食戟のソーマ 創作伝 (幸村 聖臥)
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中枢美食機関編(最終攻防戦)
食戟のソーマ 創造伝(最終戦)


これはフィクションであり、私の願いと創造の形です。


※あくまでもフィクションであり私の食戟のソーマの期待と希望を形にしたものです。オリジナルキャラや始まりが中途半端な感じですがご了承ください。

 

 

中枢美食機関(セントラル)との覇権をかけた戦いは最終盤に差し掛かった。

 

司会

 

 さあ、セントラルと旧遠月軍の戦いは2勝2敗のタイとなり最終第五回戦を残すのみとなりました。ここまで  の戦いを振り返ると第1回戦、茜ヶ久保 ももVS薙切アリス(スイーツ対決)は4:1でセントラルの勝利でした。第2回戦、斎藤 綜明VS黒木場リョウ(魚介対決)は3:2でセントラルが連勝し王手をかけます。しかし、第3回戦、紀ノ国 寧々VS葉山アキラ(ライス対決)は1:4で旧遠月軍が勝利し、待ったをかけると第4戦、叡山 枝津也VS一ノ瀬和希(定食対決)は0:5で旧遠月軍が逆王手とし、勝負の行方は最終戦に持ち込まれました。

 

観客席では、薙切えりなと極星寮のメンバー、元十傑の一色、久我、女木島、そして今回の戦いはメンバー外だったものの共に厳しい特訓を乗り越えた。アルディーニ兄弟、田所恵、水戸郁魅、新戸緋沙子が固唾をのんで見守る。

 

 

榊:ついにここまで来たのね。

 

丸井:泣いても笑ってもこれが最終戦だ。

 

水戸:すべてはあいつの肩にかかってるってことだ。

 

イサミ:兄ちゃん、セントラルは・・・

 

タクミ:ああ、恐らくセントラルの大将は間違いなく司 瑛士先輩に間違いない

 

新戸:現在、遠月においてもセントラルにおいても最強な男。あのお方相手に勝機はあるのか?

 

田所:信じよう。私たちは信じて応援する。今できることを精いっぱいやろう。

 

一色:田所君の言う通りだね。

 

吉野:そうだよ。みんな気合い入れていくよ。フレー、フレー幸平

 

控室では、両チーム監督の下ミーティングが行われていた。セントラルは薙切薊が対する旧遠月は創真の父親・城一郎だ。

 

【セントラル控え室】

 

薊:

 

 全く、君たちは情けないよ。本来、あんな美食の美の字も書ける連中に票を取られただけでもありえないのだよ。我々は常に完璧でなければならないのに。

 

 

セ:「す、すみません」

 

すでに戦いを終えたセントラルの面々が薊に頭を下げる。

 

薊:しかし、まあ最後に才波先輩の息子に引導を渡して絞めるのも悪くはないか。頼みましたよ。我らのエース

 

一人、ロッカーに腰掛けて冷静に沈黙を保つ男がいる。そう、遠月学園十傑第一席・司 瑛士が。

 

 

【旧遠月軍控室】

 

城一郎:和希くん、難しい一戦をよくとってくれた。

 

和希:

 

 俺の役目は創真に必ずつなぐことです。当たり前のことをしただけですし、みんなのあきらめない姿勢が負けても僕に気楽さを与えてくれました。

 

 

黒木場:てめー嫌味か?

 

葉山:落ち着け黒木場、別に負けたこと責めてるわけじゃねえよ。

 

アリス:でも、ちょっとムカつくわね。

 

葉山:おいおい

 

和希:それより創真は?

 

城一郎:たぶん精神を集中してるだろう。

 

【スタンド席】

 

会場内に次の試合の選手がアナウンスされた。

 

アナウンス:

 

 食戟団体戦第5回戦、セントラル・司 瑛士選手、旧遠月軍・幸平創真選手。それぞれ会場の方へお向かいください。

 

アナウンスされ会場の電光掲示板に両者の名前が表示された。そして、その光景を不安そうに見つめるえりなに緋沙子は気づいた。そして、勇気をもって彼女に言った。

 

 

新戸:えりなさま、幸平のところに行ってあげてください。

 

えりな:緋沙子?

 

新戸:

 

 えりな様の不安な気持ちは分かってるつもりです。ですが、遠月の未来もえりな様の未来も幸平にかかって  います。えりな様の支えがあれば幸平は必ず壁を乗り越えるはずです。

 

 

えりな:緋沙子・・・

 

田所:

 

 薙切さん、私からもお願いします。新戸さんの言う通り創真くんには薙切さんの力がきっと必要なはずです。

 

 

えりな:田所さん

 

全員:薙切さん、えりなっち、薙切君。

 

えりな:みんな

 

仙左衛門:えりなよ。行ってやりなさい。

 

えりな:お爺さま! ビップ席にいられたのでは?

 

仙左衛門:えりなよ。彼はお前のためにすべてをささげてくれた男じゃ。後悔しない道を選びなさい。

 

えりな:お爺さま・・・はい。

 

えりなは下の控室に向かって走り出した。しかし、控室へ向かう途中に黒服のSPが道を阻む。

 

SP:えりな様、ここからは選手以外立ち入り禁止です。

 

えりな:どきなさい。こっちは急を要するの。

 

SP:申訳ありませんが薊殿より絶対にお通しするなと

 

えりな:いいからどきなさい。

 

えりなは必死に突破を図るが、SPたちが丁重に阻止する。しかし、誰かがSPたちの肩をトントンとするとガツン一撃拳を食らわせ気絶させた。

 

和希:えりなさん来てくれたんだ。

 

そこには和希と黒木場の姿があった。

 

えりな:二人ともどうして?

 

黒木場:和希の携帯に新戸から連絡があったんだ。

 

和希:急いで。創真が待ってる。

 

黒木場:ここは、俺たちが処理しておくからえりなお嬢

 

えりな;二人ともありがとう

 

【選手準備室】

 

次の試合に出場する創真は、ベンチに座り無言で目を閉じ何かを考えていた。しかし、ある気配を察知した。

 

創真:薙切そこにいるんだろ?

 

部屋の前のドアの陰に薙切は立っていた。創真がそっとドアを開けると彼女の前に来た。

 

えりな:幸平君。

 

創真:そんなところにいないで中に入れよ。

 

創真はえりなを控室に入れた。彼女の目にとまったのは、ボロボロになったノートの束だった。それをえりなはペラペラとめくる。中身は、彼女がソーマに教育したこととそれを創真なりに付け加えた完成ノートだった。

 

えりな:これって

 

創真:お前と二人で完成させたノートさ。

 

えりな:相手は司先輩よ。これぐらいで勝てると本気で・・・

 

えりなが言葉を言い切る前に創真は彼女をすっと抱きしめた。えりなは心臓をバクバクさせ頬は真っ赤なリンゴのようになっていた。

 

えりな:ちょっと幸平君何を?

 

創真:お前を必ず救う。その約束を俺は絶対に果たす。

 

えりな:

 

 幸平君・・・でも、負けたらあなたはお父様の言いなりにならなくてはならないのよ。私に関わったらあ   なたはすべてを失うのよ?

 

 

創真:薙切と競えない遠月に俺は興味ないね。あんたを超えるためには薙切薊に渡すわけにはいかないんだ。

 

えりな:幸平君

 

創真:そろそろ時間だ。一緒に行くぞ薙切

 

創真は、彼女の右手を左手でしっかり握り部屋を出た。すると通路の途中で和希と黒木場と遭遇した。

 

和希:えりなさん、ちゃんと着いたようだな

 

黒木場:勝てよ幸平

 

創真:当たり前だ

 

【会場のメインステージ】

 

メインステージに両軍の大将が姿を現した。両軍の監督がベンチに腰を掛ける。しかし、薊はある光景に目を疑った。

 

薊:えりな! なぜ、幸平君と?

 

えりな:

 

 SPの妨害は親友たちに助けられて突破しました。それに私は巻き込んだ親友たちを最後まで見守る義務があります。

 

薊:

 

 どうやらえりなには少しお仕置きが必要なようだね。まあいいだろう。君の目の前で幸平君の無残な姿を拝ませれば自覚するだろう。自分の愚かさに

 

 

城一郎:薊。それは、勝ってから言ってもらおうか。えりなちゃんは俺の横に座ればいい

 

えりな:はい、才波さま

 

司:

 

 幸平、正直なところ君と戦えることを楽しみにしていたよ。3連勝じゃ、僕がここにいる意味も無いと思ってたしね。

 

 

創真:それは光栄っす司先輩。けど、俺は負けるつもりは鼻から持ち合わせちゃいませんけどね

 

司会:さあ両者出そろったところでテーマの発表です。テーマは・・・・・・スペシャリテです。

 

 

 




連載を現実に追いつかれないように頑張ります。


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食戟のソーマ 創作伝(調理開始)

前回の続きです


司会「それでは、両者調理スタートです」

 

和希「スペシャリテか」

 

葉山「一ノ瀬どうかしたのか?」

 

和希「いや、この勝負のとりを飾るには最高なテーマだなと思ってな」

 

【観客席】

 

吉野「見て。司先輩の材料」

 

伊武崎「あれは、熊肉か?」

 

田所「熊肉って確か創真くんが・・・」

 

アルディーニ「葉山との食戟で使った材料だ」

 

新戸「癖が強い分扱いが難しい材料を選んできたというのか?」

 

一色「よっぽど自信があるんだろうな司先輩」

 

【メインステージ】

 

ベンチでは、えりなが落ち着かない様子で戦況を見つめる。

 

城一郎「えりなちゃん、やっぱり落ち着かないかい?」

 

えりな「いえ、そういうわけでは」

 

アリス「アンタが心配したってしょうがないでしょう」

 

えりな「分かってるわよ。でも・・・」

 

葉山「アリス嬢の言う通りだぜ。俺たちはあいつを見守ることしかできねえんだから」

 

えりな「でも、相手は司先輩よ。そう簡単に・・・」

 

和希「大丈夫だよ。創真は、同じ相手に二度もやられるタマじゃないから」

 

両者の作業に無駄がなく。一瞬の隙も感じられない。

 

司「幸平、以前の食戟より成長したみたいだね」

 

幸平「いいんすか司先輩、完璧主義のアンタが手より口を動かして」

 

司「相変わらず喰えない男だね君は。なら見せてあげるよ僕の真の力を」

 

司はメインの熊肉の調理に取り掛かった。その姿は包丁さばきからスパイスを扱う指先や調理器具を扱う手さばき、どれもが優美なまさに「美」を表現するかのような動きだ。そんな姿に会場の皆は魅了されていった。

 

黒木場「なんて涼しい顔で調理してやがる」

 

葉山「動きに無駄がねえ。これが彼の本当の実力なのか?」

 

アリス「それよりも要注意なのは彼の醸し出すオーラかもね」

 

えりな「司先輩の十八番よ。料理の味云々よりも精神的ダメージを与え戦意を奪うあの姿が」

 

葉山「並大抵の奴じゃ。戦意を失うってか」

 

みんなが不安げに創真を見つめる。しかし、創真はその光景に臆するどころかペロッと乾いた唇を軽く舐め、笑みを見せた。

 

和希「どうやら心配は無用かもね」

 

【スタンド】

 

伊武崎「今、幸平の奴笑わなかったか?」

 

榊「うん、私にもそう見えたけど

 

一色「どうやら心配はないみたいだね」

 

(そうだな。あのタフさは並大抵ではないだろう)

 

みんなの前に二人の大人がやってきた。

 

一色「いらしてたんですか・・・シャペル先生、汐見先生」

 

汐見「遠月の命運を変えた大一番を見逃すわけにはいかないでしょ」

 

シャペル「野暮用で遅れてしまったが間に合ってよかった」

 

丸井「野暮用ってなんですか?」

 

シャペル「まあ、見てれば分かるさ。その答えが」

 

【メインステージ】

 

司は、その場の空気に違和感を覚えた。創真が笑みを浮かべながら司と目を合わせたからだ。今まで、この完璧の光景で崩れ落ちた相手などいなかったのに

 

司「何がおかしいんだい?」

 

幸平「いやうれしんっすよ。司先輩が本気を出してくれて」

 

司「あまり調子に乗らない方がいいよ幸平」

 

幸平「調子になんか乗ってないっすよ。ただ、あんたを超えなきゃ越えられない壁があるだけで」

 

 

 

 

 

 




今後もよろしくお願いします


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天帝の夢幻

遂に司の真の力が明らかに! 白熱の戦いはますます激しさを増す。


司「幸平、どうやら君には少し痛い思いをしてもらわないとならないようだね」

 

創真「どういう意味っすか?」

 

司「君は、僕を本気で怒らせたってことだよ」

 

司の眼つきが一瞬にして変わった。いつものクールな表情が獲物を狙う悪魔のようなキリっと睨み付けるような眼つきに変わった。その醸し出す雰囲気を和希は、すぐに察した。

 

和希「彼の顔つきが変わった!」

 

葉山「なんだと?」

 

和希「いや、それだけじゃない醸し出すオーラがさっきまでの和やかなものとはまるっきり違う」

 

アリス「どうやら、あれが司先輩の本当の姿みたいね」

 

黒木場「くそ、なんだこのどす黒い威圧感は?」

 

和希「まるでこれじゃ支配者? いや、天帝の独裁者だ」

 

司は、さっきまでの華麗な動きから一変して豪快な手付きでメインである熊肉を調理し出した。彼は捌いた肉の表面にペースト状の何かを塗りだし、その肉を温めておいたフライパンにのせた。会場全体に香ばしい香りが充満し、観客を魅了する。

 

葉山「この匂いはホーリーバジル!」

 

黒木場「ホーリーバジルって選抜でお前が使ったアレか?

 

葉山「ああ、どうやら司先輩肉にホーリーバジルを何かとペーストにして塗りやがった」

 

アリス「この強い香ばしさは肉の油の甘さと火入れによるものね」

 

和希「いや、それだけじゃないみたいだ」

 

司は、手元にワインを持ちだした。

 

葉山「まさか!」

 

司は蓋を開けたワインを手元のフライパンの肉にかけフランベにした。

 

葉山「そんなバカな!」

 

アリス「何よ! いきなり大声出して」

 

和希「ありえないよ! あんなの」

 

黒木場「どういう意味だ?」

 

葉山「ホーリーバジルは香りを際立出せるのに有効なスパイスだがリスクもある。香りが強い分、そのまま癖や味の強いものにつければ確実に喧嘩する。しかも、あんなワインなんてかけるのは普通なら御法度だ」

 

和希「恐らくペーストの何かに鍵があるんだ」

 

会場全体がさっきよりも強い香りに支配される。その瞬間、匂いを嗅いだ創真がその場に崩れ落ちる。

 

(ドクン)

 

創真「・・・・なんだ今の!」

 

黒木場「どうした幸平・・・・」

 

(ドクン)

 

戦況を見守るみんなにもその異変が遅れてきた。

 

葉山「何だ! この刺激されマヒするような誘惑は?」

 

スタンドのみんなにも同じことが起きていた。

 

【スタンド】

 

吉野「何、いま心臓が破裂するような鼓動が?」

 

榊「まさか、司先輩の料理の香りが?」

 

アルディーニ「そんなことがあるのか?」

 

【メインステージ】

 

司「幸平、どうだ快感だろう?」

 

創真「何を仕込んだすか?」

 

司「何、お前の敗北への街道さ」

 

 

 

 

 

 




料理の知識はないのでこれらの作業はオリジナルというか創作です。


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漆黒の才

司の繰り出した物の正体は? 創真の反撃はなるのか?


創真「何だ! 脳が洗脳されるような感覚は?」

 

司「君はすでに僕のテリトリーの中さ」

 

【旧遠月ベンチ】

 

和希「ここでこれだけの誘惑だ。創真は、相当なモノを喰らってるはずだ」

 

アリス「まさに食という名の凶器ね」

 

葉山「しかし、この香りを際立出せてるものの正体はなんだ?」

 

アリス「えりなあんた神の舌の持ち主でしょ?」

 

えりな「それは、食べた時にしか使えません。(それに葉山くんでも嗅ぎ分けられないものなんて私にも想像がつかない)」

 

【中枢美食機関ベンチ】

 

叡山「なあ、司先輩ってあんな怖い顔したか?」

 

紀ノ国「私に聞かないでよ」

 

すると二人の横で茜ヶ久保が震え出した。

 

茜ヶ久保 「あんな司くんを見るの久しぶり・・・・」

 

斎藤「ちょっとまずくないかこれ?」

 

薊「君たちは何を言ってるんだい?」

 

全員「えっ?」

 

薊「最高のシチュエーションだよ。彼を叩き潰すにはより地獄を味合わさないと」

 

【スタンド】

 

田所「なんか司先輩・・・すごく怖いよ」

 

(怖いなんてもんじゃねえぞ)

 

恵の席は端で、横は通路だが、誰かの震えるような声が聞こえる

 

田所「竜胆先輩?」

 

そういえば小林竜胆は中枢美食機関派だが、試合中姿を見ていなかったことを恵みは思い出した。

 

小林「なあ、田所ちゃん・・・司、いつからあの状態に?」

 

田所「ついさっきですけど」

 

小林「田所ちゃん、すぐに幸平たちを止めるんだ」

 

田所「えっ!・・・でも、まだ・・・」

 

小林「このままだと幸平は司に殺されるぞ」

 

新戸「それは、どういう意味です小林先輩?」

 

小林「今は、それどころじゃねえ。お前らもついてこい」

 

竜胆に従い田所と新戸はメインステージに向かった。

 

吉野「ちょっと恵?」

 

伊武崎「死ぬってどういうことだ?」

 

水戸「料理で人を殺すってただ事じゃねえぞ」

 

三人は大慌てでステージへの入り口に駆ける。

 

【メインステージ】

 

創真(なんだこれ・・・体が動かねえ・・・そして脳内に司先輩が!)

 

葉山「大丈夫か幸平」

 

和希「しっかりしろ創真」

 

小林「お前ら、早く幸平をステージから降ろせ」

 

和希「あんたは!」

 

アリス「竜胆先輩じゃないですか!」

 

黒木場「お前は、セントラルの人間だろうが?」

 

小林「てめーら幸平を死なせたいのか?」

 

全員「!!」

 

田所・新戸「先輩早すぎです」

 

アリス「田所さんに秘書子ちゃん?」

 

新戸「司先輩は幸平を精神から潰す気だと竜胆先輩が」

 

和希「やはり、それがこの香りの誘惑の真の狙いか」

 

竜胆は反対側のベンチにいる薊に直談判しに行った。

 

小林「薊総帥、すぐに試合を中止させてくれ」

 

しかし、薊はあざ笑いながら答えた。

 

薊「やめる。何をおかしなことを言っているのかな竜胆君」

 

小林「このままじゃ料理で死人が出るぞ」

 

薊「この程度で死ぬなら彼もそこまでとういうことだ」

 

みんな一斉に薊を睨み付ける。

 

小林「あんたそれでも指導者か?」

 

薊「君はこちら側の人間じゃないのかね?」

 

小林「いくらなんでもこれはやりすぎだ。幸平はおろか司も壊れるぞ」

 

薊「彼の才能は発揮されてこそ意味があるのだよ。あの華麗な腕もぴか一だが相手を屈服させる。まさに支配者の何ふさわしいとは思わないのかい?」

 

竜胆は、何も言えず自分の愚かさを責めるように拳を握った。そんな彼女の肩を誰かがポンと叩いた。

 

和希「あなたは、救いようのない人間のようですね。立て、立つんだ創真」

 

和希の声がかろうじて幸平に届く。

 

和希「お前はこんなところで負けていいのか? お前が負けたら料理界の希望の光が閉ざされるんだぞ」

 

創真(分かってる。分かってるが)

 

司「無駄だよ一ノ瀬和希。幸平の心は完全に僕の手の中さ。僕の支配する漆黒の闇の道に迷い込んだだからな」

 

 

 

 




かなり司先輩をダークのイメージで書いてみました。今回の「死」の意味は次話明らかに


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芸術と破滅

司の行為を凶器として恐れる竜胆。しかし、薊はそれを分かったうえで続行させる。彼女のいう「死」の意味とは?


小林「司、もうやめろ。そんなことしても何にもならない」

 

葉山「あんたセントラルの人間だろ。なぜ幸平を守ろうとする?」

 

小林「一年の時に司は今と同じことをして生徒を自殺未遂に追い込んだんだ」

 

黒木場「自殺だと?」

 

アリス「嘘でしょ?」

 

和希「戦意喪失を招くこの料理は同時に相手のプライドや生きがい、はたまた料理人としての自信や誇りをも根こそぎ喪失させる。そんなところですか?」

 

小林「ああ、その通りだよ」

 

和希「もしやその人の名前って、紅 雪斗では?」

 

小林「お前どうしてその名前を?」

 

みんな名前を聞いたとたん不思議な顔する。どうやら知ってる人は、ごくごく少数のようだ。

 

葉山「お前、なんか知っているのか?」

 

和希「紅先輩は、僕の転入前にいた学校に転入してきた。僕の師匠さ」

 

小林「お前の師匠?」

 

【ステージ上】

 

するとむくっと幸平がふらつきながら立ち上がった。そして、作業に戻った。

 

司「まだ動けるのか幸平。感心するよ」

 

【ベンチ】

 

和希「師匠は、俺に料理のことを教えてくれる前は確かに身も心もボロボロだった。最初は、取り合ってもらえなかった。だが、どうしても料理を食べてほしくて」

 

小林「ちょっと待て、あいつ今も料理学校にいるのか?」

 

アリス「あれの前にいた学校もうちと同じ料理学校みたいだし、そうなんじゃない?」

 

和希「いや師匠は、料理人の道はもう諦めたよ」

 

小林「じゃあ、どうして」

 

和希「僕は師匠が寮の図書館で夜な夜な勉強しているところに夜食を持っていったです。師匠もさすがにお腹が空いていたみたいでちゃんと食べてくれました。その時、彼は言ってくれたんです」

 

【回想】

 

紅「お前の料理あったかいな」

 

和希「作り立てですかから」

 

紅「いや、そうじゃない心が安らぐということだ。料理って本当はこうであるべきなんだよな」

 

和希「何があったんですか先輩?」

 

紅「料理対決で初めて負けたんだ。そいつは芸術力に溢れる奴で俺の憧れでもあった。一回目の対決は俺が買ったが、差なんてほとんど無かった。

 

和希「そんなすごいんですか?」

 

紅「だが、あの戦いを境に奴の料理に芸術はあっても心はなくなってしまった」

 

和希「あの先輩、僕を先輩の手足にさせてください」

 

【現実へ】

 

和希「その時から経営者としてのコーディネートを自分が、それを形にするのが僕の役目だとね」

 

アリス「つまりは、料理人ではなく料理を伝える者として未来を掴んだと?」

 

和希「はい」

 

司「おしゃべりは終わりか。そんなこと今の僕には関係ないね」

 

小林「司、お前はそんな力に頼らなくても芸術を演出できる。紅の二の舞に幸平を潰したらお前は料理人としての心を光を失うんだぞ」

 

司「君は相変わらず甘いね。だから第2席に甘んじるんだよ」

 

創真「ふざけるな」

 

和希「創真!」

 

 

 

 

 




今回は、和希の正体を少し知ってもらう回にしました。設定は転校生ですが、創真くんとは幼少期に知り合いという設定なので遠月にて再開・共闘という形であり、このオリジナルストーリーでは司の同級生の弟子といった設定になっております。


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「許さねえ」

遂に創真くんが反撃? 圧倒的に劣勢に立たされる創真が吠える。


創真「アンタは料理を何だと思ってんだ」

 

司「言ったはずだ。料理は芸術だと、紅にはその才が無かった」

 

創真「だから、料理人の価値が無いと?」

 

司「自殺しようとしたのはあいつのしたことさ。まあ、そうだねあんな小粒に負けたことが僕は我慢できなかったってことだよ。庶民的な物で喜ばすあいつの低レベルな品にね」

 

創真「だったら証明してやりますよ。大衆・・・いや、人に愛される料理の強さを」

 

司「そうそれは楽しみだ。なら、僕も仕上げと行こうか」

 

司は、クリーミーなソースをフライパンの肉に流し込んだ。ふわっと包容力のような匂いが創真や会場のみなを襲う。

 

司「これが僕の帝王の羽衣だ」

 

葉山「また、匂いの爆弾かよ」

 

和希「まともに嗅ぐと精神が持たないねこれ」

 

司「完成、熊肉のロースト・ホワイトグラッセです」

 

司の作品は熊肉のローストビーフのような品にソースを西洋料理を基にしているように思える。審査員たちはソースも肉も絶賛したが、なにより評価が高かったのは、別の点にあった。

 

司「葉山、お前はホーリーバジルの弱点を知ってるよな。食してみろよ」

 

葉山(なんだと!)

 

葉山は、司の皿の料理に手を付けた。

 

葉山(これ! 全然ホーリーバジルと喧嘩してない。臭みはおろかくどさも全くない)

 

司「分かったか? 葉山」

 

葉山「ホーリーバジルに味噌と蜂蜜・・・そして果実類の何かをブレンドしたのが肉に塗った物の正体だな」

 

和希「味噌と果実ってことはまさか・・・使用した果実は」

 

司「リンゴを燻製にしてチップにしたもの混ぜたのさ。リンゴの酸味と甘みが臭みを消すため使った味噌と味の深みを出すためのワインのくどさをやわらげてくれたのさ」

 

創真「ぐっ」

 

司「さらに言うと、この組み合わせは匂いの爆弾を強化している。幸平、そこからでも感じるだろ?」

 

創真(司先輩、やっぱりさすがだ。俺の料理じゃ・・・)

 

創真は、再びその場に膝をつき崩れかける。しかし、そんなとき・・・

 

「立ちなさい幸平君」

 

創真(この声は?)

 

その声は、顔を真っ赤に紅潮させて眼を麗して戦況を見つめるえりなの姿だった。

 

アリス「えりな!」

 

えりな「あなた、私と戦いたいんでしょ。 こんなところで負けていいの?」

 

創真「な、薙切」

 

えりな「無様な姿を見せずちゃんと勝ちなさいよ。私の期待に応えなさいよ」

 

えりなは涙ながらに叫んだ。

 

創真(そうだ、俺はこんなところで立ち止まっちゃいけないんだ)

 

和希「えりなさんの言う通りだぞ創真。勝て、勝って学園をみんなの夢を守るんだ」

 

葉山「そうだぞ。幸平、お前との再戦が俺には残ってんだ」

 

アリス「私だってそうよ幸平君」

 

黒木場「根性見せろ幸平」

 

創真(そうだ。俺は一人じゃないんだ)

 

薊「何をいまさら」

 

城一朗「まだ気付かないの中村。創真の眼が変わったことに」

 

創真「目さめたぜ」

 

 

 

 




次回、創真のスペシャリテ登場


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勝負

みんなの声を励みに立ち上がる創真。彼のスペシャリテとは?


創真「ありがとなお前ら」

 

創真は、作業を再開する創真は作業中断前の時点でメインとなる食材を調理していなかった。

 

葉山「とは言っても、あいつさっきからなんかご飯と薬味やらスパイスやらの調理しかしてねえみたいだけど」

 

和希「いや、恐らくまだ出してないんだよ。メインの食材は」

 

すると、創真は冷蔵庫からある食材を取り出した。それは、豚ロースに木肌マグロ、カモ胸肉3つだ。

 

【スタンド】

 

吉野「あのカモ肉、私が幸平と用意した食材だわ」

 

水戸「そうなのか。実はあの豚の肩ロースも私が注文して幸平に」

 

伊武崎「でも、肉は同じだが特性としては異なるし、なぜ肉とマグロなんだ?」

 

汐見「いったい幸平君はなんの料理を作るのでしょう?」

 

シャペル「スペシャリテがテーマということは、あれらの品を一品として出すことは確かだが」

 

【メインステージ】

 

黒木場「おい、2種類の肉にマグロってあんな主張の強いもの使ったら・・・」

 

和希「あのマグロを取り寄せたのは僕だよ。それに創真の作ろうとしているもの何となくわかったよ」

 

えりな「和希君、幸平君は一体何を作るの?」

 

和希「それは、完成を楽しみしなよ」

 

創真は、まずカモ肉の処理から入った。先ほどの粉上のものをある液体に入れた。

 

アリス「どうやらカモ肉の臭み抜きは日本酒とスパイスをブレンドしたものね。そしてあの色からして、味噌も加えているみたいね」

 

葉山「だが、それだと王道すぎねえか」

 

新戸「葉山、王道ではないと思うぞ。幸平は恐らくスパイスの中に私が渡した薬膳の素材も調合している」

 

えりな「それは本当なの緋沙子?」

 

新戸「はい」

 

和希「てことは、創真はあの料理を主体としたスペシャリテをやはり作るつもりだ」

 

創真は、次に木肌マグロの調理にかかった。その時、創真はビンに入った黒っぽいものを取り出した。

 

【スタンド】

 

榊「あの入れ物、私が幸平君に渡した醤油麹」

 

アルディーニ「まるで幸平の奴、みんなの得意分野をパズルの如く一皿に組み入れようとしているのか?」

 

水戸「でも、あのメインになる3種の素材を一つにできるのか?」

 

シャペル「いや、一つだけある。それも水戸くん君が最も身近にしている形だ」

 

丸井「水戸さんの身近?」

 

【メインステージ】

 

作業をどんどん進める創真は、三種の材料の下処理を済ませると、3つのフライパンを同時にセットした。

 

葉山「フライパンを3つ同時に?」

 

田所「たぶん素材の質を落とさないようにするためだと思う」

 

アリス「肉や魚は常温だと傷みやすい。一つ一つやるとどれかが傷むは」

 

創真は、三つのフライパンを同時にさばく。それぞれ過程において多少の違いはあったがフィニッシュに向かう流れは同じだった。そして、幸平はご飯を丼に盛り付けた。

 

新戸「もしかして、幸平が作ってるのはかつ丼?」

 

和希「正解。ただ恐らくただのかつ丼じゃないと思うよ」

 

創真「お待ちどう。幸平特性三種のカツのフルコース丼だ」




完成したのはかつ丼! 大衆の料理を得意とする創真なら必然的といえば必然的か?
いよいよ勝負はクライマックスに


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反撃

創真の出したスペシャリテはカツ丼! 使用された木肌マグロ、カモ胸肉、豚の肩ロースがどう威力を発揮するのか?


(審査員たち)

 

「見た目は普通のカツ丼ですな」、「違いがあるとすれば卵が無く、マグロとカモ肉が加えられているぐらいですが・・・」、「ですが、何でしょうこの食欲を掻き立てる香りは」

 

【旧遠月ベンチ】

 

アリス「見た目などの第一印象は良いみたいね」

 

黒木場「ああ、だが勝負は味だ」

 

葉山「見た目は、普通のカツと変わらないからな」

 

和希「鍵は、あの容器の中身だね」

 

えりな「あの容器の中はタレかしら?」

 

和希「恐らくは」

 

創真「どうぞ。ソースはお好みでいいっすけど。マグロカツには左のを、カモ肉には真ん中のを、ロースカツは右のタレを使うのがおすすめっす」

 

(審査員たち)

 

「では、いただくとしましょうか」

 

審査員が一斉にかぶりつく。その瞬間に会場が異様な間合いに包まれた。

 

【スタンド】

 

吉野「どうなの? おいしいの?」

 

アルディーニ「分からない」

 

【メインステージ】

 

和希(創真、お前の皿に俺は賭けるぜ)

 

えりな(幸平君・・・あなたは私が認めた唯一の料理人よ。・・・絶対に勝って幸平君)

 

(審査員たち)

 

「これは、ただのカツ丼ではないですな」「これはカツをそれぞれ食さないと判断できませんな」「いや、それだけではないようですわ」「下のご飯にも仕掛けがありそうですわね」「では、再び」

 

審査員がしばらく食事を続ける。次の瞬間、審査員たちの眼つきが代わる。

 

審査員A「こ、これはそこらのカツにはない味だ」

 

司「な、何だと」

 

審査員B「この三種のカツと三種のタレこれらはそれぞれが品物の味を高めている」

 

審査員C「しかし、それらの引き立て役に一役買っているのは、この薬味を混ぜたごはんとカツの表面の味噌麹のようですね」

 

審査員D「この薬味は恐らく薬膳、この薬草が脂っこいカツの胃もたれを防いでくれています」

 

審査員E「だが、それでもこの迫力は表面に塗られた味噌麹の風味が三種のタレとマッチしていることだ」

 

【ベンチ】

 

アリス「わお、なかなか高評価みたいよ」

 

葉山「しかし、どういうことだ? 特に変わったことはしてねえはずなのに」

 

和希「調理的な部分は・・・ね」

 

田所「え、どういうこと」

 

新戸「幸平は、ここにいるみんなのそれぞれの長所を一つのさらにまとめたんだ」

 

和希「その通りだよ。新戸ちゃん」

 

えりな「幸平君のあのタレはおろし、赤ワイン、オイスターソースがベースとなった物をそれぞれ作っている」

 

和希「おろしダレは僕の和風ベース、赤ワインのソースは西洋の物でアルディーニ君と師匠である四宮さんの技術、オイスターソースは野菜をベースにする田所ちゃんの技術を使ってる」

 

黒木場「てことは、肉の調理自体は水戸のを?」

 

新戸「おそらくな」

 

アリス「ちょっと待ってよ。私やリョウ君や葉山君の技術はどこに?」

 

和希「葉山のスパイス技術は榊さんの麹と共に肉の香りづけや臭みどり、恐らくは表面に多く使われている。そして、アリスさんの分子技術は麹を肉に塗る過程に存在する」

 

アリス「何ですって」

 

えりな「麹は、原液ほどではないけど水分が多すぎるわ。カツを作るには水分を落とさないと」

 

アリス「もしや・・・」

 

葉山「一度急速冷凍し、常温に戻しながらゼラチンに近い状態にして塗ったんだろう。俺のスパイスやパン粉の接着の役目も含めて」

 

和希「創真のカツはジューシーな中身に対して表面の水分が見るからに少ない。つなぎに卵を使用していない証拠だ」

 

新戸「原理としては、少し唐揚げに近づけているな」

 

和也「その通りだ。でも、あれが本当の切り札だと思うよ」

 

創真「すいませんカツとご飯を少し残しておいてください。

 

 

 

 

 

 




さらに込められた想い、創真のカツ丼の切り札が次回炸裂


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隠し玉

高評価を出し続ける創真のカツ丼。しかし、彼には急須に隠された秘策がまだ残っていた。


和希「あの急須の中がカギになってると思うよ」

 

葉山「まさか!」

 

和希「そのまさかだよ」

 

黒木場「秋の選抜で見せた・・・」

 

創真「おあがりよ」

 

急須から丼に注がれたのは、熱々の透明な汁だった。

 

創真「カツ茶漬けっす」

 

【スタンド】

 

吉野「カツ茶漬け」

 

水戸「なんてことしやがる幸平」

 

一色「いや、創真くんは考えたんだよ。・・・究極な一手を」

 

【メインステージ】

 

司「幸平、そんなことをしたら表面がべたついてカツのサクッとした食感を台無しにするだけだろ?」

 

創真「ええ、確かに普通のカツなら・・・ですけどね」

 

審査員たちがカツ茶漬けを掻き込む。

 

審査員A「何だ。これは、まるでカツ丼ではなかったように思えてしまう」

 

審査員B「衣がかき混ぜることでご飯にうまくなじみさらに美味しさを増している」

 

審査員C「一体、この汁の正体は?」

 

創真「それは出汁として作ったもの。中には、野菜と魚介のブレンド出汁です」

 

審査員D「野菜と魚介のブレンドですって!」

 

審査員E「しかし、そんなんじゃ味のまとまりが」

 

和希「まとまりなら簡単にできますよ。ある調味料を混ぜれば、特にスープ系の物には」

 

えりな「まさか、コンソメのもとを入れたんじゃ」

 

創真「正解」

 

黒木場「そうか、魚介の出汁と野菜の出す出汁自体はフランス料理でも活用されることが多い。ポトフには野菜の出汁とベーコンなどの油とを結ぶ役目として使われる」

 

新戸「まさか、幸平がつなぎに麹を使い。マグロ、カモの肉をカツに加えたのもこの原理を生かした」

 

創真「うまみ成分を中質した一つのスープをひつまぶしの原理を応用したってことだ」

 

観客が創真のしでかした隠し玉に驚愕した。司もその場に固まった。

 

司「そんなありえない。僕の創造の領域を超える品を作ったというのか?」

 

審査員A「いやーこれはどちらも素晴らしいとしか言えんが」

 

審査員B「しかし、今回は一つの差が勝敗を分けることになるでしょう」

 

審査員C「みなさん、決心はついてるようですね」

 

司会「それでは、審査結果に移ります。審査員の方々はお手元のボタンをどちらかをお押しください」

 

新戸「この結果で遠月のすべてが決まる」

 

「両ベンチ」

 

両者監督が審査の結果を待つ。しかし、薊の様子がおかしい。妙に拳をいつもの力以上に握っているのに城一朗は気づいた。

 

城一朗「どうしたよ中村?」

 

薊「勝つのは私だ。私の作り上げた芸術があんなひよっこに崩されるものか」

 

城一朗「おっ、大した自信だな。だがな、天命を覆すことを諦めた奴に未来は訪れねえよ」

 

審査員の投票が一斉に掲示される。

 

 




次回、最終戦決着。どうなる遠月の未来


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結末と道

ついに最終戦が決着。勝利を手にするのは司か創真か?


司会「さあ、審査員の判定は?」

 

黒木場「うそだろ」

 

アリス「こんなことって」

 

電工掲示板には5対0の数字が・・・

 

司会「判定の結果、幸平創真選手の勝利。よってトータル3勝2敗で旧遠月軍の勝利」

 

【スタンド】

 

久我「や、やりやがったぜ創真ちん」

 

水戸「よっしゃー」

 

吉野「勝った。幸平たちが買ったよリョーコ」

 

榊「うん、奇跡みたい」

 

アルディー二「あいつ、やりやがった」

 

一色「信念を貫き、最後まであきらめなかった創真くんを勝利の女神は見放さなかった。いや、勝利の女神が見守っていたからこそ頑張れたと言ったほうが正解かな」

 

【中枢美食機関ベンチ】

 

叡山「うそだろ?」

 

紀ノ国「司先輩が負けた」

 

斎藤「しかも」

 

茜ケ久保「1票も取れないなんて」

 

薊「そ、そんなバカな」

 

【旧遠月軍】

 

城一朗「勝負あったな中村」

 

城一朗は、その場で勝利の余韻に浸る創真を眺めた。

 

城一朗(また、一回り大きくなったな創真)

 

創真「勝った! 俺が勝ったのか?」

 

そんな創真がぼさっとしている隙に誰かが駆け寄り飛びついてきた。

 

創真「うわ、わわわ」

 

ドスーン!

 

彼に飛びついてきたのは、もちろん薙切えりなだった。

 

えりな「バカ、心配したのよ」

 

えりなは、いつものように創真の静止を聞かずに襟元を掴んでブンブンと揺すった。たくさんの小言を交えて。しかし、創真は優しい顔つきで言った。

 

創真「わ、わりい。でも・・・」

 

創真が右手でピースサインをえりなに向ける。

 

創真「ちゃんと約束は守ったぞ」

 

すると、えりなは創真に思い切り抱き着いた。

 

えりな「何が約束を守ったよ。このバカ」

 

しかし、その表情には安堵と喜びが混じり合い。えりなの顔は幸せそうだった。

 

【一方】

 

司「負けた。この僕が負けた。・・・嘘だ。こんなのは嘘だー」

 

小林「司落ち着け」

 

司「うるさーい」

 

パチン!

 

司は竜胆を平手打ちにした。そして、頭を抱えながら喚きだした。

 

司「こんなの幻だ。俺が負けるはずがない」

 

和希「相変わらず惨めなもんだな」

 

そこには、和希と新戸の姿があった。

 

小林「一ノ瀬に新戸?」

 

和希「うぬぼれるのも大概にしろやこのアホが」

 

司「何だと?」

 

新戸「司先輩、確かに技術ではあなたの方が勝っていたでしょう。ですが、この戦いにおいて・・・いや、料理人として大切なモノをあなたは忘れてました」

 

司「一年が調子に乗るなよ」

 

司は、調理場の包丁を手に取った。普段の司からはありえない殺気を竜胆は感じていた。

 

小林「おい、一ノ瀬、新戸逃げろ」

 

司「一年が俺に説教するな」

 

司が包丁を振りかざす。しかし、それを和希は難なく腕を掴んで防いだ。

 

和希「新戸に包丁向けるとは、いい度胸してるじゃないですか先輩」

 

グッ・・・ゴキ・ボキ

 

司「ぐあーーー」

 

司は、腕を抑えてその場にうずくまった。ものすごく痛そうにしている。

 

和希「竜胆先輩すいません。軽く骨を折っちまいました。あとは頼みます」

 

和希は、司の横を通る際に一言残した。

 

和希「アンタが与えた痛みはこれ以上だぞ。本気で料理人としての心を取り戻したいなら痛みをこらえ、そして這い上がれ」

 

新戸は、和希についていこうとするが、その前に竜胆に言った。

 

新戸「すいません竜胆先輩。でも、あいつなりの先輩への思いやりなんです」

 

小林「ああ、分かってるよ。ありがとな新戸ちゃんもう行きなよ」

 

二人を見守りながら竜胆は、スッと司を抱きしめる。すると、司は痛みはあるもののいつもの優しい表情に戻った。

 

司「竜胆?」

 

小林「今は、何も言わなくていいよ」

 

そんな言葉に司は涙した。喜びと悔しさの入り混じった涙だった。

 

【創真たち】

 

アリス「やったわね幸平くん」

 

葉山「本当にお前には毎度驚かされるぜ」

 

黒木場「俺だったらもっとうまく作れるけどな」

 

田所「あれ? でも黒木場君試合に負けて・・・」

 

黒木場「ああん?」

 

田所「ひーごめんなさい」

 

そんな歓喜に暗く寒気を感じるオーラに創真は気づいた。えりなの父・薊だ。

 

薊「えりなは、渡さない。えりなはこの遠月の私の傑作。美食をしらない奴らに奪われてたまるか」

 

和希「懲りないねー、あのおっさん」

 

新戸「えりなさまお下がりください」

 

えりな「いえ、大丈夫よ」

 

えりなは、みんなを制して薊の下に近寄る。

 

えりな(私もけりをつけなくちゃ)

 

薊「えりな」

 

えりな「お父様。わたしは・・・」

 

ガシッ!

 

えりなが言葉を発しようとする前に彼女の手首を力いっぱい握る。

 

薊「よくも、よくも父さんに恥をかかせてくれたね。君には、もっと厳しい教育が必要なようだね」

 

えりな「ちょっと、離してお父様。私は勝ったんです。もうお父さんの操り人形にはならない」

 

その瞬間、薊の右手がえりなの頬をヒットする。

 

薊「父さんに口答えする気かえりな。私は、まだ負けてない。こんな奴らに負けてたまるか」

 

創真「てめーいい加減にしやがれ」

 

和希「勝負はついたんだ。何度やっても結果は同じだぞ」

 

薊「うるさい。分かってないなここは今や僕の城なのだよ。私こそ食の帝王・・・」

 

ガスン・・・

 

会場に鈍い音が響き渡る。そこに城一朗の姿があった。

 

薊「ち、血!」

 

城一朗「久々に俺も頭来たぜ中村」

 

薊「才波先輩!」

 

城一朗「てめーは、何一つわかっちゃいねえよ。料理のことも俺のことも創真のこともえりなちゃんのこともな」

 

薊「何ですって?」

 

仙左衛門「城一朗の言う通りじゃ」

 

えりな「おじいさま?」

 

仙左衛門は、えりなを起こしてくれた。そして、殴られた頬を優しく撫でた。

 

仙左衛門「よく、頑張ったな我が孫娘よ」

 

創真「薙切の爺さん」

 

創真が駆け寄ると仙左衛門がえりなをそっと創真の方へ送り出した。

 

仙左衛門「ここからはわしらの出番じゃ。幸平君よえりなを頼む」

 

創真は、えりなを支えるように抱き寄せた。

 

創真(分かってるよ。薙切の爺さん」

 

仙左衛門「薊よ、お前の野望もこれまでじゃ。即刻この学園から立ち去れ」

 

 

 

 

 




司に勝利し、中枢美食機関を下した創真たち。次週は遠月の行く末や創真たちの今後が明らかに


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行きつく先、新たなる船出

勝利を収めた旧遠月軍。しかし、薊はあくまでのえりなの支配を目論む。しかし、えりなの祖父・仙左衛門が薊を糾弾する。


薊「今さら何を言い出すか思えば、あなたは追放された身ですよ。いくら、足掻こうと無意味ですよ」

 

シャペル「さてそれはどうですかな薊総帥」

 

創真「シャペル先生!」

 

薊「あなたも私に逆らうのかシャペル」

 

シャペル「私は、初めからあなたの味方をしたつもりはない。それにこの食戟を以て十傑は総入れ替えとなる」

 

薊「そんな口約束を受理するとでも事務局から何まで今は私の意のままだ。十傑は私を支持している」

 

和希「そんなことだろうと思ったぜ」

 

薊「負け惜しみか?」

 

創真「和希?」

 

和希「シャペル先生、やはり・・・」

 

シャペル「そのようだな。出てきなさい」

 

控室の通路から一人の少女が顔をだした。綺麗な青色の髪の女の子だ。

 

創真「シャペル先生、その子は?」

 

シャペル「おや、知らないのか幸平くんたちも」

 

和希「俺の妹だよ」

 

アリス「妹!」

 

遥「一ノ瀬遥です」

 

薊「そんな小娘がなんだっていうんだ」

 

和希「おい、俺の妹を小娘とは、舐めた口きくじゃねえか」

 

遥「兄さん、それより例のことをお話ししても?」

 

和希「ああ」

 

遥「薙切薊、あなたは法人法違反及び教育違反に基づき遠月学園総帥を解任および料理業界の追放を通告します。なお、彼に同調した学生たちにも厳正な処分を課す」

 

薊「何だと!」

 

城一朗「どうやらやりすぎだったみたいだなお前も」

 

薊「そんなありえない。私以上の力を持つ者など今の料理業界には・・・」

 

和希「そりゃあアンタは知らねえだろ。俺のことも知らなかったぐらいなんだからな」

 

城一朗「和希くん、その説明は俺がしてもいいだろうか?」

 

和希「かみませんよ。むしろ城一朗さんから言っていただいた方が信憑性があるので」

 

城一朗「中村、神宮寺鋼って名前に聞き覚えがないか?」

 

薊「神宮寺・・・ま、まさか?」

 

城一朗「俺の一期上の先輩の遠月学園第一席だ。そして、和希くんはその息子だ」

 

全員(嘘だろ・・・)

 

薊「でも、名字が・・・」

 

和希「親父は探求心の塊でね。お兄さん、つまり俺の叔父が神宮寺家の総帥として料理協会の会長を務めてんだよ」

 

薊「な、何だと」

 

遥「私と兄さんは伯父様の指示で遠月の内偵を行うべく転入、潜入を行ったのよ」

 

創真「どおりでいきなりで変だと思ったぜ」

 

和希「悪かったな。黙ってて」

 

創真「お前は、いいけど・・・親父、知ってるなら息子にぐらい教えろよ」

 

城一朗「バカヤローそれじゃバレる可能性があるだろうが」

 

仙左衛門「生徒の心を弄び、卑劣な行為で逆らうものを追い込もうとした所業を神宮寺会長が見逃すはずがなかろう。お主の負けじゃ」

 

薊は、何も言えずにその場に膝真づいた。そして、和希直属のSPが薊を連行していった。

 

葉山「何は、ともあれこれで一件落着だな」

 

アリス「そのようね」

 

和希「遥、ごめんな中等部のお前に無理させて」

 

遥「いえ、しかし兄さんはこの学園に残るのですか?」

 

和希「ああ、そのつもりだ」

 

遥「分かりました。その趣旨は私からお父様と伯父様に」

 

和希「ああ、頼んだ」

 

創真「なあ和希、お前は遠月に残るのか?」

 

和希「お前と高みを目指すのも悪くないと思ってな」

 

葉山「おいおい、新手のライバル出現か?」

 

アリス「名家の生まれだからって手加減はしないわよ」

 

田所「でも、ライバルは多い方がいいと思う」

 

えりな「そうね。私たちで切り開きましょう。新しい遠月の歴史を」

 

一色「その心行きに僕も賛成だよ」

 

創真「一色先輩」

 

一色「ただここから重大問題だよ。現在は総帥も十傑も暫定的に不在だ」

 

創真「うーんと、それはつまり」

 

和希「俺たちが主導のもと新たな組織を構築する必要があるが、現時点でその効力を持つのは薙切の直系で現十傑のえりなさんを中心に行う必要があるということよ」

 

えりな「わ、私が?」

 

アリス「当たり前でしょ。アンタは仮にも十傑なんだから」

 

一色「薙切君」

 

えりな「はい?」

 

一色「君は、もう一人じゃないんだよ。一人だと思わず僕や創真くんを含めたみんなでこの急場を乗り切ろう」

 

えりなは、不思議な感覚からかしばらく固まってしまった。しかし、彼女の緊張を解すように創真がえりなの肩に手をのせる。

 

創真「変えようぜ。俺たちで遠月の未来を」

 

えりな「うん」

 

 

 




遂に決着。中枢美食機関は崩壊し、次回はいよいよ新体制発足


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旅立ち編
転機と変化


遠月は、薙切薊追放により元の平穏が戻った。しかし、十傑が解体となり学校としての体制の整理が即急に片づけなければならない。果たして創真たちの今後は?


食戟から数週間がたった。遠月では、授業は、一部の科目を除き再開されていた。というのも薙切薊による人員で揃えられていた体制のまま授業を行うわけにもいかなったからだ。

 

【薙切家の車】

 

創真「まだ、つかないのかよ?」

 

えりな「何度もしつこいわね」

 

和希「まあまあ、これも仕事なんだし、我慢してくれよ創真」

 

創真「にしても俺たちじゃなくてもいいだろ。それに薙切んとこの爺ちゃんがいれば十分だろ」

 

仙左衛門「わしの一存ですべてを決めては、薊と同じことの繰り返しだ。裁きを行うのは勝負に勝ったものの権限。かつての十傑は、そのためにわしが作り上げた制度じゃ」

 

和希「ついたみたいですよ」

 

みんなが車から降りる。目の前にはデーンとそびえる立派なビルがあった。

 

創真「相変わらずこういう雰囲気苦手だわ」

 

すると、正面から誰かが出てきた。和希の妹の遥だ。

 

遥「皆さま、遠いところお疲れ様です」

 

創真「おう、和希の妹じゃん」

 

和希「すまないな遅くなった」

 

遥「いえ、さあ中へどうぞみなさん上の階でお待ちです」

 

遥に案内され、4人はビルの10階まで上がり会議室と書かれた部屋に通された。

 

遥「遠月学園の皆さまがご到着しました。皆さんは、あちらのプレートの席にお座りください」

 

男「久しぶりですね仙左衛門殿」

 

仙左衛門「懐かしい顔じゃな・・・神宮寺鋼いや一ノ瀬鋼殿」

 

鋼「まさか、あなたほどの指導者が薙切薊に出し抜かれるとは驚きでした」

 

仙左衛門「それだけわしも老いたということじゃ」

 

鋼「時代が代わったということですね。それでは、始めましょうか兄上?」

 

湊「お初にお目にかかります。鋼の兄で料理協会会長・神宮寺湊です。これより、査問会議を始めます」

 

鋼「大まかな内容は、和希・遥を通じて私の耳に入っております。しかし、調査が遅れたこともありすべてをこちらでも把握し切れてはいません。なので今回は、直接的な関わりのある3名に事情聴取という形で起こしいただきました。

 

会議は、2時間に渡って行われた。主な議題は、生徒の強制退学や授業による教師による妨害行為、総帥による横暴な人事、十傑による権力の乱用であった。

 

湊「長い時間ご苦労様でした。今回の件はことの重大さを考慮し、関与した者の処分は協会の合議を以て行うことなりますのでご了承ください」

 

仙左衛門「異論はない。こちらが招いたこと手を煩わせ申訳ない」

 

しかし創真は、どうしても一つの疑問が拭い去れなかった。

 

創真「あの一ついいっすか?」

 

湊「なんだね?」

 

えりな「ちょっと幸平君、ここは神聖な場所よ。少しは・・・」

 

鋼「構わないさ。ここは事情聴取の場、何か重要なことかもしれないからね」

 

創真「ありがとうっす。処分って十傑やセントラルの生徒も対象になるんすよね」

 

湊「まあ、そうなるだろうな。しかし、仮にも学生相手にそこまで非常な処分はしない方針だが、彼らのやったことには許しがたいこともあるゆえ相応な処罰は下されるだろう」

 

創真「俺たちが、処分を望まなくても無駄ってことっすね」

 

鋼「創真くん、処分ということは切り捨てることばかりではない。もう一度やり直す機会を与えることでもあるんだよ。彼らは一度すべてを失うかもしれないが、それは、0になるだけでずっと変わらないわけではない」

 

和希「本人の心がけ次第ってことだ創真」

 

創真「分かりました。どうかよろしくお願いします」

 

そんな熱い創真を仙左衛門は関心して見ていた。そして、会議は終わり一同は帰宅の準備をした。

 

遥「仙左衛門様、ちょっとよろしいでしょうか?」

 

和希「どうした遥?」

 

遥「お父様が仙左衛門様と二人でお話がしたいので皆様を神宮寺家の車で送るようにと湊伯父様に言われました」

 

仙左衛門「分かった。えりな、創真くんたちは先に帰ってなさい」

 

えりな「分かりましたお爺様」

 

【遠月・極星寮】

 

極星寮の仲間と薙切アリスや黒木場たちが創真とえりなたちの帰りを待っていた。

 

創真「ただいま」

 

吉野「幸平、協会に呼び出されたって本当! この学園潰されちゃうの?」

 

えりな「どこでそんなこと聞いたのよ」

 

榊「授業は、再開したけどセントラルに属した人は謹慎中でいないし、休講の授業もあって」

 

伊武崎「学園中が重苦しい雰囲気でそういう噂も立つんだろう」

 

葉山「で、どうなんだ幸平」

 

和希「特に学校の存続には触れてないよ。なんせ理事は僕の身内が大半だからね信じていいよ。ただ、論点になったのは今後の学校運営を誰かの監察の下でやるのか、新体制敷くのかは分からないし、造反者の処分も決定していない」

 

新戸「つまりは、まだ初期段階ってことか」

 

一色「でも、そんなに大事には協会もしたくないはず。きっとなるようになるよ」

 

その頃・・・

 

【とある料亭】

 

仙左衛門と和希の父・鋼はとある料亭に入っていた。

 

鋼「こちらです。仙左衛門様」

 

城一朗「遅いじゃねえか。鋼先輩に爺さん」

 

鋼「城一朗、いい加減に総帥を爺さんって呼ぶのやめろよ」

 

仙左衛門「構わんさ。こやつには今回は借りがある」

 

3人は酒を酌み交わしながら思い出話をしながら食事をした。だが、本題が別にあることを城一朗も仙左衛門も気づいていた。

 

城一朗「先輩、食事をご馳走するためだけに個室まで用意した訳じゃないんだろ?」

 

鋼「相変わらず喰えない男だな」

 

仙左衛門「前置きは、いらん。 遠月のことで遠慮しているのなら構うことはない申してみよ」

 

鋼「そうですね。では、三つほどに分けて説明しましょう。まずは、学校運営の件ですが、今回の件で遠月には監察官を配備し、運営の監視を行うことがほぼ確実となっています。同時に、二つ目として人事も薊政権の配下の教師は解雇および業界からの永久追放は免れない様子です。さらに、深刻なことを言うと十傑の処分は、特に厳しいものを突き付けられるでしょう。制度の問題も含め権力の乱用にもつながることなり、特に生徒を退学に追いやる狩り行為は、どうしても見逃せない案件となっているようです」

 

仙左衛門「そうか」

 

城一朗「爺さん落ち込むことはねえよ。どうせアンタのことだ、手は回しているんだろ?」

 

鋼「はい、今日は3つ目の案件に関してが最も重要なことです」

 

鋼は、書類とパンフレット開き二人に事細かく説明した。

 

仙左衛門「なるほど、お主は遠月を・・・」

 

鋼「今までのままというのは、難しいかもしれませんが全力を尽くします」

 

城一朗「でもいいのか爺さん? これを実行すれば・・・」

 

仙左衛門「心配はしておらん。それにあの子たちのためになるのなら協力は惜しまぬ」

 

【遠月・極星寮】

 

新戸「仙左衛門さま、なかなかお戻りになりませんね」

 

えりな「何かあったのかしら?」

 

和希「大丈夫だよ。親父は、話し出すと長ったらしいから遅くなってるだけだよ」

 

キーン・コーン・・・と極星寮の呼び鈴がなる。

 

田所「はーい・・・創真くんのお父さんに総帥」

 

城一朗「恵ちゃん、遅くにすまないな」

 

田所「いえ、どうぞ。創真くんもえりなちゃんも中で待ってます」

 

城一朗「爺さん、今日のところはえりなちゃんを連れて帰ってくれないか? 創真と二人で話がしたい」

 

仙左衛門「分かった」

 

田所は、えりなを呼びにリビングに向かった。

 

田所「えりなちゃん、総帥が向かいに来たよ。今日は、一緒に帰るって」

 

えりな「そう、分かったわ。行くわよ緋沙子」

 

新戸「あ、はい」

 

しかし、新戸はすれ違いざまに田所に耳元に質問した。

 

新戸「田所恵、総帥は何か言っていたか?」

 

田所「総帥は何も、ただ、創真君のお父さんも一緒にいて、創真君と話したいから連れて帰ってくれって」

 

新戸「何?」

 

えりな「緋沙子、どうしたの?」

 

新戸「い、今行きす。ありがとう田所恵」

 

田所「・・・あれ、そういえば創真くんは?」

 

丸井「そうえば、さっきから姿が見えないな」

 

和希「たぶん、部屋にいるよ」

 

葉山「まあ、何にしろ今日はもう遅い俺は失敬する」

 

アリス「私たちも引き上げましょうか。リョウ君」

 

黒木場「うす」

 

タクミ「では、僕たちも失礼するよ」

 

榊「うん、何かあったら伝えるわ。多分、決定事項は和希君に聞いて方が早いしね」

 

そうして、極星寮以外のメンツは帰って行った。

 

【創真の部屋】

 

創真は、何やら暗い部屋で胡坐をかき腕組みしながら何かを考えていた」

 

すると、突然部屋の電気がついた。

 

城一朗「おいおい、この部屋は誰かの葬儀会場か?」

 

創真「親父! 薙切のところにいたんじゃ?」

 

城一朗「ちょっとおめえに話があってな」

 

創真「なんだよ話って?」

 

城一朗「いや、お前にとっては悪い話ではない」

 

城一朗は、ある封筒を創真の前に出した。中にはパンフレット書類が入っており、そこには、国際料理留学と書かれている」

 

創真「留学?」

 

城一朗「そうだ。世界各国を飛び回り様々な文化や環境にふれあい料理を学ぶプログラムだ。和希君の親父がお前にって進めてくれたんだ」

 

創真「へえー面白そうじゃん」

 

城一朗「ただし・・・」

 

次の瞬間、城一朗の眼が真剣になる。

 

城一朗「留学すれば、ほぼ100パーセント第1席にはなれなくなる」

 

その言葉に創真は衝撃を受けた。

 

創真「それってどういうことだよ親父?」

 

城一朗「この留学は長期にわたる物だ。プログラムを終えるのに早くても2年はかかる。細かいことを追求すればもっとかかるだろう。お前が、遠月の1席に執着するっていうなら俺は止めない。だが、今回の司君のように固執し過ぎて周りが見えなくなればお前も同じになる。かつての俺のようにな。だが、決めるのはお前だゆっくり考えて結論を出せ」

 

急なことで創真の頭の中は混乱した。しかし、一点だけ城一朗に確認をした。

 

創真「親父、これは俺だけなのか?」

 

城一朗「いや、それはまだわからん。だが、えりなちゃんは行けないぞ。薙切のお嬢様である。彼女が長期に渡り日本去ることは料理界にもリスクがある。これは、俺の考えだが、えりなちゃんは遠月にいることが今の最善な道だ」

 

その頃・・・

 

【薙切の屋敷】

 

えりな「お爺様、今なんと!」

 

アリス「えりな・・・」

 

仙左衛門「幸平創真は、恐らく留学することになるだろう」

 

 

 

 

 

 

 

 




突如告げられ、困惑する二人果たして二人の胸中は? 次回は二人の心境も明らかに


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選択肢

創真とえりなそれぞれの想いとは? 本日前篇


えりな「幸平君が留学!」

 

仙左衛門「わしもそれには、同意している。遠月の代表として彼に行かせようと思っておる」

 

えりな「そんな学園のためなら私も・・・」

 

仙左衛門「えりな、お前の気持ちはよく分かる。だが、今の遠月においてお前は必要な存在になりつつある。我が遠月の信頼失墜し、先行きが不透明である。お前には料理業界を背負う薙切家の宿命は避けられぬ」

 

えりな「ですが、お爺様・・・」

 

仙左衛門「しかし、それでも行きたいというのなら薙切の家を捨てる覚悟をした時じゃ」

 

アリス「お爺様、それはいくらなんでも言い過ぎ・・・」

 

アリスが言葉を言い終える前にえりなは部屋を走り去った。あとを新戸が追う。

 

アリス「お爺様、アリスは・・・」

 

仙左衛門「分かっておるよアリス。だが、えりなも成長しなくてはならない。そのためには仕方ないのじゃ」

 

アリス「お爺様」

 

その頃、えりなは部屋に閉じこもったきり出てこない。新戸が何度もノックをするも返事が無い。

 

新戸(どうすればいいんだ?)

 

【極星寮】

 

寮では、その日一日創真は留学の件を考え続けていた。気づくと夜明けになっていた。

 

創真「もう、朝か」

 

すると、創真のスマホのバイブが部屋中に響く。

 

創真「新戸! はいもしもし」

 

新戸「幸平、えりな様はそっちに来てないか?」

 

創真「いや、俺一日中起きてたけど来てねえはずだぞ」

 

新戸「いないんだお屋敷に」

 

創真「えっ!」

 

新戸「なあ、幸平お前本当に留学するのか?」

 

創真「どうしてそれを?」

 

新戸「総帥から聞いた。まあ、そのことは今いい。えりな様を探すのを手伝ってくれ」

 

創真「ああ、分かった」

 

創真は、寮を飛び出しえりなを探しにいった。えりなが来るルートを彼は逆から辿っていった。しかし、彼女は見つからない。そこで創真は、えりなの屋敷への近道のルートを進んだ。するとその途中で・・・

 

えりな「きゃっ!」

 

創真「今の声」

 

えりな「いたたた」

 

茂みをかき分けて進むと尻餅をついたえりなの姿があった。

 

創真「薙切、こんなところで何してるんだよ」

 

えりな「あなたこそ何で?」

 

創真「新戸からお前が居ないって連絡があったんだよ。立てるか?」

 

創真がスッと手を出すと、えりなは手を掴み、創真の手によって起こされた。

 

えりな「ありがとう」

 

創真「お前、膝から血出てるぞ」

 

えりな「平気よこれくらい」

 

創真「バカヤローすぐ殺菌しないとまずいだろ。背中に乗れ、近くに寮の水場がある」

 

創真は、えりなをおぶって水場に向かった。着くとすぐ薙切の足に汲んだ水を少しづつ傷口に垂らし砂などを洗い流した。そして、いつも巻いてるタオルを膝の止血に巻いてくれた。

 

創真「これで良しと血が少し止まったら寮に行ってちゃんと手当てするぞ」

 

えりな「ありがと・・・ねえ、幸平君。海外留学するって本当?」

 

創真「ああ、そのつもりだ」

 

えりなは、正直その場でショックを受けた。元々、彼に恋心を抱いたりしている訳ではないと自分には言い聞かせている。でも、胸の鼓動が止まらない。むしろこんなにドキドキしたのは初めてではないか。

 

えりな「あなた遠月の十傑に入るんじゃなかったの? 私に勝つんじゃなかったの?」

 

創真「質問攻めかよ。確かに悩んだよ。でも、俺は料理の世界をもっともっと知りたい。そして自分の未知なる高みに挑戦したいんだ。できれば最後までお前と競いたかったけど、お前には薙切の家があるからな。まあ、俺がいなくなってもがんばれよ」

 

えりな「バカ・・・」

 

えりなは、声を震えさせて、目を涙目にして言った。

 

えりな「幸平君のバカ、私の気持ちなんて何にも分かってないくせに」

 

そういうとえりなは、走り去ってしまった。

 

創真「お、おい薙切」

 

和希「あーあ、女の子を泣かせたな創真」

 

木の陰から和希がスッと現れた。

 

創真「お前、こんなところでなにしてんだよ」

 

和希「お前が朝飯になっても戻ってこないから探しに来たんだよ」

 

和希は、創真に近づき彼に言った。

 

和希「創真、お前は本当にそれでいいのか?」

 

創真「何が?」

 

和希「えりなちゃん、本当は引き留めたかったんじゃないの留学を」

 

創真「バカ言いうなよ。あいつには、薙切の家があって料理界のこともある。俺が振り回すわけにはいかないだろ」

 

創真は、そういいながらせっせと行ってしまった。

 

和希「なるほど、そういうことか」

 

彼は、ポケットからスマホを取り出し、ある人に電話した。

 

和希「ちょっと頼みがあるんだけど」

 

 

 




次回は、創真とえりなの想いの結末が・・・


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意志

お互い心の奥に秘める思いを言えずにいる創真とえりな。しかし、創真の留学までに残された時間は少ない。果たして二人の決断は?


えりなは、屋敷に戻ると自分の部屋に駆け込んだ。そしてベットに顔を埋め泣きじゃくった。

 

えりな「バカ、バカ、幸平君のバカ」

 

そんなえりなの鳴き声を新戸はドア越しに聞いていた。

 

新戸(やはりえりな様は、幸平が・・・)

 

【極星寮】

 

佐藤「お代わり」

 

青木「てめーはゴリラか。バクバク何杯喰う気だよ」

 

佐藤「なんだと?」

 

吉野「もう、食事中ぐらい静かにしなさいよ」

 

創真「ご馳走様」

 

一色「創真くん、もういいのかい」

 

創真「はい、食欲なくて」

 

榊「珍しいわね。量はともかく食欲がないなんて」

 

伊武崎「朝なんかあったんじゃにのか?」

 

和希「今は、そっとしといてやろうよ」

 

創真は、自分の部屋の床に横になりながら考えていた。

 

創真(薙切の奴、何であんなに怒ってたんだ?)

 

和希「女心は、ちっとは理解しろよ創真」

 

創真「和希!」

 

和希「親父からの連絡だ。明日、暫定的に十傑を選出することが協会で決まったらしい。その中にお前の名前も一応ある。だが、お前が留学する場合は変更の可能性もあるから覚悟はしとけとよ」

 

創真「そうか」

 

和希「なあ創真。お前は、どっちかでいいのか?」

 

創真「どういう意味だよ」

 

和希「俺には、留学も十傑も諦めたくないって顔に見えるぞ。お前がえりなちゃんって十傑における何かでも通じるものがあるんじゃないのか?」

 

創真「お前は、すべて見通してるわけか。その通りだよ」

 

和希「俺は、よく十傑のシステムはよくわからんし、お前は一席の司先輩に勝った。勿論、えりなちゃんをバカにする気はないがお前の実力派十分証明できただろ」

 

創真「俺は、順位とかに興味はない。ただ、俺は薙切に美味いって俺の料理を認めてもらいたかった。入学試験からずっとあいつに認めてもらったことはなかったから、でも今回の件では俺に色々教えてくれた。俺の成長を支えてくれたのはあいつと言ってもいいぐらいさ」

 

和希「つまりは、恩を返したい。そういうことか?」

 

創真「そうとも言えるが、一緒に高みを歩みたいとも思った。でも、それは無理なことなんだよな」

 

和希「創真・・・」

 

和希には、創真が哀しそうに見えた。友として何とかしてやりたい。そう思った。

 

和希「創真、俺は神ではないが、お前の想いは受け取った。やれることはやってみるよ」

 

そういうと和希は部屋を後にした。

 

それから数日がたち創真たちは、一色に呼び出され遠月の会議室に呼ばれた。

 

一色「みんな来たようだね」

 

創真「一色先輩、それに女木島先輩に久我先輩まで」

 

えりな「一体、何をするつもりですか?」

 

一色「実は総帥・仙左衛門殿に頼まれたんだ」

 

水戸「総帥に?」

 

一色「決まったんだよ。協会から通達された新たな十傑が」

 

葉山「新たな十傑だと」

 

久我「それを今日ここでお前らに発表しろってお偉いさんに言われたわけ」

 

田所「でも、先輩たちも入れたら十人以上がここに」

 

和希「まあ、こそこそやられるよりいいんじゃない」

 

黒木場「お前、結果を知ってるんじゃないのか?」

 

和希「いくら協会委員の息子でも機密情報までは教えてくれないよ」

 

葉山「どうでもいいから早く発表してくれよ」

 

一色「そうだね。それじゃあ発表するよ」

 

一色は、封筒の封を切り書類を取り出した。そこには十傑の名前と詳細な選出理由が記載されている。

 

一色「第10席・田所恵、第9席・薙切アリス、第8席・黒木場リョウ、第7席・葉山アキラ、第6席・一ノ瀬和希、第5席・久我照紀、第4席・一色慧、第3席・女木島冬輔、第2席・幸平創真、そして第1席は薙切えりな・・・以上だ」

 

タクミ「ちょっと待て、なぜ幸平が第2席なんだ?」

 

えりな「そうです一色先輩。今回のことで学園を救った功績を考えたら幸平君が1位では?」

 

創真「いいんだよ。俺はほとんど十傑にはいないわけだし」

 

黒木場「どういう意味だ幸平」

 

一色「どういうことかな創真君?」

 

創真「俺、和希の親父たちの勧めで海外に料理留学するんす。当然十傑の責務は果たせない。なんで十傑も外してくれますか?」

 

すると、えりながささっと創真の目の前に立つ。そして、彼の頬を思いっきり引っ叩いた。

 

創真「薙切!」

 

えりな「どうしてよ・・・どうしてそうあっけらかんとできるのよ。あなた私を超えるんじゃないの? 遠月の頂点に立ちたいんじゃなかったの?」

 

アリス「幸平君、それを本気で言ってるなら私は許さないわよ」

 

タクミ「俺もだ。お前との決着もまだついていない。メッツァルーナは、今はお前が持ってるんだぞ」

 

和希「ちょっとお取込みのところいいっすか?」

 

創真「和希?」

 

和希「見損なったぜ。てっきりお前なら無茶覚悟でもらうかと思ったのにな。お前の志は、その程度だったのか。協会は、なぜ留学を進めたにも関わらずお前を十傑に入れたと思う?」

 

葉山「おい、それはどういう意味だよ」

 

新戸「一ノ瀬、もう言ってもいいんじゃないか?」

 

田所「新戸さん、何か知っているの?」

 

新戸「幸平、以前に一ノ瀬にこのことを問いただされたことがなかったか?」

 

その時、創真はあの時のことを思い出した。

 

創真「まさか・・・」

 

新戸「お前が留学するのに十傑に推薦したのも一ノ瀬さ」

 

みんな「何!」

 

一ノ瀬「創真、男なら腹を割って決めろ。お前はどうしたいのか。何のために留学をしたいのか」

 

創真は、しばらく黙り込んだ。するとえりなは創真の顔を両手で添え、くいっと自分の顔の前に上げた。

 

えりな「幸平創真、あなたの気持ちを教えて」

 

創真は、歯を噛みしめながら、そして涙をこらえるようにして言った。

 

創真「親父から留学の話があった時、それはとても嬉しかった。だけど、俺が悩んだのは十傑がどうこうじゃない。お前たちと・・・仲間と料理ができないこと、そして学園が元通りになってない状態で、それを放っておけなかった」

 

えりな「バカ、なんであなたがそんなに背負い込むのよ。学園は、あなたが救った。でも、それは私たちも救われたのよ。あなたを支えるために私たちはいるのよ」

 

葉山「そうだぜ。別にお前に振り回されてるわけじゃねえ。それに留学したって会えないわけじゃない」

 

アリス「そうよ。なんだったら食戟しに追いかけてもいいのよ」

 

新戸「幸平、お前がここにいるみんなは仲間だ。お前がいない間にその席を狙うやつは私たちが阻む」

 

田所「そうだよ。創真君は私たちの希望なんだよ。強くなって戻ってきてくれるために支えるのが友達でしょ」

 

和希「創真、2席はお前の席だ。言ってこう海外の技術を奪って来い」

 

すると、一色はふと笑い。創真の元へ歩み寄った。

 

一色「創真くん、夢をあきらめる必要はない。君なら2年かかるところでも1年で帰ってこれる可能性を秘めている。挑戦してきてよ」

 

えりな「私は、あなたが私に勝つまではこの席を譲らない。帰って来たら勝負しなさい」

 

創真「ああ、みんなありがとな」

 

 




今回は創真の秘める想いを告白。留学への決心を固めた創真だが、本心を言い切れないえりなは関係性に苦労することに、次回は創真とえりなの想いのクライマックス


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決意

※前回は量が多く完結しきれなく大変申し訳ありません。クライマックス延長戦をお楽しみください。



留学を決意した創真を送り出すためみんなは色々と準備を進めていた。しかし、えりなだけはまだ浮かない様子だった。

 

新戸「えりな様、少しいいですか?」

 

えりな「緋沙子、珍しいわね。あなたが意見を言うなんて」

 

新戸「単刀直入に申します。えりな様、幸平と一緒に留学してみてはいかがですか?」

 

えりな「どうしたのよ突然」

 

新戸「生意気なことを言っているのは、分かっています。ですが、えりな様は幸平の傍にいるべきだと私は思うのです」

 

えりな「それは、出来ないわ。私には遠月、つまりは一族の持つこの場所を守る使命があるの。それを放棄していくことで料理業界を含め多くの人に迷惑をかけることになるわ。今回の一件で私が関わることでもう犠牲は出したくないの」

 

新戸「幸平は、犠牲になったと本気で思っているのでしょうか?」

 

えりな「分からないわ。でも、彼のやることを邪魔する権利はないわ」

 

新戸「えりなさま」

 

えりな「ごめんなさい。今日はもう疲れちゃったから休むわね」

 

新戸「はい・・・」

 

新戸は、えりなが部屋を後にするのを確認してある者にメールを打った。

 

(ふーん、面白いことをしてるわね秘書子ちゃん)

 

後ろからぞっとするような感覚が新戸に走る。

 

アリス「はーい」

 

新戸「あ、あ、アリス嬢!」

 

アリス「そんなに驚かなくてもいいでしょ」

 

新戸「いつの間に来たんですか?」

 

アリス「秘書子ちゃんが真剣に長いメールを打ってる間に」

 

新戸(この人、くのいちなのか?)

 

アリス「それより彼と面白いことやってるみたいね」

 

新戸「み、見たんですか?」

 

アリス「秘密してほしければ、私に協力しなさい」

 

【極星寮】

 

極星寮では、創真の留学祝いが催された。しかし、創真は2週間後には出発する。創真を除くメンバーは丸井の部屋で出発当日について話し合っていた。

 

吉野「なんかないかな幸平がわっと驚くような送り出し方」

 

伊武崎「別に空港で普通に見送ればいいんじゃないか?」

 

青木&佐藤「それだと面白くないだろ」

 

丸井「だからって、何で僕の部屋で会議なんだよ」

 

すると部屋中に携帯の着信を響く。

 

榊「あら、これ和希くんの携帯だわ」

 

田所「そういえば、さっきから姿が見えないけど」

 

伊武崎「あいつなら幸平の部屋に行くって言ってでてったぞ」

 

佐藤「じゃあこっそり携帯の中、覗こうぜ」

 

すると携帯が佐藤の手から突然消えた。

 

和希「いい度胸してるね君たち」

 

和希は、笑いながら殺意を感じるオーラを放った。しかし、パッとメールに目をやると彼はふと笑った。

 

和希「悪い、ちょっと急用ができたんで会議の内容は追って知らせてくれるか?」

 

田所「う、うん」

 

そうする間もなく2週間はあっという間に過ぎていった。出発の前日、えりなの部屋に客人が来ていた。

 

【薙切家】

 

えりな「こんな時間にどうしたのよ。しかも珍しいコンビじゃない」

 

アリス「たまにはいいでしょ?こういうのも」

 

和希「まあ、俺は半ば強制的に呼ばれたんだけどね」

 

えりな「とにかく部屋に入って」

 

二人はえりなの部屋に通された。

 

えりな「で、どういう要件かしら」

 

アリス「ねえ、えりなって幸平君のことが好きなの?」

 

えりな「な、いきなり何を言うのよアリス」

 

アリス「やっぱりそうなんだ」

 

えりな「そんなことを聞きに来たの?」

 

和希「それもあるけど、僕は創真の親友として話に来たんだ」

 

えりな「どういうことかしら」

 

和希「えりなさん自身は留学に興味はないんですか?」

 

えりな「興味ないことはないけれど十傑の1席になった以上、長期不在というわけには」

 

アリス「相変わらず、堅いわねえりなは」

 

和希「これは、僕の私的な頼みですけど、創真と一緒に留学してはいただけませんか?」

 

えりな「一ノ瀬君?」

 

和希「憶測で判断すること好きではないのですが、創真が留学の件ではっきりしなかったのは、あなたが好きだったからだと僕は思っています。それに今回の薙切薊の一件は、あなた自身も深く傷ついた。それを放り出してあいつは行けなかったんだと思います」

 

えりな「本人の気持ちはどうか知らないけど、私が行ったら彼、また責任をかぶろうとすると思うの私はそうまでして一緒には・・・」

 

アリス「もう、あなたも煮え切らないわね。好きなら好きってはっきり言えばいいじゃない。なんでわざわざ突っ張るのよ」

 

和希「アリスさん、まだ僕の話の途中なんだけど・・もし、遠月グループのビジネスを心配されているなら、心配はありません。しばらく学園が再開するまでは僕の実家のグループが少なからずバックアップをします。えりなさんへの負担を減らすことに関しては仙左衛門様もご理解してくれています。それに留学もあなたと創真が一緒なら2年もかからないでしょう」

 

えりな「どういうことかしら」

 

アリス「鈍感ね。うちの1席と2席が留学の課題ごときでそんな掛かると思う? 幸平君一人でも、あのカリキュラムなら1年半もしないでしょうに」

 

和希「たぶん。創真のお父さんがあなたに余計な心配をさせたくなかったのでしょう」

 

えりな「城一朗様が?」

 

和希「遠月グループのえりな様の役割は格別なモノ。それが一庶民の学生について留学するなど業界関係者が納得するはずもないと考えたのでしょう。ただ、今回の件で僕も父親に相談して検討した結果、今後の遠月が独り立ちし料理業界をひぱっていくのならあなたと創真が高みを目指すことを反対する理由はないと僕とアリスさんは思います」

 

えりなは、しばらく黙り込んだ。すると、和希はポケットからある物を取り出した。

 

和希「創真が乗る便の航空チケットです。明日の13時の便であいつは出発します。時間はありませんが、一晩考えてみてください。では」

 

和希は、えりなの部屋を後にした。

 

アリス「えりなもちょっとは女の子らしくなりなさい」

 

アリスも一言残して部屋を後にした。帰りアリスは屋敷の玄関まで和希を見送った。

 

アリス「色々と協力してくれてありがとね」

 

和希「まさか、あなたに気付かれるとは思いもしませんでしたよ」

 

アリス「そうかしら、あなたも単純で秘書子ちゃんの時と他の人の態度が違ったから」

 

和希「そうっすか?」

 

アリス「でも、本当にえりなは乗ってくるのかしら?」

 

和希「強要することでもないですし、結局は、二人の意志次第です」

 

 

【極星寮】

 

極星寮では、創真が明日の出発に向け包丁を研いでいた。

 

和希「こんな遅くにも研ぐのか?」

 

創真「落ち着かなくてな」

 

和希「創真、お前はえりな様のことをどう思ってるんだ?」

 

創真「高い壁であると同時に一番喜ばしてやりてえ奴かな」

 

和希「喜ばしたいか」

 

創真「あいつには、料理をすべてまずいやらなんやら難癖しかつけられたことないからな」

 

和希「そのわりには嬉しそうだが?」

 

創真「今回のことであいつも寂しい想いをしたんだなと思ってな。あいつ、母親を早くに亡くして、親父は虐待まがいなことをする奴だろ。いつも冷たい目をしてた。でも、料理って戦う道具ではないだろ」

 

和希「まあな」

 

創真「その時、感じたんだこいつは一人で孤独と戦ってるんだなって」

 

和希「つまりお前は傍にいてやりたいんだな」

 

創真「うーん、そうなのかな」

 

和希「まあいいや。俺はもう寝るわ」

 

創真「ああ、お休み」

 

翌日、ついに創真の出発の日。えりなは祖父仙左衛門と朝食を共にしていた。

 

仙左衛門「今日は幸平君の出発の日だな」

 

えりな「はい」

 

仙左衛門「見送りには行かんのか?」

 

えりな「お爺様・・・」

 

仙左衛門「何じゃ?」

 

えりな「私も彼と一緒に留学させてもらえませんか。無理を承知で言っているのは分かっています。あれなら私を破門にしてくださってもかまいません。私は料理人として成長するには彼が必要なんです」

 

仙左衛門「本当に良いのか?」

 

えりな「はい」

 

えりなはひたすら頭を下げ続けた。すると仙左衛門は世話係から小さな箱を貰い中身を取り出し、えりなの首にかけた。

 

えりな「お爺様、これは」

 

お爺様「お前の母じゃ、一緒に連れていってあげなさい。お前の愛する人と高め合うその姿を娘は喜ぶはずじゃ」

 

えりな「お爺様」

 

新戸「えりな様、準備はできております」

 

えりな「緋沙子!」

 

新戸「すいません。アリス嬢たちと図ってしまいました」

 

仙左衛門「行くぞ。フライトに遅れてしまう」

 

えりな「はい」

 

 

 




長かったクライマックスも残すところあとわずかになりました。次回で創作一年生編は完結する予定です。


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好き

えりなは、仙左衛門と新戸の導きで急ぎ空港に向かっていた。

 

えりな「緋沙子間に合いそうかしら?」

 

新戸「ぎりぎりですね」

 

すると、新戸の携帯に着信が入る。

 

新戸「はい。ええ・・・ええ・・・わかりました」

 

えりな「緋沙子誰からかしら?」

 

新戸「すいません。高速には上がらず国道から空港に向かってください」

 

仙左衛門「何かあったのか?」

 

新戸「今、一ノ瀬から連絡があって高速はで事故渋滞が起きてるから国道を利用して、上がれそうであれば高速に上がれと」

 

仙左衛門「さようか。 間に合いそうか」

 

運転手「ええ、幸い今日は道も混んでないようなのでそれにさっき私のタブレットの方にも同じ内容のデータが送られて来たので、それどおりに目的地に向かっております」

 

新戸「とにかく急いでください」

 

【空港】

 

アリス「もう、えりなったら何してるのよ」

 

黒木場「お嬢、あまり騒がない方が・・・」

 

アリス「分かってるわよ」

 

田所「えりなさん来ないね」

 

タクミ「さっき一ノ瀬が連絡して向かってるとは聞いてるが」

 

創真「いいんだよ。あいつも忙しい身だし無理しなくたって」

 

空港内に創真の搭乗便のアナウンスが流れる。

 

創真「さてとそろそろ行くわ」

 

水戸「本当に行っちまうのか?」

 

葉山「幸平、お前としばらく戦えないのは残念だが力つけて帰ってこい」

 

タクミ「俺も忘れるなよ」

 

一色「創真君、君の検討を祈ってるよ」

 

創真「みんなありがとな」

 

すると空港に見覚えのある二人の姿があった。

 

司「幸平」

 

そう、かつての1席・司と2席の竜胆だ。

 

創真「司先輩に竜胆先輩」

 

竜胆「留学とは、やっぱりお前はおもしれえな幸平」

 

創真「先輩たちは、今どうしてるんすか」

 

竜胆「私たちは造反者。処分が決まるまで謹慎中さ」

 

司「でも、俺はお前と戦えてよかったと思っている。学園を仮に去ったとしても、またお前と勝負したい」

 

創真「先輩」

 

司がスッと右手を差し出し、握手を求めた。

 

創真「司先輩、俺成長して日本一の料理人になるっす」

 

創真は、出発のため保安検査場に向かおうとした。その時・・・

 

「幸平くん」

 

遠くから聞きなれた声が聞こえる。創真が振り返るとえりなが頬を真っ赤に息を切らしながら走ってきた。

 

創真「薙切!」

 

えりな「よかった。間に合って」

 

創真「別に無理に来なくても良かったのに。お前忙しい立場だろ?」

 

えりな「そんなの関係ない。私もあなたと一緒に行きたい」

 

創真「なっ! 何言ってんだよ。お前十傑の1席であり、薙切家の令嬢だろ。そんな勝手が通りわけが・・・」

 

新戸「幸平創真、えりな様の決心は本物だ。私からも頼む」

 

創真「新戸。まさかお前までくるとはな」

 

仙左衛門「幸平創真」

 

創真「薙切のじっちゃん」

 

仙左衛門「どうかえりなの願いを聞き入れてやってはもらえぬだろか?」

 

創真「でも、いいんすか? 俺なんかと一緒じゃじっちゃんの家に迷惑じゃ?」

 

えりな「どうして、どうしてなの? あなたは私と一緒じゃ嫌なの? 私が令嬢だからお荷物だから嫌なの?」

 

創真「別にそんなこと一言も・・・」

 

えりな「仕方ないじゃない。あなたのことを考えれば考えるほど胸が苦しくなるんですもの」

 

すると、創真はえりなのもとに歩み寄り頭に手をのせた。

 

創真「俺だって同じさ。なんかわかんないけど胸の中がもやもやした。ずっとそばにいるようで遠くて、遠いようで近くてを繰り返してよ。平気な訳ないじゃん」

 

えりな「そんなあなただから好きになったのよ。私を薙切の娘ではなく。薙切えりなとして見てくれたあなただから」

 

えりなの眼には嬉しさと寂しさが入り混じった涙がこぼれ落ちていた。

 

和希「創真、もういいんじゃないか?」

 

創真「和希」

 

和希「素直に自分のやりたいようにやっても、いつものお前らしくな」

 

創真「本当にお前は少しムカつくぜ」

 

すると、創真はえりなグッと抱き寄せていった。

 

創真「薙切、いやえりな一緒に来てくれないか?」

 

 

 

 



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See you Again

創真「一緒に来てくれえりな」

 

創真の一言をえりなは泣きながら喜んだ。その顔には喜びを爆発させたいような明るさがあった。

 

えりな「私を好きになったら、よそ見は許さないわよ」

 

創真「ああ、分かってるよ」

 

アリス「えりな、留守の間の遠月と薙切家のことは任せなさい。神の舌は持ってない私だけど、海外で学んだことを生かすことはできる。薙切の家は不在の間任せなさい」

 

えりな「アリス」

 

アリス「今まで出来てしまった溝をゆっくり埋めていこう。えりな」

 

えりな「ありがとうアリス」

 

黒木場「おい幸平、えりなお嬢になんかあったらたたじゃすまないぞ」

 

創真「ああ? それ嫌味か?」

 

黒木場「アリス嬢のことだから時より顔を見せに行くだろう。そん時は俺に付き合え」

 

創真「ありがとよ黒木場」

 

仙左衛門「幸平創真よ。えりなが自分の意志で動いたのは今回が初めてじゃ。そして人を愛することを学んだえりなは次は友を信じ、大切にする人と手を取り合い続けること、それを教えてやってほしい」

 

創真「分かりました。薙切に俺があれこれ言われることの方が多いとは、思うっすけど」

 

えりな「お爺様、遠月のためにも幸平君と・・・いえ、創真とたくましくなって帰ってきます」

 

仙左衛門「うむ」

 

一ノ瀬「創真、えりなちゃんこれを」

 

一ノ瀬が創真とえりなにスマホらしきものを渡した。

 

一ノ瀬「俺からのささやかなプレゼントだ。これには十傑のことや学園のことがリアルタイムで入る。電話も国際使用と別で通信できるからいつでも連絡できる」

 

創真「お前、やっぱり図ってやがったな」

 

えりな「今回は、一ノ瀬君と緋沙子にやられたわね」

 

新戸「えりな様、私は・・・」

 

えりな「いいのよ緋沙子。しばらく私の傍から離れて自分を試してきなさい。よいパートナーもいるのですから」

 

新戸「は、はい」

 

創真「それじゃあ、行ってきます」

 

吉野「幸平、頑張るんだぞ」

 

タクミ「必ず帰ってこい」

 

田所「頑張ってね創真君」

 

仲間たちに背中を押され創真とえりなは旅立った。

 

榊「行っちゃったね」

 

一色「大丈夫だよ創真君なら」

 

伊武崎「ああ」

 

【飛行機の中】

 

飛行機の中では、創真とえりなが隣同士に座っていた。えりなは、アリスや和希に感謝した。

 

えりな(あの二人に見透かされていたのかもしれないわね)

 

創真「なあ、えりな」

 

えりな「ちょっと何馴れ馴れしく・・・」

 

創真「え、ダメか?」

 

えりな「ごめんなさい。つい癖で」

 

すると、そんなえりなの姿に創真優しく微笑み、スッと頬に口添えをした。

 

えりな「ちょっと・・・バカ(笑)」

 

えりなは、頭を創真に預け目を閉じた。でも寝てるわけではない。初めて男女としてのぬくもりを味わっていた。

 

【一年後】

 

【食戟会場】

 

司会「やはり、今年もこの者たちに死角はない・・・勝者・一ノ瀬和希」

 

生徒「おい、嘘だろ。これでこいつ何連勝だよ」

 

生徒「てか、今年の十傑って200戦全勝じゃないのか?」

 

その頃、創真、えりな不在の十傑は着実に頭角を現していた。

 

【十傑会議室】

 

田所「お疲れ、一ノ瀬君」

 

葉山「ちょっと時間喰い過ぎじゃねえのか?」

 

一ノ瀬「時間ギリギリまで思考して限界域を突破したいのが俺スタイル」

 

黒木場「しかし、今年の一年共は俺たちを舐め過ぎじゃないか?」

 

アリス「素材は良いんだろうけどね」

 

新二年のメンバーのいる部屋に新三年十傑が部屋に入ってきた。

 

久我「よお、後輩ちゃん今日も食劇を申し込まれたって?」

 

黒木場「そんなの受けるの一ノ瀬とお嬢くらいですよ」

 

アリス「何リョウ君、私が負けると言いたいの」

 

一色「まあまあ、それより今日は君たちに大事なお話があるんだ」

 

葉山「大事な話?」

 

一色「そう、今日を以て3年の十傑の役員としての任期は終わる。今後の運営は2年生を中心とした十傑の活動となる」

 

女木島「そこで俺たち3年を抜いた新十傑を仮で任命することになる」

 

田所「あの先輩、でも今の十傑は1席、2席不在ですが、その間の仕切りは誰が?」

 

一色「それなら心配いらないよ。もうじき揃うはずだから、十傑の真の姿に」

 

【空港】

 

空港では、二人の男女が凄まじいオーラを放ちながら客たちの脇を通っていく。

 

客A「おい、あの子超可愛くね」

 

客B「声かけてみようかな?」

 

しかし、その声が聞こえたのか。一緒にいた男が睨みを聞かせ彼らを威圧する。そう、誰のことかは想像の通り、創真とえりなが帰国した。

 

えりな「創真、あんなカスに構っていないで行きましょ」

 

創真「そうだな。遅れちまうよな新しい船出に」




今回で一年生編が終わり、留学の間を経た3年の創真たちの物語が幕を開けます。


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3年生&新十傑編
おかえり


遠月学園では、現十傑が時期十傑への引継ぎのための会議に出席している。しかし、1席と2席の座席は空席のままだ。

 

黒木場「いつまで待つんすか?」

 

アリス「その2席は、今日も欠席じゃないの?」

 

一色「まあまあ、そう慌てないでさ」

 

女木島「これは、大事な案件なんだ。今まで十傑が毎度揃わずに会議をしていたのが異例なんだから」

 

久我「俺っちは、面倒だから廃止でも良かったんだけどね」

 

田所「でも、3年生が引退したら、新たに3人増えるわけですよね?」

 

一色「その通りだよ田所くん」

 

葉山「なら、あいつらには事後報告って形を取ればいいんじゃないんすか?」

 

和希「そうは、いかないから呼ばれてるんだろ」

 

すると会議室の扉がギーと開いた。

 

創真「ちやーす。みんなお久」

 

えりな「一色先輩お待たせしてすいません」

 

葉山「幸平!」

 

田所「そ、創真くん!」

 

和希「また、予想以上に早く帰還したな」

 

創真「まあな」

 

えりな「私がいるのだから当たり前でしょ」

 

一色「二人とも留学お疲れさま」

 

創真・えりな「ありがとうございます」

 

久我「面子も揃ったところだしそろそろ始めるか?」

 

十傑が各席に着席し、新たな十傑の選出が行われた結果・・・・・・・・・・・・・・

第1席・薙切えりな、第2席・幸平創真、第3席・一ノ瀬和希、第4席・葉山アキラ、第5席・黒木場リョウ、第6席・薙切アリス、第7席・田所恵、第8席・タクミ アルディー二、第9席・美作昴、第10席一ノ瀬遥となった。

 

会議を終えた面々は、極星寮での祝賀会に参加した。

 

吉野「いやー極星寮から二人も十傑に選ばれた上にみんな志同じくした同志。私は嬉しいよ」

 

榊「悠姫、騒ぎ過ぎよ」

 

丸井「でも、同期の活躍は刺激になるよ」

 

伊武崎「負ける気はないけどな」

 

イサミ「兄ちゃん、僕も負けないよ」

 

タクミ「ああ、楽しみにしてる」

 

吉野「でも、えりなっちと幸平がこんなに早く戻ってくるとは思わなかったよ」

 

和希「のんびりしても良かったのに」

 

えりな「お爺様もそう言ってくださったけど、やはり心配で」

 

創真「よく言うぜ。人のやり方にケチばかりつけたくせに」

 

えりな「何か言った?」

 

創真「い、いや別に」

 

新戸「クス、えりな様変わりましたね」

 

えりな「そうかしら?」

 

新戸「はい。今は、心から生活を楽しんでるように見えます」

 

えりな「あなたの協力があったからよ緋沙子」

 

アリス「ねえねええりな。幸平君とは、どうだったの?」

 

えりな「どういう意味よ?」

 

アリス「あれ、確かホテルは私が手配したからツインベットしかなかったはずよ」

 

アリスがうす笑いを浮かべて言った言葉にえりなは異常な反応をした。

 

えりな「やっぱり仕掛け人はあなただったのね」

 

アリス「イヤーン怖い」

 

えりな「でも、あなたにも感謝しなくちゃね」

 

アリス「珍しく素直じゃない。ひょっとして幸平君といい感じに」

 

えりな「いえ、そこまではいってないわ。散々迷惑かけたから」

 

アリス「やっぱりあなたは頑固ね。まあいいわ・・・・困ったことがあったら相談しなさい」

 

えりな「ありがとう」

 

すると、新戸の端末に着信が届いた。

 

新戸「すいませんえりな様、私はお先に失礼します。ちょっと急用が入ってしまったので」

 

えりな「そう」

 

和希「緋沙子は、今は十傑の次に権威を持つ監査委員会のトップだよ。多分、その呼び出しだろう」

 

一色「多分、君たち二人の復学祝いと僕と創真君のお別れ会の決議の確認だろうね」

 

えりな「一色先輩と幸平君?」

 

一色「創真君、君の願いが最後に叶うかもしれないよ」

 

創真「待ってたっす先輩」

 

 

 



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それぞれの想い Part1

一色先輩が用意していたのは、創真に対する惜別のためのプレゼントであった。監査委員の新戸が事務局と協議を行い。創真と一色先輩の食戟が正式に認定された。創真にとっては帰国後最初の食戟だ。いつものルーティーンのごとく寮の部屋で包丁を研ぐ。

そこにそっと扉の音を立てないように部屋に入る者がいた。

 

創真「えりな、入る時くらいノックぐらいしろよ」

 

えりな「気づいてたのね」

 

創真「向こうにいる間もしょっちゅうだっただろ。部屋をわざわざ別にした時も」

 

えりな「あら、じゃあ創真は私と一緒にいるの嫌だったの?」

 

えりなは、創真の背中に抱き着いた。創真は、そっと首回りにくるまった彼女の手にそっと手を当てる。

 

創真「いいのか? 秘書子に怒られんじゃねえの」

 

えりな「大丈夫よ」

 

創真「お前は、俺のことが好きなのか嫌いなのかわかんねえよ」

 

部屋で二人は仲よさげにしているのを極星のメンバーは羨ましそうに見てる。

 

佐藤「くそー幸平の奴、いちゃいちゃしやがって」

 

青木「羨ましすぎだろおい」

 

伊武崎「お前ら趣味悪いだろ」

 

吉野「おめーら何やってんだー」

 

青木・佐藤「げっ、よ、吉野・・・いや、これはその・・・」

 

吉野「私にも覗かせろ」

 

ドアの前でどんどん野次馬ができるのを和希があきれて見ている。

 

和希「何やってんだか?」

 

榊「みんなうれしいのよ。創真くんが戻ってきて」

 

しかし、そんな中でも田所の様子だけはおかしかったのを和希は見逃さなかった。

 

和希「言いたいことがあるなら本人に聞いてみれば?」

 

田所「え、いや一之瀬君、私は・・・」

 

榊「そうよ恵。確かに創真くんとえりなちゃんは特別な関係なのかもしれないけど、自分からあきらめたら奇跡は起こらないんじゃないかな?」

 

田所「涼子ちゃん」

 

和希「とりあえず、あの面子を引っ張り出すか」

 

榊「そうね」

 

和希と伊武崎、榊が寮の面々を追放していった。しかし、田所はしばらくその場にポツンと立ちすくんだ。

 

新戸「そこで何をしているのだ?」

 

田所「あ、新戸さん! こんな時間にどうしたんですか?」

 

新戸「幸平に書類を届けるついでにえりな様を迎えに来た。おそらく、幸平の所だとは思っていたが」

 

田所「そ、そうなんだ」

 

えりな「あら、緋沙子。 わざわざ迎えに来たの?」

 

新戸「忙しくてもえりな様のお付ですから」

 

えりな「たくましくなったわね」

 

創真「新戸久しぶりだな」

 

新戸「達者なようだな幸平創真」

 

創真「お蔭さまでな。で、何で田所と一緒なんだ?」

 

新戸「偶然会って案内してもらった。お前にも用があったからな」

 

創真「俺に?」

 

新戸「一色先輩との食戟のことだ。少しいいか?」

 

創真「なるほど、じゃあ入れよ」

 

新戸「すいませんがえりな様と田所さんは外してくれますか。一応これでも監査委員会の仕事なので」

 

えりな「分かったわ」

 

すると新戸は、田所にそっと耳打ちした。

 

新戸「えりな様の気持ちを聞いてみると自分の決心がつくかもしれないぞ」

 

田所「新戸さん」

 

 




更新が遅れました。大学のレポートや試験で忙しくしばらく出せませんでした。


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それぞれの想いPart2

田所「えりなちゃん。新戸さんを待ってる間、私の部屋で話さない?」

 

えりな「そうね。そうさせてもらうわ」

 

 

~創真の部屋~

 

創真「新戸、お前もなんか顔つき変わったな」

 

新戸「そうか? 私はいつも通りだぞ」

 

創真「いや、なんというか迷いが無くなったつうか」

 

新戸「私もえりな様に仕えているが、今はお前がいる。私は、自分の責務を果たすだけだ」

 

創真「なるほどねー。 和希が惚れるのも分かるわ」

 

新戸「な、な、なんだそれは? どういう意味だ!」

 

創真「お前と和希見てると、えりなに仕えてた時みたいにいい顔になってたぞ」

 

新戸「彼に感謝はしている。色々と教えてもらったからな」

 

創真「お似合いだと思うぜお前ら」

 

新戸「馬鹿だな。お前は」

 

創真「うるせえよ」

 

新戸「それでは本題に入るか。これが食戟ないようだ」

 

創真「普通の食戟と大きな違いはなさそうだな」

 

新戸「そうだな。ただ、これに勝った後が重要と言える」

 

創真「どういう意味だよ?」

 

新戸「今回の相手は十傑・第三席の一色先輩だ。今回は公式戦だから賭けごとではないが、対価はもちろん存在する。特に現役の遠月生のお前にはなおさらだ」

 

創真「簡潔に言ってくれよ。意味がわからねえよ」

 

和希「お前が勝てば、一席のえりなちゃんと対等になるってこと」

 

創真「和希!」

 

新戸「お前、入るならノックぐらいしろよ。これは重要案件なんだぞ」

 

和希「固いこと言うなよ。元十傑・第10席」

 

創真「元十傑!」

 

和希「創真は気づかなかったのか。 女木島先輩は俺たちの2つ上なのに会議にいたのはおかしいと思わないか?」

 

創真「そういえば」

 

新戸「和希お前、幸平に伝えなかったのか?」

 

和希「悪い悪い」

 

新戸「私が監査委員会に移動の際に兼務が難しかったので交替を余儀なくされたんだ。その時、女木島先輩は薊政権の事件で十傑としての卒業ができなかったんだ」

 

創真「もしかして留年したのか?」

 

和希「正確には、卒業延期制度だね。あの先輩、見た目おとなしそうだけどなかなか情熱的な部分もあるし、人望も厚い。だから、十傑兼アドバイザーとして残したらと仙左衛門様や親父に相談したんだ」

 

創真「そうだったのか」

 

新戸「コホン。つまり、この食戟で言えることは十傑のその価値だ。お前が勝てば、その分の成績ポイントが加算される」

 

創真「成績ポイント?」

 

和希「今の十傑のルールは学業成績とその成績ポイント、別名・戦績ポイント。実力者であればあるほど高ポイントを得る」

 

新戸「そのポイントにおいてえりな様と幸平がほぼ同じになる。新ルールは、その差が上限プラマイ30ポイントで十傑の十傑によるデュエル食戟を行える」

 

創真「つまり、えりなと戦えるってことか」

 

和希「そういうことだ」

 

新戸「報告は以上だ。私は、えりな様を迎えに行って帰る」

 

和希「ああ、えりなちゃんなら恵ちゃんの部屋だぞ」

 

新戸「そうか。すまんが案内してくれるか?」

 

創真「ああ、和希が知ってるから連れてってもらえよ。俺、ちょっとやることがあるんだ」

 

新戸「頼めるか?」

 

和希「おう」

 

和希と新戸は二人きりで廊下を歩いた。

 

新戸「あいつ、気を使ってるのバレバラだな」

 

和希「そういう奴だからな創真は」

 

新戸「お前は、怒ってないのか?」

 

和希「十傑を辞めたことか?」

 

新戸「その・・・すまなかった。・・・勝手に決めて」

 

すると、和希がそっと新戸を抱きしめた。

 

新戸「ちょ、か、和希?」

 

和希「初めて名前で呼んでくれたな」

 

新戸「こ、こんなとこでよせ」

 

和希「怒ってないよ。今、俺たちが安心して十傑の仕事に専念できるのは、トラブルをお前らが未然に防いでくれてるからだろ」

 

新戸「でも、あの時の私はお前の制止を振り切ったから」

 

和希「俺は、そんな小さい男じゃねえよ。えりなちゃん待ってんだろ行くぞ」

 

和希は、スッと新戸の手を握った。

 

新戸「ありがとう」

 




定期試験無事に終わりました。今回は、創真くんではなく、和希と緋沙子の二人中心で書きました。和希くんは僕のオリジナルキャラですが、個人的に緋沙子推しなのでくっつけてみました。


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