小町ポイント クリスマスキャンペーン (さすらいガードマン)
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小町ポイントクリスマスキャンペーン
この小説はリンク機能の使用を前提に書いた、くじ引きで分岐するお話です。一話目は普通にお読み頂き、以降はリンクをクリックして続きを読んで下さい。
「次の話」「前の話」等を使うと、話の順番がおかしくなったりします。
リンクは基本二つで、「まだまだ」的なものを選べば選択肢に戻り、「もう寝る」的なものを選べば共通のエピローグへと進みます。
なお、話によって八幡の性格が違っていたり、クオリティーや長さが極端に違っていたりするのは、筆者のえこひいき等による仕様です。
八幡以外のキャラの性格も色々とおかしいですが、そこは笑ってお許し下さい。
お話を「吉」と思うか、「凶」と考えるかは、アナタ次第です。
では、どうぞ。
真っ暗で何も見えない……。
俺はなんでこんな所に居るんだ? たしか、クリスマスイベントは無事に終了。その後二校合同の打ち上げがあって、うちに帰ったのは十時過ぎ。疲れと安心感から、割りと早めに床についたはずだが……。
突然、カッ、カッ、カッ…… と音を立ててスポットライトが次々と点灯し、辺りは眩しいばかりの光に包まれる。そして、
「日頃から小町ポイントをご愛顧頂いてるみなさん! 年に一度のビッグチャンス! くじを引いて、ごーかしょーひんをゲット~!!」
「……何やってんの、小町ちゃん……?」
目の前のステージのような場所で、天使の格好をした小町がマイクを構えて気勢を上げていた。
天使と言っても、いつもの中学校の制服の背中に天使の羽根をくっつけ、頭に天使の輪っかをのっけただけだが……あれ、この輪っか宙に浮いてる! すげえ。これがジャパン・クウォリティーかっ! たかがコスプレ用品にこれほどの技術をつぎ込むとはっ!
フッ、だが、甘いな。小町はコスプレなんかしなくたって元々天使だ。なんだったら俺の目に映る小町には、常に天使の羽根が生えているまである(妄想)
明るさに目が慣れてくると、ここは、教室2つ分ほどの広さのイベントスペースのような部屋で、何故かどこにも出入り口がない。五十センチほど周りより高くなった正面のステージに天使(小町)が一人。客席に当たる部分には椅子も無くがらんとしており、「みなさん」とか言ってた割には、俺一人がぽつねんと突っ立っている。
ステージ奥の壁には、「ご愛顧感謝! 小町ポイント、クリスマスキャンペーン」の文字が貼り付けられている。天井の方からは、カラフルな紐が、何本も何本もぶら下がっており、それぞれの先端に番号札のようなものがくくりつけられている。
「なぁ小町、これってなに?」
俺が当然の疑問を口にすると、
「私は、小町じゃなくて、ポイントの天使、コマチエルだよっ」
そう言って小町、じゃなかった、コマチエルはニッコリと笑った。
謎は全て解けた! つまりこれは夢ですね、うん間違いない。しかし……我ながらなんつーアホな夢を見てるんだか……。そんな俺に構わず、ポイントの天使コマチエル……長いな、コマチは言う。
「ここは、夢と現実の間にある世界……。さあ、累積で八万ポイント獲得を達成したお兄ちゃんには、スペシャルボーナスチャンス!! 今宵、この世界で恋人との夢の一夜をプレゼント!! どんどんパフパフ~」
「いや、恋人との、つっても恋人とか居ないし。それに今、お兄ちゃんって言ったよな。やっぱりおまえ、小町だろ……」
「ああもぅ、めんどくさいなぁ、ごみいちゃんのくせに……」
「おい……」
「と・に・か・く」
彼女は、反論は許さん、とばかりに続ける。
「ちゃんと恋人も付いてくるから大丈夫。 ……ただし、好みの相手が当たるとは限らないから、『いい恋人が当たりますように』って、しっかりお願いしてから引くんだよ?」
コマチはそう言って小首をかしげ、右の目の所で横向きにVサイン。トドメにバチコーンとウインクを決める。
くっ、あざと可愛い。だいたい「いい恋人が当たる」って何だよ……。だが可愛いは正義。俺は言われるままにステージに上り、ズラッと並んだ色とりどりの紐の前に立った。
「さあ、今年最後の運試し! れっつ、ちゃれんじ~」
コマチが煽り、どこからともなくドラムロールが響き渡る。
さて、目の前には番号札の付いた 17本の紐が並んでいる。俺は……
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祭りのあとは Ver2.0
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ちゅっ。
「えへへ、お兄ちゃん、おはよう、あんどメリクリ~」
「……おう、おはようさん……って、どしたの? 小町」
うちの兄妹は千葉の兄妹の基本を守り、非常に仲がいい方だ、という自覚はある。しかし、いくら天使の化身である小町でも、いつもはほっぺにチューで起こしてくれたりはしない。
幸いなことに、夜中に馬乗りになってビンタで起こしたり、二度寝したからといっていきなりバールを突き立てようとしたりもしない。うん。普通が一番だな。
「今日は、クリスマスだから、彼女のいないお兄ちゃんに、私からのサプライズプレゼントだよっ。あ、今の小町的にポイント高い!」
「おー。……ありがとなー」
ようやく目が覚めてくる。はて、なんかすごくいい夢を見たような気もするし、しょーもない夢を見たような気もするが……思い出せん。
「……朝からテンションひくいなぁ。クリスマスだよクリスマス!」
「いや、日本のクリスマスはイブでだいたい終わりだろ。誰も教会とか行かないしな」
「誰もってことは無いと思うけどな……。それよりお兄ちゃん、今日出かけるんでしょ、早くご飯食べちゃって」
「おう。ま、出かけたくて出かけるわけじゃないんだけどな……」
***********
今日は、昨日のイベントの総武高側、つまり演劇イベントの反省会だ。どんなイベントでも、その直後に問題点、反省点を洗い出し、どう対応するのがベストだったか、を議論しておくことで、次に同じようなイベントを行う時、大幅な時間とコストの削減に繋がる……らしい。
ホント時間とかコストとか大事だわ。そのためにはリスク・ヘッジをしっかりと行い、レスポンシビリティのアフィリエイトをクリアーにした上で細かいビジョンをサジェストして……。
いかんいかん、うっかり意識高くなっちゃうところだったぜ。愛車(自転車)で通学路を駆け抜けながらそんな事をレミニセンスする。おっと、意識が抜けてない。
まあ、これは半分建前で、一色会長様曰く、
「えー、余った予算、細かく計算して二校で再分配するとかー、超めんどくさいじゃないですかー。きれいに使っちゃったほうが良くないですかー」
との事で、残りの予算は今日のお菓子と飲み物代に消える事になった。生徒会メンバー以外は自由参加とのことなので、当然のごとく俺は不参加を表明したのだが、
「は、何言ってんですかせんぱい。わたしが出るのに先輩が来ないとかわけわかりません。と、いうことで、せんぱいは強制参加でよろしくで~す」
何その超理論。でも、結果的に生徒会と奉仕部は、全員参加。あとは、イベント参加者の中でご用事の無い方はよろしければ参加して下さい、という流れになった。
自転車置き場に愛車(しつこい)を置いてから、一度奉仕部の部室へ向かう。
お、自転車漕いでる間にメールが入ってた。……折本ちゃんからだ。いや、「折本ちゃん」って何? ……そういえば、昨日打ち上げで無理やり登録してましたね……。
『おいっす~ 比企谷、起きてる? 昨日の夜、超ウケる夢見たんだけど……』
知らん。俺は途中で読むのを止めた。何が悲しくて他人の夢の話に付き合わなくてはならんのか……。
今日は、校舎こそ部活動などで開放されているが、もう冬休みに入って授業は無いため、校内は閑散として、ひんやりとした空気が漂っている。
「あ、比企谷おはよっ」
「おう、おはよーさん」
何か用事でもあったのだろう。休日にもかかわらず登校していたクラスメイトの相模と朝の挨拶を交わす……って、何で俺、相模と普通にあいさつしてんの?
思わず振り返った時には、相模はもう廊下の角を曲がるところだった。……まあいい。
「……うす」
扉を開けると、既に雪ノ下がいつもの席に座っていた。
「こ、こんにちは、比企谷くん……」
ん? なんか……いつもと様子が違う。ほんのりと紅く肌を染めて俯いたままこっちを見ない。
「どうした、雪ノ下。風邪でも引いたか?」
彼女は顔を上げると、妙に熱のこもった目で聞いてくる。
「あなたは、その、昨日……、夢、とか見なかったのかしら?」
「あん、夢? 何の事だ」
そう答えると、彼女はひどくホッとしたような、がっかりしたような顔になって緊張を解いた。
「ふふ、そうよね。そんな事あるわけ無いわ……」
「なんの事だよ」
「さあ? 何かしらね」
そして雪ノ下は、いつもより少しだけ優しく微笑ったような気がした。
……ふと、妙な既視感……雪ノ下を、いや、雪ノ下の座っている席のあたりを見ていると、背筋がゾワゾワっとする。まるで大魔王にでも睨まれて居るような……。
「やっはろ~」
相変わらずのアホなあいさつに思考が中断された。扉が開き、由比ヶ浜が入ってくる。
「こんにちは、由比ヶ浜さん」
「やっはろ~メリクリ、ゆきのん。あとその、ヒ、ヒッキーも、メリクリ」
「お、おう」
何故か由比ヶ浜は、自分の胸を抱くようにして腕を組み、こっちをチラチラ見てはなんだか落ち着かない表情をしている。。
いや、確かについその立派なメロンちゃんに目が行ってしまうことが無いわけじゃないけれど、少なくとも今日はまだ見てないから。
「えと、俺、何かしたか?」
「しし、してないし、何かとか、べ、別に。……もう、ヒッキーのバカ」
今度は由比ヶ浜が赤くなっている。二人共おかしい。なんだか居づらくなった俺は、
「生徒会室に置きっぱなしだった荷物あるから、それ取りに行ってそのまま会議室行くわ」
そう告げて、二人の返事も聞かずに部室から逃げ出す。
こうしていても仕方ないので、宣言通り生徒会室に向かう。どうせ会議室に運ぶものもあるだろうから、その手伝いをしてやってもいいしな……。
生徒会室のドアをノックする。
「はーい、空いてますから入ってきてくださ~い」
……聞き覚えのある生徒会長様の声がする。……何かデジャブ感が……。
ドアを開けて入っていくと、一色が一人でファイルをチェックしていた。
「あ、せんぱい、昨日はお疲れ様でしたー」
「おう、そっちこそお疲れさん」
「あれ、でも先輩どうしたんですか、反省会は会議室ですよ。それに、結衣先輩達は?」
「一応、奉仕部には顔出してから来たぞ。あいつらは直接会議室だろ。俺は、何か手伝うことが無いかと思ってな」
「何かって…… はっ、先輩もしかして私に一秒でも早く会いたくて、手伝いにかこつけてわざわざきてくれたんですかそういうのちょっとキュンと来ちゃいますけどまだそういう関係じゃないのでちゃんと付き合ってからあらためて言って下さいごめんなさい。
「またこのパターンかよ……」
いつも通りの一色のお断り芸に、なんだか安心してしまう自分がいる。だが、何故かここからがいつもと違う。
「じゃあ、先輩ちょっとこっちに来て下さい」
そう言って一色は奥の書棚の方に入っていく。
「ん、どうした?」
「お手伝い、してくれるんでしょ、せんぱい」
そう言われてしまえば仕方がない。大人しく呼ばれた方に付いていく。
「何運べばいいんだよ、あと、本牧達は?」
「副会長たちには先に会議室の準備してもらってます。あ、先輩、そこの上ちょっと見て下さい」
書棚の奥まったところの、上の段を見上げる。
「一色、どのファイル……」
一色に、後ろからいきなり抱きつかれた。
「な、お前何やって……」
一色は、まるでマーキングする猫のように俺の背中に頭をぐりぐり押し付けて来た。一拍遅れてふわりと柑橘系の甘い香りに包まれる。
「だからー、せんぱいに手伝ってもらってるんですよ~。私の充電を」
「意味がわかんねーよ。あと、離せ」
「やです。わたし、昨日まで超一杯頑張ったじゃないですかー。だから、心の充電しないと倒れちゃいます。そしたら、先輩のせいですからね?」
「ますますわかんねーよ。何だよ充電って」
そう問うと彼女は、俺に抱きつく腕に力を込めた。
「……だって、あんな夢見ちゃったら、ますます諦めきれなくなっちゃうじゃないですか……」
一色は急に、とても切ない声でそんな事を言う。
「……夢って、何の事だ?」
つい、こっちも真剣な口調になってしまった。
彼女はすっと身体を離すと、今度はいつものからかうような口調で答える。
「こっちの話ですー。わたしの、『本物』の話ですよー」
「うぐっ、お前な……」
「はい、じゃあ先輩、これと、このファイル先にお願いします。わたし、ここの戸締まりしてから行きますから」
「了解、会長……」
*************
会議室に着くと思っていた以上の人数が集まっていた。
奉仕部の二人の他、一色以外の生徒会役員、川崎姉妹、戸塚、材木座、それから留美と、もう一人留美の相手役をやってくれた子、の小学生二人。それにまさかの葉山達のグループまでいる。
あいつらはリア充のくせに、クリスマスに二日続けて参加とは何考えてんのかね……そこまで考えて思い至る。おそらくは葉山が、クリスマスに特定の誰かの誘いを、角が立たない言い方で断るための手段に利用しているのだろう。
戸部はなんだか腑抜けた人形のようになってになって座っており、海老名さんだけが何故か非常にツヤツヤしている。俺、戸部、葉山を交互に見て、「ふへ」とか、変な声出すのやめてっ。
その葉山は、俺と目が合うと軽く頭を振って、何故か天を仰ぐような仕草をした。あいつも疲れてんのかね、色々と。
三浦は三浦で、そんな葉山と俺を順番に見て、何故かぷっと笑いやがった。……え、俺、葉山と比べたらそんな笑うような顔ですかね? どっちかといえば笑えないような顔という自覚はあるんだが……。
「はーちゃん、こっちー」
呼ばれて、俺はけーちゃん達のところへ。
「おう、けーちゃん。お菓子もらったか?」
「うん。あと、ジュースももらった」
にこにこ元気なけーちゃんの隣で、何故か川崎は真っ赤になって落ち着きがない。声をかけようとしたら、スカートの裾をギュッと押さえ、涙目で睨まれた。いや今俺、何もしてないよね? やっぱり黒のレースが恥ずかしいの?
留美はすっかりけーちゃんと仲良くなったようですぐ隣にいるのだが、何故か俺と目を合わせようとしない。様子を気にしてこっそり見ていると、自分の唇をむにむにと触ったり、たまにこっちを見たりしては耳まで赤くしている。
なんだかここにいるみんながどうもおかしい。材木座は寝違えたとか言ってしきりに首をさすっているし、戸塚は動きも喋り方もギクシャクしていて、「僕は男の子、僕は男の子……」とか、なんだかブツブツ言っている。
遅れて入ってきた平塚先生は、俺と顔を合わせるなり、顔を赤くしたり青くしたりして忙しい。一体どうしたのかと問えば、
「ワインだ……。みんなあのワインが悪い」
それだけ言ってさっさと自分の席に着いてしまった
一色が入ってきて、俺も奉仕部の席に着く。いつもと配置が違い、何故か雪ノ下、俺、由比ヶ浜、の順。
「それじゃあ、始めますよー。最初ちょっとプロジェクター使うんで、ちょっと暗くしますねー」
暗幕が引かれ、部屋が暗くなる……と、不意に、机の下で雪ノ下から手を握られた。
「…………っ」
なんとか声を抑える。が、それで状況に気が付いた由比ヶ浜が、「私だって」と小さく言いながら、俺のもう一方の手に指を絡めてくる。
な、なになに? これが両手に花? それとも両腕を封じられたってこと?
俺を挟んでいる二人は一瞬だけ軽く睨み合ったあと、二人、お互いに優しく微笑んで見つめ合う……。喧嘩されるより、平和なのはいいけど、非常に居心地が悪いなあ……。
全く覚えていないが、察するにどうも彼女らの夢で俺が何かやったらしい。それって俺のせいなの? ……そういえば、俺も昨夜夢を見たような気はするが、一体どんな夢だったっけ……。
了
くじ引き型小説、いかがだったでしょうか。一応これで完結です。
最初は、実験的に、メインヒロイン三人+ハズレ、ぐらいで様子を見るつもりだったんですが、書いてるうちに楽しくなってきて、結構キャラが増えてしまいました。
追加分も含めて、主要キャラは一通り登場させられたと思っています。……あと誰かいたっけ?
あと、みんなイイトコロでお話が終わってますが、これ以上はR18じゃないとキツイので……。まあ、アフターの希望が多いものについては別作品として続きを書いたりするかもしれません。というか、書き始めてはいます。(注:R15 & R18 ← 良い子は見ちゃダメよ) ただ、これも更新が滞っているので、様子を見ながら手を付けていきたいとは思います。
では、最後にお願いです。普段、感想とか特に書かないよ、という方も、「最初に引いた」あるいは「引いてしまった」キャラは誰だったか、というのを感想欄に一言だけでも書いていただけると、あとから読んだ方も感想欄を見て楽しめるのではないかと思いますので、よろしければお願いします。
もちろん、強制ではありませんし、普通のご意見・ご感想(全体の感想でも特定のキャラの感想でも)も大歓迎です。
ではでは、どこかでまたお会いしましょう。
以下 途中追加の後書きまとめ
折本
なんということでしょう~ みんなびっくり、誰もリクエストしてない折本ちゃん編でした。
でも、思い付いたらつい書いてしまうのがさすらいガードマンクオリティ。どうぞ笑ってお許し下さい。
はるのん
大魔王からは逃げられない!
キャラ追加のリクエスト、一位タイのはるのんでした。
直接的な表現は無いから、R15でぎりぎりセーフ?
さがみん
「南っ」
「ハッちゃん、私を夢の世界へ連れてって!」
……ハッちゃんて誰ね? というわけで、(何が)豆腐メンタル、みんなのさがみんでした。さすがにこの二人を、たった一話でラブ状態に持っていくのは無理がありますね。
この短編集の性質上、多少強引なのはどうぞご容赦下さい。
あーしさん
乙女なオカン、あーしさん。
今回の話は、恋とは少し違う気がします。……二度目のキスは……?
腐り姫
ちょっといい話で終わるかと思えば……。 さて、この後半部分、どれくらいの人が見つけてくれたんですかね? 自分で変な仕掛けしといてなんですが、誰にも読んでもらえなかったらそれはそれでショックかも。
小町
他のキャラの平均の倍の尺、二段構成……えこひいきですね。でもこれは「小町ポイント」の話だから仕方がないのです。
12月19日 誤字修正しました。clpさん、ありがとうございます。
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12月17日 リンク追加
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……
猫耳ミニスカサンタ姿の雪ノ下雪乃が立っていた。
「あ……いらっしゃい……」
それだけ言うと、雪ノ下は真っ赤な顔で俯いて、太ももの半分も隠していないスカートの、真っ白なファーになっている裾の部分を両手できゅっと握る。
視界が完全に晴れるとここはどうやら雪ノ下のマンションのようだ。俺のすぐ横のローソファーとか、低いシンプルなデザインのテーブルには見覚えがあった。
俺の正面僅か数十センチの所に立つ雪ノ下は、普段の彼女のイメージとはかけ離れた、非常に煽情的な服装をしていた。
頭には真っ赤なビロードに白いファーで作られた、クリスマス仕様の猫耳カチューシャ。いつもの様に小さく編まれた横髪には、金糸の刺繍が入った緑のリボンが結ばれている。
ノースリーブの非常に丈の短いサンタ服は、病的にさえ見える細いウエストを隠すに至らず、やはり丈の短いスカートとの間から、ちらちらと可愛らしいおへそが覗いている。
スカートからスラリとのびた細い脚は、膝から下がサンタ服と同色の赤いソックスで隠され、そのことが白く細い太腿をより際立たせて見せていた。
「そ、その、比企谷くん……、そんなにじっと見られると恥ずかしいのだけれど……」
「お、おう。スマン」
そう言って後ろを向こうとすると、雪ノ下が俺の手首を掴んだ。
「待って。 ……見ないで、と言っているわけでは無いの。その、あなたの為に着たのだし」
指を絡めるように俺の手を握りながら、上目遣いでそんな事を言う。
「……似合わない、かしら?」
「雪ノ下、お前……、
何やってんだよ、と言葉を続けようとして、気付く。彼女の手が、足が、羞恥に震えているのを。それでも、目を潤ませて不安げに俺を見つめてくる。
「あなたの為に着た」と彼女は言った。そして、雪ノ下雪乃は嘘をつかない。ならば俺は……。
「……いや、よく似合ってる。似合いすぎてて、その、目を離せなかったくらいだからな」
「そう……。あ、ありがとう」
元々赤らんでいた頬をいっそう朱に染めると、恥ずかしそうに、でもとても嬉しそうに微笑んだ。
「それで、どうすればいいのかしら?」
「どうって……」
「今夜、あなたと私は…… その、こ、恋人、なのでしょう?」
「お、おう」
「誠に遺憾なのだけれども、生まれてから今まで、私にはそういう存在が居たことが無いから、恋人、と言われても、どうすればいいのか分からないのよ……」
彼氏いない歴=年齢ですねわかります。この性格じゃな……。って、俺に言われたくはありませんね(自滅)
「……だから、私はあなたの望む通りにしようと思って」
ほうほう俺が望む通りにですか、それはつまり俺の
「ちょ、お、お前何いってんの?」
「聞こえなかったのかしら? 目だけじゃなく耳まで腐り始めたの?」
ようやくいつもの雪ノ下らしくなってきた。
「いいか、お前のその格好見てたら、その、エロい事とか考えちゃうかもしれないだろ。俺だって健全な男子高校生な訳だし」
「健全な?」
「真顔でそこを聞き返すのやめてくれませんかね」
最近、雪ノ下の細かい表情の違いが大分判るようになってきたんだが、俺とこういうやりとりをしている時の彼女は実に楽しそうだ。多分、自惚れでなく。
「……構わないわ」
「……えーと?」
「あなたの望みがもし、せ、性的な事なら、ちゃんとそれにも応えるつもりよ」
そう言って雪ノ下は俺にぴったりと身体を預けてきた。細くはあるが、十分に女性らしい柔らかな躰から、体温が伝わってくる。心を融かすような匂いが鼻腔をくすぐる。
抱きしめたい、という誘惑に逆らえず、肩と腰をそっと抱く。
「あ……」
両腕から、彼女の緊張が伝わってくる。
雪ノ下は顔を上げる。俺を潤んだ瞳で見つめ……そっと目を閉じた……。
最初は、触れるだけのキス。彼女はびっくりしたように目を開け、それから、本当に幸せそうにもう一度目を閉じた。
二度目のキスはゆっくりと。お互い、少しだけ口を開き、おずおず、という感じで舌先を触れ合う。口の中がなんだかくすぐったいが、それがなんとも心地よい。
名残を惜しむように唇を離す。
「……本当にいいのかよ」
一瞬目を伏せた雪ノ下は、何かを決意したように再び顔を上げる。
「……ええ。それにあなた、私の好意くらい、とっくに気付いていたのでしょう?」
「それは……。確信があったわけじゃねえよ」
「この夢が覚めたら忘れてしまうのかもしれない、たとえ覚えていても、現実ではたぶん言えない。でも……今だけはちゃんと伝えなくてはね……」
彼女は、まっすぐに俺の目を見つめる。
「好きよ、比企谷くん。もうずっと前から、あなたが……好き」
俺は彼女を抱きしめ、もう一度キスをした。 ……抱きしめたまま、その耳元に俺も想いを告げる。
「俺も、お前の事が好きだ、雪ノ下。 ……多分、初めて会った日から、ずっとお前に憧れてた」
小さくすすり泣く様な声に、思わず雪ノ下の顔を覗き込む。彼女は涙を流して震えていた。
「おい、大丈……」
「違うの。 ……嬉しくて泣いてしまっただけよ。想いが通じるって、こんなに、こんなに幸せなことなのね……」
そう言って微笑った彼女は、いつもより少しだけ幼く見える。
「……今日は随分と素直……っていうかしおらしいな」
「……あなた達のせいよ」
少しだけ目をそらして、ここにはない何かを見つめるように彼女は言う。
「言わなければ伝わらない……、言葉にしても伝わるとは限らない。想いの全てを伝えることは出来ないのかもしれない……本当、そのとおりよね……」
雪ノ下はもう一度俺の目を見る。
「でも……それでも、あなたに伝えたい、そう思ってしまったの。だから」
「……雪ノ下……」
俺はもう一度彼女を強く抱きしめ、ゆっくりとソファーの上に押し倒した……。
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メグメグ・メグ・リン、と、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……
可愛らしいサンタ服をまとった、城廻めぐり先輩がニコニコしながら手を振っている。
「お~い、比企谷くーん」
さらに霧が晴れていくと、どうやらここは特別棟の校舎裏のようだ。日当たりはいいけど人のあまり通らない、俺的ベストプレイスランキング上位の場所だ。ただ、ここは天使戸塚がラケットを持って俺のために踊ってくれる(妄想)のを見ることが出来ない。それさえクリアすれば、ランキング一位も狙えるのだが。
めぐり先輩は、藤棚の下のベンチに座っている。 ……さっきからの流れで行けば、この世界では彼女が俺の恋人ということになるが……。
俺が先輩の方に近づいていくと、彼女はベンチの、自分の隣をぽんぽんと叩いて、
「座って座って、比企谷くん。今日はよろしくね~」
と、相変わらず天然のぽわぽわとした笑顔。
「……っす」
勧められるまま、少しだけ距離を開けて彼女の隣に腰をかける。
めぐり先輩は、もこもことしたあたたかそうなワンピースタイプのサンタ服を着ている。スカート部分からスラリと伸びた脚は黒のストッキングに包まれ、足元はふかふかの、お菓子でも入ってそうなサンタブーツ。
頭の上にちょこんと乗せた、ヘアピンで止めるタイプの、アクセサリのような小さなサンタ帽が可愛らしい。
このひとは、こういう可愛い格好がいちいち似合うなー。もう、心がめぐめぐするんじゃ~、などと考えていると、
「私と比企谷くんが恋人だなんて、なんだか変な感じだね~」
特に照れるでもなく彼女はそう言う。
「はあ、そうっすね」
「相変わらずテンション低いなぁ。もっと元気よく、盛り上がっていこう、おー!」
「……おー」
「……ね、比企谷くん。比企谷くんには、文化祭でも体育祭でも、いっぱい、いーっぱい頑張ってもらって、とっても感謝してるんだ。……だから、今日は特別に、私にできることならなんでもしてあげるよ。私からのクリスマスプレゼントってことで。どうかな~?」
彼女は、むふーっ、となんだか得意気に胸を張る。
はあ――って、ええぇ! こ、この先輩、可愛い顔して、とんでもないことをさらっといいやがりましたよ? 「なんでもしてあげるよ」 ……
え、マジ。本当に何でもしてくれるんですかね? 男子高校生の性欲舐めすぎじゃないですかね?
「……何でもっすか?」
動揺を隠して、なるべく自然にそう聞くと、めぐり先輩は、
「うん! なんでも言って」
と、ぽわぽわ笑って答える。
よっしゃぁ、
「じゃあ、そにょ……」
噛んだ……。でも八幡負けない! とりあえず、痩せてる割に意外とありそうな胸を揉ませ……
――めぐ・めぐ・めぐりん・めぐりっしゅぱわー――
ぐわっ、めぐり先輩の後ろから後光が射している。光に当てられ俺の煩悩が浄化されていく……。そんな、せっかくのチャンスなのに……。
「どうしたの? 比企谷くん」
くっ、胸が駄目なら、そのストッキングに包まれた太腿の間にっ……。
「ふ、ふともも……」
――めぐ・めぐ・めぐりん・めぐりっしゅぱわー――
ぐわあぁぁぁっ。な、何もしていないのに賢者タイムとか、そんな馬鹿な……。
「んん? 脚がどうかした? あ、それなら、ちょっと恥ずかしいけど、膝枕してあげる」
そう言うと先輩は、もはや腑抜けになって力の入らない俺を、よっこらせ、というかんじに引き倒し、俺の後頭部を彼女の膝の上にのせた。ストッキング越しにじんわりとめぐり先輩の体温が伝わってくる。サンタ服の裾のファーのところが耳に当たって少しくすぐったい。
「どうかな、気持ちいい?」
覗き込むようにして先輩が聞いてくる。
「……はい。すごく気持ちいいッス……」
「そう。良かった~」
彼女は、えへへっと微笑う。だが、貴重な、「なんでもしてあげる」これだけでは終われな……
――めぐ・めぐ・めぐりん・めぐりっしゅぱわー――
先輩の体温と、後光の光を浴びる爽やかな心地よさの中で、俺はゆっくりと意識を手放した……。
俺は……
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……
可愛らしい、丈の短いワンピースのサンタ服を着た鶴見留美がちょこんと座っていた。
さらに霧が晴れていくと、そこは、淡いパステルピンクとオフホワイトを基調とした、いかにも「女の子の部屋」という感じの小さな部屋。
おそらく留美の自室なのだろう。清潔で、あまり無駄なものが置かれていないところに留美の性格が感じられる。
小さい出窓になっている窓際に置かれた、やはり明るいピンク色のベッドの端に、留美は浅く腰を掛けていた。ぴったりと揃えた脚。サンタ服のスカートとソックスの間からそこだけ覗いている膝小僧が実に可愛らしい。やっぱり小学生は最高だぜ!
「あ、八幡」
俺に気付いた留美は、少し、ほんの少しだけ嬉しそうな顔を見せた。こいつも表情が分かり辛いやつだが、何度も話しているうちに結構細かい表情が読み取れる様になってくる。その辺、どこか雪ノ下とも通じるものを感じるが……。
「ねえ、八幡ってば」
夢にしてはあまりにリアルな感覚に、俺が何も言えずにいると、留美がしびれを切らしたようにもう一度声をかけてきた。
「おう。いや、スマン。 ……いったい何がどうなってるんだか……?」
「どうって……」
そこで留美は何故か急に真っ赤になってうつむく。
「その……、は、八幡、は、私のここ恋人、なんでしょう?」
「え」
いや、駄目でしょう、不味いでしょう、アカンやつでしょう。
「……違う、の?」
小首をかしげてそんな悲しそうな顔をされたら、とても違うとは言えない。と言うか、未だになにがどうなっているのかわからん。そんな事を考えていると、
「あのね、八幡。小町さん、じゃなかった、コマチエルさんが、『この世界には、『じポほう』は無いから安心だよ』ってお兄ちゃんに言っといてって」
なん……だと……。思わず留美の、スカートからチラチラと覗く細い素足とか見ちゃったじゃん。コマチのやつ、なんつう事言いやがる。
確かに留美は背も高めで大人びているし、「可愛い」より、「綺麗」という言葉のほうが似合うような美少女で……。
ぶっちゃけ、外見的な好みだけで言えば、少し幼いとは思うものの余裕で「有り」だ。いや、でもなぁ……。
「ね、八幡、それで、『じポほう』って何?」
「『自走式ポータブル砲台』の事だ。この世界には戦争もテロも無いってことだ。確かに安心だ。素晴らしいな」
「ふうん……、戦争が無いのは、いいことだね」
その通り。世界平和が一番だ。納得してもらえて何より。
「そんなとこに立ってないで、ここ、座ったら?」
そう言って留美は左手でぽんぽんとベッドを叩き、自分の隣に座るように言う。
こ、これはさそってるんですかね? しかし、うっかりその気になって勘違いだったら即タイーホの危険な状況。ここは我慢だ。「八幡の幡は我慢の慢」 ……字が違いますね。てことは我慢しなくてもいいんですかね?
俺は一旦安全策を取り、留美と人間二人分位の間を開け、ピンクのベッドに恐る恐る腰を下ろした。
「むぅ…… もっとこっちに座ればいいのに……」
留美は、俺がわざわざ間を開けて座ったことがご不満のようだ。少し逡巡したあと、すっと立ち上がって俺の真正面にまわる。しばし顔を赤くして俯いていたが、ちら、と上目使いに俺を見ると、
「あの…、恋人って、きす、とか、するんだよ、ね……」
何かを吹っ切るようにそう言って、彼女は俺の両膝をまたぐように、膝立ちでベッドの上に乗ってきた。ベッドが軋み、留美がバランスを崩す。
「あっ……」
反射的に両手を伸ばし、俺は留美の右肩と左腰を支えた。留美はそのままぺたんと俺の膝の上に座ってしまう……。
……結果、ベッドの上で、俺の太腿の上に留美が跨り、俺がそれを両腕でゆるく抱いている、という形になってしまった。
サンタ服のスカート部分がふわりと広がり、俺の太腿には、薄いズボンの布越しに、留美の内ももとお尻の素肌の感覚がじんわりと伝わってくる。
ヤバイ近い柔らかい近いいい匂い近い近い柔らかい。……小学生でも、しっかりとオンナノコなんだって事を、強烈に意識させられる。
「あぅ、あの、ご、ごめんなさい……」
留美もいっぱいいっぱいなようで、さっきからただでさえ真っ赤な顔をより一層赤くして、俺の上から飛び
そのまま潤んだ目で俺を見上げると、可愛らしい唇をほんの少しだけすぼめるようにして、そっと目を閉じた。
その躰は小刻みに震え、俺の両腕と太腿に彼女の緊張を伝えてくる。
「留美……」
「おねがい、八幡。 ……こ、このまま、きす、して欲しい」
もし断ったら、そのまま泣き出してしまいそうな切ない声でそんな事を言う……。
俺は、右腕で留美の背中を優しく抱いて、そっと触れるようなキスをする。
留美は一瞬、ぎゅっと躰を強張らせた後、すぐに力を抜いた。数秒、唇を触れ合わせるだけのキス。ゆっくりと顔を上げると、留美はぽてんと俺の右肩のあたりにもたれかかった。
「……八幡……すごいドキドキしてる」
「おう」
留美の髪をそっと撫でながら、それだけ応える。
「私も、ドキドキしてる、よ」
「ああ、そうだな」
お互い、触れ合っているだけで全身に相手の鼓動が伝わってくる。僅か数秒、唇が触れ合っただけで、目の前の少女への愛しさが膨れ上がってくる。抱きしめたくなる衝動を押さえきれない……。
先に動いたのは留美の方だった。
「八幡……、大好き……」
そう言って彼女は俺の首に腕を回し、抱きつくようにしてキスをしてきた。唇を唇で挟むよな、甘噛みのような、じゃれるようなキス。俺もそれに応え、留美の背中を強く抱きしめる……。
……やってしまった……。
いや、誤解しないように。「キス」の話ですよ? しかし、いくら大人っぽいとは言え、小学六年生と本気のキスとか……。このままでは、「ロリ谷くん」が公式名称になりかねない。
だが、俺が尊敬する阿良々木師匠は、小学五年生とか、8歳くらいに見える金髪の幼女とかと堂々とキスしておられた。……いや、待て。彼女たちは実年齢が確か二十一歳とか六百歳とかだったような……。つまりは合法ロリってやつか。
ならば、小町ポイントを使って、留美の年齢設定を上げてしまえば問題ない!
よし。俺はカードデュエルアニメの主人公のように、五指を開いた右手を右前方45度に突き出して叫ぶ。
「コマチエル! ポイントを使って留美の実年齢を二十一歳に。ただし外見年齢はそのままに(重要)」
ポワンポワン。虹色の光が留美を包む。やがて、光が収束し、
ルミルミ(21)が現れた。……しまった。(21)って、やっぱりロリじゃん……。
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……
「……葉山。……お前何やってんの?」
「やあ、遅かったじゃないか。少し退屈し始めてたところだよ」
自分の席に、所在なげに座っていた葉山は、そう言って俺の方に向き直った。
見慣れた風景。二年F組、俺の、葉山の教室。八ヶ月ほども通っているが、ここでこいつと二人だけ、という状況は初めてかもしれん。
「勝手に人の夢に出てきてんじゃねーよ」
学校一の嫌われ者から、最近ようやく学校一認識されない男の座に返り咲いたこの俺が、なんで夢の中でまで、校内カーストの頂点、「ザ・リア充」みたいなやつと過ごさなきゃならんのか。
「夢? 何の事だい?」
どうやらこいつには夢の中という認識は無いらしい。
「だいたい、小町、じゃなかった、天使コマチエル様は、恋人をプレゼントする、とか言ってたぞ。なんかエラーでもあったのか……?」
「だから、俺だよ」
「……は?」
「俺が、比企谷の、一夜限りの恋人さ」
「お、お、おま、お前、何いってんのん?」
のんのん。頭おかしいのん? おかしの国の住人なのん? おかしいのは俺ですね。れんちょんに謝れ。
「俺は、さ。 俺は、『みんなの葉山隼人』なんだ。だから、何も選ばない。みんながこうあってほしいという俺であるように行動するだけだ」
おいおい、自分語り始めちゃったよ。これだからリア充ってやつは。
「だから、この状況を相談してみたんだ。SNSのアンケートで」
おい。
Q:小町ポイントのキャンペーンで、俺が比企谷の恋人に選ばれちゃったんだけど、これって有りかな? 【HAYATO 17♂】
A:有り!有りだよー。ホモが嫌いな女子なんていませんっ。ぜひ、比企谷くんのヘタレ受けをキボンヌ 【H.E 17♀】
A:せんぱいと葉山先輩が……。はっ。もしかして私の好きな人二人並べればすぐ有りって言うと思ってるんですか見たいか見たくないかって言ったら見たいですけどでもやっぱり目の前でってのはドキドキしちゃいそうなのでこっそりしてるのを内緒で覗かせて貰う形にしてもらっていいですかごめんなさい。【I.I 16♀】
A:君たちが友情を昇華させて、そういう関係になるというのは、教師として複雑では在るが……。しかしこれも一つの形。……そう、結婚とか婚約とか結婚とか、そんなのばかりが愛じゃない! 私は勇気を持って君たちの関係を認めよう! 【S.H 2X♀】
回答者の人選が偏り過ぎだろ……。つーか、小町ポイントって一般的な名詞なの?
「ま、そんなわけだから。俺はみんなの期待に応えるよ。それが『葉山隼人』だからな」
葉山が席を立ち、ネクタイを
「おい、お前、何
「比企谷、一方的に決めつけるのは良くない。そういうのはただの偏見だ。君自身がそう言ってただろう?」
葉山は、そう言って、正面から俺の両肩をがっしりと
「お、おい、やめろ……」
葉山の腕に力がこもる。さすが運動部のエース、振りほどけない……。
「いいじゃないか、めったに出来ることじゃないしな。これもいい経験だよ」
そう言って葉山は、ゆっくりと顔を近付けてくる……。
「ちょ、ま、うあぁぁ……、や、やめろおぉぉぉ……」
「…………」
「……」
そのご、はちまんのすがたをみたものは、だれもいなかった。
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、……あれ、晴れない? いつの間にか煙じゃなくて白い湯気に変わっている。
つーか、俺、なんか裸で風呂に入ってるんだが。少しずつ周りが見えてくると、ここは豪華な大理石風の風呂で、こういう所によく似合うライオンさんが、口から乳白色のお湯をはき出している……どういう設定だよ……たく、あのエセ天使め。
周りはかなりの広さで……って、いや、これは露天風呂か。 一面だけ壁が無く、はるか遠くにぼんやりと月まで見えている。
「ヒッキー……。そっち行っても、いい?」
急に誰かに声をかけられドキリとする。「誰か」いや、聞き間違えるような相手では無い。いつも五月蝿いぐらいに聞いてる声だし、何より俺を「ヒッキー」などとふざけた呼び方をするやつなど
問題なのは今の状況だ。俺は現在裸で風呂に入ってる。で、由比ヶ浜がこっちに来ると言ってる。
「いや、待て。いま……」
「えへへ……、来ちゃった」
そう言って湯気の向こうからやって来た由比ヶ浜は、胸から腰までを覆うように真っ白いバスタオルを巻いている。温泉番組のレポーターみたいな格好だな。
だが、彼女もおそらく湯に浸かっていたのだろう、タオルが彼女の躰に張り付いて、なんとも艶めかしい。何よりその、身体のラインが見えてしまうため胸の大きさが強調されている。お湯の雫が、彼女の首筋からつつっと胸の谷間に流れて吸い込まれて行くのを見ちゃったりすると、どんどん鼓動が早くなって来るのが自分でも分かる。
由比ヶ浜は、俺から二三歩離れたところまで湯の中を進んでくると、そのままゆっくりとしゃがんでお湯に浸かった。彼女の少し火照ったような顔にドキッとしてふと目をそらす。
「はぁぁ~。広くって気持ちいいねー」
「いや、この状況でそんな余裕ねーわ。……お前、平気なのかよ?」
「いーじゃん。誰かが見てるわけじゃ無いし……」
いや、俺が見てますよ? というか顔はそらしたふりしてるけど、むしろガン見しちゃってるまである。 ……特にお湯に脇のあたりまで浸かることで余計に強調されたように見える二つのメロンちゃんから目が離せない……これが万乳引力の法則か……。
「ヒッキー?」
という声にハッとして顔を上げると、由比ヶ浜がジト目で俺を見ている。どうやら胸をチラチラ見ていた情けない所をしっかり目撃されてしまったらしい。
「お、おう。その……悪い。 ……つい、な」
「……いいよ。えと、恥ずかしいことは恥ずかしいけど、こ、恋人なんだし」
顔を真赤にしてそんな事を言われてしまうと、俺は、
「そ、そうか」
それしか言えず、二人して暫し無言。
「ね、ヒッキー。 ……背中、洗ってあげる」
「お、おい、それは流石に、」
「いいじゃん、ちゃんとタオル巻けば、さ」
「いや、まあ……」
そのタオルが肌に張り付いて超エロいんですが。
結局断りきれず、二人して洗い場に上がる。お湯で隠れてない分、由比ヶ浜のスタイルの良すぎる、その躰のラインが余計に眩しい。湯船から上がる時、タオルの間から彼女の内ももをちらっと見てしまい、俺の鼓動が早くなっていく。
これってほんとに夢? このままだと心臓が持たない……。
「これでいいのか?」
由比ヶ浜に背中を向けて椅子に座り、そう聞く
「うん……。じゃあ、洗う、ね……」
「
これが実に心地良い。魅力的な女の子に洗ってもらっている、という精神的な物もあるんだろうか?
「どう、気持ちいい、かな?」
「おう。すげえ気持ちいい……。もう少し強くても良いぞ」
「うん、わかった」
彼女は少しだけ力を込める。
「はあぁあー」
変な声がでてしまった。
「あはは」
由比ヶ浜が笑う。
「……あの、さ、ヒッキー……」
「ん? どした」
「これって、コマチエル? ちゃんが見せてくれてる、夢、みたいなもんなんだよね……」
「ああ、そういえばそんなような事言ってたな」
「じゃあ、じゃあさ、……」
何か思い詰めたような声をだすと、由比ヶ浜は俺の背中に抱きついてきた。
一瞬、息が止まる。
「ムニュ」っと 擬音が聞こえたかと思った。二つの柔らかくて大きいモノが俺の背中に押し付けられている。
「お前……」
柔らかい近いいい匂い柔らかい大きいあと大きい。 ……石鹸と、オンナノコの匂い。そんな事されちゃったら、八幡が八幡しちゃってもう八幡!!
「ヒッキー、大好き」
彼女は震える声でそう言う。
「……由比ヶ浜……」
「ずっと言いたかった。……ずっと言えなかった。 ……だから……」
背中から、彼女の真剣な想いが伝わってくる。
「……ありがとな。こんな俺のこと、好きになってくれて」
「ヒッキー……」
「今まで何度も、その、お前に好かれてるんじゃないかって思うことはあったんだ。でも、いつもそれは勘違いだって思い込もうとして……」
由比ヶ浜は何も言わず、ただ俺を抱きしめる手に力を込める。
「……悪かったな、俺から言えなくて。……俺も、お前のことが好きだ、由比ヶ浜」
さらに俺を強く抱きしめた彼女は、ひと呼吸置くと、俺の耳にはむっと優しく噛み付いた。
「ひゃっ」
また変な声が出てしまう。
「いきなり何を……」
そう言って振り向くと、
「あはは……ぇぐっ……れしい……うれしい、よう……ヒッキー……」
……由比ヶ浜は、半分笑って半分べそをかいたような顔でぽろぽろ涙を流していた。
「由比ヶ……むぐ。」
最後まで言う前に、彼女に唇を奪われる。数秒。ゆっくりと離れると、熱っぽく潤んだ二つの瞳。どこかとろんとした表情で俺を見つめている。
……もう一度……と、どちらからともなく顔を寄せて……、
「あっ」
由比ヶ浜のタオルが外れて、下にバサッと落ちる。
「きゃ……」
彼女は慌てて両手で前を隠してしゃがみ込んで後ろを向く。一瞬あ然とした俺も、急いで後ろを向いた。
いいいろいろなところが、っみ、み見えちゃったんですですけどっ、どっどど どどうど どどうど どどう。by宮沢賢治。 少し落ち着け俺。
「す、スマン」
「……いいよ。ヒッキーなら」
そう小さい声で言うと、
「ね、せっかくだから、さ……。このまま、私の背中も洗ってくれない、かな」
「お、おう」
ゆっくりと振り向く。彼女は後ろを向いて耳まで赤くして真っ赤になっている。タオルで前を隠してはいるようだが、俺の方からはきれいな背中も柔らかそうなお尻も見えてしまっている。
……背中以外も洗っちゃおうかな……俺は湯船に浸かっているわけでもないのに、随分とのぼせてしまったようだ……。
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……
そこには、本物の天使様が降臨なされていた。「天使トツカエル」のあまりの神々しさに俺がひれ伏していると、
「あ、八幡!」
と、天使が涼やかな声をおかけくださる。何処かで聞いたような声だな……。
「八幡、ねえ八幡ってば、」
その言葉に顔を上げ、よくよく見れば、天使だと思っていたのは戸塚だった。うん。やっぱり天使で合ってるな。……しかもこの天使戸塚はミニスカサンタ服を着ておられる。 ……ミニスカ? な、なんてよく似合うんだ~~。
俺がそのお姿をじぃっと見てしまっていると、
「あ、あはは。あのさ、コマチちゃんから八幡の恋人になって欲しいって言われて、……でも、八幡、男の子同士とか、そういうのは嫌なんじゃないかって、そう言ったら……」
くうっ、真っ赤になってうつむく戸塚。もう、超萌える!
「『だったら、お兄ちゃんのポイントどーんと使って、今夜だけ女の子になっちゃいましょうか』って言われて、「女の子」に、してもらったんだ。……あの、どう? ……変じゃない。かな……」
なん……だと……。
あらためてよく見る。いつものように可愛らし顔に、いつもよりもさらに長い睫毛、ワンピース型のサンタ服に包まれた躰と、そこから伸びる手足は相変わらず細いが、ラインがより丸みを帯び、さらに華奢になった印象を受ける。肩の辺りは白いファーで縁取られたケープで隠されているが、そこから見えている首は、どきりとするほど白く……細い。
「あ、あの、八幡……。そんなにじっと見られたら、ぼく、はずかしい、よ」
「お、おう。すまん。……けど……」
そう言いながらも目が離せない。
「ごめんね、勝手にポイント使っちゃって。コマチちゃんが、『大丈夫ですよ、どうせ兄のポイントですし』って言うから……」
相変わらず兄の扱いがヒドイな。しかし、今回ばかりはよくやった!!
俺はその場に跪き、天に感謝の祈りを捧げる。
「我が悲願、成れり!!」
天から光が射した気がした……。
「……八幡……?」
「おう、いや、ごめん。その、よく似合ってる。 ……かわいいよ、さ、彩加」
「八幡……えへへっ、うれしい、な」
笑顔が眩しすぎる……。俺の中で何かがぷつんと切れた……。
俺は戸塚をガバッと抱きしめる。柔らかくていい香りが……これが天使か……。
「さ、さいか、さいかあぁぁぁ」
夢中になって抱きしめていると、
「ちょ、ちょっと八幡、痛いってば……」
そう言って、戸塚に押し返された。そこで我に返る。
「あ、スマン……。その……」
「えへへ、八幡、逃げたりしないから、その、もっとやさしく……して……」
……俺はその希望に応え、もう一度、けれどやさしく戸塚彩加を抱きしめる……。
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くしていると急に意識が薄れてきて…………。
……誰かが俺のほっぺをペチペチやってる。……ゆっくりと意識が戻ってきた。
目を開くと、目の前に見覚えのある幼児の顔。確か、クラスメイトのかわ……川口の妹のけーちゃんだ。何故か、昼に着ていた可愛らしい天使の服を着けている。
ゆっくりと周りを見回す。見覚えのない、一般的な家のリビング、という感じか。俺はソファーにもたれて眠っていたようだ。
「はーちゃん、おきた?」
「おう。おはよう、けーちゃん」
そう言ってけーちゃんのほっぺをちょんちょん、とさわる。
「……おはようって、いま、ゆうがただよ?」
けーちゃんが小首をかしげる。
随分と時間が経っているな……。それとも、「この世界」は、色々と時間がずれているのか……。
しかし、……さっきの小町、じゃなかったコマチエルによれば、俺は一夜の恋人をプレゼントされるって話だったはず。……つまり、「けーちゃん」が俺の恋人?
いやいや、ありえん。第一そんな事を言ったら姉の川島が黙っていないだろう。……どうせ、俺は同世代の女子には全く相手にされないので、仕方なくけーちゃんが来てあげました、とか言うオチだろうが……。
でも、けーちゃんは俺の腐った目を見ても全く怖がらないしな。……もしかすると相性は良いのか? それに、彼女の姉は、ちょっと、いやかなり恐いけど相当な美人で、けーちゃんは幼いながらもその姉に実によく似ている。将来が楽しみだ。
つまりこれは……光源氏計画を発動して、ここから俺好みに育てていけ、ということでせうか……
などとアホな事を考えながらけーちゃんのほっぺを指でぷにぷにしていると、
「アンタ、何やってんの……」
いきなり背後から少々怒気を孕んだ声がする。
ヒエッ、いまのでようやく名前思い出した。けーちゃんの姉のカワサキサキ……皮裂きサキだ。なにそれ恐い。八幡、けーちゃんのほっぺをつついた罪で皮を裂かれちゃうのかしらん……。
「さーちゃん! はーちゃん、おきたよ!
けーちゃんが、俺の背後に元気よく手を振る。俺は振り向いて……、
自分の心臓がドクンと音をたてるのが聞こえた気がした。
彼女、川崎沙希は、目にも鮮やかなサンタカラーのチャイナ服を身につけていた。
光沢のある真っ赤な生地に、金と銀の細かい刺繍。袖のない肩口と、膝を隠すか隠さないかギリギリぐらいの丈の裾の部分には、真っ白な細いファーで縁取られている。スリットは腰骨が見えそうなほど深く、スラリと伸びた脚の、白い素肌が実に色っぽい。足首から先は、ドレスと同じ生地の独特の布の靴に包まれている。
普段ポニーテールにしている、彼女の蒼味がかったきれいな長い髪は左右二つのお団子にまとめられ、やはりドレスと同じ生地の、シニヨンキャップ?とか言う、あのドアノブカバーみたいなものの中にきれいに収められている。
ヤバイ。はっきり言って超似合う。チャイナ服のシンプルなシルエットが、川崎のスタイルの良さをより際立たせているし、鮮やかな赤が、彼女の肌の白さをより一層引き立てている。
「……まだぼうっとしてるみたいだね、大丈夫? ほら」
そう言って彼女は俺にコップに入った水を差し出した。おそらく俺のためにどこからか汲んできてくれたのだろう。……ぼうっとしてたのはお前に見惚れてたからだ、とか言ったら本当に皮を裂かれかねないので、
「お、おう。その……ありがとな」
それだけ言ってコップを受け取り、ありがたくいただく。よく冷えた水が喉に心地よく沁み込んでいく。
一心地ついたところで、
「なあ、さーちゃん。これってどういう状況なんだ?」
そう川崎に聞いてみた。
「さーちゃん言うな。でも……、 小町?だか天使だかが出てきて、夢と現実の間、とか言ってたけど」
そういえば俺もそんな事を言われたような気がする。
「でさ、気がついたら何故かあんたがうちのソファーで寝てるし、けーちゃんと一緒にこんな格好させられてるし……あっ」
そこまで言って、ようやく自分の服装に思い至ったらしく、自分の躰を抱きしめるようにして慌てて一歩下がる。顔が真っ赤だ。
「あぅ、いやその、これは……」
川崎がしどろもどろになっていると、けーちゃんが、
「あのね、はーちゃんのコイビトさがしてるっていうから、わたしなってもいいよっていったの。そしたら、さーちゃんが、あたしがコイビトなりたいってゆーから、おうえんしにきたの」
さらりと爆弾発言をする。
「なな、何言ってんのけーちゃん! そ、そうじゃなくてあの、けーちゃんはまだ小さいから……」
「なるほど、だから、さーちゃんがはーちゃんのコイビトになってくれるのかー」
「うん。はーちゃん、うれしい?」
にこぱっ、と笑って聞くから、にこぱっ、と笑って答える。
「おう、うれしいぞー。 さーちゃんは美人さんだからなー」
「な、あぅ、……う、うれしいとか、美人とか……」
「はーちゃんうれしいって。よかったねさーちゃん。じゃあ、わたしかえるから、さーちゃんがんばって!」
「え、か、帰っちゃうの?」
川崎が心細そうな声を出す。
「だって、コイビトはふたりっきりでするんでしょ」
……
けーちゃんは、俺に「またね~」と手を振りながら、ピンクの煙に包まれて消えてしまった。
「……あ……」
幼児に置いて行かれてショボンとしてる川崎……可愛すぎる。っていやいや。
けーちゃんがいなくなるとなんだか急に静かになった。
「あー、悪かったな。勝手に恋人とか言っちまって。……けーちゃんが喜ぶから、つい、な……」
「そんな事……。あたしも、その、嬉しかった、し。 ……もしあんたが良ければ、恋人ってのも悪くないかな、って」
「お、おう」
「……あんたはさ、いやじゃないの? その……」
「いや、アレだ。さっきけーちゃんに言ったの、あれ本音だぜ。……お前、美人だしスタイルいいし。……それにな、基本ぼっちでいて、弟とか妹をすごく大事にしてるところとかに、なんつーの、シンパシー? みたいなのも感じるしな」
「……うん」
「だからと言って、大志が小町に近付くのは許さんが」
「ぷ。そこは変わらないんだ」
素直な表情で笑う川崎。あまり見ることのないその笑顔がひどく魅力的で少しドキッとさせられる。
「なあ、川崎、」
「ん?」
「お前、普段から今みたいに笑ってたほうが良いんじゃないか? ……その、すごく可愛かったから、な」
「か、可愛いとか、そんな……」
いや、マジでかわいいから。
「あー、俺ら、今日はその、恋人、だよな」
「う、うん……」
「なら、良いよな」
そう言って彼女を引き寄せるように抱きしめる。
「ちょっ……」
川崎は慌ててはいるが抵抗は無い。優しく背中を撫でていると、おずおず、という感じで俺の背中に腕を回してきた。……目が合う。見つめ合ったのは数秒、彼女が目を閉じたのを合図に、俺達は唇をあわせた。
……一度離れると彼女の口から吐息がもれる。もう一度……。今度は舌で彼女の唇を割る。少しだけ抵抗があったが、川崎はすぐに力を抜いた……。
「嫌だったか?」
「ううん、ちょっとびっくりしただけ……。その、あんた、こういうの積極的じゃないと思ってたから、さ」
「いや、アレだ。お前のその格好、破壊力すげーよ。こっちはその、もっと色々したいの我慢してるくらいだぜ」
「い、色々……」
「……スマン。こんなこと言われても困るよな……悪い」
「いいよ。その……あんたがしたいなら、あたしは……」
川崎は真っ赤になってそう言う。
「マジ?」
「え、あ、ちょっと比企谷、目がこわいってば、あっ……」
目がこわいのはいつもの事だな。俺は構わずチャイナ服のスリットから手を滑り込ませ、彼女のしなやかな太腿に触れていく。
「な、いきなりっ、ちょ……やっ……」
ちょっぴり涙目になって、弱々しくしか抵抗できない川崎の可愛らしい姿を見てしまった俺は、もう止まることができなかった……。
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……
デブのサンタクロースが怪しげなポーズを決めていた。
そいつは俺に気が付くと、何らかのアクションを始める。
「剣・豪・将・軍……。
そう言って見得を切る。 ……どこかで見た動きだと思ったら、これ、アレだ。今やってる仮面ライダーの登場シーンのパクリだ。
なぜ分かるのかといえば、俺は日曜朝八時半のプリキュアが楽しみすぎて、その前の仮面ライダーから見てしまっているからだ。見始めたら、意外と奥の深い話にハマってしまって、さらにその前のヒーロー戦隊シリーズから見てるまである。ビバ、「スーパーヒーロータイム」冬休みは東京ドームシティで僕たちと握手!!
「ほむんほむん。前世においては、共に幾多の死線をくぐり抜けし我と八幡なれど、よもや現世にてこのような関係になろうとは……」
目の前の物体が何か俺に理解の出来ない言語を話し始めた。
それにしても、こいつサンタ似合うなー。もちろん悪い意味で。デブだし、おっさん顔だし、どう見ても高校生には見えねえ。もう、まるっきりサンタ。北欧とかにいる感じじゃなくて、商店街でプラカードもって立ってそうなほうね。
「……しか~し、ここでお主に恋人と望まれて応えぬようでは浮世の義理が立たぬ!!……」
いや、誰も望んでないから。
「ならば我も覚悟を決めなばなるまい……。
「……おい」
一人で突っ走ってんじゃねーよ。
「では、来るが良い、八幡!」 「でも……我、初めてだからぁ、優しくしてほしいの」
なぜそこで腰をくねらせる? なぜ俺に向かって両腕を開いて目を閉じる?
……こんなのは間違ってる。誰かの不幸を前提に世界が成り立っているというのなら、それはそんな世界のほうが間違っているのだ。だから、そんな運命を押し付けようとする者がいるのなら、比企谷八幡の目の前に、不幸を押し付けられようとしている誰かがいるのなら……俺は……、
「まずはその幻想をぶち殺す!!」
強く握った右手を、目の前の「不幸」に叩きつけた。
「そげぶっっ」
目の前の物体は、一回転して吹っ飛び、そのまま動きを止める。
「おお、さすがは夢の世界だ、この俺が、まさか
まあ、アレだ。……目の前に転がっているのが、ぶん殴られて気絶しているだけのただの材木座に見えないこともあるような無いような……。
細かいことを気にしてもしょうがないな。世界はいくつもの不幸に満ちているのだ。
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が下の方に沈んで、視界が開けてくる。
足元にはドライアイスのスモークが立ち込めている。スポットライトを浴びているのは、なんと真っ白なウエディングドレス姿の平塚静先生! おめでとう、夢の中とは言え、ついに結婚できたんですね……って、彼女と腕を組んで隣に立ってるの俺かよ……。いつの間にか、白いタキシードとか着せられてるし。
「あの……先生、」
「いや~うれしいなぁ、ついに結婚かぁ。比企谷、一緒にしあわせになろうなっ」
と、満面の笑みを浮かべている。
「いやあの、」
「やっぱり『八幡』て呼んだほうがいいか? それなら、私の事も、『
「先生!」
「んん? どうした」
「なんでいきなり結婚なんですか……。色々とすっ飛ばし過ぎでしょ」
「私くらいの歳になると……、いや、まだ私は若い。若いけれども! 両親は色々言ってくるし、同級生とか、もう小学生の子供居るやつまでいるし……」
彼女はどこか遠い目をして語る。
「そんな訳で、恋人っていうのは結婚前提で考えるもんなんだよ。ならもう、すぐに結婚でいいじゃないか」
「いやいや、そういうのはちゃんと、本当の彼氏作ってやってくださいよ。じゃ、俺はこれで」
その場を立ち去ろうとする俺の左腕が、ガチャリと音を立てて引き止められる。……ガチャリ?
見れば、俺の左手首には、鍵の掛かった金属製の腕輪がガッチリとはめられている。そこから、一メートル位の丈夫そうなクサリが伸びており、反対側はブーケで隠されていた平塚先生の左腕の腕輪につながっていた。
「……これは?」
「あー、それは、小町ポイントでもらった『婚約
ちっとも大丈夫じゃない……。つまり婚約破棄でもしようものなら、即チェーンデスマッチですね。それで、「抹殺のラストブリット」とか打ち込まれちゃうんですね。
というか、こんなモノまでもらえる小町ポイント恐るべし。
「私だってな、昔は彼氏の一人や二人……。でもさ、そっちから付き合ってくれって言ってきておいて、しばらく付き合ってこっちがその気になったら、『君は強い人だから、一人でも大丈夫』とか、あんまりじゃないかぁぁ」
ホント、この人、強いのは物理的に強いだけだからね? メンタルは大したこと無いからね? だから、誰か早くもらってあげてっ。そうしないと大変なことになっちゃうから(俺が)
「……な、なあ、比企谷。その、私と結婚するの、そんなに……イヤか?」
先生は涙目になってやけにしおらしく言う。
「それは、俺にも……」
理想とかありますし、なんて言いかけて、ふと考える。
あれ? 俺の理想って、専業主夫になって誰かに養ってもらうことだよな……。
ふむ、条件を整理しよう。
経済力 → 先生は安定・高収入の地方公務員である。
顔 → かなりのレベルの美人。
黒髪ロング → ぶっちゃけ好みだ。
スタイル → 文句なしのメリハリボディだ。
オタク趣味 → 非常に理解あり。
食の好み → 二人でラーメンの食べ歩きとかしたらスゲー楽しそう。
あれ? もしかして理想の相手?
「イヤ、じゃ無いです」
うつむいて、半べそになっている彼女にそう答えると、
「ふぇ」
びっくりしたように顔を上げた。「ふぇ」だって、かわいいな静ちゃんてば。
「その、俺なんかで良ければ……」
感極まったように、先生は真っすぐ俺に抱きついてきた。そのままキスされる……鼻腔をくすぐる独特の甘い香り……って、これワインの香りだ。さっきからおかしかったのはこのせいか。
「先生、飲んでたんですか……」
「だって、イベントのあと、学校で残ってた仕事を片付けて部屋に帰ったら、近所からは賑やかな声が聞こえてくるのに、うちだけ真っ暗でひっそりしててな。一人暮らしなんだから当たり前なんだけど……、でもっ、クリスマスイブなのにって思ったら、飲まなきゃやってられなくってさぁ……」
彼女はぽろぽろ涙をこぼしながらそんな事を言う。あー、確かにそれはせつないわ。
俺は、彼女を抱きしめながら、
「今夜は俺が一緒にいますから、そんなに泣かないでくださいよ……」
「うぐっ、ひ、ひきがやぁ~……」
先生はわんわんと子供みたいに泣き出した。
俺は優しく彼女の頭をなで続ける……。やっぱり、かわいいよ、先生……。
しかし……ウエディングドレスとタキシード着て、俺たち何やってんのかね……。それに、この腕輪どうすんの……。
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこは、
生徒会室の前の廊下だった。
ここに入れということだろうか? とりあえず目の前の扉をノックしてみる。
「はーい、空いてますから入ってきてくださ~い」
……聞き覚えのある生徒会長様の声がする。悪い予感しかしない。このまま帰ってやろうかとも思ったが、もうノックしちまったしな。帰るにしても断りを入れてからの方がいいだろう。そう思い直して扉を開ける。
一歩足を踏み入れて室内を覗き込むと、いつもの会長の席に一色がいない。雑誌が広げて置いてあり、彼女愛用のマグカップから湯気が立っていることから見て、奥の書棚の方にでも居るんだろうと、更に数歩進んだ所で、開けたままにしてあった扉がいきなりピシャリと閉められる。驚いて振り向くと、サンタ服姿の一色が、ガチャリと生徒会室の内鍵のツマミを回すところだった。彼女はくるりと振り向くと、
「せんぱ~い、これでもう逃げられませんよ~」
一色は通せんぼするようなポーズをとり、悪い笑顔でそう言った。俺は諦めていつも座っている椅子に深く腰掛ける。そもそもなんで生徒会室に、「俺がいつも座ってる椅子」が有るんですかね。やだ、俺ってばマジ未来の社畜?
「むぅ、なんだか反応薄くないですか~?」
「べつに、ここまで来て逃げる気もねえよ。で、今日は何やらされるんだ?」
「そっちじゃなくてー、わたしのこの服のことですよ~」
「う、それは……」
くっ、なるべく見ないようにしてたのに……。
一色が今着ているサンタ服は、布面積が少なめのサンタ服だ。胸元の開いたノースリーブのワンピースで、裾は彼女の太腿を半分ほどしか隠していない。健康的な脚はスラリと伸び、白いファーの付いた赤いブーツを履いている。
頭にはちょこんと可愛らしくサンタ帽。細い首にはひいらぎと雪をモチーフにした、チョーカー。緑、赤、白のクリスマス・カラーが鮮やかだ。手首には白いファーを幅の広い赤の生地で巻いたようなリストバンド?のようなものを付けており、それが腕の細さと白さを際立たせている。
何より、サンタ服の生地が非常に柔らかそうで、一色の肌にぴったりと張り付き、その、女の子らしい魅力的な躰のラインを隠すこと無く見せている……魅せている。
ぶっちゃけ非常にエロい。俺が目のやり場に困っていると、
「あれぇ~、せんぱい、なんか顔が赤いですよー。もしかして、私に見惚れちゃいましたぁ?」
一色はそう言いながら手を後ろで軽く組み、体を少し斜めに傾け、小首をちょっとだけ傾げる。すると、彼女のサンタ帽のポンポンがぴょこんと揺れる。
あざとい。あざとすぎる。が、分かっていても可愛いものは可愛い。相手が一色じゃなかったら、思わず抱きしめちゃって即通報されるまである。
「……まあ、見惚れなかった……事も無い、な。……その、似合ってるし」
「え、せ、先輩が素直に褒めるなんて、どうしちゃったんですか、熱でもあるんですか?」
そう言うと一色は目の前にやって来て、すっと前髪をかき上げると、いきなりおでこをくっつけてきた。
「な、おま、」
「先輩、動かないでくださ~い」
いや、近い、顔近いから。それに前かがみでそんなことされると、胸の辺りとか色々見えちゃいそうでドキドキしちゃうから。
「う~ん、熱はなさそうですね。顔はちょっと赤いですけど……」
いや、俺の顔が赤いのは君のせいだからね? いろはすさんがえろはすさんになってるせいだからね?
それに……この体勢で一色がなにか言う度に俺の頬に彼女の吐息がかかる。目の前にある薄いピンク色の唇が妙に艶めかしい。つい、視線がそっちに行ってしまう。
不意に、すっとおでこが離れ、俺の唇に何か柔らかいものが押し付けられる。目の前には目を閉じた一色の顔……。え、これ、キスしてんの? 一色と?
脳がパニックになって固まること数秒、一色はゆっくりと唇を離す。
「……せん……ぱい。キス、しちゃいましたね」
潤んだ瞳で俺を見ながらそんな事を言う。
「お、お前いきなり何やってんの?」
俺はようやく立ち上がって一歩下がりながら言う。
「……お前呼ばわりとか、一回キスされたくらいでもう彼氏づらですかそれはまだ早いんで先輩の方から後何回かしてもらってからどうせ呼ぶならお前じゃなくていろはって呼び捨てにしてもらっていいですかごめんなさい」
いつものように、一色が両手を突き出しながら言う。
「……キスしてもやっぱり振られちゃうのかよ……」
「先輩」
お約束のお断り芸の途中で、珍しく一色が真剣な声を出す。
「わたし、先輩のこと、振ってませんよ? 今日ぐらい、ちゃんと聞いて下さい……」
そう言うと一色は正面から俺に抱きついてきた。
「わたし、今、せんぱいの恋人、なんですよね……? だから……」
俺を見上げるようにそう言う。
「いや、でもお前は葉山の事が……
「違います! せんぱい……先輩だって、ホントは気付いてるんでしょう。わたしの気持ちも、……結衣先輩と雪ノ下先輩の気持ちだって……」
「!!……それは……」
否定しようと何かを言いかけて、でも言葉にはならず、間抜けに口を開くだけ。
そう、俺はきっと気付いている。けれど、その先に進むことを怖れているだけなのだ。知ることで、認めることで、今の居心地のいい関係を失いたくなかったのだ。
たとえそれが俺が忌み嫌ってきた欺瞞にほかならないとわかっていても、それでも。
「……わかってるんです。わたしじゃ、あの二人には敵わないって事ぐらい……。だって見てればわかります。先輩が、三人の関係をどれだけ大事に、特別に思ってるかくらい。でも、でも今だけ、夢の中ぐらいは、わたしだけを見てくれたっていいじゃないですか……。お願い、です……せんぱい」
俺をまっすぐに見つめたまま、一色は感極まったようにつうっと一筋の涙を流した。
俺は一色の背に腕を回し、優しく抱きしめる。ふわりと、一色の髪から甘い香りが広がる。
「あ……。せん……ぱい……」
「勝手に決めてんじゃねーっつうの。あの二人には敵わない? そんなことはねぇよ。あいつらは確かに俺にとって特別な存在だよ。けどな、おまえは、……いろはは、俺の中ではもう、あいつらに負けないぐらい大事な存在になってんだよ」
そう言って一色の唇を奪う。今度は俺の方から。唇を割り、舌を絡める。一色は一瞬だけギュッと躰を固くしたが、すぐに、全てを委ねるように力を抜いた。
抱きしめる腕に力を込める……。それにしても女の子ってこんなに柔らかくていい香りがするんだな……てゆーか柔らかさが伝わりすぎじゃないか? まるで……
「あん、ふふ。せんぱい、もしかして気付いちゃいました? わたし、その、……下着付けてないん……ですよ」
いろはさんマジですかっ! 思わずスカートの裾とか、胸元とかに目が行ってしまいましたっ。
その様子を見て、一色はにへら~っと笑う。
「せんぱ~い、エッチな目になってますよ~。見てないフリしながらチラチラ見るのってちょっとキモいですよ~」
クソっ、嘘なのか? しかし、抱きしめた躰は本当に何も着けてないように感じたけど……。
「でも、わたしのこと、大事って言ってくれて、すごく、すごく嬉しいです……」
そう言って俺を見上げた彼女と、今度は触れるだけのキス。
「だから、ね、せんぱい……。わたしが言ったこと、ホントかどうか、自分で確かめてみても……いいですよ?」
一色は顔を真っ赤にしながら、それでもやはりあざとく微笑った。
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこは……
夕暮れ時。見覚えのある教室。今とは違う、けれど小町で見慣れた、中学の制服……。
「あれぇ、もしかして、比企谷?」
いや、さっきまで合同の打上げ一緒に出てただろ、というか……、
いつの間にか、俺も中学の時の制服を着ている……。つまり、自分では分からないが、俺も彼女同様、中学三年生の時の姿形になっている、ということなのだろう。
「何で? 随分縮んじゃって……。超ウケるんだけど」
「いや、お前も縮んでるから」
「うそ、マジ?」
そう言って彼女はポケットから折りたたみの小さな手鏡を取り出して、自らを映す……。
「すごいっ、超若い! まじウケるっ」
相変わらずポジティブっつうか、動揺とかしないのかね? こいつは。
「なんで平気なんだよ、お前は……」
「あはは。いやもうこれ、笑うしかないじゃん。それに、あんたの妹、『小町ちゃん』だっけ? が、なんか天使になってんの。で、夢と現実の間の世界で恋人が現れる、とか言ってたんだけど……、まさか比企谷がちっちゃくなって出てくるとか、もう、超ウケるよね」
「いや、ウケねーから」
「でもさ、比企谷、恋人って言ってんのに私の所に来ちゃったりして、
「別に、あいつらとはなんにもねーよ。ただの部活仲間だ。……それに、俺はくじ引きでここに来たんだしな」
「はぁ? くじ引き……ってマジ?」
「……マジなんだよこれが……」
俺は、ここに来た経緯を折本に話して聞かせた。
**********
「それで……あの時の教室、か。ふうん。 ……ねぇ、比企谷」
「おう」
「比企谷は知らないかもだけど、
え、なにそれ今初めて聞いた。
「『お兄ちゃんを振るのはしょうがないけど、みんなで笑いものにしなくたっていいでしょう』ってさ、泣きながら言われて……」
折本は、視線をそらし、窓の方を見ながら続ける。
「その時、小町ちゃんにも言ったんだけど、あたし、あのこと誰にも言ってなかったんだよね。……だから、あの時、たぶん誰かが立ち聞きしてたんだ、と、思う」
「そうか……」
それを聞けただけども俺の心は随分と軽くなる。
「うん。けど、あのあとあんな騒ぎになっても、あたしは何も思わなかった。みんなが勝手に騒いでるだけで、あたしが何かしたわけじゃない、って。正直、その頃はあんまり比企谷と話したことなかったから、つまんないやつ、としか思ってなかったし」
そこまで言うと、折本は振り向き、真っすぐに俺の方を見る。
「でもさ、今ならわかるよ。比企谷が、決してつまんないやつなんかじゃ無いって。つまんないって思うのは、見てる側のせいでもあるんだって。……今んなってやっと分かるとか、あたし、ウケないよね……」
「あー、まあアレだ。みんな昔の事だしな」
「昔……。ね、せっかく昔に戻ったみたいになってるんだから、あの時の『告白』、やり直してみない?」
「何でだよ、やだよ」
黒歴史を繰り返させようとか。折本かおり、恐ろしい子っ!
……でも、折本の表情は真剣だ。
「……ね、お願い」
俺は頭をガシガシ掻いて、
「あぁもう、やりゃあいいんだろ……」
無理に思い出そうとしなくても、あの時の事は鮮明に思い出せる。黒歴史とはいえ、「好きな女の子に、勇気を振り絞って告白した思い出」なのだから。
クラスメイトみんなが帰った後の、夕暮れ時の教室。あの時、俺は……、
「折本……」
窓の方を眺めていた彼女がくるりと振り向く。
「あ、比企谷。頼みたいことって、何?」
そう、俺は、「ちょっと頼みがあるから」と言って彼女に残ってもらったんだ。
「頼みたいっていうか、……おれ、折本がす、好きなんだ。だから、もしよかったら俺と付き合って下さい」
覚えている。忘れたいと、トラウマだと言いながらも、心に焼き付いている。あの時確か折本は、
『え? まじで……。あ、その、ごめん。考えたこともなかった。……その、あんまり話したこと無かったし……ほんと、ゴメン』
それは、断るための理由付けという感じでは無く、本気で戸惑っている様子で……、結局のところ、俺が大事に思っていた彼女とのやりとりなど、折本にとっては何の意味も持たないものだった、ということだったのだろう。
……とまあ、そんな感じで俺は見事に玉砕したわけだが……。
「……へへっ。ホント、自分の見方一つで、こんなに気持ちって変わるんだね……、ウケるわ……」
そんな声に顔を上げると、彼女は、今の折本かおりに戻っていた。制服も海浜総合高校の制服だ。視線を下げてみると、俺もいつもの総武高の制服を着ている。視点もさっきから比べると随分と高く感じる。いつの間にか普段の俺達に戻った、ということか。
「……何がしたかったんだよ……」
その質問に彼女は一瞬キョトンとした後、なんだかスッキリしたような顔で、
「ね、比企谷。あたしさ、今、比企谷に告白されて、素直に嬉しいって思った。付き合いたい、とか、まだそういうんじゃないけど、でも……うん、嬉しい。 比企谷に好きって言われて嬉しいとか、なんかウケるよね」
そう言って屈託のない笑顔を見せる。魅力的な、周りのみんなを元気にさせる表情。あの頃も、折本のこの笑顔に惚れてたんだよな……。
そんな事を考えていると、
「ねえ、比企谷。……キスしよっか」
「な、な……」
突然何を言い出すのかねこの子は。フリーダム過ぎんだろ。ストライクフリーダムかお前は。
「ぷ。何キョドってんの、ウケる」
「いや、だからウケねーから。何でそういう話になるんだよ……」
「だってここって夢の中?みたいなもんでしょ。あたしは比企谷に告白されて、嬉しかった。だから、いま、比企谷とキスしたいって思ったの」
いや、告白はお前が無理やり言わせたんだろ……そう言いかけて、折本の顔が朱に染まっているのに気付く。
「あはは、……あたしが比企谷にキンチョーするとか、超ウケる……」
そう言うと彼女は、その艶のある唇をきゅっと閉じ、俺を見上げるようにして目を閉じた。
俺は吸い寄せられるように彼女に近づくと、折本の肩に手を置き、そっと触れるだけのキスをする。
……唇から伝わってくる幸福感が、あの、彼女に恋していた中学時代の一時期が、決して苦いだけの思い出では無かったのだと気付かせる。黒歴史などと思いこんでいたけれど、折本の一言一言に一喜一憂していた日々は、それはそれで幸せな思い出だったのだと。
ゆっくりと離れる……。目の前には、ぼうっと遠くを見るかのように潤んだ彼女の瞳……。
「あ……、ひひっ、やばい。なんかキスしたら、比企谷のこと前より好きになったかもしんない。ウケる」
わけが分からな……くも……無いな。なぜなら俺もそんな風に感じているから。明らかに、キスする前より折本かおりを愛しいと感じている。このままだともう一回告白してまた振られちゃうまである。振られちゃうのかよ。
「じゃあ、も、も一回、してみよっか?」
折本は一層顔を赤くしてそんなとんでもない事を言う。
「お、おう」
今度は折本から俺に抱きつき、俺も彼女の背中に腕をまわす。……一瞬だけ見つめ合って、二度目のキス。どちらからともなく、二人の舌先を触れ合わせる。くすぐったいが、それが何故か心地良い……。
『キスから始まる恋もある』
は? なにそれ。プークスクス、そんなん信じてるやつ居るかよ、馬っ鹿じゃねーの。
……そんなふうに考えていた時期が俺にもありました。
この気持ち。今の折本に対するものなのか、中学の時の感情を今の彼女にダブらせて見ているのか、そんなことさえ自分でもわからない。
……けれど、たった二回のキスだけで、俺はもう、中学のあの時よりも折本かおりを好きになってしまっている。八幡てばなんてチョロイン……。
……本当、俺、あまりに単純すぎてウケるわ……。
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……
「あ、比企谷くん。遅かったわね」
「お? おう」
雪ノ下雪乃が待っていた。
彼女は制服にいつものコートという、通学時の格好で、スマホを片手にベンチに座っている。
霧が完全に晴れると、そこは、わが総武高の最寄り駅である稲△海岸の駅前。厳密に言えばこのベンチは、駅の目の前にある商業施設、マ○ンピアの敷地内にあるわけだが……。
雪ノ下は俺を認めるとスマホをバッグにしまって立ち上がり、コートの腰のあたりをちょっと引っ張ってしわをのばす。そのまま流れうような動きで俺の隣に並び、ごく自然に腕を絡めてきた。
「じゃあ行こっか」
彼女はそう言ってニッコリ笑うと、駅に背を向けて歩き出した。当然俺は引っ張られてついて行くわけだが……。
え、行くってどこに? そもそもなんで雪ノ下はこんな当たり前のように俺と腕組んでるの? そんなことされたら、柔らかくっていい匂いがして、勘違いしちゃいそうだからやめてね。
「どうしたの比企谷くん。さっきからなんだか変よ?」
「いや変って……お前が腕組んだりするから……」
そう言うと、雪ノ下は不思議そうな顔で、
「え、だっていつもしてるでしょう? 何で今さら……、もしかして照れてるの?」
そう言いながら彼女はいっそう力を込めてぎゅっと俺の腕を抱くようにして肩を寄せてくる。
「いや、いつもとか……」
そう言いながら彼女を見ると、雪ノ下も意志の強そうな瞳で見つめ返してくる。この目はまるで……。
「……あの、何してんですか雪ノ下さん……」
「…………へぇ。 ……うん、私、雪ノ下雪乃さんだよっ」
彼女は一瞬だけ、ぞくっとさせる顔をし、すぐにその一瞬が嘘だったかのように人懐っこそうな表情で微笑う。
「……何してんですか陽乃さん」
「ふふ。ひゃっはろーん。 何でわかったの? 小町ポイントで見た目は完全に同じにしてもらったはずなんだけど」
小町ポイントすげえな……、じゃなくて、
「いや、陽乃さん、全然隠そうとして無かったでしょ。言葉遣いとか、仕草とか。……それに……」
「それに?」
「あいつは、そういう
「……ふうん、『あいつ』とか言っちゃって、比企谷くんは、雪乃ちゃんのこと何でもわかってるんだねぇー。お姉さん、ちょっと羨ましいなぁ」
「何にもわかっちゃいませんよ。 ……わかったつもりになって、この前失敗したばっかりです」
「あはは。雪乃ちゃんて、なかなか本音を言わないからね~ ……でも、キミはあの子をわかりたいと思ってくれている」
彼女は俺に真っすぐ視線を向けてそんなことを言う。俺の視点では、「雪ノ下雪乃が『雪乃ちゃん』について語る、というなかなかシュールな眺めなわけだが。
「……まあ、そうですね。……別に雪ノ下のことだけってわけでもないですけど」
「ありゃ、素直。比企谷くんってもっと捻くれてると思ったけど?」
「あー。まあ、今回ちょっと色々とあったんですよ」
俺は頭をがしがし掻きながらそう答える。
「ふうん……やっぱりちょっと羨ましいかも」
なんだか寂しそうに彼女は言った。
「……陽乃さん……」
「で・も・さ、今日は私が君の恋人だからねー。 ふふ、比企谷くんで何してあそぼっかなー」
怖っ。……はるのん、日本語間違えてるよっ。比企谷くん『と』でしょ? 「比企谷くん『で』遊ぶとか、本気っぽ過ぎてハチマンワラエナイ。
そんな事を思っていると、急に左腕の二の腕辺りが柔らかいものに包まれた。……見ると、雪ノ下が雪ノ下さんに……ってややこしいな。つまり、雪ノ下雪乃(偽)が、本来の雪ノ下陽乃の姿へともどったということだろう。
「ひゃ……。ふふ、時間切れかぁ。もっと驚かせたかったんだけどなぁー」
いやいや、十分驚きましたよ、姉妹における胸囲の格差社会とか。腕に感じるこの破壊力の差は……。はるのん、あんたすげえよ。
それにしても、総武の制服は着たままな上に、普段より化粧が薄いせいだろうか、雪ノ下姉妹は本当によく似ていると改めて思う。……その、胸部装甲以外はね。俺のライフは只今その装甲にガリガリと削られ中であります。一番艦八幡、中破っ。燃料庫は? 燃料は大丈夫!? 燃料庫ってなんだよ。……いやほんと、これ以上削られたら、爆発しちゃうからね(何が?)
「……どこ見てるのかな~、比企谷くんは。 あれぇ、もしかして、雪乃ちゃんと比べちゃったりしたぁ?」
「く、比べるって、な、何をですか」
「うーん、髪の長さ、とかぁ? ふふん」
そう言いながら陽乃さんはさらに胸を押し付けるようにして腕に絡みついてくる。……この人、絶対わざとやってるだろ……。
気が付くと、いつの間にか俺たち二人は総武高の前に立っていた。
いや、別にワープしたとか縮地法を使ったとかそういうわけじゃなく、こう、隣を歩く雪ノ下さんにいじり倒されて、周りを見てる余裕が無かっただけですが……。
「こんなとこ来てどうするつもりですか」
そう問うと、
「まあまあ。行ってみればわかるよ」
彼女は相変わらず俺の腕をガッチリとホールドしたまま校門をくぐる。
「行くって……」
「い・い・と・こ・ろ」
……で、連れてこられたのが……
「へぇー、ここが雪乃ちゃんたちの部屋か~」
そういえば陽乃さんは来たこと無かったっけ、奉仕部の部室。いや、ここは別に誰かの部屋ってわけじゃないけどね。……あーでも、雪ノ下が持ち込んだ紅茶のセットとか、ゆるゆり用の長いひざ掛けとか置いてあるな。じゃあ雪ノ下たちの部屋ってことでいいか。
俺の物は別に……そこまで考えたところで、パンさん柄の湯呑みに目が行く。今日、あるいは昨日か? 雪ノ下と由比ヶ浜からプレゼントされたばかりの物だ。
……そうだな。ここはもう、俺たちの部屋だ。
妙な感慨にふけっていると、
「ねぇ、比企谷くん、雪乃ちゃんの席はどこ?」
「そこの、一番窓際の席ですよ。で、隣が由比ヶ浜」
「ふうん、じゃあ……ぷっ」
そこまで言った陽乃さんが、長机の反対側にぽつねんと置いてある俺の椅子を見て、こらえきれない、というように笑い出す。
「あはは。おっかしー。……ね、何でこんなに離れて座ってんの?」
「何でって……まあ、何となく、としか」
陽乃さんのいたずらっぽい目で見られると、何やら俺たちの、言葉で表現し難い微妙な関係性を見透かされているようで妙に気恥ずかしい。
「ふっふっふー。じゃあさ、たまにはこっちに座ってごらんよ」
そう言って彼女は、俺の腕をしっかり掴んだまま窓側の奉仕部女子二人の席の方へとぐいぐい引っ張っていく。
「いや、別にいいですから……」
「大丈夫、ちゃーんとお姉さんも隣に座ってあげるからぁ」
いやいや、ちゃんととか大丈夫とか、意味がわかりませんよ。
……とは言っても、陽乃さんを突き飛ばしてまで抵抗するわけにもいかず、結局俺は雪ノ下がいつも座っている席に座らされてしまった。
いつも俺が座っているものと、椅子自体は同じものであるはずなのに、なんだか背中と尻がムズムズする。
陽乃さんは、俺がそわそわと落ち着かない様子なのを見て、たいへんご満悦な表情で隣の由比ヶ浜の椅子に腰をかける。
「で、どう? 雪乃ちゃんの椅子に座った感想は」
彼女は、スカートからスラリと伸びた脚をちょっと曲げ、素足の膝を俺の太腿に擦り付けるようにして聞いてくる。……自分でも鼓動が早くなってきているのがわかる。息まで荒くなりそうだがそこはなんとか我慢。
「どうって……。ただ、変な感じがするってだけですよ……」
内心の動揺を隠してそう答える。
「えぇ~、それだけぇ。そんなんじゃお姉さんつまんないなー……。あ、そうだ、」
陽乃さんは何かを思い付いたようで、立ち上がると俺の後ろへと回る。
「そこで、両手を真横に広げてみて」
「こうですか?」
なんだか分からないが、俺は言われるまま、両手を子供が飛行機のまねをする時のように左右に伸ばした。
「そうそう。じゃ、ちょっとだけ力抜いて。それでね、ここを、こう……」
彼女は俺の両肘の辺りを持つと、ゆっくりと引き下げ、ちょうど背中の下、腰の辺りで左右の手首が重なるような形にする。
不意に、きゅっきゅっと音がして、両の手首に軽く突っ張るような違和感。手を前に持ってこようとして……動かない? 無理に動かそうとすると手首に痛みが走る。
「ちょ、陽乃さん、何ですかこれは」
「ん? 結束バンドで君の手首を縛っただけだけど?」
「だけって……。だいたいさっきの飛行機のポーズみたいなのは何だったんです?」
「そんなの決まってるじゃない。最初から手を後ろ手に組んでくれ、なんて言ったら比企谷くんは警戒するでしょう」
……信じられねぇ、この人確信犯かよ……
「……雪ノ下さん、とにかくすぐに放して下さい」
「さっきまでは、『陽乃さん』って呼んでくれてたのになぁ~」
「そういう場合じゃ……って、ちょ……
陽乃さんはいきなり、俺の太腿の上をまたぐように立つと、そのままその豊かな胸を俺の顔に押し付けるように抱きついてくる。
近い柔らかい良い匂い大きい柔らかい良い匂いあと大きい……。
「逃さないよ。……比企谷くん
げ、やっぱりあれマジだったのん。
総武高の制服を身に着けた陽乃さんのどこか妖しい魅力。かすかな香水の香りと、彼女自身の女性らしいなんともいえないいい匂いが渾然一体となって俺の鼻腔をくすぐる。
あまりの状況に、俺の頭は理解が追いつかない……少し息苦しくなってきたので、少しだけ身をよじり、上を見上げて深呼吸を……と、
上から被せるようにして唇を奪われた。……反射的に逃げようとしたものの、彼女はしっかりと俺の頭を抱えていて逃げられない。
そのまま、陽乃さんの舌が入ってきて、俺の口腔内を刺激していく。……甘い香り。彼女の熱っぽい息遣い……。
「ぷは、陽乃さんっ、ちょっとま……んんむっ」
つうっと唾液が糸を引いて、一瞬唇が離れたものの、ほとんど喋る暇も与えずに彼女はもう一度俺の口を塞ぐ。
っう!! 唾液と一緒に何かを流し込まれた。……吐き出すことも出来ず、そのままこくこくと飲んでしまう……すると、どういうわけかどんどん思考を奪われて、意識に霞がかかったようになっていく……。少し鼻につく独特の甘い香り……これ、紅茶に入れるブランデーか? 少しクラクラしていると、さらにもう一度、さっきより多めのブランデーを口移しで飲まされてしまった……。
……やけに現実感が希薄だ……。そういえば夢と現実の間とか言ってたっけか……。いつもの奉仕部の部室、いつも雪ノ下の座っている椅子に後ろ手に縛られ、陽乃さんに嬲られているという異常な状況。俺の躰は気怠く火照り、抵抗もせずに彼女にされるがままになっている。
カチャカチャとベルトを外される音……白く細い指が
衣擦れの音……。彼女が再び俺に
総武高の制服を大きくはだけた陽乃さんが、興奮のためか紅く上気した表情で、ただし瞳の奥だけは冷静な色のままで俺を見つめ、ゆっくりと躰を揺らしている。
視界の端に映るのは、寄り添うように置かれた、雪ノ下のティーカップ、由比ヶ浜のマグカップ、俺の湯呑み……。
彼女たちを裏切っているような……そんな
俺は明日、
陽乃さんの嬌声が大きくなる……思考は中断され、俺は背徳の快感に飲み込まれていく。……完全に意識が途切れる直前、陽乃さんの目に悲しそうな涙が光っているのを見た気がした……。
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……
「はぁ! ちょっと、なんであんたがここに来んのよ!」
サンタ服を可愛らしく着こなし、うっすらメイクもバッチリな相模南が待っていた。
……いやいや、どう見ても俺のことなんか待ってないだろこれは。むしろちょっと涙目になって怒ってらっしゃる。
「……あの天使……、あなたにぴったりの恋人が現れますよとか言って……。うち、せっかく覚悟決めて来たのに、よりによって何でこのタイミングで比企谷なのよ……」
どうやらちょっとは期待していたらしい相模は、現れたのが俺だったことが相当ショックだったらしく、俯いて小声でブツブツ言ってる。あまりの怒りに顔が赤くなってるし。
「いや……なんか、悪い。俺も状況がよく分かって無くてな……」
霧が晴れ、周りを見渡せば、ここは例の特別棟の屋上。不思議と全く寒くないのはここが、「夢と現実の間」だからか? まあ、俺と相模にとってはなかなか因縁深い場所ではある。二人が集うにはふさわしい場所と言えるかもしれないが……。
しかし……、いくらくじ引きとは言え、俺と相模が恋人とか、ありえんだろ……。
「まあ、なんだ。とりあえず帰るわ」
「え? ちょっと……」
ここは戦略的撤退の一手だ。くるりと振り向いて校舎に入るドアのレバーを引く……が、開かない。それどころかびくともしない。たしかこのドアの鍵は壊れていて、ちょっと力を入れれば簡単に開いたはずだが……。
「開かないわよ、そこ」
ちょっと落ち着いたらしい相模がそう声をかけてくる。
「うち、気がついたらいきなりここにいたんだよね。まわり、ぐるっとひと回りしてみたんだけど誰もいないから、下に降りようとしたんよ。でも……」
「マジでか……」
つまりこの屋上に、俺と相模の二人だけで閉じ込められている……と。
相模は、「はぁ」とひとつ溜息をつくと、
「比企谷、とりあえず座んない?」
そう言ってすぐ横にある、用具入れと思しき蓋の付いた箱に視線を向けた。
「…………」
「…………」
箱の上に相模と並んで座り、……俺はめちゃくちゃ緊張していた。
いや、だってね、箱は大した大きさではなく、他に座れるような所もない。必然的に相模との距離も近く、くっつきこそしないものの、二人の間はわずかに数センチ。空気を通して体温さえ感じられるほどだ。
……ましてその、普段は意識しないが、相模南はこれでかなりの美少女なのだ。三浦や由比ヶ浜の居るうちのクラスに於いては、いわゆるトップカーストでこそ無いものの、他のクラスならほぼ間違いなく最上位にいただろうと思わせるだけの容姿を持っている。
その彼女が、ほんのりと薄く化粧をして、可愛らしいサンタ服を身に着けている。相模が着ているのは、半袖のワンピース型で、袖口と裾が雪のような真っ白のファーで縁取られているどちらかと言えばシンプルなデザインの物だ。
短めのスカート部分の裾からスラリと伸びた素足は白く、柔らかそうなサンタ服の生地は滑らかに体型をなぞり、そのスタイルの良さを隠さない……てゆうか、相模って、その、けっこうあるんだな。さすがに由比ヶ浜ほどではないが、なかなかに立派なものをお持ちで……。
「ね、ねぇ、比企谷」
「ひゃい」
「ぷ……なに変な声出してんのよ。……やっぱあんたキモ」
「うっせ。だったら話しかけてくんなよ」
まあアレだ、ホントにキモいことを考えてたのは確かだが。
「う、それは……ごめん……」
そう言って彼女はしゅんとして黙ってしまう。……あの相模が俺に謝った、だと? 天変地異の前触れか?
驚いて彼女の顔を見れば、俯いて目尻に小さく涙まで溜めている。
「で、何だよ」
「え」
「何か言いたいことあったんだろ」
「あ、うん。あのさ、えと、…………うちら、これからどうしようかなって」
相模はしばらく言いよどみ、それから取ってつけたような質問をする。
「どうっつってもなぁ。まあ、これが夢の世界だってんなら、大人しく夢から覚めんのを待つしかねーんじゃねーの。……知らんけど」
「そっか、やっぱそうだよね……」
そう言って彼女はますます小さく縮こまってしまう。溜めていた涙が一筋つうっと頬を伝うのが見えた。その涙は俺に
「その、悪かったな。ここに来たのが泣くほど嫌な相手で……」
いくら相模とは言え、泣くほど嫌がられるというのは少なからずショックではある。しかし……俺は彼女にそうされるだけのことをした自覚がある。……文化祭の時、お前は俺と同じ最底辺の人間だと罵倒し、相模なりに大事にしていたであろうプライドをズタズタにしたのだ。あそこまで言われて嫌いにならないほうがおかしい。
それに体育祭の時だって……
「ひ、比企谷っ、違う。ちがう……から」
そう言いながら、相模は両手で俺の手と上着の袖口をきゅっと掴み、潤んだ目のまま俺を見上げてくる。瞳には真摯に何かを訴えたいという意思が見て取れ、思わず目を奪われた……。相模南と正面から見つめ合うなんておそらく初めてだろう。まして、今は十数センチしか離れていない。……やっぱこいつ、きれいな顔してるよな。泣きそうな顔でそんな風に見つめられたらドキドキしちゃうじゃん。触れている手は柔らかですべすべしてるし、コロンかなんかのいい匂いはしてくるし……もう、相手が相模で無かったら一発で惚れちゃいそう。
「……相模?」
「あ、そのね、うち……」
「待った。……その、相模、手……」
彼女は何かを言いよどみながら、掴んだままの俺の手をむにむにとするので、俺のほうが落ち着かない。
「え? あっ……」
自分が何をしていたかようやく気付いた彼女は慌てて俺から手を放し、真っ赤になってアワアワと両手を振る。何だこいつ可愛いな。思わず「ふっ」と笑い声が漏れる。
……相模に睨まれた。
だが、今ので少し落ち着いたらしく、相模はコホンと一つ咳払いをすると、
「あのさ、比企谷。……うち、あんたが来たこと、嫌だなんて思ってないから」
「いや、でもさっき……」
「あれは! あれは、ね、その、タイミングが悪いっていうかさ……」
「……」
「うち、最近全然いいところ無くて、だから、夢の中でも恋人が出来るって言うんなら、何かが変わるかもって。それに、あの天使、この夢は現実にも繋がってますよとか言うから……」
それは……さすがに小町、じゃなかったコマチエルが悪いな……期待させておいて現れたのが俺じゃな……。
「おう、その、すまんかったな、俺で」
「だから違うってば。……うち、さ、変れたら、勇気が持てるようになったら、ちゃんと……ちゃんと言わなきゃってずっと思ってたの。でも、うち……怖くて、みんなうちから離れて行っちゃうんじゃないかって思ったらいつまで経っても勇気が出なくて……だから、誰か一人でも味方が欲しくて……」
それで恋人、か。
「でも、せっかくあんたが来てくれたんだから、うちも勇気出さなきゃ、だよね……」
相模はそう言って俺を真っ直ぐ見ると今度は自分の意思でがっしりと俺の手を掴んできた。照れはなく、表情は真剣。深呼吸を一つして、彼女は口を開く。
「比企谷、今まで、うち、ヘタレでゴメン。文化祭の時、ホントに悪いのはうちだったのに……、あの文化祭を成功させたのは比企谷だったのにっ……」
相模の目からまた涙が溢れ出す。
「うちは、自分が可愛くて、周りが怖くてあんたを悪者にした。自分が被害者みたいな顔してた……。体育祭の後になって、ようやく気がついたんだ……私がこうして平気な顔でいられたのは比企谷のおかげだって。みんなから嫌われるのは、本当はうちのはずだったって。……でも……うち、どうしても……どうしても言えなくてっ……」
「やめろ!」
つい、声を荒げてしまった。言われた相模の方は一瞬体をびくんとさせ、そのまま固まってしまっている。
「比企谷……?」
「あれは俺がやりたくてやっただけだ。……別にお前のためにやったわけじゃない」
そう。俺がやりたくてやっただけ。今思えば「間違ったやり方」だったが最適解だった。自分が傷つくだろう事も計算に入れていた。それでも全て覚悟の上でその方法を選んだのは……。
「……うん。わかってるってば。……雪ノ下さんのため……でしょ」
「! 相模、お前……」
「さすがにうちもそこまで馬鹿じゃ無いし。理由もなく『比企谷がうちを助けてくれた』なんて思わないよ……」
そう言って彼女は少しだけ笑う。
「文化祭……雪ノ下さん、すごいがんばってた。成功したのは雪ノ下さんと……多分あんたのおかげ。それを……うちは台無しにしちゃう所だったんだよね……。だから比企谷は……」
「それは……」
正直意外だった。相模がここまで周りの人間のことを考えられるとは。……あるいは……成長したのかもしれないな。かつて相模自身が望んでいた通りに、本当の意味で。
「だからこれは、うちが勝手に謝りたいだけ。勝手に感謝したいだけ……。別に比企谷のためじゃない。どう?」
相模は、涙に濡れたひどい顔で、それでもドヤ顔を作ってそう言う。……俺は、その顔を綺麗だと思ってしまった……。いつもの澄ました顔よりずっと良いじゃねえか。
ふぅ、……参った……降参だ。
「勝手にしろ……」
俺は彼女の方を見ないままそう一言だけ言った。
「へへ。うん。その、ありがと、比企谷」
「……おう」
ずっと心に抱えていたものを吐き出し、スッキリとしたような表情の相模の姿がなんだかとても眩しい。……少し照れてはにかんだように微笑う笑顔はひどく魅力的で……。
「……なあ、また、その、手握ってんだけど……」
そんな顔で手を握って、上目遣いで見つめられたりしたら、心がぴょんぴょんしちゃうからね。
しかも、俺の方に体重を掛けるように斜めに座っているためか、相模の脚がわずかに開いてしまっていて……、サンタ服の裾から覗く白い太腿に思わずちらちらと目が行ってしまう。
てっきり、「キモ。何赤くなってんの?」とか言われると思ったんだが……。
「え、いいじゃん、うちら、恋人……なんでしょ」
そう言って相模はさらに強く俺の手を握ってくる。
「おまっ、今んなってそれ言うの……」
「……ダメ? あーあ、やっぱり雪ノ下さんと付き合ってるんだ?」
は? こいつ何言ってるの。
「ちげーよ。何でそういう話になるんだよ」
「じゃあ、結衣ちゃんの方と?」
「別にどっちとも付き合ってねえっての。それどころか、誰かと付き合ったことなんか一度もねえよ」
全く、どうして女ってのは何でもかんでもそういう話にしたがるかね……。
「……それって、ほんと?」
「こんなこと嘘ついてどうすんだよ……」
「ふ、ふーん。じゃあさ、」
彼女は握っていた俺の手を少しだけ引っ張った。……俺は前のめりにバランスを崩し……目の前に相模の顔、唇に柔らかい物が触れている……。
……ほんのりと甘い匂い。ぷるんと柔らかい唇の感触。息がつまり、自分の鼓動だけがやけに大きく聞こえる……。
時間にして五秒。我に返った俺は、飛び退くようにして箱から立ち上がった。
「い、いきなり何すんだよ」
「えと、うちから比企谷への感謝の一環、みたいな」
相模は真っ赤になって照れたようにしながら、しかし悪びれない。
「おい、いくらなんでも感謝でするようなことじゃねえだろ……」
俺が右手の甲で唇を拭うようにしながら言うと、
「あ……ごめん。……もしかして、うちなんかとキスするの、イヤだった……?」
相模はそんな事を言いながら、シュンとしてしまう。……こいつ、メンタル弱いのは変わらねえなぁ……。目には大粒の涙。そんな、捨てられた仔犬みたいな目で見つめられると……。くそっ、やっぱり可愛いよなぁ、こいつ。……外見だけなら即好きになっちゃうレベルな上に、なんだか中身の方まで可愛く見えてきた。
「別に……嫌じゃねえけど。……ただ、お前はこういうの慣れてるかもしれんが、俺は……」
「待って。そ、その、うちだって初めてだよ。……キス、したの」
「え、マジで」
意外。相模みたいなイケイケ(笑)は、そういう経験豊富なんだと思ってた。「経験豊富」って、なんだか卑猥。ハチマンドキドキしちゃう。
「でも、だったら余計俺なんかと……」
「『俺なんか』って言わないで。前はともかく今は、うち……比企谷のこと、結構イイ男だって思ってるんだから、さ」
「……お、おう。その、あんがと、な」
「それに……雪ノ下さんにも、結衣ちゃんにも何か一つくらい勝ちたいし?」
「勝つって……何でまた雪ノ下たちが出てくるんだよ」
「……あのさ、うち、体育祭の辺りからなんだ。アンタの事、ちょっといいなって思い始めたの。けど、比企谷の隣にはいっつも雪ノ下さんと結衣ちゃんが居て……、絶対どっちかと付き合ってるんだ、って思ってたから」
そう言って相模は、俺の顔をちらちらと見ながら続ける。
「けど、まだ付き合って無いっていうなら、うち、立候補ぐらいしてもいいかなっ……て」
「……立候補って、何にだよ?」
相模は、真っ赤な顔で、声を震わせながら、
「だから……その、比企谷の、彼女、に」
そう、小さな声で言った。
「いやその、何? ……本気かよ……。それになんだよ、まるで他にも候補が居るみたいな言い方は……」
俺がそう言うと、相模は目を丸くして、
「……ホントに気付いてないとか、……結衣ちゃんたちも苦労するなぁ……」
呆れたようにそんな事を言う。
「ね、うちね、この夢が覚めたら、ちゃんとみんなに言うから。今更かもしれないけど、文化祭の時のこと、全部。……悪いのは、比企谷じゃなくうちだったんだって」
「おい、そんなことしたら、もしかすると今度は相模が……」
「大丈夫。……さっき勇気もらったし」
そう言って相模は、人差指で自分の唇をちょんちょんと突いて、いたずらっぽい笑顔をこちらに向ける。
「な、お前な……」
そんなことされたら、さっきの唇の柔らかい感触とか思い出して、またドキドキしちゃうからやめてっ。
「比企谷。……うち、ちゃんと頑張るから。 ……そしたら……そしたら、さ、少しでいいから、うちの事考えてくれたら……その、うれしい……です」
もじもじしながらそんな事を言う相模は、見ていてとてもいじらしく……それに、そんな事を言ってもらえた自分にも不思議と悪い気がしない。……だから俺は、
「まぁアレだ。それで相模が頑張れるって言うんなら、その、良いんじゃねえの。知らんけど」
小町言うところの捻デレで応える。……実はもう、「相模と彼氏彼女の関係ってのも案外悪くないんじゃないか」なんて思い始めていることはまだ教えてやらん。……だって恥ずかしいじゃん。
俺の言葉の意図がどう伝わったのかは分からない。ただ、彼女は、
「へへ。ありがと、比企谷」
そう言って素直に笑った。
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**********
ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……、
「……ヒキオ……?」
サンタ服に身を包んだ三浦優美子がたった一人、机に座って脚をぶらぶらさせていた。
さらに霧が晴れて周りが見えるようになってくると、ここは二年F組。俺の、そして目の前に座る三浦のクラスでもある。
「はぁ~~。あーし、やっぱ、からかわれたんかな」
三浦は脚をぶらぶらさせたまま、天を仰ぐように上を向いた。彼女にはいつもの強気な様子は見えず、声もどことなく寂しそうだ。
しかし、ミニのサンタ服でそんな風に机に座ってたら、中が見えそうでちょっとドキドキしてしまう。
彼女が着ているのは奇をてらわないデザインの、シンプルでややタイトなワンピース型のサンタ服なのだが、そのシンプルさゆえに彼女自身のスタイルの良い体のラインがくっきりと見えていて、裾からのぞく両腿の細いことといったら…………。
「ヒキオ、どうなってるし?」
はっ。……三浦の言葉で我に返る。……あぶねー、女王様の魅力を10ページぐらい語ってしまうところだったぜ。
「いや、俺にも全く分からん。なんか、夢と現実の間で恋人がなんとかって……」
「ふうん。あーしとだいたい一緒か」
そう言って彼女は机から軽く跳ねるようにして降りる。
「はーあ……。夢の中ぐらいはってちょっとは期待したんだけど……まさかアンタが来るなんて、ね」
彼女の言葉は、期待してたって言いながらも、どこか最初から諦めてた、みたいに聞こえた。
「なんか、悪かったな。その……葉山じゃなくて」
「はぁ? あーし、隼人のこと、なんて言ってないっしょ」
「違うのかよ?」
「う……それは……違わない、けど……」
三浦は、彼女にしては珍しい、少しバツの悪そうな表情を見せて、
「ねぇ、ヒキオ。……やっぱそーゆーのって、傍から見てて分かるもん?」
そんなふうに聞いてくる。
「いや、そんなよく見てねーから……」
「何言ってんの、アンタ、最近結構あーしらのことばっか見てたし」
「それは……なんつーか……」
まあ、確かに見てた、けどそれは……。
「あ……そっか、ごめん。アンタも結衣も、姫菜たちのこと気にして……ってこと、か」
「まあ、そうだな」
修学旅行以来、葉山や三浦のグループ……特に海老名さんと戸部が上手く「今までと同じ」をやれているかどうか、つい気になって目が行ってしまうのだ。
まあ、正直他人のリア充のグループがどうなろうが知ったことではない。……けれどこいつらとは、「他人」と切り捨てるにはあまりに大きく関わりすぎてしまっている。
それに……それだけじゃ無い。雪ノ下と由比ヶ浜との関係は最近になってようやく改善したものの、修学旅行、生徒会選挙を経て、奉仕部は崩壊寸前までいっていたのだ。……だから、女々しい話ではあるが、せめて三浦のグループ――ひいては由比ヶ浜のもう一つの居場所――が無事であってくれなければやってらんねえ、ぐらいの気持ちもあったのだ。
「『あなたにピッタリの恋人』……とか。ホントは、あーし、なんとなく分かってんだよね。……今の隼人が誰かを選んで付き合ったりしないこと……でも」
三浦は、何かを思い返すように虚空を見上げる。
「隼人、さ……楽しくない時でも笑うんだよね……こう……これが笑顏でーす、みたいな顔作って。絶対に自分の弱いとこ見せないし……でも、ずっと
「…………」
「だったら、あーしが……あーしと二人でいる時くらいは無理に笑わなくてもいられるような、隼人にとってのそんな風になりたいっていうかさ……」
彼女は小さくため息をつく。
……驚いた。三浦は、俺が想像してたより遥かに「葉山隼人」の本質を理解している。アイツの「壁」を……あるいは「闇」とも言える部分をわかった上で、その葉山の救いともいえる存在になりたいとまで考えている。
彼女は否定するだろうが、それは恋愛感情というよりまるで母性本能の発露のようにも見えた。
ホント、あーしさんマジおかん。
「でも上手くいかなかった。あーしじゃ、心開いてくんなかった」
そう言って三浦は目尻に薄く涙を浮かべる。……葉山、なんで三浦じゃダメなんだよ? ここまでお前のこと想ってくれるやつ、そうそう居るもんじゃねえぞ……。
事は恋愛事だ。他人の俺なんかが憤慨するのはお門違いだってのは百も承知。……それでも、三浦優美子の涙を見てしまった俺は……。
「なあ、三浦」
「……ヒキオ?」
「これは間違いなく夢だ。だから、葉山で遊んでやらねーか?」
俺はわざとらしくニヤリと笑ってそう言った。
**********
再び、ピンクの煙が晴れる。
「な、えぇ? は、隼人? でも今ヒキオで……?」
「あー、期待させたんだったら悪い。中身は俺の……比企谷のまんまだ」
そう、俺は封印されし力を開放し、我が姿を葉山隼人のそれへと変幻させたのだ!!
……まあ、実際には、頭のなかで、「コマチちゃん、ポイント使ってお兄ちゃんの姿を葉山に変えてちょ」とお願いしただけだが。
三浦は、しばし目を丸くして俺(外見葉山)をジロジロ見ていたかと思うと、突然指を指してヒーヒー笑いだした。
おい……。
「…………はぁ、笑った笑った。ヒキオが隼人とか、マジありえないし」
「やっぱ、変か?」
「ふっ、まず、隼人はそんな背中まがってない。隼人の真似すんならもっとシャンとしろし」
「お、おう。……こうか?」
おれは言われるまま、ぐっと胸を張る。
「そうそう。あとはもっと顎引いて、目をしっかり開けて……。っし、だいぶ隼人っぽくなった」
最初は戸惑ってた三浦も、なんだか楽しそうだ。
「で、アンタが隼人になってどうするし?」
「まあ、さっきも言ったが、これ見てもわかるようにここは間違いなく夢ん中だ。……だから、俺は今から、お前の言ってみてほしいセリフでもポーズでも何でもやってやる」
「……ヒキオ、あんた……」
「なんだったら、こんなんでもいいぞ」
そう言って俺は顎を突き出し、志○けんの、アイー○のポーズを取る。
……三浦に頭を引っ叩かれた。
「隼人はそんな事しないし!」
怒ったような口調を作ってるものの、あーしさん、目が笑ってますよ?
「……何でもいいわけ?」
「おう、どうせ夢だ。遠慮なく来い!」
「ぷ、ちゃんと隼人の声なのにすっごい変な感じするし……。じゃあ……」
彼女は俺に小さく耳打ちする。その近さに俺はドキリとさせられるが、三浦にしてみれば今の俺の外見だけは葉山なのでそれほど抵抗は無いのだろう。
いやでも、間近で見ると本当に三浦は綺麗だな。ギャルっぽいメイクとかはちょっとアレだが、通った鼻筋、大きくバランスの良い目に形の良いツヤツヤとした唇。
ちょっと上目遣いで恥ずかしげに希望を口にするいつもと違う表情も相まってなんだかクラクラとさせられる。
彼女のリクエストは、俺にとってかなりハードルが高いものだったが……。
これは夢、そして俺は「葉山隼人(偽)」だっ。
…………。
「優美子、好きだ。愛してる」
「優美子、綺麗だよ」
そんな事を言いながら壁ドンの格好をさせられたり、
「お嬢さん、僕と踊りませんか」
なんて言わされたり、
なんかしらんけど、ウサイン・ボルトの勝利のパフォーマンスの弓を引く格好をやらされたり、と、だんだんわけがわからん方向に……。
……ちょっとあーしさん? ノリノリ過ぎじゃないですかね? 最初は恥ずかしがる様子を見せていた彼女も、だんだんこの状況に慣れてきたらしい。
「あとはぁ……」
「おいおいまだあるのかよ……」
そう文句を言ったのが気に障ったのか、
「はぁ? あんたがいいって言ったんじゃん」
そう言って獄炎の女王様はキッとこっちを睨む。
怖っ。だが、おれだって伊達にいつも氷の女王から睨まれているわけでは無い! この程度なら慣れっこなのだ! ……威張って言うようなことじゃないですね……。
「じゃあ……あと一つ。もう一個やってみたいこと有ったし」
そう言って彼女は何故か少し顔を緊張させる。
「アンタはそこ座って。そう、壁に背中くっつけて……で脚開いて、もっと。そう」
……で、俺は壁際で両足をほぼ90度に開いた状態で座らされ、真っ赤なドレス(サンタ服だが)をまとった獄炎の女王、三浦優美子様に正面から見下されているという状況……。
こ、これはまさか……。日頃の葉山のつれない態度に対する鬱憤を晴らすべく、そのまま俺の大事な
彼女が一歩踏み出し、俺の背筋に冷たいものが走る。
……しかし、三浦は俺の目の前で座り込むと、そのままくるりと後ろを向いて、背中から密着するように俺に体重を預けてきた。
ふわり、と花のようなコロンの香り。俺の胸に押し付けられる彼女の背中は……驚くほど細い。
「お、おい」
「いいから。アンタはそのまんまあーしのこと抱っこするみたいにして」
俺は言われるまま、腕を前に伸ばし、三浦を包むみたいにその腕を交差させた。左の頬に三浦の綺麗に染められた髪がサラサラと当たって少しくすぐったい。
ははあ、これがいわゆる「あすなろ抱き」か、「壁ドン」と並んで女子が憧れるシチュエーションだとテレビで見た記憶がある。普段は強気な三浦でもやっぱりこういうのに憧れがあるのかね。
しかし……この体勢はやばい。三浦優美子の体温、鼓動、息遣い、匂い……すべてが余すところなく伝わってきて……脳の奥の理性が徐々に溶かされていくような――危険だけど甘美な感覚に包まれる。
彼女は振り返るようにして俺を見上げた。明るい髪色が真紅の服に良く映えている。……彼女は
おい、いいのか? と俺のまだかすかに残る理性が問う……が、俺はそのまま吸い込まれるように三浦と唇を合わせてしまった。
……触れるだけのキス。甘い香り。……数秒だったのか、数十秒だったのか、感覚がわからない。俺たちはゆっくりと唇を離し、また見つめ合う。「隼人……」という彼女の小さな呟き。
その彼女の表情があまりにも柔らかかったからかもしれない……一瞬、ぞわりと全身の毛穴がざわめくような妙な感覚を憶えた。
三浦も何かを感じたようで、僅かに目を見開いて怪訝な顔をしたものの、そのままクスリと微笑ってもう一度目を閉じた。
二度目のキス。今度はほんの少しだけ舌先が触れる。俺は彼女を抱きしめる腕にさっきよりも力を込めた。
**********
「ヒキオ、あんがとね」
俺に抱き締められた体勢のまま三浦がポツリと言った。
「『隼人』じゃねーのかよ?」
「はぁ? だってアンタ、ヒキオに戻ってるし?」
「な、」
俺は慌てて自分の手を見る。……見慣れた爪の形。髪を触り、顔を撫でる……どうやら戻っているのは本当らしい……一体いつから……、じゃない!
俺は自分の置かれた体勢を思い出し、慌てて三浦から離れようとした。……が。
「別にいいし」
そう言って彼女は俺を押しとどめる。
「いいって……」
「夢っしょ」
……そう。……そうだな。これはクリスマス・イブ、一夜限りの夢だ。
「……おう」
三浦は更に強く背中を押し付けてきて、俺と目を合わせないまま、
「アンタ、
そう言うとそれっきり静かになり、やがてゆっくりと寝息をたて始めた。
おい……この状況で寝るか普通……。まあしかし、これは夢だしな。俺もなんだか眠くなってきた。
俺は、目の前のサラサラの髪に顔を埋めるようにしてゆっくりと目を閉じた。
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……短かすぎ? そうでもないよ。 ヒントは
ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこには……
海老名さんが、制服姿で待って……げ、……その隣で、
さらに霧が晴れ、周りが完全に見えるようになる。ここは2年F組 俺たち三人の教室だ。
「腐っふっふ~。ヒキタニくん、はろはろ~。キミの恋人の戸部っち連れてきたよ~」
海老名さんが眼鏡をきらーんと光らせて言う。
「いや海老名さんおかしいから」
俺が呆れてそう言うと、戸部も、
「あー、やっぱないわー。ヒキタニ君と俺が恋人とかないわー」
そうブツブツ言ってる。
「当たり前だろうが! なのになんでわざわざそんな格好してんだよ」
「いやでもー、海老名さんすごく喜んでくれるっつーし? したら、やるしかないでしょぉー」
戸部……お前馬鹿なの? 死ぬの? そりゃ海老名さんは喜ぶだろうけど、そのために俺と、とか……。
「違うな……間違っている。間違っているぞ戸部よ!」
「まあまあ~。間違っているとかいないとか決めつけるんじゃなくてー、時には
くっ、やはり一般人には○ルーシュの言葉は通じないか……俺にギアスがあれば……。
「ね、やっぱり隼人くんじゃないとダメ?」
俺が頭を抱えてるのを見て、海老名さんが申し訳無さそうな顔で聞いてくる。
「そういう問題じゃなくてだな……」
「そんなヒキタニくんには大サービス! 今からやるゲームをクリアすれば、戸部っちに代えて隼人くんをプレゼント!!」
だからどっちもいらねーっつうの!! しかし、
「……ゲームって?」
「今から一時間、戸部っちから逃げ切れればキミの勝ち。……ただし、学校の敷地から出ちゃダメ。ヒキタニくんがスタートしてから5分後に戸部っちが探し始めるよ」
逃○中かよ……だが、ハンターが一人なら、上手く隠れてしまえば楽勝か……?
「ただし!」
と、海老名さんが続ける。
「五分おきに戸部っちが一人づつ追加されるよっ」
その声にタイミングを合わせたように、教室の扉が開く。
「「「「つーことらしいんでー、オレらのことも、オナシャス!」」」」
十人のミニスカサンタ戸部が入ってきた。……もうヤダ。何このカオス……。
「じゃあゲーム開始だよ、ヒキタニくんが1時間戸部っちから逃げ切れたら約束通り隼人くんをプレゼント!!」
だからいらんて。
「に、逃げ切れなかったら……?」
「ぐふ腐っ♪ それはそうなってからのお楽しみ~」
絶対に楽しくないやつだな……。
「じゃあ、スタートっ」
彼女の声に、俺は仕方なく教室を飛び出した…………。
**********
その後逃げ回ること40分、俺は今絶体絶命の場面を迎えていた。
特別教室棟三階の廊下、階段付近。正面には二人の戸部(ミニスカサンタ)、後方には一人の戸部(ミニスカ略)……階段の下からは戸部(ミニ略)が二人。屋上へのドアは鍵がかかっている……逃げ場は無い。もはやこれまでか。
ゆっくり、ゆっくりと戸部(略)の魔の手が迫ってきている……。
俺は……、
こんな世界線は間違いだっ。リーディングシュタイナーを発動する
「あれれ、よくここを見つけたね~」
「おかげさまでな……」
**********
ボフッ、と音を立て、視界が真っ白に染まる。……そう簡単に終わってたまるかよ。
俺は逃走中に手に入れたアイテム、「煙玉」を使って戸(略)たちを足止めすると、立ち入り禁止の鎖をくぐって屋上への階段を駆け上がった。
そして俺は、屋上への扉の角を少し強く押してこじ開け、どうにか屋上に這い出す。あとはその扉をすぐ閉じ、その端に、目の前にあったコンクリートブロックの破片を食い込ませて固定した。これでもう下からは開けられない。
よし、これで(略)の追撃は封じた……あとは時間が過ぎるのを待てば、見事葉山をゲットだぜ! ……だからいらんて。
一息ついてふと屋上を見渡せば、フェンスにもたれるようにして海老名さんが立っていた。
俺がここに登ってきたことに少しの驚きも見せない。……予想していた? あるいは待っていたのか?
**********
「で、こんなとこで何やってんの」
「おやおや~、私に文句とか言わないんだ」
文句はある。山ほどな……でも、
「いやまあ、所詮夢だしな」
その答えに、彼女は何か満足したような笑みを浮かべる。
「へぇー、やっぱり
いや、どこかどころか何から何まで違いますがなにか? ……特に目とかね。
海老名さんは、空を見上げて少し何かを考えるような表情をした後、ゆっくりとこっちを向いた。
「ねえ、これって夢なんでしょ。今キミもそう言ったもんね」
「そりゃ、現実にあんな戸部が何人もいたらウザくてたまらんだろ……」
「まずそっちなんだ……」
彼女は少し呆れたように笑い、
「じゃあさ、ちょっと話、聞いてくれる?」
そう言って、すっと笑みを消した。
「わたし、さ、昔……中学生の時、男に襲われて、酷い事されかけて、さ、」
「ちょ……おい、いいのかよ、俺にそんな話……」
「だって、ヒキタニくん、いつも言ってるんでしょ、『ぼっちにはそもそも話を広める相手がいねえ』とか」
あー、確かに言ったような記憶があるな。……由比ヶ浜め、いらんことを話しやがって。
「ま、それにその時も、最後の一線だけは守れたんだよね、たまたま人が通りかかって。でも……」
空を見上げるようにして彼女は続ける。
「でも、それ以来、私は『男』を同じ『人間』として見れないの。どんなに良い人、優しい人でも、私と同じ生き物だと思えない。……理解不能の、気味の悪い何かに見えるの」
「いや……でも、それで何でBLとか……それこそ平気なのかよ」
「うーん、やっぱり『最後までされてない』のが大きいのかな、極端な男性恐怖症って感じにはならなかったんだよね。だけど『私』に女性の部分を求めてくる『男』はやっぱり気持ち悪い。吐き気がする……だからなのかな?」
「だからって……何が?」
「ふふ、今ヒキタニくんの言ったBLだよ。……だって、ホモなら、私に『女』を求めないでしょう」
……海老名さんが、ただ腐女子ってだけじゃない闇みたいなもんを抱えてんのはなんとなく感じてたけど、まさかこんな……。そんな事を聞かされてしまった俺はどうすればいい?
「それに、隼人くんたちと一緒にいるのもそう。……意味わかる?」
「男避け……か」
確かに、葉山たちとつるんでる女子に声をかけられるのは、よほど自分に自身があるやつか、あるいはただの勘違い野郎だけだろう。戸部だって、黙ってればツラは悪くないしな。
クラスで時々腐女子がバレるような行動してるのも、もしかしたら
「でも私、キミには興味あるな……
表情を動かすこと無く、海老名さんは一歩、二歩と俺に近づいてくる……。背筋にぞわりとしたものを感じて、俺は無意識に後ずさった。
「ねぇ……私のリハビリに協力してよ……。ここ、現実じゃないんだし、さ」
どこか焦点の合っていないような目で俺を見ながら淡々と語り続ける目の前の少女に薄ら寒い恐怖を覚える。
「い、いや、そういうの俺は……」
さらに下がろうとした俺の手首ががっしりと捉えられた。
「おい、……痛っ」
反射的に振りほどこうとした手に鋭い痛みが走る。……どうやら爪を立てられたらしい。
「ここまで聞いて……逃げるなんて許さない」
躰がこわばって動かない。まるで蛇に睨まれた蛙になった気分だ。……そしてそのまま俺の、それこそ蛇が獲物を締め付けるかのように、彼女の腕がゆっくりと俺の背に廻り――そのまま唇を奪われ、いきなり舌が入ってくる。
「むッ……がっ」
押し返そうとして……手の甲に新たな痛み。 喰い込んだ爪で皮膚が切れる感覚に抗おうという気力が削がれる……。
魅力的な女の子にキスされている、という状況に、しかし感じるのはただ恐怖。
それでも、口腔内を蹂躙されるうちにゾワゾワと肌が粟立つような……脳が麻痺していくような快感が拡がって行く。
「はうッ」
いきなり股間を鷲掴みにされた。……我ながら情けないが、この状況でもしっかり反応して元気になってしまったらしい。
「ふふ……、この程度で起っちゃうんだ……。結局男なんてみんな……」
ようやく俺から口を話した彼女は、顔を歪めてぼやくように言った。
「ああそうだよ。 ……悪いか? 可愛い女子にキスされて何にも思わなかったら、そいつは男として終わってんだろ。――男子高校生なんていつだってエロいことばっかり考えてんだよ」
俺がいきなり反論したことに、彼女は一瞬怯んだが、
「だから、何? キミなんて怖くないんんだから……」
そう言って彼女はキッとこっちを睨み、指先にさらに力を込める……ったくマジ痛いっつーの。
「だったら何で手が震えてんだよ。……何で目に涙溜めてんだよ」
「…………っく」
海老名さんの手から力が抜けていく。俺の手を開放して、彼女の腕はだらんと垂れ下がった。
強がっていても、怖かったんだろう……『男』が。無理をしてたんだろう、と思う。
「俺は何もしねーよ。……つーか出来ねーよ。ヘタレだからな。まあ、リハビリぐらい手伝ってやるから、その、もっと……ゆっくりっつうか、自分のペースでいいんじゃないか?」
「……友達、だったの」
俯いたままで彼女が口を開く。
「私のこと、乱暴しようとしたの……それまで優しかったのに、急に、さ。……クラスメイトで、その時、私が一番気になってる男の子だった。初恋……だったかもしれない」
それは……キツイ、な。
「その……何ていうか……」
海老名さんは顔を上げる。涙のあとはあっても表情はどこか晴れやかだ。
「ほんと、ここまで話したんだから、ちゃんと責任取ってよね~ ヒキタニくん」
「せ、責任って……」
「何だと思った? ただ、最後までリハビリ付き合ってって事だよ~」
そう言って彼女は正面から俺に抱きついてきた。一瞬ドキリとしたが、彼女は全身カチコチ、体は小刻みに震え、額には脂汗が浮かんでくる。まあ、色気のある雰囲気じゃないな。
「おい、ゆっくりでいいって」
「大丈夫。私頑張ってみるから。……そしたら比企谷くん、ご褒美くれないかな?」
「……ま、俺にできる範囲ならな。……なんかあんの?」
「あのさ、比企谷くん、」
お、もしかしてこれって俺に告白の流れ……?
彼女は飛び切りの笑顔で言う。
「せっかくだから、戸部っちと
こいつ……腐ってやがる。遅すぎたんだ……。
ちょっといい話で終わるかと思えば……。 さて、この後半部分、どれくらいの人が見つけてくれたんですかね? 自分で変な仕掛けしといてなんですが、誰にも読んでもらえなかったらそれはそれでショックかも。
薙ぎ払えっ! すべて(戸部とか)を燃やしてやり直すのだ!
腐海の毒に冒されても、なお腐海と共に眠るというのか。
5月20日 誤字修正 報告感謝です。
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ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
立ち尽くすこと数秒。ゆっくりと霧が晴れていくと、そこは……
おい、元の部屋のまんまじゃねーか。
違っているのは、コマチエルの羽と頭の輪っかが無くなって、かわりにサンタ帽子をちょこんとかぶっていることぐらい。というか、羽と輪の無いコマチはもう小町ですね。
しかもなんか、ステージの端の方にその輪と翼がまとめてちょこんと置いてあるし……せめて見えないところに隠せよ……。
「じゃ~ん! お兄ちゃんの恋人はっ、可愛い可愛い小町ちゃんでーす!!」
小町はステージ上でくるんと回って右目の横でVサイン、バチーンとウインクをきめる。
「そっかー、最高にうれしいなー」(棒)
「え、何その態度、ごみいちゃんのくせにっ。 ……小町じゃ不満だって言うのねっ、この浮気者っ!」
そう言って小町はよよよ、と大袈裟に泣き崩れるふりをする。
「いや、浮気ってなんだよ」
「そこはほら、ノリで『そんなことはあるはずがないっ、俺は小町一筋だゼ(キリッ)』とか言うところでしょーに、そんなんじゃ、小町的にポイント低いよ~」
「……今の台詞には俺らしさのかけらも無いんだが。しかも実の妹が恋人ってのは……」
そういうのは市内の高坂さん家でもうやってるから、二番煎じって言われちゃうだろ。
「そう、それ」
「いや、どれだよ」
「だいたいいつもお兄ちゃんは、千葉の兄妹は~とか言ってるけどさ、『お兄ちゃんと私、実は血がつながって無いんじゃないか』とか考えたこと無いの?」
そんな事は……
**********
「そんな事、考えたこともねーよ」
俺はここで一度言葉を切る。
「それにその、感謝してんだよ。……小町が妹でいてくれたことには。お前がいなかったら、きっと今の俺は相当ヒドイ人間になってたと思うからな」
「いや、お兄ちゃん十分ヒドイから。人間としてけっこうダメだから」
ぐはっ。クリティカルヒット!! 八幡に精神ダメージ大。
「……でもね、そんなダメなところも小町は大好きだよ。あ、今の小町的に超ポイント高い!」
「なあ、この世界でもポイントって貯まるの? 使うだけじゃなくて?」
あまりに感覚がリアル過ぎて忘れそうだが、ここはポイントありきの夢の世界みたいなもんのはず。
「あったりまえじゃん。しかもお兄ちゃん! 今ならクリスマスキャンペーン中だから、なんとポイント5倍だよ、5倍!」
そうか、5倍じゃしょうがねえな……。
「お兄ちゃんも、いつもの5倍、小町を愛してるよ! ……今の、八幡的にポイント高い」
「はいはいありがとー、お兄ちゃん(棒)」
くっ、渾身の愛の告白が棒読みでスルーされた件について。
「じゃ、今日は可愛い小町が一緒にいてあげるから、お家帰ってご飯でも食べよっか」
ご飯て……。
「お、おう。 ……けど、これ、どっから出るんだ?」
俺は、一見出入り口のないこの空間を見渡す。
「あ、えっとねー、なんか呪文があって……」
そう言って小町はポケットから小さなメモを取り出す。
おいおい、呪文って、『バルス』みたいなヤバいやつじゃねーだろうな……。そう思ってハラハラしながら見ていると、小町は頭上に掲げるように右手を上げ、
「せいぞんっ、せんりゃく~」
と、その可愛らしい声を張り上げた。
ふと、背後に何かの気配。
振り返ると、いつの間にか現れたぬいぐるみのようなペンギン?が、床についている小さな赤いスイッチに手?を伸ばしているところだった。
「おい、やめ……」
ポチッと、音がして、パカンと俺の足元の床板が開く。
「のわあぁあぁぁぁあぁぁぁぁ~」
落ちていく、どこまでも……、そう言えば、あいつらも兄妹だったな……などと考える間もなく、俺は何か柔らかい物の上にぽすんと着地していた。ほとんど衝撃もない。
見れば、ここは自宅のリビングのソファの上。
「いったいどうなっt ぐえっ」
俺に遅れること数秒後、小町が俺の上に降ってきた……。
*********
「じゃあお兄ちゃん。改めて、」
小町がシャン○リーの注がれたシャンパングラス(の形をしたただのコップ)を高々と掲げ、
「メリー・クリスマ~ス」
と声をあげる。
「おう、メリクリさん」
食卓には、ケンタのパーティーバーレルとやや小ぶりのクリスマスケーキ、それからちょっとしたオードブルが並べられている。
比企谷家にとっては例年通りのクリスマスの食卓。
「しかし……小町、これ夢みたいなもんなんだよな? なんで俺たちいつも通りのクリスマスしてるんだ?」
そう、俺がぼやくように言うと、
「えー、でもねお兄ちゃん、小町はうれしいよ」
と、意外な答え。
「え、なんで?」
「だって今年はお兄ちゃん、イベントとその打ち上げで帰り遅かったじゃん。だから、今日はお父さんとお母さん、小町の三人で食べたんだよね……」
「おう……」
「小町ね、なんだか寂しかったよ。 ……それでよく考えてみたら、クリスマスイブにお兄ちゃんと一緒じゃなかったのって初めてじゃないかなって」
そういえば……そうかもしれんな。
親父やおふくろの片方、場合によっては両方が仕事でいないことは、何回かあったが、こと、クリスマス・イブの夕食に関する限り、俺と小町は毎年必ず一緒に過ごしてきた……。
「だからね、小町は、お兄ちゃんといつも通りのクリスマスが出来てとってもうれしいんだよ。……あ、今のも小町的にポイント高い!」
ああ、ほんと、そうだな。小町と二人、
「小町、愛してるぞ」
俺が言うと、
「はぁ~、……お兄ちゃんは、どうしてその台詞を小町に言っちゃうの? 他に言うべき相手がいるでしょーに」
「何言ってんの小町ちゃん。俺が小町以外にそんなこと言ったら気味悪がられてすぐに通報されちゃうだろうが。なんなら黙ってその辺にいるだけでもこの目を見られて通報されちゃうまである」
他に言える相手がいるとすれば戸塚だな。あと、彩加とか戸塚とか。……文化祭のときに誰かに言ったような気もするが、川……島? うん、記憶に無いな。
「妹に言ってる時点で十分気持ち悪いってば。……ほんと、発想がごみいちゃんだよね~」
「おい……」
「でもさ、小町も愛してるよっ、お兄ちゃん!」
うちのあざとくて
まあアレだ。やっぱり兄妹で過ごすクリスマスは最高だな!
……さっき、小町は、血のつながりがどうとか言ってたような……
**********
「いやまあ、何回かは、な。……なんつーか、この目とか違いすぎるだろ……だから、」
俺がそう言いかけた時、
突然、ダン、ダン、ダン、と重い効果音を響かせながら空中に一文字づつ文字が出現していく。
……おいおい、どこのフルダイブゲームだよなどと思いつつも、次々に浮かび上がってくる文字から目が離せない。
『小町ポイントの使用と特定条件の達成により、
一瞬、世界がフラッシュするように光り、どこからともなく、「ガラーン、ガラーン」と、鐘の音が重く鳴り響く……。
なんだ……これ? 鐘の音は脳を直接揺さぶるように響きわたり、俺の意識はその音の波に喰われるようにして闇に溶けていく……。
……なにか……大事なことを忘れ…………。
**********
「ただいま」
そう奥に声をかけながら玄関のドアを閉めると寒気が遮断され、室内の暖かい空気が俺を包みこむ。
ふとこんな時にも、家に帰れば小町がいてくれるという幸せを感じる。
…………あれ、俺は今、
「お兄ちゃん、お帰りっ」
可愛らしいサンタ服に身を包んだ小町が、てててっと小走りに駆け寄ってきて、そのまま飛びつくようにして抱きついてきた。
「っと。そんなに勢い良く突っ込んできたら危ないだろ。……もう子供じゃないんだから」
「子供じゃないから……だよ?」
俺に抱きとめられ、すっぽりと腕の中におさまった体勢のまま、彼女は熱っぽい瞳で俺を見上げてきた。
少し拗ねたような態度が可愛くて、俺は小町の肩の辺りに腕を廻し、彼女の桜色の唇に優しくキスをする。
「えへへっ、やっぱり大好きだよ! お兄ちゃん」
サンタ帽子のポンポンがぴょこんと揺れる。……俺の愛しい妹は、いつものように頬を染めて微笑った。
**********
従兄妹同士だった俺と小町が、俺の母親と彼女の父親との再婚によって義兄・義妹の関係になったのはもう六年も前の話だ。
もともと近所に住んでおり、年も近いせいか物心ついた時にはもう仲良しになっていた俺たちは、一つの家族になるということをあまり抵抗なく受け入れていたように思う。
再婚したばかりの両親が共働きで忙しい事もあって、俺と小町は仲の良い兄妹――一番近い家族としてずっと過ごしてきた。 …………あの時までは。
きっかけは、去年の春。俺の交通事故だった。
高校の入学式当日に、犬を助けようとして車にはねられたという出来事。幸い怪我が脚の骨折程度で済んだこともあり、俺にとっては間抜けすぎて黒歴史の1ページとして封印してしまいたいようなその事件は、しかし、小町に特別な想いを起こさせるスイッチになったらしい。
彼女が事故の知らせをどのような形で受け取ったのかは知らない。
俺が知っているのは、俺が運び込まれた病院の、処置室の隣の部屋(控え室とでも言うのだろうか)に顔面蒼白で駆け込んできて、俺がガラス越しに「よう」と片手を上げたのを見て……安心して泣き崩れた小町の姿だけ。
俺が急にいなくなるかもしれない、という恐怖。かつて一度、実母をやはり交通事故で失い、親しい人間が急にいなくなることの喪失感を知っている小町にとっては、俺の事故はとても笑い話に出来ない大事件だったのだろう。
入院中、甲斐甲斐しく俺の世話を焼いてくれていた彼女は、俺が無事退院を迎え、自宅に戻った日の夜、
「小町ね……、お兄ちゃんのこと、好きなの」
と、いつになく真剣な表情で言った。
「おう、お兄ちゃんも小町が好きだぞ」
と、努めて軽く返した俺に、
「違う、の。 ……小町はね、お兄ちゃんが……お兄ちゃんとしてももちろん大好きだけど、でも、男の人として……好きなの。 ……もう、ずっと前から」
リビングのソファー。きちんと揃えた膝。小町は、両手でスカートの裾をぎゅっと握り締め、恥ずかしそうにしながらも……はっきりとその想いを口にした。
「……なんで、急に?」
俺は驚かなかった。
もとより血がつながっていないことなど最初から承知の上。その上で、小町が俺に親しげに見せる表情の、態度の端々に――ただの兄に向けるとは思えない熱を感じることも、決して少なくなかったから……。
「あのね、小町はお兄ちゃんが事故にあったって聞いて……いっぱい怖いこと考えちゃったの……」
その時のことを思い出しているのか、小町は沈鬱な表情を見せて視線を足元に落とす。
「今回は骨折で済んだけど……でも……でも、ね、小町の気持ち、お兄ちゃんにちゃんと伝えておかなきゃってそれで……」
そう言って彼女は再び視線を上げ、
「ね……お兄ちゃん、こんなこと考える小町のこと、嫌い?」
そう不安げに聞いてくる。
「あのな、天地がひっくり返ったって俺が小町を嫌いになるとか無いから」
まったく何を心配しているのかと思えば。……けれど、彼女はさらに言葉を続ける。
「じゃあ……じゃあ、ね、小町のこと、妹じゃなくて……その、一人の女の子として見て欲しい、って言ったら……?」
それは……俺が俺自身に投げかけていた問いでもある。
中学生になってから急速に女の子らしくなってきた小町――血の繋がらない魅力的な女の子。いくら家族として暮らしてきているとはいえ、まったく意識しないというのは不可能だった。
まして――ここで白状してしまえば、まだ従妹だった頃の小町は、俺の……まだ初恋とも呼べないような幼い恋の相手でもあったのだから。
けれど、お互いの気持ちを認めてしまったら、いずれ家族が壊れてしまうのではないかという不安もある。ひとつ屋根の下、ご近所的・社会的には普通の
堂々と恋人とは名乗れないし、少なくともしばらくは両親にも秘密にするしかないだろう。 ……きっと苦しい恋になるであろうことは想像に難くない。 ……それに……。
「……小町は、俺の大事な妹だ」
しばしの沈黙の後にようやく紡がれた俺の言葉に、小町の顔は悲しげに歪み、その双眸にはみるみる涙が溜まってくる。
「……けど、俺の一番大事な女の子でもある」
「え」
小町は目を丸くする。限界を超えていたなみだが
「おにいちゃん、それって……」
「なあ、小町。 ……両方じゃ駄目か? 俺にとって小町は大好きな女の子で、けど、大事な大事な妹なんだよ。 ……だからその、な、ずるいかもしれんが今はまだ……」
小町はそんな俺のしどろもどろな様子を呆れたように見てクスリと笑い、
「しょーがないなぁ。ほんと、このお兄ちゃんてばシスコンなんだから~」
そう言ってようやくいつもの小町らしい笑顏を見せてくれた。
「おう、千葉の兄貴を舐めるなよ!」
「ぷ、なにそれ……でも
そう言って小町は俺にぴったりと身を寄せ、いたずらっぽい顔で俺を見上げてきた。 ……彼女のほんのりと上気した顔と、かすかに震える手に、俺は気付かないふりをする。
俺と小町は、その日初めてのキスを交わした。
**********
「ね、料理もう並べてあるから一緒に食べよ」
小町に手を引かれ、二人きりで囲むクリスマスイブの食卓。未だ仕事中の両親には悪いが、俺は幸せだと思う
リビングの真ん中にどんと置かれた家具調の大きな炬燵。その上に、ケンタのパーティーバーレルとやや小ぶりのクリスマスケーキ、それからちょっとしたオードブルが並べられている。
比企谷家にとっては例年通りのクリスマスの食卓。
俺たちはいつものように向かい合わせの席で食事をとる。
しばらくして、小町は何を思ったか突然席を立ち上がると、
「へへ、お・に・い・ちゃんっ」
そう言って俺と炬燵との間にすっぽりと潜り込み、座椅子にもたれかかるかのように俺に背中を預けてきた。
最近の、両親のいない時の小町の定位置なのだが……。
「小町、ちょっとメシの時は……」
そう、小町は可愛い。愛しい妹で恋人だ。が、流石に食事のときに目の前に座られるのは困る。つーか邪魔。すぐ目の前で揺れるサンタ帽のポンポンとか超鬱陶しい。
「えぇ~、もうけっこう食べたじゃん。 ……小町、お兄ちゃん帰ってくるのずっと待ってたのに~。だから、少しだけ、ねっ」
そう言って小町は上半身をよじるようにして振り向き、俺にキスをせがむ。
俺はかぶさるように彼女を抱き締めて唇を合わせる。時々舌先が触れ合い、お互いの呼吸が熱を帯びてくる。
「ふわぁ、あんっ……」
長いキスから開放され、ぽうっとした表情の彼女が、潤んだ瞳で俺を見つめてくる。やがて小町は頬を真っ赤に染め、意を決したようにして口を開いた。
「……小町ね、その……お兄ちゃんに……小町をあげたいの……クリスマスプレゼント。 だから、小町には、お兄ちゃんを……そのプレゼントして……ほ、ほしいなって……そのね」
「え、そそそれって……そのあのアレだ……エ、エッチ……しちゃって……いいの?」
「ちょ、……お兄ちゃんのばかっ。ぼかして言ってんのにそこ聞き返さないでよ恥ずかしいじゃん!!」
「お、おう、なんかスマン……」
「まったくホントにいつまで経っても八幡なんだからっ」
「いやだから、八幡は悪口じゃ…………」
「えいっ」
最後まで反論する前に、小町に押し倒された。
「えへへっ、大好き。大好きだよ、お兄ちゃん……」
炬燵で温まった小町の手が俺の頬に触れてくる。俺は彼女の背に腕を廻し……二人、抱き締め合うようにキスを交わした……。
他のキャラの平均の倍の尺、二段構成……えこひいきですね。でもこれは「小町ポイント」の話だから仕方がないのです。
5月28日 誤字修正 報告感謝です
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今年もクリスマスシーズンがやってまいりました。2017年にちなんで17本目のくじを追加です。ついでにシャッフル。
ポワポワポワンと、どう考えても非現実的な効果音を立ててピンクの煙が広がり俺の視界を埋め尽くす。自分の指先も見えないほどの濃い煙だが、不思議と息苦しさは感じない。
しかし周りが見えない以上動くわけにもいかずただ立ち尽くす俺……………………。
……………………。
………………。
…………気が付くと、すぐ目の前には英文法の問題集とノート。それを押しつぶすようにして机に突っ伏してしまっていたようだ。……どうやら問題集を解いている途中で寝落ちしてしまったらしい。
俺は自室の勉強机からのっそりと身を起こし、唇の端を手で拭って涎を垂らしていないことを確認する。ん? なぜかこの時期にTシャツとスウェットの短パンだけしか着てねえ……。よっぼど寝ぼけてたのか俺、風邪引いちまったらどうすんだよ…………。
……それにしても変な夢を見てしまった。
小町ポイントで恋人が貰える、とか……アホか。あんなくじ引いたぐらいで彼女が出来たら苦労はないっつーの。よっぽど溜まってるのかね俺。
まあかねがね、日々獲得している小町ポイントの使い道については疑問に思っていたのだが、もしほんとに何かに交換してもらえるものならぜひお願いしたいものだ。
恋人……は、欲しいか欲しくないかで言ったら勿論欲しいとは思う。だが実際恋人が出来たら面倒くさいことも多そうな気がするし、なにより対人スキルゼロに近い俺には宝の持ち腐れになること請け合い。なんならせっかく貰った恋人にその日のうちに振られて小町に罵倒されちゃうまである。小町の罵倒とかそれなんてご褒美? いや、俺にそんな性癖は無い……無いよね?
うん、賞品を選べるものならやはり違うものがいい。具体的に言えば現金とか現金とか現金とか。将来働かずに暮らすにあたって貯蓄は多いに越したことはないからな。
ところで今何時だ? 俺はどれ位居眠りしてしまっていたのだろう。振り向いて部屋の掛け時計で確認しようと振り返り……、
「や……やっはろ~……」
「その……こんばんは、でいいのかしら? 比企谷くん」
目の前の光景が理解できずに一度目を閉じ、軽く目頭を擦ってからもう一度目を開く。
俺のベッドの上に、布面積の少ないサンタ服――ほとんどセパレートの水着のようにも見える――を身に着けた、雪ノ下雪乃と由比ヶ浜結衣が複雑な表情を浮かべて腰掛けていた。
二人は目のやり場に困るような……ぶっちゃけ非常にエロいおそろいのサンタ服でそのベッドに並んで足を投げ出すようにしており、俺はその目の前一メートル程の所にある勉強机の椅子に座っているという状況なわけだ。
まあ彼女たちにしてみれば、(さっきのコマチエルのくじ引きが単なる夢じゃ無いのなら)俺がピンクの煙を纏って目の前に現れたように見える状況なのかもしれないが。
目の前の現実感が希薄になる位に刺激的な光景を眼福と言って堂々と見つめ続ける勇気も無く、かと言って全く見ないというのももったいないと思ってしまい、つい横目でチラチラ見ずにはいられない。
「二人共……何で……?」
俺が思わず漏らした質問とも独り言とも取れるような言葉に、雪ノ下と由比ヶ浜は、はっとしたようにお互い目を合わせ口を開きかけるものの……また何も言わずに俯いてしまった。……おい、頼むからこの状況を説明してくれ。
しかし……目の前の美少女二人の衣装――あえて言わせてもらえばエロサンタ服――の破壊力がヤバい。
二人共着ている物はおそらく同じもの。上衣は赤い柔らかそうな生地のチューブトップ状の服で、上下の部分に白いもこもこの縁取り。躰の正面にあたる部分に三つ、ボタンを模したような白いフェルトが縫い付けられている。
下は上と同じ生地の、今にも下着が見えそうな超ミニスカート。こちらは太もも側にだけもこもこが付いていて、おへそのやや下にあるウエスト部分はベルトを模したやはり白のフェルトで飾られている。
二人が着ているのが同じ服であることで、タイプの違う二人の美しい少女の……
由比ヶ浜の方は……このエロい躰にチューブトップのサンタ服とか……これはもう危険物だろ! 筒状の柔らかそうな上衣は窮屈そうに膨らんで、それでも若干サイズが合っていないのか、上から収まりきれないメロンちゃんがくっきりと谷間を見せている。
それでいてウエストはちゃんと細いものだから、押し上げられた服の裾は隙間が空いていて……、可愛らしくチラチラ見えているおへその方から滑らせれば腕とか何かとかスポッと間に入ってしまいそうだ。
さらにスカートから覗く脚は、決して太くは無いものの女の子らしくむっちりと肉がつき、触り心地も実に良さそうに見える。
そしてもう一人――雪ノ下雪乃。胸は……流石に隣に鎮座ましますパイヶ浜大権現――もとい由比ヶ浜と比べればだいぶ慎ましいサイズではあるが、別に飛び抜けて小さいというわけでもない。彼女のレモンちゃんもサンタ服の下でしっかりと自己主張をしていて、細いながらもちゃんと女の子らしい……というかモデルのような躰のラインを見せている。
真紅の衣装からスラリと伸びる雪ノ下の手足は驚くほど細く……その肌は自らの名を具現する如く透き通るように白い。それをほんの僅かピンク色に染め、艶やかな長い黒髪や澄んだ黒い瞳とくっきりとしたコントラストを示している。陳腐な例えかもしれないが、童話の白雪姫が現代に現れたならきっとこんな感じなんじゃないか。
そして……彼女のほのかにピンクに色付いた小さい唇がゆっくりと動く。
「いつまで私たちを舐め回すように見ているのかしら? エロ企谷くん」
おい……せっかく童話のお姫様に例えてやってるんだからもう少し夢のある発言をしようよ雪乃姫。
まあ確かにガン見してしまっていた事に弁明の余地は無い訳だが……だってハチマン、男の子だモン。
「あ……悪い。 …………その、つい、な。 見惚れちまった」
「!! 見惚れ……貴方は何を言って……いえ、別に……いいのよね」
俺の素直な答えに、何故か雪ノ下は動揺して頬を赤らめ、いつものように罵倒しかけて……急にしおらしくなる。
「いいって……」
「その、貴方に見てもらうつもりで着たわけだし……由比ヶ浜さんには『これはやり過ぎじゃないかしら』って言ったのだけど……」
「え~、最後はゆきのんも自分で着るって決めたじゃん。それにコマチエルちゃん?も、インパクト有った方が印象に残るとかゆってたし」
「コマチ……」
無責任に煽りやがって。いや、結果を見ればここは感謝すべきところか?
「で、さ……ヒッキー、どう、かな?」
「どうって……」
「そのね、嬉しい……とか、さ」
はいもちろん嬉しいです。けどこれ素直に「嬉しいよワンワン!!」って答えて良いの?
「それは……俺だって男だし、『嬉しくないことも無いような気もしないでもない?』」
うむ、このくらいにしておこう。
情けない答えではあるが、由比ヶ浜は俺の照れまくっているであろう顔を見てなんとなく納得してくれたようだ。
そして……ゆっくりと話し始める。
「あたし、さ……もう気づいてると思うけどヒッキーが……好きなの。 ……でも、でもゆきのんの事もすっごく好きで、ヒッキーとゆきのんが仲良く口喧嘩してる奉仕部が好きで……だから…………」
視線を左右にフラフラさせながら、一生懸命言葉を探すようにとつとつと話す由比ヶ浜。俺と雪ノ下はそのもがくような真摯さに気圧されるように静かに見守るだけ。
「だから……だから三人がいいの! ……三人の…ままが……。ヒッキーのこと独り占め出来なくたって、ゆきのんなら……その、三人で恋人ってゆーか……」
そこまで言って彼女はようやく俺と目を合わせる。
「だめ……かなぁ……」
くっ、そんな何かに縋るような顔で上目遣いとか反則だろ……。そんな風に言われたら絶対に駄目なことでもおーけーと言ってしまいそうになる。
三人で恋人――それって二股とか言われるやつじゃないのか。雪ノ下と由比ヶ浜。こんなとびっきりの女の子二人相手の二股とか何処のアルトくんだよ。
『お前たちが……俺の翼だッ!』
とかやっちゃって良いの? いや俺バルキリーとか乗らないけどね。
バルキリーといえばガウォーク形態って超格好いいよな。ホバリングで高速移動しながらの銃撃戦とか男のロマン。前にメサイアバルキリーのプラモ作って得意げに小町に見せたら、
「飛行機に手とか足出てて変」
と言われてしまった……。くそう、女子供にはこの良さが分からんらしい…………。
「ヒッキー……?」
はっ! あまりにも自分のキャパをオーバーした状況に意識が銀河の果てまで飛んでしまっていたぜ。
まあ……ここで正直に言えば、俺は雪ノ下と由比ヶ浜の両方に好意を持ってしまっている。勿論恋愛的な意味で、だ。だからこそ、彼女らからの好意を薄っすらと感じつつもそれ以上の関係に進めず……答えを出せずに逃げていたのだ。
それが……二人を同時に恋人に出来るとか…………。俺は良いけど――いや良くないけど! ただ「男」の本音で言えば、女子二人が納得ずくだというならこんなに都合のいいことは無い。
そう――納得。恋愛脳の由比ヶ浜ならともかく、あの雪ノ下がこんなのを納得するはずがない。
俺はようやくそう考えるに至り、彼女に問うように視線を向ける。だが、
「私も、それでいいと……いえ、貴方が良いなら由比ヶ浜さんが言ったように……三人で居られたら……と思っているの」
彼女――雪ノ下雪乃は意外な答えを返してきた。
「だから……」
雪ノ下はそこまで言うと、彼女たち二人はお互いに少しずつ身を引いて間を空け、目配せするようにして俺にそこに座れと促す。
「それで……良いのかよ……その……」
「……確かに色々間違っているのかもしれないわね。けれど私は……私も、その……貴方に好意を持っていて、比企谷くんを求める気持ちが確かにあるの。でも、同じ私は絶対に由比ヶ浜さんとの関係を失いたくないとも願ってもいる」
……あの雪ノ下からはっきりと「好意を持っている」と言われた。今まで、もしかして……、と思うことは過去に何度もあったけれどその度に「そんなことある筈が無い」と否定してきた――逃げていた。
「もちろん、これはあなたの望む『本物』とは違う……」
雪ノ下は俺の目をまっすぐに見て続ける。
「けれど、これは夢……なのでしょう? 私たち3人が、私たちに都合のいい夢をたまたま同時に見てしまったからと言って……誰かがそれを咎める、というようなものではないでしょう? 『ただの夢』だもの」
そうだ、ただの『夢』だ。
まあ、俺のエロい妄想やら夢やらに、雪ノ下や由比ヶ浜にご出演頂いたことは過去に幾度となくある。 ……いやしょうがないだろ! これだけきれいで可愛い女の子たちが身近にいたらさあ。……俺だって色々盛んなお年頃の高校生男子なわけだし。
だとするならば、過去にみたそんな夢と今回の夢に如何程の違いがあるというのか。
ふ。こんなのはただの言い訳だ。雪ノ下が「ただの夢」と言ってくれたのだって、煮え切らない俺のために逃げ道を用意してくれているだけなのだろう。
ただの夢? そんなわけある筈がない。今目の前にいる彼女ら二人は俺のエロい妄想が作り出した偽物じゃない――そう、どうしようもないぐらい判ってしまうのだ。
でも……。言い訳できるなら、ただの夢だという自分を騙せる逃げ道があるなら……。
俺は彼女らに誘われるまま、二人の間に腰を下ろす。ベッドのスプリングがたわみ、同時に右から由比ヶ浜が、左から雪ノ下が俺の腕を取り、指先を絡めるようにして手を繋いできた。
両手に花、ではあるのだが……なんだか両腕を拘束された感じ……。二人との距離が近い。位置的に丁度奉仕部で由比ヶ浜と雪ノ下がゆるゆりしてる席の間にぎゅっと割って入った様な体勢。
繋いでいる掌が、寄りかかってくる腕や肩がとても柔らかくて、ふわりといい匂いが漂ってきて……。
いつも自分の寝ているベッド。ホーム・アウェイで言えば間違いなく超ホームなポジションであるはずなのにひどく落ち着かない……。
自分の心臓の音がうるさいぐらいに聞こえてくる。俺が何も出来ずに固まっていると、彼女たちは更に身を寄せてくると、躰をひねるようにして左右から俺の顔を覗き込んだ。
雪ノ下と由比ヶ浜の二人が僅かの間視線を交わし合う…………と、由比ヶ浜はその場を譲るように少しだけ身を引いた。
雪ノ下が俺の顔を見上げる……俺と目が合うと、その少し潤んだ双眸をそっと閉じた。
最初は、雪ノ下との唇をそっと触れ合うだけのキス。ほんの僅かな、唇をついばむような動きだけで俺の心臓はドクンと脈打つ。
ゆっくりと触れていた唇が離れ……。俺は右に振り向き、由比ヶ浜とも同じようにキスを……
「んあっ?」
変な声が出てしまった。由比ヶ浜がいきなり舌を入れてきたのだ。びっくりして顔を引くと、彼女はイタズラが成功した子供のようにえへへと笑い、それから目を閉じてもう一度顔を寄せてくる。なんとなくだが……最初のキスを雪ノ下に譲った事に……由比ヶ浜なりに何か思うところがあっての今の不意打ちなのかもしれない。
再び唇を合わせる。また由比ヶ浜の舌が侵入してきて……今度は俺も応じて舌を絡めに行く。
「ふ……う、んん……」
薄目を開いて見れば、由比ヶ浜は上気したような表情、全身をほんのりとピンクに染めて艶めかしい息を漏らしてる……。うわこれなんかすげえエロい……。
ふと、反対側……雪ノ下に握られている左手にぎゅうっと力がこもった。
そうかこれ今、すぐ横で雪ノ下に見られてるんだよな……。気になってつい、薄目のままそちらに視線を向ける。
雪ノ下は……今正に舌を絡めあっている俺と由比ヶ浜を、切ない……羨ましそうな――なんだか拗ねたような表情で見ていた……。
これはもしかして……嫉妬……してるのか? あの雪ノ下が?
そう思うと雪ノ下がものすごく可愛く思えてくる。…………あ。
目が合ってしまった。
今自分がしていた顔を俺に見られていた事に気付いた雪ノ下は、一瞬真っ赤になって顔を伏せ……それから俺の左手を握る手にこっちが痛いぐらいの力を込め、由比ヶ浜から引き剥がそうとでもするかのように俺の腕を引いた。
ぽうっとしている由比ヶ浜からゆっくりと離れ、雪ノ下の方へと振り向く。
引き寄せられた左手はそのまま雪ノ下の太ももの上に乗せられるような体勢になってしまい、掌に触れる滑らかな肌の感触に俺は一瞬怯む。けれど彼女はそんなことを気にしている場合では無いといった様子で……待ちきれなかったかのように空いていた左手を俺の右耳の下辺りに這わせ、挑むような表情で唇を重ねてくる。吐息が熱い。 ……そしてそのまま深く舌を絡めてきた。
ほのかに甘い彼女の唾液が俺の口腔内で融けていく……。見れば、俺を可愛く睨んで「どうだ」とでも言わんばかりの顔。ふっ、こいつ、こんな事でもやっぱり負けず嫌いなんだな……。
ならば負けるわけにはいかない。俺は雪ノ下の舌を押し返し、そのまま彼女の口内に俺の舌を侵入させていく。
かすかな抵抗……そのまま押し破って雪ノ下の口腔内で彼女の舌を嬲る。
「ん…………あん……んんっ、ぁ……」
いまだ俺の掌が手が触れたままの、彼女の素足の膝がぴくんと震える。
…………やられた……。これは予想してなかった――雪ノ下、こんなにかわいい声出すのかよ……。
背筋にぞわぞわっとした感覚が走り、俺の舌先によりいっそうの熱が篭っていく……。
そんな風につい雪ノ下とのキスに夢中になってしまっていると、今度は由比ヶ浜に右腕をぐいぐいっと引っ張られる。いやそんなことしたら大事なメロンちゃんが俺の腕に当たっちゃうでしょ?
彼女の方を振り向くと、ほっぺをぷく~と膨らませた彼女がこちらも拗ねたような……ってゆーかこっちは思いっきり拗ねてる。ヤキモチ焼いてるの全く隠す気ないな……。こいつ……わかり易すぎて可愛いじゃねーか!
そして俺は再び由比ヶ浜と唇を重ね……彼女も雪ノ下に負けまいとするかのように、より激しく舌を絡めてくる…………。
…………いつの間にか俺たち3人は躰を投げ出すように俺のベッドに倒れ込み……俺が仰向けになり、左右に寄り添うように寝そべる、肌も露な雪ノ下と由比ヶ浜と交互に抱き合うようにしてキスする、というのを何度も繰り返している。
時にはまるで俺を奪い合うかのように……そして時には俺とのキスを相手に見せつけるかのように…………俺の唇を貪るようにして唾液を交換していく……。
二人とも上気して薄っすらと汗ばみ、ほんのりと赤みを帯びてきた肌からはなんともいい匂いがしてくる。由比ヶ浜からは柑橘系の……果物のような甘い匂いが、雪ノ下からは花の――バラか何かの香りが……シャンプーだか香水の香りだかは分からないが、それが二人の汗の香りと渾然一体になって、甘い毒のように俺の精神を麻痺させていく。
肌を触れ合い、互いの口腔内を刺激し合うという物理的な快感……そして、自分を好きだと言ってくれた女の子に、違う女の子とのキスを――舌を絡めあっているのを見せつけて……それをすぐ間近から嫉妬の色を帯びた目でネットリと見つめられるという背徳的な快感……。しかもそれが二重に重なり合って…………。
……これは……ヤバい。
脳の奥のほうが甘く痺れたようになってクラクラしてくる…………。「脳が……震える」ってこういう感覚か……。
ヤバい。ヤバすぎて魔女に呪われて首が九十度ぐらい曲がって死んじゃってもまた死に戻って来ちゃいたいまである。
あまりといえばあまりの状況に、いい加減俺もだいぶおかしくなってきたらしい。けれどおかしくなっているのは俺だけでは無い。
俺に覆いかぶさるようにしていた雪ノ下に、由比ヶ浜が絡みつくように手を伸ばして躰を寄せていく。
「ゆき……のん……」
「由比ヶ……ま……さん……近……い…………、ぁむ……んんっ」
雪ノ下は少しだけいやいやするような素振りを見せたが、最後は逆らいきれずに由比ヶ浜に唇を奪われた。……瞬間、俺に寄り添って脚をゆるく挟むように伸ばしていた彼女の白い太腿がきゅうっと俺の膝辺りを締め付ける。
俺の目の前わずか三十センチ。由比ヶ浜と雪ノ下が熱に侵されたような表情で舌を絡め合っている。由比ヶ浜のほうが積極的で、雪ノ下はされるがままに受けている……という感じ…か。
以前から、この二人がゆりゆりしたらどっちがタチでどっちがネコなのかにはちょっと興味があったのだが……どうやら雪ノ下のほうがネコらしい。猫大好きフリスキーの雪ノ下さんのことだ、自分がネコでさぞ本望であろう。
俺がそんな馬鹿なことを考えている間にも二人の行為は更に熱を帯びてきて……。
由比ヶ浜と雪ノ下はお互いの唇を甘噛するように……ついばむように求め合う。俺にとってよく見慣れた天井を背景に、彼女たち二人の舌がお互いの口内をチロチロと行き交っている……。
「ゆきのん……好き……んむ……っはう……ん」
「んっ……はぁー……む……んぁん……んぐ……」
由比ヶ浜がぬるりと舌を押し込むようにして絡まった唾液を送り込み……雪ノ下が観念したようにこくんと喉を鳴らす…………。
目の前わずか十数センチのところで展開されるあまりにも艶めかしい光景に、また……ざわざわと脳が、心が締め付けられるように震える……。
思わず二人を抱きしめ、未だについばみ合いを続けている彼女らの唇の間に舌で割って入り、二人の混じり合った唾液を絡め取る。
「あ……もう……ヒッキーはぁ……」
「んっ……は……貴方ね……こんな……」
二人は少しだけ俺に抗議するような顔を見せた後、二人で目を見合わせて微笑み、二人同時に俺に口づけしてくる。
三人でするキス。窮屈で、三人の唇と舌先だけが同時に触れ合う……見方によっては滑稽かもしれない体勢。
でも、俺はその滑稽ささえもひどく愛おしくて……二人を抱きしめる腕にもう一度強く力を込める。
三人でいられるなら……間違っていても――堕ちて行っても良いと……そう、思った。
いまさらの追加ですが……まあ今回はボーナストラックみたいなものなので桃色成分マシマシでお送りしました。当初から構想だけは有ったお話です。
メインヒロインズのお話が、一話ずつ追加したお話に比べて短いので救済措置?みたいな。
ご意見・ご感想お待ちしています。
12月19日 誤字修正。 いつもご報告ありがとうございます。
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