二回死んだ俺は閻魔の部下になった (鬱ケロ)
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火曜の閻魔
誰かの独白


初めまして。鬱ケロです。
初投稿なので上手く書けてるかわかりませんが、読んでもらえると嬉しいです。
では、どうぞ。


  ーー俺は死んだ。

 十七歳の時だったよ。別にそこは良いんだ。いや、良くは無いんだろうけど。

 その後が酷かった。目を開く事ができたと思ったら、何故か化け物が周りにたくさんいたんだ。

 いや何言ってんのかわかんないと思うけど俺も良くわからん。でも何故かそうなってたんだよ。

 でも、見た目人っぽい奴が結構いたからまだよかったんだ。

 それで、その中で一番強そうな奴がさ、

 

  「貴様何者だ。この魔王の目の前に転移して来るとは、よほど死にたいらしいな」

 

 そう言ったんだよ。

 もうね、怖かった。凄い怖かった。雰囲気がもうヤバすぎて、恥とか全部捨てて命乞いをしたよ。

  それでさ、気付いたらここにいたこと話したら、周りの奴が凄い可哀想な奴を見るような目を向けてきたんだよ。

 中には近づいてきて、

 

「まだ若いんだしさ、良いことあるって。な?」

「大丈夫?どこか痛いところとか無い?」

「お腹空いてないか?飯食べようぜ。話はその後でも良いからさ」

 

  魔王って名乗った奴に関しては、

 

「こんな何も知らない子供を此処に送るとは、どれだけ神はふざけているのだ!!君、一緒に神を倒さないか!?」

 

 とか良くわかんないこと言ってきたんだよ。

 

  詳しく聞いてみるとなんでも、その世界には転生者っていうのが沢山いてそいつらと魔王の率いている魔王軍が日々戦っているらしい。

  でも魔王軍が倒したいのは傲慢な神で、人とは友好的でいたいんだとか。でも神が転生者に適当な事吹き込んで戦わせに来るからなかなか上手くいかないんだと。

  うん、どっちが神でどっちが悪魔だか分からなくなるわ。

  そんな事を教えてもらって、何もくれないし、話を聞かせもしない神に腹が立ったから魔王たちの手伝いをする事にした。

 

  最初は本当かどうか怪しかったけど、掲げてる目標が『人はひとりも殺さない』だったりして本当に一人も殺して無いし。(最初俺を脅したのは、そのまま逃げてくれる事を期待したそうだ)

  たまに死んだ奴も自分で勝手に自爆して死んでるだけだし。

  兵士たちは人間である俺にも魔法とか武器の使い方とか教えてくれたりしてさ。そんなこんなで一年くらいで皆と仲良くなってたよ。

  それで俺も頑張ってたら、いつの間にか魔王軍最強になってた。

  魔王の奴に模擬戦で勝った時の皆の喜びように涙が出てきたわ。

 

  そんなわけで楽しく日々を過ごしてたんだけど、今日でそれも終わりだ。何故かって?寿命だよ。この世界は不老にさせる魔法とか薬とかはあるけど、不死にさせるものは何も無かった。まぁ、なる気も無かったけどな。

  そんなわけで今俺の周りには魔王軍の仲間たちがいる。

 

  「隊長!死なないでくださいよ!」

  「貴方が死んでしまったら私達はどうすればいいんですか!?」

 

  どうすればって、魔王と一緒に神を倒せよ。お前達のリーダーはあいつだろうが。

  そう思っていると魔王が話しかけてきた。

 

  「我が友よ。最初はただの人間だったお前は、今では私達の大切な仲間だ。お前が死んだ後、絶対に神を倒す事を誓おう」

 

  こういう時だけ真面目に喋りやがって。

 俺にはもったい無い言葉だよ。ありがとな、親友。

  だんだん意識が薄れていく。あいつらの声が遠くなる。

  最初は散々だと思ったが、悪くない人生だったな。

  そこで俺の人生は終わった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  「罪人、空。貴方には地獄での一億年の労働を命じます。なお、その罰を終えたとしても貴方は輪廻天性の輪に入る事は出来ません。よろしいですね?では、以上です」

 

 ……ん?

 

「はぁ!?」

 

 なんでこうなった!?

 

 

 




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閻魔の部下になりました

どうも、鬱ケロです。
前回の続きを書いたので載せました。
読んでもらえると嬉しいです。
では、どうぞ。






「罪人、空。貴方には地獄での一億年の労働を命じます。なお、その罰を終えたとしても、貴方は輪廻天性の輪に入る事は出来ません。よろしいですね?では、以上です」

 

 ……ん?今、目の前の彼女は何て言った?

 地獄での一億年の労働?

 輪廻天性の輪に入れない?つまり生まれ変わることが出来ない?

 

「はぁ!?」

 

 どうしてそうなった!?

 

「何です?何かご不満でも?」

「あるに決まってんだろ!死んだと思ったら、いつの間にかこんな所にいて、突然そんな事言われたんだぞ!誰だって不満ぐらい持つわ!」

 

 むしろ不満を持たねえ奴を見てみたいわ!

 

「ではどうすればその不満が無くなるんです?」

「とりあえずこっちの質問に答えてくれよ。そうしないと理解したくても出来ない」

「……まぁ、良いでしょう。それで貴方の不満が無くなるなら」

 

 あれ?意外とものわかり良いな。

 問答無用で地獄行きかと思ってたわ。

 

「早くして下さい」

「あ、おう。じゃあまず最初に、此処ってどこ?」

 

 まぁ、死んだと思ったら此処にいたから多分あの世。

 さっきの話からして地獄だとは思うけど、念の為に聞いておかないと。

 

「?おかしな事を聞いてきますね。さっき自分で死んだと思ったらと言ったじゃないですか?貴方は確かに死にましたよ。此処は死んだ後の世界。貴方たちがよく言うあの世と言ったところです」

「ん?地獄じゃないのか?」

「いえ。此処は入り口と言ったところです。此処で地獄に行くか天国に行くか決められるんです」

 

 なるほどな。日本で言うところの裁判所みたいなもんか。

 

「他には何かありますか?」

「ああ。どうして地獄での一億年の労働が罰なんだ?地獄での罰って、針山とかだと思ってたんだが」

「針山とか、かなり昔の罰ですよ。最近は、地獄の罰なんて労働が主ですよ」

「ふーん」

 

 それは良かった。針山とか耐えられそうにないし。

 それじゃあ後は、

 

「どうして輪廻天性の輪に入る事が出来ないんだ?それに、その罰が終わったら俺はどうすれば良いんだよ?」

 

 これが一番不思議な事だった。普通の人生……と言うにはちょっと、いや、結構おかしな人生を送りはしたけども、輪廻天性の輪に入れなくなる程悪い事はしていない筈だ。多分……うん。

 

「……罰が終われば貴方の存在は消えます」

「消える?どういう意味だ?」

「そのままの意味です。罰が終われば貴方の存在は跡形も無く消える。そこに貴方がいたという証は一つも残りません。貴方と関わっていた者たちも少しずつ貴方の事を忘れていきます」

 

 存在そのものが消える。

 あいつらも俺の事を忘れちまうって事なのか?

 

「なんとかなんねえのかよ?」

「……決まった事です」

 

 ……ふざけんなよ。

 

「おい、どうして俺はそんな罰を受ける事になったんだよ?俺は自分が消えちまうほど悪い事はしてねぇ筈だろ」

「それはーー」

「貴様、いいかげん身の程をわきまえろ!」

 

 は?なんだよ急に?

 そういや目の前の女との話に集中してて、周りの奴らの事気にしてなかったな。

 今喋ったのはどいつだ?

 

「貴様のような奴が、閻魔様と話せているだけでもどれだけ幸せな事か考えてみろ!本来ならば即地獄行きの所なのだぞ!」

 

 あの鬼か。なんか上から目線で腹が立つな。

 それよりあの鬼、今なんて言った?

 

「お前が閻魔?」

「……はい、私が閻魔です」

 

 こいつが閻魔?あの地獄で一番偉い?女なの?いや、そんな事どうでもいい。それより、

 

「……じゃあお前が決めた事なのか?俺が受ける罰って?」

「……はい、私が決めました。私の意志で」

「……」

 

 ……じゃあなんで、さっきからお前はーー

 

「もう良いだろう!分かったならばさっさとーー」

「うるせえ、黙れ」

「ッッ!!」

 

 おいおい、ちょっと殺気出しただけで気絶しそうになるとか、それで大丈夫なのかよ?唯一大丈夫そうなのが、閻魔の隣に立ってる男だけだぞ。閻魔すら震えてるし。

 

「さっきからうるせえ。てめえ何様だよ?何?バカなの?死にたいの?そんなに死にたいなら、今すぐ楽にしてやろうか?」

「なっ!!そ、そんな事私の前でしてみなさい!貴方がどうなるかわかってるんですか!?」

 

 チッ。閻魔にそう言われたらどうする事もできねぇじゃねえかよ。

 

「じゃあもう一回聞くぞ?俺の罰はお前が、自分の意志で決めたのか?」

「……さっきからそう言ってるでしょう。私が自分の意志でーー」

「じゃあなんでお前はさっきから、そんなに辛そうな顔してんだよ!?」

「ッッ!」

「自分で決めたんだったら、そんな辛そうな顔してんじゃねぇよ!」

「わ、私は、辛そうな顔なんて」

 

 自分でも気付いて無かったのかよ。いや、あえて気付かないふりをしてたのか。

 

「私は、そんな……」

「閻魔様、少しお話が」

 

 なんだ?隣の奴が急に閻魔と話し始めたぞ?

 

「……え?でもそれでは他の者が納得しないのでは?」

「あの者は元魔王軍最強の男です。誰も文句は言えないでしょう」

「……わかりました」

 

 え?何?なんの話?

 

「罪人、空。貴方を明日から、私の護衛兼秘書官とします!要するに、私専属の部下です!」

 

 え?護衛?秘書官?部下?……はい!?

 いやいや、何言ってんだ!?周りの奴とか驚きすぎて固まってんじゃん!

 

「罪人は、元魔王軍最強の男です。これ程の者ならば私をしっかり守ってくれるでしょう」

「いやいや、何言ってんの!?そんなの嫌だわ!」

「なお、断ればさきほどの罰を与えます」

「職権乱用じゃないですか!?」

「違います。これは私の権限です」

「いや、だからそれが……」

「では、以上です」

「いや、でも……」

「以上です」

「あの……」

「以上です」

「あ、はい」

 

 というわけで、閻魔の部下になりました。

 

 

 

 

 

 いや、なんでこうなった!?

 

 

 

 

 

 

 




誤字・脱字の報告、
感想などもらえると嬉しいです。
読んでくれてありがとうございました。








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部下として働く前に

こんにちは、鬱ケロです。

皆さん、この作品のお気に入りの所に数字が付いてたんです!
始めた時不安だったので凄い嬉しかったです!
お気に入りにしてくれた方、ありがとうございます!

それでは3話目です、どうぞ!


「では、今日のところはこちらでお休みください」

「あ、はい。わかりました」

 

 はぁ、何やってんだ俺?

 結局あの後すぐに、あの閻魔が仕事に戻っちまったもんだからまともに話す事ができなかった。

 一応俺の案内役に閻魔の隣に立ってた男を選んだのは、他の奴だと俺を襲いに来るからだろうな。俺もあいつらが襲って来たら、加減間違えて殺しちまいそうだからあいつの配慮には感謝だな。

 それにしても、この人カッコ良いな。黒髪、黒目なのに、ここまでカッコよくなるものか?俺も黒髪、黒目だけどこんなにカッコよくないぞ。……止めよう。悲しくなってきた。

 

「おや?さきほど閻魔様と話していた時のように話してくれて構わないんですよ?」

「……いや、一応あいつの部下になったんで、先輩には敬語の方が良いかと思いまして」

「ほう。それは良い心掛けですね。それに部下になることを認めてくださいましたか。もう少し反発するかと思っていましたよ」

「まぁ自分の存在が消えて無くなるよりはマシなので」

 

 それになんだかあの閻魔の事、ほっとけないんだよな。

 

「ふふ、……それは良かった」

「ん?何か言いましたか?」

「いえ、何も」

 

 あれ?何か言ったような気がしたんだけどな。

 

「そんな事よりこれから少し話をしませんか?私もこの後特にやる事もないので」

「いやでも、貴方あいつの護衛じゃないんですか?だったらあいつの近くにいないとダメでしょう?」

「彼女から休んで良いと言われてしまったので。これで彼女の近くにいたら逆に怒られますよ。ですから、今の内に聞いておける事は聞いておこうと思いまして」

 

 それで良いなら別に良いけど。

 あ、でもさっきから気になってる事だけ言っておくか。

 

「それなら良いですけど、だったらその、わざと丁寧に話してる様な話し方、止めてもらえます?さっきの閻魔様も周りのうるさかった鬼たちもそうでしたけど、なんだかそうやって話す奴多いですよね?正直聞いてて気持ち悪いんで」

 

 魔王軍にいた最初の頃も、一回目の人生の時もそうだったけど、どこいってもこんな感じなんだな。どれだけ経ってもやっぱり慣れないわ。

 

「へぇ。じゃあ二人しかいない時だけは、こっちで話す事にするわ」

「……」

「?どうした?」

「いや、さっきまで丁寧な喋り方だったんで違和感が凄くて」

「……お前が言った事だろうが」

 

 いや、ギャップみたいなものが凄くて。

 でもやっぱりこっちのほうが良いな。本心で話しをしてるって感じがするし。

 

「だったらお前もさっきみたいに話せよ。お前がそれじゃあ、お前の思ってる本心で話してるって事になんねえだろ」

「それもそうですね。じゃなくて、それもそうだな。じゃあいつも通り話す事にするよ。……ん?」

 

 あれ?どうして心で思った事がばれてるんだ?声には出してないはずなんだけど。

 

「ああ、それは俺が相手の心を読めるからだよ」

「!!……あんた、もしかして覚なのか?」

「ああ、そうだ。驚いたか?」

「そりゃ、覚とか初めて見たし」

 

 覚って本当にいたんだな。いやー、一回覚と話してみたかったんだよな。願い叶って嬉しいわ。あれ?これもわかるのか?

 

「ああ。もちろん分かるぞ。そういえば、さっきはカッコ良いとか思ってくれてありがとよ。でもお前も中々良い方だと思うけどな」

「うわ、さっきのもかよ。恥ずかしいな、おい」

「そんなんでもないだろう。それよりお前は心を読まれるのが嫌じゃないのか?」

「ん?まぁ、俺も似たような事魔法で出来るし。昔はよくやられたからな。今はもう慣れたよ」

 

 魔王軍にいた頃に、相手の考えている事がわかるようになるっていう魔法使ってからかってきた奴いたから耐性ついたし。……あいつら元気かな?

 

「……そうか。それより、いきなりしんみりした空気出すなよ。こっちも悲しくなってきちゃうじゃねえか」

「あ、悪い」

「まあいい。それより、時間も無いんだ。話をしよう」

「覚だったら話す必要も無いだろ?」

「いや、心の中で思う事と実際に言葉にする事は重みが違うんだよ」

 

 重みが違う?

 

「ああ。例えば、心の中でどれだけ相手を想っていても、言葉にしないと相手にはその想いの大きさ、強さは分からない、みたいな感じだ」

「うーん?なんとなく分かるような気はする」

「今はそれで良い。勿論、話してる間は心を読まない。というか、俺自身普段は相手の心は読まないようにしてるんだよ。相手の心を読んでて良い気持ちはあまり無いしな」

「そっか、分かった。じゃあ何から話す?」

 

 とは言っても特に話す事は無いと思うけど、何を話したいんだこの人?

 

「お前は彼女の、閻魔の事をどう思う?」

「?いや、可愛いと思うぞ?白くて長い髪とか、紅色の瞳とか綺麗だと思うし。スタイルだってだいぶ良いと思うけど。正直俺の好みどストレートなんだけど。え?なに?聞きたいのって俺の好みなの?」

「違うわ!お前の好みとか心底どうでもいいわ!そうじゃなくて、彼女が閻魔をやっている事をどう思うって事だよ」

「ああ、そういう事ね」

 

 どう思う、ねぇ。

 

「正直言って、なんであんな若い奴が閻魔やってんだって思ったよ。女って事はまぁ置いておくとしても、あんな若い奴に普通やらせる事か?辛すぎるだろ、人の死んだ後を決めるこの仕事。あいつは頑張ってんだと思うけど、悪いがあいつには早すぎると思った」

「……そうだよな。早すぎるよな」

「まぁ、何か訳があるんだとは思うけどな」

 

 そうじゃなかったらあいつにこんな仕事をやらせてる奴を一発殴る。

 

「……今は、詳しい事を言う事は出来ない。でも、彼女しかこの仕事をやることができなかったんだ」

 

 ……まぁよくわからんが、そういうもんだと今は割り切るしかなさそうだな。

 

「だから、お前に頼みがあるんだ。あの時、彼女が辛そうにしていた事が分かったお前にしか頼めない事なんだよ」

「?俺にしかできない頼みってなんだよ?」

「彼女を支えてやってほしい。彼女はなんでも一人で抱え込んでしまう。こっちが大丈夫か聞くと、彼女はいつも笑顔で大丈夫と言うんだ。そんな彼女を見るのはもう嫌なんだ。だから、あいつを支えてやってくれ。頼む」

「……俺じゃなくて、あんたが支えてやればいいだろ」

「……俺じゃあ彼女の辛さを全て理解してやる事は出来ないんだ。だから、頼むよ」

 

 ……そんな真剣な顔で、頭まで下げて頼まれたら断れねえだろうがよ。

 

「分かった。俺にできる事だったらやってやるよ。でも、あんまり期待しないでくれよ?」

「それでも十分だ。……ありがとう」

「ああ、もう。この話はもう終わり!湿っぽいのは嫌いなんだよ。他に聞きたい事は!?」

「いや、今の言葉を聞ければ十分だ。そろそろ時間だし仕事に戻るとするよ」

「あっそ。じゃあ仕事、頑張ってな。明日からよろしく、……えっと」

「?ああ、そうか。俺の名前は、心。心と書いてシンだよ」

「そうか。じゃあよろしく、心先輩?」

「……ああ、よろしくな。空」

 

 そして彼、心は仕事に戻っていった

 ……なんだか仕事始める前に結構大切な約束しちまったな。

 まぁ約束しちまったし、できる事だけでもやっていくとするかな。

 なんかこの短時間で凄い疲れたな。もう寝よう。

 それでは、皆さんお休みなさい。

 

 

 

 

 

 ……誰に言ってんだろ、俺?

 




うまく書けるように頑張っていきたいです。

誤字・脱字、
感想など待ってます。
それでは、また次回も読んでもらえると嬉しいです。
ありがとうございました。


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部下としての初仕事 前編

こんにちは、鬱ケロです。

すみません!ゲームのイベントや、学校でいろいろあって投稿が一週間くらい空いてしまいました。
次はもう少し早く投稿したいです。

今回は前編、後編に分かれてます。
それでは、どうぞ。見ていって下さい。


 夢を見た。

 まだ魔王軍にいなかった頃、一回目の人生の夢を。

 あの忌まわしい人生の夢を。

 

『……うわ、またあいつ来てるよ』

 

 ……来てちゃ悪いのか?

 

『……さっさといなくなんねぇかな、あいつ』

 

 ……なんで俺がいなくならないといけないんだよ?

 

『……よく平気な顔して学校これるよね。何も感じないのかな?』

 

 ……平気な顔だと?……何も感じないだと?

 ……俺がどれだけ()()()辛かったのか、悲しかったのか知らないくせに、知ったようなこと言うな!

 

『お前らが!お前らのせいであいつは、ーーは!!お前らこそなんで!?なんでそんな普通に生活できんだよ!?』

 

 俺がそう言うとあいつらは悲しそうな顔を作り、気持ち悪い嘘をつく。

 

『私達だって悲しいよ!悲しく無いわけ無いじゃん!』

 

 ……ふざけるな。

 本当に悲しいと思ってる奴がその事をネタに話をするか?

 次の日から平然としていられるのか?

 そんな作られたような悲しそうな顔をするのか?

 そんな顔でその言葉を言うのかよ?

 

 

 

 気持ち悪い。気持ち悪い。気持ち悪い。

 

 

 

 ……だから俺は、嘘が嫌いだ。

 ……だから俺は、平気で嘘をつく人が、大嫌いだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そこで目が覚める。

 はぁ、嫌な夢見たな。最近は見なかったのに、なんでまた突然?

 俺がそう思っていると部屋の扉が叩かれた。

 

「起きていますか?心です。入りますよ?」

「ああ、起きてます。入っていいですよ」

 

 心が丁寧に話してきたので俺も一応敬語で話す。

 ……やっぱりギャップがあるな。あいつの本当の喋り方があれなもんだから。

 

「今日から私、正式に仕事の上司なんですけど?何早速失礼なこと考えてるんですか、あなた?」

 

 すみません。謝りますから笑顔で言わないでください。

 目が笑ってないし、丁寧に話してるのがより怖く感じますから。

 

「はぁ。まぁいいです。それよりも、これから仕事なのでついてきてください」

 

 今日から仕事か。頑張らないとな。

 

「はい、分かりました」

 

 そう言って俺は心の後をついて行く。

 

「そういえばこれからどこに行くんですか?」

「閻魔様の所に。これからは閻魔様がいる執務室が私達の仕事場です。 ですのであなたの部屋から執務室までの道は覚えておいてくださいね」

 

 まぁ、護衛兼秘書官だとか言ってたからそうなるよな。

 

「それなら大丈夫です。記憶力には自信あるので」

「そうですか。それと、仕事中は閻魔様にも敬語を使って下さいね。昨日のような喋り方ではダメですからね?お願いしますよ?」

「分かってますよ。俺もそこまで馬鹿じゃありません。大丈夫です」

 

 うん、大丈夫なはず。おそらく、多分。

 

「なんかすごい不安なんですが、まぁいいです。それと、私にも仕事中は二人だけの時でも敬語で話して下さい。そこはしっかりするべきなので」

「そこは絶対大丈夫です」

「お、おう。即答ですか。閻魔様の事でもそうだと良かったんですが」

 

 いや、あいつはなんだか上司と思えないんですよ。

 

「はぁ。まったく。おっと、着きましたよ」

 

 そうこうしている間に執務室の前に着いたらしい。まぁ、できるだけ敬語にするように心掛けるようにしよう。

 

「閻魔様、心です。空を連れてきました。入りますよ」

 

 そう言って心はドアの取っ手に手をかける。

 よし、今日から頑張るぞ。

 そう心に決めて執務室に入っていく。

 そこに居たのは……

 

 

 

 

 

 

 

 

 目の下に隈を作り、生気の抜けた顔をした()()がいた。

 正直、見た目十七歳くらいの女がして良い顔ではない。

 もっと言うとゾンビみたいでちょっと怖い。

 

「……何これ?どうなってんの?上司が早速死にそうなんだけど?」

「……ちょっと、来て早速その態度は何よ?じゃなくて、何ですか?」

「……早速、自分の作ったキャラすら維持出来てねぇじゃねぇかよ」

 

 キャラも維持出来てないって相当やばいんじゃないか?

 どうなってるのか心に聞こうと目を向けると、心は頭を抱えていた。

 

「閻魔様、また寝ずに、今日判決を下す事になっている魂たちの人生を見ていたんですか?そんな事をしていればあなたの体がもちませんよ?」

「……ですが、間違って落としてはいけないですし、その人の人生の中には刑を軽くできる事があるかもしれませんし」

 

 はぁ、それでお前が動けなくなってちゃ意味ねぇだろ。

 

「それで?心先輩、どうするんです?見た所、閻魔様は休ませないとまずいレベルでやばそうですけど?」

「そうですね……閻魔様は少しお休みになって下さい。仕事は私たちがやっておくので」

「……え?だ、だめです!私しか出来ないことだってあるのに休んでいられません!」

「……それじゃあ俺はどうします?」

「最初に、やってもらいたい事を簡単に教えるので、その後は教えた事を守って仕事に当たってください」

「……ま、待って!私もやります!まだ出来ますから!」

 

 ……まだ言うか、このバカ。

 仕方ない。ここは正直に言って下がらせるか。

 

「閻魔様、正直に言って今のあなたは、多分今日から仕事を始める俺よりも使えないです」

「……なっ!あなた、私に向かってなんて口を!」

「だったら、一時間でも、二時間でもしっかり寝てから仕事に入ってください。そっちの方が仕事が終わるのも早くなるので」

「……そ、それは。確かにそうかもしれませんが」

「はぁ、閻魔様は俺たちを苦しませたいんですか?俺たちは早く仕事を終わらせたいんです。その為にあなたは寝てきてください」

「……はい。そういう事なら、分かりました。心、少し寝てくるので、一時間ほどしたら起こしてください」

「はい、分かりました。ゆっくりお休みください」

「……それでは、少し、寝て、来ます」

 

 そう言って閻魔は少しふらつきながら執務室を出て行った。

 

「ありがとうございます、空。ああ言ってくれなかったら閻魔様は、そのまま仕事をしていたかもしれません。いや、してましたね」

「確定ですか。別に良いですよ、あれも俺の本心ですし」

「……そうですか」

「そうですよ」

 

 実際、早く終わらせたいし。

 

「それより、早く仕事を始めましょうよ。俺は何します?」

 そうですね、ではーー」

 

 そんなわけで、俺の初仕事はいきなり大変な事になってきちまったんだが、まぁあの閻魔が起きるまでに、半分くらい終わらせる事ができれば良いんだけどな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よし、頑張りますか!」

 




誤字・脱字や、感想・アドバイス待ってます。

それではまた次回です!


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部下としての初仕事 後編

明けましておめでとうございます、鬱ケロです。

正直年が明けるまでには投稿したかったです。
年は明けましたが、これからも頑張って投稿しようと思うので見てもらえると嬉しいです。

それでは後編です!
どうぞ見ていってください!


「よし、頑張りますか!」

 

 と、頑張ろうとしてた時期が俺にもありました。

 いや、一時間くらい前なんだけどね。

 でもさ、

 

「量が多すぎません!?」

 

 今俺は、死んだ人たちをそれぞれ罪の重い者と罪の軽い者とに分ける仕事をやっている。

 地獄では罪の大きさを一から十の大きさで分けているらしく、

 五より上に行くと確実に地獄行きで、上に行くほど地獄での罰は重くなっていくそうだ。

 しかし、そんな地獄行きの奴らでも生きている間にした善行によっては、罰は軽くなるんだと。

 それで、判決を出すのをスムーズにする為にこうやって罪の大きさによってわけているらしいのだが、その量が多すぎる!

 一時間やって二割終わらないとかバカじゃねぇの!?

 

「心先輩、この量おかしくないですかね!?俺、分けてるだけなのに二割終わらないんですけど!?」

「今日はまだ少ないほうですよ?まぁ、いつもは閻魔様と私で手分けしてやってるので、一人だと大変かもしれませんが頑張って下さい」

「ふざけんなよ!この量一人は流石にきついぞ!」

「敬語を使えって言ってんだろ!……おほん。それより、そろそろ一時間経つので閻魔様を起こしてきましょうかね」

「……」

 

 そういえば一時間経ったら起こしてくれってあいつ言ってたな。

 

「……心先輩、そっちあとどの位で終わります?」

「ん?そうですね。あと三十分位でしょうか。それがどうか......あぁ、そういう事ですか。分かりました」

 

 こんな時心読めると時間無駄にしないで済むから良いな。

 

「それじゃあ早く終わらせてこっち、手伝ってくださいね?」

「えぇ、それでは集中してやるので時計なんて見ている場合ではありませんね」

「はい。これで一時間じゃなくて二時間経っていても、仕事を真面目にやってただけなんで仕方ないですよね」

 

 そう、仕方ない。仕方ないったら仕方ない。だって真面目にやってただけなんだからね。

 

「悪そうな笑み浮かべてますね」

「……先輩も似たような顔してますよ、多分」

「おっと、それはいけない。それよりも、さっさとやってしまいましょう」

「そうですね」

 

 さてと、あと一時間で半分は終わらせたいな。そろそろ慣れるし、ちょっと本気でやろう。

 

「あとちょっとだけ、頑張りますか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれからどれだけ経ったのか、俺にもよく分からない。

 途中で心先輩も手伝ってくれて意外にもあと二十分ほど残して終わってしまった。

 そんなわけで、残りの時間で他の仕事に手をつけたりしてたんだが、

 

「それでいつの間にか私を起こす事も、昼食を食べる事も忘れるほどに仕事に集中してしまっていたと?へぇ。ほぉ。ふーん」

 

 そんなわけで今、絶賛正座中です。もちろん心先輩も一緒です。

 

「いや、わざとじゃないんですよ?いつの間にか午後の二時になってて、閻魔……様が執務室の扉を思いっきり開けて入ってきた時は本当にびっくりしましたもん」

「しましたもん、じゃないんですよ!私だって起きたら昼過ぎで、しかももう午後の二時になるって分かった時はびっくりしましたよ!?どうするんですか!?仕事終わりませんよ!?」

 

 あぁ、だからこいつこんなに焦ってるのか。

 同じ事を思ったのか心先輩は閻魔に残りの仕事について話し始めた。

 

「それならば大丈夫ですよ。あとは閻魔様が見れば良い仕事が少しと、昨日時間がなくて判決を言い渡す事のできなかった者数人に判決を言い渡すのみです。それにその数人は皆地獄行きなので、一緒に終わらせれば良いでしょう」

「……え?あとの仕事は?」

「私と空で終わらせましたよ」

「……嘘でしょう?」

 

 おいおい、すごい驚いた顔してるな。ここまでとは正直思ってなかったぞ。

 まぁ普段閻魔と心先輩の二人でやって、なんとか一日で終わるかどうかって心先輩仕事中に言ってたからな。それが半日と少しで終わっちまってるんだからそりゃあ驚くか。

 ちょっと嬉しかったからドヤ顔をしてみる。

 あ、ちょっとイラっとした顔した。

 

「……へぇ、そうですか。なら明日からもっと仕事を増やしても大丈夫そうですね。それは良かった」

「えっ!」

 

 待って!それはちょっとしんどいぞ!ただでさえ今日結構頑張ってやって半日かかってるんですけど!?

 

「……いやぁ、それはちょっときついですよ?」

「大丈夫ですよ!あなたならやれます!私は信じてます!」

 

 だったらそんな笑い隠したような顔で言ってんじゃねぇよ!

 

「嘘つけ!そんな嘘丸出しの顔で言っても説得力皆無だわ!」

「なによ!別に多少辛くなるだけでしょ!?それ位で文句言ってんじゃないわよ!」

「これ以上増やされたらたまったもんじゃねぇんだよ!こっちの事も考えろ!過労死するぞ!?」

「はっ、残念でした!もうあなたは死んでるから過労死なんてしませーん!もう一度言ってあげる!ざーんーねーんーでーしーたー!」

「上等だ、その喧嘩買ってやるよぉ!表出ろ、クソチビ!」

「やってやろうじゃない!このボケナス!」

 

 そして俺と閻魔が本当に喧嘩をしようとした時、その声は突然響いた。

 

「お前ら良い加減にしろ!!」

「「!?」」

 

 声のする方を見てみると、心先輩が顔に青筋を浮かべていた。

 

「なんでいつの間にかお前らの喧嘩になってんだ!どうでも良いことで喧嘩してんじゃねぇよ!」

「いや、でもこいつが……」

「お前は閻魔だろ!いちいちそんな事で喧嘩ふっかけてんじゃねぇよ!」

「……はい」

 

 うわぁ、凄え。心先輩、閻魔を黙らせちゃったよ。

 

「空、お前は何か言うことあるか?」

「……いえ、今回は俺が少し悪かったです。すみません」

 

 あっても怖くて言えません。

 まぁ俺が閻魔にドヤ顔をしたのが悪かったからな。

 俺のその言葉を聞いて落ち着いたのか心先輩は、ため息を吐いた後いつもの喋り方で話し始めた。

 

「はぁ、空の方が多少は冷静なようですね。ですが閻魔様も悪いんですからね?反省してください」

「……まぁ確かに私も少し悪かったですね。すみませんでした」

「いや、こっちの方こそすみませんでした」

 

 ……こいつちゃんと謝れるんだな。ちょっと見直したわ。

 互いに謝った後閻魔が時計を見ながらこう言った。

 

「それじゃあ、あなたの今日の仕事は終わりです。もう部屋に戻って良いですよ。後は私がやる事だけなので」

「そうですか。分かりました。明日はどのくらいにくれば良いですか?」

「……それなら明日も心が迎えに行くので待っていてください。良いですね、心?」

「……はい、分かりました。では明日も今日と同じ頃に迎えに行きますね」

 

 ?道ならもう覚えたんだけどな。まぁ向こうがそう言ってるんだしお言葉に甘えるとするか。

 

「そういう事なら分かりました。それじゃあお疲れ様でした」

「はい、お疲れ様でした」

「お疲れ様でした。明日もお願いしますね」

 

 そう言って俺は執務室を出て行った。

 そして自分の部屋に帰ってくると、仕事の疲れからか眠くなったのでベットに横になった。

 それにしても初めての仕事だったのに相当辛かったな。こんな感じでこれからもやるってなると俺、体もつのかな?

 いや、それより寝よう。もう疲れた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 はぁ、仕事辛い。




誤字・脱字、感想・アドバイスなど待ってます。

今回も読んでいただき、ありがとうございました!


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不信と諦め

どうも、鬱ケロです。

色々とやる事がが終わったので、またちょっとずつ投稿していこうと思います。
なので、これからも見てもらえると嬉しいです。

今回は長くなっちゃいましたが、見ていってください。
では、どうぞ!


 今日はあの夢を見なかった。

 俺が起きて最初に思った事はそんな事だった。

 それはあの夢を見なくて良かったという安心からか、見れなかったという残念な気持ちからか、それともその両方か、俺自身にもわからなかった。

 

 はぁ、もう、あの時の事は忘れられたと思ってたんだけどな。……それより、どうして残念なんて思ったんだ?

 そう思っていると、昨日と同じように部屋の扉が叩かれた。

 

「空、起きてますか?心です。入りますよ?」

「はい、起きてます。入って良いですよ」

 

 俺がそう言うと心は入って来る。

 

「?空、あなた何かありましたか?」

「……どうしてです?」

 

 なぜか、心は俺の顔を見てそう言ってきた。

 

「いや、あなたの顔が悲しそうに見えたので」

「……気のせいですよ」

 

 ……そう、気のせいだ。悲しそうだったなんてそんな事、あるわけない。

 

「……はぁ。あなたの場合、心を見る事が出来なくなる時があります。きっとあなた自身の意思で隠しているんでしょう。ですからこれ以上は聞きません」

 

 でも、心はそう言った後、俺の目を見てこう言った。

 

「辛い事があったら言ってくれ。俺はさ、お前の事そんなに嫌いじゃないんだよ。これからは同じ職場の仲間だし、お前の事をもっと知りたいんだ」

「……」

 

 ……真剣な目で、声で、彼はそう言ってくれた。それはとても嬉しい言葉だった。俺にはもったいないくらいの言葉だった。

 きっと本気で言ってくれているんだろう。きっと本当に彼はそう思ってくれているんだろう。

 それでも俺は……

 

「……大丈夫ですよ。ただちょっと、夢見が悪かっただけですから」

 

 その言葉を、()()()()()()

 

「……そうか、分かった。それじゃあ執務室に行こう。準備はできてるか?」

「少し外で待っててください。これから準備するので」

「分かった。それじゃあ、準備できたら来てくれ」

 

 そう言って心は部屋の外に出て行った。

 ……本当に自分のこの性格が嫌になるな。

 そう思いながら俺は仕事の準備をしていく。とは言ってもそんなに準備する事ないけど。

 そして準備が終わり部屋の外に出る。

 

「お、やっと来たな。それじゃあ行こうか」

「仕事の時は丁寧に話すんじゃなかったんですか?」

「まだ仕事じゃないだろ?他には誰も居ないし、俺もなるべくこっちで話したいしな」

「そうですか」

 

 なんだか昨日とだいぶ言ってる事違くないか?

 

「正直、丁寧に話すのがあんまり得意じゃない」

「だったらしなければ良いのに」

「……閻魔が、偉くなるならこんな風に喋った方が良くない?とか言い出してな。一体何を思ったんだか」

 

 なんとなく何を思ったのか分かる気がする。

 

「多分偉い人は常に丁寧な喋り方をしてる、みたいな考えがあるんじゃないか?」

「偉いからってそうでもないと思うんだけどなぁ」

 

 確かに魔王の奴とかむしろそのあたり適当すぎたし、周りの奴らに敬語使われるところをあんまり見なかったぞ。

 ……今になって思うと、あいつ魔王としてあれで良かったのか?

 そう思いながら歩いていると、いつの間にか執務室の前についていた。

 

「それじゃあ今日も、よろしく頼みます」

「はい、分かりました」

 

 そして今日も仕事が始まる。

 ……あいつ、本当に仕事増やしてないよな?

 やばい、ちょっと仕事やるのが嫌になりそうだ。

 

 

 

 

 

 

 

 それから結構経った。最初は仕事が増えてるんじゃ無いかと心配だったが、そんなに増えてはいなかった。その事について閻魔に聞いてみると、

 

「流石にあの量からさらに増やすほど鬼じゃありませんよ」

 

 だそうだ。

 本当に増やすと思ってたからちょっと意外だった。(その事を言ったら閻魔に頭を叩かれたが)

 そんな事がありつつ仕事をしていたんだが、昨日のでだいぶやり方を覚えてしまったからか、仕事が予想より早く終わってしまったのだった。

 

「閻魔様、仕事他に無いんですか?俺の分の仕事終わっちゃったんですけど」

「え?もう終わっちゃったんですか?」

 

 なんだか閻魔が驚いた顔をしているが、そんなに驚く事だろうか?

 

「あなた、この仕事始めて二日目ですよね?一応今日あなたにやって貰った仕事は、簡単なものや昨日やってもらったものだけにしましたけど、それでも結構量あったんですよ?」

「まぁ昨日でだいぶ覚えたんで。それより俺はどうすればいいんです?正直、もう今日の仕事は終わりです。とか言ってもらえると嬉しいんですけど」

「……そんな事あるわけないでしょう?」

 

 あれ?半分冗談で言ったのにすごい冷たい目でこっちを見てくるんだけど。

 

「閻魔様、すみませんが俺はそんな目で見られて興奮する趣味は持ってないんですよ。ご褒美だったらもっといいものにしてください。例えば休みとか」

「もしもそれで興奮するような人だったら今すぐ地獄に落としてますよ!それよりあなた、どれだけ仕事やりたくないんですか!?」

「誰だって仕事はやりたくないでしょう?それでも仕事をやらないと生きていけないんです。だから人は趣味を見つけるんだと俺は思ってます」

 

 仕事が好きって人もいるのかもしれないけれど、大抵の人は嫌だと思うんだよ。それでも頑張れるのは趣味を楽しんでるからだと俺は思う。……十七歳で俺は死んじゃったからよくわからないけど。

 閻魔は俺のその言葉に思うところがあるのか何かを考えている様子だった。

 

「確かにそれはそうかもしれませんが、いや、でも。……あ!そ、それとこれとは話が別です!何もっとな理由を言って逃げようとしてるんですか!」

 

 いや、別に逃げようとしてないんだが。

 それより、閻魔がこんな言葉に納得しそうになっちゃいけないだろ?

 大丈夫かこの閻魔?ちょっと心配になってくる。

 

「それより何をやれば良いんです?」

「それじゃあ、お茶とか淹れてきてもらって良いですか?そろそろ休憩にしようと思ってたので」

「俺、お茶淹れる場所知らないんですけど?」

「心も一緒に行かせるので大丈夫ですよ。しーん、ちょっと来てください」

「何ですか?仕事ならまだ終わってませんけど」

「空と一緒にお茶を淹れてきてください。あとお菓子も」

「そういう事ですか。分かりました」

 

 いや別に心が行くなら俺いらなくない?

 

「そうでもないんですよ。休憩になると、閻魔様がお菓子をたくさん食べるのでお菓子を持ってくれる人が欲しかったところなんです」

「なっ!そ、そんなに食べてないじゃないですか!?勝手な事言わないでください!」

「いつも私が食べようとすると一つも残ってないんですけど?」

「うっ。そ、それは、その……ごめんなさい」

 

 痛いところを突かれたのか、閻魔が顔を赤くして俯いてしまった。

 何だろう。ちょっとかわ……いや、何でもない。

 

「ふふ、それでは空、行きましょうか」

「……まぁそういう事ならついて行きますよ」

 

 はぁ、心の奴凄いニヤニヤしてるし。凄い腹立つな。

 こんな事なら、心読まれないようにすれば良かった。

 

「あ、今日のお菓子はクッキー多めでお願いしますね!チョコは飽きたので少なめで!」

 

 ……閻魔が何か言っていたけど、気にせずに俺たちは執務室を出て行った。

 チョコを多くしてやろう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そういえば、どうして執務室にお菓子とか置いておかないんだよ?そっちのほうが楽だと思うんだけど?」

 

 お茶を淹れるために廊下を歩いていた俺は、気になった事を、周りに誰もいない事を確認して心に聞いた。

 

「確かにそっちのほうが楽なんだが、閻魔が勝手に食べちまうからあそこに置いておけないんだよ」

 

 心は苦笑いをしながらそう教えてくれた。

 いや、あいつどれだけお菓子好きなんだよ?勝手に食べるとか閻魔とか関係なく女として大丈夫か?

 

「まぁ、あいつも頑張ってんだ。俺もどうかと思うけど、あいつの前で絶対言うなよ?あいつ落ち込むから」

「俺も流石に面と向かってそんな事は言わないよ」

「あぁ、頼むわ」

 

 そう言って心は俺に笑いかけてきた。

 本当に心は閻魔の事思ってるんだろうな。羨ましいねぇ。

 そう思っていると、部屋に着いたのか心は足を止めた。

 

「この部屋にお茶や菓子があるんだよ。だから持ってくるときはここに来るようにしてくれ」

「分かった。ん?中に誰かいるようだけど?」

「え?あれ?本当だ。はぁ、あいつら今は休憩時間じゃないだろうが。ったく」

 

 部屋の中から気配がしたからそう言うと、心は呆れたような顔をした。

 サボってるのか。大丈夫なのか、それで?

 

「仕方ない。一言言ってくるか」

 

 そう言って心はドアに近づいた。

 ん?何か心の纏う雰囲気が変わった?

 

「……悪い空、先に戻っててくれるか?」

「は?何でだよ?」

「……頼むから」

「何だよ急に?もしかして、中の奴が俺の悪口言ってんのか?別に気にしねぇからさっさと言ってこいよ」

「……違うんだよ。でも、お前には絶対聞かせたくないんだ。だから、頼む」

「いや、意味分かんねぇよ。中で何言ってんだ?」

 

 本当に意味が分からん。何だよ俺に聞かせたくない事って?

 

「俺にも聞かせろよ。話を聞かないと分かんないだろ?」

「あ、ダメだって!」

 

 気になった俺は心の言葉を聞かずにドアに近づいた。

 そうすると中の声が聞こえてきた。

 

『何であんな奴が閻魔やってんだろうな?』

 

 ……は?

 

『本当だよな。あんな餓鬼が閻魔で俺らに命令してよ。やってられねぇよ!』

『あんな奴より俺のほうが向いてるっつうの!』

『お前がやるくらいだったら俺がやるわ!』

『お前らじゃ無理だわ!俺のほうがいいっての!」

『どっちにしろあの女がやるのはありえねぇよな!?』

『全くだ!』

 

 何だよ、それ?

 

『てかさ、あの魔王の部下だった奴を自分の部下にするとか言ったんだろ?頭どうかしてるだろ』

『その事で上からも、色々言われたらしいぞ。アホだよなぁ、あんな奴庇うとか』

『魔王軍の奴らなんて、救う価値のねぇ奴らばかりなのになぁ。価値のない者同士あの女も感じるところがあったんじゃね?』

『それはあるかもな!』

 

 それは言ってはいけない言葉だった。

 その言葉を聞いた瞬間、俺は中の奴らを殺そうとドアに手を伸ばしたが、その手を心に止められてしまった。

 

「……何だよ?邪魔だ」

「……戻るぞ」

「……先に戻ってろ。ゴミを片付けたら俺も行く」

「……俺だって我慢してんだぞ?頼むから言うこと聞いてくれ」

 

 その言葉を聞き心を見てみると、心の体は震えていた。俺の手を掴んでいない方の手は握られていてそこから血が垂れている。

 その姿を見た俺は心の言うことを聞くことにした。

 

「……分かった」

「……すまない」

 

 そこから執務室に戻るまで俺たちの間で会話は無かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 執務室に戻ると、閻魔は呑気に待っていて、俺たちを見ると、

 

「遅いですよ、二人共!あれ?お茶は?お菓子は!?クッキーは!?」

 

 と、言ってきた。

 でもこちらにはそんな事よりも大事なことがあった。

 

「……おい」

「?何です?そんな怖い顔して」

「……お前は知ってんのか?」

「おい、空!!」

 

 心は俺を止めようとしてくるがそんなこと知るか。

 心のその態度に閻魔は何かを察したのか悲しそうな顔をした。

 

「……そっか、知っちゃったんですね?」

「……何で言い返さないんだよ?」

「……彼らの言ってることは正しいですよ。私はまだ若いですし、仕事の事に関しても、最近やっと覚えられてきたようなものですし。一人じゃ何も出来ないんですから色々と言われても仕方ありません」

 

 閻魔は悲しそうな笑みを浮かべながら、まるでもう諦めているかのような発言をした。

 その時、俺は()()()を思い出した。

 

『……仕方ないよ。白い髪に紅い瞳だよ?こんな私に話しかけてくる人なんて、いるわけないって』

 

 悲しそうに笑いながら、それが普通だと言う彼女の事を。

 閻魔のその姿があの時のあいつにそっくりで。

 

「……ふざけんな」

「……え?」

「仕方ないだと?ふざけるなよ?そうやってお前自身が諦めてどうすんだよ!?」

「ッ!!でも、実際にそうでしょう!?どうすることも出来ないんですよ!」

「お前は認められる為に何かしたのか!?何もせずに仕方ないだなんて諦めてんじゃねぇよ!!」

 

 俺がそう言うと、閻魔は俯いて小さな声で何かを言っていた。

 

「……やったわよ」

「聞こえねぇよ!」

「私だって、認められる為に色々なことをしたのよ!仕事を一人で何人分もできるくらい頑張った!みんなが認めてくれるように、辛かったけど、心を鬼にして何人もの人を地獄行きにした!でも、誰も私を認めてくれなかった!」

「……」

「……どうすれば良かったのよ?どうすれば、みんなは私を認めてくれたの?もう、分かんないよ」

 

 そう言って、閻魔は黙り込んでしまった。

 

「……空、今日はもう終わりにしよう。お前も頭を少し冷やせ」

「……分かった」

 

 心がそう言ってきたので、俺はその言葉に従うことにした。

 そして執務室を出る時に、俺は閻魔に声を掛けた。

 

「……閻魔、お前はもっと、誰かに頼れ。お前一人じゃダメでも、お前の近くには頼れる奴がいるんだからさ」

「……」

 

 そう言って俺は執務室を出て行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその二日後に事件は起こった。

 




誤字・脱字、感想、アドバイス頂けるとありがたいです。

それではまた次回です!



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信頼

どうも、鬱ケロです。

最近、この作品をちょっと読み返していたのですが、三話で主人公が閻魔の容姿を言っていた場面で、金色の瞳と言っていたのですが、間違いでした。本当は紅色の瞳です。すみませんでした!
これからもたまに打ち間違えてしまい、その度に訂正するかもしれませんが、見てもらえると嬉しいです。

それでは前回の続きです!
どうぞ!



 夢を見た。

 その夢はまだあいつに出会って間もない頃の夢。

 俺たちが初めて一緒に帰った日の夢。

 

『ありがとう!これも空君のおかげだよ!』

 

 彼女は嬉しさからか、興奮したように俺にお礼を言ってきた。

 

『……俺は何もやってないだろ』

 

 俺は恥ずかしかったのか、彼女の顔を見ずにそう言うと、彼女は首を横に振って否定した。

 

『空君が私の背中を押してくれたから、私は勇気を出す事ができたの。空君が私を救ってくれたんだよ!』

『……救ったは言い過ぎだろ。友達が出来ただけで』

『何言ってんの!ぼっちじゃなくなっただけ救いだよ!』

『その言葉をぼっちの前で言うか!?』

 

 俺が彼女の言葉に対して怒ると、彼女は不思議そうに首を傾げた。

 

『え?何言ってんの?空君は私の初めての友達だよ?ぼっちじゃ無いじゃん』

『……は?』

『空君には私がいるじゃん。だから、空君はもう一人じゃ無いよ』

『ッ!』

 

 そう言って彼女は俺に笑いかける。

 その笑顔がとても、幸せそうでーー。

 

『あ!ちょっと、どこ行くの!?』

『帰るんだよ!』

『歩くの早いよぉ!』

 

 俺は一人でどんどん歩いていく。

 その後を小走りで追いかける彼女。

 

 

 

 ……それはとても幸せだった頃の夢。

 

 ……それは、()()()()()()()()()()記憶。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 あれから二日が経った。

 閻魔の奴は、あれから何も無かったかのように仕事をしている。

 俺とはあれから仕事上の最低限の会話しかしていないが、時々視線を感じるのでそちらを見てみると、閻魔と目が合いすぐに向こうが目をそらす。この二日間はそんな事が多い。

 そろそろその視線も鬱陶しいので、昼になったら話でもするかな、と俺は思いながら仕事をしていた。

 そんな時だった。執務室の扉が突然開かれたのは。

 

「閻魔様、大変です!」

 

 そう言いながら入って来たのは、たまに執務室に書類を持って来る鬼だった。

 その鬼は、桃色の髪をしていて頭に小さなツノが二本生えていた。服は和服の様だが、下は何故かミニスカートだ。そして何よりも此処では珍しい女の鬼だった。(ちなみに閻魔とは幼馴染みたいな関係らしい)

 その鬼は、見た目が俺と変わらないくらいの年に見えたので、俺もなんとなく覚えていた。

 しかし、俺の知っている彼女は普段は静かで、クールな感じだった筈だ。その彼女がこんなにも慌てているとは何事なのだろうか?

 閻魔も不思議に思ったのか、彼女に話しかけた。

 

「落ち着いてください。どうしたんです?あなたがそんなに慌てるなんて」

「す、すみません。早く、つ、伝えないとって思って」

 

 そう言って彼女は息を整えた後、真剣な顔をして言った。

 

 

 

「この前閻魔様が地獄に送った者数名が、地獄で暴れ始めたんです!しかも、いままで地獄にいた者達も一緒に暴れ始めて、このままじゃ罪人達がみんな地獄から出て来ちゃいます!」

「……え?」

 

 

 

 

 そう呟いてから閻魔は固まってしまった。心も驚いたような顔をしている。

 でもそれも仕方ないと思う。俺でもそれがどれだけやばい事なのか分かるくらいだったから。

 そう思っていると、閻魔が彼女と話し始めた。

 

「ま、待ってください。どういう事です?だって、そんな事、出来るわけないですよ。彼らには咎の鎖がついてる筈なんですよ?」

「それが、咎の鎖が何者かによって切られていて」

「……そんな」

 

 咎の鎖?何だそれ?

 知らない言葉に俺が不思議に思っていると、近くにいた心が教えてくれた。

 

「咎の鎖は地獄行きになった者に付けられるものだ。そいつの罪の重さによって、鎖の量も増えていくんだよ」

「なるほどな。でもそんな鎖が切られるなんてあり得るのか?」

「……人間の力じゃ絶対無理だ」

 

 ……人間の力じゃ無理、ねぇ。

 俺たちがそんな事を話していると、閻魔が他の事について聞いていた。

 

「そ、それでも!彼らはただの人間です!あそこには武器になるものなんてないし、地獄にいる鬼達にやられてしまう筈でしょう!?」

 

 確かにその通りだ。俺みたいな例外はあるけど、ほとんどのやつは鬼に敵うはずがない。ましてや武器もないんだったらほぼ不可能だ。

 閻魔がそう聞くと、彼女は表情を暗くした。

 

「……それが、何故か暴れている者全員が武器を持ってるんです!しかも、そのほとんどに怪異殺しの力が付加されています!」

「なっ!」

「嘘だろ!?」

 

 その言葉に閻魔だけでなく心も驚きの声を上げた。

 怪異殺しの力。それは何となく分かる。名前の通りだとかなり厄介だな。でもそれって何にでも付くものなのか?

 

「怪異を殺した伝説を持つ武器なら、伝説通りの力を持つ。でも、今ではそのほとんどが時代と共に無くなった筈だ」

「じゃあ、ただの武器にそういう力を付ける事は可能なのか?」

「可能ではある。でも、それはほぼ不可能に近い。ただの武器に伝説を付け加えるなんて、そんな事を出来る奴はそれこそ……まさか」

「……なんとなく何考えてるか分かるから言っておくけど、それ以上は考えねぇ方が良いぞ?まずい事になる。後、その事について閻魔には何も言うな」

「……分かった」

 

 はぁ、本当に嫌になるな。ここまでするか?普通。

 俺はそう思いながら閻魔を見た。

 

「どうするんだ?どうにかするなら早く指示をくれ」

「……貴方はここにいて下さい。地獄にいる鬼達総出で相手をすればすぐに終わります。後どれだけの鬼がいますか?」

 

 俺が指示を求めると、閻魔はこちらを見ずにそう答えた。

 しかし、閻魔にそう聞かれた彼女は突然黙り込んでしまった。

 

「どうしました?もしかして、かなりの鬼がやられてしまったんですか?」

「いえ、そうではなくて……」

 

 そう言ってまた黙り込んでしまった彼女に、俺たちが不思議に思っていると彼女は目に涙を浮かべながら口を開いた。

 

「……朝までいた筈の鬼達の約八割が何故か、罪人達が暴れ始める数十分前から突然消えてしまったんです!もう残ってる鬼はニ万程しかいません!」

「……そんな」

 

 その言葉を聞いた瞬間、閻魔は絶望に染まった顔をした。

 

「……そんなの、もう」

「……」

「……」

 

 閻魔も、心も、鬼も、皆が絶望に染まった顔をする。

 

「……なんて顔をしてんだよ」

 

 俺は無意識の内にそう呟いていた。

 その言葉に三人の顔が一斉に俺に向いた。

 

「まだ終わったわけじゃねぇだろ?なのに、何終わったような顔してんだよ?」

「……そんな事言ったって、もう無理だよ。こっちにはもう二万しか味方がいないんだよ?罪人達はその何倍、いや、何十倍もいるのにどうしろって言うのよ?」

「そうじゃねぇだろ。……おい、閻魔。お前はどうしたいんだよ?それじゃあ、お前は逃げるのか?残っている奴らを見捨てるのか?」

「そんな事したくないよ!!……でも、私にはどうする事も出来ない。私には、どうにかできるだけの力が無いの」

 

 そう言って、閻魔は下を向いてしまう。

 

「……閻魔。おそらくだが、消えた八割はお前を認めてなかった奴らだ。罪人達に武器を渡したのもな」

「……」

 

 俺のその言葉に閻魔は手を握る力を強めた。

 

「でもな、消えてない奴らは少なくとも、お前を認めてたって事じゃないのか?残ってる二万の鬼達は、お前の頑張りを知ってたって事じゃないのか?」

「……え?」

 

 その言葉を聞いた瞬間、閻魔は顔を上げて俺を見てきた。

 

「だってそうだろ?お前を認めてなかったら、こんな事態になってまで此処にいるか?お前達でさえ諦めそうになってる今この時も、そいつらは戦ってるんだ。それはお前ならなんとかしてくれるって、そう信じてるからじゃないのか?」

「……それは。でも」

「あー!もう!めんどくさいな!いつまでもぐだぐだ言ってんじゃねぇよ!いいか?少なくてもな、此処にいる俺たち三人はお前を認めてるし、お前を信じてる。仮に、そこの二人が信じてなくても()()()()()()

 

 俺がそう言うと、ずっと黙っていた二人が声を上げた。

 

「何言ってんだ!俺だって信じてるに決まってんだろ!」

「私だって、信じてるよ!」

「……二人共」

 

 こいつらも言う時は言う奴らだな。

 結構恥ずかしい事言ってると思うんだが。

 

「……お前ブーメランだぞ」

 

 ……まぁ、うん。そうだね。

 この話は置いておこうか。

 俺は改めて閻魔を見て言う。

 

「ほら見ろ。お前を信じてる奴がいるんだよ。お前ならなんとかしてくれるって、信じてるんだよ」

「……でも、私にはやっぱり、なんとかできる程の力が無いよ」

 

 はぁ、こいつ忘れてんのか?

 

「閻魔、忘れてるんだったらもう一回言ってやる。いいか?お前は誰かを頼れ。お前一人じゃダメでも、お前の周りには頼れる奴がいるんだから。な?」

「ッッ!!……頼っても、いいの?」

 

 閻魔はそう不安そうにおれたちに聞いてきた。

 その言葉に心が答える

 

「あぁ」

「……助けて、くれるの?」

 

 その言葉には鬼の女が。

 

「当然!」

「……こんな私を、信じてくれるの?」

 

 そしてその言葉には俺が。

 

「お前だから、俺たちは信じるんだ」

「……」

 

 俺の言葉を聞いた閻魔は黙って下を向いてしまう。

 しかしすぐに顔を上げ、涙を我慢しながら俺たちを真っ直ぐに見て言った。

 

「お願い。あなた達の力を私に貸して」

 

 その願いに俺たちは、笑みを浮かべながら同時に言った。

 

「「「もちろん!!」」」

 

 その言葉に我慢できなくなったのか、閻魔はその場で泣き始めてしまう。

 そんな閻魔を鬼の女が慰めている姿を見ていると、心がこちらに話しかけてくる。

 

「ありがとな。やっぱり、お前にまかせて正解だったよ」

「……そんな事ないだろ。それに、まだどうなるか分からん。此処で終わっちまったら意味が無い。だから、守りきるぞ。あいつの大切なこの場所を」

「……あぁ、そうだな」

 

 心は閻魔を見ながら頷いた。あいつは本当に仲間に恵まれてるな。

 ……それにしても、

 

「……信じてる、か」

「ん?何か言ったか?」

「いや、なんでも無い」

 

 俺は心を隠して心に言う。

 今はそんな事を考えるのは止めよう。そんな事を考えてる場合じゃ無い。

 俺はまだ泣いている閻魔に声をかける。

 

「おい、閻魔!泣くのは全部解決した後にしろ!」

 

 その声を受けて閻魔は顔を上げる。

 

「……うん。そうだね。みんなを守らないと!」

 

 そう言って閻魔は前を向く。そこには、先程までの諦めた様な表情はもう無かった。

 その姿を見て安心した俺は、笑みを浮かべながら言う。

 

 

 

 

 

 

 

「さぁ、制圧の時間のいきますか!」




誤字・脱字、感想・アドバイスなど待ってます!

それではまた次回です!


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制圧戦

どうも鬱ケロです。

インフルエンザって辛いですね。自分は先週インフルエンザにかかって、数日間まともに動けなくなっちゃいました。
久しぶりに体温計の数字が四十度近くになりました。
みなさんは気を付けてくださいね。

今回は主人公視点と閻魔様視点で書きました。
後少し長いです。
それでは続きです!
どうぞ!



 side空

 

 

 

「はぁ、多すぎるだろ」

 

 そう言って、高台に座っていた俺はため息を吐く。しかしそれも仕方がないと思う。何故なら俺の目の前には溢れんばかりの人、人、人。

 気持ち悪すぎて吐きたくなってくる。

 俺は今、地獄にある高台の上に居る。そこから罪人たちを見ているのだが、まぁ、数が凄い。数十万人はやはり凄い。

 

「今なら人がゴミの様だ、とか言えちゃうよ」

 

 あれ?これ言っちゃうと最後死ぬな。やっぱり言うのやめとこ。

 そんな事を考えていると声をかけられる。

 

「そんなくだらないこと考えてんじゃねぇよ。この馬鹿」

「ちょっとは良いじゃねぇかよ」

 

 心は呆れた様な顔でそう言ってきた。

 ……たまには冗談も必要だろうが。

 

「今はそういう場面じゃないだろ」

「こういう時だからこそだろ」

 

 そう言って笑う俺を見て、心はため息を吐く。

 その後真剣な表情で聞いてきた。

 

「大丈夫なのか?」

「大丈夫だよ。大丈夫。あいつの準備ができるまでなら全然平気」

 

 そう言って、俺はさっきまでの会話を思い出していた。

 

 

 

 

 

 

 

 執務室から急いで地獄に向かっている俺たち四人は、走りながら作戦を決めていた。

 

「消すだけだったら、俺一人で事は足りるけど?」

「ダメに決まってるでしょ。全員、然るべき罰を受けて貰うんだから」

 

 閻魔によって、俺の一番簡単な案は却下されてしまった。

 

「とは言ってもなぁ。俺の()が罪人たちに効けば良いけど、罪人たちが持ってる武器のせいで、多分俺の力は効かないし。心たちって、その武器には触れるのか?」

「……悪いがそれは無理だ。少し触っただけでも、死にはしないけど一日は動け無いだろうな」

「……私も無理です。ごめんなさい」

「……そこまで?いや、まぁ、仕方ない。今回はさすがに相性が悪すぎる。でもなー。どうするか。俺一人で数万、いや数十万の人から武器だけ取るとかきついし」

 

 そもそも今回の事は、ただの人である俺が居ただけ運が良かった。鬼か妖怪で組まれてる組織に、怪異殺しの武器は強すぎる。

 どうするか考えていると、閻魔から質問された。

 

「武器がなければ何とかなるの?」

「ん?あぁ。持ってなければ、すぐに抑えられると思う」

「だったら、何とかなるかもしれない」

 

 閻魔の言葉に俺は驚いたが、他の二人は思い当たる事があるのか、驚いていなかった。

 

「本当に何とかなるのか?」

「そこは安心して良い。俺が保証する」

「私も大丈夫だと思うよ」

 

 俺の疑問に心と、鬼娘(おにむすめ)が答える。

 この二人が大丈夫と言うなら大丈夫か。

 そう思っていると、閻魔が困った顔で言ってきた。

 

「……でも私のそれには、ちょっと時間がいるの。その間に攻められちゃったら意味が無い」

「つまり、その間守り通さないといけないわけか」

「そうなの。でも、今もかなりぎりぎりだから、難しいかもしれない」

 

 そう言って辛そうな顔をする閻魔。

 なるほど。その間に、みんなが死ぬかもしれない事が辛いのか。

 そんな閻魔に声をかける。

 

「悩むな。悩めば、その間にたくさん味方が死ぬ。その死ぬ数を減らす為にも、お前は悩むな」

「……そうだね。うん、分かった」

 

 閻魔はそう言って、地獄に向かう足を早めた。

 ……何だかさっきから俺らしくないなぁ。

 そんな事を思った俺だが、すぐに頭を切り替える。

 

「それじゃあ、作戦としては、閻魔の準備が出来るまでの防衛戦で。心と鬼娘は武器に当たれば終わりだから、守ってる鬼たちと一緒にいて、指示とかしてくれ」

「あぁ、分かった」

「……分かったけど、鬼娘って私のこと?」

「ん?そうだけど?」

 

 他に誰かいるのだろうか?それとも何か気に障ったか?

 

「あの、ちゃんと名前で呼んでくれないかな?」

「……えっと、ごめん。俺、君の名前知らない」

「……ちゃんと名乗ったんですけど。まぁいいや。私の名前は桃花(とうか)。……今度はちゃんと覚えてね?」

「よし分かった。桃花ね。覚えた。多分忘れない」

「……凄い不安なんだけど」

 

 大丈夫。今度は忘れない。多分大丈夫。

 そう思っていると、何故か閻魔がこちらを睨んでいた。

 

「何だよ?」

「……別に。ねぇ私は?呼んでくれないの?」

「はぁ?閻魔は閻魔だろ?何言ってんだ」

 

 閻魔は閻魔だろ?他になんて呼べば良いんだよ?

 

「むー!」

 

 俺の言葉を聞き閻魔は頰を膨らませる。

 どうしたんだこいつ?

 

「そいつは放っておけ。それよりお前はどうするんだ?」

 

 その光景を見ていた心は、そう聞いてきた。……何故だか口がにやけてるんだが何なんだ?

 

「俺か?俺は敵の中に降りて、中から潰していくわ」

「危険じゃないのか?」

「大丈夫だよ。それに、中で暴れれば、そっちに行く力が多少は弱まるし。最後に、武器が無くなれば俺の力で押さえ込むんだから、敵の中にいた方がいい」

 

 そこで地獄の入り口が見えてきた。

 

「良し。それじゃあ閻魔、一言」

「えぇ!?何で急に!?」

「リーダーの一言はいるだろ」

 

 そう言って俺たち三人は閻魔の方を向く。

 

「え、あ、えっと。みんな、生きてまた会おう?」

「……死亡フラグ?」

「そんなつもりで言ってないわよ!!」

 

 そして俺たちは笑い合った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 先程までの事を思い出していた俺は、笑みを浮かべる。

 

「それに、あいつの建てたフラグを折らないといけないんだから、死ねないよ」

 

 その言葉に心も笑みを浮かべる。

 

「そうだな。折ってやらないとな」

 

 そして互いに笑い合った。

 

「さて、そろそろ行くわ。……そっちは頼むぞ?」

「あぁ、任せろ」

 

 立った俺は心に最後に言葉をかける。

 

「じゃあな」

「……また後で、だろ?」

「あはは、そうだな。じゃあ、また後で」

 

 そして俺は、罪人たちの中に落ちて行く。

 

 ……さて、いつまで俺は()()()()()かな?

 

 

 

 side閻魔

 

 

 

 私は今、罪人の人たちが全員見える、一番高い高台にいる。

 空たちは、向かいの少し小さい高台にいた。

 今、みんなは私の準備が出来るまで、必至に頑張ってくれていた。

 

 

 地獄に着いた時、守っていたみんなが私を見て、

 

『閻魔様!おい、みんな!閻魔様が来てくださったぞ!』

『おお!本当だ!みんな、これで何とかなるぞ!後少し頑張れ!』

 

 と、言ってくれた時は本当に嬉しかった。嬉しすぎて泣きそうになった。

 それだけ、みんなが私の事を思ってくれていたことが、とても嬉しかった。

 そして、そんなみんなを守りたいと思った。

 だからこそ、

 

「……頑張らないと」

 

 後少しで準備は終わる。

 そうすれば、後は空の力で抑えられる。

 そこで空の事を思い出す。

 一人で私の準備が出来るまで、敵の中で暴れていると言った人。

 彼は大丈夫なのかと下を見る。

 

「……え?」

 

 確かにそこに空はいた。

 しかし、それは私の知る空ではなかった。

 

「はは、アハハハハ!!」

 

 それは狂気。まるで狂った獣のように、彼は暴れていた。

 彼に狙われた罪人は、何も出来ずに吹き飛ばされる。首を掴まれ地面に叩きつけられる。体の骨を叩き折られる。至る所から悲鳴が聞こえる。

 しかしそんな状態でも、死んでいる人はいなかった。

 きっと、空はあんな状態でも、私の言った事を守ってくれているんだ。

 

 

 でも、あんな空は見たくない。

 あんなにも悲しそうに、今にも泣きそうな彼なんて、見たくない!

 

 

 準備は終わった。後は私が言うだけ。

 大きく息を吸い、私は言う。

 

「聞け!地獄に在りし、地獄に仇なす武器たちよ!今ここで、七曜閻魔の一人、火曜の閻魔の名の下に!地獄での汝らの存在を、否定する!!」

 

 私がそう言った途端、罪人たちの持っていた武器が消えていく。

 閻魔が存在を否定したものは地獄にいられない。それが地獄のルール。だからこそ、存在を否定された武器たちはここにはいられない。

 私を息を吐く。これで後は、空が力を使ってくれれば全部終わる。

 そう思い下を見ると、

 

「……何で?」

 

 空は、まだ暴れていた。

 敵は武器を無くし、もう何もする事が出来ないのに。

 それでも彼は、暴れ続ける。

 悲しき声をあげながら。

 

「……いや」

 

 そんな彼を見たくない。

 

「……やだよ」

 

 そんな姿を見たくない。

 いつものあなたと一緒にいたい。

 だから、私は、

 

「空ぁーーー!!!」

 

 あなたの名前を叫ぶ。

 

 

 あなたが起きる様に祈って。

 

 

 

 side空

 

 

 

「ーーん」

 

 声が聞こえる。誰かの声が。

 

「ーー君」

 

 また聞こえる。懐かしい声。誰だっけ?

 

「空君!!」

「うわ!?」

 

 俺は跳び起きる。

 すると俺の目の前には女性がいた。白く長い髪に紅い瞳、どこか幼いその表情は頰を膨らませていてそこがまた幼く見える。しかし服装は俺の通っていた高校の服装だから高校生だろう。背は少し高いのかな?百六十センチくらい。

 

「全く!何回も呼んでるのに全然起きないんだもん!この寝坊助!」

「えっと、あんたは?」

 

 突然現れた彼女に俺はそう聞く。

 すると彼女は可笑しそうに笑った後、こう言った。

 

「ふふっ。ごめんね?でも、空君は知ってるはずだよ?だって空君のただ一人の友達だもん」

 

 俺の友達?俺の友達って魔族ばかりなんだが。

 

「あぁ、ごめん。ニ回目の人生じゃなくて、一回目の人生の方ね」

 

 一回目?一回目っていうと……

 

「……え?」

 

 そんな、ありえない。だってあいつは。

 でも、そういえば、あいつの姿は確かにこんな感じで。

 

「……お前、なのか?」

「あ、やっと思い出した?」

 

 腰に手を当てて言う彼女。

 そうだった。彼女はこんな感じだった。

 どうして、すぐに思い出すことができなかったんだろう。

 

「仕方ないよ。あんな事、誰だって忘れたいと思うもん。......ごめんね」

 

 そう言って謝る彼女。

 あんな事?何があったっけ?

 思い出そうとするが、記憶に黒い靄がかかっていて思い出せない。

 

「……今はまだ思い出さなくていいよ。私はただ、君を起こそうとしただけだし」

「そういえば、ここはどこだ?真っ白で何もない」

「ここは君の夢の中。そして私は、君の記憶の中の私。本物じゃないんだ」

「……そうか。でも、会えて嬉しいよ」

「うん、私もだよ」

 

 そう言って互いに笑うと、また何かが聞こえてくる。

 

『ーーぁぁぁぁーーー!!』

「なんだ?」

「うん。そろそろかな」

 

 彼女はそう言う。

 

「何がだ?」

「さっき言ったでしょ?これは君の夢の中。だから覚めないと」

「やっと、会えたのにか?」

「私は偽物だよ。それに」

「何だよ?」

「君には今、待っている人がいるでしょ?」

「そんな奴……」

「いるよ。耳を澄ましてみて」

 

 そう言われた俺は、言われた通りにしてみる。

 すると先程の声が聞こえてくる。

 

『ーーらぁぁぁーーー!!!』

「この声が何だよ?」

「もっとよく聞いて」

 

 そう言われた俺は目を閉じて、声に集中する。

 そうすると聞こえてきた。

 

『空ぁぁぁーーー!!!」

 

 その声はここ数日聞いていた声。真面目なくせに、どこか抜けていて、寂しがり屋なあいつの声。

 

「……あー、そうだった。あいつがいたな」

「でしょ?」

 

 そう言った後、微笑む彼女。

 その姿に俺も笑みを浮かべる。

 

「俺にもやることがあったわ。そろそろ行かないと」

「うん、頑張って!」

「……今度は忘れないから」

 

 そう言うと彼女は驚いた顔をしたが、すぐに幸せそうな笑みを浮かべた。

 

「うん、ありがと」

 

 そう言ってぼやけて行く視界の中で彼女は言った。

 

「いってらっしゃい」

「あぁ、行ってくる。またな、(ほむら)

 

 そして俺の夢は覚めていく。

 

 

 

 

 

 

 目が覚めると、そこにはこちらに襲いかかろうとする罪人たちがいた。

 覚めた瞬間色々やばいんだが。

 まぁいい。さっさと仕事を終わらせよう。

 俺は息を整え、言う。

 

「『止まれ』」

 

 その瞬間罪人たちはみんな動かなくなる。

 後は鬼達で何とかなるな。

 

 ふぅ、やっと終わった。

 すごい疲れた。寝たい。

 

「空ぁーー!!」

 

 向こうから閻魔が走ってくる。

 無事だったか、良かった。

 心も桃花も無事っぽいな。

 安心した俺は意識が遠のいていく。

 

「……あー、終わった」

 

 そこで俺の意識は途切れた。

 




タイトル制圧戦なのに、あんまり戦闘描写書けてない。
やっぱり難しいですね。書くのって。

読んでくださった方ありがとうございます!
誤字・脱字、感想・アドバイスなど待ってます!

それでは、また次回です!


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一つの終わり・物語の始まり

どうも、鬱ケロです。

これまでの話の中でおかしいなってところをいくつか直させてもらいました。話にはあんまり関係しないと思うので、これからも読んでもらえると嬉しいです。
あと、タイトルを少し変えました。

それでは読んでいってください。
どうぞ!


「……何処だ?ここ」

 

 目覚めた俺が最初に言った言葉は、そんな言葉だった。

 起きて周りを見てみると、いくつかのベッドがあり、俺の寝ていたベッドの近くにあるイスには何故か人形が置いてあった。......なんで人形?

 俺の体には包帯が巻いてあり、かなり痛い。昔の俺だったら泣いてる、多分。

 その状態を見てまたやったのかと思っていると、部屋の扉が叩かれた。

 

「失礼しまーす」

 

 そう言って入って来たのは閻魔だった。

 入って来た閻魔は起きている俺を見ると、その場で固まってしまった。

 

「どうした?なんで固まってんだよ?」

 

 俺がそう聞くと、閻魔は早足で俺の方にやって来た。

 

「空、貴方いつ起きたの!?それより怪我はもう大丈夫なの!?」

「ついさっきだよ。怪我の方も問題ない。あと、怪我人の前で大きい声出すな」

「あ、ごめん」

 

 そう言って謝ってくる閻魔を見る。

 見たところ、何処にも怪我は無さそうだし、騒げるほど元気そうなので俺は少し安心した。一応こいつも女だしな。

 

「なんか失礼なこと考えなかった?」

「いや全く」

 

こいつ、こんな鋭かったっけ?

 

「そう?まぁ、いいや。それより、本当に大丈夫?」

「大丈夫だよ。だからそんな心配そうな顔するな。それよりここ何処は何処なんだ?見たことない場所なんだが」

 

 俺の言葉で安心した顔をする閻魔に、俺は先程から気になっていた事を聞いてみた。

 

「ここは医務室。あの後、倒れちゃった貴方をここまで運んで休ませてたんだよ。傷も凄かったからそれも一緒に」

「そうだったのか。運んでくれたり、傷の治療とかしてくれてありがとな。でも俺の他に誰も居ないみたいだけど、他の奴らは大丈夫なのか?」

「みんなはそこまで酷くなかったよ。だから今は地獄の復興に動いてもらうようにお願いしたの」

 

 そう言う閻魔の顔は、どこか嬉しそうだった。おそらくみんなが自分の指示に従って動いてくれるのが嬉しいんだろうな。

 俺がそう思っていると、閻魔は真剣な顔になって俺の方を向いた。

 

「ねぇ、空。貴方にいくつか聞きたいことが有るんだけど、聞いていい?」

「いいぞ」

「即答って、もう少し悩んだりしないの?聞かれたくないことだってあるかもよ?」

「俺に答えられる範囲なら答えるよ。言いたくなかったら言わないし」

「それだと私が困るんだけど、まぁいいや」

 

 いいのか?それで?

 閻魔の言葉に少し不安になっていると閻魔がメモ帳とペンを取り出して俺を見てきた。

 

「なら聞いてくね。とは言っても大体がこれに関することなんだけどさ。貴方が戦っていた時のあれはなんだったの?貴方とはまだ一週間くらいの付き合いだけど、あれは貴方らしくないと思ったんだけど」

「分からん」

「……はい?」

 

 俺の答えに固まる閻魔。しかし、俺には他に答えようがない。

 

「……えっと、分からないってどういうこと?」

「よく分からないんだ。魔王のところで戦っている時からそうなんだよ。戦いになるとだんだん意識が遠のいていって、気付くと全部終わってるんだ。あと、この身体の傷もその反動でできるんだよ」

 

 魔王のところでそうなると、止められるのが魔王だけだったから俺、戦いにあんまり参加できなかったんだよな。なのに隊長とか呼ばれて大変だったな。

 

「どの位貴方の意識って持つの?」

「大体が十分。長くて十五分」

「予想以上に短い」

 

 そう言って落ち込む閻魔。十五分持たせるだけでも、だいぶ大変なんですけどね。

 

「でも本当に、どうしてそんなことになってるのよ?」

「さぁな。でも、もしかしたら前の前の世界に原因があるかもな」

「……前の前の世界?」

 

 俺の言葉に反応する閻魔。なんだ?知らないのか?

 

「俺は一回転生してるんだぞ?知らなかったのか?」

「え、知らない。待って。そんなこと書かれてなかったよ。どうなってるの?」

「いや、俺は知らないぞ」

 

 でも閻魔が知らないなんてことあるのか?

 まだそのことについて考えていた閻魔は、俺の視線に気づき首を振ったあと俺に聞いてきた。

 

「その事については後で調べておくとして、空はその一回目の人生で何かあったの?」

「それはだな。その、えっと」

「なに?どうしたの?なにがあったのよ?」

 

 歯切れの悪い俺に閻魔は再度聞いてきた。

 

「悪い。実は一回目の記憶があんまりないんだよ。俺」

「……嘘でしょ?」

 

 閻魔のその言葉に俺が首を横に振ると、今度こそ閻魔は頭を抱えてしまった。

 

「あ、でもな、最近少しずつだけど思い出してきてるんだ。だからいつか俺が暴れちまう理由が分かると思うんだよ」

「そっか。でも、どうして記憶がないの?まさか、魔王たちに何かされたとか!?」

「いや、それはないと思う。あいつら優しい奴らだったからな。それに、()()()が言うには、俺自身の意思で忘れてるらしい」

 

 本当にあいつらは魔王軍としては優しすぎるよ。森で迷っていた人の子を、近くの村まで送ってやるとかよくやってたし。人に化けて村とかにボランティアに行ったりしてたしな。……あいつら魔王軍だよな?慈善団体とかじゃないよな?あれ?

 俺が昔の仲間たちのことについて疑問に思っていると、閻魔が声をかけてきた。

 

「ねぇ、空。あいつって誰?魔王軍の誰か?それにしては、いつも貴方が話すより優しいそうな顔で今は話してるんだけど」

「え?そんな顔してたか?」

「うん」

 

 そう言われて俺は自分の顔を触ってみる。……触ってもよく分からないな。

 でも、そんな顔してたとか恥ずかしいな、おい。

 

「それで、誰なの?」

 

 閻魔が再度聞いてくる。

 

「あー、その、俺の知り合い?友人?みたいなものだよ」

 

 夢であった友人なんて言っても、大丈夫?って心配されるのがオチだから適当に誤魔化すことにした。

 

「ふーん。まぁ、今はそれでいいや。じゃあ、あれの原因は空にも分からないってことでいいんだね?」

「あぁ」

 

 そう言ってどこか不満そうだが話を終わらせる閻魔。

 その方が俺としてもありがたい。

 

「それじゃあ次に、空が最後に使ったあの力はなんなの?魔法とかじゃないよね、あれは。あれについても書かれてなかったし、何なのよ、もう」

 

 そう言ってまたも頭を抱える閻魔。

 いや、なんかごめん。

 俺がやったわけではないが、なんだかとても申し訳なくなった。

 

「あ、あぁ。あれな。そういえば、敵はみんな止まったか?」

「止まったよ。だけど、今も止まったままなんだよね」

「それなら、一日経てば解けるようになってるから大丈夫だよ」

 

 それじゃあ俺が気を失ってからまだ一日経ってないのか。

 

「それじゃあもうすぐ解けるんだ。でも咎の鎖も付けてあるし、近くで見張らせてるから大丈夫かな。それで?結局あれはなんなの?」

 

 どうやらもうすぐ一日経つらしい。

 それより気になってるなぁ。そんなに大したことでもないんだけど。

 

「あれは、俺の能力みたいなものだよ。『言霊』って俺は言ってる」

「言霊?」

「昔から言うだろ?言葉には力が宿る、とかそんな感じのこと。これはそんな感じのものだよ。俺が強く思って言葉にしたことを味方や自分、相手に強制させることができるんだ」

「……それって強すぎない?」

「そうでもないぞ。俺より強い奴や、神や魔王、高位の存在には効かないし、生死ついては無理っぽいしな」

「それでも使い方によってはかなり使えると思うよ?」

「そうだな」

 

 まぁ、そこは否定しない。実際、使い方によってはかなり使える力だしな。

 

「うん、これくらいかな?聞きたいことは聞けたし、これで終わりだね」

 

 持っていたメモ帳に今のことを書いていた閻魔がそう言ってきた。

 

「そうか。悪いな、まともに答えられることがなくて」

「大丈夫。忘れてるんだったら仕方ないよ」

「……なぁ、お前は俺が嘘をついていると思わないのか?」

 

 俺はいつの間にかそんなことを言っていた。

 まだ一週間の付き合いなのに閻魔は俺の話を信じている。それが俺にとっては信じられなかった。

 だから俺は、そんなことを聞いてしまったのかもしれない。

 俺のその問いに閻魔は不思議そうな顔をした。

 

「なんで?だって仲間でしょ。なんで嘘をつく必要があるのよ?」

「……そうか」

 

 あぁ、そうか。こいつは優しすぎるんだ。

 仲間を信じてるから、裏切ると思っていない。今回だって多分こいつは消えた奴らがやったことだなんて思っていないんだろう。

 

 それは、あいつと同じだ。

 その想いはとても眩しいものだ。

 俺が欲しいと思ったものだ。

 俺にはもう、手に入らないものだ。

 

 

 

「あ、もう一つ聞きたいことがあったんだった」

 

 閻魔のその声で俺はその考えを止める。

 

「ん、どうした?」

 

 俺が聞くと閻魔は何故か顔を下に向けていて、その顔を見ることはできなかった。

 

「あ、えっと、あのさ。どうして空は心兄(しんにい)桃花(とうか)は名前で呼んでるのに、私は呼んでくれないんだろうなぁって思って。いや、別に名前で呼んで欲しいとかじゃなくてね!?なんだか不思議だなって!そう!気になっただけだよ!?」

 

 そう顔を上げて必死に言う閻魔の顔は少し赤かった。

 そんな閻魔の話の中で気になることがあった。

 

「え?お前の名前って閻魔じゃないの?」

「そんなわけないでしょ!!」

 

 俺のその疑問に閻魔は間髪いれずに否定した。

 え?マジで?そうなの?

 

「特に自己紹介とかないから、てっきり閻魔って名前なのかと思ってたんだけど」

「え?そうだっけ?……えっと、ごめん」

 

 俺の言葉で閻魔は思い出したのか、顔を赤くして謝ってきた。

 こういうどっか抜けてるところもあいつに似てるな。

 俺はそう思い笑みをこぼす。

 

「それじゃあ、改めて自己紹介するか」

 

 俺のその言葉に閻魔はこちらを見て、そして笑みを浮かべる。

 

「うんそうだね。そうしよっか」

 

 

「それじゃあまず俺から。

 元はただの一般人で転生して魔王の部下に。

 そして死んだことでお前の部下になった。

 深星 空(ふかほし そら)だ。改めて、よろしくな」

 

 そう言って俺は笑う。

 

「それじゃあ次は私ね。

 七曜閻魔の一人、火曜の閻魔の名を持つけど、まだ成り立ての新人。だけど貴方の上司になりました。

 (ほむら)です。これからもよろしく」

 

 その名前に俺は驚く。

 

「焔?それがお前の名前?」

「?うんそうだよ」

「……そうか、焔か。よろしくな、焔」

「うん、よろしくね。空」

 

 そう言って俺たちは笑い合う。

 ……焔、か。おかしな運命だな。全く。

 

「それじゃあ私は行くね。空は今日は休んでてね?分かった?」

「あぁ、分かったよ」

「うん、よろしい。じゃあね」

「またな」

 

 そう言って閻魔は部屋を出て行った。

 さて、

 

「いつまでそうしてんだ?お前は?」

 

 俺がそう言うと近くにあった人形が光りだす。

 そしてその人形は人の大きさになっていった。

 

「あれれ?いつから気づいてたの?自信あったんだけどなぁ」

 

 そう言って人形だった女は俺に話しかけてきた。

 そいつは閻魔に似て白く長い髪をしているが、閻魔と違い、その瞳は空のように碧く澄み渡っている。服は薄い赤色に花が描いてあり、昔教科書で見た十二単のような感じの服だった。

 

「最初におかしいなって思ったんだよ。俺に人形とか絵面が変だろ?それに、えん、焔のやつが人形に目を向けてなかった。あれって焔に見えないようになってただろ?」

「へぇ、あれだけでそこまで分かるんだ。やっぱりすごいなぁ」

「それよりお前は誰だよ?」

 

 俺のその問いに女は笑みを浮かべながら言ってきた。

 

「私?私は神だよ。分かってるくせになんで聞くの?」

「神だったら今回のことについて聞きたかったからな」

「あぁ、なるほどね。大丈夫だよ。今回のことに関わったバカは神権を剥奪。ここじゃない地獄に落とされたから」

「ここじゃない地獄?他に地獄があるのか?」

「うん。いくつかに分かれてるんだよ。その中の一つに落としたの」

 

 それなら安心か。

 もし神が攻めてきたら、本気で潰しに行かないといけなかったからな。

 

「じゃあなんでこんなところに来たんだ?」

「あぁ、それはネタ集めのためにね」

「ネタ集め?」

「うん。私趣味でお話を書いててね。今回のことでいいネタないかなって探しに来たんだ」

「......はい?」

 

 その言葉に俺は何も言えなくなってしまった。

 つまり、こいつは趣味のためにここまで天界から降りて来たってことか?こんなのが神とか大丈夫かよ?

 俺がそんなことを思っていると、そいつは言葉を続ける。

 

「今回のことはなかなかいいネタが見つかったよ!やっぱり君たちのことを見るのは面白いなぁ」

「どこがだ」

「あなた達の生き様の全てが。私はね、ある時から人の生き様を見るのが大好きになったんだ。だからこそ、私はあなた達の生き様を書くの。私が忘れない為に。人に、神に忘れさせない為に」

 

 そう言うそいつの目は本気だった。本気で彼女は人の人生を好いていた。

 

「……あんた変わってるな」

「そうかな?」

「俺があったことのある神は大抵人をよく思っていない奴ばっかだ。そうでなくても好いている奴はいなかった」

「そいつらは見る目がないんだよ。……まぁ、昔の私もそうだったんだけどね」

 

 そう言う彼女はどこか懐かしそうだった。

 しかし、すぐに元に戻って言ってきた。

 

「それじゃあ私はもう行くね。これからもあなた達のこと見てるから、楽しい物語を期待してるよ!」

「そうか。あんまり期待するなよ。まぁ、頑張るよ。じゃあな」

「うん!またねぇ!」

 

 そう言って彼女は消えた。

 それを確認して、俺はもう一回寝ようと横になり眠りについた。

 その時にさっきの神の声が聞こえた気がした。

 

 

 

『期待してるよ?この物語が、ハッピーエンドになることを!』

 




感想・アドバイス、誤字・脱字などもらえると嬉しいです。

それではまた次回です!


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どうも、鬱ケロです。

今回でとりあえず一章は終わりです。
この一章はだいぶ短かくなっちゃいましたし、話が急すぎたりと読みにくかったと思います。
次はもう少ししっかり書けるよう頑張りたいです。

それでは一章の最後です。見ていってください!


 俺が医務室で焔や神と話してから一ヶ月が経った。

 この一ヶ月は地獄だったよ。

 怪我が治った俺が仕事に戻った時、待っていたのは仕事の山。

 咎人達が暴れた事に対する事後報告の書類、荒れてしまった地獄の復興など、やる事が多すぎて最初の一週間はまともに眠れていない。

 そんな中で書類仕事を寝ずにやっていた焔は、一週間が過ぎた辺りで、死んだような目で独り言を言うようになってきたからやすがに休ませた。

 いや、だって焔の奴、

 

「……ふふ、どう?空。私だってやれば出来るのよ?

 ……やだなぁ、そんなに褒めないでよぉ。心兄や桃花もいるんだからぁ」

 

 とか言ってんだぞ。怖いよ、怖い。

 何が怖いって独り言に俺の名前が出ていて、何も言ってないのに嬉しがってるところが怖い!近くにいた心や桃花も軽く引いてたくらいだよ。

 それに、その頃には心や桃花、外で働いてる鬼達もだいぶきつそうだったし、俺も正直きつかったから、心に皆を少し休ませるように言ってもらった。

 それからは皆に無理しない程度に休みながら、地獄の復興に勤めるようになった。

 そして一ヶ月経ってだいぶ落ち着いてきた時に、焔から突然呼び出しがあった。

 

「ねぇ、お疲れ様会みたいなことしない?と言うかしようよ」

「はぁ?」

 

 何こいつ?執務室に入ったら、突然質問してきて勝手に自己完結したんだけど。

 そんな上司につい口が悪くなってしまった俺は悪くないと思う。

 

「なんだよ急に?お疲れ様会?なんだって今更」

「今だからこそだよ。この一ヶ月は皆忙しくて集まって話す事ができなかったし、休む事もなかなかできなかったでしょ?

 最近はだいぶ落ち着いてきたし、この辺りで皆で集まってご飯を食べながらいろんな話をしたりして、改めて仲良くなりたいなって思って」

 

 恥ずかしそうにしながらもそう言う焔。

 その顔つきは、一ヶ月前の諦めたような顔つきではなく、進もう、近づこうという気持ちで溢れていた。

 そんな所も最近思い出してきた彼女に似ていて、俺は嬉しく思い、そして何故か()()()()()()

 

「えっと、駄目、かな?」

「いや、良いと思うぞ。きっと他の奴らも、お前と話をしたいと思ってるだろ」

 

 俺の気持ちが顔に出ていたのか、俺の顔を見て悲しそうに聞いてくる焔に、俺は自分の考えを伝える。

 事実この一ヶ月、鬼達を見ていると今までのこともあって、何処か焔との距離感を図りかねてるような奴がたくさんいた。

 だからこそ此処で一度、落ち着いて話したりするのも良いと思う。

 焔は俺の答えを聞くと安心した顔をした。

 

「良かった。空ってこういう集まりとか、嫌いなのかと思ってたから、断られたらどうしようかと」

「別に嫌いなわけじゃねぇよ。……ちょっと得意じゃないだけで。

 それより、何処に集まるんだよ?飯も食べるってなるとだいぶ広い場所の方がいいだろ?そんな場所あるのか?」

 

 あの事件でかなりの鬼がいなくなってしまったが、それでもまだたくさんの鬼がいる。その全員が集まれる場所なんてあるのだろうか?

 

「それについては大丈夫。今いる人数位なら余裕で入る場所があるから」

「へぇ、そんな場所があるのか」

 

 それなら大丈夫かと思っていると、執務室に心が入って来た。

 

「よう、空。その様子だと焔から話は聞いてるな」

「あぁ。俺も行く事になったから、やることあったら言ってくれ」

 

 俺がそう言うと、何故か心は笑顔になった。

 ……あれ?なんか嫌な予感がするんだけど?

 

「そうか、そうか。それなら早速手を貸してくれ。明日までにやらないといけない事が多くてな」

「……え?いや、俺は明日の事でやる事があればって意味で言ったんだが」

「焔もやれよ?」

「え?無視なの?」

「……わ、私は明日の事について考えないと」

「仕事が終わるまで、お前ら帰さないからな?頼むぞ?」

「いや、だから」

「やれ」

「でも」

「やれ」

「あ、はい」

 

 そうして今日は過ぎて行った。

 

 

 ……これ明日までに終わるかな?

 

 

 

 

 

 

 

 そしてその翌日。

 え?仕事は終わったのかって?

 ……なんとかね。三時間前に終わったばかりだよ。

 それから少し寝ることができたからまだ良かったです、はい。

 心には逆らっちゃ駄目だ。鬼より鬼らしいとか、なんなのあいつ?

 

「大丈夫?なんだか元気ないけど」

「大丈夫。ちょっと眠いだけだから」

「……しっかり寝なさいよ」

 

 無理言わないでくれ。眠る事ができたの三時間前だよ?心の奴帰してくれないんだよ?寝そうになったら頭叩かれるし。もう嫌。

 

「お前が悪いんだろうが。今度はぶん殴るぞ」

「すみませんでした」

 

 本当に殴るのだけは勘弁してください。

 

 

 今俺や心、桃花の三人は焔が来るのを待っていた。

 用意に手間取っているみたいなんだが、

 

「それにしても遅いな。焔の奴」

「そうだな。なぁ、桃花。ちょっと見て来てくれるか」

「え、嫌です」

「なんでだよ?」

 

 もう三十分くらい経つが、来る気配がしなかった。

 心も流石に遅いと思ったのか、桃花に見て来るように頼むが桃花は拒否した。

 どうして嫌なのか俺は聞いてみた。

 

「あのね、女は身支度に時間が掛かるものなの。多分そろそろ来ると思うからもう少し待とうよ」

「その割にお前は早かったよな」

「私はそこまで気にしてないもん」

「いつもその服だけど他に無いのかよ?」

「この服が気に入ってるから良いの」

 

 あ、そう。

 女っていうのはよく分からんな。

 そんなことを思っていると執務室に焔が入って来た。

 

「遅くなってごめん!久しぶりにこの服着たから時間かかっちゃって」

 

 そう言って入ってきた焔の服装はいつもと違っていた。

 普段は巫女服の様な服を着ているが、今日は桃花と似た様な和服だった。

 しかし桃花と違いその色は緋色だった。そしてその服には椿の花が描かれている。

 あと、髪型がポニーテールになってる。

 

「?どうしたの、空。えっと、なにか変?」

 

 俺がなにも言わずに見ていた事を不思議に思ったのか、焔は俺にそう聞いてきた。

 

「いや、変じゃ無い。むしろ似合ってると思う」

「え!?そ、そう?あ、ありがと」

 

 俺の言葉で顔を赤くする焔。それにつられて俺の顔も熱くなる。

 いや、うん。勢いで言っちゃったけどちょっとまずかったか。

 

「んん!それじゃあ二人とも良いか?」

「……早くしてくれる?こういう甘ったるい空気嫌になるんだけど」

 

 俺達の様子を見て心は苦笑いを浮かべながら、桃花は睨みつける様にこちらを見てきた。

 別に甘ったるい空気なんて出してないぞ。……出してないよな?

 

「あ、うん。そうだね。それじゃあ行こうか」

「どうやって行くんだ?」

「そこは大丈夫。桃花、行けそう?」

「いつでも行けるよ」

 

 は?なんでそこで桃花が出てくるんだ?

 そう思っていると心が近付いてきた。

 

「それはな、桃花の能力が『瞬間移動』だからだ。

 まぁその能力も自分が行ったことのある場所、自分の視界に写っている場所限定っていう弱点があるけどな」

「あと、一回使うと十秒間使えないんだけどね」

 

 それでも便利な能力だな。

 

「なるほど。それでその場所まで飛ぶってわけか」

「そういう事。それじゃあ桃花。早速だけどお願い」

「分かった。それじゃあ私に触れて。あ、空は服にちょこっと触れるだけにしてくれる?」

「なぁ、俺お前になにかした?」

 

 そう言いながらも俺は言う通りにする。

 いや、だって俺瞬間移動できないし。仕方ないよね?

 

「それじゃあ行くよ」

「「「あぁ(うん)」」」

 

 そして次の瞬間目の前の景色が変わった。

 

 

 

 

 

 

 

「……すげぇ」

 

 その景色を見て無意識に出た言葉はそんな言葉だった。

 そこはまるで、楽園の様だった。

 辺り一帯に何十、何百という桜の木が植えてあり、その全てが満開だった。

 そして、その一本一本が風に揺られ桜の花びらが舞っている。

 その中でも一際目立つのは中央にある桜だ。

 その桜は他と比べても明らかに大きく一体何年、いや、何百年前からあるのか想像もつかない。

 でもだからこそ、その桜は他の桜よりも綺麗だった。

 向こうはいつも暗く分からなかったが今は夜だったらしく、月の明かりに照らされてとても神秘的だった。

 

 

 その桜を見てなにも言えなくなっている俺を見て、笑みを浮かべる焔と心、桃花を見て俺はやっと我にかえる。

 

「どお?凄いでしょ?」

「あぁ、これは凄いよ。それしか言えない」

「そうでしょう。この桜はね千年くらい前に植えられた桜の木らしいの」

「千年も前!?」

「うん。しかもこの辺りはいくつもある地獄の中で唯一、閻魔や神様からの干渉を受けないの」

「干渉を受けない?」

「そう。この場所では私達閻魔や神様は力を使うことができないのよ。それもあってどの地獄も無干渉を決めてる。

 それと、この場所の近くには村があってね。その町の桜の木と、こっちのあの大きい桜の木は繋がっているって言われてるの。

 だからその町でも力が使えなくて、そこでは町の人達がリーダーを決めて、自分達でルールを作って暮らしてるってわけ」

 

 そんな町があるのか。あるなら、いつか行ってみたいと思った。

 

「それより、早く行こ。皆待ってるから」

 

 そう言って中央の桜の木を指差す焔。

 そこにはたくさんの鬼や、いつの間に行っていたのか心や桃花がいた。

 

「あぁ、そうだな。せっかくの宴会なんだもんな」

「そうでしょ。行こ」

 

 そう言って俺の手を引く焔について行く。

 

 

 そのときの焔の顔は、とても嬉しそうだった。

 その顔を見ると何故か悲しくなってしまうけど、

 でも、

 今この時だけはそんな事を忘れて、こいつらと笑い合いながら、楽しんでも良いよな。

 

 

 な?ホムラ。




登場人物の服装とか見た目について書いてなかったので、ここで書いときます。

深星 空
容姿
少し短めの黒髪・黒い瞳
黒い和服を着ていて、その上に黒いパーカーみたいなものを羽織っている感じです。


容姿
腰まで届くくらい長い白髪・紅い瞳
仕事の時は巫女の様な服。
仕事じゃない時は緋色の和服で、下がミニスカートです。


容姿
少し長めの黒髪・黒い瞳
仕事の時は眼鏡を掛けている。
服装は『文豪ストレイドッグス』の福沢諭吉に似ています。
……と言うかほぼ一緒。

桃花
容姿
首より少し長いくらいの桃色の髪・桃色の瞳
頭に二本小さいツノが生えている。
服装は桃色の和服に、下がミニスカート。

こんな所で今更すみません。
あくまで参考程度にしてもらえれば嬉しいです。
もっと文才が欲しいです。真面目に。

これからも書いていこうと思うので、よろしくお願いします。
ではまた次回です!


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〜魔王軍にいた頃の話〜前編

どうも、鬱ケロです。

今回はまぁ、タイトル通りです。
いつもより駄文ですが見てもらえると嬉しいです。

見ていってください!


 それは宴会が始まって少し経った時だった。

 

「ねぇ、空。貴方の居た魔王軍はどんな所だったの?」

 

 それまでは、他の鬼達と酒を飲みながら楽しそうに話をしていた焔だったが、桜の木の下で酒を飲んでいた俺の方を見るとふらっとこちらに来て突然そんなことを聞いてきた。

 焔は普段そのような質問をしないので不思議に思ったが、焔の顔を見てその理由が分かった。

 

「……お前酔ってるだろ?」

「え〜?酔ってないよぉ。だって私お酒強いもん」

「……酔ってる奴は皆そう言うんだよ。それより離れろ、近い」

 

 いつもより顔が赤くて、普段より笑っている奴が酔ってないなんて事はないだろう。

 ……それに、何だか妙に距離が近いし。俺だから良いけど他の奴だったらまずいことになる距離だ。

 流石にまずいので俺は、焔に離れるように言った。

 すると焔は、ムスッとした顔をした後、さらに近づいてきた。

 

「やだ。それよりも、どんな所だったの?」

 

 そう言って俺を上目遣いで見てくる焔は、少し幼く見えた。

 ……何だろう。遠ざけようとするのが悪いことのように感じる。

 俺は一度溜息を吐いた後、焔の質問に答えることにした。

 

「そうだな。正直あそこは想像と全然違う場所だったなぁ」

「どういうこと?」

 

 俺の言葉に焔は首を傾げる。その様子を見て俺は苦笑する。

 まぁ、確かにこんな説明じゃあ意味分かんないよな。

 

「あそこでは『人は一人も殺さない』が目標だったんだ。ほら、魔王軍らしくないだろ?」

「……確かに。それはらしくないね」

 

 そう言って焔は苦笑いを浮かべる。

 

「あいつらは人に優しかったんだよ。でも、それまでのイメージが最悪だからさ、人にどうしても避けられちまうんだ。それで避けられた奴は悲しそうな顔して帰ってくんの。これがまた可哀想でさ」

 

 その時のことを思い出し、俺は少し笑いそうになった。

 その時、俺はある少女のことを思い出した。

 

「そういえば、少し珍しい子供がいたな」

「珍しい子供?」

「あぁ、魔王城の前で寝ていたところを保護したんだが、あいつらのことをあんまり怖がらなくてな。むしろ自分から俺たちと仲良くなろうとしてたみたいなんだ」

「へぇ、そんな子がいたんだ。確かに珍しいね。

 ねぇその子のこと、もっと詳しく教えてよ」

 

 そう言って焔は俺の話を聞く体制になる。

 

「はぁ?何でだよ?」

「その子のことが気になるのよ。

 それに、空の昔の話とか聞きたかったし」

「……俺の昔の話聞いてどうすんだよ?」

 

 そんな意味の無い事に時間を使うよりも、他の鬼と話をして親睦を深めた方がいいだろ?

 そんなことを思っていると、話を近くで聞いていたらしく、心や桃花も近づいて来た。

 

「俺も気になるな、聞かせてくれよ」

「私も、少し気になる。さっさと聞かせて」

「聞くやつの態度じゃねぇ……」

 

 桃花のやつ俺に対してだけ当たりが強いんだけど、俺何かしたっけ?

 それより、この状況どうするかな?別に話すのは構わないんだが、つまらないと思うんだがな。

 

「別に話すのは構わないけど、面白い話でもないぞ?

 何か特別なことをしたわけでもないし、俺は他の奴と違ってあんまりそいつと話さなかったしな」

 

 実際、俺がそいつと話したのは、そいつの住んでる村に送りに行った時ぐらいだったしな。

 

「それでも良いよ。その時の事が気になるだけだし」

 

 そう言って焔は聞く体制を崩さない。

 ……これはもう何を言ってもダメだな。そのことが分かった俺はもう一度溜息を吐いた。

 

「分かったよ。でもつまらなくても勘弁してくれよ?俺、そこまで話すのが得意ってわけじゃ無いからな」

 

 俺のその言葉に三人は頷いた。

 

「それじゃあどこから話すかな。あれは確か、俺が魔王軍に入ってだいぶ経った頃だったかな?」

 

 そう言って俺は、あの時のことを話し始めた。

 

 

 

 




続きもすぐ出そうと思います。
どうか次も見てください。

批評・感想、誤字・脱字待ってます!
読んでいただき、ありがとうございました!


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〜魔王軍にいた頃の話〜後編

はい、三十分遅れての投稿です!
なんとか投稿できた。

それでは、見ていって下さい!!


 それは一仕事終え、魔王の城に帰っている時の事だった。

 

 ここで一応説明しておくと、魔王の城は、周りが山や谷、森で囲まれており、更に凶暴な獣も生息している。それは、勇者ですらそう簡単に攻めることは出来ず、そもそも魔王の城に到達することすら難しい。

 勿論魔王軍の俺達が帰るために、安全な道が有るには有るが、その道は俺達魔王軍しか知らないはずだ。……はずなのだ。

 

「……そのはずだよなぁ?」

「……いや、新参者の俺に聞かないでくださいよ。でも、そのはずだと思いますよ」

 

 不安になった俺は近くの仲間に確認するが、俺の認識は間違っていないらしい。

 

「だよなぁ。……じゃあ何で……」

 

 俺は目の前の存在を見て素直な疑問を口にする。

 

()()()()()が魔王城の前で寝ているわけ?」

 

 

 

 

 

「それで、どうなってんだ?此処には勇者ですら来ることは難しいとか、ドヤ顔で言い切ったよな?魔王様」

 

 あの後、寝ている子供を城の中に運び布団に寝かせた俺達は、今回の事について魔王に話を聞きに来ていた。

 ……聞きに来ていたんだがだが……、

 

「予想はできるんだけど確証は無いっていうか、……それより、どうして俺は()()()()()()()()のん?」

「……本当に、分からないのか?」

 

 そう、俺は今魔王に正座をさせていた。

 別に、こいつが嫌いだから正座させているとか、正座している姿が面白いからとかそうな理由では無い。……本当だよ?

 まぁ、そんな事はどうでも良くて、そんなことを聞いて来た魔王を睨みながら俺は、魔王の机の上を指差す。

 

「俺達が仕事をしている間、お前は何で仕事もしないで部下とトランプやってんだよ!?てか、お前らも止めろよ!なんで一緒になってやってんだ!?」

 

 そう、何故か魔王の奴は部下とトランプで遊んでいたのだ。

 その姿を見た俺はその場で遊んでいた全員に拳骨をし、遊んでいた奴らを正座させて今に至るのだ。

 そして俺の問いに遊んでいた奴らは困った顔をした。

 

「いや、俺たちも最初はお前に怒られると思って断っていたんだが、魔王様が『大丈夫!皆でやれば怖くない!』って言うから、じゃあやるかってなったんだよ」

「小学生か!?なに?俺に怒られるのは車に轢かれるくらい怖いのか!?」

「?なんだよ、小学生とか車って?」

「あー、いや、なんでもない」

 

 そうだった。この世界には小学生っていないし、車はないんだった。

 そんなことを思っていると、魔王が話しかけてきた。

 

「まぁまぁ、そんなに怒らないであげてくれよ。俺とお前の仲だろ。な?」

『テメェのせいだろ、この魔王(バカ)!!』

「俺お前達の上司なんだけど!?」

 

 だったら、部下全員にバカ呼ばわりされるようなことすんなよ。

 

「はぁ、まぁいいや。今回はここまでにしてやる。次はしっかりしろよ。わかったな、バカ(魔王)

 それで、さっきの予想って何だ?」

「……なんか魔王のところ変じゃなかったか?」

「気のせいだ。それより予想を言え」

 

 こういう時だけ鋭いんだよな、こいつ。

 

「えっとだな、多分だけどあの子がここまで来れたのは、その、運だ」

「……は?いや、ちょっと待て。運て、あの幸運とか、不運とかの運か?」

「あぁ、その運だ」

 

 なにを言ってるんだこいつ?遂に頭がイったか?

 

「そんな運で来れるほど楽なのか?ここまで来るのって」

「そんなわけ無いだろ。あんな小さい子がここまで来るには、獣は全く通らず、罠もないルートを通らないといけない。

 悪いが俺もそんな道は知らない。偶然出来た道なんだろうさ。

 でもそんな道をなにも知らずに偶然通るなんて、砂浜で目当ての砂を見つけるより難しいと思うぞ」

「……そこまでか」

 

 こいつが真面目な顔で話すなら本当の事か。

 どんだけの運だよ。……俺もそんな運があれば……。

 ……あれ?あれば何なんだろう?

 

「おい!どうした空!?」

「!あぁ、悪い」

「……」

 

 俺が不思議な違和感を感じていると、魔王の声が聞こえてきた。

 今はそれどころじゃないか。

 俺は頭を振ると話を続けた。

 

「あの子はどうする?」

「無傷で家に帰す」

「即答って。本当に魔王らしくねぇな」

 

 まぁ、だからこそ俺はお前に従うんだがな。

 俺は小さく笑う。それを見て魔王も笑う。

 

「じゃああの子を起こして来る」

「いや、今日はやめよう。

 あの子も疲れてるだろうし、今は霧が出ていて危険だし」

「了解。それじゃあ部屋で寝てくる。俺も疲れた」

「あぁ、わかった。明日の朝、広間にきてくれ」

「オーケー」

 

 さっさと寝て明日に備えよう。

 

 

 

 

 

 

 

「……で?この状況は何?」

 

 翌日言われた通りに広間に来た俺の口からは、そんな言葉が出て来てしまった。

 いや、だって、広間に来たら昨日の子供と、悪魔とかが笑いながら話をしているんだぞ。そんな言葉が出てしまっても仕方がないと思う。

 そんな光景に俺が呆然としていると魔王が近づいて来た。

 

「いやー、あの子凄い良い子だな。あっさり皆と仲良くなっちまったよ」

「……頭痛くなってきた」

 

 俺が頭を抑えていると俺に近づいてくる者がいた。

 金色の髪は首元まで伸びており、金色の瞳は不安そうにこちらを見ている。間違いなく、昨日見つけた子供だった。

 

「あの、貴方が私を送ってくれる人ですか?」

「あぁ、そうだ。よろしく頼む」

「あ、いえ、その、こちらこそよろしくお願いします」

 

 そう言ってその子は頭を下げる。

 村の子にしては礼儀正しいな。

 そう思っていると魔王が声を出す。

 

「おし、それじゃあ空。しっかり送ってこいよ?怪我させるなよ?」

「お前はこの子の親か。それより他の奴は来ないのか?」

「俺らが行くと変な誤解受けるだろ」

 

 そうでもないと思うがな。人にしか見えない奴何人かいるし。

 まぁ、こいつらが良いなら良いか。

 俺達の話を聞いて、その子は先程まで話していた皆の方を向く。

 

「み、皆さん!私を助けてくれて、ありがとうございました!!」

 

 そう言ってその子はまた頭を下げる

 その言葉を聞き、皆の方を見ると、笑顔を浮かべる奴や、泣き始めた奴もいた。

 

「こっちこそありがとうな、お嬢ちゃん!!」

「おい空!しっかり送り届けろよ!」

「空、途中で襲うなよ!!」

「襲うわけねぇだろうが!!埋めるぞ!?」

 

 流石にそれはないだろ。この子見た目九歳くらいだぞ?

 そして、俺はその子をつれて城を出ていった。

 

 

 

 

 

 

 

 あれから結構な距離を歩き、空を見上げると星が出ていた。しかしもうすぐ村に着くであろう距離にもなっていた。

 その間俺達の間で会話はあまり無く、あるとしても、

 

「あ、あの!」

「ん?」

「あ、その、なんでもないです」

「あっそ」

 

 こんな感じですぐ途切れる。

 ……あれ?俺、この子に怖がられてる?何か怖がられる事したっけ?

 俺が自分の行いに不安を感じていると、その子が話しかけてきた。

 

「……あ、あの。どうして魔王軍に人である貴方がいるんですか?

 それに、どうして彼らは貴方を仲間に加えているんですか?」

「……不思議か?」

「……はい。大人や神様達は、魔王達は人類の敵であると教えてくれるんです。だけど、あそこでは皆が私に優しくしてくれました。

 だから、わからなくなってしまったんです。どちらが本当で、どちらを信じれば良いのかが。

 なので貴方の話を聞きたいと、思ったんです」

 

 そう言ってその子は顔を伏せてしまう。

 ……そりゃあ戸惑いもするか。それまでのイメージと違いすぎるもんな。

 その子の当然の反応に俺は苦笑を浮かべ、彼女の問いに答える。

 

「最初の頃は、俺があいつらといるのはお互いの目標が一緒だったからだ。

 俺はな、おそらく神に転生みたいな事をされたらしくてな。気づいたらあそこに居たんだ。あそこがどこかもわからなくて、目の前にはあいつらがいて、俺はもう死ぬんだなって思った。

 でも、あいつらは俺を殺さず、あそこにおいてくれたんだ。

 その時点であいつらに恩があるのに、あいつらは俺に良くしてくれてさ。

 だからかな?今はあいつらに恩を返したい。だから俺はあいつらと一緒にいるんだよ」

 

 そう言って俺は、夜空に浮かぶ星を見る。

 ……こうやって口に出してみると、あいつらにどれだけ救われてるのか、改めて認識させられるな。

 

「それに、あいつらは人と仲良くしたいんだよ。

 神が有る事無い事吹き込んで人を送り込んでくるから、いつも上手くいかないけどな」

「……そうですか。やっぱりあそこにいる皆さんは良い方達なんですね。……いいなぁ。私も彼らみたいな仲間が欲しいな」

 

 そう言ってその子も夜空を見る。

 夜空を見るその瞳は、何処か寂しそうだった。

 そのことについて聞こうとした時、遠目に村の明かりが見えた。

 

「此処までみたいだな。村の明かりが見えた」

「そうみたいですね。……あの……」

「ん?」

 

 彼女が何かを言おうとし、口を閉じる。

 俺はそんな彼女の次の言葉を待った。

 するとその子は何かを決心したように口を開いた。

 

「あ、貴方の、名前を、教えてください」

 

 そう言って彼女は下を向いてしまう。

 ……だけどその言葉は彼女が勇気を出して言ったであろう言葉だ。

 だったらその言葉に返さないとな。

 俺は彼女の頭を撫でながら、答える。

 

「空。俺の名前は空だ。君の名前は?」

「私の、名前は、私の名前は、コアです」

 

 そう言って彼女は笑顔を浮かべる。

 その笑顔はとても、眩しかった。

 

「そうか。じゃあコア、此処でお別れだ。俺があんまり近づき過ぎても良くないからな」

「はい。空さん、今日は本当に、ありがとうございました」

「いいんだよ別に。じゃあな。またいつか」

「はい!!」

 

 そう言って俺達は自分の場所に帰っていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「そ、それで!?その子とはその後会えたの!?」

 

 話を終えた直後、焔は俺にそう聞いてきた。

 

「いや、その後会うことは無かったよ。そもそも、魔王城に来れたことがありえないことだからな」

「会いにいかなかったの!?」

「あの後すぐに、その村に傭兵とかが付いてな。そうそう行けなくなっちまったんだよ」

「えー」

 

 不満そうに焔は唇を尖らせる。

 

「おし、それじゃあこの話は終わり!ほら、もっと宴会を楽しもうぜ!」

 

 俺はそう言って酒を取り出す。

 

「……なんだか納得いかないけど、まぁ、いいか。あ、空。私にもお酒ちょうだい」

「あ、俺にも少しくれ」

「私も欲しい」

「はい、はい。わかりましたよ」

 

 そして、焔や心、桃花にお酒を配る。

配り終えたところを確認すると、焔は口を開いた。

 

「それじゃあ、改めて」

「あぁ」

「おう」

「うん」

 

「「「「乾杯!!」」」」

 

 そうして、俺達の夜はまだ続くのだった。

 




最後が少し雑になってしまったような気がします。

批評・感想、誤字・脱字お待ちしてます。

それではまた次回です!!


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水曜の閻魔
閻魔が地獄を出るそうです


どうも鬱ケロです。

この作品がもう少しでUA1000行くんです!
皆さん読んでくれてありがとうございます!

では、今回は短めですが、読んでいってください!


 あの宴会から一ヶ月。

 あれから変わった事がいくつかある。

 あれから、焔と鬼達の関係も良くなり、この一ヶ月で一緒に笑いながら話している光景を結構見るようになった。

 焔は、最初の頃のような何処か諦めたような顔をしなくなり、明るい顔をよく見せるようになり、心や桃花、俺は喜んでいた。

 

 ……そう、喜んでいたんだよ。

 

「…………」

 

 ……さて、そろそろ過去の思い出に逃げずに現実を見よう。

 今、俺の目の前には書類の山。そしてその山に埋もれて、()()()()()となっている焔。

 ……えっと、取り敢えず、

 

「おぉ焔。死んでしまうとは情けない!」

「勝手に殺すな!!」

 

 俺の言葉を聞き、起きる焔。

 なんだ、生きてたのか。

 

「生きてるに決まってるでしょ!?

 それにそう思うんだったら、私の仕事手伝ってよ!!」

「俺はちゃんと自分の仕事をやってんだよ。

 ……って、なに普通に心読んでんだよ?お前は覚か?」

 

 普通すぎて反応が遅れちまったよ。

 え?違うよね?少し怖いんだけど。

 俺が少し引いていると焔は書類の山を見てため息を吐いた。

 

「……おかしいでしょ。なんなのこの量?

 もうやだ。お菓子食べたい。仕事したくないよぉ」

「そんな事言ってるとまた心に怒られ……あ」

「なに?どうしたの?」

 

 焔は俺の反応を不思議に思ったのか、俺の見ている方を見る。

 其処には顔に笑顔を浮かべる心がいた。

 いや、口は笑っているが、目が笑っていなかった。

 

「そうか、そうか。仕事をしたくないか。

 別に良いぞ。……お前に一生お菓子を食わせないだけだからな」

「そ、そんなぁ!」

 

 心のその言葉にこの世の終わりのような顔をする焔。

 いや、どれだけお菓子を食べたいんだよ?太るぞ?

 そんな焔の顔を見て心はため息を吐いた。

 

「それに、お前は()()()()()()()()()()()()()()、残ってる仕事は大体終わらせておかないとダメだろ」

「……は?」

 

 俺はついさっきまでの軽い気持ちが一瞬で消し飛んだ。

 心はなんて言った?

 焔があと一週間で此処を出る?

 なんで?どうして?そんな、ふざけんなよ。

 俺がそう考えていると、俺の様子に気づいたのか心は慌てて訂正し始めた。

 

「空、落ち着け。

 此処を出るって言っても少しの間だけだよ。

 それに、お前はこいつに付いて行くんだぞ?」

「は?」

 

 その言葉で俺は、さらにわからなくなってしまった。

 どういう事だ?付いて行くって、何に?

 俺が疑問に思っていると、心は焔を睨みつける。

 

「……焔。お前、まだ言ってなかったのか?」

「え、えっと、なかなか言う機会が無くて」

「空を連れて行くって言ったのはお前だろうが」

「ごめんなさい!」

 

 焔はそう言って心に頭を下げた。

 え?本当にどういう事?

 

「えっとだな。一週間後に焔には別の閻魔がいる地獄に行って、其処の閻魔の仕事を見て、いろいろ学んでくるんだ」

「つまり、研修みたいなものか?」

「そうそう、それだ。

 それでお前は、焔の護衛として付いて行くってわけ」

 

 それを聞いて俺は安心した。

 でも、どうして俺が護衛として行くんだ?

 そんなの心が行けば良いと思うんだが。

 

「……俺が居なくなったら、誰がこの地獄をまとめるんだよ?」

「あぁ。成る程。納得」

 

 確かに俺と桃花じゃまとめられないもんな。

 うん、それは納得だ。

 

「だからこの一週間、妙に仕事が多かったのか」

「そういう事だ。

 だからこいつには、さっさと仕事を終わらせて欲しいんだがな」

 

 心はそう言って、困ったように焔の方を見る。

 なのにこの状況だもんな。終わるか心配にもなるか。

 はぁ、仕方ない。

 俺は近くにあった書類を取り、焔の近くに座った。

 

「ほら、さっさと起きて続きやれ。

 俺も手伝ってやるから」

 

 俺がそう言うと、焔は伏せていた顔を上げてこちらを見てきた。

 

「ほ、本当!?」

「お前が終わらせてないと周りに迷惑かかるだろうが。

 俺は今日の仕事はもう終わってるし、今日だけ手伝ってやる。今日だけだからな?」

「全然良いよ!!ありがとう、空!!」

 

 そう言って笑顔になる焔。

 ……本当、調子のいい奴だな。

 

「悪いな、空」

「別に。俺がやりたいからやってるだけだよ」

「……そうか」

 

 そう言って心は笑みを浮かべる。

 

「本当に、お前が来てくれて良かった」

「そうか?」

「ああ。そうだよ」

「そんなことないだろ。

 それに、お前らが居なかったらあいつは潰れてたと思うぞ」

 

 俺だけじゃ絶対無理だったしな。

 あいつの側に心や桃花が居たからこそ、あいつはいままで耐えてこれたんだと思う。

 心は俺の言葉に、苦笑した。

 

「そうか?」

「ああ」

「ねぇ、二人ともなんの話してるの?」

「なんでもねぇよ。じゃあ、後は頼むわ。

 俺は他にもやることがあるからな」

 

 そう言って心は部屋を出ていった。

 

「ねぇ、なんの話してたの」

「なんでもねぇよ。

 それより手を動かせ。今日中に半分終わらせるぞ」

「……なんだか空、心に似てきたよね。その容赦ないところとか」

「手伝うのやめるぞ」

「ごめんなさい!」

 

 そんな事をしながら、俺達は仕事を終わらせていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 そして一週間後。

 俺と焔が他の地獄に行く日になった。

 今、俺と焔は心と桃花と一緒に執務室に集まっていた。

 

「それで?どうやって行くんだ?

 桃花の瞬間移動を使うのか?」

「それは無理。私、ここ以外の地獄に行ったことないもの」

 

 あぁ、そうか。確か桃花の瞬間移動って言ったことのある場所にしか行けないんだよな。

 

「そういうわけで、お前らには徒歩で行ってもらう」

「えー」

 

 マジか。やだなぁ。

 俺軽のテンションが軽く下がっていると、焔に手を引かれる。

 

「よし!それじゃあ行こ、空!」

 

 そう言って俺に笑顔を向けてくる焔。

 ……そんな顔されたら拒否できないでしょうが。

 

「はぁ、じゃあ行くか」

「うん!」

「気を付けてな」

「お土産よろしく」

 

 そして俺と焔は別の地獄に向けて、足を踏み出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「あ、あいつらの通る道に、凶暴な魔物が生息していること言うの忘れた」

「……心さん。それ、かなり大事なことじゃないですか?」




批評・感想、誤字・脱字報告お待ちしてます。

読んでくれて、ありがとうございました!


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束の間の休息

どうも、鬱ケロです。

UAが1000到達しました!
ありがとうございます!

二週間ぶりくらいの投稿ですが見ていってください!
では、どうぞ!


 俺と焔が地獄を出て既に三時間。

 空は相変わらず黒い雲に覆われていて分からなくなりそうだが、そろそろ昼になる頃なので昼ご飯を食べる為に、俺達は休憩することにした。

 

「よし、そろそろ飯にするか」

「疲れたー。もうお腹ぺこぺこだよー」

 

 そう言って焔は地面に座り込む。

 まぁ、それも仕方ないだろう。

 今俺たちの歩いている場所は地獄と地獄の間。どの地獄も管理をしていない場所らしく、自然なままの状態で放置されていた。

 そんな場所を俺は兎も角、ずっと地獄にいたこいつが歩くには辛いものがあるだろう。

 

「そんなに辛いならこの辺りも管理して整備しちまえばいいだろ?」

 

 座って水を飲んでいる焔にそう提案すると、焔は苦笑いを浮かべた。

 

「それができたら苦労しないよ。今管理している地獄だけでもかなり広いんだよ?こんな所まで手を回す余裕はないよ」

「ふーん。そんなに閻魔の仕事って大変なのか」

「今はまだ楽な方だよ。私が仕事に慣れてくればもっと仕事増えるらしいし。……あれ?なんだか気分落ちてきちゃった。ふふ」

 

 そう言って悲しそうに笑う焔は、見ていて此方も悲しくなってきそうなオーラを纏っていた。

 とてもじゃないが見た目十七歳位の女が纏って良いものではないだろう。

 

「だ、大丈夫だって!お前には心や桃花がいるし、俺も出来ることがあったら手伝うから!だから元気出せ!な?

 それより、飯食おう、飯!うん!そうしよう!それが良いって!」

 

 俺はそんな焔を見てすぐに話題を切り替えた。

 ……いや、うん。流石に俺でもあの空気は耐えられないわ。

 これからは少し焔に優しくしてやろうと思いました。はい。

 

「うん。そうだね!ご飯食べて嫌なことは忘れちゃおう!」

 

 俺の言葉で少し元気になる焔。

 その姿を見て安心した俺は、自分の荷物の中から昼飯を取り出して食べ始める。それに続いて焔も食べ始めた。ちなみに俺はおにぎり。焔はサンドウィッチだった。

 

「なぁ、焔」

「ん?何?」

「そういえばさ、これから行く地獄ってどんな所なんだ?」

 

 互いにある程度食べ終わった頃に、俺は焔にそう聞いてみた。

 俺、その辺りの話全くされてないんだよね。今さらだけど。

 

「あれ?言ってなかったっけ?」

「……お前さ、そろそろ俺でも怒るよ?ねぇ?この前もそんなこと言って俺に話してなかったよな?なぁ?」

「いや、その。……ごめんなさい」

 

 こいつ俺に対して言ってないこと多すぎだろ。

 なに?俺には言わなくてもいいと思ってんのか?悲しくて泣くぞ。

 

「え、えっと、今向かっている所がどんな所なのか、だよね?

 ごめんね。私もどういう所なのかよく知らないんだ。でもそこを治めてる閻魔が誰なのかは知ってるよ」

 

 俺の顔を見て焔は少し慌てて俺の質問に答えた。

 どうしたんだろう?そんなに慌てて。まぁ、いいか。

 

「治めてる閻魔って誰なんだ?」

「うん。そこを治めてるのはね、水曜の閻魔様なんだ。見たことはないけど、噂だとなんでも出来る人なんだって。羨ましいなぁ」

 

 そう言って焔は少し悲しそうな顔をする。多分自分は全然出来ないのに、とか思ってるんだろう。

 

「別に出来る出来ないは人それぞれだろ。

 それに、お前はまだ成り立てなんだから、ゆっくり自分のペースで覚えていけばいいんじゃねぇの?」

 

 俺がそう言うと、焔は少し驚いた顔をした後、微笑んだ。

 

「うん、そうだね。……ありがと」

「……おう」

 

 俺は恥ずかしくなって顔を逸らす。

 いや、その笑顔はずるいだろ。

 あいつがいなかったら惚れてるぞ。

 そんな俺の姿に焔は今度はニヤニヤと笑う。

 そしてその顔について俺が文句を言い、焔は俺をからかう。

 そのやり取りは、最近思い出したホムラとの昔のやり取りに似ていて、とても懐かしく感じた。

 そんなことをしながら休んでいた俺達は、そろそろ出発しようと腰を上げた。

 

 そんな時だったんだ。その声が聞こえてきたのは。

 

「う、うわぁあああー!!!」

「「!?」」

 

 突然聞こえてきたその声に俺達は互いに顔を見合わせ頷くと、ほぼ同時に声のした方に走り始めた。

 暫くするとかなり広い場所に出ると、そこには目を疑うような光景が広がっていた。

 

「……おいおい、マジかよ」

「……嘘でしょ?」

 

 そこには倒れている数人の男達。

 そしてそこにいたのは猪だった。

 しかし、明らかに普通の猪ではなかった。

 なぜなら、その猪は()()()()()()()()()()をしていたのだ。

 そしてその体に浮かぶ禍々しい模様が、その猪が普通ではないなによりの証拠だった。

 

「あれは、魔獣の模様か?」

「でもあの魔獣は大きすぎるよ」

 

 俺達が猪のその姿に驚いていると、その猪は足元にいる男を踏みつぶそうと足を上げた。

 

「まずい!」

 

 その様子を見た俺は近くにあった石を拾うと、猪に向かって投げつけ、『言霊』を使う。

 

「『爆発しろ!』」

 

 俺がそう言うと拾った石は猪に当たり爆発した。

 すると猪は上げた足を下ろしこちらを見ると、こちらに向かって動き始めた。

 

「おし!焔、お前は今のうちに倒れている奴らを救助しろ!」

「空はどうするの!?」

「俺はあの猪の注意を引いて、なるべく此処から遠ざかる!お前は救助が終わったらこっち来てくれ。武器持ってない俺じゃあ流石にきつい」

「……わかった!すぐに行くから頑張って逃げててよ!」

 

 そう言って焔は俺から離れていった。

 そして改めて猪を見ると、今にもこちらに突進して来ようとしていた。

 

「待たせて悪かったな。さて、追いかけっこを始めようぜ?」

 

 それと同時に俺に向かって走ってくる猪。

 こうして、俺と猪の命がけの追いかけっこが始まった。




空の昔の友達・ホムラ
閻魔の方・焔
で分けようと思います。
文章が長かったり短かったりと、バラバラですみません。

感想・批評、誤字・脱字報告待ってます。
それでは、また次回です!


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追いかけっこ

こんにちは、鬱ケロです。

投稿が遅れてしまいすみません。

久しぶりの投稿ですが見ていってください。
では、どうぞ!


「待たせて悪かったな。さて、追いかけっこを始めようぜ?」

 

 そうして、俺と猪の追いかけっこは始まり、既に三十分は経っているだろう。

 そんな俺がこの三十分で感じたことを聞いてくれ。

 

「三十分前の俺をぶん殴りてぇ!」

 

 そう叫びながら俺は猪から逃げていた。

 なんだよあの猪!?こっちが走ってる間に用意した足止めが全く役に立ってないんですけど!?

 少しでも遅くなれば良いと思って森の中走ってるのに、全く遅くならないんですけど!?あれ?むしろ速くなってる?なんで!?

 こんな事になるんだったら、焔を連れてあの男達見捨てて逃げれば良かった!

 そんな事を思いながら走っていた俺だが、不運にもその足を止める事になった。

 

「……おいおい、マジかよ」

 

 そう言う俺の頰を汗が伝う。

 俺の目の前にあるのは壁だった。

 上はよく見えないが、登ろうと思えば登れるだろう。

 しかし、あの猪に追われている今それをすれば登っている間に突進を受けて俺はあの世行きだし、此処で逃げたらあの猪は焔を狙うかもしれない。だったら……

 

「……だったら、逃げるわけにもいかないか」

 

 普段は頼りないが一応俺の上司だしな。

 ……あれ?そういえば此処って地獄だよな。じゃあ死んだらどうなるんだ?

 そんな今考えることでもない事を考えていると、後ろから大きな音がした。

 振り向くとそこには猪がいた。

 身体中に傷があり、其処から血が流れている。

 どうやら俺の足止めが少しは効いたようだった。

 

「遅かったな。俺のやった足止めが少しは効いたか?」

 

 俺はその姿を見て、笑いながらそう言う。

 獣相手にこんな挑発意味は無いだろうが、しないよりはマシだった。

 しかし、猪は俺の言葉を理解したかのように大きな鳴き声を上げた。

 

「まだやる気あるみたいだけど、そろそろ勘弁してくれねぇかな」

 

 そう言いながら俺は回りを見るが、武器になりそうなものはなかった。

 

(やばいな。冗談抜きで詰んだか?こんな事になるんだったら武器の一つでも持って来るんだった)

 

 内心そう思っていると、猪はさっきよりも大きな鳴き声を上げ、遂に俺に向かって突進をしてきた。

 俺は死を覚悟したが、それよりも早く突然横から飛んできた炎が猪を襲った。

 

「な、なんだ?どうして炎が?」

 

 俺は突然の事に驚き、炎の飛んできた方向を見る。

 そこには、

 

「空!大丈夫!?」

 

 右手を前に出して猪の方に向ける焔がいた。

 焔は俺にそう言うとすぐに俺の所に走ってきた。

 俺を見る焔は、心配そうな顔をしている。

 そんな顔を普段は俺に向けないので、俺は少し笑ってしまった。

 すると焔は顔をむすっとさせた。

 

「なんで笑うのよ」

「いや、悪い、悪い。

 それよりもう少し早く来れなかったのかよ?俺、もう少しで死ぬ所だったんだぞ?」

「私だって早く助けに行きたかったよ。でも私一人であのひとたちを移動させたりするのって大変だったんだから」

 

 そう言って焔は少し拗ねたような顔をする。

 その顔にまた少し笑ってしまう。

 

「冗談だよ。ありがとな。助けてくれて」

「え?あ、う、うん。ど、どういたしまして」

 

 俺の突然の感謝の言葉に焔は驚いたのか、噛みながらそう言って顔を伏せた。

 少し顔を赤くしてるけど、噛んだのが恥ずかしかったのか?

 そんな事をしていると猪がいた方向から猪の鳴き声がした。

 声のした方を見ると猪は頭を振っていた。

 

「やっぱりダメか」

「やっぱりって私に少し失礼じゃない?」

「俺が使った爆発でダメだったんだから、あの火力じゃ無理だろ」

「……助けてくれた人に言う言葉じゃないよね?」

 

 横で焔がそう言うが事実だから仕方ない。

 さっきみたいな不意打ちじゃなかったら、止まることもなかっただろう。……まぁ、それで俺は助かったわけだから口には出さないが。

 

「まぁ、もう大丈夫かな。焔、お前さっきのと同じ位の炎ってまた出せるか?」

「え?うん、後一回ぐらいなら出せるよ」

「大丈夫。それで十分だ」

「でも、私の炎は効いてないみたいなんだけど」

 

 焔は猪を見ながら俺にそう言ってくる。

 確かにあれを見たら不安にもなるか。

 俺はその不安を消すために、あえて軽いノリで言う。

 

「大丈夫、大丈夫。別に倒すわけでもないし」

「え?倒さないの?」

「今は逃げるのが先。もう疲れたし」

 

 俺のその言葉に焔は呆れたような顔をする。

 そんな顔されたって、もう疲れたんだから別にいいだろ。

 俺、頑張ったよ?

 

「はぁ。それで?逃げるんだったら、私はあの猪に炎をぶつけて足止めをすればいいの?」

「いや、猪の手前の地面狙って。全力で」

「え!?なんで!?」

「いいからやれ。ほら、来るぞ」

「!?」

 

 俺がそう言うと焔は猪の方を見る。

 其処には、今にも此方に突進して来そうな猪がいた。

 

「あぁ、もう!どうなっても知らないからね!?」

 

 そう言いながらも焔の奴は炎を出した。

なんだかんだ言って、俺の言った通りにしてくれるからありがたいなぁ。

 

「大丈夫だって。任せろよ」

 

 そう言って俺は炎に向かって『言霊』を発動する。

 

「『焔の炎よ。熱く、激しく、燃え上がれ。我らを守る壁となれ』」

 

 俺がそう言うと、炎はまるで猪を阻む様に横に燃え広がった。

 その様はまさに壁と言えるだろう。

 猪は突然の事に足を止める。

 

「良し、今がチャンスだ!逃げるぞ!」

「え?ちょ!?わぁあああ!?」

 

 自分の出した炎が突然壁の様になった事に驚いている焔を抱えて、俺は壁を登る。

 

 そうして、俺達はなんとか猪から逃げる事に成功したのだった。

 

 




来週もテストがあって無理かもしれません。
本当にごめんなさい!!

おかしな所などがあったら、教えて下さい。
それでは、また次回もよろしくお願いします。


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俺の上司がお人好しすぎる件

どうも、鬱ケロです。

先週返ってきたテストが酷すぎる件。
あれ?珍しく勉強した筈なんだけどな。

……さっさと本編行きましょうか、うん。
それでは、今回もよろしくお願いします!



「なぁ、本当に行くのか?」

「行くよ。心配だもん」

 

 猪に出会った場所まで戻る焔に着いていきながら、俺は焔にそう聞く。

 あの後、焔は助けた奴らが心配だから戻ると言いだしたので、俺達は焔が男達を移動させた場所まで歩いていた。

 

「なんでそんなに心配するんだよ?あいつらは、お前と何の関係も無い他人だろ?」

 

 男達が殺されそうになった時に真っ先に手を出しちまった俺が言えることではないかもしれないが、これでまたあの猪に出会うと洒落にならないのでそう言うと、焔は足を止めて俺の方を見る。

 

「確かにそうかもしれないけど、それでもあの人達が心配なんだよ。

 それに、情けは人の為ならずって言うでしょ?私は私の為になると思ってこうやって動いてるだけだよ」

 

 焔はそう言うと、また前を向いて歩き始める。

 俺はそんな彼女の背中を見ながらため息を吐いた。

 

「情けは人の為ならず、ねぇ。そういえばあいつもそんな事言ってたな」

 

 

 

 

 そうして思い出すのはホムラとの記憶。

 よく周りの人の手伝いをするホムラに、どうしてそんなに周りの手伝いをするのか聞いた時の記憶だった。

 

『え?どうしてそんなに周りのお手伝いをするのか?私、そんなに周りのお手伝いしてるかな?』

 

 そう言うホムラは本当に覚えがないようだった。

 その事に俺はため息を吐いた。

 

『してるだろ。さっきだって掃除当番の手伝いしてたし。あんなのお前がやる事じゃ無いだろ?』

『あれは他の掃除当番の人が帰っちゃって、数人しか残ってなかったから仕方なく』

『その残ってた奴らだって、お前より先に帰っちまってただろうが。俺がいなかったらもっと時間かかってたぞ』

『……あははは。ごめんね?』

 

 そう言ってホムラは苦笑した。

 それを見て俺はまたため息を吐いた。

 

『別に良い。だけどな、お前は人が良すぎるんだよ』

『そんな事ないよ。それに、これは私の為。ほら、情けは人の為ならずって言うでしょ?』

『情けは人為ならず?』

『うん。情けは巡り巡って自分に返ってくるから、沢山やりなさいって事、だったはず。

 だからね、これは私の為でもあるんだよ?』

 

 彼女はそう言って笑う。

 その笑みに、俺はつい顔を逸らしながら反論してしまう。

 

『自分に返ってくる事なんてそうそう無いだろ』

 

 俺がそう言うと、ホムラは顔をにやけさせる。

 

『チッチッチ。そうでも無いんだなこれが。

 実は今日の朝、この前仕事を手伝ってあげたクラスの人から、お礼をもらったのです!』

 

 そう言ってホムラは俺にお礼の品を見せてきた。

 それは某有名なキノコのお菓子だった。

 

『どう?いいでしょう』

『いや、俺タケノコ派だし』

『えぇ、美味しいじゃんキノコ』

『俺はタケノコがいい』

『ぶー!そんなこと言うんだったらあげないからね!?』

『別にいらない』

『ちょっとは欲しいそぶり見してよ、もぉー!』

 

 そう言ってふくれっ面をするホムラとその顔を見て笑う俺。

 それは、ある下校帰りの出来事だった。

 

 

 

 

「本当、なんでこんな所まで似てるのかねぇ」

 

 前を歩く焔に聞こえないよう小さな声でそう呟く。

 一ヶ月前のあの時から時々ホムラの事を思い出しはするが、今回のように焔の些細な行動で思い出すことが多い。

 でも、どうしてこんなにもホムラとの事を忘れているのか、全くわからないんだよな。

 その事を不思議に思いながら焔の後ろを歩いていると、焔は足を止める。

 そして、焔は慌てた様子で辺りを見回し始めた。

 

「どうした?」

 

 その様子を不思議に思い俺が声をかけると、焔は泣きそうな顔で俺の方を向いた。

 

「ど、どうしよう空。確かに此処に運んだはずなのに、あの人達がいないの。

 ……もしかしてあの猪に」

 

 そう言って焔は俯いてしまう。

 焔のその姿を見て、俺はいつの間にか頭に手を置いていた。

 

「大丈夫だよ。もしもあの猪にやられたなら、この辺りは少なからず荒れてるはずだろ?見た感じ荒れてはないんだ。

 多分だが、あの後目を覚まして逃げたんだと思うぞ」

 

 俺がそう言うと焔は俯いていた顔を上げた。

 

「そう、かな?」

「あぁ、きっとそうだ。

 それより、お前はこれから別の閻魔のところに行くんだぞ。こんな所にいないでさっさと先に進もうぜ?」

 

 俺はそう言うが、焔はまだ不安そうな顔をしている。

 そんな焔に更に声をかけようとした時、遠くから足音が聞こえた。

 音のする方に俺達が顔を向けると、一人の男が此方に向かって走っている。

 その男は俺達の前で止まると、俺たちに話しかけてきた。

 

「なぁ、あんた達さっきの二人組だよな?」

 

 その言葉を聞き焔は困ったような顔をする。

 しかしそれも仕方ないだろう。突然知らない奴から話しかけられ、しかも向こうは此方の事を一方的に知っていたんだから。

 

「えっと、貴方は?」

 

 焔は困った顔はそのままに男に質問をする。

 

「あ、悪い。俺はこの近くの村に住んでる者だ。さっきあんた達が助けてくれた奴らは同じ村の者でな。だからあいつらを助けてくれたあんた達を探してたんだ」

 

 男のその言葉を聞くと焔は焦ったように男に詰め寄る。

 

「あの人達は無事なの!?」

 

 焔のあまりの様子に男はたじろぎながらも、安心してくれと言った。

 

「あいつらは無事だよ。まだ皆眠ってるけどな」

 

 その言葉に焔は安堵の息を吐く。

 

「それでなんだが、村の仲間を助けてくれた恩もあるし、村に来てくれないか?お礼をしたいんだ」

「無理だ」

「ちょっ!?空!」

 

 突然男が言ってきた言葉を俺がノータイムで拒否すると、焔がなんか言ってきた。

 ……こいつ、今回の目的もう忘れたのか?

 俺は焔を連れて男から少し離れると、男に聞こえないくらい声で焔と話し始めた。

 

「あのな、お前の今回の目的はなんだ?他の閻魔の仕事を見に行く事だろうが。こんな所で時間をかけている暇なんて無いだろ」

「で、でも。彼も善意で誘ってくれてるわけだし」

「……善意ねぇ」

 

 焔はそう言うが、俺はどうもあの男の事を信じられない。

 なにかあの男には違和感がある。それが何なのかは、まだわからないが。

 

「まぁ、とにかくやめとけ。なんか嫌な予感がする」

「でも」

「……」

 

 ああ、もうどうしてそんな悲しそうな顔するんだよ!?俺がひどい事言ってるみたいじゃん!

 その顔を見て俺は頭を掻く。

 

「はぁ。わかったよ。でも少しだけだ。ちょっとお礼の気持ちをいただいたらすぐにその村を出る。それでいいな?」

 

 俺がそう言うと焔は途端に嬉しそうな顔になった。

 ……だって仕方ないじゃん!あんな顔されちゃったらさぁ!?

 俺は脳内で誰に言っているのかわからない弁明をしていると、いつの間にか話は終わっていた。

 どうやら男が俺達を案内してくれるらしく、俺達は男の後をついて行く事になった。

 

 

 そんなわけで俺達は少しだけ寄り道をする事になりました。……はぁ。心になんて言われるかな。

 後の事を考えて少し憂鬱になる俺でした。……はぁ。




批評・感想、誤字・脱字があったら教えてください。

それではまた次回です!



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神は昔から変わらないようです

どうも鬱ケロです

まず始めに、本当にごめんなさい!
この作品は先週投稿したやつを書き直したものです
投稿した後自分で読んだら、いつもより酷くて自分でも何書いてんの?みたいな感じだったので、勝手に消して書き直してました。
読んでくださっている方々本当にすみません。
これからはこういう事は無いように頑張りたいと思います。

一週間あった癖にあまり文字数多くないですけど、読んでもらえるとありがたいです。
よろしくお願いします!



 空は相変わらず黒い雲が覆っていてわからないが、多分夕方くらいになる頃。

 俺達は、男の案内で村に向かっていた。

 しかし、男と俺達の間で特に会話は無く、男は時折足を止め俺達の方を見ながら歩き、俺達はその後を付いていくだけだ。

 そんな訳で、とてつもなくつまらないので、さっきから気になっていることを焔に聞いてみた。

 

「なぁ、焔。此処って地獄の間だったよな。なのにどうして人がいるんだ?」

「え?……あぁ、えっと、その」

 

 すると焔は少し困ったように視線を彷徨わせる。

 その反応に俺が首を傾げると、焔はため息をついた後に話し始めた。

 

「……えっと、彼らは多分だけど千年前に起きた事件の時に地獄を脱走した人達の子孫だと思う」

「千年前の事件?なんだ、それ?聞いたことないんだけど」

 

 俺ももう、地獄に一ヶ月位いるが、千年前に事件があったなんて聞いたことがなかった。

 

「それはまぁ、仕方ないよ。私も閻魔になった時に初めて知ったし」

「それって俺に言っていいのか?」

「一応信頼できる部下には言っていいって言われてるから。

 心兄(しんにぃ)桃花(とうか)も知ってるよ」

「ふーん。でもよ、話を聞いた限りだとけっこう大事になったんだろ?そんなに大変な事件だったのか?」

 

 俺がそう聞くと、気まずそうな顔をした。

 

 「それがね、なんでもその事件の首謀者達が神様に間違いで殺されて、しかもそのまま地獄に落とされた人達だったんだって」

「……なんだと?」

 

 焔の話を聞いた俺は、無意識に口からそんな言葉が漏れていた。

 あぁ、まずい。俺、今軽く殺気が出ちまってる。前を歩いてる男が足を止め、震えてこちらを見ている。

 俺は殺気を消し、前の男になんでもないと言うと、男はまた歩き出した。

 

「ま、まぁ、あくまで上から聞いた話だから、どんな事があったのか詳しくは知らないの。

 だから、もしかしたら本当は違うかもしれないから、あんまり気にしないで」

 

 俺の様子を見て落ち着けようと思ったのか、焔が苦笑いを浮かべながらそう言ってきた。

 ……焔にまで気を使わせちまうとか、恥ずかしい事しちまったな。

 俺は一度落ち着くために大きく息を吸い、そして吐いた。

 

「悪い。ちょっと冷静じゃなかった。

 それより、お前閻魔なのに詳しく知らないのか?」

「うん。聞いたんだけど、詳しく教えてもらえなかったんだ」

 

 俺が落ち着いたのを見て焔は安心したような顔をしていた。

 それにしても、閻魔にすら詳しく話さないって事はその事件が余程まずい事だった、もしくは詳しく話せない事情があるって事か?

 そんな事を考えていると、焔は言葉を続けた。

 

 「まぁ、そんな訳でその時に脱走した囚人達が村を作ってたんだと思う。その子孫が彼等かな」

「……あの人達を保護する事って出来ないのか?」

 

 さっきの猪の事もあるし、なんとか出来ないかと思い焔にそう聞くと、焔は首を横に振った。

 

「……それは出来ないの。千年前の事件の事もあってあまり彼等には干渉しないように言われてる。

 だから、保護したくても出来ない」

「……そうか」

 

 そう言って会話が途切れ、ただ歩いていると、前を歩いていた男が足を止めた。

 

「見えてきたよ。あそこが俺達が暮らす村だ」

 

 そう言いながら男は指をさす。

 その先には確かに村があり、小さな灯りが見えた。

 

「あそこに猪に襲われていた彼等もいるんですか?」

 

 その灯りを見ながら焔は男にそう聞いていた。

 

「あぁ、いるよ」

 

 男はこちらを見ずにそう言い、さらに言葉を続ける。

 

 「それより少し急ごう。雨が降ってきそうな雲が出てるし、風も強くなってきた。このままだとびしょ濡れになっちまう」

 

 そう言われて空を見ると、確かに先程よりも雲が黒くなっているし、風も強くなってきていた。

 それがわかった俺と焔は、駆け足になった男の後を急いで追った。




アドバイスとかあれば教えてください。

読んでくれてありがとうございます。
次回はもっと頑張りたいです。
それではまた次回!


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謎の声

こんにちは、鬱ケロです。

自分の学校は夏休みに入りました。やったね!
まぁ、自分は最初の数日間補習で潰れちゃうんですけどね!……はぁ。

それでは三週間ぶりの投稿ですが、よろしくお願いします!



 あれから急いで村に向かった俺達。

 どんどんと風が強くなっていく中、俺達は村まで頑張って走った。

 

 

 ……走ったんだよ?

 

 

 

 でも濡れずに済むような事はなく、びしょ濡れになりました。

 いやね、頑張って走ったんだよ?なんだったら、頑張りすぎて案内役の男を抜くまである。

 でもさ、急いだ途端雨が降り始めて、しかもポツポツとじゃなくて、いきなりザァー!!だよ!?

 なんなんだよ!?荷物濡れちまったよ!神はそんなに俺が嫌いか?嫌いなのか!?

 ちょっと前に神に対して殺気出したのがまずかったのか!?

 後悔はするけど反省はしないぞ!

 

 

 

 

「……えっと、空、大丈夫?」

「……ごめん。ちょっとイライラしてただけだから。

 ……お願い、忘れて」

 

 羞恥心から俺は焔から顔を背けそう言った。

 あの後、俺達がびしょ濡れになりながら村に着くと、それを見た村の人達は慌てた様子で急いで建物の中に入れてくれた。ちなみにその時はいきなりの雨により怒りは三十パーセントくらい。

 そして建物の中で荷物を確認すると、まぁ当前だが荷物は濡れていた。……ここで七十パーセント。……俺の服が。

 

 そしてダメ押し。

 それはある村人が外を見ながら俺達に言ってきた言葉が原因だった。

 

「……うわー。この雨って天界にいる神様が気まぐれで降らせるやつだよ。

 しかも今回は珍しく大雨で長いし、あなた達ついてないね」

 

 だそうです。

 ()()()()()()()()()()()そうです。

 

 

 …………百パーセント。はは、軽く殺意が湧きますね(笑)

 

 そしてさっきのような事を言ってしまった。

 それを聞いていた村人の何人かは何故か俺に頭を下げていたし、怯えている人も数人いた。……怯えているのは俺が軽く殺気を出していたからですね。すみません。

 そして落ち着いてから軽く羞恥心と自己嫌悪に陥って今に至る訳だ。

 

「あの、本当にすみません。見苦しい所を見せてしまって」

 

 俺は一度深呼吸をして落ち着くと、村の人達の方を見て謝った。

 すると村人の中から一人の青年が前に出てきた。

 

「気にしないでください。あなた達には村の仲間を助けていただいた恩がありますから」

 

 そう言って青年は此方に笑いかけた。

 

「ありがとうございます。あの、貴方は?」

「あぁ、すみません。僕はこの村で村長をしています、ソータと言います」

「えっ!?」

 

 彼の言葉を聞いた俺は驚いてついそんな声を上げていた。

 見た感じ彼はまだ若い。高校生と言われれば信じてしまうくらいに若い。いや、実際高校生くらいの年なのかもしれない。

 そんな人が既に村長をしているなんて余程人が居ないのか、もしくは大人達が駄目人間すぎるかのどちらかだろう。

 焔も驚いたような顔をしている。

 そんちょうとなのった彼はそんな俺達を見て苦笑いを浮かべた。

 

「やっぱり驚いちゃいますよね。僕自身自覚はあるんです。あんまり村長らしくないって事は」

「そ、そんな事ないですよ!話していてすごくしっかりした方だなって思いますし!な!?お前もそう思うよな!?」

「そ、そうですよ!私より礼儀正しいですよ!……それに比べたら私なんて全然で……はは」

「なんでお前が暗くなってんだよ!?」

 

 おい、村長の事をフォローしようとしたら焔が暗くなり始めたんだけど!?

 村長も何故か暗くなってきたし、この空間空気が重すぎるよ!

 この空気をどうにかしようと考えていると、村長の後ろにいた女の人が村長に声をかけた。

 

「ソータ君、そろそろ」

「あ、あぁ。悪い。

 すみません。自分を卑下してしまうのは僕の悪い癖でして」

「あ、いえ。こちらこそすみません。ほら、焔も」

「ご、ごめんなさい」

 

 そう言って俺達は互いに頭を下げた。……いや、全面的に俺たちが悪いんだけどな。

 そう思っていると村長は真剣な顔でこちらを見てきた。

 

「改めて、村の者を救ってくださりありがとうございました。

 ですが、僕達の村は魔獣などの被害により物資が乏しく、お二人に渡すことの出来る品があまり無いのです。本当に、申し訳ありません」

 

 そう言って村長は俺達に頭を下げた。

 その行為に焔は慌てて声を出した。

 

「あ、頭を上げてください。私達が好きでやった事ですし。お礼なんていりませんよ」

 

 そう言うと村長は頭を上げてこちらを見た。

 

「で、ですが」

「そいつの言う通りです。こっちが勝手にやった事なので気にしないでください」

 

 事実あれは俺達が、いや、俺が勝手にやってしまった事だ。その事で巻き込んでしまった焔が良いと言うのなら、俺がどうこう言う事じゃあない。

 俺がそう言うと村長は納得してはいないようだが、渋々頷いた。

 

「……わかりました。お二人がそう言うのであればそうします。

 ですがせめて、今日はこの村に泊まっていかれてはいかがでしょうか?外は生憎とあの様な天気ですし、僕達もほんの少しでも恩を返したいのです」

「え?いや、でも、私達もやる事があるので」

 

 村長の突然の提案に焔は驚きながらそう言った。

 

「ですが外はあの雨です。明日雨が止んでから出ても良いのでは?」

「そ、それは……」

 

 そう言われて焔は困った顔をする。

 村長の言っている事は間違ってはいない。外を見てみると雨は先程よりも強くなっているし、雷の音も聞こえる。確かにここに泊まった方が良いのかもしれない。

 しかし、俺は何故か嫌な予感がした。

 

「……村長さん。すみませんが俺達には大事な用があるんです。ここで足を止めるわけにはいきません」

「ほんの一晩だけです。それに魔猪(まちょ)にやられてしまった者達もまだ起きていません。明日には目覚めると思うのでどうか、待っていただけませんか」

「ですが……」

 

 それは、俺の言葉に尚も食い下がろうとする村長に、更に声をかけようとした時だった。

 

「……わかりました」

 

 その声を聞き俺と村長は声のした方を、焔の事を見た。

 

「ですが、一晩だけです。明日には魔猪に襲われていた彼等が目覚めていようといなかろうとこの村を出ます。それで良いですか?」

「……え、えぇ。勿論です。ありがとうございます」

「お、おい、焔」

「一晩だけだから。明日は必ず出るから」

「……わかったよ」

 

 焔の俺を見る目は、もうなにを言われても絶対に意見を変えようとしない目だった。その事に気づき俺は説得を諦めた。

 

「それでは早速お部屋に案内しますので、付いてきてください」

 

 焔の言葉を聞いた村長は早速、俺達を部屋に案内すると言ってきたのでその案内についていこうとした時だった。

 

『……助けて』

「え?」

 

 突然の声に俺は足を止める。

 その事を怪訝に思ったのか焔も足を止めて俺を見てきた。

 

「どうしたの、空?」

「今なにか聞こえなかったか?」

「?なにも聞こえなかったけど」

「いや、でも、確かに声が」

 

 確かに聞こえたはずなんだ。小さい声だったけど、助けて、って。

 俺達が足を止め話していると村長もこちらにやってきた。

 

「どうしました?」

「いえ、なんか空が」

「なんでもないです。手間を取らせてしまってすみません」

 

 焔が村長に事情を説明しようとしたが、俺が途中で遮った。

 何故だか、この事は村長に言っては駄目な事のような気がしたからだ。

 村長は俺の言葉を聞き、そうですか、と言うと俺達の案内に戻っていった。

 俺のその行為に焔はまた怪訝そうな顔をするので、村長や村の人達にさっきの事を言わないように釘を刺してから、俺達は村長の後をついていった。

 

 




感想・アドバイスがあればください。
それでは次回もよろしくお願いします!


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おかしな所

こんにちは、鬱ケロです。

FGOってゲームで爆死してケータイ開くの嫌になってました。すみません。
……ネロ欲しかった、メイドオルタ欲しかったよぉ。あとノッブも

そんなわけで一ヶ月ぶりの投稿なんですが相変わらず駄文です。それでも読んでもらえると嬉しいです。
それでは、どうぞ!


「……それで?どうしてあんな事したの?」

 

 俺達が部屋に案内されてから少しして、焔が突然そんなことを聞いてきた。ちなみに部屋は和室っぽくて結構好みだった。

 

「いったい何の事だ?」

「とぼけないでよ。村の人達の前でキレた事。あれ、普段の空なら絶対にしないよね」

 

 焔は確信しているかのように俺の目をみる。

 

「そんなことないだろ。意外と俺ってキレやすいぞ」

 

 俺がそう言うと焔は溜息を吐いた後、呆れたような目を俺に向けてきた。

 

「二ヶ月間も鬼に馬鹿にされている事を知ってたのに怒らなかった人がキレやすいとか冗談でしょ」

 

 焔のその言葉に俺は内心驚いていた。

 確かに俺はこの二ヶ月間、地獄の一部の鬼達に裏で色々と言われていた。全ての鬼がそうという訳ではないが、プライドの高い者、昔から地獄にいる者の中で人間の俺が焔の護衛になった事を納得していない奴らがそういう事を言っているようだった。

 

「その事を知らなかっただけかもよ?」

「私がその事に気づかないように動いてたくせによく言うよ」

「……」

 

 そう言われて俺は何も言えなくなってしまう。

 無駄な心配を掛けさせたくないと思い隠してはいたが、まさか気づかれているとは思っていなかったのだ。

 すると焔は自嘲的な笑みを浮かべながら言葉を続けた。

 

「……とは言っても、この前心兄(しんにい)にその事を教えてもらうまで気づけなかったんだけどね」

「……あいつか」

 

 焔が知ったらこうなると思ったから絶対に黙っとくように言っといたのに。

 俺が頭を抱える中、焔は言葉を続ける。

 

「ごめんね。あんなに近くにいたのに気づけなくて。彼等には私から厳しく言っておいたから」

「だから最近何も言われなかったのか」

 

 ここ数日鬼達からそういう声を聞かなかったので不思議に思っていたが、どうやら焔達が色々と俺の知らない所でやってくれていたらしい。

 

「そういうこと。そ・れ・よ・り・も!どうしてあそこであんなに怒ったの?あんなことしたら村の人達恐がって近づいて来なくなっちゃうじゃん」

 

 少し暗くなってしまった雰囲気を切り替えるかのように、焔は少し頰を膨らませ腰に手を当てながら、私怒ってます、という仕草で聞いてきた。

 

「何ぶりっ子みたいな事してんだよ。似合ってないわぁ」

「……今更だけど上司に失礼すぎる。本気で怒るよ?」

 

 俺が言った冗談にマジトーンでそう言う焔。

 もうね。目が笑ってない。

 

「短気は損気って言うぞ。もっとどっしり構えないと。な?

 カルシウム足りてないんじゃない?牛乳飲む?」

「誰のせいだと思ってるのよ。

 ……ちょっと待って。最後馬鹿にしてない?」

「してない」

 

 俺のことをジト目で見てくるが無視。

 

「まったく。それで、どうしてなの?いい加減教えてよ」

 

 諦めたようにため息を吐くと、腕を組んで俺にそう聞いてくる焔。その目を見るに、恐らくいくら話題を切り替えても意味が無いだろうな。

 

「一応言っておくけど、これは俺の考えだからな?もしかしたら杞憂に終わるかもしれないぞ」

「それでも聞かせて。もしもの事があるかもしれないし」

 

 俺が話す気になった事で焔は真剣な顔をする。

 この考えは本当に杞憂に終わるかもしれないし、結構穴だらけの考えだ。でも話さないよりは良いだろうと俺は話し始める。

 

「まぁ、結論を言うとだ。この村の奴らは怪しすぎるんだよ。だから距離を置くためにやった」

「いや、ちょっと待って。なんで?」

 

 俺の結論を聞いて焔は焦ったように俺の言葉を止めた。いや、なんで?

 

「そんなツッコミをいれられた理由が心底わからない、みたいな顔されてもこっちが困るんだけど。え?なんで?村の人達は皆良い人達だったじゃん」

 

 その言葉を聞いて焔がツッコミをいれた理由がわかった。あぁ、なるほど。こいつは村の奴らを信じすぎなんだ。さすがお人好し。

 ……いや、いきなり結論言ったのがダメだったのか。

 

「確かに話してみた感じは良い人達っぽいな。でもよ、おかしい所がないか?」

「おかしな所?」

「あぁ。まぁ最初から説明するか。まず俺達がこの村に来ることになったのはどうしてだ?」

 

 俺がそう聞くと焔は少し考えるような仕草をする。

 

「えっと、この村の人を魔猪(まちょ)から守ったからでしょ?」

「まぁそれもあるけど、もうちょっと正確に言うと、俺達が助けた所を見た村の奴が俺達に村に来るように言ってきたからだ」

「そうだね。でも、それがどうして怪しいになるの?」

 

 まぁ確かにこれだけだと、おかしなところはないかもしれない。

 

「じゃあもう一回聞くけど、どうしてあの男は俺たちに村に来るように言ったんだ?」

「だからさっき空も言ってたけど、私達が村の人を助けるのを見て、お礼をしたかったからでしょ」

「そこだよ」

「え?」

「どうして一人だけ無事な奴がいる?」

「?どういうこと?」

 

 俺の言葉に焔は首をかしげる。

 

「あそこにいた村の奴らはあの魔猪に襲われてたんだぞ。どうしてあの男だけ無事なんだ?おかしいだろ」

「一人だけ逃げる事が出来たからじゃない?」

「ただの人間が魔猪から逃げられると思うか?」

 

 実際に追われた身だからわかる。あれから逃げるのはただの人間じゃ無理だ。

 

「……じゃあ、たまたま別行動をしていたんじゃない?それで合流しようと思ってた時に、私達が助けようとした所を見たとか」

「あの森にはあの魔猪みたいなやつがいるんだぞ。俺やお前みたいに自分を守れる力があるなら別だけど、ただの人間が一人だけ別行動をとるなんて、この世に絶望した死にたがりかただの馬鹿だ」

 

 そこまで言って焔は納得できるような、納得できないような、そんな曖昧な顔をする。

 ……まぁ俺もこんな理由じゃ完全には納得できない事はわかってる。それに、一人だった理由も考えれば色々と出てくるだろう。

 でも、()()()()()()()()()。確信できる証拠が出ていない今じゃ、お人好しの焔が村の奴らを完全に信じないなんてことはまず無理だ。だったらほんの少しでも疑う気持ちを持ってもらえるだけで十分。それだけで最悪な事態だけでも回避できるかもしれないからな。

 

「他にもいろいろとあるぞ。例えば……」

 

 俺がそこまで言った所で部屋の襖が音をたてて開いた。

 俺と焔が驚いて開いた襖の方に視線を向けると、さっき村長の後ろにいた女の人が立っていた。

 

「突然申し訳ありません。お風呂の準備が出来ましたのでお伝えにまいりました」

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言って焔は頭を下げる。いや、もちろん俺も頭を下げましたよ。

 

「じゃあ焔。お前先に行ってこいよ。今日は疲れたろ?」

「え?まぁ、確かに少し疲れてるけど。……でも」

「いいから、いいから。さっさと行ってこいよ」

「……わかった」

 

 焔は俺の目を見てそう言った。その目は後でさっきの話の続きを聞かせてもらうと言っているようだった。いや、まぁ、ちゃんと言うつもりだけどさ、そんな睨むように見なくてもよくない?

 

「ではこちらへ。案内します」

 

 その言葉と共に二人は部屋を出ていった。

 

 ……その時、焔の前を歩く彼女がチラリと俺のことを見た気がした。

 




次はもう少し早く投稿できるように頑張りたい

アドバイス・感想あれば貰えると作者は嬉しいです。
それでは、次回もよろしくお願いします。


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