ウルトラマンブレイブ (まさ(GPB))
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第1話「勇者との出会い」

 僕の名前はユウキ、カガヤ・ユウキ。

 これから話すのは、僕が体験した光の勇者の物語だ。

 

 僕は子供の頃、テレビで放送してたヒーローがカッコ良くてその真似事をよくしてた。

 特にウルトラマンが好きで、父さんと一緒にウルトラマンごっこして遊んでいたっけ……。

 子供の頃の憧れを忘れることはなかったし今でもウルトラマンは好きだが、だんだん子供の夢は忘れてしまっていた。

 ヒーロー、英雄なんてのは物語の中にしか実在しない、作り物の存在だと思っていた。

 

 そう、あの時までは――――

 

「シュアァッ!」

 

 轟音、地響きと共に大地に降り立つ赤い巨人。

 その姿はこの世界では架空の存在とされる、ウルトラマン達に似た姿。

 

「行くよ、ブレイブ!」

『よしッ!』

 

 僕に応え、地を駆けて怪獣に立ち向かう巨人。

 僕と一体化したウルトラマン、ブレイブ。勇者の名を持つ光の国から来たウルトラ戦士。

 

 “本物”のウルトラマン! 

 

 × × ×

 

 五年前 日本・東京

 

「初めまして地球人。私の名はゲルゼ。私とゲームをしましょう」

 

 それは突然告げられた。

 世界各地、主要都市の上空に現れた謎の宇宙船。そして、ゲルゼと名乗る人物の声。

 ゲルゼは続ける。

 

「ゲームは五年後に日本から始めます。その内容は、私が一年以内にこの地球を征服できるかどうか。一年以内に征服できれば私の勝ち、出来なければあなた達の勝ちです。ルールは特にありません。それでは五年後に、また会いましょう」

 

 一方的に話をして謎の宇宙船とゲルゼは消えた。

 

 最初は誰も信じず、ただの悪戯だと言って一蹴した。僕も信じなかったね。

 当時の政府や世界の首脳陣も何か対策をする訳でもなく、そのまま変わらない日常を過ごしている。

 そして人々は、ゲルゼの一件を忘れていった。

 

 

 

      *

 

 

 

 それから五年が経った現在(いま)。ゲルゼは再び、宇宙船と共に現れた。

 

 五年後 同地点

 

「お久しぶりです地球人。五年経ったので約束のゲームを開始しましょう。今から一年、頑張って私の可愛い怪獣達に抗って下さいね?」

 

 現れると同時にそう宣言したゲルゼ。

 買い物に来ていた僕は、その光景を近くで見ていた。

 五年前にあった悪戯か。ホントに五年経ってからやるなんて、また律儀な奴だな。そう思っていた。

 けれどそんな考えは、これから起こる現実によって、本当の侵略なのだと思い知らされる。

 宇宙船から一つの光が地上へ落ち、その光が形となって現れた巨大な怪獣。

 

「あ、あれは……あの怪獣は……!」

 

 現れた怪獣には見覚えがある。

 細身の身体に生える青味がかった黒い鱗と鋭い棘。

 退化している小さめの手から伸びる爪、対峙する者を睨むその双眼の目つきからも凶暴性が判る。

 その姿はウルトラマンに出てくる怪獣と同じだった。

 

「おぉ、宇宙怪獣ベムラーか! 懐かしいなぁ」

「あれ、本物なの……?」

「またCGとか使った悪戯じゃねぇの? 五年前みたいにさ!」

 

 傍にいた高校生ぐらいの若い男が笑いながら携帯で写真を撮っている。

 

(あれがCG? いや、違う!)

 

 僕には感じられた。あのベムラーは生きている、本物であると。

 だが見れば、周りの人々も皆同じく、呑気に写真を撮っていた。

 しかし、それはすぐに恐怖へ変わった。ベムラーが熱線を放ったんだ。

 巻き起こる爆発と衝撃。

 

「何だよあれ!?」

「に、逃げるぞ! 早く!!」

「助けて! 死にたくない!」

 

 周りにいた人々も混乱し、一斉に逃げ始めた。

 

「さぁ、ゲームスタートです!」

 

 そう言い残して、ゲルゼと宇宙船は消えた。街で暴れるベムラーを残して。

 ベムラーは熱線で周囲を破壊しながら歩いて来る。

 僕も逃げようとしたけど、恐怖で脚が震えて動けなくなっていた。……今となっては情けないことだけどね。

 ゆっくりとベムラーが迫ってくる。

 

「な、何で……! 早く逃げなきゃ……!」

 

 動けなくなった僕はなんとか逃げようとした。

 その時、ベムラーがいる方向に泣いている子供がいるのに気が付いた。きっと親とはぐれて逃げ遅れたんだろう。

 ベムラーが熱線を再び放ち、それが子供がいる頭上のビルに直撃する。

 助けるんだと思うよりも先に、身体が動いた。怖くて震えていたはずの脚が、いつもより力強く地を蹴るのを感じる。

 

(間に合え……っ!)

 

 そう願った瞬間、胸ポケットに入れていたお守りの石が輝いた。

 しかしそれを気にせず、子供の元まで駆け寄って、咄嗟にその子を庇う様に抱く。

 瓦礫が落下してくる直前に僕の意識は途切れた……。

 

『――キ。ユウキ』

「だ、誰? それに、ここは?」

『私はブレイブ、ウルトラマンブレイブ。君の子供を助けようとした行為が、私を甦らせてくれた。私は君と一体化したんだ』

「ウルトラマン!? 本物なのか!? それに、一体化した……? いや、それよりもあの子は無事なのか!?」

『心配はいらない、無事だ』

 

 どうやら瓦礫が直撃する瞬間、このウルトラマンが守ってくれたらしい。安全な所へ送ったという。

 良かった……と安心していると、ベムラーが迫っていたのを思い出す。

 

「そうだ、ベムラーは!?」

『む、奴の攻撃が来るぞッ!』

 

 ベムラーはこちらに向けて熱線を放つが、僕の腕は無意識に動いてバリアを展開する。

 これにはベムラーのみならず、僕とブレイブも驚いた。

 

『初めて一体化したはずだが、ここまで上手く出来るのか』

「いや、それは僕が知ってるからだと思うよ……」

『知っている? その話を詳しく聞きたいが、今はベムラーを倒さないとな』

 

 ブレイブは不思議そうに聞くが、すぐにベムラーへと意識を向ける。

 

「……そうだね、僕もウルトラマンに聞きたい事が沢山あるんだ!」

『私の事はブレイブと呼んでくれ』

「分かった! 行くよ、ブレイブ!」

 

 言葉を交わし、ベムラーに向かって構える。

 ブレイブと一体化したからなのか、恐怖は感じない。今の僕には戦える! 

 その勇気と力が溢れてくるのを感じて、自然と身体が動く。

 

「シュア!」

 

 ベムラーの腹に飛び蹴りをして着地。流れる動作で、同じ箇所に回し蹴りを繰り出す。

 怯みはしたが、あまり効いていないのかまだ動けるようだ。ベムラーが反撃にと、突進して頭突きをしてくる。

 僕達は受け止めようとするが、思っていたよりも衝撃が強い。後ろによろめいたその隙を逃さず、ベムラーは尻尾による追撃をする。

 ベムラーは攻撃の手を休めず、回転した勢いをそのままに、振り向きざまに熱線を放ってきた。

 連続攻撃をまともに受けた僕達は、吹っ飛んだ衝撃で後ろのビルへと激突する。

 

「ぐっ、強い……!」

『大丈夫か、ユウキ?』

「あぁ、平気だよ」

『マズイ……もう一撃来るぞ!』

 

 ベムラーが更なる攻撃として熱線を放とうとする。

 しかしその直前、ベムラーは別の場所から攻撃されて怯んだ。

 一体何が? そう思い攻撃してきたところを見る。攻撃したのは自衛隊の戦闘機だった。

 ベムラーが戦闘機へ向け熱線を放とうとしたが、今度は地上から戦車の砲撃を受けた。

 僕達を援護してくれたのか……? 

 

『ひとまずは助かったな』

「ああ。だけど、これ以上暴れさせる訳にはいかない!」

『そうだな。それに私達も、そろそろ時間のようだ……』

 

 ブレイブがそう言った途端、カラータイマーが鳴り始めた。

 ウルトラマンは地球上では約三分間しか活動出来ない。きっとブレイブも同じなのだろう。

 一気に決めるしかない。そう思い、立ち上がる。

 

「ベムラーはまだ弱ってないみたいけど、どうするの?」

『なら、ブレイブブレードを使おう』

「ブレイブブレード?」

『ああ。私の両腕にあるブレイブブレスから発生させる、エネルギーの剣だ』

 

 言われて、ブレイブの両腕を見る。

 黄金に輝く神秘のアイテム、ブレイブブレス。メビウスやヒカリの持つブレスよりも少し小さいけど、形がどこか似ている。

 その右腕のブレイブブレスへエネルギーを溜め、光の剣を出現させる。

 

『行くぞ!』

「よし!」

 

 ベムラーの懐へ走り出しブレードで一閃。そのまま斬り抜け、振り返って背中にもう一撃加える。

 かなりのダメージを与えられたようだが、まだ倒れない。ふら付きながらもこちらに向き直る。

 ベムラーは熱線を放つが、僕達は難なくそれを斬り捨てた。

 そして力を溜め、とどめの一撃として胸へ袈裟切り。

 

「セアァッ!!!」

 

 しばらくベムラーは動かなかったが、やがて力尽き、地面へ崩れ落ちた。

 

「はぁ、はぁ……」

『ユウキ、良くやったな』

「ありがとう、ブレイブ。ところで、このベムラーどうするの?」

『あぁ。爆発しない個体は通常、怪獣墓場へ直接移送するんだが――』

 

 そう話していた時、そこに再び宇宙船が現れた。

 そしてゲルゼが話しかけてくる。

 

「まさか、この世界にもウルトラマンがいるとは。これは予想外でしたよ」

 

 ゲルゼもウルトラマンが現れるなんて、考えてもなかったのか。まぁ僕も驚いたけど。

 しかし、この世界にもだって……? 

 僕は問いかける。

 

「ゲルゼ、君は何者なんだ?」

「答えて差し上げたいのですが、今はまだ教えるつもりはありません。心配しなくても、いずれ分かりますよ」

『お前の目的は何だ? 何故この地球を狙う?』

 

 ブレイブもゲルゼに問う。

 

「初めましてですね、ウルトラマンブレイブ。私の目的はただゲームを楽しむ事ですよ。地球の征服など、次いででしかありません」

『何……!?』

「この地球も近いうちに滅びます。そんな星を征服しても、長くは持たない……。ですから、滅び去る前に私の遊び相手にして楽しむのです」

「何を勝手な!」

 

 僕は怒り、宇宙船に向けて光弾を放つ。

 しかし宇宙船に光弾が当たる事は無く、宇宙船を覆うバリアによって防がれてしまった。

 

「くそっ!」

『落ち着けユウキ。生半可な攻撃をしても、あのバリアは破れない』

「フフフ、その通りです。では今日はこのくらいで引き下がるとしましょう。ベムラーは回収させて頂きます。次のゲーム、楽しみにしておりますよ」

 

 ゲルゼがそう言うとベムラーは光となって宇宙船へと戻され、そして宇宙船も消えた。

 

『ユウキ、私達も一体化を解除しよう』

「……そうだね」

 

 そう交わして、僕達――正確に言えばブレイブが、だね――も消えた。

 

 

 

      *

 

 

 

 ブレイブとの一体化を解除した僕は、戦ったところから少し離れた場所にある建物の屋上にいた。

 ここからだと街が見渡せる。眼前に広がる光景は、まさに惨状と言えるものだった……。

 

「街があんなに……」

『確かに酷い……。だが君が戦ってくれたおかげで、被害をこの程度に抑える事が出来たんだ』

「無我夢中だったけどね。でも、そうかも……」

 

 ベムラーが現れた時の事を思い出して、考える。

 あのままブレイブが助けてくれなかったら、この街は……いや、それどころか日本はどうなっていたか……。

 きっと、目の前に広がるこの光景よりももっと酷い状況になっているだろう。

 同時に忘れていたはずの恐怖も思い出され、身体が震えた。

 

『ユウキ? 大丈夫か?』

「ご、ごめん……。もしあの時、ブレイブが助けてくれなかったらって考えたら、少し怖くなってね」

『……すまない』

「なんでブレイブが謝るの?」

『助けられたのは私も同じだ。本来ならば、私は一人で侵略者と戦わなければならない。この様な被害が出る前に……。しかし君を巻き込んでしまった』

 

 ウルトラマンは地球でも一人で戦う者もいる。セブンやメビウスみたいに人の姿を借りて。

 ブレイブも、本当は一人で戦ってきたんだ。でもそれなら、なぜ僕がブレイブと……? ブレイブも助けられた……? 

 

「そう言えば、何で僕はブレイブと一体化したの?」

『その事も含めて、きちんと話さなければならないな。しかし今は、家へ戻った方が良いんじゃないのか?』

 

 そうだった。

 母さんと父さんは無事なんだろうか? 

 

「なら、家で色々話そう。僕もブレイブも、互いに聞きたいことがあるしね」

『そうだな。……歩けるか? 無理なら私が――』

「大丈夫。ちゃんと自分の足で帰れるよ」

 

 ブレイブは少し心配性? 

 いや、ウルトラマンは大体こんな感じなのかも知れないね。

 そんなことを考えていると、ふと疑問が湧いてきた。

 

「ねぇブレイブ、今のブレイブってどうなってるの?」

『昔、君が拾った石があるだろう? それが今の私だ』

 

 拾った石というのは、お守りとして持っていた2cm程度の透明な蒼いクリスタルの結晶のこと。

 僕は胸ポケットに入れていた石――ブレイブ――を取り出す。

 子供の頃に偶然拾って、何となくお守りとして持ってただけなんだけど……。

 

『私と君は、こうして出会う運命にあったのかもしれないな。君には辛い事かもしれないが――』

「ブレイブ。僕はね、こうしてブレイブと会えて一緒に戦えるんだって思うと、なんだか凄く嬉しいんだ」

『ユウキ……ありがとう』

「気にしないでよ。それじゃあ、積もる話の続きは僕の家に帰ってからってことで」

 

 運命、か……。確かにそうなのかもね。

 これが後に起こる僕とブレイブの長い闘い、その始まり。

 これから僕はこの先、待ち受ける強敵と夢のような奇跡を体験していく事になるんだ……! 

 

 × × ×

 

 この日、世界中に地球が未知なる脅威に脅かされているという事実が叩きつけられる。

 それと同時に、ウルトラマンが架空の存在ではないことも明らかになり、その情報は瞬く間に全世界に齎された。

 

「この情報は本当なのか?」

「はい。事実、東京の市街地に被害はありますが、現れた巨人によって最小限に抑えられました」

「巨人……ウルトラマンか。とても信じられんな……。これが夢なら、早く覚めて欲しいものだ」

 

 そう言って男――アメリカ大統領、ゴードン・ダグラス――は自嘲するかの様に笑った。

 無理もない。この世界においてウルトラマンとは、テレビやショーで活躍する空想のキャラクターだ。

 それが突如、本物のウルトラマンが現れ人々を救ったのだ。ありがとうウルトラマン、で済む話ではない。

 それは即ち、我々人類の知らない宇宙の秘密があり、まだ見ぬ脅威があるという事に他ならない。

 

「五年前の宣言を受けた時点で、対策をするべきだったな……」

 

 今更後悔しても遅い。そんなことは分かっていても、そう言うしかなかった。

 だが、まだ最小限の被害。今からでも遅くないのではないか? とも思えた。

 仮に五年前に対策をしても、ブレイブが戦うのは避けられぬ運命なのだが。

 

「今すぐ各国の首脳に招集をかけてくれ。日本はそれどころではないだろうが、な」

「承知致しました」

 

 秘書にそう言い、ゴードンは席を立つ。

 これから迫り来る外敵、宇宙からの脅威へ対抗出来る組織を結成しなければならない。その為の準備に。

 




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第2話「目覚める者」

 怪獣と戦う、一人の赤い巨人。

 僕は近くからその戦いを見ていた。

 

「シュア!」

 

 ……いや、違う。見ていたんじゃない、一緒に戦ってるんだ。

 僕とその巨人は怪獣の攻撃を躱して、光の剣で倒す。

 そして再び、目の前の場面が変わる。

 

「ブレイブ……」

 

 さっきまで一緒に戦っていたはずの巨人――ウルトラマンブレイブが僕の前に立っていた。

 

『ユウキ、これからも私と共に戦ってくれるか?』

 

 そう言ってブレイブがこちらに右手を差し出してきた。

 僕はその差し出された手を掴もうとして――――

 

 × × ×

 

「ん、んぅ……」

 

 窓から差し込む日の光で目が覚めた。

 まだ寝惚けていて、頭がぼんやりとする。

 体を起こして周りを見ると、そこは見慣れた僕の部屋だった。

 

「……夢?」

 

 さっき見た夢の内容を思い出す。

 怪獣と戦っていたウルトラマン、それはブレイブだった。

 そして昨日の事を思い出す。

 ブレイブと共にベムラーに立ち向かい、勝利したことを。

 もしかしたら、あれも夢なのではないか? そう思わせるほどリアルな夢。

 だけど、それは僕に掛けられた声によって杞憂であったんだと安心する。

 

『起きたか、ユウキ』

「ブレイブ……夢じゃなかったんだね」

『昨日の事か? それなら夢ではない』

「そっか……。うあっ!?」

 

 布団から出ようとした途端、身体に走った痛みで情けない声を上げた。

 

『ユウキ!?』

「大丈夫……ちょっと筋肉痛みたいだから……」

 

 筋肉痛。

 本当に情けないと思う……。

 確かに、運動は日頃あんまりしてないし、そこまで得意な方でもない。

 それでも、こんな筋肉痛になる程に運動不足だとは思ってもいなかった。

 

『それはそれで心配だぞ? これから戦えるのか?』

 

 ブレイブが呆れている。

 これからはちゃんとトレーニングもしないとな……。

 身体の痛みに耐えながら、僕はそう思った。

 

 

 

      *

 

 

 

「昨日、家に帰ってきてから布団に入った覚えがないんだけど? 服もいつの間にか着替えてたし……」

 

 なんとか布団を出た僕は、いつでも外に出られるよう着替えた。

 椅子に座って、机に置いてあったブレイブの結晶を手に取って質問する。

 昨日は確か、家に帰ってきて父さんと母さんが無事なのが分かって、それから……。

 

『ユウキは両親と話してる途中で眠ったぞ?』

「……あー」

 

 なるほど、きっと安心したのと疲れが一気に出てしまったんだろう。

 って事は、ここまで運んで着替えもしてくれたのか。

 心配もさせちゃっただろうし、後でお礼言わなきゃね。

 

「ブレイブともゆっくり話すつもりだったのに、ごめんね」

『何、気にする事は無い。君に無理をさせる訳にもいかないからな』

「うぅ、ありがとう」

 

 ブレイブにその気はないんだろうけど、ちょっと申し訳なく思う。

 体力付けないとね……。

 昨日の事をやってないかと思い、テレビを点ける。ちょうど取り上げているようだ。

 

『ご覧ください! 私たちの目の前で今、本物のウルトラマンと怪獣が戦っています!』

 

 女性リポーターが興奮気味に喋っている。

 当然だ。何せこの世界でウルトラマンは、実在しない架空のヒーローだったんだから。

 それが突如、現実に現れて怪獣と戦っている。ウルトラマンは実在したのだと、世界中が驚いただろう。

 って言うか、戦いに集中してたから気が付かなかったけど、カメラに撮られたりしてたんだね……。

 別のチャンネルにすると、そこでは制作会社の会見がされている。

 

『我々もこのような事態が起こって、大変驚いております。実際に現れたウルトラマンについては、現在企画中の物でもありません。我々も全く知らない……本物の、未知のウルトラマンです』

 

 そうだろう。これで知ってて製作してるのがブレイブなら驚きだ。

 何だかこの状況、劇場版ガイアみたいだ。……いや、あれは少し違うか。

 そんな事を考えていると、ブレイブが質問してきた。

 

『そう言えば、君は昨日“知っている”と言ったな。あれはどういう意味だ? この世界の人々は私達を知っている様だが……』

 

 それは僕とブレイブがベムラーの熱線を防いだ時に言った事だ。

 あの時は戦うのが優先だったし、あの後も話せてなかったね。

 

「あぁ、その辺りの説明しないとね」

 

 そして僕はブレイブに、この世界でウルトラマンがどういった存在なのかを説明した。

 今から五十年前、特撮テレビドラマとして始まったウルトラマン。それから様々なウルトラマンが活躍している。

 最後に放送されたのは、メビウスだ。暫くは長期の休止状態だったが、さっきの会見でも言ってた通り、現在は新作の製作中だとか。

 

『なるほど。つまり、ここで私達ウルトラマンは創作とされているのか』

「そう、だから僕も、一応戦い方を知ってたって訳なんだ」

 

 ブレイブによると、それらの話は恐らく実話であると言う。

 作品の中の出来事は、光の国でも語られている話で聞いたことがあるらしい。流石に、それ以外の世界の話は分からないみたいだけど。

 

『しかしメビウスか……。アイツは地球を任されていたが、しっかり戦えたのだろうか……』

 

 ブレイブはどこか懐かしむ様に言う。

 

「ブレイブ、メビウスを知ってるの?」

『当然だ。私は光の国から来たと言ったはずだぞ? それに、アイツとは宇宙警備隊の同期だ』

「そうなの!?」

 

 これには驚いた。

 光の国から来たっていうのは聞いてたけど、まさか、あのメビウスと同期なんて……。

 そしてブレイブは、この世界に来た原因を話す。

 

『私はメビウスとは別の任務に就いていたのだが、その任務の途中に強大な闇のエネルギーを感じて、この次元の宇宙までそれを追って来た』

「強大な闇?」

『ああ。私はその元凶と戦ったが力及ばず、完全に倒すことが出来なかった……。だが、私は最後の力でソイツを封印したんだ。かなり昔の話だがな』

 

 この姿になって地球に落ちてきたのは、僕が拾う少し前の事らしい。

 ブレイブの力でも完全に倒すことが出来ない相手。それを封印して力を使い果たしたから、ブレイブは今この結晶になってしまったんだ……。

 だが、とブレイブは続ける。

 

『そのおかげ、と言えば少しおかしいが、こうしてユウキと出会う事が出来た』

 

 そんなことを言うブレイブが何だかおかしくて、僕はちょっと意地悪をしてしまう。

 

「でもブレイブが寝てる間に、メビウスはウルトラ兄弟の仲間入りしちゃったよ?」

『何、それは本当か!?』

「本当だよ。メビウスは地球で、エンペラ星人を倒してね」

『あのエンペラ星人を……!』

 

 最初は驚いてたブレイブだけど火が点いたのか、私も頑張らなければな、とか言っている。

 同期なのもあってか、メビウスに対して少しライバル意識もあるらしい。ここで更に追い打ち。

 

「そう言えば、メビウスってパワーアップしたら、名前にブレイブって付くんだよねぇ……」

『なっ!?』

「ナイトブレスとメビウスブレスを一つにして誕生したメビウスブレイブ、仲間の想いを力に変えたバーニングブレイブ、そして不死鳥の勇者フェニックスブレイブ」

『ユウキ……!』

 

 ブレイブの反応が面白いけど、いい加減にしないと怒りそうだ。

 

「ふふ、ごめんごめん。つい意地悪しちゃった」

『全く……流石に私も怒るぞ?』

「ブレイブも、メビウスに追いつけるように頑張らないとね」

『……そうだな。だが今は、この地球を守る。君と共にな』

「うん、僕も頑張るよ」

 

 再びブレイブと共に決意した僕は、気になっていたことをブレイブに聞いた。

 

「ねぇブレイブ、ゲルゼの正体って何者だと思う?」

 

 そう、ゲルゼについてだ。

 

『残念ながら、今のところ奴の正体はまだ分からない』

「ブレイブでも分からないんだね……」

『だが、奴が連れてきた怪獣にヒントがある』

「怪獣に……?」

 

 ゲルゼが連れてきたのは宇宙怪獣ベムラー。

 

「普通のベムラーと変わらないと思うけど……」

『確かに変わらない。だが、あのベムラーが出現した時と、回収された時の事を思い出してみろ』

 

 言われて、あの時のベムラーが、初めは光になってあの宇宙船から出てきて、回収される時も光になっていたのを思い出す。

 

『あの現象に心当たりがあるとすれば……レイオニクスだな』

「レイオニクス?」

『ああ。分かりやすく言えば、怪獣使いだな。私は実際に見た事は無いが、話には聞いた事がある』

 

 怪獣使い……確か、今製作してる新作がちょうどそんな設定だったかな? 

 僕はPCを起動して、検索する。

 ――結果は当たりだった。

 

「これかな? レイオニクス……バトルナイザーと言うアイテムを使って怪獣を操る」

『それだな。実際に奴がレイオニクスとは限らないが、もしそうなら、どれだけの怪獣を従えているか分からない』

「バトルナイザーを見る限りだと三体までみたいだけど?」

 

 僕は楽観的に捉えていた。バトルナイザーのストックは三体、それを倒せば終わると。

 しかしそんな考えは、ブレイブの一言で崩れ去った。

 

『……いや、ギガバトルナイザーと言うのがある。仮にだが、それを持っているとすれば、百体まで可能だ』

「百体だって……!?」

 

 ブレイブは仮定の話だ、と続ける。

 

『ギガバトルナイザーは炎の谷と言う場所に封印されている。あそこから持ち出すのは不可能なはずだ』

「封印されてるとは言っても、そんな物もあるんだね……」

 

 怪獣を操ることが出来ると言うだけでも十分脅威なのに、それが百体。封印されるのも頷ける。

 

『私の考え過ぎだとは思うが、警戒するに越した事は無い』

「確かにそうだね」

 

 そう話していると、部屋の扉がノックされた。

 

「ユウキ君、起きてる?」

 

 どうやら僕にお客らしい。

 扉を開けると、そこには黒髪を左右二つに纏めた、やや小柄な少女がいた。

 

「スズ、おはよう」

「おはよー。って、もうすぐお昼だよ? お休みだからって、寝過ぎるのはダメだからね?」

「分かってるよ」

 

 彼女はイヌガミ・スズカ。

 僕とは幼馴染で、家によく遊びに来る。

 今日は何の用だろうか。

 

「それよりも……昨日のあれ見た!? 本物のウルトラマン!!」

「あ、あぁ……見たけど」

 

 いや、うん、見たって言うか、僕がそうなんだけどね……。

 ブレイブには昨日のうちに、僕がブレイブに変身した事は言わないようお願いしている。

 もし誰かに知られると我夢みたいに追われかねない。そんな事態にはならないと思うけど、念のためだ。

 当然、父さんや母さん、スズにも話さない。心配をかけたくないし。

 ……まぁ信じないだろうけど。

 

「やっぱり! ユウキ君、昨日あそこに行くって言ってたもんね! 本物はどうだったの? カッコ良かった!?」

「ちょ、スズ、落ち着いて」

 

 スズは目を輝かせながら詰め寄ってくる。

 昔からスズと僕はよく一緒にいた。ウルトラマンを一緒に見る事も多かったから、彼女もウルトラマンが好きなのだ。

 

「やっぱり光の国から来たのかな!? 身体の色に赤が多かったからレッド族だよね? あ、でもガイアみたいに地球のウルトラマンなのかな!?」

「いや、レオ兄弟とかジョーニアスみたいに、赤と銀のウルトラマンでも光の国以外から来たのもいるんだから――」

「あ、そうだったね! じゃあ他の星から来たのかな? 会ってお話してみたいなぁ」

「簡単には会えないと思うけど……」

 

 僕の事は気にせずに喋るスズ。

 彼女はウルトラマンの事になると、暴走する時がある。今みたいに。

 僕も熱が入って語る事はあるが、ここで下手に何か言うとボロが出そうだ……。

 スズが光の国から来たのを当てたから、咄嗟に他の星のウルトラマンを言ったけど、ちょっと危ないかも。

 とにかく、今はスズの暴走を止めないと。

 

「そ、そうだスズ! 昨日買ったのってヒカリサーガのDVDなんだけど、一緒に見ないかな?」

「え? 今から?」

「う、うん」

 

 これで釣れなければ、もう逃げられない。

 

「……見る!」

 

 良かった、どうやら興味がヒカリに向いたみたいだ。

 スズはパソコンを持っていない。父親の物はあるが、それは仕事用だから触らせてくれないのだと言う。

 なのでネット配信のヒカリサーガは、僕の家でしか見れなかった。DVDを買いに行ってた事で僕は今助かった訳だ。

 こうして僕はスズによる質問攻めを躱して、大人しくさせることに成功した。

 ……一時的ではあるだろうけど。

 

 

 

      *

 

 

 

 ヒカリサーガ視聴後

 

「いやぁー、やっぱりヒカリはカッコいいなぁー……」

 

 スズが感慨深そうに呟く。

 彼女はウルトラマンの中でも、アグルやヒカリといった青いウルトラマンが特に好きなのだとか。

 クールでカッコいいよね! と、前にスズが語った時も暴走してたな……。

 そんなことを思い出しながら、次はメビウスを見ようかと考えていると――――

 

「あれ?」

「ん? 地震?」

 

 ガタガタという音と共に、部屋が揺れ始める。

 初めは弱い揺れだったけど、だんだん強くなってきた。

 

「ユ、ユウキ君!」

「こっちに!」

 

 ブレイブを上着のポケットへ入れ、スズと外に出ようとしたその時。

 外から轟音がして、続いて土煙が空へと舞い上がったのが窓から見えた。

 その場所は家から距離がある。揺れが収まっているのを確認して、僕はスズの手を取る。

 

「スズ、行くよ!」

「う、うん!」

 

 急いで一階へ降りる。

 

「ユウキ! スズカちゃん! 大丈夫か!」

「こっちよ! 早く!」

 

 そこでは父さんと母さんが僕達を呼んでいた。

 全員で家から飛び出ると、外は逃げる人達で混乱が起こっている。

 人々が逃げてくる方向の先には、さっき部屋から見えた場所がある。

 暫くそこを見ていると、再び轟音と土煙を巻き起こしながら黒い巨体が姿を現した。

 

「あの怪獣は……!」

「あれはゴメスだ……だが、何だあの大きさは……」

 

 父さんがゴメスについて説明する。

 それによると、ウルトラQに登場するゴメスの体長は10m程度。しかし、今現れたゴメスはそれ以上に大きい。

 恐らく40m程はあるだろう。他のウルトラ怪獣にも引けを取らない、圧倒的な迫力も見られる。

 

「とにかく、今は逃げるぞ!」

 

 そう言って、父さんは母さんの手を取って逃げようとするが、僕は二人を止める。

 

「待って! 父さん、母さん、スズをお願い。僕は他の人が避難するのを手伝ってから、後で行くよ」

「ユウキ君、何言ってるの!? 一緒に逃げないと!」

「スズちゃんの言う通りよ! ユウキ、急いで!」

 

 一人ゴメスの方を見詰めている僕を、スズと母さんが引き留める。

 だけど父さんは僕をじっと見ると、気を付けろよ、とだけ言い二人を強引に引っ張って行った。

 

「母さん、スズ、ごめんね」

 

 そう呟きながら皆を見送っていた僕に、ブレイブが声をかける。

 

『良かったのか?』

「うん。今アイツと戦えるのは、僕だけだからね」

『……すまない』

「ブレイブ、昨日言ったよね? 一緒に戦えて嬉しいって。だから、一緒に戦おう!」

『そうだったな……よし!』

 

 ブレイブの言葉に頷いて、僕は駆ける。

 逃げてくる人波をかき分けて走り、誰にも見られないよう物陰へと入る。

 

「ブレイブ、変身だ!」

『ああ!』

 

 僕の両腕にブレイブブレスが出現した。

 やり方を聞かなくても、どうすればいいか分かる。

 右腕を前に突き出すと、光のエネルギーがブレスに集まる。

 エネルギーが溜まったブレスに左手をかざして、光を身体に纏わせるよう横に払うと、僕の周りを光が舞った。

 そして、メビウスとは逆に右腕を空へ突き上げるようにして、その名を叫ぶ。

 

「ブレイブーーーーッ!」

 

 一際強い光でブレイブブレスが輝く。

 

「シュアッ!」

 

 ブレイブと一つになり、ゴメスの前に降り立って構える。

 ゴメスは威嚇の咆哮を上げながら、こちらに向かってゆっくりと進む。

 まだ距離があったため、僕達は暫くどう動くのか様子を窺っていると、ゴメスが咆えて突進してきた。

 

『来るぞ!』

「こっちも行くよ! ブレイブ!」

 

 ブレイブに応え、こちらも走り出す。

 僕がブレイブと一緒に、皆をゲルゼの脅威から守ってみせる、その想いを胸に。

 

「タアァッ!」

 

 × × ×

 

 少し離れたビルから、ブレイブとゴメスの戦いを見ている女性がいた。

 その女性は、左胸と背中にGDと書かれた白と蒼の服を纏い、手には記録用デバイスを持っている。

 戦いを記録をしながら、通信用デバイスを取り出し、起動させる。

 

「こちらミズキ。隊長、ウルトラマンが現れました」

『よし。予定通り、そのまま戦闘を記録し続けろ』

「了解」

 

 隊長と呼ばれた男性の声に、ミズキと名乗った女性はそう報告して、通信を切ってから命令通りブレイブとゴメスの戦いの記録を再開する。

 ただ、彼女のブレイブに向けられたその目には、他の者とは違う想いが込められているようだった。

 

「ウルトラマン……別の宇宙から来た、光の戦士……」

 

 そう呟いた後、彼女の瞳はブレイブから空へと向けられる。まるで、遥か遠くにある星を見ているかのように。

 

 

 

      *

 

 

 

 ゴメスは僕の想像以上のパワーを持っていた。

 いや、あの体格だ。他の怪獣より――比較するのは難しいが、少なくともベムラー以上(当然ではあるけど)に――力があっても不思議はない。

 それに加えて、体表の鱗や胸、腹部の皮膚も強靭で非常に堅く、通常のパンチやキックと言った攻撃では有効なダメージにはなっていない。

 逆にゴメスの攻撃は、その鋭い爪と太い尻尾によって、ブレイブへダメージを与えてくる。

 端的に言えば、ピンチを迎えていた。

 

『ユウキ、こいつに単純なパワーでは勝てないぞ……!』

「なら、ブレードだ!」

 

 そう言って、ベムラーを倒した光の剣、ブレイブブレードを右腕のブレスに発現させた。

 そして、そのままゴメスを斬る。

 

「セアッ!」

 

 しかし、浅かった。

 胸に少し傷をつけただけで、決定的なダメージにはならなかった。

 諦めずにブレードで二度、三度と斬る。だがそれは、ゴメスを怒らせるだけでしかない。

 体当たりを受け、僕達が後ろへとよろめいた隙を、鋭い爪の一撃が襲い掛かる。

 

「くっ……!」

『どうにか、奴にダメージを与えないとまずいぞ……ユウキ、どうする!?』

 

 もうカラータイマーも鳴り始めていた。

 

(今のパワーでは勝てない相手にどうすれば……)

 

 何かいい方法はないか、僕は考える。

 だがその間にも、ゴメスは攻撃の手を緩めない。

 爪や尻尾の攻撃に加え、今度は口から炎を放ってきた。

 炎を側転で回避し、反撃に左腕のブレスのエネルギーを刃状の光弾に変えて右手で撃つ。

 光弾が当たったゴメスは怯んだが、当然これだけで倒せるはずもない。

 だがここで、僕はある事を思い出す。パワーと防御において優れた怪獣を倒した、あるウルトラマンの戦法を。

 

「ブレイブ、エネルギーを身体に溜めて、それを拳や足に乗せて攻撃する事って出来る?」

『ああ、問題ない』

 

 両腕を横に広げ、それを胸の前でクロスさせるように組んで、全身にエネルギーを溜める。

 

「よし……これならどうだ!」

 

 エネルギーを右手に集中させたストレートパンチを、ゴメスへと繰り出す。

 ゴメスの胸へ拳が命中した瞬間、そこに電撃が弾けて爆発を起こした。

 その衝撃でゴメスが吹き飛ぶ。

 

『良いぞ!』

 

 それは嘗てティガが、強化されたゴルザやガタノゾーアに対して使った技、ティガ電撃パンチのブレイブ版。

 オリジナルの技名に則って名付けるなら、ブレイブ電撃パンチだね。

 思った通りゴメスに対しても効果的なようで、かなりのダメージを与えられた。

 しかし、まだ起き上がってくる。

 

『ユウキ、ここで倒すぞ!』

「そうだね、一気に攻めるよ!」

 

 ゴメスの懐に入り、電撃パンチを胸に連続で打ち込んでいく。

 数発命中させた後、ゴメスの顎にアッパーカットを食らわせる。

 ゴメスは反撃に爪で引っ掻こうとするが、それを屈んで躱し、腹にも強烈な一撃を叩き込む。

 距離が空くと今度は炎を放つが、僕達はこれを難なくバリアで防ぐ。

 

「今度はこっちの番だ!」

 

 大地を強く蹴って空中へ飛び、今度はゴメスの頭を、これもエネルギーが乗った右脚で蹴る。

 ゴメスは勢いよく吹き飛んで倒れた。

 決めるなら今しかないと直感する。

 

「ブレイブシュートで倒すよ」

『よし、やり方は分かるな?』

「大丈夫、任せて」

 

 左腕と右腕を重ねるように前に伸ばして、両方のブレイブブレスへ光を集める。

 光がブレスへ集まった。両腕を左右に大きく広げると、ブレスに溜められた光が尾を引く。

 そこから腕を十字に組んで、ブレスに溜まったエネルギーを一気に開放し、ブレイブシュートを放つ。

 

「ハァッ!」

 

 丁度立ち上がったゴメスの胸に直撃、爆発して火花が弾ける。

 小さく力ない鳴き声を上げながら、ゴメスはゆっくりと倒れ、爆散する。

 

『やったな』

「うん」

 

 そう交わして、ゴメスが倒れた場所を見て僅かに頷き、僕達は夕焼けの空へと飛び立った。

 

「シュワ!」

 

 × × ×

 

 変身を解除した僕は、家へ向かって誰もいない道を歩いている。

 さっき父さんに携帯で連絡を取ると、皆も無事で、今は家へ戻っているそうだ。

 帰ったら、母さんとスズになんて言われるかな……そんな事を考えていると、ブレイブが声を掛けてきた。

 

『ユウキ、少しいいか?』

「うん。どうしたの?」

 

 周りに人がいないのを確認して、立ち止まり詳しく聞く。

 

『さっき倒した怪獣の事で、気になる所があってな』

「ゴメスの?」

『そのゴメスだが、ゲルゼが連れてきた怪獣ではない、と私は思っている』

「ゲルゼの怪獣じゃない……?」

『そうだ』

 

 ブレイブが肯定する。

 そして、ブレイブは自分の考えを話し始めた。

 

『ゴメスは……恐らく、この地球の怪獣なのではないかと考えている』

「地球の怪獣!?」

『ああ。ゲルゼがレイオニクスかも知れないという話をしたのは覚えているな?』

 

 今日の事だから当然覚えている。

 

「うん、覚えてるよ」

『レイオニクスが使役する怪獣は、出現する時も回収される時も、基本的には光となる。だが、あのゴメスが出現したのは地中から、倒されても光になって消える事は無かった』

 

 それは昨日のベムラーで見ている。

 確かにブレイブの言うように、ゴメスが光になって消えなかった。

 でもそれなら、何故今になって突然、ゴメスが地上に出てきたのかが分からない。

 恐竜の化石はたくさん見つかっている。

 だが、怪獣が存在する、もしくは存在していた痕跡は発見されていないはずだ。

 確かに、自分たちが住んでいる地球の事を全て知っている訳じゃないけど……。

 

「だけど、それなら何で、突然出てきたの?」

『まだ推測でしかないが……ゲルゼが原因だろう』

「ゲルゼが?」

『もっと正確に言えば、奴が連れてきた怪獣が、だな』

 

 ブレイブのその言葉に、僕は思い当たる例を思い出した。

 

「コッヴが現れた後、その地下からギールが目覚めた……」

『ユウキ?』

「この状況に似ているのがあるんだ。ガイアって言うウルトラマンが守った地球では、破滅招来体が襲ってくると、そこに地球の怪獣も現れてる。ブレイブが言う通り、ゴメスが地球の怪獣だって可能性はある訳だね」

 

 現状あのゴメスは、ゲルゼが連れてきた怪獣である可能性は捨てきれないけど、それと同時に、地球の怪獣かも知れないと考えておくのが良いみたいだ。

 今度ゲルゼが現れた時に、直接問いただしてみるのもいいかもね。

 

『そう言う事だな……ん?』

「ブレイブ?」

『いや、気のせいか……誰かに見られているように感じたのだが……』

 

 誰かに見られてる? 

 僕は気になって辺りを見渡すが、人影はどこにもない。

 

「んー、誰もいないみたいだけど、流石に行こうか。そろそろ避難した人達も戻ってくるだろうしね」

『……そうだな』

 

 こうして、僕は再び歩き出す。

 もう日は沈み、空は暗くなっていた。

 

『そう言えば、筋肉痛はもう平気なのか?』

「うっ、言わないでよ……忘れてたんだから……」

『明日からトレーニングだな』

「が、頑張るよ……」

 

 

 

      *

 

 

 

「彼が……」

 

 陰からユウキを見詰める一人の女性の姿があった。

 それは先程、ブレイブとゴメスの戦いを記録していたミズキだ。

 彼女はユウキの姿が見えなくなると、彼の後を追う事はなく、腰に下げていた通信用デバイスを取り出す。

 

「隊長、ウルトラマンに変身した青年を発見しました」

『やはりいたか! 顔が分かるように撮影はしたな?』

「問題ありません」

『上出来だ!』

 

 隊長の声が少し弾んでいた。

 その声に僅かな笑みをこぼすが、彼女は今から帰投します、とだけ返して通信を終える。

 きっとあの人――隊長は今頃、テンションが上がっているのだろうと思いながら、近くに停めてあった車へと乗り込む。

 

「あとは、この子が協力してくれると良いのだけれど、ね」

 

 彼女はそう言って、助手席にブレイブが戦っていた時に使った記録用デバイスを置く。

 そこにはユウキが写っており、彼女はそれをじっと見ていたが、暫くしてエンジンを掛け車を走らせた。

 まだ出来たばかりである、彼女が所属する組織の拠点へ向けて。

 

「今度こそ、私は逃げない。あの星の二の舞になんか、絶対させない」

 

 一人呟く。

 

「必ず守ってみせる……」

 

 彼女のその表情と声には、哀しみと怒りが入り混じっていた。

 




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第2.5話「それぞれの思惑」

2話直後のゲルゼと3話直前の防衛チーム。


 ユウキとブレイブの活躍によって、ゴメスが倒されたその頃――。

 

 地球の衛星軌道から僅かに外れた位置に一機の宇宙船。その船内に備え付けられた王座に座っているのは、この地球に対して、一方的な侵略ゲームの宣言をしたゲルゼだ。

 彼の前には複数のモニターがあり、そこには地球の様子が、そして中央にはウルトラマンブレイブの姿が映し出されていた。

 

「流石はウルトラマンブレイブ……と言いたいところですが、今回は一体化した人間の力が大きかったのでしょう」

 

 それは先程、ブレイブがゴメスとの戦いで見せた電撃戦法の事だ。

 光の国のウルトラ戦士で、あのような戦い方をする者は少ない。しかもブレイブは宇宙警備隊のルーキーであり、長い間力を失って眠っていた。そんな彼が、あの戦い方を思い付くとは考え難い。

 そして何より、この地球ではウルトラマンは特撮として親しまれ、実に多くの戦士が知られている。その中にこの技を使った戦士もいた。

 ゲルゼは宣言をしてから開始までの五年間、それらの情報を集めていたのだ。

 

「初めは私も驚きましたが、大変素晴らしい勉強になりましたね。フフフ、これはゲームがますます楽しめそうですよ」

 

 そう言ってゲルゼはもう一つのモニターに目を向ける。そこには、ブレイブに倒されたゴメスが映されていた。

 

「それにしても、この地球にも怪獣が眠っていたとは……。また現れるようなら、手に入れておきたいですねぇ」

 

 今回のゴメスはブレイブが苦戦するほどの相手だった。そのような怪獣がまだ眠っているのなら、是非とも手に入れたいとゲルゼは思っていた。

 ゲルゼの手持ちは強力な宇宙怪獣が多い。しかしその怪獣達も、いずれはブレイブによって倒されるだろう。ならばそれらを切り札に、この地球で捕獲した怪獣で消耗させたいと考えた。

 場合によっては手持ちの怪獣を使わなくとも、この侵略ゲームに勝つことが出来るかも知れない。強力な怪獣がこの地球に眠っていれば、の話ではあるが。

 

「しかし、本能に従うだけの野生怪獣を待っていても仕方ありません。次の準備を始めましょうか」

 

 ゲルゼはモニターを消し、右手に握られていた黒い棍棒(バトルナイザー)に目を移した。

 その中の一つのスロットが黄色い光と稲妻を放ち、ゲルゼと船内を鮮やかに照らす。

 

「次のゲームが楽しみですよ、ウルトラマンブレイブ! フハハハ!」

 

 声高らかに笑うゲルゼに呼応するかのように、光を放つスロットの中からもキィィ、キィィと甲高い怪獣の鳴き声が響いた。

 

 × × ×

 

 ブレイブがゴメスを倒してから三日が経った東京。

 

 新設された基地の指令室。その設備を見て、満足そうに頷く男が一人いた。

 彼はミズキ同様、左胸と背中にGDのロゴが入った白と蒼の服装を身に纏っている。

 シミズ・タカシ。彼はゲルゼの侵略をきっかけに新設された、対怪獣特別対策チームの隊長を任された。

 

「隊長、準備が整いました」

 

 シミズの背後から女性が声を掛けた。ミズキだ。

 彼女は同チームの副隊長を務めている。

 

「よし、それじゃあ行くか」

「はい」

 

 彼の言葉に同意して、ミズキは他に二人いるオペレーターに声を掛ける。

 

「私と隊長は少し外に出ます。何かあれば、すぐに連絡を入れてください」

「了解しました!」

「隊長、副隊長、お気を付けて」

 

 システムチェックをしていた二人のオペレーターが作業していた手を止めて答える。

 初めに大きな声と敬礼で返事したのは、栗色の髪を後ろに結った女性。対照的に平静な声で返答したのは、メガネを掛けた男性だ。

 この二人も、シミズやミズキと同じ制服を着ている。

 

「……ねぇねぇ、コバヤシ君はあの二人がどこに行くか聞いてる?」

 

 二人が指令室から出ていくのを見送ると、女性オペレーターが男性――コバヤシに声を掛けた。

 コバヤシは一つ溜息を吐いて、作業を再開させる。

 

「知りませんよ。それよりニシハラさん、手が止まってます。早くチェック終わらせましょう」

「えー……良いじゃない、少し休憩しようよー」

 

 そう言って彼女――ニシハラは大きく伸びをする。

 

「隊長達が戻るまでには作業を完了させたいので。終わらせたら休憩しても良いですよ。だから、もう少し頑張りましょう」

「相変わらず真面目さんだねー……。あ、じゃあ終わったら、美味しいケーキご馳走してよ! それなら頑張るから!」

「コーヒーなら構いませんが、ケーキはダメです」

「……ケチー」

 

 そう言いつつも、ニシハラも作業を再開した。

 暫くすると、コバヤシは再び溜息を吐いて彼女に声を掛ける。

 

「はぁ……この後、私は怪獣の資料を確認するので、そちらを取って来てください。その間にケーキを買ってきます」

「えっ!? 良いの!?」

 

 ニシハラが勢いよく立ち上がって尋ねる。

 

「ただし一つだけです。ですから、隊長達が戻ってくるまでには――」

「やった! それじゃあ、一気に終わらせるよー!!!」

「……聞いてませんね、全く……」

 

 そうコバヤシは呟いて、三度目の溜息。そしてまた作業を進め始めた。

 

 

 

      *

 

 

 

 一方、シミズとミズキの二人は組織に支給されたばかりの専用車を走らせ、ある場所へと向かっていた。

 運転席にはミズキが、助手席にはシミズが座っている。

 

「いよいよ本格的に準備完了ですね」

「そうだな……。基地の設備は万全、申請してた装備なんかもそろそろ来る頃だろう」

「これで次に怪獣が出現しても、私達が対処出来ます」

「どこまで通用するか分からんがな」

 

 彼が答えたその言葉は、ミズキも同じ考えであった。

 前回現れたゴメスは自衛隊が攻撃する前にウルトラマンが倒し、自分達もそのデータ収集だけだった。よってあの怪獣に、現在の武器でどの程度まで戦えるか分からない。

 そしてその前、ゲルゼのベムラー。あれは不意打ちによる攻撃で怯ませる事は出来た。しかしこれも、実際にはどこまで効くか分からなかった。

 戦闘機や戦車だけの問題だけではなく、隊員が扱う銃火器にも不安が残る。いや、こちらの方が問題と言えるだろう。

 怪獣は遥かに大きな存在だ。幾ら銃の威力があっても、怪獣からすれば豆鉄砲も同然。例え人間サイズの宇宙人が相手でも、その身体に傷を負わせる事も出来るかどうか、といったところか。

 だが、

 

「今の武装で効果がなければ、私も手を貸します」

 

 とミズキは言った。

 その事にシミズは少し驚く。

 

「……良いのか?」

「守る為に必要なら、協力は惜しみません。私は最善を尽くしたいんです」

 

 彼女は前を真っ直ぐ見詰めたまま、その想いを口にする。

 それを聞いたシミズは「考えておく」とだけ答えた。

 彼がそう答えるのには理由がある。それはミズキの秘密をまだ他の隊員に明かしていないからだ。

 隊長である自分は知っている。だが、他のメンバーにそれを説明するか、それは決めていない。

 それをしないまま彼女の知識と技術を使っていいのか、その考え故に、彼は分かったとは言えなかった。

 

 それから少し間をおいて。

 

「ところで、皆とはどうだ? 上手くやれそうか?」

 

 と、シミズは外の景色に視線を向けながら、ミズキに尋ねた。

 

「問題ありません」

 

 対してミズキは静かに言う。

 それを聞いたシミズは「なら良いが」と思い、もう一つ気になっていた事を聞く。

 

「それなら、そんな堅苦しい言葉遣いは止めたらどうだ?」

「それは……」

「少しは肩の力を抜け、俺達は軍隊じゃない。地球を守る為のチームだ」

「…………」

 

 彼は外への視線をそのままに言う。

 その言葉に、考え込むミズキ。暫くすると彼女が答えた。

 

「そう……ね、善処はするわ」

 

 ミズキがこう言うと、それを聞いたシミズは苦笑する。

 

「おいおい……善処ってお前、それほとんど無理って言ってるようなもんじゃないのか?」

「無理とは言ってないわ。少し難しいだけ」

「俺とはそういう風に喋れるだろ。それを他の連中ともやれってだけだ」

「……貴方とは古い付き合いだからよ」

 

 彼はミズキを見遣る。

 そんな事を言った当人は少し照れた様子だった。彼女のその様子を見て、シミズは思わず笑ってしまう。

 

「……何ですか?」

 

 その反応が気に食わなかったのか、ミズキは声を低くして口調を戻す。

 それに加えて、鋭い眼光が彼を射抜いている。

 

「っと、すまない。悪気があった訳じゃない、怒らないでくれ」

 

 シミズがそう言うと、ミズキはタイミングよく信号が赤になったのを見て停車させる。

 

「笑われたんだけど?」

「わ、悪かった!」

 

 そして彼女は助手席の方へと顔を向ける。

 その表情には笑顔が浮かんでいるが、それを見たシミズは反射的に謝った。

 

「……まぁ良いわ。それより、本当にその子を引き入れるの?」

 

 そんな彼をよそに、ミズキはシミズの手元に目を向けながら尋ねた。その手には以前ミズキが使っていた記録用デバイスがあり、その画面にはユウキとブレイブが映し出されている。

 二人が向かう場所、それはウルトラマンに変身した青年、カガヤ・ユウキの家だ。その目的はユウキを自分達が所属する防衛隊へ勧誘する事。その為に、彼と会おうとしているのだった。

 

「ああ。必要な戦力……という言い方はあまりしたくないが、俺達には彼が持つ、ウルトラマンとしての力が必要だ」

「その子、受けてくれると思う?」

「会ってみないと分からんが、俺は受けてくれると思っている」

「そう……。それなら私も、きちんと手伝うわ。まぁ、あまり期待はしないで欲しいけれど」

 

 ――私の立場が複雑なのだから。

 信号を確認して、ミズキは再び車を走らせる。

 

 少し申し訳なさそうに「悪いな」と口にするシミズ。それに彼女も応える。

 

「別に構わないわよ。必要な事だから」

 




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第3話「守護者 -Guardian-」

サブタイトルは守護者だけだと物足りないのでネクサス風にしましたが、ネクサスは出てきません。


 ゴメスを倒して三日が経った。

 あれからゲルゼが怪獣を送ってくる事も、またブレイブが言ったような地球怪獣が現れる事も無く、ここ数日は平和な日々が続いていた。

 その間にも復興作業が行われ、怪獣が破壊した街は少しずつだけど修復されていく。

 しかし、またいつ怪獣が現れるか分からない。僕はSNSなどで怪獣が出ていないか、また関係がありそうな事が起きていないかを中心に調べている。

 

『今日も静かだな』

「平和が一番。だけど、油断できないよ?」

『そうだな……ゲルゼが何か企んでいる可能性もある』

「うん、いつでも行けるようにしとかないとね」

 

 こういう時に静かだと逆に不安に感じてしまう。嵐の前の静けさ、と言ったところだろうか。

 だからこそ情報収集は念入りにやっている。

 ……一人だと限界があるのを実感してるけど。

 

「未だに収穫は無し、か……」

『流石に異変と言っても、簡単には見つからないな』

「まぁ原因というか弊害というか……ともかく理由はあるからね」

『理由?』

 

 それはこの世界特有の理由と言える。

 

「元々この世界でのウルトラマンは創作。それは何度も聞いたよね?」

『ああ。だが、それとどう関係が…………なるほど、そういう事か』

「気付いたみたいだね」

『私達ウルトラマン同様、また怪獣達も元は創作の存在。いざ手掛かりを探そうとしても、それが本物の怪獣の事か分からなくなる』

 

 そう。

 元より異変の兆候は発見しにくい。

 それに加え、特にネットでは面白がって嘘なんかを書いたりする人が少なからずいる。

 例え何かを発見したとしても、それが怪獣のものである確信を僕は持てなかった。さらに言えば、その兆候が仮に本物でもその場所まで簡単に行くことは出来ない。

 自力で行ける距離ならまだいいけど、それがブレイブの力を借りなければ行けない場所となれば話は違う。他の人に見られるわけにはいかないからだ。

 

「まぁ一人だと限界があるって言うのは最初から分かってたし、そもそも何も起きてない可能性もあるからね」

『超常現象だとか未確認生物を追っているだとか書いていた所はどうなんだ?』

「あー、あそこも最近はブレイブの戦いとかがメインみたいだよ。向こうも探してるみたいだけど、簡単には見つからないってさ」

 

 ブレイブが言っているのは昨日見つけたサイトの事だ。

 サイト自体はゲルゼがゲームを始める前からあったみたいだけど、特に話題になるような事は無かった。それがゲルゼの襲来とブレイブの登場で、少しずつ注目を集め始めるようになったらしい。

 運営の人が元からウルトラマンが好きだからなのか、サイトで他のウルトラマンを例にブレイブを研究している。まだ「彼はどこから来たのか?」とかブレイブブレスを見て「メビウスやヒカリとの関係は?」とかだけど。

 

『やはり今は怪獣が出現してからでなければ動けない、か』

「そうなると、やっぱり頼れそうなのは“Guardian”(ガーディアン)かな……」

 

 Guardian。簡単に言えば、ウルトラシリーズにお馴染みの防衛チームだ。

 最近……と言うか、ゲルゼが襲来した夜に結成されたらしい。五年前は何もなかったのに異様なまでに準備が良い様な気がする。

 結成されてからニュースになり、ネットでも色々と言われているようだった。

 

 [名前wwwガーディアンwww]

 [自衛隊と何が違うん? ]

 [ウルトラマンがいるんだから必要なくね? ]

 [つか出動する機会あんのかこいつら(笑)]

 [そもそも今の兵器で怪獣を倒せる気がしないんだよなぁ]

 

 とまぁ、主にはこんな感じの事を色々と書かれていた。

 ブレイブもこれを見たら怒ってたよ。『僅かでも自分達で地球を守ろうという気はないのか!』ってね。

 

『しかしGuardianから情報が出る訳じゃないだろう。どうするんだ?』

「入隊しようかと思ったんだけど……」

 

 ここに入隊した方が色々良いと思っている。だけど、そもそもそんな簡単に入れるのだろうか? とか、どうやったら連絡取れるのか分からないと言うのがある。

 と言う訳で、しばらくは怪獣が出現してから動くのが良いかもしれないという結論に至った。

 

「ブレイブは僕がGuardianに入るって言ったら反対する?」

『ユウキが無茶をしないならば賛成だ』

「……てっきり反対されると思ってたよ」

『どうせ反対しても聞かないだろう?』

 

 うっ……。

 

『だから、せめて無茶をするような事はしないと、そう約束してくれ』

「ブレイブ……。うん、分かった」

 

 ブレイブの心配する気持ちが伝わってくる。

 現実はテレビの中とは違う。例えウルトラマンが実在しても、危険を冒して怪我をしたり、命を落とすことだってあるかもしれない。

 ウルトラマンに変身していない僕はただの人間だ。体を鍛えたとしても、その事実は変わらない。

 だからブレイブが言う事はよく分かる。

 ……少し真っ直ぐすぎるけど。

 

「おーいユウキー、もうすぐ昼飯出来るから手伝ってくれー!」

 

 一階から父さんが僕を呼ぶ。

 気が付けばもう12時を回っていた。

 

「はーい! じゃあ行こっか」

『ああ』

 

 父さんに返事をして、僕はペンダントにしたブレイブの結晶を首に下げて部屋を出る。

 拾ってから今まではそのまま持っていたけど、これからはこうして身に着ける事にした。

 一見、冷たそうな印象を受けるほど綺麗な蒼い結晶なのに、こうやって一緒にいると胸に光の暖かさが伝わってきて、よりブレイブを強く感じる。

 

「ユウキ、ちょうど出来たからテーブルに持って行ってくれる?」

「これだね」

 

 キッチンに立つ母さんから料理を受け取って、既に食器が並べられたテーブルの真ん中に置く。

 そこへ父さんが三人分のご飯を持ってきた……んだけど、何故か一つだけ大盛りだった。

 

「ありがとう父さん……って、一つだけ多くない?」

「これはユウキの分だ」

「え、なんで!?」

「ここ最近、特にあのウルトラマンが現れた次の日は凄く疲れてたみたいだからな。ちゃんと食わないと、いざと言う時に力が出ないぞ?」

 

 父さんはそんな事をさも当然であるかのように、さらりと口にした。

 あれ、これってもしかして……? 

 

「ユウキ? どうした?」

「へっ!? あ、いや、なんでもないよ!?」

 

 僕は慌てて何もないように装う。

 だけど今の誤魔化し方は、拙かったのではないだろうか……。

 いや、確かにゴメスが現れたあの時の僕の行動で、もしかしたら父さんが気付いた可能性もある。勘が鋭い所もあるからね。

 しかも何より、この世界ではウルトラマンは創作であり、父さんもウルトラマンが好きでよく観ている。僕がウルトラマンを好きになったのもその影響だ。つまりヒントどころか、答えを見せているようなものだと言える。

 

「あらユウキ、食べないの?」

 

 そんな事を考えていると、いつの間にか席に着いていた母さんから声を掛けられた。

 

「う、ううん! 頂きます!」

「ふふ、それじゃあ私達も頂きましょうか」

「そうだな。頂きます」

 

 しかし僕はこれ幸いにと、食事を始める。母さんと父さんも言葉を交わして、箸を取った。

 

『やれやれ……』

 

 と、ブレイブが小さくそう呟いたのは、僕にだけ聞こえた。

 

 × × ×

 

 昼食後、僕はしばらく一階のリビングでテレビを見ていた。

 ワイドショーでは、怪獣災害に対する募金だとか保険の話をしている。怪獣災害募金はガイアでもしていたね。あっちのは民間だけど。

 その後、ここしばらくはお馴染みとなったブレイブやゲルゼの話、そしてGuardianの話になった。

 ふと時計を見ると、いつの間にか二時を過ぎていたらしい。

 そんな事を思っていると家のインターホンが鳴った。母さんと父さんには僕が出ると伝えて、玄関へ向かう。

 

「はい、どちら様ですか?」

 

 そう言ってドアを開けると、まず綺麗な女性の黒い長髪と瞳に僕は心を奪われた。

 そして次に、彼女が着ている白と蒼の服が目に入る。胸の所にGDと描かれたそれは、Guardianの隊員に支給される制服だった。

 どうしてここにGuardianの隊員が……? 

 

「カガヤ・ユウキ君ね」

 

 彼女の声で我に返る。

 

「は、はい、そうですけど……」

「私はGuardian副隊長のミズキ・スバルです。今日は貴方に用があって、こちらに伺いました」

「僕に……?」

「はい」

 

 ミズキ・スバルと名乗った彼女は僕を真っ直ぐ見詰めてくる。

 Guardianの副隊長を務める人が僕に用とは一体何だろう? 

 そう考えていると、ミズキさんの後ろからもう一人、やや大柄な男性が現れた。この人もGuardianの制服を身に纏っている。

 

「申し訳ない、少し連絡をしていて遅くなった」

「貴方は確か……」

「Guardian隊長を任されているシミズ・タカシだ。突然ですまないが、ユウキ君に話がある」

「……分かりました、どうぞ」

 

 まさかGuardianの隊長までも来るとは思わず少し呆けてしまったが、すぐに気を取り直して、二人を招き入れる。

 

「ユウキ、お客様なの……!?」

 

 家に入ると、母さんは客が来たのに気が付いたようだ。しかし僕の後ろにいるGuardianの二人を見て驚いている。

 僕もさっきまであんな感じだったんだろうなぁ……。テレビでしか見た事がない人が目の前にいるのだから当然なんだろうけど。

 って、それを言ったら僕はウルトラマンなんだけどね。

 

「母さん、どうかしたのか……って」

「突然失礼します。私はGuardian隊長のシミズ・タカシ、こちらは副隊長のミズキ・スバルです。本日はカガヤさんの息子さんにお話があって、こちらに参りました」

 

 父さんも同じように驚いてる。

 シミズさんの挨拶の後、ミズキさんがお辞儀をした。

 それに父さんと母さんが応じる。

 

「……どうも、父のマモルです」

「は、母のキョウコです……。あの、ユウキにお話と言うのは?」

「はい」

 

 シミズさんが僕の方を向く。

 

「ユウキ君、三日前に怪獣……ゴメスが現れた日の事を覚えているかな?」

「……はい、近くでしたから」

「実はその現場にミズキ君がいてね。報告によるとあの時、君が人々が避難する方向とは逆に走っていくのを見かけたそうだ」

「っ……!」

 

 見られていた……。どこまで? まさか、ブレイブに変身するところも……? 

 僕の中に焦りと不安が渦巻く。だけどその時。

 ――心配しなくても大丈夫です。

 ブレイブの正体がバレたのでないかと考えていると、不意にそんな声が頭の中に響いたような気がした。

 そんな僕に構わず、シミズさんは話を続ける。

 

「そこで君は、避難誘導を手伝っていたと聞いている」

 

 さらに予想すらしていなかったこの一言に、僕は言葉が出ない。

 確かに僕はあの時、避難を手伝ってから行くと皆に伝えた。しかし何故Guardianの二人が知っているんだろうか? いやそれどころか、していないはずの手伝いをした事になっている……? 

 それにさっき聞こえた声……大丈夫って言うのはこの事? 

 ダメだ、突然の事で疑問が多過ぎる。

 

「……確かに僕は手伝いをすると言って残りました」

「うむ。そこで私達は君をGuardianに迎え入れたいと、そう思っている」

「え……!?」

 

 僕をGuardianに迎え入れたい。

 シミズさんの申し出は、僕にとって願ってもない事だった。だけど……。

 

「少し、シミズさん達と話をしてもいいですか?」

 

 本当ならすぐに返事をしたいけど、まずは色んな事を聞きたい。

 何をどこまで知っているのか、どうして僕なのか……。もしかして、僕がウルトラマンである事も知っているのか。

 

「そうだな、君には知る権利がある」

「それじゃあ僕の部屋へ。ミズキさんも」

 

 僕は二人を部屋へと案内する。

 ……父さんと母さんは蚊帳の外になっちゃったけど、あとでどう説明しよう……。

 

 

      *

 

 

「ここです、どうぞ」

 

 二人を部屋へと招き入れ、押入れから机を出して対面で座る。

 

「歓迎するぞ。なんならアンヌ隊員も呼んだらどうだい?」

「隊長、ふざけないで下さい」

「すまん……」

 

 突然メトロン星人のセリフをシミズさんが言って、すぐにミズキさんに怒られた。その二人のやり取りに思わず吹き出してしまう。

 今ので少し緊張が解れたかも。

 

「えっと、それで話なんですけど……」

「そうだったな。何を聞きたい?」

「三日前の事です」

「ふむ……」

 

 シミズさんは考えるように腕を組む。

 

「隠さずに言った方が良いな。ユウキ君、私達……いや、私とミズキは君がウルトラマンであるというのは知っている」

 

 僕を真っ直ぐ見ながらそう告げるシミズさん。

 ――やっぱり知ってたんだ。さっきの勧誘である程度そんな気はしていたから、そこまで動揺する事はない。

 でも“私とミズキは”って言う事は、他の隊員は知らないのか? 

 

「それはゴメスと戦っている時に知ったんですか?」

「詳細は現場にいたミズキに話してもらおう」

「分かりました」

 

 ミズキさんは持っていたタブレット端末を操作し僕に見せる。そこにはブレイブとゴメスが戦っている動画と、そのあと僕がブレイブと話していた時の画像が写っていた。

 戦ってる最中は仕方ないけど、ブレイブと話してる所なんて、いつの間に撮られてたんだろう……? 

 

「三日前、私は任務で調査に出ていました。内容はウルトラマンの能力を確認する事、そして誰が変身しているのかを探る事です」

「それがGuardianにとっての初任務だ」

「貴方がゲルゼの怪獣と戦った現場へ向かい、何か手掛かりを探している途中、あの怪獣(ゴメス)が現れました」

 

 なるほど、だから戦ってる所が近くで撮れてたのか。

 因みに後から聞いた話では、三日前に任務が達成出来なかった場合、ブレイブが現れるまで調査を続ける予定だったそうだ。

 いつ怪獣が現れるか分からないし、ミズキさんは運が良かったのかも……。

 

「第一目標、能力の確認は達成。そして第二目標の誰が変身しているかについても、無事に見つける事が出来ました」

「……なぜ僕だって分かったんですか?」

「このデバイスには、光エネルギーを観測する機能を搭載してあります。貴方が変身を解除したあと、そのエネルギーを追って見つけました」

 

 シリーズでも度々、変身を解除する瞬間が見られる。

 ウルトラマンでは、空に飛んだウルトラマンから撃ち出されたエネルギーがハヤタ隊員になった。(戻ったと言った方が正しいだろうか)

 他にも地上で立ったまま解除したりするけど、ダイナではそれを追跡されてアスカがダイナであると知られてしまった。どうやら僕もそれをやられたらしい。空に飛んだんだけどね。

 だけど僕には、他に気になった事がある。それはシミズさんが僕は避難誘導を手伝っていたと言った事だ。

 

「何故シミズさんは、僕が避難誘導を手伝うと言ったのを知っていたんですか?」

「ん? あぁ、それはな……勘だ」

 

 ……え? 

 今この人、勘って言った? 

 

「……ごめんなさい、こういう人なの」

 

 僕が呆気にとられていると、ミズキさんが呆れたようにそう言った。

 すると、シミズさんは咳払いをして続ける。

 

「一応、理由はある」

「理由ですか?」

「簡単だ。君がウルトラマンであると両親に話していなければ、大方そう言わなければ一人になる事は難しい。あの状況なら特に、な」

 

 それを聞いて納得するしかない。

 だけど――

 

「とまぁ、勘と言うのはそういう意味だ。決してふざけた訳ではない」

「は、はぁ……」

 

 真面目な顔をして答えるシミズさんを、ミズキさんがジトリとした目で睨んでいた。

 そこには、二人がここに来た時のような空気はない。

 それどころか、何だか、ただの上司と部下と言う感じがしない。

 

「本題に戻ってもいいかしら?」

 

 と、ミズキさんが話を戻す。

 初めより口調が崩れてきてるけど。

 

「あ、はい。えっと……」

「なら、単刀直入に。カガヤ・ユウキ君、Guardianに入る気はない?」

 

 シミズさんが言っていた申し出。

 さっきは突然の事に混乱して、それにすぐ答える事は出来なかった。だけど、今は違う。

 僕の答えは既に決まっているし、それはブレイブにも話した。

 だから――

 

『ユウキ、待て』

「ちょ、ブレイブ!?」

「おぉ!」

「……ウルトラマン」

 

 僕がGuardianに入ると答える言う前に、突如ブレイブから声がかかった。

 それに僕が驚くとともに、Guardianの二人もそれぞれの反応を見せる。が、それよりも僕はある事に気が付いた。

 ブレイブの声の雰囲気が、いつもと違う。――いや、ある意味いつも通り、なのかな。

 

『ミズキと言ったな。何故、地球人ではない……サロメ星人である君が、地球を守るGuardianにいる?』

「サロメ星人!?」

 

 サロメ星人――ブレイブが放ったその言葉に、僕は更に驚き、ミズキさんを見る。

 

「流石ウルトラマン、彼女の事は気付いていたか」

『Guardian隊長である貴方のその反応を見る限り、知っていたようですね』

「勿論、承知している」

 

 突然ブレイブが喋り始めた事、そしてミズキさんがサロメ星人だった事によって、僕はさっきよりも更に混乱していた。

 だが当のミズキさんは落ち着いたまま、ブレイブと話す。

 

「初めましてね、ウルトラマン」

『こうして話をするのはな』

「貴方の言った通り、私はサロメ星人……。けど、今の私は地球に住む一人の人間よ」

『今の君はサロメ星人ではないと?』

「ええ。それでも、この地球を守る為なら、地球に住む者として、私はその力を……技術を使うわ」

 

 ミズキさんは僕を――ブレイブを見詰めながら、その想いをぶつけた。

 

『……分かった。君がこの地球と人々を守ると言うのなら、共に戦おう』

「ウルトラマン……」

『私の事はブレイブと呼んでくれ。ユウキ、突然すまなかった』

「えっ? あ、うん、良いけど……」

 

 色々と驚いたけど、どうやらブレイブはミズキさんの想いを認めたみたいだ。

 ブレイブが話しかけた事は、この二人は僕がウルトラマンだと知っているから、まぁ大丈夫。しかし先程から、何だかシミズさんがソワソワしている気がする。

 メトロン星人のセリフも言ってたし、もしかしてこの人(シミズさん)、めちゃくちゃウルトラマンが好きなんじゃないだろうか? 

 

「それで、さっきの答えは聞かせてくれるかしら?」

「あ、はい! それは勿論――」

 

 再びミズキさんの問いかけに答えようとした、その時だった。

 二人の通信機らしき機械の音が鳴り、シミズさんが即座に手にして応答する。

 

「シミズだ、どうした?」

『隊長、再びゲルゼが怪獣を出現させました』

「来たか。怪獣はどんな奴だ?」

『該当するデータがあります! これは……宇宙怪獣エレキングです!』

 

 通信機からは男性と続いて女性の声が聞こえる。

 それにしても、今度はエレキングを送り込んできたのか。

 

「エレキングか……分かった、私達は現地で避難誘導と作戦指示をする。F-2は発進後、上空で待機だ」

『了解です!』

『お気を付けて』

 

 シミズさんは通信を終えると、ミズキさんと共に立ち上がった。

 

「すまないユウキ君、私達は行くよ」

「なら僕も一緒に行きます!」

「君はまだ正式なGuardian隊員ではない。だから私達とは……」

「さっき、ミズキさんは地球を守る為になら、過去に捨てた力を使うと言いました。そしてブレイブも、一緒に戦うと。だから僕も、自分が出来る事をやりたいんです!」

 

 僕に出来るのはウルトラマンとして戦う事。ゲルゼの怪獣が相手なら尚更だ。

 だから、今の僕がGuardianの一員でなくとも、そんなのは関係ない。

 僕も立ち上がり、両腕にブレイブブレスを呼び出す。

 

「……元々、君を勧誘しに来たのは私達だ。それに、実際に怪獣と戦えるのはウルトラマンだからな」

「それじゃあ……」

「ああ、協力しよう」

 

 そう言って頷くシミズさん。

 

「ご両親の避難は私に任せて、貴方達は行きなさい。隊長もです」

「了解だ」

「ミズキさん……お願いします。ブレイブ!」

『よし!』

 

 ミズキさんは母さんと父さんを避難させる為、部屋を出た。

 それを見送ったシミズさんは僕の方に向き直る。

 

「頼むぞ、ウルトラマン」

「はい!」

『行くぞ!』

 

 そうして僕は光に包まれた。

 

 × × ×

 

「こちらG1(ガード・ワン)、現場空域に到着した」

『G1、G2(ガード・ツー)の両機は、隊長から指示があるまで上空で待機せよ』

「G1了解」

「G2、了解です」

 

 街の上空を飛行する二機の戦闘機(F-2)。それぞれのパイロットは基地との通信を終えると、機体を旋回させた。

 するとG2が標的を発見する。

 

「G2からG1へ。10時の方向に怪獣を視認、どうします?」

「まだ攻撃許可が出ていない。我々はここで待機だ」

「目の前で被害が出ているのに……!」

 

 そう口にしたG2――イチジョウ・ハルトは今すぐにでも、眼下の街を破壊する怪獣(エレキング)を攻撃したいという衝動を抑える。

 自分達が所属する組織は軍隊ではない。しかし命令がない以上、勝手に攻撃する事は許されないと分かっているからだ。

 それに加えて、怪獣が暴れまわる街には、未だに多くの民間人が避難を続けている。そんな所に攻撃をして、下手に怒らせると被害を拡大させるだけだというのも、彼は分かっていた。

 だからと言って、ただ見ているだけと言うのも我慢ならない。早くしなければ、どのみち被害が広がるだけだ――そう考えていた時だった。

 

「ん? あれは……」

「……まさか」

 

 彼らが乗る戦闘機の側を一筋の光が通り過ぎ、怪獣の前に降り立った。

 その光が収まり、その中から姿を現したのは――

 

「ウルトラマン……」

 

 

      *

 

 

 シミズさんの目の前で変身した僕達は、光となってエレキングの前に降り立つ。

 既に、街にはかなりの被害が出ているようだ。

 

「これ以上はやらせない!」

『ああ!』

 

 エレキングに向かって構え、そこから駆け出す。

 しかしエレキングは僕達(ブレイブ)に接近される前に、発光している口から三日月状の光弾を撃ち出してきた。

 

「くっ!」

 

 咄嗟にバリアを張って防ぐ。バリアを解除すると、今度は足元を狙ってきた。

 これは防ぎようがなく、バク転で回避する。エレキングは続けて二発、三発と光弾を撃ってくるが、今度は左右に転がって避けていく。

 しかし、こうしているだけで怪獣は倒せない。

 次の光弾を避けると、反撃にブレイブスラッシュを放つ。その狙いは、レーダーの役割がある角だ。

 

「セアッ!」

 

 だが、そこを狙われるのは分かっていたのだろう。僕達(ブレイブ)が撃ったブレイブスラッシュを、エレキングは的確に光弾で相殺した。

 

『手強い……!』

「うん、ゲルゼの怪獣だからだろうね……」

『このままでは、私達が時間切れになる。どうするんだ?』

「ブレードで光弾を弾きながら、接近する!」

 

 そう言うや否や、一気にブレスからブレイブブレードを発生させて走る。

 エレキングは再び、光弾を連続で放ってくる。だけど今度は止まらない。迫る光弾をブレードで一つずつ弾きながら、その距離を詰めていく。

 あと少しでブレードが届く距離だ、このまま一気に斬り込む! 

 

 ――しかしその剣先が、エレキングを捉える事は無かった。

 

『「なっ!?」』

 

 エレキングが背を向けたかと思うと、ワンテンポ遅れて身体に衝撃が受け、吹き飛ばされてしまう。

 その瞬間、視界の端に黄色と黒の鞭のような尻尾が見えた。

 迂闊だった。

 怪獣の武器は、鋭い爪や口から吐く炎、光線だけじゃない。その長い尻尾のリーチも脅威になる。特にエレキングの尻尾は、普通の怪獣よりも危険だ。

 遠距離には三日月の光弾、接近されそうになったら尻尾による打撃……。

 

「早くあの角を破壊しないと……!」

『だが、どうやって攻撃を当てるんだ?』

 

 ブレイブの言う通り、こちらの攻撃を当てる方法がない。

 何かで気を逸らさないと――

 

『ユウキ!』

「っ! しまった!?」

 

 どうすれば良いのかを考えている間に、右脚に尻尾が巻きつけられる。

 ――まずい! 

 そう感じて尻尾へブレイブスラッシュを放とうとしたその瞬間、エレキングの得意技である電撃が僕達の身体を襲う。

 

『がああぁぁぁッ!!!』

「ブレイブッ!?」

 

 だけど、身体への痛みはこなかった。

 ブレイブが守ってくれたからだ。僕に届かないように、一人でエレキングの電撃を受け止めて……。

 

「ブレイブ、どうして!?」

『今の私は、君の身体を借りて戦っている……だから君に負担を、傷を負わせる訳にはいかない……!』

「だからって!」

『私の事は気にせず、今は目の前の怪獣を倒す事を考えるんだ……!』

 

 ブレイブ……。

 

「――分かった……今は!」

 

 エレキングの尻尾からブレイブへと流れる電気を、左腕のブレスに集中させ、それと同時にエネルギーも溜める。こちらに背中を向けた状態のエレキングは、まだその様子に気が付いていない。

 倒れたこの角度からだと角は狙えないけど、それでも一撃を与えるチャンスだ。

 

「お前の電気を倍にして返してやる!」

 

 エレキングの背中へと狙いを定め、ブレスに溜めた電気とエネルギーを一つにして撃ちこむ。それをまともに受けたエレキングは前に倒れ、同時に僕達の脚に巻き付いていた尻尾が解かれた。

 

 ライトニングカウンター。

 本来はメビウスのメビウスブレスにあるクリスタルサークルを回転させ、そのエネルギーをプラズマ電撃にして放つ技。今のはエレキングの電撃を利用して、それをエネルギーと共に撃ち出したブレイブ版だ。

 

「一回やってみたかったんだよね、この技」

『これは……メビウスの技か?』

「そ、ライトニングカウンター。って、ブレイブは知ってるよね」

『訓練生時代に一度だけ見た事がある程度、だがな』

 

 話しながら立ち上がり、エレキングを見る。

 直撃はさせたけど、致命傷とはいかなかったようだ。エレキングがタフなのか、使い慣れない技だから威力が出なかったか……。

 しかもタイミングが悪い事に、カラータイマーが点滅を始める。

 だけどこれで、初めてダメージを与えられた。

 

「ここで一気に攻める!」

『ああ!』

 

 そう交わして再び走り出す。

 エレキングも起き上がり向かってくる僕達に気付くと、光弾を放ってきた。だが、これを難無くブレイブスラッシュで相殺して走り続ける。

 それを見たエレキングは更に光弾を放つが、今度はバリアを纏わせた拳で、弾くように打ち消す。

 この距離まで接近すれば、次はさっきみたいに尻尾の一撃が――

 

「来た!」

 

 そろそろだと思った瞬間、やはりエレキングは一回転して尻尾による攻撃を仕掛けてくる。だけどそんなのはお見通しだ。

 地面を蹴って飛ぶ。そして尻尾を躱すと、刃状にしたエネルギーを右手に纏わせ、エレキング目掛けて急降下。着地すると同時に、エレキングの右角を手刀で叩き斬った。

 よし! と、わずかに油断したのがいけなかった。

 痛みで暴れるエレキングの左手が不意に当たり、それによって僕達はエレキングの目の前に倒れてしまう。それを見たエレキングは、口の部分に電気エネルギーを集中させる。

 

『まずい!』

「バリアを……!」

 

 ――だけど、それが放たれる事は無かった。

 

 突如、空からエレキングへ向けての攻撃があったからだ。

 攻撃をしてきた方向へ目を向けると、機銃を撃つ戦闘機が二機いるのが見えた。その尾翼には、Guardianのマークがある。

 

『あれは確かGuardianの……』

「うん、きっとシミズさん達が助けてくれたんだ」

 

 エレキングが戦闘機に気を取られている隙に、僕達は距離を取る。

 倒しきるなら、Guardianがいる今がチャンスだ。

 機銃を撃っていた戦闘機が二手に分かれた。左右の旋回の違いから、どうやら挟み撃ちでの時間差攻撃をするらしい。

 僕達から見て左に分かれた一機が、エレキングの足元に機銃を、胴体へ向けてはミサイルを撃っていく。

 

「ブレイブ、あの人達にタイミングを合わせるよ」

『ああ、分かった』

 

 僕達はブレイブシュートのチャージを始める。

 シミズさんが攻撃の指示をしているなら、恐らく狙うのは残っているあの角だろう。だったら攻撃が終わった瞬間に、必殺の一撃を叩き込む! 

 攻撃をしていた戦闘機は、そのままエレキングとすれ違うように飛んでいく。

 その戦闘機を追うように振り返ったエレキングに、もう一機の戦闘機が二発のミサイルを発射。一発目は胸に、二発目は狙い通りエレキングの角に命中する。

 

「今だッ!」

 

 両方の角を失い、その動きを完全に止めていたエレキングにブレイブシュートを放つ。

 ブレイブシュートはエレキングの胸に命中し、小さな爆発を起こす。それにより力尽きたエレキングは前に倒れ、爆散した。

 

『倒せたな……』

「シミズさんと、あの人達に感謝しないとね」

『そうだな』

 

 近くで旋回していた二機の戦闘機に、サムズアップをして見せる。

 と、その後ろに、今まで姿を消していたゲルゼの宇宙船が出現した。

 

「ゲルゼ……!」

「流石ですね、ウルトラマンブレイブ。まぁ今回はエレキングの弱点、それを知っている人間達の助けもあったようですが」

『一体何の用だ?』

「特に用と言う程ではありません。ただご挨拶を、と思いましてね」

「ならゲルゼ、一つ聞かせてくれ。三日前の怪獣は君の怪獣なのか?」

 

 三日前にブレイブと話した通り、ゴメスがゲルゼの使役する怪獣なのか、この地球の怪獣なのかを確かめる。

 

「あれは正真正銘、この地球で生まれた怪獣ですよ」

「ブレイブの予想通りだね……」

『ああ。しかしゲルゼ、お前が地球の怪獣を従える事も出来るのではないか?』

「ええ、容易い事ですね」

 

 やっぱり……。それが怪獣使い――いや、レイオニクスの力。

 その時、Guardianの戦闘機が残っていたミサイルで、ゲルゼの宇宙船を攻撃する。しかしそれは、僕達の時と同様にバリアによって防がれてしまった。

 

「フフフ、無駄な事を……。邪魔も入ったので、今日はここで引くとしましょう。また次のゲームを楽しみにしていますよ、ウルトラマンブレイブ」

 

 そう言って、ゲルゼの宇宙船は消えた。

 

 × × ×

 

 変身を解除した僕達は、現場に来ていたシミズさんの所へ向かった。

 

「シミズさん」

「ユウキ君。怪我は……無さそうだな」

「ええ、ブレイブが守ってくれましたから。ありがとう、ブレイブ」

『さっきも言っただろう? 私は君の身体を借りていると。だから――』

「それでも、お礼くらいは言わせてほしいな」

 

 僕はブレイブの言葉を遮って気持ちを伝える。

 今の僕達は一心同体、二人で一人だ。例えブレイブに守られるのが当たり前だとしても、何も言わずに戦うなんて僕には出来ない。

 

「シミズさんも、ありがとうございます」

「私は指示しただけだ。礼なら、パイロットの二人に言ってやってくれ」

 

 小さく笑いながら、シミズさんはそう言った。

 

「それってつまり……」

「さっきの話の続き、答えは決まっていたんだろう?」

「――はいっ!」

 

 それはエレキングが現れる前に話していた、僕がGuardianに入隊するかどうかと言う質問に対する答え。

 僕はGuardianに入隊する。

 シミズさんはあの時、僕が言おうとしていた事が分かっていたのだろう。だから助けられたお礼は、あの二機の戦闘機のパイロットに言ってくれって……。

 ――あれ? 

 

「……あの」

「ん? どうした?」

「その、パイロットにお礼を言うって事は、僕がウルトラマンだってバラしているのでは……?」

「……あ゛」

 

 どうやらシミズさんもそこは考えていなかったらしい。

 

「仕方ない、さっきの礼は二人に代わって、私が受け取っておこう」

 

 と言いながら、シミズさんは苦笑いを浮かべた。

 そこへ、ミズキさんがやってくる。

 

「ここにいたのね」

「おうミズキ、お疲れ」

「ミズキさん。両親の避難、ありがとうございました」

「それが仕事よ」

 

 ミズキさんは何でもないと言う風に答える。

 

「貴方の事をとても心配してたわ。良いご両親ね」

 

 と、ミズキさんは僕を見て微笑みながらそう言った。

 なんか結構照れると言うか、恥ずかしいな……。

 

「あ、ありがとうございます」

 

 そう言いながら頬を掻く。

 そんな僕を見て満足気に頷いていたシミズさんは、腕時計に目をやると僕に声を掛ける。

 

「ユウキ君、今日はとりあえず家へ帰った方が良いな」

 

 言われてみれば、エレキングを倒した頃にはもう陽が沈んでいた。避難していた母さんや父さんも、もう家に戻っているだろう。

 それに僕がGuardianに入隊すると言っても、まだ正式な隊員にはなっていないのだから、ここに残る訳にもいかない。

 

「分かりました」

「私が送ろう。その方が、ユウキ君にも都合が良いだろう?」

「そうね、貴方のご両親を避難させる際に『私達に任せて下さい』とは言いましたから」

 

 ですよね……。

 

「それじゃあ、お願いします」

「分かった」

「では私は、ここで被害の調査をします」

「頼む」

 

 ミズキさんに現場を任せ、僕とシミズさんは車に乗り込む。

 現場を後にして、僕の家へ向かう。

 

「そうだ、ユウキ君」

「何ですか?」

「明日の朝、ミズキを迎えに送る」

「随分と急ですね」

 

 理由は大体分かりますけど。

 明日の朝……という事は、あんまり皆――母さんや父さん、特にスズと話は出来ないかもね。

 

「まぁ時間はあまりないが、それまでにご両親を説得出来るか?」

「難しいとは思いますけど……やります!」

「すまんな」

「いえ、僕も元々Guardianに入ろうかと考えていたので、いつか通る道でした。それが今日になっただけですよ」

「そうか……。そう言ってくれると助かる」

 

 僕がGuardianに入るって言ったら、母さんと父さんは何て言うかな? 

 ……いざとなったら、全部話すしかないだろう。

 

「これからよろしくお願いします、シミズさん」

「あぁ、こちらこそ宜しく頼む」

『ユウキの両親を説得しなければ、隊員にはなれないぞ?』

 

 ブレイブがそんな事を口にするのに対し、僕とシミズさんは苦笑いするしかなかった。

 




活動報告に1話~3話までと番外編に登場したキャラクター達の設定集もあります。

Twitter:https://twitter.com/Masa_GPB
マシュマロ(感想などに):https://marshmallow-qa.com/masa_gpb


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第3.5話「入隊」

お待たせしました。第3話の続き、3.5話です。
時間がかかりすぎて、4話を書いた気分になります……。


 エレキングを倒した翌日の朝。

 僕は軽く荷物をまとめて、部屋を出る。

 

「さて、と。それじゃあ行こうか」

『まだミズキは来ていないぞ?』

「分かってるよ。ミズキさんが来る前に、父さんと母さんに話をしないとダメだからね」

『そうだったな……』

 

 そうして僕達は二人がいるであろうリビングへと向かう。

 一階に降りると父さんはソファで新聞を読んでいて、母さんはキッチンで朝食の準備をしている。

 いつもと変わらない朝の光景だ。

 

「ん? 今日は随分早いな、ユウキ」

「おはよう」

「あら、その荷物はどうしたの? どこかにお出かけ?」

 

 父さんと母さんは僕に気付いて話しかけてくる。

 話をするには早い方が良いのだろうけど、まだ心の準備が出来ていない。

 それに――

 

「ちょっと話があるんだけど……その前に朝ごはん、食べてもいいかな?」

 

 今はお腹が空いている。

 

 

 

      *

 

 

 

「ご馳走様」

 

 暫くの間、こうして皆でご飯を食べる事が出来ないと思うと、少し寂しいと感じてしまう。

 だけど永遠に会えなくなる訳じゃない。ゲルゼに勝って、平和になったらまたこの家で過ごせるんだから。

 

「それで、話って言うのは何だ?」

 

 母さんは心配そうな顔で僕を見て、父さんが質問をしてきた。

 そろそろ話さないとね。何より、早くしないとミズキさんも来ちゃうし。

 

「昨日、Guardianの人達が来たよね」

「スカウトに来たんだったな。父さん達が話を聞く前に、怪獣が現れたから避難するように言われたが」

「うん、それでその話なんだけど……僕はGuardianに入隊する事に決めたんだ」

 

 僕は真っ直ぐ父さんの目を見たまま答える。

 

「……そうか」

 

 父さんが言ったのはそれだけだった。

 だけどその表情は、悲しんでいる訳でも怒っている訳でもなく、少し嬉しそうだ。

 

「ユウキ……」

 

 対照的に、母さんはさっきと表情は変わらない。

 

「勝手に決めてごめん。でも、これは元々考えてた事だし、それに……僕にしか出来ない事があるから」

「何言ってるの!? ユウキ、貴方は普通の子で――」

「キョウコ、ユウキなら大丈夫だ。ユウキ、お前にしか出来ない事ってのは()()()()()で良いんだな?」

 

 やっぱり父さんは気付いてたんだ。

 

「そうだね……ブレイブ」

『良いのか?』

「うん」

『分かった。初めまして、と言った方が良いかな? 私はブレイブ、ウルトラマンブレイブだ』

 

 首に下げていたブレイブの結晶を手に取り、二人が見える様にする。

 ブレイブの声を聴いた二人は、驚きの表情を見せていた。

 

「ブレイブか……。まさかとは思っていたが、本当にユウキがウルトラマンだったなんてな」

「僕も最初はビックリだったけどね。父さんはいつから気付いたの?」

「もしかしてと思ったのはゴメスの時だな」

 

 まぁそうだよね。

 昨日の昼食の時に、気付かれてる? と感じたのは当たっていたらしい。

 と、母さんの方を見ると両手で口を覆っていた。予想していなかったのか、余程驚いたみたいだ。

 

「ユウキが、あのウルトラマン……?」

「黙っててごめん」

「それじゃあ、今まで戦ってきたのも……」

「うん、僕も一緒に戦ってる。今のブレイブはこの状態でいるのが精一杯だからね」

『今の私には彼がいなければ、本来の姿で戦う事も出来ない。ユウキを巻き込んでしまって申し訳ない』

 

 僕とブレイブの言葉を聞いた母さんは、僅かに俯きながら目を閉じた。

 しばらくすると、さっきとは違い力強い表情で、こちらを真っ直ぐ見つめてくる。

 

「そうね、ユウキならきっと大丈夫……。ブレイブさん、ユウキの事、よろしくお願いします」

『ああ、任せてくれ』

 

 母さんはブレイブとそう交わして微笑んだ。

 正直、説得するのに苦労すると思ってた。父さんは気付いてたから分かるけど、母さんは意外にあっさり終わったなぁ。

 やっぱり、ブレイブに話をさせたのは正解だったかもね。

 

 僕達の話が終わったタイミングで、家のインターホンがなった。

 時間的に考えると、迎えに来たミズキさんだろう。

 

「迎えが来たと思う」

「Guardianの方か。なら私達も行こう」

「そうね」

 

 見送りの為に、父さんと母さんも付いてくるようだ。

 玄関から出ると、やはりミズキさんが待っていた。僕の後ろにいる二人に気付いてお辞儀をする。

 

「ユウキを、息子をよろしくお願いします」

「はい、責任を持ってお預かりします」

 

 父さんとミズキさんは握手を交わす。

 それを見ていた僕に、母さんが声をかけてくる。

 

「ユウキ、怪我をしないように気をつけてね?」

「分かってるよ。あ、それから……悪いんだけど、この事はスズには内緒にしておいて欲しいんだ」

「それは両方の意味で?」

「うん、その方が良いと思う。余計な心配はかけたくないし……」

「スズちゃん、知ったら怒ると思うけど?」

 

 そうだろうなぁ……。

 だけど――

 

「事実を知っても、スズはGuardianに入れないからさ」

 

 僕がGuardianに入れるのは、ブレイブの力があるからだ。

 それがなければ、僕はこうしてGuardianの隊員になるどころか、多分入ろうとも思わなかっただろう。

 しかし僕がウルトラマンに変身して戦って、Guardianの隊員になった事をスズが知ったら? 

 きっと「私も一緒に行く!」って言うと思う。でも、それは出来ない。

 

「……分かったわ。スズちゃんには秘密ね」

「ありがとう、お願い」

 

 難しいお願いをしちゃったけど、うまくやってくれるよね……? 

 

「それじゃあ、行ってきます」

「頑張ってこい!」

「たまには連絡もするのよ?」

 

 二人の言葉に頷いて車に乗り込む。

 

「行きます」

「……はい!」

 

 僕が返事をすると、ミズキさんは車を発進させる。

 ――平和になったらまたここで皆と過ごせるんだ。絶対にゲルゼを倒して、この世界を、地球を守ってみせる。

 

 × × ×

 

 あれから、僕達はGuardianの基地に向かっている……んだけど、基地までは時間が結構かかるみたいだ。

 その間は無言というのも落ち着かないから、ミズキさんの話でも聞いてみよう。

 

「あの、ミズキさんの事、聞いても良いですか?」

「……別に構わないわ」

「ミズキさんはどうしてこの世界に?」

 

 これは、ミズキさんがサロメ星人だからと言うのもあるけど、単純に気になった事だ。

 ブレイブは闇の力を追って、偶然この世界にやってきた。しかしこの人はどうなんだろう。

 昨日聞いた言葉から、侵略に失敗してと言う訳ではないだろうけど……。まぁこの世界なら、ブレイブがいないと簡単に出来るだろうし。

 

「知っての通り、元は光の国がある宇宙にいたわ。……私がいた当時のサロメ星では、別次元の宇宙への転移装置を開発していたの」

「時空転移を可能にする装置……。それじゃあミズキさんはそれを使って?」

「装置の開発に反対していたサロメ人達――私達は、推進派の騙し討ちで、その装置によって強制転移させられた」

「それって……!」

「私達は彼らの実験台にされたのよ。気が付いたら別の宇宙、それも知らない星にいたわ」

 

 サロメ星人がそんな物を開発していたのも驚いたけど、その実験に自分達の仲間を、しかも騙して使うなんて……。

 

「一緒に跳ばされた他の人達はどうなったんですか?」

「分からないわ。そこにいたサロメ人は私だけで、あとはその星の住人達だけだった……。私は彼らに助けられたの」

 

 懐かしむように言うミズキさん。助けられたと言うその声音から、その星の彼らは良い人達だと分かる。

 

「他に行くあてもない私は、その星に住む事にした。……でも、その星での生活も長くは続かなかったわ」

「何かあったんですか?」

「突然、魔王と名乗る侵略者がやってきて、全てを破壊していった。私は彼らを助けようとしたけど、逆に宇宙艇に押し込まれて脱出させられて、次に目覚めたのはこの地球だったのよ」

「そういう事だったんですね……」

 

 ミズキさんも侵略がどうとかじゃなくて、偶然この世界に来ただけだった。それも不幸と言えるような形で。

 でも、そうか……昨日ミズキさんが言ってた事は、きっと、そういった経験があったからだろう。

 だからゲルゼに狙われたこの地球を、サロメ星人としてではなく、この地球に住む一人の人間として守るって言ったんだ。

 

『魔王……まさか……』

 

 そんな中、ミズキさんが言った魔王。それにブレイブが反応した。

 

「ブレイブ、どうかしたの?」

『いや……私の思い過ごしかも知れない、気にするな』

 

 と言ったっきり、ブレイブは再び黙った。

 その様子が少し気になって、それを聞こうとしたけど止めた。無理に聞いても言わないだろうし、それならいつか教えてくれる時まで待つのがいいだろうね。

 

「聞いた僕が言うのも何ですけど、ここまで教えてくれるとは思ってませんでした」

「貴方の秘密を知っているのに、私が教えないのも不公平よ。それに、気になった事をそのままにしておくのも気持ち悪いでしょ?」

「秘密って言っても、ミズキさんのと僕のとじゃ釣り合わないと思うんですけど……」

「確かにね。それでも、やっぱり貴方……いえ、貴方達には知っていて欲しかったのよ。私がGuardianの一員として、地球を守る戦いをする理由を」

 

 そう言ったミズキさんの横顔は、どこか晴れやかな表情をしているように見えた。

 

 

 

      *

 

 

 

 

 あれからまた暫く車を走らせていると、湾岸地区の一角に広大な敷地と巨大な施設が見えてきた。

 そこには、装備品やメカと同じくGuardianのマークである「GD」が描かれている。

 

「さ、着いたわ」

「ここが……。案外、普通の所なんですね」

「テレビみたいな基地を作ろうと思ったら、何年も掛かるわよ」

「……確かにそうですね」

 

 言われて、僕は苦笑いを返すしかなかった。

 

「ついて来て、司令室に行くわよ」

「あ、はい」

 

 僕達は車を降りてその施設へと入っていくと、何名かの職員が歩いているのが見て取れた。

 職員達はミズキさんやシミズさんとは違う服装で、中には自衛隊の物や一般の作業服を着ている人もいる。

 外から見た時は普通の場所だと思っていたけど、中に入ってみるとそこは、テレビで見たような光景が広がっていた。

 

「こっちよ」

 

 ミズキさんについて行くと、他の物とは違う扉が見えてくる。

 その前で止まったミズキさんが腰の左にある小型デバイスを取り出して、扉横の端末にかざす。すると赤く光っていたランプが、緑色に変わって扉が開く。

 

「戻りました」

「お、来たな。待っていたぞ」

「貴方も入りなさい」

 

 ミズキさんに呼ばれて、部屋の中に足を踏み入れる。

 まず目に映るのは正面の巨大なモニター。そしてテレビで見たような、いかにも司令室といった内装。

 

「ようこそユウキ君、Guardianの司令室へ」

「えっと……お邪魔します?」

「ははは、今日から君もここの一員になるんだ。そんなに固くならないでくれ」

 

 そう言って手渡されたのは、さっきミズキさんがこの部屋に入る時に使っていたデバイスだった。

 

「Guardマルチシーバー。主に通信機として使用するが、隊員としての確認もこれで行っている。これは君の物だ」

「ありがとうございます」

「だが、それはまだ完全にユウキ君の物とは言えない。まずは登録を完了させる必要がある」

「認証、ですか?」

 

 シミズさんからGuardマルチシーバーを受け取る。画面を見ると、指紋登録の文字が表示されていた。

 

「そこに親指を押し当てて、登録完了だ」

「ここですね」

 

 シミズさんに言われた通り、マルチシーバーの画面に指をかざすと認証完了と画面に表示された。

 どうやらここもシミズさんが言った通り、あとはこれで登録は完了だったらしい。

 

「よしミズキ、ユウキ君に部屋の案内を頼む」

「分かりました」

「ユウキ君は着替えがあるから、そこで着替えてきてくれ。メンバーとの顔合わせはそれからにしよう」

「はい」

 

 そうして、僕とミズキさんは司令室をあとにする。

 

「貴方の部屋はここよ。入る時もGuardマルチ(それ)シーバーが必要だから、携帯するのを忘れないようにね」

「部屋の中に忘れた、なんて事になったら……?」

「私と隊長のはどこにでも使える、要はマスターキーにもなるから開けられるけど、まずそんな事態にならないように気をつけなさい」

「……はい、忘れないようにしっかりと持ち歩きます」

 

 ミズキさん、こういうのは凄く厳しいタイプだと分かった瞬間だった。

 

 気を取り直して、部屋の端末にマルチシーバーをかざして扉を開ける。

 部屋の中には机やベッド、棚といった最小限の物しか置かれていないようだった。そしてベッドの上に、Guardianの隊員服が畳まれていた。

 

「今はまだこんな殺風景な部屋だけど、必要な物は言ってくれれば用意するわ。任務に支障が出るような物はダメだけど」

「分かってます。遊びに来た訳じゃありませんから」

「それなら良いわ。それじゃあ、まずは着替えをしておいて。私はその間に取ってくる物があるから」

 

 そう言ってミズキさんは部屋を出た。

 僕は言われた通りに隊員服に着替え始める。

 

 × × ×

 

 着替えは終わったんだけど、ミズキさんはまだ戻らないのかな? 

 何か取りに行く物があるって言ってたけど……。

 

『終わったかしら?』

 

 ――と、考えていたタイミングで、部屋のモニターにミズキさんが映し出された。

 どうやら外の端末にはこういう機能もあるらしい。

 

「今開けます、どうぞ」

 

 部屋へと入ってきたミズキさんは、小型のアタッシュケースのような鞄を持っていた。

 取ってくる物というのはこれの事だろう。

 一体何かを聞く前に、ミズキさんはケースを机の上に置いてそれを開ける。ケースの中には見覚えがある銃が入っていた。

 それはウルトラマンティガの特捜チーム「GUTS」のGUTSハイパーガンにそっくりだ。銃本体はもちろん、専用のカートリッジまである。

 

「ミズキさん、これって……」

「Guardian用に作った専用銃の試作品よ。まだ正式な名前はないけど、元になった通りに付けるなら……Guardハイパーかしらね」

 

 そう言って、Guardハイパーを僕に手渡してくる。

 

「……触っても良いんですか?」

「良いも何も、これは貴方が使うのよ」

「僕がですか!?」

 

 突然そんな事を言われた僕は、慌ててGuardハイパーを落としそうになった。なんとか落とさずに済んだけど……。

 ミズキさんは僕の様子を気にせず、説明を続ける。

 

「さっきも言ったけど、それは試作品。つまり今はそれ一つしかない。だけど私達Guardianで、現場に出て扱えるのは私か貴方だけよ」

「隊員が少ないのは分かります。けど、どうして僕なんですか? ミズキさんが使えばいいんじゃ……」

「それじゃあ逆に聞くけど、貴方は本物の銃を撃った事はあるの?」

「ありません……」

「そうでしょう? それに、貴方は怪獣が出てきたら、いきなりブレイブに変身するつもり?」

 

 その言葉に、僕はぐうの音も出なかった。

 

『ユウキの負けだな』

「そうだよね……分かりました。Guardハイパー、使います」

 

『地球の平和は、我々人間が自分達で守っていかなくてはならない』ブレイブも言っていた事だ。

 僕が防衛チームであるGuardianに入った以上、いつまでもブレイブに頼ってばかりではダメだよね……。

 

「ホルスターはベルトの右にあるから、そこに収めて。カートリッジ用のは左にあるわ」

「ここと……ここですね」

「そう。そして今のカートリッジの種類は二つ。赤いのが攻撃用のレーザーカートリッジ、青いのが防御用のバリアカートリッジよ」

 

 説明をしながら、ケースから二つに色分けされたカートリッジを取り出す。

 カートリッジの下の方に赤いラインと青いラインが引かれた物が二つずつ、それらをベルト左のカートリッジ用ホルスターに入れる。

 

「さて、そろそろ司令室に行くわよ。皆待ってるわ」

「そうでした……!」

 

 Guardハイパーをホルスターに収め、急いで部屋を出た。

 

 

 

      *

 

 

 

 再び司令室へと戻ってくると、既に他のメンバーが揃っていた。

 

「すみません、遅くなりました!」

「いや、部屋の事や色々と説明があったのだから、これくらいは想定内だ」

「そうですか……?」

 

 僕の問いにシミズさんは笑みを浮かべながら頷く。

 

「緊急時に遅れなければ、それで良い。それよりも今は、皆に自己紹介を頼むよ」

「は、はい!」

 

 僕は身嗜(みだしな)みを整えて、一歩前に出る。

 目の前にいる初対面の隊員は四人。その内の一人である女性隊員が、何やら落ち着き無く――いや、ニコニコしながらこちらを見ていた。

 その隣にいるメガネを掛けた隊員が「ニシハラさん、少し落ち着いてください」といったのが聞こえてくる。

 

「カガヤ・ユウキです。今日からGuardianの一員になりました。皆さん、どうぞよろしくお願いします!」

 

 そう言ってお辞儀をする。すると拍手が聞こえてきた。

 顔を上げると、さっき注意されていたニシハラさんが手を上げる。

 

「それじゃあ私から! ニシハラ・アカネ、ここのオペレーターです! よろしくね!!」

「ニシハラさん、もう少し静かにお願いします。私はコバヤシ・ハヤトです。不本意ながら、ニシハラさんと同期でオペレーターを務めています」

「ちょっとー、不本意ながらってどういう意味よー!?」

「あぁすみません、ついぽろっと出てしまいました」

「酷くないっ!?」

 

 と、何やらニシハラさんとコバヤシさんが言い争い(?)を始めてしまう。

 だけどその様子は、二人の仲が悪いとは思えないものだった。

 そんな二人を止める訳でもなく、残りの隊員の一人が苦笑を浮かべながら、自己紹介を始める。

 

「騒がしいのがいてすまないな。私はハセガワ・カズヨシだ。航空隊のパイロットを務めている」

 

 ハセガワさんは右手を差し出してくる。僕はそれに応え、握手を交わした。

 

「よろしくお願いします」

「こちらこそよろしく。それでコイツが――」

「イチジョウ・ハルト。同じくパイロットだ」

 

 その口調と、やや鋭い目付きからクールな印象を受ける。

 ちょっと近寄り難いかも……。

 

「コールサインはハセガワ君がG1(ガード・ワン)、イチジョウ君がG2(ガード・ツー)だ。昨夜の戦いでウルトラマンを援護していたのも、この二人だ」

 

 シミズさんが補足として説明してくれる。

 ……そうか、昨日助けてくれたのはこの人達だったんだ。

 

「改めて皆さん、これからよろしくお願いします!」

 

 これから僕はこの人達と一緒に戦えるんだね……。

 だけどこの人達には、僕がブレイブだというのは秘密にしなければならない。うっかり言わないように気を付けないと。

 




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第4話「守る為に」

お待たせしました、本編4話目です。(もうすぐ劇場版ジードが公開されるというのに……)
自分で書いておいてあれですが、イチジョウさんの印象がちょっと悪く見えるかもしれませんが、彼もいい人なのです。彼なりに頑張っているのです……。


『どうしたユウキ、今日は気合が入ってないぞ!』

「くっ……!」

 

 怪獣の尻尾の一撃を受け、地面へと倒れるブレイブ()

 その攻撃をした張本人である怪獣――凶暴怪獣アーストロンは、そんな僕達に構う様子はなく、この山岳地帯から市街地を目指して歩いていく。

 

「この、待て!」

 

 すぐに起き上がり、攻撃に使われたばかりの尻尾を掴んで後ろに引っ張っていく。

 それによってアーストロンも数歩下がるが、頭を下げる事で前傾姿勢になり、その場で踏ん張って耐えている。

 ――ゴメス程ではないにしろ、やっぱりアーストロンのパワーも凄い。

 一瞬そう思ったのがいけなかった。アーストロンが右、左にと体を捻って尻尾を振り回した事で、僕達はその遠心力によって飛ばされてしまう。

 

『このままでは、奴が街に到達してしまう』

「分かってるけど……!」

 

 ブレイブが言うように、この場所から市街地へはさほど遠くない。街に被害が出ないように、ここで倒すしかないのも分かっている。

 しかし、僕はアーストロンに対して全力で戦うことが出来ないでいた。それはコイツが、以前現れたゴメスと同じく、地中から姿を見せた怪獣だからだ。

 ゲルゼは、ゴメスが地球で生まれた怪獣だと言った。もしアーストロンがゲルゼの操る怪獣ではなく、ゴメスと同じくこの地球で眠っていた怪獣だとしたら? と、そんな思いを、僕は捨てきれずにいた。

 

『ユウキ!』

 

 ブレイブの声で我に返る。

 その瞬間、こちらに振り向いていたアーストロンが、口から熱線――マグマ光線を吐き出してくるのが見えた。右側に前転をして避けるものの、立て続けに放たれた二発目を避けることが出来ず、左肩に直撃する。

 攻撃を受けた箇所を右手で押さえるけど、それほど深いダメージではないようだ。

 ――やるしか……倒すしか、方法はないのか? 

 

「ブレイブ、怪獣の戦意を喪失させる技はないかな? コスモスみたいな……」

『……すまない。私には怪獣を倒す技はあっても、彼のように相手の戦意をなくすものはない』

「やってみなくちゃ分からないじゃないか! ヒールで癒してやれば、きっと……!」

『ユウキ……分かった。一度だけ、試してみよう』

 

 右腕の全体にエネルギーを溜め、それをアーストロンへと放射する。大人しく地中へ帰ってくれ、という願いと共に。

 当のアーストロンは自身に放たれた光に、僅かに戸惑うかの様な仕草を見せたが、再びマグマ光線を放ってきた。

 

『くッ!』

 

 ブレイブが咄嗟にバリアを張って防ぐ。

 

「ダメなのか……?」

『……残念だが、諦めるしかない』

「そんなっ!」

『いい加減にしろユウキ! 自分が守れるモノも守れなくなるぞ!』

「っ……!」

 

 ……ブレイブの言う通りかもしれない。

 僕はガイアやコスモスの地球怪獣たちみたいに、このアーストロンも倒さずに大人しくさせる事で解決出来ると、させたいと思っていた。僕が守れる――守るべきモノも忘れて。

 

「……そう、だね。ごめん、ブレイブ。僕のせいで怪我までさせて」

『フッ、これくらいなら大した事はない!』

 

 ブレイブがいつもの声音で返してくれる事に安心する。と、アーストロンが口に炎を溜め、マグマ光線を撃とうとしているのが見えた。

 しかしそれは放たれる寸前で、Guard航空隊のF-2による援護射撃によって防がれた。ハセガワさんが操る機体のミサイルが、アーストロンの胴体に命中して怯んだからだ。

 更にイチジョウさんの機体が横から攻撃する。

 発射されたミサイルは、正確にアーストロンの頭部にある一本角へと直撃。あの特徴的な角は攻撃を受けた事で先端が欠け、それによって奴は悲鳴のような鳴き声を上げた。

 

『流石だな』

「きっとシミズ隊長が弱点を教えたんだろうね」

『で……どうする?』

 

 この問いかけの意味は分かってる。

 可哀想だけど、今の僕達――いや、僕には倒すしか方法はない。守るべき人達の為に、僕はもう迷っていられないんだ……。

 ブレイブシュートを撃つ為に、ブレスへのエネルギーチャージをする。が、両腕を真横に伸ばした瞬間、アーストロンは地面を掘り始めた。

 

『む?』

 

 弱点を攻撃されて逃げ始めたのだろう。

 それを見て、ブレイブシュートの動作を中断する。

 

「逃げるのなら、むやみに倒す必要はない……よね?」

『……ああ、そうだな』

 

 地面を掘って地中に潜っていくアーストロンを、僕はただ見つめていた。

 

 × × ×

 

 Guardianの基地に戻ってきた僕達は、司令室でアーストロンの追跡を行いつつ、束の間の休息を味わっていた。

 

「アーストロンの調査はどうなってる?」

 

 そこへ、さっきまで関係各所への説明と対策会議をしていたシミズ隊長が帰ってきた。

 それにミズキさんが応じる。

 

「今朝の戦闘後、震源が移動しています。しかし街から離れているので、現在のところ危険性はありません」

「ふむ……なら今は様子を見るとするか」

「再び出現する可能性もあるので、隊員は基地内待機にさせます」

「こちらから地中深くにいる目標には手を出せないからなぁ……。よし、頼む」

「了解しました」

 

 会話を終えた二人は、それぞれの席へと腰を下ろす。すると今度は、イチジョウさんが司令室へとやってきた。

 

「隊長、なぜ怪獣の駆除命令を出されなかったのですか!」

 

 イチジョウさんは隊長の席の前で声を荒げる。

 基地へ戻ってくる間にミズキさんから聞いたのだが、アーストロンが逃げる時に隊長は攻撃の中止を伝えたらしい。恐らく僕達の動きを見てそう決めたんじゃないかと、ミズキさんは言った。

 

「今は地中で大人しくしていますが、また地上に出て暴れだしたら、今度は街にも被害が出るかもしれないんですよ!?」

「気持ちは分かるが、少し落ち着きたまえ。コーヒーでもどうだ?」

「結構です! ……あの時、怪獣を倒してさえいれば、人々は今も安心して暮らせるんです」

 

 彼が静かに放った言葉は、確かに僕の耳に届いた。

 

「あのウルトラマンが怪獣を倒さないなら、我々でやるしかないんです。彼が頼りにならないのであれば、我々だけで怪獣を倒せる程の強力な装備()を――」

「ま、待ってくださいイチジョウさん! ブレイブは頼りないなんて事はありません! それに僕達が――人間が、力だけを求めるのは反対です!」

 

 僕はイチジョウさんが言った事に抑えきれず、席を立って反論する。この時、自分がブレイブの名前を口走ってしまった事も気付かずに。

 

「ではどうして、あの時ウルトラマンは怪獣を倒さなかった? その理由が君に分かるのか?」

「そ、それは……!」

「それにあのウルトラマンが倒されてしまったら、どうする?」

「――ッ!」

 

 倒さなかった理由は当然知っている。その理由は僕自身にあるのだから。しかし僕がウルトラマンであるとも、倒されるなんて事も絶対にないとは言えるはずもなく、言葉を詰まらせる。

 

「二人ともそこまでだ」

 

 と、そこにシミズ隊長が止めに入った。

 

「地球は我々人類が、自らの手で守り抜かなければならない。イチジョウ隊員、君の自分達で危機を乗り越えるという姿勢は評価出来る。しかし怪獣を倒すのに、単純に強力な力が必要だというのは、私も賛同しかねる」

「何故ですか?」

「確かに宇宙人や怪獣といった驚異から、人々を守る力は必要だ。しかし人類にとって必要以上な力は、我々自身をも危険に晒す代物となるだろう。それは私も、そしてミズキ副隊長も望んでいない」

 

 隊長に名前を呼ばれたミズキさんはイチジョウさんをジッとを見る。

 

「私も守る為の装備は必要だと思います。ですが過ぎた力は、自分が守ろうとした者すらも傷付けます」

 

 それを聞いた彼は、苦い顔をする。更にミズキさんは続けた。

 

「ですからGuardian副隊長としても、装備開発班の一人としても、守るべき人々にまで危険が及ぶような装備は許可出来ません」

「……分かりました。失礼します」

 

 イチジョウさんは諦めるようにして、司令室を後にした。シミズ隊長は「ふぅ~」と息を吐き、ミズキさんは再び作業に戻る。

 僕も席に座ろうと、椅子に手を掛けた時――

 

「ユウキ君、さっき言ってたブレイブって、あのウルトラマンの名前?」

 

 と、ニシハラさんが突然声を掛けてきた。それによって僕は、手は(おろ)か全身の動きが止まり、冷や汗が頬を伝う。

 ――もしかして、さっき無意識にブレイブの名前を言ってて、しかもニシハラさんはそれを聞き逃さなかった……? こ、これはどうやって誤魔化せばいいんだ!? 

 

「ユウキ君?」

「え、えっと……そ、そうです! ウルトラマンって色んな人がいて、名前も沢山あるじゃないですか!? だから、この世界のウルトラマンにも名前があったらなー……なんて」

 

 いや、ブレイブの名前は僕達が出会うからあったんですけどね! 

 当のブレイブは、周りに聞こえないように『やれやれ……』とか言って呆れてるし……。

 すると再び、シミズ隊長とミズキさんが助け舟を出してくれた。

 

「確かに、ウルトラマンはかなりの数がいるからなぁ。それにウルトラマンだけだったら、初代の方が有名だろう」

「そうですね。そう言う意味では、そろそろ彼に名前を付けて、それで呼ぶのがいいでしょう」

「あぁなるほど! それでユウキ君は、あのウルトラマンをブレイブって名前で呼んでるんだね?」

 

 僕はほっと胸を撫で下ろす。

 

「えぇ、はい。その、光の勇者……って事でブレイブと……」

「光の勇者、ブレイブかぁ……うん、格好良いね!!」

 

 咄嗟に思い付いた理由ではあるけど、どうやらニシハラさんは気に入ってくれたようだ。だが今度は、その隣で会話を聞いていたコバヤシさんが参加してくる。

 

「しかしそれでは、メビウスの強化形態と被るのでは?」

 

 ――僕も最初聞いた時にメビウスっぽいな、とか思いましたよ! って言うかコバヤシさん、鋭く痛い所を突いてきますね……! ほら今ブレイブからも『うぐっ……』とか聞こえたし!! 

 さっきは助けてくれた二人も、僕がどう返すのか見守っている。

 

「もー、そんな細かい事は気にしなくてもいいじゃないの、コバヤシ君。格好良いんだから! ね、ユウキ君?」

「へっ!? そ、そうですね……!」

 

 ブレイブの名前を気に入ったのか、意外な事にニシハラさんがそう言ってくれた。

 

「はぁ……隊長、副隊長も宜しいのですか?」

「ああ、良いと思うぞ。覚えやすい方が、人々にも浸透しやすいだろうしな」

「私もさほど気にはなりません」

「お二人が宜しいのでしたら、私は口出し出来ませんね……」

「それよりも、ブレイブの名前を決めたとして、周知させるにはどうするんですか?」

 

 ニシハラさんはコバヤシさんの事を気にしていないのか、彼が話しているに構わず質問する。

 

「ん? あぁ、それはこちらで通達しておくから、その辺りは任せてくれ!」

 

 と、シミズ隊長は答えた。多分、政府やマスコミ――それとテレビの制作会社にも、かな――に連絡するのだろう。

 それにしても、僕がうっかり口を滑らせてからこの形に落ち着けたのは、シミズ隊長とミズキさんの助けがあったおかげだ……。あとでお礼をしなくちゃね。

 これで一息つける――そう思い、再び椅子に腰を下ろそうとしたその時。突然、コバヤシさんが声を上げた。

 

「これは……隊長! アーストロンと思われる震源が移動を開始、再び市街地に向かっていると思われます!」

「ふむ、早いな……。よし、ミズキ副隊長とユウキ隊員はGuardクラウンで現場に急行!」

「「了解!」」

「ニシハラ隊員は航空隊に出撃要請、コバヤシ隊員はアーストロン出現の予想地区に避難指示……いや、緊急避難命令を出してくれ」

「はいっ!」

「了解しました」

 

 シミズ隊長の指示で全員が一斉に動き出す。僕とミズキさんは司令室を出て、Guardクラウンが止められている駐車場へ。オペレーターの二人も、各所へ連絡を始めていた。

 

 

      *

 

 

 陸戦隊(僕達)が街に到着する頃には、既にアーストロンが地上に姿を見せ、人々が逃げ惑っているところだった。しかしアーストロンのいる周辺は避難が完了したのか、先に到着していたGuard航空隊のF-2が機関砲による攻撃を始めている。

 ミズキさんは僕達の武器の射撃範囲まで接近して、車を止める。この辺りも、もう人はいないようだ。

 

「行くわよ」

「はい!」

 

 Guardハイパーに攻撃用レーザーカートリッジを装填する。ミズキさんの方は後部座席から、自衛隊でも扱われている自動小銃を取り出して肩に担ぐ。

 現状、ドラマの防衛組織が使うような武装は、僕が渡されたこのGuardハイパーだけだ。ミズキさんが持つサロメ星の技術を使って作られた物だが、それでも巨大な怪獣に対しては十分とは言えない。

 ――イチジョウさんが言う事も、確かに分かる。

 

「分かるけど……だけど!」

 

 Guardハイパーをアーストロンに向けて撃つ。やはり命中はするものの、こちらを気にする様子はなく、その歩みを止めない。

 隣でミズキさんも自動小銃で攻撃するけど、こっちは普通の武器だ。だからGuardハイパーより威力が低いのは当たり前で、全くと言っていい程にダメージを与えられずにいた。その事にミズキさんは、普段ではしない舌打ちをする。

 それでも手を休める事なく、アーストロンに向けて更に射撃していく。すると、僕とミズキさんのマルチシーバーに、ハセガワさんから通信が入る。

 

『航空隊から陸戦隊へ。これよりミサイルによる攻撃を開始する』

「了解しました」

 

 これを聞いて僕達は爆風を受けないように、建物の影に身を隠す。

 二機のF-2から一発ずつ発射されたミサイルは両方とも命中するが、それでもアーストロンは一時的に怯んで止まっただけで、完全に進行を止める事は出来なかった。

 アーストロンは反撃にと、マグマ光線を航空隊のF-2に向けて連続で放つ。二機は回避していくけど、それでもギリギリだ。

 

「ミズキさん!」

「……そうね、行きなさい」

「ありがとうございます! よし……ブレイブ!」

『ああ、行くぞ!』

 

 Guardハイパーをホルスターに収めて、両腕にブレスを出現させる。

 だけど変身しようとした僕のその頭上で、アーストロンが放ったマグマ光線が一機のF-2を(かす)めた。直撃は避けた為、すぐに爆発はしないけど、機体の後部から炎と煙を吹いている。

 マルチシーバーからハセガワさんが叫ぶのが聞こえる。

 

『イチジョウッ!』

『クソッ……――』

 

 イチジョウさんが乗る機体の高度が下がっていく。

 間に合え――! 

 

「うおぉぉぉッ!!!」

 

 イチジョウさんのF-2を追うように走りながら、右腕を前に出して変身する。

 

 × × ×

 

「クソッ……こんな所で……!」

 

 Guardian航空隊の二番機パイロットを務める彼――イチジョウ・ハルトは警報が鳴り響くコクピットで悪態をつく。

 ――せめて、あの怪獣と刺し違えられたなら……! 

 悔しさからか、脳裏にその思いが浮かぶ。しかし機体は推力を既に失い、墜ち始めていた。墜落するなら被害がなるべく少ない場所に――そう考えて機体を操る彼に、航空隊のリーダー、ハセガワ・カズヨシから通信が入る。

 

『イチジョウ、脱出できるか!?』

「脱出は出来ますが、このまま機体を落とせば街に被害を及ぼします。それだけは――」

『いいから脱出しろ!』

 

 イチジョウの言葉を遮ってハセガワは命令する。

 しかし運が悪い事に、アーストロンは墜ちていくF-2に向けて、もう一度マグマ光線を撃ち放った。脱出したとしても間に合わない。

 だがF-2とマグマ光線の間に、割って入ってきた光があった。その光はイチジョウの機体を抱くようにしてマグマ光線から守る。次第に輝きが収まると、その中から赤い巨人が姿を現した。

 

「……ウルトラマン」

 

 イチジョウの無事を確かめるかのように見ていたウルトラマンブレイブは、彼の機体を広い場所に置いて立ち上がり、アーストロンに振り向いて構えた。その後ろ姿を見たイチジョウは、自分はなんて無力なのかと思い知らされる。

 

「クソ……クソォォォッ!!!」

 

 

      *

 

 

 間一髪、イチジョウさんを助ける事に成功した。機体のダメージは思ったよりも酷い訳じゃないらしく、爆発もしないようだ。

 僕は後ろに迫るアーストロンに向き合って構える。だけど足元にまだイチジョウさんがいるから、ここで戦う事は出来ない。

 

「シァッ!」

 

 アーストロンを正面から飛び越えるようにジャンプをし、頭上を超える辺りで空中で身体を捻って頭を掴み、そのままの勢いで引き倒す。僕達(ブレイブ)が二回バク転をして距離を取るその間に、アーストロンは起き上がる。狙い通り、アイツの注意をこちらに引きつけられたようだ。

 

『ユウキ、今度は行けるな?』

「……うん、大丈夫!」

『よし!』

 

 今朝の事は完全に吹っ切れてはいない。だけどこれ以上、被害を出すわけにもいかない……。

 気を引き締め直して、アーストロンと向き合う。ブレイブにはガイアやコスモスのような力はない事から、倒す以外の選択肢がないのも今朝の戦いで分かっている。

 だから僕は、僕達は――

 

「ふぅ……はぁっ!!」

 

 せめて全力を尽くして、アーストロンを倒す。それが僕達に出来る、唯一の事だ。

 

「シュアッ! タァッ!」

 

 アーストロンの胸に左右でストレートパンチを打っていく。少し怯むものの、すぐに反撃として爪で攻撃してきた。だがこれを(くぐ)り抜け、背中に一撃蹴り込むと、その勢いでアーストロンは地面へと倒れる。

 今朝の戦いで弱点の角を折られたせいか、あの時よりもわずかにだけど弱っているような気がする。……アーストロンを長く苦しませない為にも、早く倒す方がいいだろう。だがブレイブブレードを使おうと、ブレスを構えたその時だった。

 ブレイブがいる所ともアーストロンが倒れた所とも違う、別の場所で突如、土煙が吹き上がる。

 

「何だ!?」

『新しい怪獣だと!?』

 

 そう。ここに来て新たに、もう一体の怪獣が姿を見せた。それも、ブレイブたち光の国がある宇宙にはいなかった怪獣だ。乳白色と黒の表皮、ゴメスを超える巨体と肉食怪獣らしい大きな口。

 肉食地底怪獣ダイゲルン。

 この怪獣を僕は知っている。いや、この世界だからこそ知っている、と言った方が正しいんだろうね。

 

『コイツは……?』

「そんな、ダイゲルンまでこの世界にいるのか!?」

『ダイゲルン? ユウキ、どんな怪獣なんだ?』

 

 ブレイブが目覚めてから、まだそんなに月日は過ぎていない。ダイナを知っていても、それに出てくる怪獣までは把握していなかった。

 

「コイツはウルトラマンダイナと戦った地底怪獣。この見た目通り、顎や筋肉が凄く強くて、あの大口でダイナを持ち上げた程だよ……」

『なるほど、以前戦ったゴメスよりも、手強い怪獣と言う事か』

「何よりダイゲルンは肉食で人間も狙うから、こっちも放っておけない……!」

『二体の怪獣が相手か……厄介だな』

 

 ブレイブに説明を一通り終えて、ようやく起き上がったアーストロンと新たに現れたダイゲルンの両者を見る。二体とも、互いとブレイブ(僕達)を見て威嚇していた。

 僕はどちらが先に動くか見ていると、ダイゲルンがアーストロンに向かっていく。

 アーストロンは近付いてくるダイゲルンに対してマグマ光線を放つ。しかしダイゲルンも口から火炎を放ち、それは相殺するどころか、アーストロンのマグマ光線を押し返してダメージを与えた。

 再び倒れたアーストロンに近付くダイゲルン。

 

「何を……ま、まさか……!?」

 

 立ち上がろうとするアーストロンを踏みつけ、更にダメージを与えたダイゲルンは、弱り動けなくなったアーストロンの首元に噛み付く。

 それによって断末魔を上げて暴れるアーストロンだが、ダイゲルンのパワーには勝てず、遂に沈黙した。

 

『アーストロンも弱ってはいたが、しかし……!』

「やっぱりあの大口は気を付けないとね……」

『捕まったら終わり、だな』

 

 ダイゲルンは動かなくなったアーストロンをそのまま放り投げると、今度は僕達に狙いを定めた。さっきみたいに口から放つ火炎で攻撃をしてくるが、これはバリアを使って防ぐ。

 コイツに接近するのは危険だけど、そうは言ってられない。

 ダイゲルンの胸に右足での飛び蹴りを仕掛ける。着地して畳み掛けるように、左足で腹部を蹴り、続けて右ストレートパンチを繰り出す。

 これにダイゲルンは怯んで後退(あとずさ)る。

 

「まだまだ!」

 

 飛び上がってダイゲルンの頭を殴りつける。更に追撃しようとするが、ダイゲルンの巨体から繰り出される体当たりのような頭突きで、逆に押し返されてしまった。それにより隙が生まれ、攻撃のチャンスを与えてしまう。

 ダイゲルンはその大口も驚異だけど爪も鋭く長い。その爪が、ブレイブの胸を切り裂く。

 

『ぐ、ぁ!』

「ブレイブ!」

『いや、この程度なら平気だ……!』

 

 そこまで深手にはなっていないようだ。しかし今の攻撃によって、地面に膝をついたのがマズかった。ダイゲルンがその大口を開けて、ブレイブに噛み付こうとしてきた。

 

「うわっ!?」

 

 ギリギリのところで顎を掴んで止める。目の前には唾液が大量に分泌された、ダイゲルンの大口。

 

『コイツ!』

「押し返せない……!」

『この体勢では無理だ! 何とかしなければ……』

「……っ! あれは!」

 

 カラータイマーが点滅を始め、もう限界だという瞬間、ダイゲルンの背中にハセガワさんのF-2から発射されたミサイルが命中する。ブレイブ(僕達)はこの隙を突いて、攻撃に怯むダイゲルンから離れた。

 

『何とか助かったな……』

「はぁ、はぁ……うん……」

 

 ブレイブの言う通りピンチから脱したものの、まだダイゲルンはピンピンしている。しかもこちらの残り時間はもう(わず)かだ。

 今の僕達では、ダイゲルンのあの身体をブレードで攻撃しても、一撃で倒すのは難しい。どうするかと考えていると、僕はふと、ある物を使う事を思いついた。

 

「ブレイブ、ウルトラ念力で物体を変化させる事って出来る?」

『……ああ、あまり巨大な物でなければ可能だ』

「よし!」

 

 ブレイブとのやり取りが終わると同時に、ダイゲルンから火炎が放たれる。これを回避するがダイゲルンには向かわず、そのままイチジョウさんのF-2の元へ。

 イチジョウさんは脱出してコクピットにいないのを確認して、僕はF-2にある一つのミサイルを手に取る。

 

『これを使うのか?』

「うん、そしてこれを……」

『……なるほど、()()にして使うんだな!』

「そういう事!」

 

 手にしたミサイルを回しながら、ブレイブがウルトラ念力で変化させていく。さっきまで普通のミサイルだった物が、ウルトラランスに似た槍状の武器になった。出来上がったランスにエネルギーを付与させる。

 

「よし……この一撃で!」

 

 ダイゲルンの胸に向けて全力で投擲(とうてき)する。

 

「シュアァッ!!」

 

 それは狙った場所へ、見事に直撃して爆発した。かなりのダメージを与える事に成功するものの、まだダイゲルンは倒れなかった。

 それならば、と即座にブレスにエネルギーを溜めて、ランスが命中した部分にブレイブシュートを撃ち放つ。

 

「ハッ!」

 

 ブレイブシュートも同じ場所に命中し、遂にダイゲルンは倒れ大爆発を起こした。

 だけどこれで終わり、という訳じゃない。ダイゲルンに倒された、アーストロンがまだその場に残っている。そのアーストロンに近付いてみると、驚いた事に、まだ少しだけ息があった。

 

『……ユウキ』

「楽にしてあげよう……ブレイブ」

『……ああ、そうだな』

 

 空に運ぶため持ち上げようと、更にアーストロンに近付いた。しかし突如、背後から火炎らしき攻撃に吹き飛ばされる。

 

『何だ!?』

「また別の怪獣!?」

 

 攻撃してきた方に目を向けると、そこには三体目の怪獣がいた。

 アーストロンよりも大きな頭頂部の角、鋭利な牙と爪、そして刺の生えた(こぶ)が先端にある長い尻尾。宇宙凶険怪獣ケルビムだ。さっきの攻撃は、ケルビムが放った火球“弾道エクスクルーシブスピット”だろう。

 

「何でコイツがここに……?」

『恐らく犯人は、アイツだ』

「え?」

 

 ブレイブにそう言われ空を見上げる。すると何もいなかった場所に、ゲルゼの宇宙船が現れた。

 

「ゲルゼ……」

「ご機嫌よう、ウルトラマンブレイブ」

『このケルビム(宇宙怪獣)は貴様が使役しているのだな?』

「ええ、その通りです」

 

 もうブレイブのエネルギーは残り少ない。そんな時に、新しく現れたケルビムを相手にするなんて無理だ……。

 しかしケルビムはあれ以降、攻撃をしようと動かない。

 

「警戒しなくても、今回は貴方達と戦うつもりはございません。そこに倒れている怪獣を、こちらで引き取ろうかと思いましてね」

『何?』

「――まさか!」

 

 ゲルゼは以前、ブレイブに地球の怪獣も従える事が出来るかと聞かれ、それに対して容易(たやす)い事だと答えた。引き取るというのがその事だとしたら……! 

 すぐに起き上がってブレイブシュートをアーストロンに撃とうとするが、ケルビムの火球と“超音速クラッシャーテイル”と呼ばれる長い尻尾の一撃で妨害されてしまう。アーストロンは光となってゲルゼの宇宙船に回収され、僕達は阻止する事が出来なかった。

 

「ここで貴方達を倒してしまっても構いませんが、それではゲームとして面白くありません。今回はここで失礼致します」

『ま、待て!』

 

 ゲルゼはそれだけを言うと、ケルビムも回収して再び姿を消した。

 

「く……」

『……ユウキ、私達も一体化を解除しよう』

「あぁ……」

 

 ブレイブに促されて僕は元の姿に戻る。だけどすぐにはミズキさんのところには戻らず、ダイゲルンが倒れた場所と、さっきまでアーストロンが倒れていた場所を見ていた。

 

『ユウキ、大丈夫か?』

「うん、体は大丈夫だよ」

『体もだが、君の気持ち……心の方だ』

「……そう、だね」

 

 僕が今朝、アーストロンとの戦いに集中して倒していれば、こうはならなかったのかもしれない。その事を今悔やんでも、起こった事の結果は戻らない……。

 きっとゲルゼは、アーストロンを完全な状態にして戦いに出してくるはずだ。なら、僕の――僕達のする事は一つ。

 

「ブレイブ……ゲルゼがあのアーストロンが出てきたら、今度こそ全力で戦う!」

『……ああ、私達が出せる全力で、奴を――アーストロンをゲルゼの支配から解放するんだ』

「うん、やろう! 僕達で!」

『その意気だ!』

 

 × × ×

 

 あれから少ししてミズキさんのところに戻ると、そこにはイチジョウさんの姿もあり、この場の後処理は一旦、自衛隊に任せて、僕達は基地に戻る事になった。イチジョウさんの機体の回収は別のチームがやるとの事らしい。

 

「戻りました」

「ええ、お疲れ様。イチジョウ隊員、貴方は後ろに」

「……了解です」

 

 ミズキさんに促され、イチジョウさんはGuardクラウンの後部座席に乗り込む。

 運転席に乗ったミズキさんは、マルチシーバーで司令室に通信を取った。

 

「こちらミズキ。イチジョウ、ユウキ両名と共に、これより基地に戻ります」

『了解しました』

『シミズだ。みんな無事だな?』

「はい、全員無事です」

 

 シミズ隊長はこの報告に「良かった」と胸を撫で下ろす。するとそこに、イチジョウさんのマルチシーバーにハセガワさんからの通信が入る。

 

『イチジョウ! 怪我はないか!?』

「申し訳ありません、大事な機体を……」

『機体の事はいい! お前が無事に帰ってきてくれれば、それで良いんだ!』

「……はい」

『はぁ……。イチジョウ、戻ったら説教の続きだ」

 

 そう言ってハセガワさんは通信を終える。

 

『ハセガワ君も大変だな……』

「……被害などの詳細は戻ってから報告書にします」

『ん、分かった。気を付けて帰って来い』

「了解」

 

 ミズキさんの方もシミズ隊長との通信を終えて、基地へ向けて車を発進させるのだった。

 




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第5話「ブレイブツインブレード」

またしても大変お待たせしました。
前回更新時は劇場版ジード公開前だったのに、今回は劇場版ルーブ公開前となってしまいました……。
今回の話の後、時系列としては番外編二作に続きます。


 Guardian基地本部の一角にある、特殊訓練室。

 ここは僕が訓練で使ったり、ミズキさんが作った試作品の装備をテストしたりする場所だ。

 今は僕が両腕にブレイブブレスと、更に右腕のブレスからブレイブブレードを出して斬撃の特訓をしていた。

 

「ふっ! ハァッ!!」

『良いぞユウキ! そのまま――』

「ヤァッ!!」

 

 右腕を突き出して刺突する動きでフィニッシュ。少し間を置いてブレードとブレイブブレスを消して休憩する。

 

『ブレードの扱いもかなり慣れてきたようだな』

「まぁね」

 

 僕とブレイブが一つになってからもう四度も一緒に戦ったんだ。

 完全に慣れた訳じゃないけど、それでもウルトラマンとしての戦い方は体が覚え始めてきている。

 まぁ技を上手く扱えるのはブレイブと技の記憶を共有しているのと、彼自身の経験のおかげではあるんだけど。

 

『そろそろ“ツインブレード”も使えるんじゃないか?』

 

 ツインブレード。

 普段は両腕にあるブレイブブレスの片方からのみブレイブブレードを出して攻撃している。それを両方のブレスからブレードを出して、二刀流の状態で戦う技だ。

 当然強力な技だけど、これには欠点もある。

 

「確かに使えるかもしれないけど……エネルギーの消費量は増えるんだよね?」

『そうだな。今の私達が使えたとしても、一分が限界だろう』

 

 ブレイブ自身は眠りから目覚めて、ウルトラマンからすればそれほど時間は経っていない。

 最初に比べて変身した時のエネルギー消費も安定してきていると言っても、流石にこればかりは抑えられない。

 変身した後に巨大化しなければ、もう少し消費は抑えられるみたいだけど……。

 

「使いどころを考えないと逆に危険になる、って事だね」

『ブレイブシュート以外の切り札だな』

「片方のブレイブブレードだけでも充分倒せるように鍛えて、極めればなんとかなるんじゃない?」

『ユウキ、簡単に言うがな……』

 

 ブレイブは少し呆れ気味に言う。

 

「言うほど簡単じゃない、でしょ? 分かってる。だからこうして特訓してるんだよ!」

『……はぁ、分かっているならいいが』

「さてと、休憩は終わり! それじゃあ今度は――」

 

 休憩を終えて特訓を再開しようとした瞬間、訓練室の扉が開かれる。

 誰が来たのかと思っていたら、姿を見せたのはミズキさんだった。その手にはアタッシュケースがある。

 

「訓練中に悪いわね」

『ミズキか』

「どうしたんですか?」

「試作品としてだけど、これを作ったから実戦で使う前にテストして欲しいの」

 

 そう言ってミズキさんがアタッシュケースを開けた。

 中に入っていたのは何かのパーツ……いや、これって……! 

 

「GuardハイパーをGuardライフルにする為の追加パーツよ」

「やっぱり……」

「前回――アーストロンとの戦いでハイパーガンの効果が薄いのが分かったわ。まぁ当然ね」

 

 それで、とミズキさんが続ける。

 

「陸戦隊の対怪獣攻撃装備として、このGuardハイパー用のライフル換装パーツを作ったの」

「確かに、これなら怪獣相手にも通用しそうですね」

「隊長にも既に承認してもらってるし、後はテストをして問題がなければ、すぐにでも実戦でも使えるわ」

 

 僕は特訓のために置いていたGuardハイパーを手にして、差し出されたケースからパーツを受け取っていく。

 始めにスコープが一体化しているストックパーツを付けて、その後バレルパーツも取り付ける。

 

「そこまで重くならないんですね」

「元々Guardハイパー本体が軽い上にエネルギーカートリッジ方式。その換装パーツもハイパーガンと同じ材質で作ってるわ」

「これなら僕でも問題なく扱えそうです」

「それじゃあ早速テストを頼むわね」

「はい!」

 

 訓練室内にある射撃訓練用ターゲットの前に立って構えた。

 

 × × ×

 

 何度かの射撃テストを終え、僕はGuardライフルのパーツをアタッシュケースに戻す。

 結果を言えば、文句の一つも出ないほど完璧だった。

 

「問題は無いみたいね」

「ええ、これならブレイブに変身する前でも充分戦えます!」

「あとはこれが怪獣相手にも通用すれば、地上からの有効な攻撃手段も増えるわ」

 

 僕からアタッシュケースを受け取ったミズキさんは、訓練室を出る前に振り返った。

 

「あぁそれともう一つ。そろそろパトロールの時間だけど、忘れてないわよね?」

「えっ!?」

 

 ミズキさんの言葉に、僕は時計に目を向ける。

 時間はまだ三十分ほど前だったけど、僕は完全に忘れて特訓を続けるところだった。

 

「今度から気を付けるように」

「はい……」

「それじゃ、後でね」

 

 こうしてミズキさんは訓練室を出た。

 その姿を見てから、僕は手にしたタオルで汗を拭いていく。

 

『フッ、今度からはタイマーをセットしなければな』

「……ブレイブは気付いてたでしょ」

『さて、どうだろうな?』

「もう……!」

 

 

      *

 

 

 着替えを済ませて、ミズキさんが乗るGuardクラウンに僕も乗り込む。

 

「ギリギリね」

「すみません……」

「さっきも言ったように、今度から気を付けていればそれでいいわ。それじゃ、行くわよ」

 

 ミズキさんはGuardクラウンを発車させ、基地を出る。

 僕達は少し前から行われている、東京の定期パトロールに向かっていた。

 目的の一つとして、ゲルゼの宇宙船が現れた際に即応するというのがある。

 だけどこの他に、怪獣の仕業と思われる謎の事象や、ゲルゼとは別に驚異となる宇宙人の存在がないか等の調査も含まれている。

 

「でも本当にゲルゼと別の宇宙人なんているんですかね?」

「あら、今あなたの隣にいる私は地球人だったのね」

「……いえ、サロメ星人です……」

 

 そうだった。

 ミズキさん――って言うかサロメ星人自体がだけど、人間と見た目が変わらないから、ついつい宇宙人って事忘れちゃうんだよね……。

 

『おや、以前は地球人だと言ってたじゃないか?』

「そんな事もあったわね」

 

 ブレイブの言葉にミズキさんは笑いながら返す。

 なんだかここ最近、こんな感じでミズキさんの雰囲気が柔らかくなったような気がする。

 僕がGuardianに入った頃――いや、ミズキさんと初めて会った時みたいな堅い言葉遣いは、任務での真面目な時ぐらいだ。

 

「でも確かに、宇宙人と言っても悪さをしないなら普通の人と同じですよね」

「ええ。このパトロールで見つける事は出来なくても、私達の存在そのものが抑止力となる効果も狙っているわ」

 

 今の段階でどれほどの宇宙人がいるのかは分からない。

 ならば無理に探すよりもこうしてGuardianの存在を世間に見せる事で、悪さをしようとする宇宙人を減らそうという事らしい。

 ……スズに見られなきゃいいけど。

 

「それにしても、ゲルゼの方の宇宙船は見つからないんですか?」

「無理ね。あの宇宙船にはバリアが張られているのは覚えているわね?」

「はい。戦闘機の攻撃だけじゃなく、ブレイブの攻撃も防がれました」

「あれは防御以外にも、レーダーに映らないようにさせるステルス機能もあるみたいね」

 

 なるほど、それでこうして探していても、あの宇宙船を簡単に発見する事が出来ない訳だ。

 

『いるとすれば、月の裏か異次元に潜んでいるかのどちらか、か?』

「どちらも可能性はあると思うけど、私にも正確な場所は分からないわ。現状だと特定は難しいもの」

「やはり向こうが現れるまで待つしかないんですね……」

 

 ゲルゼが現れるまで何も出来ないもどかしさを感じていると、車内に取り付けられていたGuardマルチパッドに反応があった。

 

「これは……ゲルゼです!」

『来たか』

「噂をすれば、ね……貴方は基地に連絡」

「はい!」

 

 Guardマルチシーバーを取り出して基地に通信を繋ぐ。

 

「こちらユウキ、ゲルゼの宇宙船が出現しました!」

『ああ、こちらでも確認している。先程、航空隊に出撃命令を出した。二人は到着まで住民に避難を呼びかけてくれ』

「了解」

「了解です!」

 

 通信を終えると、ゲルゼの宇宙船から光が一つ降りてきた。

 それは地上の近くまで来ると大きくなり、光が収まるとそれは怪獣となっていた。

 

「あの怪獣は先日の――」

「アーストロン……!」

 

 それは僕が戦うのを躊躇(ためら)い、倒しきれずゲルゼに回収された凶暴怪獣アーストロンだった。

 ミズキさんはGuardクラウンを停車させて降りる。

 

『……ユウキ』

「大丈夫だよブレイブ……僕はちゃんと戦える!」

 

 僕も続いて降りると、ミズキさんがトランクからアタッシュケースを取り出していた。

 それはパトロールの前、訓練室で見た物だ。

 

「もしかしてそれって……」

「ええ、ライフル換装パーツよ。貴方はこれを使いなさい」

「これが実戦テストって訳ですね」

「そういう事になるわね」

 

 受け取ったアタッシュケースからパーツを出して、Guardハイパーに取り付ける。

 全てのパーツを装着して、問題が無いか確認をする。

 

「さ、準備が出来たら行くわよ」

「はい!」

 

 既にアーストロンは暴れていた。それから逃げてくる人々をミズキさんが誘導している。

 僕は手にしたGuardライフルでアーストロンを狙う。

 まずは腹や胸の辺りを狙って撃っていく。

 命中した瞬間は少し反応した程度で、大きく怯むという事はなかった。

 

「やっぱり怪獣の表皮は厚いか……」

 

 Guardライフルの狙いを胴体部から頭部に切り替える。

 その時、ある事に気付いた。

 

「あれ、あのアーストロンの角……」

『どうかしたか?』

「あの角、イチジョウさんの攻撃で折られたの覚えてない?」

 

 以前の戦い――僕がアーストロンを倒す事に迷っていた時に、アーストロンの特徴的な一本角はイチジョウさんが乗る機体によって先端が折られた。

 

『そう言われればそうだな……』

「でもあのアーストロンの角は、その攻撃で失った部分が再生してるんだ」

『それがレイオニクスの力か、ゲルゼの力という訳か……』

「って言う事は、初めて戦った時に倒しきれなかったベムラーも……厄介だね」

『どちらにせよ、今は目の前のアーストロンだ』

 

 ブレイブの言う通りだ。

 改めてアーストロンの頭部――弱点の角に狙いを定める。

 流石にここを攻撃されれば怯むはず。そう願い、二発を撃つ。

 しかし――

 

「なっ!?」

 

 発射した二発のレーザーは確かに角に命中する。

 しかしGuardライフルのレーザーは、弱点であるはずの角に弾かれていた。

 

「確かに命中したはずなのに――……うわっ!?」

 

 思わず驚いていると、なんと今度はその角の先端からレーザー攻撃を放ってきた。

 なんとかその攻撃から逃れると、アーストロンは僕に興味をなくしたのか、他の場所を破壊していく。

 そこへミズキさんが駆け寄ってくる。

 

「無事ね。これを見なさい」

 

 そう言って見せてきたのはGuardマルチパッドで撮影したアーストロンの頭部だ。

 

「これは……」

「解析の結果、攻撃を弾いたのはこれが原因ね」

 

 画面には角を覆うシャッターのような物が(うつ)されている。

 角の付け根辺りにはそのシャッターの基部らしき物があるのも分かる。

 

「機械化されてる……?」

「ええ、恐らく弱点を守る為にゲルゼが改造したわね。並みの攻撃だと歯が立たないわ」

 

 ミズキさんがアーストロンに目を向けると、Guardian航空隊のF-2が二機、到着と同時にアーストロンの角へミサイルによる攻撃をする。

 しかしこれも、角のシャッターによって防がれてしまった。

 

「やはりあのシャッターがある限り、こちらの攻撃は効果なしね」

『ユウキ』

「……行こう、ブレイブ。ミズキさん」

「民間人の避難誘導は私に任せない」

「ありがとうございます!」

 

 両腕にブレイブブレスを出現させて走る。

 

「ブレイブ――――ッ!」

 

 × × ×

 

「シュアッ!」

 

 変身すると同時にアーストロンの背後から飛び蹴りを繰り出す。

 ヒットすると同時に宙返りをして着地、倒れたアーストロンに向かって構える。

 

「まずはあの機械化されてる角をどうにかしないとね」

『ああ、一気に行くぞ!』

 

 起き上がろうとするアーストロンへ走り出そうとした。

 しかしゲルゼの宇宙船からもう一つの光が降りてくると、それは怪獣の形となって僕達に火球を放ってきた。

 

『何だ!?』

「アイツは……!」

 

 アーストロンの隣に降りてきたのは、前回の戦いでも姿を見せた宇宙凶険怪獣ケルビムだった。

 

『いきなり二体を同時に相手しなければならないとはな……!』

「ブレイブも分かってると思うけど、この距離でもケルビムは尻尾に注意しないとね」

『あの一撃は前回も経験しているからな。――来るぞ!』

 

 起き上がっていたアーストロンが口から炎を放ってくる。

 これをブレイブバリアで防いでいると、無防備な側面をケルビムの尻尾――超音速クラッシャーテイルで襲われ、吹っ飛ばされてしまった。

 

『クッ……!』

「ブレイブ!」

『私は心配ない。ユウキは大丈夫か?』

「うん、僕も大丈夫。それよりも、ホントにこの状況どうしようか……」

 

 強化されたアーストロンだけでも大変なのに、そこにケルビムまでいるとなると一筋縄ではいかないのは確実だ。

 どう動くかと考えていると、ハセガワさんとイチジョウさんがそれぞれに攻撃していく。

 

「今だ!」

 

 アーストロンとケルビムが空中に気が向いた所を見て、接近する為に走り出す。

 ブレイブが近付いてくるのに気付いたケルビムが超音速クラッシャーテイルを振ってくるが、これをジャンプして回避する。

 しかし今度はアーストロンが、口の火炎と機械化された角のレーザーの同時攻撃による迎撃で、僕達は撃ち落とされた。

 

「この連携を何とかして崩さないと……!」

『流石に二体同時ともなるとな……』

「……ブレイブ、訓練室での会話覚えてるよね?」

『ああ』

 

 ブレイブと交わしながら立ち上がる。

 

()()()、使ってみようかと思う」

『……確かに、この状況なら良いかもしれないな』

「決まりだね」

『だが制限時間には注意しろよ?』

「分かってるよ!」

 

 再びアーストロンとケルビムに向かって走る。と同時に、ブレイブスラッシュをケルビムの頭部に撃ち放つ。

 ブレイブスラッシュが命中してケルビムが怯んでいる間に、アーストロンの懐に飛び込む。

 

「セアァッ!」

 

 右腕のブレイブブレスからブレイブブレードを出現させ、アーストロンの胴体を斬りつける。

 その僕達の背後から、ケルビムが鋭利な爪を使って攻撃しようとしていた。

 それを左腕からも出現させたブレイブブレードで受け止める。

 ブレイブツインブレード。今、この状況を打開するにはこの技しかない。

 

「ぶっつけ本番だけど……!」

『この状態でいられる内に片方を倒すか、それが出来なくても、せめて弱らせるぐらいはさせないとな』

「そうだね!」

 

 爪の一撃を受け止められたケルビムに航空隊の攻撃が入る。

 

「ハァッ!」

 

 二機のミサイルを受けて後退(あとずさ)ったケルビムに、そのまま受け止めるのに使った左腕のブレードを一閃した。

 ブレイブの後ろから再びアーストロンが迫るが、振り返りながら回し蹴りを繰り出して転倒させる。

 倒れたアーストロンと入れ替わるように、今度はケルビムが頭部の巨大な角――裂岩マチェットホーンを振り下ろしてきた。

 

「くっ!」

 

 なんとか上体を後ろに反らすようにして避ける。

 体勢を戻す勢いを利用して、身体を半回転させながら両腕のブレードでケルビムに斬撃。さらに返してもう一度斬る。

 

「ディィヤァァァッ!!」

 

 そして渾身の力を込めてケルビムの胸をX字に切り裂く。この連続攻撃を受けたケルビムは堪らず倒れ込む。

 止めを刺そうとしたけど、その後ろから機械化されたアーストロンのレーザー攻撃が僕達を襲った。

 

『今ケルビムは弱っているな……アーストロンをどうにかしよう』

「そうだね……!」

 

 アーストロンの弱点だった角に攻撃が簡単に通らない以上、そこ以外を攻撃するか、シャッターの基部と思われる部分を破壊しないといけない。

 シャッターの基部を破壊すれば、弱点である角へ攻撃が通るだろう。しかしこちらも狙うのは難しくて簡単ではなかった。

 そこ以外、身体を攻撃するなら簡単だ。しかし――

 

「しまった!」

『時間か……!』

 

 ツインブレードの限界時間が来て、両腕のブレイブブレードが消えてしまった。同時にカラータイマーも鳴り始めている。

 このタイミングでアーストロンは再び口の炎と角のレーザーを同時に放ってきた。

 僕達は咄嗟に出したバリアで防ぐ事には成功する。しかし動けない。

 

『このままでは……!』

 

 炎とレーザーに圧され、バリアも消えようかという瞬間、アーストロンに対して再度F-2二機による攻撃が行われた。

 それによって怯んだ隙を突いて、アーストロンの頭上を飛び越える。

 

「そこだッ!」

 

 着地すると同時に放ったブレイブスラッシュが、角を覆っていたシャッターの基部を破壊する。

 破壊された基部パーツは小さな爆発を起こしながら脱落し、それに伴って角のシャッターも剥がれ落ちた。

 

「ハンドブレード!」

『ああ!』

 

 右手にエネルギーを集中させて飛びかかる。

 振り返ったアーストロンの角を、すれ違いざまにエネルギーを纏わせた手刀で叩き切った。倒れるアーストロンとは反対に、ケルビムが弱りながらも起き上がってくる。

 

『ユウキ!』

「一気に決める!」

『よし、行くぞ!』

 

 ケルビムの腹部にストレートパンチを叩き込む。衝撃で下がってきた頭の裂岩マチェットホーンと首を抱えるように掴み、アーストロンが倒れる場所に投げてからブレイブシュートのチャージを始める。

 もう一度立ち上がろうとしていたアーストロンの上にケルビムが折り重なるようにして倒れた。

 

「ハァッ!」

 

 動けないアーストロンとケルビムに向けて、ブレイブシュートを発射する。重なっていた二体はそのまま光線を受けて爆発した。

 それと同時に、上空にいたゲルゼの宇宙船も姿を消したようだ。

 

 

      *

 

 

 変身を解除した僕は、アーストロンとケルビムが倒れていた場所に向かって手を合わせる。

 

『ユウキ――』

「……帰ろう、ブレイブ」

『……もう、いいのか?』

「うん。もう大丈夫」

 

 その場所に背を向けて、ミズキさんが待つ場所へと向かう。これで僕なりのけじめ(……)は付けたつもりだ。

 今の僕には怪獣を倒す以外の方法はない。守る為に、迷ってはいられない。

 

「でも――」

 

 いつか僕にも、怪獣を倒す以外の方法が見つけられるかもしれない。

 その時までは――

 

「諦めない」

 

 × × ×

 

 ゲルゼが乗る宇宙船の中。王座に座る彼は、モニターに映し出されたウルトラマンブレイブの戦いを見ていた。

 

「いやはや、流石はウルトラマンブレイブ。同時に二体の怪獣を相手しても退(しりぞ)けてしまうとは」

 

 ゲルゼはどこか満足そうに言う。

 かと思えば、手にしていた黒い棍棒(バトルナイザー)の中にいる数体の怪獣に目を付けた。

 

「しかし残念ですが、そろそろ彼には退場して頂きましましょうか……フフフ……」

 

 彼はモニターの画面を切り替え、ウルトラマンブレイブを倒す為の準備に入る。

 

「彼のデータはありますが万全の物にしておきたいですねぇ……。まずはこの子に頑張ってもらいましょう」

 

 そう言ってゲルゼが選んだ怪獣は、光の国出身であるブレイブは知らない、別世界にいた宇宙怪獣と同種であった。

 




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第6話「ブレイブ暗殺計画(前編)」

久しぶりの更新です。


 ある日のGuardian司令室。

 

「みんな揃っているな」

 

 僕を含めたGuardianの隊員達が待機していると、シミズ隊長とミズキさんが入ってきた。

 ミズキさんはアタッシュケースを持っている。僕はそれに見覚えがあった。

 

「早速だがミズキ副隊長、始めてくれ」

「はい。では現在行っている、Guardianの装備品更新の説明を始めます」

 

 ミズキさんはシミズ隊長に応えてそう言うと、手にしていたケースを一度置いて指令室のモニターを起動させる。そこには、新しい装備の搭載作業をしている最中のGuardクラウンが映し出された。

 

「まず陸戦隊から。Guardクラウンの車体上部に、二連装のレーザー砲を搭載。さらに怪獣の攻撃を防御する、バリアシステムも追加しています」

「レーザー砲の部分はダイナのゼレットみたいですね」

「改修案の大部分であるレーザー砲は、そのゼレットを参考にしているからな」

 

 僕の一言にシミズ隊長が答える。

 

「なるほど……このGuardクラウンもそうですけど、Guardハイパーとかも他の防衛チームの物に参考にしてるのって……」

「簡単に言ってしまえば、作りやすいのよ」

 

 ミズキさんはそう口にして、さらに説明を続けた。

 

「五年前、ゲルゼが行った予告の段階で準備をしていれば、独自の装備なっていたかもしれないわ。でも、私達はそれをしなかった――出来なかったと言うのが正確だけど……とにかく、今の私達には時間的余裕が無いの」

「故に我々Guardianは元々ある物を使いながらも、怪獣に対抗出来る装備を早急に用意している訳だ。幸いにも、この世界には特撮ドラマとしてではあるが、映像として数々のウルトラマンと防衛チームが戦った記録がある」

「その記録から応用して、短時間で扱える装備を作る。それが現状の強化策よ」

 

 ミズキさんとシミズ隊長はひとしきりの説明を終える。

 確かに僕が初めてブレイブとなってベムラーと戦った時も、援護してくれたのは自衛隊の戦闘機や戦車だったのを覚えている。

 それにGuardianの中でも、僕が使っているハイパーガンとその強化用のライフルパーツ以外は自衛隊の物と同じ装備だった。

 と、ミズキさんは「話を戻します」と言って新装備の説明を進める為に、モニターの映像を切り替える。そこには、航空隊のF-2とミサイルが映し出された。

 

「これまで航空隊の機体に装備されていた通常のミサイルですが、こちらの弾頭をさらに威力の高い物へと換装しました」

 

 そのまま続けて、ミズキさんはもう一度画面を切り替える。

 

「また、この新型弾頭のミサイルと同様の威力を有するMk.82通常爆弾を準備しています。現在はまだ一機分しかありませんが、数日の内に十分な数が用意出来ます」

「Mk.82は全てGCS-1装備の物で運用する。これで以前よりも怪獣に対して有効的な攻撃を行えるはずだ」

「あの、GCS-1ってなんですか……?」

「ん? ああ、ユウキ君は知らなかったな」

 

 僕の質問にシミズ隊長は納得したように頷く。

 

「91式爆弾用誘導装置、その別称がGCS-1よ。無誘導爆弾にこれを取り付ける事で、本来は自由落下する爆弾に攻撃目標への誘導機能を持たせられるようになるわ」

 

 それに続けてミズキさんが説明をしてくれた。

 

「なるほど、そういう物もあるんですね」

「これで我々だけでも怪獣を倒せますか?」

 

 そう言ったのはイチジョウさんだった。

 イチジョウさんはブレイブに――いや、ウルトラマンという存在自体に頼らずに怪獣を倒そうとしている。その理由を知るには、やっぱり直接話を聞くしかないかもしれない……。

 

「しっかりと怪獣の弱点を突けば可能だろうな」

「ですがこれ一つで倒せるほど、怪獣は弱くはありません。それは分かっていますね?」

「……はい」

 

 ミズキさんの問いに答えたイチジョウさんの表情は渋々、といった感じだった。恐らく心の中では納得していないんだろう。

 それでもその答えを聞いたミズキさんは装備の説明を続ける。

 

「陸戦隊、航空隊の主な装備更新は以上です。最後に、ユウキ隊員が使用しているGuardハイパーも量産化が完了、各隊員分のGuardハイパーが配備されます」

 

 説明をしながらさっき置いていたアタッシュケースを開ける。中にはGuardハイパーと専用のカートリッジが三セット分収められていた。

 

「今ここにあるのは私と、航空隊のハセガワ、イチジョウ両隊員の分です」

「現場に出ない私やオペレーターのGuardハイパーは別途、出動時に装備する形になる。コバヤシ君とニシハラ君には射撃訓練に参加してもらう事が増えるだろう」

「う゛っ……」

「了解しました」

 

 コバヤシさんが普段と同じ様子で返答しているのに対して、ニシハラさんは「射撃苦手なのにぃ~……」と愚痴をこぼしている。

 ミズキさんとGuardハイパーを受け取ったハセガワさん、イチジョウさんは専用のベルトを腰に巻いてGuardハイパーとカートリッジをそれぞれ収めた。

 

「現状の装備更新は以上です。では隊長、私はGuardクラウンとF-2の換装状況の確認に戻ります」

「分かった。だが後でコーヒー一杯付き合ってくれよ?」

「了解しました」

 

 答えながら優しく笑ったミズキさんは指令室を後にする。

 

「では各自も自由にしていいぞ」

「それなら早速射撃訓練に行きますよ、ニシハラさん」

「えぇっ!? 嘘でしょぉ!?」

「おう、訓練所にもGuardハイパーはあるからそれを使ってくれ」

「分かりました」

 

 射撃訓練に向かうコバヤシさん。ニシハラさんも文句を言いながらではあるけど、それを追うようにして指令室を出て行った。それからすぐにイチジョウさんも……。

 僕はイチジョウさんの後を追う。

 

「イチジョウさん、少し話があります」

「……」

 

 × × ×

 

 僕とイチジョウさんは誰もいない屋上で話をする事にした。

 

「それで、話とはなんだ?」

「単刀直入にお聞きします。イチジョウさんは何故、ウルトラマンに頼らずに怪獣を倒そうとするんですか?」

「何を言うかと思えば……」

「何か理由があるんじゃないかって思うんです。もしそうなら、僕はその理由を知りたいんです」

 

 ウルトラマンとしてブレイブと一緒に戦う僕には、イチジョウさんがどうしてそんな戦い方をするのか知ってなきゃいけないと思う。だから……。

 イチジョウさんは一つ息を吐く。

 

「それを知って君はどうする?」

「それは……正直、分かりません。それでも何か力になれるなら……」

「力に、ね……」

 

 そう呟いたイチジョウさんは鉄柵に近付くと、そこに手をついて空を見上げた。

 

「――君はこのGuardianについてどう思う?」

「どう、と言うのは……」

「ウルトラマンがいるこの地球に、必要な存在だと思うか?」

 

 イチジョウさんのこの質問で僕はある事を思い出す。それは僕がこのGuardianに来る前、組織が結成されたニュースが出た後のネットの書き込みだ。

 ウルトラマンがいるから必要ない、出動する機会があるのか、怪獣を倒せる気がしない、そんな感じの書き込みが幾つもあった。

 きっとイチジョウさんはそういう事を知っているか、もしくは自分自身でそう思っているんだと思う。だからあんなに必死で戦っていたんだろう……。

 

「僕は必要だと思っています」

「以前にも聞いたが、もしあのウルトラマンが倒されたら君はどうする?」

 

 それはアーストロンと一度目の戦いで逃がしてしまった後に聞かれた事だ。あの時は答える事が出来なかったけど……。

 

「その時は……最後まで諦めません」

「何故だ?」

「人間が諦めずに戦い続けるから、ウルトラマンはその力を貸してくれる。僕はそう信じています。だから僕はこのチームが必要だと思っていますし、きっとウルトラマンも――ブレイブもそんな僕達を信じて戦ってくれると思ってます」

「……」

「それに例え倒れても、彼らは何度も立ち上がって勝ってきましたから」

 

 だから僕も……。

 

「だがそうして人々を守るのは結局ウルトラマンの役目という訳だ」

 

 どこか諦めたようにイチジョウさんは言う。

 確かに怪獣を倒すのはそのほとんどがウルトラマンだ。でもその全てがウルトラマン一人の力だけという訳じゃない。

 

「ウルトラマンだって、いつも一人で戦っている訳じゃありません。Guardianと同じような防衛チームが怪獣を倒したり、ピンチに陥ったウルトラマンを助けて相手を倒すきっかけを作ったりしています」

「それはテレビの中の話だろ?」

「ウルトラマンは勿論、怪獣や宇宙人が現実の存在なんです。だから、テレビの中の話も本当の事かもしれないと、僕は思っています」

 

 実際ブレイブはメビウスの同期だし、他の宇宙のウルトラマンであるダイナが戦った怪獣だって出てきたんだ。だからこの世界で特撮として知られているウルトラマン達の戦いも現実にあったはずだ。

 

「それにハセガワさんやイチジョウさんだって、ウルトラマンを助けたじゃないですか」

「俺達が……?」

「これまでに出てきた怪獣との戦いで、お二人の攻撃があったからブレイブは勝てたと思います。エレキングやダイゲルン、それにこの前のアーストロンとケルビムとの戦いだって航空隊の援護があったからチャンスを掴めたんです」

「俺達の攻撃で……」

 

 イチジョウさんがそう呟いた瞬間、基地の警報が鳴り響いた。それと同時に僕とイチジョウさんのGuardマルチシーバーに通信が入る。

 

『ゲルゼの宇宙船が現れた! ミズキ副隊長、新装備の搭載状況はどうだ?』

『陸戦隊、航空隊共に完了しているのでいつでも行けます。ですが先程も説明した通り、Mk.82は一機分しかありません。どちらに搭載させますか?』

『今回はG1(ガード・ワン)だ』

『了解です』

『では陸戦隊、及び航空隊は現場に急行! 怪獣の出現に備えろ!』

『『「「了解!」」』』

 

 シミズ隊長の号令に僕は走ろうとする。するとイチジョウさんから声をかけられた。

 

「カガヤ隊員、話の続きはまた今度だ」

 

 そう言えば、まだイチジョウさんにした質問の答えを聞いていなかった。

 でもこう言ってくれるって事は、きっとその理由を話してくれるのだろう。

 

「はい!」

 

 僕はそう返事をして屋上を後にした。

 

 

      *

 

 

 ミズキさんが運転するGuardクラウンでゲルゼの宇宙船が出現した地点へと到着した。上空にはその宇宙船を警戒するように航空隊のF-2が旋回している。

 と、それを待っていたかのようにゲルゼの宇宙船から一筋の光が降りてきた。

 

「来たわね」

「今度はどんな怪獣が……」

 

 その光が地上まで来て怪獣の姿になっていく。

 大きな身体にそれと同じぐらい巨大な翼。その体表は特徴的な外骨格が大部分を占めている。

 宇宙有翼骨獣ゲランダ。

 ティガ&ダイナに出てきた怪獣だ。だけどゲルゼが出現させたゲランダは、本来体表の青いはずの部分が赤くなっている。

 

「あれも強化されてるのか……?」

『ユウキ、あの怪獣はなんだ?』

 

 そう聞いてきたのはブレイブだ。

 そう言えばブレイブはこの怪獣を知らないんだね……。

 

「宇宙有翼骨獣ゲランダ。ウルトラマンダイナと戦って必殺技のソルジェット光線まで耐えた強敵だ……!」

『必殺光線を耐えた!? そのゲランダは倒されたのか?』

「うん、プロメテウスって言う巨大な戦艦に搭載された強力な武器、ネオマキシマ砲でね……」

 

 でも、この世界にネオマキシマ砲は存在しない。これは僕達でどうにかするしかない……! 

 ゲランダは周囲を一度見渡して歩き始める。その足元から炎と黒煙が上がった。

 

『航空隊及び陸戦隊、攻撃開始!』

 

 シミズ隊長の攻撃命令が下りる。

 航空隊のF-2が機関砲による射撃を試みるが、当然ゲランダはこれを物ともせずに進む。

 僕はGuardクラウンに新たに搭載された二連装レーザー砲の発射準備に入った。砲塔中央に備えられたカメラと車内のGuardマルチパッドを連動させて、ゲランダに狙いを付ける。

 

「発射!」

 

 撃ちだされた青いビームがゲランダに直撃した。しかし怯みもしない。

 なおもゲランダは足を止めず、今度はその手でビルなどの建物を壊し始めた。

 

「やっぱりあの体表は硬いか……!」

「正面に回るわ。貴方は怪獣の頭部を狙って」

「分かりました!」

 

 ミズキさんはGuardクラウンをゲランダの前方に走らせながら、Guardマルチシーバーで航空隊に通信を入れる。

 

「ミズキから航空隊へ。攻撃を怪獣の頭部へ集中させます」

『こちらG1(ガード・ワン)、了解した』

G2(ガード・ツー)、了解』

 

 ミズキさんからの通信を受けて、再び航空隊のF-2が攻撃態勢に入る。

 まずハセガワさんの機体がミサイルを撃ち、その後イチジョウさんの機体も続けてミサイルを発射する。放たれた二発のミサイルがゲランダの頭を直撃すると、同時に攻撃した二機のF-2はそれぞれ横をすり抜けていく。

 僕は航空隊に気が向いているゲランダへGuardクラウンのレーザービームを撃つ。こちらに目を向けたゲランダはジービームと呼ばれる火球を口から放って攻撃してくるが、ミズキさんがGuardクラウンのバリアシステムを起動させた事で直撃は防がれた。

 だけど安心して何度も受けきれる訳じゃない。それはミズキさんが一番理解している。

 

「回避は任せなさい」

 

 冷静に運転をするミズキさんは連続で飛んでくるジービームを避けていく。こちらも反撃にと僕はレーザー砲で攻撃するが、やはりゲランダは平然としている。

 次第に、ゲランダはGuardクラウンの進行方向にある建物を狙ってジービームを撃ち始めた。それによって破壊された建物の破片が降り注いでくる。

 

「くっ!」

「うわっ!?」

 

 ミズキさんはハンドルを切って何とか回避するが――

 

「ミズキさん……!」

「衝撃に備えて!」

 

 行く手を阻むように降って来る瓦礫(がれき)の数に全てを避ける事は出来なかった。

 前からだけではなく左右からも落ちてくる破片の一つに乗り上げ、Guardクラウンは走行不能にまで陥ってしまう。

 

「やってくれるわね……」

『二人とも、無事か!?』

 

 シミズ隊長の声がGuardマルチシーバーから聞こえてくる。

 

「ええ、平気です」

「僕も大丈夫です!」

『よし、航空隊が援護している今の内に離れろ!』

 

 幸いにして僕達は怪我をしなかった。しかし動かないGuardクラウンこのままいるのは危険だ。

 シミズ隊長が言った通り、航空隊のF-2がゲランダの気を再び引いている間にGuardクラウンから降りる。それと同時に、ミズキさんはGuardライフル用のパーツが入ってるアタッシュケースを取り出していた。

 

「私がこれで援護するわ。貴方()は行きなさい」

「……はい!」

 

 両腕にブレイブブレスを出す。

 

『よし、行くぞッ!』

「ああ! ブレイブ――――ッ!」

 

 × × ×

 

 航空隊のF-2に向けてジービームを放とうとしているゲランダの側頭部に、変身した直後のブレイブ()は球状のエネルギー体となって体当たりを仕掛けた。それによってゲランダはバランスを崩して倒れる。

 その後、倒れているゲランダの前に僕達は姿を見せて構えた。

 

「さっきも言ったけど、ゲランダは強敵だよ」

『ああ、油断は禁物だな』

 

 起き上がったゲランダはこちらを見て吠える。

 僕はゲランダに向かって走り、懐に入ると同時に腹部へ前蹴りを繰り出す。蹴られたゲランダは二歩程度後ろに下がるが、特にダメージはないように見える。

 

『連続で行くぞ!』

「うん!」

 

 同じ個所に今度は二発のパンチと後ろ回し蹴りで攻撃した。それでもやはり効果が薄いようで、逆にゲランダはその鋭い爪で僕達に一撃を与えようとしてくる。

 その攻撃を一度バックステップで離れて回避し、僕達は再びファイティングポーズを取ってゲランダの様子を(うかが)う。

 

『防御力とパワーに優れている分、スピードはそこまで速くないのか?』

「油断しちゃダメだって、さっき自分でも言ってたでしょ! ゲランダには背中に大きな翼もあるんだから!」

『つまり奴が空を飛んだらそのスピードも補えるという訳か……』

「そういう事!」

 

 ブレイブと話している最中に突進してくるゲランダの頭上を飛び越える。僕達が振り向くと同時にゲランダもこちらに向き直った。そこへ航空隊がゲランダへ再度ミサイル攻撃を行う。

 それに合わせて、飛び掛かりながらゲランダを殴りつける。勢いが乗ったのもあり、さっきよりも大きく後退させる事が出来た。

 対するゲランダはジービームを吐いて攻撃してくる。

 

「ハァッ!」

 

 それをブレイブバリアで受け止めて防ぐ。しかし続けて放たれる何発ものジービームで押され、遂にはバリアを破られる形でダメージを受けてしまった。

 

『ユウキ、大丈夫か!?』

「大丈夫!」

『よし、今度は私達の番――むっ!?』

 

 僕達が反撃をしようとした瞬間、ゲランダへ向けてレーザービームが発射された。レーザーはゲランダの右目に直撃してその視界を奪う。

 レーザーが発射された場所に目を向けると、Guardライフルを構えているミズキさんの姿が見えた。

 

「ミズキさん!」

『彼女の援護か……よし、一気に行くぞッ!』

「うんッ!」

 

 突然目を撃たれてダメージを受けたゲランダに飛び蹴りを食らわせる。一発目が命中した後、さらに高く飛んでゲランダの頭部にほぼ真上から飛び蹴りを当てた。

 連続で飛び蹴りを受けて倒れるゲランダ。

 

「今なら……!」

 

 それを見て僕達はバク転して距離を取り、ゲランダが倒れている間にブレイブシュートのチャージを始める。

 

「シュアッ!」

 

 ゲランダが起き上がったのと同時にブレイブシュートを放つ。避ける事が出来ないタイミングだった為、そのままブレイブシュートがゲランダに直撃する。

 しかしやはりと言うべきか、ブレイブシュートが完璧に命中しているにもかかわらず、ゲランダはほとんど無傷の状態で光線を弾き飛ばした。

 

『やはりダメなのか……!?』

「諦めないよ!」

『――そうだな!』

 

 ブレイブシュートを弾いたゲランダは翼を広げると、そのまま空を飛びながら突進してくる。

 

「っ……!」

『ぐっ……!』

 

 僕達がそれを正面から受け止めると勢いを削がれたゲランダが足を地面に着けた。

 そのおかげで組み合う形になっているが、ゲランダは目の前にいるブレイブに噛み付こうとその牙を見せる。僕達はそれを抑えながら膝蹴りで抵抗する。

 次第にゲランダのパワーに抑え込まれ始め、それと同時にブレイブのカラータイマーも点滅を始めた。

 

『時間が……!』

 

 これ以上押されるのはマズいと思った瞬間、ゲランダの失われた右目の傷を再びミズキさんがGuardライフルのレーザーで狙撃した。

 傷口を攻撃されたゲランダはのけ反るように怯んだ。その隙にゲランダの腹部を蹴って離れる。

 

「――ハッ、そうか! あれだ!」

『どうしたんだ、ユウキ?』

「今のミズキさんの攻撃だよ! 幾ら強固な外殻で守られていても――」

『内側ならばダメージを与えられる、という訳だな!』

「ああ!」

 

 攻撃の方針が決まったところで右腕のブレスからブレイブブレードを出す。

 その時、ブレイブの能力でミズキさんの声と通信のやり取りが聞こえた。

 

「G1、聞こえますか?」

『こちらG1、どうぞ』

「今からウルトラマンが光の剣で攻撃をします。それと同じ目標へMk.82での爆撃を行ってください」

『了解』

 

 どうやら僕達の攻撃にタイミングを合わせてくれるようだ。もしかしたらミズキさんには僕とブレイブの会話が聞こえていたのかもしれない。

 

「――なら僕達はそれを信じて戦うだけだ!」

 

 僕はそう言ってブレイブブレードを構えて走る。ゲランダはそれを見てジービームを放ってきたが、僕達はこれを潜るように回避してゲランダの懐へ飛び込み、そのまま逆袈裟斬りで一撃。胴体に斬撃の痕が入ったのを確認して、僕達はすぐにゲランダから離れた。

 僕達と入れ違いで、今度はハセガワさんのF-2がブレイブブレードで切り裂いた箇所を爆撃する。誘導装置が装備されているおかげでわずかな誤差もなく命中し、ゲランダの胴体の傷を広げる事が出来た。

 

『「今だ!」』

 

 再びブレスにエネルギーを溜めてブレイブシュートを撃ち放つ。狙いは勿論、今出来た傷口の中だ。

 一点に集中した光線がゲランダの体内へと入っていく。しばらくしてゲランダは最後の咆哮と共に爆発を起こして消えた。

 

「やった……」

『みんなのおかげだな』

「うん、そうだね」

 

 ブレイブとそう交わしてハセガワさんの機体にサムズアップをして見せる。それにハセガワさんも返してくれているのが見えた。

 それから少ししてゲルゼの宇宙船へ目を向けると彼は何も言わず、宇宙船もそのまま姿を消した。

 

『どうやら帰ったようだな……』

「僕達も帰ろう」

『ああ』

 

 戦いを終えた僕達は空へ飛んで変身を解除した。

 

 

      *

 

 

「シュワッ!」

 

 ウルトラマンブレイブが飛び去って行くのを目にしていたイチジョウ・ハルトは、出撃する前にしたカガヤ・ユウキとの会話を思い返す。

 

 ――ハセガワさんやイチジョウさんだって、ウルトラマンを助けたじゃないですか。

 ――俺達が……? 

 ――これまでに出てきた怪獣との戦いで、お二人の攻撃があったからブレイブは勝てたと思います。エレキングやダイゲルン、それにこの前のアーストロンとケルビムとの戦いだって航空隊の援護があったからチャンスを掴めたんです。

 ――俺達の攻撃で……。

 

 ユウキにそう言われた時、イチジョウは確かにその過去の戦いでGuardianがウルトラマンブレイブを助けていた事を思い出していた。それが自分であってもなくても。

 そして、それは先程までの戦いもそうだった。ミズキとハセガワの援護射撃がきっかけとなってゲランダを倒す事が出来た。

 だがそれでもイチジョウには、やはりウルトラマンに頼らない力が必要なのではないか、という考えは簡単に捨てきれなかった。

 

「力だけを求めるのが危険なのも分かってる……」

 

 ――それでも、今の俺には……。

 

『航空隊、帰投します』

 

 ハセガワの声にイチジョウは考えを中断して彼のF-2に続く。

 

 × × ×

 

 月の裏側まで宇宙船をワープさせたゲルゼは、ウルトラマンブレイブとゲランダの戦闘記録からブレイブのデータを次に使役する予定の怪獣へ吸収させていた。

 改造を施されたその怪獣は超獣ほどではないが、対ウルトラマン用として調整されており、そこに今までの戦闘データを合わせた事で並みのウルトラマンでは太刀打ち出来ない程の戦闘力を得ていた。

 

「フフ……これであのウルトラマンブレイブはこのゲームから退場。そして私は残っている地球の戦力を余裕をもって殲滅、ゲームの勝者となる……」

 

 これから先の展開を思い描くゲルゼは不敵に笑う。しかし彼はすぐに別の心配事へと気が向いていた。

 

「――ですが、そろそろゲームの勝敗に関係なく、この宇宙を離れなければならない可能性も視野に入れておかなくてはなりませんねぇ。恐らく“彼”もいい加減に、私の居場所を探り当てているかもしれません」

 

 そう口にしたゲルゼは、ブレイブが映し出されているモニターとは別のモニターにもう一つの映像を出す。そこには、ゲルゼが使役する怪獣を他の宇宙から連れ去っていた時に、宇宙船を追跡してきていた“とあるウルトラマン”が映っていた。

 

「ゲームの最中に“彼”までがこの宇宙に来ると非常に厄介なのですがねぇ……」

 

 ――やはりウルトラマンブレイブには、次の戦いで退場していただきましょう。

 

 こうしてゲルゼは次のゲームの為の準備を進めていくのであった。

 




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第7話「ブレイブ暗殺計画(後編)」

大変お待たせ致しました。


「シュアッ!」

 

 ある日、僕は再びブレイブが戦っている夢を見ていた。

 しかしそれは以前の夢とは少し違った。

 

「ハッ! セアッ!!」

 

 ブレイブが戦っている場所は地球じゃない。知らない惑星だ。

 そして戦っている相手も、見知らぬ黒い巨人だった。その黒い巨人はウルトラマンではない。

 禍々しい闇の存在……以前ブレイブが言っていた、強大な闇だというのはこの黒い巨人の事なんだろうか?

 

「フン!」

「クッ……!」

 

 黒い巨人の一撃がブレイブを襲う。

 ダメージを負って膝を突いてしまったブレイブ。カラータイマーも点滅をしていた。

 

『ブレイブ――立って!』

 

 僕は叫ぶ。

 それが届いたからなのかは分からない。だけど彼は立ち上がった。

 そして胸の前で腕を交差させると、ブレイブの身体が光に包まれる。

 

「ハァッ!!」

「なに!?」

 

 その光が消えたかと思えば、彼は全身に見慣れない黄金の鎧を(まと)っていた。その姿になったブレイブは黒い巨人に向かって――

 

 × × ×

 

「ぁ……」

 

 目が覚めて最初に見えたのは、Guardianの隊員それぞれに割り当てられている部屋の天井だった。

 

『おはよう、ユウキ。今日もいい朝だな』

「……」

『どうした?』

 

 ブレイブはいつも通りの調子で話しかけてくる。

 さっきの夢はブレイブの過去の戦いなんだろうか……?

 

「ブレイブ、聞きたい事があるんだけどいいかな?」

『何かあったのか?』

「うん。実はさっき夢を見たんだけど――」

 

 僕はさっきの夢の内容をブレイブに話す。

 

『黒い巨人と戦う私が、黄金の鎧を纏っていたと』

「もしかしたらブレイブの昔の戦いだったんじゃないかって思うんだけど……」

『そうだな。恐らくそれは、私がこの状態になる前の最後の戦いだろう』

 

 僕が見たあの夢が、僕と出会う前のブレイブの戦いだったんだ……。

 

『君がその時の戦いを夢で見たのは不思議だが……いや、それよりもその夢で見た黄金の鎧についてだな。この際だから話しておこう』

「あれってなんだったの?」

『実はブレイブブレスはあれが本来の形状ではない。元々は違う形をした物だったんだ』

「え、そうなの?」

 

 彼はブレイブブレスについての説明を始める。

 

『私がこれを手にしたのは、調査任務の為に訪れたとある惑星だった。その惑星には古い時代から存在したと思われる神殿があり、私はその神殿の最深部まで入って行った』

「それって大丈夫だったの……?」

『ああ、危険性がないというのは事前調査で分かっていたからな。ともかく、その神殿で私は朽ち果てた古代の戦士が身に着けていた黄金の鎧と、手にしていた黄金の剣を見つけたんだ』

 

 それが本来のブレイブブレスの姿だったのだ、とブレイブは語った。

 僕としては黄金の鎧を纏ったブレイブを夢で見ている。だけど、あのブレイブブレスが違う形の武具だったと言われてもイマイチ飲み込めていない。それに、他にも気になる事があった。

 

「朽ち果てた古代の戦士が身に着けてたって言ってたけど、ブレイブはどうやってそれを手に入れたの?」

『調査の途中、その惑星に飛来してきた宇宙怪獣が襲い掛かって来てな。その宇宙怪獣と戦っていた時に、光となった武具が私の両腕に一体化して今のブレイブブレスに変化したんだ』

「そうだったんだ……そう言えば、夢――って言うか過去の戦いで鎧しか着てなかったけど、剣は使わなかったの?」

 

 僕の質問に『それには理由がある』とブレイブは言った。

 

『ブレイブブレス自体はすぐに扱えるようになったが、本来の状態である鎧と剣は簡単には扱えなくてな。鎧の方はどうにか出来たんだが……』

 

 ブレイブ(いわ)く、どうやら本来の武具として使うには何かしらの条件があるらしい。鎧を装着出来るようになったのも偶然とも言える状況だったようだ。

 そういうのもあってブレイブは剣を使う事が出来ず、結果として僕が夢で見た黒い巨人との戦いも鎧だけだったと言う。

 

「それって僕が変身した状態でも使えるのかな?」

『どうだろうな……ユウキとの変身でブレスは問題なく使えたが、武具として使えるかどうかはまだ未知数だ』

「あまり当てにしない方がいい、って事か……」

『そういう事だ』

 

 しかしそうは言っても、ゲルゼが送り込んでくる怪獣は強力なものになっていく。今のままでは勝てない相手が出てくる可能性だってあるだろう。

 そうなってしまった時の為に、その鎧や剣が使えるようになっている必要があるんじゃないかと考えてしまう。

 ――だけど、確かにその武具の力に固執して、本来の力を発揮出来ないんじゃ本末転倒だというのは分かる話だ。

 

「今のままでも、今まで以上に戦えるようにならないとね」

『ああ、共に頑張ろう!』

 

 決意を新たにした僕達は、早速訓練室に向かおうとして――怪獣が現れた事を知らせる警報が鳴り響いた。

 

      *

 

「遅くなりました!」

 

 指令室に入ると、既に中央のモニターには怪獣の姿が捉えられていた。

 しかしいつもとその様子が違う。

 

「揃ったな。では状況説明を始める――と言いたいんだが……」

 

 全員が揃ったのを確認したシミズ隊長がモニターに目を向ける。

 

「怪獣のデータは出せるか?」

「少し待ってください。近いものとしては……パワードドラコが該当します」

「やはりそうか……」

 

 シミズ隊長はその名を聞いて苦い顔をする。きっと僕も同じ表情をしているはずだ。

 パワードドラコ――サイコバルタン星人がウルトラマンパワードの能力を測るために送り込んできたドラコで、メガ・スペシウム光線までをも跳ね返す身体や、パワードに大きなダメージを与えるほど鋭い両腕の鎌を持つ強力な怪獣だ。

 

「データにあるパワードドラコとは多少違うようですが」

 

 ミズキさんが冷静に言う。

 そう――今モニターに映っているパワードドラコは、サイコバルタン星人が送り込んだ個体とは違い、体表の色はむしろ通常のドラコと同じものだ。

 

「恐らくアーストロンやゲランダのように、今回もゲルゼが改造した個体だろうな。出現前に反応は観測されたんだよな?」

「はい。ゲルゼが怪獣を送り込んでくる際の反応は観測してます」

 

 シミズ隊長の問いにコバヤシさんが答える。

 

「ならパワードドラコより強くなっている可能性も十分にあり得るな……ミズキ副隊長、G1(ガード・ワン)及びG2(ガード・ツー)へのMk.82搭載はすぐに可能か?」

「問題ありません」

 

 その返答にシミズ隊長は「よし」と頷いた。

 

「それにしてもこの怪獣、動きませんね……」

 

 ニシハラさんが言うように、ドラコは微動だにせずただ立っているだけだ。

 何かを待っているのだとしたら恐らく……。

 

「恐らく、このドラコは相手が来るのを待っているのだろうな」

「待ってる……ですか?」

「ああ。ウルトラマン――ブレイブをな」

 

 そう言って、シミズ隊長は僕の方にチラリと視線を送ってきた。

 パワードドラコと同等の力を持っているなら危険な相手なのは間違いないだろう……。それでも僕達は、黙ってあのドラコを放置していくわけにはいかない。

 

「――陸戦隊と航空隊は直ちに発進! 現地にてドラコの警戒、監視に当たれ!」

 

 シミズ隊長の号令に、僕達はそれぞれに「了解!」と言って指令室を後にした。

 

 × × ×

 

 住民の避難が完了した街。地上ではGuardクラウンから降りた僕とミズキさんが、空中ではハセガワさんとイチジョウさんのF-2が旋回して、ドラコの警戒をしていた。

 僕達――Guardianがこうして周囲に展開してもドラコは全く動かずにいる。

 

「やはり隊長が言った通り、あの怪獣はウルトラマンが現れるのを待っているようね……」

 

 ミズキさんは視線をドラコに向けたままそう言う。

 

『……ユウキ』

「うん。ミズキさん、僕……行きます」

 

 あのドラコ――いや、ゲルゼの狙いが僕達(ブレイブ)だと分かっていても、このまま何もしないで見ているというのは僕には出来ない。それはブレイブも同じ気持ちだ、というのは伝わってくる。

 

「――私も少し、パワードドラコという怪獣がどういった敵だったかを見たわ。気を付けなさい」

「はいッ!」

『よし、行くぞ!』

 

 僕はブレイブブレスを両腕に出して変身する。

 目の前に現れた僕達(ブレイブ)に、ドラコは待っていたと言わんばかりの反応を見せた。

 

「あのドラコがパワードドラコと同じような強さなら、かなりの強敵のはずだよ」

『ああ。私も過去に、パワードに深手を与えた怪獣として戦闘記録を見た事がある。少しの油断で命取りになる相手だ』

「普段以上に間合いに気を付けないとね……」

 

 あの鎌の一撃をまともに受けたら、僕達だってどうなるか分からない。可能な限りドラコの攻撃は回避しないと……。

 

『だが、あまり消極的では私達の時間切れになる』

 

 ブレイブが言ったように、こちらには時間の制限がある。それを気にして攻撃を焦れば、逆にドラコの一撃を受けてしまうだろう。

 かと言って、迂闊(うかつ)にブレイブスラッシュやブレイブシュートなどの光線技を撃てば、反射させられる可能性もある。

 本当に厄介な相手だ。

 そんな事を考えている間に、ドラコの方がゆっくりと歩みを進めてきた。

 

『考えている暇はないな……』

「そうだね」

 

 僕は大きく息を吐く。

 

「――行くよッ!」

 

 迫るドラコの懐へ飛び込み、右ストレートパンチを繰り出す。しかし――やっぱりと言うべきか――効いている様子はない。

 だったら、と今度は左右の連続パンチで攻撃する。だがこれも、ドラコには通用していないようだった。

 

『ユウキ!』

「ハッ……!」

 

 ブレイブの声と同時に、咄嗟(とっさ)に身を(かが)める。その頭上をドラコの鎌が通り過ぎた。

 冷や汗が出るのを感じながらも、再び攻撃してくるドラコの腕を受け止め、一度距離を離すためにドラコの身体を手で押し退ける。

 僕達が離れたタイミングで、ドラコへGuardianのみんなの援護が入る。それでもドラコの体表には傷一つ付かない。

 

『堅いな……!』

「これならどうだ!」

 

 今度は右腕にブレイブブレードを発現させて斬りかかる。だけど、その光の刃さえもドラコは片腕で受け止め、逆にもう片方の腕で僕達は突き飛ばされてしまった。

 ドラコはすぐさま倒れた僕達へと、手の鎌を投擲(とうてき)してくる。なんとか体を(よじ)って避けると、その背後に飛んできた鎌が地面に深く刺さっていた。

 

「危なかった……!」

『まだ来るぞ!』

「クッ!」

 

 起き上がると同時に、再び飛んでくる鎌をブレイブバリアで防御する。しかしこれも完全に弾く事は出来ず、なんとその鋭い刃がブレイブバリアに突き刺さった。

 

『これを何度も防ぐのは厳しいぞ!?』

 

 そんな事を言いながら焦りを見せるブレイブ。

 そこへ、ドラコの頭部に向けてもう一度、航空隊とミズキさんからの援護射撃が行われる。Guardクラウンのレーザー砲による攻撃の後、二機のF-2からミサイルが撃ち込まれた。

 ミサイルの爆炎でドラコの視界が遮られた瞬間に、僕達は追撃として同じくドラコの頭部へ――ここなら反射もされず、いくら堅い体表でも効くはずだと思い――ブレイブスラッシュを放つ。

 しかし当たると思っていたその攻撃を、ドラコは首を(かし)げて軽々と光弾を回避した。

 

「なっ!?」

『今のを見切っていたのか!?』

「このままだと……」

 

 時間が心配だ――そう考えている内に、ドラコが歩みを進めてくる。

 ――こんな時、夢で見た力が使えたら……。

 そこまで考えて僕は頭を振る。使えない力に頼ろうとするのはダメだ。

 

「ブレイブ……こうなったら一か八かの賭けになるけど、ツインブレードを使おう」

『確かに強力な技だが……それで倒せなければやられるのは私達だぞ?』

「どっちにしてもこのままじゃ僕達の時間切れだ。それに、負ける事を前提に考えて戦うなんて――ウルトラマンらしくないでしょ?」

『……フッ、そうだな!』

 

 気合を入れ直した僕達は、両腕にブレイブブレードを発現させて迫るドラコと向き合う。

 

『よぉし――』

「行くぞォ!!」

 

 一気にドラコの懐に飛び込むと同時に、左右のブレイブブレードで横に斬る。さっきと違って受け止められる事はなかったが、ドラコの様子から思ったほどダメージを与える事は出来なかったようだ。

 だけど僕達はツインブレードの攻撃を止めない。

 今度は回転しながらのツインブレードによる斬撃と、回し蹴りを()り交ぜた戦法でドラコを攻める。

 

「これで――どうだ!」

 

 ドラコの頭を後ろ回し蹴りで攻撃した後、両手を組んでツインブレードの刃を重ねる。そのまま回転の勢いを利用して、強烈な斬撃をドラコの胴体に繰り出す。

 これなら流石にダメージを受けたはずだ――そう思いながらドラコに目を向けた。

 しかしこの斬撃を受けても、ドラコの体表には(わず)かな傷が入った程度で、そこまで大きなダメージにはなっていない様子だ。さらには驚いた事に、斬撃で出来た傷が(ふさ)がり始めている。

 

「回復能力まで!?」

 

 そして遂に、ブレイブのカラータイマーが点滅を始めてしまった。

 

『クッ、時間が……!』

「……まだだ、まだ諦めない!」

『ユウキ……――ッ!』

 

 今までの反撃なのか、ドラコが鎌を出した左腕を振り下ろしてくる。

 この攻撃を受け止めようとツインブレードを交差させて鎌の前に出すが、なんとドラコの鎌を受けたツインブレードの刃が両方とも折れてしまった。

 

「そんな!?」

『これ程の切れ味とは……!』

 

 目の前の状況に驚く。

 だが当然、ドラコはそんな僕達を気にするはずがない。今度は右腕の鎌を振り下ろすのが見えた。

 

「しまっ――!」

 

 しかしツインブレードを折られた事で反応が遅れた僕達は、その攻撃を防ぐ事も避ける事も出来ず、まともにドラコの鎌の一撃を胸に受けてしまった。

 

 × × ×

 

 ウルトラマンブレイブが膝を突く。ドラコの攻撃を受けた左胸からは光が漏れ出ていた。

 なんとか立ち上がろうとするブレイブだったが、予想以上のダメージに耐えられずそのまま倒れ、その身体は光となって消えてしまう。

 そしてウルトラマンブレイブが消えた場所には、同じように倒れているカガヤ・ユウキの姿があった。

 

「あれは……!」

「カガヤ隊員!?」

 

 上空からその状況を見ていた航空隊の二人――イチジョウとハセガワは、倒れるユウキを見て驚愕する。いや、それは航空隊だけではない。指令室にいるオペレーターのコバヤシとニシハラも、この状況に言葉が出ずにいた。

 

「――ミズキ副隊長、ユウキ隊員の救助を頼む!」

「了解!」

 

 その中でシミズは素早く指示を出し、ミズキもそれに応える。互いにその内心は穏やかではないのだが、二人は冷静であるように努めた。

 そしてその声に反応して他にも動く者がいる。ハセガワだ。

 

「副隊長、援護する!」

「頼みます」

「イチジョウ!」

「――は、はい!」

 

 ユウキを助けに向かったミズキから気を()らす為に、ハセガワはドラコの目の前でF-2のフレアを放出する。続けてイチジョウ機が機銃による射撃を行う。

 勿論その攻撃の効果はないが、ドラコが航空隊へと意識が向いている隙にミズキは気を失っているユウキをGuardクラウンへと乗せ、急いでその場を退避した。

 

「こちらミズキ。ユウキ隊員の救助に成功しました」

 

 その通信にシミズはひとまず胸を撫で下ろす。しかしまだ安心は出来ない。

 

「ユウキ隊員の状態は?」

「――至急、医療班を待機させててください」

「まさか……!」

「……今の彼には、ウルトラマンブレイブが最後に受けた傷と同じものがあります」

 

 この報告に全員が息を呑む。

 険しい表情のシミズは「分かった」と返すと、航空隊にも撤退を告げる。ユウキが深手を負った事もあり、これ以上は他の隊員も危険だと判断したからだ。

 しかし、イチジョウのF-2はドラコへの攻撃態勢に入ったままだ。

 

「イチジョウ! 撤退命令だ!」

「俺はまだやれます! Mk.82でこの怪獣を倒せば……!」

 

 彼はドラコの身体――ブレイブが傷を付けた個所へ狙いを定め、機体に搭載していたMk.82を全て投下した。

 投下されたMk.82は全弾命中するが、やはりドラコは平然としたまま立っている。既にブレイブから受けた傷がある程度回復していて致命傷には至らなかったようだった。

 

「イチジョウ、これ以上は無理だ! 退()くぞ!」

「……クソッ!」

 

 撤退するハセガワの後に続くイチジョウは悔しさを(にじ)ませる。

 その彼らの後方では、大きく翼と両腕を広げて咆哮(ほうこう)するドラコの姿があった。

 



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