宮永咲の白糸台生活 (タマアザラシ)
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プロローグ

麻雀の強豪校でありインターハイ二連覇という名実ともに最強の高校である西東京地区・白糸台高等学校では今日、新入生を迎える入学式が行われた

 

高校生活に胸を躍らせているもの、緊張した表情を浮かべていたもの、もしくは名門白糸台で名を上げようと野心を抱いているものなど、様々な新入生たちがいるそんな中である一人の少女がいた

 

茶色の髪のショートカットであり、頭の一部分がまるでツノのようにとがっている、高校生にしてはどこか幼さを感じる少女・インターハイチャンピオンであり白糸台を二連覇を達成した立役者・宮永照の妹、『宮永咲』である

 

宮永咲は今年から父親の転勤によって長野から東京へと移り住むこととなり、姉である照と同じ白糸台に通うことになり、自身もまた姉と同じ『麻雀部』へ入部する予定なのだが・・・

 

 

 

「ここ・・・どこ?」

 

・・・咲は自分が今どこにいるのか分からずに涙目を浮かべ、迷子になっていたのであった

 

白糸台へ来るのは今日が初めてではなかった。去年の冬休みに東京へ移り住むことが決まったため姉の推薦から白糸台の麻雀部に参加していたので、部室がどこにあるのかはわかっているから麻雀部の部室まではいくのに迷うことはないだろうと思っていた・・・・のだが、あくまで麻雀部へ行けたのは照の付き添いがあったのに加えて校門から一直線で部室へと向かっていたので咲が迷うことなく行けるルートは校門から部室までの道のりだけなのだ。そのため違う場所からのスタートと咲の迷子スキルが重なった瞬間、こうなってしまったのだ

 

「うう、お姉ちゃん」

 

咲は涙声で頼りになるお姉ちゃんに助けを求める声を出すも、この場にはいない照が助けに現れてはくれなかった・・・もっとも助けが現れなかったわけではない

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、サキー!!やっと見つけた!!」

 

咲は自分の名前を呼ぶ聞き覚えのある声が聞こえ、咲は声をした方に振り向くとそこには日本人とは思えない金髪の髪と青色の瞳をしているが純粋な日本人であり、冬休みの時に出会った咲にとって唯一無二の親友である少女の姿があったのだ

 

「あ、淡ちゃん!!」

 

咲は少女・・・『大星淡』の姿を見た瞬間、笑顔を浮かべで淡に抱き着き、淡は抱き着かれて一瞬驚いた後に「まったくもー」と咲の背中をあやすようにポンポンとたたくのだった

 

「サキが部室にぜんせん表れないから探しに来たけど、やっぱり迷子になってたんだね」

 

「うう、ありがとう淡ちゃん・・・あれ?でもどうして迷子になってるってわかったの?」

 

「そりゃテルーも・・・あ、そーいえば口止めされてるんだった」

 

淡はうっかり口を滑らせそうになったことをあわてて抑え込むと、咲はそんな淡にキョトンと首を傾げながらも淡に感謝するのだった

 

「それはそーと早く部室に行くよ、テルとスミレがサキが来るまで部活を始めるのを待ってくれてるんだから」

 

「そ、そうだね、お姉ちゃんや弘世先輩にあまり迷惑をかけないようにしないと・・・」

 

「もう迷惑かけてるけどね!!」

 

「はぅ!?」

 

淡の余計な一言で咲はまた涙目を浮かべ、淡は「じょーだんじょーだん」と笑いながら咲の手をしっかりと握って歩き出すのだった

 

・・・これはのちに白糸台最強コンビと言われるようになる、二人の少女の物語

 

 




人物紹介

『白糸台高等学校一年・宮永咲』

インターハイチャンピオンである宮永照の妹
原作とは違い両親や姉との仲違いはなく、親の仕事の都合上、照は東京へ、咲は長野に残っていたが、今年から父親の転勤先が東京となり、再び家族一緒に暮らすことになった
中学入学時にとある先輩に麻雀部へ誘われ、そこで自分の才能を完全に開花させインターミドルに参加、結果一年の時点でインターミドルチャンピオンとなり、その次の年も優勝することができた
しかし二年の秋季大会以降公式戦への参加は本人の希望で参加することはなくなり、麻雀も後輩たちの指導するときにしかしなかった
±0の能力は健在
淡とは照の紹介で知り合い淡いから勝負を吹っ掛けられ結果仲良くなり、今ではお互いに唯一無二の親友となり、お互いに白糸台へと入学、これがのちの白糸台の歴代最強コンビの誕生でもあった
なお若干のシスコン気味であり、照のためにおやつのクッキーを焼いたり、淡にかまう照の姿にやきもちを焼いたりする

『白糸台高等学校一年・大星淡』

宮永照の能力によって見つけたダイヤの原石
原作では相手をなめたり先輩にため口など若干傲慢な性格が見られたが咲との会合で見られなくなり今ではただの純粋素直なアホの子として先輩たちに可愛がられている
咲とは照に誘われて冬休みの時に出会い勝負を行い、結果咲に完敗。悔しいと思う反面、自分と同じ年で自分以上の実力を持つ咲を気に入り親友となった
なお勝ち星は咲のほうが多いらしい
淡に麻雀で勝てるのは照と咲だけだが、淡自身が頭が上がらないのは三年部長の弘瀬菫だけである。彼女には普段からよく説教を受けており、それを見ていた咲と他の部員からはまるで母親と叱られている子供みたいだと言われている


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宮永咲と宮永照

インターハイチャンピオン『宮永照』といえば、高校女子最強、完全無欠な少女などと呼ばれており、同じ牌に愛された子である天江衣とは違ってインタビューにもきちんと受け答えてくれることから多くのファンが存在していた

 

今日もWEEKLY麻雀TODAYの年配の記者と若手のカメラマン相手に今年の目標はやはる連覇か、注目している選手は誰か、意気ごみを一言といった話題に照は満面の笑みで受け答えするのであった

 

そんな取材を一段落ついたところで、若いカメラマンが年配の記者に提案するのだった

 

『そうだ先輩、この選手についても宮永選手に聞いてもいいですか』

 

『あ?この選手って、彼女か』

 

『ええ原村和、去年のインターミドル優勝者ですよ、同じチャンピオン同士ですし宮永選手がどう思っているか気になるでしょ?』

 

原村和・・・去年のインターミドル個人戦の優勝者でありその可憐な容姿から若い世代から絶大な人気を誇り、今年一番注目の一年であり、これを提案した若いカメラマンはナイスアイディアを出したと自分を自画自賛したが、年配の記者は頭が痛く感じたのか頭を抱え、照は・・・先ほどと変わらない笑顔のままで黙っているのだった

 

『あー宮永さん、今日はこれで終わりとさせていただきます、お疲れさまでした』

 

『ちょ!?先輩!?』

 

「あの、私はかまいませんよ?」

 

記者は話を切って今日のインタビューを終わらせようとしたが、自分の提案を無視されたカメラマンは納得いくはずがないが、先輩記者に腕をむりやりつかまされ、照は戸惑いながらも承諾しようとしたが、記者はそれをよしとはせずに首を横に振った

 

『いえ、いいんですよ宮永さん、先ほどまでで十分な取材をすることができましたので・・・それに、妹さんが出場しなかった大会は、あまり言いたくないでしょ』

 

記者のその言葉に照は一瞬驚いた顔を浮かべ、記者はチャンピオンでもあんな顔をするんだなと思いながら若手のカメラマンを引っ張り、照に今日のインタビューのお礼を述べながら離れていくのだった

 

______

 

『なんで宮永さんに原村選手のことを聞かなかったんですか?』

 

取材が終わり車の中で若手のカメラマンは先ほどのことでぶつぶつと文句を口にしていたが、運転中の記者は何も答えることはなかった、別に原村和に問題があるのではない、ただ『宮永』にはインターミドルの話題をこの記者が出したくなかったのだ

 

『それに妹さんって何ですか?宮永さんには妹さんが居るんですか?』

 

カメラマンのその質問に記者は赤信号で車を止めると自分のカバンの中から発行されたのが二年前の古い一冊の雑誌を取り出し、そしてあるページを開いて記者に投げ渡すのだった

 

『?何ですかこれ?嶺上使い宮永咲?え?宮永って』

 

『その子が宮永照選手の妹で、姉と同じ、いや順番からしたら妹の方が先だったか・・・一昨年にインターミドル二連覇を達成した宮永咲選手だ』

 

言われてみれば確かに姉である照と似た容姿をしており、妹の方はどこか気弱な印象が感じられた

 

『へぇ~これが宮永さんの妹さんか・・・ってインターミドル二連覇!?なんでそんなすごい選手がなんの話題が出てこないんですか!?』

 

カメラマンは照と咲の似た容姿で姉妹であることがすぐに分かったが、そのあとすぐに咲が二連覇したことに驚き、なぜそんなすごい選手があまり話題になっていないことに疑問に思った、一昨年にインターミドル二連覇しており記事に書かれていた宮永咲が当時二年生ということは今は原村和と同じ高校一年生のはずだ、それがなぜここまで話題に上がってこないのか

 

『インターハイとは違いインターミドルはそれほど大きな記事にはならない、それはインターミドルで活躍しても高校では全く活躍しない選手がほとんどだからだ、だから中学生を扱う記事はインターミドルだけだったから忘れ去られたんだろ』

 

中学から活躍した選手が高校では全く活躍できなかった選手が多く、そのため記事も中学生の記事は特集以外ではあまり大きく取り扱わず、世間一般もプロ入りも考えられる高校生に注目が集まりやすいのだ

 

『それと宮永咲さんは姉と違って人見知りするタイプでな、俺が何度も取材をお願いしてようやく一回だけ取材を受けてもらうことができたんだ』

 

『て、これって先輩が書いたんですか!?』

 

本日二回目の衝撃の真実にカメラマンは仰天していると、記者は当時のことを思い出すかのように目を細めるのだった

 

『ああ、あんときは大変だった、ようやく取材OKの返事をもらえたと思ったら宮永咲さんは緊張してきちんと受け答えできないもんでな、いや~あの時以上に大変な取材はなかった』

 

自分の経験を総動員させてどうにか取材を終えて記事にすることができたことにしみじみと思いっているとカメラマンが先ほどの疑問を先輩記者に問いかけるのだった

 

『でも、インターミドルを二連覇したのにどうして宮永咲選手は去年のインターミドルには出てこなかったんですか?まさか予選で原村に負けたとか』

 

『いやそれはない、彼女が公式戦に参加したのは一昨年の秋季大会を機に公式戦への参加はない、だから原村和との直接対決はなかったはずだ』

 

『じゃあ、なんで出場しなくなったんです?』

 

『・・・・さあな、詳しい理由はわからない、ただこれだけは言える・・・彼女は強かった、おそらく姉と同じ王者として君臨し続けることが可能なほど、そんな彼女が参加しなかった大会を姉である宮永照が言ったところで皮肉にしかならないだろ』

 

『な、なるほど、だから止めたんですね』

 

『・・・まあ、それも理由の一つだがな』

 

それだけ言って記者は車の運転に集中し、カメラマンの興味は先ほど渡された宮永咲についての記事に行ったため、記者がポツリと口にした言葉は聞いてはいなかった・・・

 

 

 

 

 

 

・・・もう一度、あの見惚れてしまう闘牌を見てみたかったな、と

 

_______

 

「・・・ただいま」

 

先ほどまで満面の笑みを浮かべていた照は、いつもと同じ無表情のような顔で自分の所属するチーム虎姫に与えられた部屋に戻るのだった

 

「あ、テルーお帰りー」

 

「お疲れお姉ちゃん」

 

照を迎え入れたのは入部と同時に同じチーム虎姫に所属することが決まった一年の淡と妹である咲が先ほどまで打っていたであろう麻雀牌を片付けている最中であった

 

「・・・菫や他の子は」

 

「あ、弘世部長はさっき監督さんに呼ばれて、他の先輩方は同じ二年の先輩方に呼ばれてさっき出たばかりだよ」

 

「そっか」

 

照は咲から他のメンバーがどこに行ったのかを確認すると、棚に置いてあるお菓子を取り出して休憩用の机の上に置いてソファーに座ると咲と淡も麻雀牌を片付けて照と同じようにソファーに照、咲、淡の順に座るのだった

 

「テルー、取材ってどんなこと聞かれたの?」

 

「去年とあまり変わらない、目標とか気になる選手とか・・・あ、でも今回は去年のインターミドルについても聞かれそうになった」

 

・・・その照の言葉に咲は思わず固まった、淡は咲の変化に気づいたのか「サキ?」と心配そうに顔をのぞかせていると、照はそんな咲を安心させるように手を握るのだった

 

「大丈夫、去年のインターミドルの優勝者について聞かれそうになっただけだし、咲のことを知ってた記者さんも、別に咲を責めようとは思ってなかったはずだよ・・・それに、咲は何も悪くない」

 

「・・・うん、ありがとうお姉ちゃん、淡ちゃんもごめんね、心配かけちゃって」

 

照のその一言で落ち着いたのか咲は安堵の表情を浮かべて心配そうに除き見ていた淡に謝り、淡は気になったが咲があまり話したくないことに気づいたのかそれ以上は深く追求することはなかった

 

・・・照はそんな咲が心配でたまらなかった、『あの時』も自分がそばに居なかったから咲が苦しんでいることをすぐに気づいてあげられることができなかった、いや気づいていてもすぐには駆けつけることができなかった、そんな情けない自分が嫌になり、そして同時に咲が再び公式戦に参加してあの時のようなことになるのではと不安に感じていた

 

「お姉ちゃん」

 

そんな『不安』と『心配』を抱えていた照であったが、咲の一声にパっと振り向くと、そこには先ほど怯えていた咲ではなく、いつもの咲の笑顔があった

 

「私は大丈夫だよ、もう勝手に諦めて立ち止まったりはしない、今の私にはお姉ちゃんや強い人たちが前にいる、それにね・・・」

 

咲は一瞬淡の方に振り向き、そして照にこう言い切ったのだ

 

「淡ちゃんが、絶対に負けたくないと思える人がそばにいる、それだけで私は歩き続けることができるから」

 

咲のその言葉に照は一瞬驚いて目を見開いていたがすぐにフっと目を細め、そして安堵の表情を浮かべ「そっか・・・」とつぶやくのだった

 

するとすっかり蚊帳の外だった淡は隣の咲の方に顎を乗せてふくれっ面を浮かべるのだった

 

「ねーねー、さっきからサキとテルはなんの話をしてるの?」

 

「フフ、淡ちゃんには負けられないって話だよ」

 

「ムム、最近連敗中なのにそんなこと言うなんてサキのくせに生意気、生意気なサキにはこうしてやる!!」

 

最近連敗中の淡はそんなことことを言った咲の脇腹をくすぐり、咲は涙目になりながら悶える、照はそんな仲睦まじい二人の姿に微笑むのだった

 

・・・咲ならもう大丈夫、咲の隣には信頼できる仲間と、負けられないライバルがそばにいるから

 

 

 

 

 

オマケ

 

照「・・・ところで淡」

 

淡「どしたのテルー?」

 

照「・・・さっきから咲に引っ付きすぎ」ゴゴゴ

 

淡「テ、テルーがシスコンを患っテルー!!」

 

咲(・・・淡ちゃん、ボケる余裕あるんだ)

 

オマケのオマケ

 

三麻中

 

咲「ところでお姉ちゃん」

 

照「何?」

 

咲「さっきお姉ちゃんがほとんど食べたお菓子だけどあれ弘世部長が来客用に用意していた茶菓子って言ってたけど食べて大丈夫だったの?」

 

照「・・・・・・」

 

咲「・・・・お姉ちゃん?」

 

照「・・・あんなところにお菓子を置いてる方が悪い」

 

咲「・・・後で淡ちゃんと一緒に謝ろうね」

 

淡「さりげなく私も巻き込まれてる!?」

 

 




人物紹介

『白糸台高校三年』宮永照
インターハイを二連覇に導いたインターハイチャンピオン
この作品では咲を避ける理由がなく、仲睦まじい姉妹であることを周囲に知られている。
マスコミの間では愛想のよい選手として知られているが、マスコミ向けの顔には親しい周囲からはひかれている(咲からはお姉ちゃんの笑顔が可愛いといわれているので続けている)
お菓子好き、三度の飯よりお菓子が好き、麻雀と咲で比べれば僅差で麻雀と咲が好き
咲と照はお互いに圧倒的な強さで王者となったが照にはあって咲にはなかったものがあったため照には咲のようになることはなかった、しかし一つ違えば同じになっていたからこそ咲が公式戦に出なくなった理由を誰よりも理解している
なおすでにお分かりだと思うが、シスコンである、咲以上のシスコンである


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宮永咲と弘世菫

宮永咲にとって弘世菫は麻雀部の部長であり姉の友人ということ以外はあまり詳しくはない。

 

初めて会ったときは中学三年生の時の冬休みであったが、その時は淡とばかり相手をしていたためあまり多く話すことはない、なので咲が抱く菫のイメージは身長が高く綺麗でかっこよく、鋭い眼差しをしているためにどこか厳しい人であると思っており、麻雀以外では気が弱い咲にとっては苦手な分類の人物であった

 

・・・咲はその苦手意識を持っている菫と現在

 

「咲、そこ段差があるから気を付けろ」

 

「ハ、ハイ」

 

・・・なぜか部活で使う道具を一緒に運んでいるのであった

 

______

 

「宮永さん、悪いんだけど倉庫に置いてある残りの麻雀道具一式を持ってきてくれない」

 

それは淡が授業中寝ていたために教員に呼び出され、咲一人で部室に訪れてすぐのことだった、白糸台麻雀部の部員数は百を超え、全員が練習を打つためには大量の道具が必要となる、そのためまず一年生は他の先輩たちが来るまでにすぐに練習するように準備をしなければならないのだ

 

これにはチーム虎姫に入った咲や淡も例外ではなく、今日は咲と目の前の他の一年生たちが準備をする番であるため、先に来て道具を取りに行った一年生たちが残りを咲にお願いするのは別におかしくはないのだが

 

(・・・・明らかに、一人ひとりの運ぶ量が少ない)

 

そう、目の前の一年生たちが運んできた道具一式は一人が運ぶべき量と比べほんの少しだけ少ないことに咲はすぐに気づくのだった

 

「・・・わかりました」

 

しかし咲はそのことを指摘することはなかった、あからさまに量が少ないわけではないのでそれを指摘したところで水掛け論になるだけであるし、何より相手は複数だ、こっちが何かを言ったとしても数の暴力で押し通されるだけだ

 

・・・別に咲はこの手の『嫌がらせ』は初めてではない、インターミドルで優勝した時にも同じようなことがあり(その時は同じ部活の先輩がぶち切れて解決?したが)、今回の輩も入部してすぐにインターハイチャンピオンの照と同じチームに妹だから入ったと思われている咲に嫌がらせを行っているに過ぎない・・・なのである程度自分たちの気分が収まれば気が晴れるだろうと思い、咲は何も言い返さなかったのだ・・・結果、部室から少し離れた用具室から一人で運ぶには少々量が多い道具一式を抱えていると

 

「何をやっている咲」

 

たまたま通りかかった菫にふらふらしながら運ぶ姿を見つかり今に至るわけだ

 

「・・・・・」

 

「・・・・・」

 

(・・・き、気まずい)

 

咲と菫は互いにしゃべることなく歩いていた。もともと咲は自分から積極的に話すタイプではなく、菫もおしゃべりしながら歩くというタイプではなかった、なのでお互いに無言を貫き、咲はこの空気に気まずく感じていたのだ

 

なお、同じ無口な照と一緒にいるときは彼女自身の天然な行動から場が和むので問題ないのである

 

「・・・ところで咲」

 

「は、はい」

 

咲は突然菫から話しかけられ思わず緊張して声を上げたが、菫はなぜか少し不思議そうな顔をしながら

 

「なぜ部活の道具を持ちながらあんな場所にうろついていた?」

 

「え?その、今日は道具を準備する当番なので部室に運んでいる最中だったんです」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・・部室と反対方向に向かって歩いていたぞ?」

 

「え?」

 

咲は思わず目を開いて驚いた顔で固まり、しばらくの静寂の後、菫は「・・・プ」と思わず吹き出すのだった

 

「ひ、弘世部長!?」

 

「い、いやすまない、少し一年のころの照を思い出してな、ふふ」

 

咲は顔を真っ赤にしており、菫はツボにはまったのか必死に笑い声を抑えて震えており、咲は恥ずかしさのあまりうつむきながら歩くのだった

 

「しかしまさか姉妹揃って方向音痴とは改めて思うが信じられないな、なんだ?麻雀が強くなるリスクとして方向音痴になりやすくなるのか?」

 

「ほ、方向音痴と麻雀は関係ないです!?」

 

菫が珍しく冗談をいい、咲は恥ずかしそうに言い返しながらプンプンと怒り、菫は咲のその姿に笑みを浮かべるのだった

 

「しかし咲もそうだが照の方向音痴も酷かったな」

 

「・・・そうなんですか?」

 

「ああ、入学式の時は本を読みながら歩いて他の新入生たちが一緒に歩く中で反対方向に向かって歩いているは、一年の全国大会では一人で控室に帰れなかったから私が連れて行かなければならないは、そのくせ意地っ張りだから迎えに来なくていいと言うは、良い奴なのは確かなんだが自分で何とかなると思って行動するのは止めてもらいたいものだ」

 

菫から照の話題が出たので咲は興味も持って尋ねると、菫は照との思い出を思い出しながら語り、大変そうに、でもどこか楽しそうに語っている姿に咲は意外そうな表情を浮かべるのだった

 

「どうした?」

 

「いえ?その・・・弘世部長はお姉ちゃんとやっぱり仲がいいんだなって改めて思いまして」

 

「まあこれでも入学時からの付き合いだからな」

 

入学当時から、その言葉に咲はそういえばと思った・・・姉の照も咲ほどではないが人見知りをするタイプだ(初対面の相手には営業スマイルで対処している点から)そんな照が菫と仲良くしている点から考えても、自分が思っているほど菫は怖い人ではないのではと思うようになった

 

「そういえば咲とこうして二人で話すのも初めてだな」

 

「そうですね、普段はお姉ちゃんか淡ちゃんが一緒ですから」

 

「・・・咲、この際だから聞いておくが」

 

「はい?」

 

「・・・私のことは苦手か?」

 

菫はそう困ったように尋ねると、咲も戸惑いながらも笑みを浮かべたのだ、おそらく菫は咲が普段からどこか自分を避けるように淡の後ろや照の後ろに隠れているため、自分の雰囲気から嫌われているのではないかと思い、二人っきりの今だから思い切って咲にそう尋ねたのだ

 

「その、正直言いますと少し怖い人だと思ってました」

 

「・・・・そうか」

 

咲の正直な思いに菫は表情には出さないものの落ち込んだ雰囲気を持っていた、というのも菫自身自分の雰囲気から後輩に避けられることは結構あるのだ、菫はそのことを結構気にしており、咲に改めて言われるとショックだったのだ

 

だけど今の咲は

 

「でも、今はそうじゃないんだと思ってます。お姉ちゃんのこともしっかり見てくれてますし、今もこうして手伝ってもらってます、だから弘世部長ってしっかりもののお姉ちゃんだなって今はそう思ってます」

 

咲の今の素直な思いに菫は一瞬驚いた後にすぐに顔を少し赤らめてうれしそうな顔を浮かべ「そうか」と呟くのだった

 

「照がさっきの発言を聞いたら睨み付けられそうだな」

 

「お姉ちゃんはお姉ちゃんでしっかり者ですよ?」

 

「それはきっと咲の前だけだろうな」

 

菫と咲は先ほどの無言の雰囲気が嘘のようにお互いに笑みを浮かべながら談笑し、そして話し込んでいるうちにいつの間にか部室の前に到着して菫はそのまま咲と話しながらドアを開けるのだった

 

「あ、宮永さんお疲れ、て弘世部長!?」

 

咲に道具を一式を持ってくるように言ってきた一年生の一人が咲が部長である菫と一緒に道具を運んできたことに顔を真っ青になり、他の今日の当番である一年生たちも同じ表情を浮かべたのだ・・・咲が運んできた量は自分たちが分かりにくくするために少しずつ減らしたとはいえ全員分となるとそれなりの量になる、だから一年生たちが咲に多くの荷物を押し付けたことに菫にばれたと思い顔を青くするのだった

 

・・・そしてその一年生たちの表情を見て菫は当然、なぜ咲の荷物がこれほど多かったのかをすぐに察するのだった

 

「・・・咲、今日のお前の練習メニューはどうなってる?」

 

「え?きょ、今日は淡ちゃんと一緒に去年の全国大会の牌譜を見て研究する予定です」

 

「・・・それは明日に変更しろ、監督には私から伝えておく、その代わり今日は」

 

だが菫は彼女たちを咎めたりはしない、だが、お咎めなしだと彼女たちがつけあがり部の雰囲気や咲のモチベーションにも影響を受けるかもしれない、だから手っ取り早く解決するために

 

「同じ一年生と・・・そうだな、今日の同じ当番であった一年生たちと三対一の状況で打ってみろ」

 

一年生たちは菫のその提案になぜそんなことを提案したのか分からず首を傾げ、二年生と三年生は菫の提案に一年生たちが何かやらかしたのかをすぐに察したのだ

 

実は咲と一年生たちが打つのは今日が初めてである、というのも咲の実力は全国優勝校である白糸台をもってしてもずば抜けており、チーム虎姫以外の上級生でも相手にならないのだ(それでも照や淡のような圧倒的暴力のような麻雀ではなく、牌に愛された子レベルと打てるのは上級生にとってもいい経験になるため人気があるのだが)、その上級生よりも格下である一年生では・・・結果は火を見るより明らかだった

 

「地区大会だけでなく全国大会でもこれと同じような状況になることも十分に考えられる、これはその経験を積積むための練習だ・・・だから大会と思って手を抜けずに、全力で打て、できるな?」

 

しかし菫には少し不安があった、咲はとても心優しい少女だ。照や淡のように圧倒的な力でねじ伏せることはしないため、菫はその優しさから甘い打ち方をするのではと思っていた・・・が

 

 

 

 

 

 

 

「わかりました」

 

咲のまっすぐ相手を見る目を見て菫は自分の不安は杞憂に終わることを察したのだ。それも「できます」ではなく「わかりました」と言った・・・それはつまり三対一でも何も問題がないということだ

 

「そうか、なら行ってこい」

 

「ハイ」

 

・・・先ほどまでのおどおどしていた少女とは違い、今の咲は姉である照と同じ圧倒的強者の風格を纏っていた・・・そのことに菫は思わず笑みを浮かべた、それは白糸台の全国大会三連覇が確実に見えたためか、それとも・・・ただ今の咲が照とよく似ているためなのか、その答えは本人以外は誰にも分らなかった

 

________

 

・・・翌日

 

「み、宮永さんおはようございます!!」

 

「宮永さん荷物をお運びしましょうか!!」

 

「み、宮永さん喉乾きましたか?ジュース買ってきます!!」

 

「・・・・サキ昨日なにしたの?」

 

「あ、あはははは」

 

今まで咲や淡に対してあまり良い感情を抱いていなかった少女たちが咲のパシリ(咲自身は全く頼んでいないのだが)となっている姿に淡はジトーっと咲を見つめ、咲はある意味注目を浴びてしまう少女たちのその行動に苦笑いを浮かべるしかなかった

 

 




人物紹介

『白糸台高校三年・麻雀部部長』弘世菫
白糸台麻雀部部長であり照の親友
原作と大きな変化はないが照がシスコンのために事あるごとに咲の話題を振っているため咲自身は知らないが咲のことはよく理解している
他の生徒からは厳しい性格と思われていたが、照の天然に振り回され、淡のわがままをしかりつけ、おどおどしている咲を心配するなど周囲からは『お母さん?』と思われるようになった
なお(天然トリオに振り回されやすいので)麻雀部一の苦労人でもあるが、本人は否定するだろうが楽しそうでもある

『白糸台高校一年生』モブ美、モブ子、モブ恵
白糸台麻雀部の新入部員、特に特徴のないいわゆるMOBUである。
インターハイチャンピオンである照の妹の咲や中学に実績のない淡がチーム虎姫に入ったことが気に入らず目の敵にしていた
・・・が咲との麻雀で惨敗したことによって咲を恐れるようになり今では立派なパシリとあった
・・・が、咲自身も頼んでもいない事なのでこの後すぐにやめさせられ、今は同じ部活の仲間として接してほしいといわれた
これ以降彼女たちは宮永さんから咲さんへと呼び方に変わり、咲たちを嫉むことはなくなった・・・なおなぜ咲さんなのかは、「普段はともかく麻雀を打っているときの咲さんをちゃん付けで呼ぶことなんてできません」とのこと


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宮永咲と渋谷尭深

白糸台高校二年生の渋谷尭深は珍しく上機嫌な様子で部室へと向かっていた、というのも昨日、彼女の親戚から送られてきた自分のお気に入りの緑茶をいただき、それを今日、新しい後輩たちに振舞うのだ

 

尭深の趣味であるお茶は同じ麻雀部員の亦野誠子はもちろん、先輩部員である弘世菫や宮永照からも絶賛されるほどおいしく、休憩タイムの彼女のお茶は彼女たちにとってお楽しみの時間でもあった

 

さらに今年からは天真爛漫な後輩と自分と同じタイプの物静かな後輩ができたため尭深はそんな二人の後輩に自分のお気に入りのお茶をごちそうすることが楽しみなのだ

 

『タカミーこのお茶すっごく美味しい!!』

 

『渋谷先輩が入れてくださるお茶すごく落ち着いて美味しいです』

 

「♪~」

 

尭深は自分のお茶を飲んで満面の笑みを浮かべている後輩たちの姿を思い浮かべて思わず小さく鼻歌を歌ってチーム虎姫専用の部室の前まで到着するのだった

 

「――――――――」

 

「――――――――」

 

(あ、淡ちゃんと咲ちゃんがもう来てる、何を話してるんだろう?)

 

ふと部屋の中で咲と淡の話声が聞こえ、尭深は二人の話の内容が気になって耳を傾けると

 

 

 

 

 

 

「じゃあサキが一番苦手なのはタカミーになるんだね」

 

「うん、そうなるね」

 

(・・・・・え?)

 

・・・二人の会話を聞いた尭深は、その内容が信じられずしばらくの間、部屋の前で固まるのであった

 

_______

 

(シクシクシクシク)

 

「・・・何があった?」

 

「さあ?」

 

「た、尭深!?どうした!?しっかりしろ!?」

 

部活も終わり、チーム虎姫は様子がおかしい尭深のための緊急会議を行うことにした、というのも部活が始まった時から尭深が落ち込んでおり、また、咲を視界に移した瞬間に悲しそうな顔を浮かべていたため、咲と淡を真っ先に帰らせて照と菫の上級生と同じ二年の誠子だけが残って話を聞くことになったのだった

 

しかし咲たちが居なくなった瞬間に尭深はソファーに横になって泣き始め、他の面々はどうすることもできずに困り果てているのだった

 

「え、なになに・・・」

 

そんな中、必死に尭深の話を聞こうとしていた誠子はポツリとつぶやいた尭深の言葉を聞き逃さず耳を傾けると、その内容に困り顔を浮かべるのだった

 

「どうした?何かわかったか?」

 

「いえ、その・・・」

 

菫に問いかけられ誠子は困った顔を浮かべながら一瞬照の方に視線を向け、照は首を傾げたが、誠子は意を決して照と菫に伝えるのだった

 

「えっと、今日部室に入るときに咲と淡の話声が聞こえて」

 

「フム、それで?」

 

「なんでも咲は尭深のことが苦手だそうです」

 

そのことに照と菫は驚いた、というのも咲と尭深の相性は悪いどころかお互いに似ている部分があるためにシンパシーを感じあい、仲良くなると二人は思っていたのだが、まさか咲の口から尭深のことが苦手だとはニワカに信じられなかったのだ

 

「聞き間違いじゃないのか?」

 

「私もそう思って聞いてみたんですけど、二度も聞き間違えるはずがないって言ってますからそれはないと思います」

 

菫は一瞬尭深の勘違いかと思い尋ねたが、どうやら照たちが来るまでずっと立ち聞きをしていたらしく、その話は確実なのが尭深の様子からわかった

 

「まさかあの咲がな・・・」

 

菫は咲が尭深のことが苦手なことを意外と思いつつもこのままではまずいと考えていた。というのも白糸台はチーム制で争われ、そしてそのチームの中で一番のものが大会に出場することができるのだ、予選程度では照が居れば余裕ではあるが、全国大会では全員の力を合わせないと勝つことは難しい、そんな中でチームの不仲は全体のモチベーションの低下にもつながりかねないため、菫は早急にこの問題を解決すべきであると判断するのだった

 

「照、お前は何か知って・・・」

 

菫はまず咲に一番親しい人物である照に情報を求めようとしたが、その当の本人は・・・

 

(ポリポリポリポリポリポリポリポリ)

 

ただ一心不乱にポッキーをまるでウサギのように食べているのだった

 

「こんな時に何をやっているんだお前は!!??」

 

「!?」

 

さすがの菫も照の事態度に怒鳴り、照はまるで菫にロンされた時の衝撃を受けて驚くのだった

 

「菫、そんなに怒鳴らなくても」

 

「黙れ!?こんな非常事態に後輩よりもお菓子をとるのかお前は!?」

 

「もしそんな状況なら私は後輩じゃなくてお菓子をとると思う」

 

後輩よりもお菓子(食い気)をとる照にさすがの菫も頭痛に感じていたが、照は気にすることなくお菓子を口にした、まるで何も問題が起こっていないように

 

「それに、別に咲は尭深のことを嫌っているわけじゃなさそうだし」

 

「は?」

 

照のその言葉に菫は理解できずに口を開き、誠子も尭深もどういうことかと照の方に視線を向けると照はポッキーを食べ終えたのか菓子箱をゴミ箱に捨てると尭深を見て提案するのだった

 

「尭深は確か家からの通いだったよね?」

 

「は、はい」

 

「じゃあ寮への手続きとかは必要ないね」

 

「おい照、どうするつもりだ?」

 

照は尭深に白糸台の寮生活ではなく実家暮らしであると確認し、菫は照が何をするかわからず尋ねると

 

「尭深には今日の晩御飯うちで食べてもらう、そうすればたぶん全部わかるはず」

 

_____

 

・・・そして現在、『宮永家』の玄関前

 

(き、来てしまった)

 

あれから尭深は照に連れられて宮永家まで連れてこられた、照はああいったが尭深は咲の口からハッキリ苦手だと言われているため、どうしても信じられないのだ

 

「あ、あの、宮永先輩、やっぱり今日は遠慮します、先輩のご両親にもご迷惑でしょうし」

 

「大丈夫、今日は両親とも仕事でだいぶ遅くに帰ってくるから、それに学校を出る前に咲にメールを送ってたから準備してくれてると思うよ?」

 

尭深は今日のところは遠慮しようと思ったが、このままだとズルズル引っ張ると思い照は無理やり尭深の手を引っ張って家の中に入るのだった

 

「ただいま」

 

「お帰りお姉ちゃん、遅かったね」

 

家の中からエプロン姿の咲がスリッパをパタパタさせながら帰宅した照を出迎えると、照の後ろにいる尭深の姿を見てあれ?っと首を傾げ、尭深は咲の姿を見た瞬間、思わず俯くのだった

 

「渋谷先輩?今日はどうされたんですか?」

 

すると咲の口から尭深がどうしてうちに来たのかと、照のメールで知っているはずなのにわざわざ訪ねてきたので、尭深はまるで来るなと言われているようでやっぱり嫌われているんじゃ!?と思い、照もあれ?と首を傾げるのだった

 

「咲、さっきメールで尭深が家に来るって連絡を入れたと思うけど?」

 

「え?メールなんて来てないけど?」

 

「・・・ホント?」

 

「ホントのホント」

 

咲が照のメールが来てないことをポケットにしまっていた(高校入学と同時に買ってもらった)携帯電話を照に見せると、そこには照のメールが届いていなかった、この事に照はあれ?とまた首を傾げて自分の携帯を見てみると

 

「あ、送ったと思ってたら送信ボタンを押し忘れてた」

 

照の操作ミスによってメールが送られていないことにさすがの咲や尭深もズルっと滑らせて呆れるのだった

 

______

 

「もう!!今日はたまたまカレーだったからよかったけど、もしそれ以外だったら今日のお姉ちゃんの晩御飯は抜きだったんだよ!!」

 

「ごめんなさい」

 

咲はプンプンと怒りながら準備を進め、尭深と一緒にテーブルに座っている照は咲に怒られてシュンっと落ち込むのだった

 

「ほら、お姉ちゃんごはんができたよ、渋谷先輩の分もありますのでどうぞ・・・その、家のカレーは甘口ですけどいいですか?

 

「う、うん、私も辛いのはあまり好きじゃないから」

 

咲はテーブルの上に三人分のカレーと簡単なサラダを置きながら尭深に味の好みを聞き、尭深は大丈夫と答えながらも苦手な先輩の自分が居るのにあまりにも普段通りの咲に戸惑うのだった

 

「「「いただきます」」」

 

それから三人は一緒に手を合わせた後、尭深は咲が作ってくれたカレーを口にすると、咲が尭深をじっと見ていることに気づくのだった

 

「あ、あの、咲ちゃん?」

 

「あ、ご、ごめんなさい、えっと・・・味はどうですか?」

 

咲は料理の感想を聞きたいのか少し恥ずかしそうにしながら尭深に尋ねると、尭深はそんな咲を心の中で可愛いなと思いながら素直な感想を伝えるのだった

 

「えっと、すごく美味しいよ?」

 

尭深の美味しいという感想を聞いた咲は、よっぽど嬉しいのか満開の笑顔を浮かべ、尭深はそんな満面の笑顔を向けられたせいなのか自分の顔が赤くなるのを感じて自分の分のカレーをパクパクと食べるのだった

 

_____

 

(・・・すっかりお世話になってしまった)

 

晩御飯の後に咲は二人分のお茶を注ぎ、尭深に自分の入れたお茶の感想を聞いて、上手にできていたことをほめられるとまた嬉しそうな笑顔を浮かべて今は食器洗いをしており、尭深は咲が注いだお茶をゆっくりと飲んでまったりしてしまっているのだった

 

「そういえば咲」

 

「何?お姉ちゃん?」

 

 

 

「尭深が咲に嫌われたって思ってるんだけど、咲は原因は何か知ってる?」

 

「ブーーーーー!!??」

 

すっかりまったりしていた尭深だったが、照から爆弾を投げつけられて思わず飲んでいた茶を吹き出してしまい、咲は照の発言にポカンっと口を開いたまま固まるのだった

 

「え?誰が誰を嫌ってるって?」

 

「だから咲が尭深のことを」

 

「えええええ!!??」

 

咲が照にもう一度確認したところ尭深のことを苦手といった咲自身がなぜか驚愕した声を上げ、咲はどういうことなのか尭深に尋ねるのだった

 

「あ、あの渋谷先輩、なんでそんな風に思ったんですか!?も、もしかして私何かしてしまいましたか!?」

 

咲はあわあわしながら尭深に尋ね、尭深もこうなったらどうにでもなれとやけくそになりながら今日の出来事を話すのだった

 

______

 

「・・・・あー」

 

・・・そして尭深から一通り事情を聴いた咲は何か納得したように頷くのだった

 

「あーってあーって、やっぱり咲ちゃんは私のことが嫌いなんだ」

 

咲のその反応に尭深は咲にやっぱり嫌われてるんだと思い膝から崩れて四つん這いになっていると、咲は慌てて尭深に駆け寄り、そして『誤解』を解くことにするのだった

 

「ち、違います、実はその時淡ちゃんと『麻雀』について話してたんです!!」

 

「・・・麻雀?」

 

「はい、実は・・・」

 

 

 

 

 

 

『ねーねーサキ、サキって自分の持ち点を±0にする能力も持ってるよね』

 

『持ってるけど、それがどうしたの?』

 

『いやさ、ウチの部活の中じゃテルや私ぐらいしか防ぐことができないけどさ、他の部員の中だったら誰が一番やりにくいのかなって思って』

 

『淡ちゃんは一番最初の一回しか防いでないよね?』

 

『サキ!!余計なことを言わない!!』

 

『あははごめんね、で、±0を他の人だったら誰が一番やりにくいかだったよね?』

 

『うんそう、私も考えてみたんだけど誰も浮かばなくてさー』

 

『うーん、部活の人たちで限定すると渋谷先輩かな』

 

『ほえ?意外、タカミーなんだ』

 

『うん、渋谷先輩の能力、ハーベストタイムだったかな?』

 

『全部の局の第一打がオーラスで集まって役満を狙いやすくする能力だね』

 

『そうそれ、いくら私でも九牌以上集まった渋谷先輩の能力を防ぐのは無理だし、例え±0を狙わなくても淡ちゃんみたいな高火力を常に出し続ける事ができないからオーラスで逆転される危険性がある、特にお姉ちゃんや淡ちゃんと一緒の時とかが一番可能性が高いかな』

 

『ほへ~、じゃあサキが一番苦手なのかタカミーになるんだね』

 

『うん、そうなるね』

 

 

「・・・ってことを淡ちゃんと話してたんです」

 

(ポカーン)

 

咲の今日の淡との会話を改めて聞いて、尭深は自分が聞いた咲と淡との会話をもう一度思い出すのだった

 

(えっと、つまり・・・)

 

『じゃあサキが(麻雀で)一番苦手なのかタカミーになるんだね』

 

『うん、(麻雀だと)そうなるね』

 

全部が全部自分の誤解であり、自分が咲の口から聞いたのか麻雀との勝負では苦手というだけだったのだ

 

「つまり、全部私の勘違い?咲ちゃんは私の事、嫌いじゃなかった」

 

「そんな!?渋谷先輩のことを嫌いになんてなりません!!むしろ先輩の中で一番大好きです!!」

 

『大好きです』、そう咲の口からハッキリと伝えられた言葉に尭深は

 

「し、渋谷先輩?ど、どうして急に泣き出したんですか?お姉ちゃんもよかったねってほんわかしてないで、先輩、渋谷せんぱーーい!!??」

 

嬉しさのあまりに思わず涙をポロポロと泣き出して、咲はそんな尭深にどうしたのかと慌てるなか、(最初から予想できていた)照は後輩が妹の勘違いを解けて良かった良かったと泣いてる後輩をスルーしてお菓子を食べ始めるのだった

 

_______

 

オマケ

 

尭深「咲ちゃん、淡ちゃん、そろそろお茶にしよっか」

 

淡「あ、じゃあ私お茶菓子持ってくるね」

 

咲「淡ちゃん、つまみ食いしちゃだめだよ」

 

淡「ぶーぶー、いくら私でもそんなことしないし」

 

誠子「尭深、すっかり一年生たちと仲良くなりましたね」

 

菫「そうだな、私も問題がなくなってホッとしている」

 

照「・・・咲、私もお菓子」←なぜか首にお菓子禁止のプラカードを下げられてる

 

咲「お姉ちゃん、弘世部長から禁止が解けてないよね?」

 

照「・・・菫」

 

菫「後輩が泣いてる中お菓子をとる貴様にしばらくはお菓子はなしだ」

 

照(ガーン!!??)

 

 




人物紹介

『白糸台高校二年』渋谷尭深
白糸台二年生のチーム虎姫の一員
何かと似た部分が多い咲とはシンパシーを感じて咲を気に入っており、咲自身も尭深に懐いており、淡も天真爛漫な姿を羨ましいと思いながらも自分に懐いてくれるため可愛い後輩として接している
お茶が趣味であり、彼女が入れるお茶はチーム虎姫のメンバー全員が気に入るほどのおいしさを誇る
なお彼女には『ハーベストタイム』の他に『お茶の時間(ティータイム:淡命名)』という能力があり、この能力にかかったものはどれだけ気が張り詰めった人でも彼女のお茶によってほっこりすると言われている

『白糸台高校二年』亦野誠子
渋谷と同じチーム虎姫の一員
原作との変化は一番ない
どちらかというと咲より淡に関わることが多いため部内では菫の次に苦労人でもある




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宮永咲とのどっち

大星淡は咲でも照でもない、全く知らない存在Xによって窮地に立たされたのだ

 

ありえない、この私が、高校100年生の私が、と淡は目の前の光景を信じなかった、しかし現実に淡の持ち点は残り少なく、あと少しでトビ終了してしまうほどだった

 

淡は頬を伝う汗を拭きながら牌を捨てた、その瞬間

 

『ロン』

 

「うぎゃああああああああああああ!!!???」

 

『パソコン』からの電子音と共に淡の悲鳴が木霊するのだった

 

_______

 

「見事にトバされたな」

 

菫は淡の背後でネット麻雀での淡の今の試合を見て、これで三連敗中の淡に呆れ、淡はシクシクと泣き言を言いながらパソコンを睨み付けるのだった

 

「なにこれ全然ダブリーできないし、リーチしても裏ドラも乗らないし、そもそも牌が全然見えないし、これって本当に麻雀」

 

「それが普通の麻雀だ」

 

(淡ちゃん、その気持ちすっごくわかるよ)

 

「咲も一人で共感するな」

 

咲と淡は今日は能力に頼らない麻雀練習を行うために二人並んでネット麻雀をしているのだった、二人は能力に頼った打ち方がよく見られるためにその能力が発生しないネット麻雀に触れることで二人の雀力を高めることが目的なのだ

 

淡は最初ネット麻雀で一位をとれと菫に言われた時は「そんなの超ヨユーだし」と余裕ぶっていたが、いざ始めてみると普段の麻雀が全然できずに結果三連連続最下位という不甲斐ない成績を残すのであった

 

淡は普段の打ち方ができないネット麻雀に文句を言うも、そもそもこれが普通の麻雀だと菫は淡の頭を小突き、咲は昔淡と同じ感想を抱いたことがあるのでうんうんと頷くのだった

 

「咲の方は・・・フム、一位は一、二回しか取れてないが淡と比べれば全然ましだな、なんだ?やったことがあるのか」

 

「ハイ、中学時代に三年の先輩にネット麻雀を進められて、それからはたまに家でもネット麻雀で打ってたんです」

 

「なるほどそれでか」

 

咲はネット麻雀の経験者のため、普段より成績は悪いがそれでも淡と比べれば全然良いため、菫はさすがだなと咲に笑いかけながら頭を撫で、咲は少し恥ずかしそうにしながら笑みを浮かべるのだった

 

「ブーブー、咲ばっかりずるい」

 

「よしよし、お前も頑張ってるもんな」

 

「セイコに撫でられても嬉しくないし」

 

「この生意気な後輩が・・・!?」

 

淡はそんな咲を羨ましそうにし、誠子はそんな淡を慰めるように頭を撫でたのだが、淡は余計な一言を口にしたために誠子の怒りを買い、そのよく伸びる頬っぺたを引っ張られるのだった

 

________

 

「ちぃかれたー、タカミーお茶ー」

 

「ハイハイ、すぐに準備するね」

 

「渋谷、あまり淡を甘やかすな」

 

菫からの許しが出てようやくネット麻雀から解放された淡は疲れた様子でソファーの横になって尭深のお茶をねだると尭深は特に嫌がることなく準備を始め、菫は淡を甘やかす尭深を注意しながまだネット麻雀で打っている咲の様子を見るのだった

 

「しかし咲はデジタルでもそれなりにものになるな」

 

「そうですか?」

 

「ああ、十分期待できるレベルだ」

 

菫に褒められて「ありがとうございます!!」と咲は満面の笑顔を浮かべてお礼を言うと、咲の笑顔にやられたのか菫は少し顔を赤くするのだった

 

「菫、咲にお礼言われて照れてる」

 

「う、うるさい!?」

 

照にからかわれて菫は顔を真っ赤にして怒鳴り、他のメンバーはやっぱり二人とも仲がいいなーとのほほんとしていると、少し回復した淡が尭深のお茶を飲みながら咲の後ろからパソコンを覗き見るのだった

 

「サキー、サキーも私と一緒で牌に触れて麻雀した方が良いのに、なんでネット麻雀でもそれなりに打てるの?」

 

「うーん、私の場合は中学の先輩に強引に進められたのもあるけど、ネット麻雀についていろいろと教えてくれた先生がいたからね」

 

「なにそれずっこい」

 

ネットでも咲に先を越されたため、そういう出会いに恵まれている咲に羨ましそうにしている淡は頬を膨らませ、咲は淡ちゃん可愛いなあと思いながら、自分のID画面の中にある複数のフレンドリストから一つ、自分にネット麻雀について教えてくれた人物を見つめるのだった

 

 

 

 

・・・ハンドルネーム『のどっち』を

 

______

 

ハンドルネーム『のどっち』

 

ネット麻雀において伝説と呼ばれる存在であり、その腕前はそんじゃそこらのプロよりも凌駕し、メールを送っても一切返信がないことから一説では将棋やチェスと同じように誰かが作ったスーパーコンピューターなのではないのかという噂されているのであった

 

・・・しかし咲はこののどっちがコンピューターなどではないことを知っている、なぜならメールを送っても返信が来ないはずののどっちから・・・唯一メールを返信されたことがある人物であるのだから

 

中学一年生の時の咲は、当初は当然・・・というか現在でものどっちの噂を全く知らず、たまたま対戦が開いており、たまたま対戦することができ、そして当然のことながらぼろ負けしたのだった

 

のどっちの前にすでに何度もぼろ負けしていたため、泣くことがなかったが、ただ純粋にのどっちが強い人だなっと思い、当時の三年の先輩に尋ね、そして

 

『まーじゃんおつよいんですね』

 

変換が全くできていない、パソコンに慣れていない素人であることが分かるメールをのどっちに送るのだった

 

当時これを見た先輩はこのメールに大爆笑をして、のどっちは基本的にはメールを返さないことを伝えた、その時だった

 

 

ピロリン

 

そんな電子音と共にパソコンにメールが届き、それを開いてみると・・・そこには丁寧にキーボードの使い方を説明したのどっちからの返信メールが届いたのだった

 

それから咲とのどっちはメールのやり取りを行うようになった、パソコン初心者の咲にわかりやすいように使い方を説明し、ネット麻雀でなかなか勝てない咲にどうすればいいか教えてもらい、ネット麻雀を始めて一年目で咲はパソコンとネット麻雀にすっかり慣れたのだった

 

それからも咲とのどっちはお互いにメールのやり取りを行うのだった、お互いの最近の出来事を、お互いの麻雀部についてメールのやり取りで教えあい、お互いに顔を見たことがないが、咲とのどっちはお互いに友人と思える関係を気づき上げたのだった

 

・・・あの中学二年の秋までは

 

______

 

(・・・のどっちさん、今頃どうしてるんだろう)

 

二年の秋ごろから咲はネット麻雀どころか麻雀にも少し離れており、こうしてネット麻雀に触れるのも久々であり、つい自分にいろいろと教えてくれたのどっちのことを懐かしんでいると、淡から「サキーお茶が入ったよ」と言われて「うん、今行くね」と返事をしながらパソコンの画面を閉じて淡の元へ行くのだった

 

・・・その画面に、のどっちからのメールが届いたのを気づく前に

 

______

 

(・・・返信が来ませんね)

 

そのころ、長野にある清澄高校麻雀部の一室で『のどっち』ことインターミドルチャンピオン『原村和』は自分の唯一のフレンドであり久しぶりにログインしていた『リンシャン』さんへメールを送ったのだが、相手からの返信はなく、和はため息を吐くのだった

 

初めてリンシャンとメールのやり取りをしたのは中学一年の夏ごろだった、当時奈良に住んでいた和はネット麻雀の対戦の後に明らかに素人だったリンシャンさんからのメールが届いたのがきっかけだった、和は基本個人が特定されないためとメールでのやり取りが好きではなかったためいつも通りに中身だけ見てスルーしようとしたのだが・・・そのあまりにもパソコン慣れしていない文章に彼女のダメな人へのお節介が発揮してしまい、思わずリンシャンへメールを送ってしまったのだ

 

この事にリンシャンさんは本当に和が教えた通りにして感謝のメールが来たため、それからリンシャンとメールのやり取りを行うようになったのだ

 

・・・しかし中学二年の秋が終わりに近づいたことからリンシャンがログインすることなく和は友人が一人いなくなった気持ちになりながらも仕方がないと思ったのだった

 

そんなリンシャンが久しぶりにログインしてきたので和は思わずメールを送ったのだが、その返信はなく、少し寂しい気持ちになるのだった

 

「どーん!!」

 

和が落ち込んでいるときに、長野でできた友人である片岡優希が両手でタコスを抱えながら部室のドアを思いっきり開けて入ってきて、和は優希に呆れた顔を向けると

 

「優希、もう部活は始まってますよ」

 

「イヤ~タコスを買いに行ってたら遅くなったじぇ」

 

「それはいつもの事でしょ」

 

優希のいつも通りに呆れながらも先ほど浮かべていた寂しそうな表情はなくなるのだった

 

「けどぶちょーや染谷先輩、あと犬よりはやいじぇ!!」

 

「部長が学生会議で、染谷先輩は今日はお店のお仕事、須賀君は部活の物品を買いに行ってもらっているので遅くなると連絡がありましたよ」

 

優希は他の部員メンバーが来ていないことを指摘するも、他のメンバーはそれぞれの用事で遅れる連絡が来ていることを言うと、優希は気まずそうに目をそらしながら話題を変えるのだった

 

「の、のどちゃん、今から練習をするじぇ、どうせ『副ぶちょー』が部屋の中にいるから三麻ならできるじぇ!!」

 

「・・・まあ私もそろそろ練習したかったですしね」

 

和は優希をジト目で見ながらも練習も大切であるため奥の部屋で去年の県大会のビデオを見て対戦相手を研究中である『副部長』を呼んで練習を始めようと動くのだった

 

________

 

・・・・・『のどっち』と『リンシャン』は知らなかった

 

お互いに親しい友人になりながら、お互いに一度も顔を合わせたことがないと思っているが、実はお互いに『一度だけ』顔を合わせたことがあるのだ

 

・・・しかしその出会いは

 

『そんな・・・こんなオカルトありえません、ありえる、はずがありません、も、もう一度だけ勝負してください』

 

『・・・・・・ごめんなさい』

 

・・・お互いに全く望んでいなかった出会いだった

 




人物紹介

『清澄高校一年』原村和
ネット麻雀の伝説である『のどっち』本人であり去年のインターミドルチャンピオン
原作では高校で一位にならなければ引っ越しだったが、ここではインターミドルで優勝に変わり原作同様見事優勝、母の説得もあって残ることを許されたが変わりに大学へは進学してほしいと言われ、和はこれを承認した
父親と母親は東京へ転勤ということで和は現在片岡家でお世話になっており、(和の一人暮らしを父がもう反対したため)親友である優希と高校生活を楽しんでいる
インターミドル優勝後にマスコミからは『天才少女』ともてはやされたかインターミドルでの対戦相手や記者の一部、さらには名門のスカウトまで『宮永咲』はどうしたんだと尋ねられ、そのためか宮永咲を意識するようになった
・・・そして引退前に咲の通っていた麻雀部に練習試合を申し込み、念願の咲との対局・・・だったのだが、咲の圧倒的実力差の前に敗北、敗北後は意気消沈していたが優希や部活の後輩の励ましでどうにか立ち直り、今は誰にも打ち明けていないが打倒『宮永咲』を掲げるのだった


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宮永咲と荒川憩

この人はとても強い人だ・・・咲は目の前の対戦相手の顔を見ながらそう思った

 

もちろん他の二人もこれまで戦ってきた相手よりも強いが、それでもこの目の前の相手が姉を除いて一番強い相手だった

 

この人に勝つことができたら、どれだけ嬉しいと思うのだろうか、咲は思わず顔がにやけそうになりながら、準決勝の時に笑ったら相手から睨み付けられたので慌てて抑えると

 

『別に笑ってもえーよ』

 

その言葉と共にその相手もニコっと可愛らしい笑みを浮かべながら咲に語り掛けるのだった

 

『自分めっちゃ楽しそうに麻雀打ってるやろ?自分では抑えとるつもりやろうけど、めっちゃ我慢してるのが分かるで』

 

その人にそんな事を言われて咲は思わず恥ずかしそうにしながら顔を伏せると、その人は笑いながら麻雀を進めながら語り掛けるのだった

 

『それになぁ、うちも宮永ちゃんみたいな強い相手と戦えてめっちゃ楽しくてしかたないんや、せやからさ・・・』

 

 

 

 

 

 

 

 

一緒に楽しもうや?

 

________

 

「・・・やなが、宮永」

 

「ふぇ?」

 

夢の中から目を覚ました咲はよだれを垂らしながら顔を上げると、目の前は会場や麻雀卓ではなく、英語教師の顔が映るのだった

 

「私の授業で居眠りとはいい度胸だな」

 

「え、えっと、その」

 

「・・・まあ宮永は普段はしっかりと授業を受けているから今回は見逃してやる、以後気を付けるように」

 

「は、はい」

 

普段の行いのおかげでそれほど厳しく叱られることはなかったが、咲は恥ずかしそうにしながら席に座り直すのだった

 

・・・もっとも

 

「大星ぃ!!お前はまた居眠りか!!」

 

・・・このクラスには淡という問題児が居るため、咲が居眠りしたことはすぐに忘れ去られるのだった

 

______

 

「咲が居眠り、珍しい」

 

午前中が終わり、咲は淡と最近親しくなった同じ麻雀部所属の無表情の顔をしている少女、氷室空美(ヒムロ クミ)にそう尋ねられた

 

「そーなの?」

 

「淡、いっつも寝てる、だから気づかない」

 

「えっへん」

 

「威張るとこじゃない、部長に報告」

 

「それは困る!?」

 

菫にまた居眠りしていたことが知られれば怒鳴られることが確定した淡は涙目になりながら思わずを叫び、咲はそんな二人の様子を見ながら苦笑いするのだった

 

「それで、咲、ぐっすり眠ってたの、どうして?」

 

「いや、それが昨日親が久しぶりに早く帰ってきたから遅くまで家族麻雀をしてたから・・・あ、だからあの時の夢を見たのかな」

 

咲の呟きに淡と空美は首を傾げるが、咲はそれに気づかずに教室の窓から外の青空をじっと見つめるのだった

 

(あの時、あの人と打つ麻雀がとても楽しかった、だから昨日家族と楽しく麻雀を打ったから思い出したのかもしれない、今頃どこで何をしているのかな・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・荒川憩さん)

 

________

 

・・・そのころ、全国団体戦二位であり、そして『全国個人二位』を抱えている北大阪の名門、千里山女子ではある一人の女子麻雀部員がWEEKLY麻雀TODAYの記者からインタビューを受けていた

 

『それでは、荒川憩選手の今年の目標は』

 

「それはもちろん打倒白糸台、打倒宮永照ですぅ、特に宮永照さんは今年で卒業ですからね、だから団体戦よりも個人戦に気合が入ってますぅ、あ、これ監督に知られたら怒鳴られるんでオフレコでお願いしますぅ」

 

そんな冗談交じりのインタビューに答えている少女、先ほど咲が気にかけた荒川憩は、記者の質問に対しても可愛らしいと思えるにこやかな笑みを浮かべながら答えるのだった

 

『それではやはり荒川選手が一番気になる相手は宮永照選手なのでしょうか?』

 

打倒宮永照に燃えている憩にそう尋ねた記者だが、憩は一瞬考え込むように思考をした後に少し苦笑いを浮かべるのだった

 

「確かに宮永照さんも気になる相手ですが、ウチが一番気になっとる相手は他に居ります」

 

その憩の答えに記者とカメラマンは驚きの表情を浮かべた、高校一年の時点でインターハイ全国二位の成績を持ち、宮永照にもっとも近い存在と言われている荒川憩が照以外の相手を気にしている事が信じられず、またその相手が誰なのかも気になるのだった

 

『その気になる相手とは誰なのでしょうか?』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「宮永咲」

 

・・・その憩の答えにかつて咲をインタビューしたことのあるこの記者は驚愕の表情を浮かべ、そして憩は懐かしみながら、そしてどこか悲しい表情を浮かべながら答えるのだった

 

「うちが今でも気にかけとる選手は宮永咲ちゃんですぅ」

 

________

 

記者は知っていた、荒川憩と宮永咲が初めて勝負した一昨年のあの一戦を

 

インターミドル個人戦決勝戦、あの試合は歴代インターミドル決勝戦の中で名勝負として語りつかれるだろう一戦だった

 

闘牌はもちろんの事、オカルト地味た場面も多々あったがお互いに持てる力を用いて四人全員が戦い、激闘という激闘を繰り広げるのだった

 

そしてこのインターミドル決勝戦は今までの決勝とは違っていた・・・それは四人が四人、本当に楽しそうに麻雀を打っていたからだ

 

普通公式戦の、特に決勝となると、全員が優勝を狙うために殺気立ち、重苦しい雰囲気を出すものだった

 

しかしこの決勝戦はそうではなかった、四人とも本当に楽しそうに、そして今までにない素晴らしい闘牌を見せ多くの観客と記者を魅力する麻雀となったのだ

 

結果は宮永咲が荒川憩にリーチ棒一本分で勝利をおさめ、最後にはお互いに熱い握手を交わしたのだった

 

_______

 

『あの勝負は今でも鮮明に覚えています、まさにインターミドルの歴史に残る名勝負でした』

 

「ホンマに、嬉しいわー」

 

憩は記者があの勝負のことを知っていたことに満面の笑みを浮かべながら嬉しそうに語るのだった

 

「あの時の勝負があったからウチはどんな相手でも笑って麻雀が打てるようになった、いつの間にか忘れてた麻雀が大好きだって気持ちを思い出させてくれた、だから咲ちゃんにはお礼を言っても言い切れないですぅ」

 

『だからこそ気になる相手は宮永咲選手と』

 

「そうですー、だからこそウチは・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・・あの長野での出来事を絶対に許せません」

 

・・・先ほどまで和やかな雰囲気を纏っていた憩は無表情で『殺気』を纏いながら語った瞬間、記者たちは身の毛が立つほどの恐怖を感じたが、憩はすぐに殺気を消すといつもの笑顔を浮かべるのだった

 

「これはもう過去の事ですから今更とやかく言うつもりはありません、それにそんな事よりも今年は嬉しいことがありましたから」

 

『それは一体』

 

「咲ちゃんが今年の公式戦に出場するんですぅ」

 

その憩の言葉に記者は一瞬自分の耳を疑ったが、確かに憩は宮永咲が二年ぶりに公式戦に参加すると言ったのだ

 

『そ、それは本当ですか!?』

 

「ハイー、去年の冬ごろに咲ちゃんに千里山(ウチ)に来ないかって誘ったんですけど、どうも誘った時点でお姉さんと同じ高校に通って公式戦にも出るって言ってましたから確かですよー」

 

咲ちゃんと照さん率いる白糸台とかウチ一人じゃどうにもならなくなったんですけどね、なんて笑いながら話している憩であるが記者の耳には入ってこなかった、ただただ咲が公式戦に再び現れることを、あの闘牌がまた見えることに興奮せずにはいられなかったのだ

 

「記者さんずいぶん嬉しそうな顔をしてるなぁ、咲ちゃんの事も知ってましたね」

 

『ええ、私は個人的に宮永咲選手の大ファンですから』

 

記者さんが目を輝かせながら咲の大ファンだと言い切ったことに憩は一瞬驚いた顔を浮かべた後にそーですかーといった後ににっこりと笑うのだった

 

________

 

一方そのころ

 

「まもの!!」

 

「サキー、今日よくくしゃみするけど大丈夫?風邪でも引いた?」

 

「う、ううん、体調は悪くないんだけど、もしかして誰か私の噂話でもしてるのかな?」

 

「そうかも、でも、油断は禁物」

 

「咲ちゃん、今暖かいお茶を入れてくるね」

 

「高校生活にも慣れてきて気が緩んで疲れが出たんだろう、今日は早めに上がれ」

 

「咲、今日はお姉ちゃんと一緒に寝よう」

 

「も、もうお姉ちゃん私はそんなに子供じゃないよ!!」

 

よくくしゃみをする咲にチーム虎姫メンバー+空美は咲の体調を心配する様子に、誠子は咲、愛されてるなーと温かい目で見守るのだった、なお他の部活動メンバーは

 

(まもの・・・)

 

(まものって)

 

(どんなくしゃみやねん)

 

(一瞬自分が魔物って自覚したんだと思った)

 

(咲さん可愛い)

 

咲のくしゃみに(一人は全く別のことを考えながら)各々思うことがあったが、それを言ったら周りのメンバーが怖いので言えなかったのだった

 

・・・今日も白糸台は平和に過ぎるのだった




人物紹介

『白糸台高校一年』氷室空美
本作のオリジナルキャラで咲と同じ白糸台麻雀部所属
無口無表情で喋る時も片言、何を考えているのか全く分からない少女であるが、ただ単にボーっとしているだけの天然系女子
中学時代は麻雀部はなく、ネット麻雀しか触れてなかったがその実力は強豪のレギュラーを狙えるほどの実力を持っている
麻雀のスタイルは基本的にデジタルだが、相手の仕草、動作から相手の思考を一瞬で見抜ける鋭い洞察力を持ち、白糸台のレギュラーメンバーが相手の時でさえも振り込みはほぼ0の成績を出している、ただし引きの良さは並程度である

『千里山女子高校二年』荒川憩
原作では三箇牧高校出身であったが今作では千里山女子麻雀部に所属している
中学三年の時にインターミドル決勝戦で咲と対戦、その結果リーチ棒一本分の点差で敗北するもインターミドルの歴史に残る名勝負であり、憩はこの敗北をきっかけに千里山への進学を決めた
宮永姉妹は倒すべき目標であるが咲は自分に笑顔で麻雀を楽しむことを思い出してくれたために気に入り、可愛がっている、だからこそ長野での『ある事件』がいまだに許せずにいる
なお原作では三箇牧高校の制服はナース服みたいなものだったが、今作では彼女の私服がナース服に見えるもので、その理由は彼女の趣味だからである


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宮永咲と彼氏?

偶には普通の日常回でもいいよね

さと咲×京太郎ファンの人はごめんなさい


『咲、急に呼び出してどうしたの?』

 

『あ、お姉ちゃん、えっとね・・・』

 

『?顔を真っ赤にしてどうしたの?もしかして熱でもあるの?』

 

『ね、熱なんてないよ!?今日は、その・・・お姉ちゃんに合わせたい人が居てね』

 

『初めまして照さん、いえ、照義姉さん!!』

 

『!?』

 

『も、もう!?いきなりお姉ちゃんに何言ってるの!?』

 

『だ、だってな、将来的には、その・・・義理のお姉さんになるわけだし』

 

『ま、まだ早すぎるよ!!・・・嬉しいけど』

 

『さ、咲、あの、この子は一体誰』

 

『ほ、ほらお姉ちゃんが戸惑ってるでしょ、ごめんねお姉ちゃん、実はこの人をお姉ちゃんに合わせたかったんだ

 

 

 

 

 

 

 

 

わ、私の彼氏の・・・』

 

 

 

 

 

 

ガシャン!!←目覚まし時計が粉砕した音

 

・・・・・・・・・

 

「・・・・ひどい夢を見た」

 

宮永照17歳、人生でもっとも最低最悪な夢を見るのであった

 

_______

 

「咲に彼氏ができたらどうしよう」

 

「頭でも打ったのかお前は」

 

白糸台の昼休みの最中、目にクマを作った照の突然の発言に、菫は紙パックに突き刺したストローを口から離して呆れるのだった

 

「咲も今年で16歳、もしかしたら誰か気になる男の子ができるかもしれない」

 

「いや白糸台は女子高だから男子との出会いが他の高校に比べて低い、そうなる可能性は低いだろ」

 

「咲は可愛いし家事は完璧だし、性格もパーフェクト、その気になれば彼氏なんてすぐにできるかもしれない」

 

「おい無視か?私の意見は無視か?」

 

「けど咲に彼氏ができたらどうなる?今まで咲の優先順位の第一位がお姉ちゃんだったのに、その座を彼氏に奪われるだけじゃなくて咲の手料理も、咲の甘えも彼氏に奪われるかもしれない、もしそうなったら私はどうしたらいいの」

 

「知らん」

 

照がいつも以上のシスコンモードに入っているために菫は話についていこうとは考えずにさっさと昼食を食べ終えようとしたが、菫の冷たい反応に照は頬を膨らませながら不機嫌そうな顔を浮かべるのだった

 

「菫、私の話聞いてた」

 

「お前こそ私の話をきちんと聞け、第一恋愛は咲の自由だろ、姉であるお前がいちいち詮索してたら咲もいい迷惑だ」

 

「別に私も咲が誰とも付き合わせないなんて言ってない、でもあの子は少し騙されやすいから悪い男の人に引っかかって、それで・・・・あわわ」

 

変な方向に考えたのか照は顔を真っ青にしながら震え、菫はそんな照に呆れながらも照なりに妹をただ心配しているだけであるのもわかるので、仕方なくアドバイスを送るのだった

 

「だったら咲に直接恋愛に興味があるのか、あるならあるでどんな人がタイプなのか聞いてみたらどうだ?私たちも、一応女子高生なんだからそんな話題を出してもおかしくはないだろ」

 

もっとも自分たちはそんな話題はこの三年間一度もしたことがないのだが、咲相手ならこんな話題を出しても変とは思わずに、恥ずかしがりながら答えるだろうと思いながら言ったのだが

 

「それだ」

 

照は照魔鏡を発動するときと同じ目で何かを思いつき、菫は照の反応から少し不安に思うのだった

 

______

 

放課後

 

「チキチキ、第一回白糸台麻雀部恋バナ会、開始ーわードンドン、パフパフ」

 

「おいちょっと待て」

 

チーム虎姫のメンバーを集めて恋バナ大会を宣言した照に菫はチョップをして黙らせた後に照に詰め寄るのだった

 

「なんで私たちを巻き込もうとしているんだお前は」

 

菫は怒った顔で照にそう叱りつけて咲たち他のチーム虎姫メンバーは照の奇行と菫の様子に一体何があったんだと気になったが照はキョトンとして首を傾げると

 

「だって菫が恋バナしろって言ったでしょ?」

 

「私は別に恋バナをしろとは・・・」

 

「えー、菫ってもしかして私たちと恋バナしたかったんだ」

 

照の発言に菫は正しく伝えようとしたが、その前に淡が照の発言を真に受け、菫はこの流れにしまったと思ったが、少し判断が遅かった

 

「ち、違う、私は」

 

「恋バナですか・・・私は、その、そんなに多くは語れませんが、頑張ります」

 

「渋谷、ちょっと待ってくれ私の話を」

 

「弘世先輩から恋バナだなんてちょっと意外です」

 

「だから私の話を」

 

「サキー、サキってどんな人が好み?」

 

「えぇ!?急にそんな事言われても」

 

「私の話を最後まで聞けーーーー!!!!????」

 

・・・意外とノリのいいメンバーたちに菫は思わず叫ぶのだった

 

______

 

「なんだーそんな事かー」

 

菫と照の説明を受けて淡は菫ってあんまり恋愛に興味なさそうだしねーとケラケラ笑い、菫はそんな淡にシャープシュートでもしかねないほどの鋭い眼光で睨み付け、咲はお姉ちゃんがご迷惑をかけてすみませんとペコペコと謝っていた

 

「それじゃあ早速恋バナをしよっか」

 

「お姉ちゃんは少しは空気を読んで!!」

 

照のマイペースにさすがの咲も怒ったのか厳しめな口調で照を注意すると照はガーンとわざとらしく効果音をならしてシクシクと淡に抱き着きながら淡はよしよしと照の頭を撫でるのだった

 

「ま、まあ偶には麻雀以外のこともするのもいい息抜きになりますからね」

 

さすがに見かねた誠子はすぐさまフォローを入れたが、それだけ恋バナをしなければならない流れのため菫はギロリと誠子を睨み付けたのでヒィっと情けない悲鳴を上げた

 

「けど恋バナかー、中学時代に男子と少し話しただけでこれと言ってないなー、タカミーは?」

 

「私は、その、男の人は少し苦手だから」

 

「タカミーらしいね、サキは、あーでもサキもタカミーと同じか」

 

淡は咲も尭深と同様に親しい男性はいないと思ったのだが、咲はあーっと少し困った風にしていると

 

「その、長野に居た時に親しかった男の子はいたかな」

 

(ガタ!!)

 

「落ち着け照」

 

まさか咲に親しい男性が居たことに照は思わず立ち上がろうとしたが、菫に肩をつかまされて座らされ、淡はえーっと驚きの声を上げた

 

「サキに親しい男子が居るって意外」

 

「あはは、といっても中学三年間たまたま同じクラスになっただけで私以外にも親しい人が多かったからね京ちゃん」

 

「京ちゃん・・・だと」

 

「照、今日のお前は面倒だから無視していいか」

 

その男性とは照が思った以上に親密な関係に照が反応し、菫はもういちいち照を止めるのも疲れてきたので無視と決め込んだ

 

「さ、咲、その男の子ってもしかしてどこか生真面目でまっすぐな感じの男の子じゃなかった!!」

 

「え?うーん、生真面目とは少し違うけど運動部のキャプテンをやってたから責任感は強いかな」

 

照の食いつきように咲は戸惑いながらもそう答え、その答えに照はホッとしたが

 

「よかったそれじゃあ正夢にはならないか」

 

「けどサキがちゃん付けで呼ぶぐらい親しいならサキ自身は少しは気が合ったんじゃない?」

 

その淡の余計な一言で照はまたシスコンスイッチを押されて鋭い目をしたが、咲はすぐにないないと手を横に振り

 

「そんなことはないよ、確かにクラスの人から仲が良くてからかわれた時はあるけど京ちゃんの好みは私じゃないし・・・」

 

咲はどこか遠い目をしながら両手で自分のその慎ましい胸を包み込むようにし、自傷気味に笑うと

 

 

 

 

「だって京ちゃん、おもちの大きな子が好みって私の前でハッキリ言ったもん」

 

その咲の告白に淡はは?っと首を傾げ、菫は手で顔を覆い、誠子はそういわれた咲の気持ちが理解できるので涙目になり、尭深は恥ずかしそうに顔を赤くし、そして照は

 

「菫、少しの間長野に行ってくる」

 

「待て、お前は何をするつもりだ」

 

咲のおもちが小さいことを安易に告げて傷付けた事と、そんなにおもちが大きいやつがいいのかというおもちが小さい人ならではの嫉妬で暴走している照を菫が羽交い絞めにして止めるのだった

 

_______

 

・・・後日

 

「・・・お姉ちゃんに彼氏ができたらどうしよう」

 

「ふぇ?」

 

昨日の会話のせいで照に彼氏ができた夢を見てしまった咲は目にクマを作りながらそう淡に話しかける姿が見られた・・・やはり姉妹だと同じ状況になれば同じ考えに至り、そして第二回恋バナ大会がすぐに開かれるのを淡はこの時は知る由もなかった




『人物紹介』

『宮永咲の幼馴染』京ちゃん
咲の中学三年間の友人であり、咲が麻雀関連以外で仲のいい唯一の異性
お互いに仲が良かったからからかわれたりもしたが彼自身はおもちが大きい子が好みであり咲もこの発言で京ちゃんを気になる相手としてみることはなくなった
咲と同じ中学に居ながら咲の麻雀については疎かったため咲がインターミドルチャンピオンだったことに気づいておらず、大会に出て優勝したと聞いても小さな大会だと思っていた
なお現在は長野の清澄高校の麻雀部に所属

『照の夢の中で出てきた人物』咲の彼氏
照が夢の中で紹介された咲の彼氏(仮)
真面目で一途な少年で咲のことを心の底から愛している模様(照談)
なお実際に存在するかどうかは定かではない

『咲の夢の中で出てきた人物』照の彼氏
咲が夢の中で紹介された照の彼氏(仮)
物腰が柔らかく、優しい好青年といった感じの彼氏で、しかも趣味はお菓子作り(咲談)
見たこともない人物であるが照を射止める要素(お菓子)が備わっているため実際に現れたら照がとられると危惧している模様


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宮永咲と多治比真由子

・・・いつからだろうか、自分が麻雀を打つ時に周囲が怯えた顔を浮かべるようになったのは

 

・・・前からあの顔を浮かべる人たちは存在していた、だけど全国ではそんな顔を浮かべていた相手が居なかったから気のせいだと思いたかった

 

・・・だけどどれだけ私はそれから目をそらそうと、どれだけ気づかないふりをしていようと、私は嫌でも気づかされた

 

 

 

・・・この世代に、私という存在は異物でしかなかった

 

________

 

西東京都インターハイ地区予選会場

 

今年も白糸台の圧倒的優勝とマスコミから思われているが他校の学生たちはそうは思ってはいない

 

当然だ、自分たちは麻雀が好きだからここまでやってきたのだ誰も負けるつもりで卓上に座る選手たちはいなかった

 

それに白糸台高校は宮永照が入学するまでは決勝戦に残るまでがやっとのチームだったのだ、それはつまり宮永照を抑え込めば自分たちにも勝機があると、そう思いたかった

 

「お疲れさまでした」

 

そういって卓上から立ち去る白糸台高校の制服を着た一年生を横目に多治比真佑子は白糸台の最終結果をその弱り切った目で見た、そしてそこには

 

 

 

 

白糸台高校 400000

 

400000点というありえない数字が表示されているのだった、団体戦での一校の持ち点は100000点であることから白糸台高校は地区予選とはいえ決勝戦で三校の持ち点を0にしたのだ・・・それもトビ終了ではなく半荘二回を終わらせてだ

 

白糸台高校であれば三校トビはそう珍しいことではない、今年から先鋒の宮永照は一、二回戦とも三校トビをしており、これだけでも彼女はとてつもない化け物であることが理解できる

 

だから宮永照が親番になった時には他校に振り込んでもいいから全力で流した、その成果か宮永照は地区予選の結果の中では最小の点数に抑えることができた

 

だが白糸台は宮永照を抑えれば勝てるほど甘くはなかった、彼女たちも普段から宮永照という怪物と練習を重ねてきた、弱くないはずがなかった、そのことももちろん真佑子も他のメンバーも理解していた

 

予想外だったのは一年生コンビの方だった、もちろん白糸台のレギュラーメンバーに選ばれる点から例え一年でも弱くないはずがないがそれでもまだ高校生になって数か月、付け入るスキがあると思っていた

 

それがとんでもない思い違いだった、彼女たちは間違いなく宮永照と同じ『牌に愛された子』に違いない、特に大将に任された『宮永』の姓のチャンピオンと似た顔つきの少女は宮永照と同等、もしくはそれ以上の存在であることを真佑子は本能的に理解してしまった、なぜなら

 

「・・・綺麗だったな」

 

恐怖よりも『綺麗』と思わずにはいられなかった、そんな打ち手だったのだから

 

西東京都代表・白糸台高校

 

先鋒 宮永照(三年)

 

次鋒 弘世菫(三年・部長)

 

中堅 大星淡(一年)

 

副将 渋谷尭深(二年)

 

大将 宮永咲(一年)

 

控え

亦野誠子(二年)

氷室空美(一年)

 

__________

 

『・・・勝てるわけがないでしょ』

 

宮永咲は真っ黒な空間の中で顔が分からない相手から怯えた声でそう言われた

 

『持ってるものが違いすぎる』

 

『天才に凡人が勝てるはずがない』

 

『お前なんか人じゃない』

 

『無理だ敵わない』

 

咲の周りの顔が見えない存在たちは怯えた声でそう言いながら咲から遠ざかていった、咲にはそれが苦しみにしかならなかった、咲にとっては麻雀とはみんなと一緒に楽しむものそれなのに咲の周りに居るものたちは誰も楽しく打とうとしなかった

 

『楽しいでしょうね、周りを圧倒できるんだから』

 

そんなことはない!!咲は全力でそう叫びたかった、だけど周りの嫉妬の、恐怖の視線が咲に何も言わせなかった言えなかった

 

(苦しい、苦しい苦しい苦しいくるしいくるしいくるシィくルシイクルシイクルシイ)

 

楽しかったはずの麻雀が優しすぎた咲にはただただ苦しいだけの存在になりはて、そしてその苦しみから逃げるように咲自身も顔が見えない存在になりかけた、その時だった

 

『『咲!!』』

 

大きく、明るい二つの声が咲の心に響いた、一つは幼い少女の声、もう一つはずっと聞いている自分に麻雀の楽しさを思い出させてくれた声だった

 

『『麻雀って楽しいよね!!』』

 

______

 

咲が目を覚ました瞬間、目の前に咲の顔を覗き込む淡の顔がドアップに映り、咲は思わず目を大きく見開きながら驚いた

 

「淡、ちゃん?」

 

「あ、サキよーやく起きた、ちょーどサキを起こそうとしてたんだ」

 

咲は夢の中で淡の顔を見たせいか夢と現実が混ざり合って一瞬混乱したが、咲は地区予選の決勝が終わって部長である菫と照がマスコミのインタビューを受けている間に少しの間眠ってしまったことに気づいた

 

「監督がインタビューが終わったからそろそろ移動だって言ってたよ?」

 

「そっか、淡ちゃん起こしてくれてありがとう」

 

「別にいいけど・・・今日そんなに疲れることあった?」

 

「あはは、さすがに久しぶりの公式戦だったから少し疲れたかな・・・それに、ちょっと昔を思い出してね」

 

咲はそう影のある笑みを浮かべ、淡は咲の過去については何も知らない、だからどうして咲がそんなに弱っているのかは淡にはわからない、だけど

 

「サーキー」

 

「何、淡ちゃ・・・」

 

淡は突然咲に抱き着いたのだ、咲自身は淡の突然の行動に顔を真っ赤にして戸惑うだけだった

 

「あ、淡ちゃん急にどうしたの!?」

 

「うーん、なんとなく?」

 

「なんとなくって・・・」

 

淡自身もなんで自分がこんなことをしたのか分からずに首を傾げた

 

「でも、なんか咲を抱きしめないといけないなって思ったんだー」

 

淡のその直感による行動に咲を驚いた顔を浮かべながら顔を伏せるのだった、淡はおそらく自分が苦しい思いをしていると気づいた、だからこそその苦しみを言葉ではなく行動で和らげようと咲を抱きしめたのだ

 

「淡ちゃん」

 

「んー?」

 

「・・・ありがとう」

 

淡は咲のお礼に一瞬キョトンとした後にニパーっと笑みを浮かべ

 

「どーいたしまして」

 

_____

 

「やっぱり咲を大将にしたのは間違いだった」

 

インタビューを終えた照はいつもと違って明らかに不機嫌そうな顔をしながら隣を歩く菫を睨み付け、菫はそれに怯むことなく照を見据えるのだった

 

「・・・そうだな、このままだとインターハイで大きなミスを犯す可能性があるな、だが淡と比べて大将を任せられるのは咲のほう・・・」

 

「私が怒ってるのは試合の結果じゃない、咲の立ち位置について怒ってるの」

 

菫は咲がトビ終了できた場面で試合を終わらせなかったことを問題視している発言をしたが、その言葉に照はより一層鋭い目をして菫を睨み付けていた

 

「あの子が強いことは私もよくわかってる、だけど咲の心は決して強くはない、試合の結果が決まる大将というポジションは・・・咲を昔の状況に戻しかねない」

 

淡という同年代で同じ存在と巡り合うことができたものの、周りの相手と比べても咲の実力は圧倒的すぎた、部活内では改善されつつあるが、公式戦という過去を思い出させるような状況になれば嫌な記憶が嫌でも呼び起こされる。事実、圧勝した咲が控室に戻ってきた際には精神的に消耗していた点からトラウマがいまだ残っている事が分かったのだ

 

「咲は副将、もしくは中堅に置いた方が咲にとってそれが一番良いのに」

 

「そうやってずっと逃げさせるつもりか?」

 

照は咲の大将というポジションを変更することを望んで発言したが、菫の凛とした声で押し黙った

 

「咲はお前と同じ王者になるべき存在だ、その王者は常に嫉妬や嫉みといった感情を向けられる存在でもあることをお前が一番分かってるはずだ」

 

ずっと照の隣にいた菫だからこそ照に向けられた嫉妬や嫉みといった感情を向けられていることを知っていた、だからこそ咲も同じ状況に陥っていることも一番理解しているのだ

 

「もちろん私も悩んださ、咲を大将というポジションに置くことで咲のトラウマを思い出させるんじゃないかと、だが咲は、そのトラウマを乗り越えなければいけない」

 

それは白糸台の三連覇のためでも、ましてや咲を王者にして白糸台の栄光を守るためでもない

 

「咲は麻雀のことが本当に好きだからな、だからそんな周囲の嫉妬(くだらないこと)で牌を置くことはあってはならない」

 

咲が麻雀から離れないようにするためだ、菫は部長として知っている、咲がどれだけ麻雀が好きなのかを、どれだけ麻雀という競技を愛しているのかを、そんな彼女を周囲のくだらないことで潰されることを菫は納得できなかったのだ

 

「だから私は咲に強くなってもらうために大将に抜擢した、例えその結果咲に恨まれようとも、私はそれで構わない」

 

菫のその強い覚悟に照は驚いた表情を浮かべ、そして自分の親友はやっぱり男の人より漢らしいなと思いながら笑うのだった

 

「菫ってやっぱりカッコいいね」

 

「なんだ急に」

 

「別に、ただ男の人より漢らしいからかっこいいなって思っただけ」

 

「・・・それは喜んでいいのか?」

 

「さあ?」

 

お互いに目を見ながらそう語り合い、そしてお互いに笑みをこぼしながら控室へと入っていくのだった

 

「咲、淡、インタビューが終わったから部屋を片付けて・・・」

 

菫はそういって部屋の中にいる咲と淡にそう指示を出したが

 

 

 

 

・・・・お互いに抱きしめあっている咲と淡の姿に目を点にしながら固まるのだった

 

「・・・何やっているんだお前たちは」

 

「ひ、弘世部長!?」

 

菫たちの登場に咲は顔を真っ赤にしながら慌てて淡から離れるが、菫は隣にいる照の様子を窺おうとしたが麻雀を打っているときと同じ雰囲気をだしており、淡もそれを察知しているのか顔を真っ青になるのだった

 

なお尭深と誠子が戻ってきたときには菫によって羽交い絞めされている照の姿と咲の後ろに隠れている淡の姿が発見されるのであった

 

_____

 

「「あ」」

 

会場から帰りのバスに乗り込もうとしたときに咲は大将戦で戦った真佑子とばったりと出くわしたのだ

 

真佑子の目には泣いたような跡が残っており、真佑子は咲から目をそらし、咲はどこか気まずそうな顔を浮かべていた

 

「・・・咲、行くぞ」

 

このまま気まずい空気で立ち止まるわけにはいかないため菫はそういって歩き出し、咲もそのあとに続こうとしたが

 

「み、宮永咲さん!!」

 

真佑子は突然咲の名前を呼び、咲は驚きながら真佑子の方に振り向いた瞬間

 

真佑子は咲の手をぎゅっと握りしめるのだった

 

「私の、私たちの夏はここで終わりました!!悔しいて、悲しいて、胸がいっぱいです!!だけど私はあなたと、王者白糸台と勝負したことを誇りに思っています!!だから、だから

 

 

 

 

 

私たちの分まで頑張ってください!!」

 

咲は真佑子のエールを受け、そして震えている手を感じながら気づいたのだ、この人は本当にインターハイを目指して頑張ってきたんだと、周りから無理だと言われても努力し続けた人なんだと

 

それに気づいた咲は自分の弱さに憤りを感じた・・・自分はなんで全力で戦わなかったんだと、もう大丈夫だと思っていた過去に縛られて昔と同じようになるのではと恐れて、だけど負けるわけにはいかないと中途半端な打ち方をして相手を苦しめて、だけど真佑子はそんな自分を応援してくれた、ならば自分はその応援に全力で答えなければいけない、いつまでも姉や親友に甘えている自分では駄目であると、そう覚悟を決めた

 

「・・・わかりました、多治比さん」

 

咲は少し目を閉じ、その瞬間咲の纏う雰囲気が変わったことを照や淡たちが気づいた瞬間、咲の目は試合終了の時に浮かべていた弱い目ではなく・・・覚悟を決めた強い目になるのだった

 

「私たち白糸台は誰にも負けません、例え相手がどれほど強敵であろうとも王者として

 

 

 

 

 

 

全員、倒します」

 

咲の纏う雰囲気が気弱な少女から照と同じ王者の雰囲気になった瞬間、菫と照は笑みを浮かばせるのだった

 

今ここで、インターミドル二連覇のチャンピオンとしての宮永咲が完全に目覚めた瞬間だった

 



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宮永姉妹と夢乃マホ

・・・長野県のとある墓地

 

「お姉ちゃん、お水を汲んできたよ」

 

「ありがとう咲」

 

インターハイの出場が決まった宮永咲と宮永照は本来なら白糸台で練習に明け暮れなければならないのだが、二人はこの日、監督と菫の許可をもらって長野へ向かい、そしてとある墓の掃除をしているのだった

 

掃除を終え、花も新しくした咲と照は線香をあげた後、手を合わせ、そしてしばらく拝んだ後に申し訳なさそうな顔を浮かべるのだった

 

「・・・本当だったらお盆の時に来るべきなんだけど、私と咲の最初で最後の一緒に参加できるインターハイだから、報告に来たんだ」

 

その墓には『宮永家之墓』と書かれており、そしてそこにはとある少女の名前が刻まれているのだった

 

「私も咲も絶対に負けられない試合がこれから続く、だからどうかあなたに見守ってほしいんだ

 

 

 

 

・・・・みなも」

 

その少女の名前は宮永湖(ミヤナガ ミナモ)・・・咲と照にとってもう一人の姉妹の名前であった

 

______

 

「「ま、迷った」」

 

・・・墓参りを済ませて今日は長野のホテルに宿泊する予定であった咲と照であったが、久しぶりの地元と二人の迷子スキルによって自分たちが今いる場所がどこかわからないまま迷ってしまったのだ

 

「咲、ずっとここに住んでたのにここがどこかわからないの?」

 

「つ、通学路やよく買い物に行く場所ならわかるんだけど普段めったに行かないところはちょっと」

 

もしかして私たちはこのまま帰れないのではと二人の頭によぎっていた

 

「・・・とにかくいろんな人に話を聞きながらどうにかしよう」

 

「そうだね・・・」

 

二人は道行く人たちに話を聞きながらなんとかしようと歩き出した、その時だった

 

一人の中学生の女の子が自分たちの横を通り過ぎた瞬間、初めて自分たちと同じ『存在』と出会った時のプレッシャーを感じ取ったのだ

 

「「ッ!?」」

 

二人は思わずその女の子の方に振り返ったが、その時には先ほど感じたプレッシャーは感じられなかった

 

(勘違い?でも・・・)

 

(お姉ちゃんも反応してたし・・・)

 

自分の勘違いかと思ったが、姉妹で同じ反応をしたことから勘違いとは考えられず、さっきのは一体何だったのか首を傾げていると

 

「あう」

 

なんとその目の前の女の子が足を躓いて思いっきり地面に倒れてしまい、二人は驚いてその女の子に駆け寄った

 

「だ、大丈夫?」

 

咲はしゃがみこんでその女の子の手を取り、女の子は涙目になりながら咲の手を握るのだった

 

「す、すみません、ありがとうございます・・・」

 

女の子は咲の手を取って立ち上がった瞬間、咲の顔を見た瞬間に固まり、照と咲はどうしたのかと首を傾げた・・・二人は知らないが白糸台の宮永姉妹については姉がチャンピオンであり妹の咲もインターミドルチャンピオンだったこともあって多くの麻雀雑誌に取り扱われた、つまり照もそうだが今では咲も麻雀業界の間では有名人なのだ、つまりそんな有名人が目の前に現れれば

 

「み、宮永咲さんと宮永照さんーーーー!!!???」

 

当然、ものすごく驚かれるのだった

 

_____

 

咲と照は女の子が驚きの声を上げたため、その子を連れて近くの喫茶店へ入り、飲み物を注文した後に目の前の女の子と向き合うのだった

 

「あの、さっきは大きな声を上げてしまってすみません!!」

 

「う、ううん、別に気にしてないよ」

 

ペコペコ謝る女の子に咲は気にしなくていいよと言いながら先ほどからずっと黙っている照を横目で見ており、照は女の子の方をじっと見つめて、考え事をしていたので、咲は女の子の対応は自分でしなければならないと感じたので優しく女の子に話しかけるのだった

 

「えっと、さっき思いっきり転んだけど大丈夫だった?」

 

「ハイ!!マホは昔から体が丈夫だって言われてますから大丈夫です!!」

 

女の子・・・喫茶店に入るまでに軽く自己紹介をした夢乃マホは元気よく答え、見たところ目に見えた怪我は確認できないことから大丈夫だろうと咲は判断した

 

「あ、あの」

 

「ん?どうしたの?」

 

「み、宮永咲さんと宮永照さんはどうして長野にいらっしゃるんですか?確か、東京でしたよね」

 

「あ、うん、今は東京に住んでるんだけど私もお姉ちゃんも生まれは長野だったんだ、親の仕事で東京に移り住んだんだけど今日はちょっと長野に用事があってお姉ちゃんと二人で来たんだ」

 

「そうだったんですか」

 

マホはこんな近くに有名人が居たことに感動した様子を見せ、咲はマホの一つ一つの幼い動作にどこか淡ちゃんと似ているなと思いながら笑みを浮かべていると

 

「夢乃さん」

 

「は、はい」

 

今まで黙っていた照から突然話しかけられてマホはインハイチャンピオンから話しかけられたためかびくびくしながら返事をすると

 

「・・・今から私たちと一局打ってもらえないかな?」

 

「・・・・・・・はい?」

 

えええええええええええええええええ!?

 

照からの申し出にお店に迷惑になるほどの絶叫を上げるのだった

 

_________

 

『おい、あれってインハイチャンピオンじゃないか?』

 

『んな馬鹿な、チャンピオンがこんなところに居るわけがないだろ』

 

『いや、でもあの顔とあのツノは・・・そういえば出身は長野(ここ)だって話だぜ』

 

『じゃあ後ろの似た顔は妹さんか?もう一人は・・・誰だあれ?』

 

マホの絶叫にお店に迷惑をかけてしまったと思った咲と照はひとまずマホを連れてお店から出た後に近くの麻雀店に立ち寄ったのだ。お店側もいきなりのチャンピオンの登場に騒めいていると、照は気にすることなく受付を済ませ、三人はひとまず麻雀卓に座ると、今までずっと黙っていた(というか放心状態だった)マホは照に話しかけるのだった

 

「ほ、本当に一局打ってくれるんですか!!あ、でも、その、マホはそんなに強くないですよ?」

 

チャンピオンと一局打てることは光栄なことだが、マホは自分の実力は初心者に毛が生えた程度であると、周りの人の話からそう思っていたので自分には打つほどの価値はないと言いたかったが、照はマホをジっと見ながら静かに語った

 

「・・・・あなたを見ても、何も感じなかったから」

 

「はい?」

 

マホは意味が分からずに首を傾げていたが、咲は照のその言葉を理解すると同時に驚いた。

 

照の能力の一つ・・・照魔鏡、相手の本質を見抜くその力は日常の中でも発揮することができるのだが・・・どういうわけはマホに対して発動しても『何もわからない』のだ。照と、そしてそれに気づいた咲もその事に驚きながらもマホに対して興味が湧くのだった

 

「お姉ちゃん、弘世部長から外ではあんまり打つなって言われてなかった?」

 

「ん、一局だけなら大丈夫?」

 

「なんで疑問形なの?・・・まあ、私もちょっとマホちゃんに興味が湧いたけどね」

 

「・・・なんか?県大会が終わってから変わった?」

 

「うん、まあいろいろと吹っ切れたからかな?」

 

「え?え?」

 

何故か咲からも注目されるようになったマホはどうしてこうなったのか涙目となり、周りの人たちもこの光景を二匹の野獣に囲まれた小動物を見てる気持ちになるのだった

 

_____

 

そうしてお店の店長(照と咲のサインを渡したら無料で貸してくれた)を交え、半荘一回の麻雀が始まった。最初は咲と照と打つことに戸惑っていたマホも、いざ始まれたこんな機会はめったにないと意気込むのだった

 

(せっかくお二人が誘ってくれたんだから、マホもしっかり打たないと!!)

 

と意気込むマホであったのだが、数順後

 

「カン」

 

「え?」

 

咲はマホが捨てた牌を大明槓すると、嶺上牌に手を伸ばすと・・・

 

・・・マホの前に白い花びらが舞うのだった

 

「ツモ、嶺上開花。8000」

 

マホは自分の責任払いで振り込まされたことよりも、先ほどの咲の姿に見とれたのだった。そのころ照は照魔鏡を発動しても結果はさっきと変わらない事に疑問に思っていたが

 

「・・・すごい、マホもあんな風になりたいです」

 

マホのその小さな呟きが聞こえた瞬間に、マホからのプレッシャーが一気に跳ね上がったのを感じ、咲もこの急な変わりように驚くのだった

 

(・・・これはもう一度見た方が良いかもしれない)

 

照は普段なら一局のうちの最初の一回しか発動しない照魔鏡を再び発動し、次の局を始めるのだった・・・そして二人は信じられない光景を見るのだった

 

「カン」

 

((・・・え?))

 

今度は暗槓なのだが、それは先ほど嶺上開花で和了った咲ではなく・・・なんとマホだったのだ、そしてマホは先ほどの咲と同じように嶺上牌に手を伸ばすと

 

 

・・・咲の前に同じ花びらが舞った

 

「ツモ、嶺上開花。2000・4000です」

 

今度はマホが嶺上開花で和了した事に咲は驚いて目を見開いていると、照はマホの本質に気づいたのだった

 

(・・・そうか、彼女の能力は)

 

咲は呆然と、照は驚愕に染まる中、次の局が始まった・・・のだが

 

『あれ?お嬢ちゃん、牌が多くないかい?』

 

「え?ああ!?」

 

「「え?」」

 

店長からマホが多牌・・・つまりチョンボした事にマホはしまったと声を上げ、照と咲はその事にまたもやおどろかされるのであった

 

______

 

マホはその後もチョンボを繰り返して最下位、途中でギアを上げた照がトップという形でこの一局は終わった(なお咲は当然のようにプラマイゼロ)

 

「うぅ」

 

マホは自分の不甲斐なさに涙目になるなか、咲は席から離れる店長に付き合ってもらったお礼をした後に照に視線を向けてアイコンタクトを交わした

 

(お姉ちゃん、マホちゃんの能力ってもしかして)

 

(うん、彼女の能力は『模倣』、それも私達(牌に愛された子)クラスの能力も完璧に模倣できるほど強力な能力)

 

発動条件はまだ不確定だが、自分たちと同じ、つまりは常人では理解できない不可解な、それでいて強力な力を使うことができるのだ。つまり咲と照が感じ取ったマホのプレッシャーはその潜在能力を感じ取ったものだったのだ

 

(でも、それならなんでお姉ちゃんはその事に気づかなかったの?)

 

しかし咲は不可解だと思う点が一つある。ただの模倣の能力なら照の照魔鏡でそれを感じとることができるはずだ、それなのにマホが能力を発動しなければ照ですらわからなかったことに咲は首を傾げていたが、その理由は照はすでに分かっていた

 

(たぶん、彼女の本質は何もない真っ白・・・ううん、空っぽだからだと思う)

 

照が東二局でみたマホの変化、それはマホの本質そのものが咲とほぼ『同じ』になっていくという変化。いわば彼女は他人の本質を簡単に受け入れる器そのもの・・・自分たちとはまた違うベクトルでの異質な存在なのだ

 

「・・・やっぱり、マホは全然ダメですね」

 

咲と照がマホの能力を考察していると、ふとマホがポツリと自信がなさそうな声で呟いた

 

「マホは、一日に一回だけ和先輩や優希先輩みたいなすごい打ち方ができるのに、それ以外だと失敗ばかりするんです。和先輩やムロからは他人の真似事しようとするから同じ失敗を繰り替えすんだって注意されて・・・・マホも失敗しないように何度も何度も勉強しても、それでも・・・やっぱり同じ失敗を繰り返すのです。」

 

マホは周りから見れば『偶然』他の人の真似事ができる初心者程度としか思われてこなかった。マホが口にした二人の人物もマホのためを思って注意し、マホもそれを直そうと今でも麻雀教室に通っているのだが、結果はでないでいた

 

それでもインハイチャンピオンの照と妹の咲に誘われた事で自分はもしかしたら・・・と思っていたが、それは自分の勘違いだとマホは思い込んでいた

 

「あ・・・・あ、あの、すみません、急にこんな事を言っちゃって、照さんや咲さんとは今日初めて会ったばかりなのに」

 

思わず弱音を吐きだしてしまったマホは二人に謝った後に席に立って二人から離れようとしたが

 

・・・咲と照はその場から離れるマホを引き留めるようにその手を掴むのだった

 

「え?」

 

「えっと、ごめんねマホちゃん、マホちゃんがそんな悩みを抱えてるなんて知らずに一緒に打とうだなんて言って」

 

まず咲はマホに謝った、自信がなかったマホに自分たちが話しかけた事で期待を持たせ、結局は期待通りにはならなかった事にショックを与えてしまった事に対してだ

 

「でもね、マホちゃんは自分や周りの人たちが思っているよりもすごい才能を持ってるんだよ」

 

「え?」

 

マホは咲のその言葉に驚きを隠せずにいた、マホはいろいろな人から注意されても直すことができず、心無い人間からは才能がないとまで言われ、自分自身もダメダメだと思っていた・・・それなのに目の前の咲は自分には凄い才能があるとそうはっきり言ってくれたのだ

 

「で、でもマホは本当に全然だめで、それにさっきだって」

 

「それはあなた自身が自分の力に気づいていない事と、あなたの能力を受け入れる程の相手が居なかっただけ」

 

それでも自分を否定しようとするマホだが照は静かに、それでいてよく通る声でマホに語り掛けるのだった

 

「貴女は空っぽの器。その器を入れるだけの相手が居ないから空っぽのあなたはあんなミスを繰り返してしまう」

 

マホは照が何を言っているのかをいまいち理解できなかった・・・理解できなかったが、照の言葉には自分の中にある何かにとてもよく響いていた

 

「だけど・・・その空っぽの器を満たすだけのたくさんの存在が居れば、あなたはきっと誰よりも強くなることができる」

 

強くなる・・・その一言がマホがどれだけ欲していたか、どれだけ言ってほしいと願っていたか、どれだけマホの救いになったのか照は知らない、しかし照はまるでずっと苦しんでいた彼女を救うように手を指し伸ばすのだ

 

「夢乃さん、あなたは白糸台に来るべきだ。あそこならあなたの才能(器)を満たすことができる」

 

マホは照の指し伸ばされた手に対して、一瞬自分が慕う二人の先輩とよく面倒を見てくれる友人の姿を思い浮かんだ・・・だけど、それ以上にマホは初めて自分のことを認めてくれた事の喜びが勝り、そして

 

 

 

 

・・・マホは照が差し出した手を握るのだった

 

 

・・・これは少々未来の話になるのだが、今年の冬に白糸台高校では冬休みに一人の中学生が出入りする姿が見られるようになった

 

・・・そして翌年、インターミドルで今まで全く無名といっていい程の選手がインターミ

ドルチャンピオンに君臨した、その時のインタビューで彼女は嬉しさのあまりにカメラの前でこういったのだ

 

 

 

咲さん、照さん、マホやりました!!・・・・と

 



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宮永咲と原村和①

まず初めに
作者は咲キャラには嫌いなキャラはおりませんむしろみんな大好きです


全国高校生麻雀大会。

この大会はテレビ中継されるほど全国的にも注目されており、この舞台を経てプロとして活躍する選手も少なくない夢の舞台の一つ。

 

さらに今年は白糸台の三連覇と宮永照が率いる黄金世代の最後の年、そして宮永照と宮永咲のチャンピオン姉妹が一緒に参加する最初で最後の大会というのもあってその注目度は例年よりもはるかに高いものとなった

 

そんな中、咲と淡はのんびりと今日行われる抽選会場に向かっていた。照と菫は今日は開会式前にもテレビの取材が入っているため二人よりも早く出ており、尭深も誠子と他の部員と共に会場に向かっていた。というのも咲はいまだに取材が苦手であり、そんな咲を気にしてか照と菫が先に向かってマスコミの目を引き、その間に咲とお目付け役を任された淡が会場に入場するという寸法だ

 

「もー私もテルと一緒に取材受けたかったのに」

 

「ご、ごめんね淡ちゃん」

 

咲のお目付け役として取材を受けることができなかった淡はふくれっ面を浮かべており、咲は淡に申し訳ないと思っていたが、淡はすぐにジョーダンジョーダンといって笑い、咲に抱き着いて頬っぺたをつつくのだった

 

「サキもいい加減取材に慣れないとダメだよ、なんせテルの妹に加えて強いんだから、サキが望まなくても嫌でも注目が浴びるよ」

 

「うう」

 

「ま、このアワイちゃんが居るんだからサキへの取材は絶対少なくなるけどね」

 

淡はそう胸を張って答え、咲はそんな自信満々な淡を羨ましいと思いながらも、淡の気遣いに笑みを浮かべた

 

「フフ、でも淡ちゃんは私よりも弱いからそうならないと思うよ?」

 

「ムム、咲のくせに生意気な!!」

 

咲のからかいに淡は咲の頬っぺたを引っ張ることでやり返し、咲は引っ張られた痛みで涙目になりながらも顔は笑っており、淡も楽しそうに笑っていた

 

・・・なお、少女二人が目立つやり取りをすれば当然目立っており、周りの人々の咲と淡の存在に気づいていた

 

 

 

 

・・・そしてここに一人、ずっと咲に会いたかった人物がついに咲を見つけることができ、咲と淡の元に駆け寄るのだった

 

「あの、宮永咲さんですよね?」

 

「ふぁい?」

 

淡に頬を引っ張られながら咲は声のした方に振り向くと・・・その顔は驚きの顔へと変わっていった

 

 

 

「お久しぶりです・・・約、一年振りでしょうか?」

 

「原村・・・和さん?」

 

そう、その人物の名は原村和、去年のインターンミドルのチャンピオンであり・・・去年の秋、咲が叩き潰した人物が咲の前に立っているのだった

 

_______

 

咲と淡が騒がしかった事と和の登場で周りが一層注目が浴びるようになった咲と淡は、和とその友人を連れて会場の中の人通りが少ない場所へと向かった

 

「それでえーっと清澄高校のノドカと・・・」

 

「片岡優希だじぇ!!」

 

「ユーキは私達・・・というか咲に一体なんのよう?」

 

淡は咲を守るように前にでていた、咲の去年までの様子は淡も照から話を聞いていた。だから咲に変な言いがかりをつけられないようにこうやって前に出て守っていたのだ

 

その警戒されている様子に優希は言葉を詰まらせていたが、和はそういった事に鈍いのか気にすることなく話しかけた

 

「いえ、去年の秋ごろに宮永さんとは練習試合で知り合いましたので挨拶と・・・宮永さんにはお伝えしたいことがありました」

 

その和の様子に淡は判断が難しいので警戒を解かずにいたが、咲が淡の肩をたたいて大丈夫だよと伝え、淡はしぶしぶといった形で後ろに下がるのだった

 

「原村さん、私にお話って?」

 

「まずは宣戦布告です、去年の私は宮永さんには手も足も出ませんでした、だから私は練習を重ねて少しでもあなたに近づくように努力しました・・・・なのでここであなたに言います、もう私はあなたには負けません、個人でも、団体でも、あなたに勝って見せます」

 

和のその宣戦布告に淡はへぇっと和の評価を改めた。咲と対戦した者たちはその実力差から勝てないと諦め、咲との対戦なのに勝つ気のない麻雀しか打とうとしなかった、だが和は咲に勝つ気でいた、例え実力差があったとしても決して諦めるという気持ちを持たなかったのだ、その点を評価して和の評価が少し上がった・・・のだが

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから宮永さん、私を相手に今までの偶然に頼り切った麻雀なんて打てると思わないでくださいね」

 

「――――――――あ?」

 

和の本人にとっては同じ選手として『当然』のことを口にしたつもりだった・・・・だが和の言葉に咲は顔を曇らせ

 

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・誰が偶然に頼り切った麻雀を打ったって?」

 

淡は試合でもめったに出さない『殺気』のこもったプレッシャーを和やその後ろにいた優希にぶち当てるのだった

 

淡には許せなかった、自分の親友を、自分が認めているライバルの麻雀を実力ではなく『偶然』だといった和の言葉に淡は許せなかったのだ

 

「の、のどちゃん、それはちょっと言い過ぎだじぇ」

 

優希も淡からの殺気のこもったプレッシャーを浴びて和の発言が淡の逆鱗に触れた事に気づき和を止めようとしたが・・・残念な事に和はこういったものにはとことん鈍いのだった

 

「私は当然の事を言ったまでです、嶺上開花なんてめったに出ない役に拘るなんて、そんな偶然に頼り切った麻雀に私はもう絶対に負けません」

 

そうはっきりと言ってしまった和に優希は顔を真っ青になり、淡は・・・

 

 

・・・今までにない表情のない顔を浮かべながら、それでいて重く息苦しいくなるほどのプレッシャーを全身から放つのだった

 

さすがの和のこの淡には何かを感じ取ったのか言葉を詰まらせると、淡はさっきまでの怒りがどこへやら静かな声で「そう・・・」とつぶやいて咲の手を握りながら後ろへ振り替えるのだった

 

「・・・ノドカが言いたいことがそれだけならサキと私はテルたちの元に行かせてもらうよ、ただ、これだけ言わせてもらうよ・・・

 

 

 

 

 

 

 

・・・そんな自分だけの世界しか知らないノドカがサキや私に勝てるなんて思わない方が身のためだよ」

 

お前では咲や私には絶対に勝てない・・・そうはっきりと言われた和は何をと言い返そうとしたができなかった・・・その怒りの感情を今でも爆発しそうな淡に和は何も言葉にすることができず、ただ二人が立ち去るのを見ることしかできなかった

 

_______

 

「ぶはぁ!?し、死ぬかと思ったじぇ!!??」

 

優希は淡たちが立ち去った瞬間に、まるで息を止めていたかのような、いや実際に淡の放つプレッシャーに飲まれて呼吸すらも忘れたためか思いっきり息を吐き、全身から吹き出ている冷や汗を気持ち悪いと感じながらその場に座り込むのだった

 

「のどちゃんもさっきのはさすがに言い過ぎだじぇ、のどちゃんも自分や副ぶちょーの麻雀を否定されたら嫌だじぇ」

 

「それは・・・・そうですよね、お二人には大変失礼な事を言ってしまいましたね」

 

優希にも注意されて、和も冷静なった瞬間に自分の発言が失礼過ぎた事に反省した

 

「・・・一体どうしたんだじぇ?のどちゃん、あの宮永咲って選手の試合を見てからちょっとおかしいじぇ」

 

「・・・なんでもありませんよ優希、ただ宮永さんの打ち方が不思議と思っただけです」

 

それだけであんな事を言うものか?と優希は親友の性格から他人に教えられてもそんなオカルトはありえませんと言うものの、相手の打ち方に関してチームメイト以外ではとやかくいう性格ではないことも知っていた。だからこそ和の先ほどの発言は優希にとっても信じられないものだった

 

「・・・・・・」

 

そんな親友の心情にも気づかず、和はじっと咲が去った姿を追うように見つめるのだった

 

 

 

 

 

 

 

「ありえませんよね・・・・あなたが、リンシャンさんなんて」

 

_______

 

「あーもう!!ムカつくムカつくムカつく!!??」

 

「淡ちゃん、あんまり物に当たったりしたら駄目だよ」

 

和たちと別れて淡は先ほどの殺気を周りにばらまきながら歩き続け、しばらくした後に我慢していたものを吐き出すように壁に何度も当たって大声を出していた

 

「大体サキはアイツの発言にムカつかなかったの!!??」

 

「私の場合は・・・まあ、少し言われなれている事もあるから」

 

咲自身は和に言われたことは中学の大会に参加していた時代から言われていた事なのであまり気にしている素振りはなかった(なお大抵の場合は咲にボロ負けしたものが大半である)

 

・・・それでも和に言われた事に少しショックでもあった

 

「それにね、普通の人から見たら原村さんの意見が正しいんだと思うよ?私や淡ちゃんの麻雀はお姉ちゃんと比べてもちょっと特別だからね」

 

「・・・なんかやけにアイツの肩を持つけど、サキはアイツと何かあるの?」

 

言われた立場である咲が和の事をフォローしている姿に淡は二人の間には何かあるのではと疑惑の眼差しを向けると、咲は少し困った顔をしながら首を横に振るのだった

 

「・・・ううん、別に何もないよ」

 

淡はサキのこの答えは嘘だとすぐに分かった、わかったがそれ以上の詮索はしないようにしたのだ

 

・・・まるで親しい友人に拒絶されたかのようなそんな顔をしていたのだから

 

________

 

宮永咲(リンシャン)と原村和(のどっち)、実はこの二人はお互いの県大会での試合を見た事でそれぞれの正体に気づきかけていたのだ

 

咲はネット麻雀でお世話になったのどっちと思わしき人物と一度会ったことがある事の驚きと出会える事への楽しみを持ったが・・・和はそうではなかった

 

和は咲の試合を見て、その打ち方が自分が教えていたリンシャンさんと被ったのだ、なので和は咲がリンシャンなのではと思ったのだが、彼女の打ち方を見ているうちにその顔が驚愕に変わっていった

 

確かに所々は自分の知るリンシャンのものであったが、その内容自体がオカルト染みたものだったのだ・・・まるで自分の教えている麻雀が間違っているとでも言われているかのような

 

だからこそ和は咲=リンシャンという仮説を否定したかった、否定しなければ自分の麻雀を否定することになるからだ

 

・・・別に咲はのどっちが教えてくれた麻雀を否定するつもりはなかった、むしろのどっちの教えに感謝している程だった、自分がこんなに強くなれた要因の一つがのどっちの教えてくれた自分の知らない麻雀の世界なのだから、しかしそれを和が知るすべはなかった

 

宮永咲(リンシャン)と原村和(のどっち)・・・二人の間にある溝は一方的に深まるだけだった

 







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宮永咲と竹井久

開会式も終わり、明日からの団体戦に向けてそれぞれの高校は優勝を目指す準備を始めていた、あるものは対戦相手の牌譜を見直したり、あるものは少しでも実力を伸ばすために部員同士で試合を行ったり、あるものは観光がてらに気分を落ち着かせたりと様々だった

 

そして当然白糸台も明日からの試合へ向けての準備を始めていた

 

「咲、観戦用のお菓子はこれで、試合中のお菓子はこれ、自分用のお菓子はこれにしよう」

 

「お姉ちゃん、遠足に行くんじゃないんだからね?」

 

・・・もっともこの二人の姿を見たものは本当に優勝に向けての準備をしているのか疑問に思ってしまうだろう

 

というのも、白糸台はそもそもシード校、出場するのは二回戦からの高校なのだ、なのでしばらくは他の高校の観戦が中心となり、長時間の考察は頭が疲れるからお菓子などで糖分を摂取しようという算段のため、近くのお店でお菓子に詳しい照が疲れた時に食べたら美味しいお菓子をわざわざ選んでいるのだった

 

・・・というのは建前で本当は照は好きなお菓子をたくさん食べられるためにウキウキしながら選び、部長の菫もお菓子がなかった時の照は全く観戦に集中しないために何も言わないでいた・・・・それでいいのかチャンピオン

 

「咲、とりあえずこれだけ買お」

 

「・・・とりあえずって、かご一杯にお菓子が入ってるんだけど、お小遣いは大丈夫なの?」

 

「大丈夫、お父さんにお願いしたら快くお小遣いをくれたから」

 

(・・・後でお母さんに報告しよ)

 

これだけのお菓子を買うお金がどこにあるのかと思ったが、おそらく照が父に甘え、娘たちを溺愛している父が照にお小遣いを上げたことが発覚したので、咲は母にとりあえずこの事を報告することを誓った(なおその夜に父と照は母から一時間の説教を受けることになった)

 

「・・・・あれ?」

 

照は自分が選んだお菓子の会計を済ませているときにふと咲は見覚えのある人物の顔を見かけるのだった、一瞬咲は自分の見間違いなのではと思ったが、その相手も咲に気づいたのだ

 

「よう咲、久しぶりだな」

 

「きょ、京ちゃん!?」

 

その相手の名は須賀京太郎、咲の中学時代の友達だったのだ

 

______

 

「まさか京ちゃんが清澄高校の麻雀部に所属してたなんて」

 

「俺もまさか咲がそんなすごい奴だなんて知らなかったぜ」

 

思わぬ再会に咲と京太郎はとりあえずコンビニから出てお互いの近況を報告しあったりした

 

「でもなんで京ちゃんは急に麻雀なんて始めたの?」

 

「い、いやまあ咲が楽しそうにやっていたのを思い出して俺も興味をもってな・・・」

 

「そうなの?てっきり原村さんが入部したからだと思った」

 

京太郎はギクリと肩を震わせ、その様子に咲はやっぱりとため息を吐いた、かつて咲が話した京太郎がおもち好き・・・要は胸の大きな女の子が好きなことを知っていた咲は京太郎が麻雀部に入った理由が原村和(胸が大きい娘)が理由である事をすぐに察したのだ

 

「た、確かに最初はそうだったかもしれないが今じゃ俺も麻雀が面白いって本当に思ってるからな!!」

 

「本当かな~」

 

「本当だって!?」

 

京太郎の慌てている様子に咲は久しぶりの友人とのやり取りに笑みがこぼれて、京太郎は咲の昔のおとなしい雰囲気からは想像できない様子に戸惑いを覚えていると

 

「ちょっと須賀君、勝手に外に出て私に荷物を持たせるつもり」

 

「げ!?部長!?い、いやそんなつもりは全くなかったんです、ただ中学の時の友達とたまたま会って」

 

すると、どこかで見覚えがある制服を着た女子生徒がお店からでて京太郎に指さすと、京太郎は慌てて弁明しながら咲を指さすと、生徒は咲を見た瞬間驚いた顔をしたのだった

 

「ちょ、なんで白糸台の子がここに居るのよ!?」

 

「いや、俺もたまたま同じ店の中であって」

 

「しかも宮永咲ってことはさっき大量のお菓子を買ってたのはまさかチャンピ・・・」

 

女子生徒が驚きのあまりに少々混乱している様子であったが、ふと後ろからゾクっと背筋が凍るようなプレッシャーを感じ、恐る恐る振り返ると

 

 

 

 

 

 

 

「・・・・私の妹に何か用?」

 

そこには両手に大量のお菓子を詰めた袋を持つ冷たい眼差しをした大魔王(チャンピオン)が立っていたのだ

 

なお照がここまでするのは、淡から和との朝の一連のやり取りを聞いており、和と同じ制服を着た人物が大切な妹に絡んでいるように見えたために、このようなプレッシャーを放っているのだった

 

その照からの圧に飲まれた女子生徒は誤解を解こうとするも声が出ず、震えが止まらなかったが

 

「お、お姉ちゃんちょっと待って!!私は別に何もされてないから!?」

 

咲が慌てて照と女子生徒の間に入り、照はその言葉に「本当?」と尋ねると、咲が首を縦に振ったら出していた圧をおさめ、女子生徒は呼吸を整えながら二人に尋ねるのだった

 

「とりあえず・・・なんでこうなったのかちょっと説明してちょうだい」

 

______

 

「・・・あーなるほど、それはウチが原因ね」

 

女子生徒・・・清澄高校麻雀部部長、竹井久は今朝の和と咲たちとのやり取りを聞き、それは警戒されても仕方ないわと手で顔を覆いながら納得した

 

「あの、ごめん、私もきちんと確認してないのに睨み付けるような事をして」

 

「いえいえ、宮永照さんが妹さんを大切になさってるのですから当然の反応ですよ」

 

「・・・それと喋る時は普段通りで構わない、その方が私も咲も楽だから」

 

「そう?なら気兼ねなく照って呼んでもいいかしら?」

 

照は先ほどの謝罪を行い、久も特に気にしている様子もなく、むしろ咲に対しての申し訳なさの方が頭の中を占めていた

 

「それと宮永咲さん」

 

「ひゃ、ひゃい!?」

 

そんな三年生同士のやり取りの途中で突然久に話を振られた咲は思わず変な声で返事をしてしまい、京太郎は思わず吹き出し、照と久は可愛らしいなとのほほんとしながら久は咳ばらいをして咲と向かい合った

 

「ウチの和があなたに対して失礼なことを言って本当に申し訳ないと思うわ、清澄の部長としてあなたに謝らせてちょうだい」

 

そういって久は咲に対して頭を下げ、咲は久の謝罪にただ慌てるだけだった

 

「い、いえいえ、その、原村さんの意見は一般的には当たり前の事ですし、私も、そう言われた事も何度もありますし、気にしていませんから!!」

 

「そう?それを聞いてちょっと安心したわ」

 

咲の様子に久はすぐに頭を上げて笑みを浮かべ、京太郎は我らが部長の切り替えの早さに苦笑いを浮かべていた

 

「それでも和には私から厳しく言っておくわ・・・あの子もかなり頑固なところがあるから謝罪はしばらくは無理かもしれないけど・・・」

 

久は和の件については彼女の頑固な性格から自分の考えを曲げない限りは謝罪は無理だろうと感じ、申し訳なさそうにしていたが、咲は首を横に振った

 

「いえ、お互いに大会中ですからそこまで無理をなさらなくても」

 

確かに白糸台と清澄の間にちょっとした問題ができたが、だからといって大会中にその問題を解決しようとは咲は思わなかった、なぜならお互いに負けられない試合がこれからあるからだ、問題解決は大会が終わってからの方が十分に時間が取れるはずだ

 

すると、京太郎の携帯からメールの着信音がなり、内容を確認したところ、げ、っと言葉をこぼした

 

「部長、優希のやつから早く帰ってこいってメールが」

 

「あら、だいぶ長いしちゃったみたいね、それじゃあ照に宮永さん」

 

「あ、私も咲でいいです」

 

「そう?なら咲、私たちはそろそろ行くから、今度会うときはお互い敵同士の試合の時ね」

 

試合・敵同士・・・白糸台と清澄はお互いに反対のブロック同士である、それはつまり初出場校である清澄が決勝まで残る自信があるということだ

 

「そんな約束をしていいの?、県大会と違って全国は強者しかいないけど」

 

「そうね、確かに県大会程決勝に行くまでは楽ではないでしょうけど・・・

 

 

 

 

私、これでも結構強いから大丈夫よ」

 

そう自信満々に笑みを浮かべて答えた久に咲と照は、全国に出てくる強者たちと同じプレッシャーを感じ取った

 

そして歩き去っていく久と京太郎の姿を見送りながら、改めて竹井久という選手の記録を思い返していた

 

(あれが清澄高校の部長にして中堅を務め、県大会優勝の一端を担い、個人戦でも原村和を抑え二位という結果を残した)

 

(地獄待ちからの和了が多く、かと思えばそれを意識した相手を欺くかのような打ち回しをして和了する、清澄一の曲者)

 

 

 

 

清澄のトリックスター、竹井久・・・!!

 

_________

 

(いやー、まさかあんな所でチャンピオン姉妹に会うなんてね)

 

久は歩きながら体から流れる冷や汗の気持ち悪さを感じながら先ほどの咲と照の姿を思い出していた

 

(チャンピオンは当然として彼女もとんでもないわね)

 

チャンピオンから放たれたプレッシャーもとんでもないものだが、何もしていないのに自然と出ていた咲のプレッシャーを久は感じ取っており、それは姉の照さえも凌駕するものだった

 

(あれが決勝まで進んだら戦う相手、インハイチャンピオンの宮永照と)

 

 

 

 

白糸台の嶺上使い、宮永咲・・・・!!

 

_____

 

「「あ・・・」」

 

改めてお互いの評価をした咲と久であったが、ふとあることを思い出してしまったと思っていた

 

 

 

 

 

「『先輩』の事、聞くの忘れてた・・・」

 

「『あの子』の事を、話すの忘れてた」

 

 

自分たちにとって重要な人物についての話を、お互いにしたいと思いながらすっかり忘れてしまっていたのだった

 




『人物紹介』

清澄高校麻雀部部長・竹井久

清澄高校の麻雀部部長にして団体戦の中堅を担う、清澄の中心人物
原作同様、大会には三年の時に初めて参加したが、ここでは一年の時に『彼女』と出会い、交流を深め、そして地元の麻雀店に道場破りみたいな事をしながら腕を磨いていた。また『彼女』からの指導により地獄待ちを見せながら、相手の仕草から思考を読み取り、相手の裏を読み取るセンスを獲得する。その卓上を荒らす打ち方から県大会終了後には清澄のトリックスターとして名が知れ渡るようになった
なお、『彼女』からの話から宮永咲には興味を持っており、実は咲とも中学三年生の大会の時に対戦した経験があった


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宮永咲と園城寺怜

方言って意外と難しい・・・所々おかしいところがあるかもしれません


「二回戦の相手で一番警戒すべきは新道寺だな」

 

菫は今行われているインターハイ一回戦のうち、強豪・新道寺が出ている試合を見ながら呟き、他の面々も菫の意見と同じなのか画面から目を離さずに新道寺を警戒していた

 

「けど、エース区間である先鋒の選手はあまり強くはなさそうですね」

 

「新道寺は今年から強い選手を後ろに置くオーダーにしているからな、正直、先鋒は捨て駒扱いだろうな」

 

誠子は新道寺の先鋒の実力が強豪でありながらそれほどのものではないと不思議に思い尋ねると、すでに情報を集めていた菫が新道寺の先鋒である花田煌を捨て駒であると判断したが

 

「咲はこの先鋒をどう思う?」

 

咲が菫の発言に考える仕草をしながら花田煌の牌譜を見直していたので、何か気になることでもあるのかと照は咲に尋ねたのだった

 

「えっと、この花田さんなんですけど、確かに今までの牌譜から強い打ち手ではないかもしれません・・・ただ」

 

「ただ?」

 

「・・・すごく『上手い』打ち手だと思うんです」

 

「ふむ?」

 

咲にそう言われて菫は改めて煌の牌譜を見直すと、総合的な点数は+の点数は少なく甘い部分も見られる、正直咲の言い分はイマイチピンと来なかった

 

「照、お前は咲の言い分をどう思う?」

 

「どうだろう、私はそうは思わないけど・・・でも、相手のセンスを見抜くのは咲の方が上だからね」

 

菫は姉の照にも確認をとったが、照は相手の本質を見抜くことは得意であるが、麻雀のセンスを見抜く力はどちらかというと咲の方が上である、なので照は咲の鋭いセンサーにこの花田煌が反応したとしか言えず、菫もそうかと納得した

 

「まあテルーなら誰が相手でも関係ないけどねー」

 

「それでも全国は何かあるかわからないから油断は禁物だよ、それと淡はそろそろ咲の膝から離れた方がいいと思う」

 

これまで咲の膝枕を堪能していた淡は自信満々に照なら大丈夫だというも、全国の怖さを知っている照は油断大敵としながら、咲の膝枕を浅慮している淡を睨み付け、淡はそのにらみから慌てて離れるのだった、それを見た照はチャンスと思い

 

「咲、お姉ちゃんにも・・・」

 

「あ、弘世部長」

 

「どうした?」

 

「ちょ、ちょっとお手洗いに行ってもいいですか」

 

「ああ、行ってこい」

 

咲の膝枕を堪能しようとした照であったが、咲がお手洗いを申し出て、新道寺の牌譜をジーっと見ていた菫は目を離さないままそれを許可し、咲はお手洗いのため部屋から出ていった・・・・なお、照は咲にスルーされたことがショックだったのか膝を抱えて泣き出したのだ

 

・・・咲が出て少し経った後、ふと菫はあるミスに気付いた

 

「・・・・スマナイ、さっき部屋から出ていったのは誰だ?」

 

「え?咲が出ていき・・・ました、けど」

 

菫の問いに誠子は答えながらふとあることを思い出して顔を青くさせた

 

「・・・その時、咲は誰かと一緒だったか?」

 

「・・・誰もついて行っていません」

 

「・・・・あ」

 

「?」

 

菫の顔がだんだんと怖い顔になり、尭深も淡も事の重大さに気づいたのだ・・・照以外は

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

咲が極度の方向音痴であることを

 

「「「「あああああああああああああ!!!!!!!?????」」」」

 

この日この瞬間、白糸台の控室では女子高生が上げてはいけないような大きな声を出してしまうのだった

 

________

 

「・・・ここ、どこ?」

 

そしてそんな騒ぎの中心人物である咲は・・・当然のごとく迷子になっていた

お手洗いは何とかなったものの、自分の居場所や白糸台の控室がどこにあるかわからずにふらふらとさ迷うのだった・・・それが余計迷子の原因になっているのだが

 

「うう、お姉ちゃん、淡ちゃん、弘世部長・・・」

 

何処かでデジャブを感じる咲の泣き言に残念ながら今回は誰も答えてくれる人はいなかった、そして咲が曲がり角を曲がった瞬間・・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・一人の制服を着ている女子高校生が廊下で倒れていたのだった

 

「ええええ!!??だ、だだ、大丈夫ですか!?」

 

咲は思わず驚きの声を上げながらその女子生徒のもとに駆け寄り抱き上げると、女子生徒は顔色が悪く、咲は何か病気で体調が急変したのではと、心配したが

 

「・・・・」(ボソボソ)

 

「え、な、なんですか!?」

 

女子生徒が何かぼそぼそと呟いたので咲は耳元を女子生徒の口に近づけると

 

 

 

「・・・ナイスリアクションや」

 

「・・・ハイ?」

 

・・・倒れた女子生徒は意外と余裕があったのだった

 

______

 

「ゴメンな、驚かせるつもりはなかったんやけど」

 

「は、はあ」

 

倒れていた少女・・・園城寺怜は何故か咲に膝枕をしてもらいながら先ほどの事を謝り、何故か膝枕をさせられている咲は曖昧な返事をするしかなかった

 

咲は怜の事は知っていた、今年から全国2位の千里山女子高校先鋒を務めるエース、そんな相手になぜ自分は膝枕をしているのだろうと思わずにはいられなかった

 

「そういえば咲ちゃんやっけ?」

 

「は、はい」

 

怜から話しかけられて咲は当然相手も自分の事を知っているのだろうと思わず身構えたが

 

 

 

 

 

 

「なかなかええフトモモしとるな」

 

「へ?」

 

「竜華程ではないけど、なかなか癖になるふとももや」

 

竜華とは、おそらく千里山の次鋒を務める清水谷竜華の事であろうと咲は考えていると、怜はそんな咲を見ながらじっくりと咲のフトモモを堪能していると、よくよく考えてみるとただのセクハラであることに気づき咲は顔を真っ赤にさせた

 

「い、いきなり何言い出すんですか!?」

 

「なんや?うちはホントの事を言っただけやで?」

 

セクハラ発言をした怜はなんでそんなに怒っとるん?といった顔を浮かべ、咲は今すぐにでも立ち上がりたいたかったが、先ほどの怜が倒れた姿を見たためにできずにいた

 

「なんや、怒っとるのに止めんのやな」

 

「・・・・園城寺さんは倒れたばっかりなんですからそんな事できませんよ」

 

「・・・そっか、咲ちゃんは優しい子なんやな」

 

優しい子発言に咲は照れて顔を赤くし、怜は何この子めっちゃ可愛いわーと言いながら頬をつつくのだった

 

「そういえば園城寺さんはどうして倒れてたんですか?」

 

ある程度落ち着いてふと咲は先ほど怜が倒れた原因が気になったので思わず尋ねたのだ

 

「実は昨日遅くまで後輩と麻雀の特訓をしとってな、朝からちょっとふらふらしてたら躓いて、そこに咲ちゃんが来たわけや」

 

「・・・そんなになるまで特訓ですか?」

 

麻雀の特訓をすることなどこの場に選手として来ているものなら当然の事だろう、だが怜のよう見るからに体の弱そうな選手が試合前に体を壊しそうな事をするべきではないとは思ったが・・・

 

「これでも昔と比べればだいぶマシになったものやけどな・・・それにな

 

 

 

 

・・・竜華とセーラ、皆と一緒に戦う高校最後の大会や。優勝するためなら多少の無茶もするべきや」

 

そうだ、園城寺怜は三年生、これが高校最後のインターハイなのだ、だからこそこれまで一緒に戦ってきた仲間たちと最後に優勝という栄光を掴みたい、そのためなら病弱だからと、そんな事を理由に手を抜けるはずがなかったのだ・・・それほどインターハイ優勝とは三年生にとっては下の学年とは比べ物にならない思いがあることを咲は感じ取った

 

だが怜の思いは、咲にも通ずるものがあった

 

「・・・それでも、試合前に倒れたりでもしたらそれこそ今までの苦労が水の泡ですよ、それに

 

 

 

 

 

 

 

優勝するのは白糸台です、園城寺さんたちがどんなに強い思いをもってしても、私たちは全力であなたたちに勝ちます」

 

その挑発ともとれる発言に怜はへぇっと笑みを浮かべた・・・咲にも負けられない理由が、姉との最後の大会と県大会で自分にエールを送ってくれた真佑子との約束があるのだ、例え相手が三年生だから、最後の大会だからといって今の咲には手を抜くという意思はまるでなかった

 

(憩ちゃんから聞いてた子とはずいぶん雰囲気が違うけど・・・これはこれでなかなかええ子やな)

 

ウチに来てほしかったなーそしたら竜華と交互で膝枕をしてもらえたのにと怜は思っていたが、この咲も怜にとっては好ましく思えた

 

そして怜は頭を起こして咲と向き合い、咲は強い眼差しを怜に向け、怜もその儚い雰囲気から想像できない燃えるような意思を持つ目で咲を見ていた

 

「・・・今年の千里山は歴代最強やで王者」

 

「残念ですが、私とお姉ちゃん、そして淡ちゃんたちがいる白糸台も歴代最強です」

 

お互いに威圧感を出し合う二人に場は重苦しい雰囲気に包まれたが、次の瞬間にお互いにフっと笑みを浮かべた瞬間、重い雰囲気が嘘のように消え去ったのだ

 

「どちらの言い分が正しいか準決勝か決勝で証明できたらええな」

 

「私達はともかくそちらは準決勝まで残れますか?」

 

「愚問やな、当たり前に決まっとるやろ」

 

まるで親しい者同士の会話であるが、咲と怜が出会ったのは今日が初めてである。なのに何がこの雰囲気を作り出しているのか・・・それはお互いに負けられない理由があり、お互いに相手の気持ちを共感でき、認め合うことができたからだ

 

「ほな、咲ちゃんのお迎えが来たみたいやからウチはそろそろ行くわ」

 

「え?」

 

「今度は準決勝で会おうな」

 

怜はそういって咲のもとから離れるように歩いた瞬間に、まるで入れ替わるように尭深が姿を現して、尭深は怜の姿に一瞬驚いた後に咲に駆け寄るのだった

 

「咲ちゃんようやく見つけた、皆咲ちゃんの事を探してたんだよ」

 

「す、すみません渋谷先輩」

 

咲は自分が迷子になっていた事を思い出し、心配させてしまった尭深に申し訳なさそうにしながら、怜の後ろ姿を見るのだった

 

「あの人・・・千里山の園城寺さんだけど、何かあったの?」

 

「・・・いえ、少しお話をしていただけです」

 

咲はそう答えながら怜の方をじっと見つめ、そしてあることが気になったのだ

 

 

 

(・・・どうして園城寺さんは渋谷先輩が来たことに気づいたのだろう?)

 

先ほどまで咲と怜が居た場所からは尭深がこちらに来ている姿を見ることができない、そして尭深は能力を発動するとき以外はそれほど気配を感じない選手でもある、これが照や淡なら咲も来ている気配を感じることができるのだが尭深の場合では姿が見えるまでその存在に気づかなかったのだ

 

・・・それなのにまるで尭深が来たところでも見たかのような怜の反応に咲は不思議でたまらなかったのだ

 

_______

 

「園城寺せんぱーい」

 

「なんや憩ちゃん、探しに来てくれたん?」

 

「来てくれたん?やないですよー、昨日は遅くまで特訓してたんですから、無理は禁物です」

 

「・・・提案してきたのは憩ちゃんやん」

 

「それはそれ、これはこれですぅ、清水谷先輩が鬼の形相で探してましたよ」

 

「そっか、後で竜華には謝っとかんとな」

 

「そうですよ、それに今はゆっくり休んで今晩も特訓の続きをしますよ」

 

「千里山の白衣の天使が恐ろしいことを言っとるなー、後輩にやられるわー」

 

「もー大げさに騒がんといてください、先輩はどこかの主人公みたいに倒れれば倒れる程強くなっとるんですから次倒れたら100巡先まで見えるかもしれませんよ」

 

「笑顔でウチが倒れるまで特訓する気やでこの子!?白衣の天使やない白衣の堕天使や!?」

 

「今更何言っとるんですか」

 

「認めよった!?」

 

「・・・そーいえばどうでした咲ちゃん?」

 

「ん?ああ、ええ子やったな、それにええフトモモしとったわ」

 

「園城寺先輩らしい感想ですね」

 

「・・・それと、感じたものは憩ちゃんよりも上やな」

 

「そうですか、まあ才能に関してはお姉さんの照さんよりも上ですしね」

 

「淡々としとるなー」

 

「事実ですから・・・それに相手が強ければ強いほどウチは燃えますからね」

 

「おー珍しく燃えとるなー」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だから園城寺先輩も照さん相手に負けないでくださいね、最近はウチに勝ってるんですから」

 

「と言っても二、三回ぐらいしか勝ててないけどな、けどま任せとき後輩」

 




人物紹介

『千里山女子高校三年・園城寺怜』
今年から団体戦の先鋒を務める千里山のエース
昔から病弱ではあったが、ここでは憩が入学したことによる、一年間の憩の健康管理により多少はマシになっている・・・本当に多少だが
一年前に倒れてから一巡先が見えるようになり、また憩との(鬼のような)特訓により、未来視の幅を広げることができるようになった、ただしそれ相当の体力の消耗は付きまとってしまう
竜華の膝枕が最高であるが咲に膝枕をしてもらってから、咲の膝枕がクセになってしまった、その事に幼馴染の竜華はショックを受けていることに本人はまだ知らない

千里山・団体戦メンバー

先鋒・園城寺怜(三年)

次鋒・清水谷竜華(三年)

中堅・江口セーラ(三年)

副将・二条泉(一年)

大将・荒川憩(二年)


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宮永姉妹と姉帯豊音

宮永姉妹と淡が好きだけど、一番好きな高校は宮守だったりする


本日の全国大会一回戦の観戦が終わり、宮永咲と照は寮に住む菫たちと別れて帰路についていた(さすがに学校から家までの道はわかっている・・・あくまで学校に戻ってからだが

 

そんな中照の携帯に両親からのメールが届き今晩は遅くなるから晩御飯は自分たちの分はいらないという内容だった

 

そこで照は久しぶりに二人で外のお店で食べに行こうと咲に提案し、咲もせっかくだからそうしようと近くのファミレスによるのだった

 

姉妹仲良く何を食べようかとお互いにメニューを見合い、そして注文したのだが

 

咲と照の隣の席に背がものすごく高い・・・体型からして女性が、咲と照を食い入るように見ていたことに気づいたのだ

 

((・・・見られてる、超見られてる))

 

最初は自分たちの勘違いだと思っていたのだが、ちらっと隣を見るとジーっと見ていることから勘違いではないことに気づき、咲と照は蛇ににらまれた蛙の如く固まるのだった

 

(・・・お姉ちゃん、知り合いじゃないの?)

 

(ううん、私にあんな大きなお友達はいない、咲じゃないの?)

 

(私は東京に来てそんなに立ってないからそんな知り合いできないよ・・・それに淡ちゃん以外の学校の友達も少ないし)

 

(・・・それを言うなら私もだよ)

 

お互いに自分の友達の少なさに気分を沈めながら、隣の女性がいったい誰なのか気が気でなかった

 

・・・まあ普通に考えれば咲と照は麻雀界では有名になりつつある二人なのだからただの二人のファンの可能性が高いが・・・自己評価が意外と低い二人と相手のまるで蛇のような赤い目の影響でその考えには至らなかったのだ

 

すると長身の女性はゆっくりと立ち上がって二人に向き合い、咲はそのあまりの高さに怯え、照は震えながらも咲を守るように構えた

 

「あのー、宮永照さんと宮永咲さんですよね」

 

「そ、そうだけど、私たちに何の用?」

 

照は震えた声で尋ねると、女性はニヤリと笑みを浮かべて懐から何かを取り出すしぐさをし、照はより一層警戒したが

 

 

 

 

 

 

 

 

「ファンです!!よかったらサインください!!」

 

「「・・・・・え?」」

 

取り出された色紙に照と咲は思わずポカンとし、長身の女性は二人の反応に首を傾げるのだった

 

_____

 

「え?姉帯さんって最近人と打ち始めたんですか?」

 

「そーだよー、今まではテレビで見て勉強してただけで、友達と打つようになったのはここ一年かなー。あ、それと私の事は豊音でいいよー?」

 

「それで団体戦の大将を任されたんだから豊音には才能があったんだね」

 

「えへへチャンピオンにそう言われるとちょー嬉しいよー」

 

長身の女性・・・岩手県団体戦代表の宮守女子高校の大将を務めている姉帯豊音からサインをお願いされた照と咲は最初は戸惑いながらも豊音の人懐っこい雰囲気からすっかりなじみ、サインを書いた後お互いについて話を盛り上げていた

 

なお、なぜ豊音が東京のファミレスに居るのかというとチームメイトで夕食を食べに行くつもりが一人はなかなか部屋から出てこず、二人はその人を無理やり引っ張りだそうしており、一人は来る前に会場に忘れ物をしたのを思い出して取りに行き、そして豊音は一番目立つからとファミレスでチームメイトが来るのをまっていたのだ

 

「宮永さんたちはどうしてファミレスに?」

 

「私と咲は両親の帰りが遅いから久しぶりに外食しようって私が提案したんだ」

 

「そーなんだ、姉妹で外食なんてちょー仲良しなんだー」

 

姉妹仲の良さに豊音が羨ましそうに語り、照はそうだろそうだろっと自慢げに胸を張るのだった

 

「私は一人っ子だから宮永さんたちを見てるとちょー羨ましいよー」

 

「咲は世界で唯一の私の妹だからあげないよ」

 

「お姉ちゃん!?」

 

「あはは~咲ちゃんが妹だったら私もちょー嬉しいよー」

 

「豊音さん!?それお姉ちゃんには火に油を注ぐ行為ですから!?」

 

天然二人に若干振り回されつつある咲は二人の会話にツッコミを入れつつもふとあることを思った

 

・・・白糸台と宮守、反対のブロック同士とはいえもしかしたら対戦するかもしれない可能性があるのだ、そんな相手とこんなに仲良く会話を楽しんでいいものかと考えてしまったのだ

 

「?どうした咲?」

 

そんな咲の戸惑いにも似た雰囲気を姉の照は敏感に感じ取り尋ねると、咲は戸惑いながら自分の先ほどの考えを照と豊音に尋ねると

 

「私は別に構わないと思うよ?対戦相手だからといって試合外でも気にするのもおかしい話だし、咲だって憩と仲が良いでしょ?」

 

それにプロだと違うチームの選手同士でも仲がいいって話もよく聞くし、と照は付け加えて答えた。確かに咲も団体戦で戦う予定の憩や今日出会った怜とも仲が良い関係にはなったが、それでも二人には対抗心という物が感じ取れた、しかし豊音にはそのような対抗心というものが感じられなかったのだ、なので咲は豊音はこんなに仲良くしてると対戦した時には戦いにくいのではと豊音に尋ねたが

 

「私もー照さんと同じかなー」

 

豊音も照と同じ考えなのか同意した

 

「私の場合はみんなと全国大会っていうお祭りにでて楽しむのが目的だからー、全国で出会った人たちと仲良くなるのも私もちょー嬉しいかなー?」

 

そうニコニコと笑う豊音の様子にもし対戦することになっても問題なく、むしろ楽しんで試合を行うであろう雰囲気に当てられた咲は自分の考え過ぎかなっと思い、そうですかとやっと固い雰囲気を解くのだった

 

 

 

 

 

 

「だからみんなとのお祭りを一日でも長く楽しむために誰が相手でも絶対に負けられないよー」

 

そうニコニコと答えた豊音だが、咲と照はその豊音の言葉の裏に隠された意味に気づき、そして顔とは正反対の、おそらく本人は自覚していないであろう負けられないという強い気配をビリっと感じ取ったのだ

 

・・・咲と照は知らないが、豊音にとって『友達』とは自分のこれまでの生涯の中でできた掛け替えのない宝物なのだ、その友達と最初で最後の全国大会(大きなお祭り)を一日でも長く楽しむためにも絶対に負けられない強い気持ちがあったのだ

 

・・・最も本人が口にした全国で出会った人たちと仲良くしたいという気持ちは全く嘘ではないのだが

 

「豊音ー」

 

「あ、みんなーこっちだよー」

 

豊音は思わず警戒してしまった二人に気づくことなく自分を呼ぶ声が聞こえ、豊音は入口の方を見るとそこには豊音以外の宮守の選手である小瀬川白望、エイスリン・ウィッシュアート、鹿倉胡桃、臼沢塞がおり、豊音のもとに駆け寄ると、咲と照の姿を見た瞬間驚きの顔を浮かべるのだった

 

「ってちゃちゃちゃチャンピオン!?なんでチャンピオンがこんなところに居るわけ!?」

 

「えへへ偶然お隣さんになったのー」

 

「偶然って!?」

 

宮守の部長である塞は豊音になんで照たちが居るのかを問い詰めたが、豊音はサインもらったよーとチームメイトに見せながらのほほんとした雰囲気を出しており、驚いていた塞は思わず脱力するのだった

 

_______

 

「なるほどそんなことがあったんですね、あの、せっかくの食事にうちの部員がご迷惑ではなかったでしょうか?」

 

「ぜんぜん、むしろ豊音とお話しできて楽しかった」

 

一通り咲たちから話を聞いた塞は二人に迷惑ではなかったのかと心配したが、咲も照も気にしていないため、ホッと胸を撫でおろすのだった

 

「シロ遅かったねー」

 

「・・・ダル」

 

「コラ!!シロがめんどくさがってたから遅れたんだよ!!」

 

(ブンブン!!)

 

「エイスリン、だるいから叩かないで・・・けど、豊音、待たせてごめん」

 

「んーん、全然気にしてないよー」

 

そんな部長の気疲れも気にせずに豊音たちは仲良く会話をしており、塞も苦笑いを浮かべているかほほえましく見ており、咲は改めて宮守というチームは仲が良いなと実感した

 

すると豊音はチームメイトと一通り会話をした後に咲と照のもとに行くと少しモジモジしていた

 

「あ、あの照さんと咲さん」

 

「どうしたの?」

 

「よ、よかったら二人とも私たちと一緒にご飯食べよー」

 

そういえばご飯をまだ食べていないことに気づいた咲はどうしようかと思ったが、照は真顔のまま

 

「?なんで?」

 

その照の答えに豊音は拒否されたと思いガーンっとショックを受けて涙目になり、白望は豊音の頭を撫でて胡桃とエイスリンは豊音を泣かせるなーと怒った顔を浮かべたが

 

 

 

 

 

 

 

「もう豊音とは友達なんだから一緒に食べるのは当たり前でしょ?」

 

その照の言葉に豊音たちはキョトンとして咲は照の言葉足らずに呆れてため息をつきながらも、照と同じ気持ちだった

 

「豊音さん、私もお姉ちゃんももっと豊音さんたちの事を知りたいので・・・一緒にご飯を食べませんか」

 

まさか咲たちからお誘いが来るとは思っても居なかった豊音は驚いた顔を浮かべた後に涙をこぼした・・・ただしその涙は新しい『友達』ができた事への嬉し涙だった

 

 

 

 

 

 

 

 

「お友達が増えてちょー嬉しいよー」

 

その晩、咲と照は今日で来た新しい友人たちと共に楽しい夕食の時間を過ごすのだった

 



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番外編・先輩

長野県代表、清澄高校が全国大会のために借りているホテルの一室で清澄高校のメンバーは全国二連覇中の、そして三連覇が確実とされていた白糸台高校の二回戦の試合を観戦していた

 

「こ、この金髪っ娘めちゃくちゃ強いじぇ」

 

「ですが、偶々運がよかっただけの場面も見られます。部長なら何とかしてくれるでしょう」

 

「無茶言うわね和は、ま、確かにただでやられるつもりはないけどね」

 

中堅戦の試合を見て他校を圧倒している淡の姿に優希は恐怖を、和は睨み付けるような目を、久は笑みを浮かべながらそれぞれの感想を口にしていた

 

「副部長はこの大星って娘をどー見とるんじゃ?」

 

唯一の二年生である染岡まこはこの清澄高校麻雀部の副部長に淡について尋ねた、というのもこの副部長は対戦相手の力量を見極める能力が高く、また清澄高校内で一番強い存在でもある、なのでそんな副部長から見て淡はどれほどのものかと尋ねたのだが・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

「この子、ちょー可愛い!!」

 

試合とは全く関係ないコメントにまこはおろか副部長の発言を待っていた和も優希もずっこけるのだった

 

「デュフフ♪金髪巨乳にあのあどけない顔!!やばいいろいろと妄想が広がるわー!!今度の新刊はあの子をテーマにして書こ!!あー何が良いかなー生意気そうな顔だから先輩にあんなことやこんな事をされるとか!!それとも同級生にあーいうことやこーいうことをされるとか!!あ、興奮しすぎて鼻血がでそ」

 

「誰もあんたの変態的な考えを言えって言ってないでしょ、緑(みどり)!!」

 

三年間付き合ってすっかり慣れた久はどこからか取り出したハリセンで副部長・・・緑と呼ばれた女性を叩き、緑は額をテーブルに打ち付けた後、額を抑えながら痛みで悶えるのだった

 

「久!?私のキューティクルな顔に何てことするの!?」

 

「何がキューティクルな顔よ!?どーせネットでしかモテないくせに!?」

 

「ね、ねねねネットだけじゃねーし!?現実でもモテてるし!?」

 

「嘘言いなさい!!高校三年間、友達すら私以外ろくにできなかったでしょ!?」

 

「お前は言ってはならないことを言ったなー!?」

 

お互いに口喧嘩から始まり、次第にエスカレートしていくなか和たちは止めることなく観戦に戻るのだった・・・ある意味これは清澄でのいつもの光景であるし、なんだかんだ言って二人とも仲が良いのは和たちもよく知っていたからだ

 

久とキャットファイトを続けている少女・結城緑(ユウキ ミドリ)こそ清澄高校麻雀部副部長であり、団体戦の大将を務め、

 

 

 

 

 

 

そして白糸台団体戦大将を任されている宮永咲の中学の頃の先輩でもあった

 

________

 

「まーこの子はチャンピオンや咲と比べたらまだまだ穴があるから同卓する人によっては久なら何とかなるかもね」

 

「・・・てことは一対一ならまず勝てないってわけね」

 

「そーいうこと、私は相手やチームメイトに対して過大評価も過小評価もしない主義だからね。でも久だから勝てる可能性が十分あるって言えるわけ」

 

キャットファイトが終わり(といっても緑だけボロボロになっただけだが)緑は淡の実力を久より上と答えつつも穴があるとハッキリと言いきった

 

「けど対面した時は物凄く恐ろしかったじょ、ぶちょーでも勝てるかどうか・・・」

 

「優希、あなたにしては珍しく弱気な発言だね、だけど大丈夫、勝負に『絶対』はない」

 

優希は淡と対面したことがあるのでその恐ろしさが脳裏にこびりついているのか弱気な発言をしているが、緑はそんな後輩を元気づけるように言い切ったのだ・・・勝負に『絶対』はないと

 

「麻雀ってのはどうしても運が絡む競技でしょ?どんなトッププロでも負ける可能性は存在する、それでも絶対負けると思うは麻雀の腕じゃない、気持ちがすでに負けているからだよ。気持ちで負けてちゃ勝てる可能性もゼロになる、ま、その点久は問題ないけどね」

 

そういって優希の頭にポンっと手を乗せて落ち着かせるように撫でるのだった

 

「だから優希も絶対に負けるなんて思っちゃいけない、むしろ相手が誰でも絶対に勝つって思わないとね」

 

「・・・そうだじぇ、弱気になるなんてアタシらしくなかったじぇ」

 

「そーそー、相手が例えチャンピオンでも絶対に勝つって思わなくちゃ」

 

「うおーーーーーー!!!!やってやるじぇーー!!」

 

緑の励ましに優希は気合を入れなおして雄たけびを上げ、周りに迷惑ですよと和に注意されながら、緑は冷静な頭でもし白糸台と当たった時のシチュエーションを考えるのだった

 

(まー気持ちで負けてなくてもそれだけでチャンピオンに勝てる程甘くはないだろうけどね)

 

優希にはああいったものの、優希の相手であるチャンピオン・・・いや白糸台と清澄では実力差がハッキリしていた。もちろん清澄のメンバーが弱いわけではないのだが、相手の方が一枚も二枚も上手、そして相手が白糸台の一軍であっても負けるとは思えない久の相手がよりにもよって『牌に愛された子』クラスの相手である、ハッキリ言ってしまえば清澄が白糸台に勝てる確率は絶望的であると緑は冷静に分析していた。

 

(ていうかチャンピオンや咲だけでも厄介なのにあんなのが中堅にいるわけ!?あんなチームにタイマンで勝てる可能性があるのは今年の千里山か臨海ぐらいでしょ!?)

 

白糸台のチートすぎるメンバーに思わず悪態をつく緑であったが、ふと画面を見ると中堅戦が終わり、そして淡がかつての後輩とハイタッチをする姿を見た瞬間、思わず頬を緩めるのだった

 

(けどま、他校の出方によっては確率は十分に変化するし、いつだって勝負に勝つのは麻雀を愛し、麻雀を楽しんでいるものだからね

 

 

 

 

 

・・・そうでしょ?咲)

 

_______

 

緑の咲が出会ったのは全くの偶然だった

 

当時部員数が自分しか所属しておらず、ネット仲間を何人か誘って打つのが日課であった緑はその日、麻雀部の部室に忘れ物を取りに来た時に、麻雀牌を綺麗に手入れをしていた宮永咲と出会ったのだ

 

咲は緑が現れた瞬間に慌てて逃げ出してしまったが、緑は予備でおいていたホコリが被った麻雀牌も綺麗に手入れをしている事に気づき咲に興味を持ったのだ

 

緑は咲の制服から一年生であることを知り、一年の教室を所構わず探し、そしてついに咲を見つけ出したのだ

 

緑は半ば強引な形で麻雀を誘い、そしてネット仲間の二人と咲を加えて麻雀を行った

 

結果は緑の圧勝・・・しかし緑は咲の闘牌から違和感を感じ、改めて結果を調べなおすと驚きの結果が乗っていたのだ

 

全局±0、緑はこの結果から咲がわざとそうしたことを知り、咲と二人っきりになった後、咲にこの事を尋ねるのだった

 

咲は怒られると思い、小さな声でお年玉をかけた家族麻雀の勝ちすぎたら両親が困った顔をし、かといって負けすぎてお年玉を減らされるのが嫌でそうしていた、そのことを知った家族はお互いに気分を悪くしてしまうため家族麻雀は禁止となったと咲は答えたのだ

 

緑はまさか家族のイベントでそんな神がかり的な技術を手に入れた事に驚きを隠せずにいたが同時にもったいないと思い咲にこう伝えた

 

・・・そりゃさ、誰だって負けるのは悔しいし勝つ方が嬉しいよ、でもこれじゃあ、あなたが楽しくないじゃん

 

その後緑はいつものメンバーを連れてきてこの前の咲との対局でのネタ晴らしを行った後にもう一度打とうと咲とみんなに提案した・・・当然、今回は±0はなしと、やったり負けたりしたらこの可愛らしい猫耳メイドで残りの時間を過ごすようにと伝えて

 

咲は戸惑い断ろうとしたが、周りのメンバーは可愛らしい後輩に猫耳メイド服を着させようと気合が入り断りづらくなったのだ

 

・・・そして試合の結果、咲が圧倒したままオーラスまで進むのだった

 

咲は周りが不機嫌になっていないだろうかびくびくとしていたが、そうはなっていなかった

 

・・・むしろ咲に圧倒されながらも全員楽しそうな顔を浮かべていたのだ、それは誰もが咲の実力に魅力されていたからだ

 

結果は咲の圧勝、そして緑は咲に尋ねたのだ

 

・・・明日もまた、私たちと打たない?

 

それから咲は緑に誘われて麻雀部に入りこみ、緑が引っ張って連れてきた三年生や二年生、はたまた教員や他校の生徒と咲は打つようになり、そして咲は麻雀の熱を取り戻し、そしてどんどん麻雀が好きになった

 

そんな月日が流れ、そしていつの間にか咲と緑はお互いに笑顔を浮かべながら隣で歩くようになっていた

 

_____

 

(あれから三年か・・・一時はどうなるかと思ったけど、いい『縁』を結べたんだね)

 

咲との楽しかった中学での思い出を振り返りながら、同時に寂しい気持ちになっていた

 

・・・咲は他校との交流や後輩たちができてからも家族以外での一番の縁が強いのは自分だと思っていた、だけど今の咲には自分とは違う強い縁で結ばれた娘がいる、それが緑にとってとても寂しかったのだ

 

(これが子離れできない親の気持ちってやつなのかな)

 

そう静かにため息をつきながら、その表情は柔らかいものだった

 

(けど、良い顔をするようになった、良い笑顔を浮かべるようになった、それだけで私は嬉しいよだから・・・)

 

 

 

 

 

 

 

・・・最高の舞台で最高の試合で最高に楽しい試合をしよう、咲

 

緑は目をまるで炎のように燃やしながらそう強い決意を抱くのだった

 




人物紹介

『清澄高校三年・麻雀部副部長』結城緑(見た目・FGOの刑部姫)
本作のオリジナルキャラで咲のいない清澄高校の大将を務めている。
中学時代は咲と同じ学校へ通っており、偶然出会った咲に興味を持ち、その後仲の良い先輩後輩関係となった。
人のセンスを伸ばす才能があり、咲のインターミドル二連覇の偉業も緑の指導がなければなしえなかったと当時の照は語るほどだった、そのため清澄メンバーも各々それなりにレベルアップしている。ただ和への指導に関しては緑自身はしまったと思う部分があった。
公式戦には今まで参加はせず、今年が初参加で初の全国でもある、なお個人戦は不参加。
咲が中学時代牌を置いたことを誰よりも気にかけており、咲が再び麻雀を始めたと本人から直接話を聞いた時には涙を浮かべて喜んでいた。
趣味はネットアイドル、休日などではネットアイドルとして活躍しており、人気もなかなか、ただし現実ではネット外での友達が久しかいないというボッチである。
名前の由来は名前と苗字から『多くの人と良い縁に結ばれる子』に育ってほしいという願いがあり、緑自身もこの名を気に入っている・・・ただしボッチである


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宮永姉妹と花田煌

「明後日行われる準決勝まではBブロックを見るなりチームメイトと打つなり各々自由にしてもらって構わない、だが準決勝では万全の体勢で来るように、以上、解散」

 

Aブロック二回戦が無事終了し、白糸台は一位通過で準決勝に進み、菫は団体戦メンバーに準決勝の明後日までは各々好きに過ごしてよいと伝えた。周りからは余裕の一位通過と思われているが実際にはそうではなく、特に副将の尭深と大将の咲は少々疲れが見られたため、自由な時間を作ることで英気を養ってもらうことが狙いなのだ

 

そして菫の号令で咲たちと部員たちはそれぞれ散り散りとなり、咲と照も帰宅の準備をしていた

 

「それじゃあ咲、私たちも帰ろうか」

 

「・・・うん」

 

「大丈夫?凄く眠たそうだけど」

 

咲の疲労具合に照は心配そうに咲の顔を覗き込むが、咲はすぐに笑みを作って大丈夫っと伝えた

 

咲がここまで疲労しているのは今日の二回戦の大将戦が原因だ。白糸台の一位通過がほぼ確定していたのだが、咲の対戦相手であった新道寺の大将の勢いが凄まじく、咲は次の準決勝に影響を与えかねないその勢いを抑え込むように打ったのだ。結果は咲の僅差の稼ぎ勝ちをしたが、その代償として咲はかなり疲労させられたのだ・・・最も本人は思わぬ強敵が現れた事で満足そうではあったが

 

そのため少しうつらうつらな咲に照は転ばないように手をぎゅっと握りながら歩き、少しボーっとしている咲に照は心配そうな顔をしながら少し考えた仕草をすると

 

「咲、明日はどうするつもり?」

 

「ん・・・特に、予定はない・・・かな?」

 

「そっか・・・それじゃあ明日なんだけど」

 

「?」

 

_______

 

・・・翌日

 

「綺麗な喫茶店だね」

 

「うん、前に菫と一緒に来たお店なんだけど、おしゃれで静かな所だったから咲とも一緒に行きたいなって思ってたんだ」

 

私服姿の照と咲が来たのは静かな雰囲気の喫茶店で、咲は初めて来るお店にきょろきょろしていると、ふと他のお客さんのテーブルに置かれていた美味しそうなケーキが目に映った

 

「ケーキも美味しそうだね」

 

「・・・別にケーキじゃなくてお店の雰囲気がお気に入りだから」

 

「ホント?」

 

「・・・まあ、それもお気に入りの理由にはちょっと入ってるけど」

 

大人な姉を演じたかった照だったかケーキを見た瞬間によだれが出てしまい、すぐに顔を赤くしてそっぽを向き、咲は相変わらず姉は甘いものに目がないなと思いながら席に座るのだった

 

「それにしても珍しいね、お姉ちゃんがお出かけしよだなんて」

 

「そう?」

 

「うん、基本は休みの日でも淡ちゃんと麻雀を打つか同じ部屋で本を読むかぐらいだったから」

 

照はそれほど外に出て遊ぶよりも家の中で静かに本を読むのが好きで、咲もそれに当てはまるために基本姉妹で休日を過ごす時は家の中で過ごすことが大半である、なので咲は照自らお出かけしようと誘ってくれたことが珍しいと思っていたのだ

 

「そういえばそうだね、でも家の中で過ごしたら咲は明日の準決勝の事ばかり考えるでしょ?」

 

「え?べ、別にそんなことないけど」

 

「嘘、机の上に阿知賀と千里山の資料が置きっぱなしになってた」

 

「う」

 

咲は照に図星を言い当てられ、照はそんな咲にため息を吐きながら注文した紅茶を口にするのだった

 

「確かに昨日の新道寺は強敵だったし明日は千里山も出てくる、阿知賀も決して油断できないチームなのもわかる。でも、いつまでも張り詰めた雰囲気でいたら大事な時に崩れてしまう、それだけインターハイは過酷な大会なの」

 

咲も中学の時はインターミドルに出場した経験があり、全国の厳しさも知っていた、しかしインターミドルとインターハイでは過酷さはけた違いであるし、団体戦という試合形式は咲も初めての経験なのだ。このまま張り詰めた空気のまま団体戦・個人戦を続けていけば咲はいずれ試合の時に崩れてしまう恐れがあると思ったのだ

 

「だから、大事な試合を控えてても少し落ち着くことを咲には知ってほしかったんだ」

 

それが照が咲を連れ出した理由、頑張りすぎる妹に対して三年間全国で戦い続けた姉としてしてやれる最善のサポートを行っているのだ、そして咲も照が珍しく誘ってくれた理由を知り、顔を綻ばしながら笑うのだった

 

「お姉ちゃん」

 

「ん?」

 

「ありがとう」

 

笑みを浮かべながら感謝の言葉を伝える咲に、照も笑みを浮かべながら返すのだった

 

_______

 

「・・・ふぅ」

 

照と一緒にケーキと紅茶を楽しんでいた咲だが、途中でお手洗いに行きたくなったため席を外し、そして今元の席に戻ろうとしたら、ふと外を見ると雨が降っていることに気づいたのだ

 

(あ、やっぱり降ってきたんだ)

 

咲は今日出かける前に天気予報を確認しており、今日は途中から雨が降ることは知っていたが、気分的には少し憂鬱な気持ちになっていた

 

(負けた試合当日や次の日とかに雨が降ると落ち込んでいる気分がさらに落ち込むんだよね)

 

咲も中学一年生の大会後のプロ相手の練習試合にボロ負けした日にも雨が降っており、その時は天気とのダブルパンチで余計に気分が落ち込んだ経験があるために大会中の雨は少し嫌いだったのだ

 

(そうそうあの時も目の前のこの人みたいに落ち込んで・・・・あれ?)

 

ふと咲は近くのテーブルに座っている人に目が行ってしまった・・・なぜならその人はまるでこの世の終わりであるかのような絶望感を纏いながらうつ伏せていたのだから

 

「あ、あの、大丈夫ですか?」

 

見覚えのある制服だったため思わず声をかけてしまったが、咲はすぐにしまったと反省してしまった・・・なぜならその制服は昨日対戦したばかりの高校の制服だったからだ

 

「うぇ?」

 

その人物の名は花田煌、昨日の白糸台の対戦相手であり・・・照がぼっこぼこにした相手であった

 

_____

 

「いやはや、まさかこんな所でお二人と出会うとは何たる偶然ですね」

 

煌は先ほどの暗い雰囲気が嘘のような明るい顔を浮かべており、咲は先ほどとの違いに戸惑っていた

 

「私も、昨日の対戦相手とこうして会うのは初めてかもしれない」

 

「宮永さん・・・は二人いるので照さんとお呼びしますね、昨日はボコボコにされましたが明日の準決勝では負けませんからね!!」

 

そう元気よく宣戦布告する煌であったが、咲は先ほどの姿を見ているためにどこか無理に笑っているのではと思ってしまい、その感情が顔に出てしまったのか咲の顔を見た煌は苦笑いを浮かべていた

 

「あの・・・すみません」

 

「いえいえ咲さんが謝る必要はありませんよ」

 

咲は思わず煌に対して失礼な目で見てしまったことに謝り、煌はそんな咲を気にしないでくださいっといいコーヒーを口にした

 

「さすがの私も照さんにあそこまでボコボコにされたら気分が落ち込みます、けど団体戦のメンバーである私が落ち込んだ雰囲気を出してたらチームの士気に影響を与えたらいけません、だからこうして一人で落ち込んで、反省してたんです・・・あ、もちろん監督やコーチには話は通しておりますけどね」

 

煌は昨日の試合では見せなかった静かな雰囲気に咲はもちろん試合中はずっと明るく振舞っていた姿を見ていた照も驚いた顔をしていた

 

「あの、今のご自身の立場は・・・辛くないですか?」

 

「ッ!?咲!?」

 

そんな煌に対して咲は思わず団体戦でのそのポジションが辛くないのかと尋ねてしまい、照は叱りつける様に声を荒げた・・・新道寺の一回戦の試合を見た時、目の前にいる花田煌は言わば『捨て駒』を任されている立場である、咲はそのチームのために常に格上ばかり居る卓に立たなければならない煌が辛い麻雀ばかり打って麻雀が嫌になるのではと思い尋ねてしまったが、それは案に煌の実力不足を指していることに聞こえるため、照は止めようとしたが

 

「・・・そうですね、正直言って捨て駒扱いは物凄く辛く感じてる

 

 

 

 

 

 

 

 

 

・・・なんってことはないですね!」

 

一瞬ショックを受けた顔を見せたのかと思えば、動じることなく明るい顔を浮かべていた。何よりも煌は自分の実力不足を認めるどころか捨て駒であることに誇りを感じている顔に驚きを隠せなかったのだ

 

「確かに私はエースとして活躍できる力はありません、ですが捨て駒として必要な力を持っていると、そしてその力はチームにとって必要な力だと部長や監督から聞きました」

 

誰だって捨て駒扱いは嫌であろう、それも実力が認められたのではなく、ただトバないから選ばれた。それを知れば誰だってやる気をなくし、最悪、麻雀部を退部する事も考えてしまう出来事に対しても、煌は全く熱意をなくさなかった、なぜなら

 

「嬉しいことです、チームから必要とされている、そんなすばらなことはありません」

 

チームの役に立てるのならそれ以上嬉しいことはないという他人には決して越えられない煌の精神の強さ。その強さがあるからこそ煌はチームメイトからも認められ、同じ部内の仲間たちからも好かれているのだ。そしてその強さを目のあたりにした照はだからこそ手ごわかったのだと気づいた・・・全国で戦える実力をもともと備わっていたわけではない、だが昨日の卓では一番手ごわかった、その理由は実力のあるなしではない決して諦めない心を持っていたから。

 

「あの、花田さんすみません、こんなことを聞いてしまって」

 

「いえいえ、実際団体戦メンバーに選ばれるだけの実力を持っていないのは事実ですから」

 

咲の謝罪に煌は気にしていませんよと隠し事なく明るく振舞っていたが咲の目を見た瞬間、ただ申し訳なく謝ったのではなく、花田煌を手ごわい相手を見る目をしていたのだ、そして

 

 

 

 

 

「いえ、あなたは決して弱くはありません・・・むしろ今は手ごわい相手だと思ってます」

 

その咲の言葉に煌は驚いた顔を浮かべていたが、照も同じように頷いていた

 

「花田さん、私も咲と同じ気持ち」

 

「で、ですが私はお二人が強敵と思われるような実力は・・・」

 

煌はポジティブではあるが自分の腕前に関しては自信がなく、とてもじゃないが二人から強敵と思われるほどではないと考えているが、照はそれを首を横に振って否定した

 

「そんなことはない、あなたは自分で思っている以上にセンスがある、それに何より

 

 

 

 

 

 

 

あなたは相手が誰であれ『諦める』ことをしない、そんな諦めない相手は決まって手ごわいことを私はよく知っている」

 

照はよく知っていた、実力のあるなしではない、諦めないその強い精神力を持っている相手がどれだけ手ごわいのかをこの三年間でよく知っていた、そして煌はその中でも一番手ごわい存在であると照と咲は認めたのだ・・・花田煌は『強敵』であると

 

「だけど、明日の試合は絶対に負けない、勝つのは私達白糸台なのは絶対に変わらない」

 

そう照がまっすぐな目で煌を見ながら『宣戦布告』をした、煌はこれまで対戦相手から『強敵』として見られたことは一度もなかった、捨て駒・なんで選ばれたのか分からない、そういった声を選手や心無い記者から言われたことは幾度かあった、しかし照はそうではなかった、自分を手ごわい敵としてくれる、『強敵』として見てくれる、それが何よりも嬉しかったのだ

 

「いいえ!勝つのは私達新道寺です、姫子たちは、いえ『私達』は全員手ごわいですからね!」

 

照の宣戦布告に対して煌はひるむことなく、むしろ満面の笑みで答えるのだった

 

______

 

それでは!!私は皆さんの元へ戻るとしまう!!また明日会いましょう!!と咲たちと一緒に店を出た煌はそう元気の良く手を振りながら咲たちと別れ、咲と照は煌の姿が見えなくなるまで見送るのだった

 

「・・・花田さん、明日は昨日以上に厄介な存在になるね」

 

「・・・うん」

 

「やっぱり、明日の試合も一筋縄にはいかないね」

 

「・・・うん」

 

「・・・咲?」

 

何処か上の空の咲に照は心配そうな顔を浮かべたが、咲はそれに気づかなかった、そして

 

 

 

 

 

 

 

「・・・もし花田さんが『あの時』いたら、私は牌を置かなかったのかな?」

 

そのポツリと呟いた言葉に照は驚きの顔を浮かべたと同時に、咲の昔の出来事を思い出した

 

・・・二年前の長野の中学県予選秋季大会、参加者『全員』が咲に勝つことを『諦め』誰もが咲に勝とうとしなかった大会、そして照がこれまで見た中で最低ともいえる卓を思い出したのだ

 

「咲、あのね・・・」

 

「わかってる、そんなもしもを考えたって過去はどうやったって変わらない」

 

あの出来事を咲は決して忘れはしないしできなかった、だけどそれがあったからこそ・・・

 

「それに今は淡ちゃんが居る、淡ちゃんが居たから私はまた牌を握れるようになったから・・・ごめんね?心配させるような事を言って」

 

咲は淡と出会えた、自分と同じ世代で全力で戦える相手と出会えた、確かにあの出来事は咲にとって辛い出来事だったかもしれない、だけどそれがあったからこそ、咲は淡と親友となり、幸せな生活を送れているのだ

 

「全く、咲はいつまでも心配をかけるんだから」

 

「あはは、ごめんね」

 

一瞬見せた暗い雰囲気がもう見られないことに照は安心したと同時に、ふと自分の手がうずうずしていることに気づいた、それはおそらく煌と出会ったからだろうか、照は今麻雀が打ちたくなったのだ

 

「・・・咲、今から打ちに行こう」

 

「え?」

 

「・・・花田さんと話してたら打ちたくなってきた」

 

「・・・実は私も」

 

その言葉に咲と照はお互いに顔を見合わせ、そしてプっと笑いだした・・・自分たちは休みの日でもとことん麻雀が好きであると

 

「せっかくだから淡ちゃんもよぼっか?」

 

「・・・ううん、呼ばなくていい」

 

「?なんで?」

 

「・・・せっかくの休みだから、今日は一日咲を独り占めしたいから」

 

「もう、お姉ちゃんったら」

 

そう仲良く手をつなぎながら近くの雀荘を探し始めた咲と照の顔には先ほどの煌の笑顔が映ったのか明るい笑顔を浮かべていた

 

 

 

 

・・・そして咲は照と一緒に入った雀荘で出会うことになった

 

・・・淡以外で初めてある、もう一人の宿敵(ライバル)となる存在に



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