黒猫一匹のネタ&短編集 (黒猫一匹)
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FAIRY TAIL
とある魔法世界の未元物質


かつて第一位という名前で投稿していた作品。
あの時は身勝手な作者の都合で削除してしまい申し訳ございません。
この先、いいネタを思いついたら長編として連載する可能性が高いので今は短編として投稿しておきます。



 

 

 

 ここは魔法の世界。

 人々が体内に宿す魔力の恩恵により、この世界には魔法という異能が溢れている。

 その為、科学技術はここ何十年も停滞したままであり、どこに行こうが、魔法が普通に売り買いされ、魔法を生業とする『魔導士』と言われる職業も数多く存在するほど、魔法と言われるものは、この世界に浸透していた。

 そして魔導士は、大抵はどこかのギルドへと所属し、依頼に応じて仕事をする事を主にそれぞれ活動している。

 

 

 これは、フィオーレ王国にある、とある魔導士ギルドに所属している一人の少年を中心としたお話。

 正史の世界とは違う、もう一つの物語である。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 マグノリアの街より北西にある、とある樹海。

 その大森林の奥深くに、一つの魔導士ギルドが存在した。

 そのギルドは、まるで世間から身を隠すように、人の行ききしない場所へと建てられており、周囲一帯には不気味な魔力が漂っている。

 

 そのギルドに、人が行きつかないのも当然、そのギルドは世間一般では闇ギルドと呼ばれており、魔法を悪行へと使う正規の道を踏み外した、ならず者たちによって構成された犯罪者ギルドだからだ。

 そしてその樹海の奥深くに存在する闇ギルドの名前は『黒い一角獣(ブラックユニコーン)』。

「バラム同盟」の一つ、『六魔将軍(オラシオンセイス)』傘下の闇ギルドだ。

 

 そして現在、その闇ギルドは、ある二人の魔導士の手によって殲滅中だった。

 

 

 

 

 

「鉄竜槍、鬼薪!」

 

「どはぁっ!?」

「ぎゃあっ!?」

 

 連続で放たれた鉄の槍の突きを喰らい、黒い一角獣(ブラックユニコーン)のメンバー(全員不良学生のように髪を逆立てた者達)が、吹き飛び、置かれていた机や酒樽などに衝突して気を失う。

 

「クソッ、なんだよアイツ!?」

「腕が鉄の槍に変わりやがった!?」

「なんだ、あの魔法は!」

 

 男達はそのような事を喚きながら、先程からの一方的な攻撃を加える腕を鉄の槍に変えた青年の方に視線を向ける。

 髪は背に伸びるほど長く、顔にはいくつかのピアスが付けられており、現在その顔にはあくどい笑みが浮かんでいる。

 

「なんだよ、バラム同盟の一角を占めるギルドの傘下だっつうから、もっと歯応えがあるかと思ったが、弱すぎだぜ、このクズども」

 

 ギヒヒヒ、と心底相手を馬鹿にした表情で、青年、ガジルは足元に倒れる男を蹴り飛ばして嗤う。

 ガジルの嗤い声を聞きながら、彼の隣にいる長身でホストのような出で立ちをした茶髪の少年は、視線は正面の黒い一角獣のメンバーを見たまま、ガジルに向かって口を開く。

 

「そういってやんなよ。傘下つってもただの捨て駒程度の価値しかねェ連中だ。オマエを相手にできるような奴がいたとして、そんな奴はとっくに親ギルドに引き抜かれてるだろうよ」

 

「ギヒッ、仮にそんな奴がいたとしても結果は変わらねぇだろうがな。つうかテイトクてめぇコラ、さっきからオレにばっかりやらせやがってサボってんじゃねぇぞ!」

 

「あァ? 別にいいだろう、元々オマエが行きたいっていった闇ギルド討伐(ゴミ掃除)だろ? なら責任もってオマエがやれよ。それにこっちは昨日ようやく10年クエストから帰ってきたばっかで疲れてんだよ。マスターの命令で仕方なく同行してるが、本来なら家で寝てる所だ。という訳でここはオマエに任すわ」

 

「ハッ、お前がその程度で疲れるタマかよ」

 

 ガジルはテイトクと呼ばれたその少年に呆れたような溜息を吐く。

 そんな二人の会話を聞いていた黒い一角獣(ブラックユニコーン)のメンバーである男達は二人のそんな舐めた態度に怒りが爆発する。

 

「あの野郎共、黙って聞いてりゃ調子に乗りやがって! 俺がブッ殺してやる!」

 

 その中でも一際ガタイの良い男がそう息巻き、テイトクとガジルの方へと襲いかかる。

 男は右手に換装魔法で呼び出した大きな鉄の剣を持ち、まずは手前にいたガジルへと振り下ろす。

 

「オラァ! 死ねェ!!」

 

 男の苛立った叫び声が響く。ガジルは振り下ろされる剣を見てニヤリと嗤い、右腕を即座に鉄竜の鱗へと変質させ、男の振り下ろした剣を受け止める。

 ガキィィン、と鉄同士が衝突する音が周囲へと響く。

 

「なっ!?」

 

「ギヒッ、死ぬのはテメェだクズが」

 

 目を見開きながら驚く男にガジルはそう言う。

 そしてガジルは刀身を掴み、男の腹に蹴りを放つ。

 男は「ぐっ!」と苦しそうに息を吐き、後方へと吹き飛ぶ。その際、右手に持っていた剣はガジルが手元へと引き寄せ男から奪う。

 そしてそのまま自身の口元に刀身を持っていくと、大きく口を開けて、その刀身を噛み砕く。

 

『はぁぁぁああぁ!?』

 

 ガジガジと男の剣の刀身を食べるガジルを信じられないと言わんばかりに目を見開き驚く男達。ガジルは鉄の部分の刀身を食べ終わるとあとはいらないとでも言うようにポイッと捨てる。

 

「ギヒヒッ、消えろクズどもが。鉄竜の咆哮!!!」

 

 ガジルの口から鉄の破片などを含んだ(ブレス)が放たれた。

 そして次の瞬間にはドッッ、と嵐のような暴風が周囲を襲う。

 

「どぉわっ」

「ぎゃああ!」

「うわあああ」

 

 ブレスの一撃に抵抗する事すらできなかった男たちは、なすすべなく戦闘不能へと陥っていく。その際、一人の男が「鉄竜?」とガジルの技にピクリと反応する。

 そしてその顔に冷や汗を垂らしながら呟く。

 

「こ、こいつ間違いねぇ! 『ファントム』の鉄の滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)鉄竜(くろがね)のガジルだ!」

 

 男のその言葉に、残りの男達がざわめき始める。

 

「ガ、ガジルだと!?」

滅竜魔導士(ドラゴンスレイヤー)、そんな化けモン相手に勝てる訳ねぇじゃねぇか!」

 

「ギヒッ、そういう事だ。さっさとクタバレ! 鉄竜棍!!」

 

 戦意を喪失し始めた男達にガジルは容赦なく追撃を食らわす。

 腕を鉄の棒へと変え、目の前の敵を吹き飛ばす。

 

「クソ、ガジルは無理だ! もう一人の奴だ。奴を狙え!」

「そうだ、せめてアイツだけでも道連れにしてやる!」

 

 男達は標的をガジルから、先程から何もせずただ戦いを観戦していたテイトクへと狙いを定める。それに気付いたテイトクは面倒臭そうに眉を顰め、ガジルは「ギヒッ、そっちは止めた方がいいぜ」と面白そうに笑いながら事を眺める。

 

 ガジルの動きが何故か止まった事に男達は好機とその顔に笑みを浮かべ、その場に生き残っている男達全員が、テイトクへ向けそれぞれ魔法を発動させる。

 掌から炎を出す者、武器を取り出す者、風を纏う者、雷を発する者、腕を獣の腕へと変化させる者。

 そして、それらを一斉にテイトクへと向け放つ。

 

 ドドドドドドドドドッッッッッッ! と連続で爆発を起こし、土煙がテイトクを覆う。

 

「やったぜ! 直撃だ!」

「ハッ、ザマァ見やがれ! お前の仲間は消し飛んだぜ!」

 

 防御する姿勢すら取らなかったテイトクを見て、男達は自分達の勝利を確信した。

 その事が男達の戦意に再び火をつけた。男の一人がガジルへとそう挑発めいた言葉を口にする。が、とうのガジルは土煙の方へと視線を向けており、男の言葉を無視している。

 無視された事に腹を立てた男はさらにガジルへと言葉を発する。

 

「おい、聞いてんのかテメェ!?」

 

 男がそう怒鳴り付けるもガジルは反応すら示さず、ただ土煙の中を見ていた。

 ガジルが何も反応を返さないからか、仲間がやられた事にあのガジルが動揺している、と男達は隙だらけのガジルを見てそう確信する。

 男の一人が背後から奇襲をしかけようと魔法を発動させた時、

 

「ハッ、やっぱクズだな。相手の力量すら測れねぇとは。こんなんでオレ達ファントムの双璧に勝てると思ってんだからな、笑えてくるぜ。お前もそう思うだろ、テイトク?」

 

 ガジルがようやく反応を示すと同時に、室内で突如起きた不自然な突風が土煙を晴らす。

 突然の突風に男達は視線を急いでテイトクの方へと向けると同時に彼の声が響いた。

 

「そうだな、ザコにザコ扱いされるのは心外だ。だから前言撤回だ、ガジル。こいつらは俺がやる」

 

 白。

 男達の視界には純白の三対の翼が、テイトクを包むように出現していた。

 その翼には傷は勿論、埃の一つもついていなかった。

 そして、その翼の中からテイトクが現れる。

 当然、テイトクの方にも傷らしい傷は存在せず、先程の男達の魔法での一斉攻撃を無傷で凌ぎ切ったようだ。

 

「なっ、馬鹿な!」

「あ、ありえねぇ……今のオレ達の攻撃をまさか防いだのか!?」

「な、なんだこの魔法は?」

「純白の白い翼……? ファントムの双璧? ……っ!? こいつまさか!?」

 

 無傷のテイトクとその背に生える白い翼を見て動揺する者達。

 そしてその白い翼を見て、先程のガジルの言葉を思い出し、顔を蒼白にする者。

 

「クッ、調子にのるな、食らいやがれ!」

 

 動揺しながらも一人の男が再び魔法を放とうと男に向けて右腕を向ける。

 そんな男を視界に収めたテイトクは片翼を一閃させる。

 すると、たったそれだけで今にも発動しようとした魔法が無効化(キャンセル)し、男に集まっていた魔力が霧散して塵となった。

 

「なっ!?」

 

 その事実に魔法を放とうとした男は驚愕を露わにする。

 驚愕が周囲を支配する中、パァン! という何かが弾けたような音が響く。

 そして次の瞬間には、ドッ! と魔法を放とうとした男の右腕が消し飛んだ。

 

「が、ああああぁ、ぎゃああああぁぁぁぁぁはあああぁぁああっッッ!!!」

 

 一瞬何が起きたのか理解が追い付かなかった男だったが、自分の右腕が消し飛ばされた事を理解した瞬間、今まで感じた事のない激痛が男を襲う。

 男はそのまま狂ったような悲鳴を上げて、右腕が消し飛ばされたショックに気を失う。

 

「なっ!? 一体何が!?」

「テメェ何をしやがった!?」

 

 残りの男達は、何が起きたのか理解出来ずに声を荒げた。

 そんな中、ガジルはテイトクの背から生える白い翼を見て、ニヤリと笑い言葉を発する。

 

「ギヒッ、相変わらずメルヘンちっくな魔法だな。イカれてるぜ」

 

「安心しろ、自覚はある。それにイカれてるのはお互い様だ」

 

 二人の緊張感の欠片もないやり取りを聞きながら、男達は顔に脂汗を噴きだす。

 そして先程から顔面を蒼白にしている一人の男が震えながら口を開く。

 

「や、やっぱりだ。こいつファントムの断罪天使、カキネ テイトクだ!!!」

 

 その言葉に残りの男達も同様に顔を青くする。

 

「う、うそだろ!?」

「ガジル、カキネ…、ファントムの双璧・黒白(こくびゃく)!」

「何でよりによってコイツ等が!!」

 

 悲鳴にも似た叫び声を上げる男達を尻目に、とうの二人は相も変わらず余裕を持って会話を続ける。

 

「ギヒッ、そうだテイトク。ここで一つ勝負でもしてみねぇか?」

 

「あァ? 勝負?」

 

「どっちが先にこのクズどもを全滅させられるかを競うんだよ」

 

「……オイコラ、ガジルてめぇ話を聞いてなかったのか。コイツ等は全員俺がやるっつてんだろ」

 

「ギヒヒ、知るか。テメェが勝手に言い出した事だろうが、オレはまだ了承した覚えはねぇぞ。それともなにかオレに勝つ自信がねぇってか?」

 

「……ハッ、いいぜ。テメェのその安い挑発にのってやるよ。後で吠え面かきやがれ!」

 

「ギヒッ、吠え面かくのはテメェだ!」

 

 そして二人は同時に男達の方へと駈け出した。

 二人の動きを見た男達はビビりながらもその手に武器を構えて応戦する。

 

「クソッタレ、こうなりゃもうヤケだ!」

 

 こちらに近づいてくるテイトクとガジルに彼らも覚悟を決め、魔法を放つ。

 だが、その攻撃にもはや意味はなかった。

 ガジルはその身体を鉄竜の鱗へと変質させ、攻撃を無効化し、テイトクはその純白の翼を振るい、発動前に無効化させる。

 

「クソッ! マジでどうなってんだ!?」

「なんで、魔法が発動しねぇんだよ!?」

「奴の魔法か何かか!?」

 

 男達は先ほどから魔法を放とうと魔力を集めるが、何度やっても途中で魔力が霧散する。その為、どうしても魔法を発動する事が出来ず、その場で棒立ちになってしまう。

 その様子を眺めていたテイトクは、口元に笑みを浮かべる。

 そして男達の叫び声に応えるようにテイトクは口を開く。

 

「魔法じゃねぇよ、テメェ等魔導士(オカルト)と一緒にすんな。俺の未元物質(これ)は飽く迄理論で基づいた科学で構成された超能力(モノ)だ。まぁその中でも未元物質(これ)に関してはオマエ等寄りなのは確かだが、そんな事を言った所でこの世界の住人(オマエ等)じゃ理解出来ねぇだろうがな」

 

 自身の背中に生える純白の三対の翼を横目で確認し、そのような事を呟く。

 テイトクの発言通り、男達はテイトクが何を言っているのか全く理解出来ていないようで、その顔に困惑の感情が読み取れた。

 

「つまり、何が言いてぇかと言うとだ。ここから先、オマエ等が持ち合わせてるこの世界の常識は俺には通用しねぇって事だ」

 

 そう言うや否やどこから取り出したのか、『この世のものではない』と思わせるような純白に輝く剣を右手へと持ち構え、その一撃を放った。

 たったそれだけでその剣から発せられた衝撃と斬撃が、男達へと全方位(・・・)から襲い掛かる。

 

 戦いとは呼べない、一方的な蹂躙が始まった。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 一ノ瀬 冬弥。

 それが、ファントムの双璧、断罪天使、という異名で恐れられるカキネ テイトクの前世での名前だ。

 

 彼は所謂、転生者だ。前世の記憶を持ったまま二度目の人生を歩むという、ネットの二次小説でよくある様なテンプレを経験をした者である。

 生前の彼は大学受験を間近に控えたどこにでもいる平凡な高校生だった。

 

 その日は、受験勉強にどうしても集中出来ず、勉強は早めに切り上げて、ストレス発散に最近買った『とある魔術の禁書目録』というライトノベルを読んでいた。

 そこで彼はそのライトノベルに出てきた『垣根 帝督』というキャラクターに心を奪われた。

 

 悪党。

 その垣根帝督というキャラクターを一言で表すならそれが一番適切だろう。

 

 冬弥は、小さい時から、主人公よりもそれと対峙する悪党というキャラが好きだった。

 確かに主人公もカッコイイとも思う。

 己の信念を持って仲間達と共に困難を打ち破る姿は共感も持てるし、感動したりもする。

 

 だが、己の信念を持っているのは、何も主人公だけではないのだ。

 敵にだってそういったモノを持つ者はいる。当然、中にはそんなモノを持たないただ破壊を目的とした三流以下の悪党もいる、というか大半の悪党はそれに属するだろう。さすがにそう言った悪党は嫌いだが、己の信念を持って行動する悪党というモノが彼は大好きであった。

 

 だからこそ、冬弥は自分が一番好きな要素を持つこの垣根帝督というキャラに心を奪われたのだ。

 魅力的な悪党といえば、同じ作品の中に出てきた『一方通行(アクセラレータ)』という垣根と同種の悪党キャラにも当然魅力は感じた。だが、それでも彼との戦いで敗北して散っていった垣根の方を冬弥は選んでいた。

 

 その後、ラノベを読み終わると同時に寝た彼は、転生する事になった。

 神様のミスというネットの二次創作ではよくありがちな理由で。

 そして彼の転生先は『FAIRY TAIL』と言われる漫画で、アニメやゲームにもなるほど有名で人気な作品らしく、魔法文明が発達した世界であるとのこと。残念ながら冬弥はジャンプ派だった為、一度も読んだ事はない。

 特典は、死ぬ直前に読んでいた『とある魔術の禁書目録から垣根帝督の能力』を選んだ。

 

 そして転生後、自分の容姿が生前の平凡な顔から垣根と同じ容姿に変化している事に気付く。

 その事から彼は、一ノ瀬冬弥という名前から垣根帝督という名前で生きる事にした。

 自分も、いつかあの小説で見たカッコイイ悪党になれる事を夢見ながら……。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 蹂躙が終わり、静寂が辺りを支配する。

 その場には死屍累々と言った感じで倒れる黒い一角獣(ブラックユニコーン)の男達。

 そんな彼らをつまらなそうに見下ろしながら、壊れた木の机に腰掛けるテイトク。

 隣に視線を向ければ、どうやらガジルの方も終わったらしく、男達の鉄で出来た武器をガジガジと食べながら視線をテイトクの方へと向ける。

 

「ギヒッ、どうやら勝負は引き分けみてぇだな」

 

「いや、コンマ何秒か俺の方が早かった。だからこの勝負は俺の勝ちだ」

 

「ア? 何トボけた事抜かしてやがる。どう見ても同時だっただろうが」

 

「オイオイ、オマエの目は飾りか。さっきのはどう見ても俺の方が早かった」

 

 互いにそれぞれの意見の方が正しいと主張する。

 第三者がいない為、彼らの話は平行線の一途をたどる。

 それから、互いに無言で睨み付け、暫くの間その場には静寂が再び支配する事になった。

 

「チッ、このまま話合ってても埒が明かねぇな」

 

「同感だな、どちらも折れねぇならそれはもう時間の無駄だ。ならやる事は一つだろ」

 

 ガジルが舌打ちをして、そう言うと、テイトクもそれに頷く。

 そして、二人は互いの姿を睨み付け、同時に口を開く。

 

 

「「表出ろ(やがれ)!! 鉄くず野郎(メルヘン野郎)!!!」」

 

 

 ……今日も、ファントムが誇る双璧・黒白は、いつも通りの日常を送っていた。

 

 

 



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ハイスクールD×D
大帝D×D 1話 夢



 小鳥遊蒼真(たかなしそうま)は今日も夢を見る。

 空座町(からくらちょう)と言われる街の上空で戦う、死神と破面(アランカル)という人外達の夢を。

 そんな中、今日も今日とて「虚圏(ウェコムンド)の神」を自称する一人の老人を中心とした夢の続きが始まった。

 これは、とある破面(アランカル)の力をその身に宿した少年の物語。




 

 

 

 

『フン、話にならんのォ……。儂をここから一歩動かす事すら出来んのか』

 

 その身に白い死覇装を纏い、頭に王冠の様な仮面の名残を着けた、右目付近や左頬に傷のある一人の老人がその様な事を呟く。

 老人が見下ろすその先には、彼と対峙する二つの人影、背の低い少女とでっぷりとした太めの体格の大男。

 彼等二人の顔には、苦しげな表情が浮かんでおり、その身体には多数の傷跡が存在していた。そんな中、少女は今も余裕そうにこちらを見下ろす老人を忌々しげに睨み付ける。

対する老人はそんな少女の視線に、フンと鼻息を一つして一笑する。

その態度にさらに視線を険しくする少女に、彼女のすぐ側で控えている大男の顔に冷や汗が流れる。

 

『こんなものが死神の隊長格の力か? 期待外れにもほどがあるのォ』

 

 老人はつまらなそうにそう呟くと、骨状のパーツで組み立てられた椅子の中に腕を突っ込む。そしてその中から巨大な斧のような形状をした斬魄刀を取り出す。

 

『さて、そろそろ死ぬか?』

 

 その瞳に殺気を乗せて老人がそう問うと、その殺気に充てられた大男が情けない悲鳴を上げて勢いよく少女へと近づき、『隊長~! なんとかしてくださいよぉ~~!』と泣きつく。

 そんな大男の態度に隊長と呼ばれた少女は、その顔を不快そうに歪め、右拳を握り大男のその泣きっ面に拳を叩き込んだ。

 いきなりの仕打ちに大男は『なにするんですか、隊長!』と喚くが、少女は大男の言葉を無視し、老人の次の動作に集中する。

 余程集中しているのか、いつもなら殴った後に大男に向かって毒舌の一つや二つ吐くのだが、今回はどうやらそんな余裕はないようだ。

 

 そしてついにその時がきた。

 

 老人が一瞬で少女の元に移動し、少女に向かい手に持った斧型の斬魄刀を振り下ろす。

 振り下ろされた斬魄刀は、老人の膂力によって衝撃を生み、周囲一帯へと拡散する。

 しかし少女は、その攻撃を寸での所で回避し、老人の背後まで一瞬で移動する事に成功した。大男は老人の攻撃事態に反応できなかったようで、衝撃により吹き飛ばされる。

 野太い悲鳴を上げながら吹き飛ぶ大男の声を聞き流しながら、少女は隙のできた老人に向かい身体を回転させて、その後頭部に向かい全力で蹴りを放つ。

 

 ――殺った!

 

 反応を全く示さない老人に少女はそう確信し、その顔に笑みを浮かべる。

 しかし、蹴りが老人の後頭部に当たろうかという時、突如少女の蹴りの速度が減速してしまう。

 

『っ!?』

 

 その事に少女は驚きに目を見開く。

 そして突如反応した老人は、減速したその蹴りを斬魄刀を持っていない方の腕で受け止めて、軽々と少女を振り回しながら地面に投げつける。

 少女は受け身をとろうと態勢を整えようとしたが、突如大男が少女の背後へと現れ、少女を抱き止める。そして心配そうに少女の顔を窺う。

 

『大丈夫ですか? 隊長?』

 

『早く放せ。気色悪い』

 

 少女は老人を睨み付けながらそのような事を言い、先程の蹴りの速度が遅くなった原因を探る為に、脳内に一連の流れを思い出しながら思考する。

 

 ――どういう事だ? 私自身の体の動きが遅くなっている……。

 

 ――重力を操っているのか?

 

 ――それとも、筋組織や運動神経に直接働きをかける能力か……?

 

 少女がいろいろと原因について考えていると、その思考を読み取ったかのように老人は言葉を発する。

 

『フン、どうやら儂の能力がどういうものか、判断がつかずに迷っておるようじゃな』

 

『……』

 

 少女は無言で老人を睨む。肯定も否定も口にしなかったが、彼女の態度を見れば図星だという事は一目瞭然であった。その事に老人は鼻で笑い、大男は焦った様子を見せる。

 

『まぁ無理に理解する必要もあるまい。例え、貴様が儂の能力を理解した所で、結末は何一つ変わらん』

 

 老人はそう言葉を言い切り、斬魄刀を構える。

 そして、その解号を口にする。

 

 

 

『――朽ちろ、髑髏大帝(アロガンテ)

 

 

 

 解号名を発した瞬間、斧型の斬魄刀に埋め込まれた目玉から黒い炎が発せられ、あっという間に老親はその黒炎に包まれてしまう。

 そして次の瞬間には、その黒炎の中から一つの影が浮かび上がった。

 その姿は先程の老人のものではなく、西洋の死神を彷彿とさせる骸骨であった。

 頭には王冠、手にはブレスレットを着け、紫色のボロボロのコートを纏い、腹部には金色の目玉のような装飾品を着けている。

 先程までの老人の姿とは似ても似つかない異質な存在へと変質を遂げた。

 少女も大男もその余りの変わり様に驚きを隠せない様子で目を見開く。

 

『な、なんだ……その姿は……!?』

 

『フン、これが儂の帰刃(レスレクシオン)形態じゃ。そしてここから先、この戦いが終わるまで、貴様等の頭で理解できる事など何一つとして起こる事はない』

 

 断言するように骸骨の姿へと変質した老人はそう言葉を発する。

 そして一度、少女と大男から視線を外し、上空で燃え上がる炎の中にいる人物へと憎しみの籠った眼で睨み付ける。

 この戦いが終わった時、その人物を殺して、再び虚圏(ウェコムンド)の王に返り咲くその日を思い描きながら―――

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 朝日がカーテンの隙間からその部屋を照らしている。外では小鳥の囀りの音が聞こえ、気持ちの良い朝を迎えている。

 部屋にはカチカチという時計の秒針の音だけが刻まれており、次の瞬間にはビビビ!!!という激しい自己主張を繰り出した。

 目覚ましの音が部屋中に響き渡り、その部屋の主である少年、小鳥遊蒼真(たかなしそうま)は目を覚ました。だが、まだ眠いのかその目はウトウトと瞼を閉じたり開いたりを繰り返しており、中々起き上がる気配を見せない。

 けれど、それを何度か繰り返すうちに段々と目が覚めてきたのか、先程から五月蝿く鳴り響く目覚まし時計を鬱陶しそうに睨み付けて、手を伸ばす。

 

「……朝か」

 

 目覚まし時計を止めて、視線をカーテンへと向けてそのような事を呟く。

 静かになった部屋で暫くボーッとカーテンから漏れる朝日を眺めていたが、そこでふと、先程見ていた夢を思い出す。

 

「……また見ちまったな、あの夢」

 

 空座町(からくらちょう)といわれる町のレプリカ。そこで戦う死神と破面(アランカル)といわれる人外達の夢。

 今回は死神の少女と破面(アランカル)の老人の戦いから刀剣解放までの流れを見た。

 

 最近蒼真はこのようなストーリー性のある夢を見る事が多い。

 最初に見た夢は、虚圏(ウェコムンド)といわれる(ホロウ)達、いわゆる悪霊達の楽園で、骸骨型のバラガンと呼ばれた(ホロウ)を中心にした群雄割拠としたお話だった。

 

 それからバラガンが虚圏(ウェコムンド)の王という地位にまで昇り積め、その後、藍染といわれる眼鏡を掛けた死神に敗北し、その軍門へと下り、崩玉の力を介して死神の力を手に入れ破面(アランカル)という全く新しい種族へと進化を果たした。

 

 そして、藍染の命令により、現世へと出撃し、数ある部下が戦いで死に、その部下の一人を倒した少女と対峙して、先程の夢へと至る。

 

 まるでアニメでも見ているかの様にストーリーがあり、(ホロウ)虚圏(ウェコムンド)破面(アランカル)十刃(エスパーダ)帰刃(レスレクシオン)卍解(ばんかい)尸魂界(ソウルソサエティ)、など全く聞き覚えのない単語も多数存在し、これは果たして本当にただの夢なのだろうかと、疑問に思う事もよく多々あるが、

 

「ま、夢じゃなかったら何だよって話だし、考え過ぎか」

 

 結局考えても分からない為、取り敢えずはそう結論を出して頭を切り替える。

 目覚まし時計に視線を向けて時刻を確認すると、現在時刻は朝の7時を少し過ぎた時間帯。いつも通りそろそろ母親が朝食を作り終わるだろう時間の為、洗面所で顔を洗いに行こうとベッドから降りようとする。

 

 その時、蒼真の両隣の布団からモゾモゾと何かが動いたのを察知する。

 蒼真は布団をめくり左右に視線を向けて確認すると、そこには二匹の黒猫がいた。

 

「なんだ、黒歌に夜一。お前等また勝手にベッドに潜り込んできたのか」

 

 そう呟きながら二匹の黒猫に視線を向けると、黒猫達は「ニャー」と鳴き声を上げて、蒼真を見上げる。

 甘えているのか、蒼真に寄り添って体を擦り付けながら、ゴロゴロとのどを鳴らす二匹に、蒼真はその顔に優しい笑みを浮かべ、二匹の頭や体を撫でる。

 

 すると、二匹はとても気持ち良さそうな鳴き声を出して目を細めた。

 暫く猫と戯れていた蒼真だったが、下から「ソーマ、朝食できたから早く降りて来なさい」という母親の声で我に返り、ベッドから降りる。

 

 黒歌と夜一は撫でるのを止めた蒼真を名残惜しそうに見つめていたが、素早く寝間着から制服へと着替えた蒼真を見てベッドから跳び下りる。

 

「おし、じゃあ行くか」

 

 蒼真が黒歌と夜一にそう言うと、二匹は「ニャー」と鳴いて、蒼真の後に続く。

 

 小鳥遊蒼真のいつも通りのようで、いつもとは違う一日が始まった。

 

 

 



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大帝D×D 2話 日常

 

 

 

 

 

「は? 出張?」

 

「うん、そうなの。明日からお父さんが海外に出張する事になったから、それに私もついていく事にしたの。あの人だけだとどうにも心配でね」

 

 朝の7時半を少し過ぎた時間帯。

 居間のリビングで朝食を食べ終えた蒼真は、飼い猫の黒歌と夜一の黒猫二匹と戯れて遊んでいた。そんな中、居間でテレビのニュースを見ながらお茶を飲んでいた母親からそのような事を聞かされていた。

 

「ふーん。いきなり出張なんて大変だな、親父も」

 

「そうね、でも会社勤めの社会人なら誰でも経験する事よ」

 

「それよりチケットは大丈夫なのか? 明日だろ?」

 

「それは大丈夫よ。ネットの航空サイトでもう予約はとったみたいだし。”格安でチケットを手に入れたぞ”って騒いでいたから」

 

 それより、と母がそこで湯飲みの茶碗をテーブルに置いて、視線をテレビのニュースから蒼真の方へと向ける。

 

「暫く一人暮らしになると思うけど、体調管理には気を付けなさいよ。自炊を面倒臭がってカップ麺やコンビニ弁当ばかり食べないように。一応兵藤さんの奥さんにもアンタが一人暮らしをするって言ってあるけど、余り心配させないようにね」

 

「おいおい…、俺はもう高校生だぞ。ガキじゃねぇんだから大丈夫だって」

 

 母の言葉に蒼真は視線を黒猫達から、母親へと移し、呆れたような表情を浮かべた。

 

「なら、いいけど……。それよりアンタ、そろそろ学校に行かないと遅刻するわよ」

 

 母親は視線をテレビへと戻し、テレビの右上に表示されている時間を見てそのような事を呟く。

 蒼真はそんな母親の言葉を聞いて、時刻を確認する。

 時計を見て、もうこんな時間かと立ち上がり、「じゃあ行ってくる」と言って玄関へと向かった。

 蒼真が居間からいなくなると、母親は二匹の黒猫へと視線を向ける。

 

「さっきは心配してるなんて言ったけど、基本アナタ達が一緒にいるから大丈夫ね。それじゃあ、あの子のこと頼んだわよ。夜一、黒歌」

 

 

『うむ、任せておけ』

 

『任せるにゃ』

 

 

 母親の声に答えるような、そんな声が聞こえた。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「おはようございます、ソーマ先輩。いい朝ですね」

 

 玄関で靴を履き、鞄を手に持って、家を出た蒼真に、彼の家の前で待ち構えていた小柄な体型の白髪少女がペコリと頭を下げて挨拶をする。

 

 一見中学生にしか見えない、いや、最悪小学生にも見えるほど小柄でロリ顔な容姿を持つ彼女の名前は塔城小猫。

 蒼真の通う高校の後輩で、これでも立派な高校一年生だ。

 常に無表情であまり感情を表に出さないが、その非常に整った容姿から、男子だけではなく女子からもとても人気が高く、蒼真が通う高校のマスコット的存在である。

 

「おう、おはよう塔城。そうだな、雲一つない快晴だ……で、なんでここにいるんだ?」

 

「先輩と一緒に登校したかったので。それと私のことは小猫でいいです」

 

 小猫はいつも通りの無表情な顔で蒼真を見上げながら、そのような事を呟く。

 その言葉に蒼真は随分と懐かれたものだと苦笑いをする。

 

 最初に彼女と出会ったのは学校の食堂であった。

 その小柄の体のどこに入るのかというほど、モグモグと小動物のように口に頬張る姿を見た時は驚いた。テレビの大食い選手権の番組に出場すれば余裕で優勝できるのではないかと思ったほどだ。

 そんな小猫の食べっぷりに驚きながらも蒼真は空いている座席に座り自分の分の昼食を食べる。すると、そこで一つの視線を感じた。

 顔を上げてその視線の方に振り返ってみると、食事の手をやめた小猫と目があった。

 彼女は蒼真のことをじぃぃぃという擬音がつきそうなほど真剣に眺めていたが、暫くすると目線を逸らし、食事の続きを始めた。

 そんな彼女の態度に蒼真は不思議に思いながらも特に気にすることはなく、蒼真も小猫から視線を外し、食事の続きをとる。

 

 そしてその日の放課後、部活に所属していない蒼真は早々に教室を出て、下駄箱で靴を履き替え帰宅していると、帰宅途中に突如小猫が現れては、蒼真に近づきクンクンと匂いを嗅いで「やっぱり先輩からは懐かしい匂いがします」と小声で呟いた。

 

 理由はよく分からないが、その日から小猫とはよく話をするようになり、昼食も一緒にとることが増えた。

 同時にその日から男子たちからは嫉妬の目で見られる日が多くなり、蒼真の幼馴染とその悪友二人からは血の涙を流しながら襲撃してくるなど、面倒な日々が続いた。

 

 

「それにしても、今日はなんかいつにも増して眠そうな顔をしてるけど、大丈夫か?」

 

「はい、大丈夫です。依頼者が少し特殊な方でいろいろと面倒な依頼が多いですが、これも仕事のうちと割り切っていますから」

 

「そうか。大変なんだな、悪魔っていうのも」

 

 彼女、塔城小猫は人間ではない。いわゆる神話や空想上の生物として描かれる悪魔という種族だ。

 

 先日、蒼真は駅前でチラシ配りの女性から『あなたの願いを叶えます!』といった魔法陣の描かれた怪しいチラシをもらった。

 最初は宗教関係のチラシかとも思いすぐに捨てようかとも思ったが、女性から「騙されたと思って一度使ってみて」と言われ、取りあえずその日の夜に使ってみた。

 

 すると、そのチラシに書かれていた魔法陣が紅く輝いたかと思ったらそこから突然と小猫が現れた。

 蒼真はそのことに目を丸くしながら驚いた。召喚された小猫も蒼真の姿を確認して驚いたような様子であった。

 

 それから蒼真は小猫に詰め寄り、詳しい事情を訊ねる。小猫は困ったような表情を見せていたが、何かを決心したような顔をして事情を話してくれた。

 最初はとても信じられない内容であったが、小猫が証拠にと背中から蝙蝠のような黒い翼を出して、嘘ではなく、彼女が本当に悪魔であることを知る。

 

 その後、一通り話を聞き終わり、今度は依頼の話へと移り、小猫がどういった願いを叶えてほしくて呼び出したのかと訊ねてくる。

 

 だが、召喚しておいてなんだが、蒼真には叶えてほしい願いなどない。まさか本当に召喚されるとは思っていなかったので、何も考えていなかった。

 どうしようかと考えていたが、結局何も思いつかず、正直にただ興味本位で召喚してみただけだと小猫に話すと、彼女は特に怒った様子もなく、

 

「そうですか。では、何か叶えてほしい願いができたらまた呼んでください」

 

 といつもの無表情でそう言って、魔法陣の上に立つ。その際、

 

「それから今日話したことは内密にお願いします」

 

 と蒼真に言い、現れた時と同じく魔法陣が紅く輝き次の瞬間には小猫は転移していた。

 そんな当時のことを思い出しながら、蒼真は小猫とともに学校に登校した。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 私立駒王学園。

 それが蒼真や小猫が通っている高校の名前だ。現在こそ男女共学の高校だが、数年前までは女子高だった為か、今でも生徒は男子よりも女子の数の方が全体的に多い。

 発言力もいまだ女子の方が強く、生徒会もほぼ女子だけで構成されており、生徒会長も女子だ。そして悪魔の巣窟でもある。

 

 先ほど言った生徒会、そして小猫が所属しているオカルト研究部という部活。そこに所属している者は全員悪魔で、詳しい話を聞けばこの学園の創始者や理事長など学園のトップもほとんどが悪魔と関わりが深い存在であるとのこと。

 

 最初それを小猫から聞いたときは、妙に緊張してしまったが、別に知ってしまったからと言って取って食われるような事もなく、変に緊張していた自分がバカみたいだと思うほど、何事もなくいつも通りの日常を送っていた。

 

 まぁ、それはそれとして、

 

 

「おい、ソーマの奴、塔城さんと一緒に登校してきたぞ!」

 

「あの二人、最近妙に仲が良いと思ったがまさか付き合ってるのか!?」

 

「クソ、あのリア充が! 爆発しろ!」

 

「ソーマくんってもしかして小猫ちゃんみたいな子が好きなのかな?」

 

「そんな、小鳥遊くん×木場くん以外のカップルなんて認めないわ!?」

 

「いいえ! 木場くん×ソーマくんよ! 私はそれしか認めないんだから!」

 

 などと、周囲からそのような声が飛び交い、蒼真達はすごく注目されていた。

 只でさえ、男子達には小猫と仲良くしている姿を見られて嫉妬されているというのに、この一件でさらに面倒な事が増えそうだと内心溜息を吐く。

 ……因みに最後の二人については何も聞かなかった事にして、あえてスルーする事にしたようだ。

 

「ただ、一緒に登校してるだけで、こんなにも注目されるとはな……。さすがに予想外だな」

 

 彼等でこれなら、あの変態三人組に知られたらどうなるのか、それを考えて蒼真は再び溜息を吐いた。

 

「そ、そうですね。すみませんソーマ先輩。ご迷惑をおかけしてしまって」

 

 小猫は頬を僅かに赤くし、周囲の声を聞いて恥ずかしくなったのか蒼真から視線を外して俯く。いつものクールな無表情な姿とは違う小猫に周囲の男子達が騒ぐのが聞こえる。

 

「い、いや、そんな事はないぞ。別に迷惑なんて掛かってないから」

 

 いつもとは違う小猫のらしくない反応に、蒼真は一瞬ドキリと心臓が高鳴った。

 その後、誰にも聞こえないような声量で「……これがギャップ萌というやつか」などとどうでもいい事を呟いており、視線を小猫から外す。

 それから小猫とは、校門を抜けた学校の玄関で別れる。その際、小猫が蒼真に向かい、

「それじゃあ先輩。また食堂で」

 と僅かに笑みを浮かべながらそう告げて、彼女は校舎へと入って行く。

 蒼真もそのまま校舎へと入り、教室へと向かう。

 

 

 そして、教室の扉を開けた瞬間、三つの殺気を察知した。

 その殺気の元に視線を向けるよりも先に、

 

「「「うおおおおおおおおお!!! 死ねええええええぇぇソォォォマァァァァァァ!!!!」」」

 

 という心の底からの叫び声が蒼真の耳に届く。

 叫び声の方に視線を向けると、そこに予想通りの男子生徒三人が、目から血涙を流し蒼真の元へと全力疾走で駆け寄りながら、襲いかかってきた。

 

 蒼真は一度溜息を吐き、襲いかかってきた三人の突撃を冷静に回避する。

 三人は勢いよく全力で駆け寄った為、回避した蒼真に追撃をしかける事ができず、またその場に急停止する事もできず、彼等はそのまま三人仲良く壁に激突した。

「「「ぐばあっ!?」」」と同時に悲鳴を上げて倒れる彼等は、小猫とは違い、悪い意味での有名人である。

 

 彼等はこの駒王学園始まって以来の変態達で、女子更衣室の覗きや教室でのセクハラ談議など日常茶飯事であり、いつ警察のお世話になっても不思議じゃないほどの行いをしている。

蒼真は冷めた眼で彼等を見下ろしながら口を開く。

 

「イッセー、それに松田に元浜。お前等いい加減にしろよ。毎度毎度襲いかかってきやがって、一体俺が何したってんだよ?」

 

 蒼真のその言葉に三人はピクリと反応を示し、起き上がる。

 そして涙を流した目で睨み付けながら言葉を発する。

 

「何をしただと……? 今更とぼける気か!?」

 

「ソーマ! 貴様が我が学園のマスコット、塔城小猫ちゃんと最近異様に仲がいい事は既に調べはついている!」

 

「それだけでも許し難い大罪だが、さらに貴様は今日小猫ちゃんと一緒に登校してきたそうだな!」

 

「最早、貴様をこれ以上野放しにはしてられん! 今日こそ我々の手で制裁してくれる!」

 

「そういう事だ。覚悟しろよ、ソーマ。幼馴染だからって手加減しねぇぜ!」

 

 松田に元浜、そして幼馴染のイッセーこと兵藤一誠が、いつも以上の覇気を纏い、蒼真の前へと立ち塞がった。

 そんな三人の言葉に蒼真は、

 

「あのさ、別にお前等が羨むような事は何一つないからな。ただ、一緒に昼食とって、世間話をしたりしてるだけだ。それに今日だって俺からじゃなく小猫の方から一緒にって――」

 

 

「「「それが羨ましいんじゃボケェェェェェェェ!!!」」」

 

 

 三人は蒼真の言葉にバーサーカーと化し、結果的に火に油を注ぐ事になってしまった。暴走した三人は再び蒼真へと襲いかかっていき、蒼真はもう何を言っても無理そうだなと呟き、彼らと対峙した。

 

 

 ……因みにそんな彼等の争いはHRが始まるまで続いたという。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 その後、午前の授業が終了し、昼休みは約束通り食堂で小猫と昼食をとり、その事が原因で再び飽きずもせず、蒼真に襲い掛かってくる変態三人組をなんとか退け、午後の授業も終わり放課後。

 

 一誠達変態トリオは、女子剣道部を覗きに行こうとコソコソと打ち合わせをしており、それぞれその顔に大変いやらしい表情が浮かべられており、取りあえず彼らを放置しておくのはいろいろと危険だと判断し、覗きをやめるよう近づくも、

 

「えーい、黙れ! この裏切り者! お前の指図は受けんぞ!!」

「俺たちの唯一の楽しみを邪魔するな!!」

「今更仲間に入れてほしいって言っても手遅れだからな!!」

 

 などと、すごい剣幕でキレられ、彼らは覗きをしに女子剣道部を覗きに行った。

 そんな彼らにさすがに少しイラッときた蒼真は、女子剣道部員の一人に彼らが覗きに行ったことをチクり、そのまま帰宅した。

 

 

 

 その後、家に着くと母親が荷物の整理をしており、父親となにやら携帯で電話していた。

 そういえば、明日海外に出張する父親についていくという話を朝していたな、と思いだし、そのまま部屋の扉を開け、制服から私服に着替える。

 

 そして自室でのんびりと漫画の本を読んで過ごしていると、蒼真の携帯が鳴る。

 携帯を手に取り名前を確認すると、相手は一誠であった。

 女子剣道部員にチクッた事に対する文句かな、と当たりをつけて、通話ボタンを押す。

 

「なんだよイッセー、ボコられた文句でも言いに―――」

 

『ソーマ! やったぞ! ついに俺にも彼女ができた!!』

 

 蒼真の言葉を最後まで聞かず、一誠は通話越しでもわかるほどにハシャぎながら、蒼真へと報告する。

 その一誠の言葉に蒼真は、

 

「………、どうやら相当女子たちに絞られたようだな。今度腕のいい精神科か脳外科医を紹介してやるから、それまで強く生きるんだぞ」

 

『ちげェよ!! 何言ってんだ!! 本当に彼女ができたんだって!!』

 

「……一応聞いておくが、ゲームや妄想の類じゃなく、ちゃんと現実に存在するんだな?」

 

『当たり前だろ!? お前は俺をなんだと思ってんだ!! 今から証拠にその娘の写メ送るから待ってろ!!』

 

 そう言って一旦通話が途切れ、すぐに一誠の彼女という女子の写真が送られてきた。

 その写真には艶やかな長髪の黒髪に、スレンダーな体系の笑顔が似合う可憐な美少女が写っており、駒王学園の女子とは違う制服から、どうやら他校の生徒のようだ。

 そこまで確認したところで、再び一誠から電話がかかる。

 

『どうだ! 可愛いだろ!! 名前は天野夕麻ちゃんて言うんだけど、明日お前にも紹介してやるよ!』

 

「……そうか」

 

 蒼真は「罰ゲームなんじゃないのか?」と口から発せられそうになったその言葉を何とか飲み込む。電話越しで嬉しそうな一誠の声を聴いてさすがに確信もなく言えなかった。

 そして一誠との通話を終え、携帯の画面が再び、天野夕麻という女子の写真に戻る。

 

(……まぁ別にいいか。これはもうアイツの問題だし、彼女ができたことでアイツの変態行動も少しは収まるだろ。それに松田と元浜の襲撃もイッセーの方に集中することになるだろうから、暫くは静かに暮らせそうだ)

 

 そんなことを思いながら携帯をしまい、漫画の本の続きを読み進める。

 

 

 

 しかし、蒼真は知らなかった。

 この日を境に静かな暮らしとは程遠い、非日常が始まるという事を。

 

 

 



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大帝D×D 3話 天野夕麻

 

 

 

 

「天野夕麻です。よろしくお願いします」

 

 朝、学校への登校中に、他校の学校の制服を着た黒髪の美少女が、蒼真に向かってペコリと頭を下げて一礼する。

 

 夕麻と名乗ったその女子の隣では、蒼真の幼馴染である一誠が勝ち誇ったような笑みをその顔に浮かべており、蒼真へと自慢するような鬱陶しい視線を先程から向けていた。

 

「見ろ、ソーマ! 夢でも妄想でもないちゃんとした俺の彼女、夕麻ちゃんだ! どうだ、驚いたか!」

 

 一誠は上機嫌に笑いながら、蒼真へとそう言う。

 蒼真はそんな幼馴染の態度にいつもとは違う意味でウザいなと、心の中で呟き、面倒臭そうに溜息を一つ吐き、適当に言葉を合わせる。

 

「ああ、はいはいよかったな。末永くお幸せに」

 

「おう、俺は幸せになるぜ! 遂に念願の彼女ができたんだからな! あ、そうだ! なんなら今度の日曜にダブルデートでもしてみるか?」

 

「……それは、彼女のいない俺に対する当て付けか? 随分と余裕だなイッセー」

 

 彼女ができて完全に調子に乗った一誠は、蒼真へとそう言葉をかける。そんな一誠の問いかけに適当に流していた蒼真だったが、その言葉に僅かに殺意が湧く。

 そんな蒼真の態度に、一誠は不思議そうな顔をして口を開く。

 

「いないって、小猫ちゃんと付き合ってるんじゃないのか?」

 

 と、蒼真の隣で先ほどから無言で佇む小猫に視線を向けて一誠はそう訊ねる。

 

「前にも言ったと思うが、別に俺たちは付き合ってねぇよ。ただの友達だ」

 

 蒼真は一誠に向かってそう言い、隣にいる小猫に同意を求めようと視線を向けてみる。しかし、小猫は何も言わず、ただ無言で一誠の彼女である夕麻を警戒しているかのように睨み付けている。

 対する夕麻も小猫に向けて引き攣った笑みを浮かべており、妙な空気が流れていた。

 

「……どうしたんだ、小猫?」

 

 そのあからさまな小猫と夕麻の姿に蒼真は疑問に思い、小猫に小声で訊ねる。

 一誠の方も漸く二人の間に流れる微妙な空気に気付いたのか、夕麻へと同じく問いかける。

 

「……いえ、なんでもありません」

 

 小猫は蒼真にそう返事をするも、夕麻への警戒の視線は解かない。

 夕麻の方も「なんでもないの、大丈夫だから」と一誠に返事をして、視線を小猫から外すと、一誠の腕に自分の腕を絡める。

 

「イッセーくん、早く行こ」

 

「あ、う、うん」

 

 夕麻はグイグイと一誠の腕を引っ張り、早く行こうとせがむ。

 突然の夕麻の態度に一誠は気押されながらもそう返事を返し、学校へ向けて歩を進める。

 そんな彼ら二人の背中を眺めながら、蒼真は隣で未だ夕麻を睨む小猫に視線を向ける。

 

「俺たちもそろそろ行くか」

 

「……そうですね」

 

 蒼真は先ほどからの小猫の態度に多少疑問に思うも、訊ねてもまた同じ返答が返ってきて教えてくれないだろうな、と思いながら、別にいいかと、疑問を棚上げにして、思考を切り替える。

 そして蒼真は仲良く腕を組んで歩く一誠と夕麻を視界に収め、改めて思う。

 

(………イッセーのやつ随分と舞い上がってるな。しかし、あの天野夕麻ってやつも相当な変わり者だな。イッセーの悪名ぐらい知っててもおかしくない筈だが……、それともやっぱりただの罰ゲームだったってオチか? ……まぁどちらにせよ普段のアイツの変態的な行動を知れば別れるのは時間の問題か)

 

 蒼真は内心で彼等が別れる事前提で話を進めていき、いざとなれば一誠にフォローぐらい入れておいておくかと考えていた。

 

 そんな蒼真の隣では、小猫が夕麻の背中を睨み付けながら、

 

 

「……なんで堕天使がここに?」

 

 

 と、誰にも聞こえない小さな声で呟いた。

 

 

 

 

 

 そして、そんな彼等四人を屋根の上から見下ろしていた黒猫が二匹いた。

 蒼真の飼い猫である夜一と黒歌だ。

 

『うむ、どうやらあの堕天使の狙いはソーマでもお主の妹でもなく、あの助平顔をした男のようじゃな』

 

『……そうね』

 

『最初ソーマに堕天使の気配が近づいた時は何事かと思ったが、あの様子ではソーマに近づいたのはただの偶然のようじゃのう』

 

『……そうね』

 

 夜一の言葉に黒歌は生返事をして、蒼真の隣を歩く小猫を少し寂しそうに顔で見下ろしている。

 そんな黒歌の姿に夜一は呆れたように溜息を一つ吐き、口を開く。

 

『なんじゃ、まだ妹に会う覚悟ができてないのか。お主は別に何も悪い事はしておらんじゃろう。パッパッと行って妹に誤解を解けば済むものを。お主は妹絡みだと妙な所でヘタレじゃのう』

 

『う、うるさいわね!? そんな単純な話なら何も苦労なんてしないわよ! これでも一応冥界で指名手配されてる身なんだから、慎重になるのは当然でしょ。それにいつも思うけど夜一は大雑把過ぎるにゃ』

 

 彼女達は遠くなっていく蒼真と小猫の背中を眺めながら、そのような会話を繰り広げていた。

 

『まぁなんにせよ、ソーマに危険が及ばぬのなら問題はない。儂らも帰るとするかの』

 

 夜一がそう言い、黒歌も彼女の言葉に頷き、二匹の黒猫は踵を返し、立ち去った。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 学校の午前授業が全て終了し、生徒達の喧噪が校舎の中に響き渡る昼放課。

 小猫は校舎の裏手へと移動していた。

 

 木々に囲まれるそこには旧校舎と呼ばれている、現在は使用されていない古い建物が存在している。小猫はその建物の中へと入り、二階に上がる階段を上り、二階の奥まで歩を進める。

 

 そして、彼女は『オカルト研究部』というプレートがかけられたとある教室の前まで行き、引き戸を開き室内に入っていく。

 中に入ると、そこには、床、壁、天井と、室内の至る所に多数の魔法陣と文字が描かれており、少し不気味な部屋という印象を中に入った者に抱かせるだろう。

 

「あら、小猫。昼食時にあなたがここに来るなんて珍しいわね」

 

 小猫が室内に入ると、オカルト研究部の部長であり、小猫の主であるリアス・グレモリーがそこにいた。周囲には副部長の姫島朱乃と木場祐斗が控えていた。

 

「……部長の耳に入れておきたい事が」

 

「なにかしら?」

 

 小猫の言葉にリアスは耳を傾ける。

 そして、小猫は今朝方の堕天使についての報告を行う。

 小猫の報告を聞き終わったリアスは椅子にもたれ掛かり、腕を組む。

 

「そう、堕天使がうちの生徒に接触を……」

 

 リアスはそう呟き、一端目を閉じて堕天使と報告に合ったその生徒、兵藤一誠との関係について考える。

 

 その堕天使と一誠がグルである可能性。

 何も知らない一誠を何かに利用しようと企んでいる可能性。

 一誠が所持しているかもしれない神器(セイクリッド・ギア)を狙っている可能性。

 もしくは本当に一誠に一目惚れをして近づいた可能性。

 

 頭の中でありとあらゆるいろいろな可能性を思い浮かべては消えていく。

 

「その堕天使は一体何が狙いでその生徒に近づいたのでしょうか?」

 

「さぁ、可能性はいろいろとあるけど、今の段階では判断がつかないわね。でも、これから何かが起こるという事は確かね」

 

 隣に控えていた朱乃の疑問にリアスはそう返答して、考えを纏める。

 そして視線を小猫と木場の二人に向けて口を開く。

 

「小猫、祐斗。取り敢えずはあなた達二人で、その堕天使が接触してきたという兵藤一誠という生徒の監視をお願い。もし堕天使の狙いがその子の神器(セイクリッド・ギア)だった場合はこちらで保護するわ」

 

「はい!」

「……分かりました」

 

 二人が了承の返事をして、リアスの指示通りに一誠を監視する為に部室を出ていく。

 そして部室にはリアスと朱乃の二人だけが残った。

 

「朱乃、お茶を淹れてきてもらえるかしら?」

 

「はい、部長」

 

 リアスは視線を朱乃方に向けてそう言葉を発する。

 横目でお茶を淹れに行った朱乃を視界の端に収めながら、リアスは机の上に置かれたチェスの駒を弄る。

 

「……何が狙いかは知らないけど、この街で好き勝手な事はさせないわ」

 

 ポツリと彼女はそう呟き、これからの事について再び思考を始めた。

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 放課後。

 運動場で運動部の掛け声が響き渡る中、廊下を歩く兵藤一誠はいつになく上機嫌だった。

 それもその筈、彼は遂に念願の彼女ができたのだから。

 廊下ですれ違う全ての男子に自慢したいほど、今の彼は浮かれていた。

 そして一誠は友人である松田と元浜の二人に夕麻を紹介した時の彼等の反応を思い出しては、思い出し笑いをする。

 

 彼等は一誠に彼女ができた事を知った時、最初は全く信じていなかったが、携帯に入っている写メとメアドを見せ、証人に蒼真にも協力してもらい、漸く彼等は一誠に彼女ができた事を知る。

 その時の彼等は、

 

「「う、うそだああああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁあ!!?」」

 

 と、大変ショックを受けたみたいで、そのまま泣き叫びながら、どこかへ消えて行った。

 

 しかしその後、すぐに戻って来ては「この裏切り者!?」「死ねぇぇぇ!?」と全身武装した彼等は一誠へと襲いかかるという暴挙に出るも、一誠の心の中には自分が勝ち組だという自負があり、心のどこかに余裕があった。

 そして現在一誠は、学校の玄関を出て、校門の前で夕麻を待っている。

 

「あ、イッセーくん!」

 

 と、そこで待ち人である夕麻が現れる。彼女は一誠の姿を確認すると、駆け足で彼の元に近づいた。そして、息を整えると一誠の顔を見上げる。

 

「ごめんね、イッセーくん。待った?」

 

「ううん、大丈夫。俺も今来たところだったからそんなに待ってないよ」

 

「そう、よかった」

 

 一誠の返答に夕麻はホッと一息つく。

 そんな彼女の態度を見て、一誠は彼女ができた時に自分が言ってみたい台詞第一位がうまく言えた事に内心でガッツポーズをとる。

 

「ねぇイッセーくん。ちょっと寄り道して帰らない?」

 

「寄り道?」

 

「うん、ダメかな?」

 

「全然そんな事ないよ! うん、寄り道して行こうか」

 

 夕麻の言葉に一誠は二つ返事で了承する。

 そして二人は腕を組み、歩を進める。背中から感じる男子達の嫉妬と驚愕の視線を浴びながら。

 

(ふっふっふ、まさか彼女ができるだけでこんなにも人生が変わってみえるとは思わなかったぜ。今度の日曜に夕麻ちゃんをデートにでも誘ってみようかな?)

 

 そのような事を考えながら、一誠は背後の男子達、特にこちらを血の涙を流しながら睨みつけている松田と元浜の二人に向けて、「お前らも早く彼女ぐらい作れよ」と余裕の態度で言い放ち、視線を彼らから夕麻へと戻す。

 背後では、発狂したかのように叫び声を上げている二人の声が聞こえたが、一誠は彼らを無視して歩いて行った。

 

 

 

「あ、イッセーくん。あの公園に寄ろ」

 

 暫くの間、二人で楽しそうに会話をしながら歩いていると、夕麻が近くの公園を指さしてそのような事を言ってくる。

 

 二人はそのまま公園へと入ると、そこで一誠は自分達以外誰も人がいない事に気づく。

 いつもなら小学生ぐらいの子供達が遊んでいたり、お爺さんお婆さん達がウォーキングをしていたりとそれなりに騒がしい公園の筈であるが、今は不気味なほど静かであった。

 

 そのことに一誠は多少疑問に思いながらも、特に気にする事もないかと、疑問をその頭の中から追いやり、夕麻に引っ張られる形で公園の奥へと入っていく。

 そして、噴水広場の前まで移動すると、夕麻は一誠と組んでいた腕を放して、噴水の近くに移動する。

 そして一誠の方へと振り向き、口を開く。

 

「ねぇ、イッセーくん。いきなりだけど私のお願い聞いてくれるかな?」

 

「お願い? ……うん、勿論いいよ! なんでも言ってよ。俺にできる事なら何でもするから!」

 

 いきなりの夕麻のお願いに首を傾げた一誠だったが、すぐに了承して先を促す。

どうやら、一誠の頭の中ではエッチな方向へと話が進んでいる為か、その顔はだらしなく歪められていた。

 そんな一誠の態度に夕麻はにこっと笑みを浮かべて言う。

 

 

 

「そう、じゃあ………、死んでくれないかな?」

 

 

「………………………、え?」

 

 

 夕麻が何を言ったのか理解できなかったのか、一誠はすぐには反応を返せなかった。

 そして、夕麻の言葉をもう一度聞き返そうと、口を開いた時、

 

 バサッと何かが羽ばたくような音が聞こえた。

 

 音の方に視線を移すと、そこには、カラスのような真っ黒な翼を生やし、先ほどの可愛らしい笑みとは似ても似つかない残虐な笑みを浮かべた夕麻の姿があった。

 

 

 



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大帝D×D 4話 堕天使

 

 

 

 

 

 バサッバサッと羽ばたきの音が、不自然なほど静かなその公園の中に響き渡った。

 羽ばたきの際、カラスのような黒い翼の羽が宙を舞い、呆然とした表情を浮かべている兵藤一誠の足元に落ちる。

 

(なんだ、あれ? 翼? え、なんで夕麻ちゃんの背中から……? 何かの演出? いや、それよりもさっき夕麻ちゃんは、俺に一体…何って言った……?)

 

 一誠は混乱する頭の中で、そのような事を考え、冷酷な笑みを浮かべる夕麻に視線を向けて、ゴクリと生唾を呑み込むと、口元を引き攣らせながら訊ねる。

 

「え、えーと、ごめん夕麻ちゃん。もう一度言ってくれないかな? なんか今日の俺、随分疲れが溜まってるせいか、幻覚や幻聴が起きてるみたい」

 

 ハハハとそう苦笑いしながら、一誠は夕麻へとそう問いかけると、彼女はなんとも冷たい、大人っぽい妖艶な声音で応える。

 

「死んでくれないかな? って言ったのよ。だから、心配しなくてもあなたの脳はちゃんと正常に働いているわ」

 

 夕麻はそう言い、固まる一誠に向かいさらに口を開く。

 

「それにしてもあなたも運が悪いわね。本当ならもう少しだけあなたとの”ままごと”に付き合ってあげてもよかったんだけど、悪魔と接触しちゃう想定外な事態になったせいで幸せな時間はもう終わり、残念だったわね」

 

 まぁ別に私個人はどっちでもよかったけど、と呟き、夕麻はその手に一本の光の槍を生成し、一誠の方に向ける。

 そして何がなんだか理解が追い付いていない一誠に向けて言う。

 

「予定よりも早くなっちゃったけど、あなたが私達にとって危険因子なのは事実。だからここで殺すけど、恨むならその身に神器(セイクリッド・ギア)を宿させた神と、人間という愚かしい種族に生まれ落ちたあなたの運を恨む事ね」

 

 そう言い終わると夕麻は、一誠が何か反応を示すよりも早くにその手に持つ光の槍を、ヒュッという風切り音がするほどの速度で投擲する。

 

 夕麻が放ったその光の槍は、そのままその場で佇む一誠のお腹目掛けて飛んでいき、その身を光の槍に貫かれる―――寸前に、横からすごい速度で現れた影によって弾かれる。

 

 

 

 ガキィィン! という金属音がその公園へと響いた。

 

 

 

「――なっ!?」

 

「――ッ!? ……え? あ、」

 

 

 突然の乱入者に槍が弾かれた事に夕麻は驚き、一誠はその金属音にビクリと体を震わせ、乱入者によって光の槍が弾かれた事に漸く気付く。

 

「悪いけど、そこまでにしてもらうよ」

 

 そこでその乱入者であり、一誠の命を救ったその少年が口を開き、夕麻を睨み付けている。その少年の姿に一誠は見覚えがあり、ポツリとその者の名前を零す。

 

「……き、木場?」

 

 そこにいたのは一誠の通う駒王学園のイケメン王子という異名を持つ、一誠とは違い女子達から盛大な人気を誇っている、木場祐斗がそこにいた。

 

 現在木場はその手に西洋剣のような剣を持っており、どうやらその剣で光の槍を弾いたようだ。

 そして木場は一誠からのその呟きに、一端夕麻から視線を外して混乱する一誠の顔に視線を向けると、いつも通りな爽やかな笑みを浮かべて言う。

 

「兵藤くん、悪いけど少し下がっててくれるかな?」

 

「あ、ああ」

 

 にこっと笑う木場に一誠は状況が全然理解できないながらも素直にそう頷く。

 そして、木場と対峙していた夕麻は、木場が彼女から一瞬目を離したその隙を狙い手に再び光の槍を生成する。

 

 

―――隙だらけよ、このマヌケが。

 

 

 ニヤリとその顔にあくどい笑みを浮かべて内心でそう罵ると、夕麻はそのまま木場に向かい襲いかかろうとする。

 しかしそこで、夕麻の背後から現れた小猫が拳を握り、がら空きの背中目掛けて不意打ちのストレートを放つ。

 

「ッ!!?」

 

 夕麻は寸前で背後の小猫の存在に気付き、その顔を歪め、盛大に舌打ちをすると、木場への攻撃を即座に中止して小猫から放たれたその拳をギリギリで躱し、背中の翼を広げ、空へと飛び立つ。

 

 バサッバサッと羽ばたき音がその場に響き、上空へと退避した夕麻は憎々しげに木場と小猫の二人を睨み付ける。

 

「こ、小猫ちゃんまで、なんでここに?」

 

 一誠は小猫の姿に僅かに目を見開きながらそう言うと、その声に小猫は一瞬だけチラリと一誠の方に視線を移すと、特に何かを言う訳でもなく、すぐに上空でこちらを睨む夕麻の方へと視線を向け直す。

 そこで木場が油断なく夕麻の一挙一動を見ながら、口を開く。

 

「二対一の状況だけど、まだやる気かい?」

 

 木場のその言葉に夕麻は敵意と殺意の混ざった眼で木場を射抜くも、現在の自分の置かれた状況を理解している為か、睨むだけで再び襲いかかるような事はしない。

 

 一対一なら兎も角、二対一のこの状況では夕麻の方が分が悪い。さらに他に悪魔が現れれば夕麻に勝ち目は確実になくなるだろう。

 そこまでを思考した彼女はその顔を歪める。

 

「……こんな事ならドーナシーク達を連れてくるべきだったわね」

 

 夕麻はそのような事をぼやき、一誠を殺すという目的も達成できず宿敵である悪魔に背を向けて逃げる事になるというのは彼女のプライドが許さない。

 

(だけど、今は大事な計画の前段階。ここで悪魔達と派手に揉めると計画にいろいろ支障をきたす恐れがあるし、今はまだまずいわね)

 

 夕麻は内心でそのような事を呟き、計画とプライドを天秤に掛け、憎々しい限りだがここは一端引く事を選んだ。

 

「……取り敢えず、今日の所は引いておくわ」

 

 夕麻は木場と小猫の二人にそう言い、次に視線を一誠の方へと向ける。

 

「命拾いしたわね、イッセーくん。でも次に会うような事があったら、その時は確実にあなたを殺すわ」

 

 そう言葉を吐き捨てるように言い、彼女はそのままどこかへと翼を羽ばたかせて飛んで行った。

 

 一誠は去って行く夕麻の後ろ姿を呆然とした表情で眺めていたが、そこで漸く我に返ったのか、近くにいた木場に詰め寄る。

 

「お、おい、これは一体どういう事だよ! なにがなんだかサッパリで全然訳が分からねぇよ!?」

 

 一誠の問いかけに木場は去って行く夕麻から一誠へと視線を移す。

 

「取り敢えず、詳しい事情の説明とかは全部僕達の部長がしてくれると思うから、まずは僕達と一緒に着いてきてほしい」

 

「……部長?」

 

 木場の言葉に一誠は訝しがりながらも聞き返す。

 そして木場はそんな一誠の言葉に頷き、口を開く。

 

 

「そう、僕達オカルト研究部の部長、リアス・グレモリー先輩がね」

 

 

 

 

 

 ☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

 日が傾き、夕暮れの太陽が町を照らす時間帯。

 小鳥遊蒼真は商店街で買った、食材の入っている買い物袋を手に持ちながら、帰宅していた。その際、小腹が空いた蒼真は袋の中に入っている饅頭を口に放り、食べ歩きという行儀の悪い事をしながら歩を進めていた。

 そこで喉が渇いた為、近くの自販機まで移動し、小銭を入れてジュースを取り出す。

 取り出したジュースの中身を一気に飲み干してゴミ箱に空き缶を捨てて、帰路に着こうとしたその時、

 

 蒼真の前方から紺色のコートを着用し頭部にはシルクハットを被った男が現れ、その場に立ち止まっては蒼真へと視線を向ける。その目はどこか睨むように蒼真を見ていた。

 

(ん? なんだこのオッサン? なんかすごいガン見してるんだが、…もしかして親父の知り合いかなんかか?)

 

 男の態度に蒼真は不審に思いながらも取り敢えずは訊ねてみる。

 

「……えーと、なんすか?」

 

 蒼真がそう問いかけるも、男は無言を貫くばかりで口を開こうとせず、蒼真の方へと静かに歩を進め近づいてくる。

 

 その事に蒼真はまさか不審者じゃないだろうな、などと思いながら、無言でこちら徐々に近づく男を見ていると、どうにもそれっぽい事に気付き、男と距離を取る為に一歩後ずさりしつつ、そのまま逃げる準備を始めた時、

 

「おかしなものだな。気配は人間のそれだが、貴様からは何故か胸糞悪い悪魔の匂いがするぞ。となると、貴様は悪魔の関係者か」

 

 男はそこで立ち止まり、蒼真を睨み付けながらそう言葉を発した。

 蒼真は悪魔という単語にピクリと反応する。悪魔の存在を知っている事から目の前にいる男がただの人間ではないと、自分から話しているようなものだった。

 

「という事は、オッサンも悪魔の関係者か?」

 

 蒼真がそう男に訊ねると、男は先程よりも鋭い視線で蒼真を睨む。

 

「貴様、私が悪魔の関係者だと……? 本気で言っているのか?」

 

「え、違うのか?」

 

 男の言葉に蒼真は首を傾げながらそう問うと、男はその瞳に殺気を乗せて蒼真を射抜くと、バッと男の背から、黒い翼が出現した。

 

 そこで蒼真は男の翼が、前に小猫に見せてもらった翼と種類が違う事に気付く。

 小猫の持っていた翼は、蝙蝠のような翼だったのに対し、目の前にいる男の背から生えている翼はカラスのような形をしていた。

 

「アンタ、その翼……悪魔じゃないのか……?」

 

 蒼真は困惑しながらもそのような事を言うと、その言葉に男はさらに殺気を強める。

 

「どうやら貴様は何も知らんようだな。……うむ、なるほど。貴様は悪魔と契約をしているだけの者か。それならば悪魔の事は知っていても、私のような存在を知らないのも合点がいく。ならば、貴様はここで殺しても特に問題はなさそうだな」

 

 一人でそう納得し、男はその手に光の槍を生成する。

 ブゥンという重たい音が空気を揺らした。

 蒼真は男の手に現れた光の槍に目を丸くして驚くも、男がそのまま蒼真に向かい光の槍を投擲しようとする動きを見て、蒼真は反射的に横に飛んで回避しようとしたが、

 

「ぐはぁっ!?」

 

 完全には回避できず左の脇腹に男が投げた光の槍が刺さる。

 蒼真は刺さっている光の槍を見て、それを抜こうと手に持った瞬間、その槍は自動的に消えた。そして消えると同時に左の脇腹から血が噴き出す。

 ドクドクと流れる血を手で押さえ、蒼真はあまりの痛さに両膝をその場に着いて呻き声を上げる。

 

「急所は外れたか…。しかし貴様等人間にとってはその程度でも相当な深手なんだろう? ならば次は避けられまい」

 

 男の言葉に蒼真は苦しそうに顔を歪めながら男を睨む。

 そんな蒼真の様子に男は口元に冷笑を浮かべる。

 

「しかし知らなかったとはいえ、下賤な悪魔如きと一緒にされたままというのも胸糞悪い話だ。だから貴様には手向けついでに特別に教えておこう。

 我が名はドーナシーク!! 至高で高貴なる堕天使の一人だ!! この私の手によって直々に殺される事をせいぜいあの世で自慢するんだな」

 

 そして男、ドーナシークは再びその手に光の槍を生成し、苦しそうに顔を歪めながらもドーナシークを睨む蒼真に向かい構える。

 そんなドーナシークの姿に蒼真は内心でクソッタレと悪態をつきながら、随分と呆気ない最期だったなと、そのような事を思いながら、ドーナシークを見据える。

 

「さらばだ、人間よ」

 

 ドーナシークが呟き、光の槍を投擲しようとしたその時、

 

 

 

 

 

「――そこまでにしてもらおうかのう、堕ちた天使よ」

 

 

 

 

 

 どこからともなく聞こえた女性の声。蒼真やドーナシークがその声の元に視線を向けるよりも早く、ドーナシークの元にまるで瞬間移動でもしたかのように一瞬で現れた褐色肌に紫色の髪をポニーテールにしたグラマラスな美女が現れた。

 

「なっ!?」

 

 その突然の事に目を見開いて驚くドーナシーク。

 対する褐色肌の美女はそのままドーナシークを勢いよく蹴り抜く。

 ドーナシークは行き成りの事に防御や回避はおろか、何の反応も示す事も出来ず、その蹴りをまともに受けてそのまま吹き飛び、壁に激突する。

 

 そしてそのダメージから苦しそうに吐血を吐くドーナシークを尻目にその女性は倒れる蒼真に近寄り、心配そうな雰囲気を醸し出して彼を見下ろす。

 

 

「すまぬ、ソーマ。少々遅れた」

 

 

 その女性は蒼真にとっては全くの見覚えのない女性であったが、見下ろす女性と目が合って、この人は大丈夫だと、妙な確信と安心を覚え、蒼真の意識はそこで途切れた――。

 

 

 

 

 

☆☆☆☆☆

 

 

 

 

 

「う、………ん。………、ん?」

 

 

 蒼真の意識が徐々に覚醒していき、重い瞼を開けると、彼の視界には闇色の空が映った。

 星一つも存在しない夜の闇の中に三日月型の白い月が爛々と輝いている。

 その白く輝く三日月を蒼真は暫くの間、呆然と眺めていたが、次第に意識が完全に覚醒すると、先程までの出来事を思い出す。

 

 そして蒼真はガバッとその身を起こし、ドーナシークと名乗った堕天使と、蒼真を助けた褐色の女性がどうなったかと周囲に視線を向ける。

 

「え? ……なんだ、ここ?」

 

 周囲を見渡していた蒼真は、ついそのような言葉が口から漏れる。

 

 現在、彼の目の前にある光景は先程まで見ていた住宅街ではなく、どこまでも続く白い砂漠だけが続いており、その砂漠から所々枯れ技のような白い枝が砂漠から生えていた。

 

 突然の出来事に混乱する蒼真だったが、この白い砂漠はどこかで見た事があると、気付くと、頭を抑え、どこで見た光景なのかを思い出そうと頭を捻る。

 

「見覚えのある砂漠だ。でも、一体どこで……?」

 

 声に出してその疑問を口に出して言うと、背後から掛けられた言葉に蒼真の思考が停止する。

 

 

 

 

 

「――フン、漸くお目覚めか。随分と呑気なものじゃのォ」

 

 

 

 

 

 その声を聞いた瞬間、蒼真は思い出した。この白い砂漠の事を。

 

 そう、ここは蒼真の夢の中に出て来た『虚圏(ウェコムンド)』と呼ばれる場所だ。

 そして背後から掛けられた声にも聞き覚えがあった。

 

 蒼真はおそるおそる声の方に振り返ってみると、そこには骨状のパーツで組み立てられた玉座のような椅子に腰かけた老人がいた。

 

 その身に白い死覇装を纏い、頭には王冠のような仮面の名残を着け、右目付近や左頬には傷が存在しており、その身から溢れる覇気は周囲の者を威圧するような圧迫感が存在する。

 老人は蒼真を見下ろしながら、眉を顰め口を開く。

 

「それにしても、なんじゃあの体たらくは。あの程度の蟻如きに遅れを取りおって。それでも儂の力を継承する者か」

 

 そこには、いつも蒼真の夢に出てくる、一人の老人、『老い』という死の形を司る第2十刃(セグンダ・エスパーダ)、バラガン・ルイゼンバーンがいた。

 

 

 



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