英雄達の王 (げこくじょー)
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気づけばトップに君臨していた

『転生』というものに、少なからず憧れを抱いていた。

 

普通の輪廻転生ではなく、創作物などである記憶を保持したまま、生まれ変わるアレだ。

 

それだけでも強くてニューゲームもいいところだが、これに『特典』なるものを得れば、鬼に金棒。二次創作物で転生といえば、大部分を占める要素の一つで、ありえない事だとわかっていても、憧れを抱いて然るべきだった。

 

だが、それは憧れだけで終わらなかった。

 

普通に眠り、目を覚ました時にテンプレとも言える『見知らぬ場所』にいて、そこで神様と出会い、死んだと教えられた。曰く、病死らしいが、奇跡的に苦しまなかったため、気づいた時には手遅れだったそうだ。

 

それで、若くして死ぬのは不憫という事で、転生させてあげましょうと。

 

そうですか、と努めて冷静に返したものの、内心狂喜乱舞。生きてるうちを含めて、その瞬間が一番嬉しかった。

 

……そう。その時点までは。

 

転生しますか、という問いにイエスと返した瞬間、足元に穴が空いた。

 

最後に聞いたのは、『世界と特典はこっちで決めるから』の一言。そりゃ、無茶苦茶な能力を指定するとマズイのはわかるけど、世界ぐらいは選ばせてくれと突っ込む間もなく、次に目を覚ました時は見知らぬ街にいた。

 

まぁ、この手の創作物ではよくあること。と割り切ってみたら、次の瞬間、頭の中に大量の情報(ナニカ)が入ってきて、ひっくり返った。処理能力を余裕で超える情報量に脳みそがオーバーヒートを起こしたに違いないと、運ばれた病院で気がついた。

 

そしてその情報というのは、特典のもの。

 

一瞬で情報多さでひっくり返るほどのもの。何かと考えたらなんと『王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)』だった。

 

その能力は一言で表すと『めちゃでかい倉庫』。

 

これのどこが強いのかと、知らないやつは思うが、これがまた持ち主次第で凄いことになる。

 

これの所有者が人類最古の王。英雄王ギルガメッシュで、世界にある財宝を全て手にしたために、その倉庫の中にはありとあらゆる財宝があり、武器から宝石まで超一級の代物が存在する。最終的には時間軸も無視して全ての原点があるという『ただのデカイ倉庫【哲学】』になるぐらいだ。そして持っていないものでも、一度宝物庫に入れれば、記憶したことになり、いつでもとり出せる。所有者次第ではものすごい特典なのだ。

 

もちろん俺なんかに渡しても、意味はないわけだが、そこは神様の計らいというやつで、中身はギルガメッシュ仕様で、その内容を脳みそに無理矢理叩き込んだわけだ。お蔭でキャパオーバーで街中で卒倒した挙句、二度目の昇天を果たしそうになったのは、この際目を瞑ってあげよう。だってアレ、認識してないと取り出せないらしいから。

 

兎にも角にも、世界次第ではチートもいいところの俺は、住所不定かつ身元保証人がいないということもあり、夜に駄賃代わりの宝石だけ枕元に置いて、こっそり脱走。一先ずその街から離れた。ここまでが転生初日。より正確に言うなら、転生してから三日の話。三日間、意識を失ってたらしいので。

 

特にこれといったアテもなく、どこに居を構えるかと考えながら歩いていた時━━━奴は現れた。

 

「━━━その並々ならぬ気配。只者ではないと見た」

 

どこかで見たことのある学生服っぽいものを着たそいつは、立ち塞がるように俺の前に立っていた。

 

なんか変なのが出てきた。

 

そう思って、スルーしようとしたら、腕を掴まれ一言。

 

「俺と一緒に、人間の限界に挑んでみないか?」

 

「いえ、結構です」

 

即座に断った。

 

断ったはずなのに、そいつ━━━もとい曹操は諦めなかった。ていうか、曹操かよ、お前。

 

ここでわかってしまったのが、この世界のこと。どうやらこの世界は『ハイスクールD×D』で、そのキャラの一人。『禍の団(カオス・ブリゲード)』にある派閥の一つ、英雄派の頭に目をつけられたようだった。尤も、現時点では曹操一人で、その派閥も存在しないわけだが。

 

しつこく粘られ、基本的に強く拒絶できない俺は一先ず行動を共にし、なあなあで過ごしてきた。

 

人間の限界に挑む、とか訳のわからない事はともかく、英雄派を作る気なのか、古今東西様々なところに出向き、『神器(セイクリッド・ギア)』と呼ばれる特殊な力を宿し、世間から迫害されてきた人を仲間に迎え入れた。

 

理由はともかく、一応は人助け。その辺りについては協力していた。後のことを考えると手伝わないのが正解なのだろうが、彼ら神器所有者にとっては救済に等しい行為なので、目をつむってあげた。

 

テロリズムに走ることなく、そうやって神器所有者の救済に奔走すること四年。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「おはよう、ギルガメッシュ……どうした?酷い顔をしているようだが」

 

……何故か、英雄派のトップに召し上げられていた。

 

あるぇ〜?おかしいでござるよ?

 

曹操がテロリズムに走らないように牽制しつつ、神器所有者の救済のみに尽力していたら、いつの間にか、英雄派のトップになっていた。

 

何が起こったのか、さっぱりわからないです……。

 

俺の財産のごく一部をぶっこんで作り上げた拠点には、千を超える神器所有者が集い、日々研鑽を積んで神器の能力を高めている。ほんの一握りだが、禁手(バランス・ブレイカー)に至るものも。まぁ、一つのパワーアップだ。

 

そんな彼らの目的は人間の限界に挑戦するために、人外に喧嘩を売る━━━。

 

「まぁ、こと君に限って体調不良はないだろう。数年共にいるが見たこともない。今日も『人間世界の平穏』目指して、頑張ろうじゃないか」

 

━━━ではなく、『人間世界の平穏』が目標であったりする。

 

曹操が野望を話すたびに説き伏せること百数回。

 

その結果、曹操の野望である『人外と闘って人間の限界に挑戦』が『人外の手から人間を救う』に方向転換された。なんでこうなったのか、話した内容を特に覚えていない俺からしてみれば、首を傾げるところだが、良い傾向なので指摘はしていない。

 

問題なのは、結果として『禍の団』には所属していないものの、英雄派なる組織は立ち上げられていることだ。

 

因みに創設者も俺にされているし、特に名前の決まっていなかった俺はその場のノリで『ギルガメッシュ』と名乗ったことから、一部の人間を除いて、『英雄王』と呼ばれる始末。最初は恥ずかしさのあまりその場でのたうち回りそうだった。よくもまあ、曹操達は自分の偉大な先祖の名前を呼ばせていたもんだ。地味に中二病なのだろうか。

 

いや、一種のボランティア団体じみているのはいいよ?人のためになっているわけだし。

 

ただ、その為に『悪魔や堕天使などの人外は滅ぼすべき』っていうのはどうにかならないものか。

 

確かに彼らが人間を不当に扱っているのに不満があるのはわかる。とはいえ、地力で彼らに勝てるものはごくわずか。総戦力ですら、何千分の一なのに、勝てるわけはない。そもそも俺、人外と闘ったことないし。他の面子はあるんだけど。

 

だから、俺としては『滅ぼす』のではなく、一定以上の評価を得て、うかつに手を出せないようにすることだ。出来れば、三大勢力の和平交渉の席に立ち会って、神器所有者を勝手に危険と判断して殺したり、問答無用で自陣営に引き入れるのをやめさせる約束をしたいところだ。

 

「曹操。先日言っていた神器所有者の所在は?」

 

「ああ。大まかな位置は絞り込めた。日本の『駒王』と呼ばれる町だ」

 

「……何?」

 

え?駒王?そこってアレじゃね?主人公がいるところじゃね?

 

「君が訝しむのもわかる。あそこはグレモリーの領地だ。既に手に落ちている可能性もあるが……もしまだなら行かないわけにもいかないだろう」

 

まぁ……確かに。それにまだ主人公だと決まったわけじゃない。同じ町に偶々見つかっていない神器所有者がいただけかもしれない。

 

「名前は木崎太一。駒王学園の一年生。神器自体はまだ発現はしていないようだ」

 

そう言って、写真を見せてくる曹操。

 

ほっ。兵藤一誠って言われたらどうしようかと思った。

 

しかし、駒王か……入るなら慎重にかつ迅速に事を済ませるべきだな。

 

「……俺が行こう」

 

「っ……君が直々にか?それ程の神器だと?」

 

曹操が息を飲んだ。いや、違うよ?君達人外が現れると『人外絶対殺すマン』に早変わりするから。もしそれで原作キャラ殺してみ?世界観崩壊の挙句、魔王に狙われる羽目になる。俺はあくまで神器所有者を迎えにいくだけなのだ。

 

……とはいえ、ここで理由を話しても、なんだか面倒なことになるので━━━。

 

「知らん。だが、一波乱起こりそうな気がする」

 

━━━それっぽい事を言って誤魔化す道を選んだ。

 

もしこれで神器が大したことなくても問題ないし、『気がする』といったので起こらなくてもOK。いや、起こらないでください。お願いします。

 

「なら、尚更俺達が向かうべきだ。頭である君を向かわせるわけには」

 

「しつこいぞ、曹操。俺が直々に向かうといった。二言はない」

 

譲れない。

 

俺を含めた人間達の為にも、曹操達を向かわせて、うっかり原作キャラを殺してしまわないようにするには、俺一人が向かうに限る。全く関係のないモブっぽいのなら、最悪な事態として殺してしまっても問題ないが、グレモリーはマズい。原作の主要キャラの巣窟だ。一人欠けるだけでもストーリーが大きく変わる。よって、危なっかしい連中は送り込めないのだ。

 

「…………わかった。必要はないかもしれないが、もしもの時は俺達を呼んでくれ。王である君だけは失うわけにいかない」

 

「ああ」

 

必要のある事態に持っていくほど、俺は好戦的ではない。うちの連中は揃いも揃って話し合いとか向いてないからなぁ。血気盛んとかいうレベルじゃない。人間相手には穏便なのだが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

というわけで、やってきました駒王町。

 

原作での騒動の中心。いわば特異点なるもの。……いや、特異点ではないな。争いを呼ぶのは主人公の神器の影響らしいし。

 

何はともあれ。さっさと用を済ませなければならないのだが。

 

ここで言い訳しておきたいことがある。

 

俺は駒王町と聞いても、明確に何処かは知らない。携帯アプリのナビを使えば一発だが、それだとしても、どの辺りかぐらいまでしかわからないので、結果として知っているところを目印とし、そこから探していくしかない。

 

そして相手が駒王の学生となると、探すのに一番手っ取り早いのが━━━。

 

「━━━学園を張る事だったんだが……」

 

張るっていうか、なんか張ってない?こう、バリアみたいなものが。

 

いや、確か迷いまくった結果夜遅くはなったよ?というか、深夜だけども。

 

何、ここって実はバリア防備仕様だったの?そんな裏設定あったんだ。

 

どちらにしろ、神器所有者は明日に回す予定だったが……これじゃあ、『ハデスの隠れ兜』で入れはするが、接触した時にバレるな。侵入自体は無理だし、大人しく対象を見つけたら後をつける方法で行くか。

 

うん、と一つ頷いて、今日の宿を探すべく、その場を後にしようとした時━━━。

 

ぞわっ。

 

背後から突如襲った殺気。反射的に飛び退くと、さっきまで立っていたところが轟音と共に爆発した。

 

いや、爆発というよりは抉られたの方が正しいだろうか。どちらにせよ、大した破壊力だ。避けてないと肉片一つ残らなかったかも。

 

「━━━この一撃を見てその反応。やはり一般人ではなかったか。何者だ」

 

土煙の中から現れたのは黒いボンテージ姿の少女。青い髪に緑のメッシュを入れて━━━うん?はて、どこかで見た事のあるような。

 

「それはこちらが聞きたいな。例え、一般人でなくとも、そちらに恨まれる覚えはないが?」

 

「それだけの気配を流していれば、誰だって仕掛けもする。まして、今は状況が状況だ。疑わしきは罰する主義でね」

 

血気盛んだなぁ。カルシウム足りてないんじゃないだろうか。

 

まぁ、勘違いならなんとかなるか。適当に話を合わせておこう。

 

「それは悪かったな。俺は関係ない故、帰らせて━━━」

 

「待て。お前は堕天使側の人間ではないのか?」

 

「いいや。寧ろ、何故……?」

 

堕天使側の人間と思う要素なんて……待てよ。

 

思い出したぞ。こいつの名前を。

 

確かゼノヴィアだ。今は教会の戦士で、後にグレモリー眷属になるはずの。

 

そして今の発言と時期からして、おそらくは今あのバリアの中でグレモリーとその眷属がコカビエル達と闘っているに違いない。ゼノヴィアも、それに合流しようとしているところだったのだろう。

 

……待てよ。じゃあ、俺がここで引き止めているのはマズいな。なんだかんだでゼノヴィアがいないと、グレモリー眷属は劣勢だ。

 

「ともかく、俺は関係ない。そら、さっさと行け。目的は俺ではないだろう」

 

「確かに。私の目的はお前ではない……が、野放しにしておけないのも事実だ。まだ堕天使側の人間じゃないとわかったわけじゃない」

 

ぐっ……面倒なやつ。怪しいのはわかるけど、目的優先でスルーしてくれよ。

 

「見るからに違うだろう」

 

「主を信仰しているか?」

 

「神か?嫌いだが?」

 

「説得力が皆無だぞ」

 

だって、転生のさせ方雑だったし。バビロンの中身一気に脳みそにぶち込んだ馬鹿野郎だし。こんな世界に連れてくるし。俺が抱いていた憧れを返せ。

 

その後も言い争いは続く。

 

こいつ本当に急いでいるのかと疑いたくなるくらいに俺に食いついてくる。何、俺の事大好きなのこの子。

 

それが十分ぐらい続いたあたりでキレた……俺が。

 

「ああ、わかった。もう知らんぞ、俺は」

 

「ふぅ。やっと認めたか。じゃあ━━━」

 

「ついてこい。そんなに証拠が見たいなら見せてやる」

 

踵を返して、学園の中に向かう。

 

気配からして一応ついてはきているようだ。ええい、ついてこいといえば、普通についてきおってからに。

 

学園に張られていた魔法バリアを叩き斬り、文句を言ってくる悪魔(原作キャラ)を振り切り、戦場に赴いた。

 

よし、ついた。

 

グレモリー眷属は……無事だな。ボロボロだが。

 

倒れてるやつは神父服を着てるので違うとして、コカビエルは健在。無傷か。

 

「刮目しろ、脳筋(エクソシスト)。これが仲間ではない証拠だ!」

 

バビロン展開!照準全てコカビエルに!

 

「肉片一つ残すな!王の財宝(ゲート・オブ・バビロン)ッ!!」

 

号令と共に放たれた数百の宝具群が、虚を衝かれて反応が遅れたコカビエルに殺到した。

 

 

 



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約束されていないプライベート

「ふん。これでわかったか。俺は通りすがりの一般人だ」

 

「…………いや、仲間ではないかもしれないが、一般人ではないと思うが」

 

「む……それもそうか」

 

何はともあれ、仲間ではないと伝わったようだ。完全に別方向で厄介な事になりそうだから、さっさと帰らせてもらおう。

 

「ではな。後始末は━━━」

 

任せた。

 

そう言いかけて、俺の頬を何かがかすめていき、遙か後方で爆発を巻き起こした。

 

……へ?

 

「はぁ……はぁ……この、俺が……この程度で、死ぬと……思ったか、人間……っ!」

 

土煙の中から現れたのは、全身血まみれのコカビエル。

 

翼はもげ、服はボロボロ。虫の息に見えるが、生きていた。そしてさっきの頬をかすめたものは、どうやらコカビエルの攻撃だったらしい。

 

危ねぇぇぇぇぇぇ!

 

下手すりゃ頭消し飛んでたんですけど!慢心ダメ絶対なのは理解してますけど、アレは違くない?普通死んだと思うじゃん!「やったか?」とか言ってないんだからさ!フラグも立ってないはずでしょ!?

 

「存外にしぶといな」

 

まさか『王の財宝』の直撃食らって、瀕死とか……これからはちゃんと相手に合わせて武器を使おう。俺は本家ギルガメッシュのような『眼』も『知恵』も持ってないので、なけなしの原作知識を活用して、弱点を突いていくしかないわけだけども。

 

「伊達に……先の大戦を戦い抜いたわけではない!」

 

うおっ!?超接近してきた!?

 

『王の財宝』弱点のひとつ。接近されたら本人が闘うしかないことがバレてしまう。

 

その前に迎撃だ!

 

「射殺せ!」

 

一気に三十ほど展開!弱点とかわからないから有名な聖剣と魔剣の原点のオンパレードだ。

 

ふははは、伊達に金に飽かせた最強武装の名を誇ってはいない!

 

一斉掃射……しようとしたら、ついてきていたゼノヴィアが、先にコカビエルを迎え撃った。

 

「ふんっ。邪魔だ、聖剣使いの娘!」

 

「ぐあっ!」

 

しかし、ボロボロになっても実力差は歴然のようで、いとも簡単に吹き飛ばされてしまう。まぁ、俺も近づかれたら、アレより酷い事になるんですけどね?要は近づかれなきゃいいんですよ!

 

「全く……力の差を理解した上で挑んでくるとは、信徒の本懐。『自己犠牲』というやつか?仕えるべき主を無くしてまで、よくもそんなくだらない真似が出来るな」

 

「何……?」

 

「おっと、こいつは機密事項だったか。……まあいい。今更守る意味もない。先の大戦で、魔王だけではなく、神も死んだんだよ」

 

何……だと……っ!?

 

コカビエルのとんでもないカミングアウトに一同が驚愕する。俺はというと、それに乗っかって知ってるのに便乗してみる。但し、言葉に出すとわざとらしいので無言で。

 

「だからこそ、そこのグレモリー眷属のような『聖魔剣使い』が生まれるわけだが……」

 

コカビエルの視線がこちらに……というより、俺の背後で展開されている宝具に向けられる。

 

「お前の『それ』はなんだ?神器について、俺は詳しくない。だが、お前の『それ』はどう考えても、神滅具(ロンギヌス)クラス。そのレベルなら、俺でも聞いたことぐらいはあるはずだ」

 

「そうか?大したものではないと思うが?」

 

だって、ただのデカイ倉庫ですからねー。ギルガメッシュでないと意味ないアンド扱いきれないものだし。俺が扱えているのは、この世界においては俺が収集したものに留まっているから。本家ギルガメッシュみたいに知らんうちにどんどん増えていくスタイルなら、先に脳みそがやられる。

 

「……まあいい。どんな神器かはさして興味もない。わからないならば、それでいい。俺は戦えれば、それでいいからな!」

 

ふははは、と高笑いを上げるコカビエル。ボロボロなのに元気な奴だなぁ。息絶え絶えだったの、最初の方だけだし。

 

━━━ところで。

 

「話は済んだか」

 

「何?」

 

「くだらん話は飽きた。さっさと終わらせるぞ」

 

だって、眠いんだもの。時間は深夜。良い子は寝る時間なんだよ?

 

「さっさと終わらせるだと?大きく出たな。貴様の神器。先程は不意をつかれたが、今度は上手くいく……と……」

 

俺が右手を上げると、コカビエルを取り囲むように宝具が矛をのぞかせる。数にして百を超えていると思う。

 

まぁ、アレだけ時間があって、かつそこから動かなかったら狙い撃ってくださいって言ってるようなものだし。距離があれば、バビロンの火力でもって殲滅できる。幸い、ゼノヴィアはコカビエルに吹き飛ばされて離れていたわけだし、グレモリー一同も距離があった。巻き込まずに済む。

 

「ではな。堕天使の幹部」

 

手を振り下ろすと、今度こそ逃げ場のない全方位からの攻撃にコカビエルは肉片一つ残さなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『堕天使の幹部を倒されたのですか!?』

 

翌日。

 

惰眠を貪っていたら、朝早くに英雄派の幹部の一人。ゲオルクから連絡がきた。

 

それで昨日の一部始終を伝えると、連絡用の魔法陣越しで驚きの声を上げた。うるさい。寝起きだから耳がキーンってなった。

 

「うるさいぞ、ゲオルク。何も驚くようなことではあるまい」

 

『確かに英雄王にとっては何のことはないのかもしれませんが、我らにとっては大きな進歩!堕天使陣営の戦力を削いだのですから!』

 

……いや、そこまでコカビエルは戦力になってなかったような……多分、出てきた時間軸の問題だと思うが、原作じゃあ、ヴァーリの引き立て役だったからなぁ。本当に強いのかどうか、微妙なところなんだよなぁ。

 

『これは英雄王が帰還次第祝杯の準備をしなければ……』

 

「必要ない。それに帰るのは少し後になるやもしれん」

 

『何か問題が?』

 

「ああ。少しばかりな」

 

『では、すぐに我々も』

 

「いらぬ。俺一人で十分だ」

 

そう。俺一人で十分……というか、俺一人でないと意味がない。

 

何故なら……久々のぐだぐだタイムだからだ!

 

いやぁ、やはり日本は素晴らしい!一人で来るのは久々だが、今回は滞在期間を一週間ぐらいにして、だらだら過ごすって決めたんだ。寝る前に。

 

拠点に帰ると、いつ誰が部屋に入ってくるかわからないから、気を張っておかなきゃいけないし、構成員には当然ながら女性もいる。部屋は綺麗にしておかないといけないし、シャツとパンツで過ごすなんて以ての外。一人になれる時間も少ないから、心休まる時間がないのだ。

 

今日はホテルに泊まっているが、こっそり家でも買って、俺専用の別荘を作ろう。人目を気にせず、ゆっくりと趣味を全力で楽しむことができる。

 

「ではな。俺は寝る。用があれば、しばし待て。起きてから聞いてやる」

 

連絡用魔法陣をバビロンの中にしまい、二度寝を━━━。

 

コンコン。

 

……出来なかった。

 

誰だ、こんなに朝早くから。人が寝ているかもしれないこんな朝早くに!

 

しかし、無視出来ないのが人の性というもので、さっさと終わらせて寝ることにした。ドアを連打されたらイライラして余計に眠れないし。大きい音より小さい音の方が気になるタイプなんだよな、俺。

 

「……なんだ。こんな朝早くに」

 

「よう。お前さんがうちのコカビエルを倒した人間か?」

 

……おい。なんでこいつがここにいる。

 

「人違いだ。コカビエルなど知らん」

 

「嘘つけ。うちのやつが見たんだよ。金髪に赤い瞳の男なんて、日本じゃ早々いねえよ。まして、そんなオーラを纏ってる人間なんざ余計にな」

 

ドアを閉めようとしたら、足を挟まれて阻まれた。

 

ぐっ……折角人が久々の休暇をエンジョイしようとしている時に……!何故こうも邪魔ばかりはいるのか!

 

「寝てるのを邪魔したのは悪かったな。詫びといっちゃなんだが、飯奢るぜ?この辺で良いところを知ってるからよ」

 

断る……といいかけて、先に腹の虫がなった。

 

そういえば、バビロン使った後に何も食べてなかったな。アレ使うとエネルギー消費が増えるから、腹がとても減る。

 

「……行こう」

 

仕方ない。寝るのは飯食ってからにしよ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……それで?ここの何処が良いところなんだ?」

 

「良いだろ?良い飯、良い酒、良い女。この三つを揃えてこそだろ?」

 

連れてこられたのは派手な衣装を身につけた女性達。

 

右も左も女、女、女。全員綺麗でスタイル抜群ときた。こいつの趣味か。派手なのはともかく、衣装がやたらと際どいのはどうにかならないものか。目のやり場に困る。

 

「ん?どうした?落ち着かねえか?」

 

「ああ。こうもいるとな」

 

別に苦手意識があるわけじゃないが、ここまでいるとこいつのような女好きでない限り、居心地も悪くなるというものだ。

 

「そう構えんなって。別に何もしやしねえよ。何せ、ここはVIPルームなんだからな」

 

「何処だろうと一緒だ」

 

……まぁ、確かに飯は美味いけど。

 

「ま、お互い気楽にやろうぜ。……っと、そういや自己紹介がまだだったな。俺は━━━」

 

「アザゼル。堕天使の総督だろう」

 

「……知ってたか。有名人だし、仕方ねえか」

 

一組織の長ともなれば、知ってて当然。それがなくても原作知識があるから余裕で覚えてるんだけど。主要人物の一人でもあるし。

 

と、アザゼルが目配せをすると、女性達が部屋から出て行く。目配せだけでやり取りをするとは、余程の常連か。スケベ親父め。伊達にエロで堕天したわけじゃないな。

 

「昨日はコカビエルが世話になったな。本当なら、うちのやつがケリをつける予定だったんだが……」

 

「それは悪い事をしたな。俺も、本当は首をつっこむ必要はなかったのだが、そうせざるを得なくなってな」

 

危うく堕天使陣営の人間と思われるところだった。もし、それが曹操達に知れたら大変なことになる……言い出した人間が。

 

「それについては謝罪せざるを得ない。悪かった。それで今回の一件、俺達に不手際があった以上、三勢力が集まって会合を開くつもりだ」

 

「そうか」

 

俺が首を突っ込んだとはいえ、どうやら物語に違いはないらしい。良かった。

 

「で、ものは相談だが、三勢力の会合。お前さんにも参加してもらいたい」

 

「何故だ?」

 

思わず、ノータイムで聞き返していた。だって、俺関係なくないですか。どの勢力にも属してないし。偶々その場に居合わせてコカビエルを倒し……あ。

 

「コカビエルを倒した張本人がいないと、話がうまく進まないと思ってな。お前さんに参加してもらいたいわけだ」

 

ええ……それって、魔王、天使長、堕天使総督とかいうボスの会合に参加しろと?テロリストが乱入してくるのを知りながら、それに参加しろというわけですか?

 

いや、確かにあわよくば三大勢力の和平交渉の席に参加したいとは言ったけども。でも、そこって戦場になるの確定じゃん?つまり俺も襲われるわけじゃん?それはなんか違う気がする。

 

嫌だなぁ……自分から戦場に凸るスタイルは。いや、昨日は似たような事したけどさ。それとは規模が違うし。

 

「つっても、そんな第三者からしてみれば面倒なだけの会合。普通は嫌だろうな。俺は少なくとも、お前さんの立場なら絶対に参加しない」

 

ですよね。凄くダルそうにしてるのが目に浮かぶよ。

 

「だから、ここは一つ。お前さんの願いを聞いてやる。何せ、今回の一件で三勢力全てに貸しを作る形になったわけだからな。余程のことでなけりゃ、俺もあいつらも叶えてやると思うぜ?」

 

なんと、お願いを一つ聞いてくれるとな?しかも三勢力分?

 

これは大変良い条件だ。邪魔が入るとはいえ、参加する意味はある。

 

お願いは何にしようかな……。

 

「どうだ?悪い話じゃないと思うんだが?」

 

「わかった。では、日程が決まり次第、連絡してこい」

 

そう言って、俺は電話番号を書いた紙を投げた。

 

え?なんで普通に携帯を持ってるかって?それはもちろん便利だから。

 

ゲオルクは魔法使いとして、科学に頼るのは極力避けたいらしい。もちろん、拠点が拠点だし、構成員も現代機器を使う方が生活しやすいということもあって、全く使わないわけではないが。

 

「なんだ、もう行くのか?」

 

「用は済んだ。であれば、こんな所にいる意味はないだろうよ」

 

だって、飯食ってくつろげるような場所じゃないもん。アザゼルはともかく。

 

「そうかい。じゃあ、また後日な」

 

アザゼルに別れを告げ、俺はその場を後にした。

 

今度こそ、邪魔が入らず二度寝出来ますようにと祈りながら。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「用がねえなら、いる意味はない、か。言ってくれるぜ」

 

ギルガメッシュが立ち去った後、アザゼルは氷が溶け、随分と薄くなってしまったジントニックを口にする。

 

結局、つい先程まで、アザゼルは酒を持ってこさせたにもかかわらず、一度も口をつけていなかった。

 

その最たる理由が━━━警戒。

 

人づてに聞いたが、コカビエルは一瞬でほとんどなす術なく倒されたと聞いていた。

 

決してコカビエルが弱いわけではない。仮にも堕天使の幹部。『神の子を見張る者(グリゴリ)』の一人であるコカビエルは実力者の一人だ。先の大戦においても先陣を切って戦っていたが、生き残っているのがその証拠だ。

 

だからこそ、アザゼルは単独で戦争を引き起こそうとしたコカビエルに対し、部下である白龍皇━━━ヴァーリをあてがい、自分達の後始末をつけるつもりだったが、結果はギルガメッシュによる抹殺という形で終えた。それも一方的なもので。

 

コカビエルに対して有無を言わせず、瞬殺する程の実力の持ち主。戦闘狂のヴァーリは喜んでいたが、アザゼルはここに来て突如現れた実力者に強い警戒心を抱いていた。

 

無論、それはあちらも同じだ。誘いをかけた時に難色を示していたし、店にいるのが全て堕天使の女と周囲を一瞥するだけで気づいていた。それでも、それ以降はさして歯牙にもかけていなかったのは、実力の高さの証明でもある。

 

故に、アザゼルはいつでも戦えるようにしていたが、意外にも話はうまく進み、結果として今後行うであろう会合に出席させる約定を取り付けた。心底嫌そうな顔をされたが、そこはなんとか交換条件でもって、乗り越えることができた。一先ず、第一関門はクリア、と言った具合だ。

 

(問題はどこまであっちが気づいてるかだが……あの様子だと、全部知ってる上で仕方なく受けたって感じだったな)

 

どの勢力にも属していない以上、三勢力の会合に参加するということは、多方面に顔が知れてしまうということ。そして、選択次第では、狙われるかもしれないということをわかった上で出席すると言った。恐れを知らないというべきか。露骨にプレッシャーにも似たオーラを放ち続けるギルガメッシュを見て、アザゼルはそう思っていた。

 

「ま、どっちにしろ、後はなるようになるか。一先ず、会議でも開くか」

 

グラスの中を一気に飲み干した後、アザゼルもまたその店を後にした。

 

これから起こる波乱の予兆を感じながら。



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王達の会合?参加せざるを得ない(強制)

アザゼルと会ってから二週間ばかり経過した頃。

 

曹操達とは定期的に連絡を取りつつ、完全プライベートの別荘を金にものを言わせて買い、さらに金にものを言わせて、新たな別荘を日本屈指の建築家を寄せ集めて作らせていた。

 

片方は見つかってもいいように、もう片方は絶対に見つからないようにと計算してだ。建つのは少し先の話だが、あちらも職人。時間以上の代物を作ってくれるに違いない。

 

しかし、こちらに滞在している期間が少しばかり伸びつつあるせいか、あちらにいる曹操達が幹部一人は送ると言って聞かない。

 

最初は断っていたのだが、ジークがこっそり『空気がそろそろヤバい』と連絡をしてきたので、仕方なく、一人だけならと許可を出し、つい先日合流したのが━━━。

 

「王!食事の準備が出来ました!」

 

「大声で呼ばずともわかる。今日も感謝しているぞ、ジャンヌ」

 

「礼などは……私は当然のことをしているだけですので」

 

「お前はそうであっても、俺は感謝している。それを示しただけだ」

 

「はっ……それでは。謹んでお受け取りします」

 

ジャンヌ・ダルク。歴とした聖処女ジャンヌ・ダルクの魂を受け継いだ女性で、神器は『聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)』と呼ばれる、文字通り聖剣を創り出す神器だ。実に彼女に相応しい。

 

彼女もまた、本編のようなとてもジャンヌ・ダルクの魂を受け継いでいるとは思えない外道ではなく、ちょっと人外相手には容赦なさ過ぎるだけの優しい女性だ。いささか、俺に対して臣下として尽くしすぎている節があるのだが、やめるつもりはないらしい。

 

と、ここで問題なのは、彼女は当然女性。それも美人。スタイルもいいので、正直共に生活をするとなると、なかなか困る場面が多々ある。それを彼女が全く気にせず、寧ろ『その気があればいつでもどうぞ』状態なのが大きな問題だ。

 

一応、神器や特殊な力を持った人間達を束ねるトップであるものの、その立場にかこつけて下の人間をどうこうしようという気は毛頭ない。いくら彼女が無防備だとしても、据え膳食わぬは男の恥だとしても、手を出すつもりはない。

 

しかし、それはそれとして、ジャンヌの料理は美味い。

 

幹部となると、食事係に回る事はないが、本人の趣味が高じて磨かれたと言っていた。他にも家事に関してはジャンヌに死角はなく、その一点で言えば、他のメンバー……特にヘラクレスが来るよりは遥かにマシだった。あいつは何事も大雑把過ぎていけない。飯なんて食えればいいみたいな感覚だし。

 

「王。一つ提案したいことがあるのですが」

 

「む、なんだ」

 

「その……やはり、他の幹部達も招集するべきではないかと思います」

 

食事の手を止め、真剣な瞳でこちらを見るジャンヌ。

 

「三大勢力は会合に多くの部下を連れてくるはず。それは火中に飛び込むのと同じです。王の力は偉大かつ強大ではありますが、三大勢力を相手にするには些か分が悪いのでは?」

 

まぁ……確かにどの陣営も部下を多く引き連れて、駒王の外で待機させていたんだっけ。それに襲われたら、ひとたまりも無いな。ジャンヌは強いけど。俺もエアを抜いたところで多勢に無勢だ。真後ろから来られたら終わりだし、なんなら撃つ前にやられるかも。

 

とはいえ、そんなものは何の意味もないわけだけど。

 

「案ずるな。俺とお前だけで十分だ」

 

何故なら、その会合。邪魔されるときにグレモリー眷属の神器で停止させられるから。

 

駒王内に入ったら、雑魚は無条件に停止。強い奴も時間が経ちすぎると神器の力が高まりすぎて停止。あちらは別空間から駒王学園内に転移してくる。

 

そうなったら、無闇矢鱈に連れて行く意味はないだろう。

 

それに、連れてきたら話し合いの場なのに、とてつもなく荒れそうだ。ジャンヌは比較的俺の制止で止まってくれるが、皆人外相手には沸点低いから。戦闘時はキレても冷静さは欠かないんだが、話し合いだけだとすぐに怒髪天を衝く。過去の経験や仲間の境遇から、純血種の人外は極端に嫌っているから。

 

あくまで話し合うだけ。闘うとしてもテロリストだ。三大勢力を敵に回すような事はないだろう。特にトップはどの勢力も戦いには消極的。なら、必要以上に戦力を連れて行くわけにもいかない。

 

「ッ……わかりました。このジャンヌ。必ず王の期待に応えます」

 

どこか覚悟したような表情。特に頼んだ覚えはないのだが━━━。

 

「……そうか。まぁ、程々に……む?」

 

机の上に置いていた携帯が震える。表示されたのは━━━アザゼル。

 

「……なんだ、お前は。どれだけ朝が好きなんだ?」

 

もしジャンヌがいなければ、まだ寝ていただろう。何せ、朝に弱い。起こしてくれる人間がいれば起きるが、自分だけならまず昼まで寝ている。

 

『ははは、まあそう言うなって。やっと日取りが決まったんだ。三日後の午前零時。駒王学園の生徒会室で行う。揃い次第始めるが……あんまり遅れんなよ?お前さんがいねえと話が進まねえからな』

 

「時間は守る。それと、その会合。こちらも一人付き添いがいるが、構わないな?」

 

『別にいいぜ。そんじゃ、また三日後な』

 

通話を終えて、携帯を机の上に置き直す。

 

……そういえば、英雄派のメンツ以外で電話した相手は何気にアザゼルが初めてか。凄いような、悲しいような。俺ってギルガメッシュ同様に友達らしい相手がいないんだよなぁ……いや、ギルガメッシュは一人いるから、ギルガメッシュ以下だな。まさにぼっち!

 

「会合の予定が決まった。三日後の午前零時だそうだ」

 

「はい。では、それまでに万全の体制を整えておきます」

 

「ああ。だが、戦をしに行くわけではない。あまり勇みすぎるなよ?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……あまり勇みすぎるな、って言ったのになぁ。

 

「申し訳ありません。準備に手間取りました」

 

「……なんだ、それは」

 

「?戦準備ですが?」

 

「戦ではないと言っただろう……」

 

駄目だ……ジャンヌはまだマシとか思った俺が馬鹿だった。

 

『その場に人外がいる』というだけで戦闘スイッチが入るというのに、三大勢力の会合なんて、ピンポイントすぎて戦準備をするに決まっていた。

 

勝手にいちゃもんつけて仕掛けはしないが、不信感は最初からMAXだから、もうこれ相手が人外の時点で不可避だった。

 

はぁ……これは俺の不手際だ。いっそ『戦準備はするな』ぐらい言ってのけるべきだったな。

 

「……まぁいい。ジャンヌ。俺の許可なく剣を抜くな。わかったな?」

 

静かに頷くジャンヌ。よし、これで余程のことがない限り剣は抜かないぞ。後は━━━。

 

「念のためだ。これをつけておけ」

 

「これは?」

 

「何。保険というやつだ」

 

バビロンから一つの首飾りを取り出して、ジャンヌに渡す。大丈夫だとは思うが、万が一の時もあるわけだしな。

 

今度こそ、準備は完了。さっさと厄介事を終わらせつつ、目的を達成させてもらうとしよう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「お、時間通りに到着か」

 

「少しばかり道に迷ってな」

 

五分前に着くように心がけていたが、よくよく考えたら、俺は駒王学園の内部を全く知らないので、到着したのは定刻通りだった。おかげで入る頃には、参加する者達全てが揃っていて、俺達が最後になっていた。

 

「君がアザゼルの言っていた人間だね?私は、サーゼクス・ルシファー。見ての通り、魔王だ。今回はよろしく頼むよ」

 

窓側の席に腰掛けていた赤髪の男性がそう言って、優しげな笑みを浮かべる。

 

……声だけ聞くと天敵感が否めない。いや、天敵云々で言うのなら、ジャンヌやグレモリー眷属の『騎士』なのだが。

 

「ああ。俺も、今回の会合には期待している。こちらこそよろしく頼む」

 

入り口側にある席に俺とジャンヌは腰を下ろす。

 

ピリピリしているようだが、話した通り、大人しくしてくれているようだ。

 

「さて、全員が揃ったところで一つ。ここにいる者は、最重要禁則事項である『神の不在』を認知している」

 

サーゼクスの発言に、誰も驚きを見せない。ジャンヌには俺が直接伝えた。その時は……まぁ、大して驚いていなかったが。

 

「では、認知しているものとして、話を進める」

 

「━━━その前に一ついいですか?サーゼクス」

 

挙手をしたのは頭の上に天使の輪がある男性。神々しさが溢れているそいつの名前は確かミカエルだったか。天使長であり、現在は神の代わりにトップに立っている。

 

「すみませんが、貴方達の名前を教えてはいただけませんか?話を進めるにしても、名前を知らなければ、色々と勝手が悪いでしょう」

 

それは一理あるな。話し合いをするのに、名前の一つも名乗らないわけにはいかない。信頼関係も何もあったものじゃない。

 

そう思って口を開こうとした瞬間、隣で座っていたジャンヌが口を開いた。

 

「こちらにおわすお方は人を統べし王の中の王。英雄達の頂点に立つ存在。英雄王ギルガメッシュ様である」

 

ジャンヌの紹介に、この場にいた者達が目を丸くする。より正確に言うなら、グレモリー眷属の兵藤一誠だけは疑問符を浮かべているようだが。

 

「英雄王ギルガメッシュね……大物じゃねえかと思ってたが、大物も大物じゃねえか」

 

「本人……にしては若い。その子孫という認識でいいかな?」

 

「ああ、概ね合っている」

 

本当は全く違うが……世界観で考えるとその辺が妥当だろう。この世界における英雄王ギルガメッシュがどのような人物かは知らないが、子孫なら言い訳もつく。

 

「そうか……では、レディ。君の名前は?」

 

「ジャンヌ・ダルク。王に仕える者の一人です」

 

それだけ言って、ジャンヌは口を閉ざした。

 

なんか、俺の紹介だけやたらとインパクトがあるんですが……そんな事すると、俺だけやたらと印象に残らない?いや、英雄王の名前を語ってる時点で記憶にはほぼ残るんだけど。

 

「英雄王ギルガメッシュ。そちらに聞きたい事は山程あるが、一先ず、礼を言わせてもらうよ。君のおかげで未来ある若手悪魔が、妹が救われた。魔王として、兄として、頭を下げさせてもらう。ありがとう」

 

「私からもお礼を。あなたのお蔭で、聖剣も、その使い手も帰ってこられました」

 

「気にするな。もののついでだ」

 

「俺は前に言ったから別にいいな」

 

助ける気はあの時点であまりなかった……というより、はなから助ける意味はない。だって、俺が何もしなくてもグレモリーとその眷属は助かるのだから。そういう風にできている。

 

アザゼル。お前に関しては反省しろとは言わないが、もう少し悪びれろ。そっちが悪いわけじゃないのは承知しているが、なんか腹立つ。

 

「では、早速本題に入ろう。英雄王。此度この地に現れたのはいかなる目的があっての事か?」

 

「この地に神器所有者がいると突き止めてな。その者を俺の庇護下に置こうというだけの話よ」

 

サーゼクスの問いにそう答えると、視線が一斉に兵藤一誠に向けられた。

 

そうか。神器所有者、といえば少し前まで人間だったはずの兵藤一誠が第一に考えられるわけか。

 

「っ……イッセーは私の眷属よ!あなたに渡すことなんてできないわ!」

 

「落ち着きなさい、リアス。彼も、無理矢理連れていくとは言っていないよ」

 

激昂するリアス・グレモリーを、落ち着いた様子で嗜めるサーゼクス。

 

その通り、俺としても兵藤一誠を連れて行こうとは思わない。というか、連れていくと今後の展開が凄いことになる。悪魔になった経緯故に、仮に兵藤一誠が英雄派に加わることになっても反発する人間はいないかもしれないが、たらればの話。まして、本人が嫌がるだろう。

 

「案ずるな、リアス・グレモリー。俺とて悪魔として生を受け、それを受け入れている者に用はない。この地に来たのは、どの陣営にも属さない、未だ目覚めていない神器所有者だ」

 

「その神器所有者を庇護下において、どうするつもりですか?」

 

「どうにもせん。ただ、そのままにしておけば、人外共(お前達)が黙ってはいまい?」

 

悪魔は眷属。堕天使も引き入れるないし、排除。天使は……どうしてるか知らない。

 

ともあれ、放置しておくとろくな目に遭わないだろう。そんな彼等を守り、自由に人生を謳歌させてあげるのが俺のトップとしての仕事。決して、本家ギルガメッシュのように『民とは王の為に生きるもの』的な事は言わない。なんといっても、俺は王じゃないからね!

 

「確かに、俺達堕天使は害悪になるかもしれない神器所有者を始末している。だが、組織としては当然だ。将来、外敵になるか、或いは力を暴走させて被害を及ぼす。力を使いこなせない奴は俺達だけじゃない。世界に悪影響を与えるからな」

 

「それはそっちの勝手な言い分じゃない……っ!」

 

小さく、ジャンヌが忌々しそうな声で呟いた。大声で糾弾するかと思ったが、冷静で何より。そして言っていることも尤もだ。お互いにな。

 

「総督としての判断か。及第点だが、ナンセンスだ。そこの兵藤一誠は結果論で言えばプラスに働いているが、お前のそれは俺達から見れば、人殺しと変わらん。世界の為だなんだと宣ってもな」

 

「だから庇護下に置くってか?」

 

「ああ。神器使いとて、人並みの生活を求めている。目覚めていて迫害された者も、そうでない者もな。ならば、それを俺が用意する。神器の制御も修行すればどうにでもなる。生憎と、金や場所には困っていない故な。お前達の勝手で殺されるよりは遥かに理想的だとは思わんか?」

 

「……まぁ、殺さないに越した事はねえのは確かだな」

 

俺の言い分に納得してくれたようだ。殺さないに越した事はない。その通りだ。アザゼルとしても、極力仲間が減るような事態は避けたいのだろうし、争いごとを好まない性格のはずだ。好きこのんで殺しているわけではないだろう。

 

「……話は逸れてしまったが、君がこの地を訪れた理由はわかった。そしてその過程でコカビエルを倒したのも理解した。次は君の願いを聞こう。この会合に参加する為の交換条件とアザゼルから聞いたからね」

 

そういえばそうだった。場の空気と、会合に意識を持って行き過ぎて、本命中の本命を忘れていた。

 

「簡単だ。お前達は和平を結ぶのであろう?」

 

『っ!?』

 

「立場が対等とは思わぬ故、結ぶべくもないが、その和平に約束事を一つ。今後一切、独断で人間に手を出さないと誓え。俺が望むのはそれだけよ」

 

寧ろ、それ以外はなんとかなるし、なんとかしてくれます。そこにいる主人公が。どうにもならないとしたら、それはやっぱり人間の立場くらいのものだろう。

 

自分の立場を弁えていないのは重々承知はしているが、これは譲れない。

 

「無論、そちら側全てが過去の大戦の影響で、人に頼らざるを得ないのは理解しているが、それはそれというやつだ」

 

「……英雄王。それが最大限の譲歩だろうか?」

 

「好きに取れ。嫌だというのなら、俺も手段を選ばん」

 

恥や外聞を捨て、媚びへつらってでも人間の安全を保障してもらおうじゃないか。多分、仲間からはゴミを見るような目で見られるかもしれないが、争わずに済むのならそれに越した事はない。プライドなど何の役にも立たないのだ。

 

俺の答えに対し、各勢力のトップは表情を強張らせる。

 

流石にトップだけあって、媚びへつらう輩は見飽きたということか。鬱陶しすぎて逆効果の可能性もあるな。うん、やめておこう。

 

「冗談だ。先の言葉は忘れろ」

 

そう言うと、少しばかり安堵の篭った表情を浮かべていた。そこまで嫌だったか?

 

「もう、英雄王くん。その悪戯は心臓に悪いわ」

 

「む?いや、悪ふざけのつもりはないぞ。俺も今はまだ、そこまでしないといっただけだ」

 

空気を和ませるためか、もう一人の魔王。セラフォルー・レヴィアタンがウィンクを飛ばして言ってきたので、そう返した。

 

悪ふざけで人としての尊厳まで捨てようなんて思わない。それなりの覚悟がないと。

 

「……英雄王。貴方の願いは受け止めました。現状、神器所有者に対して、天界側から積極的に行っている事はありません。その願いを聞き入れましょう」

 

「感謝する。これは━━━む、必要ないのか?」

 

感謝の気持ちとして、バビロンから適当な聖剣でも渡そうかなと思っていると、ミカエルはそれを拒否した。俺なりの感謝の気持ちだったんだが。残念だ。

 

「悪魔側も、それを受け入れよう。他の悪魔達にも、冥界に帰還次第報せるものとする。もしも、それらを破った場合はそちらの一存()に任せよう。それでいいかな?」

 

「構わぬ。……ところで、サーゼクス・ルシファー。お前もか?」

 

「私も遠慮しておこう。あくまでも、君の願いを叶えているに過ぎないからね」

 

「うんうん。ソーナちゃんやリアスちゃんを助けてくれたんだもの。受け取るわけにはいかないわ」

 

そうか……結構無理な事を言ってるという自覚があるから、念のためと予め何を渡してもいいかと考えていたというのに。やはりトップともなると、一つの貰い物でも賄賂ととられかねないということか。

 

さて、後は堕天使側だけだが……。

 

「俺もいいぜ。ただ、神器所有者が暴走した時はどうする?流石にその時も始末はそっちに任せて、俺らは静観しとけ……なんて言わねえよな?」

 

「その時は好きにするがいい。それがあればの話だが」

 

そんな事は絶対にさせないし、うちは基本的には平和主義の巣窟だ。断じて暴走は起きないと信じている。いざとなったら、ゲオルクの神器で即座に捕縛せざるを得ない。そんな事はしたくないが、いざという時はやむをえないだろう。

 

「それならいい……あ、俺はいるぜ。何せ、欲にまみれて堕ちた天使だからな」

 

「阿呆め。お前には何も用意してないに決まっているだろう」

 

「ちぇっ。ケチなやつだな」

 

「アザゼル。貴方はもう少し反省という言葉を覚えた方が良いと思いますよ」

 

「それが出来ねえから、堕天使やってんだぜ?」

 

威張れた話じゃないだろうに。

 

「ま、それは置いておくとしてだ。さっきこいつが言った通りだ。俺達堕天使は和平を結びたいと思ってる」

 

「私も同じです。これ以上の争いは本当に無意味ですから」

 

「種の存続のためにも、これからのためにも、私達は共に手を取り合わなければならない」

 

目を合わせて、静かに頷く。

 

和平は無事成功か……あ、そういえば奴等はどうしたんだろうか。来ないに越した事はないから、お呼びではないが。

 

……よし、来ないうちに帰ろう!

 

「頃合いだ。ジャンヌ━━━」

 

帰るぞ。

 

そう言おうとしたその時、世界に大きな違和感が走った。

 



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テロリスト死すべし、慈悲はない


ヴァーリとの戦闘描写を修正しました。

戦闘描写って難しいですね……。


ギルガメッシュが声をかけたと同時、ジャンヌは確かに『世界』に違和感が走るのを感じた。

 

立ち上がり、即座に聖剣を創り出したのは、殆ど反射の域だった。

 

警戒を怠っていたわけではない。

 

(警戒はしていた……誰もそんな素振りは見せてないのに……)

 

ギルガメッシュを除く全ての者に対して、最大限の警戒をしていた。この場に信じられる者は、ギルガメッシュただ一人。いつ、誰が、何をしたとしても即座に対処しきれるように。

 

窓の外。

 

校舎から離れた位置に、無数に展開される魔法陣。

 

そこから現れるのは黒いローブを着込んだ魔術師達だった。

 

その光景を見て、三勢力のトップ全てが警戒の色を示したことで、ジャンヌはこれらが悪魔、天使、堕天使のいずれの差し金でもなく、第三者の仕業であり、その目的がこの会合の邪魔であることを理解した。

 

「ちっ。来るんじゃねえかと思ってたが、本当に来やがったぜ」

 

「アザゼル、ミカエル。一先ず結界を。妹達の学び舎を傷つけるのは忍びない」

 

「そうですね。和平を結んだというのに、その場を破壊されるわけにはいきませんからね」

 

サーゼクス、アザゼル、ミカエルの三人は手を掲げると三人を中心として大きな防壁結界が展開され、校舎全体を包む。その直後に撃ち込まれる魔力の弾。雨あられのように襲い来る攻撃だが、音ばかりで届く気配はなかった。

 

「一先ずはこれで安全だろう。問題があるとすればーー」

 

「リアス・グレモリーの眷属とソーナ・シトリーとその眷属が停まってることを考えて、これは時間停止系の神器だな」

 

「これはまた……厄介ですね」

 

「王。如何致しましょう」

 

三人が話しているのを尻目に、ジャンヌはギルガメッシュに指示を仰ぐ。

 

先程の『頃合いか』という言葉。

 

おそらく、この状況を予期しての発言だとするのなら、ギルガメッシュは黒幕が誰かを見抜いているとジャンヌは察していた。

 

「構わぬ。雑兵は捨て置け」

 

「はっ」

 

聖剣は手にしたまま、ジャンヌはギルガメッシュの隣に立つ。

 

英雄王ギルガメッシュは多くを語らない。けれども、いつもその言葉は的確かつ無駄がない。

 

捨て置けと言ったということは、アレらは倒したところで何の意味もない。と言っているということ。

 

事実、アザゼルが一挙動で数百に及ぶ魔法使い達を屠ったにも関わらず、すぐに新しい魔法使い達が現れた。

 

神器の性質上、殲滅戦は得意と言い難い。それらを見越して出る必要はないと言ったであろうギルガメッシュに、相変わらず鋭いお方だ、とジャンヌは感嘆の息を漏らした。

 

突然の襲撃であるはずのテロ行為に対し、全く動揺を見せず、さもそれがあることを理解していたような振る舞いを見せる主。

 

至極当然の事であるのだが、まだまだだと自分を叱咤し、ジャンヌは一先ず傍観者に徹する。

 

兵藤一誠が復活し、世界を『停止』させているグレモリー眷属の仲間を救いに向かっていたり、白龍皇ーーヴァーリが、敵を引き付ける役を演じている間も、決して臨戦体勢を崩さない。

 

「おい、英雄王。まさかとは思うが、これはお前さんの差し金じゃないだろうな?」

 

ふと、アザゼルが冗談交じりにギルガメッシュに問いかける。

 

「無礼なっ!我が身ならいざ知らず、英雄王をテロリスト如きと同列に扱うつもりか!」

 

怒髪天を衝き、なお余りある怒りに怒声を発するジャンヌ。

 

それをギルガメッシュが手で制することで、言葉を止める。

 

「このような無駄な事をか?これしきの雑兵。いくら集めようと、お前には傷一つ付けられないだろうに。俺を甘く見過ぎだ、アザゼル」

 

「まぁ、そう言われればそうだな。お前さんなら一人で乗り込んでくるぐらいはやってのけるか」

 

「当たり前だ。王がその気になれば、お前達人外など塵芥に等しい」

 

殺気交じりの睨み付けも、アザゼルはどこ吹く風。

 

サーゼクスもあえて流し、アザゼルへと再度問いかける。

 

「先程の話の続きだ。『神器』を集めて、何をしようとしていた?彼のように、神器所有者の保護をしていたというわけではないのだろう?」

 

「備えていたのさ」

 

「備えていた?和平を結んだ直後に、不安のある物言いですね」

 

「お前らとは戦争しねえよ。ただな、自衛の手段ってのは必要だ。特にうちの総数はお前らよりも少ない。少ない被害も大きな損害に繋がるってわけだ」

 

「では、何に備えていた?」

 

「ーー『禍の団(カオス・ブリゲード)』だろう?」

 

アザゼルよりも先に、ギルガメッシュが答えた。

 

そこでジャンヌもはたと気づく。以前、何度かどこの所属とも知れぬ魔法使いが現れ、ギルガメッシュに話がしたいと言っていた時のことを。無論、直接謁見を許すほど、甘くはない。言伝をする形で魔法使いから話を聞いた時、その名前を耳にしたのだ。

 

よもや、テロリストであるなどとは露ほども思っていなかったジャンヌからしてみれば、腸の煮え繰り返る思いだ。日和っていた自分もさることながら、王の中の王であるギルガメッシュにそんな低俗かつ野蛮なものになれと誘いをかけていたのだから。

 

「なんだ、知ってたのかよ」

 

「以前、何度か勧誘をかけられてな。世界の変革とやらには賛同するが、外道と手を組みたいとは思わぬ。まして、人でないのなら尚更な」

 

「おいおい、俺達も人間じゃないぜ?潰すなら、この混乱に乗じた方が得策だったんじゃないか?」

 

「アザゼル……あなたはどちらの味方なんですか……」

 

「俺は無駄な血は流さぬ主義だ。話し合いで済むのなら、それに越したことはあるまい」

 

「そうかい。ま、今はその辺は置いておくとしてだ。話を戻すが、さっきギルガメッシュの言った組織は、以前からうちの副総督シェムハザが不審な行為をする集団に目をつけてた。そいつらは三大勢力の危険分子を集めてる。目的は……察しの通りだ」

 

至極単純。

 

和平を妨害し、トップを抹殺せんと動いている彼らの目的を察するのに数秒も時間を要さなかった。

 

あまりにも醜い。異種族と相争った後は、同種族と争う。なんと愚かしいことだろう。

 

「んで、ここからが問題だ。組織の頭は『赤い龍(ウェルシュ・ドラゴン)』と『白い龍(バニシング・ドラゴン)』よりも強大で凶悪なドラゴンだ」

 

「っ……そうか、彼が動いたのか。『無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)』オーフィス。神も恐れたドラゴンが」

 

『そう、オーフィスが「禍の団」のトップです』

 

声と同時、会議室の床に魔法陣が浮かび上がる。

 

「そうか。そう来るわけか!今回の黒幕はーー」

 

舌打ちをするサーゼクス。

 

ジャンヌ自身は、魔法の類に精通しているわけではない。けれども、サーゼクスのその反応を見て、おおよそを察していた。

 

「ごきげんよう、現魔王ーー」

 

しかし、魔法陣が何であるか、現れたのが何者であるかはどうでも良いものだった。

 

現れるのは紛れもなく黒幕。そして、その者はあろう事か、ギルガメッシュの後方に『立って』現れるという。ただ、それだけ。

 

そして、それだけで十分だった。

 

「不敬な」

 

一閃。

 

聖なる力を纏った剣が、あまりにも無防備なその首をーー刎ねた。

 

予期せぬ一撃。予期せぬ行動。

 

例え、強者であったとしても、悪魔ならば聖なる攻撃を急所に打たれれば致命打となり、いくらジャンヌの聖剣が神器により、創り出されたものだとしても、それは最上級悪魔にさえも届くものだった。

 

「赦しなく、王を見下ろすなど万死に値する。身の程を弁えろ。愚か者」

 

冷徹な表情で塵となった黒幕を見下ろし、ジャンヌは聖剣を消失させ、新たな聖剣を生み出す。

 

この会合で、溜まったストレスの発散にもなったのは僥倖だった。敬愛する王への度重なる狼藉は、許し難いものばかり。仮にギルガメッシュが制していなければ、暴言の一つや二つで済まなかったかもしれない。

 

「おいおい、嬢ちゃん血気盛ん過ぎるんじゃねえか?」

 

「何を言う。王の御前に姿を現わすのなら正面から、そして誠意を持ち、頭を垂れて然るべきよ。招かれざる輩ならば尚更ーー」

 

「ジャンヌ。もう良い」

 

「っ……申し訳ございません」

 

「謝罪はいらぬ。お前は俺の事を思って尽くしている。それを叱咤すれば、底が知れるというものよ。それに、あの輩が賊の頭であったことも事実。褒めることはあれ、叱ることはないだろうよ」

 

「もったいなきお言葉……!」

 

そう言って微笑むギルガメッシュに膝をつき、頭を垂れるジャンヌ。

 

自らの独断を決して罰せず、それどころか結果的に黒幕を屠ったということで感謝の意を述べるギルガメッシュに、それだけでジャンヌの心は満たされていた。

 

忠臣。どこまでも愚直なまでの臣下の礼に、いっそ尊敬の念すら抱きかけていたその時ーー。

 

「しかし、忙しいものよな。()()()()、裏切り者ばかりではないか」

 

「王?」

 

突然立ち上がったギルガメッシュが、外にいる者達に向けて、財を撃ち放った。

 

そう、こちらに突進してきていたヴァーリも含めて。

 

ー◇◆◇ー

 

やっべ。ヴァーリごと吹き飛ばしてしまった。

 

あいつもなんだかんだ言って、物語の主要キャラ。攻撃するつもりはなかったのに。大雑把に攻撃しすぎたか。

 

「いきなりどうしたんだ?戦うつもりなんて、これっぽっちも見せなかったくせによ」

 

「何。黒幕は死んだ。ならば、次にすることは決まっているだろう」

 

さっさと終わらせて家に帰る。何せ、人外にとって夜は眠くなくとも、俺達人間にとっては夜は睡眠時間。昼夜逆転でもしていない限り、眠たくなるのが当然だ。

 

「早々に終わらせるとしよう。なぁ、ジャンヌ」

 

特に女性にとって、夜更かしは肌荒れの原因とも聞く。いくら神器持ちで、偉人の魂を引き継ぎし英雄だとしても、それは同じはずだ。ピリピリしてるし。

 

「はっ。では、このジャンヌ。王に仇なす不届きものに誅を下しましょう!」

 

ジャンヌは駈け出すと、窓を開け、そこから飛び降りる。

 

成る程、ストレス発散も兼ねつつ、迅速に事を終わらせようという考えか。

 

確かにバビロンで掃討するのは一瞬だが、それではストレス発散できるかと問われれば考えもの。ジャンヌにとっては人外と顔を合わせることが既にストレスとなっているわけだし、仕方がないな。それに、後で穴ぼこだらけにしたグラウンドを元に戻せと言われるのも嫌だし、ジャンヌに頑張ってもらおう。

 

外に飛び出したジャンヌは、まさに鬼神の如しといえるレベルだった。

 

黒幕が倒されたせいか、はたまた今しがた世界の違和感が消失したせいか、魔法使い達の増援は止まり、現段階でいる魔法使い達も、凄まじい勢いで斬り伏せられていた。

 

流石としか言いようがない。なんだかんだ言って、俺もジャンヌ達のような近接格闘に特化した相手は苦手であるし、出来ればあんなことしてみたい。いや、確かに安全ではあるよ?ただ、男なら誰しも己の力と技で一騎当千の活躍をしてみたいという願望をだなーーん?

 

その時、校舎がぐらぐらと揺れ、轟音と共に床が穿たれた。俺との距離。およそ数センチ!

 

またもや死にかけた。幸運は低いが、悪運は強いときた。そして、またしても俺はアレを展開するのを忘れていた……わけではない。必要ないと思ったんだもの。

 

床を穿って現れたのは、白い鎧ーー禁手状態のままのヴァーリ。

 

顔こそ見えないが、視線から感じられるのは確かな敵意だった。む、これはいよいよか?

 

「ふっ……恐れいったよ。古代バビロニアの英雄王。いつから気づいていた?」

 

何が……と言いかけたが、安心してください。覚えてますよ。

 

「無論、初めからよ。貴様が何者であるかなどにはとんと興味はないが、それを見逃す道理もない」

 

「興味はない、か。俺も、あまり自分の血に頓着していない。ただ、君と戦う権利は十分に有していると思うが?」

 

権利?ああ、コカビエルよりも強いからOKって事が言いたいのか?

 

「痴れ者が。権利などあるわけがないだろう」

 

強い弱いに興味はない。戦にも、争いにも、ヴァーリの出す答え全てに、俺と闘う権利を持つ者はない。

 

「そもそも『闘う』というのは、対等であってこそ。俺とお前ではたして対等だと思うか?」

 

覇龍(ジャガーノート・ドライブ)されたら終わりだっつーの。第一、こっちは血縁詐欺やってるわけだし。偉い偉くないの話になるとなんとも……。

 

「そうか……なら、これならどうかなっ!」

 

ヴァーリの手に魔力が集まる。な、なんですとぉぉぉ!?

 

即座に甲冑と自動防御宝具(オートディフェンダー)を展開。他には……間に合わないかっ。

 

襲い来る魔力の弾を叩き落とす雷撃。それによって、爆発が起こる。

 

おおう……これ、グレモリー眷属とシトリー眷属大丈夫かな?

 

と、焦っていたら、三大勢力のトップ達はあの一瞬で防御結界を周囲の者達に限定して展開していたらしく、全くの無傷だった。良かった良かった。でも、そこには俺も入れて欲しかったでござるよ?

 

「おいおい、ヴァーリ。よりにもよって、お前が裏切り者ってか?」

 

「ああ。『アースガルズと闘ってみないか』と聞かれたら、俺には断れない」

 

「俺は強くなれとは言ったが、世界を滅ぼす要因だけは作るなとも言ったはずだ」

 

「関係ない。俺は永遠に戦えれば、それでいいんだ」

 

出ました、戦闘狂発言。俺の一番苦手なタイプだ。

 

闘ってみたことはないけど、この手の輩はダメージに怯まず、寧ろより闘志を燃やして来る。こちらが強ければ強いほど、一層強さを発揮する。勘弁してほしい。俺は対等に戦うのなんて危なっかしすぎて出来るだけ回避したいというのに。

 

「そして、ギルガメッシュ。人類を統べた王の末裔の力。俺に見せてもらおう」

 

ヴァーリがこっちに突進してくるのと同時、俺は窓から飛び出し、地面に着地する。

 

実はこう見えて、さして鍛えてもいないのにステータスが高かったりする。恐らく、バビロンを与えられた折、ギルガメッシュのステータス辺りも反映されたのかもしれない。おかげさまで高いところから飛び降りてもなんともございません。まぁ、ヴァーリの拳を食らっても問題ないわけではないけども。

 

すぐさまそこから離れると、校舎から飛び出してきた白い閃光が、俺を追いかけてくる。

 

当然、速さでは勝てない。しかし、こちらは『装備だけは』圧倒的に強い。

 

高速で接近してきたヴァーリを、自動防御宝具(オートディフェンダー)が雷撃となって襲う。

 

さしてダメージにはならないようだが、それでも一瞬動きを止めるのには十分だったので、即座にバビロンを展開。聖剣と竜殺しの魔剣は避けつつ、宝具群で追撃する。

 

爆発音と共にヴァーリの姿が土煙に隠れるが、もちろん攻撃の手は緩めません。殺すつもりはないけど、反撃する暇も与えません。何故なら相手は戦闘狂。多少のダメージは快感クラス。つまりドMの強化版といっても過言ではないのですよ。まして、禁手の鎧は本人がかなり疲弊していない限り、いつでも直せるわけですし?半殺しを狙うぐらいがちょうどいいと思います。

 

堪らず上に逃げてもなお追撃。飛んでくる魔力弾は勝手に迎撃して、こちらは攻撃に専念できるので、やはりバビロンは最強なんだ!慢心さえしなければ。

 

回避しながらもこちらに向かってくるヴァーリ。むぅ、いくら直線的だとしても、洒落にならない速さで射出されてるはずなんだけどなぁ。

 

「ははははは!面白い!面白いぞ、英雄王ギルガメッシュ!」

 

あーあ……スイッチ入ってるよ、アレ。これだから戦闘狂は。

 

「やむを得まい。殺すつもりは毛頭ないが、殺されるつもりもないのでな」

 

宝物庫から一振りの剣を取り出し、大きく振りかぶった後、縦に振るう。

 

「何をしてーーっ!?」

 

次の瞬間。ヴァーリとその周囲十メートルの空間が凍りつき、氷柱を作り出していた。

 

やはり加減が難しいな……凍らせておいてなんだが、アレ死んでないよな?

 

と思ったら、すぐに氷の柱を砕いて、中から無傷のヴァーリが現れる。流石は白龍皇。頑丈ですね。

 

「今のは少し驚かされた。その前もだ。全方位からの攻撃は流石に肝を冷やしたよ」

 

えぇ……全然そんな風には見えないんですが。鎧再生され続けたらもうわかんないな、これ。

 

「その割にはダメージはないように見えるな」

 

「そうでもないさ。鎧を修復できる機能がなければ、少なくともさっきの一撃でしばらくは動けなかっただろうからね」

 

……となると、割とダメージはあるのか。それならもう少しダメージを目に見せて欲しいものだ。うっかり殺しちゃったらどうすんだ、この後の(ストーリー)

 

「それで?今度は何を見せてくれる?」

 

「お前に見せるものなどない。第一、お前には俺よりも先に戦うべき相手がいるはずだが?」

 

「赤龍帝か……正直彼には期待していない。一応ライバルではあるが、それだけだ」

 

あー……そういえば、最初の頃、そんな感じの評価だったんだな。まぁ、魔王と人間のハーフでチート級の神器を持ってる天才とチート神器は持ってるけどパンピーから生まれた非才なら、妥当な評価か。

 

とはいえ、あちらと戦ってくれなければこちらとしては困るわけで。後、本音を言わせてもらうと、用はもう無いので帰りたいです、はい。

 

義務(宿命)は放棄か?であれば、早々に失せるがいい。お前と戦うものなどここにはいない」

 

主人公以外いませんよ?何故ならそれ以外は闘う理由と意味が無いから。主に俺とか。いや、他の方々にもあることにはあるんだが、主人公にふっかけたら手を出さなくなるだろう。

 

「……ならば、俺が赤龍帝を倒せばいいわけだな?」

 

「できるものならな。お前に奴は倒せん」

 

だって、相手は主人公だもの。

 

「面白い。彼を倒した後、今度こそ君と戦わせてもらう」

 

そう言ってからヴァーリは兵藤一誠の方に向かった。これでよし。後は主人公がなんとかしてくれるって信じてる。世界の運命そのものを味方につけている主人公様に。

 

後はジャンヌを呼ぶ……必要は無いみたいだ。

 

ベストタイミングでジャンヌがこちらに来た。空気が読める子で助かります。

 

「王。あの不敬者はーー」

 

「良い。帰るぞ」

 

「……よろしいのですか?」

 

「構わぬ。ここにいる意味はない故な」

 

雑魚もだいぶ掃討されたようだし、ヴァーリは兵藤一誠の方に。俺がすることは特にない。

 

バビロンからゲオルグ作の転移用魔法陣の書かれた紙を取り出す。

 

ここは結界によって外界と隔たれてはいるが、ゲオルグに比べればちゃちなものだ。

 

紙を上へと投げた瞬間、俺達の頭上に展開された魔法陣が俺達を英雄派の本拠地へと転移させた。

 



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英雄派内は大体平和

「どうだった、ジャンヌ。王の護衛は?」

 

「完璧……といいたいけど、残念ながら賊の一人にしてやられたわ。まさか、よりにもよって、堕天使総督の付き添いが裏切り者だなんて」

 

ギルガメッシュとジャンヌが帰った翌日。

 

トレーニングルームで鍛錬をしていたジャンヌは、その相手であるジークの問いに苦虫を噛み潰したような表情で答えた。

 

先の会談でのテロ。

 

予期せぬ事態での対応は万全だった。黒幕を一太刀で、雑魚を悉く斬り伏せていった。

 

それもこれも、全ては王のため。

 

いかような相手であるとしても、王に刃を向けるものがあれば、これを斬り伏せるのが自身の役目だと、ジャンヌは自覚している。

 

だが、それもヴァーリの裏切りによって破られてしまった。

 

確かにヴァーリの裏切りは、予想できなかっただろう。アザゼルでさえも、全く予想外の出来事であったのだから。

 

しかし、それで終わる問題ではない。

 

王に敵を近づけさせたという許しがたい事実に、自然と剣を握る力が強くなっていく。

 

「ストップ、ジャンヌ。殺気が漏れているよ」

 

「今この話を振ってくるそっちが悪い」

 

「ははは、確かに。……それで?その裏切り者くん。よく王に刃を向けて、殺されなかったね。白龍皇なら弱すぎて殺されなかった。なんてことはないだろう?」

 

「関係ないわ。どんな奴でも、王に敵う存在なんているはずがないもの……っ!」

 

唯一にして絶対。

 

如何なる存在であったとしても、ギルガメッシュに敵う存在いるはずがない。

 

ただーー。

 

「仮にいるとするなら、オーフィスか、グレードレッドぐらいだろうね。それでも王の負ける姿が想像できないのが不思議なところだけど……っ!」

 

互いに剣先を首元数センチ前で止めて剣を下ろす。

 

基本的な剣技の上では二人は互角であるために、こうして引き分けになることが多く、神器を使用すれば、綺麗に勝敗が決まる。最も、その場合はトレーニングルームがめちゃくちゃになり、ギルガメッシュからおしかりを受けることになるため、滅多にしない。

 

「この際、王が白龍皇を見逃した理由はどうでもいいわ。けれど、次に会うことがあったら、絶対に細切れにしてやるんだから」

 

「全く……君の忠義には恐れ入るよ」

 

呆れたとも、感心するともとれる息を吐くジーク。

 

ジャンヌのギルガメッシュへの忠義ぶりは英雄派内でも他の追随を許さない。

 

過去の出会い方から来るものであるのだが、それ程までにジャンヌはギルガメッシュに厚い信頼と敬意を抱いていた。

 

(いや……ついでに好意も、かな?)

 

確証はなかったが、英雄派内でも何十人もギルガメッシュに好意を寄せているものはいる。敬愛しているという点で言うのなら、男女は問わないが、『王』としては当然の事。『異性』として好意を抱いている人間は少なくない。それはひとえにギルガメッシュの放つ圧倒的なまでのカリスマが影響しているからだが。

 

「ともあれ、王のお蔭で、同胞達の保護が一層しやすくなった。彼等が暴走して、三大勢力に討伐されないように、早く迎えに行ってあげないとね」

 

「それもいいけど、その前に会議があるでしょう。王もじきにお目覚めになる頃でしょうし」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「これより会議を始める……と言いたいが、何故ヘラクレスがいない?」

 

「『用事がある』だそうだ。まぁ、十中八九サボりだろう」

 

ギルガメッシュの問いに、曹操が苦笑しつつ、そう答えた。

 

ヘラクレスは幹部の一人ではあるものの、基本的に肉体労働担当で、頭は悪くないが脳筋であるために会議には参加せずにいることが多い。無論、最初はゲオルグやジャンヌが非難していたものの、最近では言っても無駄だと悟り、半ば諦めている状態だった。

 

「ヘラクレスがいても、話がややこしくなるだけです。後で僕から伝えておきますよ」

 

「すまぬな、ゲオルグ」

 

実際、ヘラクレスがいるとややこしくなるのは確かだ。ヘラクレスは話し合いイコール殴り合いに発展しかねないほどの単細胞。軽く戦闘狂のきらいさえあるために、穏便に事を済ませようという気がないのだ。

 

「では、今回の会議だが、ジャンヌから聞いているだろう。王は一時的に三大勢力とは和平を結んだ。これによって、神器所有者の保護はやりやすくなるだろう。これであちらは迂闊に手を出せない。無論、暴走すればその限りではないが、そこは我々の仕事だ」

 

「違いない。王が我々の為にわざわざそのような場にまで出向いた以上、僕たちにできることは一人でも多くの同胞を保護することだ」

 

「一つ気になるんだけど、いいかな?」

 

「どうした、ジーク?」

 

「一時的に同盟を結んだということは、必要がなくなれば、その和平を破棄するということかい?」

 

ジークの問いは、幹部全員が気にしていることだった。

 

元より、ギルガメッシュの元に集いし英雄達は人間社会からあぶれたものもいれば、人外の手によって、家族や友人を殺された者もいる。

 

その為、人外には激しい憎悪の念を抱いているのだが、ギルガメッシュの和平はそれらを飲み下せというものだ。和平を結んだ以上、無闇矢鱈に仕掛ければ、即戦争に繋がりかねない。

 

もちろん、それがギルガメッシュの選択だと言うのなら、彼等はそれを受け入れる。

 

しかし、ただ和平を結んだだけで終わるはずがないのが、ギルガメッシュだ。

 

だからこその問い。

 

必要以上の事を話さないギルガメッシュには、自分達が問いを投げるしかないのだ。

 

「和平の必要がなくなれば、そも破棄をする必要もないだろう。和平というのは契約だ。今は利用しているに過ぎん」

 

ギルガメッシュの言葉に曹操達は息を飲んだ。

 

愚問だったと言わざるをえない。

 

英雄王が、ギルガメッシュが、人外達と肩を並べ、偽りの平穏に甘んじるなど、あり得るはずがなかった。

 

今は神器所有者達をより安全に、より確実に保護することを優先しているだけに過ぎず、和平は人外達を牽制するための手段に過ぎないのだと。

 

「聞きたいことはそれだけか?」

 

「うん。妙な質問をして申し訳ない、王」

 

英雄派内における誰もが、ギルガメッシュの真意を理解することは出来ない。

 

仮に誰が一番理解できるかと問われれば、やはり付き合いの長い曹操だが、その曹操も全てを知ることは難しい。

 

それを理解してか、ギルガメッシュはどのような些細な問いを投げかけられても、必ず答え、咎めることを決してしない。

 

「話を戻すが、神器所有者の保護はしやすくなった。とはいえ、その和平の席に現れたというテロリスト達。『禍の団(カオス・ブリゲード)』というのが、今後の大きな障害になると俺も英雄王も見ている」

 

「和平に反対する人外達の連合軍……。神器所有者達を自分達の都合で利用しそうな連中ということか……。王、仮にその者達と遭遇した場合はーー」

 

「構わぬ。お前達の好きにしろ」

 

煮るなり焼くなり神器の実験に使うなり、何をしても良いとギルガメッシュからの許可が出た。

 

テロリズムというのはギルガメッシュが最も嫌う行いだ。過去に曹操がそれと似たような思想を持ち、それをギルガメッシュに矯正させられたという話は、英雄派内では有名な話だ。

 

ギルガメッシュはテロリズムの思想を持つ相手に容赦はない。全力で殺しに行くことはないにしろ、塵一つ残さず、殺されるのは目に見えていた。

 

だからこそ、白龍皇ヴァーリを生かしておいた事が気になるが。

 

「一先ず三大勢力については保留。最優先は神器所有者の保護。『禍の団(カオス・ブリゲード)』または『はぐれ』に関しては自己の判断で対処する。それで構わないか?」

 

「良い。だが、派手にやり過ぎぬよう心得ておけ」

 

「ふっ、わかっているさ」

 

例え人間だとしても、その実力は最上級悪魔と闘っても全く引けを取らない。周囲を気にせず、力を振るえば、周りがどうなるかなど火を見るよりも明らかだ。

 

「今日のところはこれで終わりだな。俺は王と話しておきたいことがある。少し席を外してくれ」

 

ギルガメッシュと曹操以外は各々に出て行った後、曹操はギルガメッシュに問いかける。

 

「さて……君の『本気』を知る身として一つ聞いておきたい。件のテロリストは君が『本気』を出すに足る相手か?」

 

「さあな。下はともかく、頭がその気になれば嫌でも本気を出す」

 

「頭?黒幕はジャンヌが斬り捨てたと聞いたが?」

 

「アレはあの時の黒幕だ。あのような有象無象が頭なら、そも危険視するまでもないだろうよ」

 

「確かに。ジャンヌも相当な実力者だが、まだ禁手も使っていない彼女にやられるのなら、大した事はないな。……それなら、黒幕は一体誰だ?他の旧魔王一派か?」

 

「……オーフィスだ」

 

「っ……無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)か。それなら、君が本気を出すに値するな」

 

「もっとも、アレがやる気になる事など滅多にないだろうがな」

 

そう言うとギルガメッシュは席から立って、部屋から出て行く。

 

その背中を見送って、曹操は溜め息を一つ吐いた。

 

今でも忘れられない。

 

誰にも話してはいない。英雄王(ギルガメッシュ)の本気の一端。

 

ただの脅しであったにもかかわらず、死を覚悟した。

 

心の底から屈服した。それと同時に圧倒的なカリスマ性に惹かれた。

 

自分が英雄を率い、人間の限界に、人外に挑むための組織を作るつもりだったが、今はそれとかけ離れた組織になった。

 

とはいえ、それは曹操自身には良い転機となった。

 

少なくとも、英雄らしい、英雄の子孫であると胸を張れる存在になっていた。

 

ある意味順風満帆と言える。

 

強いて言うなら、ギルガメッシュの性格上、物言いはともかくとして、全員に甘過ぎるということだ。一見甘やかしていないように見えるが、ギルガメッシュにとっては英雄派の人間全てが家族のようなものであるからだろう。おかげでギルガメッシュの事で相談される事も多い。

 

「まあいいか。独裁の王よりはよっぽど良い。何れ来る戦の為にも、王の為に立ち上がる人間がいるにこしたことない」

 

そう。何れは戦わなければならない。

 

悪魔も、天使も、堕天使も。滅ぼすべき相手なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

会議を終え、何の気無しに街をぶらぶらと歩いていた。

 

もう八月……夏休みの時期か。とふと思う。

 

感慨深いというか、なんというか。

 

学生でもなく、社会人でもない俺は世間一般で言うところのニートなのだろうか。年齢的には成人であるし。

 

でも、養っていることには養ってるし、金儲けは割と暇つぶしにやったな。株も土地売買も投資した金額の百倍を超えた辺りで考えるのがバカらしくなってやめたけど。

 

流石に王様で通すのはマズいし………何か肩書きだけでも持っておこうかな。

 

その為には、まず何をしたいか決めないと……ん?そういえば、ギルガメッシュがレジャー施設を運営していたっけな。アレは子ギルの状態だが、悪くない考えだ。金が絡んで負けた事がないって事は黄金律はあるだろうからな。つまり、経営すれば知識なくても勢いだけでなんとかなるんだ!………きっと。

 

よし、そうと決まれば、早速土地を押さえ……何?

 

携帯が鳴った。つまりこれは奴しかいない。そう、堕天使総督のあの馬鹿野郎。

 

「……何故お前はそうタイミングがーー」

 

『ーーよう、冥界に行く気はあるか?』

 

「……」

 

こいつ、いきなり電話をかけてきたかと思ったら、何を言い出すんだ。

 

「何故俺が行かなければならん。用なんぞ欠片もないが?」

 

『案外そうでもないぜ』

 

「何?」

 

『「禍の団」の事だ。あいつらの素性が大体わかってきてな。それについてーー』

 

「いらぬ」

 

即答した。いや、そんなのどうでもいいし。というか、原作と違って、英雄派の無い『禍の団』なんて、大した脅威でも無い。

 

これで話は終わりだろう……と思いきや、アザゼルが電話の向こう側で笑った。

 

『だろうと思ったぜ。正直な話、お前さんに会いたがってるのがいてな』

 

「なら直接来いと言え。何故俺が出向かねばならん」

 

『そうも言ってられない。何せ、北欧の主神だからな』

 

……オーディンか。

 

そういえば、そんなのがいたな。確か下心全開のドスケベジジイだったような気がする。この世界の偉い奴って、クソ真面目な奴が苦労する世界だよな。トップはどいつもこいつもプライベートが緩すぎるというかなんというか。

 

……なんだろう。猛烈に会いたくない。魔王はともかく、オーディンとアザゼルとか絶対にロクな会話をしなさそう。

 

レーティングゲームには興味なくはないが、面倒くさいなぁ。

 

「北欧の主神であろうが、なんであろうが、関係ない。会いたければ、直接会いに来いと伝えろ。その時に俺がいるかは知らぬがな」

 

『……まぁ、予想通りっちゃ予想通りだな。伝承通りっていうか、なんていうか……やっぱ神は嫌いか?』

 

「当然だ。好む理由がない」

 

考え無しだし。転生させてくれたとはいえ、下手をすればあの世行きな世界に放り込まれたし。なんで学園ラブコメな世界に送ってくれなかったのか。

 

『わかった。オーディンには俺から言っておく。お前も気が向いたら、また駒王に来いよ。今度は真面目に飯奢ってやるからな』

 

「だといいがな」

 

そういった後、電話を切った。

 

ふぅ……もう少し最後の真面目感があれば冥界に行くのも良かったんだが。なんていっても生きているうちに冥界なんて行けるものじゃない。大変貴重なのだ。

 

まぁ、どうこう言っても何が変わるわけでもない。一先ず、表の世界でも通じる肩書きをだな。

 

「待て」

 

意気込んだところで、何者かに呼び止められた。

 

顔に刺青を入れた見知らぬ男。何の用だろうか。

 

「お前が人間共を集めて、王様気取ってるヤローだな」

 

「気取っているわけではない」

 

単に担がれているだけです。王様になる気は全くございませんでした。

 

それよりもーーこいつ、人間じゃないな。

 

「はっ。ま、んな事はどうでもいい。単刀直入に言うぜ、人間。禍の団にーー」

 

「断る。死にたくなければ失せろ」

 

そんな事だろうとは思っていた。過去に再三打診してきたのを一蹴していたが、それでもなお懲りないらしい。第一、旧魔王の血族の一人を殺しているというのに、何故勧誘してくるのか。

 

しかし、そいつは俺の言葉を聞いても笑うだけだ。何?どMなの?

 

「いいのか?俺達が拉致った神器使い共がどうなっても」

 

「……」

 

人質か……うん、これはアレだな。痛いところをつかれたなんてものじゃない。

 

俺達英雄派は神器所有者の保護に重きを置き、それを最優先事項としている。

 

もちろん、自分達が危険ならやむなしと曹操達には伝えている。なので、命懸けで保護を優先するような事はしない。

 

これは今回に限っても同じことが言えるのだが……。

 

「シャルバ様は協力の意思があるなら神器使い共を引き渡すと仰られている。だが、もしもテメェが断ったり、俺を殺したりすれば、本部にいる神器使い共は間違いなく殺されるだろうぜ」

 

ですよね……なんで悪い事って大体予想通りなんだろうか。何も嬉しくないんだけど。

 

このままこいつをぶち殺してもいい気はするが、それだと英雄派の人間達に示しがつかない。それに神器所有者の保護も頑張ってもらってるし。ここらで俺も一つ、体を張っておかないといけないな。

 

「良い。連れて行くがいい、そのシャルバとやらの元に」

 

「へっ。わかりゃいいんだよ。所詮人間なんて、俺たちにとっちゃ家畜みたいなもんだしな」

 

流石はテロリスト……というよりも、旧魔王よりの過激派といったところか。悪魔が種族における頂点であると心の底から思っている。滑稽極まるが、少し黙っていよう。

 

「おら、行くぜ。ありがたく思いな、シャルバ様がお会いになってくださるんだからな」

 

そいつが魔法陣を展開すると、ちょうど俺まで入るほどの大きさに広がり、次の瞬間、見た事のない場所に転移していた。

 



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冥界に行くことを、強いられているんだ!

どうも、英雄派の頭領。ギルガメッシュ(仮)でございます。

 

わたくしが今どこにいるかと言いますと、な、な、なんと!原作でも明らかにされていなかった旧魔王派の拠点にいるのでございます、はい。

 

冥界に行くよりも貴重な経験だな、うん。いや、危険な経験かもしれないけれども。

 

「妙な真似はするなよ……つっても出来ないだろうけどな」

 

「どういう意味だ?」

 

「ここは神器が使えないように特殊な結界が張られてるんだよ。神器がなけりゃ、所詮お前らはゴミ屑同然だからな」

 

はぁ……成る程。だからこんなに強気な上に、わざわざ旧魔王派を実質上束ねている奴が顔を見せられるのか。いくら人間を見下しているとしても、神器の強大さは知っているはずだろうし。

 

しかし、神器の使用を阻害する結界か……ゲオルグにでもまた相談しておかないと。これ使われるとうちの主力は封殺されはしないが、大幅に遅れを取る。

 

「本来ならテメェみたいな屑は謁見するのもおこがましいが、シャルバ様がテメェの力に目をつけられた」

 

「それを使って三大勢力を襲えと?俺が和平を結んでいるのを知ってか?」

 

「はっ!見かけだけだろ」

 

そんなわけあるか。ちゃんと守るわ。

 

結果論とはいえ、何故あの場に参加したと思っているのか。破る気があるなら、参加なんぞしに行くか。

 

「さあ、着いたぜ。せいぜい口の利き方に気をつけろよ」

 

到着したのは玉座のある部屋。

 

実に悪魔らしい装飾が部屋に施されており、趣味が悪い。悪魔というのはこんなに趣味が悪いのか。暗いし、ジメジメするし、何より気味が悪い。

 

「よく来たな。人間。いや、英雄王と呼んだ方が良いか?」

 

転移魔法陣を使って現れたのは軽鎧(ライト・アーマー)とマントを身につけた茶髪の男。こいつがシャルバ・ベルゼブブか。

 

むぅ……イケメンだ。ギルガメッシュもイケメンですけども。なんといいますか、俺の顔じゃないしなぁ。あまり自慢出来ないというか、褒められてもギルガメッシュだもの。としか言いようがない。

 

「よもや古き時代の人間を束ねていた者が、今の時代に再度現れようとはな。奇妙なものだ。その身体から溢れるオーラ。成る程、何かに縋らなければ生きていけない人間共にとっては、これ以上にない存在だな」

 

「御託は良い。何故貴様は俺をここに呼び寄せた?」

 

「奴等を、三大勢力を滅ぼすためだ」

 

俺の問いにシャルバは当然のように答えた。

 

「天使も堕天使も滅ぼすべき相手だ。それらと手を組み、種の存続などと甘い事を言っている現悪魔も同様だ。奴等を滅ぼし、我々が新しい悪魔の世界を作る」

 

「それで?今のところ、俺が手伝うメリットがないが?」

 

「メリットだと?お前達と我々が対等だとでも言いたいのか?身の程を弁えろ。王を名乗っても、たかだか人間一人。まして今神器の使えないお前がか?馬鹿も休み休み言うのだな。今殺されなかっただけでもありがたく思うのだな」

 

……こいつ、交渉って言葉の意味を知ってるのか?

 

馬鹿なの?こんなのこの領域でたら、誰でもすぐに裏切るよ?それとも、悪魔ってこんなに高慢ちきな野郎ばっかなの?

 

「そもそも、こちらには人質がいる。殺されたくなければ……わかっているな?」

 

シャルバが指を鳴らすと、部下と思しき悪魔達が七人ほどの人間達を連れてくる。思っていたよりも少ないな。てっきり十人から二十人はいるかと思っていたが。

 

「これで全員か?」

 

「ああ。()()、な」

 

……それはつまり減ったということですかな?旧魔王派のトップ殿。

 

「このゴミ共の命が大事なら、言う通りにするんだな」

 

ものすごい悪どい笑みを浮かべるシャルバ。まるで悪魔のよう……って、悪魔か。

 

原作の主要キャラの面々は悪魔っぽさがあまりなかったから、悪魔が殆ど肩書きレベルだったんだよなぁ。

 

「実に悪魔らしいな、シャルバ・ベルゼブブ。お前は悪魔を名乗るに相応しい存在だな」

 

「当然だ。私達こそが真なる悪魔。魔王の血族だからな」

 

旧魔王派と現魔王派。

 

比較すると、『悪の体現者』としては圧倒的に旧魔王派に軍配があがる。まぁ、作中では敵キャラとして出てきたわけだし、当然と言えば当然だけども。

 

「さあ、どうする?大人しく私に従うか、それとも神器使いを見捨てて逃げるか。もっとも、貴様は後々邪魔になる。断るというのなら、この場で死んでもらうがな」

 

……なんかもう、ただの脅しになってるんですが。話し合いする気が欠片もないな。

 

これ答え一つしかなくね?

 

だって、人質いるし。相手下衆野郎だし。テロリストだし。

 

ここで俺がどうしなきゃいけないかって言えば……うん。やっぱりあれだ。

 

「一時間待ってやろう。それ以上はーー」

 

「断る。貴様ら旧魔王派の悪魔とは組まぬ」

 

「……それがどういう意味がわかっているのだろうな?」

 

まさか断るとは思っていなかったんだろう。シャルバは頬をひくつかせていた。

 

まぁ、確かに普通なら断るわけはない。自分の命が惜しければ、ここは従うに越したことはないからだ。

 

とはいえ、だ。

 

従っても助かる保証はないし、そもそも『約束?なにそれおいしいの?』な奴らを相手に約束事をしようとは流石にもう思わない。

 

「では死ね。愚かな人げ……ごふっ!?」

 

かっこよく決めようとしている最中、シャルバが吐血し、周囲の悪魔達は悲鳴をあげる間もなく塵に帰った。

 

犯人は当然俺ですね。バビロンで後ろからぶすっと。

 

「ば、馬鹿な……神器は使えないはず……だっ!」

 

背中から腹部にかけて突き出た聖剣を見て、シャルバは忌々しそうに、そして驚きを含んだ声音で呟く。

 

「そうか。残念だったな」

 

「っ……貴様、まさかーー」

 

「喜べ。俺は神器使いではない」

 

そう。俺のバビロンは『特典(チート)』であって、『神器(強化アイテム)』ではない。

 

いくら神器使いに対策を立てようが、俺には毛ほども関係ない。何故なら該当していないから。

 

あっはっは。残念だったな、シャルバくん。ギル様の!宝具は!最強なんだ!

 

「じ、神器使いではない……?では、貴様は……!」

 

「さあな。だが、俺は英雄王だ。全ての英雄を統べ、君臨する者。たかだか自分の事しか考えていない矮小な悪魔に屈することは断じてない」

 

「ぐっ……人間風情が!私を見下ーー」

 

「死ね」

 

シャルバの四方から現れた聖剣がその体を貫き、塵に帰した。

 

危ない危ない。聖剣でブッ刺せばすぐ死ぬかと思ったら、流石は純粋な魔王の血族。いや、確かオーフィスから『蛇』をもらってパワーアップしてた事も関係してるからかな?

 

どちらにせよ、一撃で死んでないことには驚いた。これからは最上級クラスの悪魔相手には十本くらい一気にブッ刺そう。

 

「さて、後はお前達だな」

 

捕まっていた神器使いの方に向く。

 

やはりというか、当然というか、酷く怯えていた。見たところ、年端もいかぬとまでは言わないが、どう見積もっても小学校に通っているようなレベルの少年少女のようであるし、シャルバ達がしていた仕打ちなどを考えれば、この反応が正しい。

 

とはいえ、このまま怯えられていると埒があかない。自然に出来る自信がないが、やるしかないか。

 

「安心しろ。これからお前達が行くのはお前達と同じ力を持っている者達のところ。そしてそこは少なくともこんな掃き溜めに比べれば天国のようなところだ。何、俺が保証する」

 

屈んでから目線を合わせ、出来うる限りの笑顔で答える。

 

さっきの聖剣の反応でここに誰か来ないとも限らない。本当は一時的にでも心を通わせて、といきたいが、そうも言っていられない。

 

ゲオルグの簡易魔法陣を使って、子ども達を拠点に飛ばす。後は曹操達に任せよう。俺よりもあいつらの方が子どもの扱いには長けているしな。

 

後は……よし。

 

帰る前に徹底的に壊し尽くすか。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

で、徹底的に破壊し尽くして出てくれば、あら不思議。

 

そこは冥界でしたと。

 

灯台下暗しというか、なんというか。

 

悪魔だから冥界にいてもおかしくないが、逆に堂々とし過ぎじゃないですかね。

 

冥界の端に追いやられたとかいう話だったが、まさかそこをそのまま拠点にしているとは。

 

まぁ、強そうなのがシャルバしかいなかった辺り、本当の拠点はここじゃない可能性も否めないが、ともかく旧魔王派の中心人物の一人を葬ったので良しとしよう。確かあいつ余計な事しかしてなかった気がするし。

 

むぅ、しかしどうするか。

 

簡易魔法陣は一つしかなかったから、ここから帰れないんだよね。ちゃんと確認しておくんだった。

 

この辺りで一つ、キャスターの真似事でもしてみるか。なんだかんだ言って、まだやったこと無かったし。

 

でも、ミスると洒落にならないしなぁ。もし次元の狭間なんかに飛ばされたら終わるし。そもそも転移できたっけ?

 

あ。そういえば。

 

携帯を取り出して、アザゼルに電話をかける。あいつ、冥界に行こうとかなんとか言ってたから、ひょっとしたら冥界にいるかもしれない。

 

『もしもし。さっきの今でどうしたんだ?行く気になったのか?』

 

「行く気も何も、今現在冥界にいる」

 

『そうか……………はあっ!?今冥界にいるだと!?』

 

アザゼルが電話口の向こうで驚きの声をあげていた。うるさい。

 

「喚くな。俺とて、好きこのんで冥界に来たわけではない。連れてこられたのだ」

 

『誰に?』

 

「『禍の団』のボスの一人だ。人質を取られてな。お前達を殺してこいと命令された」

 

『で、どうしたんだ……って、聞くのは野暮だな。馬鹿な野郎だぜ。お前を御し切ろうなんて神にだって出来やしないのにな』

 

そこまで言うか。俺だって、助けられそうに無かったら一時的にでも言うこと聞く気ではあったんだけど。調子に乗ってくれていたお蔭で助けられたわけだし。

 

「さっきの話に戻るがな。アザゼル。お前今冥界にいるか?」

 

『まだついてねえな。後一時間はかかるから、迎えには行けねえよ』

 

マジですか。じゃあ、俺帰れねえじゃん。

 

『オーディンのジジイに会うってんなら、サーゼクスに迎えを頼むが、どうする?』

 

どうするって……答え一つしかないじゃん。

 

そもそも俺連れてこられたと言っても不法侵入だよ?土足で人の領地に足を踏み入れてる身だよ?ついでに言うと、方向音痴だから、どっちに行けばいいとかもわからないよ?

 

「……いいだろう」

 

『OK。じゃあ、サーゼクスに連絡しておくぜ。ちょいと時間がかかるだろうが、腹立ててやるなよ』

 

サーゼクス・ルシファーか。魔王をお迎えに寄越すのはどうなのだろう。

 

それにちょいと時間がかかるって、どれぐらいだ?アザゼルの『ちょいと』とやらの基準がかなり大雑把そうだから、ひょっとしたらかなり待たされ……なかったみたい。

 

俺から少し離れた場所に魔法陣が展開され、そこからサーゼクスが現れた。

 

「……一人か?」

 

「ああ。君一人を迎えに来るのに、大勢は無粋だろう。私だけでいい」

 

大勢とか超プレッシャー。でも、サーゼクスの眷属は見てみたかったな。ほら、沖田さんいるし。こっちの沖田さんは男だし、歴史の人ではないけど、偉人じゃん?是非ともお会いしたかった。

 

しかし、一人とはいえ、魔王が直々に来ることもなかったろうに。

 

「適当な使いを寄越せばいいものを」

 

「礼を失するわけにはいかない。私は悪魔の王。君は人の王だ。まして、こちらからも色々と頼んでいる身だ。私が迎えに来るのが妥当だと思うよ」

 

いえ、頼んでるのはこっちなんです。わざわざありがとうございます。

 

「ところで、ギルガメッシュ。一つ聞きたいのだが」

 

「む?」

 

「ここは旧魔王の血族、シャルバ・ベルゼブブの領地……のはずなのだが」

 

「ああ、俺がやった」

 

とても言い辛そうにしているサーゼクスに、素直に自白した。

 

まぁ、見ればわかるもんね。辺境の地とはいえ、これ見よがしに建っていた城を破壊し尽くしたんだから。

 

更地とは言わないまでも、瓦礫の山と化している。他の悪魔?俺を見た瞬間、全員逃げました。お蔭で破壊活動が捗るのなんの。

 

「……成る程。アザゼルの言っていたこととこれを見ておおよそ察しがついた。本当に、君には借りを作ってばかりだな」

 

「気にするな。此度は事故のようなものだ」

 

「ふっ、それはどちらのかね?」

 

もちろん、俺に決まってる。だって、結果的に冥界に来てしまったんだから。

 

「さて、立ち話もなんだ。話の続きは私の城でどうかな?」

 

「ああ」

 

魔王城か……現魔王はあまり悪魔っぽい趣味じゃないといいな。後、かっこよかったら、参考にさせてもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

ギルガメッシュとサーゼクスが魔王城に着いて、程なくしてアザゼルも合流し、さらに北欧の主神ーーオーディンとその付き人ロスヴァイセも到着し、結果的にはすぐに話が出来る状態になっていた。

 

とはいっても、サーゼクスやアザゼルから話すことはあまりなく、専らオーディンとギルガメッシュの話し合いであるが。

 

「若造どもは老体の出迎えも出来んのかと思っとったが……なんじゃ?サプライズの準備でもしとったのか?」

 

ギルガメッシュは来ない、と聞かされていたオーディンにしてみれば、ギルガメッシュの来訪は想定外であり、嬉しい誤算であった。

 

「久しぶりじゃねえか、北田舎のクソジジイ」

 

「久しいの、悪ガキ堕天使。長年敵対していた者と仲睦まじいようじゃが……小賢しいことでも考えているのかの?」

 

「はっ!しきたりやら何やらで古臭い縛りを重んじる田舎神族と違って、俺ら若輩者は思考が柔軟でね。敵対意識よりも己らの発展向上だ」

 

「弱者どもらしい負け犬の精神じゃて。所詮は親となる神と魔王を失った小童の集まり」

 

「そこまでだ。何故、お前達はいきなり罵り合う?聞かされているこちらの身にもなれ」

 

呆れた様子で言うギルガメッシュ。そこで一旦話が途切れたからか、オーディンの意識はギルガメッシュへと向けられる。

 

「聞いておるぞ。お主もまた、小童どもと同盟を結んだそうじゃの。あれ程傲岸不遜だったお主も、丸くなったものよのう」

 

挑発にも似た物言いに、ギルガメッシュの真紅の双眸がスッと細められ、オーディンに向けられる。

 

これはマズい、と咄嗟に話題の転換を図ろうとしたサーゼクスだが、それよりも先にギルガメッシュが口を開いた。

 

「それは俺の先祖の話だろう。例え、英雄王ギルガメッシュが半神だとしても、紀元前から今の時代を生きられるほどの寿命を持ち合わせてはいない。というか、そこまでして生きる意味はとうの昔に失せている。俺はあくまでギルガメッシュの子孫のようなものだ。性格が違うのは当然であろう」

 

「どうだかの。お主には直接的な関わり合いがないとはいえ、ウルクの神には知己がおった。そのウルク神から、ギルガメッシュが子を設けたとは聞かされておらんが?」

 

オーディンの問いに、ギルガメッシュは間を置いた。

 

サーゼクスやアザゼルも見守る中、視線を虚空に向け、数秒の間、静寂を保ってから、深く溜息を吐いた。

 

「はぁ………当たり前だ。暴君であったとはいえ、後に賢王としてウルクを繁栄させた俺の先祖が、子を設けるのに神の眼を逃れるのは至極当然。寧ろ、それがご先祖の狙いだ」

 

ギルガメッシュの答えに、今度はオーディンが言葉を詰まらせた。

 

直接的にギルガメッシュを目にしたわけではない以上、やはり人伝ならぬ神伝で知ったギルガメッシュしか、オーディンは知らない。そんなことをしないとは言い切れないし、かといってその通りだとも言える程当時のギルガメッシュをオーディンは知らない。結局のところ、他の神話を生きる神であるが故に。

 

「なんだ、聞きたいことはそれだけか?」

 

まるで拍子抜けだと言わんばかりの様子でギルガメッシュは言うが、サーゼクスやアザゼルも同じ気持ちだった。

 

わざわざ会ってまで話すにしては重要性がない。電話で事足りるレベルのものだ。

 

そして、もちろんオーディンも、先の問いが本題ではないらしく、先程までの様子から一転し、ふうと肩の力を抜いた。

 

「まぁ、なんじゃ。お主が本人であろうとなかろうと『英雄王ギルガメッシュが存在する』というのは、神々にとっては危険視して当然のことじゃて。人類史において、あれ程までに全ての神話体系の神々を恐れさせたのはお主ぐらいじゃわい」

 

「ジジイにそこまで言わせるってことは、やっぱりギルガメッシュはヤバいのか?」

 

「ヤバいなどというもんじゃないわい。この男が()()を有しているなら、お主達どころか、儂も殺される」

 

「なんと……っ。それでは、彼は……ギルガメッシュは神にさえ匹敵する力を有していると?」

 

「あくまで聞いた話じゃがの」

 

そう言って向けられた視線に、ギルガメッシュは笑みを持って返す。

 

流石にそれ程までの実力を有していると思っていなかった二人は、静かに胸を撫で下ろしていた。仮に敵対するようなことがあれば、一人で三大勢力を全滅させられるかもしれないからだ。

 

「とはいえ、今のお主に敵対の意思はなさそうじゃ。どこぞの悪ガキ曰く、北田舎のクソジジイじゃが、今後はよろしく頼むぞい」

 

「構わん」

 

どちらでも良いというギルガメッシュの態度に、オーディンも完全に気を抜かれた。

 

ギルガメッシュが神嫌いなのは、有名な話だ。そのギルガメッシュに会いに行くのだから、多少なり覚悟はしていたにも関わらず、それを見透かしたかのような態度に一杯食わされた気分だった。

 

「(全く年寄りをからかうとは、悪趣味な小僧じゃて)時にギルガメッシュ。お主、歳はいくつじゃ?」

 

「正確な年齢は覚えておらん。おそらく二十前後だと思うが?」

 

「若いのう。見たところ、嫁もおらんようじゃし。どうかの?こやつを貰ってくれぬか?」

 

「へ?」

 

いきなり指名されたロスヴァイセは間の抜けた声を上げた。オーディンはいつも威厳の欠片もなく、行動の読めない主であるものの、今回のこれは想定外も想定外だった。

 

「お、オーディン様!?一体何をーー」

 

「絶賛彼氏募集中らしいわい。戦乙女(ヴァルキリー)としての能力は申し分ない上、器量もよいぞ。ちと堅すぎるのが難点じゃがの」

 

「勝手に話を進めないでください!私の意思はどうなるんですか!?」

 

「なんじゃ?不満でもあるのか?」

 

「それはもちろんあ……り?あれ?」

 

勢いに任せて言いかけたものの、ふとロスヴァイセは考える。

 

ギルガメッシュは人を束ねる王だ。一つの勢力を率いている以上、財力は圧倒的だ。カリスマ性もある。

 

神さえも殺す実力を有し、かといって人としての美を損ねていない。寧ろ、完成された美だ。

 

見た目よし、実力よし、財力よし、性格不明と来れば、一蹴どころか、かなり美味しい提案なのではと考え始めていた。

 

ーーもちろん、ギルガメッシュは。

 

「断る。俺にまだ嫁はいらん」

 

「だそうじゃ。残念じゃったな、ロスヴァイセ」

 

「振られた!?私まだ何も言ってないのにぃぃぃ!」

 

考えている最中にバッサリ切り捨てられたロスヴァイセは、思わず泣き出す。『彼氏居ない歴=年齢』の彼女に『告白せずに振られた女』という不名誉な経歴が追加された瞬間だった。

 

「さて、用は済んだであろう?俺はそろそろ帰らせてもらいたいのだが」

 

「なんだ、もう帰るのかよ。こっちは話したいことが山ほどあるっていうのによ」

 

「知らん。話があるのなら、俺抜きでするのだな」

 

ギルガメッシュはサーゼクスに声をかけると、そのままVIPルームを出ていく。

 

それを見届けたオーディンは、ふと視線をアザゼルに向けた。

 

「アザ坊。儂から一つ忠告がある」

 

「忠告?なんだ、スケベも程々にってか?あんたには言われたくないぜ」

 

「茶化すでない。真面目な話じゃ」

 

「へぇ……ジジイにしてはいつになく真剣じゃねえか。なんだよ?」

 

アザゼルの問いに、オーディンは瞑目した後、答えた。

 

「ギルガメッシュを推し量れるとは思わぬことじゃ。ひょっとすれば、あやつは『禍の団(カオス・ブリゲード)』なんぞとは比較にならん事をしでかすやもしれん」

 

 

 

 

 

 

 



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英雄王と龍神

 

あの後、冥界から帰った俺を待ち受けていたのは、説教……というか、半ば曹操達からの懇願にも似たお願いだった。

 

唐突な出来事とはいえ、いくら強いとはいえ、お願いだから自分達にも何らかの形で連絡を送ってほしいと。シャルバの時はともかく、オーディンと話をしに行った事に関しては、黙っていた事を一応謝り、結果として今後は外出時においては必ず幹部が一人つく事になった。プライバシーも何もあったものではないが、こればかりは俺が悪い。

 

それから一月は大人しくしていた。一先ず拠点を大きくして、今後禍の団が攻めてきても問題ないように防衛策も講じた。なんだかんだ言って、対人外用に認識阻害をしていただけだからな。何かの間違いで入られていたらと思うと、結構防衛意識が薄かった。

 

因みに設計したのは俺じゃない。ギルガメッシュの宝具を手に入れ、ステータスもそのまま反映されているであろうが、頭脳や性格はその限りではない。そしておそらくはスキルも。

 

いや、黄金律的なものは働いている節があるので何とも言えないが、ギルガメッシュのような千里眼は持ち合わせていない。目は良いが、未来を見通す力は持っていない。

 

カリスマなんて絶対ない。だって担ぎ上げられてるだけだもの。慕ってくれてる人もいるけど、それは恩義を感じてだろうし。義理堅い部下達である。

 

他にも色々あるが、せいぜい機能しているのはコレクターぐらいだろうか、何はともあれ、なんか微妙なものしか機能していないような気がするが、元々ギルガメッシュはゲームで言うところの『レベルなんか1でも装備が最強なら関係ないよね?』だから、気にするだけ無駄だろう。

 

幸いにも設計も建築も、技能を持った人達がいたのでスムーズに進んだ。技術はもちろん、力仕事も神器を活かせば、普通にするのに比べて何倍も速い。

 

一月と少しで一回りは大きくなったと思う。頑張ってくれた人には感謝するばかりだが、このままだと小国家ぐらいになるかもしれないな。神器使いの他にも少なからず特異体質のものだったり、異能を持った人間、曹操達のように英雄の子孫である者達もあそこにはいる。

 

俺のいた世界では少なかったそれも、全部を合わせるとこの世界では千人に一人ぐらいはいるようで、既にここには割と多くの人々がいる。

 

理想なのは彼等が元の社会でも生きていける事だが、残念ながら現状は不可能に近い。力の制御を覚えて、暴走させる事こそ滅多にないが、彼等には一度能力や体質によって迫害されてしまったり、命を狙われた経験がある。それ故に普通の社会に帰る事を恐れている。当然と言えば当然だ。

 

そればかりはどうしようもない。ここを一つの国にする事も視野に入れなければならない。何も他の人間との関係を断絶しようなどとは考えていないが、神器所有者だけでなく、一般人の事も考えなければ、俺が死んだ後にでもまた差別が生まれてしまうかもしれない。自分たちを特別な存在であり、人の上位種だと宣う者さえ現れる可能性もある。優れている事を否定するつもりはないが、あくまでも人間である事を忘れてはいけない。

 

俺が元気なうちに何とかしないと。こういうファンタジーの世界だといつ何が起きるかわからないし。

 

そう。例えば、目の前にいきなり龍神が現れるとかさ。

 

「……」

 

「どうした?我の顔、何かついてる?」

 

なんなんだ、一体。俺は毎月必ず何処かの組織のトップと面談する予定でも入れられてるのか?聞いてないぞ。教えてくれと言った覚えもないし、是非ともお断りしたいが。

 

くっ……俺は拠点から外に出ると幸運値が最低ラインに下がるのか!?

 

「俺に何の用だ、オーフィス」

 

「我の望み。ギルガメッシュなら叶えられる」

 

オーフィスの望み……確か次元の狭間に戻る事だったか。その為には、そこにいるこの世界最強の存在を――グレートレッドを倒さなければいけないんだっけ。

 

無茶苦茶言うな。俺がグレートレッドに勝てるわけがないだろうに。

 

「はっ。何を言い出すかと思えば」

 

「知っている。ギルガメッシュ。人間じゃないもの嫌い。だから我を手伝いたくない」

 

いや、そういうわけじゃないんだけど……手伝いたくないのはあってる。触らぬ神に祟りなし。この世界最強存在を相手に喧嘩を売る気なんてさらさらない。

 

「その為にあのような連中に力を貸しているのか?呆れてものも言えんな。あの程度の者共ではグレートレッドには歯牙にもかけられんと理解しているはずだろうに」

 

「わかっている。でも、あの者達、約束してくれた。我に静寂をくれるって」

 

「……正気か、貴様」

 

思わず、そんな言葉を口にしていた。

 

確かに原作でもオーフィスは悪くないと言っていたが、どこまで純粋なんだこいつは。

 

ひょっとして、手伝うから縁を切れって言ったら、二つ返事で頷いてくれるんじゃないんだろうか。いや、ひょっとしたら、約束を守ると言って頷かないかもしれないが。

 

「ギルガメッシュ?」

 

「生憎だが、グレートレッドの排除は世の安寧を破壊する事と同義だ。お前の手伝いをしてやるわけにはいかない」

 

「そう……それはとても残念」

 

ぐっ……そんな露骨に落ち込むなよ。見た目幼女だから、罪悪感が半端ない。

 

ええい、本当はこれ。主人公の役目なんだけどなぁ。

 

「受け取れ」

 

宝物庫から一つ宝石を取り出し、オーフィスに手渡す。

 

すると、オーフィスはすんすんと宝石の匂いを嗅ぐ素振りを見せた。

 

「ギルガメッシュの匂いがする」

 

「無論だ。それには俺の魔力を込めてある」

 

他にも幾つか同じようにしているのがある。というのも――。

 

「オーフィス。貴様は確かに人間ではない。だがな、貴様ほど無害なやつもそういまい。故にそれを渡す。暇になったらいつでも来い。話し相手くらいにはなってやる。ただし、それを忘れるなよ?でなければ修羅場になる故な」

 

「話し相手?それは楽しい?」

 

「暇にはならん。ひょっとするとお前の次元の狭間(故郷)よりも良いところやもしれんぞ?」

 

「そう。それは楽しみ」

 

途端、オーフィスは目をキラキラさせ始めた。無表情なのに目だけが輝いてやがる……器用なやつだ。

 

仕方ない。ここでまた今度なんて言ったら、いくら何でも可哀想すぎるな。

 

………さて、今回はこっそり抜け出した事に対してどうやって言い訳しようかな。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここがギルガメッシュの国?」

 

「国、というには些か小さいがな。まぁ、概ね合っている」

 

結局オーフィスを連れて、帰ってくる事になった。

 

それだけ聞くと幼女誘拐犯だが、こいつ見た目幼女なだけで、実年齢俺の何千倍クラスだから。その辺はよく覚えておくように。

 

ふと、巡回していたであろう男が一人、俺を見つけると駆け寄ってきた。

 

「お帰りなさいませ、英雄王!そちらの子どもは?」

 

「客だ。基本的には無害な奴よ」

 

「英雄王のご友人であられましたか。それではどうぞ、ごゆっくり」

 

綺麗に礼をした後、また職務に戻っていく。うむ、仕事に真面目で何よりだ。

 

その後も、老若男女問わず、話しかけられる。感覚が鋭い者は既にオーフィスが人間ではない事に気づいているが、俺が『友人』と口にすると、全く敵意を見せずに話しかけていた。最も、多くの者は気づいていないが。

 

「皆、楽しそう」

 

「ああ。お前は楽しくないのか?」

 

「我?」

 

俺の問いにオーフィスが考える素振りを見せる。

 

悩みに悩んだ末ーー。

 

「わからない」

 

「……なんだ、それは」

 

楽しそうなのはわかって、自分が楽しいかはわからないとは、器用なようなはたまた不器用なような。

 

「今までなかった。我、こんな事、知らない」

 

無表情のオーフィスに僅かな寂しさが見えたような気がした。まぁ、元々は次元の狭間をただ泳いでいるだけのドラゴンだ。楽しいとか嬉しいとか、そういうものは一切ないんだろうな。

 

「そうか。ならば仕方ないな」

 

わからないのなら仕方ない。これからわからせてやるまでだ。

 

知らないなら教える。理解できないなら感じさせる。大体感情なんてものは心で感じるものだ。考えてわかるものではない。

 

相手は生まれてこのかた、それこそ何千年も生きてきたやつだが、あくまでそれは一人だったからだ。

 

ここで過ごしていれば、そのうちこいつにも感情というものが理解できるはずだ。ドラゴンとはいえ、ロボットではあるまいし。感情はあるはずだ。

 

少しばかりお節介な上にこれまた俺の役割ではないのだが、乗り掛かった船だ。多少はなんとかしよう。

 

「今日は特に魔剣が鳴いているかと思えば……これはまた凄い『友人』を連れてこられたようだ」

 

苦笑気味にそう言うのは、噂を聞きつけて駆けつけたであろうジークだった。

 

「さぞ名のある『龍』と見た……我が王。このご友人の名は?」

 

「オーフィスだ」

 

「なっ……!?」

 

これは流石にジークも想定外だったらしい。開いた口が塞がらないというのをリアルで初めて見た。

 

「外でばったり出くわしてな。互いに暇を持て余していた故、人の世界というものを見せに連れてきた」

 

ジークが頭に手を当てる。まあ、当然の反応だ。

 

「……この際、我等の誰も同伴させなかった事は目を瞑りましょう。ですが、この場に彼女を連れてくることはないでしょう。彼女はーー」

 

「わかっている。だが、こいつは別に実害があるわけでもない。いや、それどころか、こいつも救出した神器使い同様に利用されているだけに過ぎん。どうにも、なまじ強過ぎると利用されていると言う発想が浮かばんらしい」

 

横目でオーフィスを見ると、やはりというか、きょとんとしていた。

 

まぁ、そもそも利用しようなどとは思わないな。オーフィスが純粋でなければ、わかった途端に全滅させられるだろうに。そう思うと、まるであいつらは子どもを騙して悪事を働かせているタチの悪い大人のようだ。一部とはいえ、滅ぼしておいてよかった。

 

「……確かに。敵意は微塵も感じられない。とはいえ、彼女は『龍』。人ではありません。まして、本人にその気がないとしても、テロリストのボス。なんらかの形で下賤な輩に知られてしまっては元も子もありません」

 

「何、その時は俺が手ずから始末する。そうでなくとも、俺の臣下は一騎当千の強者揃い。陳腐な思想を持った者などに遅れは取るまい」

 

そう。俺は能力頼りも良いところだが、幹部全員超強い。だからこそ、下手に主人公勢にぶつけようものなら、力の差がありすぎて、運命力ガン無視で倒してしまうかもしれない。それはかなりマズイ。

 

俺の言葉にジークは観念したように息を吐いた。その割に嬉しそうなのは何故だろう。

 

「王にそこまで言われてしまうと、これ以上は信頼を損なう事になってしまう。……私はあくまでも反対ですが、我が王を信じ、無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)オーフィス。あなたの滞在を認めましょう。くれぐれも王に失礼なきよう。あなたの滞在は、他の幹部にも伝えておきます」

 

そう言うと、ジークは立ち去っていった。よし、一先ずジークからの理解は得た。あの様子だと他のメンツの説得もしてくれそうだし、手間が省けた。

 

「許可は得た。貴様が良いのなら、しばらくはここにいるといい。次元の狭間がどのような場かは知らぬが、静寂の中、ただ泳ぎ続けるよりもずっと良いはずだ」

 

「ギルガメッシュが言うなら、そうする」

 

むぅ……表情の変化が乏しいからか、いまいち乗り気なのかそうでないのかがわかり辛い。さっきはなんとなくわかったんだが、それも『気がした』だけだしなぁ。

 

まあ、それはそれで感情が豊かになれば分かり易くなるかもしれないって事でいいか。

 

side out

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

オーフィスが人の世界で生活を始めてひと月が経った頃。

 

既にオーフィスの存在は当たり前のものとなっていた。

 

元々、神器や特異体質などの理由から迫害され、社会からはじき出された彼等は人一倍情に厚かった。

 

素性を明かしていないということもあるかもしれないが、それでもオーフィスは当然のように受け入れられ、当然のように生活をしていた。それこそ、生まれた時からこの地にいたかのように。

 

もちろん、オーフィスにそれはない。

 

故郷は静寂に包まれた次元の狭間であるし、『馴染む』という感覚が理解できないのだ。

 

けれども、確かに。

 

禍の団にいた頃よりは余程良いということだけは理解していた。あの組織は決してこのように和やかでも、楽しげでもなかった。

 

今日も今日で屋根の上に登っては、好物の鯛焼きを頬張るオーフィス。

 

ここ最近はこればかり食べていて、栄養が偏ると少し叱られたりもしていた。

 

叱られるというのもオーフィスには新鮮なものだった。オーフィスよりも強い存在はただ一人。そしてその者は決して他者をしかりつける事などしないだろう。何故なら興味がないのだから。

 

オーフィスの正体と強さを知るのはギルガメッシュや幹部達のみ。その他はゲオルグの計らいによって、認識をずらされているために実力者であっても、オーフィスの強さを感じとれないでいた。

 

だからこそ、この街の人々は何の先入観も抱かずにオーフィスに接しているのだ。

 

とはいえ、一挙手一投足に無限の力が込められている以上、オーフィスも多少なり抑えている。彼女にとっては軽く小突いたつもりでも人間に当たれば木っ端微塵になりかねない。

 

「随分、ここに馴染んだものだな。無限の龍神(ウロボロス・ドラゴン)

 

「……誰?」

 

屋根の上に上がってきた男に首をかしげて問いかけると男は答える。

 

「曹操だ。英雄王の臣下の一人だよ」

 

「ギルガメッシュの?我に何か用?」

 

「いいや。ただ、偶然見かけたから声を掛けただけだ。用はない」

 

「そう」

 

話を区切ると、またオーフィスは鯛焼きを頬張る。その姿を見て、曹操は苦笑した。

 

美味しそうに、とは見えないが、それでもその光景は実に見慣れたものだ。ここにいる子ども達と何一つ違わない。曹操自身、話しかけたのは今回が初めてであったが、街の人間から既に話は聞いていて、まさしくその通りであることに拍子抜けしていた。

 

(いくら認識がずれていても、オーラがあると思ったんだけどな)

 

油断ならないのは確かだが、本当に欠片ほどの敵意はおろか、曹操に対してあまり興味を示していないのがすぐにわかった。おそらく、今ここで神器で攻撃したところでこの存在は歯牙にもかけず、ただ『お前では殺せない』という事実を突き付けてくるだろう。

 

もっとも、ギルガメッシュの連れてきた『客人』である以上、攻撃をする気などこちらも欠片も持ち合わせてはいないのだが。

 

「この街の人間、皆良い者達。我を見ても、恐れない」

 

「……そうだな」

 

ゲオルグのした事はオーフィスも理解しているはずだ。それでもなお、その言葉を告げた事に僅かに驚きつつも、曹操は相槌を打った。

 

「曹操も同じ。我を見て恐れない」

 

「残念ながら君より強い人間と共にいるんだ。恐れる道理がない」

 

「ギルガメッシュのこと?」

 

「ああ。でも、彼を恐れる理由もないか。彼は俺達の、いや人類の味方であり、絶対の王だ。人間に手を下す時は、それ相応の理由があるし、それも大抵の事は許される。まぁ、あまり優しすぎるのも困りものなんだがな」

 

思い出してみても、ギルガメッシュが本気で怒ったところを見たことがないというのが曹操の本音だった。初めて会った時、本気の一端を垣間見た時でさえも、決してギルガメッシュは()()()()いなかった。そして基本、ギルガメッシュは曹操達を諌める側だ。どれだけの無礼を働いたとしても、ただの一度もギルガメッシュは怒りを露わにしたことが無いのだ。

 

「だから、君をここに置いたのも、おそらく英雄王は君を脅威と見なしていないからだろう。俺でさえそう見えてしまうんだからな」

 

以前、ギルガメッシュと話したようにオーフィスは別段世界をどうこうしようなどという野望も野心も持ち合わせていない。それは曹操にもすぐわかった。

 

とはいえ、何をしでかすかわからないという疑念はあったために今まで警戒する事はあったものの、それもほとんど無くなっていた。

 

ついでに言ってしまえば、この様々な人間の集う場所において、曹操は人外によって不幸をもたらされていない人間だ。英雄派を作ろうと企てた理由が『人間の限界に挑む』というものなのだから、それは明らかであるが。

 

もちろん、人外が好きなわけでは無い。ここにいる多くの仲間(家族)は人外達によって人生を捻じ曲げられたり、望まぬ力によって人並みの生活すら送れなかった人間ばかり。自分で無いとしても、恨みつらみがあるのは当然だ。

 

それでも、まだ曹操は幾分か冷静にいられる余裕があるのも確かだった。

 

悪魔や堕天使ならいざ知らず、ドラゴンは基本的に人には干渉しない。故にオーフィスの事も、曹操自身に思うところはあまりなかった。

 

「まあ、この際だ。禍の団は捨てて、ここでーーん?」

 

懐に入れていた携帯電話が鳴り、曹操はその相手がギルガメッシュであると知るとさっきまでの弛んだ気を引き締める。

 

「どうしたんだい、我が王ギルガメッシュ」

 

『時は満ちた。奴らを一掃するぞ』

 

「奴ら?もしかしてーー」

 

『ああ。そろそろ奴等が総力を挙げて攻める頃だろう。なれば、一人残らず屠るまでだ』

 

あまりにも唐突にそう告げたギルガメッシュにも、曹操は別に驚く素振りを見せなかった。ギルガメッシュのこれはよくあることであるし、妄言でも何でも無い。今までもそうして幾度となく神器所有者を救い、その在り方を示してきた。

 

「しかし、彼等では現悪魔に勝てる道理が無い。このまま放っておいてもいいのでは?」

 

『かもしれぬな。だが、奴等のような存在は一人でも残せば何をしでかすかわからぬ。故に憂いは断つのが道理であろうよ』

 

「……現悪魔に被害を及ぼすだけならまだしも、こちらに何かされては厄介か……わかった。それで?どこに向かえばいい?」

 

『追って話す。既に現悪魔とぶつかっている最中だ。そこからの直接転移になるが、構わぬな」

 

「ああ。一向に構わない」

 

『ならば良い。ああ、それと。くれぐれも同盟相手には手を出さぬようにな』

 

「出さないさ。現状では一応味方だ」

 

そう言った後、曹操は携帯電話を切る。

 

普段なら何も言わずに向かっているギルガメッシュが、自分に頼んできたことが少しばかり気になったが、ギルガメッシュをして、面倒だなどという理由で任せることは決して無い。おそらくは自分が行かねばならない戦場であるということなのだろう。

 

しかし、そうなると気になるのはオーフィスだ。

 

仮に今が禍の団の総力を挙げて最後の作戦を仕掛けているということは、オーフィスにも声がかかっていてもおかしくは無い。ともすれば、曹操がここから離れた途端、オーフィスも行動を開始する可能性も少なからずあった。

 

そう思った時、ふとオーフィスが立ち上がる。

 

「何処へ行くつもりだ?」

 

まさかと思い、曹操は問いかける。

 

もしも、禍の団の長として動くというのであれば、即刻ギルガメッシュに伝えねばならない。

 

最大限の警戒を込めた問いかけに、オーフィスはただ一言。

 

「鯛焼きが無くなった。また買ってくる」

 

思わず、ズッコケそうになった曹操だった。




次回は曹操活躍……の予定。


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《格》の違い

「ゲオルグ。曹操は?」

 

「転移は完了しました。流石に手間取りましたが、完璧です。しかし、よろしかったのですか?本当に戦場のど真ん中で」

 

「ああ。あそこは幾重にも重ねられた結界の中だ。曹操でも力づくでこじ開けるのは手間だろう。であるなら、直接転移させる他あるまい。こちらには優秀な魔法使いがいる故な」

 

「お褒めにあずかり光栄です」

 

それに曹操なら大丈夫だろうし。あちらには確かオーディンがいるし、今回の作戦の要は、原作において英雄派が担っていた。その英雄派がいない以上、何もかもが原作よりも遥かに劣る。そこに本来いないはずの助っ人。あちらにとっては軽く悪夢だな。

 

本当なら俺が行っても良かったんだが、そうなるとまた怒られる。トップである英雄王が早々前線に出るものでは無いと。俺としては仲間の安全やら原作の流れやらを大幅に変えないために前線に出るのだが、曹操達の言い分もわからないでも無い。なので、今回は曹操に任せた。人外と共同戦線を張れそうなのは曹操かヘラクレスぐらいのものだしな。

 

「王。ジーク率いる別働隊が『禍の団』の拠点に到着しました」

 

「保護と自分たちの身の安全を優先しろ、深追いはするなと伝えておけ」

 

「はい。私の方からそう言っておきます」

 

そして先日においては、以前に保護していた神器使いの子どもが心を開きつつあり、その中の一人が『別のところに友達がいる』と教えてくれたのだ。

 

そうとわかれば話は早い。

 

ゲオルグの魔術で位置を割り出し、少数精鋭の部隊を送り込む。

 

あくまで救出が最優先なので無理はするなと伝えておいたが、振りではないというのに絶対に無理してる奴が一人か二人いる。もちろん、ちゃんと叱ってはいるが、なぜか喜ぶのであまり意味がない。

 

『こちら曹操。現場に到着したが、どうすればいい?』

 

「雑魚は他の連中に任せよ。お前はグレモリー眷属のいるところに向かえ。十中八九、そちらに今回の首謀者がいるはずだ……ああ、ついでに言うなら()()()()()()()()

 

『ふっ、わかっているよ。また何かあればこちらから連絡しよう』

 

曹操との通信が切れた。

 

ふう、これで良し。

 

曹操の神器はものがものだから、加減をミスったら、余波でグレモリー眷属にダメージを与えかねないし、そうなったらこちらの落ち度だ。曹操に限ってそんなことは無いだろうが、

一応釘は刺しておかないと。

 

後はオーフィスだが……。

 

「………」

 

「いきなり部屋に入ってきたかと思えば、何故ひたすら無言で食べている?」

 

曹操を転移させて間もなく、鯛焼きを大量に所持したオーフィスが部屋の中に入ってきた。何か用でもあるのかと思っていたのだが、俺の横に座って無言で鯛焼きを頬張り始めた。

 

……いや、無言ではあるが、どうにも様子見をしているような感じだ。流石に気づいているか?

 

まあいいか。原作の事を考えると、オーフィスは旧魔王派に対して、特別な感情を持っていたわけではない。双方の利害が一致したから協力していただけだった。

 

何らかの形で旧魔王派に思い入れの一つでもあれば、壊滅させるのは少しばかり忍びないが、それはそれ。相手はテロリストだ。慈悲をかけるつもりはないし、その選択権は今の俺にはない。

 

一足早く、奴らには退場してもらおう。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

裏で『禍の団』と手を組み、アーシア・アルジェントを奪い、リアス・グレモリーとその眷属を葬ろうと画策していたディオドラ・アスタロトを倒したイッセー達。

 

アーシアを捕らえていた結界もイッセーの洋服破壊(ドレス・ブレイク)によって破壊され、一行は『禍の団』によって生み出された空間を後にしようとしていた。

 

「さて、アーシア。帰ろうぜ」

 

「はい!と、その前にお祈りを」

 

イッセーの元に駆け寄る前にその場でアーシアは天に向かって祈りを捧げていた。

 

その時ーー。

 

風切り音と共にアーシアの頭上すれすれを何かが通過していき、壁に突き刺さる。

 

『っ!?』

 

誰もいないところから飛来した何かに一同は臨戦態勢をとった。

 

あくまでもここは敵のフィールドである。いつ、どこから、誰が攻撃してきてもおかしくないのだ。

 

「ーー間一髪だったな。旧魔王派め。随分と趣味の悪い事をするものだ」

 

「誰だお前!」

 

暗がりから現れたのは中国の武術家のような服を着た青年だった。

 

「見たところ悪魔ではないようだけれど……あなたも旧魔王派の人間かしら?」

 

「心外だな。大義名分も何もない彼等のような害悪と一緒にされるのは」

 

「では、何の用?いきなり私の可愛い下僕に手を出すなんて。許されることではないわ」

 

怒りを露わにするリアス。

 

それは当然の事で、当たらなかったとはいえ、一歩間違えれば、アーシアの頭は消し飛んでしまいかねない一撃だったのだから。情愛の深い彼女たちグレモリーならば尚更だ。

 

「いや、思ったよりも事態が逼迫していたようだったからね。説明している余裕もなかったから、先に済まさせてもらったよ」

 

「済ませた、だと?貴様、アーシアに何をーー」

 

「何もだよ、デュランダル使い。寧ろ、何か()()()()()のは彼女の方さ」

 

「……それはどういうことかしら?」

 

「発動条件は詳しく分からないが、転移の魔法がかけられていた。それを少し強引だが、俺の神器で一部だけ削り取って無効化したのさ。だから、当てるつもりは初めからない」

 

当てるつもりがあれば、アーシアはおろか、その周囲にいたイッセー達も含めて消し飛ばせる程の一撃を曹操は放つ事ができた。それをしなかったのはひとえにギルガメッシュの意思だ。

 

「我が王の天眼に見抜けないことはない。そこのアスタロトは知らなかったのだろうが、彼女は結果はどうであれ、次元の狭間にでも放り出されていただろうさ」

 

ギルガメッシュはアーシア・アルジェントが敵に利用されている可能性がある事を示唆していた。そして、アーシア・アルジェントに何か細工をしていることも。

 

青年の言葉にイッセー達も、そして呆然としていたディオドラでさえも驚愕していた。

 

「そんな馬鹿な……っ!彼は確かに協力すれば、アーシア・アルジェントは僕にくれるってーー」

 

「そんな事をするわけがないだろう?第一、ディオドラ・アスタロト。お前もーー」

 

「愚かなる偽りの魔王の血族だからだ」

 

離れた位置に魔法陣が出現し、そこから貴族服を着た男が現れた。

 

「ようやく現れたか、旧魔王派最後の血族。クルゼレイ・アスモデウス」

 

「『旧』ではない。俺達こそが真の魔王なのだ。サーゼクス達は所詮偽りの魔王に過ぎん。俺達こそが真の魔王として悪魔を統べるべきなのだよ」

 

「それはどちらでも構わない。だが、それだけの野望を宣いながら、我らの同胞を利用する理由を教えてもらおう」

 

「あれらには利用価値がある。何の才も持たない者よりも、我らの崇高な野望の為に利用されて然るべきだ。そうは思わないか?英雄王の部下」

 

「……実に旧魔王なだけはある。人間に何の価値もないと思っているな」

 

青年ーー曹操は苦笑する。

 

あまりにもわかりやすい悪。悪の体現者であり、魔王の血族を名乗るに相応しい言動と言えた。

 

「本来なら貴様に用はない。だが、カテレア・レヴィアタンに続き、シャルバ・ベルゼブブも貴様らに葬られた」

 

「現魔王を葬る前にその血族を。さらにそのついでに敵討ちというわけか。驚いたな、まさかそちらに仲間意識があったとは」

 

「利用している天使や堕天使どもとは違うっ!新たな世界を創るために彼等の力は必要だったのだ」

 

そう言うとクルゼレイの身体からドス黒い魔のオーラが迸る。

 

明らかに並の悪魔とは一線を画した魔力は、クルゼレイが魔王の血統である事の証左と言えた。

 

「……それが『蛇』の力か?」

 

「そうだ!今の俺は前魔王に匹敵するほどの力を得ている。たかが人間の王に仕える英雄風情にかなう道理はないのだよ!」

 

「たかが人間の王……か。念のため、確認しておくが、それは我が王……英雄王ギルガメッシュに対しての発言と捉えていいんだな?」

 

「無論だ。黙って我らに協力しておけば良いものを、愚かにも現魔王と和平を結んだ愚かなる人間の王。あれも新世界には不要な存在だ。現魔王を葬った後に殺してーー」

 

「ーーわかった。もう喋らなくていいぞ」

 

その瞬間、確かにその場にいた全ての存在の目から曹操の姿が消えた。

 

「が、がぁぁぁぁぁああああっ!?!?」

 

そして神殿内にクルゼレイの悲鳴が響き渡る。

 

クルゼレイの左腕は肩から消え失せ、傷口からは煙が上がっていた。

 

「き、貴様!一体どうやって、俺の後ろに……」

 

咄嗟に距離をとり、焦燥感を露わに曹操へと問いかける。

 

いつの間にか、聖槍を手に戻していた曹操はまったくの無表情だった。

 

「俺を罵倒するのは結構だ。もしも、俺が王に出会っていなければ、俺もおそらく、そちら側だったのは俺にはよくわかる。まるで三下の雑魚が考えそうなことだ」

 

自嘲気味に笑う曹操。

 

しかし、次の瞬間身体中から聖なるオーラが迸り、神殿を震わせた。

 

「だがな、たかだか魔王の血だけを頼り、真偽に拘る悪魔風情が、我らが王を貶めることは断じて許される事ではない。貴様のごとき悪魔とは比べるべくもない」

 

怒りを宿した瞳と聖槍の矛先をクルゼレイへと向けた。

 

「真を名乗る愚かなる魔の者よ。推して測るまでもない。貴様に魔王の資格はない、クルゼレイ」

 

「調子に乗るな!たかが神器使い風情が!」

 

放たれる無数の魔力。

 

人間である曹操にはそのいずれもが致命傷たり得る一撃だ。当たれば死は免れない。

 

当たれば、の話であるが。

 

「この程度か」

 

聖槍の穂先に聖なるオーラを集中させ、横薙ぎに振るう。

 

ただそれだけの行為で、魔力の弾丸は消え失せた。

 

「ば、馬鹿な……っ!何故貴様ごときに、偉大なるアスモデウスである俺の攻撃が……」

 

「わかりきった事だ。クルゼレイ・アスモデウス。貴様が()()()()からに決まっているだろう?これでよく偉大だと宣えたものだな」

 

その一言で怒髪天を衝いた。

 

先程と違い、クルゼレイは右の手の平に魔力を集め始める。

 

「くはははは!嬲り殺してやろうと思ったが、気が変わった!貴様は塵一つ残さず、消し飛ばしてくれる!」

 

「最後には力技か……やはり、お前達は『王』を名乗るには器が小さすぎる」

 

「ほざけっ!」

 

集められた巨大な魔力の塊が曹操へと放たれる。

 

「どうだ!先程は手加減したが、これが俺の本当の力だ!貴様ごときにどうこうできる代物ではーー」

 

それ以上、クルゼレイが言葉を紡ぐ事はなかった。

 

魔力の塊のど真ん中を穿ち、クルゼレイの上半身を曹操の聖槍が消しとばしていたからだ。

 

大部分を失った魔力の塊は霧散し、聖なる一撃によって葬り去られたクルゼレイは塵となった。

 

「この程度が本気では我が王はおろか、俺達にもかすり傷一つつけられないな。……といっても、もう聞こえてないか」

 

足場にしていた魔法陣から飛び降り、曹操は戻ってきた聖槍を一つ回して肩に預ける。

 

「さて、俺の役目は終わった。ここにもう用はない……と言いたいところだが」

 

イッセー達の方に歩み寄り、曹操は淡々とした口調で告げる。

 

「木場祐斗、アーシア・アルジェント、ギャスパー・ヴラディ、そして兵藤一誠。我々のところに来るつもりはないか?」

 

『なっ!?』

 

突然の曹操の提案に驚きの声が上がる。

 

あまりにも唐突すぎる提案。その内容もまた驚愕であるが、ことも無げに言い放った曹操にも驚いていた。

 

「一体どういう事かしら?私の下僕を勧誘するなんて」

 

「リアス・グレモリー。貴女は悪魔の中においては素晴らしい人格者だろう。それは眷属達の経歴と現状を照らし合わせれば一目瞭然だ」

 

「お褒めに預かって光栄ね。それがどうしたというのかしら?」

 

「だからこそだ。あなたによって『悪魔に転生する』という形で復活こそ果たしているが、彼等もまた我々の同志だ。神器によって運命を翻弄された者というね」

 

曹操の言葉にリアスは思い当たる節がいくつもあった。

 

祐斗は聖剣計画において、剣に関わる神器を持っていたために実験に利用されていた。

 

アーシアは神器の能力故に『聖女』となり、ディオドラの策略で『魔女』となった。

 

ギャスパーは強大すぎる神器の能力が自他共に恐怖の対象となり、国を追われ、人格に多大な影響を与えた。

 

そして兵藤一誠は、普通の学生から突然非日常に身を置くことになった。

 

四人のいずれもが、直接的または間接的に神器が関わり、命を落としているのだ。

 

「まだ我らの組織が出来ていなかった当時の木場祐斗とギャスパー・ヴラディについては何も言わない。だが、アーシア・アルジェントと兵藤一誠だけは謝罪させてもらう」

 

「え?」

 

「謝るって、何をだよ?」

 

「君達については、もう少し特定するのが早ければ、保護することも出来た。それが出来なかったのは俺達のミスだ。本当にすまなかった」

 

そう言って頭を下げた曹操に、イッセーとアーシアは困惑する。

 

確かに神器に狂わされた人生ではあるものの、リアスに救われたことで良い人生を送れていることもまた事実なのだ。

 

それは曹操自身も理解しているが、あくまで結果論でしかない。

 

神器所持者を救えなかった。それだけだ。

 

「今更なのはわかっている。だが、もしも、君達がいいというのであれば、我々の元に来る気はないか?例え、悪魔に転生していたとしても、仲間であることに変わりはない」

 

曹操の提案は、ギルガメッシュの言葉ではない。

 

あくまでも独断によるものだが、曹操は仮にイッセー達が肯定した場合、ギルガメッシュも受け入れてくれるという確信があった。

 

しかし、彼等は顔を見合わせるとこう言った。

 

「残念だけど、僕はリアス・グレモリーの騎士だ。そちらの提案は受けかねる」

 

「ぼぼ、僕も……リアス部長のところがいいですぅ……」

 

「私もです。色んなことがありましたけど、今が一番幸せですから」

 

「あー……あんたが俺たちの事を想って言ってくれてるのはわかるんだ。でもさ、俺たちは部長のところが一番良いんだ。だから、その、嬉しいけど、その話は無しって事で」

 

「……そのようだ。少し不躾だったかな。勝手に勧誘した事を詫びよう。リアス・グレモリー。こんな事を言うのはおかしいが、君は『良い』悪魔のようだ」

 

そう言うと、曹操は踵を返す。

 

(なるほど。英雄王は俺にこれを見せたかったのかもしれないな)

 

ギルガメッシュをして、自分の行動を見抜けないはずがない。

 

自分がイッセー達に勧誘するであろうという事をギルガメッシュがわからないはずはない。

 

それらを見越して、ギルガメッシュは曹操をここに送り込み、リアス・グレモリーとその眷属の信頼関係を見せたかったのだ。

 

人が悪い。としか言いようがない。

 

確かに曹操でなければ勧誘はしなかっただろうし、曹操といえど忠告されていたのなら、勧誘はしなかった。

 

「やれやれ。俺もまだまだだな」

 

持ってきた簡易式転移用魔法陣を宙に投げると、曹操の身体は光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『ーーというわけだ。黒幕の最後の一人はそちらが手を下したようだが、構成員はこちらで壊滅させた。これで『禍の団』も活動する事が出来なくなるだろう』

 

「頭を失えば統率を失うのは道理だな」

 

原作も同じ時期に旧魔王派は壊滅していたと思う。そして英雄派は『禍の団』におらず、オーフィスとしては旧魔王派に思うところはない。完全に『禍の団』は壊滅した。

 

『そちらには借りを作ってばかりで申し訳ない。英雄王』

 

「構わぬ、こちらも奴らの存在は厄介であったからな」

 

下手に生きていられては困る。シャルバを殺した以上、本来死ぬべきクルゼレイが生き残るなんてことになったら、何が起きるかわかったものじゃない。

 

「ところでディオドラはどうした?奴らに手を貸していたのだろう?」

 

『彼は幽閉された。残念ながら、アスタロトの当主は解任。次期魔王の輩出は不可能となった』

 

いや、まあ正直どうでも良いんだが。多分、あいつ生きてても何も変わらないだろうし。アスタロト家の事も、割とどうでも良い。

 

「当然の結末か。殺された方が、奴もまだマシだったやもしれぬな」

 

『こちらとしても残念だったよ。彼にもいずれは冥界を背負って立つ悪魔になって欲しかった』

 

「優しいな」

 

そして、それこそが旧魔王と現魔王のどちらと手を組むか、分かれた要因でもある。負け馬に乗る理由もないが、そもそも外道に手を貸すのは死んでもごめんだ。第一、こっちを格下扱いする奴らに貸す力なんてこれっぽっちも持っていない。

 

と、その時、電話越しに歓声めいたものが聞こえた。

 

「ん?何の声だ?」

 

『あー、こちらでは今駒王学園の体育祭の最中でね。私も妹の晴れ姿を見に来ているんだ』

 

体育祭……そうか。そういえばこちらでも最近似たような事をしていたな。学校の数も少ないから一応、全部の体育祭に開式の言葉を言いに行ったっけ。何故に言うのが校長じゃないのか気になるが。

 

「願わくば、このような時間を『当然』だと思える世の中にしたいものだな、サーゼクス」

 

『ああ、まったく。いずれ全ての種族が確執無く過ごせる世界を創りたいよ』

 



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急がば回れ(結果が変わるとは言ってない)

「悪かったって言ってるだろ。目的は達成したし、土産は……木っ端微塵になっちまったけど」

 

『だから、それが問題だと言っている!辺り一帯を更地にしたことはともかく、王が頼まれた物まで木っ端微塵など、死活問題だ!これだから貴様というやつはーー』

 

「わかったわかった。また買い直してくるから、王様には遅れるって言っといてくれや」

 

『貴様、一体何回目だとーー』

 

電話の向こう側で怒鳴っているのも気に留めず、男は通信を切った。

 

これでまた帰れば小言が待っているのだが、その時はその時だ。右から左へと聞き流していくだけである。

 

「それもこれも、全部こいつらが悪いっつーのに」

 

千切れた腕をつまみ上げて、男は溜息を吐いた。その腕の主の姿はない。残っているのは、あくまでも腕のみである。

 

元はと言えば、突如異形の者達が襲ってきた事が原因で、男はそれを迎撃、結果として周囲を更地(・・)にしてしまい、ついでにその辺に置いておいた土産も跡形もなく消し飛んでいた。

 

……実際のところは勝手に男が縄張りを縦断したためであるのだが、男はそれに気づかないし、『いるのが悪い』と言い張るが。

 

「あーあ、転移用魔法陣持ってくるんだったぜ」

 

基本的に何事にも無頓着なせいで、帰る際に使用する転移用魔法陣を忘れ、仕方なく徒歩で帰らざるを得ない状況になっていた。

 

かれこれ半日歩いていたのだが、これでまた半日かけて戻らなければならない。迎えを頼むのもいいのだが、そうなると小言が余計に酷くなるのだ。

 

「しゃあねえ。さっさと帰って……あん?」

 

不意に空を見上げた男ーーヘラクレスの視界に、閃光が走った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「何?ヘラクレスが帰らない?」

 

「そうらしい」

 

立ち話をしている曹操とジャンヌに声をかけると、そんな事を言われた。

 

ヘラクレス。

 

うちの幹部にしてその名の通り、ヘラクレスの魂を受け継ぐ者で、こちらもやはり原作とは違う。

 

やや脳筋傾向があるが、基本的にはいいやつだ。なんだかんだと言っても、幹部はともかく、他の者には慕われているし、身体能力の高さと打たれ強さはおよそ人間離れしている。正直なところ、人間かどうかも疑わしいレベルに。

 

頼もしい限りだが、問題が多々ある。

 

頭を使うのは面倒くさがるし、会議は参加しない、細かいこともスルーしまくるし、何でもかんでも大雑把過ぎるのだ。そのせいかは知らないが、あいつのサバイバル能力は異常に高いが。

 

「いつものように何処かに寄り道をしているものと思いますが……」

 

「?どうした、何か引っかかるか?」

 

「いえ、最後にゲオルグへ通信があったようなのですが、どうやら何者かと交戦していたらしいのです」

 

「『はぐれ』にでも遭遇したのではないか?」

 

「俺もそう思った。ただ、ゲオルグが言うには『通信越しに神性を感じた』そうだ。それもかなり強大な」

 

「神性だと?」

 

ということは、ヘラクレスは神か、それに近い相手と戦っていたという事になる。

 

しかし、あいつはあれで恨みつらみを戦いには持ち込まないタイプの人間だし、いきなり神に喧嘩を売るような阿呆でもない。

 

そうなると、あちらから絡まれるか、間接的に巻き込まれたとかそういうのだろう。

 

「ヘラクレスは馬鹿ですが、実力は確かです。並大抵の者では手も足も出ないのですがーー」

 

「相手が並大抵の者ではない可能性が高い、か」

 

「そこでどちらか一人が現地に向かうという話になったというわけさ。ひょっとすると、かなり危険な目にあうかもしれないしね。他の人間を迎えに送るわけにはいかないだろう?」

 

なるほど。曹操は神性を持つ者の相性は抜群。ジャンヌも『禁手』を使えば、曹操ほどでないにしろ、神との相性は良い。ジークは魔を宿す者が専門であるし、ゲオルグはあまり戦場に出るタイプではない。二人のどちらかがベストだろうな。他の構成員も、組み合わせ次第では十分に戦えるが、あまり危険な場に送りたくないのも事実。その判断は正しいと言えるがーー。

 

「いや、ここは俺が行こう」

 

俺がそう言うと、反論の嵐が……来なかった。

 

んん?いつもなら全力で反対してくるジャンヌは苦々しい表情で黙るばかりだった。

 

「だから言っただろう?こそこそしても、いずれ王自ら出向くと言いだすって」

 

「ぐっ……こんなことなら、先に私が行った方がーー」

 

「結局変わらなかったと思うけどな。それは君もわかるだろ?」

 

上手い具合にジャンヌが言いくるめられていた。

 

こうなったら、ジャンヌは曹操に勝てない。というか、口論になって曹操を言い負かせるのはゲオルグくらいか。それもごく稀にだが。

 

「……わかりました。本来ならばこのような事にお手を煩わせるのは申し訳ないのですが……」

 

「構わぬ。あちらには用がある。そのついでだ」

 

そういえば、そろそろ俺が頼んでいた秘密の隠れ家が出来ている頃合いだろうし、その確認をする口実にもなる。ヘラクレスの安否を確認次第、そちらに向かうとしよう。

 

善は急げ、早速……ん?

 

ちょいちょいと服を引っ張られる。

 

こんな事をしてくるのはオーフィスか……と思っていたら、違った。

 

「レオナルドか。どうした?」

 

控えめに俺の服を引っ張っていたのはレオナルドという少年だった。

 

わかるかと思うが、この少年もまた原作キャラの一人であり、魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)という神器を持つ人間で、その能力は様々な能力を持った魔獣を創り出す事ができるところだ。

 

この子もまた、神器の能力故に孤独な環境で育っていたために心を閉ざしていたのだが、ここでの生活のお蔭で少し物静かな少年へと戻っていた。

 

基本的に強く主張しないレオナルドが、こうして話しかけてくる事は珍しい。

 

少しだけ屈んでレオナルドの視線の高さに合わせた。

 

「王様……の、力に……なりたい」

 

「俺の?」

 

「僕、の……力。王様の、役に……立て、たい……!」

 

急にそんな事を言い出すなんて……さっきの話を聞いていたのか?

 

危険な目にあうかもしれないって、曹操も言っていたし、レオナルドなりに心配してくれているのだろう。

 

「大丈夫だ、レオナルド。俺たちには危険でも、王ならーー」

 

「いや、その心意気を買うぞ。レオナルド」

 

「王……っ!レオナルドはまだ子どもです!制御しきれていない神滅具を使わせるのは、賛同しかねますっ!」

 

ジャンヌが珍しく反論してくる。

 

俺を慕ってくれている彼女だが、それは妄信的なものではなく、あくまで俺が外道ではないから。信頼に足る行動を多分起こせているからに他ならない。

 

だから、彼女の反論は最もだ。

 

神滅具はそれだけで危険視されるほどの神器。

 

子どもが御し切るというのはなかなかに困難な事だ。

 

だがーー。

 

「ジャンヌ。本当にレオナルドがただの子どもに見えるか?こやつの面構えを見てみろ」

 

「っ……!」

 

レオナルドの決心したような表情を見て、ジャンヌは驚愕の表情をする。

 

いくら子どもとはいえ、レオナルドにだって危険性は嫌という程わかっているはず。

 

なのに、俺に力を貸してくれるというのだから。よほど勇気を振り絞ったに違いない。

 

小さいとはいえ、覚悟を決めた男に対してそれを理由に突っぱねるのは些か非情とも言える。

 

「三体だ。レオナルド。お前の気に入っている魔獣を連れて行く。好きなものを創れ」

 

こくりとレオナルドが頷く。

 

レオナルドは連れて行かない。当たり前だ、危険な可能性が少なからずあれば、子どもを連れて行くわけにはいかない。

 

レオナルドが創り出したのは……うん?

 

「ドラゴン……か?」

 

「かっこ、いい、から」

 

地面から現れたのは三体のドラゴンのようなものだった。

 

もの、というのは正しくはドラゴンではないからだ。

 

見た目こそドラゴンに近いが、翼や胴、手や足などが明らかに別の生物が混じっている。しかも体長も一メートル弱と小型だ。

 

おそらく、レオナルドではまだドラゴンを創り出せるほどの能力はないはずだ。だから、あくまでも他の魔獣との混合になるのだろう。さしずめ合成魔獣(キメラ)というところか。

 

……まぁ、レオナルドの夢を壊しかねないので否定はしないし、そうだとしても一瞬で創り出せるというのはなかなか凄いことだ。

 

「よし。では、この三体を連れて行くとしよう」

 

「うん……レーン、トゥール、ミュトス。王様、守って」

 

名前付きとは恐れ入る。となると、この三体はよほどレオナルドが気に入っている魔獣なのだろう。

 

さて、レオナルドがお気に入りを貸してくれた以上は無事に帰ってこなきゃな。ヘラクレスの奴も、変なのに巻き込まれていないといいが。

 

街の外に出て、ヴィマーナを取り出す。

 

魔獣のサイズが小さめなのも幸いして、全員がヴィマーナに乗り込むことができた。

 

しかしーー。

 

「やれやれ。これではあまり英雄らしいとはいえんな」

 

ゆっくりと高度を上げていき、高度百メートルを超えたところで、一気に加速する。

 

数秒と経たないうちに音速を超える。目的の座標は……日本か。

 

なんかこの時点で嫌な予感がするが、口にはしない。だってフラグだもの。

 

それから数分経ったところで、ふと違和感を感じた。

 

レオナルドの魔獣が同じ方向を向いて、威嚇の姿勢を取っていた。

 

まだ何もいないはずだが……くっ、特に目がいいわけではないから何も見えん。かといって、レオナルドがいないから意思疎通も難しい。

 

……仕方ない。このまま突っ切る!

 

ヴィマーナをさらに加速させる。最早一秒前の景色が遥か後方のものとなる。

 

よし、これなら何かがいても、近くを音速で通過ーー。

 

「ぐぅっ……何者だ、貴様!」

 

出来ませんでした。

 

ものの見事に体当たりをかましてしまっていた。

 

相手の方は魔法陣を展開して、なんとか防いでいるのだが、流石はヴィマーナ。ただの体当たりでもって、魔法陣にひびを入れていた。

 

とはいえ、こちらも無傷とはいかない。前の方は壊れてしまったし、そこから徐々に酷くなっていた。

 

まぁ、減速にはある意味成功しているので、そこから加速することはしないし、謝っておかねば。

 

ヴィマーナが完全停止したところで、玉座から降りて、前に行く。

 

「すまない。わざとではないのだ。たまたまここを通りかかっただけでな」

 

「ふんっ。白々しい」

 

黒いローブを着た男は嘘などお見通しとばかりにそういった。

 

……いや、本当に通りかかっただけなんですが。

 

「オーディンめ。悪魔だけではなく、神器使いの増援を呼んだか」

 

オーディン?あいつが関係あるのか?

 

「何か勘違いしているようだが、俺は増援に来たわけではーー」

 

「おーい!」

 

説明をしようとしたところで誰かの言葉に遮られる。

 

誰だと思い下を見てみればーー。

 

「……ヘラクレス?」

 

「やっぱりな。あんたなら来ると思ってたぜ、王様よ、っと!」

 

デカい犬や蛇みたいなやつの大群と戦うヘラクレスに……グレモリー眷属?しかもヴァーリたちまでいる。

 

なんだ、これ。怪獣大戦?

 

と、そのデカい犬のうち小さめの一匹が飛びかかってくる。っていうか、デカっ!?

 

殺意を撒き散らしながら飛びかかってくる犬に驚いていると、直前でそれを受け止めるやつがいた。

 

レオナルドのドラゴンだ。それが俺と犬の間に入ってきて、正面から受け止めた。

 

「ほうっ。子どもとはいえ、フェンリルの一撃を受け止めるか。面白いものを飼っているな」

 

フェンリルの子ども……だと?

 

……ちょっと待て、待ってくれよ。

 

まさかとは思うが……。

 

「貴様が悪神ロキか?」

 

「如何にも」

 

恐るおそる問いかけてみれば、間髪入れずにそう答えた。

 

やっぱりか……!

 

そういえば『禍の団』の一件で片が付いた後にこういうイベントがあったような気がする。具体的にどれぐらいの時期に起きていたのか覚えてなかったし、そもそも原作との乖離が進んでいる現状、同じタイミングで起きる可能性も少なかったわけだが。

 

つまり、アレか。

 

ヘラクレスは喧嘩を売ったわけでも売られたわけでもなく、帰還途中でグレモリー一行とロキ達の戦闘に巻き込まれる形で参加してるってことか?それか首を突っ込んだか。

 

……十分にあり得る。というか、ヘラクレスの性格上それぐらいしか考えられない……っ!

 

「貴殿こそ何者だ。その身に纏いし神気。並の人間が得られるものでは………む?」

 

俺を観察するように見ていたロキの目がゆっくり見開かれる。

 

「いや……まさか。よもや貴様が……っ!」

 

瞬間、ロキから放たれるプレッシャーか爆発的に上がった。

 

あああああっ!ヴィマーナの損壊率がさらにぃぃぃっ!!

 

一旦完全に壊れると修復までに十日はかかってしまうからやめてほしいんですがっ!?

 

「その面貌、その神気。傲岸不遜な振る舞いは、間違いないっ!」

 

ロキが俺を指差す。

 

その表情はまるで親の仇でも見ているような感じだ。

 

「貴様だなっ!人と神を繋ぎ止める楔でありながら、その役目を放棄し、剰え神との決別を図った愚かな王。英雄王ギルガメッシュとは!」

 

「ああ、確かに俺は英雄王ギルガメッシュに相違ない」

 

役目がどうのこうのは知らんが。多分、本家ギルガメッシュがしたことだしな。

 

「オーディンめ……我ら神に仇なす半神に助力を求めるなど……恥を知れっ!」

 

だから、俺は別にオーディンに頼まれてきたわけじゃないんですが。

 

「決めたぞ。愚かなる王、オーディンよりも先に貴様を手ずから始末してやろうではないかっ!」

 

なんか超絶やる気だ……っ!

 

俺はただヘラクレスを迎えに来ただけで、こんな化け物みたいな強さを誇る敵と戦いたくないんだけども。俺がいなくても誰も死なないし、主人公が倒してくれるしさっ!ひょっとしたら俺が戦場に混じったから死人が出るっていう可能性さえあるんだし。

 

……とはいえ、こいつは俺を生かして帰してくれるつもりはないだろう。殺意と憎悪が相乗効果でえぐいことになってるうえ、この場でとんずらしたら下で戦ってるアザゼルたちにも文句を言われる。しかも、仲間からも見放されるという二段落ちまで見えた。

 

「……いいだろう。俺も、常々貴様のような存在は不要だと思っていたところだ」

 

半壊したヴィマーナの高度を下げ、近くにあった岩場の上に降りる。

 

「来るがいい、悪神ロキ。せいぜい、俺を楽しませろよ?」

 

「ほざけっ、出来損ない風情が!」

 

挑発に乗ったロキの一撃とバビロンから放たれた宝具がぶつかり合い、大きな爆発を起こした。

 

ーー神話の戦いの火蓋が切られるのだけは勘弁してほしい。

 

 



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神の天敵

「はっはー!いいねぇ!いい具合にあったまってきたぜぇ!」

 

子フェンリルを相手に獰猛な笑みを浮かべて対峙するのはヘラクレス。

 

人間がなんの武器も防具も装備せずに闘おうなど自殺行為も甚だしいが、ことヘラクレスに限っては問題ない。

 

彼にとっては拳こそが武器であり、鋼の肉体こそが防具である。

 

子フェンリルの顎に拳が打ち込まれると途端爆発を起こす。

 

これこそがヘラクレスの神器。巨人の悪戯(バリアント・デトネイション)である。

 

ただでさえ放たれる拳打は強力。そこに神器まで含まれればとてつもない破壊力を生み出す。

 

事実、子フェンリルは攻撃を受けると吹き飛ばされる。

 

親のような強靭さは持たないとはいえ、フェンリルはフェンリル。それに対してギルガメッシュの連れてきたキメラとともに相手を平然とこなすヘラクレスはおよそ人間とは呼び難いほどの強さを誇っていた。

 

……もっとも、見た目からして人間とは呼び難いのだが。

 

吹き飛ばされた子フェンリルにキメラたちが追い打ちをかけるように炎弾を浴びせかける。大ダメージ、とは言わないまでも確実に子フェンリルに対してダメージは通っているのは見て取れた。

 

(レオナルドのお気に入り、ねぇ。結構強えじゃねえか)

 

神器所有者の成長によって、神器の力も変化する。

 

特にレオナルドの神器は所有者の成長や経験によって左右される代物だ。戦闘経験さえ積めば、もっと強い魔獣を生み出すことは可能になるだろう。それこそ禁手に至ればフェンリルに匹敵する魔獣を生み出すことも。

 

「っと、今考え事すんのはマズいな」

 

炎弾をかいくぐって子フェンリルがヘラクレスへと仕掛ける。

 

キメラたちに目もくれないのは子フェンリルの本能がヘラクレスを排除することを優先させているのか、はたまた彼の魂の波動を感じ取っているのか。

 

どちらにせよ、子フェンリルにはヘラクレスしか映っていない。ある意味都合が良かった。

 

「レオナルドの『お気に入り』を死なせちまうと後で王様に怒られっからな。そのまま俺だけ狙ってこいやぁ!」

 

子フェンリルを迎え撃つ。

 

鋭い爪の一撃を神器の爆発を利用して拳で弾き、側面に回り込む。

 

「そら、このままくたばっちまいな!」

 

子フェンリルは反応するが遅い。

 

巨体に似つかわしく無い程の速さで放たれた拳打は離れる寸前に十数発、隙だらけの脇腹に打ち込まれていた。

 

子フェンリルは苦悶の声を上げ、たたらを踏む。

 

蓄積されたダメージに今の攻撃によるダメージが子フェンリルの動きを止めたのだ。

 

「ちっ。しぶてえな」

 

とはいえ、今の一撃で戦闘不能に持ち込むつもりだったヘラクレスは舌打ちをする。

 

子どもとはいえ伝説級の怪物(モンスター)だ。そんな相手と戦えることには文句どころか、感謝したいほどなのだが、それはここにギルガメッシュがいない場合の話である。

 

離れた場所から轟音が聞こえる。

 

十中八九、ギルガメッシュとロキの戦闘によるものだ。悪魔、天使、堕天使の混戦チームと化した本来のロキ討伐組も子フェンリルと量産型ミドガルズオルムの軍団と戦っているが、比較にならない。

 

何せ、神話の戦いが今あそこで行われているのだ。

 

ここでギルガメッシュではなく、ロキに対して善戦しているという感想が浮かぶのは英雄派内では当たり前のことなのだろう。

 

ギルガメッシュが戦う意志を見せた以上、勝敗は決まっているのだ。

 

ただ、ここで一つだけ問題が生じる。

 

確かにギルガメッシュの勝ちは決まったも同然だ。相手がなんであろうとギルガメッシュの勝利は揺るがない。

 

だが相手が強くなるにつれ、戦いは苛烈さを増していく。そして苛烈さが増していけば、自然周囲への影響も増していく。どれだけギルガメッシュが気を使ったとしても、相手も気を使うとは限らない。

 

つまり、ヘラクレスが早く決着をつけたがっているのは、ギルガメッシュとロキの戦闘に巻き込まれないようにするためだった。

 

「意思疎通ができりゃ、場所も変えられるってのに」

 

相手が獣であるがゆえの欠点だ。高い知性は有しているだろうが、言葉を交わさなければ意味がない。

 

睨み合っていても仕方ないとヘラクレスが仕掛ける。

 

拳を大きく振りかぶり、子フェンリルの左頬に向けて打ち込むが、それはすんでのところで子フェンリルが後ろに跳躍したことで掠める程度に留まった。

 

今まで後退することのなかった子フェンリルが、初めて後ろに跳躍したことに僅かに疑問を感じたが、その理由がすぐにわかった。

 

「っ……やべ。あの犬っころ。王様の方に狙い変えやがった!」

 

より強い神性に惹かれるように子フェンリルが標的を変えたのだ。

 

もしもヘラクレスが魂を継いだ者でなく、当人ならば切り替わることはなかっただろう。

 

だが、今のヘラクレスは当人ではない。故にギルガメッシュの方が神性が高いのだ。

 

「やめろ、バカヤロウ!」

 

それに気づいたヘラクレスは地面を蹴る。レオナルドのキメラたちもまた子フェンリルに殺到する。

 

しかし、僅かに遅かった。

 

ヘラクレスたちの攻撃が当たるより先に子フェンリルがギルガメッシュに向けて飛びーー

 

直後、凄まじい速さでヘラクレスたちの間を通過していった。

 

突然の方向転換。それはいくら並みの獣でないとはいえ生物ができる動きではない。

 

それが指し示す答えは一つだった。

 

「はぁ……だからやめろっつったのによ」

 

額に槍が突き刺さった子フェンリルの姿があった。

 

当然の末路だ。ギルガメッシュは人間以外に殺意を持って挑んでくる相手に容赦はしない。問答無用で命を刈り取る。

 

故に子フェンリルが辛うじて生きているのはギルガメッシュの慈悲ではない。強い生命力とロキとの戦闘によるものだ。

 

「ちっ。あっけねえな」

 

拍子抜けする終わり方に肩を落とし、ヘラクレスは子フェンリルに歩み寄る。

 

目前まで近づいても低く唸るだけで襲ってくる気配はない。

 

(……いや、動かねえようにされてんのか)

 

よく見れば致命傷は避けているものの、子フェンリルの体には呪詛のようなものが浮かび上がっている。

 

あの一瞬で子フェンリルを一撃の元に無力化したギルガメッシュにヘラクレスは口笛を吹く。毎度のことであるが、一人だけ次元が違いすぎる。

 

「んでもって、『動けねえようにした』ってことは後は好きにしろっつーことだよな」

 

追撃しなかったというのはつまりそういうことなのだろう。

 

煮るなり焼くなり殴殺するなり爆殺するなりヘラクレスの自由だ。

 

ヘラクレスは軽く手を払うと子フェンリルの腹部に潜り込むとそのまま()()()()()

 

自分の何倍もの巨体を誇る子フェンリルを軽々しく持ち上げるヘラクレス。この辺りもヘラクレスが人間なのかと疑問視される所以でもある。ただの筋肉バカでもここまで行きすぎていない。

 

そして持ち上げたのは空中に放り投げるためでも、何処かに投げつけるわけでもない。

 

「死ななかったのが幸いだったぜ。レオナルドの礼はこいつにしとくか」

 

持って帰るのである。

 

他の幹部が聞けば間違いなく反対するだろうが、ギルガメッシュがヘラクレスに処断を任せたのだ。ともすれば、ヘラクレスの決定こそギルガメッシュの決定となる。

 

「後は王様と北欧の悪神サマの戦いの見物でもさせてもらうか」

 

ある程度距離をとったヘラクレスは一旦子フェンリルを下ろし、自身の仕える主へと目を向けるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

轟音に空気が震え、それが肌に伝わってくる。

 

正直祭りでもしているのではないかと思えるほどの音のせいで耳が変な感じになってる。

 

暴れてもいい場所で戦っているとはいえ、この辺が修復不可能なほど荒れ果てた土地にならないよう一度に展開する宝具は五十に抑えているのだが撃ち放った宝具は優に五千は超えてると思われる。五十程度って言ってもぶっ放す速度と回数を考えたらそんなものだと思う。

 

これで戦いはじめて十分も経ってないんだから、やっぱり神って凄いと思う。こんなにバビロンぶっ放しても大して傷つけられないし。

 

バビロンブッパでは、の話だけども。

 

バビロンから引っ張り出してきた鎌でロキに地味にダメージを与えている。セイバーさんの鎧を貫通してダメージを与えたアレである。

 

アレはどうにも刃先が空間転移しているらしく、離れていても狙える上、防御魔法陣も貫通する。つまり魔法陣防御しかしないロキに防げる道理はない。はっはっは。

 

俺?そりゃ宝具が超一級ですからね。無傷ですよ。プレイヤーが雑魚でも装備が最強なら負けないんだ……あ、ついに肩に刺さった。

 

「ぐっ……おのれぇ……出来損ないの分際で……っ!」

 

手のひらから放たれた魔力が雷撃によって撃ち落とされる。うーん、この鉄壁。一瞬ひやっとするものの、撃ち落とし漏らすことはない。

 

「はっ。ではその出来損ないに倒される貴様はそれ以下ということになるな?」

 

本家ギルガメッシュならこんな生温い攻撃じゃ済まないぞ。だって周りの被害なんて気にしないだろうしな!

 

本当なら俺だってバビロン竜巻アタックで倒してやりたいさ。でもね、後で「直すの手伝え」とか言われるの嫌だし。

 

「ほざけ!貴様ごときが我を倒そうなどと!」

 

防御魔法陣を大量に展開するとロキはこちらに突っ込んできた。

 

バビロンから放たれた宝具と周囲に展開した迎撃宝具で撃ち落とそうとするが……なるほど、今までより随分気合の入った守りだ。撃ち落とすのは無理っぽい。

 

じゃあ、こいつで。

 

鎌を振るうと刃先のみが空間を転移し、ロキの喉笛に……。

 

「読めているぞ!」

 

刺さる前に右腕で塞がれた。どうやら露骨すぎたらしい。

 

「この距離ならば貴様とて!」

 

目前まで来たロキは魔法陣の隙間からこちらに手を向ける。

 

なるほど。近距離なら数の暴力には訴えられないこと、あとガチガチに固めれば迎撃宝具でもっても大した邪魔にはならない。おまけに鎌を抜いて振り上げるのも間に合わない。うん、確かに魔法陣をぶち抜く頃には俺が消し飛んでるな。ギルガメッシュのスペックとはいえ、耐久値が高いわけでもないし、火力はともかく耐久値に関してはこの世界の上位者に数段劣る。英霊って言っても人間だもの。

 

まぁ、魔法陣の上からならの話だけども。

 

「がはっ!」

 

防御魔法陣とロキの隙間。

 

そこへバビロンを展開してぶっ放した。魔力の弾も撃たれると厄介なので手ごとぶち抜いた。

 

「ば、馬鹿な……貴様……展開できるのは自身の周囲だけではないのか……?」

 

「誰もそんなことは言っていないが?」

 

単に近くに味方がいるんで囲み撃ちしなかっただけです。流れ弾ならぬ流れ宝具とか危ないから。さっきだってロキが変に軌道をずらしたせいで明後日の方向に飛んでったんだから。ヘラクレスは大丈夫としてグレモリー眷属に当たった日には即死かもしれないんだぞ。原作キャラ死んだら責任取れんのか。

 

魔法陣の内側に展開しなかったのはロキが動き回ってたから。回避先を読むなんて芸当俺にはできないし。

 

……そういえば、こっちの戦闘が止まった途端静かになったな。他のところも終わったってことか?

 

「まあいい。貴様を屠れば片がつく」

 

「くっ……我がこのようなところで滅ぶわけには!」

 

ロキが俺から距離を取ると、魔法陣を展開した。

 

すると光がロキを包み込んだ。

 

「勝負は一旦預ける!此度は遅れを取ることになったが、しかし!次に会うときは必ずーー」

 

「前口上が長すぎる」

 

膝の辺りまで魔法陣の向こう側に消えていたロキに黄金の鎖が絡みついた。

 

途端、ロキの転移が強制的に中断された。

 

「逃げるならばくだらぬ戯言を吐いている場合ではないだろう」

 

悪役って強くなればなるほど台詞が多いのは何故なのか。そして主人公側も間髪入れず攻撃すればいいのに待つのは何故なのか。相手弱ってるんだからさっさとトドメさせばいいのに。

 

「な、なんだこれは!?」

 

「天の鎖。貴様ら神を律する鎖だ。神性の高いモノ……貴様のように神そのものでは破壊することはおろか抜け出すことも出来ん」

 

「世迷言を……っ!?」

 

必死に抜け出そうと試みるロキ。

 

一瞬抜け出せそうな空気を出したものの、流石は英雄王のトモダチ。びくともしていないようだ。神特攻流石です。

 

「さて、あまり時間をかけるのも俺の趣味ではない。確実に塵一つ残さぬ故、遺言があるならば今のうちに吐いておけ」

 

ロキを包み込むように隙間なくバビロンを展開する。三百くらい。

 

やる時はちゃんとやらないとな。やったか?とか言って反撃されるようなヘマはしないのだよ。

 

今度こそロキの顔から余裕は消え失せ、焦燥感に包まれた表情になる。心なしか青ざめている気がしなくもない。

 

「なぜだ……なぜ我が出来損ない風情にーー」

 

「もっとも、待つつもりもないのだがな」

 

有無を言わさずぶっ放す。

 

全方位から宝具の一斉掃射を浴びたロキは断末魔の悲鳴をあげる事さえも許されず、轟音の中に消えていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

しまった。神様って殺してもいいのか?

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

「……終わったみたいだな」

 

ロキが無数の宝具に貫かれ、灰燼と化す瞬間を遠方より確認したアザゼルがぽつりと呟いた。

 

こうなることはわかっていた……わけではない。

 

ギルガメッシュは圧倒的な強さを誇るがそれでも相手は神だ。この場にいる面々にとっては地力に天と地ほどの差がある。魔術のレベルも高い上、フェンリルもいる。

 

ヴァーリチームやたまたま助っ人参戦することになったヘラクレスがいるにも関わらず、誰が死んでもおかしくはない死線になるはずだった。

 

しかし、結果を見れば誰一人命を落としていないどころか、深手を負ったのは朱乃を庇ったバラキエルのみで他は軽傷にとどまっている。

 

その最たる理由はギルガメッシュのロキをも上回る強さである。

 

北欧の神を相手に互角どころか余裕ある戦いを演じ、剰え一芝居打つことでロキに決定的な隙を作らせた。時間をかけていてもギルガメッシュの勝利は揺るがなかったかもしれないが。

 

「悪神ロキ……私達が手も足も出なかった相手をああも簡単に葬るなんて……」

 

リアスは味方であるはずのギルガメッシュに畏れを抱かずにはいられなかった。

 

いや、リアスだけではない。大なり小なり、この場にいる者達全員がそれを感じていた。

 

次元が違いすぎる。ギルガメッシュがあっさりと倒してしまったロキでさえリアス達が勝てる確率はかなり低い。ならば、そのロキよりも圧倒的に強いギルガメッシュに勝てる可能性はあるのか……あるはずがない。

 

心の底から、ギルガメッシュが敵対者でないことに安堵するばかりである。

 

ロキを葬ったギルガメッシュが、悠然とした足取りで歩いてくる。

 

当然のように空中歩行を行っていることは気にしてはいけない。

 

リアス達の元まで来ると、ギルガメッシュは溜息を吐いた。

 

「まったく……いくら戦力不足とはいえ、魔王の一人でも引っ張り出せなかったのか。アザゼル」

 

「……そいつを言われると耳が痛えな」

 

今回の一件。およそ若手悪魔にどうにか出来る案件ではない。三大勢力が精鋭を集めて当たらなければならないレベルの案件だった。

 

そこを突かれるとぐうの音も出ない。とアザゼルは肩をすくめた。

 

「まぁ、ロキに本気を出させない(・・・・・・・・・・・)という意味では最善ではあったのだろうがな。ましてあらかた片付けたとはいえ、禍の団の残党もいる以上、俺もそちらの方針をとやかく言うつもりはない。それに……」

 

ギルガメッシュが紅い双眸でイッセーを見る。

 

それだけでとてつもない威圧感を感じたイッセーはびくりと体を震わせた。

 

「な、んだ………じゃなくて、ですか?」

 

「いや、貴様も災難よな。悪魔になったはいいが、よもやここまで荒事の連続では素直に願いを叶えることもできぬだろう」

 

「そうなん……じゃなくて、別に俺は……」

 

ハーレム王の夢はまだ捨てていないイッセーは力強く頷きかけて、我に帰る。流石のイッセーもこの場でそう答えるべきでないことぐらいは弁えているし、何より大切な人や仲間を守ることもイッセーにとってはハーレム王に負けないぐらいの願望なのだから。

 

「言わずともよい。それと……姫島朱乃、だったな?」

 

「っ……なんでしょう?」

 

ギルガメッシュに名前を呼ばれ、無意識のうちに警戒心を露わにしてしまう。

 

それが無礼であるとわかっているのにそうせざるを得ないのはやはりギルガメッシュであるからだろう。

 

「その様を見るに、『過去』を克服したようだが……努忘れるな。己が心の脆さを。でなければその力が必要になった時、貴様には立ち上がる気力さえ残っていないやもしれんぞ」

 

「……はい。その言葉、深く心に刻んでおきます」

 

朱乃は噛みしめるようにそう言った。

 

自覚はある。父であるバラキエルを拒絶したことも、堕天使の血が受け入れられなかったことも、自分の心が弱かったことが原因であることも。いずれ克服しなければいけないことも。

 

「俺から言うことはもう無いと言いたいところだがな。アザゼル」

 

「ん、なんだ。今回はエラくお節介が多いな」

 

空気を和ませようと戯けた口調で言うアザゼル。

 

ギルガメッシュは目を細めて、じろりとアザゼルの方を見た。空気を和ませるどころか、余計にハラハラしたのは言うまでもない。

 

「たわけ。ただの言伝だ。ロキは確かに葬った(・・・)。そちらの神話に何か影響があるようなら多少は助力するとな」

 

「あー……そうだな。一応伝えておく」

 

オーディンに言うまでもなく、その答えは分かりきっているところだ。

 

ただの社交辞令であることぐらい。

 

「では、帰るぞヘラクレス」

 

「おうよ」

 

「……待て。何故さも当然のように子フェンリルを担いでいる?」

 

「あん?いや、レオナルドの神器にゃ助けられてっからよ。土産にこいつを連れて帰ってやろうと思って。俺らは無理かもしれねえけど、大抵の獣はレオナルドに懐くだろうしよ」

 

能天気な様子のヘラクレスにギルガメッシュが額に手を当て頭を振る。

 

こればかりは周囲もギルガメッシュに同情するが、当のヘラクレスだけは首を傾げているのだった。

 

 



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フラグ折りまくってたらこうなるよね

久しぶりの投稿。みなさんお待たせしました。

久しぶりにも関わらず、今回は時間軸的には進んでも話自体はあまり進まないかもしれません。今作を楽しみにされている方、本当にすみません。


「招待状……ですか?」

 

突然切り出された話題にジャンヌは疑問の声をあげた。

 

偶々午前の職務を終え、休憩も兼ねて食事を摂っていた時にギルガメッシュが自身を訪ねてきた時は何事かと身構えたが、いざ話を切り出されると一刻を争う事態でないことに緊張を解く。

 

もちろん、ギルガメッシュに対する臣下の礼は失しない。それはジャンヌにとって呼吸する事と同義だ。至極当然のように行われる。

 

「ああ。先日、俺宛に送られてきた礼の品に同封されていてな」

 

ギルガメッシュ宛に先日三大勢力からお礼の品が送られてきたのは記憶に新しい。

 

送られてきた品は様々だが、その中で有用だと判断したのは人工神器に関する資料とまだ保護されていない異能力者や神器使いのおおよその所在地だった。

 

ギルガメッシュ達は三大勢力に逐次報告しているわけではないため、記載された人間の中には既に保護した者も多く存在したが、少なからずまだ保護できていない人間もいた。

 

それらをもとに多くの幹部や実働隊が出払って、ジャンヌが別の業務を行っているというのが現在の英雄派内の様子だった。

 

「内容はーー」

 

「未来を担う若手悪魔の中で最も注目される一戦だそうだ。バアルとグレモリーのことだろう」

 

何故そんなことがわかるのか、とギルガメッシュが相手でなければ聞くところであるが、ギルガメッシュならばそれも必要がない。彼が他勢力の内情に詳しいのは全てを見通す『眼』を持っているからに他ならない。必要以上に関わりを持たない同盟相手の内情もギルガメッシュの前では全てが詳らかになっている。

 

「ご覧になられるのですか?」

 

詳しい事は聞き及んでいないものの、レーティングゲームが特殊なフィールドで行われ、観戦するには冥界に出向く必要があることはジャンヌも知っている。

 

もちろん、人間界でも見られるように出来るだろうがーー。

 

「ああ。結果は分かりきっているが(・・・・・・・・・・・・)、レーティングゲームとやらには興味がある。おまけに魔王が直々に招待状を送りつけてくるのであれば、無下にしてやるわけにもいくまい」

 

興味のあるレーティングゲームを観戦しつつ、一応同盟相手の顔も立ててやる。

 

いずれは敵対する相手だが、それでも相手を無下にしないところにジャンヌはギルガメッシュの器の大きさを感じた。自身ならこんな上辺だけの同盟をしている相手の招待など一蹴しているところだろう。

 

「そこで、だ。ここからが本題だ」

 

「と、申しますと……」

 

「俺は一人で冥界に赴いても良いが……それでは誰も納得すまい」

 

「……申し訳ございません。ですが、ご容赦を。これらは王に仕えるものとしてーー」

 

「よい、それは俺もわかっている」

 

だからこそ、こうしてギルガメッシュはジャンヌに話を持ちかけている。

 

幹部の中で最も忠誠心が高く、ギルガメッシュの事となると少しばかり融通の利かなくなる彼女が納得すれば、周囲も納得する。

 

もっとも、並大抵のことであればギルガメッシュに反論する者などまずいないのだから、その時はよほどのことであるが。

 

「それにちょうどいい機会だ。未来を担う若手悪魔などと宣っているが、バアルもグレモリーも現段階で既に十分な力を有している。若手悪魔の中でも飛び抜けて強いバアルと格上との戦いで成長を続けるグレモリー。お前達にとってはレベルの低い戦いやもしれんが、得るものがないと切り捨てるのは早計だろう」

 

前回ロキとの戦いで共闘したヘラクレスはともかく、他の幹部はグレモリーとその眷属の力量と驚異的な成長力を知らないのが現状だ。

 

それは決して彼等が無知というわけではない。

 

現状では彼等一人でグレモリーとその眷属を相手にしても絶対に負けないという自信があり、誰の目から見てもそれは揺るがない。それほどの差が彼等にはあり、彼等よりも他の強者を警戒するのは必然と言える。

 

故に幹部の面々から見れば、レベルの低い試合に映るだろう。まだレーティングゲームトップ5に入る者達の試合を見た方が悪魔の戦力を知るという意味では有用なのも確かだ。

 

しかし、ギルガメッシュが見ておく価値があるといえば、話は変わってくる。

 

今は取るに足らない存在だとしても、ゆくゆくは脅威たり得る。

 

特にグレモリーの『兵士』。赤龍帝たる兵藤一誠の成長速度を考えれば、一年と経たずに英雄派の幹部を下す実力を身につけるかもしれない。或いはギルガメッシュを倒すことはできなくとも、手傷を負わせることのできる存在にーー。

 

もちろん、可能性としては砂つぶにも等しいものだが、ゼロではない。ゼロでないのなら、王に仕えるものとして見過ごしていいはずがない。

 

そしてギルガメッシュが直々に『視る』というのだから、自分が観ないわけにもいかない。

 

椅子から立ち上がり、一歩後ろに下がるとその場でジャンヌは跪く。

 

「わかりました。では、不肖ジャンヌ・ダルク。王に同行させていただきます」

 

「これで一人決まったな。さて、俺としてはもう一人連れていきたいところだが……」

 

「……っ」

 

言葉に出さなかったものの、ジャンヌは内心驚きを隠せないでいた。

 

ギルガメッシュは懇願(進言)するまで基本的に護衛も付き人も付けず、単独で行動することが多かった。

 

それは決して傲慢ではなく、己が出向くべきであると判断し、また民や臣下の身を案じ、敢えて単独行動を心がけているのだと、ギルガメッシュと旅をしていた曹操が語っていたことをジャンヌは覚えているし、ギルガメッシュが『なに、くだらぬ些事だ。お前達にはもっとやるべきことがあろう』と言っているのを何度も聞いた。些事であるなら尚の事ギルガメッシュの手を煩わせるわけにいかないと言うのがジャンヌ含め臣下の心情だが、その悉くをギルガメッシュが聞いた試しがない。終いにはこっそり赴いて派手に終わらせてくるということもあった。

 

そのギルガメッシュが、進言するまでもなく、もう一人連れて行く、といったのだ。驚かないわけがない。

 

(将来的に危険度が最も高いのはやはり赤龍帝、と考えておくべきね。数ヶ月前まで規格外の神器を持っていただけの一般人にしては『成長速度が異常』だとヘラクレスも言っていたのだし……可能性は十分にあるわね)

 

基本いい加減なヘラクレスだが、こと戦いにおいては的を射ている事が殆どだ。そのヘラクレスが実際に共闘した上での感想だと言うのなら、無視できないものだ。

 

そうなれば一応不測の事態に備えて対策を練っておくべきだろう。

 

ギルガメッシュに軽傷さえも与えないよう、その可能性を摘むためにも。

 

「……決めたぞ。あやつを連れて行くとするか」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それで、自分に声をかけに来たというわけか」

 

「ええ」

 

「王のご命令とあらば断るわけにはいかない……ただ、俺は魔術師であって、戦士じゃない。彼等との直接対決の可能性は限りなく低い」

 

決して戦闘能力が低いわけではない。幹部に相応しい実力は有している。

 

ただ、本人が言った通り、ゲオルクは優れた魔術師であって戦士ではない。前線に立つよりも敵の妨害や味方の支援に回った時に真価を発揮するのだ。

 

それはジャンヌもわかっている。当然ギルガメッシュも。

 

「私もそう思うわ。いざという時、あなたに求められるのは前線に立つことじゃないし、グレモリーもバアルも戦争に参加する可能性は低いわ。けれどーー」

 

「ああ。わかっているとも。王が他の幹部ではなく、敢えて俺を指名した、というのであれば、そこに必ず意味はある」

 

無意味、無価値はギルガメッシュの最も忌避するものであると彼等は知っている。曹操達の他にもまだ数名の武闘派幹部がいる中で敢えてゲオルクを指名したことにはゲオルクの心情も含め、必ず意味がある。

 

(冥界に一度赴いてみたいと常々思っていたが……まさか見抜かれていたとは。やはり王に隠しごとは不可能ということか)

 

隠していたつもりはないが、あくまでも個人的かつ興味本位であったためにゲオルクはギルガメッシュに伝えていなかった。

 

かといって、露骨に出ていたわけではないので、知らず識らずのうちに言動の端々に表れていたところで察したのだろうと舌を巻く。やはりギルガメッシュはどの英雄の子孫や魂を継ぐ者たちとも一線を画している。

 

そんなことは当たり前のことか、と苦笑しつつ、ゲオルクは立ち上がる、

 

「ところでここを発つのはいつ頃になる?」

 

「……………………明日よ」

 

「……………………そうか」

 

額に手を当て、溜息を吐いた。

 

失念していたことが一つあった。

 

基本的に完璧すぎる英雄王の困った一面。

 

「何故我らが王はこのようなサプライズを好まれるのか……」

 

「別にいいでしょ?王は計画的に為されているのだし」

 

「それはそうだが……」

 

突然の思いつきで、ということもままあるが、そういうことは決まって拠点内における祭りや行事などのイベントだけだ。後は計画的に行動しているのだが、それでも仕掛けられた本人は堪ったものではない。

 

迷惑ではない。

 

ギルガメッシュは己よりも臣下や民を優先するきらいがある。それを鑑みればその程度の我が儘はこの拠点における全ての人間が許容してしまうものだ。いや、それどころか賞賛の声さえあるだろう。

 

仮に度肝を抜かれるとすれば決まって幹部達である。主にギルガメッシュの単独行動とかに。

 

(まぁいいか。王が知らぬ間に旧魔王の血族を葬った時に比べれば。我らを同伴させてくださる分だけ幾分かは)

 

そう自分を納得させ、ゲオルクは準備に取り掛かり、ジャンヌもまた自室に帰り、身支度を整えていた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

一方その頃ーー。

 

「仕上げの方はどうだ?」

 

「上々だ。初めはどうなることかと思ってたが、案外なんとかなるもんだな」

 

「無論だ。俺はーー」

 

「あー、わかってるよ。お前にやってやれねえことなんざねえよな」

 

分かりきっていると言わんばかりのアザゼルに俺は眉を顰めた。

 

やってやれないことなんてあり過ぎるわ。これでも結構頑張ったんだぞ、この野郎。

 

何せ、『誰かを鍛える』のは転生前後合わせて初めての経験だったんだから。こっちも色々神経を使わされた。おまけに鍛える相手が兵藤一誠(主人公)とくれば尚更。

 

何故俺がこんなことをしていたのかというと、少し時間を遡らねばなるまい。

 

ほんの一ヶ月前にアザゼルからとある話が持ちかけられた。

 

最初は『え?アザゼル?無視しようかな』と思っていたし、なんなら二回は無視したのだが、一時間おきに掛かってくるもんだから、仕方なく出てやった。そんな頻繁に掛けてくるなら重要な案件かもしれないと。

 

で、いざ電話に出てみれば、二、三言交わした後にアザゼルはこう言い放ったのだ。

 

『赤龍帝を鍛えてやってくれないか?』と。

 

もちろん聞き直した。聞き間違いとか、アザゼルの正気を疑ったとかではなく、何故俺にそんなことを頼んでくるのかという意味でだ。

 

同盟を結び、仲間になったといえるが、彼ら三大勢力は基本的に三大勢力内で物事を解決すると先日サーゼクスから聞いたばかりであるし、アザゼルやミカエルも承知の上だと聞いた。巻き込まれる形になったとはいえ、ロキとの戦いに引っ張り出してしまったことをそれなりに負い目に感じているようだったし、俺も人間が被害を受けず、かつ原作には全く影響のない小競り合いとかに手を煩わされるのも面倒なので頷いた。

 

その矢先にこれである。舌の根も乾かぬうちにとはまさしくこれである。

 

理由を聞いた。

 

仮にも鍛える相手が主人公である。うっかり致命傷を与えて殺した日には洒落にならん上に下手すれば戦争案件である。それ程までに兵藤一誠という人間は短期間で悪魔界隈に無くてはならない存在たり得てしまった。まして、原作のタンニーンとの山籠りよろしく半ば強引に、というのであれば、いくらなんでも可哀想過ぎる。

 

しかし、返ってきたのは予想外の一言。

 

『本人も危険は承知の上だ。その上でお願いしたい』と。

 

どこまで追い詰められとるんだお前らはと言いたかったが、そこでふと思い当たる節があった。

 

俺がトップとなったことで英雄派は三大勢力を脅かす存在では無くなり、それどころか原作で現れた敵の悉くを葬ってきた。なんなら旧魔王派のトップは俺たちが全員無に帰した。

 

更にはつい先日戦ったロキさえも俺が葬ってしまった。

 

その結果どうなるか。原作においてそれらの戦い全ての渦中にいたグレモリー一行は死線を超えるごとに強くなったというのに英雄派という助っ人の登場によって割とあっさり超えてしまったのだ。

 

終いには修学旅行で襲撃するはずだった英雄派が正義の集団になっている。あり得ない成長速度を誇ったグレモリー一行もその相手がいなければ強くなりようがない。原作に比べてかなり成長速度が落ちてしまっているわけだ。いや、それでも大概化け物じみてるんだけど。

 

だが、原作程ではないというのが致命的だ。

 

確かに原作を崩壊させないために敵対する者達を俺たちが葬ってきた。それは仕方ないことだ。原作組を育てる為に犠牲者を許容することはできない。

 

ただ、レーティング・ゲームになると別であるし、もっと言えば俺たちにも限界はあるのだ。なんだかんだ言って、兵藤一誠の無自覚カリスマによって築かれる交友はバカにならない。

 

…………そう考えると、俺たちの所為というわけではないにしろ、原作より彼らが弱いことに対する遠因が無いわけでもない。兎にも角にも原作より弱いといろいろ支障を来しそうだ。

 

という結論に至った俺はアザゼルを通じて兵藤一誠のお願いを聞き入れた。

 

その結果ーー。

 

「『赤龍帝の三叉成駒(イリーガル・ムーブ・トリアイナ)』だっけか?大分モノにしてきたみてえだぜ。イッセーの奴は」

 

発現させた新たな力を使い、同じ眷属である木場祐斗と修行に励む姿を眺めながら言う。

 

「だろうな。奴には才能があるとは言い難い。だが、伸びしろはある」

 

何と言ってもバトル系主人公の運命(さだめ)だ。戦えば成長し、壁があれば越える。そういう風に意図された存在であるなら、多少の強引さがあっても悪い方向には働かないだろう。

 

「成長のきっかけを……と思ってたが、まさか二段……いんや、五段飛ばしくらいの勢いで成長するとは思わなかったぞ。その辺りは流石、としか言いようがねえな」

 

「褒めるなら兵藤一誠を褒めてやれ。今のやつがあるのは他でもないやつ自身が折れなかったからだ」

 

大概根性あるのは原作でも知っていたが、それにしたって根性があり過ぎた。

 

加減と教え方を知らない俺の無茶苦茶スパルタ特訓に疑問を持たず、挫折せず、遂には『赤龍帝の三叉成駒(イリーガル・ムーブ・トリアイナ)』を発現させたのだ。ホントにすごい。

 

……まぁ、原作のおっぱいゾンビによる儀式のようなものを見れなかったのは残念だったが、英雄派が正義の集団である以上やむなしだ。目を瞑っておこう。

 

「だとしても、私の眷属のお願いを聞き入れて下さったことには感謝していますわ。英雄王ギルガメッシュ」

 

アザゼルのすぐ隣で満足そうにしていたリアス・グレモリーが言う。

 

最初のうちはいくら兵藤一誠本人が言い出したとはいえ、俺の無茶苦茶スパルタ特訓に懐疑的だった(当たり前の反応)彼女も、こうして修行が実を結んでから、それもなくなった。少し前まではやたらと突っかかってくる印象が否めなかったが……ようやく信頼を得られたということか。リアス・グレモリーが敬語を使っているイメージがあまり無いので敬語で喋ってるとなんだかむず痒い。

 

「気にするな。俺がこのような事をするのは此度だけだ。幸運が舞い込んだとでも思っておけ」

 

変に頼られても成長の仕方とか変わりそうだし。後は内々でなんとかしてもらいたい。それか原作通りのバトルでこれまた原作のような展開で。

 

「まして今は『王』でなく、『ただのギルガメッシュ』として来ている。そう畏ることはない」

 

「あなたがそう言うのならそうさせーーんぐっ!?」

 

「そ、そう言ってやるなよ。これはリアスなりにお前に敬意を見せてるんだ。仮にもグレモリーの次期当主だしな。いくらお前がプライベートでも礼を失するわけにはいかねえだろ?」

 

リアスの口を塞ぐとアザゼルがまくし立てるように言う。さっき何か言おうとしてたみたいだが……まぁ、そう言うことなら深く追及はすまい。同盟相手とはいえ、悪魔にも悪魔なりの礼儀感はあるわけだし貴族だと尚更。

 

「ギルガメッシュさーん!……あれ?部長?先生?何やってるんですか?」

 

模擬戦の決着がつき、こちらに歩いてきた兵藤一誠が首を傾げる。

 

「べ、別になんでもないぜ。なぁ、リアス」

 

「え、ええ。……後で覚えておきなさい、アザゼル」

 

お互いに引きつった笑みで首を横に振る……リアス・グレモリーの方は声が心なしか震えている気もするけど。

 

「そ、それよりギルガメッシュに用があるんじゃねえか?イッセー」

 

「そうだった。ギルガメッシュさん。今日までありがとうございました!」

 

綺麗なお辞儀をする兵藤一誠。だからそんな畏る必要ないと言ってんのに。

 

修行(という名のいじめ)を始めた頃から兵藤一誠の俺へのリスペクト……じゃないな。なんというか懐き度?みたいなものがうなぎ登りな気がする。

 

どんなにやんちゃな犬も強大すぎる相手にはすぐに服従するというし……それに近い理論だろう。命を脅かされすぎて。アザゼルがふざけた発明品を作って被害を被った時にはすぐ文句言うのに俺の修行に文句を言わなかったのは多分文句言ったらヒートアップして殺されるかもしれないみたいな感じに生存本能が働いてるんだろう。

 

「おかげでサイラオーグさんとのゲーム。なんとかなりそうです。それもこれもギルガメッシュさんのおかげです」

 

うーん。そう考えると嬉しい以前にものすごい申し訳なさが。

 

もしこれが偶々の行き当たりばったりってわかったら、こいつはどんな顔するんだろう。ギャグもできる主人公だしさぞ良いリアクションをしてくれるに違いない。

 

「気にするな。俺がお前に出来ることといえばこれぐらいだろう」

 

英雄派の面子を改心させたことに対して悪いなんて思ってないけど、成長の機会を奪った以上、その責任くらいは取らなければいけない。この世界の存亡に関わる。

 

でも、必要以上に介入すると予想だにしない方に原作崩壊しかねないし。流石にそれはマズい。後から出てくる敵に対して先手を打ちまくった挙句に予想の斜め上の敵が出てきて対処法わからないみたいな感じになると俺の知識なんてものは毛ほどの価値もない。ある意味与えられた特典よりも転生者の利点の一つである原作知識をどう使うかで自分の立ち位置が変わってくる……というのが俺の持論。尚、上手く扱えなかった結果がこれであるので説得力は皆無。

 

さて、用は済んだし帰るか。そろそろ勝手に抜け出してここに来ていたのがバレそうな頃合いだから帰らないと。バレるとまたジャンヌが四六時中一緒にいるとか言い出しかねない。

 

「ではな。お前達のゲーム。楽しみにしているぞ」

 

そう言って、俺は拠点にある自室に転移した。

 

余談だがゲオルク作の簡易魔方陣を使っていたので全部バレていた。

 

ー◇◆◇ー

 

 

 

 

「くそ、またすぐ帰りやがった。折角俺の最高傑作を見せてやろうと思ってたのによ」

 

「余計なことをするってわかっていたからでしょう?くだらない企みはすぐに見抜くって言っていたのはあなたのはずよ、アザゼル」

 

懲りずにトラブルの元凶を生み出すアザゼルをリアスはジト目で睨む。

 

これならギルガメッシュがさっさと帰ったのも頷けるというものだ。暇を持て余してはトラブルばかり起こすアザゼルはオカルト研究部の間でも悩みの種だ。

 

もちろん、堕天使総督の肩書き通り、ただのトラブルメーカーではないものの、毎度巻き込まれる側としては溜まったものではない。

 

「くだらなくねえよ。この性転換光線銃はそこらのイケメンをあっという間に美少女に変えられる男の願望が詰まったモノなんだぞ」

 

「先生!その話詳しくお願いします!」

 

「おう!流石はイッセー。このアイテムの素晴らしさがわかってるな」

 

過去何度もハーレムを形成した事があるアザゼルを師と仰ぐイッセーはすぐに鼻の下を伸ばして話に食いついた。とてもギルガメッシュとの命がけの修行をこなして来た戦士とは思えないほどのだらしない顔つきだ。

 

とはいえ、このスケベ心もイッセーが強くなるには必要なモノであるし、イッセーに想いを寄せるリアス達には大いに構わない。

 

「おおっ!ということは木場もこれを喰らえば美少女に!?」

 

「ああ。流石にどんな体型になるかは運次第だが、見た目のレベルはそのまま反映される。あいつレベルのイケメンならリアス達に負けず劣らずの美少女確定だ」

 

「うおおおおっ!すげええええ!」

 

「因みに俺の予想だとギルガメッシュは更にその上を行くはずだ。それにあいつが十中八九当たりを引くだろうしな。黄金比は間違いねえ」

 

ギルガメッシュもかなりのイケメン。というか、最早イケメンと呼んで良いかすらもわからない美貌を持っている。そんな人間が女になれば絶世の美女なのは間違いない。……というアザゼルの見解である。

 

「マジですか!?………あ、でも流石にそれはマズい気が……」

 

「そんな事したら間違いなく殺されるわよ……」

 

いきなり性別を変えられて喜ぶのはごく一部だろう。そしてギルガメッシュが喜ぶはずがない。その場で堕天使総督を使用したリアル黒ひげ危機一発が始まりかねない。もちろん、刺さったら飛び出さずに血が噴き出すが。

 

「いいや。案外わからねえもんだぜ?今回もそうだったが、あいつはあれで結構ノリはいい方だしな。笑って流すかもしれねえぞ。なんだかんだ言って、祐斗の方にも助言してやってたしな」

 

「それとこれとは話が違うと思いますけどね……」

 

そう言って祐斗が苦笑する。

 

確かにそれとなく助言は貰っているし、そのおかげで戦術の幅が広がったのは確かだ。

 

だが、それをノリがいいと一緒くたにするのは絶対に間違っている。

 

「ま、よっぽどじゃなけりゃあいつはキレねえだろうぜ。態度は傲岸不遜なやつだが短気じゃねえのは確かだ」

 

「……その割には私に敬語を使わせているのは何故かしら?」

 

「プライベートつってるが、仮にもあいつは人間代表だしな。それ相応の態度を振舞ってしかるべきだろ?俺みたいに公的にタメ口が許される立場ならいいが、あいつにはやめとけ。本人が強制でもしない限りな」

 

「別に構わないわ。私の下僕の願いを聞いてくれたのだから、それぐらいは当然の礼儀だもの」

 

「その事ですが……何故あの方はイッセーくんのお願いを聞き入れてくれたのでしょうか?」

 

更にいえば自分にまで助言を与えたギルガメッシュに祐斗は感謝しながらも疑念を抱いていた。

 

同盟相手なのだから断る理由がないとも思えるが、ギルガメッシュは『王』だ。

 

仮にもいくら魔王の妹とその眷属とはいえ、ギルガメッシュにしてみれば『一介の悪魔』でしかない。『王』としての責務に比べればイッセーの願いは最も重要度の低いものだろう。同盟相手でも他の陣営であることに変わりはないし、イッセーが強くなることのメリットがない。無論、祐斗が強くなることもだ。

 

デメリットもないが、それではギルガメッシュにとって今回のことは徒労でしかない。

 

そんなことをして何の意味があるのか、と思ってもおかしくないだろう。

 

「ま、イッセーにダメ元でって提案した俺が言うのもなんだが、正直最初は突っぱねられると思ってたしな」

 

サイラオーグの強さを目の当たりにして、更に強くなることを決意したイッセーの相談に乗っていたのはアザゼルだ。その時に半分悪ふざけに近い形でギルガメッシュの名を挙げ、それに同意したイッセーにも驚きだが、数秒の沈黙があったとはいえ了承したギルガメッシュにも驚きを隠せなかった。

 

ただでさえ、日頃蔑ろにされている(自業自得)の身としては余計に。

 

「ただ……あいつがイッセーや祐斗の面倒を見る理由があるとすりゃ……そりゃ二人が『神器持ち』だからなのかもしれねえな」

 

「確かに……イッセーに『俺がお前にしてやれるのはこれぐらいだ』と言っていたものね」

 

「あの人もしかして、ずっと俺たちのことーー」

 

「……かもしれないね」

 

ギルガメッシュは『神器』を持つ者、異能の力を持つ者を保護することを目的としていた。

 

多くの人間を保護しているとはいえ、必ずしも全ての人間というわけにはいかない。イッセーやアーシアのような例外も当然のように存在する。

 

そしてその事をギルガメッシュの臣下である曹操は悔いていた。

 

ならばギルガメッシュもまた救えなかった彼らのことを悔いていたとしてもおかしくない。

 

曹操達の絶対的とも言える信頼度を見れば、ギルガメッシュが同じ人間に対してどれ程慈悲深く、愛情を抱いているか。情に深いグレモリーとその眷属である彼らにはわかった。

 

「……サイラオーグさんに勝たなきゃいけない理由がもう一つ増えたな、木場」

 

「そうだね。どんな理由であれ、仮にも一勢力の長が二人も直々に指導してくれたんだから負けるわけにはいかないよ」

 

「俺は別に気にしてねえよ。ま、勝たなきゃ流石のギルガメッシュも説教ぐらいはするかもしれねえけどな」

 

面白そうに笑うアザゼルだが、それを笑って流せないのがイッセーである。彼の脳内で再現されるのは今回なんとか五体満足で終えることが出来た修行の更に上を行く最早拷問レベルの修行。一歩間違えたら死ぬ、という状況を意図して生み出し続けるギルガメッシュの修行は精神的に辛すぎた。

 

今回は自分から言いだしたことであるし、サイラオーグとのレーティングゲームに勝つためという目標があったがそうでなければ二度とやりたくないというのがギルガメッシュへの感謝や尊敬その他諸々を抜きにしてのイッセーの本音だった。

 

「安心なさい、イッセー。英雄王直々ではないけれど、私達も以前より強くなっているから勝算は十分あるわ」

 

イッセーほどの爆発的な成長度を見せたわけではないものの、リアス達もまた強くなっている。リアスとしてはギルガメッシュにだけは師事したくないと思う反面、自身がどのように成長するかを見抜いているであろう彼に何か強くなるためのヒントを得ようと思っていたのだが、『お前はダメだ』と突っぱねられている。

 

理由としては純血の悪魔であり、ギルガメッシュの『民』である資格を持ち合わせていないからであろうとアザゼルは推測し、リアスもそれには納得した。

 

結果、普段通りアザゼルに指導される形となったが、ギルガメッシュがイッセーに付きっきりだったため、思った以上にレーティングゲームに向けての修行がより充実したものとなっていた。

 

「後はゲームの形式だけですね」

 

「お前らのことだから最終的に小細工抜きでやり合うことになるだろうな。ま、観てるこっちにしてみりゃそっちの方が面白えからいいけどよ」

 

「別に私たちは観客のために試合をしているわけじゃないのだけれど……まあいいわ。勝敗はどうあれ、終わった後に悔いのないゲームだったと言えるように全力を尽くすわ」

 

「俺も今度はサイラオーグさんに負けませんっ!」

 

いっそう闘志に火をつけ、イッセー達は修行に取り組むのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「英雄王……どうか、どうか我々に内緒で外出するのだけはお控えください。このままでは私の胃が持ちません」

 

「キミのプライベートに難癖をつけられるような立場じゃないが……少しゲオルクも可哀想だ。やはり専属を何人かつけるべきかな?」

 

「むぅ……次からは(バレないように)気をつける」

 

((多分一月も持たないな、これ……))



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やせい の ぎるがめっしゅ が あらわれた!(迷子)

「いよいよだな」

 

来賓席から映し出される会場を眺め、ゲオルクは呟くとジャンヌは「ええ」と相槌を打つ。

 

ゲオルクの言葉通り、後十分弱でレーティングゲーム開始の時間となる。

 

自分達より格下の者同士の対戦であるが、ギルガメッシュに連れてこられたというのが二人をその気にさせるには十分な理由だ。

 

「どう見る。ジャンヌ?」

 

「……グレモリーが以前より格段に強くなっているのは確かよ。特に赤龍帝。突然変異なんてレベルじゃないわ」

 

ジャンヌがイッセーを見たのは三大勢力の会談以来だが、その佇まいだけで桁違いに強くなっているのがわかった。他のメンツも以前とは比べ物にならない。ヘラクレスの言葉が嘘偽りないものであると真に理解した。

 

ゲオルクはバアル、グレモリーともに初見であるためジャンヌほどではないものの、やはり半年前まで神器を発現させてもいなかった人間の成長とは思えないほどの力をつけているイッセーには驚きを隠せないでいた。

 

そしてイッセーを飛躍的に成長させたギルガメッシュにもだ。

 

「赤龍帝の禁手が更に上の段階に成長していると考えて……四対六ぐらいね」

 

「グレモリーの方がやや不利……やはりバアルの『兵士』の存在か?」

 

「ええ。まさか宿主を失っても動く神器があるなんてね」

 

二人が見たのは仮面をつけた少年。

 

一見すればただの眷属悪魔にしか見えないが、その少年こそ『獅子王の戦斧(レグルス・ネメア)』と呼ばれる神器であり、宿主を失った後も単体で稼働しているイレギュラーだった。

 

「本当に今代の神滅具はイレギュラーばかりね」

 

「……頭が痛い話だ」

 

どれもこれも現在ギルガメッシュらが把握している神滅具は本来の成長とは異なる力に目覚めている。神滅具の他にも英雄派内には本来とは違う覚醒を見せた神器もあるものの、神滅具のように全てが予想外の成長を見せているというのは極めて異例の事態だった。

 

そのイレギュラーを考慮して、グレモリーとバアルの戦力差はバアルの方が上だとジャンヌが判断したが、必ずしもそうなるとは限らないだろう。特に赤龍帝――兵藤一誠はこれまで何度も逆境を乗り越えている存在。最もイレギュラーを起こしているような異端中の異端者なのだから。

 

そういった点でいえば、サイラオーグ・バアルも悪魔でありながら魔力に恵まれなかったために肉体を鍛え抜き、ついにはバアルの当主となった異端者だ。そこにイレギュラーを起こした神滅具がいるとなればこちらも予想通りとはいかないだろう。

 

例え魔王であろうと、レーティングゲームの覇者であろうと、このレーティングゲームを観戦しているものにはこのゲームがどう転ぶかはわからない。

 

――ただ一人を除いては。

 

「……ところで王の帰りが遅いな。お手洗いはそう遠くないはずだが」

 

「そうね。もう帰って来てもおかしく……まさか」

 

「「またか!?」」

 

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

 

 

 

「……迷った」

 

あ、ありのままを話すぜ。

 

俺は尿意を催しトイレに行った。

 

そのまま帰ってもよかったが、ちょっと甘いもの欲しさに売店に行った。レーティングゲームを見に来ていた悪魔たちが俺に道を譲る中、ビビる店員から大判焼き(みたいなもの)とたこ焼きを買った。

 

そしてそのまま来た道を帰っていた。

 

……はずだったんだけどなぁ。

 

なぜか迷ったのである。

 

おかしい。

 

確かに俺は方向音痴のきらいがある。しかし、そこまで酷くないはずなのだ。

 

だというのに複雑でないはずなのに迷ってしまった。

 

こんな事なら二人に声かけておくべきだった。このままではゲームが始まってしまう……っ!

 

《これはこれは……覚えのない神気を感じて来てみれば英雄王ギルガメッシュではないか》

 

こいつ脳内に直接……っ!?

 

……という冗談はさておき。

 

司祭服のようなものに身を包み、ミトラを被った骸骨が向こう側から歩いて来た。

 

どこからどう見ても死神だ。死神以外の何者にも見えない。

 

《ここから先は我らに用意された専用のルームだ。何用か》

 

おおっ、目が光った。ますます死神らしさで溢れている。

 

「どうにも俺は道を覚えるのが苦手でな。迷った挙句、ここにたどり着いたというわけだ」

 

適当な事を言って後で迷子になったのがバレては恥をかくだけだと思い正直に話す。

 

《ファファファ。道に迷うたと申すか。貴様ほどの男が道に迷うた挙句、私の元に来ると?》

 

「偶然だな」

 

いや、全く。

 

別に会いたくてここに来たわけではない。俺は早く買ってきた物を食べながらレーティングゲームの観戦がしたいというのに。

 

《カラスやコウモリの群れと馴れ合っていると聞き及んだ時は耳を疑ったが……随分甘くなったものだな》

 

カラスやコウモリ。

 

堕天使と悪魔のことだろうが、この死神はアザゼルやサーゼクスたちを露骨に見下しているようだ。オーディンも友好的とはいえ開口一番小馬鹿にしていた事を考えれば当然な反応のようにも見えるが……こっちは一段と蔑んでいるように見える。

 

「……他の者にも言ったが、俺は英雄王ギルガメッシュの子孫のようなものだ。英雄王ギルガメッシュがどんな人間であれ、俺とは別人と考えたほうがいい」

 

まぁ、子孫ですらないんですけどね。

 

《そのようだ。少なくともウルクの神から聞いたギルガメッシュであれば、今頃奴等は諸共に滅んでおるわ。ましてこのように私と貴様が話すこともありえなんだ》

 

みんなそれ言うよね。

 

Fateのギルガメッシュと同じだと考えるなら可能性は十分あるけど、その子孫まで同じと考えるのはどうなのだろうか。あれか?一流アスリートの息子は一流で当然みたいな理論か?

 

「生憎と俺は平和主義でな。他勢力とことを構えるつもりはない。もっともそれを脅かす者は例外だがな」

 

《ならばどうする?あのロキのように屠るか?》

 

「さあな。俺は寛大ゆえ、何者であっても話し合うつもりがあるならその限りではないぞ」

 

《……半神風情が。巫山戯たことを抜かしおる》

 

途端、今まで若干感じていた冷たいオーラが強くなり、目玉のない眼孔の奥がさらに強い光を放つ。

 

それに影響されたのか、死神骸骨の後ろから更に似たような奴らが出てきた。

 

なんだ、この死神集団。と思ったが、そこでふと思い出した。

 

ここには他勢力や他神話の重鎮が集まる。

 

その中には当然ギリシャ神話も存在する。

 

ギリシャ神話で骸骨の死神なんてもう答えみたいなものだ。

 

死を司る神。冥府の神ハーデスだ。

 

アザゼルには『頼むから神に喧嘩を売りに行くのは勘弁してくれ』と言われていた。もちろん、そんなつもりはない。ロキでさえ巻き込まれる形でなければ戦おうとは思わなかった。放っておいても倒されるし、あれって倒せはしたけど、死んでなかったし。他神話の神を殺した時にどんな影響が世界に出るかわからない。

 

《ふん。まあよいわ。今日は別の楽しみもある。ましてここで事を構えるには些か敵が多い(・・・・)。ここは退かせてもらう》

 

やっべ。レーティングゲームが始まるんだった。俺も早く戻らないと!

 

「ではな。冥府の神。いずれまた相見えることになるだろう」

 

あまり話が長引くとよろしくないので、半ば強引に話を切ってやや早歩きでその場を後にした。廊下走るの良くない。

 

《せいぜい死なぬようにな。貴様の魂を連れて行くのも構わぬが、それでは腑に落ちぬ神々も多いのだからな》

 

その場を去っていく俺の耳にそんな言葉が聞こえた気がした。相変わらずギルガメッシュは神に恨まれスギィ!幻聴だと思いたい。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

帰ってくると案の定ゲオルクとジャンヌが詰め寄ってきた。

 

俺の言いつけ通り試合を見つつ、ゲオルクの魔術で探し回っていたがこれが絶妙に俺の行動と噛み合わなかったらしい。またこっそり歩き回っていたのではないかと問われた。

 

今回は単に道に迷っただけなので正直にその事を話そう。

 

そう思ったのだが……ちょっと待て。

 

よくよく考えれば、仮にも一つの組織を束ねるトップが特に迷う要素もない場所で迷うというのはどうだろうか。そのまま帰ってこればいいものを勝手に売店に行った挙句に道に迷ったなんてお間抜けにも程がある。

 

……だ、駄目だ。こんなこと正直に話したら俺はただの馬鹿という扱いを受けてしまう。

 

変に持ち上げられるのはごめんだが、馬鹿にされるのも勘弁してほしい。

 

咄嗟に『珍しいヤツが来ていたので挨拶をして来た』と言った。ハーデスのことである。

 

それを伝えると二人が立ちくらみがすると椅子に座った。

 

冥界だからと言って少し気を張りすぎではないだろうか、今回はあくまで観戦に来ただけだというのに。二人には多少気の抜き方を覚えてほしいものだ。

 

「試合の流れはどうだ?」

 

実況自体は廊下でも流れていたものの、やはり音声だけではなんとも言えない。

 

おまけに通常のレーティングゲームと違い、『ダイス・フィギュア』と呼ばれる特殊ルールで戦っている。人間界のチェスに駒価値があることにならい、両『王』が振ったダイスの合計で試合に出るメンツを決めるものだそうだ。詳しいことは覚えていないが、多分原作通りだろう。

 

「……はい。第二試合を終えて、バアルが三名、グレモリーが一名リタイヤ。流れで言えばグレモリーの方が優勢と言えるでしょう」

 

「今のところは、か?」

 

「あくまでも個人的な意見になりますが、いくら眷属を倒せたとしてもサイラオーグ・バアルを打倒することはかなわないかと……」

 

「私はジャンヌのように見るだけではわかりませんが……個人的にはバアルの『兵士』が気になります。アレの能力次第ではいくら赤龍帝がいるとはいえ、グレモリーに勝ち目はありません」

 

二人の言う通りだ。

 

確かに俺は無茶苦茶な修行でイッセーを強くした。英雄派が本来目覚めさせるはずだった覚醒を促し、強さ的にはほぼ原作と同じ通りだろう。

 

だが、それでは敵わない。例えサイラオーグ・バアルを圧倒しても、神滅具である『兵士』を纏えば形勢は逆転する。グレモリー全員でかかっても手も足も出ないだろう。

 

だから後は兵藤一誠(主人公)次第。

 

この物語の主人公なら、過程はどうあれ、原作と同じ状況にある今なら必ず覚醒するはずだ。

 

俺はそれが見たい。正真正銘力と力のぶつかり合い。手に汗握る死闘というやつを。

 

何せ、俺はただの観戦者だからね!原作でも十分に読んでて面白かった試合が生で見えるんだから、心が踊らないわけがない。

 

「……愉しそうですね、我が王よ」

 

「ああ、愉しいとも。ここから面白くなるぞ、奴らの試合は」

 

「と、言われますと?」

 

「以前も話したが、グレモリー眷属は逆境に立たされるほどに真価を発揮する者達ばかりだ。であれば、『サイラオーグ・バアルが飛び抜けて強かった』などという理由で勝敗が決まるわけがあるまい?」

 

「では、この戦い。制するのはグレモリーということですか?」

 

「そうなるだろうと思っている」

 

『グレモリーが勝つ(ドヤァ)』とか言っておいてバアルが勝ったら超絶ダサいやつになってしまうので、それとなく『かもしれないよ』感を出しておく。

 

二人も納得するような素振りを見せているので多分大丈夫だろう。

 

……もしも、バアルが勝った時のために言い訳も考えておこう。

 

 

 

―◇◆◇―

 

 

 

グレモリーが勝つと断言した(・・・・)ギルガメッシュにゲオルクとジャンヌはやはりかと感心する。

 

共に自身の意見こそ述べたものの、あくまでも現状では最も可能性が高い結果を予想しただけに過ぎず、到底ギルガメッシュのように結末を見抜くことなどできない。

 

もちろん、現状どう足掻いてもグレモリーに勝機はない。と二人は考えている。

 

それこそ『覇龍(ジャガーノート・ドライブ)』を使いこなせるのであればその限りではなかったかもしれないが、それ程の魔力がないことをゲオルクはすぐに見抜いていた。

 

であれば、それに変わる何かを赤龍帝は編み出しており、ギルガメッシュがそれに気づいている。というのが一番考えられる可能性だろう。

 

もしくはサイラオーグ・バアルを弱体化させられるないし、嵌める策があるか。

 

どちらにせよ、試合を見届けないことには始まらないのだが――。

 

「……ねぇ、ゲオルク。私たちはレーティング・ゲームっていう悪魔の競技を観てるわよね?」

 

「……そのはずだが」

 

「じゃあ、なんでストリップショーが始まっているのかしら?」

 

「それは……俺も聞きたい」

 

兵藤一誠対サイラオーグ・バアルの『僧侶』コリアナ・アンドレアルフスの試合は明らかにおかしかった。

 

そも兵藤一誠のスケベ技に対抗する術を持っているとサイラオーグが宣言した時点で嫌な予感はしていた。

 

序盤は普通に戦っていたというのに、一誠が『禁手』した瞬間にこれである。

 

「……試合が見えぬのだが」

 

「お目を汚すわけにはいきません。無礼と思われるやもしれませんが、どうかお許しを」

 

ストリップショーが始まった瞬間、ジャンヌは咄嗟に巨大な聖剣を創り出し、ギルガメッシュが見えないように目の前に突き刺した。

 

さらに音もゲオルクが遮断したことで、本格的にギルガメッシュにはなんの情報も伝わらないようになっていた。

 

試合は兵藤一誠の勝利で終わったのだが、少なくとも二人が目にしてきた中で最も下品かつしょうもない戦いだと断言できた。

 

「申し訳ございません。王にお見せするにはあまりにも低俗でしたので」

 

「……よい。俺も兵藤一誠の性格を失念していた。次からだ」

 

(王でさえ予見できないとは……)

 

(試合の内容はともかく、やはり赤龍帝は侮れないわね……)

 

ギルガメッシュでさえ予想もできない試合を繰り広げた?兵藤一誠は意外性においては侮れないと評価を上げる。いくらギルガメッシュが未来視めいた事が出来るとしても、型破りな言動で予想だにしない展開に持ち込まれてしまえば先を読むことなどできない。ギルガメッシュは全てにおいて規格外だが、兵藤一誠については意外性の一点において他の追随を許さない。というより、予想の斜め上を突っ走り過ぎている。

 

今はふざけた方向性であるからいいが、この矛先がギルガメッシュに向けられた時、はたしてどうなるか。全く予想もつかない。

 

二人が兵藤一誠の警戒レベルを引き上げている間にも、ゲームは次の試合へと移る。

 

それからの試合はやはりというべきか、熾烈を極めた。

 

互いの眷属同士の力が拮抗しているがゆえに起こる激戦。

 

どちらかが相手の予想を上回ったかと思えば、それをさらに上回る策を講じる。

 

間違いなく、このレーティングゲームは『当たり』の試合だと誰もが評する事だろう。

 

戦士としての性を持ち合わせているジャンヌは普通に試合を観ていたものの、いつの間にか『自分ならどうするか』と完全にゲームにのめり込んでいた。

 

ゲオルクも、様々な力を有する両者の眷属を見て感慨深そうに頷いている。

 

多くの観客が見守る中、グレモリーvsバアルのレーティングゲームは終盤へと向かっていた。

 

 

 



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創造系能力は総じてかっこいい

「僕とゼノヴィアとロスヴァイセさんでサイラオーグさんと戦う」

 

第六試合目。

 

両『王』によって振られたダイスは十二を出した。

 

ダイスが出す最大数を出したことでサイラオーグの出場は可能となり、サイラオーグはその期待に応えるかのように陣地で上着を脱いだ。

 

全身の毛穴が開きそうなほどの重圧。

 

それを差し向けられてなお、イッセーが武者震いをしてしまう余裕があったのはひとえにギルガメッシュとの死に物狂いの特訓があったからに他ならない。

 

そして祐斗はそのプレッシャーを感じた上であえて発言した。

 

「できるだけ相手を消耗させるつもりだ。キミと部長のために」

 

「ああ、頼む」

 

「祐斗!あなた、まさか……」

 

リアスは悟った。否、その場にいる全員が悟ったのだ。

 

――サイラオーグに勝てるのはイッセーだけだと。

 

「僕単独ではサイラオーグ・バアルには勝てません。そんなことは重々承知です。では、僕の役目は?簡単です。できるだけ相手の戦力を削ぐ。この身を投げ捨ててでも――。ゼノヴィア、ロスヴァイセさん付き合ってくれますか?」

 

「ああ、もちろんだ。イッセーと部長が後ろに控えているというだけでこんなにも勇気が持てるとはな。朱乃副部長の想いがよくわかる」

 

「役目がハッキリしている分、わかりやすくていいですね。――できるだけ、長く相手を疲弊させましょう」

 

覚悟を決めた表情にイッセーは拳に血を滲ませながらも笑顔で応える。

 

勝利を掴むための最善の手段。

 

勝利のために、仲間のために、一手でも多く相手を詰ませるための策を弄する。

 

「ここが正念場です。僕たちがサイラオーグ・バアルの力を削ります」

 

「それにやれるなら倒す!」

 

ゼノヴィアの気合いに満ちた言葉に祐斗は力強く頷いた。

 

「そうだね。なにも勝ち目がないわけじゃない。イッセーくんと違って直々に指導してもらっていたわけじゃないけど、ギルガメッシュ様のお陰で僕も戦術の幅が広がった。隙を見つければ必ずモノにするよ」

 

思えばこれを見越してギルガメッシュは自分にも直接指導こそしなかったものの、幾つか助言をしていたのではないか。そう感じずにはいられない。

 

「お願いするわ、三人とも。サイラオーグに少しでも多くダメージを、あわよくば倒してちょうだい。……ごめんなさい。さっき心中で覚悟を決めたばかりなのに、またあなた達に教えられてしまったわ……。本当に私は甘くて、ダメな『王』ね」

 

リアスの自嘲に祐斗は首を横に振った。

 

「僕達は部長と出会って、救われました。ここまで来られたのも、部長の愛があったからこそです。――あなたに勝利を必ずもたらします。僕達で」

 

多くの人間がギルガメッシュ達英雄派に救われたように、祐斗達はリアスの愛によって救われてきた。

 

それは悪魔を含めた人外を嫌悪している曹操をして『良い悪魔』だと言わせるほどだ。

 

それだけ言い残し、ゼノヴィアとロスヴァイセと共に転移魔法陣へと向かっていった。

 

祐斗はすれ違い様にイッセーと言葉を交わし、三人はバトルフィールドへと転送されていった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

三人が到着したのは湖の湖畔。

 

腕組みをして先に待機していたサイラオーグは三人を見て言う。

 

「リアスの案か?」

 

祐斗達は答えない。だが、リアスを知るサイラオーグにはすぐにわかった。

 

「そうか。リアスは一皮むけたようだ」

 

組んだ腕をとき、サイラオーグが告げる。

 

「お前らでは俺に勝てん。いいんだな?」

 

その言葉に祐斗は微笑を浮かべる。

 

「勘違いしないでください。僕達はあなたを倒すためにここに来ている!」

 

確かに勝つ確率は限りなくゼロに近い。

 

だが、少しでも可能性があるというのなら、諦めるわけにはいかない。

 

それはギルガメッシュと修行に励むイッセーを見て強く感じていたことだ。

 

「ふっ……いい心意気だ。流石はリアスの眷属といったところか。お前たちはどこまでも俺を高ぶらせてくれる……っ!」

 

『第六試合、開始してください!』

 

審判役の合図とともに、サイラオーグの四肢に紋様が浮かぶ。

 

「これは、俺の体を縛り、負荷を与える枷だ。――これを外させてもらおう。全力でお前たちに応えるっ!」

 

淡い光とともに紋様が消失すると、サイラオーグを中心に何かが弾けた。

 

風圧が巻き起こり、足下は激しく抉れ、クレーターを生み出す。

 

クレーターの中心で白く発光するサイラオーグの体。

 

それこそ魔力の才能に見放されたサイラオーグが体術を鍛え抜いた先に目覚めた力。闘気だった。

 

可視化できるほどの濃厚な質量を放つ闘気に解説役を担っているアザゼルも感嘆の声を漏らすほどだ。

 

「一切、油断をしない!貴様達は獲られても構わない覚悟さえ決めた戦士だ。生半可な相手ではない!ならばこちらも獲られる覚悟で戦う!それこそが俺であり、相手への礼儀だ!」

 

立っていた地面を大きく削るほどの踏み込みを見せ、サイラオーグが姿を消す。

 

「させません!」

 

すぐさまロスヴァイセが魔法のフルバーストを撃つ体勢を作った。

 

「ロスヴァイセさん、そっちです!」

 

サイラオーグの動きを捉えた祐斗の指示に従い、ロスヴァイセが一斉に魔法を放つ、

 

大質量かつ様々な属性の魔法は放っているロスヴァイセすら姿が見えなくなるほどだ。そこにゼノヴィアの聖なる波動による追撃も混じっており、並みの悪魔ならば塵芥さえ残らない。

 

――並みの悪魔なら。

 

「ふんっ!」

 

しかし、サイラオーグは規格外の化け物だった。

 

向かってくる魔法の数々を拳で返した。

 

そして高速で魔法と聖なる波動の雨をかいくぐると、ロスヴァイセとの距離を一気に詰める。

 

「逃げ――」

 

祐斗が忠告するよりも早く、サイラオーグの拳がロスヴァイセに直撃する。

 

直撃した瞬間、その周辺一帯の空気が振動するほどの一発。

 

ヴァルキリーの鎧がその勢いで無残にも四散していき、苦悶の表情を浮かべるロスヴァイセは湖の遥か彼方へと吹き飛ばされた。

 

「――まずは一人か」

 

淡々と告げるサイラオーグに残された二人は戦慄を覚えるのだった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「見事だ。右腕はお前たちにくれてやろう。これで俺は否応なくフェニックスの涙を使わねばならない。――万全の態勢で決戦に臨みたいからな」

 

試合の流れはやはりというべきか、サイラオーグにあった。

 

連携攻撃。デュランダルの波動による攻撃、リタイアさせたかのように見せかけたロスヴァイセの奇襲。そして祐斗とゼノヴィアが共に放ったデュランダルの一撃。

 

そのいずれもが致命打には程遠く、デュランダルによってようやく斬り落とすことがかなったものの、それもフェニックスの涙ですぐに治され、傷らしいものはロスヴァイセの奇襲によるものだけとなっていた。

 

代償は祐斗に浅くない傷を負わせ、ゼノヴィアとロスヴァイセをリタイアさせた。

 

大きい代償だが、最低限の目的は果たされていた。

 

サイラオーグはフェニックスの涙の使用を余儀なくされ、それ以外にもダメージを負っている。

 

見事、というほかなかった。

 

だからこその賞賛。サイラオーグはこの戦いこそ圧倒的優位に立っているが、ゲーム全体で見れば祐斗達に軍配が上がる。

 

ゼノヴィアと共に脱落させられかけた祐斗だったが、自身に刃を潰した聖魔剣を射出、ぶつけることで辛くもサイラオーグの手から逃れた。

 

「さて、どうする?木場祐斗。お前の攻撃では俺にダメージを与えることは出来んぞ」

 

しかし、サイラオーグが指摘した通り、祐斗の聖魔剣も騎士団もサイラオーグに傷一つ負わせることもかなわなかった。まして速さにおいてもサイラオーグを振り切れない。勝っているとすれば技術面の話だが、それも圧倒的な力の前には無駄であると痛感させられた。

 

ならば、諦めるか。

 

――否。それだけはありえない。

 

「まだです。僕はまだ戦える!聖剣創造(ブレード・ブラックスミス)――ッ!」

 

創り出した聖剣を地面に突き刺すと、その瞬間祐斗を中心に次々と聖剣が地面から突き出す。

 

だが、それはサイラオーグには届かず、祐斗の周囲に現れるだけに留まった。

 

ここに来て意図の読めない行動にサイラオーグは訝しむ。

 

祐斗の目はまだ諦めていない。ならば、この行動に必ず意味はあるはずだ。

 

サイラオーグが警戒心を強めるなか、祐斗が右腕をあげる。

 

「っ――。そういうことか」

 

突き出していた聖剣が地面からゆっくりと上昇していく。

 

優に百を超える聖剣が祐斗の数メートル頭上に浮遊した状態で静止する。無論、その切っ先は全てサイラオーグを捉えていた。

 

「剣士が出来るのは近接戦闘だけじゃない。あの人から伝授された技です」

 

祐斗の『それ』はギルガメッシュからの助言によるもの。

 

『俺の臣下に教えた技だが、同じ神器を持っている貴様にも出来るはずだ』。

 

その言葉通り、祐斗にはそれが可能だった。

 

まだ戦闘を行いながらすることはできないが、今のような状況であれば十分に可能だ。

 

「それがお前の『奥の手』か?」

 

「ええ。それに下手な小細工を弄するよりも正面から挑む方があなたには適している」

 

「――面白い。その挑戦。受けて立とう」

 

その言葉を皮切りに、祐斗の周囲で静止していた聖剣がサイラオーグへと殺到する。

 

凄まじい速さで射出される聖剣。これだけの量を喰らえば並の悪魔であれば消滅の危険すらある。

 

しかし、サイラオーグには無意味である。

 

「足りない力を手数で補うか……その作戦。俺が相手では間違いだったな!」

 

さながら流星のように降り注ぐ聖剣を拳で叩き落としていく。

 

全てとはいかないが、掠る程度ではサイラオーグに傷はつかない。まともに当たらなかった聖剣はサイラオーグの闘気に触れると軌道を変えて足下に刺さった。

 

クリーンヒットさえしなければその一撃は届かない。

 

それをサイラオーグはわかっていた。

 

ゆえに警戒していたのは聖剣で視界を覆ったことでできる僅かな隙を突いてくる可能性。

 

一撃で吹き飛ばす事ができるこの剣の雨をあえて叩き落としているのはその際に出来る隙を突かせないためだ。ロスヴァイセをリタイアさせたあの一撃は強大だが、あからさまに隙ができる。

 

死中に活を求める相手にそれは愚行。通常の拳打でも十分迎撃できる以上、無駄に相手に好機を与える意味はない。

 

だが――

 

(来ない……?)

 

一向に攻撃をしてくる気配がない。

 

訝しみながらも警戒心を緩めないサイラオーグだったが、剣の雨が止まるまでついに祐斗からの攻撃はなかった。

 

視界が完全に晴れた時、祐斗の姿は同じ場所にあった。

 

「はぁ…………はぁ………っ」

 

先程と違うのは、祐斗が既に膝をついていること。

 

攻撃はおろか、立つことすらままならない状態だった。

 

「……なるほど。先の攻撃に魔力全てを費やしたか……。残念だが、俺には通じなかったな」

 

「その、ようですね……」

 

「お前たちのような素晴らしい戦士を貶したくはないが……あれしきでは俺でなくとも倒すことなどできん」

 

落胆していないといえば嘘になる。

 

三人合わせても力の差は歴然。

 

後に控えるイッセー(本命)との戦いのためにもサイラオーグは油断などしていなかった。

 

それでも自身にフェニックスの涙を使わせるほど善戦してみせた彼らをサイラオーグは大きく評価していた。

 

最後に見せる奥の手というのだから、期待しないわけがない。

 

結果から言えば過大評価と言わざるを得ない。ともすれば自分でなくてもこの攻撃は凌げただろう。

 

「興醒めだ、などといえば傲慢にすぎるな。ケリをつけさせてもらうぞ」

 

そう言ってサイラオーグが一歩踏み出そうとした時。

 

「……良かった」

 

祐斗がにやりと不敵な笑みを浮かべた。

 

この絶望的な状況で笑みを浮かべた祐斗にサイラオーグは眉をひそめる。

 

万策尽き、動くことさえままならない相手がまるで勝ち誇ったような(・・・・・・・・)笑みを浮かべているのだから無理もない。

 

祐斗の武器は剣であり、騎士の利点は機動力。

 

そのどちらも使用できる状態でない祐斗が出来ることなどあるはずがない。

 

――はずだった。

 

「どういう――」

 

壊れた(ブロークン)……幻想(ファンタズム)……ッ!」

 

サイラオーグが問おうとした瞬間、周囲に突き刺さっていた聖剣が爆ぜた。

 

 

―◇◆◇―

 

 

「っ!?やはりあの技は――」

 

生み出した聖剣を高速で射出する祐斗を見て、ジャンヌは驚愕する。

 

当然の反応だった。あの技はジャンヌも使用する技であり、ギルガメッシュから教えられた技だ。

 

祐斗との違いは、練度が高い分、一瞬で祐斗同様に展開する事ができ、敵との戦闘中であろうとも創造し、射出する事ができる点。威力も当然ジャンヌの方が上だ。

 

なぜあの技が使えるのか。

 

それは祐斗自身が答えている。

 

――あの人から伝授された技です。

 

祐斗が指す『あの人』などギルガメッシュ以外にありえない。

 

ギルガメッシュの方を振り向けば、愉悦に満ちた表情で試合を眺めていた。

 

そこでジャンヌは確信する。間違いなく祐斗に教えたのはギルガメッシュで、意図的にこの状況を引き起こしたのだと。

 

なんの為か?

 

――試合をより面白くするためだ。

 

祐斗がどこまでサイラオーグに食い下がるか。

 

そのために必ずこの技を使うことを見抜いていたに違いない。

 

だが――。

 

「……勝負あったか。王から授かった技も、使い手次第でここまで差があるか」

 

ゲオルクがぽつりと呟く。

 

祐斗が放った聖剣はサイラオーグにかすり傷さえつけていない。

 

ただ、祐斗の実力を鑑みればこれは妥当な結果と言えた。本気の一撃を込めても、サイラオーグの闘気を破るのは困難。完全に防御されればなおさら破ることはできない。

 

後は祐斗がリタイアするだけか、とゲオルクは試合映像から目を逸らそうとして――。

 

(待て。本当にこれで終わり(・・・)なのか?王が指導されたというのに?)

 

ゲオルクは違和感を覚えた。

 

誰もが万策尽きた祐斗を見て、敗北は揺るがないと感じているだろう。

 

実力者であれば、祐斗が無意味とも言えるあの攻撃を、構えた段階で察していただろう。

 

では、ギルガメッシュは?

 

全てを見通す眼を持つギルガメッシュが、この技を伝授した時点でこの結末を読めなかったのか。

 

(そんなはずはない!王ならば、この結末は予想されていたはず……っ!?)

 

そこでゲオルクはようやく気づいた。

 

あの技はギルガメッシュがジャンヌに教えたものだ。

 

ジャンヌは優秀だが、相手の能力によっては距離を詰められず苦戦を強いられることもあるだろう。相手が防御に特化した能力であれば、実力だけではどうにもならないこともあるだろう。

 

相手の虚をつく技(・・・・・・・・)が必要になる。

 

一瞬の油断。隙を突いて、一撃で相手を葬る技が。

 

ゲオルクはその技自体を目にした機会はない。ジークからそれとなく聞いていたために気づくのが遅れたが、ジャンヌは未だ試合映像の方に向けられていた。

 

「……決まったわ」

 

ジャンヌがそう呟いた直後、白い閃光がサイラオーグを呑み込んだ。

 

 

―◇◆◇―

 

 

木場祐斗に教えを請われた時はどうしようかと思った。

 

教えを請われた、と言っても露骨にじゃなく、それとなく助言を求められたのだ。

 

剣士の戦い方なんぞわかるわけないし、それが技術的なものだと尚更。

 

イッセーでさえ、右も左も分からないままに指導している状態だったので、最初は普通に断ろうかと思っていた。

 

……が、そこで気づいた。

 

木場祐斗(こいつ)も英雄派との戦いで強くなったやつやんけ。

 

原作ではジャンヌとの戦いがあったから、木場祐斗は『聖剣創造』の亜種禁手である『聖覇の龍騎士団(グローリィ・ドラグ・トルーパー)』を思いついた。

 

だが、この木場祐斗にはそのきっかけがなく、禁手に至るという選択肢がなかった。

 

兵藤一誠ほどでないが、木場祐斗の禁手もまた重要なもの。

 

俺は木場祐斗に『聖剣創造』を禁手に至らせてくれとそれとなく伝え、後はジャンヌと同じ神器を持つということで某ブラウニー御用達の『全投影連続層写(ソードバレル・フルオープン)』と『壊れた幻想(ブロークン・ファンタズム)』をやり方だけ教えた。

 

正直後者に関しては理屈でわかっていても出来るかどうかは怪しかったが、ジャンヌといい、木場祐斗といい、天才ってすごいなぁ(遠い目)。

 

……はっ。いかんいかん。

 

静かに傷ついている場合じゃない。今は試合だ。

 

これ以上ないくらい絶妙なタイミングでの『壊れた幻想』。

 

あれは木場祐斗がありったけの力を込め、聖なる力が高められていた。

 

全力でサイラオーグ・バアルが防御をしていれば大したことはなかっただろうが、直前までサイラオーグ・バアルは油断していた。『壊れた幻想』を読めなかったのだ。

 

そのため、完全に不意を突かれたわけだ。

 

ロスヴァイセの近距離フルバーストでダメージがあるのなら、聖なる爆発を起こした『壊れた幻想』ならかなり有効打になるはず。

 

これはひょっとすると本当にサイラオーグ・バアルを倒したんじゃ――

 

『……見事だ。見事としか言いようがない』

 

――そんなわけないですよねー。

 

サイラオーグ・バアルは立っていた。

 

目に見えてダメージを受けているのがわかるが、それと同じくらい『こいつ絶対倒れないわ』っていう確信があった。

 

ていうか、なんかかっこいいな。相手の奥の手をモロに食らって涼しい顔してるって。これは強キャラ間違いなしですよ!

 

『一切油断はしない、などと宣いながら、最後の最後で俺は油断した。このダメージは当然のものだろう。そして木場祐斗。改めて敬意を表する。お前たちは最高の眷属だ』

 

そう言うとサイラオーグ・バアルは反応も待たず、一瞬で距離を詰めて木場祐斗に拳を叩き込んだ。何度見ても痛そうだ。グレモリー眷属って兵藤一誠を筆頭に根性あるよね。俺だったら泣く。

 

しかし、なかなか熱い試合展開だった。

 

ジャンヌもゲオルクもこの熱い戦いを楽しんでくれているようだし、グレモリーやバアルといった未来を担う若手悪魔かつ良い悪魔を見れば、多少は態度が軟化するに違いない。

 

異文化交流を深め、更に組織内の意識改革を行う。ゲームも面白いという良いこと尽くめ。

 

はっ……!ひょっとして俺も天才なのでは。

 

………そんなわけないか。



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神からの評価が大体酷い件について

何度か書き直してたんですが、イッセーvsサイラオーグの展開が木場vsサイラオーグ以上に変化が乏しかったのでカットしました。

ですので、今回はかなり短めになってしまいました。久々の投稿なのにすみません。




グレモリー対バアルの試合。

 

観客の予想を良い意味で裏切り続けたその試合は終わってみれば、誰もが熱気に当てられ、未だ会場には多くの悪魔達の姿があった。

 

それは彼らだけに限った話ではなく、来賓席で試合を観ていたジャンヌやゲオルクも試合が終わってもその場に立ち尽くしていた。

 

もっとも、それは感動などとは程遠いものだが。

 

(あれで神器が目覚めてから一年にも満たないなんて……王が目をつけたのも頷けるわね)

 

ジャンヌの目から見て、イッセーの実力は異常だった。

 

神器が発現したのが悪魔になったのとほぼ同時期。それから今日に至るまでイッセーはごく普通の高校生であり、特別体を鍛えているわけでも、格闘技をしているわけでもなかった。

 

だが今はどうか。

 

半年足らずで禁手に至り、さらに次の段階へと進んでいる。少し前まで神器はおろか、悪魔や天使が実在することさえ知らなかった普通の高校生だった人間にしては桁違いの成長速度だ。

 

これを異常と言わず、何と言うか。

 

歴代最弱と呼ばれていると耳にしていたが、所詮それは発現して間もない頃の情報でしかないと言わざるを得なかった。

 

当人に自覚はないだろうが、歴代の中で最も異常な速度で特異な成長を遂げている。サイラオーグとの激闘の最中、目覚めた力もその一つだ。

 

試合直前にはわかっていたことだが、実際に試合の最中にその一端を垣間見る事になるとは夢にも思わなかった。

 

イレギュラー中のイレギュラー。

 

それが指す意味はーー。

 

「……ンヌ。ジャンヌ」

 

「っ……なによ、ゲオルク」

 

「なによ、じゃない。王が兵藤一誠とサイラオーグ・バアルの元へ向かわれるそうだ。俺達もついていかねばならないだろう」

 

「兵藤一誠とサイラオーグ・バアルの?何故ーー」

 

「それは俺にもわからない。何か思う事があったんだろう」

 

試合が終わって少しの間、ギルガメッシュが鋭い眼差しで会場を見つめていたことにゲオルクは気づいていた。その鋭い眼差しが何を意味しているかまではゲオルクにもわからない。

 

「だが、いくら王には結果が視えていた(・・・・・・・・)としても、赤龍帝はやはり危険だ。今回のようなことが何度も続き、いずれ王の慧眼さえも超えてしまうようなことになればーー」

 

「っ、そんなことは」

 

「ない、とは言い切れないな。今日の試合を観れば尚更」

 

あの二人の闘い。流れは間違いなくサイラオーグにあった。

 

ギルガメッシュとの修行で得た力も、『獅子王の剛皮(レグルス・レイ・レザー・レックス)』を使用したサイラオーグの前には歯が立たず一撃でダウンするほど。あの状況下では多くの者がサイラオーグの勝ちと思っていたはずだ。

 

イッセーはそれを土壇場で覆したのだ。敗北寸前の状態から勝利を掴んだ。

 

「……この続きは帰ってからにしましょう。他の幹部の意見も聞きたいわ」

 

「俺もそう思っていた。王にとっては未だ脅威足り得ないが、このペースで成長を続ければ決して無視出来ない存在になる」

 

ギルガメッシュにとって脅威となる存在になれば、その時はジャンヌ達にはどうにもならない実力をつけてしまっていると言うこと。

 

イレギュラー要素の塊がギルガメッシュと同等の実力を持ってぶつかるようなことがあれば、はたして勝つのはどちらか。ギルガメッシュがどれだけ有利に戦いを進めても、後一歩のところで逆転勝ちを収めてしまうのではないかという考えがチラついてしまう。

 

ともかく今はギルガメッシュについていかなければ。

 

僅かに抱いた不安を隅に置き、ひとまずギルガメッシュとともに二人の病室に向かうのだった。

 

 

 

ー◇◆◇ー

 

 

 

原作通り、兵藤一誠とサイラオーグ・バアルの戦いは熾烈を極めた。

 

原作と同じレベルに成長している兵藤一誠と、原作よりもダメージを受けているサイラオーグ・バアル。

 

ひょっとしたらあっさり決着がついてしまうのではないかという予想も杞憂に終わり、胸を撫で下ろした。

 

サイラオーグ・バアルの『兵士』レグルスの禁手ーー『獅子王の剛皮(レグルス・レイ・レザー・レックス)』を身に纏うことによる爆発的な強化。

 

兵藤一誠のリアス・グレモリーへの 『真紅の赫龍帝(カーディナル・クリムゾン・プロモーション)』への覚醒。

 

なにより、二人の勝利への執念。

 

それによって繰り広げられたのは単純な力のぶつかり合い。戦術も戦略もない、純粋な殴り合い。かわすことも防ぐこともない。様々な想いが籠められた拳を叩きつけあっていた。

 

負けられない戦いがそこにある。と断言できる試合だった。ぶっちゃけ試合の勝者はどっちでもいいかもしれないとさえ思った。兵藤一誠が勝たないとダメなのに。二人揃って主人公力高すぎるんじゃが。

 

あまりにも熱く、滾らせる試合に感動すら覚えた。というか、サイラオーグ・バアルの事情を知る身としてはちょっとうるっと来た。まさか戦いで感動を覚えようとは。涙目になるのもかっこ悪かったから最後の方は目に力を込めて堪えきった。

 

……まぁ、ちょうど涙目になるのを堪えようとしたところで二人が振り返ったことで、そのかっこ悪いところが見られてしまったわけだが。

 

その後『王が我々を同伴させた理由がわかりました』と言っていたから、俺が二人を連れてきた意図が伝わったようでいいんだけど。これでなんで泣いてたのなんて聞かれた日には目にゴミが、と見え見えの苦しい言い訳をせざるを得ない。

 

ともあれ、あの兵藤一誠とサイラオーグ・バアルには感謝せねばなるまい。

 

これからの悪魔界を担っていく悪魔がああいう弱者の気持ちがわかるやつらだったら、例え俺が死んだとしても、サーゼクス達が魔王でなくなったとしても、友好的な関係を築いていけるだろう。

 

神様転生したって言っても、所詮人間だからね、俺。不死身じゃないし、不老不死でもないからね。早いところ英雄派の安定を確保しとかないといけないと考えていた身としては異文化交流を通じて少しでも同盟相手のイメージを良くしてくれれば御の字だったわけだから、今日のような試合は最高だ。本当に二人には感謝しなければ。

 

 

 

 

 

 

ーーそんなわけで、感謝の念を胸に俺は兵藤一誠とサイラオーグ・バアルの病室に向かった。

 

やはり感謝の気持ちは直接伝えなければなるまい。それでこそ人の上に立つ資格があるというもの。特にマイナスなことはともかく、プラスなことは積極的に伝えるべきだ。

 

特にイッセーなんかは俺の無茶苦茶な修行をなんとか乗り切るだけでなく、俺が身につけて欲しかった力までちゃんと目覚めてくれたわけだから。ちょっとは褒めてあげないと可哀想だ。

 

そう思って向かったまでは良かった。

 

今度は迷わないようにジャンヌやゲオルクを連れているわけだ。

 

これで絶対に着く。

 

………ああ、確かに。道には迷わなかったよ。

 

「お?おいおい、いるとは聞いてたが、こいつはスゲェのに出くわしたな。こんなところでなにしてんだ。英雄王ギルガメッシュ」

 

ばったりと出くわしたのは護衛らしき者達を引き連れた男。五分刈り頭に丸レンズのサングラス、アロハシャツ、そして首に数珠とすさまじくラフな格好をしていた。久しぶりに外国から帰って来たおじいちゃんみたいになってるぞ。

 

「まさか本当に三大勢力に癒着してるなンてな……いや、案外癒着してんのはあいつらの方か?」

 

開口一番、凄まじい言われようだった。

 

「……何を言いたいのか知らんが、下衆の勘繰りはやめておけ」

 

俺たちはあくまでも対等な関係のつもりだ。いや、でないと同盟なんて成立しないし。

 

「HAHAHA!そんな怖い顔すンなよ、英雄王。今のは客観的事実を言っただけだぜ?聞けばお前はギルガメッシュの子孫らしいが、見てくれから俺ら『神』に対する態度まで同じと来たもンだ。そんなら俺さまだけじゃなく、他の神話もそう思ってンよ」

 

勘違いも甚だしい。

 

そりゃ確かに王らしく振舞う努力はしてるが、俺なんて本家ギルガメッシュに遠く及ばない贋作だ。だからこそ、他者との信頼関係を大切にしている……つもりだ。天上天下唯我独尊な王様が出来るほどの能力が俺にはないのだから。

 

とはいえぶっちゃけた話、相手がどう思ってるかなんて俺にはさっぱりわからない。俺はそれなりに良い関係を築いているつもりだけどね。

 

「さっきもアザ坊に言ったがよ。どこの勢力も表面じゃ平和、和議なんてもんを謳ってやがるが腹の底じゃ『俺らの神話こそ最強!他の神話なんて滅べ、クソが!』って思ってンよ。例外的に甘々な神もいるが、大抵の神は異教なんざクソ食らえが基本なんだ。おまけにただでさえ他神話に攻め込まれて信者を持ってかれた挙句に民間の伝説レベルにまで信仰を落とした神がいるんだ。神が恨みつらみに正直なのは、お前のご先祖が身をもって体験してるはずだぜ?」

 

おそらくエルキドゥのことを言っているんだろう……いや、こっちの世界じゃエンキドゥか?まあ、どっちにしても誰のことを言いたいかはわかる。知りたい人はギルガメッシュ叙事詩をどうぞ。

 

「それに、だ。神から信仰心を奪ったって言や、お前が一番重罪だぜ?」

 

「脅しのつもりか?」

 

「まさか。この程度でビビってくれるんなら、誰もお前さんを敵視しねェよ」

 

神との完全なる決別を計ったのはギルガメッシュだ。元から崩壊しつつあった神と人との関係だが、間違いなくギルガメッシュがとどめを刺した形になる。他にも色々やらかしていることを考えても神たちがギルガメッシュを恨むのは当然のことだ。ていうか、別人だってわかってるみたいなこと言ってたくせに俺のせいにしないで欲しいんだけど。したくなる気持ちは分からなくもないけどね?

 

「ま、当面のところはなんもしねェよ。仮に勝てても、消耗したところを他神話に攻め込まれて滅んだんじゃ笑い話にもならねェしな」

 

「そうしておけ。無益な争いは俺も望むところではない」

 

そもそもあんたらが攻め込んで来たりしたら俺たちも笑い話じゃ済まないってば。タイマンならまだしも軍団で来られたらそんなん無理ゲーですやん。実力があっても、こっちは紙装甲なんだから。

 

しかも勝ったところで原作になんの影響が出るかわからないという不安に駆られる。どっちみち俺は得しない。

 

「無益ねェ……ロキを屠ったお前がそれを言っちまうのか?」

 

「あれは放っておけば世界に破滅と混沌をもたらす。害があると判断した以上、静観する理由もあるまい」

 

放っておいてもグレモリー達+αが倒しただろうけどね。ただ、ヘラクレスが首を突っ込んでるっていうなら流石に放っておくわけにも行かなかった。

 

「そうかい。……(おれら)じゃなく、人間を選んだやつらしい言葉だな」

 

そう言うと、踵を返して去っていく。

 

……結局のところ、あいつ誰だったんだ?神がどうのこうのって言ってたし、おそらく神なのはわかるんだけど。

 

まあ、いいか。誰でも。

 

知らないにしろ、覚えてないにしろ、そこまで原作に影響を与えなかったやつなんだろう、そう思うことにした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

途中で変なのに出くわしたわけだが、目的地には予定通り着いた。

 

後は中に入ってーー

 

「ーーおや、キミも彼らに用かな。英雄王」

 

ドアに手をかけようとしたところでドアが開き、中からサーゼクスが現れた。

 

「用、というほどのことでもない。今日は良いモノを観たからな。その当事者達に褒美を、と思ったまでよ」

 

ご褒美をあげると言ってもバビロンに入っているものになるわけだけどね。まぁ、宝物とか伝説の武具とかなら入ってるし、モノによれば期待に添えるだろうけど、

 

「それは彼らも喜ぶだろう。かの英雄王からの褒賞だからね。是非……と言いたいところだが、今は彼ら二人だけにしておいてあげてほしい」

 

「都合が悪いか?」

 

「都合が悪い、とまでは言わないが、やはり拳を交わした者同士。積もる話もあるだろう」

 

なるほど。あそこまで後腐れなく殴り合いを演じた後は友情を深め合うということか。元々、原作でも二人は似ている部分もあるし、仲もかなりいいはずだから、そうなるのは自明の理か。

 

「とはいえ、英雄王。キミも一勢力のトップとして招待した賓客であるし、どうしてもというのなら私も止めるわけにはいかないが……」

 

「いや、お前の言い分も一理ある。俺が顔を出して水を差すわけにも行くまい」

 

せっかく楽しく談笑してたのに全く関係ないやつが顔出したら白けるもんな。特にサイラオーグなんて初対面だし。絶対微妙な空気が流れる。そうなったら申し訳なさがハンパない。

 

「申し訳ない、英雄王」

 

「気にするな。急な訪問をしたのはこちらだからな」

 

しょうがない。また日を改めるか。

 

……次いつ会うかわからないけど。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

余談だが、道中に出会った神は帝釈天ーーインドラだったらしい。

 

そうと分からずに話していたとは口が裂けても言えなかった。

 

 

 




次話は気が向いたら姫ギル回になるかも(絶対やるとは言ってない)


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