゃありませんよ?現実です」

 

サリアはニコッと笑顔でそう言った。あぁ、天使はここにいたのか。

 

「えっと、それで、お返事は……」

 

不安そうに俺に返事を求めてくる。答えはもう決まっているではないか。

 

「こんな、平凡で何の魅力もない俺ですが……よろしくお願いします!」

 

そう言って俺は頭を下げた。

 

「ッ!ありがとうございます!!」

 

サリアは明るい笑顔で俺の手を掴んできた。

 

「これからよろしくお願いしますね、拓也君♪」

 

こうして俺はめでたく非リア充からリア充になった。

 

------

 

サリアと付き合い始めて一ヶ月が経った。平日の学校では一緒に登校し、一緒に弁当を食べ、一緒に下校する。そして土、日の2日間は朝から夕方までデートをして、お互いにとても幸せな時間を過ごしていた。

 

そんなある日。ちょっとした出来事が彼女をあんな風に変えてしまうとはこの時は思いもしなかった……

 

 

 

「えっ!?図書委員長が休み?」

 

俺は委員会には図書委員に所属している。休み時間に今日の当番である委員長が風邪で休みという知らせを聞き、

 

「そうなの。だから委員長の変わりに、佐藤君が当番してくれないかな……?」

 

と同じ図書委員である彼女--河原 梅子--はそう言ってきて、俺は二つ返事で快く引き受けた。どうせ帰っても暇だしな。

 

「ありがとう。今日、私も当番だから……よろしくね?」

 

そう言って彼女は自分の席へと戻っていった。その時間は小説か漫画でも読んで時間を潰そう。そう思って俺は机に伏せて仮眠を取った。

 

 

放課後--

 

「えっ……今日は一緒に帰れないんですか?」

 

「そうなんだよ〜。今日急に委員会の仕事が入っちゃってさ。悪いけど先に帰っててくれ。遅くなるといけないからさ」

 

俺は今から図書委員の仕事がある事をサリアに伝えた。

 

「大丈夫ですよ。拓也君の仕事が終わるまで待ってますから」

 

しかし1時間くらい仕事しなければいけないのに、彼女は待っているつもりみたいだ。

 

「いやいいよそんな。1時間くらい仕事あるんだし、そんなに待たせちゃ悪いよ」

 

「大丈夫ですよ。私は拓也君と一緒に帰りたいんです。1時間くらい待てますよ」

 

「いや、でもなぁ〜……」

 

「私は教室で勉強してますから拓也君は仕事をはやく終わらせて来てくださいね?少しでも、あなたと一緒に居たいから……///」

 

少し照れた顔でそう言った。

可愛すぎんだろサリアぁぁぁぁぁ!

 

「わかった!ちゃっちゃと終わらしてくる!」

 

「はい、いってらっしゃい♪」

 

そして俺は図書室へと急いで向かった。

 

 

図書室--

 

「仕事はどこじゃゴラァ!」

 

俺は彼女の為にもはやく仕事を終わらせようと思いつつ力強く引き戸を開ける。カウンターには河原さんだけが座っていた。

 

「あっ、ちゃんと来てくれたね、佐藤君」

 

「おうよ!ちゃっちゃと終わらせて、はやく帰ろうぜ!」

 

「うん……!頑張ろう!」

 

 

1時間後……

 

 

「つ、疲れた……」

 

今日が委員長の当番だからだろうか。何時もよりも仕事が倍以上に多くて、予想以上に時間がかかってしまった。

 

「最後は、本の整理だね。がんばろっ?」

 

「お、おぅ〜」

 

そして俺達は本を整理しようと本棚へ向かった。

 

「これがここで……おっとこれはここじゃないな……」

 

「……あの……」

 

俺が本の整理をしていると河原さんに声をかけられた。

 

「ん?どうした?」

 

「……えっと……その……」

 

河原さんはもじもじしながら何かを伝えようとしているようだ。

 

「なにか聞きたいことがあるの?」

 

「……その……」

 

河原さんは深呼吸をして落ち着きを取り戻すと、真っ直ぐな瞳でこちらを見て

 

 

「……好きです……」

 

 

「……はい?」

 

聞き間違いだろうか、『好き』と、そう聞こえた気がする。

 

「私……優しくて、一生懸命で、明るい佐藤君が……好きです」

 

「………」

 

「返事、待ってるね……///」

 

言いたいことだけ言って河原さんは図書室を出て行った。

 

(マジかよ……俺、告白されちまった……さっきの河原さん、可愛かったなぁ……)

 

しばらく俺はその場でボーッとしていた。

 

 

数分前--

 

(そろそろ委員会が終わる頃ですね……)

 

拓也君と別れて、1時間くらい教室で勉強していました。そろそろ委員会も終わってる頃だろうと思い、私は荷物をまとめ図書室へ向かいました。

 

(はやく拓也君に会いたいです……ふふふっ♪)

 

気分が高まりながら目的地へ到着。すると図書室の窓が開いており、そこから拓也君と知らない女子の姿がありました。

 

(拓也君が知らない女子と話していますね……なんなんでしょうか……)

 

その光景に少し心がズキッとしましたが、大丈夫。拓也君は私の大事な彼氏なんですから。

そう思っていると、女子の口から放たれた言葉で私は激しく動揺することになるのです。

 

「……好きです」

 

(……えっ……)

 

その女子は拓也君に告白をしたのです。

その表情は嘘をついているようには見えず、好きな男の子の前で見せる女の顔でした。

 

なんで

 

なんで私の拓也君に告白してるんですか?

 

なんで私の拓也君を奪おうとしているのですか?

 

なんで?

 

なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?なんで?………………

 

 

 

 

 

 

(はっ、しまった!サリアが待ってるのに!)

 

俺はその場で一分くらいボーッとしてしまったようだ。俺はカバンを持って急いで図書室を出ると

 

「あっ……」

 

そこにはサリアがその場に立っていた。しかし彼女の表情は無表情で今まで見たことのない表情であった。

 

「ごめんサリア!待たせちまって。怒ってるか?」

 

俺はサリアの機嫌を伺う。

 

「……いえ、怒ってなどいませんよ?大丈夫です」

 

「ほっ……ごめんな。さて、じゃあかえ--

 

「それよりも、拓也君」

 

サリアは冷たい声を放つ。やっぱり怒ってんのかな……

 

「さっき一緒にいたあの方は誰なんですか?」

 

と河原さんのことについて聞いてきた。そういえば違うクラスだから河原さんのことを知らないのか。

 

「あぁ。同じクラスの河原さんだよ。委員会の仕事を手伝って貰ってたんだ」

 

「……そうですか。では……」

 

まだなにか気になることがあるみたいだ。何なんだろうと俺はサリアの言葉を黙って聞くことにする。

 

 

「なんであの女は拓也君に告白してきたんですか?」

 

 

「ッ!」

 

どうやら、さっきの河原さんとのやりとりをサリアに見られていたらしい。

 

「ねぇ、なんでですか?あなたの彼女は私ですよね?それなのになんですぐ断らなかったのですか?なんで黙っていたんですか?あなたの彼女は私です。あなたも私が好きですよね?そうですよね?」

 

サリアがグイグイ迫ってくる。その瞳には光を宿していなかった。

 

「ちょ、落ち着いてサリア!」

 

「これが落ち着いていられません。どうなんですか?あの女のこと、ちゃんと断ってくれるんですか?」

 

「断るよ。元からそのつもりだから。とりあえず落ち着いて!」

 

「………」

 

するとサリアから放たれた気迫がどんどん薄くなっていく。

 

「そうですよね!そう言ってくれるって信じてました!」

 

すっかり機嫌がよくなって、いつもの笑顔に戻った。一体なんなんだったんだ、さっきのサリアは……

 

「でも……」

 

「ん?」

 

 

「これからはなるべく、私を優先的に見てくださいね?」

 

 

笑顔だがさっきの暗い瞳でそう言ってきた。その表情に俺は謎の恐怖感を感じたのであった。

 

------

 

数日後--

 

「おい佐藤!お前あのサリアさんと付き合ってるって本当か!?」

 

クラスの男子が俺に問いかけてくる。

 

「はあ?なんでだよ?」

 

それは事実だが、とりあえず知らない振りをしておこう。

 

「だっておま、登校時や帰る時だっていっつも一緒にいるし、昼飯を食べさせあいっこなんかしたり、皆の前で抱きつかれるとか、付き合ってるって思うしかないだろ!リア充死ね!」

 

「あ〜……」

 

そういえばあの一件以来、サリアからのアプローチが酷くなった気がする……

朝なんか会った瞬間に力強く抱きつかれたり、恋人つなぎで学校に登校したりや、人前で抱きついたりなど、前の恥ずかしがっていたサリアからは考えられない行動であったのだ。

おまけに俺のために弁当まで作ってくれているのだ。流石に悪いと思ったけどサリアが

 

「私が作りたいから作るんです。私の料理……タベテクレマスヨネ?」

 

とこの前見せたあの光のない瞳をした表情で言われるのだ。食べるしかないじゃないか……だって怖いんだもん。でも美味しかったからこれでいいやと思っている自分がいる。

 

「それでどうなんだ佐藤!付き合っているのか!?」

 

「そうなの佐藤君!?」

 

「え、気になる気になる〜!」

 

「リア充爆発しろぉぉ!」

 

クラスの半分以上の生徒が押しかけてくる。

 

「騒がしいぞお前達!チャイムが鳴ったのが聞こえなかったのか!?」

 

騒いでいるといつの間にか授業時間になっていて、英語の先生が教室に入ってきた。

 

「先生聞いてくださいよ!こいつあのサリアさんと付き合ってるんですよ!?」

 

「ちょっ、おまっ」

 

「………」

 

それを聞いた英語の先生はニコニコとしていた。あぁ〜……遂に先生にも知られてしまったのか……

 

「彼女を大事にしろよ、佐藤?」

 

俺は力無くため息をついた。

 

 

放課後--

 

「ごめん、河原さん。君の気持ちは嬉しいけど、俺にはもう付き合ってる人がいるから……君の気持ちは受け取れない」

 

「……はい」

 

俺は図書室から河原さんを呼び出して、昨日の告白を断っていた。

 

「えへへへ……わかってたんだけどね。佐藤君がサリアさんと付き合ってること……バカだよね……私」

 

河原さんは涙を流して色々言っていたのを、俺は黙って見ているしかできなかった。

 

「……じゃあ、私、行くね?……彼女と幸せにね。応援してるから……」

 

そう言い残して河原さんは去っていった。

 

(ごめんな……河原さん)

 

俺も帰ろうとすると

 

「佐藤。ちょっといいか?」

 

俺らのクラスを担当している英語の先生から呼び止められる。何か俺に用事があるみたいで付いてきて欲しいということだったので、俺は先生の後をつけた。

 

「先生、ここは……」

 

そこは人が来る事はあまりない体育館裏であった。そしてそこにこの学校のヤンキーがゾロゾロと来て、囲まれてしまう。

 

「先生ぇ。こいつをボコボコにすれば、本当に俺らの内申点上げてくれるんすか〜?」

 

……どういうことだ……

 

「ああ。こいつを再起不能になるまで潰したら、僕はお前達に特別に内申点をあげよう」

 

「ひゃははは!さっすが先生!あんた最低だな!ひゃははは!」

 

……どうやら、嵌められたらしい。面倒ごとになってきたなぁ……

 

「先生!これはどういう事ですか!?」

 

「黙れ。お前みたいな何も出来ないカスがサリアと付き合うなんてあったもんじゃない。サリアは僕の物だ。僕の物を盗ろうとする愚か者には、例えそれが教師だろうが生徒だろうが潰すだけさ」

 

いかれてやがる。このクソ教師はそんな事のために俺を潰そうとしているのか……

 

呆れて怒る気力が出なかった。

 

「はっ……なんだよそれ。本当にそんなんでよく教師やれてるな。お前みたいなクズをサリアが好きになると思ってんのか?全く……呆れたもんだぜ、このクソ教師が」

 

俺はとりあえず思ったことを率直に言ってやった。

 

「フン……何言っても構わんさ。お前はここで死ぬんだからな……やれ」

 

「はいよぉ!」

 

そしてヤンキーの1人が殴りにかかってくる。俺はそれをギリギリで避けた。次々に襲いかかってくるヤンキーの攻撃をなんとか躱しながら逃げようと試みるが

 

「貰った!」

 

「ぐっ……!」

 

俺は後ろから木刀で殴られてしまい、よろめいてしまう。その隙をヤンキーは見逃さず、顔面に拳を叩き込まれ、倒れてしまう。

 

「ちょこまかと避けやがって……オラッ!」

 

「調子乗ってんじゃねぇぞ!」

 

「楽しい〜!ひゃははは!」

 

 

殴られて、蹴られて、殴られて、蹴られて、殴られて、蹴られて、殴られて、蹴られて--

 

 

ヤンキー達の攻撃は止む事は無く続いていた。

 

ケンカをしたのはいつぶりだろうか……小学校の頃はよくガキ大将とその部下達とよく殴りあってたなぁ……

 

意識が朦朧としてる中そんな事を思い出していた。

 

確か最初は、誰かが苛められてたからそれを助けようとケンカしたんだっけ……やばい……意識が……

 

そして1人のヤンキーの力強い拳をくらい、俺は意識を手放した。

 

 

------

 

 

「ふぃー。久々にストレス解消したぜぇ」

 

「おい立てやコラ」

 

ヤンキーの1人がボロボロになった拓也の胸座を掴み、持ち上げる。

 

「………」

 

「はははっ!こいつ意識失ってますぜ!オラ、目ェ覚ませ!」

 

男は掴んでいた胸座を離し、拓也を殴る。ドサッと力無く倒れる拓也。

 

「おいおい、それ以上やるとほんとに死んじまうぜ!ひゃははは!」

 

「へっ、いいザマだ」

 

「全くだよ……僕の物を汚すからこういうことになるんだよ……ククク」

 

倒れた拓也を男教師は踏みつける。

 

「さっすが先生!ほんと容赦ないな!ひゃははは!」

 

1人の男教師とヤンキー達が大笑いしていた。全員が愉悦に浸っていると

 

「……拓也……君?」

 

サリアがその現場に現れた。

 

「やぁ、サリアさんじゃないか。見てくれ!あの哀れなカスの姿を!」

 

男教師がそう言うと、ヤンキーの1人がボロボロになった拓也を掴みあげる。

 

「君もこいつに汚されて嫌だっただろう!苦しかっただろう!でももう安心だ。この僕がきちんと駆除してやったからね!」

 

男教師は拓也を指さして、笑顔でそう言った。

 

「そんな……拓也君……」

 

「何をそんなに震えているんだい?あっ、そうか!嬉しすぎて震えているんだね!全く困った娘だなぁ〜。あっはっはっは!」

 

そう言いながら男教師はサリアに近づいていく。

 

「さぁ、はやく帰ろうじゃないか」

 

そして男教師はサリアの肩に手を落とすと

 

 

「……許さない」

 

 

 

「……へっ?」

 

 

男教師の腹に包丁が突き刺さっていた。

サリアが包丁を抜くと、男教師は腹を抱えて跪く。

 

「一体……何を……」

 

 

「……許さない……許さない……許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない許さない!!」

 

 

「私の拓也君によくも手を出してくれたな!!ここにいる全員殺してやる!!」

 

 

サリアは発狂してヤンキー達に襲いかかる。

 

「へっ、なめんじゃねぇ!」

 

男1人が木刀を振りかざすが、

 

「なっ、はやっ……ぐっ……!」

 

「がぁっ、あっ……」

 

最小限の動きでよけられて、脇腹に包丁を刺されてしまう。

 

「や、野郎!」

 

さらにもう1人が襲いかかってくる。サリアはさっき突き刺した男が持っていた木刀を奪い、襲いかかってきた男の腹に木刀で力強く突く。

 

「ぐえっ」

 

「や、やめろ……ぎゃああっ!」

 

木刀で殴って、包丁で突き刺す。

 

「このっ!ぐあっ……ぎえええ!」

 

殴って、突き刺す

 

「ひっ……がああああっ!」

 

殴って、突き刺す。

 

「もう許して……ぎゃああああ!」

 

殴って、突き刺す。

 

殴って、突き刺す。

 

殴って、突き刺す。

 

殴って、突き刺す。

 

殴って、突き刺す。

 

ヤメロオオオオ!

 

ギャアアアア!

 

タスケ…ガアアアア!

 

殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、殴って、突き刺して、突き刺して、突き刺して、突き刺して、突き刺して、突き刺して、突き刺して、突き刺して---

 

一方的な虐殺がそこで行われていた。

 

「………」

 

「ひっ……」

 

数分後、男教師が集めていた10人のヤンキー集団は全滅。血だらけで生臭い匂いがすでに充満していた。

 

「後は……あなただけですね……」

 

「や、やめろ!僕は教師だぞ!子供が大人に手を出していいと思っているのか!?」

 

男教師は呼吸を荒らげながらサリアを説得しようとする。

 

「そんな事どうでもいいです。私は大切な人を傷つけられるのが一番許せない……私の幸せな時間を壊そうとする輩が許せない……だから、あなたを殺します」

 

「ふざけるな!僕は君の事を想って、あのゴミを片付けたんだぞ!!」

 

「ゴミ……ですって?」

 

「ぎゃああああああ!」

 

男教師の傷口に木刀が突き刺さった。

 

「私のかけがえのない大切な人をゴミだと?ふざけるな!!!」

 

再び木刀で傷口を突き刺す。

 

「ぎえっ!」

 

「死ね!死ね!死ね!お前みたいなクズが、私の拓也君に触れるな!!」

 

 

「があっ……」

 

 

「拓也君は私の物だ!誰にも触れさせない!」

 

 

「ひゅっ……ひゅっ……」

 

 

そしてサリアは男教師を包丁で何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も何度も、刺した。

 

 

------

 

 

「うええええん」

 

「ぎゃはははは!なきむしだー!」

 

「おい、やめろ!おまえたち何してるんだ!」

 

「なんだァお前?やるのかぁー?」

 

「女の子を泣かせやがって……ゆるさねぇ!」

 

ドカッ!

 

「いてぇ!おまえぇ……!」

 

「大将!」

 

「よくもぉ!」

 

「うおりゃあああ!」

 

…………

 

「くそっ!覚えてろぉ〜!」

 

「ひぃ〜!」

 

「へへっ!ざまぁみやがれ!」

 

「ひぐっ……ぐすっ……」

 

「もうだいじょうぶだよ。けがはない?」

 

「うん……ぐすっ……ありがとう」

 

「おう!」

 

--そういえば小学校の頃……ちょうど10年前か。確か俺は公園でガキ大将達が女の子を虐めていたから助けに行ったんだ。

 

「どうして、いじめられてたの?」

 

「わたしが……外国からきたってだけで……」

 

「えっ!?君、外国からきたの!?」

 

「うん……」

 

「すげぇ!どこから来たの?」

 

「フランス……」

 

「フランス……ぜんぜんわかんねぇや!ねぇねぇ!フランスの事いっぱいおしえてよ!おれもにっぽんの事いっぱい君に教えるからさ!」

 

「……うん!」

 

--そう。助けた彼女はフランスから来たんだったけ。あれから俺達はいっつも公園で会って話をして、いっぱい遊んで、いっぱい笑った。

 

--そんなある日、彼女は来なくなった。長い間来なかったから近所の人に聞いてみると、家の都合でフランスに帰ったんだっけ。結構ショックだったなぁ……

 

--そして、年月が過ぎて彼女の事を少しずつ忘れていったんだっけ……でも今思い出した。彼女の名は---

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「う〜ん……」

 

目を覚ますと見知らぬ天井がそこにあった。

どうやら俺はこのベッドで寝ていたらしい。誰かが親切に傷の手当をしてくれたみたいだ。

しかしここはどこだろう。確か俺はあの時、ヤンキー達に襲われて……

 

 

「ッ!なんだこれ!?」

 

体を起こしてベッドから出ようとすると、ある違和感を感じた。違和感がした手首をよく見てみると、手錠をかけられており、ベッドの柱に拘束されていた。しかも両手。

俺は必死に足掻くが、手錠が外れることは無く、足の方も足枷をかけられていた事に気づく。どおりで上半身しか起き上がれないわけだ。

 

「あっ!目が覚めたんですね!拓也君!」

 

すると部屋のドアが開かれ、そこからサリアが姿を現す。

 

「……サリー」

 

「その呼び方は……思い出してくれたんですね!拓也君!」

 

サリーという呼び名は俺が小学生の頃、助けた友達の名前がサリア・ローズで、俺はその子の事をサリーと呼んでいたのだ。

 

サリーは感動して俺に抱きついてくる。

 

「嬉しいです……やっと思い出してくれたんですね……」

 

「ああ……それより、サリー。これはどういう事だ?」

 

彼女が離れると、俺はサリーに手錠を見せつける。

 

「手錠ですね」

 

「あぁ、そうだ。なんで俺はこんな事になってるんだ?」

 

俺はサリーになんでこうなっているのかを問いかける。

 

「だって……こうすれば、あなたとずっと一緒にいられるからです」

 

まさか……そんな事で俺を拘束したのか!?

 

「私はずっと我慢してきました。あなたと2人きりになれないのがすごく辛かった……あなたが他の女と楽しそうにしているのが嫌だった……あなたには、私だけを見て欲しいんです。私だけを見て、私だけを求めて、私だけを愛して欲しい……そう思っていました」

 

「………」

 

「あなたは私だけじゃなく、ほかの人にも優しい。まぁそこがあなたの良いところなんですけど……私はそれが苦痛でした……。その優しさが私だけに向けられたなら、その笑顔が私だけに向けられたなら、どれだけ幸せだろうかと思ってきました。実際にその優しさであなたを奪おうとする輩やあなたを傷つけるゴミまで出てきてしまいましたが……」

 

まさか、サリーがそんな事を思っていただなんて……

 

「でも、もうそんな心配はありません。ここは私とあなたの2人だけの場所。これからはずっとあなたと2人きりで暮らせるんですからね♪」

 

彼女は微笑みながらそう言った。彼女の微笑みはいつも以上に綺麗で、怖かった。

 

「お前、その血は……」

 

俺がサリーから血の匂いがすることに気がつく。よく見たら顔や服に細かく血がついているのがわかる。

 

「あぁ、これですか。ちょっとゴミ掃除をしていたら浴びてしまったんですよ。綺麗に落としたつもりだけど、取れてませんでしたか……」

 

「ゴミ掃除ってまさか……」

 

俺はだいたい嫌な予想はついていたが、一応彼女に問いかける。

 

「拓也君を虐めたり、傷つける人はゴミ同然です。生きている価値なんてありませんよ。そんなゴミ達も死ぬ時は酷い声を出して死にましたよ。ふふふっ、あはははははっ!」

 

……悪魔だ。こいつは悪魔だ。サリーはいつからこんな風になってしまったんだ……?

 

「拓也君……好き。大好きです。大好きすぎてもう気持ちを抑えられません……♡」

 

「ひっ……」

 

彼女は完全に好きな男にしか見せることのない女の顔になっていた。しかしその瞳は光を宿していなかった。

 

「拓也君……拓也君……ふふふっ♪」

 

すると彼女は何かの薬を口にくわえた。

 

「や、やめ……んぐっ!」

 

そしてサリーは俺にキスをしてきた。

 

「んっ……ちゅっ……れろ……」

 

「……!……!」

 

舌を俺の口の中に滑り込ませてきたと同時にくわえていた何かの薬も入れられる。

 

「はあっ……んっ……ちゅるっ……」

 

そしてサリーは舌を無理やり絡ませて、激しくて深いキスをした。その時に口の中にあった薬も飲み込んでしまう。

 

「んっ……ぷはあっ」

 

「はあっ……はあっ……おま、一体何を……」

 

「えへへ///拓也君とのキスは何回もしたのに、こんな深いのは初めでしたね♡」

 

サリーは頬を赤くして微笑みながら言う。

 

「そうじゃなくて!今何を口に入れ……」

 

 

 

……あれ、何か……凄く眠い……

 

 

 

「ちょっとした睡眠薬を飲ませました。まだ私は色々と準備がありますので、拓也君はもう少し寝ていてください」

 

 

 

……やばい、まぶたが重い……眠気が……

 

 

 

「そしてそれが終わったら……ずっと愛し合いましょう♪2人きりで、永遠に……」

 

 

 

 

……サ……リー……

 

 

 

 

「おやすみなさい。拓也君……」

 

 

 

 

そして俺は再び意識を手放した。

 




こんな感じで、他のタイプのヤンデレも書いていきます٩( ´ω` )و


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俺の姉

いくつか書き溜めた物があるのでしばらく1日1話のペースで投稿します。


 とある高校にて--

 

 「あっ!見てみて!生徒会長様だよ!」

 

 「わぁ~……やっぱ綺麗だね~……」

 

(さすが、人気者だな~)

 

 廊下を歩いている美人生徒会長の姿を見ながら俺、天野 涼介は何時ものように思った。

 

 「美咲先輩!おはようございます!」

 

 「あぁ。おはよう」

 

 「ッ!///」

 

 1人の女子生徒が生徒会長に挨拶をする。生徒会長はキリッとした顔で挨拶を返すと、その女子生徒は顔を赤らめて興奮し、急いでその場から立ち去った。

 

 「今日もかっこいいよね、美咲先輩」

 

 「ほんとそれ!スタイルめちゃくちゃいいし、羨ましいわ~」

 

 生徒会長が通る度に女子生徒達がざわめく。ここの生徒会長は本当に人気者だな……

 

 「あっ、涼介」

 

 するとその生徒会長と目が合ってしまい、自分の名前を呼ばれる。

 

 「おはよう、姉ちゃん」

 

 「あぁ。おはよう」

 

 そう。ここの生徒会長様は俺の一個上の姉なのだ。

 

 天野 美咲。この学校の生徒会長を務めている。サラサラな紫紺色の長い髪、168cmの高身長でスタイルは抜群、成績は全国模試1位を取るレベルで、運動能力も高い。まさに完璧な美女が俺の義理の姉である。

 

 俺の両親は小さい時に交通事故で亡くし、両親と仲の良かった天野家が天涯孤独の俺を引き取ってここまで育ててくれた。いつか恩返しできたらなと思っている。

 

 「……なに?あの男子。また今日も美咲様に話しかけられて……」

 

 「……あの人、ちょっと調子乗ってない?」

 

 周りからヒソヒソと俺に対する愚痴が聞こえてくる。姉ちゃんと少し会話するだけで周りの生徒から俺の悪口を言うのだ。もう聞き飽きたくらいだ。

 

 「……あいつら……」

 

 姉ちゃんは不機嫌そうに周りに集まっていた生徒を睨みつける。

 

 「あぁ……美咲様のその鋭い眼差しも素敵です……」

 

 「美咲様!俺を罵ってくれー!」

 

 しかし、睨みつけられた生徒達は怖がることなく、むしろ嬉しそうにしていた。その生徒達の態度に姉ちゃんはさらに不機嫌になる。

 

 「貴様ら……いい加減に--

 

 「姉ちゃん。俺は大丈夫だから落ち着いて」

 

 俺は姉ちゃんを落ち着かせようとする。

 

 「しかし……」

 

 「こんなのもう聞き慣れたよ。俺はなんとも思ってないから。じゃあな!」

 

 そして俺は自分の教室へと急いで行った。

 

 

 

 授業中--

 

 「はぁ……」

 

 私は周りからチヤホヤされるのはあまり好きではない。結構女子の中で背は高めな方で目立つからだろうか?とにかくそういうのはあまり好ましくない。私は……

 

『姉ちゃんすげぇ!かっこいいよ!』

 

 涼介にだけ褒められたらそれだけで満足だ///

 

 涼介は私の一個下の義理の弟である。10年前くらいに涼介の両親が交通事故で亡くなり、行き場を失ったところを私の家が引き取ったのだ。涼介はとても優しい男だ。周りへの気遣いがよく、自分より他人を優先してしまうのが心配だがそこは姉である私が支えてやらなければな。

 そんな涼介とこれまで一緒に暮らしてきて、私の心は徐々に惹かれていった。

 

(涼介……)

 

 私が慕うようになったのは、小学生の頃のあのときからだったかな……

 

 ------

 

 バチン!

 

 「ッ……」

 

 「美咲……またこんな点数取って……!」

 

 私だって、最初からなんでも出来てたわけじゃない。むしろ小学生の頃は酷かった。運動はそこそこだったが勉強の方は全く出来なかった。

 

 「全く……涼介を見習いさなさい。ちゃんと真面目に勉強してるのよ?次いい点取らなかったら許しませんから」

 

 「はい……」

 

 …………

 

 「あっ、姉ちゃん!」

 

 「………」

 

 「なぁなぁ!今日もおれ、テストでいいん点とったんだぜ!」

 

 「……そうか。偉いな……」

 

 その時の私は涼介を前ではしっかりとした姉でいようと、なるべく負の感情を出さずに涼介と接していた。

 

 

 「……姉ちゃん、大丈夫か?なんか元気ないような」

 

 「………」

 

 この頃の涼介は人の変化に敏感だった。だから今の気遣いの良い涼介がいるのだろう。そしてこの時の私が落ち込んでいるのを涼介は見破ったのだ。

 

 「また……かあさんに、怒られたの?」

 

 「……まぁね」

 

 「そんなに落ち込まないでよ!姉ちゃんががんばってるのが俺が一番よく知ってるんだから!次はちゃんといい点取れるって!」

 

 「………」

 

 「だから姉ちゃんもがんばれよ!俺も、いつか姉ちゃんを支えられるようにがんばるから!」

 

 「……うん。がんばるよ」

 

(子供だっていうのに、無責任なことを言う……)

 

 私はその時、初めて頑張れと言われた。父親や母親からは言われたことは無く、命令されていた。いい点数をとれ、世間の目があるからと。

 

 そして私は努力をして、次のテストでは全て満点をとった。

 

 「なんだ、やればできるじゃない。次もこの調子でやるのよ」

 

 母親からはそれだけだったが

 

 「姉ちゃんすげぇ!全部満点じゃん!さすが姉ちゃんだよ、かっこいい!」

 

 涼介は大げさなくらいに褒めてくれた。そしてこの時から褒められることの喜びを知り、もっと褒めてもらいたい、涼介にもっと喜んでもらいたいと思い、私は努力を続けた。

 

 …………

 

 

 そして現在。私は全国模試1位のレベルまで到達する事ができた。母親はそれを表面上では喜んではいたが、そこに善意はなかった。

 

 「私の娘だからこんなの当然ですよ。おほほほ」

 

 世間からいい目で見られたいだけ。それだけなのだ。

 

 「やっぱ姉ちゃんはすっげぇな。生徒会長にまでもなるんだからな。うんうん。さすが、自慢の姉ちゃんだぜ!」

 

 涼介は違った。涼介だけはちゃんと私の事を見てくれた。私に喜ばしい事があると一緒に喜んでくれて、私に悲しいことがあると励ましてくれたりしてくれてとても嬉しかった。

 今では涼介はすっかり背が高くなって男らしく育った。これから色々と進路のことなどで忙しくなるだろう。

 

 今度は私が支えるんだ。昔、私が助けられたみたいに……ずっと……2人で一緒に……

 

 

 

 「……まの……天野!」

 

 「!」

 

 私を呼ぶ声がして、はっと我に返る。どうやら授業中に指名されてたのにボーッとしてたらしい。

 

 「お前大丈夫か?珍しくボーッとして」

 

 「い、いえ、なんとも。すみません……」

 

 「まぁいい。ここの問題を解いてくれ」

 

 「はい」

 

 もっと頑張らないと……涼介を支えるためにも……

 

 

 ------

 

 

 放課後--

 

 「はぁ……またか」

 

 靴箱の中かからグチャグチャになった紙が溢れる。俺はその紙を広げると

 

『美咲様と気安く話すな』

 

『美咲様に近づくな。汚れる。』

 

『美咲様と仲良くしやがって。死ね!!』

 

『お前の存在自体ゴミ。死ね』

 

 と数々の暴言が書かれてあった。こんな風に登校時と下校時に、俺の靴箱の中に嫌がらせをされるようになっている。

 最初やられた時は驚いて先生に相談したが軽く流される始末。親にも1度言ってみたが「それくらい、自分で対処しなさい」と言って聞いてくれなかった。面倒ごとが嫌いなのだろう。

 もう何回もやられたことでさすがに慣れてしまった。

 

 「おいおいまたかよ。あのブス共ふざけやがって……」

 

 近くにいた友人の1人がそれを見て、愚痴をこぼす。

 

 「あはは……もう慣れた事だし、心配ないよ」

 

 俺はその紙をビリっと破いて、バッグの中に入れる。

 

 「ホントかよ……お前、人良すぎじゃね?」

 

 「そんな事はないさ。慣れてるって言ってもなんとも思わないわけじゃないさ」

 

 姉ちゃんは主に女子生徒に慕われている。女子からしたら憧れの存在なんだろう。男子達はそうでもないみたいで、女子から嫌がらせをされている俺を心配してくれる人がいる。もちろん、姉ちゃんの事を慕っている男子には良くは思われないがな……

 

 「じゃあ、ストレス解消にゲーセン行こうぜ!」

 

 「おっ、いいねそれ!俺も行くぜ!涼介は?」

 

 「もちろん行くよ。今日は勝つからな」

 

 「ははっ!望むところよ!」

 

 そして俺は複数の友人とゲーセンへ遊びに行った。

 

 

 

 数時間後--

 

 「ただいま~」

 

 俺が得意とするリズムゲーでスコア競ってたらすっかり遅くなってしまい、夕飯の時間に帰宅した。

 

 「おかえり、涼介」

 

 リビングに向かうと、エプロン姿の姉ちゃんは微笑みながら迎えてくれた。

 

 「おう。はぁ~……疲れた」

 

 俺はバッグを置いて、ソファーに寝転がる。フカフカの生地が疲れを癒してくれるような感覚……あぁ、これが人をダメするやつか……

 

 「ふふふっ。なんだ涼介、そんなに疲れて。帰りが随分と遅かったじゃないか」

 

 と姉ちゃんは問いかけてくる。

 

 「ん~?ちょっと友達と遊んでてね。気づいたら結構な時間遊んでた」

 

 「そうか。ならいいんだ」

 

 姉ちゃんは納得してくれたみたいだ。

 

 俺達が高校生になると両親は仕事が忙しくなったため、あまり家には帰ってこなくなった。月に一度帰ってくる程度だ。だから家事は俺と姉ちゃんで協力して生活している。両親から生活費が送られてくるため、お金の事は心配なかった。

 

 「夕飯はもうすぐ出来そうだから先に風呂に入ってくるといい。疲れたならゆっくり浸かってくるといいぞ」

 

 「マジ?じゃあお先入るね~」

 

 それじゃあ、お言葉に甘えてゆっくり入らせてもらおう。そう思って俺は風呂場へ向かった。

 

 

 

 

 

(やっぱり、涼介と一緒にいると落ち着くな……)

 

(何か嫌なことがあっても、涼介が隣にいてくれるだけでそんな事どうでもよくなってしまう……)

 

(私は……自分が思った以上に、あいつに依存しているのかもな……)

 

(これが……好き。という感情なのか……?)

 

(……悪くないな///)

 

(むしろ、あいつじゃなきゃ駄目だ///。ほかの男など目に入らん……)

 

(ずっと……この関係が続くと良いな……)

 

(将来は今以上の関係に……ふふふっ///)

 

(……おっと、あいつバッグを置きっぱなしじゃないか。しかも開いたままだし……ん?)

 

(なんだ、この紙切れ……ッ!)

 

『死ね!!』

 

『ゴミ。死ね』

 

『美咲様が汚--』

 

(………………)

 

 

 ------

 

 

 「はぁ~……さっぱりした♪」

 

 風呂はいい文明。すっかり癒された気分だ。

 

 「上がったぞ~。……ん?姉ちゃん?」

 

 「……ん?どうした涼介?」

 

 「そこに置いてあった俺のバッグは?」

 

 俺はソファーに置いてあったバッグが無いことを知り、姉ちゃんに問う。

 

 「あぁ。部屋に戻しておいたぞ。それより夕飯の準備してくれ……」

 

 「……お、おう」

 

 なんだろう……さっきとはなんか様子が変だ……そんな事を思いながらとりあえず俺は夕飯の準備をした。

 

 

 「………」

 

 「………」

 

 き、気まずい……どうしてこうなった……

 さっきから一言も喋っていない。TVから出ている音声が虚しく流れているだけだ。

 

 「……涼介」

 

 夕食を半分以上食べ終わると、姉ちゃんが口を開いた。

 

 「な、なに?」

 

 姉ちゃんの様子がおかしい……俺なんかしたっけなぁ~……帰りが遅くなることは何回かあったけど、それだけで怒るような人じゃないはず……

 

 

 「……最近、嫌がらせを受けてないか?」

 

 

 俺はその言葉にドキッとした。

 なんで姉ちゃんが知ってるんだ!?

 

 「な、何のこと?」

 

 「いや、最近お前がすごく疲れているように見えたからな。何かあったんじゃないかと思ってな……」

 

 姉ちゃんには心配かけたくないから、バレないようになるべくポーカーフェイスを意識しよう。

 

 「そ、そう?最近授業が難しくなってきたからそのせいじゃない?あははは」

 

 「………」

 

 姉ちゃんは黙ったまま俺をジッと見つめる。平常心、平常心……

 

 「……それならば私がいつも以上に私が勉強を教えよう。さらに学校よりもわかりやすく教える自信はあるぞ?」

 

 「そ、そう!?ならお願いしよっかなぁ~!」

 

 「うむ。任せとけ」

 

 危うくバレる所だった。なんとかなったみたいだな……後であの紙は処分しておこう。

 

 「ご馳走様。先に部屋戻ってるからね」

 

 「うむ。私もすぐそちらへ向かおう」

 

 俺は食べ終わった食器を片付けて部屋へと向かった。

 

 

 

 

(安心しろ……私が、必ず守るからな……)

 

 

 ------

 

 

 「なん……だと」

 

 翌日。靴箱を開けたらあら不思議。あの嫌がらせの大量の紙は1枚も入っていなかった。

 

(どいうことだ……相手も飽きたのか?)

 

 まぁ、なにしろ平和なのはいいもの。俺はあまり気にせずに教室へ向かった。

 

 

 

 数十分前--

 

(やはりな……)

 

 涼介の靴箱に何かを詰めている女子生徒を隠れた場所で見ていた。女子生徒がそこから立ち去ると私は涼介の靴箱の中を確認する。そこにはグシャグシャに詰められた大量の紙が入っており、紙には涼介への暴言が書かれてあった。

 

(………)

 

 私はそれを取り出し、ビリビリに引き裂いた。

 

(愚か者めが……私の涼介に手を出すとどんな目にあうか……思い知らせてやる)

 

 そう決心して、引き裂いた紙くずをゴミ箱に捨てた。

 

 ………

 

 1ー4

 

(ここだな)

 

 「失礼する」

 

 「「!?!?」」

 

 私は一年生のクラスの引き戸を開ける。

 

 「……ん、そこの君」

 

 「は、はいっ!私でしょうか!?」

 

 そしてある女子生徒1人を指名した。

 

 「ああ……ちょっとお前に大事な話があってだな?放課後、三階の学習室まで来てくれないか?」

 

 三階にある学習室はあまり人が通らず、使われていない教室だ。

 

 「そ、それって……///」

 

 彼女に近づきそして耳元で

 

 「イイことをしてやるからな……」

 

 と囁いた。こんな誘ってる感じの行為は涼介以外としたくないんだが我慢。

 

 「はぅあ///」

 

 彼女は赤面して、パタッと倒れる。用は済んだので私はこの教室から立ち去った。

 

 「ちょっと美咲様!この子と何かあったのですか!?」

 

 「ちょっと田中!美咲様に誘われるってどいうことよ!?」

 

 「ふぇ~///……美咲さまぁ~///」

 

 出ていった教室が女子達によって騒がしくなる。全く、何を騒いでいるやらか……しかし、あんなことをするのは二度とゴメンだ。

 

 だが、涼介に耳元で愛を囁いてその気にさせるのも悪くない……ふふふっ♪

 

 

 

 1ー2

 

 「ぶえっくし!」

 

 「おいおいどうした涼介。そんな盛大なくしゃみして」

 

 「いや、なんか急にゾクッと寒気がしたような……?」

 

 「風邪か?」

 

 「そうじゃないっぽい……何だったんだ今の?」

 

(まぁいいや)

 

 

 ------

 

 

 放課後--

 三階 学習室

 

 机が全て後ろに下げられていて、半分はスペースがあり、そこに今朝誘った女子生徒がいた。

 

 「ちゃんと来たな」

 

 「あっ、美咲様……///」

 

 そんなメスの顔してこっちを見るな、汚らわしい……

 

 「まぁこの椅子に座ってくれ」

 

 私は机に上げられていた椅子を取って、彼女の前に置く。

 

 「はい、ありがとうございます」

 

 彼女はすんなりと座ってくれた。ちなみに私が彼女の背後にいる形だ。

 

 「それで……なんで呼び出したんですか?」

 

 と彼女は期待の眼差しを向けてくる。

 

 「まぁまぁ。とりあえずこれを飲んでくれ。私が直々に作ったお茶だ」

 

 そう言って私はお茶の入った水筒差し出す。

 

 「はいっ!いただきます」

 

 彼女はそれを取って、蓋を開けて中に入っているお茶を飲む。

 

 「……ふぅ、美味しいです!」

 

 「そうか、それは良かった」

 

 いい感じに彼女は飲んでくれた。これならば……

 

 「実は、君に聞きたいことがあってだな……」

 

 「はい!なんでしょう!美咲様のためならどんなことでもお答えしてみせます!」

 

 「そうか……ならば聞こう……」

 

 

 

『私の涼介に嫌がらせをしていたのは君か?』

 

 

 

 「………」

 

 一瞬。ほんの一瞬だけ、彼女の眉がピクッと動いた。反応を見せたのだ。

 

 「……なにを言ってるんですか?」

 

 「なにって、その言葉通りさ。天野涼介を嫌がらせをしていたのは君かと聞いたんだ」

 

 「アハハハッ。何を言ってるんですか~」

 

 

 

 

 「(虐めてるわけがないじゃないですか~)虐めたに決まってるじゃないですか……って、えっ……!?」

 

 

 

 

 どうやら、薬の効果はバッチリみたいだ。

 

 「(ち、違うんですよ!今のは違うんです!)ち、違いません!今のは全部事実です!……!?」

 

 「ほう……?」

 

 あの水筒の中に『自白剤』を混ぜておいたのだ。彼女は今、嘘をつけない状態である。

 

 「うそっ……なんで?どうして!?」

 

 彼女も自分が嘘をつけないことに混乱している。いいザマだ。

 

 「さて、田中さん?だっけ。君はなんでそんなことをしたんだ?」

 

 「(だから!私はそんなことしていません!)だから!私はそんなことをしました!……ってなんでっ!?」

 

 「君はもう嘘をつけない状態にあるんだ。大人しく真実を教えてくれないか……?」

 

 「ひっ……」

 

 彼女は椅子から立って逃げようと図るが……

 

 「無駄だ」

 

 ガシッ!

 

 「いや!やめて!」

 

 「ふんっ……!」

 

 「きゃっ!」

 

 ドサッ!

 

 私は彼女の腕を掴んで背負い投げをし、彼女を拘束する。

 

 「私から逃げようとは……全く愚かな奴だ……」

 

 「やめて!放してっ!」

 

 彼女は必死に足掻くが無意味だった。

 

 

 「いいから、私に全てを教えてくれないか……?」

 

 

 「あっ……」

 

 私が彼女の耳元で優しく囁くと、彼女の動きはピタリと止まった。

 

 「……だって、妬ましかったですもの……」

 

 自白剤の効果がさらに効いてきたみたいだ。彼女はペラペラと事実を語った。

 

 

 「美咲様と気軽に話ができる殿方。私達には向けてくれない美咲様の笑顔を、あの方は見られることができる……美咲様と話をしているあの方の幸せそうな雰囲気……」

 

 「私がそれが羨ましかった!妬ましかった!だから消そうとした!あれをこの学校から静かに消してしまえば!私達に美咲様が笑顔を向けてくれると思ったから!」

 

 

 くだらない……実にくだらない

 

 「……ふん。くだらんな」

 

 「ッ……!」

 

 「そのような理由で涼介を消そうなど……くだらない……」

 

 「もし涼介が学校辞めたら、私も辞めるつもりだ。あいつがどこかに行こうとしたら私も付いて行く。あいつが望むことならなんでもするし、どんな手段を使ってでもあいつと一緒に居たい。涼介がいない世界に興味はないからな……」

 

 「なんでっ……なんでそんなにあれのどこがいいんですか!?」

 

 「なんでって……

 

 

 

 

 

 あいつは私の全てだからだ。

 

 

 

 

 プスッ……

 

 「いっ……!」

 

 私は彼女の腕に注射器を刺して、薬を流し込む。

 

 「なにをっ……」

 

 「ちゃんと話してくれた褒美だ。ゆっくりと楽しむが良い」

 

 そして彼女の拘束を解き、私は教室から出ていった。次の罰もちゃんと成功するかを確かめたいから学習室から少し離れた場所に隠れる。

 

 「みさき……さまっ……はぁっ……体が……あついっ……」

 

 先程私が打ったのは媚薬効果のある催眠薬だ。しばらく身体は動けまい。

 

 数分後--

 

 「全く……一体どういうことだ……?」

 

『今日の放課後、17:45に学習室に来てください。』

 

 「なんで、ぼくにこんな手紙が……」

 

 「おっと……ここか?」

 

 ここの生徒であるキモデブ男子が学習室に入る。私はそいつに学習室に来るように書いた手紙を直接渡したのだ。時間ピッタリ。ちゃんと守ってくれたみたいだな。

 

 「失礼します」

 

 「あっ……♡美咲様……♡」

 

 「……は?」

 

 私は聞き耳を立てて、学習室の状況を2人の会話で理解しようとする。どうやら薬の効果は抜群らしく、あの男のことを私と勘違いしているみたいだ。

 

 「美咲様ぁ……私、身体が熱くなっちゃって、変なんですぅ~……よければ、あなたの体で鎮めてくれませんかぁ?」

 

 「なっ……!」

 

 「私もう我慢できません……ねぇ……私を……抱いて?」

 

 「……ふひひっ。今日で、童貞卒業だ!やったぜ!ふひひひっ!」

 

 「きゃっ♡美咲様ぁ~♡んっ……あんっ……」

 

 

 どうやら成功したみたいだ。ゆっくりと快楽に堕ちるがいいさ。

 私は安心してその場から立ち去った。

 

 すっかり帰りが遅くなってしまった。涼介はもう帰っただろうか。心配になった私はリビングに予め仕掛けてある小型監視カメラの映像をスマホで流す。

 

 「なっ……これは……」

 

 そこには信じられない光景が映っていた。私はスマホの電源を切り、全速力で家に向かって走った。

 

 「涼介……涼介っ!」

 

(涼介が危ない……!)

 

 

 ------

 

 

 「ただいま~」

 

 今日は珍しく靴箱での嫌がらせはなかった。もう犯人も俺が反応みせないから飽きたのだろう。こういうのはほっとくのが一番だ。

 

 「あら、帰ったのね」

 

 「なっ、母さん……それに……」

 

 リビングに入ると珍しく母が台所で料理をしていて、

 

 「……父さんも」

 

 「……何だ、お前か……ヒック」

 

 まだ5時過ぎだというのに酒を飲んでいる父親がいた。

 正直、俺はこの2人が苦手だ。もちろん育ててくれたことには感謝しているが何故だろう……俺はこの2人が苦手だ。

 

 「こんな時間から酒飲んじゃって……」

 

 「うるせぇ!俺の勝手だろうが!ガキは引っ込んでろ!」

 

 「………」

 

 父親の態度にイラッとするが耐える。

 

 「ごめんなさいね。あの人、今不機嫌なの」

 

 「なんで?」

 

 俺は母親に問いかける。

 

 「これよ」

 

 母親はある用紙を取って、それを俺に渡した。

 

 「これは……姉ちゃんの全国模試の結果表」

 

(しかも最近のだ……)

 

 「そう。あの娘、いつもは1位とってくるのに、今回は10位なのよ……それで今とっても不機嫌なのよ……もちろん、私もね」

 

 「確かに……俺がいつも姉ちゃんに勉強教えて貰ってるからかな……」

 

 俺は小さな声でそう呟いたつもりが……

 

 「なんだと……」

 

 なぜか父親にはしっかり聞こえてたみたいだ。

 

 「美咲の成績が下がったのは、お前の所為か!この糞ガキ!」

 

 「うわっ!」

 

 父親は表情を怒りに変え、テーブルに置いていた酒が入っていた空の瓶を俺に投げつけた。

 咄嗟に腕で防ぐが、父親はすでに目の前に近づいていて

 

 「ぐあっ……!」

 

 空の瓶で俺の頭を殴りつける。殴った時にバリンと割れて、瓶の破片で頭を傷つけられてしまう。

 

 「お前の所為か!お前の所為か!」

 

 「がっ……あっ……」

 

 倒れている俺にさらに追撃をかける父親。頭を打ち付けられた為、うまく体を動かすことができず、俺は一方的に殴られるだけだった。

 

 「あなた!やめてください!」

 

 母親は血相を変えて、父親を止めようとする。

 

 「そんなことをしてたら、世間に悪く思われてしまうじゃないですか!こんな馬鹿な事はやめなさい!」

 

 もちろん、俺の心配ではなく世間、周りの目の心配をしていた。なんなんだ……この2人は……

 

 「ちっ!酒をもってこい!」

 

 父親はそう叫んでテーブルの所まで戻って行った。

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 頭がグラグラする。徐々に意識が薄くなっていくのがわかった。

 

 「全く……ほんとうにやってくれたわね……」

 

 母親は俺の身を心配するどころか、恨んでいた。

 

 「一応、救急車は呼んであげる……もう二度と、こんな馬鹿なことをするんじゃないよ……!」

 

 「うぐぁっ……--」

 

 俺の腹に母親の蹴りが入った所で、俺は意識を失った。

 

 

 ------

 

 

 ---……!

 

 

 誰だ……

 

 

 ---……!

 

 

 誰かが……呼んでる……

 

 

 ---……!

 

 

 そんな悲しそうな声で呼ばないでくれよ……

 

 

 ---……すけ!

 

 

 この声は……

 

 

 ---りょうすけ!

 

 

 姉ちゃん……

 

 

 ---涼介!!

 

 

 

 

 「……ん」

 

 目を開けるとそこは見知らぬ天井。ここは一体……

 

 「涼介……」

 

 「姉ちゃん……」

 

 そこには今にも泣きそうな表情をしている姉ちゃんがいた。姉ちゃんのそんな顔は初めて見る。

 

 「良かった……」

 

 姉ちゃんは安心したように、俺に微笑んでくれた。あぁ……姉ちゃんの笑顔……綺麗だな……

 

 「ここは……」

 

 周りを見渡してとりあえず状況を整理する。どうやらここは市立の病院みたいだ。俺は運ばれて来たのか……

 

『お前の所為で!お前の所為で!』

 

『もう二度と、こんな馬鹿なことするんじゃないよ……!』

 

 「うっ……」

 

 頭に痛みを感じ、俺は頭を抑える。

 

 「大丈夫か!?涼介……!」

 

 「あ、ああ。大丈夫だよ」

 

 嫌な記憶を思い出す。俺はあいつらの所為でこんな事になっているのか……

 

 「目が覚めたようですね」

 

 すると病室のドアが開き、病院の先生が入ってきた

 

 「先生……俺は……」

 

 「頭に擦り傷と何か打ち付けたような傷跡がありました。一応治療はしたのですが、頭からの出血で脳に異常がないか検査するため、2、3日入院してもらうことになりますが……」

 

 「わかりました。お世話になります」

 

 「いえいえ。ではあと2時間で消灯時間なのでお姉さんもはやくご帰宅なさってください。お大事に」

 

 「ありがとうございました」

 

 姉ちゃんは深々と頭を下げ、先生は病室から出て行った。

 

 

 

 「……俺の怪我の原因は……」

 

 「階段から落ちて、その衝撃で棚に置いてあった花瓶が頭上に落ちた。という事になっている……」

 

 姉ちゃんは冷静な顔でそう言った。あくまで自分達がやったとは言わないんだな……世間の目があるから……!

 

 「くそっ……!」

 

 俺は怒りで拳を握って自分の太ももを殴る。

 

 「涼介……」

 

 「なんなんだよ……なんなんだよあいつら……世間、世間、世間、世間って……!そんなに俺らの事より自分の価値が大切なのかよ……!くそがっ!」

 

 再び太ももを殴る。俺はこの時、ようやくあの2人の考えていることが理解した。

 姉ちゃんに成績を無理に上げさせようとしたのも……

 天涯孤独な俺を引き取って、育ててくれたのも……

 全部世間にいいように見られたいから。周りに優秀な家庭ですよっていうのをアピールして、輝きたいから。俺達はその道具にすぎない。そう思う事しかできなかった。

 

 「くそっ……くそっ……」

 

 気づけば俺は悔しさで涙を流していた。俺がどう使われても構わない。だが実の娘を愛すことをせず、姉ちゃんが優秀な家である為の道具として使われていたのが……悔しかった。

 

 「涼介……」

 

 俺は姉ちゃんにギュッと優しく包んでくれた。

 

 「大丈夫だ。心配しなくてもお前には私がいる。私が……傍にいるぞ……」

 

 そして頭を優しく撫でてくれた。

 

 「姉ちゃん……」

 

 俺はしばらく姉ちゃんの傍で、泣いた……

 

 

 

(あの2人を……殺す……)

 

 

 その時の姉ちゃんの顔が物凄く冷徹な表情であったのを俺は知る由もなかった。

 

 

 ------

 

 

 翌日……

 

 「………」

 

 涼介の居ない、朝食の時間。それはとてもつまらないものだった。

 

 「あなた、本当にいいのですね?」

 

 「あぁ。あいつをここから追い出す。もうあいつが住むアパートも確保してある。そろそろもう1人で暮らせる年だろう。あいつがいては正直邪魔だ」

 

 「……わかりました。そうしましょう」

 

 2人の会話を私は怒りを沈めてただ黙って聞いていた。

 

 「美咲もそれでいいだろう?これでお前はまた一人っ子になってしまうが、お前のためだ。わかったな?」

 

 「……はい。私もそれでいいです」

 

 いいわけないだろうが。

 

 「うむ。流石、私の娘だ」

 

 父が少し機嫌が良くなる。そろそろいいだろう。

 

 「父さん、母さん。これ……」

 

 「む?これは……」

 

 私は父に2枚の紙切れを渡す。

 

 「それは温泉のチケットです。2人ともここ最近仕事詰めで疲れているでしょう?せっかくだから用意してみました」

 

 「美咲……」

 

 「私は家で勉強していますから……2人で楽しんできてください」

 

 「……わかった。すまないな美咲」

 

 「ありがとう……美咲……」

 

 父と母は感動してお礼を言う。どうやらすんなりといきそうだ……

 

 --数時間後

 

 「じゃあ、留守番よろしく頼むよ」

 

 「行ってくるね、美咲」

 

 「行ってらしゃい……」

 

 2人は荷物を持って家を出る。そして車に乗り込んで、車を発進させた。

 

 

 「ふふふっ……」

 

 

  さよなら

 

 

 …………

 

 

 高速道路---

 

 「まさか美咲がこんなの用意してくれるなんて……いい娘になりましたね……」

 

 「そうだな……おっと、そろそろ下りだな……ってあれっ……」

 

 「どうしました?」

 

 「なっ……ブレーキが効かない!」

 

 「えっ!?ちょっと、それってどういうことですか!?」

 

 「くそっ!なぜ効かない!それどころか制動距離が伸びてきている……!」

 

 「ちょっと!どうにかしなさいよ!」

 

 「くそっ!なぜなんだ!くそっ!」

 

 「あっ……あっ……」

 

 「止まれぇ!止まれぇぇぇ!」

 

 

 うわああああああああああっ!!

 

 

 

 

 …………

 

 

 市立病院--

 

『ニュースです。先程、高速道路で大規模な事故が起き、現在渋滞中です。事故に会った、天野成さんと天野美香さんの2人の死亡が確認されました。今の状況を現場からお伝えします--』

 

 病院のTVのニュースでそれを聞いた俺はなんとも表現しにくい複雑な感情になった。

 

 「……ははっ……ざまぁみろ……日頃の行いが悪いからこうなるんだ……」

 

 2人の死を嘆くべきか、喜ぶべきか、わからなかったが、何故か俺の目から涙が出ていた。いくら最低な奴らだけども、天涯孤独だった俺を引き取ってくれてここまで育ててくれたんだ。なんとも思わないわけがない。だから余計に複雑な気分になった。

 

 

 2日後--

 

 「ただいま」

 

 「おかえりだ。涼介」

 

 あれから2日後の夕方。俺は無事退院する事ができた。

 

 「いやぁ~久しぶりに、帰ってきたなぁ~……」

 

 「ふっ。今日の夕飯は退院祝いでご馳走だぞ!」

 

 「やったぜ!」

 

 そして俺達は姉ちゃんの作ってくれたご馳走を頬張った。久々の姉ちゃんの作ってくれたご飯はめちゃくちゃ美味かった。

 

 

 お互い風呂も済ませて、2人で静かにTVを見ていると時刻は深夜を過ぎていた。

 

 「ふあ~……そろそろ寝るかな」

 

 「そうだな……」

 

 そしてTVを消して寝る準備をすると、ふと目にこの前父親が飲んでいた酒の空瓶が目に入る。

 

 「……なぁ、姉ちゃん」

 

 「なんだ?」

 

 俺はふと思った事を姉ちゃんに聞いてみる。

 

 「父さんと母さんが死んだ時、姉ちゃんはどう思った?」

 

 「………」

 

 自分でもちょっと嫌な質問しちゃったなと思う。

 

 「ごめん。今のはわすれ--

 

 「わからない」

 

 俺が謝ろうとすると姉ちゃんは口を開いてそう言った。

 

 「確かに、私はあの二人のことを好ましくは思っていなかったし、いっそ消えればいいと思ったこともある。だが、いざ本当に消えてみると複雑な気分になるよ……一応あれでも、私の親なんだからな……おかげで、私も天涯孤独の身だ」

 

 「姉ちゃん……」

 

 「だがな、私はあの2人よりもお前がいなくなる方がもっと嫌だ」

 

 そう言って姉ちゃんは俺に抱きついてくる。

 

 「ちょ、姉ちゃん?」

 

 

 「涼介。お前が何を思ってどこに行こうが私は付いていくつもりだ。両親に続いてお前も失ってしまったら私は耐えられない……。お前が望むことならなんでもするし、なんでもさせてあげよう」

 

 

 

 「だから……私の傍を離れないでくれ……ずっと一緒にいてくれ……もう1人は……嫌だ……」

 

 

 

 姉ちゃんの抱きつく力が強くなり、声を出さずに静かに泣いていた。

 

 「姉ちゃん……」

 

 俺は姉ちゃんを抱き返した。

 

 「りょう……すけ?」

 

 「俺でよければ、ずっと一緒に居るよ。もう姉ちゃんに悲しい思いはさせない……」

 

 「……!」

 

 

 あぁ……チョロイなぁ俺。義理の姉にこんな感情を抱くのはいけないのに……

 

 

 「好きだよ……姉ちゃん」

 

 「私も……お前が大好きだ、涼介」

 

 そしてお互いに見つめ合う。姉ちゃんの泣き顔を見るのはこれで2度目だが、その顔は悲しいのではなく、嬉しそうだった。

 徐々にお互い顔の距離が近づき……

 

 「………」

 

 「んっ……」

 

 唇と唇が触れ合った。

 

 「んぅぅ……ん……ちゅ……んっ」

 

 姉ちゃんがそこから舌を絡ませてくる。それに応えて、俺も舌を入れた。

 

 「っちゅ……んっ……はあっ」

 

 息が苦しくなって唇を離す。口から1本の唾液の糸が垂れた。

 そして姉ちゃんが1歩離れると、服を脱いだ。女性の綺麗な肌が顕になる。

 

 

 「涼介……私を……お前の女にしてくれ……」

 

 

 「ッ!!」

 

 俺はその場で姉ちゃんを押し倒す。しかしまだ俺には迷いがあって、少し躊躇っていたが……

 

 

 「遠慮する必要は無い……私はお前にもらって欲しいんだ……私の初めてを……」

 

 

 そして姉ちゃんが俺の顔をぐいっと寄せて耳元で囁かれた。

 

 

 

 「……好きにしていいぞ、涼介♡」

 

 

 

 それを聞いて俺の理性はぶっ飛んだ。

 

 そしてこの夜、俺はめでたく童貞を卒業した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 翌日--

 

 「すまんな、遅くなった」

 

 「あぁ。って、おお……」

 

 「な、なんだ?ジロジロと見て?」

 

 「いや、気合の入った私服姿の姉ちゃんも綺麗だなって……」

 

 「ごほん……」

 

 「あ、えっと……可愛いよ、美咲」

 

 「うん。よろしい♪」

 

(姉ちゃんを改めて名前で呼ぶのは慣れねぇなぁ……)

 

 「さぁ、早く行こうじゃないか!私達の初デートだぞ!」

 

 「そうだな。今日は思いっきり楽しもうぜ!」

 

 「うむ!行こう、涼介」

 

 「あぁ!ねぇちゃ……美咲!」

 

 「ふふふっ♪」

 

 

 愛しているぞ、涼介




姉が居たら苦労しそう( ˘ω˘ )


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絶対離さないから!

妹は良い文明?( ˘ω˘ )


 「………」

 

 6月の下旬。そろそろ期末試験の時期なので僕は学校の図書室に残って勉強をしている。

 

 「あれ?今日も残ってるんだね?」

 

 図書室で仕事をしている河原 梅子さんに声をかけられる。

 

 「河原さんか。お仕事お疲れ様」

 

 「ほんと疲れたよ~。まったく……ここ1週間、佐藤君が休みで仕事がこっちにまわってきちゃってね~……」

 

 佐藤 拓也。同じクラスの男子で僕の友人の1人であるが、1週間くらい前に病気ということで休んでいる。

 

 「あの元気で真面目な佐藤君がこんなに長く休むなんて珍しいよね。何かあったのかな……?」

 

 そういえば3日前にメールを送ったが、未だに既読がつかないままだ。病気で寝込んでいるだけだといいけど……

 

 「あいつのことだから大丈夫だよ。心配なら今日あいつにメール送っとくからさ」

 

 「うん。ありがと」

 

 ♪~♫~♪~♫

 

 「あっ……もうこんな時間」

 

 気づけば夜の19時になっており、完全下校時刻時に流れる曲が流れ始めた。

 

 「じゃあそろそろ帰るかな。じゃあね!」

 

 「うん。じゃ」

 

 河原さんがバッグを持って図書室を出る。僕も勉強道具一式をバッグに入れて図書室を退室し、学校を出た。

 

 普通の眼鏡男子高校生である僕こと原口 護はあまり家には帰りたくない。だからこうやってギリギリまで時間をできるだけ潰している。今回は期末試験が近いため、学校に残っていた。

 

 どうして僕が家に帰りたくないって?別に家が貧乏なわけでもないし、親が暴力ばっかり振るう悪い人達でもない。むしろ優しくてとてもいい両親だ。

 

 

 ただ……ある1人の人物のせいで、家に帰りたくないと思ってしまうのだ……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ただいま~……」

 

 自宅の玄関の扉を開けて、家に入る。

 するとドタドタと誰かが走って来た。

 

 「おっかえりー!」

 

 そして走った勢いでギュッと僕に抱きついてくる。

 

 「はぁ……ただいま。優里香」

 

 「お帰り!お兄ちゃん!」

 

 そう。帰りたくないと思う原因は、僕のいっこ下の妹。原口 優里香だ。

 

 

 「ん~っ!お兄ちゃんの匂い……///」

 

 優里香は僕の体に密着して匂いを嗅いでいる。僕はため息を吐いて

 

 「もういいだろ?そろそろ離れてくれない?」

 

 と優里香に言った。

 

 「いや。だって今日もお兄ちゃん帰り遅かったじゃん」

 

 「それは、テストが近いから学校に残って勉強してるんだよ」

 

 「お兄ちゃんは相変わらず真面目だね~」

 

 「それしか取り柄が無いだけだよ。あとそろそろ離れて?部屋に行けない」

 

 そう言いつつ僕は無理矢理密着していた優里香を引き剥がした。

 

 「あん……もうお兄ちゃんったら……意外と強引なんだから♪」

 

 「五月蝿い」

 

 「ぶー……」

 

 そんな可愛い顔でぶすくれてもダメだからな……。いつからこんなにデレデレになったんだっけ?覚えてるわけがない。気づいたら優里香が異常なほどに僕に執着していたのだ。なんでこうなったか原因が知りたいよまったく……

 

 

 -----

 

 

 優里香は中学三年生で明るい性格の持ち主であり、中学校では結構な人気者らしい。特に優里香は運動神経が抜群に良く、どんなスポーツでもコツをつかんでしまえば、やりこなせる感じだ。

 155cmくらいの身長に飴色のショートヘアー、そして中学生とは思えないその豊富な胸!CかDくらいは……もしやそれ以上はあるんじゃないか?そんなエロい体してる優里香は巨乳好きの中学男子からしたらいいオカズであろう……

 

 「ちょっとお兄ちゃん?今卑猥なこと考えてなかった?」

 

 「滅相もございません」

 

 「ふーん……」

 

 まあそんな妹に欲情してしまうような愚か者ではないぞ僕は。

 そんなことを考えながら僕達は今家族で夕食をとっている。

 

 「あらまぁ。護ちゃんもそんな年頃なのねぇ~」

 

 母さんはいつもののほほんとした雰囲気で言う。

 

 「お前の年齢の時はちょうど思春期真っ盛りだからな。その事に興味があるのは普通のことさ。うんうん」

 

 そして父さんも納得したようにそう言った。

 

 「だから考えてないってば……」

 

 「隠さなくていいんだぞ?そうだ!今度俺と一緒に巨乳もののエロ本を--

 

 「あ な た ?」

 

 母さんは笑顔だが、その目は笑ってはいない。

 

 「ひっ……じ、冗談だよ!全く母さんったら本気にしちゃってー!あっはっはっはっは」

 

 「………」

 

 父さんに母さんと優里香のジトーっとした痛い目が突き刺さる。

 

 「ごほん……安心しろ。俺はどんなにエロい子が来ようが、愛してるのは君だけだよ、母さん……」

 

 「あなた……///」

 

 そして勝手に和解して、2人でイチャイチャし始める。いつもの光景だ。僕はそれを華麗にスルーしながら箸を進める。

 

 「………」

 

 そして隣にいる優里香はチラチラと俺の方を伺う。断じてあの2人のようにイチャイチャしないからな!断じて!と優里香に目で訴える。

 

 「ぶー……」

 

 どうやら伝わったみたいだな。優里香がぶすくれている。

 

 「ねぇ~。私達もお母さん達みたいにイチャイチャ--

 

 「だからしないからね!?ご馳走様!」

 

 一刻も早くここから逃げ出そうと俺は食べ終わった食器を片付け、いそいそと部屋へ戻った。

 

 「もぅ……最近お兄ちゃん冷たいなぁ~」

 

 「うふふ。あれはあれで結構恥ずかしがってんのよ、あの子は」

 

 「そうかな……?」

 

 「きっとそうよ。だから優里香も頑張って!あなたの想いはきっと届くわ!」

 

 「……うん!がんばるよ私!」

 

 

 

 

 「へっくしょん!」

 

 なんだ……急に寒気が……気のせいかな。

 

 あ、そういえば今日は拓也にメールを送らなきゃいけないんだった。僕はスマホの電源を入れ、あの某メールアプリを開く。

 

<拓也~。生きてますか~?

 

 拓也の個人チャットに送る。すると今日は直ぐに既読が付いた。

 

<……護ぅぅぅぅう!

 

<・゚・(つД`)ノタスケテー!

 

 すると拓也からの返信は助けを求めるような内容であった。とりあえず何があったのか様子を見よう。

 

<どうしたんだ?

 

<いやね……わたくしちょっと非常に危険な状況になっててね……(ºωº)

 

<病気で休んでたんじゃないのか?

 

<違うよ!俺はバリバリ元気だよ!٩( ´ω` )و

 

<ならなんで、2週間も休んでるんだよ。河原さん怒ってたぞ?

 

<うわ、マジか~。仕事のことだろうなぁ……申し訳ない(´・ω・`)

 

<実はな……

 

<おう。言ってみ。

 

<あ、やばい帰ってきた

 

<ん?

 

<とにかく!俺はバリバリ元気で、もうすぐ脱出できるよう頑張るから!じゃ!( 。`- ω -´。)ノシ

 

<お、おい!

 

 そこから先は既読が付かなくなった。

 危険な状況?脱出?あいつは一体どんな目にあってるんだ……とりあえず元気そうだったし、心配はないだろう。さて、テスト勉強の続きをしよう……

 

 

 ------

 

 

 2時間後--

 

 「ふぅ……そろそろ寝ようかな」

 

 深夜0時を過ぎ、そろそろ眠気がさしてきた頃なので寝るとする。

 

(その前にトイレ行こうっと……)

 

 そう思って僕は部屋を出る。

 

 --数分後

 

 再び部屋に戻ると、僕がベッドの上に掛け布団を綺麗に畳んでいたはずなのに、それが綺麗に広げられている。

 

(はぁ……またか……)

 

 僕は呆れながら掛け布団をめくると、

 

 「温めておいたよ、お兄ちゃん♪」

 

 「………」

 

 妹の優里香が僕のベッドに入っていた。これもいつものことである。

 

 「はぁ……優里香、お前毎日こんなことして飽きないのか?」

 

 「全然!むしろお兄ちゃんのベッドはフカフカでいい匂いするからこっちが寝心地いいの~」

 

 「優里香のベッドと僕のベッドは同じやつだろ……」

 

 「違うもん!そこにお兄ちゃんの匂いがあるからいいんだよ!」

 

 「訳わからん……」

 

 優里香は両腕を僕の方にバッと広げ、何かを受け入れるような体勢になる。そして何かを待っているかのような期待の眼差しが僕に向けられる。

 

 「さぁ、お兄ちゃん!私の胸に飛び込んでおいで!」

 

 「はい帰った帰った~」

 

 僕は無理矢理に妹をベッドから引きずり出し、部屋を出ていかせる。

 

 「お兄ちゃんったら……そんな恥ずかしがらなくてもいいのに」

 

 「僕にとっては充分恥ずかしいっての。はいお休み!」

 

 そして僕は部屋のドアを力強く閉めて、鍵をかけた。

 

 「もぅ……」

 

 そしてスタスタと優里香が自分の部屋に帰っていく足音がする。僕は安堵したようにふぅ……とひと息ついてベッドに入る。明日も学校だからさっさと寝よう……

 

 

 …………

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 …ガチャ

 

 ……

 

 …モゾモゾ

 

 「うふふ♪」

 

 と安心して寝られると思ったのだが、そうはいかなかった。

 

(なんで入ってきてるんすか!?)

 

 なんで優里香が僕のベッドにまた入ってくるんだよ!?こっちは安眠したいのに!

 こんな事になるのは今日が初めてだ。普通ならさっきのように無理矢理にでも出ていかせるが、そんな気力は起こらなかった。今回は無視してとっとと眠りにつこう……

 

 「お兄ちゃん……」

 

 「zzz……」

 

 「……寝てる……よね?」

 

 「zzz……」

 

 まだ眠ってはいないが、とりあえず眠っている振りをする。

 

 「………」

 

 「zzz……ッ!」

 

 すると背中に2つの柔らかい感触が走る。さらに僕の腹回りに腕が回され、優しく優里香の方へ抱き寄せられる。

 お願いだからやめてくれ!ほんとに寝れない。色んな意味で。

 

 「えへへ……あったかいなぁ……」

 

 「………」

 

 でも僕はもう色々と面倒だし、放っておくことにした。無駄なことを考えず早く眠りにつけばどうとでもなるだろう……ほら、もう眠く……なって……---

 

 「………」

 

 「お兄ちゃん……」

 

 「………」

 

 「………」

 

 「……んっ……」

 

 「んっ……あっ……おにぃ……ちゃん……」

 

 「好き……大好きだよ……おにぃちゃん……」

 

 「………」

 

 「可愛い寝顔……うふふっ」

 

 

 チュ……

 

 

 「今度は……起きてる時に、キスしたいな……お兄ちゃん♡」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ……寝れるかよコンチキショーが!!

 

 

 

 そして優里香の甘い攻撃を耐え続け、遂に彼女が力尽きて寝てしまうまで僕は寝れることができなかった。

 

 

 

 翌朝--

 

 ピピピッ! ピピピッ!

 

 「んあ……」

 

 五月蝿く目覚まし時計が鳴る。どうやらもう朝が来たみたいだ。僕は目覚まし時計を止めて、それの隣に置いてある眼鏡をかけて起き上がる。

 隣にいたはずの優里香の姿は見当たらない。どうやら僕より先に起きたみたいだ。

 昨日は優里香のせいであまり眠れていない。口の周りがベトベトする……今度からは寝る際に絶対優里香を入れないように厳重に閉めておこう。そして僕は顔を洗いに寝ぼけた状態で洗面所に向かった。

 

 …………

 

 「あっ、おはよう!お兄ちゃん」

 

 「おう……」

 

 僕の元気のないことに対し、優里香は朝から元気よく挨拶してくる。

 

 「あれ?お兄ちゃん、目にクマが出来てるよ?昨日は寝れなかったの?」

 

 「………」

 

 誰のせいで寝れなかったと思ってるんだ。誰のせいで。とジト目で訴える。

 

 「?」

 

 優里香はよく分からないと首をかしげる。例えお前が昨日の事を忘れていようが、俺はちゃんと覚えてるからなこの野郎……。

 

 

 

 

 

 そして高校にて--

 a.m.11:20

 

 1-1

 

 「はぁ……」

 

(疲れた……)

 

 昨日の寝不足が響いているのか、3時間目を終えた頃から疲れがきていた。僕は机でぐて~っとだらけていた。

 

 「おいおい珍しいな。お前がそんなに疲れてるなんて」

 

 クラスの男子から声をかけられる。

 

 「まぁ……ちょっとね……」

 

 「ふーん……まぁ根詰めすぎんなよ~」

 

 「うん……」

 

 そう言ってクラスの男子は去って行った。僕も机に伏せて次の授業が始まるまで仮眠をとった。

 

 

 中学校にて--

 

 「♪~♪~」

 

 「どうしたの優里香?今日ずいぶん機嫌いいじゃん」

 

 「え~?そう見える?」

 

 「うん。何かいい事あった?」

 

 「まぁ……ね……うふふっ♪」

 

(んー、何があった?もしかして彼氏でもできたのかな……?)

 

 「♪~♪~」

 

 

 ------

 

 

 「はぁ……」

 

 今日は一段と疲れた。今回は普通に家に帰って寝よう……

 

 「……あ、そういえばノートなくなったんだった……」

 

 そして僕が読んでいる小説の新刊も今日発売だ。仕方ない、今日は本屋によって用を済ましたらすぐ帰ろう。

 

 

 商店街の本屋--

 

 「ノートと……おっ、あったあった」

 

 僕は今日発売の小説本を手に取ると、

 

 「あれ?護?」

 

 「おっ、奏」

 

 たまたまそこにいた黒髪セミロングヘアーで眼鏡少女の幼馴染み、木原 奏に声をかけられた。

 奏とは小学校からの友達で、趣味が読書ということから僕達はすぐに仲良くなり、よく優里香と奏で一緒に外で遊んだり、本を読んだりしていた。今は僕と違って奏は別の私立の高校に通っているが家が近いため、よく朝の通学で会ったりする。

 

 「あっ、それ私まだ読んでないんだ~。面白いんでしょ?」

 

 「凄く面白いよ。なんたってこの本の魅力は--

 

 それから僕は奏と本のことや世間話など色々なことを話しながら一緒に帰った。

 

 

 

 

 

(……お兄ちゃん……)

 

 商店街の通り、たまたま買い物をしていた優里香は護と奏が一緒に帰っているのを目撃していた。

 

 

 

(なんで、そんなに楽しそうに話してるの?私の時は冷たいのに……)

 

 

 

(なんであの女は嬉しそうなの?なんでお兄ちゃんもあんなに笑顔なの?ふざけないでよ。お兄ちゃんは私のものなんだよ?)

 

 

 

(なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで?)

 

 

 

(お兄ちゃん……?)

 

 

 ------

 

 

 「じゃあね護。さっきは楽しかった♪時間があったら今度は一緒に図書館にでも行きましょ?」

 

 「うん。じゃあね」

 

 別れ道で奏と別れ、僕はすぐそこの自宅に到着する。

 

 「ただいま~……」

 

 「……!……!」

 

 玄関の扉を開けて家に入ると、何故かリビングが騒がしかった。よく見ると父さんと母さんの靴が置いてあった。今日は仕事終わるの早いんだなと思いつつリビングへ入る。

 

 「ただいま」

 

 「あっ!護ちゃん!」

 

 「おかえり護!」

 

 父さんと母さんが嬉しさで興奮している。何かいい事でもあったのだろうか?

 

 「何かあったの?」

 

 「見てみて!」

 

 そうして母さんは2枚のチケットを取り出した。

 

 「今日買い物してて、気まぐれで商店街にあるくじ引きしたら大当たりしちゃって、2人分の1週間分の温泉旅行券が当たっちゃったの!」

 

 「だから今から俺達は母さんと2人で温泉旅行に行くんだ!だから急ですまないが留守番頼めるか?家事は優里香と2人で協力してやってくれ。お土産はちゃんといいもん買ってくるからよ!」

 

 

 ……なん……だと……

 

 

 「え?今から?」

 

 「おう!」

 

 

 ……まてまてまてまて。今から父さんと母さんは旅行に行く……1週間の間両親は家を空ける……家に残るのは僕と優里香……つまり……

 

 

 「………」

 

 「大丈夫だよ!家のことやお兄ちゃんの事は私に任せて!」

 

 「お~。優里香は頼もしいな!じゃあよろしく頼むよ!」

 

 「じゃあ2人とも、後は宜しくね。いってきま~す♪」

 

 「うん!いってらっしゃい」

 

 そうして2人は大きなバッグを持って家を出た。

 

 「………」

 

 「……うふふ♪」

 

 「今日から2人っきりだね!お兄ちゃん♡」

 

 

 こいつと2人っきりってことかぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!!

 

 

 

 

 数時間後--

 

 「はい、お兄ちゃん!優里香特製オムライスだよ!」

 

 そう言って優里香は、美味しく出来上がっており、ケチャップで堂々とハートマークが書かれてあるオムライスが乗っている皿を僕の前に置いた。

 

 「優里香、料理できるんだな」

 

 「毎日お母さんに教わりながら手伝いしてるからね。もう料理も充分出来るよ!」

 

 「そっか……いただきます」

 

 「はい、召し上がれ♪」

 

 そしてスプーンでオムライスをスプーンで掬って口に入れる。

 

 「……うん。美味しい」

 

 「……!!」

 

 それを聞いた優里香はパアっと今までよりも明るい笑顔になった。

 

 「えへへ……お兄ちゃん!褒めて褒めて!」

 

 「はいはい。優里香は凄いよ」

 

 「それだけじゃ嫌。なでなでして」

 

 「今は食事中でしょ?」

 

 「………」

 

 まったく……来年は高校生になるってのにそんな精神年齢で大丈夫なのか……?そう思いつつ僕はせっせと食事を進める。

 

 

 「……ねぇお兄ちゃん……最近、私に対して冷たくない?」

 

 するとさっきまで明るかった優里香がいきなり静かな雰囲気でそう言った。

 

 「そうか?いつも通りだぞ」

 

 僕はそんなこと気にせずに食事を進める。

 

 「昔みたいに一緒に遊んでくれないし……褒めてくれないし……私の話を真剣に聞こうともしない……」

 

 なんだ?何が言いたいんだ優里香は?

 

 「ねぇお兄ちゃん……私のこと、避けてるの?嫌いなの?それとも……」

 

 

 

『私が本当の妹じゃないから?』

 

 

 

 その言葉を聞いて、僕は絶句した。

 

 

 

 「なんで……お前が……」

 

 あまりにも驚いて僕は持っていたスプーンを落としてしまう。

 

 「私が知らないと思ってた?実は結構前から知ってたんだよ。私とお兄ちゃんが血の繋がってない兄妹ってこと」

 

 

 「……いつから……気づいてた……?」

 

 

 「そうだなぁ~……私が中1の頃かな」

 

 

 「……どうやって、その事を知った……?」

 

 

 「えっとね、たまたま親のアルバム見てたらさ、1枚だけお父さんと知らない女の人が写ってたんだ。それをお父さんに問い詰めたら申し訳なさそうな顔をして全部話してくれたよ」

 

 

(父さん……優里香には高校生になってから話すんじゃなかったのか……)

 

 

 「その時はショックだったなぁ……いつも優しかったお兄ちゃんが本当のお兄ちゃんじゃないって知って大泣きしたなぁ……」

 

 「私ね、小学校ではずっと1人だったんだ。その頃は暗い性格で、上手く友達も作れなくて、ひとりで過ごしてた。だけどお兄ちゃんはそんな私の手を取って、一緒に居てくれたよね。お兄ちゃんはいつでも優しくて、かっこよくて、お兄ちゃんみたいな人が彼氏だったらいいなって思ってたんだ」

 

 そういえば、小学校の頃は優里香は暗い性格であった。あの頃の僕は1人でいるあいつが見過ごせなくてよく一緒にあそんでやったっけ……

 

 「でもね、よくよく考えたら私達は兄妹だけど、血は繋がってない。だからお兄ちゃんと兄妹の関係じゃなくて、本当に彼氏彼女の、それ以上の関係になれるんじゃないかって……そう思ったの」

 

 

 「………」

 

 

 「だから私はお兄ちゃんに振り向いてもらえるようにいっぱい努力して、いっぱいアピールしたけど、お兄ちゃんはどんどん離れていくだけ……私の事なんか見てくれてない……むしろ他の女と楽しそうに笑ってる……」

 

 

 

 

 「そんなの嫌だ!お兄ちゃんの笑顔は私だけのもの!お兄ちゃんの幸せは私の幸せ!お兄ちゃんを私から奪おうとする雌豚はみんな殺す!絶対に殺す!!」

 

 

 

 

 「ひっ……」

 

 

(なんか今日の優里香は怖いぞ……さっきから何を言っているんだ……?)

 

 僕は優里香から放たれる得体の知れない恐怖で体が震えて、嫌な冷や汗を流す。

 

 

 「私は好きなのはお兄ちゃんただ1人。ほかの男なんか興味ないし、死んだってどうでもいい。私にはお兄ちゃんしか見ないし、お兄ちゃんが求めることならなんだってする……お兄ちゃんさえ居てくれれば何もいらない……だから……」

 

 

 

 そう言って優里香はどこから取り出しのか、肉切り包丁を持った。

 

 

 「なっ……!」

 

 僕は席を立ち上がって、少しずつ後ずさりする。

 

 

 「何をしてるんだ優里香!そんな危ないもの早くしまえ!」

 

 

 

 「お兄ちゃんが私以外の場所に行くその足も、私以外のものを触るその手も、全部要らないよね?」

 

 

 

 少しずつ優里香は僕との距離を詰める。

 

 

 「大丈夫だよ!お兄ちゃんの手足が無くなったって、私が全部お世話するから!食事だって、お風呂だって、トイレだって……性処理だって、全部するから!」

 

 

 「前はお兄ちゃんが私に優しくしてくれたから今度は私の番。私はお兄ちゃんの為ならなんだってするよ?だから……」

 

 

 

 「あっ……あっ……」

 

 

 

 

 「私とずっと一緒にいてね?お兄ちゃん……♡」

 

 

 

 「うわあああああああああああっ!!」

 

 

 

 

 殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される殺される!

 

 

 

 僕は必死になって家を飛び出し、無我夢中で人通りの少ない夜の道を走った。

 

 

 

 「……へぇ……逃げるんだぁ……」

 

 「ふふふっ、鬼ごっこかな?久々にお兄ちゃんと遊べる……」

 

 「まっててね?何処に行こうが、私はお兄ちゃんのこと、絶対離さないから……♪」

 

 「今捕まえるよ、お兄ちゃん♪」

 

 

 ------

 

 

 「はあっ……!はあっ……!」

 

 必死に走る。

 ただ必死に走る。

 ただ無我夢中に走る。

 捕まらないために。

 殺されないために。

 僕はただ必死に、足を動かした。

 

 「うわっ!」

 

 不意に足がもつれて、思いっきりこけてしまう。

 

 「いてて……くそっ」

 

 さすがに運動は苦手だからそこまで体力は持たないどこかで休憩しないと……

 そう思って僕は近くの公園に避難した。

 

 「ふぅ……」

 

 小さい子が入って遊ぶ砂場にあるホールに僕は隠れた。ここに入るのはいつぶりだろう……

 

 

 

(どうして……こんな事に……)

 

 

 僕と優里香は実の妹ではない。僕が生まれてからすぐに実の母親は不倫をしていた。僕が1歳の頃に2人は離婚し、僕は父さんに引き取られた。

 しかしその1年後、今までDVを受けていて、その夫と離婚してシングルマザーだった女性と再婚する。その女性には1歳の娘がいた。その娘が優里香である。

 

 その事を父さんと母さんに言われたのは僕が中学2年生の頃だった。理由はたまたま僕がビデオを探っていると、古いビデオテープを発見し、それを見ると、父さんと知らない女性が映っている動画だった。それを僕が見つけてしまい、もう隠すことはできないと思って父さんと母さんは僕に全てを教えてくれた。

 それはもう本当にショックだった。泣きはしなかったが、家族と距離をとるようになった。主に優里香との距離を離そうとした。

 

 だがそれから1年、あいつは僕から離れるどころか距離を縮めてきたのだ。不思議でたまらなかった。どうしてそんなにくっつこうとする?どうして兄妹じゃないのに仲良くしようとする?と。

 しかしその頃には優里香は真実を知っていた。それなのにあれだけくっつこうとしてきた。あれは何も知らなかったからじゃなくて、分かっててやっていたのか……?僕と優里香は血の繋がってない、赤の他人と今まで暮らしてきたのに、優里香は嫌とは思わなかったのか……?

 

 この暗い空間で、僕は落ち着いた頭で色々と考えていた。

 

[私が好きなのはお兄ちゃんただ1人。]

 

 なんで僕なんだ?僕以外にも他にいい男がいるだろう?こんな何も魅力もない僕の何処がいいんだ?僕の何処がいいって言うんだ?

 

 考えれば考えるほど、分からなくなった。

 

 

 

 

 「お兄ちゃん~」

 

 「ッ!」

 

 唐突に優里香の声がし、僕は驚いてホールに空いてる小さな穴から外の様子を見る。

 そこには、ケースに入れた包丁を持ってキョロキョロと僕を探す優里香の姿があった。

 

 さてこれからどうする……ここが見つかるのも時間の問題だ……あいつに身体能力で勝負しようとすれば絶対に勝てない。裏から逃げるのもいいが、バレてしまったらそこで終わりだ。どうする……どうする……どうすれば……

 

 

 「あれ?優里香ちゃんじゃない」

 

 「ッ……!」

 

 するとそこに自転車に乗っている奏が優里香の前に現れた。優里香は右手に持っていた包丁をサッと後ろに隠す。そういえば奏は今日のこの時間は塾帰りだったっけ……

 

 

 ってまずい!今あいつに近づいたら……!

 

 「奏さん……」

 

 「優里香ちゃんがこんな時間に外出るなんて珍しいわね。何してるの?」

 

 奏は自転車から降りて、優里香に近づいて行く。優里香はそ~っと包丁の刃部分のケースを取り出そうとする。

 

 やめろ……

 

 「まぁ……すこし用事がね……」

 

 「へぇ、そうなの?誰かと待ち合わせ?」

 

 優里香の顔が徐々にニヤけたものに変わっていく。既に包丁はケースから取り出していて、鋭い刃が街灯の光で輝いている。

 

 やめろ……!

 

 

 「いや、待ち合わせというより……」

 

 

 やめろ!

 

 

 「……雌豚駆除だね♪」

 

 「えっ?」

 

 

 くそおぉぉぉぉぉぉっ!

 

 

 優里香は右手で包丁を振り上げていた。

 

 気づけば俺の足は、2人の所へ向かって走っていた。

 

 

 「やめろぉぉぉぉぉ!!」

 

 そして僕は飛び出して奏を突き飛ばしていた。振り下ろされた包丁はギリギリで僕の足を掠めた。

 

 「きゃっ!」

 

 「ちっ……あっ……お兄ちゃん、みーつけた♪」

 

 「優里香……」

 

 「いたた……ちょっと護!これはどういう事!?なんで優里香ちゃんが包丁持ってんのよ!?」

 

 「とりあえず落ち着いてくれ!」

 

 「これが落ち着いていられるもんか!なんで私が優里香ちゃんに殺されなければならないのよ!説明してよ!」

 

 「だから落ち着けって……」

 

 奏は予想以上に取り乱している。それはそうだろう。なんたって幼馴染みの妹に殺されかけているのだから。

 

 「また……お兄ちゃんと話してる……」

 

 「はぁ!?一体何なのよ!私あんたに何か殺されるようなことしてないでしょ!?」

 

 「私のお兄ちゃんを奪ったから奪い返しにきたのよ!」

 

 「何を言ってるの!?私は何もしてないし、何も奪っていない!」

 

 「黙れ雌豚!!お前みたいなやつがいるからお兄ちゃんは私を見てくれない!私を愛してくれない!だからここで殺してやる!」

 

 「ひっ……!」

 

 「………」

 

 そして僕は黙って優里香に近づく。

 

 「ちょっと護!」

 

 「あっ、お兄ちゃん♪」

 

 優里香は目を細めてとろんとした顔で僕を見つめる。その目に光は宿していなかった。

 

 「優里香……」

 

 「えへへ。さっ、帰ろう?私達の家に」

 

 「その前に、一ついいか?」

 

 

 今ここで、僕が優里香の暴走を止めないと……!

 

 

 「なぁに?お兄ちゃん」

 

 「優里香……」

 

 

『どうしてそんなに僕がいいんだ?』

 

 

 僕は今さっきまで疑問に思っていたことを本人に問いかける。

 

 

 「どうしてって、それは私がお兄ちゃんが好きだからだよ!この世で1番大好きなお兄ちゃんだから!」

 

 「何を根拠にそう言ってるんだ?僕は優里香に何一つその異常なほど好かれるような事はしていない」

 

 「ううん。してるよ。私に優しくしてくれたこと。私に勉強を教えてくれたこと。私に色んな本を教えてくれたりとか、いっぱいあるよ!」

 

 「そんな事、他のやつでもできるだろ?なんで僕にこだわるんだ。こんな何も無いような僕に、どうしてそこまでの好意を向けられるんだ?」

 

 「お兄ちゃん……?」

 

 「僕以上にいい男なんていっぱいいる。今の優里香だったら、そこらへんのイケメンを捕まえることくらい容易いだろう?」

 

 「………」

 

 「なぁ、本気で教えてくれ。どうして僕なんだ?なんで優里香は僕をそうまでして手に入れたいんだ?」

 

 僕はありったけの疑問を優里香にぶつけた。

 

 「……ねぇ、お兄ちゃん」

 

 「……なんだ」

 

 優里香は構えていた包丁を下ろす。

 

 「私ね、小学生のあの時から私はお兄ちゃんの事大好きだったよ?1人でいた私を強引に引っ張って、色々遊んだり、教えてくれたりしたあの時から」

 

 「………」

 

 「私は他の男の優しさよりも、お兄ちゃんの優しさの方が心地よかったんだ。私が嬉しい時も、悲しい時も、寂しい時も、ずっと隣にいてくれたよね。私にとってそれがたまらなく嬉しかった。」

 

 「でも、お父さんから本当の事を聞いて、ショックの方が大きかったけど心の隅では、本当の兄妹じゃないなら他の男結婚しなくてもお兄ちゃんと結構できるんだって。ずっと一緒にいられる……って」

 

 

 そんなことを……

 

 

 「私はお兄ちゃんのこと、兄としてじゃなく男として見てたんだよ?ずっとね」

 

 「だからこの暗い性格や悪いところを直そうと必死に頑張って、努力して、少しでも褒めてもらいたかった……お兄ちゃんにいい方向に変わっていく私を見て欲しかったんた……避けて欲しくなかったんだ……大好きなお兄ちゃんに」

 

 

 まさか……そこまで思い詰めていたとはな……

 ただ僕に見て欲しいだけ、ただ僕に避けられたくないだけ、そんな優里香の気持ちを分かろうともせず、僕はただ優里香を知らぬ間に傷つけていたのか……

 

 

 「でも、お兄ちゃんが迷惑してるなら……仕方ないよね……」

 

 すると優里香は肉切り包丁を今度は自分の首に向けた。

 

 「優里香……?」

 

 「お兄ちゃんが私のことを迷惑だって思ってるなら、私は消えるよ。お兄ちゃんのためだもん」

 

 「そんな!迷惑だなんて思っていない!だから包丁をはなせ!」

 

 「ふふふっ。今更そう言っても、説得力がないよ……」

 

 優里香が涙を流しながら微笑む。

 

 「じゃあね、お兄ちゃん。今まで迷惑かけてごめんなさい……そして、こんな私を少しでも気にかけてくれて……愛してくれて、ありがとう……」

 

 そして優里香は包丁を振り上げる。

 

 はぁ……まったく、僕の妹は……!

 

 

 「………」

 

 

 「……えっ?おにぃ……ちゃん?」

 

 

 僕は優里香を優しく抱きしめた。

 

 

 「優里香……ごめん」

 

 「!!」

 

 

 謝らなければならないのは僕だ。優里香の頑張りを僕は今まで気づいてあげれなかったせいで優里香をここまで追い詰めてしまった……僕の責任だ。

 

 

 「今まで、ずっと頑張ってきたんだな……こんな僕のために……」

 

 「……そうだよ……あれだけアピールしてもお兄ちゃん、ちっとも反応してくれないから……嫌われてるのかなって……不安に……」

 

 「嫌ってなんかないよ。でも色々と思うところがあって、無意識に優里香のこと避けてた。本当にごめんな……」

 

 「ひぐっ……ぐすっ……おにぃちゃん」

 

 「ん?」

 

 「……もっとギュッてして……」

 

 僕はさっきよりも力強く抱きしめる。

 

 「うぅ……ぐすっ……おにぃちゃん……!」

 

 「よしよし」

 

 僕は泣いている優里香の頭を優しく撫でる。

 

 「ごめんなさい……お兄ちゃんに包丁振っちゃって……ごめんなさい……お兄ちゃんの事考えずに迷惑ばっかりかけて……」

 

 「こっちこそごめんな……気づいてあげれなくて……」

 

 この責任は……僕がとらないとな……

 

 

 「好きだよ。優里香」

 

 「うぅ……うわぁぁぁぁぁぁん!」

 

 優里香は今までの不安をかき消すように大声で泣いた。

 

 「………」

 

 「はぁ……」

 

 「奏、このことは……」

 

 「分かってるわよ。私は何も見ていない」

 

 「……あぁ」

 

 奏はわかっているという感じで僕にそう言った。

 

 「じゃあね。しっかり責任とんなさいよ」

 

 そう言い残して奏は自転車に乗り、その場を去った。

 

 

 「お兄ちゃん……」

 

 「ん?」

 

 「好き……大好き……もう絶対離さないからね!」

 

 「……あぁ。望むところだ」

 

 「えへへ///」

 

 「………」

 

 「お兄ちゃん……」

 

 「……ん」

 

 「んっ……」

 

 

 そして、僕のファーストキスの相手は優里香になった。

 

 

 ------

 

 

 翌朝--

 

 「zzz……」

 

 

 「おにぃちゃああん!」

 

 

 ボスッ!

 

 

 「ぐええっ!」

 

 

 翌朝、俺が寝ているところに優里香はダイビングしてくる。

 

 

 「えへへ~♪お兄ちゃん、お兄ちゃん♪」

 

 

 「ぢょ……やめで……くるじい……」

 

 

 「いやー!離さないもんねー!」

 

 

 「ぬおおお……」

 

 

 「あっ、そうだ」

 

 

 「なに……?」

 

 

 「おはようのキスがまだだったね!はいお兄ちゃん!チュー……」

 

 

 「朝からって……!ちょ、まず離して……」

 

 

 「いいからはやく♪ほらほら♪」

 

 

 「もう……勘弁してくれ~!!」

 

 

 今日も僕と優里香の1日が始まる。




今回はハッピーエンド?っぽく仕上げました。上手くかけたかな?(´・ω・`)


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私はずっとあなたの味方です


今回はちょっと長めです。


 ♪~♪~♪

 

 「……ん」

 

 スマホのアラームが五月蝿く鳴り響く。俺はけだるい体を起こして、スマホのアラームを止めた。

 

 「はぁ……飯の準備しよ」

 

 

 俺は柿原 雅人、高校2年生だ。両親はすでに他界していて今は1人で生活している。食事から家事全般、学費を払うためにアルバイトをしたりなど色々と忙しい日々だ。だかそんな忙しい俺にも……

 

 ピーンポーン

 

 「先輩!おはようございます!」

 

 1個下の彼女がいる。

 

 黒髪のショートヘアーに150cmの小柄な身長。彼女の名は杉村 真央。俺の後輩であり、いつも家事を手伝ってくれている。

 

 「何時もすまないな。真央」

 

 「何言ってるんですか!私が好きでやってることなんですし、大好きな先輩のためなら私頑張ります!」

 

 「真央……ありがとな」

 

 俺はお礼を言って、真央の頭を優しく撫でた。

 

 「えへへ……やっぱり先輩のなでなではいいです……///」

 

 「よし、じゃあ準備しますか」

 

 「はい!」

 

 通学路--

 

 「それでですね先輩。やっぱり先輩の生活を手伝う以上、同居することも考えた方がいいかと」

 

 「いや……さすがにそれはできねぇよ」

 

 「なんでですか!私と先輩の仲なんですよ!?」

 

 「アホか。そしたらお前とお前の親に迷惑がかかるだろうが」

 

 「……先輩、そこの所真面目ですよね~」

 

 「真面目も何も、ちゃんとしないといけないことだろうが」

 

 「むぅ……私はいつでも準備できてますよ?」

 

 「はいはい」

 

 いつも俺は真央と2人で学校へ登校している。去年までは色々とひとりで全部やっていたため、疲れが溜まった状態で登校していた。しかし彼女が家事のことを手伝ってくれているおかげで前よりも健康な状態で学校に行く事が出来ている。

 

 そして学校の目の前まで来ると急に黒色のリムジンカーが校門の目の前で止まった。

 

 「おぉ、見ろ。あの人だぞ」

 

 「わぁ……お嬢様だ……」

 

 ちょうどそこにいた何人かの生徒がざわつき始める。黒色のリムジンカーから出てきた長い銀髪を靡かせているその少女に周りの者は惹かれていた。ちょうど俺はその少女と目が合ってしまう。

 

 「あら、おはよう。雅人君」

 

 「あぁ。おはよう」

 

 お互いに挨拶を交わし、彼女は微笑みながら校舎へと歩いていった。

 

 「ちょっと先輩?誰ですかあの人?名前で呼ばれてましたけど?」

 

 「あぁ。同じクラスの佐原さんだよ。あの人はあの佐原財閥の娘なんだ。まぁ要するにお嬢様ってこと」

 

 「ふぇ~……先輩のクラスにあんな美人が……」

 

 真央は目を丸くして驚いていた。

 スラリとした背丈に綺麗な銀髪のロングヘアー、彼女は佐原 アリサ。俺と同年代にして佐原財閥のお嬢様。勉学はもちろんのこと、運動や料理、何から何まで完璧にこなしてしまう人だ。

 

 「……先輩を、取られないようにしないと……」

 

 「ん?どうした、真央」

 

 「何でもないです!はやくいきましょ?」

 

 「そうだな」

 

 

 ------

 

 

 放課後--

 

 「先輩、本当に大丈夫ですか?私が行かなくても平気ですか?」

 

 今日も1日が終わり、帰宅するところを真央に止められている。

 

 「大丈夫だよ。真央は部活頑張ってきな」

 

 「でも……」

 

 真央はテニス部に所属しており、夜に俺の手伝いができないという事で心配してくれている。

 

 「心配すんな。前までは俺が全部やってたんだから。朝だけでもお前が手伝ってくれるだけで俺は本当に嬉しいからさ」

 

 「先輩……わかりました。じゃあ部活に行ってきます。絶対に無理しないでくださいね!なんか困った時とか、寂しくなったら遠慮なく言ってくださいね!」

 

 そう言い残して真央は活動場所であるテニスコートに向かって走って行った。

 さて、今日は商店街で買出しの日だったな……早速向かうとしよう。

 

 

 1時間後

 商店街にて--

 

 「ふぅ……買った買った」

 

 俺はスーパーで食品や日常用品など色々と買って、帰宅している。すると、とある光景に目がいった。

 

 「なぁ嬢ちゃん、俺達と今から楽しいことしない?」

 

 「俺達がおごるからよ。一緒に付いて来てくれないか?」

 

 「あら、楽しいこととは?」

 

 人通りの少ない所で女の子が3人のヤンキー集団に絡まれていた。今時こんな馬鹿なことするやつもいるんだな……

 

 「まぁまぁ。それは後でのお楽しみってことで……」

 

 「キャッ!」

 

 女の子が1人のヤンキーに腕を掴まれ、強引に連れていこうとする。

 さすがに見て見ぬ振りはできないな……

 

 「おい」

 

 「あぁん?」

 

 俺は女の子を助けようと、ヤンキー達に声をかけた。

 

 「彼女嫌がってるだろ?やめたらどうだ」

 

 「ほうー、今の時代にヒーロー気取りか?」

 

 「ぶっは!マジで!?ちょーウケるんだけど!ギャハハハハ!」

 

 「お前みたいなガキはさっさと帰って、お子様が見るアニメでも見てな」

 

 ヤンキー達は大笑いして、俺をバカにしてくる。まぁ、そうなるだろうな。

 

 「はぁ……いいから、さっさとその子を離せよ」

 

 「ちっ、うるせぇな。てめぇ、俺達に喧嘩売るとはいい度胸じゃねぇか」

 

 「よほど怪我したいっぽい?」

 

 「じゃあ正義の味方らしく、俺達を倒してみろよ!ギャハハハハ!」

 

 ヤンキー達は拳をゴキゴキ鳴らしながら俺を挑発する。

 

 

 「……へぇー、いいんだ。じゃあ……」

 

 「あ?」

 

 

 「骨の1、2本くらい、折れても文句言わねぇよな……?」

 

 

 と俺はヤンキー達を睨みつける。

 

 「ひっ……」

 

 「おいどうした、かかって来いよ。来ないなら……俺から行くぞ?」

 

 拳の骨をパキパキっと鳴らす。

 

 「ちっ……いくぞ!」

 

 「お、おう!」

 

 ヤンキー達は何もせずにその場を立ち去った。ヘタレな野郎達だ……

 

 「ふぅ……大丈夫?」

 

 「ええ、ありがとうございます」

 

 「って、あれ?佐原さん!?」

 

 「はい、佐原です。雅人君」

 

 驚いた。さっきはヤンキー達に囲まれていてよく姿は見えなかったが絡まれていたのは佐原さんだったのか。

 

 「なんでこんな所に?」

 

 「ちょっと暇だったから色々と店を回ろうと」

 

 「こんな所で暇潰すなんて……佐原さんに似合うような店なんてここにはないぜ?」

 

 「そうでもありませんよ?私はキラキラした高級感がある所よりこういうちょっと落ち着いた感じの所が好きなので……」

 

 「な、なるほどなぁ……」

 

 財閥のお嬢様なのに、佐原さん自身は意外とこういう所の方が好きなのか?

 

 「お嬢様!探しましたよお嬢様!」

 

 すると執事姿のガタイのいい爺さんが走ってきた。

 

 「困りますお嬢様!勝手に外へ出かけられるなど!もう帰宅時間を30分過ぎています!」

 

 「あら、もうそんな時間?」

 

 「まったく……申しわけない。お嬢様がご迷惑をおかけして」

 

 執事の爺さんは深々と頭を下げる。

 

 「い、いえ。大丈夫ですよ」

 

 「そうですか……では行きますよ。お嬢様」

 

 「ええ。今日はありがとう雅人くん。また明日ね」

 

 そして佐原さんは執事の人と一緒に去っていった。

 

 ------

 

 翌日--

 

 

 四時間目の授業が終わり昼休みに突入。俺はバックから弁当を取り出して友人の元へ行こうとすると、

 

 「雅人くん。たまには私と一緒にお昼を過ごしませんか?」

 

 佐原さんから誘われてしまう。

 

 「昨日のお礼も兼ねてあなたのためにお弁当を作ってきたのです。食べてくれませんか?」

 

 と言って、佐原さんは三段に重なった弁当箱を持ってくる。既に自分の分は用意してあるし、どうしようか……

 

 「げ!弁当忘れた!あっ、金もねぇ……昼飯どうしよう……」

 

 どうやら1人の友人が弁当を家に忘れて落ち込んでいる。ちょうどいい。俺の弁当をあいつにあげよう。

 

 「俺の弁当いるか?」

 

 「えっ、いいのか!でもお前は……」

 

 「俺は大丈夫だよ。佐原さんからご馳走になるから。ほら」

 

 弁当をちょっと強引に友人に渡す。

 

 「おぉ……心の友よぉぉ……ありがとな!雅人!」

 

 友人は俺の弁当を持って教室を出て行った。さて、問題は解決したし、これで安心して佐原さんの弁当が食べれるぞ。

 

 「さぁ、行きましょうか」

 

 「えっ?ここで食べないの?」

 

 「いい場所があるのです。ついてきてください」

 

 とりあえず俺は佐原さんについて行くことにし、教室を出る。

 向かった先は図書室にあるフリールームだった。ここの学校の図書室は交流を深める目的で作られたフリールームという場所があり、ここで食事をとったり遊んだりなど名前の通り自由に使っていい場所がある。静かな音楽が流れており、とても落ち着ける場所だ。ただ生徒は学年ごとに使える日が分かれており、週に一回しか使えない。今日は生徒達は使えない日のはずだが……

 

 「先生にお願いして、貸切にしてもらいました。安心してゆっくり過ごせますよ」

 

 さすが学年トップの優等生。ほかの生徒達はそんな事を頼んでも許してはもらえないだろう。優等生である佐原さんの頼みだから許可してもらえたのだろう。

 

 「なんかすまねぇな。わざわざ昼飯や場所までとってもらえて」

 

 「いえいえ。あなたが満足してくれれば、私はそれで充分ですよ」

 

 さすがお嬢様。感謝の気持ちしかございません。

 

 「お腹がすいているでしょう?さぁ、どうぞ。存分にお食べください」

 

 三段に重なっている弁当箱をテーブルにそれぞれ分けて置いて蓋を開ける。中身は高級感満載のおかずが入っていた。

 

 「おおっ、美味しそうだなぁ」

 

 「ふふっ♪これ全部、私が作ったのですよ?」

 

 「えっ!?マジでか!」

 

 なんということだ。こんな量をひとりで作ったのか。さすが佐原さん。本当にひとりで何でもできるんだなぁと思った。

 

 「これ、全部俺のために?」

 

 「はい♪一生懸命作りました」

 

 昨日ちょっと助けただけでここまでしてくれるとは……

 

 「ありがとな。じゃあ、いただきます」

 

 俺は箸をとって一番の好物、唐揚げを口に入れる。

 

 「……うめぇ」

 

 「……!良かった……」

 

 「すげぇうまいよ!……これも!……あっ、これもうめぇ!」

 

 佐原さんの料理の腕は完全に俺を越していた。どのおかずもよく出来ており、どれも美味しい。バクバクと食べる俺を佐原さんは満足そうに見つめていた。

 

 「佐原さんも食べなよ。こんな量俺1人じゃ食いきれないよ?」

 

 「えぇ。いただきます」

 

 そして3箱あった弁当箱を2人で完食し、その後は昼休みが終わるまで、2人で色々な話をして過ごした。

 

 佐原さんは友達が居なかった。財閥のお嬢様だからだろうか。その高貴な雰囲気からほかの人たちからは近寄り難く、無意識に避けられていた。昼休みはいつもひとりで読書していたのをよく見かけた。でも俺はそんな近寄り難いことなど気にしなかった。

 

 「おっ!その本、佐原さんも読んでるのか」

 

 「……え?」

 

 これが俺と佐原さんの最初の会話だった。その時は席替えで隣同士だったため、交流を深めようと佐原さんに話しかけたのがきっかけだ。話しかけられた佐原さんは驚いた顔をしていたのをよく覚えている。

 それ以来、俺と佐原さんは本の話や世間話などをして次第に打ち解けていった。佐原さんも前より笑顔になることが増えて、今では俺にとって大切な友人だ。

 

 

 

 

(あぁ……雅人くんが喜んでいる……頑張ったかいがありました)

 

 

 

(もっと頑張れば、雅人くんに振り向いてもらえる……もっと私を求めてくれる……)

 

 

 

(……どうしたら、あなたは私の物になるんでしょうか……)

 

 

 

(雅人くんの全てが欲しい……大好きなあなたを独占したい……ずっと2人っきりで幸せに過ごしたい……)

 

 

 

(どうすれば……)

 

 

 

 

 放課後。俺は帰宅しようとするところを佐原さんに止められ、

 

 「家まで送っていきますよ?」

 

 と言われた。さすがにそこまでしてもらうのは悪いので俺は丁重に断った。

 

 「そんな遠慮しなくてもいいのですよ?」

 

 「いや、本当に大丈夫だよ。今日は色々とありがとうな」

 

 そう言って、この場から立ち去ろうとする。

 

 「せーんぱいっ!」

 

 すると背後から声がして、振り返るとそこには真央の姿があった。

 

 「あれ?お前今日部活は?」

 

 「今日は休みです!だから先輩と一緒に帰れますよ!ささ、行きましょう!」

 

 と強引に手を繋いでくる真央。

 

 「わかったから、そんなに慌てるんじゃない」

 

 「えへへ~♪」

 

 「………」

 

(誰なんでしょう、あの女……そういえば、今朝も一緒に登校していましたね……)

 

 その光景を後ろでまじかに見ていた佐原さんは何を思っていたのかは知る由もない。

 

 

 ------

 

『ごめんなさい!><今日は私が朝練の当番なので家に来ることができません。本当にごめんなさい(´;ω;`)夜はちゃんと来ますからね!先輩、大好き(*´ω`*)』

 

 翌日。朝起きるとケータイに1着の着信メールがあった。それは真央からのメールで今朝は来れないという内容だった。仕方が無い。今日の朝食は食パン2枚でやり過ごそう。

 

 

 学校へ行くと、周りの生徒達が俺を見てなにやらヒソヒソと話している。まるで汚物を見ているような痛い視線が周りから突き刺さる。俺、何かしたっけな……

 

 「あ、おい!雅人!」

 

 「おう。おはよう……ってどうしたんだよ?」

 

 校舎内に入ると1人の友人が血相を変えてこちらに来る。

 

 「どうしたって!お前あれ本当なのか!?」

 

 「あれってなにが?」

 

 「いいから来い!」

 

 友人は俺の腕を力強くつかんで引っ張りながら階段を登る。2年生の教室がある2階に辿り着くと、掲示板に生徒が集まっていた。

 

 「なっ……!」

 

 掲示板に貼られていたのは大きな1枚の写真。その写真の内容は、セーラー服を着ている女子中学生が目隠しをされており、口には猿轡をかませられ腕を縄で縛られた状態で男に犯されている。

 

 そしてその男の顔は、俺の顔であった。

 

 「な、なんだよこれ!」

 

 俺はその写真を剥がした。よく見ると顔の部分だけ合成されている。当たり前だ。俺はこんな事をした覚えはない。

 

 「見て……あの人よ。まさかあんな趣味があったなんて……」

 

 「マジキモイんですけど……」

 

 「中学生を犯すなんて、変態だな……」

 

 周りからはザワザワと俺を軽蔑するような感じの声が聞こえる。

 

 「違う!俺はこんなことやっていない!本当だ!」

 

 「嘘つかないでよ!だったらこの写真はなんなのよ!?」

 

 俺が否定すると、1人の女子がそう言ってくる。

 

 「合成に決まってるだろ!誰だよ!?こんなイタズラしたやつ!出てこい!ぶっ殺してやる!!」

 

 俺は完全に頭に血が上っていた。冷静さを失い、このどうしようもない怒りを周りにぶつけていた。

 

 「うわ、殺すだって……やっぱり犯罪者は違うねぇ……」

 

 「絶対あいつが犯人だよ……」

 

 しかし周りからはさらに軽蔑の声が上がり、説得するのがさらに難しくなった。

 

 「さっさと刑務所に行けよ犯罪者!」

 

 「なんだと……」

 

 1人の男子生徒がそう声を上げると、その声の主の胸ぐらをつかむ。

 

 「ひっ……ついに本性を出しやがったな!やっぱりお前が犯人だ!」

 

 「てめぇ……っ!」

 

 そしてそいつを殴ろうと右拳を振りかざそうとすると……

 

 「やめんか」

 

 生徒指導部の先生に右肩を掴まれる。俺はハッと我に返って、掴んでいた相手の胸ぐらを離す。

 

 「柿原。お前、これはどういう事だ」

 

 「違うんです!俺はこんなことしていません!」

 

 「詳しくは指導室で話を聞こうじゃないか。ほら来い」

 

 先生に肩をグイっと力強く寄せられる。後ろをチラッと見ると、集まった生徒達は相変わらず蔑んだ目や軽蔑の目で見られている。

 

 「………」

 

 「あっ……」

 

 するとその集団にいた真央と目が合ってしまう。

 

 「違うんだ……本当に俺じゃない……」

 

 「……っ」

 

 しかし真央は目をそらして走り去っていってしまった。

 

 「はやくしろ!」

 

 「そんな……真央……」

 

 一番信頼していた真央に見捨てられてしまった。考えてみればあんな写真が出た後じゃ関わりたくはないだろう。誰もがそう思う。別におかしいことじゃない。だけど俺は結構悲しくなった。

 

 結局今朝の出来事は俺の無実で終わった。俺は何度も何度も否定したが先生達からはあまり信じてもらえなかったが、写真を詳しく調べると合成だと発覚し、柿原雅人へのたちの悪いイタズラだという事になった。

 だが、あんな事が起きた後だ。いつも通りの生活が戻ることなどないだろう。

 取り調べが終わったのは2時間目がちょうど終わったところだ。俺は3時間目から授業を受けるため、教室に戻る。

 

 「おっ!来ました!変態犯罪者、柿原君!」

 

 自分のクラスの教室の引き戸を開けるとクラスのやんちゃ者の1人の男子がそう言った。俺が戻ってきたことにより、ヒソヒソと陰口を言う者や、警戒している者もいる。無実が証明されたのはつい先程だ。まだ他のみんなが知る訳がないだろうし、俺の口から無実だと訴えても信じてもらえないだろう。何言われようと我慢することにした。

 

 「あれれ~?無視っすか?やっぱ格が違いますねぇ~」

 

 ケラケラとやんちゃ者の男子集団は笑う。無視だ無視。あんなのは気にする必要は無い。

 

 「……チッ」

 

 自分の机の上にはマジックで書かれた落書き。椅子には画鋲がぎっしりと針を上にして乗せられている。小学生のいじめかよ……と呆れながら椅子の上に乗っている画鋲を回収しようとすると

 

 「あっ!手が滑ったぁ~」

 

 「ッ!」

 

 1人の男子が俺の背中を力強く押す。咄嗟に反応し、俺は上半身を守ろうと片腕を椅子の上に置く形になった。画鋲が何本か片腕に突き刺さる。

 

 「ごめんごめん~、大丈夫かい?ありゃあ血が出ちゃってるよぉ。こりゃ大変だぁ~」

 

 周りの者はケラケラと笑う。……ぶっちゃけ俺1人でこいつら全員再起不能になるまで叩きのめすことはできるが、感情的になったらそれこそあいつらの思うつぼ。下手に反応しないように我慢する。とりあえず腕に刺さっている画鋲を取る。

 

 「……チッ、つまんねぇ……」

 

 「面白くないぞ犯罪者~。今朝みたいに怒らないのかぁ~?ほらほら、胸ぐら掴んでみろよ!ガッと!」

 

 野次馬共の五月蝿い声がするが気にしない。実力は圧倒的にこちらが上なのだから。試しにやんちゃ共を睨みつけて威嚇してみる。

 

 「ひっ……お、おおう!?やる気かぁ!?かかってこいよぉ!?ほらほらぁ!!」

 

 手と足が震えているのが分かる。やはりただのヘタレみたいだ。俺はそいつらを無視して回収した画鋲を元々あった箱に戻す。教室を出て傷口を軽く洗い、濡らした雑巾で落書きを消す作業を行う。

 

 「む?これはこれは……みんな見てくれ!」

 

 メガネ男子が声を上げる。俺は声の主の方を向くと1枚の写真を見せびらかしている。

 

 「てめぇ……なんでそれを……!」

 

 その写真は学ラン姿に、その上から『絶対王者』赤い文字で大きく書かれた白い上着を着ている俺の姿……当時ヤンチャしていた時の写真だった。

 

 中学の頃に両親を失った俺は見事にグレてしまい、喧嘩に明け暮れる日々で片っ端から1人でヤンキー団体をぶちのめし、舎弟を作って団体を作りながら別のヤンキー集団をぶちのめす。遂には番長になってでも先陣を切って数々のヤンキー集団をぶちのめし、さらに舎弟を増やしていった。

 

 「元はお前番長だろ?何がきっかけで更生したのかは知らんが、これが出回れば先生達がだまってないな?」

 

 クソが……俺の過去まで引っ張ってくるとは……そもそもあのメガネ野郎は俺と同じ出身の中学校ではないはず。なんで他校出身のやつがそんな写真持ってるんだ?一体どうやって手に入れた?

 

 「なぁに、僕もそこまでゲスじゃない。この写真1枚で君の行動は制限されるからね。大切に保管しておくよ。ふふふ」

 

 写真をポケットにしまい、ゲスな顔で微笑むメガネ男子。もう俺はこのクラスでの立場がない。味方してくれる奴もいないだろう……

 

 

 また、1人になってしまった。

 

 

 「授業だぞ!席につけー!」

 

 授業開始のチャイムが鳴り、生徒達は自分の席に座る。

 

 「授業の前に、今朝のことだがあの写真は合成であることがわかり、柿原は無実だ。誰の仕業かは知らないがこれは悪質なイジメだ。イジメは絶対に許してはならない----」

 

 その後、先生は4時間目の授業が緊急全校集会になることと、これからの事を厳重注意して授業が始まった。無実と知ったやんちゃ者の男子達や例の写真を見せびらかしたメガネ男子は表情に焦りが出ていた。俺がそいつらを睨みつけると、ビクッと怯える。どうやらさっきみたいな事はもう起きる事はないと思った。完全に俺に怯えてしまっているからである。

 

 授業が終わり、生徒達が集会場所である体育館へ移動する。先生に集会が終わるまで指導室で待機していてくれと言われたが体調が優れないことと、精神的なダメージを訴えて早退しても良いかと訪ねた。先生は渋々了承し、俺は学校から自宅へ帰宅した。

 

 ------

 

 帰宅後、着替えもせずに自分の部屋のベッドに寝転がった。

 

(どうして……こうなっちまったんだろうな……)

 

 何も無い天井を見つめて、そう思った。いくら無実が証明されたからって、俺の人間関係は完全に壊れてしまっただろう。また孤独に戻ってしまった。

 

 ふと真央の顔を思い浮かべてしまう。すると何故か色々と昔のことを徐々に思い出していった。

 先輩!と笑顔で呼びかけてくれる真央。

 ケチですね。とちょっとムスッとした顔で言う真央。

 あはははっ!先輩!これ面白いですよ!と爆笑する真央。

 そして……

 

 

 

 「やめてください……」

 

 「おお?なんだ嬢ちゃん。いいじゃないか俺達と楽しいことしようぜ?」

 

 夜の暗い通路。ある1人の女子中学生が5人組のヤンキー達にからまれていた。

 

 「きゃっ!やめて!離して!」

 

 「へへへへっ」

 

 そしてその長である1人の大男が女子の腕をつかみ、連れていこうとする。

 

 「おい」

 

 すると大男の背後からまた別の男の声がする。

 

 「あぁん?なんだてめ--」

 

 「ふんっ!」

 

 大男の背後にいた学ラン姿の男は右拳で振り向いた大男の顔面を殴る。

 

 「ひぎゃっ!」

 

 「お、親方ぁ!」

 

 ほかの4人が喧嘩の構えに入る。

 

 「こ、こいつ……やっちまえぇぇ!」

 

 

 …………

 

 

 「す、すいませんしたぁー!!」

 

 コテンパンにやられたヤンキー達はその場から逃げるように去っていった。

 

 「ふぅ……大丈夫か?」

 

 「はい……ありがとう、ございます」

 

 

 これは俺が真央と最初に出会ったことである。これを思い出した時には、俺はいつの間にか眠っていたのであった。

 

 

 

 ………………

 

 

 

 「……ん」

 

 ふと目が覚める。体を起こして時計を見ると既に19:00を過ぎていた。帰ってきたのが確か12:10分くらいですぐ寝てしまったから約7時間程寝ていたことになる。こりゃ夜は寝れないな……

 とりあえず夕飯の準備をしようと部屋から出てリビングにあるキッチンへ向かう。するとインターホンが鳴った。この時間帯に俺の家に来る奴はあいつしかいないだろう。俺は玄関の扉を開けた。

 

 「こんばんは、先輩」

 

 「真央……」

 

 もう今日は誰にも会いたくない気分であった。2人の間に気まずい空気が流れる。

 

 「夕食、作りに来ましたよ?」

 

 「悪い。もう済ませたから、帰ってくれ」

 

 真央に帰宅するよう要求する。

 

 「先輩……」

 

 「……ごめん。しばらくひとりでいたいんだ。じゃあな」

 

 そう言って俺は玄関の扉を閉めようとすると

 

 「……嫌です」

 

 真央は扉を掴んで閉めようとするのを阻止する。

 

 「なにしてるんだよ。いいからさっさと帰れよ」

 

 「嫌です!帰りません!」

 

 「なっ……」

 

 どうやら帰るつもりは毛頭ないみたいだ。

 

 「なんだよ!ひとりにさせてくれって言ってるだろうが!さっさと帰ってくれよ!」

 

 「今の先輩はそんな事言っても説得力ありません!」

 

 「はあ!?なんでたよ」

 

 

 「だって先輩……今にも泣きそうな顔してるじゃないですか……」

 

 真央は目に涙を浮かべた表情でそう言ってきた。

 

 「な……」

 

 「先輩の思ってる事はだいたいわかります。何年先輩の隣にいたと思ってるんですか。先輩は優しいから今朝の事件のことで私に迷惑がかからないようにわざと避けているんですよね?」

 

 「………」

 

 何か言い返そうとするが言葉が浮かばない。

 

 「今の先輩は初めてあった時と同じ、寂しい顔をしてますよ。そんな顔で帰れって言われても私は帰りません!先輩の隣にいます!」

 

 真央は真面目な表情でそう言ってきた。

 

 「………」

 

 「例え先輩の周りの人達が先輩の事を否定したり、避けたりしても私は先輩の傍に居ます。だから、そんな顔をしないでくださいよ……」

 

 「……真央」

 

 完全に嫌われたと思っていた。だけどそれはただの思い込みだったみたいだ。真央はちゃんと俺の所に来てくれた。

 初めて会った時と同じように、俺が離れようとすると付いて来る。何回避けてもそれと同じ、いや、それ以上の回数で付いて来てくる。真央のしつこさは4年間一緒にいたから嫌というほど分かっていた。

 涙が出そうになるがググッと堪える。

 

 「……ありがとな。真央」

 

 ありがとう。とそれしか言葉が見つからなかった。そして優しく真央の頭を撫でる。

 

 「えへへ///」

 

 いつもの可愛い笑顔になる真央。そして気まずい雰囲気は無くなり、いつもの心地よい雰囲気に戻っていた。

 

 「とりあえず上がれよ。一緒に飯食おうぜ」

 

 「はい!そうです……ね……?」

 

 真央はなんとなく西側の方向を向くと、すぐ近くにある電柱をじっと見つめていた。

 

 「どうした?」

 

 「……いえ、何か誰かに見られていたような気がして……」

 

 覗きかストーカーだろうか?俺は真央が気になっている電柱に近づいた。

 当然そこには誰もいない。付近を見回してみるが歩行者は見当たらず、野良犬や野良猫の気配もない。

 

 「気のせいじゃないのか?」

 

 「うーん……なにか視線を感じてたんですけどねぇ~……気のせいみたいですね」

 

 「心配ならお前が帰るときに家まで送って行くよ」

 

 「はい。ありがとうございます♪」

 

 最近この市内で殺人事件やストーカー事件が起こり始めたから用心しなければならないなと思いながら、俺は真央と一緒に自宅へと戻った。

 

 ------

 

 翌日--

 p.m.16:20

 

 「じゃあ先輩!部活行ってきますね!」

 

 「おう。行ってらしゃい」

 

 事件から一晩経ち、今日は無事学校生活を送ることが出来るのだろうかと不安であったが、特に何事も起こることなく過ごすことができ……

 

 「コラァ!雅人!お前昨日の宿題出してないだろ!」

 

 なかったみたいだ。何故か機嫌が悪い国語の先生に呼び止められる。そういえば昨日提出の宿題があったのだが、俺は早退していたため提出することが出来なかった。しかも2年生担当の国語の先生は宿題に関しては本当に五月蝿い。提出しないとその日の放課後までに提出するまで居残りさせられてしまう。

 そして、俺は昨日やっておいたはずの宿題を家に忘れてしまっていた……

 

 「はぁ……」

 

 もちろん居残り☆

 嫌々ながらなんとか宿題を終わらせて、国語の先生に提出し、時刻は既に17時を過ぎていた。

 そうだ。ついでに頑張っている真央の姿を見に行くとしよう。俺は手ぶらで昇降口にある靴箱に向かい、靴を履いてテニスコートへと向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして俺は、人生でいちばん最悪な出来事を目の当たりにしてしまうなど、この時は思いもしなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「確かこれが好きだったよな……」

 

 俺はテニスコートへと向かう前に自動販売機へと足を運んだ。いつも頑張ってる真央にジュースでも奢ってやろうと思ったからである。

 真央が飲み物の中で一番好きな炭酸飲料を買った。そしていざ真央の元へ向かおうとすると……

 

 「キャーーー!!」

 

 女子生徒の悲鳴があがる。それはテニスコートの方から聞こえてきた。まさか何かあったんじゃないかと俺は片手にジュースを持って走った。

 

 悲鳴がした場所に到着すると、体育倉庫の前に腰を抜かして座っている1人の女子生徒がいた。倉庫の扉が開いており、その中を青ざめた表情で見ている。俺は倉庫の中に何があるのかが気になり、中を覗いた。

 

 

 

 

 

 

 「………は?……嘘……だろ……?」

 

 

 

 

 

 

 それは信じられない光景であった。

 

 

 

 中にいたのは1人のユニフォーム姿の少女。

 

 

 

 

 だがその少女は内蔵が抉られており、五寸釘で両手両足を串刺しにされて壁に貼り付けられていた、真央の姿であった。

 

 

 

 

 

 

 

 「あっ……あ……」

 

 

 目の前の光景が信じられなかった

 

 

 なんでこうなったんだ?

 

 

 どうして真央がこんな目に会わなきゃいけないんだ?

 

 

 どうしんて殺されたんだ?

 

 

 変わり果てた真央の姿

 

 

 生臭い匂いが充満した倉庫

 

 

 だんだんと思考が崩レテイク

 

 

 心臓の鼓動ガだんだんとはやくなる

 

 

 いきがだんだんとあらくなる

 

 

 あたまがくらくらする

 

 

 きぶんがわるくなって……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「うわああああああああああああああああああああああああああ!!」

 

 

 

 

 

 俺は全力で走った。

 その場から一刻も早く立ち去りたかった。

 あの光景は夢だ。

 真央が死ぬはずがない。

 あいつが死ぬなんてありえない。

 嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ嘘だ。

 これは夢。全部夢--

 

 「あがっ……!」

 

 足首を捻ってバランスが取れなくなり、物凄い勢いでこけてしまう。

 捻った左足首がズキズキ痛むがあまり痛みは感じなかった。

 

 「まお……まおぉ……」

 

 最愛の人を突然失った痛みの方が大きいからだ。俺は足首の痛みを気にせずに立ち上がる。歩こうとするが嫌な感じに捻ったみたいで左足があまりいうことを聞いてくれない。ズルズルと左足を引きずりながら歩いて靴箱へと戻った。学校内を歩くためのスリッパは履かず、靴下のままで校舎内を上がりる。

 

 そこでまたとんでもない光景を目にしてしまう。

 

 「………」

 

 それを見た時、俺は真央を失った悲しみと同時に怒りがこみ上げてきた。

 

 

 

『犯人は柿原雅人!!』

 

 赤い文字でそう書かれた紙が一階の掲示板にぎっしりと貼られてあった。

 

 

 

 

 「俺が……俺がなにをしたっていうんだよ!!!」

 

 

 

 大声でそう叫んでしまう。今までの人生の中で一番大きく声が出た瞬間であっただろう。その叫びには怒りと憎しみしかなかった。

 

 「柿原……お前……」

 

 「!」

 

 気が付くと俺は先生達や、少数の部活動生に囲まれていた。

 

 「お前、本当に杉原を……」

 

 違う。俺が真央を殺すわけがない。

 

 「柿原君。あなたには失望したわ」

 

 だまれ。なんでそんな紙のことを簡単に信じるんだ。

 

 「覚悟しろよ殺人者……」

 

 もう何を言っても、全力で否定しても信じてもらえないだろう。

 

 「抵抗するなよ?」

 

 ジリジリと先生達が距離を詰めてくる。

 

 なんでこんな目に遭わなくちゃいけない。

 

 誰なんだよ。俺を追い詰めて何が楽しいんだよ。

 

 「………」

 

 完全に周りは俺がやったと思っている。俺の言うことなんて誰も信じてくれない。唯一信じてくれた真央はもう……いない。

 

 

 「……」

 

 

 

 

  また、ひとりになった。

 

 

 

 

 「今だ!捕らえろ!」

 

 先生、生徒達が一斉に襲いかかってくる。

 

 「ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙ア゙!!」

 

 襲いかかってきた1人の生徒の顔面を全力で殴る。殴られた生徒は約10メートルくらい吹っ飛んだ。それでできた隙間を通って全力疾走する。

 

 「おい、逃げたぞ!追いかけろぉ!」

 

 走る、走る、走る、走る、走る、走る。

 捻った左足首の痛みなど気にせずに走る。

 

 もう何もかも嫌になった。何も考えたくなかった。ただひたすら走った。何も考えずに、何かから逃げるように、ただ必死に足を動かした。

 

 「がっ……」

 

 その時、横腹に激しい痛みを感じた。

 

 「なんだ……いきなり……からだが……」

 

 体の力がだんだんと抜けていく。徐々に走れなくなり、歩くどころか立つ力すら失われていき、俺はその場に倒れてしまう。

 

 「やばい……眠い……いしき……が……---」

 

 そして俺は意識を手放した。

 

 

 ------

 

 

 

 

 

 

『お前の言うことなんて誰も信じない』

 

 --だまれ………

 

『犯罪者め!とっとと消えちまえよ!』

 

 --だまれ……

 

『ほんと、趣味が悪い。早く死ねよ』

 

 --だまれ…!

 

『雅人……失望したぜ』

 

 --黙れ!

 

『先輩……最低ですね』

 

 --黙れぇぇぇぇ!!

 

 --俺は何もしてない!本当になにもやってないんだ!

 

 --頼む!誰か信じてくれ!本当なんだ!!

 

『……嘘つき……』

 

 --!

 

『あなたの事なんて、誰も信じません』

 

 --なんで……なんでたよ……!

 

 --俺は何もしてないって言ってるだろうが!!

 

 --あああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああああ!!!

 

 

 …………

 

 

 

 

 ………

 

 

 

 

 ……

 

 

 

 

 …

 

 

 

 

 「雅人くん!雅人くん!」

 

 「……ん」

 

 目が覚めると、最初に映ったのは見知らぬ天井と、物凄く心配そうにしていた佐原アリサの姿であった。

 

 「……あれ、どうして……」

 

 「大丈夫ですか?凄くうなされたみたいですが……」

 

 確かに目覚めの気分としては最悪だ。汗をひどくかいていて、少し頭痛がする。

 

 「どうして……佐原さんがここに?」

 

 とりあえず状況を整理しよう。ここは何処なのか。今は何時なのか。なんで佐原さんがここにいるのか。色々と分からないことだらけだった。

 

 「ここは私の家ですわ。ちょっとした用事で車に乗っていたらちょうどあなたが倒れているのを見かけました。凄く気分が悪そうだったので私の家まで運んで今に至るわけです」

 

 「そうか……ありがとな」

 

 「いえいえ。貴方のためならこれくらいのこと……///」

 

 とはいえ、いつでもここに長居してるわけには行かない。俺は負傷した体で無理にでも起き上がろうとする。

 

 「いっ……!」

 

 左足を床につけた瞬間鋭い痛みが走る。どうやら思った以上に怪我はひどくなってしまっているみたいだ。まぁ、怪我した足であんな無理したら酷くなるのは当たり前か……

 

 「ちょっと!なにしてるんですか!?まだ回復しきってないというのに!」

 

 バランスを崩し、倒れそうになる俺を佐原さんが受け止めてくれた。

 

 「すまねぇ……でももう俺は、行かなくちゃ……」

 

 「行くって、どこにですか?そんな体じゃ歩くことすらできないじゃないですか」

 

 「でもっ……くっ……!」

 

 言えない。言えるわけがない。どうせ誰も信じてくれない。何を言っても、やっていないと何度否定しても、それを受け止めてくれるやつなんているわけない。左足首の痛みに苦しめられながらなんとか立つが、歩こうとするとさらに痛みが増す。

 

 「……なにか、あったんですか?」

 

 佐原さんは心配そうに問いかける。

 

 「なにも……ないよ」

 

 「じゃあなんで無理してでも急ごうとしているのですか?やはり何かありましたね?」

 

 「……お前には関係ないだろ」

 

 「確かに関係ないかもしれませんが、私はあなたの身が心配で……」

 

 「……治療、ありがとな。とにかく、俺はもう行くから」

 

 俺はそう言ってこの部屋から出ようとする。

 

 「待ってください!」

 

 しかし佐原さんが俺の腕をがっしりと掴んでくる。

 

 「……何があったんですか?」

 

 「……離してくれ」

 

 「嫌です。私はあなたが何故そこまで無理をして出ていこうとするのか気になります。理由を教えて頂けませんか?」

 

 「……断る」

 

 どうせ言っても信用してくれない。

 

 「何故ですか!?私に言えない事なんですか?」

 

 「……特に理由は……」

 

 「いえ!絶対何か隠してます。教えてください。せめて何かあなたの力になれれば……」

 

 「余計なお世話だ……さっさと離せ」

 

 「……どうしても、だめなのですか?」

 

 「………」

 

 「私を、信用してないのですか?」

 

 その通りだ。と言いたいところだが、佐原さんの真剣な表情に不安が出ている。あまり相手を傷つける行為は避けたい。むしろ女性ならなおさらだ。

 

 「………」

 

 「……大丈夫ですよ」

 

 すると佐原さんは俺の片腕の手のひらを両手で優しく包み込んだ。

 

 「あなたに何があったのかはわかりませんが、これだけは言わせてください」

 

 そしていつもの優しい表情になって

 

 「私はいついかなる時もあなたの味方です。あの時、誰も相手にしてくれず一人孤独に過ごしていた私に話しかけてくれた。お嬢様とかそういう立場など関係なしにあなたは私を一人の女性として見てくれて、ちゃんと向き合ってくれました。私はそれがたまらなく嬉しかったのです……」

 

 

 「佐原さん……」

 

 

 「そんな優しいあなたを、私は心からお慕いしております。例え周りの人達があなたの事を信用してくれなくても、私はずっとあなたの味方です」

 

 

 「………」

 

 

 佐原さんは笑顔でそう言った。

 俺は何を思ったのだろうか。重たい口を開き、今までにあった事を全て話した。

 

 ………

 

 

 「そんな事が……」

 

 「あぁ……これから、どうすればいいんだろうなぁ……グスッ……あれ……」

 

 誰かに話せた事で安心したのだろうか。気がつけば俺は涙を流していた。

 

 「ぁぁ……グスッ……ちくしょう……女の子の……グスッ……前で……泣くなんて……男らしくねぇ……グスッ……」

 

 まだ俺を信用してくれる人がいる。ちゃんと俺の味方になってくれる人がいる。それだけで俺の心は満たされていた。

 

 「雅人くん……」

 

 俺は佐原さんに引き寄せられぎゅっと優しく抱きしめられる。佐原さんの手が俺の頭を優しく撫でていた。

 

 

 「怖かったでしょう……辛かったでしょう……もう大丈夫ですよ。私が、ずっとあなたのそばにいますから……」

 

 

 「……佐原……さん……」

 

 

 

 そして今まで溜まっていたのを全部吐き出すように、俺は声を荒らげて泣いた。

 

 

 

 ------

 

 数分後。ようやく泣き止んだ俺はさっきまで寝ていたベッドに座って、これからどうするかと悩んでいた。正直もう家には帰りたくないし、あの学校ももううんざりだ。

 

 「あの、雅人くん」

 

 「ん?」

 

 俺が悩んでいると、隣に座っていた佐原さんから声をかけられる。

 

 「これから、私と一緒に暮らしませんか?」

 

 「……へ?」

 

 それを聞いた俺はつい腑抜けた声を出してしまう。

 

 「今頃先生達は警察と協力してあなたを捜索しているはずです。無実なうえに怪我や精神も回復していないでしょう?だから事が落ち着くまでここで暫く身を潜めてはどうですか?」

 

 「だけど、お前はそれでいいのか?それにお前の両親達の許可は……」

 

 「ここには両親は居ませんよ。両親は別居でこのお屋敷は私と数十名の執事やメイドしかいませんし、もし何かあった時は私含め、佐原財閥が全力であなたを守ってあげます」

 

 こんなでっかいお屋敷が佐原さん一人のものなのか……さすがお嬢様。

 

 「そうか……」

 

 

 正直、もう疲れた。立ち直れる気がしない。

 このまま佐原さんと一緒にいれば、色々と楽かもしれない。

 誰からも信じてもらえなくなった俺を唯一信用してくれている彼女と一緒にいたい。

 

 

 

 彼女とずっと一緒にいたい。

 

 

 俺はその想いでいっぱいだった。

 

 

 「じゃあ、しばらく世話になるよ。よろしくな、佐原さん」

 

 「………」

 

 あれ?なんか微妙な顔をしているぞ?

 

 「……『アリサ』と、これからは名前で読んでくれませんか?」

 

 なんだ、そんな事か。

 

 「これからもよろしくな、アリサ」

 

 「はい!雅人くん!」

 

 彼女は笑顔で喜んでくれた。その可愛い笑顔が俺の心を癒してくれる。

 するとさらに安心したのか、俺の腹がぐぅ~と情けない音で鳴る。

 

 「うふふっ。お食事、持ってきますね♪」

 

 「あ、ああ。すまないな」

 

 アリサは微笑して部屋を出た。時刻はすでに19時を過ぎている。窓から外を見るとあたりは暗くなっていた。今頃先生達は警察の力を借りて俺を探しているだろう。

 

 もうあんな出来事はごめんだ。今まで関わってきた人達の顔を見るのが怖い。学校に行かずにここで働くという選択肢もある。色々とこれから先不安ではあるが、ちゃんと隣にはアリサが一緒にいてくれる。

 

 もう失わないように、彼女を大切にしよう。

 

 そう心に決めたのであった。

 

 

 ------

 

 

 「………」

 

 2階の部屋から1階にある厨房までの長い距離。私は口角が上がるのを抑えられなかった。

 

(ここまで来たら……)

 

 ここから雅人くんの部屋までは距離がある。

 

 

 

 「ふふ……ふふっ……」

 

 

 

 

 

 もう我慢の限界だった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 やった!遂に叶った!これで雅人くんを独占することが出来る!!

 

 

 

 完全に思い通りになって、嬉笑いが抑えきれなかった。

 最初はこんな計画で大丈夫のだろうかと不安だったが思いのほか事がうまく進んだみたいで本当に良かったと思っている。

 

 

 二日前。私は雅人くんが他の女といちゃついているのを見て雅人くんを独占したい気持ちがさらに高くなり、同時にその女に対しての殺意も高まりました。

 雅人くんが私以外の人といるのがすごく嫌だった。彼には私だけを見て欲しい。私だけを愛して欲しい。ずっとそう思っていました。

 

 私はあることを思いつきました。

 そうだ。周りのやつを彼の周りから消せばいいんだ……と。

 私は早速計画を実行することにしました。

 

 周りの人達に彼の悪い印象を与えて離れさせる。

 それを狙いで数ヶ月前に起きた女子中学生拉致事件で実際に犯されている写真を極秘で入手し、その写真に写っている犯人と同じ角度で写っている雅人くんの顔を合成しました。出来上がったそれを2年生の学年掲示板に貼り付けて、誰もが目を通すようにしました。

 

 結果は大成功。周りの人達は彼を避け、嫌い、罵倒したりなど色々と酷い有様でした。そして雅人くんの近くにいたあの女も失望した感じでその場を離れて行きました。その時の絶望した顔をした雅人くんを見て、あれは完全に関係が壊れただろうと確信しました。

 

 さらに誘いやすくするために雅人くん自身の精神も追い込もうと思い、同じクラスの男子にお願いして1枚の写真を渡し、それを使って彼の元番長だった過去をばらし、立場を壊そうとしたのも私の計画のひとつです。しかし、色々と雅人くんに対してやってくれたあのヤンチャ野郎はさすがに殺意が湧きましたがなんとか我慢しました。

 

 夜に雅人くんの家を訪ねて元気づけてあげようと思い、私はその日に手作りの弁当を用意して彼の自宅へと向かいました。

 だがありえないことに、彼の自宅にはあの女が居ました。私はとっさに隠れて様子を見ました。しばらく口論していましたが、最終的に和解していつも以上の関係になってしまったのではないかと不安になりました。

 やはりあの女は邪魔だ。本格的に消さないといけない。

 そして私は奥の手を使うことに決めました。

 

 その日の夜、私はある男を金で雇いました。その男は残酷な殺人をする事が大好きなサイコパスな人でした。

 

 ターゲットは杉原真央。彼女を殺してくれれば報酬として100万払いましょう。

 

 そう命令すると男は快く引き受けてくれて、指名した日にちゃんと殺してくれました。

 そして私は《犯人は柿原雅人》と荒々しく紙に書き、1階の掲示板に貼り付けました。これでもう彼に関わろうとする者は誰もいなくなると思いました。

 

 学校から少し離れた人気の少ない場所。仕事を終えた男は私に報告すると、私の護衛を務めている執事に気絶させられました。私は脳に障害を起こさせる薬が入った注射器をその男に注入しました。男は目を覚ますと激しく混乱し、頭を抱えながら悶え、激しく暴れまくり、最後にはあの女を殺した凶器で自分の心臓を突き刺し、自ら命を絶ちました。

 

 そして私はもう1人の執事に彼、柿原雅人を捕獲する事を命じていました。

 執事は逃げ回っている彼を遠く離れた距離から睡眠弾を装填したスナイパーライフルで射撃。見事彼の動きを止めて、回収することに成功しました。

 

 心身共にボロボロになった彼を安心させ、癒し、彼の心を私のものにする。こうしてこの計画は成功しました。

 

 「これからもよろしくな、アリサ」

 

 これを聞いた瞬間、私はどれだけ嬉しかったのか計り知れません。大好きな彼と一緒にいられる。そう思うと幸せな気持ちでいっぱいでした。

 

 もう彼には私しか頼れない……

 

 もう彼には私しか見れない……

 

 もう彼には私しか愛せない……

 

 

 

 「お待たせしました」

 

 「おぉ……相変わらず美味そうだなぁ」

 

 「ふふふっ、自信作ですよ」

 

 「そりゃあ、楽しみだ。いただきます!」

 

 「はい、召し上がれ♪」

 

 これからの事を考えると私は楽しみで仕方なかった。

 

(大好きです……愛していますよ……一緒に、幸せになりましょうね?雅人くん♡)

 

 あぁ……私は幸せです……。

 




ヤンデレで1番恐ろしいのは孤立誘導型……((((;゜Д゜)))

書き溜めたものはこれで終わりました。新しい話を書いているので投稿期間は空きますが、なるべく早く投稿できるようにがんばります。


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指切りげんまん(前編)

今回は少なめですごめんなさい┏○┓


 ピピピッ ピピピッ!

 

 携帯のアラームが部屋に鳴り響く。俺は寝ぼけながらアラームを止めて、再び布団に潜った。

 

 「起きろー!!」

 

 部屋のドアが勢い良く開かれ、元気な女性の声がする。

 

 「んん……あと5ふん……」

 

 「ほいっ!」

 

 掛け布団を無理やり取られ、12月中旬の凍えるような寒い気温が身体を襲う。

 

 「うあっ!さむっ!」

 

 「へへっ。おはよう、健人」

 

 俺の名前は、柏原 健人。ごく普通の高校2年生。これといって目立つ所がなく、ごく一般的な男子生徒だ。

 

 「ふわぁ……おはよう、幸希」

 

 「おう♪」

 

 彼女は赤坂 幸希。金髪に染めたクセ毛のある長い髪を後ろでひとつにまとめており、一人称が「オレ」だったり、男勝りな所があるちょっと変わっている俺の幼馴染だ。

 

 「朝飯できてるから、はやく降りてこいよ〜」

 

 そう言って彼女はリビングへと向かった。俺はせっせと制服に着替えて、朝の支度を済ませた。

 

 「冷めないうちに食べろよ」

 

 リビングのテーブルには既に朝食が並べてあり、どれも美味しそうだ。

 

 「いつもすまないな」

 

 「いいってことよ。お前の為ならば苦じゃないぜ」

 

 「そう言ってくれると嬉しいよ」

 

 「えへへ♪」

 

 椅子に座り、「いただきます」と何時もの言葉を言って箸をとる。できたての卵焼きを口に入れた。

 

 「うん。今日も美味しいよ」

 

 「そっか……!えへへ♪」

 

 幸希はニコニコと笑顔で喜んでいた。男勝りなところはあるけど、可愛いところもちゃんとある。やっぱり女の子だなと思う瞬間であった。

 すると俺は幸希の人差し指に絆創膏が貼ってあったことに気がつく。

 

 「幸希。その指どうしたの?」

 

 俺は気になって、その指のことについて問いかける。

 

 「ん?あ、あぁ。ちょっと包丁でやっちゃってな、まだ慣れてない証拠だなー……」

 

 「そっか」

 

 幸希が本格的に料理を始めたのは2年前くらいからだ。その頃は料理もまともにできなかったのに今ではだいたいの料理は作れるようになっている。ここまで上達するには相当練習したのであろう。今度何かお返ししないとなと思いつつ、俺は朝食を取り続けた。

 

 

 

 

(健人の料理に自分の血を入れるために切ったなんて言えないぜ……ふふっ♪)

 

 

 

 ------

 

 a.m.8:45

 

 朝の学校。俺のクラスはある噂でまた盛り上がっている。

 

 「ねぇねぇ聞いた?またあったんだって」

 

 「またかよ〜。あれだろ?爆竹トラップ事件」

 

 《爆竹トラップ事件》。2週間前くらいから歩行者や学生が通る通学路に爆竹が仕掛けられている。爆竹の威力は通常の3倍の威力であり爆竹自体の色も仕掛ける道路の色に合わせられているため、なかなか目で捉えることが難しく、突然爆発して怪我を負わせるという無駄に手の込んだイタズラだ。

 

 「またかよ……早く犯人捕まんねぇかな〜」

 

 「しかも被害はここの地区だけだからなぁ〜。気をつけないとな」

 

 「大丈夫だ!健人はオレがちゃんと守ってやるからよ!」

 

 幸希はキリッとした顔で断言する。

 

 「流石に厳しいだろ」

 

 と俺は笑いながら受け流す。

 

 「あー!本気にしてないなぁ〜?」

 

 「さぁ?どうだろうねぇ〜」

 

 被害者はこの地区にある3つの高校の生徒だ。大人や高齢者、小学生、中学生達が被害を受けたということは聞いていない。高校生だけがターゲットみたいだ。

 何が目的でこんなことをしているのかは全く理解できず、警察も厳重に警戒しているのかこの地区でよく見るようになっている。

 俺達高校生は次は自分がやられるんじゃないかという不安と恐怖を感じながら生活しているのだ。

 

 「はい皆席につけー。ホームルーム始めるぞー」

 

 担任の先生が教室へと入ってくる。生徒達はせっせと自分の席へと座った。

 

 「今回もまたうちの生徒1人が例の事件の被害にあった。犯人はまだ捕まっていないため、十分に注意して登校してくれ。では今日の連絡事項だが---」

 

 やはり皆の噂通り、また被害が出たらしい。ここまでやられると流石にしばらく休校とか考えた方がいいんじゃないのか?その後は特に何もなく授業が行われた。

 

 p.m.16:18

 

 学校の授業が終わり、俺達はのんびりと帰宅中だ。

 途中で幸希がトイレに行きたいと言い始め、今は近くの公園で幸希を待っているところだ。俺は喉が渇いてきたので、ジュースを買おうと外にある自動販売機へ行こうと公園から出る。

 

 「がっ……!」

 

 すると数歩進んだだけで、大きな音と爆発されたような感覚がした。足下に激しい痛みを感じ、その場に倒れてしまう。

 

(なんでこんなところにっ……!)

 

 地面から火薬の匂いがする。どうやら例の事件の被害にあったみたいだ。

 

 「あひゃひゃひゃ!ほんとにひっかかりやがったよ!」

 

 「この改良版すげぇな。いつもより少なめに仕掛けたはずなのにこの威力かよ」

 

 後ろから男達の声がする。深緑色の学ランを着た3人組の男。染めた髪型やピアスをしている格好からして他校生のヤンキーみたいだ。

 

 「お前ら……」

 

 「いやぁ。改良版の実験台ありがとうね。いい感じに威力が出てることがわかってよかったよ」

 

 血がダラダラ出ているその足でなんとか立とうとする。

 

 「ほれ」

 

 「ぎっ……!」

 

 しかし1人の男に怪我している部分を攻撃され、また体制を崩してしまう。

 

 「あ、ごめ〜ん!足が滑っちゃった!ぎゃははははは!」

 

(こいつら……)

 

 さらに1人の男が俺の髪をワシ掴みして持ち上げる。

 

 「この事は、誰にも言うんじゃねぇぞ?もし俺らのことを喋ったら……どうなるかわかってんだろうな?」

 

 そしてこの事を誰にも喋らないよう脅迫される。

 

 「ついでに今持ってる金よこせよ?そうしたらもうお前には手を出さないからよ。ほら早く」

 

 誰が渡すもんかアホ。

 俺はこの状況をどうにかしようと思考を巡らせていると……

 

 

 「……おい」

 

 「あ?---ほげぇっ!!」

 

 突然、後ろから殺意の篭った声がして男が殴り飛ばされる。

 

 

 「オレの健人に何してんだおまえら?」

 

 

 幸希だった。物凄く怒っている。殺意がタダ漏れだ。

 

 「な、なんだてめぇ!」

 

 「ふざけんなよ!」

 

 他の男達が二人がかりで襲ってくる。だが幸希は恐れることなく1人の拳を手で受け止め、もう1人の拳を掠めるように避ける。受け止めた拳を力強くメリメリと握りしめる。

 

 「いだだだだ!ちょ、やめ、おれ--

 

 バキッ

 

 「ぎいあああああ!!」

 

 遂には握りつぶして、男の掌の骨を砕いた。

 

 「や、野郎……」

 

 攻撃をかわされた男はもう一回殴りかかってくるが、幸希は男の腹に鋭い蹴りを打ち込む。

 

 「が……は……」

 

 男は腹を抱えて跪いた。1人は折れた骨の痛みで動けないでいる。

 

 「………」

 

 そして幸希は最初に殴り飛ばした男の元へと歩いていく。

 

 「てめぇ……一体何もんだ……」

 

 「黙れ」

 

 幸希は倒れている男の顔を踏み付ける。

 

 「ぐっ……」

 

 「てめぇ、よくもオレの大事な健人に手ぇ出してくれたな?こんなことしてただで済むと思ってんのかよおい」

 

 グリグリと足を男の顔に擦りつける。

 

 「く、そ……」

 

 「……ふん」

 

 幸希は踏み付けていた右足を男から離すと、今度は左足で男の顔面を蹴り上げた。男の巨体がふわっと浮き上がり、ドシャッと落下した。

 

 「さて……後片付けもしないとな……」

 

 幸希は跪いている2人の男に狙いを変える。

 

 「ひっ……ゆ、許してくれ!悪かった!頼むから……」

 

 「ほんとにごめんなさい!あ、そうだ!金払うから!ほら!5000円!」

 

 2人は幸希に許してもらおうと必死になっている。その姿はとても憐れなものだった。

 

 「……許すわけねぇだろ、死ね」

 

 「ひっ……」

 

 

「「ぎゃあああああああああ!!」」

 

 …………

 

 その後、3人組の男は幸希にコテンパンにされ、全員気絶していた。

 

 「ふぅ……」

 

 幸希は昔から喧嘩が強かった。運動神経は元から凄く高い方であったが、格闘技の分野は最も得意としている。しかも元ヤンキーの番長だ。それなりに喧嘩はやってきているし、俺も実際さっき幸希の戦いを初めて目の当たりにして、唖然としていた。

 

 「大丈夫か健人!?うわ、すげえ血が出てんじゃん!?」

 

 そして幸希は何時もの雰囲気で俺の心配をしてきた。

 

 「……あ、あぁ。大丈夫だよ」

 

 痛みに耐えつつなんとか立ち上がる。

 

 「そっか……なら早く帰って手当しないとな!ほら、早く帰ろうぜ!健人!」

 

 そして幸希はニカッとした何時もの明るい笑顔で手を差し伸べる。

 彼女の顔に少しの返り血がついていた。

 

 

 

 

 




バトルシーン上手くかけなくてすまない(´・ω・`)


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指切りげんまん(後編)

もうすぐクリスマスですね(白目)


 「いてて……」

 

 あの後俺達は家に帰って、幸希に傷の手当をしてもらっている。幸い深い傷ではないみたいで激しい運動を控えればすぐ治りそうだった。

 

 「はい、おわったぜ」

 

 「おう、ありがとな」

 

 俺の両足には包帯が綺麗に巻かれていた。

 

 「あいつらも今頃サツに世話になってるころだし、これで一件落着だな!」

 

 まぁ、幸希のおかげで《爆竹トラップ事件》に終止符が打たれたのだ。これで安心して生活していける。

 

 「………」

 

 「ん?どうした健人?」

 

 「あ……あぁ。いや、なんでもない。ありがとな」

 

 「変な健人だな。じゃあオレは飯作ってくるぜ〜」

 

 そう言って幸希はキッチンへと向かった。

 

 俺の頭にはまだあの光景がきっちり残っている。

 幸希は昔から喧嘩が強かった。小学生の頃によくやんちゃな男子達とよく喧嘩していてたのを覚えている。中学生の頃はよくヤンキー達に絡まれては喧嘩して、怪我をした状態でよく家に帰ってきていた。高校生になってからは改心して真面目な生活を送っている。

 

 しかし、さっきの公園での出来事で幸希の怒った顔は初めて見た。あんなに殺気を出している幸希を俺は見たことない。先程の喧嘩も一歩間違えればあの3人組は死んでいたかもしれない。

 

 

 それほどまでにあの時の幸希は、様子がおかしかった。

 

 

 ------

 

 

 

 「幸希……またこんな怪我して……」

 

 

 「……うるせぇ。お前に関係ないだろ」

 

 

 「いいからはやくこっちこい。今手当してやるから」

 

 

 「うぜぇなぁ!オレのことはもうほっとけっていつも言ってるだろ!」

 

 

 「そんな大怪我してるやつをまえにほっとけるかよ!つべこべ言わずに座って--

 

 

 「うるせぇ!」

 

 

 ドカッ!

 

 

 「ぐはっ……!」

 

 

 「ちっ……くそが」

 

 

 「……いてて、相変わらず……お前の蹴りは痛いなぁ……ははは」

 

 

 「………」

 

 

 「いてて……ほら、さっきの蹴りでまた足に余計な負担がかかったろ。ったく、いいからおとなしくしてろ……」

 

 

 「……なぁ、なんでお前は、オレに構ってくるんだ?オレと一緒にいるとお前まで悪くなっちまうぜ?お前の親にさんざん言われてただろ?」

 

 

 「……知っていたのか」

 

 

 「ハッ、そういうことだ。……頼むからもうオレに二度と近づかないでくれ」

 

 

 「……悪いけど、その頼みは聞けないな」

 

 

 「はぁ?」

 

 

 「だって、お前はもう家族だろ?だいたい大事な家族の1人が怪我しているのにほっとく方がおかしいだろ」

 

 

 「だって、お前……」

 

 

 「確かに、俺の母さんは幸希のことを良く思ってないし、お前のことになるといつも嫌そうにしていたよ」

 

 

 「………」

 

 

 「だけど、俺は1度も嫌とは思ったことない。幸希は俺の大事な幼なじみで、大事な家族だ。今頃構うな言われてもそりゃ無理な話だな」

 

 

 「…………」

 

 

 「ほら、いいからはやく座って。怪我の手当するから……」

 

 

 「……オレ、ヤンキーだぞ……?」

 

 

 「だからなんだよ。今更だな」

 

 

 「……オレと一緒にいると……皆から嫌われるぞ……?」

 

 

 「もう嫌われてるんじゃないかな?俺地味だし?あははは」

 

 

 「……オレ、女の子っぽくないし……なんにもできないぞ……?」

 

 

 「今から学んでいけばいいさ。まだ中学生だろ?」

 

 

 「……グスッ……かまってくれないと……おこるぞ……?」

 

 

 「おう。嫌っていうほど構ってやる」

 

 

 「……うっ……グスッ……」

 

 

 「……お前は、1人じゃない。約束する、俺がそばにいる。ずっと一緒だ」

 

 

 「……うっ……うぁぁぁぁぁ……!」

 

 

 ……………

 

 

 …………

 

 

 ………

 

 

 「……ん」

 

 夢を見た。それは懐かしいもので、思い出すと少し恥ずかしくなる。

 今日は土曜日で学校はなく、いつもより遅く起きた。

 

(そういえば……)

 

 オレはカレンダーの方にふと目を移す。

 そう、今日は12月24日。世間ではクリスマスイブでオレの誕生日でもある。

 

(健人、誕生日覚えてくれているかな……)

 

 オレは布団から出て、いつも通りに健人を起こしに行く。休日だからと言って起こさないわけじゃないんだぜ。

 

 「おきろ健人ー!」

 

 健人の部屋をドアを開ける。すると珍しくその部屋に健人の姿はなかった。なんということだ。あいつは誰か起こさないと昼まで寝ている奴だ。今は午前8時30分。休日の日にこんなに早く起きているなんて初めてのことだ。

 

 リビングに向かったが、健人の姿は見当たらなかった。代わりにテーブルに朝食と、1枚の紙が置いてあった。

 

 《買い物や色々と用事があるので外に出てます。悪いけど昼飯は適当にとってくれ。》

 

 紙には健人の字でそう書かれてあった。

 

(なんだよあいつ……今日オレの誕生日だってのになにやってんだよ……)

 

 流石に今日は何も予定はないし、あいつがいないんじゃあ色々と暇だ。買い物って言ってもどうせ何時も行っているショッピングモールであろう。あいつをおどかしに行ってやろうと朝食を済ませ、色々と支度して家を出た。

 

 いつも通っている近くのショッピングモールに到着する。店内に入って所々店を探してみるが健人の姿は見つからない。

 

(あっ、いた!)

 

 あれから1時間後。アクセサリー屋で健人の姿を確認する。

 

 

 

(……えっ……?)

 

 

 しかし、健人の隣にはオレの知らない女がいた。お互いに笑顔でとても楽しそうにしていた。

 

 

(…………嫌………)

 

 オレは頭が真っ白になって、その場から走り去った。

 

 

 「ん?」

 

(あれって……幸希か?)

 

 「どうしたの?健人君?」

 

 「ん、あぁいや。なんでもないよ。はやくあいつらと合流しよう」

 

 「そうだね!いこっ!」

 

 「あぁ」

 

(気のせいか……)

 

 

 数時間後---

 柏原家

 

 「………」

 

 ……なんで……

 

 ……なんで、なんで……

 

 ……なんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんでなんで……!!

 

 「……くそがっ!!」

 

 玄関の壁を思いっきり殴る。

 

 「なんでだよぉ……健人……」

 

 健人が他の女性と一緒にいた。

 

 オレ以外の女とデートしていた。

 

 なんでだよ健人

 

 今日はオレの誕生日だろ?

 

 なんでそんな大事な日にほかの女と歩いてんだよ

 

 

 ずっと一緒にいてくれるんじゃなかったのか?

 

 なぁ……

 

 健人……

 

 ……………

 

 …………

 

 ………

 

 ……

 

 …

 

 あはっ…

 

 あははっ

 

 あはははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははははは!!

 

 

 嘘だよな!優しい健人がオレを裏切るなんて絶対しない!

 

 

 そうだ、あの女に何かされてんだな!

 

 

 大丈夫だぞ……健人……

 

 

 オレが必ず守ってやるからな……♪

 

 ------

 

 p.m.18:05

 

 「じゃあね健人君♪今日は楽しかったよ」

 

 「あぁ、俺も。また集まって遊ぼうな」

 

 「おう!そうだな」

 

 「はやく帰って彼女にプレゼント渡せよ。きっと帰りが遅いって怒ってるぞ〜」

 

 「あはははっ、そうだな、じゃあな!」

 

 俺は今日、男友達1人と女友達2人で幸希のプレゼント選びに付き合ってもらっていたのだ。

 買ったプレゼントは幸希に似合いそうなネックレスと幸希の好物であるいちごのショートケーキ。さらにクリスマスイブということでターキーや、色んなごちそうを買ってきた。

 早く帰って幸希と一緒に楽しむんだ……!そう思いながら走っていると……

 

 「よぉ、お前か。俺らのダチが世話になったなぁ」

 

 ぞろぞろと俺の前にいかにも悪そうな奴らの集団が集まってきた。

 

 「……えっと、なんですか?」

 

 「おら、つべこべ言わずついてこいコラ」

 

 逃げるしかない。俺は集団から背を向けて逃げようと試みる。

 

 「おっと、逃がさねぇぜ」

 

 しかし奴らの仲間であろう者達が退路をふさぐ。

 

 「くそっ……」

 

 ここは既に街から離れた住宅街だ。あたりは暗くなっており、歩行者の姿は見えない。……あ、これ詰んだわ……

 

 それからは公園に連れていかれ、10人の集団に完膚なきまでにボコボコにやられた。

 

 「おら!」

 

 「がっ……」

 

 5人が俺を叩きのめし、もう半分は俺が買った食料を食い漁っている。

 

 「ほぅ……なかなかいいセンスじゃないか」

 

 集団の長である奴が箱の中に入っていたネックレスを手に取る。

 

 「やめ……ろ……それだけ……は……」

 

 傷だらけの体を必死に動かそうとする。しかし背中を足で押さえつけられてしまった。

 

 「へぇ……そんなに大事なものなのか、これ」

 

 幸希にプレゼントする物なんだ。大事に決まっている。だが俺は最悪の展開を予想していた。

 

 「そうか……じゃあ、ほれ」

 

 男は持っていたネックレスを思いっきり引きちぎり、バラバラになったネックレスだった物を俺に投げつけた。

 

 「似合ってるぜ。今のお前に最高のアクセサリーじゃねぇか。ひゃはははははは!」

 

 「……てめぇ……!!」

 

 「あ?」

 

 長である男から顔面に蹴りを入れられる。

 

 「が……」

 

 「なんだよその目は、腹立つな」

 

 「うる……せぇ……!」

 

 男は俺を持ち上げ、さらに殴る。倒れた俺に馬乗りになって、さらに顔面を拳で殴り続けた。

 

 「おぉお!」

 

 「いいぜ兄貴!もっとやれぇ!」

 

 「………」

 

 だんだんと意識が遠くなって行くなかで、最後に見たものは慌しく公園の入り口にたどり着いたある1人の金髪の女性だった。

 

 

 「-------!」

 

 

 その女性が何かを言っていたのかは聞き取れず、俺は意識を手放した。

 

 

 

 ------

 

 

 

 「……ん」

 

 目が覚めると、そこは暗い部屋の中であった。体を動かそうとすると、ガチャッと金属音がした。

 

 「なっ……これは……!」

 

 暗くてよく見えないが、手首に何かがかけられているのは確かだ。感覚からして恐らく手錠であろう。

 

(俺、あいつらに捕まったんかなぁ……俺特に何もしてなくね?なんで一方的にやられなくちゃいけねぇんだよくそ……)

 

 そんなことを考えていると、急に電気がついて周りが明るくなる。

 

 「おっ、目が覚めたんだな、健人」

 

 「……こう……き?」

 

 幸希がこの部屋に入ってきた。だが、幸希の服や顔に赤い汚れが所々ついている。

 

 「おまえ……それ……」

 

 「あぁ。あいつらオレ達に仕返してやりたかったんだってさ。ほんとに懲りねぇよな。まぁ、健人をこんな姿にしたんだ。あの10人にはこの世から消えてもらったから心配すんな!」

 

 幸希は笑顔でそう言った。いつも見ているはずのその笑顔は今はとても恐ろしいものに感じた。

 

 「……幸希、これは……」

 

 俺は手錠のことを問いかける。

 

 「ん?あぁ、それがどうかしたのか?」

 

 「いや、これ外してくれよ」

 

 「嫌だ」

 

 「……は?」

 

 「こうしておけば、もうお前はずっとオレと一緒にいられるんだぜ?」

 

 「な、何言ってんだよ。いつも一緒じゃないか……」

 

 「じゃあなんで今日オレの誕生日だっていうのに、ほかの女と一緒に遊んでんだ?」

 

 「ッ!」

 

 なんで幸希がそのことを知っているんだ?何処かで見られたのか。

 

 「それは、お前のプレゼントを選ぶ手伝いをしてもらうために呼んだんだ。俺、女子が好きそうなプレゼントがあんまりわかんないからアドバイスをもらってたんだよ」

 

 サプライズのつもりでプレゼントを渡すつもりだったが今となってはもう遅いことなのでここで真実を打ち明ける。

 

 「そうか……そのプレゼントがこのネックレスってわけか」

 

 幸希はポケットからバラバラになったネックレスを取り出した。

 

 「お前、持って帰ってきたのか……」

 

 

 「当たり前だろ?お前からのプレゼントだったら何でも嬉しいぜ?ただ……」

 

 

 「ただ?」

 

 

 「これはあの女と一緒に選んだやつだろ?そんなものはいらない」

 

 

 そう言って幸希は手に持っていたネックレスを握りつぶして粉々にする。あぁ……それ結構高かったのに……

 

 

 「誕生日プレゼントなんて、わざわざ黙って買いに行く必要ないだろ?オレは今日1日お前と2人っきりで過ごせればそれでよかったのに……お前はほかの女と……!!」

 

 

 そう言っている幸希の目は光を宿しておらず、黒く濁っていた。

 

 

 「もうお前を外に出したりなんかしない。この部屋でずっと2人っきりで暮らすんだ。誰にも邪魔されない、2人だけで……あははははははははははははははははははは!!」

 

 

 「幸希……」

 

 彼女はどこか狂っている。このままだと本気でここに監禁され廃人になりかけない。

 

 「勝手に黙って行ったのは悪かった!本当に申し訳ないと思う。だから頼む!この手錠外してくれ!」

 

 「何言ってんだ。外したらまたお前はオレを置いていくだろ?」

 

 「置いていかない!約束する!今度は2人で出かけよう!もう2度とお前をひとりにしない!」

 

 俺は必死になって、幸希にお願いした。

 

 「……わかった」

 

 彼女は気が進まないような感じだったが承諾してくれたみたいだ。

 

 「じゃあ……約束してくれ」

 

 そう言って手錠を外すと、幸希は俺の前に小指を差し出してきた。

 

 

 「これからはオレ以外の女と喋らない。オレ以外の女と些細な関係を持たない。そしてこれからはオレとお前は恋人同士になる。これらが約束できるなら、ここから出してもいいぜ」

 

 

 「……あぁ、わかった」

 

 幸希から放たれる殺気と恐怖に勝つことが出来ず、俺は渋々承諾して、幸希の小指に自分の小指をひっかけた。

 

 

 「指切りげんまん♪嘘ついたら針千本のーます♪指切った……!!」

 

 

 「!!」

 

 

 するとバキリと嫌な音がして俺の小指はあらぬ方向に折り曲がっていた。

 

 

 「あああああああああああああああ!!」

 

 

 痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い痛い!

 

 どんな力してんだ幸希は!小指だけで俺の小指の骨を折りやがった……!

 

 

 「この折れた小指を見たら、いつでもこの約束を思い出せるよな?なに、小指の1本くらい大したことないさ」

 

 「……っ……っ……」

 

 「さて、めでたく恋人同士になったことだし、今日はとことん付き合ってもらうぜ?」

 

 そう言うと幸希は服を脱ぎ始めた。逃げようにも奴らから受けたダメージが効いていて、抵抗することすらできない。

 

 

 「たっぷり愛し合おうぜ……?健人……♪」

 

 

 12月24日、クリスマスイブ。この日の夜は今までで1番長かった。

 

 

 

 




無理矢理感はんぱない……(´・ω・`)


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脱出とクリスマス

※これは、1話目の『春がやってきたと思ったら……』の続編です。


 今日は12月25日。世間ではクリスマス、聖夜である。リア充達がイチャラブしているであろう実に素晴らしいイベントだ。しかし今日の俺は……

 

 「聖夜でも関係なくバイトだぜひゃっはー!」(白目)

 

 やぁ皆さんお久しぶり!え、お前誰だよって?そう俺の名前は佐藤 拓也!実に5話ぶりの登場だぜ!

 え?お前彼女に監禁エンドだっただろうって?ふっふっふ……実はな……脱出したのじゃよ。そう!俺は彼女だったサリー(サリア・ローザ)の魔の手から逃げることに成功したのだ!

 

 え?何もったいないことしてんだよ、って?うーん……確かに、サリーは元はフランス人ですげぇ美人だし、スタイルも抜群に良いし、サリーの作る料理はめちゃくちゃ美味い。なにもかも完璧な彼女であったが、1つ悪いところがあったんだ。

 それは独占欲があまりにも強いこと。他の女子と喋っただけでも目のハイライト消えるし、男友達と仲良くしていても不機嫌になるし、家での通話時間は最低でも5時間以上、朝起きた時のメールの数は200通以上。

 

 うん、ぶっちゃけ超怖かった。正直彼女にここまで愛されていたのは悪い気はしなかったけど、さすがに愛が重すぎる。サリーの一方的な愛だったし、俺自身何かに縛られるのは好きではない。

 そんなこんなで俺はあの監禁部屋から脱出を決意したのであった……!

 

 「おい、何ブツブツ言ってんだよ?お客さん来たぞ?」

 

 「あ、すいません。いらっしゃいませー!」

 

 ------

 

 6ヵ月前……

 6月24日

 

 「ん……」

 

 再び目が覚めて起き上がる。今自分がいるのはどこかの暗い部屋、手錠と足枷はガッチリついている。たしか俺は、不良達に襲われて意識が飛んで、気づいたらサリーに監禁されてて、さらにサリーとのディープキスで睡眠薬飲まされてまた意識が消えたんだった……。

 今は何時何分だ?日付は何日だ?あれから俺はどれくらい眠っていた?

 

 「あ、おはようございます。拓也君♪」

 

 色々考えていると電気の灯りがつき、そこに彼女はいた。長い金髪を三つ編みでまとめており、可愛らしいピンクのエプロンを着て、朝食が乗っているおぼんを持ったサリーが部屋に入ってきていた。

 

 「……おう、おはよう、サリー」

 

 「ええ。よく眠れましたか?」

 

 「あぁ……薬のおかげでぐっすり爆睡したよ。ところで今日は何日だ?」

 

 俺は今どんな状況になっているのかをサリーに問う。

 

 「今日は6月24日、土曜日の午前8時10分です。あなたがここに来てから2日が経過しました」

 

 2日間俺は眠っていたのか……それじゃあ学校は無断欠席ということになっているだろう。完全皆勤狙ってたのになぁ……

 

 「あ、学校のことなら心配しないでください。拓也君はこの学校を退学すると伝えましたから。もちろん、私もあと1週間後には退学届けを出しますよ」

 

 

 「……は?」

 

 こいつ、今なんて言った?退学……?

 

 

 「おまっ、ふざけんなよ!勝手に退学してんじゃねぇよ!」

 

 「何言ってるんですか?あなたはもう何もしなくていいんですよ?ずっと私と一緒に居てくれればいいんです。ご飯も私が作りますし、ちゃんと私が働いてお金も稼ぎます。あなたはずっとここにいるだけでいいんです」

 

 「それってヒモじゃん!馬鹿な事言ってないでさっさとこの手錠と足枷外してくれよ!」

 

 「……拓也君」

 

 「ひゃい!?」

 

 サリーの声のトーンが急に低くなり、目のハイライトが消えて雰囲気がガラッと変わる。思わず恐怖でゾッとして、声が裏返ってしまった。

 

 「もうあなたが傷つくのは見たくありません。あなたが他の女と仲良くしているのも見たくありません。これ以上、私から離れて行くのは嫌なのです。だから、ここでずっと私と一緒に暮らしましょう?ずっと……一緒に……ね?」

 

 首をかくっと曲げて、低いトーンでそう言った。

 

 「ひっ……わ、わかった……すまなかった……」

 

 ここで否定したら殺される。そう思ってしまい、俺はサリーの言葉に従った。

 

 「ふふふっ、いいんですよ。はい、朝ご飯です」

 

 するといつもの雰囲気と笑顔が戻り、俺がいるベッドのすぐ隣にあった椅子にサリーは座った。朝食です言われても、手錠かけられてちゃあ箸やフォークが持てない。

 

 「あの、この手錠外してくれないと飯食えないよ?」

 

 「大丈夫です。私が食べさせてあげますよ」

 

 デスヨネー。早々簡単にこれは外してくれそうにないな……。

 

 「はい、あーん……」

 

 サリーは箸で卵焼きをつかんで、こちらへ向けてくる。俺はそれをパクッと口に入れた。

 

 「……うん、おいしい」

 

 甘みが効いているいつもの味だ。

 

 「ふふふっ♪あ、次はこれを……」

 

 それからは俺の監禁生活が始まった。

 部屋には勉強机、小説がぎっしり詰まった本棚、ラジカセ、テーブルの上には昼食のカップ麺やインスタント食品が置いてある。さらには冷蔵庫も置いてあり中にはお茶とジュースが入っている。トイレもちゃんと設備されていて、まさに完備された部屋だ。確かにこの部屋であれば1日中過ごせることも可能である。風呂の時にはお互いの手首に手錠をはめて繋ぎ、サリーと一緒に入っている。寝るときも同じベッドでサリーに抱きつかれながら寝る形だ。

 

 サリーが働いている間は手錠を外してもらっていて、ラジオを流しながら、小説を読んでいた。朝昼晩のご飯はサリーが全て作ってくれるし、寝る場所も環境の良い部屋で、正に完璧なヒモ状態である。

 

 どうしてこんなことになってしまったのだろうか。付き合い始めた頃のサリーはちゃんと常識があって、勉強や色々な雑務を真面目にこなし、誰にでも優しく対応していて、まさに聖女だった。デートの時には手をつなぐにも彼女が恥ずかしがって苦労したし、恥ずかしがり屋で真面目な彼女にキスを求められた時があって、した後には必ず顔をトマトのように真っ赤にして可愛らしい反応も見せてくれたものだった。

 

 しかし今のサリーは前の恥ずかしがり屋なサリーではない。俺が彼女から離れていくのと俺が傷つけられるのを極端に嫌がり、遂には監禁して俺の生活を独占している。何週間か前のサリーではとても考えづらい出来事だった。

 

 何が彼女を暴走させてしまったのだろうか、俺にはそれが一切わからなかった。

 

 そして、俺が監禁されてから1週間が経過した。

 

 a.m.8:30

 

 「ふぅ……ごちそうさま」

 

 「はい、お粗末さまでした♪」

 

 それにしてもサリーは俺が長い間ここにいるからだろうか。あれから毎日とても機嫌が良さそうだ。俺はこんな状態にされて精神が壊れないように必死なんだがな。

 

 「……なぁ、サリー」

 

 「ん?なんですか?」

 

 「いい加減に外に出してくれないか?」

 

 無駄な事だとわかっていても、俺はなんとかこれらを外してもらおうと説得する。もうそろそろ俺の精神が危うい。

 

 「……どうして、ですか?」

 

 サリーは光を宿していない黒く濁った目でこちらを見つめる。

 

 「愛し合っている男女が一緒に暮らせるんですよ?何が不満なんですか?どこか悪いところでもあるんですか?」

 

 「いや、手錠と足枷がついてる時点でめっちゃ嫌なんやけど……」

 

 「大丈夫ですよ。もうあなたは何もしなくていいんです。ご飯ならもっとあなたの口に合うように頑張りますし、部屋の環境も徐々に良くします……なんなら……下の処理も、ちゃんと私がやりますから……///」

 

 だめだ。全然話が通じない。

 

 「じゃあ私は皿を片付けた後に、仕事に行ってきます。私が帰ってくるまで大人しくしててくださいね?……愛してますよ、拓也君♪」

 

 サリーはそう言って部屋から出ていった。

 

 「……はぁ~」

 

 

 

 

 

 ……もう……

 

 

 

 

 

 「こんな縛られた生活嫌だぁぁぁぁ!!」

 

 

 ここまでやる必要があるのか!?俺の意志は完全無視ですか!?確かにサリーのことは好きだよ!?最初に告られた時とか俺その日1日中はしゃいだよ!?でもなぁ!愛が重すぎるよちくしょう!俺に人権はないのか!?普通の恋がしたい!テレビが見たい!ゲームがしたい!おうち帰りたい!俺に自由をくれよこんちくしょう!

 

 

 「……はぁ……はぁ……」

 

 心の中でたまっていた愚痴を思いっきり吐き出す。

 

 「……よし、脱出しよう」

 

 俺はこの部屋から脱出する事に決心した。

 

 ------

 

 a.m.9:00

 

 「さて……」

 

 この部屋の中では自由に動き回れる。俺の私物は一切この部屋に無い。もちろん自分のスマートフォンも彼女に取り上げられているだろう。俺は手始めに本棚を調べた。

 本棚は色んな種類の小説本があるだけで、これといって気になるものはなかった。

 次に勉強机を調べた。3つの引き出しのうち、1番上の引き出しを引く。中には数枚の写真が入っていた。写真の内容は子供が2人仲良く写っている写真ばかりだった。

 

(これ……俺が子供の時のだ……なら隣に写っている金髪の女の子は、サリーか……懐かしいな……)

 

 遊園地に行った時の写真や、動物園の時の写真など懐かしいものばかりだった。

 

 真ん中の引き出しを引くと、特に何も入っていなかった。

 最後に残った1番下の引き出しを引くと、そこにはノートや、鉛筆や消しゴムなどの勉強道具が入っていて、そして隅っこに髪留めと針金が置いてあった。

 

(これは……いけるかも……!)

 

 運良く金具を発見した。これらなら足枷の鍵穴を開けれるかもしれない。ピッキングはやったことないけど……やるしかない!

 俺は針金を持って、足枷の鍵穴をいじりはじめる。

 

(くそっ……なかなか難しい……)

 

 鍵穴との格闘で徐々に時間が過ぎていく。そして2時間が経過した時、そろそろ集中力が切れそうであった。ピッキングを諦めかけた次の瞬間--

 

 カチャッ……

 

 「!!」

 

 鍵が開いた音がして、片方の足枷が外れる。

 

(やった……!よし、この調子でもう片方も……!!)

 

 開いた時の感覚を忘れないうちにすぐにもう片方の解除に取り掛かった。長い間苦戦していたからなのか、やっているうちにだんだんとコツを掴み始め、1時間でもう片方の解除に成功する。

 

 「やっ……た……」

 

 足首にかけられていたものが外れ、遂に体の自由を取り戻した。

 

 「やった!やったぞ!!よっしゃああああ!」

 

 俺は慌てて監禁部屋を飛び出した。廊下を通って、階段を軽い足取りで駆け下りる。降りた後にすぐに玄関が目に見えた。

 

(ついに……!ついに……!)

 

 

 扉の鍵を開けてドアノブに手をかけた。そしてついにこの家から外に出ることに成功した……

 

 

 

 

 

 

 

 

 「なにしてるんですか?」

 

 

 

 はずであった。

 

 

 

 

 「まったく……まさか、ピッキングしてこの部屋を脱出するなんておもってませんでした……少し甘かったみたいです……」

 

 家の外には出ることには成功した。ただ何故か、家のすぐ前には仕事であるはずのサリーがいた。どうやら仕事場に持っていく弁当を家に忘れ、外食しようにもたまたま家に財布忘れてしまい、仕方なく家に取りに帰ったところで外に出た俺とバッタリ会ってしまったのだ。あまりにも運が悪すぎる。

 

 「サリー……俺……」

 

 「これでよしっと……」

 

 脱出失敗。見事に振り出しに戻された。いや、最初の頃よりもひどくなった。前よりも厳重である手錠と足枷をかけられ、昼間での手錠の解除はなし、昼食はなくなり、小説本、ラジカセまでもが撤去されてしまう。

 

 「じゃあ行ってきますね。仕事が終わったら……たっぷりお話しましょうね?拓也君♪」

 

 そう言ってサリーは部屋から出ていった。

 何も無いポツンとした部屋。カチカチと時計の針が進む音だけが聞こえる。

 

(あ〜あ……やらかした……)

 

 運は俺に味方するどころか裏切られてしまった。まさかこの時間帯に帰ってくるなんて予想できない。しかも今回は手錠はガッチリ繋がれたままで身動きが一切とれない。もうほとんど詰んだ状態。ゲームオーバーだ。

 

(俺、このまま廃人になるのかなぁ……)

 

 もうほとんど諦めていて、思考がだんだん停止していく。もう考えたくもない。もうなにもしたくない。そう思っていた。

 

(……寝よ)

 

 何もすることがない俺はそのまま眠りについた。

 

 ------

 

 p.m.19:15

 

 「ん……」

 

 「あ、やっと起きましたね」

 

 眠りから目が覚める。体を伸ばそうと背伸びしようとするが、手錠で手首が固定されているため身動きがとれず、ガチャガチャと金属音だけがなる。

 

 「あぁ……おはよう……サリー」

 

 「ええ。おはようございます」

 

 サリーは笑顔であったが、目のハイライトが消えたままであった。首になにか紐のようなものがかかっている。なんだろう……。

 

 「……ごめんな、サリー。お前を裏切るようなことしてしまって……ほんとに悪いと思っている……」

 

 「そうですよ。まさかピッキングできるなんて思っていませんでした……どうしてそこまで外に出たがるんですか?外にはあなたを傷つけるものがいっぱいあります。そんな危険な場所よりもここにいた方が安全なのに……」

 

 「あぁ……そうだな……ごめん……」

 

 しかしもう、なにもかもが面倒に思えてきた。

 

 「もう2度とあんなことしないでくださいね?」

 

 「あぁ……わかった……」

 

 それを聞いたサリーはホッとひと安心した。

 

 「じゃあ、ご飯にしましょうか。今日はあなたの大好きなカレーですよ」

 

 そして俺はサリーに夕食は食べさせてもらい、夕食が終わると次は風呂場に移動した。手錠と足枷は解除されたが俺に逃げる気力は無かった。更衣室で俺が服を脱いでいるとある物を目が捉える。

 

 「……!」

 

 それは2つの鍵を紐を通して首にぶら下げていたのだ。先程部屋で外し時の鍵の形はどんなものなのかよく見てなかったが、紐の色や特徴はさっきから首にかかっているものが気になっていたものと同じだ。

 

(もしかして……)

 

 そこで思考が働いて、あるひとつの方法を思いついた。だがこの方法は個人的にはあまりやりたくない。でもどうせこのまま廃人になるのであれば、最後くらい少し足掻いてもいいだろうと、そう思った。

 

 風呂の時間が終わり、俺は再び手足を拘束され、サリーは別の部屋で残った家事をしていた。

 そして、夜の22時。サリーは監禁部屋へと入ってきた。そしてサリーの首にあの紐がかけられているのを確認する。

 それを見た俺は最後の足掻きを実行することに決めた。

 

 「さて、もうそろそろ寝ましょうか」

 

 「……なぁ、サリー」

 

 「ん?なんですか?」

 

 「手錠だけ、外してくれないか?」

 

 「……また、そんなことを言ってるんですか?ダメに決まって--

 

 「お前を、抱きしめたい」

 

 「!?」

 

 サリーはえっ、と少し驚いた表情をする。

 

 「お前をさ……この手でぎゅっと抱きしめたい。今度は俺からしたいんだ……頼む」

 

 そう、俺の最後の足掻きは無理矢理夜の営みに持っていく作戦だ。もうこれしかない、許してくれ。あまりこんな真似はしたくないが、これしか思い浮かばなかった。

 でもまぁ……多分こんなんで許してくれるはずが……

 

 「わ、わかりました……///」

 

 ……あれ?

 

 サリーは首にかかっていた紐を引っ張りあげて鍵を出す。その鍵で前よりも厳重な手錠があっさり外される。

 

 「ありがとう……それじゃあ……」

 

 俺はベッドに向かい合って座っているサリーを、ぎゅっと抱きしめた。

 

 「拓也君……///」

 

 サリーも優しく抱き返してくる。

 

 「サリー……大好きだよ……愛してる」

 

 さらに俺はサリーの耳元でそう囁く。

 

 「ッ!///」

 

 密着していた体を離すとサリーの顔は真っ赤になっていた。こんな照れた顔したサリーは久しぶりに見たな……。

 

 「サリー……」

 

 そして俺はサリーに口付けをする。

 

 「……ん……ちゅっ……んっ……」

 

 「あっ……ん……んむっ……ちゅっ……ん」

 

 彼女の口の中に舌を入れて掻き回す。サリーも下を動かして、お互いに求め合った。

 

 「んっ……ぷはぁっ……」

 

 「……はぁっ……はぁっ……たくやくぅん……」

 

 サリーは既に表情が蕩けていた。これを待っていたかのように、今の彼女はとても可愛いくて、とてもエロい表情であった。

 

 「嬉しい……嬉しいです……拓也君……」

 

 「サリー……このまま……」

 

 「……はい、きてください……拓也君♡」

 

 そして俺は、童貞を卒業した。

 彼女は夢中で俺を求めてきた。

 俺も応えるように彼女を求めた。

 お互いに激しく求め合って、快楽に溺れていった。

 

 そして、1時間が経過してお互いヘトヘトになった。

 

 「はぁ……はぁ……」

 

 「えへへへ〜……たくやくぅん……」

 

 サリーは子供のように甘えてくる。俺は彼女の頭を優しく撫でた。

 

 「………」

 

 しばらくするとサリーの寝息が聞こえてきた。慣れない仕事をしているということもあって、疲れがたまっていたのだろう。俺の腕を絶対離さないようにガッチリ掴まれていた。

 

(ごめんな、サリー……)

 

 俺はサリーが起きないようにそーっと離れ、なるべく音を立てないように鍵を取り出して、足枷を解除する。

 

 そして俺は、再びこの家から脱出する事に成功した。

 

 

 ------

 

 6ヶ月後……

 12月25日

 p.m.19:50

 

(まぁ、そんな訳で俺はとんだクズ野郎になってでもあの監禁部屋から脱出したってわけだ。許してくれ、ヤンデレに勝つにはクズにでもならないと勝てないんだ……)

 

 俺はあの後自宅に帰って一通り着替えを済ませ、最低限の持ち物を準備してホテルへ向かった。

 早朝には電車に乗って、3時間かけて単身赴任であった父親の元へ行き、1人暮らしをするための部屋を探すのを手伝ってもらって、前に住んでいた県からかなり離れた県に住んでいる。

 両親の許しを得るのに事情を説明して何度も何度も頭を下げた。最終的に両親は俺の考えを受け止めてくれて、色々な手続き等をしてくれた。

 今住んでいる地方も親が探してくれて、そこは都会とも言えなければ田舎でもない中間的な地方であり、とても住みやすい環境である。両親には本当に感謝してもしきれないくらいだった。

 

 「お疲れ様でした〜」

 

 「はい、お疲れ〜」

 

 今日の分の仕事が終わり、帰宅しようと仕事場を出た。

 

 「うわっ、寒っ……結構雪降ってるなぁ……」

 

 街を歩いているとこの時間帯はどこを見てもカップルが手を繋いでイチャイチャとしている。あんな普通の恋がしたかったなぁ……としみじみ思うのであった。

 

 「はーい皆さん!もうすぐイルミネーションの点灯時間ですよー!」

 

 街の中心に辿り着くと、何かのイベントがあっていて人が多く集まっていた。

 この街の中心には大木が何本かあって、その大木にたくさんの豆電球や、発光ダイオードなどの電灯が装飾されていた。

 腕時計を見ると時間は19時59分。どうやら20時に一斉点灯するみたいだ。

 

 「じゃあカウントダウンいきますよー!皆さんもご一緒に!さーん!……にー!……いーち!……ぜろー!!」

 

 そして大木に装飾された電灯が一斉に輝く。ちょうど今降っている雪とマッチングしてこの場は神秘的な輝きを放っていた。

 

 

 「……綺麗だ……」

 

 

 あまりにも綺麗で思わず声が出てしまう。こんなに綺麗なイルミネーションは見たことなかった。そんな感動に浸っていると……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「ええ……そうですね」

 

 

 

 俺の背後から、さっきの呟きに便乗するような声がした。

 

 

 その声は女性の声だった。前に聞いたことのある声であった。

 

 

 「こんなに美しいものが見られるなんて……ここに来て良かったです……」

 

 

 女性は独り言を俺に聞こえるような声の大きさで喋っている。

 

 

 俺は何故か後ろを振り向くことができなかった。

 

 

(……うそ……だろ……?)

 

 

 「今日はクリスマス。私もあの人と一緒に、この光景を見たかったですね……」

 

 

 足がガクガク震え、手も細かく震えていた。寒さのせいで震えているのではない。

 

 

(……まさ……か……)

 

 

 「私の彼氏はとても優しい人でした。あの人と一緒にいるだけで、胸が暖かくなって、とても心地の良いものでした」

 

 

 彼女は止めることなく次々と口を開く。

 

 

 「子供の頃に、いじめられていた私をあの人が助けてくれた……孤独で寂しかった私をあの人は隣にいてくれた……ついには家の事情で離れ離れになってしまったけど、私はあの人の事を一生忘れる事はありませんでした」

 

 

 

 「むしろ会いたい気持ちがどんどん強くなって、気がつけば私自身もコントロールするのが難しくなってしまうほど、あの人に夢中になっていました」

 

 

 

 「そして再開した時には私は凄く嬉しかったです……あの人と恋人同士になって、日々がとても幸せなものになっていきました」

 

 

 

 後ろから足音がだんだんとこちらへ近づいてくる。声も徐々に大きくになっていった。

 

 

 

 「ですが、そんな幸せな時間を邪魔するものが現れ始め、あの人に危害を加えようとする人までも出てきて、私はとても嫌になりました」

 

 

 

 「だからこれ以上私の幸せな時間を邪魔させたくないと思い、彼を監禁しました。だけど彼は逃げようとしました。でも最終的には私を激しく求めてくれて……あぁ……今思い出すだけでも照れちゃいます……」

 

 

 

 さらに女性が近づいてくる。

 

 俺は身動き一つとることができなかった。

 

 

 

 「しかしその次の日の朝、彼はいませんでした。どこを探しても見つけることができず、多分人生であれほど焦ったことはなかったと思います……」

 

 

 

(……やめろ……)

 

 

 

 「私はあらゆる手段を使って彼を探索しました。私には彼しか考えられない。彼以外の男なんてどうでもいい。私を愛してくれた彼じゃないとだめなんです……彼じゃなきゃ嫌なんです……!」

 

 

 

 そして足音がピタリと止む。

 

 すでに女性は俺のすぐ後ろにまで近づいていた。

 

 

 

 「……そして、私は遂に彼を見つけることができました……見つけた時にはもうそれは嬉しくて……嬉しくて……」

 

 

 

(そん……な……)

 

 

 

 「……ね?だから……振り向いてください?」

 

 

 

 俺は恐る恐る後ろを振り向く。

 

 

 俺の後ろにいたその女性は……よく知っている人だった。

 

 

 彼女長い金髪は少し痛んでいて、目にはクマができていたが、俺はその女性が誰なのかはよくわかっていた。

 

 

 

 いや……分かりたくなかった……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「お久しぶりです。拓也君♪」

 

 

 

 

 

 

 

 ここに居るはずのない、彼女はそこにいた。

 

 

 

 

 

 「!!!」

 

 「あっ……」

 

 俺は全力で走った。無我夢中で走った。歩道が雪で滑りやすくなっていたが構わずに走った。歩いてくる仕事帰りの人やカップルを次々と避けながら、走り続ける。

 

 

(なんで!?なんでだよ!?なんでサリーがここに居るんだよ!?)

 

 

 訳がわからなかった。手がかりは何も残していないはずだ。どうして俺が住んでいる場所までもバレたんだ!?俺は頭が混乱していた。

 

 「はあっ……はあっ……」

 

 中心街から遠く離れた所まで走った後に後ろを振り向くと、サリーの姿は見えなかった。

 

 「いない……ゔっ……」

 

 息切れが激しい。運動不足であったため、急激な体力の減りに吐き気がこみ上げてくる。なんとか喉のところでギリギリおさめた。

 

 俺の家は街の中心街の東側であったが、西側の方に逃げてきてしまった。家に帰るとなると来た道を戻らなければならない。

 しかしあそこにまだサリーがいる可能性だってある。俺は歩きながらどうしようかと考えていると、バス停が見えた。

 

 時刻表を見ると家の近くのバス停まで直行するバスがあり、これに乗れば家まで安心して逃げられる。それが最後に来る時間は20時30分。現在の時刻は20時08分だから、ここで待機していれば、バスは来るだろう。でももしかしたらサリーがここまで追ってくる可能性だってある。俺はバスが来る間は近くのコンビニに入り、外の様子を伺いながら漫画を立ち読みしていた。

 

 20時30分。直行バスが到着し、俺はそれに乗り込んだ。バスの中にサリーの姿はなく、心の中でガッツポーズをした。バスは発進して、家の近くのバス停まで直行した。窓から外の様子を眺めていたが、サリーの姿はどこにも見当たらなかった。

 

 無事に目的地に到着した。俺が住んでいるのは街から少し離れた住宅地にあるアパートだ。周りを見渡すがサリーの姿はない。警戒しながら俺の家の玄関前まで辿り着く。

 

 

(いない……やっぱり、たまたまだったのかな……)

 

 

 俺はホッと一息ついて、バッグから家の鍵を取り出して、玄関の鍵を解除した。

 

 

 

 

 「ただいま〜って……誰もいないけどな、ははっ」

 

 

 

 

 「あ!お帰りなさい♪」

 

 

 

 

 

 

 ……………え?

 

 

 

 

 

 「もう……いきなり走ってどこかに行っちゃうんですから……先に帰ってきちゃいました♪今日はクリスマスなので、ご馳走も用意しましたし、ケーキも準備しましたよ」

 

 

 

 ……なんで、サリーが、ここにいる……?

 

 

 

 「なん……で?」

 

 

 

 「うふふっ、私、これからの新生活が楽しみです。今度こそ、2人で幸せになりましょうね?拓也君♪」

 

 

 

 ……逃げなきゃ……!

 

 

 俺はこの家を出ようとドアノブに手をかけるが、いつの間にか間合いを詰められていて、バチバチっと音がして首に電流が走る。

 

 

 

 

 「が……っ……あ……」

 

 

 

 

 そして俺はその場で倒れてしまい、意識を失ってしまった。

 

 

 

 「ふふふっ……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 もう、絶対離しません……♡

 

 

 

 

 

 

 

 




なんとか間に合った……(✽´ཫ`✽)
あせって投稿したので色々と誤字があるかもしれません。後々編集してちゃんとしたものにします。ごめんなさい┏○┓


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泥棒猫

お久しぶりです。色々とあって、やっと投稿する事ができました( ´ཫ` )。


 

 「あー……疲れた」

 

 午後20時30分。日はすっかり暮れ、マンションに帰宅後、仕事疲れでクタクタな状態な俺こと須田 健一は、リビングにあるフカフカのソファーへダイブする。

 

 「ふぁぁ……なんか眠く……zz…」

 

 ちょうど眠りに入ろうとした時に、タイミングよくインターホンが鳴った。

 

 「……はぁ、また来たのか……」

 

 平日のこの時間帯に来る人物はだいたい察している。

 

 

 「やっほー、健ちゃん♪」

 

 「……また来たんですか?先輩」

 

 玄関の前には両腕に食材が入った袋を持っている女性の姿。

 そう。俺の高校時代の時の先輩、晴先輩だ。

 

 西口 晴。俺の1つ年上の女性だ。高校時代、晴先輩は卓球部のエースでそこそこの成績を収めていた。俺も同じ卓球部だったので、先輩との交流が多く、徐々に仲良くなっていった。

 

 現在、晴先輩は私立の大学2年生。茶髪のセミロングヘアーをしていて、ちょっと小柄な身長は変わっておらず、明るい性格をしている。高校時代とあまり変わったところはなかった。

 

 先輩はいつも、時間があるからということで、よく家を訪ねてくる。

 

 「別にいいじゃない。ただの暇つぶしだよ〜」

 

 「俺は仕事帰りで疲れてるんすけどねぇ……」

 

 「まぁまぁそう言わずに。おじゃましまーす」

 

 晴先輩は俺の許可を得ることなく勝手に家にあがる。

 

 「あー!またコンビニ弁当買ってきてるー!毎日こんな食生活だと身体に悪いっていつも言ってるでしょう?」

 

 「仕方ないじゃないですか、料理できないし、その前に料理する気力が残ってないっす……」

 

 「まったく、しょうがないな〜。お姉さんに任せなさい」

 

 そう言って晴先輩はキッチンへと向かって、袋に入っている食材を取り出し、料理の準備をしていた。

 

 俺がまだ仕事慣れしてない頃はたまに晴先輩が家に遊びに来て、ついでに軽食を作ってもらっていた程度だった。

 だが最近は毎日家に来ては、本格的な料理や掃除などの家事をするようになっていた。どうして、晴先輩は俺のためにそこまでしてくれるのだろうか……?

 

 まぁ、家の事を変わりにやってくれているから俺は元気に仕事場に行けるのだけど、さすがにもう甘えるわけにはいかない。そろそろ自立しなければいけないのだが……なかなか自分から言い出すことができず、晴先輩が家事をするようになってから2ヵ月が経ってしまった。そろそろ晴先輩も就活のことも考えなきゃいけない時期だろうし、あと家での1人の時間がほとんどない。疲れている時くらいは1人でゆっくりしたい……。

 

 今夜こそ言わなければ……!

 

 

 ------

 

 

 「……晴先輩、ちょっといいですか」

 

 「どうしたの?何か相談事?」

 

 夕食を済ませた俺は、決意して言った。

 

 

 「もう、家に来なくていいですよ」

 

 「………えっ?」

 

 晴先輩は驚いて目を見開いていた。

 

 「流石にもう晴先輩には自分のことに集中して欲しいんです。なんかこのまま晴先輩に甘えるわけにはいかないんで--

 

 

 「どうして?」

 

 

 晴先輩からなんとも言えない威圧感みたいなものを感じた。

 

 「……先輩?」

 

 

 「どうしてそんな事言うの?別に私は好きでやってることなんだから健ちゃんは心配しなくてもいいのよ?」

 

 

 「でも!そろそろ先輩も就活が--

 

 

 「あ!もしかして、私が体を壊さないか心配してくれての?もぉ〜嬉しいなぁ♪大丈夫だよ!私の体は丈夫なんだから!むしろ健ちゃんの役に立てることで私は元気が出るんだから!私知ってるんだよ?いつもクタクタになるまでお仕事頑張ってること。私はそんな頑張っている健ちゃんのためになにか手伝えないかなぁーって私なりに食事の栄養バランスとか色々考えているんだよ?」

 

 

 だめだ……全然話を聞いてくれない。こんな晴先輩初めて見たぞ?

 

 「晴先輩!だからもう今度から1人で全部やるからもう来なくていいですって……」

 

 「健ちゃん?」

 

 晴先輩はニッコリとした笑顔でこちらを見る。しかしその目は笑ってなどいなかった。

 

 「どうしてそんな事言うのかなぁー?なんでそんなに私に来て欲しくないのかなぁ?」

 

 ズイズイと近づいてくる晴先輩に対し、俺は後ずさりをして、壁まで追い詰められしまう。

 

 「ちょ、先輩落ち着いてください!あと近い……!」

 

 「ねぇ……健ちゃん?」

 

 そして俺の顔をのぞき込むように言った。

 

 

 

 「私のこと、嫌いなの?」

 

 

 

 その目は光はなく、吸い込まれそうな深い感じだった。

 

 「嫌いじゃないですよ!先輩には感謝してますよ。ただ、こんなことしてて先輩の進路のことは大丈夫なのか心配で……」

 

 「……そっかぁ、よかったぁ」

 

 晴先輩は離れていつもの感じに戻っていた。

 

 「そこは心配しなくてもいいよ。もう何件か就職先は考えてあるから」

 

 「は、はぁ……」

 

 「でも、そうだね。なんかいつもより疲れてるみたいだし……今日はもう帰るね?」

 

 すると晴先輩は帰りの支度を始めた。珍しい……だいたいいつもは深夜すぎに帰るのに……。

 

 「じゃあ、お疲れ様です。帰り気を付けてくださいね?」

 

 「大丈夫だよ、家はすぐそこだから。じゃね♪」

 

 そう言って先輩は帰っていった。先輩の後ろ姿が、少し寂しそうな感じに見えた。

 

 

 

 

 

 

 西口家--

 

 

(はぁ……健ちゃんに嫌われなくて良かったぁ……)

 

 

(まぁ、そろそろ定期テストの期間だし、私も勉強しないとね……)

 

 

 晴は自分の部屋に入ると、勉強机に置いてあるパソコンの電源を入れる。

 

 

(あぁ……健ちゃん……)

 

 

 パソコンの画面には、須田健一の自宅の様子が映っていた。

 

 

(あ、まだ服の畳み方がなってないなぁ……。まだぎこちないよ、ふふっ)

 

 

 晴は、健一の家に小型の監視カメラを仕掛けていて、健一の様子を今までずっと見ていたのだ。

 

 

(あ、もう寝ちゃうんだ。まぁ疲れてるみたいだったしね……)

 

 

(健ちゃんと一緒に過ごしたいなぁ……大好きな君との生活……考えただけでも……うふふ///)

 

 

(健ちゃん……大好きだよ……)

 

 

 

 

(私がちゃんと、君を守ってあげる)

 

 

 ------

 

 

 数ヵ月後--

 

 「お疲れ様でしたー」

 

 今日も1日仕事が終わり、さっさと帰宅しようとする。

 

 「あ、須田くん。ちょっといいかな?」

 

 「ん?どうしたの?山田さん」

 

 綺麗で長い黒髪をした女性に声をかけられる。彼女は山田 莉奈。俺と同じ高卒で入社してきた同僚だ。

 

 「今から暇かな?一緒にご飯食べに行こうかなって思ったんだけど……」

 

 彼女とは、趣味や好みが合ってて、すぐに仲良くなった。

 

 「おう、いいぜ。どこに行こうか?」

 

 「街にあるあの洋食店にいこうよ!ハンバーグが人気なところの」

 

 「おっ、いいねぇ。行こうか」

 

 そして俺達は会社を出て、街へと向かった。

 以前、晴先輩に紹介してもらった洋食店。店の雰囲気がよく、料理もとても美味しかったので、金に余裕がある時はここによく来ている。俺のイチオシの店だ。

 

 「さてと、何頼もっかなぁ〜♪」

 

 席について、ワクワク気分でメニューを開く山田さん。

 

 「俺は、いつものかな」

 

 「ん?いつもの?」

 

 「ハンバーグ定食だよ。ここのハンバーグはすっげぇ美味しいんだぜ」

 

 「へぇ〜、ハンバーグかぁ〜……私もそれにしよっかな」

 

 呼び出しボタンを鳴らし、店員さんが来る。ハンバーグ定食を二つ注文して、大人しく料理を待つことにする。

 

 「ねぇねぇ、見た?昨日のお笑い番組」

 

 「いやぁ、昨日はちょっと疲れてすぐ寝ちゃったね」

 

 「えー、須田くんの好きなあの人出てたよ?」

 

 「うわ、マジかぁ……ちょっと損したなぁ」

 

 「ほんとよ。結構面白かったなぁ。もう私、大爆笑」

 

 「ぐぬぬ……」

 

 「あ、それとさ……」

 

 山田さんとはよく話が進む。主にテレビの事での話がよく多い。俺もテレビを見るのが好きで、バラエティからドラマ、アニメも結構見る。映画鑑賞も好きで、山田さんとは一緒に映画を見に行った事もある。

 

 「お待たせしました、こちらハンバーグ定食です」

 

 話が盛り上がっているところで、注文した料理が届く。

 

 「うわぁ〜……美味しそう」

 

 鉄板には綺麗に焼きあがっているハンバーグ以外にも、コーンと蒸しジャガイモの盛り合わせ。セットに白米とスープが付いている。

 

 「ん〜!美味しい!」

 

 「そっか、良かった」

 

 「こんな美味しいハンバーグ初めてだよ!えへへ」

 

 山田さんは幸せそうにハンバーグを食べている。どうやら、気に入ってくれたみたいで良かった。

 

 食事を終えた俺達は洋食店を後にし、バス停へと向かった。

 時間になって、バスへと乗り込んで帰宅する。明日の休日は何をしようかなと考えていると、目的地に到着したみたいなので降りようと席を立ち上がる。

 

 「私も降りる」

 

 「え?でも山田さんの家って、あと二つ先じゃ……」

 

 「いいからほら、早く行って」

 

 カードで料金を支払い、バスを降りる。山田さんも何故かここで降りた。彼女の家はここから少し距離があるというのに。

 

 「ねぇ……須田くんさ、明日休日だから空いてるよね?」

 

 「そうだけど……てか、なんで山田さんはここで降りたの?」

 

 「……今晩は、須田くんの家に泊まろっかなぁ……って」

 

 「へぇー……そうなんだー……って、は?」

 

 山田さんは今なんて言った?泊まる?俺の家に?

 

 「……だめ、かな?」

 

 「いや、えと……服とかは?」

 

 「そう言うと思って、一応家から1泊分の衣服は持ってきてるよ」

 

 「マジっすか……」

 

 今日は妙に大きめのバックだなぁと思ってたら、そういうことか……。

 

 「ねぇ……だめ?」

 

 「………」

 

 この時の山田さんは、いつもより可愛く見えてしまった。自分の心臓がバックンバックン鳴っているのがわかる。

 

 「……わかった……いいよ」

 

 「え、ほんと?やったぁ!」

 

 山田さんはガッツポーズをする。まぁ女性を家に上げるのはこれが初めてではないから大丈夫だろう。

 

 そして俺の家へと辿りついた。

 

 「お邪魔しまーす!」

 

 「はいはい、いらっしゃい」

 

 一応部屋は綺麗にしてあるから大丈夫。いつで客を招く準備はできていた。

 

 「おお、綺麗だねぇ。わぁ!このテレビ、うちのよりデカイじゃん!」

 

 まるで子供みたいにはしゃぐ山田さん。もう大人なんだからと思いつつその姿も可愛いなとも思っている自分。

 

 「ねぇねぇ!あれ見ようよ。須田くんがオススメしてた恋愛映画!」

 

 「あぁ、あれね。ちょっと待ってて」

 

 俺はDVDをまとめているケースから、ひとつ取り出す。去年流行った恋愛映画でとても感動する映画No.1になったくらいのやつだ。

 

 俺達はソファに座って、その恋愛映画を観賞した。始まった数分後は、この人かっこいいとかこの子可愛いねなどの小言を言っていたが、最終的には映画に目が釘付けになって観ていた。

 

 2時間後--

 

 「ぐずっ……ひぐっ……」

 

 「どうだった?この作品は」

 

 「ぐすっ……もう……これ、みれない……ひぐっ……ないぢゃうよぉ……」

 

 どうやら、相当心にきたみたいだ。まぁ俺もこれを初見で見たときは結構泣いたっけな。

 

 「じゃあ、そろそろ寝るかな」

 

 「……まって」

 

 時刻は既に深夜1時をまわっていた。そろそろ眠気が限界なので、ベッドに行こうと立とうとすると、腕を掴まれる。

 

 

 「どうした--

 

 「----」

 

 

 グイッと引っ張られて、お互いの唇が重なる。

 

 「……えへへ、キスしちゃった」

 

 「……なっ……!」

 

 突然のことで頭が真っ白になる。これはいったいどういう状況だ……?

 

 

 「私ね、須田くん……いいや、健一の事が好きなの……初めて会って、気軽に仲良くしてくれた時から……好きだった」

 

 

 「……へ?」

 

 

 これは、俗に言う『告白』というやつですかな?

 

 

 「だからさ……私の気持ち、受け取ってくれる?」

 

 

 上目遣いでこちらを見ている。俺は頭で色々と次のセリフを考えていたが、気がつけば先に行動していた。

 

 「!」

 

 掴んでいた山田さんの腕を軽くこちらに寄せてキスをする。さっき、彼女がやった事をそのままやった。

 

 「……俺も、お前の事が好きだ……。こんな俺でよければ、これからもよろしくな?」

 

 「……うん!嬉しい……嬉しいよぉ……」

 

 唇を重ねる程度だったが、彼女が舌を入れはじめ、次第に激しくなっていく。

 

 「もう……我慢できない……」

 

 「健一……今日は、寝かせないからね」

 

 

 そして、俺はめでたく童貞を卒業した。

 

 

 

 

 

 

 

 今夜の事を監視されていたのも知らずに。

 

 

 

 

 

 

 

 数時間前--

 

 

(今日も健ちゃんのことを見守らないとね)

 

 

(あれ……まだ、帰ってきてないや。今日は遅いのかなぁ……)

 

 

(あっ、やっと帰ってきた……!って、え?)

 

 

(女と一緒……あんな、女知らない……という事は同じ会社の人……?)

 

 

(なんで、私の健ちゃんと一緒にいるの……?)

 

 

(あ、映画見始めた……)

 

 

(これ、健ちゃんがこの前オススメしてたやつだ……あれは泣いたなぁ……)

 

 

(……ただの映画鑑賞なのに、どうしてそんなに健ちゃんにくっついてるのよ……さり気なく腕に抱きついて……!健ちゃんも気づきなさいよ……!)

 

 

(やっと終わった……これであの女も帰るはずよね……)

 

 

(……えっ……うそ……)

 

 

(……なに、いってるの……?)

 

 

(健ちゃん……?なんで……?)

 

 

(やめてよ……そんな深いキスしないでよ……)

 

 

(なんで……どうして……?)

 

 

(そんな女に……いや……)

 

 

(やめて……)

 

 

(やめて…)

 

 

(いやだ……)

 

 

(いやだ…)

 

 

 いやだ

 

 

 いやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだいやだ-----

 

 

 

 

 「ゔっ……ぉぇぇ……」

 

 

 

 ………健ちゃん………

 

 

 ……健ちゃんは……私のもの……

 

 

 ……健ちゃんには……私が必要……

 

 

 ……あんなオンナ……いらない……

 

 

 ……健ちゃんは……脅されてるんだよね……?

 

 

 ……仕方なく付き合ってるんだよね……?

 

 

 ……ふふふっ……

 

 

 ……大丈夫……

 

 

 ……健ちゃんは、私が守る……

 

 

 

 ……私の健ちゃんを奪おうとするなら………

 

 

 

 ……消しちゃおう--

 

 

 

 翌日--

 

 「ん……」

 

 目を覚ますと、いつもと変わらない部屋。ただ違うのは俺が裸でいることと、隣で彼女になった山田莉奈が同じく裸で寝ていることだ。

 

 「んぅ……」

 

 どうやら彼女も、目が覚めたらしい。俺はおはようと声をかける。

 

 「ん〜……おはよう、健一」

 

 彼女はにっこりとした顔で言う。かわいい。

 

 「えへへ、健くん〜」

 

 そして俺の腕にぎゅっと抱きついてくる。

 

 「結構甘えんぼうなんだな」

 

 「そうよ?いや……かな?」

 

 「いいや、かわいいもんだよ」

 

 と、言って彼女の頭を撫でる。莉奈の表情はとても嬉しそうだった。

 

 その後俺達はシャワーを浴び、朝食を済ませて、街へと出掛けた。

 

 午前中は映画館でファンタジーものの作品を観賞し、午後はショッピングモールで買い物をした。

 

 そして夜……。

 

 「あ〜……今日は楽しかったぁ〜♪」

 

 「そうだな」

 

 今日の初デートはとても楽しいものだった。やっぱり彼女がいるって結構幸せだなぁとしみじみと思った俺であった。

 

 今はデート帰りに彼女の家まで一緒に歩いている。

 

 「あ、ここだよ。私の家」

 

 着いたのは一軒のアパートだった。俺が住んでいるアパートより大きかった。

 

 「じゃあね、健くん。今日は楽しかったよ。また明日会おうね♪」

 

 「おう、またな」

 

 彼女が軽く俺の唇にキスをした後、上機嫌な足取りで階段を上って行った。

 

 明日は遊園地デートだし、今日はさっさと寝ようと思い、俺は早めに家に帰った。

 

 

 ------

 

 p.m.21:30

 

 「……あ……」

 

 俺が住んでいるアパートに着いて、自分の家の皆まで階段を上る。すると自分の家の前にひとりの女性が立っていた。

 

 「健ちゃん……」

 

 「先輩……」

 

 その女性は晴先輩だった。あまり顔色が良くないみたいだが……。

 

 「おかえり健ちゃん。どこに行ってたの?」

 

 「まぁ、ちょっと遊びに……」

 

 「そっか……。今日差し入れ持ってきたんだ。久しぶりに君の家にあがりたいなぁ……なんて」

 

 「いいですよ」

 

 随分と待たせたみたいだし、お茶でも出しておこうと思い、俺は先輩を家にあげた。

 

 「久しぶりだなぁ〜……健ちゃんの家……うふふっ」

 

 「嬉しそうですね?俺の家に来てもそんなに楽しめるものにないのに」

 

 「そうでもないよ。この家だと自分の家並に落ち着けるから、結構好きだな♪」

 

 変わってるなぁと思いつつ、俺は先輩の好きな紅茶をティーカップに入れる。

 

 「はい、どうぞ」

 

 「ありがと……うん、おいしい……」

 

 気の所為だろうか、今日の先輩からいつもの明るさが感じられない。目にも少し隈ができているのがわかる。

 

 「先輩……何かあったんですか?」

 

 いつもと違う先輩に違和感を感じ、俺は何があったのかを聞いてみる。

 

 「……きいて、くれるの?」

 

 「はい。俺でよければ、できる限り先輩の力になりますよ」

 

 「うん……ありがと」

 

 先輩は紅茶を啜ると、静かに語り始めた。

 

 

 「私ね、好きな人がいたんだ」

 

 

 なんと……。やっぱり先輩も気になってる人がいたんだ……。

 

 

 「年下の男の子でね、初めて会ったのは高校2年の時かな。その子は1年生で、新入部員として卓球部に入ってきたんだ」

 

 

 なに!?まさかあの部活に先輩の好きな人が!?誰だ……えーっと……あの時の新入部員の男子は俺合わせて5人……。

 

 

 「その子はね、卓球は上手くもなければ下手でもない、普通の感じだったんだ。でもね、とても親しみやすかったんだよ。その子と一緒にいるとなんでか落ち着くし、優しくて、よく色々と手伝ってくれるし……とにかく優しい子だったんだ……」

 

 

 うーん……誰のことかあまりイメージできないぞ〜……?

 

 

 「私は彼の人柄にいつの間にか惚れちゃってね……。高校を卒業した後も彼とは仲良くやっていたんだ……毎日必ずメールして、たまに遊びに行ったりして、彼と過ごす時間がとっても楽しかったんだ」

 

 

 「彼は高校卒業した後就職して、一人暮らしで頑張ってんだ。でも、彼は毎日とても疲れていたそうだったから私から頼んで、『家事を手伝わせて欲しい』ってお願いしたんだ」

 

 

 ん……?家事を手伝わせて欲しいって、それ俺も言われたぞ……?

 

 

 「疲れている彼を癒すあの時間が楽しくて、とっても幸せだった……。なんか夫婦みたいでね……えへへ」

 

 

 確か先輩は……『こんなことをするのは健ちゃんだけだよ』って言ってたのを思い出す。

 

 まさか……先輩の想い人って……。

 

 先輩は四つん這いになって、俺にジリジリと近づいてくる。

 

 

 「彼がセミロングヘアーが好きだって言ってたから私も同じ髪型にした……。彼がメガネ女子より普通の方がいいって言ってたから、私もメガネからコンタクトにした……。料理のできる女性が好きって言ってたから、頑張って料理を練習した……」

 

 

 

 先輩の目は黒く濁っていて、俺だけをじっと見ていた。

 

 

 

 「全部……全部……ぜーんぶ、あなたのためにやったんだよ?……健ちゃん?」

 

 

 先輩の顔がすぐそこまでに近づいていた。額同士がくっつきそうなくらいまでだ。

 

 先輩の左手が俺の顔に触れる。先輩の表情は笑顔だったが、それが逆に怖かった。

 

 

 「先輩……俺は……」

 

 

 「知ってるよ?もう付き合ってるんでしょ?他の女と」

 

 

 「えっ?」

 

 

 なんで知ってるんだ?俺はその事をまだ先輩に言ってないはず……。

 

 

 「莉奈……だっけ?あの女。幸せそうだったなぁあいつ……健ちゃんに抱かれて、メス顔になってて……とても気持ち悪かった」

 

 

 「どう……して……」

 

 

 「私は健ちゃんのことなら何でもわかるよ?今までずーっと、ずーっと、ずーーーっと見てきたんだから……。健ちゃんのことをずっと考えてて、ずっと健ちゃんのことだけを見てた」

 

 

 嘘だろ……!?どうやって、そんな……!?

 

 あまりにも衝撃的で、頭が働かない。

 

 

 「辛かったよね?苦しかったよね?でも、もう大丈夫……」

 

 

 瞬間、首筋に痛みを感じた。

 

 先輩の左手にはスタンガンが握られていて、完全に対応が遅れた。

 

 

 

 「これからは、私が守ってあげる……」

 

 

 

 「ずっと、一緒にいようね」

 

 

 

 「愛してるよ、健ちゃん」

 

 

 

 そして、俺は意識を手放した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 p.m.22:15

 

 「♪~♪」

 

 明日は愛しの彼と遊園地デート。すっかりルンルン気分な莉奈は、明日のデートに着ていく服を選んでいた。

 

(どれにしょっかなぁ〜……これ?いや、こっちもいいかも……悩むなぁ〜……)

 

(明日も健くんとデートかぁ……えへへっ。楽しみすぎて眠れないかも……!)

 

 すると、ピンポーンとインターホンが鳴る。莉奈はこんな時間から誰なんだろうと不思議に思いながら玄関を開ける。するとそこにはひとりの女性が立っていた。

 

 「こんばんは。すみませんこんな夜遅くに……。今日引っ越してきた西口 晴です。これからよろしくお願いします」

 

 「あっ、そうなんですね。私は山田 莉奈です。こちらこそよろしくお願いしますね」

 

 多分、午後に挨拶に来たけどその時は出かけていたから、この時間帯に出直してきたんだろうと莉奈は思った。そして彼女から差し入れだとカステラを貰った。

 

 「ついでにこんな時間ですが、1杯飲みませんか?」

 

 晴は莉奈を酒に誘う。

 

 「あー……すみません。私未成年なんです。だからお酒はちょっと……」

 

 「あっ、そうでしたか。すみません……」

 

 「い、いえ。じゃあ、おやすみなさい」

 

 「ええ、おやすみなさい」

 

 すると、晴のポケットから熊のぬいぐるみのストラップが落ちた。

 

 「あ、落ちましたよ」

 

 莉奈は彼女が気づいていないと思い、落ちたストラップを拾おうと屈むと……

 

 

 晴は、莉奈の身体を蹴り飛ばした。

 

 

 「きゃっ!」

 

 後ろに倒れ込む莉奈。晴が家に入り込んで、玄関の鍵をかける。

 

 「ちょっと、いきなりなにを---

 

 

 そして春は、莉奈の左胸にナイフを突き刺した。

 

 

 「……えっ……」

 

 

 ナイフは莉奈の心臓を見事に貫いていた。血がどんどん流れ、意識が朦朧とする。

 

 

 「そん……な……なん……で……」

 

 

 晴はゴミを見るような目で、莉奈を見ていた。

 

 

 「……さようなら、泥棒猫さん……」

 

 

 そう言い残して、晴は去って行った。

 

 

 「健……く……ん……-----」

 

 

 莉奈は最後に、愛しい彼の名前を呼んで、絶命した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 「さて、帰って健ちゃんのお世話をしないとね……待っててね、健ちゃん。あなたの妻が今帰ります♪」

 

 

 

 翌日、山田莉奈が殺害されたことを知った健一は、一日中泣いていた。

 

 そして健一の中で、何かが壊れてしまった。

 

 現在、健一と晴の居場所を知る者は誰もいない。

 

 

 

 

 

 

 




1ヶ月に1回は投稿できるように、頑張ります┏○┓


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