“プロモーター序列第一位”里見蓮太郎の物語 (飽きっぽいニート志望)
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神すらも墜とした男と、それを堕とした少女。 墜ちた英雄

シリアスっぽいブラックコメディってのを書いてみたくなったので。
でもどんなノリにするべきが現在模索中なのでしばらくは色々安定しない可能性大。


なんか、ある日気付いたらマズいことになっていた。
俺が顔を隠してやっている悪事が正義の行動だかなんだか知らんが褒め称えられる形で新聞に乗ってしまったのだ。
これまでは誰も気にしないから堂々とやれたが、これでしばらくは手口を変える必要があるだろう……
というか、そもそもあまりに寂しくて悲しいからってイニシエーターでもなんでもなくて、親に捨てられたりなんだかんだで身寄りのなかったりそうでもなかったりする『呪われた子供たち』を回収しては精神がグズグズになるまで依存させて、人間として終わってると言ってもいいほど依存し合って生活しているのがそもそも間違ってるんだろうけどさ。
まぁ仕方ない。

かつては『英雄』『星墜とし』『雷神』とかなんだかんだ言われてた俺も気付けば17で、好きだった人もどこかへ消えて、家族以上に大切だった相棒も死んだ。
そして今じゃ預金生活状態、ねぇ。笑えねぇ冗談だぞコレ。
預金の桁が11桁くらいあるから使いきることは無いと思うが、英雄も墜ちたもんだと思う。
かつて相棒と共にゾディアックガストレアすら沈めた最強級のプロモーター、なんだけどねぇ。
今だってIISOさんの方から新たなイニシエーターとコンビを組み直さないかとお誘いが来るんだがどうにも気が乗らんし、そもそもガストレアをぶっ殺すことにすら情熱を抱けんようになってきた。

相棒を失ってすぐの頃、俺は荒れに荒れて……人間の暮らせるエリアを出て、ひたすらガストレアを殺して回っていたことがあった。
その時は半年ほど、1週間の内5日を外で暮らし、2日だけ休養と補給をして……という循環だったのは懐かしい思い出だ。
今となればあの頃は今よりかはまだマシだった気もするしな。
少なくとも被害者はあの頃の方が少ない。
でも良く考えれば色々な意味でまだ最近の方が心は安定しているし、なにより怒らなくなった。
他人に対して怒るという行動に虚無感を覚えるようになったとも言うが、怒らなくなった。
だってほら、今俺は……
「なぁティナ。流石に俺もこれまでに拾っていた人数が二桁を越えた辺りで流石に多いことは反省するけどさ……銃を向けるのだけはやめてくれるとありがたいのだけど」

銃を向けられちゃ居るけど、何も感じない。
恐怖を覚えないとかそういう話ではなく、恐怖も怒りも驚きも焦りも何もない。
ただこのまま撃たれたんじゃ死ぬんだろうなー。とかくらいしか思い浮かばない。
これが俺を蝕んでいる現状だ。
なんか恨みを抱えたは良いけど殺しすぎて自分が何やってんのか分からなくなって……で、気付けば色々虚無感が湧いてきて、でも寂しいから適当に浚っては精神を腐らせて依存させて、人間として終わったもの同士つまらない人生を過ごして時間を浪費している。
かつての俺からすれば考えられないに違いない。
あの時の荒れていた頃の俺も、かつて相棒や好きな人も生きていた頃の俺もきっとこう言うだろう『お前は里見蓮太郎じゃない』と。
里見蓮太郎は英雄だから皆を救ってしまえるし、実際に救う。
そして悪も正義も関係なく、守るんだ。
しかし今の俺はただ英雄として称えられていた時より異常に強くなった力で好きな奴だけを救うし、他は死のうが気にしない。
そして悪も正義も何もかも関係なく、気に入ったかどうかで守るかどうかを決定する。
まるで正反対だよ。別人のようだ。
「おにーさん。私は言いましたよね。おにーさんには私が居れば十分だって」
それにほら、今俺はこの子……ティナが何を言うのか、その言葉が何を意味するのか。そして彼女が何をやったのかを理解して尚、何も感じないんだ。
「ですから、私以外の『呪われた子供たち』は要りませんよね?なので皆殺してきました」

数にして総勢十人ほどの連続殺人。その言葉に多少背筋が冷えたりはするが、まぁ別になんとも思えない。
どうせこの子が殺してしまったのは俺が悪いんだろうし、何より他の子たちの存在を認めさせられなかった俺の落ち度だ。何故かそう冷静に考えている俺すら存在している。

そもそも、ティナは出自が特殊過ぎて馴染めなかったのかもしれないがな。
一人だけ体を改造されていて、BMIによるサポートも受ければ超人的な狙撃を行えるという能力の高さ。
そして四六時中俺から離れないくらいに依存しきっている精神。
確かにあまり多くの人間とは馴染めないだろうし、そもそも俺を独占したいティナからすれば周りの子たちは邪魔でしかなかっただろう。
……うわぁ、やはり当分他の子を拾ってくるのは自重した方が良いなこれは。
まぁ、一応ティナには注意しておかないと。殺人はよくない。
盗みも暴力も違法なこともなんでも許容出来てしまうほどにイカれきった俺ではあるが、殺人だけはダメだと思っている。
だからそれは伝えておこう。。
「なぁティナ?殺人は本当にダメと言っただろう?巷に溢れるクソヤロウどもに全員流して目も当てられない状態にする程度ならともかく、自分で殺しちゃうなんてよくない。人が人を殺すのは禁忌……とまでは言わないけどさ。してはならないことなんだよ」

「でも、そうしないとおにーさんは私のものにならないです」

「それなら、当分の間はティナとずっと一緒にいるよ。それでいいかい?」

俺は感情もなにも伴わないまま、若干義務的にティナの殺人を咎めた。
別に他人が殺人をするのはどうでも良いんだがね、身内と俺自身はダメだって自分で決めてるんだ。

理由か?まぁ簡単なことだ、相棒の遺言だよ。
相棒が死ぬ間際に、人を殺すことだけはするなって言ったんだよ。
だから俺は、人殺しだけは決してやらない。
どんなに怒ってても死ぬ直前のギリギリで生かす。それだけは俺の譲れないポリシーだ。
それがあるから、俺は身内が人間を殺すことが大嫌いだ。
いや、流石に目の前で知らんやつが同じく知らんやつを殺してるくらいじゃ反応はしないが……な?
今は誰よりも俺の近くにいて、その上誰よりも俺に依存してくれているティナが人を殺すのは少々個人的ポリシーに反する。
だから俺はティナが人を殺さないようにする必要がある。
つまりは要求の通り当分ベタベタにくっついて過ごさないといけないってことさ。
まぁ、苦痛じゃないんだが、そこまでいい気分ではないよ。ずっと一緒と言うのは多少なれどクるものがある。
「……じゃあ、絶対に離れないでくださいね?離れたら何をしてでも捕まえますから」

「了解……っていきなりだなこりゃ」

ティナは絶対に離れるなと事実上脅迫みたいなものを言うと、一秒と空けずに流れるような動作で俺の背中にしがみついた。
これは本当に離れそうにないだろう。
前にも同じことがあったのだが、その時は丸1日の間は俺が少しでも剥がそうとするとパニックを起こすような有り様だった。
どんな外道なことでも出来る自信がある俺とはいえ、身内の、それも女で、さらに子供が泣いてるとあっちゃ放っておけないんだわ。悲しいことに男の性ってやつでさ。
……なんだって?ロリコン?いやいや、そういうのとはまた違うさ。ただちょっと身内に甘いだけと言ってくれた方が助かるよ。
「おにーさん……」

それに、俺がもしロリコンなら……
ティナの所業は到底受け入れられなかったと思う。
なんたって、幼女ばかり10人近くを殺したんだから。
つまり俺はロリコンではない!ハイ論破!

……って、何してんだか。



補則……原作との相違点
・蟹座のゾディアックが欠番でなく討伐されている。
・延珠、木更死亡。
・蓮太郎大幅強化。
・ティナちゃんが最初から仲間。
ちなみに強化の内容は数話以内に明かす予定。


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元英雄の朝

俺の朝は不定期だ。
時々5時くらいに起きることもあるし、10時にようやく起きることもある。
しかしいつだって変わらないのは、どんな場合でも俺は一人では寝られないらしい、ということだ。
頑張って一人寝をしようとしても無意識に体が誰かの体温を求めるので、結局眠れない。
まぁ確かに、相棒を失う前は毎日一緒に寝てたからな。多分その頃が忘れられないんだろう。
しかもこの一人寝が出来ない症状が酷い時、妙なまでに自滅願望が湧いてくるもんだから大変だ。
ある時は聖居……この国でも最高峰のセキュリティを誇る施設……に人間爆弾テロを仕掛けそうになったし、またある時はうっかり何千匹かくらいのガストレアを消し飛ばしてしまったこともある。

それだけ俺は一人寝が出来ない訳だが……最近はそれが変に進化して、ティナを抱き締めていないと眠れない。
幸いにして特に出掛ける事もない隠居に近い生活をしているからティナと離れるなんてことは滅多にないんだが、それでもかなりキツいものがある。
いくら堕落したことを自覚していても、17にもなって幼女と一緒じゃなきゃ眠れないとかどんだけだよ、俺を英雄と信奉する奴等もドン引きだよ。

……で、どうしてそんな話をしているのかと言えば今が朝だからだ。
昨日も夜遅くまで意味もなく時間を無駄にしていたからかちょいと瞼が重いが、8時に起きるなんて最近じゃ珍しくなってしまったことだし、ここから二度寝する理由もあるまい。
だが起きようにもティナはまだ寝ているし、昨日当分はずっと一緒に居るって言った手前、こっちから離れるわけにもいかない。
かといって揺すり起こすのも……
「ん……おにーさん……」

というか起きていると時々怖いが寝ていればただただ可愛いティナを起こす理由がまったく見当たらないな。
どうせ二度寝したって損はしないから、この際二度寝してしまっても……
「……あ、おはようございます、おにーさん」

……起きちゃったか、残念。
二度寝はまたの機会にするとしよう。
どうせ二度寝したところで時間を浪費するだけだしな。
それよりも飯でも食った方がまだ生産的だ。
「約束、守ってくれてるんですね」

「そりゃまぁな。特に理由もなく嘘はつかんよ。多分」

ティナと何気ない会話を交わしながら、適当に置いておいたジャージに着替える。
この生活を始めた頃からの愛用の品であり、夏適度に涼しく冬そこそこ暖かい、万能衣服。それがジャージなのだ。
それにどうせ滅多に出掛けたりはしないのだから見た目に気を遣う必要はないと考えるようになってから、いつもいつもこの服ばかり何枚も買っている。
自分でもちょっとダメじゃないかと考えることはあるのだが、それでも実用を考えるとこれ1択となってしまうのだ。
服を選ぶのは面倒、そしてわざわざ買うときに悩むのも面倒、人前に出ないのに服にこだわる必要はない。だからこそ俺はジャージを着る。
ちなみに着替えている最中、同じ部屋に異性が(子供だが)いることを気にしたことはない。
別に見られたって減るもんじゃないよな。とか思うようになったのはちょっとだけ悪い傾向かもしれない。まぁ、良く考えりゃ二人揃って適当に着替え始めている辺り、もしかしたら見られたところで気にならない程度には親密な関係ってだけかもしれないがな。
そこについては正直なところ俺自身すら良く分かっとらん。
ただ、1つ確かなことは、お互いに色々と人として大事なところが欠落してるってことだな。
俺にせよティナにせよ、同じ部屋で着替えてたら、普通であればどっちかが恥ずかしがってもおかしくはないはずなんだ。
……いや、そもそもの前提としておかしい奴がそれを言ったところで信憑性はないよな。悪かった。



我が家の食事は、はっきり言ってショボい。
適当なトースト、適当に三分で作った料理、適当な付け合わせの三品で大抵は事足りるし、かつてのようにガストレアを乱獲したりしないのなら腹一杯に食って空腹で動けないようにならないよう対策をする必要はないからだ。
それに、俺もティナもどちらかと言えば生活リズムは夜型なので、朝はどうにもそこまての量を食べられない。
それゆえに、その生活リズムに適応するように食事はショボいのである。

別に、そこには不満なんてないんだけどな。
それに、毎朝何か凝ったもん作ってたりしたら時間がいくらあっても足りん。
一応昔はそこそこのモノを作っては居たが、今やそれよりグレードは下がっている。
いやむしろあの頃の節約に節約を重ね続けて極端に金の掛からない料理ばかり作っていた頃と比べればグレードは上なのか?
まぁいい、そんなことはどうでもいいのだ。
ひとまず卵をかき混ぜてフライパンで焼いてグチャグチャにするだけで出来上がるスクランブルエッグを小さめの容器に盛って、意味もなく黒コショウでも振って、食卓に並べる。
ちなみに我が家の食卓に大皿のモノを抜いて同時に五品以上並ぶことはない、というのがジンクスだ。
品数を増やそうと思ってもその辺りで疲れてきて、結局作れない。
料理は割と得意な筈なんだがなぁ……
「おにーさんが作ったと思うと、三分と掛からない程度の料理でもとても美味しく思えてきますね」

「そうかい」

あぁそうだ、思い出した。
相棒を亡くして以降、ガストレアに怒りを集中放火させてた時にほぼマトモな飯を作らなかったツケが回ってきてるんだな。納得納得……アホか。

それはあくまで質の問題で、品数はそこに関係無いだろう?
まったく、バカだよ俺は。
こういう時は、飯でも食って忘れるのが一番だ。
俺はケチャップを塗ってピザチーズを乗っけて焼いただけのトーストを頬張る。
我が家のトースターはこれでも去年最新式だったものなので、トーストを焼くのに最適な焼き加減を自動で見極めてくれる機能なんてものが付いているのだ。
便利だよ。本当に。
前使ってたトースターなんて、タイマー機能はぶっ壊れてるわトーストを焼くにも一度余熱を入れるために空のまま焼く必要があるわで……
「……?おにーさん、どうかしましたか?」

「いや、なんだよ急に」

「いえ、食事中に急に泣き出したので」

うげ、俺そんな酷い絵面?
いや確かに昔のことを思い出したりもしたけどさ、いくらなんでもトースターのことくらいで……

流石に泣いてないよな、的な確認のため頬に触れると、指に冷たい感触があった。
本当に俺は涙を流しているみたいだ。
びっくり仰天ってやつだな。1年経ってまだ引き摺って……は、良く考えると英雄なんて呼ばれながら隠居生活に甘んじている時点で引き摺ってない訳がないよな。
あーあ、今度はなんだか笑えてくら。
いっそこのなんとも言えない虚無感を八つ当たり気味にガストレア共にぶつけに行っても良いかもしれんな。
少なくともストレス解消も兼ねるから効果はあるだろう。
なに、ステージIVが100体揃い踏みでもしなきゃ俺は傷ひとつ付かないから……
「……おにーさん、今は食事だから仕方なく離れていますが、約束は忘れないでくださいね?」

……あぁ、そうだったか。
ちょっと変に流されて記憶からブッ飛んでたが、今日……と明日明後日くらい?はティナと一緒に居る約束だった。
一応は人類最強だと言うのに、情けない。
まぁ人類最強がなんだ、そもそも強さは感情を抑えたりするのに関係無いだろうって話にもなるだろうが……まぁ気分って奴だよ。
俺の今の精神的支柱は多分、殺人だけはしないという自分ルールと人類最強の自負、あとティナの3つだからな。俺が人類最強であることは大きいのだ。主に俺の精神的に。

「まったく……おにーさんは、私がちゃんと見ていないと危なっかしいですね?いっそのこと死ぬまで私が面倒を見ましょうか?」

「そりゃ遠慮しとくよ。流石にそこまでは面倒を掛けられない」

俺はティナがサラッと投げてくる地味に怖い言葉に冗談の成分が一片も含まれていないのを察し、多少背筋を冷やしつつも平常通りを装って答えた。
……まぁ、俺としても色々決着を付けた後ならお願いしたい物だけどな。
決着を、付けた後なら。
待っていやがれ……カニ野郎……



【最高機密文書】
【閲覧には権限レベル12が必要です】
【……認証完了】
【情報を開示します】

【ゾディアックガストレア・キャンサー】
【里見蓮太郎、藍原延珠ペア及び、天童木更の三名による討伐を確認済み。なおその際、里見蓮太郎以外の二人は死亡】
【キャンサーは、現状確認されているゾディアックガストレアの中で最も異端の種である】
【サイズはステージIとさほど変わらず、しかし左右に4つずつ存在する鋏の威力及びその破壊力は他のゾディアックガストレアをも凌ぐ】
【その上、甲殻の防御力はほとんどの攻撃を弾くため、通常兵器はおろかバラニウム製の400ミリ徹甲弾すら無効化し、強力無比なる物と思われていた】
【しかし、討伐後の研究によりその甲殻は金属に近い性質を持っていること、更に中への衝撃を完全に吸収するだけの能力を持つことが判明した】
【なお、甲殻とは裏腹に臓器はデリケートであり、なんらかのダメージを与えれば確実に破壊出来ることも証明されている】
【しかし、弱点と見ることが出来る臓器への攻撃は衝撃を吸収する甲殻によって守られているため、攻撃は不可能】
【そして甲殻が金属に近い性質を持つことから電気が通じるかと思われたが、少なくとも300億Vが必要なため、不可能とされている】


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英雄のネームバリュー

ティナちゃんは天使だけど、個人的にティナちゃんはお説教したあと、なんやかんやで甘やかしちゃうタイプな気がしてるんだ。
ちなみに浮気は(相手を)許さない系で。



隠居みたいなこの生活を始めてからつくづく思うんだが……英雄ってもんのネームバリューがマイナスに働くのは、基本的に表に出せる動きをするときだ。
買い物すれば人だかり、散歩をしても人だかり。
マトモに顔を出して歩けない。実はこれがいくつかある隠居の理由の1つだと言ってもきっと信じる人はいるだろう。
まぁ当然ながら隠居の理由は違うが。
で、表に出せないことをするなら英雄のネームバリューは最高の道具になる。
いくら顔が割れていようと、人類がどうやっても勝てないようなバケモノをぶっ殺した奴相手に戦おうなんてやつは居ないから、何をやろうとも誰一人止められない。
そして、脅迫の時に殺害をチラつかせるなら信憑性になるし、戦いの時相手の緊張を極限まで上げる要因になる。
しかし、英雄のネームバリューってものはやはり不便な面の方が大きい。
だから外出時には必ず変装するのだが……それでもある程度見られるとバレるし、今日なんてティナがずっと抱き付いてたりするから注目を集めてしまう。
俺は目立ちたくなんてないのに、俺の意思に関係無く目立ってしまう。
いっそ泣きたいくらいだ。このせいで何度外出時の行動を妨害されたか。

……と、いうわけで今日は1日家に引き込もっていようと思うんだ。
なに、俺もティナもその気になれば一週間くらい余裕で引き込もって(その間に連続では最高三回、合計七回ほど飯を食い忘れて終盤死にそうになるが)いられるからな。
別に好き好んで引きこもる訳じゃないけどさ。まぁいわゆる、ただなんとなく引きこもりたいから引きこもる的な矛盾を感じるよ。
「なぁティナ、今日は一日家に居ようと思うんだ」

「そうですか」

とりあえず手短に今日の予定を伝える。
ただ引きこもることを予定と言うのか、それともただの宣言というのかは定かでない所だ。
引き込もってるのはあまり体に良くなさそうだがな……いくらなんでもそれだけのために出掛けてもみくちゃにされるのだけはゴメンだ。
いやでもな?もみくちゃにされたところで実は周囲に不快指数を上げまくる類いの電波を出して差し上げれば別に問題はないのよ?
だがそこであえて引きこもるのは、不快電波を放つとティナを巻き込んでしまうからであって……要約すると、俺は悪くない。
強いて言うならティナが苦しんでしまうのを一切容認出来ない俺の気質が悪い。
あれ?これじゃ俺が悪いのと変わらなくないか?

……無視しよう。この世にはあえて無視した方が良いことだってたくさんあるはずだ。
例えば今ティナがソファに座った俺の腹に顔を埋めようとしていることとか、なんというか女の子っぽい香りがしてることとか、ね。
ただ個人的に言わせてもらうなら、俺ってそこそこに体を鍛えてるから、腹に顔埋めたら固くて顔痛めんじゃないか?という心配があるぞ。
「おにーさんの匂い、イイです……」

……そうだった、忘れていたな。この世で意図的に無視した方が良いことを1つ言ってなかった。
ティナの変態っぽい発言は全部聞かなかったことにした方が良い。
腹に顔を埋めてるのは匂いを嗅ぐためだという事実からは目を背け、ただただ甘えに来ていると思っていた方が精神衛生上良いんだよな。
俺はティナがいくら変態的でも構わんが、全部の行動を見ていたらとても精神が耐えられなさそうだ。
だからあえて、変態的なことをされている現実からは目を背けて逃避する。
「撫でてください……」

そうだ、変態的な発言は無視して、こういう可愛らしい発言だけをある程度記憶に残しておいた方が精神汚染が遅い……
ところでティナさんや?
君、頭を撫でようとした俺の手を何処に向けさせているんだね?
「撫でるのは、頭じゃなくてコッチでも……」

……ゴメン言わなくていいよ。
撫でてとか言われて頭かと思ったら位置を下にズラされるなんてねー。なんてこったー。ただ可愛いから許しちゃうぜー(もはや投げやり)
ただ、それでも幼女に手を出すような絵面はどうにも色んな意味でアウトになりそうなので、自重して撫でるのは頭にしておこう。
期待してたっぽいティナは少し不満気にしているが……まぁそこはあまり気にしない。
怒った顔も中々に可愛いし、それでも撫でられて気持ち良さそうにしているのは、中々にそそられる物があるな。
いや、俺がロリコンって訳じゃないぞ。だってティナは誰がどう見ても贔屓一切なしで可愛い。
美しい金髪も、碧色の眼も、ぷにぷにとした肌も、一切合財全部まとめて可愛い。そういうことなのだ。

……え?それがロリコンってことだ?
何言ってんだか。ロリコンってのは俺がつい数日前に殴ってタイーホさせたとあるおっさんのような奴を言うんだよ。
確かその日は、やたら特徴的な悲鳴があったんだよな。確かどんなんだっけ……
「ガンダァァァァム!」

あ、そうそうこんな感じ。なんか中身は違うが、とにかくこんな感じの……
って、ちょっと待てまさか来ちゃった!?
復活のFならぬ復活のロリコン!?
全然嬉しくない!むしろめんどくせぇ!
だけど俺のポリシーというかプライドが助けにいけと言っている!
正確には、なんか面白そうだから首を突っ込めってな!
窓を開け、自分の肉体を電気で強化しつつも飛び出す。
行き先は前回と同じく……隣の家。
「うぇ……?おにーさーん……」

あらやだ困惑したティナ可愛い……じゃない。
とにかく良く分からんが謎過ぎる正義感の元(理由など定まっていない)、罪を憎んで鉄拳制裁の精神に基づいて殴りにいくぞー!

ドカン。

しかし意気込んで空中へ飛び出した俺が見たのは、どういう訳かやたらデカい蝶もどきみたいなガストレアに襲われている幼女で……
つーか、なんでこんなに襲われる確率高いのよ君。なんか誘引フェロモンでも出してる?
まぁ、それはともかくとしてさっさとガストレアはお掃除しちゃいましょうかね。
全身を強化するために使っていた電力を、別の形で放出する。一応どっちも使うことは出来るけど、こっちの方が精度もコスパも良いんでね。
とにかくコストはある程度抑えておくとして、ここで手軽にやらせてもらいますかね。
「……磁力操作による理不尽な砂鉄アターック」

あまりにショボい技名だが気にするな。
やってることはそれなりにエグいんだからな。
蝶はその羽についた隣粉の模様で空気を捉えて上昇気流を起こし、飛ぶ。だからそこに砂鉄を撒き散らして模様を乱して差し上げれば飛べないというわけさ。
フハハハハ。褒めないで結構。このくらいの頭脳プレーは当然なんだぜ。

それに、蝶ならちょっと前に来てたからな。対策はすでに出来ているんだよ。
俺は飛べなくなったガストレアに追い討ちをするかの如く、ポケットから一発の銃弾を取り出し、人差し指に乗せて角度を調整する。
今はコイツがまだ動けないから良いが、動き出したら厄介だからな。
一撃で終わらせよう。
……そして銃弾を、電気と磁力をもって一気に音速以上の速度へ加速する。
速度はせいぜいが音速の5倍程度。
ソニックブームが出るには出るが、弾が小さいからそれもそこまで被害が大きくないし……この技、【超電磁砲】の厄介な副次効果に比べればまだマシだ。
うっかり地面に刺されば巨大なクレーターが出来てしまうという効果に比べれば、な。

ゆえにこの技は基本上に向かって撃つ訳だ。
今回はガストレアが虫系で触りたくなかったからちょい遠くから消し飛ばすやり方にしたが、本来であればこれは間の距離を0にしてから確実に当てる方が好ましい。
確実に当たるし、何よりガストレアを恐怖させられるってのもある。
何より、相手の体の真下から超電磁砲で撃ち抜けばカッコいいからな。
垂直にならばせいぜい200mほどしか飛ばせない超電磁砲だが、真下から真上に向かって撃てば天に向かって弾丸が登っていくことになる。
なんとも幻想的じゃないか。
だから俺は真下からガストレアを撃ち抜くのだ……

ドン。

超電磁砲が放たれ、射線上にあったフェンス(ギリギリ当たってしまった)など様々な物を貫いて直進していく。
その過程ではガストレアの体が射抜かれ、生き絶えているが……しかし超電磁砲は止まらず、そこそこ遠い地点で消滅した。
大気があるせいで、超電磁砲は空気摩擦などで弾丸が熱されて弾丸自体がその温度に耐えられなくなり燃え尽きてしまうのだ……
その点においては、バラニウムの融点が鉄よりは高いことだけが救いだな。
鉄並みだったら100mも飛ばんだろうし。
「……」

あー、ヤバい。
ついうっかりすぐそばに幼女が居たのを忘れてた。
どーしよーどーしよー。ガストレアに襲われちゃうなんてトラウマものの体験のあと、追撃のように超常現象なんて見ちゃったら心の傷になるよなー。
あーそうだー。俺が連れ帰って心のケアでもしよーかなー(棒読み)
俺は、内心この子をお持ち帰り、もとい保護する口実が出来たことに嬉しさを滲ませつつも、自然に手を取って声をかけようとする。
しかし、その少女はこちらを見た瞬間、何かを恐れるように逃げていってしまう。
えっちょ何よ?なんかあったの?
そんな疑問を抱えるも、まぁ俺が見れば分かるよな……とか思って後ろを確認する。
「おにーさん?」

……するとそこには、光を映さない眼で俺を見るティナの姿があった。
やばいな、これは反論の余地がないぞ。DOGEZAをかました所で無意味だろうし……どうすれば良いんだ!



次回はちょっとだけお説教タイム。
ただこの小説はティナちゃん可愛いが基本コンセプトのため、長くはならない予定です。



おまけ・蓮太郎くんの能力解説
【超電磁砲】
レールガン。とある的なそれよりちょっとだけ強いが、本物の兵器としてのレールガンよりかは弱く、音速の五倍程度。
しかし威力はステージIVであってもアルデバランみたいな回復力がなきゃ確実に死ぬ程なので、とりあえず頭おかしい。
欠点は地面に向かって撃てないし、水平にも撃てないこと。

なお蓮太郎くんの基本技であり、大抵のガストレアはこれにより一撃で葬られるのである。


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なんだかんだで

字数が少ないなーとか思いつつも、とりあえず投稿。
恐らくこれが今年最後になるかと思われます。
次回更新?
ハッ……1月になっちまうかもね……(ニヒルっぽく)


「うぇぁぁ……」

声になっていそうで意外と声になっていない声をあげながら、ティナに膝枕された状態で寝転がる。
さっきまで叱られていた筈なのに、なんでこうなってしまったのか本当に不思議で堪らない。
あれか、叱っていてもなんだかんだで許して甘やかしちゃう系のダメ女って奴か。
何それ可愛い一生添い遂げたい。とか思ったけど許されるだろうか。
まぁ許さないなら許さないで俺はそう言った奴をみんな消し飛ばして反対意見をなくすけども。
なんたってティナは誰よりも俺に尽くしてくれるし、誰よりも甘やかしてくれるし、誰よりも理解してくれている。
もう結婚しない理由が見当たらないくらいに完璧だ。

……って待て、俺は一体何を言っていたんだ?
なんか微妙に洗脳されていた感があるぞ……
こういう時はあれだ、一旦脳ミソを整理するんだ。
俺の脳細胞よ、記憶の海から思い出を探して整理したまえ……



「おにーさん、今日は私から離れないって言いましたよね?ね?」

「はい……」

「私、おにーさんに嘘を吐かれるなんて悲しいです」

「面目ないです……」

ティナによる説教中、なぜだか俺は自然に敬語を使っていた。
あれだ、逆らえないオーラ的なものがティナから発されているんだ。
普段ならなんてことないのに、今回は俺が悪いこともあってなんとも逆らえない。
というかこんな時は淡々と怒る相手が一番怖いんだよな。
ティナはいつだってこの口調だが、それがなおさらに恐怖を掻き立てる。
怒り心頭のはずなのに、それを制御して俺を淡々と叱り続けるティナが怖くて仕方ないよ俺は。
「おにーさんは、私のことそんなに軽く思ってるんですか?心外ですよ」

「すいません……」

「言葉だけじゃダメです。行動で示してください。具体的には……3日間絶対に離れないとか」

ってあれ?意外とお説教短かったな。まだ30分も経ってない。いつもなら一時間経ってしまってもおかしくないと言うのに……珍しいな。
それはそれで逆に怖いけどさ。

俺が予想以上に早くお説教が終わって何か怪しいと思っていると、ティナがこっちに寄って来て、隣に座って……おっと。
ティナが体を引っ張って寝転ばせて来た。
すると頭の方に柔らかい感触が伝わってくる……膝枕だな。
ティナの顔を見上げるとなんだか恍惚としているみたいだし、これがやりたかったりしたのかね?
まぁ、俺としても満更じゃないしこれでお説教が短めに終わってくれたのなら言うことなしなんだがね。
しかしそう油断していると、急にティナがこんなことを言ってきた。
「おにーさんは、3日間は絶対に私から離れちゃダメですからね?」

どうやら今度は本気の本気の本気で離れさせてくれないみたいだ。
こりゃ生死を分けた戦いの時でも絶対に離れてくれなさそうだな。
「分かった」

まぁもちろん、答えはイエスの即答だ。
ティナから離れないなんてことは罰にしても軽すぎる、いやむしろご褒美にされても悪くはないものだからな。断る理由なんて1つもないんだなこれが。
あるとしても、それは俺が端から見ればどう考えても完全かつパーフェクツに性犯罪者ということだけだ。
ならば問題は無いだろう。
何故なら今の俺に周りからの評価はまったく意味を為さないし、そもそも双方合意であれば性犯罪にはカウントされないはずだ。
されたとしても、国家権力程度力で抑え込めば良いから変わりはないのだが。

……つーかなんか緊張状態から一気に抜けたせいか体が重いわー。
あまりに体が重くてついうっかりティナのお腹に顔を埋めちゃうなー。でもうっかりだから仕方ないよなー。
俺はそんな事故弁護をしながらうつ伏せになり、ティナの腰に手を回して抱き締めた。
「もう、おにーさんは甘えん坊さんですねぇ」

「なんとでも言え……」

なんというか、この姿勢結構良いかなとか思えてきた。
面倒ごとから目を逸らしてただただティナだけを視界に納めるこのポーズ……名前を付けるとすれば、現実逃避のポーズとか言えるであろうこれは、かなりイイ。
正直なところ周りの些細なことなんてどうでも良くなるくらい、最高にイイ。
これこそ、ガストレアが現れる前に流行ったらしい、人類をダメにするポーズだったのかもな……
俺はそんなことを考えながら、意識の半分ほどを闇に沈めていくのであった……



……あぁ、そういえばこんな流れでこの状態になったんだったな。
結論を言うなら俺は完全にティナに洗脳的なことをされていただろうってところだが、やはりそれでもなんだかティナを憎めない辺り、俺の洗脳は深刻らしいな。
いやあるいは俺自身が自らを洗脳してしまっている、という可能性も……
そんな可能性を突き詰めていればキリがないのは分かっているが、それでもそんなことを考えてしまう。
俺はアホなのかもしれないな……
「なぁティナ」

「なんですか?」

「俺ってさ、どうしようもない馬鹿だと思うか?」

何故だか急に不安になってしまい、急にどうしたとでも言われそうな質問をした。
答えは恐らくイエスだろう。
俺だって分かってる。どうしようもないってのは嫌ってほど分かってる。

ただ、そこでティナに意見を聞くのは、多分俺の悪いクセだ。
「そうですね……おにーさんは確かにどうしようもないですよ。でもそれで私にもっともっと甘えてくれるなら、万歳です。もっとどうしようもないダメ男になっちゃってください」

……いや待て、なんか今俺よりもとんでもなくどうしようもないくらい残念な回答が来なかったか?俺の聞き間違いか?
いや、ティナが今の言葉を言ったのは現実だ。受け入れろ俺。
少なくともティナがちょっと残念で、ネジがぶっ飛んでいるのは知っているだろう。
むしろティナ検定8級のサービス問題級だぞこれは。

……しかし、ティナはやはりとんでもなく残念だと考えると、途端にティナが20倍くらい可愛く思えてきたな。
俺は心の求めるままに抱き締める力を強めた。
「おにーさん、今日は凄く積極的なんですね」

「……そりゃ、これから3日は離れないんだから、自重とかをする必要はないだろう?」

そして、ティナと軽く言葉を交わしたのち、自分意識を落とす。
自慢じゃあないが、こんなことが出来るのは相手がティナだからこそ、だと思うんだ。
普通のやつが相手なら、ここまで安心して眠ってしまうことは出来ないだろうよ……



この作品の基本姿勢は、『ティナちゃん可愛いよティナちゃん』である。
そんなわけでこんな話は結構挟まれてくるのだ……
でも、だからといって本編が進まない訳じゃない。
じっくりひっそり進むんだ。


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散歩中の喜劇

なんというか、今回は原作をマッハである程度消化してみますた。
というかね、戦闘にあまり時間をかけたくはないのよ。
グダグダした日常パートこそが本体なのよ。

そんなわけで影胤さんの扱いは必然的に悪くなりまする。


散歩ってもんは、結構いいものだと思うんだ。
自然に手を繋いで歩けるし、ボーッとしていられる。そして何より、ちょっとしたラッキーとかもあったりする。
今日みたいに。

俺は散歩の途中、不意に異音を耳にして電磁波で周囲を探っていたのだが、そこにある物が掛かった。
ガストレアだ。
しかしそいつの体の中にある“何か”をここで外に露出させてはいけない気がして、ここで超電磁砲による撃ち落としを行うことは出来なかったが、これは何か面白いことの予兆なんじゃないか、という気がした。
……それに、何やらマトモな人間のソレを逸脱した動きをしている奴が一人いるみたいだしな。
「ティナ、ちょっと掴まっててくれ」

「了解しました」

今度はうっかりティナを置き去りにしないよう、背中に背負ってから移動する。
筋肉に電気を流し、通常の人間のそれを大幅に上回る身体能力を得ると同時、別のとあるアプローチで自身を弾丸のように加速させた。
正に文字通りのロケットスタートと言える速度で加速した俺は、電磁波でキャッチしていた人間らしからぬ動きをする人間へ接近し、軽くスピードを100%乗せた肘鉄を打ち込む。
特に技名なんかは無いが、付けるとすれば【里見流戦闘術一の型全力ダッシュver一番、問答無用キラーエルボー】と言ったところだろうか。きっとこの名前は一生使わないだろうけどな。
「ボガァッ!?」

しかし、顔面に肘ブチ込んだは良いが、コイツはバラニウム製の仮面でも付けてんのか?ってくらいに硬い感触がした。
盛大に吹き飛ばしはしたが、これで倒れてはいないだろう。少なくともあれだけの身体能力に見合った防御力なら、だが。
そんな訳で盛大に追い打ってやろうじゃないか。
「並列エレキストライク!」

まずは俺の使う技の中でも多少異端と言える技で、意識を刈ろう。
並列シリーズは俺の体内で発生させた僅かな電気を細胞を通して増幅し、一定の形を与えてそこでループさせつつ、当たった対象にとんでもない電流を流し込む技だ。
余談だが、この並列シリーズともう1つのあるシリーズだけは電気に実体がある、という頭のおかしい特徴があったりするんだよな。訳わからん。
「グアッ!?」

俺は今更ながら自分の技のおかしさに疑問を抱きつつ、倒れていた男の首根っこを掴んで電流を流す。
その電圧は市販のスタンガン数個分になるし、すぐ気絶してくれるだ……チッ、気絶しろよ。
仮面か、仮面から電気が逃げているのか、ならば全体的に割って現代アートにしてやる。
俺は拳を握り直し、大きく振りかぶって叫ぶ。
「里見流(命名、ついさっき)現状最終究極奥義……それとなく凄い攻撃!」

史上最高に頭の悪い、しかし史上最高に威力の高い、悪夢のような一撃を。
この技は、わざわざ腕の筋肉に電気を流してからさらにもう1つのアプローチで強制加速しつつ、反射と同じ原理で無理矢理腕を動かして連打する、ただそれとなーく凄い感じのする攻撃なのだ。
ただ問題として、マトモに喰らうと生物の骨では耐えきれないのか相手の顔が死ぬんだけどな。
「ふんぐるいっ!?」

……いや、なんだコイツ。まだ気絶しねーぞ。俺がわざわざ二回も電撃技で気絶させようとしたのにいまだに無事だぞ。
なんだって言うんだ本当に。
あれか、こいつ実は改造人間だったりするのか(正解です)。悪の組織ジョッカーに改造された怪人なのか(違います)。
ならばあれだ。ある人間の言葉を借りてかっこよく殺してあげよう。

せめて……人として死んで逝け!

俺はそれとなく凄い攻撃を再び喰らわせる。
今度はようやく壊れて剥がれた仮面の下の顔面に向かって。
「パパをいじめるなぁっ!」

が、どうやら俺の攻撃は防がれてしまったみたいだな。
突然横から刀を挟まれたらそりゃ防がれるけど、やっぱ微妙にショック。
そんな防げるもんじゃないんだけどなぁ。少なくとも音速一歩手前(音速を超えると手を痛めるのだ)の速度だし。

俺は、攻撃を防いだ奴の方に向かっていたって普通の電撃を放つ。
ただ直進し、特徴的な動きはしない、ごく普通の電撃を。
「やあっ!」

……えー?マジでー?
電撃は、なんか都合よくゴムっぽい靴だったからか流れてくれなかったらしい。
当たったところで流れていく先がないんじゃ仕方ねーわ。原理的に言うと雀が感電しないそれに近いけど、面倒だわー。
そんなことを考えつつ、攻撃をやり過ごした……さっきコイツをパパと呼んでいたことから、不審者の娘ちゃんとする……が斬りに来たので笑顔で対応する。
具体的には磁力を操作することによる地面への縫い付け。
最悪でも武器は奪えるから、これでチェックメイトになるだろう。
俺は武器を確実に奪えることを確認すると、足に電気を流して強化、亜音速の蹴りを放った。



「ねぇおにーさん」

「皆まで言うな」

戦いを終えたあとの空間にて、俺はようやくあることに気付いた。
あれ?なんかガストレア落ちてね?ということに。
そして近付いてソイツを確認してみると、何やら体内から引き抜いた跡が……うぇ。
多分さっき物理法則を超越した速度で逃げていった親子が何かを盗んだのだろう。逞しいことだ。
まぁとりあえず、ここでこのガストレアの討伐は俺たちの功績ってことにさせてもらいますかね……と、思ったところで、付近から苦しむような声が聞こえてきたのだ。
「……おいオッサン」

それは、見知らぬおっさんであり、ガストレアにウィルスを注入され、人の姿を失いかけた被害者であった。
別にやってやる義理も無いが、民警の端くれとして聞くことだけは聞いてやろうと思う。
「ぐぁ……ヴぇゃ……?」

……おっと。なんという事だろう。
このおっさんはどうやら体より先に痛みで脳の思考能力の方をやられたらしい。

仕方ない、応急処置でも施すか。
俺はおっさんの顔に手を当て、ガストレアウィルスのみを焼き殺せる電圧を用いて侵食を止め、ついでに麻酔もどきみたいな物もかける。
これが俺から出来るせめてもの慈悲だが……
「オッサン、これは一度しか言わん。……何か、誰かに伝えたいことはあるか?」

民警として、最期の言葉くらいは伝えてやるとしよう。
「そうか……それなら、頼みごとになってしまうがね……あのビルの405号室は私の部屋なんだが、そこにある物をもらい受けてくれないか……?宝物なんだ……」

……あと、最期の最期に面識のない誰かさんが何故かくれたプレゼントくらいなら受け取ってやるとしよう。
「それじゃ……痛くないように頼………」

「了解だ。それじゃ死ね」

俺は、最期に贈られた贈り物をこっちが勝手に受け取ることを決めると、頭を掴んで電子レンジのそれに近い電磁波を脳に喰らわせ、焼き殺した。
……眠れ、オッサン。あんたの宝とやらは俺がもらってやる。



蛭子影胤
新人類創造計画、最強最悪の楯。
本人が元々圧倒的な防御力を誇っていたところに、斥力フィールドや様々な防御力アップの改造を施された結果、超電磁砲であっても数発は耐えるようになった。
しかし、原作の影胤より大きな弱点が1つだけ……



蓮太郎の技解説
並列エレキ○○系
とりあえず命名ルールが同じなのでまとめて。
蓮太郎の細胞は、実は1つ1つが電気を増幅できるスーパー細胞であり、それを通ると電気が実体を持つようになる。
つまりガストレアを斬る電撃も作れるということである。

電磁波
便利なウェーブ。
電子レンジのマイクロ波なんかは容器に入れた物を熱することも、頭蓋骨を容器に見立てて脳を文字通り沸かしてやることも出来る。
ちなみにソナーも出来る。


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そりゃこーなるわな(自嘲)

新年一発目。4000ちょいと言ういつもより僅かに多い文量で行ってみましょー!

ってな訳で、投稿ですわ。



「おにーさん……私……もうダメかもです……」

「耐えろ!あともうすぐだ!」

「私……おにーさんと居れて……よかっ……」

「高速化ァァァァッ!」

ある建物の中、俺に背負われたティナが顔を青くして、ぐったりとしていた。
まずい……今すぐあの場所に行かなければ、大惨事になってしまう!
そう判断して全身を強化して一気に階段を登っているが、このままではティナが限界を迎えるのが早いかもしれない……
クソが、なんてことだよ……なんでこうなったんだ……

……なんで、ティナが酔って吐きそうになってるんだ!?

あ、俺のせいか。そうだな俺のせいだ。
変なやつと戦闘した時にうっかり動きすぎたんだ。俺としたことが、しくじったよ。
自分で自分を責めながら一気に階段を登りきると、先程おっさんが指示していた部屋のドアを強引に破壊……ゲフンゲフン、開けて中に入る。
いや、別に破壊したわけじゃないぞ。ただちょっと、鍵の方を磁力で強引に回しただけだからさ、セーフセーフ。
つーわけで、このまま目的地へゴーだ………間に合え………!
俺は、部屋に入るなり電磁波サーチで確認したトイレまでティナを運び、即座にドアを閉めた。
………ん、中でちょい吐いてる感じの音がするな。まぁ一応間に合ったということで構わないだろう。
あーよかった。うっかり外で吐くなんてトラウマモノの重い出を作らずに済んだよ………

俺が一息つくと、中からティナが出てきた。
まだ顔色が悪いな………まぁ酔った時は結構辛いもんな。俺も昔はよく酔ったからその辛さは痛いほど理解できる。
具体的に言葉で表すなら、地獄の苦しみとしか言いようがないくらいにキツかった。
いや、その辺は個人差が激しいから一概には言えないだろうが、とにかく酔った時は本当に辛い。
その最たるものは吐いた時の胃のムカムカやら何やらだが、ひとまず物凄く辛い、とだけ覚えていてくれ。
「まだ微妙に気持ち悪いです………」
そうそう、どうでも良いことだがティナは結構酔いやすいタイプだってのは今日初めて知ったんだよな。可愛い。
俺は成長と共に酔わなくなったが、なんというかティナにはこのままであって欲しいかもしれない。
だって可愛いし………な?それ以外に理由は無いよ。
「おに―さん、何か失礼なこと考えてません?」
「考えてない。OK?」
おっと、考えることを読まれたか。流石はティナ。俺のことで理解できないことはほとんどない奴だ。
まぁ何も考えてないことにしておこう。さっきの思考はなかった。良いね?
理由は簡単。俺とティナの間に隠し事はないはずなんだからな………多分。

「そうですか。ならいいんです」
よし、ティナも信じてくれたようだし、ここからは探索の方に移っていきますかね………
何を、と思ったやつは先刻俺がガストレア化する直前に脳を焼いて殺したおっさんを思い出してもらいたい。
あの人は俺に宝物をもらい受けてくれと言ったんだ。
だからそれを回収しに来たというワケさ。別にやましい目的はないから安心しろよ。やるとしても俺よりも価値を理解できる奴に売り渡すだけだから。
別に金を稼ぐなんて目的は無く、ただただ俺よりも有効に使える奴の手元に置いてやるだけだよ。どうせ金なら文字通り腐るほどあるんだからな。
だから、俺はこの部屋にある宝物とかいう奴を手に入れる。それだけだ。
電磁波を起動し、部屋中をサーチする。
何か値打ちのありそうなものがあれば、それがきっとあのおっさんのお宝に違いないだろう。
そう勝手に決めつけながら、意識を集中して電磁波によるサーチ精度を高めようとしてみる。

………ん?なんじゃこりゃ。
部屋の中にサーチできない空間があるぞ?
まぁキッチンなら多少は納得できるんだがな………アルミホイルは電磁波を遮断するし。
だがそれが部屋中に散らばっているってのはおかしいだろう。というか普通部屋にアルミホイルなんて貼るか?
俺の知る人間の仲にも一人だけ部屋中に電磁波対策と言い張ってアルミホイルを貼ってるやつが居るにはいるが、そいつの部屋と違って個々のアルミホイルは局所的なそれだから、意味合いは違うのだろう。
「ティナ、俺でも探せないところがあるから手伝ってくれ」

俺は流石に電磁波だけでは探せないと理解したので、ティナの手を借りることにした。
俺みたいに頭のおかしい能力を持ってるわけじゃないが、普通に物探しをするならティナの方が上手いだろう。前から何か失くした時とか、大抵は見付けてくれるし。
「了解です」ガタン

ところでティナさんや、なんで今ビックリして物凄い動きで見ていたタンスを閉めたのは何だと言うのだね?ちょっと気になるんだが。
ティナが何を見ていたのか気になったので、少しタンスの中身を見てみることにした。
もちろん、電磁波で………!?
いやいや待て待て、なんだこれ。ただの本じゃないか。なんか不自然にカバーが掛かってるけどさ………
もしやこれはあれか?エロ本か?
そりゃ見てる最中に声かけられたらビックリしてタンス閉めるよな。

うん、なんというかゴメンよ、ティナ。タイミングが最悪だったな。
今度からはもうちょっと呼び掛けるタイミングも考えることとしよう。
「なんでしょう、ものすごい誤解を招いてる気がします」

……気のせいじゃないのか?
とか軽口を叩きながら、俺はアルミで電磁波を防がれ見ることの出来なかった場所の1つから、アルミホイルに包まれた箱のような物体を取り出す。
……だがなんかこれは変だ。やたらと言うかなんというか、非常に嫌な臭いがしているぞ。
なので俺はいつでもこれを処分出来るように窓の側に立ってから、アルミホイルを剥がした。
そして、すぐに後悔して外に投げた。
なんと、アルミホイルの中身は腐った弁当だったのだ。いや確かに弁当をアルミホイルで包むこともあるとはいえ、このタイミングで出会いたくはなかったなぁ。
そして腐ったものに触れてしまった気がしたので、ひとまず手を洗ってから捜索を再開した。
「あ、おにーさん、ちょっと来てください」

すると、再開して数秒と経たない内にティナが何か見付けたのか俺を呼んできた。
なんだなんだと近付いて、見付けたものを確認してみると……おぉ。
そこにあったのは、良く分からない箱だった。
しかしどことなくタイムカプセル感もするし、もしかしたらこの中に激レアビックリ○ンシールが入っていてもおかしくない。
ビックリマンシー○はガストレアに焼かれちまったせいで過去の物は絶対数が極端に減ってるからな。何かに貼られた状態であってもレアな物なら数10万とか、そういう相場になっているらしい。ちなみにソースは俺のスポンサーだった知り合いだ。

……お、入っているのはカードみたいだな。スリーブに入ってて裏も見えないが、見たところ10デッキ分はありそうだ。
そうそう、カードと言うと俺も暇潰しがてらいくつかのカードゲームをやってるんだが、前にカード屋で最初期の某青い眼のドラゴンのカードが30万円で取引されてるのを見て大笑いしたよなー。
流石にそんな骨董カードは見付からないだろうが、良いカードが入っていてほしいものだ。
俺はなんとなく上段の真ん中、良く分からんが直感で小5だと分かるキャラのスリーブのデッキを手に取り、内容を確認してみた。

えー、なになに……?【終焉の禁断 ドルマゲドンX】?
やたら金ピカだなこのカード。くらいの感想しか出なかった。
だがこれでどのカードゲームかは判明したから良いだろう。
それに何やらこのデッキはある程度値打ちのありそうなカードばかりだったから、売っても相当の値段になるに違いない。
「おにーさん、なんか箱の底に貼ってあるみたいですよ」

「ん?……あぁ、確かに貼ってあるな」

俺がこのデッキの処遇を悩んでいると、ティナが箱の底に何かが貼ってあるのを発見した。
これが実はタイムカプセルでしたー。とかだったら大笑いだな。
関係無い上にほぼ見知らぬ人物に時間ガン無視で開けられてんだから。
微妙に抑えきれていない笑いをある程度堪えながら、箱の底にあるものを回収する。

どれどれ……触った感じだとこの中にもカードが入ってる感じだな……だが1つだけサイズの違うのもあるっぽいし……これは手紙か?
他人の手紙を勝手に読むのも行儀が悪い行動ではあるが、少し中身を知ってみたくなったので読ませてもらうとしよう。
『ハッピーバースデー。13歳おめでとう。士郎。
お前の誕生日だから、今年も父さんからは昔やってたカードゲームのデッキを送らせてもらうよ。受け取ってもらえると嬉しい。
出来れば直接渡したかったんだが、仕事が忙しくて無理そうなんだ……スマン。
だけど次の誕生日こそは、父さんもお前に直接誕生日プレゼントを渡せることを祈ってるよ。
父より』

……マジか。あのおっさん子供も妻もいたのかよ。
そんなんが居たのなら、俺なんかに宝物を託さず普通に遺産として遺せば……あぁ、なるほど。
何故おっさんが俺に宝物を託した理由が分かった。
どうやらこの箱とその中身は、おっさんが自分の子供に届けようとして、不幸にもその誕生日当日に何かがあったのか、届かなくなってしまったもののようだ。
書いた日付が3年前のそれであることが証明してる。
「おにーさん……」

「分かってる」

きっとティナは、こう言いたいのだろう。
『流石にこういう物は、売らない方が……』と。
大丈夫。俺だって元々はマトモな人間なんだ。そんなクズい真似をするハズがないだろう?
「この感じだと、他の物も大体は同じ中身っぽいですね。全部売れるような物だと良いんですが……」

ありゃ?予想してた答えと違うな。
「なんですかその目は。別に見知らぬ人が見知らぬ子供のために送るはずだったカードくらい、どってことないでしょう?」

……いや確かに、言っちゃ難だけど俺も同意見だけどさ。
でも、別に金に困ってる訳じゃないし、むしろ腐るほどあるんだからこういう品を取っといても困ることはないと思うのよ。
「……まぁ、おにーさんがしたいようにしてくれれば私は構いません」

おう、ありがとなティナ。俺の意見に合わせてくれて。

……そんじゃ、ありがたく借りさせていただくとしますか!
期限は俺とティナが死ぬまででよろしく!



余談ですがね、半ニートは個人的に『頭がおかしいと言うかむしろ色々タブー的なそれに値する』って感じの伏線が大好きです。

あ、今回の話には関係ありませんよ?
これは半ニートの、ただの趣味です。



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権力なんかに屈しない(迫真)

なんか変に短くなってしまった。


人間、権力に負けて自分の意思を曲げたら色々と敗北だと思うんだよね。俺は。
だから絶対に、聖天子からの呼び出しは、応じない。
何がなんでも、応じてやらない。
正直そんなもんに応じてたらティナとの貴重な時間が減るじゃないか。誰がそんな呼び出しに応じると言うんだ。バカだろう。
それに今や我が家には一生働かず暮らせるだけの金があるんだからな。わざわざ働くこともあるまい。
「おにーさん、わざわざ国の最高権力者に直接呼び出されたんですから、一応行ってあげても良いんじゃないかと思うんですけど……」

ぬ、そういやティナは知らないのか、俺が絶対聖天子の呼び出しには応じないスタンスを取ってる理由。
まぁ教えたことないもんなぁ……かつての相棒が生きてた頃には聖天子から呼び出されるような用事なんてあんま無かったし。
多分当時のことを知らない人間でこれを話した相手はこの世とあの世含めていないだろうな。

まぁティナになら話しても良いんじゃないかと思う。
信用出来るし、相棒だし、ティナだし。
最後のは理由になっていない気もするが、俺としては相手がティナってだけで最大級の信用を置けるんだよ。
「……俺が絶対聖天子の呼び出しに応じないのには、理由があるんだ」

そして、わずかにやっぱどうしようかなとか悩んだあと、俺は自分が聖天子に呼び出されても応じない理由を話すことにした。
いや、正確には応じなくなった原因の出来事、だけども。



これは俺がまだ発電能力なんて持ってなくて、ティナとも出会っていなかったころの話だ。
ある日俺は、聖天子に名指しで、しかも相棒を連れず一人で来るように命じられた。
そんで、その頃の俺は当時切り札であった新人類創造計画……まぁ、ステージIVガストレアを一人で殺せることを念頭に作られた、実際のところ最高傑作の俺であればステージVにすら対抗出来たその力が必要な仕事かと思っていた。
もちろん、当時はまだまだ腹黒くてガストレアと呪われた子供たち絶対殺すマン状態だった、聖天子の側近である菊之丞のおっさんの策略ってのも警戒してたけどな。
まぁそんな訳でいつでも戦える用意をして聖居に向かった訳だが、その入り口でなんか見てはいけないモノを見たような、それでいて何か使命感に目覚めたような顔をしていた菊之丞のおっさんに出会った訳だ。

そこで、俺は今回呼ばれたのが少なくとも策略って訳じゃないと思い込んだ訳さ。
今思えば非常に愚かだった。
俺は少なくとも聖居の中に居る間は安心だなーとか思いつつ、中へ歩いていって、そこで罠に掛かってしまった。
……あ、でも別に落とし穴に落ちたとかじゃないぞ?
ただな……まだまだ純粋でマトモで聖天子を可愛いとか思っていた当時の俺はその罠に見事に引っ掛かってしまったんだよ。
そう、聖天子によるハニートラップという最悪の罠にな!
「……国の最高権力者がやっちゃって大丈夫なんですかそれ」

……知らん。
まぁとにかく、俺は当時まだ聖天子の本性を知らんかったからそのハニートラップにまんまと掛かってしまった訳だよ。
幸いにして偶然発生した、『俺に聞かれてはいけない内容の通信』が大音量で俺の耳に飛び込んで来たんだ。
内容は確か、相棒を始末するとかそんな話だったと思う。
んで、それを聞いて俺がブチギレ状態になり、脅迫してどうにか事なきを得たのだが……



まぁ、これで分かってもらえただろうか。俺が絶対に聖天子の呼び出しに応じないその理由が。
「とりあえず、今すぐ聖居まで行って軽くお話する必要はありそうですね」

「まぁな。だがあんなモノにわざわざ自分の手は汚したくないし、弾丸を消費するのももったいないだろう?」

俺としても本当なら今すぐ殺してやりたいくらいだよ。
しかし殺せば国中を敵に回すし、それをどうにかすることは出来てもその労力がもったいない。
そして時間ももったいない。そんなことに使うくらいなら、ティナに甘えていた方が数万倍は有意義に違いないしな。
俺は寝転がり、ティナに膝枕されている状態になる。
余談だが、そこそこ小柄なティナの膝くらいがちょうどいい高さなんだよな……枕として。
「ですよね」

というかティナ、お前もお前でなんだかんだアレにお話しに行くとか言いながら極自然に頭撫でる態勢じゃないか。
……まぁ、あれだ。
嫌いな奴への仕返しより何より日常のグダグダとした退廃的な時間が優先されるってのは、俺達の美徳だと思わなくもない。
誰も傷付かず、ただただ幸せな時間だけが過ぎていく。
これはきっととても良い事なんだ。俺を含めて誰も損しないし、俺自身はかなり得をする。
素晴らしいね。幸せだけが満ちて……ん?

なんか今、一応敵襲に備えて展開している電磁波のサーチ範囲に変な物が入ってきたな……
何やら金属っぽくて、巨大で……おい待てよ、これってまさか重機だったりしないよな?
しかもそれが結構な速度でこっちに近付いてきてるし……ぐぬぬ、電磁波だけじゃおおまかな形しか分からんから、本当に重機かどうかも分からん。
一度家の外に出て確かめてみるか?
いやしかしそんなことをしたらこの幸せな時間がおじゃんになる。
本当にヤバいならともかく、出来ればそれは避けたい。
それじゃどうする?

簡単だ。相手は鉄だから、磔にすればいい。
重機と思わしき物が移動する瞬間、そこにとてつもない磁力を発生させてやれば動けなくなるはずだ。
まぁこれまでは高速で移動させる使い方ばかりをしていたから、動けなくする使い方はあまり得意じゃないが、頑張って押さえつけてみるとしよ……

ぐしゃっ!

俺が磁力を発生させて重機を押さえつけようとすると、何やら潰れたような音がした。
まさかうっかり手加減しそびれて中の人ごと潰れたとかじゃないよな。
頼む、そうじゃないって言ってくれ。
「おにーさん、何か外からすごい音がしましたけど……何かしました?」

あ、ティナ察しが良いな。流石だぜ(現実逃避)。
まぁ、きっと何かが潰れたような音はしたけどそれはきっと重機だけの音のはずさ。
俺は、流石にちょっと外が気になってきたので窓を開けて音のしたほうを確認する。

するとそこには、何やら重機を多数組み合わせたような、多分ロボット的なもの、が完全にスクラップと化して転がっていたのであった。

……これ、どうしたものかな。
燃えないゴミに出すには大きすぎるし、しかし磁力で無理矢理小さくするとかするにしても面倒くさそうだぞこれ……
俺は、聖天子以外にまだ面倒事が増えてしまったと嘆いたのであった。



最近体調を崩し気味なせいかやたら投稿ペースがおかしくなっている気がする。
いつもなら産まれないはずの書き溜めが少しの間ながら産まれたりとか、1日に2000文字(しかしこの作品ではない)とか、投稿しないくせにやたら長い短編とか。
なんか変だなぁ……


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先生の発明は99.999%危険物

みんな大好き菫せんせーは大変なものを作ってしまったようです。
それと半ニートも何故かさほど日を空けずに投稿してしまったようです。
なぜこうなった……


俺とティナは今、とんでもないものを見付けてしまっていた。
それは磁力によって破壊されたロボットの中心部にあった、謎の装置。
そして、赤い癖字で注意書がされたそれの名は……
『GV除去装置』。多分グレートヴァンソウコウ除去装置、つまりは一切の痛みを伴わず絆創膏を剥がせる装置………じゃなくて、ガストレアウィルス除去装置だろう。

いまだにウィルスそのものへの抜本的対策のないガストレアウィルスを除去装置出来るとか、正に夢の発明だよな。
まぁぶっ壊れてるけど。
俺がついさきほどに磁力で押し潰して壊したんだけど。
で、その機械のおまけのようにそれによりかかっている変なヤツ、室戸(すみれ)。世界有数の天才であり、ガストレア研究の第一人者でもあり、そして現在の俺であっても頭が上がらない、数少ない人物の一人である。
だがしかし彼女はとんでもなく優秀な代わりに時々アホなことをするから手が付けられないという特徴があるのだが……今回もそれだろうな。この騒動の原因は。

まぁ多分今回については顔を真っ赤にして寝てるし、微妙にこの辺も酒っぽい匂いがしてるから、きっとガストレアウィルス除去装置を完成させて、完成したことが嬉しくて祝い酒を飲んで酔っ払って、変なロボットをノリで作って、自慢したくてウチにきた……ら、ロボット潰されるわガストレアウィルス除去装置壊れるわで散々な目に遭って気絶したってところだろう。
正直あまりにおかしすぎて笑えてくるけどな。
世界有数の天才が酒に酔って自分の発明を自分で破壊へ導くとか、どんだけアホなのよ。
「おにーさん、これって……」

………ティナ、それは言うな、いや言わんでやれ。
コイツが自分の凡ミスで世紀の大発明をぶっ壊してしまったとか、笑い話にもならないからやめてやってくれ。
特に自分のミスが原因で壊してしまったものが、実は発表すれば世界が変わってしまうようなレベルのとんでもないものだったんだから、尚更言わんでやれ。
「そうじゃなくてですね……よっと」

ティナは、菫先生の胸元からUSBのようなものを取り出して、俺に渡してきた。
………なんじゃねそれ。普段大抵のものは頭の中に記憶するか、あまりに汚いせいで本人以外には読めない謎言語で書いた書類に記憶しているはずなのに珍しい。
とりあえず先生が珍しい行動をしたということは何かしらとんでもないものを発明したという事なんじゃなかろうか。
まぁ、そうじゃない可能性を考えて電気を操る力の応用技を使って情報を読み取ってみるが……これは一体なんなんだ?
ガストレアウィルス除去装置について書いてあるのはまぁなんとなく理解できるが、これはまったくもって訳が分からんぞ。
『惚れ薬の製造法』『ノートパソコンを用いた的中率の高い未来予知法』『人間の感情への科学的介入法』とか、コイツは一体何を研究しているのやら。
………いやまぁ、少なくともマトモな目的では無いだろうけども。この先生サマは仮にも、マッドサイエンティストなんだしな。

たとえば惚れ薬だとしたら適当な奴に死体の良さを広めるとか言って死体に惚れさせそうだし、未来予知なら他人の家に行って『明日死ぬから死体をおくれ』とか言うだろう。
他人の感情に介入出来るようならきっと想像もつかないようなとんでもないことをやらかすだろうし……正直なところ、俺程度のアホな脳みそじゃ何をやるかは分からないがな。
しかしどう考えてもロクなことじゃあないのは確実だろうよ。
だからきっと、正義を重んじる一般人ならきっとこのUSBを破壊して菫先生に使えないようにするんじゃないかと思う。

だが俺は違う。
一般人とは違って、壊しはしない。ただ消すだけだ。
先生の技術力であれば粉々にしても復元されかねないので、それが不可能なレベルで、完膚なきまでに消し飛ばす。
それこそが最高の処分方法なんだ。多分。
「そーゆーわけでドーン」

そんな訳で、超電磁砲を弾丸の方に気を遣わず全力で発射する。弾はもちろんUSBでな。
……ちなみに俺の超電磁砲の威力について解説をさせてもらうと、超電磁砲の速度は常に全力全開よりはかなり抑えた感じにしていて、大体全力の二割くらいでやっている。
分かりやすく比較対象を作ると、いつもの超電磁砲は基本的に音と速さを比較できるが全力の超電磁砲じゃ音ではなく光と比べないといけないんだ。速すぎるから。
ただ、基本的に俺は全力で超電磁砲を使用したりはしない。
なぜかといえば、空気摩擦によって弾丸が燃え尽き、マトモに弾丸が飛んでいかないからだ。

ただまぁそれは、裏を返せば射程を求めさえしなければ全力で撃っても良いということにもなるんだが。
射程カッスカスだけど、当たればステージIVくらいは消し飛んでくれただろう、超電磁USB砲。
出来ることなら先生が起きているときにやって、ざまぁとでも言ってやりたかったくらいだ。
「……うーん……何をして…いたんだね私は……」

「チッ」

「酷いなケンシロウくん。いきなり舌打ちとは」

「殺しますよ?」

何故このタイミングで起きやがった先生。これはもうちょい空気を読んでUSBが消える瞬間を見るべきだっただろうに。
それとティナ、お前はナチュラルに銃を向けるな。人殺しだけはダメだと何度言えば良いんだ……いや正直なところコイツはマジで殺した方が世界の為なんじゃないかと薄々思わなくもないけどさ。
しかしこんなのを処分するためめティナの手をわざわざ汚す必要はないわけで……
「助けてくれ蓮…シンタローくん!」

……なんだろ、今ものすごく確信犯的に名前を間違えられた気がする。
一瞬正しく蓮太郎と呼び掛けてやめたよな?な?
よろしいならばテメェを今から人間として見ねぇ。そうすりゃ人間じゃないから人殺しにはならん。
さぁやろうぜティナ!
「えっちょっ蓮太郎くん!今のは軽いボケだよ!」

今更弁解したところで遅いぜ。
すでにお前には死刑判決が出ているんだ。今から焦っても意味はない。
「……今回はこれの他に、惚れ薬のサンプルを持ってきたんだ!君達みたいな人間で実験しようと思っごふっ」

テメーまだそんなもん隠しとったのかい。
今すぐ提出しろやそんな危険なもん。ボッシューじゃボッシュー。
お前に惚れ薬なんざ持たせたらロクなことにならんのは目に見えてるしよ………おっと。
受け取る瞬間にうっかりバランスを崩してしまったみたいだな。
危ない危ない、何が起こるか分からない薬品を使われてしまうところだった………セーフセーフ。

ん?なんだね先生。そうニヤニヤして何を企んでいるんですかねとりあえず今すぐ情報ゲロれやゴルァ。
「いやー、実はね……その蓋は遠隔で開けられるんだよ(キリッ」ポチッ

俺がよく分からんがとりあえずヤバいなとか思って騒動の原因である先生の首根っこを掴んでみるが、先生は慌てるそぶりも見せずにツメに偽装していたなんらかのボタンを押した。
すると持っていた惚れ薬サンプルの蓋が開き、良く分からんが気持ち悪いことだけは間違いない強烈な臭いを発し始めた。
「(キリッじゃねぇよとんでもな……」

そしてこれ……どう考えても違法だろ……と呟こうとして、自分の視界が狭まっていくことに気付いた。
いやなんでやねん……あぁ、なるほど薬の作用か。
意識も朦朧としているし、これは惚れ薬というよりいわゆるレイプドラッグとしての使い道の方で優秀そうだな……主に、嗅がせるだけで作用することとか、俺みたいな超人(少なくとも最近じゃガストレアと戦いすぎてトリヒュドラヒジン辺りよりかは弱い毒ならば完全に無効化出来るようになってきたしこう呼んでも問題無いだろう)にも効くこととかさ。
ただ、それを自分の友人で実験するなよ……やるならこの前言ってたチャーリーにやってやれやこのクソ野郎が……
俺は、朦朧とする意識の中ひとまず直感でなんとなく安全そうな方向に移動して倒れると同時、意識を手放したのであった……

先生め、覚悟してろよ……今度笑顔で先生のとこの記録媒体全部ぶっ壊しに行ってやる……



おまけ:蓮太郎式データ読み取り法。
1.記録媒体(人間の脳含む)に触れる。
2.微弱な電流を流す。
3.読み取ったデータを強引に変換し、脳内で閲覧する。

なお元ネタは禁書。どこぞの第三位も似たようなことやってたしね。


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自分が思っていたより人間のクズだったことに気付いたよ……

かれこれ1週間ぶりの投稿になりまする。
なんか投稿しようかなーとか思いつつササーッと次の話も書いてたらすでに投稿した気になっていて、投稿を忘れていますた。

やべーやべーと思いつつも、とりあえず1週間ぶりにレッツラゴー。



ぬ……なんか頭が痛い……
なんというか、物凄く深い眠りに落ちていた気がすると言うかなんと言うか、なぁ……
気付けば我が家のベッドの上だった。
時刻は6:55(午前であると信じたい)。つまり俺は1日近く眠っていたみたいだ……
一体何があったんだ?正直頭痛のせいで考え事は捗らんが、思い出してみよう。
たしか……そうだ、家に先生が来て、俺がUSBを自重なしの超電磁砲の弾にして消し飛ばしたんだ。
それで……なんか気絶して、それ以降の記憶がない。
とりあえず頭痛がするようなことがあったということは分からなくもないが、記憶がまったくない。思い出せない。

まぁ、もしかしたらずっと寝ていただけという可能性もないわけじゃないだろう。
何せ人類には目覚めず数日眠りこけるようなやつもいるんだ。あんな薬品で眠らされたら1日寝込んでいても……ん?
俺は体を起こそうとしたが、失敗してしまった。
体が重い、多分ティナがくっついてるんだろうが、なんかいつもより体が重い気がする。
思い込みか俺の調子が悪いだけかもしれんが体感で約二割ほどいつもより体が重くなっている。
それといつもより三割ほど腕の力が強い。
なんというか顔色も悪いし、悪い夢でも見ているのだろうか。
「……おにーさん……おにーさん……」


……いやー、なんかすげー魘されてるけどどんな夢を見ているんだろうな。はっきり言ってとても気になるよ。
建前を何か言うとしたら、夢って人の心理がよくよく反映されるから、それでティナのことを知れたら良いかもしれないってところだろうが……とりあえずティナの見たものを俺も見てみたい。
そうだ、起きたら聞いてみるか?
そんなことを検討するが、俺は一瞬でその考えを忘れることにした。
魘されるほど悪い夢なら、わざわざ思い出させてしまうのも酷な物だろうしな。

それに、今は俺も体が変に重いんだ。
わざわざ起きて労力を使うほどでも無いだろうよ。
時間はまだ七時前だし、二度寝するには最適な時間だろう。
……そういうことで、おやすみ。俺はもう一度眠らせてもらうよ。
まだ早いからティナを起こす気にはなれないし、かと言って一人で起きてるのもなんか微妙、となれば二度寝しか選択肢はないから当然の帰結みたいなもんだけど……まぁあれだな、魘されてるティナが可愛くて甘えたい気分なんだ。
だから寝る。異論は許さぬ。おやすみ。
朝6:50ごろ。俺は再び眠りについたのであった。
……実はこれがこのあと無駄に騒動と言うかトラブルを引き起こす種となることも知らずに。



『惚れ薬』
室戸菫製。副作用はないが感情の起伏が激しくなってしまうので注意。
なお、効果は“服用時に気絶したあと、次の睡眠から目覚めた時最初に見た相手”に対してしか発揮されない。
つまりは二回寝る必要がある。
なお効果時間は個人差が激しく、人体実験によれば最長で3週間から、最短では1日というものもある。



……何かどこかで誰かが俺を笑っているような気がして、目が覚めた。
なんだろうなこの感覚。非常に不愉快かつ殺意すら抱いてしまいそうだぜ。
まぁそれはともかくとして、今の時間を確認しよう。
俺は起き上がり、時計を見る。
AM10:26。完全に寝過ごしたと言っても過言ではない時間だろう。
少なくとも昔の俺ならこの時間にはとっくのとうにセールスしに行ってただろうなぁ……とか物思いに耽りつつも、ティナが腹減ったんじゃないかと思って少し心配になる。
ティナは料理も出来るには出来るんだが、こいつ朝は俺が起きるまでずっと待機してるんだよな。
俺はごくまれにとは言え大寝坊するってのに、それで大丈夫かと聞きたくなるくらいだ。
ただ、正直なところ朝起きてティナが居なかったら少しパニックになってしまう気がしなくもないので、物凄くありがたかったりするんだよなぁ……

朝起きてすぐそばにティナがいる。これ以上の安心はそうそうないね。
ほら、今だって足に(ただ、何故そこに移動したのかは理由が分からない)くっついて離れないから、安心感がすごいというか……
とりあえず要約すると、ティナ可愛い。そんだけだ。
ノロケとか言われても仕方がないと思うが、ティナは可愛い。それは間違いないし否定するような奴は片っ端から消し去る予定だから反対出来る奴は一人もいないはずだ。
「ん……」

お、どうやらティナも起きたな。
まぁ俺が起こしてしまったという可能性も高いが、とりあえず目が覚めたみたいだ。
「おはよう、ティナ」

「おはようございます……おにーさん……」

ティナは起き上がってもまだ少し気怠そうにしている。
……昨日、先生に惚れ薬盛られたせいで飯作れなかったもんなぁ……慣れない料理を自分でやったから、少し疲れてるのかもな……
迷惑を掛けたような気がして、少し申し訳なく思う。
しかし同時に全力で言い訳をしている部分も存在し、俺は自分の意思が統率されてないなーとおぼろげに考えるのであった。

いや、それはそれとしてだな。
今日こそはちゃんと飯を作らないといけないな。
昨日は薬のせいとはいえ飯も作らずに眠りこけてしまったんだ。
それを補うくらいに今日は頑張……いや、でもよく考えればまだティナと絶対離れないって約束は実行中なんだよな。
だったらあまり離れるべきではないだろうし、とりあえず料理と洗濯以外は後回しにした方が良いだろう。
その方が俺にとっても楽で良いからな。うん決定。

そうして今日の予定をかなりざっくりとだけ決めてベッドから降りる。
で、何事もないように着替える。
……ところで、今考えるのも難だがプロモーターと同じ部屋で着替えて平気なイニシエーターの割合ってどれくらいなんだろうな。
意外と多いのか、それとも少ないのか。
個人的には俺たちが普通であってくれた方が助かるっちゃ助かるんだけどな。
だって俺たちが普通ってことは、世界がティナみたいな『呪われた子供たち』を受け入れ始めていなくもないという事に繋がるだろう?
まぁそんなどうでも良いことはそこらの野良猫のエサにでもするとして、もっと重要なことを考えよう。
今日の朝食になにを作るか、だ。
ピザという一点を除きあらゆる料理でティナに勝っている俺は当然ながら今日も飯を作るのだが、何を作るべきか。
時間も半端だしあまりガッツリしたものより、軽めに作った方が良いだろうしな……中々に悩みどころだ。
かと言ってティナに何が良いか聞くと『おにーさんの料理なら、どんなものでも良いです』とか言いそう(以前本当に言った)だから意見を聞くに聞けないし……どうしたものか。
そして悩むこと数分。結局俺は冷蔵庫の中身に全てを委ねることにするのであった。


「やっぱり、おにーさんの作る料理が一番です」

食事中、ティナが不意にこんなことを呟いた。
ティナが俺の料理をベタ褒めするのはいつものことだが、やはり誰かに褒められるというのはなんというか……凄く気分がいい。
特にそれがティナだと、なおさらだ。
俺はとりあえずティナに礼を言うことにした。
日頃色々と世話になってるし、これからもよろしく的な意味をこめて。
それと、料理人冥利に尽きる的な意味も込めて。
「……ありがとな」

……まぁ俺は料理人じゃなくてただの人類最強だけどな。
というかむしろ人類最強である以前に一人のダメ人間だけど。
だってそうだろう?平日の真っ昼間から10歳の女児に甘えるような男子高校生(ただし元、が付く)がマトモな人間であるはずがない。
毎日毎日とんでもないケタ数を誇る預金で暮らし、時々思い出したようにストレス解消を兼ねてガストレアを駆逐する。
うわぁ自分で言っててもビックリするくらいクズだ。
そして自分言ってて難だけど気分が激しく悪い。

……これはもう、当分は考えない方が賢明だな。うん。



惚れ薬の効果……実は効いてる。しかしそもそもが全力で依存しちゃってるのでほとんど効果が出ていないように見える。

だなんてどうでもいいことを書きつつ、次回からは割と本格的に原作に突入して行こうかと……あれ?この台詞どこかですでに言ったような気が……
違う作品だよな。うん。


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人類最強の弱点

とりあえず個人的美学として最強キャラにはある程度弱点を作りたいのよね。
でも無双はさせたい。っつーことで原作的にも都合が良いからこうなりました。的な話です。


人類最強。
この言葉に何か深い意味を感じるか?
確か俺の知るヒーローは人類の中でもっとも重い責任を持つ者のことだ、とか言ってたっけ。
しかし俺が信じられる人間たちは口を揃えてこう言っていた。
『好きなところに雷落とせて磁力も操れてレールガンを振り回す上に速いとか、勝てるか!』と。
いやいや、お前ら諦めんの速すぎないか?
ゴムで全身を覆うことで電気を防ぎ、金属の一切ない場所で俺より生身で強いやつが戦えば多分殺せると思うぜ?
いやまぁ、ゴムなんか着てるじゃ動きにくいし、金属のない環境で戦うとしても俺がナイフや銃弾を持っていない時はないから、無駄なんだけどな。
それにそういう対策をしようとも電磁波で何をされているのか確認しておけばこっちから一方的に攻めることが出来るようになる。
……あれ?よく考えりゃ俺って普通に人類最強じゃね?
いや、それはよく考えなくても分かる事実なんだけどさ、少なくとも人類が星の入った玉を七つ集めると願いが叶う設定のあるマンガみたいに気やら何やらに目覚めなければ鉄やバラニウムを一切使わずに戦闘を行うのは難しいだろうし、金歯や銀歯から感電させることも実は意外と難しくない。
それに、さっき言ったみたいに最大限の対策をされた場合、空気穴から手を突っ込んで脳に電気を流し電子レンジの要領で熱してやれば簡単に死んでくれるだろう。
この世にジュール熱というものがあって良かったよ。
『電気抵抗があるもの』に電気を流せば熱することが出来る。それは素晴らしいことだ。
あれ?つまり俺は実のところ電気だけでなく熱も使えるということじゃないか!
何故今まで思い付かなかったんだろう、熱を使えるということに。
意外にも当然のように電子レンジと同じメカニズムで脳を焼く方法は何度も使ってきたというのに、いまだそれを他の攻撃に転用してなかったのか……
俺のここ3日で一番の不覚だ。

……あ、いや待て。ここ3日で一番の不覚は別の奴があったし、これは多分二番目くらいじゃないか?
だってもう片方のやつはこれとは比べ物にならないほどとんでもないミスなんだしさ……うん。
「里見さーん♪」

俺のここ3日で一番の不覚、それは聖天子から手紙が送られたのに警戒を怠ってしまったこと。
そのせいで、今なんと自分の家に侵入され、しかも重要な案件を伝えるとかいう名目で様々なセクハラをされているのである。
正直なところ嬉しくもなんともないし逆に気持ち悪いくらいだ。
……チクショウ、コイツが国家元首じゃなかったらすぐにでも殺してティナに甘えて気分を直しているはずなのに。
最悪の気分だ。
「里見さん、何かして欲しいことはありますか?」

「帰れ。そして二度と来んなブス」

「またまた、里見さんはツンデレですね」

ツンデレちゃうわ!
コイツもう殺しても良いかな。何かある度に押し掛けてきてセクハラしてきてしかも何を言っても効かない。
いかに罵ろうとツンデレと言われるわ『新鮮です……』と返されるわ散々な返しを喰らい、あえて普通の人間のようにへりくだって見損なわせようとしてもそれを利用され持ち帰られかけ、完全に無視しているとセクハラが酷くなる。
しかも相手は国家元首な上になんだかんだで悪意も(性的な意味のそれを除く)下心も恐怖もなく接してくる貴重な人間ということもあって下手に物理で傷付けたり殺したり出来んし……
なんというか、人類最強である俺に対してのみ強いって感じだな。
俺は人類でもっとも強いが、逆らえないという意味でティナに負け下手に殺せないという意味で聖天子に負ける……
最強の割に負けすぎだろ、俺。せめて負けるのはティナだけにしておけよ……ティナだったら完全に味方だし絶対に裏切らないから負けたところでなんの問題もないんだからさ。
聖天子の方は今はともかくとしてもいつ俺を切り捨てるかも分からない不安要素だし、出来れば早いとこコイツを安定してどうにかできる秘策でも考えないといけないよな。

俺はそんなことを考えつつ、どうにかしてコイツを引き剥がし、さらに退却させる方法を考える。
しかし考え始めた途端に、聖天子は思い出したかのように突然真剣な顔をすると、用件を話し始めた。
流石は国家元首だわ、人の言葉をさりげなく止めるのが上手い。
「里見さん、忘れていたのですが今回は……」

……で、一体なんだかね?
とりあえず下らないことだったら追い出そう。そうだそれがいい。
どうせコイツが来てるのはそれを『人類最強でありゾディアックガストレアを撃破した英雄』である俺に依頼するためだろうし、それさえ失敗すればコイツがここにいる理由は消え去るんだ。
あと少しの我慢だぞ俺。あと少しで、思う存分ティナに甘えて気分を完全にリフレッシュ出来るんだ。
「……ある封印指定物の回収をお願いしたいのです」

「封印指定物?」

なんじゃそりゃ。
字ヅラからしてなんとなく超ウルトラスーパーデンジャラスで今すぐなんとかしないといけない系のアイテムであることは分かるんだが……回収、とはねぇ。
今言うことじゃないんだが俺の能力は基本的に電気を用いるから回収対象機械系のアイテムの場合確実に壊れるんだ。
つまりこう見えて機械系アイテムの回収にはトコトン向いていないんだよ、俺は。
「それで?その封印指定物ってのは一体どんな代物で、どんな形をしているんだ?」

とりあえず先にどんな物なのかを聞いておくことにしよう。
最悪物品の種類によっては依頼を断らないといけないし、何よりそもそもの形を知らないと探すことも出来やしない。

俺の疑問に、聖天子は現在教えられる範囲でなら、と前置きしてからこう言った。
「えぇ、それはですね「七星の遺産。ゾディアックを呼び出すことが出来るアイテムであり……壊れた三輪車、だそうですね」……話に割り込まないで頂けますか?」

しかし、その説明が始まると思われた瞬間にティナが部屋(一応は客間である)に入ってきてサクッと説明してしまった。
七星の遺産?なんだねそりゃ。
名前から考えるのなら、七星さん(家あるいは人あるいは地名)が遺した何かしらのモノということになるが……
何故ゾディアックなんてものを引き寄せるんだ、三輪車よ。
しかもあれだぞ?俺の知る限りゾディアックなんて俺並みの規格外あるいは既知外の存在がいなけりゃ倒せないような奴等なんだぞ?
んなもんどうしてすぐ処分しねーんだよ……爆破しろ爆破。
俺としては、そんなものさっさと消してまえー。と思う他ないがねぇ。
そんなことを考えていると、聖天子が信じられないようなものを見る目でこっちを見ていることに気付いた。
「というか里見さん、一応IP序列は一位なんですから閲覧レベル12はあるでしょう?なぜ知らないのですか?」
……そーいや、あったな閲覧レベル12ってやつ。
正直なところレベル10以降は見てるだけで吐き気がするし自分関係のあることでも無いから見てなかったが……七星の遺産ってのもレベル12があればかなり知ることができたのかねぇ。
「……まぁ良いでしょう。それで里見さん、今回の依頼はその七星の遺産を奪っていったあるペアから回収してほしいのです」

物思いに耽りながらも、聖天子が渡してきた紙を受け取る。
そしてティナを手の動作だけで呼ぶと、一緒に内容を確認する。
『依頼内容
・『七星の遺産』の蛭子影胤&蛭子小比菜ペアからの奪還
・成功報酬:100億円
・なお七星の遺産は名前だけであっても機密レベル5なので情報の取り扱いには注意すること

追記
・なんらかの原因によって即時に敵に七星の遺産が使用される危険がある場合のみ、その破壊を許可する。

天童菊之丞』

……ふむ。
つまりは影胤とやらから七星の遺産を奪い取ってくるだけで100億貰えんのか。
ボロい仕事だなこりゃ……
少なくとも相手は恐らく一般的な(国相手にケンカ出来てるし大体序列は元100番台と言ったところだろうが)民警上がりだろうし、奪うことは難しくない。
何故ならあまねく民警はバラニウム製の装備を持っているため、俺の磁力を使えば武器を奪えるし、何より電気を使う俺ならば方法次第じゃいかに対策をされていても簡単に仕留めることができる便利なものだ。
対人戦という場面において電気より使いやすい攻撃を聞いたことはないしな。
相手が都合よく対俺専用の準備でもしてなきゃ大丈夫だろう。
よし受けた。
俺はティナにアイコンタクトで印鑑を持ってくるように伝える。
多分伝わるだろうな、ティナだし……
うん、予想通り持ってきたぞ。流石だ期待を裏切らねぇ。
「それで、依頼は受けようと思うんだが」

「はい。それではここにサインを……」

聖天子はそう言って紙を裏返し、そこに何故か用意されている欄に名前の記入と印鑑を押すように指示した。
なんでわざわざ裏にそんなもん用意したのかねぇ?
怪しさ満点だぜ。
俺は印鑑を捺すフリをして(インクを付いているように見せかけてスレスレのところで付けていないから捺しても問題ないが) 聖天子の反応を伺うことにした。
これでコイツが何かしら怪しい反応をしなければ問題はないだろう。

それとついでにハンドサインでティナにこの紙に変な所が無いか見てもらっておくか?
いや、そんな時間はないよな。
それに聖天子も何かしらの反応を示していたりはしないし、今回ばかりは……
しかし、いくらなんでもこんだけヤバい案件にまで私情を挟んだりはしないよな。と思って本当にインクを付けて捺印しようとしたところで、事件は発生した。
「……」ガチャッ

ティナぁぁぁぁぁ!?
ナチュラルにライフル取り出しちゃダメだって!
しかも相手は腐りに腐って色々な意味で終わってても最高権力者ではあるんだから、ダメだってば!
突如として怒りの形相でライフル構えたからには何かしら聖天子の方が許し難くえげつない細工をしていたのは分かったから!
「……東京エリアの存亡が掛かっていると言うのに、なんでロクでもない契約書の方にサインさせようとしてるんですか?え?」

「……」

……ん?
ロクでもない契約書って?え?
いやいやいや……これは至って普通だし、書いたのもあの菊之丞だからそんなもんがあるわけは……
そう信じつつも、ひとまず多少特殊な電磁波でスキャンを掛けてみる。

まず最初に見えてきたのは菊之丞が書いた部分……これを抜いて、他の情報だけを取り出す……よし。
トリックの隠し方はかなり上手いが、少なくともそれを見付ける方法が普通じゃありえないようなものだったからか簡単に見付かった。
なになに?
『契約書
里見蓮太郎(以下、甲とする)を、この契約書への双方の捺印を以て聖天子の所有物とする
甲は乙に対して危害を加えてはならない……』
から始まるこの契約書には、このあと32文にも渡って色々と書かれていた。
その内容は要約すれば結婚しろということになるな。結婚しろの中に俺を束縛しまくる部分があるのが戴けなさすぎるが。
まぁ……ここまでくれば答えは簡単だろうな。
「……おい聖天子」

「はい、なんでしょうか」

「今すぐ菊之丞を呼ぼうと思う」

「えっ」

菊之丞(保護者である)を呼ぼうじゃないか。
この東京エリアで唯一この聖天子を抑えられるあの男を……東京エリアオーバー20代部門最強のあの男を。

うん、だからほら……その、ティナ?
今は抑えてくれ。ちょっとそいつを殺しちゃうと外交問題とかが発生して俺たちが困るからやめてくれ。な?
「退いてくださいおにーさん、そいつを殺せないです」

殺しちゃダメなんだってば!



聖天子
実は原作よりスペックが高い。そして美少女力も高い。
その上決して弱くない。
だから聖居から抜け出したり抜け出る口実を用意しては蓮太郎のところに通っている……が、しかしいまだマトモに相手にされたことがない。
なお、原作より公私混同が激しいため、菊之丞さんからは『史上最高の名君と呼んで差し支えないがちょっと……』的な評価を受けている。


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暴虐⇒遭遇⇒対決

いつもより長め。
そして戦闘回。でもこういうシリアス系バトルは苦手なんだよなぁ……
ま、ひとまずどぞー。


……俺の一日は基本不規則だ。
いつ起きるかも、いつ訓練するかも、いつ飯を食うかも特に時間を決めているわけではなく、ただなんとなくで生きている。
しかしそこに時々入ってくるのが仕事ってやつで、これまた厄介だ。
あまり考えることもないし依頼が来ることもないから忘れがちだが、ゾディアックガストレアとの戦いで二人が死んだあと、俺はそこそこの期間未踏査区域とモノリス内を出入りしてガストレアを殺戮する生活を送り……そのあとしばらくして落ち着くと、有り余る金でまず天童民間警備会社の入っている建物を買収した。
その管理は二人が生きていた頃から顔馴染みの光風ファイナンスの方々にお願いしている。
そして、残った天童民間警備会社は名義上の社長が俺となり、依頼をすれば必ず世界最強のプロモーターがどうにかしてくれるなんてことで一時期世間を賑わせたりもしたっけか……
お陰で大幅値上げをせざるを得なくなったのも良い思い出だ。ただまぁ、その額が客を減らすための物だったから法外な額になって、確か最終的に一件辺り前金400万、成功報酬3000万からってのになってたっけか。
しかし、残念なことに大幅値上げ程度では俺に依頼を受けてもらえるというネームバリューは衰えなかったらしく、やはり依頼は殺到した。
しかも今度は相当の浮遊層からくだらない依頼をされることも増えて……結局、天童民間警備会社は月に1日だけ営業する形になってしまっている。
……で、そんな史上もっとも面倒な民警である天童民間警備会社だが、今回はなんと国のトップから依頼が舞い込んできたわけだ。
内容は七星の遺産なるヤバいアイテムの回収。
はっきり言ってめんどくさいが、報酬も良いしな……
そう考えつつ、地面を強く踏んで跳躍し、手頃な電線に触れてみた。
そしてその瞬間に電気の流れを解析し、不自然に電気が流れていないところを探してみる。
電線ですら意外とバカにならん出費が必要になる現代、一度盗まれでもしたら張り直すのには少しだけ時間が必要になる。
当然、電気が止まればピンチになる住民たちはそんなことをしない。ならば誰がするか?それはガストレアだ。
そして俺はそれを利用し、不自然に電線の切れた場所はないか探すのだが……ダメだなこれは。見付からん。

面倒極まりないなこりゃ。これで一発で何かありゃ相当楽だってのに。
「ティナ、なんか見付かったか?」

俺は心中で何故仕事なんか受けやがった……とか思いながら、インカムでティナと連絡を取る。
『ダメですね。不自然に高速で移動する反応とかは感じられません』

しかし、ティナの方でも何か見付かった訳では無いようだ。
こういう捜索は俺よりもティナの方が得意だからもしかしたら……と思ったんだが、ダメか。
もうこうなったら素直に歩いて隅々まで潰して行くのが最善手だろう。
そう考えて、電磁波によるサーチを続けながら歩き出した。
俺のサーチ範囲は半径約500mほど。ティナの方は可変するが、大体50mくらいをサーチ出来るビット……確かシェンフィールドとか言ったっけ?が3つで、生物に対してのサーチ力はシェンフィールドの方が上、と言った感じだから見付ける時は恐らくティナが見付けるだろう。
まぁ俺の電磁波サーチもバカに出来ないくらいには性能が高いんだが。
少なくとも生物以外にたいしてはかなりサーチが効くからな。
特に金属や何やらの反応は割と見分けやすいから、三輪車あるいはそれを入れたケースの反応があれば……

意味がない思考を回しつつ歩いていたところ、不意に俺の電磁波のサーチ範囲にかなり高速で移動する金属の反応を感知した。
大体の感じでその種類を答えるなら、細い棒二本ある程度厚い金属板三枚に変な反応をしている箱が1つ、それと箱の数倍のサイズの金属塊が1つだ。
変な反応を示す箱ってことは……当たりか?
「ティナ」

ひとまずティナに情報を回して確認してもらおう。そこで追加情報が入ればより確実に補足できる。
『おにーさん、ターゲットは現在おにーさんの北東400m付近からおにーさんに向かって南下中です。なお交戦中のようですけど……どうします?』

……わぉ、何も言ってないのに欲しかった情報を次々と。
流石はティナ、そこに痺れる憧れるぅ……ってのは古いか。
とにかく助かった。とだけ伝えてから狙撃による援護を頼み、俺は南下しているというターゲットに接近する。

もちろん、その途中にも小細工は欠かさない。
まずこっちから接近すると言っても俺の能力の関係上金属の多い場所で戦った方が有利なのでまずは電信柱が建っている場所を選び、そこの上に陣取ってターゲットが来るまで待つ。
もちろんその場所でもただ待つのではなく、電磁波によるサーチを続けつつ平行して“充電”を行う。
え?なんのために充電なんかするのかって?
もちろん大技のためさ。
相手は一応マトモな人間だからそれを直撃させちゃ死ぬだろうが、そんなことは知ったこっちゃないし、少なくとも七星の遺産とやらを使われたらゾディアックがやって来るわけだし、それ対策としても有用だろう。
問題は充電すると出力が上がりすぎて使える技のレパートリーが減ってしまうことだが……まぁ火力が上がればわざわざ小さい威力の技を使ってやるまでも無いだろう。
「チッ……小比奈!」

「了解!」

……よし、どうやらターゲットのおでましみたいだな。
スリーカウントで奇襲して大技を叩き込んでやるとしよう。
3、2、1……
「くたばれっ!」

俺はある程度の充電によって出力が大幅に上がった電撃を体に纏い、ターゲットの至近距離まで寄るとそれを……

全て磁力に変換して、ターゲットを地面に縫い付けた。

「ティナ!」

俺はターゲットが強烈な磁力によって七星の遺産の入ったトランクと共に地面に縫い付けられたことを確認すると、即座にティナへ合図した。
こういう時はどうするか、ってのは前々からある程度決めてあるんだ。
この場合は『動きは止めたから死なない範囲でぶっ殺せ』。腕や足の三本四本は覚悟してもらうとしよう。
ちなみにこの場合俺は心の中でこれから動けないところを狙撃される恐怖を味わうターゲットたちに心からの嘲笑……もとい、嘲笑を浴びせつつ磁力をジリジリと弱めたり強くーしたりすることになっている。
理由は簡単、その方が苦しめられて良いからだ。

そしてターゲットの二人に、ティナからの容赦ない狙撃が襲いかかる。
まずはトランクを持っている……仮面?いや待てこれなんか見たような気が……とりあえず仮面の奴の方から撃ち抜かれていく。
まず右手、左手、右足首、左足首、右肘、そして左肘、右膝、左膝、肩、腰と続いていって、しかしそれでもギリギリで処置をしてターゲット生かすのだ。
まぁ、狙撃もここまでくるとほぼ曲芸撃ちの領域に入るが、それでも痛みと恐怖は与えられるので良いとしよう。
パァン!と人に当たったにしてはやたら高い上に強烈な音と共に、仮面の男の体が弾け……ん?
本来ならその狙撃で撃ち抜かれて取れていてもおかしくない右手が取れておらず、しかも無傷で残っている。
どういうことだ?ここはまだティナの絶対半径(とりあえず確実に狙ったところへ当たる半径でOK)からは出ていないし、強烈な風が吹いてもいない……はずだし、そもそも風が吹いていようとティナならシェンフィールドでそれを読んで確実に当てられるはずだ。
少なくとも外れたとしても数cm程度のはずだし……
俺はそこまで思考を進めて、思い出した。
そう言えばさっき、コイツら戦ってたんだよな。ということに。
「オラァ!」

急に後ろから斬り掛かられたので、当然のように体を加速させて足で剣の腹を叩き、迎撃する。
ふむ、電磁波サーチを見るにコイツがさっきターゲットと戦っていた民警だろうな。
さっきの狙撃も恐らくコイツがなんらかの手段で……俺の想像によればある程度ライフルでも逸らせるような勢いで投げられた金属片か何かを命中させて……外させたのだろう。

と、なればきっと相当の実力者だろうな。IP序列三桁は固いはずだ。
ティナはほぼティナ単独の実力で元90番台だったし、それを不意打ちとはいえ防いだのならそれは恐らく三桁台でも上位の110~100番くらいが怪しいんじゃないだろうか。
俺は冷静に敵を分析し、そしてそこにこちらから無造作に攻撃してその実力を押し量ることにした。
攻撃は……とりあえず磁力の方は不意を打って食らわせた方が良さそうだし、ひとまずアレで行こうか。
「並列エレキパンチ!」

拳に強烈な電撃を纏わせ、高速で敵の体に叩き込む。
そしてそれは命中と同時に常人であれば耐えられないであろう膨大な電流を叩き込んだ。
しかし、どういうわけかそれと同時に俺もダメージを受けてしまった。
……どういうことだ?
当然ながら俺自身が俺の電気で感電するということはありえないし、そもそも体が受けた電気全てを増幅して別の場所に送れるような仕組みになっているからあっちから電気を喰らった訳じゃない。
かと言って何らかのギミックであの速度に対応するなら電気くらいしか……
俺は高速で回転する思考の中、拳が受けた傷を電磁波で冷静に分析していた。
幸いにして体が頑丈だから(実際はそれ以上のものになるが)そこまで深手になっちゃいないが……なるほどこりゃ刃か何かで深く傷を付けられた感じだな。
それも鉄とかバラニウムとかの奴じゃなくて、超バラニウムっつーキチガイ染みて堅い合金と同程度以上の性能の武器で傷付けられたのだろう。

ナメたことしてくれやがって……!

俺は自分の傷を分析し終えると同時、全身に莫大な電流を流して強制的に充電する。
体に少々の負荷は掛かるが、これなら一度に使える電気の量は通常の数倍になり、十秒ほど溜めていれば大技も出せる。
急速充電モード、あるいは随分と古いゲームになぞらえるなら……超帯電モードと言ったところだろうか。
「死に晒せっ!稲妻包丁……からの雷刃!」

そして、準備を終えるなり即座に普通なら連続しては使えない電気量の技を使う。
稲妻包丁は電気で刃を作り、雷刃は自分あるいは持っている物に高圧電流の刃を付加する技だ。
その2つを重ねればどうなるかと言うと……
そりゃ残酷すぎて描写出来ないようなことには一切ならないだろうな。
雷刃を付加した稲妻包丁は俺の一部技の電気が実体を持つ特性ゆえに実際に体を切り裂き、さらに電流が一気に加熱するから即座に傷口が焼かれる。
だから斬った敵から血が飛び散らない。
まぁ、こんなとこで使っておいて難だがこれは元々乱戦に向いた技だ。
脳内でよく分からん説明を繰り広げつつ、稲妻包丁を振るって敵を一刀両断する。
「だあっ!」

……!?
だが、稲妻包丁はどういうわけか敵の体を両断するどころかダメージすら与えられず、ただ物理的にぶつかるだけで終わってしまった。
そしてそこに敵からのカウンターが襲い掛かる。
「クックック……噂には聞いちゃいたが、かのIP序列一位がこの程度なんてなぁ!くだばりやがれ!」

拳による単純かつ強力な打撃。それは恐らく俺の顔面に命中して鼻くらいは余裕で折ってくれることだろう。
……さて、ここで問題だ。俺の攻撃は何故防がれ、さらにエレキパンチのときは逆に刃で反撃を喰らってしまったのか、それは何故かを考えてみよう。
目の前の奴が知覚できない速度でカウンターした?
違うね、それじゃ稲妻包丁を防いだ理由にはならない。
だが、ここで稲妻包丁が通じない理由と俺がカウンターを受けた理由を合わせて考えると、不思議と訳の分からない結論以外はありえないということになるのだ。
こいつは体から自在に金属の刃やら針でも出して、それをアース線にしたり拳に突き刺したりしてるんじゃないかという結論に。

俺は、攻撃を受ける直前の一瞬の間に、自分の予測が的確であってくれることを信じてある攻撃を発動した。
俺の主力にして、周囲への被害が多大すぎるあの技……超電磁砲を、この敵そのものを弾丸として。
さっきまでは使っちゃいなかったが……これで体のどこかから出しているであろうアース線か金属製のパーツか何かを吹き飛ばすことで体勢さえ崩せれば……!
「なっ……」

よし……!
俺の予測は見事に的中し、敵の体は何かに引っ張られるようにして彼方へと飛んでいった。
結構な速度は出ていたが……まぁ、さっき俺の攻撃に物理でも耐えたんだから大丈夫だろう。

ただ、これで死んでしまったらこう言うしかなくなってしまうのだがな。
『そりゃ不幸だったな』ってさ。
とりあえず俺は飛んでいったアイツの不幸を祈りながら、そちらへ向かって軽めに超電磁砲を撃つのであった。



伊熊将監、登場。
原作じゃ影胤さんに蹴散らされあっけなく死んだし、むしろ二度しか出てこなかったけど本作じゃそんな彼も大幅強化なんだぜ。

ちなみに強化された理由は夏世ちゃん可愛いよね……まぁ死んでたけど。ということ。
つまりは救済ルートなのですよ!理不尽だけど!
理不尽だけど!(大事なことなので二回言った)


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無茶は良くない(迫力)

無茶することは良くないと思うんだ。
回りに迷惑を掛けるし、自分もダメージを喰らう。
だからね?

……投稿がいつもより遅くなった(気がする)のはそれを念頭に置いた結果無茶をしなかったからなんだ。うん。


無茶するってのは良くないことだと思うんだ。
俺の場合周りの……というかティナとかティナとかティナが心配するからな。
しかし今回は久しぶりに本気になりかけたな……あぶねーあぶねー。
自分の本気ってのがどう言った性質のものなのか理解していながら本気出しかけたわー。
『本気出して数分戦えば軽く国1つ沈む』が出来なくもない俺の体で本気なんか出せるかってーの。
それ以前に本気出すと疲れるしな。
今回だってほぼ1年近く使っていなかった超帯電モードを解放したせいで多少筋肉痛がするし、全身がダルい。
こりゃ早いことティナと合流して家に帰って休まねーと、2日くらい残りそうだわ……
「ティナ、帰還するぞ」

俺は幸いにして俺が発した電気で壊れていなかったインカム(実のところ壊れなかったのはこのインカムが先生が作ってくれた特注品で電気に強いからだが)でティナに帰還するように伝える。
すると、いつもより少しだけ楽しそうなティナの声で五分としない内に着くとだけ伝えられ、通信は切れた。
何かあったのか?
ティナが喜ぶこと……友達でも出来たのかねぇ。
今のところ同居してた子たちも全員殺したりなんだりでまともに仲良くしてもいなかったし、俺の思った通りであればとても良いことだ。
……まぁ、それ以外のことである可能性も残ってるんだけどな。

そんな思考にリソースを割きつつ、俺は自宅の方向に向かって跳躍し、痛む体を酷使して超人的速度で帰宅するのであった。



自宅、それは人間にとっての心理的な絶対防壁であり、無条件に安心できる場所である。
それはこの俺里見蓮太郎も例外ではなく、人類最強の俺も自宅での生活はかなり情けないものになることがどうしても多くなってしまう。
「うぇい………」

だからつまりその、自宅に居る時は全力で情けなくというか人間としていかがなものかと思われるくらいにダメダメ感満載でティナに甘えることも許容されるべきだと思う。
特にティナの方が嫌がるでもなくただただ受け入れて甘えさせてくれるんだし、それを甘受するというのも素晴らしいことなんじゃないかな。
「おにーさん、今日は私に初めてのお友達が出来たんですよ」

俺はティナの顔を下から覗き込むような形で膝枕されながら、今日出来たらしい友達の話を聞く。
「その子がですね、どうやらおにーさんが戦ってたいかにもな強面の人のイニシエーターらしくって、お互いに共通の話題があったからつい話す内に……仲良くなっていました」

……それにしても、ティナに友達かぁ。
こんな状態で考えるとものすごく情けないが、感慨深いなぁ。
これまで俺が連れ帰って来た子供たち皆に殺意を籠めた目で見ていたのに、何が違うんだろうな。
まぁ、どちらにせよティナに友達が出来たと言うのは嬉しいニュースだろう。
「それで、その子に教えてもらったんですけど……」

お、なんだなんだ?
急に顔を近付けてきて何をしようってのか……ちょっとワクワクするというか、それはそれで友達のイニシエーターとやらが友達と言うよりも同類なんじゃないかと思えてくるというか……
「大好きですよ、おにーさん」

「!!!?」

……っと、なんか今のヤバい。
何するのかあんま予想できてなかったところに耳元でささやかれると結構クるものがあるぞ。
ハッキリ言おう。めちゃくちゃ可愛い。
それこそ独占して自分だけの物にしたい、いやむしろ他の人間とガストレアを皆殺しにする価値すらありそうというか……

……そうだ、これはなんというか俺をダメダメからド底辺の人間畜生にまで堕落させて来そうな感じだ。
だがしかし、それを分かっていてもなお、あまりの可愛さに依存するのをやめられない……くっ、俺の習性を巧みに利用したな……10点だ!
「おにーさん、こういうのに弱いんですね」

「そりゃあな……やられたことねーもん」

俺はイタズラっ子のような、というかイタズラっ子そのものの笑みを浮かべるティナに対して変な意地を張ってまったく堪えてないように見せかけようとする。
まぁ最初から見破られてるみたいだが、そこらへんは気分の問題ってことだろう。
「それじゃあ今日からは寝る前にずっと今みたいにしてみましょうか」

やめてくれ、そんなことされたら理性がもたないよ。
つい魔が差して襲っちゃうだろう。
いくらティナが母性に満ち溢れててパーフェクトとはいえ、それでも10歳なんだからそういうのはあまりよろしくないと言うか……
何故か出産の最年少記録は年齢1ケタだって話を先生がしていたのを思い出したけど、とにかく色んな意味でダメだろう。
倫理的な理由と道徳的な理由と法律的な理由はまだいい。どうせその気になりゃこんな国一晩も掛からん。
だけどな……そういう事態になったとき真っ先に危険なのがティナの身の安全って時点で俺には我慢して自重する以外の選択肢は無いわけだ。
「やめろ……それはマジで危険だ……レッドリストもんだぞ……」

ひとまず心のどこかで『それえぇやん』とか考えてる自分を追い出して、感情が消えたような声でやめるように頼む。
ちょっとどころかかなり残念ではあるが……
「むぅ……これでもう27個目ですよ、レッドリスト」

……ふぅ。良かった。聞き入れてくれたみたいだ。
さっきの笑顔とは一転して少し残念そうで、ちょっと拗ねたような表情をしているが……うん、なんか拗ねてても可愛いわ。

……じゃなくて、一晩中耳元で色々囁かれるのを阻止できて良かったぜ。
まぁレッドリスト(個人的に作成した『色んな意味で危ない』系のモノをまとめた脳内リスト。現在は攻撃系、防御系、強化系、特殊系の技、それと今回みたいな俺の理性がヤバくなるアソビを合わせて27種がここに入っている)が増えたのはそこまでよろしいことじゃないが、とりあえず当面の理性の危機を乗り越えられたんだから良しとしようじゃないか。
俺はそう自分の中で残念に思っている部分と折り合いを付け、問題を先延ばしにする手法で終わらせようとした。

しかしそのタイミングで、ティナから爆弾発言が飛び出して俺を襲う。
「でも今日はおにーさんも疲れたみたいですし、これをやっても大丈夫かと思っていたんですが」

「……あ」

……確かに、今の今まで忘れていたが今日は久々に超帯電モードを使ったせいで無茶した反動の筋肉痛やら何やらで体が痛いから理性がぶっ壊れてもその前に体の痛みとかが理性を取り戻してくれる……かもしれないんだよなぁ。
いやでも、それで確実に理性が戻ってくれるとは限らないし……ぬぅ。



結局、俺は数時間にも渡ってこのことを悩み続けた挙げ句、疲れ果てて爆睡してしまうのであった。
つまり何事もなかった訳だ……もったいないことをした、気がする。



どうでも良い事だけど、今のところこの物語では今物凄く忘れ去られていて、登場していない可哀想な人が居るんだよ。
次回はソイツが登場するはず……いや、まぁもちろん登場するだけじゃなく、見せ場もあるはずだ。
そんなわけで期待しないで待っててくだせぇ。


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ティナを叩き起こす騒音は俺式刑法によるところ死刑である

最近長文タイトルがクセになってきた。
いっそ100文字ギリギリまで攻めてみるか……?
いずれ死ぬほど長いタイトルがついたらそういうバカな事情だと思って納得してください。



俺にとって自堕落で無意味で無駄な時間と言うのは、何よりも素晴らしい時間であり、誰であろうと邪魔できない聖域だ。
朝起きてすぐ起き上がってもいいのに意味もなくそのまま微睡んでその勢いで二度寝することは良いことだ。
ティナに抱き締められながら寝ているのは心地いいし、何よりマトモな生き方をしている奴よりも充実しているという実感が湧く。
更に言えば平日に仕事をするでもなく家で何もせず無為に過ごすのも、悪くない。
特に何もせず過ごすというのは、思ったよりも貴重で素晴らしい時間だ。
……お分かりいただけただろうか?
無意味な時間は、何よりも素晴らしい。
優越感、幸福感を得られるし損をすることはあまりない。
まぁ俺の場合はティナと居られるのならなんであってもあまり気にはしないが、とにかく無意味な時間は良いものだと俺は声を大にして言いたい。
だから、俺としてはその時間を邪魔したやつは問答無用で死刑しても許されると思う。

……事の発端は今朝の6時頃。
歌でも歌って金を貰うタイプの物乞いでも来たのかどっかの外国の歌が聞こえてきて目が覚めた。
しかしその時は、歌声も悪くなかったし暇だし何より金が有り余っているから1000円くらいやるかななんて思っていたよ。
ティナの安眠を妨害せず尚且つ俺の気分も害さないんだし、金をやっても良いと思っていたんだよ。

しかし、割とダラーッとしたいつも通りの朝を楽しんでいた所で突如、銃声が鳴った。しかも一発じゃなくて五発ほど。
もちろん、その音でティナは跳ね起きた。
そして俺たちはそそくさと着替えると二人で窓の方から外を見てみた。
すると家の前で物乞いと思われる少女が警察にドナドナされていたのだ。
それも血だらけ……いやむしろマジでお前なんで無事なん?って思うくらいに酷い状況で。
……今考えても相当に酷い状態だった。
銃弾が体内に残らなかったのは幸いだが、ギリギリ脳と心臓に当たっていなかっただけであと少しズレていれば確実に当たっていた。
話を戻そう。
さて、そんな具合にボロボロで警察にドナドナされていく少女を見て、俺たちはどうしたのか。その答えは簡単だ。

俺はティナに全ての判断を任せて、ティナは少女を助けたいと言った。
そして俺はティナの望んだ通り、少女を全力で助けた。
それだけのことだ。それ以上でもそれ以下でもなく、ただ体をブーストしまくって高速で少女に接近し、警察を軽くワンパンして(ただしそのワンパンが常識的な威力であるとは限らない)、帰還しただけのことなのだ。
「そんな訳で、事の一部始終を語ったが……事情は理解したか?」

「はい」

「そうか。それなら礼はその体で払って……痛い痛い痛い!?」

俺が無駄にカッコつけたポーズで少女に事の一部始終を説明し、そのついでのようにサラッと手篭めにしようと画策した瞬間、ティナに銃を向けられた。
やめてくれ、流石に対物ライフルは耐えきれないよ。
それにこれは浮気なんかじゃなくて正当な報酬と言うか、この子を保護するための口実と言うかだね……
「それなら素直に一方的に保護すれば良いだけでしょう?何故体で払えと言ったんですか?え?」

ティナが怖い。
ここ3日くらいで一番の怖さだ。
昨日も一昨日もめちゃくちゃ可愛かったのに何故ここまて豹変して……あぁはい、そうです俺が全部悪いです。
でもさ、話の流れ的にもこう言った方が自然じゃないか。
「……へぇ、そうですか私には手を出さないのにこの子には早速手を出すと」

「いやそういう系じゃなくてだな……」

「おにーさん、ああいうのは私だけにしてください」

……ぬぅ。本当ならティナにも着せてみたメイド服やらチャイナ服やらをこの子でも試そうと思ったんだが……ダメか。
いや、そりゃそうだよな。
ティナとしてもこの間の再来みたいなことはあまりやりたくないに違いないはずだ。
そのためにこの言葉を言ったのだろう……きっと多分。
「私で良ければ、おにーさんの望むことはなんでもしますから……ね?」

まぁそうであるにせよないにせよ、ティナに言われちゃしょうがない。
ひとまず保護だけでもして、普通にデレデレしようか。ティナの次くらいにさ。
つーか今のセリフ可愛すぎだろ。襲えとでも言いたいのか。もうゴーサイン出ちゃってんのか。
俺だけが引っ掛かるフェロモンでも出された気分だぜ……
俺がそんな具合で訳の分からない気分になっていると、挨拶した方が良いんじゃね?とでも考えたのか少女は少々回ってない舌で挨拶してきた。
「え、その……よろしくお願いします?」

……まぁ、子供にしては充分なんじゃないかと思うね。あんな事をやっていたくらいだから学校には通ってない(であろう)筈だが、とりあえず最低限こういう振る舞いが出来るのなら満足だ。
方向が物理的に間違っていなければだけどな!

分かっていたさ。この少女がずっと目を閉じているから、盲目なんだということは。
しかしな、まさかこのタイミングでそっち向いてそれを言うとは……逆に天才的にすら思えてきた。
ちょっとご機嫌ななめなティナに向かってそれを言うとは、なんたる猛者……見習いたくはないけどすげーよ。
俺は少女にある種の驚愕すら覚えつつ、嫌な予感がしてティナの後ろに回り込んだ。
でもって、後ろ手に持っていたなんか暗殺用っぽいグローブを取り上げる。
「あうっ」

「いやいきなり殺すのはダメだぞティナ。殺しだけは、ダメだ」

ついでにあまり威厳も何も無いが言い含める。
散々バケモノ染みたあのプロモーターを殺しにいっていた俺が言えた義理じゃあないがな。

……それにしても、このグローブは結構良いものだな。
サイズ的に俺は使えそうにないが、ワイヤーを射出出来るみたいだから絞殺にも、戦闘中の簡易トラップにも使えてなおかつ俺であれば電撃を当てる手段の1つとしても使える。
今度知り合いに頼んで作ってもらうのも良いかもしれないな。
「おにーさん、流石に今のはちょっとお死置きするくらいなら許されると思うんですけども」

「全然ちょっとじゃないぞ……ガチで殺しに行ってたぞ……」

「……えと、間違えました?」

つーか少女よ、お前はようやく言う相手を致命的に間違っていたことに気付いたというのか。
もうそれはそれで凄いことに思えてきちゃったぞ……

俺は、朝っぱらから本日二回目の謎の戦慄を覚えたのであった。



今回登場した反呪われた世代の方々は……実は初登場です。
それと個人的に結構好きな三巻辺りに出てきた歌を歌ってる物乞いの少女ちゃんも出してみました。

うん、まぁ……半ニートはつい死ぬはずの登場人物を生かしたくなってしまうものでして。


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目を治すなら……

とりあえず盲目ちゃん(名前未定)の目を治してみた。
……と、言いつつ特に進展も何も無い回。


昼間。それは俺にとって特に何もない時間である。
ティナと散歩するなり、ブラッと未踏査区域に立ち寄って通り魔的にガストレアを殺して回ったり(なお、これで結構金が稼げるのは完全な余談だろう)して過ごすのが通例だが……今日に限って言えば、俺はとても珍しいことをしていた。

先生のラボを訪ねていたのだ。
それも俺とティナと、さっき拾った元物乞いの少女の三人で。
理由は何かと聞かれれば、それはもちろん拾った少女についてとある問題を解決しようと思ったからである。
まぁ最初はなんともならないよな……とか思ってたわけだ。盲目なんてもんはどこぞのマッドサイエンティストが作った変態的な性能の義眼でも使わなきゃ無理だ。
しかし、少し気になって聞いたところ盲目は自分で目に溶かした鉛を流し込んで作った物らしい。
いわくその方が同情を引けるし、何より自分の目を見られないから良いらしい。
で、その話からなんとなく察した訳だが、大体こんな感じだろう。
産まれた時に親が子供は『呪われた子供たち』であることを知って捨てた。
そして成長したものの、物乞いをしている内に身体的ハンデがあった方が得だし、自分の目が嫌われていることを理解した。
そのためになんらかの手段で鉛を溶かして目に流し込んだのだろう。

ハッキリ言って想像するだけで目が痛くなってくるので考えたくもない話だが……まったく。
「おにーさん、室戸先生は何をしているんですか?」

「知らん。ひとまずなんとかなるとは言ってたし、信頼は出来そうだけどな」

そんなことを言いつつ、俺は奥の手術室(とは言っていたが実際は死体の解剖室だ)に目を向けてすぐに離す。
先生の手術とか正直なところ何があるか分からないし、考えない方が良いだろうからな。
最悪帰ってきたらオプションで目を思考を加速する義眼デバイスに改造されているという可能性もあるだろう。
そうなったら……うへぇ。
この先待っているかもしれない未来を想像し、気分が悪くなったので現実逃避気味にティナのふとももに顔を埋める。
あ~、マジで癒されるわ~。
朝から若干良くなかった気分もみるみる最高にまで上がっていくし……もういっそティナって女神じゃないのか?……俺限定の。正確には俺だけのための。
そんな人間のクズ丸出しな思考を展開しつつ、俺はチラッとティナの顔色を伺う。
前回の全員殺戮という轍を踏まないようにしないとな……ティナに人殺しはさせたくない。
いや別にティナが実際何人殺そうと俺がティナを大好きなことに変わりはないだろう。たがアイツの遺言だし、出来る限りは尊重してやりたいんだ。
だから俺はこうして少し予防のためにティナがどう思っているのかを伺っている。

「どうしました?おにーさん」

ティナ現在の気分は………見た限りでは混沌といった所だろう。
上機嫌なようにも不機嫌なようにも見える。
上機嫌な時と同じく少しだけ口角が上がっているし心拍数も僅かに変化しているが、しかし電磁波で見ると前に一度物凄く拗ねた時のように違和感がある。
これは爆発はしなさそうだが少しだけ不機嫌、と言うのが正しいのかもな。

ティナはどうにも独占欲が非常に強いからなぁ。俺としてはそこも含めて死ぬほど可愛いんだけど、たまにそれでとんでもない行動に出るから、そこが恐ろしいというかなんというか。
「……もしかして、私がちょっと怒ってるとでも?」

「……!」

膝枕されながら考え事をすると集中しやすいのは良いが、突然声を掛けられたときビックリしてしまうな。
……じゃない。今驚いたのはティナが俺の考えていることを言い当てたからだ。
特に推理出来る材料もないのにそれを的中させるとは、流石はスナイパー。
「やっぱりそうなんですね」

だが今回ばかりは見逃して欲しいんだぜティナ。
別に浮気とかそういうのではなく、あくまでなんとなく保護してしまっただけなんだ。
そう、なんとなく、の、筈なんだ……
しかし、俺が心の中でそう弁解するのとは裏腹に、ティナは予想外の返答をしてきた。
「まったく、おにーさんは私をなんだと思っているんですか?私だっておにーさんがちょっと目移りするくらいなら許容出来るくらいには懐が広いつもりなんですから」

俺は予想外なまでに心の広いその言葉にそうかそうか……と、返しつつこう思っていた。
『あ、これはものすごく不機嫌だわ』と。
俺の経験則上、ティナがこういう問題で不機嫌な時はこの手のことを息継ぎなしで言ってくるというのを知っていたからだ。
ホント、以前このパターンに入ったときは家庭内戦争が勃発しかけて大変だったよ……
主に家の中で銃弾やらワイヤーやら爆弾が飛びかねないという意味で。

なんせティナは元々暗殺者だったもんだからバレずに相手を殺す術に長けていて、しかしその相手の方も外周区(治安レベルは最低に近い)を生き抜いてきただけあってその手のことに対して強いもんだからあら大変。
ある日は部屋の前がワイヤー地獄、ある日は各種ブービートラップのコンボ、またある日は直接的な攻撃、と多彩な攻撃が行われるのは傍目から見れば中々に愉快な光景だっただろう……当事者からすれば愉快でもなんでもないがな。
しかしその罠が俺であれば余裕で回避できるように作ってあるという親切設計。
ただ風景に溶けこませるように、しかし電磁波のサーチには引っ掛からないように入念に作られた罠は、それはもう世界の罠の歴史を変えかねないものだった。
現状それが俺の浮気対策やらにしか使われたことはないのだが、それが多くの人間に向いたらと思うとゾッとするね。
まぁ、俺やティナと一部の人間を除けば誰が何人勝手に死のうが知ったこっちゃないんだけどさ。
俺は我ながらクズ極まりないことを考えつつ、とりあえず殺しだけはしないようにと釘を刺しておくことにした。
「ティナ、頼むから殺すことだけはするなよ?」

「……分かってます。次は適当な変態にでも売りつけるだけにします」

……それで良いのか?
いや、良いんだろ。別にティナが直接手を下すわけでもなんでもないし。
売られた先がたまたま思っていたよりとんでもない特殊な変態で、生きてるくらいなら死んだ方がマシと思うくらいの状況になろうが……それは運が悪かったに過ぎない。
つまりそうなった場合ティナは悪くない。
俺はそこまで考えてから、なんとも言えない微妙な気分になってきたのでそれ以上考えることをやめることにした。

誰かの四肢が切られる光景なんて考えるだけでSAN値が減る。それくらいなら現実逃避のようにティナに甘えまくって寝ていた方がマシだろう。
俺の為にも、それと不覚にもこのタイミングで似たようなことを考えた誰かの為にも。



おまけ:この作品における蓮太郎の現在の価値観をまとめてみた。

ティナ:最優先。何がなんでも、誰を殺してでも護る。それを傷付ける者はもはや人と見なせない。
延殊:絶対のルール。その遺言は蓮太郎にとって破れない絶対規則……ただし、相手を人と見なしていない場合普通に破られる。
木更:喪ったショックが強すぎて記憶から半ば追い出している。
聖天子:好きではない。
菊之丞:苦労人として見ているため原作よりは好評価。
盲目ちゃん:とりあえず全力で護る。

要約:自分を含む身内に甘く他人に厳しい。それが現在の蓮太郎である。


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心の底から先生に『死ね』って伝えたい

1週間も掛かってすみません。投稿です。


「フックッファッヒャッヒヒヒヒ……ついに完成したよ!蓮太郎くん!」

「なんか笑い方混ざりすぎてないか?」

手術開始から数時間後。
なんかティナに膝枕されつつウトウトしてたら気付けばマジで寝落ちしてて三時間以上経ってた。
んで、気付くと先生が不気味極まりないしやたら複数の笑い方が混ざった笑いを撒き散らしながら、赤いカーテンにスポットライトを当てていた。
なんでここにスポットライトと赤いカーテンがあるのかはさておくとして、つまりこれはお披露目会的な物なのだろう。先生なりの。
いくらお披露目会と言えどやるのが先生なのだから途中で嫌がらせみたいなのが入っててもおかしくはないな。
「ふむ……今何か私がこのお披露目に当たってなんらかの嫌がらせを準備しているのではと思われた気がするよ。心外だね」

……勘が珍しく鋭いな。先生。
言ってることは180度くらい間違ってるけど、少なくとも俺が先生による嫌がらせを予測していることは間違いないね。
これでも付き合いは長いし、とりあえず警戒しといて損はない。
俺は電磁波を飛ばし、先生が何を用意しているのかを事前に知ろうとする……が、カーテンの裏にアルミホイルでも張ったのか向こう側の状態が分からない。

対先生においてこれは大きな痛手だ……逆転する手段を考えておかないと。
そう考えてポケットの中身を確認する。
記憶が正しければここには対先生用の切り札が入っていた筈だ。
そう、それは白い粉。全人類がいまだに関係を断ち切れないアイツ……あえて英語表記に拘るならSolt、拘らないなら塩。それが対先生用の切り札だ。
先生は死体愛好者。それと結構様々な信仰にも詳しく、その中でも仏教及び神道の方面にはそっち系の専門家並の知識量がある。
いわく仏教、神道系は嫌いな教授がそれ関係の知識をひけらかしてくるもんだからそれをバカにするためだけに覚えたらしい。
それで専門家並の知識を得る訳だから、天才ってもんは恐ろしいよな。
まぁ、こう言うのを才能の無駄遣いと言うのだが。
まぁそれは置いといて、今は先生が懐から取り出した謎のボタンに注目しよう。
そこにはDANGERと書いてあるが、良いのか?危険なんだろ?
……いや、先生が危険なくらいで止まるような人じゃないのはおれも知ってるさ。
それに、本当に危険なら何かしらの準備をしているだろう。
だが電磁波で見る限りどこにも怪しいところは無いし、不自然に電磁波を防がれているところもない。だからきっと大丈夫だ。
しかし相手が先生という人類史上まれに見る天災であることから、いくら警戒しても足りないということは無いのだが。

なんたって随分と昔、先生は俺の体を(半分ほど欠損していたが)半分以上機械に変えてくれやがったことがあった。
あれは結構強かったが……とりあえず、その材料の強さの他に特筆するべき点は無かった。
しかしそれは当時も今も最強の対ガストレア金属であり……とりあえず、要約すると恐ろしいということだ。
話を戻そう。

先生は今、ボタンを持っている。しかも『危険』と英語で書かれた物をだ。
これを取るべきか、取らぬべきか。それが問題だ。
……まぁ、当然ながら取らないがね。
取ったところで意味が無いのは知ってる。先生のことだから予備を用意しているに違いないのも知っている。
なんたって白衣の裏に10個くらい似た形のものを見付けたからな。
まったく、用心深すぎるだろ先生。

どうせそんなに用意したって無駄なのにな。
電流を変に流してやるか強烈な磁力を浴びせるかすれば簡単に全部壊せるんだ。
まぁしかし、先生の備えはきっと俺対策では無いのだろうよ。
何故かって?そりゃあ簡単さ。
昔からの知り合いだから、先生の考えそうなことはなんとなく分かってるんだ。
きっとあれは無駄に凝った演出をするための物だろうさ。
一つ一つリモコンを分けてるのは訳が分からないが、きっとそうだそのはずだ。
俺は先生の懐にある謎のリモコンをサプライズ用だと思い込み、ひとまずあの少女がどうなったのかを見ることにした。
「さぁ蓮太郎くん、見たまえよ……これが私の最高傑作にして究極の義眼!【神々の義眼・改】だ!」

「いや、何故にんなもんやってんだよ先生……」

俺は、何故か目の治療の筈だったのに目を改造して(しかも先生に製作された改造人間では最終モデルだった俺のよりもかなり進化したと思われる)義眼にするとかアホだろ、天才と言われてるけどこれはアホだろ。
なにせあの義眼は力を使ってないと見えない。そして見えてる時は思考が加速されるから日常生活は難しい。
なんてことをしてるのやら。
しかし、そんなセリフは口から出る寸前で停止した。
先生がボタンを押したことで開いたカーテンの向こう側から現れた……誰?とでも言いたくなるような美少女に驚いたのだ。
「「……誰?」」

そして俺と少女の質問が重なる。
いやまぁ、コイツがあの盲目少女だってのは知ってるんだ。
しかしだな……手術前は髪の毛もこんな綺麗な色はしてなかったし全体的に健康とは言えない感じの風貌だった筈なのだが。
何をしたんだ先生。
「ククク……どうやら驚いているようだね。私も君を驚かすためだけにその子を徹底的に治した甲斐があったよ」

「治したって何をだ?」

俺は先生がこの少女を徹底的に改造した、ではなく徹底的に治した、と言ったところに微妙な違和感を覚えつつ、そう言った。
「私はね、今回この子の目を治すついでに髪を洗って点滴で若干栄養失調気味だったところに栄養を入れて呪われた子供たち特有の回復をしやすいようにし、服を見繕ったんだ」

へぇ。それでここまで見た目が変わるのか。
確かに完璧な作業だ。流石は先生、略してサスセン。
ただ……ちょっとだけ欠点はあるけどな。

ティナがなんか自分の場所を取られるか心配なのかさっきからしがみついて離れてくれない上にちょっとしがみつかれている場所がちょっと痛い。
この痛みはなんというかティナの嫉妬……?から来てるものだと考えれば辛くないしむしろ嬉しい類いの痛みなんだが、しかし痛い。
いや、なんか段々掴む力が強くなってきた。このままじゃ骨をバキッと折られかねないくらいに強くなってきた。
「あ、あの……ティナ?」

「なんですかおにーさん。私は別にポッと出の女におにーさんを取られないかと心配してたりなんてしてませんから、安心してください」

……ダメだこりゃ。ティナが完全に不機嫌だ。
はっきり言って会った頃から独占欲が強いタイプだってのは知ってたけど、このままじゃ不味いぞ。
最悪あの少女がマジで死ぬ。というか普通に消される。
どうすんだこれ……

俺は頭を抱え、何がなんだか分からない。といった具合の感情を表現するようなポーズを取った。
マジでどうにもならんが、とりあえずこのポーズになっときゃ何か良い方法が見つかるはずだ……
「蓮太郎くん、何やら落ち込んでいるところ悪いが、良いかね?」

「……なんだ」

「請求書だ」

……やっぱ性格悪いよな、先生って。
微妙に混乱が深まった思考の中、割と法外な端金を払えという請求書を渡され、俺は深く溜め息を吐くのであった。



……どうでも良いけれど物乞い少女の名前考えないとな。と思う今日この頃。
さて、どのタイミングで付けようか……


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拗ねてても、不機嫌でも

サブタイのネタが尽きて来たので、ここからはサブタイと中身が合致しなくなるかもです。


可愛いは正義。
良く分からんが良家のお嬢様系ナルシスト気味アイドルがそんなこと言ってた気がする。
……まぁ誰が言ったかは置いとくとして、可愛いは正義。これは事実だ。
何故なら、電撃と磁力操作の2つの力によりぶっちぎりで人類最強街道をひた走る俺であっても勝てない相手がメチャクチャ可愛いから、である。

……さて、何故あえて今俺がそんなことを考えているのか、その理由を説明しよう。
それは至極簡単で、特に深い理由もない事だ。
扉を一枚挟んだ先で少女とティナが良く分からないが会議中でヒマ。それに限るね。
少女の目の治療のあと、先生に小切手(ワイロやら何やらにやたら便利なのでペンと一緒に五枚ほど持ち歩いてる)で請求書の額面通りの金を支払って帰宅する途中は、二人の間で何が起こるか戦々恐々としていたが……まぁ、このように平和的手段での解決となって俺は嬉しいよ。
扉(地味に防音防火防弾が完璧)を一枚隔てているので音は聞こえないが、一応平和に進んでいると思われるなんらかの会議を見ながらそう思った。
何事も平和が一番とかほざくつもりは毛頭ないのだが、しかし身内に限定するのなら出来るだけ平和であって欲しいと願うのは自然の摂理だろう。というか身内で争うとか微妙に悲しいぞ。
いや、まぁだから交渉決裂して大変な事にならないようにこうして扉の向こう側から電磁波を飛ばして見ているわけなんだが。
正直ここに帰って来るまでに俺を挟んで水面下で火花が散っていたもの。なんかそれが尾を引いて大変なことにならないか心配なんだもの。
しかし、俺の心配もよそに二人の会議は何らかの妥協点を見つけたのか、二人とも満足げな表情で最終局面に入っているようだった。
気になるな。非常に。

……電磁波の周波数を多少改変して……んでもって部屋の中にセルフで仕掛けた遠隔操作可能な盗聴機に合わせて……よし。
俺は少々ズルい方法ではあるが、二人の会話を盗み聞きすることにした。
クックック、この家は俺の家だからな。いついかなる時も襲撃やら何やらに備えていくつか俺自身に接続出来る侵入者対策を講じてあるのだ。
まぁ本来はこんなことに使うようなもんじゃないけどな。
『……それじゃあ、確認しますよ?』

っと、どうやら二人の方で話がまとまったみたいだな。
聞き始めてからいきなり結論とかちょっと流れ的にどうかと思うが、とりあえず聞く方に集中するとしようか。
『これから暮らしていく上で、おにーさんについて住み分けしましょう、という物です』

『……』

『ひとまず、おにーさんを甘やかすのが私で甘えるのがあなた、そういうことで良いですね?』

……ほぉ。なんか二人の間では住み分けの提案が行われたみたいだな。
俺は甘えるのも好きだが甘えられるのも悪くはないし、良いことだろう。
これまで通りを貫きつつ、そこに一人増える。そういうスタイルが一番だよ。
『了解、です』

そして、二人は頷き合ったあと、こっちにやってきた。
家に着くまでは火花を散らすほど対立していたのに、今は中が良さそうにも見えるよ。

うん、平和っていいな。
俺はそんなことを考えながら扉を開けた。
「話はまとまった?」

そしてまるで話の内容など知らぬかのようにそう言ってみる。
別に聞くまでもないが、聞いといた方が自然に見える気がしたからだ。
「えぇ、もちろんですよ」

「そりゃ良かった」

そのあと、何食わぬ顔でティナに抱きつきつつ、いつも通りの体勢になる。
大抵はこのままなんもしない内に1日が過ぎてるんだよなぁ……まぁ別にそれを気にしたことはないけどさ。
しかし、かと言って何もしないでいると本当にボーッとしたまま数日くらい過ごしかねないので、時々二人で人生ゲーム(ルーレット部分に金属が使われていなければ公平に遊べる)やらスマブ○やらをやってみる訳なんだがな。
特にスマブ○はティナが恐ろしく強いんだ。
俺の使うハリネズミも結構良い動きをしてるはずなんだが、それを上回る動きで某蛇の傭兵に遠距離攻撃を食らいまくった上に撃墜されて負けるパターンが固定化してしまうほど、ティナはスマブ○が上手いんだ。
元々狙撃が得意だからってのもあるかもしれないけどな。
話を変えよう。

突如としてこんなことを言うのも変だが、誰かに甘えられるってのもたまには悪くない。
俺としてはその逆の方が好みなんだが、しかしティナとはまた違ったこの感じも結構良い。
自分がティナに甘えつつ、甘えられる。もう訳が分からんが気分が良いな、これは。
自分の足にしがみついてくる少女(なんだかんだで名前を聞いてない)を見てそんなことを考えながら、俺は無駄なマルチタスクで平行して一番楽な姿勢を見付ける作業に入っていた。
別にどの体勢でも全体的にリラックス出来て心身共に休まるのだが、やはりよりよい物を求めることは大事なことだろう……と、いう建前の元、ティナの顔が微妙に見えなさそうで見えるくらいの位置に移動したいだけと言うのが本音だ。
この状況は言わば両手に花みたいなもんだから、それでちょっと拗ねてたりしないかなーとか思って、少し顔色を伺おうというわけだ。
「おにーさん、どうかしましたか?」

俺が顔色を伺おうとしていた時、不意にティナと目があっだ。
しかし飛んできたのはこれまで129回くらいは繰り返したであろう言葉。
うん、大丈夫みたいだな。一安心だ。
いやぁ、ティナはいつも通りみたいだし、これで安心して甘えられるぜ……
俺はいつもと変わりない様子のティナを確認すると、微妙に存在していた緊張が解けた反動で押し寄せた眠気に逆らうことなく、このまま寝たら深夜に起きることになるであろう程度に深めの眠りに就いたのであった。



「……まったく、おにーさんはガードが緩すぎるんですよ……もう」

そのためか、眠る直前にティナが言っていた言葉はあまり聞き取れなかったが……まぁ、聞き取れなくてもそこまで困ることは無いだろうさ。



はっきり言ってこういうのを書いてて初めて分かんだね。
延珠ちゃんという名のストッパーの大切さが。
良い感じに話を重く暗くなっていく方向から変えてくれるあの子は貴重な存在だと。

……ゆえにその延珠ちゃんが居ないこの作品は全体的に中身がドロッと重暗くなるわけでして。


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なんか人間として負けている気がする

少女の目に改造が施された次の日のこと。
朝っぱらからとんでもないものを見た。
いや、正確に言うと変な時間に目が覚めて二度寝したけど思ったより早起きで……んでその時になんとなく遠くの方を見たんだが、なんとそこには二組の民警が居たんだ。
正直な話ティナたちが寝てなきゃ雷数回を纏めて直撃させたくらいの威力の必殺技で殺してやりたいくらいの相手が、な。
そう、その二組は先日俺にダメージを与えてきたあの刃物野郎ペアと、やたら防御力が高い仮面男ペアだ。
イニシエーターは何やら中距離で戦おうとする奴と近距離で斬り合おうとする奴が泥沼的な戦いを行っているが……まぁこっちは至って常識的(どちらも中々に優秀だが常識的だ)な戦いだから気にすることはないだろう。
しかし問題はプロモーター同士の戦いだ。
見ただけでは細かい所まで分からないので電磁波で確認したが……仮面男はどうやら斥力のような物を操るようで、不自然に電磁波が曲げられる場所がある。それと仮面男自身はどうやら地面に足を付けていないタイミングが度々存在しているし、恐らく斥力で浮遊しているのだと思われる。
随分と昔、先生が今よりもっとマッドサイエンティストでキチガイしてた頃のことだが……確か先生のプロジェクトの違うセクションで『ガストレアステージIVの攻撃を防ぐ絶対防御』をコンセプトとして、何故か完璧にバリアーとしか言い様のない物を作り上げた同僚が居たと聞いたことがあるが、コイツなのかもな。

……で、俺個人としては仮面男よりも先に消し飛ばしたい奴である刃物野郎。
コイツは少々訳が分からない。
電磁波の情報を信じるのであれば、コイツはどうやら攻撃の瞬間に拳から刃を出してリーチを延長しているようなのだ。
そして銃による攻撃は体表に素早く刃を展開することで弾いているようだし……もしかしてコイツ、俺の同類だったりするのか?いや、はっきり言って異能という名のオンリーワンなアドバンテージがオンリーワンじゃなくなるし端迷惑な話だが。
ただ、俺の電気を操る力も大概に迷惑な能力だが、この刃……あるいは金属?を操る力はかなり迷惑そうだな。
使い方次第じゃバラニウムの巨大インゴットとかも作れそうだが、今のところの使い方を見るにむしろその力は直接的な攻撃にしか使われて無いっぽいんだよな……
だが正直な所、金属を作り出す能力のタネさえ割れれば、コイツは俺にとって相性のいい敵みたいだ。
なんたって金属と言うものは基本的に電気を良く通す。
アース線を作ればそっちに流すのも難しくないが、それをすればあまり動けなくなるからある程度離れて雷を落としてやればいい。
そして、剣やら何やらで攻撃してもカウンター気味に高圧電流が流れ体を焼く。
もういっそ面白いくらいにコイツと俺の相性は一方的に俺が強いと言える。
ポケモ○的に言うならば物理偏重気味に育てたレックウ○に特殊ばっか上げまくったメノコで吹雪を連打しているようなもんと言えば分かるだろうか?
とりあえず勝ち目はない。何かしら隠し玉があっても勝てる。それくらいの相手だ。

まぁ、助喜与師範(元師匠。人の域を越えたレベルで強い)に言わせたら油断してる分俺の方が痛い目を見ることになるんだろうがな。
……だがそういうときの為にも対策があるんだ。これが。
その名も……
「……ぁふ……おはよう…ございます……おにーさん……」

……ティナが起きたみたいだし、遠くで起きている戦いについて考えるのは後回しにするか。
俺は素早く思考を切り替え、戦闘に関することを頭から追い出す。
この1年で学んだことの1つだ。
くだらない日々を怠惰かつ無駄に過ごすコツは、戦いと仕事と正義についての思考を頭から追い出すこと。
戦いについて考えてるようじゃくだらない日々は過ごせない。何故なら人は戦うことを考えると無意識にその為の備えをするから。
仕事について考えるようじゃ怠惰には過ごせない。何故なら日本人の国民性は仕事について考えると働かなければいけないという強迫観念じみたものを持たせるから。
正義について考えてるようじゃ日々を無駄に過ごすことは出来ない。何故なら正義を正義として動かすには常日頃からの莫大な努力が必要になるから。
ゆえに、俺は戦う時になるまでその3つについて考えない。いや、最後の1つについてはどんな時であっても考えない。
「朝から哲学者みたいな顔して、どうしたんですか?」

「……なんでもない。ニートなクズの為の言い訳みたいなことを考えてただけだ」

ついでに言うと、正義について考えてるとティナに甘える時にどこか少し倫理的な正義感がストップを掛けるから俺は決して考えない。正義についてを。
……しかし、朝からこんなこと考えてると気分沈むわ。
何故に朝一番で憂鬱な気分にならなきゃなんねーのか疑問しか覚えないね。チクショウ現実め、どこまで俺の気分を悪くすりゃ気が済むんだ。
「あ、今度は良く分からないけどそれとなくイライラしている感じがします」

「心でも読んでるのか?」

そしてそんなやりとりを繰り返すこと、数回。
とりあえず着替えて飯を食うことにした。
気分が微妙に沈んだままだし、変な時間に起きたのもあって正直まだ寝たい気分ではあるが、良く考えると昨日晩飯を食った覚えがない。
そこまで空腹を感じる訳ではないが、とりあえず生活リズムの崩れっぷりがすでに致命的なレベルにまで達しているのだからそれ以上崩す必要はない、と考えたのだ。
ついでに言うと健康のためってのもあるが。まぁ本来ならこっちがメインなんだろうがな。
話を戻そう。
そして俺は適当に朝食を作ろうとキッチンまで移動した、のだが……そこで、驚きの光景を目にした。

なんと料理がすでに作られているのだ。
しかも、なにげに俺より上手い。
一体誰が?……答えは分かりきっているが、とりあえずお約束的にそれを言ってみると、すぐにその答えは提示された。
「おはようございます?」

拾った少女、コイツがこの朝食を作ったようなのだ。
幼い見た目に反して料理の腕は俺以上、ねぇ。
俺のやることなんざ戦うことと家事とだらけることくらいなのに、家事を誰かに取られたら俺のやることが戦うかだらけてるだけのダメ人間になっちまうじゃないか……
由々しき事態だ。早急に俺の長所を考えなければ……
「……えと、その、ダメでした?」

俺が『うわぁ……』という顔をしたのを勝手に料理をしたことに問題があったとでも思い込んだのか、少女はそんな質問をしてきた。
それに対して俺はなんかもうコイツ拾ったの正解だか失敗だか分かんないなー。とか考えながら適当に答える。
「いや、料理作ってくれるのはありがたいさ……ただ俺から家事という取り柄を取ったら単純に強いことくらいしか残らないと気付いて自己嫌悪に陥りかけてるだけ」

「……」
しかし、どうやらティナは自分がやればよかったかなぁ……みたいなことを考えているのか、なんだか微妙な顔だ。
まぁ、こういうときは自然にフォローすれば良いのさ。
それこそ1年以上にも及ぶ退廃的な二人暮らしが活かされる時だ。
「……なんで目が見えなかったはずなのに料理が出来るんですか?」

「……なんか、作ってみたら……出来たんです」

……あ、いやどうやらティナは少女が目の見えない生活を送っていた筈なのに何故これを作れたのか気になってたのね。なんだ良かった。

にしても初めて(多分)でこのレベルとか、才能あるよな……明日辺りからはちょっと料理を仕込んで俺が楽できるようにするのも良いかもしれない。
期待が膨らむぜ。
ただ料理道の先輩として格好を付けたいし、ちょっと練習しないとな……
俺は密かに、料理の特訓の予定を立てるのであった。



幼女(10歳)に料理の才能で敗北して色々負けた気がした蓮太郎……と、いうのが今回の話のメインです。
しかし深い意味はないです。


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塀は崩れ去り、平穏は突如として消し去った

なんとか投稿。バトルシーンを書いてたら微妙に文字数がいつもの倍近くなるわグダるわであら大変。
まぁとりあえず、今回は衝撃の真実ゥ!的なことしてみました。


ドガッシャン!

そんな音を聞いたのは、午前11時頃……つまりはグータラ過ごす1日において腹が減ったり減らなかったりする時間である。
ちなみに今日はその時間、おっさんに貰ったカードゲームの整理をしていた。
これでも意外とレア物だからな……カードゲームって。
それに実はどこかに一枚ウン万するような物があったりすることがあるという話も聞いていたので、とりあえず中身を改めようかと思って書斎(またの名を倉庫と言う)に居たのだ。
もちろんティナも一緒だったので何度か対戦してみたのだが……意外と泥試合化して面白かった。
当分は暇潰しのメインになるだろうとか考えるくらいには、面白かった。
そしてそんなことを考えていられる程度には平和だった。

しかしあるタイミングで突然俺の電磁波(実は最低限の感度の電磁波を無意識に飛ばしている)に音速の七割くらいの速度で飛来する謎の影が映ったのだ。
……で、俺は思ったね。
この反応、なんか先日の変態仮面の反応にそっくりじゃね?って。
はっきり言って金の為に処分することを真剣に考えているあの変態仮面だって。
それに気付くなり俺は家を出て迎撃しようとしたわけさ。
唯一の誤算といえば……音速の七割くらいは俺でも身体能力だけでは追い付けない速度であったことだろう。

変態仮面は、我が家に激突した。
しかも平穏を破るかのように塀を突き破りながら。
塀が突き破られて平穏崩れ去る……というとなんだか素敵な詩的表現に聞こえなくもないが、とりあえず言っておこう。
マジで死ね変態仮面。
俺は、一切の容赦なく十発近い弾丸をポケットから取り出し、超電磁砲で飛ばした。
その威力は下手な戦車程度なら一撃でぶっ壊せるほどの物だから……当然、人間(かもしれない)である変態仮面は死ぬ、あるいは最低限吹っ飛ぶ筈なのだ。
しかし変態仮面は消え去らない。
戦車を余裕で壊せるどころか、レベルIIIガストレア程度であれば一発で沈むような威力の超電磁砲を十発近く受けてなお、消え去らない。というか立っている。

……どゆこと?
いやおかしいでしょ。戦車砲なんかとは比べ物にならない威力を秘めた超電磁砲を十発撃ちこんで倒れないとか頭おかしいだろ。
俺はそう思って、追い撃ちに高圧電流やら何やらをぶつけてみるが……効いた様子はない。
というかむしろ攻撃するたびに変な音が鳴ってくるようになったし、逆効果な気もする。
だったら直接触れて熱で脳味噌レンジやれば流石に死ぬか?
いや……超電磁砲を防ぐような敵に流石にそれは効かないよな。
しかし、このまま倒せないだと俺が世界最強の座から降ろされちまうかもしれないな……世界二位辺りの奴に。
もういっそコイツに対してあの刃物男戦用に取っておくはずの超帯電モードを解放してみるか?
いや、でもそれはもったいない。
実のところあれをやると解除後僅かな間だが出力が多少減衰するから、出来るものなら刃物男戦にとっておきたいのだ。
そういうことで、俺は超帯電モードの使用を頭から追い払った。
通信モードでこのやたら頑丈な変態仮面を消し去る方法……何が良いだろうか。
まず当てることは難しくないから、出来るだけ威力を重視。
そして速度を捨ててでもえげつない威力を叩き出す大技。
そんな技はあるのか?と聞かれたらあるとは言えないが、まぁ造ってみせよう。
新たな技を。この変態仮面を消し去るためだけの必殺技を。
「……く……人間にしては、やるじゃないか……」

変態仮面は何やら俺を見て言っているが、そんなことは気にせずに技の作成をする。
基礎にはやはり超電磁砲を使うとして、そこに威力を上げるオプションを全部乗せ。
具体的には射程、発動から発射までの隙、コントロールもろもろを全部捨て、その上で威力に全振りする。
そうすることで、超電磁砲は……戦術級の兵器になる。
「喰らいな」

俺は超電磁砲の調整を終えるなり、変態仮面に指を向けた。
ちなみにその指の先には不思議な形をした弾丸があり、先端を変態仮面に向けている。
これは『衝撃槍』と呼ばれる凶悪極まりない弾丸で、なんと様々な科学の応用によって空気の流れなどを操り、弾丸前方に文字通り衝撃の槍を作り出して敵を貫くのだ。とは先生の談だが……威力については保証できる。

先生は人をバカにするのが大好きで堪らないタイプの人だが、ことこういうものについては絶対に嘘を吐かないからな。
だから安心してこれを放てるのさ……【超電磁砲・撃滅ver(現在命名)】!
この技は撃滅という名の通り命中すれば命どころか死体すら残らんし、レベルIVガストレアであっても喰らえば文字通りひとたまりもない威力を誇る(多分)技だ。
具体的には通常の超電磁砲の……しまったどっちにせよ大抵のものは一撃で壊れるから分からん!まぁとりあえず撃滅verの方が圧倒的に威力は高いぞ!
俺は、人に向けてはいけない系の技である撃滅verを変態仮面に向かって発射した。
そして弾丸の特殊な形状が衝撃槍の名前の通り衝撃の槍を生み出し、変態仮面の体を貫く……

筈だった。

俺の目の前に壁が産まれ、さらに四方を覆うようにして分厚い金属で出来ている壁が発生する。
その上物理法則を嘲笑うような速度で生まれたその壁は撃滅verの超電磁砲を飲み込んだようで……チッ、威力が減衰したなこりゃ。
「やってくれるじゃねぇか……クソ野郎がぁぁぁぁ!」

まぁあれだ、変態仮面の抹殺を防いでくれやがった落とし前はこの壁の持ち主にでも請求することとしよう。
とりあえず壁を蹴って脱出し、俺は電磁波の精度を上げる。
これまでは広い範囲をカバーする代わりにそこまで高い精度は無かったが、ここからは範囲を犠牲に精度を上げ……人間の顔の輪郭の細かいところまで分かるようにする。
そして同時に目を瞑り、体の中の電気を操作して超帯電モードへ突入する。

のっけから本気だ。手加減は一切しないし、相手を人間として見てやるつもりもない。
自分が仕留めようとした瞬間にそれを無効化されることほど腹立たしいことはないし……何より単純にイライラしてるんでな。
「【超電磁砲・散】!」

まずは挨拶代わりに一発、周囲の適当な砂鉄を適当に弾丸にして加速した超電磁砲もどきを浴びせてやる。
イメージとしては即席の地雷みたいなもんだろう。
ちなみにその弾丸にされる砂鉄は割と適当に選んでいるので、もしそれが直撃したなら……それは相当に運が悪いことになるな。
まぁ本来であればこんなことをするよりも砂鉄を固めて宙を舞う剣にした方が効率もいいし何より強いんだが、今回あえてこれを選んだのには理由がある。
それは単純な話、ティナが言っていたこの刃物野郎のイニシエーターへの対策である。
ティナと鉢合わせしたということは同じスナイパーとして戦うことがあり、なおかつ近接型の可能性は低いと言うこと。
その攻撃方法はある程度考えられるが……中でも警戒するべきは狙撃。
ゆえにその狙撃への牽制としてここであえてこんな技……つまりはランダムな絨毯爆撃に近い技を使ってこう思わせたのだ。
『奴は近くの金属全てに電気を流せるのでは?』とな。
実際のところ、もし触れずに金属を操作して弾丸にするならばある程度意識していなければ狙撃を受け止めることなんざ出来ないが……ハッタリにはちょうどいいだろう。
それに万が一バレて狙撃が来たとしても、それならそれでその軌道を無理矢理修正するなりなんなりしてコイツに当てれば止まるだろう。
誤射のリスクってもんは一対一の戦場への助太刀の際なんとしても避けたいものだしよ。

俺は脳内で解説を終わらせると同時、あえて隙だらけの動きで構える。
実際それは隙に過ぎないが、相手は多くの場合警戒して直接殴りにはこない。
だからその猶予を使って思いきり隙の大きい技を放つわけさ。
……そんじゃ、大技行きますかね。
帯電した電気全てを一瞬で放出し、確実に息の根を止める必殺技……しかも俺が暴れまわっていた頃にレベルIVガストレア『アルデバラン』を仕留められた数少ない技の1つ……
「“直列”!」

その名も……
「大・帯・電・撃ィ!」

直列大帯電撃。名前にすると字面的にそれほど強そうには見えないこの技の内容は、言ってしまえば威力の高い雷だ。
それこそ天然の雷数百回分にも……いや、もしかすると数千回に相当するであろう威力だけどな。
しかしただの電撃だ。超電磁砲のように物理的な威力はないし並列シリーズにありがちな物理的な実体を持った電気でもない。
その上燃費は最悪でそれなりに疲れる超帯電モード中になら体内で一気に使える電気の許容量がある程度大きくなるからあまり負担はないが、通常時に使おうものなら凄まじい疲労と全身の痛みが俺を襲う。
まだ超帯電モードをロクに使っていなかったあの頃にはこの技のせいで苦労したよ……それこそ何度か死にかけたし。

しかしだな、この技には他の技には存在しないオンリーワンの長所がある。
それは『帯電』。
名前にも入っているからお分かりのことと思うだろうが……大帯電撃の電気は命中した対象に帯電し、その肉体が焼け焦げて消えるまで幾度となく焼くのだ。
ハッキリ言ってオーバーキル。
だが……こんなバケモノ同士の戦いの始まりの一撃には、ちょうど良いだろう。
俺は拳を握り締め、今度は出来るだけ隙のない動作で構える。
「がぁぁぁぁァァァァァ!!!」

やはりな。
俺の目の前に居る刃物野郎は俺の電撃を自分の腕を地面に突き刺して即席のアース線にしたらしい。
なるほど悪くない判断だ……あのままなら帯電した電気が延々とお前の体を焼いていて、とっくに死んだだろうさ。

だけどな?甘いんだよ。
そこはアース線で電気を逃がしつつ空いた手でありったけの足止めを講じるくらいはしねーと。
俺は刃物野郎の選択をバカにしつつも油断なく、周囲の砂鉄を集めて剣を数本作り上げ、全てを磁力で操って刃物野郎へ飛ばす。
速度は300km/hと言ったところか。
まぁ何も考えず単純な磁力で飛ばしたにしては及第点、てところだろう。
無論そんな攻撃が通じるとは思っていないので、砂鉄の剣が稼いでくれる最低限の時間を新たな攻撃のために費やす。
その攻撃はあえて表現するなら、プロモーター殺しとでも言ったところか?
単純に相手の体を中心にかなり強力な磁力を発生させて、俺の攻撃を誘導できるようにする。
………え?なんでこの状況でただの磁力を選んだのかって?
そりゃ簡単さ。この磁石化によって与えられる磁力は下手すりゃネオジム磁石と同等以上はあるから、まず身に付けている電子機器類を全滅させる。
さらに銃を使う場合はもっと悲惨なことになる。
銃弾の材質にもよるが、少なくともバラニウムか鉄さえ含んでれば撃った瞬間から逆方向の力が働いて威力が大幅に減衰するし、その上バレルの長い銃………それこそ狙撃銃なんかは、最悪の場合銃身に弾が詰まってロクに使えなくなっちまうのさ。
んで、それに加えて体が磁石になるわけだからバラニウム製の武器は体に張り付くし、ナイフとかならそのまま刺さってもおかしくない。
そして相手がプロモーターなら、どんな奴であろうとバラニウム製の武器を持っていないなんてことはありえない!
ゆえにこの技は『プロモーター殺し』と呼ぶに値するのだ。

まぁ、唯一の弱点としてこの技は相手の体そのものを磁石化するのではなくあくまで相手の体の座標に磁力を発生させるよく分からん力を置いてるだけだから、素早く金属を手放して逃げりゃあ意味がなくなっちまうんだけどな。
しかし今回は相手が体から刃を生み出すことだし………効果は確実に出る。
俺は自分でも悪人面をしている自覚が生まれるくらいに悪い顔をしながら、刃物野郎が自分の体を中心に発生する磁力に引かれて速度の増した砂鉄の剣にいかにして抵抗するのかを見物する。
………相手が悪かったな、刃物野郎。お前の力は相手が俺でさえなけりゃ多分勝てただろうよ………しかし、俺という電気と磁力を操れるバケモノが相手じゃ、勝ち目がなかったのさ。


「だぁらっしゃぁ!」


しかし、刃物野郎は俺の予想を裏切り、あっさりと磁力の拘束を抜け出してこちらへと跳んできた。
人間のそれとは思えないような瞬発力で接近してきた刃物野郎に、俺は久しぶりの命の危機を感じた。
つーかこんなの嘘だろ………事実だとしてもふざけんなよ。
電磁波で確認したが、ありえないだろこれ。
"全身を金属に限りなく近い絶縁体にしつつバラニウムを全部それに変換して抜ける"だ?ありえねぇだろ………いくら俺でもそこまでは出来ねぇっての。
俺は流石に分が悪いと判断し、その場からの逃走を決意した。
相手は絶縁体の肉体で俺の電撃は効かず、バラニウムでも鉄でもないから磁力による足止めは出来ない。
だがそれがどうした。
俺だってこれまで伊達にガストレアを殺して回ってないんでな。逃走するための手管ならいくらか持ってる。
「………【鉄輪縛鎖】【超電磁砲】」

単純な拘束と、拘束に使った砂鉄の塊を利用した超電磁砲。そのコンボだ。
かつてガストレアレベルIVからの逃走すら容易としたこのコンボ………あんまり早く破ってはくれるなよ?

俺はそう願いながら、自宅へと戻っていくのだった。



このまま次回に続きます。
それとあとがきのネタがないです。
そんな訳であとがきが恐ろしく内容が薄いです。むしろ何もないです。
それと………次回投稿は一週間以上かかる可能性が大です。


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戦う理由

とっくのとうに本文は出来ていた筈なのについ投稿を忘れていましたすいません。
というかSAOの方がノってきて集中しすぎてた……

まぁ、とりあえずどうぞ。


……イライラする。
さっきから無性にイライラする。
深い理由なんかないし、そもそもどう考えてもイライラする理由はさっき負ける寸前まで追い詰められたからだが……本当にイライラが収まらん。
この電撃の力を手に入れてから初めての強敵。いや、同格以上の相手だから油断していたというのもあるが……何より俺は準備が足りていなかった。
弾丸は選別してないし、特殊な装備も身に付けてない。そして作戦も立てていなけりゃ得意なフィールドに引きずり込むことすらしていない。
そりゃ負けるわな。
結構昔、俺に戦闘を教えてくれた師範も行っていたよ。実戦においては何より事前の準備といかにペースを握るかが重要になるってな。
ハハ、俺は今回そのどれも出来てない訳だ……
あーあ、クソが。イライラしてイライラして堪らねぇ。
今すぐにでも全部の力を解放して周囲に無差別な破壊でも振り撒いてやりたい気分だぜ。

まぁ今ここでそんなことをやったって俺が損するだけだがな。ここ俺の家だし。
ついでに言うと今イライラしする一方で全力で凹んでティナに慰めてもらってるところだしそんなことは出来ないよな……
俺は自分で不意に思い付いた無差別破壊から思考を逸らして、とりあえず次に刃物野郎に攻められた時にどうするかを考えておく。
この家は俺の領域だが、誘い込んで攻めるのは論外だ。万が一でもティナに被害が及ぶのは我慢ならない。
それじゃどこで戦うか……それについてなら割とすぐ思い付く限りで、2km圏内に1つあるスクラップ置き場もといスラム街というのも中々に良いかもしれない。
なにせスラム街というものは根本的にスクラップが多いもんだから、超電磁砲の発射数を増やしまくることも難しくない。
それにそこなら周囲に被害がいってもそこまで困らないしな。
なんたってスラム街だ。聖天子の奴はあまり良い顔をしないだろうが……しかしこういう戦闘の舞台にするなら一番優れているだろう。
主に戦闘の被害を被られても俺は痛くも痒くもないという理由で。

ついでに言うなら、スラムならクズと鉄には困らないしな。
俺は様々なことに使えるパーツが多くてお得だし、その上クズも勝手に消える。
まさに一石二鳥だ。
だから俺はスラムで戦う……は、良いがどうやって誘導しようか。
よく考えると何も考えていなかった。
ただ単純に刃物野郎を誘い込むのは難しいだろう。
しかしな……難しいなら難しいで、相手が自分からそっちに行ってくれることを祈るのみだ。
別に何もしない訳じゃないが。
いくら相手が絶縁体で身を包もうと、あくまで物体であることに変わりはないのだから適当な鉄屑を熱して道を作ればある程度は誘導できる……だろう。戦場に必ずはないがな。
だが今は他に有効な作戦が無いのも事実だ。
アイツの特徴を刃を出すものだと思い込んでたのが痛い。
まさか絶縁体で全身を覆う、いやむしろ体そのものを絶縁体にするようなことが出来るなんてな。
それにしても、俺はアイツのように体を電気に変換して○ックマン的なことは出来ないのに、アイツには出来る理由はなんだろうか。物理的な形と質量のあるものを操る力だからなのか?
いや、まだ試していないだけかもしれないな。
俺の電撃であればある程度一般的な形のあるモノとしても使えるし、それを意識的に俺の体そのものを電気に変えれば……あるいは。と言ったところだろうか。
しかし戦場でそんなことをぶっつけ本番でやるのは、圧倒的実力差があるときだけだろう。
相手が自分より圧倒的に弱いならそれによるデメリットがあってもある程度負けずに済むし、圧倒的に強いなら強いで出し惜しみをすることが出来ないから、自然にな。

だったらあの刃物野郎にどうやって勝つのか。
具体的な方法は思い付かない。
あの状態は絶縁体で体を覆っているようなもんだから電撃は効かないし、どうやら超電磁砲にも耐えるくらいの防御力もありそうだ。
だとすると俺の手札は純粋な格闘戦くらいしかないが、それに関しても刃物野郎の使っていたあの急加速をなんとかしなければどうにもならないだろう。
磁力、論外。電撃、論外。超電磁砲……少なくともあんな急加速をしている相手に当てるのは難しいしあれで直進されたら一発撃つ時間すらない。
となるとやはり格闘にお鉢が回って来るが、俺はお世辞にも格闘が滅茶苦茶強いとは言い切れない。
何せマトモな格闘戦を行うのは少なくともあの時以来になるし、今じゃ技の多くを使えない。
代わりに存在する電撃やら何やらも悉く使えん。
あぁ、どうしようもないなこりゃ。
俺はいっそ潔く負けてやろうかとすら考えはじめていた。
「……おにーさん、今『いっそ潔く負けてやろう』とか考えませんでした?」

うげ、見透かされてた?
そりゃいかんな。ティナに情けないところは見せたくない(既に手遅れであることから巧妙に目を逸らした)。
でもどーすんだ本当に。
俺の考えうる限り、勝つ方法なんざ思い付きもしねぇ。
まぁ、絶縁体であってもどうにもならない高出力の電撃を喰らわせてやればなんとかならない訳じゃないんだが、俺が喰らわせた電撃とかは相当にえげつない出力だった筈なのにあのモードには通じなかった。
どうする?
「私、これでもおにーさんが負けるのはこの世で私だけだって言ってくれたこと、結構誇らしく思ってたんですよ?」

……いや、どうするも何もないか。
ティナにこう言われちゃ逆らえねーよな。
俺が自分で言ったことすら忘れているようなことを誇らしく思ってくれていたのは予想外に嬉しいが、まったく……こう言われると期待は裏切れねーよな。

だったら勝たないとな。

たとえ薄汚い手を使ってでも、たとえティナ以外の全てを裏切ってでも、あらゆるプライドを捨て、手段を選ばず、貪欲に勝ちを奪い取る。
きっと今の俺をかつての師匠たちが見たら嘆くだろう。
だがそんなのは関係無い。
俺はティナの信頼に応えなきゃいけないんだ。
ティナが信じる人類最強は負けない。
常勝不敗で最強無欠。それが人類最強であり、ティナの信じる俺だ。
そう思うと、なんだか肩の力が抜けてきた気がする。
「……ありがとな、ティナ」

「お礼なら全部終わったあとに1日私に甘えて過ごしてくれるだけで良いですよ」

「それいつも通りじゃね?」

そして俺は、存分に体も心も休まった(ただし端から見れば幼女に甘える変態にしか見えない光景である)と感じて立ち上がり、軽く体を伸ばした。

……バケモノによるバケモノの討伐、ね。
良いじゃないか。
人類最強の相手はバケモノくらいが丁度いい!
卑怯だろうがなんだろうが勝ちを奪うのが戦いだ。
その精神を危うく忘れるところだったぜ。
だが、それを思い出せれば話は早い。
俺は頭の中で瞬時に姑息かつ卑怯で薄汚いと自分でも思う作戦を立てるのであった。



そういえは数日前にブラック・ブレットも原作カテゴリ一覧から外されたようですな。
まぁどう見てもアクティブに投稿ペースが早い作品がこれとあと数件もない感じだったし……仕方ないのか?

クッ……道理で幼女が足りねぇわけだ!
(意訳:ブラック・ブレットはいいぞ。だから書こうぜブラック・ブレット!)


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鉄砕く理不尽なる拳

いつもよりちょっと早めの投稿。
しかし今回の話は……うん、原作の蓮太郎なら絶対やりませんわこれ。的な。

そんじゃどーぞ。


我が家の前にて。
俺の想定よりもそれなりに早く、あの刃物野郎はすぐそばに迫っていた。
あの時は遠慮せずかなりえげつない速度で飛ばしたと言うのに、バケモノかっての。
……まぁ俺もコイツのことは言えんが。
しかしリカバリーがここまで早いと厄介だな。作戦を少し巻きでやらないといけなくなる。
俺だからいいものを、普通のやつならプランの修正を余儀なくされているだろうな。

まず作戦の肝として、戦闘にちょうど良い位置を探し出す。
ここからなるべく近く。かといって相手の機動力を活かせる場所ではなく、なおかつ金属の多いスラム街で、刃物野郎の進行ルート上……と、なると多少場所は絞られるが、最悪の場合戦いながら整地してやればいいさ。
何せ今回はこっちの手札のほとんどを封じられてるんだからな。その手札を贅沢に整地に使おうとどうってことはないさ。
だから場所を迅速に決めて、迷わず移動しよう。
それこそ疾風の如く、いや雷光の如く。

で、辿り着いたら早速戦闘の準備だ。
準備と言っても大したことはしないが、せめて電気で身体能力をいつでも強化出来るようにしておくのは常識だろう。
何故かって?そりゃあ……
「くたばれ世界最強ッ!」

刃物野郎が突如加速して俺の目の前に現れたらいつでも避けられるようにだよ。
俺は刃物野郎が目の前に現れた瞬間、筋肉を電気で刺激して限界以上の力を生み出す。
それこそ常人の肉体なら一瞬で文字通り壊れるような速度で、だが……しかし俺の体は問題ない。
生憎とあまり戦わなかった期間があるが、そうは言っても3日に一度はガストレアを軽く殺戮する運動をしてたからそれほど体は鈍っちゃいないし、何よりどういう訳か四肢がほとんど金属に近い性質の何かになっているからな。

電気を操る力を手に入れた際、おまけのように四肢が超バラニウム(とりあえずバラニウムの強化合金という認識で問題ない)製の義肢だった体が不可思議極まりない現象の産物として本物の肉体になったのだ。ただし材料である義肢の性質はそのままでな。

だから俺の体は限界以上の加速であっても耐えられるし、さらに言えば力を使ったならありえない挙動も思いのままだ。
つまり急に攻撃を回避して次の瞬間流れるように逆へ移動して殴る、なんてのも出来るってことさ。
「……!」

こんな風に。
俺は自分の肉体を無理矢理気味に動かして拳を叩き込むと、そこからかつて特殊な戦闘術を使っていた経験を活かして『剄力』とかいう自分でもさほど頭では理解していない力を利用し、遠くに飛ばす。
まぁその戦闘術は今や使わなくなって久しいし、技も使えなくなってしまっているが……それでも基礎はしっかりと俺に根付いているからな。
だから純粋な格闘戦となった今回、上手いことコイツをぶっ飛ばすのに使わせてもらった。

だが恐らくこの程度じゃ沈んでもくれないだろうし、ここからはかなり汚いと言われても仕方ない手段の為の準備をするか……
遠くに殴り飛ばした刃物野郎がまだ戻って来ないのを確認しつつ、俺は電磁波を普段より相当広めに展開して目的のものを探すことにした。
探す対象は……っとあぶねぇ。
電磁波による捜索を始めた瞬間に跳んで来やがったぞコイツ。
野生の勘で俺の作戦に危機感でも抱いたのかってくらいに今の動きは素早かった……が。
しかし幸いにして展開していた電磁波で上手く刃物野郎のリカバリーを察することが出来たため俺に損害はない。
いやむしろ利益があった。
刃物野郎が自分の勢いゆえにむしろ遠ざかっているのだ。

これは思いもよらない幸運だぜ。
この隙に目的のヤツを探し出させて貰うとしようじゃないか。
俺はある程度高い場所……それこそビルの屋上や塔の天辺にいる奴を片っ端から広めの電磁波でサーチし、怪しいやつを発見したら出力を上げて鮮明にする。
この行動を大体0.1秒前後で何度か終わらせて、やがて八回目のサーチでここから500mほど離れたビルの屋上にいる小柄な人影(電磁波のレーダーで見ているから影というかは分からないが)を捉えた。
そして、俺はその場所に向かって淀みない動作で、出てくる直前に用意した特殊な弾丸を持ちつつ腕を伸ばす。
そう、俺が狙っているのは『イニシエーターを人質にしたプロモーターへの脅迫』。つまり外道の策だ。
正直な話ここからあっちのイニシエーターに攻撃を当てることは通常であれば不可能に近いが……少なくとも俺であれば命中させられる。
まずこの弾丸が俺専用にチューンした特殊な弾丸であること。
飛ばすための火薬を抜いて、その代わりに命中した瞬間に火薬の力で弾けて対象の肉体を内から破壊する弾丸に作り替えたくらいしか分かりやすい特徴はないが、ここで注目するべきはこの弾丸の素材だ。
なんと素材は超バラニウム。バラニウムをベースに多くの金属を配合したらしい現状期待し得る最高の金属素材なのである。
ゆえに通常の弾丸に比べて超電磁砲で撃ったときの射程も長いし、貫通力も高い。
それこそ一対多の戦いで使えば時として逆転の一手にもなり得るだろう。
俺は今回それを使って、イニシエーターを狙う。
そして何よりこの狙撃の肝となるのが磁力によるサポート。
軌道となる位置に磁力を発生させておくことで弾丸の軌道をある程度コントロールするのだ……まぁ、負担は物凄いことになるからあまりやりたくはないんだけどな。
その2つの要素が絡んだこの狙撃は外れない。
何が、あろうと。
「うぉぉぉぉぉ!!!」

俺が狙撃の準備を終えたころ、刃物野郎は再びバネのような勢いで接近してきたが……

もう遅い。決着は付いちまったのさ。
「おい刃物野郎!イニシエーターの命が惜しけりゃ今すぐ降伏しろ!俺はここからお前のイニシエーターを撃ち抜くだけの技術がある!」

俺の口から飛び出る、脅迫の言葉。
はっきり言って俺自身も驚くくらいにこの言葉がすんなり出てきた。
堕ちるとこまで堕ちたなぁ、俺も。
まさか子供を人質にするための言葉をスラスラ言えるとかちょっと軽いショックだわ……あ、これ二重表現。
まぁこんなタイミングで自分の思考における日本語の使い方の間違いは気にするほどのことではないし、とりあえず一旦置いておこう。
今は刃物野郎の一挙手一投足に気を付ける必要がある。
何せ、人質を気にせず攻撃してきたら俺の計画が狂うからな。
……だが俺は、警戒すると同時に確信していた。刃物野郎はこの脅迫に屈するってな。
理由は無いが、強いていえば同族意識に近いものだろうか。
同じ異能を持つ者として、多分コイツはイニシエーターを捨てられるような奴じゃないってなんとなく理解できたんだ。
だから、恐らくこの脅迫は成功する。
「チッ……分かった、だから撃つな。もしそれで撃つようなら……俺は命懸けでお前を殺すと思え」

ほらな?成功しただろう?
「約束しよう、お前が素直にここから去って、金輪際関わらないと約束できるならな」

俺は脅迫が成功したのを確認しつつも、油断なく刃物野郎に要求を伝える。
当然ながらこれは口約束なのでもしかしたら守られないかもしれないが……
その時は体を絶縁体化しても無効化できないほどの高圧電流を喰らわせてやれば良いだろう。
それに、最悪の場合東京エリア全土を焼き払う覚悟で人質を取ることも不可能じゃないからな。
「……分かった」

「よし、交渉成立だ」

交渉が成立したが、俺はなお腕を下ろさずに油断なく刃物野郎の方を確認する。
……無言でこちらを睨んでいるが、それだけだ。
しかし先程までの戦闘を考えても油断は出来ないし、あちらが帰るまでは腕を下ろさずにいた方が得策だろう、
しかし、正直さっさと去ってくれないものだろうかと思う。いい加減腕を上げっ放しで疲れてきた。



……なお、刃物野郎が実際に去っていったのはこの五分ほど後のことだった。
お陰で腕が棒のようになっている……恨んでやるぜ。しばらくな。



半ニートは思う。伊熊くんってもうちょっと夏世ちゃんに優しければツンデレっぽいよねって。
そんな妄想を抱いた結果、伊熊くんは原作の数倍夏世ちゃんに優しい仕様に……うわぁやめてください低評価の嵐だけは!

ただ個人的にはこれでバランスを取っているつもりで居ます。
延殊&木更さん死亡の分のバランスを取るために二人が生存……と、いう訳でもないがとりあえず、原作では死んでしまった二人はこの作品では死にません。異論反論は許すが今のところこの方針が変わる予定はない!


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英雄vs狂った父娘

最近週1投稿みたいになっているけれど、決してそれは半ニートの執筆速度が遅いとかじゃないんだ。
ただ二作品平行しつつだと……週1が限界なんです……

みたいな言い訳をしつつ、投稿。



あー、疲れた。なんもやりたくねぇ。いやむしろティナに甘えまくって2日ほど眠りこけて過ごしてぇ。
労働なんて真っ平御免だ。さっきのはティナにカッコつけたいからなりふり構わず勝ったが、あれがティナじゃなきゃ絶対逃げに走ってたわ……ダルいし。つーかあんなもん相手にしたくねーし。
チクショウ、もう働きたくねー。
何故に一生遊んで暮らしても何十代かは生きていけるだけの財産があんのに働かなきゃなんねーんだか……いやまぁ、金はあるに越したことはないが……

そんな思考をループさせながら、俺は戦場となったスラム街を抜けて自宅への帰路についていた。
幸いにして何かが起こる予兆もないし、面倒事の種も残してないから、このまま帰ってさっさと膝枕されながらダラけて1日過ごすという最高の生活リズムを取り戻そうじゃないか……
そう頭の中では言いつつ、早く家に着かないかなとか思ってしまう俺の子供っぽい部分が体を急がせるのではなく、家までの距離を測ろうと無意識に電磁波を全包囲に飛ばし始めた。
しかしそれはもう、本当に本当に微弱なもので……それこそ誰かを見付けることは出来ないしガストレアも相当デカくなきゃ捉えられない、そんな電磁波をだ。
別に精度の高い奴にしたところでエネルギーを食うだけだしな。
それに距離だけ測るんならむしろ細かいものは探せないこっちの方が便利だ。
なにせ余計なものが範囲に入っても見えないし、長時間の展開でもまったく負担にならない。
そんな俺の精神衛生的にもエネルギー収支的にも優秀なコイツは出来れば四六時中展開していた方が奇襲を警戒しなくていいから楽なんだが……実は1つだけ欠点がある。
それこそとても重大な欠陥で、それが直らない限り継続してずっと使うってのは難しいだろう。

……その欠点とは、ティナとこの電磁波との相性が最悪に近いのだ。
どうやらティナが改造を受けた際に脳に埋め込まれたBICだかBMIだかは俺の放つ電磁波に反応してしまうらしく、妙な音が脳に直接聞こえてしまうらしい。
ティナの自己申告によればそれは狙撃に影響は与えない程度のものではあるのだが、流石に四六時中聞こえるとなると辛いそうなので……俺は電磁波を四六時中展開することはしない。
というか出来ないしやりたくない。
奇襲を警戒せずに済む程度のことのためにティナに負担を掛けるくらいなら、奇襲すらものともしないくらい強ければ良いだけの話だからな。
……まぁ、電磁波については先生辺りに頼んで対策をしてもらうって手もあるんだけどな。
しかしそれをするととある裏技というか、便利な手段が使えなくなってしまうのだが。
その手段とは……
『今帰るわー』

いわゆる念話、というか電話の一方通行かつ口に出さずに言葉として伝えられるバージョンである。
これは結構前、なんとかしてこの電磁波が生む雑音を無くせないかと試行錯誤しているときに思い付いたものなんだが、意外にも便利だったので愛用しているのだ。
なにせ戦場で言葉にせずとも意思を伝えられるというのは大きなメリットになるからな……それに俺が単独行動したとき、ティナからの援護を要請するかしないかの意思を伝えることも出来る。
なにげに便利な技術だ。ゆえにこれを捨てるのがもったいなくて根本的な対策を出来ずにいる。
あぁ、もどかしい。一方を立てればもう一方が立たないって状況に恨みすら抱くよ。悩ましくてしかたない。
俺がティナに合図を送ったあと、そんな特に今考える必要のないことを考えながら歩いていると、不意に酷く耳障りな、だがどこかで聞いたような音が聞こえてきた。
ううん、なんだっけかこの音……あえて何かに例えて表現するなら、救急車のサイレンとも消防車のサイレンともパトカーのサイレンとも違う、なんというか絶妙に耳に入ってくる感じの聞き覚えのある音なんて、なにかあったっけか?
俺は聞き覚えのない音に一瞬困惑し、思考を少しの間止めてしまった。
しかしすぐに思い出した。
あぁ、これステージV襲来の合図だなって。
懐かしいじゃないか。この音を聞くのはあのクソゴミ以来だ。
このサイレンは鳴らないに越したことはないのだろうが……俺としては少しありがたいな。
まだ少し痛めつけ足りて無い気がしてたんだよな。キャンサー。
だから新しく来たステージVも、思いっきり全力で確実に消し飛ばしてやりたいところだな。
それこそさっきの戦いでぶつけた力の数倍、いや数十倍の威力で周囲への影響なんざ一切考えない、手加減自重一切なしの悪夢のような雷撃を。

……おっと、その前に忘れずにティナに連絡入れておかないとな。
しかし、決戦の前にやることを思い出したりすると、どうにも締まらないもんだな……
俺はそんなことを考えてから電磁波でゾディアックのいる方角へ走り出すのであった。



……さて、突然話が変わるようで悪いのだがこんな言葉をご存知だろうか。
『戦場で最も厄介なのは、賢い敵ではなく愚かな味方だ』と。
誰の言葉かは知らんし、もしかしたらこれを教えてくれたどこぞのおっさんが考えたのかもしれないが……これは紛れもなく事実だと俺は思う。
特にその『愚かな味方』が下手に強いほどその傾向は顕著で、さらに数が多いと一番酷い。
まぁ愚かな味方であっても、数が少なければ皆殺しもやむを得ないとしてやりやすいだろう。
だがしかしそれが100人、1000人となれば話は別だ。
たとえ大義名分があろうとも俺はそいつらにとっての敵になり、そしてそれに対する防御で俺の火力が足りなくなり、結局全員滅びるって展開もありえない話ではない、と言えばその面倒臭さと最悪さをご理解頂けるだろうか。

そして今、そんな最悪の味方がざっと300人ほどでゾディアックと殺し合っていた。
いや、ゾディアックとだけじゃない。
そいつらが戦っているのはゾディアック+仮面野郎だ。
何かと悪運の強さで生き延びてる仮面野郎がここにきて一番の面倒事を引き起こしてくれやがるとはなんとも笑えない冗談だよ、まったく。
今すぐこの場所から今度こそ確実に仕留めてやりたい気もするが……すると今度は大勢の味方もどきに当たって損するんだよなぁ。
いっそ全滅してくれた方がまだマシだぜ。特に俺みたいなワンマンアーミーにはな。
まぁそもそも軍人じゃないからワンマンアーミーというのは違うが。
「ハハハハハッ!素晴らしき哉!勝てぬと分かっていながらも私を殺そうと立ち向かうその姿勢、実に結構!しかし気合いや根性で届くほど私という壁は低くないのだよ!」

……前言撤回しようかな。このまま皆殺しにしてや……ると延殊の遺言に反するからダメだとして、誰彼構わず半死半生くらいにしてさしあげれば良いかもしれない。
なんせあの一匹の雑魚に過ぎない仮面野郎が無双してる絵面とかこっちからすりゃあ気持ち悪い以外の何物でもないし。
そうだ、いっそのこと天罰でも落としてやるとするか?
神話において天罰を下す神様ってのは雷を起こすやつが多いし、その点においては俺も当てはまるからな。
うんそうだ、それがいい。
まぁこれでは延殊の遺言には反してしまうが、きっとあんなやつが消えてくれた方がみんな喜ぶはずさ。
まず俺は敵が減って喜ぶ。
あの味方もどきも強敵が一人消えて喜ぶ。
一部政界の奴等もテロリストを一人消せて喜ぶ。ついでに聖天……いやアイツの場合は変な人類愛でむしろ悲しむかも。
しかし考えただけでも喜ぶ奴等がうじゃうじゃ出てきたな。流石は仮面野郎、嫌われてるぜ。
そうだ、気が変わったから嫌われ者を極めかけている仮面野郎にはプレゼントをあげよう。
なに、遠慮はするな。ありがたく首で受け取りやがれば良いだけさ。
俺はポケットから、珍しく弾丸ではなく一本の針金を取り出す。
ちなみにリング状に曲げたやつだ。
そう、今回はこれを上手いこと首に電磁砲で飛ばして首を切ることにしたのだ。
いくら針金という脆く柔らかい金属であろいとも、亜音速で首に当たればマトモな人間の首を斬ることは熱したナイフでバターを切るように容易であるし、マトモじゃなくても普通に斬れるから実はそれなりに有用だ。
ただ、欠点として多少俺の方から軌道のサポートをしてやる必要があるんだが……それを差し引いてもそれなりに対人に便利ってのは変わらない。
何故かって?
……そりゃあ簡単さ、誰だってこれまで相手してた奴の首が斬れたら怖いに決まってるよな?
そんな心理を利用して、敵にパニックを起こさせ統率を崩す。そういうテクニックのために針金が俺のポケットに入っているのだ。
今回はその使い方はしないけどな。

……さて、ひとまず誰に対してなのか分からない説明を終えたところで狙撃に移ろう。
「恨むなよ仮面野郎……もし恨むとしても、俺じゃなくガストレアでも恨んでくれ」

俺は仮面野郎より幾分か高い場所に陣取りつつ、仮面野郎の動きを先読みして確実に当てるべく電磁波によるサーチを開始した。
しかもいつもより精度重視にしたから……仮面野郎の心臓の動きまで丸見えだ。
うへぇ気持ち悪い。
電磁波の精度を上昇させて心臓を見えるようにしたは良いけど、これは……機械だろうか。
仮面野郎の体内にはかなり大きい機械が存在した。
それこそ仮面野郎の胴体部分の七割から八割ほどを占めるくらいに大きい機械が。
ついでに言うなら、その機械はバラニウム製かつ原料になんらかの混ぜ物をされているようで……俺の磁力で狂わせることは難しそうだ。
磁力に反応する筈のバラニウム製機械で磁力に反応しないというのも妙なものだが、恐らく先生が作ったと言っていた試作の合金だろう。
まぁこれは先生からの受け売りになってしまうのだが、超バラニウムの完成までには数多くのバラニウムを配合した合金が生まれたらしい。
それこそ電気抵抗が極限まで高められた特殊なバラニウムや、少し脆くなった代わりに発する磁場がとても強くなった特殊なもの、さらに既存のバラニウムとはガストレアに対して毒となる効果以外ほぼ全てと特性が異なると言えるバラニウム合金すらあったらしい。
そして、あの仮面野郎の体内の機械は電磁波によるサーチを信じるなら……ほぼ確実に磁力の影響を受けないタイプのバラニウム合金を使われていると思われる。

まぁ、確かに世界を探せば異常進化によって磁力を操るガストレアもいると聞いたがな……
何故に体内の機械にそんな合金を使ったのやら。
今時の精密機械は磁力で狂わされることがほぼなくなったし、怖いのはせいぜいが『磁力に引かれてパーツが歪む』ってことぐらいだろうに。
それならいっそパーツが歪まないように普通に超バラニウムあるいはそれに準ずる強力なバラニウム合金を使えば良いはずなんだが。解せぬ。
……まぁそんなことは良いとして、今回に限っては磁力の影響を受けないという特性は少し面倒だ。
針金の誘導にアイツ自身を使うことが出来ないのは痛い。

だからその分しっかり狙わないとな……俺は構えた針金を仮面野郎の首に向け、放つ。
速度的には音速は越えず、しかしそれでも十分速いと言える速度で。
まるで暗殺者が忍び寄るように、針金は静かに仮面野郎の首に接近する。
そして……次の瞬間、俺も一瞬認識出来ないような速度で新たな敵が現れて針金を斬り払ってしまった。
「パパに……近付くなぁ!」

……そういや、仮面野郎のイニシエーターが居たっけな。
完全に失念していた。完全に油断からのミスだ。
俺は自分の失敗を反省しながら、ひとまず先にイニシエーターから片付けてやろうと構えを取るのであった。



あぁ……早く日常パートに戻りてぇ……ダラダラした話を書きてぇ……
いっそ番外……ってやっても大して本編の日常パートと変わらんわ……

いっそ蓮太郎とティナの過去編みたいなのをやってみるかねぇ?


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冷めた英雄vs狂人父娘

うっかり別の作品用の話をこっちに間違って投稿した挙げ句焦って消したらバックアップを取り忘れ……

そして急いでそっちの方を書こうと思いつつ最速でこっちの方を書き終えてみた結果……まぁ、お察しということで。



戦いの始まりは相手方のイニシエーターによる斬撃だった。
速さ、正確さともに申し分ない一撃。
文字通り相手が人間なら必中必殺の奥義となっただろう。
特に抜刀術どころか剣術ですら使ってないのにこの剣速を繰り出せるというところには素直に驚愕するしかないだろう。
まさに天才ってやつだな。
しかしそんな必中必殺の一撃も、マトモな人間ではない俺相手には通じない。
先刻の刃物野郎との戦いのせいで忘れがちだが、俺はこれでも視力がいい。
視力とはつまり文字通りの意味でもそうだが、戦闘における行動を決めるための視野でもあり敵の実力を測るための視力でもある。
あの刃物野郎は実力だけで見れば序列二桁前半は固いだろう。しかしイニシエーターの方は優秀だがティナのように桁外れに強いって訳でもなさそうだし……総合力で考えると二桁後半から三桁前半というところか。
で、現在戦っているこいつらの場合の分析はこうだ。
圧倒的耐久力と中距離に向いた装備によってサポートに回るプロモーターに加え……さっきイニシエーターがパパと呼んでいたし、実の父娘と思われる……イニシエーターの近距離において無敵に近いであろう神速の攻撃。
どちらにしても単体であれば余裕過ぎて一分ほど時間を与えてから目を瞑ってでもワンサイドゲームを行えるだろう。
しかし二人同時となると少し厄介な相手になる。
イニシエーターが神速の連撃で行動を抑制し、プロモーターが正確な援護と火力の高い何らかの攻撃によってダメージを蓄積しせてくる戦法は恐ろしく強い。
それこそ俺が厄介だと感じる程度には、だ。
……しかしそんなものは問題ではない。
もしも相手が力量的に序列2桁前半どころか1桁であったとしても問題ではない。

理由は簡単。
俺の力の前に連携などというものは無駄だからである。
連携というものは高度になればなるほど緻密な動きになり、ズレが許容されなくなる。
それこそ確実にリンクした完璧な動きを要求される、というところだろうか。
たとえばこの父娘。コイツらは完璧な連携により斬った次の瞬間に謎の攻撃を喰らわせてくるような、正に奇術とでも評するべき攻撃を行っている。
それこそどちらかがズレれば自滅待ったなしの、な。
そして俺の操る電気の一種には、生体電流ってものがある。
その操作には微弱な調整を要求されるし一歩間違えば成功しない、難易度の高い小手先の技だ。
しかしだな……もしそれを都合良く相手の体に流せたら、どうだろう。
通常神経を通って行われる命令伝達に合わせて別の命令を、高優先度で上書きしたら?
どうなるかは自明の利だよな。

俺はこの攻防の間にこっそりとセクハラ紛いの攻撃でしれっと触れて読み取っていた生体電流のパターンのいくつかをイニシエーターの要所要所を動かす神経の伝達ルートに横入りする形で撃ち込んだ。
命令内容は至って簡単、というかそれしか出来ないが、しかし単純かつ強力なものを選んだ。
『左足で蹴ろうとする』『右足で後ろに跳ぶ』の2つ……正確にはもう少し細かい……である。
まぁもちろん、左足を蹴り出しながらもう片方の足で跳んだら……
「えっ?」

バランスを崩して転ぶに決まってる。

相手のイニシエーターは、突如自分の体が言うことを聞かずに勝手に転んだことに困惑しているようだ。
クックック……驚くだろうよ。至って普通に戦っていたら突然自滅するんだもんなぁ?しかも自分の意思に関係無く、よ。
無論その程度で俺は満足しない。
そのままの勢いで仮面野郎も一気に殺ってやろうと第二波の命令信号を送る。
今度の命令はこうだ。
『右膝を抱える』『腕を動かさない』。
ただ相手を自分自身の力で拘束させるための対人用小技である。
ちなみに右膝を抱えて腕を固定する体勢とはどういう物なのか分からない人も居るだろうから、別の表現を使ってお伝えしよう。
頭と足一本を残して折り畳んだ片足立ち。だ。
言わずもがなこの体勢は死ぬほど不安定で、うっかりバランスを崩そうものなら転んでしまうこと受け合いの、酷い状態である。
しかし戦場において転ぶことは即ち死に直結するため……ある程度訓練された兵士はついうっかり転ばないようにしてしまう。

それが、俺の思惑だとは気付かずに。
仮面野郎が咄嗟にバランスを保とうとしている間に、俺は電磁波で仮面野郎の周囲100mほどをサーチしていた。
その中に攻撃へ転用できる大きめの金属片はないか、あるいは車の一台でもないかという若干の祈りも籠めて。
そしてその祈りは届いたのか、約250にも及ぶ大小様々な金属片が見つかった。
手榴弾でも使ったのか、やたら細かい破片もあるが……まぁ関係無い。利用するだけなら大して変わらんさ。

……さぁ、さっさと片付けよう。
俺は脳内で仮面野郎の半径100mを細かくイメージした。
そしてその半径100mの空間に、ある流れを産み出す。
磁力と電撃による嵐。
金属が触れる度に巻き込んで段々と被害を増していく凶悪きわまりない災害が、仮面野郎たちを襲う。
まさに死体に鞭打ち、と言ったところか。
まだコイツらは死んでいないし打つのはムチではなくあくまで金属片だがな。
まぁ、さっきの刃物野郎戦ではある理由から使えなかったから、今のところ今月一回目の使用となる大技だ……存分に喰らいな、我が敵よ。
【刃雷磁嵐】。
鋭い金属片、つまり刃が空中を高速で動き回り、電撃によって体を焼く。
ただそれだけの簡単な大技で、仕込みに多少時間もかかる……しかし威力は本物。そんな技だ。
無論人に向けていい威力はしていない。
しかしこれまでになんだかんだ言って俺の攻撃を受けて生き残り続けている仮面野郎はきっと人ではないに違いない。
何故なら人間に俺の超電磁砲を受けきるほどの耐久力はないだろうからな……いや、もしかしたらコイツが実は改造人間で、どこぞの仮○ライダーと同じくとてつもなく頑丈ってんなら話は別だが。
って仮面繋がりとはいえ仮○ライダーに失礼だろうが。

俺は無駄に冷静にセルフツッコミを入れつつも、刃雷磁嵐に仮面野郎とそのイニシエーターがどう対応するのかを見る。
ここで攻めに来るかそれとも守りに入るか、あるいは逃げるかで相手の底がある程度分かるんだが、さてどうなるかな……
「パパっ!」

「ハハハ……任せなさい、小比奈!」

荒れ狂う刃の嵐の中、イニシエーターは仮面野郎にぴったりとくっつき、コートの中で何やらしがみついている。
まぁ確かに、いくらただのコートであっても何もないよかマシだろうが、一体何を?
相手が何をやるのかが気になり、俺は面白半分で刃雷磁嵐に少し細工をした。
ただ渦を巻き金属片で傷付けるだけの磁力の嵐を、金属片が自然な形で上にある程度集中するようにしたのだ。
これによって仮面野郎が上からの脱出を試みている場合に対応がしやすくなる。
そして下から出ようものなら……そこでは二段構えとして、俺が直接狙撃する。
無論威力最大の超電磁砲で、だ。

さぁ……どうする?仮面野郎。
「哭けゴスペル!詠えソドミー!……エンドレェェェェェェェス!」

俺が中々に隙の少ない二段構えで仮面野郎たちの命を狙っていると、突如として仮面野郎は叫びながら銃を地面に向けた。
真上からの脱出でも狙っているのか?
なるほど確かにいい狙いだ。刃雷磁嵐が嵐に近いことから台風の目と同じような状況になっているのではと踏んだのだろう。
だが、いくらなんでもその程度のことに対応出来ないとは思わないでもらいたいものだ。
俺は超電磁砲の照準をずらし、刃雷磁嵐が展開しているほぼ真上辺りに当たりを付け……そして少し刃雷磁嵐の動きを変えた。
渦のようだったそれを、今度は無作為かつ考えなくただただ高速で対流させる。それだけの動きに。
これであっちはどこに居ても刃雷磁嵐の範囲内にいる限りダメージを受け続けるハメになるため……多少なれど焦る。
だから俺はその僅かな心の焦りを突き、この超電磁砲で決める。
「……スクリィィィィィィィィィィィィィィィム!!!」

仮面野郎は、全力で絶叫しながら訳の分からない衝撃波……と思わしきものを地面に向けて放った。
その速度は人類の跳躍(これが正しい表現かは知らんが)のソレを遥かに越えているが……残念ながら、それは超電磁砲であればギリギリ捉えられる速度だ。
「逃げられると思うなよ仮面野郎!」

俺は全力全開の超電磁砲を放つ。
威力、速度ともに仮面野郎まで届いたらすぐ燃え尽きるギリギリのそれであるそれは、弾丸の数十倍はあろうかという速度で仮面野郎たちに迫る。

しかしその弾丸は、仮面野郎まであと5mというとこれで何か物体を貫通し始めているかのように急激に速度を落とした。
そして、速度を落とした弾丸は即座にイニシエーターにより排除され……俺が二発目を撃つまでもなく、仮面野郎はもう一度急加速して何処かへと逃げていった。

一方、逃げた仮面野郎たちに対し俺は、次会ったら人間とはハナから一切見ずに全力で不意打ち気味に殺すとイラつき気味に決定するのであった。
……なお、このイラつき故に俺はすぐ横で自衛隊たちがゾディアックと戦っていることを思い出すのに数分ほど掛かってしまうのだが……今する話でもないだろう。



次回からはスコーピオン戦です。
しかし原作のようにレールガンで一撃、ってのはない予定です。


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天蠍宮vs英雄

ぴったり1週間ぶりの投稿。とりあえず何故か文字数が5000いくらかまで伸びてしまった。
しかしスコーピオン戦はまだまだ続く。
原作とは違い影胤さんが早期に退場したから、まだまだ続く。


ゾディアックガストレア、キャンサー。
かつて俺が討伐したゾディアックであり、現状マトモに討伐者が確認されているゾディアックであり、そしてバラニウムであっても、超バラニウムであってもほとんど傷付けることの出来なかった甲殻を持つ……現在最硬のガストレアだ。
特にカニの代名詞でもあるハサミはその巨体(聞いた話じゃゾディアックでは最小らしいが)であっても不釣り合いなほど巨大になっており、凄まじい硬度を誇る甲殻に包まれたそれは降り下ろすだけでもとてつもない被害を人間たちに与えた。
それだけでも驚異だと言うのに、そのハサミには鈍器やそのままハサミとして使うだけでなくもう1つ使い道があった、というのも問題だ。
これは今のところ俺しか知らない情報だが……ヤツは追い詰められると何やらハサミの奥から仕込み刀とでも言うべき代物を伸ばしてくるのだ。
その勢いはまるでパイルバンカーのようであり、恐らく当たれば俺であってもその場で死ぬことはまちがいなかっただろう。

……さて、ここまで散々ゾディアックの力を説明したわけだが、いかがだろうか。
強大だろう?
ステージIII程度であっても苦戦するのが一般的で、IVなんか出たものなら復興に一年掛かってもおかしくないようなことになるのが珍しくないこの世界においてゾディアックの力は強大、いや、ほぼ無敵に等しい。
何故ならゾディアックは人間が考えるよりも恐ろしく進化しているからだ。
カニであれば凄まじい威力の刀とも呼ぶべきものをハサミに隠すし、牛は大量にステージIVを従えたという。

しかし、人間も負けたものではない。
事実これまでにも金牛宮、処女宮の2つは破られたし、俺も一体倒した。
そう、あのゾディアックを、だ。
人間の意地はそう簡単に破れるものではない、ということである。
……まぁ、ここまで堅苦しく語って来といて難だが、俺が言いたいことは1つ。
「人間ナメんなよ?ガストレア風情が」

俺がそう呟くのを皮切りに、超帯電モードの大電力を活かしたガレキによる無数散弾電磁砲⇒少しでも刺さった散弾を誘導に使った落雷に等しい威力の、質量を持たせた電撃のコンボがスコーピオンを襲う。
1つ1つがまさに一撃必殺の、いやオーバーキルじみた威力を誇る攻撃だが……これでは全然足りないだろう。
少なくともキャンサーはそうだった。
あの時俺がキャンサーにダメージを与えられたのは、延殊が集中して蹴りを入れていた場所に最期に喰らわせた一撃が甲殻にヒビを入れてくれていたからだし、致命傷を受けなかったのは木更さんが死力を尽くしてハサミを斬り裂いて壊しやすくしてくれていたからだしな。
……ハッ、今思い返せばあの時は助けられてばっかじゃねぇか。うわ、世界最強の実態がそんなもんとか、情けねぇてやんの。
……いや、ここんとこの俺がどう考えても素でとてつもなく情けないってのは知ってる。ただ、それ以外の意味で情けないってことだ。

まぁとにかく、ほぼ完璧な状態のゾディアックとサシでやりあうのはこれが初めてになるってことだな。
俺は無駄に冷静にそんなことを考えつつ、体内で第二波のための莫大な電力を練る。
その電圧はおおよそ200億ボルトと言ったところだろうか。
「GYY……GRYAAAA!!!」

しかし、そんな莫大な電力であっても実はただ喰らわせるだけじゃあそこまで効果はない。
何故なら俺の生み出した電気そのものにはほとんど物理的な威力がないからだ。
たとえば……そうだな、雷雨の時に大岩が割れるって現象があるんだが、その原理をご存じだろうか。
あれは雷が当たったから割れているのではなくて、雷が当たったとき、岩のヒビやらなにやらに溜まった水が超音速で振動することによって割れるんだ。
……まぁ俺の電気の場合、一部の使い方においては当たるだけで対象を破壊するのも難しくはないんだが、それは例外だろう。

さて、それじゃあ問題だ。
何故俺はわざわざただ当てるだけじゃ大して意味のない莫大な電力を生み出したのか。その答えはなんでしょう?
俺は体内で練った電力の一部を自分の肉体の強化に回して今まさにこちらを尻尾で突き刺そうとしていたスコーピオンとの距離を詰め、そしてサイズが違いすぎて確認しきれないが恐らくは頭と思われる部位に手を当てて一気に高圧(どころじゃない)電流を流し込んだ。
「正解は、ゾディアック式電子レンジをやるためでしたー、ってな!」

俺自身そこまで詳しいことを理解してる訳じゃないが、生物の体には必ず水が含まれているから、それを電子レンジと同じように熱することは可能なんだ。
で、今回は電子レンジで熱するのと同じ原理かつ通常のレンジを上回る電力でそれを行って……スコーピオンの体内にとんでもない熱が発生して体内から焼こうとした訳だ。

あくまで『焼こうとした』だけなんだが。
「GYAAAAAA!!!」

「ああクソが……あれで体内を焼いて焼きサソリに出来ねーとか抵抗高すぎだろざけんな!」

俺は悪態を吐きながら、自らに触れて焼き殺そうとした鬱陶しい人間を貫こうとしてくるスコーピオンの側から離れる。
体表は砕けず、体内も焼けず、挙げ句の果てに相手を警戒させるだけ警戒させて自分で難易度をHardからExtraにまで上げちまうとはな……
流石はゾディアックと言ったところか。
俺は内心キャンサーが実はステージ4.5くらいだったんじゃないかと思いつつ、スコーピオンの攻撃を回避していく。
基本的にコイツの攻撃はどこに居ても狙えてなおかつ一撃必殺の尻尾、そしてキャンサーのそれと似たようでいて違うハサミの2つによって行われる。
いや、まだ見せていないだけでもしかしたら尻尾から毒やらなにやらを超音速で吹き出せるとかもあるだろうな。多分。
まぁとにかく、その3つが主となってコイツの攻撃は行われる訳だが……やはりというかなんというか、その3つの単純な攻撃は単純ゆえに恐ろしく強い。
かすりでもすれば命はない攻撃しかない上にそのテンポはやたらデカい。
しかも下手なスピード特化型ガストレアの数倍はある。
しかし何よりも特筆するべきはその猛毒だろう。
さっきから避けた尻尾が当たった先が全部溶けてやがる。
ありゃもう一滴でも致命的かもしれねぇ……
ひとまずスコーピオンの尻尾、あれはなんとかして破壊する必要性があるな。
俺はそう決定し、次に作戦を立て始める。
コイツの尻尾を切る、それだけならやり方はいくらでもある。
それこそ射程をほぼ0にした超電磁砲とか、質量を持った電気の剣を最大出力にして斬り刻むとか。な。
だが問題はそれじゃない。
そう、それを当てるためには接近する必要がある……しかし、当てられるだけ近寄るためにはコイツを引き付ける囮が必要なのだ。
自衛隊じゃあ一瞬で溶けかねないから強度が足りないし、ヘタな民警だって同様の理由で難しい。
とにかくスコーピオンを30秒でいいから完全に引き付けていられるほどの実力者が必要だ。
それこそ世界有数の優秀な民警とか……あぁ、あの時刃物野郎の連絡先聞いときゃ良かった。
アイツなら構わず迷わず囮に出来るし、それに俺と同等に渡り合った強力なプロモーターだ。恐らくスコーピオンが相手でもそれなりに耐えてくれるたろう。
あとはその稼いだ時間で最大限のチャージを行えば……なんとかなるだろう。多分。
俺はないものねだりだと分かっていながらも、あの刃物野郎を呼び出したい衝動に駆られていた。
あれだけ強くて、なおかつ死んでもなんとも思わずに済むようなやつは貴重だからな。
「GRRR……AAAAAAG!」

「……っと」

スコーピオンは、俺が思案しているのを見て隙を見付けたとでも思ったのか尻尾で突き刺してきた。当然避けたが。
しかし、いくら避けられるからと言って無意味なことを考えるくらいなら少しでも有効な攻撃方法を考えるべきではないのか。

……いや、正確には有効な攻撃方法を取るべきではないのか。だな。
まぁ、その、あれだ。
気付いてはいるんだ。世界有数の優秀な民警かつ俺が呼び出せる相手は、実はすごく身近にいるということに。
そう、ティナだ。
ティナは元々ほぼ単独での実績で二桁まで上り詰めた優秀なイニシエーターだし、恐らく俺が呼べばすぐに駆け付けてくれるだろう。
それに多分、囮を頼んでも引き受けてくれるに違いない。
あくまで予想にすぎないがな。
だが……きっとティナはやるだろう。それこそ自分の命も顧みずに。
俺もティナに頼まれたらいつまでも時間稼ぎを出来るし、自分自身の危険すら考えずにやってしまうような気はする。
だがそれをやるのが俺ではなくティナだと思うととても受け入れられんし……どうしたら良いのやら。

本能はティナを呼んで時間を稼いでもらえと言うが、理性ではティナを危険に晒したくないと騒いでいる。
どうするべきなんだ?
たとえばティナに時間稼ぎを頼んだとして、もしそれでティナが怪我をしてしまったら?死んでしまったら?
……前者だとしても恐らく当分は怒り冷めやらぬことだろうし、後者ならきっと俺は悪鬼羅刹と化することはほぼ確定だろう。それだったらゾディアックを倒しても何も変わらん。
まぁ結局、スコーピオンは俺が一人で倒せということなのかもしれないな……
こうなったらいっそ、殺されるのを覚悟で大技に全てを賭けようか。そう考えようとした瞬間、不意に携帯が鳴った。
誰だ?こんなときに。
俺はとりあえず留守電にしとくか、とも考えたが、もしかしたらティナからの電話かもしれないしそうだったら留守電にした場合後で物凄く拗ねられるだろうな……と思い直し、戦闘中にも関わらず電話に出ることにした。
『もしもし』

……電話の相手は、声の感じからするとティナだ。というか間違いなくティナだ。
どうしたんだろうか。
俺はスコーピオンのさりげない一撃を回避しつつ、内心少し心配になっていた。
「なぁ、こんなときに電話掛けてきたってことは何か緊急事態でも……」

『いえ、なんとなくおにーさんが馬鹿極まりない賭けに出ようとしている気がしたので止めようと思って。まぁ女の勘ですが』

……なんだ、どうやら緊急事態には陥っていないようだ。ひとまず安心して構わないだろう。
しかしまぁ、そんなことをなんとなくで察せちまうのかよ。女の勘ってすげぇ……いや、でもこれ女の勘とか言ってるけど多分これまでの行動パターンから何をするか読まれただけだな。
まぁそれだけでも驚異に値するんだろうが、なんというか嬉しいやら恐ろしいやら。
しかし、止める、ねぇ。
この状況じゃそれ以外に方法なんて無いだろうに……
『あと、それ以外に方法が無いからって言い訳も禁止です。とにかくおにーさんが生き残れるようにしてください』

「んなこた言ったって……!」

『おにーさんが死んでしまうようなら、私はすぐに後を追います』

「……」

しまったな。言い返せない。
ここで大技に全てを賭けるなら命を賭ける必要があるが、俺が死ねばティナも死ぬと言うのならそれは俺の命だけでなくティナの命も賭けに使ってしまうことになる。

だが気持ちの面じゃそれを拒否したくても、現実問題このままじゃ俺はいずれじり貧になって死ぬ。
かと言ってティナが一人来ただけじゃ大して変化はないだろう。ただ少しだけ楽になると言う程度だ。
俺はそう判断し、電話を切って大技の準備に入ろうとした。
『それに、今おにーさんが無理して命を賭けずとも、私と多少腕の立つという民警の方を何人か雇ってそちらに向かっているので、囮にでもなんにでも使ってください』

……ふむ。
『ですから、せめて私たちが到着するまでは無傷でいてくださいね?』

「……あいよ」

しかし、どうにも俺はティナの言葉には逆らえず、無意識に肯定の意思を示してしまうのであった。

……時間稼ぎ、か。
ティナたちが到着するまで待って、着いてから戦う……か。
なるほど合理的だ。それに、責任重大だ。
もし失敗すればティナに危険が及ぶかもしれないこの作戦。
やるしか、ないよな。
仕方ない。
俺は自分の中で少々区切りを付けると、構えを作ってスコーピオンに向き直る。
その瞬間にもハサミが迫るが……
「スコーピオン、俺としちゃお前とは一生顔も合わせたかぁないしもうさっさと帰りてぇが……もうちょっとだけ」

……相手してやんよ。
そう呟くと同時、攻撃を受け流してその力を流用してスコーピオンを転ばせる。
なぁに、時間稼ぎ程度俺には簡単よ。
何時間だってやってやるさ。
今回はティナが来るまで、だがな。



どうでも良いことですが現状いまだに決まらないものがあります。
とても肝心なものなのに。
予定ではとても重要なものなのに。

……あの元盲目の子の名前が決まらん!
候補がありすぎる!

……まぁ何が言いたいかというと、この1巻の内容が終わったらそのあとの更新がしばし滞る可能性が出てきた……ってことです。


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英雄の時間稼ぎ

6日掛かっていつもより少なめとかナメてんのかと言われても仕方ないですが、ひとまず投稿です。
もう一話分がほぼ出来てるんで明日投稿します。
そんなわけで、いつもより短い本編、どーぞ。


時間稼ぎと言うものは基本的に難しいこととされる。
それこそ相手が強くても弱くても難易度が上がるクソ仕様だ。
なんせ相手が弱すぎりゃこっちは一撃も喰らわせてやることが出来ないから相手に時間稼ぎだと悟らせずに時間を稼ぐのが難しいし、強すぎりゃこっちがやられる。
理想的な状況は同じ程度の戦力が揃っているとき、だろうか。
例えば……今みたいに。
「チッ……並列エレキアロー!」

俺はスコーピオンの攻撃を質量を持った電撃によって少し減速させながら回避する。
手は抜けないし一瞬たりとも気が抜けない。一撃でも喰らえば決まってしまう、そんな戦い。
そこで時間稼ぎをするのは難しい筈だが……幸いにして俺にはそもそも受けずに避けることができる速度がある。
だから、ティナが来るまで延々と、延々と避け続けるのだ。
攻撃のことは考えずにただただ回避に重点を置いていれば自然と余裕は生まれるし、そしてその余裕は俺に精神的な持久力を与えてくれる。
元々人は余裕の無いときほど失敗しやすいものだ。ゆえに余裕を保つことで失敗を防ぐのは実に利にかなった行為であると言えよう。

事実余裕を持って回避に徹している今の方が疲れないしスコーピオンの攻撃も回避しやすい。
攻撃に意識を回していた時は2つのことを同時に考えていたせいもあって思考ソースはカツカツも良いところだったのが今は別のことを考えることすらできている。
例えばスコーピオンが何かしら特殊な行動をとった時の対処法を考えたり……あるいは攻撃のパターンを探したり。
そしてそれによってスコーピオンを詳しく知り、さらなる余裕を作り出し、その余裕でより詳しく分析する。
それを繰り返し続けることで、俺はいずれコイツを完全に圧倒することが出来るようになるだろう。
それがいつになるかは知らん。
それこそ俺のスタミナが切れる寸前になるほど先かも知れんし、案外すぐそこに迫っているかもしれない。
しかしその繰り返しは現在、順調にスコーピオンに対する際の余裕を生み出し続けていることからも考えられる通り、やはりそれほど遠くはないに違いない。
「GYAAAAAA!!!」

そんなことを考えていると、突然スコーピオンが新たな攻撃を繰り出してきた。
確か……一部の毒蛇は毒液を飛ばして相手を倒すと聞いたが、それに近いのだろうか。
スコーピオンの尻尾から強烈な酸が放出され、俺に向かって飛んできた。
「……っ!」

咄嗟に避けるが、速度がかなりあったため完全に避けきることはできず衣服の端を少し掠めてしまい、酸に触れた部分が溶解する。
そして残りの酸は……うへぇ。

スコーピオンから目を離すことは出来ないために電磁波で確認したが、どうやらあの酸は俺の服をすこし溶かしたあとすぐに地面に大穴を空けたようだ。
その大きさは直径がおよそ2mほど、深さは0.7m。酸は全て気化したようだ。念のため穴の周囲には近付かないで置く方が得策だな……
俺は瞬時に酸攻撃への対策を考えると、次あれを出されたらどう対応するかを考える。
まず予備動作を見て避けるのは不可能に近いだろう。
アレはどうやらほぼノーモーションから撃てるようだし、そんな攻撃を予測するのは体内の状況でも見れなきゃ無理だろう。よってその線は諦める。
じゃあ……撃たれたあとに避ける方法だ。
これは案外難しいものじゃない。
常に電磁波を張っておけばそのコースを大体予想できるし、向きさえ分かれば瞬間的に自分の体を電気で強制的に動かして避けられる。
まぁその代わり負荷はとんでもないことになるのだが……そこは我慢するしかないだろう。
俺はひとまずの方針を我慢する。に決定すると、すぐにその方針に反する行動を行った。
「とりあえず喰らっとけ……超電磁砲・狙撃ver!」

それは超電磁砲による狙撃。
我慢だなんだと言いながらいきなり攻撃するのも変なものだが、しかしこれには意味がある。俺が狙った場所にな。

そう、その場所とはつまり……尻尾の先端、しかも酸を撃った穴の部分だ。
さっきの大穴から考えてもそれなりの量を撃ったのは間違いないし、だったら酸を撃つ穴も最低限狙える程度には大きいんじゃないか、とも思った。
だが、これが通常の狙撃なら恐らく当たることは絶対にありえなかっただろう。
なにせ普段は狙撃なんぞせずにただ接近して一撃で終わらせてるやつにそんなことが出来るわけがないからな。
しかし不可能を可能にするトリックはないわけじゃない。
それが磁力だ。
俺は狙撃の瞬間にスコーピオンの尻尾の先に強烈な磁力を発生させて弾丸を誘導した。
それによって超電磁砲は微妙に軌道を修正されつつ、狙い違えず命中したのだ。
まぁ、ズルと言われたら反論できないんだがな。いや戦いにズルも卑怯もないのだが。
そんなことを考えていた矢先、不意にスコーピオンが咆吼した。
「GA………GRAAAAAAAAAAAAAA!!!!!」

……っと、どうやらスコーピオンは自慢の尻尾を潰されて大層お怒りみたいだな。
ティナが来るまで耐えるのには変更なしとして……それまでどう避け続けることにしようかね。
俺はまだ隠し玉を持っていると思われるスコーピオンの一挙手一投足に気を払いつつ、更に戦闘へ集中するのであった。



最近ようやく例の盲目の子の名前やら設定やらを決め終わった。
……分かりやすくいうと原作じゃありえない設定が出来上がった。
まだしばらくは使わない設定だろうが……うん。


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英雄と言えど人である

最近サブタイのネタが尽きてきたので段々本編と深い関わりがなくなってきてまする。
あと、ティナちゃん参上の回でする。


スコーピオンとの交戦が開始してからとうに1時間近くが経過していた。
いや、まぁその時間の中には一応あの仮面野郎との戦闘の時間も含まれてはいるから純粋にスコーピオンと戦った時間はまだ30分と少しってところだろうが、とにかく1時間も戦っているのだ、俺は。
たしかティナを待ち初めてから10分以上が経過しているような気もするが、恐らくティナはスコーピオンを足止めするための準備をしているのだろう。
前にティナに完全に任せてステージIVと戦わせたことがあったが、その時もいくつかの重機関銃を同時に動かして蜂の巣にしていたし、きっと今回もそれを使おうとしているのだろう。
だったらそれを信じて待つのみだ。
時間ならいくらでも稼ごう。だからティナには万全の状態で来てもらいたい。
もう俺だけの力で殺しきるのは難しいと分かっている。だからティナの力を借りる。
元々単独でも世界で二桁に入るランクの民警だったティナなら、ここで少しの間時間を稼ぐことなど造作もないだろう。
あとはその時間で限界までチャージして殺害する。それは規定路線であり、もう決定している。
覆す気はないしそれ以外に倒す方法はほとんどないだろう。
まぁ、それこそ核をバンバン撃ちまくって完全に焼き尽くせば倒せるんだろうがな。それじゃ実質俺のフルチャージを当てる以外の方法がないに等しいということになる。

つまり、ティナが来た時がお前の最後だ、スコーピオン。
俺はそう高らかに宣言しつつ、スコーピオンの攻撃を回避する。
滑らかに、それでいて素早く、完璧に。
一瞬の遅れが命取りだし、少しでも乱れたらそこに当たるかもしれない。
だから俺は決してミスをしない。失敗しない。
意地でもこの攻撃に当たってやるわけにはいかないんだ……ティナが来るまではな。
そんなことを考えつつ体を動かし、右へ、左へ、あるいは上に跳んだり伏せたりと忙しく動き続ける。
スコーピオンの攻撃はいまだ種類にして4つのまま変わっちゃいないが、しかしそのどれもが俺を一撃で葬れることに変わりはない。故に油断は許されない。
スコーピオンが右の鋏で俺を消し飛ばそうとしてくるのでそれを牽制と減速のために超電子砲を当てながら回避し、俺は考える。
次にコイツはどんな動きをする?
どんな予備動作で、どんなクセで、どんなパターンで。
その全てを読み続けることでコイツに対処するのだ。

しかし、その思考の間にもスコーピオンは決して攻撃の手を緩めない。そのため常に回避をし続けなければならないが、そんなことなど関係無い。
避けるだけならいくらでも出来る。
それに、今の俺にはいつまで耐えきればいいと言う明確な時間が存在する。
ティナが来るまで。俺の相棒がやって来るまでの間だけを耐えきればいいのだ。
そうすればティナがスコーピオンを足止めしてくれるから安心してチャージ出来、フルチャージして放つ攻撃であればいくらコイツでもただではいられらない………筈だ。
もしかしたらコイツを一撃で葬るのは無理かもしれないな。
なんたってキャンサーの時は………時は………しまった、あのときどうやって倒したかまったく覚えてねぇや。一度ゾディアックを倒した時の記憶が思い出せればスコーピオン戦の助けになってくれるかと思ったんだが。
まぁ、思い出せないならわざわざこの場所で思い出す必要は無いな。記憶をたどる作業はいつやっても構わない訳だし、幸いにして今の俺は昔のように家計がカツカツって訳じゃない。
だったら、コイツを倒してからのんびりと、その記憶を掬い出す作業をするとしよう………出来れば優先度高めで。

俺は自らの思考にキリを付け、スコーピオンの動作を完全に分析することに集中する。
鋏による打撃、尻尾による刺突+酸の追撃、あるいは鋏と酸のコンビネーション攻撃。
その三種類の攻撃に時々酸の連射や鋏による切断なんてのも混ざってくるが、大体その三つさえ完璧に避けられればある程度安定して戦闘が出来ることは理解している。
あとはある程度こちらから行動を制御してやれば、時間を稼ぐのはさほど難しいことじゃない。
まぁその三つの攻撃を避けるのが難しいんだけどな。
速度もサイズも正確さも通常のガストレアの比じゃない。
それに加えて………
「AAAAAAAAAAAAAAAAAAAA!!!」

時々とはいえ、本能に任せたと思われる力任せの攻撃があるってのがまた面倒だ。
それなりにパターン化された攻撃なら会費は容易いのだが、力任せの攻撃はどう来るかが読みにくいもんだから回避が容易じゃない。
いくら人類最強名乗ってたってこちとら人間だ。
んな本能でやってる攻撃なんざ読めたもんじゃない。
ん?だったらどうするのかって?
そりゃあ対処法は簡単だな。
本能に任せた攻撃ってのは大体、スコーピオンが危険を感じたからやってきてるもんだ。
だからこちらから相手にナメさせるために『マトモな戦闘職の人間なら絶対にやらない』攻撃をしてやれば良いんだ。それこそ露骨なまでにな。
相手が下手に頭が良いせいでその攻撃からこっちを少しだけバカと思ってくれることだろう。
それが付け入るべきところだ。敵の油断を誘う、それだけで時間稼ぎには役立つからな。
裏を返せば、それくらいしか付け入って楽を出来るところがないということなんだが。

俺は自嘲しつつも、スコーピオンに対して無駄弾を撃って油断を誘う作業を続行しようとする………そんなとき、不意に携帯の着信音が響いた。
来たか?
ひとまずスコーピオンから離れないことには電話に出ることすら難しいため、大きくバックステップしつつ威力高めの超電磁砲を撃って怯ませて隠れ、そこで通話ボタンを押す。
『遅れてすみません、おにーさん。少し足止めをするための準備をしていたら手間取ってしまいまして』

電話口から聞こえてきたのは、期待していた通りティナの声だった。
どうやら俺がチャージを完了させるまでスコーピオンを足止めするための準備をしていたらしいな。
流石はティナ、抜け目がない。
「いや、そこまで遅れてない。まだまだ余裕だわ」

俺はティナの言葉に強がって返しつつ、少しだけ口角を上げた。
俺は戦闘の中で笑うタイプの人間じゃないはずなんだけどな。ティナが来てくれたんだと思うとどうしても無意識に笑みを隠しきれなくなってしまう。
『どう考えても躱しきれていない攻撃があるのに?』

「………気にするなよ、そこは」

『でもそんなおにーさんも可愛いですよ?』

「そりゃ嬉しいな」

そんなやりとりを数度繰り返したのちに、通話を終了する。
まだ少しティナと話していたいなーとか思わない訳じゃないが、このまま話してたらティナを連れてここから逃げて大阪エリアにでも逃げた方が賢明だよな、なんて思いついてしまう気がしたんだ。
実際今思いついちまったし。タッチの差で俺が通話を終了する方が早くて良かったと心から思う。
あれ、なんだか目から汗が………じゃない涙が………
しかもすげー今自分が情けなさすぎて泣けてきた感じの涙が………
あれか、俺にもまだ常識的な良心が残っていたとでもいうのか。
平日の真昼間から幼女に甘えてるとかいうクレイジーサイコロリコンな俺にそんなものがあるとか、奇跡かっての………さて、もうそろそろふざけるのは真面目にやりますかね(大嘘)。
なんかティナがきて真面目なムードが一気に吹っ飛んじまったが、いい加減真面目にチャージを開始しないとヤバい。
具体的にはスコーピオンにもうそろそろ発見されてしまいそうだ、という意味で。
だからここからは本当に本気で、真面目に、真剣にやろう。
俺はチャージを開始した。
………まぁ、チャージといってもやり方には難しいところはない。俺は通常時神経への情報伝達に使っている生体電流を生み出すのと同じ原理でちょっとした電流(と、言っても常人のそれの数百倍から数千倍の電圧だが)ひたすらに増幅して、大体雷に等しいかそれ以上くらいになったところで体外に放出して攻撃する。
その方法を行って増幅した電気だけが質量を持った電撃として使えるのだ。
で、今回はいつも雷程度の威力で使っていた電撃をさらに増幅して電圧を雷のそれの2乗………大体10億の2乗、1000京Vにする。
で、そのためにいつもはそれほど多く循環させていないところを、何百、何千、下手すりゃ何億回かに渡って循環させ………一気に放つ。
あるいはその瞬間に一気に接近して射程がほぼ0の電磁砲として使用する、ってところだな。
恐らくティナの命を考えると外すことは許されないから射程の長い前者になるだろうが、一応念のために電磁砲として使うことも考えておくとしよう。



スコーピオン戦があと2、3話で……終わればいいなぁ、くらいまで来ました。
このままじゃ二巻(ただし九割以上オリジナルにするしかない)の内容で70話くらいまでいく気がしてます。
なんせ一巻の内容ですでに20話と少しに達していて、ほぼオリジナルになる二巻だと恐らく長くなるので……
なんというかテンポが遅すぎる気がするんですが、どうなんですかねぇ?

まぁそれはともかくとして、書き溜めはこれしか無かったので次回投稿は恐らく5~7日後くらいになるかと思われます。そんだけです。


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観戦する英雄

投稿が遅れたくせに今回は文字通りただ蓮太郎くんが観戦する回というのはいかがなものなのか。
……観戦と言っても戦闘を観る的な意味での観戦ですが。



チャージ率が70%を突破。
それを確認したとき、ティナとスコーピオンが交戦を開始してから、すでに5分ほどが経過していた。
5分で70%だからあと2分もしないうちにチャージを終えることができる計算になるが……思っていたよりも速度が速いな。
イメージとしてはもう少しのんびりとチャージされるものだと思っていたが、違うのか?
そんなことを思いつつもチャージを続行し、どれくらい溜まったのかを確認する。
まぁ確認すると言っても感覚的なものだからざっくりとしか分からんがな。
だが……その感覚を信じるとすれば、現在は約72%で誤差は前後1%ほど。
今1%以上溜めるのに使ったのは10秒以下。
つまりは1%辺り7~8秒ってとこか?
しっかり計算すりゃあすぐ分かるんだろうが、生憎俺は計算が得意な方じゃないし暗算なんて論外、少なくともチャージに意識を回しながらやるのは難しいだろう。
なんせ俺だ。
最終学歴が高校中退の、俺だ。
成績が何故か3、2、4、5の4つで形成されていた微妙な俺だ。
内訳?そりゃあ国英が3、数学2、理科は生物の方で荒稼ぎしてるから4、社会はまぁあの頃は無駄に情勢を見極める能力が鍛えられ続けていた(主に金欠に伴う安い食材の情報入手のため)から公民で引っ張って4、その他実技系は体育、家庭科が5で他は2だった。
……今思うと滅茶苦茶微妙な成績だな、俺。
あの頃は生活するために毎日仕事を探す必要があったからロクに自宅で勉強も出来てなかったことを考えりゃまだそれなりにやれてた方なんだろうが。

あぁそうだ、高校時代のことを考えていたら思い出した。
未織……現在東京エリアで最大規模を誇る司馬重工の令嬢にしてあの頃の俺のスポンサー、そんでもって訳が分からんがしょっちゅう俺にスカウトを掛けて来てた奴……のやつ、あれ以来一度も顔を合わせちゃいないが元気だろうか。
まだスコーピオンを倒してもいないのにそんなことを考えるのはいわゆる死亡フラグになるだろうが、とりあえずこれが終わったらアイツに会いに行ってみても良いかもしれない。
かれこれ1年近く会ってないから忘れられたか、はたまた意外にも覚えていたりするのか。気になるところだ。

……さて、なんだかんだ自分の頭の悪さを自慢したあとで考え事をしながら別のことを実行するマルチなんとか……確かマルチダスク……いやマルチタスクだっけ?をやるのは少し矛盾している気がするし、実際少し集中に雑念が入っているような気もするのであまり頭を使わないことを考えよう。
何も考えないという選択肢はないのか、と聞かれると痛いところだが、生憎と俺は頭が悪いクセに頭を空っぽにして何も考えないってことがティナに甘えている時などのごく一部の例外を除いて出来ない人間なんだ。
正確には空っぽに出来ない訳じゃなく、どうしても思考を続けてしまうだけなんだが。
10歳くらいの頃に天童なんつーこの国のお偉いさん一家に引き取られちまったせいでな。
あの頃の……っと、あぶねぇあぶねぇ。あまり頭を使わないことを考えようとか言ったクセにその次の瞬間頭を使ってら。矛盾してやがるぜ。
そういう訳だから何も頭を使わないことを考える訳だが……果たして何を考えればいい?
それを悩むことも地味に頭を使うしなぁ……
そんなことを考えながら悩むこと約十秒。
俺はようやく頭を使わずに考えられることを思い付いた。
そう、目の前の光景について考え続ければ良いのだ。
具体的にはティナとスコーピオンの戦闘風景を。
それなら実際に起こっていることだからさして頭は使わないし、何よりティナとの戦いで初めて見せる動きもあるかもしれない。
それを学んでおくことはチャージ完了時の命中率にもそれなりに影響することだろう。

……チャージ率、76%。
俺は現在のチャージ率を体感で計測しつつ、目の前で行われる高速戦闘を見届ける。
かたや人でありながら人でない人間、かたやその種の限界すら超越し星座の名を与えられたバケモノ。
その戦いは恐らく普通の人間の目にはマトモに映りもしないだろう。
その高速で行われる戦いは、きっと素晴らしい審美眼を持つ人間が見れば間違いなく美しいと言うであろうレベルのものだったし、常人なら見ているだけで失神しそうな程に激しい。
しかし俺には別のものが見えた……それはティナのパンt……コホン。もとい、ティナがこっそりと飛ばしている自律飛行型戦闘観測ユニット(多分そんな感じの種別だった)の【シェンフィールド】だ。
コイツらは見た目はただの球体であるはずなのに、一度起動すればティナの意思に応じて飛び回り各種情報を伝えるという恐ろしい特性を持っている。
さらに三機あることでティナに伝わる情報の正確性や信頼度も上がるため、もはや狙撃の時の観測手が要らなくなるんじゃないかとすら感じられる逸品だ。
欠点は三機以上使うと脳がそれをコントロールするユニットの熱で焼けるってことだろう。
あと地味に原価で一個数十万円くらいするので結構高価なものだったりもするんだが……しかしこう見るとシェンフィールドってのは優秀なもんだよな。
ゾディアックが相手でも恐れずに適切な情報をティナに伝え続けられるってのは普通の観測手には出来ない仕事だ。
そしてその正確な情報はティナの能力の高さと合間って未来予知じみた正確な予測を可能にし、本来なら成り立たないであろうこの戦いを成り立たせている。
うーん……やっぱアレ、俺も個人輸入しようかな……俺なら脳にBMIだかなんだかを埋め込まずとも直接受信できるから多少安く済むし、その程度の出費で戦闘が楽になるならそれは良いことだからなぁ……
おっと、考え事をしちゃいかんのに何をしてんだか。
観戦(文字通り戦闘を観るという意味の、な)を再開しよう。
チャージ率、80%!
俺は脳内でチャージ率を確認してから、目の前の戦闘を見届けることにした。

状況は変わらずフィジカル面でスコーピオンが圧倒し、事前の準備と様々な現代兵器などによりその手の面ではティナが圧倒している。
しかしスコーピオンも躍起になって目の前の強敵を片付けようと全力で攻撃しているため、その両者はずっと拮抗したままで……
と、そこまで見てから不意に俺の目は、視界の端で巨大なバズーカのような物を捉えた。
いや、正確にはロケットランチャーの方が正しいだろう。
文字通り先端にロケットのようなものが付いた棒のような形をしているし間違いない。
だが、あえて言わせてもらうとそのサイズは規格外だ。
それこそ過去の戦争じゃ絶対に考案すらされなかったであろうほど大きく、どう考えても運用出来るのはイニシエーターのような超人だけな上に使える場面も装甲の分厚い戦車を一撃で止めたい時くらいと容易に想像できた。
しかし今回の相手はゾディアックと言えどガストレアだ。
そして基本的にガストレアを相手にする際の戦術は『バラニウム製の武器でなるべく強烈な一撃をお見舞いして出来るだけ接近する回数を最低限に抑えて倒す』だからアレを使うのは戦術的に間違っては居ないだろう。

……だが、それにしたってあのサイズは大きすぎやしないだろうか?
ほぼ斜め70度くらいの角度で立っているのは上から落とすためだとしてもあれじゃ本当に当たるのかどうかさえ分からないほどに大きい。
アレを命中させるよりも普通に爆弾を直接叩き込んでやった方が効率が良さそうなものだが。
そう考えていると、俺のその思考を見透かしたようにティナが何らかの信号を送ったのかロケットランチャーが起動し、どこぞの防犯商品のように巨大なネットを展開した。
そしてそこにタイミングよくスコーピオンが突っ込んできてネットが足に絡み、転倒する。
なるほど、あれは対巨大生物用か何かの投網マシーンってわけか。
まるでどこかの誰かさんが趣味で作っていそうなヘンテコ兵器だが、あんな変わり種が役に立つってこともあるんだな……あれも今度2つくらい購入するとしよう。普通のサイズだけどネットにバラニウム混ぜた鋼糸使ってるやつ。

そんな具合でなんだかんだ考え事をしている内に1分半ほどが経過し、チャージ率が90%を突破した。
スコーピオンもさっきのネットで転倒したりしてペースを完全に奪われているし、このままチャージを完了させて倒せるのでは?とすら考えられるほどに状況は優勢だった……しかし。
「いやちょっと待てよバーロー……」

まるで最初から待機させていたかの如く足並み揃って、幾百ものガストレアの軍勢が押し寄せて来たのだ。

状況は、ガストレア優位に傾いた。



何かこのままスコーピオンをさっくり殺るのも難だなぁ、とか思っていたが故に行われた予定調和。
とりあえずスコーピオンそのものは原作と同じく超電磁砲で倒せる(倒す、とは言ってない)がしかし大量のガストレア。
まぁ原作通りっちゃ原作通りですがね。
違いがあるとすれば東京エリア居住区との距離……とか?

それと次回投稿は難産になる可能性が高いんで1週間以上掛かると思われ。


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覚める英雄/前編

この作品における現状最大級の伏線を少し回収してみた結果……
前中後編くらいになる可能性が出てきた。

しかしやりたかったことをやるためなら延びまくっても構わないのだぜ……!
みたいな感じで本編どうぞ。


凄まじい数のガストレアたちが押し寄せてくる。
その様はまるで砂浜に打ち付ける波のようで、しかし引いていくことはない一方通行のそれだった。
チャージは完了せず、ティナはスコーピオンと一対一で拮抗している状態、そこに無数のガストレアだと……ふざけんのも大概にしやがれ。
普段ならステージI程度意識せずとも容易く殺せるのに、莫大な電気を溜めるために全身全霊を懸けているせいで戦うことすら出来ねぇってのに、どうしろってんだ。
逃げるなんて無理だ。逃げる先はあるにはあるが時間がもう遅すぎて間に合わない。
アレがこっちに着く前にチャージを終わらせてスコーピオンを仕留める?
おいおい、出来るわけがないだろう。
俺は自分の考えを否定する。
現在のチャージ率と相手の距離から考えてもこれじゃフルチャージには至らん。
だったら一か八か完璧じゃないチャージで撃つ?
……それこそ稼いだ時間が無駄になる。
あぁクソが……何も思い付かねぇ……
この状況をなんとかしなくちゃいけないのに、どっちを片付ける方法も思い付かねぇよ!
俺はイラつきながら脳内でその言葉を反響させていた。
そんなことをしてる場合じゃないのは分かってる。
だがここで俺が判断を間違えば失われるのは俺の命だけじゃ済まないという事実がただでさえ低い思考力を奪っていく。
「DRAAAAAA!!!」

しかし、そんな思考の間にもガストレアたちは確実に歩を進め、足の速いガストレアに至っては俺の目の前まで移動していた。

こうなったら仕方ない、と俺はチャージした電気を解放して雑魚を一掃しようとするが……それより一瞬早く弾丸がガストレアの頭を撃ち抜き、命を奪う。
思わずその弾丸の飛んできた方向を確認しようと考えるが、すぐにそれがティナの援護であると理解すると、礼を言うより何よりこのスコーピオンを仕留めてさっさと帰れるようにするのが一番のお礼になるだろうと考えてチャージを再開した。
今度は少しずつ移動しながら、だ。
なるべくティナの戦闘の負担にならないような位置を考えて動くのは流石に難しいので、ティナが仕掛けた武器を当てられる位置から出ないようにだけ気を付けての移動はそれなりに頭を使うが……まぁ大した負担にもならないので大丈夫だろう。
しかし、ここに長居するとティナへの負担が恐ろしいことになる。
正直な話もしものことがあってしまってはならないから負担は掛けたくないのだが……今はこうするしかないのが痛い……
俺はそう思考を巡らせつつ、現在どれほどチャージが完了しているかを計測する。

……約96%。
どうやらあと少しのようだ。
この調子ならあと30秒くらいでチャージが完了するだろう。
そして幸いにも足の早いガストレアの数が少なく、その30秒でここに辿り着けるガストレアは10体といない。
普通なら10体なんて荷が重いだろうが……すまんティナ、ここは踏ん張ってくれ……
そう祈りつつ、常にチャージ率を確認しながら俺はスコーピオンへと向き直った。
チャージ完了とともにその電力を全て攻撃に変換し、命中させるためである。
チャンスは一度きりだ。
これを逃せばもう体は動かせないから戦えないし、逃げるしかない。
その時は逃げ切れなきゃ死ぬ。
その上それでスコーピオンを仕留められないか、外せば俺もろともティナも死ぬだろう。
死ぬ確率が高過ぎだっての……
そして、そこまで思考したところでついにチャージ率は98%になり、残り15秒程度となる。

……しかし、いつの世も偶然とは最悪のタイミングで起こるものだ。
俺はその時偶然、ティナの死角から接近しようとしている一匹の醜悪なガストレアに気付いてしまった。
それもただでさえ醜悪極まりないガストレアの中でも特段に酷いやつを。
全身がタコの足から吸盤を取ったような赤い触手で覆われているためにどこに目があるのかは分からないが、とにかくそのガストレアはまっすぐティナに向かって全速力で前進していた。
見たところその速度は凄まじいものだし、恐らく俺がチャージを終えると同時にアレはティナを仕留めてしまうだろう。それこそトラック事故とかの見本のように。
俺は、そいつを見た瞬間に今溜めてある力を全て身体強化に回し、即座にそのガストレアを殺害しようとした。
しかし一歩手前で踏み留まってしまう。
『今ここでティナを救えば救えるはずの命が救えなくなるぞ』と誰かが俺を引き留めたかのように感じたのだ。
……しかし、そこまで考えてから不意に思い至る。
あれ?俺ってこんなにも他人のことを考えるやつだったっけ?と。
きっと普段の俺ならここで迷いなくティナを救っただろう。それにきっと、スコーピオンとも真面目に戦おうとせず多くの人間を囮に一人だけ生き延びることを選択したに違いない。
いや、あれに関しては仮面野郎を仕留めるという目的もあったからつべこべ言わないことにしよう……それでも今の俺はおかしい。
ティナを救うためなのに動けない。今動かないとティナを救えないのに。
これ以上失うわけにはいかないのに。
頭沸いてんじゃないのか?
それともバカがとうとう精神に侵食を始めたか?
あぁもう、愚かだ。
今の俺に取ってティナ以上に優先するべきことはないはずなのに。
ティナを失ってまで護るべき人間なんて……

存在するはずが、存在していいはずが、ないのに。

……あれ?じゃあ俺は、なんでティナが危険なのを承知でスコーピオンを葬ろうとしているんだ?
おかしい。おかしい。
こんなの“里見蓮太郎”の行動じゃない。
まるで絵に書いたような英雄の行動だ。
最愛の人を失ってまで、みんなを救う。
おいおい、待てよ、俺。
延殊も木更さんも失ったあの日から、キャンサーをブチ殺したあの日から、この力を手に入れた、あの日から!
俺は英雄なんてものを捨てて別のものになったはずだ。
最初は憎しみと絶望と空虚さに駆られてただただ純粋な破壊者に。
そしてティナと出会って、ただの頭がおかしいロリコン野郎になった筈だ。
なのに何故……何故ティナを失うリスクを負ってまで俺はスコーピオンなんかを殺そうとする?

ゾディアックだからか?

違う。確かにゾディアックは憎いがティナを失ってまで殺すほどじゃない。

それじゃあ、自分の名声のためか?

当然違う。そんなものはもう要らない。ティナと一緒に居られるなら、ヒーローでもなんでもない、ただの最強になったって構わない。
ティナ以外の全人類が俺を憎もうと、恨もうと、なんだって構わないんだ。その、筈なんだ。

……それじゃ、護るためか?
延殊も木更さんも護れず、ついにはティナすらも護れないかもしれないお前が一体何を護るって言うんだ?
もしかして……顔も知らねぇ一般市民、だなんて答えないよな。

俺は自問自答を繰り返した。
気付けば視界の中の光景は止まっているかのようにも感じるから、考える時間ならある。
さぁ考えろ、里見蓮太郎。お前は何故ティナを失うリスクを負ってまでアレを殺そうとする?
何か殺さなければいけない理由があるのか?それも絶対に失えないティナを失ってでも殺さなければいけない理由が?

あるいは……忘れているのか?
なにか、ティナを失ってでもアイツを殺さなきゃならない理由を。

……いや、ありえない。俺がティナを失ってまでアレに固執する理由は、もうない、残されてもいない。

でも、もしかしたら忘れているというのはありえるかもしれないな。
ゾディアックを殺さないといけない理由が、もしかしたらそこにはあるのかもしれない。
俺としては真っ向から否定して、拒否して、ノーと言ってやりたいが……
まぁ、どうせそんな物はないだろう。
俺はそれを確かめるように、自分の脳にチャージしながらでも使えるような電流を流した。
脳の海馬をいじって、無意識に整理して思い出せなくなっている記憶から、ゾディアックに関することを引っ張り出す。
あとはそれを全部チェックすれば良い。
思考は加速しているし、あっという間に終わるだろう……

そして、それを終えて俺はようやく理解するのだ。
ティナを失ってまで得るべきものはない。殺すべきものも、壊すべきものも、等しく存在しないのだと。



現状最大級の伏線とは言っても、何がなんだか分からない方のためのちょっとしたヒント……サブタイ。そこに実は少し伏線を作ったことがあったり。



それはそうとして、今回の蓮太郎の加速感覚についての解説をしておきます。
はっきり言うとアクセルワールド的方式。
詳しい原理等はアクセルワールドの原作で語られていたと思うので要約すると……
・人間の血流を機械の電気信号に置き換えたものとして扱い、機械の電気信号を加速
・それを脳に送って加速を人間の思考に反映
的な方法で意識を何千倍に加速していたというものを、
・蓮太郎自身の力で微弱ながら通常より何千倍も速い速度の電気信号を生み出す
・脳に送って加速を思考に反映
に置き換えただけのものです。

原理が難しい等の部分は……まぁ、無意識+元々は義眼のコンピュータで行っていたため加速感覚に慣れていた。
ということでご容赦を。


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覚める英雄/後編

前中後編になると思ってたら案外前後編だけで済んだ件。
……は、ともかくとして一番大変なのが今ものすごく日常編のグダグダが恋しくて仕方ない。
色んな意味で人間として終わってる日常編を書きたくて仕方ないんだ!

……まぁ、どうせ後数話で一巻の内容も終わりますがね!


加速された意識の中、俺は自分の脳を解析して記憶を辿った。
それこそ楽しい記憶、胸糞悪い記憶、嫌な記憶悲しい記憶……と多岐に渡る物だが、やはり目立つのはティナにまつわる記憶だ。
これについては一切の狂いなく鮮明かつ完璧に引き出せる。それこそ呼吸をするかのように自然にな。
例えば出会った時の記憶……今思うと初めて会った時は暗殺者と標的って関係性だったのにどうしてこうなったのかまったく理解が出来ん。
別に現状に満足しているから良いのだが。
あとはティナと会うよりも随分と前の荒れてた頃の記憶なんかも、脳を直接解析しているからか簡単に読み取れる。
ある日理不尽にキレて東京エリア周辺一帯のガストレアをほぼ皆殺しにしたせいで危機感を覚えたらしいステージIVが束になって襲ってきたこともあった。
あまりに殺しすぎてガストレアの死体の焼却が間に合わないと言われて自分で焼き払ったこともあった。

……あぁそう言えば、殺しまくって燃え尽きた時期もあったよな。
俺は記憶を辿って燃え尽きてからティナに会うまでの間の記憶を引き出そうとした。
……しかしそこで少し引っ掛かるような感覚を覚える。
これはなんだ?脳を直接解析しているからそこに引っ掛かりがあるはずは無いんだが。
別に忘れているということは無いし、人間が物事を忘れているというのは言わば金庫の中に鍵をしまってしまったような物に過ぎないと先生に言われたように、人間の脳から記憶が完全消去されることはあまりないはずなのだが……
違和感を感じる。
まるで誰かが作為的にこの記憶を封じているような、そんな違和感を。
……確認するか。
俺はさらに脳を解析し、燃え尽きたあとしばらくの記憶をどんどん引き出していくことにした。
突然全てのガストレアに対し際限なく沸いていた筈の怒りが沸かなくなった日のこと。
燃え尽きてやる気がなくなって預金生活の開始を決心した日のこと。
やる気なくただただ惰性でガストレアを狩るのに意味はあるのかと思って依頼を完全に受けなくなった日のこと。
様々な記憶が頭の中を駆け巡る……が、お目当ての記憶はこのどれでもない。
そして、数秒の間記憶を辿っていると、不意に違和感の強い記憶を見付ける。
それは何か分かりやすい行動をしたわけではなく、ただただ家に居た日の記憶。
俺はその日何をしていたんだ?
それを確認しようとする。
が、しかし。その記憶を閲覧するまさにその瞬間、不意に脳に直接フォークを刺してグリグリとされているかのような痛みが俺を襲ってきた。
まるで俺自身がこの記憶を見ることを拒否しているかのようだ。
この記憶に一体何があるというんだ……?
激しい頭痛に耐えつつ、さらに記憶を閲覧する。

その日は、なんてことのないただの平日だった。
週の真ん中、水曜日。預金生活者であった俺にとっては平日も休日も変わらず家で自堕落に過ごす日に違いはなかったのだが……しかし偶然にも俺はその日、無駄に時間を過ごすよりかは他人の弱みを握っておいた方が良いだろうというひん曲がった根性のもと、自分に与えられた世界最高のアクセスキーを使ってとあるデータベースにアクセスしたのだった。
そのデータベースには民間人に対して完全に秘匿されている表には絶対出せない情報が大量に乗っているため、上手くすれば俺が嫌いな奴の弱点が載っているんじゃないかと期待してそれを見た……しかし、そんな俺を待っていたのは……ぐっ!
そこまで記憶を見たところで、一段と頭痛が酷くなる。
これ以上思い出すな、まだ引き返せるとでも言いたそうなほどに酷い頭痛だ……いっそ本当に脳へフォークを刺した方がマシなんじゃないかと思えるくらいに痛いぞ。
しかしこれは何かに俺が迫っていることの証左……あともう少し探れば真実に辿り着けるだろう。
俺は頭を刺すような痛みをやせ我慢しながら、無理矢理記憶を探る。

【この情報にはロックが掛かっています】
俺が自らのアクセスキーで覗き見た情報を探っていく中、何やらガストレアが確認された当日から前後数週間の記録を閲覧するのにレベル12を越える権限レベルのアクセスキーが必要であることを俺は知った。
それこそ偶然に等しい形での発見だったが……しかし、偶然見付けたからこそ俺はそれが気になって仕方なくなった。
常人なら最高レベルと言われているレベル12でも閲覧できない情報をどうやって見ればいいか分からないだろうが、たまたま俺には裏技があった。
その方法とはずばり『アクセスキーに頼らず直接プログラムを読み取って文書を抽出する』だ。
普通のコンピュータどころか下手すれば世界有数のスパコンを数台繋げても不可能に近いであろうそれを俺は実行したのだ。
システム内でたまたま閲覧に必要な権限レベルごとに情報が分けられていたのも幸いだった。
あれでレベル12のところに隠されたそれ以上のレベルが必要な情報をより分けられたのだ。
あとはそれを分析して脳内で再生……そのステップを踏んで、俺は隠蔽された情報を覗き見ようとした。
いや、実際見たんだ。見た筈なんだ。
俺は確かにその情報の閲覧に成功している……その筈なのに。

記憶の中で俺が見た情報は、全て意図的に弾いたかのように真っ白だった。
つまり、中身がなかったのだ。
いや、中身がないという訳ではない。というか直接抽出してるんだから欠けこそすれ真っ白というのは逆にありえない。
正確には肝心なところからそうでもないところまで、ほとんどの言葉が抜けているのだ。
分かりやすく言うと、『○○が○○をした』、という文章が『  が  をした』になっているのに近い。
ほとんど空白で、所々『が』やら『の』やら平仮名だけが入ってきている……なんだこれ。
俺は拍子抜けし、何も分からないのに頭痛を我慢してやる義理はないと決め、再び記憶を遡り始めようとする。
……が、しかし。

記憶を遡る俺の頭に突如として自ら考えている訳でもないのに文章が浮かび上がってきて、俺は記憶を辿る作業を中断してしまう。
【レベル13の情報には触れるな】

【これはお前自身からの警告だ】

レベル……13?
さっき記憶で見た、すっぽり抜け落ちてしまっていたあの情報のことか?
しかも俺自身からの警告だと?
【しかし自分自身で施したという証明はない】

【だから俺は俺自身しか知らない情報を3つ記載する】

【それを過去のお前が書いたものである証明だと信じてくれ】

そして、その文のあと確かに3つ、俺しか知り得ない情報が頭に流れてきた。
天童に居た頃の俺の趣味、実の両親の祖母の名前、あと延殊が好きだったのとガストレアを殺すことにもやる気が起こらなくなってついついブルーレイを全巻購入してしまった天誅ガールズの天誅レッド……の、コスプレ衣装(延殊が購入していた)を大事に保管してある場所とそこのロックのパスワード。
なるほど、確かにこれは俺自身からの警告らしいな。
さらに文章は続く。
【……さて、俺が予想するに、お前は今何か迷っているに違いない、と思う】

【それこそ自分の脳を自分で解析して記憶を見るくらいにはな】

というか過去の俺、随分と先を見通してるじゃないか。
ティナを救うことだけを優先するべきなのか、万人を救うべきなのか。
その迷いを解決するためにこうしているのだから、予想は完璧に当たっている。

我ながら見事な予測だろう。
自分のことが分からなくて何を理解できるんだ、という話でもあるが。
【さて、ここで過去のお前からの提案だ】

【今のお前の迷いを断ち切る何よりも簡単で手軽でお気楽な手段を解放してやる】

【だからこの記憶に触れようとするな。今後、一切何があってもだ】

【この記憶は開けてはならない。忘れて幸せに暮らせ。俺よ】

その文章は俺の脳内で数秒残り、消えた。
幸せに暮らせ……か。
それじゃまるでその記憶は不幸を招くかのようじゃないか。
俺は自分で過去の自分が残した意味深な言葉にもっと具体的にしとけよ……とか思いつつも、俺は過去の自分が記憶を見させない為のエサとして用意したと思われる力がどんなものかを軽く解析する。
あくまで解放するといってもその技の使い方の記憶を奪っているだけだから、記憶を取り戻せばどんなものなのかも自然と分かるのだが……ふむ。

……ふむ、なるほど。
記憶を見て過去の自分が解放した技を解析して不意に面白いと感じた。
これは確かに『迷いを断ち切る』技だ。
これならばきっとスコーピオンを倒すことも不可能ではあるまい……
俺は、脳内で密かに笑った。



なんだかんだ言ってブラック・ブレット最大のブラック要素は人間だよね……的な面を出そうとしたらつい思い付いたのが権限レベル13。
まぁ実は原作で10位以内なら権限レベル12を使って全てを知れるという描写があるのにそれを忘れゲフンゲフン。
しかし電気使いを書くなら一度はやりたかった記憶封印というものを書けたので一応は満足かな……と。

そういう訳で、次回……決着。(多分)


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星穿つ光

これにて第一章完(ただしgdgdパートが残っている)!

つーわけでいつもより質が悪い気もする一章最終話、どぞー。


記憶を巡り、自ら施した封印に触れることで偶然新たな力を得た俺は、意識を現実に戻した。
視線を前方に向けると、加速をしてからまだほとんど動いていないティナとスコーピオンが存在している。
まぁこのまま、当初の予定通りチャージが終わるまで待ってしまっても構わないだろう。
というかその方が周囲への被害が少ないから英雄としてならばそちらが最適解だ。

……だがしかし、英雄としてではなくただのクレイジーサイコペドフィリアかつ堕落しきっている人間としてならば、それは最適解ではないと胸を張って言える。
いや、むしろ下の下の下策……もはやただ無策で特攻しての自滅の方がマシだろう。
何故ならばそんなことをすればティナの死亡率が大幅に上がってしまうからだ。
すでにティナには接近するガストレアへの対処で大きな負担を強いているし、これ以上それを続ければ俺がスコーピオンにとどめを刺すのとティナが死ぬのが同時になってもおかしくはない。

だから……俺はここで時間を掛けて溜めた電気を全て、自身の肉体を強化することとスコーピオンを葬るには足りないがそれなりに強い攻撃のために回す。
そして電気により強化された身体能力を利用し、即座にスコーピオンへの攻撃へと移行する。
意識を加速したまま、肉体を超電磁砲の要領で超加速。
下手すれば乗用車並の速度が出ているが体への負担などはあまり計算に入れずただただ愚直に突撃し……スコーピオンとの距離がほぼ0になったところで予め用意しておいたありったけの電気を使った攻撃を放つ。
「直列……大 帯 電 撃 ィ !」

その技はつまり、普通の相手ならばそれで勝負に決着が付くような大技である、直列大帯電撃だ。
今回は流石に相手が相手なのでそれほど効果があるわけではなくせいぜいが怯ませる程度に終わるのだが……
しかしこの技には他にない特徴がある。
「GRRRRRRRRRRRA!?」

名前にも入っている通り、大帯電撃の電撃は喰らった相手にまとわりつく性質……つまり強制的に帯電させる性質を持っている。
それを一度喰らえば死ぬまで延々と帯電して高圧電流を流し続けるのだ。
それも通常のガストレアならば再生能力のほとんどを無視して細胞が自然に再生を諦めるほど、と言えばこの技の恐ろしさが分かるだろう。
これほどの技を喰らえば、いくら頑丈なゾディアックであっても対処を迫られる。
嬉しくないことにこれで仕留められないようじゃ少ししたら完全に回復して大帯電撃ではダメージを入れることすら難しくなるだろう。
今度からは避けられるからな。
雷を避けるなんて普通は無理なんだろうが……相手はガストレアだしありえない話じゃない。

だからさっさと接近したメインの目的を果たそうと思う。
俺が今倒すための方策を捨ててまでここに来たのはスコーピオンを倒すためじゃない。
「ティナ、無理させてすまん……」

「いえ、おにーさんのことですからなんだかんだ言って私が心配になっちゃって東京エリアを見捨ててでも助けちゃうんじゃないかなー。とは薄々感じてました」

……そう、メインの目的とはつまり、ティナの回収だ。
理由は語ったらキリがないが、一番根幹にある部分を言うならば、ただ心配だったんだ。
俺にはこれ以上ティナが危険に晒されているのを見ていられない。
自分で頼んでおいて言う資格がないのは分かってるし、ティナが強いのはこの世の誰よりも理解している。
しかしそれでもティナが死んでしまう可能性を考えると、つい体が勝手に反応して助けてしまうのだ。
……それだけだ。それ以上でもそれ以下でもない。
ただ、それで何人が死のうと俺の知ったこっちゃないと考えているだけで。
「なぁティナ」

俺は我ながらクズを通り越して存在自体が害悪じゃないかと思うようなことを考えつつ、ティナに話し掛けた。
そしてティナが声に出さず用件を聞くようなジェスチャーをしてきたのを確認し、話を始める。
まぁ、話とは言っても会話とは言えないような一方的なものなのだが。
「俺さー、なんか今ものすごく機嫌が悪くってさー……ちょいと無差別に暴れ回りたい気分なんだわー」

わざとらしく指を鳴らしつつ、そんなことを言う。
しかしこの言葉には大して真実は含まれていない……イラついてるのには間違いないが。
単純にこれは、久しぶりに使う切り札をちゃんと使いこなせるかが分からないからである。
アレは技の特性上取り扱いに注意が必要だし、仲間を傷付ける可能性も非常に高い。そのため間違ってもティナを傷付けたくはないがための配慮というか、ワガママだ。
だからどうにも直接口にはしにくいのだが……
「つまりは、先に帰って討伐記念パーティでも準備してろってことですか?」

しかしそこはティナ。俺が言いたいことをなんとなく感じとってくれたようだ。
「……察しが良いな。流石はティナ」

「これでもおにーさんと一年間べったりでしたから……帰ってこなかったら確実に後を追いますよ」

……そいつは怖いな。もっと帰らねぇ訳にいかなくなったわ。
俺が最後にそう呟いたのとほぼ同時、ティナは全速力でモノリスの内側へ撤退していく。
まさにそれは脱兎のごとき速さで、恐らく数秒としない内に俺の攻撃に巻き込まなくて済む場所まで移動してくれることだろう。
そしてそれから数秒待ち、去っていったティナとの距離が100mを越えた瞬間、俺は力を解放するための準備に入る。
まぁ準備と言っても……
「我は雷操りて傲慢なる星へ裁きを下す者なり」

ただ自分の言葉と特殊な電気信号で自分に簡易的な暗示を掛けてイメージを固めるだけなのだが。
どうやら取り戻した記憶によるとこの技はある程度イメージを固めておくことで成功率と出力が上がる……らしい。過去の俺が面白がって付けたかあるいはただの願掛けみたいなものじゃあなければ。
とにかくそれが真実か嘘かは分からんが、やっておいて損は無いだろう。
「咎星よ、覚悟せよ。これは罰である。汝の奪いし物をその命で償うがよい……しかしこれは救済である。我は汝を全ての苦痛から解放する者なり。故に受け入れよ。門は既に開かれている」

俺は急いで取り戻した記憶の中の言葉たちを呟いていく。
正直なところ中々に恥ずかしいが、これもアレをぶち殺すためだと信じて湧き上がってくる羞恥心で詠唱が滞らぬように耐える。
「さぁ、逝くがよい。我は汝の門出を祝福しよう……」

そこで一度だけ空気を吸い込み、最後の一説を唱える。
「汝の行く末に災いあれ」

突然内容を180度変更したようなその言葉を呟き終わると同時、体内で普段ならありえないような量のエネルギーが精製されて左手に収束する。
ふむ、どうやらこの暗示は俺自身が体に刻みつけた反射とも言える特定の動きを無条件に呼び出す……らしいな。
エネルギーの収束はその後一秒にも満たぬ間だけ続き、それが終わると俺の左手に収束したエネルギーが僅かに漏れ出て周囲を煌々と照らしている。
そして俺は、スコーピオンに対して視線を動かし、莫大なエネルギーが収束した左手を叫びながらスコーピオンに向け勢いよく突き出した。

光が、溢れる。

「……ガストレアはッ……とっとと……消えやがれぇぇぇぇぇぇぇッッッ!!!」

その叫びに呼応するかのようにして収束したエネルギーが左手から放出され、1つの流れとなる。
そしてその流れは俺の左手から離れると、さらに細く鋭くなって光の槍とでも形容すべき状態へ変貌し、貫くべき対象へと一直線に突き進んでいく。
それに対してスコーピオンはなんとかかんとか光の槍を避けようと全身全霊で反応しようとするも……しかし所詮は生物。
光の速さに勝てるわけはなく、その体を光の槍が貫く。
槍はただその一瞬でその体を通過し、虚空へと飛び去っていく。
しかしその槍は肉体を貫くだけでなく、莫大なエネルギーがスコーピオンの体を侵食して一瞬でその肉体を自らの熱で全身が崩壊するような温度に上昇させ、地に倒れさせることに成功する。
そして、スコーピオンは、その後倒れたままピクリとも動かなくなった。






……ついに俺は、ゾディアックの残りの九体の内一体を、憎むべき相手を、殺したのだ。



今回の元ネタ⇒とある&ロクでなし魔術講師と禁忌教典

技そのものの効果についてはとあるの方から半分、ロクでなしの方から半分と言ったところ。
なお詠唱は全部その場のノリで考えた物だったりするのでちょっとだけ色々な所から端々をパクった程度になってます。



……なお、これで一章でやりたかったことは全部やったので、次回からは安心してグダグダします。


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ダメ人間“たち”の祝勝会:前編

へい、久しぶりの日常パート……が、しかし久しぶりすぎて何書くか決められず一週間以上かかっちまったぜ。

それはともかくとして、二巻の部分を穴埋めするストーリーをざっくり考え付いたので、この一章エピローグ的なやつが終わったら即座に二巻の内容に入ると思います。


東京エリアにある我が家。
スコーピオンを倒したあとダイジェストにしても許されるんじゃないかってくらいにおまけで大量のガストレアを葬って帰宅した俺を出迎えたのはなんだと思う?
マスゴミだ。
家に帰るなり大量にマイクを向けてくるし勝手にカメラに撮すし、はっきり言って死ねと伝えたかった。というかマジで全員感電死させても良かっただろう。
だが大人でイケメンでなおかつ気分が良かった俺は妥協に妥協を重ねた結果……マスゴミどもを殺すことなく、ただマイクとカメラを全部規格外の(俺的感覚では)しょぼい電流で破壊するだけに留めたのだ。ピンポイントに大体1000Vくらいのやつを。
つーかわざわざティナが俺を迎える準備をしてくれているのにそこを血で汚すわけがないだろうが。
殺るならどこか遠くにいる時くらいにするさ。
……さぁて、お楽しみの我が家に入るとしますかね。

俺はカメラが壊れて慌てているマスゴミ共を磁力で引っ張って退かしながら無駄に広めの庭を歩んでいく。
その足取りは意識もしていないのに非常に軽く、今なら何事もないように世界新が出せるんじゃないかとさえ錯覚させた。
今はそれほどに気分がいい。もしガストレアが襲ってきてもノールック落雷程度で済ませてやれそうなくらいに気分がいい。
あぁ、帰ったらまずはどうしようか。ティナにいきなり抱き付いて脱力するのも良いけど、ティナのことだから何かコスプレをしてくるという可能性も十分考えられるな。
随分と前の話だが、東京エリアが危うく滅びかけた事件を苛立ち紛れの落雷連打で敵を消し飛ばして止めたその日には……確か天誅ガールズ(赤穂浪士討ち入り×変身ヒロインもの。何故か俺の所に居着く『呪われた子供たち』は全員これにハマる傾向にある)のピンクのコスプレをしてたっけ。
あの時ノリノリで決め台詞言われた瞬間は危うく可愛すぎて死ぬかと思った。
ティナの金髪が衣装と絶妙なコンビネーションを発揮したあの時の光景を俺は金輪際忘れることが出来ないだろう……思い出す度に若干理性と意識を保てなくなることがあるけれども。

まぁそんな過去のことは置いといて現在に目を向けてみようじゃないか。
ティナのことだ、今回もコスプレを用意しているだろう。
俺の記憶によるとティナはこれまでにいくつかのコスプレを披露してきたが……多分まだメイド服とかセーラー服とかそのテのコスプレはまだしていないし、それで来るだろうか。
あるいは最近偶然過去の映像が残っているのが発見されてファンが狂喜乱舞しすぎて一瞬社会現象になりかけたご○うさのコスプレか。
最近ちょうど見たのがその辺りだからヤマを張るならそこだと思ったが、さてどうなのやら……
見て確かめるとしようか。
俺はポケットから鍵を取り出すことすらもどかしく、磁力で強引に鍵穴を合わせてドアを開けた。
そしてその先で待っていたのは……
「「おかえりなさい」」

神社とかで時々見るような巫女服を身に纏った、二人の姿であった。
……当然ながら、俺は萌え死んでしまい(意訳:頭に血が上って失神した)次に目が覚めるのは翌日になるのだが……少し損をしたような気がしてならない。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

目が覚める。
確か昨日は帰ってきた途端に巫女服姿のティナと……しまった名前が分からん……拾った子を見て萌えすぎて気絶したんだったか。
気絶した理由はまぁ、多分疲れきってたのと自宅に帰ったことによる安心感も少々含まれるだろうがな。
ある意味実に俺らしい気絶の理由だ。
俺はそんなことを考えつつ、自分が今どんな状況にあるのかを確認する。
まず見なくても分かるのはティナが膝枕してくれていて、足にもう一人がしがみついていること。あとここがベッドの上じゃなくて無駄に座り心地が良くてゆっくりできる広めのソファ(一応ベッドとしても使える)であることだな。
そしてなんとなく見渡して分かったことは……
このソファを置いてあるリビングは現在祝勝会の準備がされていて、祝い事っぽいムードがあることだろうか。

あー、かなり申し訳ないことをした気がする。
というかせっかく二人が準備してくれたってのにうっかり気絶してそれを不意にするとかもったいなさすぎだろ俺よ。せめて祝勝会終わってから泥のように17時間くらい寝る程度にしろっての。
……まぁ、過ぎたことを気にしても仕方ないな。
とりあえず一旦“現在”という物に目を向けよう。
膝枕されているから非常に眠りやすいこの現状に、な。
つまりは二度寝しy……
「……ぁふ……おはよう…ございます…おにーさん……」

……っと。どうやらティナが目覚めたようだ。だったら二度寝は出来ないな。
せっかくティナに甘えまくれるチャンスだと言うのに寝て無駄にするなんてありえ……なくもないが出来れば普通に甘えまくりたいんだよ!
こちとら昨日はなんか自分自身のヤバそうな部分に触れたりゾディアック殺したりオマケで群れを殺しまくったり忙しすぎたんじゃあ!ちぃとばかし休ませてくれよ!
……具体的にはティナの膝の上でティナに抱き付きながら頭撫でられて、な。
俺は昨日帰ってきていきなり寝てしまったせいでロクに甘えられなかった分を取り戻すかのように思いっきり甘えることにした。
端から見れば恐ろしく犯罪的な光景だし、実際ギリギリ合法だけど拾った子については少し違法だからな……まぁ違法だからと言って俺を逮捕することは出来ないが。
なんせ人類最強だからな。機嫌を損ねりゃ命はない人間TOP3の筆頭だからな。俺。
そんなことを考えつつ、体を半回転させてうつ伏せになり、全力で甘える体勢に以降する。
正常な思考なんざ忘れてただただ堕落しきった状況をエンジョイ出来るように。

「……起きていきなりこれは珍しいですね、おにーさん」

いや、そんなに珍しいか?この流れ。

「ちなみにいつもなら少し会話を挟んでからこうなることが多いです」

細かい所までよく見てんのな。流石はティナ。1年以上堕落しきった生活を共に過ごして来ただけのことはあるな。
なんというか、ここまで覚えてもらえてると凄く健気に思えてくるなぁ……
俺はティナの腹に顔を埋めつつ、頭を撫でられる感触をしばらく楽しんだ。
時間にすると……感覚では二時間くらいだろうか。
もしかしたらもっと長いかもしれない。
そして、俺が全力で甘え始めてから約二時間以上、もう少し楽しんだらそろころ起きようかなと思い始めた矢先、昨日寝たとき着替えなかったせいでポケットに入れっぱなしの携帯がサイレンのような着信音を響かせたことで強制的に至福の時間は中断された。
正直言って電源切っておきゃ良かった……というか高圧電流のすぐそばにあったのに何故問題なく動作しているのかは非常に謎だらけだが……とにかく電源を切っておけば良かったと、俺はこの時ものすごく後悔した。
なんせもう少しで最高の気分で朝を迎えられそうな(もう朝っていうか半ば昼くらいだろうがな)感じだったのに、それを無理矢理邪魔されてしまったからである。
しかもこの音ってことは……あぁ、間違いない、アイツだ。

……ならば出なくて良いな。
俺はいまだに鳴り続けて耳障りな携帯の電源ボタンを長押しし、シャットダウンする。
それにより騒音を撒き散らし続けていた携帯が完全に沈黙し、部屋の中に再び静寂が取り戻される。
……が、残念ながら、俺の至福の時は戻ってこなかった。
それは何故かというと、そう、サイレンのような音のせいで緩みまくっていた気分が無理矢理締められて空腹を自覚したからだ。

……その、なんだ。
アイツに次会ったら本気でデコピン(額が砕ける)してやろうと思う。マジで。



聖天子ちゃん逃げて超逃げて。
実は最後の電話は聖天子ちゃんが蓮太郎くんに式典やらなにやらの予定を伝えようとした結果のものだったりするんですねこれが。
しかも時間帯的には割と常識的……な筈なのに超ピンチ。大変だぜ聖天子ちゃん。

……さて、この物語も一章が曲がりなりにも完結ということになりますが……二章ではこれまで以上に堕落度とダメ人間度高めで行きますので、これからも応援よろしくお願いします。


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ダメ人間“たち”の祝勝会:後編

ひとまず一巻本編終わり……っと。
なんか調子に乗って詰め込みすぎた感はありますがね。
まぁお陰で次回からは混沌と書いて番外編と読むside story(やたら完璧な発音)を書ける訳ですが。

まぁ、そんなわけで一巻部分最後の一話、どぞ。


「……祝勝会とか言ってもよく考えたらむしろいつも通りダラダラしてた方が楽しい気がする」

アイツ……聖天子の電話から数十分後、全員で一応祝勝会の準備をしている最中につい、そんなことを口走ってしまう。
事実祝勝会なんてせずとも常に祝日みたいなもんだし、そもそも何もしないで過ごしていても結構楽しいのが俺たちだからなぁ……あの時は適当に言ってしまったが、失敗だったかもしれない。

いや、言い訳がましいことを言わせてもらうと別に祝勝会が楽しくないと思っているわけじゃないんだ。
ただ単純に何もせず1日を部屋に引き込もって母親に甘える赤ん坊と勝負できるくらいティナに甘えまくっていた方が心地いいし楽しいってだけで。
この状況でそんなことを言うのは異常かもしれんがな。
まぁそもそも俺の思考回路は異常なもんだからそれを異常とは思えないのだが……いや待てすでに俺はこの状況を異常なんじゃないかと思っているし、実は意外と俺ってマトモだったり……

無いな。
つーか俺がマトモだったら全人類が皆常識人になるっての。
そういうことだからつまり俺はきっとマトモじゃない。証明完了だ、多分。
「……おにーさん、正直言うと私もそう思います……」

そんなくだらない思考を一人で回していると、隣でピザを作っていたティナが同意してくれた。
よし、いっそこのまま普通に祝勝会中止のお知らせということにして今日はただの祝日、ただただ怠惰に過ごすだけの日ってことにしようか。そうだそれがいい……多分。
「ちょっとお二人とも……ノリが悪すぎますよ?」

しかしそこに現れる第二の勢力、拾ってきた少女。またの名を……身体的特徴で表すと銀髪。
彼女はどうやらこの祝勝会が楽しみで仕方ないらしい。
よく見ると口角が僅かに上がっているし目がいつもの三割増し(ただし会ってから数日も経っていないし目が復活してから時間が経っていないので検証不可)くらいで輝いている。
あとは……なんとなく楽しげだ。雰囲気が。
まずいな、こう言われると話の流れ的に祝勝会中止は言いにくいぞ。
正確には言ってもまったく問題ないが現在の楽しげな感じの反動で完全に意気消沈すること間違いなし、だろう。
それで何かがどうにかなるわけじゃないが、まぁとにかく気分は高い所から低い所に落ちて甚大な被害を受けるに違いない。
流石に可哀想ではあるな……
「(どうする?)」

俺はこの状況の対応に困り、ティナに助言を求めた。
きっとティナであれば同年代だし同姓だから角を立てず禍痕を残さずに済む方法を思い付いてくれるに違いない。
そうしたら祝勝会を中止して何もせず、何も考えずに一日中ティナとイチャイチャして甘えよう。
「(……流石に無理です。すみません)」

だがしかし頼みの綱のティナですら解決策を思い付かない。
どうすれば良いんだ?
数秒ほど思案し、いくつか案を浮かべ……てはすぐに消す。
そして7つほど廃案を作ったところで、ちょうどいい策を思い付く。
話題を逸らそう、ってな。
つまり露骨な時間稼ぎ、ただの時間の無駄遣いでもある。
それで稼いだ時間の間に打開策を打てれば俺の勝ちだが……どうなるだろう。
「あぁ、そうだ。……今思ったんだが名前がなくて呼びにくい。名前を教えろ。なければ考えてくれ」

「……ふぇ?」
俺が選んだ時間稼ぎは名前。
コイツの名前を知らないから、とりあえず適当に聞き出すついでに話題を変えようという魂胆である。

まぁ時間稼ぎにしてもお粗末すぎる物だから稼げても数秒だろうし、すぐに元の話題に戻される可能性もある。
だからその裏に1つ忍ばせておこうと思うんだ。更なる時間稼ぎ……祝勝会を中止する口実を。
俺はティナの背中に手を当て、先生に教えてもらったモールス信号の改変版で『ごり押しする。話合わせろ』と伝える。
別に伝えなくても大丈夫だろうが、まぁ保険だ。
なんせ俺がやるのは……ただちょっとコイツを騙してグダグダさせ、眠らせて片付けてうやむやにする……なんて手抜きも良いところなものだからだ。
正直もう少し作戦を練りたかったが時間がないから仕方ない。
どうせ名前くらいなら数秒もあれば思い付くだろうしな。
俺がそう思って見ていると、拾った少女は思い出したように自分が元々来ていた服のポケットに入っていたハンカチを手に取り、凝視し始めた。
自分の名前でも書いてあるんだろうか。
俺は何がそのハンカチに書いてあるかを確かめるために三歩ほど前に出て近付き、書かれている(と思われる)文字を確認する。

だがそのハンカチには何も書かれていない。
意味がないだろ、こんなのを見ても……いや待て。
そういえば確か一部の因子が発現したイニシエーターは常時視力が強化されて異常な視界を手に入れたりするケースが存在してるって話を聞いたことがある。
まさかコイツがその一人だったり?
「何も書いてないハンカチを見て何をしてるんだ?」

俺はその真偽を確かめるため、自分では割と優しげだと思う声でそう問い掛けた。
すると少女はなんでもないことのようにこう答える。
「……え?蓮太郎さんには見えないんですか?」

と。
どうやらコイツは自分の特殊な視界を特殊だと思っていないらしい。
しかし、俺がハンカチに書いてある内容は読み取れないってことを言ったところで信じてもらえる気はしない。
だったらどうするべきか。
……俺はハンカチを不意に二本の指で摘まみ、持ち上げる。
そして電磁波で表面を分析する。やり方は単純だ。
ただ電磁波をハンカチに通して、違和感があるところを探る。
そうしたらその違和感があるポイントを並べていくとあら不思議。文字が浮き上がってくるってわけさ。
まぁ上から塗り潰されでもしていたらお仕舞いだが、スラム暮らしだったコイツがそれをやる義理はない。
だから結果が出たらあるかなしかだけで判断できる。
ほれほれ、浮かびあがるのじゃ~(悪代官的なノリで)。
そして浮かび上がるまで待つこと約0.2秒。優秀な電磁波はすぐにハンカチに書かれていた文字の内容を探り出した。
どれどれ……コイツの名前は一体なんだ?
俺は軽い気持ちで浮き上がった文字を読む。
「天橋或守?」

天橋 或守。
中々に個性的な苗字と名前だな。
天橋ってのは今のところ見たことがなかったし……或守なんて名前は聞いたことがない。
俺が無駄に判明した名前に感嘆していると、不意に横から……或守?が覗き込んで来た。
「へぇ……それが私の名前なんですね」

……だがそこで驚きの真実が判明する。
コイツ、熱心にハンカチを見てたくせに何も見えてなかったらしい。
なんだよ、特殊な視覚とかなんとかカッコつけて言ってみた俺がバカみたいじゃないか。
チクショウ恥ずかしすぎて祝勝会をやる気も起きねぇぜ(こじつけ)。
よしそれじゃ中止だっ!
俺は内心の恥ずかしさを打ち消す為にそんなことを言おうとして、ギリギリで留まる。
言ったら自分がそんなことを考えていたのがバレと気付いたからだ。
しかしそれ以外に祝勝会を中止する理由がない。
しまった。完全に手詰まりだぞこれは……

……だがそんなとき、突如として家の鍵がこじ開けられる音がした。
敵襲か?
そう判断した俺はティナと或守を庇うような体勢になってから右手で一気に発電する。
さぁ、来るなら来い……!
右手の電気が運次第では一生全身麻痺が残るレベルの電圧にまで上がったところで、俺はそれを多少改変し、一度撃っても完全には消えないようにして連射力を高める。
相手が複数ならこれをバラバラにして放ち、一人ならまとめて放つ。その二択に絞った。
あとは侵入者がこっちに来るまで待つだけだ。
「HAHAHAHAHA!この前の手術以来だね!蓮t」

「紛らわしい真似すんなクソアマァ!」

……しかし、侵入してきたのは意外にも先生であった。
何故か一升瓶を抱えていることからして、祝勝会に混ざろうとしているのだろうか。
先生にしては殊勝な心がけじゃないか。
感動的だな。あの先生が他人の勝利を祝えるだなんて。

だが無意味だ。
俺は侵入してきた先生へ向け、チャージした電気を多少調整して喰らわせる。
威力は常人なら一月ほど右手が動かなくなるくらい。
そして電流を流し込まれた先生は倒れ、最後に紛らわしい一言を残す。
「ぐはっ……酷いじゃないか……蓮太郎……私と君の仲だろう……?」

まるで俺と先生の仲が良いみたいな言葉をな。
先生は本当に俺に面倒事だけを招いてくれるんだな……死ねば良いのに。
俺はひとまず先生を投げて庭に捨て、二人の方を向いてこう言った。
「念のため言っておくが、俺と先生は犬猿の仲のお手本のような関係だからな?」と。
今考えると完全な蛇足というか、余計な一言だったと反省している。

……なお、その言葉のせいでティナと或守へ逆に誤解を招き、説明に二時間ほどを費やしてしまって祝勝会はうやむやの内に消えたのだが……果たしてそれはラッキーなのかそれともアンラッキーなのか……
どっちなんだろうな?



今後の予定。

次回からしばらくサイドストーリー&gdgd、そして番外編。
ある程度気が済んだら二巻に入って色々回収とバラ撒きやって……と、なります。

なお個人的には番外編でifとかやってみたい。
具体的にはティナちゃんヤンデレ狂化ルートとか……誰がとは言わないけれどハイパーヤンデレルートとかね?


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番外編:“IP序列104820位”伊熊将監の物語

色々悩んでとりあえず一章で途中退場した挙げ句そのあと出せなかった将監さんと、夏世ちゃんの出会いを書いてみた。

なお文字数は何故だか少なくなってしまいましたが……許してくだちい。

なおサブタイの順位は割とテケトー。原作蓮太郎が初期で15万かそこらだったんで、見た目的にも腕っぷしが強そうな将監さんはこれくらいかなー?と考えた結果がこれです。
それではどうぞ。


数年前、まだ民警になってすぐの頃の俺は国際イニシエーター協会によるマッチングで、妙なイニシエーターとコンビになった。
ソイツの名は千樹夏世。
イルカの因子を持ち、普通のガキに比べて知能が発達してるとかで……なんというか小賢しい上にうるさそうな雰囲気を纏っているクソガキだった。
はっきり言って気にくわなかったね。もし有能じゃなけりゃこっそり殺して殉職扱いにして新しいイニシエーターに期待しようと考えるほどには。
だから俺はひとまず家に着いたら徹底的にどっちが偉いのかを教え込んでやろうじゃねぇの。なんて息巻いていた訳だが……

その計画は帰宅してまず後ろから殴って気絶させ、バラニウム入りの枷で手足を縛るところまでしか行えなかったのだ。
非常に嬉しくない理由でな。
特にその時の手足を縛ったあと最初に言った言葉は印象的だった。
『足りないです……こういうときは拷問器具をバラニウムで作っておいて、なおかつ傷口を抉るようにバラニウムナイフを刺してくれないと』

ってな。
その言葉を聞いた瞬間、俺はこのイニシエーターにマトモな流れで格の違いを教えるのは難しそうだと悟ってしまった訳だ。
なんせ突然気絶させられて手足を縛られたにも関わらず出てくる最初の言葉がそれなんて……相当のマゾヒストでもなきゃ無理だろうからな。
そんでもって俺にはマゾヒストを調教する技能なんざない。
ほら無理だ。分かるだろう?

……だがしかし、とっとと諦めた俺に対し追い討ちをするようにして更なる言葉が放たれた。
『あの、出来れば何回か直接顔かお腹の方を殴ってみて貰えますか?』

と。
もちろん俺は絶句したさ……まず引いた。その上距離を置こうとした。
10歳でマゾヒストとか何があったんだよ……とか思ってしまったからだ。
正直コイツは流石にハズレだし、変えて貰おうかとさえ考えた。
しかし……変えて貰うにはまずコイツをなんとかして処理する必要がある。
それこそガストレアに殺させる、とかな。
しかしパートナーをいきなり死なせるようではIP序列は上がりにくくなること間違いなしだ。
そこで1つ考えた。
『ならいっそ望み通り殴ってやろう』とな。

それはいわばある種の思考放棄であり、楽な道に逃げ込んだ結果とも言える。
しかし弁解させて貰うなら……俺はその時まだガストレアに対しての憎しみを若干“呪われた子供たち”にも向けていたし、何より民警として注目されるのはいつもイニシエーターばかりでイラついていた。
だから都合よく殴られてくれるイニシエーターなんかが居てくれれば、なんて心のどこかでは思っていたのさ。
だからそれをあっさり受け入れて、ひとまず思いっきり殴って、殴り飛ばした。
まぁ、その時はギリギリなんとかそれで苦痛が痛みによる快楽を上回って顔を歪めるようならやめようとは思っていたがな。

……しかし違った。
夏世は俺が殴った瞬間、本当に心の底から幸せそうな顔をしたんだ。
しかも少し倒れてから立った時にもまだ恍惚の表情を浮かべていて……
はっきり言って、恐怖すら覚えた。
だがその時、俺の頭の中にはソイツの気持ち悪さに対するある種の恐怖に加え、もう1つの感情があった。
……それは快感。
人を殴ったことはこれまで幾度となくあったが、しかしその誰でも感じたことの無いような快感を感じていたんだ。
何かを壊す快楽、弱い者を一方的に傷付ける快楽、自らの鬱憤を何かにぶつける快楽……とにかく色々な感覚がごちゃ混ぜになったような快感だった。
はっきり言ってこれほどまでに殴って気持ちのいい相手はこれまでも、これからも見付からないだろうと断言出来るな。
……そもそも他人を殴って快楽を得る俺みたいな人間がおかしいのかもしれんが。
まぁなんというか、ここまで殴り甲斐のある相手が自分の相棒になるなんてな。
IISO(国際イニシエーター協会の略称だ)の作為すら感じるほどだぜ、まったく。
俺はそんなことを考えながら、ロクに受け身も取らず殴られた夏世を見る。
別に多少本気で殴ったからって壊れはしないだろうが、ここでどれくらいダメージを受けたかを見てこれからどう扱うかを決めようという魂胆だ。
目安としてはそれなりに堪えているようであれば殴るのはあまり多くしすぎないように、あまり堪えていないならDV夫も少し青くなるくらいに、まったく堪えていないならサンドバッグといった所だろう。
俺としてはサンドバッグコースが一番だが、はてさてどうなることやら……
「ありがとうございます……あ、でも出来ればもう三発くらいお腹の方にお願いしていいですか?」

夏世は起き上がると同時に心底幸せそうな笑顔でそう言ってきた。
どうやらまったく堪えていないらしい。まるでサイやら象の因子を持ったイニシエーター(聞いた話だと普通のイニシエーターに比べてかなり丈夫らしい)のようですらある。
……実際はイルカの因子だが。

まぁ、とりあえずさっきの一発が堪えていないならサンドバッグコースでも大丈夫だろうさ。
「……あぁ、そんなに殴られるのがお望みなら……やってやんよ」

俺はコイツをこれから毎日好きなだけ殴れることに歓喜し、自分でも分かるほど不気味に笑いながら夏世を全力で殴り始めるのであった。



夏世ちゃん極マゾ化。
将監さんと夏世ちゃんが仲良くコンビ組むとしたらやっぱこれが最適な形かな。と思い立ったので。
というかアレですな。マゾロリとか正直俺得と言いますかバブみのあるロリに次ぐ俺的最強属性ランキング二位ですからね。異論反論は許す。

まぁそんなわけでマゾ化した夏世ちゃんですが……次回、ちょっくら理由を出してみます。
マゾははマゾでもただのマゾじゃない。それがこだわりと言うか原作の感じを精一杯リスペクトしてみた結果なんで。

……そういう訳で、次回は耐性のない方にとって多少胸糞ととれる可能性がありますんで、注意してください……


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番外編:“IP序列3009位”伊熊将監の物語

1週間ぴったりで完成。
まぁしかし……いつもよりコメディ色強めです。
いや、実際将監&夏世ペアは原作で『よくある民警の関係』という名のシリアス係だった分若干コメディさせてるんですがね。

それにしてもやりすぎだろとか思ったら感想で愚痴ってください(策士)。


夏世とのある意味衝撃的な出会いから数ヶ月。新入りだった俺も、どんな時でも余分ストレスがなく戦えているのが良いのかそれともあえて俺が前に出て夏世が援護する逆転スタイルが良いのか、今ではIP序列が四桁になるほどの大躍進を遂げ、所属している民警事務所では期待の若手とか呼ばれるし僅かながらファンというか……お得意様的な警察関係者も出来る程度には、活躍している。
しかしそんな華々しい活躍の傍ら表に出ない場所では初めて出会った時のごとく夏世を殴って日頃のストレスを解消しつつ快楽に溺れている……まぁアレだな、はっきり言って人間としては三流とかそれどころじゃない底辺クラスのクソ野郎であることは理解しているさ。
だがよ、その殴られる対象、つまりサンドバッグ代わりになっている夏世が殴る度に物凄く嬉しそうにしてもっともっととねだって来るんなら……仕方ないよな?
殴っている方である俺も俺で嬉々として受け入れているから責任を一切感じない訳じゃあないが。

……さて、今日はそんな俺の休日を紹介するとしよう。
定休日はシフト制なので月水金。週休三日制な上に休みの日がちょうど普通の奴にとっての平日だからレジャーに出掛けてもいいし普段は超長い行列の出来るような店に行ってもいい。
あるいは親子連れだと特になる場所を巡って大笑いしてやるのも……いい、らしいな。
だがしかし、俺の休日の過ごし方はこうだ。
まず朝。金がもったいないということで同じベッドで寝ている俺たちは普段通り6時くらいに揃って目覚めて……寝惚けた状態で眠気覚ましにと促されるままに夏世を殴る。
この時少々手加減を忘れるどころか脱力状態から放つ拳であるため少々いつもより威力が高くなってしまうが、夏世はそれでも喜んで殴られるから問題ない。
そして朝食。基本は夏世が作り、気が向いたときだけ俺が作る。最初は俺が作ろうとしたのだが明らかに下手だったし、夏世いわく『殴ってもらってるお礼』だそうだ。
まったくもって訳が分からないな。だが正直ありがたいし、都合が良いから作らせている。
それに、これが案外美味いんだ。レシピ通り完璧に作っただけらしいが……俺がレシピ通りに作ってもこうはならないだろう、と断言出来るほど美味い。
なにか特殊な作り方でもしてるのか?と聞いたら『愛ですよ』とか言われて割とマジな方の拳が飛んだが。

でもって、飯を食ったあとは腹ごなしに少し訓練(とは名ばかりで俺が殴るだけ)して、適当なテレビを見てしばらく時間を潰し、午前十時ほどに突然どこかに行こうと言い出すのだ。無論俺が。
そんでもってそこから出掛けてフラフラして、売られた喧嘩は買って、飯食って気分次第で帰ったり帰らなかったりして、結局帰って、そのあとは飯になるまで殴ったりグータラしたり……とにかく好き勝手やってる感じだ。
まぁ、こんなんだとガストレアが現れる前の中年男性の1日は大体こんな感じだってのを聞いた時のそれみたいだから少し変な気分だがな。
ちなみにこれでも俺はまだ20代前半だから中年とか言うなよ?言ったら夏世を殴ってるお陰で最近人体のどこを殴れば効率的に痛めつけられるのか理解できるようになってきた俺が、全力で痛みと苦しみを与えるパンチをお見舞いしてやるからな。
「あの、将監さん」

無駄にここ最近のことを考えていたところ、不意に夏世が後ろから声をかけてきた。
コイツの場合用件は大抵今日の飯か殴ってくれかあとは極稀になんか重い話だが……
この雰囲気だと重い話のパターンだろうか?
俺は内容をロクに分かってもいないが読んでいるフリをしていた雑誌を置き顔を向ける。
それを確認すると、夏世はこれまで気にもしていなかったようなことを口にした。
「今更なんですけど……将監さんはなんで私を迷いなく殴ってくれるんですか?」

そう、俺が何故コイツを迷いなく思いっきり殴れるのか。
確かに、物凄く謎だろうさ。
なんせこの見た目でも俺は週刊少年ジャ○プを毎週欠かさずに買う程度には普通の感覚を持ち合わせているし、売られた喧嘩は買っても自分から喧嘩を売ることはない。
つまり見た目に似合わず至って平凡な感覚を持ち合わせているってことだ。

だがそれなら何故、夏世を容赦なく殴れるのか。
その答えは……至ってシンプルだ。
「知らん。お前を殴ると気分が良くなるが俺にも分からん」

そう、俺にも分からない。
正直なところ元々ケンカはそこそこ好きだったしケンカのあとは気分がよくなる位にはバトルジャンキー的な資質も持っていた。
しかし俺はそれでも一部の『奪われた世代(自称するのも変だから自分では言わんが俺も入っている)』のようにガキを殴って楽しむ趣味はない。
しかし実際問題、毎日のように夏世を殴って快楽を得ていることには一切のフィクションがない。
理由は分からない。
もしかしたら単純に嬉々として殴られる相手が居るからかもしれない。
あるいは殴っても文句1つ言わないサンドバッグ代わりに殴れる都合のいい相手だからかもしれない。
あとは俺が元来ガキを殴って楽しむ奇特な性癖の持ち主って可能性もあるし、俺が一目惚れしていてその照れ隠し的にやっている可能性もある。
自分自身でも分からないのさ。
……だからこれだけは迷いなく、確証を持って言える。
何度も言うようで申し訳ないが、分からんとな。
「むしろ俺はお前が嬉々として殴られる方が理解できん」

なので何故迷いなく殴れるのか分からない俺は話を逸らすために質問に質問で返した。
何故夏世は嬉々として俺に殴られるのか。それ自体がそれなりに気になっていたのもある程度は理由に含まれるがな。
「私ですか?」

……さて、どんなトチ狂った答えが来るのやら。
正直このご時世だから『昔から殴られ続けてきたから』くらいの答えは想定しておいても損はないよな……
「……だって殴ってくれるってことは私を認識して、触れてくれているって事ですよね?だからです」

しかし返ってきたのは予想外なレベルで要領を得ない答え。
回答にもなっていないが……また随分と変な答えだなオイ。
認識して触れるなんて普通のことだろうに。
今時の奪われた世代だってこんなガキを完全に一切認識せずに過ごすなんて出来ないし……いや、大概は悪い意味でだが。

俺は夏世の言った意味が分からず、問い詰めた。
あまり話したくはなさそうだったが、少し強引な手を使ったらすぐに話し始めてくれた。
その際コイツはそんなに殴られるのが好きなのかと呆れたが……
「私、産まれてこの方家族にも他人にも完全に居ないものとして扱われてきたんですよ」

夏世が話した思ったよりもかなり深刻で真剣な話のせいでその呆れも吹っ飛んだ。
どうやらコイツ、俺がさっき自分の脳内でどうやっても無理だと結論付けたことをずっと実践されてきたらしい。
なるほど、そりゃさっきみたいなことを言うわけだ。
「それでIISOにイニシエーターとして引き取ってもらって、ようやく自分の名前を知ったんですけど、そこではずっと番号で管理されてたから私を私と認識してもらえなくて……初めて私を見てくれたのが、将監さんなんです」

……それにしても重い。
この話は重すぎるから横綱級の話題とでも命名してやりたいくらいに重い。
家族にも他人にも認識されず、IISOでも自分を自分として認識されず、俺が初めてコイツをコイツと認識した?
ある意味すげぇとすら思えるよ。人がここまで人を無視できるなんて。
いわゆる時代の被害者って奴なのか……コイツ。
そう思うとただのマゾヒストには見えなくなってきた。
なんというか色々黒い。時代が黒い。
巷では民警のことを、バラニウムが黒いからと『世界一真っ黒な職業』だなんて言ってたらしいが……それが笑えないジョークにすら思えるな……
「あと、IISOに引き取って貰うまでに自転車とぶつかったことがあるんですけど、不思議と痛いのが気持ちよかったのもありますね」

「俺の感傷を返せ」

……前言撤回。
ダメだコイツただのマゾヒストだ早くなんとかしろ。
俺はそう思いながらも、珍しく感傷に浸っていた自分が恥ずかしくなって照れ隠しのように夏世を殴るのであった。



夏世ちゃんドM化の要因は他人からの執拗な無視が原因……かと思いきや半分くらい本人の性癖でしたオチ。
サイテー!とか感想に書き込んでも良いのよ?

ちなみに次回はIP序列が1000番台になる予定でする。
分かりやすく言うと番外編ラスト……かもしれないしそうじゃないかもしれない。
そんな話です。


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番外編:IP序列1512位、伊熊将監“たち”の物語【前編】

8日も掛かってまだ番外編終わらないです。でも次回できっと終わらせます。
たぶん。

なお今回、時系列的には蓮太郎くんがキャンサーを殺す前に当たり、内容は半シリアス半ほのぼのとかいう決戦前仕様です。
それと原作じゃ影の薄いあの人を適当なキャラにしてみますた。
それではどうぞ。


人生は理不尽だ。
死ぬほど腹が減っていて今すぐ何か食いたいって時に限って近所のファストフード店は閉まっているから夏世を頼らないといけなくなるし(しかも何故か準備はいつでも整っている)、今日はダラダラして夏世を殴って過ごそうかという日に限ってガストレアはとんでもない数の徒党を組んで襲ってくるからこっちもアジュバントを組んで倒さなきゃいけない。
ホント、辞めたくなるぜ。こんな仕事はよ。
だが民警以外に今時向いてる職業はないのも事実だし、民警を辞めたら夏世という名の素晴らしいサンドバックとサヨナラしなくてはならない。
それだけは嫌だから民警を辞められず、いつまでも理不尽に遭い続ける訳だが……それにしたってこれは酷い。

ある日突然ステージV、つまりゾディアックが襲って来るなんてよ!
しかもだぜ?それと真っ先に交戦するのはガキどもと来た。
ハッ……俺たちはソイツらを殺したゾディアックと戦うってわけかい。
不吉じゃないか。不吉すぎるじゃないか。民警は意外にもジンクスや占いを重要視しているのに、不吉すぎるじゃないか。
「将監さん、ストレスが溜まっているならいつものように私を殴って良いんですよ?……表では体面を気にしてやれないと言うのなら、私をどこに連れ込んでも良いですから」

しかもそんな不吉な状況でもマイペースに殴られたがるコイツがウザい。
殴って良いか?良いよな?よし殴ろう。
俺は手を握り締め、かなり強く手首のスナップを効かせた拳骨を振り落とした。
これならば俺の主観としては割と本気で殴っているだけなのに周りからは殴っているように見えないという素晴らしい手法だ。
こういう場に出た時、不意に殴りたくなったか殴られたくなった時はこうするとに決めたのだ。ついさっき。
そう、決めた……はずなのだが。
「……ふむ、つまり今の将監さん的にはいつもよりソフトなのが良いと……大丈夫ですか将監さん?良ければ膝枕とか腕枕とかしましょうか?なんなら抱き枕にしてくれても良いですよ?大歓迎です」

「誤解を招くことをっ!言うなっ!」

ゴツッ!ゴン!
ものすごく誤解を招く言い方をしたのでひとまず夏世にさらなる拳骨を叩き込んで黙らせ、俺は周囲を見た。
こちらに何か注目しているやつが居ないかのチェックである。
いや、別に注目しているからどうってことはないんだがな?しかしこっちを注目しているということは後々偽善者ぶって近付いてきてから夏世に精神をメッタメタにされる可能性が非常に高いと言うことにも繋がり……具体的には俺もされた側も精神状態がよろしくなくなる。
しかもそれはつい先程破壊力が証明されたばかりの代物だ。

……あぁそうだ、分かりやすいからさっきあった短いやり取りについて少し回想するか。
なぁに、どうせまだゾディアックが来るまでは少しの時間があるんだ。
来てくれないのが一番だが、とりあえず来るまでは平穏なのだからそれを有意義に使わないとな。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

アジュバントの結成により仮陣地がゾディアック襲来予測ルートの上に立てられてすぐ、俺は戦場にまだ中坊でも通じるような歳のガキが居るのを見て気分が悪くなり、気分転換に夏世を殴っていた。
いや、まぁそれを言ったらそもそもイニシエーターなんざ小学生だってのは分かってんだけどよ……ただの身勝手な偽善だ。
そんなことを考えて気分転換をしている筈なのにナーバスになっていた時。
不意にソイツは現れた。
さっきのガキだ。
……まずい所を見られたな。
俺は夏世を殴るのを中断し、ジェスチャーでガキの背後に回り込めと伝えつつ、最後に大きく殴り飛ばした。
そして傍らに置いておいたバラニウム製のバスタードソードを手に取ってガキに向ける。
特に何かするでもなく、ただ剣を向けることで相手に自分から引かせようという意思の表明だ。
ある程度は名前が通っている俺に剣を向けられりゃ大抵は自分から引いてくれるんだ。それを利用しない手はないってことさ。
「……分かった。ここで見たことを俺は一切他言しないと約束しよう」

ガキはまるで自分の方が年上であるかのような口調でそう言い、両手を挙げた。
だがその次に、ガキは思いもよらぬ台詞を口にする。
「俺がここに来たのは、アンタはもうすぐ選ばなきゃいけない時が来るってことを伝えるためだ」

そのガキは、その言葉を告げながらこちらに接近してくる。
俺はバスタードソードを構えたままガキを待ち構えた。
だが、剣が見えていないかのようにガキは眼前まで接近してきて、反射的に距離を取ろうとする。
が、動けない。まるで体がそこに縛られているように。
そしてまったく動けない俺の耳元でガキは囁いた。
「自らの欲望に、望みに向き合え。さすれば道は開かれん……ゆめゆめ忘れるなかれ、だ」

そしてその言葉を囁き終えると同時に体に自由が戻り、俺は訳もわからずバスタードソードを全力で振るった。

しかし、その一撃はその軌道上に間違いなく居た筈のヤツを捉えることはなく、虚しく空を切るのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

「おい」

「はい、これですね」

謎のガキが現れてから数時間。俺はまだ少し内心イラつきが消えきらぬまま、夕飯を貪っていた。
……それにしても、これが有事に備えて備蓄されていた保存の利く食料ばかりを集めた食事だから味が悪いのは仕方がないこととはとはいえ、非常に不味い。
普段食ってる夏世の飯のありがたみが理解できるなこれは。
……つーかこんなもん有事でもなきゃ食いたくならねぇよ。てか有事でもなるべく食いたくねぇよ。
説明文が本当なら栄養は一応完璧らしいが色身がないし、味は相当酷い。
偶然にも夏世がこんな事態を想定していたのか、あるいは複雑な事情からか備蓄食料料理なるものを作れたからウチ……三ヵ島民間警備会社だけはメシの味が不味すぎて士気が最低まで下がることはなかったが……やはりひどい気分だし、士気が下がってる。
なんそ味を打ち消すためのものもない上に、酒も美味いものもない。そして料理が出来る人員はいても材料がない。
これでまだマシと言うなら……他はとうなっているのだろうか。考えたくもないね。
「……お前ら本当に仲が良いよなぁ、つくづく羨ましい限りだわホント」

俺がそんなことを考えていると、横で不味い飯を食っていた三ヶ島さんが声をかけてきた。
どうやら俺たちの仲が良いように見えたらしい。
……皮肉なもんだな。自分のイニシエーターを殴るような男がイニシエーターと一応は良好な関係を築けているのに、ウチの中で一番『呪われた子供たち』を受け入れようとしている三ヶ島さんはイニシエーターにマトモに口を利いて貰えない。
現実はつくづく理不尽だよ、ホント。
「オイオイ、そんな可哀想なものを見る目で見ないでくれって。俺だって進歩してるんだ」

だが、三ヶ島さんは俺の視線に気付いたのか、少し笑みを溢しつつ懐から一枚の写真を取り出して、語り出した。
「見ろよこれ……ウチの相棒様が初めて笑ってくれた時の写真なんだがよぉ?これがもう可愛いのなんの……」

ただのノロケというか、娘が可愛くて仕方ない父親のような自慢話だったが。
……なんというか、護りてぇな。こんな日常。
俺は、幸せオーラ全開で惚け続ける三ヶ島さんを見て、生まれて初めて何かを護りたいと思うのであった。



三ヶ島さん⇒原作ではシャチョさん。しかし今作では戦うシャチョさん。
イニシエーターにデレデレだし甘い所があるが、人間力は今作屈指の実力者である。

なお、次回投稿はまた7日くらい掛かると思われますのでしばしお待ちください。


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番外編:IP序列1512位、伊熊将監“たち”の物語【後編】

難産だった……というかあえて不自然な感じに書くの辛い……自分で何書いてるか分からなくなる……つーかちゃんと不自然になっているのかすら分からん……
みたいな感じです。なお珍しく5000文字なので、量的には普段より多い感じになります。
それではどうぞ。


「良いかテメェら!この戦いに懸かってんのはお前らの命だけじゃねぇ!テメェらの大事な奴を含めた、この東京エリアの全員の命が懸かってんだ!覚悟を決めろっ!」

大勢のアジュバントメンバーたちの前で、ウチの代表である三ヶ島さんがメンバーたちを鼓舞するような演説をしている最中、俺は一人若干上の空だった。
あまりよろしくないことなのは理解しているが……だが俺に意味深なことを言い残して消えたあのガキのことが頭に残って仕方ない。
戦闘の直前で何考えてんだか……
「そして……生きて帰って、逃げやがった臆病者たちに言ってやろうぜ!俺たちが、俺たちこそが英雄だってよ!」

俺は自分自身に呆れつつ、とりあえず戦うための準備に怠りはないかをチェックする。
剣よし、グレネードよし、投げナイフよし、気合いよし、覚悟は……出来てる。
あと夏世の方はどうだろうか。
そう思ってそちらに視線を向けてみると、夏世は俺よりずっと重装備(まぁ剣とグレネードとナイフだけで戦う俺が軽装備ってのもあるが)で、準備は万端のようだった。
これなら俺たちはいつでも出られるな。
「そんでもって生きて帰れたなら、俺がテメェら全員に酒奢ってやる!だから維持でも生き延びろ!俺に言えるのはそれだけだ!」

俺たちが準備を終えたとき、それとほぼ同時に三ヶ島さんの演説も終わった。
つまり、もう少しでゾディアックとの、人類史上最悪の敵との戦いが始まるという訳だ。

……あぁ、ヤベェ。手が震えてきた。
モノリスが設置される前の地獄をなまじ見てきたばっかりに、いやに鮮明に脳内をあの日の光景が駆け巡る。
ガストレアへの恐怖やら、憎悪やら、わけの分からない手に余る感情が頭の中で乱反射する。
決戦はすぐそこなのに、怖くて踏み出せる気がしなくなってきた。
「……将監さん」

……ふと、大事な決戦の直前で突然臆病風に吹かれた俺に夏世が声をかけた。
その声はいつになく真剣で、どこかに抱えていた恐怖を少し緩和してくれるような響きも含んでいる。
「怖いなら、別に戦わなくっても大丈夫ですよ?少なくともゾディアックを倒すよりは生きる可能性の高い方法をいくつか用意してあります。それに一番距離が短い大阪エリアの代表は力さえあればどんなクズでも使うことで有名ですから拒絶されることはないでしょう……それでも戦うと言うのなら」

夏世はそこで呼吸を挟んで続けた。
「私は将監さんを命懸けで支えます。将監さんを生かすためならば他の人は私も含めて全部利用するつもりですし、将監さんが他の人の身代わりになるくらいならその人を殺します。ですから何がなんでも生きてください……良いですね?」

夏世が俺に対して言ったそれは、一般論なら明らかに間違っていると断言出来るものだった。
しかし、その間違いきっている言葉は不思議と恐れを取り除き、俺に安心感と勇気を与えてくれた。
人間、自分を甘やかしてくれる奴にはどうしたって弱いということだろう。
「それ、三ヶ島さん辺りが聞いてたら大目玉どころじゃ済まないぞ?」

俺は勇気付けられていつもの調子を取り戻し、茶化すようにそう言って強めのチョップを叩き込む。
「ふふっ……そうなったら地獄の果てまでお供しますよ?将監さん」

「その元凶、お前だよな?」

俺たちはまるで日常の中に居るかのような気持ちで戦場へと歩を進める。
あぁ、戦場へようこそ、だぜ。ガストレアたち。
この世に産まれてすぐのやつも居るところ悪いが……俺たちの為、死んでくれや。
戦争が、始まった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

右の手に持ったバスタードソードで近付くガストレアを悉く薙ぎ払って戦場を進む。
戦況はほぼ互角。あるいは優勢。
幸いにしてゾディアックは正体不明だが腕利きの民警によって足止めされているため参戦はなく、飛行ガストレアは空自がなんとか食い止めている。
しかしガストレアはその物量にものを言わせて攻めて来るため、数で圧倒的に劣るこちらは全員が一騎討千を実践する必要があるほどの状態であった。
そして現在、ようやく互角から優勢に傾くかと思われていた俺たちの付近にこれまでを越える怪物……恐らくはステージIIIかIVと思われるガストレアが現れ、戦況を再び互角に変えようとしていた。
そのガストレアは巨大な肉体に無視のような眼が全身にいくつも存在し、さらに死角が少ないが急所の多い体を守るためか全身が射出可能なトゲで覆われており……言うなれば動いてマシンガン並みの連射もしてくる針山とでもいったところだろうか。
ハッキリ言ってお帰りあるいはお還り願いたい相手だ……
俺はそう思いつつも、やるしかないと考えてバスタードソードを構え、近くで戦っていた味方に援護を求める。
「雑魚は俺がやるっ!だから突っ込めぇぇぇぇぇっ!」

するとその民警は快くそれを了承し、得物を針山ガストレア周辺の雑魚を一掃するようにして連射し、スペースを作り出す。
そして俺はそのスペースへ勢いよく躍り出て……バスタードソードを叩き込むフリをしてその柄に仕込んであるある意味奥の手とも言える機構を発動させる。
それが生み出すのはただ一瞬の閃光であり……同時にこの瞬間だけは針を射出しようとしたガストレアの意表を突いて行動を止める強烈な一撃でもある。
そうしてガストレアに一瞬の隙が生まれ、俺は今度こそバスタードソードを全力で叩き込む。
「死に晒せエェェェェェッッッ!!!」

黒いバスタードソードは寸分違わずガストレアの登頂部を捉え、そして叩き斬る。
……だが、ガストレアの眼からはまだ戦意が失われていないように感じられる。
ならば、と俺はバスタードソードに仕込まれた第二の機構を発動するボタンを押し込み、剣の先端数cmほどをパージ。
自らの攻撃に巻き込まれぬよう細心の注意を払って距離を取り、その機構を発動したボタンを再度押し込む。
するとガストレア内に残された剣の先端部分が爆発を起こし、その中に仕込まれていた液化バラニウムが体内からガストレアを侵食、死に至らせる。
よし、これで巨大ガストレアを倒せた。奥の手をどっちも使ったから一旦戻って補給する必要があるが、まぁステージIIIやステージIVは普通単体で倒すもんじゃないし、上々の結果だろう。
「夏世!一旦戻るぞ!」

俺はあらかじめ用意しておいた俺たちの間で通信する用の無線機を使って合図を出し、一時撤退を指示する。

……だが。
『すみません将監さん、こちらは戦況が芳しくないため戻ることは難しそうです……』

無線機から聞こえてきた夏世の声は切羽詰まった時のソレであった。
チッ……タイミングが悪い!
俺はそう思いつつも、とにかく増援として駆け付けるために現在の装備を確認する。
あまり使えないバラニウム製破片手榴弾が2つ、先端の機構を使っちまったバスタードソードが一本、予備のナイフが数本。
……問題ないか。
そう判断して俺は夏世が戦闘している地点へとガストレアを薙ぎ倒しながら進んでいった。
そして夏世を視認出来る位置まで接近し、手こずっているらしいガストレアに目を移す。
そこには地獄があった。
「おいおい……冗談もいい加減にしろよ……いくらゾディアックが来ているからってこんなにウヨウヨ居るとかふざけるなよ!」

見ることが出来る範囲にいるのはイニシエーターばかりが10人ほどと、それを取り囲む大量のガストレア……戦況は最悪としか言いようがなかった。
しかもなんとか生き残っているイニシエーターたちも半分がマトモに戦えていない。これではもはやあと数分と持たないだろう。
『すみません……さきほど新たに現れた人間へウィルスを感染させることに特化したガストレアが……なんとか討伐には成功しましたが、すでに何人ものプロモーターたちが……』

……チッ。俺は舌打ちをしつつも、やるしかないと決意し、剣を両手で握り締める。
この付近にいるらしい感染特化型ガストレアはなんとか倒したようだし、ここで新しく犠牲者が出る前に全て殺すしかない。
きっと死んだ奴等もそれを願っているに違いないだろう。勝手な想像だがな。
「すまねぇ……」

まず俺に気付いていないステージIへ奇襲し、一撃で仕留める。
そこから流れるように雑魚ガストレアを蹴散らして……一気に十近く数を減らす。
その頃になるとようやくガストレアもこちらに気付いたが、時すでに遅し。
残っているのは三体のステージIIと、ステージIIIが一体のみ。
そしてそれだけなら……イニシエーターたちを夏世以外勘定に入れず戦っても、十分勝てる!
俺は勝利を確信し、薄く笑みすら浮かべながら剣を振るった。
ステージIIの一匹目は夏世の援護で意識を逸らしつつ首を斬り飛ばし、二匹目は頭が何故か足の間にある化け物だったので投げナイフを直接刺して殺し、最後の一匹はこちらの攻撃を読んで回避しようとしたところで夏世に脳天を撃ち抜かれた。

そして、最後の一匹。ステージIII。
俺はそのガストレアのクマと狼を混ぜ合わせたような体に一瞬で詰め寄って足の一本を狙って斬撃を叩き込む。
だがガストレアは攻撃されたにも関わらず、身動き1つしようとしない。
なんだこの違和感は?何か狙っているのか?
そう思ってガストレアを観察していると、偶然視界に捉えたそれですぐに疑問は払拭された。

ガストレアの顔の中心に、あったんだよ。
忘れもしねぇし忘れられねぇ。というかついさっきまでノロケてやがったあの人の、顔がな。
あぁなるほど、確かにあの人ならガストレアになってもしばらくなら気合いで持ちこたえることくらいできそうだ。
三ヶ島さんはいつだってそうだよ。
心が折れそうな状況だろうがなんだろうが、誰よりも生にしがみついて大事なもんを護る。
その為ならなんだってしていた。
権力に媚びても、強い力に屈しても、何をしてでも大事なもんを護り抜こうとしてた。
そんな三ヶ島さんだからこそガストレア化に少しだけ耐えられたんだ。
偶然と一蹴することも容易だろう。だが俺は信じるよ。
これは三ヶ島さんの意思が起こした奇跡だと。
だからきっと、そんな三ヶ島さんの意思を信じ、あえてここで斬らない選択肢が存在するのだろう。
……だが、俺は民警だ。ガストレアを殺す人間だ。だからここでピリオドを打とう。三ヶ島さんの遺志が、無駄にならないように。
俺はバスタードソードを振り上げ、全身全霊を込めてそれを振り下ろし、三ヶ島さんのなれの果てを斬り裂いた。



……筈、だった。



剣を振り下ろした瞬間、感じた感覚は普段のようにガストレアの肉を斬ったときのそれではなく、それより幾分か柔らかいモノを斬った感触だった。
訳も分からず剣閃の通った場所に目を移すと、そこには三ヶ島さんが見せてくれた写真に写っていたイニシエーターの亡骸だけが無惨に存在していた。
……どうやら俺は人を斬ってしまったらしい。
しかも俺が斬った『護りたいもの』のために奇跡を起こした三ヶ島さんの目の前で。
あぁ、おかしいな。
悲しくなる筈なのに、絶望する筈なのに。
涙も、悲しみも絶望も、何も浮かばない。
ただそこには目の前の敵を斬るという目的のみが存在しているだけで、一片の悲しみすら存在しない。
……俺は無感動に再び剣を振り下ろした。

ほら、やっぱり。
三ヶ島さんには散々世話になったのに。護りたいものだと思った筈なのに。
何も感情が浮かび上がらない。
「将……監さん?」

そんなとき、不意に呼ばれたのでそちらを向くと、夏世が俺をまるで怪物を見るかのような目で見ていた。
俺は本当に怪物になってしまったのかもしれないな。
いや、俺の場合は偶然とはいえ、人を殺した奴なんてみんな怪物なのかもしれない。
……あぁそうだ。いいことを思い付いた。
怪物は怪物なりに暴れまわって何もかもを壊してしまおうじゃないか。
そうだそれがいい。どうせ俺みたいな奴に帰れる場所なんてな……
「ていっ!」

そんな破滅的な思考に陥りかけたその時……不意に俺の顔面を強い衝撃が襲った。
「将監さん!あんまり調子に乗ってると怒りますよ!」

「すでに怒ってるよなお前!?」

それは夏世がわりかし全力で俺を殴ったことによるものだった。
……何しやがんだこいつ。
「あれですか?自分の上司のなれの果てと一緒に偶然その相棒を斬っちゃって絶望して悲劇のヒーロー気取りですか?普段から8歳くらいの幼女を殴って笑ってるロクでなしなあなたが?ふざけるのも大概にしてくださいよ!」

夏世は、普段からは想像も出来ないような剣幕で一気に捲し立てた。
しかも生意気にもこっちの服掴んで持ち上げようとしてやがるし……
首の辺りが伸びるだろうが。
「私が求めてるのは普段通り笑いながら私を殴ってくれるロクでなしで人の痛みを理解できなさそうでどう見てもチンピラにしか見えなくてというか普通に行動原理がチンピラでそのくせかっこよくて可愛くて私を容赦なく殴り飛ばしてくれる将監さんだけなんですよ!無駄に似合わないシリアスムードなんか撒き散らしてる将監さんなんか将監さんじゃありません!」

……つーかコイツ、調子に乗ってるよな?よな?
人がせっかく黙って聞いててやってるってのに訳の分からんことを捲し立てんな。
俺はなんとなくそう思い、持っていた剣を捨てて拳を握り締めた。
「……人が黙って聞いてると思って調子に乗んなァ!」

そして、いつもとは違って遠くに飛ばすのではなく地面に叩き付けるように殴った。
この怒りやら何やらの感情を込めた拳はいつもの三割増しくらいで重いし、さっきまでの戦闘でとっくにウォーミングアップを終えた体は殴るために最適な状態だ。
まさに最高の一撃て評するに相応しい拳が、夏世の腹に命中する。
そして夏世はそれによって地面に勢いよく叩き付けられ、十秒ほど動かなくなったが、すぐに復活してこう言った。
「くふふ……今のは良かったですよ……というかようやくいつもの将監さんに戻りましたね。子供を殴って平静を取り戻すとか一体将監さんはどれだけ変態的なんですかもっとしてください」

しかし今回のは普段より数段キレのいい一撃であったにも関わらず、夏世はいつも通りニコニコとしながらさらに催促してきた。
……だが、流石に今これ以上やるのはコイツに負けた気がするのでやめておこう。
やるのは帰ってからだ。

俺は、先程までとは一転して軽い足取りで本営までの帰路に着くのであった。






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vs冥府より来る暗殺者 とあるダメ人間たちの朝

すいません。前回一度投稿しましたが、自分でも分かるくらい頭おかしいことになっていたために削除して書き直しました。
前回投稿したものを読んでいただいた方、本当にすみませんでした。


元英雄にして現状もっともセンセーショナルな時の人、同時に人類最強であり【英雄】【星墜とし】【雷神】等々多くの異名を持つ男、里見蓮太郎の朝は果てしなく遅い。
時刻にして午前10時半。常人ならばもうすでに働いている時間帯において、俺が何をしているか。
まず訓練ではない。
しかし瞑想ではない。
だが食事でもない。
かと言って何か特別なことをしているわけでもない。
俺はただただ、純粋に、誰にでも出来るが誰もがしたいことを思う存分にしていただけなのだ。
……そう、思う存分二度寝をして、1日の半分近くを寝て過ごすという夢のような行為を、俺はしていたのだ。
1日ぶりですらないのにまるで何十日かぶりに安眠を貪っているかのような安心感と、それに伴う脱力感、そして心地いい人肌の温かさの三重奏は俺から起き上がる気力を奪い去り、8時に目が覚めたにも関わらず二度寝によって10時までいまだベッドから起き上がらないという現状を作り出していた。
いや、この現状を作り出している要因はそれだけではないだろう。
安心感も脱力感も、毎日毎日普段から味わっている感覚だ。
抜け出したいとは思わないが、しかしその気になれば中断することくらいできるだろう。
だが、今味わっている脱力感はいつもとは桁違いで、もはや自分の意思で抜け出すことなど不可能であると考えずとも理解できるほどの勢いで俺の気力を奪い去っていっている。
それは何故か?

……理由は簡単だ。
これまでこのベッドには俺とティナの二人だけで寝ていた。
そしてその場合俺の方が受け攻めで言うと攻めの側にあるわけだから、簡単に終わりに出来た。
しかし今回は、或守という三人目が居て、俺は受けの側にある。
そしてそこに先日の戦闘の疲れが残っているという事実が合わさり、行動する気力を削りきってしまっている。
ゆえに起きられない。そういうことなのだ。
……だから今から三度寝をしようとしている俺はまったくもって悪くない。悪いのは普段とは違う現状と、この前のゾディアックだ。

俺はそう自分に言い訳しつつ、僅かに開いていた瞼を三度閉じてまた眠ろうとした。
が、しかし。
そこでつい僅かに身じろぎしてしまったせいか、はたまた自然にかは知らないが、この状況を作り出していた最大の要因が目を覚ましてしまう。
まだ少し眠いが、もう起きるしかないな………と思ったが、意外にもその要因、つまり或守はまだ寝ていたいという俺の心を読んだのか、それともただ眠かったからかは知らないがすぐに二度寝を始めた。
ならどうするかは考えるまでもないな。
………三度寝しよう。大体午後1時くらいに目が覚めれば問題はない。
経験上この前のゾディアックみたいなうかうか寝てられないレベルのとんでもない大事件はそうそう連続して起こったりはしないから、寝ていたって許されるよな?
俺はそう判断し、少し体勢を変えると瞼を閉じて本日三度目の睡眠に入るのであった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

……しまった。
三度寝を終えて目を覚ましたとき、時刻はなんと午後2時だった。
これは流石に少々問題がある。
主にティナと或守が空腹に耐えきれなくなる可能性があるという問題が。
一瞬でそこまで思考した俺は、弾かれるようにベッドから降りて服を部屋着に替えると即座にキッチンへと向かった。
起きたときすでにティナも或守も居なかったことだし、きっと先に起きて俺が起きてくるのを待っている……のだろう。きっと。
もしかしたら先に飯を食っている可能性もあるが、まぁそれは自業自得だな。仕方ない。
だがもし二人が俺が起きてくるまで待っていたりしたら……まずい、少し二人に顔向け出来ないかもしれない。
そう思いつつキッチンと廊下を分けるスライド式の扉を開く。
するとそこには、予想外も予想外な光景が広がっていた。
「あ、おはようございます、おにーさん」

それは料理はピザしか作れない(少なくとも大抵の料理は気付くとピザになっている)ティナが何故か珍しく普通のベーコンエッグを作っている光景でもあり……
「蓮太郎さん。お疲れなのは分かりますけど、寝過ぎても体に良くないですよ?」

或守が、どこかの母親みたいなことを良いながらサラダを盛り付けている光景でもあった。

どうやら或守は料理が出来るようだな。まぁあんな場所で育ったのならある程度の生活能力は身に付くんだろうが。
しかしあのティナが割と簡単なものとはいえ普通の料理を作るなんてな……前は何故そうなると疑問に思うような材料からピザが出来上がっていたのに。
俺はそんなことを考えつつ、とりあえず二人だけに任せるのも悪いかと思って何かやることはないかと尋ねてみる。
「なぁ、俺はなにかやった方がいいか?」

「大丈夫です……おにーさんはもっと私達に甘えて良いんですよ?朝食くらいなら任せてもらっても大丈夫ですから」

……が、あっさり大丈夫だと言われて断念した。
失敗したりして怪我しないかと少しばかり心配ではあるが……まぁ、きっと大丈夫だ。万が一怪我してもイニシエーターの回復力と俺の能力があれば大事に至ることはないだろうさ。
俺は朝食の調理を二人に任せてリビングに移動し、自分の席に座って料理が出来るのを待つことにした。

そして、待つこと数分。
俺が寝ている間から作っていたこともあり、あまり待つこともなく朝食は完成したようだ。
そしてそれをなんとなく察しつつ、無理に手伝おうとするのもなんかなぁと思って特に何をするでもなくただ待っていたところで二人がそれを運んできたのだが……そこで少々問題が発生した。
「これなんだ?」

「ピザ生地にトマトソースとチーズをかけて焼いたものです」

そう、ピザだ。
ティナが作る食事の代名詞にして、アメリカ人のソウルフード(多分)、ピザ。
それが今、目の前で焼いたフランスパンとサラダに挟まれて置かれている。
……まさか気付いたらピザが出来上がっていたとでも言うのか?さっきはピザを作っている素振りもなかったのに。
「気付いたら出来上がってました……まだまだ精進が足りなかったです」

「ピザって気付いたら出来るもんなのか?」

俺はパンとピザの組み合わせってありなのか?という疑問を抱えつつ、それは表に出さないようにしてあたりさわりのないことを聞いてみた。
正直なんでいつもピザが出来上がるのかまったく分からないし、触れないようにしていたが今回はパンでパンを食うという訳の分からないことになりそうなので流石にどうしてこうなるのか知りたくなったのだ。
「すみません……私にも分からないんですけど、私の場合何を作ってもピザになるか気付いたらピザとセットになるみたいです」
だが、案の定どうしてこうなるのかはティナ自身にすら分からないらしい。
まぁ仕方ない、分からないものは分からないんだ。
或守はこの結果に少し気を落としているような素振りを見せているが、もうティナがどうやってもピザを作ってしまうのは仕方ない……筈だから、受け入れるしかないのさ。
俺はそんなことを考えながら、パンでパンを食うというある意味斬新な組み合わせの朝食をどう食うかを思案する。
まずはティナが焼いたピザから食おう。先にこっちを食っておかず代わりにしてしまえばこの組み合わせも案外相性は悪くないのかもしれない。
そうあることを願いながら、まるでそれがいつも通りのものでないかのように慎重に、ピザを齧る。
だが、当然の帰結というか、当たり前のことというか………無意識に作ってしまったものであってもピザはピザだった。

………そりゃそうだよな。ティナのピザが天下一品なのはいつものことだし。
俺は普段通りのティナのピザに安堵しつつ、何気なく空腹感を訴える体を黙らせるべく、残りのピザへ手を伸ばした。


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日常の中に潜んでいる異常という名の異音。

投稿が遅れたのはもう色々理由がありますが、変に弁解するのも正直寒いなとようやく自覚したのでとりあえず次を急ぐことで示そうと思ってます……まぁ、とりあえずどぞ。


ピザをおかずにパンを食うこと20分。なんとか用意された分の食事を食べきった俺は1つ提案をすることにした。
「なぁティナ」

「なんでしょう?」

「次からはピザをおかずにパン食うのは避けたいんだが」

「了解しました」

いくらティナが作ったものが美味いとは言っても流石にこの組み合わせはよくなかった。
口の中がすぐ渇くというか、食いながら身体中の水分を抜き取られているというか。
まぁ、どれもこれも美味いことに変わりはないんだがな。
俺はひとまず重要な案件を済ませ、そこから間髪入れずにティナの横まで移動して抱き付いた。
朝食は食べたし今日は特に予定もない。そもそも普段から予定なんてものは存在しないので、次の夕食までこうして抱き付いたり、撫で回されたり、抱き締められたりして過ごすのだ。
そうして1日が終わって次の日が来る。自堕落に時間だけが過ぎ去っていくのを感じてなにもしない。ただただ安らかな停滞の中でゆらゆらと海草のようにゆらめく日々を送るのだ。
そのためなら人類最強でなくなっても構わないし、いっそIP序列なんて下位の方になってしまっても構わない。
元々世界最強の地位なんてもの、望んで得たわけではない。
ただ憎しみのままに殺し回って、飽きるまで殺して何もやりたくないくらい無気力になったころ俺の殺戮を功績と勘違いした、真っ白な服を着て自分自身も真っ白だが性根は真っ黒などこかのお偉いさんによって気付いたら付けられていたものでしかないわけだ。
いや、まぁ地位ってものはあるに越したことはないから自分で捨てたいと思ってる訳じゃあないがね、だって世界最強の地位はティナとダラダラグダグダ過ごし続けるために便利なアイテムとしても使えるわけだしさ。
例えばそう、ちょっとした公権力に対して便利な交渉カードになるし、よほど地位の高い奴じゃなきゃ軍人である限り命令権を行使出来る。
それとIISOからちょっとした特別扱いを受けるから少々の違法行為とかルール違反を見逃して貰えたりだとか。
身近なところに例を示すなら、本来ならイニシエーターとして登録してない筈の或守の分の侵食抑制剤を貰えたりだとか、な。
とりあえずこの世界最強の地位はそれなりに使い道が多く、便利なものなのだ。
なくても構わないがあったら便利ってくらいの感覚で。

俺はそんなくだらないことを考えつつ、ティナに抱きついてその胸に顔を埋めてみた。
するとティナは、普段通り俺を甘やかすように抱き締めて、撫でてくれる。
やはりティナに甘やかされるというのは素晴らしい。
至高停止して何時間でも甘えていられるよ。それこそいくらでも。
まぁなんというか……今ばかりはこの感覚だけが全てだと迷いなく思えるほどに心地いい。
全身を快楽で溶かされるのではないかと思うほどに心地いい。
あぁそうだ。もうティナ以外はいらない、いっそこの世に俺とティナだけになったとしても一向に構わない。
今ティナに甘やかされてこの感覚を味わっているためならばなんでもやれる気すらしてくる。
「あぁ……ティナぁ……」

そして、心地いい感覚に包まれていると不意に眠気を感じて、『とりあえず寝る』という意味を込めてティナの名前を呼ぶ。
多分伝わるだろう。今は喋るのも億劫だ。
「……まったく、ご飯を食べてすぐ寝ると太りますよ?」

ティナはそんなことを言ったが、むしろ大歓迎だと言わんばかりに声は嬉しさに溢れているようだ。
それに可能性としてはありえないが、拒否されたとしてもこの状況であれば俺にはこのまま眠ることくらいしか出来ないだろう。
俺は、そのままゆっくりと、意識を微睡みの中へと沈ませていった。

◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆◇◆

………うるさい。
幸せな微睡みに沈んでいた意識を、何か酷い雑音に引っ張られる感覚。
正直キレて高圧電流で焼き切ってやりたいくらいに耳障りな音が俺の耳を刺激する。
いわゆるモスキート音に近い酷い音だ。
コイツは俺が知る限りもっとも嫌いな音であり、この世で何番目かくらいに滅ぼしてやりたいものだ。マジでさっさと滅べばいいのに。
別にモスキート音そのものに恨みがあるわけじゃないんだが、どうにも生理的嫌悪感に近いものがあるんだ。
蛇が嫌いな奴は見るだけでも無理なように、モスキート音が嫌いな俺はこれを聞いてるだけでイライラしてくる。
この状態ではいくらティナに癒されまくっていても気分はさほどよくならないというか、プラマイゼロだし………何より強引に叩き起こされたってのが気に食わない。
………原因は何だ?

俺は少々不機嫌になりつつも、ひとまずその原因を探ろうと自分を中心とした半径20mくらいに電磁波を発して隅々まで精査してみる。
それこそ部屋の隅々から、屋外のマンホールの模様の1つ1つ、アリの巣の構造すら隅々まで分かるレベルの、もっとも探査能力の高い電磁波を。
無論他の電子機器やティナの脳に埋め込まれたチップに不調を起こさないように細心の注意を払って発動しているから本当の意味で一番探査能力の高い電磁波ではないのだが、まぁひとまず置いといてチェックだ。
子の家に何か仕掛けたバカが居るだけなら機会を壊すだけで許してやらんこともないが(ただしものすごく恨む)、もしこれが俺やティナに何かしらの害を与えんとするものであるならば容赦なく報復をさせてもらうとしよう。
もちろん、ティナに甘えまくっているついでに出来る範囲でな。
俺はわざわざ自分のやりたいことをほっぽってまで仕返しに奔走できるほどマトモな人間じゃないんだ。
ま、とりあえず何事もなくて今のモスキート音が本物の(モスキート)のせいであることを願っておくかな。
そう思いつつ、電磁波が伝える情報を隅の方からすこしずつ精査していく。
別に人間を探すとか、そういうある程度のサイズがあるものを探すのなら俯瞰するような見方をしても問題ないのだが、今回みたいに探すもののサイズや形が分からないのならばこうしてある程度細かく精査していく必要があるのだ。
………当然ながら細かく精査する代わりに一度に見る事が出来る範囲は狭くなるけどな。
どれくらいで見れるのかを言うとまぁ、電磁波の届く範囲を半径20mくらいに限定した今回であっても大体最速でも10秒くらいかかる。
それでも十分早いなんてツッコミはなしだぞ?
普段なら大体入ったその瞬間には理解してるんだから。
それに、こんなに細かくやっていたら戦闘じゃ使い物にはならない。
幸いにして今回は戦闘じゃないからそれについてはそれほどの問題にはならないのが救いだがな。

そして、宣言通り10秒ほどが経過したのちに俺はようやくモスキート音の発生源と思わしき物体を発見する。
形状は球体の下部に穴が空いたものというか、けん玉の球に近い。
そして俺自身あまり機械関係には詳しくはないから断言は出来ないが、この球体の内部を電磁波で解析してみると構造がティナの使うシェンフィールドに近似している。いやむしろほぼ同じだ。
少々飛び方の方式などが違うようだが……ティナのシェンフィールドもそこそここれに近い音が出ることから考えてもコイツがモスキート音を発している犯人と見て間違いはないな。
つ・ま・り。俺の安眠を妨害して起こしたのもコイツだということだ。
まったく、ティナに甘えて眠るという至高の行いを邪魔してくれるなんてな……

……いや、もう死ねよマジで。

俺の脳内法廷はありとあらゆる審査をスキップして即座に罪状からこの言語道断な球体に対して判決を言い渡した。
当然ながら死刑だ。
機械が相手のようだから実際に殺せたりはしないんだが、まぁこの際気にしないことにしよう。
俺は発していた電磁波をある程度狭い範囲に限定しつつ、限定したエリアに僅かな電流を流し、どれくらいの出力なら必ず壊せるかを確認する。
そして、出力を決めたところで、ティナに異変を感じさせないよう(もしかしたら気付いているかもしれないが)細心の注意を払ってごく狭い範囲に展開した電磁波を、モスキート音を発する不愉快な装置を破壊するための強烈な電流に変え、破壊する。
その不愉快な機械が浮いていた状態から落下したことによって音が発生するのを見越して磁力も使って落下を緩やかにしたら……よし、完璧だ。
これでもう、俺とティナを邪魔するものはなくなった。あっちゃならないものは消えたんだ。
即ち自由、フリーダム、そしてティナの甘やかしを受け放題ということさ……

ピンポーン。

そんなとき、不意に来客を知らせる音が鳴った。
うわぁ、なんでだか分からんが、今一番来てほしくない奴が来た予感しかしねぇや。
……あの機械、壊さずに玄関に設置すりゃ良かったな……しくじった……

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訪問者、死すべし、慈悲はない(ただしギリギリで死なない)

4日ぶり更新。
半ニート的にはそこそこ早い方です。



自宅前に素性不明の男数名。
そして家の中には大事な大事なティナと、その次くらいに大事な或守、あと割とどうでもいいけど端金がたくさんある。
そんでもって電磁波で確認する限り自宅前の男たちは明らかに自衛とかそういうレベルじゃない装備が散見される。強盗だろうか。
……いや、強盗よりもっとタチの悪いものかもしれない。
少し出力を変えて細部まで見てみると服装が全く同じで、違いが肩の辺りの模様以外に見受けられない。
揃った服装、物騒な装備、肩の模様が違う。
その三要素はいずれも結び付けて考えるには少し分かりにくいだろう。
揃った服装は制服と考えても、物騒な装備が必要な職業なんて今時ありふれてる。それに肩の模様が違うことに至っては単純にデザイン変更があったで済ませることもできるだろう。
だが俺は知っている。この服のデザインを。そして、この服を着た男たちの雇い主を。
……聖天子だ。
肩の模様が違う制服とはつまり自衛隊の制服の階級章のことだし、自衛隊員なら物騒な装備をしていてもおかしくない。
制服に装備ってのはちぐはぐな気もするがまぁそれでもある程度辻褄は合うだろう。
そんでもって自衛隊員ってことまで分かったらあとはちょっと細かいところまで確認してやれば……あぁ。
簡単に所属が判明した。

自衛隊が俺のところに来る要件と言えば途方もなく強いガストレア(ステージIV~V)来て手に負えないか、あるいは聖天子が無茶ぶりして俺を連れていこうとしているかくらいしかない。
そしてガストレアについては情報も入ってないし……そもそも強いガストレアが来たら一部の人間から俺のところに受ける気はないにせよ依頼が来るからな、それで簡単に分かる。
つまりこれは聖天子の差し金、俺を連れていこうとする悪意によるものなのだ。
だから絶対に対応しない。意地でも対応しない。むしろお帰り頂こう。
具体的には玄関前に強烈な磁力を発生させて銃を持っている限り入れなくしつつ、室内でうっかり身内の人間が掛からないようにと停止させておいたトラップを遠隔で起動する。
これで止まれば楽なんだが。
まぁ期待はしないでおこう。これはあくまで保険に過ぎない。
お帰り頂くための方策はここからだ。
俺はティナに膝枕されたまま電磁波で周辺に存在しているバイクなどをいくつか探してみた。
自転車七台、自動車三台(自費購入1台不法駐車2台)そしてバイクが一台。
……とりあえず不法駐車のやつを使おう。
幸いにしてその車はハイブリッド車だから強引にエンジンを動かして操ることは造作もない。
でもって車のコントロールを奪ったら挑発するかのようにクラクションを数回鳴らして発進させる。
もちろんそんなことをすれば訪問者たちは俺が車で逃げ出したのか、という疑問が頭に浮かぶだろう。
もちろんそんなことはないのだが、やはり可能性としては捨てきれないので少し思案することになるに違いない。
あとはそんな風に思案している間にポケットから適当な弾丸を取り出して磁力で家の外まで飛ばしてから、車を動かした先の方にあった廃墟を辛うじて支えている柱を穿ち、廃墟ごと破壊する。
よし、これで流石に男たちも様子見に動いてくれるに違いない……違いない……違い、ない……たぶん。頼むから動けよ。少しくらい様子見に行けよ。

しかし、そんな切実な願いも虚しく男たちは我が家の呼び鈴を鳴らそうとしている。
しかも残り二人は銃まで構えてやがるぜ。民間人に対していきなり銃口を向けるとか自衛隊のプライドねぇのかよ。ただし俺が民間人に入るかどうかは一旦置いておく。
……ひとまず家の前の男たちが扉を破って突入してくる素振りを見せたら即座に気絶させるとしよう。
俺はそう決定して、男たちの動向を注視する。
まず呼び鈴を鳴らし、俺が出てくるのを期待しているが……無論出ていかない。
そして乱暴にドアをノックするが、やはり出ていく訳もない。
ノックが足で行う乱暴なものになっても、決して出ていかない。
今度はなんとかドアを破ろうとタックルするようになったが、あのドアは戦車でも持ってこない限り破れないような強靭なドアなので破ることができる訳がない。
だから無視だ無視。あっちがショットガンで強引にドアを破るか、窓を割って侵入しようとするまでは面倒だから無視してやるとしよう。
それに、俺ほどの人間であればたとえどんな状況であろうとティナに甘やかされる心地よさを十二分に味わうことが出来るからなんの問題もない……
「ひぃ……」

が、しかし。
スラム育ちでこういう荒っぽい客に慣れていなかったのか、俺の足に抱き付いている或守が男たちのタックルによってドアの方から響いてくるドゴン!という音になにか思うところでもあるのか泣き出したことで、少々状況が変化した。
俺の中での男たちの扱いが、ただの荒っぽい客から、身内を泣かせたクズどもにランクダウンする。
……よし、このまま男たちにはさっさと丁重にお帰りいただくこととしよう。
「ティナ、或守、ちょっと面倒な客を片付けてくるから一分くらい待っててくれ」

俺は少々名残惜しいながらも起き上がると、軽く伸びをしてそう言った。
あんなクズどもなら一分でも余りすぎるほどだろう。
或守を泣かせるようなクズだからな、うん。
アイツの遺言があるから決して殺したりはしないが死ぬよりも惨いことをしちゃダメなんて言われてないし、今回は一分で戻れるくらいの時間で最大限の苦しみを与えてやることにしようか。
部屋を出て階段を降り、玄関で靴を履き、俺はまずドアに触れる。
ここまでやれば何をやるかは分かるだろう?

そうだ、電流を流してやるんだよ。
もちろん死なないし気絶もしないが恐ろしく痛みを感じるちょうどいい塩梅の電流をな。
これで気絶するようならば面白味がないが、まぁ大丈夫だろう。
俺が電流を流し始めた直後、ドア越しでもよく聞き取れるほどの大きさで男の悲鳴が聞こえた。
電磁波で確認してみると男はちょうどドアの前で悶絶しており、登場して踏みつけるには素晴らしく整った位置と言えるほどだ。
つまりこれはもう家から出て姿を表してやってもいい頃合いと言うことだ。
「……やぁこんにちは、公権力の皆さん」

俺はドアを開き、通ってすぐのところに居る男の頭を靴の踵で踏んだ。
「それじゃ突然だが、お前らの罪を今から読み上げ、俺と言う名のルールによって裁かせてもらう。異論反論は認めない」

そして登場と同時に、少し張った声で三人の男たちにそう宣言し、その罪を一方的に読み上げ始める。
「その1、俺の家のドアを破ろうとしたこと。その2、或守を泣かせたこと。そして……」

そこで一旦切って呼吸を整え、この男たちの最大の罪と、それらの罪に対する罰を宣言する。
「その3、俺からティナと或守と過ごす幸せな時間を僅かとはいえ奪ったことだ!よってお前たち全員、お仕置きだ!」
俺はその叫びと同時に自らの肉体へ電流を流して強化を開始し、そして目にも止まらぬ速さで近寄って呼吸をすることすら困難で、しかもそれだけではなく、喰らった対象に少しの間帯電するようにした電撃を喰らわせる。
死なない程度に痛めつけるための電撃だ。
「「「ア゙ァア゙ァァァア゙ア゙ァア゙ア゙ア゙ァア゙!?」」」

……もちろん、死なないだけで死ぬよりもっと痛くて辛くて堪らないようなシロモノだが。
だから男たちは叫ぶ。叫んだ程度でその痛みが消える訳はないのに。
だがまぁ、コイツらの悲鳴で家の仲の二人に不快な思いをさせるわけにはいかないから止めさせてもらうとしよう。
俺は悲鳴を上げ続ける男に近付いて頭を鷲掴みにし、精密な操作で脳のある分野に干渉する。
その瞬間、男は口を開けて悶絶素振りをしながらも悲鳴だけは上げなくなった。
うむ、我ながら神対応だぜ。
大事な大事な二人のために三人の発声能力をしばらくの間とはいえ容赦なく奪えるってすごいことだよ、何が凄いのかは知らないけれども。
……多分凄いのはクズ力だろうけどな。
そんなことを考えつつも、次なる対応の一手を考える。
制限時間の一分が来るまでに出来ること、その中で一番相手の戦意を削げるもの。
それは簡単だ。
俺は無言で悶絶する男たちの制服を掴み、電気でブーストした身体能力を使って服を引き裂きつつ、持っていた銃が弾丸を空中に発生させた磁力で操って取り出し、体を持ち上げる。
でもって持ち上げた体が落ちないように支えつつ……高速で死なない程度に射出する。
うむ、我ながら完璧な流れだよ。まさに流れるような動きつてやつだな。
このまま残る二人も始末してしまうとしよう。

俺は、悪魔のような笑みを浮かべて残りの男たちへと近付いていくのであった。

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