DSフリードの非日常 (ミスター超合金)
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悪魔世界のエクソシスト
life.1 抵抗


 三大勢力戦争。勢力拡大を目論む悪魔と、それに対抗せんとする天使、堕天使が繰り広げた戦争であり、同時にこの世界の始まりの象徴でもある。冥界のみならず人間界や天界までも戦地となったそれは結果的に悪魔が勝利した。

 即ち、『悪魔世界(ディアボロス・サーガ)』の幕開けだった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「くそッ、悪魔共が! 数だけはありやがる!!」

 

 

 反悪魔組織『禍の団(カオス・ブリゲード)』。その日本支部は反対勢力(レジスタンス)討伐部隊の強襲を受けていた。魔力弾をさながらマシンガンのように乱射しながら、男は物陰に身を隠す。

 何れだけ倒せど尚沸いてくる悪魔共に流石の彼も焦燥が見えた。突然の事に対応しきれず部下は散々になってしまった。あの大軍を如何に足止め出来るかが部下の生死に直結していると言えた。

 

 

 ダタタンッ! 鉄を打つ音が連続して響き、何人かの悪魔が倒れ伏す。これで少なくとも第一波は全滅させた筈だ、と疲労で重たくなった瞳を擦りながら男――、フリード・セルゼンは脱出口を探して走り出した。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 戦争の勝者となった悪魔はあらゆる世界に進出を始めた。手始めに天界を、次いで堕天使領を。更なる栄華を求めんとする悪魔を他神話勢力は危惧し、同盟を結んだ。北欧、日本、ギリシャ、須弥山……。そうそうたる面子に悪魔勢力は怯んだ。先の戦争で受けた傷を完全に癒せないまま、進出してきたからだ。

 そのまま両者の睨み合いが続き、数百年が経過した。もう戦争は起きないのか。悪魔以外のあらゆる種族が胸を撫で下ろした。

 だがその想いを踏みにじるかのように一つの兵器を悪魔は産み出した。

 

 

 『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』。埋め込んだ者の種族を悪魔に作り替える、史上最悪の戦争兵器。それを使い悪魔勢力は自軍を発展させていった。他種族を誘拐し、駒を埋め込み、洗脳して使い捨ての兵士とする。その戦術が確立された時、悪魔と神々の均衡は崩れ去った。

 今度は全ての種族を巻き込んで、戦争が勃発した。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「無事っスか!?」

 

 

「ミッテルト! 他の皆はどうした!?」

 

 

 転がるように廊下を右に曲がると、そこで部下の一人と合流した。残りのメンバーの安否を訊ねるも彼女は首を横に振る。どうやら把握していないようだ。情報を得られなかったのは残念だが、ミッテルトの無事を確認出来ただけでも良かった。安堵しながら再び脱出への道を探る。

 出入口は表ゲートや物資搬入口を含めて、悪魔で埋め尽くされているだろう。このままなら大量の悪魔軍を突破しなくてはならない。

 

 

 だが、そこまで考えてからふと気付く。現在は使われていない下水道があった事に。確か別の場所に繋がっていると聞いた。メンバーですら殆ど忘れているんだ。敵の手も回っていないかもしれない。

 傷付いた身体を奮い立たせて、提案した。

 

 

「……俺は旧下水道から脱出しようと思う。彼処なら未だ間に合うからな」

 

 

 彼の案に無言で頷く。他に方法が無い以上、従うのがベストだからだ。辺りを警戒しながらフリードとミッテルトは進む。消えうる事の無い憎悪を抱いて。

 

 




世界は悪魔を中心に



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life.2 黒鉄

 ゴウン、ゴウン……。重たい音が何重にも重なって、空に響き渡る。悪魔勢力が開発した『魔翔戦艦』の駆動音だ。大量の魔力を使用する燃費の悪さこそあるが目立つ難点はそれだけで、圧倒的な火力を誇るそれらは何万何千と製造され、悪魔勢力の物量作戦の一翼を担っている。

 天を埋め尽くす黒鉄(くろがね)。その中央に一際巨大な艦が浮かんでいた。漆黒のボディに刻まれた紋章は、グレモリーの証だった。

 

 

「あれが反乱分子の……」

 

 

 薄暗い司令室。前面のモニターに映し出された基地を眺めながら男は呟く。先発隊として向かわせた匙元士郎、以下二千の兵によって基地は壊滅状態となっていた。撒き散らされた血に、誰の物かも解らない臓器。オペレーター達が思わず眼を背ける中で、彼は平然と言い放った。

 

 

 集中砲火し基地を完全に潰せ、と――。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「おい、あったぞ! やはり連中は気付いてなかった!」

 

 

「さっさと逃げるっスよ!」

 

 

 フリードとミッテルトは旧下水道の入口に辿り着いていた。老朽化の影響で錆びたドアを抉じ開けると、大量のパイプにまみれて点検用の道が続いている。敵が此処まで来る前に脱出しなければ。焦りをひた隠してコンクリート造りの床に降り立った瞬間、轟音が遠くで聞こえた。釣られて建物自体も大きく揺れている気がした。

 限界を察した二人は力強く駆け出した。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 男の非情な命令にオペレーターや一般兵達は眼を見開いた。基地を完全に潰すという事は、つまり突入している仲間を見捨てるのだ。幾ら上官の命令とは言え味方を犠牲に出来ない。そんな部下の動揺に気付いた彼は、しかし顔色を変えなかった。ただ静かに問うだけである。

 

 

「――聞こえなかったか?」

 

 

 瞬間、停止していた思考が引き戻される。氷のような殺意に当てられて慌てて任務を実行に移し始めた。各艦に連絡を飛ばしていく様を見ながら男はグラスを口にする。血のような赤ワインの何と美しい事か。

 紅に濡れたグラス越しにモニターを見ていると三大勢力戦争を思い出す。あの時は若く、未熟だった。敵を殺すのも、流れる血すら嫌悪していた覚えがある。

 

 

「サーゼクス様。全艦の発射準備が整いました。何時でも動けます」

 

 

「うむ……」

 

 

 しかし今は違う。弱い敵を踏み潰すのが酷く面白い。悪魔に逆らう者をこの『魔翔戦艦』で容赦なく蹂躙し、滅ぼす。何と痛快だろうか。そして今度は神々が相手だ。反悪魔組織が敵だ。だがその彼等ですらも悪魔に圧され、怯えながら生きる毎日。

 全ては悪魔の繁栄の為に。そう遠くない未来、悪魔が我が物顔で闊歩し他種族を支配する世界を築こう。そんな理想郷を描きながら、サーゼクス・グレモリーは口角を三日月の如く釣り上げた。

 

 




反乱でさえも、彼等には娯楽なのだ



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life.3 憑依

「やけに揺れてるな……」

 

 

「増援が来て、張り切ってるんじゃないの?」

 

 

 カビ臭い通路を全力で駆け抜けるフリード達。申し訳程度に付けられている電灯を辿りながら、最悪の事態が彼の頭を過る。もう基地は崩壊寸前なのかもしれない。仮に大規模な攻撃が仕掛けられればその瞬間、此処はコンクリートの塊と化すのでは、と。

 先程から立て続けに起きる揺れ、そしてパラパラと降り落ちる土片は充分な証拠になり得るだろう。

 

 

 そこまで考えて、二人は無言で顔を見合わせた。どうやら同じ結論に至ったらしい。冗談ではなかった。こんなところで死ねば、先に逝った同志達に何と言って詫びよう。

 

 

「……最後まで生きるぞ」

 

 

「うん……」

 

 

 過ぎ去っていく電灯の光の下で、フリードは言葉を洩らした。ミッテルトもそれ以上は言わずひたすらに駆けた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 黄昏空に整列する『魔翔戦艦』。果てしなく浮かんでいる艦隊は、サーゼクスの命令によって全艦が二連主砲の発射準備を終えていた。彼が砲撃を口にした瞬間、無数の魔力砲が放たれるのだ。モニターに映されたサーゼクスが配下の艦長達は固唾を呑んで見つめていた。その一挙手一投足に最新の注意を払い、言葉を聞き逃すまいと場は静まり返っている。

 モニターの中でサーゼクスは数瞬、瞑目した。そして眼を閉じたまま告げた。

 

 

「撃て」

 

 

 直後、主砲が一斉に動き始める。質量があるかのような重たい音と共に標準を定めた。魔力が砲身に集められ光を強めていく。そして遂にエネルギー充填が完了した。皆が我先にと撃ち始めた。極太の魔力弾が放たれる度に基地は崩れた。

 

 

「魔力の雨を浴びせろ!」

 

 

「二度と逆らえないように!!」

 

 

 基地から逃げ出してきた自軍の兵士すらも標的にした。魔力の雨が降り続ける中でサーゼクスはひたすらに笑う。これ程に滑稽な見世物は無い、という歪んだ顔で。基地が完全に倒壊しても尚、雨は終わらなかった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 どれだけ時間が経ったのか。夢から覚めたような感覚でフリードの意識は浮上した。周囲は瓦礫に埋もれていて、埃と砂煙が眼に刺さる。取り敢えず身体を起こそうとしたが動かなかった。下半身の感覚が無いのだ。まるで重たい何かに押し潰されているかのように。

 自覚すると痛みが口まで流れてきた。砂利と一緒にして吐き出す。

 

 

「クソッタレが、後少しで……ッ」

 

 

 血だ。唯一動かせる右腕で拭うと、確かに袖が赤く染まった。ゴホゴホ、と更に血の塊を溢した。ここで初めて彼は迫り来る死を悟った。呆気ない終幕に思わず苦笑する。結局、自分は此処までのようだ。

 そこでフリードは眼を見開いた。ミッテルトの姿が見当たらない。崩壊する直前まで隣を走っていた筈だ。途端に言い表せない不安が彼にのし掛かった。

 

 

「おい、ミッテルト! 何処だ、返事をしろ!」

 

 

 必死に呼び掛けたものの声は返ってこない。頭をぶつけて気絶でもしているのか。それとも……。浮かんでしまった想像を降りきろうとフリードは叫ぼうとした。だがその前に聞き慣れた微かな声が耳に入ってきた。

 

 

「フリード、生きて……ッ!?」

 

 

 やがて瓦礫の向こう側がミッテルトはひょいと現れた。頭から血を流しているものの、見たところ重傷は負っていない。安堵するフリードとは対称的に彼女は絶句していた。その理由は何となく解った。

 

 

「……すまない、先に進んでくれ。後で必ず合流するから」

 

 

「そう言われても、フリードを置いて逃げれる訳が無いじゃない!!」

 

 

 慌てて自分を抜け出させようとするミッテルトの行動は決して誉められるものではない。致命傷を負った仲間等、重荷になるだけだ。合理性を重んじる彼は出来うるなら咎めたかった。しかし右腕以外が潰されている今の状態では何も出来ず、ただ身を任せていた。

 

 

「逃げろ、俺を置いて」

 

 

 懐かしさに似た感情を殺し、フリードは冷たく告げた。もう血すら出なくなったのだ。いよいよ自分は危ない。そしてこの場所もまた動揺に。今でこそ収まっているが何時再び揺れだすか。彼女を道連れにする事だけは避けなくてはならない。

 初めて聞いた声音に驚いて動きを止めた。長年共に居た自分ですら、聞いた事の無い声だった。恐る恐るといった様子でミッテルトは手を差し伸べようとするも、その手を彼は拒絶した。

 

 

「この馬鹿野郎! 最期の命令が聞けないのか!!」

 

 

「フリード……」

 

 

 崩れていく。壁が、床が。全てが。にも関わらず彼女は離れようとはしない。寧ろフリードの視界に入るように座っている。轟音を立てて、周囲は崩落した天井によって塞がれた。これで進むも退くも出来なくなった訳だ。

 何故自分を見捨てなかった。そう言いたげな彼の前で寝そべる。息をする音が聞こえる程に互いの顔が近い。

 

 

「……こんな形で言いたくなかったんスけど。死ぬ前に、ね」

 

 

 次々に瓦礫が降ってくるのに、二人は笑っていた。一体何を言いたかったのか。押し潰されてしまったその言葉を知るのはフリードとミッテルト。二人だけだった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 夢を見ていた。以前の世界、そして彼女の夢を。公園のベンチで何時の間にか眠っていたようだ。日差しが暖かいせいだ、と頷いてからフリードは起きた。

 何の因果か、死んだ筈の自分は別世界に飛ばされていた。その世界に元々存在していた自分自身に憑依する形で。新しい身体、戦いの経験を得た。文句があるとすればどういう事か『はぐれ悪魔祓い(エクソシスト)』として追われている点、そしてミッテルトが居ない点だ。

 

 

「……次は駒王町とやらに行ってみるか。はぐれ悪魔が多いようだしな」

 

 

 不敵な笑みを浮かべて、フリードは次の町に向かって歩き始めた。

 

 




そして唐突に



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旧校舎のディアボロス
life.4 理由


 駒王駅への案内板を一瞥して、フリードは大きく息を吐いた。もう夜更けだというのに寝床を探す事もせず、隣町から強行軍で此処まで歩いてきたのだ。都会の街灯に晒され小さくなっている星空を眺める彼には焦りが見られた。

 瓦礫に消えてしまったミッテルト。彼女の不在は確実に、フリードの心に空白を植え付けていた。月明かりを見てあの笑顔を思い浮かべる程に。

 

 

 どうも憑依してから気が緩んでいるな、と感じながら夜道を進む。空を飛び交う『魔翔戦艦』を気にする事もなく、こうして歩くのは初めての経験だった。前の世界では監視のライトに遮られて星空の存在は知っていても、それをまともに見た事は一度も無かった。だから少し新鮮に感じている。

 今夜は公園のベンチで寝転がりながら、眺めようか。彼がそう決めた時、不意に魔力を察知した。

 

 

「この魔力……。悪魔か!」

 

 

 途端にそれまで無気力だった表情が憤怒に染め上げられた。家族の仇を見るような、血走った眼を隠そうともせずフリードは動いた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 バイザー。彼女が今回駒王町に侵入した『はぐれ悪魔』だ。主の元から逃亡した後に人間を無差別に殺害している。魔力や身体能力等は下級悪魔レベルだが凶悪な犯罪者に変わりは無い。事態を重く見た大公アガレス家は、駒王町を縄張りとする悪魔に討伐指令を下した。

 

 

「……この廃工場にバイザーが潜んでいるのね」

 

 

 駒王町の端にポツンと忘れ去られている廃工場。その入口前で少年少女達は突入しようとしていた。先頭に立つ彼女はリアス・グレモリー。名門グレモリー家の次期当主であり、この駒王町の領主を名乗っている。紅の髪を弄くりながら眷属を伴って探索していく。

 各部屋を順番に確認していき、最後に残されたのは広い倉庫だ。バイザーは下半身が巨大な獅子の形をしていると聞くし、隠れるには丁度良いだろう。それに中から微かに血の匂いもしている。

 

 

 戦闘準備をすっかり整えてからリアス達は倉庫に雪崩れ込んだ。魔力、徒手空拳の構え。或いは魔剣や籠手といった神器(セイクリッド・ギア)を並べてバイザーに啖呵を切ろうとするも、暗闇があるだけで肝心の彼女は影も形も見えなかった。

 可笑しい。此処以外に巨体を収納出来うる場所は有り得ないのに。情報には無いが、もしや姿を隠す手段でもあるのか。より警戒を強めるリアスの鼻先を赤い影がかすった。

 

 

「……ッ!?」

 

 

 ゴロゴロと転がっていく塊を慌てて魔法で照らす。映されたのは顔だった。バラバラに刻まれたバイザーらしき者の肉片だ。直視してしまった一人が抑えきれずに胃液を吐き出した。コンクリートに吐瀉物を撒き散らす彼を誰も責められない。自分達も今にも胃の中の全てを逆流させそうなのだから。

 眼が馴れてきてところで足元に転がる腕や脚に気が付いた。バイザーは殺されたのだ。一体、誰に。正体が解らない恐怖に怯えながらも倉庫を見回すと目の前に影が立つ。

 

 

「こ、このリアス・グレモリーを敵に回すつもり!?」

 

 

 だが闇に紛れているその男、フリードは何も言わない。代わりに光の剣を懐から取り出した。白髪を肩まで伸ばした彼は静かに構えた。応じるかのように戦闘体勢に入る彼女達にただ述べた。

 

 

「知るかよ。何れだけお偉い名前を口にしようと、結局は悪魔だろうが」

 

 

「――それが理由だ」

 

 




彼にとっては関係無かった



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life.5 最初

 無慈悲な剣をねじ込まれて、塔白小猫は壁にまで吹っ飛ばされた。元々彼女は華奢な身体をしているが、それでもこうも簡単に押し負ける事は今までに無かった。小猫は別に弱い訳では無い。寧ろ下級悪魔の中では上位クラスに位置している。

 ただフリードが強すぎたのだ。リアスや朱乃のみならず、木場に一誠までも簡単にあしらう彼が異常なのだ。自分達を此処まで追い詰めておきながら尚、無表情で迫り来るフリードにリアスは叫ぶ。

 

 

「皆、撤退よ! 一度体勢を建て直して……ッ」

 

 

「させるかよ、悪魔共が」

 

 

 一瞬眼を離してしまった隙を突かれ、彼女は剣の一撃を喰らった。痛みに耐えきれず苦しむリアスはそのまま地に倒れ付した。慌てて他のメンバーが駆け寄っていく。悪魔の弱点である光を浴びたのだ。並の悪魔なら消滅、上級悪魔レベルでも重傷は免れない。

 このまま戦ってもリアスの傷が悪化するのみ。そう判断した朱乃は即座に指示を下した。

 

 

「一誠くん、祐斗くん! 少しでも時間を稼いで下さい! 私はリアスを冥界の医療機関に転移させます!!」

 

 

 真っ先に呼応し、飛び出したのは一誠だ。赤い籠手を掲げて解りやすいパンチを放ってくる。彼は怒っていた。想い人を傷付けたフリードに。そして守れなかった自分自身に。故に支離滅裂な言葉を吐きながら殴り掛かった。

 しかし彼は避けようとしなかった。避ける素振りすら見せずに立ち尽くしている。

 

 

 不味い。嫌な予感がした木場は咄嗟に一誠の名前を呼び、注意を促した。だが時は既に遅く、何かが貫く音が響いた。それは二度、三度と連続して。数瞬後に兵藤一誠はゆっくりと前方に倒れた。フリードの右手には祓魔銃が握られていた。

 

 

「兵藤くんッ!!」

 

 

 悲痛な表情に一同が染まる。近くに居る木場が持ち前のスピードを活かして救出しようと風に紛れた。『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の中でもスピードに優れる騎士の駒を有する彼は、その速さと達人級の剣技で敵を打ち倒す。今回も倉庫内を目まぐるしく駆け回り、不意を突いての奇襲を行おうとしていた。タタタン、と断片的なステップのみが聞こえる。

 確かに速い、とフリードは頷いた。身体能力を強化しているだけはある。しかし言い換えればそれに対処すれば良いという事だ。

 

 

 彼は指を鳴らした。何を企んでいるのか。警戒を強めながらも木場は包囲網を縮めていく。が、急に脚が止まった。絡まったかのように動かなくなり、当然身体は前のめりに落ちていった。何がへばりついている。脚に視線を移した。

 肉片だ。最初に床に転がっていたバイザーの頭が意思を持つかのようにかじりついていた。トラップだと脳が理解した時には視界は影で覆われた。

 

 

「じゃあな……」

 

 

 冷たい声。次いで一閃の音が首に溶けた。その日、リアス・グレモリーの『騎士』、木場祐斗は何の抵抗も出来ずに呆気なく殺されたのである。

 

 




誰だって死ぬさ、と彼は嘯く



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life.6 飛沫

「ゆ、祐斗先輩……?」

 

 

 首から噴水のように飛び散る血飛沫が、一同の思考を奪い去った。フリードの一閃によって木場は呆気なく首を落とされて死んだ。いや、そんな筈は無い。先程まで彼とは普通に会話していた。昨日も一昨日も、その前に至るまで。

 掠れる視界に映された惨劇にただ呆然と見るだけの小猫。床に転がる木場と眼が合って。数秒後、喉は勝手に叫んでいた。

 

 

「いやぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 

 脳天を刺すような悲鳴が倉庫内部に響き渡る。嗚咽を漏らしながら、身体を引きずるようにして駆け寄った。血にまみれた彼の顔は酷く恐怖していた。死にたくないと言っているようにも見えた。頭だけとなった仲間を小猫は抱き抱える。制服が汚れる事など気にもせず、ひたすらに泣きわめいた。

 嘘だろ、と一誠は呟く。イケメンな嫌味野郎だと口では悪く言っていたが、新しい環境に戸惑う自分を気にかけてくれる彼を内心では友達と認めていた。なのに恩を返す前に死んでしまった。

 

 

 木場が命を落としたのは誰のせいだ。自分を助けようと彼は動いた。そして死んだ。あの時無策で突っ込まなければ。互いをカバーするように戦っていれば。

 お前のせいで僕は殺された。そんな声が聞こえて、一誠は絶叫した。

 

 

「うるせぇよ。お前も直ぐに送ってやる」

 

 

 光の斬撃が彼を襲う。制服越しに胸を的確に斬り裂いた。肉の焦げる匂いと共にのたうち回った。フリードの舌打ちが聞こえた。心臓を狙った今の一撃は服に阻まれてしまい、肉を抉っただけ。増援を呼ばれる前に皆殺しにせねばならない。決意した彼は光の剣を再び構えた。

 しかし上空からの雷が邪魔をした。容易く避けて、上を確認する。見えたのは憤怒の表情をした朱乃だ。

 

 

「クソ悪魔が、帰ってきやがったのか」

 

 

「よくも祐斗くんを……ッ! (いかづち)よ!!」

 

 

 荒っぽい軌跡を刻みながら迫る雷。三重にも連続したそれは今の朱乃に出来うる最大火力の攻撃だ。千鳥の囀ずりにも似た迸流を纏って、雷はフリードを呑み込まんと螺旋を描く。にも関わらず彼は逆に立ちはだかった。剣を真っ直ぐに構えた。

 スパンッ。刹那、二つに雷は裂かれた。そんな馬鹿な。単なる光の剣如きで斬れる筈が無い。そこで朱乃は見てしまった。朧気に消えゆく雷の先に、祓魔銃を自分に向けるフリードを。気付いたところで大技の反動で疲弊して身体が動かない。

 

 

 撃たれた弾丸を彼女は見るだけしか出来なかった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 フリードは公園を探して歩いていた。すると目の前に影が降り立つ。月光を背景に黒い翼を羽ばたかせる彼女は、間違いなく堕天使だ。身構える彼に堕天使は両手を挙げる。交戦意志が無いという意味だ。尤も、フリードの方も解った上で剣を取り出したのだ。戦いに生きる者の社交辞令だった。

 

 

「貴方、フリード・セルゼンね?  私は堕天使のレイナーレ」

 

 

「……何の用だ?」

 

 

「単刀直入に言うわ。私達の仲間にならない? 勿論、報酬は弾むわよ」

 

 

 堕天使、と口の中で反復させる。種族としては別に嫌いでは無いし、ミッテルトの情報を集める為にもこのまま根無し草で放浪を続けるよりも、一度腰を落ち着けた方が良いだろう。頷くとレイナーレは嬉しそうに微笑んだ。

 

 

「これから宜しく、フリード。早速だけどアジトに案内するわね」

 

 

「……ところで、どうしてそんなに血塗れなのかしら? はぐれ悪魔の処理でもしたの?」

 

 

 ああ、と此処で自分の格好を思い出した。あくまで無表情のままフリードは呟いた。

 

 

「今頃は倉庫で転がってるだろうよ……」

 

 




昔に遊んだゲームを見付けた。今なら簡単にクリア出来る



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life.7 不運

 アジトである教会への道中、フリードは簡単な説明を受けた。曰くレイナーレは自分を馬鹿にした連中を見返すべく、神器(セイクリッド・ギア)を入手しようと企んだらしい。所有者も此方に向かっており後は抜き取るのみ。そう語る彼女は歓喜と悲痛が混ざり合った、独特の顔をしていた。

 フリードをスカウトしたのは所有者の護衛役との事だ。

 

 

「……着いたわよ。この廃教会が私達のアジト」

 

 

「へえ、堕天使が教会暮らしとはね」

 

 

 皮肉を言いながらレイナーレに着いていく。実を言うと両人共にあまり期待はしてなかった。彼女は内心で捨て駒として見ているし、フリードも宿と報酬に釣られただけ。打算で繋がっている関係ではあるが雇われた以上は仕事をこなそう。油断の無い歩みで彼は進んだ。

 やがて比較的大きな礼拝堂に出た。そこで三人の影が降りた。

 

 

「お帰りなさいませ、レイナーレ様。その者が護衛として……?」

 

 

「彼はフリード・セルゼン。名前は聞いた事あるでしょう?」

 

 

 新たに現れた堕天使達と話し込んでいるが、耳に入らなかった。フリードの視線は真っ直ぐ一人に注がれていた。まるで彼女以外を見たくないという風に。相手もまた嬉しそうな表情だ。自然と笑みが溢れた。

 やっと再会出来たのだ。愛しい彼女に。

 

 

「久し振りだな。――ミッテルト」

 

 

 ミッテルト。戦友であり、家族であり、そして世界が変わろうと唯一愛する人である。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 ミッテルトはアジトの案内という名目でフリードを連れ出した。知り合いだと彼女達に知れたら面倒だからだ。一応ある程度施設を回った後に改めて二人は互いを抱き締めた。再び会えた事を祝して。

 涙でグシャグシャに濡れた顔でミッテルトは笑った。

 

 

「ほ、本当に嬉しいっス! もうフリードとは会えないとばかり……!!」

 

 

「俺もさ……」

 

 

 リアス達と対峙した時に見せた冷酷さは何処にも無い。この時ばかりは感情が抑えきれなくなり、彼は決壊したダムのように泣いた。

 暫くそうしていたが、名残惜しそうに彼女を放した。そうした時にはフリードは既に仕事モードへと切り替えていた。ミッテルトもまた気を引き締める。

 

 

「さて、堕天使達をどうする?」

 

 

「町を縄張りにしている悪魔共も邪魔っス」

 

 

 最早、彼等は単なる障害物としか見ていなかった。その夜も二人は遅くまで今後について話し合った。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 翌日、昼間の公園。兵藤一誠は全てに絶望しきった顔でベンチに座っていた。駆け付けたソーナ達のお陰で命は助かったが、リアスと朱乃は重傷を負い絶対安静。小猫は精神を病んで部屋に引きこもってしまった。

 怪我こそ完治したが念の為に悪魔稼業を休んだ彼は、こんな目に合わせた男を恨んだ。

 

 

 と、シスター服の少女が眼に映る。様子を見る限り道に迷っているようだ。一誠は精神的に疲弊しきっていた事もあり、悪魔と教会の対立など頭から抜けていた。故に動いた。

 

 

「あの……、道に迷っているなら案内しますよ?」

 

 

 何処までも彼は不運だった。

 

 




拘れば深みに嵌まるらしい



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life.8 獲得

 道に迷っていたシスターは名前をアーシア・アルジェントと言った。駒王町の外れにある教会を目指して此処まできたものの迷子になり、日本語も通じない為に立ち往生していたらしい。嬉しそうにキョロキョロと眺めながら進んでいくアーシアを一誠は遠い目で眺めていた。

 彼女の前では心配させまいと元気さをアピールするが、いざアーシアの眼が離れると途端に力が抜けた。思い浮かぶのはフリードの冷酷な視線。背筋に冷や汗が流れた。

 

 

 やがて二人は教会に辿り着いた。だが酷い見た目で、本当に教会として活動しているのか疑問だった。嫌な悪寒がする。悪魔は聖なるものが弱点だ。十字架、聖水、光。下級悪魔なら近付いただけで最悪の場合は消滅するし、上級悪魔レベルであろうと重傷は免れない。

 例え廃教会でも神の加護が生きている限り、悪魔にはダメージなのだ。

 

 

「……ッ! じゃあ案内も終わったし、俺は帰るよ!」

 

 

「あ、待って下さい! まだお礼を……」

 

 

 震えが止まらなくなった彼は半ば強引に振り切った。アーシアは慌てて駆けていく一誠を不思議そうに見ていた。物陰に潜んでいる影が一部始終を目撃していた事など彼女は知らなかった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 暫く走っていたが、公園に差し掛かった所で立ち止まる。息を整えようと近くのベンチに座った。此処はあのレイナーレに殺された公園だ。普段なら気付いて別の場所にそそくさと移動しただろう。しかし今の一誠には余裕が無かった。

 ゼェゼェ、と荒い息を吐き出す。そして落ち着いたのか上半身を背もたれに預けた。警戒はしていなかった。

 

 

 首筋に強烈な寒気が走った。動く事も出来ずに硬直する。そこで彼は思い出した。木場が首を斬られて殺された事に。では、このどうしようもない恐怖は。後ろに立っているのだとすれば。

 

 

「助け……ッ!」

 

 

 命乞いを言い終えるより先に頭が舞った。鮮血が飛び散る。結界を展開しての、白昼堂々の殺害。にも関わらず下手人であるフリードは少しだけ笑みを浮かべていた。別に一誠の殺害に成功したからではない。もっと別の理由だった。

 血塗れとなった彼の死体に術式を描いた。神器(セイクリッド・ギア)移植の魔法陣だ。数秒後、彼は無事に移し終えたと笑いながら籠手を出現させる。

 

 

「よう、二天龍。赤い龍の帝王(ウェルシュ・ドラゴン)、ドライグ」

 

 

『……宿主から無理矢理に奪い取ったか。何故に俺の存在を知っていた? 今代は完全に覚醒していなかった筈だが』

 

 

 その問いには答えなかった。不信感を持たれるのは想定内。後々に話していこう、と頭の片隅で決めながら、フリードは多少強引に話を変えた。ドライグを味方にする布石だった。

 

 

「俺と一緒に悪魔共を滅ぼさないか?」

 

 

『ほう……?』

 

 

 翡翠の宝玉が妖しく瞬いた。とても興味深い者を見付けたという風に。

 

 




ドラゴンが見出だす奴は、大抵まともじゃないんだ



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戦闘校舎のフェニックス
life.9 思惑


 アーシア・アルジェントは死んだ。神器(セイクリッド・ギア)をレイナーレに抜かれたのだ。誰も助けに来ず、されど誰を恨む事もせずに彼女は散った。

 フリードとミッテルトは庭にアーシアの遺体を埋めていた。このまま野晒しにするのも不憫だと考えたミッテルトの提案である。完全に土で見えなくなったところで、フリードは寂しげな息を吐いた。もやもやした感情だった。

 

 

「……さて、レイナーレ達の殺害も終わったし。これからどうするっス?」

 

 

「取り敢えず暫くはこの町を拠点にする。悪魔共も俺達が逃げたと踏んでいるだろうからな」

 

 

 堕天使達の死体を処理すべく、地下の儀式場に引き返すミッテルト。彼女の右手には指輪型の神器(セイクリッド・ギア)が嵌まっていた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 グレモリー家は混乱に陥った。重傷を負ったリアス達が運び込まれのだから。急いで病院に緊急搬送して命は助かったが、元通りとはならなかった。リアスと朱乃は涙を使用しても醜い傷跡が癒えず、小猫はショックで自室に引きこもってしまった。まだ傷が浅かった一誠は完治したものの、彼もまた立ち直れていないと聞く。

 その情報が届いた時、実兄であり魔王のサーゼクスは憤慨した。溺愛する妹とその眷属達が傷付けられたのだ。しかも木場祐斗に至っては死亡である。我慢など出来うる筈が無かった。

 

 

「落ち着け、サーゼクス。下手人はもう別の町に逃げているだろう。先ずは居場所を調査するのが先だ」

 

 

「アジュカ……」

 

 

「……怒りを抑えきれないのは俺達も同じさ」

 

 

 同じ魔王であるアジュカ達の説得で落ち着きを取り戻した。そして何としてもリアス達の仇を射つと決意し、自身の眷属に情報収集を命じたのであった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 サーゼクスが躍起になって下手人を探している頃、駒王町を悪魔の一団が歩いていた。リアスの婚約者、ライザー・フェニックスだ。リアス達が襲撃されたと知った彼は先に犯人を捕らえて、グレモリー家に対して恩を売ろうと考えたのだ。故に眷属達と共に乗り込んだのである。

 先ずはこの町を縄張りにしているソーナ・シトリーと合流しよう。彼女には事前に連絡がついており、駒王学園で落ち合う手筈となっている。

 

 

 今後を優位に動く為にも、失敗は出来ない。やる気を燃やすライザーとは正反対に妹のレイヴェルは警戒を強めていた。日本に『灯台もと暗し』という諺がある事を思い出したのだ。敵は逃げておらず、逢えて潜んでいるのだとすれば。今も尚、自分達を監視しているとしたら。

 レイヴェルは身震いした。それから眷属の中でも特に仲が良いイザベラに警戒するよう告げた。

 

 




まさか飛んで火が入るとはね



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life.10 自業

「リアスの眷属が殺された!?」

 

 

 下手人を捕まえるべく駒王町にやって来たライザー達に飛び込んだ連絡。その内容はリアスの兵士として転生したばかりの新米悪魔、兵藤一誠が惨殺されたというショッキングなものだった。首を斬られていた、と通信相手のソーナは焦った口調で続ける。

 

 

『亡くなった木場くんと同じ……、両方とも首を斬られています。恐らくは先日リアス達を襲った者と同一人物の犯行と思われます』

 

 

「……解った。兎に角、俺達も急いで合流する」

 

 

 強がって通信を切るライザーは怯えがあった。敵が町に潜んでいると発覚した以上は、自分達も狙われる恐れが浮上したからだ。まだ地理を良く把握出来ていない点も向かい風だ。

 と、彼等の前に不意に影が立ちはだかった。悪魔祓い(エクソシスト)の制服を着た、白髪の青年。普段なら良かったのかもしれない。今まで何度も似たような輩を叩き潰してきたのだから、何時も通りに炎を放って終わりだ。しかし悪魔が次々に殺されている現段階では少し恐ろしく見えた。

 

 

 らしくない、と慌てて首を振る。自分は名門フェニックス家。たかが悪魔祓い(エクソシスト)程度に逃げては笑い者だ。ライザーは自然な風を装って前に歩み出た。考えたくは無いが目の前の人物が襲撃犯だった場合に眷属を守る為だ。

 人払いの結界を張り巡らせた後で、炎の魔力を展開しながら訊ねる。

 

 

「お前が――、」

 

 

 否、訊ねようとした。完全に言い終える前に背後から悲鳴が聞こえた。慌てて振り返り、そこで彼の視界に映ったのは血飛沫だった。大量の光槍が眷属を目掛けて降り注いでいる。上空にはゴスロリファッションの少女が黒い翼を拡げていた。

 ライザーは咄嗟に堕天使と眷属の間に割り込んだ。自身を盾にしたのだ。光が雨霰と降ってくるが、不死の特性を持つ彼に大したダメージは与えられない。傷を負わせられないと悟ったのか、彼女は攻撃を止めた。

 

 

「貴様、俺がフェニックス家と知っての事か!! 悪魔と堕天使の戦争が再び勃発するぞ!!」

 

 

「それは嬉しいね。今度こそ悪魔を絶滅させられる」

 

 

 言葉を返したのは青年の方だ。右手には()()()()()光の剣を握り締めている。そこまで見て嫌な予感がした。自分が堕天使の攻撃をガードしていた時、彼は何をしていた。黙って見ていたのか。そんな筈は無い。

 ゆっくりと眷属が立っているだろう背後を、守りきった彼女達の方に視線を移した。

 

 

 誰も立っていなかった。ただ夥しい量の血と肉片が転がっていた。誰の物かは解らないが、嫌でも理解してしまう。ライザーの絶叫を悪魔祓い(フリード)は黙って見ていた。崩壊した精神と共に火の玉となって突っ込んでくる。

 迫り来る不死鳥。だが彼は無表情だった。事務的な動きで籠手を出現させる。一誠から強奪した赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)だ。

 

 

「相手はフェニックスだ。お前も恨みがあるだろう?」

 

 

『恨んでいるとも。悪魔だからな。……二度と復活せぬよう、滅ぼし尽くせ!!』

 

 

 十三ある神滅具(ロンギヌス)が一角。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)。その力は一定時間毎に持ち主の能力を倍にする『倍加』と、それで得た力を他者に付与する『譲渡』である。果てしない憎悪が『Boost!!』の音声を何重にも唱えていく。

 そうしてある程度のパワーアップを終えたフリードは、続けて譲渡の作業に移った。対象は光の剣だ。

 

 

「光が悪魔は苦手だ。それを強化して、何百箇所も斬れば、悪魔には相当なダメージだよな」

 

 

 断末魔をあげるライザー。最早まともに立てなくなった彼にすたすたと近付いて、限界まで倍加させた光の剣で首を刈った。例えフェニックスでも耐えられる筈もなく、あっさりと消滅した。

 こうして僅か一週間足らずで十を越える悪魔が殺害されたのである。

 

 




弱点は突く為にあるんだよ



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月光校庭のエクスカリバー
life.11 強奪


 北欧のある田舎道。大自然に囲まれたその道を一台の車が走っていた。白のワンボックスカーは見た目こそ旅行に来た家族が乗っているかに見える。実際に搭乗者もラフな格好をした家族だ。だが表情は険しく、まるで敵を警戒しているようだ。

 砂煙をあげて走っていく様を上空から眺める影があった。十の黒翼を拡げる男は手元に光の槍を造り出す。

 

 

 隕石が直撃したかのような、爆発音が轟いた。車は粉砕されてしまい、潰された鉄の塊からやっとの事で搭乗者達は這い出た。目的のトランクケースは耐熱構造の為に無事だった。彼等が抱き抱えているケースを目敏く見付けた襲撃者はどす黒い笑みを浮かべる。静かに降り立つと、相手は次々に剣を取り出した。

 

 

「大人しくトランクケースを渡せ。そうすれば命だけは助けてやろう」

 

 

「だ、誰が堕天使の言いなりに!!」

 

 

 交渉は決裂。心底呆れたような溜め息を男は吐いた。尤も、ケースを渡しても殺すのだが。面倒臭そうに光の槍を再び造った。そして無造作に横凪ぎした。何が起きたのか、と緊張を崩さない彼等は直後胴体から真っ二つに別れた。自分の死を自覚する事もなく殺された。

 血溜まりを避けようともせず男は進み、最期まで離さなかったトランクケースを手に取った。中身は一振りの剣だ。

 

 

「……案外、容易く手に入ったな」

 

 

 その堕天使、コカビエルは腰に帯びると転移魔法陣に消えた。後日、エクスカリバー強奪事件が立て続けに起こる事となる。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 ソーナ・シトリーは恐怖していた。リアス達が襲撃され、木場と一誠が殺害されてしまった。合流する筈だったライザーとも連絡が取れない。駒王町の悪魔が順番に殺されている以上、次は自分だと怯えても仕方無かった。

 

 

「会長……」

 

 

 日常生活にも支障をきたす程、物音に過剰反応してしまうソーナ。そんな彼女を支えるべく、懐刀の椿姫を筆頭に眷属達が奔走した。普段世話になった恩を返す時だと悪魔稼業もひたすらにこなした。

 そして、数日後。季節的に珍しい大雨が降る夜に匙はコンビニへ向かっていた。連日の激務で疲れ果てている皆にデザートでも、と思い立ったのだ。プリンやケーキの入ったレジ袋を庇いながら必死に走る。

 

 

「まあ、これ食って少し休憩するか。最近は何かと忙しかったからな」

 

 

 ふと主君の顔が浮かんだ。何時になれば彼女はまた元気な姿を見せてくれるだろうか。優しげな声で名前を呼んでくれるのか。限界を感じながら彼は近道を進んだ。そこで白髪の男が立っている事に気付いた。

 その日、匙元士朗が帰ってくる事は無かった。

 

 




恐怖は日常的に繰り返されるものだ。……サイズの違いこそあるがね



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life.12 勧誘

 駒王学園は混乱に陥った。学園のアイドルであるリアスに朱乃、小猫が突然休学し、木場と一誠に至っては事故死したのだから。生徒達は嘆き悲しみ、一日でも早くリアス達が復学するように願った。覗き云々で嫌われ者だった一誠は兎も角として。

 復学させたいのはサーゼクス達も同じだった。しかし本人達が部屋から出てこない以上は手の打ちようが無かった。無理もないとアジュカは語る。

 

 

「……まだ若い彼女達にはショックが大きすぎた。立ち直れないのも仕方無いだろうね。」

 

 

「ライザー・フェニックスとその眷属は行方不明。ソーナ・シトリーは精神を病んだ。一誠くんのご両親も後を追って……」

 

 

 もしセラフォルーがこの場に居れば即座に人間界へと乗り込んだだろう。だが今彼女に動かれると勘づかれる恐れもある。故にアジュカの策でフェニックス家への対応に当たらせた。仕事が一段落すれば帰還しろとも言っているので独断行動はしない筈だ。

 敵は駒王町に潜伏している。確信したサーゼクスとアジュカは更に監視を増やそうとして、その直前に匙元士朗が行方不明になったとの報告が飛び込んだ。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「町に相当数が侵入しているな……」

 

 

 珈琲を啜りながらフリードは呟く。悪魔達を殺害したのが原因だろう、町の至るところに魔力を感知した。言うまでもなく下手人の自分達を探し回っているのだ。しかし下手に処理をすれば足取りがバレてしまう。何とも厄介な木偶だった。うんうん、とミッテルトも頷く。

 

 

「お陰でウチは運動不足だし……。暇すぎるっス」

 

 

「そう言うな、ミッテルト。タイミングを見図らって処理するさ」

 

 

 軽口を叩きながら、行動しやすい夜を待った。今宵は月も星も見当たらない。街灯だけが映し出す世界。既に二人の準備は万端だ。何時でも先手を打てるように予め籠手を出現させ、彼女も光を短槍に形作って懐に隠し持っている。フリードの合図で彼等はランダムに見張りの悪魔を襲い始めた。

 夜に身体能力が上昇すると言えど、所詮は捨て駒として宛がわれた下級悪魔。倍加された光の剣に耐えられる筈もなく、瞬時に消滅していった。狙われる順番が解らない悪魔は混乱し、一人また一人と首を斬られた。

 

 

 ザシュッ。肉を切断する音が辺りに溶けた。これで見張りは全部殺した。異変に気付いた援軍が到着する前に、と現場から転移するフリードとミッテルト。そうして廃教会の前に戻った時、一人の男が立っていた。暗くて良く見えないが中々のオーラを放っている。フリードは素早く剣を手にした。

 だが意外な事にその男は両手を上げた。どうやら今日は話し合いに来ただけらしい。

 

 

「フリード・セルゼン。それに堕天使ミッテルトか」

 

 

「……あんたはコカビエルか。前に一度だけ見たぜ」

 

 

 何の用だと言外に告げていた。無論、コカビエルも長引かせるつもりは毛頭無かった。強者特有の笑みと共に彼は続ける。悪魔と天使を相手に戦争を再び勃発させる狂気の計画を。その為には人手が必要な事を。

 

 




離れたり、くっついたり。人間は磁石を運命と呼んだ



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life.13 参加

「……条件がある」

 

 

 計画参加についてフリード達が提示した唯一の条件。それは悪魔以外の種族をなるべく殺さない事である。フリードとミッテルトが悪魔を殺害して回っているのは、前世界での悪魔の所業を目の当たりにしてきたからだ。なので正当防衛等を除いて他種族を抹殺する事は決して無い。

 レイナーレの件は襲ってきたのを返り討ちにしたからノーカウントだと頭の片隅で考えているミッテルトを他所に、コカビエルは即座にその条件を呑んだ。

 

 

「良いだろう。働いて貰うぞ」

 

 

「交渉成立、だな……」

 

 

 どうせ悪魔も抹殺対象に入っているのだ。天使に手を出せないのは残念だが、その分を余計に殺せば良い。これは力強い手駒を得た。笑いながら彼等はコカビエルが宿泊しているホテルへ向かった。暖かなワインを肴に、今後の作戦を話し合う為に。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 そもそも『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部に過ぎないコカビエルが何故、悪魔の領地である駒王町に居るのか。それは堕天使総督のアザゼルから受けた密命が原因にあった。

 悪魔達を殺害している犯人を探し出せ。何時になく真剣な表情のアザゼルに、コカビエルは首を傾げた。

 

 

「……駒王町を縄張りとするリアス・グレモリー達が襲撃された。犠牲者として、調査すべく訪れたフェニックスの三男坊やリアスの眷属二名等が死亡した」

 

 

「その話は既に聞いた。悪魔に恨みを持つ者の仕業だと噂されているが、俺達に関係無いだろう?」

 

 

 彼は堕天使としてのプライドが高く、悪魔云々の事件に面白い顔をしなかった。アザゼルがそんな話をする事さえ憎々しげだ。だがコカビエルがそう言い出すだろうとは彼も予想していたようで、構わずに話を続けた。

 

 

「我々堕天使は残る二勢力と和平を結ぶつもりだ。その為には下手人が邪魔になる」

 

 

「……ッ!!」

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 その時の激情は決して忘れないだろう。先の戦争でコカビエルは失った。部下、戦友。愛する者。自分一人が生き残ってしまった事さえ悔いているのにそれを忘れろと、しかも親友に言われたのだ。我慢など出来はしなかった。

 故に今回の騒動を起こしたと、親睦を深めるべく彼は語る。相手の信用を得るには此方の事情をある程度話すべきと考えたのだ。

 

 

 似たような過去を持つフリード達は何も喋らずに黙っていた。結局は何処も同じだった。前の悪魔世界も、この世界も。自分達のやるべき仕事は変わらない。

 ウォッカを煽るとコカビエルは寝室に消えた。残された二人は黙々とテレビを眺める。やがてコテンとミッテルトが頭を預けてきた。酒の酔いもあって、早々に潰れたようだ。少しだけ微笑むと彼はグラスを傾ける。

 

 

「……悪魔が存在しない世界を願おう」

 

 




忘れてはならない



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life.14 少女

 翌日。一同は新たにエクスカリバー研究の第一人者、バルパー・ガリレイを仲間に加えた。性格こそ歪んでいるが今回の作戦に欠かせない人物だとコカビエルは言う。詳しい事情は聞いていないが、悪魔以外に手を出さないと約束させた以上はフリードにとって誰でも良かった。寧ろ仲間が増えて心強い。

 教会から事前に強奪した三振りの聖剣(エクスカリバー)を統合し、その時に放出される聖なる波動で町の悪魔達を全滅させる。結果として悪魔との戦争を始められると彼は語った。だがそうするには先ず天界勢力からの追手が邪魔だった。

 

 

「堕天使コカビエル、それに異端者フリード・セルゼン! 神の名において断罪してくれる!!」

 

 

 目の前に現れた二人組の悪魔祓い(エクソシスト)が正しくそれだ。面倒そうにフリードは息を吐いた。相手を見た目で判断するな、とは言うが本当に身の程を知らなさそうだ。先の三大勢力戦争を生き残ったコカビエル相手に、年若い少女が二人だけ。自分達としては楽な話だが天界は果たして本当にエクスカリバーを取り返す気があるのだろうか。

 そんな彼等の心中を悟ったのか、一人が声を荒げた。

 

 

「貴様ら、武器を取れ! それとも臆したのか!」

 

 

 青い髪をした少女、ゼノヴィアが背負っていた大剣を構えた。同時にフリード達は気付く。あのオーラはエクスカリバーだと。これで殺さない理由は無くなってしまった。無表情を繕ってフリードは光の剣を取り出し、真横に軽くずらした。更に一撃、二撃。三、四、五。文字を描くかのように剣先をなぞらせていくと、光を消して柄だけとなった剣を懐に閉まった。

 一連の動作に首を傾げていた彼女は、ふざけているのかと言おうとした。が、ゼノヴィアが口を開く事は無かった。

 

 

 最初は視界が斜めにずらされた。次に痛みが同じ場所を迸った。彼が何をしたのか全く解らないまま、頭を押さえようとした腕までもが細切れになった。バラバラに崩壊していく。隣に立つツインテールの少女が何かを叫んでいるが、それすらも聞こえない。数秒後には剣だけが地面に突き刺されていた。

 さて、とフリードはもう一人を睨んだ。

 

 

「……覚悟は良いんだろうな?」

 

 

「……ッ!?」

 

 

 冷たすぎる眼差しに少女は動けない。ましてや、ついさっき相棒が殺された光景をまともにみているのだから。まだ死にたくない。生きたい。貪欲なまでの想いは何もかもを折られた彼女をある行為に走らせた。

 

 

「ど、どうか見逃して下さい!」

 

 

 命乞いだ。誇り(エクスカリバー)を捨て去り、ひたすらに頭を擦り付けた。求められれば何でもするつもりだった。靴を舐めようが、犬の真似事をしようが。神に捧げた肉体すら利用する魂胆だ。

 人間としてのプライドを放棄する少女、イリナ。土下座を繰り返す彼女の視界には映らない。フリード達が何れだけ冷たい視線を浴びせているのか。鼻を鳴らしてコカビエルは一歩近付いた。

 

 

「……エクスカリバーを寄越せ。そうすれば命だけは助けてやる」

 

 

「は、はい!」

 

 

 即座に起き上がると、ゼノヴィアの分も含めて剣を二振り差し出してきた。受け取ったのを確認すると後ろも振り返らずに一目散に逃げていく。ミッテルトが不満げな顔で洩らした。

 

 

「良かったんスか? ウチらは兎も角、戦闘狂のコカビエルさんからすれば、ああいう輩は忌むべきものかと」

 

 

「敵に命乞いをして、おまけに大切な聖剣を進んで渡したんだ。もう奴に帰る場所は無い」

 

 

 知った事ではないと、コカビエルは合計五本となったエクスカリバーを眺める。思わぬところで獲物が転がり込んだ。計画を最終段階に移行させるべく、彼等は歩き始めた。

 狙うは駒王町を任された悪魔であり、魔王セラフォルーの実妹。ソーナ・シトリーだ。

 

 




誠意と品物。それさえ欠けなければ良い



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life.15 波動

 駒王町の端にある、比較的綺麗なマンション。その一室にソーナ・シトリーは住んでいた。過去形である。彼女は何処に消え去ったのか。荒れ果てた部屋と散らばる黒い羽根が、原因を表していた。

 縄で縛り付けてあるソーナ。怯えた眼で自分を拐ったコカビエル達を見ていた。目の前の男達がリアス達を襲撃し、木場や一誠を殺害した張本人だと悟ったのだ。

 

 

「ん、んー!」

 

 

 口元を封されている為に喋れず、ただ唸るしか出来ない。そんな彼女をフリードは無表情で見張っていた。戦争開始に必要だからと言われているから特に手を出していないが、悪魔には変わらなかった。許しさえあれば即座に斬り捨てるつもりで剣を突き付けた。

 そんな彼を見かねてか、コカビエルは大きな声で告げる。

 

 

「その程度にしておけ。……行くぞ」

 

 

 不満げに返事をするとフリード達は後に続いた。向かうは悪魔にとっての重要拠点、駒王学園だ。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 ソーナ・シトリーが誘拐された。部下の報告に魔王セラフォルーは表情を一変させた。自他共に認めるシスコンの彼女にとって、実妹たるソーナは何より大切な存在。落ち着ける筈もなくアジュカ達の制止を振り切って、セラフォルーは単身学園に乗り込んだ。

 到着した時、既に辺りは暗くなっていた。目を凝らしてグラウンドに佇む人影を見付ける。因縁ある堕天使コカビエルがニヤニヤと笑っていた。

 

 

「コカビエル! 貴方がソーナちゃんを拐ったのね!?」

 

 

「そうだ、……と言ったら?」

 

 

 見え透いた挑発だが、焦りで周囲が見えなくなっているセラフォルーには効果抜群で、悪魔の翼を拡げて突っ込んできた。ソーナちゃんを返せと叫びながら。だがそう来るであろう事は当然ながら想定済みだ。寧ろもう少し用心するとも考えていただけに、拍子抜けだった。

 バッ、とコカビエルは右手を挙げた。事前に取り決めた作戦の通りに。

 

 

 フリードとミッテルト、それにバルパーが加わった即席チームは学園の屋上から様子を眺めていた。合図を確認したミッテルトがフリードに作戦実行を促した。

 五本のエクスカリバーを床に突き立てると、倍加を繰り返す。やがて満足したように彼は籠手を消した。黒い笑みのバルパーが得意気に術式を操作していく。

 

 

「エクスカリバー統合時に放出されるエネルギーは、容易くこの町を呑み込む。如何に魔王だろうと耐えられんさ」

 

 

 最後にポンと魔法陣を押した。同時に聖なる波動が溜め込まれる。そして勢いよく放たれた。

 コカビエルにばかり気を取られていたセラフォルーは気付くのが遅れた。不味い。本能が身体を動かすも既に遅すぎた。断末魔すら叫べずに彼女は迸る輝きに喰われた。光が消えた後には何も残されてはいなかった。

 

 




ある悪魔祓いは考えた。剣を照らせば良いじゃない



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停止教室のヴァンパイア
life.16 決意


 執務室からアザゼルの怒鳴り声が聞こえてきた。それも一度だけではなく、もう二時間近く彼は声を荒げている。理由は正座させられているコカビエル、そしてフリード達にあった。何せ教会からエクスカリバーを奪い挙げ句に魔王を殺害したのだ。堕天使総督としてアザゼルは頭を抱える。

 これで確実に悪魔との和平は不可能。更に話を聞けばコカビエルが連れてきたフリードとやらはリアスに襲撃を行い、眷属を殺害したと言うではないか。

 

 

「下手すれば戦争だな。しかも超越者が出てくるとなれば、不本意だが俺達も腹を括るしか無いぜ」

 

 

 暫く悩んだ末に彼は天界勢力との和平を結論付けた。堕天使単体で悪魔と戦えば尋常でない被害が出るだろう。また天界に隙を突かれる恐れもある。上記の懸念を払拭するには天界と同盟を結ぶしか無かった。

 それに今回の魔王殺害事件には教会側の聖剣(エクスカリバー)も関わっているのだ。奪われたと主張したところで、連中が矛を退くとは思えない。その辺りはミカエルも悟っている筈だ。

 

 

 もうコカビエル達に構っている暇は無くなった。本来なら軍法会議にかけて、重い処罰をしなければならない。しかし彼等は貴重な戦力。特にコカビエルは先の大戦を生き残った強者だ。彼の不在は士気を落とす事となる。

 結局、命令違反による本部謹慎を言い付けると追い出すように執務室から退かせた。そのまま閉じられてしまった扉を背景にフリード達は立ち上がる。

 

 

「……で、コカビエルさんの預かりになったウチらも謹慎っスか?」

 

 

「そう言う事だ。と言っても一週間だがな」

 

 

 得意気に笑うと彼は一同を伴い、訓練施設に足を進めた。勃発するであろう戦争に興奮を覚えながら。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 コカビエル達が出ていった後にアザゼルは通信術式を開いた。暫くしてモニターに緊張した表情の青年が浮かび上がった。彼こそが四大熾天使(セラフ)の一角、ミカエルだ。姿が映ると直ぐにアザゼルが口を開く。

 

 

「……事情は呑み込んでいるよな?」

 

 

『ええ、全て。厄介な事をしてくれましたね。尤も私達の監督不届きもありますが』

 

 

 苦虫を何匹も噛み殺したような顔でミカエルは洩らした。彼やアザゼルとしては三大勢力で和平を結びたかった。だがそれも叶わない。今や戦争まで秒読みに入っているのだから。苛つきを隠そうともせずに話を続けた。

 

 

「単刀直入に言おう。俺は天界と同盟を結びたい」

 

 

 残る二勢力が手を結べば牽制になるし、仮に戦争が起きても勝ち目が生じる。裏を返せばそれだけ悪魔が台頭しているという事だ。考えたくは無いが、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の存在もある。

 長い沈黙の後、ゆっくりとミカエルは頷いた。悪魔を相手に戦う決意がついた瞬間だった。

 

 

『……解りました。我々は堕天使勢力に協力します』

 

 




別に騙し合いは悪い事じゃないよ。相手を間違いさえしなければね



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life.17 宿主

 二勢力の和平を内外に示すべく、アザゼルとミカエルは首脳会談を行うと宣言した。それは様子を見守っている他神話に、そして何より相手に深い恨みを持つ部下に対してである。悪魔も交えた三大勢力は戦争をしていた。当然肉親や恋人が殺害された者も居た。コカビエルを筆頭に『神の子を見張る者(グリゴリ)』の幹部陣、他ならぬアザゼルもそうだ。

 和平しますと言ったところで素直に聞けない者達も必ず居る筈だ。もしかすれば小競り合いも起きるかもしれない。それを防ぐ為の和平宣言、同盟だ。即ち敵は悪魔である、と。

 

 

 日程は三日後。本当ならもう少し猶予が欲しいところだが、長引くと悪魔に隙を突かれる恐れもある。

 フリードにミッテルト、上司であるコカビエルを呼び出しアザゼルは淡々と語った。護衛に連れていくとの事だ。

 

 

「和平云々には反対する輩も出てくる。となれば襲撃される危険性がある訳だ。一応説き伏せるつもりだが……」

 

 

 続きは敢えて言わなかったが、皆が無言で頷いた。誰もが緊張している。アザゼルも満足そうに確認すると不意に術式を展開した。小声で話している辺り、誰かに連絡しているようだ。やがて会話を終えるとメンバー、特にフリードに向き直った。

 

 

「もう一人、護衛が顔合わせに来る。……ただ、強く言っておくが決して攻撃を加えるな」

 

 

 その言葉でコカビエルは察したのか、何処か焦ったような顔をしている。訳が解らないと首を傾げるフリードだが、直後警戒体勢をとった。扉に魔力を感じたのだ。しかも因縁深い悪魔特有の物。懐に閉まっている柄を手に取りながら、執務室に入ってくる影を睨んだ。

 やって来たのは銀髪の青年だ。楽しそうな笑みを浮かべて、アザゼルの隣に立つ。彼が何かを言う前に嬉々として告げた。

 

 

「君が今度加入したフリードか。噂は聞いているよ。……俺はヴァーリ・ルシファー。『白龍皇』だ」

 

 

 白龍皇。そう彼は言った。フリードが宿すドライグと対になる存在で、二天龍の一角。ヴァーリの背中から威厳ある声が響く。

 

 

『……久しいな、ドライグ。お前の宿主の話は聞いた。随分と悪魔を嫌っているじゃないか』

 

 

『アルビオンよ、俺と宿主は悪魔への憎悪で繋がっている。故に居心地が良い。……お前とは違ってな』

 

 

 それだけ話すとドライグの反応は消えた。疑問に思い、幾ら問いかけても答えは返らない。結局その流れで解散となりフリードは仕方無しにミッテルトと食堂に向かった。コカビエルも部屋を出ていき、後に残ったヴァーリは大胆不敵に笑う。会談の日が楽しみだと言う風に。

 思い悩むアルビオンに気付けないまま、彼もまた執務室を後にした。

 

 




かつてライバルだった



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life.18 襲撃

 会談の日、深夜。アザゼルは敢えて悪魔のお膝元である駒王学園を会談場所に指定した。わざわざ町の住民を催眠術式で事前に避難させ、何重にも結界を展開してまで行う事で、悪魔との敵対関係をより強調する狙いがあった。時間となり一同が学園の会議室に入る。

 最初のアザゼルの宣言により会談は始まった。和平、次いで同盟。綿密な協力体制を敷こうと二人の首脳は真剣な表情で言葉を交わす。そこに何時ものふざけた姿勢は無く、あるのは遠い過去に失った愛する人との思い出のみ。

 

 

 部屋の片隅で様子を見守る護衛達も何か思うところがあるのか、複雑な顔をしていた。今この時にも反対派に襲撃されるかもしれないのだ。自然と緊張が場を支配する。

 やがて安堵の息をアザゼルが吐いた。和平宣言書にペンを走らせるとミカエルもまた体勢を解した。どうやら無事に締結したらしい。

 

 

「……すまねぇな。巻き込んじまって」

 

 

「いえ、私達にも和平を結ぶべきという意見はありましたから。尤も思っていた展開と違いますが」

 

 

 そう笑顔で皮肉った時、空に描かれていた結界術式が赤く染まった。非常事態を意味する色であり、つまり何者かが侵入したと告げている。会議室の床に転移魔法陣が展開された。レヴィアタンの紋章だ。

 褐色の女が現れ、同時に次々と空から悪魔達が降ってくる。予想は当たった。

 

 

 彼女は自信満々に何かを言おうとした。だが言えなかった。フリードが手足を斬り捨てたのだから。無表情のまま剣を懐に仕舞うと、達磨と化した女を捕縛する。その間、五秒。電光石火の早業に他のメンバーは驚愕していた。唯一ミッテルトのみが状況を的確に呑み込んでいた。

 

 

「侵入者は捕まえて、情報を吐かせる……。手慣れてるっスね」

 

 

「ミッテルトはこいつを『神の子を見張る者(グリゴリ)』の本部に転送してくれ。俺は外の悪魔共を一人残らず殺してくる」

 

 

 了解、と転移魔法陣を操作する彼女を他所にフリードは飛び出す。悪魔祓い(エクソシスト)が単騎で、しかも武器は一般支給される光の剣。嘲笑を纏って悪魔達は襲いかかった。数はざっと五百ある。通常ならば相手にならない。フリードの実力をまだ把握していない者達は声をあげた。

 そして心配するそぶりすらしないミッテルトに、焦った声で援護を要請する。

 

 

 馬鹿らしい。ミッテルトは言い捨てた。前の世界を知らない彼等からすれば、成程大した数と言えるのだろう。魔力から察するに上級悪魔も幾つか見られる。だから何だ。たかがその程度でフリードに挑む精神が彼女には解らない。

 悪魔世界(ディアボロス・サーガ)にて、フリード・セルゼンは対抗組織の日本支部長を任されていた。世界を多い尽くす程の悪魔の軍勢に対抗する彼等には何より強さが求められる。その絶対条件は――、

 

 

「単騎で悪魔の一軍を全滅させる事、だったりするんスよね」

 

 

 まるで自分の事のようにミッテルトは呟いた。フリードもまた呼応するかのように一撃で全ての首を刈り取った。美しい白髪が血に染まり、やっと憎むべき敵が居ないと気付く彼をただ眺めた。

 

 




より強く



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life.19 裏切

 血と肉片がばら蒔かれたグラウンド。中心で佇むフリードは、しかし何の感情も示さず剣を仕舞った。あくまで事務仕事のように粛々と抹殺劇を演じた彼に一同は驚きを隠せない。見た目は十代後半で、言い方は悪いが人間だ。身体能力が遥かに劣りながら容易く葬って見せるとは、一体どのように生きてきたのだろうか。

 元々面倒見の良い性格で、またヴァーリを我が子のように可愛がってきた事もあり、アザゼルは内心でショックを受けていた。かつての三大勢力戦争を生き抜いた子供もそうだったと言うのに。

 

 

 つまらなさそうにその場を後にするフリード。だが釈然としなかった。今回の襲撃は悪魔にしては手際が良すぎる。会談の日程が決まったのは三日前なのに、もう準備を整えてきた。情報を察知したのなら間に合う筈は無い。

 会議室の方に振り返った。何かを真剣に考え込むアザゼル、敵とは言え失われた命に心を痛めているミカエル。自分も敵を倒したかったと言わんばかりのコカビエル。

 

 

「……待てよ、一人足りない」

 

 

 ミッテルトも居る。天界側の護衛も持ち場を離れていない。という事は、だ。よく見回しても特徴的なあの銀髪が消えていた。可笑しい。そう洩らした瞬間にフリード・セルゼンは地よりも下に墜とされた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 隕石の衝突を思わせる爆発がアザゼル達の耳を貫いた。何事かと揃ってグラウンドに雪崩れ込み、そこで百戦錬磨の強さを見せ付けたフリードが地に付しているのが眼に入った。馬鹿な、とコカビエルは驚愕を隠せない。一体誰がと空を見て、白銀の鎧が視界に映し出される。

 今も尚、激しい魔力を迸らせる男。ヴァーリ・ルシファーが不敵に空中に立っていた。彼が攻撃を仕掛けたのは明らかで焦ったアザゼルが叫ぶ。

 

 

「お前か、裏切り者は……!」

 

 

「堕天使よりも面白そうだからね。俺は悪魔以外、……神々とも戦いたいんだ」

 

 

 アルビオンが唱える半減を背景に堂々と裏切りを宣言した。何が堕天使を裏切らせたのか。そう言いたげなメンバーを前に淡々と告げていく。駆け寄っていくミッテルト、頭部から血を流し倒れているフリードには目もくれない。

 『禍の団(カオス・ブリゲード)』。それが新たに身を寄せる組織の名前だ。オーフィスを依り代として各勢力の反乱分子が集まり、結成されたテロリスト集団。

 

 

 オーフィスの存在に各々が緊張を隠せない中、パラリと土埃が落ちる音がした。ヴァーリまでもが不思議そうに音の発生源を探し、そこで悪魔祓い(エクソシスト)の制服が視界に入った。金十字の刺繍された上着を肩に掛け、風に靡く。

 

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』、だと……?」

 

 

 白髪を揺らしてフリードは紅蓮色の籠手を出現させた。ドライグの珍しく戸惑う声も耳にすら入れず、柄から光を最大に放つ。本気だと悟った者達が思わず止めようとして逆にヴァーリが手で制した。永劫のライバルたる『赤龍帝』が目の前に、殺気を剥き出しにしているのだ。これ程嬉しい事は無いと笑う。

 全力で来い、と叫んだ。戦いを楽しむ為により己を鼓舞した。

 

 

「見ろ、アルビオン! 俺は最高に嬉しいぞ!!」

 

 

『馬鹿が……。少しは気を引き締めろ!!』

 

 

 忠告は聞くべきだった。呆れ混じりのアルビオンにも耳を貸さず、光の速さでヴァーリは突っ込む。何れ程の愚行かも知らず塊となる彼を憤怒の表情で睨んだ。百を超える『Boost!』に塗れて光の剣を構えた。

 斬ってくる、と読んだのか咄嗟に両腕をクロスさせるヴァーリ。魔力の膜を腕に巡らせ、鎧の防御力もあり簡単には攻撃を受け付けないと自信満々に洩らした。

 

 

 バシュン。一筋の音が過ぎ去った。何かを切り裂いて生じたので無い事は明らかだ。では何をしたのか。丁度銃で撃ったかのようなと認識して急激に視界が暗転していった。何故か頭が痛む。撃ち抜かれたような、虚無の痛みだとヴァーリは感じた。それすらも感覚が無くなっていく。

 最後にフリードのもう片方の手に祓魔銃が見えて、やっと自分は撃たれたと理解した。迫り来る剣を受け入れるべく彼はそっと眼を閉じた。

 

 

「待ってくれ! ヴァーリは……ッ!!」

 

 

 堕天使総督の言葉はもう遅すぎた。首から吹き出る鮮血すらも停滞して見える程に。

 

 




悪魔なら覚悟を決めろ



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DX.1 印象

 恐ろしく冷たい眼をしている子供。白髪だのと色々特徴はあったが、それが第一印象だった。

 

 

 悪魔が他勢力に宣戦布告してから十数年。人外からすれば瞬きに等しい時間で彼等は世界の八割を支配下に置いた。殺そうとも尚増やされていく兵士、空を我が物顔で飛び交う『魔翔戦艦』を始めとした圧倒的物量。

 何より超越者の存在が大きかった。悪魔というカテゴリを逸脱した二人の魔将軍。サーゼクス・グレモリー。アジュカ・アスタロト。二人が生まれたからこそ戦争を決意したとも噂されている。

 

 

 物資も人手も足りない。そのような状態で、対抗組織『禍の団(カオス・ブリゲード)』は抗い続けた。悪魔以外の全ての種族が集い結成した組織だった。翼を携える金十字架を旗印に皆の希望を背負って。

 堕天使ミッテルトは当時、日本支部に所属していた。任務は救助活動。主に逃げ遅れた子供達を救出する重要な役目だ。

 

 

「……酷い。女子供まで見境なく殺してる」

 

 

 病人等役に立ちそうもない者はその場で殺害された。無抵抗でも容赦はされなかった。込み上げる憎悪に耐えながら、一面焼け野原となった村を見回る。すると一件の家から微かに音が聞こえた。未だ悪魔が残っているのかと咄嗟に身を隠した。

 家の中も略奪の限りを尽くされていた。僅かな家具は床に倒され、住人だった者の下半身の臓器があちこちに散らばっている。ただ上半身は比較的無事だった。

 

 

 あ、と彼女は声を洩らした。住人はダンボール箱にすがり付いて死んでいたのだ。まるで何かを守るように。もしかすれば身体を両断した悪魔が立ち去ってから、息を吹き替えしたのかもしれない。守り抜く為に。

 そっと退かして箱を開けた。収まっていたのは小柄な少年だった。まだ二桁に到底届いていない見た目だ。住人は親だったのだろう。

 

 

「坊や、大丈夫!?」

 

 

 抱えようとしたが、少年は手を取らない。代わりに冷たい眼を向けるだけ。親を殺されたのだ。無理も無かった。だが此処で時間を潰すと悪魔達が戻ってくるかもしれない。悲しむのは基地に着いてからと言わんばかりに、半ば無理矢理に抱えるミッテルト。彼は軽く、簡単に持ち上がった。

 後は帰還するだけと彼女は転移しようとした。しかし直前にガタンと入口が揺れた。最悪のタイミングだ。

 

 

 悪魔が三人、家に雪崩れ込む。ある程度訓練を受けているとは言え、数の差は即ち力。形勢は一目瞭然だった。リーダー格の悪魔が二人に両手を挙げるように告げる。従う道しか無かった。

 一人が下卑た視線をミッテルトに向けた。

 

 

「おい、この堕天使を貰って良いか?」

 

 

「……ロリコン野郎が。せめて戻ってからにするんだな」

 

 

 へいへいと肩をすくめながら、彼等は懐に手を伸ばした。出てきた時には黒いチェスの駒を握っている。『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』、つまり転生させるつもりだ。

 身体を床に押さえつけられながらも必死に嫌だと叫ぶ。冗談では無い。悪魔になるぐらいなら今此処で首を括った方がマシだ。

 屈強な男と、可憐な少女。力の差は歴然としている。漆黒が目の前に迫りミッテルトは思わず眼を瞑った。

 

 

 ザシュッ。肉を斬る音がした。何事かと視界を開けて、最初に飛び込んだのは夥しい量の赤だ。自分に向かって血が吹き出している。悪魔の口から絶叫が響いた。駒を持った手が肩から腕ごと抉り取られていた。

 誰がと辺りを見回して少年と眼が合った。彼は立っていた。護身用に持たされたのだろう、光の剣を手にして。

 

 

「このクソガキ……ッ! 殺してやーー」

 

 

 言い終える前に頭から幹竹割りとなった。脳と臓器の海に胴体は沈んだ。慌てて魔力を掌に集める悪魔二人。だが予想外の出来事に反応出来なかったのか、組み付していたミッテルトの拘束を外してしまった。その隙を逃すような彼女では無く、空かさず光の短槍を頸動脈目掛けて突き刺した。

 鮮血越しに映る少年は泣きながら笑っていた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 こんな夢を見たのは久し振りだと、朝日に濡れるミッテルトは思う。寝食を共にする家族であり、背中合わせに戦う仲間であり、唯一愛する恋人。フリード・セルゼン。その彼との最初の出会いだ。

 木漏れ日色の金髪を整えて、トレードマークのゴスロリに身を包むと彼女は部屋を出た。

 

 

 化粧台に置かれている写真にはかつての日本支部メンバーが描かれている。その隅に無表情のフリードが映っていた。

 笑顔を見せる彼が写真に収められるには、まだ時間が必要だった。

 

 




支部長も変わるさ



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冥界合宿のヘルキャット
life.20 集結


 セラフォルーは魔法少女を名乗り格好も人間界のアニメのそれにする等、外交を担当するには足り得ない者だった。戦争で成り上がったのだから仕方は無いのだが。しかし彼女はそれでも魔王だった。セラフォルーの死により冥界は混乱を極めたのだから。

 冥界には連日のように悪い知らせが届いた。前述の魔王セラフォルー・レヴィアタンの死亡。そして天界と堕天使勢力の和平、同盟。

 

 

 魔王としてサーゼクスは思い悩む。リアス達の敵討ちもしたいが、今はそれどころではない。何とかして二勢力に対抗しなければ悪魔は滅んでしまうのだ。策としては若い悪魔達も戦力に動員するか、或いは他神話の非難を覚悟で『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の増産を急ぐか。

 先ずは次世代の悪魔を見定めた方が良い、と魔王同士の会議で決定した。必要とあれば『王の駒』の使用すらも辞さないつもりだ。

 

 

「若手悪魔の親睦会の名目で顔合わせを行う。その時に打ち明ける」

 

 

「最悪の場合は貴族派の連中に爆弾でも抱えて貰うさ」

 

 

 そうして会議は進み、やがて一つの案が産み出される。それはアジュカの発言が発端だった。駒のストックは現状で五千ある、と。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 首脳会談から一夜明けた。ヴァーリの裏切りこそあったが無事に締結され、現在は悪魔の様子を見ながら戦争準備を進めていた。本部内の動きも俄然慌ただしい。幹部の座に就いているコカビエルも会議が多すぎると不満を述べていた。

 戦闘員の立場であるフリードにも幾つかの任務が言い渡された。

 

 

「くたばりな」

 

 

「悪魔は死んだ方が世の為っス!」

 

 

 駒王町に集結しつつある『はぐれ悪魔』の一掃が今回の任務だ。領主であるリアス達が不在の状況をチャンスと見た悪魔達が雪崩れ込み、また後任の領主も派遣出来ない為に町は荒れ果てていた。エクスカリバーの光で近くに居たソーナと残りの眷属達、ギャスパーが消滅した今、守れる者は誰も居なかった。

 

 

 フリードが五十の首を切断しようとも減る様子は無かった。だが彼等にも焦りが見られる。悪魔祓い(エクソシスト)と堕天使のコンビ程度、返り討ちにしてやるつもりだったからだ。しかし蓋を開けてみればこの有り様。

 と、二人を囲んでいる悪魔の集団が退き始めた。まるで道を作るかのようにバラけ、そこから一人の女性が前に出た。黒い着物を崩した彼女はフリードを睨んでいた。

 

 

「襲撃者さんに一つだけ聞いて良いかにゃ?」

 

 

「……リアス・グレモリーとその眷属達を襲ったのも二人なのかしら?」

 

 




爆弾の使い道



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life.21 完了

 長い黒髪に着物。何よりピコンと生えている猫耳にフリードは見覚えがあった。本部の指名手配欄に名前が記されていた。確か『SS級はぐれ悪魔』の黒歌だ。罪状は主の殺害と聞いている。

 側近らしき悪魔が頭領(おかしら)と呼んだ事からも、彼女が駒王町一帯を支配下に置いているのだろう。それは端的に黒歌の強さを現していると言っても良い。

 

 

 彼女の問い、リアス達を襲ったのかという質問に彼は首を傾げた。何故はぐれ悪魔が魔王の妹を心配する。生死の確認でもしたいのか。

 そんな疑惑に黒歌は冷たく告げた。

 

 

「リアス・グレモリーの眷属に私の妹が居るの。名前は白音。今は塔城小猫と呼ばれているわ」

 

 

 白髪の小柄な少女だと特徴を言われて、あっと声を洩らした。確かに一人居たような気がする。最初に切り落とした悪魔の頭を持って、泣いていた少女だ。

 今の動作で察したのか、強く睨んだ。下手人を見付けた以上逃がすつもりは無いという意思表示だった。尤も、偽るつもりも毛頭無かったのだが。

 

 

 部下達と共に少しずつ包囲網を狭めていく黒歌。悪魔の弱点である光を危惧して、人数差で素早く仕留める算段なのかもしれない。事実彼女達は勝ち誇った顔をしていた。上級悪魔も何体か見られるし、自身に至っては最上級悪魔クラスだ。たかが悪魔祓い(エクソシスト)と堕天使では勝負にならないと確信していた。

 慢心しきった顔を眺めながら、ミッテルトは光の槍を造り出す。ごく普通の一般的な槍だ。単体では。

 

 

「三十回。それだけあれば倒せるだろ?」

 

 

 籠手を着用した左手で解りやすく彼女の肩を叩いた。瞬間に宝玉から『Transfer!!』と渋い音声が響いた。赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)、第二の能力。『譲渡』だ。途端に身体の底から力が沸き上がる。

 燃え上がるような感覚で槍を持ったまま、ミッテルトはその場で一回転した。三十回繰り返した倍加により得た莫大なエネルギーを注がれた光の槍は輝きを増し、そして何より長さを数倍に成長させた。丁度周囲の悪魔達を纏めて両断出来るサイズまで。

 

 

 予想だにしない一撃に逃げる事すらままならず、悪魔の集団はあっさりと上下で斬られた。先頭に立っていた黒歌の想いや怒りも血と混ぜて見せた。全員が消滅した事を確認してから彼女は槍を消した。反動で疲れが遅いかかるもフリードが肩を貸す。

 これで任務は終わった。帰還しようと術式を展開したところで不意に女の声が聞こえた。忙しい足音と同時に、徐々に近付いてくる。

 

 

「た、助けて! 悪魔に追われて……ッ!?」

 

 

「……誰かと思えば命乞い少女かよ」

 

 

 追われていたのは栗毛のツインテールを振り乱す少女、イリナだった。まだこの町をうろちょろしていたのかと半ば呆れながら、何れ押し寄せて来るだろう悪魔を迎えるべくフリードは腰に帯びている剣を取り出した。

 

 




スクラッチ感覚で殺す



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life.22 若手

「二勢力が手を結んだ事は皆も知っていると思う。ハッキリ言おう。我々は滅亡の危機に晒されているんだ」

 

 

 次代を担う若手悪魔達の顔合わせパーティー。ある程度賑やかだった会場は魔王サーゼクスの言葉によって急激に静まった。何時もは皮肉めいた台詞を吐く上層部も今回に限っては何も言えない。流石に看過出来ない事態だと判断したのだ。

 天界と堕天使の同盟成立。この一大ニュースに冥界は半ばパニックとなっていた。各地方の領主達も民衆を抑えるのに精神を使っていると聞く。

 

 

「……それは我々、若手悪魔も戦争に駆り出されるという事ですね?」

 

 

 緊張の中、一人の男が勇ましく発言した。精悍な顔立ちに服の上からでも鍛えているのが解る身体付き。彼の名前はサイラオーグ・バアル。最も実力ある若手悪魔と噂されている。

 ふむ、とサーゼクス達が厳しい視線をぶつけた。まるで品定めするかのように暫くそうしていたが、やがて頷いた。

 

 

「無論、君達にも戦って貰うだろう。あくまで構想(プラン)の一つだが可能性は高い」

 

 

 パーティーに出席していた他の若手悪魔達から戸惑いの声が洩れる。戦争になるかもしれないと考えてはいたが、それは頭の隅で描いた絵空事だ。現実的では無い。しかし魔王から直々に告げられると一気に恐怖が押し寄せてきたのだ。

 それから後は誰も言葉を発せず、最後にアジュカが淡々と閉会を宣言してパーティーは終了した。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「……で、命乞い少女に訊ねるが。あんな荒れた町に残っていた理由は?」

 

 

「命乞いじゃないわよ! 私にはイリナって名前があるんだから!」

 

 

 襲ってきた悪魔を一蹴したフリード達はイリナを伴って本部に帰還していた。三人はエクスカリバー事件の折に多少面識があった。苦い記憶を渾名された彼女は名前を明かすも、事実である為に怒れない。

 暫くして落ち着いたのか、ポツポツと理由を語り始めた。

 

 

「エクスカリバーを渡しちゃったから教会に帰る事も出来なくて……。幼馴染みの家を尋ねたら、詳細は不明だけど一家全員が亡くなってたし……」

 

 

「路頭に迷っていたところを悪魔に襲われた、という事っスか」

 

 

 自業自得とは言えど、中々に大変な生活をしていた。幼馴染みの家から失敬した包丁を武器として振るい、今日まで生き延びてきたのだ。のほほんとした見た目によらずサバイバル能力は高いのかもしれない。

 話が一段落ついたタイミングを見計らって今度はフリードが口を開いた。

 

 

「……さて、イリナには二つの道がある。此処を去って自立するか。それとも『神の子を見張る者(グリゴリ)』に所属して悪魔と戦うか、だ」

 

 

「あんたの立場は今のところ保護された一般人。だけど何時までも保護扱いでタダ飯が食えると思ったら大間違いっス」

 

 

 働かざる者食うべからず。そんな格言がイリナの脳内を飛び交っていた。

 

 




生きる為に



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体育館裏のホーリー
life.23 目的






 『禍の団(カオス・ブリゲード)』。各勢力の過激派が集まり結成されたテロリスト集団である。所属している者達の種族はバラバラで、悪魔や人間等といった多種多様なメンバーが各々の思想に基づいて派閥を築いていた。

 中でも構成員数が最も多く、活発に活動しているのが旧魔王派と呼称される一団だった。彼等は旧魔王の末裔を中心としており、自分達を追放した現魔王政権を憎悪している。

 

 

 洒落たマントを着飾った男が集まった部下に向けて演説していた。異様な熱気に包まれている会議室。旧魔王派にあるのは冥界への果てなき復讐心のみ。

 打倒サーゼクスを声高に叫ぶ彼はシャルバ・ベルゼブブ。末裔の一人にして、悪魔世界を創ろうと企む過激思想の持ち主だ。

 

 

「残る二勢力は軍事同盟を結んだ! このままサーゼクス以下現政権に任せていては、悪魔は滅びる!」

 

 

 この私こそが真なる魔王となり、敵を滅ぼす。圧倒的な声援に囲まれてシャルバは宣言した。確かに魔王の末裔なだけあって一定の実力はある。素のスペックだけならば並の最上級悪魔を超えているだろう。だがそれだけ。他に何も無かった。

 もう一人の末裔、クルゼレイ・アスモデウスもまた然り。魔王の器に足り得ない。

 

 

「約束しよう! 我々、真なる魔王が悪魔を繁栄に導く事を!!」

 

 

 それでも旧魔王派は進む。何れだけの犠牲を出そうと、全ては悪魔の為に。彼等の熱狂は止まなかった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「何匹か、フリードの方に逃げたっス!」

 

 

「……害虫共が」

 

 

 駒王町に潜んでいたはぐれ悪魔達を全滅させたフリード達。しかしそれで終わりでは無かった。集団に合流しようと悪魔が各地から押し寄せてきたのだ。

 今回の任務は彼等の処理である。無表情でエクスカリバーを振り回すフリードに、雨霰と光の槍を降らせるミッテルト。幾ら大群であろうと二人にかかれば楽勝だった。

 襲いかかってきた悪魔を両断してからフリードが後ろの人影に声を掛けた。

 

 

「おい、新人。お前も手を動かせ」

 

 

「やってるわよ!」

 

 

 怯えながらも敵を倒していく新人。イリナである。結局彼女は『神の子を見張る者(グリゴリ)』に所属する道を選択し、勧誘したフリードが教育係となった。元悪魔祓い(エクソシスト)なだけあってポテンシャルは高く、次から次にはぐれ悪魔を斬り棄てている。

 イリナの予想外の活躍もあり、任務は早めに完了した。多少疲れているのかミッテルトが大きく息を吐いた。そして意外そうに栗毛の彼女を眺めた。

 

 

「新人の事だから逃げ惑うかと思ってたけど、案外戦えるんスね?」

 

 

「馬鹿にしないでよ。これでも私は悪魔祓い(エクソシスト)だったんだから!」

 

 

 ヒートアップしそうな女子組をフリードが制した。連絡術式が展開されているので、重要な情報が入ったようだ。一転してミッテルト達が真面目な顔付きとなる。

 首脳会談を襲撃した悪魔女(カテレア)が口を割った、と彼は話を始めた。その女は『禍の団(カオス・ブリゲード)』と呼ばれるテロリストの一員であり、他の旧魔王の末裔も所属しているとの事だ。

 

 

 ふざけるな。事情を知らないイリナを除いた彼等は思う。『禍の団(カオス・ブリゲード)』は悪魔に対抗する為に創設された組織。翼を携えた金十字架の旗印には、悪魔以外のあらゆる種族の怒りが込められているのだ。フリードとミッテルトは誇りを持っていた。

 だからこそ珍しく顔に現れる程に激怒した。テロリスト集団では断じて無いと。

 

 

「フリード……」

 

 

「潰してやるよ。……この俺が、必ず」

 

 

 その日、フリード・セルゼンは『禍の団(カオス・ブリゲード)』の壊滅を決意した。惨たらしく、残酷に。その全てを滅ぼし尽くすと言った。

 

 




誰の心にも、入られたくない領域はある



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life.24 正義

 ディオドラ・アスタロト。名門アスタロト家の次期当主である彼は悪魔らしかった。聖女の誘惑が趣味な男で眷属も元シスターで構成されている。そんなディオドラだが、冥界を取り巻く状況には敏感だった。二勢力が手を結び、人間界では謎の悪魔殺害事件が連続していると聞く。

 自分と同じ若手悪魔が二人も殺されたと知った時、いよいよ現冥界に見切りをつけた。テロリストと内通したのだ。

 

 

『ディオドラ。貴様に任務を与える。悪魔の繁栄の為にも、失敗は許されんぞ』

 

 

「……解っています」

 

 

 眷属を引き連れて、勇んで任務遂行に出掛けた。貴族たる自分が人間界に出向くのは癪だが、これも後々の為。新たな世界で富貴の極みを尽くす未来を描いて駒王町に降り立つ。

 目的は作戦の障害になるかもしれない悪魔殺害犯の特定だ。脱出用の転移術式を先に展開してからディオドラは辺りを探索した。悪臭が鼻を襲った。

 

 

 臭いの元は思ったより早くに見つかった。悪魔の死体だ。首から上が無かったり、或いは脳天から真っ二つに切断されている残骸が山と積まれている。良く見れば『S級はぐれ悪魔』の顔も幾つか見られた。

 冗談では無い。これをやって見せた下手人はとんでもない実力者だ。並の賞金稼ぎや悪魔祓い(エクソシスト)を越えている。

 

 

「これは、早急に知らせないと……!」

 

 

 連絡用の魔法陣を地に印した。ザザッ、とシャルバの顔が映し出された。今日はやけに映像が乱れているとディオドラは感じた。どうも画面が赤い。それにシャルバも何処と無くずれて映っている。

 痛みが顔を走った。右顔面が特に痛むんだ、と言いながら彼は触れた。瞬間、周囲は完全に闇に閉ざされた。不思議に思う時間すら無くディオドラの身体はブロック状に崩壊していく。数秒後には服に包まれて肉片のみが残っていた。

 

 

『何者だ……?』

 

 

 術者が不在となり、もうすぐ消え去るであろう連絡術式。空中に浮かぶシャルバの眼はもう捨て駒(ディオドラ)に向けられておらず、眷属もろともに彼を切り裂いた男を見据えていた。

 悪魔祓い(エクソシスト)の制服を着た白髪の青年。返り血を浴びたその顔は恐ろしく冷たい。画面越しに伝わる殺意に思わず身体が震えた。純粋に恐怖しているのだ。

 

 

「全悪魔の抹殺を誓う者だ。その対象には貴様ら旧魔王派も入っている」

 

 

『……ッ! 貧弱な人間の分際で!!』

 

 

 不快そうに顔をねじ曲げると、通信は途切れた。残留していた魔力が無くなったのだろう。唾を吐き捨てると男は踵を返そうとした。だが直前に近くの樹に光の剣を投げ掛ける。風音を立てて剣は突き刺さった。

 口笛が樹の後ろから聞こえ、其処から一人の男が姿を現した。三国志を思わせる漢服を着込んだ彼は、余裕綽々の表情で両手を挙げた。

 

 

「待ってくれ、俺は悪魔じゃない。ただのちっぽけな人間さ」

 

 

「……それで、俺に何の用だ?」

 

 

 下手に回りくどい言い方をしても無駄だと悟ったのか、男は単刀直入に告げる。聖なる輝きを放つ槍を片手に構えるその男は、意思の強そうな眼に反して憎悪を宿らせていた。悪魔祓い(フリード)と同じように。

 俺達は悪魔を滅ぼそうとしている。だから協力してくれないだろうか。

 

 

「正義の名において、俺達『英雄派』は悪魔に鉄槌を降す」

 

 

 例え何れだけの犠牲が生まれようと、悪魔を滅ぼす為ならば。

 それは正義だ。

 

 




やり過ぎなければ、正義は名乗らせない



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放課後のラグナロク
life.25 英雄


 北欧神話。主にバイキング達の間で信じられた神話群であり、ギリシャやインド等と並び絶大な影響力を持つ。その主神オーディンは他勢力との友好を考えていた。己の好奇心を満たす為に。

 だがトップが何かを行おうとすれば必ず反対する者も存在する。悪神ロキが反対派の筆頭だった。

 

 

「ロキよ。世界は変革の時代を迎えておる。儂はただ知りたいのじゃ」

 

 

「ふざけるな! 我々が唱える最終戦争(ラグナロク)には他神話は必要無い!!」

 

 

 それだけを叫ぶとロキは執務室から出ていった。呆れたような息を吐いて、彼の後ろ姿を見送る。長い年月、北欧神話は他勢力と交流を深めていなかった。だからあのような頭の固い者達が生まれてしまったのだろう。

 何とかして説得したいが、とオーディンは洩らした。ロキもまた北欧神話に無くてはならない神。何より自分の義兄弟だ。なるべく話し合いで解決したい。

 

 

 それでも解って貰えないならば、仕方無い。最悪の選択も視野に入れた。一応は最後の手段だと内心で決めてから、オーディンは席を立った。部下の戦乙女(ヴァルキリー)を伴い、他勢力と交流を果たすのだ。

 

 

「オーディン様。遂に向かわれるのですね」

 

 

「うむ。……目的地は、日本じゃ」

 

 

 水晶を思わせる義眼が蒼天の向こう側、東の島国を捉えていた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 アザゼルは悩んでいた。あの主神オーディンが来日すると知ったからだ。恐らくだが日本神話と接触すると読んでいた。彼等は三大勢力、特に悪魔の被害者だ。信仰が薄くなり弱体化した隙を突かれた形で、勝手に領土を名乗られたり或いは稀少種の妖怪を悪魔にされている。

 今まで涙を呑んできた日本勢力は間違いなくオーディンと手を結ぶ筈だ。北欧が後ろ楯となれば、これ程に心強い事は無い。

 

 

 何れにしろ、先ずは事態を見守るのが先決だ。そう結論付けて部下に見張らせようと考えた矢先の出来事だった。フリードが英雄派を連れてきたのは。本当なら適当な待遇を与えて終わるのだが今回に限っては違った。

 先頭に立つ漢服の男が最強と謳われる神滅具(ロンギヌス)黄昏の聖槍(トゥルー・ロンギヌス)を構えていたのだから。他の者達にも神滅具や高位神器(セイクリッド・ギア)の反応が見える。慌ててフリードに訊ねた。

 

 

「……お前さん、この人材を何処から連れてきた?」

 

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』から抜けさせて、協力関係になった。今回連れてきたのは幹部達だ」

 

 

 フリードが出した条件。それはテロリストを辞め、堕天使側に下る事。『禍の団(カオス・ブリゲード)』に所属していると相手に討伐の大義名分を与えるようなものだ。仲間や資金集めに奔走して破壊活動はまだ始めていなかったので、これ幸いと全員抜けさせたのだ。

 表立って悪魔に復讐出来るなら、と彼等は納得して今に至る。漢服を纏った彼が槍を回しながら名乗った。

 

 

「俺は曹操。あの三国志の英雄、曹操孟徳の末裔だ」

 

 

 それに続いて幹部達が名を明かした。教会戦士の制服を着用しているジークフリート、オーブを纏った魔法使いのゲオルク。鎧に身を包んだジャンヌ、ゲリラ風の巨漢ヘラクレス。最後に幼さが残る少年レオナルドとなる。

 頼もしい英雄達にアザゼルは満足したように頷いた。それから彼等をフリードの預かりとした。

 

 

 こうして全悪魔の抹殺を誓う彼の下に、続々と戦力が集結しつつあった。

 

 




英雄に選ばれる者



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life.26 京都

「遠路はるばると、よう来られました。私は案内役の八坂と申します。これより皆様を会談場所へお連れします」

 

 

「うむ。何しろ、儂らは日本には不慣れな身じゃ。道中宜しく頼むぞ」

 

 

 日本神話との会談場所は京都と決まった。案内の大役を任されたのは京一帯を治める狐妖怪、八坂であった。妖怪勢力は日本神話の傘下に収まっており、領土を認める代わりに神々の代行としてある程度の仕事を行う契約となっている。今回も正しくそれだ。尤も、上層部からの信任が厚い八坂だからこそとも言えた。

 狐火を片手に灯し先導する彼女と後に続くオーディン。そして護衛の戦乙女(ヴァルキリー)、ロスヴァイセ。程なくして三人は妖怪横丁と呼ばれる日本独特の街に進んでいた。

 

 

 辺りに魔力が漂いながらも、神秘的なオーラに道溢れている繁華街。中央を横切る大通りの先に会談場所があった。我が物顔で悠然と構えている巨大な城だ。全体的に白を基調としており、周囲の賑やかな輝きにも負けずに圧倒的な存在感を放っている。

 大樹ユグドラシルとはまた違う迫力にオーディンとロスヴァイセは思わずたじろいだ。それから八坂の後に続いて、朱塗りの門を潜った。畳張りの質素な客間に通されるなり、待ち構えていたらしい少女が頭を下げる。

 

 

「妾は天照大神。オーディン殿、我々は歓迎致しますのじゃ!」

 

 

「今日はお互いに有意義な一日としましょうぞ」

 

 

 上座にと案内し、出された抹茶で喉を潤した。椀を置くと天照がいきなりに悪魔勢力の話を切り出した。オーディンに配られた資料には悪魔に転生させられた妖怪、奪われた領土等が事細かに記載されている。特に前述の転生悪魔は疑わしい者も含めて近年急激に上昇していた。

 我々とて対策を怠った訳では無い、と彼女は洩らした。各町ごとの警備を強化したり、悪魔の誘惑に乗らないよう注意を促したり等の活動も積極的に行った。神々も支援したが効果は芳しくなかった。

 

 

「……三大勢力に信仰を奪われた妾達は衰退するばかり。妖怪も年々数が減っておる。悪魔連中は数を頼みに押し寄せて来おった」

 

 

 結果が稀少妖怪の乱獲だ。絶対数の少ない種族は高値で取引され、眷属に持つ事が貴族悪魔の間でステータス化している。拐われた彼等がどのような末路を辿ったのかは想像に難しくない。

 このままでは絶滅してしまう。だが現在の日本神話に最早後ろ楯となりえるだけの力は残されていなかった。北欧神話との会談はそれが目的だった。

 

 

 意図を察したオーディンは眼を瞑った。妖怪云々の話は兎も角として、三大勢力には日本神話と同様に信仰を奪われたという恨みがある。それに他勢力の台頭を考えると、彼等とはなるべく関係を持ちたい。しかし同盟を結ぶのは良いが日本の情勢にはなるべく関わりたく無かった。

 思考の海を漂う内に、ふと『神の子を見張る者(グリゴリ)』が脳裏を過った。確か今は天界と手を結び、悪魔側と対立していた筈だ。

 水晶の義眼が怪しく煌めいた。

 

 

「……儂に考えがある」

 

 




巻き込んでしまえ!



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life.27 悪神

 アザゼル、更に護衛としてフリードが京都に到着したのは翌日の事だった。急な参加要求だったがオーディンからの誘いとなれば断れない。また、事前に伝えられた提案にも興味を牽かれた。

 八坂の案内で客間に通されると、二人の神がアザゼル達を待ちわびていた。天照大神、そしてオーディンだ。護衛を下がらせると用意された座布団に腰を落ち着ける。

 

 

「……で、『神の子を見張る者(グリゴリ)』と同盟を結びたいってのは本当か?」

 

 

「そうじゃ。妾達日本と北欧は既に同意しておる。後は堕天使側さえ承認すれば良い」

 

 

 不意に問いを投げ掛けたにも関わらず、慌てる様子も見せずに頷いた。互いに腹の探り合いをしていると言うべきか。普段はふざけた態度が多いアザゼルも真剣な表情である。

 だが三人共に相手の状況は予め探っていた。つまりは力が欲しいのだ。日本神話は後ろ楯、北欧神話は交流相手を其々求めていた。堕天使も然り。悪魔との戦争を考慮すると戦力を幾ら有していようと困る事は無い。

 

 

 ただ生半可な勢力では務まらないだけの話。だからこそ見極めようとしている。相手の思惑、勢力。政治事情に至るまで。そうして条件に合致して初めて同盟は結ばれるのだ。暫くしてアザゼルは大きく息を吐き出し、天照大神も肩の緊張を解いた。

 相手の底を見終え、そして同盟に合意した瞬間でもあった。三勢力の代表が手を固く結び握手を交わした。

 

 

「成立、だな。これから宜しく頼むぜ?」

 

 

「此方こそ……。末長く付き合いをしたいものじゃのう」

 

 

 会談も終わり軽口を言い合いながら帰路に着く。日本側が用意した車で途中まで見送られる事となった。レトロな雰囲気の高級車はゆったりと道を進んだ。

 だが目的地手前の森に差し掛かった瞬間、異変は生じた。空中に北欧式の術式が描かれた。やがて一人の男が姿を現す。悪神ロキだ。

 

 

「はっじめまして、諸君! 我こそはロキだ!! 今日は愚かな貴様らを滅ぼしにやって来た!!」

 

 

 純白のマントを翻した威風堂々の登場に、場は一気に緊張状態に陥った。当然だ。相手は北欧最強のトリックスターと謳われるロキなのだから。しかもこうして強行手段に出たという事は何かしらの準備を整えている筈。

 公式での発言を求めるロスヴァイセに対しても聞く耳は持たず、傍らに三つの転移魔法陣を展開した。銀の体毛に包まれた巨大な狼が唸り声と共に降り立つ。

 

 

「馬鹿者が……! 神喰狼(フェンリル)を持ち出し、天照殿に何かあれば戦争となるぞ!!」

 

 

「それは好都合! 我々の望みが早く実現するではないか。何故に貴様は戦争を遠ざけようとするッ!!」

 

 

 その怒号を攻撃開始の合図と受け取ったのか、三頭の狼は動いた。手始めに手近なオーディンを喰らおうと牙を剥いた。神殺しの力が宿る牙だ。貫かれれば神であるオーディンは致命傷で済まない。ロスヴァイセが命を捨てて間に割り込んだ。

 若くして護衛に抜擢された実力者なだけはあり、彼女の描いた防御術式は完璧に攻撃を防いだ。しかし守るだけで精一杯。追い払えずに状況は膠着した。

 

 

 ふと神喰狼(フェンリル)を支えていた腕が軽くなった。次に見えたのは狼の首の断面だった。頭を探してふと上に視線を向ける。驚いた表情のままでそれが舞っていた。最早肉の塊に成り果てた胴体に一人の影を見た。白髪の青年だ。

 ロスヴァイセの脳裏に、ある噂話が過る。堕天使勢力に凄まじく強い悪魔祓い(エクソシスト)が加入したらしい。会談を襲撃したテロリストの集団や、はぐれ悪魔の大群を全滅させたと聞く。名前は何と言っただろうか。

 

 

「おのれ、聖書の神! 何故に神殺しの道具を消さずに残した!? 余計な事をしなければ、我は……!!」

 

 

「……終わりだ」

 

 

 限界までエネルギーを譲渡したエクスカリバーで神喰狼(フェンリル)ごと一閃され、ロキは地に墜ちた。易々と悪神を打ち倒した彼の勇姿をロスヴァイセは眼に焼き付けていた。

 

 




神より神



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アクマのおしごと
life.28 群奏


 悪魔討伐の任務が無い日。フリードはミッテルトと共にテレビゲームをして過ごす。普段の冷徹なイメージからは想像もつかないが、意外にも彼はゲームが好きだ。今日もトレーニングを終わらせてから二人でのんびりと遊んでいる。何も無い暇な時間が貴重だ。

 その内に眠たくなったのか、彼等は同時に意識を落とした。新たな戦いの始まりだった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「……これは、どういう事だ?」

 

 

「ウチも解らないっス。てか何時の間に移動したんスかね」

 

 

 自分達は部屋に居た筈である。それがどうしてか、駒王町に転移していた。隣に立つミッテルトも狐につままれたような顔だ。可能性があるとすれば、最初にアザゼルの実験が思い浮かんだ。彼は変な発明をしては周囲を巻き込む悪癖がある。

 これも一種のバーチャル技術なのだろうか。辺りを警戒しながらも先に進んだ。

 

 

 驚くべき事に現実の風景がそのまま再現されていた。鳥は空を飛んでいるし、風も吹き荒ぶ。肌に感じる冷たさも同じだった。アザゼルも張り切ったな、と感心しつつ二人は取り敢えずの目的地である廃教会に向けて歩いた。

 教会までは然程時間もかからなかった。改めて観察すると外装の汚れまでも細かく仕上げている。

 

 

「取り敢えず休むか。待っていればイベントでも起きるだろ」

 

 

 面白半分で隅々まで見て回った。礼拝堂、更には自室として拝借していた部屋も作り込まれていて、こうして見ると本当にバーチャルかと疑ってしまう。積もりきった椅子の埃を叩いていると不意に庭から彼女の声が聞こえた。何かに驚いているらしい。

 懐の柄に手を突っ込んでからフリードも下に降りた。雑草が生い茂る庭に降り立つと、ミッテルトが狼狽しているのが見えた。何があったのか訊ねようとして違和感に気付く。驚いている理由を察した。

 

 

「た、大変っス! アーシアの墓が……」

 

 

「消えてるな。まるで最初から無かったかのように」

 

 

 アーシアの墓があった場所は草木で埋め尽くされていたのだ。死んでしまった彼女は確かに埋めた。だが綺麗に消えている。此処まで作っておきながら、このような初歩的なミスをするだろうか。研究者気質なあの男に限ってそれは無いと断言出来た。

 瞬間、噛み合わない恐怖がフリード達を襲った。思えば椅子の埃もそうだ。町を離れてから久しいが、それでも雪のように積もりはしない。

 

 

 消えたアーシアの墓。積もりきった埃。一体、自分達は何処に迷い込んでしまったのか。冷や汗が背筋に流れる。

 その時、フリードが顔を一変させた。悪魔を見付けた時の表情だが、今回は何時もと違った。信じられないと言わんばかりだ。

 

 

「有り得ない……」

 

 

「……? 珍しいっスね。そんな顔をするなんて」

 

 

 首を傾げるミッテルト。しかし彼女も魔力をキャッチしたのか、直後に眼を見開いた。驚きながら彼を見る。正解だと言いたげにフリードは頷いた。魔力を感じた方角を睨んだ。

 

 

「存在しない筈なんだ。二天龍は唯一無二の存在だからな」

 

 

 ならばどうして察知したのだろうか。今も尚、痛い程に身体を焼き付けるのだろう。

 赤龍帝(ウェルシュ・ドラゴン)、ドライグの波動は。

 

 




全く他人の過去を覗いているような感覚で



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life.29 活劇

「部長、これで旧魔王派の残党は全て倒しました!」

 

 

「予想より早くに終わったわね」

 

 

 この世界の一誠達は残党狩りを終えた直後だった。のんきな声が廃工場内に響いた。こうして戦い振りを見てみると自身の成長が良く解った。最初は禁手(バランスブレイカー)すら使えなかった自分が、今や並みの上級悪魔なら互角以上に戦える。

 他の部員達も集まって戦果を報告し合った。其々が敵を捕縛したと喜びながら告げた。今回の作戦は成功したようだ。リアスが一同を見回して言う。

 

 

「皆、良くやってくれたわ。私達も着実に力を伸ばしている。主として鼻が高いわよ」

 

 

「それならご褒美に部長のお乳を拝見……」

 

 

 彼が何時も通りにふざけた台詞を吐いたその時、メンバーの顔が硬直した。木場とゼノヴィアは咄嗟に剣を構えた。他のオカ研部員も次々に戦闘体勢に切り替えていく。籠手や消滅の魔力が揃うが、それらを操る手先は小刻みに震えた。

 恐ろしいのだ。まだ未熟な自分達ですら強く感じる殺意が。憎悪するかのようなオーラに晒されて、一誠も思わず唾を呑んだ。念の為にアーシアを後ろに移動させた。

 

 

 廃工場の重厚な鋼扉が二つに斬られた。ズズズ、と軋みをあげて床に倒れ伏す扉を踏みつけて二人の影が見えた。白髪に悪魔祓い(エクソシスト)の制服を着た青年。ゴスロリファッションの少女。ロスヴァイセやレイヴェル、ギャスパーなど活動に参加してから日が浅い者は彼等を知らなかった。その為に怪訝な顔をする他無かったが、初期メンバーは違った。全員が驚愕を隠そうとせずに眼を見開いている。

 特に因縁めいた過去を持つ一誠とアーシアは絶句した。掠れたように声を絞り出す。

 

 

「フリード……!? お前、木場に殺された筈……」

 

 

「み、ミッテルト様まで……」

 

 

 だが今挙げた者達は目の前に立っている筈が無い。二人は死亡したのだから。フリードは木場が、ミッテルトはリアスが始末した。前者は自分も見ていた。

 一体何が起きているのだろうか。確認する為にもリアスが前に進み出た。眷属にも直ぐに飛び出せるよう準備を整えさせてから、油断無く口を開いた。

 貴方達は何者なのか、と。

 

 

「悪魔の分際で話し掛けるなよ。穢らわしい」

 

 

「えーー」

 

 

 瞬間、視界を金属が覆った。それが譲渡によって長さを倍に延ばされたエクスカリバーの切っ先だと気付いた時には遅く、彼女の頭を容赦なく貫通した。聖なるオーラを浴びた悪魔は消滅してしまう。以前リアスはそう説明していた。

 その言葉通りに倒れゆく彼女は粒子化し、最後には綺麗に消え去ってしまった。全く予想もしていない呆気ない死である。

 

 

 思考停止とはまさにこの状況を言うのだろう。一誠達の頭はクリアとなった。彼は何をした。リアスを殺した。溢れる疑問に惨劇を焼き付けた眼は答える。

 彼等はリアスを殺害した。ああ、と弱々しく洩らした。初めは小さかった嗚咽は意識が引き戻されるに比例して絶叫となった。

 

 

「あ、アァァァァァァアッ!!」

 

 

「喧しい。騒ぐならあの世でやれ」

 

 

 半狂乱となりながら斬りかかるゼノヴィアだが一蹴される。全力の攻撃を片手で受け止められた上に軽く吹き飛ばされ、コンクリートの壁に全身を打ち付けた。叩かれた蠅や蚊のようにピクピクと動いていたがそれもしなくなった。気絶でもしたのか、それとも死んだのか。

 どうでも良さそうにミッテルトは光槍を振るう。聖と魔が融合した剣を滅茶苦茶に振り回す木場だが、槍に遮られて届かない。逆に聖魔剣が半ばでへし折られる始末だ。

 

 

 小猫と朱乃までも倒される様子を一誠は呆然と見ていた。また守れなかった。殺したのは誰だろうか。フリード・セルゼンだ。自分が弱かったせいで彼女は殺された。

 ドライグが何かを叫んでいるが、それすらも心を蝕んでいく闇に掻き消された。自然と呪文を口にしていた。

 

 

「我、目覚めるはーー」

 

 




遅かれ早かれ



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life.30 遊戯

『フリードと言ったか? お前は、選択を間違えたッ!!』

 

 

 掠れた声がすると同時に彼の変化は起きた。呪文が詠まれる度に腕や脚が醜く盛り上がる。龍に近付いていく一誠をフリード達は無表情で眺めていた。覇龍(ジャガーノート・ドライブ)は以前に見た事があるが、それと微妙に違う気がした。そんな苦い過去を悠長に思い出す程度の認識だった。兵藤一誠の暴走は。

 ふむ、と最早人の姿を失った彼を見て、改めて考える。このまま詠唱を終えるのを待つのか。答えは否だ。

 

 

 敵のパワーアップを黙って待つのは愚の骨頂。余程の馬鹿か、或いは戦闘狂のみだ。フリードはそのような事をしない。目の前に立っているのが敵で、悪魔なら。次の一手は決まっている。

 鼻を鳴らしながら聖剣を手に取った。失われた内の五本が統合された不完全なエクスカリバーだ。破壊、天閃、擬態。更に透明と夢幻を加えた計五つの強力な能力を有している。剣に映し出される己は邪悪な瞳をしていた。他者の命を奪う行為を何とも思っていない眼だ。唾を吐いて、それから一誠の元に歩み寄った。

 

 

「……夢幻(ナイトメア)

 

 

 そう呟いて、切っ先を彼の右眼に突き刺す。物陰から様子を見ていたアーシアは悲鳴を洩らした。吹き出るであろう鮮血を予想して眼を覆ったが、何時まで経っても飛び散るような音が聞こえてこない。疑問に思い、指の隙間からそっと覗いた。そして信じられない光景を眼にした。

 一誠の眼を抉るように刺された剣がズブズブと沈み込んでいるのだ。侵食されているかのように容易く呑まれていき、遂に最初から無かったかのように完全に消えた。

 

 

 直後、硬直していた彼が頭を抑えた。白目を剥きながら床にのたうち回る。相棒と必死に呼ぶドライグの声すら通じないようで、とうとう嗚咽を洩らしながら倒れてしまった。それでも意識はハッキリしているようでひたすらに何かを呟いている。

 それが亡霊となって現れたリアスやレイナーレへの懺悔だと彼女は気付く術を持たなかった。絶対零度の視線を持って、エクスカリバーをギロチンのように構えるフリード。刃は首に向けられており、これから彼が何を行うつもりなのか察したのかアーシアは駆け寄ろうとした。

 

 

「……俺の選択は間違ってないさ」

 

 

 ザンッ。肉を断ち切る音がして、彼女は全身から力が抜けていくような気がした。龍の鱗が剥がれ落ち、顔を見せる一誠。酷く歪んでいた。例えるならかつて愛した女性達に責められる、そんな悪夢を延々と見せられたかのようだ。

 返り血を浴びたフリードの隣にミッテルトが降り立った。興味を無くした玩具のように生首を放り投げる。木場に朱乃、小猫。ゼノヴィアとギャスパー。イリナ、ロスヴァイセ、レイヴェル。

 

 

 自分以外のオカ研メンバーが既に皆殺しにされていた。転がる変わり果てた仲間達から、後退りして逃げようとした。壁にぶつかろうと尚同じ動作を繰り返してしまうアーシアを二人は憐れむような視線で見た。

 血に塗れた剣が、アーシアの視界を覆った。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 聞き慣れたゲームオーバーの音声でフリードとミッテルトは眼を覚ました。どうやら途中で眠ってしまったようだ。リアルな夢を見ていた気がする。あれは幻の類だったのか。

 一瞬そう思ったが、自分の内部から聖魔剣とデュランダルの独特なオーラを感じて、表情を変えた。気紛れに強奪した神器(セイクリッド・ギア)や聖剣が現実に存在すると言う事は。

 

 

「任務に出掛けるぞ、ミッテルト。新しい剣の切れ味を試す」

 

 

「了解っス!」

 

 

 それだけ言葉を交わすと二人は急いで部屋を出ていった。暫くして誰も居ないのにゲーム機が起動を始めた。キュルキュルと無機質な音と共に、黒一色のテレビ画面に映像が映し出される。

 首から上を失った聖女と赤い『ゲームオーバー』の文字だけが不気味に輝いていた。

 

 




夢と思いたい



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修学旅行はパンデモニウム
life.31 秒読


 ロキの件により、『神の子を見張る者(グリゴリ)』と日本神話は再び会談を行う事となった。事件を解決したフリードに天照大神が礼を言いたいとの事である。

 因みに北欧側は事件の後始末に奔走して参加が出来ない状況だ。仮にも北欧所属の神が他神話の主神や代表を攻撃したのだ。同盟違反で下手をすれば戦争必至である為に、彼等の行動は慎重にならざるを得ない。

 天照大神の言葉もあり一応は同盟継続となるが、これで北欧の国際的な地位が揺らいだ形となる。

 

 

「先日は妾の危機を助けて貰って、本当にありがとうございます。そなたには日本神話を代表して厚くお礼を申し上げますのじゃ!」

 

 

「……いや、気にしないで下さい。自分は職務を果たしただけですから」

 

 

 無表情で答えるフリードだが自身が思っている以上に今回の功績は凄まじい。ロキと言えば北欧最大のトリックスターと謳われた悪神であり上から数えた方が圧倒的に早い実力を持つと言われる。

 彼は神を殺して見せ、更には天照大神を護り抜いた。恐らく今回の一件で名が知れ渡っただろう、とアザゼルは自慢気に告げた。

 

 

「人間の身でありながら『神殺し』を成し得た者は、両の手に収まる程しか存在しない。お前もその内の一人になった以上はこれから他方面に注目される筈だ」

 

 

 悪い意味でも、と最後に付け加えた。オーディンの悔しがる様子を見れて余程に嬉しかったのか凄く上機嫌だ。これが契機で日本神話と長く友好を結べる点もある。徳利を片手に喜ぶ彼を置いて、フリードは部屋に急いだ。

 長い一日を終えて戻った時には既に深夜となっていた。ドアを開けると、ミッテルトがテレビを眺めているのが見えた。此方に気付いたのか振り返る。

 

 

 お帰りと彼女は囁いた。ただいま、とだけ洩らして隣に腰を落ち着けた。画面には悪魔政府のニュースが流れている。どうやら戦争準備を本格的に開始したようだ。

 即ち、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』増産計画の発表。堕天使勢力と日本神話の同盟に焦りを感じたか。それとも牽制が目的なのか。確実に言える事はあの忌まわしい世界が再現されるという懸念のみだ。

 

 

「……カウントダウンが始まったな。もう開戦は避けられない。今この瞬間に、幕が切られるかもしれないんだ」

 

 

「あんな世界は嫌っスよ。折角この世界に来たのに、また逆戻りなんて」

 

 

 負ければどうなってしまうだろうと頭の隅で考えてしまった。賠償金の請求や植民地化、勢力の解体。色々な選択肢が戦勝国には与えられる。敗北者には何も残らない。文句を言う権利すらだ。極端に言えば子供や恋人が撃ち殺されようが、襲われようが何をされようが。悪魔相手なら何も出来ないという事なのだ。

 ミッテルトの表情が途端に青ざめていく。以前のトラウマを思い出して、嫌な汗が流れた。

 

 

「勝てば良いんだよ」

 

 

 宥めるように彼は強い口調で言った。手元に抱き寄せると腕に力を込めた。小柄で華奢な身体はすっぽりと包まれる。女性特有の甘い香りがフリードにも移った。

 何れは血と硝煙の臭いも混ざるのだろう。上着に刺繍された金十字架も朱色に染まるしか無い。

 それなら今だけは、彼女の香りで居たいと思った。

 

 

 やがて互いに顔を近付けた。愛しているから、寂しさを誤魔化したいから。そのまま数秒程そうしていたが二人は名残惜しそうに離れた。プツンとテレビの電源を消して、フリードとミッテルトは寝室に消えた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 翌日、甲高いアラームで彼等は目覚めた。未だぼんやりとしている眼を擦って床に捨てられた上着を探る。特徴的なこの音はアザゼルからの緊急呼び出しだ。悴む指で通話ボタンを押した。

 からかうような声が最初に飛んできた。

 

 

『おう、フリード。昨夜は楽しんだか?』

 

 

「……切るぞ」

 

 

 落ち着けと電話口は飄々とした音声を流す。向こうで笑いを堪えているアザゼルの顔が思い浮かんだ。しかしそれも束の間で真剣な顔となり、次の言葉を聞き逃すまいと耳を傾けた。電話の相手も暫くの沈黙の後には真面目な口調に戻った。

 案内係の八坂氏を覚えているか。そう問われたフリードはそれで大体の内容を察した。殺害でもされたのかと訊く彼だが、返ってきたのは否定の声だった。

 

 

『誘拐だ。例のテロリスト連中が犯行声明を出してるよ』

 

 

 二人共に今すぐ来い。それだけ伝えると通話は途切れた。寝ぼけ眼のミッテルトに着替えを促すと、自らも制服に袖を通す。

 沸き上がる殺意を抑えながら。

 

 




愛の形



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life.32 針鼠

 誘拐された八坂の救出。そして可能ならば犯行声明を出した『禍の団(カオス・ブリゲード)』の旧魔王派の捕縛。二つの極秘任務を受けて、フリード達は京都にやって来ていた。

 テロリストの要求は三勢力の同盟破棄。期限内に実行しなければ人質を殺害すると映像を送り付けてきた。牢に放り込まれた彼女は一糸纏わぬ姿で、つまりはそういう事なのだろう。一刻も早く救出しなければならない。

 

 

 悪魔祓い(エクソシスト)の上着をはためかせるフリード。その隣には相棒のミッテルトが続く。悪魔への敵意を放出しながら闊歩する彼等は要するに囮である。誘拐に成功した旧魔王派は勢いに乗っている状態だ。監視役が様子を報告すれば、士気の更なる上昇を狙い襲撃してくるかもしれない。

 敵のアジトが不明ならば自分達から現れるように仕向ける。それが今回の作戦だった。辺りを警戒していると不意に空がシャボン玉のように歪んだ。人払いの結界だ。

 

 

「……来たか、悪魔共」

 

 

 次々と現れる悪魔達。彼等はフリード達が人間と堕天使の混合チームだと解るや嘲笑を浮かべた。悪神ロキを殺害したのが誰なのか、連日のように報道されたのだから連中も知っている筈だが、弱い人間だと嘗めているのだ。先手はくれてやる、と筆頭格の男が馬鹿にして言った。釣られて他の男達も大袈裟に嘲笑う。

 旧魔王派は気付いていなかった。目の前に立つ二人の憎悪に。

 

 

「ウチが出向くよ」

 

 

 挑発に応じたのはフリードでは無く、背中から巨大な黒翼を生やすミッテルトである。その数は六対十二枚。悪魔の中からどよめきが聞こえた。何故なら、堕天使の実力や格は翼の枚数に比例するからである。下級は四枚以下で中級が六という風に格付けされ、八枚以上の翼を持つ者は上級堕天使と呼ばれ一部しか存在しない。

 では、小柄な体躯に不釣り合いな十二の翼はどれ程の実力を示すのだろう。

 

 

 堕天使組織、『神の子を見張る者(グリゴリ)』に唯一人だけ。同じく十二の黒翼の持ち主が存在している。遥か古の時代に亡き聖書の神に反旗を翻した男。

 『神の如き強者(アザゼル)』と人は言う。

 

 

「こんな奴が居るなんて知らなかったぞ! 急いで撤退を……ッ!!」

 

 

 格が違いすぎる。黄金の眼を光らせ、何百もの槍を宙に描く彼女に敵う筈が無い。冗談では無いと慌てて転移しようとするも間に合わなかった。無数の光槍が流星群のように降り注いだ。

 土煙が辺りを覆うも少しの間だけで、視界が回復するとそこには地獄絵図が広がっていた。下半身が無い者、腹に大穴を抉じ開けられている者。精神の弱い者なら卒倒するような光景だが、悪魔達は生きていた。強い生命力が仇となったのである。

 

 

 しかし殆どが死に絶え、残った者も脚を失ったりで動けない。芋虫のように這い回る男達を手際よく捕縛するフリード。逃げたくてもどうしようも出来ず、最後は全員が転移されていった。

 翼を収納して彼の隣に降りた。フリードの表情は尚も険しい。まだ敵は残っているらしい。すると何処からか場違いな拍手の音が聞こえた。

 

 

「流石だな。精鋭部隊を一瞬で壊滅させるとは」

 

 

「……その紋章。アスモデウス、そしてベルゼブブだな?」

 

 

 術式が浮かび上がり、二人の男が姿を見せた。今までの悪魔とは違う魔力を放っている。彼等が首謀者であるとフリードは察した。

 男達の眼は圧倒的な実力を見せたミッテルトに向けられており、今なら気付きはしない。そっと屈み込むと地面に右手を触れさせた。ベルゼブブが直前に察知するも遅すぎた。

 

 

 瞬間、彼等の真下の地面から聖魔剣が生えた。一人は回避するもアスモデウスの方は対応しきれずに、剣の群れに呑まれた。

 やがて出来上がったのは全身を刺され針鼠と成り果てた肉塊だった。

 

 




悪・即・斬



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life.33 発見

「そ、そんな馬鹿な……! 真なる魔王の血筋をこうも簡単にッ!!」

 

 

 翼を拡げ、咄嗟に回避した男は有り得ないと言いたげな顔だ。前魔王の末裔で派閥を率いていたなら、串刺しにされた隣の彼はそれなりに実力があったのだろう。事実として『無限の龍神』から力を与えて貰った二人は前魔王にも匹敵するレベルだった。だからこそ旧魔王派は今回の計画に踏みきったのだから。

 だが蓋を開けてみればどうだろう。精鋭部隊と首謀者の一人が、抵抗すら許されずに殺されてしまった。ショックは大きかった。

 

 

「流石はイレギュラーな『禁手(バランスブレイカー)』。使いやすいし、鍛えれば更なる進化が期待出来そうだ」

 

 

 気に入ったよ、と血を払いながらフリードは踏み出した。その眼はまるで虫けらを踏み潰すかのような、冷たい色をしている。気付けば足は勝手に動いていた。

 少しでも遠くに。目の前の化物から離れなければ。混乱のあまり転移術式の存在すら忘れて、シャルバ・ベルゼブブの名前を誇りに思っていた彼は、何もかもを捨ててひたすらに駆けた。

 しかしどうにも詰めが甘かった。五体満足で逃がしてくれる程優しい相手では無い事をシャルバは知らずに居たのである。

 

 

 恐怖した者は辺りに気を配る余裕など皆無だ。人目も気にせずにひたすら走り続けた。だが、尚も後ろから足音が追ってくる。あの男の眼差しが頭に焼き付いて離れない。

 遂には来るなと叫んで、背後に向き直った。白い人影を見るや魔力弾を放り投げた。一度や二度で収まらずに次々と乱射するもフリードは倒れない。針鼠にされた仲間の無惨な骸が脳裏を過った。自分もこうなってしまうのか。

 

 

「やめろ、下賎な分際が! 私は偉大なベルゼブブの……」

 

 

 言い終わる前に口から剣が延びていた。内臓を捲き込みながら天を目指し続けるそれは体内で分裂し身体を食い破った。気絶したくても悪魔特有の生命力が許してくれず、ゆっくり全身を喰い尽くしてもシャルバの意識は覚めたままだった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「も、もう殺してくれ……」

 

 

 一振りの剣を突き立てられ、シャルバは硬直していた。寝言から察するに余程苦しい悪夢が彼を襲っているらしい。ミッテルトは拘束したシャルバの頭に記憶を映し出す術式を描いた。暫く眼を瞑っていたが、急に見開いた。どうやら判明したようだ。

 捕虜として彼を転送した後で居場所を明かした。

 

 

「人間界の仮設アジトに八坂さんを監禁してるみたいっス!」

 

 

「……行くぞ。悪魔共を血祭りにあげてやる」

 

 




血祭り騒ぎ



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life.34 中身

 結論から先に述べるなら八坂は救出された。だが無事にでは無かった。見張りの悪魔を倒し、監禁場所に辿り着いた時には彼女は既に虫の息であった。身体中に刻まれた暴行の後。散らばる血。歪んだ宴が昼夜を問わず行われていたと二人は気付いてしまった。

 『神の子を見張る者(グリゴリ)』の医療施設に緊急搬送し、落ち着いてから日本神話に受け渡すと決定した。

 

 

 リネンの清潔な香りが漂う病室に八坂は眠っている。全身に巻かれた包帯、取り付けられた管が酷く痛々しい。外傷の手術は成功だと担当医師は告げた。痕も綺麗に消えるだろう。しかし精神的な面では決して安心出来ない。

 今回の誘拐事件で負った心の傷は深く、非常に不安定な状態。だから今の彼女は無意識下で目覚める事を拒否している。最悪の場合は、と一旦そこで言葉を止めた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「このまま植物状態かもしれない、というのが部下の見解だ」

 

 

「俺達が間に合っていれば、彼女は……」

 

 

 執務室に呼ばれた二人はアザゼルから事の顛末を聞いた。自分を責めるフリードだが、それ自体が不可能である事は解っていた。捕縛した悪魔が誘拐して皆で慰みものにしたと吐いたからだ。救えない現実に歯を軋ませる。しかし過ぎ去った時間は戻せない。後悔だけが残る任務となってしまった。

 無理を承知で行かせたんだ、と煙草を吹かしながら彼は洩らした。

 

 

「今回は俺の不手際に責任がある。お前さんは良くやったよ」

 

 

 そうして話を変えるかのようにフリードとミッテルトに休暇を与えた。拒否したものの、身体を休めて次に備えろと言われれば黙って頷くしか無く、結局明日から三日の連休となった。一礼して部屋を出ていく彼等の後ろ姿をアザゼルは眺める。姿がドアの向こうに消えると溜め息を吐いた。

 この誘拐事件。心に傷を負ったのは一人では無いのかもしれない。そんな事をぼんやり考えていると脳裏に以前からの疑問が過った。

 

 

 彼は本当にフリード・セルゼンなのか。見た目や悪魔への異常な殺意こそ確かに写真とおなじだが、それ以外は資料とはまるで別物だ。

 冷静で理知的な言動。悪魔祓い(エクソシスト)という理由だけで納得出来ない身体能力。彼の実力は前にコカビエルから聞いたが、珍しく絶賛していたので覚えていた。歴戦の強者とコカビエルは評価した。

 

 

『……フリードには気を付けろ。彼はとんでもなく強いぞ』

 

 

『お前にそこまで言わせるとは珍しいな』

 

 

 飲み屋で徳利を交わしていると、急に強い口調で釘を刺してくる。好奇心旺盛なアザゼルとしては詳細を知りたがったが以降は疎まがられて、一言だけしか話さなかった。

 とんでもなく強いのだがと先に言ってからポツリと呟く。

 

 

『あれは、化物の類だ……』

 

 

 フリードは誰なのか。その答えを得るにはまだ早すぎた。

 

 




また救えなかった



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学園祭のライオンハート
life.35 隠匿


お気に入り数が500を突破しました。応援ありがとうございます。今回からライオンハート編ですが、書く事が無いのでグレモリーを中心に書いていきます




 緊急搬送されたリアスと朱乃は確かに命こそ助かった。手足もきちんと揃ってる。フリードと対峙して死んでいないだけ物種だろう。しかし治らない傷もあった。先ず挙げられるのは顔に広がる醜い痕。学園のアイドルと持て囃された美貌は何処にもなく、ただ火傷のような赤黒い色がぶちまけられている。

 年頃の少女に怪我痕は致命的だ。特に貴族の娘としての立場もあるリアスは。

 

 

 二人はまだ眼を覚ましていない。集中治療室で現在も眠ったままだ。栄養を管から通されているリアス達は痩せ細っており、最早見る影も無かった。或いは夢の中で王子を待ち続ける方が幸せなのかもしれない。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 同じく奇跡的に命を拾った小猫はどうだろうか。彼女も同じく五体満足で、意識もハッキリとしている。顔も軽傷こそあったが完治して、今は痕が残っていない。外見だけで言えばマシな結果に見えた。リアス達と比べるまでも無い。

 小猫が抱えたのは精神的な傷だった。木場の死を間近で見せられたショック、更には次は自分かもしれないと言う強迫観念が頭から離れなかった。

 

 

『……ねえ、小猫ちゃん。僕の頭が無いんだ。一緒に探してくれないかな?』

 

 

 毎夜夢に彼が現れる。首を返せと呟きながら、自分に迫るのだ。何日寝ていないだろうか。それどころか起きていても姿が見える気がした。赤を、円形を見た時に。あの日抱えた頭の感触が腕に甦った。

 外に出るのが怖くなり、グレモリーの屋敷に引きこもった。カーテンを三重に閉め何も見えないようにして。布団を被って震えて過ごす。録に風呂にも入らないから髪はボサボサで、マスコットと呼ばれた愛らしい姿は何処にも見られなかった。

 

 

 学校にも登校はしない。姉が死んでもどうでも良い。そう思える程にフリードに恐怖していた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「今日も、か」

 

 

「お嬢様はお目覚めになられませんし、小猫様も……」

 

 

 グレイフィアの返答は何時も通りだった。もう何回も聞いた。もしかすれば奇跡が起きるかもと。変わる筈が無かった。こうなれば一刻も早く下手人を捕縛するしか無い。そう決意したサーゼクスは業務を眷属に預けると単身で駒王町に転移した。進展しない調査に業を煮やしての独断行動だ。

 町に降り立つと直ぐに異臭が鼻を襲った。

 

 

「な、なんだ……!?」

 

 

 見れば大量の死体が積まれている。どうやらこれが臭いの発生源だ。よく顔を確認すると上位のはぐれ悪魔も何体か発見された。そればかりではない。家々も荒れて豊かな自然は消えていた。

 これは詳しく調べなければ。喉を鳴らして彼は先に進んだ。

 

 

 死体の山に紛れている監視には気付かなかった。

 

 



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life.36 魔獣

ライオンハートは何処へ……




「フリードさん。サーゼクスが駒王町に現れたようです。監視役の魔獣が教えてくれました」

 

 

 パタパタと足音を鳴らして部屋に来たのは金髪の少年だった。名前はレオナルド。曹操達と共に『禍の団(カオス・ブリゲード)』を脱退して、現在はフリードの預かりとなっていた。

 そんな彼は有する神滅具(ロンギヌス)魔獣創造(アナイアレイション・メーカー)の操作訓練も兼ねて、様々な魔獣を創っては様々な場所に放っている。早速その真価を発揮したようだ。

 

 

「詳しい位置は解るか?」

 

「ええと……。大きな門の前に立っていますね。これは、学園でしょうか? 眷属等は見当たりません」

 

 

 魔獣と視界を共有しているレオナルドは暫く眼を瞑っていたが、少しすると光景が見えたようでフリードに伝える。密偵の視界から察するに学園前で調査を行っているようだ。一人で乗り込んできたという事は、今回はあくまで事前調査なのか。業を煮やして感情任せに来た可能性もある。

 しかし、これは絶好の機会だ。魔王が人間界にまで出てくる事は滅多に無いのだから。

 

 

 考えた末に彼はエクスカリバーを用いての奇襲を計画した。コカビエル曰く、サーゼクスは悪魔の中でもイレギュラーな存在で本気を出せば全身が『滅びの魔力』と化すらしい。触れた相手を形振り構わずに消し去ってしまう異形。そんな化物と正面から戦う訳にはいかない。

 

 

『相手はサーゼクスか。負けてくれるなよ?』

 

 

「……当然だ。塵すら残さない」

 

 

 予め倍加を限界まで行ってからフリードはエクスカリバーを構えた。譲渡の音声と同時にエネルギーを注ぎ込むと、剣は全盛期以上の輝きを放った。後はタイミングを見計らうのみ。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 サーゼクスはリアスが襲撃された日の足跡を辿っていた。躍起になり監視役には微塵も気付いていない。蝿を模した魔獣が飛び回っても、羽音すら無視して彼は町を進んだ。緑豊かだった都市は荒れ果てており、ゴーストタウンと化していた。

 領主不在の隙を突いた『はぐれ悪魔』の仕業だ。まさかここまで事態が悪化するとは、と思わず自分の失策を恨んだ。それでも過去ばかりを見ても仕方が無い。自身を励まして例の廃工場に向かった。

 

 

「この場所でリアス達は襲われたのか……」

 

 

 魔法で光を灯すと大量の腐敗した死体が転がっていた。蛆が生えている肉片を踏まないよう注意深く歩いていると、何かを一心不乱に貪っている音がした。野良犬の類か、腐臭に牽かれた魔獣か。魔力を集めそっと見てみた。予想通り中型の魔獣が二匹、肉を引きちぎっていた。

 そのまま離れようとするも運悪く片方が振り返る。眼が合った。

 

 

 啼きながら獣は突進してきた。続けて残る一匹も牙を剥き出しにして駆ける。新鮮な餌と認識されたのだ。サーゼクスは嘆息すると滅びの魔力を打ち出した。鍛えられた動作に避ける暇も無く、二匹は消滅した。野生の魔獣を屠る程度は造作もない。

 時間を消費してしまった、と踵を返す。また調査の再開だ。

 

 

「念の為に他も見回ってーー」

 

 

 刹那、だ。天井を巻き込んでエクスカリバーが振り下ろされたのは。聖なるオーラに倍加した破壊の能力が加算される。バチバチと轟雷に似た衝撃が辺り一帯を崩壊させた。廃工場を中心として、そこから何十キロも離れている駅前までは余裕で瓦礫となった。

 原型どころか影すらも残さずにサーゼクスは死んだ。彼が立っていた場所にフリードが降り立つ。もう聖剣は元のサイズに縮んでいた。

 

 

「ほら、残らなかっただろう?」

 

 



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進級試験とウロボロス
life.37 開戦


遂に始まりました。結果は解りきっていますが




 魔王サーゼクスの死亡。その報せが届いた時、民衆や一部の貴族連中は『神の子を見張る者(グリゴリ)』の仕業だと騒いだ。エクスカリバーの件があるからだ。そうした意見は程なくして、堕天使勢力との開戦に変貌していった。

 上層部も面子を傷つけられたと主張。もうアジュカ達では止められず、半ば言い含められる形で承認した。遂に始まるのだ。

 

 

「『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の増産準備が整い次第、我々は宣戦布告する!!」

 

 

「どんな敵だろうと、我々に勝てうる筈は無い!」

 

 

 腐敗した演説に熱狂的な歓声をあげる民衆。戦争で手柄を立てれば昇格を認める、という上層部の話を信じてしまったのだ。事実、四大魔王は手柄を立てた者達で構成されている。具体例が存在する以上は本当にあるのかもしれない。無知な彼等の協力を取り付けるにこれ程の餌は無かった。

 着々と手筈を進めていく冥界政府。空気中にフヨフヨと浮かんでいる細菌型魔獣によって、軍事機密が全て筒抜けである事を知らずに。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 会議室にはアザゼルを代表に上層部やフリード、ミッテルトにイリナ。英雄派の面々。更にはモニター越しにミカエルや天照大神、オーディンが集まっていた。

 

 

「駒の増産、ねぇ……」

 

 

 苛立ちながらフリードは呟いた。どうやら悪魔は『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』を用いて、自軍の戦力増強を図るつもりだ。彼としては絶対に阻止しなければならない問題だった。悪魔世界(ディアボロス・サーガ)の焼き直しを防ぐ為にも。

 増産阻止の旨を話すと皆が一様に頷く。自分達の戦いに関係無い者達を巻き込みたくないのだ。

 

 

 フリードには一計があった。例によって奇襲だ。今までもリアスやライザー、ロキにサーゼクス等を打ち倒した実績がある。しかし今回は文字どおりスケールが違った。悪魔を余裕で潰せるだけの奇襲を仕掛けるつもりである。それには各神話の協力が必要だった。

 提案がある。そう言うと彼は脳裏で描いた作戦を口にした。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「大変です、アジュカ様! 堕天使側が宣戦布告してきました!!」

 

 

「な、なんだと!?」

 

 

 絶句した。準備を整え始めた矢先とは、あまりにもタイミングが良すぎた。此方は殆ど兵力を集められていない。それに対して敵は天界や日本、北欧とも同盟を結んでいる。軍事同盟である以上は続けて宣戦布告してくるだろう。四勢力を相手に出来る筈は無かった。

 ある程度増産を終えてから、と予定していただけに余計に手痛い開戦となる。

 

 

 こうなれば今動かせるだけの軍をぶつけて、時間を稼ぐか。そう結論付けた直後に異変は起きた。窓の外が異様に明るい。肌に染みる輝きだ。遮光魔法を唱えてからアジュカは空を見て、次には驚愕した。

 さながら流星群の如く。光を結晶化させたような魔獣達が、冥界の地を目指して降り注いでいるのだから。

 

 



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life.38 終戦

滅ぼす前に申し込まれたものですから。搾り取りますよ




 首都リリスは勿論ながら、駒の生産拠点であるアグレアスを初めとして、冥界全土に魔獣は降り立った。手当たり次第に強力な光のブレスを放ち、次々に悪魔を殺害して回っている。

 彼等も黙って見ていたのでは無い。直ちに軍が出動し殲滅に動いた。その結果として殆どの魔獣を討伐したが、被害も大きかった。倒した瞬間に獣達が自爆したのだから。

 

 

 更に空気中を漂っていた細菌型の魔獣も動いた。近くの悪魔に寄生し身体を乗っ取ったのだ。しかも質の悪い事に本人の意識だけは残されており、攻撃を躊躇う者が続出した。予想もしなかった奇襲作戦に冥界は大混乱に陥った。

 誰が味方かも解らず、人影を見れば敵と勘違いし同士討ちする。悪夢の光景にアジュカは歯軋りするしか無かった。

 

 

「最悪の状態だ……」

 

 

 此処まで民衆がパニックになれば、魔王の言葉ではどうにもならないのは最早眼に見えている。或いは敵として認識されるだろう。建て直しは不可能だった。

 鎮圧に向かった軍内部にも寄生された者が現れた時、彼は一つの選択を決意した。

 

 

 冥界からの脱出だ。戦争の可能性が浮上してから、万一の為に緊急避難先を設けておいたのである。南のごく小さな島を買い取って正解だと思いつつ眷属を呼び寄せた。魔獣の大群はあくまで尖兵。四勢力からなる大部隊の侵攻も考えると一刻も早く逃げ出さなければ。

 今は潜伏して力を蓄える。そして何時か悪魔を再興するのさ、と笑みを浮かべていると眷属全員が集結した。皆が怪我だらけだった。

 

 

「移動なされるのですね?」

 

 

「そうだ。俺は地下深くに潜む」

 

 

 そのまま彼等に背中を向けると術式を弄くる。これで暫くは安泰な生活。隙を見て再び、魔王として立ち上がる日もあろう。カタカタと順調に操作していき、残すはボタンを押すだけ。触れた瞬間、自分達は南国に避難出来る。

 震える指で触ろうとして、背中を剣で斬り付けられた。

 

 

「……ッ!? 何故、お前達が……!」

 

 

 振り向き様に飛来する魔力弾。最初の傷が深かったのか、避けれずにまともに喰らった。転移術式は消え去り残っているのは血塗れのアジュカのみ。計画失敗は明らかだった。

 どうして、と言いたげに眷属の顔を見て。彼等が自分を襲った理由が解った。首筋から顔に向けて根のようなものが生えていた。寄生されていたのだ。

 

 

 そう言えば。魔獣を産み出す能力の神滅具(ロンギヌス)があった。冥界全体に展開されている結界も霧と併用すれば抜けられる。

 自分達は神器(セイクリッド・ギア)に負けた。迫り来る鋼の中でアジュカは最期に吐き捨てた。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 アジュカの死を悟ったファルビウムは降伏し、後の世に語り継がれる『悪魔大戦』は僅か半日で幕を降ろした。悪魔の半数以上が戦死したこの戦争が世界に及ぼす影響は計り知れないのであった。

 

 



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補習授業のヒーローズ
life.39 戦後


取り敢えず、これで一区切り。今まで『国家と国家の戦い』だったから今度は『新しい戦争』に……




 冥界政府の降伏宣言を四勢力は受諾。これにより『悪魔大戦』は終わりを告げた。其々の代表者が日本に集結し、協定を結んだ。

 内容だが先ず賠償金は要求していない。これは戦勝国だからと言って過度に取り立てると、民衆の不満が強まる恐れがあるからだ。インフレを巻き起こしでもすれば洒落にならない。これを口実として反乱や革命を企む者も現れてしまう。

 事実、魔王の子供であるミリキャスは健在だ。担ぎ出す輩があるかもしれない。

 

 

 次に開戦を主張した貴族連中の排除。先の同士討ちで大半が死亡したものの、生き残った者達も多い。喉元過ぎれば熱さを忘れる。終戦直後の今は大人しくしているが、年月が経つと再び戦争を考える可能性もあった。上記の件、それに加えて裏で行われていた様々な悪事を考慮すると彼等は厳罰が妥当だ。

 

 

「他の問題……、はぐれ悪魔についても文書に記載されている。問題が無ければ署名してくれ」

 

 

「……解りました。我々、冥界政府は承認します」

 

 

 悪魔側代表者であるファルビウムのサインがなされた瞬間、正式に終結した。日本の京都で結ばれたこの降伏協定は『京都宣言』と名付けられ、今後の国際平和の礎を期待された。

 以降、冥界は劇的に変化を遂げる。国民主権政治、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』の免許制度、並びに駒の摘出システムの成立。レーティングゲームの闇も取り払った。

 

 

 古臭い純血至上主義。貴族。戦争を経て、多くのものが変わった。しかし変わらない者も確かにあった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「イリナ、雑魚は任せたっス!!」

 

 

「了解したわ!」

 

 

 そう叫ぶなりミッテルトはボスと思われる悪魔に目掛けて、光の槍を投擲した。ただのはぐれ悪魔に避けられる代物では無く敵はあっさりと消滅する。丁度イリナも相手を全滅させたようで此方に駆け寄ってきた。

 以前に比べれば、彼女は強くなっている。周囲との差がありすぎるせいか自覚はしていないようだが。少なくとも並みの上級悪魔クラスなら苦もなく倒せている事からも、かなり実力を上げていると見えた。

 

 

 降伏宣言から暫くの月日が経過した。彼女達は世界中に潜伏しているであろう、はぐれ悪魔達を討伐する任務に出掛けていた。二人だけではなくフリードや英雄派等、多くの仲間と協力して進めている。

 これで北米のグループはあらかた全滅させた。今日はこれで打ち切り、本部に戻って報告した方が良い。こうしてミッテルトとイリナは『神の子を見張る者(グリゴリ)』へと帰還した。久し振りの事だった。

 

 

「お疲れさん。南米も曹操達が片付けてくれたし、アメリカ方面は平定したと言っても良いだろう」

 

 

 会議室に入ると既に全員が集まっていた。自分達が最後らしい。アザゼルの労いを受けて、二人も席に座った。神妙な顔付きで彼は、吸血鬼を知っているかと訊ねた。突拍子の無い質問だが皆も首を傾げている辺り、どうやら話すのはこの場が初めてのようだ。

 吸血鬼(ヴァンパイア)。読んで字の如く、人間の生き血を啜る。ニンニクと日光が苦手。鏡に映らない。余り詳しくないが取り敢えず知識を挙げていく。

 

 

「彼等はルーマニアに勢力を築き、純血至上主義に基づいた社会や価値観を形成している。『ツェペシュ派』と『カーミラ派』で対立を続けている。後は解らないっスよ」

 

 

「ミッテルトの答えで合っているさ。ただ、付け加えるとすれば……」

 

 

 男性新祖を尊ぶ『ツェペシュ派』でクーデターが起きたという事である。

 

 



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DX.2 不変

こういう負もある、という話です



 四神話の主導により冥界は変わりつつある。貴族制廃止、民主化。以前からの問題だった『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』やはぐれ悪魔についても、対策や免許取得制度が次々に提案されている。如何に今までの純血主義者や貴族が邪魔だったのか。

 劇的な変化の渦中にある悪魔は強くそれを感じた。

 

 

 ミリキャス・グレモリー。彼も未来が変わった者の一人だ。魔王の子供、高い才能を持つサラブレッド。周囲からの重圧と期待に負けられない。子供ながら必死に優等生の仮面を演じ続けたミリキャスにとって、歴史は初めて身近なものとなった。堕天使側からの宣戦布告。呆気ない降伏。

 半日にすら満たない、僅かな数時間だった。それで悪魔は負けた。

 歴史が変わる瞬間を見たのだ。

 

 

「……行って参ります」

 

 

 誰も居ない家に呟くと彼は出掛ける。終戦後に建てられた新たな学校に。今まで貴族社会しか学んでこなかった子供達の為の特別学校だ。

 北欧から派遣された戦乙女(ヴァルキリー)が様々な職業について授業をしている。以前なら親の後を継いで当主に自動的に進んでいた。しかしこれもまた変化した。領主も選挙で決められるので、最早家柄は形のみとなった。

 

 

「余計な事をしやがって! あのままなら俺は貴族になって、楽に生きれたのに!!」

 

 

 納得出来ない者も当然ながら現れる。民衆は税を払うのが義務。餓えようが知った事では無いと言う。隣のクラスでまた馬鹿が暴れていると聞いてミリキャスは溜め息を吐いた。

 慈愛に満ちたグレモリー家の特色か、領民を大切にしない言葉には違和感を覚えた。どんなに偉い立場だろうが民衆が居なくては生活出来ないのだから。その点に対しては反対意見だ。

 

 

 ただ、貴族の頃に戻りたいとは時折考えてしまう。幸せなあの頃に。一家で平穏に過ごしていた。ずっと続くと思っていた。何処から壊れたのだろうか。

 授業が終わると決まって墓前に顔を出す。

 

 

「……今、花を変えますね」

 

 

 光の魔獣はグレモリー領にも出現した。弱点である聖属性のブレスに、自爆攻撃。そして寄生された民衆の暴動まで起こった。鎮圧しようと出撃した領主であり祖父母のジオティクスとヴェネラナは戦死。実母のグレイフィアも光を大量に浴びて消滅してしまった。

 とうとう屋敷にまで迫られ、使用人の手で転移させられたミリキャス。降伏放送を聞きながら眺めた、屋敷の焼け落ちる様子は絶対に忘れないだろう。

 

 

 ガサリと音がして我に返った。振り向くと、まだ見慣れない銀髪の女性が立っていた。

 

 

「……ロスヴァイセ、先生?」

 

 

「すいません。思い詰めた様子で歩いているのを見かけて……」

 

 

 何時しか大粒の雨が降り注ぐ。びしょ濡れになるが、どうでも良かった。担任のロスヴァイセは見ていられなくて、きつく抱き絞めた。腕の暖かさが母親に重なった。

 

 

「僕は、まだ父上や母上にこうして欲しかった……! ずっと、これからも続くと……!」

 

 

 小さな少年の叫びは掻き消された。変わったものがあれば、変わらない者もある。

 彼の憎悪は永遠に変わらない。

 

 



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イッセーSOS
life.40 帰還


ウィザード編を削除しました。グダグダになってしまう予感がしたので。サクッとコロコロでなければなりませんからね


イッセーSOS編を挟んだ後、幾つか描いて完結となります




 フリードとミッテルトは眼を覚ました。会議の後で疲れて眠っている間に、どうも以前にも似たような感覚を味わった気がした。確か、別の世界に転移した時だ。そこで二人は顔を見合わせた。どうやら今回も別世界に移動したらしい。

 見る限り、辺りは木製の質素な部屋である。丸太を積み上げて無理矢理繋げたような小屋のようだ。内装も粗末なベッドに椅子のみで他に見当たらない。

 

 

 不意に込み上げる悲しみがフリードを襲った。懐かしいような、それでいて恐ろしいものだ。胸の中心から押し出されるモヤモヤを圧し殺して先に進む。何故だろう、自分はこの場所を知っていた。遠い昔に誰かと暮らしていたような記憶がある。

 迷い無く歩く彼と同じく、ミッテルトも妙な顔をしていた。彼女は忘れてはいなかった。

 

 

「俺は、知っているぞ。この先には小さい風呂があるんだ。餓鬼の頃に……」

 

 

 そこまで言ってから言葉を詰まらせた。誰と入ったのか、思い出したからだ。顔は忘れ去ったが、感覚は残っている。慌ててリビングに向かった。ミッテルトと出会った場所へ勢い良く転がり込むと、視界の端にある物が映った。

 上下で真っ二つに斬られた遺体、そして小さなダンボール箱。

 

 

「……フリード」

 

 

「俺達は戻ったんだな。『悪魔世界(ディアボロス・サーガ)』に……」

 

 

 目元を拭きながら告げるフリード。その眼は赤く腫れていた。また地獄の世界に舞い戻ってしまったのだ。然り気無く彼女を抱き寄せると近くの椅子に腰掛けた。これからどうするかを考えなくてはならない。

 一旦身を隠して準備を整えるのが良策だと思う。前とは違い、自分達には神器(セイクリッド・ギア)も、聖剣もある。悪魔相手には苦戦しないだろう。

 

 

 結論を出して早速支度に取り掛かった。しかし、その直前に魔力を察知する。素早く玄関の死角に隠れるや否や聖魔剣と光槍を握り締めた。暫くして悪魔の気配が家の近くに集まった。外から陽気な声が聞こえた。

 

 

「今日はこのエリアを見回りか。面倒だな」

 

 

「仕方あるまい。悪魔に敵対する者は殺せとの命令だ。女なら好きにして良いから、さっさと調べるぞ」

 

 

 へいへい、と嘆息しながら乱暴に扉を開けた。二人組の悪魔が警戒もせずに入ってくる。そして両方首を跳ねられた。呆気ない終わりだった。下級程度が聖なるオーラに耐えられる筈も無かったのだから。

 死体を消滅させると急いで転移した。応答が絶たれたとなれば、直ぐにでも援軍が派遣されると読んでの事だ。

 

 

 向かう先は『禍の団(カオス・ブリゲード)』本部だった。

 

 



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life.41 三人

どんどんシリアスになっていく




「フリードさん!? 日本支部は壊滅したと……!」

 

 

「おい、支部長が帰還されたぞ!」

 

 

 本部に転がり込むと、驚いたように仲間達が駆け寄ってきた。安否を確認するように肩を叩かれる。一斉攻撃を受けて支部は焼け野原と化しておりメンバーは殆どが戦死。フリードも生死不明となっていた。誰もが諦めていたところへの生還だ。喜ばない筈が無い。

 暫くそうしていると騒ぎを聞き付けたのか、一人の老人が輪を裂いて現れた。威厳ある大柄な身体でひしとフリード達を抱き締める。

 

 

 ヴァスコ・ストラーダ。元デュランダルの使い手で、反悪魔組織『禍の団(カオス・ブリゲード)』の創設者だ。力強く包容すると眼に涙を浮かべた。

 

 

「よくぞ無事に帰って来てくれた……。フリード、それにミッテルトよ」

 

 

「ストラーダさん。心配をかけたな」

 

 

 照れ臭そうに言うとストラーダは何度も頷いた。そして直ぐに会議室に案内された。室内には支部長が他にも集まっていたが、一様に驚いた顔をしている。二人が席に着いたタイミングを見計らって彼は口を開いた。

 飛び入りとなるが、先ずは日本支部長の帰還が話に挙げられた。次いで先程まで議論されていた本題に移る。

 

 

「このままでは物量差で押し切られる。つまり、短期決戦を仕掛けるしか無い」

 

 

 埋め込んだ者を悪魔に作り替える最悪の兵器、『悪魔の駒(イーヴィル・ピース)』。それによって産み出された悪魔は実力こそ下級レベルだが徒党を組んで大量に群がる為対処が出来ない。また、修業次第で強くもなれる。

 捕らえられた味方は洗脳され、駒を埋められ悪魔になってしまう。地球上が彼等で埋め尽くされるのも時間の問題だ。それまでに勝利しなければならない。

 

 

 方法はある。冥界勢力は魔王を頂点としたピラミッド型の支配体制だという点。即ち、頭を失うと活動停止に追い込まれてしまうのだ。魔王さえ潰せば後は烏合の衆。指揮系統を失った雑魚など相手にならない。しかし勝機が見えるこの作戦にも穴はあった。

 魔王直属の配下、『三魔将』の存在だった。

 

 

「サーゼクス。アジュカ」

 

 

「そして、……イッセー」

 

 

 誰かが呟いた直後、ピシリと空気が凍る。最後の男だけは絶対に殺害しなければならないからだ。特にフリードの顔は憎悪に塗れていた。

 険悪となったムードを悟ってか、一時休憩を宣言したストラーダ。一同が部屋を出ていくと残ったのはフリード達だけとなった。

 

 

「休憩しないんスか?」

 

 

「いや、するさ。ただ昔を思い出してな」

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「イッセー様、お目覚め下さい」

 

 

 指令室に声が響いて、男は意識を覚醒させた。新型の『魔翔戦艦』があまりにも乗り心地が良いのでつい眠ってしまった。平謝りしてから前面のモニターを眺める。

 破壊し尽くされた『禍の団(カオス・ブリゲード)』の南米支部が見えた。部下達が敵を追い回している様子がひどく滑稽だ。

 

 

「手間を取らせやがって。まあ、性能テストが出来たから良いけどな。……朱乃、全艦に撤退命令だ! 一部を残して俺達は次に移動する!」

 

 

「了解です!」

 

 

 懐かしい夢を払拭させようと彼は声を張り上げた。何も間違って無い。そう思い込むかのように。

 

 



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life.42 馬鹿

フリードが一誠に覚醒前の『赤龍帝の籠手』が宿っていると知っていた理由、になります。語る暇もありませんけど





 南米支部が陥落した。その情報は直ぐに幹部陣に駆け巡った。慌ただしくミッテルトが伝えてきたと思えば、フリードは召集を受けた。会議室に出向くと他の支部長も集まっている。

 呼ばれた理由は言うまでもなく、先の件についてだろう。等と思案しているとストラーダが現れた。彼もやつれた様子だ。案の定、会議は南米支部壊滅事件から始まった。

 

 

「知っての通り、悪魔の強襲を受けて支部が一つ潰された。残っているのは北欧、インド、……。ほんの僅かだ」

 

 

 支部長だったデュリオは非戦闘員を逃がすべく囮となり戦死。主要メンバーも残らず殺されたらしい。彼とは顔馴染みの仲であるフリードは内心で憤慨した。デュリオの実力は自分も良く知っている。まさか死のうとは。

 仇討ちをしようと思わない。今まで道半ばで倒れた仲間達の数は何れだけか。それこそ終わらない作業になってしまう。

 

 

「……ストラーダさんよ。俺に提案があるんだが」

 

 

「どうした、何か閃いたのか?」

 

 

 ただ、全てが終わった後。墓は作ってやる。そう吐き捨てながら彼は作戦を話した。お決まりの奇襲計画を。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「イッセー様、次はどちらへ向かわれるのですか?」

 

 

「北欧だ。サーゼクスの野郎はインドを攻めると息巻いてたからな。俺達はもう一つを取る」

 

 

 副官である朱乃に眼を向けず、一誠は淡々と答えた。モニターには五十を越える戦艦が映る。これよりこの大軍を率いて、北欧支部を落とすのだ。拠点は移動されていたが大まかなエリアは変わらない。ならば有利なのは此方だった。

 サーゼクスは偶然見付けたに過ぎないのだから。

 

 

 それにしても、こうして自分が魔将軍になるとは夢にも思わなかった。ましてや恐怖の対象だった『魔翔戦艦』の艦長になるとは考えもつかない。子供の頃は空を埋め尽くす艦隊から逃げ惑っていた。しかし自分が見下ろす方になると格別なものだ。

 赤ワインを注がせると一気に飲み干した。悪魔に寝返ったからこそ飲めるし、安心して酔える。

 

 

「これなら、もっと早く裏切れば良かったな。損をした気分だ。なあ、朱乃」

 

 

「はい、私もそう思います」

 

 

 眼下に拡がる、以前は自然豊かであったと思われる荒野。破壊し尽くされた廃墟郡。悪魔軍に蹂躙された痕を見て彼は嘲笑う。降伏しなかった報いだと。

 担当者の気性にもよるが、降れば少なくとも命の保証はされる。その後どうされるかは別として。抵抗軍(レジスタンス)として必死になっていた自分が恥ずかしくなる。

 

 

「『禍の団(カオス・ブリゲード)』なんざ、所詮馬鹿のやる事なんだよ……!」

 

 

 そう宣言した直後、艦が大きく揺れた。例えるなら何かが捩じ込まれたような、激しく衝突するそれだ。モニターに異常を示すバーが次々と浮かぶ。何処からか攻撃を受けた、と即座に認識した。

 オペレーター達に攻撃地点の割り出しを命じ、自身も籠手を出現させた。一体、敵は何処に居るのだろうか。

 

 

「此処だ」

 

 

 考えを見透かされたかのような、冷たい声が真後ろから響いた。それで全てを理解した。先程の振動は単なる攻撃では無く、艦内に侵入する目的で抉じ開けられた大穴だという事に。

 不味い、と退くよりも先に倍加されたエクスカリバーが貫く。

 

 

「悪かったな、奇襲しか出来ない馬鹿でよ……」

 

 

 それだけ言うと聖なるオーラを最大まで放出させた。数秒後には戦艦前方に風穴が開けられており、悪魔は誰も残っていなかった。

 

 



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life.43 特攻

そろそろ、最終回も近いですね




 突如として大穴を開けられた一誠専用の『魔翔戦艦』。赤いコーティングがなされたそれを、他五十に及ぶ艦隊は見守る事しか出来ずにいた。魔王をトップとして冥界が動いているように、軍もまた魔将軍を筆頭に動く。

 冥界政府はただ無造作に兵を増やし続けた。駒や洗脳を用いて。結果として確かに大幅な戦力拡大となったが弱点もある。命令に忠実に従うようにプログラミングされている点だ。

 

 

「だから明らかに異常が起きても、命令が無い限りは待機し続ける……。所詮は烏合の集っスよ!」

 

 

 生き残ったオペレーター達に槍を突き立てながら騒ぐミッテルト。機体維持に必要な人員以外は全て殺害し、残る悪魔は彼等だけとなった。フリードは通信術式を開くと戦果を報告する。

 この後はストラーダ達を受け入れ、そのまま魔王城に突っ込む計画だ。画面に覚悟を決めた顔の仲間が映った。

 

 

『我々は死ぬ用意も出来ている。次世代の為に命を燃やすなら本望』

 

 

「ああ、その事なんだけどよ」

 

 

 一度言葉を切った。そしてミッテルトを見る。コクリと頷くと彼女は笑った。長い付き合いだ。自分が何を考えているかはお見通しらしい。鼻を鳴らすと早口気味に告げた。

 

 

「俺達、これから二人でランデブーと洒落こむわ。悪く思うなよ、おっさん」

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 単騎で空を駆け抜ける赤の戦艦。火の玉となり、真っ直ぐに何処かへ進んでいく。半透明な防御術式の張られた穴から見えるは不敵な笑みを浮かべる男。フリード・セルゼン。

 オペレーターが言うにはサーゼクスはインドに侵攻しており、帰還には多少の時間がかかる。アジュカも然り。

 

 

 つまり現在、魔王は全くの無防備。これ程の機会はもう無い。命を捨てる価値はあると言えた。虚無的にモニターを眺めていると隣に座るミッテルトが不意に呟いた。

 あの世界には未練が無いのか、と。異なる歴史を進んだもう一つの世界。悪魔に支配されない理想郷。仲間達。

 

 

「出来るなら行きたいけどな。……ほら、目的地だぜ?」

 

 

 無理に話を変えてモニターに視線を移した。僅かな時間でもう魔王城上空だ。不機嫌そうな彼女を退けてエクスカリバーを掲げる。籠手からドライグの厳つい声が聞こえた。

 

 

『何を見せてくれる、相棒?』

 

 

「お前との約束。以前は中途半端に終わったからさ。今度こそ徹底的に潰してやるよ」

 

 

 応えるように輝くエクスカリバーを握り締めて、フリードとミッテルトは飛び降りた。切っ先を城に向けると隕石と化して飛び込んでいく。

 数瞬後、音が轟いた。城だったものが瓦礫として崩れ去る音で、同時にそれは。

 

 

 『悪魔世界(ディアボロス・サーガ)』の崩壊を告げる音だった。

 

 



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life.44 決着

遂に、ですね。残すは二、三話でしょうか




「うひゃひゃひゃ! 流石はエクスカリバーだ。それにしても、唯一破壊出来なかった聖剣を持ってるとはね! うん、面白い」

 

 

 城は崩壊したと言うのに、呑気な笑い声がフリード達の耳に入った。やがて現れたのは銀の髪と髭を蓄えた壮年の男。間違いない。彼こそが魔王、あらゆる悪魔の頂点に立つ者。リゼヴィム・リヴァン・ルシファー。

 その名を叫ぶと嬉しそうに拍手を送った。

 

 

「いやー、おじさんの名前を知っているとは嬉しいね。何処で拾ったのかは知らないけど、エクスカリバーを持っているという事は俺の能力についても知ってるな?」

 

 

「『神器無効化(セイクリッド・ギア・キャンセラー)』だろ? ストラーダのおっさんに聞いたよ」

 

 

 厄介だとリゼヴィムは吐き捨てた。実を言えば自分はそこまで魔力や体術に長けている訳では無い。無論、ルシファーの血筋だけあって何れも凄まじいのだが。サーゼクスを筆頭とする魔将軍のように魔力特性や技、或いは武器を持っていないのだから。

 あるのは血筋、そして唯一無二の固有能力。

 

 

「……行くぞ、ミッテルト!」

 

 

「うん!」

 

 

 構えるはエクスカリバー、光の槍。やる気になったのかマントを捨て去ったリゼヴィム。数瞬後、互いに動いた。リゼヴィムは魔法で剣を造り出すと真っ向からエクスカリバーを受け止める。遠距離戦に持ち込まれると思い込んでいたフリードは戸惑った。

 だがそれも束の間、正確な太刀筋で迫っていく。未来を決める戦い。しかし目の前の魔王だけは嬉々としていた。

 

 

 流石に悪魔の王を名乗るだけはあり、力任せの剣にも関わらずフリードと互角に斬り合った。そればかりでなくミッテルトの槍も交わし、お返しとばかりに魔力弾を放つ余裕まである。一撃がヒットして彼女は床に墜とされた。

 剣越しにリゼヴィムは叫んだ。

 

 

「いやいや、ユーは本ッ当に面白いな! イッセーちんは死んだらしいし、代わりに俺の部下にならない、ーーかッ!!」

 

 

 ギインッ、と金属音を撃ち鳴らしてまたも迫る。純粋な力ならリゼヴィムが圧倒的に上。にも関わらず戦えているのは聖なるオーラで弱体化しているからだ。事実、焼けるような苦痛が彼を襲っている。

 膠着したフリード、リゼヴィム。自身を回復したミッテルトが援護に回るべく駆けようとした。

 

 

 刹那、気付いた。フリードがうっすら浮かべる笑みに。

 

 

「……ぺトロ、バシレイオス。ディオニュシウス。そして聖母マリアよ。我が声に耳を傾けてくれ」

 

 

「うひゃひゃひゃ! この期に及んでお祈りか。良いねぇ、そいつは楽にして欲しいって合図だな!?」

 

 

 そう告げるなり力を更に込める。彼の華奢な身体はあっさりとエクスカリバーもろとも吹っ飛ばされ、地に倒れ伏す形となった。無防備な腹を踏みつけると首元に剣を突き付けた。

 チェックメイト。そう言いたげな顔をリゼヴィムはしている。ミッテルトも言葉を失い、へたりこんでしまった。それを確認すると最後に訊ねた。

 

 

「一応、最後に訊いておこう……。どうかな、俺の下で働いてみる気はないか?」

 

 

 兵藤一誠という前例があるだけに、また彼よりも実力があるだけに。最後に通告する。単なる脅しではなく、本当に部下になってほしいとも思った。

 虚空を眺める白髪の少年は身動き一つしない。まさか、死んだのか。面白がって顔を覗き込んだ、直後。時間は動き始めた。

 

 

「この刃に宿りしセイントの御名において、我は解放する」

 

 

 早口で何かが唱えられる。思わず離れようとするも完全に手遅れで。魔王の身体には蒼い大剣が突き刺さっていた。してやったりとフリードは笑った。

 

 

 

「……聖剣、デュランダル」

 

 



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life.45 凱旋

最終回じゃないぞよ。もうちっとだけ続くんじゃ




 リゼヴィムの背中から生える、一振りの剣。デュランダル。しばしば暴君と呼称されるそれは彼の身体を燃え尽くさんとばかりに、聖なるオーラを放出した。

 如何に魔王リゼヴィムと言えど聖剣を直接突き刺されれば堪ったものではない。口から血を吐き出した。

 

 

「ガフ……ッ! 油断した、まさかデュランダルまでも……。完全に俺ちゃんのミスだ!!」

 

 

 そう叫ぶなり両手でデュランダルの柄を鷲掴みにして、そのまま床に抜き去った。肉の焼けるような臭い、火傷。二つを隠そうともせずに距離を取る。

 遊びが過ぎた、と内心で悔やんだ。本来ならエクスカリバーを危惧して遠距離戦に持ち込むべきだった。

 

 

 まだチャンスはある。先程の一撃でフリードにも限界が訪れたのか、倒れ込んだまま。今の内に、魔力弾をぶつけて殺す。

 彼の表情は一変した。これまでのおちゃらけた顔が、魔王然とした物に変貌を遂げた。焦りから、大切な点に気付かない。

 

 

「ーー今だ、ミッテルト!!」

 

 

 背後から聞こえる声に漸く、敵は単騎では無いという事を思い出した。聖なるオーラを胴体に喰らった。剣を内臓で包んだまま、ほんの数秒間だけ宙にリゼヴィムは投げ出される。先程の一撃、続く不意討ち。更には身動きが取れない空中。

 地面に墜ちていく瞬間に、此方に向かい駆けてくるフリードと眼が合った。手にはエクスカリバーが握られていてーー。

 

 

 それが魔王リゼヴィム・リヴァン・ルシファーが最後に見た光景だった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 顔面に聖剣エクスカリバーを突き刺すと力任せに強引に引っ張りあげた。メキリ、と砕け散る音が聞こえて脊髄もろとも首が舞う。赤い虹がアーチを描いた。

 遂に倒したのだ。自分達の手でリゼヴィムを。

 

 

「や、やったんスかね……」

 

 

 疲れて転がってるミッテルトが言葉を洩らした。二つに分割された魔王が粒子となって消え去った。それが答えだろう。

 彼女を抱き寄せて、フリードは宣言した。

 

 

「……ああ、倒した」

 

 

 緊張が解けて二人は座り込んだ。膝上にミッテルトを乗せて空を眺める。

 実感が沸かないが兎に角、自分達は目的を達成したのだ。リゼヴィムさえ倒せば後は烏合の衆。どうにでもなる。

 

 

「これからどうするっス?」

 

 

「そうだな、先ずはおっさんに報告だろ……。後は協力して各地の悪魔を駆逐していかないと。やるべき事はたくさんあるな」

 

 

 呆れたように、しかし決意を新たにフリードとミッテルトは立ち上がった。二振りの聖剣を収納すると、彼等は転移魔法陣に姿を消した。

 世界を作り替える為に。

 

 



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life.46 邪魔

次回、ですね




 魔王リゼヴィムを失った冥界政府は真っ二つに分裂した。即ち、サーゼクスとアジュカ。どちらを次期魔王に据えるかだ。

 彼等はそのどちらもが圧倒的な実力を誇る。全悪魔の誰よりも、比べるまでもない程の。加えて二人ともに人望もあった。それが側近達の暗躍を苛烈される一因になったのだ。

 

 

 結論から言えば、サーゼクスとアジュカは揃って魔王になれなかった。後にフリードによって艦隊もろとも藻屑にされるのだから。

 

 

「悪魔連中も一気に崩れたっスね。まるで足場を揺らしたジェンガみたいに」

 

 

「転生悪魔の反乱が痛かった。力で抑えていたのが、今となっては下級の塊を止める事すら出来ない。」

 

 

 『悪魔世界(ディアボロス・サーガ)』に終止符を打った男は愛する女性と療養していた。別に重傷を負った訳でも無いのに休んでいる訳はストラーダにある。

 決戦後、本部に帰還したフリード達は成り行きを見守っていた仲間達に英雄として迎えられ、ついでに説教も受けた。元々は全員で突撃する予定を独断で反故にしたのだから、当然と言えばそうなのだが。

 

 

 ストラーダにも叱られたが、同時に無事を確かめるように抱き締められた。或いは親心なのだろうか。

 

 

「……で、謹慎という名の療養をさせられているんだが」

 

 

 今は『禍の団(カオス・ブリゲード)』が残党の掃討作戦を行っている。夢半ばに散った仲間の無念を晴らすように次々と転戦しては勝利を飾っていく。

 このまま悪魔勢力を滅ぼすのは時間の問題だと、見舞いに訪れた同僚は語っていた。

 

 

「……やる事が無くなったな、ミッテルト。俺達の出る幕は無さそうだ。寧ろ、表舞台から姿を消した方が良い」

 

 

「ええっ!? 何でっスか!? ウチらはこの戦争を終わらせた勇者なのに!」

 

 

 ブーブーと文句を垂れるミッテルト。別に地位や名誉が欲しくて戦い抜いた訳では無い。しかし突然に姿を消すと言われれば困惑もする。

 まるで自分達が邪魔者のように告げる彼、その横顔には一抹の憂いが見て取れた。飄々と、世間話でもするかのように告げた。

 

 

「落ち着いて考えてみろ。この先は間違い無く、『禍の団(カオス・ブリゲード)』が終戦の立役者として台頭する。臨時政府となる。組織の上層部連中が今度は政府のそれにスライドするんだ。だがもしも、民衆が俺達を支持したら? 一介の支部長に人気が集まれば…….」

 

 

 そして十中八九、そうなってしまうだろうと結論付けている。内部分裂だ。もしくは上層部がフリード達の殺害を企むか。どちらにしても厄介な事となる。

 説明すると彼女も容易に想像が付いたのか、嘆息した。どうやら諦めたようだ。お手上げとばかりに肩を竦める。

 

 

「……ウチら、これからどうするんスか?」

 

 

「方法はある……」

 

 

 待っていたかのように、目の前に扉が現れた。ドアの先にはアザゼル、コカビエル、曹操……。仲間達が映し出されている。

 迷う事はしなかった。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

「こ、この俺が! 貴様ら如きに……ッ!!」

 

 

 ヨーロッパに広がる、深い森の闇。叫び声がして、はぐれ悪魔は消滅した。これで一帯の連中は全滅させた。連絡術式を描くとアザゼルに報告する。

 

 

「……任務完了した」

 

 

『おつかれさん。吸血鬼との会談があるから、一度帰還しろ。お前達に護衛を任せる』

 

 

 了解、と短く返答して会話は終わった。二人の少年少女は頷き合うと、今度は転移魔法陣を展開した。

 

 



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異世界のエクソシスト
life.47 輪廻


これにて最終回です。終わり方については賛否両論かもしれませんが、文章や文面は兎も角、『幕の閉じ方』は最初から決めていました


最後の二人は劇中で明言していませんからね


後々、後書きと設定集を公開します




 前の世界を去ってから、もう数年が経過した。色んな事があった。その最たるが『禍の団(カオス・ブリゲード)』残党の暗躍だろう。

 クリフォトを名乗るテロリスト集団。首領の正体がリゼヴィムだったと判明した時には酷い嫌悪感を覚えたものだ。何の因果で二度も戦う羽目になるのか。

 

 

 それも結局はデュランダルのごり押しで魂もろとも消滅させた。聖杯を利用して何かを企んでいたようだが――。食い止められたのは各神話群の協力の賜物だ。

 

 

 現在、フリードは各神話が合同で設立した犯罪捜査組織『E×E(エグゼ)』の局長に就任し、世界各地の凶悪犯罪者を取り締まる日々を送っている。

 そして、同じく局員として働くミッテルトは……。

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

 雨の降りしきる日。団欒を楽しむフリードの耳元に、緊急連絡術式が展開される。途端に表情を変えた彼はリビングを出ていき、暫くしてから戻ってきた。仕事だ。

 曰く、S級はぐれ悪魔が日本に侵入したらしい。既に追跡した局員一名が犠牲になっていると告げた。危険度、実力を考慮されて休暇中だったフリードにお鉢が回ってきたとの事だ。

 

 

「戸締まりには気を付けろよ。お前だけの身体じゃ無いんだからな」

 

 

 愛用の金十字架が刺繍された上着を羽織りながら、ミッテルトのお腹をそっと撫でた。彼女のお腹は外からも解るように膨らんでいる。

 今、ミッテルトには新しい命が宿っているのだ。フリードの手に重ねられるミッテルトの手には、銀の指輪が瞬く。二人は父となり、同時に母となった。

 

 

「解ってるわよ。結界も張り終えたっス」

 

 

「なら良いさ。……じゃあ、行ってくる」

 

 

 最後に軽くキスを交わして、彼は転移していった。一人となった彼女は寂しそうに食器を片付ける。次は洗濯物を畳んで、夕飯の支度もして。

 中々に大変な作業をこなしていると床に転移魔法陣が描かれた。ひょっこりと顔を見せたのはコカビエルと女性堕天使だった。たまに訪れては世話を焼いてくれる。

 

 

「まーた仕事をサボったんスね……。シェムハザさんに怒られても知らないから」

 

 

「元部下の為なら支援は惜しまんよ。アザゼルにも頼まれているしな。フリードは仕事か?」

 

 

 こうして買い物を手伝ったり、また部下の堕天使達に簡易健康診断を行わせたりは最早日常茶飯事だ。ちゃっかり夕飯もご馳走になるのだが。有り難いのは確かだった。

 次の産婦人科の受診日を話し合ってから女性堕天使は一先ず先に帰還していった。コカビエルも長く居たかったのだが、溜まった仕事の件もあり本部に戻るようだ。

 

 

「邪魔をしたな。……また明日に様子を見に来よう」

 

 

 彼等が去っていくとまた家は静かになった。気のせいか雨風が先程よりも強くなったようだ。外の暗さに少し恐々としながらもミッテルトは夕飯を作り始める。

 今日の献立は何にしようか。テレビでやっていた鯖の煮つけが良いかもしれない。他愛ない事を考えていると、来客を示すチャイムが鳴った。

 

 

 こんな嵐の日に、誰が来るのだろう。知人は転移でプレゼントを贈ってくれるから宅配便では無い。違和感を覚えて出るのを躊躇った。結界は並の相手では破壊出来ないと願いながら、慌ててコカビエルに連絡すべく術式を紡いだ。

 しかし直前にガラスの割れる音が響いた。それは結界が破壊されてしまった音だと認識した時にはもう遅く。リビングには二人の影が立っていた。フードを被っていて顔までは解らない。

 

 

「だ、誰っスか!?」

 

 

 叫ぶミッテルトに対して、侵入者はゆっくりとフードを取り払って顔を顕にした。あ、と彼女は驚愕して思わず声を洩らした。

 最初に見えたのは白髪の少女。顔の左半分に火傷跡が見えるも、ハッキリと覚えている。昔、廃工場で襲撃したというリアス・グレモリー。その眷属の一人だった。

 

 

 身重の状態では満足に動けず、後ろに退くしか出来ない。まるで餓狼の前に放り出された兎の如く。

 

 

「さあ、始めるよ……」

 

 

 

 

「──僕達、悪魔の復讐を」

 

 

 最期に紅髪を靡かせる少年が、ミッテルトの無防備な腹に手を伸ばした。

 

 




The massacre continues


―虐殺は終わらない―



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life.48 真相

今回はキャラクター設定集、死亡キャラクターまとめ、後書きです。短い間でしたがありがとうございました




▼メインキャラクターファイル

 

 

 

 

 名前 フリード・セルゼン

 

 種族 人間

 

 性別 男

 

 好物 ミッテルトの手料理

 

 宝物 家族

 

 武器 赤龍帝の籠手(ブーステッド・ギア)魔剣創造(ソード・バース)、エクスカリバー、デュランダル

 

 備考 元は別世界で悪魔対抗組織『禍の団(カオス・ブリゲード)』の一員として戦っていたが、悪魔の攻撃を受けて戦死。気付けば記憶はそのままに、異世界の自分自身に憑依していた。悪魔を徹底的に憎悪しており、躊躇なく殺害する残虐性を持つ。

 

 一言 当初から原型は出来ていました。悪魔専門のチートキャラクターです。主人公らしからぬ言動が目立ちますが、これはこれで面白いと思います

 

 

 

 

 名前 ミッテルト

 

 種族 堕天使

 

 性別 女

 

 好物 ケーキ

 

 宝物 指輪

 

 武器 聖母の微笑(トワイライト・ヒーリング)、光の槍

 

 備考 フリードと行動を共にする堕天使で、同じく異世界の自分自身に憑依した。高い実力を誇り少なくとも上級悪魔の束なら瞬殺出来る。彼にとっては恩人であり、仲間であり、そして家族でもある存在。最終回ではフリードとの子供を宿していたが……。

 

 一言 原作から大幅に変化したキャラクターです。本作品を執筆するにあたり、原作キャラから相棒兼ヒロインを登場させようと決めていましたが、先ず悪魔は論外。レイナーレさんはメジャーだからパス。オーフィスは強すぎる。と、考えてミッテルトちゃんが頭に過ったのでヒロインに抜擢しました。最初はルフェイちゃん案もあったのですが。

 

 

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

▼作中死亡主要キャラクターまとめ

 

 

 木場祐斗(首ぎっちょん)

 

 

 兵藤一誠(同じくぎっちょん)

 

 

 アーシア・アルジェント(神器抜かれた)

 

 

 ライザー・フェニックス(光の剣)

 

 

 レイヴェル・フェニックス以下眷属(光の槍)

 

 

 匙元士朗(出掛けたら闇討ちされた)

 

 

 兵藤夫妻(自害)

 

 

 ゼノヴィア・クァルタ(解体された)

 

 

 ソーナ・シトリー以下眷属(エクスカリバー統合時の聖なるオーラで死亡)

 

 

 セラフォルー・レヴィアタン(同じく)

 

 

 ギャスパー・ウラディ(巻き込まれた)

 

 

 ヴァーリ・ルシファー(撃たれて斬られた)

 

 

 黒歌(真っ二つにされた)

 

 

 サーゼクス・ルシファー(エクスカリバーで消滅)

 

 

 アジュカ・ベルゼブブ(部下の裏切り)

 

 

 グレイフィア・ルキフグス(反乱鎮圧で死亡)

 

 

 ジオティクス・グレモリー(同じく)

 

 

 ヴェネラナ・グレモリー(同じく)

 

 

 リアス・グレモリー(屋敷ごと燃えた)

 

 

 姫島朱乃(同じく)

 

 

 八坂(植物人間状態)

 

 

 塔城小猫(生死不明)

 

 

 ミリキャス・グレモリー(行方不明)

 

 

▼▼▼▼▼

 

 

▼後書き

 

 

 どーも、ミスター超合金です。遂に完結となりました。応援して下さった読者の皆様には深く感謝しています

 さて、本作品を執筆しようと思った理由は、先ず悪魔が嫌いだからです。悪魔の駒で被害者を出しているのにも関わらず運動会を行ったり、オーディン来日時には学生を警護につけたり。阿呆の塊でしかない。

 後は兵藤一誠が嫌いなのも理由の一つです。覗き問題で女子に嫌われて本来なら退学でも可笑しく無いのに、主人公だから退学にならない。寧ろワイルドだと好意的に見られる。これ以外にもありますがざっと挙げるならこんな感じです。

 そして考え付きました。いっその事、こいつら纏めて抹殺して回るスタイリッシュな作品を執筆してやろう、と

 

 

 そこから先はアイデアが次々に浮かびましたね。主人公には悪魔祓いのフリード、ヒロインにはミッテルトちゃん。悪魔を殺害する理由。そして幕の閉じ方

 全てを考えてから執筆開始した訳ですが、もう木場を首ぎっちょんした辺りから吹っ切れました。次々に光の剣と籠手で消滅させ、後半からはエクスカリバーしか用いない。ワンパターンですが、今となってはこれで良いと思っています

 

 

 後は一章をどれだけ短く描けるのか、というのもテーマでした。サクッとコロコロ、を合言葉に短い中に殺害劇を入れています。グダグダにならないように。読者の皆様に爽快感を与えるにはどうすれば良いのかと試行錯誤しました

 本当はもっとシナリオを用意していたのです。少なくともリゼヴィム編までは。意識して伏線も用意したのですが、続けすぎると逆に面白くなくなってしまうと判断して全部カットし、考えていた悪魔世界編を最終章として展開しました

 なので最後はかなり駆け足となってしまいました。申し訳ございません

 

 

 これからも頑張っていきますので、応援宜しくお願いします

 

 




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