君の名は・パニック (JALBAS)
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《 第一話 》
「ん・・・んんっ・・・・・」
な・・・どこ?ここ・・・・・・
私は、見たこともない、殺風景な部屋のベッドで目が覚める。もしかして・・・・これも夢?体を起こして、部屋を見渡す・・・・家具が、殆ど無い・・・・窓際にある机の上には、なにやらごつい無線機のような物が置いてある。
ふと、体にも違和感を感じる。喉が妙に重い、視線を体に落としてみると・・・・胸が・・・無い?・・・逆に下半身には・・・・何かある?ええ~~っ?
起き上がって、鏡を探す・・・・ようやく見つけて、覗き込む・・・・・?!そ・・・そこには、ボサボサ頭に、頬に大きな傷のある、危ない感じの男の子の顔が映っている・・・・・
『宗介っ!』
「えっ?」
いきなり、女の人の大きな声が聞こえたと思ったら、その後にドン!ドン!とドアを叩く音が続く。
『いつまで寝てんの!学校に遅れるわよっ!』
更に、ドアを叩く音が激しくなるので、私は慌ててドアを開ける・・・・そこには、長髪の、超ミニの制服を着た女の子が立っていた。
「あ・・・あの?」
「何?まだ、着替えてないの?宗介!」
「そ・・・宗介?そ・・・それ、私のこと?」
「いつまで、寝ぼけてんのよっ!」
巨大なハリセンで、頭を叩かれる・・・・・い・・・痛い・・・・・・・
女の子に堰かされて、壁に掛けある学生服に急いで着替える。その子に連れられてアパートを出て、町に出る。
「うわ~~っ!」
そこには、夢に見た東京の町があった。
「東京やあ・・・・」
「宗介っ!何呆けてんのよっ!」
見とれていたため、またハリセンで頭を叩かれた・・・・・い・・・痛い・・・・・
最寄の駅から電車に乗り、仙川駅で降りて、その後は徒歩で学校へ。ずっとその子に連れられて来たから迷わずに来れたけど、この子の名前が分からない・・・・・でも、そんな事聞くと、またハリセンで叩かれると思って聞けなかった・・・・・
「おはよう、カナちゃん、相良くん。」
後ろから来た、お下げでメガネの女の子に声を掛けられた。
「おはよう、恭子。」
カナ・・・この子、“カナ”っていうの?それとも、“カナ子”?・・・恭子ちゃんみたいに、“カナちゃん”って呼べばいいのかな?・・・“相良くん”は私のこと?・・・・じゃあ、私は、“相良宗介”っていうの?
「カナちゃん、そういえば、今日って避難訓練があるよね?」
「ひ・・避難訓練~っ?」
急に声のトーンが下がり、カナちゃんは私の方を向く・・・・何か、目が怖い・・・・
「宗介!あんた、今日は大人しくしてなさいよっ!」
「は?・・・・」
「は?じゃないわよ!訓練って言っても、軍隊の訓練じゃないんですからね!拳銃持ち出したり、手榴弾持ち出したりしないでよねっ!」
「え~っ?な・・・何で、私がそんな事・・・・・」
『わ・・わたし?』
2人、声を揃えて、怪訝な顔をする。
「え?・・・ぼ・・ぼく?」
『はあ?』
更に、怪訝な顔をする。
「お・・・俺?」
『うん、うん・・・・』
2人とも、相槌をうつ・・・・・
教室に入り、カナちゃんと恭子ちゃんは自分の席に着く。しかし・・・・私は、どこに座ればいいんだろう?
「何やってんの?宗介、あんたも、早く座りなさいよ。」
「は・・はい・・・・・」
カナちゃんに堰かされて、仕方無く、目の前の空いている席に座ろうとすると・・・・
「おい、相良、何俺の席に座ってんだよ?」
「あ・・・ご・・ごめんなさい・・・」
前から歩いて来た、男子生徒に怒られたので、その隣に座ろうとすると・・・・
「相良君、何で私の席に座るの?」
今度は、後ろから来た女子生徒に怒られてしまう・・・・・
「宗介!」
ついには、カナちゃんのハリセンが・・・・・・
「あんたの席は、あたしの後ろでしょーがっ!」
い・・・痛い・・・・・
席に着くと、先生が入って来てて、HRが始まる・・・・・・
「・・・・・という訳で、本日は避難訓練があります。が!・・・・・・」
そこで、先生は私の方を睨みつける。すると、先生だけでなく、クラス全員が私の方を向いて、睨み付けてくる。
「さ~が~ら~くん!軍隊の訓練じゃ無いんですから、おかしな事は絶対にしないように!いいですねっ!」
「は・・・はい・・・・・」
ちょ・・・ちょっと、この相良宗介って男の子・・・・いったい、どういう男なのよ~~~っ?
散々だった1日が終わり、私は疲れ果てて、カナちゃんと一緒にアパートまで帰って来た・・・
「ねえ?どっかおかしくない?宗介?」
「え?・・・・」
「だっていつもだったら、あたしが何言ったって、“問題無い”とか言って、構わず拳銃ぶっ放したりするじゃん。」
え~っ?そ・・・それの、どこが普通なの?私には、そっちの方が、よっぽどおかしいんですけど・・・・・・・・
「ん~っ・・・まあ、今日は、ゆっくり休みなさい。おやすみ、宗介。」
「お・・・おやすみなさい・・・カナちゃん・・・」
「か・・・カナちゃん?」
帰りかけたカナちゃんが、何やら凄い恐ろしいものでも見たような顔で、振り向く。
「あ・・・あんた?ほんとーに、いったいどうしちゃったのよっ?」
「え?だ・・・だって・・・カナちゃん・・・でしょ?」
「あ・・・あんたに“カナちゃん”なんて呼ばれると、気色悪いのよっ!いつも通りに“千鳥”って呼びなさいよっ!」
「ええっ?だ・・・だって恭子ちゃんは“カナちゃん”って・・・名前違うんですか?」
「何、言ってんのよっ!あたしの名前は、“千鳥かなめ”でしょっ!」
あ・・・ああ・・・そういう名前なんだ・・・・・
「あんた?ほんとに、大丈夫?」
全然、大丈夫じゃ無いです・・・こんな夢、お願いだから、早く醒めて~~~~っ!
朝、目が覚めて、直ぐに体の異変に気付く・・・・何か、体が妙に軽い・・・・それと、胸のあたりが何か重い・・・・・・
目を開け、起き上がると・・・・何だ?俺の部屋では無い!さては・・・寝ている間に、何者かに・・・まずい、武器は?・・・・
と、胸のあたりを触ると、妙な感触が・・・柔らかい?何だこれは?
「何しとんね?お姉ちゃん?自分の胸が、そんなに珍しいん?」
気が付くと、右手の襖が開いていて、そこにひとりの幼女が立っていた。何者だ、この幼女は?いや、外観に騙されてはいかん!この齢でも、やり手の傭兵かもしれん?・・・ん?この幼女、今、何と言った?
「お・・・お姉ちゃん?」
俺は、自分を指さして問う。
「他に誰がおんねん!ご・は・ん!」
そう叫んで、幼女は乱暴に襖を閉めて、下に降りて行った。
お・・・俺がお姉ちゃん?何を言ってるんだ、あの幼女は?俺はどう見たってお姉ちゃんには見えない・・・・・・
と、その時、目の前にある姿見に、自分の姿が映った
「な?!」
俺は愕然とした・・・そこに映っているのは、高校生くらいの女の姿で、完全に俺の姿では無かった・・・・・
ま・・・まさか、敵に捕らえられ、整形されたのか?だが、体も全然違うぞ、完全に女の体だ!で・・では、脳を移植されたのか?・・・いかん!まずは、ダナンに連絡を・・・・
部屋中を見回すが、通信機の類は無い。それはそうだろう、これが敵の策略なら、そんな物を置いておく訳が無い。携帯は枕元にあるが、どうせ使えないだろう・・・・
試しに起動してみるが、完全に偽装されている。アドレスは、俺の知らないものばかりだし、日付が3年前になっている・・・・・・
駄目だ、完全に孤立した・・・・どうする?待っていても、助けは望めない・・・・ここは、敵の出方を伺うしかないか?その内に、ボロを出すかもしれん・・・・・
俺は、部屋の中で武器になりそうな物を探した・・・それらを懐に潜ませ、壁に掛けてあった制服を着て、下に降りた。
「お姉ちゃん、おそいっ!」
さっきの幼女が怒鳴る。その横には、老婆がいる・・・俺がお姉ちゃんだとすると、この老婆はお婆ちゃんか?・・・・敵の出方が分かるまでは、合わせておくしか無いな。
「大丈夫だ、問題無い!」
そう言って、俺は座って、飯を食べる・・・・毒は入っていまい。ここで毒殺するなら、こんな体にして生かしておく訳は無い・・・・・
妹役の幼女と、通学の為に家を出る。幼女とは途中で別れ、ひとりで高校まで向かう事になるが、田舎の狭い町なので、道に迷う心配は無い。高校は、湖を挟んで家の反対側の高台にあり、目視で確認できる範囲内だ。
「三葉ーっ!」
何か、後ろから、誰かを呼ぶ声がした。
「三葉ってばーっ!」
しつこく叫んでいる。三葉というの奴も、返事くらいすればよいのだ!何をやっている!・・・・・
「ちょっと、何で無視すんの!」
2人乗りの自転車が、俺を追い越し道を塞いでくる。何だ、この連中は?さっさと三葉という奴のところに、行けばいいだろう!
「おい!どないしたんや?三葉?」
自転車を漕いでいた、男の方が俺の目を見て言う・・・・何だ・・・三葉というのは、俺の事だったのか・・・・そうか!この体は女だったな・・・・・
「三葉?何かあったん?」
自転車の荷台に跨っていた、女の方が話しかけて来る。
「いや、問題無い!」
「?!」
2人が、怪訝そうな顔をする・・・何だ?何かおかしな事でも言ったか?
「ねえ、あんた・・・・三葉よね?」
「肯定だ!」
「?!」
また、怪訝そうな顔をする。何なのだ?いったい・・・
「あら?三葉、その頭・・・どうしたん?」
女の方が、俺の髪を見て聞いて来る。
「問題無い!長くて邪魔だから、纏めただけだ!」
「でも、いつもみたいに結ってないやん!」
「それじゃ、まるで侍みたいやな!」
「肯定だ!」
俺もそう思うので、そう答えて、俺は歩き出す。
「え?」
「お・・おい、三葉っ!」
その後、学校の教室に入り、その男女と会話を交わした結果、俺の現在の名前が宮水三葉、がたいの良い坊主頭が勅使河原克彦、おさげの女が名取早耶香で、この三葉という女の親友という設定だという事が分かった。
だが、妙だ・・・どうも、この連中の言動を見ていると演技では無く、宮水三葉という女は実在し、俺がその女そのものになってしまっているように思える。そもそも、この連中には殺気が全く無く、傭兵やスパイ独特のニオイもしない・・・・もしこれが全て演技なのだとしたら、とてつもなく恐ろしい連中だが・・・・・・・
これが現実だと仮定すると、俺をここに連れて来た連中は、この三葉という女を殺し、その女に俺の脳を移植したのか?何のために・・・・・まさか?俺を千鳥から遠ざけるためか?だとしたら・・・・・
「千鳥が危ない!」
「ど・・・どないしたんや三葉?」
俺が急に立ち上がったので、驚いて勅使河原が声を掛ける。
「ち・・・千鳥って?・・・・」
「い・・・いや・・・何でもない。」
待て、安易に結論を出すのは危険すぎる・・・・俺が、何者かの策略でここに送られたのだとしたら、今も監視されている筈だ・・・・うかつな行動をすれば、千鳥はもちろん、ここの連中だって危ない・・・・今は、敵の情報が無さ過ぎる、もう少し、様子を見るしか無い・・・・・・
「ほんまに・・・大丈夫なんか?三葉~・・・・・」
昼休み、勅使河原達に誘われるままに、校庭の隅で昼食を取る。ここなら、見晴らしが良い、監視者を探すのにも好都合だ・・・・・・
「ねえ?あなた・・・・本当に三葉?」
「肯定だ!」
「まあ、確かにここ校庭やけど・・・いや、そうや無くて・・・・・」
「待て!」
勅使河原の言葉を、俺が遮る。急に大声を出されたためか、2人は固まってしまった。
「貴様、何者だっ!」
遂に見つけた!3本先の木の陰に、こちらを伺っている怪しい影を見つけた。そいつは、俺に気付かれた事を悟ると、一目散に逃げ出した。
「待て、逃がさん!」
俺は、椅子から跳ね上がり、全速力で目標を追い始める・・・・・・
「ど・・・どうしたん?三葉~~っ?」
「あかん!あれは、完全に狐憑きや~~!」
相手も全速力で逃げているが、大丈夫、この距離なら追い着ける・・・・筈だった・・・・が・・・・・
「し・・しまった!慣れない女の体で・・・思うように走れない!」
相手との差はどんどん開き、とうとう見失ってしまった・・・・・・
失敗だ・・・今の現状認識が甘かった・・・・奴らも、同じ失敗は2度はするまい・・・・この次は、こちらも策を練らねば・・・・・・・
男の子に入れ替わった三葉の行動が異常で、周りがおかしく思うのがいつものパターン・・・・しかし、入れ替わった相手が相良宗介だと、普段が異常なので、逆に正常だとおかしく思われてしまうというお話でした・・・・・
一方、女の子に入れ替わった宗介は・・・・・当然、入れ替わったなんて思う筈も無く、全てを敵の策略と思ってしまいます・・・・・・
ちなみに、三葉の髪の毛ですが、宗介なら“動くのに邪魔だ”とか言ってばっさり切っちゃうかもとか考えましたが、それではあまりにも三葉が可哀想なのでやめました。
さて、この2人、これからどうなるのでしょうか?
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《 第二話 》
但し、被害を被るのは、一方的に普通の女子高生、三葉の方です・・・・・
「?!・・・」
ここは?・・・・・いつもの俺の部屋だ・・・か・・体も元に戻っている・・・
俺はベッドから跳ね起きて、鏡を覗き込む・・・・顔も、俺の顔だ・・・・たった1日で戻されたのか?
俺は、携帯をチェックする。日付を見る限り、やはり、あの田舎に送られていたのは昨日1日だけだ・・・ん?・・・・・・
携帯のメモに、記憶の無い書き込みがある・・・・・・
“――― 相良宗介!あんたいったい何者なの? ―――”
何だこれは?俺を攫った奴が、書き込んだのか?いや、俺の事を良く調べてからでなければ、あんな事はしないだろう?訳が分からん?
そうだ!まずはダナンに報告を・・・・俺は、無線機を使って、ダナンに連絡を入れる。
「こちら、ウルズ7!ウルズ6、応答せよ!」
「こちら、ウルズ6・・・宗介!定時連絡もしないで、今迄何やってた?」
「すまん!敵の罠に嵌って、軟禁されていた!」
「軟禁?・・・・」
俺は、昨日の事を、簡潔にクルツに話す。
「女の体に脳移植?・・・お前なあ、ウソをつくのなら、もうちょっとマシなウソつけ!」
「ウソでは無い!事実だ!」
「あのなあ、確かに今はブラックテクノロジー全盛で、信じられない未来科学が現実のものになってるけど、人の体に脳移植して、成功した事例は一件もねえよ!それも、たったの1日で元に戻すなんてなあ・・・・・」
「じゃあ、俺の体験は、どう説明するんだ?」
「・・・・お前・・・相当疲れてるんじゃねえか?今日のミッションは、俺とマオでやる!お前は、カナメちゃんとのんびりしてろ。」
「な・・・おい!待てクルツ・・・・」
通信が、一方的に切られた・・・・
何だと言うんだ、クルツの奴・・・・俺が、夢でも見ていたと言いたいのか?あれが、夢で無い事は、俺が一番分かっている。とにかく、一刻も早く、奴らの目的を・・・・・そうだ!千鳥は?・・・・・
俺は、アパートを飛び出し、急いで千鳥のマンションに駆けつける。ドアの前に立ち、ノブに手を掛けようとした、その時 ―――
「?!」
ドアが、勢いよく開き、俺の顔面を直撃する。
「え?・・・あ・・・あら?宗介?」
「い・・・痛いじゃないか・・・千鳥・・・・」
「ごめん!ごめん!まさか、ドアの前に突っ立ってるとか思わなかったから・・・・」
登校途中、千鳥が話し掛けて来る。
「今日は、いつも通りなのね?宗介・・・」
「ん?・・・俺は、いつもこうだが?」
「何言ってんの、昨日は、本当に心配したんだからね。」
ん?昨日?・・・今、千鳥は、昨日と言ったか?・・・・・
「千鳥!」
「な・・何?」
「俺は、昨日居たのか?」
「は?・・・何言ってんの?あんた?」
「いいから答えてくれ!昨日、俺は居たのか?」
「居たに決まってんでしょ!まさか・・・・あんた記憶が無いの?」
やはりそうか!俺を、あの田舎に追いやって、俺のニセ者を、千鳥に近づけたのか!
「ねえ宗介?あんた、本当に大丈夫?」
「そんな事より、昨日の俺は、君に何かしたのか?」
「え?・・・べ・・・別に、な・・何もして・・ない・・・けど・・・・」
そう言って、何故か千鳥は頬を赤らめる・・・・
「何か、おかしなところは無かったか?」
「え?・・・それは・・・さっきも言ったように、かなりおかしかったけど・・・・」
「どんな風に?まるで、某国のスパイのようにか?常に過敏に周りを警戒し、危険なニオイを漂わせているような・・・・」
「そういうところが何にも無かったから、おかしかったって言ってんのよっ!」
いきなり、ハリセンで頭を叩かれた・・・・・・
「い・・・痛いじゃないか・・・・・」
夜は、ミスリルのミッションがある。俺は、マオ、クルツと一緒に輸送ヘリに乗っていた。クルツは休めと言ったが、体に何の異常も無いのに、任務を放棄する訳にはいかない。
「全く・・・人が、親切で言ってやってんのによ。」
「大きなお世話だ!」
「ねえ?宗介?」
マオが、尋ねてくる。
「あんたが言ってるのが事実だとしたら、何で、あんたを女の子にする必要があったの?」「ん?そういえば・・・・何故だ?・・・・・」
「あんたのニセ者にしたって、そんな人畜無害なニセ者用意して、何のメリットがあるの?」
「だ~から、全部こいつの妄想だよ。疲れてるんだよ、大人しく休んでろ!」
「うるさい!俺は疲れてなどいない!」
「あとさあ・・・・・」
「ん?・・・」
「何て言ったっけ、あんたが送られた、その田舎町?」
「確か・・・“イトモリ”と言っていたが・・・・・」
「・・・イトモリ・・・・・」
「知ってんのか?姉さん?」
「いや・・・どっかで、聞いた覚えがあるんだけど・・・・・」
「ん・・・んんっ・・・・・」
携帯のアラームで、目が覚める・・・見慣れた天井・・・私の部屋・・・良かった、やっぱり夢だったんだ・・・・
体を起こそうとするが・・・・
「てっ!・・・・」
思わぬ激痛が、全身に走る・・・な・・・なに?・・・これ?・・・・お・・・思うように・・・・か・・体が・・・・うごか・・・ない・・・・
激痛に耐え、やっと体を起こす事はできたが・・・・
「うぐっ・・・・・」
た・・・立てない!・・・な・・・何なの?・・・この・・・痛み・・・・
「お姉ちゃん?何しとんの?」
気が付くと、右手の襖が開いていて、四葉がこちらを見ている。
「よ・・四葉・・た・・・たすけて・・・体が・・・」
「あちゃ~っ!だから、やめな言ったんよ!」
「え?・・・・」
「何に感化されたんか知らんけど、昨日帰って来るなり、腕立てやら、腹筋やら、筋トレばっか何時間もやって・・・・筋肉痛になるに、決まってるやろ!」
え~っ?何?それ?・・・・私、知らないよ~っ!
「無理せんで、ゆっくりきいや!今日はあたし、先いくで!」
そう言って、四葉は、さっさと下に降りて行ってしまった。は・・・薄情者~っ!
やっとの思いで着替え、家を出る・・・朝食は、食べる時間が無かった・・・・いっそ学校は休みたかったが、お婆ちゃんが、許してくれなかった。
支え無しだと倒れそうなので、お婆ちゃんの杖を借りて来た。この年で、杖のお世話になろうとは・・・とほほ・・・・
「三葉~っ!」
後ろから、サヤちんの声がするけど・・・悪いけど、振り返れない・・・
「ど・・どないしたん?三葉?」
私の、悲惨な現状に、サヤちん達が、何があったのかを聞いてくる。でも、聞かれても分からない・・・・こっちが、聞きたいくらいだよ・・・・・
「なんや、今日も髪結ってないんやね?」
今日も?・・・今日はこんな状態で、とても結う事ができなかったんだけど、“今日も”って何よ?
「と・・とにかく・・・全身筋肉痛で・・・つらいんよ・・・・」
「え~っ?」
「まさか?昨日の駆けっこでか?」
駆けっこ?何?それ?
「昨日の夜・・・何時間も、筋トレしたんやて・・・・」
「ええっ?何で?」
私が、聞きたい・・・・・・・
昼になって、少しだけ体が楽になって来た。私は、テッシー、サヤちんと一緒に、いつものように校庭の隅で昼食をとった。朝抜きだったから、もうおなかがペコペコだ。
「でも三葉、今日は、普通に喋るんやね。」
「え?どういうこと?」
「昨日は何聞いても、カタコトの返事で、全然会話にならんかったでな。」
「え~っ?何それ~?」
「昨日の事、全然覚えとらんの?」
「ん~っ・・・・変な夢見たのは、覚えとんのやけど・・・・」
「あれは、絶対狐憑きや!」
「まだ言ってる・・・・そうや、きっとストレス!三葉、最近そういうのいっぱいあるにん。」
「ん~~・・・そうかなあ・・・・・」
「そうや!三葉、町長選やら、お祭りやらで気苦労多いで・・・・三葉がいつも言うように、卒業したら、一緒に東京出ようか?」
「お・・・お前らなあ・・・・・」
「ん~~・・・・東京ねえ?」
「あれ?どうしたん、三葉?いつもは、あんたの方が誘ってくるのに・・・・」
「なんか・・・・あんな夢見ちゃうと・・・・東京もどうしたもんか・・・・・」
放課後、テッシーやサヤちんと分かれて、ひとりで家路に着く。まだ、歩くのはかなり辛いが、杖をつかなくても歩けるようにはなった。
「?!」
その時、不意に、誰かに見られているような悪寒を感じた。
慌てて振り向いて、辺りを見渡すが・・・・・誰も居ない・・・・どうやら、気のせいだったようだ・・・・・・
前回に引き続き、悲惨な目に合い続ける三葉・・・・でも、見知らぬ男子と入れ替わっているなんて、思いもよりません・・・・・・
一方、入れ替わりを、誰かの策略と信じて疑わない宗介・・・・そんな朴念仁は、必然の如く、千鳥やマオ達まで事件に引き込んでいきます・・・・・・
そして、三葉の感じた視線の正体は?・・・・・・・
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《 第三話 》
「ん・・・んんっ・・・・・」
な・・・こ・・ここは・・・・・・ん?
私は、見たこともない、殺風景な部屋のベッドで目が覚める。いや・・・部屋というか・・・ここって・・・・倉庫か何かの?狭くて、天井も低い・・・・ベッドは、小さくて硬くて・・・何より、壁もドアも鉄でできてて・・・独房?そうじゃなきゃ・・・テレビ漫画に出てくる秘密基地の中みたいな・・・・・こ・・これも夢なの?
また、体にも違和感を感じる。この間と同じように、男の子の体になっている・・・でも、服装が・・・・これって軍服?鏡は・・・・この部屋には無いわね・・・・・この間とは、違う夢なのかしら?・・・・・
私は、とりあえず、鉄の扉を開けて外に出る。そこは、通路のようだった・・・・・そこも狭くて、鉄でできていて、パイプのような物が何本も走っていた・・・・何か、本当に秘密基地みたい・・・・
通路を少し歩いて行くと、同じ軍服を着ている男の人とすれ違う。敬礼をされたので、私も一応敬礼で返した・・・・・通路は、少し歩くと分岐して、どっちに行けばいいのか分からないので、適当な方に歩いて行ったら・・・・迷った・・・・・
私、どっちから来たんだっけ?え~ん!同じ景色ばっかりだから、わかんない!
「宗介っ!」
「えっ?」
後ろから、声を掛けられた。振り向くと、同じ軍服を着た、金髪のイケメン男性が立っていた。
今、“宗介”って呼んだわよね?それって、この間の男の子?でも、高校生じゃ無くて、兵隊みたいなんだけど・・・・夢の設定が変わったの?
「何、キョロキョロしてんだよ?」
「い・・いえ・・・ま・・・迷ってしまって・・・・」
「迷ったあ~?」
目の前の男性は、呆れた顔をする。
「お前、昨日今日配属された新兵じゃあるまいし、何でダナンの中で迷うんだよ?」
「だ・・なん・・ダ・ナ・ンって?」
「は~ん?この潜水艦の事に、決まってんだろ!」
「え?・・・ここって、潜水艦の中やの?」
その男性は、すごく怪訝そうな顔をする。
「お前、相当おかしいぞ!悪い事言わないから、部屋に帰って休んでろ!」
「い・・いえ・・その・・・どうやって、帰ればええの?」
今度は、“だめだこりゃ”という感じに、顔を天井に向けて、それを手で覆っている。
結局、その男性に案内してもらい、元の部屋に戻される。
しばらく部屋で、ベッドの上に座って呆けていると、ドアがノックされ、今度は、ショートカットの女性の兵士が入って来る。
「宗介、クルツから聞いたんだけど・・・・・」
クルツ?・・・・ああ、さっきの金髪の人?クルツっていうのか・・・・
「あんた、ほんとに大丈夫なの?」
そう聞かれると・・・・大丈夫じゃないけど・・・何が何だか、全然分かんない・・・・
「あたしが、分かる?」
「えっと・・・誰でしたっけ?」
「あちゃーっ!」
目の前の女性も、さっきのクルツさんと同じように、顔を天井に向けて、それを手で覆っている。
「マオよ!マオ曹長!あんたの上官!」
「は・・はあ?」
「自分の名前は、分かるの?」
「えっと・・・相良・・・宗介・・でしたっけ?」
「でしたっけじゃないわよ!」
「ひゃっ!ご・・・ごめんなさいっ!」
「ん?・・・・ちょっとあんた?おネエっぽくない?」
そ・・・そう言われても・・・中身は、女ですから・・・・・
「あ~もう、分かった。あんたは今日は、ここで寝てなさい!命令よ!」
「は・・・はいっ!」
曹長さん・・・・怖い・・・・・
マオが部屋を出ると、通路の壁に腕組みをして寄り掛かって、クルツが待っていた。
「どうだった?姉さん?」
「だめね!何かネジが1本抜けたのか、自分の事も満足に分かんないみたい・・・」
「つうか、何か全くの別人みたいなんだけど・・・言葉も訛ってたし・・・・」
「訛ってた?」
「“やの”とか、“ええの”とか、どっかの田舎娘みたいに・・・・」
「田舎娘?・・・・」
その言葉を聞いて、マオは考え込む。
「ん?どうした?マオ姉?」
「そういえば・・・・この間、宗介変な事言ってたわよね?田舎の女子高生の体に、脳移植されたって・・・・・・」
朝、目が覚めると・・・・また、この体だ!一度ならず二度までも、敵の罠に嵌るとは・・・・・まて・・・昨夜は、ダナンに泊まっていた筈だ・・・どうやって、ダナンから俺を?・・・・信じられん!何て恐ろしい組織なんだ・・・・まさか?ミスリルの中に内通者が?・・・・「お姉ちゃん、何しとんね?」
「いや、問題無い!」
布団の上で考え込んでいる俺に、この女の妹が尋ねてくるが、変な心配をさせるのも問題なのでそう答えた。
「問題あるようにしか、見えへんけど・・・・」
何やらぶつぶつ言いながら、妹は下に降りて行こうとする・・・・
「あ・・待て!」
「は?・・・何?」
「君の姉さんは、昨日は生きていたか?」
「はあ?」
「君の姉さんは、昨日は生きていたかと聞いているんだ!」
「昨日生きておらんで、何で今生きとんの?あほな事言っとらんで、はよしい!」
妹は、怒って、階段を駆け降りて行ってしまった。何故怒る?昨日の姉の生死を、聞いただけなのに・・・・・・
昨日この女が生きていたのなら、死んだ女に俺の脳を移植したのでは無く、生きているまま脳移植を・・・・では、俺の体の方にこの女の脳が?何故、そんな事をする?何かの生体実験か?・・・・少なくとも、千鳥を狙っているのでは無いようだ・・・・・
妹は、怒ったまま、先に学校へ行ってしまった。俺はひとり家を出て、通学の途に就く。
とにかく、今日こそは敵のしっぽを掴まねば・・・・そのためにも、今の内はこの女子生徒を演じるしかあるまい。
「三葉~っ!」
先日と同じように、後ろから声を掛けられる。自転車に2人乗りした男女が、こちらに近づいて来る。
「おはよう!勅使河原、名取。」
「な?・・・」
「ま・・・また、狐憑きや!」
2人は怪訝そうな顔をする。何故だ?普通に挨拶を返しただけなのに?この三葉という女は、普段挨拶をしないのか?
その後、2人は何故か、前回のように頻繁に話し掛けては来なくなった。まあ、俺は確かにこの女ではないのだから、全く同じように振る舞う事はできない。それで警戒しているのだろう?
美術の授業中、ふと、目の前の3人の男女が、俺の方を見ながら、なにやら呟いているのが耳に入ってきた。
「・・・だから、町政なんて助成金をどう配るかだけやで、誰がやったって同じや!」
「・・・でも、それで生活してる子もおるしな・・・・・」
何だ?俺の事か?・・・・いや、この女の事か?・・・・・
「名取?」
「は・・・はい?」
「あいつらが言ってるのは、この三葉という女の事か?」
「はあ?・・・・」
「どうなんだ?」
「あ・・うん・・そうやけど・・・・ほんと、大丈夫?三葉・・・・」
何故、こんな聞こえる様に陰口を言う?聞こえてしまったら、陰口の意味が無い。それとも、俺を誘っているのか?だとすると、こいつらが・・・・・・
昼になり、勅使河原と名取が、この間のように校庭で昼食を食べないかと誘ってくる。
「すまない、ちょっと用があるから、先に行っててくれ!」
2人は、相変わらず怪訝そうな顔をしながら、出て行った。
俺は、ターゲットが動き出すのを待って、気付かれぬように後を追う。さっき陰口を言っていた中の、男の方だ。廊下に人気が無くなったところで、俺は行動を開始する。一気にその男に駆け寄り、右手を掴んで背中に捩じ上げる。
「うぎゃっ!」
男は奇声を上げるが、俺はすかさずその喉元に、家から持って来たカッターナイフの刃を突きつける。
「大きな声を出すな!出せば喉元を掻き切るぞ!」
「ひっ!・・・・・」
「命が惜しくば、俺の質問に答えろ!」
男は、声を押し殺し、相槌をうつ。
「お前達は何者だ?何故?俺を狙う?」
「へ?・・・な・・・なんの・・・こと?」
「質問に答えろ!死にたいのか?」
「や・・・やめて・・・なにを言ってんのか・・・わからへん・・・・」
妙だ・・・嘘を付いているようには見えない。それに、こいつの体、まるでなってない・・・へなへなで、戦場に出れば、数秒であの世行きだ・・・・俺を狙っている、組織の者では無いのか?
「た・・・たすけて・・・な・・・なんでも・・するから・・・・・」
「さっきの授業中、何故俺にあんな事を言った?挑発していたんじゃないのか?」
「ご・・・ごめんなさい・・・ちょっと・・・ねたんでただけ・・・なんです・・・ゆるして・・・・」
どうやら、本当にただの学生らしい・・・とんだ骨折りだ・・・いや待て、こいつは使えるか?
「もうひとつだけ、俺の指示に従え!そうすれば、命は助けてやる!」
「は・・はい・・・なんでも・・いうことを・・・ききます・・・だから・・・たすけて・・・・」
「では、お前の服を寄こせ!」
校庭の隅では、勅使河原と名取が、ずっと三葉を待っていた。
「遅いなあ、三葉・・・・」
「あいつ、ほんまに変やで!いっぺん、巫女さんにでも診て貰った方がいいで!」
「ていうか・・・三葉自身が、巫女さんなんやけど・・・・・」
その2人の様子を、校庭を挟んで反対側、校舎の陰で伺っている人影があった。双眼鏡を使い、2人・・・・いや、まだ現れない三葉の様子を探っている・・・・・
「何をしている?」
男は、はっとして振り返る。そこには、三葉(中身は宗介)の姿があったが、その恰好は・・・・先程の男子学生から奪った、学生服を着ていた。監視の目を欺くため、服を替えていたのだ。
「ちっ!」
男は双眼鏡を放り投げ、右手を懐に入れる。しかし、三葉はすかさず、家から持って来た殺虫スプレーを、男の顔面に噴きつける。
「ぐわっ!」
男が怯んだ隙に、男の鳩尾に一撃を加える。
「ぐへっ!」
男が屈み込んだところを、背後に回り込み一気に地面に組み伏せる。男の右手を背中に捩じ上げ、手に持っていた拳銃を奪って、銃口を後頭部に突きつける。
「言え!お前達は何者だ?」
だが、次の瞬間、その男の額に穴が開く。撃たれたのだ・・・・・・
「なっ?!」
三葉は前方に目をやる。遥か前方の木の陰に、その男を撃った人影が・・・・しかし、直ぐにそこから走り去る。
「待てっ!」
三葉は、慌ててその人影を追う。しかし、やはり借り物の体では追い付ける筈も無く、どんどん引き離されていき、結局見失ってしまった。仕方無く、先程の男が倒れている所に戻る三葉だが、戻った時には、もうそこに男の死体は無かった・・・・・・
「くそっ!いったい何者だ?何を企んでいるんだ?」
学校とミスリルの両方に飛ばされ、混乱する三葉・・・しかし、そっちは宗介を良く知るマオとクルツが、何とかしてくれそうです・・・・・
一方、三葉の体でやりたい放題の宗介・・・・糸守での三葉のイメージは、言わずもがな、目茶目茶になっていきます・・・・・
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《 第四話 》
どんな環境下に置かれても、全く動じる事無く、勘違いをひたすら続けまくる宗介・・・・
宗介の特殊な環境下と、宗介に引っ掻き回された自分の環境に、翻弄されまくりの三葉・・・・
さて、今回の騒動は・・・・・
目が覚めると、ダナンの俺の部屋だった・・・・
また戻されたのか?いったい、どうやってダナンに侵入しているのだ?何故、ずっとあのままにしておかない?小刻みに1日づつだけ俺を田舎に送り込んで、いったい何をしたいのだ?・・・・・
「宗介っ!起きてるか?」
「クルツか?肯定だ!」
クルツが、部屋に入って来る。
「どうやら、今日はまともなようだな?ちょっと来い!マオが呼んでる!」
俺は、クルツと共にマオの部屋に行く。
「宗介、あんた、昨日も田舎の女子高生になってたの?」
「肯定だ!どうやって、ダナンから俺を運び出したのか?中に、内通者がいる危険性がある!」
「それは、無いわ!」
「何故だ?」
「俺とマオ姉さんで、交代でお前の部屋見張ってたんだよ!誰も入ってねえし、誰も出て来てねえ!」
「それに、昨夜からダナンはずっと潜航中で、一度も浮上していないわ。この艦からの出入りは不可能よ!」
「では、何故?俺があの田舎町に居たんだ?瞬間移動でもしたというのか?」
「そうね。」
「馬鹿な?」
「但し、移動したのはあんたの体じゃ無く、心だけどね。」
「言っている意味が、良く分からないが・・・・・・」
「だから~っ!お前とその三葉って女の子の心が、入れ替わってたんだよ!」
「な・・・何だと?!」
「信じられないけど、それ以外には考えられないわ!あたし達も、昨日のあんたと話したけど、完全に別人・・・・それこそ、田舎の女の子みたいだったから・・・・・」
「・・・そうか、では、あの連中が、俺と三葉という女を入れ替えたのか?」
『あの連中?』
2人同時に、声をあげる。俺は、昨日と前回の、怪しい男達の事をマオ達に説明する。
「そりゃ、確かに胡散臭いな・・・・」
「でも、それと、入れ替わりの件が関連あるのかしら?」
「ん?何か、府に落ちない点でもあんのか?マオ姉?」
「だって、その監視者が居るのって、田舎の三葉になってる時だけでしょ?それに、人為的に2人を入れ替わらせる事ができたとして、何で宗介とその女の子なの?関連が無さすぎるし・・・・・第一、片や山奥の田舎、片やその時々で、何処にいるか分からない渡り鳥じゃあ、まともな操作なんてできたもんじゃ無いと思うけど・・・・・」
結局、入れ替わりが不定期で発生しているという事実以外は、何も解らないまま、俺は東京のアパートに戻って来た。そうだ・・・・千鳥には、入れ替わりの事は説明しておかないとな・・・・・
俺は、千鳥のマンションに行き、呼び鈴を鳴らす。ドアが開き、千鳥が顔を出す。
「宗介?どうかしたの?」
「千鳥、実は、大事な話があるんだ。」
「え?」
「先日、俺が、まるで別人のようになってしまった事があったと思う。」
「うん!うん!」
「その時の俺は、実は、俺ではなかったのだ!」
「・・・はあ?」
「とある田舎町の女の心と、俺の心が入れ替わっていたのだ!」
すると、千鳥の表情が変わった。俯いて、何かを堪えてるような感じになり、手を握りしめて、震えている・・・・何か、まずい状況だ・・・・俺は、何かおかしな事を言ったか?今日解った事を、ただ伝えただけなんだが・・・・・
「そ・・・それが、大事な事かあっ!寝言は、寝床でほざいてなさいっ!」
頭を、思いっきりハリセンで叩かれた・・・・・・
「い・・・痛いじゃないか・・・・・」
「ん・・・んんっ・・・・・」
携帯のアラームで、目が覚める・・・見慣れた天井・・・私の部屋・・・良かった、やっと夢が覚めた・・・・
体を起こそうとするが・・・・ん?何か、胸の辺りに硬い物が・・・・・手に取ってパジャマの中から取り出す・・・・何やら、黒くて・・・重くて・・・こ・・・これって?ま・・まさか・・・・・
「きゃああああああああああっ!」
「どうしたん?お姉ちゃん?」
階段を駆け上がって来た四葉が、襖を開ける。私は、とっさにそれを布団の中に隠す。
「い・・・いや・・・な・・・なんでも・・・ないんよ・・・・」
「なんでもないことないやろ!あんな大きな悲鳴あげて・・・・」
「い・・・いや・・・あの・・・ご・・ゴキブリがいたから・・・・」
「ゴキブリ?お姉ちゃん、ゴキブリ程度で悲鳴あげる人やったか?」
「と・・・突然、め・・・目の前に来たから・・・驚いちゃって・・・ごめんね・・・・」
四葉は、納得のいかないような顔をしながら、降りていった。私は、恐る恐る布団をめくる・・・・・
こ・・・これは、間違い無く・・・拳銃?ど・・・どうして?私が、こんな物持ってるの?お・・・オモチャじゃ無いよね?・・・・・色、重さ、形・・・・どう見ても、本物に見える・・・・なんで~?ゆ・・・夢の中から持って来ちゃったの?そんなあほな~~~
け・・拳銃で驚いて、それどころじゃ無かったけど・・・・今朝も、体がかなり・・・痛い・・・・四葉に聞いたら、昨日も筋トレをしていたらしい・・・いったい、どうなっちゃってんの私?昨日の記憶、全く無いし・・・・訳の分からない、拳銃を持ってるし・・・・とりあえず、拳銃は隠してきたけど・・・・・
「み・・・三葉?」
「え?」
なんか、遠慮がちに後ろから声を掛けられる。振り向くと、サヤちんとテッシーだった。
「ああ・・・おはよう、サヤちん、テッシー。」
「良かった・・・今日は普通やね。」
「頭は、侍やけどな・・・・」
ああ・・・拳銃でドタバタしたのと、筋肉痛で、今日も髪は結えなかった・・・・
サヤちんとテッシーから、昨日の私の言動を聞き、また驚く。
「ええ~っ!またあ?」
「そうや!カタコト言葉に、命令口調・・・・自分の事を“この三葉という女”やし・・・」
「全然、覚え無いんですけど・・・・・」
「それより三葉、あいつに何したんや?」
「あいつ?」
テッシーが、教室の端の席の、例の3人組の男の子を指さす。私はその方を向き、彼と目が合う・・・・・
「ひっ!ひいいいいいいいいいっ!」
彼は、目が合った途端、悲鳴をあげて教室を飛び出して行く。慌てて、2人の女の子が後を追う。
な・・・なんじゃ?ありゃ?
「昨日の午後から、ずっとあんな感じや。」
「まあ、変な嫌味言わんくなったから、それはええけど・・・いったい何したん?三葉?」
そんな事、言われても・・・何も覚え無いんですけど・・・・まさか?あの拳銃で、彼を脅したりしてないわよね?・・・・・想像するだけで、自分が怖い・・・・・
家に帰り、部屋で、引き出しの奥に隠してある拳銃を見つめ、考える。
昨日の夢・・・・私は、どこかの海軍の隊員で、潜水艦に乗っていた・・・・名前は、“相良宗介”・・・・でも、その前は、その名前で東京の学校の高校生だった・・・・あ?でも、あの高校生・・・・避難訓練で、拳銃や手榴弾を使うなって怒られてた・・・・じゃあ、高校生で軍人なの?・・・・・そんな訳、無いか・・・・・・
「ん・・・んんっ・・・・・」
窓から差し込む、陽の光で目が覚める・・・携帯のアラーム、鳴らなかったのかな?・・・と・・・この殺風景な部屋は・・・・またこの夢?勘弁して・・・・・ん?
良く見ると、ベッドの横に女の人が座っている・・・・こ・・この人は・・・・
「ま・・マオ曹長?」
「あら?覚えていてくれたのね・・・宮水三葉さん。」
「え?・・・ど・・どうして、私の名前を?」
「ん~っ、何から説明したらいいかな?まず、これは夢じゃ無くて現実・・・そして、あなたは、私の部下の相良宗介と入れ替わってるの!」
「え・・・えええっ?」
遂に、入れ替わりの事実に気付く宗介・・・・では無く、マオとクルツ。まあ、宗介だけだと、一生かかっても勘違いしていたでしょう。
一方、宗介の日常ならぬ日常に、翻弄されまくる三葉・・・・このまま、無事に高校生活を送り続ける事ができるのか?・・・・・
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《 第五話 》
私は、マオさんと一緒に、千鳥かなめさんのマンションに来ていた。
「ええっ?宗介の言ってた事って、本当だったの?」
千鳥さんは、一度入れ替わりのことを相良くん本人から聞いたらしいが、また戯言を言っていると決め付けて、一切取り合わなかったらしい・・・・
「まあ、あの朴念仁・・・どうせ、まともな説明しなかったと思うけど・・・・」
マオさんは、苦笑した。
「じゃあ、あなたは宗介じゃなくて・・・・えっと・・・」
「み・・宮水・・・三葉です・・・カナちゃん・・・・」
すると、カナちゃんは、すご~く嫌そうな顔をした。
「あの・・・ごめん、三葉さん、お願いだから、その顔と声で“カナちゃん”はやめて!」
「え?・・・は・・はい・・・じゃあ・・・カナメ・・・さん・・」
「“かなめ”でいいわよ!」
「は・・はい!じゃあ、私も“三葉”で!」
かなめは、ようやく笑ってくれた。
「じゃあ、かなめ、後はお願いできるかしら?」
そう言って、マオさんは出て行こうとする。
「あ、三葉、あんたは、言葉使いだけ気をつけていれば、特に問題は無いから。ちょっと変な事をしても、絶対あのバカ以上に、問題になる事はあり得ないから・・・・」
な・・・なんか、すごい言われようね・・・・相良くんって・・・・
「まあ、今あんたになってるあのバカの方は、本当に何やらかすか分かんないけど・・・」
「ええ~~~っ?」
ちょ・・・ちょっと、これ以上、私がおかしく思われるの困るんですけど・・・・
「そんな顔しないで。そう思って、さっきあんたから聞いた住所に、クルツ派遣しといたから!」
そう言って、マオさんは出て行った・・・・・その後私は、少し遅れたけど、かなめと一緒に学校に向かった。
千鳥かなめのマンションを出て直ぐに、マオの携帯にクルツからの着信が入る。
「クルツ?どう、宗介・・・いや、三葉の様子は?」
『それどころじゃねえよ!姉さん、あんたの言った住所に、町なんかねえ!』
「え?・・・三葉の言った住所、間違ってたの?」
『そうじゃ無い!町が無くなってるんだよ!』
「え?・・・ど・・どういう事?」
『詳しくは、戻ってから話す!』
俺はまた、三葉の体で目覚め、普通に朝食を済ませ、通学の途に就いていた。
クルツの奴、この携帯の番号は教えたのに、連絡して来ないな?まだ、こちらに着いていないのか?
「三葉―っ!」
後ろから、勅使河原と名取が声を掛けて来る。俺は、いつも通りに挨拶を返す。
「おはよう!勅使河原、名取。」
「あちゃ~っ!」
「ま・・また狐憑きや・・・・」
昼になっても、クルツから連絡は来ない・・・・何をやっているのだ?それとも、この携帯は使えないのか?試しに、勅使河原にかけてみる・・・・
「ん?着信・・・・なんや、三葉。目の前にいんのに、何で電話けかてくるんや?」
「気にするな、テストだ!」
「て・・・てすと~~・・・・」
ちゃんとかかるじゃないか・・・・では、何故かけてこない?迷っているのか?頼りにならん奴だ・・・・・
夕方になっても、クルツから連絡は無かった・・・・明日は、自分の体に戻るだろう。その時にとっちめてやるか・・・・・そういえば、今日は、監視者の視線を感じなかった。この間の事で、警戒しているのか?
「お姉ちゃん、今日、夕飯の当番やで!」
家に帰ると、四葉がそう言ってくる。
「ねえ、たまには、変わった物食べたいんやけど。」
「変わった物?・・・・了解した!」
四葉のリクエストに沿って、夕食を用意したのだが・・・・・
「・・・・お・・お姉ちゃん・・・何?これ?・・・・」
「ん?・・・蛇と蛙の串焼きだ。裏の山に、いっぱい居たのでな。」
「な・・・何で?こ・・・こんなもん?・・・・」
「???変わった物が、食べたいのではなかったのか?」
「で・・でも・・・これ、ひ・・人の食べ物やない・・・」
「馬鹿な事を言うな!戦場では、こんな物でもごちそうだぞ!」
「せ・・戦場って・・・こ・・ここ、日本やよ・・・」
何故か、四葉は涙目になっている。何も、泣く事は無いだろう・・・・・
せっかく作ってやったのに、四葉と祖母は、全く食べなかった・・・・・・
翌朝、自分の体に戻って、私はあまりの事に驚いた。
懐に拳銃があるのと、全身が筋肉痛なのはいつもの事だが、今回はそれだけでは無かった。いきなり四葉が、泣きながら抱きついて来たのだ。
「お姉ちゃん!お願いやから、元のお姉ちゃんに戻って!もう、黙ってお姉ちゃんのアイス、食べたりせえへんからあ~!」
訳が分から無いので事情を聞くと、昨夜の夕飯が、とんでもないサバイバル料理だったらしい・・・・・あ・・・あの、軍事オタクがあああああああっ!
これ以上、相良くんに、私のイメージをめちゃめちゃにされたくなかったので、私は相良くん宛てに禁止7箇条を設けた。
< 相良くんへ 以下の7箇条は絶対守って! >
(1) 学校に、拳銃を持って行かないで!
(2) 同級生を、武器で脅すのはやめて!
(3) 自分の事を“俺”と言わないで!“私”と言って!
(4) 筋トレ禁止!
(5) “問題無い”とか、“肯定だ”という口調はやめて!
(6) 名取さんは“サヤちん”、勅使河原君は“テッシー”と呼んで!
(7) 蛇や蛙を、夕飯の献立にしないで!
次に入れ替わりが起こった翌日、相楽くんからの返事が机の上にあった。
(1) それはできない!武器も無しに戦場に向かうのは、自殺行為だ!
(2) 敵が、同級生を装って近づいてきたらどうする?約束は出来ない!
(3) 丁寧語を使えと言うのなら、“自分”の方が良いと思うが?
(4) 何故だ?今の君の体力では、戦場では生き残れない!筋トレは必須だ!
(5) では、何と言えば良いのだ?
(6) 了解した!しかし、それは何の称号だ?
(7) では、蜘蛛や鼠なら良いのか?
「あ・・・あの男は~~~っ!」
かなめが、ハリセンで、彼の頭を叩きまくる気持ちが、よ~~~く分かった・・・・・
ん・・・ここは・・・俺の部屋では無い・・・まさか、2日続けて三葉・・・の家でも無い・・・・体は、俺の体だ・・・ん?良く見るとここは・・・・千鳥の・・・・・・
一気に目が覚めた!な・・・何で、俺はここに居る?三葉が、忍び込んだのか?ま・・まずいぞ・・・よりによって、千鳥の部屋に忍び込んで寝てたなどと、彼女に知られたら・・・・急いで戻らなくては ―――― と、思ったがもう遅かった!目の前の扉が開き、千鳥が中に入って来た!
「ち・・・千鳥・・・ま・・まて、違うんだ!こ・・・これは・・・」
「ん?何、取り乱してんのよ。あたしがあんた・・・じゃやなかった、三葉を招待したのよ。」
「な・・・でも、俺が説明した時は、全然信じていなかったじゃないか・・・・」
「それは~~~」
千鳥は、ハリセンを取り出し、俺の頭を思い切り叩く。
「あんたの説明が、全然なってないからよっ!」
「い・・・痛いじゃないか・・・・・」
千鳥は、俺と入れ替わった三葉と意気投合し、昨夜は遅くまで、部屋で語り合っていたらしい。殺風景な俺の部屋に、ひとりで帰すのは気が引けて、泊まっていくように言ったそうだ。そんな話を聞いている最中に、俺の携帯が鳴った。クルツからだった。
『宗介!自分の部屋に帰らないで、何処ほっつき歩いてんだ?』
「お前こそ、何故、昨日連絡を寄こさなかった?何故、糸守に来なかった?」
『馬鹿野郎!それどころじゃねえんだよ!今、何処に居る?』
「千鳥のマンションだ。」
『ん?そうだったのか・・・・じゃあ、今から行くから、そこで待ってろ!』
数分後、クルツだけで無く、マオまで一緒に来た。
「何?糸守がもう無い?」
「ティアマト彗星って、覚えてるか?」
「ああ、何年か前に、地球に最接近した彗星だな。」
「あたしも、最初にあんたから“イトモリ”って聞いた時に、何か引っ掛かってたのよ・・・でも、思い出せなった・・・・3年前、1200年周期で地球に最接近したティアマト彗星、当初の予測では、地球には何の被害も無い筈だったんだけど・・・・彗星の一部が割れて、その破片が地球に墜ちたの・・・・その墜ちた場所が、糸守なのよ。」
「ええ~っ?」
「住民の1/3が、巻き込まれ亡くなった。町は壊滅状態で、3年経った今も廃墟のまま、実質、糸守町はもう無いわ。」
「馬鹿な!俺は確かに、入れ替わって糸守に居たんだ!三葉だって、確かに居た!お前らだって会っているだろう!」
「だからよ~」
「あんたは、何年か前の三葉と、入れ替わっていたのよ!」
な・・・なんだと?俺は、昔の糸守に行っていただと?・・・ん?・・・
「ねえ、ちょっと待ってよ!それじゃあ、ただ入れ替わっているだけじゃなくて、時代も飛び越えて、入れ替わってたって事なの?」
「そういう事になるわね。信じられないけど・・・・・」
「そういえば・・・・確か、三葉の携帯の日付は、3年前の日付だったな・・・・」
『はああああああっ?』
俺の言葉に、3人同時に声をあげた。
「何でそういう大事なことを、真っ先に言わないのよっ!あんたはっ!」
千鳥のハリセンが、今迄に無い強さで、俺の頭を叩く。
「い・・・痛いじゃないか・・・・・・」
三葉が何を言っても、天然の宗介には伝わりません。千鳥のいない糸守で、彼の暴走を止められる者は居るのか?・・・・・
7箇条のところは、ちょっと時系列が逆転していますが、ここは続きで書かないと面白くないので見逃してください。
そして、よくやくマオ達は、3年の時間のズレに気付きました・・・・・・
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《 第六話 》
しかし、その作戦とは・・・・・
一方、その事を知らずに、宗介により自分の生活が目茶目茶にされていく、三葉の運命は・・・・
「3年前って事は、丁度彗星が落下する年よね?」
「そういう事になるわね。」
「年代はずれていても、日付は同じだった。」
「てことは、あと半月もすれば、彗星が落ちて来るって事じゃねえか!」
俺達4人は、引き続き千鳥の部屋で、議論を続けていた。
「とにかく、早く三葉に伝えて、糸守の人を避難させなくっちゃっ!」
「待って、そううまくいくかしら?三葉はもちろん信じてくれるでしょうけど、町の人達にはどう伝えるの?・・・・・“未来に行って来た”なんて言っても、誰も信じないわ。」
「この彗星の分裂も、専門家も誰も予測できなかった・・・・三葉がいくら諭しても、“夢でも見たんだろう”で片付けられかねないな。」
「俺に任せろ!銃器で脅して、みんなを安全なところに・・・・・」
「あんたは、黙ってなさいっ!」
千鳥に、ハリセンで叩かれた・・・・・痛いじゃないか・・・・・
「ねえ、ミスリルって、3年前もあるんでしょ。そっちに頼めないの?」
「それは無理だ!一般人の三葉が何言ったって、取り合ってもらえないよ!第一、3年前じゃダナンもできてねえし・・・」
「でも・・・クルツくんや、マオさんに連絡を取れば・・・・」
「それが、俺も宗介も、3年前じゃまだミスリルに雇われる前だ!」
「あたしも、ミスリルには居たけど、宗介やクルツを知る前・・・・三葉にその話を聞いて、信じる事ができるとは思えない・・・・・」
「そ・・・そんな・・・・・・」
「よし!では、俺が今度三葉と入れ替わった時に、住民を少しづつ拉致して安全な区域に監禁・・・・・」
「だから、あんたは黙ってなさいって言ってるでしょっ!」
また、千鳥に、ハリセンで叩かれた・・・・・痛いじゃないか・・・・・
「・・・・宗介!」
「ん?・・・何だ?マオ!」
「悪いけどあんた・・・・ちょっと、買出しに行って来てくれない?」
突然、思い立ったようにマオに買出しを頼まれた。仕方無く、俺は近くのコンビニに向かった・・・・・・
宗介が去った後、かなめの部屋では、対策会議が続けられた。
『ええ~っ?』
マオの提案に、クルツとかなめは揃って声をあげる。
「そ・・それって、かなりやばいんじゃねえ?」
「三葉も・・・相当、怒ると思うけど・・・・」
「でも、これならば、住民は信じて避難すると思うわ!」
「それは、そうだろうけどよ・・・・」
「あ・・・後が・・・怖いわよね?」
「でも、何で宗介には伝えねえんだ?」
「変に意識すると、必要以上に余計な事をやりかねない・・・普段のあいつのままが、一番なのよ!」
「確かに・・・・」
十数分後、買出しから俺が戻ると、もう対策は決まったようだった。
「宗介!とりあえず、あんたは今迄通りに、普通に三葉として振舞って!」
「了解した!だが、住民の避難はどうする?」
「それは、ミスリルで何とかする・・・但し、秘密裏に動いてもらうから、三葉にもこの事は言わないで!彗星の事もよ!」
「了解した!」
それから何日か、三葉と宗介の入れ替わりは続いたが、三葉になった宗介の異常行動は、日に日にエスカレートしていった。
「ちょっとかなめ!相楽くん、何とかしてよっ!工作の時間に爆弾作って、教室半壊させたんよ!」
「わ・・・分かった、明日ビシッと、締めておくから・・・・・」
「かなめっ!今度は相楽くん、神社に悪戯してた不良を、足腰立たない程にボコボコにしちゃったんよ!やり過ぎやよ!何より、私のイメージが・・・・・・」
「ご・・・ごめん!代わりにあたしが、あいつをボコボコにしておくから・・・・・」
「マオさん!ちゃんと監視してるって、言ってたじゃないですか?何やってたんですか?
相良くん、よりにもよって、町のチンピラ相手に拳銃発砲したんですよ!誤魔化すのに、どれだけ苦労したか・・・・」
「ご・・ごめん!昨日は緊急ミッションが入っちゃって、監視に行けなかったのよ・・・・」
宗介の暴走は留まるところを知らず、糸守内での三葉のイメージも、それに重なりつつあった・・・・・・
「ねえ!もう限界じゃない?」
「確かに・・・これ以上は、誤魔化しきれねえよ・・・・」
「あたしも・・・ここまで酷いとは・・・・思ってたんだけど・・・・」
「何を、そんなに悩んでいるんだ?」
「全部、あんたのせいでしょうがっ!」
また、千鳥のハリセンが飛ぶ・・・・・・
マオ達は、糸守の避難計画の概要を、初めて俺に語った。
「何だと?そんな事を考えていたのか?何故、俺に秘密にしていた?」
「悪かったわよ・・・・でも、下手に意識すると、かえって悪影響が出ると思って・・・・」
「そんな事は無い!知っていれば、町役場爆破とか、もっと過激なデモンストレーションだってできたのに・・・・・」
「そういう事をやらせないために、言わなかったんでしょうがっ!」
またまた、千鳥のハリセンが飛ぶ・・・・・
「もう、彗星落下までそう日も無い!三葉にも話して、当日の細かい計画を立てよう!」
「そうね!」
「でも・・・三葉、怒るだろうなあ・・・・・」
「こんな嘘をつくからだ!」
「あんたが、ハチャメチャにやりすぎるからでしょうがっ!」
更にまた、千鳥のハリセンが飛ぶ・・・・・・
次に入れ替わりが起こった時、私は衝撃の事実を、かなめ達から聞く。
「ええっ?ここって、3年後の未来やったの?・・・それに、彗星が分裂して、その破片が糸守に墜落するやて?」
「ええ。」
「そ・・・そんな・・・ほんまやの?」
「これを見て!」
私は、マオさんから渡された、当時の新聞記事を見る。そこには、ティアマト彗星の破片の一部が糸守に墜落して、町が崩壊した事が書かれていた。更に、住民の1/3が、被害に巻き込まれて亡くなっていた。
「わ・・・私も・・・死ぬの?」
かなめ、マオさん、クルツさんが、静かに頷く。
「そんな・・・そ・・ん・・・・・」
涙が流れ、声が出なくなる・・・・あと数日で、私は死んでしまうのか?・・・・・項垂れる私に、かなめが声をかける。
「待って!三葉!私達の時代ではそうなってるけど、あなたの時代では、これから起こる事なのよ!」
かなめの言葉に、私は顔をあげる。
「絶対、あなたを死なせない!あたし達の、計画を聞いて?」
私は、無言で頷く・・・・その後、かなめから、計画の概要を聞かされたのだけど・・・
「ええ~っ!な・・何やの?それ?」
かなめ達は、非常に気まずそうな顔で、私を見つめている。計画の概要はこうだ・・・・
普通に彗星落下を住民に訴えても、専門家ですら予測できない突発災害を、誰も信じない。それならば、誰でも信じられる災害をでっちあげて、それでみんなを避難させればいい。それを起こす者・・・・それが、相良宗介だ!日頃、彼の破天荒な行動を目の当りにした人々は、“彼ならばやりかねない”という恐怖が、頭の中に刷り込まれる。そこで彗星落下の日に、糸守神社周辺に、“彼が不発弾を持ち込んだ”というデマを流す。そして安全地帯が糸守高校だと告げれば、皆信じてそこへ避難するだろう、という考えだ。但し、ここでひとつ大きな問題がある。その破天荒な行動を起こすのは、間違い無く相良宗介ではあるのだが、3年前の糸守では、“相良宗介=宮水三葉”だという事実だ!つまり、三葉が、そういう危険人物という目で、皆に認識されてしまう、ということである。
「か・・・か~な~め~!」
「ご・・ごめん!三葉!・・・で・・でも、ほ・・他に、いい方法が思いつかなくて・・・・」
「そ・・・それで相良くんは、わざと、あんな人騒がせな事件ばっかり・・・・」
「い・・いや・・・あれは、地です。根っから、あんな男だから・・・・」
「わ・・・分かった・・・もう、後戻りできへんし・・・皆を助けるためや・・・我慢する・・・・でも・・・でも・・・私の、このやり場の無い怒りは、どうしたらええの?」
私は、殆ど吼えていた。
「わ・・分かったわ!明日、宗介の頭を、あなたの分まで、思いっきりぶっ叩いておくから!」
「自分で叩かんと、気が治まらんわっ!」
私は、更に吼える。
「はあ~っ・・・仕方無いわね・・・じゃあ、クルツ!あんた、宗介の代わりに叩かれなさい!」
「ええっ?何で俺が?」
「はい、三葉!」
かなめから、ハリセンを受け取る。私は上段にそれを構え、クルツさんの前に立つ。
「ちょ・・・ちょっと待って・・・み・・・三葉・・・さん・・・」
「あの、ど天然暴走男がああああああああっ!」
「ほんげええええええええっ!」
ハリセンが、凄まじい勢いで振り下ろされ、クルツさんの頭を直撃する・・・・・
クルツさんの頭を思い切り叩いて、少し気持ちの落ち着いた私は、避難計画について、引き続きかなめ達と話し合った。
「でも、いくらでっちあげ災害を信じさせられるとしても、三葉ひとりじゃ実行は難しいわね。」
「少なくとも、2~3人は協力者が欲しいところだな・・・・」
「そ・・・それなら、私、サヤちんとテッシーに頼んでみる!」
「ああ、勅使河原君と名取さんね?」
「でも、信じてもらえるの?」
「大丈夫、親友やもの・・・きっと信じてくれる!」
彗星落下まであとわずか・・・でも、絶対みんなを助ける!・・・・だけど・・・あ・・あたしのイメージが・・・・・・・
ようやく、全てを知る三葉・・・・糸守を、皆を助けるためと、マオ達の計画に同意します・・・・・自分の信用を犠牲にして・・・・・
そんな三葉の苦悩も知らず、宗介は、今日も糸守で暴走中です・・・・・
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《 第七話 》
マオの好意に甘えて、部屋でのんびり休もうとしているところへ、事情を知らないテッサが現れます・・・・・・
かなめ達から、彗星落下とその避難計画を聞かされた翌日、私は、テッシーとサヤちんに全てを話した。
「なんやて?3年後の男と、入れ替わってた?」
「だ・・大丈夫やの、三葉?気は確か?」
まあ、予想通りの反応だ・・・いきなり信じてくれるとは、思っていない。
「ねえ!良く考えて!その狐憑きの私って、本当に私に思える?」
そう聞かれて、テッシーとサヤちんは考え込む。
「う~ん・・・・・」
「確かに、別人みたいやったけど・・・・」
私は、3年後の世界で見て来た事も、話してみた。
「それ、全部三葉の創作やったら、SF作家になれるで!お前!」
「だから、創作やないの!私にそんな才能あらへん!」
中々信じてもらえない・・・・ここに本物の相良くんでも居れば、説得力があるんだけど・・・・・
「お願いやから!私を信じて!頼れるのは、テッシーとサヤちんしかおらんの!」
もう最後は、目に涙を溜めて訴えた・・・・すると・・・・
「分かった!」
「・・・て・・テッシー?」
「俺は、三葉を信じる!で、何をやればええんや!」
「あ・・・ありがとう・・・テッシー・・・・」
「わ・・・私も、信じる・・・・」
「さ・・・サヤちん・・・・」
「こんな時に信じないで、親友なんて言われへんよね!」
「あ・・・ありがとう・・・サヤちん!」
私は、サヤちんに抱きついて、とうとう泣き出してしまった。
「ちょ・・・ちょっと、三葉・・・・・」
その翌日は、また相楽くんと入れ替わった。目が覚めたのは、例の潜水艦の中だった・・・・・相良くん、昨日はミッションだったのかな?
『宗介?起きてる?』
扉を叩く、マオさんの声。
「は・・はい!」
『ああ・・・三葉だったのね?』
返事だけで、マオさんは理解して、部屋に入って来る。
マオさんは、テッシーとサヤちんの説得がうまくいったかどうかを聞いてくる。私は、うまく説得できた事を説明する。
「ほんとに、ごめんね・・・あたしが、変な作戦しか思いつかなかったから・・・あんたのイメージが、あんな馬鹿と一緒にされちゃって・・・・」
「いいんです!・・・良く考えたら、どんな作戦立てても、相良くんの行動って変わりませんよね?・・・・結局、こうなちゃう運命だったんじゃないかと・・・・・」
そう話すと、マオさんは、更にすまなそうな顔をする。
「だったら、尚更ごめん!あの馬鹿のせいで・・・・・」
「ふふ・・・・でも、何か、相楽くんって、憎めないんですよね!」
「え?」
「やる事は滅茶苦茶で、頭にくるけど・・・何故か、すごくあったかい・・・優しいんですよね、彼・・・・正義感も強くて・・・・」
「ま・・・まあ、悪人では・・・無いわよね・・・・」
「散々文句を言ったけど、神社の不良の時は、巻き込まれてた妹の四葉を助けようとしてた・・・・町のチンピラの時も、最初は、絡まれてたクラスメイトを助けるためだった・・・・」
「やり過ぎちゃうのが・・・玉に瑕だけどね・・・」
「ふふふ・・・でも、そんな彼だから、かなめも、マオさんも、彼といつも一緒に居られるんですよね?」
「・・・・・今日は、あんたは体調不良って事にしとくから、ここでゆっくりしてなさい!」
「はい!」
そう言って、マオさんは部屋を出て行った。
しばらくして、また扉を叩く音がする。
『サガラさん!入っていいですか?』
女の人の声だ・・・でも、マオさんじゃ無い・・・・誰だろう?
「はい!」
そう返事すると、扉が開いて、小柄な女性が入って来た。でも・・・・え?この子も軍人なの?どう見ても、私より年下に見えるし・・・・だけど、着てる軍服って・・・これ、将校の服装じゃないの?
「体の調子が悪いと聞いたのですが、大丈夫ですか?」
「え・・・は・・はい、大丈夫です・・・」
「そうですか!良かった!」
そう言って、近づいて来るが・・・・・
「きゃああっ!」
何にも無いところで、いきなり躓いて倒れそうになる。
「あ・・危ない!」
私は立ち上がって、彼女を抱き留める。その時 ――――
急に、私の頭の中に、無数の声が流れ込む・・・・次第に、意識が遠のいていく・・・・・
軍服の少女は、気を失って私のベットに倒れ込む。その際に、彼女の服のポケットから、小さな鍵が飛び出し、床に落ちる・・・・私は、朦朧とした意識の中で、その鍵を拾い、部屋を出て、通路を歩き始める・・・・
何かに操られているかのように、通路を進む・・・・“艦長室”と書かれた部屋に入る。中に人は居ない・・・・私は、デスクの後ろにある壁の前まで行く。壁の一部がスライドし、隠し金庫が現れる。そこに先程拾ったカギを指し、暗証番号を入力する。何故か、指は勝手に知らない筈の暗証番号を、正確に入力する。金庫の扉が開く・・・・私はその奥にある箱を開け、中にある平たいプレートのような物を取り出す。その部屋を出て、更に艦内を移動する・・・そして、目的の部屋に到達する。
部屋の扉の上には、“艦長もしくは副官の許可無く、この部屋に入ることを禁じる”と書かれている。プレートはこの部屋のキーになっていて、それで扉が開く。中に入ると、そこはドーム状の部屋で、中央に、人がひとり寝る事ができる大きさのシートがある。そこまで歩いて行って、シートの横のパネルに手を触れる・・・・・
『アナタハ・・・テスタロッサタイサ、デハ、アリマセンネ・・・ドナタデスカ・・・』
頭の中に、このシステムのAIの声が響く・・・・・・
「私は・・・・三葉・・・・・・」
「相良軍曹!」
その時、部屋にひとりの将校が入って来る。長身の細身で、眼鏡を掛けている。
「ここで、何をしている?誰の許可を得て、ここに入った?」
その将校の顔を見ている内に、気が遠くなっていき・・・・・・私は、気を失ってしまった・・・・・
千鳥達から、三葉に全てを話したと聞いた翌日、俺は、また三葉と入れ替わった。
学校で、勅使河原と名取から、三葉に入れ替わりの説明を受けた事を聞いた。
「ほんまにあんた、3年後から来た、相良宗介いうんか?」
「肯定だ!今迄、黙っていてすまなかった!」
「ほんまやね、改めて見れば、別人にしか見えへん!」
その後、彗星落下当日の避難計画について、打ち合わせをした。まだ、当日に入れ替わりが起こるかどうか分からない。だから、俺だった場合、三葉だった場合、それぞれのケースについての役割分担を決めた。
最後に、勅使河原だけを呼び、ある事を伝えた。
「実は、ここに来始めた頃に、三葉を監視する、胡散臭い連中を2度ばかり見かけた!」
「な・・・なんやて?」
「俺が、最初にここに来た時、突然走り出した事があっただろう!」
「ああ、そういえば、そないな事あったな・・・・」
「それ以降、見かけていないが、少し気になる・・・俺が入れ替わっている時は心配無いが、三葉の時は・・・・お前が守れ!」
「あ・・・ああ・・・分かった!」
その翌日、何故か、俺はダナンの医務室で目を覚ます。そしてクルツから、事の詳細を聞く。
「殆ど意識を失っていた?」
「そうだ、それも、倒れる前にお前が居たところが、レディ・チャペルの中だ!」
「何だと?でも・・・どうやって、あそこに入ったんだ?あそこの鍵は、大佐殿しか持っていない筈では?」
「だから、テッサの部屋から、鍵を持ち出して入ったんだよ!」
「馬鹿な!何故、そんな事が三葉にできるんだ?」
「分からねえ?肝心の三葉に、聞く事もできねえし・・・・」
「大佐殿は、何と言ってるんだ?」
「まだ、意識が戻らねえ!テッサも、お前の部屋で気を失ってたんだ!」
「大佐殿が?どうして俺の部屋に?」
「お前の様子を心配して、観に来ていたらしい・・・三葉と入れ替わってたからな、体調不良という事にして、部屋に居させたんだよ。」
「宗介!」
マオが、医務室に入って来た。
「目が覚めたんなら、昨日の事を説明しろって、マデューカス中佐が呼んでるわ!」
「そんな事言ったって姉さん、昨日のこいつは三葉だぜ!何の説明も、できやしねえよ!」
「それでも、行かない訳にいかないだろう。」
そう言って、俺は立ち上がる。
「おい、宗介!」
「問題無い!知らない事は、答えようが無いからな。」
「ま・・まさか、入れ替わりの事を、説明するつもりか?」
「しても無駄だろう・・・“記憶がありません”で押し通す。」
「どっかの政治家かよ?お前は!」
その後、中佐にはこってり絞られたが、知らない事は答えようが無い。埒が明かないので大佐殿の回復を待つ事になり、俺は一旦、東京のアパートに戻された。
千鳥の部屋で、事の詳細を説明する。
「何で三葉が、ダーナへの行き方を知ってるの?」
「分からない・・・・・」
「ま・・・まさか・・・・」
「ん?どうした?」
「う・・・ううん、何でもない。(そんな事、ある訳無いか・・・・・)」
「とにかく、明日、もし俺が三葉と入れ替わったら、事の詳細を聞いてくれ!」
「うん、分かった!」
目が覚めると、自分の部屋だった・・・・何だろう?昨日の記憶が、はっきりしない・・・・まるで、本当に夢を見ていたみたいに・・・・はっきり覚えてるのは、部屋に、若い女性将校さんが入って来たところまで・・・・・その後、どこかの部屋に入っていったような・・・・・
「お姉ちゃん?どうしたん?」
布団の上で考え込んでいる私に、心配して、四葉が声をかけてくる。
「・・・ううん、何でもないんよ。」
もう、彗星落下まで日が無い。そんな事より、テッシー達と準備を急がなくっちゃっ!
彗星落下まであとわずか・・・・
そんな中、三葉とテッサに起こった異変は何か?
新たな謎が生まれる中、物語はクライマックスへ進んで行きます・・・・・
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《 第八話 》
彗星落下、当日の朝が明ける・・・・
俺は、自分の部屋で、自分の体で目が覚めた・・・・結局、あのダナンでの事件以降は、三葉との入れ替わりは起こらなかった。
千鳥と共に、通学の途に就く。
「大丈夫かな?三葉・・・」
「準備は、整っていると思う、問題無い!」
「成功を祈って、待ってるしか・・・ないのかな?」
「そうだな・・・・」
「・・・そういえば、テッサの意識は戻ったの?」
「ああ・・・ただ、大佐殿にも、良く分からないらしい。」
その後、俺に対しても、何の追及も来ていない・・・マオは、何か知らないが呼び出されていたが・・・・・・
私は、糸守の、自分の体で目覚めた。
「い・・・いよいよ・・・今日!」
「・・・お姉ちゃん・・・・」
右を見ると、襖を開け、四葉が立っている。
「四葉、私は、やる事があるから一緒に居られへんけど、お婆ちゃんをお願い!」
「うん!分かってる!」
昨夜、妹の四葉には、本当の事を話した・・・・今日、彗星の破片が糸守に落下する事・・・・私が、3年後の世界の相良くんと、何度も入れ替わっていた事・・・・・驚くほど、四葉は、その事を素直に信じた・・・・きっと、四葉が一番、変貌する私を真近で見ていたからだろう・・・・・
学校に行き、テッシー達と、最終打ち合わせを行う。
「決行は7時半頃、今夜はお祭りやから、大概の人は神社に集まってる!」
「爆発は、神社の裏手、できるだけ人のおらんところで・・・これは、俺に任せとけ!」
「だめ!テッシーには、みんなを高校まで誘導してもらわんと・・・それは、私に任せて!」
「ほんまに大丈夫か?・・・相良やないのに・・・・」
「それくらいは、やらなくっちゃっ!なんせ、私が主犯なんやから!」
「分かった!セットだけは、俺がやっとくで!」
「サヤちんは放送をお願い!学校の放送室から、防災無線をジャックできるから!」
「うん!」
「三葉!お前は、午後から学校ふけて姿隠しとけ!その方が、信憑性が高くなる!」
「分かった!」
そして、陽が暮れる・・・運命の時間がやって来た・・・・空には、もうはっきりと彗星の姿が確認できる。
私は神社の裏手、疑似爆発を起こす場所に向かう・・・・既に、テッシーが来て準備をしていた。
「て・・テッシー!」
「三葉・・・準備はできてる・・・あとは、この導火線に火を付けるだけでええ!」
「うん!ありがとう!」
「威嚇だけやから、煙は出るけど、火事にまではならへん!ただ、近くにいると危ないから、火を付けたらできるだけ離れるんや!」
「うん!」
「あと、この辺に、人が近づかんようにしとくんや!」
「分かった!」
そう言って、テッシーは、避難誘導のために神社の表の方に走って行った。
私はその場に留まり、じっと時間を待つ・・・・・
7時30分、時間だ!私は、テッシーが用意してくれた、簡易爆弾の導火線に火を付ける・・・・・・
凄まじい轟音と共に、爆煙が吹き上がる!お祭りで、神社に集まっていた人達から、悲鳴が上がる・・・・そして、それを合図に、防災無線の放送が流れる。
『こちらは、糸守町役場です!たった今、宮水神社に、不発弾が複数持ち込まれたとの、
情報が入りました。万一、その全てが暴発すると、宮水神社を中心に、直径1kmの範囲に被害が及ぶと思われます・・・・・皆様、大変危険ですので、大至急、被害範囲外の、糸守高校まで避難して下さい。繰り返します・・・・・』
放送を聞いた人達から、ざわめきが起こる。
「い・・・今の爆発が、そうやの?」
「宮水神社にって・・・まさか、また、三葉ちゃんが?」
「あ・・・あの破天荒娘!また、やらかしたんか?」
そこへ、避難誘導係のテッシーが割り込む。
「みんな!何してるんや!はよう避難するんや!」
「そ・・・そうや!」
「い・・・急げ!いつまた、暴発するかわからへん!」
それが引き金になり、皆、一斉に逃げ出した。
神社の裏手から、私はその様子を伺っていた・・・・良かった、みんな、避難していく・・・・だけど・・・・わ・・・私の信用は・・・・・
しばらくの間、そこに蹲ってひとり嘆いていた・・・・・・・
一方、町役場では・・・・
「何だ?この放送は?何処から流れている?」
「分かりません、でも、爆発は、間違いなく神社です!娘さん、またやらかしたんじゃ・・・・」
「あのばか娘が!私の苦労も知らんで・・・・と・・・とにかく、今は避難するぞ!説教は、後でたっぷりしてやる!」
住民達は、一心不乱に糸守高校へと走って行く。先導していた勅使河原は、ふと、宗介に聞いた言葉を思い出す・・・・・“三葉の時は・・・・お前が守れ!”・・・・
「そ・・・そやった・・・み・・・三葉は、今、ひとり・・・・」
周りを見渡すと、皆、全く疑う事無く、糸守高校に向かって走って行く。誘導は、もう必要無い。勅使河原は、宮水神社の方に向き直り、人の流れに逆らい、宮水神社に向かって走って行く。
もう、神社には誰も居なくなった・・・・空を見上げると、彗星が長い尾を引いて、綺麗な模様を描いている。
さあ、そろそろ、私も避難しなくっちゃ!
神社の表側に回り、石段の所に差しかかろうとした時、突然、目の前に人影が現れる。
「?!」
全身黒尽くめで、黒いゴーグルで目も隠している・・・・どこから見ても、怪しい!
私は、身の危険を感じて、引き返そうと後ろを向く。しかし、そこにも同じ格好の男が居た!
「きゃあっ!」
私は、その黒尽くめの男に両手を掴まれる・・・・直後に、その両手を背中に捩じ上げられてしまう・・・・
「い・・・痛いっ!」
黒尽くめの男は、背中に捩じ上げた私の両手を、縄で一纏めに縛り始める。
「や・・・やめて!は・・・離してっ!」
必死に逆らうが、男の力に適う筈も無く、瞬く間に、私は後ろ手に縛られてしまう。
「だ・・誰か!助け・・・・んっ!」
大声で、助けを呼ぼうとしたところ、口の中に、手拭いを結んだ瘤を捩じ込まれる。そして、その手拭いを頭の後ろできつく縛られる。猿轡まで、されてしまった。
「むふううううんっ!」
だ・・だめ!これじゃ、声も出せない・・・た・・助けて!誰か!テッシー!・・サヤちん!・・・・
「おい!何か様子がおかしいぞ!」
もうひとりの男が、空を見て声をあげる。
そう言われて、私を捕まえている男も、空を見上げる。
「?・・・彗星が・・・割れてる?・・・・」
私も、空を見る。彗星が2つに割れて2本の光の尾を引いている・・・いけない!もう直ぐ、こちらに落ちて来る・・・・
「い・・・行くぞ!こいっ!」
男は、急いで私を連れ去ろうとする。
「むふうん!んんっ!」
必死に抵抗を試みるが、縛られている上に、非力な女の力では、大の男の腕力に抗う術が無い・・・こ・・こんな事なら、毎日、筋トレしておくんだった・・・・た・・助けてっ!誰かっ!・・・・さ・・相良くん!
――― 助けて!相良くん! ―――
「ん?」
「どうかした?宗介?」
「・・・今、誰かに、呼ばれたような気がしたんだが・・・・」
学校の帰り道、俺は、千鳥と河原の土手を歩いていた。
「・・・誰も、居ないわよ・・・」
「そのようだな・・・気のせいか?」
「きゃああああっ!」
その時、急に突風が吹き、砂埃が舞い上がる。千鳥は、スカートを必死に抑えている。同時に、辺りに轟音が響き渡る・・・・これは、ヘリの音だ!
俺は、上空を見上げる・・・・何も無いところに、突然、大きなヘリが姿を現す。ECSを解いたのだ!
「な・・何?」
「ミスリルの輸送ヘリだ!」
ヘリの中から、クルツが顔を出す!
「宗介!緊急事態だ!乗れっ!」
「いったい、何だ?」
「大変な事が解ったんだよ!」
「三葉!」
急に、名を呼ばれ、声のする方に顔を向ける・・・・テッシーが、そこに居た・・・
「お前ら!三葉を離せ!」
テッシーは、私に向かって一目散に駆け寄って来る。そして、黒ずくめの連中に飛びかかろうとするが・・・・
「ぐはっ!」
軽く交わされ、腹に一撃を喰らってしまう。
「どはっ!」
更に、顎を蹴り上げられ、テッシーは仰向けに倒れてしまう。
「むふううううっ!」
私は、声にならない叫びをあげるだけだった。
「こ・・・この・・・」
それでも、テッシーは、まだ向かって来ようとする。すると、黒ずくめのひとりが拳銃を抜き、それをテッシーに向ける。
「むふうううん!んっ!んんっ!」
いや!撃たないでっ!だ・・・誰かっ!テッシーを助けてっ!・・・さ・・相良くんっ!
もうだめ!と思った次の瞬間、撃たれて倒れたのは、黒ずくめの男の方だった。
「なっ?」
慌てて、私を捕まえている男も銃を抜くが、その銃も誰かに撃ち落とされる。
「?!」
男が怯んだところに、林の中から、物凄い速さで人影が駆け寄り、私を捕まえている男を跳ね飛ばす。
「ぐわあっ!」
男は倒れ、私はその人影に抱き留められる。
「大丈夫か?三葉?」
さ・・・相良くん?ど・・・どうして?3年後に居るはずの・・・あなたがここに・・・・
うまく行きかけた避難計画の最中の、まさかの誘拐劇・・・・・
絶体絶命の三葉の前に、時を越えてリアル宗介登場!
でも、何で?・・・・・
その訳は・・・・・次回で・・・・次回は最終回です!
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《 最終話 》
ここまで、自爆しまくりで、目いっぱい三枚目を演じてきた宗介くんの、最初にして最後の見せ場です。
初めて見る、カッコイイ宗介くんに、三葉の心は・・・・・・
「大丈夫か?三葉?」
さ・・・相良くん?ど・・・どうして?3年後に居るはずの・・・あなたがここに・・・・
「伏せろっ!」
急に、相良くんが私を抱えたまま、地面に倒れ込む。その頭のわずか上を、銃弾が通過する。まだ、仲間がいたようだ。
相良くんは、すかさず反撃!拳銃を3発放ち、あっという間に、襲って来た3人を倒した・・・・す・・・すごい!
「宗介!」
林の中から、今度は、かなめが走ってくる。
「千鳥!三葉を頼む!」
そう言って、相良くんは私の背中を押す。私は、走って来た、かなめの胸に飛び込む形になる。そして相良くんは、また、林の中に走って行った。
「大丈夫?三葉!・・・今、解くからね!」
かなめは、まず、私の猿轡を外してくれる。
「か・・・かなめ・・・ど・・・どうして?」
「ふふ・・・本物の、あなたに会うのは初めてね!」
そう言いながら、かなめは、私の縄を解いてくれる。やっと、体が自由になった。
「?!」
途端、木が薙倒される音がして、前方の林の中から、巨大な人型兵器が3機現れる。
「あ・・・アーム・・・スレイブ?」
3機のASは、私達に向かってくる。思わず、悲鳴をあげそうになる私に、かなめが言う・・・
「大丈夫よ!宗介が守ってくれる!」
すると、林の中から、1発の砲弾が飛んで来る。それは、目の前のASを捉え、ASは瞬く間に炎に包まれる。
「え?」
そして、林の中からもう1機、白いASが現れる。
「あ・・・あれは?」
「アーバレスト・・・宗介の機体よ!」
時間は少し遡った3年後の未来、宗介と千鳥を迎えに来た、ミスリルのヘリの中で・・・・
「実は、この間のダナンでの一件、上から報告を求められたんで、信じてもらえないと思ったけど、入れ替わりの事話したのよ・・・そしたら、とんでも無い事が分かったの!」
「だから、それは何だ?」
「宗介、あんた糸守で、三葉を監視してる、胡散臭い連中と遭遇したって言ってたわよね?」
「ああ、肯定だ!最近は、全く姿を見せなかったがな!」
「そいつら、アマルガムの手先だったのよ!」
「なに?・・・じゃ・・じゃあ、三葉は?」
「そう、ウィスバードだったのよ!」
「ええ~っ?」
千鳥が、驚きの声をあげる。
「テッサが、宗介と入れ替わった三葉と接触した時、2人が意識を失ったのは、急激な共鳴現象が発生したためだったのよ!」
「え?・・・・でも、あたしと接触しても、何にも無かったけど・・・・」
「詳しい事は、私も分からないけど・・・・そこに更に、ダーナも干渉して来たらしいの・・・」
そうか・・・それで、三葉はダーナの所に行ったのか?
「記録上、3年前のティアマト彗星の落下で、三葉は死んだ事になってる・・・・でも、実は、三葉だけは生き残っていたの!彗星落下直前に、アマルガムの手先によって連れ去られていたの!」
「じゃ・・じゃあ、三葉は、今も生きてるの?」
その千鳥の問いに、マオは俯いて首を振る。
「残念だけど・・・・攫われた後、頭の中を散々引っ掻き回されて・・・・その苦痛に耐えかねて、自害したそうよ・・・・・」
「そ・・・そんな・・・・」
「待て、マオ!それでは、例え彗星落下から、糸守の住民が助かっても・・・・」
「そう、三葉だけは助からない!同じ歴史を歩む事になる・・・・・」
「そんな・・・な・・・何とかならないの?」
「無理だ!彗星落下は今日だ!今から三葉に伝える術は無いし、仮に伝えられても、相手がプロでは三葉ではどうすることもできない!」
「そんな・・・・そんな・・・・・」
千鳥は、既に泣き出しそうだ。
「それを、何とかするために、お前らを呼びに来たんだよ!」
「何?本当か?クルツ!」
「ああ、テッサが待ってる、急ぐぞ!」
「た・・・大佐殿が?」
ヘリは糸守・・・いや、かつて糸守だったところの、御神体がある山の頂上の、窪地の中に着陸した。中央にある巨木の所に、大佐殿とカリーニン少佐が立っていた。
「大佐殿!」
「サガラさん!」
「宗介!今からお前達には、3年前のこの場所に飛んでもらう!」
「え?」
「ええ~っ?」
俺と千鳥が、揃って声をあげる。
「時間が無いので、手短に説明します。ここの地下には、ある装置が埋まっていたんです。一言で言うと・・・そう、タイムマシンのような物が・・・・」
『た・・タイムマシン?』
ハモった。
「そうは言っても、かなり限定付の物です。移動できるのは同じ場所、時間間隔は1年単位で、移動していられる時間は30分、それを過ぎたら、強制的にここに戻されます。」
な・・なんだと?このブラックテクノロジーは、時までも越えられるのか?
「更に、使えるのは1度限り・・・・時を越えられるのは、ラムダ・ドライバを搭載した機体・・・・それも、ウィスバードが同乗している事が前提です。」
「はは・・・制約だらけじゃない・・・そんな条件、中々揃えられな・・・あ・・・」
「そうです!今、それができるのは・・・・かなめさん、あなたと相良さん、そしてアーバレストだけなんです!」
「た・・大佐殿、でも・・・何故、こんな物が、ここにある事が解ったのですか?」
「ダーナが教えてくれたんです!先日、サガラさんと入れ替わった三葉さんは、ダ-ナとコンタクトしました。その時に、三葉さんの隠れた記憶の一部が、伝わっていたんです!」
そ・・・そんな事が・・・・・
「急いで下さい!さっき言ったように、年単位でしか移動はできません。もう今の時間、三葉さんは、襲われてるかもしれない・・・・・
「了解しました!・・・千鳥!」
「う・・・うん!」
俺と千鳥は、輸送ヘリに積んで来たアーバレストに乗り込み、巨木の前に立つ。
「今から、装置を作動させます!ワープホールが目の前に現れますから、サガラさんは、3年前の三葉さんの所に行きたいと、ラムダ・ドライバを作動させて強く念じて下さい!」
「了解です!」
大佐殿は、手に持ったコントローラーのような物を操作する。すると、巨木を覆い隠すように、巨大な光のトンネルが姿を現す。
「いくぞ!千鳥!」
「うん!」
「アル!」
『イエス!相良軍曹!』
「待ってろ!三葉!今、助けに行く!」
アーバレストが、光の中に吸い込まれていく・・・・・・
そして、3年前、彗星落下直前の糸守・・・・・
「という訳で、助けに来たわよ!三葉!」
「か・・・かなめ・・・相良・・・くん・・・・」
目に、涙が溢れてくる・・・・・夢じゃ無い、現実のかなめと、相良くんが、ここに居る・・・
「み・・三葉・・・・」
ようやく、起き上がる事ができたテッシーが、辛そうに私に声をかける。
「て・・テッシー、今の内に、みんなの所へ避難してっ!」
「お・・・お前は?」
「三葉は、あたし達に任せてっ!必ず助けるから!」
そう答えるかなめに、怪訝そうにテッシーは尋ねる。
「あ・・あんたら・・・は?」
「せ・・正義の軍隊よ!」
代わりに、私が答える。
「せ・・・正義の・・・軍隊~?」
「お願い!私を信じて!必ず、私も後から行くからっ!」
「あ・・ああ・・・分かった!か・・・必ずやぞ!」
そう言って、テッシーはよろけながら、糸守高校の方へ走って行った。
残り2機のASは、アーバレストに銃撃を浴びせる。しかし、アーバレストはこれを難無く交わし、続け様に砲弾を放つ。あっという間に、残り2機のASも撃破される。
「す・・・すごい・・・・・」
目の前に聳え立つアーバレストを、私は放心して見つめていた・・・・・こ・・・これが、相良・・・宗介・・・・・・
「?!」
安堵も束の間、突然、アーバレストの銃が破壊される。その直後、林の中から、銀色で、頭に髪の毛のような物が付いたASが飛び出し、ナイフでアーバレストに襲い掛かる。
「くっ!」
アーバレストも腰からナイフを取り出し、敵ASの攻撃を受け止める。
「ベノムまでいたか?」
先程までの相手とは違い、一進一退の攻防が展開する。
俺は、ベノムの攻撃を防ぎながら、千鳥と三葉に叫ぶ。
「千鳥!お前達は先に逃げろ!」
「あんたを放っておいて、あたし達だけ逃げられる訳無いでしょっ!」
「そうです!相良くん!」
ベノムが、少し距離を置く・・・仕掛けてくる気だ!ならば!
「消飛べっ!」
ベノムは、ラムダ・ドライバで衝撃波を放つが、こちらの放つ衝撃波がそれをまとめて吹き飛ばす・・・・・・
「や・・・やった・・・・・」
ベノムは、粉々に砕け散る。だが・・・・・・・
頭の上には、赤い塊が、既に空全体を覆うくらいの大きさにまで広がっていた・・・・戦闘が長引き過ぎた!もう、逃げている時間は全く無い!
「アル?」
『何ですか?軍曹?』
「ラムダ・ドライバで、彗星の破片を破壊できると思うか?」
『無理だと思います!』
「はっきり言う・・・だが、それならば、やる事は決まったな!」
『はい!軍曹!』
「そ・・・宗介・・・」
「さ・・・相良くん・・・・」
下で、不安そうに見上げる2人に、俺は叫ぶ。
「千鳥!三葉!アーバーレストの足元から離れるな!」
「う・・・うん!」
「は・・・はい!」
「やるぞ!アル!」
『イエス!軍曹!』
「うおおおおおおおおおおおおおっ!」
俺は、ありったけの心をラムダドライバに込めた・・・・千鳥を、三葉を、絶対に守る!絶対に死なせない!
光が、アーバレストを包み込む・・・・・・・
彗星の破片は、宮水神社付近に墜落し、その衝撃波は、直径1kmの周囲を吹き飛ばす。湖の水は洪水のような流れを引き起こし、周辺の町を飲み込んでいく。落下地点には大きな穴が開き、そこにも湖の水が流れ込む。
「み・・・み・つ・は・・・・・・」
避難した糸守高校の校庭で、勅使河原と名取の2人は、呆然とその惨事を見つめていた。
「そ・・・そんな・・・みつは・・・・・」
名取はしゃがみ込んで、泣き出してしまう。
勅使河原は、ただ、呆然と立ち尽くしていた・・・・・・・
それから、どれくらい経っただろうか?2人にとっては、何時間にも感じられた数分間の後、辺りが静けさを取り戻すと同時に、勅使河原はある異変に気付く。
「あ・・・あれは?・・・・双眼鏡、だ・・・誰か、双眼鏡を貸してくれんか?」
勅使河原は、一緒に避難して来た人から双眼鏡を借り、覗き込む・・・・・
「み・・・三葉・・・や・・・早耶香!三葉や!三葉は、無事やで!」
「ほ・・・ほんまに?」
勅使河原が覗く双眼鏡の先、彗星落下で新しくできた糸守湖の、もうひとつの円のほぼ中央に、そこだけ、全く彗星の落下の被害を受けなかったかのように、小さな島が残っていた。そこには、白いASアーバレストと、2人の少女、三葉と千鳥かなめが立っていた。
「し・・・信じられない・・・彗星落下の中心に居たのに・・・・・」
「三葉!」
あまりの驚きに呆然としている三葉に、かなめが小さなメモを手渡す。
「え?・・・こ・・これは?」
「今の時代の、ミスリルの連絡先よ!これからも、あなたは今日のような連中に狙われることになる・・・だから、ここに連絡して、助けを求めて!・・・町のみんなとは、離れ離れになっちゃうけど、我慢して・・・今日みたいに、友達を巻き込みたくは無いでしょ!」
「う・・・うん!」
「千鳥!」
アーバレストが屈み込み、両手を合わせて掌を上にして、かなめ達の手前に降ろす。
「もう直ぐ時間だ!アーバレストの手に掴まれ!」
「わ・・分かった!」
かなめは、三葉の手を引き、アーバレストの掌の上に乗る。
「行くぞ!しっかり捕まっていろ!」
アーバレストは、湖の中の小島から大きくジャンプする。元々あったもう片方の円を飛び越え、瓦礫の塊と化した対岸に降り立つ。少し歩いて、被害の少なかった安全な所に、三葉だけを降ろす。
「三葉!」
コックピットが開き、宗介が顔を出す。
「さ・・・相良くん・・・・」
「お別れだ・・・三葉!」
「げ・・・元気でね!」
「か・・・かなめ・・・・」
次第に、宗介とかなめの体が、光り始める。その光は、アーバレストにも広がっていく・・・・
「・・・あ・・・ありがとう!相良くん!かなめ!私・・・・」
そこまで三葉が言った直後、幻のように、宗介とかなめは光の塊となって消えてしまった・・・・・
「・・・・・・・」
涙を流しながら、三葉は、2人が消えたその場所を、しばらくの間見つめていた。
「さ・・・3年・・・待てば、また・・・逢えるのかな?・・・・そ・・・その時は、私・・・・ご・・・ごめんね!かなめ・・・・・」
そして、3年後に戻った俺たちは、彗星落下後の履歴を検索し、糸守の住人が助かっている事を再確認した・・・・しかし、三葉の行方については、何の情報も得られなかった。ただ、アマルガムに拉致され、人体実験の挙句自害した事実は、完全に無くなっていた・・・・そうして、数ヵ月後・・・・・
「何で?あたしが、ダナンの新任将校に挨拶しなきゃいけないのよ!」
「俺に言われても困る!大佐殿から、お前も連れて来るように命令されたのだ!」
「テッサが?」
俺は、千鳥を連れてダナンに来ていた。大佐殿の特別補佐官として、ミスリルから、新しい将校が赴任した。その将校殿が、就任の挨拶の前に、俺と千鳥にどうしても挨拶したいと言って来たらしい・・・・・・
俺たちは、艦長室の前まで来た。
「大佐殿!相良軍曹、千鳥かなめを連れて、ただ今到着しました!」
『は・・入って下さい。』
「失礼します!」
中に入ると、大佐殿はデスクに座っていて、その前に、こちらに背を向け、新しい将校と思われる人物が立っている。ただ、その後ろ姿は女性だった。大佐殿と同じ、女性の将校か?
何故か、大佐殿は険しい表情をしている。
「相良軍曹、かなめさん、こちらが、この度ダナンに就任する事になった、宮水少佐です。」
“宮水?”どこかで、聞いた事があるような名前だが・・・・・
すると、その将校はこちらに向き直って、俺たちに敬礼をして来た。しかし、その顔を見て、俺達は揃って驚きの声をあげた・・・・・
『み・・・三葉~~~?!』
「お久しぶりです!相良くん!かなめ!」
こうして、宗介、かなめ、テッサの三角関係は、三葉を加え、四角・・・・では無く三角錐関係に発展していくのであった・・・・・・
最後まで読んで下さって、ありがとうございました。
やっぱり、フルメタル・パニックの世界とコラボするんだから、三葉にもそれなりの存在意義が無いと物足りないので、実は“ウィスバード”だったという事にしました。
最後は、どうしても宗介本人に三葉救出をさせたかったし、アーバレストで彗星落下から無事生還をやりたかったので、ASごとタイムトラベルまでさせてしまいました・・・・
ここまでやっちゃっていいのかとも思いましたが、まあ、私の妄想なんで、何でもアリということで・・・・・
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《 番外編 ―― わりとヒマな艦長補佐官の日常 ―― 》
“確執”というのはオーバーなので、宗介を巡っての千鳥も加えたドタバタ劇を考えてみました。入れ替わりの頃から、約1年後くらいの話です。
読んで頂ければ幸いです。
「テスタロッタ大佐、明後日のイベントの予定表が完成しました。」
私は、宮水三葉、二十一歳。ミスリル所属の士官で、階級は少佐。現在は、トゥアハー・デ・ダナン艦長、テレサ・テスタロッサ大佐の補佐官として、デ・ダナンに乗船している。
ミスリルに入ったのは、四年前。何でたった四年で、二十一歳の小娘が少佐になれたかというと……早い話が私は“ウィスパード”という、ブラックテクノロージーの知識を生まれながらにして自分の頭の中に持っている特殊人物なのだそうだ。それ故に、組織内でも最重要人物とされているのと、その知識故に最先端技術に精通して、それを使う兵士達に適切な指示ができるからだ。
ちなみに、私が補佐するテスタロッサ大佐もその“ウィスパード”で、幼い頃からミスリルにいる彼女は、わずか十七歳で大佐の大任を任されている。ただ、戦闘指揮をする時の彼女は本当に大人顔負けの敏腕士官であるが、日常生活に於いては、かなり天然のドジっ娘である。
自分より年下の少女が上官という事には、別に不満もわだかまりも無い。実際に彼女の方が先輩で、実戦経験も豊富なのだから。ただ、ひとつだけ、絶対に彼女には譲れないものがある。最も、最大のライバルは彼女では無く、もうひとり居るのだが……
「……宮水少佐、ここに、“ビンゴゲーム”とありますが……」
「はい!ウェーバー軍曹が、前回好評だったので、今回も是非にと。」
「ま……まさか、一等賞の景品は……」
「はい!それもウェーバー軍曹が、前回好評だったから是非にと!」
「ええ~っ!こ……困ります!」
「え?ダメなんですか?」
「当たり前です!あ……あんな恥ずかしい事、もう二度と……」
「そうか、残念ですねえ……仕方ありません。そこは、私が代わっておきます。」
「え?」
「ウェバー軍曹に言われてたんですよ、“もしテッサが無理なら、三葉でもいいぜ”って。だから、仕方が無いので、私が変わりますね!」
「そ……それは……」
「でも、もし、相良軍曹が一等賞になっちゃったら、どうしよう?……そしたら、つい本気になっちゃって、キスだけじゃなくてそのまま……」
私は、わざとらしく頬を赤らめ、両手を頬に当てて戸惑う仕草をする。
「ま……待って下さい!」
「はい?」
「や……やります……私が、やります!」
テッサは、顔を真っ赤にしてそう答える。
「はい、了解しました!」
ふふ、うまくいった。大佐とはいえまだまだ小娘、ちょろいもんね。
もし、本当に相良くんが一等賞になっても、どうせテッサは舞い上がっちゃって、固まっちゃうに決まってる。そうしたら、さりげなく、私がサポートに入って……でも、その時に、大きな障害になるのが……
「ところで、宮水少佐?」
「はい?」
「彼女にも、招待の連絡はしているんですよね?」
「はい、それはもちろん。相良軍曹に、伝えてお連れするように指示を出しています。」
もっとも、相良くんのことだから、うまく伝えているかどうかは分からないけど……
すると、テッサの目の色が変わった……
分かっているようね、あなたも。
最も警戒すべき敵は、私達では無いって事を……
三葉から、明後日のイベントに、千鳥も招待するようにとの連絡が入った。それで俺は、通学時に千鳥にその事を告げた。
「千鳥、明後日、何か予定はあるか?」
「え?……別に無いけど。」
「実は、君に一緒に来て欲しいんだが……」
「え?」
何故か、千鳥は頬を赤らめた。おかしいな?何か、変な事を言ったか?
「ど……何処に?」
「南の島だ!」
「み……南の島?!」
“な……何なの?い……いきなりデートの誘い?それも、国外だなんて……
ん?確か、前にもこんな事があったような……”
何故か、急に千鳥の様子が変わった。目が、据わっているような……
「ねえ、宗介?」
「な……何だ?」
声のトーンが低い。いったい、どうしたんだ?
「1年前にも、同じような事言わなかった?」
「ん?そうだったか?」
「南の島って……ミスリルの基地の事?」
「ああ、そうだ。」
「そこで、何があるの?」
「ああ、デ・ダナンの就航二周年記念の式典が……」
言い終わらない内に、物凄い形相で、千鳥はハリセンを振り上げていた。
「それを先に言わんかああああああああっ!」
千鳥のハリセンで、今迄に無いほど厳しく叩かれた。
「い……痛いじゃないか……」
な……何で、そんなに怒るんだ?
格納庫ではマオさんが、また懲りずにM9でのダンスの練習を指揮している。
その横で、私は缶ビール片手に、彼女と雑談をしている。
「また、テッサを挑発して来たの?」
「人聞きの悪い事を言わないで下さい。私は補佐官として、予定表の承認を頂いて来ただけです。」
「でも、普通に考えたら、クルツのあんな提案テッサが呑む訳無いわ。あんた、何かしたでしょ?」
「べ……別にぃ……」
「しかし、あんたもテッサも、あんな朴念仁のどこがいいのかね?」
「お……大きなお世話です。」
「ふふ……でも、テッサと違って、随分くだけた士官よね、あんたって。」
「え?」
「いくらあたしが勧めたからって、勤務中に士官がビール飲む?普通?」
「まあ、育ちが悪いんで……マデューカスさんに見つかったら、不味いですけどね……」
「ん?や……やばい!」
突然、M9の動きがおかしくなった。プログラムに、バグがあったようだ。二機でチークを踊っていた内の一機が、軌道を外れ、機材の中に突っ込んでしまう。
「あっちゃ~っ!」
M9は損傷し、機材もばらばらに散乱してしまう。その内の殆どが壊れてしまった。
罰が悪そうに、マオさんは私の顔を見る。私はにっこりと笑って……
「始末書は、明日の朝までに提出しておいて下さいね。壊れた機材の修理費は、曹長の来月以降の給与から差し引いておきますから。」
そう言い残して、私は格納庫を後にする。
「ああいうところは、テッサそっくりなんだから……まったく……」
そして、いよいよイベントの当日。相良くんに連れられ、かなめがデ・ダナンにやって来た。
私が、二人を出迎える。
「宮水少佐、相良宗介、千鳥かなめを連れ、帰還しました。」
相良くんは、私に向かって敬礼する。
「やだわ、相良くん。今日は任務じゃ無いんだから、三葉って呼んで。」
「は?はあ……わ……分かった、三葉。」
「相変わらずね、三葉。」
「お久しぶり、かなめ。」
宿命のライバルとの再会。そこから、決戦の火蓋が……とはならない。
「ほんと久しぶり、元気してた?」
「もちろんよ!かなめも元気そうで、安心した!」
と、女子会トークに突入し、相良くんを放ったらかして、話しながら談話室に向かった。
ひとり残された宗介の肩を、クルツが叩く。
「よう、大変だな?お前も。」
「ん?何がだ?」
「お……お前な……」
あまりの鈍感さに、呆れるクルツであった……
そうして、デ・ダナン就航二周年記念(別名:デ・ダナン二歳の誕生会)は大々的に開催された。
まずは、艦長テッサからの挨拶。続いて、補佐官の私が乾杯の音頭をとった。
パーティは滞り無く進んで行き、遂に、運命の時がやって来た。
「さあて宴も酣だが、これより恒例の大ビンゴ大会の始まりだ!」
『おお~っ!』
会場内から歓声が上がる。
「今回も、沢山の豪華商品を用意したが、目玉は何と言っても一等賞、前回に続き、テスタロッサ艦長からのキスだ!」
『おお~っ!』
会場内から更なる大歓声が上がる。そして、壇上にテッサが上がる。
テッサは、恥ずかしそうに俯く。かなめは、心配そうに相良くんの顔を伺っている。
次々と番号が発表されるが、中々リーチにならない。しかし、六順目あたりからちらほらリーチが出だし……
「リーチ!」
遂に、相良くんもリーチとなった。テッサは頬を赤らめ、かなめは更に心配そうな顔になる。私も、どきどきして来た。胸の鼓動が、高まっているのが分かる。
「えっと、次は……Gの五十八番だ!」
「ビンゴだ!」
そう言って手を上げたのは、何と、相良くんだった。
ま……まさか!ほ……本当に、相良くんが一等賞?
「おおっ!やったな、宗介!テッサのキスはお前のもんだ!」
会場中が騒然とする。テッサはもちろん、かなめも驚いて、放心状態だ。もちろん、私も……
が、当の相良くんは、表情ひとつ変えていない。
ど……どこまで鈍感なの?この人……
「さあ、相良軍曹!ステージの上へ!」
クルツさんに促され、相良くんはゆっくりと壇上に上がり、テッサの前に来る。
「大佐殿、宜しくお願いします。」
相良くんは両手を後ろに組んで、テッサに一礼して直立不動で立つ。
粛清か何かと勘違いしているのか?この男は?
テッサの方は、もう立っているのもおぼつかない感じだ。顔は真っ赤で、両手を胸のところで組んで、彼の顔も満足に見れない。声も出ない状態だった。
これは、私の予想通り……
それなら私が……と思ったんだけど、実際その通りになると中々勇気が出ない。
依然として、テッサは動けず喋れない。会場には、どよめきが起こってきている。
チャンスは今しかない!
ここを逃してはダメ!
勇気を出すのよ三葉!
私は、意を決して壇上に上がる。私の姿を見て、また会場が騒然とする。
「ど……どうも、テスタロッサ大佐が、固まってしまいましたので……ほ……補佐官である私が、代わりを務めたいと思います。」
また、会場内にどよめきが起こる。そして、その中から、突き刺さる視線を感じて、私はそちらに目を向ける。
その視線の主は、もちろん、千鳥かなめだ!物凄い形相で、かなめは、私を睨んでいる。
悪いけどかなめ、ここは譲れないの!
ただでさえ、私はあなたには大きく遅れをとっている。
その遅れを、ここで少しでも挽回するの!
「み……三葉?」
周りの雰囲気に、流石の超鈍感男、相良くんも只ならぬものを感じたのだろう。顔が引きつって、顔面には冷や汗が浮かんでいる。
「で……では、相良軍曹……」
そう言って、私は両手を後ろに回し、顔を相良くんに近づけようとする。
「ま……待って下さい!」
それを、そこまで固まっていた、テッサが制する。
「こ……これは、私の任務です。わ……私がやります!み……宮水少佐は、さ……下がって下さい!」
やっとの事で、声を絞り出したという感じだ。でも、私もここで引き下がる訳にはいかない。
「い……いえ、た……大佐には荷が重過ぎます!ここは、やはり私が……」
「いいえ、私がやります!」
「いえ、私が!」
「ちょっと待ちなさいよ!」
とうとう、かなめも壇上に上がって来た。
「さ……さっきから何やってんのよ!あんた達!た……たかだか、ビンゴの景品のキスでしょ!な……何、そんなにムキになってんのよっ!」
そのたかがキスに、ムキになって壇上に上がってきたのは誰だ?
「引っ込んでて、かなめ!これは、私とテッサの問題やの!」
「そ……そうです、かなめさん!部外者のあなたは、引っ込んでいて下さい!」
「あ……あたしは学級委員として、宗介の行動を管理する義務があるの!」
「ここは学校やあらへん!生徒の私生活には、例え教師やて干渉する権利は無いに!」
「うるさいわね!ごちゃごちゃ屁理屈並べるんじゃないわよ!」
壇上は、完全に女の戦場と化していた。私もいつの間にか訛り全開になっていた。会場の皆は、完全に呆れ……てはいず、逆に、異様な盛り上がりをみせていた。
「いいぞ!がんばれ大佐!」
「負けるな!宮水少佐!」
「かなめもがんばれ!」
中には、賭けを始める者までも出ていた。
「宮水少佐に、五十ドル。」
「俺は、テッサに百ドル。」
「ほんじゃ、俺はかなめに二百ドルだ!」
一方、ひとり顔面蒼白なのは相良くん。直立不動は崩さないが、顔は、かなり冷や汗で濡れてきた。
「な……何なんだ?これは……」
「さあ、面白くなってきたぞ!宗介にキスを送れるのは、テスタロッサ大佐か?宮水少佐か?はたまた、飛び入りの千鳥かなめか?」
クルツさんが、一番面白がって実況をして、余計に騒動を煽っている。
「やれやれ……」
ひとりため息をつき、マオさんは呆れている。
「とにかく、景品は私のキスなんですから、私がキスします!」
「テッサは、最初嫌がってたやろ!だから、私が代わるに!」
「いい加減にしなさいよ!そんな事でもめるなら、あたしがやるわよ!」
いつまで経っても決着が付かないので、痺れを切らしてクルツさんが口を挟む。
「あ……あのさあ……」
『何よ!』
三人とも、凄い形相で睨み付けたので、クルツさんは一瞬たじろぐ。
「い……いや、このままじゃ、決着付きそうにないから……この際、宗介に決めてもらったら?」
「何?」
この提案に、三人は顔を見合わせ、同時に頷く。一方の相良くんは、更に顔色が悪くなる。
「では、景品のキスをどの女神から頂くか、一等賞を引き当てた相良軍曹に決めて頂きましょう!相良軍曹、どうぞ!」
「ま……待て、クルツ!それは……」
「もちろん私ですよね?相良さん?」
「やっぱ私やろ?相良くん?」
「あたしに決まってるわよね?宗介!」
「い……」
私達三人に詰め寄られ、相良くんの顔からどんどん血の気が引いていく。顔中、冷や汗ででいっぱいだ。
「じ……じゃあ……」
『じゃあ?』
三人の顔が、相良くんの眼前に迫る。
「じゃあ……く……クルツで……」
『……はあ?』
私達三人だけで無く、会場全体から、一瞬何が起こったのか分からないような、ため息ようなの声が上がる。
次の瞬間、会場中が一気に静寂に包まれる。私達は、あまりの事に呆然として、俯いたまま硬直してしまった。
「な……何言ってんだよ、お前……」
静寂を破ったのは、クルツさんの言葉だった。
「い……いや……つ……つい……」
続いて相良くん。私達は、次第にワナワナと震え出していた。
すると、かなめが、何処から取り出したのか?巨大なハリセンを三つ取り出し、ひとつをテッサに、ひとつを私に渡す。
「い……行くわよ、みんな。」
低いトーンで、かなめが言う。
「分かりました。」
「ええよ、かなめ。」
私とテッサも、同じトーンで答える。
「い……いや、ちょっと……千鳥?……三葉?……大佐殿?……」
『この、唐変木がああああああああああっ!!』
三人同時で、ハリセンを上段に振り上げ、一気に相良くんの脳天に突き落とす。
「い……い・た・い……」
相良くんは、そのまま倒れ込んでしまう。
「……馬鹿!」
マオさんはひとり、ため息をついて俯くのだった……
その後、長らくの中断を経て、続きのビンゴゲームが行われた。
一次会はそれでお開きになり、それぞれ勤務に戻る者、二次会を行う者に別れた。
相良くんとかなめは、明日も学校があるので、特別機で東京に帰った。テッサは勤務に戻り、私はマオさんと、化学洗浄プールを使ったお風呂に浸かっていた。
「ぷは~っ!」
マオさんは、凄い勢いで飲んでいる。まあ私も、半ばヤケ酒気味に何本か空けている。
「ほんまに、相良くんって、女心が全く分かってへんのやからっ!」
「あら?そんな馬鹿に、惚れてるのはどちら様でしたっけ?」
「そ……それは……」
「ふふ……でも、良かったじゃない?」
「良かった?」
「だって、結局宗介は、誰も選べなかったんでしょ?もし、あなたじゃない、誰かひとりを選んでたら……」
「そ……それは、そうかもしれへんけど……」
でも、こんな関係がいつまでも続けばいいかなと、少しは思ってしまう私だった。そんな私を見て、マオさんは、優しく笑うのだった……
そんな訳で、宗介を巡っての、三葉、かなめ、テッサのドタバタ劇でした。
まあ、最終的には原作通り、宗介は千鳥かなめとくっ付くんですが、できるだけ長くこんなドタバタが続いて欲しいと、思う次第です。
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《 ―― Invisible Victory Act.1 ―― 》
宗介はかなめとくっ付くのが前提なんで、振られる三葉にお相手が必要という事で、ほぼオリジナルキャラになってますが“瀧くん”を出してしまいました。
本来の瀧くんとキャラが全然違いますが、その辺はご容赦願います。
私は、宮水三葉。
ミスリル作戦部西太平洋戦隊の総司令官、テレサ・テスタロッサ大佐の補佐官として、メリダ島基地及び揚陸強襲潜水艦トゥアハー・デ・ダナンに勤務している。
その西太平洋戦隊に、新たな補充兵士が着任して来た。
「宮水少佐、この度本部より新たに五名の兵士がダナンに配属されました。その内の一名は、SRTに配属になります。辞令の授与と、規律等の説明、並びに部隊への引き渡しをお願いします。」
「了解しました。」
テッサから指示を受け、配属された五名を各隊に案内する。
四名までは恙無く完了したが、最後の一名、SRT部隊配属の兵士は、案内中に私に話し掛けて来た。
「ミヤミズ少佐って言ったよな……あんた、日本人だろ?」
「そうですが……それが何か?」
「俺もそうなんだよ。」
言われて、彼の資料を見る。
「……タキ・タチバナ……あら、確かにそうですね。」
「こんな所で同郷の、しかもこんな美人に会えるなんて感激だな……なあ、下の名前は何て言うの?」
随分と、チャラい兵士さんのようね……まるで、クルツさんみたい……彼より、かなり下品だけど……
「タチバナ軍曹、ここは学校ではありません。そのような浮ついた言動は慎んで下さい。」
「学校だあ?そんなもん、行ったこたあねえぜ!俺は!」
「え?!」
「物心付いた時から、戦場に居たからな……だから、同郷って言っても、俺は日本に住んでたこたあねえんだけどな……」
子供の頃から戦場にって……それじゃ、まるで相良くんみたいじゃない……
そんなやり取りをしながら、SRT部隊の所に彼を連れて行き、引き渡す。
「タキ・タチバナ軍曹です。本日付で本艦のSRT部隊に配属となりました。」
「宜しく頼むぜ!タキって呼んでくれ!」
ここでも軽い調子で、挨拶をするタチバナ軍曹。
それに対して、何故か相良くんが異様に驚いた顔をしている。タチバナ軍曹は、そんな相良くんに歩み寄って行き、声を掛ける。
「久しぶりだな、相良。」
「た……瀧!貴様、まだ生きていたのか?」
「ずいぶんなご挨拶じゃねえか、十年来の戦友に対して。」
「誰が戦友だ!何時、俺が貴様の友になった?」
「知らねえのか?日本語じゃ“宿敵”と書いて“トモ”と読むんだぜ。」
ま……まさか、本当に相良くんの知り合いだったの?
というか、知り合いというより……
「知り合いなのか?宗介。」
クルツさんが、相良くんに問い掛ける。
「知り合いも何も無い!何度、戦場でこいつに殺され掛けたか……」
「そりゃあこっちの台詞だ!お前と殺り合う時は、毎度死を覚悟したぜ。」
「ま……まさか、ガウルンみたいな奴なのか?」
「勘弁してくれよ!あんなイカれた野郎と一緒にすんな!俺は確かに傭兵で、いつもこいつと殺り合っちゃいたが、アマルガムの手先になった事は一度もねえよ!」
「みつ……宮水少佐、悪い事は言わない。今直ぐこいつとの契約を切るように、大佐殿に進言してくれ!何かあってからでは遅い!」
「え?!」
いきなり、相良くんに言い寄られて、私は戸惑ってしまう。
「ひでえ言われようだな?確かに何度も殺し合ったが、同じ部隊になった以上もうお前を狙わねえよ。」
「信用出来んな!お前の悪い噂は、嫌という程耳にしたぞ!自らの部隊を壊滅させた事は一度や二度じゃ無いだろう?」
「噂だけで、勝手に判断すんじゃねえ!お前だって、良く無い噂は山程あるだろうが!」
「何だと?!」
「止めんか!相良軍曹!タチバナ軍曹も!」
クルーゾー大尉が仲裁に入る。
それでも収まり切らない相良くんを、私は心配そうに見詰める。
ふと視線に気付いて横を向くと、そんな私を、タチバナ軍曹がじっと見詰めていた。
私は、体裁悪そうに視線を逸らし……
「く……クルーゾー大尉、あ……後は、宜しくお願いします。」
「了解しました。」
後をクルーゾー大尉に任せて、そそくさとその場を後にした。
その後、何とかクルーゾーは二人を言い聞かせ、他の隊員にも瀧を受け入れる事を認めさせた。
そこで皆は解散するが、宗介と瀧だけはその場に残っていた。
ようやく宗介も立ち去ろうとした時、瀧が声を掛けた。
「ところで……ちょっと聞きてえんだがな、相良?」
「ん?……何だ?」
「お前、ミヤミズ少佐とどういう関係だよ?」
「はあ?俺と三葉……いや、宮水少佐の関係だと?」
「ミツハ……だと?」
「い……いや……」
「ほう?名で呼び合う関係ってか?」
「ば……馬鹿!変な勘繰りをするな!俺と宮水少佐は……唯の、上官と部下の関係であって……」
「何、取り乱してんだよ?お前?」
「う……うるさい!とにかく、俺と宮水少佐には、上官と部下以外の関係は無い!判ったか!」
そう言って、宗介は逃げるように立ち去って行く。
「ほう……そうですか?」
瀧は、それをいやらしい笑みを浮かべながら見送っていた。
翌日、宗介は千鳥かなめ護衛のためにメリダ島を離れた。
クルツが一人で基地内の通路を歩いていると、目の前に瀧が現れる。
「よう。」
「ん?……タキ……でいいのか?何か用か?」
「クルツさんよ、あんた、相良と仲がいいんだろ?ちょっと、あいつの事で聞きてえ事があってな。」
「聞きたい事?……何だよ?」
「あいつと、ミヤミズ少佐の関係をな。」
「な?!」
一瞬、動揺を見せてしまうクルツ。
「ほう?その顔は知ってるな?」
「こ……個人のプライベートを、語る趣味は無い……聞きたきゃ、宗介本人に聞くんだな。」
そう言って立ち去ろうとするクルツの目の前に、瀧はとあるDVDのパッケージを翳す。
「な?!……これは、非売品でマニアでも簡単に入手できない、無修正の○×△□※※※※……」
思わず飛び付こうとするクルツを躱して、瀧はそれを懐にしまう。
「教えてくれたら……あんたにやってもいいぜ。」
「い……いや……しかし……親友を、物で売り渡すような真似は……」
そう言いながらも、クルツの顔は見っともなく崩れていて、涎も垂らしている。
「そうか……じゃあ、仕方ねえな……」
そう言って、瀧は立ち去ろうとするが……
「ま……待てって!」
その瀧を、クルツは呼び止める。
瀧は、振り向いていやらしい笑みを浮かべる。
以降、宗介と三葉の微妙な関係を知った瀧は、三葉に対して猛アタックを開始した。
食堂で、三葉が食事をしていると、
「よう、相席いいかい?」
「え……遠慮します……」
「そう言うなって!」
ずけずけと寄って来て、強引に近くに座って来たり……
『では、失礼します。艦長。』
「よっ!」
艦長室から出て来る三葉を待ち伏せしたり……
「み・つ・は~っ!」
「きゃあああああっ!」
歩いている三葉の後ろから、いきなり抱き付いたりした。
「あはははははははははっ!」
「笑い事じゃありません!完全にセクハラですよ!立花軍曹はっ!」
格納庫で、三葉はマオに苦情を漏らしていた。
「ふふっ……でもそんな単語、クルツの馬鹿とあのタキには通用しないでしょうね。」
「まったく……クルツさんが、立花軍曹に余計な事を言うから……」
「あんた、自分の気持ちはタキには伝えたの?宗介が好きだって事は……」
「それとなく言いましたよ……だけど、全然応えないですよ!あの人!」
「それじゃあ、クルツがあんた達の関係をばらさなくたって、結果は同じだったんじゃない?あんたに一目惚れなんでしょ?タキは。」
「そ……それは、そうですけど……」
「どことなく似てるわよね、宗介とタキって……」
「相良くんは、あんな下品な女たらしじゃありません!」
「逆に朴念仁過ぎるけどね……女たらしなところは、クルツそっくりよね……宗介とクルツが合体したら、あんな感じになるのかしら?」
「止めて下さい!考えたくもありません!」
「いっそ、タキに乗り換えたら?あいつなら、ライバルは居ないわよ。」
「私、そんなにお尻の軽い女じゃありません!」
「ははっ……冗談よ。」
そう言いながらも、マオは脈有りと感じていた。瀧本人を嫌っていれば、こんな否定の仕方はしないからだ。
それから数日後、宗介達とミスリルは未曽有の危機に見舞われる事となる。
これまでのミスリスの妨害工作に業を煮やしたアマルガムは、本気になってミスリルを排除しようと動き出した。
各支部は次々に攻撃され、メリダ島基地にもアマルガムの大部隊が押し寄せて来た。
千鳥かなめと宗介にも魔の手は迫り、彼らはメリダ島基地と完全に分断されてしまった。
メリダ島基地では、トゥアハー・デ・ダナンはオーバーホール中で直ぐには発進できなかった。急ピッチで調整を済ませる一方で籠城戦を余儀無くされたが、アマルガムの大部隊の中には、ラムダ・ドライバ搭載の巨大AS“ベヘモス”が三機も含まれていた。
当然それに対するのはSRT部隊になるのだが、瀧にとってはいきなりとんでもない初陣となった。
「運が無かったな瀧。こんな時にここに配属なんてよ。」
クルツが何気無く声を掛ける。
「へっ!元々、運なんて持ち合わせちゃいねえよ。こちとら、もっと絶望的な戦場を数え切れないくらい経験して来たぜ。流石にベヘモスとは戦っちゃいねえが、コダールに襲われた事だって一度や二度じゃねえ!」
「はあ?それで生き残ってるって……逆に、すげえ幸運の持ち主じゃねえのか?」
「……確かにな……仮にここで死んでも、女神様の元で死ねるんだからな……」
「え?……女神様って……テッサの事か?」
「馬鹿野郎!三葉に決まってんだろ!」
「ああ……そう……」
ベヘモス三機に対し、SRT部隊は善戦し何とか一機は撃破し、一機は海中に沈めて足止めをする。
しかし、もう一機には上陸を許し、殆どのASは撃破されてしまう。更には敵の降下部隊にも取り付かれてしまう。
テッサはデ・ダナンのリアクターの充填を中断し、直ぐに総員の脱出を指示する。
「カリーニンさん、宮水少佐、私達も潜水艦ドックに向かいます。」
「はい!」
生き残った兵士達と、一緒にドックに向かう三葉達。しかし、基地内に侵入して来た降下部隊に襲われ、一人、また一人と逸れて行く。カリーニン少佐も、三葉達を逃すために途中で敵の足止めに留まった。更に、三葉もとうとうテッサと離れ離れにされてしまう。
「こっちです少佐!」
護衛の兵士に連れられ、ドックに向かう三葉。
「うぐっ!」
「きゃあああっ!」
しかし、先導していた兵士は銃弾に倒れ、三葉もその場に倒れ込む。
「え?……」
体を起こすと、その兵士の体からは大量の血が流れ出していた。
「し……しっかりして下さいっ!」
呼び起こそうとするが、その兵士は既に息絶えていた。落胆する三葉に、敵兵士の銃が突き付けられる。
その頃、瀧はまだクルツとM9で戦っていた。
そこに、総員退避の指令が流れて来る。生き残った者は、デ・ダナンに向かえと。こちらからは発信は出来なくなっているが、受信だけは出来ていた。
続けて、テスタロッサ大佐の無事が連絡されるが、カリーニン少佐と宮水少佐が消息不明という連絡も流される。
これを聞いた、瀧が行動を起こす。
「悪りいなクルツ。俺は、ここで抜けさせてもらうぜ。」
「な……まさか、三葉を助けに行くつもりか?」
「当然だろ。俺の女神様なんだからよ。」
「無茶だ!ここは本隊と合流して、一旦態勢を立て直してから……」
「そんなもん待ってられねえよ!」
瀧のM9は、反転して森の中へ駆け出して行く。
「ま……待て!いくら何でも一人じゃ無理だ!」
クルツの制止も聞かず、瀧は突進して行く。
既に占拠された基地のヘリポートに、一機の輸送ヘリが降り立つ。
そのヘリに向かって、基地内から数人の兵士が、一人の女性士官を連行して来る。それは、三葉だった。
後ろ手に手錠を掛けられ、三葉はヘリに連行されて行く。そのままヘリに乗せられ、ヘリは離陸を始める。その時……
『待ちやがれ!手前らっ!』
そこに、一機のM9が飛び出して来る。周りを囲む部隊の攻撃に晒されながらも、M9は一直線にヘリに突進して行く。そうしている間にも、ヘリはどんどん高度を上げていく。
『うおおおおおおおおっ!』
M9は、ジャンプしてヘリに飛び付こうとするが、僅かに届かない。
「んなろおおおおおおっ!」
瀧はコックピットを開け、M9の腕の先まで駆け上ってヘリに向かって飛ぶ。そして、ヘリの中に飛び込んで行く。
「な……何だ?こいつ!」
中の兵士が、一斉に瀧に銃を向ける。
「立花軍曹?!」
三葉が叫ぶ。
「うおおおおおおおおっ!」
瀧は、兵士の一人に突進する。銃弾が腕や脚を霞めるが、構わずその兵士に飛び掛かる。
「ぐわっ!」
その兵士は押し倒す事が出来たが、周りにはまだ何人も兵士が居る。その連中は一斉に瀧に銃撃を浴びせる。しかし、瀧は押し倒した兵士を盾にして、その銃撃を防ぐ。完全には防げず、腕や脚を撃ちぬかれるが、それでも怯まず瀧も敵を撃つ。ぼろぼろになりながらも、瀧は敵を一掃する。
「た……立花軍曹っ!」
その姿に、涙ぐみながら駆け寄ろうとする三葉。
しかし、瀧はまだ止まらない。直ぐにコックピットに向かう。当然そこの兵士とも銃撃戦になり、何発か喰らいながらもこれに勝利する。ただ、もう瀧は血まみれだった。
「た……大変!す……直ぐに手当しなくちゃ!」
慌てて、駆け寄って来る三葉。
「そんな暇はねえよ!」
だが、瀧は直ぐに操縦席に座り、ヘリの操縦をする。ヘリが奪われた事を知った敵が、追って来ているからだ。
「だ……だめやよ!早く手当しなくっちゃっ!お……お願い!この手錠を外してっ!」
後ろ手に拘束された体を捩じらせながら、操縦席の横で三葉は叫ぶ。
「悪りいな……そんな事、やってる暇はねえんだ……何としても逃げ切って見せるから、少し待っててくれや……」
もう、涙を流しながら、三葉は瀧に問い掛ける。
「立花軍曹……ど……どうして、そこまでして私を助けてくれるん?」
「はあ?そんなの決まってんだろ!あんたが好きだからだよ!」
臆面も無く恥ずかしい台詞を言う瀧に、三葉は頬を赤らめてしまう。
しかし、直ぐに済まなそうに俯いて、呟く。
「で……でも……私は、相良くんの事が……」
「だからどうした?」
「え?」
「あんたが俺を好きじゃなきゃ、俺があんたを好きになっちゃいけねえのか?」
「そ……それは……」
「あんたがどんだけ相良を好きだろうが、そんなの関係ねえっ!俺はあんたが好きだ!だから護る!どんな事をしてでもなっ!」
「た……立花軍曹……」
三葉の顔は、もう涙でぐしゃぐしゃだった……
デ・ダナンに乗り込んだテッサ達は、一気に脱出を謀る。その行く手にベヘモスが立ち塞がるが、体当たりしてベヘモスを海上に押し上げる。その衝撃にも耐えたベヘモスはデ・ダナンを撃ち抜こうとするが、島からの狙撃により急所を撃ち抜かれ撃破される。
「い……今の射撃は?」
戸惑うテッサ。
「へへっ、来ると思ったぜ!」
「ぎりぎりで間に合ったな。」
クルツとクルーゾーのASが、島の崖からダナンに向かってジャンプして来る。
「ウェーバーさん!クルーゾーさん!」
歓喜の声を上げるテッサ。
「まったく……しぶとい奴らです。」
「それが、うちの強みです!」
笑顔を交わす、マデューカスとテッサ。
そのまま逃走するデ・ダナンの甲板で、クルツは一度だけ島を振り返って言う。
「生きてろよ……瀧!三葉!」
その頃東京では、宗介とかなめがアマルガムの刺客に襲われていた。
執拗にかなめを狙うレナード・テスタロッサは、対人用ASアストラルも動員して宗介達を追い詰める。
何とかこれを撃退して逃げ回る宗介達だが、今度は別働隊のクラマが、常盤恭子と陣代高校全校生徒を人質にかなめの受け渡しを要求して来た。
アル(アーバレスト)と合流した宗介達は、陣代高校元生徒会長の林水敦信と、宗介とは別行動でかなめを護衛していたミスリルのエージェントのレイスの協力を得て、恭子を救出して陣代高校生徒も護り抜く。
しかし、レナードの駆る超高性能AS“ベリアル”の登場により状況は一変する。
その性能差にアーバレストは全く歯が立たず、一方的に撃破されてしまう。
『ジェネレーター、停止……コンデンサー、全て破損……機体を……放棄……脱出……を……』
「……ご苦労だったな……アル……除隊を……許可する……」
傷付いた宗介は、大破したアーバレストを降りて生身で銃を構え、レナードに立ち向かっていく。しかし、もう完全に勝負はついていた。ベリアルが宗介に止めを刺そうとした時、
「もう止めてっ!」
そこに、かなめが割って入る。
「千鳥っ!」
「付いて行くからっ!」
『誰にかな?』
「貴方に……貴方に、付いて行くからっ!」
「千鳥……止めろ!千鳥っ!」
かなめは、宗介を助けるために、レナードに付いて行く事を決めた。
「もういいの……さようなら……」
かなめをその手に乗せたベリアルは、そのまま飛び去ってしまう。
「絶対に……絶対に連れ戻す!千鳥いいいいいいいっ!」
宗介の叫びは、誰も居ない校庭に虚しく響き渡っていた。
また勢いで書いてしまいました。
初回は、瀧と三葉の出逢い編ってところで。
入れ替わりも無いし、瀧のキャラも違います。ただ名前を使ってるだけで、“君の名は。”の二次創作と言えるのかどうか?
でも、話は瀧・三葉サイドをメインに進めるつもりです。
瀧をこんなキャラにしたのは、相良宗介のような強烈なキャラに惚れている三葉を振り向かせるには、それに負けないくらいぶっ飛んだキャラでないといけないかと思ったためです。
“Invisible Victory”は現在アニメ放映中なので、ネタバレにならないようAct.2の投稿はまだかなり先になると思います。(単に続きが書けてないだけって話もありますが……)
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《 ―― Invisible Victory Act.2 ―― 》
但し、メインはあくまで三葉と瀧です。
話の大筋は変えていませんので、二人があまり関与しない部分は簡単なあらすじになりますが、ご了承願います。
それでも、話のキモのところは細かく書いていきます。
かなめを追う宗介は、東南アジアの都市“ナムサク”で行われているAS闘技の弱小チーム“クロスボウ”のオーナー“ナミ”と知り合い、雇われAS操縦士として一時そこに潜り込んだ。このAS闘技が、アマルガムと繋がっているという情報を入手したからだ。
時を同じくして、フランス体外保安総局(DGES)のエージェントである“ミシェル・レモン”も、同じ目的でルポライターと偽ってこのチームに潜り込んでいた。
かなめを奪う事よりも宗介の殺害を目的としていた、アマルガムの殺し屋クラマは、宗介を追ってこの地に来て彼の殺害を目論む。宗介のチームを“闇バトル”に参加させ、チームごと抹殺しようとする。
その策略に巻き込まれ、ナミはクラマにより殺害されてしまう。
ナミにかなめに似た雰囲気を感じていた宗介は、怒りに燃えてクラマに挑み、クラマを倒しかなめの居所の情報を聞きだすが、自身も瀕死の重傷を負ってしまう。
その頃、ミスリルの壊滅により単独行動を取っていた、ミスリル情報部香港支局の責任者ギャビン・ハンターとエージェントのレイスは、とある港町の片隅の倉庫で合流していた。
倉庫に車を入れ、二人は挨拶を交わす。
「きっちり時間通り。律儀ですな……尾行は?」
「あったらここには来ていない。」
「そりゃあそうだ……では、積荷を……」
レイスは、ハンターに車の荷台のコンテナを見せる。そこには、何とか荷台に入りきる大きさの木箱が積まれていた。
「これが?」
「そうだ。」
「よく回収できましたな?」
「警察も混乱していたからな……日本から運び出す時の方が苦労した。余計な荷物まで増えていたからな。」
「へっ、随分な言われようだな!」
車の中から、もう二名人が降りて来る。共に東洋人の男女が。
まず、女性の方が挨拶をする。
「お久しぶりです。ハンターさん。」
「おや……宮水少佐。消息不明とお聞きしましたが、やはりご無事でしたか?」
「おうよ!俺のお陰でな!」
その横で、得意気に話す男性を見てハンターが尋ねる。
「ん?……見慣れない兵士ですな?彼も西太平洋戦隊の隊員ですかな?」
「そうだが、こいつは相良と同じ唯の戦争馬鹿だから気にしなくていい。」
レイスが、簡単に説明を省く。
「ちょっと待て!誰が相良と同じだ?」
「ああ、これは失礼した。相良以上の馬鹿だったな。」
「てんめえっ!」
「ま……待ちなさい!瀧くんっ!」
レイスに突っ掛かろうとする瀧を、三葉が宥める。
「どうせです、こちらの積荷もついでに見て行きますか?もちろん、未完成ですが……」
「その前に聞きたい……ミスター・ハンター、これはあなたの独断か?」
レイスは、鋭い目付きでハンターを見詰めながら言う。
「そうです……目の前に組み立てられそうなパズルがあったら、完成させてみたくなるのが人情というものでしょう。」
「動機はそれだけか?」
「まあ、奴らに一矢報いたいという気持ちもありますが……彼らを気に入っているということもあります。あなた方もそうなのでは?」
レイスと瀧は無言だが、三葉はその言葉に大きく頷いた。
そこまで言って、ハンターは自分が持ち込んだトレーラーの荷台を開ける。
そこには、一機のASが搭載されていた。
「こいつの名は?」
「無いそうです。元々、存在しない計画だったそうですからな……まあ……ただ、強いて番号を付けるなら、“ARX-8”です。」
「それで……これからどうする?」
「アラスカに、小規模ですが工房を手配してあります。彼女も、そこに居ます。」
「彼女?」
「この機体を完成させるのに、無くてはならない人物です。」
それから約二ヶ月後、サンフランシスコのフリーウェイで、軍服を着た一人の少女が裸足でさ迷っているところを保護された。
それは、トゥアハー・デ・ダナン艦長のテレサ・テスタロッサだった。
病院に収容された彼女は、担当の女性医師に語った。
自分はアマルガムという巨大軍事組織に対抗する組織ミスリルの士官で、アマルガムの総攻撃により基地を追われ、物資も乏しいまま放浪した後、部下にも裏切られ捨てられたと。
彼女を担当した女性医師は、何かのショックで妄想と現実の区別がつかなくなったと診断し、テッサを別な施設に移そうとする。しかし、テッサを迎えに来たのはそれを装ったアマルガムの手の者だった。テッサは女性医師や看護師共々、人気の無い倉庫街に連れ去られてしまう。
テッサは、レナードの部下リ-・ファウラーに捕らえられそうになるが、逆にこれはレナードの配下を誘き出すための罠で、看護師を装っていたマオを含めたデ・ダナンの生き残り達が一気に攻撃を仕掛ける。
クルーゾーがM9でファウラーを捕らえようとするが、敵もラムダ・ドライバ搭載機であるコダールを繰り出して来る。
これまではコダールに対して一対一では歯が立たなかったM9であったが、新たに開発された“妖精の目”の装備によって、ラムダ・ドライバの効果範囲や強弱を見分けられるようになっていた。デ・ダナンからの援護攻撃で隙を付き、遂に一対一でのM9によるコダール撃破に成功する。
結局ファウラーは取り逃がしてしまうが、現場に残った携帯に掛かって来た電話口で、テッサはファウラーを通じてレナードに戦線布告をするのだった。
「……要するに私は、貴方達のようなお利口ぶって気取った“クソ野郎”が死ぬほど嫌いなんです!これで判りましたか?……同じ事を、レナード・テスタロッサにも伝えなさい!」
思いっきり啖呵を切って、撤収を促そうとするテッサ。しかし、仲間達は何故か、呆気に取られた顔をして彼女を見詰めていた。
「……何です?」
「いやはや、何とも……」
「クソ野郎とはねぇ……」
「まったく……大したタマよ。あんたは。」
ウー、クルツ、マオが、何とも言えない表情で言葉を漏らす。
「い……いえ、あの……ついカッとなって……」
テッサは赤面して、俯いてしまう。
クラマを倒したものの瀕死の重傷を負った宗介は、レモンの一味により一命を取り留めた。
しかし、レモン達のアジトもアマルガムの襲撃を受ける事になる。それは、レナードの一派がARX-7に搭載されていたラムダ・ドライバシステムとその制御AIの“アル”を危険視しており、唯一それを使える宗介も含めて排除しようと動き出したからだ。
レモンと共に何とか逃げ延びた宗介は、旧知の退役海兵のジョン・ジョージ・コートニーの所に身を隠し、そこで戦線復帰のための過酷なリハビリに取り組むのだった。
その一方で、宗介同様に追われる立場となったアルは……
アラスカ州、アンカレッジ。
古びた修理工場のプレハブの中で、一人の少女がパソコンを操作している。そのパソコンの前には、大破したASの胴体フレームだけが置かれていて、ケーブルによってパソコンに繋がれている。
「ふう……出来ました。」
その少女の言葉に、修理工場のあちこちに散らばっていた者達がパソコンの所に集まって来る。それは、三葉、瀧、レイス、ハンターだった。
パソコンを操作している少女は、“クダン.ミラ”。かつてKGBの施設で人体実験対象になっていたところを、宗介達に救出されたウィスパードだ。
「ミラ、会話できるのか?」
「これから試します。」
レイスに言われ、ミラは再びパソコンを操作する。
すると、パソコンのディスプレイにメッセージが表示されていく。
「……直ちに、退避……感謝する、軍曹……」
ディスプレイのメッセージを読み上げながら、ハンターが首を傾げる。
「彼からの出力です。」
「アーバレストが撃破された時の会話だろう?」
レイスが言う。
更に、ディスプレイに以下の表示が続く。
“ WHERE DO WE COME FROM ? ”
“ WHAT ARE WE ? ”
“ WHERE ARE WE GOING ? ”
「これは?」
ハンターが問う。
「多分、混乱しているんでしょう。話し掛けてみます。」
ミラはパソコンを通してメッセージを打ち込む。
“ Hello, AL. I’ve been looking for you. ”
すると“アル”から返答が来る。
“ REPORT SITUATIONS. ”
それを、またハンターが読み上げる。
「……状況を説明せよ?……まったく、ここまでどれだけ苦労したと思ってるんだ?」
「ぷっ……」
「ふふっ……」
「あははははははっ!」
レイス、三葉、瀧の三人がこの返答に噴出した。
「ど……どうかされましたか?」
怪訝に思ったハンターが問い掛ける。ミラも、不思議そうな顔をする。
「いや……こいつの主人とそっくりなのでな。」
「まったくね。」
「相良なら言いそうだぜ!」
ミラは、アルの要望に答えて現在の彼の状況、自分達が何者で何をしようとしているのかを説明する。
そこからは、アル主体で本格的にARX-8の建造が開始される。
ただ、アルの希望により、ハンターの持ち込んだ造りかけの母体は使わず、M9の在庫パーツや試作機の部品を使い一から再設計が行われる事になった。
ウィスパードであるミラ、三葉もこの設計に協力する。
瀧は、居るとかえって邪魔になるので、作業中は工場内には立ち入らず外で警備を行っていた。レイスも同様だが、瀧とは反りが合わないため完全に別行動で警備を担当していた。
そんなARX-8の建造期間中も、ずっと三葉は宗介とかなめの事を心配していた。
“相良くん……かなめ……二人共、大丈夫かな?……”
就寝時は、いつも二人の事を考えていた。
ある夜、三葉は夢を見た。それは、普通の夢では無かった。
三葉とかなめ。共にウィスパードであり、同じ男性を愛する二人は、遠く離れていながら夢の中で一時意識を共有していた。
レナードに連れ去られたかなめは、メキシコ・ミチョアカン州にある彼らの邸宅に軟禁されていた。
行動は規制されていないので、何処で何をやるのも自由だが、至る所に監視の目があり敷地の外には出られない。
だが、自分のために他者を巻き込んだ事を後悔しているかなめには、逃げる意思は無かった。レナードに殆ど逆らう事はせず、言われるままになっていた。
窓際の椅子に座り、夕暮れの空を見ながら、かなめは呟く。
「……何やってんだろう?あたし……消えちゃいたい……」
そのまま、かなめは眠ってしまう。すると……
「こんな所で何やってんの!かなめっ!」
「え?」
いきなり声を掛けられ振り向くと、そこに居たのは……
「み……三葉?」
「“み……三葉?”じゃあらへんよ!貴女らしくない!何、あの男の言いなりになっとんの?」
「らしくないって……あたしが何をしたって、あいつらに敵うわけ無いし……」
「相良くんは、必ず貴女を連れ戻しに行くに!」
「で……でも、もう宗介は……」
「絶対に連れ戻すって言ったんやろ?」
「そ……それは……そうだけど……」
「相良宗介が、一度狙ったターゲットを諦めると思うん?」
「だ……だって……」
「例え貴女が、宇宙の果てに連れ去られたって、必ず行くに!相良宗介を甘く見たらあかん!」
「だけど……あたしが居ない方が、貴女やテッサは……」
「もし、本気でそんな事思ってんのやったら、ひっぱたくに!」
「み……三葉……」
「貴女が、本当に相良くんが好きじゃ無くなって、それで諦めるんならええ。だけど、そんなふざけた気持ちで身を引く言うんなら、絶対に許さへんっ!」
目が覚めて、三葉は泣いている自分に気付く。
瀧との仲が徐々に親密になって来ていながらも、まだ三葉は宗介の事が好きだった。
“恋敵にはっぱを掛けるなんて……私、自分で自分を追い詰めてる……
でも、かなめだって私にとっては大切な親友だ。
私のために、かなめが自分を犠牲にするなんて……そんなの絶対に嫌っ!“
かなめも、目を覚まして自分が泣いている事に気付く。
夢の中での三葉の言葉を思い出し、感傷に浸るかなめ。
「……宗介……」
何気無く庭に出て、木陰に座り込んで考え込む。
そこに、レナードの配下のファウラーとサビーナがやって来る。
かなめは木陰に隠れたまま彼らの会話を聞き、サビーナがかなめを探し回っている宗介の暗殺を企んで失敗した事を知る。
二人が去った後、かなめは呟く。
「宗介……本当に、私を探してるの?あの馬鹿……こんなあたしを……もう無理なのに……また、誰かを巻き込んじゃう……恭子みたいに……」
そのまま、夜の庭を歩いて行くかなめ。
「本当に……消えちゃいたい……」
プールサイドに辿り着き、しばらく水面を眺めていたが、そのままプールに飛び込むかなめ。
一度沈んで、浮き上がって来て、少しプールの中を歩いて言う。
「……重い……」
服を脱ぎ、下着姿になる。
そして、プールの中を泳ぎ出す。
かなめの脳裏に、夢の中での三葉の言葉が浮かぶ。
“例え貴女が、宇宙の果てに連れ去られたって、必ず行くに!相良宗介を甘く見たらあかん!”
泳ぎながら、心の中で叫ぶかなめ。
“そうだ……三葉の言う通りだ。こんなのあたしらしくない!考え過ぎだったんだ……あの馬鹿みたいに、前へ前へ進むことを忘れてた……”
更に、力強く泳ぎ出すかなめ。
“あたしだって負けてられない!……あたしはあたしらしく……もっと前へ!”
かなめも、今の自分にできる事をやる決心を固める。
その後、レナード一派はついにARX-8の所在を突き止めた。
秘密裏に輸送するハンターのトレーラーを、レナードが派遣した刺客が襲う。
三機のコダールに包囲され、ハンターはトレーラーから降ろされる。すると、道路脇から銃を構えた兵士達が現れ、積荷を見せろと命令して来る。言われるまま、ハンターはトレーラーの荷台を開ける。荷台には、大量の段ボール箱が積んであった。
「スモーク・サーモンですよ。業者から安く買い付けたんです。このままカナダを越えて……」
説明の途中で、兵士の一人が荷台に上がって段ボール箱の山を崩す。すると、その奥に隠されたASの機体の一部が露出してしまう。
「これが、スモーク・サーモンか?」
無言のハンターを他所に、兵士は無線で連絡をする。すると今度は、ECSを解いた大型ヘリがその場に現れる。そのヘリから、一人の男が降りて来る。その男の顔を見たハンターは、驚愕の声を上げる。
「馬鹿な?!貴方は……」
「この業界ではよくあることだ。」
それは、数ヶ月前まで西太平洋戦隊の戦闘指揮官であった、アンドレイ・セルゲイヴィッチ・カリーニンだったのだ。
カリーニンはハンターの横を通り過ぎて、トレーラーの荷台を確認する。
「これが例の機体だな?」
ハンターは、無言でカリーニンを睨み付けている。
「こんなものを建造したところで、何も変わらない。無駄な労力だ。」
ハンターは、珍しく怒りを露にして言う。
「ミスター・カリーニン、貴方の口からそんな言葉を聞くとは思わなかった。そう親しかったわけでもないし、一緒にこなした作戦も数えるほどだ。だが、貴方はそういうことは言わない人間だと思っていた。あの素晴らしい若者達が貴方を信頼していたのは、それが理由だったのではないのかね?」
「それは買いかぶりだ。」
「たくさんの味方が殺された筈だろう!それが、よりにもよって、何という破廉恥な……少しは胸が痛まないのか?!」
しかし、カリーニンはハンターの言葉に全く動じない。
「撤収しろ!」
部下に、トレーラーを運び去る指示を出す。
「待ちたまえ!ミスター・カリーニン、貴方は本当に……」
言い寄ろうとしたハンターを、振り向きざまにカリーニンは撃ち抜いた。
「……っ!」
ハンターは、言葉を失いその場に倒れ込む。地面に、彼の血が流れ出していく。
そんなハンターに、冷徹にカリーニンは言葉を放つ。
「人間は、およそ三十五パーセントの血液を失うと死ぬ。その出血だと、君はあと三十分以内に応急治療を受けなければならない。まともな医療設備のある町までは六十三キロだ。君を拾って運んでくれる車が運よく通りかかっても、目いっぱい飛ばして間に合うかどうか微妙なところだろう。そして、私のヘリには必要な医療キットがある。」
ハンターは、そんな状態になってもカリーニンを睨み続けている。
「では質問だ、ミスター・ハンター。この機体を組み立てた人物は誰だ?そして、何処に居る?」
ハンターは、カリーニンを睨み付けたまま答える。
「……くそくらえだ……」
「そうか……では、最後の三十分間を楽しみたまえ。」
重傷のハンターをそのままにして、カリーニンはトレーラーごとARX-8を奪って去って行ってしまった。
しかし、これはハンターが命を懸けて行った囮作戦だった。
カリーニンが強奪したARX-8は建造の途中で破棄された偽物で、本物はレイスや瀧、三葉によって別ルートで輸送されていた。
ところが、こちらにも予期せぬトラブルが発生する。
レナード一派とは別のアマルガムの偵察部隊と、三葉達は運悪く鉢合わせてしまう。
激しい銃撃の中を、トレーラーは走り抜けて行く。
「車を止めるな!止まればあっという間に包囲される!」
運転手にそう叫んで、レイスは助手席から敵部隊を迎撃する。
何とか振り切れるかと思った矢先に、車の前方の道を砲撃で塞がれ、とうとうトレーラーは停止してしまう。
その砲撃を撃った機体が、林の中から姿を現す。頭部から長い髪のような放熱策を伸ばした、灰色のASが……
「くっ……コダールまでいたか……」
万事休すと思われたその時、トレーラーの中から一機のASが飛び出して来る。
こちらが本物のARX-8である。操縦席には、瀧と三葉が乗っていた。一人乗りだが、三葉は強引にシートの後ろにしゃがんでいる。二人とも、頭に特殊なヘッドギアを装着している。
「ちっ、よりによってラムダ・ドライバ搭載機か?」
「なら、こっちも使うしか無いわね。」
「何言ってんだ?この機体のラムダ・ドライバは、相良じゃねえと使えねえんだろ?」
「TAROSを通してはね。だから、私が一緒に乗ってるのよ。ミラと、こういう場合を想定して準備はしてあったの。私が中継役になる事で、短時間だけなら瀧くんでもラムダ・ドライバが使えるわ。」
「何?本当か?」
「アル、非常事態だからこの場だけはお願い。瀧くんをこの機体のパイロットと認めて!」
『了解しました。宮水少佐……私も、相良軍曹と合流するまで撃破される訳にはいきません。この場だけは、立花軍曹を私の操縦者と認めます。』
「へっ……この場だけね……」
ARX-8は、M9用のライフルを構える。専用の高性能銃器は、簡易ラムダ・ドライバでは使えないためだ。
「喰らえっ!」
瀧は銃撃を放つが、コダールは目の前に力場を発生させ、全ての銃弾を弾いてしまう。
「駄目だ!全部弾かれちまう!」
「ただ撃つだけじゃ駄目!相手を吹き飛ばすって、思いを込めて撃つのよ!」
「おうし……吹き飛びやがれっ!」
大声でそう叫んで再度撃つが、やはり銃撃は弾かれてしまう。
「駄目!それじゃただ叫んでるだけ!銃弾に、思いを目いっぱい込めるの!」
「はん!それなら、こっちの方が俺向きだっ!」
瀧は、ライフルを捨ててコダールに突進して行く。
「ちょっ……ちょっと、瀧くん!何するのっ?!」
向かって来るARX-8に、コダールは衝撃波を放って来る。
「うおおおおおおおおおっ!」
瀧は、走りながらありったけの思いを込めて拳を放つ。
すると、ARX-8の拳から凄まじい衝撃波が発せらる。それは、コダールの衝撃波を打消し、そのままコダールを粉微塵に吹き飛ばしてしまう。
衝撃波の去った跡は、木々も消滅して地面が大きく抉れていた。
「す……凄い……」
その威力に、三葉は呆然としてしまう。
「ふん……馬鹿だけに、思い込みは相良以上か……」
静観していたレイスが、ボソッと呟いた。
操縦席では、アルが率直な感想を瀧に述べていた。
『初めての使用でこの成果、貴方のラムダ・ドライバへの適応力の高さは認めます。』
「へへっ……そうだろうよ。」
『ですが、立花軍曹。貴方の戦闘スタイルは、私とは相性が良く無さそうです。共闘はこれ限りとさせて頂きたい。』
「へっ、言ってくれるじゃねえか!本当に、相良そっくりだよ手前は!」
「ぷっ……」
後ろで聞いていた三葉は、思わず吹き出してしまった。
かなめを決起させるのは、原作ではナミなんですが、この話では三葉に変えさせてもらいました。
そうでないと、あまりにも三葉とかなめの絡みが無さすぎるので。
宗介の出番が、全然ありませんでした。
その上、本来試運転もされなかった筈のレーバテインの試運転を、瀧・三葉コンビがやってしまいました。
でも、この話ではあくまで瀧と三葉がメインなので、その辺は大目に見て下さい。
“Act.3”では、宗介の出番もふんだんにありますので。
始めた時は良く判ってなかったんですが、“Invisible Victory”は十二話で終了なんですね。
ですのでこの話も、次回の“Act.3”で一旦完結になります。
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《 ―― Invisible Victory Act.3 ―― 》
テレビアニメも第十二話で一旦終了したので、この話もこの“Act.3”でとりあえず完結です。
ばらばらになって行動していた宗介、三葉達、テッサ達がここにようやく集結します。
かなめとは結局また離れ離れになりますが、宗介とかなめは最後にお互いの気持ちを通い合わせます。
その時、三葉は……
宗介がほぼ本来の戦闘力を取り戻した頃、レモンの組織がメキシコのレナード達が滞在する邸宅を突き止めた。
衛星写真による解析では、それ相応の戦力がありコダールタイプと思われるASも三機配備されていると予想された。攻略は難しい思われたが、コートニーはASが動き出す前に奇襲を掛ける事を提案する。宗介は、それには第二世代型以上が必要だと提言するが、コートニーは第二世代型M6の最新のA3型を手配して来た。これにより、奇襲作戦が実行されることとなった。
宗介が単身M6で地上から接近し、AS部隊を起動前に撃破する。その後、レモン達がヘリで邸宅を強襲し制圧する作戦だ。
ところが、宗介がM6で接近中に先に戦闘が勃発してしまう。丁度そのタイミングで、米軍のM9がその拠点を襲撃して来たのだ。レモンは作戦中止を訴えるが……
『待機していろ!俺は強襲をかける!』
“ここで千鳥を見失えば、もう手掛かりが無くなる”と考えて、宗介は作戦を強行した。
「引き返せ、ソースケ!無茶だ!」
『心配するな。無理そうなら引き返す。』
そう言って、宗介は通信を切ってしまった。
その時、レモン達が待機している寒村のはずれに、突然一台のトレーラーが駆け込んで来た。慌てて銃を向けるレモン達の前に、丸腰で無防備のレイスが降りて来る。
「撃つな!相良宗介は居るか?」
「?!……何者だ?」
「奴に渡したいものがあって来た!我々は敵では無い!」
そう言われても“はいそうですか”という訳にはいかない。少しの間睨み合いになるが、トレーラーからは更に二名人が降りて来た。
「信じて下さい!私達は貴方達の味方……いえ、相良宗介の味方です。」
「俺達はミスリルの残党だよ!」
三葉と瀧が、レモンを説得する。
それでも半信半疑なレモンは、レイス達に質問をする。
「どうして、ここにソースケが居ることが判ったんだ?」
「私にも判らん!“アル”がここだと言ったのだ!」
「アル?」
その名を聞いて、レモンは思い出した。以前自分達の隠れ家がアマルガムに襲われた時に、宗介が言った言葉を……アマルガムは“アル”と自分を狙っていると……
トレーラーの中のASも見せられ、ようやくレモンはレイス達を信じる。だが、既に宗介はM6で敵陣に乗り込んでしまっっている。
その事を告げると、瀧が切り出して来た。
「お前達のヘリを貸せ!相良んとこにこいつを届ける!」
「何だって?」
敵ASが米軍に気を取られている隙に接近できればと考えたが、結局宗介のM6はコダールに発見されてしまう。ラムダ・ドライバ搭載のコダールとM6では戦いになる筈も無く、宗介は窮地に陥ってしまう。
そこに、突如二機のM9が現れ連携でコダールを撃破する。そのM9から、宗介に通信が入る。
『酷い戦いっぷりだったけど、M6にしてはいい動きね?……何にせよ、生きてて嬉しいわ宗介!』
「マオ?!」
『やっぱおめおめ生きてやがったか、このネクラ男!』
「クルツまで……何故ここに?」
レナードを捕獲するため、テッサ達もこの拠点を襲撃して来ていた。
ここに、マオ、宗介、クルツの最強トリオが復活する。
三機の連携でコダールを更に二機撃破し、レナードの拠点に迫る。残りの敵はマオ達に任せて、宗介は単身でレナードの拠点に乗り込んで行く。
待機中のレモンにも通信を入れその旨伝えると、レモンからは自分達もそちらに向かっているとの通信が入るが……
『……ついさっきコンタクトしてきた人物がいて、一緒にそちらに……』
無線に激しいノイズが入り、聞き取り難くなる。
「こちらに、何だ?」
『……テインとかいう……予備の……』
「聞こえない!何の話だ?」
『……だから、どんな機……無いよりはマシだと……』
「レモン?」
そこで、殆ど通信は聞き取れなくなる。更に、敷地内に飛び込んだため戦闘状態に突入する。
もうコダールは居ないためASに乗っている宗介が有利と思われたが、巧みな罠に嵌められ
M6を撃破され、宗介は丸裸にされてしまう。その罠を張った人物が、勝ち誇ったように宗介の前に現れる。
「また私の勝ちだな、相良宗介。」
「な?!……少佐?どうして?」
それは、レナード側に寝返ったカリーニン少佐だった。
衝撃を受ける宗介。カリーニンは、宗介に
“降伏しなければ射殺する”
と告げる。彼をよく知る宗介は、その言葉に嘘が無い事を感じ取り、真に彼が敵に寝返った事を認識する。
更にはレナードもその場に現れ、宗介に質問をして来る。だが宗介は一切取り合わず、
“千鳥はどこだ?”
だけを連呼する。
ところが、そこにレナードに敵対する一派の横槍が入る。三機のベヘモスが、レナードの邸宅に迫って来ていた。
アマルガムは、ピラミッド型の組織では無い。
絶対的な支配者は存在せず、ある程度の権力を持った幹部が複数いて、それなりに協調し牽制もし合っている。そのため、幹部を少しばかり潰しても組織は中々弱体化しないという利点を持つが、完全な統制が取れないという欠点も持つ。このような足の引っ張り合いは、日常茶飯事であった。
レナードは、その対応のために姿を消す。そしてカリーニンは、躊躇する事無く宗介の射殺命令を下す。
宗介と分かれた後、クルーゾーと合流したマオ達も窮地に陥っていた。
突如、ファウラーが率いる新型のラムダ・ドライバ搭載機“エリゴール”三機が、マオ達に襲い掛かって来た。その性能もさることながら、ファウラー達はASの操縦技術にも長けており、マオ達はどんどん追い詰められていった。
だが、ファウラー達もレナード達に敵対する一派への対応のため、直ぐに引き上げて行ってしまう。これにより、マオ達は何とか救われるのだった。
一方、宗介の元に向かうヘリの中では、レモンが悲鳴を上げていた。
「こんな無茶な飛び方をして大丈夫なんですか?!」
「わしの知ったことか!」
レモンの言葉に、同乗しているコートニーが怒鳴り返す。
その輸送ヘリは、超低空飛行で山間を縫って飛んでいた。それでいて、速度はほぼ全速に近い。激しい騒音と振動で、大声でも会話がし辛いくらいだ。
「悪いな!……確かに操縦も粗すぎるが、のんびり上を飛んでいたら撃ち落されるのも事実だ!」
流石にこの粗い運転には応えて、吐き気を抑えながらレイスが言う。
「あ~っ、もう!どうなっても知りませんよ?!」
「構わない……どうせこいつは、あの男にしか扱えないのだ!」
「じゃあ、ソースケが死んでいたら、この機体はどうするんです?」
「捨てるなり壊すなり好きにすればいい!……それでいいんだったな?」
レイスは、格納庫の奥の機体に話し掛ける。
『肯定です。』
その機体のAIが、レイスにそう答える。
宗介は、邸宅の中に飛び込んで攻撃を躱す。そんな宗介を、カリーニンの部隊は容赦無く攻撃して来る。時折、ベヘモスからの攻撃が邸宅を直撃する。それに乗じて逃げ回りながら、宗介はかなめを探していた。
かなめは、宗介がとうとうここまで来た事を知り、レナードに反抗の意思を示す。
そんなかなめを試すように、レナードは賭けに出る。自らの銃をかなめに渡し、どうしても宗介の元に帰りたいのなら自分を撃てとかなめに迫る。
だが、やはりかなめには撃てなかった。そんなかなめに、レナードは冷たく言い放つ。
「僕なら撃った。彼は君に会うために戦い、人を殺めることさえいとわない。なのに君は、僕のような“キザ野郎”一人撃つことさえできない。君の覚悟は、その程度って事なんだよ。」
レナードの言葉に、衝撃を受けるかなめ。動揺する彼女から、レナードは拳銃を奪おうとする。その時に、事故が起こる。
錯乱したかなめは、つい銃の引き金を引いてしまい、その銃弾がレナードの頭部を撃ったのだ。
放心するかなめ。レナードは死んではいなかったが、意識不明の重体だった。完全に逃げ出すチャンスであったにも関わらず、彼女は倒れたレナードを放って逃げ出す事は出来なかった。そこに駆け付けたカリーニン達によって、かなめは脱出用のヘリの中に連れ込まれてしまう。
離陸するヘリの中で、自分の覚悟の弱さに落ち込むかなめ。そんな彼女の目に、突如、必死にヘリを追って地面を掛ける男の姿が飛び込む。
「千鳥!千鳥いいいいっ!」
宗介が、ヘリを追って叫びながら走っていた。
「そ……そんな……宗介!」
その姿を見て、かなめは再び覚悟を決める。
ヘリを追って外に駆け出したために、宗介は完全に敵兵に包囲されてしまう。
またも絶体絶命の宗介。
だが、そこに一機の輸送ヘリが現れ、包囲した敵兵を一掃する。
「レモンか?作戦は失敗だ!逃げろ!そこではベヘモスの的になる!」
『相良くん!』
ヘリからの通信が、宗介の受信機に飛び込む。
「この声……三葉か?何故君がここに?」
『話は後でするわ!今から、レーバテインを投下するから乗り込んで!』
「レーバテイン?何だそれは?」
『本人がそう名付けたんだよ!』
そこに、別な声が割り込む。
「な……瀧か?お前まで居るのか?」
ヘリの操縦をしているのは、瀧であった。
『三葉が言っただろ!説明は後だ!とにかく、手前の相棒だ!受け取れっ!』
「相棒?」
ヘリから、一機のASが投下される。だが次の瞬間、ヘリは銃撃を受けて火を噴いた。
「三葉!……瀧!」
AS投下のために旋回したところを、狙い撃たれたのだ。
煙を噴いて、ヘリは失速していく。
「きゃああああああっ!」
助手席で、悲鳴を上げる三葉。
「声を出すな!舌を噛むぞ!」
操縦席で瀧が吼える。
「だ……だって、このままじゃ墜落……」
「そんな事は絶対にさせねえ!お前が乗っていて、俺が操縦してんだ!絶対に死なせねえから、黙ってどっかに捕まってろっ!」
ヘリは大きく傾きながらも、大破する事無く敷地内の庭園に不時着した。
それを確認した宗介は、瀧達が投下した機体に向かって行く。それは、アーバレストに良く似た、白を基調として所々の部位が赤いASだった。
その機体の前に立ち、宗介は呟く。
「この機体は……まさか……」
『お久しぶりです。軍曹殿。』
機体のAIが、宗介に語り掛けて来る。
「アル……なのか?」
『肯定です。但し、本機の名称はARX-8“レーバテイン”。相良軍曹、貴方の戦争への復帰を許可願います。』
「相変わらずだな……」
そういう、宗介の口元は笑っていた。
「いいだろう……許可する!」
『光栄です。まずはご搭乗を。』
レーバテインに乗り込む宗介。すかさずアルが、状況を報告する。
『警告!敵AS接近!コダールタイプ三機、ベヘモスタイプ三機。』
「普通のASなら、敵わない戦力差だな?」
『ええ、ですが……我々は普通ではありません。』
「肯定だ。三分で奴らを血祭りにあげるぞ。」
『了解です。軍曹。』
そうしてレーバテインは起動するが……
「うっ……おおっ……」
そのGの凄まじさに、一瞬意識を失いそうになる宗介。
「……アル……出力の設定を……」
『今のが80%です。お楽しみ頂けましたか?』
「おまえ……」
『実はこの機体、秘密裏に建造されたため、ろくな試運転も実施されていないのです。』
「なんだと?!」
『ラムダ・ドライバの作動は確認されていますが、標準装備の試用はされていませんので、まともに使えるかどうかは不明です。』
驚きを通り越して、呆れかえってしまう宗介。
「もう知らん!ぶっつけで試すぞ!」
目前に迫るコダールの攻撃を、力場を発生させて受け止める。更に、そのままコダールの機体を引き裂いた。
『強制冷却を開始。』
レーバテインの後頭部が展開し、コダールのように髪の毛状の放熱索が飛び出す。
そこに、二機のコダールが左右から襲い掛かって来る。
「アル!武装を!」
『それでは、これを。』
両膝の装甲から、二基の単分子カッターが取り出される。宗介は、それで左右のコダールの攻撃を受け止めた。しかし、これでレーバテインの両手は塞がれてしまう。
その時、本来武装ラックと思われる箇所から二本の腕が現れる。
“隠し腕?!”
宗介の意思とは別に、その隠し腕が手榴弾で左右のコダールを攻撃する。それで敵機が怯んだ隙に、宗介は一気に二機のコダールを撃破した。
「何だ?この腕は?」
『補助腕です。攻撃補助、弾倉交換、精密作業などにお役立て下さい。制御は私が行います。』
「四本腕か……気持ち悪いな……」
『私は気に入っています。この際、貴方の好みは度外視して下さい。』
そんなやり取りをしている間に、背後にベヘモスが迫る。
激しい銃撃が浴びせられるが、巧みに躱して接近する。すると、ベヘモスはその巨体に物をいわせてレーバテインを踏み潰そうとする。しかし、レーバテインは力場を発生させてそれを受け止め、何とその巨体を転ばせてしまう。そこを、単分子カッターで急所部を直撃し破壊する。
「あと二機……」
『次は、三時方向です。』
不時着した三葉達は窮地に立たされていた。
ヘリは大破も炎上もしなかったが、降りたところは敵陣のど真ん中。周囲を完全に包囲され、銃撃に晒されていた。
「このままじゃ弄り殺しだ!……死ぬ!これは絶対に死ぬ!」
泣き言を言うレモンに、瀧が吼える。
「やかましい!こんな程度で死ぬわきゃねえだろ!俺は、もっと絶望的な戦場で何度も生き残って来たんだぜ!」
そう言って、機関銃を撃ちまくっている。
しかし、目の前の敵が対戦車ロケット砲を用意し出した。ヘリごと、瀧達を吹き飛ばすつもりだ。
「やべえ!おいレイス、援護しろ!」
瀧は、敵陣に向かって駆け出した。
「な……待て!馬鹿っ!」
「瀧くん!無茶やよっ!」
レイスと三葉の制止も聞かず、瀧は銃撃の中を突進して行く。
「ええい!仕方無い!」
瀧は、銃を乱射しながら進み、ある程度の敵を撃ち倒す。レイスは、瀧が撃ち漏らした敵を撃って援護する。多少銃弾が体を掠めても、瀧は止まらない。一気に敵陣内に飛び込んだ。例によって倒された兵士を盾にして、その銃を奪って乱射する。何とかその場の敵を一掃すると、今度は倒した兵士の対戦車ロケット砲を奪い取り、別の一角に陣取る敵を砲撃する。
「喰らいやがれっ!」
次々と敵陣が崩壊していく。
「す……凄い……何者なんだ?彼は……」
呆然とその攻防を見詰めて、レモンが呟く。
「唯の戦争馬鹿だ……」
レイスが、ボソッと答える。
再び、ベヘモスの銃撃に晒されるレーバテイン。
「銃火器は無いのか?」
『では、デモリッション・ガンをどうぞ。』
だがそれは、165mmの破砕砲だった。その反動はASでは到底耐えきれるものでは無く、ラムダ・ドライバ無しではとても使用できる代物では無かった。
「こいつは……撃てるのか?」
『判りません。試射さえしていませんので。』
無責任なアルの回答にも慣れたのか、構わず宗介は至近距離でそれを放つ。
凄まじい反動でレーバティンは後方に倒れ込むが、ベヘモスは一撃で撃破される。
『残り一機が戦域を離脱するようです……追撃を?』
「無理だ。この短砲身では狙える距離じゃない。」
『いいえ、可能です?』
「何?」
アルは、補助腕でデモリッション・ガンに砲身延長用の装備を接続する。これによりデモリッション・ガンは“ガン・ハウザーモード”に移行し、最大射程が30kmとなる。
「……もう、驚くのも馬鹿馬鹿しくなってきた。」
『お褒めの言葉と受け取らせて頂きます。』
宗介は狙いを定め、撤退するベヘモスを撃つ。見事一射で、ベヘモスを撃破した。
「アル、何分かかった?」
『五分五十二秒です。』
「……」
『これだけの相手に三分とは、大きく出過ぎましたね?』
「お前は、相変わらず鬱陶しいな……だがまあ、無事で良かった。」
『はい。軍曹殿、私もです。それだけは、本心からお伝えしておきます。』
「ふん……機械のくせに、本心とはな……」
そう言いながら宗介は、心の底から戦友との再会を喜んでいた。
宗介が奮闘する一方で、かなめも戦っていた。
隙を見て兵士の銃を奪い、その兵士を盾にヘリを戻すように命令する。
だが、カリーニンがかなめの前に立ちはだかる。かなめに人を撃つ事が出来ないことを知っている彼は、臆する事無く彼女の前に立ち、銃を返すように命じる。
兵士を人質にとっても意味の無いことを悟ったかなめは、その銃口を自分の頭に当てる。
「何もかも……もう、たくさん……」
もう、何の希望も無い。このまま彼らの言いなりになるしかないのなら、もう生きていても仕方がない……死にたい……
そう思わせる、かなめの最後の手段だった。
これには、流石のカリーニンも動揺する。
「やめろ……できる限りのことはする……」
かなめはヘリを戻すことを要求するが、レナードの命が掛かっているためこれは受け入れられなかった。そこで、無線機で宗介に別れを言うことを認めさせる。
瀧の活躍で、レナードの邸宅に残った敵兵はほぼ壊滅状態になった。
更にそこにマオ達のM9も駆け付けて来たため、敵勢力は完全に制圧された。
宗介より一足先に、三葉と瀧はマオ達と久しぶりに顔を合わせる。
「三葉……無事で良かった……」
「マオさん……」
涙ぐむ三葉。マオも、少し目が潤んでいる。
「よう、やっぱり生きてたな瀧。」
「あったりめえだろ!相良より先に俺が死ぬかよ!」
クルツと瀧も、相変わらずの会話を交わす。
そこに、敵ASを一掃したレーバテインが戻って来る。
クルーゾーが機体をECSで隠すように指摘してくるが、レーバテインにはECSが搭載されていなかった。アルは、異常なまでの戦闘力を実現するため、ECSを搭載する余裕が無かったと言う。
その件で宗介とアルが口論を始めたところに、かなめからの通信が入って来る。
『……宗介……聞こえる?……』
「千鳥!」
『宗介?』
「ああ、俺だ!何処にいる?今すぐ迎えに行く!」
『宗介……落ち着いて……』
「俺は落ち着いてる!問題無い!」
『宗介、やめて……』
「側に敵が居るのか?だったら……」
『そうじゃないの……もう、あたしを追うのはやめて!』
かなめは、自分と宗介が逢おうとすることで大勢の人が巻き込まれ、命を落とすかもしれないことを告げる。その気持ちは、ナミを死なせてしまったことで、宗介にも判りかけてはいた。
『もう……あたしのことは忘れて……』
しかし、宗介はそれでも前に進むことしかできない。かなめの居ない世界など、彼には意味が無かった。宗介が黙り込んでいると……
『や……やっぱり、そんなの絶対やだ……』
「え?」
かなめの口調が、急に変わった。
『宗介、まだ聞こえてる?』
「あ……ああ……」
『前生徒会副会長として、あんたに命令するわよ。いい?』
「……」
『あたしを迎えに来なさい!もうそのためなら、どんな犠牲を払ったって構わない!いつまででも待ってるから、あんたのその非常識で迷惑きわまりない兵隊の技能を総動員して、どんなヤバイ相手でもギッタギタにやっつけて、あたしを抱きしめに来なさいっ!あんたなら出来るでしょ?』
「ああ、出来る!必ず行く!待ってろ!」
拳を握りしめ、宗介は即答する。
その言葉に、涙を流してかなめは言う。
『宗介……大好きだよ!』
「俺もだ!愛してる!」
『次に逢った時、必ずキスしよ。思いっきり……いい?約束だよ?』
「ああ、約束する……必ずだ!」
オープン回線で、周りを一切無視しての愛の告白。
皆があっけに取られている中、三葉は、涙を流してこのやり取りを聞いていた。
これで、私の失恋は確定した。
そんな事、ずっと前から判っていた事だった。でも、自分の中ではどうしても認めたくなかった。
だけど、これが自然なんだ……相良くんにはかなめが必要で、かなめにも相良くんが必要だ。この二人は、絶対に切っても切れない二人なんだ……
「……おれぼだ!あいじてる!……とか、オープン回線でお前っ!もう死ね、死んでしまえ!」
「ほぼ半年振りに顔を合わせて、いきなりそれか?」
デ・ダナンに帰還し、レーバテインから降りて来た相良くんを、クルツさんが早々に冷やかす。
と……そこに瀧くんが歩み寄って行った。それに気付いた、相良くんが声を掛ける。
「……瀧、色々世話になったな……助かった。」
「ああ、そんな事は気にすんな……それより、一発殴らせろ!相良っ!」
瀧くんは、いきなり相良くんの左の頬を思いっきり殴り飛ばした。
「ぐぅはあっ!」
不意の全力パンチに、相良くんは派手に吹き飛ばされる。
「た……瀧くん!」
私は、思わず叫んでしまう。
周りの皆も、瀧くんの突然の行為に騒然となる。
「……っ、な……何をする……」
「やかましいっ!」
体を起こして理由を問おうとする相良くんの言葉を、遮って瀧くんは叫ぶ。
「本当なら何十発とぶち込んでやりてえところだが、これから手前には命を掛けてやり遂げなきゃならねえ使命があるから、これでチャラにしといてやる!」
「な……何を言って……」
「黙って聞けっ!」
相良くんの反論を許さず、瀧くんは続ける。
「いいか!どんな事をしてでもかなめを連れ戻せ!失敗は許さねえ!
三葉みたいな最高にいい女を振ってまで選んだ女だ!死んでも連れ戻して一緒にならねえと、承知しねえぞっ!」
「た……瀧くん……」
また、涙が出て来てしまう。
最初は呆気に取られていた皆も、瀧くんの真意を理解したのか、少し目が潤んでいる。
そして、相良くんも……
「ああ……判った、瀧……必ず千鳥を連れ戻す!約束する!」
「けっ!」
その言葉を聞いて、瀧くんはその場を去って行く。
入れ違いで、テッサが格納庫に入って来る。
「相良さん……」
「大佐殿……」
「お久しぶりです。」
あの大告白はテッサも聞いていた筈だが、テッサは何事も無かったかのように笑顔で相良くんに対している。
「はい。大佐殿もよくご無事で。」
「ええ。あれから色々ありましたが、相良さんこそ無事で良かったです。で……私の隊へ復帰を?」
皆沈黙し、相良くんの答えを待つ。
「……はい!原隊復帰を、許可願います!」
「勿論です!トゥアハー・デ・ダナンは、貴方を歓迎します!」
『歓迎というのは、私もでしょうか?テスタロッサ大佐?』
そこに、レーバテイン……いや、アルが割り込んで来る。
「もちろんよアル!あなたも無事で良かったです。」
『ありがとうございます。大佐殿。』
本当に、アルは相良くんそっくりだ。
他の隊員達の前で、ちょっと躊躇いがちの相良くんに、マオさんが声を掛ける。
「な~に、しんみりしちゃってんのよ?」
しかし、相良くんは直ぐにいつもの調子に戻り、言葉を返す。
「いや、問題無い。」
「はいはい……お帰り、宗介。」
マオさんは相良くんの肩を抱いて、皆の中に彼を連れて行く。
そんな相良くんを見送った後、私は瀧くんを追った。
瀧くんは、誰も居ない甲板に一人で立っていた。
私は、ゆっくりと瀧くんに近付いて行き、声を掛ける。
「た……瀧くん……さっきは……」
「ん?……いや……悪かったな、余計な事しちまって……」
「ううん……嬉しかった……ありが……と……」
そう言いながら、言葉に詰まる。失恋したという実感が湧いて来て、また涙が溢れ出して来てしまった。
必死に涙を堪える私を見て、瀧くんは言う。
「あ……あのよお、泣きたい時は、我慢しないで思いっきり泣いた方がいいぜ……い……嫌じゃなけりゃ、お……俺の胸貸すからよ……」
女たらしの癖に、ムードの無いぶっきらぼうな言い方しかできない人……
でも、だから余計に暖かさを感じる。
この人は、私だけを見てくれる。どんな時でも、ずっと……
私は、瀧くんの胸に飛び込んで、思いっきり声を出して泣いた。そんな私の肩を、瀧くんは優しく抱いてくれた。
さようなら……相良くん……
宗介とかなめがお互いの本心を告げる、感動のラスト。
でもそれは、三葉が失恋をする悲しみのラストでもあります。
そんな三葉を支えられるのは、瀧くんしかいません!
私は原作を最初に漫画を読んで、次に小説、最後にアニメの順で見ました。
ただ、それぞれ微妙に演出や台詞が違っていました。
本来小説が真の原作なんでしょうけど、私の話は最初に見た漫画の影響を強く受けています。結局は全部ごちゃ混ぜになってますが……
一応アニメ四期も終了しちゃったんで、このシリーズも一旦完結です。
ただ、その後の続きも考えてあるので、アニメ五期が始まったら続きを投稿します。
もし、五期があんまりにも遅いようだったら、ネタバレになるけどフライングするかもしれません。
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《 番外編 ―― 君の名は・パニック?ふもっふ ―― 》
これは、宗介と三葉がまだ入れ替わっている頃……
宗介の暴走に、三葉やかなめが振り回される話です。
朝、相良くんの体で目が覚める。
彼の部屋には目覚ましやアラーム等は無いが、何とも寝心地の悪い硬いベッドで寝ているので、自分の体の時よりずっと早く目が覚めてしまう。入れ替わりにもだいぶ慣れて来たが、このベッドだけはどうにも慣れない。まあそれでも、潜水艦の中よりは大分マシなのだが……
最近は、相良くんの体で目覚めた時は先に身支度を済ませ、朝食は取らずにかなめのマンションに行く。
呼び鈴を鳴らすと、直ぐにかなめが出て来る。
「おはよう!かなめっ!」
この挨拶で、全てが通じる。
「ああ、おはよう三葉!」
私を三葉と認識して、かなめは私を部屋に招き入れる。
それから、二人で朝食を作る。
私は和食が得意で、かなめは洋食が得意だ。お互いに得意料理を教えあったりしながら、お弁当も一緒に作る。これが、結構楽しい。
そして、一緒に登校する。
最初は不安ばかりだった東京での日常も、かなめと友達になれてからは一日が楽しくなった。
但し、学校ではあまり話さないようにしていた。下手に喋ると女言葉や訛りが出てしまうし、かなめといつもの調子で話すと、突然仲が親密になったかと周りに怪しまれてしまうからだ。
放課後には、もうひとつ楽しみがある。かなめ達と、行きつけのカフェに寄る事だ。
糸守では決して味わう事の出来ない、至高の時間がそこにはある。
相良くんの迷惑料として、マオさんから毎回カフェ代を頂いているから、何でも好きなだけ注文できる。といっても、調子に乗って食べ過ぎると、
「相良くん意外ね、こんなに甘い物好きだったの?」
「何か、ニタニタし過ぎて気持ち悪いんですけど……」
などと、他の女の子達に怪訝に思われるため、思うままにという訳にはいかない。
それでも、こんな時はついこの入れ替わりに感謝してしまう。
カフェを満喫した後、他の女の子達と別れて私とかなめはマンションの前まで帰って来る。
そこで、かなめが言う。
「寄ってく?」
「うん!」
二つ返事で私はOKする。
「じゃあ、夕飯も一緒に作ろうか?」
「ええよ。じゃあ、今夜はとっておきのメニューを披露するに。」
「ふふ、それは楽しみね。」
こんな風に、三葉が幸せを感じている夕刻。
糸守では……といっても、三年前の糸守だが……ある事件が起こっていた。
夕刻、そろそろ三葉(宗介)が高校から帰って来る頃、四葉は祖母のお使いで神社の本堂に来ていた。
用事を済ませて帰ろうとした時、本堂の裏手から大きな話し声が聞こえてきた。気になって、四葉は声のする方に歩いて行く。
本堂の裏に来ると、四人の高校生がたむろしていた。しかも、その四人は煙草を吸っていた。辺りには吸い殻が無数に散らばっていて、しっかりと火が消えていない物も多数あった。真横は古い木造の建物なので、いつ火事になってもおかしくないくらいだった。
「な……何やってんのや!あんたら!」
四葉は、思わず大声で怒鳴ってしまう。
「ああ?」
「何や、このガキは?」
しゃがみ込んでいた四人の学生は、四葉を睨み付けながら立ち上がる。如何にも、柄が悪く喧嘩慣れしていそうな連中だ。四葉はついたじろいでしまうが、それでも気丈に振る舞う。
「ここは、神聖な神社の境内やよ!そこで煙草を吸うなんて……罰当たりやよ!」
四葉のその言葉を、不良達は鼻で笑う。
「へっ!何が罰当たりなんや!俺ら氏子の寄付のお蔭で、神社が成り立ってるんやろ!」
「言わば、俺らはお得意様やで?歓迎されこそすれ、疎まれる理由は無いやろ?」
だが、四葉は負けていない。
「氏子言うなら、もっと神社を敬いなや!そんな所に吸い殻捨てて、火事になったらどないするん?」
すると、不良の一人が四葉に寄って行き、
「がたがたやかましいわ!このガキが!」
四葉の服の襟首を掴んで、捩じり上げる。
「はうっ……」
少し首を絞められ、苦しくなった四葉は、思わずその不良の手を噛んでしまう。
「いてええええええっ!何すんのや!このガキっ!」
不良はつい手が出てしまい、四葉を殴り飛ばしてしまう。
「きゃあああああっ!」
派手に飛ばされて、地面に倒される四葉。
「う……ううう……」
頭は打たなかったが、膝を大きく擦りむいてしまう。殴られたので、頬も腫れ上がっている。倒れたまま、四葉は泣き出してしまう。
不良の方は、少しやり過ぎたかと一瞬戸惑うが、直ぐに強気な姿勢で言い放つ。
「へっ!お前が先に手を出したんやからな、正当防衛や!」
「どうした?四葉?」
そこに、三葉が現れた。神社の裏手が騒がしいので、彼女……いや、彼も様子を見に来たのだ。
「お……おねえぢゃん……」
涙でぐしゃぐしゃになった顔で、縋るように三葉を見詰める四葉。
三葉は辺りを見渡し、瞬時に状況を把握する。
「……そういう事か……理解した。後は任せろ。」
そう言って、三葉は四葉を殴り飛ばした不良に近付いていく。
「な……何や宮水?文句があるんか?言っとくが、先に手を出したんはそのガキやぞ!これは正当防衛や!」
「違うな。お前と四葉では、力も体格も違い過ぎる。これは、明らかに過剰防衛だ。」
「いちいち屁理屈をこねんなや!」
不良は、今度は三葉に殴り掛かる。
だが、三葉は避けようとしなかった。そのままパンチを受けて、仰向けに倒れ込む。
「お姉ちゃん!」
まだ起き上がれない、四葉が心配して叫ぶ。
「?……」
しかし、殴った本人の方はきょとんとしていた。それもその筈。三葉は拳が当たる瞬間に、自分から後ろに倒れたのだ。だから、不良のパンチは軽く頬に触れただけだった。殴った方は、殆ど手応えが無いのを不思議がっていた。
三葉は、何事も無かったかのように立ち上がる。
「先に手を出したのはお前だな?」
「はあ?」
三葉は殆ど予備動作を見せずに、目の前の不良を殴り飛ばす。
「ぐはっ!」
一撃で不良は、向かって左前方に弾き飛ばされてしまう。
「なら、これは正当防衛だな。」
一瞬の出来事に、残った三人の不良は呆然としてしまう。
「……お姉ちゃん……す……凄い……」
四葉も、驚嘆の声を漏らす。
「こ……このあま……」
「ふざけんやないで!」
「覚悟はできてんのやな!」
呆気に取られていた三人が正気に戻り、一斉に三葉に襲い掛かって来る。
「ふん!」
とはいえ、今の三葉の中身は相良宗介である。いくら喧嘩慣れしているといっても、平和な日本のど田舎での話だ。本物の戦場で何年も死線を潜り抜けて来た傭兵に、例え三人がかりといえども一介の高校生が敵う筈が無い。
攻撃は全て躱され、一撃で急所を突かれてほぼまともに動けなくなってしまう。
「……お……おんどりゃ……」
「お……おんなのくせに……」
彼らにとって不幸だったのは、普通の女子高生である三葉の力であったため、完全に動けなくなるまでのダメージを受けられなかった事だ。つまらない不良のプライドから、倒されても彼らは果敢に三葉に挑んだ。その結果、必要以上に打撃を喰らう事になってしまった。まるで、じわじわと嬲られるように……
「うむ……もう少し、筋トレのメニューを強化した方が良いか?どうにも、一撃の威力が弱すぎる……いや、それよりも武器を多用するべきか?」
後から騒がれる本人の苦労も知らず、三葉(宗介)は淡々と今の喧嘩を分析していた。
「……」
不良達は完全に伸されていて、もう起き上がっては来なかった。
三葉は、ゆっくりと四葉に歩み寄って行く。
「お……お姉ちゃん……」
涙目ながら笑みを浮かべ、四葉は三葉を見上げている。
「立てるか?」
三葉は、四葉に手を差し伸べる。
「う……うん。」
その手に摑まって、四葉は何とか起き上がるが……
「痛っ!」
擦りむいた脚が痛くて、四葉は蹲ってしまう。
すると、三葉は屈んで、四葉に自分の背中を差し出す。
「ほら。」
「……ありがと……」
四葉はにっこりと笑って、三葉の背中にしがみ付いた。
三葉は軽々と四葉を背負い、そのまま家に向かって歩き出す。
「……お姉ちゃん……だあい好き。」
小声でそう呟き、四葉はしっかりと三葉に抱き付くのだった。
翌日、私は自分の体で目が覚めた。
昨夜はまた、かなめの家で遅くまで話し込んでいたので、まだかなり眠い。
いつもの如く筋肉痛に耐えながら、寝床の拳銃を机の中にしまうと、四葉が私を起こしに上がって来た。
「おはよう、お姉ちゃん!ごはんやよ!」
笑顔で元気にそう言って、そそくさと降りて行く。
あれ?何か今朝は機嫌が良くない?
相良くんに入れ替わった翌日は、大概機嫌が悪いのに……
朝食の間も、四葉はずっと上機嫌だった。
そんなこんなで学校に着くと、何やら周りが騒がしい。しかも、何故か皆私を見て何やら話をしている。
「何やろ?皆の視線が気になるんやけど?」
「ほんまやね?」
先に登校していた、サヤちんに話し掛ける。サヤちんも皆の様子がおかしいのには気付いたが、理由までは知らないようだ。
そこに、テッシーが血相を変えて駆け込んで来る。
「お……おい、三葉!」
「ああ、おはようテッシー。」
「おはようやない!お前、ほんまにやったんか?」
「やった?……何を?」
「三年の不良達をボッコボコにした言うて、今大騒ぎになっとるんや!」
「ええ~っ?!」
最初は驚いて声を上げたが、直ぐに思い当たる事があって私は俯いてしまう。
ま……まさか相良くん、またやったの?
それも、三年の不良ですって?
あの、殆ど授業にも出ない四人組の事?
というか、こんな田舎の学校に不良なんてあいつらしかいないし……
「ほんまやの?三葉?」
サヤちんも聞いて来る。
「い……いや……その……」
うそやと言いたいけど、相良くんならやり兼ねないからそう言い切れない。
「俺でも、あの四人を一度に相手にしたらしんどいで……三葉、そないに喧嘩強かったんか?」
「あほな事言わんで!三葉がそないな事するわけないやろ!」
「せやけど……見てたもんもおる言うし……」
顔から、冷や汗が流れ出して来る。
ま……また、私のイメージが……
「宮水さん、ちょっといいかしら?」
そこに、ユキちゃん先生が入って来る。
私は先生に呼ばれ、職員室まで連れて行かれた。
見ていたのは、近所のお爺さんだった。
お爺さんは普段から、神社の裏でたむろっている不良達に不満を持っていた。でも、自分では返り討ちに合うだけと思って何も言えなかった。そこに、私(中身は相良くん)が現れてあっという間に不良共を一掃してしまった。スカッとしたお爺さんは、まるで自分の事のように喜んで、近所に私の武勇伝を言いふらした。結果、噂が広まって学校にも連絡が入ったという訳だ。
ただ、当の不良達は全治一週間程の打撲を負わされたが、私にやられたとは口が裂けても言わなかった。やはり男四人がかりで女の子一人にやられたなど、不良としてのプライドが許さないのだろう。だから被害届も出されていないし、親御さんが文句を言って来た訳でも無い。(もっとも、親からも見放されている不良達だが。)
とりあえず、先生は本当に私がやったのかを聞いて来たが、私は、
“記憶にありません”
と、どこかの政治家のような言葉を返す事しかできなかった。
その後は、最近の私の異常な行動(全て相良くんの行動)も例に上げられ、
“女の子なのだから、もっとおしとやかに……”
などという事を、延々言い聞かされた。
その日の帰りは、サヤちんやテッシーとは帰らず、一人で帰った。
一人、ひたすら怒りに燃え上がりながら……
翌朝、相良くんの体で目覚めた私は、身支度もせず即行で着替えてかなめのマンションに押し掛けた。
「お……おはよう宗介。今朝は、早いのね?」
「かなめっ!」
「あ……ああ、三葉だったのね?」
呼び方と、血相を変えた様子で、私が三葉である事をかなめも認識する。
「かなめっ!今度は相楽くん、神社にたむろっていた不良を、足腰立たない程にボッコボコにしちゃったんよ!」
「ええ~っ?!」
「やり過ぎやよ!な……何より、私のイメージが……」
怒鳴った後、俯いて黙り込む私を、宥めるようにかなめは言う。
「ご……ごめん!代わりにあたしが、明日あいつをボッコボコにしておくから……」
その日は、一緒に喫茶店に行くような気にはとてもなれなかった。
終日落ち込んでいる私を、かなめはずっと慰めてくれていた。
その翌日、自分の体に戻る。
また相良くんが何かしでかしていないか気が気では無かったが、その前日は特に事件は起きていなかった。流石の相良くんも、毎日毎日問題を起こしてはいないようだ。それに今頃、かなめが相良くんに天誅を降しているだろう。
学校を終えて家に帰ると、四葉がニコニコしながら私に寄って来た。
「お姉ちゃん。これ、この間のお礼。」
そう言って、私の大好物のアイスを手渡して来た。
「え?お……お礼って?」
「お姉ちゃん、とってもカッコ良かったに!」
そう言い残して、四葉は走り去ってしまう。
私は、しばし呆然と佇んでいたが……
「助けてくれたんが、本当に嬉しかったんよ。」
後ろから、お婆ちゃんがそう言った。
「助けたって……何時?何から?」
私がきょとんとしていると、お婆ちゃんは不思議そうに言う。
「何言うとるん?この間、不良に絡まれていた四葉を助けたんやろ?」
そこで、ようやく私は理解した。
何故、あの朝四葉があんなに機嫌が良かったのか。
何故、相良くんがあの不良達をボッコボコにしたのか。
相良くんが不良を伸したのは、四葉を助けるためだったんだ。
そんな事情も知らないで、一方的に相良くんに腹を立てて……悪い事をしたかな?
少し、自己嫌悪に陥ってしまうと共に、少し、相良くんの事を見直した。
その頃、東京……といっても、三年後の東京だが……
宗介は、かなめのマンションに連れ込まれ、居間で正座をさせられていた。
その前に、巨大なハリセンを持ったかなめが立っている。
「ち……千鳥?いったい何を……」
「シャアラアアアアアアアップッ!」
宗介の言葉を遮り、かなめは宗介を尋問する。
「あんた、三日前に三葉と入れ替わった時、何をしたか覚えてるわよね?」
「三日前?俺がいったい何をしたと言うのだ?」
その言葉に反応して、かなめのハリセンが宗介の頭に炸裂した。
「い……痛いじゃないか……」
「よ~く、胸に手を当てて考えてみなさいっ!」
すると、宗介は本当に胸に手を当てて考える。
「……よく考えても、分からないが……」
またしても、かなめのハリセンが宗介の頭を叩く。
「い……痛いじゃないか……」
「あんた、いたいけな不良達をボッコボコにしたでしょうが!」
「何?……いや待て、あいつらは……」
「問答無用!!」
言い訳しようとする宗介の頭を、またかなめのハリセンが叩く。
「いい?あんたがあんたの体で何をしようと勝手だけど、三葉と入れ替わっている時は、被害は全部三葉にいくんだからね!少しは考えて行動しなさいよ!」
「だから、あの時は……」
「やかましいっ!!」
反論しようとする宗介の頭を、更に激しくかなめのハリセンが襲う。
「い……痛い……」
「痛い?これは、あんたにボッコボコにされた不良達の痛みよ!」
「いや……だからあいつらは……」
しかし、かなめは宗介の言葉は一切聞かず、続けて頭をハリセンで叩く。
「これは、イメージを汚された三葉の心の痛み!」
「ま……待て、少しは俺の話を……」
「そしてこれは、親友を汚されたあたしの心の痛み!」
「い……痛い……だから、俺の話を……」
だが、かなめは宗介の言葉には全く耳を貸さず、ハリセンを上段に振り上げて、思いっきり宗介の脳天に叩き落す。
「更にこれは、三葉の魂の痛みよおおおおおおおっ!!」
「ほんげえええええええええっ!!」
かなめによる宗介のハリセン叩きの刑は、夜を徹して続けられるのだった……
哀れ……善意で行った事なのに、かなめには言い訳すら聞いてもらえない宗介。
まあ、日頃の行いのツケなので自業自得ではありますが……
一方三葉は、少しずつ宗介の本質に気付き、彼に惹かれていくことになります。
時期的には、本編の六話頃の話になります。
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