艦娘グループカウンセリング (隱蓮秾)
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私が話すに耐えられる、私の話

まだ読んだことがないので作りました。


『………立ったままで喋るのか? 椅子を持ってきては……ああ、分かった。……マイクとか前にあった方が喋りやす……分かっている。ああ。』

『やあ、みんな。(まばらに返事が帰ってくる)……暗いな。もう一度言おうか。良い? そうか。』

『ええと、初めましてになるはずだ。(ビープ音)鎮守府、第(ビープ音。長さからして、一桁の数字)艦隊の長門だ。(周りがざわめく)ああ、そうだ。私は『あの』長門だ。』

『第三次沖ノ鳥島沖戦で生き残り、その次の日米海上交通回復作戦に、開始から完了まで関わった。』

『だが、私はここにいて病床服をまとい、毎日みょうちきな味の薬を飲まされている。つまりは、皆が思うほどに、私は出来た艦娘ではないと言うことだ。』

『(そんなことない、と座席者から)ありがとう、救われる。……これは自分の問題や過去を語って、己と向き合うグループワークと聞いている。まあ、長くはならないように、私の事を話そう。交通回復作戦の話だ。』

『あれははじめ、六人の人員で欠員も出ず終わる予定だった。だが、あんな大規模な作戦に少人数でなんて出来るわけがなかった。……まず始めに、(ビープ音)が死んだ。』

『カメラを構えていたんだ、(撮影者を指差して)そこにいるそいつみたいに。海の上でも陸の上でも、何時も。私はそれを注意するのが仕事みたいなものだった。私は、今よりずっと純真だった。』

『ある時、私はきつく奴に言い聞かせた。あいつは素直ではあったから、その日はカメラを基地に置いてきた。その日、ふとそいつの方を見ると(ビープ音)は目から戦艦砲でぶち抜かれてたんだ。』

『ぱっと、――――昔、ふざけて西瓜を銃で撃ったことがあるんだが、そんな感じに顎から上が破裂した。あの光景は、未だ薄れない。』

『私のせいだと、思った。私があんなことを言わなければ、彼女はまだ生きていて、カメラ片手に怒られていたかもしれないと。』

『(考えすぎだと言われ)私もそう思ったし、当時陸奥にも言われた。でも、自分を責めることによって、私は少しだけ救われたんだ。言っておくが、マゾじゃないぞ、私は。』

(ささやかな笑い声)

『前置きとして、陸奥のことも話そう。同じ艦隊だったが、通行回復作戦の主力隊は、各艦隊の精鋭を集めていた。陸奥は後方支援で、本土から南鳥島前線基地までの補給隊防衛をしていたんだ。』

『(ビープ音)の後任はすぐに来た。でもそいつもすぐに死んでしまって、我々は連合艦隊で挑むことになった。』

『一人また一人と沈んでいって、最初から参加している艦娘が三人になり、私が第二艦隊旗艦になった。』

『最後の二人は沈むことはなかった。ただ、先に心が潰れてしまった。一人は陸で拳銃自殺、もう一人は神経衰弱で後方に送られた。多分、ここにいると思うんだが、誰か分かるか? まぁ、ハワイまでシーレーンを押し上げる頃には、とうとう私が連合艦隊総旗艦になっていたんだ。』

『正直、私も駄目になりかけだった。だけど、陸奥が励ましてくれた。それに、(ビープ音)のこともあった。あいつのようなことを起こさないためにも、私が気を張らなければと、まだまだ純真な私が、からだのなかを支えていたんだ。』

『もう、四六時中全身が電索になった気分だったよ。小さな物音に過敏に反応して、艤装を手離すことはなかった。』

『艦隊のやつらからも嫌われていた筈だ。実際、私の周りには誰も寄り付かなかった。』

『それでも、なんとかアメリカ大陸近辺までたどり着いた。カリフォルニアに着く予定が、中南米の沖合いに私は航路を開いた。あとはもう、消耗戦だった。支援艦隊も投入して殴りあい、私たちは、私はパナマの地を踏んだ。残存兵力は、たったの四人だった。』

『残り少ない砲弾で沿岸を護りながらアメリカ政府と通信を試み、いや、後発艦隊を待って……? すまない、ここら辺は記憶が混濁している。ともかく、私はアメリカへの航路を開いた。多大なる犠牲を払ってだが。』

『本土に戻り、膨大な報償と少しの休暇を手にしたわたしは、緊張の糸がほどけなかった。休みの間も拳銃を手放さなかった。陸奥には「あれだけの激戦を潜り抜けたんだから、しばらくはそんなものだ」と言われたが、不安と緊張に苛まれ、私は軍医に診てもらったんだが……。』

『「私は敵か味方か?」と問われ、判断できなかった。いらついた私は机を殴り壊して、気付いた。私はおかしくなっている。』

『「ぴーてぃーえすでぃー」と診断され、自ら入院を願い出て、艤装も凍結した。個室病棟に入れられたんだが、毎日(ビープ音)の誰かが見舞いに来てくれた。陸奥は週に何度も来たよ。』

『だが……私は、すべてを拒んだ。もう、何もかも捨ててしまいたかった……。』

『しかし、私の過去がそうさせなかった。私の鎮守府では、すでに、英雄として祭り上げられていた。見舞いは、断れなかった。』

『「戻ってくるのを待っている」だとか、「そんな気弱な言葉似合わない」とか、何を言われても私は気が立って、そんな狭量な自分に嫌になった。しかし、病棟から逃げるわけにもいかない。ずっとわたしは耐え忍んだ。』

『病状が良くなるはずもなく、一月二月と伸びていった。そんな中で、ある日、私は見舞いの艦娘におどけてみた。何を言ったのかさえ覚えていないから、私にとっては些細なことだったと思う。それでも、彼女は憤慨して来なくなった。』

『それ以来、私は、その――――人と、まっすぐに向き合えなくなった……怖いんだ、素直な意見を言うだけで、手が震えてしまう……』

『逃げ道を見つけてしまった。私はなんて弱い人間なんだと、何度も自分を責める日々が、また始まった。前の救いのある責めではない。』

『それでも、やめられなかった。まるで麻薬のようで、いつしか、誰にでも斜にかまえて、口答えするのが、普通になっていた。』

『見舞い人はどんどん減っていった。最後には、陸奥と提督だけが来るようになった。そして、私は――――』

『(無理はしないで、と言われ)すまない、もう、これ以上は……ああ、そうだ。私は弱い人間なんだ。お前たちに出来ることも、私には、一生できないかもしれない。もしかしたら退役したあとも、ずっとここにいるのかもな。』

『これが、私が今、話すに耐えれる私の話だ。そうだ。今後の話をしよう。そうだな……この場で中途半端にでも過去の思いを語れたから、進展ありとして、自分を許そう。』

『それから、まずは、自分と向き合うことだ。純だった自分はもういない。陸奥にも、ひどい事を言った。過去を過去として、肯定出来ればいいと思う。あとは……食堂に出れるようになって、甘味を制覇したいな。』

(笑い声)

『結局、長くなってしまったな。聴いてくれて、ありがとう。』

 

 

 

 




◼ありがとうございます。


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いつかの夜に落としたもの

川内編です。


『――――凄く箔のついたヒトの後に話すのって、気が引けるね。』

(笑い声と、そんな大層な者じゃないと言う声)

『ふふ、そうだね。もう、ここであってるんなら皆同じだろうね。』

『ええと、あ、自己紹介か。あたしは、元・(ビープ音)泊地、(ビープ音)警備隊の川内、だった。今はもう退役したんだ。』

『辞めたのはずいぶん前になるし、ここに入院もしたこともなくて、ちょっと遠い山の中から通ってるよ。』

『(辺りを見渡して)でも、見たところ私服のヒトも多いし、同じ感じのヒトも多いのかな?』

『ここに通うようになったのは……そうだなあ、なんて例えれば良いのかな……あたし、元々海が好きだったんだ。だから艦娘になった訳じゃないけど、深海棲艦が出ない内海の哨戒任務の時は、とってもウキウキしたよ。』

『とくに夜の海なんか、本当に怖くて、ドキドキして……探照灯で海のなかを照らしても、真っ青な奥に真っ黒があるだけでさ。そんで、水平線に港や陸の明かりがあって、見上げれば、吸い込まれるくらい、眩暈がするくらい底知れない夜空があってさ……怖いんだけど、楽しめる怖さって言うのかな。夜の海なら、ずっといたかったなあ、私。』

『うちらは内海警備が殆どだったし。季節戦(※現在で言うイベント作戦。季節毎に深海棲艦は大規模進攻をするため、正式な名称がなかった、当時の艦娘の間で使われた。)でも死ぬ艦娘なんて、殆ど居なかった。たった一人死んで、警備隊総出で葬式をするくらいには平和だったよ。』

『二~三年勤めて、季節戦で艤装が壊れちゃって、治すより、新しい人員を補給した方が良いだろってことで、解体されたんだ。別に怒りもしなかったよ、提督は教導役何かどうだ、っていってくれたけど、別にそれ以上軍にいる意味もなかったと思ったし。』

『で、私は陸に上がったんだけど…………故郷に帰ってから、色々あったなあ。』

『私、未だにリンゴを握りつぶせるんだ。増強した筋力が戻らなくって、家に帰って引き戸を開けたとき、粉々にしちゃってさ。』

『それから、女として見られなくなったかな。実家は畑やってるんだけど、力仕事ばかり押し付けられて。ほら(両手をつきだして)、タコで一杯になっちゃった。』

『嫁ぎ先も決まんなくて、毎日毎日草むしって堆肥運んで……『よよげたいやきくん』の気分って感じ。』

(笑い)

『でさ、こっからが私がここにいる理由なんだけど。……海がさ、無いんだ。』

『さっきもいったけど、実家は山の中なんだ。でも、海が恋しく感じて……一度、休みを取って、民間人が行ける海岸まで言ったんだ。でも、満足しなかった。……ただの海じゃない、戦場の海にいきたかった。』

『これを認めるまで、ずいぶんかかったなあ。夜中、拳銃もって川辺に立ったり、池の縁で延々やらなくても良い海上近接戦闘の訓練したりして気を紛らわせたり。今思うと普通に異常行動だね。』

『『戦争中毒』って言うらしいよ。アドレナリンの分泌がどーのって話らしいんだけど、とにかく、私は戦争が懐かしかった。』

『可笑しいよね、笑っちゃうよね、録な戦闘もしてない私が、戦争中毒なんて。』

『でも、私は恋しくて仕方がないんだ。あの緊迫する夜の静寂も、雑魚相手に油断して深手を負ったあの浦も。』

『だけど、死にたい訳じゃないんだ。死ぬのは怖い。危ないこともしたくない。…………だけど、あの闇に溶け込みたい……やめたくてもやめられないって、こう言うことだったんだね。』

『そう考えながら、夜の海のことを考え続けたら、同時に夜の森がとっても恐くなっちゃって。』

『説明しづらいけど……海はさ、何もない空間と何かあるけどそれがなんなのかわからない水中が延々続く場所じゃない?』

『でも山は、森は『何かがあるかわからない』木陰が歩いてもあるいても続くんだ。

 海は分からないを知っているから安心できる。でも、森は、何も分からない。木々に何が潜んでるか、あの山の陰になにが隠れてるのか。考えただけでチビっちゃいそう。』

『日が落ちたら、私は自分の部屋の隅から動けなくなる。夜戦の代名詞とも言われた存在が、夜を味方に出来ないなんて、とんだ皮肉だよ。』

『まあ、あとは特になにもないよ。何か進展があったわけでもないし、実家の森の中の闇で、私は震えて眠れない日々を送ってる。最近は睡眠薬で寝てるけど……。』

『長門さんは前を向いてるけど、私はそうはなれない。だって、あのいつかの夜の海に、私は大切なものを落としてしまった。もう見つからないモノで、だから、進むことも、戻ることもできない。ただ、あの日の水面を見て俯くことしか出来ないんだよ。』

 




次は誰にしましょう。


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