ボクの旅路に幸あれ!……無理か。 (隔離場)
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えっ...ちょっ...おまっ女神さま!?
運悪く、死にました。


※ 今回でてくる女神はアクアではありません。


(さかき)千尋(ちずる)さん、ようこそ死後の世界へ。貴女はつい先ほど、不幸にも亡くなりました。短い人生でしたが、あなたの生は終わってしまったのです」

 

 意識が自分に戻ってくるのと同時に、金髪の美少女……美女?にそんなことを言われました。うん、知ってる。

 

「そうだね。走行中の電車に向けて放り出されたらそうなるよね」

 

 確かボクは電車に乗るためにホームに立ってたんだけど、いざ電車が来るって時に後ろから押されて線路上にダイブ。あとは……ミンチだね。多分。

 

「『放り出された』……?私には自分から飛び込んだように見えたわよ?死因も『自殺』で書類が届いてるし」

 

「え?」

 

 

 …………。

 

 

「まぁいいわ、後で確認しとくわね」

 

「あー、うん。よろしく」

 

 ……記憶違いかなぁ?押した人の顔も思い出せないし……身体つきは分かるのに、おかしいなぁ。

 

 

「というか、貴女ずいぶんと落ち着いてるわね?ここに来る人って大抵狼狽えるのに……」

 

「お構いなく。転移させられるのに慣れてるだけなので」

 

「……普通、転移させられるのに慣れるって人はそういないと思うのだけど」

 

 そうなの?同僚の白樺さんとか汐見さんとか、職場で似たような体験したことがある人多いから普通が分かんないや。

 

「あー、それはいいのよ。本題に入りましょう。私のことは……まぁ好きに呼んで頂戴。私は日本において、まだ若いのに死んでしまった人間を導く女神の補佐をやってる別の女神よ。貴女は……残ってる記憶には『押された』感覚があるのよね……じゃあ何者かの怨恨か、偶然狙われたのかは不明ですがつい先ほど亡くなりました。そこでこの後の選択肢が三つあります。この三つについてはこの後ね。ここまでで何か質問がある?あ、死因は今天使たちに調べてもらってるから、それ以外ね」

 

 金髪の美女―――仮称『女神』さんはそう言ってくるけど……そうだなぁ。

 

「『女神の補佐の女神』っていのはどういう事?日本での死者が多いから二人でやってるってこと?」

 

「あぁ、それね。んー、まぁ死者が多いってのも確かにあるんだけど、今メインでやってる女神――アクアが結構お調子者でね。よく死者の魂をからかって遊んでるのよ。で、そのお遊びが最近長くなってきて、順番を待つ魂が多くなったから補佐をつけて回転率を上げてるの」

 

「仕事が遅くなるのは困るねぇ……補佐はキミ一人が?」

 

「女神はね。今この瞬間も別の空間で私の分身が仕事してるけど」

 

「分身?NARUT〇の影分身みたいな感じ?」

 

「うーん、厳密には違うけどその認識で大体合ってると思うわ」

 

「ありがとう、今気になるのはこんなとこだよ」

 

「分かったわ。……質問が多かったのは探偵としてのクセかしら?」

 

 あ、女神さんも質問してくるんだね。

 

「うん。所長の補佐くらいしかできないヘボ探偵だけどね」

 

「あの所長についていけてる貴女は十分凄いわよ」

 

 そう言って手に持ってる紙を見てるけど……その紙何が書いてあるんだろう?個人情報?

 

「さて、続けるわね。三つの選択肢のうち、一つ目は人間として生まれ変わり、別の人生を歩むこと。俗に言う『転生』ね。二つ目は天国のようなところに行って生活することなんだけど……うん。貴女ならいけるわね。まぁ、ゆっくり過ごしたいならおススメよ。最後は、一つだけ”特典”を貰って、異世界に転移すること。これも説明が結構面倒だから少し後にするわ。とりあえず、質問があるかしら?」

 

「天国のようなところって?天国じゃないの?」

 

「あ、やっぱり気になる?」

 

「それなりには」

 

「分かったわ。じゃあ簡単に説明するわね。私たちの言う天国って、日の光以外特に何もないことのことなの。人の魂も確かに存在するけど、そもそも霊体に食事は必要ない訳だから食べ物は無し。材料も何も、そこらにあるのは雲だけだから何も作れない。あなたの好きなゲームもないし」

「ありがとう。もう天国に行かないって決意したよ」

 

「あら、そう?」

 

「ゲームが無いとかどんな地獄なんだい……」

 

「天国よ。……でもまぁ、確かに地獄の方が物はあるけどね」

 

「拷問器具とか?」

 

「そ。三つ目の選択肢の説明を始めるわね。といってもよくあるファンタジー小説みたいな展開よ」

 

「魔王が現れたから云々ってヤツかな?」

 

「魔王がいるにはいるんだけど、主な原因はその世界で死んだ人が別の世界への転生を望んじゃって、全体的に数が減っちゃったことなんだけどね。」

 

「なるほど。とりあえず、三番目の選択肢を選んだ時に手に入れることが出来る”特典”?ってどんなものがあるの?予備知識だけだとチート級の能力ってことしか分からないんだ」

 

 そういうと、女神さんが何もないところから分厚い書類のようなものを取り出して差し出してきた。

 

「ここにあるリストには基本的にさっき貴女が言ったチート能力の例が書かれているわ。異世界に行くつもりでも、そうじゃなくても見とくといいんじゃないかしら?こっちの調査もそろそろ完了しそうだし」

 

 渡されたリストには箇条書きでびっしりと何かの名前が書いてあるんだけど、《怪力》や《超魔力》は想像するのが簡単なんだけど、《聖剣アロンダイト》とか《魔剣ムラサメ》とかってどんなものか分かんないんだよね。

 

「ねぇ、選べる特典ってこっちで詳細とか提示したらその通りの物が貰えるの?」

 

「そうね。間違ってないわ。…でもちょっと決定は待って貰いたいの。そろそろ―――あ、来た」

 

 女神さんが言い切る前に、どこからか翼の生えた女の子が飛んできて真剣な顔で書類を手渡して報告をし始めた。女神さんも真剣な顔で聴いて、報告が終わると「ご苦労様」って言って労ってあげてる。……いいなぁ。こういう職場。ここで働きたい……。

 

「お待たせ。うちの子が死因の食い違いの調査をしてくれたわ。結果から言うと……貴女面倒なのに殺されたのね」

 

「『面倒なの』?」

 

「なんて言おうかしら……。『闇に棲むもの』『這い寄る混沌』『顔のない黒いスフィンクス』なんていう異名を持つ怪物よ。こいつらの情報は開示するのを制限されてるからここまでしか言えないけど、多分貴女で遊ぼうとしてたんでしょうね。それよりも前に私のとこの天使が魂を持ってきたみたい」

 

「やだなぁ……物騒なワードがある……」

 

「本来こいつらの存在には触れられないように私たちも気を付けてるんだけど……監視の目をかいくぐってまで遊ぼうって訳ね。ほんとに厄介なヤツら……。しかも貴女たちの探偵事務所の人たちにも目つけてるし」

 

「会っちゃったのは運が悪かったんだね。そういえば、なんで特典を決めるのを止めてたの?」

 

「あぁ、それね。万が一こいつらに関わった人物が死んじゃった場合、接触の具合にもよるけど特典を増やすように上から指示受けてるの」

 

「へー……。ちなみに、ボクの接触の具合はどんな感じ?」

 

「ちょっと待ってね……。貴女は……ランク3の処置をされるようになってるわね。具体的に言うと、転生を選んだ場合エスカレーター方式で有名になれるように、天国を選んだ場合は30年ほどかけて魂を浄化、特典を得る場合は3つまで選択可能よ。というかどれにするか聞いてなかったわね」

 

「ボクは……特典を選んで異世界に行こうかな」

 

 記憶が無くなるとはいえ、楽して有名になったりしたらうちの所長に悪いからね。あの人も一から頑張ったんだし、天国(ゲームが無いとか)は論外。

 

「そう。じゃぁ特典を三つまで選択して頂戴?」

 

「えっと、一つ目は《絶対に壊れない鎖》、二つ目は僕がやってたゲームから、《『Evolve Stage 2』のモンスターのアビリティを全て》。あ、パークは無しでいいや。三つ目は《前の二つを自在に扱える能力》かな。」

 

「《絶対に壊れない鎖》……HUNTER×HUNTERかしら?」

 

「いや、あんなに機能はいらないよ。縛ったり引っかけたり巻き付けたりしたいんだ」

 

「ふーん…。三つ目の特典の意図は何?」

 

「ボクは舌で人やモンスターを引っ張ってこようとは思わないよ。そんなに舌長くないし、舌で引っ張られていい思いする人なんていないでしょ?なにより攻撃方法がはしたないと思う」

 

「あ、それで鎖?」

 

「そうそう」

 

「というか、貴女しょっちゅう所長さんに嚙みついてるじゃない。いろんな意味で」

 

「それはいつまでも同じ場所の捜査をしてる所長さんが悪い」

 

「所長さんはゴハンじゃないのよ?」

 

「夢に出てくるおいしそうなお肉が悪い。ボクは悪くない」

 

 女神さんはその言葉を聞くと呆れたように肩をすくめながら、

 

「……そろそろ送り出す時間よ。久しぶりに楽しい人が来たと思ったのに、もうお別れよ。神様って残酷よね?」

 

「キミがそれを言うのかい」

 

「そうれもそうね。……では、貴女の旅路に幸あらんことを」

 

 女神さんが綺麗なお辞儀をし終わるのとほぼ同時に、ボクの視界は明るい光に覆われた……

 




感想、評価募集してます!
というか下さい!

主人公の特典が3つの理由を説明したものを活動報告に挙げました。よければそちらもどうぞ!


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担当の女神さんと受付さんは有能かも?

実は不幸成分が少ない……


 目の前に広がった光が薄れると、ボクが死ぬ前に立っていた駅のホームでも、気さくな女神さんと話した白い空間でもない、中世ヨーロッパを連想させる街並みが広がっていた。

 

 うん。とりあえず異世界には来れたみたいだね。『目を開けたら所長の顔が近くにある』とかじゃなくてよかった……いろんな意味で。

 

 さて、とりあえずここの探索は後回しにして、現状の確認でもしようかな。

 

 通行人の邪魔にならないよう、ちょっとした路地裏に移動して持ち物の確認っと。

 

【持ち物】

 リュックサック(黒)

  ├スマートフォン(電源が付かない)

  ├メモ帳&筆記用具(余白が結構あいてる……調査でメモ取ったことあるかな?)

  ├ワイヤー(所長の真似して持ち歩いてる)

  ├財布(お金が別の物になってる。あと少ない)

  ├カメラ(証拠写真なんか取るため)

  ├十徳ナイフ(なんで持ってるんだったかな?)

  ├地図(どこのだろ)

  ├手紙(女神さんからのもの)

  ├ハンカチ&ティッシュ

  ├鎖(多分特典。結構軽い)

  └事務所のメンバーの集合写真

           (これ入れてたっけ?)

 

 

 一応、あの部屋に行く前の物は大体あるみたいだね。いくつか身に覚えのない物が入ってるけど。

 じゃぁ、手紙でも見ようかな。ちなみに、なんで女神さんの物か分かったかっていうと、普通に裏に『女神より』って書いているからだよ!

 

【どうも。この手紙を呼んでいるのが貴女なら奴らの妨害なく、ついでに頭がパァにならずに済んだみたいね。】

 

 おい待て。奴らの妨害の件はまだ分かるけど、頭がパァになる可能性があるのは聞いてなかったよ!?しかもついでって……相当低確率なことだったのかな。そんなに心配してなさそうだし。

 

【ひとまず、貴女が言語の習得に成功したこと前提で書かせてもらうわね。この手紙を見てるってことは貴女が持ち物を確認したってことなんだろうけど、リュックサックの中に入ってるのは貴女が電車に轢かれる直前の持ち物を送らせてもらったわ。

 ただ、すまーとふぉん? とか言うのはその世界では技術が進歩しすぎてるから使用不可にさせてもらったわ。ごめんなさいね。何か思いついたら魔法具として使えるようにするわ】

 

 結構小さいメモに書いてあるから何枚かにいろんなことを書いてるみたい。次はこの紙の裏だね。

 

【貴女の所持金について説明……したいけど、貴女のことだからどうせ自分が持っていた金額なんて覚えてないでしょうね。とりあえずこっちで用意したお金をここに書いとくから、すぐに覚えて頂戴。

 金貨5枚 小計 2500エリス

 紙幣1枚 小計10000エリス

      合計12500エリス】

 

 

 大丈夫。記憶力には自信あるから。

 ほい、次の紙。

 

【あと貴女の特典についてなんだけど…………まぁこれは自分で確かめてね。

 地図のちょうど中心辺りに冒険者ギルドがあるから、そこに行くのをおススメするわ。

 

 PS1.写真は貴女へのプレゼントよ。 

 PS2.この紙に目を通し終わった時点でこの紙は焼失します。

     貴女が転移者って言うのをそこに住んでる人に知られたくないからね。】

 

 ちょうどこの紙の最後の文を読み終わったところで、この紙がもう一枚の紙と一緒に自然発火して無くなった。意外と火が熱くなかった。

 

 特典は自分で確かめろ……かぁ。まぁ、そういうのも得意だからいいんだけどね。

 地図には……ボクが最初に立ってた場所に印があるから分かりやすいね、冒険者ギルドに行くには北に進めばいいみたいだ……で、北ってどっち?

 

 

 

◇◆◇

 

 結局道行くお姉さんに教えて貰っちゃった。

 

 冒険者ギルドは外見をパッと見た感じだと酒場に見えるんだよね。でも、異世界物の小説とかだと依頼を受ける受付?の近くに食堂とかがあるのって定番だよね。某モンスターをハントするゲームでも集会所でお酒飲めるしね。

 

 西部劇とかでよく見る扉――スイングドアだったかな?――を手で押して開けると、すぐにその中の活気が分かる。一応外から見ても人の出入りが激しいから賑わってるんだろうなぁとは思ってたけど、中にこんなに人がいるとは思わなかったなぁ。

 

「いらっしゃいませ!お食事でしたらお席に、お仕事案内などございましたらこちらのカウンターへどうぞ!」

 

 短髪赤毛のウェイトレス姿の女性に声をかけられちゃった。

 

 軽くお礼を言って指示に従って奥のカウンターに向かうんだけど、……女性のいる窓口だけやけに混んでるね。並んでるのは皆男の人だし。多分そういうことなんだろうなっと、もちろんボクは一番人が少ない受付に並んだよ。早く受付を終わらせたいからね。

 

「お客様、本日のご用件をお伝えください」

 

「あ、すいません。少しボーとしてました。……冒険者登録をしたいんですが……」

 

「了解しました。少々お待ちください」

 

 そういって受付のお兄さんは自分の席の引き出しから一枚の紙を、手製のように見えるペン立てから万年筆を取り出して差し出してきた。

 あれ、この人表情筋が固いんだね。全く顔に出ない。

 

「では、こちらの書類に名前、身長、体重、年齢、身体的特徴の記入をお願いします。……名前と年齢は必須事項なので必ず記入をしていただきます」

 

 お、この人暗に体重は書かなくてもいいって言ったね。女性だからこういうのいうのかな?こういう人結構モテるんだろうなー。

 ボクはまだ惹かれないけどね!

 

 えーっと、サカキ・チズル、身長約164センチ、体重は[削除済み]ぐらい、年齢は19歳、……身体的特徴?空白でいいや。

 ていしゅつ~。

 

「はい、結構です。ではこちらの書類はギルドが責任をもってお預かりいたします。

それではこちらのカードに触れてください。それで貴女のステータスが分かりますので、そのステータスの数値に応じた職業をお選びください。選んだ職業によっては専用のスキルが入手できますのでそのあたりを踏まえてお選びください。また、どの職業になればよいか分からない場合はこちらにご相談ください」

 

 さて、どうなるかなっ。

 

「っ……はい、ありがとうございました。……サカキチズルさん、筋力、生命力、知力、器用度、敏捷性が平均を大きく上回っていますね。逆に魔力、幸運が平均よりも低いですね。」

 

 …?なんでこの人言葉を詰まらせたんだろ?表情読めなすぎ~!分かんない!

 

「う~ん?すいません。ちょっとイメージ湧いてこないんで、ボクがなれそうな職業とか教えてもらえませんか?」

 

「そうですね……。チズルさんは魔力以外の戦闘に役立つ能力値が高いので、遠~近距離全てに対応が可能です。確認されている職業で言うならば【アーチャー】【ソードマスター】【ナイト】【クルセイダー】【盗賊】などの職に就くを推奨いたします。ただ、こちらの機器には今まで確認されていなかった【探索者(フィレット)】という職業が候補に挙がっております」

 

 フィレット――探索者?

 なんか聞きなれた職業だなぁ……初めて聞くはずなのに。

 

「じゃ、その【探索者】にします」

 

「……こちらの職業はギルドが把握できていない職業なので、習得できるスキルなどを教えることが出来ませんが、よろしいですか?」

 

「ま、調査の一環てことで。資料を集めるのに協力しますよ?」

 

「それは助かります。資料があって困ることはないので」

 

 そう言い終わった時に、カードを見てみるとちゃんと【探索者】の文字を確認できた。

 

「…わかりました。それではチズルさん、ようこそ冒険者ギルドへ。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています」

 

 

 

 

「あ、そうだ、名前教えてくれない?」

 

「……私は『リヤン』と申します」

 

「そっか~、ありがと」

 

 彼、リヤンさんから離れて少し考える。

 

 

 

―――リヤン(rien)ってフランス語で『無』って意味じゃなかった?

 




伏線ではないと思うのでご安心を。

活動報告に<裏設定:特典が増えた理由>を載せました。
次回は何かしらのクエストかな。

追記:活動報告に<冒険者カード>を追加しました。


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初クエストと事故

最初の方にクトゥルフの成分を持ってきてみた。


 リヤンさんとの会話を終えて、とりあえず何かしらのクエストを受けることにした。

 女神さんにも特典の確認は自分でやれって言われたしね。出来れば討伐系のクエストを受けたいんだけど……あれ?なんか見覚えあるモンスターがいる。

 

 クエスト内容は『新種のモンスターの調査、もしくは情報提供』。依頼主は冒険者ギルドになってる。なんでも男性二人のコンビで働いていた冒険者のうち、一人がこの新種のモンスターにやられちゃったみたい。

 特徴は『爪を生やした両手、眼がなく口が広く鼻の先が桃色の青白い触手になっている顔を持つ、カエルのような外見』。うっわぁこいつあれだよ、所長が「悪趣味」っていう評価を与えてた奴だよ、特徴一致してるし……。後で情報提供しとこ。

 

 とりあえずボクが受けるのは『ジャイアントトードの討伐』かな。さっきの依頼書も一緒にもっていこ。

 

 

「やっほー、リヤンさん。さっきぶり」

 

「はい。今回はどういった御用でしょうか」

 

「ほいこれ、この新種のモンスターの情報提供と依頼を受けに来たんだ」

 

「……はい、承りました。こちらのモンスターによる被害が増加傾向にあるので、情報の提供はありがたいです。一応情報提供者の欄は匿名にすることが出来ますが、いかがなさいますか?」

 

「んー、いいや。そういうの気にしないし」

 

「分かりました。ですが内容によってはギルド内が混乱に陥るかもしれません。私についてきてください。防音魔法がかけられた部屋にご案内します」

 

 

 

◇◆◇(20分後)

 

 あの後部屋まで案内されたんだけど、内装が……なんて言うの?教会の懺悔室見たいでちょっと怖かった。

 

 リヤンさんに話した情報はモンスターの名前、外見、好んでする行動、特異性、危険性の5つ。この内の2つはボクが知ってる情報を、残りは所長から聞いたものをそのまま話した。

 

 リヤンさんの手が時々ピクッて動くのがなんか面白かった。

 

 で、カウンターまで戻ったところで5万エリス貰った。なんでも期待以上に情報が渡ったかららしいよ。討伐できるといいね。

 

―――え?ボクが討伐?いやしないよ、ボクあいつ嫌いだもん。

 

―――いや、だからボクあいつの行動パターンとか把握してないし。

 

―――ほ、ほら、初心者が下手に刺激して暴れ始めたら大変じゃない?

 

―――ボ、ボクカエル嫌いだから……

 

 そんな会話を5分くらい続けた結果、討伐をすることになりました。リヤンさん、だんだん言葉に圧力かけてくるぅ……(´・ω・`)

 危なくなったらすぐに撤退してもいいからって言ったけど、逃がしてれないのがこのモンスターなんだよね(´;ω;`)

 

 不本意ながら討伐に挑戦する約束をしたんだけど、できれば10日以内に挑戦して欲しいそうな。早いよ。

 

 ……今日から死ぬ気でスキルマスターしよ。

 

 

◇◆◇

 

 さて、気を取り直して、ジャイアントトード討伐だよ!ジャイアントトード……長いからカエルでいいか。カエルの特徴は打撃が通りにくいことらしいから、スキルは一部使えないね。

 

 あとリュックサックは少し離れたところに置いてきたよ。中の道具が壊れたら困るからね。今持っているのは特典で貰った鎖だけ。

 

 目の前にいるのは二匹のカエル。緑と紫だね。遠くの方にいるカエルがこっちに気づく前に倒したいね。

 

「カエルの主な行動って舌で引っ張って丸のみ、とかだよね。なんとなく〈ベヒモス〉に似てるかも。【跳躍撃】!」

 

 どうでもいいことを呟きながら、ゲームでよく見た感じでジャンプして、右手を振り上げて緑色のカエルに直接叩きつける。

 え?さっき打撃が通りにくいって自分で言ってたろって?ふっふっふ、敵がどの程耐性を持ってるかまで分かってないと攻撃が無駄って言うのは分からないでしょ?

 

 ―――現にカエルは跡形もなく吹き飛んでるし。地面と一緒に。

 

「威力高すぎぃ……」

 

 もしかして〈ゴライアス〉が実際にここで跳躍撃やったときと同じくらいの威力?いや、クレーターの端っこの方が燃えてるから〈メテオゴライアス〉か。

 

 しかもさっきの音の所為で地面で寝てたカエルもきたし~(;´・ω・)

 

「よし!まとめて相手してやる!」

 

―――この後の光景を他の冒険者さんが見たらびっくりしただろうなぁ。

 

 【幻影】を使用したから、ボクがもう一人現れるように見えただろうし。しかももう一人のボクがスキルを乱用しながら戦ってたから、ボクの方は見てるだけだったし。

 

 発動を確認したのは【岩投げ】、【跳躍撃】、【火炎放射】、【浮遊】してからの【死のらせん】で、【幻影】の使用限界時間が来たら爆発してたから、多分【幽体離脱】も使ってるんだろうなぁ。

 

 しかももう一人のボクが倒したモンスターの経験値はちゃっかりボクに……やばい。めんどくさい。『ボク』がゲシュタルト崩壊しそう。名前決めよう名前。『もう一人のボク』……『ドッペルゲンガー』……『ドッペル』でいいんじゃないかな。

 

 要するに、ドッペルちゃんの倒したモンスターの経験値がボクに入ってきてるんだよね。おかげで今レベル4だよ。ドッペルちゃん一人で8匹くらい倒してたんだよね。

 ボクより強いんじゃない?

 

 

◇◆◇

 

 冒険者ギルドに帰ってきたよ。今回の受付さん、ルナさんって言うらしいんだけど、ギルドカードに書かれてた『ジャイアントトード:9匹討伐』って文字を見てポカンとしてた。そうだよね、冒険者登録して一日目の新人がいきなりこんな結果出したんだもんね。ビックリするよね。

 ただ、モンスターのお肉なんかもギルドが買い取ってくれるみたい。跡形もなくコナゴナにしちゃったから回収できないんだよ、残念。

 そう伝えたら頭抱えてた、調子でも悪いのかな?後ろからリヤンさんに心配されてた。

 

 なんか、その後にルナさんがギルドカードの能力値の欄を見せてくれって言ってきたからOK出そうとしたんだけど、またリヤンさんが止めてた。なんでか聞いてみたら

「ギルドカードはその人の個人情報になるし、特に能力値の値は万が一漏れるとギルド内の差別につながってしまう」とのこと。

 

 結構そういうの気にする人なんだね?

 

 

 この後、ルナさんにおススメの宿がないか聞いたら、ギルドから歩いて数分の宿を教えてもらった。ベッドがふかふかで気持ちいい宿だった。

 明日お礼言わないと……。

 ( ˘ω˘)スヤァ




結構ハイペースで進んでると思ってます。実際は分からないけど。

千尋ちゃんのギルドカードを活動報告に載せときました。良ければそちらもどうぞ。


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スキルの練習

今回はちょっと真剣に書いた部分がほんの少しあります。


 昨日は酷い目にあったよ……。まさかドッペルちゃんがあそこまで強いとは思わなかった。あの子、ボクみたいに加減したりしないから確実にボクより強いんだよね。

 

 さて、今日は簡単な依頼を受けて、スキルを少しずつ練習しようか。とりあえず制御できるようにはなりたい。

 

「というわけで、これ受けるよ」

 

「はい。『ゴブリンの巣の壊滅』ですね。こちらのクエストはゴブリンの掃討を目的としたものではないので、もしゴブリンが逃げ出しても追う必要はありません」

 

「うん、分かった。ありがとう」

 

 街の人から聞いた情報によると、ゴブリンは群れで行動していて、武器を作って狩りをする程度の知能を持っているから舐めてかかると痛い目を見るとか。

 ゴブリンの弓矢、ボクの肌に刺さるのかな?

 

 あと、ギルドからナイフの支給があった。必要最低限の品質だから、何かしらの武器を購入することを勧められた。分かった、考えとくよ。

 

◇◆◇

 

 そんなこんなで、今ボクは街から歩いて二時間くらいの地点にある山を目指して歩いてるんだけど、そういえば昨日のカエルでレベルが上がってたよね。レベルアップした時にポイントが貰えるらしいからちょっと確認してみようか。

 

-------------------------

【習得可能スキル】現在pt:9

・目星 必要pt:3

・聞き耳 必要pt:4

・投擲 必要pt:3

-------------------------

 

 今気になるのをピックアップしてみたけど、この3つかな。

 全部取ってもいいんだけど、地雷スキルだったらやだし……ええい!女は度胸!【聞き耳】と【投擲】を習得っと。

 

 えっと?スキルを使った時と使わなかった時の能力値の変化を見ればいいかな。その方が実感湧くだろうし。

 【聞き耳】スキルってただ耳を澄ませばいいだけだと思うし、【投擲】スキルを試してみようか。……【投擲】っていうくらいだから、投げればいいんだよね?

 

「まずはスキル無し……ていっ」

 

 そこら辺に転がってた石を本気で投げてみる。……うん。それなりの速度で飛んでったかな。目測で25メートルくらいかな。

 

「次はスキル有り……【投擲】っ」

 

 うっわ、物凄い速さで飛んでいった……目測……40メートルくらい?

 着弾点って言っていいのかな。石の落ちたところに行ってみると、地面に少しめり込んでた。威力倍増って感じかな。

 ゴライアスの【岩投げ】と重ねて発動できるかな?

 

 

◇◆◇

 

 

 さて、さっきのスキル取得した地点から二時間ほど歩いたところで、ゴブリンの巣だと思われる竪穴を発見。向こうはボクに気づいてないだろうから、いくらでも奇襲はできるんだけど……あ、そっか。こういう時が〈レイス〉のスキルの使いどきか。

 

 確か鎖を自在に操れる特典も貰ったから、試してみようか。

 

 一先ず近くの岩山に登って鎖の射線を通せるようにして、獲物を探す。できる限り息を殺して……。神経を研ぎ澄ます―――

 

 

 

 

 

―――いた。運良く一匹で行動してる。

 

 

 てかこの鎖の長さ多く見ても5メートルあるかないかなんだけど、40メートルくらい先のゴブリンに届くかな?

 

 ま、いっか。

 

「【神隠し】」

 

 〈レイス〉は本来、瞬間火力と囮による分身との連携でハンターを分断し各個撃破するアサシン系モンスター。今この状況はレイスの力が最も活きるシチュエーション。

 

 鎖はゴブリンに向かってまっすぐ進み、本来の長さの5メートルを優に超え、ゴブリンの体に巻き付いた。それが確認できたら鎖を引っ張る。ゴブリンは凄まじい速さで引かれ、ボクのナイフの射程に入ってきた。ゴブリンは声を上げることで仲間に異常を知らせ、戦闘態勢に入るのがファンタジー小説の定番。

 なら、声を出させずに喉を斬ればいい。

 

「ガ…」

 

 ゴブリンは悲鳴を上げることなく、非常に小さなうめき声を最後に絶命した。

 

「ふぅ……」

 

 張り詰めた身体の緊張を緩める。……あー!いっぱい汗かいちゃった!服の替えとか何枚か買った方がいいよね……帰ってからしよ。

 

 ナイフを振って血を払う。ホントは拭きとった方がいいんだけど、布買い忘れちゃった。

 

 

◇◆◇

 

「さて、じゃあ次は正面から行こうか」

 

 奇襲に向いたモンスターのスキルって、〈レイス〉の【神隠し】しかないから、検証はほぼ終わってるようなもんだよね。

 

 さて、ゴブリンが巣を造ってるのは山の7合目くらい。洞窟を掘って、そこで生活しているみたい。

 正直一瞬で片が付きそうなスキルがいっぱいあるんだけど、それじゃ検証にならないから別のにしようか。

 

 洞窟自体はもう発見してるし、見張りはさっきの一匹だけみたいだからやりたい放題させてもらおうかな。

 

 といっても、〈メテオゴライアス〉のスキルとかは外とか、かなり広い洞窟で真価を発揮するものだから、入り口まで誘い出さないと……。

 

「そぉい!」

 

 〈ゴライアス〉のスキルの一つ、【岩投げ】を発動させ、ボクの身長くらいの大岩を【投擲】する。これで大きい音が出るよね?

 

 もはや『投げた』というよりは『射出した』というべき速度で飛んでいった岩は、ドカーンと大きな音を立てて地面に叩きつけられた。後なんか【聞き耳】の効果かは分からないけど、飛んでいった方向から「グギャァ」って聞こえた。ゴブリンがそっちにいたのかな?

 

 突然大きな音が響いたことに驚いたのか、洞窟の中が騒がしくなってきた。

 

 もちろん後ろから奇襲したいから隠れるよ。洞窟の上に。

 〈ゴーゴン〉のスキル、【ウェブスイング】を使って腕から蜘蛛の糸を出して洞窟の上の壁に張り付く。移動中に同じく〈クラーケン〉の【電撃地雷】を設置することは忘れない。

 

 蜘蛛の巣のように糸を張り、壁に張り付いたところで十数匹のゴブリンが出てきた。音の原因を突き止めようとしているようにも見えるね。

 

 あ、そこのゴブリンさん。それは……。

 

 だめか。【電撃地雷】の音を出して浮遊する光る物質ってゆう特性上、野生の動物は寄りづらいと思ってたんだけど、近づいてくることに特に疑問を抱いてなかったみたい。真っ黒焦げになっちゃった。

 

 さて、さっきの攻撃でそろそろ攻撃に気づくだろうし、一気に仕掛けようかな。

 

 壁を蹴って右手を振りかぶる。壁を蹴った瞬間に【幻影】を発動してドッペルちゃんを呼ぶ。ボクは右側に固まっているゴブリンの集団を、ドッペルちゃんは左側にいるゴブリンの集団をそれぞれ同時に襲撃する。

 

 二箇所で同時にクレーターが出来上がる。ドッペルちゃんはナイフを使って戦ってるみたい。全部急所狙いで。

 

 ボクはまだ混乱しているゴブリンたちの中心にいるから、【電磁波】で一気に数を減らしにかかる。

 

「はい、ドーン!」

 

 掛け声と同時に、ボクを中心にした半径5メートルくらいまでのゴブリンに電撃が伸びる。一気に十匹くらい削れた。

 

「ギャギャ!ギャ!」

 

「おう!?びっくりしたぁ〜」

 

 理解の速いゴブリンが矢を撃ってきていたのに気づけなかったんだけど、矢はボクに当たる前に氷の壁で防がれた。

 

 なるほど。これが〈グレイシャル ベヒモス〉の【氷の盾】の効果だね。自動発動っていうのが結構便利。

 

 さっき攻撃してきたゴブリンに仕返ししようと思ったけど、ドッペルちゃんが首チョンパしてた。というか向こうの状態酷いなぁ。

 

 ゴブリンの死体は燃えてたり、凍りづけだったり、切り刻まれてたり、クレーターもできてるし、蜘蛛の糸も見える。また大暴れしたんだね。ドッペルちゃんの方、ボクよりも数多かったのにボクの方の援護に来る余裕があるみたいだし。

 

 というかドッペルちゃん。君そろそろ効果時間切れるけど、この前みたく爆発しないよね?ゴブリンは大体倒したから依頼は完了。残ってたゴブリンは逃げたみたいだから、追いかけなくていいんだよ?

 

 あ、霧散した。

 

 ……帰ろっか。

 

 

◇◆◇

 

「依頼完了確認しました。本日はゆっくりと身体を休めておいてください。こちらが報酬になります」

 

 30万エリスくらい貰ったよ。本来の依頼完了報酬は25万なんだけど、初心者狩りって言われてるモンスターを倒してたから報酬が貰えたみたい。

 

 リヤンさんの言うとおり、今日する予定だった買い物は明日にして、お風呂に入って寝ようか。

 

 明日は他の仕事受けてみようかな……どんなのがあるんだろ?

 

 ……眠れない〜〜!




活動報告にギルドカードとその他の設定を載せています。良ければそちらもどうぞ。

追記:ギルドカードを載せた回の解説を投稿しました。
追記2:ドッペルちゃんの情報を活動報告に載せました。今回は千尋ちゃんの明かされていない情報も入っています。スリーサイズとか。


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『情けは人の為ならず』

アクアが出てきます。

前回、前々回の内容がほんの少しだけ変わっていますが、おそらく問題はないと思います


 今日も朝一で冒険者ギルドに行ってみたんだけど、例のクエスト『新種のモンスターの調査、もしくは情報提供』が訂正されてて、『ムーンビーストの討伐』になってた。

 

 一昨日ボクが提供した情報を加えて、五千万エリスの賞金がかけられている。

 

「ねぇ、これどうしたの?」

 

 最近、カエルの唐揚げの味についての議論で仲良くなった受付担当のハルちゃんに話を聞いてみると、

 

「最近冒険者がこのモンスターに挑むようになったんですが、返り討ちにされてるのか、帰ってこない人の方が多いんですよ。帰ってこれても、どこかしらの部位が欠損してるとか。

 で、昨日王都にこのモンスターの危険度を決定してもらうためってことで資料を送ったら、こんなになっちゃいました」とのこと。

 

 ……ふーん?ムーンビースト肉弾戦で倒しちゃう人がいるから、この世界の人なら大丈夫だと思ってたんだけど……。

 

 依頼書を取って内容を確認してみる

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

   『ムーンビーストの討伐』

[種別]

討伐

 

[依頼者]

冒険者ギルド

 

[概要]

近年、アクセルの街周辺に出現したモンスター、ムーンビーストの討伐。

 

[報酬]

五千万エリス

 

[依頼内容]

近年現れた新種の生物。それの被害が日に日に増加しています。このモンスターは現在では一匹しか確認されていませんが、量が増えるとなると無視できない被害が巻き起こされることが危惧されます。出来る限り迅速な対処を願います。

 

[寄せられた情報]

・名称『ムーンビースト』

・爪を生やした両手、眼がなく口が広く鼻の先が桃色の青白い触手になっている顔を持つ、カエルのような外見。黒斑模様の皮膚を持つ。

・他種族を拷問し、その悲鳴を聞くことを楽しむ傾向にある。

・どこからともなく素材不明の槍を生成。突き刺したり、投げつけたりしてくる。

・魔法攻撃が聞き効きづらいかも。

 

 チズル様、ヤルカ様、情報提供感謝します。

 

―――――――――――――――――――――――――――――――――――――――

 

 ……そろそろ、受けないとなぁ。

 

 とりあえず依頼書は持ったまま、食事を摂るためにテーブルに座ってウェイトレスちゃんに……カエルの竜田揚げを注文しておく。

 

 料理が来るまでの間、メモに『こいつ』を倒すのに必要な物を書いてたんだけど、

 

「そこの貴女、宗派を言いなさい!」

 

 ボクのすぐ近くで女性の大きな声が響いた。

 なんだろう。宗派を聞くってことは宗教勧誘かな?

 

 ボクが視線を上げると上から下まで青色に包まれた女の子がボクの方を見ていた。

 

「私はアクア。そう、アクシズ教団の崇めるご神体、女神アクアよ!汝、もし私の信者ならば……!……お金を貸してくれると助かります」

 

「え……っ……と……」

 

 いきなり何だろう、この子は。自分のこと神って言うのが許されるのはシンセカイノカミさんと本物の神だと思うんだけど……。

 

 ……ん?この子アクアって言った?確か、あの空間にいた女神さんの愚痴の中にアクアって名前があったよね。なんだっけ?死者の魂をからかって遊んで、仕事の進行速度があまりにも酷いから補佐役が就いたっていう駄女神さん?

 

 なんで地上にいるんだろ……。まぁ、いいか。

 

「ボクは特定の神を信仰することはしないよ。99.9%酷い目に遭うから」

 

「あ……そうでしたか……すいません」

 

「……でも、神を信仰するかしないかと困ってる人を助けるのは別物だからね。いいよ、いくら必要なの?」

 

 幸い、お金には余裕があるからね。この後買う予定の物もそこまで高くないし。

 

「えっと、二千エリスあれば……」

 

 そう言ってアクアさんは後ろを気にするような仕草をする。視線の先は……この世界では異質ともいえる服、”ジャージ”に身を包んだ少年。いや、青年かな?

 

「なるほど、あの子と一緒に来たんだね」

 

「はい……」

 

「分かった。それじゃ、はいこれ」

 

 アクアさんに五万エリスを渡して、ボクはそのまま受付に向かう。ま、二人で使うとしても予算は二万五千。何日分かの宿代にはなるでしょ。

 後ろから困惑の声が聞こえてもボクは何も知らないよ。

 

「リヤンさんっ!受付よろしく~」

 

「了解しました。……『ムーンビースト』ですか。既知の事柄かと思いますが、このモンスターは大変危険です。どうかお気をつけて」

 

「は~い。 あ、そうだリヤンさん。お願いがあるんだけど」

 

「なんでしょう?ギルドの仕事に差し支えない程度でお願いします」

 

 うっぐ……。ボクはリヤンさんにいったいどういう風に認識されてるんだい……?

 

「だ、大丈夫。むしろギルドの仕事だから」

 

「了解しました。ではご用件をどうぞ」

 

「ボクがさっきまで話してた男女二人って言って伝わるかな?青い髪と茶髪の」

 

「はい。アクシズ教徒はこの街……いえ、この国では危険視されている団体ですので、その元締めを名乗ったことで冒険者の皆様にはある程度警戒されたでしょうね」

 

「うん。その二人が冒険者登録に来ると思うんだけど、その分の料金を先に払っときたいんだ」

 

「……申し訳ありません。私にはなぜチズルさんがその様な行動に至ったか理解が出来ません」

 

 やっばい。リヤンさんの眼が「何言ってんだこいつ……」って感じになってる!

 

「ははは、一応理由はあるから聞いてね」

 

「別に構いませんが、手短にお願いします」

 

「釣れないなぁ。いや、ほらあれだよ。今恩売っとけば、後々ボクに利益来るかもしれないじゃない?なんていうんだっけこういうの……そう!『情けは人の為ならず』!」

 

「……冒険者という職に就いている人はいつ死んでも可笑しくないというのが世間の常識ですが、貴女にはその常識は当てはまりそうにありませんね」

 

 あっ、ため息吐かれた。

 

「つまり、なんだかんだで帰ってくるってことだよね。リヤンさんが言うことは現実に起こりそうだし、これでボクの生存率はグンと上がったね。……そうだ、ついでに伝言頼みたいんだけど、いいかな?」

 

「それは構いませんが、どういった内容で?」

 

「それはね――――」

 

 おっと、これ以上話してたら買い物の時間が無くなるね。

 カウンターに二千エリスを置いてボクは冒険者ギルドを出た。

 

 さて、行こうか。




本編の内容で気になること、本編には載ってないけど聞きたいことかあれば活動報告でリクエストしてください!

裏設定をバシバシ上げていってます。


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準備

 よし、まずは武器の調達だね。ギルドの最低品質(なまくら)ナイフは今一信用できないし、なにより得意じゃない。切れ味は最低でも片手で自分の腕を切り落とせるくらいじゃないと。

 あいつら拷問狂だからね。捕まったらなにされるか分かったもんじゃない。

 

 

―――ここかな。街の人たちから薦められた武器屋さん。めちゃくちゃ綺麗な鎧と剣が店先に置いてある。……それにしても……、

 

「《武具商店 ブァッフェ》……ストレートすぎ」

 

 《武具商店》はまぁ、分かりやすさ重視のためっていう理由でいいと思うけど、《ブァッフェ》って……。いや、いいけどさぁ。

 

 

-------------------------

買い物は全カットだよ!m(_ _;)m ゴメン!!

特筆するなら、店主さんが美人だった!

-------------------------

 

 さて、武器の調達はできたね。店主さんに「片手で自分の腕切り落とせるくらい切れ味がいい武器ありますか?」って聞いたらマジトーンで「は?」って聞かれた。しょうがないじゃん!ボクは事務所の人たちみたいにあいつの腕を叩き落としたりできないの!

 

 まぁとりあえず武器は手に入ったね。ついでに防具も買ってきた。

 

 買ったのは『クリンゲ』って名前が付いたショートソード。あと金属製の仕込み籠手。

 

 合計25万エリス。高いよ~。

 

 それで、小物も少し買っといた。

 

 最終的な持ち物はこんな感じかな

 

 

 [武具]

・片手剣『クリンゲ』

品質最低(なまくら)のナイフ

・十徳ナイフ

・仕込み籠手

・鎖

 

 [小物]

・メモ帳&筆記用具

・ワイヤー

・財布

・カメラ

・布

・針 

・毒液

・早馬の召喚笛

 

 小物とかは大体リュックサックに入れてるよ。

 集合写真とかは、破られると困るから宿に置いてる。

 

 お金はまだ残ってるけど、今回の買い物で節約生活な始まることになるかな。

 

 あ、『早馬の召喚笛』はマジックアイテムっていう物みたいで、吹いたら足の速い馬が近くに来てくれるらしいよ。実は自分で走った方が速いっていうのはのは内緒。

 

 えっと、ムーンビーストの姿が確認されているのはアクセルの北側、馬車で大体半日くらいの地点らしいから、今日の夜に移動開始だね。順調に進めば明日の昼近くには着くでしょ。

 

 ギルドからは長距離移動時には馬車が無料で臨時支給されるらしいし、後は待つだけだね。

 

 今は……大体18時くらいかな。ちょっと早いけど、晩ご飯でも食べようか。明日の朝ごはんはそこで買うか、自分で作るかしようかな。

 

 

◇◆◇

 

 

 今日のご飯は力を蓄えるために、好物のハンバーグにしといたよ。仕事終わりのハルちゃんとリヤンさんと一緒に食べたよ。二人とも仲良さそうにしてたから「二人は付き合ってるの?」って聞いたら、リヤンさんに違うって即答された。ハルちゃんは顔紅くしてたけど……ほ~う?なるほどぉ?

 

 ちなみに、カエルの肉を食べた感じは鶏肉に似ていて、意外とおいしい。ギルドのシェフさんにハーブを使って焼いてもおいしいかもねって伝えたら、明日にはメニューに出してみるって言われた。いや、もうちょっと考えようよ。

 

―――カエルは分からないけど、事務所では『鶏肉の薬草焼き』は人気メニューだったんだよね。少し懐かしいなぁ……。

 

 あと、今日会ったジャージを着た子と女神アクアを名乗ってた子。土木工事のアルバイトを始めたみたい。もう何人か友達作ってたけど、コミュ力が高いんだね。

 アルバイトの期間は一週間のはずだから、少なくとも一週間は肉体労働だね。筋力をつけるにはちょうどいいと思うよ。

 

 そういえば、明日はハルちゃんが朝ごはん作ってくれるみたい。「それは例の依頼に付いてるオプションか何か?」って聞いたら、「オプションが何かは分かりませんが、個人的な贈り物ですよ」ってさ。

 ボクそんなにハルちゃんと話してたかな?

 

 あっ、ハルちゃんの眼が怖い。多分リヤンさんに抱いてる気持ちに気づいてるのがバレたんだろうね。だいじょ~ぶ、ボクは人の恋路は邪魔しないから。馬に蹴られて死にたくないからね。

 

 

◇◆◇

 

 その日の内に馬車で北の方に向けて出発した。

 

 

 

 

 

 

 ねぇ、馬車ってさ、こう…ガタガタ揺れるのがあってこそだと思うんだ?整備されてない道を走ってる感じがして。

 日本とかのめっちゃ綺麗に整備した道も動きやすさって点じゃいいけど、ガタガタ揺れるのもファンタジーって感じがして。

 

 窓から見える外の景色もゆったりと流れていく感じがボクは好きなんだよね。

 

 ただ、馬車が揺れるってことは、サスペンションとかが開発されてないこの世界だと、その揺れはダイレクトに中に届くんだよね。

 その揺れのおかげでボクはこの道でファンタジー感を味わえてるんだけど…………何が言いたいかというと、お尻が痛い。ガタガタ揺れる度にお尻に振動が来るからキッツ

イ。今度業者さんにサスペンションの作り方を教えちゃおう。

 確か杉下さんが車の仕組みについて調べてた捜査に協力してた時期があったから、少しなら覚えてるよ。

 

 あぁ……お尻痛い……。リュック下に敷いて座布団代わりにしよ。




あけましておめでとうございます。
最後の方に出てきた杉下さんについては活動報告にあげてます。
あと、今回の話は次話投稿の時点で2017文字です。( ・´ー・`)ドヤァ

活動報告にて、リクエストの募集をしています。
もし何かあれはそちらへどうぞ


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襲撃

ここでちょっと私の書き方の使い分けを。
<> → ギルドカードでの表記。
【】 → ギルドカードの項目。スキル発動時。


 うぅ……お尻痛い。リュックでいくらか楽にはなったけど、振動が無くなるわけじゃないからなぁ……。

 

 それよりも、目的の地域まであと二、三時間ってところだね。今のうちにできることは終わらせちゃおう。っても、武器の手入れとか、仮眠とかはさっきやっちゃってるんだけどね。

 

 う~ん。こういう時、一人だとすることが無くて暇なんだよね。早く面白い人とパーティー組んで、こういう暇な時間を作らないようにしたいよ。

 

 あ、そうだ。昨日のゴブリン討伐、あれ結構な数のゴブリンを倒したよね?だったらレベルが上がってると思うんだけど……うん。順調に上がってるね。

-------------------------

【プロフィール】

名前:榊千尋

種族:ヒューマン

年齢:19

性別:女

職業:探索者

レベル:1→7

 

【ステータス】

筋力:248 → 293(+45)

体力:539 → 562(+23)

魔力:12  → 32(+20)

知力:227 → 253(+26)

器用:102 → 116(+14)

俊敏:632 → 658(+26)

幸運:12  → 13(+1)

 

【取得済みスキル】

 

<METEOR GOLIATH>※習得不可

<KRAKEN>※習得不可

<ELDER KRAKEN>※習得不可

<WRAITH>※習得不可

<BEHEMOTH>※習得不可

<GLACIAL BEHEMOTH>※習得不可

<GORGON>※習得不可

<鎖術>

<聞き耳>

<投擲>

 

【▼習得可能スキル▼】

 

-------------------------

 

 習得可能スキルの欄は多すぎるから折りたたままれてるみたい。それにしても、ボクのステータスって高いのか低いのか分からないんだよね。リヤンさんは結構高いって言ってたけど。他の人のステータスの見たいな~。

 

 さて、スキルの習得でもしようか。ボクは今回いっちばん戦いたくない生物と戦闘しないといけないから、あいつ対策のスキル構成にしないと……。

 

-------------------------

【習得可能スキル】現在pt:12

・目星 必要pt:3

・鋭い嗅覚 必要pt:4

・瞑想 必要pt:5

-------------------------

 

 今回取るのはこの三つ。【目星】で不意打ちを受けないように周囲警戒。【鋭い嗅覚】は名前の感じから獣臭を嗅ぎ取れるかも。【瞑想】は凜さんがよくやってるから。

 

 全部名前を見た感じからの推測だけど間違ってはないはず。

 

 ほい。一気に習得っと。

 

 あ、結構違うねこれ。【目星】を取ったらなんていうか、視界がよりはっきりして、怪しい所とかが気になるようになった。今だと、リュックの下に置いてたものが何か凄い気になる。あ、ナイフだ。

 

 【鋭い嗅覚】と【瞑想】は多分任意発動系のスキルだね。スイッチのON/OFFみたいな。

 

 やってみようか。

 

「【鋭い嗅覚】。……?何このにおい」

 

 【鋭い嗅覚】を発動すると感じた幾つかのにおい。多分近くにある竹藪に生えている竹とかの植物のにおい。ボクが今乗っている馬車に使われてる木材のにおい。馬車を引いてる馬のにおい。ボクの荷物の一つ、ナイフとかの鉄臭いにおい。……これだね。

 

 鉄臭いにおいだ。それが……外にある。

 

「早馬ちゃん。ストップ!」

 

 鉄臭いにおいって言うのは、ある意味ではこの世界にありふれたものなんだけど。ここまで濃密なにおいは異常じゃないのかな。

 ボクの声に驚いたのか、早馬ちゃんは後ろ足で立ち上がるようにして動きを止めた。

 それと同時に、ボクの持つ【聞き耳】スキルに反応があった。シュッっていう、風を切って何かが振られるか、投げられるかした音。

 ボクがそれを"何者かの攻撃"だと認識した瞬間に、早馬ちゃんの鼻先を掠めるようにして『真っ黒い槍状の物体』が地面に突き刺さった。

 

「来たね……」

 

 ボクは咄嗟にリュックの下の剣と籠手を回収して、馬車から飛び降りる。飛び降りるときに、早馬ちゃんを馬車に括り付けてる綱を切断して、早馬ちゃんは逃げれるようにしておく。

 

 槍の刺さった角度と向きから、大まかな位置は逆算できるから……いた!

 

 爪を生やした両手、眼がなく口が広く鼻の先が桃色の青白い触手になっている顔を持つ、カエルのような体格。おまけに、赤黒い肌の腹部。間違いない。あいつが……

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「『ムーンビースト(月の怪物)』……」

 

 

 

 

 

 

 ボクがずっとこいつと戦おうと思わなかった理由。

 

 

 

 それは、

 

 

 

 

 

 

 

 

  ボクの友達が、

 

 

 

 

 

      

 

 

 

     皆こいつに殺されたからだ……!




今回はここまで。
私の拙い文章じゃ臨場感や人の感情をうまく出せないと思いますが、これが私の精一杯です
勘弁してください。

活動報告にて、リクエスト募集してます。


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全力戦闘

 ムーンビーストへのボクの怒りは、橘探偵事務所のみんなのおかげで何とか収まっている。これが普段のボクだったら絶対に突っ込んでいってたと思う。

 

 ボクがするのは、観察。ムーンビーストだって最強じゃない。攻撃の合間が狙いどころになるはず。

 

 ムーンビーストは虚空で真っ黒い槍を生成。こちらに投げつけてくる。

 

「……フッ!」

 

 アクセルの街で冒険者として働き始めてほんの数日だけど、ボクの身体能力は上がっている。高速で飛んでくる槍も、避けるだけなら何の問題もない。

 

 ……というか、このムーンビースト、地球にいた頃と同じくらいの能力?だったら、すぐにこいつは倒せる。向こうと同じなら、特典の身体能力向上無しでも倒せるし。

 

 なんて考えてたら、視界の横で何かが蠢き、こちらに何かを投げてけてくるのが見えた。

 

「やっば!」

 

 咄嗟に体を反らして回避姿勢を取ったけど、何かはボクの額を掠めるようにして地面に深々と突き刺さった。

 

 飛んできた物体を確認すると―――棒状の物体が目に映った。

 

 

 

 槍だ。

 

 

「くっそ……最悪……」

 

 

 槍が飛んできた方向。近くの竹藪を見ると、十匹ぐらいのムーンビーストが槍を構えているのが見えた。

 

 なるほど。これがムーンビーストに挑んだ人が皆やられちゃった理由か。

 

 

 全てのムーンビーストが、ボクに向けて槍を投擲してくる。全個体が、キミの悪い笑い声を上げながら。

 

 

「【岩壁】っ!」

 

 <ベヒモス(BEHEMOTH)>の防御スキル。【岩壁】を発動する。右手を地面に叩きつけると、ボクを中心に半円状に岩盤が突出してくる。高さは5mくらい。

 飛び出してきた岩に合計13本の槍が突き刺さってくる。よし、これで敵の数は分かった。一気に決めようか。

 

 突き刺さった槍のうち、一本を抜き取って【幻影】を発動する。するとボクの影から同じく槍を携えたドッペルちゃんが出現する。そして同時に駆けた。

 

 ボクは槍を持ったままムーンビーストの群れへ。ドッペルちゃんも群れには向かうけど、槍を最初に投擲してきた方のムーンビーストに投げつけてから最高速度で走り出した。

 投げた手が光ってたから、多分【投擲】スキルも使用したんだと思う。

 

 ボクも槍を適当に群れの中心に【投擲】を使用して投げつける。全力で投擲したからか、ムーンビーストのブヨブヨしたお腹を槍は貫通し、後ろの地面に沈み込む。多分ドッペルちゃんの投げたのもこのぐらいの威力だと思う。

 

 お腹を貫通されたムーンビーストは、しばらく立ったままだったけど、不意に糸が切れたかのように倒れ伏せた。

 

 いきなり二匹もやられたのに激昂したのか、ムーンビーストは怒気を含んだ声を上げながら新しい槍を作り出した。

 

「そいつは投げさせない!【捕獲網】!」

 

 掌から蜘蛛の糸を出して動きを制限する。【捕獲網】はかなり頑丈だから、引きちぎるまでは時間がかかるはず。

 

 ドッペルちゃんはどうせまた突っ込んでいくんだろうから、ボクはサポートをしよう。

 

 チラッとドッペルちゃんの方を見ると、ムーンビーストの投げつけてきた槍を空中でキャッチし、【跳躍撃】で攻撃するのと同時に槍を近くのムーンビーストに斬りつけていた。

 強いなぁ……。

 

 ボクは……さっき倒したであろうムーンビーストに奇襲されないようにとどめを刺しておこうか。

 

「【酸液吐き】……」

 

 これも掌から液体を生成。ムーンビーストの体にかけると、ジューッっていう音と一緒に溶け始めた。

 

 ……やばい。血で視界が霞む。確かリュックの中に布を入れてたから、後で止血しよう。

 

 とりあえず今は腕で拭き取って、ドッペルちゃんの手伝いに行こう。

 

 

 ムーンビースト達はかなり数を減らされているからか、ドッペルちゃんに集中しているように見える。それなら……奇襲のチャンスだね。

 

「【岩投げ】!」

 

 ドッペルちゃんがまた一匹ムーンビーストを潰すのと同時に岩を生成。【投擲】も使用して残ったムーンビーストに投げつける。

 

「んで、【跳躍撃】!」

 

 今度は岩が着弾するのと同時に飛び上がり、右手で混乱するムーンビーストを叩きつぶす。

 

「……これで全部だね」

 

 最後に、ドッペルちゃんが鎖を使ってムーンビーストを絞殺するのを確認して、周囲を確認する。

 

 

 

 

 

 

 【目星】、【聞き耳】、【鋭い嗅覚】、どれも反応なし。ちょっと血のにおいが濃すぎて頭がクラクラするけど、何も問題ないね。

 

 倒れたムーンビーストたちにドッペルちゃんと手分けして酸液を振りかけていく。全てのムーンビーストが骨まで溶けるのを確認してから、ドッぺルちゃんの【幻影】を解かずに荷台に戻る。

 

 ドッペルちゃんが「何?」みたいな顔でついてきてるけど、自分と全く同じ顔だから結構違和感があるんだよね。

 

 リュックから布を取り出して、ドッペルちゃんに止血をお願いする。ボクとは全く別の人格が宿ってるみたいだから、ボクにできないこともできるんじゃないかなって思ったんだけど……。

 

 

 

 やばい。応急処置がすごい的確。不器用なボクとは全く違う。なんかもう痛くないもん。

 

 あと、[早馬の召喚笛]を使ってもう一回早馬ちゃんを呼び出して、街までお願いしたよ。

 

 馬車に乗ってドッペルちゃんの【幻影】の効果を解くと、ドッと疲れが襲ってきた。

 

 

 

 

 あれ…………そん…な疲れ……てたか………。




え?前回の最後と今回の最初が雰囲気全然違うだろって?
私感情が高ぶった人の描写って苦手なんですよね…(目逸らし


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帰還

サブタイトルが最近二文字で固定になっていますが、仕様です。


 ボクは変な夢を見ていた。

 

 足元がふわふわして落ち着かない空間で、目の前に立っているのは浅黒い肌の男。

 男の顔にはノイズのようなものがかかっていて、素顔を確認できないけど。

 

 男が、そのがっちりとした手をボクの方に差し出してきた。多分、手を取れってことなんだと思って、その手を取ろうと手を伸ばした。

 

 ボクの手が男の手に触れる寸前、真っ白な腕がボクの手を掴んで男に触れさせないように横に反らした。

 

 そこでボクの意識が引き上げられていく。

 

 目を覚ます直前に、チッという舌打ちの音が聞こえたのが印象的だった。

 

-------------------------

 

 ボクが目を覚ましたのは、いまだガタガタと悪路を進む馬車の中。……やけに感触とかがリアルな夢だったなぁ。

 

 グーッと伸びをして、馬車の外を見てみるけどもうほとんど日が沈んでいるのが見える。そっか、ボクが戦ったのがお昼頃で、移動に半日かかるからアクセルに着くのは夜になるんだね。

 

 というか、身体の疲れも頭の痛さもほとんど消えてる……。これも転生特典なのかな?

 

 頭に巻いてもらってた布を取って確認したけど、もう傷は塞がってるみたい。んー、これは多分皮膚が物凄い速さで再生したんだろうね。『Evolve』のモンスターたちなんてもっと早く再生するし。

 

 そういえば、なんでムーンビーストに奇襲を受けた時、【氷の盾】が発動しなかったんだろう?ゴブリンの時は発動してたのに。

 

 ……あ、もしかして、あの槍を構成する物質って、スキルを無力化するのかな?

 

 今回ボクとドッペルちゃんが使ったのは【岩壁】、【幻影】、【投擲】、【捕獲網】、【跳躍撃】、【酸液吐き】、【岩投げ】の七つのスキル。

 全部≪物理的な攻撃≫っていうのかな?魔法を一切使ってないんだよね。確か依頼書に魔法が効きにくいって情報があったと思うけど。

 

 もしかして、ボクってあいつと相性良かった?え、文にするだけで吐き気がするんだけど。

 

 ……コホン。あー、推測だけど、あいつ肉弾戦じゃないとダメージ通さないんじゃないかな。

 

 

 あ、今ギルドカード確認してみたけど、ムーンビースト13匹倒してるんだね。

 

 これは流石にレベルアップしてるでしょ。

 

-------------------------

【プロフィール】

名前:榊千尋

種族:ヒューマン

年齢:19

性別:女

職業:探索者

レベル:7→14

 

【ステータス】

筋力:293 → 316(+23)

体力:562 → 573(+11)

魔力:32  → 38(+6)

知力:253 → 257(+4)

器用:116 → 134(+18)

俊敏:658 → 672(+14)

幸運:13  → 14(+1)

 

【取得済みスキル】

 

<METEOR GOLIATH>※習得不可

<KRAKEN>※習得不可

<ELDER KRAKEN>※習得不可

<WRAITH>※習得不可

<BEHEMOTH>※習得不可

<GLACIAL BEHEMOTH>※習得不可

<GORGON>※習得不可

<鎖術>

<聞き耳>

<投擲>

<目星>

<鋭い嗅覚>

<瞑想>

 

【▼習得可能スキル▼】

 

-------------------------

 

 よし。筋力も300超。スキルポイントも21ゲッチュ。

 

 でも今回はスキルは取らずに新しいのが無いかどうか見るだけにしようか。……にしても、ボクの習得可能スキル……というか【探索者】の習得可能スキルって、独特だよね。

 

 聞いた話だと、例えば【アーチャー】とかは弓の扱いがうまくなるようなスキル。【弓】とか【狙撃】とかのスキルだったんだけど、ボクの【聞き耳】、【目星】は感覚を研ぎ澄ますようなスキルなんだよね。

 

 【アーチャー(弓兵)】、【ソードマスター(剣の達人)】、【ナイト(騎士)】、【クルセイダー(十字架をつけた集団)】、【盗賊】、そして、【冒険者(冒険する者)

 

 みんな何かしらの意味があるんだよね。【クルセイダー(十字架をつけた集団)】は【聖騎士】が正しいんだと思うけど。

 

 【冒険者(冒険する者)】と【探索者(探索する者)】ってどう違うんだろう?ボク日本語弱いから分かんないや。……こんな時、所長か速水ちゃんがいたらなぁ……。

 

 いやいや、いない者ねだりしてもしょうがない!確認しよう確認!

 

-------------------------

【習得可能スキル】現在pt:23

 

・言いくるめ 必要pt:1

・医学    必要pt:4

・運転    必要pt:1

・応急手当  必要pt:3

・オカルト  必要pt:1

・化学    必要pt:2

・鍵開け   必要pt:1

・隠す    必要pt:5

・隠れる   必要pt:5

------------------------

 

 うわ、ほんの一部なのに頭痛くなってきた。……ってか、何に使うんだい、今なスキル!【医学】、【応急手当】はまだ分かるけど、【オカルト】って何するためなのさ。

 怪しげな魔方陣でも書いて黒魔術でもするの?馬鹿なの?

 

 これは……下から見ていった方がいいかもね。

 

 重要そうなものもあるかも……あ、【弓】とか【狙撃】とか【初級魔法】とかの最近教えてもらったスキルあった。

 これで【冒険者】と同じ性質があることが分かったね。後で報告しよっと。

 

 ん?あれ?【夜鬼(Night-gaunt)】に【食屍鬼(Ghoul)】、【ツァトゥグァ(Tsathoggua)】に【シャガイの昆虫(The Insects From Shaggai)】。他にもたくさん……てかこれボクが遭遇した神話生物じゃん!

 え、なに?【探索者】の特性ってこれ?

 嫌すぎるんだけど……っ!

 

 

 そんなことを考えていると、いつの間にかアクセルの街の明かりが見えてきた。

 

 何はともかく、生きて帰れたことを報告しようか。……【探索者】の特性も。




活動報告に【探索者】の特性を載せときました。


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初対面……じゃないかもね?

 クソガエルことムーンビーストの討伐から一週間が経ったよ。

 

 この一週間であったことを挙げると、

1,【探索者】の特殊な性質をギルドに報告。

2,報酬は1億5000万くらい支払われた。

 (なんでも、ギルドでは1匹しか個体を把握できていなかったからだとか)

3,スキル【月の怪物(Moon beast)】を習得。

 

 うん。いつの間にかお金持ちになったりクソガエルのスキルを手に入れて検証してたりで、いつの間にか一週間が経過してたよ。

 

 ちなみに、【月の怪物】の効果は『槍の生成』だったよ。

 悔しいことに、この槍がまた強くてね?

 そこら辺の魔法使いに協力してもらって検証をしてたんだけど、『何本でも生成』できて、『魔力による妨害を一切受け付けない』みたい。

 

 例えば、魔力を込めて作った風の盾とか、魔力を使って物体を浮かせるとかの行動が全く意味を成さなくなっている感じ。

 

 つまりえーと、魔力が込められた障壁とかを完全無視して、内部に攻撃を与えれるのかな?

 

 あと、多分これを取ったからなんだろうけど、街のみんなから、『魔術師殺し』とかってあだ名を付けられちゃった。呼び名は気にしないからいいけどね。むしろ、この世界だとこういうあだ名って時々身分証明になったりするから、全然大丈夫!

 

 お金は……今後のために貯金しとこ。

 

 

◇◆◇

 

 というわけで、ボクは今日も依頼を受けるためにギルドに来てるんだけど、ハルちゃんに「いい加減パーティーを組んだらどうです?」って言われちゃった。

 

 まあそんなこと関係なく依頼の方に行くんだけどね。

 

 今日は……『ジャイアントトードの討伐』でもやってクソガエルの鬱憤でも晴らそうかな。丁度繁殖期に入って凶暴性が上がってるみたいだし。

 

「ねぇ、これって、カエルの原型を留めてたら買い取ってくれるの?」

 

「あの、買い取りはするんですけど、まず原型を留めない戦い方って何なんですか?」

 

「普通に攻撃」

 

「貴女が本当に人間かどうか心配になってきました……」

 

 失敬な。ボクは列記とした人間だよ!どこに人間じゃない要素があるのさ。

 

 

◇◆◇

 

 そんなこんなで、やってきましたよ平原に。

 ボクが最初にこの世界で戦闘した場所だね。懐かしい。

 

 今回は範囲が広い攻撃スキルは使わずに討伐してみようか。

 【月の怪物】の実践運用の練習にもなるしね。

 

「【月の怪物】!」

 

 さっそく、カエルと戦う前からスキルを使用しとこう。

 

 右手を突き出して槍を生成すると、こう……ヌニーンって感じで掌から出てきた真っ黒い球体が変形して槍の形をとる。

 

 見た目は1.6mくらいのサイズのロンギヌスの槍。槍自体も変形するから、普通の真っすぐな形にもなる。

 

 あ、カエル見っけ。

 

「真っすぐな形に変えて……。そーれ、【投擲】っ!」

 

 スキルを使って思いっきり投げてみる。なんか手元からシュバンッていう謎の音がしたけど、カエルは倒せたから問題なし。

 

 胴部に物凄く大きな穴が開いてるのは見なかったことにしよう。

 

 カエルの肉をバラシてこの前買った馬車の荷台に放り込む。これで輸送費も節約するって寸法ですよ!

 

 早馬ちゃんは重くなった荷台を引くのが嫌みたいだから、ボクが引いてるけど。

 

 カエルを探して荷台と一緒にうろついていると、それなりに近い地点で爆発が起きた。

 ……気になるし、行ってみようか。

 

 馬車を車と同じくらいの速さで走らせていると、一人は倒れて、一人はカエルに食べられ、一人は呆れた顔で突っ立っているという摩訶不思議な三人組に遭遇した。

 

 えっと……。どう反応しよう。近くから大量のカエルが湧きだしてるし、助けた方がいいよね?あ、倒れてた子食べられた。

 

「【月の怪物】……【投擲】!」

 

 とりあえず両手に槍を生成して、二人を食べているカエルのお腹に風穴を開けておく。

 

 なんか男の子が驚いた顔でこっちを見てる……手振っとこ。

 

 とりあえず荷台を引いて三人のところに行ってみる。

 

「だいじょーぶ?怪我してない?」

 

「あ、一応俺は大丈夫ですけど……」

 

「粘液まみれか……」

 

 ボクと男の子は粘液で塗れた二人の女の子を見る。

 

「参ったな……ボクは今タオル持ってないんだよね。……このかっこで外歩かせるのも酷だし……」

 

 まぁいいか。

 

「三人とも、荷台に乗りなよ。ボクが街まで送ってってあげるからさ」

 

 三人とも驚いた表情をしてるけど、「拒否権はないよ~」って言いながら荷台に放り込んだ。

 

 ボクの分の依頼を完了させてから帰るけどね。

 

「ドッペルちゃん、適当に遊んできて!」

 

 【幻影】を使いつつドッペルちゃんにお願いしたら、頷いてどっかに行っちゃった。

 

 多分依頼分はやってくれるだろうから、このまま帰ろうかな。

 

 荷台で何か話してるのが聞こえるけど、【聞き耳】とかの効果を切って聞かないようにした。あとで話してみたいな……。



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パーティー

最初の方、かなり飛ばしていきます。


 さっき回収した三人だけど、ジャージを着た青年が佐藤和真、青い髪で最初から食べられてたのがアクア、後から食べられた黒髪の女の子がめぐみんという名前らしい。移動中に少し質問してみた。

 めぐみんは本名だったよ。

 

「えーと、ボクは榊 千尋。しがない一冒険者だよ」

 

「サカキ……チズル……?…………お、思い出しました!あなた、『魔術師殺し』のチズルですね!?」

 

「え、何その物騒な名前」

 

「最近現れた、魔法使いの天敵とも言える人物です。彼女の作る槍はどんな障壁も無力化するのです。あと、今まで何人もの冒険者が返り討ちに会ってきた賞金首のモンスターの情報提供者であり、それらを討伐した本人だとか!」

 

「マジか。結構な大物じゃないか?」

 

 みたいな会話を挟んで、パーティーに入れてもらった。

 

 カズマ君も了承してくれたから、オッケーだと思う。まさか、あだ名がこんな形で役に立つなんて思わなかったよ。

 

◇◆◇

 

「なぁ。聞きたいんだがスキルの習得ってどうやるんだ?」

 

 カズマ君のところでパーティーとして活動する約束をした次の日。

 ボクたちは少し遅めの昼食をとっていた。

 

 ちなみに、昼食の内容はアクアとめぐみんちゃんがお肉がたくさん使ってある定食。カズマ君とボクはサラダと注文している。

 

「えっと、カズマ君は【冒険者】だったね。だったら、誰かからスキルを教えて貰えば、カードの習得可能スキルっていう項目が出るはずだから、ポイントを使ってそれを選択すれば習得はできると思うよ」

 

「へー……。ちなみに、チズルさんはどんなスキルを持ってるんですか?」

 

 うっ、なんかぞわぞわする。人に敬語使われるのに慣れてないからかなぁ……?

 

「あー、ごめんカズマ君。その、敬語はやめてもらえない?なんか背筋がぞわぞわするんだ……。あと、ボクのスキルは……口で説明するのは難しいね。ギルドカードを渡すから、気になる物があったら言って?」

 

 そういいつつカードを差し出すけど、めぐみんちゃんも気になるのかな?カードをのぞき込んでる。

 

(え、何このステータス。このレベルだとこれが普通なのか?)

(いえ、そんなはずは……というかスキルの欄も可笑しいのありますよ!?何ですか習得不可って!?)

(しかも8つも習得不可スキルがあるんだが……名前見てもどんな効果か想像つかねぇ!)

(辛うじて習得できるのは<鎖術>、<聞き耳>、<投擲>、<目星>、<鋭い嗅覚>、<瞑想>って……暗殺者か何かですか!)

 

 ……何をこそこそ話してるんだろ?【聞き耳】……いや、いいか。気になるならあとで聞いてくるでしょ。

 

(てか待て、習得可能スキルの欄ありすぎじゃね!?)

(何人かから聞いたとしても物凄い量ですね……)

(あ゛ー!下の方にも習得不可スキルある~!)

(ほんと何者なんですかこの人!)

 

 あ、顔上げた。頬引き突っつてるけど。

 

「えっと、チズルさん……じゃなかった、チズルはいつもどんな戦い方をしてるんだ?」

 

 あれ?スキルについてじゃないんだ。

 

「ボク?んー、そうだね。いっつも肉弾戦……?いや、でもボクはドッペルちゃんに任せきりだから……」

 

「「ドッペルちゃん?」」

 

「うん。ドッペルちゃん。ボクのスキルで呼び出したもう一人のボクだよ。ボクよりも積極的に敵に突っ込んでいって、いつも無傷で帰ってくる子だよ」

 

 あ、二人の表情が険しくなった。なんでだろ?というかアクアはまだ食べるの?

 

「じ、じゃあこの【鎖術】っていうのは?」

 

「鎖を自由自在に扱えるようになるスキルだよ。こんな風に……」

 

 腰から鎖を抜きつつ【鎖術】を使って鎖でハートとか、星とかを作って見せる。

 

「「おー」」

 

 二人は感心して拍手を送ってくる。なんだか恥ずかしいなぁ……。

 

「じゃあ、他のスキルはどんなの?」

 

「えっとねー。【目星】【聞き耳】【鋭い嗅覚】はその名の通り五感を鋭くするスキル。【投擲】は勢いよく投げるスキルで、【瞑想】は神経を研ぎ澄ませるスキルだよ」

 

「……なぁ、【鎖術】位しかいいのが無いんだが……?」

 

 えー?そうかなぁ……。全部いいスキルだと思うんだけど……?

 

「一応アクアにも聞いとくか……。おい、アクア。お前なら便利なスキルたくさん持ってるんじゃないか?なにか、お手軽な感じのスキルを教えてくれよ。習得にあまりポイントを使わないで、それでいてお得な感じの」

 

 アクアは少し考えるそぶりを見せる。

 

「…………しょうがないわねー。言っとくけど、私のスキルは半端ないわよ?本来なら、誰にでもホイホイと教えるようなスキルじゃないんだからね?」

 

 うーん。ボクも一応聞いとこうかな?今後の役に立つかも。

 

「じゃあ、まずはこのコップを見ててね。この水の入ったコップを自分の頭の上に落ちないように載せる。……ほら、やってみて?」

 

 ボクは遠慮しとくけど、カズマ君はやってみるみたい。

 そっとコップを頭の上に載せると、次の指示を待った。

 一方のアクアはどこからか何かの種を取り出し、テーブルの上に置いた。……何の種なんだろう?

 

「さぁ、この種を指ではじいてコップに一発で入れるのよ。すると、あら不思議!このコップの水を吸い上げた種はにょきにょきと……」

「誰が宴会芸スキル教えろっつったこの駄女神!」

「ええーーーーー!?」

 

 ははは、なにこれ、漫才みたいで面白いよ!

 




アクアが心の中でも呼び捨てなのは、敬意を払う必要もないと考えているからです。


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窃盗って弱点多いよね。

「君!魔法を習得したいみたいだね!」

 

 カズマ君とアクアの漫才を見ていたら、後から声を掛けられた。多分カズマ君の方に用があるんだろうけど。

 

 振り返って声の主を確認すると、そこにはまさに盗賊って感じの軽装備をした、右頬に傷がある短い銀髪の女の子が立ってた。後ろの方に金髪で長身の女性がいるけど、パーティーのメンバーかな?

 

「話が聞こえてきたんだけど有用なスキルが欲しいんだろ?盗賊スキルなんてどうかな?」

 

 どうやら、スキルを習得したがってるカズマ君におススメを紹介しに来たみたい。それにしても、【盗賊】のスキルかぁ……ボクも教えてもらおうかな?

 

「えっと・・・盗賊スキルってどんなのがあるんですか?」

 

「盗賊スキルは【罠解除】に【敵感知】、【潜伏】に【窃盗】。持ってるだけでお得なスキルが盛り沢山!キミ、初期職業の【冒険者】なんだろ?【盗賊】のスキルは習得にかかるポイントも少ないしお得だよ?どうだい?今なら、クリムゾンビア一杯でいいよ?」

 

「安いな!……よし、お願いします!すみませ~ん、こっちの人に冷えたクリムゾンビア1つ!」

 

 あぁ……。話がどんどん進んでいく……。

 

 ま、いいや。ついて行こ。

 

 

 人気の無い路地に入った。

 

 女の子とカズマ君が数メートルくらいの間隔を空けて立ち、少し離れた所で女の子と一緒にいた女性とボクが様子を見ていた。

 

「…まずは自己紹介しとこうか。あたしはクリス。見ての通りの【盗賊】だよ。で、こっちの不愛想なのがダクネス。キミは昨日ちょっと話したんだっけ?この子の職業は【クルセイダー】だから、キミに有用そうなスキルはちょっと無いと思うよ」

 

「ウス!俺はカズマって言います。クリスさん、よろしくお願いします!」

 

「ボクは【探索者】のチズルだよ。ボクはただの見学だから、気にしないで進めてね」

 

 ふむ……。金髪長身鎧の女性がダクネスさん、活発系銀髪少女がクリスちゃんだね。覚えた。

 

「へぇ!チズルって言ったら、冒険者登録から三日で一億以上稼いだって言われてる人じゃないかい?キミ、よくそんな人捕まえれたね」

 

「あー、まあ成り行きというか……?」

 

「ボクから頼んだんだよ。カズマ君と一緒に行動したらいろいろとおもしろそうだと思って。……ほらほら、クリスちゃん。ボクに意識向けずに、スキルの紹介しないと」

 

「おっとそうだった。…コホン。では、まずは【敵感知】と【潜伏】やってみようか。【罠解除】とかは、こんな街中に罠なんてないからまた今度ね。じゃぁ……、ダクネス、ちょっと向こう向いてて?」

 

「……ん?……分かった」

 

 ダクネスさんは言われたとおりに反対を向く。……別にボクが罠作ってもいいんだよ?所長からそのくらいの技術は教えてもらってるから。

 いや、でもここはクリスちゃんのペースでいこう。

 

 クリスちゃんは少し離れた樽の中に入って、上半身だけを出す。……それから、普段からの恨みか何かからか、そこら辺の石をダクネスさんの頭に投げつけ、そのまま樽の中に身を隠した。

 

 えっと……何してるのかな?まさか、これで【潜伏】してるの?

 

 ダクネスさんが怒ってクリスちゃんの入った樽を転がしてるのを見て思ったけど、ボクのギルドカードの中にあった【隠れる】、クリスちゃんが今使った【潜伏】ってどう違うんだろ?

 名前が違うだけで、効果が全く一緒とかじゃないよね……あ、ギルドカードに【潜伏】が追加されてる。……後で【隠れる】の方を取っとこうか。

 

 

 

「さ、さて。それじゃあたしの一押しスキル、【窃盗】をやってみようか。これは、対象の持ち物をなんでも一つ奪い取るスキルだよ。相手がしっかり握ってる武器だろうが、カバンの奥にしまい込んだ財布だろうが、なんでも一つ、ランダムで奪い取る。スキルの成功確率は、ステータスの幸運値に依存するよ。強敵と相対したときに相手の武器を奪ったり、大事に隠してるお宝だけかっさらって逃げたり、いろいろと使い勝手のいいスキルだよ」

 

 さっきまで目を回してふらふらしてたクリスちゃんが復活。スキルの解説をするけど……。幸運値かぁ、ボクには難しそうだね。

 

「じゃあ、まずはキミに使ってみようか」

 

 そう言いながら、クリスちゃんはボクの方を向くけど……。うん。一回体験して、対策立てれるようにしとこうか。

 

「取れるのはランダムだよね?だったら、【月の怪物】……これでクリスちゃんの幸運値がどのぐらいか見てみようか」

 

 ボクは【月の怪物】を使って体のいたるところに槍を仕込む。ランダムだったら、これで良いのが取れる確率も下がるよね。

 

「おっと、もう対策されちゃってる。そう、【窃盗】の弱点は物を沢山持たれると、自分が奪いたい物を取れる確率がぐんと減ることなんだ」

 

 あ、なんだ。これで正解だったの?

 

 ……でもねクリスちゃん。多分、【窃盗】の弱点は他にもあると思うよ?

 

「あたしが狙うのは……そうだね。財布にしようか、多分ポケットの中に入ってるでしょ。……【窃盗(スティール)】!」

 

 クリスちゃんが【窃盗】スキルを使うのと同時に、一本槍を掴んで肉薄する。クリスちゃんは自分が盗ったものの確認に意識を向けてたから、この攻撃は避けれないはず。

 

 クリスちゃんの頭を狙って振った槍は、吸い込まれるように側頭部に当たり、ピコンという音を立てた。

 

 槍は怪我しないようにピコピコハンマーと同じ構造にしといたから、安全だよ。見た目は本物だけど、当たっても斬れない安心設計。まぁ、結構力入れて振ったから痛いだろうけど。

 

 頭を抱えて涙目にクリスちゃんの手から財布を返してもらって、頭をさすってあげる。痛かったねー、よく耐えたねー。

 

「これも【窃盗】スキルの弱点だね。盗れるものがランダムってことは、『何が盗れたか確認するために手元に意識が向く』。何事にも弱点は付いてくるんだから、気を付けようね」

 

「はぁぃ……」

 

 うん、いい返事。

 

「うぅ、まだ痛い……。つ、次はキミにやってみようか。……さっきみたいに盗った瞬間狩りに来ないようにお願い……」

 

「大丈夫。あんな動き俺にはできないから」

 

 クリスちゃんは左手で頭を押さえつつ右手をカズマ君の方に突き出す。

 

 ボクはそこらの壁に寄りかかって様子見だね。

 

「じゃあ、いくよ?【窃盗(スティール)】!」

 

 さっきと同じく【窃盗】をしたけど、まだボクを警戒してるように見えるね。もうしないよ~?

 

 それで、取り合えず【窃盗】は成功したね。また財布を盗ったみたい。お金が好きなのか、財布が握りやすいからか……。

 

「よし、当たりだね。それじゃ、財布を返……」

 

 クリスちゃんは、カズマ君に財布を返そうとして伸ばした手を引っ込め、にんまりと笑った。あ、かわいい。

 

「ねぇ、あたしと勝負しない?キミ、早速【窃盗】スキルを覚えてみなよ。それで、あたしから何か一つ、スティールで奪っていいよ。この財布の中身だと、間違いなくあたしの財布の中身とか武器の方が価値があると思うよ。それで、どんなものを物を奪ったとしても、キミは自分の財布と引き換え。……どう?勝負してみない?」

 

 おぉ、ライトノベルとかで見る冒険者同士の賭けみたい。カズマ君も手早くギルドカードを操作してスキルを覚えたみたい。

 

「早速覚えたぞ。そして、その勝負乗った!何盗られても泣くんじゃねーぞ?」

 

 カズマ君は右手を突き出す。……【窃盗】が盗るのって、『対象が持っている物』だよね?

 RPGだと、確か[装備]の欄に所持品が来たりするのもあるよね……。それで、初期の装備は……[普通の服]。え、流石に服盗られるのはまずいよね?

 

「【窃盗(スティール)】ッ!」

「ちょっと待った!」

 

 遅かったか……しょうがない、別の物を盗ってることを祈ろうか。

 

「当たりも当たり、大当たりだあああああああ!!!!」

「いやああああああ!ぱ、ぱんつ返してえええええええ!」

 

 駄目だった。やっぱり、衣服も対象になるんだね。……多分あれなかなか返してもらえないんだろうなぁ。

 

 よし、取り返してあげよう。

 

「【鎖術】!取ってきて!」




鎖ちゃんはしっかり取ってきた模様。
あと、チズルちゃんのスキルにも弱点は設定してます。

現在アンケートを取っています。よければ投票お願いします。
追記:アンケート終了しました


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疑問

のんびり進んでいきましょう。


「ねぇカズマ君。もしかして、さっきの【窃盗】て、狙ってやった?」

 

「いやいや!やってない!取れるものはランダムなんだし。むしろ、パンツを剝ごうって考えたこともないし!」

 

「……そっか。ごめんね、変なこと聞いて」

 

 うーん。本気で狙ってたと思ったんだけどなぁ……。

 

 さっきのクリスちゃんの【窃盗】はボクとカズマ君の財布を狙ったものだったけど、両方ともお目当ての品をクリスちゃんは手に入れてる。

 だから『[幸運値]が高い人は狙ったものを手に入れることが出来る』っていうのを仮定して、カズマ君が望んだからクリスちゃんの下着を盗ったんじゃないかなって思ったんだけど……。

 

 まぁ、ボクはクリスちゃんとカズマ君の[幸運値]は知らないんだけどね。

 

◇◆◇

 

 僕たちがギルドに戻ってくると、そこではちょっとした騒ぎになっていた。

 

「アクア様、もう一度!金なら払うので、どうかもう一度【花鳥風月】を!」

「ばっか野郎、アクアさんには金より食い物だ!ですよね!?アクアさん!奢りますから、ぜひもう一度【花鳥風月】を!」

 

 アクアのところに人だかりができてる。えっと、【花鳥風月】ってクリスちゃんが来る前にやってた宴会芸のスキルだよね?あんなに人気なの?確かに地球で「手品です」って言ってやれば一気に売れっ子になれるような気がするけど……。

 

「あのね、芸って物はね?請われたからって何度もやる物ではないの!良いジョークは一度きりに限るって、偉い人が言ってたわ。ウケたからって同じ芸を何度もやるのは三流の芸人よ!そして、私は芸人じゃないから、芸でお金を受け取るわけにはいかないの!これは芸を嗜む者の最低限の覚悟よ。それに【花鳥風月】は元々あなた達に披露するつもりだった芸でもなく――――あっ!ちょっと二人とも、やっと帰ってきたわね、あんたたちのおかげでえらい目に……。って、その人どうしたの?」

 

 自分を囲んでいた他の冒険者に芸人とは何たるかを語っていたみたいだけど、全部どっかで聞いたことがあることだったね。それが真理なのかもしれないけど。

 

 アクアが興味を持ったのは、スカートを押さえながら涙目になってるクリスちゃんなんだけど……。

 

「うむ。クリスは、カズマとチズルにスキルを教えたところ、チズルに側頭部を叩かれた上にカズマにパンツを剥がれたから落ち込んでいるだけだ」

 

「おいアンタ何口走ってんだ!?」

 

 うーん。ボクは【窃盗】スキルの弱点を説明しただけなんだけど……そうか、傍から見たらそう見えるんだね。

 

「公の場で思いきなり叩かれて、パンツ脱がされたからって、いつまでもめそめそしててもしょうがないよね!よし、ダクネス。あたし、悪いけど気分転換に稼ぎのいいダンジョン探索に参加してくるよ!」

 

 顔を上げたクリスちゃんはギルド全体に聞こえるか聞こえないかくらいのくらい声量で言うと、冒険者募集の掲示板の方に歩いて行っちゃった。

 

 あれは逆襲のつもりなのかな?だとしたら凄い可愛らしいね。

 ちなみに、ボクが一番凄いって思った反撃は、大内さんが汐見さんと柳さんにちょっかい出してた時、二人がほぼ同時に思いっきり回し蹴り入れてたことかな。その後大内さんは一時間ぐらい気絶してたかな?

 

「えっと、ダクネスさんは行かないの?」

 

「……うむ。私は前衛職だからな。前衛職なんて、どこにでも有り余っている。でも、【盗賊】はダンジョン探索に必須な割に成り手があまり多くない職業だ。クリスの需要ならいくらでもある」

 

 カズマ君はいつの間にかテーブルに座ってたダクネスさんに質問するけど……。

 つまり、ダンジョン探索においては【盗賊】のクリスちゃんは皆から必要とされてるけど、【クルセイダー】のダクネスさんはあまり必要とされてない……というか前衛職は有り余ってるから入る枠が無いってことかな?

 

 あ、クリスちゃんもうメンバー見つかったんだ。いってらっしゃーい。

 

「もうすぐ夕方なのに、クリス達はこれからダンジョン探索に向かうのか?」

 

「ダンジョンの前とかで夜を過ごすじゃないかな?ボクも見たようなこと一週間くらい前にしたし」

 

 まぁ、ボクは馬車移動中の馬車で寝たけどね。あれはもうごめんだよ。

 

「そうですね。チズルの言う通り、ダンジョンの前でキャンプするのです。ダンジョン探索は朝一に行うのが理想的ですからね。……それで?カズマは、無事にスキルを覚えられたのですか?」

 

 あっ。いや、どうなんだろう?カズマ君は女の子の下着を剥ぎ取ることを望んでるようには見えないけど、カズマ君の【窃盗】はもう既に信用できなくなってきてるんだけど……。

 

「ふふ、まぁ見てろよ?いくぜ、【窃盗(スティール)】ッ!」

 

 スキルを使ったカズマ君の手に握られているのは、黒い布。

 

 ……また取ったの?

 

「……何ですか?レベルが上がってステ-タスが上がったから、【冒険者】から【変態】にジョブチェンジしたんですか?……あの、スースーするので、パンツ返してください……」

 

「あ、あれっ!?お、おかしーな、こんなはずじゃ……。ランダムで何かを奪い取るってスキルのはずなのにっ!」

 

「あのねカズマ君、ボクはもう君を庇える気がしないよ……」

 

「わざとじゃない!狙ってないから!」

 

 あぁ、頭痛くなってきた……。

 

 すると、ボクの隣のダクネスさんがいきなり机を叩いた。おぉ!いいぞ聖騎士!叱ってやってください!

 

「やはり。やはり私の眼に狂いはなかった!こんな幼げな少女の下着を公衆の面前で剥ぎ取るなんて、真の鬼畜だ許せない!ぜひとも……!ぜひともわたしを、このパーティーに入れてほしい!」

「「いらない」」

「んんっ……!?く……っ!」

 

 おっと、つい反射的に……。というか、ダクネスさん悦んでる?

 職業【変態】?

 

「ねえカズマ、この人だれ?面接に来たの?」

「あれ?ちょと、この方【クルセイダー】ではないですか。断る理由なんて無いのではないですか?」

 

 さっきクリスちゃんが『ダクネスは【クルセイダー】』と言っていたので、うまく編成すれば……前衛二人に後衛二人、最後に遊撃一人でいい組み合わせにはなると思うけど……な~んかいやなよ予感……。

 

 ん?カズマ君がこっち見てる……。カズマ君、目で会話できるの?

 

(こっちとしては、この人は駄目なタイプだと思う。そこの二人が同調してるのがいい証拠なんだけど……どうする?この人はパーティーに入れる?)

(……一芝居やって諦めさせるとか)

(よし、それちょっと試してみる。行けそうだったら合わせてくれ)

 

 やればできるもんだね。カズマ君凄いなー。

 

「……実はなダクネス。俺とアクア、それにチズルはこう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」

 

 うまくいくといいけど……。




よければアンケートにご協力ください。
アンケート終了しました


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稼ぎ時

「……実はなダクネス。俺とアクア、それにチズルはこう見えて、ガチで魔王を倒したいと考えている」

 

 さて、うまくいくのかな?

 というかカズマ君。ホントはそんなこと思ってないでしょ。目から光が少し消えたよ。

 

「丁度いい機会だ。めぐみんも聞いてくれ。俺達三人は、どうあっても魔王をたおしたい。そう、俺達はそのために冒険者になったんだ。という訳で、俺達の望遠は過酷なものになることだろう。特にダクネス、女騎士のお前なんて、魔王に捕まったりしたら、それはもうとんでもない目に遭わされる役どころだ」

 

「あぁ、全くその通りだ!昔から、魔王にエロい目に遭わされるのは女騎士の仕事と相場は決まっているからな!それだけでも行く価値がある!」

 

「えっ!?……あれっ!?」

 

 え!?酷い目に遭わされるって、四肢をもぎ取られたり、喉の辺りから舌を引っ張り出すことでしょ!?

 何さ、エロい目に遭わされるのが相場って!

 

「えっ?……なんだ?私は何か、おかしな事を言ったか?」

 

「言ったよ?」

 

「め、めぐみんも聞いてくれ。相手は魔王。この世で最強の存在に喧嘩を売ろうってんだよ、俺達は。そんなパーティーに無理して残る必要は……」

 

 カズマ君がそこまで言った時。めぐみんちゃんが椅子を蹴って立ち上がって、マントを翻しながら。

 

「我が名はめぐみん!紅魔族随一の魔法の使い手にして【爆裂魔法】を操りし者!我を差し置き最強を名乗る魔王!そんな存在は我が最強魔法で消し飛ばして見せましょう!」

 

 駄目だこりゃ、二人とも魔王を倒すってことに惹かれちゃってる。一人は捕まりたい見たいみたいだけど。

 

 カズマ君が「おいどうすんだこれ」みたいな感じで見てくるけど、肩をすくめてこれは無理って意思表示をする。

 あ、頭抱えた。

 

 

 ……そうだ、スキルの更新をしよう。え?現実逃避?……そうだね。

 

 まぁ、スキルの更新はするんだけど。アクアがなんか言ってるけど、スルー安定だね。ツッコミはカズマ君がやってくれるし。

 

-------------------------

【プロフィール】

名前:榊千尋

種族:ヒューマン

年齢:19

性別:女

職業:探索者

レベル:14→15

 

【ステータス】

筋力:316 → 324(+8)

体力:573 → 581(+8)

魔力:38  → 40(+2)

知力:257 → 260(+3)

器用:134 → 139(+6)

俊敏:672 → 675(+3)

幸運:14  → 14

 

【取得済みスキル】

 

<METEOR GOLIATH>※習得不可

<KRAKEN>※習得不可

<ELDER KRAKEN>※習得不可

<WRAITH>※習得不可

<BEHEMOTH>※習得不可

<GLACIAL BEHEMOTH>※習得不可

<GORGON>※習得不可

<MOON BEAST>※習得不可能

<鎖術>

<聞き耳>

<投擲>

<目星>

<鋭い嗅覚>

<瞑想>

 

【習得可能スキル】現在pt:16

 

・言いくるめ 必要pt:1

・医学    必要pt:4

・運転    必要pt:1

・応急手当  必要pt:3

・オカルト  必要pt:1

・化学    必要pt:2

・鍵開け   必要pt:1

・隠す    必要pt:5

・隠れる   必要pt:5

 …

------------------------

 

 さて、【月の怪物】が10ポイントも持って行ったからね。スキルポイントは節約していきたいよ。

 というわけで、今回取るのは【隠れる】だけ。下の方にある面白そうなスキルはポイントがまだまだ足りないよ~。

 

 よし、じゃあ早速試してみようかな。名前からして攻撃的な物じゃないし、大丈夫だよね……。

 

『緊急クエスト、緊急クエスト!街の中にいる冒険者の各員は、至急ギルドに集まってください!繰り返します。街の中にいる冒険者の各員は、至急冒険者ギルドに集まってください!』

「ぅわぁ!」

 

 ビックリした!ビックリした!気を抜いた時に丁度来るとか、何なの!?いやがらせ!?店とか学校であるようなピンポンパンポーンって音ないの?

 

 あぁ……恥ずかしい……。

 

「おい、緊急クエストってなんなんだ?モンスターが街に襲撃に来たのか?」

 

 カズマ君。こういう時に突っ込まないのはキミなりの優しさなの?それともただ聞こえなかっただけなの?

 

 ……ふぅ。いけない。落ち着かないと。所長にも落ち着いた行動がどうこう言われたもん。深呼吸、深呼吸。

 

「…ん。たぶんキャベツの収穫だろう。もうそろそろ収穫の時期だしな」

 

 危ない。呼吸が詰まりかけた。キャベツ、キャベツね。一応ボクもこの世界のキャベツの特徴は知ってるよ。一週間でいろいろ調べたからね。

 

 その後カズマ君はめぐみんちゃんとダクネスさんに「モンスターの名前か何かか?」とさらに質問するけど、「緑色の丸いやつです。食べられる物です」「噛むとシャキシャキする歯ごたえの、美味しい野菜のことだ」と、多分カズマ君が考えているキャベツと全く同じ物の特徴を挙げた。

 

「あのね、カズマ君。今回の緊急招集の原因はキャベツで間違いと思うよ。あと、ここ(この世界)での常識は日本とは違うから、形と食感以外のキャベツの常識は捨ててね」

 

 女神さんは僕たちが異世界から来たことをこの世界の住人に知られたくないみたいだから、少しだけぼかしてカズマ君にアドバイスをしておく。

 日本とか言っても、別の世界っていう連想はしないでしょ。ここにはライトノベルみたいに異世界に行って冒険、なんていうのは無いみたいだし。

 

 冒険者がけっこう集まってきたのを見て、ギルドの職員が大きな声で説明を始めた。

 

「皆さん、突然のお呼び出しすみません!もうすでに気づいている方もいると思いますが、キャベツです!今年もキャベツの収穫時期がやって参りました!今年のキャベツは出来が良く、一玉の収穫につき一万エリスです!すでに街中の住民は家に避難して頂いております。では皆さん、出来るだけ多くのキャベツを捕まえ、ここに納めてください!くれぐれもキャベツに逆襲されて怪我をしないようお願い致します!なお、人数が人数、額が額なので、報酬の支払いは後日まとめてとなります!」

 

 カズマ君は「は!?」って顔してるけど、ボクにこれ以上の説明はできないからね。

 

 さ、冒険者に混ざって正門の方に行こう。ここが稼ぎ時、だよ?

 

 

 あ、ボクは皆から離れた位置で乱獲してくるから、皆も頑張ってね?

 

 

「俺、もう馬小屋に帰って寝てもいいかな」

 

 

 

 

 カズマ君の、悲しさを含んだ呟きが背後で聞こえた気がした。




実は、この話の中で千尋ちゃんの得意技能が使われています。
というか結構前から度々使われてますね。

アンケートの参加をよければお願いします。
アンケート終了しました

活動報告に第一話で登場した女神さんの設定を載せました。


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変態

UAが5000突破しました。
ご愛読ありがとうございます。


 空飛ぶキャベツの収穫の後、僕たちはいつも通りギルドで晩御飯を食べていた。ただ、今日のメニューはいつもとは少し…いや、かなり違うけど。

 

 いつもなら明日に備えてお肉を食べたり、魚料理を食べたりするものなんだけど、今日の晩御飯は野菜。それも今日採ったばっかりのキャベツ。

 カズマ君はキャベツ炒めを食べて納得いかないって顔してるけど、多分美味しいんだろうなぁ。

 ボクはロールキャベツと野菜の生け作りとかいう、変な組み合わせで食べてるんだけど……めちゃくちゃ美味しい。地球でも、芯が甘いキャベツとか言うのがあったけど、この世界の野菜は凄い瑞々しい。野菜ステックは一回驚かせないと動き出すけど。

 

「しかし、やるわねダクネス!あなた、さすが【クルセイダー】ね!あの鉄壁の守りにはさすがのキャベツたちも攻めあぐねていたわ」

 

 アクアが、ダクネスさんの功績を称えている。というか、さっきからみんな人のことを褒めていってる。

 

 ダクネスさんは……倒れた冒険者を庇うように前に出て、キャベツたちの猛攻を食い止めていたけど、キャベツに体当たりされて喜んでたね。最後の方とか、キャベツが体当たりするの嫌がってたし。

 

「いや、私など、ただ硬いだけの女だ。私は不器用で動きも速くはない。っだから、剣を振るってもロクに当たらず、誰かの壁になって守ることしか取り柄が無い。……その点、めぐみんは凄まじかった。キャベツを追って街に近づいたモンスターの群れを、【爆裂魔法】の一撃で吹き飛ばしていたではないか。他の冒険者のあの驚いた顔といったら無かったな」

 

 多分仲間の冒険者ごと吹き飛ばしてたからじゃないかな。ボクも巻き込まれかけたし。

 

「ふふ、我が【爆裂魔法】の前において、何者も抗うことなど叶わず。……それよりも、カズマの活躍こそ目覚ましかったです。魔力を使い果たして動けなかった私を素早く回収して背負って帰ってくれました」

 

「……ん、私がキャベツやモンスターに囲まれ、袋叩きにされている時も、カズマは颯爽と現れ、襲い来るキャベツたちを収穫していってくれた。助かった、礼を言う」

 

「確かに、【潜伏】スキルで気配を消して、【敵感知】で素早くキャベツたちの動きを補足し、背後から【窃盗】で強襲するその姿は、まるで鮮やかな暗殺者のごとしです」

 

 あー、少しわかるかも。カズマ君、うまくクリスちゃんに教えてもらったスキルを活用してたもんね。

 

「カズマ……。私の名においてあなたに【華麗なるキャベツ泥棒】の称号を授けてあげるわ」

 

「やかましいわ!そんな称号で俺を呼んだら引っ叩くぞ!……あぁもう、どうしてこうなった!」

 カズマさんは頭を抱えてテーブルに突っ伏した。お疲れさま~。

 頭撫でてあげよっと。苦労してるみたいだしね。

 

「では、名はダクネス。職業はクルセイダーだ。一応両手剣を使ってはいるが、戦力としては期待しないでくれ。なにせ、不器用すぎて攻撃がほとんどあたらん。だが、壁になるのは大得意だ。よろしく頼む」

 

 テッテレーン。 ダクネスが 仲間に なった。

 

 いらない。

 

「……というか、チズルは一体どこにいたのですか?結局、ギルドに戻ってくるまで姿を見かけなかったのですが」

 

「ボク?ボクはねー、少し離れたところでキャベツを乱獲した後、めぐみんちゃんの後ろをずっと着いて行ってたよ?」

 

「え?」

 

 めぐみんちゃんは何かありえない物を見る目でボクを見るけど、事実だからしょうがない。

 ボクの存在が認識されなかったのは、多分【隠れる】の効果だね。

 

 【隠れる】は、影を限界まで薄くするスキルみたい。しかも、よっぽど変な動きをしなかったら解除されないっぽいよ。

 ただ予想だけど、思いっきりボクのことを敵視してる人とか、一対一では使えないと思うんだよね。あと言葉の感じからして、【隠れる】は自分の影を薄くして、【隠す】は自分の持ち物の存在感を薄くするモノなんじゃないかな。

 ますます暗殺者っぽくなるね。

 

「……ふふん、ウチのパーティーもなかなか、豪華な顔ぶれになってきたじゃない?【アークプリースト】の私に、【アークウィザード】のめぐみん。パーティーで一番手数が多い【探索者】のチズルに、防御特化の上級前衛職である、【クルセイダー】のダクネス。五人中四人が上級職なんてパーティー、そうそうないわよカズマ?あなた、凄くついてるわよ?感謝しなさいな」

 

 前衛で攻撃できるのはボクとカズマ君だけだけどね。あ、ダクネスさんはモンスターの群れに突っ込んで蹂躙されたいっうて願望があるんだし、ダクネスさんをモンスターの中心において、ボクがダクネスさんごと吹き飛ばせばいいんじゃないかな?

 

「んく……っ。あぁ、先ほどのキャベツやモンスターの群れにボコボコに蹂躙されたときは堪らなかったなぁ……。このパーティーでは本格的な前衛職は私だけのようだから、遠慮なく私を囮や盾代わりに使ってくれ。なんなら、危険と判断したら捨て駒として見捨ててもらってもいい。……んんっ!そ、想像しただけで、む、武者震いが……っ!」

 

 この人は、あれだね。ボクのいた事務所の誰とも気が合わない人だね。

 みんな優しいから、絶対に見捨てないし。

 

「それではみんな。多分……いや、間違いなく足を引っ張ることになるとは思うが、その時は遠慮なく強めで罵ってくれ。これから、よろしく頼む」

 

 シロエちゃんとかと会わせるのを少し躊躇うレベルの変態だね。はぁ……これから大変だ……。




チズルちゃんの乱獲によって採れたキャベツの個数は秘密です。

よければアンケートにご協力をお願いします。
アンケート終了しました。結果も一応載せてます


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再会

 キャベツ狩りの次の日。

 

 今日はカズマ君(リーダー的存在)が心身ともに疲労状態にあるから、という理由でパーティーでの行動はお休み。

 みんなも好きに行動してるみたいだから、ボクも街の散歩でもしようかな。

 

 

 

 そういえば。と、この世界の宗教について歩きながら考える。アクアと初めて会ったときに「ボクは特定の神を信仰しない」って言ったけど、神が実体を持って地上に降臨しているなら話は別だよ。

 

 ボクが日本で神を信仰しなかったのは、どれだけ神に祈っても反応するのは邪神だけだったからだよ。特に、うちの事務所はそういう事件が多かったなぁ……。

 

 じゃなかった。えっと、どうやらこの世界では三つの宗教が盛んみたいだね。確か『アクシズ教』、『エリス教』、『インテ教』だったかな?

 『エリス教』は女神 エリスを御神体として崇める宗教で、国教にも指定されているからこの世界では一番勢力が大きい宗教だね。

 『アクシズ教』はどの地域でも「見るな聞くな触るな近づくな関わるな」が徹底されているようで、魔王軍ですらドン引きするくらいの悪行を働いているそうな。

 『インテ教』は一番勢力が小さいけど、一番戦闘力が高いらしい。あと、インテってボクがあった女神さんと特徴が一致してたよ。

 

 この中でどこかの宗派に入れって脅されたら『インテ教』に入ろうかな。『アクシズ教』は論外だけど。

 

 

 それはそうと、前の一週間のお休みの時は円状の街の北側半分を。今は街の南側を散策しているんだけど、南側の方が面白そうなお店が多いんだね。

 

 武具店『ブァッフェ』は北側にあったけど、他のお店で面白そうなのは少なかったなぁ……。なんでだろ?

 

 それで、ボクが一番面白そうと思ったお店は、街の隅の方にポツンと立っている『ウィズ魔法店』、かな。特徴的なのは、男性冒険者さんたちがお店に入らずに遠巻きから見守ってること。

 

 魔法店って響きがボクは好きだね。ボクも一応魔法具(マジックアイテム)持ってるけど、早馬ちゃん時々いうこと聞いてくれないし。ある程度役に立てばいいから、何かないかなぁ……。

 

 

◇◆◇

 

 

 街中をぐるっと一周して、なんとなくボクが最初に来たところ。商店街の一角まで戻ってきたよ。この街、端から端まで行くのがかなり長い……。ボクが本気で走って、ステータスとかを活用しながら移動したら少ない時間で往復はできるだろうけど、普通の散歩だからね!街にクレーター作りながら進んだら、何言われるか……ん?

 

 商店街の路地の近く、人だかりができてるね。何かあったのかな?そこまで小走りで行って、野次馬の後ろの方にいたお兄さんに声をかけてみる。

 

「ねぇねぇ、どうしてここに人だかりができてるの?」

 

「ん?何だ嬢ちゃん、今来たのか?」

 

「うん。さっきまで散歩してたからよく知らない」

 

 お兄さんは何かを考えるように顎に手を当てつつ、言葉を続ける。

 

「うーん。俺も教えてやりたいんだけど、どんな状況かいまいちよくわかんないんだよなぁ……」

 

「というと?」

 

「なんか馬鹿でかい本を持った女の子がいつの間にかそこの路地に立ってたっつーのは聞いたんだけど、その女の子が急に泣き出してな?なんとか泣き止むまで慰めることはしたんだけどそこでこう……小動物みたいに震えだして、どうすればいいか分からないんだよな」

 

「なるほど……ボクちょっと手伝ってきますね」

 

 お兄さんにお礼を言いつつ人混みをかき分けて進むと、とても見覚えのある人物が涙目になってプルプル震えてるのが見えた。

 

 小学5~6年生くらいの身長。茶色い髪に黒い瞳。自分が好きな色である青色の服を着た一見少女にしか見えない人物。極度の人見知りで、初対面の人物とは面と向かって話せず積極的に声をかけていく人が一緒にいると失神してしまう子。

 

 彼女を何とか落ち着かせようとしている厳ついお爺さんを見て、さらに怖がっているみたい。

 

「……速水(はやみ)(いつき)ちゃん?」

 

 彼女……樹ちゃんはなんて言おうか……気弱で筋力、体力、精神力の面では気の毒になるほど脆い子で、昔ボクが持ってた10キロの鉄アレイを両手に持つことすらままならないほど貧弱だ。

 

 樹ちゃんは見てるこっちが痛々しい気分になるほど不安げな表情で顔を上げ……ボクを確認して花が咲いたような笑顔を向けてきた。

 

 とりあえず、樹ちゃんはスルーしてこの人だかりにこの子が自分の知り合いであること、この子が人見知りの究極体のような人物であること、後は自分が何とかするので任せてほしいことを伝えると、皆口々に「あーよかった」みたいなことを言いながらそれぞれの仕事に戻って行ってくれたみたい。ここの街の人はやさしいなぁ…。

 

 ボクが樹ちゃんの方に振り返りながら「久しぶり」を言いつつ手を差し出すと、同じく「お久しぶりです」と手を取って立ち上がった。

 

 それにしても、樹ちゃんもこの世界に来たんだね。……もしかして、事務所に何かあったのかな……?樹ちゃんは皆から可愛がられてたから、真っ先に守られると思ったんだけど。

 

「さて樹ちゃん。ボクとしても最近の事務所のみんなの様子とかどうしてこの世界に来ることになったのとか、いろいろ聞きたいことはあるんだけどまずは普通に座って話せるところに行こうか」

 

「は、はいっ」

 

 そういえばもうお昼時かぁ……。ご飯食べれて、座って話ができるところ……。

 

 

◇◆◇

 

 やっぱここだね。ギルド。

 

 えっ?何人見知りを人の多いところに連れてきてるんだって?……やべっ……。

 

「よし、ここなら落ち着け……はしないだろうけどご飯食べながらお話ができるよ!」

 

「はぁ……」

 

 

 

 

 

 食事を注文しながら、樹ちゃんと事務所の近況について話してみた。どうも、ボクが死んでから皆がピリピリし始めて事務所の最古参メンバーの目が怖くなったとか、ボクの死因は駅のホームから足を滑らせたことによる事故死になってるとか、いろいろ聞いた。

 

 ちなみに食事の内容はボクがカエルの竜田揚げ、樹ちゃんが野菜スティックだったんだけど、くねくね逃げ回る野菜を捕まえるのに悪戦苦闘してた。「一度驚かせるといいよ」と伝えると、「?」って疑問符を浮かべられたけどこの世界の常識であることを加えて伝えると、納得いかないといった顔をしながらネコだましをしてから食べて、目を見開いてた。分かる、おいしいよね。

 

 

 ここで、樹ちゃんが転移してきたってことは、特典みたいなのも貰ったの?って話になった。

 

「それで、この本が特典なの?」

 

「はい。おそらくですが」

 

 まだ本は開いてないから内容は分からないんだよね。この様子だと樹ちゃんも中身は見てないみたいだし。

 

「ちなみに、何を要求したの?」

 

「えっと、私は女神様?にランク3だから特典を3つ選択出来るって言われたので、『絵柄に対応した能力が使えるタロットカード』、『全てのSCP』、『SCPを隔離、収容、保護できる持ち運び可能なSCP』を要求しました」

「は?」

「え?」

「は?(食い気味)」

 

 ……どうやら、久しぶりに出会ったこの友人はとんでもないものを持ち込んできやがったようです。

 

「よし、樹ちゃん。ボクは何でSCPを特典に選んでしまったのとか、何考えてるんだとか言いたいことはあるけど、とりあえずSCPのうち、Keterを使用する時だけでいいから、必ずボクに相談すること。これさえ守ってくれたら一先ずいうことは無いから」

 

「え、でも……」

「いいかな?」

「あの、千尋ちゃん?顔が怖いんだけど……?」

「いいですか?」

「丁寧語!?え、どうしたの千尋ちゃん!?」

「いいですね?」

「…………はい」

 

「よろしい」

 

 さて、カズマ君達にこのことの報告と注意喚起をしないと。ある意味魔王よりも怖いものを大量に持ちこんで来やがったからね。




後悔はしていない!


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登録

遅くなりました。


 そういえばカズマ君の泊まってる宿の位置知らないや。しょうがない。今のうちにできることやっちゃおうか。

 

 SCPの書物(パンドラボックス)の中身が気になるけど……ここで開けるのは危険すぎるね。後回しにしよう。

 

「よし、樹ちゃん。持ち物チェックをしよう」

 

「も、持ち物チェック……ですか?」

 

「そう。キミが今何を持っているかの確認。ボクの時はいろいろと役に立つ物が入ってたけど、キミが持ってるものも把握しときたいからね」

 

「は、はい。……今持ってる本はいいですよね。…まずはこのリュックサックですね」

 

 そう言いながら、本をテ-ブルに置くと、ボクと移動し始めた時も来るときもずっと肩にかけてた青色のリュックサックを見せてきた。って、何?事務所ではリュックが流行ってるの?

 

「うん。中には何が入ってる?」

 

「えっと…お財布、ティッシュ、ハンカチ、タオル、絆創膏、折りたたみ傘、筆記用具、メモ帳、アクセサリー……これなんでしょう、手紙?で全部です」

 

 樹ちゃんはリュックから一つずつ持ち物を見せて、またバッグにしまっていく。手紙だけはテーブルの上に残したけど。……手紙、ここで開けてもいいよね?後ろから盗み見る人なんていないだろうし。

 

「この手紙、あの人からですね」

 

 あの人……女神さんか。『神様』なんて言ったのを周りの人に聞かれたら”変な子(めぐみんちゃん)”みたいに思われちゃうかもしれないら伏せたのかな?賢い賢い。……めぐみんちゃんの事を知ってるわけないんだけどね。

 

「あ、その手紙、覚えるまでは最後の文は読まないようにしてね?ボクの時はいきなり燃えちゃったから」

 

「燃えて……分かりました。気を付けます」

 

 樹ちゃんは真剣な表情で手紙を読み始めたけど……うん。いい百面相。

 

 ……この子、誰かと一緒にいたら表情豊かになったりツッコミできるようになったりするけど、一人の時は体が全く動かなくなるんだよねー…「一人で居たくない」って理由で事務所に泊まってたこともあるし。それを許しちゃう所長もアレなところあるけどさ。

 

 さーて、このあとどうしようかなっと。……とりあえず本人が望めば冒険者登録――その後依頼は受けずにカエルのいる平原に行こうか。あそこならなかなか人通らないし。SCPの書物(パンドラボックス)の使い方も把握しとかないと……ボクも命が危ういからね。

 

「あの、千尋ちゃん?大体覚えたけど……最後まで見ちゃっていい?」

 

「あー、もう覚えたの?やっぱり早いね。……万が一、忘れたら困るからメモ帳に重要なところ書いてみたら?」

 

「分かりました。 あ、そういえば千尋ちゃんに『あの人』から手紙が届いてますよ」

 

 樹ちゃんがボクにもう一枚の紙を渡してくる。多分ボクの時と同じで二枚に分かれてたんだろうね。

 

「……ありがと。なんだろう?」

 

【お久しぶりね。本当はこっちの近況なんかをいろいろと書き綴りたいところだけど、この手紙を書いてるとき時間が無かったから簡潔に用件だけ書かせてもらうわね。

 まず、貴女のお友達〖速水 樹〗ちゃんがそっちに行ったわ。特典については本人に使い方を記した手紙を渡しているから、そっちに聞いてね。ー―くれぐれも悪用しないように。

 次に、そっちの世界に例の神話群が侵入しているのがこっちでも確認できたわ。もう遅いかもしれないけど、十分注意して頂戴。

 あと、たまにだけど私たちが貴女達の生活を覗き見していることがあるけど、気にしないでね。】

 

 ボクが最後の方に目を通すと、前と同じように燃えてなくなった。

 

 神話群って、クソガエルとかのことなのかな?連絡するにしてもちょっと遅いんじゃないかな?……もしかして、他にも来てるの?

 

 ちょうど樹ちゃんも終わったみたいで、手紙が焼失してる。やー、早いねいつも。ボクがこれ読み終えるまでに要点まとめてメモに書き留めたんでしょ?所長が書類管理任せるだけはあるね。

 

「あの、書き終わったんですが、これから何すればいいんでしょう?」

 

「えっとね、ボクとしては樹ちゃんには自由に生活してほしいと思ってるんだけど……樹ちゃんは何をしてみたい?」

 

「まだこの世界のことをよく知らないのですが、とりあえず自分の身分が証明できる物が欲しいです」

 

「……うん。満点」

 

 さりげなく登録を薦めようと思ってたのに、真顔で即答されちゃったよ……ボクの立場とは一体……。

 

「それだとここで登録できるね。【冒険者】っていう職業なんだけど、ここで登録した後に商人とかになっても良いらしいからおススメ」

 

「そうなんですか?……じゃあそれにします」

 

 随分と速い決断だなぁ……。面白くなりそうだからいいけどさ?

 

 

◇◆◇

 

 ところ変わってギルドのカウンター。場所的に考えたらあんまり変わってないけどいいよね。

 今空いてるカウンターは……リヤンさんとハルちゃんか。うーん、どっちも丁寧に教えてくれそうだけど……よし、リヤンさんにしよう。

 

「リヤンさーん!受付おねがーい!」

 

「承知しました。ご用件をどうぞ」

 

 リヤンさんは何か書いていた手を止めてボクの方を向く。後ろで「リヤン(rien)……?」とか聞こえるけど無視で。

 登録手数料は1000エリスだったね。カウンターに置いてリヤンさんにシュート。

 

「今日は冒険者登録だよ。この子の」

 

「……はい。では、こちらの書類に名前、身長、体重、年齢、身体的特徴の記入をお願いします。……名前と年齢は必須事項なので必ず記入をしていただきます」

 

 いつかボクに言ったのと同じセリフを言って紙とペンを樹ちゃんに手渡そうとして、手が止まる。

 うん。樹ちゃん背が小さすぎてカウンターに手を伸ばして書くのが難しそう。

 

「「……お願いします」」

 

 二人同時にお願いされた。……えっと、多分二人とも代筆のお願いだよね?リヤンさんボクの方に書類を渡してきてるし。

 

 樹ちゃんから小声で伝えられる身体的な情報を書き留めてる間、リヤンさんが奥の方からボクの登録の時に使ったのより少し大きくて機器がごちゃごちゃくっついている水晶を持ってきていた。カウンターの外に出てくるのと樹ちゃんが言い終わるのは大体おなじくらいの時間だったよ。

 

 ボクが書類を手渡しすると、さっと目を通して裏返しにしてカウンターに置いた。その後樹ちゃんの前で中腰になって水晶に触れやすくする。ちなみに、この目の前でしゃがむ行動は樹ちゃんにとって「優しいのか馬鹿にされてるのか分かりづらい」行動だったみたいだよ。

 

「…はい、結構です。ではこちらの書類はギルドが責任をもってお預かりいたします。

それではこちらのカードに触れてください。それで貴女のステータスが分かりますので、そのステータスの数値に応じた職業をお選びください。選んだ職業によっては専用のスキルが入手できますのでそのあたりを踏まえてお選びください。また、どの職業になればよいか分からない場合はこちらにご相談ください」

 

「は、はい」

 

 樹ちゃんが水晶にそっと触れると、水晶についてたごちゃごちゃ部分が動き出し、舌に設置された白紙のカードにレーザーを照射。【職業】と【スキル】系のところ以外は数字と文字が書かれた。

 

「はい、ありがとうございました。……ハヤミイツキさん、知力、器用度、魔力、幸運が平均を大きく上回っていますね。このステータスであれば魔法職に就くことが推奨されますが、どうなさいますか?」

 

「え?えっと……………」

 

「……ねぇ、リヤンさん。この子がなれそうな職業を教えてもらえない?ボクの時と同じで、何を選んだらいいか分からないみたいだから」

 

 ……樹ちゃん、一人で転生してたらいったいどうなってたんだろう?

 

「……先程言った通り知力、魔力が他と比べて高いので、魔法攻撃を得意とする【アークウィザード】という職業が適任と言えます。が、チズルさんと同じ【探索者】の素質もあるようです」

 

「……あの、【探索者】というのはどういった職業でしょうか……?」

 

「申し訳ありませんが、ギルドの方でも職業【探索者】の全容は分かりません。なにせ約一週間ほど前に初めて存在が確認された職業ですので」

 

「へー……。ちなみに、千尋ちゃんの職業は何ですか?」

 

「【探索者】だよ」

 

「……え?」

 

「【探索者】は、チズルさんが世界で初めて発見した職業です」

 

「えー…………」

 

 む、なにさ、その信じられない物を見る目は。ボクが偉業(?)を成し遂げるのがそんなに不安?

 

「じゃあ……【探索者】で」

 

「…こちらは職業に対する資料が完全に整っているとは言えませんが、よろしいですか?」

 

「はい、大丈夫です」

 

「…わかりました。それではイツキさん、ようこそ冒険者ギルドへ。スタッフ一同、今後の活躍を期待しています」

 

 ……ふぅ。ようやく登録までできたね。次は検証の時間だよ。

 




次回はscpの検証です


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検証/トマト

SCPが主体の話は「○○/○○」で表すことにします。


 冒険者登録が終わったから、樹ちゃんと一緒にボクが最初にカエルと戦った場所。平原に到着したよ。理由は樹ちゃんの持つ本……『災厄の塊(パンドラボックス)』の検証だね。

 

 この本、樹ちゃんが持っているだけど、実は樹ちゃんの冒険者カードにスキルとして表示されてるんだよね。名称は【Secure(確保)Contain(収容)Protect(保護)】。樹ちゃんが特典としてお願いした『隔離、収容、保護』とは少し違うけど、本人はあんまり気にしてないみたい。

 

「さて、じゃあまずは樹ちゃんが貰った手紙の内容を教えて?」

 

「は、はい。えっと……私の『所持金』、『地図の存在』、『特典の取り扱い方』です。最後の手紙の文はなんていうか、威圧的な文章でした」

 

「だろうね」

 

 当たり前じゃん。「世界を救ってくださいお願いします」って言われてるのに『自立行動して何度でも爆発する核爆弾』を複数個要求するんだもん。結果的に魔王は倒されるけど、魔王と同等かそれ以上の力を持ってそうな奴らが蔓延ってる世界に成りかねないんだもん。

 

「……女神様によるとこの本はSCP財団の本部・支部の確認しているほぼ全てのSCPのコピー品が収容されており、Safeは青色、Euclidは紫色、Keterは赤色、Neutralizedと使用中、収容不可は黒色。Explainedが鉛色でThaumielが黄色で表示されているそうです」

 

「『全てのSCPのコピー品』…って割には随分と薄いね。資料が両面印刷だとしても2500ページは優に超えるでしょ?それだけのページ量があるとなると……『SCP』と『SCP-JP』だけで25センチはあるはずだよ?」

 

「あ、そのことなんですが、ページ一面ごとに大量のSCPが番号順にリストアップされているようで、タブレットみたいな使い方ができるそうです」

 

 そう言って本を地面に置き、表紙を開いて見せてきた。確かに何行かに分けてSCPの名前がびっちりと書かれていた。

 

「でもこれ、どうやって呼び出すんだろ?詳細とかも分からないし……」

 

「確かそれについても書かれてましたね。えっと…呼び出したい場合は文字をなぞって本の外に向かって払う。詳細情報が確認したい場合はそのSCPの名前のところに触れる。だそうです」

 

「……まぁ、言おうとしていることは分かる。じゃあ現時点で安全なので実験しようか」

 

「一番番号が若いのはSCP-005(【合い鍵】)でしょうか。鍵穴に差し込まなければ特異性は発揮されませんし」

 

 【合い鍵】……?あっ、『どんな鍵でも開けるヤツ』だね。うん。いいと思うよ。

 

 樹ちゃんは安全性に全く問題ないと判断して[SCP-005-合い鍵]の文字をなぞって本の外にゆっくりと払う。ボクも念のため警戒しとこうか。

 

 文字がページの淵に当たると、当たったところが一瞬光って、光ったところからチープな形の金色のカギが出てきた。で、ポトンと地面に落ちた。

 

「……これかな?」

 

「……これでしょうね」

 

 なんか、チョイスしたのが地味な物だったから登場も地味でワクワク感が消し飛んだ。

 

「というか、特異性も一応確認しないとこれがSCPかどうか確認できないじゃん!」

 

「あっ……そ、それもそうですね。失念してました」

 

 それでも一応本の確認はしとこうか。……うん。鍵のところが黒くなってる。ってか、今気づいたけどこの本の文字日本語じゃん。あれかな?未知の技術を使う人物として認識してもらうためかな?

 樹ちゃんが鍵を本に押し付けると、鍵は本に吸い込まれるようにして無くなり、本の中の文字も元に戻っていた。

 

「それじゃ、どうしましょう?私、SCPの特異性が発揮できそうなもの持ってませんよ?」

 

「うーん。……樹ちゃん。今お腹空いてる?」

 

「え?……い、いえそこまでは……。……SCP-458(【はてしないピザボックス】)ですか?」

 

「うん。そうだけど…よく分かったね?」

 

「……まぁ、暇な時に読み耽ってましたから」

 

「ボクも人のことは言えないからいいけど……。あ、SCP-504(【批判的なトマト】)は?」

 

「……危ないですよ?」

 

「いけるいける。…でも一応SCP-500(【万能薬】)、用意しといて?」

 

「…いいですけど……」

 

 そう言いながら本を使って二つのSCPを取り出す。一つは真っ赤な錠剤。生きてさえいればどんな怪我、病気でも治せる文字通り万能薬なんだけど、数に限りがあるからあんまり使いたくないね。

 もう一つはトマト。これはダジャレが面白いかどうかを判断して、面白くなかったら顔面に物凄い速度で飛んでくるトマトだよ。…ダジャレの長さとかも関係するみたいだから、めっちゃ短くしていってみようかな。

 

「【亜空間】……。と、トマトは止まっとれぇぇぇぇえ!?」

 

 【亜空間】で身体能力を底上げしながらダジャレを言ったけど、トマトが突き破っちゃいけない物を突き破った甲高い音をあげながら飛んできた。12個。

 

 各モンスターの身体能力の底上げスキルとかを使いながら素手で4つ撃墜、火炎放射で5つ焼失させたけど、残った3つがボクに直撃する………直前に【氷の盾】に防がれた。3つ目が当たったときに壁が壊れたから、4つ目があったら危なかったね。あ、焦ったー!

 ……何はともあれ……

 

「【批判的なトマト】、完封ッ!!」

 

 ボクは高らかと天に腕を突き上げ、勝利を宣言した。

 

 

◇◆◇

 

「とにかく、トマトの特異性は判明したね」

 

「本当にもうやめてくださいね……?」

 

「あのトマト、何か音を置き去りにしてなかった?」

 

「聞いてない……。えっと、ジェット機なんかが音速を越える速度を出したときに出る現象じゃないでしょうか?流石にジェット機の知識はないので分かりませんが」

 

「そんなのボクもないよ……」

 

 ボクたちは結局あの後の検証を中断。ゆっくりと帰路についていた。

 

「…とりあえず本のことは分かったね」

 

「そうですね。……なんでこんなの選んだのか、今更後悔してます」

 

「遅い……と言いたいところだけど、本気で疲れたら癒し系SCPの力を借りようか」

 

SCP-999(【くすぐりお化け】)とかですか?」

 

「そうそう」

 

「……私は遠慮したいですね」

 

「えっなんで?楽しいと思うけどなぁ……」

 

「だって私くすぐり系のいたずらは無理なんです。こう、少し触れられただけでもぞわっと悪寒が来ちゃうので……」

 

「へー……?」

 

「ちょっ、止めてくださいよ!?」

 

 




SCPの詳細情報が気になる方は公式サイトへゴーです。

Sefe → 故意に活性化させなければ収容可能。
Euclid → 性質が十分に解明されていない。本質的に予測不能である異常存在。
Keter → 放っておくと人類滅亡。
Neutralized → 破壊、無力化済み。使用不能。
Explained → 科学的に性質が解明された物。収容できないほど公に広まったもの。
Thaumiel → 財団に利用されているSCP。


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報告

「えっと、何?SCP?」

 

「そう。SCP」

 

 樹ちゃんとSCPの特異性を調査した次の日、ボクは樹ちゃんを連れてカズマ君のところに相談に来ていた。アクアたちにはそこらへんで遊んでるように言ったら、素直に端のほうに歩いていった。

 さて、相談の内容は「樹ちゃんをパーティーに入れて貰えないか?」と言ったもの。この子、放っておいたら孤独死しそうだし。あ、もちろん特典のことについても話してるよ?その人の欠点を知っておくのは大切だと思うしね。

 自分の欠点とかは樹ちゃん本人に言わせたよ。まずは人間の友達を作ることから始めないと、いつまでたってもハエトリソウが友達のままだよ?って言って。

 

 じゃなかった。カズマ君はSCPのことに詳しくないみたいで、今はSCPの簡潔な説明をしてるよ。

 

「あー、えっと、つまりSCPってのは特異な能力を持つ物体、空間、生物、概念のこと。……でいいのか?」

 

「は、はい。それで大体あってます」

 

「……そうは言われてもな…そう、例えばどんなのがあるんだ?例とか挙げてもらえれば想像しやすいかもしれないんだが」

 

「触れた物全てを腐食させるお爺ちゃんとか…?」

「顔を見ただけで何が何でも殺しに来る男とか」

「常に視界に入れてないと首を折りに来る彫刻とか……」

「首にかけたネックレスから精神を乗っ取りにかかる博士とか?」

 

「OK,分かった。もういい。SCPが酷い奴ばっかりなのは分かった」

 

「一応言っておくと、さっき言ったのは危険性のあるものであって、安全なSCPもいるからね?」

 

 ほんとにほんの一部なのに、カズマ君結構疲れた顔してるなぁ……。

 

「で、どうだろう。この子はキミのパーティーに入って活躍できると思う?」

 

「…………正直言って、あそこで騒いでるやつらよりは活躍できると思う。こっちとしても常識人が増えるのは嬉しい。ただ……その、特典の暴走とかってないのか?」

 

「あ、そこは大丈夫。樹ちゃんに限っては全くないと思うし、万が一あってもある程度のSCPであればボクが腕一本犠牲にすれば抑え込めると思うから」

 

「……だめだ、頭痛くなってきた」

 

 え、あ、そうか。カズマ君一般人だった。ボクらの常識は民衆の非常識。普通の人は腕一本失うこともダメだったね。

 

「まあ、大丈夫だろ。なんかあればチズルに対応求めるから、よろしく」

 

「りょーかい!」

 

 って、また樹ちゃん喋んなかったね?

 

◇◆◇

 

「あの、カズマさんってどんな方なんですか?」

 

 カズマ君が買い物に行くといってアクアを引っ張って行って数分後、樹ちゃんがそんな質問をしてきた。

 ……カズマ君かぁ…

 

「一言で表すなら……ツンデレ?」

 

「ツンデレ……?」

 

「そう。口では仲間に罵詈雑言を浴びせることもあるけど、仲間がピンチの時はしっかり助けに行くんだ」

 

「見た感じ、普通の好青年って感じでしたけど……」

 

「ふふっ、ただし、あの子本気で口撃(こうげき)始めたらすごいと思うよ?今までいろいろ溜めてたみたいだし」

 

「はあ……そうなんですか?」

 

「勘だけどね」

 

 おっ、帰ってきた。あー、いいね!前のジャージだとファンタジー感ぶち壊しだったけど、装備を整えたら立派な魔法戦士みたいに見えるよ!

 

「……ほう、見間違えたではないか」

「おおー。カズマが、ようやくちゃんとした冒険者みたいに見えるのです」

「今まで何に見えてたのさ……」

「全くだ……」

 

 カズマ君は腕をぐるぐると回し、掲示板のほうに歩いていく。

 

「さて、装備も整えてスキルも覚えたし、樹の実力を確かめるのも兼ねてクエストにでも行くか」

 

「ふむ。ではジャイアントトードが繁殖期に入っていて街の近場まで出没しているから、それを……」

「「カエルはやめよう!」」

 

 ダクネスさんがカエルの討伐を提案したけど、アクアとめぐみんちゃんが強く反対する。樹ちゃんは来たばっかりでカエルのことを知らないから反対意見を出そうにも出せない……多数決なら行くことになるんだろうけどなぁ。

 

「……なぜだ?カエルは刃物が通りやすく倒しやすいし、攻撃方法も舌による捕食しかしてこない。倒したカエルも食用として売れるから稼ぎもいいぞ?」

 

「あー……。この二人はカエルに食われかけたことがあるから、トラウマになってるんだ。頭からパックリいかれて粘液まみれにされたからな。……しょうがないから他のを狙おう」

 

「というかカエル相手に物理で突き通そうとするからそうなるんでしょ」

 

「……?」

 

「あ、樹ちゃんが追い付いてきてない。ちょっと説明しとくから、クエスト選んどいて?」

 

「カエルを知らないとは……もしかして、イツキはどこぞのお嬢様なのか?」

 

 ダクネスさんはそんなことを聞いてくるけど、そんなことはないとだけ答えて樹ちゃんへこの世界で言うカエルの説明を簡単にしてみる。

 

 でかい、やわい、うまい。

 

 説明終了。

 

 え?短い?これで大体理解するのが樹ちゃんのすごいところなんだよ?

 

 

 そういえば、ダクネスさんとめぐみんちゃんはクエストを選びに掲示板のほうに行ったけど、カズマ君とアクアはどうしてるんだろ?

 

 

 

「―――あのな?本来なら俺は、お前から強力な装備か装備を貰って、ここでも生活には困らないはずだった訳だ。そりゃ、俺だって無償で神様から特典を貰える身で、ケチなんかつけたくないぞ?それにその場の勢いとはいえ、能力よりお前を希望したのは俺なんだし!でも、俺はその能力や装備の代わりにお前を貰ったわけなんだが、今のところ、特殊能力や強力な装備並みにお前は役に立っているのかと問いたい。正直なところ、爆裂魔法一発で倒れるめぐみんよりも役に立ってないぞお前。その辺どうなんだ?最初はずいぶん偉そうで自身たっぷりだった割に、ちっとも役に立たない自称元なんとかさん?」

 

「うう………。も、元じゃなく、その……。い、今も一応女神です……」

 

「女神!!女神ってあれだろ!?勇者を導いてみたり、魔王とかと戦って、勇者が一人前になるまで魔王を封印して時間稼いだりする!今回のキャベツ狩りクエストで、お前がしたことってなんだ!?最終的には何とか沢山捕まえてたみたいだが、基本はキャベツに翻弄されて、転んで泣いてただけだろ?お前、野菜に泣かされといて本当にそれでいいのか?そんなんで女神名乗っていいのか!?この、カエルに食われるしか脳がない、宴会芸しか取り柄がない穀潰しがぁ!!」

 

「わ、わあああーっ!」

 

 ……忙しそうだね。そっとしておこう。

 

 この後から、心なしか樹ちゃんがカズマ君と距離を取ってるように見えるんだよね。……所長で慣れっこでしょ?

 




出してほしいSCPがあったらアンケートのほうへお願いします。


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番外:挑戦/破壊

今回はリクエストで出てきたアベルの回です。
眠い目をこすりながらの執筆なのでかなり雑になっています。

今回は樹ちゃん視点の話になります。


 どうも。速水樹です。今日はSCPの破壊ができるかどうかの検証にやってきました。今回は[SCP-076 - "アベル"]の破壊に挑戦です。

 

 アベルは立方体の棺(SCP-076-1)と実体を伴った人型(SCP-076-2)に分けられ、この内の人型の方はSCP財団が様々な方法で殺害して一時的に行動不能にすることが成功しているので、今回は立方体の石の方を破壊に挑戦したいと思います。

 

 ちなみに、いつも一緒に行動している千尋ちゃんですが、現在はかなり遠くに人型の方を誘導して、そこでタイマン張ってます。千尋ちゃんにはくれぐれもアベルの方を殺さないように言っておきました。

 

 人型の方は一度生命活動を停止すると6時間から25年かけて棺の中で再生して、やがて目を覚ますという相変わらずの謎原理がありますので、検証中に復活されては目も当てられません。

 

 そういえば名前はカインとアベルという兄弟がモデルのようで、ちゃんとカインというSCPもいるようですね。確かアベルと違って理性を保っていると思います。詳しくは知りませんがね。

 

 まぁ、とりあえず始めましょうか。

 

 まずはダクネスさんの剣撃です。千尋ちゃんにはダクネスさんの振るう武器は全く当たらないとのことでしたが……。

 

「ふっ!はっ!はぁっ!」スカッスカッスカッ

 

 はい。そうなりますよね。正直期待はしてませんでした。

 この後カズマさんにお願いして剣を叩きつけてもらったところ、棺の方には全く傷がなく、逆に剣が刃こぼれしかけたそうなので中止です。

 財団のようにいろいろと試せるわけでもないので私たちができることなどたかが知れていますね。

 

 次の実験です。カズマさんに【初級魔法】の【クリエイト・ウォーター】を棺の隙間にひたすら流し込んでもらいました。

 

 ……はい。完全防水でした。水を全て弾いてきました。アクアさんの作り出す聖水も一切の効果がなかったので水は棺の方には意味がないようですね。

 実験中に魔力切れになって倒れたカズマさんはそのままにしておくのも申し訳ないので膝を枕のようにして首を痛めないようにしました。多分地面よりはマシだと思いたいです。

 

 はい、次の実験で最後です。

 というかこの実験が本命ですね。この世界で一番威力の高い【爆裂魔法】。これをぶつけて傷がつくかどうかの確認をしたいと思います。……はい。めぐみんさんには悪いのですが、完全に破壊できるとは思っていません。せいぜい傷がつく程度ではないかと思われます。

 

 では、お願いします。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 本当に凄いですね、【爆裂魔法】。魔法一つでクレーターが出来上がるとは思いませんでした。これだけ威力があれば……。

 

 あ、棺を発見しました。資料と見比べながら外観とかをみんなで観察……しようと思いましたが、私はカズマさんの介抱、めぐみんさんは魔力切れで動けないのでダクネスさんとアクアさんにお願いしました。

 

 ……結果から言うと、傷らしい傷は見られなかったとのことです。ほんと、何でできてるんでしょうね。この棺。

 

 

 アベルは本の中に収容。千尋ちゃんを迎えに行きます。念のために[SCP-500 - 万能薬]を持って千尋ちゃんが向かった雪山に行きましたが、千尋ちゃんは切り傷が十数か所、打撲が八か所のけがを負った状態で発見されました。

 

 千尋ちゃんによると、「やっぱあれを何時間とか押さえつけるのは勘弁して!」とのことでした。

 




他にもリクエストおまちしてます。


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不死王

 街から離れたところにある小高い丘の上。

 あの後結局クエスト、『共同墓地に沸く、アンデットモンスターの討伐』を受けることになったんだけど、クエストを受けるときにリヤンさんに「くれぐれも墓石を破壊しないように」って言われたよ。……樹ちゃんの変なものを見るような目線に冷や汗が流れたのは秘密。

 

 今回のクエストのメインはカズマ君に役立たず呼ばわりされたアクア。汚名返上を狙って自分が得意なアンデットモンスターの浄化を自分から申し出てきたんだけど、なんだかんだで採用してあげるカズマ君はやっぱり優しいんだなぁって。

 

「ちょっとカズマ、その肉は私が目をつけてたヤツよ!ほら、こっちの野菜が焼けてるんだから、こっち食べなさいよこっち!」

 

「俺、キャベツ狩り以降そうも野菜が苦手なんだよ、焼いてる途中に飛んだり跳ねたりしないか心配になるから」

 

 今は大体午後18時くらい。モンスターが現れるっていう時間帯は夜だから、晩御飯を食べながら現れるのを待つことにした。食事の内容は肉多めのバーベキューだよ。

 

 ちなみに、アクアとカズマ君はお肉の取り合い。めぐみんちゃんはもう一枚の鉄板のところでお肉多めに食べて、ダクネスさんはお肉と野菜を交互に食べてる。樹ちゃんはお肉の油が苦手だから野菜を中心に食べてる。ボクは肉焼き奉行になりつつあるけど、少しずつ食べてるよ。

 

 皆がお腹一杯になったらそこら辺に腰を落として今回のクエストについて話し合う。一馬君の【初級魔法】スキルで作ったコーヒーを飲みながら。あ、樹ちゃんはミルク有りの方がいいかな?……いらない?そう?

 

「今回の依頼の討伐対象はゾンビメーカーだったな。……確かゾンビを操る悪霊の一種だったか?」

 

 カズマ君の質問に、ダクネスさんとめぐみんちゃんが頷くことで答える。……ゾンビ……感染症……SCP-008……うっ、頭が。

 

「ん?どうしたチズル。体調でも悪いのか?」

 

「あぁ、ダクネスさん。……ちょっと嫌なもの思い出しただけだよ。大丈夫」

 

「……SCPじゃないよな」

 

「よく分かったねカズマ君!その通りだよ!」

 

 あ、頭抱えた。別にSCPってだけでそんな落ち込まなくていいのに……。確かに感染したら確実に死ぬけどさ。……あ、SCP-500飲めばワンチャンあるかな。

 

「カズマ、いろいろと辛そうなところ申し訳ないのですが、私にもお水ください。…どうも。っていうかカズマは、何気に私より魔法を使いこなしてますね。【初級魔法】なんてほとんど誰も使わないのですが、カズマを見てるとなんか便利そうです」

 

 ボクめぐみんちゃんが【爆裂魔法】以外の魔法使ってるの見たことないんだけど……?

 

「いや、元々そういった使い方するもんじゃないのか?【初級魔法】って。あ、そうそう。【クリエイト・アース】!……なぁ、これって何に使う魔法なんだ?」

 

 カズマ君は粉状の砂の山を掌に作って見せてくるけど……。うーん。わかんないなぁ…。

 

「……えっと、その魔法で創った土は、畑などに使用すると良い作物などが獲れるそうです。……それだけです」

 

 めぐみんちゃんの【クリエイト・アース】の説明を聞いていたアクアは、急に笑い出して、カズマ君を小ばかにした口調で話し始める。

 

「何々、カズマさん畑作るんですか!農家に転向ですか!土も作れるし【クリエイト・ウォーター】で水も撒ける!カズマさん、天職じゃないですかやだー!プークスクス!」

 

 アクアのやっすい挑発に対して、カズマ君は土の乗った手をアクアに向けて、

 

「【ウィンドブレス】!」

 

 左手から風を放つ魔法を使用。右手の土を吹き飛ばし、正面にいたアクアにのみ降りかかって。……今の挑発はボクも少しイラっと来たから、ザマァとしか言えない。

 見た感じ、ただサラサラの土を作るだけの魔法みたいだし、石とかの顔に当たったら危ない物もないでしょ。

 

「ぶあああああ!ぎゃー!目、目がぁああ!」

 

「……なるほど、こうやって使う魔法か」

 

「「いえ、違うと思いますよ!?」」

 

 めぐみんちゃんと樹ちゃんの突っ込みがカズマ君に向かうけど、身長差的な意味で兄妹にしか見えない。

 

「ちなみに、育てた野菜とかがとっても美味しくなるSCP、[肥沃な土]なんてものがあったり」

 

「……それいいな。自由に弄れる土地が手に入ったら農業でもしてみるか」

 

「もしかしたら一儲けできるかもよ?」

 

「ちょっと本気で考えとくわ」

 

 

◇◆◇

 

 

 月が昇りきり、時刻も深夜ごろになったころ。気温が少し下がり、明かりがないと足元の確認もできないほど暗くなると、アクアがポツンとこんなことを呟いた。

 

「……冷えてきたわね。ねぇカズマ、引き受けた依頼ってゾンビメーカー討伐でしょ?私、そんな小物じゃなくて大物のアンデットが出そうな予感がするんですけど。」

 

「……おい、そういった事言うなよ、それがフラグになったらどうすんだ。今日はゾンビメーカーを一体討伐。そんで取り巻きのゾンビもちゃんと土に還してやる。そしてとっとと帰って馬小屋で寝る。計画以外のイレギュラーが起こったら即刻帰る。いいな?」

 

 皆が頷き、やばくなったら即座に帰ることを決意してるようだけど……今の発言ってセーフ?収容違反とか……ないよね?…アイテム番号忘れたけど、フラグを言ったらダメなのあったよね?

 

 ボクの心配を他所に、カズマ君の「そろそろ行くか。」の言葉で全員が行動を開始した。クリスちゃんに教わったスキル、【敵感知】を持つカズマ君を先頭にして墓地に向かって前進……あ、樹ちゃんの顔が蒼白。ゾンビが嫌なのか、ボクと同じことを考えているのか……。

 

「何だろう、ピリピリ感じる。【敵感知】に引っかかったな。いるぞ、一体、二体…三体、四体…?」

 

 おー、どんどん見つかるね。……ボクが全部倒してもいいけど、それだとみんなが成長できないね。

 

 突然、墓場の中心で青白い光が走る。

 墓場全体を囲むように書かれた円形の魔法陣が青く光っているのがボク達のところからも確認できた。……魔法陣の中心あたりに黒ローブの人も見つけた。

 

「……あれ?ゾンビメーカー……ではない……気が……するのですが……」

 

 めぐみんちゃんの自信なさげな声が聞こえる。え?あれがゾンビメーカーなんじゃないの?

 

「突っ込むか?ゾンビメーカーじゃなかったとしても、こんな時間に墓場にいる以上、アンデッドに違いないだろう。なら、【アークプリースト】のアクアがいれば問題ない」

 

 ダクネスさんが大剣を構えてソワソワしてる。大剣構えたままだと走るの遅くなるよ?

 

「あーーーー!!!?」

 

 ッ!敵襲ッ!?

 

 

 じゃなかった。ここには敵はいなかったね。ダメだなー。前の世界のクセがなかなか離れない……。

 

「ちょっ!おい待て!…千尋はその両手の剣しまえ!」

 

「は~い」

 

 さっきのアクアの叫び声で咄嗟に取り出した『クリンゲ』と最低品質(なまくら)をしまいながらアクアが走っていった方向。

 ローブの人物の方に走って行く。皆がいるから小走りだけどね。

 

 アクアはローブの人物のところにたどり着くと、ビシッと指差した。

 

「リッチーがノコノコこんなところに現れるとは不届きなっ!成敗してやるっ!」

 

 リッチー?

 

 って言うと、ゲームとかでもよく出てくる超メジャーモンスター。アンデットの最高峰のRPG最強モンスターの一角になってるあのリッチー?

 

「や、やめやめ、やめてぇぇぇ!!誰!?誰なの!いきなり現れて、なぜ私の魔方陣を壊そうとするの!?やめて!やめてください!」

 

「うっさい、黙りなさいアンデッド!どうせこの妖しげな魔方陣でロクでもないこと企んでるんでしょ!なによ、こんな物!こんな物!!」

 

 ボクからしてみれば、今アクアの腰にしがみついて魔法陣を消そうとするこの人がそんな、個人的に訳わからない種別のモンスターには見えないんだけど……。いや、正直に言おう。これどっちが女神でどっちがリッチー?

 

「やめてー!やめてー!!この魔法陣は、いまだ成仏できない迷える魂たちを、天に還してあげるための物です!ほら、たくさんの魂たちが魔法陣から空に昇って行くでしょう!?」

 

 このリッチー(仮)さんの言う通り、墓地にいた人たちの魂っぽい青白い光が魔法陣に入ると、魔法陣に沿って天に吸い込まれていくのが見える。この人(?)かなり善良なんじゃないかな?

 

「リッチーのくせに生意気よ!そんな善行はアークプリーストのこの私がやるから、あんたは引っ込んでなさい!見てなさい、そんなちんたらやってないで、この共同墓地ごとまとめて浄化してやるわ!」

「えぇ!?ちょっ、やめっ!?」

 

 リッチー(仮)さんの静止を聞かず、アクアは魔法を発動させた。

 

「【ターンアンデット】ー!」

 

 さすがに自称女神というだけあって、宣言通り共同墓地全体にいかにも浄化魔法でございと言わんばかりの光が立ち上る。

 リッチー(仮)の取り巻きのように存在していたゾンビたちの浄化の光が触れると、その姿が掻き消える等に消えていった。……あれどうなってるんだろ?

 

 【浄化魔法】を発動させたアクア。その近くにいたリッチー(仮)にもその光はもちろん届くわけで……

「きゃー!か、身体が消えるっ!?止めて止めて、私の身体が無くなっちゃう!!成仏しちゃうっ!」

 

 ゾンビが一瞬で浄化された聖なる光の立ち上るエリア内で、身体がどんどん薄くなっていくリッチーさん。

 

「おい、やめてやれ」

 

 そこでこの自称女神をどうにかしようと、カズマ君が薄くなっていくリッチーさんを指さして高笑いしているアクアの後ろまで行き、後頭部をナイフの柄でごすっと小突いた。……痛そっ。

 

「い、痛いじゃないの!あんた何してくれんのよいきなり!」

 

 後頭部を強打したカズマ君に不満を言おうと掴みかかろうとしているアクアを【鎖術】を使って簀巻きにして転がしておく。……これで集中して魔力を練ることも難しいでしょ。

 

 ……さて、リッチーさんは無事かなっと。




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ウィズ

 そこで簀巻きになって転がってるアクアが浄化しかけたリッチーさんのところに歩いていき、話しかけた。……カズマ君が。

 

「おい大丈夫か?えっと、リッチー……でいいのか?あんた」

 

「だ、だ、だ、大丈夫です……。あ、危ないところを助けていただき、ありがとうございました……っ!えっと、おっしゃる通り、リッチーです。リッチーのウィズと申します」

 

 半透明だった体がくっきり見えるようになってから話し始めたリッチー……ウィズさん。

 話しながらフードを取ると、そこには二十歳くらいにしか見えない茶髪の美人さんが。……いろいろと羨ましい……なにとは言わないけど。

 

 てか、RPGの鉄板アバターみたいに骸骨ローブじゃないんだね。……あー、でも骸骨よりも話しやすくて助かるね。

 

「えっと……。ウィズ?あんた、こんな墓場で何してるんだ?魂を天に還すとか言ってたけど、アクアじゃないが、リッチーのあんたがやる事じゃないんじゃないのか?」

「ちょっとカズマ!こんな腐ったミカンみたいなのと喋ったら、あんたにまでアンデットが移るわよ!ちょっとそいつに【ターンアンデット】をかけさせなさい!ほら、この鎖を解いて……ングゥ!」

 

「高圧的なことしか言えないのかな?この人は」

 

 アクアが簀巻きのままウィズさんを威嚇してたから、鎖を口に巻く。口を動かそうとしたらきつく締まるようにしたから、流石に静かになるでしょ。

 

 アクアの言葉に怯えたのか、ウィズさんはカズマ君の背後に隠れちゃった。……多分ボクにも怯えてると思うけど、向こうではよくあることだったからね。もう慣れた。

 

「え、えっと…。私は見ての通りリッチー、ノーライフキングなんてやってます。アンデットの王なんて呼ばれてるくらいですから、私には迷える魂たちの話が聞けるんです。この共同墓地の魂はお金がないためにロクに葬式すらしてもらえず、天に還ることなく毎晩墓場を彷徨っています。それで、一応はアンデットの王な私としては、定期的にここを訪れ、天に還りたがってる子たちを送ってあげているんです」

 

 おお、いい人だ。人間じゃないけど。

 ボクこういう、善意で行動する人は大好きだよ。人じゃないけど。

 

「それは立派な事だし善い行いだとは思うんだが……。……そんなことは街のアークプリーストとかに任せておけばいいんじゃないか?」

 

 あ、それは確かに。

 駆け出し冒険者の街なんて言われてるけど腕のいい冒険者はいるだろうし、【プリースト】系の職に就いてる人がやってあげればいいよね。

 

「そ、その……。この街のプリーストさん達は、拝金主義……いえその、お金がない人たちは後回し……といいますか、その……」

 

 地面に転がってびったんびったん跳ねてるアクアを気にしているようで、チラチラとアクアを警戒しているようにも見える。

 拝金主義ってことは……

 

「つまり、この街のプリーストは金儲け優先の奴がほとんどで、こんな金のない連中が埋葬されてる共同墓地はんて、供養どころか寄り付きもしないってこと?」

 

「え……、えと、そ、そうです」

 

「それなら、まぁしょうがないか。でも、ゾンビを呼び起すのはどうにかならないか?俺たちはここにゾンビメーカーが出たから、討伐してくれって依頼を受けてここにいるんだが」

 

「あ…そうでしたか……。その、呼び起してる訳じゃなく、私がここに来ると、まだ形が残っている死体は私の魔力に反応して勝手に目覚めちゃうんです。……その、私としてはこの墓場に埋葬される人たちが、迷わず天に還ってくれれば、ここに来る理由もなくなるんですが……。……あの、どうしましょうか?」

 

 

◇◆◇

 

 

 墓場からの帰り道。

 

「納得いかないわ!」

 

 アクアは帰るときに鎖を解いたけど、怒って【ゴットブロー】とかいうスキル(?)を使って殴りかかってきたから勢いそのままに遠くまで巴投げの要領で投げ飛ばしたら大人しくなった。

 

 と、思ったけどウィズさんを見逃すという話になったときに猛反対してた。けどカズマ君の「しねーよ。こんないい人討伐できるわけないだろ?」の言葉に沿った賛成意見に押し通された。

 

「しかし、リッチーが街で普通に生活してるなんて、この街の警備はどうなってるんでしょう?」

 

 いままでずっと空気みたいな存在だった樹ちゃんがカズマ君の持ってる紙切れを見ながら呟いた。

 

 内容はウィズさんが営んでいるマジックアイテムのお店への行き方が書かれた地図。『ウィズ魔法具店』……って、街の南側で見たことがあるね。確か、店の周りに男性冒険者がやけに集まってたお店だったかな?

 

「ま、ザルだね。もしかしたら他にもアンデッドとかモンスターが潜んでるかもよ?……もしそうだったらここの警備ランクはザルからワクに格下げだよ」

 

「でも、何はともあれ穏便に済んでよかったです。いくらチズルやアクアがいるといっても、相手はリッチー。もし戦闘になってたら私やカズマ、それにイツキも死んでたと思いますよ?」

 

「げ、リッチーってそんなに危険なモンスターなのか?ひょっとしてヤバかった?」

 

「ヤバいなんてもんじゃないです。リッチーは強力な魔法防御、そして魔法のかかった武器以外の攻撃の無力化。相手に触れるだけで様々な状態異常を引き起こし、その魔力や生命力を吸収する伝説級のアンデッドモンスター。むしろ、なぜあんな大物にアクアの【ターンアンデッド】が効いたのか不思議でならないです」

 

「ただ、そんなヤバいモンスターの姿を見るなり攻撃を仕掛けて、なおかつ挑発しているアクアの精神を疑いたくなるよね。……あと、めぐみんちゃん?樹ちゃんが本気で暴れようとしたら魔王と協力して封印しないといけないようになるから、ある意味このパーティーで一番怖いのは樹ちゃんだよ?」

 

「「えっ」」

 

 SCP……ボクが抑え込めるとしても数体を数分が限界だと思うしね。KeterクラスのSCPの捕獲を[ちいさな魔女]とかにお願いしないといけないと思うし。……そう考えるとボクの力なんて塵同然だね。

 

「……ところで、ゾンビメーカー討伐のクエストはどうなるのだ?」

 

「「「「あっ」」」」

 

 やばい…忘れてた。

 

 

 クエスト失敗……。初めて失敗した……。




塵(能力はモンスター並み)

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待機時間

最近Evolve要素少ないなと、どうも。隔離場です。
今回は短めですが、お見逃しください……。
追記:かなり大きな改変をしました


「そういえば、結局特典の『タロットカード』の能力ってどんなのだったの?」

 

 リッチーのウィズさんと墓場で会った次の日、ボク達はいつも通り何かクエストを受けるためにギルドに来ていた。カズマ君は情報収集とかで他の冒険者のところに話を聞きに行ってる。めぐみんちゃん達はカズマ君がほかのパーティーに移籍するんじゃないかって警戒してカズマ君の方に夢中になってる。

 声を小さくすれば多分こっちに意識向けないだろうから、内緒話するにはいい機会かな。いやまぁ、ここに来る前にしとけばよかったんだけどさ。

 

 

「……そういえば全く使ってませんでしたね。タロットの能力は『生物に向けると絵柄に応じた効果が発揮される』、でした」

 

 絵柄……タロットの絵に応じた能力?…あー、確かそれぞれの絵柄に意味があったと思うけど……忘れた。なんだっけ?

 

「実はそこまで詳しく書かれていた訳ではないので、タロットの意味から簡単な想像しかできなかったんですけどね」

 

 そういってポケットからメモ帳を渡してくる。……そうそう、樹ちゃんが持ってたバッグだけど、『持ち運びには便利だけど大きさ的に動きづらくなる』って理由で宿に置いてきたみたいだよ。代わりにボクが荷物持ちをしてる。まぁ、樹ちゃん力ないからね。

 

 それはさておき、メモを拝見~。

 

-------------------------

  [樹のメモ] 3ページ目

 

能力名:【タロット】

発動条件:対象と絵札との接触

効果:一時的に能力の上昇

 

 

0.THE FOOL 愚者

効果:スキル発掘?

1.THE MAGICIAN 魔術師

効果:魔力の上昇

2.THE HIGE PRIESTESS 女教皇

効果:知力の上昇

3.THE EMPRESS 女帝

効果:取得経験値量の増加?

4.THE EMPEROR 皇帝

効果:統率力を得る?

5.THE HIEROPHANT 法王

効果:人付き合いが良くなる?

6.THE LOVERS 恋人

効果気分が良くなる?

7.THE CHARIOT 戦車

効果:俊敏値の上昇

8.STRENGTH 力

効果:筋力値の上昇

9.THE HERMIT 隠者

効果:隠密状態?

10.WHEEL of FORTUNE 運命の輪

効果:運の上昇

11.JUSTICE 正義

効果:精神異常の回復

12.THE HANGED MAN 吊し人

効果:防御力の上昇

13.DEATH 死

効果:死、もしくは衰退?

14.TEMPERANCE 節制

効果:精神異常への耐性

15.THE DEVIL 悪魔

効果:魅了

16.THE TOWER 塔

効果:撹乱系の状態異常

17.THE STAR 星

効果:疲労回復

18.THE MOON 月

効果:眠気に襲われる

19.THE SUN 太陽

効果:気力回復

20.JUDGEMENT 審判

効果:蘇生?

21.THE WORLD 世界

効果:13,15以外全て?

-------------------------

 

「へえ……、結構便利だね?」

 

「ただ、どの程度能力が上がるのかとかがちょっと分からないのが難点ですね」

 

「不確定なところも明らかにしていきたいねぇ。……まぁとにかくカズマ君が戻ってくるの待とうか。能力の検証とかはクエスト言った時にすればいいし?」

 

「そうですね……もう少し時間かかりそうですが」

 

「暇つぶしにしりとりでもする?そこの三人に声かけてもまともに会話できる自信ないし」

 

「……何気に酷いこと言ってるような気がしますが聞かなかったことにします。では、しりとり」

「リストラ」

「落第」

「遺失物」

「痛風」

 

・・・・・・(10分経過)

 

「ンゾヤバディアブル」

「ルート」

「トランプ」

「プリースト」

「豚(トン)」

「ンジャメナ」

 

・・・・・・(さらに10分経過)

 

「よう、おまたせ……何やってんだ?」

「あ、カズマ君。おかえり。ンランガノ」

「notte。待ち時間が暇だったのでしりとりをしてました」

「俺の知ってるしりとりはんがついたら負けなんだが……」

「ボク達は相手が言えなくなったら負けってルールでやってるよ。んがついたくらいじゃ負けにならないね!」

「やばい、頭痛くなってきた」

 




 樹ちゃんのメモは綺麗な字でまとめられてるイメージで。

 今後の更新が受験の影響で遅れる可能性がありますです。


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