東方虚言録 (自己陶酔者)
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第零話 「騙り尽せない」

初作品です。
拙い文章ですが、良ければ読んで下さい。


「嘘だ。全て嘘だ。戯言だ。屁理屈だ。出鱈目だ。偽造工作だ。お為ごかしだ。世迷言だ。法螺話だ。世辞だ。欺瞞だ。虚誕妄説だ。減らず口だ。おべんちゃらだ。出任せだ。僕はそう言ってやる。そんな義務も無いのにだ。そんな権利が在る訳が無い癖にだ。それは嫌悪ではなく、好意だ。好意を体現しているんだ、尊敬や崇拝。それにも近いかも知れない。これは否定ではなく、理解だ。世界が君を認めずとも、僕は君を笑ってやる。僕が君に笑ってやる。どうだろう? こんな提案を受け入れて貰えるとは思えない。だが、だけど、僕は君を愛しているんだ。これだけは誤解の無いように、言って置こう。そこまで誤っている訳でもないけどね。まぁ、ただそれでも誤解しようと言うのなら、それでも拒絶しようと言うのなら、僕という屑が存在していたことを、一分くらいは、一秒ほどは、頭に留めて置いてくれ。何故かって? 僕が嬉しいからさ。自己満足できるからさ。なぁ、良いだろう? 駄目だって。それじゃあ仕方が無い。僕はこれでも人間のことは知っているしているつもりだからね。自分が烏滸言を言っているということも、ちゃんとしっかり知っている。え? 詰まるところ、何が言いたいのかだって? そうだね、僕は告白しているだけなんだ。《自分はどうしようもない存在です》って。それじゃあ……駄目かな? あはは。それは手厳しい。普通? 普通か。そうだな、そう言われれば普通だ。おいおい、溜息は身体に毒だぜ。諦めて僕と話そうよ。君と話すだけで、僕の心は洗われる。君の心は汚されるだろうけどね。怒るなよ、身体に毒だぜ。あ。さっきも言ったか。仕様も無いことほど言いたくなるんだ。僕が仕様も無いことは、判り切っていることだから、ここで確認することでもないよ。あぁ……。それにしても、君の声を聞いているだけで、僕は幸福を感じるよ。いや、だからこれは嘘じゃない。確かに僕は嘘つきだし、確かに僕は詐欺師だし、確かに僕は負け組だし、確かに僕の言葉に価値なんてない。僕の求める現実に勝ちなんてない。でも、僕は幸福を受け入れることができないほど、幸福を例外的と捕えるほどに、捻くれているつもりは無い。うん。自分でも格好付けだとは思うし、自分でも思春期が卒業できていないだけだと思ってる。でも良いんだ。これが僕の個性だし。これも僕の性癖だし。開き直るほど、鬱陶しいことも無いけれど。それは他人事の場合であって、今回のは自分事だからね。開き直ってやるさ。あ。今の顔。変な顔。はは、冗談だよ。僕の言葉は全て冗談だ。君と一緒だね。え? 僕と一緒は嫌か。うんそうだね。僕も君と一緒なんて嫌だ。人間は同じ者がいないところが魅力なんだから。それに僕みたいな奴と君を一緒にするなんて……吐き気がする。虫唾が奔る。反吐が出る。とにかく、最悪な気分になるよ。あぁ、僕は卑下が趣味なんだ。碌な趣味じゃない。よく言われるよ。でも、決まって僕はこう返す。碌でもない僕にピッタリだろう? とね。え、聞くのが疲れてきた? 僕も喋るのは疲れて来たよ。後、手も。文字を打つのは最大の苦行だね。いや何でも無い。こっちの話だ。こっちの与太話。疲れるなら止めろなんて、軽々しく言うけどね。僕は興奮を抑えられないんだよ。君といる興奮を。汚物を見るような眼で見ないでくれよ。見るなら僕を見る眼にしてくれ。汚物に失礼だろう……。いや、素で引くなよ。流石にそこまで落ちぶれちゃいないぜ? 冗談冗談。はは、君の半眼は心に突き刺さるな。槍で胸に刺突を喰らうより、よっぽど、僕に取っては致命傷を与える凶器だよ。あー、あぁ。性格悪いなぁ。睨むな見るな。あ。顔は逸らさないで。寂しいからさ。人間は寂しいと死んじゃうんだ。僕に限った話じゃない。感情有る者みんなそう。君だって、きっとそうなのさ。自分じゃ気付かないだけだ。嘘つきの君なら当然のこととも言える。虚言癖を持っている訳では無い。ただ、嘘を吐いたりなんてしないだけ。それだけの嘘つき。……ん。んー? それは哲学かい? 生憎だけど、僕は哲学は苦手科目なんだよね。偏見と常識と、その他諸々の想いを込めて、戯言を言わせて貰うとするのなら。意味の解らないものに意味を故事付ける意味が、僕には解らない。なぁんて。本気にした? それ以前に僕の言葉の意味が解らない? そっかそっか。やっぱり思った通りだよ。道理で。道理で。君は僕が思った通りの存在だ。予想や推測の範囲に収まる人間であることが不服かい? 良いじゃないか。マニュアルで生きたって。人生に変わりはないし、君自身に代わりは利かない。でも、やっぱり、君はそういう奴だもんね。分かるよ。君のことなら何でも。気持ちが悪いと貶められようが、気味が悪いと蔑まれようが、気色が悪いと憎まれようが、知ってしまったのだから仕方がない。あぁ、そういう顔をするよね。君は努力家だからかね。人知らず努力するような、人間の典型。実は何かを望んだり、実は誰かに憧れたり。ただ決してそれを悟らせない。だからがさつに傲慢に、生きている。それで心の奥底を、心から押し潰し、押し隠したいんだ。まただ、またまた変な顔。にらめっこなら優勝だね。でも、僕は笑ったりしないから安心しなよ。にらめっこは弱いけど、精々酒飲みの笑い上戸に勝てれば良いなという程度だけど、でもさぁ、人間愛だけは、誰にも負けないと自負しているから。人間愛を持つものにしては、随分と性格が捻くれている? 人間ってそういうものじゃない。《それはそれ》で《これはこれ》ってやつ。そんな曖々昧で物事を謀ろうぜ。はっ。ははは。うん冗談、とんだ冗談だ。君は僕が今まで逢って来た人間の中でも、ずば抜けて優しいからさ、それで、ずば抜けて人間的だから。ついつい話したくなっちゃうんだよね。ごめんごめん、心を込めて謝るよ。一時の心だから、心変わりしても許してね。その時にはまた、心を込めて、謝らせて貰うけど。謝るよ、謝るさ。大好きな君に謝らない理由がどこに有るだろう? え、なら傷付ける理由も無いだろう、って? なんだ。君は僕の言葉で傷付いたりするのかい? あ、あぁ、いやいやうん。人間ってそういうものだ。魔法使いという職種は性癖が常と異なっているかな、なんて淡い期待を懐いたりもしたけれど。やっぱりふざけた考えだったかな。ごめん、心からごめん。うん。うん? あぁ成程。僕って勘違い野郎なんだね。知ってるけどさ。これだけ言って置かないと気が済まない。――ん。了解、それじゃあさ。そろそろ与太話も仕舞いにしようぜ。こっからが本番。こっからが最後。愛と愛の決着戦と洒落込もう。何、大丈夫だよ。僕は、人間が大好きなんでね……」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――長い」

 

 

 

 

 




この話に意味は有りません。長いと言って置きながら文字数は少ないです。ごめんなさい。
良ければ、感想やご意見を下さい。


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第一話 「突如に展開」

二話まで投稿して置きたかった。


「此処から、此処まで。お前のスペースな」

 

そう言って、彼女は小さい箪笥くらいのスペースをくるりと周る。

人間一人、入るか否か。という程度のものだが、流石に文句を言うのも気が引けるので、僕は渋々といった面持ちで。苦虫を噛み潰した様な表情で。ゆっくりと寝転がる。床は随分と堅く、朝、腰の痛みから逃れられることはできないだろうと悟った。軽く溜息を漏らしてから、ぎこちなく首と腰を動かしたが、やれやれやっぱり。このスペースから出てしまう。これじゃあ、おちおち寝返りも打てない。

 

「……なぁ。もう少し。もう少しだけ、広くしてくれないか?」

 

駄目で元々。提案を投げ掛けるが、

 

「不許可、だな」

 

予想通りというか期待外れというか、彼女は首を縦に振らなかった。

そして縮こまる僕をちら、と。嘲笑したかと思えば、自分はベットへと飛び込んでいた。

《ベットで寝るなら床全部使っても良いだろう》。そんな不満の声を必死に抑え、僕は眼を強めに閉じた。どうせ、そんな台詞は無視されるか、寝かせてやってる云々と、逆に文句が飛んで来るだけである。彼女と逢ってから、時間は数えるほどしか経っていないが、それでもそういう奴だと認識できたのは、彼女を取巻くオーラが原因だろう。

それが教えてくれた。僕の特技だ、人を見極めるというのは。

彼女が無言を貫いたお蔭で、暫くは寝返りの際に聞こえる衣擦れの音だけ。それだけが部屋に響いていた。それは彼女の生きている音であり、彼女が生きている証でもある。常ならば緊張などという感覚に襲われたかも知れないが、今現在身体の痛みに襲われている僕を更に襲おうという気はなかったらしく、そんな感覚はこれっぽっちも有りはしなかった。

そして気付く。彼女が眠ったのなら別に律儀に約束を守る必要もないのではないか、と。

だが……念の為、

 

「……眠ったかな」

 

眼を開けない儘、小さな声で問う。

 

「眠ったと言ったら、どうする」

 

念の為はよく効果を発揮したようだ。

彼女の無意味な問いに対し、僕は見えないのに、にへらと笑い、

 

「I Love you。と言おうかな」

 

道化のように、適当に、本音をぶつけてみる。

 

「それに対しての私の答えは、こうだ。日本語は素晴らしい」

 

「同感だ」

 

僕は日本人だからな。

じゃあ愛してる。

とでも言って置こうか。

そんな戯言は、静寂に掻き消されたかのように無視されて、間も無く寝息が聞こえた。

煢独という退屈を恐れた僕に、場を確保したいなんて気持ちを持つ必要性は皆無だった。そんなものは忘却の彼方へと追放し、身体を強く縮こまらせ、追い駆けるように想いを消失させ、そうして、夜が過ぎるのを待つのだった。

 

 

 

 

 

 ▲▼

 

 

 

 

 

欲朝。

翌朝ではなく、欲朝。文字通り、欲望に塗れた朝だった。

目覚めの悪い朝とはこのことだ。身体中に激痛が奔る。どうやら寝違えたようだ。湿布のひとつでも、この家には有るだろうか。

寝惚け頭でそんなことを考える。

その直後、僕を襲ったのは魔。睡魔。睡眠欲。そして突如、僕を蝕むのは空虚。空虚なまでの空腹。虚しき食欲。

腹が煩わしい声で鳴いた。瞼がこれでもかと、脳に反発するように落ちて行く。

僕は我儘だった。欲に対して、依存的だった。

一体全体、どれを優先すべきなのだろう。血が循環しているのは確かに感じる。だがまた、睡魔だって感じてしまう。

戸惑う。自分自身が解らず、戸惑いを隠せない。そんな僕を嘲笑するかのように、また腹が鳴いた。

一先ず――僕は嘆息してみた。

何も変わらなかったが、意識的に瞼を抉じ開けることに成功。気分が安定して来た証拠である。

 

「……何やってるんだ? お前」

 

気が付くと、彼女が僕を怪訝な顔で見下していた。

 

「見て分からないかな?」

 

「変な体勢で変な表情をした変な奴が寝ている……、ということは理解できるな」

 

充分だ。

変な体勢で寝ることになったのは君の所為だが――とは言わなかった。

彼女に掌を掴まれた僕は、ようやく身体を起こす。

痛みも随分ひいていた。どうやら一時的なものだったらしい。僕は安堵の息を漏らした。

眠気の方は相変わらず、退却してくれる気配を見せないが、朝飯をかっ込めば何とかなるだろう。

僕は両掌を頬に叩き付け、ぱちん、と良い音を鳴らしてから、彼女の方に向く。

 

「朝飯はなんだい?」

 

「ご飯、味噌汁、煮物に漬物」

 

朝はトーストと決めている僕だが、どうやら彼女は和食派らしい。

寝床を貸して貰い、飯を用意して貰っている身で、文句をいうことは当然できないので、僕は静かに、《そうか》と頷いた。

偶にはそんな日本人らしい朝を迎えるのも良いだろう。

寝室を出る。天板を脚が支えている、模様もなくシンプルな木で出来たテーブルが視界に入る。昨日の晩飯時も、僕が栄養を摂るのを手伝ってくれた、あのテーブルだ。

もっとも、昨日は僕が自分で持っていた菓子パンを食べただけだが。

その上に、先程告げられた朝飯が並んでいた。良い匂いを嗅ぐと、思わず唾を飲み込んでしまう。

僕は前を歩く彼女を追い越して、顔と手を洗いに向かった。空腹に耐えられなくなったのだ。

洗い終わるやいなや、水分がまだ拭き取れていないにも関わらず、さっさと席についた。

 

「……速いな」

 

「もう、限界でさ。早く食べようぜ」

 

彼女は呆れ顔でわざとらしく肩を竦めると、僕の前に腰を下ろした。

ゆっくり手を合わせ、静かに目を閉じる。

再度、唾を飲み込むと、心身が安らぐのを感じた。

 

「いただきます」

 

最低限の礼儀。それでいて、これ以上はないだろうという礼の言葉を口にしてから、僕は箸を左手にとった。

 

「お前……、左利きなのか」

 

何となく、世間話のつもりだろうか。彼女は興味なさそうに問う。

僕が首だけを下げて肯定の意を示すと、彼女はやはり興味なさげに、《ふぅん》と呟いた。

それだけの、他愛も無い会話が終わり、まず手始めに、と。僕はご飯を一口いれた。奥歯で噛み潰してみる。

少し硬めだったが、噛むごとに食感が変わるのは楽しい。そして噛む度に、甘さが広がってくる。

美味しい。素直にそう思った。空腹だからという理由だけではない。このご飯は僕が今まで食べて来た中でも群を抜いて美味しかった。

満足げに、味噌汁を飲む。具は豆腐だ。少し崩れているが、僕はそんなことまで気にするほどに神経質ではなかった。

ただ、それでも気になってしまったのは、汁。味噌汁の命である出汁。口に入れたつゆの濃さだった。

しょっぱい。凄く、物凄く。

ちら、と彼女の顔を覗く。何食わぬ顔で味噌汁を飲んでいた。彼女にとってはこれが普通の味付けなのだろう。

当たり前か。彼女が作ったんだから。無理して飲み込むと、僕は小さく溜息を吐いた。勿論、ばれないように、だ。

 

「どうかしたか?」

 

「あぁ……、何でもないよ」

 

危ない。ばれないように、と言った直後にばれるかとひやひやした。

安堵しつつ、口直しに、ご飯をかっ込む。硬い。まだ口中にそれが残っている間に、つゆを流し込んだ。

すると……どうだろう。味噌汁の濃さはご飯で中和され、絶妙な美味しさになっている。

成程、こうやって食べる前提で作られていたのか。僕は納得し、小さい豆腐を口内で溶かした。

次の標的は当然煮物――ではない。

漬物。胡瓜の漬物だ。

別に理由はない。気分である。

前歯で噛んで見ると、かり、と良い音がなった。この酸っぱさ。調度良い。ご飯にも合う。

一口、二口。何だ、漬物ってこんなに美味しかったのか。

箸がとまらない。時折ご飯も口に入れてみる。最高の味だ。

気がつくと、もう無くなってしまっていた。少し物足りなかったが、満足だ。これからは漬物屋を贔屓にしよう。

さて、味噌汁も飲み終わり、ご飯も後少し。

最後を締めるは煮物である。ジャガイモが、ほくほくとしていて甘そうだった。

甘そう"だった"。

――無い。

煮物がどこにも無いではないか、一体どういうことだ。

先程までジャガイモを入れていた筈の器は、どうしてか空になっていた。

どうして……、いや一つしかないだろう。

僕は視線を彼女へ向けた。

 

「いってなかったか? その器の煮物は、二人でとるようだ。勿論、速いもん勝ち」

 

聞いていない。聞き逃していただけかも知れないが。

僕は静かに、だが大きく溜息を漏らした。

漬物を優先させた、あの時の気分。気分で行動すると身を滅ぼす。そう学んだ。

残ったご飯を全てかっ込み、大きな声で、投げやりにごちそうさまと言った。

にやりと笑ってお粗末様といった彼女の顔を、僕は忘れないだろう、きっと。まぁ文句が有るわけではないのだが。

凄く美味しかったし、腹も一杯になったのに。ただ、何ともいえない、不完全燃焼という感情が、確かに僕を蝕んでいた。

気付けば眠気はもう、覚めていた。

 

 

 

 

 

 ▲▼

 

 

 

 

 

「――なぁ」

 

「どうした?」

 

彼女はがさつに見える、というか実際そういったところは有るが。

知的好奇心並びに探究心は旺盛らしい。趣味は読書らしい。現在も本を読んでいた。

面倒臭そうに一瞥してくる。読書は余り似合わない。

そう思うのは、僕が彼女と知り合ったばかりで、上っ面での性格しか知らないからだろうか。

人間である僕が、人間である彼女の性格、性質を理解するなんてできるのだろうか。

勿論、人間の動きは科学的に考えてしまえば、機械と変わりない。遺伝子に支配されているだけだ。

だがしかし、人間には個性、感情、関心。などといったものが有る。それは人間の魅力だ。

そして人間には関係が有る。機械には決して味わえない。人と人の関係性。僕はそれを愛している。

詰まるところ、人間は機械と違って理解に苦しむ。それは科学なんてものを通り越した確かなことなのだ。

だからこそ、僕はそんな不可解を、不可思議を好む。

本題に戻ろう。僕は彼女に似合っている、似合っていないなどという感情を持っても良いのだろうか。

悪くは、ないだろう。自己陶酔者の自己的な意見だが。

ただ僕は心からそういえるように、彼女を知りたい。分かりたい。紐解きたい。

さて、彼女とそんな長い付き合いになるのも、現在の状況から考えれば困りものだが。

 

「どうしたんだよ、深く考え込んでいるようだが」

 

話しかけて置いてなんだ、というように睨まれる。

このことは後々考えよう。それが一番だ。僕にとっては。

 

「で、何だ?」

 

「いやね。いつ出発するのかな……、と」

 

日が真上にある時間。流石に心配になってきた。

飽くまで彼女の予定が最優先なので、現在まで黙ってはいたが。

 

「あ、忘れてた」

 

「勘弁してくれよ……」

 

「私だって忙しいんだよ」

 

とてもそうは見えない。

これは多分出合ったばかりの僕でも間違っていないだろう。

 

「さっさと僕を届けて、それから読書してくれよ」

 

「うぅん……、仕方が無いな、今回だけだぞ?」

 

心配せずとも、次回はないだろう。

もう彼女と合うことすらないかも知れない。

 

「愛する君と逢えなくなるのは、寂しいなぁ」

 

「はいはい、じゃあ出るか」

 

適当にあしらわれる。僕は静かに肩を竦めてから、彼女の後に続いた。

立て掛けられてある箒を持って外に出ると、眩しさに眼がくらんだ。どこからか声が聞こえる。妖精だろうか。

 

「じゃあ、後ろ」

 

「了解」

 

昨日と同じように、箒の後ろの方に跨り、しっかり彼女を掴む。女の子に触れるというのは、本来緊張や照れを感じなければならないところなのだろうが、掴まり損ねれば思い切り地上に落ちてしまう、命の危険があるこの状況では、そんな余裕はない。そもそも僕は彼女という人間は愛しているが、彼女自身に恋情なんて懐いていないので、照れる道理もない。

 

「……そういえば、その神社って何て言うんだ?」

 

博麗(はくれい)神社」

 

僕達がこれから向かう場所。

博麗神社。彼女と同世代の巫女が一人でやっているらしい。感心する。

 

「それじゃ、行くぞ!」

 

「オッケ……、うわっ!」

 

いきなり飛び上がる箒。僕は慌てて手に力を籠めた。

安定して来たところで、静かに息を吐く。

 

博麗神社の巫女――

どんな人間だろう。

どんな個性を持っているのだろう。

期待を胸に懐きつつ、落下という危殆を心から恐れつつ。

僕は風の流れを感じていた――




読んでくれた方は、有難うございます。空虚なまでの空腹って何だ。
今後は不定期で投稿して行きます
感想、指摘、ご意見など良ければお願いします
では、また


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