THE ULTRAM@STER ORB (焼き鮭)
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ULTRA READY!!(A)

 

 

 

(♪タケダアワーのオープニングテーマ)

 

 

 

 

 

 

 

ナムコナムコナムコー♪

ナムコナムコナムコー♪

ナムコナームーコー♪

 

 

 

提供

765プロ

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――夜の闇と降り積もった雪に覆われた深い森の真ん中で、光り輝く巨人と、禍々しい光を放つクリスタルを顔面の中央に埋め込んだ黒い怪物が激しく戦い合っていた。

 

『ゼットォーン……』

『テヤッ! オリャアッ!』

 

 人智を超えた巨躯の生物同士による、超常的な争いを、一人のスラヴ系の少女がじっと見上げている。

 

『グッ……ウゥッ……!』

 

 少女は固い面持ちで、黒い怪物の前に劣勢に立たされる光る巨人に対して何かを叫ぶ。

 

『ゼットォーン……』

 

 黒い怪物は顔面のクリスタルから膨大な熱量の光球を生み出し、それを光る巨人に向かって飛ばした。

 

『オワアァァァァァッ!』

 

 光球の直撃を食らった光る巨人が吹っ飛ばされる。だが被害はそれで留まらなかった。

 

『きゃああ――――――!!』

 

 戦いを見つめていた少女が、光球の爆発の余波を浴びたのだ。少女の姿が、爆炎の中に呑まれて見えなくなる。

 

『アッ!?』

 

 それに気がついた光る巨人は、黒い怪物に対して激しい憤怒の眼差しを向けた。

 

『ドゥウウアッ!』

 

 そして激情のままに光る剣を手にして、頭上に円を描く。剣の軌道が光の線となって残り、そして剣自体に集中し、

 

『デヤァァァァァァッ! ドゥアアアアアアアアアッ!!』

 

 黒い怪物に向けられた剣から、光線が荒れ狂う暴風のようにほとばしった。

 光線が黒い怪物に直撃し、光る巨人はそのまま剣から光線を発し続けたが――剣自体がその手の内より抜け出て、黒い怪物に突き刺さった。

 黒い怪物は剣ごと爆発。その規模は尋常ではなく、周囲の広大な森を丸ごと呑み込んでいく。

 ――一瞬にして焼け野原に変わった森の中で、光るリングを片手にした男がよろよろと起き上がった。男が降ってきた一つの光の塊にリングをかざすと、光はそのリングの間を通って、赤と銀の超人が描かれたカードに変化した。

 男は超人のカードを腰に提げているホルダーの中に収め、必死に辺りに目を走らせる。

 しかし、視界をさえぎるようなものがほとんどなくなったにも関わらず、先ほど戦いを見つめていた少女の姿は――どこにもなかった。

 

『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 その事実を理解した男は、焼け焦げた森と暗い夜の空に慟哭を轟かせた――。

 

 

 

『ULTRA READY!!』

 

 

 

 ――ここは東京都大田区矢口2丁目1番765号に建つ雑居ビルに居を構えた、芸能プロダクション『765プロ』の事務所。

 

「――さんっ! プロデューサーさん……!」

 

 デスクに座ったままうたた寝をしている男を、甲高い声が呼ぶ。

 

「起きて下さいっ! 紅ガイプロデューサー!!」

 

 ひと際大きな声で呼ばれ、「紅ガイプロデューサー」と呼ばれた男が目を開き、声の主に振り返った。

 

「……春香か。どうした?」

「どうしたじゃないですよっ!」

 

 紅ガイが呼び返すと、春香という少女は声を荒げた。首を振る度に、頭の左右の髪を結った赤いリボンがピコピコ揺れる。

 

「ボードに書かれてる、今日の予定っ! また私が『アンバランスQ』の司会進行役をやらなくちゃいけないんですか!?」

 

 春香が指差した先にあるのは、月間予定表になっているホワイトボード。その今日の日付の欄に、「春香 アンバランスQ司会進行」と書いてあった。

 ガイは当たり前とばかりに答える。

 

「ああ。嫌なのか?」

「嫌ですよ! だって何だか私ばっかりがやらされてません!? この際だから言わせてもらいますけど、私、アイドルやるためにここに来たんです! UMAだとか怪奇現象だとか、そんな胡散臭いものを追いかけるためじゃないんですよっ!」

「そうは言っても、お前のリアクションが一番面白いと視聴者からは好評だからな」

「だから、私はアイドルです! リアクション芸人みたいな扱いしないで下さいっ!」

 

 ムキー! と吠える春香。相当フラストレーションがたまっている様子だ。

 そんな彼女の名は天海春香。この芸能事務所765プロが自信を以て売り出しているアイドルの一人だ。……と言ってもまだまだ駆け出しの新人アイドルなのだが。

 そして『アンバランスQ』とは、765プロが手掛けているウェブテレビのチャンネルであり、この世の様々なミステリーに765プロのアイドルが突撃取材するという趣旨の番組なのだが、東海道に出没する原始哺乳類だとか伊豆半島の大猿とか地球に贈られてきた火星ナメクジだとかのガセネタばかりを追いかけさせられて結果的に視聴者の笑いものになるというのが実質的な内容であり、しかも視聴数が稼げているとは言えないありさまなので、当のアイドルたちからの評判は良くないのである。

 

「とにかく、私ばかりがこんな仕事やらされるのは嫌です! 真、代わってよ」

 

 春香が後ろにいる少年……いや、ボーイッシュな少女に頼んだが、彼女もしかめ面になった。

 

「えぇ? ボクだって嫌だよ。ボクももっとこう、かわいくてしゃんしゃんぷりぷりー☆ ってしたお仕事がしたいのに」

 

 菊地真。男よりも美少年と言われることも多いが、当人はかわいい女の子に憧れている、難儀な娘である。

 

「あふぅ……相変わらず真君の言うかわいさはズレてるの……」

 

 ソファの上でごろ寝している金髪の少女がボソリとつぶやいた。

 星井美希。ビジュアルも良くあらゆることをセンス一つでこなせて教えられたことの吸収力も高いという天才児だが、やる気に欠けるのが難点。お昼寝が趣味と公言するほどしょっちゅう寝ている。

 

「亜美たちはアンQのお仕事も嫌いじゃないけどねー。面白いし!」

「でも普通のアイドルっぽいこともやりたいよねー」

 

 顔が瓜二つの、髪を結っている位置が違うくらいしか見比べるところのない少女二人が顔を見合わせて言った。

 双海亜美と双海真美。双子のアイドルでどちらも面白いもの好き。悪戯をしては誰かに叱られるのがほぼ日課になっている。

 

「うぎゃー! ハム蔵、どこ行ったー!? 出てきてくれー!」

 

 その後ろでは大きなポニーテールを後頭部に垂らした、焼けた肌の少女が涙ながらに叫んでいた。

 我那覇響。アイドルになるために上京してきた沖縄っ子。動物が大好きで多数の動物を飼っているが……。

 

「もうご飯勝手に食べないからー! 許してくれー!」

「響、またペットの餌食べちゃったの? 仕方ないわねぇ」

 

 ウサギのぬいぐるみを抱えた少女が呆れて肩をすくめていた。

 水瀬伊織。水瀬財閥の長女である生粋のお嬢様だが、自力で何事かを成し得るために765プロにやってきた。カメラの前ではかわい子ぶっているが、実際はかなり気の強い性格。

 

「ハム蔵ー! どこ行ったんだー!」

 

 事務所内をウロウロ探し回る響を呆然とながめるガイ。

 

「全く、響の奴は毎度騒がしいな……。雪歩もそう思わないか?」

「ひぃっ! ご、ごめんなさいっ!」

 

 呼びかけながらショートボブカットの少女に手を伸ばしたガイだが、その子はビクッ! と怯えて後ずさった。

 萩原雪歩。極度に男性が苦手で、それを解消するべくアイドルを志望したのだが、まだまだ改善の兆しは見えていないようだ。

 後ずさった雪歩の背中が、ツーテールでカエルのがま口を首から提げている少女にぶつかった。

 

「わわっ! 雪歩さん、大丈夫ですか? プロデューサー、雪歩さんを驚かせちゃダメですよ」

 

 高槻やよい。家が貧乏で、家計を支えるためにアイドルを志望した、出来た娘。最年少は亜美と真美だが、二人は色々ませているのでやよいが一番幼く見える。

 

「悪い悪い……。雪歩も相変わらずだな」

「プロデューサーさん、こっちの話に集中して下さい! 今日という今日こそは、断固としてお断りしますからねっ!」

 

 むすーっ、と頬を膨らませ、腕を組んで拒絶の意思を示した春香にガイは参ったように頭をかいた。

 

「しょうがないな……。じゃあ千早、代わりにやってくれよ」

「私も嫌です……。それより、歌の仕事はいつ取ってきてくれるんですか? また今度って先延ばしにしてばかりじゃないですか」

 

 ロングヘアの少女がガイに冷めた視線を向けた。その胸は平坦だった。

 如月千早。765プロアイドルの中でも抜群の歌唱力を持っており、ファンからは“765プロの歌姫”と称される……予定。

 

「うッ、それはだな……」

「あらあら。みんなから色々注文されて、プロデューサーさん大変そうですねぇ」

 

 千早ににらまれて言葉を詰まらせているガイの様子に、ショートヘアの妙齢の女性が苦笑いした。その胸は豊満であった。

 三浦あずさ。765プロアイドル最年長で、恋愛願望が強く、「運命の人に見つけてもらう」ために765プロに入社した。

 

「それもプロデューサーの奮励が足りない故です。精進なさって下さいませ」

 

 銀髪の、ある意味ではあずさよりも大人びている少女がガイに手厳しい意見を寄せた。

 四条貴音。ファンは愚か、765プロの仲間たちまでも彼女のことを多くは知らない、謎に包まれたアイドルである。

 

「ハッハッハッ、みんな楽しそうだね」

 

 ガイが春香と千早に詰め寄られてタジタジになっているところに、恰幅の良い中年男性がやってきた。この765プロの代表取締役、高木である。

 春香は高木に抗議した。

 

「楽しくなんかないですよ、社長! そもそも、どうして視聴率が低いオカルト番組をわざわざ撮り続けなくちゃいけないんですか!? 確か企画したの、社長ですよね!」

 

 高木はその問いかけの返答に言いよどむ。

 

「えッ、あー、それはだね……何と言うか……今は伸び悩んでいても、いずれ人気番組に成長する! と私の勘が告げているからであって……」

「ほんとですか~?」

 

 春香は極めて疑わしそうだ。他のアイドルたちもそうだった。

 

「社長の勘が鋭いのは知ってますけど、こればかりは外れだと思いますよ。どうせやるなら、もっとアイドルがやるような番組にしましょうよ」

「いやぁ、しかしだね……」

 

 高木が渋っていると、ガイが話に割り込んだ。

 

「何はともあれ、吉立市で百メートルを越えるマンモスフラワーを捜索するってのは前回の予告で出しちまったんだ。こっちの事情で勝手に打ち切りになんてしたら、信用に関わる。その撮影だけはどうしてもやってもらうぞ」

「プロデューサーさん、残念ですが少なくとも今日撮影するのは無理そうですよ」

 

 そこに765プロ唯一の事務員、音無小鳥がタブレットPCを手に告げた。

 

「どうしてですか? 音無さん」

「見て下さい、今しがた入ったニュースです」

 

 小鳥が見せたタブレットの画面に、ガイとアイドルたちが注目する。

 画面には、東京吉立市上空で竜巻群が発生したというニュースが表示されていた。滅茶苦茶に崩壊したビル街の航空写真も添付されている。

 

「すごい被害です……。たくさんの人が怪我しちゃったんだろうな……」

 

 人一倍心優しいやよいが、この惨状に胸を痛めた。

 一方で伊織がつぶやく。

 

「こんなことが起きちゃったら、超常現象だのUMAだの言ってらんないわね」

「それがそうでもないのよ」

 

 後頭部の左右から三つ編みのおさげを生やした、眼鏡の少女が口を挟んだ。

 秋月律子。765プロきっての才女アイドルである。彼女が持っているタブレットには、大手掲示板のスレッドが表示されており、その中に竜巻群の写真が載せられている。

 

「ほら見て、この写真の片隅。竜巻に混じって、鳥みたいな影が写ってるでしょ?」

「あっ、ほんとだ」

「ネットの一部では翼を持ったUMAと騒がれてるわ。今ホットな話題のこれ、取り上げない手はないわよ!」

 

 張り切る律子に対して、伊織は肩をすくめる。

 

「そんなのどうせコラ画像なんじゃないの? よくあるじゃない」

「いいえ。それを抜きにしても、竜巻群は晴天にも関わらず突然発生して瞬く間に消滅してることが調べて分かったわ。普通の自然現象ではありえないことよ。少なくとも、調べる価値はあるわ!」

「律子さん、何でそんなに張り切ってるんですか?」

 

 春香が尋ねると、律子は自信満々に返答した。

 

「私の作った765ガジェット第一号、CD販売数予測プログラムを改良した視聴率予測プログラムが、これを取り上げたらアンバランスQの視聴率が一気に三倍に跳ね上がると答えたのよ!」

「何だ、律子のみょうちきりんな発明品が根拠なの。そんなのアテになるの?」

 

 疑わしそうな伊織に律子は言い切る。

 

「小学校時代にカオス理論の高次元定理を発見したこの秋月律子の頭脳を信じなさい! そういうことだから、プロデューサー、番組内容を変更してこのUMAの突撃調査をしましょう!」

 

 律子が提案するが、ガイはいやに険しい表情で鳥の影を捉えた写真をにらんでいた。

 

「……プロデューサーさん?」

 

 ガイの不審な様子に、春香たちは不思議そうな顔になった。彼女たちの視線に気がついたガイは、気を取り直して律子に答える。

 

「ああ、律子の言う通りだな。早速出掛けよう。春香、美希、行くぞ」

「やっぱり私が行くことになるんですかー!?」

「ええー!? どうしてミキもなのー!?」

「ほらほら早く準備しなさい! 美希も、ぐうたら寝てないで働きなさい!」

 

 嫌がる春香と美希だったが、律子に引っ張られて有無を言わさず準備をさせられた。

 ……その一方で、高木がガイに、アイドルたちから離れて彼女らに聞こえないように囁きかけた。

 

「ガイ君……よもや、『その時』が来たというのかね?」

 

 ガイは重々しくうなずく。

 

「ええ、社長……まず間違いないです」

「そうか……。出来ることなら、来てほしくはなかったのだが、仕方ないか……。すまないが、この地球のこと……どうかよろしく頼んだよ」

 

 高木に何かを託されたガイだが、迷いの目でアイドルたちを一瞥した。

 

「……まだ躊躇いがあるのかね?」

「……」

「まぁ、無理もないことだ。しかし、この事務所は『そのため』のものだ。いざという時は、遠慮なく力を借りたまえ。皆いい子だ。必ず、君の気持ちに応えてくれるとも」

 

 と高木は告げたが、ガイの視線からは迷いの色が払拭されていなかった。

 

「ハム蔵ー! こんなところにいたのかー!」

 

 ただ一人、響だけは相変わらずペットのハムスターを探し続けていた。

 

 

 

 ガイと春香、美希、律子の四人を乗せた765プロ専用マイクロバスは、都内を走る河ののどかな河辺に来ていた。

 

「律子」

「さん」

「……さん、ほんとにこんなところに竜巻が発生するの? っていうか、どうしてそんなことが先に分かるの?」

 

 美希の疑問に、律子はごてごてとしたアンテナのようなものを見せながら答えた。

 

「こんなこともあろうかと作っておいた気象追跡マシン、名づけてストームチェイサー! これでどんな竜巻も事前にキャッチできるって訳」

「そんなガラクタの寄せ集めを信じていいのぉ?」

「何よその目は。科学の力を信用しなさい!」

「それはいいんだけど」

 

 春香が、離れたところでじっと空を見つめているガイに目を送りながら口を開いた。

 

「プロデューサーさん、どうしたんだろう。さっきから妙に口数が少ないけど……」

「あふぅ。あの人の考えてることってよく分からないの」

 

 美希があくびをしていると、彼女たちの元に『VTL』という刺繍が施された制服を纏った男性が駆け寄ってきた。

 

「ヘイヘイヘイヘイお前たち! またこんなところで、変な撮影してんのか?」

「あっ、渋川のおじさんなの」

「叔父さん……!」

 

 春香に叔父と言われた渋川という男性は、三人をジロジロと見回す。

 

「こないだの停電も、お前たちの事務所の仕業じゃないのか?」

「違います、失礼なこと言わないで下さい!」

 

 律子が渋川に噛みつく。

 

「ビートル隊の仕事が遅いから、私たちが割を食ってるんですよ。そのくせ機密機密で隠しごとばっかり! ほんとに働いてるんですか?」

「何だとぅ!? 聞き捨てならねぇな。姪っ子の春香ちゃんがいるから大目に見てやってるけどなぁ、それも限度ってのが……」

「春香の叔父ってのは関係ないでしょ!」

 

 律子と口論になっている渋川が、ガイの方を向く。

 

「そこのプロデューサー君も、しっかりしてくれないと困るよ……」

 

 だが話している途中で、どこからか不気味な鳴き声のような音が彼らの耳に入った。

 

「プォォォ――――――……」

「……? 今の音何?」

「風の音じゃないの?」

 

 春香と美希が顔を向き合わせていると、ガイが振り返って告げた。

 

「みんな、ここから離れろ。悪魔の風が来る……!」

「へ? 悪魔の風?」

 

 春香たちが呆気にとられている間に、ガイはいきなりどこかへと走り去っていく。

 

「プロデューサーさん!? どこ行くんですかー!?」

「ここから離れるんなら、ミキたち何しに来たのー!?」

 

 ガイを呼び止めようとした春香たちだが、その時に律子の手にしているストームチェイサーがけたたましい電子音をかき鳴らした。

 

「920ヘクトパスカル!? あり得ないわっ!」

「律子さん、どうしたの!?」

「低気圧が猛烈な勢いで発達してるの! ここから三百メートル……複数の竜巻が発生……! 風速、百五十メートルっ!」

 

 春香たちが見上げた先の空で急激に黒雲が渦巻き、複数の竜巻が街の真ん中に伸びてきた!

 

「ひゃああっ!?」

「大スクープよぉ! 二人とも、すぐに車にっ!」

 

 律子が春香と美希を引っ張るようにしてバスに走っていった。

 

「おいお前たち!? 危ないぞ――!」

 

 三人を止めようとした渋川だが、ちょうどその時に飛んできた新聞紙が顔に被さった。

 

「おわッ何だこりゃ!? 前が見えないッ!」

 

 渋川がもたついている間に、律子たちはバスの車内に乗り込んだ。律子が運転席に着いて、美希にハンディカメラを渡す。

 

「美希、撮って!」

「ミキが撮影するの!?」

「私は運転するでしょうが!」

「律子さん、危なくないですか!? プロデューサーさんは離れろって……!」

「大丈夫よ! この765トータス号を信じなさい! それじゃ発進っ!」

 

 三人を乗せたバスが、街を荒らす竜巻群に向けて走り出す!

 

 

 

 いくつもの竜巻に襲われて、阿鼻叫喚の地獄絵図に叩き込まれている街の中を走るマイクロバス。その鼻先すれすれを風に流される看板が横切っていった。

 

「危ないっ! 律子、ちゃんと運転してよっ!」

「さんをつけなさい! それより美希もちゃんと撮ってるの!?」

「うぇぇぇーんっ! やっぱり逃げましょうよぉ~!」

「ここまで来て泣き言言わないっ! さぁて、お目当てのUMAはどこに……!」

 

 きゃんきゃんと喚き立てる律子たち。――するといきなりフロントガラスに、ガイが逆さに張りついた。

 

「お前らぁッ! 離れろって言っただろ!」

 

 思い切り面食らう春香たち。

 

「プロデューサーさん!? あなたこそ何やってるんですか!?」

 

 ガイはバスの屋根の上に乗って、春香たちを覗き込んでいるのだ。

 

「いつの間に……きゃあっ!?」

 

 律子の気がそれた一瞬の間に、バスは竜巻に持ち上げられて空中に浮き上がった! そのままどんどんと上昇していく。

 

「きゃああああああ――――――――――――っ!? さ、流石にこれはやばいんじゃないですかぁぁぁ――――――――!?」

「律子の馬鹿ぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!!」

「さんをつけなさいっ! ってそれどころじゃないわぁぁ――――――――っ!!」

 

 パニックに陥る春香たちの前を、突如巨大な青い生物が横切った。

 

「ミィィィィ――――!」

「な、何あれ!?」

「目的のUMA!?」

「鳥……!?」

 

 ギョッと言葉を失う春香たちの一方で、ガイが異常に巨大な鳥をにらんで言い放った。

 

「風ノ魔王獣、マガバッサーか!」

「ま、マガバッサー!?」

 

 ガイはバスの屋根を蹴って、竜巻の中に姿を消した。

 美希は巨鳥の姿をよく撮ろうと窓からカメラを持つ手を外に伸ばしたが、突風によってカメラが吹き飛ばされてあっという間に見えなくなった。

 

「あぁっ! カメラ落としちゃったの!」

「なら私のケータイで……!」

 

 春香は咄嗟の判断で自分のスマホを取り出し、撮影モードにした。

 巨鳥が再び彼女たちの前に姿を現す。――今度は光に包まれた、半透明の巨人がその首にしがみついていた。

 

「何あれぇぇぇぇっ!?」

「き、巨人!?」

「すごすぎるわ! 大発見よぉぉっ!」

 

 次から次への現実離れした出来事に大興奮の三人。春香は、半透明の巨人が巨鳥と争い合っているように見えた。

 

「戦ってる……!?」

「でも二人とも、撮影はここまでみたい……!」

「えっどうしてなの!?」

「そろそろ竜巻の頂上よ! つまり……」

 

 マイクロバスは竜巻から弾き出され――地表へ向けて真っ逆さまに転落していく。

 

「落ちるぅぅぅぅぅぅぅ―――――――――――――――――――!!!」

 

 もう駄目だと目を固くつむる春香たち。

 そのため、バスの車体を光る手が受け止めたところは誰も見ていなかった。

 

「……あれ?」

 

 春香が恐る恐る目を開けると、バスは何事もなかったかのように道路の上に停まっていることに気がついた。

 

「な、何がどうなったの……?」

「ミキたち、生きてるの? ここは天国じゃないの……?」

「科学的に言えば、あの世なんてものは存在しないわ……」

 

 春香たちは生きていた。しかし先ほどの出来事が夢ではないことは、至るところから黒煙が立ち上る街の様子が物語っていた。

 

 

 

「取り逃がした……」

 

 マイクロバスの真後ろから、ガイがひょっこりと姿を出した。――彼は左手に握り締めたリングに目を落として、悔しげに舌打ちした。

 

「やはり、俺だけの力じゃ、『完全』には無理か……」

 



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ULTRA READY!!(B)

 

 竜巻から命からがら生還した春香、美希、律子。そして春香がケータイで撮影した巨鳥と巨人の戦いで、765プロの名は一躍有名になるものかと思われた。

 しかし……。

 

「はるるん……これ自撮りモードになってるよ……」

「はるるんの顔しか映ってないよ~……」

 

 呆れ顔になっている亜美と真美。ケータイの映像には、大声でわめき立てる春香の顔のアップしか捉えられていなかった。

 そう、春香はインカメラになっているのに気づかないまま撮影していたのだ。これに響と伊織が大きなため息を吐く。

 

「もう、春香ったらドジなんだから。これじゃ何が何だか分かんないぞ」

「せっかくの大スクープだったのにねぇ」

「ぢゅいッ」

 

 響の肩の上でハム蔵もうなずいていた。呆れられた春香は小声で言い訳する。

 

「だ、だって……咄嗟だったから……」

 

 気落ちする春香を、やよいが慰める。

 

「元気出して下さい、春香さん。スクープよりも、春香さんたちが無事に帰ってこれた方が大事ですよっ!」

「う、うぅ、やよい~! 優しいのはやよいだけだよ~!」

 

 涙目になった春香がガバッとやよいに抱きついた。

 律子が仕切り直すように告げる。

 

「まぁ、過ぎてしまったことはしょうがないわ。それよりみんな、これを見て」

 

 律子のデスクの周りに集まるアイドルたち。デスクのパソコンの画面には、古めかしい絵巻物の画像がいっぱいに表示されている。

 

「プロデューサーの言ってた『悪魔の風』と『マガバッサー』について調べてみたんだけど、太平風土記に、悪魔の風を吹かせる“魔王獣禍翼”という妖怪の記載があったのよ」

「マガバッサー! プロデューサーさんの言ってたのと同じだ!」

 

 驚く春香。

 

「ええ。“禍翼来たり、嵐で地上の全てを滅ぼさん”とあるわ」

「今の状況と全部合致してますね……」

 

 感心するあずさ。真が律子に聞き返す。

 

「じゃあ、律子たちの見た怪獣がその妖怪、世界を滅ぼすマガバッサーってこと?」

「科学的には妖怪とか怪獣なんてのは認めたくないけれど、現実的にはそう考えて問題ないわね。それに、これからの天気予報なんだけど」

 

 律子がキーを叩くと、パソコンの画面が切り替わって東京の天気図が表示された。

 あろうことか竜巻のみならず大雨、雷、初夏の季節にも関わらず雪のマークまで各所にあった。雪歩、貴音が仰天する。

 

「な、何ですかこれぇ!? 天気が滅茶苦茶です!」

「面妖な……」

「大変! 帰ったらすぐ洗濯物取り込まないと!」

「そういうことじゃないでしょ、やよい」

 

 やよいに伊織が突っ込んだ。

 

「これだけじゃないわ。世界に視点を広げたら、太平洋上には台風が七つも発生。エジプトは猛吹雪の真っ最中よ」

「どうしてこんなに大きな影響が……?」

 

 千早の疑問に律子が解説する。

 

「バタフライ効果よ。地球を取り巻く大気はつながってて、小さな蝶の羽ばたきも巡り巡って地球の裏側でハリケーンを起こすという考え方なんだけど、あの鳥の羽ばたきは蝶なんかとは比べものにならないわ! あの鳥が、世界中の気象を乱してるとして間違いない!」

「じゃあ、今の状態が続けば世界は……」

 

 雪歩のつぶやきに、アイドルたちはその想像をしてゴクリと息を呑んだ。

 

「……ともかく、放っておくことは出来ないわ。このことを知ってるのは私たちだけ。明日、私たちであの怪物の追跡調査を行いましょう。春香、美希、いいわね?」

「わ、分かりました」

 

 春香はうなずいたものの……美希はソファの上にうつ伏せになって嫌々と頭を振った。

 

「ヤーなーのー! ミキ、あんな危ない目に遭うなんて聞いてなかったのー! もう危ないことしたくないのー!!」

「美希、さっきからこの一点張りで……」

 

 千早が困ったように律子に告げた。律子も息を吐く。

 

「仕方ないわね……。それじゃあ千早、美希の代わりに助手、お願いしてもいいかしら」

「分かったわ……」

 

 こうして律子、春香、千早の三人で『マガバッサー』の追跡を行うことが決定した。それからやよいが伊織を相手に言う。

 

「それにしてもプロデューサー、たいへーふどきなんてのを知ってたんだね。物知りだよね」

「……その問題のプロデューサーなんだけど、どこ行っちゃったの?」

 

 小鳥の方へ振り返って尋ねると、小鳥はこう答えた。

 

「『やることがある』と伝言があったまま、まだ戻ってないわ」

「つまり、一人でどっか行っちゃった訳? 765プロ唯一のプロデューサーなのに、勝手なことされたら私たちが困るじゃない」

 

 伊織は呆れ返って肩をすくめた。

 

「プロデューサーのやることって何だろうね」

「全然分かんないぞ。あの人、考えてることが訳分かんないさー。自分たちに変なダンスの練習させたりとかね」

 

 真と響が話し合っている後ろで、春香は奇妙な行動を見せ続けていたプロデューサーに思いを馳せて、宙を見上げた。

 

「プロデューサーさん……」

 

 また一方では、千早が律子に尋ねかけていた。

 

「そういえば、マガバッサーというのと一緒に現れたっていう巨人のことは分からないの?」

 

 律子は肩をすくめる。

 

「そっちは何も。でもかなりおぼろげだったし、よく考えたら、いくら何でも科学的にあんな身長の人間が存在するはずがないわ。雲か稲光を見間違えたというところでしょうね」

 

 

 

 翌日、春香、千早、律子はストームチェイサーを使い、マガバッサーが現れると思しき地区にやってきた。

 

「まだ現れる気配はないですねー、律子さん」

「ねぇ律子、これどうやって使うの?」

「だからさっき言ったように……。ほんと千早は機械に弱いわねぇ~。人選ミスったかしら?」

 

 千早にタブレットの使い方を教えている律子が、春香に振り返って頼んだ。

 

「春香、ちょっと喉乾いたから近くで飲み物買ってきて。三人分」

「ええ!? 私、ちょっと今月のお小遣いピンチなんだけど……」

「後でお金払うから。ほら早く」

 

 せがまれ、春香はしぶしぶ喫茶店を探しに出かけた。

 

「もう、律子さんったら仕事は出来ても、人遣い荒いんだから……」

 

 三人分のコーヒーを買ってぼやきながら歩いていたら、前からやってきた男に身体がぶつかった。

 

「うわわっ!? わぁぁっ!」

 

 どんがらがっしゃーん!

 

「いたた……あぁ!?」

 

 春香が転んだ拍子に、コーヒーが投げ出されて男の着ているスーツに掛かってしまった。慌てふためく春香。

 

「ご、ごめんなさいっ! 私ったら何てこと……!」

 

 ハンカチを取り出して拭こうとしたが、男はにっこり笑って手で制した。どこか妖しい雰囲気を纏う、不思議な男であった。

 

「大丈夫。それじゃ」

「だ、大丈夫じゃないですよ! せめてクリーニング代を……!」

 

 立ち去ろうとする男を春香が止めかけたその時、遠くから雷の音が聞こえたような気がした。

 

「! 今のは……!」

「嵐が来そうだね」

 

 男は春香の考えたことが分かったかのようにそう言った。

 

「は、はい。変な天気が続きますし……」

「僕は嵐が好きだよ。退屈な世界から心を解き放ってくれるからね」

「は、はぁ……」

 

 急におかしなことを言う男に、春香は呆気にとられた。

 更に鳥の羽ばたきのような、風のうなる音が春香の耳に入る。

 

「!! やっぱり……!」

「――Un coup de foudre」

 

 男の突然のつぶやきに、思わず振り向く春香。

 

「え?」

「日本語で何を意味するか分かるかな?」

「いえ……」

「雷の一撃。――出会い頭のひと目惚れさ」

 

 その言葉の直後に赤い稲妻が瞬き――男に異形の影が被さった。

 稲妻の閃光に、反射的に目をつむった春香。目を開けると……目の前にいたはずの男が忽然と消えていた。

 

「あ、あれ?」

 

 辺りをキョロキョロ見回す春香のケータイが、律子からの着信を知らせた。

 春香が電話に出ると、律子が声を荒げた。

 

『春香、すぐに戻ってきて!』

「え?」

『ストームチェイサーが反応してるの! 竜巻の発生は――そっちよ!!』

 

 ハッと、真上を見上げる春香。頭上の空では――急激に暗雲が渦巻いて、竜巻が地上に向かって降りてきた!

 

「きゃああああああああああっ!!」

「うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

 

 たちまち辺りは大混乱に陥り、地上のあらゆるものを吹き飛ばし始める竜巻から人々は必死に逃げ回ったり建物にしがみついたりする。

 春香も同じようにしようとしたが――その身体が浮き、竜巻に向かって吸い込まれていく。

 

「きゃあああああ―――――――――――――――っっ!!?」

 

 どんどん地上から離れ、竜巻の中に吸い寄せられていった。逆巻く暴風にいいように弄ばれて悲鳴を上げ続ける春香だが――その視界が、こちらに向かって近づいてくる人影を捉えた。

 

「全くお前は……! 世話焼かせるなッ!」

 

 紅ガイが春香の身体をしっかりとキャッチした。

 

「プロデューサーさん!? 何やってるんですかぁっ!?」

「いいから、目ぇつむってなッ!」

 

 春香とガイは、竜巻によって空高く飛ばされていく!

 

「わああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――っ!! わっ、ひゃっ、ひゃああぁぁぁぁぁぁぁっ!! わわっ!! きゃっ!! い、いやぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――!! 落ちるぅぅぅぅぅぅ―――――――――――――――っ!! やっやぁぁぁぁああああああああああああ――――――――――!! きゃああああああああああああああああっ!! あっ!! あぁっ!! ああああっ!! あああああ―――――!? ……あれ?」

 

 気がつけば、自分はガイにお姫さま抱っこされた姿勢で地上にいた。空まで吹っ飛ばされたはずなのに、怪我一つない。

 

「大丈夫か?」

「は、はい……」

 

 唖然としている春香に、まるで何事もなかったかのように尋ねたガイ。

 その前方に、空から青い羽毛と額に真っ赤で禍々しい輝きを放つクリスタルを持った巨大な鳥が降ってきた!

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

「ま、マガバッサー……!」

 

 春香はすぐに、竜巻の中にいた巨鳥と同じものだと理解した。

 すなわち、風ノ魔王獣マガバッサー!

 

「お出ましになったな!」

 

 マガバッサーを見上げたガイは、次いで春香の顔に目を落とすと、何かを決心したように大きくうなずいた。

 

「春香、行くぞッ!」

「えぇぇっ!? 行くってどこにぃ!?」

 

 自分の状態も理解して真っ赤になった春香に構わず、ガイは逃げ惑う人々から離れるように近くの建物の陰まで駆け込んでいった。

 

「よし、ここにしよう」

 

 そして証明写真機を見つけると、その中に春香を連れ込んでカーテンを閉めた。

 

「ぷ、プロデューサーさん、何するつもりなんですかぁ!? こんな狭いとこに連れてきて……!」

「時間がない! 今は俺の言う通りにするんだ!」

 

 ガイはどこからか、春香が見たことのないようなリング状の物品を左手で取り出すと、春香には赤と銀色の超人が描かれたカードを差し出した。

 

「春香、これをこのリングの中に通すんだ! “ウルトラマンさん”と言いながらな!」

「う、うるとらまんさん? プロデューサーさん、何の話……」

「早くッ!」

 

 ガイに急かされて、カードを受け取った春香は言われた通りにそれをリングの間にかざした。

 

「う、ウルトラマンさんっ!」

 

 するとカードが光の粒子に変わり、春香の真横に回り込んでいく。

 

[ウルトラマン!]

 

 光の粒子は、カードの絵柄と同じ姿の超人のビジョンへと変化した!

 

『ヘアッ!』

「えぇぇっ!? 誰!?」

 

 気がつけば、周囲も宇宙空間のような景色に変わっている。

 

「ここどこぉっ!?」

 

 ガイは何も答えず、赤と紫と銀色の超人のカードを出した。

 

「ティガさんッ!」

 

 それを、春香にやらせたようにリングの中にかざす。

 

[ウルトラマンティガ!]

 

 そのカードも光の粒子に変わり、超人のビジョンがガイの右側に出現した。

 

『ヂャッ!』

 

 混乱し切る春香を置いて、ガイはリングを頭上に高々と掲げた。

 

「光の力、お借りしますッ!」

 

 リングの取っ手のトリガーを引くと、両翼部が開き、リングから水色と黄色の光が溢れ出る。

 

[フュージョンアップ!]

 

 リングから水色、黄色、そして紫色の光の波動が発せられ、ガイの姿も輪郭がはっきり見えない超人のものに変貌した。

 

『シェアッ!』『タァーッ!』

 

 二人の超人のビジョンは春香を巻き込んで、姿を変えたガイと一体となり、また別の姿を形作る。

 

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

 

 二つの逆巻く渦巻きを突き破り、赤い光と青い輝きを伴いながら超人が飛び出していく!

 

 

 

 ――春香が目を開けると、先ほどは山のように巨大だったマガバッサーが、自分と同等の大きさにまで縮んでいるのが見えた。

 いや違った。街も縮尺を小さくして、眼下に広がっている。つまり、自分がとんでもなく巨大化しているのだ!

 

『「えええぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!?」』

 

 もっとよく状況を確かめてみたら、正確には自分は『巨人の中に』いて、その感覚とつながっているのだということを理解した。

 銀色と赤と紫、黒。先ほどの二人の超人を足したような容貌に、リング型の発光体が胸に燦然と輝く巨人。それは竜巻の中で見た巨人と全く同じであったが、あの時の半透明のものとは違い、はっきりと姿が現れている。

 しかも直感で、この巨人は紅ガイそのもの、彼が変身したものだと感じ取った!

 

『「プロデューサーさん、一体全体どういうことなんですかぁぁぁっ!?」』

『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!!』

『「――いや意味分かんないですよっ!」』

『悪いが詳しく説明してる暇はない! 奴が来るぞッ!』

 

 堂々と胸を張った巨人――オーブに、マガバッサーが羽を広げて飛びかかってきた!

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 オーブはマガバッサーの頭を押さえて突進を止める。

 

『「きゃああああっ!!」』

 

 悲鳴を上げた春香にガイ=オーブが呼びかける。

 

『怖気づくな春香! 俺たちでこいつと戦い、世界を守るんだッ!』

『「戦うぅ!? でも私、喧嘩なんてしたことないですよ!?」』

『大丈夫だ! 俺がお前たちにやらせてたダンスレッスンがあっただろう!』

『「ありましたけど……」』

『あの中にオーブの戦いの動きを盛り込んでおいた! レッスンを思い出せば戦うことが出来るんだ!』

『「そうだったんですかぁ!? 道理で変なポーズが多いと……何してくれたんですかプロデューサーさんっ!!」』

『文句なら後で聞く! 今は戦いに集中しろ!』

 

 マガバッサーは猛りながらオーブを押してくる。最早後戻りは叶わないらしい。

 

『「えーいっ! こうなったら破れかぶれだぁーっ!」』

 

 腹をくくった春香の動きがオーブと連動。マガバッサーの首を押し上げ、その胴体にストレートキックを入れた。

 

『「やぁーっ!」』

『いいぞ春香! その調子だッ!』

 

 春香の奮闘を励ますオーブ。しかしマガバッサーも負けじと反撃してくる。

 

「ミィィィィ――――! プァァ――――――!」

 

 クチバシの刺突を咄嗟に受け止めるが、がら空きのボディに翼の叩きつけが入れられた。

 

「グワッ!」

『「うあぁっ!」』

 

 ジャンプしたマガバッサーが滑空して襲い掛かってくるが、オーブは前転してその下をすり抜けた。

 

「ミィィィィ――――! プァァ――――――!」

 

 振り向いたマガバッサーにオーブが低く跳んで空手チョップを叩き込む。

 

「オォォリャアッ!」

「ミィィィィ――――!」

 

 ひるんだように見えたマガバッサーだが、こちらも跳んで空中からオーブに連続キックを仕掛けた。

 

「ウアァッ!」

 

 よろめいたオーブを、着地したマガバッサーが翼に叩きつけで張り倒す。

 

「ウワァァッ!」

「ミィィィィ――――! プァァ――――――!」

 

 更に倒れたオーブを踏みつけ、飛び上がっては踏みつけを繰り返す。

 

『「痛い痛いっ!」』

『痛くないッ! 今のお前の肉体は鋼鉄の強度だ。これくらいは何ともないぞッ!』

 

 叫ぶ春香をオーブが一喝して我に帰らせた。

 

『「あっ、ほんとだ……。なら!」』

 

 オーブはマガバッサーが浮いた瞬間に起き上がり、その脚にしがみついてマガバッサーを捕まえた。

 

『よしッ! そのまま投げ飛ばせ!』

『「えぇぇーいっ!」』

 

 オーブはマガバッサーを捕らえたままその場で回転し、マガバッサーを振り回して遠心力をつける。そして、

 

「オリャアアア―――――ッ!」

 

 ジャイアントスウィング! マガバッサーは背面から地面に叩きつけられ、かなりのダメージを受けた。

 

 

 

 千早と律子は声がなくなるほど驚きを抱えて、マガバッサー相手に奮闘するオーブの姿に目を奪われていた。

 

「何なのあれは……!?」

「あ、あり得ないわ……! 私は夢でも見てるのかしら……? あの巨人はどこから現れたというの!? 一体何者なの……!?」

 

 律子が目の前の現実にうろたえながら口走ると、その脇から一人の男がぬっと現れる。――先ほど春香がぶつかった男である。

 

「ウルトラマンオーブ」

「ウルトラマンオーブ?」

 

 男の存在に気がついた千早が繰り返した。

 

「輝く銀河の星。光の戦士って奴」

 

 訳知り顔で語る謎の男を、千早と律子は怪訝に見つめた。

 

「プァァ――――――! ミィィィィ――――!」

 

 その時にマガバッサーが翼を大きく羽ばたかせて突風を引き起こした。オーブがよろめく他、千早たちも強風にあおられる。

 

「きゃっ……!」

 

 二人が顔を上げた時には――男の姿は忽然となくなっていた。

 

 

 

 オーブは春香に反撃を指示する。

 

『春香、両腕を左右に伸ばせ!』

『「左右に!?」』

 

 ダンスレッスンの内容を思い出しながら、胸に当てた腕を左右に開くと、右手にノコギリ状の刃が生えた光輪が現れた。

 

『それを投げつけるんだ!』

『「てやぁっ!」』

 

 春香が指示通りに振りかぶり、オーブが光輪を投げ飛ばした。だがマガバッサーは空高く飛び上がって光輪の軌道から逃れる。

 

『「! この場合は……!」』

 

 春香は一瞬考え――前に全開で踏み出した。

 オーブが紫色の輝きに包まれながら全力で走って一瞬で光輪に追いつき、キャッチしたそれを逃げるマガバッサーの方向へ投げ直した。

 

『「こうだっ!」』

『上手いぞ春香ッ! 次はジャンプだ!』

『「ジャンプ!?」』

 

 春香が言われた通りにジャンプすると――。

 

「シュワッ!」

 

 オーブは全身で翔ばたき、マガバッサーを追いかけてぐんぐん空を駆けていく!

 

『「飛んでる……! 私、大空を飛んでるっ!」』

『そうだ! 俺たちは飛べるんだ、この空をッ!』

 

 先にマガバッサーに追いついた光輪が、片方の翼を半ばから切断して切り落とした。

 

「ミィィィィ――――!」

 

 翼が半分になったマガバッサーの速度がガクンと落ちたことで、オーブは後ろからしがみつき、動きを封じて首を捕らえる。

 そのまま真下に向けて一気に引きずりおろしていく!

 

「オォォォォッ! リャアァッ!!」

 

 マガバッサーを高空から真っ逆さまに地面に叩きつけたことで、すさまじい衝撃が発生。その風圧は離れている千早たちにも掛かるほどだった。

 

 

 

 オーブと春香が戦っている中、変身する際に入った証明写真機の待ち時間を示すタイマーが一分を切った。

 

[出来上がりまで、あと、一分]

 

 

 

 オーブの胸の光るリングの色が、青から赤に変わった上に点滅を始めた。

 

「ウッ、ウゥッ……!」

 

 途端にうめき声を上げるオーブ。その身体から、融合した二人の超人のビジョンが一瞬苦しそうに抜け出た。

 

『「な、何なに!? 何事ですか!?」』

『そろそろフュージョンアップの限界が近いんだ……! 決着と行くぞ!』

 

 マガバッサーの方も先ほどのダメージが響いて、動きが大きく鈍っている。絶好のチャンスだ。

 

『決めのポーズだ! 分かるな!?』

『「決めのポーズっ……!」』

 

 春香は教えられたように、右腕を頭上に高く掲げ、次いで左腕を横にピンと伸ばした。

 同じポーズを取るオーブの右腕を軸に光の輪が生じ、輝きがどんどん増していく。そして両腕を十字に組み直すと、心が完全にリンクした春香とオーブが叫ぶ。

 

「『スペリオン光線!!」』

 

 オーブの右手より、猛烈な勢いの光の奔流が放たれる!

 

「ミィィィィ――――!! プァァ――――――!!」

 

 光の奔流の直撃を受けたマガバッサーが、大爆発を起こす。宙に飛び散った羽毛を残し、跡形もなく消滅したのだった。

 

『「や、やったぁっ!!」』

『ああ。初めてにしては上出来だったぞ、春香』

 

 歓喜した春香を称賛したオーブは、腕を高く振り上げて空高くを目指し、この場から飛び去っていった。

 

「シュウゥワッチ!」

 

 

 

「……巨人が、怪獣をやっつけた……」

 

 戦いの一部始終を見届けた千早と律子が、オーブの去っていった先を見上げたまま立ち尽くしていた。

 

「とても信じられない……。でも、全部本当のことだったわ。それともう一つ、確かなことがある」

「ええ。――お陰で、世界は救われたのね」

 

 律子と千早が顔を見合わせていると、空の彼方より青と銀の丸っこい航空機が飛来して、二人の頭上を越えていった。

 

「ビートル隊! もう、今頃来ても遅いわよ」

「渋川さんに文句言ってやらないとね」

 

 律子のひと言に、二人はおかしそうに笑いをこぼした。

 

 

 

[ご利用、ありがとうございました]

 

 その後、写真が出来上がったタイミングで、元の証明写真機からガイと春香の二人が出てきた。

 

「す、すごかった……。あっ、プロデューサーさん!?」

 

 ガイは呆けている春香を置いて、どこかへと走り去っていく。追いかけようとした春香だが、写真に気づいてそれを取り出した。

 写真をひと目見て唖然とする春香。

 

「う、うわぁ……ほんとに私、あの巨人、オーブに変身してたんだ……」

 

 写真には、ガイと春香が融合し、オーブになっていく経緯がはっきりと写されていた。

 これは誰にも見せられないな、と春香は写真を懐に突っ込んだ。

 

 

 

 ガイの方は、マガバッサーの爆散した跡地で足を止めていた。その中央には、マガバッサーの額に埋め込まれていた真っ赤なクリスタルが地面に刺さっている。

 ガイがオーブに変身する際に使用した、オーブリングをクリスタルに向けると、クリスタルが弾けて、内部の光の粒子がリングに集まっていった。

 光の粒子がリングをくぐると、一枚のカードに変わる。赤と銀の体色で、胸に菱型の発光体が埋め込まれた超人の絵柄だった。

 

「マガバッサーを封印してたのは、ウルトラマンメビウスさんの力でしたか。お疲れさまです!」

 

 ガイはカードに一礼すると、それを腰に提げたカードホルダーの中に収めたのだった。

 

 

 

 千早と律子は、春香の姿を捜して駆け回っていた。

 

「春香ー! どこ行っちゃったのー!? 春香ー!」

「まさか竜巻に吹っ飛ばされちゃったんじゃないでしょうね……。春香ー!」

 

 懸命に捜していると――前方から春香とガイが歩いてくるのを発見した。

 

「あっ、いたわ! プロデューサーと一緒よ!」

「プロデューサー、どうしてここに……」

 

 春香は少々険しい顔つきで、ガイにしつこく纏わりついていた。

 

「プロデューサーさん、説明して下さい! オーブって何なんですか? プロデューサーさんは一体何者なんですかー!?」

「まぁまぁ、そう焦るなよ。どうせ教えるなら、みんなに纏めて教えてやるからさ」

 

 ガイはそしらぬ顔で、独特な形のハーモニカを取り出してそれを奏で始める。

 

「またハーモニカ吹いてとぼけちゃって! もぉーっ!」

「春香、どうしたの? 何の話?」

「千早ちゃん、律子さん! 聞いてよ! プロデューサーさんったら私を……!」

「おいおい、外で言うのは勘弁してくれ。話は事務所に帰ってからだ」

 

 興奮する春香とは対照的にひょうひょうとしているガイ。そんな二人の様子に首をひねった千早と律子も交えて、彼らは765プロの事務所へと帰っていったのだった。

 

 

 

 ――春香とぶつかった男が、手にガイのオーブリングと瓜二つのリングを握り締めている。ただし、その色取りは暗黒のような黒一色であった。

 

『ミィィィィ――――! プァァ――――――!』

 

 男のリングの間に、マガバッサーの幻影が現れる。そして男は、リングから創造されたマガバッサーの描かれたカードを引き抜いた。

 

「オーブ……。お前は希望の光か? それとも……底知れぬ闇、かな?」

 

 カードを見つめた男はそうつぶやいて、にやりと口の端を吊り上げた……。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

春香「天海春香です! 今回ご紹介するのは、ぼくらのヒーロー、ウルトラマンさんですっ!」

春香「ウルトラマンさんは1966年放送の『ウルトラマン』の主人公! その名の通り、五十年も続くウルトラマンシリーズの始まりとなった、最初のウルトラマンです! この方から歴史は始まったんですよ!」

春香「でもウルトラシリーズとしての最初は、前番組の『ウルトラQ』です。これは「テレビで見られる怪獣映画」がコンセプトだったので、怪獣は出てきてもヒーローはいませんでした」

春香「それで子供たちが憧れるヒーローが必要だということになり、ウルトラマンさんが作られたんですよ! その人気はもう言うまでもないのはお分かりですよねっ!」

ガイ「そして今回のアイマスの曲は『READY!!』だ!」

ガイ「これはアニメ版『アイドルマスター』の前期オープニングテーマだ。765プロのアイドル全員で元気いっぱいに歌い上げる、アニメの始まりとして文句なしの一曲だぞ!」

ガイ「ところでアイマスのアニメといえば、これの前にもう一つ別の奴があったような……」

春香「そ、その話は色々長くなるのでよして下さいっ!」

春香「それじゃあ次回も、また見て下さいね」

 




 如月千早です。私たちはプロデューサーから衝撃的な話を打ち明けられました。私たちが、ウルトラマンオーブになって怪獣と戦うと……! でも美希だけはそれを拒否して765プロから逃げ出してしまいます。けれどその美希が、次の魔王獣復活をたくらむ謎の男を見つけてしまい……!
 次回『フューチャーをつかめ!』。美希は大丈夫なのかしら……?


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フューチャーをつかめ!(A)

 

「よもや、『その時』が来たというのかね?」

「ここから離れろ。悪魔の風が来る……!」

「き、巨人!?」

「春香、行くぞッ!」

「えぇぇっ!? 行くってどこにぃ!?」

『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!!』

「何なのあれは……!?」

「ウルトラマンオーブ」

「輝く銀河の星。光の戦士って奴」

「『スペリオン光線!!」』

 

 

 

『フューチャーをつかめ!』

 

 

 

 突如都内に降臨した光の巨人、オーブが異常気象の原因、怪獣マガバッサーを撃退したその日の夕暮れのこと。765プロ事務所では、アイドルがガイの前に勢ぞろいしていた。

 春香が開口一番に、ガイに告げた。

 

「みんな集まりましたよ。さぁ、プロデューサーさん教えて下さい。あなたのこと、オーブのこと!」

 

 そう言った春香に、千早が顔を向けて尋ねた。

 

「春香、オーブってあの光の巨人……ウルトラマンオーブのこと?」

「……実はね、千早ちゃん」

 

 千早と顔を向き合わせた春香が、おもむろに打ち明けた。

 

「あのオーブは、私とプロデューサーさんが変身したものなの! 私たちが怪獣をやっつけたんだよ!」

「えぇ!?」

 

 アイドルたちは一気に騒然となった。

 

「それ本当のことなの!? 確かにオーブがいる間は、連絡も取れなかったけれど……」

「何ですか? 何の話をしてるんですかー?」

「春香ちゃんとプロデューサーがあの巨人に……えっ?」

「わ、訳が分かんないよ。一体どういうこと?」

「いや、そんなことある訳ないじゃないの。春香、頭どうかしちゃったんじゃないの?」

「ええ……。人間があんな巨人になるなんて、あり得ることじゃないわ。質量保存の法則はどこに行っちゃったのよ」

 

 話を呑み込めないやよい、雪歩、真や、そもそも信用しない伊織、律子など、アイドルたちはそれぞれ戸惑った反応を見せた。

 

「ガイ君、臨時ニュースで見ていたよ。天海君の力を借りて、完全なオーブの姿になったんだね」

 

 皆が困惑しているところに高木と小鳥がやってきた。高木は一番に、ガイにそう話しかける。

 

「その通りです、社長。春香のお陰で、マガバッサーを討ち取ることが出来ました」

 

 ガイも、さも当然といった風に高木に返答した。二人のやり取りを見て、あずさが高木に尋ねかける。

 

「待って下さい、社長。社長たちはオーブという巨人のこと、事前に知ってたんですか?」

 

 高木はあっさりと首肯した。

 

「うむ、そうなのだよ三浦君」

「みんな、今まで黙っててごめんなさい。でも、先に話してもとても信じてもらえないから、結果的に教えられなかったの」

 

 小鳥までそう話した。彼らの反応に律子は狼狽しながら質問する。

 

「社長! プロデューサーも小鳥さんも、これはどういうことなんですか? この事務所は何なんですか!?」

 

 律子の言葉はアイドルたちの総意だった。これを受けて、高木が口を開く。

 

「うむ。今こそこの765プロダクションの真実を教えよう。あまりに現実離れした内容だが、現実に現れた怪獣と、それを打ち倒した巨人を目撃した今の君たちならば受け入れられるだろう」

 

 と前置きして、高木は765プロの真実なる話を始めた。

 

「もう三十年以上も前の話となる。当時の私は芸能業界の関係者ではなく、民俗学者を夢見る若者だった。私の名前を後世に遺すことを夢見て、情熱の赴くままに新発見を求めて日本中を駆け回っていた」

「そういえばパパから聞いたことがあるわ。社長は民俗学者から芸能事務所の社長に転職した、異色の経歴の持ち主だって」

 

 高木の話を聞いて伊織がつぶやいた。

 

「うむ。だが、私は常軌を逸した新発見をしてしまったのだ。人智を超える生命体、怪獣の実在の証拠だ! 更にはあの禍翼のような魔王獣の復活を皮切りとして、怪獣たちが現代の世に蘇り、世界はあらゆるバランスが崩れた混沌の時代を迎えるという確証も得た!」

「それって、あんなでっかい生き物が、これからまだまだ現れるってこと!?」

「ぢゅいッ!?」

 

 響が仰天し、ハム蔵はおびえて身をすくませた。高木はおもむろにうなずく。

 

「このままでは人類は怪獣の猛威によって滅亡してしまう。だが私に、その事態に対処する力などない……。悩みながらも怪獣の研究を行っていたある日に、私は巡り会ったのだ。そう、ここにいる紅ガイ君……光の巨人、オーブに!」

 

 ガイのことを改めて紹介した高木。それについて疑問を持つ亜美と真美。

 

「えっ? 社長が民俗学者やってたのって、三十年も昔のことなんでしょ?」

「その時出会ったって……兄ちゃん一体何歳なの!?」

「ガイ君は見た目通りの年齢ではない。いや、それどころかこの地球の人間でもない。遠くの星から、この地球を救うためにはるばるやってきてくれた戦士なのだ」

「みんな、今まで黙ってて悪かったな」

 

 ガイが別の星の人間……つまり宇宙人だということを聞かされて、アイドルたちは驚き果てた。やよいがつぶやく。

 

「そんな……プロデューサーが宇宙人だなんて……」

「まぁでも、どことなく超然とした雰囲気があったし、そう言われてもちょっと納得かも」

 

 伊織はそう発した。

 説明を続ける高木。

 

「私はガイ君、オーブのことを知り、この地球の救世主であると確信した。そして私も彼の力になるべく、この765プロを創立したのだ。……そう、芸能プロダクションというのは表の顔。真の姿は、オーブの支援組織だったのだよ!」

「な、何だってー!?」

 

 亜美と真美の声がハモった。他の皆も驚きを露わにしている。

 

「ど、どうして一個人でそんな大それたことを……。そんな重要なことは、国とかもっと大きなところに任せればいいじゃない」

 

 伊織のその疑問には、律子が回答した。

 

「大きな人間の集団は、信用できないから。そういうことじゃないですか、社長?」

「流石は律子君だ、察しがいい。オーブの力は、私たち地球人には強すぎる。強い力は人を惑わせるもの。この地球のために、ガイ君が悪しき考えを抱いた者に利用されるような事態にはしたくないのだ」

 

 高木は律子の推測を全面的に肯定した。

 

「それで、私がプロデューサーさんと一緒に変身して怪獣を……」

 

 春香が語った時、千早が高木達に問うた。

 

「待って下さい。どうしてそこで春香……いえ、春香だけでなく私たちも戦いに駆り出されることになるんですか? 私たちは、本当は……そのために集められたということですね?」

 

 するとガイが申し訳なさそうに頭を垂れた。

 

「本当は俺一人で戦うべきなんだが、俺は……昔の戦いの後遺症で、自分一人では満足に戦うことが出来なくなってしまったんだ」

 

 言いながら、腰に提げたカードホルダーから二枚のカードを取り出す。スペシウムゼペリオンへの変身の際に使用した、ウルトラマンとティガのカードだ。

 

「今はこのカード、ウルトラマンさんたちの力の結晶から光の力を借りないと、オーブに変身すら出来ない。それでも、俺だけでは完全に力を引き出すことが出来ない現状なんだ」

「そういえば、竜巻の中ではプロデューサーさん……オーブ、半透明でしたね」

 

 春香が最初に見たオーブの姿を思い出した。全身すけすけで、今にも輪郭が崩れてしまいそうだった。

 高木もまた残念そうな表情をしている。

 

「私も、本当なら自らガイ君とともに戦いたい気持ちなのだが、歳を取って私の身体はすっかり衰えてしまった。とてもじゃないがオーブの戦いにはついていけん。そのため、若くて未来への希望溢れる君たち若者の力が必要なのだよ」

「そうだったんですか……」

「騙す形になってしまったのはすまなかった。だが私たちには、この地球を怪獣から救うためには、君たちが必要なのだ! 無理を言っているのは承知している。危険も押しつけることにもなる。その上で……どうか私たちに協力してほしい!」

「俺からも頼む。みんなの力を、俺に貸してくれ!」

「みんな、どうかお願い! この地球の救世主になって!」

 

 高木、ガイ、小鳥の三人から頭を下げられて頼まれ、アイドルたちは戸惑いを覚える。

 

「そんなこと、いきなり言われても……」

「……私は、プロデューサーさんと一緒に戦うよ!」

 

 そんな中から、春香が一番に申し出た。

 

「春香!?」

「そりゃあ最初は驚いたけど……誰かがやらないと、今回みたいに街が滅茶苦茶になっちゃうんだよね? だったら、私がやるよ!」

 

 春香に続いたのは貴音だった。

 

「わたくしもプロデューサーのお力になります。義を見てせざるは勇無きなり、です」

 

 それから他のアイドルたちも続々と賛同した。

 

「自分も、家族を守るためなら何だってやるぞ!」

「うっうー! 私も、家族のために頑張りますっ!」

「ボクも、悪い奴らの好きにはさせません! ボクの空手の腕がちょっとでも力になるのなら!」

「アイドルになりに来て、こんなことに巻き込まれるなんて……。でもやらなきゃ世界が危ないっていうのなら、やってあげないこともないわよ!」

「亜美たちも、兄ちゃんたちと一緒に怪獣とバトっちゃうよー!」

「真美たちが世界を救うヒーローなんて、チョーかっちょいいもんね!」

「……歌を歌うためには、まず何よりも世界が存続してることが第一よね」

「あまりに非科学的な話の連続だわ……。でも、現実は机上の理論に勝る。やらなきゃいけないのなら、私だってひと肌脱ぎますとも!」

「あらあら。じゃあ僭越ながら、私も」

「わ、私も怖いけれど、誰かの命を守るためだったら、頑張りますぅ!」

「みんな、ありがとう……!」

 

 それぞれが悩んだ末に、答えを出していった。ガイは協力を申し出たアイドルたちに感謝するが、

 

「――冗談じゃないのっ!」

 

 美希だけは、バンッ! と机を強く叩いて反発した。

 

「変身して怪獣と戦う? そんな話、全然聞いてないの! 騙すなんてサイテーなの! 社長もプロデューサーも、嘘吐きなのっ!」

「うッ、申し訳ない……」

「み、美希、ちょっと落ち着いて……」

 

 興奮する美希を真がなだめようとしたが、美希はその手をはたいた。

 

「ミキ、もうあんな危ないことしたくない! こんなどうかしてるところにはいられないのー!!」

「ミキミキ! そんな推理小説なら次の被害者になるようなこと言って……!」

 

 真美の制止も待たずに、美希は走り出して事務所から飛び出ていってしまった。なす術なくその背中を見送った伊織がため息を吐く。

 

「もう、美希ったら意気地なしね」

「まぁ、あれが普通の反応だと思うけどね」

 

 響のぼやきにハム蔵がうなずいた。

 

「社長、どうしましょう……?」

 

 小鳥が困り果てて尋ねると、高木もうなりながら腕を組んだ。

 

「まぁ、無理強いも出来ん。美希君が嫌だと言うのなら、私たちには止めることなど出来んよ。残念だが……」

「美希……765プロからいなくなっちゃうつもりなの……?」

 

 春香が寂しげに美希の出ていった事務所の玄関を見つめた。

 一方で、律子がガイにこう呼びかける。

 

「ところでプロデューサー。私、まだ誰も知らなかったオーブのことを「ウルトラマンオーブ」と呼んだ男の人と会ったんです。ねぇ千早」

「ええ……。どういうことか、あの人はオーブのことを事前に知ってたことになるわね」

 

 律子の報告にガイは唖然と目を見開く。

 

「プロデューサーは何かご存じないでしょうか」

「……その男というのは、どういう奴だったんだ?」

「黒のスーツに薔薇を一輪胸に挿した、如何にもキザっぽい澄ました感じの人でした。髪は天然パーマみたいで」

 

 特徴を聞いたガイが、あらぬ方向に目をやって小さくつぶやいた。

 

「まさか……あいつが……」

 

 

 

 翌日、美希は一人で町の中をぶらぶらと散歩していた。本当ならレッスンをしている時間のはずなのだが、そんな気分になれずにサボタージュしているのであった。

 

「はぁ……昨日は勢いで飛び出したけど、これからどうしよう……」

 

 冷静になってから、今後自分がどうすべきかについて悩み、景色の真ん中に建つオフィスビルを見やった。すると、

 

「――すっかり変わっちまったなぁ、この町の風景も。昔はあのビルの向こうに、綺麗な夕陽が見えたもんさ」

 

 後ろからやってきたガイが、美希の隣に並んでそう語った。

 振り向いた美希はジトッとにらみつける。

 

「……ミキを連れ戻しに来たの?」

「いいや。無理を言ってるのはこっちさ。お前が事務所を辞めるというのなら止めはしないし、アイドル活動だけやるってのならそれで構わない。少なくとも、俺はお前の意見を尊重するぞ、美希」

「……」

 

 ガイの言葉に、美希は無言の返答をした。

 

「ただ、一つだけ注意しておくことがある。今日はそれを伝えに来た」

「注意しておくこと?」

「こいつだ」

 

 美希に一枚の紙を手渡すガイ。それは、春香たちが出くわした黒い男の人相書きであった。

 

「この人誰?」

「ジャグラスジャグラーっていう名だ。昔、こいつと色々あってな……危険な奴なんだ。もし見かけたら、関わり合いにはなるな」

「……」

 

 美希が人相書きを注意深く観察した、その時――。

 二人が先ほどながめていたビルが、突如轟音を立てて「真下」に落下していった。

 

「えっ……!?」

 

 目の前で起こった異常事態に声を失う美希。ガイもまた、固まりながら消えたビルに目をやっていた。

 

 

 

『本日発生した大規模な地盤沈下。私は、今その現場に来ています』

 

 地中に消えたビルの件は、すぐにニュースに取り上げられていた。テレビの画面には、オフィス街の中央にぽっかりと大きく綺麗に開いた穴が映し出されている。

 

「うわぁ……大変なことになってる……」

「地面に穴開けるのはゆきぴょんだけで十分だよー……」

 

 春香たちは異様な現場を映すテレビ画面に釘づけになっていた。その後ろで、小鳥が高木に尋ねかける。

 

「社長、これもまた魔王獣の仕業では……!」

「うむ……明らかにただごとではない。新たな魔王獣が活動を開始したということは十分に考えられるね」

 

 魔王獣の名前を聞いて、やよいが目を伏せた。

 

「そんな……またたくさん犠牲になる人が出ちゃうんですか?」

「そんなことは許さないわ。私たちで次の魔王獣の情報を集めて、これ以上の被害を防ぐわよ!」

 

 律子の音頭に、アイドルたちはそれぞれうなずいて意欲を見せた。そして高木が指令を発する。

 

「では臨時の『アンバランスQ』、「地底怪獣の謎を追え!」の取材開始だ! 君たち、よろしく頼んだよ!」

「『アンQ』ってこのための番組だったんだね」

「そういうことなのだよ」

 

 亜美の聞き返しに高木は満足げに首肯した。

 

 

 

 美希はオフィスビル跡の巨大な穴の前までやってきていた。穴の周りは警察が囲っていて立入禁止にしている。

 

「すごいことになってるの……。あれ、プロデューサー?」

 

 ふと気がつくと、一緒にいたはずのガイの姿が側にない。辺りを見回したら、どうやったのか警察の目をくぐって穴の縁に立っているのを見つけた。

 

「あっ! あんなところに!」

 

 ガイは光の届かない穴の底に向けて手をかざし、意識を集中した。

 そうすることで、地中に潜む巨大な気配を感知する。

 

「やはり、土ノ魔王獣か……」

 

 ガイが確信を得ていると、渋川が駆けつけて注意する。

 

「おい、君! 765プロのプロデューサー君じゃないか。ここは立入禁止だ。勝手に入っちゃ駄目じゃないか」

「いつも地球の平和のため、お勤めご苦労さまです」

 

 ガイはペコリと頭を下げて挨拶する。

 

「ご丁寧にどうも。けどそんなことより、危ないから下がりなさい。また地盤沈下が起こる可能性も……」

 

 渋川が言いかけた時、またも背景のビルが音を立てて地中に沈んでいった!

 

「あぁッ!? 何てこったいこれ! えぇ!?」

 

 ガイはすぐさま新たに沈んでいったビルの方向へ駆け出していく。

 

「あッ、君!」

「プロデューサー!」

 

 慌てて呼びかけた美希に、ガイは短く告げた。

 

「美希はどこか安全なところに避難してろ!」

 

 それだけ言い残して、ガイは瞬く間に走り去っていった。美希は呆然と、手を伸ばしかけた姿勢でその背中を見つめていた。

 

 

 

 その後、立て続けに三棟目のビルも地中に消えていった。それをニュースで知った律子が眉間に皺を刻んだ。

 

「すごい早さで被害が拡大していってるわ……。早く何とかしないと!」

「律子さん、次に被害に遭う建物だけでも分かりませんか?」

 

 若干焦った口調で春香が尋ねた。律子はタブレットで、被害現場周辺の地図を確かめる。

 

「初めは断層に沿って地盤沈下が起きてると思ったんだけれど、三箇所目は断層の上じゃないわ。じゃあどういう法則で……」

「龍脈に沿っているのではないでしょうか」

 

 貴音が話に割って入って意見した。亜美が振り返って質問する。

 

「お姫ちん、リューミャクって何?」

「風水の思想に基づく、地中の気の流れです。気の流れが乱れた時、大地に災いが起こるのです。この東京の地には、世界でも特に多い数の龍脈が走っているのです」

「龍脈……パワースポット……それだわ!」

 

 律子がタブレットを操作し、昔に描かれた東京の地の龍脈図と現代の地図を重ね合わせた。

 

「ビンゴ! 被害現場と、龍脈の集まる地点が完全に一致したわ。貴音の言う通りね!」

「律子さん、太平風土記にそれらしい妖怪……魔王獣の記述を発見しました!」

 

 パソコンで太平風土記の内容を調べていたあずさと小鳥が報告した。

 

「“角を持ちし赤き巨人が、土を禍々しく乱せし巨大な魔物、禍蔵鬼を、龍脈を以て地の底に封印せし”とのことです」

「赤き巨人……ウルトラマンのことだね!」

「ウルトラマンはずっとずっと昔にもう地球に来てたんだ……」

 

 真と響が言った。律子は龍脈図の一点を指差す。

 

「まだ一箇所、破壊されてない龍脈のポイントがあるわ。多分ここを沈められたら、二体目の魔王獣が完全復活する!」

「大変です! すぐにこのこと、プロデューサーにお伝えしましょう!」

 

 雪歩がすぐにガイのケータイに電話を掛けた。律子は春香と千早に首を向ける。

 

「私たちも現場に急行しましょう。春香、千早、行くわよ!」

「はい!」

「ええ……!」

「がんばってねー!」

 

 律子に連れられ、春香と千早が事務所を発っていく。仲間たちは応援しながらそれを見送った。

 

 

 

 その頃美希は――偶然にも最後の龍脈の地点の付近にいた。

 

「避難しろって言っても、安全なとこがどこかなんて全然分かんないの……」

 

 ぼやきながら歩いていると……ちょうどすれ違った黒服の男に振り返った。

 

「今の人……!」

 

 一瞬視界に収めた顔が、人相書きのものと同じだということに気がついたのだった。

 

『もし見かけたら、関わり合いにはなるな』

 

 ガイの言葉が脳裏によみがえったが……同時に、地中に沈んでいったビルの光景が浮かび上がった。

 あれで少なくない数の犠牲が発生したはずだ。そして放っておけば、被害はどんどん増えていく……。

 そんな考えが生じると……美希は思わず黒い男、ジャグラスジャグラーの後を追いかけていた。

 

 

 

 ジャグラーは無人のオフィスビルの地下フロアに侵入していった。尾行する美希もまた、ビルの地下に入っていく。

 そして地下駐車場で、ジャグラーが黒いリングの間にカードを次々と通している様子を発見した。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 通されたカードは黒い粒子となり、更に地中深くに向けて消えていく。

 

「何をやってるの……?」

 

 美希には分からなかったが、彼女の感覚は雰囲気からしてとても良くないことをしているのだということを告げた。

 

「あの人のこと……とりあえず、プロデューサーに伝えよう……!」

 

 柱の陰から監視しながらそう判断した美希は、ジャグラーの姿を捉えようとケータイをカメラモードにしてジャグラーの姿を写そうとする。

 が、少し目を離している隙に、ジャグラーの姿が忽然となくなっていた。

 

「あれ?」

 

 戸惑った美希の、その背後から、

 

「やぁお嬢ちゃん。こんなところで何をやってるのかな?」

 

 ジャグラーの首が伸び、美希の背後からその肩に顎を乗せるようピッタリと張りついた。

 



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フューチャーをつかめ!(B)

 

「ひっ……!?」

 

 背後から自分の肩に顎を乗せてきたジャグラーに、美希の背筋にぞわぞわと悪寒が駆けていった。一方のジャグラーは美希の横顔を確かめる。

 

「お嬢ちゃんは765プロのアイドルだね。君たちのこと、いつも注目してるんだ。昔馴染みが勤めてるからねぇ」

「あなた……ここで何してるの……!?」

 

 美希の問いにジャグラーは答えず、一方的に語り出す。

 

「恋は矛盾に満ちている。謎が多いほど、危険が多いほど強く惹かれ虜になっていく。まるでこの世界そのものだ……」

 

 そして美希の首をきつく締め上げ始めた!

 

「うっ……!? く、苦し……!」

 

 必死にもがく美希だが、ジャグラーの力に敵わない。逆にもがけばもがくほど、美希の顔色は青ざめていく……。

 

「おい」

 

 そこに、美希にとって聞き慣れた声が割り込んできた。

 

「うちのアイドルに手を出すな」

 

 振り向いた美希の目に、ガイの姿が飛び込んだ。

 

「プロデューサー……!」

 

 ジャグラーもガイの方へ振り返ると、美希を捕まえたままじりじりと下がっていく。それに合わせて前に進み、距離を保つガイ。

 その時、地下駐車場に低いうなり声のような音が響いた。

 

『グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ……!』

「……土ノ魔王獣が目覚める!」

 

 それを耳にしたガイが口走った。

 

「土の魔王獣……!」

「そいつが目覚めれば、地上のものは全て土に呑み込まれ、消滅する。街も、人も……!」

「……!」

 

 美希はガイの語る光景を想像して、一気に顔を青ざめさせた。

 ガイはジャグラーの顔をにらんで言い放った。

 

「ジャグラー、お前の思う通りにはさせない」

「――いいや、もう止められないね!」

 

 いきなりジャグラーが美希を投げ飛ばした!

 

「きゃああっ!」

 

 宙に投げ出された美希を咄嗟にその身で受け止めるガイだが、その隙にジャグラーは真っ黒いリング――ダークリングと一枚のカードを取り出した。

 

「かつてウルトラ戦士に封印された、土ノ魔王獣マガグランドキング。この怪獣たちのパワーを得、悠久の眠りより目覚めよッ!」

『グガアアアア!』

 

 ダークリングに通されたカードが土の中へ飛んでいき――地中に封印されている大怪獣の核に吸収されていった。

 直後、駐車場全体を徐々に大きくなっていく震動が襲う。ジャグラーがガイに向けて、怪しく笑いながら告げた。

 

「お前の吹くメロディよりもっといい音色を聴かせてやる! 魔王獣の雄叫びをッ!」

 

 そう言い残してどこかへと走り去っていくジャグラー。残されたガイと美希のいる駐車場の天井に亀裂が走った。地盤が沈もうとしているのだ。

 

「きゃあぁぁぁっ!」

 

 悲鳴を上げる美希を腕の中に抱えているガイが、短く言いつけた。

 

「しっかり捕まってろよ!」

 

 天井が砕けて土砂が雪崩れ込む直前に、ガイが大きく跳躍した。

 

 

 

 間一髪、ビルが沈下する寸前にガイと美希は地上への脱出に成功した。

 

「あ、ありがとう、プロデューサー……」

「何。アイドルを助けるのがプロデューサーだ」

 

 しかし安心するには早い。四か所の龍脈のポイントが破壊されたことで、その対角線上にある一点に負の力が一気に流れ込んでいき――地中に封印されていた土ノ魔王獣が地上に這い出てきたのだ!

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 マガバッサーよりも更に巨躯の、全身が鋼鉄で出来上がったかのようなおぞましい大怪物。それが土ノ魔王獣、マガグランドキング!

 マガグランドキングが出現しただけで地面が裂け、周囲のビルが簡単に倒壊していく。

 

 

 

 地上に逃げていたジャグラーは、マガグランドキングの威容を見上げて独りごつ。

 

「万物は土から生まれ土に還る。命は一瞬の灯火……この世は一瞬で終わる」

 

 

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 復活したマガグランドキングはガイたちのいる方向へ進撃を開始した。近づいてくるマガグランドキングを見上げて舌打ちするガイ。

 

「止められなかったか……!」

 

 それから腕の中より下ろした美希の顔に振り返り、頼み込んだ。

 

「美希! 俺とともに戦ってくれ!」

「えっ!? 戦ってくれって……ミキに変身しろってこと!?」

 

 大きく動揺する美希。

 

「そ、そんなの出来ないの……! 怖いよ……!」

 

 美希はマガグランドキングの巨体から放たれる重厚な威圧感に震え上がっていた。しかしそこをガイは説得する。

 

「周りには大勢の人がいる……! 今オーブにならなければ、彼らが土の中に呑み込まれてしまうんだ! 今頼れるのは美希だけなんだ……どうか頼む!」

「……!」

 

 言われて、美希は自分たちの周辺に目をやった。ガイの言う通り、突然出現したマガグランドキングから何人もの人間が逃げ惑っていた。

 

「うッ、うわぁぁぁー! こっち来るなぁーッ!」

「助けてぇぇぇ――――――っ!」

 

 美希の脳裏に、マガバッサーの竜巻によって崩壊していく街の光景がよみがえった。このままだと、この場にいる人たちも、あの時のように……。

 それを意識して、美希も決心を固めた。

 

「……分かった! やるだけ、やってみるね!」

「ありがとう!」

 

 二人は人目のないところに駆け込んで、ガイがオーブリングを手にした。

 

「ウルトラマンさんッ!」

 

 リングに通されたカードが光の粒子になり、ウルトラマンのビジョンに変わる。

 

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

 

 ガイに続いて、美希もティガのカードをリングに通した。

 

「ティガっ!」

 

 美希の隣にティガのビジョンが現れる。

 

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

 

 二人のウルトラマンのビジョンが現れると、ガイはオーブリングを高々と掲げた。

 

「光の力、お借りしますッ!」

 

 トリガーが引かれると、リングから三色の光が溢れ出す。

 

[フュージョンアップ!]

 

 ウルトラマンとティガのビジョンが、美希を巻き込んでガイと重なり合った。

 

『シェアッ!』『タァーッ!』

 

 そしてガイが、オーブの姿に変身を遂げた!

 

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

 

 巨大化したオーブが、進撃するマガグランドキングの正面に降り立った。マガグランドキングが反応して足を止める。

 変身したガイ=オーブが決め台詞を放った。

 

『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!!』

 

 

 

 765トータス号で四つ目の龍脈のあるポイントへ向かっていた律子、春香、千早だったが、到着する前にマガグランドキングが出現してしまっていた。

 

「遅かった……!」

「プロデューサーさんは大丈夫なんでしょうか!?」

「分からないわ……! とにかく現場に急ぎましょう!」

 

 律子の運転によって、逃げる人々の反対方向へ走っていくトータス号だったが、マガグランドキングの後に更にオーブが地上に現れるのを春香たちは目にした。

 

「プロデューサーさんだ!」

「でも、誰がプロデューサーと変身を……? 私たちはここにいるし……」

 

 律子が疑問を口にすると、春香がハッと気がついてつぶやいた。

 

「まさか、美希……!」

 

 

 

 オーブは己の内にいる美希に呼びかける。

 

『よし、行くぞ美希ッ!』

『「う、うんっ!」』

 

 美希にはまだ恐怖心が残っていたが、それを振り払うように前に飛び出す。それと連動して、オーブもマガグランドキングへ肉薄していった。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

「ウゥゥリャアアッ!」

 

 跳躍したオーブがマガグランドキングの首に先制の飛び膝蹴りを決めた。そこから更に回し蹴り、連続チョップと次々に格闘技を仕掛けていく。

 

「トアァッ! ゼアッ!」

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 マガグランドキングがペンチ状の右腕を振るって反撃してきたが、オーブは紫色の光に包まれながら高速で下がり、それをかわした。

 

『いい反応だ美希!』

『「ありがとなの!」』

 

 再度マガグランドキングの懐に飛び込んだオーブは、赤い光に包まれることでパワーを増強し、キックを入れた。マガグランドキングが今度はクロー状の左腕を振り下ろしてきたが、先ほどと同じように回避した。

 美希の才能は戦闘においても発揮され、スペシウムゼペリオンに宿された能力を見事に使いこなしていた。

 ……しかし、どれだけ打撃を打ち込んでもマガグランドキングに応えている様子が微塵も見られない。

 

『「うっ……! こいつの身体、すごい硬いの……!」』

『ぐッ、想定以上の装甲の頑強さだな……!』

 

 むしろ打ち込み続けたオーブの手の方が痛んでいた。オーブがたじろいでいると、マガグランドキングの全身から衝撃波が発せられる。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

「ウワアァァァッ!」

『「きゃあああっ!」』

 

 衝撃波に押されて後ずさったオーブは、美希に指示を出す。

 

『ここは一気に決めるぞ! スペリオン光線だ!』

『「う、うんっ!」』

 

 美希が右腕を高く伸ばすと、オーブも腕を天にまっすぐ掲げた。

 二人の動きを完全にシンクロさせて、十字に組んだ手より必殺光線を発射する!

 

「『スペリオン光線!!」』

 

 ほとばしる光線がマガグランドキングの中心に炸裂!

 ――だが、命中した光線はマガグランドキングの体表で分散されてしまい、これすらマガグランドキングにダメージを与えることが出来なかった……!

 

「フッ!?」

『「そんな……!?」』

 

 動揺するオーブに、今度はマガグランドキングから光線が発射された。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 胴体に縦一列に並ぶ発光体にエネルギーが渦巻いて、禍々しい輝きの怪光線がうなる。オーブは危険を感じて咄嗟に左へ飛び込んだ。

 光線はオーブの背後に建っていたビルに当たると、外壁を綺麗に貫通してぽっかりと大きな風穴を開いた。

 

『「ひぃっ……!?」』

 

 ビルを倒壊するのではなく、貫く恐ろしい威力。美希は急激に恐怖に駆られた。

 しかもマガグランドキングは、その怪光線を連射してくる。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

『「いやぁぁぁっ!」』

 

 次々飛んでくる怪光線から、パニックになった美希は必死に逃れる。光線はビルをどんどん貫いて破壊していく。

 

『落ち着け美希! 落ち着くんだ!』

『「嫌っ! やめてぇぇぇぇっ!」』

 

 ガイの呼びかけも聞こえないほど美希は恐慌状態に陥っていた。

 

「怪獣の猛攻にウルトラマンオーブは大ピンチに立たされてます! オーブ、頑張って!」

 

 なす術のないオーブを、戦いを撮影している律子たちが懸命に応援していた。

 

「負けないでプロ……オーブさん!」

「きっとどこかに、あの怪獣の弱点が……!」

 

 だが彼女らの近くのビルが光線に貫かれ、自重に耐えられなくなったビルが三人の方向に倒れてきた!

 

「あぁぁぁぁっ!?」

 

 気づくのが遅れた春香たちの頭上に、折れたビルが落下してくる……!

 

『「みんな!?」』

 

 すると美希が三人の悲鳴で我に返り、そちらへ全速力で駆けていった。

 

『「たぁぁーっ!」』

 

 オーブは危ないところで瓦礫をはっしと受け止め、三人を救うことに成功した。

 

「あ……ありがとう……」

 

 春香たちの無事を知って、美希はほっと息を吐いた。

 

『「危なかったの……」』

『よくやったぞ、美希。お見事だった』

 

 褒めたたえるオーブだが、マガグランドキングは冷酷にもそこを狙って怪光線を発射してきた!

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

「ハッ!」

 

 咄嗟にガードを固めたオーブだが、防ぎ切れずにはね飛ばされた。

 

「ウアアァァッ!」

『「きゃああああああっ! う、撃たれたの……!」』

 

 オーブががっくりと片膝を突き、生命の危険を知らせるカラータイマーが赤く点滅し出した。

 しかし、一心同体になっているはずの美希自身に苦痛は感じられなかった。

 

『「あれ……? どうして痛くないの……?」』

『だ、大丈夫だ美希……!』

 

 不思議がる美希に、オーブがかすれた声になりながらも告げた。

 

『お前のことは、何があろうと俺が守る……! どんなダメージだって、俺が受け止め切ってやる……!』

『「プロデューサー……!」』

 

 ガイの必死な思いを感じ取って、冷静さを取り戻した美希は、ハッとあることに気がついた。

 

『「見て! そこのビル、さっきレーザーに撃たれたのに、傷一つついてないよ!」』

『何!』

 

 美希の言うビルとは、全面がガラス張りであった。それでオーブもマガグランドキングの放つ光線の性質に気がつく。

 

『そうか! 奴のレーザーは……それだったら!』

 

 オーブは傷ついた身体を立て直して、マガグランドキングの正面に堂々と立った。

 

『いいか? 奴の撃ってきたタイミングに合わせて、俺の言った通りにするんだ!』

『「分かったの!」』

 

 間合いを測り、一定の距離を保つオーブに対して、マガグランドキングがまたも光線を発射!

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 その瞬間、オーブは腕を回してバリアを作り出した。しかもそのバリアは、鏡面になっていた。

 

「ハッ!」

 

 シールドは貫かれず、空に向けて光線を反射していた。しかし強烈な圧力がオーブに掛かり、のけ反りそうになる。

 

『ぐッ……! ここで押し切られたら俺たちの負けだ……!』

 

 うめくオーブに、美希は力を込めて呼び掛けた。

 

『「大丈夫なの!」』

『美希?』

『「プロデューサーには、ミキがついてるからっ!」』

 

 美希が腕に渾身の力を込めると、シールドの向きが修正されてマガグランドキングと水平になった。

 

『「えええぇぇーいっ!」』

 

 その結果怪光線はマガグランドキング自身にはね返され――胸部を真ん丸に貫いた!

 

「グ……グルウウウ……」

 

 己の武器によって自身に風穴が開いたマガグランドキングの腕がだらんと垂れ、大暴れっぷりが嘘のようにその場に立ち尽くした。

 「何でも貫く矛」と「何でも防ぐ盾」は両立できない。マガグランドキングの場合は、矛の方が上だったようだ。それが弱点であった。

 

『今だ! もう一度行くぞ!』

『「うんっ!」』

 

 オーブが再度腕を伸ばし、スペリオン光線発射の構えを取った。

 

「『スペリオン光線!!」』

 

 スペリオン光線はマガグランドキングの風穴に叩き込まれ、体内を熱せられたマガグランドキングは一瞬膨張したかと思うと、すぐに大爆発を起こして粉々に吹き飛んだ。

 

『「やったぁぁっ!」』

 

 マガグランドキングを撃破すると、オーブが美希を称賛した。

 

『よく頑張ったな、美希。お前のお陰で、あの強敵を倒すことが出来た』

『「……でも、街を守ることが出来なかった……」』

 

 背後を振り返る美希。そこには、いくつものビルが穴だらけになった街の光景が広がっている。

 

『「これじゃ、ミキが頑張った意味なんて……」』

『――そんなことはないさ』

 

 落ち込む美希を、オーブが諭して励ます。

 

『確かにあちこち穴だらけになっちまったが、人の力はそれを直すことが出来る。だが、あのまま怪獣が暴れて人の命が失われていたら、それも出来なかった。お前は命という、最も大切なものを守り切ったんだ』

『「命……それを、ミキが守った……?」』

『ああ。紛れもない、お前の力がこの俺を、世界中の人を助けた。お前は世界中に希望の光を射し込む、煌めく星になれる! 俺が保証するぞ』

『「ミキが……きらきら煌めく星に……!」』

 

 オーブの激励により、美希の表情に明るさが戻る。それに安堵したオーブが空に飛び立ち、この場を後にしていった。

 

 

 

 ――マガグランドキングの暗黒の力の残滓は、ジャグラーのダークリングによって集められた。力の残滓はマガグランドキングのカードに変化する。

 

「俺からもお礼を言わなきゃな、ウルトラマンオーブ……」

 

 カードを指で挟んだジャグラーが、不敵にひと言つぶやいた……。

 

 

 

 オーブから戻ったガイは、美希や駆けつけた春香たちの立ち会いの下、遺されたマガグランドキングのクリスタルにオーブリングをかざした。マガクリスタルが砕け散り、破片がオーブリングに集まって、角を生やした真紅のウルトラマンのカードに変わる。

 

「やはり封印してたのはウルトラマンタロウさんの力でしたか! お疲れさまです」

 

 ガイはカードホルダーから三枚のカードを取り出し、その中にタロウのカードを加えてペコリと頭を下げた。

 

「これから、世話になります」

「……プロデューサーさん。その新しいカードも、オーブへの変身に使えるんですか?」

 

 春香がふと質問すると、ガイがニヤッと機嫌良さそうに笑った。

 

「まぁな。全部が自由自在に使えるって訳じゃないが、組み合わせ次第で……」

「組み合わせ次第で? どうなるんですか?」

「……いや、これは実際に使う時までのお楽しみにすっかぁ!」

「えぇー!? もったいぶらずに教えて下さいよー!」

 

 せがむ春香を適当にいなして、ガイはトータス号の方へ歩いていった。千早たちはその様子に苦笑して、二人の後に続いていった。

 

 

 

 ガイたちが事務所に帰ると、五人を待っていた仲間たちに事の顛末を話した。

 

「そっかぁ。じゃあミキミキもオーブになって戦うことにしたんだね!」

「うんっ!」

 

 真美に聞き返され、美希はにこにことした笑顔で肯定した。

 一度は事務所を飛び出した美希だったが、マガグランドキングとの激戦を経て、オーブに変身する仲間として加わることを決意したのだった。

 

「やったー! これでみんなそろってウルトラマンオーブだねー!」

 

 亜美を始めとして、アイドルたちが美希の加入を喜ぶ。すると美希はラムネを飲んでいるガイにとことこと近づいていって、はにかみながら呼びかけた。

 

「これからミキも頑張るね。一緒に地球の平和を守ろうね、ハニー!」

「……ハニー?」

 

 ガイはもちろん、突然の美希の物言いに他の面々も目が点になった。それにお構いなしに美希が続けて言う。

 

「プロデューサーはミキの運命の人なの! だからこれからはハニーって呼ぶね! ハニー♪」

 

 上機嫌の美希が、ガイの腕にガバッと抱きついた。ガイの腕に、美希の自慢の胸がむにゅっと押しつけられる。

 

「おわぁッ!?」

「なっ、なななっ!?」

 

 驚くガイ。衝撃を受けるアイドルたち。春香は真っ赤に茹で上がった。

 

「ほら、ミキの心臓ドキドキしてるでしょ? ハニーと一つになってた時もすっごいドキドキしてて、それで感じたんだ。この人がミキの運命の人だって!」

「お、お前! 誤解されそうな言い方はよせ! それに俺とお前で何歳離れてると……」

「愛の前には歳の差なんてカンケーないって思うな!」

「ち、ちょっと美希っ!」

 

 ガイと美希の間に、春香が慌てて割って入った。

 

「やる気になったのはいいけど、ちょっと考えが飛躍しすぎじゃないかな!? プロデューサーさん困ってるでしょ!?」

「えー? そんなことないよねハニー。あっ、そうそう。ミキがオーブの力を一番使いこなせるんだから、これからハニーのパートナーは全部ミキがやるね。春香はお役御免なの」

「ちょっ! 何で私だけ名指しなの! それにまだ最初なんだし、そんなの分からないでしょ! プロデューサーさんからも何か言って下さいっ!」

「お、俺か!?」

「他に誰がいるんですかっ!」

 

 やいのやいのと揉める春香、美希、ガイの様子をながめて、他のアイドルたちがそれぞれ吐息を吐いていた。

 

「はぁ~……ミキミキ、すっごい大胆だねぇ」(真美)

「恋の暴走機関車って感じだねー」(亜美)

「全くね。それにしても、美希ったらあんなに胸を押し当てて……くっ」(千早)

「飛び出したかと思えば勝手なこと言い出して……ほんと美希には困ったものね」(律子)

「でも美希さん、楽しそうです!」(やよい)

「美希だけ楽しくてもしょうがないと思うけど」(響)

「プロデューサーもプロデューサーよ。もっとしっかりしてほしいわね」(伊織)

「よいではないでしょうか。全て丸く収まったのですから」(貴音)

「羨ましいわぁ、美希ちゃん。私も早く運命の人を見つけたいわ」(あずさ)

「美希、女の子してるなぁ……。ボクもいつかはあんな風な、恋する乙女に!」(真)

「私も、あれくらい男の人に物怖じしないようになれたら……」(雪歩)

 

 小鳥も美希を見つめてはぁ~とため息を吐く。

 

「いいわねぇ、美希ちゃん。私にも早く運命の人が来てくれないかしら……。あぁ、私にはいつ春が訪れるの……?」

「ハッハッハッ、元気出したまえ音無君。生きてれば、いつかいいことがやってくるさ!」

 

 高木が無責任な感じに励ました。

 最後に美希が、ガイに向けて元気いっぱいに告げた。

 

「大好きハニー! ミキのこと、ずっと見ててね♪」

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

美希「あはっ、ミキなの♪ 今回紹介するのは、古代の巨人、ウルトラマンティガだよ」

美希「ティガは1996年放送の『ウルトラマンティガ』の主人公なの。テレビのシリーズとしては、『ウルトラマン80』から十六年ぶりにもなる新作だったんだよ。平成になってからは初の作品なの」

美希「そしてティガは初めてM78星雲やウルトラ兄弟の設定が全く関係しない世界観で作られた、ほんとの意味で新しいウルトラマンだったんだよ。超古代のウルトラマンって斬新だよね」

美希「三つの姿を使い分けるタイプチェンジの要素もティガで初めて入れられたの。そういう意味では、今のウルトラマンの基礎はティガって言えるんじゃないかな」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『ふるふるフューチャー☆』だ!」

ガイ「CD『MASTER ARTIST 03』で初出の美希のソロ曲で、歌詞にはゲーム後半からの美希を想起させる単語がいっぱいだ。実質上、美希の専用曲だな」

ガイ「かなり甘ったるい内容の歌だから、公の場で聞いて身悶えなんかしたりしないよう注意してくれよ! 変な目で見られるぞ!」

美希「ゲームのアイマスをやってくれれば、あまーいミキがたっぷり見られるよ♪」

美希「それじゃ、次回もまた見てねっ!」

 




 にひひっ、伊織ちゃんよ♪ もう最悪~! 町中の水からすっごい嫌な臭いが出るようになって、鼻が曲がりそうよ! これも魔王獣の仕業! 水を臭くする魔王獣を倒すためにやよいが変身したんだけれど、えぇっ!? やよいにはスペシウムゼペリオンの力を使いこなすことが出来ないの!?
 次回『ユウキトリッパー』。危ない、やよいっ!


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ユウキトリッパー(A)

 

「命は一瞬の灯火……この世は一瞬で終わる」

「運命の再会だぞ? 随分荒っぽいご挨拶だな」

「この星の生命など全て土くれに還してやる!」

「どんなに魔王獣を復活させようと、俺たちがぶっ倒す!」

「戦ってくれって……ミキに変身しろってこと!?」

「今頼れるのは美希だけなんだ……!」

『お前は世界中に希望の光を射し込む、煌めく星になれる!』

「大好きハニー! ミキのこと、ずっと見ててね♪」

 

 

 

『ユウキトリッパー』

 

 

 

 東京郊外の片隅にぽつんと建っている、みすぼらしい雰囲気の木造の一軒家。ここが765プロアイドルの一人、高槻やよいの住居であった。

 本日のアイドル活動を終えたやよいがこの家に帰ってきて、玄関の引き戸を開けた。

 

「ただいまー! みんな、いい子にしてたー?」

「おかえりー! やよい姉ちゃーん!」

 

 帰宅したやよいを出迎えたのは四人の幼い少年少女。彼らは全員やよいの弟妹だ。やよいは彼らと両親と、最近生まれた赤ん坊の弟を加えた八人家族なのである。

 

「今日はお土産に、おやつを買ってきたんだよー。みんなでいただきますしようね!」

「わーい! おやつー!」

 

 やよいが手に提げていたビニール袋を持ち上げると、かすみ、浩太郎、浩司が諸手を上げて喜んだ。

 

「でも先にお手て、洗ってきてね」

「はーい!」

 

 おやつの袋を居間の机の上に置きながら、弟たちを躾けるやよい。765プロでは年少の方だが、この高槻家では長女であり、みんなの世話を焼くお姉ちゃんなのだ。

 

「やよい姉ちゃん、浩三のミルクは?」

「買ってきたでちゅよー♪」

 

 長介が尋ねると、やよいは粉ミルクを浩三に見せながらあやした。

 

「もやしもいっぱい買ってきたよ。今晩のもやしパーティ、楽しみにしててね……」

 

 とやよいが長介と話していたら……洗面所に手を洗いに行っていた浩太郎たちが泣きながら戻ってきた。

 

「うえ~ん! やよい姉ちゃ~ん!」

「みんな、どうしたの!?」

 

 面食らうやよいと長介に、浩太郎が答えた。

 

「臭い~! お水が臭いよ~!」

「えっ? お水が……?」

 

 何のことかと、やよいたちは洗面所に赴く。

 そしてすぐにうっ! と鼻をつまんだ。

 

「な、何これぇ!? ひどい臭い……!」

「姉ちゃん、これ蛇口から臭ってくるよ……!」

 

 長介の言った通り、蛇口から流れ出る水から、猛烈な悪臭が漂っていた……。

 

 

 

「きゃあぁ~!」

 

 765プロ事務所では、給湯室で春香が悲鳴を上げていた。蛇口から溢れ出た水を顔面に被ったのだ。

 

「と、止まらないよ~! 誰かどうにかして~!」

「春香ちゃん、その蛇口修理中よ!?」

「もう、春香ったらドジね」

 

 悲鳴で駆けつけてきた小鳥が驚き、伊織が肩をすくめて呆れ返った。そこに奇妙な銃型の装置を手に律子が飛んでくる。

 

「はーい、春香どいてどいて!」

 

 春香を流し台から下がらせると、壊れている蛇口に向けて装置の銃口を向けた。そこから白い弾丸が飛び出し、蛇口に当たって弾ける。

 途端に蛇口はゲル状の物質に包まれて固まり、水が漏れなくなった。小鳥が律子の持っている装置に目を向ける。

 

「律子さん、それ何ですか?」

「吸水性ポリマーを発射して水を固めるスーパー・アブソーベント・ポリマーガン、略してSAPガンです! これがあれば水回りの修理も楽々できちゃう優れもの!」

「まーた変なもの作ったの?」

「変なものって何よ、伊織。業者に頼むとお金掛かるから、私がこの貧乏事務所のためにわざわざ……」

「業者に頼むのとそんな変てこなもの作るお金と、どっちが掛かるのかしら?」

 

 律子と伊織が言い争っている一方で、ずぶ濡れになった春香はうなだれる。

 

「うえ~……びしょびしょですよぉ……」

「春香ちゃん、シャワー浴びてきなさい。そのままじゃ風邪引いちゃうわ」

「はーい……ありがとうございます、小鳥さん」

 

 春香がシャワー室に入っていってから、伊織と律子の話題が切り替わる。

 

「ところで、ウルトラマンオーブの戦いを実況するようになってから『アンバランスQ』の視聴数はどうなったのかしら? アップしたの?」

 

 と聞くと、律子と小鳥はがっかりと肩をすくめた。

 

「それが、あんまり変化ないのよ……。オーブの戦闘はテレビもすぐに撮るから、それに埋もれちゃってるのよね……」

「なーんだ、そうなの」

「戦ってるのはこの事務所のみんななのに、報われないわよねぇ……」

 

 小鳥がため息を吐いていたら……。

 

「きゃあぁ~!?」

 

 シャワー室から春香が悲鳴とともに飛び出してきて、三人は仰天した。

 

「ど、どうしたのよ春香。シャワーも故障?」

「く……」

「く?」

「くっさぁ~いっ!!」

 

 バスタオルを巻いただけの姿の春香が絶叫した。

 

「何この臭い!? 超臭いっ! お湯が臭いぃ~! シャワーのお湯が、臭くなったの~!」

「お湯が臭いって……うっ!?」

 

 春香に近づかれた伊織たちが途端に吐き気を催した。

 

「ほ、ほんとに臭い! 臭いわ春香ぁ!」

「ち、ちょっと!? 女の子に臭いってひどくない!?」

「い、いや冗談じゃなくて! くっさぁぁ―――――っ!」

「やめて春香! こっち来ないで! うぷっ……!」

「春香ちゃん、悪いけど離れてぇ~! い、いやぁぁぁ~!」

 

 シャワーを浴びたことで、春香自身にも悪臭が移ってしまったのだった……。

 

 

 

 水から強烈な悪臭がする、という異常事態は、高槻家や765プロ事務所だけで起きているものではなかった。都内のあらゆる場所が、その被害を受けていた。プールやコインランドリー、料理店、クリーニング屋……人がいるところで、水を使わない場所などありはしない……。町は悪臭によって機能が停止していく。

 

「な、何これぇ~!? プールがいきなり臭くなったぁっ!」

 

「うげぇぇぇぇぇッ! トイレからすっげぇ悪臭がぁ~!!」

 

「服を洗ったら、むしろ臭くなったわぁ! これじゃ着られない~!」

 

「こんな臭いの中で、食事なんて出来ねぇよ~!」

 

「にゃっはっはー♪ プロデューサーおつかれ~。今日もイイ匂いしてるかな~? ハスハ……うっ!? く、くっさあああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!! 何この臭い!? 鼻が曲がるにゃああああぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――――っっ!!」

 

 

 

「はい、これでいいわ」

 

 ジャージに着替えた春香は、事務所の全部の脱臭スプレーを振りかけても悪臭が取れなかった。そのため、小鳥によって身体中で飾り立てられた。

 

「小鳥さん……何で生姜なんですか……?」

「知らないの、春香ちゃん? 臭みを取るには生姜が一番なのよ」

「うぅ、全身生姜だらけのアイドルなんて……。どうして私ばっかりこんな目にぃ……」

 

 しくしく泣いている春香を置いて、伊織は鼻をつまみながら流し台に近づいた。

 

「うっ! ここからも臭ってきてる……。やっぱり、水道の水から悪臭がしてるのは間違いないわね……。律子、これどういうことか分かる?」

 

 律子に尋ねる伊織だが、律子もタブレットを操作しながら首をひねる。

 

「水質自体には何の異常もないわ……。となると、臭いの原因は水そのものじゃなくて、水源にあるんじゃないかしら」

「水源?」

「ええ。たとえば、水源に悪臭の元が紛れ込んで、その臭いが水に移ってこうなったと……。でも、町中の水をこんなにも臭わせるなんて普通じゃあり得ないことだわ」

 

 律子が話していたら、事務所の玄関からやよいが入ってきた。

 

「プロデューサー! 皆さん……うわっ! 事務所もすごい臭いですぅ~!」

「やよい? 今日はもう帰ったんじゃなかったの?」

「それが、家中の水からひどい臭いがして……何かおかしなことが起きてると思って、戻ってきたの。みんななら、きっと原因が分かるだろうって」

 

 振り返った伊織に答えたやよいは、春香の状態に目を留める。

 

「うわっ! 春香さん、それどうしたんですか?」

「ちょっと臭い消しの真っ最中で……」

「あ~! 生姜って臭みを取るのに一番ですよね! ウチもそうしてくればよかったですぅ」

「あら、流石やよいちゃんは詳しいわね」

 

 やよいの後に続いて、渋川も事務所を訪問してきた。

 

「おーい、ちょっといいか? うおっはぁッ!? くせッ! ここもか!?」

 

 ブンブン手を振って激しく咳き込む渋川の態度に、伊織と律子が顔をしかめた。

 

「ちょっと、勝手に入ってきて失礼な大人ね」

「言っておきますけど、私たち何もしてませんから」

「分かってるよ」

 

 ひと言断った渋川が用件を口にし出す。

 

「実は数週間前からビートル隊に、各地から家の水から悪臭がするとの通報が何件も寄せられてる。商店街も至るところ閉まってて、真っ昼間からゴーストタウンのありさまだ」

「あっ、そうでしたね。通りがどこもガラガラでした」

 

 同意するやよい。

 

「ウチの特捜班の正攻法じゃ原因が分かんないらしい。ひょっとしたら、お前たちなら何か掴んでんじゃないかと思ってな」

「ビートル隊でも、今何が起きてるか不明なんですか?」

 

 律子の問い返しに渋川は残念そうにうなずいた。

 

「ああ。恥ずかしながら、臭いが発生する原因究明にも至ってない。各地の水道局の浄水システムも全く異常ないそうだ」

「だから、正攻法じゃない私たちを当たってきたって訳ですか?」

 

 聞き返した春香にうなずいて、渋川は振り向く。

 

「春香ちゃん、何かネタないかな。何か随分とけったいな格好してるけど」

「これは……もう気にしないで下さいっ!」

 

 春香がそっぽを向いている間に、律子はあるデータに行き当たった。

 

「あった! これだわ! 太平風土記のこのページ!」

「見つかったのか!」

 

 律子のデスクの周りに渋川たちが集まって、パソコンの画面を覗き込む。

 

「何て読むんだこれ? なぁ、早く読んでくれ」

「ちょっと待って下さい。えぇと、“むくつけなる巨大な魔物、禍邪波が現れ、水を禍々しく乱す。海の悪しき臭いを数多合わせたるようにて、井戸からも悪しき臭い漂えり”」

 

 太平風土記の内容から、春香が律子に尋ね返した。

 

「じゃあ、水が突然臭くなった怪奇現象の原因って、マガバッサーやマガグランドキングと同じで……」

「今までのパターンからすると、そうなるわね」

 

 話を受けた渋川が手を叩いて背筋を伸ばす。

 

「よしッ! 早速本部に、各地の水源に怪獣が潜んでないか徹底的に調査してもらおう」

 

 渋川が離れてビートル隊本部と連絡を取り合っている間、伊織が小鳥に質問した。

 

「こんな事態が起きて、他のみんなはどうしてるかしら」

「みんな、自宅や学校、仕事先で混乱に巻き込まれて立ち往生してるみたい。魔王獣の追跡は、ここにいる人でやらないと駄目そうね」

 

 連絡網で各アイドルの現状を確認していた小鳥が答えると、次に春香が問いかける。

 

「ところで、肝心のプロデューサーさんは?」

「そっちはまだ……あっ、ちょうどメールが来たわ」

 

 小鳥のケータイがガイからのメールを着信した。その内容は、

 

「『そっちも異臭騒ぎを掴んでることだと思うが、こっちは魔王獣の潜伏先を発見した。先に行ってるんで、悪いがすぐ来てくれ』……ですって!?」

「もぉ~! 一人じゃ変身できないって言ってたのに、どうしてすぐ一人で突っ走るのよあいつは~!」

 

 渋川に聞こえないように、伊織が憤慨して歯ぎしりした。

 

 

 

 765プロ事務所や高槻家のある地域の水道の水源に当たる、野山に囲まれた湖畔。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 ここに今、濁った金色のタツノオトシゴのような巨大怪獣が座り込み、湖に腰まで浸かっていた。額には禍々しい赤いクリスタルが輝く。魔王獣の特徴だ。

 そこに、どこかから奏でられるハーモニカの音色。魔王獣が気がついて振り向いた先から、ガイが姿を現す。

 

「やはり……水ノ魔王獣マガジャッパか」

 

 懐にオーブニカを仕舞ったガイは、我が物顔で湖に浸かるマガジャッパをにらむ。

 

「大自然を風呂代わりか? おいお前! ちゃんと掛け湯してから入れッ! マナー違反もいいところだぞッ!」

 

 ガイが怒声を浴びせると、マガジャッパは大量の水しぶきを巻き上げながら立ち上がる。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 そしてラッパ状の鼻から、黄緑色の液体を凄まじい勢いで噴出。ウォーターカッターとなってガイに襲い掛かる!

 

「うおッ!」

 

 危ないところで回避したガイはオーブリングを取り出したが、一人では満足に変身できないのを思い出して手が止まった。

 そこに再度液体が飛んできて、咄嗟に前に飛び込んでギリギリでかわした。

 

「くっそぉ~……! はッ!」

 

 だが緊急回避の弾みでオーブリングを落としてしまった。それを拾い上げる手が現れる。もちろんガイではない。

 ジャグラスジャグラーだ。

 

 

 

「怪獣は奥奈良湖? 了解しましたどうぞ!」

 

 マガジャッパを発見したビートル隊本部から渋川が連絡を受けている一方で、律子は事件の分析結果を皆に伝える。

 

「これまで異臭騒ぎがあった地域には全部、近くに一定の大きさ、深さのある湖があることが分かったわ。きっとマガジャッパは、それらを移動して自ら浸かることで水を汚してるのよ」

「それって、温泉巡りみたいな?」

 

 とは渋川の意見。

 

「放っておいたら被害は拡大するばかり。この事実を世界中に知らせるためにも、765プロ出動よ!」

「はい! ……でもこのまんま外を出歩くのはちょっと……」

 

 生姜まみれの春香が流石に外聞を気にした。

 

「そう言うと思って、代わりの専用プロテクターを用意しといたわ」

 

 律子が生姜に代わって春香の身体に取りつけたのは、中に大量の脱臭剤を仕込んだ赤色のプロテクターだった。伊織、やよい、小鳥がそれぞれ評価する。

 

「急ごしらえにしては見た目も凝ってるじゃないの」

「わぁ~! 春香さん、ヒーローみたいです!」

「カッコいいわよ春香ちゃん!」

「そ、そうかな? えへへ」

 

 盛り上がっている春香たちに、渋川が告げる。

 

「行くなっつっても聞かないのは分かってる。でも、春香ちゃんたちだけじゃ危険だ。俺も一緒に行く」

「じゃあ情報も共有ですね。ギブアンドテイクってことで」

 

 律子が応じると、小鳥を事務所に残した一行はすぐにトータス号で奥奈良湖に向かって発進していった。

 

 

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 奥奈良湖では、移動を開始するマガジャッパを背景にガイとジャグラーがにらみ合っていた。ジャグラーはオーブリングを片手に、ガイを嘲笑する。

 

「随分と不甲斐ないな。宇宙悪魔ベゼルブの脅威に立ち向かった勇者とは思えない姿だ」

「……」

「大切なものだろう? 取り返してみろよ。こいつも、昔のお前自身も」

 

 挑発するジャグラーに、ガイは正面から言い放った。

 

「昔も今も、俺は俺さ」

 

 するとジャグラーはニヤリと不敵に笑った。

 

「かっこいいなぁ。――一人じゃまともに変身できなくなったような男が」

「……」

「あの時の勇者が、今じゃ女たちのお守りして生活してるなんてこと、惑星カノンの人間たちが聞いたらどんな顔するだろうなぁ?」

 

 からかうジャグラーに、ガイは身を乗り出しながら言い返す。

 

「今の俺の仕事も、765プロのあいつらも……馬鹿にすることは許さないぜッ!」

 

 一瞬にして距離を詰め、ジャグラーに拳を繰り出す。それを腕でガードするジャグラー。

 ガイと激しく格闘しながら、ジャグラーは告げる。

 

「俺は本気のお前と戦り合いたい」

「疲れる奴だなぁ!」

 

 ガイの攻撃をことごとくする防御するジャグラー。前腕と前腕で押し合いながら挑発を繰り返す。

 

「こんなもんか? 今のお前は」

「……!」

 

 ガイは隙を見てジャグラーの腕を弾き、オーブリングを握る手に膝蹴りを入れてリングを弾き飛ばした。落下してくるリングをキャッチ。

 しかし顔を上げた先にジャグラーの姿がない。気がつけば、背後を取られていた。

 

「完全には錆びついていないようだな」

 

 それだけ言い残して去っていくジャグラー。その後ろ姿をにらんでいたガイだが、身を翻してマガジャッパの方を追いかけていった。

 

 

 

「見つけた! あれがマガジャッパだわ!」

 

 奥奈良湖から別の場所へ移動していくマガジャッパの前に、トータス号が到着。降車した春香たちがマガジャッパへ接近していくが、漂ってくる臭いに皆顔を思いきりしかめた。

 

「うっ! 悪臭の大元だけあって、信じられないくらい臭いわ……!」

 

 伊織がつぶやきながら、五人はマガジャッパに見つからないよう身を潜めながら近づいていく。近づくにつれて、悪臭も強まっていく。

 

「しかしひっでー臭いだなこりゃ!」

「おばあちゃん家の裏庭にいた、シマヘビとかアオダイショウの臭いがする!」

「浩太郎が洗濯に出し忘れた時の海パンの臭いですぅ~!」

「スウェーデン旅行に行った時に食べたシュールストレミングの臭いよ!」

「臭いの比喩比べはいいから! プロデューサーがもう来てるはずなんだけど、今どの辺にいるのかしら……?」

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 辺りを見回す律子だが、その前をマガジャッパが木々を踏み潰して通過していく。その際に臭いが一段と強烈になった。

 

「きゃあああぁぁぁぁぁぁっ!!」

「うへッ! ごほッごほッ! こりゃたまらねぇなオイッ!」

 

 ひどすぎる臭いは最早化学兵器。五人は身をよじって悶絶するが、それでも気を強く持って春香が律子に尋ねかけた。

 

「マガジャッパ、次はどの湖に移動するか予測つきますか!?」

 

 律子はタブレットを開いて、地図とマガジャッパの進行予想図を表示した。

 

「今までの進行ルートや湖の大きさなどを考慮すると、次に向かう先は湖じゃないみたいよ……!」

「どういうこと?」

 

 聞き返す伊織がタブレットを覗き込むと、地図の上のダム湖に60%という確率が表示されていた。

 

「この奈良沢ダムに向かう確率が一番高いわ!」

「奈良沢ダムっつったら、東京都の水源の多くを担ってる場所だぞ」

「日本だけじゃないです!」

 

 やよいが叫んだ。

 

「このままじゃ、怪獣はきっと世界中の水を臭くしちゃいます! 今の内に止めないと、数え切れない人たちが苦しんじゃう……! ここにいる私たちが、どうにかしないといけないんですっ!」

「やよい……!」

 

 やよいの胸の内の想いを受け止めて、律子は固くうなずいた。

 

「やよいの言う通りね。それじゃあ春香とやよいはプロデューサーを捜してきて」

「分かりました!」

「伊織は私と、一人でも多くの人が事前に避難できるようにマガジャッパを中継するわよ! さぁ、ついてきて!」

「ええ!」

「おい待てッ! 俺も行くぞ! 民間人を守らないで何がビートル隊だ!」

 

 五人は二手に分かれて、マガジャッパの暴威を食い止めるために行動を開始したのだった。

 



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ユウキトリッパー(B)

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 ダム湖に向かって林の中を練り歩いていくマガジャッパを律子、伊織とともに追いかけながら、渋川は通信機でビートル隊本部と連絡を取った。

 

「はい了解! ……もう少ししたら、本部の隊員たちが到着する!」

「それまでの間、少しでも進行を食い止められないかしら!?」

「いいものがあるわ!」

 

 律子が持ってきていたSAPガンをショルダーバッグから取り出した。

 

「あっ! それ事務所で使ってた奴!」

「あいつの身体は粘膜で覆われてる! きっと吸水性ポリマーが効果的だわ! これを怪獣の頭上に向けて撃って下さい!」

「えッ誰が?」

 

 律子はSAPガンを渋川に押しつける。

 

「俺!? 俺がやるの!?」

「他にいないじゃないですか!」

「渋川さんビートル隊でしょ!? 早くしてよ!」

 

 律子と伊織にせがまれ、渋川はSAPガンを受け取った。

 

「よし俺に任せとけ。おい、後ろ支えといてくれ!」

「お願いしますよ!」

 

 SAPガンを肩に担いだ渋川の背中を律子が押さえ、発射態勢を取る。照準をマガジャッパの頭頂部に合わせ、引き金に指を添えた。

 

「よーし行くぞ! それぇッ!」

 

 ポリマーの弾丸が勢いよく射出され、マガジャッパの頭上で弾けた!

 

「グワアアアァァァァァ!?」

 

 多量のポリマーがマガジャッパの粘膜の水分を吸収して固まり、マガジャッパの頭頂部が白いポリマーで固められた。これに動揺したマガジャッパの足が止まる。

 

「やった! 効いてるわ!」

「狙い通りね!」

「よーし、もう一発浴びせてやるか!」

 

 効果が上がったことに勢いづいた渋川が前に飛び出していき、マガジャッパを更に固めようとする。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 だがそこにマガジャッパの水流が飛んできて、渋川は衝撃で吹っ飛ばされる!

 

「おわああぁぁぁぁぁ――――――――――ッ!!」

「渋川さーん!?」

 

 更にマガジャッパは尻尾をブンブン振り回して木々を薙ぎ倒し、滅茶苦茶に水流を発射し始めた。

 

「きゃあぁっ! 危ないっ!」

「怒らせただけじゃない! やよいたちはまだなの!?」

 

 暴れるマガジャッパから必死に逃げながら、伊織はガイを捜しに行った春香とやよいへ意識を向けた。

 

 

 

 律子たちがマガジャッパの進行を止めようとしていた頃、春香とやよいの方は林を駆け巡ってガイの姿を捜していた。

 

「プロデューサー! どこですかぁーっ!?」

「ここは圏外だからケータイはつながらないし……早くプロデューサーさんを見つけないと……!」

 

 焦る春香だったが、不意に顔を上げるとやよいを突き飛ばした。

 

「やよい危ないっ!」

「ひゃあっ!?」

 

 直後に暴れるマガジャッパの水流が近くに飛んできて、二人は風圧に身体を押されて倒れ込んだ。

 

「いたた……は、春香さん! 大丈夫ですか!?」

「な、何とか……うっ!?」

 

 立ち上がろうとした春香は足首を抑える。

 

「痛っ! 倒れた拍子に、ひねっちゃった……」

 

 春香の捻挫に顔が青ざめるやよい。

 

「ご、ごめんなさい……! 私をかばったせいで……!」

「やよいのせいじゃないよ……。それより、私の代わりにプロデューサーさんを見つけてきてっ!」

「は、はいっ!」

 

 すぐ駆け出そうとしたやよいだったが、その前に一人の男の影がぬっと現れた。

 

「やぁ、そこの君は二度目だね」

「あなたはっ!」

 

「プロデューサーが言ってた……!」

 

 ジャグラスジャグラーだ。ジャグラーは春香の腫れた足首に目を留めた。

 

「怪我をしたのか。大丈夫かな?」

「……あなたには、関係ないことです……!」

 

 敵意を露わにして、ジャグラーをきっとにらみ返す春香。だがジャグラーは気に留めずに口の端を吊り上げる。

 

「君たちのことは知ってるよ。ガイに力を貸して、ウルトラマンオーブになることにしたようだね。でもどうしてだ? 君たちは、戦いなどに何の関係もない女の子じゃないか。どうしてわざわざあいつに協力しようというんだ。他の人間に任せておけばいいじゃないか」

「他の人がどうとかじゃないです! 私たちに、世界中の人を助けられる力がある……それだけのことです!」

 

 毅然と言い返す春香だったが、ジャグラーは冷笑するばかりだ。

 

「使命感かい? 立派だなぁ。けれど、あれを見るといい」

 

 マガジャッパを煽ぐジャグラー。山のように巨大な生物は、身体を揺さぶるだけで地面をめくり、太い樹木をへし折る。遠くから見ているだけでもぞっとする光景だ。

 

「たとえウルトラ戦士に変身しようとも、怪獣と戦うということは常に死の危険がつき纏うということ。使命感なんかで、その恐怖を振り払えるものかな? 世界中の人のためにと言えば聞こえがいいが、誰とも知らない者のために命を投げ打つということだよ?」

「誰とも知らない人のためだけじゃないですっ!」

 

 なじるようなジャグラーの言葉に、やよいが反論した。

 

「ん?」

「あの怪獣のせいで、ウチの水がすっごく臭くなっちゃいました! そのせいで弟たちは手が洗えなくって、大好きなおやつを食べられなかったんですよ! 世界の平和とか、そんな大きいことは私にはよく分からないことですけど……」

 

 やよいは目に力を込めて、宣言した。

 

「どんな相手でも私は、弟たちのおやつの時間を取り戻すために戦いますっ!」

 

 それを聞いたジャグラーは……プッと噴き出した。

 

「ハハハハッ! 何を言うかと思えば、おやつの時間を守る? そんな笑える言葉を聞いたのは初めてだッ!」

「――ウチのアイドルの覚悟を笑うんじゃないぜ、ジャグラー!」

 

 ジャグラーを諌める声をとともに、ガイがやよいたちの側に駆けつけてきた!

 

「プロデューサー!」「プロデューサーさんっ!」

「ガイ……!」

 

 ガイはやよいたちの盾となりながらジャグラーと向かい合い、きっぱりと言い放った。

 

「世界の平和とかの大きなことは、そういう身近なところを守るところから始まっていくもんだ。それを馬鹿にするような奴には、平和だとかを語る資格はないぜ」

「プロデューサー……!」

 

 自分の思いを支持してくれるガイの背中を、やよいは嬉しそうに見つめた。一方でジャグラーは、一転して不機嫌な表情に変わる。

 

「……ふん、好きにしろ」

 

 捨て台詞を残して素早く立ち去っていくジャグラー。それからガイはやよいと春香に振り向く。

 

「すまない、待たせちまった。……春香、怪我しちまったのか」

「私のことはいいです……! それより、早く怪獣をやっつけて下さい! あれがダムにたどり着いたら東京中が大混乱です!」

 

 春香の頼みを受けてうなずくガイ。

 

「分かった。やよい、俺にお前の力を貸してくれ!」

「は、はいっ!」

 

 怪我をして立てない春香に代わり、やよいがティガのカードを受け取った。そしてガイがオーブリングを構える。

 

「ウルトラマンさんッ!」

 

 ガイがウルトラマンのカードをリングに通し、ウルトラマンのビジョンが現れる。

 

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

 

 続いてやよいがティガのカードをリングに通した。

 

「ティガさんっ!」

 

 やよいの隣にティガのビジョンが現れる。

 

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

 

 やよいと二つのビジョンに挟まれながら、ガイがリングを掲げた。

 

「光の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ウルトラマンとティガのビジョンが、やよいを巻き込んでガイと重なり合った。

 

『シェアッ!』『タァーッ!』

 

 ガイがオーブの姿に変身する!

 

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

 

 巨大化したオーブが林の中に立ち上がり、決め台詞を放つ。

 

『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を』

「ジャパッパッ!」

 

 だが途中でマガジャッパが飛びかかってきて中断させられた。

 

「ウッ!?」

 

 臭いの元であるマガジャッパの体臭は、水を更に上回る悪臭。それに密着されては、オーブも鼻が曲がって悶絶する。

 

『「うああぁぁぁっ! く、臭いですぅぅぅ~っ!」』

『こ、この野郎ぉ~……!』

 

 オーブが前蹴りをマガジャッパの腹に入れて押しのけ、頭にチョップを連打する。

 

「デアッ! ……ウゥッ……!」

 

 しかし悪臭のせいで精神がかき乱されて、腕に力が入らない。自分からマガジャッパより離れてよろめく。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

「ウゥゥッ!」

 

 どうにか襲いかかってくるマガジャッパに抵抗して攻撃するも、やはり集中できない打撃ではマガジャッパにほとんどダメージを与えられていなかった。マガジャッパは少しも弱らない。

 

『「だ、駄目ですぅ~! これじゃ戦いになりません……!」』

『接近戦は不利だ! スペリオン光輪だ!』

『「は、はいっ!」』

 

 オーブが手の平からスペリオン光輪を出し、何発もマガジャッパに投げつける。

 

『「えいえいっ!」』

 

 が、全てマガジャッパの鱗に当たると軽い音を立てて、弾かれてしまった!

 

『「えっ!?」』

「ジャパッパッ!」

 

 尻尾の振り回しを脇腹にもらって、逆にオーブの方がその場に倒れた。

 

『「ど、どうしてですかぁ!? 春香さんが使った時は、もっと威力があったのに……!」』

 

 動揺するやよいに、オーブが告げる。

 

『奴の防御力もあるが、どうやらやよい、ウルトラマンさんとティガさんの力はお前とは波長が合わないようだ……!』

『「波長が合わない!? それって……」』

『残念だが、力を十分に発揮できていない……!』

 

 春香、美希の時と違って、やよいの動かすスペシウムゼペリオンはパワーが半減した状態であった。それが苦戦の最も大きい理由であった。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 マガジャッパは腕の内側に並んだ吸盤で、空気を猛烈な勢いで吸引し、オーブの身体も引き寄せる。

 

「ウワアァァァァッ!」

 

 マガジャッパは捕まえたオーブの顔に、口から悪臭の吐息を吹きつける。

 

「ウワアアアア……!」

 

 ますます苦しんだオーブは力を失い、大地の上に横たわってしまう。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 一方のマガジャッパは全身がスゥッと透き通っていき、完全に見えなくなった

 

「消えた!?」

 

 オーブの戦いを撮影している律子たちがあっと驚く。

 

「あれで誰にも気づかれずに、湖から湖へ移動してたのね!」

 

 立ち上がったオーブもマガジャッパを見失って辺りを見回す。その背後からマガジャッパが姿を現して体当たりをかました!

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

「ウワァァッ!」

 

 腹這いに倒れ込んだオーブに、マガジャッパの尻尾が叩きつけられる。一方的に痛めつけられるオーブ!

 

『「プロデューサー、ごめんなさい……!」』

 

 オーブの中で、やよいは涙ながらに謝罪する。

 

『「私のせいで、怪獣にやられちゃいます……! 私が春香さんや美希さんみたいだったら……」』

『泣くことはないぞ、やよい……!』

 

 そんなやよいに、オーブは言い聞かせた。

 

『衣装が合わないのなら、チェンジするのさッ!』

 

 そう言ってやよいの手の中に、オーブリングと新たな二枚のカードが現れた!

 

『「はわっ!」』

『さぁッ! そのタロウさんとメビウスさんのカードをリングに!』

『「は、はいっ!」』

 

 指示された通しに、やよいはリングを握り締めながら二枚のカードをリードしていく。

 

『「タロウさんっ!」』

 

 角のあるウルトラマンのカードを通すと、リングが赤く光って、絵柄のウルトラマンのビジョンが出現した。

 

[ウルトラマンタロウ!]『トァーッ!』

 

 次いでやよいは二枚目の、菱型のカラータイマーのカードを通す。

 

『「メビウスさんっ!」』

 

 リングが白く輝き、二人目のウルトラマンのビジョンが現れた。

 

[ウルトラマンメビウス!]『セアッ!』

 

 それからオーブが高々と叫ぶ。

 

『熱い奴、頼みますッ!』

 

 オーブの言葉に合わせてやよいはリングを掲げ、トリガーを引いた。

 

[フュージョンアップ!]

 

 赤、白、黄色の光の波動がリングから放たれ、二人のウルトラマンはやよいとともにオーブの肉体と融合。

 

『トワァッ!』『タァッ!』

[ウルトラマンオーブ! バーンマイト!!]

 

 炎のメビウスの輪と銀色の波紋を伴いながら、姿の変化したオーブが空高く跳躍した!

 

「ウゥゥリャアッ!」

 

 ひねりをつけながらの飛び蹴りが、マガジャッパの頭部に炸裂! マガジャッパを張り倒す!

 

「あれは……!」

「姿が変わった!?」

 

 目を見張る律子たち。今のオーブは頭に雄々しい二本角が生え、ボディは燃え上がる炎のように赤々としたものに変化していた。

 

『俺たちはオーブ! 紅に燃えるぜ!!』

 

 この姿は、ウルトラマンタロウとメビウス、二人の熱い魂の焔の力をその身に宿した、バーンマイトだ!

 

『「うっうー! 何だか私も、メラメラと燃えてきましたぁー! 勇気100倍ですぅーっ!」』

 

 やよいもバーンマイトの熱い波動に同調しているかのように、泣き顔が一転して瞳に炎を宿していた。

 

『よしッ! この姿は波長がばっちりみたいだな! 行くぞやよいッ! READY GO!!』

『「はぁいっ!」』

 

 元気良く返事をしたやよいとともに、オーブがマガジャッパに鉄拳をぶち込む。

 

「セアァッ!」

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 マガジャッパが大きく殴り飛ばされてひるみ、オーブはそこに膝蹴りで追撃していく。マガジャッパはダメージがダンダン響いて、押されていく。

 オーブはおもむろにマガジャッパの悪臭が一番出ている突き出た鼻を掴んだ。

 

『「こんな臭いのをそのままにしてちゃ、めっ! 蓋しちゃいまーすっ!」』

 

 そして鼻をねじり、片結びした。鼻を結ばれたマガジャッパは慌てふためいて腕をバタバタ振り回す。

 オーブの力は戦う毎にドンドン上がって、勢いは加速していく!

 

「オォリャッ!」

 

 マガジャッパの首を抱え込むと、ブンブン振り回してヒコーキ投げを決めた! 更に投げ飛ばしたマガジャッパにフライングボディプレスを仕掛け、右腕に炎を纏わせて灼熱のパンチを浴びせる!

 

「オォッリャアッ!」

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 鼻の結び目を解いたマガジャッパが水流攻撃を飛ばしたが、オーブはスライディングでかわしながら燃えるキックでマガジャッパをはね飛ばした。

 

『「やぁぁーっ!」』

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 ひたすら追いつめられるマガジャッパはもう自棄になったか、全身を使って突進してくる。しかしオーブはそれを真正面から迎え撃つ!

 

『フィニッシュを決めるぞ、やよいッ!!』

『「はーいっ!!」』

 

 オーブの全身が一挙に燃え上がり、こちらからマガジャッパに向かって走っていく!

 

「『ストビューム!! ダイナマイトぉー!!」』

 

 マガジャッパと衝突するその瞬間、オーブの張り手がマガジャッパの顔面にめり込んだ。

 

『「ハイ! ターッチ!!」』

 

 マガジャッパが紅蓮の焔に包まれ、大爆発! 爆風とともに熱波が飛んで、あまりの熱量に近くの木々がパチパチと燃え上がった。

 今の爆発でマガジャッパは跡形もなく消滅。後に立っているのは……カラータイマーをまぶしく輝かせるオーブ!

 

『「いぇいっ!」』

 

 オーブが真上に飛び上がると同時に放たれた波動によって、木々に燃え移った炎は一瞬にして消し止められたのであった。

 

「やったわぁっ! これで悪臭騒ぎも解決ね!」

 

 飛び去っていくオーブを見送った律子がぐっと手を握り締めたが、その時に伊織がつぶやく。

 

「そういえば、渋川のおじさんはどうなったの?」

「あ……! そうだった! 大丈夫かしら!?」

 

 渋川のことを思い出して慌てる律子。

 だがそこに、

 

「おーいッ!」

 

 渋川が林の奥から大きく手を振りつつ駆けてきた。

 

「渋川さん! 大丈夫でしたか!?」

「ああ! この通りピンピンしてるぜ!」

「もう、ビートル隊が市民に心配かけないでよ」

「ハッハッ! 結果オーライだ!」

 

 肩をすくめて安堵の微笑を浮かべる伊織に、渋川はグッとサムズアップした。

 

 

 

 ガイはやよいと春香に見守られながら、マガジャッパのクリスタルからまた新たなカードを引き抜いていた。今度はウルトラマンに酷似した姿のウルトラ戦士の絵柄であった。

 

「こいつはウルトラマンジャックさんの力でしたか。お疲れさまです、よろしくお願いします!」

 

 ホルダーにカードを収めたガイが、春香たちの元に戻ってくる。

 

「さぁて、カードも回収したし! みんなのところに帰るか! よっと」

 

 ガイはその場に座り込んでいた春香を軽々と抱え上げ、お姫さま抱っこする。それで目を真ん丸にする春香。

 

「えぇぇっ!? ぷ、プロデューサーさん、何するんですかぁ!?」

「まだ足が痛むだろう。遠慮することはないぜ」

「そ、そうじゃなくって! こんなところ、他の人に見られたら……!」

 

 カァァと赤面する春香だったが、

 

「ん? 春香お前、ちょっと臭い残ってるんじゃないか?」

「こらぁーっ! 女の子にそんなこと言わないっ!」

 

 茶化したガイに思い切り怒鳴った。

 

「うっうー! プロデューサーと春香さんは仲良しさんですぅ!」

 

 ガイの後に歩いていくやよいがにこにこ笑いながらそう言った。

 

 

 

 ――マガジャッパの力の残滓もまた、ジャグラーによってカードに変えられた。

 カードの臭いを芳しそうに嗅いだジャグラーが、独りつぶやく。

 

「最後の一枚もこの調子で頼むぜ……オーブ」

 

 

 

 マガジャッパが退治され、水の臭いが消えると、町の店は営業を再開。

 そして765プロ事務所の近くの銭湯では、ガイが湯船に浸かって大きく息を吐いた。

 

「はぁぁ~……やっぱり仕事上がりの風呂は、地球上において最っ高の贅沢だな……」

 

 そこに一緒に銭湯に入っているやよいの弟たちが集まってくる。

 

「ほんっと、あったかいお風呂ってサイコーだね、プロデューサーのおじちゃん!」

「お、おじちゃん!? せめてお兄ちゃんで頼むよ~」

 

 軽くショックを受けたガイに、やよいの弟たちはおかしそうに笑った。

 そんな男風呂を仕切り越しに見つめた律子が、呆れたように独白した。

 

「プロデューサー殿、このお風呂に入りたいがために張り切ってたのね……。全く拍子抜けしちゃうわ……」

「あっははは……。まぁいいじゃないですか、大きなことは身近からって言ってたし」

 

 苦笑いを浮かべた春香が弁護した。

 伊織はシャワーを浴びつつ、小鳥を相手に語る。

 

「それにしても、いつでも綺麗な水が使えるってのがこんなにもありがたいって思ったのは生まれて初めてだわ……。普段当たり前に使ってるものにも、感謝する気持ちを持たなくっちゃねぇ」

「そうね。水も大事な資源! 大切にしなくちゃいけないわね」

 

 やよいは妹のかすみの頭を洗ってあげている。

 

「かすみ、どう? 気持ちいい?」

「うん! お風呂ってすっごい気持ちいいね、やよいお姉ちゃん」

「でしょ? ふふふっ」

 

 取り戻した日常の穏やかなひと時を噛み締めながら、やよいは満足げに微笑んでいた。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

やよい「高槻やよいでーす! 今回紹介するのは、うっうー! ウルトラマンメビウスさんでーすっ!」

やよい「メビウスさんは2006年放送の『ウルトラマンメビウス』の主人公ですぅ! 1981年で終了した『ウルトラマン80』から、二十五年ぶりのウルトラ兄弟シリーズの作品だったんですよー。はわっ! すごいですぅ!」

やよい「ウルトラマン四十周年記念作でもあるから、それまでのシリーズの要素をふんだんに入れた作品だったんです。昔の怪獣の再登場から始まって、先輩ウルトラマンの活躍などのシリーズの積み重ねがあるからこそ出来ることをいっぱいやったんですよー」

やよい「メビウスさん自身も、お仲間との絆を作っていってどんどん強く成長していって、最後にはすっごい強敵に勝ったんですよぉ! 感動ですぅー!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『ゲンキトリッパー』だ!」

ガイ「CD『MASTER SPECIAL 01』初出のやよいソロ曲で、タイトル通りに元気いっぱいなイメージの明るいポップな歌だ! 如何にもやよいらしいと言えるな!」

ガイ「しかしいつも思うが、やよいは舌っ足らずな割にソロ曲に英単語が含まれる割合が多いな」

やよい「何でもそういうの、分かった上でやってるみたいですよぉ」

やよい「次回もよろしくお願いしまーすっ!」

 




 どうも、秋月律子です! 東京上空に突如巨大な火の玉が現れました! そのせいで街は猛暑に見舞われ大惨事! 立ち向かったプロデューサー殿まで重態の有り様! この窮地を救えるのは一体誰なの!?
 次回『Miraclemaker』。あずささん、それ本気ですか!?


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Miraclemaker(A)

 

「“むくつけなる巨大な魔物、禍邪波が現れ、水を禍々しく乱す”」

「じゃあ、水が突然臭くなった怪奇現象の原因って……」

「日本だけじゃないです!」

「今の内に止めないと、数え切れない人たちが苦しんじゃう……!」

「ここにいる私たちが、どうにかしないといけないんですっ!」

「一人じゃまともに変身できなくなったような男が」

「俺は本気のお前と戦り合いたい」

「こんなもんか? 今のお前は」

「最後の一枚もこの調子で頼むぜ……オーブ」

 

 

 

『Miraclemaker』

 

 

 

 ――六月の東京都心。気温、約40℃。

 

「あっつぅ~……」

 

 765プロ事務所では、アイドルたちがあまりの暑さに汗だくとなり、すっかりへばっていた。亜美と真美が、デスクに向かって事務仕事の手伝いをしている律子に後ろから這い上がるようにしなだれかかる。

 

「ねぇ律っちゃ~ん……エアコンの修理の人はいつになったら来るの~……?」

「扇風機だけじゃ、とても耐えらんないよ~……」

「ちょっと、くっつかないでよ。余計暑くなるじゃない……」

 

 事務所のエアコンには「修理中」という張り紙がでかでかと貼ってあった。

 

「いつ来るのかなんて、私にも分からないわ。明日か明後日か、もっと先かも……」

「え~!? 今日中に来てもらわないと、真美たち溶けちゃうよ~!」

「しょうがないでしょ。この突然の猛暑のせいで、どこのお店もてんてこまいみたいなんだから……」

 

 はぁぁ、と大きなため息を吐く律子。事務所はエアコンが壊れてしまったため、窓を全開にして扇風機で風を通しているが、気温が高すぎて効果が出ているとは言いにくいありさまであった。

 

「や~だ~! 耐えられないよ~! 誰か何とかして~!」

「はしたないですよ、亜美。苦しい時にこそ、精神を平静に保つのです。心頭滅却すれば火もまた涼しです」

 

 駄々をこねる亜美を貴音が咎めたが、

 

「そういうお姫ちんだって、玉のような汗かきっぱなしじゃん」

「これは……生理反応は致し方ないものです」

 

 亜美の言い返しに、そう弁解する貴音であった。

 響は扇風機の一台の前に陣取りながら、あぁ~と声を出す。

 

「あ~つ~い~ぞ~……。本州の梅雨は六月じゃなかったのか? それなのに空気はカラッカラで、気温ばっか高くなって……。ねぇ律子、これどういうこと?」

「だから、何でもかんでも私に聞かないでよ。でも確かに変ね……。いくら地球温暖化や都市部のヒートアイランド化現象が騒がれてるとはいえ、予報じゃこんな急激な気温上昇なんて話は一つもなかったのに……。これも異常気象の一種かしら?」

 

 律子がぼやいていると、ガイがビニール袋を片手に事務所に帰ってきた。

 

「お前たち! アイス買ってきたぞー!」

 

 途端にアイドルたちは顔に生気が戻り、目を輝かせた。

 

「アイス~!! わーい、兄ちゃん大好きー!」

「ほら、一人一本な」

 

 一人一人にアイスキャンディーを配るガイだが、その時ケータイが着信を知らせる。レッスンに出かけている春香からだった。

 

「おっと悪い。……春香、どうした? まだレッスンが終わるには大分早いだろ」

『プロデューサーさん! それが、あずささんがまだスタジオに来ないんです』

「何? まさか……」

『はい……またどこかで迷子になってるみたいですね……』

 

 電話口で大きなため息を吐く春香。765プロアイドル最年長の三浦あずさは、とても落ち着きのある大人の女性なのだが、極度の方向音痴という重大な欠点を抱えているのだった。

 

「またかぁ……。あずささん、どうして何度も通ってるスタジオまでに迷子になるんだ?」

『私に言われても、何とも……。それで悪いんですがプロデューサーさん、迎えに行ってもらえませんか?』

「えぇッ!? この炎天下の中をか!?」

『お願いします』

 

 春香に続いて、小鳥もガイに頼む。

 

「プロデューサーさん、行ってあげて下さい。迷子になったあずささんは、一人じゃ目的地にたどり着けないですし……」

「全く、しょうがないな……。もしもし、あずささん?」

 

 はぁ、と息を吐いたガイはあずさのケータイに電話を掛けた。

 

『あっ、プロデューサーさん。すみません、私また迷子になっちゃったみたいで……』

「春香から聞きました。何か現在地が分かりそうなものは周りにないですか? 下手に動かず、じっとしてて下さいよ」

 

 あずさからの情報で彼女の現在地を判断したガイが、通話を切って踵を返す。

 

「それじゃあ行ってくる」

「兄ちゃーん、いってら~」

「お外暑いけど、がんばってねー」

 

 亜美たちがガイを見送った後で、雪歩が苦笑いを浮かべた。

 

「あずささん、相変わらずだね……」

 

 それから真が小鳥にこんなことを尋ねかけた。

 

「ねぇ小鳥さん、社長はどうしてあずささんも、ウルトラマンオーブの変身役の候補にしたんでしょうね?」

「えっ?」

「あずささん、普段からおっとりしてるというかのんびりしてるというかで、一番荒事には向かないタイプじゃないですか。それなのにどうしてかなって思って」

 

 と聞かれて、小鳥は肩をすくめた。

 

「さぁ。あたしにも、社長の考えの全部が分かる訳じゃないし。でも社長のことだから、あずささんにも光る何かを見出したはずよ」

「ふぅん? ボクにはよく分かんないけど……」

 

 小首を傾げた真を尻目に、亜美、真美、響はアイスキャンディーを袋から取り出して、大口を開けて被りつこうとしていた。

 

「いっただきまーす!」

 

 しかしその瞬間、窓からぶわぁッ! と凄まじい熱風が吹き込んで、アイスが一気に消し飛んでしまった。

 

「きゃっ!? 何今の!?」

「あぁぁー!? アイスがぁぁぁぁ――――――――!?」

 

 ガーン! とショックを受ける亜美、真美、響、貴音。

 律子は窓から外に顔を出して、ギョッと目を見開いた。

 

「そ、空に巨大なファイアーボールが!?」

 

 その言葉の通り、東京上空にギラギラとした太陽のような巨大な火の玉が発生していた。今の熱波は、火の玉発生の余波のようである。

 他のアイドルたちも火の玉を視認して、それぞれ驚きを露わにする。

 

「何だあれ!? あまりの暑さに、火の玉が出来ちゃったの!?」

 

 真の言葉を律子が否定する。

 

「いいえ! ファイアーボール現象は通常可燃性のガスや蒸気が空気に触れた時に発生するもので、どんなに暑くなろうとも気温とは関係しないわ!」

「じゃあ、あの火の玉は何ですかぁ!?」

 

 雪歩が叫んだ時――巨大な火の玉の内部に、双頭の鳥のような影が蠢いた。

 

 

 

 上空に出現した火の玉により、気温は更に急上昇。街の人々は急激に熱中症を引き起こし、次々と倒れていく。

 この事態はもちろん、あずさを迎えに出かけたガイも確認していた。空の火の玉の中に影を見上げてつぶやく。

 

「今度は火ノ魔王獣のお出ましか!」

 

 そこに春香が駆けつけてくる。

 

「プロデューサーさん、ここにいましたか!」

「春香! この騒ぎを聞きつけたか」

「はい! また魔王獣の出現ですか……!?」

「ああそうだ。また俺に、お前の力を貸してくれ!」

「分かりました!」

 

 早く魔王獣を倒さなければ、街中に死者が発生する惨状に発展する。春香はガイの要請にうなずき、ウルトラマンのカードを手にした。

 

「ウルトラマンさんっ!」

 

 カードをガイの出したオーブリングに通す。

 

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

 

 続いてガイがティガのカードを手にした。

 

「ティガさんッ!」

 

 カードをリングの間に通して、二人のウルトラマンのビジョンが現れる。

 

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

 

 ガイがオーブリングを高々と掲げて、トリガーを引く。

 

「光の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイと春香、ウルトラマンとティガの姿が重なり合い、一つとなる。

 

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

 

 変身を遂げたオーブが飛び出していき、空の巨大火の玉へと一直線に向かっていった。

 

 

 

「ウルトラマンオーブ!!」

 

 火の玉へ飛んでいくオーブの姿を目の当たりにして、律子がアイドル仲間たちに振り返った。

 

「臨時『アンバランスQ』スタートよ! みんな、ついてきなさいっ!」

「おぉー!」

 

 カメラを手に取った律子を先頭にアイドルたちが一斉に事務所から飛び出していったが、

 

「……暑いっ!!」

 

 外に出たところで火の玉から放たれる熱波をもろに浴びて、たまらず引き返していった。

 

「みんな、傘よ!」

「ありがとうございます! 再出動よ!」

「おぉー!」

 

 小鳥から受け取った傘や麦わら帽子、上着などとにかく影を作れそうなものを盾に、気を取り直して事務所を飛び出していった。

 

 

 

 春香inオーブは火の玉に接近して、射程圏内に入れたところで空中に停止した。

 

『まずはあの炎を鎮火することからだ! 春香ッ!』

『「はいっ!」』

 

 春香とオーブの動きがシンクロし、手の平を合わせて前に突き出す。

 

「シュワッ!」

 

 すると手の間から大量の水が噴射され、火の玉に浴びせられる。

 

「オーブって手から水も出るんだ!」

「まこと、多芸ですね」

 

 響と貴音がオーブの水流について実況とコメントをした。

 オーブはそのまま水を絶え間なく噴射し続けたが――火の玉の燃える勢いは一向に衰える気配がなかった。

 

『「効果なしです、プロデューサーさん!」』

『くッ……だったら直接攻撃だ! 火の玉をぶった切るぞ!』

 

 オーブが両腕を左右に開き、右手に鋸歯の光輪を作り出す。

 

「『スペリオン光輪!!」』

 

 更にエネルギーを流し込み、自分の身長以上の直径まで巨大化させて投げつけた!

 

「オォォッ! シェアッ!」

 

 光輪が火の玉にめり込んで真っ二つにしようとするが……火の玉が激しく燃え盛ったことで消滅させられた。

 

『「これでも駄目なの!?」』

『まだまだ……! 行くぞ春香ッ!』

『「は、はいっ!」』

 

 オーブのボディの紫色の部分が光ると、火の玉の周囲を超高速で回り出す。あまりのスピードに、オーブが分身しているように見える。

 

「『スペリオン光線!!」』

 

 その状態から光線を発射し、360度全方位から照射する。これで火の玉を消し去る作戦だ。

 だがオーブが停止し、光線が途切れても、火の玉には全く変化が見られなかった。

 

「オーブの攻撃が全然効かない……!」

「頑張ってー! オーブ兄ちゃーんっ!」

 

 地上から大声で叫んでオーブを応援する亜美たち。そうしていると、彼女たちの元にあずさが駆けつけてきた。

 

「律子さん!」

「あずささん! 無事でしたか!」

「はい。……あのオーブは誰が?」

「美希とは連絡がついたから、多分春香……。でもさっきから苦戦しっぱなしなんです」

 

 あずさは不安げに、火の玉の前で手詰まりになっているオーブを見上げた。

 オーブの方は、とうとう胸のカラータイマーが赤く点滅を開始した。

 

『もう限界が近い……! 残念だが打つ手なしだ、一旦退却するぞ……!』

『「で、でもそうしたら地上が……!」』

 

 地上に目を落とす春香。街の中には、熱波によって倒れる人が今も増加中だ。

 それを視認した春香が、決意を固めた顔で重々しくうなずくと、オーブが火の玉の真下に回り込んだ。

 

『待て春香! どうするつもりだ! まさかッ!』

『「えぇぇぇぇーいっ!」』

 

 オーブは真下から火の玉に突撃し、バリアで熱を遮断しながら火の玉をはるか上空へと押し上げ始めた。

 

「火の玉を押し上げてる!」

「あのまま地上から遠ざける作戦か!」

 

 叫ぶ雪歩と真。春香の狙いは上手く行き、火の玉が地上から離されるにつれて熱波が収まっていく。

 だがあずさがハラハラしながらつぶやいた。

 

「でも、もう残り時間が……!」

 

 オーブは既に大気圏を抜け、火の玉を宇宙空間まで追放していた。しかしカラータイマーの点滅もどんどん早まっていく。

 

『これ以上は危険だ春香! 限界に達したら、お前もどうなってしまうか……!』

『「あ、後もう少しだけ……!」』

 

 制限時間のギリギリまで火の玉を地球から引き離したオーブであったが――遂にカラータイマーの輝きが消えてしまった。

 

『「あっ……!」』

 

 同時にオーブから全ての力が失われ、地上へ向けて真っ逆さまに転落、大気圏を突き抜けていく。

 

『「あああぁぁぁぁぁっ!!」』

『春香……! ぐぅッ……!』

 

 摩擦熱で赤熱化したオーブは、その後地上へ垂直に落下。街の中に、轟音を立てて墜落した。

 

「あぁぁー!? オーブがぁー!」

「た、大変! すぐ行きましょう!」

 

 血相を抱えた律子たちが、大急ぎでオーブの墜落した現場へと走っていった。

 

 

 

「うっ、うぅ……」

 

 オーブが落下した地点は、オーブの体型に道路がめり込んでいた。オーブの肉体は既に消え、陥没の中で春香が身を起こす。

 

「あ、あれ……? どこも怪我してない……」

 

 だが春香自身の身体には傷一つなかった。宇宙から大気圏を抜けて転落したというのに。

 

「プロデューサーさん!」

 

 が、ガイの方へ振り返った春香は――ボロボロのガイが仰向けに倒れたまま全く身動きしないのを目にして、息を呑んだ。

 

「そんな……!」

 

 今のガイの姿に、春香は顔色が青ざめる。

 

「どんなに戦っても私たちが苦しくならないのは、ダメージは全部プロデューサーさんが受け持ってたから……!? プロデューサーさぁんっ!!」

 

 慌ててガイの元へ駆け寄ろうとした春香だったが、それより早く別の者がガイの側に現れた。

 

「じ、ジャグラスジャグラー……!」

「何をしている?」

 

 ジャグラーは倒れたままのガイを冷たい目で見下ろした。

 

「お前はこんなものじゃないはずだ……」

 

 そしてガイの腕を強く踏みつけた。ガイの身体がビクンッ! と跳ね上がる。

 

「ぐあぁッ!」

「や、やめてっ! プロデューサーさんにひどいこと……!」

「邪魔だ! 今はこいつと話をしてるッ!」

 

 ジャグラーにすがりついて止めようとした春香だが、ジャグラーに一気に陥没の外へ投げ飛ばされた。

 

「きゃあぁっ!」

「お前は選ばれた戦士なんだろう? なぁ、光の戦士……。女一人の身代わりになるので精一杯なのか?」

 

 ジャグラーはガイの胸ぐらを掴んで無理矢理立たせた。ガイはキッとジャグラーをにらみ返す。

 

「どうした? もっと俺を愉しませてくれよ」

 

 それも意に介さず、ジャグラーはガイを勢いよく投げ飛ばした。ガイは建物の外壁に叩きつけられ、バタリと地面に落下する。

 

「プロデューサーさんっ!!」

 

 春香に駆け寄られるガイに、ジャグラーが最後に告げた。

 

「あまり時間はないぞ……」

 

 それを最後に、その姿が土埃の中に消えていった……。

 直後に、律子たちが現場に駆けつけてくる。

 

「春香! ぷ、プロデューサー!!」

「ひ、ひどい……!」

 

 ガイの惨状に、アイドルたちは絶句した。そこに渋川も走ってくる。

 

「おい! お前たちもいたか!」

「叔父さん……!」

「プロデューサー君じゃねぇか! こりゃひでぇ、誰がこんなこと……!」

「すぐに手当てを! とりあえず、私たちの事務所まで!」

「よしッ!」

 

 渋川に手を貸してもらいながら、アイドルたちはガイを事務所へと運んでいく。それを、春香が思い詰めた表情で見つめている。

 そんな春香の様子を、あずさが見つめ返した。

 

 

 

 事務所に運び込まれたガイは、ソファの上に寝かされて美希と千早に看病されていた。

 

「ハニー、早く元気になって……熱っ!? すっごい熱いの!」

「人の体温とは思えない熱さだわ……!」

 

 ガイの額に乗せたタオルを取り替えようとした美希と千早が、タオルのあまりの熱さに手で持てずに慌てた。律子はガイのバイタルをチェックして、思わず息を呑む。

 

「脈拍360、血圧400、体温に至っては90度……。とても普通の人間じゃ生きてられない状態だわ……」

「プロデューサー、やっぱり宇宙の人なんですね……」

「改めてそのことを実感したわね……」

 

 律子の言葉に、やよいと伊織が息を吐きながらも昏睡状態のガイを心配して目を伏せた。

美希たちはありったけの氷をガイに添えて、どうにか体温を下げようとする。

 一方で春香は、己を責めてスカートの裾をぎゅっと握りしめた。

 

「私のせいだ……! 私が忠告を聞かずに無理をしたから、プロデューサーさんをこんな目に……」

「春香……」

 

 アイドル仲間たちは、春香にどう声を掛けてやればよいか分からずに戸惑っていた。

 すると彼女たちに代わり、高木が春香に呼びかけた。

 

「いや、天海君が最後まであきらめずに戦ったことで、被害を最小限に抑えることが出来たんだ」

「社長……?」

 

 顔を上げる春香。

 

「あのまま火の玉が地上に陣取っていたら、大量の死者が出る事態にまでなっていただろう。君の頑張りは、多くの命を救ったんだ。そこは誇ってもいいことだ」

「でも、プロデューサーさんは私をかばって、こんなことに……」

「ガイ君がダメージの全てを受け止めているのは、力を貸してくれる君たちを傷つけまいとする男の心意気なんだ。その意を汲んでやってあげたまえ。それに、死んだ者なんて一人もいないんだよ? なのに助けた君にそんな暗い顔をされていては、逆にガイ君が苦痛に感じてしまうよ。目覚めた彼には、自責ではなく感謝の顔を向けてあげなさい」

 

 高木の説得により、春香は一旦うつむいた後、努めて明るい表情となって顔を上げた。

 

「はい……! 社長、ありがとうございます」

「うむ、いい表情だ。アイドルはどんな時も元気でないとね!」

 

 春香に元気が戻ったのを見て取って、仲間たちはほっと胸を撫で下ろした。

 それからガイの看病をしながら、今後の行動方針について話し合う。指揮を執るのは律子だ。

 

「火の玉は春香の尽力で宇宙まで押し出されて、ひとまずは最悪の事態は避けられたけれど、根本的な解決には至ってないわ。高度414キロの高空からでも、未だにその影響は地上に及んでる」

 

 現在の気温は42℃であり、猛暑は今も続いている。恐らく火の玉を消滅させないことには、この熱地獄からは解放されないであろう。

 

「ウルトラマンオーブの力でも抹消することが出来なかった火の玉……プロデューサーが目を覚ますまでに、攻略の作戦を立てておかないといけないわね。それと情報収集は、私と小鳥さんでやるわ。他のみんなはプロデューサーの看病をお願い。でも夜になったら、家族が心配するって人はちゃんと家に帰るのよ」

「ミキはハニーの看病のために残るよ! 家にはミキから外泊の許可をもらうの」

「私も、今日は事務所に泊まってプロデューサーについてるわ」

「私も……!」

「私も、みんなと一緒にプロデューサーさんの看病をします」

 

 美希、千早、春香、あずさが申し出て、この四人と律子、小鳥がガイの看病と作戦立案を担当することが決定した。

 地上を焦熱地獄にする巨大な火の玉に対抗するために、765プロは夜間も活動を続行していったのだった。

 



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Miraclemaker(B)

 

 オーブによって大気圏外へと押し出された火の玉へ、三機の青と銀色の戦闘機――ビートル隊の専用機ゼットビートルが向かっていき、ありったけの冷却弾を撃ち込む。

 だが、火の玉に変化は全く起こらない。

 

『こちらビートル本部! 現場の様子を報告せよ!』

 

 本部からの通信に、ゼットビートルの一機の操縦士が応答する。

 

『駄目です! 冷却弾、効果ありません!』

 

 火の玉は依然として宇宙空間で燃えたぎったままであり、その影響は地上に及び続けていた――。

 

 

 

 夜、春香たちが交代で寝込んだままのガイを団扇であおいでいると、事務所に渋川がやってきた。

 

「へあぁ~! あっついなオイッ!」

「叔父さん!」

「春香ちゃん、プロデューサー君の様子はどうだ?」

 

 渋川の問いに、春香は残念そうに首を振った。

 

「そっかぁ……。ヘイ、ヘイヘイそこの三つ編み眼鏡ちゃん!」

「秋月律子です!」

 

 渋川は律子を見やると、そちらにズカズカと近づいていった。

 

「この事務所で、あの火の玉について何か分かったことないか? ビートル隊でも調べてんだが、未だ正体が分からないのに、冷却弾が全く効かない! かと言って、あのままにしておく訳にはいかねぇしな。ほら……例の奴に情報載ってねぇか? あの三瓶布団っていう」

「太平風土記です。全然合ってないじゃないですか」

「そうそれだよ。俺は、あいつが怪獣じゃねぇかと踏んでるんだ。だったらお前たちが何か掴んでるんじゃねぇか? 教えてくれよ」

「そうやっていつも邪険にするのに、都合のいい時だけ頼ってくるのよしてもらえません? ……まぁ載ってますけど」

「あるんじゃねぇかぁ」

 

 律子が見せたタブレットには、太平風土記の一ページが表示されている。内容はこうだ。

 

「“空に二つの日輪昇りし時、地上のもの皆焼き尽くされ……”」

「二つの日輪って、太陽と、あの火の玉のことか?」

 

 渋川の聞き返しにうなずく律子。

 

「続きがあります。“偽りの日輪、これ災いの焔、禍破呑の仕業なり”」

 

 風土記の挿絵には、火の玉の中に首の側面に鳥のような顔を持つ怪獣が描かれていた。

 

「やっぱりそうか……」

「あのまま火の玉が地上に留まり続けてたら、至るところで高温火災が発生してたことでしょう」

「そして、辺り一面は火の海だ。大惨事の一歩手前だったって訳だ」

 

 律子と渋川の会話を耳にして、千早が春香に耳打ちした。

 

「それを思えば、やっぱり春香の判断は正しかったのね」

「……でも……」

 

 春香は戸惑い気味に寝込んでいるガイを一瞥した。

 その様子に渋川がふと気づく。

 

「ん? 春香ちゃん、何を話してるんだ?」

「い、いいえ!? 何でもないですよ!」

 

 ドキッとして慌ててごまかす春香。と、その時、パソコンの画面を凝視していた小鳥が律子を呼んだ。

 

「律子さん、これ見て下さい!」

「どうしたんですか小鳥さん? ……大変! 渋川さん、これを!」

 

 律子は渋川を呼んで画面を指差した。春香たちも画面を覗き込むと……それは大気圏外の火の玉の監視画面だった。

 その中の火の玉が、地上に向かい始めているのだ!

 

「えぇっ!?」

「火の玉の高度が下がってきてるわ!」

「怪獣が活動を再開したの!」

 

 千早と美希が叫ぶと、渋川が即座に通信機を取り出してビートル隊本部と交信した。

 

「こちら渋川! あの火の玉の正体は、怪獣の可能性が極めて高い模様! 至急至急、ありったけの地対空ミサイルで撃ち落とされたし!」

 

 渋川の要請により各地のビートル隊基地から地対空ミサイルが地表へ降下していく火の玉に向かって発射されたが、ミサイルは火の玉の熱波によって着弾する前に誘爆してしまう。

 

「こりゃあやべぇな……。万一の事態に備えて、上に掛け合ってこの付近一帯に緊急避難指示を出してもらおう!」

 

 渋川が事務所から飛び出していく直前、春香たちの方へ振り返る。

 

「お前たちも早く避難した方がいい。……って、プロデューサー君が倒れたままだったか」

「うん。プロデューサーさんを放って逃げることなんて出来ないよ……!」

 

 春香の返答に苦笑する渋川。

 

「分かった。けど彼が目ぇ覚ましたらすぐに避難するんだぜ! それじゃあばよッ!」

 

 格好つけて事務所から走り去っていく渋川。それを見届けてから、あずさが律子に尋ねかけた。

 

「律子さん、魔王獣の地上到達は何時くらいになりそうですか?」

「今のままの速度だと、ちょうど日の出の時間帯くらいになりそうですね……。それまでにプロデューサーが目を覚ましてくれるといいんですけど」

 

 小鳥がガイの体温を確かめる。

 

「触れるくらいには熱下がったけれど、それでもまだ高いわね……。どうにか良くなってくれるといいんだけど……」

「オーブがいなければ、きっと魔王獣を倒すのは無理だわ……」

「ハニー……早く元気になって……!」

「プロデューサーさん……」

 

 千早たちは祈るように、ガイをじっと見つめて看病を続けた。

 

 

 

 それから時間が経過し、太陽が街の向こうより顔を覗かせた頃に、ガイはゆっくりとまぶたを開いて身を起こした。

 

「うッ……ここは……」

「あっ! ハニーが目を覚ましたの!」

 

 それに気がついた美希の呼び声により、春香たちがガイの周りに駆け寄ってくる。

 

「プロデューサーさん、大丈夫ですか!?」

「お前たち……。そうか、俺はあれからずっと……。悪い、心配かけたな……」

「いいんですよ。プロデューサーが回復したのなら、それで」

 

 ほっと安堵する千早。気を失う直前までのことを思い返したガイは、ハッと周りに問いかけた。

 

「そうだ! あの火の玉はどうなった!?」

「それが、宇宙からまた戻ってきて……」

 

 小鳥が答えかけたその時に、パソコンの画面を見つめていた律子が叫んだ。

 

「下降が止まったわ!」

 

 

 

 火の玉が宇宙空間から元の位置にまで戻ってくると、その中に本体を隠している魔王獣が左右のクチバシをおもむろに開いた。

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 そしてそこから火炎弾を吐き出し、地上への無差別攻撃を開始する! 上空から降り注がれる無数の火炎弾が建物を次々襲い、爆砕して街を火の海に呑み込んでいく。

 

 

 

 魔王獣の爆撃による震動は、765プロ事務所にも届いていた。窓を開けたアイドルたちの視界に飛び込んでくるのは、どんどん火災に呑まれていく街の光景。

 

「大変だわ……!」

 

 律子の声が震える。

 

「このままだと、避難指示が出ていない地域にまで火の手が及んでしまう。そうなる前に早く止めないと!」

「ああ……! 俺もお前たちのお陰ですっかり回復した。リベンジ戦だ!」

 

 勇んでソファから立ち上がったガイに、春香が駆け寄って告げた。

 

「プロデューサーさん、私を連れてって下さい!」

「春香! だが、ダメージは俺が引き受けたとはいえお前にも初戦の影響があるはずだ。連戦をさせるのは……」

「春香、ここはミキに任せて!」

 

 ガイと美希が言い聞かせたが、春香は首を横に振った。

 

「私の身体も、ひと晩経って回復してます。それに……プロデューサーさんが重傷を負ったのは、やっぱり私にも責任があると思うんです。だから私自身の手で、あの魔王獣と決着をつけたいんですっ!」

 

 言葉とともに向けられた春香の火災にも負けない熱い想いに、ガイも美希も言い返すことは出来なかった。

 

「……分かった。だが今度も無茶をするんじゃないぞ」

「はい!」

「待った待った!」

 

 どんどん話を進めるガイたちに、律子が割って入った。

 

「無策で飛び出していっても、あの魔王獣を倒すのは無理です。また大気圏外に押し出すのも、次は通用しないでしょうし」

「じゃあどうするというの、律子?」

 

 千早が聞き返すと、律子は皆に語る。

 

「ちゃんと私が作戦を考えておいたわ」

「作戦? どんな」

「バーンマイトで起こす爆発を、火の玉にぶつけるのよ!」

 

 律子の提示した策に驚く美希。

 

「えっ!? 火に火をぶつけても、余計燃えちゃうんじゃないの?」

「いいえ。爆風消火と言って、猛烈な勢いの爆風で火を一気に吹き消すのよ。大規模火災に有用な消火方法で、これならあの火の玉にも通用するはずです」

「なるほど……! 助かるぜ律子!」

 

 作戦を授けられたガイがタロウとメビウスのカードを取り出し、アイドルたちに順番に向けた。するとあずさに向けられた際にカードが仄かに輝いた。

 

「この中でバーンマイトと波長が合うのはあずささんだけですね。それじゃあ……!」

「でもプロデューサー、まだ一つ問題があるんです」

 

 逸るガイを制止する律子。

 

「火の玉はそれで消し止められても、本体は火の怪獣。バーンマイトでは倒し切れない可能性が大です」

「それじゃあどうするの!?」

「バーンマイトとスペシウムゼペリオン、この二つを使い分けて戦わなければきっと勝てないわ」

 

 美希の聞き返しに律子はそう答えたが、ガイは四枚のカードに目を落としながら苦悩する。

 

「その両方と波長が合う奴はいない。俺が自力で変身できれば、こんなことには……」

「今言っててもしょうがないですよ、プロデューサーさん!」

 

 春香が作戦を提示する。

 

「最初にバーンマイトになってる間、私が近くで待機してます! 怪獣の本体を引きずり出したら、すぐにあずささんから私と交代して下さい!」

「だがそれは危険だ! 魔王獣は俺といるお前を狙ってくるに違いない!」

「でもそれ以外に方法は……」

「いいえ、もっといい方法があるわ」

 

 ここでそれまで黙っていたあずさが、話に加わった。

 

「プロデューサーさん、フュージョンアップは一度につき一人だけですか?」

「いえ、試したことはないですが人数に制限はないはずです」

「それなら……」

 

 あずさが春香の後ろに回って、その肩に手を置いた。

 

「私と春香ちゃんと、同時にフュージョンアップするんです。それなら二つの形態を使い分けられますよね?」

「えぇ!?」

 

 あずさの提案に、ガイたちは一様に驚かされた。

 

「あずささん、それこそ無茶です! 複数人とのフュージョンアップは俺にとっても未知の領域。最低でも、二人の精神がシンクロしないとむしろ動きに支障を来たす可能性が高い!」

 

 それにあずさが言い返す。

 

「それなら大丈夫ですよ。私たちはアイドル、隣の人と呼吸を合わせるのは慣れっこです。練習だって何度もしてますし」

「ですが……!」

 

 渋るガイだが、事務所に響く震動と熱波が強くなってきた。これ以上の迷いなど許されない。

 

「……やるしかないか! それじゃああずささん、春香、頼みます!」

「はい!」

「わ、分かりました!」

 

 ガイがあずさと春香を引き連れて、事務所を飛び出していく。

 

「ちょっ! あずささん、こっちですよー! どっち行くんですか!?」

「あらあらぁ?」

 

 それから律子が千早、美希にねずみ色のボディアーマーとヘルメットを投げ渡した。

 

「怪獣災害用にこさえておいた耐火スーツよ! 私たちはこれ着て行くわよ~! プロデューサーたちの奮闘、しっかりカメラに収めて世間に知らせないと!」

「ええ!」

「りょーかいなの!」

「律子さんたちも、くれぐれも気をつけてね!」

 

 炎に呑まれていく街に臨んでいく皆を、小鳥が激励して見送った。

 

 

 

 上空から火炎弾を発し続ける火の玉に近づいていったガイと春香とあずさの三人は、適当なところでフュージョンアップを敢行する。

 

「二人とも、準備はいいか?」

「はいっ!」

 

 問うたガイに固くうなずくと、まずはあずさがタロウのカードを手にした。

 

「タロウさんっ!」

 

 それをガイの持つオーブリングに通す。

 

[ウルトラマンタロウ!]『トァーッ!』

 

 続いて春香がメビウスのカードをその手に握った。

 

「メビウスさんっ!」

 

 カードをリングに通し、二人のウルトラマンのビジョンが現れる。

 

[ウルトラマンメビウス!]『セアッ!』

 

 そしてガイがリングを高々と掲げる。

 

「熱い奴、頼みますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 タロウとメビウス、そしてあずさと春香がガイと融合していく!

 

『トワァッ!』『タァッ!』

[ウルトラマンオーブ! バーンマイト!!]

 

 変身を遂げたオーブ・バーンマイトが、昇る太陽を背景に大地の上に立った!

 ガイが仁王立ちしながら己の身体の具合を確かめ、驚きの声を出す。

 

『すごい……! 同時に二人とフュージョンアップしたというのに、異常が全くない……! むしろ、いつも以上の力が沸き上がってきてるぜ……!』

 

 あずさと春香の精神は眩いほどに紡ぎあって、障害となるどころか二人分のエネルギーがオーブの力に加わり、更なる力を引き出しているのだ。

 

『こんなにも上手く行くなんてな……! 奇跡だ!』

『「いいえ」』

 

 オーブのひと言を否定するあずさ。

 

『「いっぱいレッスンを重ねてきたんですもの、当然の結果です」』

『ははッ、あずささんには敵わねぇなぁ……』

 

 苦笑したオーブが振り返り、空に浮かぶ火の玉を視界に収めて全身を熱く燃え上がらせた。

 

『よぉし待ってろ魔王獣! 今度の俺たちは、ちょっと違うぜぇッ!』

 

 勢いよく前に駆け出し、火の玉の下へと飛び込んでいく。火の玉からはオーブを迎撃しようと火炎弾が放たれるが、オーブはそれも抜けていく。

 火の玉が射程内に入ったところで、オーブがあずさと春香に呼びかけた。

 

『お前の炎を吹き飛ばしてやる! 二人とも行くぞッ!』

『「「はいっ!!」」』

 

 堂々と胸を張ったオーブの前に、灼熱の火球が生じた。それを上空の火の玉へ向かって一直線に飛ばす!

 

「「『ストビュームバースト!!!」」』

 

 オーブの火球が火の玉に命中すると、大爆発を起こして火の玉を一瞬にしてかき消した!

 

「やったわっ! オーブの攻撃が見事成功しました!」

 

 律子たちは戦闘の撮影を開始し、千早がストビュームバーストを実況した。美希は爆発で生じた立ち込める黒煙を指差す。

 

「見て! 中身が下りてきたの!」

 

 煙から脱して、地表に降りてくる真っ赤なトゲだらけの双頭の怪獣。首にマガクリスタルを宿す、火ノ魔王獣マガパンドンが遂に姿を晒したのだ!

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 ここからが戦いの本番だ。オーブはまっすぐに駆け出してマガパンドンに体当たりを仕掛ける!

 

「ウゥッ! ショアッ!」

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 全身でぶつかってきたオーブにマガパンドンは腕を振り回し、尻尾をぶつけてはね飛ばした。だがオーブにさしたるダメージはない。

 

『何のこれしきッ! 今の俺たちは力が滅茶苦茶たぎってるぜぇッ!』

 

 あずさと春香の力を得ているオーブはマガパンドンの攻撃を物ともせず、その頭部を抑えつけて動きを封じる。マガパンドンは左右のクチバシから火炎を吐こうとするが、

 

『「こらっ! 火遊びしちゃいけません! みんな迷惑してるじゃない!」』

 

 あずさが怒り、オーブが拳をその中に差し込んで火炎もふさぎ込んだ。

 

「ガッ……ガガッ……!」

 

 口をふさがれたマガパンドンが無理矢理オーブを押し飛ばしたが、マガパンドンの首が下がったところに強烈な膝蹴りがお見舞いされた。

 

「シェアァッ!」

 

 更にワンツーパンチがボディに叩き込まれ、マガパンドンの動きが鈍っていく。オーブはその隙を逃さず相手の胴体を抱え込んで、肩の上に担ぎ上げた。そのままマガパンドンをぶんぶん振り回す。

 

「オオオオオ……! オリャアアアァァッ!」

 

 遠心力をつけて一気に地面に叩き落とすことで、マガパンドンを大きく弱らせる。その隙にオーブは再フュージョンアップを行う。

 

『「ウルトラマンさんっ!」』

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

 

 春香が手にしたリングにウルトラマンのカードを通し、次にあずさがティガのカードを通した。

 

『「ティガさんっ!」』

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

 

 二枚のカードを通して春香がリングのトリガーを引いた!

 

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

『これでとどめだッ!』

 

 バーンマイトからスペシウムゼペリオンへの変化を華麗に遂げたオーブが、両腕を十字に組んだ。

 

「「『スペリオン光線!!!」」』

 

 放たれた光の奔流が、立ち上がったマガパンドンの首に炸裂!

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 マガパンドンは光線の直撃を耐えながら前進し、オーブに接近してくるが、春香もあずさも決してひるまなかった。それどころかより光線の威力を高める。

 

『「「行けえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」」』

 

 光線が留まることなく照射され続けて、マガパンドンの全身が熱せられてもっと赤くなっていく。

 

「ガガァッ! ガガッ……!!」

 

 マガパンドンもとうとう耐え切れなくなって、途中で足が止まった。そのまま後ろに倒れ込んでいって、全身が爆発を起こしたのであった。

 

「やったぁっ! やりました! ウルトラマンオーブの大勝利ですっ!」

「わーい! やったのハニ……!」

 

 口走りかけた美希の口を、律子が慌ててふさぎ込んだ。

 オーブは己の内側の春香とあずさに呼びかける。

 

『春香、あずささん、ありがとう。特にあずささんには助けられましたね』

『「うふふ、こちらこそ無事にお力になれて何よりです」』

 

 あずさが朗らかに笑って返事すると、オーブは大空に飛び上がってこの場から飛び去っていったのだった。

 

「シュウワッチ!」

 

 

 

 それからガイの姿に戻ってマガクリスタルの前まで歩み寄ると、オーブリングを向けて光のエネルギーをかき集める。

 リングを通って出来上がったのは、青と赤の身体と頭部に二つのトサカを持った、鋭い眼光のウルトラ戦士のカードだった。

 

「おぉ! マガパンドンを封印してたのは、ウルトラマンゼロさんの力でしたか。お疲れさんです」

 

 

 

 別の場所では、ジャグラーがダークリングでマガパンドンの残滓を吸引する。

 

『ガガァッ! ガガァッ!』

 

 ジャグラーはリングからマガパンドンのカードを引き抜くと、ニヤリと妖しい微笑みを浮かべ、左手で五枚の怪獣カードを取り出した。

 

「闇と光……そして、風……土……水……」

 

 この五枚にマガパンドンのカードを加え、不敵に笑うジャグラー。

 

「これで全ての魔王獣がそろった……。残るは、黒き王の力のみ……!」

 

 唱えながら、空の一点を見上げる――。

 

 

 

「ふぅ~。ようやくひどい暑さが収まって、ひと安心だぞ~」

 

 マガパンドン退治後、事務所で響がどっかとソファに腰を下ろして長い息を吐いた。しかし窓の外を見やって顔をしかめる。

 

「でも雨で空気がジトジトしてるさー……。いまいちすっきりしないぞ」

 

 マガパンドンを倒したことで、気候が元の状態に戻って雨が降り始めたのだ。響のため息にやよいと貴音が苦笑を漏らす。

 

「梅雨ですし、雨は仕方ないですよぉ」

「これがあるべき自然の姿です。雨の風情を楽しむのも乙なものですよ」

「うーん……風情とかそういうのは、自分にはよく分かんないぞ」

「ぢゅいッ」

 

 亜美や真美ら、早朝に事務所にいなかった者は美希たちから今回の戦闘の話を聞いていた。

 

「って訳で、あずさの提案で春香とあずさが同時にフュージョンアップしたんだよ」

「へぇ~。あずさお姉ちゃんがそんな大胆なこと言い出すなんてねぇ」

「ちょっと意外だなぁ」

 

 真が腕を組んでつぶやくと、あずさは微笑を浮かべた。

 

「うふふ、女は度胸よ」

「わっ! 今のちょっとカッチョよかったかも、あずさお姉ちゃん」

 

 一方、千早はふと春香があらぬ方向を向いているのに気がついた。

 

「どうしたの、春香?」

 

 春香の見ている先では、ガイがハーモニカを吹いてくつろいでいた。そこに律子がやってきて、目の前に書類の山をドサッと置く。

 

「プロデューサー殿! サボってないで仕事して下さい! 寝込んでた分の仕事が溜まってるんですからね!」

「お、おいおい律子! 俺今回すごく頑張っただろ! もうちょっと労わってくれても……」

「ダーメーでーす! やるべき仕事を先に片づけるのが社会人ってものです! さぁほら、キリキリ働く! ウチに余裕はないんですからね!」

「はぁ……全く人遣いが荒いぜ……」

 

 そんなガイと律子のやり取りをながめ、春香はうなった。

 

「う~ん……」

「何がおかしいの? いつも通りの光景に見えるけど」

「いやそうじゃなくってね……」

 

 春香はガイの仕舞ったハーモニカを見つめ、頬に手を当てた。

 

「いつも思うんだけど……プロデューサーさんの奏でる曲、どこかで聞いたような気がするんだよね……。どこだったかな……」

 

 とつぶやきながら首をひねったが、答えは浮かんでこなかった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

あずさ「どうも、三浦あずさです。今回ご紹介するのは、ウルトラ兄弟ナンバーシックス、ウルトラマンタロウさんです」

あずさ「タロウさんは1973年放送の『ウルトラマンタロウ』の主人公です。円谷プロ創立十周年記念作として、『ジャンボーグA』『ファイヤーマン』と同時期に制作されたんですよ」

あずさ「特徴としては、前作『ウルトラマンA』で作られた要素「ウルトラ兄弟」を更に発展させて、より子供に親しみやすいウルトラマン像を打ち立てたんです。作風も、ほのぼのとしたコメディ色が今まで以上に強くなりました」

あずさ「でもそれはウルトラマンの神秘性を打ち消すことにもつながってるので、難色を示す人も多かったそうですが、実際の作品では締めるところはきちんと締めてますので、言うほど子供っぽいという訳でもありませんよ。うふふ」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『Mythmaker』だ!」

ガイ「CD『MASTER SPECIAL 05』初出のあずささんのソロ曲で、765プロ最年長アイドルという要素を押し出したアダルト感満載の一曲だ! そういう歌は案外珍しいぞ」

ガイ「けどあずささんの大人のイメージって、大部分を担当声優の影響が占めてるような……」

あずさ「あらあら。それは言わないお約束ですよ」

あずさ「それでは、次回をよろしくお願い致します」

 




 は、萩原雪歩ですぅ。765プロの前に怪しい宇宙人が現れました! しかも春香ちゃんが捕まっちゃった! 真ちゃん、伊織ちゃん、喧嘩してる場合じゃないよ~! プロデューサーと一緒に、春香ちゃんを助けてあげて!
 次回『逃げないMind』。プロデューサーの新しい姿、すごいですぅ!


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逃げないMind(A)

 

「プロデューサーさんの奏でる曲、どこかで聞いたような気がするんだよね……」

「相変わらずひどい音色だな」

「ウルトラマンオーブ!!」

「私と春香ちゃんと、同時にフュージョンアップするんです」

『こんなにも上手く行くなんてな……!』

『「「行けえええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」」』

「お前は選ばれた戦士なんだろう?」

「もっと俺を愉しませてくれよ」

 

 

 

『逃げないMind』

 

 

 

「はい……はい……。そうですか、もう別の子に決定と……。いえ、どうぞ今後とも765プロをよろしくお願い致します」

 

 営業の外回りに出ているガイは、街中を歩きながらケータイで営業先と出演交渉をしていた。しかし仕事は余所の事務所に取られてしまい、あえなく交渉は失敗する。

 

「ふぅ……。地球のアイドルの世界ってのも、ほんと厳しいもんだ……」

 

 通話の切れたケータイを手にしている腕を下ろし、ため息を吐くガイ。彼はともにオーブとして戦ってくれるアイドルたちに報いるために大きな仕事を取ってこようと努力しているのだが、なかなか成果にはつながっていないのが現状だった。

 

「早くあいつらに、戦いじゃないアイドルらしいことをやらせてやりたいんだがな……」

 

 画面の明かりが消えたケータイを見下ろしながら、765プロのアイドルの顔を一人一人頭に思い浮かべるガイ。

 ――その彼の脳裏に、深い森の中にたたずむ少女の姿と、攻撃してくる光ノ魔王獣、そして森と大地を呑み込む規模の大爆発の光景がよぎった。

 

「……」

 

 すると、ガイの表情が一瞬悲しげに歪んだのだった――。

 

 

 

『バアアアアアアアア!』

『テヤァッ!』

 

 その頃765プロ事務所では、響、亜美、真美の三人が、先日夏の東京を一時的に雪の世界に変えた怪獣ペギラとオーブの戦いを撮った『アンバランスQ』の回を観返していた。

 パソコンの画面の中では、オーブ・スペシウムゼペリオンがペギラを光球の中に包み、それを運びながら遠く北方へ向かって飛び立った。その後ろ姿を春香が実況する。

 

『ご覧下さい! オーブによって怪獣は運び去られていきます! これで凍りついた東京の街も元通りになるでしょう。ありがとうオーブ……!』

 

 だが振り返った瞬間、凍結した道路に足を滑らせる。

 

『あっ! きゃっ!? あああぁぁぁっ!!』

 

 どんがらがっしゃーん! と春香が転倒してその回は終了した。観終えて亜美と真美がつぶやく。

 

「いやー、はるるんは予想と期待を裏切らないねぇ」

「本人は認めたがらないけど、いちいちやることが面白いよね」

 

 春香のことを話している亜美真美の一方で、響はペギラの方に注目をしていた。

 

「魔王獣はやっつけたけど、社長の言った通り、怪獣が出現するようになっちゃったね。これから世界はどうなるのかな……」

 

 若干不安がる響に、亜美と真美はこう言った。

 

「ダイジョーブだよひびきん。そのために兄ちゃんと亜美たちがいるんじゃん!」

「オーブはヒーローだよ? 正義のヒーローはどんな時も、悪い奴には負けないのだー!」

 

 テンションを上げた真美は、ふとあることに思い至ってつぶやいた。

 

「そー言えば、怪獣がいるんだから宇宙人もいるのかな? いや兄ちゃんがそうだけど、他にもよくある地球侵略を狙うような悪ーい宇宙人がいたりして」

「そこんとこどうなんだろうねー? 兄ちゃんはその辺何も言ってなかったけど」

 

 などと話していたら、事務所に春香、伊織、真の三人が帰ってきた。

 

「真っ! あんたのせいでオーディション落ちちゃったじゃない!」

「はぁ!? ボクのせいって決まった訳じゃないだろ! そう言う伊織のせいかもしれないじゃないか!」

「ち、ちょっと二人とも、落ち着いて……」

 

 ……伊織と真が激しく口喧嘩しながら。

 

「何言ってるのよ! 確実にあんたのせいよ! あんたのあの寒いポーズに審査員がドン引きしてたの気づかなかったの!? あんたがかわいこぶるのなんて、誰も求めてないのよっ!」

「な、何だってぇー!? 伊織こそ、露骨に媚び売ってたのが絶対逆効果になってたよ! 伊織こそ寒いことやるのやめたら!?」

「何よ、このオトコ女っ!」

「ぶりっこっ!」

「だ、だから落ち着いてよ二人とも。仲間同士で罵り合ってもどうしようもないよ……」

「「春香は黙ってて!!」」

 

 その瞬間だけ言葉がそろう伊織と真であった。

 

「ひぃ~!? これって雪歩の役割じゃあ……」

 

 二人のすさまじい剣幕に押された春香が小鳥や響たちの方へ避難していった。

 

「お帰りなさい、春香ちゃん。……その様子だと、オーディションは残念な結果だったのね」

「そうなんです……。それであの二人が、ずっとあんな風に険悪な様子で……」

 

 はぁと深いため息を吐く春香。亜美はそっぽを向き合う真と伊織の様子をながめて呆気にとられた。

 

「うあうあ~……また一段と激しい喧嘩してるね、まこちんといおりん」

「どっちもどっちだぞ。何もあそこまで喧嘩しなくてもいいのに」

 

 響が呆れていると、小鳥が擁護するように言った。

 

「真ちゃんも伊織ちゃんも、元から気が強いとこがあるから……。でも今日はそれに加えて、オーディションに落ちたことがきっかけとなって今まで抱え込んでた焦りと不安が噴出したんでしょうね」

「焦りと不安? ピヨちゃん、どーいうこと?」

 

 聞き返す真美。

 

「ほら、みんなデビューしてからこっち、大きな仕事をしたことがないじゃない。受けるオーディションは全部落選して……それでこの先アイドルとしてやっていけるのか、という内心の不安が表に出てきちゃったのよ」

「不安……そういえば亜美たち、『アンQ』以外のどの番組にも、ほんのちょっとでも出演したこともないもんね」

「他の仕事も、ビラ配りとかちっちゃいライブハウスのライブとか……まるでバイトか地下アイドルみたいだぞ」

 

 亜美や響も表情を曇らせたのを、小鳥が慰める。

 

「まぁ、誰だって駆け出しの下積み時代はなかなか芽が出ないものよ。でも若い子には、この低迷してる時期を辛抱するのは難しいものだわ。そのまま日の目を見ないで消えていくなんてのも珍しくない話だし……。あたしだって……」

「小鳥さん?」

 

 小鳥が急に顔をそらしてため息を吐いたのを、春香が訝しむ。

 

「ああ!? な、何でもないわ。それより、亜美ちゃん真美ちゃん響ちゃん、あなたたちはそろそろレッスンに行かなきゃいけない時間じゃない? 遅刻しちゃうわよ」

「あっ、そうだったぞ! ぴよ子、ありがとう!」

 

 思い出した三人が慌てて支度をして事務所を出発していく。

 

「それじゃ、いってきまーす!」

「がんばってねー。あたしはいつでも応援してるからね!」

 

 響たちを見送った後で、春香がふぅとため息を吐いた。

 

「辛抱か……。小鳥さん、私たちもいつかスポットライトが当たりますか?」

「もちろんよ! そのためにプロデューサーさんも日々駆け回ってるんだから。だから元気出していきましょう!」

 

 小鳥はそう唱えるものの、春香も内心の不安をぬぐい切れないでいた時、ガイのデスクの固定電話が着信を知らせた。

 

「あら、電話だわ」

「小鳥さん、私が出ますよ」

 

 一番近い春香が手を伸ばして受話器を取る。

 

「お電話ありがとうございます、765プロです」

『あたし今宇宙人追いかけてます!』

 

 電話口の相手は、いきなりそんなことを言い放った。春香は呆気にとられる。

 

「はい? 宇宙人?」

『あッ、765プロの方ですよね? アンバランスQって番組やってる』

「はい……」

『あたし、宇宙人の後ろを追いかけてるんですけど!』

「えっ、ちょっと待って下さい! それって情報提供ですか?」

 

 春香は咄嗟にマイクボタンを押して、通話内容を小鳥にも聞こえるようにした。小鳥は早速メモを取り出す。

 

『はいッ! あの、すぐ来て下さい! あたし一人じゃ怖くて……!』

「分かりましたっ! 場所は?」

 

 通話の相手からあらかたの情報を得た春香は、即座に真と伊織に呼びかけた。

 

「真! 伊織! 『アンQ』に情報提供者だよ! 怪獣と宇宙人が隠れてるんだって! すぐ行こう!」

 

 だが伊織から素っ気ない返事が来た。

 

「そんなの、どうせまた面白半分のガセネタでしょ。いっつもそれで振り回されてるじゃない」

「ちょっ……そんなこと言っちゃ駄目だよ! たとえそうでも、視聴者からの情報提供をないがしろにするなんてやっちゃいけないって、社長も言ってたじゃない!」

 

 説得する春香だが、真も伊織もむくれたまま席を立たない。

 

「伊織と一緒だなんて絶対ごめんだね!」

「私だってこんな奴となんて断固としてお断りよ! 行くなら春香一人で行ってきたら?」

「えぇー……」

 

 すっかり機嫌を悪くしている二人は頑なだ。ほとほと参った春香は、時間もないことから説得をあきらめる。

 

「分かったよ、じゃあ一人で行ってくるから! 情報確認なら私だけで十分だろうし……。小鳥さん、プロデューサーさんが戻ったらこのこと連絡して下さい」

「了解よ! 春香ちゃん、多分何かの間違いだとは思うけど、万が一のことがあるかもしれないからくれぐれも気をつけてね」

 

 小鳥は宇宙人が真昼間の往来を歩いているなんて情報を信用してはいなかったが、それでも春香を笑顔で送り出していった。

 

 

 

 事務所を発った春香は、情報提供者から指定された場所へ到着した。そこでは当人と思われる、制服姿の女子高生が春香を待っていた。

 

「真渡子さんですか?」

「そうです! 765プロの方ですよね? こっちへ!」

 

 真渡子なる女子高生は春香の手を引いて、寂れた工場の前へと連れていく。

 

「あの中に入っていったんです……!」

「あの工場の中……!」

「行きましょうッ!」

 

 真渡子は春香を急かして、工場の中へ連れていった。そのまま地下へ続く階段に駆け込み、早足で最深階まで下りていく。

 ……建物に入ってからの行き先は確認できないはずなのに、その足取りに何の迷いがないことを怪しむほど、春香の洞察力は鋭くなかった。

 

「ここです……!」

 

 真っ暗闇に覆われた、太いパイプがいくつも連なる広大な地下室を、二人は懐中電灯の明かりを頼りに探索していく。が、一向にそれらしい姿は見つけられない。

 

「本当にこんなところに――」

「しッ!」

 

 尋ねかけた春香の口を、真渡子が手でふさぎ込んだ。

 

「聞こえますか……?」

 

 真渡子の言葉の直後に、何か大きなものが蠢く怪しい音と、電子音のようなものが春香の耳に入ってきた。

 

「……!」

 

 二人が柱の陰からそっと音のする方を覗き込むと……地下室全体を揺らすような震動とともに、黄色い発光体とカマ状の腕を備えた巨大生物の影が、ぬっと視界に入り込んだ。

 

「ピポポポポポ……」

「……!!」

 

 春香はすぐにガイのケータイに連絡を入れようとしたが、その途端に真渡子に口をふさがれたまま引っ張られ、壁に押しつけられた。

 

『警戒心なさすぎ。だから簡単に罠に掛かっちゃう」

 

 急に、真渡子の甲高い声音に不気味な響きが混じった。――それにより、春香は『宇宙人』が誰なのかを直感で理解した。

 

「んんっ!?」

「あきらめて大人しく餌になれッ!』

 

 激しく抵抗し出す春香を力ずくで抑えつけようとする真渡子。だがその背中が地下室の機材に当たると、ガスが漏れて二人を吹き飛ばした。

 

「きゃあっ!」

『フハハハハハッ!』

 

 回る真渡子の姿が女子高生のものから――頭頂部にアンコウのような突起を生やした一つ目の怪人に変化した!

 

「あっ、ああっ! プロデューサーさっ!!」

 

 慌てて逃げようとした春香だったが、焦るあまりドジを発揮。振り向いた瞬間に足を滑らせて転倒。

 

「きゃあうっ!?」

 

 どんがらがっしゃーん! と倒れた拍子に額をパイプにぶつけ、そのまま気を失ってしまった。

 横たわった春香を、セーラー服の怪人が見下ろす。

 

『フフフフフフ……フッフッフッフッフッハッ!』

「ゼットォーン……」

 

 怪人の哄笑に、巨大生物の低いうなり声が重なった。

 

 

 

 765プロ事務所では、ガイが外回りから帰ってきていた。

 

「ただいまー。……おいおいどうした、そこの二人。空気悪いな」

 

 ガイは早速、未だ顔を背け合ったままの真と伊織に目を留めた。

 

「オーディション駄目だったのか。でもだからって喧嘩することはないだろ」

「ふんっ! 知らないわ、そんな奴!」

 

 人一倍気の強い伊織は、ツンと澄ましてガイからもそっぽを向く。やれやれと肩をすくめたガイは、真の方に囁きかけた。

 

「そうへそを曲げるなよ、真。お前たちにはまだまだチャンスっていう未来がある。今日は駄目でも、明日に向かって励めばいいじゃないか」

「……ホントにボクに、チャンスがあるんでしょうか……?」

 

 しかし真はかなり気弱な声を出した。

 

「どうした、いつになく弱気じゃないか」

 

 ガイが聞き返すと、真は心の内を吐露する。

 

「……いつも気丈に振る舞ってますけど、ホントはボクの夢、かわいい女の子になれるっていうこと……実現できるかいつも不安なんです……。だってボクが、自分のなりたい格好になると、雪歩を始めとしてみんなに否定されますから……」

 

 ガイは真がなりたい格好――どぎついピンク色のフリフリドレスを身に纏って「きゃっぴぴぴぴーん☆ まっこまっこりーん☆」と口走る姿を思い出して微妙な顔になった。

 

「まぁ……正直似合ってないってのは確かだな……」

「プロデューサーだってそう思ってるんでしょ……。分かってるんですよ、自分の感覚が世間とはズレてるんだってこと、本当は……。だからこそ不安なんです……。今日なんかそれを伊織にぶつけちゃって……」

 

 チラッと伊織の横顔を一瞥するガイ。伊織も、どこか後ろめたいような表情をしている。

 二人とも本音では、喧嘩なんてしたくないし互いに罪悪感を抱いているのだ。でも将来への不安で胸がいっぱいであり、仲直りを切り出せないもどかしい状態にあるのだった。

 

「実は、伊織やみんなが羨ましくもあるんです。みんな既に、ボクがなりたいかわいい女の子だから……。そんな中にボクはこんなで……ボク、アイドルとしてちゃんと成功できるんでしょうか……」

 

 うつむく真を見つめたガイは、その頭をポンポンと優しく叩いた。

 

「誰だって未来を思うと不安になるもんさ。上手く行かない、思い通りにならない、こんなはずじゃなかった……世の中はそんなことだらけだからな」

「プロデューサー……」

「けどうつむいてたって何も変わらない。今の自分が駄目なら、新しい自分の姿を探して変わっていく。そして成長して、未来に進んでいく……。それが生きることだと、俺は思うぜ」

 

 と説いたガイは、ふと真と伊織に尋ねかけた。

 

「そういえば春香はどこだ? 一緒に帰ってきたんだろ?」

「あっ、そういえば……」

「春香ちゃんなら、さっき765プロに情報提供の電話が来て、その方のところに向かいましたよ」

 

 小鳥が二人に代わって返答した。

 

「情報提供?」

「はい。何でも宇宙人と怪獣が隠れてるのを見つけたとかで……」

 

 言いかけたところ、ガイのデスクの電話が再度着信音を鳴らした。手を伸ばすガイ。

 

「お電話ありがとうございます、765プロです」

『えっとぉ、紅ガイさんですかぁ? そちらの天海春香って子、あたしが預かってまぁす』

 

 受話器からは甘ったるい、人を小馬鹿にした響きの声が発せられた。途端に真たちは振り返って色めき立つ。

 

「!!?」

『すぐ助けに来てね。来なかったら……分かるでしょう? それじゃ』

 

 通話の相手は一方的に告げて、電話を切った。受話器を押さえつけるように戻したガイが、小鳥に問いかける。

 

「春香はどこですか?」

「は、はい! ここにメモが……!」

 

 小鳥がメモを取ろうとした時、真が席を立ってガイに呼びかけた。

 

「プロデューサー、ボクも行きます! 春香を助けにっ!」

「私だって!」

 

 真の直後に伊織も立ち上がった。

 

「お前たち……」

「春香が捕まったのは、ボクたちにも責任があります。あの時、春香についていってれば避けられたかもしれないのに……」

「ちょっと機嫌が悪いからって、春香一人に押しつけた。馬鹿なことしたわ……」

 

 自分たちの態度を反省し、春香の身を案じる二人。彼女たちの気持ちを汲んで、ガイはうなずく。

 

「分かった。だがその前に、二人ともきっちり謝意を言葉で表すんだ。うやむやで済ますんじゃないぞ」

 

 言われて、真と伊織はようやくお互い顔を合わせた。

 

「伊織、その……ごめん。さっきはイライラしてたんだ」

「私こそ、ひどいこと言ったわね……。ごめんなさい」

 

 二人が謝り合うと、小鳥から春香の居場所を確認したガイがそれぞれの肩に手を置いた。

 

「よし、これで仲直りだ。それじゃあ春香のところへ急ぐぞ!」

「はい!」「ええ!」

 

 小鳥が渋川に通報する一方で、意識を切り換えた真と伊織が、ガイとともに春香を捕らえた宇宙人の隠れ家へと向かっていった。

 

 

 

「うっ……やめて……!」

 

 工場の地下室では、春香が宇宙人の手によって鎖でパイプに縛りつけられていた。宇宙人は春香を恫喝する。

 

『餌は活きがいいほど獲物の食いつきが良くなる。暴れろッ!』

「……!」

 

 春香は逆に口を閉ざして、宇宙人を気丈ににらみ返した。

 

『どうした暴れろ! そうして奴を呼び寄せるんだ! フッハッハッハッハッ……!』

 

 春香を拘束し終えた宇宙人はセーラー服から、黒い作業服のようなものに着替えて大型の光線銃を手にした。春香は宇宙人に問う。

 

「情報提供者が宇宙人の正体だったなんて……。初めからプロデューサーさんが狙いだったの?」

『ゼットン星人マドックだ。如何にも俺の目的は、お前のところの事務所にいる奴、紅ガイの命さ』

「……プロデューサーさんがオーブだから?」

 

 ゼットン星人マドックなる宇宙人に聞き返す春香。

 

『ほう、詳しいじゃないか。話が早い。その通りさ! 宇宙で恐怖とともに名を知らしめるには、ウルトラ戦士を葬り去るのが一番手っ取り早いことだからなぁ』

「プロデューサーさんは、オーブはすごく強いんだよ! こんなずるいことするような人なんかには、負けないんだから!」

 

 と言ってのける春香だが、マドックは冷笑を浮かべる。

 

『そいつはどうかなぁ? 俺は事前に奴のことを調査している。あれを見ろッ!』

 

 マドックが指し示した先にいるのは、先ほどの黒い人型の怪物。腕が鋭利なカマ状になっており、死神を彷彿とさせる。春香はその迫力に思わず息を呑んだ。

 

『対ウルトラマンオーブ用にこしらえた、特注のハイパーゼットンデスサイス! あいつは奴のトラウマである怪獣の同族だ。あいつが相手では、奴はまともに戦うことも出来まい』

「プロデューサーさんの、トラウマ……?」

 

 その言葉が心に留まる春香。

 

『ハイパーゼットンデスサイスによって、ウルトラマンオーブはズタズタに切り裂かれて地獄に行くのさッ! フハハハッハッハッハッハッ!!』

 

 マドックが高笑いを上げているところに――ハーモニカの音色が割り込んでくる。

 

「この音色は……!」

『フフフ……狙い通り餌に食いつきやがった』

「プロデューサーさん、来ちゃ駄目っ! 罠ですっ!」

 

 春香は叫んだが、ガイは地下室の非常口からその姿を現した。

 

「知ってるさ、それぐらいのことはな」

 

 マドックが早速光線銃を構え、ガイに向かって砲撃を放つ!

 

『ハッハーッ!!』

 

 ガイは前に転がって光弾をかわすと、床に転がっている歯車を拾い上げて素早くマドックに投擲した。

 

『ぐわぁッ!』

 

 歯車が直撃したマドックが吹っ飛び、その隙にガイと後から地下室に踏み込んだ真、伊織が春香の元へ駆け寄った。

 

「真、伊織も!」

「春香、さっきはごめん! お仕事押しつけちゃって!」

「女の子を鎖で縛るなんて、あの宇宙人変態だわ!」

 

 真たちはガイとともに鎖を解き、春香を解放した。

 

「全く、軽はずみなのがお前の悪いところだ」

「す、すみませんプロデューサーさん。ご迷惑掛けちゃって……」

「まぁいいさ。それより――伏せろッ!」

 

 春香を助け出したところで、ガイが三人を引っ張って伏せた。直後にハイパーゼットンデスサイスのカマが飛んできて、パイプを真っ二つに両断した。

 ハイパーゼットンの正面にマドックが立ち、ガイたちに向けて光線銃を向ける。

 

『よくもやってくれたなぁ! お返しをしてやろうッ!』

 

 光線銃でガイを狙うマドックに対して、伊織が近くの消火器に目を留めて手を伸ばした。

 

「真っ!」

「うんっ!」

 

 渡された消火器を受け取った真が手早く構え、マドックが銃を撃つより早く消火液を浴びせかけた。

 

「食らえぇぇっ!」

 

 マドックは顔面に液を浴びてひっくり返る。

 

『ぎゃああッ!? 目、目が染みるぅぅぅぅッ!』

 

 マドックは倒れ込んだが、代わりにハイパーゼットンが真たちをつけ狙う。ガイは真の腕を引いた。

 

「ひとまず脱出だ! ついてこいッ!」

「は、はいっ!」

 

 四人はハイパーゼットンが放ってくる火球から逃れ、非常口から脱していく。そのタイミングでマドックが起き上がった。

 

『逃がすものか! ハイパーゼットンデスサイスッ!!』

「ピポポポポポ……」

 

 命令を受けたハイパーゼットンが、更に巨大化していって地下室の天井を突き破っていった――。

 



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逃げないMind(B)

 

「こっちだ! 早く!」

 

 ガイが春香、真、伊織を連れて工場から脱出した直後、建物を突き破ってハイパーゼットンデスサイスが地上へとその巨体を現した。

 

「ゼットォーン……」

『待てコラァッ!』

 

 同時にマドックもガイたちを追いかけてきて、ガイに向かって言い放った。

 

『紅ガイ、いやウルトラマンオーブ! お前にハイパーゼットンデスサイスを倒すことは出来んぞぉ! お前の能力は全て調査済みだッ!』

 

 ハイパーゼットンは工場を破砕しながら、ガイたちを恫喝するように身を乗り出した。春香たち三人は強烈な威圧感に思わず後ずさる。

 自信満々なマドックに対して、ガイは――不敵な笑みを返した。

 

「そいつはどうかな?」

『何!?』

「この業界は変化が早いんだ! 以前までの俺たちを調べてきたんなら、あんたの知らない俺たちを見せてやるよ!」

 

 堂々と宣言したガイが、真と伊織をそれぞれ一瞥した。

 

「真、伊織! お前たちの力、貸してくれ!」

「分かったわ!」

 

 伊織が一番にうなずき、真に振り返る。

 

「真はどうかしら? あのどでか黒カマキリに怖気づいちゃってるんじゃないの?」

「まさか!」

 

 伊織の軽口に、真は力強く返した。

 

「ボクはもう、どんな障害からも逃げない! プロデューサー、お願いします!」

「よしッ!」

 

 真の返事を受けたガイは最後に、春香に言いつける。

 

「春香は安全なところまで下がってな」

「私たちの華麗な活躍、しかと見届けてなさいよ!」

 

 伊織も春香に唱えてから、ガイがオーブリングを取り出す。真と伊織はそれにウルトラフュージョンカードを通していく。

 

「ジャックさんっ!」

 

 真が通したのは、ジャックのカード。

 

[ウルトラマンジャック!]『ジェアッ!』

 

 リングが緑色に光り、真の隣にウルトラマンジャックのビジョンが出現。

 

「ゼロっ!」

 

 次いで伊織はゼロのカードを通した。

 

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェアッ!』

 

 リングが水色に輝き、伊織の横にはウルトラマンゼロのビジョンが現れる。

 

「キレのいい奴、頼みますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイがリングを掲げてトリガーを引くと、緑、水色、青色にリングが発光し、ジャックとゼロは真、伊織を巻き込んでガイと融合。

 

『ヘッ!』『テヤッ!』

[ウルトラマンオーブ! ハリケーンスラッシュ!!]

 

 オレンジ色の光の渦と白い光の軌道の中から、新たな姿のオーブが巨大化しながら飛び出していく!

 ビルの屋上に着地し、ハイパーゼットンを見下ろすオーブは、青と黒を基調としたボディであり、頭頂部には刃状の二つのトサカが光を反射していた。

 ウルトラマンジャックとゼロの技のキレを受け継いだ、まさしくハリケーンのような速さを持った戦士、ハリケーンスラッシュである!

 

『俺たちはオーブ! 光を越えて、闇を斬る!!』

 

 ハイパーゼットンをビシッと指差したオーブがビルの屋上から飛び降りる。かと思えば既にハイパーゼットンに肉薄していた!

 

「シュワッ!」

 

 オーブの回し蹴りがハイパーゼットンの横面を打った。速いキックは残像すら残す。

 

「ゼットォーン……」

 

 ハイパーゼットンがカマを振り下ろして反撃してくるが、オーブは俊敏な身のこなしで難なく回避。

 

「オオオッ! シェアァッ!」

 

 そして回し蹴りを連発してハイパーゼットンを追撃していく。

 オーブに力を与えている真は、ハリケーンスラッシュの疾風のような動きに感激を覚えていた。

 

『「すごい! こんなに身体が軽く感じるのは初めてだ!」』

 

 そして自分とともにオーブと一体化している伊織に目を向ける。

 

『「伊織、とんでもなく速いステップだけどついてこれるかい?」』

 

 それに対して伊織はニッと笑みを返した。

 

『「私を誰だと思ってるのよ。スーパーアイドル伊織ちゃんよ!」』

『「そうだったね! それじゃあどんどん行くよっ!」』

『「望むところだわっ!」』

 

 オーブの側転キックがハイパーゼットンに入った。カマの反撃を受け流し、背中合わせで硬直し合う。

 

「ピポポポポポ……」

 

 先に動いたのはハイパーゼットンだが、オーブは身をかがめて横薙ぎのカマをかわし、ストレートキックのカウンターでハイパーゼットンを蹴り飛ばした。

 

『「はぁっ!」』

 

 右腕で円を描き、ビシッと見得を切るオーブ。その動作には真の空手の実力も反映されて、よりオーブに力を与えている。

 

『「流石やるじゃない、真!」』

『「伊織も全く遅れがないのはすごいよ!」』

 

 真と伊織は互いに称賛し合う。そうして呼吸をもっと合わせ、ハイパーゼットンに立ち向かうのだ。

 オーブはハイパーゼットンのカマの腕を捉え、一本背負いを決めようとする。

 

「オオオオオッ!」

 

 だが地面に叩きつける直前、ハイパーゼットンの肉体が一瞬でかき消えた。

 

『「消えた!?」』

「ゼットォーン……」

 

 真が驚愕していると、ハイパーゼットンは背後から現れて宙を滑空しながらドロップキックを入れてきた。振り返ったオーブは回避できずにそれを受け止める。

 

「オオオオオ―――――ッ!」

 

 そのまま身体にひねりをつけて回転し、ハイパーゼットンを遠くまで投げ飛ばそうとするも、ハイパーゼットンは投げられた瞬間にテレポートし、地上に着地した状態で出現した。

 

『「向こうも速いっ!」』

『「負けてらんないわね! 真、もっともっと行くわよ!」』

『「オッケー!」』

 

 オーブはハイパーゼットンへ頭部からふた振りの光刃、オーブスラッガーショットを放った。だがこれもテレポートでかわされ、ハイパーゼットンはオーブの背後を取ると同時に火球を繰り出してくる。

 

「ウワアァァッ!」

 

 流石に吹っ飛ばされるオーブ。しかし転がりながらすぐに起き上がり、オーブスラッガーショットをトサカに収めた。

 

「プロデューサーさーん! 真っ! 伊織ー! ファイトー!」

 

 オーブの奮闘を、声を張って応援する春香の元に、この事態を聞きつけた律子、亜美、真美が駆けつけてきた。

 

「おーい、はるるーん!」

「わぁっ! 兄ちゃんがまた新しい姿になってるよ! 衣装たくさんあるね!」

「アイドルのプロデューサーらしいわね!」

 

 冗談交じりに律子たちが撮影を開始する一方で、テレポートを繰り返すハイパーゼットンの行方を探っていたオーブが宙の一点を見上げ、光に包まれて消える。――いや、消えたかのようなスピードで移動しているのだ。

 そしてオーブとハイパーゼットンは空中で衝突し合いながら落下してきた。――そこは春香たちのちょうど真上だ!

 

「きゃああああっ!?」

「うわー! すっごい大迫力!」

「なんて言ってる場合じゃないわよ! 潰されるぅぅぅぅっ!!」

 

 戦いながら降ってくるオーブとハイパーゼットンを見上げ、律子たちは恐怖に駆られて思わずうずくまった。しかし両者は完全に着地する寸前に再度高速移動し律子たちの頭上から離れた。

 

「ほっ……」

「もー! 気をつけてよー!」

 

 改めて着地したオーブとハイパーゼットン。ハイパーゼットンは胸の前に火球を作り出していく。

 

「ゼットォーン……」

 

 対するオーブはスラッガーショットを自らの前で激しく回転させ、飛んできた火球をその回転により防いだ。

 

『オーブスラッガーランス!』

 

 それだけに留まらない。スラッガーショットの作る渦の中心に腕を突っ込むと、その中からさすまた状の槍を握り締めて引っ張り出す!

 これはジャックのウルトラブレスレットとゼロのゼロスラッガーの二つの力が合わさることで誕生するハリケーンスラッシュ専用武器、オーブスラッガーランスだ!

 

『「うわぁ! カッコいい!」』

『「小道具まで専用でついてくるなんて、贅沢な衣装ね!」』

 

 オーブスラッガーランスに感激する真と伊織。

 

「ピポポポポポポポポポ……!」

 

 ハイパーゼットンはエネルギーをチャージして、火球を連続して発射してくる。

 

『行くぞ真、伊織! オーブスラッガーランスの力を見せてやるぞ!』

『「はい!」』

『「任せて!」』

 

 オーブは怒濤の攻撃にもひるまず、スラッガーランスの柄に備わっているレバーを一回引き、スイッチを叩く。レバーが引かれるとランスの穂のつけ根にある球体が回転してエネルギーが集中していく。

 

「「『オーブランサーシュート!!!」」』

 

 突き出したランスからすさまじい勢いの光線が発射された! 光線はハイパーゼットンの火球を相殺し、巻き起こす旋風で路上の自動車も吹き飛ばす。

 それでもハイパーゼットンは火球の発射を止めないが、そこでオーブはスラッガーランスのレバーを今度は二回引いた。

 

「「『ビッグバンスラスト!!!」」』

 

 前に飛び出しながらの刺突が火球を貫き、ハイパーゼットン自体にも槍が突き刺さった! 穂のスラッガーから流し込まれる力を焼きつける。

 

「ピポポ……ポポ……」

『次で決めるぞッ!』

『「「はいっ!!」」』

 

 そしてオーブはとどめに、レバーを三回引いてスイッチを叩いた!

 

「「『トライデントスラッシュ!!!」」』

 

 オーブスラッガーランスによる乱撃がハイパーゼットンに叩き込まれ、黒い肉体を細切れにしていく!

 さしものハイパーゼットンデスサイスもこれには耐えられず、膨大な爆炎を発して消滅した。ハイパーゼットンが消え去ると、ランスもまたスラッガーショットに戻ってオーブの頭頂部に収まる。

 

「シュワッ!」

 

 大空へ向かって飛び去っていくオーブ。その後に、通報を受けた渋川が現場付近に到着した。

 

「本部本部! こちら渋川! 765プロ……あッ、いや、市民の情報によると、怪獣の他にも、宇宙人がいるらしく!」

 

 春香たちの元には、オーブから戻った真と伊織が帰ってきた。

 

「まこちん! いおりん! お帰りー!」

「大活躍だったねー! ばっちり見てたよー!」

 

 亜美に称賛されると、二人は得意げに微笑んだ。

 

「いやぁ、それほどでもないよぉ」

「ふふん、この伊織ちゃんいてこその大勝利よ」

 

 真と伊織は一瞬互いを横目でにらみ合ったが、すぐに口元を緩めた。

 

「伊織、ナイスファイトだったよ」

「真こそ、お見事だったわ」

 

 そして二人はコツン、と手と手の甲をぶつけ合った。

 和やかな空気が流れるが、真たちに春香がこう問いかける。

 

「それで、プロデューサーさんは?」

「あれ? そういえばいない……」

 

 六人はキョロキョロと辺りを見回すが、ガイの姿がどこにも見えなかった。

 

 

 

「はぁッ!」

 

 当のガイは彼女たちから離れた場所で、マドックと激しい格闘戦を繰り広げている最中であった。

 

「ふッ! はッ! ほぁッ!」

『うぐッ!』

 

 肉弾戦ではガイが優勢であった。マドックの打撃を防ぎ、反撃で徐々に追いつめていく。

 そして隙を見て大きく背負い投げを決めるが、マドックは側の建物の屋上に着地。ガイはその数メートルはある高さをひとっ跳びしてマドックを追いかけて、格闘戦を続行した。

 

『ぐぅッ……!』

 

 ガイの拳が数発顔面に入り、マドックがよろめいたところで、渾身の後ろ回し蹴りが炸裂! 吹っ飛んだマドックは屋上から地面に落とされた。

 

『ぐあぁぁッ!』

 

 それを追って地面に飛び降りたガイに、マドックは光線銃を出して引き金を引く!

 

『食らえッ!』

 

 しかしガイが光弾の射線上に右手を差し出す。その手中のウルトラマンのカードが、光弾を反射してマドックに送り返した。

 

『ぐああぁぁ――――ッ!』

 

 己の光弾をまともに食らって倒れるマドック。これが致命傷となり、マドックはもう立ち上がることが出来なくなった。

 ガイは無力化したマドックの側まで近寄ると、しゃがんで問いかける。

 

「ハイパーゼットンを育てて、何するつもりだった?」

 

 マドックはもがき苦しみながらも答えた。

 

『お前を倒せば……俺の名が上がる……!』

「俺を倒すためだけに……?」

『そのために、お前が最も苦手とするだろうゼットンをわざわざ連れてきて育てていた……。だが何故だ……! どうして勝つことが出来た……。ゼットンが恐ろしくなかったのか……!?』

 

 理解できないとばかりに問い返すマドックに、ガイはきっぱりと告げた。

 

「ウチには、将来への不安で色々と弱気になってる奴がいるんでな。あいつらのために、プロデュースしてる俺が怖気づく姿なんか見せられるかよ」

 

 ガイが立ち上がった時に、春香たちが彼を発見して駆けつけてくる。

 

「あっ、いた! プロデューサーさーん!」

「さっきの宇宙人もいるわ!」

 

 亜美と真美はマドックの姿を視認して驚きを見せる。

 

「うあうあー! 宇宙人だぁーっ! 姿が亜美たちと全然違う!」

「すごーい! ホントにそーいう宇宙人いるんだ!」

「気をつけて! あの宇宙人は悪い奴なんだ!」

 

 不用意に近づこうとする亜美真美を真が押しとどめた。律子はマドックに問う。

 

「あなたは侵略目的の宇宙人!?」

『ふふふふッ……!』

 

 すると何故か、マドックは哄笑を発した。

 

『お前たちはまだ、この腐りかけた星に侵略する価値があると思っているのか? 笑わせるぜッ……!』

「えっ……!?」

 

 マドックの言動に、アイドルたちは一瞬言葉を失った。

 

『俺以外の奴らも、いつか……この星の外へ逃げ出すだろう……』

 

 その言葉を最期に、マドックの頭頂部の突起から白い液体が噴出され、同時に全身がドロドロに溶けて消えていった。跡には白い泡だけが人型の形で残った。

 亜美と真美はマドックの今際の言葉に絶句している。

 

「腐りかけって……」

「どーいうこと……? 地球はダメな星になってるってこと……?」

「そんなのただの負け惜しみよ! 往生際が悪いわね!」

 

 伊織は憤慨して断ずるが、律子はそう捉えなかった。

 

「そうかしら……。今の地球は環境問題や、社会問題が山積みだわ。もしかしたら、地球は私たち人間が思ってるほどいい星じゃないのかも……」

 

 マドックの言葉に影響されて、暗い雰囲気に包まれるアイドルたち。しかしそれを打ち払うように、ガイが皆に語った。

 

「いいや、星も生きてる。生きてるものは腐ったりなんかしないぜ」

「プロデューサーさん……?」

「星を良くするのも悪くするのも、その星の生きてる人間の手によるもの。未来ってのはどんな時も、今を生きる人間が作っていくもんだ。これまでの経験から、俺はそう確信してる」

 

 ガイの言葉に励まされて、アイドルたちは少し表情に明るさを取り戻した。

 

「……そうですね! うじうじしててもしょうがないです! 地球の未来を守るのにも、トップアイドルになるのにも、行動しないことには始まりませんよね!」

「春香の言う通り! みんな、気分を切り換えてこれからもがんばりましょう! トップアイドルになれることを信じて!」

「おぉー!」

「次こそはオーディション合格してやるわよ!」

 

 元気を回復させてから、事務所に帰っていこうとする一行。そこに渋川が走り寄ってきた。

 

「おい! おい! 宇宙人はどこだ! 宇宙人はどこだ!?」

「後ろだよ、渋川のおっちゃん!」

 

 すかさず亜美がからかう。

 

「後ろ!? いない! 誰もいやしねぇ! 誰もいやしねぇよオイ!」

 

 思わず噴き出したガイたちは、和気藹々としながら立ち去っていく。

 

「おいみんな、どこ行くんだ!? あれ? この泡は何だ?」

 

 まるで事態を呑み込めていない渋川を尻目に、春香はふとガイに質問をした。

 

「ところでプロデューサーさん……一つ、聞きたいことがあるんですけど」

「何だ?」

「宇宙人は……あの怪獣が、プロデューサーさんのトラウマだなんてこと言ってましたが、それは本当のことなんですか?」

 

 ガイの表情が一瞬、ピクリと固まった。

 

「……いや、何か勘違いしてたんだろ。別に何もないぜ」

「そうでしたか……?」

 

 春香は少々腑に落ちない様子であったが、それ以上突っ込んだことは聞かなかった。

 

 

 

 後日の765プロ事務所で、春香たちが着替えた真の姿をまじまじと見つめて感嘆の息を漏らしていた。

 

「おおー……!」

「すごいなー、普段の真のイメージからガラリと変わったぞ!」

「そ、そうかな……?」

 

 響にため息を吐かれて、真は恥ずかしそうにはにかんだ。

 今の彼女は、純白のワンピースと麦わら帽子を身に纏っており、いつものボーイッシュな雰囲気とは打って変わって非常に清楚な印象を放っている。

 この服装をコーディネートしたのは伊織だ。

 

「にひひっ、どうかしら? なかなかのものでしょ」

「すっごいねいおりーん! まこちんが大変身しちゃったよ!」

「今なら誰にも男に間違われたりはしないわね。真にこんな格好も似合うなんて、私にも見抜けなかったわ」

 

 真美と律子が伊織の手腕をべた褒めした。

 

「いつも思ってたのよ、真は着飾り過ぎだってね。素材の良さを最も引き出すには、衣装は主張し過ぎないようにすること。お洒落の基本よ」

「ボクがこんなにも女の子らしくなるなんて……。ありがとう伊織!」

 

 姿見で己の状態を確認した真が伊織に礼を告げた。

 

「これくらい朝ご飯前だわ。ふふっ」

「いいわぁ~真ちゃん! とっても素敵よっ! ここ最近で一番グッと来たわ!」

 

 得意がる伊織の一方で、小鳥がテンションを上げて真をパシャパシャ写真に撮っていた。そんなことをしていると、ガイが事務所に帰ってきて一番に報告した。

 

「喜べお前たち! 全員でのライブの仕事が決まったぞ!」

「ええ!? ホントですか!?」

 

 バッと振り返る春香たち。アイドル総出でステージに上がる経験は初めてのことなのだ。

 

「もちろんだ。降郷村ってとこの夏祭りのステージに、お前たちを出してもらえることになってな。小さな田舎の村だが、なかなか雰囲気の良さそうなところだぞ」

「なーんだ、ちっちゃい村のお祭りの舞台か~」

「でも一歩進展には違いないよ! この調子でどんどん有名になっていこう!」

 

 響はやや肩透かしを受けたが、春香は全員参加のステージという部分に興奮を覚えていた。

 アイドル各人が大なり小なり期待を寄せていると、ガイが真の服装に気がついた。

 

「おッ、真、今日は随分とおめかししてるじゃないか。いい感じだな」

「プロデューサーもそう思いますか? その……ボクがかわいいと……」

 

 真がおずおずと尋ねると、ガイはフッと笑ってうなずいた。

 

「もちろんだ。俺はいつだって思ってるぞ、変に肩肘張らなくたって、お前はかわいい女の子だってな」

 

 と言われて、真は一瞬呆気にとられた後、ボッと赤くなった。

 

「そ、そんな! 見え透いたお世辞なんか言わなくていいですよぉ!」

「お世辞なんかじゃないさ、心外だな。思ったことをそのまま言っただけさ」

「またそんな調子のいいこと言っちゃって……。えへへ……」

 

 今一つ素直にガイの言葉を受け止められない真だったが、それでも機嫌を良くして笑みをこぼす。

 

「でも、ボクももう腐ったりしません。どんな辛いことが待ち受けてたとしても、前を見て自分の夢に向けて進んでいきます!」

「よしッ、その調子だぞ。やっぱりお前には、そういう明るくて元気な顔が一番似合うぜ」

 

 ガイに約束した真は、最後に彼と笑顔で見つめ合ったのだった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

真「菊地真です! 今回紹介するのは、帰ってきたウルトラマンことウルトラマンジャックさんです!」

真「ジャックさんは1971年放送の『帰ってきたウルトラマン』の主人公です! こんなタイトルだけど、ジャックさんが地球を訪れたのは初めてだったんですよ。これは企画初期の、初代ウルトラマンさんその人が再び主役になる設定の名残なんです」

真「『帰マン』は前二作との違いとして、初期はレギュラーキャラによる人間ドラマの比重が強めでした。当時の流行りも取り入れて、ジャックさんこと郷秀樹さんの特訓というスポ魂要素も描かれました。ボクもそういう努力する人は大好きですよ!」

真「中盤からはシリーズ初のウルトラ戦士の追加武装、ウルトラブレスレットの登場を皮切りに、バリエーションに富んだ怪獣やドラマが描かれて、シリーズを一層彩りました!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『迷走Mind』だ!」

ガイ「CD『MASTER ARTIST 04』初出の真のソロ曲で、クールなイメージに溢れた如何にも格好いい歌だ。真の男性的な要素をフィーチャーしてると言ってもいいかもな」

ガイ「真はどっちかと言うと、クールなイメージの曲を担当する割合が多いよな。やっぱりそういうキャラで見られてるってことなんだろう」

真「うぅ、ボクはかわいくなりたいんだけどな……」

真「次回もよろしくお願いしますっ!」

 




 四条貴音です。夏祭り出演の直前、765プロは入らずの森の調査を行うこととなりました。しかしその森には面妖な気配が……! 悪しき影がわたくしの仲間たちに忍び寄ります! 雪歩、今こそあなたが勇気を出す時です!
 次回、ふぁあすとふぁいと……もとい『First Fight!!』。どうぞよしなに。


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First Fight!!(A)

 

「こんなことが起きちゃったら、超常現象だのUMAだの言ってらんないわね」

「あのオーブは、私とプロデューサーさんが変身したものなの!」

「真の姿は、オーブの支援組織だったのだよ!」

『「ミキが……きらきら煌めく星に……!」』

「どんな相手でも私は、弟たちのおやつの時間を取り戻すために戦いますっ!」

「私と春香ちゃんと、同時にフュージョンアップするんです」

「伊織、ナイスファイトだったよ」

「真こそ、お見事だったわ」

「あんたの知らない俺たちを見せてやるよ!」

 

 

 

『First Fight!!』

 

 

 

 ――どことも知れぬ、薄暗い怪しい空間の中、二人の異形の怪人に対して、どこからともなく男の声が響いてきた。

 

『では、状況を聞こう』

 

 すると二人の内、身体全体が縦に細長く、サイケデリックな色彩をした怪人がそれに答えた。

 

『偉大なるドン・ノストラ……タバコを吸う人間は減少の一途をたどっております。幻覚タバコ作戦は、中止せざるを得ません……』

 

 サイケな怪人の報告に、最初の声は大きくため息を吐いた。

 

『時代は変わったな……。今は、自分の快楽のためには星を売ってもいいと思う奴らばかりだ……』

 

 姿の見えている怪人のもう一人、白い身体に赤い球体がいくつも埋め込まれたような怪人が好戦的に進言する。

 

『いっそひと思いに、ぶっ壊してやりましょう!』

 

 それに苦言を呈するサイケな怪人。

 

『だが、地球にはウルトラマンオーブがいます。早く奴を何とかしなければ……』

 

 だが発言の途中で、白い怪人は腰のホルスターから銃を抜いて背後に銃口を向けた。

 

『誰だッ!』

 

 それに応じるかのように、黒いスーツの男がこの場に足を踏み入れてきた。――ジャグラスジャグラーだ。

 

「惑星侵略連合の皆さん、お初にお目にかかります。私の名はジャグラー」

 

 「惑星侵略連合」と呼ばれた者たちの内、声だけの者がジャグラーに聞き返す。

 

『君の噂は聞いているよ。我々に何の用だ?』

 

 それにジャグラーは、淡々と答えた。

 

「奴は私にお任せ下さい」

 

 

 

 ――雪歩は気がつくと、見たことのない景色の中を飛んでいた。

 

「う……ここは……?」

 

 とても日本とは、いや現代の地球上に存在するとは思えないような世界。見渡す限りの大地は荒寥としているばかりか溶岩の河が至るところに走っていて、有史以前の時代を思わせる。

 そんな世界の中、蛇のように手足のない細長い胴体の怪獣と、赤い光に包まれた巨人が激しく戦っていた。雪歩はその、胸部に黒いラインと青い発光体を持つ巨人のことをよく知っていた。

 

「ウルトラマンさん……?」

『ジュアァッ!』

 

 光の巨人――ウルトラマンは抱え込むように頭を下げると、頭頂部に光子が集まり、光のムチと化した。それを怪獣に向けて発射することで、怪獣を一撃の下に爆散させた。

 怪獣を打ち破ったウルトラマンは、気がついたかのように雪歩の方へ振り返った。雪歩とウルトラマンの視線が合う。

 じっとウルトラマンの瞳を見つめる雪歩の耳に、かすかに自分の名前を呼ぶ声が届く……。

 

『……雪歩……雪歩……!』

 

 

 

「雪歩っ!!」

 

 はっ! と目を覚ました雪歩の顔を、真と春香が心配そうに覗き込んでいた。

 

「ああ、よかった! 気がついた!」

「大丈夫? 頭打ってない?」

「うっ……私、どうしてたんだっけ……」

 

 ゆっくりと身体を起こす雪歩。自分は事務所の床に倒れて気を失っていたことを理解する。周りにはガイたち765プロの仲間が、真と春香と同じように雪歩を案じて視線を向けていた。

 失神する直前まで何をやっていたのか思い出そうとする雪歩の視線の先に、ずんぐりとしたセントバーナード犬がぬっと顔を出した。

 

「バウっ」

「……」

 

 ワンテンポ遅れて、それが何か理解した雪歩がズザザザザッ! と腰を落とした姿勢のまますごい勢いで後ずさった。

 

「ひぃぃぃぃっ! いぬ美ちゃんっ!?」

 

 雪歩に思い切り怖がられた犬、響の飼っているいぬ美が怖がられたことにショックを受けてズーン……と落ち込んだ。それを飼い主の響とハム蔵が慰める。

 

「げ、元気出していぬ美。雪歩も悪気がある訳じゃないんだぞ」

「ぢゅいッ……」

 

 いぬ美の顔を見ただけでガクガク震えて涙目の雪歩の様子に、千早が大きなため息を吐いた。

 

「萩原さんの犬恐怖症、一向に良くなりませんね……」

「全くだな……。どうしたもんか……」

 

 ガイも弱り果てた様子で腕を組んだ。

 先日降郷村の夏祭りでのステージ出演が決定した765プロアイドルたちだが、その前に一つ大きな問題に直面した。それがこの雪歩のことである。

 雪歩は男性も怖いのだが、それに輪を掛けて犬が怖い。そして降郷村には如何にも男らしい青年団もあれば、犬を飼っている家庭も多い。ステージ出演中、彼らと遭遇しないはずがない。今の怖がりな雪歩のままでは、舞台に立つことすらままならないだろう。そういう訳でそれまでにどうにか雪歩の恐怖症を治そうと試行しているのだが、まるで改善しないのが現状であった。

 ちなみに先ほどは、実際に犬に触れさせて慣れさせようと響にいぬ美を連れてきてもらったのだが、その結果は雪歩の卒倒であった。

 

「もぉ~! 雪歩、真面目にアイドルやる気あるの? ライブはもう二日後なのよ! こんな調子じゃ間に合わないわよっ!」

 

 苛立った伊織が強い口調で責めると、雪歩は半泣きになって言い訳する。

 

「ひ~ん……! 好きで怖がってる訳じゃないよ~……! 私だって、男の人とも普通に話がしたいんだけど……」

「伊織ちゃん、落ち着いて。雪歩さん、焦らずゆっくりやってけばいいですよ」

 

 やよいが雪歩をかばうが、伊織はそれに反論した。

 

「ゆっくりやってたら間に合わないからこんなことしてるんじゃない。そもそも、そうやって雪歩を甘やかしてばっかだったからこんな羽目になってるんじゃないの?」

 

 他の面々も雪歩をどうしたものかと頭を悩ませている。

 

「ハニー、この際雪歩はお休みさせた方がいいんじゃない? それで次の機会ってことで……」

 

 美希が進言するが、ガイは渋い表情。

 

「けどなぁ……初めての全員出演のステージだぞ? その晴れ舞台に、一人だけ欠席ってのも後味悪いしな……」

「あまりずるずると先延ばしにするのも、雪歩の為になりません」

 

 貴音も同調した。が、だからと言って妙案は思い浮かばない。

 皆が思い悩んでいる一方で、亜美と真美は小鳥とともにパソコンの画面で日本太平風土記の挿絵をながめていた。そして真美が小鳥に質問する。

 

「ねぇねぇピヨちゃん。兄ちゃんの持ってるウルトラマンのカードって、倒した魔王獣からゲットしたものだけどさ、他にもカードあるのかな?」

 

 それに小鳥は次の通りに答えた。

 

「社長の調査とプロデューサーさんの言によると……他にもまだ世界のどこかに眠っているカードがある可能性は大よ」

 

 小鳥はマウスを操作して、太平風土記をスクロールする。そうして巨人が描かれている部分で止めた。

 

「太平風土記によれば、魔王獣は七人の巨人の力で封印されたけど、世界は魔王獣の影響で荒れたまま。そこで七人以外の巨人がその力を用いて、世界のバランスを安定させたとあるの」

 

 画面には、胸に黒いラインの走る銀色と赤の巨人が荒れ果てた大地を平定している構図の絵が表示されている。

 

「それが他のウルトラマンで、世界の安定のために同じように力をカードにして使用したとするのなら……」

「今もどっかにカードが眠ってるってことだね!」

 

 言い当てる亜美。

 

「ええ。でもそれがどこにあるのかということまでは流石に分からないわ」

「そっかー。でもどうせなら、全部のカードが亜美たちのところに来てほしいよね」

「そしたら真美たちもオーブに変身できるかもしれないもんねー」

 

 現在ガイの元にあるカードとは波長の合わない亜美真美は、そうなることを夢見た。

 一同がそんなことをしていると、高木が律子を伴って姿を見せた。

 

「やぁ諸君、調子は……あまりよくないみたいだが、ここで一つやってもらいたいことがあるんだ」

「社長?」

「先ほど、渋川君から依頼があってね。律子君、例のものを」

「はい、社長」

 

 高木に言われて律子が写真をデスクの上に広げる。アイドルたちがそれを覗き込むと、あずさがのほほんと言った。

 

「あら、雪歩ちゃんのグラビア写真じゃないですか。よく撮れてますねぇ」

「ええ、よく撮れてますよ。ほら……ここに飛んでるのがはっきりと」

 

 律子が指し示した一枚の写真の一点、雪歩の頭の右上辺りに……赤いピスタチオを二つ連ねたような物体が小さく写り込んでいた。響が仰天する。

 

「ユ、UFOだぞー!?」

「また空飛ぶ円盤が撮れちゃったんだ、雪歩……」

 

 呆然とつぶやく春香。雪歩は何故か写真を撮ると、未確認飛行物体が写る確率が異様に高いのだった。

 当の雪歩が語る。

 

「これ、市民公園で撮ったものです……」

「うむ。その公園に隣接する行政の管理区の小さな森林には、昔からある噂が流れていてね」

 

 高木が解説を始めた。

 

「高貴な人物の墓陵や、二人の英雄を祀った祠がどこかにあるというものの他に、一度足を踏み入れて帰ってきた者は一人もいないという言い伝えから、江戸時代から『入らずの森』という仇名で呼ばれていたようだ」

「流石元民俗学者だけあって、お詳しいですね」

 

 感心する千早。

 

「萩原君の写真だけでなく、最近この森の付近でUFO写真が何枚も撮れているということだ。鑑定でも作り物ではないと出たが、これだけではビートル隊が正式に調査するには至らないということで、渋川君が一緒にこの『入らずの森』を調べてほしいとお願いしてきたという訳だ」

「なるほど……これが次の『アンバランスQ』の題材ってことね」

 

 伊織がうなずく一方で、響きが不安がる。

 

「でも危険じゃないの? 帰ってきた人がいないなんて物騒な言い伝えがあるし、何よりUFOなんて……。こないだ悪い宇宙人に狙われたばかりだぞ」

「しかし、わたくしたちにはプロデューサー……オーブがついています」

 

 と述べたのは貴音。律子はガイに振り返って意見を求める。

 

「プロデューサー、どうですか? ウルトラマンオーブの目から、この円盤は本物でしょうか」

「……」

 

 写真を見つめていたガイが口を開いて答えた。

 

「見たところ、本物の宇宙人の宇宙船のようだな。だがそれが森とどんな関係があるかっていうのは分からん」

「そうですか……」

「それにこの森は……」

 

 何か言いかけたガイの顔を律子たちが訝しげに見上げる。

 

「……いや、ひとまず調べてみる価値はあるだろうな」

「それじゃ決定ね! この調査、誰かやりたい人はいるかしら?」

 

 ガイの言葉を受けて決めた律子は、調査員を募る。それに応じたのは亜美と真美だった。

 

「はいはーい! 亜美たちやるー!」

「『入らずの森』なんてチョー面白そー!」

「それじゃあその二人ね。それと、雪歩、あなたも入りなさい」

 

 指名された雪歩がビクッ! と肩を跳ね上げた。

 

「ど、どうして私なんですかぁ!?」

「ちょうどいいから、肝試し代わりよ。二日後のライブに向けて、ちょっとは度胸つけてきなさい。拒否は認めないから」

 

 強制参加を命じた律子がもう一人指名する。

 

「後は春香、あなたもね」

「えぇっ!? 別に嫌って訳じゃないですけど、どうしていつも私ばっかり駆り出されるんですか!?」

「何言ってるのよ。『アンQ』のプロジェクトリーダーなんだから当たり前じゃない」

「いつの間にそんなポストに!?」

「他のみんなは明後日のステージに向けて、引き続き練習しててね!」

 

 一方的な律子の指名により、この四人と律子、ガイによる『入らずの森』の調査が決定した。しかし今から震えている雪歩を、真と貴音が激励する。

 

「頑張って、雪歩! 大丈夫、プロデューサーがついてるんだから」

「明後日に控えたらいぶに備えて、益荒男にも負けぬ度胸を育んでくるのです」

「う、うん……」

 

 うなずく雪歩であったが、内心ではやはり危険があるかもしれない森林の調査に大きな恐怖を抱いていた。

 それを紛らわそうとして、ふと先ほど気を失っている間に見た夢のことを振り返った。

 

(そういえば、あの夢に出てきたウルトラマンさんは誰だったんだろう……)

 

 夢のウルトラマンは、明らかにオーブではなかった。しかしカードの絵柄のものとも姿が違った。では何故見たこともないウルトラマンが夢に出てきたのか?

 その理由は全く以て分からなかった。

 

 

 

 翌日。問題の『入らずの森』の入り口の手前で、ガイたちは渋川と合流した。

 

「この森にはUFO以外にも、幽霊が出没するって噂も流れてるんだ」

 

 銛をながめながら切り出した渋川に顔を向ける春香たち。

 

「幽霊?」

「ああ。周辺で聞き込みをしたんだが、何でも昔、近所の中学生が肝試し中に着物を着た女の幽霊を見たんだそうだ」

「UFOとか幽霊とか、色々出る森なんだねー」

 

 亜美がは~、と息を吐いてつぶやいた。

 

「兄ちゃんは幽霊のこと知ってた?」

 

 真美が顔を上げると、ガイが顎に手をやって変に黙っているのに気がついた。

 

「兄ちゃん?」

「……」

 

 ガイのことは置いて、渋川が続けて話す。

 

「まぁとにかく、調査は早い方がいいな。この辺りは、行政の再開発地点に入ってるからな」

 

 その言葉にガイが過敏に反応した。

 

「どういうことですか?」

「もうじき、この森が消えるってことだよ。跡地には高層マンションが建つ予定なんだ」

 

 渋川からの情報に、ガイはやや険しい表情となった。

 

「そういうことなら、早いところ調べてしまいましょう」

 

 律子のひと言で、一行は森の中に立ち入っていこうとする。しかし雪歩は足がすくんでいてなかなか一歩を踏み出せない。

 

「うぅ……」

 

 怖気づいていると、春香が励ましの言葉を掛ける。

 

「大丈夫だよ、雪歩。私たちがついてるんだから! 一人じゃないんだよ」

「そーそー!」

 

 春香の後に亜美真美がうんうんとうなずく。

 

「春香ちゃん、亜美ちゃん真美ちゃん……」

「こういう時こそ元気よく行こうっ! 765プロ、ファイトー!」

「おーっ!」

 

 握り拳を振り上げて森に向かっていく春香たち。三人に励まされて、雪歩も彼女たちの背中についていった。

 そんな雪歩たちの様子をながめて、難しい顔になっていたガイは少しだけ表情をほころばせた。

 

 

 

 『入らずの森』に踏み込んでいった一行の様子を、巧妙に隠されたカメラ越しに監視している者たちがいた。

 

『ふん。まぁた興味本位の人間どもがこの森の中に入ってきやがったか』

 

 映像の中のガイたちを見つめる二人の怪人と、ジャグラスジャグラー。――怪人たちはジャグラーが接触した、地球を狙う宇宙人が結託した組織『惑星侵略連合』の幹部である。ナックル星人ナグスと、メトロン星人タルデ。

 

「ほう……」

 

 ガイの顔を確かめたジャグラーが面白そうに口の端を吊り上げた。

 

「奴らはウルトラマンオーブとその仲間ですよ」

『何ぃ? 奴らがそうか。まさかこの土地に乗り込んできやがるとはなぁ……』

 

 ジャグラーの報告に、ナグスは腰の銃を抜いて撫でる。一方でタルデは人数を数えて言った。

 

『八人か……』

 

 するとナグスが怪訝に振り向く。

 

『八人? 七人じゃないか?』

『少し離れたところに、白い服の女が』

 

 ナグスは思わず腰を浮かせて、モニターに食い入った。

 

『女? そんなものはいねぇぞ?』

 

 

 

 森に入ったガイたちは、霧が立ち込める中を注意深く探索していた。

 

「お前たち、足元気をつけろよ」

「うーん……霧が深くて上手く撮れないよ~」

 

 カメラを持つ真美がぼやいている一方で、律子はストームチェイサーを改造した手持ちのレーダーで森を分析する。

 

「大分地磁気が乱れてるわね。でも100メートル四方にも満たないこの場所だけ、どうして地磁気に異常があるのかしら……」

 

 怪しんでいた律子は、レーダーの画面を見つめてもう一つのことに気がつく。

 

「ん? ちょっと待って。この地下には、人工的な空洞がいくつもあるわ」

「人工的な空洞? そりゃどういうこった」

 

 渋川が聞き返したが、それに律子ではなくガイが発した。

 

「古墳だ……」

「古墳?」

「確かに! この配置、四世紀頃の円墳に酷似してるわ」

「ってことは、この森に古墳が眠ってるってことか?」

 

 渋川の問い返しに肯定する律子。

 

「すっごーい兄ちゃん! 大当たりじゃん!」

「ホントかよぉ? いきなり古墳だなんてさ」

 

 亜美は興奮するが、渋川は半信半疑。それを尻目に、春香はふと気配を感じて首をその方向へ向けた。

 すると――森の真ん中に、白い着物姿の神秘的な女性がたたずんでこちらを見つめているのが見えた。

 

「え……?」

「春香ちゃん、どうしたの?」

 

 春香の妙な様子に雪歩が尋ねると、春香は白い着物の女性を指差す。

 

「それが、あそこに白い服の人が……」

「え?」

 

 だが春香が視線を戻すと、女性の姿が急激に薄れて、最初から誰もいなかったかのように消え失せた。

 

「……消えた……」

「ええ? 俺には何も見えないけど?」

「まさか、ホントに幽霊出ちゃった!?」

 

 真美たちが盛り上がるのをよそに、ガイは訳知り顔で小さくつぶやいた。

 

「やはりあなたでしたか……玉響姫」

 

 

 

 タルデが色めき立つ。

 

『消えた……? どういうことだ!?』

『オイオイオイ! 気味の悪いこと言うなよ!』

 

 ぶるぶる震えて席を立ったナグスが、側に控える部下の黒服二人に命じる。

 

『奴らを空間幻惑装置で、この森に閉じ込めろ! 久しぶりの人間狩りだ』

 

 ジャグラーもまた立ち上がろうとしたが、ナグスに制止された。

 

『テメェは見物してな! 新参の馬の骨に、惑星侵略連合のやり方ってもんを見せてやるぜ』

「……本当に大丈夫ですか?」

 

 挑発するジャグラー。短気なナグスはすぐに煽られて苛立った。

 

『ほざけッ! ここにテメェの席なんか本当はねぇってことを教えてやるからな! 行くぞッ!』

 

 黒服を引き連れて退室していくナグスの背中を、ジャグラーは薄ら笑いを浮かべて見送る。そのジャグラーの様子を、タルデが用心深く観察していた。

 

 

 

 律子の見ていたレーダーの画面が、突然ブラックアウトして動作しなくなった。

 

「あら? どうしたのかしら?」

「どうした? 大丈夫か?」

 

 異常を察した渋川が尋ねかけた。律子はレーダーの調子を確認する。

 

「おかしいわね……。充電が切れるには早すぎるわ……」

「みんなッ!」

 

 途端、ガイが全員に警告を発した。

 

「気をつけろ。どうやら向こうからお出ましのようだ」

「え?」

 

 ガイの言葉の直後に、霧の中から黒服を連れたナグスが銃を構えながら接近してきた!

 

『ハハハハハハ……!』

「ひゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!? で、出たぁぁぁ~!!」

「侵略宇宙人かッ!?」

 

 亜美たちが悲鳴を発し、渋川が即座にスーパーガンリボルバーを抜いた。が、ナグスの早撃ちによって弾かれてしまう。

 

『馬鹿め。そんな貧弱な銃で俺に敵うと思うな?』

 

 銃を構えたままにじり寄ってくるナグスたちに対し、皆をかばうように前に出たガイが渋川に告げた。

 

「渋川さんはウチの子たちを森の外までお願いします」

「えッ!? 君はどうすんの!?」

「俺は奴らを食い止めます!」

「お、おいおい! ビートル隊が、民間人を置いていける訳が……!」

 

 慌てて食ってかかる渋川だったが、亜美と真美に腕を掴まれる。

 

「渋川のおっちゃーん! 早くー!」

「765プロ、退避ー!」

「あッ、ちょっとおいッ!」

 

 春香の号令で、ガイを除いた全員がくるりと回れ右して逃走し出した。渋川も引っ張られて連れていかれる。

 後に残ったガイは身構えて、ナグスたちを正面からにらみつけた。

 

「この森で何をやってるかは知らないが、あいつらに手出しすることは許さないぜ」

 

 今にも飛びかかっていきそうなガイだが、ナグスは冷笑を浮かべる。

 

『テメェはメインディッシュだ。他の奴らを狩り終えるまで、この森を延々とウロウロしてな!』

「人の話聞いてたのか!?」

 

 バッと一足飛びでナグスに頭上からキックを仕掛けるガイ。

 だが急に宙がグニャリと歪んだかと思うと、ガイは何もない場所で着地する。

 

「何!?」

 

 慌てて辺りを見回すが、ナグスたちの姿がどこにも見当たらなかった。

 

「しまった、空間歪曲か……! 早いとこ出口を見つけねぇとッ!」

 

 春香たちが危ない。ガイは即座に踵を返して、霧の立ち込める森の中を駆け出した。

 

 

 

「逃げろー!」

「早く早くっ!」

 

 全速力で走って、森からの脱出を図る春香たち。だがしかし、

 

『ハハハハハハ……!』

 

 その行く手にナグスたちが待ち構えていた。

 

「ええっ!? 何でこっちにいるの!?」

「そっくりさん!?」

「反転! 反てーんっ!」

 

 大慌てで来た道を引き返していく六人。が、その先にもナグスたちが回り込んでいた。

 

『ハハハハハハ……!』

「いつの間にー!?」

 

 すぐに方向転換して逃げ続ける春香たちの後ろ姿に、ナグスはせせら笑いを向けた。

 

『馬鹿が。逃げれば逃げるほどテメェらはドツボにはまるのさ』

 

 それからも森の中を必死に逃げ回るものの、行く先々にナグスたちが先回りしている。渋川と春香が絶叫する。

 

「どうなってんだよ!? 逃げても逃げても待ち伏せされてるぞオイ!?」

「それにどうしてどこまで行っても森から出られないのぉ!? 小さな森のはずなのに!」

「空間が歪められてるんだわ! そうか、入った人が二度と帰ってこなかったってこういうこと……!」

 

 律子が発したその時、春香が何かにつまずいてしまった。

 

「きゃあぁっ!?」

 

 どんがらがっしゃーん!

 

「は、春香ちゃん!」

「春香、大丈夫!?」

「いたた……何これ?」

 

 自分の足が引っ掛かったものを見つめる春香。それは地面から突き出た石板だった。表面に刻まれている文字を見た律子が驚く。

 

「これって石碑じゃない!? 玉響比売命……すごい! 大発見よ! やっぱりこの森には古墳が眠ってたのよ!」

「そ、それより……雪歩と亜美と真美は、どこ行っちゃったの?」

 

 春香が辺りを見回して気がついた。名前を挙げた三人の姿がなくなっている!

 

「さっきまでいたよな!?」

「まずいわ! 逃げ回ってる内に空間の歪みで離ればなれにされちゃったんじゃ……!」

 

 泡を食う律子たちだが、そんな彼女たちをナグスたちが追いかけてきた。

 

『ハハハハハハ……!』

「あぁーっ! こっち来たぁーっ!」

「とにかく今は逃げましょう!」

 

 捕まったら命がない。三人はとにかく必死で逃げ続けた。

 

 

 

 律子の読み通り、亜美と真美、雪歩は空間歪曲に巻き込まれ、森の別の場所に飛ばされてしまっていた。

 

「ま、まずいよぉー……みんなとはぐれちゃったよぉ……」

「ふぇ~ん……兄ちゃん、助けてぇ~……」

 

 流石に心細く、二人は怯えながら森の中をあてもなく彷徨う。

 しかしそんな中で、視界の端に仄かな光が差し込んでくるのに気がついた。

 

「あれ……? 何だろ、あの光……?」

「宇宙人じゃないよね……?」

 

 二人がその方向に顔を向けると……光は、ポツンと立っている小さな祠から発せられているものだと気づいた。

 

 

 

 雪歩はまた別の場所で、独りきりで森を彷徨っていた。

 

「み、みんな、どこ行っちゃったの……? 誰か、助けて……」

 

 命を狙われる恐怖に苛まれ、雪歩は己の身体をギュッと抱きしめた――。

 



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First Fight!!(B)

 

 空間の歪みによって春香たちからはぐれてしまい、単独になってしまった雪歩はビクビクと身体を震わせながら、恐怖でしきりに周囲に目を走らせる。

 

「い、いや……春香ちゃん、律子さん、亜美ちゃん、真美ちゃん……どこ行っちゃったの……? 一人にしないでよぉ……」

 

 周囲に誰の姿もなく、か細い声でおののく雪歩。そこに森の奥から、草木が荒々しくかき分けられる音が響いてきた。

 

『ハッハッハッ! 獲物はどこかなぁ~? どこまで逃げても無駄だぜぇ~!』

「ひっ……!」

 

 ナグスの声だ。銃を片手に、自分を殺そうとしている者が近づいてきているという事実に、雪歩は恐怖と絶望のどん底に陥った。

 

「も、もうやだ……。私、ここで死んじゃうんだ……!」

 

 ネガティブ思考になり、頭を抱えてうずくまる。固くつむった目から、ポロポロと涙の雫がこぼれた。

 

「誰も助けてくれる人はいない……。もう駄目なんだ……おしまいなんだぁ……」

 

 どうして自分がこんな目に遭うのか……。やはり、こんな自分がアイドルになろうとしたこと自体が間違いだったのか……。みんなに、迷惑かけてばっかりだし……と、雪歩の脳裏に後ろ向きの考えが湧いて出てくる。

 

「こんなことになるんだったら……765プロに来るんじゃ……」

 

 オーブのことを聞かされた時に、辞退していたら……と思った時に、ある台詞が脳内によみがえった。

 

 

『わ、私も怖いけれど、誰かの命を守るためだったら、頑張りますぅ!』

 

 

「!!」

 

 他ならぬ、自分が口にした言葉だ。あの時、確かにそう宣言した。

 周りが次々と意志を表明していた、その流れに押されて言った部分もある。だがしかし、これは紛れもない本心から出た言葉であった。そして、誰かのためだけでなく、自分自身のためを思っての言葉でもあった。

 自分は臆病で、何事にも一歩を踏み出せない、駄目な女の子。それをどうしても変えたいという想いが、765プロに来た一番の理由だ。――今変わらなくて、どうするというのだ。

 

「……!」

 

 思い直した雪歩はまだ震えが止まらないながらも毅然と立ち上がり、愛用のスコップを握り締めた。

 宇宙人たちは、自分だけではない、春香たちの命も奪おうと狙っている。自分が助けてもらうのではない。自分が、春香たちを守るために立ち向かう。その意気で立ち上がらなければ、自分は一生変わることは出来ないだろう――。

 その想いを胸に、雪歩は己を奮い立たせるために言い放った。

 

「く、来るなら来いっ! 私がやっつけてやるんだから!!」

 

 そして勢いのままにスコップを足元の地面に突き刺した、その時!

 雪歩を中心にして、地面に光の線が走って円を作った!

 

「えっ!? な、何!?」

 

 突然の事態に面食らった雪歩が――光の円の内側の地面がすっぽりと抜け落ちたことにより、彼女もまた奈落の底に向かって転落した。

 

「きゃあああぁぁぁぁぁぁ――――――――――――っ!!?」

 

 雪歩が穴の中に落下していった直後に、ナグスたちが草をかき分けてこの場に現れた。

 

『ここかぁ!? ……あん?』

 

 その時には、穴は何事もなかったかのようにふさがって、地面は元通りになっていた。

 

『変だな……。確かに獲物の気配を感じたんだがな』

 

 訝しんだナグスだが、気のせいだと思い直してすぐに別の者たちを追いかけて離れていった。

 

 

 

 どこまでも続いていて底が見えない垂直の穴を、雪歩は真っ逆さまに転落していく。

 

「どこに向かってるのぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――!?」

 

 穴はやがて光のトンネルに変わり――それを抜けた先は、気絶中に見た夢の光景そのままの世界だった。

 その世界の中心に、夢で見たのと同じウルトラマンがいて雪歩を見下ろしている。

 

「ウルトラマンさん!」

 

 夢のウルトラマンの姿を目にした雪歩は、咄嗟に叫んだ。

 

「私の友達が危ないんです! どうか私に、悪い宇宙人たちと戦えるような力と……勇気を下さい!」

 

 思いが赴くままに懇願する。

 

「私は、あなたが欲しい!!」

 

 と雪歩が叫ぶと、ウルトラマンはおもむろに彼女に両手をかざした。

 

「私に、力を貸してくれるんですか……?」

 

 雪歩も同じように両手を伸ばすと……ウルトラマンの姿が光に包まれ、一枚のカードの形にまで縮小されて、雪歩の手の中に収まった。

 自分が手にしたカードを見つめた雪歩の視界が、赤と青の輝きで覆われていく――。

 

 

 

 亜美と真美は、仄かな光を放つ木製の祠に恐る恐る近づいていく。祠は不思議なことに、人が立ち入らないような場所にも関わらず朽ちた様子がない。

 

「何だろう、これ……? 光ってるよ……?」

「そう言えば、社長が言ってたよね。二人の英雄を祀った祠が、森のどこかにあるって……」

 

 真美のひと言に、二人は顔を見合わせた。そして亜美が提案する。

 

「……開けてみよっか!」

「えぇ!? 大丈夫かな……。危ないかもしんないよ?」

「なるようになるってぇ!」

 

 危惧する真美を押して、亜美は観音開きの戸に手を掛け、紐の結びを解いて開いた。

 祠の中に祀られてあったのは……二枚のカードだった。

 

「えっ、カード……?」

「しかも……兄ちゃんが使ってるのと同じタイプみたいだよ!?」

 

 絵柄は、それぞれ水色のクリスタルとV字の黄色いクリスタルを身体の各部に備えた……紛れもないウルトラマンのものであった。亜美が水色のクリスタルの、真美が黄色のクリスタルのウルトラマンのカードを手に取る。

 

「そっか……! 二人の英雄って、ウルトラマンのことだったんだ……!」

「亜美……!」

 

 真美が顔を向けると、亜美は重々しくうなずいた。

 

「うん! これ、兄ちゃんに届けよう!」

 

 と言うと、二枚のカードからほんのりと光が発せられ、それが一方向に向けられた。

 

「亜美たちを導いてくれてるみたい!」

「よーし! あっち行ってみよー!」

「おー!」

 

 亜美と真美はカードの導きのままに、木々の間を抜けて駆けていった。

 

 

 

「きゃああぁぁ―――――!」

 

 春香、律子、渋川の三人は延々とナグスたちから逃げ続けていたが、やがて前方から足元に弾丸を撃ち込まれる。

 

「きゃああっ!?」

『そろそろ終わりにしようかぁ?』

 

 いよいよ追いつめられた三人。だがその時に横を見やった春香が声を上げた。

 

「あの人っ!」

 

 春香の視線の先では、先ほどの白い着物の女性が手招きをしていた。その姿はスゥッと消える。

 

「こっちおいでって……。行ってみよう!」

「あっ、ちょっ、春香ぁ!?」

 

 春香が迷わずその方向に走っていくので、律子と渋川もそれを追いかけていった。

 そうして三人は、森に入った場所に脱け出た。

 

「やった! 出られたぁぁぁ~!」

「もう大丈夫だわ!」

「おーい! はるるーん! 律っちゃーん!」

 

 別の場所からは亜美と真美が森から出てきて、春香たちの元に駆け寄ってきた。

 

「亜美、真美! 二人とも無事だったのね!」

「うん! でも雪ぴょんは?」

「雪歩は……」

「おい! 来たぞ!」

 

 悠長に話している暇はなかった。後ろを見た渋川が、ナグスたちも森から出てくるのを目撃したのだ。

 

『どうやって幻惑装置を振り切った? まぁいい。行け』

 

 ナグスの命令で、黒服二人が春香たちを挟撃する!

 

「わぁぁぁ―――――! 来たぁぁぁぁぁぁっ!」

「下がれ下がれ下がれ下がれッ!」

 

 五人はあっという間に黒服と、ナグスに囲まれて逃げ場を失った。

 

『お前らはもう袋のネズミだ!』

 

 銃を突きつけてくるナグスに、渋川は急に笑い出した。

 

「タッハッハッハッハッ……! ワッハッハッハッハッハッ! この私の柔道五段、空手三段の腕を見せてほしいようだな。行くぞ、手加減しないぞ! ハァー……!!」

 

 長く息を吐いて精神を統一した渋川が、一気呵成にナグスへ飛びかかっていく!

 

「うぉッ!」

 

 だがパンチはあっさりといなされ、ヘッドバッドの三連撃を食らった。

 

『おらッ! おらッ! おらッ!!』

「ぎゃあッ!!」

 

 渋川は返り討ちにされて春香たちの元に戻ってくる。

 

「叔父さぁんっ!」

「渋川のおっちゃん全然ダメじゃん!」

「強い! 強いよあいつ!」

 

 このまま五人ともナグスの手にかかってしまうのか?

 ――そこに、春香たちにとって聞き慣れたハーモニカの音色が鳴り響いてきた。

 

「こ、この音色は……!」

 

 喜色満面となる春香たちと対照的に、ナグスたちは苦悶の表情とともに頭を抱えた。

 

『何だこの曲は!? 頭が痺れる……! どこだ!? ……あそこだッ!』

 

 ナグスが指した先の建物の屋上に、ガイの姿があった!

 

「プロデューサーさぁぁぁーんっ!」

「わーい! 兄ちゃんだぁー!」

「助かったぁぁーっ!」

「お前ら、待たせちまったな」

 

 大喜びの春香たちに、ハーモニカを仕舞ったガイが、片手を挙げて応じた。

 

『テメェまで森から脱け出てやがったか、舐めた真似を……!』

 

 ナグスは激昂してガイに銃口を向けたが、それを制してガイが飛び蹴りを仕掛けてナグスを蹴り飛ばした。

 

『うおぉッ!?』

「やったぁー! いいぞ兄ちゃーん!」

 

 亜美たちの応援を背に、ガイが勇猛果敢にナグスたちと戦い始める。

 

『くッ!』

 

 ナグスは銃撃を浴びせるがガイは素手で光弾を弾き、距離を詰めて強烈なアッパーカットをぶち込んだ。ナグスは吹っ飛ばされて地面の上を転がる。

 

『ぐあああッ!』

 

 部下の黒服二名が左右からガイに襲いかかるも、ガイは数の差を物ともせずに黒服にパンチを入れて瞬く間に叩きのめした。

 

『ちくしょうがッ!』

 

 起き上がったナグスが飛びかかっていくも、銃ははたかれて照準をそらされ、肉弾攻撃の猛打を入れられて返り討ちにされる。

 

『ぐはぁッ!!』

 

 先ほどまでとは逆に、ナグスの方が追いつめられる立場に置かれていた。

 

 

 

 ナグスの苦戦により、ジャグラスジャグラーが独断で行動して森の中に現れた。握り締めたダークリングに、昆虫型の怪獣のカードを通す。

 

[アリブンタ!]

 

 カードが暗黒のエネルギーとなって地面に照射される。

 更にジャグラーはもう一枚、ウサギ型の怪獣のカードを通した。

 

[ルナチクス!]

 

 二枚目のカードも暗黒のエネルギーとなって、先のエネルギーと地中で混ざり合う。

 

「合体超獣、アリチクス!!」

 

 暗黒のエネルギーが実体化していき、森の真ん中から大怪獣が出現した!

 

「キィ―――キキキッ! ゴオオオオォォォォ!」

 

 昆虫型の怪獣――いや、超獣をベースに、ウサギ型の超獣の白い毛皮と長い耳を生やしたその姿。

 大蟻超獣アリブンタと満月超獣ルナチクスをダークリングの力で融合させた、地底合体超獣アリチクス!

 

「ッ!」

 

 ナグスを叩き伏せていたガイは、手を止めて出現したアリチクスを見上げた。

 

『覚えてろ……!』

 

 その間にナグスたちは素早く退散していった。

 

「お前たち逃げろ! 逃げろッ!」

 

 渋川は春香と律子をアリチクスから避難させていくが、亜美と真美はガイの方へと走っていった。

 

「あッ! お前たち!」

「叔父さん危ない! 怪獣がこっちに来る! うわぁぁぁっ!」

「キィ―――キキキッ!」

 

 アリチクスはうさぎ跳びで春香たちの方へ接近してきながら、口から霧状の蟻酸を噴出してきた。

 

「きゃあぁっ!」

 

 春香たちは必死に走って、危ないところで蟻酸をかわした。彼女たちの背後の工場施設が代わりに蟻酸を浴び、瞬く間にドロドロに溶けて消滅した。

 春香たちが危険な中、亜美と真美がガイに駆け寄ると先ほど手に入れたカードを差し出した。

 

「兄ちゃんこれ! 森の中で見つけたの!」

「これは……ギンガさんとビクトリーさんのカード!」

 

 更にそこに、雪歩もガイの元へと駆けつけてきた。

 

「プロデューサー!」

「雪歩! 無事だったか!」

「これを……!」

 

 雪歩もまた、赤と銀に黒い胸部プロテクターを持ったウルトラマンのカードを差し出した。

 

「ウルトラマンガイアさんのカード! 雪歩、お前も見つけてきたのか……!」

 

 差し出された三枚のカードの内、ガイアとビクトリーのカードが共鳴して光っていた。それを見たガイがうなずく。

 

「雪歩、真美! 変身して戦うぞ!」

「は、はいっ!」「うんっ!」

 

 指名された二人は即座に応じ、それぞれカードを構えた。

 

「真美、雪ぴょん! ファイトぉー!」

 

 亜美の応援を受けながら、まずは雪歩がガイアのカードをガイのオーブリングに通す。

 

「ガイアさんっ!」

 

 雪歩の横に、ガイアのビジョンが出現。

 

[ウルトラマンガイア!]『デュワッ!』

 

 続いて真美がビクトリーのカードをリングに通した。

 

「ビクトリー兄ちゃんっ!」

 

 ガイアと同じように、真美の隣にビクトリーのビジョンが現れた。

 

[ウルトラマンビクトリー!]『テヤッ!』

 

 そしてガイがリングを掲げ、トリガーを引く。

 

「大地の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイアとビクトリーは雪歩、真美を巻き込んでガイと融合!

 

『ジュワァッ!』『オリャアッ!』

[ウルトラマンオーブ! フォトンビクトリウム!!]

 

 赤い輝きの中でV字にクリスタルの壁を砕き、巨大な拳を振り上げてオーブが飛び出していく!

 春香たちを狙うアリチクスの前に立ったオーブは、上半身が岩石のようにゴツゴツと発達した姿となっていた。頭頂部にはV字のクリスタルが黄色く輝き、胸部に黒いラインが走る。

 これぞガイアとビクトリーの大地の力を持ったウルトラマンたちの力を借り受けることで誕生した、フォトンビクトリウム!

 

『俺たちはオーブ! 闇を砕いて、光を照らす!!』

 

 オーブのお陰で危機を脱した律子たちは、カメラでその勇姿を収める。

 

「オーブ! また新しい姿ね! すごくゴツいわ!」

「お、おい! あれ見ろ!」

 

 渋川が指差した先の森の中から、写真に写っていた円盤が浮上した。

 

「UFO!? 本物だわぁっ! 大スクープ!!」

「律子さんあれっ! さっきの女の人が!!」

 

 春香が指差した先では、白い着物の女性の霊がオーブを見上げていた。

 

「幽霊まで!? もぉーどれ映したらいいのよぉ!」

 

 律子がてんてこ舞いになっている間に、オーブはアリチクスとの戦闘を開始する。

 

(♪ガイアの戦い)

 

『行くぞ雪歩! 真美!』

『「はぁいっ!」』

『「ラジャー!」』

 

 うさぎ跳びで迫ってくるアリチクスに、オーブが肥大化した豪腕を振り下ろした。重量のある拳の打撃は合体超獣といえども受け切れずに押し飛ばす。

 

「キィ―――キキキッ! ゴオオオオォォォォ!」

 

 アリチクスが鉤爪状の腕で殴り返してくるが、オーブは頑強なボディで難なく受け止めた。そして両腕で相手の身体を鷲掴みして、巨体を軽々と持ち上げた。

 

「シェアァッ! オォォリャアッ!」

 

 そのまま地面に向けて叩きつけた! だが一回だけに留まらず、何度もアリチクスを捕らえては投げ飛ばす。執拗に相手を投げつける様はまるで投げの鬼だ。

 

「キィ―――キキキッ!」

 

 一方的に叩き伏せられていたアリチクスだが、そうそう簡単には参らない。口から蟻酸を噴射してオーブに浴びせる。

 

「ウッ!」

 

 アリチクスの蟻酸は強力な溶解液だ。フォトンビクトリウムのボディでも耐え切れずにダメージを負う。

 

「ゴオオオオォォォォ!」

 

 見計らったアリチクスは火炎攻撃に切り替える。このまま攻撃を食らい続けるのはまずい、とオーブは横に転がり込んで回避した。

 

「キィ―――キキキッ! ゴオオオオォォォォ!」

 

 だがアリチクスの攻撃の手は止まらない。今度は複眼が点滅したかと思うと、眼窩から射出された!

 撃ち出された眼球は着弾すると炸裂し、オーブに爆撃を食らわせる。

 

「ウワァッ!」

 

 眼球は撃たれる端から充填され、連射されてオーブを苦しめる。

 

『「うあうあー! 目ん玉飛び出してるよー!?」』

 

 真美もオーブと連動して苦しむが、雪歩は夢で見たウルトラマンの攻撃の光景を思い返した。

 

『「真美ちゃん! 合わせて!」』

『「よし来たっ!」』

 

 オーブは眼球攻撃の合間に頭部を抱え込む。すると後頭部から長い光のムチが生じた。

 

「「『フォトリウムエッジ!!!」」』

 

 飛ばされた光の刃が、眼球ミサイルを空中で爆砕しながらアリチクスに命中!

 

「キィ―――キキキッ! ゴオオオオォォォォ!」

 

 大ダメージを受けてよろめくアリチクス。オーブの形勢逆転だ。

 

『「まだまだ行っくよー!」』

 

 真美の宣言通り、オーブの攻勢はどんどん続く。

 

(♪ウルトラマンビクトリーのテーマ)

 

 今度は片足に黄色いエネルギーを纏わせ、キックの要領で脚を振るう。

 

「「『フォトリウムスラッシュ!!!」」』

 

 脚から飛ばされる光の刃がアリチクスを撃つ。

 

「キィ―――キキキッ!」

「シェアッ! ダァッ!」

 

 光刃が連続して撃ち込まれ、アリチクスを更にひるませた。

 そして隙を見てジャンプ。空中からのハンマーナックルを叩き込む!

 

「オリャアァァッ!」

「ゴオオオオォォォォ!」

 

 アリチクスは弾かれたように吹っ飛び、ゴロゴロと転がる。それでもまだ攻撃を耐え、起き上がろうとする。

 しかしここにおいて、オーブもいよいよとどめの一撃を繰り出そうとしていた。

 

『決めるぞ雪歩! 真美!』

『「はいっ!」「オッケー!」』

 

 オーブは右腕にエネルギーを集中。輝く巨大な拳を地面に着けると、それを引きずりながら前に駆け出しアリチクスに肉薄していく。

 走りながらエネルギーが更に高まり、頂点に達すとまばゆい閃光を発した!

 

「「『フォトリウムナックル!!!」」』

 

 そして最大威力の拳打を、アリチクスに打ち込んだ!

 

「キィ―――キキキッ!! ゴオオオオォォォォ!!」

 

 アリチクスはくの字に折れ曲がって、遂に爆散。オーブの勝利であった!

 

「やったぁぁぁ――――――っ!!」

 

 大喜びの亜美、春香たち。しかしオーブが戦っている間に、円盤はいつの間にか姿を消していた。退散したようだ。

 

「シェアッ!」

 

 とりあえずは敵がいなくなったことにより、オーブは空に飛び立って去っていった。

 

 

 

 『入らずの森』からの帰還後、事務所で高木がアイドルたちに、渋川からの連絡の内容を告げた。

 

「どうやらあの森の再開発計画は中止になるみたいだ。新しい古墳が発見されたからね」

「そーなんだ! よかったぁ~」

「自然がなくなっちゃうのって、寂しいからねー」

 

 亜美と真美が胸を撫で下ろしていると、律子もまたこう言った。

 

「色んな発見があったけれど、あの森はそっとしておいてあげましょう。玉響比売命には危ないところを助けてもらった恩があるしね」

「ところで、そのお姫さまとウルトラマンの兄ちゃんたちって、何か関係があるのかな? 亜美たち、あそこでカード見っけたよ」

 

 亜美の質問に、律子は腕を組んだ。

 

「今のところは分からないわね。玉響比売命って後世に名前しか伝わってない、伝説の姫だもの。そういうことも、古墳を調べてみたら何か分かるかもしれないけど」

「ロマンのある話だねぇ。若い頃を思い出すよ」

 

 玉響姫や古墳の話を聞いて、高木が昔を懐かしんだ。

 その一方で雪歩が、冷や汗まみれになりながらもいぬ美に手を伸ばしていた。

 

「よ……よしよし……!」

 

 そして意を決して、雪歩の手がいぬ美の毛皮に触れて短い時間でも撫でることに成功した。この結果に春香たちは喜ぶ。

 

「やったぁっ! 雪歩が犬に触ったよぉ!」

「よかったね、いぬ美。これで765プロのみんなとお友達だぞ!」

「バウっ!」

「これでひとまずは安心ってとこかしらね。どうにかステージまでに間に合ってほっとしたわ」

 

 雪歩は戦いの後、怖がりの性分が幾分か解消された。いぬ美に改めて自分から触りに行ったのも、犬恐怖症を克服するためだ。他のアイドルたちは雪歩の成長に、喜んだり息を吐いたりしている。

 ガイは満足そうに雪歩に呼びかけた。

 

「よく頑張ったな、雪歩。偉いぞ」

「プロデューサー……ありがとうございます」

 

 男嫌いも幾分か改善され、特にガイに対しては普通に接することが出来るまでになった。雪歩は柔らかな微笑を浮かべながら、ガイに告げる。

 

「これもガイアさんが、私に勇気をくれたからです」

「いや、勇気ってのは自分の心から生じてくるもんだ。ガイアさんは、その後押しをしただけ。お前が変われたのは、紛れもないお前自身の力によるものだよ。大したもんだ」

「そ、そうでしょうか? えへへ……」

 

 ガイに褒められてはにかんだ雪歩は、彼に向かって約束する。

 

「でも私はまだ、私にとっての最初の戦いを始めたばかりです。でもいつかきっと、誰もが振り返るような素敵な人になります……!」

「そうか……じゃあ、一緒に頑張ろうな! まずは明日のステージの成功からだ!」

「はいっ!」

 

 すっかりと元気になった雪歩は、力強くうなずいて応じたのだった。

 

 

 

 ――惑星侵略連合の円盤内。ジャグラーの前でナグスとタルデ、その二人に挟まれた上座の席に銀のマントを羽織った黒い身体の怪人が、おもむろに腰を下ろした。

 

『我が身内のために、貴重な超獣カードを使ってくれて、悪かったな』

 

 この怪人こそが、惑星侵略連合の首領。メフィラス星人ノストラである。

 ナグスはノストラに報告する。

 

『ウルトラマンオーブ……聞きしに勝る力です』

「だが奴は決して無敵ではありません」

 

 それにつけ加えるようにジャグラーが進言した。

 

「本来の力を失ったオーブは、ウルトラマンの力を宿したカード二枚と地球人の手を借りて変身しています。つまるところ、奴より強力な手札を持てばいいのです」

 

 断言したジャグラーは立ち上がり、ノストラたちに告げた。

 

「では皆さん、今宵はこれにて、失礼……」

 

 ニヒルに笑いながら、ノストラたちの面前より立ち去っていくジャグラー。……その姿が完全になくなってから、タルデがノストラに問うた。

 

『偉大なるドン・ノストラ……あのような者を仲間に加えてよろしいのですか? 奴は元々、光の勢力に身を置いていたと聞きます。我々の寝首をかくつもりかもしれません……』

 

 忠告するタルデだが、ノストラは冷静に告げた。

 

『最後に笑うのは……切り札を持つ者だ』

 

 マントを翻して出した手に握られているのは……漆黒のウルトラマンのカードであった。

 

『この宇宙には、光と闇のカードが眠っている。ジャグラーは強力な魔王獣カードを六枚持っている……奴からそれを頂戴する……!』

 

 

 

 丑三つ時の暗黒の空を飛び去っていく円盤を見上げたジャグラーが、独りつぶやいた。

 

「さぁて……最後に笑うのは誰かな……?」

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

雪歩「は、萩原雪歩ですぅ。今回ご紹介するのは、地球が生んだウルトラ戦士、ウルトラマンガイアさんですっ!」

雪歩「ガイアさんは1998年放送の『ウルトラマンガイア』の主人公です。この作品は、二十世紀末でノストラダムスの大予言などの人類終末論が流行してた当時の世相を反映して、地球を滅ぼそうとする根源的破滅招来体にガイアさんたち人間が立ち向かうという構図を最初から最後まで通して描いてました。シリーズではほぼ初めて、連作風味のシナリオでした」

雪歩「また科学考証をふんだんに作品に取り入れたことで作中に専門的用語が飛び交ったり、中盤までライバルの立ち位置となるもう一人のウルトラマンが登場したり、先述の通り宇宙ではなく正真正銘地球がウルトラマンを生み出したりと、それまでのシリーズになかった要素や概念が導入されました。これらは今もガイアさん独自の個性となってますね」

雪歩「動物愛護の思想を取り入れたことで、怪獣がただ倒されるだけの敵役から脱却するようになってます。この概念は次作の『ウルトラマンコスモス』で完成されることになります」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『First Stage』だ!」

ガイ「アイドルマスターにおいて初の雪歩のソロ曲で、自分に自信を持てない女の子が勇気を出して変わっていくという内容の歌詞となってるな。まさしく雪歩そのものの歌詞だ」

ガイ「ちなみにこの歌が意識された『First Step』という曲もあるぞ。こいつは『アイドルマスター2』の雪歩ルートで確認してほしい!」

雪歩「いわゆる挿入歌で、ステージでプレイできる曲ではないのでご注意下さい」

雪歩「次回もどうぞよろしくお願いしますね」

 




 三浦あずさです。東京に出没した円盤を追う私たち765プロに、男女二人の記者さんが取材に来てくれました。……けれど、その記者さんたちの会社は実在してなかったんです! どういうことかしら……?
 次回、『ETERNAL POWER RAINBOW』。あなたたちは、誰ですか……?


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ETERNAL POWER RAINBOW(A)

 
※今回は拙作『光輝巨人リリカルなのはX』を読まれていないと話が理解できない部分が多くあります。どうぞご了承下さい。



 

「マガバッサーを封印してたのは、ウルトラマンメビウスさんの力でしたか」

「やはり封印してたのはウルトラマンタロウさんの力でしたか!」

「こいつはウルトラマンジャックさんの力でしたか」

「マガパンドンを封印してたのは、ウルトラマンゼロさんの力でしたか」

「ウルトラマンさん!」

「私は、あなたが欲しい!!」

「二人の英雄って、ウルトラマンのことだったんだ……!」

「七人以外の巨人がその力を用いて、世界のバランスを安定させたとあるの」

「ウルトラマンのカードって、他にもあるのかな?」

 

 

 

『ETERNAL POWER RAINBOW』

 

 

 

 ――第6無人世界の宇宙空間を、一隻の円盤が最高速度を出してジグザグに飛び回っている。それを追いかけているのは、ワタルとウェンディが駆るスペースマスケッティ。

 

「待て待てぇッ! 待ちやがれぇーッ!」

「逃げたところで罪が重くなるだけっスよーっ!」

 

 マスケッティから発射されるレーザーを、円盤がスレスレでかわし続ける。そのコックピット内の異星人二人が冷や汗まみれになっていた。

 

『このままでは追いつかれるぞ!』

『こんなところで捕まったら、脱獄の苦労が水の泡だ!』

 

 ザラブ星人とマグマ星人。彼らは以前Xioに敗れて逮捕され、キリーク軌道拘置所に収監されていた。だがある『目的』のために、脱獄を果たしたのだ。しかし円盤での逃亡中にXioに発見され、今のように逃亡劇を繰り広げている。

 精神的に追いつめられているザラブ星人とマグマ星人に、もう一人の脱獄者、スラン星人が申し出た。

 

『私が奴らを足止めしてきましょう』

 

 思わず振り向くマグマ星人。

 

『本気か!? だが、宇宙の歪みが開くのはほんの一瞬だ。確実に置いていくことになるぞ!』

『構いません。私自身の目的は、Xioと『あの者たち』への復讐! それが出来ればいいのです』

 

 スラン星人の申し出に、ザラブ星人とマグマ星人は頭を下げて感謝の意を表した。

 

『ありがたい……! せめて、健闘を祈る!』

『そちらこそ、『アレ』が完成することを祈ってますよ』

 

 スラン星人はそう言い残して円盤の外に飛び出し、巨大化してマスケッティに襲いかかった!

 

「グウオオオオオ!」

「うわぁッ!?」

 

 慌ててハンドルを切ったワタルだが、スラン星人の腕の刃がマスケッティの機体をかすめて損傷をもらってしまった。

 

「エマージェンシー! エンジントラブル!」

「ど、どうにか持ちこたえてっス!」

 

 機体のバランスが崩れるが、ウェンディの射撃するレーザーによりスラン星人を牽制してマスケッティから遠ざけた。

 ワタルたちがスラン星人に止められている間に、円盤は宇宙空間の特定の座標にたどり着いた。

 

『ここだ! 歪みを開くぞ!』

 

 マグマ星人の操作によって、円盤から怪電波が発射された。それに刺激されて、宇宙空間の一部が歪んでワームホールが開く。

 

『今だッ!』

 

 円盤はすかさずワームホールに飛び込み、第6無人世界から逃亡した。円盤を呑み込んだ空間の歪みはすぐに閉じて消滅する。

 

「しまった! 円盤に逃げられちまったぜ!」

「そ、それよりこっちがピンチっスよー!」

 

 エンジントラブルの起きたマスケッティでは、スラン星人のスピードに対応することは出来ない。レーザーの牽制も限界があり、スラン星人の放とうとしている光球に狙いをつけられる。

 

「ま、まずいッ!」

「うわあぁぁぁぁ―――――――!」

 

 よけ切れない。絶体絶命のマスケッティ!

 だがその時、スラン星人に誰かが飛びついたことで光弾がそれていった。

 

「セェアッ!」

 

 スペースマスケッティを救ったのは、ウルトラマンエックス!

 

「エックスッ!」

「ダイチー! 助かったっスー!」

 

 エックスはスラン星人を捕らえたまま、第6無人世界の衛星の地表に飛び込んでいき、もつれ合いながら落下した。

 

「フゥゥッ! ヘアッ!」

 

 衛星の地面の上を転がったエックスが起き上がる。エックスから逃れたスラン星人も同時に立ち上がった。

 

『現れましたね、ウルトラマンエックス! あの時の恨みを晴らしてくれましょう!』

 

 エックスに憎悪の念をぶつけるスラン星人だが、エックスはひるまずに己の内のダイチに呼びかけた。

 

『行くぞダイチ!』

『「ああ!」』

 

 ダイチが手を前に伸ばすと、その中にエクシードXのスパークドールズが出現。大地はそれをエクスデバイザーに押し当て、エクスディッシュに変化させた。

 

[ウルトラマンエックス、パワーアップ!]

 

 エクスディッシュのスライドパネルを一回スライドしてトリガーを引き、X字に振るった。

 

「『エクシード、エーックスッ!!」』

 

 虹色の光の軌道に包まれたエックスの身体が、エクシードXのものに変化! 更に頭部のエクスディッシュを右手に移し、パネルを一回なぞってスイッチを叩くことでアサルトフォームに変形させた。

 

「『エクスディッシュ・アサルト!」』

 

(♪新しい目覚め)

 

「ヘアァッ!」

「グウオオオオオ!」

 

 互いに走り寄るエックスとスラン星人。スラン星人が両腕の刃を突き出してくるが、エックスはエクスディッシュでそれらをはたき落とす。

 

「テェヤッ!」

 

 そしてがら空きになったスラン星人を蹴り上げ、のけ反ったところにエクスディッシュの横殴りを入れた。スラン星人は大きく倒れ込む。

 

『ぐッ、おのれぇぇッ!』

 

 スラン星人がますます怒り狂って光弾を連射してきたが、エックスはその全てを切り払いながら前進し、スラン星人本体に滅多切りを食らわせた。

 

『ぐはあぁぁぁッ!』

「セェアッ!」

 

 スラン星人はエクシードXのパワーと技にまるで追いつけず、一方的に押されていた。だがここでスラン星人の得意技が発動。

 

「グウオオオオオ!」

 

 高速宇宙人の異名の由来たる、目にも留まらぬほどの超スピードでエックスの周囲を旋回し幻惑を図る。常人の目からだと、スラン星人が分身したようにしか見えないほどだ。

 だが、それでもエックスたちは動揺しない。ダイチがパネルを三回スライドしてトリガーを引くことで、エクスディッシュの刃に虹色のエネルギーが集中した。

 

「『エクシードセイバー!!」』

 

 エクスディッシュの周囲に発生した三日月型の光刃が飛ばされ、走り回るスラン星人の残影を切り裂く!

 

『うぐわぁぁッ!?』

 

 エクシードセイバーはスラン星人本体も捉え、ダメージを食らったスラン星人が停止した。

 ダイチはすかさずそこを狙って、パネルを三回スライド後に今度はスイッチを叩いて刃を伸ばし、石突で地面を突いた。

 

「『エクシード! エクスラッシュッ!!」』

 

 エクスディッシュから溢れ出た虹色の光のロードがスラン星人を覆い込み、エックスがロードの中を飛ぶ!

 

「セェアッ!」

 

 すれ違いざまに一撃、引き返して二撃目を叩き込むことで、スラン星人のパワーを切り裂いた!

 

『ぐうわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――ッ!!』

 

 スラン星人はみるみる内に力を失って縮小していき、等身大のサイズでばったりと倒れた。

 スラン星人を見事討ち取ったエックスは、元の姿に戻って真上に飛び上がった。

 

「シュワッチ!」

 

 

 

 スラン星人は再逮捕したが、他の二人には逃げ切られてしまった。マスケッティはミッドチルダのオペレーションベースXに帰投し、逃亡先の世界の追跡が行われた。

 その結果を、特捜班に対してカミキが告げる。

 

「脱獄犯のザラブ星人とマグマ星人は、次元世界外のレベル3バースへ逃亡したことが判明した」

「別の宇宙にですか!?」

 

 驚きの声を上げるディエチ。それにクロノが首肯を返した。

 

「脱獄犯たちの宇宙船が突入したワームホールはグア軍団が使用していた、マルチバースを貫く宇宙の歪みだ。エックスたちが閉ざしたものだが、わずかに残っていた綻びを一時的に広げたんだ」

「マグマ星人の方は確か、元グア軍団でしたね。その時の知識によるものか……」

 

 チンクが顎に指を掛けて推測した。それから、シャーリーとマリエルが皆に報告する。

 

「その脱獄犯ですが、円盤の解析の結果、スパークドールズの反応が三つもあることが分かりました!」

「しかもその内の一つは正体不明、ひと際強い反応です。生命体としては妙な反応だったのも気に掛かりますが……」

 

 マリエルの言葉の後を継いで、グルマンが述べる。

 

「グア軍団は、昔はその名を知らぬ者はいないと言われたほどの闇の軍勢だ。壊滅したと言っても、その影響は今回の宇宙の歪みのようにどんな形で現れるか分かったもんじゃない。長いこと脱獄犯を放置するのは得策ではないぞ」

「ですが、別の宇宙となると大分厄介ですね……」

 

 ハヤトのひと言にクロノがうなずいた。

 

「ああ。次元世界内ならともかく、別の宇宙で管理局が大々的に行動するのはまずい。次元航行船を乗りつけるだけでも大きな問題となるだろう。それ以前に、次元船では到着まで何十年掛かるか分かったものではないがな」

 

 そのため、カミキはダイチへ――正確には彼の持つエクスデバイザーへ顔を向けた。

 

「そこで、この件はウルトラマンエックス、あなたにお願いしたい。どうか我々にご協力を頼みます」

『是非もありません、カミキ隊長』

 

 エックスはそのように即答した。

 

『別の宇宙の平和、私が守ってみせましょう!』

「ありがたい。ではダイチ、スバル!」

 

 続けてカミキはダイチとスバルに指令を下した。

 

「お前たちはエックスとともに別宇宙に赴き、助力して逃亡した脱獄犯を確保せよ! あまり時間の猶予はない、すぐに取りかかれ!」

「了解!」

 

 敬礼で応じたダイチとスバルが、早速出発の支度に取りかかった。

 

「よーし、行ってこい!」

「あたしたちがいなくても、頑張るっスよー!」

「別の宇宙の人たちに失礼のないようにな」

「気をつけて」

「キュッ! キュウッ!」

 

 グルマンやウェンディ、クロノ、ファビア、ピグモンらXioの仲間たちに見送られて、ダイチとスバルはXioベースの外に出た。

 

「それじゃあ行こう、スバル! 準備はいい?」

「もちろん! お願いね、ダイチ!」

「ああ! エックス!」

『よぉし、行くぞッ!』

 

 ダイチはエクスデバイザーを使用してエックスに変身し、ウルトラマンゼロのデバイスカードを挿し込んだ。

 

[イージスジャケット、セットアップ]

「イィィィーッ! トワァッ!」

 

 ウルティメイトゼロジャケットを纏ったエックスがスバルを手の平の上に乗せて、時空の壁を超越。ミッドチルダ、次元世界から離れ、別の宇宙へと旅立った――。

 

 

 

 ――東京都大田区、毎度おなじみの765プロ事務所。

 今日の765プロアイドルたちは、険しい表情で一枚の写真を見下ろしていた。響がポツリとつぶやく。

 

「うわー……また雪歩の写真にUFOが写り込んだんだ」

「あうぅ……何で私ばっかり」

 

 写真の中の雪歩の後方の空に、空飛ぶ円盤がはっきりと写っていた。それを観察した亜美が指摘する。

 

「この円盤、この前見たブラジャーみたいな奴とは違う奴だね」

「ブラジャーて……もっと他に言いようがあるでしょ」

 

 肩をすくめる伊織。それはともかく、円盤の形が違うことについて、貴音が推理する。

 

「ということは、この飛行物体は先日の宇宙人とは別の者たち……。穏やかならぬことですが」

「あの、惑星侵略連合だっけ? それと関係があるのかな」

 

 美希が不安げにつぶやくと、律子が皆にも聞こえるように答えた。

 

「現時点では情報が少なすぎて、何とも言えないわね。だからプロデューサーが先行して調査を行ってるわ」

 

 そこまで語ると、話題を別のものに変える。

 

「けど、このUFOにばかり構ってはいられないわ。今日は我らが765プロ事務所に取材が来るのよ! みんな、忘れてないでしょうね」

「もちろんですよ!」

 

 春香が代表して答えた。取材という言葉に、皆大なり小なり期待して浮き足立っている。

 

「確かウチの特集を組んでくれるってことでしたよね。みっともないところを見せないように、気をつけないとですよね!」

「特集だって、千早さん! ミキたちもちょっとは売れてきたってことかな」

「そうね。この調子でどんどん有名になりたいわね」

 

 いつもはクールな千早でさえ、初めての特集の取材にワクワクしていた。

 

「だからプロデューサーには早く戻ってきてほしいんだけど……今どの辺にいるかしら」

「あたし、連絡入れますね」

 

 小鳥がガイに電話を掛け、通話をつないだ。

 

「プロデューサーさん、そろそろ取材の方が来られると時間になりますが、まだ調査は終えられないんですか?」

『すいません。ちょっと間に合いそうにないんで、取材はそっちだけで受けて下さい』

 

 ガイがそう言うので、律子は受話器を小鳥からひったくった。

 

「ちょっとプロデューサー。それどういうことですか? UFOのこともそりゃ大事でしょうけど、事務所のことももっと考えてくれてもいいんじゃないですか?」

『悪い。だが俺の勘が、今度の円盤に対しては胸騒ぎを起こしてるんだ。こういう時は、経験的に出来る限り早いところ解決しないといけない。そういうことだから、じゃあな』

「あっ、ちょっと!」

 

 ガイが一方的に通話を切ってしまったので、律子はため息を吐いて受話器を戻した。

 

「しょうがないわね……。まぁプロデューサーは絶対必要って訳じゃないし、私と小鳥さんで代わりをしましょう」

「は、はい」

 

 ガイの代理を二人が務めることになり、アイドルたちはそれぞれ取材の準備を行う。……が、その中で律子がやや沈んだ表情になっているのに春香が気がついた。

 

「律子さん? 妙に元気ないですけど、どうかしましたか?」

「春香……! いや、ちょっとね」

 

 律子は手を振りながら答える。

 

「個人的なことなんだけどね……最近、自分が出来ることにちょっと思い悩んでるのよ」

「自分が出来ることに……?」

 

 それがどういうことか、詳しく語る律子。

 

「……私、怪獣に対抗するために色々な道具を作ってきたじゃない」

「はい。竜巻を追うアンテナとか吸水ポリマーの銃とかありましたね。それが?」

「でも……私にとっては自信作だったけれど、いざ怪獣を前にすると、ろくに役に立ったことがないじゃない。それが、私の能力の限界なのかなぁって思うようになって……。私に出来ることって、所詮そんなものなのかってね……」

 

 要するに律子は、自信を失いかけているようだ。春香はそんな律子を気の毒に思い、励ましの言葉を掛ける。

 

「そんなことないですよ! マガパンドンの時は、律子さんの作戦が勝利を導いたじゃないですか。律子さんは十分私たちを助けてくれてますよ!」

「そうかしら……? その時も、肝心なところはあずささんの発案だったじゃない」

「そ、それはそうですけど……」

「……ごめんなさい。こんな個人的な感情を仕事に持ち込むなんて、以ての外よね。みんなの規範になるように、気を入れ替えなくっちゃね!」

 

 両頬を叩いて気合いを入れ直したように見えた律子だったが、背負う哀愁はそのままだった。春香は心配そうに、律子の背中を見つめた……。

 

 

 

 ――惑星侵略連合の円盤に、二名の来客があった。ザラブ星人と、マグマ星人。二人の宇宙人は膝を突いて、ドン・ノストラとタルデ、ナグスに謁見する。

 

『偉大なるドン・ノストラ……我々は解散した暗黒星団の元構成員です』

『あなたのことはホストから聞いておりました。いとこが惑星侵略連合の首領をやってると』

『そうか、あいつのところの……』

 

 関心深そうにうなずいたノストラは、ザラブ星人たちに問いかける。

 

『それで、わざわざ宇宙を越えてまで、この私に何の用かな?』

『は、はい! 実は、こいつのことなんですが』

 

 マグマ星人が取り出して見せたのは、金色の怪獣の人形。それを見てタルデが口を開く。

 

『スパークドールズか。こっちでは珍しいな。……だが普通のものではなさそうだ』

『流石ドン・ノストラの側近! お目が高い』

 

 マグマ星人はこの人形、スパークドールズの説明を行う。

 

『おっしゃる通り、こいつは普通のものとは違います。忌々しいウルトラ戦士によって永久的に封じられたグア三兄弟様の怨念……それが結晶となったものです。我々はこいつで、恨み重なるウルトラ戦士に復讐しようと思ってまして』

『暗黒の帝王たちの怨念の怪獣か……! そいつはかなりの上玉ではないか』

 

 愉快そうに述べるノストラだが、マグマ星人は首を振る。

 

『ですが、今のこいつには魂が入ってません。だからこのまんまじゃ実体化しても、一歩たりとも動かないんです』

 

 それにナグスが呆れ返った。

 

『何だぁそりゃ! どんな大怪獣も動かねぇんじゃ、置物と一緒じゃねぇか!』

『は、はい……。ですから、どうかドン・ノストラのお力添えをいただきたく……』

 

 ザラブ星人たちの懇願に、ノストラは少しの間考え込んでから、ニヤリとほくそ笑んだ。

 

『言いたいことはよく分かった。そういうことなら、どうにかしてやろうではないか。私の力があれば、容易いことだ』

『本当ですか!? ありがとうございますッ!』

『これで、俺たちをどん底に追いやったあの世界を滅茶苦茶にしてやれる……!』

 

 喜色を浮かべるザラブ星人とマグマ星人だが、それを制するようにノストラが告げる。

 

『ただし、条件がある』

『条件?』

『ちょうどこちらでも、我々の侵略を邪魔するウルトラ戦士がいてな。そいつを始末することが条件だ』

 

 ノストラの提示した内容に、ザラブ星人たちは絶句した。

 

『そんな!? 必死の思いでようやくここまでたどり着いたのに……こっちでもウルトラ戦士の相手をしなくちゃならないなんて!』

『嫌ならいいのだぞ。他を当たれ。アテがあるのならな』

 

 ザラブ星人たちはにっちもさっちも行かなくなり、やむなく条件を呑み込んだ。

 

『わ、分かりました……。我々にお任せ下さい……』

『そうか、やってくれるか! なぁに、こちらからもこのナグスをつけよう。安心するといい』

 

 上機嫌となったノストラは、マグマ星人に手を差し出す。

 

『では、そのスパークドールズは私が預かろう。任せておくといい……フフフ……』

 

 

 

 765プロ事務所に、特集を組んでくれるという男女二人の記者がやってきた。

 

「はじめまして。ミッドチルダプレスのダイ……大空大地です」

「中島昴です。765プロのみんな、今日はよろしくね!」

「よろしくお願いしまーす!」

 

 大空大地と中島昴という記者相手に、アイドルたちは深々とお辞儀して挨拶。つつがなく取材は開始される。

 その取材の中で、大地はプロデューサー代理の律子に、こんな質問をした。

 

「ところで、君たち765プロは色んな怪奇現象や、最近だと怪獣を追うネット番組を撮ってるみたいだけれど」

「『アンバランスQ』のことですね! もしや、ご興味がおありでしょうか?」

「うん。まぁ、個人的にね」

「本当ですか!?」

 

 律子たちアイドルは、意外そうに大地を見返した。『アンバランスQ』は今も、ゲテモノとして大半の人から軽んじられている番組なのに。しかし何は何でも、評価されることは嬉しいことだ。

 一方で大地は、スッと目を細めて尋ねる。

 

「最新の投稿だと、UFOのことが取り上げられてたけど……他にもUFOに関する情報ってない? ちょっとでいいから、教えてもらえないかな」

「オッケー! ちょうど新しいネタがあるんだよー!」

「特別に記者の兄ちゃんたちに教えてあげちゃうよ~♪ 特別だかんね!」

 

 気を良くした亜美と真美が、先ほど話し合っていた円盤の写真を大地と昴に見せる。

 

「ちょっと二人とも! それはまだ非公開の情報よ!」

「いいじゃん律っちゃーん。固いこと言わないでさ~」

 

 亜美と真美の勝手な行動に焦る律子だが、二人はまるで気にせずに円盤の情報を大地たちに話した。と言っても、ほとんど何も分かっていないということだが。

 

「そうか……。まだ有力な情報はないんだね」

「うん。でも何か分かったらすぐネットにアップするからねー!」

「ちゃんとチェックしててねー。お願い♪」

 

 かわいらしくお願いする真美だが、大地は昴と真剣な顔で小さく相談した。

 

「有力な情報はないかぁ。残念……」

「ここなら何か知ってるかもと思ったけど……。この地球の防衛組織は何も話してくれなかったし……」

 

 昴へ目を向けている大地の腰から、金縁の携帯通信機器のようなものが覗いていることに亜美たちは目を留め、好奇心に駆られてそれをひったくった。

 

「何これ? これが記者の兄ちゃんのケータイ?」

「何だかゴツゴツしてるね。まるで玩具みたい」

「あッ!」

 

 それを律子が叱りつけた。

 

「こらっ! いい加減にしなさい! 流石に失礼よ!」

「うぎゃっ! ご、ごめんなさーいっ!」

 

 通信機器を取り上げた律子が、それを大地に返そうとする。

 

「申し訳ありません。この子たちにはよく言い聞かせておきますので」

「い、いや、大丈夫だよ。元気があって結構だね」

 

 しかし今度は律子が手を止めた。

 

「あら? このケータイの材質、何でしょうか? 見たこともないような……私に分からない材料があるなんて」

 

 大地は律子の言動にドキリとして、慌てながら返した。

 

「い、いやぁ、そういうのはよく分からないんだ。ただ、えーと、珍しいものらしいよ、うん」

「そうですか……?」

 

 春香は、突然妙に動揺した様子の大地を、少々訝しく思った。

 

「……?」

 

 

 

 何はともあれ、取材は無事に終了。記者たちが帰った後、アイドルたちが雑談し合う。

 

「特集の記事はいつ頃発売されるんでしょうかぁ? 今から楽しみですぅ~!」

「ちゃんとボクたちの魅力を伝えられたかな? ドキドキするなぁ」

 

 やよいや真は無邪気に楽しみにしているが、一方であずさが、律子が険しい顔で調べものをしているのに気づいた。

 

「律子さん? そんな顔して、どうしたんですか?」

「……!」

 

 律子は答えず、代わりに勢いよく席を立つと大声で言った。

 

「みんな、大変よ!!」

「ど、どうしたんですか、突然?」

 

 雪歩を始め、目を丸くするアイドルたちに、律子は告げた。

 

「さっきの記者さんの反応が気に掛かって、調べたんだけど……ミッドチルダプレスなんて出版社、存在しないの!! 名刺の住所、電話番号もデタラメよ!」

「えええぇぇぇぇぇ!?」

 

 その知らせに、全員が仰天した。響が頭を抱える。

 

「じゃあ、さっきの記者は偽者? 自分、張り切って取材受けたのに~! 全部無駄なんてひどいぞ~!」

「偽者ならば、あの二名は何者なのでしょうか……?」

「きっと企業スパイか何かよっ! まんまとしてやられたわ! きぃ~悔しい~!」

 

 歯噛みする伊織だが、律子は他の可能性を考える。

 

「それだけならまだマシだわ。もしかしたら、プロデューサーのことを探りに来た宇宙人が化けてたんじゃないかしら……! 何か得体の知れない道具を持ってたもの!」

「ちゃんと事前に調べておけばよかったですね……」

 

 後悔する小鳥。

 

「まだ遠くには行ってないかもしれないわ。捜しましょう! プロデューサーにも連絡して、何が目的か捕まえて聞き出さないとっ!」

「わ、私は叔父さんに通報しますね!」

 

 春香が渋川へ連絡を入れる。

 

「ボクたちは手分けしてさっきの人たちの行方を追いかけよう! やよい、行こう!」

「はぁいっ!」

「ミキも!」

「待ってぇ! 自分も行くぞ!」

 

 真ややよい、美希と響らが二人一組になって、捜索を開始。

 

「私も!」

「あずささんはここで待ってて下さい!」

 

 あずさは千早に止められた。

 偽記者たちの正体は何か、目的は何なのか。765プロは慌ただしく彼らの行方を追跡し始めた。

 



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ETERNAL POWER RAINBOW(B)

 

「――分かりました。男と女の二人組ですね。すぐ捜索に合流します」

 

 小鳥からの電話で偽の記者たちのこと、その特徴を聞いたガイは、すぐに足を765プロ事務所の方角へ向けた。

 

「一旦事務所に戻るか……!」

 

 事務所への近道となる公園を横切って、急いでいくガイであったが、そこに、

 

「ッ!」

 

 彼に向かってどこからか光弾が飛んできた。殺気にいち早く気がついたガイは身を翻して回避する。

 

『ちッ! 勘の鋭い野郎だぜ!』

 

 光弾の飛んできた方向に身構えたガイの前に現れたのは、ザラブ星人とマグマ星人を連れたナグス。三人もの宇宙人の出現に、公園にいた人たちは一斉に悲鳴を上げて逃走していく。

 

『へッ、この間のお礼をしに来たぜぇ』

「性懲りもなくボコボコにされに来たってことか。暇な奴だな」

『ほざけッ!』

 

 売り言葉に買い言葉で返したガイに、ナグスが光線銃を突きつける。だがガイはまるで動じず、問いを投げかけた。

 

「さっきウチの事務所を調べに来たっていう二人組は、お前らの手の者か?」

『あぁん? 何の話をしてやがる』

 

 反応を見る限り、ナグスの返答に嘘はなさそうであった。

 

「違うのか。じゃあ一体誰が……」

『何をボーッとしてやがる! こいつでくたばりやがりなッ!』

 

 ナグスの発砲を合図とするように、ザラブ星人とマグマ星人もガイの左右に回り込み、光弾をかわすガイに襲いかかる。

 

『食らえッ!』

『はぁッ!』

 

 ザラブ星人は指先からエネルギー弾を発射し、マグマ星人はサーベルを装着して斬りかかってくる。三方向から攻め立てられるガイ。

 しかしそれでも焦ることなく、光弾をかいくぐりつつサーベルの切っ先を腕でそらしてマグマ星人の懐をがら空きにした。

 

『何ッ!?』

「せぇいッ!」

 

 動揺したマグマ星人の顎を素早く蹴り上げてカウンターを決めた。のけ反って吹っ飛ぶマグマ星人。

 

『ぐはぁッ!』

『おのれよくもッ!』

 

 ザラブ星人がエネルギー弾を乱射してくるも、盾にしたウルトラマンのカードがそれを反射した。

 

『ぐぎゃあッ!』

 

 自らのエネルギー弾を食らったザラブ星人も倒れ込む。そしてガイは一直線にナグスに飛び掛かっていく。

 

『ちくしょうがッ!』

 

 銃撃からパンチに切り替えるナグスだが、ガイはその手を捕らえて一本背負いを決めた!

 

「とあぁぁぁぁ――――――ッ!」

 

 放物線を描いて地面に叩きつけられるナグス。

 

『ぎゃッ! ぐッ、くそぉッ! 相変わらず腹の立つ強さだ……!』

 

 もがきながら起き上がったナグスは、ザラブ星人とマグマ星人に命令する。

 

『お前ら! どうにかしやがれッ!』

『くッ……! こうなったら、こいつらの出番だ!』

『ペシャンコになるがいいッ!』

 

 ザラブ星人とマグマ星人がそれぞれ出したのは、怪獣の人形。

 

「スパークドールズ!!」

『行けぇッ!』

 

 ザラブ星人たちが二つのスパークドールズにエネルギーを浴びせ、実体化させる。人形はたちまち本来の姿、四十メートル越えの大怪獣となって街中に現れた!

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

「ガアアァァァァァ!」

 

 透明怪獣ネロンガと戦車怪獣恐竜戦車! 二体の怪獣はガイの方へ向かってきて、その巨体で押し潰そうとする。

 流石に怪獣に生身で立ち向かう訳にもいかず、後退するガイの元へ、騒ぎを聞きつけた真とやよいが駆けつけてきた。

 

「プロデューサー! 大丈夫ですか!?」

「お助けに来ましたぁ!」

「助かった! 二人とも、頼むぞ!」

 

 ガイは即座にオーブリングを取り出し、真とやよいはそれぞれジャックとゼロのカードを手にした。

 

「ジャックさんっ!」

[ウルトラマンジャック!]『ジェアッ!』

「ゼロさんっ!」

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェアッ!』

 

 二人がカードをリングに通し、ガイがトリガーを引いてフュージョンアップを行う。

 

「キレのいい奴、頼みますッ!」

[ウルトラマンオーブ! ハリケーンスラッシュ!!]

 

 変身を遂げたオーブ・ハリケーンスラッシュが宙を軽々と舞い、ネロンガと恐竜戦車に見上げられる中、ビルの屋上に着地した。

 

『俺たちはオーブ! 光を越えて、闇を斬る!!』

『「うわーん! 高いところ怖いですぅ~!」』

『「やよい、ちょっと落ち着いて!」』

 

 やよいが泣き喚くので、オーブはすぐに屋上から飛び降りて疾風の速さでネロンガに飛び蹴りを見舞った。

 

「シェアッ!」

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

「ガアアァァァァァ!」

 

 ネロンガを蹴り倒したオーブに背後から恐竜戦車が突進していくが、察知していたオーブの後ろ蹴りを顔面にもらって返り討ちにされた。

 

「テェヤッ!」

 

 そうしてオーブはオーブスラッガーショットを回転させて渦を作り、その中央からオーブスラッガーランスを取り出した。

 

『オーブスラッガーランス!』

 

 ネロンガが電撃を放ってきたが、オーブはランスで切り裂きながら宙を跳び、ネロンガに飛び掛かる。

 

「オォリャアッ!」

 

 着地とともにランスを振り下ろしてネロンガを切りつける。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

「ガアアァァァァァ!」

 

 そこに恐竜戦車が砲撃を連発してきたが、オーブはランスを回転させて砲弾を切り刻んで遮断した。

 

「ダァァッ!」

 

 そうしてオーブは一瞬で距離を詰めて刺突を繰り出し、恐竜戦車を突き飛ばした。風のような身のこなしのハリケーンスラッシュは、二体の怪獣を相手にしても互角以上の戦いを演じていた。

 

『「よぉしっ! いい調子だね!」』

『「うっうー! このまま決めちゃいましょー!」』

 

 一方でこの戦いの様子に、ナグスが苛立ちを見せていた。

 

『何だよ、負けてるじゃねぇか! こいつはどういうことだぁオイッ!?』

『そ、そんなこと我々に言われても!』

 

 責任を押しつけられるザラブ星人とマグマ星人は、ナグスの剣幕にたじろいだ。

 

 

 

 だがオーブの戦いを観察しているのは、ナグスたちだけではなかった。

 

「ほう、こっちじゃ見ることのないスパークドールズの怪獣か。誰が持ち込んだのか……」

 

 ジャグラスジャグラーだ。彼は怪獣たちに善戦するオーブを見やると、不敵に口の端を吊り上げる。

 

「そんな奴ら相手じゃあ退屈だろう、ガイ。俺がもっと面白くしてやるよ……」

 

 取り出したのはダークリング。それに赤と青の怪獣のカードを通す。

 

[バニラ!][アボラス!]

「合体怪獣、バニアボラス!!」

 

 混ざり合った暗黒のエネルギーが、オーブの背後へ飛んでいく……!

 

 

 

「ミィ――――――――イ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

「フッ!?」

 

 暗黒のエネルギーは実体化して、双頭の怪獣の姿となる。右半分が赤い身体、左半分が青い身体を縫い合わせたような非対称の胴体。それから怪獣バニラとアボラスの首が生えている。

 本来なら相反する属性同士の怪獣を融合した、両極合体怪獣バニアボラス!

 

「ミィ――――――――イ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 完全に気がそれていたオーブは、バニアボラスが吐き出す高熱火炎と溶解泡の不意打ちをもらってしまう。

 

「ウワアァァァァッ!」

『「わぁぁぁっ!?」』

『「うあああーっ!!」』

 

 バニアボラスの攻撃は強力で、オーブは圧力に押されて吹っ飛ばされた。衝撃は真とやよいにも伝わり、二人は思わず悲鳴を発する。

 

「グッ……!」

「ミィ――――――――イ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 それでもオーブは持ちこたえて、スラッガーランスで反撃しようとしたが、バニアボラスの二股の尻尾が飛んできて、手中より弾かれてしまった。

 

『しまった!』

「ミィ――――――――イ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 素手になってしまったオーブにバニアボラスが肉薄し、肉弾で圧倒する。ハリケーンスラッシュはスピードに優れる反面パワーはそれほどではなく、オーブスラッガーランスがなければ戦力が半減してしまうのだ。

 

「ウワアアアアアアッ!」

 

 オーブのピンチだが、ナグスは余計に苛立ちを募らせていた。その理由は、

 

『おいおいおい! これじゃああのいけ好かねぇ野郎の手柄になっちまうじゃねぇか! このままじゃ済ませられねぇぜ……!』

 

 言いながら、ナグスは踵を返す。

 

『おい、行くぞッ!』

『えッ、行くってどこに……』

 

 

 

 偽記者たちの捜索をしていた春香、美希、響は、バニアボラスに苦戦しているオーブの様子をハラハラと見上げている。

 

「オーブが危ない!」

「何とかしてハニーたちを助けなきゃ!」

「で、でも、自分たちだけじゃ出来ることなんてないぞ……!」

 

 気持ちが焦るばかりで打つ手を持たない三人。しかもそれだけで済まなかった。

 

『見つけたぜぇ!』

 

 彼女たちの元に、ナグスたちが現れたのだ。向けられる銃口に仰天する春香たち。

 

「あ、あなたはあの時のっ!」

『お前らオーブの仲間のタマを取ってくりゃ、ドン・ノストラへの顔も立つぜ! 覚悟しやがれッ!』

 

 ナグスは卑怯にも、オーブの代わりに戦う力を持たない春香たちを抹殺しようというのだ。春香たちは怖気づくが、ナグスは逃げる間も与えない。

 

『くたばりやがれぇッ!』

「きゃああああっ!!」

 

 ナグスが引き金に掛けた指に力を込める――!

 だが発砲の寸前、ナグスの銃に光弾が命中し、その手の中から弾き飛ばした。春香たちは危ないところで救われる。

 

『何ぃッ!? どこのどいつの仕業だぁッ!』

「えっ!? 今のは……」

「君たち、大丈夫かい!?」

「危ないところだったね!」

 

 目を見張った春香たちの前に回り込んでかばったのは、先ほどの偽記者二人組だった! 男、大地の方は見たことのない形状の銃を握り締めている。今のは彼の弾丸だったようだ。

 

「あなたたちはっ! ど、どうして……?」

 

 敵だと思っていたのに、と疑問を抱く春香たちに、二人は答える。

 

「スパークドールズの怪獣が現れたから、急いで引き返してきたんだ。そしたら君たちが襲われてるから……」

「助けに入ったって訳! ちょうど、追ってる人たちも見つけたしね」

『げぇぇぇぇッ!? お前らはぁーッ!!』

『おいどうしたってんだ!?』

 

 ザラブ星人とマグマ星人は大地と昴の顔を見て、大仰に驚きたじろいだ。

 一方で昴は、透き通った青い水晶型のペンダントを手に叫ぶ。

 

「行くよ、マッハキャリバー!」

[Standby, ready.]

 

 驚くべきことにそのペンダントから声が発せられ、かと思うと昴の全身が光り輝いた。一瞬にして彼女の服装が全く違うものとなる。

 

[Set up.]

 

 額に真白い鉢巻を巻き、へその出た短いシャツの上に白いジャケットを羽織る。両足にはローラースケート型のブーツを履き、右手は二重の歯車状のパーツが備わった鋼鉄のガントレットで覆われた。

 これに響たちは大いに目を見張った。

 

「へ、変身したぞ!?」

「まるで魔法少女みたいなの!」

 

 服装がチェンジした昴は、大地の持っているものと似ているが金縁のない端末型の装置を、警察手帳のように宇宙人たちに見せつけた。

 

「Xio隊員、スバル・ナカジマ! 脱獄犯のザラブ星人、マグマ星人! あなたたちを拘束しますっ!」

『ジオ!? ジオって何だ?』

『俺たちの敵ですよッ!』

 

 話が呑み込めていないナグスの問いに、マグマ星人が焦りながら答えた。

 昴――スバルに対して大地――ダイチは春香たちに振り返りながら告げた。

 

「君たちはあのウルトラマンの仲間なんだってね。だったら、このこと内緒にしてね!」

 

 そうして顔を今も苦戦中のオーブに向けると、己の端末を前に突き出す。

 

「エックス、ユナイトだ!」

『よぉし、行くぞッ!』

 

 その端末も声を発すると、ダイチは上部のスイッチを押し込んだ。すると端末の金縁が開いて人型のスパークドールズが出現し、ダイチはそれを端末にリードさせる。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

 

 先ほどのものとは違う女性の声が告げると、ダイチは端末を高々と掲げる。

 

「エックスーっ!!」

 

 X状の閃光に覆われたダイチは、光の超人――ウルトラマンの姿となって飛び出していく!

 

「イィィィーッ! サ―――ッ!」

[エックス、ユナイテッド]

 

 これを目の当たりにした春香が唖然とつぶやいた。

 

「う……ウルトラマンだったんだ……」

「そう! ダイチと、ウルトラマンエックスだよ!」

 

 スバルが誇らしげに、ウルトラマンの名を教えた。

 

「ミィ――――――――イ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

「セァーッ!」

 

 バニアボラスは火炎と溶解泡を吐いて、膝を突いているオーブにとどめを刺そうとしていたが、そこにウルトラマンエックスが横からタックルして突き飛ばした。オーブは彼に救われる。

 

『「えっ……!?」』

『「う、ウルトラマンさん!? 本物の……!」』

 

 真とやよいは、オーブ以外の実物のウルトラマンの姿を目の当たりにして言葉をなくした。その二人に、超空間越しにダイチが呼びかける。

 

『「詳しい話は後で! 今は力を合わせて、怪獣たちをやっつけよう!」』

「イィィィーッ! セアァッ!」

 

 かばうようにオーブの前に立ったエックスが、バニアボラス、ネロンガ、恐竜戦車の三怪獣を相手に大きく見得を切った。

 

 

 

 亜美と真美とともに行動していた律子が、エックスの姿を見上げて驚きに包まれる。

 

「り、律っちゃん! オーブが二人いるよ!?」

「どうなってるのこれ!?」

 

 亜美と真美はそう言ったが、律子はエックスのカラータイマーに目を留めて否定した。

 

「いいえ、オーブの全形態に共通してるカラータイマーの形が違う……。あれは別のウルトラマンよ!」

「えぇっ!? じゃ、二人目のウルトラマンってこと!?」

 

 ジャグラーもまた、エックスの登場に驚愕して立ち尽くしていた。

 

「何だと……!?」

 

 

 

(♪Xの戦い)

 

「ヘアァッ!」

 

 エックスは地を蹴って怪獣たちの間に切り込んでいき、速攻を仕掛けた。ネロンガの鼻先にチョップを叩き込んでひるませると恐竜戦車にキックを入れて押し返し、またネロンガを張り手で突き飛ばした。

 

「ミィ――――――――イ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 そこにバニアボラスが接近。双頭の威容を前にして、エックスの中のダイチが一枚のカードを取り出した。――機械化されたようなゼットンの絵柄が描かれている。

 ダイチはそのカードを端末に挿し込む。

 

[デバイスゼットン、スタンバイ]

 

 するとエックスの身体が瞬時に黒と黄、ピンク色の鎧に覆われた。両手は黒と青の装甲で包まれる。

 

『ピポポポポポ……』

[ゼットンケイオン、セットアップ]

 

 鎧を着込んだエックスが両手を持ち上げると、胸の前にバリアが張られ、バニアボラスの火炎と溶解泡を完全に受け止めてダメージを防いだ。

 

『ゼットンの力を使ってる!?』

 

 オーブがエックスの鎧に衝撃を受けた。

 

「シェアァー!」

 

 エックスは一回転すると、遠心力を乗せた水平チョップをバニアボラスの首に食らわせた。

 エックスの戦闘とタイミングを合わせるように、スバルも宇宙人たちを相手に戦いを始めていた。

 

『くそぅッ! ここまで来て捕まってたまるかぁッ!』

『食らえぇぇッ!』

 

 ザラブ星人とマグマ星人が完全にスバルに狙いを変えて、光線を放つ。

 

[Protection.]

 

 だがスバルの前に張られた光の防壁が光線を防御。スバルはローラースケートをうならせながら猛然と走り、ザラブ星人とマグマ星人に突っ込んでいく。

 

「はぁぁっ! リボルバーキャノン!!」

 

 相手の反応を許す間も与えず、拳とともに衝撃波をザラブ星人に打ち込んだ。

 

『ぐえぇッ!?』

 

 ザラブ星人は一撃で昏倒。マグマ星人はザラブ星人を倒したスバルにサーベルを振り下ろす。

 

『おのれぇぇぇぇぇッ!』

 

 だがスバルははっしとサーベルを左手で掴み、左腕に備わった武装を機動。

 

「ソード・ブレイクっ!」

 

 スバルの左手がサーベルを握り潰してへし折った!

 

『なぁぁぁぁッ!? 俺の剣がぁぁぁぁ!?』

「リボルバー・ブレイクっ!」

 

 続く鉄拳がマグマ星人の顔面を打ち据えた。

 

『ぐえあぁぁッ!!』

「バインド!」

 

 マグマ星人もまた倒れ、スバルは光の帯でザラブ星人ともども縛り上げた。残るはナグスのみとなる。

 

「あなたは手配されてないけど、明らかに暴漢だね! 拘束しますっ!」

『どこの馬の骨とも知らねぇ奴が、図に乗るなよ! 俺は宇宙最強のナグス様だぁッ!』

 

 スバルへ飛び込んだナグスが連続パンチを繰り出すも、スバルはそれら全てを拳で難なく弾いた。

 

『何ぃぃぃッ!? ど、どうして俺の動きが読めるんだ!?』

「ナックル星の格闘術は、もう見切ってるよ!」

 

 反対にスバルの拳がナグスを襲い、追いつめていく。

 

『ぐげッ! うぎゃあッ!!』

 

 背景ではエックスがバニアボラスに火炎弾を発射した。

 

『「ブラスト火球弾!!」』

「ミィ――――――――イ!」

 

 爆風で吹き飛ばされたバニアボラスと入れ替わるように、ネロンガがエックスに突貫する。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

「テアッ!」

 

 だがエックスはネロンガの頭を押さえて止め、チョップの振り下ろしを脳天に叩き込んだ。

 

「やぁぁっ!」

 

 ネロンガを押し込むエックスと、ナグスを打ちのめすスバルの姿が重なっているようだった。

 

「す、すごい……」

 

 人間とは思えないような奮闘ぶりのスバルに、春香たちはすっかり呆気にとられている。

 

『俺たちも負けてられないぜ! 真、やよいッ!』

『「「はいっ!!」」』

 

 オーブは真にオーブリングとタロウのカード、やよいにメビウスのカードを握らせ、再変身を行う。

 

『「タロウさんっ!」』

[ウルトラマンタロウ!]『トァーッ!』

『「メビウスさんっ!」』

[ウルトラマンメビウス!]『セァッ!』

『熱い奴、頼みますッ!』

[ウルトラマンオーブ! バーンマイト!!]

 

 バーンマイトとなったオーブが、炎の拳でバニアボラスに殴りかかっていく。

 

「テェェアァッ!」

 

 灼熱のフックがバニアボラスに入って、まともなダメージを与えた。

 

『このアマがぁぁぁぁぁぁぁぁッ! 食らいやがれぇぇぇッ!!』

 

 スバルを前に一方的な劣勢に激情を爆発させたナグスが己の光線銃を拾い上げて、スバルに向けた。

 

「ウィングロードっ!」

 

 光弾の爆撃が、スバルの姿を呑み込む!

 

「あぁっ!?」

 

 どよめく春香たち。ナグスはスバルの姿が硝煙の中に見えなくなったので一転、気を良くする。

 

『ハッハッハッ! 思い知ったかッ!』

 

 高笑いしたナグスだが――そこで己の周囲にいつの間にか、光のロードが張り巡らされていることに気がついた。

 

『あぁッ!? な、何だぁこりゃあ!?』

 

 そして爆発に消えたかと思われたスバルは、その上を駆けていた!

 

「一撃必倒! ディバインバスターっ!!」

 

 スバルの光の砲撃がナグスに直撃し、ナグスは大きく宙を舞った。

 

『うぎゃあああ――――――ッ!!』

 

 地面に叩きつけられたナグスはもがき苦しみ、立ち上がれなくなる。

 

「今だっ! バインド――」

 

 スバルはザラブ星人たちと同じようにナグスを縛りつけようとしたが――そこにタルデが空間跳躍で割り込んできた。

 

『ナグス、ここは退け! むんッ!』

 

 タルデは右腕に巻きつけたランチャーを回転させ、弾幕をスバルに浴びせた。

 スバルは光の防壁で弾幕を防いだものの、視界が閉ざされた一瞬の間に、タルデとナグスの双方の姿が目の前から消えていた。

 

「逃げられちゃったか……」

 

 つぶやいたスバルだが、三体の怪獣と戦っている二人のウルトラマンの方へ振り向くと、うなずいて先ほどの端末と、青い機械で出来上がったような怪獣の絵柄のカードを取り出し、カードを端末に挿し込む。

 

[デバイスゴモラ、スタンバイ]

 

 すると同じ怪獣のスパークドールズが出現し、スバルはそれを握り締める。

 

「ゴモラ、行こうっ!」

 

 呼びかけたスパークドールズをスバルは、端末に押しつける。

 

[リアライズ!]

 

 するとウルトラマンたちの戦いの場に粒子が降り注ぎ、デバイスゴモラなる怪獣が実体化を果たした! その姿にはスバルと同じような歯車とローラースケートが備わっている。

 

『ギャオオオオオオオオ!』

「こっちも怪獣を召喚した!」

「もう何が何だかなの……」

 

 美希たちはスバルのはちゃめちゃぶりについていくことが出来なかった。

 

「行っけー!」

『ギャオオオオオオオオ!』

「ガアアァァァァァ!」

 

 デバイスゴモラはスバルの動きと連動して恐竜戦車に肉薄し、がっぷりと組み合った。恐竜戦車はキャタピラを全力で回すが、ゴモラのローラーも回転し、恐竜戦車を押し返していく。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!」

「シュアッ!」

 

 エックスはネロンガに貫手を突き出して弱らせると、鎧を解除して上半身を後ろへねじっていく。そして戻す勢いで両腕をX字に交差した。

 

「『ザナディウム光線!!」』

 

 エックスの腕から膨大な光線が照射される!

 

「超振動拳っ!!」

『ギャオオオオオオオオ!』

 

 ゴモラの方もスバルの命令で、光のロードの上を走って恐竜戦車に鼻先の角とクローをぶつけて振動波を流し込んだ。

 

「ゲエエゴオオオオオオウ!!」

「ガアアァァァァァ!!」

 

 二体の怪獣は必殺技に耐えられずに爆発を起こすと、肉体が急激に圧縮され、元のスパークドールズの状態に戻った。

 エックスとゴモラの攻撃が決まった直後、オーブもまた全身を燃え上がらせてバニアボラスにまっすぐ突進していく。

 

「「『ストビュームダイナマイトぉー!!!」」』

 

 全身を使ってバニアボラスに激突し、張り手をアボラス側の顔面に打ち込んだ。

 

『「ハイ! ターッチ!!」』

「ミィ――――――――イ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 灼熱の全力攻撃を食らったバニアボラスが爆発四散し、跡形も残さず消滅したのだった。

 怪獣を倒したオーブはエックスへ振り向き、視線を合わせる。言葉もなく何かを通じ合ったようにうなずき合うと、両者同じタイミングで空に腕を伸ばして飛び上がった。

 

「シュワッチ!!」

 

 二人のウルトラマンが地上から離れると、デバイスゴモラも粒子となって消えていった。

 

 

 

 ――召喚した怪獣が二人のウルトラマンに倒された後、ジャグラーはノストラの召集を受けて円盤へと移動していた。

 

「ドン・ノストラ、この私をわざわざ呼び出されるとは、何の御用でしょうか」

『フフフ、来たなジャグラスジャグラー……』

 

 ノストラはテーブルの上に、金色のスパークドールズを置く。

 

「これは……!」

『ちょっとしたツテで手に入れたものでね……。ただ、このままでは使い物にならん。そこで』

 

 ノストラは含みを持たせた視線をジャグラーに送る。

 

『これを君に授けよう』

「……何故私に?」

『フフ……君ならこいつを『動かせる』んじゃないか、とまぁ、直感で思ってね……』

 

 ジャグラーとノストラの、腹を探り合うような視線がかち合う。

 

「……私は、他者から与えられる力には興味がありませんね」

『おや、いいのかね? あのオーブ以外のウルトラマン、見なかった訳ではないだろう』

 

 エックスのことに触れられ、ジャグラーの身体がピクリと反応した。

 

『仮にあれが今後も居座るとなったら、君にとっても大きな邪魔となるだろう。障害の芽は、早めに摘んでしまう方がいい。そうは思わないかね?』

 

 エックスを引き合いに、ジャグラーに誘いを掛けるノストラ。

 ジャグラーからの回答は――。

 



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ETERNAL POWER RAINBOW(C)

 

「……ってぇことはつまり、この人たちが不審者だってのは、春香ちゃんたちの勘違いだったって訳かい?」

 

 オーブとエックスによる怪獣軍団との戦闘後、通報を受けてやってきた渋川相手に春香が釈明をしていた。

 

「そ、そうなんです。ごめんなさい叔父さん」

「おいおい、しょうがねぇなぁ~。こっちだって暇な訳じゃないんだからさ、しっかりしてくれないと困るぜ? 特に今は、二人目のウルトラマンの出現でビートル隊はてんやわんやしてんのに」

「すいません、渋川さん。お手数お掛けしまして」

 

 大きく肩をすくめた渋川に頭を下げたガイに続いて、高木も謝罪する。

 

「悪いね、渋川君。このお詫びは今度するよ」

「いや、何事もないんならそれが一番ですよ。君たちも災難だったね! まぁお仕事頑張んなさいな!」

「は、はぁ……」

 

 渋川に呼びかけられたダイチとスバルが苦笑いを浮かべた。

 

「そんじゃあ俺はこれで。あばよッ」

 

 渋川は最後に二本指を立てて格好つけた敬礼を残し、事務所から去っていった。

 その後で、高木はダイチとスバルに振り向いて話しかけた。

 

「いや、しかし、驚いたよ。オーブ以外の本物のウルトラマンが現れたかと思えば……ウチの事務所に訪れた記者がそうだったなんてね」

「正確には、そちらのダイチさんがお持ちの端末の中にいるのが、ウルトラマンエックスさんだそうです」

 

 補足する小鳥。ガイはダイチが手にしている端末――エクスデバイザーに顔を向けた。

 

「はじめまして、エックスさん。紅ガイです。先ほどは助けていただいてありがとうございました」

『礼を言われるようなことじゃないさ。君がこの星を守るウルトラマンなんだね?』

「いや、俺は……」

 

 変に歯切れの悪いガイを押しのけるように、亜美真美を始めとするアイドルたちが興味津々にダイチとスバルに押し寄せた。

 

「ねぇねぇダイチ兄ちゃんにスバル姉ちゃん! 別の宇宙から来たって話だったけど、別の宇宙ってどんな感じなのー!?」

「はるるんたちに聞いたけど、変身とかしたんだって!? どゆことー!?」

「みっどちるだってどういうところなんですかー!?」

「何でエックスさんはケータイの中に入ってるんだ!?」

「ち、ちょっとみんな、質問は一つずつでお願い……」

「こらこら! お二人が困ってるじゃない!」

 

 興奮気味のやよい、響たちをたしなめた律子が、ダイチたちから聴取した話を整理し始める。

 

「一旦、話を最初から纏めましょう。まず、ダイチ・オオゾラさんとスバル・ナカジマさんはこの太陽系から遠く離れた別の宇宙にあるミッドチルダという星の人で、エックスさんはその星のウルトラマンということでいいんですね?」

「ああ。大体そういうことになるね」

 

 ダイチとスバルが首肯する。

 

「ミッドチルダは地球よりもずっと技術や社会制度が発達した星で、宇宙人との交流も行われてる。でも当然中には悪い宇宙人もいて、『Xio』という警察みたいな組織に所属してるお二人は監獄から脱走した宇宙人を追いかけて地球にやってきた……。それがスバルさんの捕まえた二人の宇宙人なんですね?」

「そういうこと」

 

 スバルが認めると、ダイチが後を継いでアイドルたちに告げた。

 

「ザラブ星人とマグマ星人が地球に逃げ込んだところまでは掴んだけれど、以降の足取りがさっぱり分からなかった。そこで手掛かりを求めて、一番情報を持っていそうなここに、記者と偽って接触したんだ」

「つまり、偽記者ってところは本当なのね」

「なーんだ……。期待して損しちゃった……」

 

 伊織と真があからさまにガッカリするので、罪悪感を覚えたダイチが平謝りする。

 

「ごめんね……。だけど身分を明かす訳にはいかなかったんだ。下手に次元世界の外の社会にミッドの文明の話を教えたら、悪影響を及ぼしてしまうかもしれなかったから」

「あたしたちの宇宙でも、管理外世界にその話はご法度だもんね。……だけど、この765プロがウルトラマンオーブさんの支援組織だって最初から分かってたら、みんなを騙しちゃうこともなかったね」

 

 スバルは興味深げに居並んだ765プロの面々の顔を見渡した。

 

「ここにいるみんながウルトラマンのことを最初から知ってて、全面的に協力してるなんてすごいなぁ。ちょっと羨ましい」

「ナカジマさんたちの組織は違ったんですか?」

 

 千早が聞くと、スバルは若干恨めしげにダイチを横目でにらんだ。

 

「そうなの。ダイチったら何度も一緒に戦ってたのに、エックスに変身してたってこと、ずぅーっと内緒にしてて。ひどいと思わない?」

「だ、だからそれは謝ったじゃないか……」

 

 たじろいだダイチが話をそらすように、アイドルたちへ目を向けた。

 

「それで、君たちがこのガイさんとユナイトしてオーブになってるんだね。さっきもオーブの中に、そこのやよいちゃんと真ちゃんがいたけど」

「ゆないと?」

 

 雪歩たちが聞き慣れない単語に首を傾げた。エックスが回答する。

 

『ウルトラマンが人間の力を借りて変身すること……転じて、人と人が強い絆でつながっていうことを、私はそう呼んでいるんだ』

「絆……絆かぁ……えへへ……」

「ミキとハニーがつながってるなんて……いやんなの♪」

 

 春香や美希が何を想像しているのかにやけたり身体をくねらせたりしている。それを置いて、ガイがエックスに問いかける。

 

「それで、脱走した宇宙人は再逮捕したから、エックスさんたちはもう元の宇宙にお帰りになるんですか?」

「えー!? もうちょっとここにいなよー!」

「亜美ちゃん、エックスさんたちにもやることがおありのはずよ。引き止めたら悪いわ」

 

 言い聞かせるあずさだが、ダイチは首を振る。

 

「いや、確かに脱獄犯は二人とも捕まえましたが、所持が確認されたスパークドールズの内の最後の一つを持っていなかったんです。それを回収するまでは、帰る訳にはいきません」

「すぱぁくどぉるず……人形化された怪獣ですね」

 

 聞き返した貴音に肯定を返すダイチ。

 

「その通り。しかも普通のスパークドールズとは違うものみたいなんだ。そんなのが、悪い人の手に渡ってなければいいんだけど……」

 

 

 

 ――765プロ事務所のある街の近隣地域に立つ、廃ビルの内部に、ジャグラスジャグラーが侵入をしていた。

 

「……」

 

 彼は無言で、一フロアの床の真ん中に、ノストラから受け取った金色のスパークドールズを置いて少しばかり距離を取った。

 そして自身のダークリングと――マガグランドキングのカードを取り出し、スパークドールズに向ける。

 

「マガグランドキングよ……お前に今一度、暴れる肉体をくれてやろうッ!」

 

 ジャグラーがカードをリングに通し、カードが暗黒の『魂』に変化。それはスパークドールズに向かって飛んでいき、その中に入り込んでいく。

 スパークドールズの細い両眼が赤い閃光を放ち、小刻みに振動を起こし始める――!

 

 

 

 少々時間はさかのぼり、ひと通りの情報交換を済ませた765プロアイドルは、ダイチとスバルから色々と彼らの話を伺っていた。

 

「へぇ~。これが、さっきスバルさんたちが倒して人形にした怪獣ですか」

 

 春香たちはデスクの上に並べられた、ネロンガ、恐竜戦車、そしてもう一つ、三日月型の角が生えた怪獣のスパークドールズに好奇の視線を向けていた。

 

「こっちの怪獣は?」

「ゴモラだよ。さっきのデバイスゴモラは、このゴモラの分身なの。ゴモラはダイくんの大親友なんだよ!」

「怪獣が親友? そもそも、どうして倒さずに人形にするんですか?」

 

 千早が尋ねると、スバルは少し誇らしげにその理由を語り出した。

 

「怪獣も、人間と同じ世界に生きる尊い命。ダイくんの夢は、人間と怪獣が共存できる社会を作ることなの。スパークドールズは、人間と怪獣が分かり合う時間を作るためにエックスがくれた力なんだ」

「人間と怪獣が、分かり合えるんですか?」

「もちろん! あたしたち人間もエックスも、何度も怪獣たちの力に助けてもらったし、今ではダイくんの夢も叶ってきて、怪獣の共生区もあるんだよ!」

 

 スバルは柔らかな視線をゴモラに注ぐ。

 

「ゴモラはダイくんの夢の出発点でね……子供の頃から一緒だったんだ。もうダイくんの家族みたいなものなんだよ」

「……そっか……。怪獣と家族なんだ……」

 

 響が何かを考え込むようにつぶやいた。

 アイドルたちがスバルと話している一方で、ダイチは律子から彼女の発明品の数々を見せてもらっていた。

 

「へぇ! これ全部、君が一人で作ったのかい?」

「は、はい。一応……」

 

 ストームチェイサーやSAPガンなどを手に取りしげしげと観察したダイチが、感心深げにため息を吐いた。

 

「すごいね。一個人がこれだけのものを作る技術を持ってるなんて、ミッドにもなかなかいないよ」

「律子さん、こんなに褒められたの初めてじゃないですか?」

 

 小鳥が半分からかうように呼びかけたが、律子は妙に暗い顔でうつむいている。

 

「……律子さん?」

「……ダイチさんたちの作ったものと比べたら、こんなの子供の玩具みたいなものですよ」

 

 己を卑下する律子に、ダイチは顔を向けた。

 

「見せてもらったデバイスっていうの、私には何が何だかさっぱりでした……。モンスジャケットというのも、ダイチさんの作ったものなんですよね。怪獣共生区と言い、ダイチさんの力は世界を動かすほどなのに……私の力なんて、誰の役にも立たないものです……」

 

 ダイチと己を比べて、ひどい劣等感に苛まれる律子。

 そんな彼女に、ダイチは優しく呼びかける。

 

「そんなことはないよ。第一、俺一人の力が世界を動かしてるなんてことは全くない」

「え……?」

「たとえばデバイス怪獣は、成功するまで何度も、何十回も失敗したし、俺一人の力しかなかったら今も成功することはなかった。グルマン博士やシャーリーさん、マリーさんの協力とか、アインハルトちゃんが俺の間違いを気づかせてくれたこととかがなかったらね……。それ以外のたくさんの人たちの力と、もちろんエックスの力がなかったら、そもそもの俺はとっくの昔に夢ごと「無」になって消えてた」

 

 瞳の中を覗き込むようにしながら、諭していくダイチ。

 

「分かるかい? 俺だけではここに来れなかった。何一つ、誰一人、絶対欠けてはいけなかったんだ。――大切なのは技術じゃない。人と人、心と心のつながり……ユナイトだ!」

 

 いつしか、アイドル全員の目がダイチに集まっていた。彼女たちにもダイチは呼びかける。

 

「夢っていうのは、自分だけで叶えられるものじゃない。みんなの手を取り合えば、未来を開けるよ!」

 

 断言するダイチに、アイドルたちはすっかりと感動に呑まれていた。そんな中で、エックスがダイチに言う。

 

『随分とたくましくなったな、ダイチ。最初に会った頃は、高いところ駄目だとか言って頼りない印象だったのに』

「ち、ちょっとやめてよエックス! カッコつかないじゃないかぁ!」

『しかし事実だ。そう思わないか、スバル?』

「そうだねぇ。昔はなよなよしてたもんね、ダイくん」

「スゥちゃんまで! もう、意地悪だなぁ二人とも!」

 

 からかわれて憤慨するダイチにエックスとスバルはくすくすおかしそうに笑った。そんな彼らとアイドルの様子を、高木が満足そうにながめる。

 

「彼らとの交流は、みんなにいい影響を与えてるようだ。なぁガイ君」

「そうですね……」

 

 うなずくガイだが、一方でどこか遠い目で宙を見つめた。

 

「心のつながりか……。『あいつ』とも、それがあれば……」

 

 ――だが、不意に鋭い目つきとなって窓へと駆け込んだ。エックスもまた、突然ダイチに警戒を促す。

 

『ダイチ、気をつけろッ! 強大な闇の波動を感知した!』

「えッ!?」

 

 一気に騒然となる事務所内。そしてガイが開け放った窓から見える街並みの中より、突如黒い稲妻がスパークしたかと思うと――廃ビルを突き破って、金色の巨大な怪獣が飛び出してきた!

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ! グワアアアァァァァァァァァ!」

「あれは!?」

 

 美希がガイに振り向く。

 

「ハニー! あれ、ミキたちがやっつけた怪獣と似てるの!」

「グランドキングか……!」

 

 しかし出現した怪獣はマガグランドキングと違い、全身が暗い黄金色に輝き、角は伸びて悪魔のように歪曲している。そして右腕が大剣と化していた。

 それが持ち込まれた最後のスパークドールズの正体。暗黒の帝王兄弟の怨念によって生まれ、ジャグラスジャグラーの手でマガグランドキングの魂を入れられることで遂に起動してしまった、スーパーグランドキング・スペクターだ!

 

「奴からはすさまじい闇の力を感じる……!」

 

 このままではいられない。ガイは春香と美希に視線を向けた。

 

「春香、美希! 行くぞッ!」

「は、はい!」「了解なの!」

『ダイチ、私たちも行くぞ!』

「ああ!」

 

 ガイが春香と美希を連れて飛び出していく後に、エクスデバイザーを手に取ったダイチが追いかけていく。

 

「あっ! 待って下さいプロデューサー!」

「ダイチ、あたしも!」

 

 それにカメラを握った律子たちと、スバルも続いていった。

 

 

 

 大勢の市民が急いでスーパーグランドキング・スペクターから避難していく中、無人の場所まで到着したガイたちとダイチが即座に変身を行う。

 

「ウルトラマンさんっ!」

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

 

 春香がガイのオーブリングにウルトラマンのカードを通す傍ら、ダイチはエクスデバイザーのスイッチを押し込んで金縁をX状に開かせた。

 

「ティガっ!」

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

 

 美希がティガのカードを通し、ダイチは現れたエックスのスパークドールズを握り締める。

 

「光の力、お借りしますッ!」

 

 ガイがリングのトリガーを引き、ダイチがスパークドールズをデバイザーにリードさせた。

 

[フュージョンアップ!]

『シェアッ!』『タァーッ!』

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーっ!!」

 

 ガイたちがウルトラマン、ティガのビジョンと融合し、ダイチはX字の光に包まれる。

 

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

「イィィィーッ! サ―――ッ!」[エックス、ユナイテッド]

 

 そうして変身を遂げたオーブ・スペシウムゼペリオンと、ウルトラマンエックスが並んで街を蹂躙しつつあるグランドキングの前に降り立った!

 オーブはダイチに聞く。

 

『そいつがユナイトか』

『「はい! そっちこそ、それがフュージョンアップなんですね!」』

 

 グランドキングは二人のウルトラ戦士を見据えると、すぐに猛って腹部にエネルギーを集め出した。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

『来るぞッ!』

『「あの時のようにはね返してやるの!」』

 

 美希の判断でオーブは鏡状のスペリオンシールドを作り出し、相手の光線の軌道を予測して構える。

 

「グワアアアァァァァァァァァ!」

 

 だが放たれた破壊光線は、マガグランドキングのそれとは比較にならないほど膨大な量であり、シールドは一撃で粉砕されてしまった!

 

「ウワアアアアアッ!」

『「「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっっ!!?」」』

 

 オーブは光線によって大きく弾き飛ばされ、春香も美希も衝撃のあまり金切り声を発した。

 

『ぐッ……効かなくなってる……!』

「ヘアァッ!」

 

 倒れたオーブに追撃の光線を仕掛けようとしているグランドキングに、エックスが飛びかかって阻止する。

 だが勇敢な戦士のエックスでさえ、スーパーグランドキング・スペクターの前では貧相な身体つきに見えてくる。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

「グアァァッ!?」

 

 案の定、エックスは易々とグランドキングに振り払われてしまった。

 

「グワアアアァァァァァァァァ!」

 

 咆哮を発するグランドキング。それだけですさまじい衝撃波が生じ、周囲のビルが倒壊してしまった。

 

「ウゥゥッ!」

 

 オーブもエックスも、衝撃波に押されてグランドキングに接近することすら出来ない。

 スーパーグランドキング・スペクターの圧倒的な暴力の前に手も足も出ない状況のオーブとエックスを、律子たちが実況を交えながら撮影している。

 

「二人のウルトラマンをも怪獣は全く寄せつけません! 金ぴかになったのは伊達じゃないということでしょうか!?」

「頑張れー! ウルトラマーン!」

「負けないでオーブ! エックスー!」

 

 真美ややよいたちは声を張り上げて必死に応援しているが、オーブたちはグランドキングの体当たりではね飛ばされてしまう。

 スバルはエックスたちの加勢のために、バリアジャケットを纏って再度デバイスゴモラを召喚しようとした。

 

「ゴモラ、あたしたちも行こう!」

「――そうはさせるかッ!」

 

 だがいきなりジャグラーが刀で斬りかかってきて、スバルは咄嗟にプロテクションを張って斬撃を防いだ。

 

「あなたは……!?」

 

 ジャグラーから距離を取ったスバルに、慌てて彼女の後ろへと回り込んだやよいと千早が教える。

 

「はわっ! あの人、すっごく悪い人なんですぅ!」

「今日はやたらと攻撃的ね……!」

「余計な茶々を入れられたらたまらないんでね。邪魔立てする者は斬り伏せる……!」

 

 腕を胸の前で交差し、中腰に構えながら威嚇するジャグラー。スバルはアイドルたちを守るためにも、ジャグラーとの交戦を開始した。

 

「リボルバーシュート!」

 

 リボルバーナックルから射撃魔法を放ったが、ジャグラーはあっさりとそれを切り払う。しかし射撃は牽制であり、スバルはその間にウィングロードを展開して自分に有利な場を作った。

 

「ウィングロードっ!」

「小賢しいッ!」

 

 魔力のロードの上を駆け回って翻弄しようとしたスバルだが……ジャグラーは刀を振るい、ウィングロードを断ち切った!

 

「わっ!?」

 

 ロードが崩壊して地面に投げ出されたスバルに、ジャグラーが袈裟斬りを見舞う。強固なプロテクションを張って防御しようとしたスバルだが……背筋に悪寒が走って咄嗟に背後へ倒れ込むように身を投げ出した。

 ジャグラーの剣は、障壁をも真っ二つに切り裂いた! かわさなかったらスバルも危うかっただろう。

 

「強い……!」

 

 貴音たちはジャグラーの実力に息を呑んだ。スバルは宇宙人たちを叩き伏せるほどの実力者なのに、ジャグラーはそれと互角以上の力を見せている。

 

「ウィングロードだけじゃなく、プロテクションまで簡単に一刀両断するなんて……。恐ろしい切れ味だね……」

「当然! 天下の豪剣、蛇心流だッ!」

 

 独特な構えを取って見得を切るジャグラーだが、スバルは彼の太刀筋を分析する。

 

「でも、それを抜いても力ずく過ぎるんじゃないかな。肩に力が入り過ぎてるよ。まるで、何かを強引に振り切ろうとしてるみたい……」

 

 と言われると、ジャグラーの目の色が急に変わった。様子の変化に訝しむアイドルたち。

 

「……?」

「――知った風な口をッ! 斬り伏せてやるッ!」

「はぁぁぁっ!」

 

 ジャグラーの風を切る振り下ろしを、スバルは飛び込みながらの鉄拳で迎え撃った。

 

 

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

「ウワアァァッ!」

 

 強大な敵を相手に、ひるむことなく挑み続けるオーブとエックスだが、スーパーグランドキング・スペクターは一方的に二人をねじ伏せる。最早戦いにもなっていないと言っていい力の差だ。

 

『「プロデューサーさん……全然歯が立ちません……!」』

『ぐッ……このままじゃ……!』

 

 既にひどく痛めつけられているオーブたちのカラータイマーは赤く点滅している。今のままでは全く勝ち目がないと、オーブは強い焦りを抱えた。

 しかし、そんなオーブたちにダイチが告げる。

 

『「大丈夫だ!」』

『「えっ……?」』

『「希望の光は、どんな時にも瞬いて消えることはない! 虚無の前でも、地獄の前でも……! それが俺たちのたどり着いた光だ!」』

 

 言いながら、ダイチはフュージョンカードとは異なるウルトラマンとティガのカードを取り出した。

 

『「その光で、あの闇を砕いてみせるッ!!」』

 

 ダイチがカードをデバイザーに挿入すると、デバイザーからエクスベータカプセルとエクスパークレンス、レイジングハートのビジョンが出現。その三つが混ざり合って、一本の杖と化した。

 ダイチが杖を握り締めると、エックスの左右にウルトラマンとティガのビジョンが現れる。

 

『ヘッ!』

『シェアッ!』

 

 ビジョンは肩部を覆う装甲に変わり、エックスはエクシードXに変身。そして全身が白と銀色のバリアジャケットに覆われ、エックスは長杖を手にした。

 

[ベータスパークハート、セットアップ]

「イィッ! シェアッ!」

 

 完成したベータスパークハートからまばゆい桃色の光が発せられて、グランドキングは一瞬目がくらんで立ち止まった。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!?」

 

 美希たちもまた、今のエックスの姿に目を奪われた。

 

『「あれも、ウルトラマンの力なの……!」』

『「すごい……! 綺麗で温かい光……!」』

『ウルトラマンさんとティガさんは、彼らにも力を貸してたのか……!』

 

(♪熱い戦い)

 

「『ベータスパークザンバー!!」』

 

 エックスの額のエクスディッシュが輝くと、杖が光の大剣に変化し、それを振り下ろしたエックスの斬撃によってグランドキングの体表から大量の火花が飛び散った。

 

「グワアアアァァァァァァァァ!」

 

 それまで前進し続けていたグランドキングが、初めて後ずさった。

 

「ヘェェェアッ!」

 

 続くベータスパークザンバーの光刃と、グランドキングの大剣が交わる。だがエックスは渾身の力を以て、グランドキングの剣を押し込んでいく。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 だが敵もさるもので、左腕のクローを振り上げてエックスを攻撃しようとする。

 

「セアッ!」

 

 だがそこにオーブが飛びかかり、背後に回り込んでクローをひねり上げた。

 

『俺たちだって、見てるだけじゃいられないぜ!』

『「はいっ!」「なのっ!」』

 

 オーブが食い止めている間に、ザンバーがグランドキングの剣にめり込んでいき、

 

「テヤァーッ!」

 

 エックスが更なる力を込めたことで、大剣は綺麗に両断された!

 

「グワアアアァァァァァァァァ!」

 

 武器を失ってひるむグランドキングの腹部を、エックスとオーブが同時に蹴りつけて押しのける。

 

『よし! 今だダイチ!』

『「ああ!」』

 

 エックスはザンバーをベータスパークハート・ブラスターモードに変形させ、先端をグランドキングに向けると虹色の光の球が生じた。

 それと同時に、765プロのアイドルたちの身体から光の粒子が溢れ出て、虹色の光球に集まっていく。

 

「こ、これは……!?」

「私たちから、光が出てる……!」

 

 オーブの中の春香と美希からも光が生じ、オーブの身体を通して虹の光球を大きくしていく。

 

『「この光は……」』

『「これが君たちの心にある光だ! 夢を追いかける心の強さ、希望をあきらめない精神こそが、ウルトラマンの力となって君たち自身の未来を照らし出すんだよ!」』

 

 ベータ―スパークハートの光球から発せられる光を浴びて、オーブにも力が沸き上がってきてカラータイマーの輝きが青に戻った。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 グランドキングはエックスたちが行動に移る前に吹き飛ばしてしまおうと、腹部から超絶破壊光線を発射してきた!

 だがそれは、虹の光に当たると霧散していく!

 

「!!?」

 

 光が最大限に高まると、ダイチとエックスはいよいよ必殺の攻撃を繰り出す。

 

『「今だッ!」』

『俺たちも行くぞ!』

 

 オーブも腕を頭上と左側にピンと伸ばし、必殺光線の構えを取った。

 

「『ベータスパークライト・ブレイカーッッ!!」』

「「『マリンスペリオン光線っっッ!!!」」』

 

 二人の虹色に輝く超威力の光線が宙を貫いて飛んでいき、グランドキングに直撃!

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥッ!!」

 

 虹の輝きに呑まれたスーパーグランドキング・スペクターは耐え切れずに爆散。壮絶な爆風が一帯に広がり、アイドルたちは思わず目をつむって顔を背けた。

 

「きゃあっ!!」

「わっ!」

 

 スバルも一瞬視界が閉ざされた。

 すぐに目を開いたが、この一瞬の間にそれまで戦っていたジャグラーの姿が忽然と消えていた。

 

 

 

 ――引き際をわきまえて、スバルの前から早々に退散したジャグラスジャグラーは、ダークリングを掲げてスーパーグランドキング・スペクターから脱け出たマガグランドキングのエネルギーをかき集めた。魂はカードの状態に戻っていく。

 

「ちッ……。やはり、魔王獣のカードは本来の用途に使用した方がいいか」

 

 リングからカードを引き抜いたジャグラーが、不快そうに大きな舌打ちをした。

 

 

 

 戦闘後、ガイたちはダイチ、スバルとともにまだ人気の戻らない公園に来ていた。

 

「もう行かれるんですね……」

 

 律子が少々残念そうにダイチたちに聞いた。二人はそれにうなずき、エックスが述べる。

 

『出来るなら、うら若き年頃にしてこの星を守る君たちの手助けをしてあげたいが、モンスター銀河の方角から不審な怪獣群のミッドへの接近をキャッチした。私はそれに対処しなければならない』

「それがウルトラ戦士の役割ですからね……。お疲れさんです、エックスさん」

 

 エックスの労をねぎらって頭を下げたガイに、エックスは告げた。

 

『その代わりに、私が他のウルトラ戦士たちにそうされたように、私から君たちの助けとなる力を贈ろう。どうか役立ててくれ』

 

 エクスデバイザーから光の塊が飛ばされ、ガイはオーブリングでそれを受け止める。光はリングをくぐり、エックスの絵柄のカードに変わった。

 

「エックスさんの力……! 確かに受け取りました。ありがとうございます!」

 

 ダイチとスバルはアイドルたちの方へ最後のエールを送る。

 

「あの怪獣を倒すことが出来たのは、君たちの光もあったからだ。みんな、自分たちの光を忘れないで、君たちの夢を追いかけ続けてくれ。追い続ければ、夢は叶うから!」

「遠い場所からだけど、あたしたちはずっと応援してるからね!」

「はいっ! ありがとうございます!」

 

 ガイや春香たちに見送られながら、ダイチたちは彼らの宇宙に帰還していく。

 

「それじゃあみんな、元気でね!」

 

 ダイチは再びエックスとユナイトし、エックスはスバルを手の平の上に乗せながら宇宙に向かって飛び上がっていく。

 

「さよーならー!」

 

 空の彼方へ去っていったエックスたちを、大きく手を振り上げながら見送ると、ガイがアイドルたちに呼びかけた。

 

「さぁッ! それじゃあ俺たちも、一躍有名になる時を目指して頑張るぞ!」

「はい! 765プロ、ファイトー!」

「おぉー!!」

 

 春香の号令に、手を振り上げて応じる仲間たち。――律子を始めとして、皆の表情はとても晴れやかなものになっていた。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

伊織「にひひっ♪ 伊織ちゃんよ。今回紹介するのは、ウルトラセブンの息子、ウルトラマンゼロよ!」

伊織「ゼロが最初に公開された時は、テクターギアという鎧で顔を隠した謎の戦士という形だったわ。その正体は何だろうと想像をかき立ててから、ウルトラセブンの実の子供だと紹介されて大きな話題を呼んだのよ。そして2009年の映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説』で映像作品にデビューしたわ」

伊織「それまで優等生タイプの性格が多かったウルトラマンの中で、ゼロははねっ返りが強い異色のキャラクターをしてたの。だけどそれが却って新鮮で、『ウルトラマン列伝』のナビゲーターを長く務めたこともあって高い人気を博す結果となったわね」

伊織「特に中国での支持が強くって、『ウルトラマンゼロ THE CHRONICLE』というテレビ番組まで制作されたわ! これは現在日本で放送中ね!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『IDOL POWER RAINBOW』だ!」

ガイ「これはiTunes Storeで配信された歌で、元祖アイマスと、シンデレラガールズ、ミリオンライブ、三つの企画を代表する三人ずつの計九名によるコラボソングとなってるぞ! 虹を三つの作品の間を取り持つ架け橋と見なしてる訳だな!」

伊織「ま、私たち765プロのアイドルは一応、三つ全部に出演してるんだけどね」

伊織「それじゃ、次回も見なさいよねっ!」

 




 亜美だよ~。うあうあー! みんなが復活した魔獣に、石に変えられちゃったよー! 無事なのは兄ちゃんの他に、亜美と律っちゃんだけ。こうなったら、亜美たちで魔獣をやっつける他に方法はないよっ!
 次回『私だってウルトラマン』。律っちゃん、勇気を出して立ち向かおー!


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私だってウルトラマン

 

「この秋月律子の頭脳を信じなさい!」

「すごすぎるわ! 大発見よぉぉっ!」

「とても信じられない……。でも、全部本当のことだったわ」

「スーパー・アブソーベント・ポリマーガン、略してSAPガンです!」

「ちゃんと私が作戦を考えておいたわ」

「これからもがんばりましょう! トップアイドルになれることを信じて!」

「やっぱりこの森には古墳が眠ってたのよ!」

「最近、自分が出来ることにちょっと思い悩んでるのよ」

「やらなきゃいけないのなら、私だってひと肌脱ぎますとも!」

 

 

 

『私だってウルトラマン』

 

 

 

 東京都内の大きな博物館――の跡地。

 建物が崩壊して山となった瓦礫の中から、倒れた柱を押しのけて出てきたのはガイであった。

 

「よっ……と! ふぅ、何とか助かったか……。大丈夫か、お前たち?」

 

 ひと息吐いたガイは、自分の下にいた律子と亜美に手を伸ばして引き上げる。

 

「あ、ありがとうございます……」

「うえ~ん……怖かったよぉ~」

「よしよし、もう大丈夫だからな……と言いたいところだが……」

 

 泣く亜美をあやすガイだが、周囲を見回して苦い顔となった。

 

「とんでもないことになっちまったなぁ……」

「あぁぁっ! 真美ぃっ!」

 

 亜美が駆け寄ったのは、瓦礫の間に立っている真美――の石像としか言いようのないものだった。

 しかし、この石像はほんの数分前までは――紛れもなく本物の真美だったのだ。

 

「か、完全に石になっちゃってる……。ひどい、ひどいよ……」

「春香! 千早っ! みんなっ!!」

 

 石になっているのは真美だけではない。律子は周りの、仲間たちの石像を瓦礫から掘り起こして絶叫を上げた。

 生身の身体でいるのは、ガイと律子と真美の三人だけ。他のアイドルたち、のみならず周りに見える人の全てが――物言わぬ石像に変わり果てていた。

 ガイが苦悶の表情で舌打ちする。

 

「こいつはやべぇぜ……。早く、『奴』を何とかしなきゃ……」

 

 ガイが送った視線の先の遠景。そこでは、こちらに背を向けた巨大な怪物が街に進撃し、口から光線をまき散らして必死に逃げる人間たちを次々に石に変えていた。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 口の中に単眼を持つ、蛇と竜と悪魔を融合させたような『魔獣』、ガーゴルゴンが大気を震動させた。

 

 

 

 事の発端は、昨日にまでさかのぼる。

 

「ねーねー兄ちゃん! これ見てー!」

「面白そうじゃなーい?」

 

 事務所で亜美と真美が、ガイに一枚のチラシを見せつけた。ガイはチラシを受け取って、内容を読み上げる。

 

「何なに……ギリシャで発掘された伝説の『ゴルゴンの像』来日。城南博物館に期間限定で展示……ねぇ」

「どお? 面白そうでしょ!」

「最近怪獣とか宇宙人を追っかけてばっかだしさー、たまにはこーいう平和的なものを『アンQ』で取り上げてみよーよぉ」

 

 ガイと亜美たちの会話を聞きつけて、他のアイドルたちもチラシに注目した。雪歩が発言する。

 

「ゴルゴンの像って、確かニュースで取り上げられてた奴だよね。歴史的新発見だって」

「そうそれ! ねーねー、兄ちゃんどーかな?」

「よさげじゃない?」

「ふむ……」

 

 ガイはしばし顎に手を当てて考えてから、結論を出した。

 

「そうだな、たまには怪獣と関係ないことを調べてみるのもいいな」

「やったー! それじゃ決まりだねっ!」

 

 亜美と真美が喜んでいると、美希が話に入ってくる。

 

「亜美と真美だけハニーと博物館デートなんてずるいの! ミキも行きたいの~!」

「おいおい、別にデートなんてもんじゃないぞ」

「でも、ボクもたまには一日ゆっくりしたいなぁ」

「私も。最近宇宙人も追いかけててクタクタよ」

 

 真と伊織の意見に他の面々も同調した。すると亜美が提案する。

 

「それじゃいっそのことみんなで行こうよ! 765プロで遠足だー!」

 

 それにやよいやあずさたちが関心を寄せる。

 

「わぁ~! それいいねー! 楽しそう!」

「あらあら。遠足だなんて久しぶりだわ」

「ほらほら、千早ちゃんも一緒に行こうよっ!」

「えっ、私は別に……」

 

 盛り上がる他のアイドルたちだが、それを律子がたしなめる。

 

「ちょっとみんな、全員で遊んでるなんて駄目よ! 私たちまだまだ無名なのに、そんなことしてる暇なんて……」

 

 だが美希と響には肩をすくめられるだけであった。

 

「も~。律子…さんはお固すぎなの。たまには休むことだって大切って思うな」

「一日くらいなんくるないさー!」

「でも……」

「よいではありませんか。皆、学業にあいどる業に加え、うるとらまんの戦いに備える多忙の身です。休息を取ることも悪くはありません」

「貴音までそんなこと言って……」

 

 渋る律子をよそに、アイドルたちはすっかりその気であった。ため息を吐く律子にガイが呼びかける。

 

「まぁいいじゃないか、律子。ずっと気を張り詰めてるって方が、むしろ効率が悪いもんだからな」

 

 と説得しても、律子は不安げな表情のままだった。

 

「そうかしら……。普段いっぱいがんばってるのに全然名前が売れないでいて、この調子でトップアイドルになれるのかしら……」

 

 一方で、雪歩がこんなことを言った。

 

「そういえば、前にも珍しい像が日本に来たことがあったよね。その時は怪獣が出てきて大変なことになったけど」

「ああ、あのサザエカタツムリのことだね」

 

 うなずく真美。先日、『ゴーガの像』という古美術品が日本に密輸された事件が発生したのだが、その像の中から貝獣ゴーガが出現してパニックが起きたのだった。「ゴーガは火の海と共に没す」という記述を古代アランカ帝国の歴史書から発見した765プロの連絡により、ビートル隊の火攻めでゴーガは倒されたのだった。

 確かにその時の状況と似ているが、

 

「まっさか~。像の中から怪獣が出てくるなんてこと、そうそうある訳ないじゃん」

「そうだよねぇ」

 

 亜美の言葉に一同はおかしそうに笑ったのだった。

 

 

 

 亜美が言う。

 

「今から思えばあれ、フラグだったね……」

 

 

 

 そして今朝、765プロ一行が訪れた城南博物館。

 

「そろそろ展示開始の時間だ。準備してくれ」

「分かりましたー」

 

 博物館のスタッフが、ゴルゴンの像を展示場所へ運んでいくために、台ごとガラスケースを被せようとした。

 が、像の頭の部分から何やらカードが半分はみ出ていることに気づいて手を止める。

 

「え……? カード? こんなものあったか?」

 

 思わずそれに手を掛けると、カードが像から引き抜けた。青と銀色の超人が描かれたカードであった。

 

「あッ、抜けた……」

 

 直後、像が急激にひび割れてボロボロと崩壊していく!

 

「えッ!? た、大変だ――!」

 

 驚愕するスタッフだったが、このことを誰かに伝えることは出来なかった。何故なら――像の『内側』から発せられた光線を浴び、一瞬にして石像に変わってしまったからだ。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 

 

「へ~。こんなものもあるんだな」

 

 博物館に入館して、他の展示物を見回りながらゴルゴンの像展示を待っていた765プロ一行だが、急にガイと貴音が弾かれたように顔を上げた。

 

「!!」

「? どうしたんですか?」

 

 春香が聞くが早いや、貴音が仲間たちに警告する。

 

「皆、早く逃げるのです――」

 

 だがすぐに博物館の壁が砕けたかと思うと、射し込んできた光線によって貴音はたちまち石に変えられてしまった!

 

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

「た、貴音ぇ!?」

 

 一瞬で騒然となる博物館。しかしすぐに他の人々も、床をなぞるように走る光線を浴びせられて石に変えられていった。それは765プロアイドルも例外ではなかった。春香、千早、美希らが声も出す暇もなく石像にされる。

 

「なッ!! 律子ッ!」

「きゃっ!?」

 

 急激な事態の発生に、たまたま律子とともに離れたところにいたガイは、律子をかばって助けるだけで精一杯だった。二人から外れた光線は、亜美の方へと急速に迫っていく。

 

「あっ――!」

「亜美ぃ―――――――っ!」

 

 咄嗟に真美が亜美を突き飛ばしたことで亜美は光線から逃れたが――代わりに、真美に当たって彼女は石に変えられてしまった。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 ゴルゴンの像の封印から脱し、ガイたち三人以外の館内の人間を石に変えた魔獣ガーゴルゴンは、博物館を内側から破壊して巨体を白日の下に晒し、復活を果たしたのだった。

 

 

 

 そして今に至る。

 

「うぅぅ、真美ぃ……真美ぃ……」

 

 いつも明るくポジティブな亜美も、石像の真美を抱き締めて涙していた。しかしすぐ袖で涙をぬぐって、ガイに振り向く。

 

「兄ちゃん、真美たちは元に戻せる!?」

「……方法は一つだけだ」

 

 ガイは遠景のガーゴルゴンを鋭くにらみつける。

 

「単純な話、あいつをぶっ倒す! そうすれば石化の魔力は解けて、みんな元に戻るはずだ」

「そっか! じゃあすぐやろう!」

「おう! 律子、お前も力を貸してくれ」

 

 亜美に応じ、律子に振り返るガイだが……律子は我が物顔で暴れるガーゴルゴンの背面を見つめて、小刻みに震えていた。

 

「律っちゃん……?」

 

 律子が返事をしないので、亜美は怪訝な顔となる。ガイは神妙な面持ちで、律子に語りかける。

 

「ガーゴルゴンが生物を石に変えるのは、生命エネルギーを吸収するためだ。奴は復活したばかりでエネルギーが不完全のはずだが、このままだとどんどんエネルギーを蓄えてって、時間が経つ毎に手がつけられなくなる。今の内に倒さないといけないんだ。それが出来るのは、ここにいる俺たちしかいない」

「分かってます……」

 

 律子は身体と同じように、震えた声で返答した。

 

「765プロに在籍する道を選んだからには、私もいつか『こうなる』時が来るってことは、覚悟してたつもりでした。……けど、実際に直面してみたら……震えが止まりません……。私が、あんな怪物に立ち向かうだなんてこと……!」

「律っちゃん……」

「私、頭の良さは日々自慢してますけど、戦いなんて一度も経験したことがありません……。アイドルとしての実力だって他のみんなと比べたら見劣りしますし……スタイルだって寸胴ですし……」

 

 弱々しい声の律子に、ガイはやれやれと首を振った。

 

「律子、お前の普段の強引さは、自分への自信のなさの裏返しだったな。時々、不安や弱気が表情に表れてたからな」

「……」

「気が強いように見えるお前が、春香を超えて一番普通の女の子なのかもな。けどな……」

 

 ガイが律子にすっと差し出したのは、ウルトラマンエックスのカード。

 

「エックスさん……!」

 

 受け取った律子の手の中で、エックスのカードが温かく光る。

 

「エックスさんたちが言ってただろう。未来ってのは、みんなの力で掴むもんだってな。――お前は一人じゃない。今この場には、俺と亜美がいるぜ」

「そうだよ律っちゃん! 自信持ちなよ。律っちゃんは亜美から見たら、努力家ですごい人だよー! おっぱいだってばいんばいんだしさ」

 

 亜美は律子の隣に立って、その手をぎゅっと握り締めた。

 

「亜美……」

「俺たちの力を合わせれば、あんな奴は敵じゃない! 俺たちを信じろ、律子!」

 

 ガイの強い呼びかけで、律子の顔つきは一転、力に溢れたものとなった。

 

「はいっ! 不肖秋月律子、みんなを救うために精一杯力を出します!」

「よぉしッ! それじゃあ行くぞッ!」

 

 颯爽とオーブリングを構えたガイ。それに続いて亜美がウルトラマンギンガのカードを掲げる。

 

「ギンガ兄ちゃんっ!」

 

 カードをリングに通すと、亜美の横にギンガのビジョンが出現した。

 

[ウルトラマンギンガ!]『ショオラッ!』

 

 次いで律子がエックスのカードを掲げる。

 

「エックスさんっ!」

 

 同じようにリングにカードを通すと、律子の隣にエックスのビジョンが立つ。

 

[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』

 

 そしてガイがリングのトリガーを思い切り引いた。

 

「痺れる奴、頼みますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイたちとギンガ、エックスが融合を果たす!

 

『シュワッ!』『トワァッ!』

[ウルトラマンオーブ! ライトニングアタッカー!!]

 

 交差した銀河を背景に稲妻とX字の閃光が瞬き、オーブが飛び出していく!

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 勢いのままに暴れ回るガーゴルゴンの頭上を越え、その眼前に回転しながら垂直に着地した。突然己の前に降り立ったオーブにガーゴルゴンは思わず足を止める。

 オーブの身体には頭部、両肩、腕、脚の七箇所に青いクリスタルが埋め込まれている。そして銀と赤と黒の肉体はサイバーメカニックな様相であり、鎧を思わせるように隆起していた。

 ギンガとエックスの力を宿した、電光のパワーを持つライトニングアタッカーだ!

 

(♪Xの戦い)

 

『俺たちはオーブ! 電光雷轟、闇を討つ!!』

 

 堂々と名乗り口上を発したオーブが、まっすぐガーゴルゴンに向かって駆け出していく!

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 即座にオーブを敵と判断したガーゴルゴンは、接近してくるオーブに対して肩から生えている蛇の首から怪光線を発射してきた。

 

「シュッ!」

 

 だがオーブはひるまず、左右にステップを踏みながら足元に撃ち込まれてくる怪光線をかわしつつ前進、ガーゴルゴンとの距離を縮めていく。

 しかしその足に伸びてきた反対側の蛇の首が噛みつき、ひっくり返されてしまった。

 

「ウオアッ!」

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 倒したオーブに怪光線がここぞとばかりに飛んでくるが、危ないところでオーブは後転して回避した。その流れで立ち上がると、頭部のクリスタルからスパークを起こす。

 

「「『ギンガエックススラッシュ!!!」」』

 

 放たれた三叉型の光弾がガーゴルゴンの中心に命中する。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

『今だッ! 行くぞ!』

『「うんっ!」「はいっ!」』

 

 ガーゴルゴンの動きが鈍った隙にオーブは一気に間合いを詰め、相手の首筋に電光を纏ったチョップを連打する。

 

「オリャアアッ!」

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 オーブの猛攻により麻痺し苦しむガーゴルゴン。しかし、鉤爪の振り上げを食らって弾き飛ばされてしまった。

 

「ウワァッ!」

『「あうっ!」「くぅっ!」』

 

 傷を受けた胸を押さえながら踏みとどまるオーブだが、ダメージは想定以上に深く、一瞬身体がよろめいた。カラータイマーもピンチを知らせる。

 

『「あいつ、チョー強いよ……! なかなか隙がない……!」』

 

 うめく亜美。ガーゴルゴンはまだエネルギーが不完全な状態のはずだが、それでもオーブと互角以上の戦闘力を有していた。実戦はこれが初となる亜美と律子には苦しい相手かもしれない。

 と亜美が焦燥していると、律子が力強く呼びかけた。

 

『「亜美、ひるんでちゃ駄目よ!」』

『「律っちゃん?」』

 

 律子の瞳には、勇気と闘志が燃えたぎっていた!

 

『「怖気づいてちゃ苦しくなるだけだわ! 攻めて! 攻めて! 攻めていって! 奪われたみんなの命を勝ち取るのよっ!」』

 

 律子の熱い想いに亜美も同調し、目つきに力がこもる。

 

『「うんっ! 亜美も負っけないよー!」』

『その意気だ、二人とも! 勝負はここからだッ!』

 

(♪ウルトラマンギンガのテーマ)

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 ガーゴルゴンが両肩の蛇の首を伸ばしてオーブに食らいついてこようとする。それにオーブは下手に逃げようとはせず、腰を据えて堂々と待ち構えた。

 

「シェアッ! オォリャッ!」

 

 そしてうねる首の軌道を見切り、チョップと蹴り上げを仕掛けて返り討ちにした。己の身体の一部を激しく打ち据えられたガーゴルゴンが苦しげに悶える。

 今のカウンター攻撃は、相手の動きを計算する律子の分析力の賜物だ。

 

『いいぞ律子! やれば出来るじゃないか!』

『「ありがとうございますっ!」』

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 ガーゴルゴンは首を戻して怪光線攻撃に切り替えようとする。だがオーブが機先を制する。

 

「セアァァッ!」

 

 突き出した拳から電撃を繰り出し、ガーゴルゴンを鋭く撃ち抜いた。これが会心の一撃となり、ガーゴルゴンはガクガク震えて痺れた様子を見せる。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 しかしここでガーゴルゴンの動きに大きな変化が起こった。二又の尻尾を持ち上げたかと思うと先端をガラガラヘビさながらに振るわせて、バックリと口を開く。その中に隠された単眼がギョロリと蠢き、オーブに向けられた。

 

『石化光線を放とうとしてるぞッ! 食らったらお陀仏だ!』

 

 ガーゴルゴン最大の攻撃を前にして身構えるオーブ。そこで律子が叫んだ。

 

『「プロデューサー、私に任せて下さい!」』

『考えがあるんだな!』

『「はいっ!」』

『よしッ! お前を信じるぜ、律子!』

 

 エネルギーをチャージしたガーゴルゴンが、オーブへとすさまじい勢いの石化光線を繰り出す!

 その瞬間を見計らい、オーブは自身の正面に渦巻く光のバリアを展開した!

 

「「『ハイパーバリアウォール!!!」」』

 

 バリアは回転する力によって、当たった石化光線をガーゴルゴンへはね返した!

 

「アァオ――――――――ッ!?」

 

 己の光線を浴びたガーゴルゴンがみるみる石化していく。律子が叫ぶ。

 

『「見たものを石に変える怪物は、鏡に映った己の姿で退治されるものと相場が決まってるのよ!」』

『「やったね! 律っちゃんナイスー!」』

『よぉしッ! とどめと行くぜ!』

 

 オーブは地を蹴って空中に浮遊すると、石像と化したガーゴルゴンに照準を合わせて己の手足をX状にピンと伸ばした。すると身体のクリスタルに電撃が宿る。

 

「「『アタッカーギンガエックス!!!」」』

 

 オーブの全身から稲妻が発せられ、ガーゴルゴンを貫いた! X字の爆炎がガーゴルゴンを呑み込む!

 雷撃の衝撃により、ガーゴルゴンの全身が一瞬にして粉砕。風とともに崩壊して消え失せていった。

 

 

 

 ガーゴルゴン消滅と同時に、石にされた人々も皆元の姿に戻っていった。

 

「うーん……あれ?」

 

 春香たちも、博物館跡地で目を覚まして身体を起こした。

 

「こ、ここは……何がどうなったんだっけ?」

 

 石化の前後の記憶が曖昧な彼女たちは、瓦礫の山を前にしてしばらくの間呆然としていたのだった。

 

 

 

 ガーゴルゴンを倒し、変身を解除したガイは、博物館跡地で瓦礫の中から一枚のカードを探り当てた。ゴルゴンの像の中に挟まっていた、青いウルトラマンのカードだ。

 

「ガーゴルゴンを封印してたのは、ウルトラマンコスモスさんの力でしたか! お疲れさんです」

 

 ペコリと会釈したガイは、コスモスのカードもホルダーに加えたのだった。

 

 

 

 それから亜美と律子とともに瓦礫の山を踏み越えながら、仲間たちの元に戻っていくところであった。ガイが亜美と律子に対して告げる。

 

「これでみんな元通りになってるだろう。どうにか被害を最小限に抑えることが出来たな」

「とんでもない遠足になっちゃったけどさ、結果オーライだよね! これでひと安心だよー」

 

 皆を救えたことで亜美がにこにこ笑う。一方で律子は、ガイの顔を見上げた。

 

「プロデューサー……」

「ん、何だ?」

「確かに私は、自分への自信が欠けてました。それでプロデューサーにも何度か迷惑を掛けたこともあったかもしれません……」

 

 しかし今の律子の表情には、確かな自信が根づいていた。

 

「でも今回のことで、私にも出来ることがちゃんとあるんだって思えるようになりました! アイドル活動にだって足踏みしません。私だって765プロの一員……ウルトラマンオーブなんですから!」

 

 律子の元気に溢れた言葉に、ガイが大きくうなずき返す。

 

「ああ! これからもよろしく頼むぜ!」

 

 律子とガイのやり取りに明るく笑う亜美。

 

「よかったね律っちゃん! 雨降って力こぶって奴だねー」

「それを言うなら雨降って地固まる、でしょ」

 

 亜美の言い間違いに三人は大いに笑い声を発した。と、そこに、

 

「おーい! プロデューサーさーん! 律子さん、亜美ー!」

「あっ、はるるんたちだ! おーいっ!」

 

 春香たちが手を振りながら駆けてきたので、ガイたちはこちらからも彼女たちの元へと走っていったのだった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

律子「どうも皆さん! 秋月律子です。今回ご紹介するのは、つながる力のサイバーヒーロー、ウルトラマンエックスさんです!」

律子「エックスさんは2015年の『新ウルトラマン列伝』内で放送された連続ドラマ『ウルトラマンX』の主役ウルトラマンです! 過去のウルトラマンも多くの方が人間と一体化してたものですが、エックスさんは大空大地さんとコミュニケーションを取ることの多い、いわゆるバディものの作風でした」

律子「また、前作『ギンガ』までは呪いと扱われてたスパークドールズを怪獣保護と捉え直して、人と人のつながりのみならず、『コスモス』以来の怪獣との共存をメインテーマに置いた作品となってました」

律子「更には防衛チームの描写もリアリティが重視され、SFとしても従来のシリーズよりも手堅い作りになってます! このように、様々な要素が合わさって一つの形となった作品だったんですね」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『私だって女の子』だ!」

ガイ「PS3ソフト『アイドルマスターワンフォーオール』のダウンロードコンテンツが初出の律子ソロ曲で、本編後の追加シナリオにも深く関係してる。固いキャリアウーマンのようでいて内面は誰よりも女の子な律子そのものを歌い上げてるような一曲だぞ」

ガイ「律子って案外こういう曲の担当が多いんだよな。『ワンフォーオール』では律子のかわいさだって再確認できるぞ!」

律子「か、かわいいなんて……! もう、からかわないで下さいよっ!」

律子「それでは次回もよろしくお願いします!」

 




 はいさーい! 我那覇響だぞ。100%的中する予知夢を見る人がいるそうなんだけど、その人がオーブの敗北を予言したんだって! うぎゃー! プロデューサーやられちゃうの!? やよい、あずささん、プロデューサーを助けてあげて!
 次回『霧の中のTOMORROW』。予知夢なんてなんくるないさー!


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霧の中のTOMORROW(A)

 
映画見てきました。
ガピヤ星人サデスはデアボリックを食いすぎじゃね?



 

『状況を聞こう』

『偉大なるドン・ノストラ……地球にはウルトラマンオーブがいます』

『ひと思いに、ぶっ壊してやりましょう!』

『早く奴を何とかしなければ……』

「だが奴は決して無敵ではありません」

「本来の力を失ったオーブは、ウルトラマンのカード二枚と地球人の手を借りて変身しています」

「奴より強力な手札を持てばいいのです」

「合体超獣、アリチクス!!」

『闇を砕いて、光を照らす!!』

「最後に笑うのは誰かな……?」

『切り札を持つ者だ』

 

 

 

『霧の中のTOMORROW』

 

 

 

 ――地球の衛星軌道上。

 数々の人工衛星や、地球の引力に引きつけられれば隕石となる固体物質、宇宙塵やガスなど様々な物体が漂う空間の中に――。

 ――銀と赤と青の超人が描かれた、一枚のカードが人知れず混ざっていた――。

 

 

 

「ふーん。これが今噂になってるっていう、『HARUKAの夢日記』なの?」

「呼んだ?」

 

 伊織のひと言で、春香がにゅっと顔を出した。

 

「呼んでないわよ」

「なーんだ」

 

 春香は首を引っ込めた。

 

「夢日記って何ですかぁ? どうして噂になってるんですか?」

 

 デスクを囲む伊織、あずさ、やよい、貴音の内、やよいが律子に質問した。律子は四人にパソコンの画面を見せながら解説する。

 

「HARUKAっていう人のサイトなんだけど、今までに出現した怪獣のことが事前に日記に書かれてるのよ! こんなサイトがあったのを今まで知らなかったなんて、私の情報網もまだまだ穴があるわね……」

「事前に、ですか?」

 

 よく意味が分からず首を傾げるあずさ。とにもかくにも、四人は実際のサイトの内容に注目する。

 サイトにはそれぞれの記事に、怪獣のスケッチが載せられていた。伊織が記事の文章を読み上げていく。

 

「『空から巨大怪鳥、降臨』。『地を揺るがす獣がビルを沈める』。『水を穢す魔物、上陸』。……ホントに今までの怪獣が全部載ってるわ!」

 

 マガバッサー、マガグランドキング、マガジャッパ、マガパンドン、ハイパーゼットンデスサイス、アリチクス、バニアボラスら、ガーゴルゴン……スケッチは各怪獣の特徴をよく捉えていた。

 

「どれもすっごく上手に描けてるね!」

「そこ感心するところ?」

 

 やよいの言葉に伊織は肩をすくめた。律子が説明を追加する。

 

「ただのスケッチじゃないのよ。これら全部が、怪獣の出現の一日前に更新されてるの!」

 

 それにあずさ、貴音らが仰天した。

 

「一日前にですか!? それってつまり……」

「予知となりますね。何とも面妖な……」

「後から更新日を改竄したんじゃないの?」

 

 疑う伊織だが、律子は首を振る。

 

「私もそう思ってサーバーの情報を調べてみたんだけど、改竄の痕跡は見つけられなかったわ。私の目をごまかすのは常人には不可能よ」

「ってことは……このハルカっていう人は、あらかじめ怪獣を夢で見てるってことなの!?」

「すっごーい! 予知夢っていう奴!?」

 

 一気に興奮するやよいたち。律子も同様だった。

 

「第16代アメリカ大統領エイブラハム・リンカーンは暗殺される数日前に、自分の葬儀を夢に見たと言われてるわ。けどこれはそれよりはるかにはっきりとした予知夢! そのメカニズムを解き明かすことが出来れば、開発中の未来予測システムに応用できるかも! システムが完成すれば765プロは向かうところ敵なしっ! 流行を常に先取りして印税はガッポガッポ! トップアイドルへの階段を驀進よぉー!!」

 

 目の形を¥にして叫ぶ律子をよそに、伊織はサイトの最新記事を確認する。

 

「ちょっと、今日の分の更新があるじゃない! じゃあ明日にまた怪獣が出現するってこと!?」

 

 最新記事は『つばさぞう公園にて霧の中から巨大怪獣が出現』というタイトルで、霧の中で眼光を輝かせる、首元に三日月型の模様を持った怪獣のシルエットの絵が載せられてあった。

 怪獣出現、と聞いて律子は我に返る。

 

「だったら今日中にコンタクトを取って、詳しい話を伺った方がいいわね。でも何て言葉で誘いかけようかしら……」

「あの、そのハルカっていう人なんだけど……」

 

 話を傍から聞いていた春香が、再度話に入り込んできた。伊織がそちらへ振り向く。

 

「何よ春香。自分と同じ名前だから、それつながりで面会を申し込む気?」

「いや、そうじゃなくて……その人、怪獣の夢を見るんだって?」

「ええそうよ。それがどうかしたの?」

 

 律子の聞き返しに、春香は語る。

 

「実は私も、子供の時に不思議な怪獣の夢を見たんです。どこか知らない光景で、ゼットンみたいな怪獣とウルトラマンが戦ってる夢を……。それでもしかしたら話が合うんじゃないかなぁって思って」

「そうだったの。奇遇なものね。じゃ、春香、あんたがメール書いてみて」

「分かりました」

 

 律子に頼まれる春香だったが、取り掛かる寸前、それまで会話に加わっていなかったガイが呆気にとられた顔で自分を見つめていることに気がついた。

 

「……? プロデューサーさん、私の顔に何かついてますか?」

「あ、いや……何でもない。気にするな」

 

 ガイは適当にごまかして顔をそらすと、誰にも聞こえないほど小さく独白した。

 

「……まさかな。ただの偶然だろう」

 

 春香は訳が分からずキョトンとしていたが、気を取り直してハルカ宛てのメールをタイプしていく。

 

『ハルカ様。あなたの夢日記に興味を持ちました。私も、幼い頃に夢を見て、現在、頻発する怪獣出現について調べてます。あなたに特別なシンパシーを感じます。急な話になりますが、直接会って話をしませんか?』

 

 

 

 春香の招待により、夢日記の著者である霧島ハルカが765プロ事務所を訪問した。

 

「芸能事務所だなんて聞いてないんですけど……。取材はちょっとお断りしてるんで……」

 

 一番に不平を口にしたハルカに対して律子が取り成す。

 

「いえ、記事にはしませんからご心配なく。私たちの個人的な興味ですから」

「どうぞ、お茶です。ごゆるりとなさって下さい」

 

 ソファで春香と向かい合ったハルカに小鳥がお茶とケーキを出した。他の者が一旦退いてから、春香とハルカの対談が始まる。

 

「それじゃあ霧島さん、いつから予知夢を見るようになったんですか?」

「子供の頃から……不吉な前兆をよく夢に見ていたんです。それが最近、怪獣の夢ばっかり見るようになって……」

「じゃあ、今朝の日記もですか?」

「はい……」

「夢の通りなら、明日、つばさぞう公園に怪獣が現れるってことですよね?」

「でしょうね……」

「でしょうねって……」

 

 ここでやよいが興奮気味に話に入ってきた。

 

「すごいことじゃないですか! 怪獣の出現が先に分かるんなら、たくさんの人を助けられることにもなりますよね!」

「無理……」

「え?」

 

 今のひと言に春香たちは呆気にとられた。

 

「明日は見えても、明日を変えることなんて出来ない……」

「どういう意味ですか……?」

 

 春香が問い返すと、ハルカは暗い面持ちとなる。

 

「運命には逆らえないってこと……! こんな力があっても、今までいいことなんて何もなかった……」

 

 その様子に伊織は眉をひそめて、隣の貴音に囁きかけた。

 

「何だかネガティブな人ね……」

「人と異なる才能を持つ者は、往々にしてその才能で思い悩むものです」

 

 ハルカは春香を見つめ返して問いかける。

 

「天海さん、あなたは違うんですか?」

 

 すると春香が、自分の夢に関して語り出す。

 

「私の場合はですね、小さい頃に、光の巨人の夢を見たんです。アイドルになろうと思ったきっかけも、光り輝く巨人のまぶしさに憧れの気持ちを持ったからなんです。あんな風に、私も輝けたらなって、そう思って」

 

 どこか明るい顔で語る春香の言葉を、ハルカは神妙な面持ちで受け止める。

 

「あの夢にどんな意味があるのか、それはまだ分からないけど、ウルトラマンオーブとは何かつながりがあるんじゃないかと感じてるんです。霧島さん、あなたの見る予知も、もしかして誰かの運命に関係があるんじゃないでしょうか?」

「……」

 

 ハルカが黙ったままでいると、我関せぬ顔で雑誌をめくっていたガイが声を発する。

 

「明日は晴れか。やよい、格好の洗濯日和だぞ」

「あっ、そうなんですか? ありがとうございますプロデューサー!」

「ちょっと、今取り込み中なんですよプロデューサー!」

 

 律子が咎めたが、ハルカは席を立ってしまう。

 

「もういいですか? 私はこれで……」

「えっ?」

「失礼します」

「あっ、ちょっと待って!」

「ケーキいらないんですかー!?」

 

 律子ややよいが引き留めようとしたが、ハルカはスケッチブックと荷物を持ってそそくさと事務所から退散していってしまった。

 

「ああ……! ちょっとプロデューサー、あなたが変な茶々入れるから逃げられちゃったじゃないですか! まだ未来予知のメカニズムは全然解析できてなかったのに!」

 

 律子がガイに文句を入れるが、ガイは平然と言い返した。

 

「ふんッ、俺は予知で稼ごうなんてせこいやり方には反対なんでね」

「せ、せこいって何ですか! 私はこの事務所のためを考えてですねぇ!」

 

 律子がギャアギャア喚いているのとは別に、やよいはあずさを相手につぶやく。

 

「何だかあの人のこと、心配です。ずっと悲しそうな顔をしてました……」

「そうね……。何か、大きな悩みごとでも抱えてるのかしら……?」

 

 心優しいが故に気に掛ける二人は、ハルカの出ていった玄関の扉をじっと見つめたままでいた。

 

 

 

 ――つばさぞう公園を中心に、霧の中に蠢く怪獣が町を破壊していく。

 ――それを前にして、ガイとやよい、あずさがリングにカードを通す。

 ――三人が合体したオーブが、怪獣の前に立つ。

 

 

 

「……!」

 

 つばさぞう公園の中で、石段に腰かけたままうたた寝していたハルカはハッと目を覚ました。――周囲には怪獣の影もなく、人々は穏やかな時間を過ごしている。

 

「平和だなぁ」

 

 不意にそんな声がして、ハルカが顔を横に向けると、そこにガイとやよい、あずさの三人が同じように腰を下ろしていた。あずさが微笑を浮かべながら小さく手を振る。

 

「明日、ここに怪獣が現れるなんて誰も知らない。こんな穏やかな日常が明日も、明後日もずっと続けばいいのに……。あんたもそう思わないか?」

「プロデューサー、私にもラムネ下さいっ」

「私にもお願いしますわ」

「はいよ。どうぞ」

 

 ガイたちがラムネの壜に口をつけていると、ハルカが三人を指差した。

 

「ウルトラマンオーブっ!」

 

 ガイたちはそろってラムネを噴き出した。

 

「ごほごほっ! むせちゃいました……」

「いきなり何言い出すんだッ!」

「今夢で見たの! 明日あなたたちがウルトラマンオーブになって怪獣と戦う姿を!」

「そ、それはただの夢ですよ」

 

 あずさが冷や汗垂らしながらもごまかそうとしたが、通用しなかった。

 

「あなたたちは不思議なリングとカードを持ってた! その力でウルトラマンになるんでしょ? ……そうか! あの事務所はそのためのもの……!」

「そこまでお見通しとはッ……!」

「お、恐ろしいですぅ~……!」

 

 戦慄するガイとやよい。

 

「じゃあホントにウルトラマン……!」

「バカ! 声がでかい!」

「すごーい! みんなは救世主とか光の巨人とか言ってるけど、正体がアイドルとプロデューサーなんて! こんな身近なところにいたんだ!」

「何なにー!? ウルトラマンオーブ?」

「な、何でもないですよみんなー! オーブってカッコいいよね~!」

「う、うふふ、みんな仲良さそうでいいわねぇ」

 

 近くの子供たちが騒ぎを聞きつけて集まってきたので、やよいとあずさが必死にごまかした。

 子供たちを解散させて一旦仕切り直すと、ガイが改めてハルカに名乗った。

 

「俺の名は紅ガイ。あんたの力を借りたい」

「えっ?」

「明日から現れる怪獣からこの町を救いたいんだ。夢のこと、詳しく聞かせてくれないか?」

 

 と頼むガイだが、ハルカはため息を吐くばかりだった。

 

「言ったでしょ? 明日は見えても、明日を変えることは出来ないって……」

「どうして言い切れる?」

 

 ガイが尋ね返すと、ハルカは語り始めた。

 

「子供の頃から、見るのは決まって不吉な夢ばっかりだった。初恋の男の子が転校して失恋する夢とか……パパとママが喧嘩して、家族がバラバラになる夢とか……。しかもそれは全部現実になった! 運命はあらかじめ決まってるんだって思い知らされた……。どうせ運命を変えられないならこんな力、初めからなければよかったのに……」

「……本当にそう思うか?」

 

 ハルカの言葉をさえぎるように聞き返すガイ。

 

「えっ……」

「だったら、何故絵を描き続けてる。何故夢日記のサイトを始めた。あんたは、心のどこかで信じてるんじゃないのか? その絵が……いつか誰かの運命を変えられるんじゃないかって」

 

 指摘するガイだが、するとハルカは逆上したように声を荒げた。

 

「私は救世主じゃない! あなたたちみたいに運命を変える力なんて――」

「俺だって同じだッ! 救世主なんかじゃない」

 

 きっぱりと言ったガイに、話に立ち会っているやよいとあずさが振り向いた。

 

「プロデューサー……?」

「……かつて救えなかった大切な命もある。その時に、本当の姿と、力を失っちまった。今は他のウルトラマンと、こいつら765プロの仲間の力を借りて戦ってる」

 

 やよいたちは、そうだったのか、という表情でガイを見つめていた。

 

「過去は変えられない……。けど、未来は変えられるんだ」

 

 ガイの説得の手助けをするように、やよいもハルカに呼びかける。

 

「私たちも、未来はきっと輝いてる。そう信じて、どんな敵が相手でもプロデューサーと一緒に戦ってます。少し不安もあるけれど……それでも大丈夫、未来は変わるって。ハルカさんも……私たちを信じてくれませんか?」

 

 あずさもまた説得に加わった。

 

「この世に意味のないものなんてないって、私思うの。あなたの力も、何か出来ることがあって神さまから与えられたものだと思うわ。だから、まずは自分自身を信じてみてちょうだい。未来を変えることは、そこから始まるものよ」

 

 説かれたハルカは、深く悩みながらも考え込んで、己の腕の中のスケッチブックを抱き締めた――。

 

 

 

 事務所では、春香に呼ばれた渋川がケーキをぱくつきながら夢日記のサイトを見せられていた。

 

「へぇ~? 夢日記ねぇ」

「叔父さん、ホントなんです! 霧島さんの予知夢は当たります。ビートル隊でも明日に備えて、対策をお願いします!」

 

 春香の懇願に、渋川は苦笑しながらうなずいた。

 

「分かった分かった。上に報告しとくわ」

「お願いします!」

「そんじゃあ俺はこれで。ケーキご馳走さん!」

 

 ケーキを完食して事務所から立ち去っていった渋川について、伊織が小鳥に尋ねる。

 

「渋川のおっさん、ホントにどうにかしてくれるかしら? あんまり真面目に話聞いてたように見えなかったんだけど」

「まぁ、無理もないと思うけどね……。傍から見たら、突拍子もないことに映るだろうし」

「何にせよ、今出来ることは全て行いました。後は天命を待つのみです……」

 

 貴音が胸に手をやりながら結論づけた。

 

 

 

 その日の夕方、アイドルたちの帰宅間際、ガイとやよい、あずさは律子と話をしていた。

 

「律子さん、霧島ハルカさんのサイトはどうなってるでしょうか?」

 

 やよいが質問すると、サイトの更新状況を確認した律子が答えた。

 

「新しい記事がアップされてるわ。つばさぞう公園に怪獣が現れることで、読者に警告の伝播を促す内容よ。彼女は自分の予知夢が、人命を救うことにつながるよう働きかけたみたい」

「そうですか!」

 

 やよいとあずさはそれに喜んだが、ガイは難しい顔のまま律子に問い返す。

 

「それを実際に読んだ人たちの反応は?」

 

 すると律子も同じように難しい表情となった。

 

「残念ながら、芳しくありませんね……。そもそも予知夢を信じない、不吉な予知夢を糾弾する、怪獣出現の責任をなすりつける、そんなコメントばかりです」

「そうか……」

「まるで炎上した時の私たちのサイトみたいな様相で……」

 

 律子から知らされたことに、やよいとあずさは一転して落胆した。

 

「残念です……。霧島さんも、きっと落ち込んでますよね……」

「せっかく、私たちを信じてやってくれたのにね……。彼女の元気がますます失われると考えたら、辛いわ……」

 

 二人はハルカのことを、己のことのように考えて、深く心配していた。

 

 

 

 そして深夜――問題のつばさぞう公園に、怪しい雰囲気の霧がもうもうと立ち込めていた。

 

『ウアアアア……アアアアアア……』

 

 濃霧の中で、大きな人型の影がゆらりゆらりとゆらめいている。そしてこれを、興味深げに観察している者がいた。

 ジャグラスジャグラーであった。

 

「ほぉう……マイナスエネルギーで一匹の怪獣が生まれようとしている。しかもかなり濃厚なエネルギーだ……。これは面白いことになりそうだな」

 

 つぶやきながら、ジャグラーはダークリングを取り出す。

 

「お前の誕生を、この俺が祝福してやろう。こいつはお祝いのプレゼントだ……!」

 

 リングに続いて手にしたのは、首元に三日月型の模様を持つ、三本の牙を生やした怪獣のカードだった……。

 



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霧の中のTOMORROW(B)

 

 ――まぶたを開いたハルカは、周りが怪しい霧に覆われていることにまず気がついた。

 そして霧の向こうに、オーブが立っている。その巨大な姿を見上げるハルカ。

 が、突如オーブの背後に黒い煙のようなものが集まって赤い眼を輝かせる大怪獣が出現。

 

『ギイイイイイイイイ!』

 

 怪獣は赤い両目から熱線を発射し、無防備なオーブの背中を撃った!

 

『グワアアアアッ!』

 

 不意打ちを食らったオーブがその場に倒れ、ガイとやよい、あずさの姿に戻って地に伏せた。三人はそのまま、ピクリとも動かなくなる。

 

「いやあああああああ――――――――――っ!!」

 

 悲鳴を発するハルカ。――その自分の声により、ハルカは飛び起きた。

 

「はっ……!」

 

 今いる場所は己の部屋。昨夜自分のサイトを更新してから、寝入ってしまったようだった。現在の時刻は、朝の8時20分。

 

「――ウアアアアアアアア……!」

 

 その時、遠くから怪獣の鳴き声を確かに耳にし、ハルカの顔がさっと青ざめた。

 

 

 

「ウアアアアアアアア! ギイイイイイイイイ!」

 

 怪しい霧が立ち込めるつばさぞう公園では、霧の中から巨大怪獣が出現していた。赤い両眼にピンと立った大きな耳、裂けた口から覗く三本の牙、首元には三日月型の模様、植物の葉のような手甲に、指からは剣呑な鉤爪が伸びている。

 昨晩誕生しようとしていた怪獣ホーに、居合わせたジャグラスジャグラーが怪獣クレッセントのカードを合成して生み出された、マイナス合体怪獣クレッセンホーである!

 

「きゃあああああっ!」

 

 クレッセンホーの出現に、公園にいた人々は一斉に悲鳴を上げた。

 

「早く! 急いで急いで! 早く! 急いで!」

 

 昨日の春香からの頼みによってつばさぞう公園に来ていた渋川は一般市民を避難させていくと、ビートル隊本部へと連絡をつないだ。

 

「つばさぞう公園周辺、避難完了! ……本当に現れやがった! 春香ちゃんの言った通りだ!」

 

 別の場所では、ガイとやよい、あずさが動き出したクレッセンホーを発見し、公園まで駆けつけてきた。

 

「とうとう現れやがったか!」

「プロデューサー、あそこに霧島さんが!」

 

 やよいが指し示した先で、ハルカがクレッセンホーを見上げて立ち尽くしていた。三人はすぐにそちらへと走っていった。

 

「ハルカ!」

「ガイさんたち!」

「奴は人間のマイナスエネルギーに反応して暴走する!」

「早く止めましょう!」

 

 あずさに促されてクレッセンホーの方へ向かっていこうとするガイたちであったが、それをハルカが呼び止める。

 

「待って! あなたたちはあの怪獣には勝てない!」

「えっ!?」

「何言ってる!?」

 

 驚くやよいたち。ハルカは必死の形相で告げた。

 

「夢で見たの! あなたたちはあの怪獣に敗れて……。やっぱり明日は変えられない! 現にここまで全て夢の通りだわ! 運命には逆らえないのっ!!」

「おいッ!」

 

 泣き崩れるハルカを支えるガイとあずさ。一方でクレッセンホーは、ハルカの絶叫とともに増殖した霧を首の孔から吸い込んでいく。

 

「ウアアアアアアアア……!」

 

 霧を吸収したクレッセンホーは両目からポロポロと涙を流す。足元の建物に当たった涙は、天井を溶かして建物全体をドロドロに崩壊させていった。

 

「あの怪獣、泣いてます……!」

 

 やよいが言うと、ガイがハルカに顔を向けて告げる。

 

「いいかハルカよく聞け! 奴を暴走させてるのは……あんた自身! その悲しみと絶望なんだ! 運命には逆らえない……その思いこそがマイナスエネルギーの正体! あんたの絶望してる心が、あそこで泣いてるんだ!」

「……嘘よ……私があの怪獣を……」

「嘘なんかじゃないしっかりしろッ! あんた自身の心が、明日を闇に染めてどうする!!」

 

 クレッセンホーはマイナスエネルギーの霧を吸収しながら、両眼から熱線を放って街を破壊していく。このままでは被害は拡大していくばかりだ。

 

「プロデューサーさん、早くどうにかしないと……!」

「ええ……!」

「待って!」

 

 それでもガイたちを止めるハルカだが、やよいが力強い表情で彼女に訴えかけた。

 

「大丈夫です! 私たちは負けませんから!」

「え……?」

「運命なんて知りません! 私たちが霧なんか吹き飛ばして、明るい明日を取り戻しますっ! ハルカさんにも明日を取り戻してみせますから! だから……応援してて下さいっ! それで十分ですー!」

「ああ! 運命なんて、俺たちで変えてやるぜ!」

 

 ガイたちは決意を固めて、オーブへの変身を行う。

 

「タロウさんっ!」

[ウルトラマンタロウ!]『トァーッ!』

 

 あずさがタロウのカードをオーブリングに通す。

 

「メビウスさんっ!」

[ウルトラマンメビウス!]『セアッ!』

 

 次いでやよいがメビウスのカードを通し、ガイがリングのトリガーを引く。

 

「熱い奴、頼みますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイ、やよい、あずさがフュージョンアップし、オーブの姿へ一体となる!

 

『トワァッ!』『タァッ!』

[ウルトラマンオーブ! バーンマイト!!]

 

 街に侵攻するクレッセンホーの足下に上から二発の火炎弾が撃ち込まれ、立ち止まらせたところにオーブが正面に着地した。

 

『紅に燃えるぜ!!』

「ウアアアアアアアア! ギイイイイイイイイ!」

 

 クレッセンホーはオーブの足元を狙って熱線を撃ち、先制攻撃を仕掛けた。オーブは反射的に後ろへ転がり込んで回避する。

 

「シュアァッ!」

 

 体勢を直したオーブは地を蹴って前に飛び出し、クレッセンホーの首を抱え込んだ。そのまま締め上げてひるませた隙に強烈なヘッドバッドを一発お見舞いする。

 

「テヤァーッ!」

「ウアアアアアアアア!」

 

 苦しんだように見えたクレッセンホーだが、オーブが追撃を掛けようとしたところを裏拳で迎撃。腹に不意打ちをもらったオーブがくの字に折れる。

 

『「きゃあっ!」』

 

 更に鉤爪で引っかいてきて、よろめいたオーブをぶちかましで吹っ飛ばした。

 

「ドアァァァーッ!」

 

 転がりながらも起き上がるオーブだが、すかさず熱線が飛んできて更に弾き飛ばされてしまった。パワーに優れるバーンマイトを上回るとんでもない威力だ!

 

『「す、すごい力ですぅー!」』

『奴はマイナスエネルギーによって力を増す……! それだけハルカの絶望が深いということだ!』

 

 オーブが地面に叩きつけられた様を見せつけられて、ハルカは頭を振った。

 

「やっぱり勝てない……! 運命を変えるなんて無理なのよっ!」

「ギイイイイイイイイ! ウアアアアアアアア!」

 

 クレッセンホーはオーブに詰め寄って、起き上がろうとしているのをしたたかに蹴りつけた。そのまま何度も蹴り飛ばし続けてオーブを痛めつける。

 

「ドワァッ! ウワァッ!」

「ウアアアアアアアア! ギイイイイイイイイ!」

 

 そして仰向けになったオーブを繰り返し踏みつける。ダメージが重なるオーブのカラータイマーが点滅して危機を知らせた。

 

「このままじゃ……!」

 

 絶望に暮れるハルカであったが……そこに、やよいの声が響いてきた。

 

『「私たちは……負けませんっ!」』

「え……!?」

 

 それはオーブの中からやよいが発している言葉が、テレパシーとなってハルカに届けられているのだ。

 

『「悲しみになんか負けちゃダメです! 未来は変えられる……! 明日は泣き顔じゃなく、笑顔で迎えるものなんだってことを、私たちからハルカさんに教えなきゃいけないんですぅっ!」』

『「ええ……! 私たちを見てくれてる人の心を、元気づけなくっちゃ……! 私たちはアイドルなんですものっ!」』

 

 あずさも力を振り絞り、オーブに気力を与えた。二人からパワーをもらって、オーブは振り下ろされたクレッセンホーの足を受け止める。

 

『俺だって、これくらいで負けちゃいられねぇぜ……! 運命を変えてみせるッ!』

 

 彼らの声により、ハルカの暗く沈んだ心が動き始めた。

 

「運命を……変える……変えなくちゃ……!」

 

 そしてクレッセンホーの足を押し返すオーブに向かって、力いっぱい叫んだ。

 

「負けないで! ウルトラマンオーブ!!」

「オリャアッ!!」

 

 それが後押しとなって、オーブはクレッセンホーを見事押し返した!

 ――と同時に、空の彼方で何かがキラリと光った。

 

「シュアッ!」

 

 立ち上がったオーブはエネルギーを全身に集中し、燃えたぎる火炎で身体を包む。

 

「「『ストビュームダイナマイトぉぉ―――!!!」」』

 

 その状態でクレッセンホーに突進し、張り手を顔面に叩き込む。

 

『「ハイ! ターッチ!!」』

 

 クレッセンホーは火炎によって跡形もなく爆散! オーブはゆっくりと立ち上がる。

 

『やったな……!』

『「はいっ!」「ええ……」』

 

 しかしその時――背後の空から、ひと筋の光がオーブに向かって降ってくるのに、ハルカが気がついた。

 

「後ろっ! 何か飛んでくるっ!」

「!」

 

 オーブは反射的に跳躍し、大きく宙返りする。

 

「ギイイイイイイイイ!」

 

 それと、オーブの後方に黒い煙状のマイナスエネルギーが集まってクレッセンホーが復活し、熱線の不意打ちを仕掛けてきたのが同時であった。

 結果的にオーブは熱線を跳び越えた。ハルカはあっと驚く。

 

「運命が……変わった……!」

 

 宙返りしたオーブのカラータイマーに光が飛び込み、内部のやよいの手の中に収まった。オーブはクレッセンホーの背後を取り返して着地する。

 

『「これは……!」』

 

 光はやよいの手の中で、銀と赤と青のウルトラマンのカードの正体を現した。

 

『それは、ウルトラマンダイナさんのカード! 宇宙から飛んできたのかッ!』

『「でも、どうしてこのタイミングで?」』

 

 驚いてやよいの手中のカードを見つめるあずさが聞くと、ガイがハルカに目をやりながら答えた。

 

『きっと二人と、ハルカの明日を信じる強い気持ちに呼応したんでしょう。そしてそれが……運命を変える力となった!』

『「ダイナさん……ありがとうございますっ!」』

 

 やよいがカードに礼を告げると、あずさの手にはオーブリングとティガのカードが授けられた。

 

『俺たちも変わるぜ!』

 

 オーブの言葉を合図に、あずさがリングにティガのカードを通す。

 

『「ティガさんっ!」』

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

 

 そしてやよいはダイナのカードを通す。

 

『「ダイナさんっ!」』

[ウルトラマンダイナ!]『デヤッ!』

 

 やよいの隣に、ウルトラマンダイナのビジョンが現れる。

 

『光の力、お借りしますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 あずさがトリガーを引き、ティガとダイナのビジョンがあずさ、やよいと融合!

 

『タァーッ!』『ジュワッ!』

[ウルトラマンオーブ! ゼペリオンソルジェント!!]

 

 青い輝きと回る淡い緑色の光の中から、姿を変えたオーブが飛び出していく!

 銀と赤と青と黒、スペシウムゼペリオンと似た色彩の肉体だが、肩から胸部に掛けて金色のプロテクターが装着されている。ティガとダイナの光の力を借り受けて変身した、ゼペリオンソルジェントだ!

 

(♪光の巨人、ふたたび)

 

『俺たちはオーブ! 光の輝きと共に!!』

 

 新しい姿となったオーブに対して、クレッセンホーはマイナスエネルギーを吸い込んで力を高めようとしたが――霧は全く得られず、ボフッと首の孔から煙が抜け出た。

 

「ウアアアアアアアア……!」

「シュアッ!」

 

 オーブは身体の青い部分を輝かせると、残像が残るような高スピードで移動し、クレッセンホーの背後を取った。

 

「ギイイイイイイイイ!」

「テヤッ!」

 

 次に赤い部分を輝かせてクレッセンホーに掴みかかり、もりもりと腕の筋肉を浮き立たせて頭上に高々と持ち上げた。

 

「オォォリャアッ!」

「ウアアアアアアアア! ギイイイイイイイイ!」

 

 そのまま地面へと投げ飛ばす! クレッセンホーは先ほどまでと反対に地表に叩きつけられ、大仰にもがき苦しんだ。

 状況に合わせてパワーとスピードのどちらかを高めて戦いを有利に運ぶ、マルチアクションがゼペリオンソルジェントの一番の利点である。

 

『よしッ、行けるぞ!』

『「はいっ! 勝負を決めましょー!」』

『「待って! 怪獣の様子がおかしいわ」』

 

 追撃を掛けようとするやよいだが、あずさが制止する。オーブの視線の先で、起き上がったクレッセンホーに異常が発生していた。

 

「ウアアアアアアアア……! ギイイイイイイイイ……!」

 

 姿が大きくぶれ、ホーとクレッセントの二体の怪獣に分かれていっているのだ。マイナスエネルギーが急激に減少したことにより、合体も維持できなくなっているようだ。

 

「ギイイイイイイイイ!」

 

 とうとう二体は完全に分離し、クレッセントが鉤爪を振りかざしてオーブへまっすぐ向かってくる。しかしオーブは動じず、両手に光刃を纏わせると一回転した勢いで思い切り投げ放つ!

 

「「『マルチフラッシュスライサー!!!」」』

「ギイイイイイイイイ!!」

 

 ふた振りの光刃がクレッセントを貫き、マイナスエネルギーとして霧散させて消滅させた。

 

「シェアッ!」

 

 残ったホーに対して構え直すオーブだが……ホーは立ち尽くしたまま動こうとしない。

 

「ウアアアアアアアア……」

 

 その眼からはほろりと涙の雫が垂れた。これを見たオーブは、静かに胸の正面に伸ばしてから左右に開いた両腕を外回りに回し、L字に組んで光線の発射ポーズを取る。

 

「「『ゼペリジェント光線!!!」」』

 

 放たれた光線の奔流がホーに命中し、光の粒に分解して消し去った。――二体の怪獣を消滅させたオーブは、ハルカの方へ振り返ってじっと見下ろす。

 ハルカの顔からは、怪獣とともに悲嘆の色が消えてなくなっていた。それを見て取ったやよいとあずさは顔を見合わせて、フフッと微笑みを浮かべた。

 

「シュワッ!」

 

 オーブは空高く飛び上がると、明日の太陽へ向かってまっすぐ飛び去っていった。

 

 

 

 数日後、ガイはアイドルたちに呼ばれて近くの公園の草野球場に来ていた。

 

「あいつら、こんな場所に俺を呼び出してどういうつもりだ?」

「あっ、プロデューサー来ましたぁ! プロデューサ~!」

 

 やよいの声がしたのでそちらに振り向くと、765プロアイドルに加えてハルカ、更には近所の子供たちが、野球のユニフォーム姿で駆け寄ってきた。

 

「お前ら! そんな格好してどうしたんだ?」

「野球場にユニフォーム着てるのなら、野球やるに決まってるじゃない」

 

 伊織が呆れて肩をすくめた。やよいが詳しく説明する。

 

「霧島さんもすっかり元気になりましたし、お友達になった記念にみんなで遊ぶことにしたんです! 私が企画したんですよー!」

「なるほどな。でも何で野球なんだ」

「私が好きだからですぅ!」

 

 単純な理由を元気良く告げたやよいに、周りが苦笑を浮かべた。そして子供たちも交えて二つのチームに分かれて、試合を開始する。

 

「行っくよー! それぇっ!」

「えーいっ!」

 

 真の投げた球を響が力いっぱい打つと、大きく打ち上がってセンターへ飛んでいく。ポジションは春香だ。

 

「春香、そっち行ったよー!」

「オーライオーラ―イ! ってうわぁっ!!」

 

 キャッチしようとした春香だがエラーして、ボールが頭にごっつんこ。おまけにどんがらがっしゃーん! とすっ転んだ。

 

「春香さん、大丈夫ですかー!?」

「もう、春香ったらドジね」

 

 千早たちが思わず笑っている様子を、野球場の外から苦笑いして見守っているガイに、ハルカが近寄っていって囁きかけた。

 

「ガイさん、あなたたちの未来を夢に見たの」

「またか?」

「ええ。……それも、とても不吉な夢。あなたがとても辛そうな顔で、黒いカードに手を伸ばしてるの。そして……」

 

 ハルカは、恥ずかしそうに頭をさすりながら立ち上がっている春香を見やった。

 

「あの子が、黒いカードの闇に覆われていく……」

「春香が……?」

「それが何を意味してるのか……」

 

 一瞬目を伏せたハルカだが、すぐに顔を上げてガイに呼びかける。

 

「でも心配しないで! どんな運命も、きっと乗り越えられるから。あなたたちが教えてくれたもの!」

 

 期待されて、ガイは苦笑を浮かべた。

 

「そいつは頼もしいな」

「ガイさん、しっかりね。プロデューサーとして、アイドルのみんなを引っ張っていってあげて」

「ああ。あんたも、また明日を見失っても探せばいい。幸せになれよ」

「ありがと」

 

 話し合っていた二人に、やよいとあずさが手を振りながら呼びかけた。

 

「プロデューサーさんたちも、一緒にプレイしましょーよー!」

「みんなで交代しながら、楽しく遊びましょう。うふふ」

 

 誘われたガイたちは微笑して、やよいたちの方へ向かっていった。

 

「よぉーしッ! 俺の特大ホームランを見せてやるぜ!」

「お手柔らかにお願いしますよー」

 

 それから皆そろってわいわいと楽しみながら、野球に興じたのであった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

やよい「高槻やよいですぅー! 今回ご紹介するのは、うっうー! ウルトラマンダイナさんでーっす!」

やよい「ダイナさんは1997年放送の『ウルトラマンダイナ』の主役ウルトラマンですぅ! 前作『ティガ』から七年後を舞台にした作品で、はっきりと世界観がつながってるんですよぉ」

やよい「昭和の時代のウルトラ兄弟シリーズも世界観は同じでしたが、登場する防衛隊やキャラクターなどはほぼ全部新しくなってたのに、『ダイナ』は前作と色んなところが共通してるんですぅ。『ティガ』の時代のキャラクターや話もよく出てきて、今までにないくらいはっきりと続編として作られたんです」

やよい「作風はシリアス寄りだったのが明るく楽しい感じに変わってますけど、ストーリーや設定はちゃんと出来上がってて、肝心なところではしっかりとシリアスに締めてました。作品全体の熱さも抜群ですよー!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『Maybe TOMORROW』だ!」

ガイ「アニメ『ぷちます!』の三つあるエンディングテーマの内の一つで、やよい、貴音、伊織、あずささんの四人が歌っていたぞ! 「昨日」、「今日」と続いてタイトル通り「明日」をテーマに、明るさと前向きさを押し出した一曲だ!」

ガイ「ちなみに『ぷちます』は元は二次創作だったのが公式化して、今も連載が続いてる。漫画作品では最も息が長い作品だな」

やよい「はわぁ、すごいですぅ~!」

やよい「次回もまたよろしくお願いしまーすっ!」

 




 天海春香です! 千早ちゃんがプロデューサーさんを連れて行った先は、お墓。そこでプロデューサーさんは千早ちゃんの家庭の事情を知りました。けれど、千早ちゃんたちをつけ狙う影があったんです! 危ない、二人とも!
 次回、『時をこえた約束』。親子の絆が奇跡を呼びます!


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時をこえた約束(A)

 

「それより、歌の仕事はいつ取ってきてくれるんですか?」

「――お陰で、世界は救われたのね」

「私も、今日は事務所に泊まってプロデューサーについてるわ」

「いいんですよ。プロデューサーが回復したのなら、それで」

「流石元民俗学者だけあって、お詳しいですね」

「この調子でどんどん有名になりたいわね」

「えっ、私は別に……」

「……歌を歌うためには、まず何よりも世界が存続してることが第一よね」

 

 

 

『時をこえた約束』

 

 

 

『ゼットォーン……』

『テヤッ! オリャアッ!』

 

 ――夜の闇と降り積もった雪に覆われた深い森の真ん中で、光り輝く巨人と、禍々しい光を放つクリスタルを顔面の中央に埋め込んだ黒い怪物が激しく戦い合っていた。

 

「えっ……?」

 

 人智を超えた巨躯の生物同士による、超常的な争いを――春香が見上げていた。

 

「こ、ここは……?」

 

 呆気にとられる春香。周囲は生まれてこの方、見た覚えが全くない場所。そして記憶にないはずの、巨人と怪獣の戦いの光景。

 そして思い出す。これは、子供の頃に見た夢であると。すると次に起こることは――。

 

『ゼットォーン……』

 

 ゼットンと思しき怪獣が、顔面のクリスタルから作り出した膨大な熱量の光球を、巨人――ウルトラマンに飛ばした!

 

『オワアァァァァァッ!』

 

 光球の爆発はウルトラマンのみならず、春香の方にまで迫ってくる!

 

「きゃあああああっ!」

 

 悲鳴を上げる春香。――だが、横合いから何かが猛然と飛び出してきて、一瞬で春香を抱えて爆発から救ったのだ。

 

「うっ……だ、誰……?」

 

 春香は己を助けた者の顔へ振り向こうとして――そこで目の前が真っ白になった。

 

 

 

「――あだっ!?」

 

 ドデンッ! と春香はテーブルからずり落ちた衝撃で目を覚ました。頭をさすりながら、リビングの床から起き上がる。どうやらテーブルに寄りかかってうたた寝していたようだ。

 

「あたた……久しぶりに、あの夢見たなぁ……」

 

 先日霧島ハルカと話をしたためだろうか……と考えていると、キッチンから千早が慌てた様子で顔を覗かせた。

 

「春香、大丈夫!? すごい音したけど」

「う、うん。大丈夫だよ千早ちゃん。ありがとう」

「ならいいけど……。気をつけてね」

 

 ここは春香と千早が同居しているマンションの部屋。春香はアイドルになる夢を叶えるために、親に無理を通して地元北海道から単身で東京まで上京してきた。そして765プロで千早と出会って仲良くなり、ルームシェアするまでに至ったのだ。

 息を吐いて春香の向かい側に腰掛けた千早は、ふと思い出して春香に告げる。

 

「そういえば春香、またご実家から段ボールが届いてたわよ」

「えっ、またジャガイモの仕送り?」

「そうみたいね」

 

 うなずかれて、春香はうんざりした顔でため息を吐いた。

 

「もう、ママったら。そんなジャガイモばっかり送られても、食べ切れないっていつも言ってるのにぃ」

「また事務所のみんなに分ければいいじゃない」

「嫌だよぉ、お芋ばっかりおすそ分けなんて。亜美と真美なんか芋はるるんとか言ってからかってくるんだよ? 芋はるるんって何よぉ~」

 

 春香は頬をぷくーと膨らませながら不満を垂れる。

 

「それにまたいい人は見つかったのかって催促の手紙が入ってるに違いないし。アイドルなんだから、男の人とつき合ったりなんかしたらスキャンダルになっちゃうよ。そう言ってるのに、ママったら全然分かってくれないんだから……」

 

 そんな春香の様子に、千早はくすくす笑いをこぼした。

 

「それだけお母さんが心配してくれてるってことじゃない。このマトリョーシカだって、家の大事なお宝だけど、春香のために渡してくれたんでしょ?」

 

 部屋の隅に飾られているマトリョーシカ人形に手を伸ばして、一つ一つ開いていく。

 

「春香の家に代々受け継がれてるお守りなんだって?」

「あっ、最後の一つは開けないでね。幸せが逃げるって言われてるんだ」

「そうなの」

「それを遺したひいひいおばあちゃんも、決して開けないようにって遺言したんだって。ただ、ひいひいおばあちゃんの大切な人を見つけた時だけ開けていいってことらしいけど。……まぁもう亡くなってるだろうから、どの道開ける時なんてもう来ないと思うけどね」

 

 春香の説明を聞きながら、千早はマトリョーシカ人形をじっと見つめる。

 

「……ともかく、お母さんは春香のことを大事に想ってくれてるってことよ。……羨ましいわ……」

「えっ……?」

 

 最後の独白に、春香は呆気にとられて千早の横顔に振り向いた。

 しかし、千早がとても寂しそうな表情をしているので、今のはどういうことかと質問することは出来なかった。

 

 

 

 数日後、高木はガイと小鳥の前で、社長室の己の椅子におもむろに腰を下ろした。すると小鳥が高木に呼びかける。

 

「社長、長期の海外出張お疲れさまでした」

「うむ。いやぁこの歳で海外巡りはなかなか骨が折れたが、その分大きな収穫があったよ。ガイ君、これを見てくれ」

 

 高木はデスクの上にアタッシュケースを置き、留め金を開いてガイに見せた。ガイが思い切り目を見開く。

 

「これは……ウルトラマンマックスさんとヒカリさんの力!!」

 

 ケースの中身は、それぞれ赤と青のウルトラマンのカード二枚であった。高木が満足そうにうなずく。

 

「うむ。それぞれメキシコとジョンスン島の古代遺跡から発掘されたものを譲ってもらったんだ。もちろん、これらは君に託そう。存分に役立ててくれ」

「ありがとうございます、社長!」

 

 ガイは意気揚々と二枚のカードを手に取った。

 

「マックスさん、ヒカリさん、これからお世話になります」

 

 カードに向かって会釈して、他のカード同様にカードホルダーの中に仕舞った。それを見届けて小鳥がにっこり微笑む。

 

「どんどんウルトラマンのカードが集まっていきますね! 今何枚集まりましたっけ?」

「これで十四枚ですね」

「わぁ! もうそんなにたくさん!」

「でもまだ先輩方のお力は、この世界のどこかに眠ってるはずです」

 

 ガイの言葉に、高木が顎に手をやってつぶやく。

 

「しかし目ぼしいところはもう大体探し尽くしたな。一枚は見当がついているが……それ以外はまだ人の手が及んでないような場所にあるか、もしくは今回のように、誰かが既に見つけて所持しているかのどちらかだろう」

「その人たちからも譲ってもらえたらいいんですけどねぇ。どうせだったら、全部集めたいですよね」

 

 小鳥が若干興奮気味に語っていると、社長室の扉がノックされて、律子が中に入ってきた。

 

「お話し中すいません。プロデューサー殿、千早が呼んでますよ」

「千早が? ……またあの話か」

 

 振り返ったガイは途端にしかめ面になった。

 

 

 

 千早は呼び出したガイに対して、開口一番に問うた。

 

「プロデューサー……歌の仕事はいつになったら取ってきてくれるんですか? もうずっと前からお願いしてるのに、一向に叶えてもらえる気配がないのですが」

「おいおい。歌なら降郷村で存分に歌っただろうが」

「私ソロでの話をしてるんです。みんなで歌うのもいいですけど、やっぱりソロで歌う仕事がやりたいんです」

 

 ややトゲのある口調でねだる千早に、ガイはたじたじだ。そんなやり取りを、響、伊織、美希が遠巻きに見守っている。

 

「まーた千早がプロデューサーに催促してるぞ。よくやるよね」

「いくら先延ばしにされっぱなしだからって、いい加減しつこくないかしらね」

「それだけ千早さんは真面目なんだって思うな。見習わないといけないの!」

 

 千早にせっつかれているガイを、春香がかばい立てる。

 

「まぁまぁ千早ちゃん、落ち着いて……。プロデューサーさんだって一生懸命やってるんだよ?」

「春香、これは私とプロデューサーの問題よ。それにいつまで経ってもろくに仕事が入ってこないし、プロデューサーは本当に私たちのことを考えてくれてるんですか?」

 

 千早は苛立ちが募るあまりに、辛辣な言葉を投げつけた。するとガイも少々ムッとなって、千早に言い返す。

 

「随分と言ってくれるな。だがな千早、お前になかなか歌の仕事が回ってこないことは、他ならぬお前自身にも問題があるんじゃないか?」

 

 そのひと言に、千早は虚を突かれたように立ち尽くす。

 

「何ですって……。私に、問題?」

「そんな、プロデューサーさん。千早ちゃんはウチで一番歌が上手なのに、そんなことは……」

 

 今度は千早をかばう春香だが、ガイは首を振った。

 

「いや、前々から思ってたことだが、いい機会だし言っておこう。千早、お前は確かに歌の技術は断トツだ。だが……歌ってのは基本的に聴いてくれる人に向けられるものだろう。けどお前の歌はそっちに向いてない……どこか遠い別のところに向けられてるように見える。それが、なかなか芽が出ない原因なんじゃないか?」

 

 と指摘された千早は、しばし押し黙った後、ガイに返答した。

 

「……私たちのことを考えてないというのは撤回します。よく見てますね、プロデューサー」

「どうやら自分で心当たりがあるみたいだな」

「ええ……」

 

 肯定しながら、一旦目を外して卓上のカレンダーに視線をやった。

 

「……ちょうど、明日は『あの日』です。プロデューサー、明日は少し私につき合って下さい」

「ん? どうしたんだ急に」

「少し、用があるんです。……あなたには『あのこと』、教えておいた方がいいのかもしれません」

 

 唐突な千早の物言いに、ガイのみならず、周りの春香たちも面食らっていた。

 

 

 

 そして翌日の夕方、ガイは千早に連れられて、とある町の小さな墓所にやってきた。

 

「千早、ここは……」

「少し待って下さい……。ここです」

 

 千早とガイが立ち止まった先は――「如月家之墓」と刻まれた墓碑の前だった。

 

「これは……千早、お前の家の墓か」

「はい……」

 

 千早は墓石を洗い、線香と花を供えて合掌した。ガイもそれに倣って黙祷を捧げると、千早に尋ねかける。

 

「ただの先祖の墓参り……って感じじゃないな。……家族に不幸があったのか」

「はい……弟が、私の子供の頃に……。今日が命日なんです……」

「そうか……そんなことがあったのか」

 

 目を伏せるガイ。千早は墓石をじっと見つめながら、弟の話を始めた。

 

「弟の優は、いつも私の後をついて回るような子でした。私も、優の面倒をよく見て可愛がっていました。けれど……私が少し目を離してた間に、交通事故に遭って、そのまま……。あの時、私がもっとしっかりしてれば、あんなことには……」

 

 自責するように、供えた花に目を落とす千早。

 

「優が一番好きだったのが、私の歌でした。だから私は歌ってるんです。今となっては、優にしてあげられることはもうそれだけしかありませんから……。765プロに応募したのも、私が歌手として有名になったなら、きっと優も喜んでくれるから……そう思ってなんです」

「……」

 

 ガイは千早の語ることを、神妙な面持ちで静聴している。

 

「怪獣のこと、ウルトラマンオーブのこと……聞かされた時には流石に驚きましたけど、ともに戦うことに関してはやぶさかではありません。前にも言ったように、私の歌う場所が壊されたらたまりませんし、この手で私のような思いをする人を減らせるのならそれも本望です。プロデューサーのお助けをすること、異存はありません。……だからプロデューサー、どうか私にも……優に歌を届ける場所を与えて下さい」

 

 改めての千早の頼みに、ガイは一度目をつむってから、答えた。

 

「なるほどな……お前の想いはよく分かった。弟のために一生懸命だというその姿勢も、立派なものではある」

 

 称えながらも、だが、とつけ加えるガイ。

 

「仮にこの場に敵が現れようとも、今のお前とフュージョンアップする訳にはいかないな。それに、今のまま歌わせることもプロデューサーとして認めがたい」

「なっ……!? ど、どうしてですか!?」

 

 自分が全否定されたように感じて、千早は色めき立った。そんな彼女にガイは極めて真剣に言い聞かせる。

 

「千早……他ならぬお前自身が、とても辛そうだからだ」

「私が、辛そう……?」

「言うなら、今のお前は弟への贖罪のために生きてる。戦いだって、自分が命を落とす結果になってもいいなんて考えがあるんじゃないか? そんなことはプロデューサーとして許しがたいな。俺はお前自身に、幸せになってもらいたい」

「……そんな、弟を見殺しにした私が、勝手に幸せになろうなんて……」

 

 などと言う千早を説得するガイ。

 

「そんな考え方はよせ。……自分を貶めるな。春香や美希たちはお前のことを大事な人だと思ってる。俺だって、お前は大事な仲間だ。自分を貶めるのは、その想いに背を向けるってことだぞ」

「プロデューサー……」

「お前の弟だって、自分のために大好きなお姉ちゃんが苦しんでるなんて知ったら、悲しむに決まってるだろう。……千早、あんまり思いつめるな。亡くなった弟のためだけじゃなく……俺たちのためにも、自分のために歌を歌ってほしい」

 

 熱心に説いたガイだが、千早は迷いを表情に浮かばせたまま、何も答えなかった。

 

「……まぁ、すぐには気持ちの整理はつかないだろう。無理もない。……このこと、他のみんなは知ってるのか?」

「いえ……プロデューサーに話したのが最初です。別に、あなたに打ち明けたからには、みんなに教えてもらっても構いませんが……」

「じゃあ他のみんなともよく相談するといい。その上で答えを出しな。こういう時、一人で抱え込んでちゃいけないもんだ。みんな、お前の力になってくれるぜ」

「……はい……」

 

 うなずく千早に、ガイは安堵したように息を吐く。

 

「それじゃあそろそろ帰ろうか」

「ええ……」

 

 踵を返す二人であったが……その前に、少し歳が行っている女性が歩いてきた。

 

「千早……」

 

 女性はガイたちの顔を確かめると、一番に千早の名を呼んだ。――が、千早の方は女性の顔を目にした途端に、表情がさっと静かな怒気に染まった。ガイはそれを訝しむ。

 

「……」

 

 千早はそのまま無言で、女性の横を通り過ぎようとする。

 

「待って、千早。その方は……?」

「……あなたには関係ないことです」

 

 女性が呼び止めても、千早はあまりに冷たい返事でさっさと立ち去ろうとする。ガイは見ていられずに千早の前に回る。

 

「おい千早、どうしたんだ。少し落ち着け……」

「いいから! 行きましょう!」

 

 しかしやはり千早は憤ったまま、ガイを無理矢理連れていこうとする。そのせいでガイの腰からカードホルダーが落下し、その衝撃でカードがこぼれ出てしまった。

 

「あっ……!」

「おい、何やってんだよ! 大事なものなんだから、丁寧に扱ってくれ……」

「ご、ごめんなさい……!」

 

 それで千早はようやく我に返り、ガイとともにカードを回収してホルダーに戻した。

 

「千早……!」

 

 その間に女性はもう一度千早の名前を呼んだが、千早はキッとひとにらみしただけで、クルリと背を向けて歩き去っていった。ガイもどうすべきか少し悩んだが、結局会釈だけして、千早の後についていった。

 

「なぁ千早、あの人は……? お前によく似てたが、もしかして……」

 

 女性から離れたところでガイが質問すると、ようやく千早は答えてくれた。

 

「母です……。でももう母親だとは思ってません。優が亡くなってから、父とともに家庭を壊した張本人ですから……」

「……」

「あの人はずっと、お守りがどうとか、そんな下らないことばかりうわ言のように繰り返して……。もう知りません、あんな人……!」

 

 千早の怒りは相当根深いようであった。ガイも流石に参ってしまい、肩をすくめていた。

 一方で千早の母親の方は、小さくなっていく娘の背中をずっと見つめていたが、やがて残念そうに首を振って身体の向きを変えた。――その時に、足元に一枚のカードが風に吹かれて飛んできた。

 

「あら……これはもしかして、さっきの人の……?」

 

 条件反射的にカードを拾い上げた千早の母親は――絵柄のウルトラマンゼロの姿を目に留めて、思わず息を呑んだ。

 ――そして、ガイと千早が彼女と面と向かっていた瞬間を、茂みに紛れていたカメラのレンズが捉えていたことは、ガイですら気づかないままであった。

 

 

 

 翌日、ガイは事務所で春香に、千早に教えてもらった彼女の身の上を伝えていた。

 

「……そうだったんですか。千早ちゃんに、そんなことが……」

 

 悲しげに目を伏せる春香に、ガイは相談を持ちかける。

 

「千早には、自分が幸せになるのを目指すように説得したんだが、流石にそう簡単には考えを改めることは出来なさそうな様子だった。多分、言葉だけじゃああいつの心を完全に動かすことは出来ないんだろう。それで、どうにかして千早の心を励ましてやりたいんだが……」

「そうですね……」

 

 春香はしばし考え込んでから、ガイに答える。

 

「分かりました。こっちで何か用意をしてみます。しばらく時間を下さい、プロデューサーさん」

「ありがとうな。俺はこういう気を回すようなことは苦手だからな……春香、お前がいてくれて本当に助かるぜ」

「い、いえそんなぁ。千早ちゃんのためなんですもの。これくらい当たり前ですよぉ」

 

 ガイに感謝されて、春香は照れくさそうにはにかんだ。とそこに、当の千早がやってくる。

 

「プロデューサー、何かお話し中でしたか?」

 

 ガイと春香は少し慌てながらごまかす。

 

「ああいや、大したことじゃないぜ。ちょうど終わったところだ。なぁ春香」

「そ、そうそう! 千早ちゃん、気にしないで」

「? まぁいいですけど……。それよりプロデューサー」

 

 千早はガイへ向き直ると、手に持っていた封筒を見せた。

 

「事務所の郵便受けにこれが入ってたんです。それも事務所への郵便物ではなく、紅ガイへ、とだけ書いてあります」

「何? 俺個人宛ての郵便物が、事務所に? ちょっと妙だな」

「宛名もありません……。もしかしたら何か怪しいものかもしれません。プロデューサー、気をつけて下さい」

「分かった。お前たち、少し下がってな」

 

 ガイは春香と千早から距離を取ってから、用心深く封筒を開いていく。しかし中身は危険物という訳ではなかった。――物理的には。

 

「!!?」

「プロデューサーさん、何が入ってたんですか?」

 

 春香が好奇心を見せて尋ねると、ガイは冷や汗を隠しながらそれに答えた。

 

「い、いや、俺宛てへのつまらんものだったよ。大したもんじゃない。気にするな」

「そうですか?」

「そんなことより、そろそろダンスレッスンに行ったらどうだ。苦手な部分があるってトレーナーさんから聞いてるぜ? よく練習しとけよ」

「あっ、はい。分かりました」

 

 理由をつけて春香を下がらせるガイだが、千早のことは引き止めた。

 

「千早、いいか? よく落ち着いて、これを見ろ」

「どうしたんですか? 仰々しい……」

 

 訝しみながらも、千早はガイから封筒の中身を見せられた。一枚の写真と、一枚の地図、そして一枚の便箋だった。

 そして写真に目を落とした千早は――目をひん剥いた。

 

「えっ……!?」

 

 写っているのは、昨日の墓地でガイと千早が、千早の母親と相対している様子。そして便箋の方には、次のような文章だけが記されていた。

 

『写真の女は預かっている。返してほしかったら、一人で指定する場所まで来い』

 

 最後の地図には、指定場所と思しき赤い点が打たれていた……。

 



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時をこえた約束(B)

 

 一旦事務所から出たガイと千早は、二人きりになれる場所で何者かから送られてきた写真と脅迫状について話をしていた。

 

「ぷ、プロデューサー……これはどういうことでしょうか……? 誰がこの写真を撮って、私の母を……」

 

 普段はクールな少女の千早も、母親を誘拐されたと寝耳に水を食らっては声音に動揺の色が見られていた。ガイもまた険しい表情である。

 

「恐らく、俺たちをつけてやがった奴がいたんだろう。だが俺が気づかなかったとなると、そんじょそこらの奴なんかじゃないな……。俺を名指しして呼び出してることからも、ゼットン星人のように俺の首を取ろうとする輩の仕業か……」

 

 つぶやきながら、ガイは踵を返そうとする。

 

「ともかく、すぐに行かなくちゃお前のお母さんがどうなるか分かったもんじゃない。千早、お前はみんなに適当な言い訳をしといてくれ」

「待って下さい!」

 

 すぐ出発しようとするガイを、千早が反射的に呼び止めた。

 

「危険です! 私の母をさらったのは、プロデューサーをおびき寄せるためだけだとは思えません。きっと人質にするつもりですよ!」

「だが、救い出すには他に方法はない」

「……いえ、プロデューサーが私の母を気に掛けることなんてないですよ……」

 

 千早は暗く重い表情で、うつむき気味に語り出した。

 

「……ウルトラマンオーブであるプロデューサーと、ただの一般人の母との価値の差なんて、比べるまでもありません。私だって、今更あんな人がどうなろうが何とも思いませんし……」

「千早」

 

 千早の言葉を、ガイが極めて険しい顔つきでさえぎった。

 

「間違っても、そんなことを言うもんじゃない」

「プロデューサー……?」

「たとえどんな経緯があったとしても、お前の母親だろうが……。失ってからああしとけばよかったとか考えたところで、何もかも遅いんだからな。そう、失っちゃいけないんだ……」

 

 そう語るガイの表情にはどこか悲嘆の色があり、口調には相当な重みがあった。それを怪訝に感じる千早。

 

「プロデューサー、それは一体……」

「……いや、今は時間が惜しい。とにかく俺は行く! 罠だったとしてもだ!」

 

 強引に話を打ち切るように宣言し、ガイは千早に背を向けて駆け出していった。

 

「……!」

 

 千早は何かを考え込んでいる顔で、彼の背中をじっと見つめていた。

 

 

 

 脅迫状に指定されていた場所は、以前マガジャッパが最後に狙っていた奈良沢ダムであった。ガイがダム湖のほとりに到着すると、見計らっていたかのように怪しい女が一人、姿を現した。

 

「指示通り、一人で来たみたいね。流石は正義の味方のウルトラマンオーブといったところかしら」

「――宇宙人だな」

 

 ガイをオーブと呼ぶ女に、ガイが指摘する。

 

「当然。ピット星人ミューよ。早速本題に入ろうじゃない」

 

 ピット星人ミューが腕を前に伸ばすと、昨日墓地で出会った千早の母親が電送されてきた。――が、縛られた状態で気を失っており、ミューに掴まれることでその場に立たされている。

 

「……!」

「この通り、あなたのところの娘の母親は今私が握ってるわ。返してほしいからここまで来たのよね?」

「ああそうだ。その人は俺たちの事情には何の関係もないんだ。解放してもらおうじゃないか」

 

 と要求するガイだが、ミューは不敵に笑うばかりであった。

 

「ふふふ……無事に返してほしいのなら、あるものと交換してもらうわ」

「交換だと……?」

 

 ミューの千早の母親を掴んでいない方の手の指が、ガイの腰に提げられているカードホルダーを指した。

 

「その中のウルトラマンのカード一式……ホルダーごとと交換よ」

「何……!」

 

 ガイは一瞬戸惑った目を己の腰に向けたが、するとミューが急かすように言い放った。

 

「迷ってる暇なんてないわよ。私が握ってるのはこの女の身体だけじゃない、命もなのだから」

「くッ……」

 

 時間稼ぎも出来なさそうな様子。ガイは仕方なく、カードホルダーを手に取った。

 

「光の先輩方……お許し下さい」

 

 ひと言謝罪してから、ミューに目を向け直す。

 

「交換は同時だ! その人には一切の危害を加えないと誓ってもらうぞ!」

「宇宙人同士の約束ね。いいわ、一、二の……三!」

 

 ミューの合図と同時に、ガイがカードホルダーを投げ飛ばし、ミューはガイに向かって千早の母親を突き飛ばした。反射的に彼女の身柄を受け止めるガイ。

 

「如月さん! 如月さん! しっかりして下さい!」

「うっ……ここは……? あなたは、確か、千早の……」

 

 ガイが手早く束縛を解いて強く呼びかけると、千早の母親はうっすらと意識を取り戻した。一方でミューは地面に落下したカードホルダーを奪い取り、高笑いを発する。

 

「あははははははは! 面白いくらい上手く行ったわ! これでオーブは出てこられない。さぁ、やってしまいなさいエレキング!』

 

 蟻のような真の顔を晒したミューの叫びに呼応して、ダム湖の水面が急激に波しぶきを立ち上がらせ、水中から巨大怪獣が飛び出してきた!

 

「キイイイイイイイイ!!」

 

 眼球の代わりに三日月状の角が生えている、ウミウシのような怪獣、エレキング。それも四肢が退化した代わりに発電能力に磨きが掛かったEXエレキングだ!

 EXエレキングはガイに狙いをつける。千早の母親をその腕の中に抱えているガイはミューに怒鳴りつけた。

 

「話が違うぞ! この人に危害を加えないんじゃなかったのか!?」

『ふふふ、それはそっちに返すまでの話。無事に返した後のことは知らないわねぇ!』

 

 悪びれもせずにうそぶくミュー。彼女に使役されるエレキングはガイに向かって三日月型の電撃光線を発射してくる!

 

「くっそぉッ!」

 

 ガイは咄嗟に千早の母親を抱え上げて走り出し、電撃光線から逃れた。しかしエレキングは細長い首を伸ばしながらしつこく追撃をしてくる。

 

『無駄よ! エレキングから逃げられはしないわ!』

 

 ミューの声を背にしながら、ガイはダム湖を囲む林の中に身を投じた。しかしすぐに見つかってしまうことだろう。

 

「まずいな、どうしたもんか……」

「こ、これはどういうこと……!?」

「すいませんが今は口を閉じて! 舌を噛みますよ!」

 

 悩むガイの元に、急に細身の人影が飛び込んできた。

 

「プロデューサーっ!」

 

 誰であろう、千早であった。

 

「千早!? 来てたのか……!」

「すみません。でも……」

 

 千早は複雑な表情を己の母親に向けた。

 

「千早……」

 

 母親の方も、娘に何と声を掛けたらいいか分からないような、微妙な空気であったが、うかうかしてはいられなかった。

 

「キイイイイイイイイ!!」

 

 エレキングの鳴き声が近づいてきて、ハッと我に返ったガイは千早の母親を下ろし、千早に押しつけた。

 

「悪いな千早! この人を連れて逃げろ! 俺はそれまでの囮になってくる!」

「そ、そんなプロデューサー!」

「頼んだぜッ!」

 

 有無を言わさず、ガイは千早たちの元から一気に離れていった。エレキングは彼を追いかけていくので、自ずと千早たち二人から離れていった。

 

「……一人で走れる? とにかく逃げましょう!」

 

 千早はとにかくガイの言う通りにしようとしたが、それを母親が制止した。

 

「ちょっと待って。あなたに渡すものが二つあるの!」

「何よ、こんな時に! そんなのは後にして……」

 

 母親の謎の言動に苛立つ千早だったが、差し出されたものを目に入れて言葉が途切れた。

 

「まずはこれ。さっきの人の、大事なものなんでしょう? あなたから返してあげてちょうだい」

 

 一つ目は、墓地で落としたまま回収されなかったウルトラマンゼロのカードだ。そしてもう一つは……大き目のお守りだった。

 

「そしてこれよ。このお守りは昔、あなたと優に欠かさず持たせてたわね。でもあの日は……たまたま持たせてなかった。そしたら優が……」

 

 千早は思い出す。優の死去後、母親が自分たちにお守りを持たせなかったことを来る日も来る日も悔いていたことを。だがその態度が家庭崩壊につながったので、千早は怒りを感じているのだった。

 

「何よ、こんなもの! こんなものより、もっと大事なことがあったでしょう!?」

「ええ……千早の言う通りよ。でもあの時の私はそのことに気づけなかった。私がこれにすがるような弱い女じゃなかったら、あなたを少しでも救えたかもしれなかったのに……」

 

 過去の自分を悔やむ千早の母親だったが、話はそれで終わりではなかった。

 

「でもこのお守りについて今話すべきことは、それじゃないわ」

「え?」

「こんな時だけど、初めから話すわね。あれは私が大学生だった頃……当時の私は登山部だったわ」

 

 母親が唐突に昔話を始めるので千早は面食らったが、母親は構わずどんどんと続ける。

 

「だけど友達と二人で登山に行った日、とある山で不意な崖崩れに遭い、私は崖に宙吊りになってしまった」

「えっ!」

「私を支えてたのは友人との間につないでる命綱だけ。その友人も、私の重量のせいで崖に張りついてるので精一杯だった。このままでは二人とも助からない……そう判断した私は、自ら命綱を断ち切って友人だけでも助けることを選んだ。そして私は崖下まで真っ逆さまに転落した……!」

 

 母親の語る内容に仰天する千早。しかし、この話が本当だというのなら、今ここにいる彼女は何なのだ。そして、自分は――。

 

「……そのはずだったんだけど、私は気がついたら崖の底で傷一つなく横たわってたわ。側には風来坊と名乗る男性が一人。どうやら彼が助けてくれたみたいだったけど、一体どうやったのかは未だに分からないわ。そして男の人は、自らの命も省みずに友達を助けようという私の勇気に感動したと言って、このお守りの中身を私にくれたの」

「中身……?」

 

 母親からお守りを受け取って、まじまじと見つめる千早。

 

「あの人は、それが私や私の家族を守ってくれる。だけど、いつかこれを本当に必要としてる人に私が出会うかもしれない。それはこれと同じようなものを持ってる人で、もし出会ったらこれをその人に渡してあげてほしい。そうあの人と約束したの。そして……さっきの彼が、その条件に当てはまってたの!」

 

 千早はお守りの口を開き、中身を取り出していた。

 それは、紅蓮の戦士の絵柄のカード――ウルトラフュージョンカードの一枚であった!

 

「――こんなところにあったなんて……!」

「あの人は、これを必要としてる人にこそ本当の力になると言ってたわ。――今があの時の約束を果たす時なんだと思う」

 

 千早の母親は改めて千早と面と向かい合った。

 

「千早、今更遅すぎるとは思うけれど、ずっとあなたをないがしろにしてごめんなさい。お詫びのしようもないけれど、ずっと謝りたかったの……。もしよければ、私と一緒にこの二枚をさっきの人に届けてほしいの。情けないけど、まだ足に力が入らないから……」

 

 しばし呆然と母親の顔を見つめ返した千早は、何かを決心した顔つきになって返答した。

 

「それは出来ないわ」

「……そうよね。やっぱり……」

「私が一人で行ってくるから! 悪いけど、頑張って一人で逃げてちょうだい」

 

 今度は母親の方が千早を見つめ返した。

 

「そんな!? 危ないわ!」

「足下のおぼつかない人を連れてく方が危ないわよ。大丈夫。私は、必ず生きて戻ってくるから……!」

 

 確固とした意志を持って、千早は告げた。

 

「だからあなたも必ず生き延びて。話すべきことは山ほどあるんだからね……お母さん」

「――千早……!」

 

 その言葉を最後に、千早は脱兎の如く駆け出した。母親は驚きの顔で、その場に立ち尽くして千早の背中を見送った。

 

 

 

「キイイイイイイイイ!!」

「くッ……!」

 

 しつこく追撃してくるEXエレキングから必死に逃げ続けるガイ。フュージョンカードが一枚も手元にないので、オーブに変身することは出来ないのだ。

 

「こいつはいよいよやばいかもな……!」

 

 大分追いつめられながら吐き捨てたところに、千早が駆けつけてきた。

 

「プロデューサー!」

「千早! お前どうして戻って来たんだ! 危ねぇぞ!?」

 

 千早は答えず、代わりに母親から受け取った二枚のカードを差し出した。

 

「これを!」

「!! ゼロさんに……ウルトラセブンさんの力ッ!」

 

 驚愕したガイは次いで千早の今の顔に目をやり、おもむろにうなずいた。

 

「よし……千早、力を貸してくれ!」

「分かりました!」

 

 ガイが取り出したオーブリングに、千早が一枚目のカードを通す。

 

「セブンさんっ!」

[ウルトラセブン!]『デュワッ!』

 

 千早の隣に、紅蓮の戦士、ウルトラセブンのビジョンが出現。

 

「ゼロさんッ!」

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェアッ!』

 

 そしてガイがセブンの息子、ウルトラマンゼロのカードを通して、トリガーを引く。

 

「親子の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 千早がセブン、ゼロとともにガイと融合を果たす!

 

『ジュワッ!』『テヤッ!』

[ウルトラマンオーブ! エメリウムスラッガー!!]

 

 新しい姿のオーブが、翠の閃光と激しく回る光、真っ赤な溶岩と白い光の軌道の中から飛び出してきた!

 ハリケーンスラッシュよりも一枚多い、三つの刃を頭部に持った、青と赤と黒のたくましい戦士、それがウルトラ親子の絆の力を借り受けたエメリウムスラッガーだ!

 

「キイイイイイイイイ!!」

 

 ちょうど突進してきたEXエレキングを、オーブが変身の勢いではね飛ばした。

 

(♪ウルトラセブン登場)

 

『俺たちはオーブ! 智勇双全、光となりて!!』

 

 ミューはオーブの姿を見上げて度肝を抜かれる。

 

『ウルトラマンオーブ!? 馬鹿な、カードは奪ったのにどうして!?』

 

 しかしすぐに我に返ると、エレキングに向かって命じた。

 

『エレキング! オーブを倒すのよ! 必ず倒すのよ!』

「キイイイイイイイイ!!」

 

 命令に応じてエレキングが細長い身体をくねらせながらオーブに突進を仕掛ける。体躯の利点を活用した速く読みづらい軌道だ。

 

「オリャアッ!」

 

 だがオーブはその動きを見切り、鋭い回し蹴りでエレキングの頭を蹴りつけて返り討ちにした。

 

『行けるぞ千早! 全身に力がみなぎってくるかのようだ!』

『「はいっ!」』

 

 千早はオーブと心を重ね、ともに大怪獣に立ち向かう!

 

 

 

 千早からの連絡を受けて、遅れる形で奈良沢ダムに到着していた765プロアイドルの仲間は、オーブ対EXエレキングの様子をしっかりとカメラに捉えていた。

 

「ウルトラマンオーブ! また新しい姿です!」

「またすっごいキレのある感じだね!」

 

 律子が実況し、亜美が感想を述べている傍ら、春香はオーブの姿をひと目見てつぶやいた。

 

「千早ちゃん……!」

 

 春香は力強い表情で、オーブと千早の奮闘を見守っていた。

 

 

 

「デヤッ! ドリャアッ!」

 

 オーブは一方的にエレキングに打撃を食らわせていき、どんどんと押し込んでいく。エメリウムスラッガーの鮮やかな格闘技に、エレキングは元からないが手も足も出ないありさまだ。

 

「デェェェェアァッ!」

 

 相手の尻尾を掴んで大きくジャイアントスウィング、地面に叩きつけた!

 

「キイイイイイイイイ!!」

 

 しかしエレキングもこのままやられっぱなしではなかった。長い身体をくねらせてオーブに肉薄し、目にも止まらぬ速さで全身に巻きついた。

 

『何ッ!』

 

 その状態で高圧電流を発し始める!

 

「グワアァァッ!」

『「うあぁっ!」』

 

 EXエレキングの最も強力な能力は電撃だ。それを全身に浴びせられては、さしものオーブも苦しむ。今度はこちらが手足を出せない。

 

(♪ウルトラマンゼロのテーマ)

 

 だがエメリウムスラッガーにはそれでも使用できる武器があった!

 

「『トリプルスラッガー!!」』

 

 頭部の三振りのスラッガーが念力によって飛び、自在に動き回ってエレキングの身体を切り刻んだ!

 

「キイイイイイイイイ!!」

 

 たまらずオーブから引き剥がされるエレキング。形勢を逆転したオーブは額のクリスタルに両手の人差し指と中指を交差し、次に左腕を胸の前に水平にして脇を引き締めて右腕を腰にやり、そして拳を前に突き出す!

 

「『トリプルエメリウム光線!!」』

 

 額から放たれた螺旋のレーザーが、エレキングの角を粉砕した!

 

「キイイイイイイイイ……!!」

 

 角はエレキングの力の源。これを折られたらもう電撃は使用できないのだ!

 

『よし! とどめの一撃だッ!』

『「分かりましたっ!」』

 

 オーブがぐっと力こぶを作るように両腕を振り上げるとリング状の閃光が生じ、振りかぶって腕をL字に組んだ。

 

「『ワイドスラッガーショット!!」』

 

 右前腕から発射された必殺の光線の奔流が、エレキングを貫いた!

 

「キイイイイイイイイ!!」

 

 EXエレキングはたちまち爆散! その爆発はミューにも襲いかかる。

 

『きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!』

 

 ミューの姿が爆炎の中に消え、奪われたカードホルダーが放り飛ばされて地面に落ちた。

 ――それを、千早を連れているガイが拾い上げた。

 

「先輩方、すいませんでした。次からはこんなことにならないよう気をつけます」

 

 ホルダーを腰に戻して踵を返すと、そこに千早の母親が駆けつけてきた。

 

「千早! 良かった、無事で……」

 

 千早の姿を認めて心の底から安堵した母親に、千早はガイを見やりながら告げた。

 

「……紹介するわ。この人は私の事務所のプロデューサー。とてもお世話になってるの」

 

 

 

 後日、事務所で千早は春香たちからあるものを渡されていた。

 

「千早ちゃん、これ、私たちからのプレゼント。開けてみて」

「プレゼント……? 何かしら」

 

 大き目の茶封筒。千早が開けると、中から出てきたのは、

 

「楽譜……? 『約束』……」

「千早ちゃんを元気づける贈り物をするなら、やっぱこれだなって思って。でも私一人じゃどうにも作れなかったから、みんなに助けてもらって書き上げたんだよ」

「千早さんが前を向いて歌っていけるように、って思いを精一杯込めたの! 受け取ってほしいな!」

 

 春香と美希、仲間たちが笑いながら手作りの歌を千早に贈った。

 彼女たちの顔を驚きで目を真ん丸とさせながら見返した千早だが、やがて微笑みを浮かべた。

 

「みんな、こんな私のために、ありがとう……! こんなに嬉しいことは初めてだわ……」

「大事な千早ちゃんのためだもの! 当然だよっ!」

 

 千早が喜んでくれたことにわっと沸き上がるアイドルたち。その後で、ガイが千早にそっと問いかける。

 

「どうだ千早。お母さんのこととか、過去のこととか、整理がつきそうか?」

「……流石に、いきなりは無理です。でも……」

 

 千早は腕の中の楽譜を、温かく見つめる。

 

「努力はしていきます。そして近い内に、お母さんとも完全に仲直りします。……大事なみんなと、約束を交わしましたから」

 

 千早は口元に、安心の微笑みをやんわりと浮かべていた。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

千早「如月千早です。今回ご紹介するのは、誰よりも地球を愛した宇宙人、ウルトラセブンです」

千早「セブンさんは1967年放送の『ウルトラセブン』の主人公。放送時は『ウルトラマン』とは独立した作品だったので、シリーズの中でも際立って独自色の強い性格をしてます。『ウルトラマン』がバラエティ豊かな作風だったのに対して、こちらは主にハードSFの趣です」

千早「子供向けとは一線を画するエピソードも多く、人気と指示も抜群に高いです。客演の回数はトップクラスで、後年でも『セブン』単独の派生作品がいくつも作られ、未だ根強い人気を誇ってます」

千早「近年ではウルトラマンゼロという息子も誕生しました。ゼロさんもまた高い人気を集めていて、色んな時と場所にひっばりだこです」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『約束』だ!」

ガイ「アニメの第二十話『約束』で使用された楽曲で、本話の核をなす歌だ。あることが原因でどん底に陥ってしまった千早に対する仲間たちの行動、そして千早の復活は劇中随一の感動で、是非自分の目で見てもらいたい」

千早「ところでプロデューサー……私がウルトラ「セブン」の担当なのは、何やら悪意を感じるのですが……」

ガイ「……」

 




 ミキなの。とある漁村に半魚人が出たって情報をキャッチして、ミキたちは取材に行ったんだよ。でもみんなバカンス気分だけどね! あはっ♪ だけどほんとに半魚人はいるし、海からでっかい怪獣が出てきて大変! 半魚人はどうなるんだろ?
 次回、『しあわせの半魚人』。よろしくなのー♪


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しあわせの半魚人(A)

 

「小さい頃に、光の巨人の夢を見たんです」

「あの夢にどんな意味があるのか、それはまだ分からないけど」

「あんな風に、私も輝けたらなって、そう思って」

「『空から巨大怪鳥』」

「『地を揺るがす獣がビルを沈める』」

「『水を穢す魔物、上陸』」

「ウルトラマンオーブとは何かつながりがあるんじゃないかと感じてるんです」

「もしかして誰かの運命に関係あるんじゃないでしょうか?」

 

 

 

『しあわせの半魚人』

 

 

 

 とある海辺の、砂浜が近い小ぢんまりとした漁港。一人の漁師が魚の水揚げをしていると、別の漁船が隣に停泊して漁師仲間が呼びかけてきた。

 

「おーい源! 源三ろーう!」

「んッ、何だい?」

 

 源三郎と呼ばれた漁師が顔を上げると、漁師仲間はこう聞いてくる。

 

「お前んとこは獲物掛かったか?」

「まぁ~ぼちぼちってとこだい」

「いいじゃねぇかよぼちぼちでも。こちとら今日もボウズだぜ!? これじゃおまんまの食い上げだよ!」

 

 漁師仲間はお手上げとばかりに大きく肩をすくめた。

 

「まぁったく、ここ最近妙に魚が少なくなっちまった。原因は一体何だってんだ? ……そういや母ちゃんが村で半魚人を見たなんておかしなこと言ってたけどよ、もしかしてそいつが悪さしてんのかもな」

「えッ!? あ、ああ、どうだろうな」

 

 半魚人、と聞いた源三郎が一瞬ビクリと震えたが、漁師仲間はそれに気づかなかった。

 その後源三郎は収穫した魚の何匹かを見繕って、港の倉庫に持っていく。そうして周囲に人目がないことを確認してから中に滑り込んでいった。

 真夜中で暗い倉庫内を、ランプの明かりのみを頼りに移動しながら、源三郎は声を発した。

 

「遅くなっちまったなぁ。今日はいい魚が釣り上がったよ! 坊や! 腹ペコかい? 坊やー!」

 

 誰かを呼ぶ源三郎の背後から、爛々と光る真ん丸とした眼の、魚のような人間のような異形のシルエットが近づいてくる……。

 

「キャアアァァァッ!」

 

 そしてランプに照らされて姿がはっきりとなった、明らかな半魚人が腕を振り上げて源三郎に影を覆い被せた! 振り返った源三郎はッ!

 

「……何だ。誰かと思って隠れてたのかよぉ全く!」

 

 至って普通の反応を返した。ランプを壁に吊るすと、持ってきた魚を入れている冷凍ボックスを半魚人に手渡す。

 

「ほら、これを食べな。坊やは?」

「キャアーッ!」

 

 源三郎の後ろからいきなり、ひと回り小さい半魚人が現れて彼を突き飛ばした。しかし源三郎はこちらにもまるで動揺しない。

 

「おぉっと!? やったなこいつめぇ! おりゃおりゃ!」

 

 源三郎が小さい半魚人の脇をくすぐると、半魚人はキャッキャと笑った。源三郎は小半魚人に、ボックスの中から出した漁船の模型を差し出す。

 

「坊や。はい、お土産だ!」

「キャ? キャアー……キャキャキャキャ!」

「おぉー嬉しいか!」

 

 模型をもらった小半魚人は小躍りして喜びを表した。源三郎と大半魚人はその様子ににっこり笑っていた。

 

 

 

 ……春香は、怪獣の攻撃によって瓦礫の下敷きになっていた。身動きの取れない中、かすれた声を振り絞って助けを求める。

 

「助けて……誰か……!」

 

 すると何者かが春香の元にやってきて、瓦礫を取り払って彼女の上体を抱え上げた。春香がうっすら目を開け、その人物の顔を視界に収める……。

 ジャグラスジャグラーだった!

 

「な……何であなたが!? 放して……! 放してっ!」

「大丈夫だ。俺が助ける」

 

 暴れる春香だったが、気がつけば自分を腕に抱く人物は、ガイに変わっていた。

 

「プロデューサーさん……?」

「飛ぶぞ」

 

 ガイはひと言告げると、春香を抱えたまま天井を突き破り、ものすごい勢いで空高くに飛び上がった!

 

「きゃあああああああ――――――――っ!?」

 

 

 

 どんがらがっしゃーん!

 

「ち、ちょっと春香、大丈夫?」

「急にひっくり返ってどうしたのよもう」

 

 正面には燦々と輝く太陽が見え、千早や伊織、響らが目を丸くして自分の顔を覗き込んでいた。自分は地面にひっくり返っている、と春香は気がついた。

 

「はぁ……はぁ……夢か……。びっくりした……」

「びっくりしたのはこっちだぞ。ねぇハム蔵」

「ぢゅいッ」

「こんなところでお昼寝してたって訳? せっかく海に来たってのに、美希みたいなことするのね」

 

 と伊織の言う通り、本日の765プロアイドル一行は事務所を飛び出し、砂浜にやって来ていた。

 

「わーい海だー!」

「食らえやよいっち~!」

「やんっ! もぉ~亜美ったら~」

「よっつ四つ葉のクローバ~♪」

 

 亜美と真美が水鉄砲でやよいに水を掛けたり、雪歩がひたすら砂浜に穴を掘っていたり、貴音が海の家でジャンボラーメンを三杯完食したりと皆思い思いにはしゃいでいる。もちろん全員水着姿で、追いかけっこして遊んでいる美希とあずさは豊かな胸が弾んで男たちの視線を集めていた。

 

「くっ……」

「もう、みんなすっかりバカンス気分になっちゃって。ここには一応取材に来たってのに」

 

 仲間たちのはしゃいでいる様子に、パラソルの下で日差しを避けている律子が肩をすくめた。この砂浜には本来『アンバランスQ』の取材で赴く予定だったのだが、夏の真っ盛りに海に行くということで、亜美真美を中心に取材にかこつけた慰安旅行にしてしまったのだった。

 伊織が律子に尋ねる。

 

「それで、今度はどんなネタだったかしら?」

「半魚人の目撃情報よ」

「半魚人ねぇ……。いつにもまして胡散臭いじゃないの」

「でもこの土地には海底原人ラゴンの伝説があるのよ」

 

 海原の一画を指し示す律子。

 

「五十年くらい昔、あの辺に一つの島があったんだけど、地殻変動で沈んでしまったの。それと前後して海底原人が現れたと言い伝えられてるわ」

「ふーん……? まぁ何だっていいけれど」

「それに現在、太平洋で魚が急激に数を減らすという異常事態も発生してるわ。これは半魚人と関係があるのか、それともまた怪獣が出現したのか……調べてみる価値はあると思うわよ」

 

 怪獣、と耳にして、千早がぼやく。

 

「社長の言った通り、世の中は連続して怪獣が出現するようになってしまったわね……」

「全く迷惑な話よね! 怪獣も、どうしてわざわざ私たちの前に出てくるのかしら。迷惑ったらありゃしないわ」

 

 ぷりぷりと不機嫌になる伊織だったが、そこに荷物番のガイが寝転がったまま口を挟んだ。

 

「怪獣だって人間の前に出てきたくないはずだ」

「え? それってどういうこと?」

 

 響が振り返って聞き返すと、ガイはこう言った。

 

「ちょっと歩き回っただけで攻撃してくる危険な生き物の生息している場所に、誰が好き好んで踏み入ってくる」

 

 その言葉に、春香たちは思わず無言になった。

 響は肩の上のハム蔵に呼びかけた。

 

「……そうだよね。今まで敵としてしか見てなかったけど、怪獣も生きてるんだよね」

「ぢゅ……」

 

 神妙な空気になっていると……千早がふと振り返り、ある人物が漁村を駆け抜けていくところを目撃した。

 

「あれ、渋川さんだわ。こんなところにいるなんて……」

「えっ、叔父さん?」

 

 春香たちも渋川が慌ただしく走っていく姿を目の当たりにした。

 

「どうやらお仕事みたいね……。これは当たりみたいだわ。バカンスはここまで! 私たちもお仕事と行くわよ! ほらプロデューサーもさっさと起きて!」

 

 眼鏡を光らせた律子が上着を羽織りながら皆に呼びかけ、ガイを叩き起こした。

 

 

 

 ……水面下五千メートルもの深海の世界。ここに五十メートルを越える全長の巨大生物が二体もいて、角と角を激しくぶつけ合って争っていた。

 

「グビャ――――――――!」

「キイィィーッ!」

 

 一方は背面が黄色と黒のまだら模様で鼻先の角がドリル状になっており、もう一方は全体的に水色の体色でノコギリザメとクジラを混ぜ合わせたような形態だ。

 ――そしてこの争いを、深海にも関わらず生身で観察している男が一人。

 

「縄張り争いか。それとも、餌の取り合いかな?」

 

 ジャグラスジャグラーだった。

 

「怪獣同士で喧嘩してても得することなんてないぜ? よぉし、俺が仲直りさせてやろうじゃないか……」

 

 そううそぶいて取り出したのは――ダークリング……。

 

 

 

「おーい! 源ッ! 出てこーいッ!」

「源さんっ! あんた半魚人をかくまってるんじゃないのかい!?」

 

 閉め切った源三郎の自宅に、村民が大勢押しかけて怒号を上げていた。彼らは村に出没した半魚人――海底原人ラゴンがこの家に入っていくのを目撃して押しかけてきたのだ。

 彼らの声を背景に、源三郎はラゴンを叱る。

 

「何やってんだよもう! 見られちゃ駄目だって言ったろ!?」

「キャアアァァァッ!」

 

 しかしラゴンは身体をバタバタ動かし、子供のラゴンの動きのジェスチャーをして源三郎に何かを伝えようとし出した。

 

「え? 坊やが?」

 

 がっくり肩を落としてうなだれるラゴン。

 

「分かんない……か?」

 

 ぶんぶん手を振って否定を示す。

 

「えッ、何? 坊やが……元気がない」

「キャアアァァァッ!」

「何? ……坊やが、病気か!!」

 

 ラゴンは当たりだというようにコクコクうなずき、壁の魚拓を指差した。

 

「魚? 魚がどうした」

 

 魚拓を食べるジェスチャーをするラゴン。

 

「魚を、食べたいのか!?」

「キャアアァァァッ!」

「違う? 坊やに……坊やに、魚を食べさせたいのか!!」

「キャアアァァァッ!」

 

 ラゴンが肯定を示すと、源三郎は忙しく動き出す。

 

「分かった! 冷凍ものなら保冷庫にあるかもしれない! 今取ってきてやるからな!」

 

 と言う源三郎だが、その時に家のドアが激しくノックされ、渋川が外から大声を張り上げた。

 

「おーい! こちらビートル隊! この家の中に、怪物のような怪獣がいるという目撃情報がある! 開けなさーいッ!」

 

 それに色めき立つ源三郎。

 

「まずいな……魚持ったら裏口からこっそり出よう! こいつで姿隠しながら……」

 

 ラゴンに船の旗を被せて、自身はコウモリ傘を手に取った。

 

 

 

 源三郎の家に渋川や大勢の村民が押しかけている様子を、春香、律子、伊織、響がこっそり隠れながら観察していた。765プロ一行はいくつかのチームに分かれ、半魚人を捜索することにしていたのだった。

 

「うーん、今すぐ突撃取材したいところだけど、渋川さんが張りついてるのがちょっと厄介ね……」

「見つかったら叔父さん、また危ないことするなーってうるさく言うだろうなぁ……」

 

 春香が辟易していたら、伊織が家の裏手の方を指して報告した。

 

「見て! あそこから、如何にも怪しいのがコソコソ出てくる!」

「あっ、ほんと!」

 

 四人は裏口から、旗と傘で姿を隠している二人組が人目を避けながらどこかへ去っていく様子を目撃した。しかも旗を被っている方の脚には、ヒレが生えているのだ!

 

「ビンゴね! どこへ行くのかしら。後をつけましょう!」

「どうする? みんな呼ぶ?」

「いえ、大勢でゾロゾロ移動してたら気づかれるわ。ここにいるのだけで行きましょう」

 

 響の問いかけに律子が答え、四人だけで二人組――源三郎とラゴンを追跡し始めた。

 

 

 

 その頃、別の場所では、ガイ、千早、美希、真のチームが突然の揺れに驚いていた。

 

「な、何? 今の地震?」

「すごく短かったけど……」

 

 つぶやく美希と真。その直後に、道路に並ぶマンホールがいきなり下から水に押し上げられて吹っ飛んだ!

 

「わぁっ! びっくりしたぁ!」

「危ないわね……!」

「何なに? 水道管の故障なの?」

 

 突然の事態に面食らう千早たち。一方でガイは足元の道路を険しい表情で見下ろす。

 

「いや……そんな生易しいもんじゃないみたいだ」

「え?」

 

 顔を上げた先は、漁港の倉庫区域であった。

 

「確か、あっちの方には春香たちが……。お前らは他のみんなと合流しておけ!」

「あっ、プロデューサー!」

 

 千早らが止める間もなく、ガイは漁港に向かって全速力で駆け出した。

 

「もぉ~! また一人で行っちゃってぇ! ハニーったら!」

 

 置いていかれた美希がぷくーっと頬を膨らませた。

 

 

 

「ここに入ってったよね……」

 

 春香たち四人は源三郎たちの後をつけて発見した倉庫への侵入を果たしていた。懐中電灯で暗い倉庫内を照らし、探索を開始する。

 

「この倉庫のどこかに、半魚人が潜んでるのよね」

「どこにいるのかな?」

「大丈夫よ。このUMA探知機があればどこに隠れていようと……!」

 

 律子の手の中には、円筒型の装置が電子音を鳴らしていた。伊織が肩をすくめる。

 

「小四の時の自由研究で作ったって言ってたかしら? 昔からそういうの好きだったのね」

「クラスでツチノコ探しが流行ってたのよ。結局見つからなかったけど、性能は保証するわよ」

「どこからそんな自信出てくるのかしら……」

 

 それはともかく、倉庫の中を奥へと進んでいくと、探知機の音が次第に大きくなっていく。

 

「反応が強くなってきたわ! 近づいてるわよ!」

「いよいよご対面なのか!」

「ぢゅいッ!」

 

 探知機の反応に比例するかのように興奮を増していく響。律子は探知機をあちらこちらに振り回す。

 

「こっちよ! いえ、こっちみたい。それともこっち!」

「もう、どっちなの!?」

「静かに! これは……後ろみたい……!」

 

 四人が恐る恐る振り返ると……。

 

「キャア……!」

 

 ラゴンの顔が明かりに照らし出された!

 

「――きゃああぁぁぁ―――――――――――――!!?」

「ぢゅうぅッ!?」

「キャアアァァァッ!!」

 

 仰天した春香たちは散り散りになって逃げる。ラゴンも。

 

「……って逃げてどうするのよ! あれ探しに来たんでしょ!?」

「そうだったわ! ついノリで!」

「キャアァー……」

 

 同じ方向へ逃げた伊織と律子が立ち止まるが、背後の旗の下から変な音が聞こえたので振り返った。

 

「今の、鳴き声っぽかったわよね……」

「ここからしたわ! えいっ!」

 

 律子が旗をめくると――先ほどのラゴンよりひと回りほど小さいラゴンの姿が露わになった。

 

「――ラゴンの子供!!」

「いやいやいや!」

「人間!?」

 

 すぐ近くから源三郎も出てきた。彼は子ラゴンをかばうようにしながら告げる。

 

「病気なんだよ! 乱暴なことはしてあげないでくれるか!?」

「病気ですか!? ちょっと診せて下さい」

 

 と言って律子が取り出したのは聴診器。驚く伊織。

 

「律子あんた、そんなスキルあったの!?」

「子供の頃の夢第一位は平和を愛するスーパーロボットの開発、第二位はタイムマシンの発明、第三位は獣医だったの」

「ガラリと方向性変わるわね!」

 

 源三郎のランプで明かりを確保する中、律子がペンライトで子ラゴンの口の中を覗き込む。

 

「ちょっとお口開けてねー」

「アアアァー!」

「こら大人しくして! 伊織ちょっと抑えてて!」

「何で私が……!」

 

 暴れる子ラゴンを伊織に抑えつけてもらいながら診察する律子。そこに春香、響、親ラゴンもやってきた。

 

「キャッ!?」

 

 親ラゴンは子供がいじめられていると誤解し、腕を振り上げて律子に襲いかかる!

 

「キャアアァァァッ!」

「ストーップっ!」

 

 だが響に制止され、思わずピタリと止まった。

 

「律子はあの子の病気を治そうとしてるんだぞ。分かる?」

「キャアアァァァッ」

「うんうん、分かってくれたならいいよ。ところで君たちはどうしてこんなところに?」

「キャアアァァァッ」

「へぇ~、深海はそんなことになってたんだ。大変だったね」

 

 親ラゴンと会話する響に源三郎は仰天。

 

「嬢ちゃん、そいつの言ってることが分かるのか!?」

「ハム蔵とも明らかに会話するし、響ちゃんって何者なんだろう……」

 

 冷や汗を垂らす春香。そうこうしている間に律子の診断が終わった。

 

「この子の足先を温めてあげて下さい。それから、毛布でも何でもいいから、身体に巻きつけて暖を取って」

 

 伊織は律子の指示を疑う。

 

「そんな誰でも言えるようなことでほんとに良くなるの!?」

「誰でも言えるようなことが大事なものなのよ。ほら早く!」

 

 律子が急かすので源三郎とアイドルたちは子ラゴンに倉庫の旗を巻いてあげるが、子ラゴンが暴れるのでなかなか上手く行かない。

 

「これじゃ埒が明かないわ! 大人しくさせる方法はないの?」

「音楽を聞かせれば、落ち着くんだけどなぁ……! いつもラジオを聞かせてるからね……!」

 

 伊織のぼやきに源三郎はそうつぶやいた。律子は春香の方に振り向く。

 

「音楽! 春香、何か子守唄でも歌って!」

「ええ!? そんないきなり!」

「一曲くらいすぐにでも口ずさめるでしょ! あんたアイドルでしょ!?」

「私たちみんなそうじゃないですか!」

 

 突っ込みながらも、春香は何かを思い出したように唄を歌い始めた。

 

「ルゥー……ルルルルルゥー……」

 

 ゆったりとしたメロディに、子ラゴンは急激に大人しくなり始めた。それに感激する源三郎。

 

「すごい! こんなすぐに効果が出るのは初めてだよ!」

「この歌……?」

 

 春香が知らない歌を口にすることに、響らは唖然と振り返った。春香はそれに構わずに唄を続ける。

 

「アァー……アアアーアアアー……アーアーアアアーアァー……」

 

 春香の唄で子ラゴンはすっかり落ち着き、また呼吸も整った。

 

「おぉ!? 元気になったかぁ!? よかったよかった!」

 

 源三郎と親ラゴンが喜ぶ傍ら、響と伊織は春香に尋ねかける。

 

「春香、今の唄は何?」

「765プロの歌じゃないわよね」

「小さい時、病気で伏せった時とかにママがよく歌ってくれたの。ママもおばあちゃんから聴かせてもらってたみたいだけど、この唄を聴くと不思議と気持ちが落ち着いて気分が良くなるんだ。それを思い出したの」

 

 春香の説明に耳を傾けながら、律子は腕を組んで考え込む。

 

「……何か、どこかで聴いた覚えのあるような旋律だったわね……」

「あっ、それ自分も思ったぞ」

「私も。でもどこだったかしら……」

 

 悩む三人だったが、この時には思い出すことは出来なかった。

 



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しあわせの半魚人(B)

 

「ふぅ……ひとまずは安心みたい」

 

 スヤスヤと寝ついた子ラゴンと、その様子を優しく見守る親ラゴンをながめながら、春香が息を吐いた。律子は源三郎に振り返って尋ねかける。

 

「ところで戸松さん、あなたはどうしてあのラゴン親子をかくまってるんですか? どこで出会ったんですか?」

 

 質問を受けて、源三郎は遠い目をしながら彼女たちに説明を始める。

 

「初めて会ったのは、俺が一人で漁をしてる時さ。妙に海面が泡立ったと思ったら、あの親子が俺の船に上がって来たんだ。そりゃあ初めは心底驚いたさ。けどここんところ魚の数が減っていってるだろ? どうも食事にありつけずに困ってるみたいなんで、ウチの倉庫に置いてあげたって訳さ」

「随分寛容ですね……。ビートル隊に通報しようとかは思わなかったんですか?」

「戸松さんはラゴンの言ってること分かる訳じゃないんでしょ?」

 

 伊織と響が聞き返すと、源三郎は子ラゴンの寝顔を見つめながら苦笑する。

 

「あの子、まだ小せぇじゃねぇか。そんな子供を気遣う母親も、たとえ人間じゃなくたってけんもほろろにするなんざぁ男じゃねぇ! それに海は人間だけのもんじゃねぇ。幸はみんなで分かち合わなくちゃいけねぇんだ。海の男は心が広いんだ!」

 

 源三郎の発言に、響は口元をほころばせた。

 

「戸松さん、優しいんだね……」

「よしてくれやい。嬢ちゃんみたいな子たちに褒められるのはこそばゆいぜ」

 

 照れ隠しに笑う源三郎。一方で響を相手に伊織がつぶやく。

 

「人間だけのものじゃない、ね……。そんな考え方もあるのね……」

「ん? 伊織、どういうこと?」

「私、正直怪獣って迷惑なだけだと思ってたわ。出てくる度に街を壊すし、私たちも何度も危ない目に遭ったし……いなければいいのにと思ったこともある。だけど……あの親子みたいに、怪獣も生きてるのよね。いなければいいなんて、勝手な考えよね……」

 

 伊織の言葉に、響は共感するようにうなずいた。

 

「自分も、怪獣って怖いものだと思ってたぞ。山みたいにでっかいし……。でも、自分やハム蔵と同じ命なんだよね」

 

 肩の上のハム蔵をあやす響。

 

「出来れば、怪獣をやっつけないで済ますことって出来ないのかな……」

 

 と話し合っていたところに、源三郎が響に問いかける。

 

「そういや響ちゃん、さっき深海がそんなことになってるとか言ってたな。どんな話を聞いたんだ?」

「ああ、それは……」

 

 響が話そうとした矢先、倉庫を短く激しい揺れを襲った。

 

「な、何!?」

 

 動揺する一同。子ラゴンも思わず飛び起きる。

 

「今の地震!?」

「いえ、この揺れ方のパターンは経験からするに……!」

 

 律子が分析結果を出そうとしたが、その寸前に倉庫にガイが飛び入ってきた。

 

「お前ら! ここにいたか!」

「プロデューサー(さん)!!」

「ここは危険だ! 避難しろ!」

 

 ガイに命じられて、春香たちは慌てて倉庫から飛び出した直後に、コンテナの向こう側から巨大な何かが地面を突き破ってきた!

 

「グビャ――――――――! キイィィーッ!」

 

 魚のようであるが、陸上を歩ける四肢を持っている。黒と黄色のまだら模様の胴体の左右に水色のヒレが生えており、鼻先にはノコギリ状の刃が生えたドリルがついており、剣呑な輝きを放っていた。目は充血したように真っ赤で恐ろしい獰猛さを窺わせる。

 

「怪獣っ!」

 

 春香が叫ぶと、響が出現した怪獣を指差した。

 

「あ、あれだぞ! ラゴンは、あれが深海で暴れてて避難してきたんだって! でも聞いた特徴とちょっと違うぞ……。二匹分のを、全部持ち合わせてるような感じ……」

「合体怪獣だ! またジャグラーが余計なことしやがったな……」

 

 舌打ちしたガイがにらむ先で、グビラとサメクジラが合体させられた深海合体怪獣サメグビラは、こちらに目を向けると、まっすぐ突進し始めた。

 

「グビャ――――――――! キイィィーッ!」

 

 脇目も振らず直進してくるサメグビラに、伊織が仰天する。

 

「何でまっすぐこっちに来るの!?」

 

 それについてはガイ曰く、

 

「美味そうな魚がいると、気づいたのかもな……」

 

 振り返る一行の視線は、ラゴン親子に集まった。

 

「冗談じゃねぇよ!!」

 

 引きつった顔でラゴン親子をかばう源三郎に指示するガイ。

 

「早くその親子を隠せ! 俺が奴の注意を引きつけるッ!」

「分かりました!」

「プロデューサーさん、気をつけて!」

 

 サメグビラへ向かっていくガイの反対方向へ、律子たちはラゴン親子を連れて逃げ出した。

 

「こっちよ、早く!」

 

 ――だが、途中で子ラゴンが不意に立ち止まると、どういう訳か来た道を引き返し出した! ギョッと目を剥く響たち。

 

「ど、どうしたんだー!? 戻ってこーいっ!」

「ヂュヂューッ!」

「ちょっとぉっ! そっち行っちゃ駄目だったらー!」

 

 サメグビラが接近してきているのに倉庫内に舞い戻る子ラゴンを、響と伊織が追いかけていく。

 一方で子ラゴンは、倉庫に置いてきていた漁船の模型を手に取っていた。源三郎からもらったお土産を忘れてきたのだった。

 

「キャキャー♪」

 

 模型を見つけて安堵する子ラゴンだったが、そこに天井がドリルで突き破られた!

 

「ホアッ!?」

「グビャ――――――――! キイィィーッ!」

 

 響と伊織は倉庫の手前まで来ていたが、サメグビラが粉砕した倉庫の瓦礫が降ってきて足を止めさせられた。

 

「あ、危ないっ!」

「あの子は!?」

 

 顔を上げた響の目に――サメグビラのドリルの上にすくい上げられた子ラゴンの姿が飛び込んだ。

 

「あぁーっ!?」

 

 響が、伊織が、春香たちが絶叫。源三郎と親ラゴンは思わず抱き合った。

 

「キイィィーッ! グビャ――――――――!」

「キャ―――――ッ!!」

 

 そしてサメグビラはドリルを振り上げて子ラゴンを真上に飛ばし――落下してきたところを丸呑みにしてしまった!

 

「た、食べられたぁ――――――っ!!」

「ヂュウ――――――ッ!!」

 

 大慌ての響と伊織の元に、囮として飛び出していたガイが駆けつける。

 

「今ならまだ間に合う! 響、伊織、行くぞ!」

「う、うん!」

「早く早くっ!」

 

 響の肩からハム蔵が飛び降り、ガイはオーブリングを取り出す。

 そしてリングに響がウルトラマンジャックのカードを通す。

 

「ジャックさんっ!」

[ウルトラマンジャック!]『ジェアッ!』

 

 次に伊織がゼロのカードを通す。

 

「ゼロっ!」

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェアッ!』

 

 そしてガイがオーブリングを掲げる!

 

「キレのいい奴、頼みますッ!」

[ウルトラマンオーブ! ハリケーンスラッシュ!!]

 

 響と伊織がガイと融合し、オーブ・ハリケーンスラッシュとなった!

 

『光を越えて、闇を斬る!!』

 

 オーブは即座に超スピードで飛び出し、身体を下ろそうとしていたサメグビラの顎を打ち据えて無理矢理上を向かせた。

 

「トアァァーッ!」

『「こらー! その子はあんたの餌じゃないのよっ!」』

『「吐き出せぇーっ!」』

 

 オーブが剥き出しのサメグビラの腹を力の限り何度も殴ったことで、サメグビラはたまらずに潮吹き。

 

「グビャ――――――――ッ!」

 

 潮に混じって、子ラゴンが飛び出してきた!

 

「キャアァーッ!」

『「出てきたわ! 無事よ!」』

『「よかったぁー……!」』

 

 子ラゴンをキャッチしたオーブは、そっと親ラゴンの元へと下ろしてあげた。

 

「キャキャキャーッ!」

「キャアアァァァッ!」

「おぉー! よかったなぁホント!」

 

 ひしっと抱き合うラゴン親子を、春香たちが改めて逃がしていく。

 

「こっちは私たちに任せて!」

「怪獣はお願いよ!」

『「よーし、まっかせなさい!」』

 

 うなずいたオーブは、ラゴン親子を追いかけようとするサメグビラに飛び掛かって馬乗りになり押さえつける。

 

『「これ以上あの親子には手出しさせないぞっ!」』

「グビャ――――――――! キイィィーッ!」

 

 サメグビラの背中を殴りつけて弱らせようとするオーブだが、獲物を吐き出させられて怒り心頭のサメグビラはちょっとの攻撃ではひるまない。身体を振り上げ、背の上のオーブをはね飛ばした。

 

「ウッ!」

「グビャ――――――――! キイィィーッ!」

 

 更に仰向けに倒れたオーブに今度はこちらが覆い被さって、鼻先のドリルを突き出した。ギリギリで首を曲げてドリルをかわしたオーブだが、ドリルは易々と地面を穿つ。

 

『あれを食らったらお陀仏だぞ!』

『「何て危ないもの鼻にぶら下げてるの! 信じらんないっ!」』

 

 サメグビラが再びドリルで攻撃してくる前に、オーブは片手でオーブスラッガーランスを召喚。

 

『「刃物には刃物よっ!」』

 

 さすまた状の穂先でサメグビラの鼻をはさみ、徐々に押し返していく。

 

「グビャ――――――――! キイィィーッ!」

「オォォォォ……リャアッ!」

 

 そして気合いとともにサメグビラをひっくり返した! 伊織はこの機を逃そうとはしない。

 

『「さぁ、とどめと行こうかしら!」』

『「待って伊織!!」』

 

 しかしそれを響に制止された。

 

『「響! どうしたっていうのよ?」』

 

 いぶかしむ伊織に、響は言った。

 

『「あの怪獣だって、元々は生きるためにご飯を探してただけだぞ。やっつけちゃうのはかわいそうさー!」』

『「うっ……」』

 

 言葉を詰まらせた伊織だが、すぐに響に反論する。

 

『「じゃあどうするのよ! このままほっといたらまたあの親子が危ないわよ?」』

『「それは……」』

 

 響が言い淀んだその時、二人の眼前にオーブリングとともに二枚のカードが浮遊した。

 

『「えっ、このカードは……」』

『コスモスさんとエックスさんのカードだ!』

 

 解説するオーブ。

 

『響、お前の怪獣も救おうとする気持ちに、二人の力が共鳴してる! その二枚でフュージョンアップするんだ!』

『「――分かったぞ!」』

 

 響は手を伸ばしてリングとカードを手に取り、直ちにリングに通した。

 

『「コスモスさんっ!」』

[ウルトラマンコスモス!]『フワッ!』

 

 響の隣に青いウルトラマンのビジョンが現れ、伊織が二枚目のカードをリングに通す。

 

『「エックスっ!」』

[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』

 

 伊織の隣にエックスのビジョンが現れると、響がトリガーを引いてフュージョンアップ!

 

『慈愛の心、お借りしますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 コスモスとエックスが響たちと融合し、オーブの形態が変わる!

 

『テアッ!』『トワァッ!』

[ウルトラマンオーブ! フルムーンザナディウム!!]

 

 淡い柔らかな光の中から、X字の閃光とともに飛び出すオーブ!

 カメラを回している律子が叫ぶ。

 

「オーブの新しい姿だわ!」

「何だか優しそうな雰囲気……」

 

 春香の言った通り、コスモスとエックスの特徴が大きく身体に反映された今のオーブは、怪獣保護を推し進める二人の慈愛の精神を引き継いだフルムーンザナディウム! 戦いのための力ではなく、命を守るためにその超能力は振るわれるのだ。

 

(♪LUNA MODE ‐慈しみの青き巨人‐)

 

『俺たちはオーブ! つながる力は、心の光!!』

 

 再変身を遂げたオーブにサメグビラがドリルを高速回転させて、再度突進してくる。

 

「グビャ――――――――! キイィィーッ!」

 

 それに対してオーブは動じず、両腕を末広がりに天高く掲げてから、腰をひねって身体を左へねじり、戻す勢いで手の平から光の粒子を放出した。

 

「「『フルディウム光線!!!」」』

 

 サメグビラは光の粒子を頭から浴びる。するとどうしたことだろうか、それまで猛っていたのが嘘のように大人しくなったではないか。

 

「グビャ―――……」

 

 フルディウム光線には鎮静作用がある。浴びた怪獣は、戦意を削がれてすっかり落ち着くのだ。

 更にオーブは手の平から光線を発する。

 

「「『ルナエックスエキストラクト!!!」」』

 

 光線が当たると、サメグビラの身体が二つに割れ、それぞれグビラとサメクジラに戻った。

 

「グビャ――――――――」

「キイィィーッ」

 

 光線はダークリングの暗黒の力を解除し、二体の怪獣を元の姿に戻したのだった。

 

「ヘアッ!」

 

 オーブはグビラとサメクジラを光のバルーンの中に包み込むと、宙を飛んで押し出す形ではるか遠洋まで二体を運び去っていったのだった。

 

 

 

 グビラとサメクジラはオーブの手によって海に帰された。このことについて、亜美が質問する。

 

「でも海に帰しても、魚がいなくちゃまた陸に上がってきちゃうんじゃないの?」

 

 それについてのガイの回答は、

 

「いや、あいつらは休眠期に入る。長い命を持つ怪獣は行動のスパンが長いからな。また魚が増えて海に戻ってくるまで、海底でじっと大人しく眠りに就いてるだろうよ」

「そっかぁ。なら安心だね!」

 

 そしてグビラたちが大人しくなったことで、ラゴン親子も深海に帰ることとなった。765プロアイドルと、源三郎が親子の見送りをする。

 

「また、すぐに会えるからな。いい子でいるんだぞ!」

 

 と呼びかける源三郎に、子ラゴンはひしっと抱きついた。

 

「キャアー!」

「そっか。そっかそっか!」

 

 子ラゴンを抱擁し返す源三郎をながめて、美希がつぶやく。

 

「響が翻訳してないのに、言ってることが分かるの?」

「言葉は通じなくても、真心は通じるのよ」

 

 あずさがほっこりと微笑んだ。

 春香はこの場に立ち会っている渋川に顔を向ける。

 

「叔父さん、捕獲しなくていいの?」

 

 渋川は苦笑しながら答えた。

 

「ビートル隊が怪獣を攻撃するのは、市民を守るためだ。害のない、絶滅危惧種を捕まえるためじゃない」

「よかった……」

 

 アイドルたちが安堵していると、子ラゴンが渋川の手も引っ張る。

 

「キャアアー!」

「おい、おい! 何だよぉ!」

 

 子ラゴンにじゃれつかれている源三郎と渋川の様子を温かい目で見つめる響がガイに話しかける。

 

「あの親子、しあわせだね」

「ん?」

「昔に陸に上がってきたのは人間から怖がられて、追い立てられたんでしょ? でもあの親子は、受け入れてくれる人と出会えた。それってとってもしあわせなことだと思うんだ」

 

 と語る響にガイは苦笑。

 

「人間じゃない奴にしあわせをあげたのは、響、お前もだろう」

「えっ? そ、そんなことないぞ。自分は当たり前に思いつくことをやろうと思っただけさー」

 

 照れて謙遜する響。そんな彼女にハム蔵は苦笑しながら首を振った。

 とそこに、子ラゴンが源三郎たちと戯れている間に、親ラゴンがガイの元へと近づいてきた。

 

「キャアアァァァッ!」

「んッ、何だ?」

「何か助けてくれたお礼をくれるんだって! よかったね!」

 

 親ラゴンが差し出したのは、水の塊のような青い光の球。それをガイが受け取ると、球はしぼんで小さい四角形に変わった。

 それは青いウルトラマンのカードだった!

 

「プロデューサー、それって!」

 

 伊織たちが一瞬騒然となり、ガイはまじまじとカードを見つめた。

 

「ウルトラマンアグルさんの力……! そうか、海から取って来てくれたのか。ありがとうな!」

「キャアアァァァッ!」

「喜んでもらえて何よりだって!」

 

 にこにこ笑う響の一方で、律子はビデオカメラの蓋をそっと閉ざした。

 

「ちょっと残念だけど、あの親子の姿をアップするのはよしましょうか。下手に取り上げないで、そっとしてあげるべきよね」

「まこと正しき判断ですね、律子。流石です」

 

 律子の判断を貴音が称えた。

 そうしていると、春香の元に子ラゴンが駆け寄ってきて何かをねだるように手を握った。

 

「キャキャキャー!」

「えっ、何?」

「あの歌、もう一度歌ってくれって! 大分お気に召したみたいだぞ」

 

 響が訳して、渋川も春香に頼む。

 

「春香ちゃん、餞別代わりに歌ってやってくれねぇか」

「う、うん。それじゃあ……」

 

 こほん、と小さく咳払いした春香が、子守唄を歌い始める。

 

「アアアアー……アアアーアアアー……」

 

 子ラゴンが歌に合わせて船の模型を揺り動かす――一方で、ガイが目を丸くして春香へ振り返っていた。

 

「春香……どうしてあの曲を……?」

「?」

 

 ガイの不審な様子に気づいた千早たちがいぶかしんだ。ガイはその視線にも気づかず、ハーモニカを取り出してハルカのメロディに合わせて奏でる。

 

「……!」

 

 歌の中でラゴン親子が海に帰っていく傍らで、伊織たちがハッと気がついた。

 

「そうだ……春香の唄、プロデューサーが奏でる曲に似てたんだわ……!」

「で、でもどうして? あれって春香の家に伝わる子守唄なんでしょ?」

「さぁ……偶然曲調が似てる……なんてことはあり得るのかしら……」

 

 ガイのハーモニカと春香の歌声のハーモニーを聴きながら、律子たちは首をひねったのだった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

響「はいさーい! 我那覇響だぞ! 今回紹介するのは、慈愛の精神を持つ青い巨人、ウルトラマンコスモスだぞ!」

響「コスモスさんは2001年放送の『ウルトラマンコスモス』の主人公! この頃は前作『ウルトラマンガイア』の影響もあって、怪獣をただ倒すだけじゃいけないって感情が強まってたんだ。そんな中で誕生したのが、怪獣を倒すんじゃなくて保護するウルトラマンだ! コスモスさんは劇中でたくさんの怪獣を救ったんだぞ!」

響「けれど同時に真の邪悪には敢然と立ち向かう力と勇気もあって、バラエティ豊富な戦いを見せてくれたぞ。そして最終的には、作品通しての敵のカオスヘッダーとも心を通わす結末を導いたんだ」

響「怪獣保護に対する姿勢は意外とシビアで、時には悲劇的な結末になることもあったけど、その分最後が感動できるってものさー!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『しあわせのレシピ』だ!」

ガイ「『ぷちます!』のCDシリーズ『Twelve Seasons!』の曲の一つで、これは十月を担当する歌だ! 響のソロ曲はクールなイメージのものが多いが、これは落ち着いた曲調のほっこりする歌詞だぞ」

響「美味しいご飯はしあわせの基本さー!」

響「それじゃ、次回もよろしくねっ!」

 




 真美だよ~。律っちゃんがバイトしてた工場に、泥棒が入ったんだって! でも金属だけを盗む泥棒ってどんななの? とか言ってたらチョー強い敵が出てきちゃってマジやばい! 律っちゃんといおりんは勝てるのかな?
 次回『涙よgood bye』。工場長さんは律っちゃんの恩師なんだって!


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涙よgood bye(A)

 

「七人以外の巨人がその力を用いて、世界のバランスを安定させたとあるの」

「ウルトラマンのカードって、他にもあるのかな?」

「エックスさんの力……! 確かに受け取りました」

「ガーゴルゴンを封印してたのは、ウルトラマンコスモスさんの力でしたか!」

『ウルトラマンダイナさんのカード! 宇宙から飛んできたのかッ!』

「これは……ウルトラマンマックスさんとヒカリさんの力!!」

「あの人は、これを必要にしてる人にこそ本当の力になると言ってたわ」

「ウルトラマンアグルさんの力……!」

「これからお世話になります」

 

 

 

『涙よgood bye』

 

 

 

「プロデューサーさん……」

 

 小鳥がガイのデスクの上に、書類の束をドサドサッ! と置いた。

 

「この書類全部にミスがありました。訂正して下さい」

「えッ!? これ全部ですか!?」

「はい」

 

 うげッ! と思わずうめくガイ。彼に傍らの伊織が白い目を向ける。

 

「もう、また記入ミスなの? それもそんなにたくさん! 毎度毎度よくやるわね」

「お、俺だって好きでやってる訳じゃねぇよ」

「兄ちゃん、デスクワークはほんとダメダメだよね~」

「ね~」

 

 亜美と真美も呆れ顔だ。伊織は深い深いため息を吐く。

 

「全く、肝心のプロデューサーがいつまでもこんな頼りない調子じゃ、私たちいつになったらトップアイドルになれるのかしら」

「そんなこと言うことないだろ! 俺は元々風来坊だからな、机に向かうより足を使う方が性に合うんだよ……」

「そんなこと言って、外回りでも大して成果上げてないじゃないの」

「ぐぅッ!」

 

 痛いところを突かれてうめくガイを、見かねた真が擁護する。

 

「ま、まぁまぁ伊織、お手柔らかに……。プロデューサーも、正義の味方で大変なんだからさ……」

「今の私たちに必要なのは正義の味方じゃなくて敏腕プロデューサーよ」

 

 辛辣な伊織にガイはすっかりたじたじだった。

 

「くそぅ……こんな時に律子がいたら、仕事手伝ってもらえるのに」

「担当アイドルにいつもカバーしてもらうのだって情けないんじゃないの?」

「うぐ……」

 

 伊織にやり込められるガイの一方で、亜美は律子のことを気に掛けた。

 

「そーいえば、律っちゃんどこ行ったの? レッスンとかお仕事とかはないはずだよね」

「律子さん、以前バイトしてたところに行ってるみたいよ」

 

 亜美の疑問に小鳥が答えた。

 

「前にバイトしてたところ?」

「そう、ウチに来る前にね。確かお船だかキツネだかそんな名前の……」

「でもどうして今更そんなとこに? 何の用事なの?」

 

 と真美が言った直後に、ガイのケータイに着信があった。

 

「律子からだ。噂をすればって奴か?」

 

 ガイはすぐに応答する。

 

「俺だ。律子、何かあったか? ……えッ? ああ……分かった。そういうことなら……」

 

 ある程度話をして電話を切ったガイに、真が尋ねかける。

 

「プロデューサー、律子は何て?」

 

 それに対してガイの答えは、

 

「何でもすぐ来てほしいってことだ。あいつの行ってる先で、おかしな事態が起きてるそうでな」

「おかしな事態……?」

「これはまたミステリーの匂いがしますなぁ」

「またまた真美たち765プロの出番ですかな」

 

 亜美と真美が格好つけて言った。ガイは小鳥に振り向く。

 

「そういうことなので音無さん、俺が戻るまで仕事の方、またフォローお願いします」

「えぇっ!? またですかぁ!?」

 

 ガビン、とショックを受ける小鳥。

 

「もう、これじゃまた残業ね……。正義の味方の支援も大変だわ……」

 

 ぼやく小鳥に留守を任せて、ガイたちはすぐに律子の元へと出発していった。

 

 

 

 765トータス号は町外れにある小さな工場、「コフネ製作所」の前に停車した。

 

「ここだな」

「へぇ~。律っちゃんここでバイトしてたんだ」

「町工場なんて、如何にも律子らしいわね」

 

 ガイは亜美、伊織たちを連れて工場のインターホンを鳴らした。

 

「すいませーん、ここに来てる秋月律子に呼ばれた紅ガイという者ですが」

『プロデューサー、待ってましたよ! そのまま上がって下さい』

 

 応対したのは律子当人であった。彼女に促されるまま工場に立ち入っていくと、ガイたちを律子と豪放な雰囲気の中年男性が出迎える。

 

「おお、よく来てくれましたなぁ! あなたが律子ちゃんの事務所のプロデューサーさんですか。そっちの子たちは律子ちゃんの同僚ですかな?」

「紅ガイです。失礼ですがあなたは?」

「私はこの製作所の社長の小舟惣一です。どうぞお見知りおきを」

 

 社長の小舟という男性の背後には両手の指で数えられる程度の社員と思しき人たちがいて、数人はおどけた様子でこちらに手を振っていた。亜美と真美は面白がって手を振り返す。

 伊織がぼやく。

 

「社員はこれで全員なの? ちっさいとこなのね」

「伊織、失礼だよ! ちっさいのは人のこと言えないんだし……」

「すいません! ウチの奴が失礼なことを……」

 

 伊織の失言を謝るガイだが、小舟は気を悪くするどころか豪快に笑った。

 

「ワッハッハッ! なーに本当のことだから構いませんよ。ウチは創業以来バネひと筋なもんでしてな、バネに関しては右に出る者はいないと自負してますが、その分会社はいつまで経っても小ぢんまりとしたまんまで!」

「小舟さんは大体こういう方なんです」

 

 律子がそっとガイに囁きかけた。

 小舟と挨拶を交わしていたガイたちの元に、社屋の奥から扇子を煽いでいる人物が一人。

 

「まぁた来たのかい、765プロさん。まぁ秋月ちゃんがいる時点で分かってたけど」

「あっ、渋川のおっちゃんもいたんだ」

「おっちゃんは何の用なのー?」

 

 真美が質問すると、渋川は扇子をパタパタ煽ぎながら答える。

 

「このコフネ製作所には、ゼットビートルの緊急脱出装置用のスプリングを作ってもらってるんだ」

「へぇ~、キンキュー脱出装置!」

「本当ならスプリングのチェックと受け取りのはずだったんだが……ここで巷を騒がしてる怪事件に遭遇しちまうなんてなぁ」

 

 真が律子に顔を向ける。

 

「巷を騒がしてる怪事件って?」

「ニュースか何かで見なかった? 各地の工場から、金属がごっそりと消えてしまう事件が相次いでるって。それが今度はここで発生したのよ……!」

「うむ! 詳しいことは私から話しましょう」

 

 大きく顔をしかめた小舟がガイたちに事件のあらましを説明する。

 

「始業してすぐのことだった。今日も私たちはバネ作りに取り掛かろうとしたんだが、ふと気づくと材料の金属がいつの間にか煙のように消えてなくなっていた! これじゃ仕事にならねぇ、大損だ! と弱り果ててたところに、渋川さんよりも先に律子ちゃんがやってきた。ウチの奴の一人が連絡を入れたということでしてな」

「私たちは超常現象を追ってますから、事件の謎を究明できるんじゃないかと考えてくれたみたいです。私としても、色々とお世話になった小舟さんとここの方たちをどうにかして助けてあげたいんです。プロデューサー、どうか知恵を貸して下さい」

「なるほど……。そういうことならいくらでも手を貸すさ」

「ありがとうございます!」

 

 話を纏めるガイと律子の間に渋川が割り込んでくる。

 

「おいおいおいおい! だから民間人があんまり首を突っ込むなっての。こういうのはプロ、つまり俺に任せとけって」

「でも渋川のおっちゃん、まともに事件を解決したことがあったっけ?」

「いっつもビートル隊はオーブに助けてもらってるじゃないの」

「ぐッ!? 痛いとこを的確に突いてくるじゃねぇかよチクショウッ!」

 

 亜美と伊織のひと言に、渋川は左胸を押さえた。

 

「どっちでもいいから、とにかく早く事件の謎を解き明かして下さい! また金属が消えるようなことがあったら、バネを作るどことじゃありませんからな!」

 

 小舟に頼まれ、ガイと律子は早速事件の推理に取り掛かり出した。

 

「まずは犯人像の特定なんですが……やっぱり犯人は宇宙人と見ていいでしょうか。一瞬の内に工場の金属全部を消してしまうなんて、人間業じゃないですから」

「ああ、そう見ていいだろう。もっとも、現段階じゃどんな手段を用いたのかとかは分からんがな」

「宇宙人の金属泥棒……。何が目的でしょうか」

「妥当なところを考えるとすりゃ、宇宙船かロボットの修理に必要な材料を集めてるってとこか……。けど全部の事件が同一犯とするなら、量がやたらと多い気もするな。もしかしたら別の用途なのかもしれん……」

 

 ガイと律子が話し合っている一方で、亜美と真美がヒソヒソと小舟に尋ねかける。

 

「ねーねー小舟のおじさん、律っちゃんといつ、どこで知り合ったの? おせーておせーてぇ~」

「おッ、何だいお嬢ちゃんたち。律子ちゃんとの昔話に興味あるのか?」

「うんうん! 真美たち律っちゃんのこと大好きだかんね~♪」

「そうかそうか! 律子ちゃんは友達に大分好かれてるんだなぁ。いやぁ実にいいことだ!」

 

 それに気がついた伊織と真が亜美たちをたしなめる。

 

「ちょっと何やってるの。そんなことしてる場合じゃないでしょ?」

「人のことを勝手に探ろうとするなんて、お行儀が良くないよ」

 

 しかし亜美は言い返した。

 

「でも二人も、あの律っちゃんが昔どんなだったかとか、興味ないのー?」

「それは……」

「まぁ、ちょっとは興味あるけど……」

「ハハハ、責任なら俺に任せとけ。律子ちゃんのこと、ちょこっとだけ話してあげようじゃねぇか」

 

 小舟は亜美たち四人を連れて社長室に移り、そこで話を行う。

 

「律子ちゃんと最初に会ったのは、もう十年も前になるかな。その時俺は、小学生ロボットコンテストの審査員として招かれてた。律子ちゃんはそのコンテストで、惜しくも入選を逃した」

「ええ? あの律っちゃんが?」

「意外ね……」

 

 驚きを露わにする真美と伊織。

 

「誰だって何でも上手くやれる訳はねぇさ。誰だって壁にぶつかるもんだ! で、コンテストの終わり、俺はたまたま律子ちゃんが隠れて泣いてるところを目撃した。相当悔しかったんだな」

「あの律子が、号泣だなんて……」

 

 真が唖然としながら長い息を吐いた。

 

「俺はそれがほっとけなくて、励ましてあげた。すると俺のことを知ったあの子は、自分にロボット作りを教えてほしいと頼んできた。かなり必死な顔だった。今でもその時のことははっきり思い出せるよ。その熱い気持ちを気に入った俺は、力を入れて律子ちゃんを指導してやった! 時には厳しく接して、律子ちゃんを泣かす時もあったがなぁ」

 

 あの律子を泣かすとは、どれだけ厳しい指導だったのだろうと四人は内心考えた。

 

「だが人間は涙の分だけ大きく成長する! 次の年のコンテストでは、律子ちゃんは見事最優秀賞に輝いた! こいつはその時の写真だ」

 

 小舟は写真立てに飾られた、小さい律子と写っている写真を取り出して亜美たちに見せた。

 

「わぁ~、律っちゃん小さい!」

「そんな経緯があったんですね」

「それからも俺は律子ちゃんと交流を持って、あの子が困った時なんかには度々アドバイスをあげた。そして律子ちゃんが高校生になった時には、この会社でアルバイトをしてたのさ」

 

 今度はコフネ製作所の社員たちも入った写真を見せる小舟。

 

「あの子の腕は正社員顔負けだから、辞めたのが今でも惜しいくらいだ! しかし、ウチのアイドルだった律子ちゃんが本当のアイドルになるなんてなぁ」

「そこのとこ、実は前からちょっと不思議に思ってたんだよね」

 

 不意に真美がつぶやく。

 

「何で律っちゃん、アイドルになったの? そのまんまここにいるか、発明家の道を進んでたらよかったんじゃない?」

「そうよねぇ。私も、自分の才能を伸ばす方向に進もうとは思わなかったのかって思ってたわ」

 

 その理由を、小舟が語る。

 

「実は律子ちゃん、思春期に入った辺りから悩み出してな。自分が周りから女の子として見られないってな。それどころか、あまりに他人と違う自分が疎まれてるようだと。それで俺は、別嬪なんだから人に愛されるアイドルなんかに挑戦してみたらいいんじゃねぇかって言ったのさ。いやまさか本気にするとはなぁ」

「えっ、そういう理由だったんですか!」

「ほんと意外ね……。律子がそういうこと気にするなんて……」

 

 伊織が思わずつぶやくと、小舟は苦笑を浮かべた。

 

「君たちは知らんかもしれんが、あの子は結構純情だよ。決して周囲に無頓着な人間なんかじゃねぇさ。人の自分を見る目を気にするし、かわいいと言われたら喜ぶ。まぁ恥ずかしがりなんで、認めようとはしねぇけどな!」

「そーだったんだぁ」

 

 今まで知らなかった律子の一面を聞き、感心する亜美たち。すると真美がこんな質問をする。

 

「じゃあさじゃあさ、小舟のおじさんはどーしてバネひと筋なの? さっき言ってたけど」

「ん?」

「ロボットコンテストの審査員やるくらいなら、もっと色んなもの作れるんじゃないの? それなのにバネだけ作ってるなんて」

 

 と聞かれて小舟は大きく笑う。

 

「そいつは俺が、バネが好きだからさ!」

「えぇー? バネが好きなんて変なの」

「こら、真美!」

 

 たしなめる伊織だが小舟は手を振る。

 

「構わんさ。よく言われることだよ。けど、バネってのは人間と同じなのさ! どんな苦難に押し潰されようとも、それをはねのける力がある!」

「へぇ~! 面白いこと言うねおじさん」

 

 面白がる亜美。小舟は更に話を続ける。

 

「今度はちょいと俺のことを話そうか。俺は今ではこんなだが、子供の頃は正反対で、なよなよしててすぐに泣き出しちまう弱虫だった! 今でもちょっと恥ずかしいくらいのな」

「えっ、そうなんだ!」

 

 意外すぎる話に目を丸くする真美たちであった。

 

「そんなだからクラスではいじめられて、一時期は毎日が真っ暗だったよ。だがそんな時にあの人と出会った!」

 

 小舟の遠くを見る目に尊敬の色が混じる。

 

「坊さんの格好をしてたあの人は、弱虫だった俺を慰め、励まし、鍛えてくれた! 厳しい人で叱られたことも何度もあったが、そのお陰で俺は自分の力でいじめっ子たちを見返し、苦難をはねのけられる人間に成長できたんだ! あの日叫んだ涙に、Good bye! ってぇ訳だ!」

 

 社長室に飾られているバネの一つを手に取る小舟。

 

「そしてバネに着目した! バネは何度潰されようと元に戻る。あの人の教えを体現してるってな! それで今でもバネを作り続けてる。世界最高のバネで、世界中の人を助けて守るためにな!」

 

 小舟の言葉に感服を覚える真だが、一つの疑問も浮かぶ。

 

「でも、ゼットビートル用のバネも作ってるんでしたよね? ビートルって戦闘機、戦うための兵器でしょ? それをよくオーケーしましたね」

「そこはあの渋川さんの言葉と熱意に胸を打たれたのさ。ゼットビートルはただの戦闘機じゃない、人間の命と暮らしを救うための槍であり盾だというな!」

「渋川のおっちゃん、そういうこと言ったんだ」

 

 ただの面白おじさんじゃなかったんだ、と失礼なことを考える亜美だった。

 

「もちろん、戦争するためだけの代物だったらゴメンだったぜ。俺はそういうの大っ嫌いだ! 戦うためだけの用途だったら、心が闇に染まっちまうってもんだろ?」

 

 小舟が言い切ったその時、社長室の扉が勢いよく開け放たれた。律子であった。

 

「ちょっとちょっと! あんたたち、こんなところにいたの! さっきから姿が見えないと思ったらぁ!」

 

 振り返った亜美たちの顔をジロジロとにらみ回す律子。

 

「小舟さんから何か変なこと聞いてないでしょうね?」

「ううん、何も?」

「小舟さん、どうなんですか? 何かおかしなこと話してないでしょうね」

「何もおかしなことなんてねぇよ? なぁ」

「ね~」

 

 とぼける真美たち。怪しむ律子であったが、そうはしていられない事態が直後に発生した。

 

「うわあぁぁッ!?」

「何だ!?」

 

 突然、製作所の社員の悲鳴が起きたのだ。小舟が一番に飛び出し、律子たちが慌てて後に続く。

 社屋の玄関前で、怯える社員たちの前にガイと渋川がかばうように仁王立ちしている。そして二人のにらみつける先には――明らかな異形の怪人がいた!

 

『ホホホホホホ!』

 

 全身にトゲを生やした、金属質のボール状の胴体の、明白な宇宙人であった!

 



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涙よgood bye(B)

 

「う、宇宙人だぁぁぁッ!」

「みんな、危ないから下がって!」

 

 いきなり製作所の前に現れた宇宙人に対し震え上がる製作所の社員たちを、渋川とガイが下がらせる。そんな中で小舟は宇宙人に怯えずに怒鳴りつけた。

 

「やい宇宙人! ウチの金属は、テメェが盗みやがったのかッ!」

『リフレクト星人ダングです。如何にも、あなた方の所有していた金属は私が頂戴致しました』

 

 リフレクト星人ダングと名乗った宇宙人は少しも悪びれもせずに肯定した。そのふてぶてしい態度に憤慨する小舟と渋川。

 

「何て盗人猛々しい奴だ! 人の商売道具をかすめ取っておいて!」

「おいお前! 泥棒は地球でも犯罪だぞ! すぐに盗んだものを返せッ!」

 

 と叫ぶ渋川だが、ダングはプッと噴き出すだけだった。

 

『返せと言われて返すようだったら、初めから盗んだりするものですか。地球人は頭の回転が疎かですねぇ』

「何だとぅ~!?」

 

 丁寧語だが如何にもな慇懃無礼のダングに怒り心頭の渋川は、スーパーガンリボルバーを抜いて銃口を突きつける。

 

「あんまり人を見下すもんじゃあねぇぞ。これ以上罪を重ねるつもりだってんなら、俺のこの相棒が火を噴くことになるぜ?」

 

 渋川の脅しにも、ダングは余裕綽々だ。

 

『ホホホ、面白い。あなたなどには用はないのですが、その気なら相手になってあげようじゃありませんか』

 

 言いながら右手に装備している盾のスリットから細身の剣を伸ばした。この反応に渋川も本気になる。

 

「凶器を出しやがったな! もう引っ込みはつかねぇぞッ!」

 

 リボルバーを構え直して遂に引き金を引く! 発射された光弾はまっすぐにダングへと飛んでいくが……。

 

『ふッ!』

 

 ダングが盾で防ぐと、光弾は綺麗に反射されて渋川へと戻ってきた!

 

「うおいッ!?」

 

 仰天した渋川はどうにか身をよじってかわしたが、その拍子に転倒して後頭部をゴチンッ! と地面に強打してしまった。

 

「し、渋川さん!?」

「きゅう……」

 

 動揺する律子たち。渋川はそのまま目を回して気絶。

 

『ホホホホホ! 面白いと言ったのは、そんな貧弱な武器でこの私に挑む愚かしさのことですよ!』

 

 嘲笑するダング。失神した渋川は亜美、真美と製作所の従業員が担ぎ上げる。

 

「もぉ~、おっちゃんったらやっぱり肝心なとこでドジなんだからな」

「流石はるるんの叔父さんだよね」

 

 渋川に代わって前に出たのはガイ。

 

「リフレクト星人! 俺が相手になってやる。来いッ!」

『待ちなさいッ!』

 

 製作所の人たちを巻き込まないように別の場所へと走っていくガイをダングは追いかけていく。伊織と律子もそれを追って走る。

 

「プロデューサー! ほんとすぐ一人で突っ走るんだから!」

「金属は返してもらうわよっ!」

「おい律子ちゃんたち! 危ねぇぞ!?」

「小舟さん、ここはプロデューサーたちに任せて下さい! あれでもすごく強いので!」

 

 慌てて身を乗り出した小舟は真が抑えた。その間にガイたちはダングを誘導して製作所から離れていく。

 人の気配のないところまで来ると、ガイは立ち止まってダングと相対する。

 

「お前も俺の首を狙って挑戦してきた口ってところか?」

『如何にもその通り。ここで死んでもらいますよ、ウルトラマンオーブ!』

 

 言うなりダングは巨大化する。一方でガイの元には律子と伊織が駆けつけてきた。

 

「プロデューサー、無事でしたか!」

「もう、一人じゃ変身できないっていうのに勝手にどっか行かないでよね!」

「すまないな……。今回もお前たちの力を貸してくれ!」

「はい!」「ええ!」

 

 律子と伊織は素早くエックスとギンガのカードを掲げる。

 

「ギンガっ!」

[ウルトラマンギンガ!]『ショオラッ!』

「エックスさんっ!」

[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』

「痺れる奴、頼みますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 二枚のカードをオーブリングに通してフュージョンアップ!

 

『シュワッ!』『トワァッ!』

[ウルトラマンオーブ! ライトニングアタッカー!!]

 

 三人はオーブ・ライトニングアタッカーに変身してダングの前に立つ。

 

『電光雷轟、闇を討つ!!』

 

 稲光を走らせながら戦いの構えを取ったオーブに対し、ダングは言い放った。

 

『現れましたね、ウルトラマンオーブ。では私が何故わざわざ地球の金属などを盗んで回ったか、その理由をお教えしましょう!』

 

 言葉の直後に、ダングの足元の地面から鈍色の何かがにじみ出てくる。

 

『「な、何あれ!?」』

『「金属……!?」』

 

 律子の見たところ、それは液体状の金属。しかし明らかに自力で動いて、形を自在に変えている。

 

『これはガイアスペースで捕まえた生きた液体金属、金属生命体です! 盗んだ金属はこれの餌にしたのですよ。お陰で強く、硬く育ちました!』

『そういうことか……こいつとの二対一で俺に挑もうってのか』

 

 オーブの指摘を、せせら笑いながら否定するダング。

 

『そんなありがちなことではありませんよ。見せてあげましょう!』

 

 流動する金属生命体がダングの身体に纏わりつき、鎧となってその肉体をひと回り大きくさせた!

 

『何ッ!』

 

 元々金属質であったリフレクト星人ダングの全身が、よりメタリックな装甲で覆われた。

 

『これで私はメタルリフレクト星人といったところです。この力には、ウルトラマンオーブ、あなたといえども敵いはしませんよ!』

 

 姿を変えたダングを、律子に代わって撮影役をしている真がビデオカメラで収める。

 

「宇宙人の身体が鎧で包み込まれました! 金属を盗んでたのは、オーブを倒す武器にするのが目的だったに違いありません!」

「ちくしょうッ! ウチの金属を、そんなことのために使いやがって!!」

 

 小舟が激怒して吐き捨てた。

 更に武装したダングに対して、オーブは決して怖気づいたりはせずに立ち向かっていく。

 

『「鎧を装備したから何だっていうのよ! 律子、行くわよ!」』

『「ええ!」』

 

 オーブは一気に勝負をつけるために、光線の構えを取る。両手首を胸の前でクロスすると、両腕を横向きのSの字を描くように動かし、上半身をひねって腕をX字に交差した。

 

「「『ギンガエックスシュート!!!」」』

 

 発射される光線がダングの身体を撃つ!

 ……が、命中した光線は180度ねじ曲がってオーブにはね返ってきた!

 

『うおッ!?』

 

 すんでのところで身体を傾けてかわす。肝心のダングには傷一つない。

 

『ホホホホホホ! リフレクト星人の私に光線技で挑もうなど、実に無謀!』

 

 律子は今の事態を分析する。

 

『「さっきの渋川さんの銃弾もはね返されてた……。あいつの身体は鏡のようになってて、光線の攻撃は全て反射してしまうみたいね……!」』

 

 となると、光線技主体のライトニングアタッカーでは非常に不利である。しかし伊織は動じなかった。

 

『「だったら直接攻撃でとっちめてやろうじゃないの!」』

『「そうね!」』

 

 律子が手にしたのはオーブリングとジャックのカード、伊織はゼロのカードを構える。

 

『「ジャックさんっ!」』

[ウルトラマンジャック!]『ジェアッ!』

『「ゼロっ!」』

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェアッ!』

『キレのいい奴、頼みますッ!』

[ウルトラマンオーブ! ハリケーンスラッシュ!!]

 

 オーブは瞬時にハリケーンスラッシュへとチェンジし、同時にオーブスラッガーランスを召喚した。

 

『オーブスラッガーランス! こいつで決めてやるぜ!』

『ふッ、それはどうでしょうか!?』

 

 オーブの振り回すランスと、ダングの剣が交差して火花を散らす。

 

「シェアァッ!」

『キェェッ!』

 

 ダングの身のこなしは真ん丸な体形とは裏腹に機敏であり、素早い動きを得意とするハリケーンスラッシュと互角に切り結ぶ。しかしオーブの方だって負けてはいない。

 

『「もっとスピード上げるわよ! 律子、ついてこれる!?」』

『「甘く見ないでよね! まだまだ行けるわよぉーっ!」』

 

 オーブの動作は少しずつ速くなっていき、ダングは徐々についてこられなくなって押され始めた。

 

『ぬぅッ!?』

 

 そしてオーブは勝負に出る。ランスのレバーを三回引いてスイッチを叩く。

 

「「『トライデントスラッシュ!!!」」』

 

 縦横無尽な乱撃がダングに叩き込まれる!

 

『ぐわあぁぁッ!』

 

 ダングを仕留めるまでには至らなかったが、その鎧はズタズタの傷だらけとなった。最早使い物にはなるまい。

 

『「やったわね……!」』

『「ええ。あとひと押しを加えれば……!」』

 

 オーブは一旦距離を取って、とどめの一撃を仕掛けようとしたが……。

 

『……フフフフ! なんてねッ!』

 

 それより早く、ダングの鎧の傷が全て塞がって元通りになった!

 

『「えぇっ!?」』

『「嘘でしょ!?」』

『ホーホホホホホ! 言ったでしょう、金属生命体と! この鎧は生きているのですよ!? この程度は造作もないことです!』

 

 ハリケーンスラッシュ最大の必殺技でもたちどころに再生してしまうメタルリフレクト星人に、流石のオーブも動揺する。

 

『「ど、どうするの律子!? 光線は反射される、物理攻撃でも破れないんじゃ、どうやって倒せばいいの!」』

『「可能性があるとすれば、バーンマイトの火力をぶつければあるいは……!」』

 

 と分析する律子だが、今はバーンマイトに変身することは出来ない。それにはやよいかあずさがいなければならないのだ!

 

『「もしくは、相手の鎧が再生するより早く、それこそ同時に攻撃を重ねれば貫通できるんじゃないかしら……!」』

『「でもハリケーンスラッシュで無理なら、そんなこと不可能よ!」』

 

 オーブが手をこまねいている間にダングからの攻撃が飛んでくる。

 

『今度はこちらの番ですよぉ! そぉれッ!』

 

 ダングの鎧の各所が盛り上がって突起が生じ、それらが分離してブーメラン状の武器となる。それらが不規則に宙を飛んでオーブに襲いかかってくる!

 

「ヘアッ!?」

 

 懸命に回避行動を取るオーブだが、四方八方から襲い来るブーメランを全てかわすのはハリケーンスラッシュでも至難の業であった。遂に一発食らって大きくはね飛ばされる。

 

「ウワァッ!」

『「あうぅっ!」』

 

 勝ち筋が見当たらず、追いつめられるオーブ。倒れた彼を傲然と見下すダング。

 

『ホッホホホホホホ! 絶望しなさい! 泣き叫びなさいッ! あなたたちはこの私に勝つことなど出来ないのですよ!』

 

 高慢に言い切るダングに対して、律子は……。

 

『「馬鹿言わないで……!」』

『何?』

 

 律子の気力に押されるように、オーブはゆっくりと起き上がっていく。

 

『「この世界に出来ないことなんてないのよ……! たとえどんなに無理に思えることだって、あきらめたりはしない! どんな壁だって乗り越えてやるわ!」』

『「律子……!」』

 

 伊織は小舟から聞かされた話――彼女のロボットコンテストの受賞までの経緯を思い返した。

 

『「泣いたりなんか絶対するもんですか! 悔しさの涙とは、もう昔に決別してるのよっ!!」』

 

 律子が宣言したその時、二人の前にヒカリとアグルのカードがほのかに光りながら浮かび上がってきた。

 

『「!?」』

『「これは……!」』

『律子、伊織! そのお二人が、お前らに自分たちの力を使えと言ってるぜ!』

 

 オーブからの言葉により、二人は意を決してカードを手にした。

 

『「アグルっ!」』

[ウルトラマンアグル!]『デアッ!』

 

 伊織の隣にアグルのビジョンが現れる。

 

『「ヒカリさんっ!」』

[ウルトラマンヒカリ!]『メッ!』

 

 律子の隣にはヒカリのビジョンが立つ。

 

『鋭い奴、頼みますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 そしてオーブの掛け声とともに、フュージョンアップが行われる!

 

『ジェアッ!』『テェアッ!』

[ウルトラマンオーブ! ナイトリキデイター!!]

 

 律子と伊織がアグルとヒカリのビジョンとともに融合して、オーブがハリケーンスラッシュから新たな形態へと変身! 青い光と結晶の渦とともに飛び出していく!

 

(♪Radiance ~ウルトラマンヒカリのテーマ~(インストゥルメンタル))

 

『俺たちはオーブ! 光の刃で、影を払う!!』

 

 青と水色と黒の体色、そして胸のプロテクターの上にスターマークが並ぶ。アグルとヒカリの青いウルトラマンの力を融合させて誕生した剣士の姿、ナイトリキデイターだ!

 

『ふッ、どんな姿になろうとも無意味ですよ! キェェェェイッ!』

 

 ダングは姿の変わったオーブに、剣を振り上げて斬りかかっていく。それに対してオーブは、両腕から光の剣を生やす。

 

「「『ナイトアグルブレード!!!」」』

 

 左の刃でダングの剣をさばくと、右の刃を勢いよく相手の身体に振り下ろした。音速の一撃がダングの鎧に深々とした傷を入れる。

 

『ですが、どんなに傷を入れようとも無駄ですッ!』

 

 ダングの鎧は金属生命体。いくら傷を受けようともたちどころに再生する。

 ――が、まだ右の刃が突き立てられているところに、左の刃も叩き込まれた!

 

『何ぃぃぃぃッ!?』

『「「いっけぇぇぇぇぇぇぇぇっっ!!」」』

「オリャアァァァァッ!」

 

 オーブが二刀を振り抜くことで、鎧が遂に砕かれて斬撃がダング本体にまで届いた!

 

『ぐぎゃあああぁぁぁぁぁぁぁッ!? そ、そんな馬鹿なぁッ!』

 

 深手を負ってヨタヨタと後ずさるダング。しかしすぐに反撃に移る。

 

『食らいなさいッ!』

 

 残った鎧を変形させて複数のブーメランを作り、再びオーブの全方位から押し寄せさせる。

 

「セェェェェアァッ!」

 

 だがオーブは横回転しながら二刀を振るうことで、ブーメランを全て弾き返したのであった。

 

『な、何と!? そんなことがぁッ!!』

 

 ナイトリキデイターは冷静さと判断力に長けた二人のウルトラマンの能力を受け継いだ形態。一ミリ単位での狂いもない正確無比な剣の軌道は、どれほどの数の攻撃も的確に切り裂くことが出来るのだ。

 

『よし、こいつで決めるぜ!』

 

 光の二刀を引っ込めたオーブが両腕を額の前で重ね合わせると、折れ曲がった直線の光が生じて青い光のエネルギーが集中する。光線を放つ態勢だ。

 

『馬鹿め! 私の身体に光線は効かないと言っただろうッ!』

 

 罵倒して光線を受ける構えを取ったダング。――しかしその胸部は先ほどの斬撃によって深くえぐられている。

 

『はッ!? しまったぁッ!!』

 

 気がついた時にはもう遅い。エネルギーの充填が完了し、オーブが身を乗り出す。

 

「「『クラッシャーナイトリキデイター!!!」」』

 

 額から放たれた光の刃の連射が、ダングの傷口に命中する!

 

『ギャアアアアァァァァァァァァァ――――――――――――――ッ!!』

 

 クラッシャーナイトリキデイターはダングの肉体を貫き、風穴が開いたダングは爆散。その衝撃で金属生命体に同化されていた金属が破片となって辺りに散らばった。

 

「シュワッ!」

 

 見事逆転勝利を収めたオーブは空高く飛び上がり、この場を去っていく。それを見送った真と亜美真美が小舟に笑顔を向ける。

 

「これで金属も無事に戻ってきますね!」

「工場の営業も再開できるねー!」

「よかったねー小舟のおっちゃん!」

「おう! オーブのお陰で助かったよ。オーブさまさまだな!」

 

 気持ちよく笑う小舟に真たちは安心して微笑み合うが、その時に亜美たちの腹がぐぅ~と音を立てた。

 

「あっ……安心したらお腹空いちゃった」

「そういえばもうお昼だもんね」

 

 それを聞いた小舟がニヤッと笑う。

 

「そうかそうか。じゃあ平和が戻った記念に、いっちょアレやるか! なぁお前たち!」

「おぉーッ!?」

 

 小舟の言葉を受けた社員たちが急に盛り上がり出す。

 

「アレ?」

 

 何のことか分からず真たちが首を傾げたところに、ガイと律子、伊織が戻ってきた。

 

「小舟さーん!」

「おおー無事だったのか! 全く心配したんだぞぉコラ!?」

「すみません。でもオーブが宇宙人を倒してくれましたよ!」

「ああ! ところでこれからいつものアレやるんだがよ、律子ちゃんの仲間みんなを呼んでも構わねぇぞ」

「えっ、いいんですか!?」

「どうせやるなら大勢が楽しいもんなぁオイ!!」

 

 相変わらず何を言っているのか分からず、ガイたちは思わず互いに顔を見合わせた。

 

 

 

 春香たち他のアイドルも呼ばれると、小舟製作所の搬入口の前に鉄板が置かれ、小舟がそれで豪快に焼きそばを調理する。

 

「さぁー食え食えー!」

 

 小舟お手製の焼きそばが振る舞われ、皆がそれを頬張っていく。

 

「うわぁ~! 美味しいですぅ~!」

「ほんとだねぇ~。すっごい濃厚なお味!」

「高槻さんかわいい……」

 

 焼きそばの味にやよいや春香など、アイドルたちはそろって大満足であった。

 目を覚ました渋川も舌鼓を打つ。

 

「いやぁ~、ひと仕事した後にこの味はサイッコーだね!」

「渋川さん、ずっと目を回してたじゃないの」

「あら! こりゃあ手厳しいなぁ参ったね!」

 

 伊織のツッコミに頭をかいた渋川に、周りがおかしそうに笑った。

 そんな中で貴音が手を挙げる。

 

「おかわりを所望します」

「うわっ! 貴音食べるの早いなー!」

「おぉー嬢ちゃん、いい食いっぷりだなぁ!」

「地球の焼きそばで一番の美味です」

「もぉ~、貴音ったら大袈裟なの」

 

 美希たちも貴音の言動に笑わされる。

 ガイは小舟に頼み込む。

 

「小舟さん、ウチでも作りたいから是非作り方を教えてくれ!」

「よく言った兄ちゃん! その意気買ったぜ!」

 

 ガイの申し出を気に入った小舟が望み通りに調理法を教え始めた。

 

「このコテをうまーく使って、こうやって麺を丁寧に返す! そして秘伝のタレだぁー!! やってみろ!」

「はいッ!」

 

 小舟からコテを受け取ったガイが、力を入れてコテを構えた。

 

「熱い奴、頼みますッ!」

 

 そしてものすごい勢いで麺と具材を炒め、調理していく。その手際に小舟はギョッと目を見開いた。

 

「に、兄ちゃん……恐れ入ったぜ」

「ありがとうございます!」

「プロデューサー、早くおかわりを」

 

 貴音にせがまれてガイが焼きそばを仕上げていく一方で、小舟はふと律子たちに呼びかけた。

 

「そうだ律子ちゃんたち、いいものをあげよう」

「え? いいもの?」

「ちょっと待ってろ。取ってくる」

 

 一旦社長室に向かった小舟は、戻ってくると律子たちに告げた。

 

「昔、子供の俺を鍛えてくれた人が去り際にくれたものだ。つらい時はこれを見て、教えたことを思い出せってな」

「えぇ? そんな大事なもの、受け取れませんよ」

「いいんだいいんだ! 俺はもうすっかりと大きくなった。こうして自分の会社を持つほどにな! それにあの人は、大きな試練に立ち向かう人へと受け継いでいくようにと言ってた。律子ちゃんと、その仲間も、俺は応援してる! だからアイドル業なんて荒波に臨んでいく君たちに、このお守りを授けよう!」

 

 そう語って小舟が差し出したものは――紛れもないウルトラフュージョンカードの一枚だった!

 

「こ、これは!!」

「おッ、こいつの価値が分かるのかい? 俺にはこれが何のカードなのかは分かんなかったんだけどな」

 

 真紅の獅子のような威容のウルトラ戦士のカードに、真たちは仰天。律子はガバッと小舟に頭を下げた。

 

「ありがとうございます、小舟さん! 大事にしますね!」

「そうかそうか! 喜んでもらえたなら何よりだ! みんな、これから頑張れよッ!」

「はいっ!」

 

 真と伊織はカードを手に小躍りする。

 

「また一枚見つかったね! すぐプロデューサーに知らせよう!」

「ええ! ……だけど」

 

 伊織がチラリと目を向けると、ガイは貴音を相手に焼きそばを作るのに夢中のありさまだった。

 

「……今忙しそうだし、後にしましょうか」

「……そうだね」

 

 真たちは肩をすくめ合うと、おかしさで大きな声で笑い合うのであった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

律子「秋月律子です! 今回ご紹介するのは、光の国の青い科学者、ウルトラマンヒカリです!」

律子「ヒカリさんは『ウルトラマンメビウス』で初登場した青いウルトラ戦士。青いウルトラマン自体は既に前例がありましたが、M78星雲のウルトラマンで映像作品に登場したのはヒカリさんが初めてだったんですよ」

律子「当初は鎧を纏った「ハンターナイトツルギ」という名前で、守っていた惑星アーヴを滅ぼされた復讐だけが目的のダークなキャラでした。けれど仇のボガールを倒してからは、本来の姿を取り戻してメビウスさんを助けるキャラとなったんです」

律子「戦闘力もありますが本来の役職は科学者でして、『ウルトラマン』最終話でも語られた命を固形化する技術の開発でスターマークを授けられたという設定です。スターマーク持ちのウルトラマンはゾフィーさんに続いて二人目ですよ」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『Liar’s good bye』だ!」

ガイ「『LIVE THE@TER HARMONY』に収録の律子のソロ曲だ。アイマスによくある恋愛がテーマの歌だが、同時に嘘をテーマにしてるほんのり苦い歌詞だぞ。人と人の恋にはそういうこともあるもんだ」

律子「私は苦さなんてない甘い恋がいいですが……な、何でもないですっ!」

律子「それでは次回もまた見て下さい!」

 




 高槻やよいでーすっ! 765プロに春香さんの後輩っていう子たちが遊びに来たんですが、その時オーブの偽者が出てきたんですぅ! だけどその偽者さんは何だか様子が変で……はわっ! 本物だと誤解されたままですよぉ!? どうなっちゃうんでしょー! 次回『ニセモノ夜を往く』。よろしくお願いしまーすっ!


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ニセモノ夜を往く(A)

 

「世の中は連続して怪獣が出現するようになってしまったわね……」

「あれが深海で暴れてて避難してきたんだって!」

「怪獣も、どうしてわざわざ私たちの前に出てくるのかしら」

「あんたの絶望してる心が、あそこで泣いてるんだ!」

「世界はあらゆるバランスが崩れた混沌の時代を迎えるという確証も得た!」

「あんなでっかい生き物が、これからまだまだ現れるってこと!?」

「怪獣だって人間の前に出てきたくないはずだ」

「あの親子、しあわせだね」

 

 

 

『ニセモノ夜を往く』

 

 

 

 地球の衛星軌道上に潜んでいる円盤内で、惑星侵略連合が話し合いを行っている……。

 

『ウルトラマンオーブが強い理由は何か? それは、人間たちとの絆の強さだ。人々の希望が奴に力を与えている……』

 

 ノストラの意見に対して、ジャグラーが進言する。

 

「それは同時にオーブの弱点でもあります」

『ん?』

「何より彼は、戦いの最中人間を傷つけることを恐れます」

 

 ジャグラーの言葉を受け入れたかどうかは定かではないが、ノストラはこの場に一人の宇宙人を呼びつける。

 

『ババルウ星人ババリュー! 来い』

 

 金色の鬼のような姿の怪人が現れてノストラの前にひざまずく。――変身能力に関しては宇宙一とも言われるババルウ星人だ。

 

『ドン・ノストラ、お呼びで?』

『お前の変幻自在の能力で、ウルトラマンオーブに変身し、地上を攻撃するのだ。そしてオーブと人間の信頼関係を、壊してしまえ!』

『かしこまりました……』

 

 立ち上がったババルウ星人ババリューの姿が、一瞬にしてオーブ・スペシウムゼペリオンのものに変化した。――あらゆる角度から本物との違いが全くない、完璧な変身である。

 ババルウ星人はその変身能力で撹乱や破壊工作を最も得意とする。ウルトラ戦士を同士討ちさせたことまであるのだ。そしてその恐るべき能力を、今度はオーブに対して仕掛けようとしている――!

 

 

 

 765プロ事務所では、春香がアイドル仲間たちにケータイの写メを見せている。

 

「見て見て。この子、はとこのアナスタシアちゃん。こないだ346プロにスカウトされてアイドルデビューしたんだって。私たちの後輩ってことになるんだよ」

 

 画面に映っているのは、スラヴ系の美少女の顔写真。春香の説明に、真が意外そうに聞き返す。

 

「え? この子がはとこって……春香って家系にロシア人がいるの?」

「あれ、言ってなかったっけ? 私、ひいひいおばあちゃんがロシア人なんだよ。ロシアで色々あって日本に移住してきたんだって」

「えぇ!? そうだったんだ!」

 

 驚く雪歩に春香は胸を張る。

 

「そうだったのよ! 普通普通なんてよく言われる私だけど、実はロシア人の血を引いてるの! すごいでしょ?」

「でもそれっぽい要素全くないじゃない。春香、あんたロシア語話せるの?」

 

 伊織のツッコミに春香はうっとうめく。

 

「い、いや、全然……」

「じゃあ威張るほどのことでもないわね。やっぱり普通じゃない」

 

 手厳しい伊織にがっくりうなだれる春香。と、その時、事務所の玄関の方からキンキン響く声が起こる。

 

「こんにちはー!!」

「わっ! 大きな声! 誰?」

「今の声は……!」

 

 相当な声量に驚かされる雪歩の一方で、春香には心当たりがあるようだった。

 そして事務所に入ってきたのは、三人の少女……たち。真ん中の小柄だが元気がその身から溢れ出ているような子が、よく通る声で挨拶する。

 

「春香さん、来ちゃいましたー!! この間はどうもお世話になりましたー!!」

「やっぱり、愛ちゃんっ! 相変わらず大きい声だね」

「春香、その子はどなた?」

 

 伊織の質問に、少女の紹介をする春香。

 

「日高愛ちゃん。この前公園でたまたま知り合って、アイドルを志望してるっていうから876プロを紹介してあげたの」

「ああ、ウチと業務提携してるとこ」

「はいっ!! 無事にデビューさせてもらえたんです!! あたしがアイドルになれたのは春香さんのお陰ですっ!!」

 

 うるさいくらいに声の大きい愛は、一緒にいる二人の少女……のことも紹介する。

 

「このお二人は水谷絵理さんと秋月涼さんです!! あたしの同期ですっ!!」

「こんにちは……」

「こ、こんにちは」

「秋月? それってまさか……」

 

 真が言い終わる前に、愛の声で何事かとやってきた律子が涼の顔を見て驚きを浮かべた。

 

「涼! あんたどうしてここに?」

「あッ、律子姉ちゃん!」

 

 涼という少女……が律子を「姉ちゃん」と呼んだので、伊織が律子に振り向いた。

 

「律子、妹がいたの? でもこの前は一人っ子って言ってなかったかしら?」

「いとこよ。涼、その子たちは確か876プロから新しくデビューした子よね。ってことはあんた、ほんとにアイドルになったんだ。でもその格好は……?」

「あーあーッ!」

 

 涼が妙に慌てて律子の口を手でふさいだ。

 

「律子姉ちゃん、これには訳が……」

「?」

 

 涼の様子に首を傾げる愛たち。その内にガイもこの場にやってきた。

 

「何だ何だ、騒がしいな。一体何事だ?」

「そうそう。愛ちゃん、今日はどうして765プロに?」

 

 春香が聞き返すと、愛はグーの拳を振り上げながら答えた。

 

「実はあたしたち、今ウルトラマンオーブのことを調べてるんです!!」

「えっ、オーブの? そっちもそんなことやってるんだ」

「ウルトラマンオーブは今、一番ホットなワード?」

 

 と言う絵理。真は愛に尋ね返す。

 

「それで、普段からオーブを追ってるボクたちから話を聞きたいってことかな?」

「いえ、それもありますけど……」

 

 すると愛はじっと強い眼差しで春香たちを見回した。

 

「実はあたし、この765プロにウルトラマンオーブがいるんじゃないかと思ってるんです!!」

 

 そのひと言にガイたちはブーッ!? と噴き出した。春香は動揺しながらもとぼける。

 

「な、ななな、何を言ってるのかな愛ちゃん? おかしなこと言って……」

「だって春香さんたち、いつもオーブが現れる現場に居合わせるじゃないですかー!! それで突撃取材って訳です!!」

「そ、そんなの偶然だって。私たちも常日頃から謎を追い掛けてるから、オーブと遭遇しやすいってだけで……」

「いーや!! きっと何か秘密があるんじゃないですか? どうか教えて下さいっ!!」

「ごめんなさい……。愛ちゃん、言い出したら聞かなくって……」

 

 絵理や涼は愛の言うことを信用していないようでペコペコ謝るが、春香たちは内心バクバクだ。

 

「も、もう。おかしなこと言わないでよね。びっくりしたじゃない……」

 

 伊織が渇いた笑いを発しながら目をそらしたが――その先の窓の向こうで、不自然な発光が起こった。

 

「あら? あれは何かしら……?」

「え?」

 

 全員の注目が窓から見える光景に集まると――発光からはオーブが出現する!

 

「あっ、ウルトラマンオーブです!!」

「えぇっ!?」

「嘘!?」

 

 春香と真は思わずガイに首を向けた。ガイは冷や汗混じりに違う違うと手を振る。

 

「こんなところに現れるなんて!! すぐに行きましょー!!」

「あッ、待って愛ちゃん!」

 

 いち早く事務所を飛び出した愛に続く涼と絵理。春香たちも慌てて三人の背中を追いかけていく。

 

「これどういうことですか!? 何でプロデューサーさんここにいるのに、オーブが……!?」

 

 愛たちに聞こえないように春香が問うと、律子が深刻な表情で答えた。

 

「可能性は一つ……あれは姿を真似た偽者よ! 悪い宇宙人が、ウルトラマンオーブの名前を貶めようとしてるんだわ!」

「大変ですぅ! 早く止めないと!」

 

 焦る雪歩。――実際律子の言う通りで、あのオーブの正体はノストラより地上攻撃を命じられたババルウ星人ババリューなのだ!

 

『さぁババリューよ、地上を破壊するのだ!』

『かしこまりました……』

 

 円盤からのノストラの命令により、オーブに化けたババリューが今にも町を破壊しようと身構える。絵理と涼は疑念を抱く。

 

「何だか、様子が変……」

「そうだね……。怪獣も出てないのに……」

 

 一方でガイは春香たちとともに人気のない場所で変身しようとしていた。

 

「よし、行くぞ!」

「はいっ! 偽者なんて許せません! ボッコボコにやっつけちゃいましょう!」

 

 真が一番に名乗り出て、後は誰がフュージョンアップするか――それを決める前に、急に地面が揺れて彼女たちは思わずよろけた。

 

「何なに!? 偽者が暴れ出したの!?」

「いえ違うわ……これは……!」

 

 律子のつぶやきの直後に、ババリューの背後の地面から怪獣が飛び出してくる!

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 地底怪獣テレスドンだ! これに目を丸くする伊織。

 

「何で怪獣まで出てくるの!?」

「恐らく、たまたま下で眠ってたところに奴が現れたことで、その影響で目覚めちまったんだろう」

 

 ババリューのうろたえる様子を観察してガイが推測した。実際、ババリューはノストラに指示を求めていた。

 

『これはどういうことですか!?』

『分からん……! 想定外だ!』

『私は、どうすればぁぁッ!?』

 

 テレスドンはババリューの背面にタックルを入れて、ババリューは思い切り突き飛ばされて転倒した。そこにノストラがようやく指示を出す。

 

『自分の身は自分で守れッ!』

『そんなぁ!?』

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 襲い掛かってくるテレスドンを必死で抑え返すババリュー。――その背後には、腰を抜かして動けない子供二人がいた。

 

「怖いよぉーッ!」

「あそこに子供たちが!?」

 

 叫ぶ愛。ガイは子供たちに気づくと、迷うことなく飛び出していく。

 

「あっ、プロデューサー!」

 

 ガイはすぐに子供たちの元へと駆けつけ、二人を助けようとする。

 

「大丈夫か!?」

 

 その時に、テレスドンが熱線を吐いてババリューを攻撃する!

 

『うぎゃあーッ!?』

 

 熱線をもろに食らったババリューだが――それがたまたま子供たちとガイをかばう形となった。

 

「あっ!! オーブが子供たちを守りましたー!!」

 

 それに愛は思い切り誤解した。

 

『あっちぃー! もう勘弁ならねぇー!』

 

 一方でキレたババリューは作戦も忘れ、テレスドンに飛びかかってボカボカ殴りつける。

 

「オーブが怪獣と戦ってます!! がんばれオーブー!!」

 

 愛は純粋にオーブ=ババリューの応援をするが、絵理と涼は訝しげにババリューを見つめた。

 

「オーブってあんな感じだっけ……?」

「断じて違うわ」

「あんなダサくないわよ……」

 

 律子と伊織が憮然とつぶやいた。

 

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 ババリューにタコ殴りにされたテレスドンは戦意を失い、穴を掘って地中に逃げていく。その背中に毒づくババリュー。

 

『どうだこのヤロー! 二度と来んなッ!』

 

 テレスドンをどうにか追い払ったババリューだったが、それで体力を使い果たしてしまい、変身が解ける前に巨大化を解除していった。それを目にした愛が言う。

 

「あの辺りで消えました!! 今ならオーブの正体が分かるかも!! いっくぞー!! とやーっ!!」

「ああ、愛ちゃんッ!」

 

 涼が制止するのも聞かず、愛は全速力で駆け出していく。その先で、等身大のサイズにまで縮んだババリューがヘロヘロになっていた。

 

『はぁー、妙なことになっちまったな……』

「いた!! あなたがウルトラマンオーブですね!?」

 

 そこに早くも駆けつけてくる愛。焦ったババリューは咄嗟に地球人の姿に化ける。

 

「何の……ことかな?」

 

 金髪のヤンキー風の姿になったババリューに詰め寄る愛。

 

「とぼけないで下さいっ!! この辺にはあなた以外誰もいません!! ってことはあなたがウルトラマンオーブっ!!」

「わわッ、声がでかい! お、俺はこの辺で……」

 

 面倒なことになりそうだと判断したババリューはそそくさと立ち去ろうとするが、愛は呼び止める。

 

「あっ、待って下さい!! せめてお名前だけでも!!」

 

 振り返ったババリューは、愛をあしらうべく即興で名前を考えた。

 

「ババリュ……いや……馬場竜次」

「ババリュウジ? ……なるほど!! ヒーローは正体を知られちゃいけないっていうのが昔からのお決まりですもんね!! 世を忍ぶ仮の姿って奴ですね!?」

「そ、そんなところだ」

「分かりました!! このことはあたし、絶対秘密にしますっ!! 誰にも言いません!!」

「そ、そうだよ! 俺と君だけの秘密だ! いいね?」

「はいっ!! 約束します!!」

 

 ババリューはどうにか話を合わせて、愛に約束させて早足で立ち去っていった。……この様子を、陸橋の上からガイがじっと観察していた。

 

 

 

 翌日。偽者のオーブのことは、惑星侵略連合の思惑とは異なる形で世間を賑わせていた。

 

『昨日お昼頃、市内に怪獣が出現しましたが、ウルトラマンオーブの活躍によって、怪我をした人はいませんでした』

「……変なことになっちゃったね……」

 

 ニュースの内容にぼんやりとつぶやく雪歩。律子たちがうんうんとうなずく。

 

「まさか、本物と誤解されたままもてはやされるなんてねぇ」

「あの偽者、これからどうするつもりなのかしら?」

 

 伊織がぼやくと、真がいきり立って席を立った。

 

「昨日はこんな結果だったけど、またどこかで悪さしようとしてるに決まってるよ! プロデューサー、捜しに行きましょう!」

「随分やる気だな、真」

 

 ガイがやや気圧されながら聞き返す。

 

「ボク、こういう卑怯なことって大っ嫌いなんです! 人の振りして汚名を着せようなんて許せることじゃありません! 絶対やっつけてやりましょう!」

「分かった分かった。分かったから少し落ち着けって。気合い入り過ぎだぞ」

 

 興奮しすぎている真をガイがなだめている一方で、春香がふとつぶやいた。

 

「そういえば、愛ちゃんはどうしてるんだろ。昨日はオーブの正体を確かめるーなんて飛び出していっちゃったけど……」

 

 

 

 その頃、ババリューは真の言った通りに作戦の再開を目論んでいた。人間態で町に潜り込み、ビートル隊の基地周辺に忍び寄る。

 

「確かこの辺りにビートル隊の基地があったはずだが……。まぁいいや、この辺りからぶっ壊すとするかぁ」

 

 独りごちながら歩いていたのだが、ちょうどその時すれ違ったのが渋川であった。

 

「おい、おい君!」

「はい?」

 

 耳聡く聞き止めた渋川が引き返してくる。

 

「君、ここで何してるの?」

「別に……何もしてないです」

「怪しいな……。身分証か何か持ってる?」

「な、何言ってるか分かんねぇヘヘ……」

 

 笑ってごまかそうとするババリューだったが、渋川に捕まって陸橋の手すりに抑えつけられる。

 

「痛ぁッ!」

「おいッ! 危ないもん持ってないか!?」

 

 ババリューのボディチェックを始める渋川だったが、そこに愛が走ってきた。

 

「馬場さーん!! こんなところにいたんですかー!!」

「え? 君、この人知り合い?」

「はい!! テレビ局の人で、時々誤解されるようなこと言っちゃうんです!! さぁ馬場さん行きましょうっ!! スケジュールが差し迫ってますよ!!」

「あッ、ちょっと……!?」

 

 渋川をごまかし、ババリューの腕を引っ張ってどこかへ連れていく愛。公園に入るとふぅと息を吐いた。

 

「危ないとこでしたね。もう少しでビートル隊に正体が知られちゃうとこでした!!」

「ああ、助かったよ……。けど、君は何の用?」

 

 とババリューが聞いたところに、絵理と涼がやってきた。

 

「愛ちゃん、言われた通り子供たちを集めてきたけど……」

「ありがとうございます!! みんなー!!」

「わぁー!!」

 

 愛が呼ぶと、昨日の二人を含めた近所の子供たちが愛とババリューの周りに集まってきた。

 

「な、何だよこのガキ……いや子供たちは!?」

 

 ババリューが目を白黒させると、愛は子供たちに言い放つ。

 

「この人が、ウルトラマンオーブの馬場竜次さんだよー!!」

「えぇッ!? お、俺と君だけの秘密だって言ったろ!?」

 

 昨日の今日で早くも約束を破られたババリューが怒鳴るが、愛は笑っているだけだった。

 

「助けられた子供たちがどうしても会いたいって言ってたんですよー!! ヒーローらしくサービスしてあげて下さい!!」

「そ、そんなこと言われたって……何とかしてくれよぉ!?」

 

 子供たちに纏わりつかれてババリューが困り果てると、愛は子供たちをなだめて落ち着かせる。

 

「はいはいみんなー!! 一人ずつお話ししよー!! じゃあ、馬場竜次さんに質問がある人っ!!」

「はーいッ!!」

 

 一斉に手を挙げる子供たち。一人がババリューに質問をぶつける。

 

「僕、逆上がり出来ないんですけど、どうすればいいんですか?」

「は?」

「それはもちろん、あきらめず練習することだよ!! オーブだってそうやって強くなったんだから!! ですよね、馬場さん?」

 

 勝手に話を進める愛に、ババリューはとりあえず合わせた。

 

「そう、だね……。あきらめちゃいけない!」

 

 適当な回答を返すと、次の子供が質問する。

 

「僕もウルトラマンのようなヒーローになれますかぁ?」

「いや、それは流石に……」

「なれますよね!?」

 

 愛にさえぎられ、ババリューは仕方なくうなずいた。

 

「なれ……るよ。夢を持ってれば、君のなりたいものにきっとなれる……!」

 

 そんな感じで盛り上がっている愛たちの様子を、絵理と涼は遠巻きにながめていた。

 

「絵理ちゃん……あの人、本当にウルトラマンオーブなのかな?」

「うーん……何だか、冴えない感じ?」

 

 二人は信じ切っている愛と違って半信半疑であった。

 またこの状況を、ガイと真、春香の三人がこっそりと観察していた。

 

「愛ちゃん、あの人がオーブだってすっかり信じ込んじゃって……」

「プロデューサー、早く止めましょう! あの偽者、調子のいいこと言ってみんなを騙すなんて!」

 

 逸る真を制止するガイ。

 

「待て。多分ここで飛び出していったら、俺たちが悪者だぞ。しばらく様子を見よう」

「うっ……しょうがないか……。でもあいつが悪さする素振りを見せたら、すぐにとっちめてやるんだから……!」

 

 真はしぶしぶと引き下がったが、依然としてババリューに強い敵意の眼差しを向けていた。

 

 

 

 しかし真が思うようなことは起こらず、ババリューは愛に振り回されっぱなしのままで時間が過ぎていった。

 

「今日はご苦労様でした」

 

 夕方になった頃にようやく解放されてどっと座り込んだババリューを、愛がねぎらう。

 

「いや……」

「馬場さん、これ」

 

 と言って愛が差し出したものは……子供たちからのオーブへのプレゼントの数々であった。

 

「何だよこれ……」

「子供たちからの感謝の気持ちです。是非もらってあげて下さい」

 

 愛の差し出したオーブの似顔絵を、戸惑いながら受け取ったババリューは、愛に問いかける。

 

「あの、さ……一つ聞いてもいいかな?」

「何でしょ?」

「ヒーローってさ……そんなにいいものなのかな?」

 

 愛は即座に肯定する。

 

「もちろんですよ!! あたしも、小さい頃からずっと憧れてました!!」

 

 瞳を輝かせながら、己の話を始める愛。

 

「あたしのママ、色々とすっごい人なんです。だけど大きくなるにつれて、それが重荷に感じてきちゃって……。何をするにしても、自分はママよりずっと出来が悪いんじゃないかって……。だからどんな状況でも、どんなピンチの時でもあきらめずに起き上がり続けるヒーローに憧れてました。だけど、現実にはそんな思うようには出来なくって……。そんな時に、奇跡のヒーローが現実に現れたんです!!」

「……そうか……」

「あたし、この出会いがほんとに嬉しいです。あたしは馬場さんみたいに人の命を守ることは出来ませんけど……どんな時もあきらめないことを、みんなに伝えられたらいいなって思ってるんです」

 

 愛の言葉を聞きながら、ババリューは複雑な表情で似顔絵に目を落とした。

 

「愛ちゃん……」

「……」

 

 愛とババリューの会話しているところを、離れたところから春香たちが見守っている。

 真は、様子の変化してきているババリューの背中を、こちらも複雑な眼差しで見つめていた。

 

 

 

 ババリューは元の姿に戻って円盤に帰還した。会議室の椅子に腰を落としてからも、もらった似顔絵をじっと見つめている。

 

『どした、ババリュー』

『うあッ!?』

 

 そこにナグスがやってきたので、慌てて似顔絵を後ろ手に隠した。

 

『あいや、別に……』

『変な野郎だぜ』

 

 訝しむナグスに対して、ババリューはこんなことを尋ねかける。

 

『なぁおい、人に憎まれるより、喜ばれる方が何倍も気持ちがいいもんだよな……。そう思ったことはないか!?』

 

 だが、ナグスの反応は素っ気ないものだった。

 

『何を言ってんのか、さっぱり分かんねぇなぁ』

『そ、そうか……』

『何でもいいが、早いとこ作戦を始めろよ? ドン・ノストラがまだかまだかって待ちかねてるぜ』

 

 そうとだけ告げて、ナグスは立ち去っていった。

 一人残されたババリューは、似顔絵を抱えて椅子にもたれかかり、長い息を吐いた……。

 



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ニセモノ夜を往く(B)

 

 偽者のオーブが街に出現してから数日後、馬場竜次ことにせオーブの正体のババルウ星人ババリューは、人間の街を大混乱に陥れる破壊工作を開始――せずに、公園で愛に引き合わされた子供たちと一緒に遊んでいた。

 

「よーし、みんな行くぞー!」

「わーいわーい!」

 

 子供たちがババリューとともに楽しく戯れている様子を愛たち876プロアイドル、更に離れたところでガイたちが観察していた。

 

「ババリューさん! 僕、あきらめないで練習したら逆上がり出来るようになりました!」

「おー本当かマサト! 大したもんだなー」

 

 ババリューは報告した子供を褒めたたえる。他の子もババリューに告げる。

 

「僕も、ニンジン食べられるようになったんだー! ババリューさんのお陰だよ!」

「やっぱり、ウルトラマンオーブはすごいね!」

「おぉーそうだろう! よしよし、次はピーマンだぞ! ピーマン食べられる人ッ!」

「はーい!!」

 

 すっかり子供たちの輪に馴染んでいるババリューをながめて、春香がつぶやく。

 

「結局、あれから何も起こらないね。あの人が悪い宇宙人だってのは、もしかしたら私たちの誤解だったんじゃないのかな?」

「そんなはずないよ! そんなはずは……」

 

 春香のひと言を否定した真だったが、実に楽しそうなババリューの笑顔を見やると、大きく顔をしかめた。

 一方で愛はキラキラ目を輝かせてババリューを見つめている。

 

「馬場さんのお陰で、みんなの苦手が次々克服されてってます!! やっぱりオーブはみんなのヒーローなんですね!!」

 

 ババリューに憧れの念を抱く愛。涼と絵理も、苦笑しながらババリューを見つめている。

 

「最初は何だかうさんくさい感じだったけど、今じゃすっかり子供たちと打ち解けてるね。あれが本当の姿なのかな?」

「うん……。正直疑わしかったけど、あの人は本当に……ウルトラマンオーブ……?」

 

 と、絵理が独白した直後。

 公園の上空に突然、ジグザグ飛行で円盤が出現した! 惑星侵略連合のものだ!

 

「あっ!? あのUFOは……!!」

 

 春香と真に衝撃が走る。愛たちも思わず立ちすくむ中、円盤内のノストラはババリューに向けてテレパシーを発信した。

 

『もう待てんぞ……! いつになったら破壊作戦が始まるのだッ!!』

 

 そんな呼びかけが行われていることは露知らず、愛がババリューの側へと駆け寄っていく。

 

「馬場さん、あれはもしかして宇宙からの侵略者ですか!?」

「あ、ああ……」

 

 ババリューが反射的に肯定すると、子供たちがババリューを囲んで頼み始めた。

 

「ババリューさん、やっつけて!」

「お願い! 助けてー!」

 

 その声を受けながらも困惑しながら立ち尽くしていたババリューだったが、やがて何かを決心したように円盤の方向へ飛び出していった。そして子供たちから離れた場所で、腕を掲げて変身を行う。

 愛たちが見上げる中、ババリューが化けたオーブが円盤の前に立った。

 

「行けー! ウルトラマンオーブー!」

「頑張れー!」

 

 無邪気に応援する子供たちの様子を見据え、ノストラがババリューに命令する。

 

『まず手始めに、その子供たちから踏み潰せッ!』

『! それは……』

 

 立ったまま動かないにせオーブの様子に、子供たちも流石に不審なものを感じて押し黙った。

 春香と真は背を向けたままのにせオーブと円盤をじっと見つめる。

 

「何を話してるんだろう……」

「プロデューサー!」

 

 振り向いた真に、分かっているとばかりにうなずくガイ。

 

「ああ。お前たちにもテレパシーが聞こえるようにしよう」

 

 ガイは超能力で、二人の脳裏にもテレパシーのチャンネルをつなぐ。

 ノストラはババリューに再度命令する。

 

『どうした……。早く踏み潰せッ!!』

 

 それに対して、ババリューは、答えた。

 

『……出来ません』

『何だと……!?』

「っ!」

 

 ノストラだけでなく、真もババリューの言葉に驚きを見せた。

 ババリューはノストラに訴えかける。

 

『そんなことは出来ません……! 俺は今、ウルトラマンオーブなんです!!』

『お前は偽者だ! ババルウ星人だろうがッ!!』

『確かに俺は、悪の星の下に生まれた暗黒星人だと思っていました……。だけど……!』

 

 愛や子供たちに振り返ってノストラに語るババリュー。

 

『こいつらといると、今まで感じたことのなかった温かいものが感じられたんです! 嬉しさや優しさが、心の奥まで果てなく高まって……! そして思ったんです。運命は変えられる……! 俺だって、ヒーローになれるって! お願いです、足を洗わせて下さいッ!』

 

 ババリューは必死に頼み込んだ。そして、ノストラの返事は、

 

『ジャグラー』

「はい」

『奴を処刑しろ』

「かしこまりました」

 

 ジャグラーが二枚のカードをダークリングに通す!

 

[ケルビム!][ディノゾール!]

「合体怪獣、ディノケルビム!」

 

 円盤からダークリングによって融合召喚された怪獣が放たれ、ババリューに向かって咆哮を発した!

 

「ピッ! ギャアアアアアアオウ! キャァ――――――――!」

 

 長い鉤爪と棍棒型の長い尾を生やし、メタリックブルーの外骨格で覆われた恐竜型の怪獣が、紅い四つ目を爛々と輝かせた。宇宙凶険怪獣ケルビムと宇宙斬鉄怪獣ディノゾールを素材とした、残酷合体怪獣ディノケルビム!

 

「うわぁー!」

「きゃあー!」

 

 巨大怪獣が出現したことで子供たちは一斉に悲鳴を上げた。それに振り向いたババリューは、いよいよ覚悟を固める。

 

『ぐッ……だぁぁ―――――ッ!!』

 

 気合いの叫びとともに、遮二無二ディノケルビムにぶつかっていった!

 

『うおぉぉぉッ!』

 

 ひたすらディノケルビムの身体を殴りつけるが、強固な外骨格を持つディノケルビムには全くと言っていいほど効いていない。逆に鉤爪を叩きつけられて弾き飛ばされた。

 

『うわあぁぁぁぁぁッ!』

 

 更に倒れたところに棍棒となっている尻尾を振り下ろされた。ディノケルビムの猛攻にババリューはなす術がない。

 

「ああっ!! オーブが危ないです!!」

「オーブ……頑張って……!」

 

 悲鳴を上げる愛。固唾を呑んで応援する絵理、涼。一方で真は苦々しい顔つきでババリューの苦戦を見やっている。

 

「ピッ! ギャアアアアアアオウ! キャァ――――――――!」

 

 応援を受けるババリューだが、戦闘力の差は圧倒的。ディノケルビムの吐き出した火球によって、ババリューは吹っ飛ばされて仰向けに倒れた。

 

『うぅ……ッ!』

 

 そして――変身を維持するだけの力を失ってしまったことで、ババルウ星人本来の姿を愛たちの前に晒した。

 

「えっ……!?」

「オーブじゃ、ない……」

 

 愛たちの間に動揺が走った。絵理がポツリとつぶやく。

 

「偽者……」

 

 ヨロヨロと身体を起こしたババリューが愛たちに告白した。

 

『そうだ……俺はウルトラマンじゃねぇ。暗黒星人のババルウさ……。お前たちを騙していたんだ……』

「そんな……」

『すまねぇ……。俺は所詮偽者だ……』

「ピッ! ギャアアアアアアオウ! キャァ――――――――!」

 

 謝るババリューを、ディノケルビムが容赦なく蹴飛ばす。

 

『うあぁッ!!』

 

 最早無抵抗のババリューを踏み潰すディノケルビム。と、その時、

 

「頑張れー! ババルウさーん!」

「頑張ってー!」

 

 子供たちの間から、オーブではなくババリューを応援する声が次々沸き上がった。力なく呆然としていた愛はそれに押されるように、精一杯の大声でババリューへ呼びかける。

 

「あきらめないで馬場さんっ!! あなたがウルトラマンオーブじゃなくても、そんなことは関係ないです!! 馬場さん、言ったじゃないですか……夢を持ってれば、なりたいものになれるって!! どうか夢をあきらめないで……ヒーローになって下さいっ!!」

 

 愛に続いて、涼、絵理もエールを送る。

 

「立って下さい、馬場さん! あなただって、なりたいものになれるんですッ!」

「負けないで……!」

 

 皆の応援の声に、ババリューは踏みつけられながら土を握り締める。

 

『そうだ……! あきらめるものか……ッ!』

 

 そして力を振り絞って、ディノケルビムを押し返して立ち上がった!

 

『よぉーしッ! やってやるぅッ! うおおぉぉーッ!』

 

 再びディノケルビムに突貫していくババリューの背中に、愛たちが全力で応援の声を向ける。

 

「馬場さーん!! いっけぇーっ!!」

「ファイト……!」

「そこですッ! 頑張れぇッ!」

『おおおぉぉぉぉ―――――――――――ッ!!』

 

 ババリューはさすまたを出してディノケルビムに斬りかかる。だがこれも外骨格に弾かれ、ディノケルビムの伸ばした歯舌によって一瞬で細切れにされる。

 

『ぐッ……まだまだぁぁぁぁぁッ!』

 

 武器を失ったババリューだが、それならばと素手でディノケルビムに反撃していく。持てる力の全てを使ってディノケルビムを殴りつける。

 

「ピッ! ギャアアアアアアオウ! キャァ――――――――!」

 

 しかし現実は厳しく、ババリューは簡単に押し返された。それでも、何度土をつけられようとも、ババリューはあきらめることなく何度も立ち上がる。

 その姿を目の当たりにした真がガイへ言った。

 

「行きましょう、プロデューサー! あの人を助けに!」

「……いいのか?」

 

 聞き返したガイに、真は毅然と返答した。

 

「もう偽者とか本物とかどうでもいいです! あそこで頑張ってる人を助けなきゃ……ヒーローじゃありません!!」

 

 ガイは固くうなずく。

 

「よく言った! 春香も行くぞ!」

「はいっ!」

 

 ガイたちがオーブリングとカードを手にしたその時、ディノケルビムが倒れ伏したババリューに向けて歯舌を伸ばす。それで惨殺しようというつもりだ!

 

『うわあああぁぁぁぁぁぁ――――――――――――ッ!!』

「馬場さぁぁぁ―――――――んっ!!」

 

 何人かは、この直後に起こるはずの残酷な結末から思わず顔を背けた――。

 

「ウルトラマンさんっ!」『ヘアッ!』

「ティガさんっ!」『ヂャッ!』

「光の力、お借りしますッ!」

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

 

 その瞬間、ババリューの前にオーブが出現。同時に展開したバリヤーによって歯舌をはね返した。

 

「ああーっ!? ウルトラマンオーブ!?」

「本物……!」

 

 まさしく本物のオーブの登場に、愛たちは驚愕。命を救われたババリューが顔を上げると、振り向いたオーブと目が合った。

 

『ああ……』

 

 オーブはババリューに一度だけうなずくと、ディノケルビムに向かって一直線に肉薄していった!

 

(♪オーブの祈り)

 

「デェイッ!」

「ピッ! ギャアアアアアアオウ! キャァ――――――――!」

 

 オーブはディノケルビムに対してストレートパンチを繰り出す。それを外骨格で受け止めたディノケルビムは鉤爪を振るって反撃してくるが、オーブは側転で回避。即座に飛んできた尻尾もかいくぐって距離を取る。

 

「「『スペリオン光輪!!!」」』

 

 カッター光輪を投げつけるオーブ。だがディノケルビムの歯舌によって逆に真っ二つに断ち切られた。

 

『「あの怪獣、全身が武器みたいだよ!」』

 

 と春香が言うと、真がぐっと拳を握り締めて熱弁した。

 

『「どんなに武器で身体を固めようと、熱い想いを乗せた拳には敵わないっ!」』

 

 そして真が取り出したのは、真紅のウルトラ戦士のカード。

 

『「レオさんっ!」』

[ウルトラマンレオ!]『イヤァッ!』

 

 カードをリングに通すと、真の隣に真紅の戦士――ウルトラマンレオのビジョンが現れた。

 

『「ゼロさんっ!」』

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェアッ!』

 

 春香はゼロのカードで、ウルトラマンゼロのビジョンを呼び出す。

 

『熱い拳、頼みますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 真がリングを掲げてトリガーを引くと、レオとゼロのビジョンは真、春香と融合を行う。

 

『ダァッ!』『テヤッ!』

[ウルトラマンオーブ! レオゼロナックル!!]

 

 青い水しぶきの中に白い光の軌道が走り、新たな姿のオーブが飛び出していく!

 頭部はレオに似て、袖のない道着を羽織り、腰にはベルト、手足には晒しを巻いた武道家然とした風貌。最も格闘戦に特化した形態、レオゼロナックルだ!

 

『俺たちはオーブ! 宇宙拳法、ビッグバン!!』

 

 叫んだオーブがディノケルビムへ飛び込んでいき、一本角にアッパーカットを打ち込む。

 

「エイヤァァッ!」

 

 その一撃で、ディノケルビムの太い角を粉々に破砕した!

 

「ギャアアアアアアオウ!?」

 

 武器の一つを破壊されたディノケルビムが慌てて後ずさり、火球で遠隔攻撃してくる。

 

「デヤッ!」

 

 しかしオーブは火球を素手で弾いた。ディノケルビムは続いて歯舌を伸ばして斬撃を繰り出してくるも、オーブは手刀に炎を纏う。

 

「「『レオゼロビッグバン!!!」」』

 

 燃え上がるチョップが歯舌を断ち切り、燃やし尽くした!

 

「ピッ! ギャアアアアアアオウ! キャァ――――――――!」

 

 いよいよ後がなくなったディノケルビムは最後の武器である尻尾を振り回してオーブに迫らせる。が、オーブはこれをはっしと受け止めて逆にディノケルビム自身を振り回す。

 

「オリャアアアァァァァァッ!」

「ピッ! ギャアアアアアアオウ! キャァ――――――――!」

 

 空高く投げ飛ばしたディノケルビムに向けて、額のランプから赤いレーザーを発射!

 

「「『ナックルクロスビーム!!!」」』

 

 必殺のレーザー光線がディノケルビムを貫き、一瞬で爆砕させた!

 

「やったぁぁぁぁ――――――――――っ!! オーブの勝ちですっ!!」

 

 愛たちはオーブの堂々たる勝利に大歓声を上げた。そしてババリューは、圧倒された顔でオーブの立ち姿を見つめていたが、

 

『ハハハ……やっぱ、本物すげぇや……』

 

 その場にばったりと倒れると、そのまま光とともに消えていった……。

 

「馬場さん……!!」

 

 それを目の当たりにした愛が急いで駆け出す。その後を絵理と涼も追いかけていった。

 

 

 

 戦闘終了後、ジャグラーがノストラに主張する。

 

「ドン・ノストラ。あなたのやり方は、人間の心の善悪を問う昔ながらのやり方です。――時代はもっと進んでるんですよ」

 

 言いたいだけ言ってジャグラーが退室していくと、ナグスが大きく舌打ちした。

 

『チッ! 嫌味な野郎だ……!』

『ドン・ノストラ……あのような輩をのさばらせたままでよろしいのですか?』

 

 タルデが尋ねると、ノストラは含み笑いを浮かべながら返した。

 

『何……それも今だけのことだ……』

 

 

 

 等身大サイズまで縮小したボロボロのババリューは、おぼつかない足取りながらも並木道を通ってどこかへ向かっていく。その背後に、愛たちが追いついた。

 

「馬場さん!! 待って下さい!!」

 

 愛は二人の子供――最初にババリューに助けられる形となった子たちを連れていた。

 

「ありがとう、ババリューさん!」

「ありがとう!」

 

 お礼を述べた二人に対して、ババリューはぐっと拳を向けると、背を向けて何を言わずに消えていった。

 

「馬場さんっ……!!」

「行かせてやりな」

 

 追いかけようと身を乗り出した愛を、ガイが呼び止めた。

 

「ヒーローってのは、風のように去っていくんだろ?」

 

 その言葉に立ち止まった愛たちは、寂しげな表情でババリューの消えた後を見つめた。

 

 

 

 その日の夜、アイドル活動の終了後、ガイたち三人は愛たちとともに街の雑踏をぼんやりと見つめていた。

 

「馬場さん、どこ行っちゃったんでしょ……」

「今度は、誰かの偽者じゃなく、本当の自分で頑張ってるのかな……」

「……本当の自分、か……」

 

 涼が何か考え込んでいる一方で、真はガイに尋ねかける。

 

「プロデューサー……ババリューさんは、ほんとにヒーローになれるんでしょうか。また危ない目に遭ってたらと思うと……」

 

 真の話を聞きながら、ガイはふと気配に気づいて目線をそらした。その先では、作業着の男が箒とちり取りでゴミを回収し、街を綺麗にしていっている。

 ガイと目が合った――見覚えのある顔の男は、照れくさそうにはにかんでガイに一礼した。ガイは思わず笑いをこぼす。

 

「そうだな……やっぱ、偽者じゃあヒーローにはなれないだろ」

「そう、ですか……」

 

 目を伏せた真と春香に、ガイはひと言告げた。

 

「あいつはこれから本物になるのさ」

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

真「菊地真です! 今回ご紹介するのは、L77星の王子たる武闘家ウルトラ戦士、ウルトラマンレオです!」

真「レオさんは1975年放送の『ウルトラマンレオ』の主人公! 経歴がそれまでのウルトラ兄弟とは大きく違い、獅子座L77星出身の王子様でした。けど物語開始時点でマグマ星人の手によって、故郷が滅ぼされてしまい地球に亡命してきたという、あまりに重い設定を背負ってました」

真「戦いの後遺症で変身できなくなったセブンさんに代わって地球を守ることになったんですが、初めは戦いの素人。何度も敵に追い詰められたり敗れたりしては、ダンさんに厳しい特訓を課せられるハードな日々の連続でした。これは当時流行してたスポ魂漫画の影響と言われてます」

真「戦士として一人前になっても、終盤はオイルショックの煽りによるMAC全滅からの孤独な戦いを強いられるというシリーズきっての逆境を経験しましたが、それでも戦い抜いたレオさんはメビウスさんやゼロさんに技と正義の味方の心構えを教える良き師匠になるまでに成長したんですよ! カッコいいなぁ~!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『エージェント夜を往く』だ!」

ガイ「真の初のソロ曲で、非常にアダルチックなイメージが満載の一曲だ。詳しいことは、小さい子供の前でするのはちょっとはばかられるくらいだ!」

ガイ「だが一時期は亜美真美の独特な歌い方が有名になり過ぎて、真の曲っていうイメージが薄れちまってた。変なところでネタにされるな」

真「もぉ~、ボクは悪くないのにどうしてそんなことになっちゃうの~!?」

真「それじゃあ、次回もよろしくお願いします!」

 




 萩原雪歩ですぅ。最近の四条さんがどこか変だとみんなで話してたら、四条さんがいきなり765プロを去ると言い出しました! 何でも故郷からの迎えが来ると……。その故郷って、ええっ!? 月ですかぁ!? 次回『さようならフラワーガール』。行かないで、四条さんっ!


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さようならフラワーガール(A)

 

「しかし、わたくしたちにはプロデューサー……オーブがついています」

「何とも面妖な……」

「苦しい時にこそ、精神を平静に保つのです」

「休息を取ることも悪くはありません」

「よいではないでしょうか。全て丸く収まったのですから」

「地球の焼きそばで一番の美味です」

「雨の風情を楽しむのも乙なものですよ」

「龍脈に沿っているのではないでしょうか」

「義を見てせざるは勇無きなり、です」

「わたくしもプロデューサーのお力になります」

 

 

 

『さようならフラワーガール』

 

 

 

 お馴染み765プロ事務所で、律子がほぼ白紙のホワイトボードを前に難しい顔で腕を組んでいた。

 

「今月のお仕事も、たったこれだけか……。いつまでもこんな調子じゃ、事務所が干上がっちゃうわ」

「ほんと、弱りますよね。せめてもうちょっとお仕事が入ってくれれば……」

 

 小鳥も頬に手を当ててため息を吐く。765プロの営業事情は、以前に比べたらマシではあるが、それも毛が生えたという程度。はぁーと長いため息を吐く律子。

 

「伸び悩んでますよね……。みんな、素質は悪くないはずなんですけどねぇ。むしろ業界全体を見渡しても潜在能力は高い方だと思うんですが……」

 

 小鳥と相談している律子の後ろ姿をながめて、亜美と真美が顔を見合わす。

 

「律っちゃん、いっつも事務所の財政を気にしてるよね」

「アイドルなのに、兄ちゃんよりもプロデューサーみたいだよね~」

 

 そんなことを囁かれているとは露知らず、律子はボードの一角に貼った765プロアイドル個人の写真を見やった。

 

「みんなしてすごく個性的だし、売れる要素は十分あるはずなんですけどねぇ。何か大きなきっかけがあれば化けると思うんですが」

「大きなきっかけかぁ……。今度、社長とも相談してみますね」

 

 律子たちとは別の角度から、響と美希、真と雪歩も写真を見つめている。

 

「個性か……。アイドルに個性って大事だもんね。でも自分もそんなに個性的かな?」

「響の個性は特に際立ってるって思うな」

 

 肩にハム蔵を乗せている響に目を向けながら美希がつぶやいた。それから真が写真に方に視線を戻す。

 

「でもやっぱり一番個性があるのは、何と言っても貴音だよね。他の追随を許さないレベルだよ」

「だよねー。貴音ほど突き抜けてる人、見たことないの」

 

 うんうんとうなずいた美希は、貴音のあり余る個性を語る。

 

「何て言うか、空気から他の人とは大違いだし。偉そうな感じだけど嫌らしいところは全然ないし、ほんとのお姫さまみたいなの。口調も普段から難しいし」

「徹底した秘密主義もすごいよね。何を聞かれても秘密を貫き通してるし。でもボクたちにまで、住んでるところすら教えてくれないのはやり過ぎじゃないかなぁ。そこだけが残念だよね」

 

 真も同調していたら、隣の雪歩が何やらうつむいているのに気がついた。

 

「あれ雪歩? そんな顔してどうしたの?」

 

 尋ねかけると、顔を上げた雪歩がこう言った。

 

「その四条さんのことなんだけど……最近の四条さん、何だか元気がないように見えない?」

「えっ?」

 

 雪歩のひと言に、周りの注目が彼女に集まった。

 

「元気がないって……どういうこと?」

「傍目からは分かりづらいかもしれないけど……何だか以前ほどしゃきしゃきとした感じがしないし、妙に考え込んでることが多いみたいだし……もしかして、何か悩みごとがあるんじゃないかなって……」

 

 との雪歩の言葉に、小鳥が口を開く。

 

「そういえば貴音ちゃん、ここのところ月に向かって何か独り言を言ってるのをよく目にするわ」

「え? 月?」

「ええ。月を見てること自体は前からあったんだけど……それも雪歩ちゃんが言うように、悩みがあるからなのかしら?」

 

 小鳥から知らされたことに、アイドルたちは怪訝な表情で互いに顔を見合わせた。

 

「お姫ちんの悩むことって何だろ。亜美には想像つかないよ」

「お姫ちん、ほんとに自分のこと、ほとんど教えてくれないからね」

 

 貴音の心配をする仲間たちだが、響だけは肩をすくめた。

 

「気にし過ぎだって。貴音も、ほんとに深刻なことなら誰かに相談くらいするさー。多分、行きつけのラーメン店の味が変わったとかそんなところだって。なんくるないさー」

「それは流石にないって思うな」

 

 美希が突っ込んでいると、当の貴音が何やら神妙な面持ちでこの場にやってきた。そしてひと言、

 

「小鳥嬢、ただ今高木殿はおられますか? 少し、話があるのです」

「社長にお話し? ちょっと待って、今呼んでくるわ」

 

 小鳥が席を立って社長室に向かい、雪歩たちは貴音の普段と異なる言動にやや面食らう。

 しばし時間を置いて、小鳥が高木を連れて戻ってきた。

 

「四条君、話とは何かな?」

 

 高木が聞き返すと、貴音はたたずまいを直して高木に向き直った。

 

「高木殿……流浪の日々を送っていたわたくしを高みへと誘っていただいたこと、感謝しております。わたくしも、この事務所でまこと楽しき経験を致しました」

「お、おいおい、急に改まってどうしたんだね」

「ですが……」

 

 貴音はうっすら目を開けながら、こんなことを告げた。

 

「わたくし、今日限りでこの765ぷろを……いえ、あいどるそのものを辞職させていただきます」

 

 少しの間、誰も何も言わない時間が過ぎたが、やがて、

 

「……えええええええええええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇえええええええええええええええ――――――――――――――――――――――――――っっっ!!?」

 

 全員の絶叫が事務所に響き渡ったのであった。

 

 

 

 貴音の衝撃的な告白の後、事務所には急遽ガイが呼び戻された。他のアイドルたちも雪歩らからの情報により、大急ぎで事務所に駆けつけた。

 

「……それで貴音、アイドルを辞めるってのは本当なのか? 時期外れのエイプリルフールとかそんなんじゃなく」

 

 アイドルたちが息を呑んで周りを取り囲む中、肝心の貴音と向かい合って腰を掛けたガイが問いかけると、貴音ははっきりとうなずいた。

 

「はい。一切の嘘はありません」

 

 その返答にアイドルたちは一斉に騒然となった。

 

「た、貴音さんがアイドル辞めるなんて……それも今日なんて急な……!」(春香)

「四条さん、いなくならないで下さいぃ~! 私寂しくなりますぅ~!」(雪歩)

「私もですぅ~! 考え直して下さーい!」(やよい)

「お姫ちんまだ一回も変身してないじゃんっ!」(亜美)

「みんな落ち着いて! そう焦らないの!」(律子)

 

 ガイは眉間に皺を刻んで腕を組んだが、考えが纏まったように貴音に視線を戻した。

 

「色々と言いたいことはあるが……どうしてこんないきなり、そんなことを言い出すんだ? 今日限りなんて随分急な話じゃないか」

「ガイ君の言う通りだ。会社としても、今日いきなり辞めますなんてのは些か困るよ」

「貴音ちゃん、どんな理由があってそんなこと言い出したの?」

 

 高木、小鳥も加わって問いただすと、貴音は訥々と答え始めた。

 

「故郷の一族からの連絡により、そうせざるを得なくなったのです」

「故郷の一族? 親戚からアイドル活動を反対されたんですか? 帰ってこいとも言われてるとか?」

 

 千早の問い返しにうなずく貴音。

 

「概ねはそのようなところです」

「そんなぁ! 貴音さんともう会えないなんて……!」

 

 思わず涙ぐんだ雪歩をあずさが慰める。

 

「貴音ちゃんの故郷が分かれば、会いに行けるわよ。貴音ちゃん、お家はどこなの? 今度こそ教えてちょうだい」

 

 しかし、貴音はふるふると首を振った。

 

「いいえ……恐らくは二度と会うことは叶わないでしょう」

「え?」

「わたくしの故郷とは……」

 

 ピッと、人差し指を天井に向けて立てる貴音。アイドルたちは釣られて天井を見上げた。

 

「この星の兄弟でありながら、未だ地球人の到達していない土地……月なのです」

「は? 月?」

 

 呆気にとられた伊織の顔が、だんだんと怒りの色に染まる。

 

「ちょっとっ! 私たち、本気で心配して集まったのよ! それなのにそんな冗談言って何のつもりよっ! かぐや姫にでもなったつもりなの!?」

 

 だが真美が伊織を制止した。

 

「待っていおりん。お姫ちんが冗談言ってるって決めるのは早いんじゃないかな」

「え? どういうことよ」

「だってさ……」

 

 チラッとガイを一瞥する真美。

 

「兄ちゃんが宇宙人だよ? 他にも宇宙人を真美たち知ってるじゃん?」

 

 うっ、と声を詰まらせた伊織だったが、すぐに言い返す。

 

「でも貴音が言ってるのは月よ? あの一面荒野の。人間なんている訳ないでしょ!」

「確かに、今は死の荒野です」

 

 貴音が口を挟む。

 

「ですが昔は違いました。わたくしは、その末裔の一人なのです」

「だからあんたねぇ……!」

「落ち着け伊織」

 

 いきり立つ伊織をガイが押しとどめ、貴音に向き直った。

 

「とりあえず、もっと詳しいことを話せ。今の段階じゃあ話の全容が見えない」

「かしこまりました……」

 

 ガイに促されて、貴音が続きの話を行う。

 

「もう十年ほども前になりましょうか。その頃にわたくしの一族を狙う者たちが現れ、幼かったわたくしは戦火に巻き込まれぬよう、兄弟星である地球に隠されました。そして今日に至るまで地球で平穏な日々を過ごしていたのですが……」

「その戦いが終結したってことか?」

 

 話の結末を先取りして尋ねるガイ。

 

「如何にもその通りです。当初の見立てではあと五年は続くはずで、それ故わたくしも高木殿の誘いを受けたのですが、争いの終止符は予想よりも大分早かったようです……」

「それで安全になったから、帰ってこいって訳か」

「報せ自体は、月より毎日のように受けていました」

「だから月に向かって何かしゃべってたのね……」

 

 小鳥が得心した。小鳥は高木に顔を向け直す。

 

「そういうことですので、わたくしは故郷、一族の元に帰ります。今まで、まことにお世話になりました……」

「ち、ちょっと待ってよっ!」

 

 深々と頭を下げる貴音に、真がたまらなくなって口出しした。

 

「貴音はそれでいいの!? ボクたちのアイドル活動は、まだ始まってもないってくらいなのに! こんなところであっさり辞めちゃって……ほんとにそれでいいの!?」

 

 必死の思いを乗せて問いかける真。その口振りには、自分たちとの日常、思い出を簡単に捨てられることへの悔しさがにじみ出ていた。

 真の訴えかけに、貴音も伏し目がちになりながら返す。

 

「わたくしとて……本当は嫌です。せめてもう少し待ってほしい、と何度も訴えました。ですが、一族を説得することは出来ませんでした……」

「そんな……」

 

 貴音の告白にアイドルたちは一様に悲しみを顔に浮かべるが、伊織と律子は懐疑的な意見を挟む。

 

「待ってよみんな。今の貴音の話が、本当のことだって確証もないじゃない」

「そうね。貴音、今の話が確かなことだって証拠はないの? それがないと、流石にそんな突拍子もない話、信じられないわよ」

 

 二人はあくまで疑って掛かっていた。すると貴音は、少し考えてから、次の通り告げた。

 

「そろそろ、一族の使者が出発している頃合いでしょう。小鳥嬢、にゅうすを見せて下さい」

「え? ニュース?」

「恐らくは、地球の報道が使者の出発の様子を流しているはず……」

 

 話はよく分からないが、小鳥はとりあえず言われた通りにテレビのスイッチを入れた。すると画面に映ったのは臨時ニュースであった。

 

『先ほど、月の表面で大規模な噴火が発生したとNASAから発表がありました! 関係各社によりますと、これは通常では考えられないとのことでして……』

「えーっ!? 月で噴火ぁ!?」

 

 仰天する亜美たち。律子も唖然と口を開く。

 

「そんな馬鹿な! 月にあるのは全部死火山よ! 噴火するなんてこと、ある訳ないわ!」

『ご覧下さい! これが月の表面の生中継映像です!』

 

 しかし律子の言葉とは裏腹に、テレビには実際に月の山の一つから溶岩が爆発したかのように噴出している様が映る。

 

『テレビをご覧の皆さま、これは合成でも特撮でもありません。実際の光景です! ……あっ! 今、月の火山から何か巨大なものが飛び出しました! あれは何でしょうか!?』

 

 しかも火口から溶岩に混じって、真ん丸とした巨大な隕石のようなものが飛び出して上昇していく。その表面には……。

 

『顔です! 顔に見えるものがあります! あれは未確認生物の一種、宇宙怪獣なのでしょうか!?』

 

 隕石のようなものは物理法則を無視した動きで、月の引力圏からたちまち脱していく。その直後、高木のケータイに着信が入る。

 

「高木です。ああ渋川君。うむ、ちょうど見ていたところだよ……何!?」

 

 渋川から何か報せをもらった高木が、皆にそれを伝える。

 

「今の飛行物体からは、確かな生命反応が検知されたということだ。あれはまさしく宇宙怪獣だよみんな!」

「えぇーっ!」

 

 再度驚愕するアイドルたち。律子は高木に聞き返す。

 

「でもそんなこと、どうして渋川さんが私たちに教えてくれたんですか?」

「それはだね……」

 

 緊迫した表情で一拍間を置く高木。

 

「ビートル隊で飛行物体の軌道を予測したところ、向かう先は地球……この事務所のすぐ近くだと判明したからだ!」

「えぇぇーっ!?」

 

 再三吃驚するアイドルたち。春香が貴音に振り返った。

 

「まさか、あれが貴音さんの言ってた月からの使者!?」

「はい」

「ちょっとお迎えが派手すぎるんじゃないの!?」

「そんなのんきなこと言ってる場合!? やばいわよこれっ!」

 

 真美に、宇宙怪獣が事務所に向かってくるという事実に焦る伊織が突っ込んだ。皆も大慌てだ。

 

「わぁーどうしましょうどうしましょう!」(やよい)

「事務所がペチャンコにされちゃうぞ!?」(響)

 

 右往左往する仲間たちを、真が一喝する。

 

「みんな! 慌てふためいたってどうしようもないよ!」

「真……」

「それより……みんなで力を合わせて、貴音を守ろう!」

 

 との真の提案に、あずさが目を丸くした。

 

「それって、貴音ちゃんの家族からの使者を追い返すってこと?」

「そうですよ! 一族だか何だか知らないけど、そんな一方的に貴音を連れていくなんてこと認められません! 帰ってもらいます!」

「でもまこちん、かぐや姫が月に帰るのは止められなかったんだよ……」

 

 弱気な亜美のひと言に強く言い返す真。

 

「そんなの昔話じゃないか! 今はビートル隊がいるし、何よりプロデューサーがいるよ! 勝てないなんてことあるもんか!」

「でも……」

「それとも、このまま貴音と二度と会えなくなってもいいっていうの!?」

 

 真の意見に一番に同調したのは雪歩だった。

 

「わ、私もそんなの嫌ですぅ!」

「雪歩!」

「四条さんとはまだまだいっぱいお話ししたいこと、やりたいことがあります! それなのに、こんな急にお別れなんて……絶対嫌ですっ!」

 

 雪歩の強い意志の表れに、真は感激して彼女の手を取った。

 

「よく言ってくれたね雪歩! 一緒に頑張ろう!」

「うん、真ちゃん! ほら、みんなも!」

「……分かった! 私もやるよ!」

「四条さんはどこへもやらないわ」

「ミキもがんばっちゃうよ!」

「自分だって、何があっても貴音を守るさー!」

 

 真と雪歩に続いて、春香、千早、美希、響と、仲間たちが我も我もと立ち上がった。それを目にして、ジーンと感動する高木。

 

「何と美しい友情だ……。そう思わないかね、音無君」

「ええ、おっしゃる通りです社長……うう!」

 

 小鳥はハンカチで目頭を押さえた。

 最後に真がガイに呼びかける。

 

「プロデューサーも、お力を貸して下さい! オーブがいれば百人力です!」

 

 だが当のガイは渋面だ。

 

「しかし、相手は曲りなりにも貴音の縁者だぞ? それと争うってのは……」

「プロデューサー!」

 

 迷うガイだが、アイドルたちの訴えかける眼差しを一身に浴びて、観念したように息を吐いた。

 

「……まぁ、確かに一方的だよな。分かった、俺も説得に協力しよう」

「やったぁっ!!」

 

 喜ぶアイドルたち。雪歩と真は貴音の手をギュッと握り締める。

 

「四条さん、安心して下さい。何があっても、私たちがお守りします!」

「一緒にアイドル続けようね、貴音!」

 

 皆の行動にしばし呆然としていた貴音だったが、口元をほころばせると二人にうなずき返した。

 

「ありがとうございます……。皆、本当に感謝致します……!」

 

 こうして765プロ総出による、四条貴音防衛線が結成されたのだった。

 



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さようならフラワーガール(B)

 

 月から近づきつつある使者の怪獣から、貴音を守ることを決定した765プロ一同。まず、怪獣に街のど真ん中に降り立たれては大変なので、アイドルたちは貴音を連れて郊外の人気のない野原まで移動した。

 

「はい、はい……飛行物体の軌道が? はい分かりましたッ!」

 

 春香からの連絡を受け、半信半疑ながらも駆けつけてくれた渋川がビートル隊本部よりもたらされた情報を765プロ一行に告げた。

 

「今さっき、怪獣の軌道が急に変化してこの地域に落下するコースになったみたいだ。春香ちゃんの言う通り、怪獣は銀髪お嬢ちゃんを追ってきてるのかもな」

「でしょう? 叔父さん。私たちの情報は確かだよ!」

「しかし解せねぇなぁ。月から出てきた怪獣が、銀髪お嬢ちゃんとどんな関係があるんだ?」

 

 訝しげに首を傾げる渋川。貴音の身の上話は、あまりに常識外れの内容であるため、外部の人間には誰にも話していないのだ。

 

「そ、それは……な、何でだろうねー? 不思議だねー? あははは……」

 

 引きつった顔で笑ってごまかす春香。そこに律子が呼びかける。

 

「二人とも、そろそろ気を引き締めた方がいいわ。――怪獣が大気圏突入したの!」

 

 律子のタブレットには、地球に接近する飛行物体の監視画面が映っている。その中の飛行物体が、大気圏内に入ったのだ。

 時刻は午後八時。夜空に昇った満月が煌々と野原を照らす中、貴音はじっと月を見上げている。そこに雪歩と真が声を掛けた。

 

「四条さん……」

「貴音、そろそろ怪獣が来るって。……戦いになるかもだけど、それでいい?」

 

 改めて確認を取る真。一族の使者と自分の同僚たちが事を構えるというのは、貴音自身にとっては相当複雑なことであろう。

 実際、貴音も頭を振りながら答える。

 

「……本音を言うのならば、やはり皆にはわたくしの家の使いと争ってほしくはありません。ですが、使者もそう簡単には引き下がらないでしょう。……今更ですが、わたくしが帰るのが最良の選択なのかもしれません」

「四条さん……!」

「貴音……!」

 

 そう言いながらも、貴音は雪歩たちに振り向いて告げる。

 

「しかし、皆の気持ちはまこと嬉しいです。それを無碍にもしたくない……。ですので、どのような結末になろうとも、わたくしはそれを受け入れる覚悟を致しました」

「……!」

「気が引ける気持ちもありますが……どうか、最後までわたくしの運命と共にあって下さい」

 

 貴音の頼みに、雪歩と真のみならず、仲間たちが固くうなずいた。

 

「おいおーい? さっきから何話してんだー?」

 

 一人蚊帳の外の渋川が不思議そうに問いかけたが、それをさえぎるように律子が叫んだ。

 

「来たっ! いよいよ来たわっ!」

「あっ! 見えたよ! あれがそうじゃない!?」

 

 飛行物体は肉眼でも捉えられるところまで接近してきていた。響が、満月に生じた丸い影を指差す。

 影はどんどんと大きくなり、近づいてきて……球状の岩石のような形状がはっきりと彼女たちの目に飛び込んできた。地表に近づくにつれて不自然に減速していくのが、やはりただの落下物ではないことを物語っている。

 

「とうとう来たわね……」

 

 千早のひと言に反応するように、険しい表情となるアイドルたち。いよいよ腹をくくる時もやってきたのだ。

 飛行物体はゆっくりと野原の近くに着陸すると、手足と首が生えるように変形して、より生物らしい姿に変化した。巨大怪獣の姿をまじまじと見上げて伊織がつぶやく。

 

「あれが問題の怪獣……何だか岩で出来たタヌキみたいな感じだけど」

「キララ……!」

 

 貴音が名を唱えた。月からの使者、月光怪獣キララは一番に貴音を見据えると、テレパシーで呼びかけてくる。

 

『お迎えに参りました、お嬢さま。さぁ、私めとともに帰りましょう』

 

 ドスドスと地響きを起こしながらこちらに近寄ってきつつ、貴音に向かって手を伸ばすキララ。アイドルたちは咄嗟に貴音を守るように人垣を作り、渋川は通信機に向かって叫んだ。

 

「攻撃開始ッ!」

 

 ゼットビートル三機が現場の上空に飛来し、キララに向かってミサイル数発を同時に撃ち込んだ。だが、キララは爆撃に全く動じていない。

 

「何ッ! 何てかってぇ身体なんだおいッ!」

 

 動揺する渋川。キララは攻撃してくるビートル隊を敵と見なした。

 

『地球人め! 邪魔をする者は容赦せんぞぉッ!』

 

 キララの真ん丸とした腹がギラギラと光ると、衝撃波が発せられる。それを食らったゼットビートルが纏めて火を噴いて不時着していく。

 

「ちっくしょぉ~……! ビートル隊の意地を見せてやるぜ!」

「あっ、叔父さん!?」

「危ないですよー!?」

 

 渋川は春香ややよいが止めるのも聞かず、スーパーガンリボルバー片手にキララへ向かって駆け出していった。

 

「食らえッ!」

 

 ありったけの弾丸を撃ち込むも、ミサイルが効かないのだから当然ながらこれも通用しない。

 キララは口から火花状の火炎を噴いて、渋川に反撃してくる!

 

「うおわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!?」

「叔父さぁーんっ!!」

 

 火花に追われて倒れる渋川。これに真と雪歩がガイへ振り向いた。

 

「プロデューサー、お願いします!」

「私も行きますぅ!」

「よし、それじゃ行くぞッ!」

 

 ガイたちがオーブリングとカードを構える。

 

「ガイアさんっ!」

[ウルトラマンガイア!]『デュワッ!』

「ビクトリーさんっ!」

[ウルトラマンビクトリー!]『テヤッ!』

「大地の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイアとビクトリーの力を借りて、フュージョンアップを決行!

 

『ジュワァッ!』『オリャアッ!』

[ウルトラマンオーブ! フォトンビクトリウム!!]

 

 変身したオーブが、巨腕で背後からキララに掴みかかり攻撃を食い止めた。

 

『よせ! 乱暴はやめろ!』

 

 叱りつけるオーブだが、キララは大人しくなるどころか余計に興奮してオーブを振り払った。

 

『えぇい離せぇッ!』

 

 ブシューッ、と頭頂部の二つの孔から蒸気を噴射し、オーブに敵意を向けるキララ。

 

『お嬢さまのお帰りを妨げる者は、何者であろうとも許さんッ!』

『「やめて下さぁいっ! 四条さんを、空に連れてかないで下さぁいっ!」』

『「ボクたち、まだ道の途中なんです! せめてもう少しだけ待って下さい!」』

 

 雪歩と真が懸命に訴えかけるが、キララは全く聞き入れずに腹を光らせて衝撃波を飛ばしてきた!

 

「ウゥッ!」

 

 キララの攻撃をまともに浴びるオーブ。その威力はすさまじく、強固なボディのフォトンビクトリウムもよろめくほどであった。

 体勢を崩したオーブにキララは火花で追撃を掛ける。対してオーブは防御を固めて攻撃を耐える。

 

『聞く耳なしか……! 行くぞ、反撃だッ!』

『「は、はい!」「ええ!」』

 

 オーブも腹をくくり、反撃に転じた。横に寝かせた右手首を左手首に合わせ、ゆっくり持ち上げていきながらエネルギー充填。左手を右腕の関節の内側に乗せたポーズから、V字状の光線をキララに向けて発射する。

 

「「『フォトリウムシュート!!!」」』

 

 光線がキララに命中! ……だがキララはボール状に丸まって硝煙を抜け出て、オーブの周囲を回り出す。

 

「デッ!?」

 

 キララの動きを目で追いかけるオーブだが、身体の重いフォトンビクトリウムでは俊敏な動作が出来ず、キララのスピードについていくことが出来なかった。

 やがて後ろから激突してきたキララに反応できずに大きくはね飛ばされた!

 

『「きゃあぁっ!」「わあぁっ!」』

 

 キララは倒れたオーブの上をあらゆる方向から何度も轢き、弱ったと見るとその上に落下してのりかかりを決めた。

 

「グゥゥゥッ……!」

 

 何度もオーブの上で弾むことで押し潰そうとするキララ。オーブは立ち上がることも出来ずに一方的に痛めつけられる。

 

「がんばって、オーブぅー!」

「お願い、立って!」

「貴音を守れるのは君たちだけなんだぞ!」

 

 意外な強さのキララに苦戦するオーブを、春香、美希、響らの仲間たちが声を張り上げて応援している。だがキララはオーブにややもすれば残酷に言い放つ。

 

『無駄な抵抗だ! お嬢さまのお帰りを、お前たちなどには妨害できんわッ! ワッハッハッハッ!』

 

 いよいよオーブにとどめを刺そうと、一段を高く弾むキララ。

 

『食らえぇいッ!』

 

 落下とともに加速して、オーブを潰してしまおうとする。その時!

 

『「レオさんっ!」』『イヤァッ!』

『「ゼロさんっ!」』『セェェェアッ!』

『熱い拳、頼みますッ!』[ウルトラマンオーブ! レオゼロナックル!!]

 

 倒れたままのオーブがフラッシュを起こしたかと思うと、落下中のキララが巨大な両腕に受け止められた。

 

(♪ウルトラマンレオ・戦い)

 

 立ち上がったオーブ・レオゼロナックルが、キララを止めたのだ!

 

『何ぃーッ!?』

「オォリャアァッ!」

 

 オーブはそのままキララを投げ飛ばし、地面に叩きつけた。球体の状態が解けたキララにオーブは言い放つ。

 

『生みの親より育ての親だ! 貴音は十年もこの地球で生きてきたんだ!』

 

 だがその言葉もキララには届かない。

 

『馬鹿ッ! 生まなきゃ育てられないんだ! 物事には順序というものがあるんだぁッ!』

 

 火花を噴出して攻撃してくるキララだが、オーブは連続バク転で回避。キララは腹からのフラッシュで狙い撃とうとするも、それを制してオーブが額のランプを光らせる。

 

「「『ナックルクロスビーム!!!」」』

 

 先に発射されたレーザーがキララの腹を撃ち抜き、発射口を潰した!

 

『ぐぅぅぅぅッ!?』

 

 最大の武器を使えなくなってキララがたじろいだところに、雪歩と真が再度説得を試みる。

 

『「お願いです! 四条さんを連れていかないで下さい! 四条さんは、私たちにとっても大切な仲間なんです!」』

『「まだまだ一緒にやりたいことはいっぱいあるんです! どうか、どうかお願いします!」』

 

 だが二人の想いも虚しく、キララは返答せずに代わりに再び丸まって突進してくる。

 

「デェェェェアッ!」

 

 しかしオーブは向かってくるキララを蹴り飛ばし、鉄拳で返り討ちにする。レオゼロナックルはパワーのみならず敏捷性も高い。キララの動きにも対応できるようになったのであった。

 キララのスピードが落ちたところでオーブは地を蹴り、空中できりもみ回転しながらキララに突撃していく。

 

「「『レオゼロスピンキック!!!」」』

 

 回転飛び蹴りが炸裂し、キララをぶっ飛ばした! 流石のキララも今の一撃を耐え切れずに、フラフラのありさまであった。

 

『お嬢さまぁぁぁぁ……お帰り下さぁぁい……!』

 

 にも関わらず、キララは戦うことをやめようとしない。しぶとくオーブに食い下がってくる。

 

『「くっ、しつこいな……!」』

 

 どれだけダメージを与えても立ち上がるキララに、真も脂汗を垂らした。もう一発打ち込んでやろうかと身構えるものの、そこに雪歩が呼びかける。

 

『「真ちゃん、流石にかわいそうになってきたよ……」』

『「雪歩!」』

『「向こうはあんなに必死なんだよ? これ以上手を上げるなんて……」』

 

 逡巡する雪歩を叱りつける真。

 

『「じゃあ雪歩は貴音がいなくなっちゃってもいいって言うの!?」』

『「そ、そういう訳じゃないけど……」』

 

 二人の心がそろわなくなったことでオーブの勢いも止まり、キララの殴打をかわすのみとなる。それでも、今の弱ったキララの攻撃をよけるのは難しくない。

 更にそこに、貴音もオーブたちに向かって叫んだ。

 

「戦いをおやめ下さい!」

『「貴音……!」』

「わたくしのために、両者ともこれ以上傷つくのは、胸の奥が苦しいです!」

 

 貴音の訴えに、真は顔をしかめた。戦いを見守っているアイドルたちも、どうしたらいいのか分からずに戸惑いを顔に浮かべている。

 

「何とかならないのかな……」

「でも、こっちだってここまで来たからには引き下がれないわよ!」

 

 やよいのつぶやきに伊織が半ば自棄に告げた。

 オーブも時間経過によりカラータイマーが点滅している。戦いはこのまま終わりの見えない消耗戦にもつれ込んでしまうのか?

 しかしその時、キララがハッと何かに気がついて月へと振り向いた。奇妙な行動に、オーブも思わず動きを止める。

 そしてキララが言葉を発する。

 

『おお、ユウコ様!? それはなりませぬ!』

『「? 急にどうしたんだろう……?」』

『遠いところの誰かと話してるみたいだな』

 

 オーブが推測する中でも、キララはオーブたちには聞こえない声と交信しているようだった。

 

『ですが……しかし、そうしますと……! 何と……! ……かしこまりました、そこまでおっしゃるならば……』

 

 話が纏まったようで、キララはオーブたちの方へ向き直った。そしてこう告げる。

 

『我らの統治者のお許しが出た。お嬢さまは、もうしばらく地球に滞在してよいということだ』

「!!!」

 

 アイドルたちは一斉にざわついた。

 

「それってつまり……」

「貴音さんは帰らなくていいってことだよ!」

「わーい! やったぁー! お姫ちんと一緒にいられるんだー!」

 

 春香たちは一斉に喜びはしゃいで手を取り合う。美希と響が両脇から貴音に飛びついた。

 

「よかったね、貴音! 許してもらえて!」

「これでひと安心だぞ!」

「はい……ありがとうございます……! わたくし、胸がいっぱいです……!」

 

 貴音は目尻に浮かんだ涙の滴を指でぬぐった。

 

『「真ちゃんっ! やったよぉぉぉーっ!!」』

『「うんっ! うんっ! よかった、ほんとによかったぁ……!」』

 

 雪歩と真は抱きつき合って喜びを分かち合っていた。キララはオーブに向けて言いつける。

 

『お嬢さまを悲しませることがあったら、許しておかんからな。覚えておけ!』

 

 それを捨て台詞にして、キララは丸まって空へ飛び上がっていく。それを見届けたオーブがフュージョンアップを解除して、ガイ、雪歩、真に戻った。

 

「みんなー!」

「プロデューサーさん! 雪歩! 真ー!」

 

 皆の元に戻って、ガイは安堵の微笑みをこぼした。

 

「これで全員そろって帰れるな。社長たちにいい報告が出来る」

「はいっ!」

 

 ニコニコと笑顔のアイドルたちとともに事務所に帰ろうと踵を返したガイだが……。

 

『待て』

 

 気がつけばキララが背後に立っていた。

 

「うおぉッ!? おい、まだ何かあるのかよ!?」

 

 度肝を抜かれて仰天したガイたちに、キララは片手を差し出す。

 

『我らが統治者より、お前に月の秘宝を授けるよう言付かった。受け取れ!』

 

 キララの手から離れて、ガイの手中に光る何かが収まった。

 それは男女両性的なイメージを湛えた姿を持つ、ウルトラ戦士のカードだった!

 

「これは、ウルトラマンエースさんの力!」

『大事にしろよ。ではお嬢さま、私めはあなたさまのご無事を願い続けておりますぞ!』

 

 キララは改めて飛び上がり、地球を去っていく。貴音たちはキララに向けて大きく手を振った。

 

「キララ、贈り物感謝いたしますとお伝え下さい!」

「ありがとねー!」

 

 帰っていくキララをアイドルたちが見送った一方で、渋川がようやく目を覚まして起き上がった。

 

「怪獣はどこだ!? やっつけてやるぜ! あれ? 何だか静かだな。おーい?」

 

 一人だけ事態を把握できていない渋川が、キョトンと辺りを見回した。

 

 

 

 翌日、アイドルたちはわいわいと昨日の騒動について話し合っていた。

 

「いやー、昨日はほんと大変だったよねー」(春香)

「全く人騒がせな月の使者だったわね。こっちも暇じゃないのに」(律子)

「でも貴音さんがここに残ってくれて、とても嬉しいですぅー!」(やよい)

「ええ、本当に……」(千早)

 

 雪歩は真と面と向き合う。

 

「私たち、また一つ戦いを乗り越えたね」

「うん。大変だったけど、貴音との距離も近づいた気がするよ!」

 

 大半は貴音が765プロに留まったことに満足しているが、そんな中で真美が貴音に尋ねかけた。

 

「ところでお姫ちん……お姫ちんって、ほんとに月の人なの?」

「え? ……ちょっと真美、あんた今更何言い出すのよ!」

 

 伊織が即座に突っ込んだ。

 

「あんたが一番に納得したんじゃない!」

「だけどさぁ……よくよく考えてみれば、お姫ちんが月の人だっていう証拠は、お姫ちんと怪獣の証言しかないよ?」

 

 そう言われてみれば……と皆の心にも疑問が沸き上がってきた。結局、物証がある訳ではないのだ。

 

「ほんとにそうだったら、月の人たちは今どこに住んでるの? 何であんなにお姫ちんをしつこく連れ帰そうとしてたの? そもそも、月の人を狙ってたのってどこの誰?」

「それに、お姫ちん765プロに来るまでどこで何して生きてたの? っていうか今どこに住んでるの? お金はどうしてるの?」

 

 次々質問を投げかける真美と亜美。他の皆も興味津々だ。思い起こしてみれば、貴音に関しては何かと疑問が尽きない。

 

「ねーねー教えてよお姫ちーん」

「地球に残れた記念でさー。いいでしょ?」

 

 二人にせがまれ、貴音はふっと頬を緩ませた。

 

「そうですね……。皆のその疑問につきましては……」

 

 おおっ!? と興奮するアイドルたち。そんな彼女たちに向かって、貴音は――。

 悪戯っぽく笑みながら、口の前に人差し指を立てた。

 

「とっぷしぃくれっとです」

「……え?」

「ではごきげんよう」

 

 満足げにツカツカとどこかへ立ち去っていく貴音の後ろ姿をポカンと見送って、真がぼんやりとつぶやく。

 

「……結局、秘密主義は貫くんだ……」

 

 仲間たちは思わずうんとうなずいたのだった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

真美「やっほー兄ちゃんたちー! 真美だよ~? 今回紹介するのはー……地底世界のウルトラ戦士、ウルトラマンビクトリーだぁ~!!」

真美「ビクトリー兄ちゃんは『ウルトラマンギンガS』で初登場した二人目のウルトラマンだよ。ショウ兄ちゃんが変身するんだけど、ショウ兄ちゃんはビクトリアンっていう地底人なの。つまり、初の地底人のウルトラマンって訳だね! すっごいよね~!」

真美「一番の特徴は何と言っても、ウルトランス! ギンガ兄ちゃんはウルトライブっていう怪獣になる能力があるけど、こっちは怪獣の身体の一部を自分の武器にすることが出来るのだ! これでウルトラマンの状態でも怪獣の力が使えるって訳! お得だね~♪」

真美「最初はショウ兄ちゃんが意地っ張りなもんでギンガ兄ちゃんとはなかなか足並みがそろわなかったけど、戦いを乗り越えてく度に絆を深めて、劇場版では二人が融合したウルトラマンギンガビクトリーも誕生したんだよ!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『フラワーガール』だ!」

ガイ「貴音初のオリジナルソロ曲で、歌詞にはケータイみたいな絵文字がふんだんに使用されてる非常にポップな歌だ。貴音のイメージからは大きくはずれてるかもしれないが、これはこれでいいもんだ」

真美「面白い歌だよね~。お姫ちんもなかなかやりますな~」

真美「それじゃ次回もよろよろ~♪」

 




 菊地真です! またまた貴音が大ピンチ!? 貴音がスキャンダルに巻き込まれちゃったんだ! 貴音は大丈夫だって言うけれど、またもや悪い奴の陰謀が隠れてるみたいで……?
 次回『ふたつの命・オーブの命』。よーし、今度は貴音、君が頑張るんだ!


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ふたつの命・オーブの命(A)

 

「最近の四条さん、何だか元気がないように見えない?」

「わたくし、今日限りでこの765ぷろを辞職させていただきます」

「わたくしは故郷、一族の元に帰ります」

「みんなで力を合わせて、貴音を守ろう!」

『さぁ、私めとともに帰りましょう』

『「お願いです! 四条さんを連れていかないで下さい!」』

『お嬢さまは、もうしばらく地球に滞在してよいということだ』

『我らが統治者より、お前に月の秘宝を授けるよう言付かった』

「これは、ウルトラマンエースさんの力!」

「どうか、最後までわたくしの運命と共にあって下さい」

 

 

 

『ふたつの命・オーブの命』

 

 

 

 765プロ事務所で、小鳥の見ている中、ガイがデスクの上に今まで入手したウルトラフュージョンカードを並べていく。

 

「いっぱい手に入りましたねぇ、プロデューサーさん! もう世界中のほとんどのものを集めたんじゃないでしょうか?」

 

 一番新しく手に入れたエースのカードを最後に並べたガイに小鳥が尋ねる。

 

「そうですね……後は『例の場所』にある一枚くらいでしょうか」

 

 答えたガイの口調のトーンが妙に重いので、小鳥は気に掛けた。

 

「どうかしたんですか、プロデューサーさん? こんなにウルトラマンの先輩方のカードが集まったのに、嬉しくないんですか?」

 

 と聞くと、ガイは神妙な面持ちで返答した。

 

「……俺の手元にあったカードは、長らくティガさんとウルトラマンさんの二枚だけでした。それなのに、この最近で一気にこれだけの数が集まるなんて……偶然とは思えません」

「と言うと?」

「……これらのカードが必要となるような、『でかい事件』が近くに起きるんじゃないか。そんな気がするんです……。カードが集まるのはその予兆じゃないかと……」

 

 ガイの発言に小鳥はドキリとする。

 

「そ、そんな! 考えすぎじゃないでしょうか? プロデューサーさんも言ってたじゃないですか。魔王獣はみんなやっつけたから、『中心の奴』はもう安心だって」

「そのはずですが……」

 

 そんな話をしているところに、雪歩と真が駆け込んできた。

 

「ぷ、ぷ、プロデューサー! 大変ですぅ~!」

「? どうしたんだ、騒々しいな」

 

 彼女らに心配を掛けないように表情を平常に戻したガイが振り向くと、真が手に持っていたものを突きつけた。

 

「これっ! これ見て下さい! 大変なことが書いてますっ!」

「何だって? どれどれ……」

 

 真が持ってきたのは、一冊の芸能雑誌だった。その見開きのページを注視したガイと小鳥がギョッと驚く。

 

「こいつは……!」

「ええっ!? 嘘でしょう!?」

 

 そのページに載っている写真に写っている人物は、貴音。彼女が一人の老紳士とレストランで談笑している写真であった。

 そして煽り文には、『エルダーレコードオーナー、アイドルと密会! 引き抜きか!?』などと書いてあるのだった。

 

 

 

 事務所に呼び寄せられた貴音は、このスキャンダルによって事務所に駆けつけたアイドル仲間たちに質問攻めされていた。

 

「貴音、これはどういうことなの!? この写真の人、ほんとに大手のとこのオーナーじゃない!」(伊織)

「そんな偉い人とどうして一緒にいたんですか!?」(春香)

「まさか、ほんとに引き抜きを持ちかけられたんじゃないでしょうね!?」(律子)

「ひきぬきって何ですかぁ?」(やよい)

「別の事務所に移籍して、ここからいなくなっちゃうってことだよ!」(真)

「えぇー!? そんなのヤだよお姫ちーん!」(亜美)

「ついこないだ月に帰らなくてよくなったのに、そんなのなしっしょー!?」(真美)

「四条さん、いなくならないで下さいよぉ~!」(雪歩)

 

 大勢で押し寄せられては、流石の貴音もたじたじであった。

 

「皆、落ち着いて下さい……。わたくしとて一辺には答えられません……」

「貴音ちゃんの言う通りよ、みんな。質問するのはプロデューサーさんたちにお任せしましょう」

 

 あずさになだめられ、一旦引き下がったアイドルたちの代わりにガイと小鳥が貴音と向かい合った。

 

「まずは事実確認だ。貴音、この記事の内容は本当か? つまり、引き抜きの話を持ちかけられたのかってことだ。正直なところを話せよ」

 

 アイドルたちはゴクリと固唾を呑んで見守る。もしそれが本当ならば、写真の表情からして、貴音の感触は悪くないということになってしまう。

 果たして、貴音の答えは。

 

「……いいえ。そのお方とはたまたま街ですれ違ったところ、お財布を落とされたので拾って差し上げたら、お礼と言って食事に誘われただけのことです」

「本当だな?」

「誓います」

 

 その言葉にほっと胸を撫で下ろすアイドルたち。貴音は秘密主義ではあるが、嘘を吐いたりする人物ではない。彼女がこう言うからには、間違いはないのだろう。

 

「なーんだ、この記事の間違いってことかぁ。安心だぞ!」(響)

「でもどうして、ただお話ししてただけなのにこんな話になっちゃったんですかぁ?」

 

 やよいの疑問に千早と律子が答える。

 

「この記事を書いた記者がでっち上げたに決まってるわ」

「この業界には、雑誌を売るためにはほんのちょっとしたことでも面白おかしく騒ぎ立ててスキャンダルにしようとする性根の悪い記者があっちこっちに転がってるのよ。私たちも変な写真撮られないように気をつけないとね」

 

 小鳥も貴音に注意を促した。

 

「貴音ちゃん、これからは安易に男の人の誘いを受けちゃ駄目よ? 別に変なことじゃなくても、今回みたいなことになっちゃうからね」

「申し訳ありません、軽率でした……」

「ご飯美味しかったの?」(美希)

「美味しゅうございました」

 

 小鳥はガイに向き直る。

 

「プロデューサーさん、事務所的にはどう対応しましょう?」

「そうですね……。こっちから下手にコメントすると、また変な勘繰りを受けるかもしれません。とりあえずエルダーレコード側と話をつけて、それまでは表立った行動は控えましょう。話は社長に通してもらいましょう」

「分かりました。それじゃあ連絡しますね」

 

 小鳥が高木に電話を掛ける中、ガイがアイドルたちに呼びかける。

 

「この話はこれでおしまいだ! もう気にする必要はない。みんな、いつも通りの活動に戻るように。誰に何を聞かれても、変に慌てた答え方をするんじゃないぞ」

「はーい」

 

 ガイの注意を最後にアイドルたちはそれぞれ解散していく。

 

「いやー、何もなくてひと安心だね」(春香)

「ボクは最初からそう思ってたよ」(真)

「何よ、あんたが一番慌てふためいてたじゃない」(伊織)

 

 あはははははは、と他のアイドルたちが談笑して散っていく中で、貴音はそっとガイの袖を引いた。

 

「もし、プロデューサー……」

「ん? まだ何かあるのか?」

「……一つ、大事なお話しがあります。これは皆にはご内密に……」

 

 貴音は真剣な面持ちで、そう告げた。

 

 

 

 翌日、アイドルたちは事務所でテレビに食いついていた。これからエルダーレコードオーナーによる、スキャンダルについての記者会見が行われるのだ。伊織が息を吐きながらつぶやく。

 

「これで疑惑は完全に晴れるわね」

「でも、いやに対応早いですね。それほど重要視されてた訳でもないのに、昨日の今日で会見なんて」

「きっと先方も私たちに配慮してくれたのよ」

 

 千早のひと言にそう推察した律子が、キョロキョロと辺りを見回した。

 

「ところで、肝心の貴音はいないの? プロデューサー殿もさっきから姿が見えないんですが」

「何でも、大事な用があるんですって」

 

 小鳥が肩をすくめて答えた。

 

「何ですかそれ? こんな時に、一体何の用が……」

「あっ、始まるよ!」

 

 律子がぼやいている途中で、テレビの画面の中でレコードオーナーがカメラの前に出てきたので美希が指差した。それで律子も画面に集中する。

 会見が始まると、早速記者の一人が質問した。

 

『記事によりますと、別事務所のアイドルに直々に移籍の話を持ちかけられたとのことですが、それは本当のことでしょうか?』

 

 アイドルたちは、オーナーが否定をしてくれるのをわくわくしながら待った。

 が、しかし。

 

『ええ、本当です』

「……ええええぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!?」

 

 今の発言でカメラのフラッシュが激しく焚かれる一方で、アイドルたちは皆目が飛び出さん勢いで仰天した。それを余所にオーナーは続ける。

 

『私、この四条貴音さんにひと目惚れしてしまいましてな。彼女も移籍の話を快諾してくれましたよ。間違いありません』

「う、嘘でしょ!? どういうこと!?」

「四条さんの話と丸っきり逆じゃない!」

 

 動揺しまくる響と千早たち。その間にも会見は続き、オーナーは765プロ側に不利なことをどんどんと話していく。

 

「そんな……四条さんが私たちに嘘を言ってたんですかぁ!? どっちが本当のことなの……!?」

「お、落ち着いて雪歩!」

 

 ショックのあまりよろめいた雪歩を慌てて抱き止める真。律子はバッと小鳥に振り返った。

 

「い、今すぐエルダーレコードに問い合わせましょう! プロデューサーにも、大事な用とか言ってられません! すぐに連絡を……!」

『そこまでですっ!』

 

 いきなり貴音の声が響いた。しかしそれは事務所からではない。テレビからであった。

 

「あぁっ!? 貴音さんがテレビに出てますぅ! プロデューサーも一緒にいますよ!」(やよい)

「ええええ!? どうしてそんなところに!?」(春香)

「大事な用って、まさかそういうこと!?」(律子)

 

 渦中の人物の貴音の乱入に、記者たちは更に興奮してカメラのシャッターを切りまくる。一方でオーナーは動揺を顔に浮かべていた。

 そして乱入者は二人だけではなかった。

 

『へいへいへいへい! この記者会見待ったッ!』

「あれ叔父さん!?」

「何で渋川さんまでいるの!?」

 

 ガイたちとともにいる渋川に驚愕する春香と真。律子は薄々勘付いてきた。

 

「まさか……!」

 

 記者たちの注目を集める中、貴音が彼らに呼びかける。

 

『皆さま、騙されてはなりません。今あなた方の前にいる殿方は、えるだぁれこぉどのおぉなぁではございませんっ!』

 

 まさかの発言に一気にどよめく記者たち。オーナーは貴音の言うことを即座に否定しようとする。

 

『一体、何を訳の分からないことを……』

『下手な芝居はよしなッ! 証拠は挙がってるんだぜ!』

 

 それを渋川がさえぎり、会場の出入り口に向かって呼びかけた。

 

『さッ、お入り下さい』

 

 渋川に促されて入ってきたのは……エルダーレコードオーナーだった!

 

「えぇーっ!? オーナーさんが二人!?」(真美)

「双子だったの!?」(亜美)

「ベタなボケはいいから! これってまさか……!」(伊織)

 

 記者たちも驚愕とともに混乱している中、今入室してきたオーナーがマイクを渡されて口を開く。

 

『皆さん、私は二日前から今までずっと、あそこの私になりすましている男に監禁されていました。そこをこの二人に助けてもらいました』

 

 オーナーがガイと貴音をそう紹介した。

 

『私を監禁している間、あそこの偽者はこのお二人に迷惑を掛けていたみたいですな』

『スキャンダルを書いた記者も、お前が雇ったんだってな。そいつが全部吐いたぜ』

 

 とガイが突きつけると、立ちすくんでいたにせオーナーは、うつむいた後に肩を揺すって笑い出した。

 

『クックックッ……こうなったからには仕方ないッ!』

 

 そして顔を上げると……その顔面には悪魔を思わせるきついメイクが施されていた!

 

「何で厚化粧!?」(春香)

『そうともッ! 俺はエルダーレコードオーナーではない! とうッ!』

 

 にせオーナーは老齢とはとても思えない異常な跳躍で記者たちを飛び越えて非常口の前に着地すると、その姿が歪んで真っ赤な体色の頭部がやたらと大きい怪人に変身した。

 

『ファイヤー星人テーペ! それが俺の名前だぁぁッ! うはははははははッ!』

『きゃあああああっ!?』

 

 宇宙人の正体を明かしたにせオーナーに、記者たちが一斉に悲鳴を上げた。

 

『やっぱりそうだったかッ!』

 

 渋川がスーパーガンリボルバーを抜くが、それより早くファイヤー星人テーペが三連装の銃から射撃を行った。ガイは咄嗟に側の貴音と渋川、オーナーの頭を下げさせながら身を伏せ、銃撃から逃れた。

 その間にテーペは非常口を蹴破って会場の外に逃走。銃撃に集まった記者たちがパニックになる中、ガイと貴音がテーペを追うように会場から飛び出し、渋川も少し遅れて飛び出していったのをカメラが片隅に捉えていた。

 この一連の事態の急変を唖然としながら見ていたアイドルたちだが、律子がハッと我に返って叫んだ。

 

「こうしちゃいられないわっ! 私たちも現場に急ぎましょう!」

「は、はい! プロデューサーさんと貴音さんが危ないっ!」

 

 春香たちがうなずき、彼女たちは慌てて出動と撮影の用意を整えて765トータス号を発進させていった。

 



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ふたつの命・オーブの命(B)

 

 逃げたテーペを追って飛び出していった渋川だったが、ビルの外に出た時には既にテーペの姿を見失ってしまっていた。

 

「くっそー、どこ行きやがった!? 寸胴体型のくせして逃げ足の速い奴だぜ……!」

 

 吐き捨てて、ガイと貴音の方へ振り向く。

 

「プロデューサー君たちも、危ないから避難しなさい……」

 

 しかしその二人の姿も忽然と消えていた。

 

「あっれーいねぇ!? みんなしていなくなって何なんだよぉちっきしょーうッ!」

 

 

 

 渋川が叫んでいる頃、ガイと貴音はテーペを無人の路地裏に追い詰めていた。

 

『この俺をぴったりと追跡してくるとは、流石はウルトラマンオーブとその仲間といったところか』

「テーペと言ったな。お前、何で地球人に化けてまで貴音を狙った。回りくどい手を使うじゃねぇか」

 

 ガイが強くにらみつけながら問うと、テーペは含み笑いを発しながら答える。

 

『紅ガイ! 今のお前がウルトラ戦士のカードとその娘のような仲間の力を借りてオーブに変身してることは調べがついてる。ピット星人はカードの方を狙ったようだが、俺が目をつけたのはお前の仲間の方よ!』

「何だと……」

『仲間をお前の手元から引っこ抜いていって、仲間同士の信頼関係を崩してしまえば、お前は満足に変身することが出来なくなるだろう! そう踏んでのことさ』

「ふん……そんなせこいたくらみだったのか」

 

 ガイの軽蔑の台詞に、テーペは開き直る。

 

『何とでも言え! しかし何故俺の変身が分かった? 本物を生かしておいてその口から行動の癖を聞き出していたから、特におかしいところはなかったはずだが……』

 

 テーペの疑問に、変身を看破した貴音自身が回答した。

 

「わたくし、面妖な気配については人一倍敏感なのです」

『ふんッ……一人でいる時間が多いから一番付け入りやすそうだと思ったんだが、失敗だったみたいだな』

 

 貴音は無関係な人間をも巻き込んだテーペのやり口に義憤を抱いていた。

 

「あなたの計略は既に破れ、勝負に負けています。少しでも潔さがあるならば、無駄な抵抗などせず投降なさい」

 

 と勧告した貴音だったが、テーペはどういう訳か肩を揺すって笑う。

 

『ハハハハ……何とも勇ましい娘だな。だがこのままその男の側にいていいのか?』

「何ですって?」

 

 テーペは次にガイに向かって語った。

 

『紅ガイ、ウルトラマンオーブであるお前が地球の人間たちと関わりを持つということは、そいつらをお前の戦いの運命に巻き込むということだ』

「!」

『もう既に何度か危険な目にも遭わせている。そうだろう?』

 

 テーペの指摘通りであった。ガイはゼットン星人マドックやピット星人ミュー、地球侵略連合など、アイドルたちに害を及ぼそうとした者たちを思い出した。

 

『俺のような奴はいくらでも現れるだろうさ! 最悪の事態なんて何度でも起こる! お前も、このまま他の人間を己の過酷な運命に巻き込んで平気なのかな!?』

「……」

 

 テーペの揺さぶりに、ガイは何も答えることが出来ないでいる。

 すると、彼に代わって貴音が言い放った。

 

「わたくしたちのプロデューサーを弄しようとするのはおやめなさい」

「貴音……!」

「少なくともわたくしは、この星の移ろい行く季節を、今の仲間たちと終焉のその時まで分かち合うことを覚悟しています。たとえどのような結末が待ち受けていたとしても……その日々は誤りなどではないと信じています。この瞬間においては……オーブの命は、わたくしのものと合わせてふたつなのです!」

 

 貴音の確かな言葉に、ガイは少しだけ救われたような表情になった。

 反対にテーペは目論見を砕かれ、不機嫌となる。

 

『生意気なことを言ってくれるじゃないか……。それならここで死ぬかッ!?』

 

 テーペが三連銃の弾丸を貴音に向けて発射!

 しかし即座に貴音の前に飛び込んだガイが構えたウルトラマンのカードによって、弾丸は反射されてテーペの銃を破砕した。

 

『ぐぅッ!?』

「俺のアイドルに手を出すことは許さんッ!」

 

 宣言するガイ。武器を失ったテーペであったが、その性根はこれで負けを認めたりはしないほど往生際の悪いものだった。

 

『こうなったからにはまどろっこしいことはなしだ! 何もかも燃やし尽くしてやるッ! 来い、バキシマぁームッ!』

 

 

 

 テーペの変身が暴かれた現場へと急行しつつあった765プロの仲間たちだったが、その目前で突如空に『割れた』ような穴が開いたのを目撃した!

 

「えぇっ!? 空が割れたぁ!?」

「ど、どういう現象!? 神話じゃないんだし、天蓋なんてものは存在しないのよ!?」

 

 律子が最も動揺。そして割れた空の中から、紅蓮の武装で身を固めたような一角の巨大生物が地表へ落下。あまりの重量にアスファルト舗装の道路がその足の形に陥没した。

 

「ギギャアアアアアアアア!!」

「か、怪獣! きっと宇宙人が呼び寄せたものだ!」

 

 トータス号は急停止。春香たちは慌てて降車し、巨大生物に向けてカメラを回し出した。

 

 

 

『どうだ! ヤプール謹製の超獣バキシムに我がファイヤー星の炎のパワーを組み込んだ、一角紅蓮超獣バキシマム! こいつで街ごと貴様らを消し去ってくれるぞ、ウルトラマンオーブ!!』

 

 召喚されたバキシマムはテーペの指示により、破壊活動を開始。それをみすみす見過ごすガイたちではない。

 

「あなたの浅ましい謀など、この手で挫いて差し上げます! プロデューサー!」

「ああ!」

 

 貴音に促されたガイがオーブリングを取り出し、カードを挿し込む。

 

「セブンさんッ!」

[ウルトラセブン!]『デュワッ!』

 

 ガイの横にセブンのビジョンが現れ、次に貴音がカードを通す。

 

「エース殿っ!」

[ウルトラマンエース!]『トワァーッ!』

 

 貴音の隣には、ウルトラマンエースのビジョンが召喚された。そしてガイがリングを掲げる。

 

「キレのいい奴、頼みますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 貴音がセブンとエースのビジョンごと、ガイと融合!

 

『ジュワッ!』『テェェーイッ!』

[ウルトラマンオーブ! スラッガーエース!!]

 

 赤いマグマを突き破った極彩色の閃光の中から、オーブが二回転しながら飛び出した!

 

 

 

「シェアッ!」

 

 街に火を放とうとするバキシマムの眼前に、颯爽と着地してそれを制したオーブの勇姿を律子のカメラがばっちりと収める。

 

「オーブです! 怪獣に襲われる街に、ウルトラマンオーブがやってきてくれました!」

「春香ちゃん、あの姿……!」

「うん……!」

 

 雪歩と春香は、今のオーブが貴音によるフュージョンアップなのだとすぐに理解した。

 オーブの新たな姿は赤と銀と黒の細身でありながら、鋭い剣のような研ぎ澄まされた迫力を有している。セブンとエースの斬撃の技能を抽出した刃の達人、スラッガーエースだ!

 

(♪戦え!ウルトラマンA)

 

『俺たちはオーブ! 光と共に、闇を斬り裂く!!』

 

 貴音をその身に宿したオーブが、まっすぐにバキシマムに飛び掛かっていく。

 

「ギギャアアアアアアアア!!」

 

 バキシマムは接近してくるオーブに対して鼻先から火炎弾を発射するが、オーブはすかさず跳躍して回避。空中でひねりをつける華麗な身のこなしからの飛び蹴りをバキシマムにお見舞いした。

 

「ギギャアアアアアアアア!!」

「セアッ!」

 

 オーブは鋭い蹴りでバランスを崩して倒れ込んだバキシマムのマウントポジションを取り、顔面に連続チョップを叩き込む。が、片腕の一撃を入れられてはね飛ばされた。

 

『くッ、見た目に違わず相当なパワーだな……!』

 

 吐き捨てるオーブ。超獣は元々戦闘用に改造された怪獣兵器である上、更に力を増強されたバキシマムのパワーはその辺りの怪獣を軽く凌駕しているレベルであった。

 起き上がるバキシマムを見据えながら、貴音が提案する。

 

『「激流にいたずらに抵抗しても無駄に消耗するばかりです。あえて流れに乗りましょう」』

『何?』

 

 バキシマムは、今度はこちらからオーブに突進していく。

 

「ギギャアアアアアアアア!!」

「オォリャッ!」

 

 それをあえて待ち構えたオーブは、相手の突進を受け流しながら足元に腕を伸ばしてすくい投げを決めた! 勢いを利用されたバキシマムは逆さまに転倒する。

 

『上手いぞ! よし、そこを決めてやれッ!』

『「はい!」』

 

 どうにか立ち上がるバキシマムだが、そこにオーブのドロップキックが炸裂!

 

「デヤァァッ!」

「ギギャアアアアアアアア!!」

 

 きりきり舞いしながら蹴飛ばされたバキシマムは、頭部の一本角に炎を纏わせて頭から切り離した! 飛ばされた角が回転しながらオーブに襲いかかっていく。

 

「フッ!」

 

 横にそれてかわしたオーブだが、バキシマムの角は自在に飛び回る宇宙ブーメランでもある。ひとりでに反転してオーブを追跡してくる。

 それに対してオーブは拳を前に突き出すと、左腕を胸の前に右腕を腰に構えた後、額のランプに両手の指を交差した。

 

「『パンチレーザーショット!!」』

 

 額から撃たれた虹色のレーザーが、バキシマムの角を粉砕した!

 

「ギギャアアアアアアアア!!」

 

 恐るべき大超獣バキシマム相手に互角に戦うオーブに、テーペが苛立ちを覚える。

 

『バキシマムめ、何をてこずっている! 仕方がないッ!』

 

 業を煮やしたテーペは巨大化し、オーブの背後を取った!

 

「フッ!?」

「ああっ、怪獣と宇宙人の挟み撃ちです! オーブ危ない! 頑張って、オーブ!」

 

 律子が実況とともに応援するが、テーペは手中に燃え盛る剣を召喚し、それでオーブに斬りかかってきた。すんでのところで逃れるオーブだが、バキシマムが両腕からの火炎放射で追撃してくる。

 

「ギギャアアアアアアアア!!」

「ウゥッ!」

 

 超獣と宇宙人のタッグによる高熱火炎攻撃から、オーブはゴロゴロ転がりながらどうにか逃れる始末。高火力によるハンディ戦は、オーブといえども手も足も出ないのか?

 

「シュワッ!」

 

 そうではなかった。起き上がって体勢を立て直したオーブが手を頭部のトサカにやると、そこから生えてくるように、己の身長ほどもある長大な刀剣が出現した!

 

「『バーチカルスラッガー!!」』

 

 刀身にウルトラホールが開いた、これがスラッガーエース最大の武器であるバーチカルスラッガー。スラッガーエースの本領はこの武器を手にすることで発揮されるのだ!

 

『「悪しき魂、この白刃にて断ち切りますっ!」』

 

 テーペが炎の剣を振りかざして襲い掛かってくるが、オーブはバーチカルスラッガーで炎の斬撃を防御した上、翻す刃でテーペを押し返した。更にバキシマムの接近も牽制して敵を寄せつけない。

 オーブの動きは剣を手にしてから見るからに向上し、二対一にも負けずに互角以上に立ち回る。

 

「『バーチカルスラッガーギロチン!!」』

 

 更にバーチカルスラッガーを下から上に振り抜くことで、長大な光刃をテーペへ放った。テーペは炎の剣で受け止めようとしたが、光刃は相手の剣を真っ二つにへし折った!

 剣を折られたテーペは大慌てで後ずさった。代わりにバキシマムが火炎放射を行うが、オーブはバーチカルスラッガーを回転させて火炎を弾き返す。

 

「ギギャアアアアアアアア!!」

 

 火炎放射が途切れたところで高々とジャンプして、高空でバーチカルスラッガーを構えながら高速回転。そのままバキシマムへ突撃する!

 

「『スラッガーエーススライサー!!」』

 

 風をも切り裂く斬撃の竜巻が、バキシマムを細切れにする!

 

「ギギャアアアアアアアア!!」

 

 微塵に切り裂かれたバキシマムはたちまち爆散。用心棒を失ったテーペは外聞もなく逃走を図るが、このような卑劣漢を見逃すほど貴音たちは甘くはなかった。

 ぐっと両腕を肩の上で引き締めて光のエネルギーを蓄えると、腰を左にひねってから戻す勢いでL字に組んだ腕から必殺の光線を発射!

 

「『エメタリウム光線!!」』

 

 緑が掛かった虹色の光線がテーペを撃ち抜き、瞬時に炎上爆破!

 

「決まりましたぁっ! オーブの堂々たる逆転勝利ですっ!」

「やったぁぁぁーっ!!」

 

 律子が高々と宣言して、春香と雪歩は手に手を取って喜び合った。

 

「シェアッ!」

 

 降りかかる火の粉を見事払いのけたオーブは空高く飛び上がり、今日もまた華麗に飛び去っていくのであった。

 

 

 

 事件解決後、事務所に帰還してから律子が大きく息を吐いた。

 

「全く、大手の社長に化けてウチのアイドルを奪い取ろうとするなんて迷惑な奴がいたものだけど……そのお陰で765プロの注目が一気に集まったのは予想だにせぬ幸運といったところかしらね」

 

 ほくほく顔の律子の言った通り、今回の件で貴音、ひいては765プロは、悪しき宇宙人からエルダーレコードオーナーを救い出したとしてマスコミの注目を一挙に集めることとなった。先ほどまで、貴音に大勢の記者の質問が押し寄せてさばくのに苦労したほどだ。エルダーレコードとのコネクションも得たので、律子は満足を覚えているのだった。

 

「更に一週間後には音楽フェスへの出場も控えてるわ! そこで成功を収めれば、確実にメジャーへの足掛かりを掴めるわよぉ~!」

 

 ガイは小鳥や高木との相談の結果、アイドルたちも確かな実力がついてきたと判断して、音楽フェスティバルへの参加を届け出たのであった。元より多数の業界関係者の目が集まるこのイベントで結果を残せば、765プロは華麗な転身を果たすことが出来るだろう。

 アイドルたちもそれぞれ興奮が高まっている。

 

「遂にこの時が来たんですね! よ~し、絶対成功を収めるぞー!」

「その意気よ! みんなも決して悔いを残さないよう、全力でレッスンに取り掛かるのよ!」

「はーいっ!」

「いよいよ、私の歌で全国に挑戦する時が……!」

 

 全員意気が溢れているが、特に千早が静かながらも誰よりも熱く心を燃やしていた。

 そんな中、貴音が誰にも気づかれぬようそっとガイに尋ねかける。

 

「時にプロデューサー……あなた様は、わたくしたちに危害が及ぶことをひどく恐れているようにお見受けしました」

「ッ!」

 

 図星を突かれた、という風に目を見開くガイ。貴音はテーペが揺さぶりを掛けた際の反応から、それを見透かしたのだった。

 そして今のガイの表情から感触を得たが、貴音はそれ以上の追及をすることはなかった。

 

「……あなた様に何があったのか、どのようなお考えかを根掘り葉掘り聞き出そうなどと無神経なことは致しません。ですが……わたくしたちはこの地球を護り、わたくしたちを高みへと導いて下さっているあなた様を信じております。それと同じように、あなた様の運命にも、どのようなものであろうとも付き添うつもりです。――このことは、どうか覚えていて下さいまし」

 

 そう言い残して、貴音はアイドルたちの輪の中に加わっていった。

 

「貴音ー、いよいよミキたちメジャーデビューだよ!」

「気が早いぞー美希! でもフェスは絶対成功させるさー! 自分たちならなんくるないさー!」

「ええ。わたくしも、心身ともに励む所存です」

 

 来週のフェスに向けて盛り上がっている担当アイドルたちをながめながら、ガイはひと言つぶやく。

 

「……俺は……」

 

 それ以上は言葉が続かず、どんな時も肌身離さず持ち歩いているペンダントをぎゅっと握り締めた。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

貴音「御機嫌よう、四条貴音でございます。今回ご紹介しますのは、うるとら五番目の兄弟でございますウルトラマンエースです」

貴音「エース殿は1972年放送の『ウルトラマンA』の主人公です。エース殿の特徴は何と言いましても、北斗星司殿と南夕子嬢による男女合体変身でしょう。これはもちろんしりぃずに前例のあるものではなく、この変身様式はエース殿が性別を超越した神聖な存在であることを印象づけています。また、超獣と初めての作品通しての悪役ヤプール人の設定、うるとら兄弟の結成など、しりぃずが続いて生じつつあったまんねりを回避する要素がふんだんに盛り込まれました」

貴音「しかしながらそれらの反響は芳しいものではなく、夕子嬢は番組途中で降板してしまい、以降は従来通りの単独変身となってしまいました。これは子供が変身ぽぉずを真似できないから等の理由故と言われています。他にも中盤でヤプール人壊滅、超獣の形骸化など、新要素はほとんどが頓挫してしまいました。まこと残念なことです……」

貴音「ですがこれらが『A』の特色を形作ったという事実には変わりありません。後年ではこれらの設定が再利用されるようになり、『メビウス』では北斗殿と夕子嬢の再会も描かれました。これは必見です」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『ふたつの月』だ!」

ガイ「『アイドルマスターワンフォーオール』のDLC初出の貴音ソロ曲で、前回紹介した『私だって女の子』同様追加シナリオに関係してる。貴音の高貴で古風なイメージを忠実に反映した詞と曲が何よりの特徴だ!」

貴音「『フラワーガール』も良いですが、このような歌こそわたくしに似合いますでしょうか」

貴音「では、次回もどうぞご覧下さいませ」

 




 ミキなの。遂にミキたちは大きなフェスイベントに参加したんだよ! 流石に緊張してきたの……! だけど、こんな時にまでまた横槍! もぉ~嫌になるのっ! 事務所の成功が懸かってるんだもの、フェスは邪魔させないよ! 千早さん、響、大空に飛び立って!
 次回『超音速のFly High!』。ハニー、カッコいいの~!


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超音速のFly High!

 

「それより、歌の仕事はいつ取ってきてくれるんですか?」

「戦ってるのはこの事務所のみんななのに、報われないわよねぇ……」

「この先アイドルとしてやっていけるのか、という内心の不安が表に出てきちゃったのよ」

「まずは明日のステージの成功からだ!」

「私たちまだまだ無名なのに、そんなことしてる暇なんて……」

「みんなで歌うのもいいですけど、やっぱりソロで歌う仕事がやりたいんです」

「私たちいつになったらトップアイドルになれるのかしら」

「みんなしてすごく個性的だし、売れる要素は十分にあるはずなんですけどねぇ」

「そのお陰で765プロの注目が一気に集まったのは予想だにせぬ幸運といったところかしらね」

「一週間後には音楽フェスへの出場も控えてるわ!」

「そこで成功を収めれば、確実にメジャーへの足掛かりを掴めるわよぉ~!」

 

 

 

『超音速のFly High!』

 

 

 

 時には歌って踊れるアイドルとして、時には怪獣の脅威から世界を守る正義のヒーロー・オーブとして、毎日努力と研鑽を積み重ねてきた765プロのアイドルたち。しかしその芽はなかなか出てこなかった……。

 しかし前回のにせエルダーレコードオーナー事件によって、今までになくマスコミの注目を集めている状態にある。この絶好の機会を逃すまいと挑むのは――初めての音楽フェス!

 

「す、すっご~い……! こんなにおっきいステージ初めて……!」

「お客さんも、こんなにいっぱいいるの初めて見ましたぁ……!」

 

 フェス会場の控え室となるテントからそっと顔を覗かせて、ライブの舞台と集まった観客の波をひと目見た雪歩とやよいが長く息を漏らした。ライブはまだ始まってもいないのに、フェスに出場するアイドルたちの歌を聴くために数え切れないほどの数の観客で会場はごった返している。

 こんなに大勢の観客は見たことがないので、765プロアイドルたちは皆大なり小なり緊張の面持ちでいた。

 

「こんなに多くの人の前で歌うなんて初めて……! うぅ、緊張してきたぁ……」

「だ、だ、大丈夫だよ春香! 今日、この日のためにみっちりレッスンしてきたじゃん! 緊張なんて、す、す、することななんて……」

「あんたが一番緊張してるじゃないの」

 

 真っ赤な顔でどもる真に突っ込む伊織だったが、彼女も動きがぎこちなかった。

 これまでの彼女たちが経験したステージは、せいぜいライブボックス程度の大きさがほとんど。その何倍もの規模のステージで緊張しないという方が難しいのかもしれない。

 しかし緊張している理由はもう一つあるのだった。

 

「今回のステージの結果で、亜美たちが有名になれるかどうかも懸かってるんだよね……」

「う~……そう思うと、ますますキンチョーするよー……」

 

 ポツリとつぶやく亜美と真美。現在765プロに注目が集まっていると言っても、人の興味などすぐに過ぎるもの。大勢の目を引きつけたままにするには、確かな実力を見せつけなければならない。それが出来なければ、すぐにマイナーアイドルに逆戻りだ。この重要なステージを前にしては、いつもは楽観的な亜美真美もガチガチであった。

 

「絶対失敗できないライブよ……。頑張らなきゃ……!」

「あらあら……何だか少し怖いわ……」

 

 律子やあずさも心臓をバクバク鳴らしている始末であった。――そんな風に強張った空気が流れているところに、ガイが呼びかける。

 

「お前たち、そんなに気負うな。他ならぬお前たちなら大丈夫さ」

「プロデューサーさん……?」

 

 皆の注目がガイに集まると、ガイは全員に確信を持って説いた。

 

「お前たちみんなに、どんな大怪獣相手でも恐れずひるまず立ち向かう度胸がある。ずぅっと見てるんだからそれくらい知ってるぜ。それと比べれば、何人いようとどんな大きさのステージだろうと、人間の前に出ることくらい訳ないだろ?」

 

 その言葉に、アイドルたちはハッと目覚めたような顔になる。

 更にガイに続くように、千早と響も意見を口にする。

 

「私たちにはちゃんとした実力があるわ。そのためにたくさん練習してきたんだから。自信を持って、プレッシャーなんてはねのけましょう!」

「そうそう、自信を持てば自分たちの全てを出し切れるよ! 自分たちならなんくるないさー!」

 

 彼らの言葉に美希が一番にうなずいた。

 

「ハニーと千早さんの言う通りなの! いつも通りやればいいって思うな」

「ちょっ、自分は?」

「まことその通りです。無理をせず、普段通り歌って踊るのが最善でしょう」

 

 貴音も同意し、他の面々もガイたちの説得で表情が変わっていった。全体の空気が大分和らいでいったことに安堵の息を吐いたガイが、千早と響に振り向く。

 

「確認するぞ。先発は千早、その次は響だ。大事なのは掴みだから、ボーカルとダンスで特に実力のあるお前たちに任せる。お前たちの力でいい出だしを切ってくれ! ――二人の力、お借りしますッ!」

「――はいっ!」

「自分たちにお任せだぞっ!」

 

 ガイの冗談めかしたエールに、千早と響は顔をほころばせながら応じたのであった。

 

 

 

 ――期待と意欲を抱えて出番を待つ765プロアイドルたちであったが、その一方で、良からぬ考えを持ってフェス会場の外れにやってきた者もいた。

 

「ふふ……ガイたちの記念すべき晴れ舞台か。めでたい話だな」

 

 ジャグラスジャグラーだ……! 何を思ったか、ダークリングを取り出して目の前に掲げる。

 

「俺から出演祝いを贈ろうじゃないか。とびっきりの奴をな!」

 

 二枚の怪獣カードを手にし、リングに突っ込む!

 

[デキサドル!][ヘイレン!]

「合体怪獣、デキサヘイレン!」

 

 

 

 いよいよ一番手の千早の出番の時間が迫ってきた。ガイが千早の背中をポンと叩いて押し出す。

 

「よし、ウォーミングアップは済んだな? それじゃ頼んだぜ、千早!」

「はいっ!」

 

 千早が張り切って舞台に向かっていく――その寸前に、突如会場の外から悲鳴が巻き起こった。

 

「きゃああぁぁぁぁぁぁ―――――――!?」

「えっ!?」

「な、何事かしら!?」

 

 同時に轟音と、かすかながら野獣の咆哮のような音。それでガイたちの顔色がサッと変わった。

 

「まさか……!」

 

 全速力で会場の外へと飛び出していく一同。そこで彼らが目にしたものは、散り散りになりながら必死に逃走している群衆と、それを追い回すように闊歩している巨大生物!

 

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ!」

 

 巨大な翼を背中から生やした鎧を纏った巨鳥のような姿であり、鎧の隙間からは羽毛と尾翼が覗いている。頭頂部には三本の角。

 怪獣デキサドルとヘイレンを合成した、超速合体怪獣デキサヘイレン!

 

「か、怪獣!! どうしてこんなところに!?」

「あの感じ……合体怪獣だ! ジャグラーが余計なことしやがったな……!」

 

 春香の疑問に、ガイがギリッと歯を食いしばりながら答えた。

 

「キキィッ! ピィ――――――ッ!」

 

 デキサヘイレンは会場に向かって火炎弾を吐き出した。ライブ会場の一角に命中した火炎弾は大爆発を引き起こし、爆風と衝撃で避難中の人々を纏めて転倒させる。

 

「きゃああっ!」

「ぐぅッ……!」

 

 爆風はガイたちの身体も煽る。踏ん張ったガイに、咄嗟に彼にしがみついて転倒を免れた千早と響が呼びかける。

 

「プロデューサー、応戦しましょう! よりによってこのフェスを妨害してくるなんて、許せないですっ!」

「自分も行くぞ! 千早と同じ気持ちさー!」

 

 ガイはオーブリングとカードを取り出しながらうなずいた。

 

「よしッ! それじゃ行くぞ!」

「はいっ!」「うんっ!」

 

 千早がセブンのカードを、響がゼロのカードを手に取った。

 

「セブンさんっ!」

[ウルトラセブン!]『デュワッ!』

「ゼロさんっ!」

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェェアッ!』

「親子の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイと千早、響の三人がフュージョンアップし、オーブに変身!

 

[ウルトラマンオーブ! エメリウムスラッガー!!]

『智勇双全、光となりて!!』

 

 変身を遂げたオーブ・エメリウムスラッガーが会場に追撃しようとしていたデキサヘイレンの前に着地し、その動きを制した。

 

「あっ、プロデューサーさんたちが!」

「カメラカメラっ!」

 

 起き上がった春香たちはオーブの巨大な後ろ姿を見上げ、律子は慌ててカメラを回す。

 

『「やめなさい! みんなの迷惑よ!」』

『「会場で暴れる人は退出だぞっ!」』

 

 オーブは先手を取ってデキサヘイレンへ向かって駆け出していき、全身を使って飛びかかる。

 

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ!」

 

 しかしいきなりデキサヘイレンの姿が忽然と消えた!

 

『「えっ!?」』

『「き、消えた!?」』

『違う! 後ろだッ!』

 

 オーブが振り返ると、デキサヘイレンはいつの間にか背後を取っていた。千早と響は仰天。

 

『「な、何で!?」』

『目にも留まらぬ速さで回り込んだんだ! スピードに特化した合体怪獣か……!』

 

 オーブは後ろ蹴りを放つも、デキサヘイレンはこれも瞬間移動と見紛う移動速度でかわしてオーブの後ろを取り直した。オーブは必死に打撃を繰り出していくも、全て空振り。完全に翻弄されている。

 デキサドルとヘイレン、超スピードを誇る二種の怪獣を組み合わせたデキサヘイレンは、オーブの速度をはるかに上回っているのだった!

 

『「攻撃が全然当たんないぞー!」』

『「接近戦が駄目なら、遠距離攻撃よ!」』

 

 オーブは戦法を切り換え、額のランプにエネルギーを集中。

 

「「『トリプルエメリウム光線!!!」」』

 

 レーザー光線を素早く発射! ――するもデキサヘイレンの反応の方がまだ早く、翼を広げて飛び上がることで回避された。

 

『「くっ……だったら!」』

 

 次にオーブは頭部のスラッガーに手を掛ける。

 

「「『トリプルスラッガー!!!」」』

 

 三つのスラッガーを同時に投擲し、三方向から回り込ませてデキサヘイレンの逃げ場をふさぐように操作する。これならばかわし切れまい。

 

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ!」

 

 だがデキサヘイレンは急速に加速し、スラッガーの包囲網が完成する前に間からすり抜けてしまった。

 

『「だ、駄目だーっ! 全部よけられちゃう!」』

『「くっ……!」』

 

 叫ぶ響にうめく千早。デキサヘイレンの動きはあまりに速く、地上から撃った攻撃は命中までに間に合わない。かと言って空中戦はどう考えても圧倒的に不利。ハリケーンスラッシュなら追いつけるかもしれないが、今はなれない。フュージョンアップするメンバーを誤ってしまったか!

 

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ! キキィッ!」

 

 手をこまねいているところに、デキサヘイレンの口から放たれた金縛り光線がオーブの頭部に纏わりつき、絞め上げてくる。

 

「ウワアァァァァァッ!」

 

 苦悶の悲鳴を上げるオーブ。苦戦する彼を応援するやよいとハム蔵。

 

「オーブー! 頑張って下さーいっ!」

「ぢゅぢゅーッ!」

「あの怪獣には決して追いつけないの……!?」

 

 伊織が思わずつぶやくと、それに返答するように千早と響が宣言した。

 

『「いいえ! 追いつけないものなんてありはしないわっ!」』

『「自分たち、それを信じて最後まであきらめないぞー!!」』

 

 すると二人の気持ちに応じるように、千早の手元にオーブリングとマックスのカード、響にティガのカードが現れた。

 

『二人とも、そのカードでフュージョンアップだ!』

『「「はいっ!」」』

 

 即座に響がティガのカードを千早の持ち上げたリングに通した。

 

『「ティガさんっ!」』

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

 

 響の横に青い姿のティガ――ウルトラマンティガ・スカイタイプのビジョンが出現。

 

『「マックスさんっ!」』

[ウルトラマンマックス!]『シュアッ!』

 

 そして千早がカードを通すと、その隣に赤くたくましい身体つきのウルトラ戦士――ウルトラマンマックスのビジョンが現れる。

 

『かっ飛ばす奴、頼みますッ!』

 

 千早がトリガーを引き、ティガとマックスのビジョンが千早と響と融合!

 

『タァーッ!』『ジュワッ!』

[ウルトラマンオーブ! スカイダッシュマックス!!]

 

 赤い光と青い輝き、そして青い光の渦の中から、姿を変えたオーブが飛び出していく!

 

「あっ、オーブが!」

「新しい姿に!!」

 

 765プロの仲間たちがそれを見届け、金縛り光線を振り払って立ち上がったオーブの後ろ姿をほれぼれと見上げた。

 新しいオーブは頭部に逆立ったトサカを持ち、上半身を金と銀のプロテクターで覆っていた。更に首には長いストールを巻いている。大空を翔る戦士、スカイダッシュマックスである!

 

(♪ウルトラマンマックス2)

 

『俺たちはオーブ! 輝く光は疾風の如し!!』

 

 決め台詞を唱えたオーブのストールが垂れ、地面に着く――前にオーブの姿がぶれて消え失せた! 駆け出したのだ!

 

「消えたっ!」

「見て! もう空にいるの!」

 

 美希が指差した先にオーブは飛んでいた。ストールをはためかせ、高空のデキサヘイレン目掛け飛翔している最中だ。

 

『「うわぁー速いっ! 自分たち、すっごいスピード出してるぞー!」』

『「このまま怪獣に接近よ!」』

 

 オーブは速度をどんどんと上げて、全身を使ってデキサヘイレンに突進を決めた!

 

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ!」

 

 勢いにはね飛ばされたデキサヘイレンが旋回してオーブの後を追いかけるが、オーブは急上昇。首を上に向けるデキサヘイレンだが……その時にはオーブの姿が視界からなくなっている!

 

「キキィッ!?」

「ジュアッ!」

 

 オーブはいつの間にか左側で併走していた。気がついたデキサヘイレンが振り向くが、またオーブの姿がかき消える。今度はデキサヘイレンがオーブを見失っていた。

 デキサヘイレンは必死に視線で追いかけるが、オーブはその周囲を縦横無尽に駆け回り、デキサヘイレンはすっかり目を回す羽目になった。

 ハイスピードの空中戦に興奮するアイドルたち。

 

「すごいっ! 亜美たちの目じゃ追いかけられない戦いだよー!」

「これじゃ画にならないじゃないの……」

 

 律子はカメラに何が映っているのか分からなくなっているので、頭を悩ませていた。

 

『相手はすっかり参ってる! そろそろ決めるぜ!』

『「はいっ!」「分かったぞ!」』

 

 そんなことは露知らず、オーブは両手を左腰に構えながらデキサヘイレンの正面に回り込んで、必殺技を全身全霊で繰り出す。

 

「「『マクバルトアタック!!!」」』

「ピィ――――――ッ! グワァ―――ッ!」

 

 手の先から発射された鋭く飛ぶ光弾がデキサヘイレンの鼻先に炸裂し、一瞬で爆散させたのだった!

 

「シュワッ!」

 

 デキサヘイレンを見事粉砕したオーブは、そのままストールを地に着けることなく空の彼方へと瞬く間に飛び去っていった。

 

 

 

 オーブの活躍によって怪獣は撃退され、最悪の事態は防がれた。……しかし、フェスに与えたダメージは想像以上に深刻であった。

 

「えッ!? 音楽データが!?」

「はい……。怪獣の攻撃で吹っ飛んでしまって、全てお釈迦に……」

 

 先ほどの爆発は不運なことに機材のあるベースの近くで起こり、その衝撃で音楽データを記録していたパソコンが破損してデータが全て消えてしまったのだ。

 それの意味するところは、ライブに出演するはずだったアイドルたちの伴奏が全く流せなくなったということだ。

 

「照明とスピーカーは使えますが、だから何だという話で……。まことに残念ですが、フェスは中止せざるを得ません……」

「そんなぁ……」

「あんなに準備してきたのに……」

 

 後ろで落胆する春香や雪歩たちをガイが慰める。

 

「今回ばかりはしょうがないさ。また次の機会を待とうぜ」

「プロデューサーさぁん……」

 

 アイドルたちは無念を残しながらもあきらめるが……千早はまだ会場に残っている大勢の観客たちの沈んだ表情を覗き見て、ある決心をしてフェスのスタッフへと直談判した。

 

「すみません。照明とスピーカーは使えるんでしたよね?」

「えッ? そうですけど、それが何か……」

「だったら……すみませんが、ステージの準備をしてもらえるでしょうか」

 

 その頼みに周囲の皆が意外そうに振り向いた。そして千早は続ける。

 

「一曲だけでもいいので、アカペラで歌わせて下さいっ!」

「えぇーっ!?」

 

 仰天した仲間たちが千早に詰め寄る。

 

「ち、千早ちゃん! 何言い出すの!? アカペラでなんて練習したことないじゃない!」

「いくら千早さんでも、ぶっつけ本番で無理なの!」

 

 首を振る春香と美希に千早はこう返す。

 

「いいえ。私はよく伴奏なしで自主練してるから、ぶっつけ本番じゃないわ。私が歌うのはバラードだし、伴奏なしでも最低限の形にはなるはずよ」

「で、でも無茶よ、そんな……! いくら歌えないのが残念だからって……」

 

 当惑する伊織の言葉に、千早は語る。

 

「それだけじゃないの」

「え?」

「見て、外にいる人たちの顔を。……みんな、失意と不安で押し潰されそうな表情をしてる。私は少しでも、あんな彼らを励まして、決して悪いことだけじゃなかったとだけでも思って帰ってもらいたいの。そうじゃなきゃ、あまりにかわいそうだわ……」

 

 千早の訴えに、皆が大なり小なり共感を覚えた。そして千早はガイに直接頼み込んだ。

 

「お願いします、プロデューサー。私はあなたから、歌を聴いてくれる人に届けること、そして……色んなものを教わりました。だから、……あそこにいる人たちへと歌いたいんです。あなたが教えてくれたものを……」

「千早……」

 

 千早の訴えを受け止めたガイは、スタッフに向き直ると大きく頭を下げた。

 

「俺からもお願いします。ウチの千早に、やらせてあげて下さい!」

 

 

 

 フェスの中止が伝えられ、集まった観客たちは暗い表情のまま解散しようとする。

 

「あーあ、残念だなぁ……」

「せっかく楽しみにしてたのに……」

 

 ――だが、唐突にステージのスポットライトに明かりが灯ったことにより、それに気がついた者たちが思わず振り返った。

 

「あれ? ステージに明かりが点いてる……」

「えっ、本当?」

「どうした? 何かの故障か?」

 

 そのことは瞬く間に観客全員に伝わり、ざわつきながら彼らは足を止めた。そんな中で、千早がステージに上がる。

 

「あれ? 誰か上がってきた……」

「ライブは中止なんじゃないの?」

「あの子、確か……765プロの如月千早っていう……」

 

 驚きと戸惑い、そしてかすかな期待を感情に混ぜ合わせた観客を前にして、千早はマイクを片手に……精一杯の想いを込めながら、ゆったりと歌い始めた。

 

「ずーっと眠っていーられーたら、この悲しみーをわーすれーられる……♪」

 

 観客がまず覚えたのは、困惑であった。

 

「えッ、アカペラ……? 何で?」

「伴奏はないの?」

「まさかこのままで通すのか……?」

 

 しかし千早が彼らの様子に惑わず、熱心に歌い続けていくにつれ、彼らの心情も変化していく。

 

「でも、すごい綺麗な歌だ……」

「まるで透き通るかのよう……」

「すげーなぁ……こんな声で歌える子がいたんだ……」

「眠ーりー姫ー……♪ 目覚めるーわたーしーはーいまー……♪」

 

 歌が佳境に入る頃には、観客のほぼ全員が、千早の歌声に聞き惚れて、不安が心の中から失せていた。

 ――これが如月千早の、765プロが最初に作った伝説であった。

 

 

 

 ――惑星侵略連合の円盤で、ノストラの元にナグスがある報告をしていた。

 

『ドン・ノストラ! こいつを見て下さい!』

 

 ナグスが手に握っているのは、真っ黒い怪獣のカードであった。

 

『俺が探し求めてたカードです! 遂に手に入れましたぜ! こいつでウルトラマンオーブを今度こそぶっ倒してやります! そうすりゃあのキザ野郎も、二度とでかい顔できなくなるぜ!』

 

 ナグスの嬉々とした報告を受けたノストラは――密かにほくそ笑む。

 

『よくやったぞナグス……。こちらもちょうど、上手い作戦を思いついた』

『ホントですか!?』

『もちろんだとも。まず、そのカードは私が預かろう。後は任せておくがいい……』

 

 ナグスからカードを受け取ったノストラは、ある計略を頭の中に巡らせて、クックッと悪しき笑みをこぼし続けた……。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

千早「如月千早です。今回ご紹介するのは、マックスパワー、マックススピードなヒーロー、ウルトラマンマックスです」

千早「マックスさんは2005年放送の『ウルトラマンマックス』の主人公です。これは新要素で固めた前作の『ネクサス』が視聴率不振で終了した影響で、原点回帰を強調した作品となり、過去作の怪獣も数多く再登場しました」

千早「各話の監督や脚本には従来よりも多くの人数が参加し、時にはギャグあり時にはホラーあり時には感動あり、と非常にバラエティに富んだエピソードが制作されたのも特徴です。これは同じようにバラエティ豊かな話をそろえた『ウルトラマン』を彷彿としますね」

千早「マックスさんも最初から力強い王道ヒーローとして設定されたことにより、平成以降では珍しいタイプチェンジ要素を持たないウルトラマンとなりました。一方で怪獣は個性も能力も様々な種類が用意され、毎回趣旨の異なる戦闘で作品を彩りました」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『Fly High!』だ!」

ガイ「これは完全なアイマスオリジナルじゃなく、ナムコの往年の名作ゲームのBGMをアレンジした『ファミソン8BIT☆』シリーズの一曲だ。千早が担当したこれはシューティングゲーム『ドラゴンスピリット』のリミックスアレンジで、ゲームの内容に則りながらも原曲とは大分イメージが違うものに仕上がってるぞ」

千早「ところでプロデューサー……マックスさんも、「セブン」タイプですよね……」

ガイ「……」

 




 はいさーい! 響だぞ! 遂にあのジャグラスジャグラーがプロデューサーに決戦を申し込んできたんだ! プロデューサー、あんな奴ぶっ飛ばしちゃえ! ……だけど、その裏で宇宙人たちが何か悪だくみしてるみたい! 戦いはどうなっちゃうんだ!?
 次回『Dead or Guilty』。気をつけて、プロデューサー!


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Dead or Guilty(A)

 

『あのような者を仲間に加えてよろしいのですか?』

「お前の吹くメロディよりもっといい音色を聴かせてやる!」

「ウルトラマンオーブ……」

『奴は元々、光の勢力に身を置いていたと聞きます』

「面白い」

「闇と光……そして、風……土……水……」

「これで全ての魔王獣がそろった……」

「残るは、黒き王の力のみ……!」

 

 

 

『Dead or Guilty』

 

 

 

 日本列島上空の衛星軌道上に潜み、オーブの打倒と地球侵略惑星を目論み続ける侵略連合の円盤。今ここでは、ジャグラーがナグスを相手に怪獣カードを使った占いを行っていた。

 

「ほう……」

 

 六枚のカードの中央に裏返しにされたカードをジャグラーがめくり、絵柄を露出する。それには閻魔大王そのままの姿の怪獣が描かれていた。

 占いの結果を告げるジャグラー。

 

「えんま怪獣エンマーゴ。突然の死を暗示する不吉なカードです。地獄に落ちないようご注意を……」

 

 忠告されたナグスは、機嫌を悪化させて席を立った。

 

『ふんッ! 俺は占いなんか信じねぇぞ!』

「あなたが占ってほしいとおっしゃったのに……」

 

 嘲るジャグラーの指摘に、ナグスはますます腹を立てる。

 

『野郎……いつか見てやがれ……!』

 

 捨て台詞を残して立ち去っていくナグス。その後で、ジャグラーは六枚の魔王獣のカードを手札に広げる。

 

「残るは最後の一枚……。ノストラが所有していることは確実だが……」

 

 誰にも聞こえぬように囁いていると、ジャグラーの目の前のテーブルに、いきなり怪獣カードが飛んできて突き刺さった。

 

「これは……?」

 

 ジャグラーがその黒い怪獣のカードを手に取ると――カードを飛ばした張本人のノストラがおもむろに姿を現した。

 

『用心棒怪獣ブラックキング……。そのカードを、君に託す』

「ドン・ノストラ……」

 

 ジャグラーはノストラの動きを監視するように、流し目を送る。

 

『君は言っただろう、私の侵略作戦は最早時代遅れだと……』

「ええ……」

『ならば君自身の手で、ウルトラマンオーブを始末してほしい』

「――待ってましたよ……そのお言葉を」

 

 話を聞きながらグラスを傾けるジャグラー。

 

『奴を斃し、ウルトラマンのカードを全て奪い取る』

「それ相応の報酬はいただけるんでしょうね」

『もちろんだ。――君が一番求めているのは、このカードだろう?』

 

 と言いながら、ノストラがマントの下から取り出したのは――黒いウルトラマンのカードだった。その途端に、ジャグラーの目元がピクリと動く。

 

『君が我ら惑星侵略連合に近づいたのも、全てはこの切り札を手に入れるため……』

 

 言い当てられたジャグラーは、しばしの沈黙後、急に笑い出した。

 

「フッ……ハハハハハハッ……! あなたに隠し事は出来ませんね……」

『こいつを手に入れて何をしようとしているのか興味はない。だが奴の命は、このカードに匹敵する値打ちがある』

 

 狙いである、秘蔵のカードを披露したノストラの真正面に、ジャグラーはスッと立った。

 

「報酬は高ければ高いほど燃えるという。約束は守ってもらいますよ……」

『無論。惑星侵略連合首領の名に懸けて……』

 

 誓いの言葉を聞き届けて、ジャグラーが地上への転送マシンの元へと向かう――。

 

 

 

 765プロ事務所では、ホワイトボードの前でガイがアイドルたちを相手に演説をしていた。

 

「みんなも知ってる通り、先日の音楽フェスは俺たちの予想とは大幅に違う結果となってしまった。だが千早の機転と頑張りのお陰で、765プロの実力を示すという目的は達成できたと言っていい。実際、あのアカペラは多くの雑誌が一面に取り上げた」

 

 とガイが語ると、春香や美希、律子たちが千早を称賛する。

 

「ほんとあれはすごかったよ千早ちゃん! 感動した!」

「千早さん、サイコーだったの!」

「お陰で助かったわ。ありがとう千早」

「そ、それほどでも……。私は出来ることをやっただけだから……」

 

 褒められた千早は照れくさそうに頬を赤く染めてうつむいた。それからガイが続ける。

 

「けどまだまだこんなもんで満足してちゃいけない。事務所全体を盛り上げるために、千早だけでなくお前たちみんなの人気を底上げするんだ。そのために……」

 

 ガイがホワイトボードに大きく書かれた、「765プロ感謝祭ライブ」という文字列を赤ペンで囲んだ。

 

「この目下の一大ライブが重要となる! 千早のお陰で予定よりも大きい会場を押さえられそうだ。当然注目もその分集まる。これを大成功に導けば、一気にお前たちの人気に火が点くことは確実だ!」

「おおー!」

 

 ガイの言葉にアイドルたちのテンションも盛り上がった。良いテンションの中でガイが締めくくる。

 

「今こそ765プロ躍進の時だ! みんなの力を一つに合わせて、みんなでトップアイドルになろうぜ!」

「はいっ!!」

 

 ガイの呼びかけに、アイドルたち全員の返答の声が一つにそろった。

 

「うふふ。みんな頑張ってね!」

 

 小鳥は笑顔で、アイドルたちに応援のメッセージを向けた。

 全員の意志が纏まり、感謝祭に向けて各々が意欲を燃やしている、その時――。

 

「調子が良さそうで何よりだ、765プロの諸君」

「!!?」

 

 唐突にガイでも高木でもない男の声が、背後から。振り返れば、いつの間にかジャグラーがこの場にいて、テーブルの上に飾られた春香のマトリョーシカ人形を指でなぞっていた。

 

「久しぶりだね、天海春香さん」

「ジャグラスジャグラー!!」

 

 アイドルと小鳥たちは驚愕と同時に後ずさり、ガイが前に出て彼女たちを背にかばった。

 

「ここに乗り込んでくるなんて……!」

「その薄汚い手を放せ。そいつは春香の宝物だ」

 

 ガイがジャグラーをきつくにらみつけると、ジャグラーは彼と対照的にほくそ笑みながらマトリョーシカより手を放す。

 

「怖いねぇ。俺もこの事務所のファンの一人なのに」

「ふざけないでっ! この間のライブを滅茶苦茶にしたの、あなたでしょう!!」

 

 思わず怒鳴る千早だが、ジャグラーはどこ吹く風。ガイはより眉間に皺を刻んだ。

 

「何しに来た」

 

 問いかけると、ジャグラーの立ち位置がいつの間にかアイドルたちの左方に移っていた。アイドルたちは怯えてジャグラーから離れ、ガイも急いで回り込む。

 

「空は、夜明け前が一番美しい……。暁の空……それは新たな世界の幕開けを予感させてくれる」

「戯言はよせ」

 

 要領を得ないジャグラーの言動をピシャリとはねのけるガイ。

 

「アイドルの諸君と夜明けのコーヒーを飲みに来た……と言いたいところだが……」

 

 ジャグラーの視線が、アイドルたちからガイへとねっとりと移る。

 

「ガイ……その命いただくぞ……」

 

 このひと言を最後に、ジャグラーの姿が闇とともに消えていった……。

 ガイはすぐに踵を返して事務所から出ていこうとする。それを呼び止める春香たち。

 

「待って下さいプロデューサーさん!」

「あの人、ハニーの命をいただくって……!」

「決着をつける……どっちかが死ぬまで戦うつもりってことですよ!?」

 

 律子の指摘に、ガイは背を向けたまま肯定する。

 

「ああ。奴との因縁にケリをつける時が来たみたいだな」

 

 真を始めとして、伊織たちがガイに申し出る。

 

「ボクも行きます! みんなの力を合わせれば、あいつなんかに絶対負けませんよっ!」

「そうよ! あんな奴、ギッタンギッタンにしてやりましょうよ!」

 

 だがガイはそれを却下した。

 

「今回ばかりは駄目だ」

「ど、どうして!?」

「お前たちはよく知らないだろうが……本気になった奴は、これまでのどの宇宙人よりも危険だ。最悪の場合、お前たちを守り切れる自信がない……。それだけ過酷な戦いになるはずだ」

 

 ガイが単なる憶測でそんなことは言わないだろう。言葉の重みに、春香たちは思わず息を呑んだ。

 それでも、貴音は前に進み出た。

 

「わたくしは共に参ります」

「貴音……」

「わたくしならば、他の皆よりも丈夫です。生存の確率は最も高いでしょう。何より、ふゅうじょんあっぷのために最低一人はあなた様のお側についていなければなりません。かの男、確実に怪獣を繰り出してくることでしょうから」

 

 貴音の説得に、ガイは考え込みはしたものの、受け入れてうなずいた。

 

「分かった。他のみんなは、万が一のことがある。今日は事務所に泊まってけ。小鳥さん、後のこと頼みます」

「わ、分かりました。どうかお気をつけて……!」

 

 貴音はアイドルたちに声を掛ける。

 

「皆、行ってまいります。必ず、プロデューサーと共にここへ帰って参ります」

「四条さん、どうかプロデューサーのこと、お願いします……!」

「プロデューサーも、貴音と一緒に帰ってきてね! 約束だぞ!」

「ああ……約束だ」

 

 最後に響と約束を交わし、ガイが貴音を連れて事務所から出ていった。それを、不安を抱えながらも信頼の眼差しで見送るアイドルたち。

 しかし一人だけ、亜美は不安の色の方が強かった。

 

 

 

 惑星侵略連合の円盤では、ナグスがノストラに抗議をしていた。

 

『ドン・ノストラ! ブラックキングはこの俺が手に入れた最強のカードだ! それをあんな野郎に軽々しく譲っちまうとは、一体……!』

『光と闇ッ!』

 

 ノストラが突然ナグスの言葉をさえぎった。

 

『どちらが勝とうが知ったことではない』

『しかし……』

『知恵のある者は、虎と竜を噛み合わせて利益を得る』

 

 そう言い切ったノストラが、ナグスへ振り返って告げた。

 

『ナグスよ……お前には仕事がある』

 

 

 

 夜明けの早朝。閉鎖され、ぼうぼうに雑草が生えた牧場でジャグラーは待っていた。そこに、ガイがハーモニカの音色を響かせながらやってくる。その後ろには貴音がつき添っている。

 音色が途切れると、抑えた頭を放したジャグラーがニヤリと笑った。ガイはハーモニカを懐に仕舞いながら、貴音に忠告する。

 

「離れてろ。まずは前哨戦みたいだ」

 

 無言でうなずいた貴音が下がると――ジャグラーとガイの双方が、地球人ではあり得ないスピードで急接近し合い、互いの拳が正面衝突した!

 衝撃によって大気が震え、拳が交差したジャグラーがガイに呼びかける。

 

「いいねぇその顔……惑星484でのことを思い出す」

「俺はとうの昔に忘れちまったぜ」

「ふッ、冷たいな……。長きに亘る戦いという、歪んだ迷路を越える運命の刻だというのに」

「回りくどい御託はよしな。お前との腐れ縁を今日までにするってことだろ。……ケリをつけようぜ!」

 

 ガイのひと言を最後に、二人は言葉もなくひたすらに殴り合いを演じる。立ち位置が目まぐるしく入れ替わり、打撃の衝撃で地面が砕け飛ぶ激しい決闘に、離れた場所から見守っている貴音は息を呑んだ。

 

「何というすさまじい争い……。わたくしでも、目で追うだけで精一杯とは……」

 

 ――だが、この戦いを見ているのは貴音だけではなかった。

 円盤から、ノストラも監視していた。

 

『ジャグラー、君たちの因縁は耳にしている。はるか昔、君たち二人は、銀河の果てで雌雄を決したそうだな。紅ガイは光に選ばれ、君は闇に選ばれた……』

 

 戦いの経緯を高みから見物しているノストラはほくそ笑む。

 

『今こそ教えてやりたまえ。君が選んだ闇の力の方が、光よりはるかに偉大であることをッ!』

 

 ジャグラーの蹴りの衝撃で、ガイの懐からハーモニカが転げ落ちた。思わず気がそれたガイの背を蹴り飛ばすジャグラー。

 

「ぐッ!」

「あなた様っ!」

 

 叫んだ貴音だが、ガイは飛ばされながらハーモニカを拾い上げて受け身を取った。安堵する貴音だが、ジャグラーはガイを見下す。

 

「それで本気なのか? 戦いに集中しろッ!」

 

 一旦手を止めたジャグラーが、ガイに問いかけた。

 

「お前恐れてるんだろう? 人間を傷つけることを……」

 

 ガイは何かを思い出すかのように顔をそらす。その様子に、貴音は再びガイのことを案じる。

 貴音の心配と裏腹に、ジャグラーはガイをなじるように続ける。

 

「何をそんなに恐れている……。娘一人守れなかっただけだろう? それでいて今は娘どもの面倒を焼いて……どうしてそこまで人間に執着するかね!」

 

 無言で立っているガイへと、ゆっくりと回り込んでいくジャグラー。

 

「たかが人間如きに惑わされるから、本当の力を失っちまうんだ。え? ありがたいウルトラマンさんの力と、自分を惑わせる人間なんぞの力を借りなきゃ戦うことも出来ない……所詮その程度のお前が、闇の力に刃向かおうなんざ愚かしいんだよッ!」

 

 ジャグラーの回し蹴りがガイに襲いかかる! ――が、ガイはその足を叩き落としてパンチを受け止めた。

 

「言いたいことはそれだけか!?」

 

 カウンター気味に腹に拳の一撃を入れると、ジャグラーは悶絶して後ずさった。

 ジャグラーを押し返したガイが毅然と宣言する。

 

「お前が何をたくらもうと……俺は人間を守り抜くッ!」

「ほぉう……怖い怖い」

 

 持ち直したジャグラーに、ガイは続けて言い放った。

 

「どんなに魔王獣を復活させようと無意味だ! 六体全て倒した今、お前の本当の目的は潰えた」

 

 ジャグラーはガイの言葉を、せせら笑いながら聞いている。

 

「今まで魔王獣をよみがえらせてきたのは、マガオロチを復活させるためだったんだろう!?」

「……まがおろち……?」

 

 訝しむ貴音。彼女にも説明するかのように述べるガイ。

 

「闇、光、風、土、水、火……。六つの魔王獣の封印が破られた時、この世に出現するという大魔王獣……。だが、その策略ももう終わりだ!」

 

 最後にガイは、ジャグラーをまっすぐにらんで言い切った。

 

「お前は俺が倒すッ!!」

 

 ジャグラーはガイににらみ返しながら、挑発を返した。

 

「――だったら、本気で掛かってこいよ……ウルトラマンオーブ」

 

 ジャグラーがダークリングを構え、ガイもオーブリングに手を掛けた。これを見て、貴音が顔つきを変えて前に出ていく。

 ここからが、本当の戦いの始まりなのだ……!

 



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Dead or Guilty(B)

 ジャグラーはダークリングに、ノストラから渡されたブラックキングのカードを通す。

 

[ブラックキング!]

 

 更にもう一枚、黄色い怪獣のカードを取り出してリングに通した。

 

[レッドキング!]

「合体怪獣、レッドブラックキング!」

 

 ダークリングの力により、二体の怪獣が合成された合体怪獣が召喚される!

 

「グアアアアァァァァ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 頭頂部に前方へ折れ曲がった一本角を生やし、蛇腹状の胴体は黒と黄色のまだらで埋め尽くされている。ブラックキングとレッドキングによる、怪力合体怪獣レッドブラックキング!

 怪獣を召喚したジャグラーに対抗するようにガイの元へと駆け寄ろうとする貴音だったが、その時背後の草陰から飛び出してくる者が一人いた。

 

「兄ちゃんっ! お姫ちんっ!」

 

 誰であろう、765プロの仲間、亜美であった!

 

「亜美!?」

「亜美お前、来ちまってたのかッ!」

「だ、だって……兄ちゃんとお姫ちんが心配だったんだもん……」

 

 亜美を叱ろうとしたガイだったが、すぐにそんなことをしている場合ではないことを思い出し、オーブリングを構え直した。

 

「仕方ない……亜美、お前も行くぞ!」

「うんっ!」

 

 ガイに促されて、亜美と貴音がそれぞれカードをリングに通した。

 

「セブン兄ちゃんっ!」

[ウルトラセブン!]『デュワッ!』

「エース殿っ!」

[ウルトラマンエース!]『トワァーッ!』

「キレのいい奴、頼みますッ!」

[ウルトラマンオーブ! スラッガーエース!!]

 

 亜美と貴音と融合し、一瞬にしてオーブ・スラッガーエースに変身し大地に立つ!

 

『光と共に、闇を斬り裂く!!』

 

 名乗り口上を発すると、ジャグラーがにやつきながら言い放った。

 

「いや……闇こそが光を覆い尽くすんだ! 行け、レッドブラックキング!」

「グアアアアァァァァ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 ジャグラーの命令によってオーブに襲いかかっていくレッドブラックキング。それを真っ向から迎え撃つオーブ。

 

「シュワッ!」

 

 オーブが先手を取り、刃物のように鋭いキックやチョップの連撃がレッドブラックキングに叩き込まれた。……だが、レッドブラックキングのボディは全く揺るがず、反対にたったの一撃でオーブを殴り飛ばした。

 

「ウワァッ!」

『「あいつの身体、メチャ頑丈だよ!?」』

『「小手先の技は通用しないようですね……!」』

 

 相手にダメージを与えられないのであれば、何発打撃を入れたところで無意味。オーブはすぐに攻撃技を切り換え、額のランプからレーザーを発射した。

 

「「『パンチレーザーショット!!!」」』

 

 空気を切り裂きながら飛ぶレーザー。が、レッドブラックキングは交差した腕でこれを防ぎ、ダメージを受けなかった。

 オーブは次に頭部のトサカに手をやり、専用の刀剣を召喚した。

 

「「『バーチカルスラッガー!!!」」』

 

 そのままバーチカルスラッガーを構えて高速回転しながらレッドブラックキングに突っ込んでいく。

 

「「『スラッガーエーススライサー!!!」」』

「グアアアアァァァァ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 攻撃は決まったものの、その瞬間にレッドブラックキングの強固なボディの前に弾き返されてしまった!

 

「ウゥッ!」

 

 押し返されて停止したオーブにレッドブラックキングは火炎攻撃を繰り出す。オーブは咄嗟にバーチカルスラッガーを振るい、火炎をレッドブラックキングに打ち返した。

 

「グアアアアァァァァ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 が、自身の攻撃すらレッドブラックキングははねのけて無効化した。

 

『「うあうあー! さっきからタフすぎるよー!」』

『「これは厄介ですね……」』

 

 レッドブラックキングはこれまでの合体怪獣と比べると非常にシンプルな姿をしているが、パワー型怪獣にパワー型怪獣を掛け合わせた、純粋な力に特化した個体。能力がシンプルな分、隙がどの角度にもない難敵であった。

 

『フォームを切り換えるぜ!』

 

 オーブの指示により、亜美と貴音は別のカードを手にし、貴音の握ったリングに通していく。

 

『「ギンガ兄ちゃんっ!」』

[ウルトラマンギンガ!]『ショオラッ!』

『「エックス殿っ!」』

[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』

『痺れる奴、頼みますッ!』

[ウルトラマンオーブ! ライトニングアタッカー!!]

 

 オーブはスラッガーエースから、ライトニングアタッカーへ再変身!

 

『電光雷轟、闇を討つ!!』

 

 オーブは電光を纏いながらレッドブラックキングにタックル。

 

「グアアアアァァァァ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 オーブからの電撃を浴び、レッドブラックキングの動きが鈍った。どんなに頑丈な筋肉を持っていようと、肉体に直接流される電流までは無効化し切れないだろう。オーブの読みは正解だった。

 

「ショアッ! オリャアッ!」

 

 ひるんだレッドブラックキングに電撃を纏ったパンチを食らわせていくオーブ。一時は優勢に思われたが、レッドブラックキングはすぐに電撃に耐性を持ち、オーブを押し返してしまう。相手の攻撃に対する適応力が高いのもレッドブラックキングの武器であった。

 

「オリャアアッ!」

「グアアアアァァァァ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 オーブはそれでも果敢に飛び蹴りを繰り出すが、レッドブラックキングは腕一本でオーブをはね返す。しかしオーブははね返されながら空中で四肢を大きく伸ばし、全身から電撃光線を発射した。

 

「「『アタッカーギンガエックス!!!」」』

 

 それに対しレッドブラックキングは口から火炎放射、アタッカーギンガエックスを相殺した。爆発とともに膨大な煙が立ち込め、レッドブラックキングの姿が一瞬見えなくなる。

 

「グアアアアァァァァ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 レッドブラックキングはその煙を突っ切って、オーブにぶちかましを決めた!

 

「ウワァァァッ!」

『「うあー!?」』

『「くぅっ……!」』

 

 重量級の怪獣の体当たりに、さしものオーブも抗えずに弾き飛ばされた。更に戦いが長引いているため、時間制限が差し迫りカラータイマーが点滅を始めた。

 

「グアアアアァァァァ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 追いつめられたオーブにレッドブラックキングは火炎で追い打ちを掛ける。

 

「「『ハイパーバリアウォール!!!」」』

 

 咄嗟にバリアを展開して防御するオーブだが、火炎の勢いは凄まじく、バリアの上から押される。

 

「グゥゥッ……!」

 

 レッドブラックキング相手に大苦戦のオーブを見上げながら、ジャグラーが失望したかのようにつぶやいた。

 

「この程度なのか……? お前にはほんとガッカリだよ……」

 

 そう吐き捨て、レッドブラックキングに向かって命令を発する。

 

「とどめを刺せ! レッドブラック……!」

 

 しかしその最中に――突如、背後から銃撃を食らった。

 ジャグラーが呆気にとられながら振り向くと――背後からは、銃を片手にしたナグスがにじり寄ってきていた。

 

『クククク……』

「貴っ様……」

 

 きつくにらみつけるジャグラーの態度に、ナグスは心底愉快そうに告げた。

 

『まさか俺の名を知らなかった訳じゃねぇよなぁ……? 俺はナックル星人……暗殺宇宙人だ!』

 

 肩を押さえるジャグラーに、銃を突きつけ直すナグス。

 

『この俺が地獄に落ちるだと? 地獄へ行きやがるのは……テメェの方だッ!』

 

 ナグスの凶弾がジャグラーの心臓の位置に叩き込まれる!

 オーブたちもこの事態の変化に気づく。

 

『「えっ!? 何が起きてるの!?」』

『「内輪揉めですか……?」』

 

 唖然とするオーブ。彼に向けて顔を上げたジャグラーは、震える腕をゆっくりと差し向けた。

 ――その姿勢のまま、その場にばったりと倒れ込んでいく。

 そして、爆炎の中にジャグラーの姿が消えた。

 

『ジャグラー!!』

 

 絶句するオーブ。一方で、ジャグラーを射殺したナグスは高々と哄笑を発した。

 

『ヒャハハハハハッ! やりましたぜぇ、ドン・ノストラぁ!!』

 

 報告を受けたノストラがナグスに命令を返す。

 

『残るはウルトラマンオーブだけだ。奴にとどめを刺し、ウルトラマンのカードを全て奪い取れ!!』

 

 ナグスは直ちにその命令を実行。

 

『やれ、レッドブラックキング!!』

「グアアアアァァァァ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 ジャグラーが消えたことでレッドブラックキングの支配権がナグスに移行。改めてオーブへと襲いかかっていく。

 対するオーブは……。

 

『……うおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 突然に絶叫。するとそれに応じるかのように、貴音と亜美の手元にティガとダイナのカードが現れた。

 二人は反射的にそれらをリングに通す。

 

『「ティガ殿っ!」』

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

『「ダイナ兄ちゃんっ!」』

[ウルトラマンダイナ!]『デヤッ!』

 

 二人の左右に出現したビジョンは、いつものものとは異なり、両者とも赤く染まった肉体――パワータイプとストロングタイプであった。

 

『超パワー、お借りしますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 貴音がトリガーを押し込むと、赤いティガとダイナが貴音と亜美とともにオーブと融合。

 

『タァーッ!』『ジュワッ!』

[ウルトラマンオーブ! パワーストロング!!]

 

 青い輝きと淡い緑色の光の中から、ティガとダイナの影響を受けて真っ赤に染まったオーブが飛び出していく!

 それだけではない。全身の筋肉が何倍も膨れ上がり、体格がこれまでの形態とは比較にならないほどに肥大化している。あの体躯から繰り出される威力は如何ほどのものであろうか!

 

『「うあうあー!? 超マッチョになっちゃった!」』

『「何と屈強な……」』

 

 この変化に亜美と貴音まで驚くほどであった。

 ティガのパワータイプとダイナのストロングタイプ、肉弾戦に能力バランスを割いた二つの形態を組み合わせたことで、筋力に全てを捧げたかのような姿になった。それがパワーストロングである!

 

(♪Fighting Theme-strong-)

 

『俺たちはオーブ! 光の剛力に、敵は無い!!』

 

 変身を遂げたオーブが、向かってくるレッドブラックキングにラリアットをぶちかました。

 

「オオオリャアッ!」

「グアアアアァァァァ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 するとどうだろうか。それまではどんな攻撃も受けつけなかったレッドブラックキングが、たったの一撃で吹き飛んだではないか。パワーストロングの岩石のような筋肉から生じる破壊力は、レッドブラックキングにも匹敵するレベルなのだ。

 

「オリャアッ! ドオリャアァァッ!」

「グアアアアァァァァ! ピッギャ――ゴオオオオウ!」

 

 オーブは更に鈍器の如き拳を何度も打ち込んで、レッドブラックキングをボコボコにしていく。レッドブラックキングは全く攻撃に抗えずにやられるままだった。

 

『「兄ちゃん、すごい勢い……」』

『「プロデューサー殿……」』

 

 しかし亜美と貴音は、オーブの猛攻がパワーストロングの能力だけによるものではないことを感じ取っていた。

 

「オオオオッ!」

 

 オーブはプロテクターに覆われた両拳を胸の前でがっしり合わせると、円を描くように両腕を持ち上げていく。そして手の平の溜まったエネルギーを凝縮し、レッドブラックキングへ撃ち出す!

 

「「『ガルラシウムボンバー!!!」」』

 

 莫大なエネルギーを一点に集めた光球がレッドブラックキングに吸い込まれ、瞬時に大爆発で消し飛ばした!

 

『うおうッ!?』

 

 その際の衝撃波でナグスが弾き飛ばされる。

 

「……」

 

 見事逆転して勝利を収めたオーブであったが、今日はすぐに飛び立とうとせず、何かの思いに耽るかのようにその場に立ち尽くしていたのだった。

 

 

 

 765プロ事務所では、アイドルたちが気を揉みながらガイたちの帰りを待っていた。

 

「プロデューサーさん、まだ戻らないのかな……」

「戦いの行方はどうなったのかしら……」

「亜美……」

 

 ガイのこともさることながら、突然姿を消した亜美のことも、真美を始めとして皆が案じていた。

 その時、事務所の玄関の戸が開かれる音がした。アイドルたちが一斉に振り返ると、ガイが貴音と亜美に支えられながら中に入ってくる。

 

「プロデューサーさんっ!」

 

 その瞬間、アイドルたちはわっと沸き上がった。

 

「プロデューサー! ご無事だったんですねぇ!」

「でも、大分消耗してるみたい……。プロデューサーさん、大丈夫ですか? お怪我はありませんか?」

 

 ガイへと駆け寄るやよいらの一方で、あずさは疲弊し切っているガイの身を心配した。

 

「大丈夫です……。ちょっと無理を押しただけのことですから……」

「とにかく今は休んで下さい……」

「早く元気になって、ハニー」

 

 春香と美希でガイをソファに座らせる一方で、真美と律子が勝手にいなくなった亜美を叱りつけた。

 

「亜美の馬鹿っ! もしものことがあったらどうしようって、すっごい心配したんだからね!?」

「そうよ。もう二度と独断行動はやめてちょうだい。何かあってからじゃ遅いのよ」

「ごめんなさい……」

 

 涙目になりつつ真剣に怒る真美たちに、流石の亜美もしおらしく謝罪した。

 ここで真が気分を転換するように声を弾ませた。

 

「でも、プロデューサーがこうして無事帰ってきたってことは、ジャグラスジャグラーの奴をやっつけたってことですよね! 遂にあいつの悪行に終止符を打ったんですね!」

 

 嬉しげに語る真だったが……当のガイは、喜びも悲しみもせず、ただぼんやりと中空を見つめているだけだった。

 

「あれ……? プロデューサー、せっかく宿敵をやっつけたっていうのに……」

「嬉しくないのかな……」

 

 真と雪歩が訝しんでいると、貴音が告げる。

 

「人と人のえにしとは、単純なものではないこともあります。まして、プロデューサーとあの男は古くよりの縁のご様子……。わたくしたちには分からぬことが数多くあるのでしょう」

 

 貴音はそれ以上何も言わず、そっとガイのことを温かく見守っていた。

 

 

 

 その頃、惑星侵略連合の円盤では、帰還したナグスをノストラが上機嫌に迎えていた。

 

『よくやった。ウルトラマンオーブは仕留め損ねたが、十分すぎる収穫だ』

『あいつ口ほどにもない野郎でしたぜ!』

 

 ナグスが撃ち殺したジャグラーを愉快そうに貶した。ノストラは手の中に、ジャグラーが消えた場所から回収した六枚の魔王獣カードを広げる。

 

『愚かな奴め……。この私が、究極のカードをみすみす手放すとでも思ったか? 私はメフィラス星人……悪質宇宙人だ!』

 

 ナグスがノストラに提案する。

 

『ドン・ノストラ! 七枚のカードを使って、地球へ攻撃を開始しましょう! ド派手に行きやしょうぜ! 名づけて……!』

 

 だが――その台詞が不自然に途切れる。

 そして、ナグスの身体がぐらりと傾き――後ろから、刀身を拭いながらジャグラスジャグラーが現れた。

 

『なッ!?』

 

 驚愕するノストラ。

 

『貴様、何故生きている!? 確かに心臓を撃ち抜かれたはず……!』

 

 ジャグラーは無言で、懐から一枚のカードを取り出した。

 ベムスターのカードが、銃弾を呑み込んだ。

 

『何ッ!? まさか初めから全て見透かして……おのれぇッ!!』

 

 激昂したノストラがグリップビームを放つが、ジャグラーは刀で受け止めて防御。不敵な笑みを浮かべながら爆発の陰に見えなくなると――次の瞬間には、姿形が一変していた。

 まるで一本角の悪鬼のような、殺気に満ち溢れた異形の姿……。胸の中心には、三日月型の古傷が赤く浮かび上がっている。その手に握る刀が、不吉な金属音を鳴らした。

 無幻魔人ジャグラスジャグラーが、遂にその本性を露わにしたのだ……!

 

『ぬぅッ!』

 

 次弾を撃とうとするノストラだったが、ジャグラーの剣が閃く方が早かった。

 

『はぁッ!』

『ぐわぁぁぁぁッ!!』

 

 袈裟に斬り捨てられるノストラ。致命傷を負ってよろめく彼に背を向けながら、ジャグラーは冷酷に告げる。

 

『策士策に溺れるとはこのことだ。ノストラ……あんたの時代は終わり、だッ!!』

 

 背を向けたまま脇から後ろに突き出した刃が、ノストラを串刺しにした。

 

『がぁぁッ!! お、のれぇぇぇぇッ!!』

 

 刀傷からノストラの体内のエネルギーが逆流して暴走。ノストラはそのまま、跡形も残さず木端微塵となった。

 その際の衝撃で飛ばされたカードを、ジャグラーがキャッチする。

 

『遂に我が手に来た……。最後のカードだ……』

 

 取り戻した六枚のカードと、奪い取った黒いウルトラマンのカードを手に、ジャグラスジャグラーは高笑いを円盤内に響かせた……。

 

『ハハハハハ……ハーハッハッハッハッハッ!!』

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

貴音「皆様、四条貴音でございます。今回ご紹介しますのは、ウルトラマンティガのパワータイプです」

貴音「ティガ殿は史上初のたいぷちぇんじ能力を持つウルトラ戦士でして、通常は三つの形態を使い分けます。普段の姿が、最も能力ばらんすの良いマルチタイプ。そして力に優れる一方ですぴぃどに劣るパワータイプ、その反対のスカイタイプの構成です」

貴音「ティガ殿のたいぷちぇんじは初めての例ということもあり、身体の色分けが変わるだけという非常に単純な変身です。ですがばんく映像などない、瞬時に完了する変身は最もりありてぃがあると言えるでしょう」

貴音「タイプチェンジは、実際のすぅつあくたぁも入れ替えることにより能力の違いを映像的に表現しています。パワータイプはその名の通りぱわぁに溢れた戦闘で数々の力自慢と怪獣と互角に戦いましたが、そのパワータイプでも敵わないことで怪獣の能力の高さをより印象づける、噛ませ犬のような扱いをされることもありました」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『Alice or Guilty』だ!」

ガイ「これは765プロのアイドルの歌じゃなくて、そのライバルの男性アイドルJupiterの持ち歌だな。スローテンポで迫力のある歌詞は、まさしく強敵である印象を聴き手に残すぞ」

貴音「わたくしたちとじゅぴたぁとの対決は、『アイドルマスター2』やあにめでご覧いただけます」

貴音「では、次回もどうぞよしなに」

 




 如月千早です。765プロ感謝祭へ向けてレッスンする私たちですが、そんな中で春香のお母さんが突然やってきました! な、何だかすごいお母さんね……。ですが、時を同じくして今までにない強敵も出現! プロデューサーが危ないわ!
 次回『ママ、Do-Dai!?』。一体どうなってしまうの……?


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ママ、Do-Dai!?(A)

 

『君が一番求めているのは、このカードだろう?』

「六つの魔王獣の封印が破られた時、この世に出現するという大魔王獣……。だが」

『光と闇ッ!』

『どちらが勝とうが知ったことではない』

「お前にはほんとガッカリだよ……」

「とどめを刺せ! レッドブラック……!」

『ジャグラー!!』

『策士策に溺れる』

『お、のれぇぇぇぇッ!!』

『遂に我が手に来た……。最後のカードだ……』

 

 

 

『ママ、Do-Dai!?』

 

 

 

「ザッ、ワールイズオールワンッ! ユーニティマインッ♪」

 

 765プロが贔屓にしているレッスンスタジオで、アイドルたち全員によるライブの予行練習が幾度も積み重ねられていた。彼女たちは近日に迫る『765プロ感謝祭』という、一世一代の大舞台に向けていつも以上に熱心にレッスンをしているのであった。

 

「……よし、今日はここまでにしよう。みんな、よく休んで疲れを残さないようにな!」

「はいっ!」

 

 最後のポーズが決まったところで、レッスンを監督していたガイが終了を宣言した。そんな彼の様子をながめながら、亜美と貴音がヒソヒソと囁き合う。

 

「兄ちゃん、もうすっかり普段通りに戻ったみたいだね」

「ひと安心といったところですね。これで心置きなく、わたくしたちのすべきことに専念できます」

 

 ガイはジャグラーとの決戦以降、しばらく覇気がなくなっていた感じであったが、今はいつもの様子に戻っていた。それで貴音たちは内心安堵していた。

 

「感謝祭ライブまでもうすぐ……。本番でちゃんとやれるか、少し不安ですぅ」

「あらあら、大丈夫よ。背伸びしたりしないで、レッスン通りにやればね」

 

 レッスンを終えて汗を拭いたり水分補給したりしているアイドルたちが各人で談笑する。そんな中で、春香がおもむろにガイの前に進み出た。

 

「あの、プロデューサーさん。色々考えたんですけど……少しお話しが……」

「ん? 改まって何だ?」

 

 その春香の動きに気づく真美。

 

「あれ? はるるん、兄ちゃん相手に何の用だろ」

「春香のことだし、大したことじゃないでしょ」

 

 響が苦笑した直後に、春香はガバッと頭を下げながら、言い放った。

 

「私の――恋人になって下さいっ!!」

 

 どんがらがっしゃーん!

 と転倒したのは春香ではなく、それ以外のアイドルたちであった。

 

「……えッ……!?」

 

 ガイは思いっきり目を丸くして春香を見つめ返した。対する春香は、潤んだ瞳で顔を上げる。

 

「私には、プロデューサーさんしかいないんです……!」

 

 起き上がったアイドルたちは、唖然としながら春香と立ち尽くすガイに視線を集めた。

 

 

 

 翌日、都内の高層ビル中層にある高級レストランで。

 

「春香~!」

 

 卸し立てのスーツとドレスでビシッと固めたガイと春香の待つ席の元へ、顔立ちが春香によく似た女性がやってきた。彼女は立ち上がったガイの顔をひと目見て興奮する。

 

「きゃっ!? 写真でも凛々しかったけど、実物で見るとますますカッコい~! 春香、あんたやるじゃない。こんな人のハートを射止めるなんてぇ! 紅ガイ君でしたっけ? ウチに婿に来てくれるんでしょぉ~!?」

「ま、ママ、一旦落ち着いて! 恥ずかしい……!」

 

 周りの客が奇異の目でこっちを見ているので、春香はガイにベタベタする女性を引き剥がした。三人でテーブルを囲むと、女性はガイを質問攻めにする。

 

「ガイ君、春香のとこのプロデューサーさんだっけ? お歳は? 農業に興味あるかしら?」

「だからママ、落ち着いて……」

「落ち着ける訳ないじゃなーい! もうママ嬉しくって! だってね聞いてよガイ君!」

 

 マシンガンのようにまくし立てる女性に、ガイはやや気圧されている。

 

「ウチの家系、私のひいおばあちゃんの代から、どういう訳か女の子しか産まれなくって。若い頃からずーっと、「好きなことをしたければ跡取りを確保してから」って親に言われて! やりたいことあきらめてきたの。それでね、私が好きなことするには春香が! お婿さんを確保してくれるしかない訳! アイドル許可したのだって、いい男の人見つけてくる可能性が高くなると思ったからなのよ! ねね、いつ結婚するご予定かしら? 待ち遠しいわぁ~!」

「は、ハハハ……」

「何しよっかしらぁ~!?」

 

 談笑している……というより一人が延々としゃべっているこのテーブル席を、やや遠くのテーブルから監視している四人の集団がいた。

 

「むぅ~……あの人何なの? ハニーに春香と結婚しろ結婚しろなんて!」

 

 聞き耳を立ててむくれているのは、変装している美希。他の三人は、同じように変装中の律子、やよい、真であった。美希が嫉妬して春香たちの予約したレストランに先回りし、更に律子たちも無理矢理巻き込んだのであった。

 

「こ、こんな贅沢なお料理見たことないですぅ~! お持ち帰りは出来るでしょうか?」

「いやぁ、それは多分無理だよ……」

 

 春香たちよりも注文した料理に釘づけのやよいに真が苦笑している一方で律子が、ガイと春香が面と向かっている女性について説明した。

 

「天海繪里子さん。春香のお母さんよ。確か春香から聞いた話だと、春香に婚約者を見つけるように何度も催促してくるって……。今度は本人直々にやってきたから、プロデューサーをその役に仕立て上げて帰ってもらおうって魂胆ね」

「春香がいきなりハニーにプロポーズしたものだからすっごい驚いたけど、そういう訳だったんだね」

 

 ひとまずは安心した美希だったが、たとえ芝居でも面白くないのは確かなのでイライラしっぱなしである。そんな美希に呆れ返る律子。

 

「あんたもよくやるわよねぇ。……っていうか、こんな高そうなレストランのお代を私に払わそうなんて」

「今度お返しするから、今は静かにしててほしいの、律子」

「さん」

「さん」

 

 そんな美希たちが見張っている中で、春香の母の繪里子は実際結婚を催促している。

 

「春香、あんたちゃんと結婚の予定組んでるんでしょうね? そういうの早め早めにしとかないとダメよ!」

「だからママったら、気が早すぎだってば。私まだまだアイドル引退するつもりなんてないよ。トップアイドルになるまでは……」

「またそんなこと言って! ママをはぐらかそうとしてるんじゃないでしょうね」

 

 はぐらかす、と言われて春香とガイは内心ドキリとする。

 

「そもそもトップアイドルっていうのが曖昧なのよねぇ。大体ガイ君も、こう言っちゃ何だけどあんまり成果上げてないみたいじゃないの。春香と結婚したいんだったら、ウチの子をとっとと有名にしてもらわないと。ちゃんと出来るの?」

 

 と言われたガイが、繪里子の勢いに冷や汗を垂らしながらも返答する。

 

「い、いえ、ご心配なく。春香さんにはアイドルとしての潜在能力と確かな実力があります。こちらもいよいよ春香さんをメジャーデビューさせる道筋が立ちまして、トップアイドルの仲間入りも目前です。保証します、ええ」

「ほんとぉ~? ならいいんだけど」

 

 どこまで本気にしているかは不明だが、繪里子はそれ以上突っ込んでこなかった。

 

「何だかさっきから私ばっかりしゃべってる気がするし、今度はそちらの話を伺おうかしら。春香、二人のなれ初めとか、とっておきの恋バナを聞かせてちょうだいよ」

「えっ、こ、恋バナ!? それはぁ……」

 

 春香が何を言おうか目を泳がせる、その時――。

 

「――奥さん、本当にこんなぼんくらプロデューサーでいいんですか?」

 

 繪里子の背後から、一人の男が彼女に耳打ちした。その顔にガイや春香、美希たちも驚愕のあまり思わず腰を浮かした。

 

「お前……ッ!」

「じゃっ……ジャグラスジャグラー……!?」

 

 それは死んだはずのジャグラーであった。ガイたちはどうしてここにいるのか混乱するが、訳を何も知らない繪里子はジャグラーに振り返って更に興奮。

 

「あら素敵ぃ~! 私、こんな男の子大好き!」

「ママっ! 離れて!」

 

 慌ててジャグラーから母親を引き離す春香。

 

「この人誰? 紹介して」

「私ですか? 私はこういう者で……」

「こっち来いッ!」

 

 一瞬魔人態の顔を晒しかけたジャグラーを、ガイが店の隅へと強引に連れていった。

 

「お前、死んだとばかり……!」

「だからお前は駄目なんだッ! 目に見えることしか見ようとしない。その陰で何かが起こってるなんて想像もしてないんだろう?」

 

 いきなり罵倒してくるジャグラーの言動を訝しむガイ。

 

「陰で? お前何をたくらんでるんだ」

「お前は利用されたのさ……」

「何?」

「お前は魔王獣を倒したといい気になってるかもしれないが、実は……」

 

 ジャグラーの言葉の途中で、二人にフラッシュが掛かった。そちらへ振り向くと、繪里子がケータイ片手に間に飛び込んでくる。

 

「二人とも! はい、バター!」

 

 呆気にとられるガイとジャグラーを入れて、繪里子は自撮り。

 

「やったー! 面白くない? まさかこんないい男たちがウチの娘を取り合ってるなんて……!」

「ちょっとママ……!」

「そうだ! お友達にお写真送っちゃおう」

 

 何も知らずのんきな繪里子を春香が力ずくで引き戻していった。

 

「……それで?」

「あ? あぁ……お前は魔王獣を倒したといい気になってるかもしれないが、それは実は全て俺のためだったんだよ……」

「どういうことだ……!」

「つまり、ありがとうってことかな。この俺のために魔王獣を倒してくれてね」

「お前……!」

 

 ジャグラーの胸ぐらを鷲掴みにするガイ。

 

「何だ、やる気か?」

「ああ……今度こそ決着をつけてやるッ!」

「喧嘩はやめて!」

 

 そこに再び繪里子が割り込んできた。

 

「私のために争わないで! なんちゃってぇ~。一度言ってみたかったの!」

「ママ! この人たちのとこに来ちゃ駄目だって!」

「いいじゃない、女の夢じゃないの」

 

 邪魔が入ってばかりのジャグラーは興を削がれたのか、話を打ち切って戻っていく。繪里子はガイを叱咤。

 

「ガイ君もぼんやりしてちゃダメよ! デートの日取り決めちゃいましょう!」

「もうっ……! とりあえず、こっちに……」

 

 場のペースをかき乱しまくる繪里子を春香とガイでテーブルに連れていく。そんな一連の様子を盗み見ていた美希たちは、でかい冷や汗を垂らした。

 

「……春香のママ、何て言うか、キョーレツなの……」

「春香が普通なのって、あの人の反動なのかもしれないね……」

 

 真がそんなことをつぶやいた。

 

 

 

 ジャグラーはガイの前で、テーブルの上に六枚のカードを並べていく。――各属性の魔王獣のカードであった。

 

「おい、これは!?」

「お前のお陰で手に入った」

「何……!?」

「お前の魔王獣退治は、このカードを手に入れるために全て俺が仕組んだ……。お前は俺の手の平の上で踊らされてただけだ……」

 

 更にジャグラーは七枚目のカード――ノストラから強奪した、黒いウルトラマンのカードを見せつける。

 

「それは……ベリアル!?」

「楽しめ……これから大きな災いが」

「さぁ~お料理も来たし食べましょうか! 早くしないと冷めちゃうわ」

 

 話の途中で、またも繪里子の声にさえぎられた。ジャグラーはうんざりしたように頭を振る。

 

「おい……!」

「やだぁ~、そんな顔しないのっ。あっ、お腹空いたんだ。はい、食べて食べて~」

 

 勝手に勘違いして自分の皿を勧める繪里子。

 

「いや、俺は……!」

「そうだよママ……無理に勧めない方が……!」

 

 ジャグラーを警戒する春香だが、繪里子はやはりマイペース。

 

「大丈夫! この方の分もちゃあんと追加したから。ほら、食べて! あら、そのカード何? こっちじゃそういうの流行ってるのかしら?」

 

 とぼけたことを言いながら肉料理にナイフを入れる繪里子だが、ふと窓に目をやってつぶやいた。

 

「やっぱり、東京は物騒ねぇ。あんなのが外に」

「え? ……あぁっ!?」

 

 釣られて窓に目を向けた春香が、あんぐりと口を開いた。美希たちも思わずフォークを落とす。

 窓のすぐ外には、いつの間にか巨大な女性の顔が店内を――ガイたちを覗き込んでいたのだ!

 

「あれはまさか……玉響姫!?」

 

 律子が以前、入らずの森で春香が見たという玉響姫の霊のことを思い出した。

 

「でも、今度は私たちにも見えてる……! 他の人たちも……!」

 

 彼女たちだけでなく、他の客全員も玉響姫の顔に仰天して固まっていた。この分だと、全ての人間にその姿が見えているだろう。今はそれほど力を強めているのだろうか。しかし何のために?

 一般の客が逃げていく中、玉響姫はガイへと言葉を向ける。

 

『光の者よ……大きな災いが、起きようとしています』

「大きな災い……?」

 

 春香も繪里子を連れていく中、一人だけ椅子に座ったままのジャグラーが不機嫌にフォークを肉に突き刺した。

 

「だから、それを俺が言おうとしてたんだよッ!」

 

 玉響姫はそのメッセージを残して、光とともに消えていった……。

 

 

 

 春香たちは急遽事務所に戻り、突如街中に出没した玉響姫について話し合う。

 

「入らずの森の後から玉響姫のことを調べたんだけど……一つの記述に行き当たったの」

 

 律子がその資料のコピーを棚から引っ張り出す。

 

「ほら、これよ。全国の玉響姫と思われる伝承を総合したものなんだけど、これによると……玉響姫は太古の霊能力者で且つ絶世の美女で、その美貌に魅せられたオロチにさらわれてしまった。すると一人の勇者がオロチを封印し、玉響姫を助けた。助けられた玉響姫はオロチが復活しないよう、勇者の力を借りて結界を張り、その結界を見張り続けてるということよ。その結界が、入らずの森と古墳だと推測されるわね」

「おろち……」

 

 その名前を聞いた貴音がひと言つぶやいた。

 

「何か知ってるの、貴音?」

「先日、ジャグラーとの戦いの場でプロデューサーが言ったのです。まがおろち……六つの魔王獣の封印が破られた時によみがえる大魔王獣と」

「マガオロチ……玉響姫をさらったっていうオロチと同じでしょうか?」

「恐らくは」

 

 やよいの問い返しに貴音がうなずくと、真が首をひねりながら言った。

 

「それじゃあ、起きようとしてる大きな災いってマガオロチのこと?」

「でしょうね。魔王獣の封印は既に破られてる……復活の条件は既にそろってるわ。後は玉響姫の結界だけ……。それもジャグラーが狙ってるとしたら……」

 

 律子の分析に、春香たちは総毛だった。

 

「大変! 早く止めないと!」

「ところでプロデューサーは? 一緒じゃなかったの?」

 

 律子へ振り返る千早。ガイは春香たちとともに事務所に戻らなかったのだ。

 

「もう入らずの森へ向かったのかも! 私たちもすぐ行きましょう!」

「はいっ! 765プロ、出動……!」

 

 一番に事務所を発とうとする春香だったが……。

 

「待ちなさい」

 

 玄関の扉から繪里子が入ってきて立ちふさがり、春香を足止めした。後から渋川も大量の荷物を抱えながら入ってくる。

 

「渋川さん! その荷物の山、どうしたんですか?」

 

 小鳥が目を丸くして尋ねると、渋川はくたびれた様子で答えた。

 

「義姉さんの買い物につき合わされちゃってさぁ、花屋とか色々連れ回されて……。俺だって都内に現れた女巨人の幽霊の件で忙しいのにさ……」

 

 それはともかく、春香が行く手をふさぐ母親に問いかける。

 

「ママ、どうして事務所に……」

 

 繪里子は春香の目をじっと見つめながら告げた。

 

「私、ほんとは結婚とか跡継ぎとかどうでもいいのよ。春香、あなたに危ないことしてほしくないの」

「えっ……!?」

「いつも見てるわよ。危険なところに自分から飛び込んでいって……。私がどれだけ気を揉んでるか分かる? アイドルになるのは許したけど、そんなことするのを許可した覚えはないわよ」

 

 繪里子の言葉に、春香はバツが悪そうにうつむいた。

 

「だから私、本当はあなたを連れ戻しに来たのよ。ねぇ春香、もう一人で危ないことするのはやめにして、一緒に帰ろう? お願いだから」

 

 説得してくる繪里子に対して、春香は顔を上げて言い返した。

 

「一人じゃないよ……。私には、たくさんの仲間がいるんだから! 何より、プロデューサーさんがいるもん!」

 

 春香の言葉にアイドルたちはうなずいて賛同を示したが、

 

「いい加減にしなさいっ!」

 

 繪里子はそれを一喝した。

 

「あなたのお芝居につき合ってたけど、ほんとは恋人なんかじゃないんでしょ? それどころか、あの人こそがあなたを危険に巻き込んでるんじゃないの?」

「そ、それは……」

 

 春香が思わず言いよどんだ、その時――突然、外から落雷を思わせるような轟音が鳴り響いて彼女らを驚かせた。

 

「な、何!? 嵐!?」

「そんな感じじゃなかったわ! もっと不吉な感じが……!」

 

 伊織と律子が窓に駆け寄って開け放ち、その直後に絶句した。

 窓の外、入らずの森の方角の空で――不気味な黒い雲が、空に穴を開けるかのように渦巻いていたのだった。

 



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ママ、Do-Dai!?(B)

 

 765プロアイドルたちは、窓の外に見える異常な光景に愕然とする。

 

「な、何あの空!?」

「ちょうど入らずの森の上空辺りだわ……! 玉響姫の言ってた災いが始まったんじゃ……!」

 

 律子が現在の東京の気象情報から分析。そのひと言に戦慄するアイドルたち。

 それから春香が、真剣な面持ちで繪里子と向き合う。

 

「ママ……騙そうとしたこと、ごめんなさい。でも……これも私のやりたいことなの。色んな人のこと、私は助けてあげたいから……!」

 

 繪里子は、今度はじっと立ち尽くしたまま何も言わない。その無言の返答を受けて、春香は仲間たちに振り返った。

 

「……みんな、行こう!」

「う、うん……!」

 

 真とやよいに後れる形で事務所を出発していく春香たち。春香以外は無言の繪里子に対して遠慮がちであったが、それを振り切って春香に続いていった。

 

「あ、あの……すみません。わざわざ来ていただいたのに、こんなことになってしまって……」

 

 いたたまれなくなった小鳥が繪里子に謝罪したが、繪里子はゆっくり首を振った。

 

「あなたが謝ることじゃないでしょう。……一徹君も」

 

 繪里子を気にして立ちすくんでいる渋川に向き直る繪里子。

 

「行ってちょうだい。ああいう無鉄砲な子を守るのも、あなた方ビートル隊のお仕事でしょ?」

「……はいッ!」

 

 繪里子に軽く頭を下げた渋川も玄関に向かって駆け出していった。それを見送って、繪里子は近くの椅子に腰を下ろす。

 

「事務員さん、悪いけどお茶淹れてくれる? しゃべってたら喉渇いちゃった」

「は、はい! ただいま!」

 

 小鳥が慌てながら給湯室に駆け込んでいくと、繪里子はぼんやりと独りごつ。

 

「まだまだしょうがない子供だと思ってたけど、こっちで大分揉まれたみたいじゃない。……だけど……」

 

 一見すると冷静に見える目で、空に渦巻く暗雲を見つめる繪里子であった。

 

 

 

 その頃、入らずの森の前へとたどり着いたガイは、そこで待ち受けているジャグラーと出くわした。

 

「おせぇよ」

 

 開口一番文句をつけてくるジャグラーに、ガイは視線で威圧しながら返す。

 

「裏でコソコソ立ち回りやがって、ご苦労なこった」

 

 ジャグラーは含みのある目つきをガイに向ける。

 

「何だよ」

「お前と直接戦り合うのも……これが最後だと思ってなッ!」

 

 立ち上がったジャグラーが、いきなり光弾を飛ばしてきた! ガイは反射的にキャッチしてジャグラーに投げ返すが、魔人態に変身したジャグラーは弾き飛ばしてガイに肉薄。

 

「『はぁぁぁぁぁッ!!」』

 

 迫ってきたジャグラーと、ガイは拳の応酬を繰り広げた。が、ガイを振り払って下がったジャグラーはダークリングをその手に握る。

 

『ふッ……!』

『いけませんっ!』

 

 その瞬間、森の間から玉響姫の幽体が姿を見せた。彼女はガイへ警告する。

 

『やめさせて下さい!』

『もう遅い』

 

 だがその時には、ジャグラーは既に六枚の魔王獣カードを手にしていた。

 

『よみがえれ! 魔王獣の頂点に立つ大魔王獣ッ!!』

 

 六枚のカードを一辺にリングに通すと、カードが怪光と化して回転しながら黒い稲妻を地面に照射。入らずの森の土地をえぐる!

 

『きゃっ!?』

「玉響姫ぇッ!!」

 

 その際の衝撃と土煙に玉響姫の姿が隠れた。

 えぐられた大地の下から、毒々しい巨大な肉の塊のような物体が浮かび上がってきた。胎動するそれの表面には、光り輝くウルトラフュージョンカードが張りついている。これこそが最後の封印であった。

 

『仕上げだッ!』

 

 ジャグラーはそれに向かってリングをかざすと、最後のカード――黒いウルトラマンのカードをダークリングの力で射出する!

 

『フゥアッ!』

 

 魔弾の如き勢いで飛んでいったカードは、封印のカードに突き刺さり、肉の塊から弾き飛ばしてしまった!

 その瞬間に、肉の塊が破裂。溢れ出た闇のエネルギーの中から――禍々しい迫力と威圧感に満ち溢れた巨大怪獣が出現する! ジャグラーはこの怪獣を背に、ガイに向かって叫んだ。

 

『見ろッ! 星の命を食い尽くす大魔王獣、マガオロチだぁッ!!』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 紅く獰猛に輝く両眼。胴体の前面にも眼球のようなものが六つも並ぶ。全身が甲殻に覆われた龍のような容貌で、頭部には眷属の魔王獣よりも何倍も大きいマガクリスタルが、一本角のように突き出ていた。裂けた口から生じる金切り声のような咆哮が大気を震動させる。

 遂にこの世に復活してしまった大魔王獣マガオロチが、街へ向かって進撃を開始した!

 

 

 

 春香たちを乗せたトータス号は入らずの森の目前まで来ていたのだが、そこでマガオロチの出現を目撃。更にマガオロチの足踏みによって車道に亀裂が走ったため、緊急停車した。

 

「ぎゃあーっ!? オロチが復活しちゃったぞぉ!?」

「間に合わなかった……!」

 

 頭を抱えた響を初め、皆がマガオロチのあまりの迫力に驚愕、そして戦慄。そんな中で真とやよいが真っ先に降車した。

 

「やよい、早くプロデューサーの元へっ!」

「は、はいっ!」

 

 二人がその足で森へと走っていく一方で、美希はマガオロチとは別の方向を見やっていた。

 

「あれは……!」

 

 美希の視線の先では、ジャグラーによって弾き飛ばされたカードの光が街の中へと転落していっていた。

 

 

 

 ガイはジャグラーへと怒号を発する。

 

「お前の目的は俺だろッ! 関係ない奴を巻き込むなぁッ!!」

 

 だがジャグラーは全く意に介さなかった。

 

『ハハハハッ! 退治できるものならやってみろッ!!』

「くッ……!」

 

 激しく歯ぎしりするガイだが、ジャグラーに背を向けてマガオロチを追いかけていく。

 その途中でやよいと真と遭遇。

 

「プロデューサー! あれが大魔王獣なんですね!?」

「ああ……! 止められなかった、すまない……!」

「今は早くあれをやっつけましょう! このまんまじゃまずいですよ!」

 

 マガオロチは既に街の中へと入り込んでいる。その全身から発せられているプレッシャーは、これまでの怪獣の比ではなかった。あんなものが暴れ出したら、どうなってしまうのか想像もつかない。

 

「ああ! 行くぞッ!」

 

 ガイたちは迷う暇もなくフュージョンアップを決行。

 

「ティガさんっ!」

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

「ダイナさんっ!」

[ウルトラマンダイナ!]『デヤッ!』

 

 真がティガ、やよいがダイナのカードをオーブリングに通す。

 

「光の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイがリングのトリガーを引き、真とやよいとオーブに変身していく。

 

『タァーッ!』『ジュワッ!』

[ウルトラマンオーブ! ゼペリオンソルジェント!!]

 

 マガオロチを飛び越えて、その前方に着地したオーブは、一番にマガオロチへと突貫していく。

 

「シュワッ!」

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 しかしマガオロチは背面から翼のように生えた突起をスパークさせて口腔から絶大な電撃光線を発射。それの一撃で、オーブの巨体が高々と吹っ飛ばされる!

 

「ウワアァァァァァッ!?」

 

 マガオロチの電撃光線はオーブをビルに叩きつけたのみならず、射線下の建物も軒並み爆砕した。

 

『「わあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」』

『「あうううぅぅぅぅぅっ!!」』

 

 電撃はオーブだけでなく、その内側の真とやよいも襲って苦しめた。いつもはどんな攻撃もオーブが受け止めているが、マガオロチの攻撃はオーブの耐久を超えてしまったのだ。それほどまでの威力だったのだ!

 

『だ、大丈夫か、二人とも……!』

『「は、はい……!」』

『「何とか……!」』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチは駆け出してオーブへと接近していく。どうにか体勢を立て直したオーブは両腕から光刃を飛ばして迎え撃つ。

 

「「『マルチフラッシュスライサー!!!」」』

 

 鋭利な光刃はまっすぐマガオロチに突き刺さ――らなかった! マガオロチを覆う甲殻に当たると呆気なく砕け散ってしまい、マガオロチの足は止まらない!

 

「フッ!?」

 

 衝撃を受けるオーブだが、どんどん視界に大きくなっていくマガオロチの姿に対して、次の攻撃を放つ。

 

「「『ゼペリジェント光線!!!」」』

 

 L字に組んだ腕から光線を照射してマガオロチに浴びせるも、これでもマガオロチのスピードは緩まない。

 

「ウゥゥゥゥッ……!」

 

 あきらめずに光線を撃ち続けるオーブだったが、マガオロチはとうとう距離を詰め、オーブの首をむんずと鷲掴みにする。

 

「グゥゥゥッ!」

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 首を絞められてもがき苦しむオーブを、マガオロチは片手で易々と持ち上げ、高々と投げ捨てた。

 

「ウワァッ!」

 

 地面に叩きつけられたオーブに、マガオロチの更なる追撃が掛かる。長大な尻尾が身体に巻きついて、電撃を流し込んでいく。

 

「ウワアアアァァァァァァァッ!!」

『「「あああああぁぁぁぁぁっ!?」」』

 

 マガオロチの電撃に苛まれてやよいと真の身体がガクガクと震えるが、真たちは懸命にオーブリングとカードを手にして再フュージョンアップを行う。

 

『「じ……ジャックさんっ!」』

[ウルトラマンジャック!]『ジェアッ!』

『「ゼロさんっ……!」』

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェェアッ!』

『キレのいい奴……頼みますッッ!』

[ウルトラマンオーブ! ハリケーンスラッシュ!!]

 

 再変身したオーブは、同時に握り締めたオーブスラッガーランスをマガオロチの背面に突きつけた。

 

「「『オーブランサーシュート!!!」」』

 

 穂先から破壊光線を発射してマガオロチを突き飛ばし、巻きつく尻尾を振り払った。

 

『「た、助かった……」』

 

 ほっと安堵する真だったが、やよいが驚愕の声を発した。

 

『「み、見て下さいっ!」』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチは確かによろめいていたが――それだけだった! 今の攻撃に、まるで応えた様子がない!

 

『「何て頑丈な……! だったらっ!」』

 

 真の気迫とともに、オーブがスラッガーランスを振りかざしてマガオロチに斬りかかっていく。

 

『「その鎧がボロボロになるまで刃を叩き込んでやるっ!」』

 

 ハリケーンスラッシュの旋風の斬撃がうなるが――マガオロチは上半身を引いて回避。続く刺突も腕ではたき落とした。

 

『「なっ!? 身のこなしまで速いっ!」』

 

 マガオロチは明らかに鈍重な体格にも関わらず、ハリケーンスラッシュの攻撃速度に対応していた。防御力はマガグランドキングを彷彿とさせ、敏捷性はマガバッサー並みであった!

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「ウワァァッ!」

 

 マガオロチはオーブ自身も殴りつけて、スラッガーランスを叩き落としてしまう。

 

「グッ! シュアァッ!」

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 オーブはそれでもマガオロチに肉弾を入れていくが、ハリケーンスラッシュの軽い打撃では小揺るぎもしない。反対にマガオロチに蹴り飛ばされるが、転がりながらスラッガーランスを拾い上げ、レバーを三回引く。

 

「「『トライデントスラッシュ!!!」」』

 

 最大の攻撃である音速の連撃を浴びせる――が、攻撃の途中でランスを掴まれて止められた。

 

『「えうっ!?」』

『「は、離せぇぇっ!」』

 

 力の限りスラッガーランスを引くオーブだが、ランスは固定されたかのように動かない。そしてマガオロチはオーブを引き寄せ、トゲのように尖った自身の甲殻に叩きつけた。

 

「グワァァァッ!」

 

 スラッガーランスが宙に舞い、オーブは戦うに連れてズタボロにされていく。対するマガオロチはここまで来て未だ傷一つない。

 戦いを見上げているアイドルたちは、あまりの惨状に完全に絶句していた。それを亜美の絶叫が破る。

 

「な、何なのあいつ!? 魔王獣とは比べものになんない強さじゃんっ!!」

「律っちゃん、どうにかしてよぉっ! このままじゃオーブがっ!」

「そ、そんな無茶よっ!」

 

 せがむ真美だが、律子にもどうすればいいのか全く分からなかった。

 とうとうオーブのエネルギーも底を突いてきて、カラータイマーが赤く危険を報せ出した。その身体からゼロとジャックの幻像がよろめきながら脱け出る。

 極限まで追いつめられたオーブはやよいと真に告げた。

 

『こうなったら……最後の一発に賭けるぞッ!』

『「「は、はいっ!!」」』

 

 二人はリングとカードを構え、再三のフュージョンアップを行う。

 

『「タロウさんっ!」』

[ウルトラマンタロウ!]『トァーッ!』

『「メビウスさんっ!」』

[ウルトラマンメビウス!]『セアッ!』

『熱い奴、頼みますッ!』

[ウルトラマンオーブ! バーンマイト!!]

 

 バーンマイトに変身すると同時に全身を燃え上がらせながらマガオロチに一直線にタックル!

 

「「『ストビュームダイナマイトぉぉぉぉぉっッ!!!」」』

 

 全エネルギーを叩き込んだ大爆発がマガオロチを呑み込み――硝煙が晴れると、マガオロチは全身真っ黒に炭化していた。

 

「グッ……ウゥッ……!」

 

 オーブは体力を使い果たしてその場に片膝を突いたが、アイドルたちはこの戦果に大喜び。

 

「や……やったぁぁぁっ!!」

「決まったね……!」

「ええ……!」

 

 春香や雪歩、千早が手に手を取って喜び合う。伊織はニッと笑いながらつぶやいた。

 

「流石にあの火力の前には、ひとたまりも……」

「グルゥゥゥ……」

 

 ――確かに聞こえた獣のうなり声に、彼女たちの顔が凍りついた。

 

「――グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 そしてマガオロチから炭が弾け飛び、その下から先ほどと全く変わりない姿を見せつけた。

 炭化したのは、ほんの表面だけだったのだ!

 

『「そ、そんな……!!」』

 

 最早ほぼエネルギーが残っていないのだが、それでも必死に身体を支えるオーブに、マガオロチは一切の情け容赦なく電撃光線を食らわせる。

 電撃光線はオーブのバリアも叩き割り、最後のとどめを刺す!

 

「ウワアアアアァァァァァァァァ――――――――――――ッ!!」

 

 オーブは遂に倒れ、身体が光の粒子に分解されていった。その跡には力尽きたガイと――やよい、真までが意識を失って倒れ伏す。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 オーブを圧倒したままねじ伏せたマガオロチに、貴音たちは震え上がる。

 

「オーブが、敗れた……」

「……」

 

 律子は無念そうにうつむいて首を振り、ビデオカメラのスイッチを切った。

 

「……プロデューサーさんたちを助けに行きましょうっ!」

「え、ええっ!」

 

 あずさのひと言により、我に返った千早たちがオーブの消えた場所へと急いで駆けていった。

 

「っ!」

 

 しかし美希はどういう訳か全くの反対方向へと走っていく。

 

「えっ!? 美希、ちょっと待ってよ!?」

「どこへ行くのですか!?」

 

 それを慌てて追いかける響と貴音。――一人だけ、春香はどちらにもつかずに、その場に残ったままマガオロチを見上げていた。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「……っ!!」

 

 オーブを一蹴したことを勝ち誇るかのように咆哮するマガオロチを、憎々しげな眼で見上げていた。

 

 

 

 ――マガオロチの破壊によって生じた瓦礫の山の中に倒れているガイの元に、あずさたちがたどり着く前に、ジャグラーが現れていた。

 彼はガイを冷酷な目で見下ろし、ひと言告げる。

 

「これで本当におしまいだ……」

 

 そしてガイの腰に手を伸ばし――ウルトラフュージョンカードを収めたカードホルダーを奪い取る。

 

「……フッ……ハハッ……ハハハハハハハッ! ハァ――――ハッハッハッハッハッハッハァ―――――――――ッ!!」

 

 狂ったように哄笑を発するジャグラーの背景では、マガオロチが辺り一面に電撃光線を吐き続けて、街を火の海に変えていく――。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

美希「ミキなの。今回紹介するのは、ウルトラ兄弟ナンバーワン、ゾフィーなの!」

美希「ゾフィーの初登場は『ウルトラマン』の最終回。ゼットンに負けたウルトラマンを光の国へと連れ帰る迎えの役で、ウルトラマンとハヤタに二つの命をあげて蘇生させたんだ。この時はただそれだけの役回りで、肩書きもただの宇宙警備隊員だったの」

美希「しばらくは忘れられた存在だったんだけど、ウルトラ兄弟の設定が作られた時に長男として復活。ウルトラ兄弟一番の実力や、宇宙警備隊隊長の設定もつけられて、一躍有名になったの!」

美希「……だけど第二期ウルトラシリーズでは怪獣の噛ませ犬になったり宇宙人の罠に嵌まってピンチになったりと、不憫な扱いが多かったの。それですっかりネタキャラ扱いされちゃってるんだけど、最近では設定通りの頼れる姿や活躍を見せてくれてるよ」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『Do-Dai』だ!」

ガイ「ゲーム『アイドルマスターLive For You!』のDLCが初出の曲で、憧れの男の人とのデートに挑む女の子の心情が描かれる、ストーリー仕立ての一風変わったラブソングだ。とにかくノリがいいので人気も高いぞ」

美希「ミキもハニーとラブラブデートしたいの~♪ 今そんな状況じゃないけど」

美希「次回もよろしくなのっ!」

 




 秋月律子です……! 恐るべき大魔王獣マガオロチによって、地球は滅亡の危機に! それなのにプロデューサーはカードを奪われたことで、オーブに変身できなくなってしまいました! この状況をどうすればいいの!? 世界はどうなってしまうのかしら……。
 次回『I Want 祝福』。オーブ、その姿は……!?


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I Want 祝福(A)

 

『光の者よ……』

「玉響姫!?」

『大きな災いが、起きようとしています』

『よみがえれ! 魔王獣の頂点に立つ大魔王獣ッ!!』

『星の命を食い尽くす大魔王獣、マガオロチだぁッ!!』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「な、何なのあいつ!? 魔王獣とは比べものになんない強さじゃんっ!!」

「オーブが、敗れた……」

 

 

 

『I Want 祝福』

 

 

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 ――オーブを下して周囲一面を破壊し尽くしたマガオロチは、不意にその場にうずくまり、足元の神木をへし折って地に伏せた。

 マガオロチが動きを止めてからビートル隊が現場に到着し、マガオロチ周囲を完全に封鎖して徹底した監視を始めた。

 ――その包囲網の外から、律子と亜美真美が物陰に身を潜めながらカメラを回す。

 

「……うずくまってる怪獣は、いずれ動きます。またいつ暴れ出すか分からない怪獣に怯え、東京から逃げ出す人が続出してます! これ見てる兄ちゃん姉ちゃんたちは大丈夫!?」

 

 現在の状況をリポートする真美の一方で、亜美は律子に首を向けて尋ねる。

 

「律っちゃん、どうしてマガオロチは動かなくなったの? やっぱ、オーブの攻撃がちょっとは効いてたのかな?」

「いいえ……恐らくさっきの戦いでエネルギーを消費したから、一時的に休息を取ってるだけよ。またいつ活動を再開するものか……」

 

 答えながら、律子はアンテナと銃とモニターを掛け合わせたような装置をマガオロチに向けていた。

 

「律っちゃん、それは?」

「怪獣の能力研究のために新しく作った生体反応分析機よ。相手に直接触れなくてもバイタルや脳波の状態が分かる優れものよ」

 

 亜美と真美が見ている中、律子はモニターに表示された情報をひと目見てつぶやいた。

 

「……やばいわね」

「使う前から壊れたの?」

「これだったら壊れてる方がまだマシだわ……」

 

 モニター内のマガオロチの生体情報を示すレーダーは大きく波打っている。

 

「バイタルも脳波も活性化してるのよ!」

「って言うと?」

「もう今すぐにでも動き出してもおかしくないってことよ!」

「えぇーっ!?」

 

 亜美と真美の絶叫がハモった。

 

 

 

 その頃、他のアイドルたちは現場で倒れ伏していたガイ、やよい、真の三人を救助して、事務所に連れ帰っていた。伊織が受話器を耳に当てていた小鳥に尋ねる。

 

「……どうだった? 小鳥」

 

 小鳥は残念そうに振り返った。

 

「駄目だわ……。どこの病院も負傷者で溢れ返ってて、これ以上の受け入れは無理だって……」

「そう……。せめて、やよいと真だけでも病院で診てもらいたかったんだけど……」

 

 痛ましい表情でうつむく伊織。オーブが受けたダメージは深刻であり、やよいと真にもフィードバックされて意識不明の状態が続いているのだった。アイドルがこんなに重い被害を受けるのは初めてであり、皆の心に暗い影を差していた。

 

「真ちゃん……やよいちゃん……。うぅ、ひどい……ひどいよ、こんな……」

 

 雪歩が目を覚まさない真とやよいの顔を見つめ、ポロポロと涙をこぼした。その傍らでは、春香がうつむきながら口を開く。

 

「うん……ひどいよ、こんなこと……。感謝際ライブももうすぐなのに、みんなにこんなことをして……」

 

 そして絞り出すように、震える声でひと言言い放った。

 

「許せないっ……!」

「……春香ちゃん……?」

 

 何だか様子が普段と異なる春香に、雪歩は思わず振り向いた。

 

「それで、社長は?」

「とても事務所に戻れないって……。怪獣の被害のせいで、交通網は完全に麻痺しちゃってるし……」

 

 伊織と小鳥が話している中で、ガイのまぶたが痙攣して目がゆっくり開かれた。

 

「うッ……ここは……」

「プロデューサーが目を覚ましたわっ!」

 

 看病していた千早の呼びかけで、アイドルたちは一斉にガイの周りに押し寄せた。

 

「俺は、どうなって……そうか……」

 

 先ほどのことを思い返したガイは現状を呑み込み、春香たちに頭を下げた。

 

「みんな、ありがとう……」

「いえ、そんな……」

 

 次いでガイの視線は、まだ横たわったままのやよいと真に向く。

 

「やよい! 真ッ! くそぉッ……!」

 

 跳ね起きようとするガイをあずさと小鳥が慌てて押しとどめた。

 

「だ、駄目ですよプロデューサーさん! まだ安静にしてなくちゃ……!」

「今までで一番ひどい怪我だったんですよ!?」

「大丈夫です……! うッ……!」

 

 それでも立ち上がろうとするガイだったが、全身に激痛が走って硬直した。

 

「だから言ったじゃないですか……! もう少し休んでないと……!」

「すいません……」

「私、何か消化にいいもの作りますね……!」

 

 あずさたちがガイを寝かす中、給湯室へ行く春香だが、そこでは繪里子がお茶を啜っていた。

 

「せっかく春香に会いに来たのに、大変なことになっちゃったわ……」

「……ママ、早くどこか安全なところに避難して。ここにもいつ怪獣が来るか……」

「あなたは?」

「私はここに残るよ……」

 

 と答えた春香に、繪里子は駄々をこねる。

 

「どうしてよぉ~!? こんな物騒なところにいないで、ママと一緒に帰りましょうよ。もう無理矢理結婚させようとしないからぁ」

 

 それに春香は、次のように告げた。

 

「私には……まだやれることがあるから」

「やれること?」

「それに、この765プロは私の夢を叶えてくれる場所なの。私、こんなに夢中になれることなんて他にない……! どうしても、この場所を守りたいの……! だから、お願い……!」

 

 春香の一生懸命な眼差しを、正面から受け止める繪里子。

 ――その時、事務所に律子と亜美真美の三人が駆け込んできて、律子が一番に呼びかけた。

 

「みんな、玉響姫を捜すわよっ!」

「えっ!?」

「ど、どういうこと?」

 

 呆気にとられた伊織が聞き返すと、律子は早口で理由を説明する。

 

「マガオロチはもうすぐ目覚めるわ! 早くどうにかする方法を見つけないと! マガオロチを封印した玉響姫の古墳を調べれば、何か掴めるかもしれないわ! そういうことだから急いで!」

「もう車の準備は出来てるよー!」

「みんな、早く早くー!」

 

 律子たちは伊織や雪歩、千早を引っ張って急かす。

 

「あずささんと小鳥さんはやよいたちを診ててあげて下さい」

「は、はい……!」

「よーしっ! それじゃあ行きましょうっ!」

 

 そこに話を聞きつけた繪里子がノリノリで加わってきたので、律子たちは思わず唖然とした。春香は繪里子に飛びついて止めようとする。

 

「ママ、何言ってるの!? 危ないよ!」

「そっちこそ危ないことするんじゃないの。娘が危険なところに行くのに、お母さんが同伴しちゃいけないなんて馬鹿な話はないでしょう?」

 

 繪里子は春香を言いくるめ、更に告げた。

 

「それにね、私も知りたくなったの。このプロダクションの何が、そんなにあなたを夢中にさせるのかって」

「ママ……」

「それじゃー出発よ! 急ぐんでしょ?」

「は、はい!」

 

 どうしてか繪里子が先頭に立って皆を引っ張っていき、アイドルたち一行は階段を駆け下りていく。その最中に律子が千早に問いかけた。

 

「ところで美希と響と貴音はどうしちゃったの?」

「それがまだ戻ってなくて……」

「もうっ! こんな時にどこへ行っちゃったのかしら、あの三人!」

 

 一行をハラハラとしながら見送ったあずさと小鳥だが、その時にガイが腰を浮かしたので慌てて振り返った。

 

「プロデューサーさん! だから寝てなくちゃ駄目ですよ!」

「そういう訳にはいかないんですッ!」

「今また怪獣に挑んでも、やられるだけです!」

「そうじゃありませんッ!」

 

 説得する小鳥にガイは言い返した。

 

「先輩方の力が……ウルトラフュージョンカードを入れたホルダーがなくなってるんですッ!!」

「えぇぇっ!?」

 

 流石にあずさと小鳥も驚愕した。カードがなければ……ガイはオーブになることが出来ない!

 

「どっかに落としたんですか!?」

「そんなはずないです! きっとあいつだ……!」

 

 ガイはギリリ……と奥歯を軋ませた。

 

「ジャグラーの奴が盗っていきやがったんだッ!」

 

 

 

 春香たちが再び入らずの森へと向かっている一方で、美希と響、貴音はすっかり廃墟と化した街の中、膝を突きながら辺りを探し回っていた。

 

「ねぇ美希、やっぱり一度事務所に戻った方がいいんじゃないか? きっとみんな心配してるぞ……」

「それに、本当に見たのですか? 一向に見つかりませんが……」

「いいから一緒に探して! 確かに、この辺りに落ちてったの……!」

 

 戸惑う響と貴音をピシャリとはねのけて、美希は一心不乱に周囲に目を走らせる。

 するとその末に、瓦礫の陰で一瞬ピカリと光るものを発見した。

 

「あった!」

 

 美希はすぐにそこへ駆け寄り、手を伸ばして光を放つものを手に取った。彼女の側へ駆け寄る響と貴音。

 

「見つかったのか!?」

「間違いないのですか?」

「間違いないの! ほらっ!」

 

 美希が二人に見せたのは――胸と肩に突起状の勲章が並ぶウルトラ戦士の絵柄のカードだった。

 

「マガオロチを封印してたカードに違いないの! これがあれば……!」

 

 美希はカードを握り締めたまま、事務所の方向へ走り出す。その後を響と貴音が追いかけていった。

 

 

 

 入らずの森に到着した春香たちは直ちに森に入り、玉響姫の姿を求めて森の中を捜索していた。

 

「玉響姫ー! どうか出てきて下さーい!」

「お願ーい! 助けてー!」

「玉響姫さまー! 真美たちを助けてよぉ~!」

 

 雪歩、亜美、真美が懸命に森中に呼びかけるが、反応はない。首をひねる春香。

 

「おかしいなぁ……。前に助けてくれた時は、確かこの辺だったのに……」

「反応が全くないわ……。どうしてこんな時に姿を消してるのかしら……」

 

 律子の持つレーダーも無反応で、一行は困り果てていた。

 

「玉響姫、どうかもう一度姿を見せて――わぁっ!?」

 

 どんがらがっしゃーん!

 春香が石碑につまずいてスッ転んだ。

 

「もう、春香ったらまたやって。飽きないわね」

「べ、別にわざとやってる訳じゃ……」

「あっ、見て!」

 

 千早が、春香のつまずいた石碑を指し示した。

 

「石碑が粉々になってるわ!」

「えぇ!? ほんとだ!」

 

 千早の言う通り、石碑は砕け散ってバラバラになっていた。破片は辺りに転がっている。

 

「きっとマガオロチに壊されたんだわ。もしかして、このせいで出てこられないんじゃ……」

「だったら破片を全部集めて、復元してみましょうよ!」

「いいねそれ! すぐやろう!」

 

 伊織の提案に亜美が賛同し、一同は協力して破片を集めて石碑を元の形に組み合わせていく。……が、そんな中で春香がふと繪里子を見やった。

 

「ママ、何してるの?」

 

 繪里子は彼女たちを手伝いもせず、その場に腰を落として何かを土の中に埋めていた。

 

「何って、お花の種を撒いてるのよ」

「お花?」

「うん。一徹君連れて買い物してる時に、珍しいお花の種を見つけたの。すっごい綺麗なお花が咲くのよぉ」

「でも、今そんなことしてる場合じゃないよね!?」

 

 突っ込む春香だが、繪里子は構わずに雪歩へ振り向いた。

 

「ねぇあなた、お水持ってきてよ」

「え? お水?」

「表の公園に水道があったでしょ? さぁ、ダッシュ!」

「は、はいぃ!」

「あっ、雪歩!」

 

 お人好しの雪歩は言われるままに走っていった。呼び止めるのが間に合わなかった春香は繪里子に文句をつける。

 

「ママいい加減にしてよぉ! のんきにお花植えるために来たんじゃないんだって!」

「そんなにカリカリしないの。ほら、あなたも手伝って。はい」

「だから……」

 

 種を手渡した春香に、繪里子はひと言告げた。

 

「大地は、命を待ってるのよ」

「え? 命を……?」

「どんなに破壊されても大地はあきらめないの。いつだって、新しい命を育てようって、待ち構えてるの。……あなたもお母さんになったら、このこと分かるようになるわ」

 

 母の言葉に、春香は思わず口を閉ざして手の中の種を見つめた。

 一方で千早たちは石碑の破片を一箇所に集めていた。律子が石碑に分析機をかざす。

 

「この石碑には磁気反応があるわ! 何らかのエネルギーを持ってるに違いない!」

「やっぱり石碑が要なのね!」

「すぐ直そうよ!」

 

 伊織や真美らが張り切って石碑の破片を合わせているところに、雪歩が如雨露を持って戻ってきた。

 

「お水持ってきましたぁ!」

「はいありがとっ!」

「ちょっと雪歩! 遊んでないで手伝いさないよっ!」

「ち、ちょっと待ってよぉ~!」

 

 伊織に急かされて小走りで石碑の復元に加わる雪歩。そんな中でも、繪里子は種を土の中に植えていた。

 

 

 

 マガオロチがいつ行動を再開するか不明瞭な中、ガイはあずさたちの制止を振り切って一人、ジャグラーの行方を捜して街の中を徘徊していた。と、陸橋に差し掛かったところで、

 

「探し物は……これですか?」

 

 ジャグラーが、ガイから盗んだカードホルダーを片手に待ち受けていた。

 ガイは厳めしい面で、ジャグラーの手首を掴む。

 

「返せッ……!」

 

 二人は言葉もなく格闘になるが……負傷が癒え切っていないガイでは歯が立たず、側の手すりに叩きつけられた。

 

「ぐぅぅッ! はぁッ……はぁッ……」

「……お前かっこわりぃな」

 

 ジャグラーは冷めた視線で、うずくまったガイを見下す。

 

「お前ホントかっこわりぃからさ……せめて自分の負けを認めて、俺の勝ちを称えろ。そしたらお前の大事なアイドルたちだけは助けてやっから」

「……ふざけんなッ……!」

 

 心にもない発言に、怒りに打ち震えながら立ち上がるガイを、ジャグラーは嘲笑。

 

「ハッハッハッハッ! 負け犬の遠吠えって奴か?」

 

 その背後で、遂にマガオロチが起き上がって活動を再開した!

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「始まった……!」

 

 ガイはマガオロチの威容を見上げ、息を呑む――。

 

 

 

 春香たちは全部の破片を組み合わせて、石碑の復元を完了した。

 

「出来たぁーっ!」

 

 喜びに沸く春香たちだったが……特に何も起きなかった。

 

「ちょっと! 何も出てこないじゃないっ! これどういうこと!?」

「言い出したのいおりんじゃん!?」

 

 伊織に真美が突っ込んでいると、律子のタブレットの画面にマガオロチの活動再開のニュースが飛び込んできた。

 

「あっちが復活してるじゃないの! しかもこっち来るし!」

「す、すぐ逃げましょう!」

「玉響姫はどうするのぉ!?」

「命の方が大事よっ!」

 

 伊織や雪歩らが慌てふためいている一方で、春香は繪里子へ呼びかける。

 

「ママ、みんなと一緒に逃げて! ここにいたら危ないっ!」

「やだ。怪獣こっちに来るの?」

「そうなの! だから早く……!」

「じゃあちょっと待ってね。お水あげたら最後だから」

 

 繪里子はマイペースに、植えた種に如雨露の水を浴びせる。

 

「もうそんな悠長な……!」

 

 もどかしい春香だったが……水を浴びた種が、光とともに発芽したので仲間ともども面食らった。

 

「早っ!!」

「いくら何でも早すぎるでしょ! 今植えたとこじゃない!」

 

 律子が叫んでいると、芽から生じている光の中から――玉響姫の幽体が現れたのだった。

 

「た、玉響姫!!」

「こっちが正解だったんだ……!」

 

 更に玉響姫を中心に光が広がっていき、律子たちの視界がまばゆい輝きで覆われる。

 

「うわまぶしっ!」

 

 玉響姫の光はそのまま上昇していき、彼女たちの元からいずこかへと飛び去っていった。

 

「行っちゃった……」

「きっと、マガオロチを止めに……!」

 

 言いかけた千早が、ふと辺りに目を走らせて気がついた。

 

「ちょっと待って……。春香、どこ行っちゃったの……?」

「えっ……。あれ、いない!?」

 

 気がつけば、玉響姫とともに春香の姿までが忽然と消えていた。唖然とする律子と雪歩。

 

「まさか、玉響姫が連れてっちゃった!?」

「でもどうして春香ちゃんを……?」

「あらら……あの子人気者なのねぇ」

 

 繪里子がとぼけたことをつぶやいた時、律子のケータイに着信。響からであった。

 

『律子! プロデューサーそっちにいない!? 自分たちさっき事務所に戻ったんだけど、すれ違いになっちゃって! 美希は捜しに行くってまた飛び出してっちゃったし……』

「いないわ! って言うかあんたたちがどこで何してたのよずっと!」

 

 律子が問い返すと、響はこのように返答した。

 

『マガオロチを封印してたカードを見つけたのっ!』

「えぇぇ!?」

 

 

 

 当の春香は、律子の推測通り、まだ玉響姫の光の中にいた。

 

「玉響姫……どうして私を……?」

 

 自分と向かい合っている玉響姫に春香が問いかけると、玉響姫は言った。

 

『あなたに、これを渡します』

 

 玉響姫から、一枚のカードを受け取る春香。絵柄に目を落とした春香は、思わず息を呑んだ。

 

「これは……!?」

『マガオロチの封印を破った、闇の覇者の力です』

 

 漆黒のウルトラマンのカード……。それから指に伝わる異様な波動を感じて、春香は内心震える。

 そんな彼女に告げる玉響姫。

 

『光あるところに闇もまたあり。光が強いほど、闇も色濃くなります。ひと際強い光の意志を受け継ぐあなたなら、その力を扱うことが出来ます』

「私が……!」

『でも気をつけて。闇を覗き込む者を、闇もまた見ています。強すぎる力は、災いをもたらすこともあります……。どうか、闇に呑まれないよう……』

 

 玉響姫の警告を最後に光の空間は薄れていき――春香は廃墟の街の真ん中に降り立った。

 

 

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「くぅッ……!」

 

 進撃を再開したマガオロチの進行先に回り込むガイ。しかし、ジャグラーには結局逃げられてしまいカードは取り戻せずじまい。

 とそこに、美希が駆けつけてくる。

 

「ハニー!」

「美希!?」

「ハニーならきっとこっちに来るだろうと思って……!」

 

 美希はすぐに、先ほど発見したカードをガイに差し出す。

 

「これっ!」

「これは、ゾフィーさんの力! 見つけてきてくれたのか……!」

「このカードだったら、きっとマガオロチにも負けないのっ!」

 

 期待する美希だったが、ガイは苦渋を噛み締める。

 

「すまないが……フュージョンアップできないんだ! 他のカードを全てジャグラーに盗られちまった……!」

「えぇっ!?」

「一枚だけじゃ、変身は不可能だ……! どうすれば……」

 

 悩み苦しむガイと美希の元へ、春香も駆けてきた。

 

「プロデューサーさーんっ!」

「春香!! お前までどうしてここに……!」

「玉響姫が送ってくれたんです! それにこれも……!」

 

 春香が差し出したカードに、ガイもまた目を見張った。

 

「ベリアル……!」

「これでフュージョンアップできますか……?」

「……ああ! やろうッ!」

 

 一瞬迷ったものの、決心をつけたガイの呼びかけに美希と春香はうなずき、フュージョンアップの準備に移った。

 マガオロチは少しずつこちらへ迫ってきている。それに立ち向かうため、三人はオーブリングとカードを構えた!

 



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I Want 祝福(B)

 

 まずは美希がゾフィーのカードをリングへ通す。

 

「ゾフィーっ!」

 

 リングの間を通されたカードは光の粒子となって、美希の横にゾフィーのビジョンとなって立った。

 

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

 

 次いで、春香が黒いウルトラマン――ウルトラマンベリアルのカードを掲げる。

 

「ベリアルさんっ!」

 

 そしてリングに通す――。

 のだが、ベリアルのカードは差し込もうとしたところでリングと反発し、春香とガイは弾き飛ばされてしまう!

 

「きゃあっ!?」

「うわぁッ!」

「えっ!?」

 

 動揺する美希。その動きとゾフィーのビジョンが連動する。

 

「べ、ベリアルさんっ……!」

 

 春香たちはすぐに起き上がって、再び試す。

 

「お願いしますッ!」

 

 二人で協力して、無理矢理にでもリングの間に通そうとするも、やはり弾かれてしまう。

 

「ぐあぁッ!」

「そんな……! これが最後の希望なのに……!」

「ミキも手伝うのっ!」

 

 美希が春香に駆け寄って彼女の腕に手を添え、力を貸す。

 

「頼みますッ! ベリアルさん……!」

 

 三人がかりでカードを通そうとするも、てこずっている間にマガオロチが目前まで接近してきた!

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「ま、まずい……! 早くしないとっ!」

 

 焦る春香だが、その時に三人の前に玉響姫が現れて、マガオロチへと手の平からの波動を飛ばして光の球の中に閉じ込める。

 

「玉響姫っ!?」

『早くカードを! この足止めも長くは持ちません! その力を使いこなしなさいっ!』

 

 オーブを圧倒したマガオロチの力を、玉響姫単独で長時間止められるはずがない。春香たちはすぐにベリアルのカードをリングに通すことに専念する。

 

「うぅぅぅぅっ……!」

「お……お願いしますっ……!」

 

 三人が歯を食いしばり、全力を出して押し込もうとしても、やはりカードは途中で止まってしまって動かない。そうして苦戦している内に、マガオロチは電撃光線を吐いて光球にヒビを入れる。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「っ――!!」

 

 息を呑むガイへ、玉響姫は一瞬振り返り、言葉を向けた――。

 次の瞬間に光球が砕け散り、電撃光線が爆炎を生み出す!

 

「うああぁぁぁぁっ!」

 

 熱風に煽られるガイたち。顔を上げると――玉響姫のいた場所は破壊し尽くされていて――。

 玉響姫の姿はどこにもなかった――。

 

「――ッ!!」

 

 それを理解したガイの顔が憤怒で染まり――春香の瞳からは光が消える。

 

「――わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 感情の爆発のままに春香がカードをリングに突き出すと――カードは光の粒子に変化した。

 

[ウルトラマンベリアル!]

『フハハハハハハハッ!!』

 

 空間を破ってベリアルのビジョンが現れ、ガイたちはもがくような動きとともにリングと腕を掲げる。

 

「うおおおおああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」

[フュージョンアップ!]

 

 オーブリングから金、紫、そしてどす黒い赤の波動が生じ、ゾフィーとベリアルのビジョンが美希と春香を巻き込みながらガイと融合した。

 

『ヘアッ!』『テェェアッ!』

[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]

 

 宇宙牢獄を突き破り、膨大な光と闇の渦巻く空間からオーブが飛び出していく――!

 

 

 

 765プロ事務所では、やよいと真が何かを感じ取ったかのように、急に跳ね起きた。

 

「うぅ……!」

「こ、ここは、事務所……?」

「やよいちゃんっ! 真ちゃんっ!」

 

 小鳥やあずさ、響と貴音が驚いて側に駆け寄った。真は小鳥たちに一番に尋ねる。

 

「怪獣は……!? 怪獣はどうなったんですか!?」

「ち、ちょっと待って。今見せるから……!」

 

 小鳥がタブレットの画面を開いて、緊急速報の画面を見せるが――そこに映っていたのは、マガオロチの姿だけではなかった。

 

「えっ……!?」

 

 マガオロチの前方に、巨人が立ちはだかっている。その胸に輝く円形のカラータイマーは、彼女たちのよく見慣れたものだ。

 

「オーブ……プロデューサー!? でも……!」

 

 

 

 入らずの森では、律子たちも同じようにタブレットの画面に集中していた。

 

「ウルトラマンオーブだわ……! 間違いない……!」

 

 律子は巨人の特徴から、オーブだと判断する。――が、それなのに伊織は信じられないという顔をしている。

 

「で、でも、この姿何よ!? 一体何がどうしちゃったら、こんなことに……!?」

 

 画面に映るオーブの姿は――指の爪が鋭く尖り、眼もひどく吊り上がっていて、筋肉が隆々と盛り上がった肉体からは、画面越しからでも伝わるほど獰猛な気配を発していた。触れればその途端に腕を持っていかれそうな、あまりに凶悪な風貌は、目がおかしくなったのかと律子たちが思ってしまうほどであった。

 これが、強靭な光の力を秘めたるゾフィーと、暗黒の闇に染まり切ったベリアルの力を宿した、本来ならば存在するはずのない光と闇の戦士、サンダーブレスターなのである――。

 

 

 

 着地の衝撃だけで周囲のビルを倒壊させたオーブ・サンダーブレスターの内部の超空間では、美希までもが当惑を覚えていた。

 

『「こ、これがフュージョンアップした結果……!? いくら何でも、何かが行き過ぎてるんじゃないかな……?」』

 

 内部空間までもが異様な空気に覆われていて、落ち着かないようにキョロキョロしている美希だが――その傍らの春香に異変が生じた。

 

『「うっ……あっ……あうっ……!?」』

『「春香!?」』

 

 春香の身体を赤黒い稲妻が覆い、春香がうめき声を出しながら身悶えしている。仰天する美希。

 

『「は、春香! 大丈夫なの!?」』

 

 思わず春香の肩に触れようとしたが、その刹那に稲妻の閃光がより激しくなり、美希の手が弾かれた。

 

『「きゃっ!?」』

 

 春香自身は大量の稲妻に包まれ、のけ反って金切り声を発した。

 

『「ああああああああああああ――――――――――――――っ!!」』

『「春香!? 春香ぁぁぁぁ――――――――っ!!」』

 

 絶叫する美希だったが――稲妻が収まると、意外にも春香は傷一つなくその場に顔を伏せたまま立ち尽くすだけだった。

 

『「春香、大丈夫なの……?」』

 

 美希が気遣った、瞬間――春香は急に顔を真上に上げて高笑いを飛ばした。

 

『「アハハハハハハハハハっ!!」』

『「春香……!?」』

 

 何が何やら理解できず、冷や汗まみれの美希だったが、春香は極めて好調子で前を向いた。

 しかし――彼女の雰囲気が先ほどまでとは完全に変わっていることを、美希はすぐに見て取った。しかもいつの間にか、黒いマントを羽織っている。

 今の春香は、貴族か皇帝か――あるいは暴君のような、相手を圧倒させる重々しいプレッシャーを纏っていた。

 

『「ふふふ……」』

 

 春香は妙に艶やかな唇を吊り上げて、こちらを警戒している様子のマガオロチをじっと見据えた。

 

『「人様の街で好き勝手に暴れて……私の仲間にもプロデューサーさんにも手を出して……随分と傍若無人な振る舞いをしてくれたじゃない。――トカゲの分際で」』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチは春香の挑発の台詞が聞こえたかのように大気を震動させる咆哮を発したが、春香は少しもひるまずに手をツイッと持ち上げた。

 

『「――お仕置きよ」』

 

 春香がマントを翻したのを合図とするように、オーブがマガオロチへと突撃していく!

 

「ウオオオオッ!」

 

 マガオロチのマガクリスタルを掴んで捕らえると、その首筋に何度も拳を叩きつける。するとこれだけで甲殻にヒビが走り、マガオロチが悲鳴を発した。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

『「す、すごい力……!」』

 

 サンダーブレスターの攻撃力に美希が目を見張った。一戦目ではどんな技で攻撃しようとマガオロチには全く通用しなかったのに、サンダーブレスターはただ殴っているだけでこれだ!

 春香はマガオロチを痛めつけながら叫ぶ。

 

『「畏れ! ひれ伏し! 崇め奉りなさいっ!」』

 

 更にオーブはマガクリスタルを掴んだまま、マガオロチを引っ張っていき――。

 

『「そこに跪いて!!」』

 

 相手の顔面をビルごと地面に叩きつけた!

 

『「!!?」』

 

 マガオロチに押し潰されてビルが粉々になったことに、美希は驚愕して春香に飛びついた。

 

『「や、やり過ぎなのっ! 今のビルに逃げ遅れた人がいたらどうするつもり!?」』

 

 真っ青になりながら春香を止めようとしたが――。

 

『「邪魔よっ!!」』

『「きゃっ!?」』

 

 春香にドンッ! と突き飛ばされた。

 しりもちを突いて唖然とする美希。あの春香が……自分を突き飛ばした!

 

『「は、春香……!?」』

『「そこで見てなさい」』

 

 春香はこちらを一瞥もしないで、冷淡に吐き捨てた。

 愕然とする美希。これまでフュージョンアップは、二人の息と心を合わせることで力を発揮していたのに――今は春香の意志だけでオーブの身体を突き動かしている!

 

『「は、ハニーから何か言って!」』

 

 美希は思わずオーブに助けを求めたが、

 

「ウオオオオオオオオッ!」

 

 オーブはうなり声を発するだけで、美希の声に全く応じなかった。

 

『「ハニー!? 正気を失って……!」』

 

 わなわなと震えながら、美希は立ち上がることが出来なかった。

 仲間と共に在るはずなのに――今の美希は、孤立しているのだ。

 

「ウオッ! ウオッ! ウオッ! ウオォォッ!」

 

 オーブはひたすらに、馬乗りになったマガオロチの頭部に拳を振り下ろしていた。

 

 

 

 戦場の側のビルの屋上に上がってきたジャグラーは、サンダーブレスターの姿を目の当たりにして絶句した。

 

『あいつら……闇のカードを使いやがったのかッ!』

 

 

 

「オオオオオオッ!」

 

 マガオロチを無理矢理起き上がらせたオーブは、相手の全身に蹴りや拳をぶち込んでじわじわと痛めつけていく。

 

『「少しは痛いというのがどういうことか分かったかしら!?」』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 だがマガオロチもやられたままではいられない。攻撃の合間を突いて打撃を返し、オーブに反撃する。

 

『「鬱陶しいっ!」』

 

 だがオーブの筋肉の鎧の前には然したる効果はなかった。腹部に強烈な前蹴りを入れられて悶絶する。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

「フゥゥ……!」

 

 その隙にオーブは手近なビルを鷲掴みにして引っこ抜き、全力でマガオロチに投げつけた。

 

『「そぅらっ! プレゼントよ!」』

 

 投擲されたビルはマガオロチに直撃し、強烈な衝撃でマガオロチがひるんだ。

 

 

 

 現在のオーブの戦いぶりを、タブレット越しに律子たちが見ていた。

 

「まぁ……オーブって乱暴なのね」

 

 繪里子はのんきなことをつぶやいているが、律子たちは唖然と言葉をなくしていた。

 

「な……何よこの戦い方……」

「いつものオーブじゃないよぉ……」

 

 伊織が声を絞り出し、雪歩や亜美真美は少し怯えていた。

 

「……」

 

 千早と律子は、周囲の被害など気にする様子もなくマガオロチを痛めつけるオーブの様子に、ゴクリと固唾を呑んだ。

 

 

 

 マガオロチが反撃に打って出て、尻尾を振り回してオーブに叩きつけたが、オーブは脇に抱え込む形で受け止め、マガオロチを逆に振り回す。

 

『「生意気なのよっ! 思い知りなさいっ!」』

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチがビルの側面に叩きつけられ、そのビルは跡形もなく砕け散った。

 

「ウオォッ!」

 

 オーブは再度マガオロチの尻尾を捕らえ、引っ張って伸ばすと右腕を肩の上に掲げた。

 

『「今度は自分が奪われる立場になってみる!?」』

 

 オーブの手に、赤黒く歯がズラリと並んだ光輪が発生する。

 

『「ゼットシウム光輪っっ!」』

 

 その光輪を尻尾のつけ根に振り下ろし、尾を根本からズタズタに切断した!

 

「キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 尻尾を奪われて絶叫するマガオロチ。対するオーブは切り取った尻尾を振りかぶる。

 

『「返してあげようかしら!? そぉれっ!!」』

 

 思い切り振り抜いた尾で、マガオロチの首をぶん殴った。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 戦いが続くに連れて肉体が破損、欠損していくマガオロチは最後のあがきかのように電撃光線を放射。オーブはそれを、尾を盾にしてガード。

 

『「邪魔ねこれ」』

 

 しかしすぐ尻尾を投げ捨て、続く光線は手の平で受け止めて払いのけながらマガオロチににじり寄っていく。

 

『「ギャアギャア喚くんじゃないわよ! みっともないっ!!」』

 

 マガオロチの喉元をガッチリと掴むと、片腕でその巨体を軽々と投げ捨てる。

 

「ウアアァァッ!」

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 マガオロチは数棟のビルに衝突して横倒れとなった。

 一戦目とは正反対にマガオロチを圧倒し続けるオーブへ、たまらなくなったジャグラーが喚き散らす。

 

『何でだよガイッ! 闇の力まで使いやがってよぉぉッ! そんなに俺をコケにするのが好きなのか!? 何もかも俺から奪ってくつもりかよッ! 一度ぐらい俺に勝たせろよこのヤロォォォォ――――――ッ!!』

 

 そんなことは知らず、オーブはいよいよとどめの一撃を繰り出す構えを取る。

 

『「これが閉幕のベルよ……!」』

 

 カラータイマーが激しくスパークすると、広げる腕とともに光と闇のエネルギーが円形に充填されていく。

 

「ウオオオオオォォォォォォォッ!!」

 

 最高潮に達したエネルギーが両の腕に宿り、十字を組んで炸裂させる。

 同じ動きで腕の十字を作る春香に、一瞬ベリアルの面影が覆い被さった――。

 

『「ゼットシウム光線っっ!」』

 

 発射された光の奔流と暗黒の稲妻の複合光線がマガオロチを撃ち抜き、後方へ押し込んでいく。

 

「グアアァァァ! キィィィヤアアアァァァッ!」

 

 甲殻が砕け散り、肉がえぐられ、血しぶきが飛び散りながら崩壊していくマガオロチが、光線を浴び続けた末に凄絶な爆炎の中に消えた――。

 

『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――――――ッッ!!』

 

 同時に狂ったように絶叫したジャグラーが、ガクリと肩を落として、オーブに背を向けて人間態に戻った。

 

「ハァァッ!」

 

 マガオロチを抹殺したオーブは、ジャグラーに振り返ることなく空に飛び上がって、この場から去っていった――。

 

 

 

 ――春香たちは戦場跡の中心で、フュージョンアップを解除して元に戻っていた。

 

「……あっ……」

 

 元々の服装に戻った春香はハッと顔を上げ、額に脂汗を噴き出しながら最早元の光景が見る影もない街の惨状を、呆然と見回した。

 

「……私……これを、私がやったの……?」

 

 春香は思い返す。オーブリングにベリアルのカードを通してから、フュージョンアップしている間――自分が何をしたのかということを、冷静になった今の状態で。

 ふと後ろに振り返る春香。自分の背後では、美希が両膝を地面に突いた姿勢で自分を見上げていた。

 その美希の瞳は――知らない誰かを見上げる臆病な小猫のようだった。

 

「……春香は、どうしてそうなっちゃったの……?」

 

 それが美希の精一杯の言葉だった。

 

「っ――」

 

 春香が口を開いたまま、立ちすくんで一歩も動かない様子を、遠くからガイが虚無に染まった顔で目の当たりにしていた。

 そのまま、彼女たちに掛ける言葉もないガイが荒れ果てた裏通りに引っ込むと――倒れた信号機に腰掛けていたジャグラーが顔を上げた。

 

「……俺を笑いに来たのか?」

 

 自暴自棄な台詞を吐くジャグラーに対して、ガイは無言だった。

 

「かっこよかったよ……全てを破壊し尽くすお前の姿……。ほれぼれしたなぁ……」

 

 壊れた笑みを見せるジャグラーが立ち上がる。

 

「俺は潔く負けを認める……」

 

 そして奪ったカードホルダーを、ガイへと投げ渡した。

 そのまま立ち去ろうとしたジャグラーだが、不意に振り返ってガイに問う。

 

「楽しかっただろう……? 強大な力を手に入れて全てを破壊するのは……」

「……そんなことは」

「いい子ぶるなッ!!」

 

 ガイの返答を怒声でさえぎるジャグラー。

 

「あれが他ならぬお前の姿だよ……! お前が闇に染まったから、あの娘もまた闇に呑まれた……! 全てはお前の責任……お前が闇にプロデュースしたのさ……!」

「……!」

「所詮お前は俺と同類だ……。関わる者をみんな、闇に落としちまうのさ……。せいぜい楽しめ……! ハハハハハハ……!」

 

 哄笑を残して、ジャグラーは廃墟の闇の中に消えていく。

 ガイはそれを追いかけることもなく、力なく立ち尽くしたままだった――。

 

 

 

 そわそわと不安そうに待っている律子たちの元に、美希とガイとともに春香が戻ってきた。それに気づいた千早が表情を明るくする。

 

「春香たちが戻ってきたわ! みんな無事よ!」

「ほんと!? よかったぁ~……!」

 

 律子たちはほっと安堵して、ガイたちを取り囲んだ。

 

「プロデューサー、ご無事でよかったです。あんなことがあったから……心配してたんですよ」

「ああ……悪い」

「やよいちゃんも真ちゃんも、目を覚ましたって連絡が。そっちももう心配いらないみたいです」

「そうか……よかった」

「……ねぇ、ほんとに大丈夫なの? 元気ないじゃない……」

 

 全く気力の感じられないガイを案じる伊織たち。同じく表情に色彩のない美希は千早と亜美真美が囲う。

 

「美希、何があったの? 話せる……?」

「千早さん……。後でお願いなの……」

 

 そして春香には、繪里子が向かい合う。

 

「春香、ちょっと見ない内にどうしちゃったのよ。魂が抜けたみたいじゃない」

 

 春香は一瞬何か言いかけたが――口をつぐんで取りやめた。

 

「何でもない……。それよりママ、これからどうするの?」

「そうねぇ……今日は色々あって疲れちゃったし、もう帰るとするわ」

 

 と答えた繪里子は、ふとガイの顔を見つめ、春香に告げた。

 

「握った手の中、愛が生まれる」

「え……?」

「ひいおばあちゃんの遺言なのよ。大事なことだから、忘れないようにね」

 

 どうしてそんなことを今言うのか。母の顔を見上げた春香に、繪里子は不敵な笑みを返した。

 

「あなたも頑張りなさいよ? ライバルはいっぱいいるみたいだし」

 

 そうと言い残して立ち去っていこうとする繪里子。

 

「あっ、送ってく」

「いいの。一徹君が送ってくれるから。じゃあね~」

「……じゃあね」

 

 春香に手を振った繪里子は、ガイとのすれ違いざまに、何かをひと言ふた言告げた。――すると、虚無感に溢れていたガイが目を見開いて、生気が戻った。

 

「……?」

 

 今度こそ繪里子が立ち去っていくと、春香はガイに尋ねかけた。

 

「プロデューサーさん、ママに何言われたんですか?」

「うん……。色々とすまなかったな。これからもっと頑張るからさ」

 

 ガイははぐらかして、何も教えてくれなかった。

 

「い、いや……だから何言われたのか教えて下さいよぉ!?」

 

 せがむ春香だったがガイは頑なに口を割らず、ハーモニカでいつものメロディを奏でた。

 

 

 

 森を抜けた繪里子は、ガイの奏でる曲が風に乗って耳に入り、思わず足を止めた。

 その前方に車が停まり、降りた渋川が繪里子へと駆け寄る。

 

「いきなり車回せなんて、義姉さんはいっつも突然なんだからもぉ~。……どうかしました?」

 

 曲に気を取られたままの繪里子に渋川が尋ねると、繪里子は聞き返してくる。

 

「このメロディ……気持ちがざわざわする……」

「ああ、これねぇ、プロデューサー君が吹いてるんですよ。よくハーモニカ吹いてるんです彼」

「……そう……そうだったの……」

 

 何かを得心したかのような繪里子だったが、フッと笑って渋川に向き直った。

 

「かーえろっ!」

「はい」

「けどその前に、買い物つき合って!」

「またですか!?」

「はーい出発出発!」

 

 無理矢理渋川に言うことを聞かせて助手席のドアを開く繪里子は、最後にもう一度、ハーモニカのメロディが聞こえてくる方向を見やった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

春香「天海春香です! 今回ご紹介するのは……光の国の悪に堕ちたウルトラ戦士、ウルトラマンベリアルです……!」

春香「ベリアルさんは映画『大怪獣バトル ウルトラ銀河伝説』で初登場しました。元々はウルトラの父の戦友だったのですが、ウルトラの父が宇宙警備隊隊長に任命されたことに嫉妬して力を追い求め、禁忌を破ってプラズマスパークを独り占めしようとしたためにウルトラの星を追放されてしまいました。そこをレイブラッド星人につけ込まれ、闇のウルトラマンに変えられてしまったんです」

春香「最初の宇宙を征服する陰謀をゼロさんに打ち砕かれてから、ゼロさんとの因縁が生まれました。アナザースペースでの決戦で完全に敗れて死亡したのですが、怪獣墓場で怨霊となって復活。一度はゼロさんの肉体を奪うなど、しつこく狙う姿が描かれました」

春香「そしてゼロさんの能力が逆効果となって完全に復活。新作『ウルトラマンジード』で再び暗躍するようで、ベリアルさんの悪行は未だ終わる気配がありません」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『I Want』だ!」

ガイ「CD『MASTER ARTIST 01』初出の春香ソロ曲で、普通の女の子天海春香のイメージからは随分とかけ離れた過激すぎる歌だ。何でこんな歌が作られたのかは、簡単に言えば、公式の悪ノリってとこだろうな」

春香「私って特に中の人の影響を受けることが多いんですよねぇ……」

春香「次回もどうぞよろしくお願いします!」

 




 亜美だよ~。いよいよ開催された765プロ感謝祭ライブ! 色んなことがあったけど、それは置いてライブ頑張ろうっ! と張り切ったんだけど、またまた悪い宇宙人の邪魔が入るみたい! もぉ~許せないよそんなのー!
 次回『心のREST@RT』。ライブは絶対成功させるんだから!


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心のREST@RT

 

「あれが大魔王獣なんですね!?」

「な、何なのあいつ!? 魔王獣とは比べものになんない強さじゃんっ!!」

「オーブが、敗れた……」

「怪獣に怯え、東京から逃げ出す人が続出してます!」

「――わああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

「この姿何よ!?」

『「畏れ! ひれ伏し! 崇め奉りなさいっ!」』

「いつものオーブじゃないよぉ……」

「……私……これを、私がやったの……?」

 

 

 

『心のREST@RT』

 

 

 

 ――関東一帯を一時は壊滅の危機に落とし込んだマガオロチは、オーブ・サンダーブレスターによって撃破された。被害は怪獣災害の歴史上最大であったが、それでも人間はたくましく今日を生き、復興に取り掛かっている。

 そして本日は、765プロが初めて経験することになる大規模ライブ『765プロ感謝祭』の本番である。

 

「みんな、遂にこの日がやってきたわね! 今日はみんなの……ううん、765プロ全体の飛躍となるとっても大事な一日となるわ! いつも以上の力を出して、だけど焦らずに最高のステージにしてちょうだいね!」

 

 舞台となるアリーナの控え室で、小鳥がライブ開催を待つアイドルたちに精一杯のエールを送った。

 ……が、アイドルたちの雰囲気はどこかどんよりとしていた。

 

「あ、あれー……? みんな、どうしちゃったの? あんなに楽しみにしてたじゃない。それなのに今日そんな暗い顔してちゃいけないわ!」

 

 あんまりな状況に小鳥が冷や汗を垂らすと、春香が若干うつむきながら口を開いた。

 

「すみません……。でも、先日のことのショックが、抜け切らなくって……」

「ああ、あの戦いの……」

 

 小鳥はマガオロチとの決戦を思い出す。初戦では圧倒的な力でオーブを退け、やよいと真まで意識不明の状態に追いやったマガオロチも衝撃的ではあったが……今の彼女たちの心に影を落としているのは、それを倒したオーブの方であった。

 ウルトラマンベリアルの力を使用した、光と闇の戦士、サンダーブレスター……そのフュージョンアップは春香にも影響を与え、冷酷無比な覇者に変えてしまった。その春香が突き動かすオーブも、マガオロチを倒すためとはいえ周囲の被害を鑑みない残虐ファイトを行い、その姿は他の者たちにも強い衝撃をもたらしたのだった。それでこんな雰囲気になってしまっているのである。

 それでも小鳥は皆を元気づけようと、こう呼びかけた。

 

「だけど、今はあの時とは無関係でしょう? みんながこれから相手をするのは、大勢の人たち。凶悪な怪獣とは全然違うわ。みんながこれからするべきことは、観客の皆さんを楽しませること。この前のことはきっぱりと忘れて、ライブに集中すればいいのよ!」

 

 しかし、当事者故に最もショックの強い春香は、そう簡単には気分が切り替わらなかった。

 

「でも、あの時の私は、確かに私自身でした……。怒りに駆られて、あんなことをしでかしちゃったんです。あんな残酷な私が、どんな顔してステージに立てばいいのか……」

 

 落ち込んでいる春香を、先に立ち直ったやよいが励ます。

 

「大丈夫ですよ、春香さん!」

「やよい……」

「確かにちょっと暴れすぎだったかもしれないですけど、春香さんは正義のために戦ったじゃないですか! 春香さんが悪い人になったとか、そんなことは全然ないですぅ! だから大丈夫かなーって!」

 

 真もやよいに同調して春香に言葉を掛ける。

 

「そうだよ! 闇のカードも、もう使わなければいいだけじゃないか! 今までは闇の力なんかなくても勝ててたんだし、マガオロチが特別だっただけだよ。これからは光の力だけで戦う! それでおしまいにしよう」

 

 他のアイドルたちもうなずいて賛同。そして美希が春香に告げる。

 

「あの時は驚いちゃったけど、ミキももう気にしてないの。春香は今までどおりの春香だよ。だからお客さんたちにも、いつもの春香を見せればいいの!」

「美希……うん、ありがとう」

 

 最後に小鳥が言い聞かせる。

 

「生きてれば色んな苦しみを経験するわ。何もあの戦いが特別な苦しみなんてことはない。……だけどどんな時だって、輝いたステージに立てば最高の気分を味わえるの。こんな時こそ『ネヴァー・セイ・ネヴァー』、『出来ないなんて言わないで』の精神を思い出すのよ。いいかしら?」

「――はいっ! 天海春香、張り切って歌います!」

 

 小鳥の説得で春香も立ち直り、彼女の勢いに皆が笑顔となった。

 

 

 

 その頃、アリーナの通路のベンチに腰を掛けているガイの隣に、高木が腰を落とした。

 

「やぁガイ君、いよいよ本番当日がやってきたね」

「社長……」

「私も、みんなの輝くステージ姿を楽しみにしてたよ! ……だが、こんな日に君は何だか覇気がないね」

 

 高木は、ガイの不調を感じ取っていた。

 

「いかんねぇ、プロデューサーの君の不安はアイドルたちに伝わるよ。何を思い悩んでいるのか、話してみるといい。こういう時は一人で抱え込まないことが大切だよ」

 

 高木に諭されて、ガイは己の思いを吐露する。

 

「俺は……このままみんなと一緒にいていいのか、と思ってまして……」

「ほう……穏やかじゃない話だね」

「みんなを危険に巻き込んでしまってることは、前々から自覚してました。それでも上手くやってるからあまり意識はしてませんでしたが……この前の戦いで、遂にやよいと真にはっきりした危害が及んでしまいました。それどころか、春香があんなことに……」

 

 深刻な表情で一旦口を閉ざすガイ。

 

「……俺が不甲斐ないから、春香にもあんな影響が出てしまったんです。霧島ハルカから予言を受けてたのに……俺はそれを変えることが出来なかった……。もしもまた、みんなの身に被害が及んでしまうのだったら、いっそのこと……」

 

 と悩むガイに、高木は説いた。

 

「――生きるということは、明るいことばかりじゃないさ」

「社長……」

「それは彼女たちが、オーブにならなくても同じことだ。この世のみんなが何らかの形で悩み、苦しみ、傷つく。何も特別なことじゃあない。そこからどう立ち上がって歩いていくかが重要だよ。――それを私に教えてくれたのは、ガイ君、君じゃないか」

 

 高木の言葉に、ガイは思わず苦笑した。

 

「そうでしたね……。すっかり立場が入れ替わりましたね」

「ははは、君に比べて私は歳を取るのがずっと早い。――結論を出すには早いよ。何だかんだで、みんな無事に来てるじゃないか。君とのフュージョンアップも、誰かがやらなくてはいけないことだ。だから、まだみんなといて答えを探すといい。これからどうなっていくかは、みんなが、そして他でもない君自身が作り上げていくものだ」

「はい!」

「まぁともかく、今はみんなの晴れ舞台を見守ろうじゃないか。今日は君と私で育てた事務所の記念日となるんだからね」

 

 高木と相談して、気持ちが軽くなったガイの元へ春香を先頭にしたアイドルたちが小走りでやってきた。

 

「プロデューサーさん! ドームですよ、ドーム! って、うわぁぁぁっ!?」

 

 しかし掃除されたばかりでツルツルの床に足を滑らした春香がバランスを崩して、どんがらがっしゃーん! と行った。

 

「あったたたぁ……」

 

 春香のいつも通りのドジさに皆が噴き出す。

 

「もう、気をつけてよね春香。これから大事な本番なのに」

「全く、お前はしょうがない奴だな。ほら」

「す、すいません……」

 

 千早とガイに手を差し伸べられて、春香は起き上がった。

 その際に、春香とガイの手と手がきゅっと握られた。

 

 

 

 それから数時間後に、ライブのスタートが目前に迫った。

 

「いよいよだね……!」

「今日はサイコーに盛り上げるぞー! なんくるないさー!」

「皆の力を合わせて、悔いの残らぬすてぇじに致しましょう」

 

 雪歩、響、貴音がテンションを上げる。アイドル全員、ここまでのリハーサルで既に身体はほどよく温まっている。

 そしてステージに上がるまでの最後に、アイドルたち十三人で円陣を組んだ。

 

「それじゃあみんな! 力を出し切っていこうっ!」

 

 春香の音頭で、手を前に伸ばして集めたアイドルたちが声をそろえた。

 

「「「「「「765プロ、ファイトーっ!!!」」」」」」

 

 彼女たちの張り切る姿を、温かく見守るガイが送り出す。

 

「よし、頑張ってこいッ!」

 

 

 

 全員そろってのライブ開幕の挨拶と全員の歌唱後、最初のソロは千早。彼女の美声で観客のハートをがっちりと掴み、上々な出だしとなった。

 それからアイドルたちが立ち代わるソロ曲、デュエット、トリオなどのバリエーション豊かなステージの数々でアリーナ全体をどんどんと盛り上げていく。初めの重い雰囲気とは打って変わっての問題ない経過に、ガイたち裏方もすっかりと安心させられていた。

 

「……ふぅ~! 思いっきり歌ったぁ」

 

 ライブも半ばに差し掛かり、ソロ曲を歌い切った春香が一旦楽屋に戻ってきて腰を下ろし、タオルで汗をぬぐう。そんな彼女に次の出番を待つ真美が呼びかける。

 

「でもでもはるるん、ライブはまだまだこれからだよ。こんなんでやり切った顔してちゃあダメだよ~?」

「分かってるって。もちろん最後までやり切って、最高の一日にするんだから!」

 

 まだまだ春香が意欲に燃えているところに、楽屋の扉が外からノックされる。

 

「あら、誰かしら? どうぞ~」

 

 あずさが返答すると、入ってきたのは渋川だった。

 

「よッ! みんな調子よさそうだな。何より何より!」

「叔父さん? どうしたの? まさか、ここで何か事件が?」

 

 一瞬案じた春香だが、渋川は苦笑しながら手を振った。

 

「いや今日は非番だよ。実は義姉さんから、仕事で来られない自分に代わって春香ちゃんのステージを撮ってくるよう命じられててさ。ちょいと様子見に来ただけ」

 

 片手でビデオカメラを持ち上げる渋川。

 

「義姉さん色々言ってたけどさ、ほんとは春香ちゃんのアイドル活動を応援してるんだぜ。765プロのホームページの更新も欠かさずチェックしてるみたいだしさ」

「そうだったんだ! ママが……!」

 

 渋川から知らされたことに、春香は嬉しさが顔に表れる。

 

「これほんとは秘密にするよう言われてるから、内緒にしといてくれよ」

「うんっ! ありがとう、叔父さん」

「そんじゃあこの後も引き続き頑張ってくれよ! あばよ!」

「あばよ~!」

 

 渋川の決め台詞に亜美がノリノリで返し、渋川は春香たちに手を振られながら楽屋から退室していった。

 

 

 

 感謝祭ライブは好調に進行していたのだが……その裏で、ある宇宙人が良からぬ目論見を持って会場に忍び込んでいたことは、誰も知らなかった。

 

『クックックッ……紅ガイ、ウルトラマンオーブめ……。今日という一日を楽しんでいるようだが、それがこれから地獄に塗り替わるのだ! このクワーメの手によってなッ!』

 

 トイレの個室でほくそ笑んでいるのは、クワーメという名のグロテス星人。彼もまたオーブの命を狙う宇宙人なのであった。

 

『これまでの連中はどいつも回りくどい手を使うから失敗したのだ。俺はそんなヘマはやらないッ! もっとスマートに、速攻で奴を葬ってくれる!』

 

 クワーメは両手に、それぞれ怪しい緑色の液体が詰まったカプセルと武士のような形の厳めしい木彫りの人形を握った。

 

『会場内で新型グロテスセルをこの人形に入れ、魔神怪獣コダイゴンにしてやる! 会場は内側から木端微塵、たちまち地獄に変わってそのまま紅ガイも踏み潰す! それで何もかも終いという訳だッ! うははははははッ!』

 

 悪だくみを巡らすクワーメは人間の姿に擬態してトイレから出て、確実にガイを抹殺できるように765プロの楽屋に接近していく。

 

「ククク、奴が手塩に掛けてるアイドルの一人や二人でも潰してしまえば、奴も再起できまい。完璧な計画だぁ……ふははは……」

 

 自画自賛しながら笑い声を押し殺していると――。

 

「すみません。ここは関係者以外立ち入り禁止ですので、お引き返し願います」

「えッ!?」

 

 後ろからアリーナの警備員に呼び止められた。

 

「聞こえませんでしたか? ここは一般客の方は立ち入り禁止となってまして、すぐに観客席の方へお戻りいただきたいのですが」

「立て看板が目に入りませんでしたか?」

「えッ、あッ、いやぁそれは……」

 

 不意を突かれたクワーメは返答に窮し、その態度に警備員たちは不審な目を向ける。片方は応援を呼ぼうとトランシーバーに手を掛ける始末。

 クワーメは慌てて言った。

 

「あッ、ちょっと待って! 私は渋川一徹です! 天海春香の叔父の!」

「えッ?」

 

 ガイを抹殺する計画の立案の際に、765プロの人間の個人情報、家族関係も調べていた。その中から渋川の名を持ち出してごまかしに掛かった。

 

「いやぁ、ちょっと春香の様子を見に来まして。勝手に入ったのはすいませんでした。それじゃあこれで……」

「渋川一徹は俺だけど?」

「えぇぇーッ!?」

 

 だが背後から、楽屋から戻る途中だった渋川が忍び寄って、すかさずクワーメを締め上げて壁に押しつけた。

 

「怪しい奴めッ! 何で俺のこと知ってる!? 大人しくしろッ!」

「うぎゃあッ! や、やめ……!」

「危ないもん持ってんじゃないだろうな! んッ、こいつは何だ!?」

 

 慣れた手つきでボディチェックをする渋川がグロテスセルのカプセルを取り上げようとしたので、クワーメは仕方なく正体を現して彼を振り払った。

 

『ぬぅんッ!』

「うわッ!」

『おのれぇッ!』

 

 拘束をほどいたクワーメはカプセルと人形を持ったまま逃走していく。

 

「宇宙人めぇッ! 待て、待ちやがれーッ!」

 

 警備員たちが仰天する中、起き上がった渋川はすぐにクワーメを追いかけて走り出した。

 

 

 

 出番を終えたばかりの伊織と律子と段取りを話し合っていたガイは、急に顔色を変えて踵を返していた。それに慌ててついていく伊織たち。

 

「ち、ちょっとどうしたんですかプロデューサー?」

「怪しい気配がこの建物の中を動いてるのを感じた……! すぐ見つけ出さないと!」

「えぇっ!?」

 

 そう言って捜索していたガイの視線の先を、渋川に追われるクワーメが横切っていった。

 

「こらー! 待てーッ!」

「渋川さん!? それに……!」

「宇宙人もっ!」

 

 ガイは即座にクワーメを追って駆け出し、伊織と律子も慌てながらその後に続いた。

 ガイにまで追いかけられるようになったクワーメは、雪歩と真のステージ中だった会場内に飛び込み、観客たちは異形の姿に一気に狂乱となった。

 

「きゃああぁーっ!? 宇宙人よぉー!」

「み、皆さん! 慌てないで避難して下さいっ!」

 

 真たちは思わず歌を中断して観客たちに喚起した。一方でクワーメは、追いついてきた渋川とガイたちに振り返ってカプセルと人形を掲げる。

 

『えぇーいッ! こうなったらここでコダイゴンを出してやるッ!』

「何するつもりだ! そうはさせないぜッ!」

 

 渋川が腰に手を伸ばしたが、スーパーガンリボルバーを抜こうとした手の平が空を切った。

 

「あッそうだった! 非番だからないんだった!」

「悪いな! 借りるぜ!」

 

 うっかり屋な渋川に代わって、ガイが手近な客からサイリウムを二本ひったくってクワーメに投げつけた。

 

『あ痛ッ!』

 

 的確なコントロールでサイリウムがクワーメの両手を打ち、カプセルと人形を弾いた。その隙に渋川がクワーメにタックルして床に抑えつける。

 

「こいつめぇー! 大人しくしろってんだ!」

『ち、ちくしょーッ!』

 

 渋川と、協力した男性客たちに完全に取り押さえられたクワーメだったが、カプセルの蓋は既に開かれていたのだった!

 しかし人形は別の方向に転がっていったため、溢れ出て気化したグロテスセルは――近くの女の子が抱えていた緑色のぬいぐるみの中に入り込んでいった。

 

「あっ!? あたしのお人形がっ!」

 

 ぬいぐるみがボコボコと膨らんでいく。ガイはサッと顔色を青くして、女の子からぬいぐるみを取り上げる。

 

「君、ごめんなッ!」

 

 そのままアリーナの外へと全速力で走っていき、ぬいぐるみを力の限り遠くへ投げ捨てた。

 その先で、グロテスセルによって誕生した怪獣が立ち上がる!

 

「――ぴにゃあああああああっ!」

 

 ぬいぐるみがそのまま巨大化した怪獣――ぬいぐるみ怪獣コダイゴンぴにゃこら太が緩い咆哮を上げた。

 

「わああぁぁぁぁぁッ!? 人形が怪獣になったぞぉ!?」

「こ、こっちに来るわ!」

「ふ、踏み潰されるーッ!!」

 

「おっきいぴにゃこら太ー!」

 

 見た目は力が抜けそうだが、グロテスセルによって生み出された怪獣は凶暴凶悪。ズシンズシンと地響きを立ててアリーナに接近してくる。集まった大勢の人が避難する暇など、とてもではないがありはしない。

 そこでガイは、駆けつけた伊織と律子へうなずく。

 

「やるぞ!」

「ええ!」「分かりました!」

 

 伊織がウルトラマンギンガ、律子がウルトラマンエックスのカードを握る。

 

「ギンガっ!」

[ウルトラマンギンガ!]『ショオラッ!』

「エックスさんっ!」

[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』

「痺れる奴、頼みますッ!」

[ウルトラマンオーブ! ライトニングアタッカー!!]

 

 三人でフュージョンアップしてオーブ・ライトニングアタッカーに変身し、アリーナの盾となってぴにゃこら太の前に立ちはだかった。

 

『電光雷轟、闇を討つ!!』

「ぴにゃっ! ぴ~にゃ~!」

 

 ぴにゃこら太はすぐにオーブを敵と見定め、腕を伸ばして威嚇の構えを取った。――腕が短すぎるので大してポーズが変わっていないが。

 

「デアァッ!」

 

 オーブは腕に電光を纏いながら、ぴにゃこら太の腹部へ先制のパンチを仕掛ける!

 ――が、拳はボヨ~ンと腹に弾かれて体勢を崩しそうになった。

 

『「えぇーっ!? そんなのあり!?」』

 

 ガビン、とショックを受ける伊織。オーブは何度も素早い打撃をぴにゃこら太に入れるも、全てボヨンボヨンと弾かれて効果がなかった。

 

「ぴにゃあっ!」

「ウワァッ!」

 

 反対にぴにゃこら太のパンチ――は腕が短すぎるので出来ないのでほぼ体当たり――を食らって転倒する。見た目は力が抜けそうだが、新型グロテスセルのエネルギーは従来のものの三倍。ぴにゃこら太のパワーもあなどれないものがあるのだ。

 

『「打撃が効かないなら、これでっ!」』

 

 律子の判断で、バッと起き上がったオーブが頭部から三叉型の光弾を飛ばす。

 

「「『ギンガエックススラッシュ!!!」」』

 

 光弾がぴにゃこら太に綺麗に炸裂!

 ――が、身体に当たるとボヨヨ~ンと弾かれてあらぬ方向に飛んでいった。

 

『「嘘でしょ!?」』

『「光線もはね返すなんて……! 見た目からは想像もつかない強敵よ!」』

 

 おののく律子。オーブ、まさかのピンチ!

 

「にゃーぴにゃぴー!」

 

 ぴにゃこら太は羽もないのに滑空してオーブにタックルを決める。

 

「ウワァァァッ!」

 

 ぴにゃこら太のパワーに押されるオーブが地面に倒れ込んだ。

 

「ぴーにゃぴにゃぴにゃぴにゃ!」

 

 ぴにゃこら太は倒れたオーブに嘲笑を浴びせた。伊織が拳を震わせる。

 

『「くっ……! あの不細工顔で笑われると余計腹立つわね……!」』

 

 ――この戦いの様子はアリーナのスタッフのカメラによって、会場内のモニターに映し出されていた。

 

「オーブ……!」

「ウルトラマンオーブだ……!」

 

 観客たちがざわざわとどよめいている。つい先日までは正義の味方とされていたオーブだが、サンダーブレスターの暴れぶりは、彼らの心に不安を植えつけてしまったのであった。

 仲間とともにステージに上がってきた春香は、彼らの表情に一瞬後悔の色を浮かべたが、すぐに決意を固めた顔となってマイク越しに叫んだ。

 

「皆さーん! ウルトラマンオーブは、私たちのために戦ってくれてますっ! どうか私たちと一緒に、オーブを応援して下さいっ!」

 

 そのひと声に観客たちの注目が春香たちアイドルに集まり、そして春香たちは歌い出す。

 

「行きますっ! オーブに送る応援歌! 『オーブの祈り』ですっ!」

 

(♪オーブの祈り)

(みんなで歌おう!)

 

 仲間たちと、それに釣られる観客たちの歌は、建物の壁を越えてオーブの超聴力がしっかりと聞きつけた。

 

『みんなが呼んでいる……! ここでへばってちゃいられないぜ!』

『「ええ!」「はいっ!」』

 

 歌声に気力を分けてもらったオーブが再び立ち上がり、ぴにゃこら太を止めるための作戦を立てる。

 

『奴は内部に充満した気体が本体といえる。そいつをどうにかして抜いてしまえば、元のぬいぐるみに戻るはずだ』

『「だったら、あの形態が最適ですよ!」』

『「そうね! あれ以外ないわね!」』

『ああ! それじゃあ行くぜ!』

 

 律子と伊織の手元に、オーブリングと二枚のカードが現れる。二人はすぐにフュージョンアップ。

 

『「ジャックさんっ!」』

[ウルトラマンジャック!]『ジェアッ!』

『「ゼロっ!」』

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェェアッ!』

『キレのいい奴、頼みますッ!』

[ウルトラマンオーブ! ハリケーンスラッシュ!!]

 

 オーブの姿が閃光とともに、ハリケーンスラッシュへと変化した。

 

『光を越えて、闇を斬る!!』

 

 そしてオーブスラッガーを回転させて、オーブスラッガーランスを召喚。ぴにゃこら太が動き出すよりも早く駆け出し、レバーを二回引いた。

 

「「『ビッグバンスラスト!!!」」』

「ぴっ!?」

 

 まっすぐに突き出されたオーブスラッガーランスが、ぴにゃこら太にぐさぁーっ!

 

「ぴ、ぴにゃこら太ー!?」

 

「ぴにゃ……?」

 

 ぴにゃこら太は腹のど真ん中に刺さったランスを見下ろす。穂先は表面を突き抜けて穴を開け、そこからグロテスセルがシュウウと漏れていく。

 

「……ぴにゃ!」

 

 最後にぴにゃこら太は腕を天高く振り上げ――てもほとんど変化はなかったが――みるみる内に小さくなって元のぬいぐるみに戻ったのだった。

 コダイゴンぴにゃこら太を見事倒したオーブに、春香たちは喜びの声を上げた。

 

「皆さん、やりました! オーブの勝利です! オーブが私たちを守ってくれましたーっ!!」

「わあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」

 

 歌を通して春香たちと一体になっていた観客たちは、その声に応じて一斉に歓声を発した。

 

『シュワッチ!』

 

 モニターの中で、オーブが大空に飛び上がってはるか彼方へと去っていった――。

 

 

 

 この感謝祭ライブはその後、客の口コミを元に、オーブの姿から取られた「ハリケーンライブ」の通称で呼ばれる伝説のライブとしてファンの間で語り継がれることになったのであった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

亜美「兄ちゃんたちー! 亜美だよ~。今回紹介するのはー、新世代ウルトラヒーローの一人目! ウルトラマンギンガだぁ~!!」

亜美「ギンガ兄ちゃんは『新ウルトラマン列伝』の中で放送された『ウルトラマンギンガ』と続編の『ギンガS』の主人公! 礼堂ヒカル兄ちゃんがギンガスパークとスパークドールズを使って変身するのだっ!」

亜美「スパークドールズっていうのは人形にされちゃった怪獣やウルトラマンのことで、ダークルギエルの陰謀で人形にされちゃったみんなを解放するために戦うっていうのが『ギンガ』シリーズの大まかな内容だよ。ヒカル兄ちゃんはウルトライブでギンガ兄ちゃんだけじゃなくて怪獣や他のウルトラマンにも変身したんだよー」

亜美「タロウ兄ちゃんも重要な役割で登場してて、その協力で強化形態のギンガストリウムになったり、ビクトリー兄ちゃんと合体してウルトラマンギンガビクトリーになったりもしたんだ。かっくい~♪

ガイ「そして今回のアイマス曲は『自分REST@RT』だ!」

ガイ「アニメの第十三話『そして、彼女たちはきらめくステージへ』でライブシーンとともに披露され、前半部の一番の盛り上がりを作り上げた曲だ! ここからアニメは物語的にも転機を迎えた、特に重要な意味を持ってる一曲だぞ!」

亜美「訳あって亜美たち竜宮小町組はこれ歌ってないんだけど、その理由は兄ちゃんたちで観て確かめてね~。よろよろ~♪」

亜美「それじゃあ次回もよろしくなのだー!」

 




 伊織ちゃんよ! 感謝祭ライブを終えて、遂に私たちも一躍人気者! だけどそんな中現れたのは謎のロボット。正義のロボットなんて言われてるけど、ほんとかしら? とか言ってたら大変なことになっちゃったわ!
 次回『オーバージャスティス』。プロデューサー、真の正義を見せちゃって!


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オーバージャスティス(A)

 

「私たちいつになったらトップアイドルになれるのかしら」

「みんなしてすごく個性的だし、売れる要素は十分にあるはずなんですけどねぇ」

「私たちにはちゃんとした実力があるわ」

「ウチの千早に、やらせてあげて下さい!」

「今こそ765プロ躍進の時だ!」

『大きな災いが、起きようとしています』

「……私……これを、私がやったの……?」

「春香は今までどおりの春香だよ」

「今日は君と私で育てた事務所の記念日となるんだからね」

「「「「「「765プロ、ファイトーっ!!!」」」」」」

 

 

 

『オーバージャスティス』

 

 

 

 ――765プロ事務所で、アイドルたちがパソコンの画面で、春香のとあるインタビュー映像を目にしている。

 

『ネヴァー・セイ・ネヴァー。『出来ないなんて言わないで』。それが私たち765プロのモットーです。私たちはつい最近までなかなか陽の目が当たらなくて、苦しい思いもしました。ですがネヴァー・セイ・ネヴァーを合言葉に、どんなことも乗り越えてきたんです。これを見てる皆さんも、どんなに辛い出来事があったとしても、最後まであきらめないで頑張って下さい――』

 

 春香のメッセージを聞いた亜美と真美が口を開いた。

 

「いやー、はるるんも知ったようなこと言うようになったじゃん?」

「『出来ないなんて言わないで』だって。いつぞやは『アンQ』の仕事を嫌がって他人に押しつけようとしてたのにねぇ」

「ちょっとちょっとぉ~!? 意地悪なこと言うのやめてよ~!」

 

 痛いところを突かれる春香が冷や汗を垂らして抗議した。その後ろでは、律子と小鳥がホワイトボードをながめている。

 

「いや~……このボードがこんなに文字で埋め尽くされる日が来るなんて。ずっと待ち望んでましたが、まだちょっと信じられない気持ちですよ」

「感謝祭ライブの後から、次々出演依頼の電話が舞い込んできたんですよ。ほんと大変でした」

 

 少々くたびれているが、どこか満ち足りたほくほく顔の小鳥が言った。彼女の正面のホワイトボードには、数え切れない仕事の予定が書き込まれている。

 先日の感謝祭ライブは大反響を呼び、その結果765プロは、皆が期待していた通りに一躍有名となり、アイドルたちもまた一気に人気を上昇させた。彼女たちは最早日陰の存在ではなくなったのだ。

 

「こんなに有名になったら、もうハニーに恋人役をやらせるなんてことは出来ないね」

「だぁかぁらぁ~、掘り返すのやめてったら~!」

 

 美希にまでからかわれる春香の情けない声にアイドルたちはそろって笑い声を上げた。そんなところにガイがやってきて、皆に呼びかける。

 

「お前たち、感謝祭は本当によく頑張ったな。遂に結果が実った!」

「プロデューサーさん!」

「だがこれで満足してるようじゃ駄目だぜ。むしろお前たちの活動の本当の始まりはここからだ。ようやくスタートラインに立ったってところなんだからな。有名になったからって気を緩ませるんじゃないぞ」

 

 ガイの注意に、アイドルたちは皆表情を引き締める。

 

「そんな感じだ。それじゃあ更にトップへ近づくことを目指して、これから頑張っていけよ! 俺も精一杯支えるからな!」

「はいっ!!」

 

 激励に応えたアイドルたちが、本日の活動を開始する――その直前に、事務所に来客があった。

 

「律子さん、お客さんですよ」

「え? 私にですか?」

 

 小鳥が告げた直後、事務所の中に一人の男性が入ってきた。

 

「よぉ~律子ちゃん! 元気そうで何よりだ!」

「小舟さん!?」

 

 それは律子が世話になっていたコフネ製作所の社長、小舟惣一であった。765プロも、宇宙人に狙われた製作所を助けたことがある。

 

「こんなに朝早くから、一体どうしたんですか?」

「いや何、大した用事じゃないんだがな。ただ、ウチの奴らから律子ちゃんたちが遂にメジャーアイドルになったって聞いたんで、そのお祝いに来ただけさ! どうせだったら花輪でも送りゃあよかったかな?」

 

 豪快に笑いながら答える小舟。

 

「わざわざありがとうございます。でもそれならもっと落ち着いてる時でも……。小舟さんも、自分のところの会社があるじゃないですか」

「いや、律子ちゃんたちこれから忙しくなるだろ? だからみんなそろってるのは今の内だけだろうと思ってな。間に合ってよかったぜ」

 

 小舟は事務所に持ち込んだプラスチックの容器をアイドルたち一人一人に配っていく。

 

「ほら! こいつは俺からの餞別、特製焼きそばだ! 昼にでも弁当として食べてくれ!」

「まぁ! まことにありがとうございます」

「やったー! 小舟さんの焼きそば、美味しいから大好きですぅー!」

 

 貴音とやよいを始めとしたアイドルたちは大喜び。そんな中で小舟は何気ない感じで律子に話しかける。

 

「ところで律子ちゃん、ライブの時もオーブが大活躍だったみてぇだな」

「はい。また助けてもらいました」

「さっすが! 正義の味方は憎いねぇ」

 

 話すことは出来ないが、その時のオーブの一人は自分なので、律子は内心誇らしくなる。

 ところが、

 

「けど、こないだ黒いムキムキの姿になったろ。あれはいただけねぇなぁ~」

 

 そのひと言に、春香たちは思わず喉を詰まらせた。それに気づかずに小舟は語る。

 

「いくら相手が強いからって、ありゃあやりすぎだぜ。もっと被害を少なく出来たはずだよな? あれじゃあ正義の味方とは呼べなくなるね」

「こ、小舟さんはそう思いますか」

 

 渇いた愛想笑いを浮かべる律子。

 

「ああ。昔から言ってるが、俺は正義ってのは誰かを守るもんだと考えてる! 壊すことしか出来ないのは、正義とは呼べねぇな」

 

 と、小舟が話した直後――。

 

「むっ、何やら面妖な気配……」

「四条さん、どうしたんですか? ……えっ? あれは……?」

 

 最初に貴音が窓の外に目を向け、それに気がついた雪歩が同じ方向を見やって、唖然と口を開いた。

 

「何なに? どうしたの?」

 

 他のアイドルたちも窓の外に注目し、あっと言葉を失った。

 窓から見える空の一角に、円形の紋様が浮かんでいる。そうとしか言いようのない光景が広がっているのだ。

 

「えっ、何あれ……」

「……魔法陣……?」

 

 真と響がつぶやくと、一つの紋様の周りに複数の紋様が現れ、紋様同士が立体を作るように位置を変えていく。そして全ての紋様から放たれたレーザーが、3Dプリンターのように巨大な物体を作り上げていく。

 

「な、何なの? 何が起こってるの!?」

「あらあら……不思議ね……」

 

 あんぐりとする伊織に、頬に手を当てて首を傾げるあずさ。そして完成した白い巨大な物体――うずくまったような姿勢のロボットが、街中に落下して地響きを鳴らした。震動は事務所にまで伝わり、アイドルたちが一瞬転げそうになった。

 

「何だありゃあ……」

 

 小舟も唖然としている中、律子が一番に興奮した声を発した。

 

「すごい! 見たこともない巨大ロボットだわ! 一体どこから送られてきたのかしら? 近くに行きましょうっ!」

「あっ、ちょっ、律子さーん!?」

 

 律子が勢いのままに飛び出していってしまい、春香たちは思わずその後に続いていった。

 

 

 

 車道の真ん中に落下した巨大ロボットの周囲には、当然ながら人垣が出来ていた。野次馬たちは皆奇異と好機の目で、ロボットを遠巻きに観察している。

 

「すみません! 通して下さい! 通してーっ!」

 

 野次馬の間を無理矢理に抜けた律子たちが、ロボットの側へと近寄っていく。ロボットのシルエットは竜人と称するのが最も相応しいだろうか。尾はなく、代わりのように後頭部から長いシャフトが伸びている。眼に当たる部分のレンズには光が灯っておらず、起動しているかどうかは不明である。

 律子はこのロボットを近くから観察して判断した。

 

「やっぱり、地球の文明じゃ到底作れない代物だわ! ってことは違う星、違う世界の文明の生み出したもの! それが送られてきた現場に居合わせるなんて、何てラッキーなのかしらー!!」

「律っちゃん、テンション高い……」

「律子ちゃん、こういうの好きだからねぇ」

 

 ハイになって叫ぶ律子の様子に冷や汗を垂らした亜美に、小舟がそう言った。

 千早はそっとガイに囁きかける。

 

「プロデューサーはこのロボットのこと、何か知らないですか?」

 

 ガイは首を横に振った。

 

「いや……見たことないな。少なくとも、この宇宙の文明の製造品じゃなさそうだ」

 

 その時、ロボットの近くから765プロアイドルのものではない少女の声音が起こった。

 

「ねぇ見てよしまむー、しぶりん! ロボットだよロボットー! ロボが空から降ってきたよー! 私たち、夢でも見てるのかな!?」

「ちょっと落ち着いてよ、未央。すごいのは分かるけど……」

「みんなこっちを見てますよ、未央ちゃん」

「あれ、あの子たちは……」

 

 そちらに目を向けた765プロアイドルたちと、声の主の三人の少女の視線がばっちりと合った。その三人の内の一人、ブレザー姿のサイドテールの少女が大声を上げる。

 

「あー!? もしかして、765プロの人たちですかぁ!?」

「えっ、765プロの……?」

「あっ、ほんとだぁー! すっごい! あの765プロの先輩たちともこんなところで会えるなんてっ!」

 

 三人の少女がそれぞれ興奮した様子でこちらに駆け寄ってきた。野次馬たちは765プロの名前に反応してざわめくが、今の注目は謎のロボットの方が勝っているので、さほど騒ぎにはならなかった。

 

「君たちは?」

 

 ガイが尋ねかけると、サイドテールのキュートな少女が一番に自己紹介した。

 

「申し遅れました。私、島村卯月って言います! こっちは渋谷凛ちゃんと本田未央ちゃんです!」

「渋谷凛です……」

「本田未央ですっ! 私たち、346プロからデビューしたばっかりのアイドルユニット、ニュージェネレーションでーすっ! よろしくお願いしますっ!」

 

 黒髪のクールな雰囲気の少女と、茶髪のパッションが溢れている少女もそれぞれ名乗る。

 

「あなたたちもアイドルだったんだ。私は天海春香です! よろしく!」

「こちらこそ! 春香さんたちとこんな場所でお会いできるなんて思ってませんでした。すっごく光栄です!」

 

 春香が代表して手を差し出し、卯月と固く握手を交わした。一方で未央がロボットの方へ身体を向ける。

 

「765プロの皆さんも、このロボットを見に来たんですよね? あれ、私たちのすぐ近くに降ってきたんですよ! 驚きましたよ~もぉ~!」

 

 ダダダッとロボットの側へ駆け戻る未央。相当活発な性格のようだ。

 

「ねぇねぇしぶりん、私たちが一番近くにいたんだから、私たちが第一発見者ってことになるよね。だったら名前つけようよ名前!」

「えっ、名前?」

 

 未央は後から歩いてきた凛に提案した。

 

「そうそう! 第一発見者の特権だよ! そうだなー……竜っぽい見た目だし、ギャラクシードラゴンってのはどうかな!?」

 

 未央の命名に、凛は眉をひそめる。

 

「ギャラクシー? 宇宙から来たと決まった訳じゃないのに?」

「えーいいじゃん。イメージだよイメージ」

「駄目だめ。安直だし。そんなのより……イタリア語で『救世主』って意味の、サルヴァトロンがいいんじゃないかな」

「えー? それこそダメだよ蒼いよー。如何にもお洒落感押しつけてる感じが気に入らないなー」

 

 未央の物言いにムッとする凛。

 

「随分と言ってくれるね。誰にでも考えられるようなありきたりの名前よりはずっとマシだと思わない?」

「むぅっ!? 何さしぶりん、私のセンスに文句あるってのー!?」

「文句つけてるのはそっちでしょ!?」

 

 命名を争って口喧嘩となる凛と未央に、卯月が慌てて止めに入る。

 

「お、落ち着いて下さい二人とも! こんなところで喧嘩しないで下さいよぉ~!」

「ちょっとちょっと。アイドルがロボットの名前なんかで言い争いにならないの。みんな見てるわよ」

 

 伊織も呆れて仲裁しようとしたが――その時に、ロボットの腹部の赤い発光部から光が生じ……そこから音が発せられた。

 ポン、ポロン、ポン、ポン――。

 

「……?」

 

 ピアノを奏でるような、澄んだ音色の音楽。凛たちは思わず手を止めて、音を奏でるロボットを見上げた。他の人たちも同様に、ロボットに注目する。

 

「歌ってんのか……?」

「歌……」

 

 小舟のひと言を、千早が繰り返した。

 卯月は呆気にとられている凛と未央を引き離した。

 

「……ほらほら凛ちゃん未央ちゃん。ロボットさんも喧嘩はダメって言ってますよ」

 

 頭を冷やした二人は、バツが悪そうに向かい合った。

 

「……言い過ぎたね、ごめん……」

「こっちこそ……ごめんね」

 

 二人が謝罪し合って仲直りすると、ロボットは音と光を止め、再び静かとなった。

 一連の流れを目の当たりにした律子がつぶやく。

 

「あの二人の争いを、止めた……?」

「まぁ、いいロボットさんなんですね」

 

 あずさがニコニコ顔で言った。

 卯月はポンと手を叩いて凛と未央に告げる。

 

「そうだ、ギャラクトロンです!」

「えっ?」

「ギャラクシードラゴンとサルヴァトロンを合わせて、ギャラクトロンにしましょう! それなら二人とも文句ないですよね?」

「うん……結構いい感じだね!」

「正義のロボットってイメージにぴったりだね」

 

 未央たちも納得すると、卯月はロボットの表面を撫でて呼びかけた。

 

「あなたの名前はギャラクトロンですよー。ギャラクトロンさん、これからよろしくお願いします!」

「あぁーちょっと駄目よ! 未知のロボットなんだから、素手で触っちゃ!」

 

 それを慌てて制止しようとする律子。だが、

 

「えっ?」

 

 ロボット、ギャラクトロンの発光部が再び赤く光り――その光が卯月に向けられた。

 

「卯月!?」

「しまむー!?」

 

 突然のことに立ち尽くす卯月に光の輪が被せられ、足元から頭へと抜けていった。

 

「な、何だかくすぐったいです……」

「君、大丈夫か!?」

 

 光はすぐに消え、呆然としている卯月の元にガイが駆け寄って尋ねかけた。

 ガイの心配をよそに、卯月には異常は見られなかった。

 

「は、はい。どこも痛くもないです。ただ……」

「ただ?」

「何だか、ギャラクトロンさんがしゃべったような気がしました。この世界の平和を守るって……」

 

 卯月の言葉に未央が興奮する。

 

「それってウルトラマンオーブみたいに!? じゃあ、ギャラクトロンはオーブの仲間になるかもしれないってこと!?」

「その可能性は高いね」

 

 凛がうなずくと、未央はますます声を弾ませる。

 

「すっごいじゃーん! 正義の巨人とロボットが共闘して、悪い怪獣と戦う! ぴかるん辺りが好きそうな展開だぁ~!」

 

 未央の言葉を聞いた野次馬もおおッ!? と沸き上がる中、渋川が現場に到着した。

 

「はいすいませーんビートル隊でーす! 通して通してー! あれ、春香ちゃんたちまぁーたいるの! どこにでも現れるね~」

「変な言い方しないで下さい。私たちの事務所の近所だから当然です。それより」

 

 律子が小舟を招きながら、渋川に打診する。

 

「あのロボットのこと、小舟さんとこで調べさせてもらってもいいですか? そしたら私もロボットのデータもらえるし!」

「えぇ? ちょいちょい、いきなりそんなこと言われても……」

「いいじゃないですか、小舟さんとこはそっちの技術班も一目置いてるって言ってたでしょ? 腕は確かですよ! ねぇ」

 

 律子に聞かれた小舟が自信満々にうなずいた。

 

「ああ! 俺も是非ともあいつを調べたくなった! 渋川さん、一つお願いしますよ! この通りッ!」

 

 小舟が頭を下げて頼み込むので、渋川も流石に参ってしまった。

 

「いやいやいや、頭上げて下さいよ! 仕方ないなぁ、小舟所長にはいつもお世話になってるし……。とりあえず、上に報告しますんで。沙汰は追って知らせますね」

「ありがとうございますッ!」

「やったー!」

 

 上手く事が運んで喜ぶ律子。ある程度話が纏まると、ガイが765プロアイドルたちへと向き直った。

 

「それじゃあ後のことは渋川さんたちに任せようか。お前たちは、そろそろ仕事に出発しないとな」

「あぁーそうだった! 遅刻するよ遅刻ー!」

「私たちも、事務所に向かう途中でした!」

 

 仕事のことを思い出した真たちが慌てて解散していく。卯月たちも足早に立ち去ろうとするが、その前に春香と卯月がもう一度向き合った。

 

「卯月ちゃんたちも、これからアイドル活動がんばってね。いつか一緒に歌える時が来たら嬉しいな!」

「ありがとうございます! 私もそんな時が来るのを目指して、がんばりますっ!」

 

 笑顔を交わし合って、二人はそれぞれ別の道へと分かれていった。

 ――一方で、美希とやよいは千早を交えてギャラクトロンのことで談笑していた。

 

「すごかったね~、あのロボット。まさか歌うなんて思ってなかったの」

「歌うロボットって夢がありますねー。それも争いを止める歌なんて! ねぇ千早さん」

 

 やよいが千早に同意を求めたが……千早はやや険しい顔をしていた。

 

「そうかしら……。私は、ギャラクトロンの歌は今一つ気に入らなかったわ……」

「えっ? 千早さん……?」

 

 誰よりも歌が好きな千早とは思えない意見に、美希たちは虚を突かれた顔となった。

 それに構わずに、千早は言った。

 

「さっきの歌……確かに落ち着く旋律ではあったけど……何だか、温かみが感じられなかったんだもの……」

 

 

 

 その後ギャラクトロンはビートル隊の監視下に置かれ、ギャラクトロンが降り立った地区の一帯は封鎖され、一般人立ち入り禁止となった。別の場所で移送することも検討されたのだが、ギャラクトロンが根っこを張ったかのように何をしてもその場から動かなかったからだ。

 最低限の安全のために、ギャラクトロンにはワイヤーが張り巡らされて動き出さないようにされた。しかしそうされる間にも、ギャラクトロンは全くの無抵抗だった。

 夕方、一日の仕事を済ませて舞い戻ってきた律子は小舟から、今までに解析されたデータを見せてもらう。

 

「あれは全て未知の物質で出来てる。しかも物理法則を無視した構成があちこちにあるぞ。こんなすげぇもん、どっから来たんだ……」

「どこから? やっぱり宇宙のどこかの星からかしら?」

 

 律子につき添ってきた伊織と春香の内、伊織が律子に聞く。

 

「ギャラクトロンに大気圏を突入した痕跡は全くないわね。機体表面に、摩擦跡が一切ないから」

「別次元の文明が作ったものかもな」

 

 傍から様子を見守っているガイが意見すると、小舟が相槌を打つ。

 

「その可能性も否定できねぇな。ここを見てみろ」

 

 小舟が指したパソコンの画面には、何かの波長のようなものが映し出されていた。

 

「成分から言えば……これはゲル状のバネだ!」

 

 そのひと言に仰天する律子。

 

「ゲル状のバネ!? そんなの、常識じゃ考えられないですよ……」

「全くだ。こんなとんでもねぇもん……世界中探したって誰にも作れやしねぇ!」

「所長、この音なんだけど……」

 

 小舟が呼んだ製作所の社員の一人が口を開くと、彼の操作しているパソコンの周りに皆が集まった。

 画面には、ギャラクトロンが地中へと何らかの音波を出し続けている構図が表示されている。

 

「特殊なソナーを使って、地球の様子を探ってるんじゃねぇかな……」

「頑なに動こうとしなかった理由はそれか!」

「きっとこの星の環境を調べてるんじゃないでしょうか。何とかコミュニケーションを取る方法を見つけないとね! 春香と伊織も手伝ってよね!」

「えぇー!? 私たち、専門的なことはさっぱりなんですけど……」

「それに仕事だってあるじゃないの!」

「何かアイディア出してくれるだけでいいから! あぁーもうちょっと早く来てくれたら、つきっきりで調べられたんだけどな~」

 

 非常に残念がる律子に、春香たちはガイを交えて肩をすくめた。

 

「あれだけ事務所を軌道に乗せることにこだわってたのにな」

「ロボットのことになるとすぐ見境をなくすんだから」

 

 苦笑しながらも、一生懸命な律子のことをガイたちは温かく見守った。

 じっとうずくまったまま動く気配のないギャラクトロンとコミュニケーションを取ろうと、律子たちは様々な方法を試していった――。

 



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オーバージャスティス(B)

 

 謎の巨大ロボット、ギャラクトロンが出現した日の翌朝。くあぁとあくびしながら小舟たちとともにギャラクトロンの観察をしている律子の元に、ガイが千早、亜美真美を連れてやってくる。

 

「よぉ律子。早いな」

「おはよー律っちゃーん」

「プロデューサー! どうしてここに?」

 

 ガイたちの呼びかけに振り返った律子が立ち上がる。

 

「何、小鳥さんからお前が今日もまた朝っぱらからこっちに行ってると聞いてな、様子を見に来た。昨日も事務所に泊まったんだって?」

「ええ、時間も忘れて調査を続けてたら、終電逃しちゃいまして……。亜美たちはどうして?」

「亜美たちも、ギャラクトロンをもっと見たい知りたいと思って! いてもたってもいられなかったんだっ!」

「昨日はお仕事から直帰だったからね~」

 

 ギャラクトロンに興味津々の亜美と真美に対し、小舟が呼びかける。

 

「おお嬢ちゃんたち、今日も来たのか。どうだ、朝飯の焼きそばパンが出来上がったところだ! 一緒に食べねぇか?」

「わーい! 焼きそばパーン!」

「小舟のおっちゃんの焼きそば大好きー!」

「そうかそうか! 遠慮しないでどんどん食え!」

 

 亜美真美はありがたく焼きそばパンをご馳走になる。その様子に苦笑いした律子は、千早の方へ振り向く。

 

「あの二人はいいとして、千早までなんて意外ね。あなたもロボットに興味あったの?」

 

 何気なしに尋ねた律子だったが、千早は眉間に皺を寄せる。

 

「いえ……私は、どうも昨日から胸騒ぎがして……」

「胸騒ぎ? ギャラクトロンに?」

 

 一瞬キョトンとした律子は、すぐに笑い飛ばした。

 

「なーに言ってるのよぉ。ギャラクトロンの正体が侵略ロボットだとでも言いたいの? 色んな怪獣や宇宙人を見て、疑心暗鬼になってるんじゃないかしら」

「そんなんじゃないわ。でも、勘と言うべきかしら……そんなものが、悪い予感を唱えてるような感じで……」

「考えすぎよ」

 

 自分自身に戸惑い気味の千早に律子が肩をすくめたところに、新たな客がやってくる。

 

「おはようございまーすっ! 私たち、346プロのニュージェネレーションでぇすっ!」

「おお、君たちは昨日の」

 

 未央、卯月、凛からなる三人組のユニット、ニュージェネレーションだ。ガイが彼女たちに尋ねかける。

 

「よくここに入って来られたな。一般人立ち入り禁止だっただろう?」

 

 それに未央がはにかみながら答えた。

 

「えへへ、実は私たち、正義のロボット・ギャラクトロンの宣伝部長になったんです! それで特別に許可をもらいました!」

「宣伝部長?」

「そうですっ! ギャラクトロンのこれからの活躍を世間に知らせてくんです! 何しろ私たち、第一発見者ですから!」

「昨日、未央がプロデューサーたちに無理を行って話を通したんです」

 

 えっへんと胸を張る未央の傍らで凛が補足説明した。

 

「まぁいいじゃない細かいことは。それより……昨日は満足にお話しする暇もなかったけど、あの765プロの先輩たちとこうしてご対面できるなんて光栄ですよぉ~! ねぇしまむー」

「はいっ! とっても嬉しいです!」

 

 満面の笑顔でうなずく卯月につられて思わず破顔するガイ。

 

「へぇ。ウチの連中のこと、そんなに好きなのか。嬉しいな」

「ほんとだね~兄ちゃん!」

「特にこのすまし顔してるしぶりんが大ファンで。先日の如月千早先輩のアカペラライブですっかり虜になったんですよ!」

「まぁ、そうなの。アイドル冥利に尽きるわ」

「ちょっ、未央! その話は……!」

 

 唐突に名前を出された凛は赤面して慌てふためくが、卯月も未央に乗っかる。

 

「凛ちゃん、765プロさんのモットー「ネヴァー・セイ・ネヴァー」も気に入って、プロデューサーさんにお願いしてデビュー曲のタイトルにしてもらったんですよぉ」

「そ、それは言わないでって言ったじゃない!」

 

 恥ずかしがって真っ赤な凛に、周りは思わず笑いをこぼした。そんな風に和気藹々としていたところ――。

 ギャラクトロンの発しているソナーと同調していたランプの光が消えたことに、ガイが気がついて振り返った。

 

「プロデューサー? ……音が止まった……!」

「えっ……!」

 

 この場の人間全員が、一斉にギャラクトロンへと注目を移す。律子はパソコンに飛びついてギャラクトロンの状態を確認した。

 

「内部機構が活性化してるわ!」

「それって……」

「起動するってこと!?」

 

 真美の言葉通り、ギャラクトロンの両眼部分に赤い輝きが灯り――拘束のワイヤーを引っ張りながら身体を起こしていく。

 

「動いたっ!」

 

 力ずくでワイヤーを地面から引っこ抜き、自力で拘束を解いたギャラクトロンが立ち上がる。その動作と威容に思わず目を奪われて立ち尽くす一同。

 

「わぁ~! ギャラクトロンさん、お目覚めですか? 私、あなたとたくさんお話しがしたいと思ってたんです!」

 

 真っ先に動いたのは卯月だった。笑顔で呼びかけながらギャラクトロンにとことこと歩み寄っていく。

 対してギャラクトロンは、髪に見える後頭部のシャフトを伸ばすと――蛇のように蠢かせながら、先端にあるアームで卯月の身体をがっしりと掴んだ。

 

「えっ?」

「卯月!?」「しまむー!?」

 

 呆気にとられる卯月。そして一瞬の内に彼女の身体が持ち上げられてギャラクトロンの腹部の前へと連れていかれると、赤い発光部の中へと吸い込まれていく!

 

「きゃあああああああああっ!?」

「う、卯月がっ!!」

「何するのギャラクトロン!?」

「おいおいおいどうした!?」

「島村卯月さんが、ギャラクトロンの中へ引きずり込まれたんです!」

「何だってぇ!?」

 

 ギャラクトロンの行動に一瞬理解が追いつかなかったものの、一同は卯月が取り込まれたことに仰天。異常を察知して駆けつけた渋川には律子が端的に状況を話した。

 一方、ギャラクトロンの内部に吸い込まれた卯月には、無数のコードが巻きついてきてがんじがらめにする。

 

「い、いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!?」

 

 流石に恐怖を感じて絶叫する卯月だったが、耳の穴にコードが差し込まれると、途端に意識が途絶えてカクンと首を垂れた。

 しかしすぐに虚ろな表情となって、言葉を紡ぎ始めた。

 

『この世界の解析は完了した。各地に起きている紛争、差別。残虐さを理解した。この世界のために、争い全てを停止させる』

 

 卯月の声はギャラクトロンを通して、外の凛たちに届けられる。

 

「これ、卯月の声……?」

「しまむー何言ってるの!?」

 

 混乱する未央にガイが告げる。

 

「違う! 奴に精神を支配されてるんだ!」

「え!?」

「ギャラクトロンのメッセンジャーにされてるんだわ!」

 

 律子が卯月の現状を言い当てた。

 卯月の口を使って、ギャラクトロンは宣言した。

 

『別の世界でもそうしてきたように、全ての争いを停止する。すなわち、この世界をリセットする。それが我が使命。我が正義』

 

 それに律子が戦慄。

 

「世界をリセットするって……まさか!!」

 

 ギャラクトロンの両眼からレーザーが照射され、周囲に立ち並ぶビルに着弾。その箇所から魔法陣が広がると――凄絶な爆発を引き起こしてビルを次々と薙ぎ倒していく!

 

「わあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!!」

 

 激しい震動と衝撃に一同は転倒。そして爆発を起こしたギャラクトロンは、サイレンのような駆動音を鳴り響かせながら移動を開始する。

 渋川とガイが倒れた皆を助け起こしていく。

 

「おいみんな! 大丈夫か!」

「は、はい……」

「ギャラクトロンの言った平和を守るって……そういう意味だったの……!?」

 

 理解した未央が顔面蒼白となった。ガイが吐き捨てる。

 

「別次元の連中、奴の正義ぶりが手に負えなくなってこっちの世界に捨てたってことか!」

「そ、それがギャラクトロンのやってきた真相……!」

 

 唇をわななかせる律子。彼女たちの視線の先で、ギャラクトロンは人の喧騒がする方向へと進行していく。

 

「やべぇ! 封鎖区域外に出るぞ! 本部本部!」

 

 渋川が急いで状況をビートル隊本部へと報告。一方でガイと765プロアイドルたちは、ギャラクトロンの進行先へ向かって全速力で駆け出した。

 

 

 

 ウオォンッ、ウオォンッ……!

 ビートル隊の封鎖を踏み越えて一般市民のいる区域へと出たギャラクトロンは、辺り一面に無差別にレーザーを放ってビル街を片っ端から吹き飛ばしていく。ギャラクトロンの蛮行に、街からは瞬く間に悲鳴と絶叫が巻き起こる。

 

「何てことに……!」

 

 ガイについていきながら目の前で展開する地獄絵図に、一気に血の気が失せる律子。亜美と真美は思わずガイに向けて叫んだ。

 

「あれが正義!? 無茶苦茶だよ!!」

「争いを止めるために、人間を滅ぼすつもりなの!? どうしてそんな考えになっちゃうの!?」

 

 ガイは大きく舌打ちしながら答えた。

 

「奴は入力された命令……ロボットの本能に従ってる。それ以外のことが出来ないからだ! 奴にはブレーキがねぇんだッ!」

「プロデューサー! ギャラクトロンを止めましょうっ!」

 

 千早が血相を抱えてガイへ振り返った。

 

「あれの「歌」を聴いてから、嫌な予感はしてました……。もっと早くに行動を起こすべきでした!」

「千早……!」

「プロデューサー、私も!」

 

 律子も名乗り出る。

 

「正義のスーパーロボットだ何だの言って浮かれてた自分が恥ずかしいです……! 事前に何か出来ることがあったはずなのに……!」

 

 後悔と責任を覚え、この状況をどうにかしようという強い意志を示している千早と律子にガイはうなずいた。

 

「分かった。行くぞ!」

「千早お姉ちゃん、律っちゃん、頑張って!」

「街の人たちをお願い!」

 

 亜美と真美の応援の下、ガイたちはフュージョンアップを決行する。

 

「ギンガさんっ!」

[ウルトラマンギンガ!]『ショオラッ!』

「エックスさんっ!」

[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』

「痺れる奴、頼みますッ!」

[ウルトラマンオーブ! ライトニングアタッカー!!]

 

 三人はオーブ・ライトニングアタッカーへと融合して破壊されていく街の中に着地すると、すぐにギャラクトロンに飛びついてのけ反らせ、レーザーを空へと逸らした。

 

『「ギャラクトロン! やめなさいっ!」』

『「止まるのよ!」』

 

 そのまま押さえつけて動きを封じようとするオーブだったが、ギャラクトロンの腹部の発光体から閃光が発せられる。

 

「ウッ!?」

 

 思わず顔を覆って離れたオーブの身体を、卯月に被せられた光の輪が通り抜けていく。

 

『「これは……!?」』

『「オーブをスキャンしてるの……!?」』

 

 オーブの情報をスキャンし終えたギャラクトロンは――顔を背け、いないものとして扱うかのように別方向へと進んでいく。

 

『「あっ、待ちなさい!」』

『「無視するんじゃないわよ!」』

 

 もちろんそのまま放っておく訳がない。オーブはギャラクトロンの前方に回り込んで立ちふさがると、両目から透視光線を出してギャラクトロンの内部を調べ返す。

 そうして腹部の発光体の中に、卯月の姿を発見した。

 

『いたぞ! あそこだッ!』

『「まずは彼女を助け出さないと!」』

 

 律子の言葉の通りに、オーブは卯月の救出を試みる。瞬時にギャラクトロンに詰め寄って発光部を鷲掴みにして、力づくにでも引っこ抜こうとする。

 

「ウオオォォッ!」

 

 しかし発光部はギャラクトロンの機体から抜けず、ギャラクトロン本体はオーブに対して左腕を向ける。それを中心に魔法陣が展開された。

 

『「危ないっ!」』

 

 千早が警告したが遅く、オーブはレーザーの直撃を食らった!

 

「ウワアアアァァァァァ――――――――ッ!」

 

 オーブが横一直線に吹き飛ばされ、ビルに衝突。ビルは衝撃で粉々になる。

 一方のギャラクトロンはまだ人が残っている高層ビルに目をつけ、レーザーで消し飛ばそうとする!

 

「わああぁぁ―――――!!」

 

 ビル内の人々は必死に逃げていくが、間に合うはずもない。レーザーが放たれる!

 

「セアアァァッ!」

 

 その直前ぎりぎりにオーブが飛びかかり、首を上に向かせてレーザーを上にそらした。レーザーはビルの上方をかすめるが、幸い逃げる人たちに危害は及ばなかった。

 ギャラクトロンに振り払われたオーブに、律子が呼びかける。

 

『「相手が動き回ってたら島村さんを助けられません! まずは動きを止めましょう!」』

『よしッ!』

 

 オーブは後ろに跳んで距離を取り、光線発射の構えを取る。狙う先はギャラクトロンのつま先。卯月に攻撃の被害が及ばないように、相手の四肢の末端を狙う。

 

「「『ギンガエックスシュート!!!」」』

 

 クロスした両腕から放たれた光線は寸分の狂いもなくギャラクトロンのつま先へと飛んでいく!

 が、その先に魔法陣が出現し、ギンガエックスシュートを弾いてしまった。ギャラクトロンはノーダメージだ。

 

『「防御したわ!? あんなに正確に!」』

『「くっ……! 光線が駄目なら!」』

 

 律子たちの手元にオーブリングとカードが現れ、再フュージョンアップを行う。

 

『「アグルさんっ!」』

[ウルトラマンアグル!]『デアッ!』

『「ヒカリさんっ!」』

[ウルトラマンヒカリ!]『メッ!』

『鋭い奴、頼みますッ!』

[ウルトラマンオーブ! ナイトリキデイター!!]

 

 ライトニングアタッカーからナイトリキデイターに変化すると、両腕より光剣を伸ばした。

 

『「乱暴だけど、手足を切り落とすっ!」』

 

 オーブが両刀を構えながら、ギャラクトロンに猛然と突っ込んでいく。

 

「オォォリャアアッ!」

 

 ふた振りの光剣を駆使した、速く、不規則な軌道でありながら的確な斬撃の嵐が全て相手の四肢のつけ根へと叩き込まれていく!

 ――だが、乱撃は全部がその都度現れる魔法陣によってピンポイントに防御され、ギャラクトロンには全く届かなかった。

 

『「そんな!? 今のも完全に防ぎ切るなんて!!」』

『「処理速度が尋常じゃないレベルなんだわ!」』

 

 ギャラクトロンは再び両眼からレーザーを発射して、道路を巻き込んだ爆発でオーブを弾き飛ばす。

 

「ウワァァッ!」

『「うぁぁっ!」「つうぅっ……!」』

 

 ギャラクトロンがレーザーを撃つ度に、街の破壊が進んでいく。うめくオーブ。

 

『このまんまじゃ被害が広がるばかりだ……! 一旦奴を街から離れたとこまで押し出そう!』

『「は、はい!」「分かりました!」』

 

 千早と律子は三度目のフュージョンアップを行う。

 

『「ティガさんっ!」』

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

『「マックスさんっ!」』

[ウルトラマンマックス!]『シュアッ!』

『かっ飛ばす奴、頼みますッ!』

[ウルトラマンオーブ! スカイダッシュマックス!!]

 

 スカイダッシュマックスになると即座に疾風の踏み込みでギャラクトロンの懐に潜り込み、相手の機体を捉えてそのまま空高く浮かび上がる。

 

「ウオオオオォォォォォォッ!」

 

 そのまま猛スピードで飛行していき、街を離れて山林の奥深くへと飛び込んでいった。

 

「デヤアァァァッ!」

 

 着陸と同時にギャラクトロンを突き飛ばす。これでひとまずは街への被害の心配はなくなったが、これはその場しのぎでしかない。ギャラクトロンを止めないことには、危機は脱しないのだ。

 

『「スカイダッシュマックスのスピードなら! 行くわよ千早っ!」』

『「ええ!」』

 

 オーブは静止した状態から急加速して、残像が生じそうな勢いでギャラクトロンの周囲を縦横無尽に飛び回る。相手の撹乱を狙い、隙を見てマクバルトアタックを叩き込む作戦だ。

 が、ギャラクトロンのシャフトが伸びると――オーブの首がアームに掴まれて逆に動きを止められてしまった!

 

『「うあぁっ!? つ、捕まった……!」』

『「は、離しなさいよぉ……!」』

 

 ギリギリと締め上げるアームの与える苦痛は千早と律子にまで及ぶ。いよいよオーブのカラータイマーも鳴り出して危険を示した。

 ギャラクトロンは捕らえたオーブを己の正面に持ってくると、下げた左腕のパーツが180度回転し――刃状の部分が前に来た――。

 

 

 

 ギャラクトロンの破壊行為によって、大田区を中心とした都市部広域に緊急避難命令が発令されていた。街は至るところ大混乱で、通りは避難する人々でごった返している。

 そんな非常事態の中、伊織、春香、美希の三人が人のいない場所に集まって情報を交換する。

 

「例のロボットが暴れ出したんですって!? 何が正義のロボットよ!」

「しかも、卯月ちゃんが中に取り込まれたって亜美たちが……!」

「千早さんと律子がオーブになって戦ってるそうだけど、今どうなってるのか……。街からは追い出したらしいけど……」

 

 亜美と真美からの連絡による情報はそこまでであった。二人の足では、はるか遠くへ飛んでいったオーブに追いつけるはずもない。

 

「どこかのテレビ局が行方を掴んでないかな……」

 

 春香がケータイのワンセグで臨時ニュースだらけのテレビチャンネルを探す。やがてオーブの戦闘場所の近くに偶然いた撮影班による中継をやっているチャンネルに行き当たった。

 その中継映像の中では、オーブがギャラクトロンに捕まっているところであった。春香たちは思わず息を呑む。

 

『破壊活動を開始した巨大ロボットに立ち向かっているウルトラマンオーブですが、現在窮地にあります! あっ、ロボットの腕が回転しました!』

 

 そして、ギャラクトロンは剣となった左腕を振り上げて突き出し――。

 オーブの腹部を貫通した――!

 

「律子っ!?」

「ち、千早さん……!!」

「プロデューサーさぁ――――――――――んっ!!?」

 

 春香たちの絶叫が、混乱のどん底にある街の空に響き渡った――。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

響「はいさーい! 我那覇響だぞ! 今回紹介するのは、ウルトラマンティガのスカイタイプさー!」

響「スカイタイプはティガさんのマルチタイプ、パワータイプに続く三つ目の姿! パワーは下がるけど代わりにスピードが上がって、名前の通り空中戦に強くなるんだ!」

響「でも怪獣って大抵は力自慢だし、当時の技術力の限界もあったから、テレビシリーズでの登場回数はパワータイプの半分だけなんだ。不遇でかわいそうだぞ……」

響「だけどスカイタイプにはティガフリーザーっていう、ウルトラ戦士では珍しい氷の技を持ってるっていう個性もあって、この技を使うために変身したこともあるくらいだぞ。『きたぞ!われらのウルトラマン』では久しぶりにスカイタイプになって、今の技術で実現した白熱の空中戦を見せてくれたんだ!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『オーバーマスター』だ!」

ガイ「PSPソフト『アイドルマスターSP』で初登場した961プロの楽曲で、歌ったのは961プロ時代の響、貴音、そして美希だ。765プロではあまりないタイプのアグレッシブな歌詞が特徴的だぞ!」

響「961プロかぁ……。新キャラだった時のクールなイメージが懐かしいぞ。自分が完璧なのは今でもだけどね!」

ガイ「クールたって、ゲームですぐに化けの皮が剥がれたけどな」

響「うぎゃー!? その言い方はひどいさー!」

響「それじゃあ次回もよろしくだぞ!」

 




 三浦あずさです。圧倒的な力を持つギャラクトロン、それに勝つにはあの力を使うしかありません。だけどあれには大きな危険が……! あきらめないで、春香ちゃん! あきらめなければ、きっとあの力を使いこなせるわ!
 次回『ネバー・セイ・never』。どうか卯月ちゃんを救い出してあげて!


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ネバー・セイ・never(A)

 

「やっぱり、地球の文明じゃ到底作れない代物だわ!」

「正義の巨人とロボットが共闘して、悪い怪獣と戦う!」

『この世界の解析は完了した』

『各地に起きている紛争、差別。残虐さを理解した』

『この世界のために、争い全てを停止させる』

『それが我が使命。我が正義』

「争いを止めるために、人間を滅ぼすつもりなの!?」

「律子っ!?」

「ち、千早さん……!!」

「プロデューサーさぁ――――――――――んっ!!?」

 

 

 

『ネバー・セイ・never』

 

 

 

 別次元よりやってきたロボット、ギャラクトロンが本性を現した後、亜美と真美は小舟に車を出してもらって、オーブがギャラクトロンを連れて飛んでいった先へと向かっていた。その車内には、凛と未央も同乗している。

 卯月を奪われた二人の表情は極めて重かった。未央はうつむきながら後悔を声ににじませる。

 

「私は馬鹿だっ……! 正義のロボットだなんて勝手に決めつけて、すっかり気を良くして……! そのせいで、しまむーがあんなことに……!」

「未央だけじゃないよ……。私も、あんなのに『救世主』なんて名前までつけようとして……。ギャラクトロンがこの世界に来た目的すら、考えもしなかった……」

 

 凛もまた思いつめた表情。この今にも後悔に押し潰されてしまいそうな二人に、流石の亜美と真美も掛けるべき言葉が見当たらなかった。

 その代わりに、小舟が未央たちへ告げる。

 

「この世には二種類の人間がいるんだよ……。他の連中が疑ってるものを信じる奴と、他の連中が信じてるものを疑う奴……! 成功を掴む人間はその両方だ! だから無理にでも顔を上げて、前を見るんだよ! そうでなきゃ、君たちの仲間は助けられねぇ!」

 

 長いトンネルを抜けて、山間部に出た車のフロントガラス越しに見えた光景は――オーブがギャラクトロンのシャフトに捕らえられている場面であった。

 

「お、オーブがっ!!」

 

 絶叫する亜美と真美。そして――ギャラクトロンの刃がオーブの腹部を貫くと、全員が声にならない叫びを発した。

 ギャラクトロンが刃を引き抜くと、ぽっかりと開いた風穴から光の粒子が飛散する。そしてギャラクトロンはオーブを無造作に投げ捨てた。

 

「ウワアアアァァァァァァッ!」

 

 陸橋を巻き込んで倒れ、立ち上がることが出来なくなるオーブ。ギャラクトロンは彼を見下しながら、卯月の声で告げる。

 

『私は、私に与えられた唯一のコマンドを遂行中だ。君はこの星とは無関係だ。邪魔をするな』

「クゥゥッ……!」

 

 オーブの肉体は最早維持できなくなり、光の粒子となって霧散していった。

 

「オーブが消えた……!」

 

 小舟が車を停めると、凛と未央が真っ先に降りて道路の端へと駆けていく。そして柵から身を乗り出しながら、未央がギャラクトロンへ向かって叫んだ。

 

「ギャラクトローンっ! どうして何もかも壊すのぉ!?」

 

 その声に反応して振り返ったギャラクトロンは、次の通り宣言した。

 

『人間の文明から争いが無くならないのは、この星の残虐な自然観を模倣しているからだ。この宇宙には、最初からあり余るほどのエネルギーで満ちている。別の生物からエネルギーを奪わずとも済むように、全てがデザインされている』

「な、何を言ってるの……?」

 

 ギャラクトロンの言動の意図が掴めない亜美だが、薄々と悪い予感を覚えていた。

 そしてギャラクトロンは言う。

 

『だが、この星の生態系は、自分の命を長らえさせるために、他の命を奪い、この星そのものを傷つける。疲弊させ、天然資源を掘り尽くすような、低レベルの文明を良しとしている』

 

 その発言に青ざめる凛。

 

「わ、私たちが築き上げてきたものが、低レベル!?」

『耳が痛いか。だから君たちは耳をふさぐ。都合が悪いからと無視する。だが、この星は、君たちの都合で存在しているのではない』

 

 ――オーブの消えた場所では、ガイが腹を押さえながらもよろめきながら起き上がる。

 

「千早……! 律子……! くっそぉぉぉッ!」

 

 フュージョンアップしていた千早と律子は、彼の側でぐったりとしたまま気を失っていた。外傷こそないが、身体を貫かれたショックとダメージはあまりにも重かったのだ。

 ガイに憎々しげに見上げられながら、ギャラクトロンは断言した。

 

『よって、この星の文明と、食物連鎖という間違った進化を選んだ生態系を、全てを、リセットする』

 

 ――今の言葉に、凛たちは完全に言葉をなくした。小舟だけが声を絞り出す。

 

「文明だけじゃなく、大自然を根絶やしにするってか!?」

「で、デタラメだよ、そんな……!!」

 

 漫画の悪役からでも聞いたことがないほどにおぞましい結論に、真美は唇をわななかせていた。

 未央はギャラクトロンに向かって絶叫。

 

「勝手なこと言うなぁっ! お前だって、しまむーを利用してるじゃんか! ほんとに平和が望みなら、しまむーを返してよ!!」

 

 ――するとギャラクトロンは、左腕の刃を元に戻して、立ち尽くして動きを見せなくなった。

 

「黙るなぁっ! 考えてないで、しまむーを返せったら!!」

「考えるのはこっちだ! 今の内に対抗策を練らねぇと!」

 

 ギャラクトロンが活動を停止している間に、小舟は車内に積んだ荷物をかき分けながら行動を開始した。

 

「あいつのデータは全て集めてある! それをビートル隊に送って……! 律子ちゃんたちはどこだ? 無事なのか!?」

「亜美たちが捜してくる!」

 

 状況が一旦停止したことで律子たちのことを案ずる小舟。亜美と真美は彼にそう告げて、オーブの消えた場所へと駆け出そうとした。

 その前に765トータス号がやってきて停車。運転席の小鳥が呼びかける。

 

「亜美ちゃん真美ちゃん! 乗って!」

「ピヨちゃん!」

「プロデューサーさんたちのところへ急ぎましょう……!」

 

 車内には他のアイドルたちが全員そろっていた。小鳥が拾ってここに駆けつけたのだ。

 

「……!」

 

 その中の春香は、立ち尽くしたままのギャラクトロンを見上げ――膝の上の震える腕を、もう片方の手で掴んで抑えていた。

 

 

 

 小鳥たちはギャラクトロンの後方、ガイたちの元へとたどり着いた。

 

「千早! 律子! しっかりして!!」

「手当てが必要です! 慎重に、しかし急いでとぉたす号まで運びましょう!」

 

 倒れ伏したままの千早と律子を、真と貴音、雪歩と響で抱え上げながら、瓦礫の山の外側に停めたトータス号まで運んでいこうとする。

 しかしその寸前に律子がわずかに意識を取り戻した。

 

「うぅ……!」

「律子! 大丈夫か!? すまない……!」

 

 頭を垂れて謝罪するガイ。そんな彼に、律子はか細い声で告げた。

 

「プロデューサー……あの力を、使って下さい……!」

「えっ……!?」

 

 周りのアイドルたちは一瞬騒然となった。

 ガイは律子の言う力――カードホルダーから、ベリアルのカードを引き抜いた。

 

「ギャラクトロンは、強すぎます……通常のフュージョンアップでは、勝てない……! あれを止めるには、その力が必要なんですっ……!」

 

 その言葉を最後に、律子は再びカクリと力を失った。

 

「律子! 律子ッ!」

「プロデューサー、落ち着いて下さい……! 後のことは、わたくしたちにお任せを」

 

 務めて冷静さを保っている貴音の指示の下、真たちは千早と律子を避難させていった。後に残ったアイドルたちの目が、ガイの持つベリアルのカードに集まる。

 

「確かに、あのマガオロチを倒したサンダーブレスターなら、ギャラクトロンにだって……!」

 

 亜美は言うものの、やよいは顔面蒼白になっていた。

 

「……だけど……!」

 

 誰よりもガイと、美希、そして春香がためらっていた。

 サンダーブレスターは強力であるが……マガオロチ相手に使った時は、闇の力が制御できなかった。そのために、被害者こそ出さなかったものの、周囲に大きな被害が出るほどに暴れてしまった。その力を再び使えば……今度はどうなるのか……。

 苦渋しているガイたちに、言葉を向けたのはあずさだった。

 

「プロデューサーさん、春香ちゃん、美希ちゃん……どうか戦って下さい!」

「あずさお姉ちゃん!?」

 

 真美たちが驚いてあずさの顔を見上げた。あずさは冷や汗を垂らしながらも、毅然とした表情で続ける。

 

「どの道、私たちに残されてる手段は他にはありません。ギャラクトロンを放っておけば、何も助かりはしません……! 私たちの運命を、プロデューサーさんたちに託します……。どうか……!」

 

 あずさの言葉で、他のアイドルたちも心を決める。

 

「あずさの言う通りだわ……。どうかこの通り……!」

「プロデューサー、春香さん、美希さん……お願いしますっ!」

 

 伊織が、やよいが、皆がガイたちに頭を下げた。

 

「……ッ!」

 

 それでもガイは決断を下せなかったが――その内に、ギャラクトロンがシャフトを振り上げ、魔法陣を幾重にもシャフトに纏わせながら宙に浮き上がった。

 

「ギャラクトロンがっ!」

「な、何か嫌な感じ……」

 

 春香と美希の肌がざわざわと震える。その視線の先にギャラクトロンは、炎のようなエネルギーの円を背面に無数に描きながら、発光部にエネルギーを集める。

 それが光線として撃ち出され、遠景の山脈に着弾。景色を覆わんばかりの魔法陣が広がり――火焔が大地を覆い尽くしていく!

 

「伏せろぉぉッ!!」

「きゃああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――っ!!」

 

 咄嗟にその場に伏せるガイたち。ギリギリで彼らのいるところまでには火の手が及ばなかったが――それまで緑豊かだった山地は、全て焦土と化してしまった。数分前までの面影は、微塵もない。

 身体を起こした美希は、ガイに呼びかける。

 

「ハニー、もうやるしかないのっ!」

「美希!」

「ミキたちがやらなきゃ……こんなのはもうたくさんだよ!! 春香のことは……ミキが止めるから!」

 

 そして最後に春香が、拳を震わせながら言った。

 

「私も……やりますっ! あれを、倒しますっ!」

「春香……!」

 

 決断は下された。ガイたちは立ち上がってオーブリングを構え、小鳥は他のアイドルたちを連れてトータス号まで下がっていく。

 

「ベリアルさんっ!」

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

「ゾフィーっ!」

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

 

 春香と美希が立て続けにカードをリングに通し、ガイがリングを掲げる。

 

「闇と光の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイと春香、美希がフュージョンアップ――同時に春香はベリアルと重なり、黒い春香と変わる。

 

『ヘェア……!』『ヘアッ!』

[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]

 

 別の土地を更に滅ぼそうと空を移動していくギャラクトロンを見据えながら、オーブ・サンダーブレスターが大地に立った。

 

「フゥゥゥゥ……!」

 

 荒々しく息を吐くオーブの頭上を、小舟からのデータを受けて出動したゼットビートルが通過してギャラクトロンへ向かっていく。

 

「捕獲用電磁ネット、発射!」

 

 今にも光線を放とうとしていたギャラクトロンに電磁ネットが纏わりついて、その動きを封じ込んだ。これを見届ける美希。

 

『「ビートル隊が動きを止めたの! 今の内にギャラクトロンを地上に引きずり下ろして……」』

 

 攻撃の手順を立てる美希だったが――突如、春香が叫ぶ。

 

『「ああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」』

『「春香!?」』

 

 彼女に突き動かされてオーブは助走して飛び上がり、ギャラクトロンへと一直線に突撃していく――その進路上にゼットビートルが飛んでいる。

 

『「邪魔よっ! どきなさい!!」』

 

 オーブは――春香は、ビートルを手で叩き落とした! そのままギャラクトロンに拳を食らわせ、電磁ネットを破壊して地上へ転落させる。

 

「うわあぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ――――――――――――――ッ!?」

 

 オーブに払いのけられたビートルの操縦員の悲鳴とともに、ゼットビートルは真っ逆さまに山間に墜落。爆破炎上した。

 

「あっ……あっ……!?」

 

 安全な場所まで退避したトータス号から降りて状況を見守っていた小鳥たちは――この事態に、愕然と立ち尽くした。

 オーブの中では、一気に青ざめた美希が春香に掴みかかる。

 

『「春香、何てことするの!? あ、あれには人が乗ってたのにっ!!」』

『「うるさいっ!!」』

 

 だが春香に強引に突き飛ばされた。

 

『「きゃあっ!? 春香……!?」』

 

 転倒した美希は春香の顔を見上げ――息を呑んだ。

 呼吸が荒く、肩を上下させる春香の瞳は――烈火の如く燃え盛る憤怒と憎悪に染まり切っていた。その怒りのオーラは、マガオロチの時以上に色濃かった。

 

『「あいつ……ぶっ壊してやる……バラバラにしてやるっ! 原型も残してやらないわっ!!」』

 

 美希は思い知った――己の考えが全く甘かったことを。

 

「オオオオオオオオッ!」

 

 春香の激情に連動するオーブは、突き落としたギャラクトロンに飛びかかって蹴り飛ばす。

 

「ウアァァッ!」

 

 地面を滑りながらも立ち上がったギャラクトロンにオーブが後ろ回し蹴りを仕掛ける。ギャラクトロンはその軌道を先読みして魔法陣を盾にするが――オーブの足は魔法陣を突き破ってギャラクトロンに襲いかかった。

 

「ウオオオォォォッ!」

 

 オーブは相手の防御を物ともしない威力の拳を連発してギャラクトロンを追い込んでいく。飛び膝蹴りが決まって後ずさるギャラクトロン。

 しかし距離が開いたところでギャラクトロンは反撃開始。右腕のクローを縦回転させると隠されていた銃身が現れ、二条の光線を発射した。

 腕で防御するオーブだが、ギャラクトロンの右腕は光線を撃ち続けるまま切り離され、宙を飛び回ってオーブに襲いかかっていく。爪でオーブに一撃を食らわせてから、頭上より光線を浴びせ続ける。

 

「グゥッ!」

 

 光線を食らい続けて苦しんでいるように見えたオーブだが――両腕を伸ばしてギャラクトロンの腕を捕まえ、万力のような握力を込めてミシミシと装甲を軋ませていく。

 

『「小賢しいっ!!」』

 

 オーブはへし折れてコントローンを失ったギャラクトロンの腕を、本体へと豪速で投げつける!

 己の腕が、右腕の断面にぶち当たったギャラクトロンはスパークを起こしてのけ反った。オーブはその隙に背後から飛びつき、相手の長いシャフトを脇に抱え込む。

 

『「こんなものぉぉぉっ!」』

 

 相手の背を足で押さえながらシャフトを力ずくに引っ張り――根本から引き千切った!

 ――その瞬間、卯月の耳に刺さっていたコードが衝撃で外れた。

 

『「はっ! こっちが奪ってやったわ!!」』

 

 引っこ抜いたシャフトを地面に叩きつけたオーブは更に踏んづけて完全に破壊。右腕、アームシャフトとパーツを失っていきながらも起き上がるギャラクトロンの内部では、コントロールが解けて正気に返った卯月が唖然と辺りを見回す。

 

『「え!? え!? ここどこですか!?」』

 

 正面を向いた卯月の視界に飛び込んできたのは――迫りくるオーブの拳であった。

 

「ウオオォォッ!」

 

 オーブの鉄拳が、卯月の囚われている発光部を撃つ。

 

『「きゃああああああ――――――――――っ!?」』

 

 卯月はたまらず絶叫。その声は、凛たちの耳に入った。

 

「今の、卯月の声!!」

「しまむぅぅ――――――――っ!!」

 

 色めき立つ凛と未央だったが……オーブは倒れ込んだギャラクトロンの顔面を鷲掴みにして――地面に叩きつける。

 

「えっ!?」

「や、やめてオーブ!! 卯月がその中に――!」

 

 未央の叫びは、オーブに届かない。オーブはギャラクトロンに馬乗りになったまま、容赦なく暴力を叩き込んでいく。

 

『「いっ! いやっ! やだっ! やだぁっ! た、助けてぇぇぇっ!!」』

 

 必死に叫ぶ卯月。――その声をかき消すように怒鳴る春香。

 

『「何もかも壊してっ! 命を全て滅ぼしてっ! 誰のための正義だ!! 神様にでもなったつもり!? 自分が気に入らないから消し去る!! 地球はあんたの遊び場じゃないのよっ!!」』

 

 オーブの暴力によってギャラクトロンの機体が砕け、ひび割れ、グシャグシャに潰れていく。――内部の卯月への配慮は全くない。

 

『「あんたの正義はっ! 使い物にならないのよっ!! このガラクタロボットっ!!」』

 

 オーブの鉄槌のような拳打が、ギャラクトロンの顔面を叩き割った。

 

『「やめて春香!! これ以上は、卯月が死んじゃうよ!!」』

 

 必死に止めに走る美希だが、春香は微塵も受けつけない。

 

『「邪魔をするなぁっ!!」』

『「あぁぁっ!」』

 

 無理矢理押しのけられ、転倒する美希。オーブはその間に暴力を振るい続ける。春香の顔は、憎しみで凄惨なものに変わり果てていた。

 未央は小舟にすがりついていた。

 

「小舟さんお願いっ! オーブを止めてぇっ! あのままじゃ卯月が……殺されちゃうっ!!」

 

 小舟も苦渋を噛み締めていたが、力なく首を振る。

 

「無理だ……出来ることは、何もねぇ……」

「そ、そんな……」

 

 ギャラクトロンの左腕を引き千切ろうと無理矢理引っ張るオーブのカラータイマーが、赤く点滅し出した。それで凛が未央に告げる。

 

「未央……オーブはもうすぐ消えてくれるよ……。それまで、卯月が無事なのを祈るしかない……」

「……何で……何でなの!? オーブぅぅぅぅぅぅっ!!」

 

 未央の悲痛な叫びが、虚空に消えていく。

 ――トータス号の前では、やよいが顔を覆って泣き崩れた。

 

「もう……もう見てられませんっ! こんなの……!」

 

 他の者たちも、歯を食いしばったり肩を震わせたりしながら目をつむったりそむけたりしている。

 しかしそこにあずさが、オーブの蛮行に目を離さないまま告げる。

 

「目をそらしちゃ駄目よ……」

「あずささん……?」

 

 顔を上げるやよい。あずさも、小刻みに震えていたが、感情を必死にこらえて前を向いていた。

 

「プロデューサーさんたちに託したのは、私たちよ……。だから私たちは、最後まで見届けなきゃ……。たとえ、何が起ころうとも……!」

 

 ――オーブは遂にギャラクトロンの左腕を奪い取り、それを鈍器に更にギャラクトロンを殴打していく。

 

「ウオオオオオオッ!」

 

 そして最後に、刃の部分をギャラクトロンに――発光部に向けて振り上げる。

 

『「砕け散れぇぇぇぇぇぇっ!!」』

『「――春香ぁぁっ!!」』

 

 その時――美希のビンタが、春香の頬を叩いた。パシィンッ! と渇いた音が鳴り響く。

 

『「――み、き……?」』

 

 それによって春香が止まり、オーブもまた振り上げた姿勢のまま停止した。

 美希は、呆然としている春香をひしっと抱きしめる。

 

『「もう……もう十分だよ……。春香の怒りは、十分に伝わったから……」』

『「……美希……」』

 

 オーブがギャラクトロンの腕を手放して、よろよろと後ずさってギャラクトロンから離れた。

 やっと暴力から解放されたギャラクトロン。身体中が黒ずみ、全ての武器を失い、破損していない部分は全身のどこにもない。――そんな状態でありながら、なお立ち上がる。

 そして、発光部――コアから、音が発される。

 ポン、ポロン、ポン、ポン――。

 

「……この音楽は……」

 

 呆然となる未央たち。それは、ギャラクトロンがこの世界に来て初めて取った行動――未央と凛の喧嘩を止めた、争いを鎮める音楽である。

 オーブも、その中の春香と美希も、音楽を奏でるギャラクトロンを見つめた。

 ギャラクトロンが、争う気持ちをなだめるメロディを鳴らしている――平和のメッセージを唱えている――。

 

 ――あれだけのことをしておいて。

 

『「――うあああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」』

『「きゃあぁっ!?」』

 

 春香の激情が再燃し、美希を振り払って腕を十字に組んだ。

 

『「ダメぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!」』

『「ゼットシウム光線っっ!」』

 

 オーブの腕から破壊光線が放たれ、ギャラクトロンに突き刺さり――。

 

 ――辺り一面が、凄絶な爆炎に呑まれた。

 



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ネバー・セイ・never(B)

 

 ギャラクトロンは、オーブによって破壊された。地球リセットは阻止されたのだ。

 

 ――だが、代償はあまりにも大きかった。最後のゼットシウム光線が引き起こした爆発によって周囲一帯は灰燼と化し、壊滅状態になってしまった。

 

 そして卯月は、ビートル隊によってギャラクトロンの残骸の中から救出されたのだが――。

 

 

 

「しまむー! しまむー!! 目を開けてよぉ!!」

「卯月! お願い、死なないでっ! いつもみたいに、頑張りますって言ってよ!!」

 

 緊急病院で、ストレッチャーに乗せられて手術室に運ばれていく卯月に、未央と凛が追いすがって必死に呼びかけていた。

 救出された卯月であったが、ギャラクトロンの内部にいた彼女は爆発の衝撃を全身に浴びていた。辛うじて即死は免れたが、それでも意識不明の重態であり、生死の境をさまよっている。

 病院の医者や看護師たちが卯月を手術室に運び込むと、凛たちの前で扉が閉ざされ、その上の「手術中」のランプが赤く点灯した。凛と未央は、ただ手を握り締めて卯月の死の淵からの生還を祈るしかなかった。

 

 

 

 戦場跡では、春香が呆然としたまま、周りの光景を見回す。森や野原は完全に灰と変わり、砕け散って転がっている木々の破片に残り火が揺らめくばかりであった。

 

「……そっかぁ……これ……私がやったんだ……」

 

 春香は膝立ちの姿勢のまま、虚ろな瞳でカラカラと笑い出した。

 

「あははは……あははははぁ……私が全部焼き払ったんだぁぁ……ははははは……」

「……春香……! 春香ぁぁ……!」

 

 壊れたように笑い続ける春香を、美希がボロボロ大粒の涙をこぼしながら力強く抱き締めた。

 ――その様をながめたガイは、血の流れが止まって白くなるほどに握り締めた拳を震わせる。

 

「うわあぁぁッ!」

 

 そして感情のままに、地面に放置しているベリアルのカードに拳を振り下ろしたが――拳はカードのすぐ横の地面を叩いた。

 

「……ッ!」

 

 ガイが下唇を噛み締め、破けた唇から血がしたたった。

 

 

 

 ――緊急手術の結果、卯月はどうにか命を取り留めることは出来た。しかし今もなお目覚めず、病室のベッドの上に横たえられて人工呼吸器や心電図をつなげられた彼女の側では、凛と未央がうなだれるように椅子に腰を落としていた。

 病室の外では、小鳥たちや小舟、渋川が医師から卯月の容態を聞いていた。

 

「相変わらず、意識不明の状態が続いております。出来る限りのことはしましたが、後は本人の頑張り次第かと……」

「ありがとうございます……」

 

 小鳥が礼を告げると、医師は会釈してその場を立ち去っていった。

 

「……島村卯月ちゃんのご家族と所属事務所に電話してくるよ。あの二人に伝えさせるのは酷だ……」

「お願いします……」

 

 渋川も、346プロへの連絡のためにこの場を離れていった。――病室の前のベンチソファには、意識が回復していた律子が頭を抱えていた。

 

「私のせいだ……! 私があんなことを言ったから……こんな事態に……!」

「律子……」

 

 千早たちは誰も、律子に掛けるべき言葉がなかった。当惑したまま立ち尽くすアイドルたちに代わって、小舟が律子の隣に腰掛ける。

 

「律子ちゃん……大丈夫か」

「小舟さん……」

 

 律子は、頭を抱えたまま小舟に告げる。

 

「私は……取り返しのつかないことをしでかしました……」

「うん……?」

「私は、ギャラクトロンの打倒をオーブに託しました……。でもそれは、彼の心を無視して頼り切るやり方でした……! 表面上のことだけじゃなく、もっと奥の部分に目を向けるべきだったのに……」

 

 律子は自嘲するようにつぶやく。

 

「科学に平和は作れない……。作れるのは暴走する怪物だけです……」

 

 正義を謳い、暴虐に走ったギャラクトロン。それを止めようと、更なる暴虐に染まったオーブ。――彼らのありさまは、科学の力に夢を持っていた律子の心に深い傷を負わせていた。

 

「私は……私たち人間は何のために……! どこを目指して、今日まで……! その行き着く先があれなのなら……人間の存在価値は……!」

 

 絶望のどん底にある律子に、小舟は語った。

 

「機械と同じ頭で考えたらそうかもな……。だから律子ちゃん、機械は体温は測れても、想いの熱さは測れねぇ。人間は違うんだ……! 人は、人の想いの強さに共感できる! 何故か分かるか」

 

 律子はようやく顔を上げた。

 

「心が、あるから……?」

「そうだ! 俺を鍛えてくれたあの人も言ってたことだ。俺たちにはハートがある! だから大自然は争ってるんじゃなく、支え合ってるんだって分かる! ……シマウマが増えれば、草原は消えちまう。だからライオンがシマウマの数を減らすッ!」

 

 小舟の言葉を響が引き継ぐ。

 

「……ライオンが死ねば、大地に還って、その大地に草が生える。その草を食べて、シマウマが育つ。――自然はそうやってサイクルしてるんだ」

「ああそうだ! 食物連鎖は、決して争いなんかじゃあねぇよ! この星は、バラバラに生きる道じゃなく、協力し合って、一つのでっかい命として生きる道を選んだんだ! この星自身の選択が、間違いであるはずがねぇだろ!」

 

 律子に、そして皆に強く訴えかける小舟。

 

「だからよ、頭じゃなくハートで物事を見ろ! 科学にだって、歌にだって……必要なのは心だ! ギャラクトロンにはハートがなかった、だから奴の正義はイカレちまったんだ! あのロボットには見えなかった世界を、見つめ続けろッ!」

 

 小舟の説得が、律子の、アイドル皆の胸を打つ。

 ――その時に、ガイが春香と美希とともに彼らの元に駆けつけた。

 

「みんなッ!」

「プロデューサーさん! 美希ちゃん! ……春香ちゃん……!」

 

 小鳥たちの顔が、思わず強張る。当の春香は、無表情のままに尋ねかけた。

 

「……卯月ちゃんは……?」

「……この中よ」

 

 伊織が答えると、春香が飛び込むように病室に入っていった。その後に美希、ガイが続き、律子を除いたアイドルたちはその後ろ姿を不安そうに見つめた。

 律子は、小舟の元に走ってきた製作所の社員の方に振り返っていた。

 

「社長!」

「どうした? 何があった!」

「墜落したゼットビートルのパイロット……」

 

 小舟と律子は一瞬息を呑んだが……。

 

「……無事でした!」

「……ほんとか?」

「ウチのバネが……緊急用脱出スプリングが、パイロットを救ったんですよ社長ッ!」

「……よかった……よかったッ!」

 

 小舟は感極まったようにうなずいた。律子は大きく目を見開いて――目尻からぽたっと涙の滴がこぼれ落ちた。

 

「科学が……命を守った……!」

 

 ――病室の方では、凛と未央が寝たきりの卯月に対して、春香のインタビュー映像を見せていた。

 

「卯月、私たちの憧れの先輩の言葉だよ。……出来ないなんて言わないで。頑張るんだよ……頑張って生きて……!」

「私たちのアイドル人生は始まったばかりじゃん……こんなところでおしまいにしちゃダメなんだからね……!」

 

 春香が二人の後ろから近づいていくと、未央と凛が振り返る。

 

「春香さん……!」

「……卯月ちゃんは……」

「……最悪、このまま意識が戻らないかもって……」

 

 凛が唇を噛み締めながら、苦しい声で答えた。春香は卯月の前で膝を突き、眠ったままの彼女の手をそっと握る。

 仲間のアイドルたちの前に出た律子と小舟の目が加わる中、春香は言った。

 

「……私は……オーブが許せない……」

「……春香……」

 

 ガイが、仲間たちが――顔を伏せた。

 言葉の真意を知らない未央が吐き捨てる。

 

「私もですよ……! オーブは正義の味方って、信じてたのに……! あれじゃあギャラクトロンと変わらないよっ!」

 

 未央の怒号と、律子たちの様子を受けて、小舟が口を開く。

 

「科学とおんなじだ」

 

 律子たちは卯月に視線を集めたまま、小舟の言葉を耳にする。

 

「強力なパワーを作り出した途端、破壊と暴力に呑み込まれてしまう。そんな闇に、制御が利かなくなる……! オーブは、自分の闇を受け止められてなかった……それでああなってしまった」

 

 小舟の語ることを、背中に受ける春香と、ガイ。

 

「自分の闇ってのはな、力ずくで消そうとしちゃいけねぇんだ! 逆に抱き締めて、電球みたいに自分自身が光る! そうすりゃあ、ぐるっと360度、どこから見ても、闇は生まれねぇ……!」

「……」

 

 そう小舟が語り終え、春香が卯月の手をぎゅっと強く握った、その時……。

 

「……う……?」

 

 卯月が――うっすらとまぶたを開いた。

 

「卯月……!」

「しまむーっ!」

 

 春香が大きく目を開いて、凛と未央は卯月の顔の側に飛びついた。卯月はゆっくりと言葉をつむぐ。

 

「ここは……どこですか……?」

「病院だよ……!」

「しまむー……助かったんだよ……!」

 

 凛たちの返答を聞いて、卯月はにっこりと微笑む。

 

「えへへ……帰って、これたんですね……」

「うん……うん……!」

「私……頑張りました……」

「うん……! よく頑張ったね、しまむー……!」

 

 凛と未央は、ぼろぼろと号泣していた。卯月は、手の感触に気づいて尋ねかける。

 

「私の手を、握ってるの……誰ですか……?」

「春香さんだよ、卯月……!」

「そうでしたか……。温かい手……」

 

 春香の瞳から、ぽたりと涙がこぼれ落ちて、彼女は卯月に頭を下げる。

 

「卯月ちゃん……ごめんね……ごめんね……っ!」

「……どうして、春香さんが謝るんですか……? おかしな春香さん……」

 

 ふふっと苦笑する卯月。――そんな中で、ガイは不意に踵を返して、病室を抜け出していく。

 

「プロデューサー……?」

 

 千早たちはそれを目で追ったが、ガイのただならぬ雰囲気に、引き止めようとした手が途中で止まった。

 

 

 

 ――ガイは爆心地にまで戻ってきた。荒れ果てた大地には、ベリアルのカードが放置されたままになっている。

 

「……」

 

 それを見下ろすガイは、おもむろに手を伸ばして、一度は置いてきたカードをホルダーに戻した。

 そしてそのまま、765プロ事務所の方角とは反対方向へ、進み出す――。

 

「――どこへ行くんだね?」

 

 背後から、声を掛けられた――。

 ガイが振り返ると――高木がガイの後ろに立っていた。

 

「社長……」

「ここに戻ってくると思ったんだ」

 

 ガイを呼び止めた高木は、彼に言い聞かす。

 

「こんな大惨事が起きて事務所は大混乱。そうでなくとも、我が社はこれからが大事な局面だよ。そんな時に唯一のプロデューサーが無断欠勤なんて、笑えないよ君ぃ」

 

 冗談めかした高木だが、ガイは顔をうつむかせながら返した。

 

「今の俺には、あいつらの側にいる資格がありません……!」

「ほう……?」

「今の俺には、闇を抱き締める強さがありません……。だから春香に……みんなに、あんな思いをさせてしまった……!」

 

 くっ、と歯を食いしばるガイ。

 

「俺はいつだってそうだった……! ショーティーだって……俺を助けてくれて、助けたかった「彼女」だって……! 傍にいる人を、守れない……! 今の俺じゃあ、同じことの繰り返しです……! もうあいつらに、笑顔をあげられない……!」

 

 ガイの訴えを受け止めた高木が、ふぅと息を吐く。

 

「もう長いつき合いになるが……そういうことを話してくれたのは、これが初めてだね」

 

 と言いながら、ガイの正面まで歩いていくと――その手を取って握り締めた。

 

「社長……?」

「ガイ君……何でもかんでも、一人で抱え込もうとするなッ! みんなのことは押して導くのに、自分の弱いところは見せてあげない。君の良くないところだよ……」

 

 高木はまっすぐにガイの瞳を見据えて諭す。

 

「アイドルとプロデューサーは、仕事上だけの関係ではないと私は考える。君たちは、明日への道をともに歩く仲間だ! 仲間は片方が先導するだけの関係じゃあない。支え合うんだ! それが、真に信頼するということだよ……!」

「……ですが……俺の背負うものは、あいつらの重荷に……」

「だから支え合うんじゃあないか! 大丈夫だ。みんな弱気になったりもするが、本当は強い子たちだ。それは今では私よりも君が知っていることなのではないかね?」

 

 高木の説得に、ガイの瞳が揺らめく。

 

「君の過去に、どんなことがあったのか。それは知らない。知らないが……たとえ何があったとしても、同じ過ちを繰り返したとしても、諦めるな! 出来ないなんて言うんじゃない! それが、765プロのモットーじゃあないか」

 

 力強く訴えかけた高木は、最後に締めくくる。

 

「まずは、闇を抱き締める強さを見つけるんだ。だがそれは、どこかではない。みんなの側にあるはずだよ……」

 

 高木の熱い説得に――ガイの口元がほころぶ。

 

「全く……最初に会った時から、あなたには敵いませんよ、高木さん」

「ガイ君……!」

 

 顔を上げたガイの表情は、ほんの少しだけだが、明るくなっていた。

 

「分かりました……。俺は、あいつらからも逃げません。向かい合って……俺にない強さを見つけます……ッ!」

「うむ! その意気だッ!」

 

 高木とがっしりと握手を交わしたガイは、事務所までの道を引き返していった。それを立ったまま見届けた高木は、何かを決心するようにうなずくと、ケータイを取り出して小鳥のものにつなげた。

 

「小鳥君、突然だが、私はこれから海外出張に出かけるよ」

『か、海外出張? ほんとに突然に……。一体、どんなご用事ですか?』

「彼の……ガイ君の無くしてしまったものを、探しに行くんだ」

 

 小鳥の問い返しに、高木ははっきりと答えた。

 

「ロシア――ルサールカへ」

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

亜美「はろはろ兄ちゃんたちー! 亜美だよ~? 今回紹介するのはー、ウルトラマンダイナのストロングタイプだぁーっ!」

亜美「ストロングタイプはダイナ兄ちゃんのタイプチェンジの一つ。前作のティガ兄ちゃんは力のパワータイプ、スピードのスカイタイプ、中間のマルチタイプって内訳だったけど、ダイナ兄ちゃんは光線技のフラッシュ、超能力のミラクル、怪力のストロングっていう内容なんだよぉ」

亜美「ティガ兄ちゃんの時みたいに、ダイナ兄ちゃんもタイプ毎にスーツアクターさんを入れ替えてたんだ。その一人の中村さんがマッチョだから、フラッシュタイプの体型が回によって変わるなんてこともあったけど、ストロングタイプはいつだってムキムキだったんだよー!」

亜美「ストロングは基本肉弾戦で、光線技はほんの少ししかないからミラクルと比べると使い勝手が悪い感じだったけど、その分使われるときは切り札みたいな扱いで、色んな強敵怪獣を真っ向から玉砕したのだー!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『Never say never』だ!」

ガイ「これは2011年から展開されている派生作品『シンデレラガールズ』のキャラクター、渋谷凛のソロ曲だ。CVの福原綾香さんは渋谷凛役で声優デビューしたから、歌は初々しいながらも前向きな気持ちが溢れてるぞ!」

亜美「シンデレラガールズも最近絶好調だよねー。だけど元祖アイマスの亜美たちも応援してよね、兄ちゃんたちっ!」

亜美「それじゃあ次回もよろよろ~♪」

 




 菊地真です。事務所の空気が最悪です……。でもボクたちは、前に進む覚悟を決めました。そのために、今まで避けてきた禁断の話に踏み込みます。そう……プロデューサーがどうして変身できなくなったのか……プロデューサーに何があったのかに……!
 次回『天照らす聖剣』。今こそ、闇を抱き締める時です!


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天照らす聖剣(A)

 

『強すぎる力は、災いをもたらすこともあります……』

「ハニー、もうやるしかないのっ!」

「全てを破壊し尽くすお前の姿……。ほれぼれしたなぁ……」

「楽しかっただろう……? 強大な力を手に入れて全てを破壊するのは……」

「……そんなことは」

「いい子ぶるなッ!!」

「所詮お前は俺と同類だ……。せいぜい楽しめ……!」

「自分の闇ってのはな、力ずくで消そうとしちゃいけねぇんだ!」

 

 

 

『天照らす聖剣』

 

 

 

 ――春香が目を開くと、周囲は焦土であった。

 

「ここは……」

 

 初め、春香は自分が焼き払ってしまった場所だと思って悲しげに目を伏せた。――だが、やがてそうではないことに気がついた。遠景には標高の高い山々が連なり、空模様も東京の風土とは異なる様子だ。故郷の北海道に近い……北国の空だ。

 

「ここって……もしかして……」

 

 春香は、ここは夢で見た、覚えがないはずの雪の大地……その跡地ではないかと感じた。

 

『……』

 

 そんな春香の背後に、不意に人の気配が起こる。

 

「だ、誰!?」

 

 バッと振り返った春香の目に飛び込んできたのは、どことなくアナスタシアに似た顔立ちの女性の姿だった。彼女はじっと春香を見つめていたかと思うと、口を開いて呼びかけてくる。

 

『これを……』

「えっ……?」

 

 スッと手を伸ばし、何かを差し出してくる女性。春香は反射的に受け取り、目を落とす。

 それは、最早馴染みの深いウルトラフュージョンカード――しかし、表の面は完全な白紙であった。

 カードを渡してきた女性は語る。

 

『それは、あの人が失くしてしまったもの……。あの人の、真の姿……』

「あの人の……?」

『どうか、見つけてあげて……。あなたと……あなたたちで……本当の、あの人の心を……』

 

 それだけ言い残すと、女性の姿がスゥッと薄れていく。――いや、周囲の光景全てが白くなって消えていく。

 春香は思わず叫んだ。

 

「ま、待って! あなたは、一体……!」

 

 しかし言葉が終わらぬ内に、女性は春香の目の前から消えていき――そこで春香は目を覚ましたのであった。

 

 

 

 別世界から地球に現れ、極論を唱えて破壊の限りを尽くした末に、春香たちの心に大きな傷を残したギャラクトロンが爆砕された翌日――律子と亜美、真美はビートル隊基地で、渋川に詰め寄っていた。

 

「渋川さん、本当なんですか!? ビートル隊が――オーブを攻撃対象に指定したってこと!」

 

 律子の問いかけに、渋川は険しい表情で肯定する。

 

「ああ。上層部の決定だ」

 

 亜美と真美はすぐさま反論する。

 

「そんな! ひどいよ!」

「確かにおっきな被害を出したかもしれないけど、何も攻撃するなんてこと……」

「俺だってそう思ってるよッ!」

 

 感情的に叫んだ渋川だが、ひどく辛そうに声を絞り出す。

 

「だけど、君たちも知ってるだろう。今度の件で、世論はオーブ排斥が大半を占めてる。市民を守るビートル隊はその声を無視できない。俺だって……これ以上犠牲が出るのを黙って見過ごす訳にはいかないんだよ」

 

 オーブがゼットビートルを墜落させ、またギャラクトロンに捕まっていた少女を見殺しにした――。その事実は、最近のオーブに疑いを抱いていた世間の声を、反オーブに染め上げるのに十分であった。日頃からオーブに深く関わっている765プロも大勢の記者たちにオーブに対してのコメント――はっきり言えば、オーブに否定的な意見を求められて逃げ回っているありさま。今だって、変装に変装を重ねてやっとの思いで記者を振り切ってここまでたどり着いたのだ。

 

「で、でも……」

 

 それでも、律子たちはオーブへの攻撃など受け入れられない。何故なら……オーブとは彼女たちのプロデューサーであり、自分たちでもあり、そして己の蛮行に誰よりも自分が苦しんでいる春香だからだ……。

 しかしそのことを話す訳にもいかず、もどかしい思いを律子たちがしていると……急に後ろの方から渋川を呼ぶ声がした。

 

「はーい、一徹君。ちょっといいかしら?」

「えっ!?」

 

 思わず振り返った律子たちが、ギョッと仰天した。

 

「あ、あなたは!!」

 

 

 

 春香は記者の目を逃れながら、卯月の病室へお見舞いに来ていた。卯月は意識が戻ったとはいえ、今もベッドで寝たきりの状態である。

 

「春香さん、今は色々とお忙しいでしょうに、わざわざ私なんかのお見舞いに来てもらってすみません……」

 

 他ならぬ卯月が春香の見舞いに遠慮する始末であったが、春香は悲しげな表情のまま首を振る。

 

「気にしなくていいよ。私が来たかったから来ただけだから……。何せ……一番苦しい思いをしたのは、卯月ちゃんだもの……」

 

 本当のところは話せず、迂遠な言い方をする春香。一方で凛と卯月は、病室の窓のカーテンをかすかに開いて外の様子を確認。病院の前では、大勢の記者がたむろしている。

 オーブの被害の当事者たる卯月の下に、こぞって集まった者たちだ。卯月が入院中故踏み込んではこないが、代わりに彼女を見舞う人を虎視眈々と待ちかねているのである。そのため、春香も凛たちも変装して身を潜めながら病院に入らなければならなかった。

 

「すごい数が集まってる……。そんなにオーブに対するネガキャンがしたいのかな……」

 

 入院中の卯月に対する配慮がまるで見られないマスコミの様子に辟易する凛。病院側が差し止めなければ、間違いなく卯月の下に押し寄せて質問攻めにすることだろう。

 一方で未央は憤然と語る。

 

「でも、それも当然だよ! それだけオーブのやったことはひどいんだもん! 私たちの気持ちの裏切りだよ!」

 

 ――彼女の発言を耳にした春香が表情を沈ませたが、すると卯月が未央に告げた。

 

「未央ちゃん、オーブさんを悪く言わないであげて下さい」

 

 未央が、凛が、そして春香が驚いて顔を上げる。

 

「えっ!? しまむー、どうしてオーブをかばうの!? オーブがしまむーに何をしたか……」

 

 戸惑う未央に、卯月は言った。

 

「私には……オーブさんが、とても苦しんでたように見えたんです」

「オーブが……苦しんでた?」

「ギャラクトロンは……とてもひどいことをしました。それに対する感情が爆発して、止まらなくなって……自分でもどうしようも出来ないような状態になってる感じがしました。きっとオーブさんも……本当はあんなことしたくなかったはずです。誰にだって過ちはあります……。だから、オーブさんをあまり責めないであげて下さい」

「……しまむーがそう言うなら……」

 

 卯月の言葉に未央はしぶしぶ引き下がった。そして――春香は少し瞳を潤ませていた。

 そんなところに――。

 

「お邪魔するわよん」

 

 突然、全身黒ずくめにサングラスを掛けた如何にも怪しい格好の男女が、ムーンウォークまがいの動きで病室に立ち入ってきた。

 

「!?」

「だ、誰!?」

 

 あまりのことに衝撃を受ける凛たち。それをよそに、春香は目を丸くする。

 

「ママ!」

「ママ!?」

「そうで~す、春香の母親の天海繪里子で~す」

 

 サングラスを外した顔は、以前春香を連れ戻そうと東京にやってきた繪里子のものだった。男は渋川であった。

 

「は、春香さんのお母さんでしたか……」

 

 凛たちは何とコメントすればよいか分からずに目が点になっている。

 

「ママ、何でそんな変な格好して……」

「そりゃあ当然マスコミの目を避けるためじゃない。見つかったら色々面倒でしょ?」

「別方向で怪しいよそれ……。叔父さんも止めてよ」

「この人止めらんねぇのは春香ちゃんが一番知ってるだろ?」

 

 格好のことについてはともかく、繪里子は春香へ呼びかける。

 

「春香、ちょっと二人きりでのお話しがあるの。ついてらっしゃい」

「え?」

 

 

 

 春香は繪里子に引っ張られるように、病院の屋上にまで連れてこられた。

 

「あなたのお友達に聞いたら、ここにいるって聞いてね。一徹君に案内してもらったのよ」

「それはいいけど、ママ、どうしてまた東京に……」

「あんな大惨事が起きて、あなたのことが心配で見に来たに決まってるでしょぉ? それで正解だったわよ。春香、あなたまた随分と元気ないじゃないの。そんな落ち込んでるの見るのは初めてよ」

 

 母親だけはあり、繪里子は一発で春香の異常を見て取っていた。

 

「……」

 

 春香が気まずそうに沈黙していると、繪里子はふぅとため息を吐いて言った。

 

「まっ、アイドルの後輩を思いっきり光線で吹っ飛ばしちゃったらそうもなるかもね」

 

 あまりにも自然ながらとんでもない発言に春香は勢いよく噴き出してしまう。

 

「ま、ま、ママ!? ななな、何でそのこと……!」

「ママ舐めるんじゃないわよぉ? 私はあなたが生まれた時からずぅっとお母さんやってるんだからね」

 

 何でもないことのように語る繪里子。

 

「ウルトラマンオーブを最初に見た時、すぐに分かったわ、あなただってね。いつもって訳じゃあなかったみたいだけど……。流石の私もびっくり仰天だったけど、しばらくは様子を見てたわ。でもどんどんと危ない戦いをするものだから、この前はウチに帰ってもらおうと思って押しかけたの。結局はあなたの熱意に免じたけど……最近はすっごいやんちゃするようになったじゃないの」

「……」

 

 春香は何も言い返さない。何を言っても、きっと言い訳になるだけだから。

 

「まぁでも、あれは正気じゃないのよね。自分の感情を抑えられなくなった……そうでしょう?」

 

 無言の肯定をする春香。その様子を観察して、繪里子は次の話を語り始めた。

 

「ねぇ春香、花って綺麗で色とりどりに咲き誇るものよね」

「え? うん……」

「だけど――どんな美しい花も、土から養分を吸って生きてるわ。そしてその養分は、土に還った生き物の死骸や排泄物とかの、汚く醜いものが分解されて生じる。……分かる? 美しいものは、醜いものから生まれてくるの。その美しいものも、いずれは朽ち果てて醜くなり、次の美しいものを生み出す。美しいものと醜いものはつながってるのよ……始まりも終わりもないリングみたいにね」

 

 春香の瞳をじっと覗き込みながら、繪里子は説く。

 

「美しいものと、醜いものが、つながってる……」

「心だって同じよ。悲しみを知ってるから、人は喜ぶ。争いを起こす気持ちを知って、平和を愛する気持ちが生まれる。本当の心の輝きを放てる人は、自分の暗い感情を理解して受け止めてる人なのよ。だから春香……自分の怒りも憎しみも、ぜーんぶ受け止めて光に変えなさい。あなたの心から生まれたもので、いらないものなんて一つもない。全てが、大事な宝物なのよ」

 

 醜いものから、美しいものが生まれる。怒りや憎しみが、光に変わる……闇を抱き締めて、光り輝く……。たった今、春香の心にも光が射してきた。

 同時に、繪里子がこんなにも自分のことを想い、考えてくれていたことを感じ取った。それなのに自分は、にせの恋人を立てて追い返そうとした……。

 

「ママ……ほんとにごめんなさい。この間は、嘘を吐いて……」

 

 己が恥ずかしくなった春香は正直に謝った。すると繪里子は苦笑を返す。

 

「いいのよぉ。子供に困らされるのが親の仕事なんだから。そんなことより、そろそろあなたのいるべき場所に帰ったらどうかしら? 自分の気持ちを受け止めることの他に、やることあるんじゃないの?」

「うんっ! ありがとうママ! 行ってきますっ!」

「いってらっしゃーい! 気をつけるのよー」

 

 満面の笑顔の繪里子に送り出され、春香は小走りで駆け出した。卯月たちや渋川に挨拶しに立ち寄ってから、彼女の居場所――765プロへと向かって。

 

 

 

 律子と亜美真美が事務所に戻ると、春香と高木を除いた全員が事務所に集まっていた。そんな中で小鳥は、残念そうな表情でホワイトボードの予定の記述を消す。

 

「小鳥さん……またキャンセルの電話ですか?」

「ええ……もう、次々とお仕事をキャンセルされてるんです」

 

 律子の問いかけに、小鳥はため息とともに答えた。765プロはオーブをかばう立場を取っていることが、現在の世論の反感を買ってしまっている。それでせっかく舞い込んできた仕事の依頼も、キャンセルが止まらないのだ。

 

「すまない……全部、俺の責任だ……」

 

 そのことに責任を感じているのはガイである。まぶたを閉ざしてうつむいている彼を律子は慰めようとしたが、どんな言葉を掛けたらいいのかが全く分からずに、伸ばしかけた手がさまようばかりだった。他の皆も同様に、悲痛な面持ちでいる。

 なかなかアイドル活動が思うように行かず、苛立ったり落ち込んでいたりする時もあった。だが……ここまで重い空気が場を支配していることは、この事務所には一度もなかった……。

 

「プロデューサーさんっ!」

 

 そこに飛び込んできたのは、戻ってきた春香だ。彼女は迷いのない足取りでガイの正面に回り込む。

 

「春香……?」

「プロデューサーさん、お願いがあります……!」

 

 春香はガイの目をまっすぐに見つめて切り出した。――しかし、それをさえぎる声が。

 

「待って、春香ちゃん。それは、私に言わせてちょうだい」

 

 あずさだ。彼女は春香の言おうとしていることを察して、それを制する形で口を開いた。

 

「プロデューサーさん、春香ちゃん、律子ちゃん……あなたたちは、今度の惨事の責任を感じてますね。でも……責任は、あなたたちだけにあるんじゃありません」

 

 己の胸に手をやりながら唱えるあずさ。

 

「あの時、変身を迷っていたプロデューサーさんたちの背中を押したのは、私です。私が、あの事態を招いてしまったと言えます」

 

 今の発言に、伊織が思わず口出しする。

 

「あずさだけじゃないわ! 私も同意したもの!」

「私もですぅ! 私だって、プロデューサーたちにあんなことさせちゃったんです……!」

「ボクも……いや、みんながそうだよ……!」

 

 やよいや真も言う。アイドルたち全員が肯定をしていた。

 

「みんな、ありがとう。そう……私たちが、闇の力を使わせました。でも……あの時は、それじゃあ駄目だったんです」

 

 あずさはぎゅっと、胸に置いた手を握り締める。

 

「託すなんて、勝手な言い分でした。私たちは……闇の力を用いるという、とても辛く苦しい思いをすることを、プロデューサーさんたちに押しつけたんです。自分たちは安全な場所にいて……苦しみを、理解しようとしないで……」

 

 自責の念を顔に浮かべたあずさは、それを振り切るようにまぶたを開いてガイを見つめた。

 

「今からは違います。一緒に変身はしなくても、プロデューサーさんたちの苦しみを、私たちも受け止めます! 私たちは、仲間だから……! 悲しみも、苦しみも、闇も、分かち合わないと本当の仲間じゃありません……!」

 

 皆、その意志を瞳に強く示していた。その眼差しを向けられて、呆然としているガイに、あずさが告げる。

 

「だからプロデューサーさん、教えて下さい。今までずっと、私たちも避けてきたことを、今こそ……。あなたの初めの苦しみ――どうして、自分の力でオーブになれなくなったのかを……!」

「お願いします……! 話しづらいことなのは分かってます。その上で教えてもらいたいんですっ! 私たちも、プロデューサーさんの闇を一緒に抱き締めたいから……!」

 

 春香が引き継いで頼み込んだ。いや、全員がそれを望んでいる。

 アイドルたちの求めを一身に受けたガイは――ぽつりぽつりと、語り出した。

 

「あれは、今から百年近くも前のことだ……」

 

 アイドルたちは顔つきをより引き締め、たたずまいを直してガイの話に聞き入る。

 

「魔王獣は、お前たちが倒してきたので全部じゃない。他に、闇と光の魔王獣がいたんだ。その二体は、お前たちが生まれるよりも昔に俺が倒した」

 

 春香は、ジャグラーが見せつけた魔王獣のカードを思い出した。確かに、見たことのない怪獣のカードが二枚、その中に混ざっていた。

 

「それが起きたのは、光ノ魔王獣マガゼットンとの戦いの時だった。俺は激しい戦いの中で、一時記憶を失うほどの重傷を負ってしまった。そこを、ある女性に助けられたんだ。……ロシアの、ルサールカでのことだ」

「社長が向かった先……!」

「ルサールカって、原因不明の大爆発があったっていう……!」

 

 小鳥と律子が驚いたが、一方で春香は虚を突かれたような顔になる。

 

「ルサールカ……?」

「……その女の人のこと、好きだったの……?」

 

 美希がやや表情を曇らせながらも問うと、ガイはうなずいた。

 

「今からして思えば、俺は確かにあの人に心惹かれてた。だが……助けられなかったんだ。……マガゼットンとの戦いに巻き込んでしまって……救うことが出来なかった……! 誰よりも、助けたかった人だったのに……!」

 

 ガイはぐっ……と、奥歯を噛み締めた。

 

「俺は怒りのままに力を振るい、マガゼットンを葬った。だがその代償として、変身することが出来なくなった……いや、分からなくなってしまったんだ……。自分の光が……光とは、正義とは、一体何だったのかが……いつも、傍にいる人を助けられない俺に、そんなものがあるのかが……」

「……そんなことが、あったんですか……」

「それが、ルサールカ大爆発の真相なんですね……」

 

 あずさや律子たちは皆、ガイの身に起きた真実、そして彼の悲しみを知り、心痛を表情に表していた。

 しかし春香だけは、おずおずと手を挙げながら、ガイに尋ね返した。

 

「あ、あの……その女の人って……もしかして、ナターシャ・ロマノワって言うんじゃないですか……?」

 

 ――ガイの時間が、一瞬停止したように見えた。

 

「……春香、どうしてその名前を……!?」

「え……!?」

 

 アイドルたちもただならぬ雰囲気を感じ取り、ガイと春香を見比べる。

 春香は慌てながらもガイに告げた。

 

「だ、だって! 今の話、ウチに言い伝えられてるひいひいおばあちゃんの話と、そっくりだから! 誰も信じなかったけど、ナターシャおばあちゃんは……ルサールカ大爆発を生き延びたんだって!!」

 

 そしてはっと気がついて、テーブルの上からマトリョーシカ人形――春香の祖先の形見を持ってきて、ガイに差し出した。

 

「これ……最後の一つは、おばあちゃんの大切な人が見つかった時に開けてって……」

 

 人形を受け取ったガイは、ゆっくりと、一つずつ開いていく。そして最後の小さな人形を――震える手で開ける。

 中から出てきたのは……モノクロの小さな写真。それは、春香のはとこのアナスタシアの面影を――いや、アナスタシアが彼女の面影を――持っている女性と、ハーモニカを吹く男性のツーショット写真だった。

 その男性の顔は――。

 

「プロデューサー……!!」

「……ナターシャ……」

 

 唖然としながら春香に振り返ったガイは、ふらふらと彼女に近づいていき――がばっと彼女を抱擁した。

 

「えっ!? ぷ、プロデューサーさん!?」

 

 一瞬真っ赤になった春香だったが――ガイから伝ってきた涙の雫が自分の頬を濡らしたことで冷静になる。

 

「……ありがとう……生まれてきてくれて、ありがとう……!!」

 

 嗚咽を上げながらぎゅうっと抱き締めてくるガイを、春香は柔らかい表情で、そっと抱き締め返した。

 仲間たちは、声に出さずに興奮し切っている。

 

「こんなことがあるなんて……! すごい奇跡ですぅ……!」

 

 雪歩のつぶやきを、貴音が首を振って否定した。

 

「いいえ……これは、春香のご先祖の強き想いと縁が導いた、運命でしょう」

 

 響は恐る恐る、隣の美希の顔を覗き込んだ。

 

「美希……えっと、何て言うか……大丈夫?」

 

 美希は真剣な面持ちで言った。

 

「ミキ、あきらめないよ。だって、ハニーが愛した人が春香のご先祖だってことと、ハニーが春香を愛するかどうかってのは別の話だもん」

「ま、まぁ、そうだよね」

 

 ぽりぽりと頭をかく響だった。

 アイドルたちは、春香を抱き締めるガイをそっと見守っていた。が――。

 

「おいおいどうした。何だか盛り上がってるじゃないか、ガイ」

「!!」

 

 突然の声に、ガイたちは一斉に振り向く。その先に、いつの間にか現れていたのは、

 

「ジャグラー……! 今更何しに来やがった!?」

「つれないなぁ……。俺はただ、一つ注意をしに来たのに」

 

 ジャグラーは冗談めかした口調で、何かを握っている左手を持ち上げた。

 

「外国は何かと危険だぜ? ご老体一人で旅行させるのは良くない」

 

 ジャグラーの手にしているものを目の当たりにした小鳥が一気に青ざめる。

 

「社長のネクタイ!!」

「ジャグラスジャグラー!! あなた、社長に何を……!」

 

 千早が激昂して叫んだが、ジャグラーはそれを制するように薄ら笑いを浮かべた。

 

「まぁそう焦るなよ。どうなったか知りたいなら、あの下まで来るといい」

 

 ジャグラーが右手の刀で指し示した先。窓の外の空に、怪しい穴のような雲が渦巻いていた。

 

「あ、あの雲は……!」

 

 一斉に息を呑むアイドルたち。その光景は、マガオロチ出現の前兆とそっくりだからだ。

 

「ひと足先に行ってるぜぇ、ガイ……!」

 

 ネクタイをその場に放り、闇の中に消えるジャグラー。アイドルたちはすぐにガイに向き直った。

 

「プロデューサーさん!」

「ああ……すぐに行くぞッ!」

 

 ガイたちは迷うことなく、雲の方角へと向かって事務所を飛び出していった。

 

 

 

 不気味な雲の出現に、マガオロチの脅威を思い出した人々は瞬く間に逃げ出した。無人となった街の中でガイたちは、待ち受けていたジャグラーの元へとたどり着く。

 魔人態となっていたジャグラーは、高木を後ろ手に捕まえていた。

 

「社長ッ!」

「ガイ君、すまない……! 君の無くしてしまったものを見つけようとルサールカまで行ったのだが、すぐにこの男に捕まってしまった……!」

『どの道、あそこからは何も見つけられねぇよ。何も残っちゃいないからな』

 

 ジャグラーはあっさりと高木を解放し、ガイたちの方へと突き飛ばした。あずさややよいが高木を受け止めてその身を気遣う。

 

「社長、大丈夫ですか!?」

「ああ……。すまない、世話を焼かせる……」

「いいですぅ……社長がご無事なら」

 

 ガイはジャグラーを厳しくにらみつけた。

 

「何のつもりだ……」

『何てことはないさ。お前に見せたいものがあったんでな』

 

 ジャグラーは刀を頭上に掲げ、渦巻く雲へと向ける。

 

『見ろッ!』

 

 刀より電撃がほとばしり、雲に吸い込まれる。するとその中から、長く巨大なものがぬるりと出現した。

 

「あ、あれはっ!!」

 

 春香が絶句した。

 それは、間違いない――春香たちがサンダーブレスターとなっていた時に、切断したマガオロチの尾であった!

 



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天照らす聖剣(B)

 

 空の穴から現れたマガオロチの尾を見上げ、驚愕に染まっている春香たちの反応に、ジャグラーが愉快そうにほくそ笑んだ。

 

『そうだ。お前たちが引き千切ったマガオロチの尻尾だ。あの後俺が回収してたのさ』

 

 マガオロチとの戦いのことを思い出す春香。あの時は精神的な余裕がなかったので気にならなかったが、確かに投げ捨てた尾がいつの間にか消えてなくなっていた。

 視線をジャグラーに戻した真と伊織が、動揺しながらも問う。

 

「でも、そんなのを今更出して何のつもりだ!?」

「まさか、マガオロチを復活させようってつもり!?」

『いいや。もっと面白いことに使うのさ』

 

 答えながら、ジャグラーはダークリングと怪獣カードを手に握る。

 

『ゼットンよ!』

 

 光ノ魔王獣マガゼットンに酷似した怪獣――そのルーツとも言える宇宙恐竜ゼットンのカードをリングに通す。

 

[ゼットン!]『ピポポポポポ……』

『パンドンよ!』

 

 次に、同じようにマガパンドンに酷似した双頭怪獣パンドンのカードを通す。

 

[パンドン!]『ガガァッ! ガガァッ!』

『お前たちの力、頂くぞッ!』

 

 そしてダークリングを掲げてトリガーを引いたジャグラーが空の穴へと飛び上がっていき――マガオロチの尾と融合した!

 

「何ッ!?」

「今の行動、まさか……!」

 

 戦慄する千早たちを咄嗟に下がらせるガイ。彼らの目前に、空の穴から光の柱が突き刺さると――その中から見たことのない、それでいて既視感がある巨大怪獣が出現した!

 

「ピポポポポポ……ガガァッ! ガガァッ!」

 

 四肢に鋭利な鉤爪、胸部には黄色い発光体が二つ並び、黒い甲殻と炎のような形状の肉体が混ざり合っている。頭部にはパンドンの双頭型の角が生え、顔面はゼットンのもの――の下にサメに似た怪物の顔貌を持った大怪獣。それはまさに、ゼットンとパンドンの特徴を足し合わせたものであった。

 そしてこの怪獣の内部の超空間から、ジャグラスジャグラーが高らかに言い放つ。

 

『『超合体、ゼッパンドン!!』』

 

 ゼッパンドンの威容とプレッシャーに、アイドルたちは本能的に後ずさっていた。

 

「合体怪獣……!」

『『今までの合体怪獣とは訳が違うぞ! 芯にマガオロチの尾を使ってる!』』

 

 その言葉を肯定するように、尾はマガオロチのものである。

 

「ゼットォーン……! ガガァッ! ガガァッ!」

 

 ゼッパンドンの中から765プロ一同を見下ろすジャグラーは、ガイへ向けて強要する。

 

『『さぁ、早くオーブになれ! さもないと街が火の海になるぜ……あの時のようになッ!』』

 

 険しい表情のガイに、春香が面と向かって頼み込む。

 

「プロデューサーさん……私にフュージョンアップさせて下さい!」

「春香……!」

「もう一度だけでもやらせて下さい……! お願いしますっ!」

「ミキにもやらせて! あのまんまで終わりにしたくないの!」

 

 春香と美希からの懇願に、ガイは一瞬だけ逡巡したものの、二人の強い眼差しの前に首を縦に振った。

 

「よし……行くぞッ!」

「はいっ!」「うんっ!」

 

 仲間たちが手に汗を握りながら見守る中、三人はフュージョンアップを行う。

 

「ウルトラマンさんっ!」

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

「ティガっ!」

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

「光の力、お借りしますッ!」

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

 

 ガイと春香、美希が融合してオーブ・スペシウムゼペリオンとなり、ゼッパンドンの前に立つ!

 

 

 

 遠くの建物上のヘリポートに駆け上がった渋川が、オーブとゼッパンドンのにらみ合う様子を見やった。

 

「ウルトラマンオーブ……!」

 

 オーブへの攻撃命令を受けていた渋川だが――通信機を握り締めた手は、小刻みに震えて彼のためらいを反映していた。

 

 

 

『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!!』

 

 堂々と名乗りを上げたオーブに、ゼッパンドンが襲い掛かってくる。

 

「ゼットォーン……! ガガァッ! ガガァッ!」

「セアッ! ショアァッ!」

 

 それを迎え撃ち、ティガのパワータイプの力を引き出しながら重いパンチやハイキックを連打するオーブだが、ゼッパンドンの巨山の如き肉体は全く揺るがない。反対にゼッパンドンの打撃で押し返される。

 

「ピポポポポポ……ガガァッ! ガガァッ!」

「グワッ!」

 

 ゼッパンドンの口から火炎弾が吐き出される。それを飛んで回避したオーブだが、パンドンの首からの光線で狙われて地上に戻ることを余儀なくされた。

 

「「『スペリオン光輪!!!」」』

 

 光輪を投擲して反撃するオーブ。光輪はゼッパンドンの首へと高速で飛んでいくが、

 

「ゼットォーン……!」

 

 ゼッパンドンは何と歯で光輪を受け止め、そのままバリバリと噛み砕いて食ってしまった!

 

「フッ……!?」

 

 歯に挟まった光輪の欠片をかき出したゼッパンドンは、クイクイッと手招きしてオーブを挑発した。それに応じるようにオーブは光線の構えを取る。

 

「「『スペリオン光線!!!」」』

『『ゼッパンドンシールド!』』

 

 しかし発射された必殺光線は、顔面の左右の穴から発せられた二枚のバリアによって完全に遮断された。ゼッパンドンにダメージを与えることが出来ない。

 

『『ハッ! 光線技はゼッパンドンには通用しない』』

 

 ジャグラーが嘲るように指を振った。春香と美希は冷や汗をかきながらうめく。

 

『「本当に強い……!」』

『「うん……!」』

 

 ジャグラーが「訳が違う」と発言した通り、ゼッパンドンの力はスペシウムゼペリオンを全く寄せつけない、マガオロチを彷彿とさせるほどのものであった。

 美希と春香はリングとフュージョンカードを握り、再フュージョンアップする。

 

『「ゾフィーっ!」』

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

『「ヒカリさんっ!」』

[ウルトラマンヒカリ!]『メッ!』

『栄えある力、お借りしますッ!』

[ウルトラマンオーブ! ブレスターナイト!!]

 

 オーブの姿が赤と青の身体に、胸にスターマークを並べたものに変化し、右腕から光剣を伸ばして敢然とゼッパンドンに斬りかかっていく。

 

「「『ナイトZブレード!!!」」』

 

 が、鋭い刃が叩き込まれる寸前、ゼッパンドンの姿が一瞬にして消失する!

 

『「「えっ!?」」』

 

 気がつけば、ゼッパンドンは背後に回り込んでいた。テレポート能力だ!

 

「デアァッ!」

 

 すぐに追いかけて剣を振るうオーブだが、ゼッパンドンはテレポートを繰り返してオーブを翻弄。攻撃がかすりもしない。

 

『「うっ……!」』

『「そこなのっ!」』

 

 しかし美希がテレポートの動きを読み、振り返りざまに突きがゼッパンドンの中心を捉えた。

 

『「やったっ!」』

 

 喜ぶ二人だが……光剣はゼッパンドンの振り下ろした爪に叩き折られ、残った刀身はゼッパンドンに吸い込まれていってしまった。

 

『「なっ……!?」』

「ピポポポポポ……ガガァッ!」

 

 そしてゼッパンドンは吸収したエネルギーを電撃光線に変えてオーブにお返しする。

 

「ウワアァァァァァッ!」

『「「きゃあああああっ!」」』

 

 手痛い一撃をもらって膝を突いたオーブに、ジャグラーが怒鳴る。

 

『『何を遊んでやがる! 闇の力を使え! さもなければこのまま滅ぼすぞッ!』』

『ぐッ……!』

 

 ためらうオーブに、春香が言う。

 

『「プロデューサーさん……使わせて下さい! 闇のカードをっ!」』

『春香……!』

『「……今度こそ私の、私たちの闇を受け止めて制御します! だから……!」』

『「ミキも、今度こそは暴走を止めるの! ミキたちを信じて!」』

『……!』

 

 オーブからの返事は――ベリアルのカードだった。

 

『俺ももう、闇を恐れない……! お前たちのくれた勇気で、闇を抱き締めてみせるッ!』

『「ありがとうございますっ!」』

 

 美希と春香は、今一度闇のフュージョンアップを決行する。

 

『「ゾフィーっ!」』

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

 

 美希がもう一度オーブリングにゾフィーのカードを通し――春香がベリアルのカードを通す。

 

『「ベリアルさんっ!」』

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

 

 そして美希がリングを掲げ、オーブが叫んだ。

 

『光と闇の力、お借りしますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 春香と美希がベリアルとゾフィーのビジョンと重なり、春香は三度闇の姿となる。

 

『ヘアッ!』『ヘェア……!』

[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]

 

 オーブの姿がサンダーブレスターと変わり、ゼッパンドンの前で胸を張る。

 

『闇を抱いて、光となる!!』

 

 オーブの変化にジャグラーがうっとりするようにつぶやいた。

 

『『それでいい』』

 

 

 

「オーブがあの姿になったッ!」

 

 オーブがサンダーブレスターとなったことで、渋川も遂に決断して通信機を顔の前に持っていった。

 

「ウルトラマンオーブ、出現!」

 

 ――ビートル隊の基地では、渋川からの連絡によってゼットビートルの出撃準備が開始される。

 

『ゼットビートル、緊急発進!』

『作業員退避! スカイゲート開け!』

 

 三機のゼットビートルが基地から飛び立ち、戦場へと急行する――怪獣ではなく、オーブを攻撃するために。

 

 

 

「ウアアアアァァァァァァァ―――――!」

 

 オーブは咆哮を発しながらゼッパンドンに突貫し、強烈な乱打を浴びせる。マガオロチ、ギャラクトロンを退けたその力はやはり他のフュージョンアップ形態とは一線を画し、ゼッパンドンも初めてその巨体を揺るがせた。

 

「ゼットォーン……! ガガァッ! ガガァッ!」

 

 だがそれだけで、ゼッパンドンの反撃をもらって押し返される。

 

「グオォッ!」

『『どうしたぁッ! マガオロチを殺った時はこんなもんじゃあなかったはずだ!』』

 

 地面の上を転がったオーブをなじるジャグラー。一方のオーブの中では――息を荒げてゼッパンドンを激しくにらむ春香を、美希が懸命に抑えてなだめていた。

 

『「ふぅーっ……ふぅーっ……!」』

『「春香、しっかり! 闇に呑まれちゃダメなの! 負けないで!」』

 

 春香の様子に細心の注意を払いながら、二人はオーブとともに光線の構えを取る。

 

「「『ゼットシウム光線!!!」」』

『『ゼッパンドンシールド!』』

 

 だがこの光線もバリアに防がれ、それどころかエネルギーをパンドンの口から反射されてその場に倒れ込んだ。

 

『「「うああぁぁっ!!」」』

『ぬるいッ! ガイ、お前の闇はそんなもんか!?』

 

 見下してくるジャグラーに、オーブは地面に拳を叩きつけながら起き上がった。

 

『「あいつ……!」』

『「春香、自分をしっかり持って!」』

 

 ギリギリと歯を食いしばる春香を、美希が励まし続ける。

 ――そして戦場には、ゼットビートルの編隊が目前まで迫ってきていた。

 

『ターゲット確認!』

『まずはウルトラマンオーブに攻撃を集中せよ!』

『ホントにいいんですか!?』

『いいんだッ!』

『了解……!』

 

 そんなことも知らずにゼッパンドンと対峙しているオーブに――背後から、大きな声が掛けられる。

 

「オーブぅ―――! 頑張ってぇーっ!」

 

 オーブが、春香が振り返ると――危険な戦場に、765プロの仲間たちが避難せずにあえて残っていた!

 あずさを初めとして、アイドルたちが口々にオーブ、そして春香へと叫ぶ。

 

「オーブ! 私たちは信じてます!」

「どんな姿になっても! どんなに力に溺れそうになっても!」

「あなたは今まで私たちの、みんなの命を救ってくれました!」

「だから信じてます! あなたが、闇を抱き締めて光になることをっ!!」

 

 小鳥も高木も、強い眼差しでオーブを見上げている。

 

『「……!」』

 

 彼女たちの声により、怒りに染まりそうであった春香の目の色が変わった。

 美希は春香の手を、ぎゅっと握り締める。

 

『「春香、ハニー……! みんな、ミキたちと一緒に戦ってくれてるよ……! 一緒に苦しみを分かち合って、闇を抱き締めてくれてるの……!」』

 

 美希の目尻から、ぽろりと涙の雫がこぼれ落ちた。

 

「逃げろぉッ!」

 

 渋川が千早たちの存在に気づいてビートルへ攻撃中止を伝えようとするも、既に遅かった。

 

『攻撃開始!』

『了解!』

 

 ゼットビートルから砲火が放たれ、オーブの背面に浴びせられる!

 

「ウオォッ!」

 

 想定外の攻撃にのけ反ったオーブに、ゼッパンドンからの火炎攻撃も浴びせられる!

 

「ピポポポポポ……ガガァッ! ガガァッ!」

「ウオオォォォォォ―――――――ッ!」

 

 オーブの姿が――765プロの仲間たちまでも、ゼッパンドンの爆炎の中に呑まれていく――!

 ジャグラーがこの結果に哄笑を発する。

 

『『ハハハハハハッ! みじめな結末だなぁガイ! お前はまた大切なものを守れなかった! 終わりだぁウルトラマンオーブッ!!』』

 

 ゼッパンドンの爆撃は続き、その衝撃と火災はビートルの編隊にも及びそうになる。

 

『全機、退避せよ! 退避だぁッ!』

『了解!』『了解!』

 

 ビートルが離脱していく中でも、ゼッパンドンの攻撃は止まらない。

 

『『ハハハハハハハハハッ!!』』

 

 攻撃を続けながら狂ったように笑っていたジャグラーだが――その笑い声が急に止まる。

 

『『あ……?』』

 

 火炎と煙が晴れると――背を向けてうずくまっていたオーブの背中が現れる。

 オーブは己の身体で、765プロ一同をゼッパンドンの爆撃から守り抜いていた!

 律子はカメラにオーブの姿を収めながら唱える。

 

「視聴者の皆さん、オーブです! ウルトラマンオーブが、私たちの命を救ってくれましたぁっ!!」

 

 アイドルたちの表情が一気に晴れやかなものとなった。渋川も大きくガッツポーズを取って喜びを表す。

 そしてオーブの中では――美希のつないだ手が、握り返された。

 

『「春香……!」』

『「美希……」』

 

 春香は依然として黒い姿のままであるが――その瞳は、いつもの春香の輝きであった!

 

『「もう大丈夫よ――! あなたとみんなのお陰で、私は光になれるっ!」』

『「――春香ぁっ!」』

 

 感極まった美希は、がばっと春香に抱きついた。

 そして春香は、家に伝わる子守唄――ナターシャから彼女の子孫たちへと受け継がれてきた、ガイとの思い出の歌を高らかに歌い上げる。

 

「アァー……アアアーアアアー……アーアーアアアーアァー……」

 

 この歌を耳にしたジャグラーが頭を抑えた。

 

『『うぅ……!? このメロディはぁ……!』』

 

 当の春香の胸元からは、歌とともに温かい光がこぼれ出していた。

 

『「春香、その光は……?」』

 

 春香が胸元から取り出したのは――夢の中でナターシャから授けられた白紙のカード。

 その表面に――剣を握り締めたウルトラ戦士の姿が浮かび上がった。オーブが驚愕の声を発する。

 

『それは……俺の姿ッ!』

『「ハニーの!?」』

『「ええ……これが、本当のプロデューサーさんっ!」』

 

 春香はこのカードを、美希の掲げたオーブリングの中に勢いよく通す。

 

『「プロデューサーさん、真の姿にっ!」』

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

 

 同時にゼッパンドンの――マガオロチの尾に亀裂が走り、その中から光り輝く剣が浮かび上がった。

 

『『この光はッ!』』

 

 剣はそのままオーブの元へと飛んでいき、カラータイマーから春香の手の中へと収まった。

 

『オーブカリバー! あの時本来の姿とともに失ってしまった聖剣だッ!』

 

 春香が剣の柄部分のリングを回すと、剣に光が灯る。そして美希と二人で高々と掲げ、トリガーを引いた。

 聖剣オーブカリバーの柄に、火、水、土、風の四属性を示す象形文字が順々に輝き――新しい、いや最初の姿のオーブがリングの光とともに飛び出していく!

 

「シェアッ!」

 

 そしてオーブは、右手に聖剣を掲げた、銀と赤と黒のシンプルな姿となって大地の上に立ち上がった!

 

『『その姿は……!』』

 

 オーブが己の頭上にオーブカリバーを振り回して円を描き、堂々と名乗る。

 

『俺たちはオーブ! ウルトラマンオーブだ!!』

 

 遂にオーブは――ウルトラマンオーブは、真の姿を取り戻したのだ!

 

『「これがハニーの、本当の姿……!」』

『「――夢で見たのと、同じだ……!」』

 

 ウルトラマンオーブの変身とともに元の姿に戻った春香は、今の姿を、夢で見ていたことを自覚した。あれは――ナターシャの記憶だったのだ。

 仲間たちも大歓喜し、力いっぱい声を張ってオーブを応援する。

 

「行けーオーブ―――っ!!」

「オーブ―――――っ!!」

 

 そしてジャグラーは――狂喜していた。

 

『『やったじゃないか! それをずっと待ってたんだぁガイッ! 本当のお前を――ぶっ潰す時をなぁぁぁぁッ!!』』

「ゼットォーン……! ガガァッ! ガガァッ!」

 

 ゼッパンドンが火炎弾を乱射する。オーブはそれを――全く動じずにカリバーで切り払いながら前進していく。

 

「オオオッ! シェアァッ!」

 

 そしてカリバーの振り下ろしが、ゼッパンドンの肩を切り裂く!

 

『『何ぃッ!?』』

 

 春香と美希はオーブカリバーのリングを回して、土の文字を光らせた。

 

「「『オーブグランドカリバー!!!」」』

 

 オーブが剣先を地面に突き刺すと、黄色い光が円を描きながらゼッパンドンへと土の中を走っていく。

 

『『ゼッパンドンシールドッ!』』

 

 ゼッパンドンはまたもバリアを張って防ごうとしたが――光はバリアを砕いてゼッパンドン本体にヒットし、多大なダメージを与える。

 

『『なぁッ!? シールドを破るとは……!』』

 

 オーブが剣を引き抜くと、春香がカリバーを美希の握るリングの間に差し込む。

 

[解き放て! オーブの力!!]

 

 柄を回すとカリバーに四つの文字全てが輝き、春香がトリガーを引く。

 オーブカリバーの刀身が光り輝き、オーブは頭上に光の円を描いた。

 

「「『オーブスプリームカリバー!!!」」』

 

 春香と美希でカリバーを握り締めながら、オーブとともに振り下ろす!

 

『「「いっけぇぇぇぇぇ――――――っ!!」」』

「ドゥアアァァァ―――――――ッ!!」

 

 エネルギーが集まったオーブカリバーがゼッパンドンへ向けられ、莫大な光の奔流が解き放たれた!

 まぶしく燃えるまっすぐな光がゼッパンドンに突き刺さり――ゼッパンドンは瞬時に爆散した!

 ウルトラマンオーブは剣を振り抜きながらそれに背を向け、残心をその身に湛えた。

 

「――うッ、ぐぅぅッ……!」

 

 ゼッパンドンの爆散跡には、全身焼け爛れたジャグラーが倒れた。地面に落ちたダークリングに手を伸ばすものの……。

 ダークリングは闇の分子に分解しながら、ジャグラーの目の前から消えたのだった。

 

「――あああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッ!!」

 

 目の前で起きた現実にジャグラーが奇声を上げる中、オーブは大空に向かって飛び上がっていった。

 

「シュワッチ!」

 

 

 

 ――仲間の元に戻ってきたガイたちを、アイドルたちは跳びはねたり満面の笑みを見せたりで喜びを全力で示しながら迎えた。

 

「兄ちゃーん! やったねー!!」

「はるるんもミキミキも、頑張ったねーっ!!」

「うんっ……!」

 

 春香と美希はひしっと、仲間たちと順番に抱き合う。小鳥と高木はガイに言葉を向ける。

 

「あれがプロデューサーさんの本当なんですね……!」

「遂にやり遂げたな、ガイ君! よかった! 実によかった! 安心した!!」

 

 アイドルたちはガイに声をそろえて感謝を告げる。

 

「プロデューサー、助けてくれてありがとうございますっ!」

「――礼を言わなくちゃいけないのは俺の方だ。お前たちのお陰で、俺は本当の自分に戻ることが……失った光を見つけ出すことが出来たんだ。本当にありがとう……!」

 

 ガイとアイドルたちが微笑み合っているところに、渋川が駆けつける。

 

「おーいッ! 全く無茶しやがって! 高木さんまで一緒になってさ!」

「叔父さん!」

「いやぁ渋川君、すまないね」

 

 高木が平謝りするが、渋川の顔は笑っていた。

 

「高木さんたちには感謝してるんですよ」

「え?」

「お宅の中継映像を見て、ビートル隊は、オーブを攻撃対象から除外した」

 

 そのひと言に、アイドルたちはわっと沸き上がる。

 

「本当!? やったぁぁぁーっ!!」

「世間の非難の声も収まるだろう。この活躍で、765プロの支持もまた回復するだろうな。よかったな春香ちゃん!」

「はいっ!」

「わーい! お仕事が戻ってきまーす!」

 

 大喜びのやよいたちだが、律子がパンパン手を叩いて注目を集めた。

 

「こうしちゃいられないわ! 765プロの信用回復のために、今回のことを纏めてサイトを更新よ! みんな手伝いなさいっ! さぁー事務所に戻るわよー!」

「えぇー!? 亜美たちすっごい頑張った直後だよ!? ちょっと休もうよー!」

「甘ーい! 私たちに立ち止まってる暇なんてないのよ! さぁ急いだ急いだっ!」

「そんなぁ~!」

 

 律子に急かされて天を仰ぎながらも、楽しそうな春香と皆の様子を優しくながめながら、ガイは心の中で独白した。

 

(ナターシャ……君のつないだ命は、百年後の未来を、素晴らしい仲間とともに生きている。安心してくれ……これから先の未来も、俺はずっと守り続ける。輝かせてみせる……! この星に、命が続く限り……!)

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

伊織「にひひ♪ 伊織ちゃんよ! 今回紹介するのは、宇宙正義の代行者からヒーローになったウルトラマンジャスティスよ!」

伊織「ジャスティスは『ウルトラマンコスモス』の映画第二作と第三作に登場した、映画オリジナルのウルトラ戦士よ。彼を主役に据えたOVも商業展開される予定だったそうだけど、実現には至らなくて、主役の座を得ることは出来なかったわね」

伊織「初登場の『THE BLUE PLANET』ではコスモスのピンチを助けるだけの役回りだったけど、『THE FINAL BATTLE』でキャラが大きく掘り下げられたわ。初めは宇宙正義デラシオンに同調して地球を滅ぼすつもりだったけど、地球人の優しさと希望に触れて心変わりして、コスモスと一緒にグローカーやギガエンドラと戦ったのよ」

伊織「しかもコスモスと合体することでウルトラマンレジェンドという戦士になるの! レジェンドの力は普通のウルトラ戦士よりもずっと強力で、ギャシー星人は宇宙の神とも称してたわ!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『アマテラス』だ!」

ガイ「ゲーム『アイドルマスタープラチナスターズ』のDLC初出で、お祭りがテーマになってる珍しい歌だ。それと同時にストレートなラブソングで、お祭りに参加してる時に思い出したら気分が盛り上がるかもな!」

伊織「天照大御神もお祭り騒ぎで天岩戸から引きずり出されたから、そのイメージから作詞されたのかもね」

伊織「それじゃあ次回も見なさいよね!」

 




 うっうー! 高槻やよいですぅー! 春香さんのいとこ、つまり渋川さんの娘さんが事務所にやってきました。お父さんへの愚痴をこぼす娘さんのために、渋川さんの普段の頑張りを見せてあげることになったんですけど……そう言えば、私たちも渋川さんのお仕事ってよく知らないです~!
 次回『HARD-BOILED HIGH!』。渋川さんっていつもどんな仕事してるのかな?


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HARD-BOILED HIGH!(A)

 

「了解しましたどうぞ!」

「この私の柔道五段、空手三段の腕を見せてほしいようだな」

「よーし行くぞ! それぇッ!」

「避難完了!」

「怪獣の可能性が高い模様!」

「至急至急、ありったけの地対空ミサイルで撃ち落とされたし!」

「俺だって……これ以上犠牲が出るのを黙って見過ごす訳にはいかないんだよ」

「ウルトラマンオーブが、私たちの命を救ってくれましたぁ!」

「オーブ……!」

 

 

 

『HARD-BOILED HIGH!』

 

 

 

「――きゃああああああっ!?」

 

 ある日の繁華街の平穏は、突如出現した宇宙人によって破られた。

 正体を晒して逃走するゼラン星人の姿に市民たちは悲鳴を発し逃げ惑う。そんな中でゼラン星人を追う男が一人。

 

「待てッ! 止まれこの野郎! 逃げても罪が重くなるだけだぞおいッ!」

 

 765プロの人間にとってはお馴染みの、ビートル隊の渋川一徹である――。

 

 

 

 ――この俺、渋川一徹の朝は早い。俺は科学特捜チーム、ビートル隊の隊員として日夜、宇宙人や怪獣の魔の手から、人々の平和を守っている。

 そんな俺の唯一の弱点。それは――。

 

 

 

「へぇ~。卯月、退院できたんだ!」

 

 765プロ事務所では、美希とやよいが小鳥から写メを見せてもらっていた。それは、すっかり回復して元気となった卯月が、凛と未央と笑顔で写っているものであった。

 

「うっうー! 良かったですぅ~! これで全部安心ですね!」

 

 心配事が全て解決されたことに飛び跳ねるやよい。彼女の愛らしい様子に小鳥は頬を緩めた。

 

「ええ。春香ちゃんもほっとしてたわ」

「その春香なんだけど……」

 

 美希はチラリと背後を一瞥する。

 

「さっきから渋川のおじさんと何やってるの?」

 

 春香は渋川と何やら話をしていた。と言うか、渋川が春香に何かを必死に頼み込んでいた。

 

「頼むよ春香ちゃん! 俺にはろくに口も利いてくれねぇんだ!」

「でも叔父さん、私も最近忙しくて……」

「頼むよぉ! あいつまだ中学生なんだ、悪い道に進まないか心配でならねぇんだよ! 他にこんなことを頼めるのは春香ちゃん以外いねぇんだよ~! 今度からここの取材とかに融通を利かすからさ!」

「もぉ……しょうがないなぁ。叔父さんにはお世話になってるし……分かった。お仕事の合間に話を聞いてみるね」

「ほんとか!? ありがてぇ……! 頼んだぜ春香ちゃん!」

 

 二人の様子を観察してから、美希とやよいは小鳥に視線を戻した。

 

「渋川さん、春香さんに何をお願いしてるんですか?」

 

 やよいの質問に答える小鳥。

 

「何でも渋川さん、娘さんに嫌われちゃったみたいで、春香ちゃんに事情を聞いてほしいんですって」

「渋川の叔父さんの娘? ってことは、春香のいとこってこと?」

「そうよ。中学生の一人娘だそうで、渋川さん色々心配してるみたいなんだけど……年頃の女の子って親の干渉を嫌うものですものね。ちょっと難しい話になるかも……」

「うぅ~……家族は仲良くしないとダメですよぉ」

 

 家族兄弟の多い身として、やよいが事務所を後にする渋川の、疲れたような背中に心配した目を送った。

 

 

 

 その後、春香は渋川との約束通りに仕事の合間、彼の娘、自分のいとこを事務所に呼んで話を始めた。

 

「え? 一徹そんなこと言ってたの?」

 

 春香から、渋川の言っていたことを聞かされた当人は、いきり立って席を立った。

 

「ばっかじゃないの!? 大体あんな父親嫌いになってどーすんだよ! 仕事でほとんど家にもいないし、いたとしてもゴロゴロしてるだけなんだからっ!!」

「ま、まぁまぁ! 落ち着いて……!」

 

 机をバン! と叩いて当たり散らす渋川の娘を小鳥や立ち会っている美希、やよいが慌ててなだめる。春香は引きつった苦笑いを浮かべていた。

 

「お父さんのこと、呼び捨てになんかしちゃダメだよ徹子ちゃん……」

「徹子って呼ばないで!!」

 

 渋川の娘はまたも机を強く叩いて叫んだ。

 

「一徹の徹を取って徹子とかもぉ~恥ずかしいしチョーださいしさっ! あたしはもうその名前は捨てたの! あたしの名前はぁ~……キャ・サ・リ・ン♪」

「キャサリン!?」

 

 唖然とする春香たち。美希がぼそりとつぶやく。

 

「渋川のおじさんとセンスおんなじなの……」

「しーっ!」

 

 聞こえたら面倒なことになりそうなので、小鳥が静かにさせた。

 キャサリン、もとい徹子の話は続く。

 

「それから、あたしが悪い道に進むんじゃないかとか言ってるけど! 一徹の奴が悪いんだから! あいつが私の恋路を邪魔したんだよ!?」

「えっ、恋路?」

 

 徹子の感情的な説明を簡潔に纏めると、街でアクセサリーの露店を開いていたタカヒロという男性と良い雰囲気になっていたところに渋川が入り込んできて、タカヒロを遠ざけようとしたのだという。それが頭に来て渋川とずっと口を聞いていないのだそうだ。

 

「せっかく噂のタカヒロさんと仲良く話してたところだったのにぃ~……! あっ、でもでもでもぉ、あたしにだけネックレスをくれたしぃ? まだチャンスあるかもぉ~みたいな?」

 

 胸元から青い石を荒削りしたようなネックレスを取り出して春香たちに見せる徹子。

 

(何だか、女の子に送るにはちょっとごつい感じのネックレスなの)

 

 美希が春香に耳打ちし、春香もうなずいたが、熱を上げている徹子には話さなかった。

 

「そうだ! あたしも春香ちゃんやアーニャちゃんみたいにアイドルになったら、タカヒロさんももっと関心を持ってくれるかも! ねぇ春香ちゃん、あたしもここでアイドルにさせてよ!」

「えぇっ!?」

 

 いきなりの徹子の申し出に春香たちは思い切り面食らった。

 

「い、いやぁ~……アイドルってかなり大変だし、徹子ちゃんにはちょっと難しいかなぁって……」

「キャ・サ・リ・ンっ!! それにあたしには難しいってどういうことぉ~!?」

「そ、それはその……ほら! 叔父さんだってきっと反対するだろうしね?」

「あんな奴のことなんかどーだっていいのよ! 大体、父親としてどころか仕事だってろくなことしてないってのに……!」

 

 ぶつくさと渋川への不満を垂れる徹子。と、その時、

 

「いやいや、渋川君は立派なビートル隊の隊員だよ」

「あっ、社長」

「いたんだ」

 

 どこからともなく現れた高木が話に混ざってきて、渋川の肩を持った。

 

「話は聞かせてもらったよ。君は渋川君の仕事ぶりを、実際に見た訳じゃあないのだろう?」

「そりゃそうですけど……」

「だったらその目で確かめるのが一番だよ。そうだろう?」

「ですけど社長、簡単に言いますがそんなこと出来るんですか? 仮にもビートル隊の渋川さんをつけ回すなんて、問題があるんじゃ……」

 

 小鳥が尋ねると、高木は自信ありげに答える。

 

「何、任せておきたまえ。ビートル隊の上層には友人がいるんだ。彼に頼んで、密着取材という形にしてもらおう。明日の『アンバランスQ』は内容を変更して「ビートル隊隊員二十四時!」としよう!」

 

 怪獣や怪奇現象を追いかける『アンバランスQ』は、ガイの活動の支援のために、仕事が増えてからも時間を取って定期的に続けているのである。

 

「面白そうなの! ミキも実は、渋川のおじさんが普段何やってるか知りたかったんだ!」

「うっうー! 私もですぅー!」

「でも需要あるのかなぁ……」

 

 美希ややよいは乗り気だが、春香は懐疑的だった。

 

「えぇー? あたしは嫌っ! 何であんな奴のためにそんなこと……」

 

 しかし肝心の徹子が拒否する。それを説得しようとする高木たちであったが、

 

「ただいま戻りました」

 

 そこにガイが事務所に帰ってきた。すると、彼をひと目見た徹子が目の色を変えて春香に尋ねかける。

 

「ちょちょちょ、春香ちゃん? ねね、誰? 誰あの人」

「え? ああ、私たちのプロデューサーの紅ガイさん。プロデューサーさん、こちら、叔父さんの娘さんの徹……」

 

 春香が徹子のことを紹介しようとしたが、徹子自身がそれをさえぎってガイの前に出る。

 

「キャサリンと申します! よろしくお願いしますプロデューサーさん♪」

「渋川のおっさんの? おお、よろしく」

 

 ガイが手を差し出すと、徹子は非常に上機嫌に握手。そして春香へ振り向いてひと言、

 

「あたしぃ、ガイさんが行くなら、行ってもいいかな? なんてっ!」

「ええ!?」

 

 さっきまでと百八十度違う態度。それに不穏なものを感じ取った美希は反射的に徹子とガイの間に割って入った。

 

「ちょっとちょっとぉーっ! それは許さないんだからね! この人はミキのハニ……」

「あー! あー!」

 

 春香とやよいが慌てて飛びかかって美希の口をふさいだ。

 

「はに?」

「は……は……はにわ! この前はにわについて調べたのよおほほ!」

 

 小鳥が無理矢理ごまかす傍らで、高木がガイに言いつける。

 

「ガイ君、明日は君も天海君たちにつき合ってくれ。渋川君の尾行だよ」

「ええ? そんな急に言われましても……」

「まぁまぁそう言わずに。君の予定はこっちで調整しておくからさ! 頼むよ君ぃ」

「まぁ……社長がそこまで言うのでしたら」

「プロデューサーさん来てくれるんですか!? やったぁーっ!」

 

 のんきにはしゃぐ徹子の様子に、春香は疲れたようにため息を吐いた。

 

 

 

 そんなこんなで翌日。伊達メガネに帽子目深の変装をした春香たちはガイと徹子を連れ、街中を巡回している渋川の尾行を開始した。

 

「プロデューサーさんはぁー、何の食べ物が好きなんですか?」

「ちょっとっ! 何しに来たの!?」

 

 だが徹子はガイにべったりであり、それに美希が嫉妬して引き剥がす始末であった。

 

「早くしないと渋川さんを見失っちゃいますよー!」

「叔父さん、どこに向かうのかな?」

 

 やよいが遅れる美希たちを引っ張るようにする一方で、ビデオカメラを回す春香は渋川の背中を見失わないように追いかける。時々渋川が後ろを振り返る時には素早く無関係の通行人のふりをしてやり過ごす。

 やがて渋川は、ビラ配りをしているメイド服にピンクリボンと青い髪飾りの女性の前で立ち止まると、その女性と話を始めたようであった。

 

「何かの聞き込みかな?」

 

 つぶやく春香。彼女たちの位置からでは話の内容は届かない。

 隠れながら様子を窺っていると――渋川がいきなり女性の髪に手を伸ばした!

 

「何あれ!? 仕事中に女の人にちょっかい出してる訳? 嘘でしょ……!?」

「お、落ち着いて! まだそうと決まった訳じゃないよ……」

 

 唖然とする徹子のことをなだめる春香。そうして渋川の尾行を続けるのだが……。

 渋川はその後もショートヘアにオッドアイの女性、ポニーテールの妙齢の女性、世界レベルな女性など、女性にばかり声を掛けるのであった。

 

「さっきから女の人とばかりしゃべってる……」

「た、たまたまだよ……」

 

 みるみる不機嫌になる徹子にとりなす春香だが、内心ヒヤヒヤだった。

 

「頼むよぉ叔父さぁん……」

 

 その内に渋川は陸橋の手すりに寄りかかりながら、新聞を読むふりをして何かを待ち構える様子を見せ始めた。

 

「ほら、今度こそ調査だよ!」

 

 と期待する春香だったが……。

 

「渋川さん」

 

 色っぽい、ワインが好きそうな青いイヤリングの女性が渋川の元にやってくると、渋川は彼女に向かい合い……相手の顔に手を伸ばしながらぐぐっと自身の顔を近づけていった!

 

「ああーっ!?」

 

 思わず悲鳴を上げる春香。そして徹子は、我慢の限界が来た。

 

「もぉー信じらんないっ! あの馬鹿親父っ!!」

 

 と吐き捨てると、踵を返して走り出してしまう。

 

「ち、ちょっと徹子ちゃん!」

「もう二度とその名前で呼ばないでっ!!」

「ま、待ってー!」

 

 春香の制止も聞かず、徹子はあっという間に走り去ってしまった。慌てて追いかける春香。

 

「……徹子ちゃん、何で怒ったんでしょう?」

「やよいはまだ知らなくていいことなの」

 

 ポカンとしているやよいには、美希がそう言い聞かせた。

 ガイは、無言で渋川の方に振り返っていた。

 

 

 

 春香たちの元から逃げ出した徹子は、公園が一望できる建物の屋上で、手すりに寄りかかりながらぼんやりと眼下をながめていた。

 物憂げな徹子の頬に、後ろからラムネの壜が当てられた。驚いた徹子が振り返ると、そこにいたのはガイ。

 

「プロデューサーさん……。ありがとう」

 

 差し出されたラムネを受け取り、喉を潤す徹子。公園で戯れる父と娘を見つめながら、ガイへと語った。

 

「子供の頃……あの人は、平和のために頑張ってる、かっこいい人だと思ってた。ヒーローだって、信じてた。……馬鹿みたい。何言ってんだあたし」

 

 自嘲する徹子に、ガイは次のように説き出す。

 

「太陽は沈んだら見えなくなる。でもね……見えないところで、地平線の向こうでずっと輝いている」

「何それ……?」

「見えないところで輝いてる光もある。ウチの奴らも、カメラが映す姿だけが全部じゃない。誰からも見えないところでその数倍は努力して、日々頑張ってる。渋川のおっさんだって同じさ」

 

 そう説くガイだが、徹子は首を振る。

 

「分かんない……言ってること分かんないよ」

 

 ガイは彼女に、優しげな笑みを向けた。

 

「いつか分かるさ、キャサリン」

 

 しかし戸惑うばかりの徹子。そこに、

 

「徹子ちゃーん!」

 

 春香が駆けつけてきて、徹子へと呼びかける。

 

「お父さんが廃工場に入っていったんだって! もう一度だけ見てみよう? そしたらきっと、お父さんの勇姿が見られるはずだよ!」

「……!」

 

 徹子はしばし考え込んでいたが……うなずいて、先導する春香についていった。ガイもこの二人の後を追いかけていく。

 

 

 

 操業が停止され、うらぶれたコンクリート工場に美希とやよいが待っていた。美希が到着した春香たちを手招きする。

 

「こっちなの! 遅いよ~!」

「ごめん! 今どんな様子?」

「さっきから男の人と揉めてるんです。あそこです」

 

 やよいが指差した先では、確かに渋川が一人の男性と向かい合って何やら問い詰めているようであった。

 

「いや、違います!」

「嘘吐けッ! お前の正体は分かってるんだよ!」

 

 腰のホルスターに手をやって脅す渋川の姿に、徹子は眉間に皺を刻む。

 

「最悪!」

 

 そして渋川たちの方へと飛び出していってしまう。

 

「ち、ちょっと徹子ちゃん!?」

 

 慌てて追いかける春香たち。徹子は現場に割り込むと、渋川に食って掛かる。

 

「タカヒロさんに何するつもり!? この馬鹿親父っ!」

 

 渋川が問い詰めていた男性は、徹子が出会った露店商のタカヒロだったのだ。渋川は徹子の姿に仰天する。

 

「徹子!? お前、どうしてここに来た!?」

「一徹のこと一日尾行してたのよっ! 仕事もろくにしないで女の人といちゃいちゃしてさ! 今度はタカヒロさんをこんなとこに呼び出して何するつもり!? 一徹なんて父親と思ってないからっ!」

「お、おい待てッ!」

 

 タカヒロの方へ行こうとする徹子だが、それを渋川と――ガイに止められた。

 

「その男に近づくなッ!」

「え? プロデューサーさん?」

 

 思わず呆気にとられる徹子。ガイは彼女たちの前に回り込んでタカヒロを厳しくにらみつける。

 そのタカヒロは――大人しい雰囲気が一変して、こんなことを言い放った。

 

「回収したヤセルトニウムを返してもらおうか」

 

 きょとんとする徹子ら。

 

「ヤセルトニウムって何?」

「おい……お前ら下がってろッ!」

 

 渋川は徹子たちを背にかばいながらスーパーガンリボルバーを抜いた。渋川とガイに敵意を向けられるタカヒロは、怪しい薄ら笑いを浮かべる。その手に握っているのは、武骨な青い鉱石。

 

「つけていれば、みるみる痩せる魔法のパワーストーン……ヤセルトニウム。まさか自分の生体エネルギーが奪われて、この母体石に吸収されてるとも知らずにさ』

 

 話しながら、タカヒロの声音が不気味に変化していく。そして――。

 

『地球人は本当に愚かだなぁ!』

 

 その姿も、銀色の怪人のものに変わり果てた!

 

「きゃああああっ!?」

「宇宙人っ!」

 

 悲鳴を発する徹子。春香たちは咄嗟に身構える。

 

『そうさ。本当の名はシャプレー星人カタロヒ様だ! お前もヤセルトニウムをつけてたな。エネルギーを吸い取ってやる!』

 

 タカヒロ改め、シャプレー星人カタロヒは徹子に狙いをつけて、ヤセルトニウムの母体石を向ける。

 すると徹子の胸元の服の下が青く光り出した。徹子が引っ張り出したのは――ヤセルトニウムのネックレス!

 

「ヤセルトニウム!!」

『そぉらッ!』

 

 ネックレスから徹子の生体エネルギーが抜き出されて、母体石に移される。生命力を奪われた徹子はがっくりとその場に崩れ落ちた。

 

「徹子ッ! おいッ! 徹子ーッ!」

『ヒャーハッハッハッ!』

 

 慌てて支える渋川たち。一方で徹子の生命力を奪ったカタロヒは高笑いする。

 

『この星は俺のエネルギー採掘場って訳さ! 石に吸収されたエネルギーで、こんなことも出来るんだぜぇ?』

 

 ヤセルトニウムを高々と掲げて、叫ぶカタロヒ。

 

『出でよ、ベムラー!!』

 

 ヤセルトニウムが強く輝くと、蓄えられたエネルギーによって工場の敷地の一画が爆発を起こし、その地点から巨大怪獣が召喚される!

 

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

 

 宇宙怪獣ベムラー! しかも頭部には山羊かはたまた悪魔かのような曲がった角が生えている。ヤセルトニウムのエネルギーで強化された個体だ!

 



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HARD-BOILED HIGH!(B)

 

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

 

 シャプレー星人カタロヒによって召喚されたベムラーは、角をスパークさせながら口より青い熱線を吐き、目の前のものを手当たり次第に破壊し始める。

 ガイは暴れるベムラーとカタロヒを見比べながら舌打ちした。

 

「そんなことだろうと思ったぜ!」

 

 一方、渋川は気を失った徹子を支えながら春香に頼み込む。

 

「春香ちゃんたちは徹子を安全な場所に!」

「はい!」

 

 春香たちは協力して徹子を抱え上げて退避していく。そして渋川はカタロヒに向き直ると、視線に怒りを乗せた。

 

「お前……俺のたった一人の娘をッ!」

 

 空高くに上着を脱ぎ捨てると、スーパーガンリボルバーを抜いてカタロヒに向ける。

 

「絶対に許さねぇッ!」

 

 ガイはそれを確認して、単身ベムラーの方へと走っていく。

 

「渋川のおっさん、後は頼んだぜ!」

 

 言いながらオーブリングを構えるガイ。今まで己の光を見失っていたためにフュージョンアップできなかった彼だが、本当の姿に覚醒するとともに、遂に単身でのフュージョンアップが可能となったのだ。

 ――しかしそこに、徹子を避難させた美希とやよいが駆けつけてくる。

 

「ハニー、待った待った!」

「美希、やよい!」

「私たちも一緒に戦いますっ!」

 

 二人の申し出に目をパチクリさせるガイ。

 

「だが、もうお前たちも戦う必要は……」

「そんな台詞はヤボだって思うな」

 

 美希はかわいらしく指を立ててガイの言葉を封じた。

 

「私たちだって、悪い人のたくらみを放ってはおけません! 何たって、私たちもウルトラマンオーブなんですからーっ!」

 

 やよいは俄然張り切って主張した。そんな二人に、ガイは軽く頬を緩ませる。

 

「そうだったな。それじゃあ行くぜッ!」

「うんっ!」「はぁいっ!」

 

 美希がティガのカード、やよいがダイナのカードを構えた。

 

「ティガっ!」

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

「ダイナさんっ!」

[ウルトラマンダイナ!]『デヤッ!』

「光の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイがリングのトリガーを引き、三人は融合して変身、巨大化していく。

 

[ウルトラマンオーブ! ゼペリオンソルジェント!!]

 

 見境なく暴れ回るベムラーの前にウルトラマンオーブが着地し、その暴挙を牽制した。

 

『俺たちはオーブ! 光の輝きと共に!!』

 

 渋川はスーパーガンを構えながら、ベムラーと対峙するオーブを見上げる。

 

「オーブ、そっちは頼んだぜ!」

 

 自らもカタロヒと対峙しているガイは、オーブと同時に決闘の火蓋を切って落とす!

 

「シェアァッ!」

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

 

 オーブとベムラーが激突するのを背景に渋川はスーパーガンの光弾を連射。だがカタロヒは手にするヤセルトニウムを盾にして弾丸を跳ね返す。肉薄してくるカタロヒをいなすと渋川は射撃を続けて追撃するも、カタロヒは地球人ではありえない跳躍力で工場の平屋の上に逃れた。なおも撃ち続ける渋川だがカタロヒの高速移動と反射神経に弾丸を命中させられない。ベムラーと格闘するオーブは相手の頭を抑え込んで熱線を地面にそらす。その際の爆発で飛んできた瓦礫とカタロヒの反撃から、渋川は全速力で逃れる。

 

「うわあぁぁッ!」

 

 カタロヒも高々と跳躍して瓦礫の衝撃から逃れながらヤセルトニウムからの放電で渋川を狙う。その後ろではオーブがベムラーの頭部へと空手チョップを振り下ろした。

 

「ウリャアァァッ! サァッ!」

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

 

 オーブはゼペリオンソルジェントの特殊能力、マルチアクションを最大限に活かして、適格にベムラーの反撃をかわしつつ重い打撃を入れていく。背後に回り込みながらの後ろ回し蹴りがベムラーの背中を捉えた。

 

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

 

 ベムラーが姿勢を崩した隙を狙って、オーブは両腕をL字に組む。

 

「「『ゼペリジェント光線!!!」」』

 

 必殺の光線がまっすぐベムラーへ飛んでいく!

 ――だがベムラーが二本角を前に突き出すと、光線はその角に全て吸い込まれてしまった!

 

「フッ!」

「ギィ―――――イ!」

 

 ベムラーは吸収したエネルギーを熱線に変えてオーブにはね返した。

 

「ウワァァァッ!」

『「「きゃあぁぁっ!」」』

 

 強烈な一撃をもらって吹っ飛ばされるオーブ。それと同時に、渋川もカタロヒの攻撃によって地面の上を転がった。

 

「くッ……!」

 

 スーパーガンで反撃を行う渋川だが、カタロヒは全ての弾丸をヤセルトニウムで弾いてしまう。

 

『無駄だ、無駄だぁッ!』

「ちくしょう……!」

 

 ビートル隊といえどもあくまで生身の地球人である渋川では、シャプレー星人のカタロヒの身体能力とは大きな開きがある。単独で挑むのは無謀と言う他なかった。

 そしてオーブも、先ほどの攻撃によって戦いの流れをベムラーに奪われ、窮地に追い込まれていた。仰向けに倒れたオーブをベムラーが踏みつけて押さえ込む。

 

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

『「あうぅっ!」』

『「フュージョンアップの選択をミスっちゃったの……!」』

 

 強化されたベムラーに光線技は通用しなかったのだ。それを知らずに、光線技主体のゼペリオンソルジェントになってしまった。押さえつけられていては、マルチアクションも活用できない。

 

『だが、まだだッ! まだやられちゃいない!』

 

 オーブは相手の足を捕らえてベムラーの動きを一瞬止め、そこに蹴りを入れてベムラーを押し返した。自由になったわずかな間に体勢を立て直し、首投げを綺麗に決める。

 

「シュアッ!」

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

 

 しかしベムラーは強力な熱線を吐き続けて怒濤の攻めを見せる。オーブはそれをどうにかかわすありさまだ。タイプチェンジする暇もない。

 

「うわぁッ!」

 

 渋川の方も崖っぷちにまで追いつめられていた。スーパーガンを排莢してリロードするのだが、懐から出てきた薬莢がたったの一個だけなのだ。

 

「残り一発か……!」

 

 それでもリボルバーに押し込むが――その胸ぐらをカタロヒの手が掴む!

 

『捕まえた……! フッフッフッ!』

「この野郎……!」

 

 胸ぐらを掴まれたまま宙吊りにされる渋川。スーパーガンも取り落としてしまった。万事休す!

 

「叔父さんっ!」

 

 徹子を守りながら、オーブと渋川の戦いにカメラを回し続けている春香が悲鳴を上げた。渋川はどうにか拘束を逃れてタックルするものの、彼の身体能力ではカタロヒのダメージとならない。

 

『フフフフフッ!』

「うがッ! ぐぅッ……!」

 

 カタロヒに弄ばれて叩きのめされる渋川だが、その度に立ち上がって挑んでいく。――その時に、徹子が目を覚まして己の父親の姿を目の当たりにした。

 

「あぁ……!?」

 

 それに気がついた春香が力を込めながら呼びかけた。

 

「見て、徹子ちゃん! あれがあなたのお父さんの、本当の姿だよ……! いつもはだらしないおじさんでも……たとえどんなに力の差がある敵にだって、あの人は平和のために立ち向かうの!」

 

 春香の言葉とともに、徹子の脳裏にガイの言葉がよみがえっていた。

 

『太陽は沈んだら見えなくなる。でもね……見えないところで、地平線の向こうでずっと輝いている』

 

 オーブも渋川も、敵の猛攻に晒されてもその闘志は決して折れなかった。

 

『見えないところで輝いてる光もある。渋川のおっさんも同じさ』

 

 カタロヒは渋川を投げ飛ばし、ベムラーも頭突きでオーブを宙に投げ出させる。

 

『これで最後だッ!』

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

「うわぁぁッ!」

「ウワァァッ!」

 

 段ボールの山に叩きつけられた渋川に、絶望を実感させるかのようにわざとゆっくりにじり寄っていくカタロヒ。渋川はダメージをもらいすぎて足元がおぼつかない。

 オーブの方も、ダメージの蓄積によりカラータイマーが点滅を開始した。両者とも、最早後がない絶体絶命の状況だ。

 その時に、徹子が叫んだ――。

 

「お父さーんっ!! 頑張れぇ―――――っ!!」

「徹子……!」

「頑張れ!! 頑張れぇー!!」

 

 その声を受け止めた渋川の目つきが、苦しいものから一変する――。

 

「おぉぉッ……!」

 

 ふらつきながらも必死に立ち上がり、勇ましい顔でカタロヒに立ち向かっていく。

 オーブの方でも、身体に力を入れ直したやよいと美希が表情を塗り替えた。

 

『「まだまだっ! 本当の戦いは、ここからですっ!!」』

『「うんっ! 行くよっ!!」』

 

 美希がオーブのカードを、やよいの持つオーブリングへと差し込む。

 

『「ハニー、真の姿にっ!」』

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

 

 リングに通されたオーブのカードが、聖剣へと変化する!

 

『オーブカリバー!』

 

 美希が柄を回して光を灯し、やよいと手を合わせて天高く掲げた。

 オーブカリバーの四属性を表す象形文字が輝き、ウルトラマンオーブはオリジンの姿へと変貌した!

 

『俺たちはオーブ! 銀河の光が、我らを呼ぶ!!』

 

 この時に渋川の目が、「火気厳禁」と書かれたドラム缶を捉えた。

 

『フハハハハハハ!』

 

 そうして近寄ってくるカタロヒへと、気合いの雄叫びとともに突撃していった!

 

「うあああぁぁぁぁぁぁぁ――――――――ッ!」

「セアッ!」

 

 オーブの横薙ぎがベムラーに入ると同時に、渋川は手に握っていた粉をカタロヒの顔面に叩きつけてひるませた。

 

『うあッ!?』

 

 この一瞬の隙に、渋川は相手の背に飛びつき、首に腕を回して締め上げる。

 

「さぁ、こっちに来いッ!」

『は、離せッ!』

「ギィ―――――イ!!」

 

 斬られたベムラーが熱線を吐いてくるが、オーブはカリバーの柄を盾にして防いだ。

 

『「負けないのっ!」』

『「うっうー! パワー全開ですぅーっ!」』

 

 オーブが熱線を押し返している中、渋川は締め上げた渋川を力ずくで引きずっていく。

 

『は、離せぇッ!』

 

 春香と徹子は渋川の奮闘を、固唾を呑んで見守る。

 そしてオーブはベムラーの熱線を振り払い、高く跳び上がった。

 

『「「やぁぁっ!」」』

 

 渋川がカタロヒの抵抗を抑え込みながら、じりじりとドラム缶へと近づけていく。

 

「こっちだよおらッ!」

『離せぇぇッ!』

 

 オーブカリバーの振り下ろしが、ベムラーの頭部に炸裂した!

 

「ショアアァッ!」

 

 刃は角を二本とも叩き切る。

 

「ギィ―――――イ! ギィ―――――イ!」

 

 強化された力の源である角を切断されたベムラーは、みるみる内に弱っていく。

 

『「今なのっ!」』

 

 逆転の絶好のチャンス。美希とやよいはカリバーのリングを回し、火の文字を点灯させる。

 

「「『オーブフレイムカリバー!!!」」』

 

 オーブカリバーの刀身に赤い炎を纏わせて円を描くと、火の輪をベムラーへと飛ばした。

 火の輪はベムラーを内側に収めて縦に高速回転。するとベムラーに急激に熱が溜まって蒸し焼きになっていく。

 

「今だッ!」

 

 渋川は十分な距離までカタロヒを引っ張ると、そこで突き飛ばしてドラム缶の真横に立たせた。

 

「シェアッ!」

 

 オーブカリバーの振り下ろしと、スーパーガンの最後の一発が、ベムラーとドラム缶の列に直撃した――。

 ベムラーとカタロヒは、大爆発に見舞われて紅蓮の炎の中に消えていった。

 

「ギィ―――――イ!!」

『ぎゃあああああああああッ!!』

「あばよ」

 

 肩で風を切りながら背を向けた渋川が、ひと言告げたのであった。

 爆風でヤセルトニウムが地面に投げ出され、粉々に砕け散った。

 

「やったっ! やったぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 春香と徹子は抱き合って大喜び。くたびれた様子の渋川をオーブが見下ろす。

 そちらに振り返った渋川は、ぐっと親指を立ててサムズアップを決めた。

 

「……!」

『「いぇいっ!」』

 

 オーブは静かにうなずき、美希とやよいはサムズアップで応じた。

 

「シュワッ!」

 

 そしてオーブは空高くに飛び上がって、渋川に見送られながら地上を離れていった。

 ――その直後に渋川はその場に倒れ込む。春香たちと、舞い戻ってきたガイたちがそこへ慌てて駆けつける。

 

「大丈夫!?」

 

 春香が問いかけると――渋川は意外なほどにすっくと立ち上がった。

 

「大丈夫だ! 俺はビートル隊の渋川一徹だぞ! こんなことくらいで、へこたれる俺様じゃ……」

 

 と強がってみせたものの、すぐに力が抜けて崩れ落ちるのでガイたちが支える羽目になった。

 徹子は呆れて苦笑しながらも、渋川に告げた。

 

「かっこよかったぞ」

 

 渋川は娘の言葉に、にっかりと笑ったのだった。

 

 

 

 ビートル隊が現場の事後処理を始めた頃、春香たちはカメラに撮っていた今日一日の渋川の行動を確認し直した。

 

『そうなんですよぉ。この髪飾りを勧められてから、体力が一時間も持たなくって。肩こりもひどくなりますし……あぁいえっ!? 肩こりなんてありませんよ!? ナナはリアルJKですからね!?』

『私もこの腕輪をしてから身体の調子が優れないんです。このコウデは良くなかった……ふふっ』

『やっぱりアクセサリーが原因だったのね。わかるわ』

『ヘーイ!』

『最近すぐに酔い潰れちゃうから、何だか変だと思ってたの……』

 

 映像をアップにすると、渋川が接触した女性たちから青い石のアクセサリー――ヤセルトニウムを回収しているところが映っていたのが分かった。

 

「渋川さん、あの宇宙人がばらまいたヤセルトニウムを回収しようとしてたんですね!」

「だから女の人とばかり会ってたんだ」

 

 納得するやよいと美希。その一方では、

 

「さっきお父さんって呼んだよな? いつでもお父さんと呼んでいいんだぞぉ徹子~!」

「ちょっと! 触んないでっ!!」

 

 渋川が調子に乗って徹子に抱きつき、彼女から押しのけられていた。

 

「あッいててててッ!」

「ご、ごめん……。ていうか徹子って呼ぶのやめて! あたしの名前はキャサリンなんだから!」

「何がキャサリンだよー! お前は徹子!」

「いやいやキャサリンだから!」

「徹子だ~!」

「やめて~!!」

 

 徹子にじゃれまくっている渋川の構図に、春香たちは思わず苦笑いした。

 

「もぉ~。また喧嘩してるよ、あの二人」

「でも、とっても仲良しそうですぅー!」

「渋川のおじさんも徹子も楽しそうなの」

 

 肩をすくめる三人の一方で、ガイは何やら神妙につぶやいた。

 

「信じ合える人がいるってのは、いいことだ」

「え? 何か言いました、プロデューサーさん?」

「……いや。そろそろ帰ろうか。明日の仕事も早いからな」

「はーい!」

 

 ガイたちはやいのやいのと騒いでいる渋川達をそのままにして、事務所への帰路に着く。だがその寸前に、ガイが一つだけ尋ねた。

 

「ところで、徹子って誰だ?」

「え?」

 

 春香たちの声がハモった。

 

 

 

 その夜、ハードな一日を終えた渋川は行きつけのバーに立ち寄った。まっすぐカウンター席に行き、背広の男性の隣に座る。

 

「マスター、いつもの」

 

 急な任務に備えて、ノンアルコールのソフトドリンクだ。それでひと息吐くと、隣の男性が話しかけてくる。

 

「天海君たちから話は聞いたよ。娘さんと仲直りできたみたいでよかったじゃないか、渋川君」

「……高木さん」

 

 誰であろう、高木である。渋川は彼の顔を認めると、大きなため息を吐いた。

 

「勘弁して下さいよ高木さん。徹子たちが俺の後をつけてたの、高木さんの差し金だったんですって? 今日のように俺の仕事は危険がつき纏うんですから、徹子に関わらせないで下さいよ。今日だってどんなに焦ったか」

「しかし、君こそ彼女たちの尾行に気づかなかったそうじゃないか。ビートル隊隊員として脇が緩んでいるんじゃないのかね?」

「ぐッ……それを言われたら痛いな……」

 

 苦虫を噛み締めたような顔になった渋川だが、高木は打って変わって彼を称賛する。

 

「いやでも、渋川君はよくやってくれているみたいだね。それが改めて分かって、私もほっとしたよ」

「そりゃあまぁ、人の命が関わる仕事ですからね。――やっぱり、ビートル隊設立を提言した身としてはそこんところ気になりますか?」

「まぁ、それもあるね」

 

 渋川と高木はグラスを傾けながら話し込む。

 

「そんなに気になるのなら、自分がそれなりの役職に就いてたらよかったじゃないですか。どうしてアイドル事務所の立ち上げなんか……。あなたが勧められた重要ポストの数々を全部蹴った時は、みんな仰天でしたよ」

「ははは。しかし今のビートル隊は、君のような人材によってしっかりと機能している。私は必要じゃあないさ。それに……私には私の出来ることがあったからね」

「高木さんの出来ることですか……」

 

 ぼんやりと遠くを見つめる渋川。

 

「初めはあなたがトチ狂ったとか思ってましたけど……最近のそちらを見てたら、その言葉の意味も何だか分かるような気がします」

「理解してくれたのならありがたい。初めの頃は、相当みんなのことを煙たがってたからねぇ」

「アッハッハッ……まぁともかく、お互いにこれからも頑張りましょう。こっちは世の人々の平和を守る身として、そちらは世の人々に希望を与える身として」

「うむ。お互い健闘しようじゃないか」

 

 その言葉を締めくくりとして、渋川と高木はグラスを交わして乾杯した。

 

 

 

『うッ、ぐぅぅ……!』

 

 ――渋川の攻撃によって爆死したかのように見えたカタロヒだったが、実は命からがら生き延びていた。夜も更けてほとぼりが冷めた頃に隠れ場所から脱け出て、ほうほうの体で逃亡を図る。

 

『くそぉ! 人間どもめ、覚えておけ……!』

 

 吐き捨てながら立ち去ろうとするカタロヒだったが、その時にふとすぐ側に気配を感じ取った。

 

『ん? ――おッ!? お前――』

 

 カタロヒが言い終わるより早く――蛇心剣の刃が赤い月に閃いた。

 

『うぎゃああああぁぁぁぁぁぁ―――――――――――ッ!!』

 

 断末魔を残して斬り捨てられるカタロヒ。

 とどめを刺したのは、ジャグラスジャグラー。彼は事切れたカタロヒに背を向け、不気味にほくそ笑んだ――。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

春香「どうも、天海春香です! 今回ご紹介するのは、誰もが知ってるウルトラの戦士、ウルトラマンジョーニアスです!」

春香「ジョーニアスさんは1979年放送の『ザ☆ウルトラマン』の主人公! 何とこの番組は特撮ドラマではありません。アニメなんです! それもキッズ向けではなく、正式なテレビシリーズでの現在唯一のアニメ作品なんです!」

春香「当時は空前のアニメブームであり、それに乗っかる形でアニメとなった訳ですが、ただウルトラマンをアニメ化したというだけには留まりませんでした。史上初めてウルトラマンの設定を一新するという冒険に始まり、物語もスペースオペラの要素を取り入れた壮大なものとなりました。怪獣も着ぐるみに囚われないデザインのものが次々登場するなど、アニメという媒体でしか出来ないことをふんだんにやってます」

春香「ジョーニアスさんもM78星雲ではなくウルトラの星U40の出身です。それまで変身者=ウルトラマンの構図が多かった中ではっきりと変身するヒカリ超一郎さんとは別人と描かれてて、自分の人間の姿でヒカリさんと対面するという極めて珍しい場面もあるんですよ」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『DETECTIVE HIGH!』だ!」

ガイ「『LIVE THE@TER PERFORMANCE』に収録の真美ソロ曲で、憧れの先輩を尾行して好みを調べる女の子のストーリー仕立てという風変わりな歌だ。女の子の好奇心を探偵と見立ててのタイトルだな」

春香「でも、下手したら警察沙汰なのでくれぐれも真似しないで下さいね!」

春香「では次回もよろしくお願いします!」

 




 やっほー兄ちゃんたち! 真美だよー。千早お姉ちゃんとあずさお姉ちゃんって色々と反対だよね。そんな二人が一緒に行動したら、何も起こらないはずないっしょ! しかも怪獣が出てきちゃって大変だぁ~! 一体二人はどーなっちゃうんだー!
 次回『三浦あずさは晴れ色のように』。おおー、ダイナマイツ!


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三浦あずさは晴れ色のように

 

「歌の仕事はいつ取ってきてくれるんですか?」

「色々注文されて、プロデューサーさん大変そうですねぇ」

「うふふ、女は度胸よ」

『「私たちを見てくれてる人の心を、元気づけなくっちゃ……!」』

「大事なみんなと、約束を交わしましたから」

「あそこにいる人たちへと歌いたいんです」

「プロデューサーさんたちの苦しみを、私たちも受け止めます!」

「私たちは、仲間だから……!」

 

 

 

『三浦あずさは晴れ色のように』

 

 

 

 美希、やよい、響の三名は仕事の合間、事務所で先日の千早が出演した歌番組の録画を観ていた。画面の中の千早が『蒼い鳥』を歌い終えると、聴衆はまるで一流のオペラ歌手に対するかのようにスタンディングオベーションを送った。

 

「うっうー! 千早さんの歌はいつ聴いても胸がジーンってしますぅ!」

 

 やよいがニコニコ顔で諸手を挙げた。響もうんうんとうなずいて同意している。

 

「自分はダンス得意だけど、千早の歌は自分のそれと同じかそれ以上だと認めてるぞ」

 

 しかし美希だけはしかめ面だった。

 

「……でも、この千早さんの歌、何だかいつもよりも良くないって思うな」

「え? ほんとですか?」

「そうかなぁ……。変わんないと思うけど」

 

 ピンと来ないやよいと響だが、美希の言を律子が認める。

 

「なかなかいい耳してるじゃないの」

「あっ、律子…さん」

「美希の言う通り、最近千早はいまいち調子が悪いみたいなのよ」

「えぇっ!? 千早(さん)が!?」

 

 驚くやよいたち。どういうことか、律子が説明する。

 

「どんなに練習しても思うように歌えなかったり、実力が伸び悩んだりで苦しんでるみたい。いわゆるスランプって奴ね」

「そんな、あの千早がスランプなんて……」

「スランプなんてどんな人も陥るものよ。特に今の私たちみたいに、脚光を浴びて取り巻く環境が様変わりした時なんて特にね。環境の変化による心身へのストレスって、意外と影響が強いものなのよ。特に千早は繊細な子だし、一番煽りが強いんでしょう」

「うぅー……千早さん、大丈夫でしょうか……」

「ミキたちで何かしてあげられないかな……」

 

 心配するやよいと美希だが、二人を律子がやんわりと制した。

 

「悪いけれど、精神的に落ち込んでるところに下手に刺激したら逆効果になるかもしれないわ。自分自身と向き合うことでのみ解決できる場合もあるし、なるべくそっとしておいてあげた方がいいわよ」

「そっかぁ……」

「ところで、その千早はまだ戻ってこないのか? そろそろ事務所に着いててもいいと思うんだけど」

 

 ふと響が、ホワイトボートに書かれている千早のスケジュールと現在時刻を見比べて尋ねた。すると律子は大きくため息を吐いた。

 

「あー……それが、今日はあずささんと一緒だからねぇ……。さっき小鳥さんに連絡があったんだけど」

「えっ、まさか……あずささんの迷子に巻き込まれたとか?」

 

 首肯する律子。

 

「ちょっと前までだったらプロデューサーがついてたんだけど、プロデューサーも忙しくなったでしょ? まぁ千早がついてたら問題ないだろうと思ってたんだけど……考えが甘かったみたいね」

「あずさにも困ったものなの」

 

 美希が眉を八の字に寄せた。

 

「まぁ幸い今日は時間に余裕あるし、それまでにプロデューサーに何とかしてもらいましょう。それより私たちは私たちの仕事に専念よ」

「はーい!」

 

 律子の呼びかけにやよいが元気良く返事をして、四人はそれぞれの仕事に向かって事務所を出発していった。

 

 

 

 話題に上がっていた当の千早は、あずさとともに見覚えのない街の中を彷徨っていた。

 

「あらあら……ここはさっきも通らなかったかしら? すっかり迷っちゃったわねぇ……」

「迷っちゃったじゃないですよ、あずささん……。時間があるからいいものの、次の仕事に遅刻する羽目になってたらみんなの迷惑になりますよ」

「ごめんなさい、千早ちゃん。私ったらどうしてこうすぐ道に迷うのかしら……」

「まぁ、それを分かっていながら気をつけてなかった私も悪かったかもしれませんけど……」

 

 迷子になっているのにどうもふんわりとした調子のあずさに、千早はすっかりと辟易していた。

 そもそも、千早はあずさのことが765プロで一番苦手だった。嫌いという訳ではないが……アイドルのトップに立つために常にレッスンや自主練に熱心になっている自分と、普段はほんわかとしていてどこか掴みどころのないあずさとは、どうにも反りが合わない。こちらのペースが崩されがちなのだ。スタイルだって……あずさが隣にいたら自己嫌悪に陥ってしまいそうになる。

 特に今の自分は、トップに上っていくどころかいつもの実力が出せていないようなありさま。本当ならこんな道端で時間を浪費している暇はないのだ。早く事務所に戻って、調子を取り戻さないと……。そんな風に内心では焦りを抱えていた。

 

「ともかく、事務所には連絡しました。直にプロデューサーが拾いに来てくれるはずですので、それまで下手に動かず待っていましょう」

「そうね。プロデューサーさん、早く来てくれないかしら」

 

 二人は道路の端に留まって、ガイが来るのを待ち構える姿勢となる。……しかしその間に、千早の横顔をそっと覗き見たあずさが話しかけた。

 

「ところで千早ちゃん、こうしてあなたと二人きりでお話しをする機会ってなかなかなかったわね」

「え、ええ。そうですけど……それが何か」

 

 765プロには十三人ものアイドルが所属している。あずさとは特別親しい訳でもないのでそれも無理のないことだが……あずさは何を言おうとしているのか。

 若干戸惑う千早の心中を知ってか知らずか、あずさは遠慮のない質問を投げかける。

 

「千早ちゃんがアイドルをやってるのって、弟さんのためなのよね」

「……ええ。優は私の歌が好きだったから、日本中、世界中に私の歌が流れるようになれば、天国の優にも聞こえるんじゃないかと思いまして……。私の自己満足かもしれませんけど、優のために何かしなければ気が済まないんです。おかしいでしょうか?」

「そんなことないわ、立派な動機よ。だけど……」

 

 あずさは表情を和らげながら告げる。

 

「私、歌ってあんまり気を張り詰めながら練習しても、上手くはならないものだと思うの」

「はい……?」

「私が言うのも何だけど、最短距離を無理に進もうとするよりも、回り道を通った方が却って早いこともあるわ。荒れた道の上を全速力で走ろうとしたら危ないじゃない?」

「まぁ、そうですね……」

「きっとそれと同じよ。焦ってみても変わらないものなのよ。それに、ガチガチに強張った顔で歌っても聴いてる人もあんまり楽しんでもらえないと思うの。歌って本来は、のびのびと気楽にいながら歌うものじゃないかしら」

 

 急に長々と語るあずさに、千早はむしろ困惑。

 

「それって……私にそうしろってことですか?」

 

 問い返すと、あずさはにっこりしながら首を振った。

 

「ううん、強制するつもりなんてないわ。ただ、私の考えたことを言ってみただけよ」

「は、はぁ……?」

 

 それからあずさはにこにこしたまま何も話さなくなった。千早は、あずさの意図が読めなくてすっかりと当惑していた。

 そんなところに……不意に、あずさのロングスカートの裾がぎゅっと誰かに掴まれた。

 

「あら?」

 

 あずさと千早が見下ろすと、小さな男の子と女の子が涙を湛えながら二人を見上げていた。兄妹であろうか。

 

「あらあら。僕たち、どうしたのかしら?」

 

 あずさがしゃがんで尋ねかけると、子供たちは嗚咽を上げながら答える。

 

「おかあさん、いないの……」

「ここがどこかわからないの……」

「あらあら、迷子なのね……。かわいそうに」

 

 頬に手を当てたあずさは、子供たちに告げる。

 

「分かったわ、私たちが一緒にお母さんを捜してあげる! それで安心でしょう?」

「ほんと!?」

「ち、ちょっと、あずささん!?」

 

 あずさの発言に千早が仰天して待ったを掛けた。

 

「私たちだって迷子なんですよ。それに変装してるとはいえ、目立ったら面倒なことになるかもしれませんし……。この子たちはどこか交番を見つけて、そこで預かってもらったら……」

 

 しかしあずさは反論。

 

「でも、こんなに不安がってるわ。放っておくのはかわいそうじゃない?」

「そうですけど、ですが……」

「ほら、この子たちをよく見て。こんなに泣いてるのよ」

 

 子供二人は、涙ながらに千早の瞳をじっと覗き込んで訴えかけてきた。それで千早はうっ、と言葉に詰まる。

 過去が過去なので、千早も小さい子供には弱いのである。

 

「……分かりました。私も手伝います……」

「ありがとう、千早ちゃん!」

「おねえちゃんありがとう!!」

 

 パァァと顔を輝かせる三人に、千早は頭を抑えながらため息を吐き出した。

 ――そしてあずさと千早は、子供たちと手をつないで繁華街の中を練り歩き始めた。

 

「この子たちのお母さん、いらっしゃいませんかー?」

 

 あずさは遠慮なく声を張って、子供たちの母親へと呼びかける。そんな姿に周囲の人たちは奇異の視線を送り、千早は少しでも正体を隠そうとうつむいたが、

 

「ほらほら。そんなにうつむいてたら気づいてもらえないわよ、千早ちゃ――」

「名前を言うのは勘弁して下さい! 分かりましたから……」

 

 あずさにはほとほと参らされる。仕方なく、千早もあずさと同じように声を出していく。

 

「この子たちのお母さん、いらっしゃいませんかー?」

「お母さん、いませんかー? お子さんを捜されてる方ー!」

 

 しかし一向に見つからないので、あずさがふぅと息を吐く。

 

「困ったわねぇ。私たちもそろそろ時間が差し迫ってきたし……あら?」

 

 悩むあずさの目がふと上に向いて、あるものを捉えた。

 

「あずささん、どうしました?」

「空を見て。あれ、何かしら? 流れ星?」

「え?」

 

 空を見たら、黒い何かが隕石のように地表へ向けて落下してくる。――それも、彼女たちからそう遠くない場所へ!

 呆気にとられている内に黒い物体は地上に落下し、その地点から巨大な生物が身を起こした。

 

「キィィィィッ! ギャアアアアアアアア!」

 

 全身が赤黒く、まるで直立したシュモクザメのようである。そして腹部など肉体の各所が赤く発光しており、高熱を発して空気を歪めていた。裂けた口の端からはよだれが垂れ、獰猛さを窺わせる。

 冷凍怪獣ラゴラス……それが対となる怪獣グランゴンのマグマコアを取り込んで変異を起こした、進化怪獣ラゴラスエヴォだ!

 

「キィィィィッ! ギャアアアアアアアア!」

 

 ラゴラスエヴォは腹のマグマコアから火球を連続発射して街を焼き払い始める。人々は一斉に悲鳴を発してパニックとなった。

 

「きゃああああああっ!?」

「逃げろぉぉぉ―――――ッ!」

 

 一気に逃げ惑う大勢の人間。あずさと千早も同様であった。

 

「大変だわ!」

「すぐに避難しましょう! この子たちを安全な場所まで連れていかなくては!」

「ええ、そうね!」

 

 あずさはすぐに子供たちを連れて駆け出す。

 

「あ、あずささーん! そっちは怪獣の進行方向ですっ!」

 

 千早が慌てて軌道修正した。

 

 

 

 ガイはあずさたちがいた場所に到着していたが、二人の姿がないので頭をかいていた。

 

「参ったな……。あずささんも千早も、どこ行っちまったんだ」

 

 その時に、ラゴラスエヴォが出現して街の破壊を始めたのを目撃する。

 

「!!」

 

 ガイは即座に懐からケータイを取り出して、次の営業先に連絡を入れた。

 

「申し訳ありません。近くで怪獣災害が発生したため、三分待ち合わせに遅れます!」

 

 ケータイを仕舞い込むと、即座にラゴラスエヴォへ向かって駆け出した。

 

「全く、プロデューサーとウルトラマンの兼業は大変だぜ!」

 

 

 

 あずさたちはどうにかラゴラスエヴォの背後の方に回り込んで、怪獣に引き返す気配がないのを確認して一旦息を吐いた。

 

「この辺りなら大丈夫そうですね……」

「僕たち、怪我はないかしら?」

「うん!」

 

 そこへガイが走ってきて、彼女たちの姿を認める。

 

「あずささん! 千早! ここにいましたか!」

「まぁ、プロデューサーさん!」

「来てくれたんですか!」

 

 三人は無言でうなずき合うと、あずさが子供たちに優しく告げた。

 

「あなたたちは怪獣に見つからないように隠れててね。怪獣がいなくなるまで、出てきちゃダメよ」

「お、お姉ちゃんたちは!?」

「私たちは……怪獣を追い払ってくるから」

「え?」

 

 子供たちがポカンとしている内に、あずさたちは駆け出して曲がり角へ飛び込んでいった。

 そして誰の目もない内に、あずさと千早がタロウとメビウスのカードをかざす。

 

「タロウさんっ!」[ウルトラマンタロウ!]

「メビウスさんっ!」[ウルトラマンメビウス!]

「熱い奴、頼みますッ!」[ウルトラマンオーブ! バーンマイト!!]

 

 三人はフュージョンアップしてウルトラマンオーブとなり、ひねりをつけた大ジャンプでラゴラスエヴォを飛び越えてその面前に颯爽と着地した。

 

『紅に燃えるぜ!!』

「キィィィィッ! ギャアアアアアアアア!」

 

 ラゴラスエヴォはすぐに立ちはだかったオーブへ狙いを移し、腹からの火炎弾を発射する。

 

「セアッ! オリャッ!」

 

 オーブはそれを拳で粉砕。ラゴラスエヴォは次に口から火炎とは真逆の冷凍光線を吐き、オーブの腕を凍らせた。

 

「デアッ!」

 

 だがオーブが腕に熱を込めることで、すぐに解凍。燃える炎の戦士であるバーンマイトには、多少の火炎攻撃も冷凍攻撃も通用しないのだ。

 

『「これ以上街は壊させないわっ!」』

 

 千早の意気込みに合わせるかのように、オーブは猛然とラゴラスエヴォに突っ込んでいって打撃を仕掛ける。

 

「キィィィィッ! ギャアアアアアアアア!」

 

 が、ラゴラスエヴォは己の肉体で正面からオーブのパンチを受け止めた!

 

『「なっ!? びくともしない……!」』

 

 炎を纏った拳を繰り出していくオーブだが、ラゴラスエヴォはガード。それを崩すことが出来なかった。

 

「キィィィィッ! ギャアアアアアアアア!」

 

 逆にラゴラスエヴォの打撃や尻尾の振り回しはオーブの巨体を傾け、殴り飛ばす。

 

「ウオアァッ!?」

『「くっ……何てパワーなの!?」』

『「これは相当手強いわね……」』

 

 うめく千早とあずさ。ラゴラスエヴォはグランゴンの核となるマグマコアを取り込んで、完全に己の力としている。つまり怪獣二体分のパワーを発揮しているのだ。攻めに優れたバーンマイトでもそれを破るのは苦しかった。

 

『「小技が通じないのなら、大技で一気に決めましょう!」』

 

 体勢を立て直したオーブが両腕を振り上げ、胸部に熱と炎を溜めて火球を作り出す。

 

「「『ストビュームバースト!!!」」』

 

 バーンマイトの必殺攻撃がまっすぐラゴラスエヴォへ飛んでいく!

 

「キィィィィッ! ギャアアアアアアアア!」

 

 しかしラゴラスエヴォはそれに対して、口と腹からそれぞれ冷凍エネルギーと熱エネルギーを放射。この二つを融合させて莫大な光球に変え、ストビュームバーストにぶつけてきた。

 衝突する二つのエネルギー。その結果――ストビュームバーストの方が破られて光球がオーブに直撃する!

 

「ウワアアアァァァァァァァッ!」

『「「きゃああああああっ!!」」』

 

 その威力はすさまじく、オーブは大きく弾き飛ばされて千早とあずさにもかなりの衝撃が襲った。

 

「キィィィィッ! ギャアアアアアアアア!」

 

 高々と咆哮を発してにじり寄ってくるラゴラスエヴォに、オーブは立ち上がりながらも後ずさる。

 

『「何て奴なの……! どうすれば……!」』

 

 焦る千早。まさかストビュームバーストが真正面から破られるとは思わなかった。しかしストビュームダイナマイトでは接近するまでに迎撃されてしまうだろうし、防御を固めても意味がないだろうし、かわそうものなら街が大惨事になるのは目に見えている。どう対処すればよいのか……。

 

『「早くどうにかしないと……街がもっとひどいことに……!」』

 

 焦燥して下唇を噛み締める千早に――あずさがそっと呼びかけた。

 

『「千早ちゃん……深呼吸よ」』

『「えっ!?」』

『「こんな逆境にこそ、落ち着くのよ」』

 

 あずさの言葉に、千早は一瞬苛立つ。

 

『「今はそんなこと言ってる場合じゃ――!」』

 

 しかし、千早の手をあずさがそっと握り締めた。手の平から伝わるあずさの体温はほんのりと温かく、安らぎが感じられた。

 

『「大丈夫。私を信じて……ね?」』

 

 にこっと微笑むあずさの表情に、千早は我に返る。

 そしてすぅっと息を吸い込んで――吐き出す時には、表情が一変していた。

 

『「ええ……。ありがとうございます、あずささん」』

『「うふふ、どういたしまして。それじゃあ……」』

 

 千早とあずさの手元にオーブリングと、マックスとタロウのカードが現れる。

 

『「次はこれで行きましょう!」』

『タロウさんとマックスさん! 超パワーが潜在するお二人か! これならッ!』

 

 千早とあずさは直ちに再フュージョンアップ!

 

『「タロウさんっ!」』

[ウルトラマンタロウ!]『トァーッ!』

『「マックスさんっ!」』

[ウルトラマンマックス!]『シュアッ!』

 

 二人の左右にタロウ、マックスのビジョンが現れて、リングのトリガーを引く。

 

『超パワー、お借りしますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 タロウとマックスのビジョンと、千早とあずさがウルトラマンオーブと融合!

 

『トワァッ!』『ジュワッ!』

[ウルトラマンオーブ! ストリウムギャラクシー!!]

 

(♪ウルトラマンタロウ(インストゥルメンタル))

 

 赤いボディにウルトラホーンを頭から生やし、肩は金銀のプロテクターが覆う姿となると同時に高々とジャンプ、そして飛び蹴りをラゴラスエヴォの頭部に炸裂した。

 

「ダァッ!」

 

 不意打ちに転げるラゴラスエヴォ。反対に華麗に着地したオーブが名乗りを上げる。

 

『俺たちはオーブ! 宇宙の悪に、立ち向かう!!』

 

 そしてまっすぐにラゴラスエヴォに突っ込んでいき、ボクシングスタイルで連続パンチを浴びせる。

 

「デヤァァァッ!」

 

 腹部に猛打を入れられたラゴラスエヴォが悶絶。最後の強烈な一発がラゴラスエヴォを殴り飛ばした。

 

「オリャアッ!」

「キィィィィッ! ギャアアアアアアアア!」

 

 更にスライディングキックが追い打ちし、転倒するラゴラスエヴォ。

 

「トアァッ!」

 

 オーブの攻め手は緩まない。ラゴラスエヴォをすくい投げて地面に叩きつける。

 ストリウムギャラクシーはタロウとマックス、爆発的なパワーを秘める両戦士の力を宿しており、パワーとスピードの両立を果たしている。その二つから生じる怒濤の攻勢には流石のラゴラスエヴォも押されっぱなしだ。

 

「キィィィィッ! ギャアアアアアアアア!」

 

 しかしラゴラスエヴォは起き上がると口腔と腹部にエネルギーを充填し、先ほどの合体光線を再度放とうとする。

 

『「千早ちゃん、思いっきり行くわよー!」』

『「はいっ!」』

 

 対するオーブは左腕を掲げて、光を一点に集中。同時に全身が虹色に光り輝く。

 そして腕を逆L字に組み、相手の攻撃発射と同時に必殺光線を繰り出した!

 

「「『ストキシウムカノン!!!」」』

 

 互いに壮絶な熱量の光球と光線が激突!

 初めは拮抗していたが――ストキシウムカノンが光球を押し返してラゴラスエヴォに命中した!

 

「キィィィィッ!! ギャアアアアアアアア!!」

 

 ラゴラスエヴォは大ダメージを食らってマグマコアも潰れる。だが耐久力も流石なもので、まだ倒れてはいない。

 それにあずさはオーブのカードをかざして、千早の握るオーブリングに通す。

 

『「プロデューサーさん、真の姿に!」』

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

 

 カードはオーブカリバーとなって、あずさと千早で柄を回してトリガーを引く。

 聖剣の光によって、オーブはオーブオリジンへと変身を遂げた!

 

『銀河の光が、我らを呼ぶ!!』

 

 同時にあずさはオーブカリバーをリングに差し込んで、そのパワーを解放する。

 

[解き放て! オーブの力!!]

 

 オーブがカリバーで頭上に大きく円を描き、刀身にエネルギーをフルチャージさせてラゴラスエヴォへ振り下ろす。

 

「「『オーブスプリームカリバー!!!」」』

 

 膨大なエネルギーの奔流がラゴラスエヴォに突き刺さる!

 

「キィィィィッ! ギャアアアアアアアア!」

 

 ラゴラスエヴォは断末魔を残して、黒い煙のようになって弾け散った。

 

『「やったぁっ!」』

『「これでひと安心ね」』

 

 千早とあずさは勝利に喜び、胸をなで下ろす。――しかしオーブは、ラゴラスエヴォの散りざまにかすかな疑問を感じた。

 

『今の怪獣、消え方が変だったな……』

 

 

 

 ラゴラスエヴォの撃破後、子供たちの母親は二人を必死に捜し回っているところを無事に発見された。子供を返すと、母親は二人を守った千早たちに何度も何度も感謝の気持ちを告げてくれた。

 子供たちも、満面の笑みでお礼の言葉を言った。

 

『おねえちゃんたち、ありがとう!!』

 

 ――千早はその笑顔に、記憶にある弟の優の笑顔を重ね、口元が緩んだ。

 

「おッ。千早、何だかいい顔になったじゃないか」

 

 それを見て取ったガイがひと言告げ、千早はハッとなって顔を上げた。

 

「私がいい顔、ですか?」

 

 ガイはおもむろにうなずく。

 

「ああ。最近は変に根を詰めてていっぱいいっぱいって感じだったが、今は大分余裕がある感じだ。その顔なら、のびのびと歌えると思うぜ」

 

 ガイの発言に千早はあることに気づいて、あずさの方へ振り返る。

 

「あずささん……ありがとうございます。あずささんの言ったこと、分かったような気がします」

「うふふ、私は何もしてないわ。千早ちゃんが自分で解決しただけよ」

 

 笑顔で謙遜するあずさ。釣られて千早も笑いをこぼす。

 そんな二人をガイが急かす。

 

「そうだった、先方を待たせてるんだった。あずささんたちも急いで下さい! 次の仕事が待ってますよ!」

「はーい、プロデューサーさん! 私たちはうかうかと回り道もしてられないわねぇ」

「ですね。あずささん、今度は迷子にならないで下さいよ」

「分かってるわよぉ」

 

 とか言いながらあずさがまたも道をそれそうになったので、千早とガイは苦笑しながらも彼女を引き戻すのであった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

あずさ「三浦あずさです。今回ご紹介するのは、ウルトラマンで先生のウルトラマン80です」

あずさ「80さんはその名前の通り、1980年放送の『ウルトラマン80』の主人公です。特徴は何と言っても中学校の教師というお仕事に就いてたことです。これは今になっても特撮の世界では他に例を見ない、特殊な設定です」

あずさ「この学校の先生と言う設定は、80年代の新しいウルトラマンということで、今までにない新しいことをしようという試みのために作られました。もちろん物語の舞台は学校となり、それまでに例のなかった怪獣特撮と学園ドラマの融和が図られたのですが、様々な問題のためにこの路線は1クールで打ち切られてしまいました。残念ですね……」

あずさ「その後は今までのようなSFドラマになったのですが、『先生』という個性はやはり視聴者さんたちの記憶に強く残り、今でも80さんが話題になる時は必ず先生の設定がつき纏います」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『晴れ色』だ!」

ガイ「アニメの第八話『しあわせへの回り道』で使用された挿入歌で、あずささんのソロ曲だ。焦るよりもゆったりと心の余裕を持つことが大事なことを謳う、あずささんそのものを表してるかのような一曲だな」

あずさ「皆さんも色々と苦労することがあるでしょうけど、晴れ色の気持ちを忘れないでいて下さぁい」

あずさ「それでは次回もよろしくお願いします。うふふ」

 




 四条貴音です。ご友人の結婚ぱぁてぃに出席された小鳥嬢ですが、そこでの愚弄で生じた負の念が騎馬武者の怨霊を呼び起こしてしまいました! 恐ろしいことです……。プロデューサー、伊織、真! 小鳥嬢のご友人の命を狙う怨霊を止めなければなりません!
 次回『私の中の幸』。小鳥嬢の幸せとは何でしょうか?


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私の中の幸(A)

 

「見て下さい、今しがた入ったニュースです」

「みんな、どうかお願い! この地球の救世主になって!」

「律子さんたちも、くれぐれも気をつけてね!」

「まだ世界のどこかに眠っているカードがある可能性は大よ」

「どうせだったら、全部集めたいですよね」

「もう、これじゃまた残業ね……」

「せめてもうちょっとお仕事が入ってくれれば……」

「日の目を見ないで消えていくなんてなんてのも珍しくない話だし……」

「あたしだって……」

 

 

 

『私の中の幸』

 

 

 

 765プロ事務所で真、伊織、律子の三人が、ネット番組を観ている。パソコンの画面の中では女性レポーターが、鎧武者のような絵が刻まれた石碑のようなものを紹介していた。

 

『これが、今話題の、想い石でーす! この、石に描かれたお侍さん、裸足なんですが、自分の履き物を供えると、それを履いて運命の相手の元へ行って、恋を叶えてくれると言われてます!』

 

 レポーターの言う通り、石碑の武者は足だけが露出している。

 

『新品じゃなくて、自分が履いたものを供えるのがポイントです! かくいう私も……この石に靴を供えてから……三日後は……』

 

 不意にレポーターがもじもじして、画面外に向かって手招きした。すると画面にスーツ姿の男性が入ってきて、レポーターは彼の腕に抱きついた。

 

『じゃーん! こんな素敵なダーリンと出会いましたー!』

「うわぁ~! 素敵だなぁ~!」

 

 番組の内容に真は目をキラキラと輝かせたが、伊織と律子は真逆に冷め切った顔をした。

 それにはお構いなしに、振り返った真が主張する。

 

「どうどう!? 今の想い石のこと、小鳥さんに教えてもらったんだ~。すっごい話だったでしょ? これを次の『アンバランスQ』で取り上げようよ!」

 

 それに大きなため息を吐く伊織。

 

「あのねぇ真……私たちの番組は安い女性誌の巻末広告じゃないのよ。こんなの取り上げたところでしょうがないじゃない」

「でも、お侍さんが靴を履いて運命の相手の元へ行くって……」

「そんなの偶然が重なって出来たただの噂話に決まってるわよ! 占いの類なんて大抵は気のせいか思い込みがオチなんだから」

「全くね。大体、侍の霊がいたとしても、それがどうして他人の運命の相手なんて知ってるのよ。そもそも恋愛相手を見つけてもらう、ってのが気に入らないわ。恋でも何でも、欲しいものは自分の手で掴んでこそ価値があるものよ」

 

 厳しい意見を寄せる伊織と律子に、真は興ざめしたように口をとがらせた。

 

「もう、伊織も律子も夢がないんだから……。それでも女の子なの?」

「悪かったわね、夢がなくて」

 

 大きく肩をすくめる伊織、その一方で、律子がはたと顔を上げた。

 

「でも、裸足の鎧武者の話は前にどこかで見た覚えがあるわ。確か……」

 

 律子が調べに行く後ろでは、資料の山を両手に抱えて運んでいた高木が転倒しそうになる。

 

「おっとっと!?」

「社長、大丈夫ですか!?」

 

 そこをガイが慌てて支えたので、高木は無事に済んだ。

 

「ありがとう、ガイ君」

「代わりに持ちますよ。社長ももう結構なお歳なんですから、あまり無理はしないで下さい」

「すまないねぇ、お手数を掛けてしまって」

 

 二人のやり取りを目にした伊織が問いかける。

 

「社長がそんな資料の山を運んで……小鳥はいないの?」

 

 それに高木が、次の通りに答えた。

 

「小鳥君なら今日はもう上がったよ。友達のバチェロレッテに出席するんだそうだ」

「ばちぇろれって?」

 

 真が首を傾げた。

 

「知らないの、真? 結婚式の前日に、花嫁と女友達が集まって行うパーティーのことよ。いわば結婚の前夜祭ってところね」

「ってことは……小鳥さんのお友達が結婚するんだ! うわぁ~、おめでたい話だな~」

 

 再び瞳をキラキラさせる真。

 

「いいなぁ~結婚。ボクもいつかは素敵なウェディングドレスを着て、素敵な式を挙げるんだ~」

「真はタキシードを着る側じゃないの?」

「ちょっと! そういうこと言うのやめてくれる? ボクは真剣なんだからね!」

 

 茶化す伊織に憤慨する真だった。それをよそに、伊織がふと高木に問いかける。

 

「ところで小鳥にはそういう話はないのかしら。小鳥って、あれでも結構歳行ってるんでしょ? 年齢の話はやたら避けたがるし」

 

 高木は苦笑いしながらも返答する。

 

「いやぁ、聞かないねぇ。もっとも我が事務所は小鳥君の働きに依存している部分も否めないから、いい男性を探してる時間がないのも原因かもしれないがね……」

「社長、あんまり頼り切ってたら小鳥さんがかわいそうですよ。どうにかしてあげた方がいいのでは?」

 

 と意見するガイ。

 

「ううむ、そうだね……。とある理由で、新しい事務員を雇う予定があるんだがね」

 

 などと話しながら、高木とガイは手分けして小鳥の仕事を引き継いだのであった。

 

 

 

 その頃、いつもの事務員服から清楚なドレスに着飾った小鳥は、とあるホテルの宴会場の一つ、『おめでとう陽子』のプレートが立てられている会場へと小走りで駆け込んでいった。

 

「ごめんねみんな、少し遅れちゃった! もうみんな集まってる?」

 

 会場に入って一番に呼びかけた小鳥を、宴会の中心人物が呼んだ。

 

「小鳥!」

「陽子! 久しぶり!」

「元気だった?」

「そっちこそ! 結婚おめでとう陽子!」

「あはは、まだ一日早いよ」

 

 小鳥と宴会の主役、陽子は軽く抱き合った。二人は親友なのであった。

 陽子と集まった友人たちと軽く挨拶を交わしてから、小鳥が言う。

 

「それにしても、みんな今日は気合い入ってるわね」

「だって今日、陽子の旦那さんが来るんだって! 東都ホテルチェーンの御曹司だよ?」

 

 友人の一人からの返答に、小鳥は目を丸くした。

 

「御曹司? ご主人は、同じ職場の人だって……」

「ホテルで働いていて、御曹司に見初められたのよ!」

 

 別の一人が説明すると、最初の友人が陽子を羨む。

 

「ほんっと! 東都ホテルに就職してよかったよね~」

「女の幸せは男で決まるもーん」

 

 歓談する友人たちだが、小鳥は反対に戸惑った。

 

「何言ってるの? 陽子は、ホテルの仕事が好きだって……そんなつもりで東都ホテルに入社したんじゃないわよね、陽子?」

 

 陽子に確かめるが、友人がそこに陽子への質問を被せた。

 

「だって、東都ホテル辞めるんでしょ?」

「……そうなの?」

 

 唖然として陽子に振り向く小鳥。陽子は――ゆっくりと首肯した。

 

「どうして?」

「まぁ……色々あって」

 

 そんな答えでは納得できない小鳥であった。

 

「だって陽子、ホテルの仕事大好きだって言ってたじゃない……。学生の時は、違う道に進んでもお互い夢に向かってどこまでも頑張ろうって……」

「小鳥……」

 

 陽子が何か言いかけるが、それをさえぎるように友人たちが小鳥へ口々に言う。

 

「小鳥ったら、まぁだそんなこと言ってるの? あんたはいい加減現実見た方がいいわよ?」

「小鳥だって、とっくにアイドル引退したんでしょ? あっ、でも、まだアイドル事務所では働いてるんだっけ? 未練がましいわよね~」

「っ!」

 

 今のひと言に、小鳥は大きく色めき立った。友人たちはそれに気づかずに好き勝手にまくし立てる。

 

「結婚だって、この中ではしてないのもう小鳥だけよぉ? それとも誰かいい人はいるの?」

「そ、それは……」

「ほら見なさいな! いつまでも夢見がちだから、気がつけば行き遅れになるのよ~。あっそうだ、陽子の旦那さんに頼んでいい人紹介してもらったら~?」

「いや、それはちょっとアレでしょ~。結婚早々、旦那さんを困らせちゃったらかわいそうよ~」

 

 友人たちは何の気のない雑談のつもりであったが――彼女たちの言葉に、小鳥は内心深く傷ついていた。いたたまれなくなって、思わず会場から飛び出す。

 

「あっ、小鳥……!」

 

 陽子が追いすがろうとしたが、小鳥は会場を出てすぐに純白のスーツの凛々しい男性とばったり鉢合わせた。

 その男性は小鳥の顔色をひと目見て、言った。

 

「大丈夫ですか? お加減がよろしくないみたいですが」

「あっ、だ、大丈夫です……」

「そうでしょうか。でもこれ、よければ使って下さい」

 

 男性は小鳥に自分のハンカチを差し出し、宴会場に入っていった。彼が陽子の結婚相手なのだ。

 

「あっ、朗さん」

「やだ!? かっこいい~!」

 

 会場からはすぐに友人たちの黄色い声が生じた。……小鳥は何だか打ちのめされたような気分になり、そのままとぼとぼとホテルを後にした。

 

 

 

 小鳥は依然力のないまま、おぼつかない足取りで帰路に着いていた。

 

「陽子……どうして……。私を置いて、行っちゃうんだ……」

 

 ぼんやりと独りごちながら歩いていたら……急にヒールが折れて転倒してしまう。

 

「ふぎゃっ!? う、嘘でしょぉ!? 買ったばかりなのにっ! もぉ~!!」

 

 先ほどの件もあってひどく気分を害していた小鳥は、苛立ちのままにヒールの折れた靴を放り投げてしまう。

 

「あっ!? ま、待って!」

 

 だがすぐに我に返って、靴を追いかけて石段の階段を下りていった。そして靴を拾ったところ……目の前に、見覚えのある石碑があることに気がついた。

 

「想い石……」

 

 それは最近、巷で噂になっており、自分からも真に存在を教えた想い石であった。その前には、幾人もの女性たちが供えたであろう女物の靴がズラリと並んでいる。

 小鳥はふらふらとその前に行くと、履いていた靴を置いて手を合わせた。が、すぐに我に返って靴を拾い上げる。

 

「何やってるのあたし!? ちっとも羨ましくなんてないんだから! いい人くらい、自分で見つけてやるわっ! 自分の幸せは、自分で掴むんだから!」

 

 小鳥は自らに言い聞かせながら、石碑に靴を投げつけて足早に立ち去っていった。

 ……そのため、石碑から怪しいオーラがゆらめいたことには気づかなかった。

 

 

 

 小鳥は自宅に帰る気分にもなれず、事務所に舞い戻ってきた。

 

「ただいま戻りました……」

「おや? バチェロレッテはどうしたのかね? それに履き物はどこへやったんだい?」

 

 高木が、小鳥の靴が変わっていることに気がついて尋ねたが、小鳥は適当にはぐらかした。

 

「色々ありまして……。それより、真ちゃんたちはまだ事務所にいたの? もう帰ったかとばかり」

 

 真と伊織は律子とともに、パソコンの画面をにらんでいた。顔を上げた真が小鳥に答える。

 

「それが、例の想い石について、律子が興味深い情報を見つけたんです。太平風土記から」

「えっ? あの太平風土記……?」

 

 太平風土記。魔王獣の記述があった古文書である。それにどうして想い石のことが載ってあるのか。律子が言う。

 

「あの想い石……もしかしたら、本物かもしれないんです」

「本物、ですか……?」

「霊力の類がある……本当に武者の霊が取り憑いてるかもしれないってことですよ」

 

 小鳥が彼女たちの元に回り込んで画面を覗き込むと、想い石の一部分の拡大画像が表示されていた。

 

「見て下さい、想い石のこの部分には一文が刻まれてるんですが、こう書いてあるんです。『戀鬼此処に在り』」

「戀鬼……って、何ですか?」

 

 画面の表示が、想い石から太平風土記の一ページ、紅蓮の炎に包まれた鎧武者の絵に切り替わる。

 

「太平風土記によれば、戀鬼は戦国時代に愛し合いながらも引き裂かれた、武将と姫の怨霊です。幸福な男女を妬み、真っ赤な甲冑に身を包んで、婚礼に現れては花嫁を傷つけた……とあります。血のように赤い甲冑から、紅蓮騎という別名でも呼ばれたそうです」

「嫉妬って怖いわね……」

 

 身震いする伊織。小鳥はこの話に面食らう。

 

「想い石の話と全然違うじゃないですか!」

「続きがあるんです。その怨霊は、偉大な法師が石の中に鎮めた。それ以来、鬼は自分の霊力を人間の願いを叶えるために使うようになったそうです。で……この絵の怨霊も裸足なんですよ。だから、想い石がこの戀鬼を封印した石のなれの果てなんじゃないかって話してまして……」

 

 小鳥は律子の話を聞きながら、まさかと己の行いを振り返った。

 その時……ガイが急に席を立って窓を開け放った。

 

「プロデューサー?」

「今……鎧がこすれ合う音が聞こえた」

 

 ガイの言う音は、真たちの耳にも、ガチャリ、とはっきりとした形で聞こえた。

 そして窓の外の風景には……ビルの陰から、それと同等の身長の巨人の武者が、怪しいオーラをたなびかせながらぬぅっと現れた。

 

「っ!!」

 

 声にならない驚きを発する伊織たち。真は巨人武者の鎧を見て叫んだ。

 

「赤い甲冑着てる!」

「紅蓮騎……! ちょうど想い石の方向よ!」

 

 指摘する律子。そんな中でガイは、小鳥の様子がおかしいことを訝しんだ。

 真達の見ている先で、巨人武者――怨霊・戀鬼は空間の穴の中に入り込んで姿を消した。

 

「消えたっ!」

 

 小鳥は弾かれたように踵を返し、事務所を飛び出していく。

 

「小鳥君!?」

「どこ行くの!?」

 

 高木と伊織が呼び止めようとしたが、小鳥はあっという間に走り去っていった。

 

 

 

 小鳥は帰り道に通りすがった、想い石の場所へと駆けつけた。そして石碑の前に並ぶ靴の列をまさぐるが……。

 

「ない……! 他はみんなあるのに……あたしの靴だけなくなってるっ!!」

 

 叫んだその時に、背後から何者かの声がした。

 

「大した女だ……」

 

 小鳥が振り向くと、己の背後にいつの間にか一人の男が立って、にやつきながらこちらを見つめていた。

 

「ジャグラスジャグラー!」

 

 それはガイたちによって倒されたはずのジャグラスジャグラーだった。ジャグラーは驚き小鳥に構わずに告げた。

 

「眠っていた怨霊を目覚めさせるとはな……」

「あたしが……!?」

 

 ジャグラーは小鳥にじりじりにじり寄りながらしゃべり出す。

 

「人生は時に思いもよらないことが起こる。それは時に悲劇かもしれない! 自分の心に聞いてみろ……それが本当は自分が望んでいたことだとな」

「あたし、そんなこと望んでないわっ!」

 

 必死に否定する小鳥だが、ジャグラーはそれを更に否定。

 

「いいや。お前はどこかで悲劇を望んでる。闇を抱えてる……。素直に認めたらどうだ」

「勝手なことを言うな」

 

 ジャグラーの言葉をさえぎったのは、この場にやってきたガイだった。

 

「誰の心にも闇はある。闇があるからこそ光もある! 闇を抱えてない人間に、世界を照らすことは出来ない……!」

 

 かばうように小鳥の前に回ったガイに、ジャグラーは興が削がれたように鼻を白けさせたが、すぐに首を振った。

 

「まぁいい。お前もいずれ……現実に打ちのめされることになる」

 

 捨て台詞を残して、ジャグラーは闇の中に消えていった。

 

「プロデューサーさん……あたし……!」

 

 小鳥は自責の念に駆られて何かをガイに告げようとしたが、それをガイがさえぎった。

 

「あいつ、珍しくいいこと言ってたな」

「え?」

「人生は思いもよらないことが起こる。それは、小鳥さんが本当に望めば、未来は変えられる。そういうことじゃないでしょうか」

 

 ハッとなった小鳥は、表情を一変させて宣言した。

 

「あたし、陽子のところに行きます!」

 

 

 

 翌日、陽子の結婚式が行われる東都ホテルに小鳥とガイ、真たちが駆けつけ、陽子たちの説得を試みた。しかし、

 

「だから言ったでしょ? いくら俺がビートル隊だからって、強制的に避難なんかさせられないって!」

 

 避難指示に失敗した渋川が小鳥にそう告げた。陽子の結婚相手である朗が、ホテルからの避難を拒否したのだ。

 それでも小鳥は朗の説得を行う。

 

「夕べ、東京に巨大な侍が現れたことは知ってますよね? その侍が今、このホテルに向かってるんです!」

 

 が、朗は淡々と返す。

 

「証拠は?」

 

 何も答えられない小鳥。相手は怨霊。物的証拠など、ある訳がないのだ。

 朗は流石に不機嫌になりながら述べる。

 

「今日は僕たちの結婚式なんです! 簡単に中止なんか出来ない」

 

 陽子も、静かに小鳥に問い返す。

 

「小鳥……私の結婚に、反対なの……?」

「……違う……」

 

 どう言えば分かってもらえるのか……。小鳥たちが手をこまねいていると、ガイがバッと顔を上げた。

 同時に、不気味な呼吸の音がどこからか彼らの耳に入る。真や律子らは引きつった顔を見合わせた。

 

「今のって……!」

「まずいわね……! 来たみたいよ……!」

 

 ホテルの外へと飛び出していくガイたち。彼らの目は、ホテルの前に現れた空間の穴を捉える。

 そしてその穴から、巨大な赤い武者、戀鬼が出現する! しかし全身真っ赤な甲冑で固めていながら、足だけは不釣り合いな現代の靴であった。

 それを目の当たりにした小鳥が確信した。

 

「あたしの靴っ!!」

 

 渋川はすぐに、戀鬼の出現に恐れおののくホテルの人たちに向けて叫んだ。

 

「ビートル隊に応援要請する! 皆さんは、出来るだけ遠くに避難して下さい!」

 

 人々が一斉に逃走し始める中、小鳥は陽子の腕を引いた。

 

「陽子、逃げよう!」

 

 だが陽子はその場から動こうとしない。

 

「私、行けない!」

「どうして!? 陽子!!」

 

 小鳥が必死に陽子を引っ張り、陽子もまたそれに抗う中、ガイとアイドルたちは密かに離れて戀鬼の方向へと駆けていく。

 

「招待状もない奴が結婚式に来ようなんて図々しいのよ!」

「女性の一番の晴れ舞台の邪魔なんか、絶対にさせないぞ! プロデューサー!」

「よし、行くぞッ!」

「プロデューサー、伊織、真! 頑張って!」

 

 律子の応援を背に、ガイたち三人がフュージョンアップを行う。

 

「ジャックさんっ!」

[ウルトラマンジャック!]『ジェアッ!』

「ゼロっ!」

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェェアッ!』

「キレのいい奴、頼みますッ!」

[ウルトラマンオーブ! ハリケーンスラッシュ!!]

 

 ガイたちはたちまちの内にウルトラマンオーブとなり、戀鬼の前に着地してホテルへの侵攻をその身でさえぎった!

 



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私の中の幸(B)

 

『光を越えて、闇を斬る!!』

 

 ウルトラマンオーブが目の前に登場すると、戀鬼はホテルに向かう足取りを止めてオーブを見据えた。

 

『オーブスラッガーランス!』

 

 戀鬼と対峙するオーブはスラッガーを回転させてオーブスラッガーランスを召喚し、戀鬼へと構える。

 一方の戀鬼は、腰に佩いていた刀を鞘に収めたまま手に取ると――その場に突き立てて無手となった! 驚愕する真と伊織。

 

『「剣を置いた!?」』

『「私たちなんか素手で十分って言いたい訳!? なめるんじゃないわよ!」』

 

 激昂する伊織。オーブはランスのレバーを三回引き、エネルギーをチャージする。

 

「「『トライデントスラッシュ!!!」」』

 

 戀鬼に向かって容赦のない高速の連続斬撃を浴びせるが――戀鬼は残像が残るほどの超高速の体さばきで斬撃を全て回避してしまう。

 

『「なっ!? 何よあのあり得ない身のこなし!」』

『奴は亡霊! 実体がないんだ! だから動きが物理法則に縛られないんだ!』

 

 更に戀鬼はランスの軌道を見切り、はっしと受け止めて斬撃を食い止めた。

 

『「つ、捕まった!」』

『「放しなさいよぉっ!」』

 

 怒鳴る伊織だが、戀鬼が聞き入れるはずがない。ランスをひねり上げてオーブとにらみ合う。

 

「ウオオオオオ……!」

 

 口腔内に妖気をたぎらせながらオーブの腹部に膝蹴りを入れ、ひるませた隙にランスを奪い取って前蹴りを食らわせた。

 

「ウワァッ!」

 

 背面から倒れ込むオーブ。戀鬼は奪ったランスを左に投げ捨てた。

 

「つ、強い……!」

 

 律子や小鳥は戀鬼の意外なまでの戦闘力に目を見張っていた。いくら怨霊とはいえ元々はただの人間だったものが、ウルトラマンオーブを圧倒するとは!

 

『「な、なかなかやるわね……! だったらこっちだって容赦なしよっ!」』

 

 強がった伊織がオーブのカードを二本の指で挟み、真の持ったオーブリングへと通す。

 

『「プロデューサー、真の姿に!」』

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

 

 カードをオーブカリバーに変えて、その力でオーブオリジンへと変身を遂げた!

 

『銀河の光が、我らを呼ぶ!!』

 

 オーブカリバーを掲げたオーブオリジンの姿に、律子たちはぐっと拳を握った。

 

「オリジンならきっと戀鬼にも負けないわ……!」

 

 対する戀鬼は、オーブカリバーを見据えながら刀を鞘から引き抜いた。刀身にはまがまがしい戀鬼の妖気が纏わりついている。

 カリバーを構えるオーブと、全身に怪しい妖気を漂わせる戀鬼の剣と剣の決闘が開始される!

 

「セアッ!」

 

 先手を取って横薙ぎを繰り出すオーブだったが、戀鬼は重力を無視した大ジャンプでカリバーの刃を跳び越えた。その高度から一気に刀を振り下ろしてくる!

 

「フッ!?」

 

 どうにかオーブの反応の方が早く、戀鬼の剣の振り下ろしをかわすことが出来た。そこから反撃に転じる。

 

「ショワッ!」

 

 袈裟切りを仕掛けるオーブだったが、戀鬼は瞬時に反応。剣をぶつけてオーブカリバーを弾き飛ばした!

 

『「しまった!」』

『「くっ! 素手でもやってやるわよ!」』

 

 カリバーを弾かれても果敢に殴りかかるオーブだが、戀鬼は拳を受け止めてオーブを背負い投げる。

 

「ウアァァッ!」

「シュアッ!」

 

 剣を振りかざして斬りかかってくる戀鬼を後ろ蹴りで押し返すオーブ。それでもやはり武装している相手に素手というのは苦しく、相手の一閃をバク宙でかわすとともにカリバーの元に着地して拾い上げた。

 

『「強い……!」』

『「元々戦国時代の武将だった訳だしね……! それでも、この強さは……!」』

『元の武将と姫の怨念に加えて、これまで想い石に願を掛けた人たちの想念も上乗せされてるんだろう……! あの人間をはるかに超える巨体と妖気がその証だ……!』

 

 戀鬼の剣の腕に苦戦するオーブだが、それでも闘志は揺るがずにまっすぐ戀鬼に突進していった。

 

「ドゥオオオオオッ!」

 

 カリバーと刀がぶつかり、鍔迫り合いとなるオーブと戀鬼。しかし戀鬼の口からは膨大な妖気が溢れ出て、その勢いでオーブをじりじりと押していく。

 

「グッ……!」

 

 オーブの苦闘する様を目にしながら、小鳥が固唾を呑んでいる陽子に告げる。

 

「全部、あたしのせいなの……。あの侍は怨霊……幸せそうなカップルを妬んで、結婚式の日に花嫁を斬りに来る……。それをあたしが呼び起こしてしまった……」

 

 オーブの後ろ蹴りで押し返された戀鬼だが、決して殺気は衰えずに何度もオーブに斬りかかってきている。

 

「あれの目的は……陽子、あなたなの……。侍が履いてる靴が、証拠……」

「本当だ……小鳥さんの靴履いてる……!」

 

 律子のビデオカメラが、戀鬼の履いている靴を捉えた。黒い、女物の靴である。

 律子が小鳥に顔を向けると、小鳥は後悔の念を浮かべながら語った。

 

「あたしは昔、自分の思い描く夢に向かって頑張ってました。だけど、くじけてしまって……。それでも未練があって、すがりつく生活を続けてて……。そんなところに、陽子の幸せそうな姿と自分を比べちゃって……」

「小鳥……」

 

 陽子が呼びかけながらも、小鳥は涙をこらえながら続けた。

 

「あたしの心の奥深くにある、小さな妬みが、想い石をかつての怨霊に戻してしまったんです……! もう、どうしたらいいのか……」

 

 オーブが必死に戀鬼を止めようと切り結んでいるが、怨念に取り憑かれている戀鬼は一歩も退かずに剣戟を繰り広げている。このままでは、活動時間に制限のあるオーブが著しく不利である。

 

「陽子、ごめんなさい……。あたし、最低だ……!」

 

 自責する小鳥に――陽子は言う。

 

「分かるよ……」

「……え?」

「私、小鳥の気持ち分かる……!」

 

 小鳥が陽子と顔を向かい合わせる――。

 一方で、戀鬼は刀身に口から吐く妖気を纏わりつかせて、剣を構え直した。

 

『「何をするつもり……!?」』

『「気をつけて! きっとやばい奴に違いないよ!」』

 

 警戒する伊織と真。そして妖気を纏った剣で戀鬼が再度斬り掛かってくる!

 

「セアッ!」

 

 相手の斬撃をカリバーで弾き返していくオーブだが、斬撃の威力が先ほどより明らかに増しており、防御する度オーブの手が痺れる。

 

『「お、重い……!」』

『「こらえてっ!」』

『「分かってるわよ!」』

 

 どうにか耐えようとする伊織たちだったが、カリバーを上に弾かれてがら空きになったボディに、戀鬼が凶刃を走らせる!

 

「フゥアッ!」

「グアァァッ!」

 

 深々と斬られたオーブがよろめき、腹這いに倒れ込んだ。

 

『「うっ、ぐぅぅぅ……!」』

『「や、やられた……!」』

 

 真たちも相当なダメージを受けて悶え苦しむ。オーブのカラータイマーが点滅し、いよいよ危機を表した。

 

「っ!」

「あっ、小鳥さん!」

 

 この時に小鳥が弾かれたように走り出し、律子が急いでその後を追う。

 オーブを斬り倒した戀鬼は背を向けて、ホテルへと再び向かい始めた。このままでは結婚式が行われるホテルが両断されてしまう。

 

『「ま、待てぇ……!」』

『「そっち行くんじゃないわよっ! 私たちはまだやれるわよ!?」』

 

 止めようとするオーブだが、傷が深くてすぐに立ち上がることが出来ない。

 その間に戀鬼がホテルの前に立ち、刀を構えて今まさに切断しようとする――!

 

「やめてぇーっ!!」

 

 そこに、ホテルの屋上まで駆け上がってきた小鳥が力の限り叫んだ。小鳥の姿を認め、戀鬼の動きがピタリと止まる。

 小鳥は息を切らしながらも戀鬼に向かって懸命に呼びかける。

 

「あたしなんかのちっぽけな想いに惑わされないで下さい!」

 

 彼女の後に屋上まで上がってきた律子と陽子、朗。陽子は戀鬼にじっと見つめられる小鳥の姿に青ざめた。

 

「駄目ぇっ! 小鳥逃げてぇっ!」

「危ないッ!」

 

 身を乗り出す陽子を必死に止める陽子。一方で律子は鞄からタブレットとメガホン型のスピーカーを取り出し、ある動画を再生してその音声を戀鬼に向けた。

 

『想い石様、ありがとーう!!』

 

 それは想い石の特集番組のラストにあった、それまで想い石に恋愛を成就してもらったカップルたちの感謝の言葉の寄せ集めであった。

 感謝の言葉を受けた戀鬼から、動きが消える。

 カップルたちの感謝をバックに、小鳥が戀鬼へと呼びかけた。

 

「陽子を傷つけようとしたのもあなたですけど、この人たちの幸せを祝福してたのもあなた! どっちの自分が好きだったか、幸せだったか! 考えて下さい!」

 

 小鳥の言葉に、戀鬼はうつむく。

 

「だって、自分の幸せを決めるのは自分だからっ!」

 

 小鳥の呼びかけを振り切るように剣を振りかぶる戀鬼だが、それでも小鳥は逃げようとはせずに呼びかけ続けた。

 

「自分の気持ちに耳を傾けて下さい! あなたには出来ます! ……あたしと違ってっ! 出来るからっ!!」

 

 小鳥の叫びを受け止めた、戀鬼が――。

 剣を下ろし、オーブへと振り返った。

 

『「戀鬼……!」』

 

 そして――剣を自分の正面に突き刺して、腕を開く。

 

「……!」

 

 涙ぐむ小鳥。

 オーブは戀鬼の気持ちを汲み、うなずき返す。

 

『「真……!」』

『「うん……!」』

 

 伊織と真はオーブカリバーのリングを回し、水の文字に合わせて力を解放する。

 

「「『オーブウォーターカリバー……!!!」」』

 

 天高く掲げたカリバーを中心に辺りの空間が清らかな水に包まれ、戀鬼を水しぶきが覆った。

 雨のように降り注ぐ水を一身に浴びながら見上げる小鳥へ、戀鬼が最後に振り返る。

 

「……ごめんなさい……!」

 

 小鳥は水しぶきと涙に頬を濡らしながら、戀鬼へと謝った。

 

「シュアッ!」

 

 そうしてオーブの一閃が戀鬼へ浴びせられ、戀鬼の幽体が水の中に分解されていく。

 

「ウアアアァァァァァ……!」

 

 水とともに邪念が晴れていき、空もまた快晴に戻った。他者の幸せを妬む怨霊はここに、再び封じられたのである。

 小鳥たちは戀鬼の消えた跡を、誰も声もなく静かに見つめる。

 

「シュウワッ!」

 

 空に虹が掛かる中を、オーブが飛び上がって去っていったのだった。

 

 

 

 その後、陽子は小鳥に朗との結婚の詳細を打ち明けた。

 

「彼の親族ね……私との結婚に反対しているの」

「え?」

「だから彼は、東都ホテルの経営から外された。それで私も、仕事を辞めざるを得なくなったの」

 

 陽子の退職の背景を知り、彼女をかすかでも妬んだ小鳥は己を恥じた。

 

「ごめんなさい……あたし、何にも知らなくて……」

「ううん。私たちには、このホテルがあるもの!」

 

 守り抜かれたホテルを見上げる小鳥たち。ここは東都ホテルの系列ではなく、陽子たちの所有物件だったのだ。

 

「全財産を投資した。ゼロからのスタートよ」

「だからここから逃げなかったんだ……」

 

 真たちはホテルが無事であったことに、心から安堵していた。

 

「だから、私小鳥の気持ち分かるの。将来への問題は山積み。途中でくじけてしまうかもしれない。その不安で押し潰されそうな時だってあるから……私だって、みんなのことが羨ましいの。小鳥のことだって羨ましい」

「え?」

「だって……あんなに素敵な仲間に囲まれてるんだもの」

 

 ガイたちの方を一瞥した陽子だが、はにかみながら小鳥に視線を戻す。

 

「でも……自分の幸せを決めるのは自分、でしょ?」

「陽子……」

「私も頑張るから……小鳥も頑張って。小鳥の夢は、まだ続いてるんでしょ?」

「――うんっ!」

 

 小鳥と陽子は、互いにひしっと抱き締め合う。

 

「おめでとう、陽子……」

 

 真と伊織、律子はそっと微笑みながら、小鳥をこの場に残して立ち去っていった。――しかしガイだけは留まり、戻ってきた小鳥を迎えて言った。

 

「小鳥さん……俺は、あなたの夢を叶えてあげられなかった。今回の件はそれが大元です。謝るなら俺が……」

 

 と申し出たガイに、小鳥はゆっくりと首を振った。

 

「いいえ……肝心なところでプレッシャーに押し潰されてしまったのはあたしです。プロデューサーさんのせいじゃありません。それに……今が不幸な訳じゃありません」

「え?」

「辛いことはいっぱいありました。時間を巻き戻せたら……と考えたことだって一度や二度じゃありません。だけど……」

 

 小鳥は先に帰っていく伊織たち三人の、談笑する後ろ姿を見つめて微笑む。

 

「今のあたしは、とっても素敵な後輩たちに囲まれて、あの子たちの夢を支えてます。そんな自分も、誰かを羨む必要がないくらい幸せなんだって気づきました。あたしの幸は……既に私の中にあったんです」

 

 ふふっ、と柔らかに笑う小鳥。

 

「これからは迷いません。一生懸命、あの子たちをトップに押し上げてみせます! プロデューサーさんも、遅れないで下さいね!」

「――はいッ!」

 

 ガイも安堵した笑みを浮かべて、小鳥にうなずき返した。

 そして二人で伊織たちの後を追いかける中、小鳥は最後にこれからのことを熱心に相談している陽子と朗の方へ振り返って、ひと言残した。

 

「あなたたちと、あたしたちに……ずっと……ずっと……幸あれ」

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

真「どうも! 菊地真ですっ! 今回ご紹介するのは、宇宙警備隊の偉大な大隊長、ウルトラの父です!」

真「ウルトラの父は『ウルトラマンA』で初登場したウルトラマンです! 先述の通り、宇宙警備隊隊長ゾフィーさんの更に上の役職である大隊長でして、父親のような偉大さを尊敬されてウルトラの星ではウルトラの父という敬称で呼ばれてます。本名はケンと言って、『ウルトラ銀河伝説』で設定されました」

真「宇宙警備隊の最重要職だけあって普段は地球に姿を見せることはほとんどありませんが、ウルトラ兄弟全員がピンチになった時などの重要な局面で息子たちを助けてきました。ですが兄弟よりもずっと高齢ということもあって、本調子で戦えたことがあまりないのが残念なところです」

真「ウルトラの父という名前で誤解されがちですが、実の子供はタロウさんだけで、ウルトラ兄弟はほとんどが血のつながりはありません。ですけどエースさんは児童誌などの設定でウルトラの父に義理の息子として育てられたため「お父さん」と呼んでると説明されてました」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『幸』だ!」

ガイ「『ANIM@TION MASTER 生っすかSPECIAL』に収録された小鳥さんのソロ曲だ。小鳥さんは元々公式サイトだけのサブキャラだったんだが、人気を博してゲーム本編にも登場するようになった。そして歌唱力も設定されて度々専用の新曲が発表されてる、ある意味じゃシンデレラガールズ以上のシンデレラなんだ!」

真「ところでプロデューサー……ボクがウルトラの「父」の担当なのは、何か他意を感じるんですが……」

ガイ「……」

 




 天海春香ですっ! プロデューサーさんのオーブカリバーから指令が発せられて、私たちは新宿の地下に潜入することに。そこで待ってたのは恐ろしい大怪獣! そして雪歩の見た夢は、これと何か関係が……?
 次回『First Nexus』。自由な空へと飛び上がれ!


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First Nexus(A)

 

「ひぃっ! ご、ごめんなさいっ!」

「わ、私も怖いけれど、誰かの命を守るためだったら、頑張りますぅ!」

「ぷぷ、プロデューサー! 大変ですぅ~!」

『「四条さんを連れていかないで下さい!」』

「よっつ四つ葉のクローバ~♪」

「こんなにおっきいステージ初めて……!」

「何があっても、私たちがお守りします!」

「来るなら来いっ! 私がやっつけてやるんだから!!」

 

 

 

『First Nexus』

 

 

 

 ――雪歩が目を開くと、そこは見知った光景ではなかった。

 

「えっ!?」

 

 765プロ事務所でも、自宅でもない、ましてや東京都内ではまず見られないような、鬱蒼とした森林が果てしなく続く光景。どうして自分は、このようなところにいるのか。

 

「ここは一体……どこなんだろう……」

 

 疑問に思いながら周囲を見回した雪歩の目は、あるものを捉える。

 それは、木々の向こうに見える、奇妙な形をした遺跡。ピラミッド状の石段の上に、「山」という形状の大きな物体が鎮座している。

 

「……?」

 

 雪歩は何故だか、その遺跡に強く心を引きつけられた。その遺跡に向かって歩み出し、付近にまで近づいていく。

 そして内部に入れる穴を発見し、ほぼ無意識の内に足が動いて、中へと入っていく。

 

「何だろう……中に、何が……」

 

 洞窟の奥地で彼女を待ち受けていたのは……石で出来た「何か」だった。

 

「これは……?」

 

 形状的には近未来型の飛行機かロケットのようである。しかし、古ぼけた遺跡にそんな航空機械があるとは思えない。それでは、あの石像は何なのだろうか……?

 

「……」

 

 知らず知らずの内に雪歩の手が伸び、石像の表面に触れた。

 その瞬間に石像が突然光り輝き、雪歩の視界が閃光で塗り潰される!

 

「きゃっ!?」

 

 思わず顔を背けた雪歩は、己の手の中に何かが飛び込んできたのを触感で感じ取った。

 

「これは……!?」

 

 それは長方形で薄い、カードのような形状であった。

 雪歩が、それが何なのか視認する前に、彼女の視界が薄れ――そして雪歩は己の布団から身を起こしたのであった。

 

 

 

 ある日の765プロ事務所。春香と真がふと、ガイのデスクの上に飾ってあるモノクロの写真に目を留めた。

 その写真にはガイと、彼の私服であるレザージャケットを羽織った白人男性が写っているのだ。

 

「そういえばプロデューサーさん、この写真の人ってどなたなんですか?」

 

 春香の質問に、新聞を広げていたガイはそのままの姿勢で答えた。

 

「スカダー大尉だ。俺と最初にフュージョンアップした地球人でな」

「えっ!? プロデューサーさん、私たち以前にフュージョンアップした人がいたんですか!?」

 

 軽く驚く春香と真。

 

「そうじゃなきゃ、あんなにフュージョンアップの仕様に詳しい訳ないだろ」

「うーん、それもそっかぁ」

 

 ガイの返しに納得した真は、後ろに振り返って雪歩に話しかける。

 

「でもそういう話を聞かされると何だか変な感じを覚えるね、雪歩」

「……」

 

 しかし、雪歩はぽけー……と虚空を見つめたまま返事をしない。

 

「おーい、雪歩ー? 雪歩ったら!」

「はうっ!? な、何? 真ちゃん」

 

 真が強く呼びかけることで、雪歩はようやく意識が現実に戻ってきた。

 

「何? じゃないよ。そんなにぼけーっとして一体どうしたのさ。具合でも悪いの?」

 

 心配する真に雪歩はブンブン首を振った。

 

「そ、そういう訳じゃないよ。ただ……今朝、不思議な夢を見てね」

「不思議な夢?」

「うん……」

 

 雪歩と真が話している後方では、春香がガイの広げている新聞の記事を覗き込む。

 

「プロデューサーさん、さっきから熱心に何の記事を読んでるんですか?」

「これだ。『新宿区郊外に隕石落下』」

 

 記事の写真には、隕石によって地面に生じたと思しきクレーターが写っていた。クレーターと言っても、ほぼ穴ぼこという程度の直径だが。

 

「何でも、隕石のサイズと重量に比較してクレーターが不自然なまでに小さいらしい。俺の経験的に、こういう事例には宇宙怪獣が関わってる可能性が高い」

「宇宙怪獣ですか!?」

 

 ガイの説明に驚く春香。

 

「怪獣も生き物だから、地表落下の際の衝撃でダメージを受ける。それを小さくするために大抵は減速するもんだ。だから宇宙怪獣は重量に対して落下の際の被害が少なくなりがちなのさ。この場合だと、何らかの宇宙怪獣が隕石に紛れて大気圏突入を果たした可能性がある」

「ほんとに怪獣だったら大変なことになるかもしれないじゃないですか!」

「ああ。今回の『アンバランスQ』は内容を変更してこの隕石の調査を……」

 

 とガイが言いかけた時、彼の腰のカードホルダーから突然光が漏れ出した。春香や雪歩たちがそれに気づいて目を落とす。

 

「プロデューサーさん? ホルダーが何か光ってますよ」

「何だって? 何もしてないのに、どういうことだ……」

 

 ガイがホルダーを開いて、光っているカードを引き抜いた。それはオーブオリジン――自身のカードであった。

 

「プロデューサーのカード……?」

 

 真が訝しげに目を細めた時、ガイの手の中でオーブオリジンのカードが、リングにも通していないのに勝手にオーブカリバーへと変化した。

 

「うわッ!?」

 

 驚くガイたち。それをよそにカリバーは空中に光を照射し、その光の中に春香たちでは読めない文字の羅列が描き出された。

 

「これは……?」

 

 文字が空中に表示されていたのは短い時間だけで、ガイが読み終わるとすぐに消える。オーブカリバーも、何事もなかったかのように元のカードに戻った。

 

「プロデューサーさん、今のは一体……?」

 

 春香が呆気にとられながら問いかけると、妙に険しい表情となったガイが回答した。

 

「惑星O-50の、『戦士の頂』からの指令だ……」

「戦士の頂?」

「簡単に言えば、ウルトラマンオーブとしてのミッションを指示してくる司令塔だな。俺がこの地球に来たのも、『戦士の頂』からの魔王獣討伐のミッションのためだ」

 

 説明しながら、ガイは考え込むように腕を組む。

 

「だが、O-50じゃない別の場所で、しかも別のミッションの途中で新しい指示を出してくるなんてのは初めてのことだな。それだけ危急の事態ってことなのか……」

「危急の事態!? 大変じゃないですか! 何て書いてあったんですか?」

 

 真が焦りながら尋ねる。

 

「『新宿地下へ向かえ』、とあった。新宿といえば……」

 

 先ほどまで熟読していた新聞に目を落とすガイ。

 

「これと無関係じゃなさそうだな……。よし、何か大事が起こる前に出発しよう!」

「はいっ!」

 

 ガイが席から立ち上がると、春香と真は背筋を伸ばして彼に続く姿勢を見せた。

 

「小鳥さーん! すいませんが、急ぎの用事が出来たので事務所を離れます!」

 

 ただ雪歩だけは、あることを気に掛けていた。

 

(プロデューサーでも初めての事態が起きた日に見た、私の不思議な夢……。それも何か関係してるのかな……)

「ところで、他には何か書いてなかったんですか? 地下に何がいるのかー、とか」

「行き先だけだな。大体いつもこんな感じだ」

「不親切ですねー」

 

 しかし雪歩は、流石に考えすぎだよね、と思い直して、事務所を発とうとする真たちの後についていった。

 

 

 

「新宿地下で大型あるいは中型怪獣が入り込みそうな場所といえば、世界最大級の地下放水路だ。まずはそこから調べよう」

 

 というガイの意見により、一行は渋川に無理を言って、地下放水路への立ち入りの許可の手続きをしてもらった。

 

「全く、今度はいきなり今すぐに新宿放水路に入れてほしいと来た。ビートル隊は便利屋じゃないんだぜ?」

 

 ガイたちとともに巨大な柱が立ち並ぶ放水路に入った渋川が肩をすくめながら苦言を呈してきた。それに春香が言い返す。

 

「こっちもこの前、徹子ちゃんとの仲を修復してほしいなんて叔父さんの無理を聞いたよ?」

「うッ! そいつを言われると痛てぇなぁ……」

 

 頭をかいた渋川に、こっちも恩を盾に言うことを聞かすようなことは不本意ではないけれど、と春香は内心気が引けた。とは言え、今回は遠慮している場合でもなかった。

 

「けどよぉ、昨日落っこちた隕石の中に怪獣が潜んでて、それがここに移動してるかもしれないってぇ? 春香ちゃんたちは何度も怪獣出現を言い当ててるけどよぉ、流石に考えが飛躍しすぎじゃねぇか? それとも何か根拠あんの?」

「えっと、それはね……」

 

 春香たちが返答に窮していると、先頭を行くガイが皆の足を止めた。

 

「みんな、静かに」

「プロデューサーさん?」

「運がいいのか悪いのか……一発で大当たりを引いたみたいだ」

 

 一番近い柱の陰に飛び込んで身を隠すガイたち。すると……放水路の闇の奥深くから、ズシン、ズシンと巨大で重い何かの足音と震動が響いてきた。

 

「あれは……!」

 

 息を呑む春香たち。闇の中から現れたのは……身長十メートルほどの明らかな怪獣であった。普段目にしている怪獣と比べたらまだ小さいが、それでもこの地下空間では天井に頭が突きそうな、威圧感を放つサイズである。

 

「グルウウウウ……!」

 

 青い肌の、立ち上がった醜悪なトカゲかイグアナのような容姿。通常の怪獣と比べたら大分グロテスクで嫌悪感を覚える姿だが、春香たちはそれ以上に、この怪獣に対して本能的な「危険」を感じ取って脂汗を浮かべていた。

 

「な、何あの怪獣……」

「何か……嫌な感じ……」

 

 春香たちがおののいていると、渋川が息を呑みながら告げた。

 

「春香ちゃんたち、大当たりだな……。すぐに応援を呼ぶ! 本部本部!」

 

 通信機に呼びかける渋川だが、ノイズが走って本部の応答がない。

 

「ここじゃ電波が悪いか……。ちょっと離れるけど、君たちはじっとしててくれよ!」

 

 怪獣から見つからないように、一旦この場から離れる渋川。その間にガイが独白する。

 

「なるほどな……。緊急の指令が入る訳だ」

「どういうことですか? プロデューサー」

 

 真が問うと、ガイがあの怪獣は何者か語った。

 

「あいつはただの怪獣じゃない。スペースビーストだ……!」

「スペースビースト?」

「知的生物の恐怖を食って生きる危険な宇宙怪獣群の呼び名だ。しかもやばいのは爆発的な繁殖力を持ってること。聞いた話じゃ、あっという間に数を増やしてその星の人間を食い尽くし、星を一個丸ごと滅亡させたこともあるらしい。きっと昨日の隕石に紛れて地球に侵入してきやがったな」

 

 星の滅亡、と聞いて、春香たち三人は更に震え上がった。

 

「しかもあいつは多分、スペースビーストの原初の個体だ。繁殖力も最も強いはず……。一刻も早く駆除しなきゃ、地球は未曽有の大惨事に見舞われるぞ」

 

 ガイの読み通り、地下施設に潜んでいたこの怪獣は、スペースビーストの母体とも言うべき個体、ビースト・ザ・ワン。爬虫類の遺伝子を吸収したレプティリアという形態である。

 

「……あのサイズを見るに、既に何人かが餌食になっちまってるみたいだな……」

「!?」

 

 冷や汗を垂らすガイのひと言で、春香たちはザ・ワンに注目した。

 ザ・ワンは裂けた口に並んだ牙の間を、とがった爪で食べかすを取り除くような仕草を見せている。

 

「っ!!」

 

 それに気づいて真っ先にガイに向かって告げたのは、春香――でも、真でもなく、雪歩であった。

 

「プロデューサー! あの怪獣、私たちでやっつけましょう! 必ず!」

 

 雪歩から戦いに意欲的な発言が飛び出たことに、春香も真も、ガイも一瞬目を丸くした。

 

「雪歩……随分やる気だな。誰よりも早く申し出るなんて」

 

 ガイたちが驚くのも無理はない。雪歩は765プロでも一、二位を争うくらい温厚な性格で、ともすれば臆病でもある。

 しかし雪歩は力を込めた眼差しで、ガイに訴えかけた。

 

「これ以上の被害者が出ること、許すことは出来ません。必ず、食い止めましょう」

「雪歩……」

 

 春香と真が雪歩を唖然と見つめていると、渋川が彼女たちの元に戻ってきた。

 

「すぐに応援が駆けつける。ここは俺に任せて、春香ちゃんたちは退避を……」

「残念だが渋川さん、もう遅いみたいだぜ」

「えッ?」

 

 ガイに顎でしゃくられてザ・ワンの方を見やれば……。

 

「グルウウウウウウッ!」

 

 ザ・ワンは彼らの存在に気がついて、こちらに猛然と接近してきた!

 

「きゃあああっ!」

「くそぉッ! 早く安全なところへ!」

 

 渋川は素早くスーパーガンリボルバーを抜いて、横に飛び出しながらザ・ワンの顔面に銃撃を食らわせる。

 

「おらッ! こっちだ! ついてきやがれ!」

「叔父さん!」

 

 ザ・ワンは攻撃をしてくる渋川に目をつけて追いかけていく。攻撃対象から外れたガイたちだが、もちろん逃げることはない。

 

「プロデューサー! 早くオーブリングとカードを!」

「プロデューサーさん、私も行きます!」

 

 雪歩と春香が申し出て、ガイがうなずく。

 

「よしッ! 真はカメラ役頼んだぞ」

「はいっ!」

「それじゃあ行くぞッ!」

 

 ガイがオーブリングを構え、雪歩と春香はウルトラマンガイアとウルトラマンビクトリーのカードを握った。

 

「ガイアさんっ!」

[ウルトラマンガイア!]『デュワッ!』

「ビクトリーさんっ!」

[ウルトラマンビクトリー!]『テヤッ!』

「大地の力、お借りしますッ!」

[ウルトラマンオーブ! フォトンビクトリウム!!]

 

 ザ・ワンの注意を引きつけていた渋川だが、体格に反して俊敏なザ・ワンに回り込まれてしまい、追いつめられていた。

 

「グルウウウウウウッ!」

「う、うわあぁぁぁッ!?」

 

 ザ・ワンが大口を開いて、渋川を一気に呑み込もうと首を伸ばす!

 

「オリャアッ!」

 

 その側面から飛び込んできたオーブの鉄拳がザ・ワンの横面に突き刺さり、ザ・ワンを殴り飛ばして放水路の柱に叩きつけた。

 

「ウルトラマンオーブ!」

 

 天井のある放水路でいつもの大きさでは逆に渋川たちが危ない。身長をザ・ワンと同程度に調整して変身していた。

 

『闇を砕いて、光を照らす!!』

 

 ウルトラマンオーブが大見得を切って、鋭くにらみつけてきたザ・ワンと対峙した。

 



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First Nexus(B)

 

「グルウウウウウウッ!」

 

 ザ・ワンが起き上がると同時に勢いよく駆け出してきて、オーブに全身を使って体当たりしてくる。

 

「デッ!」

 

 オーブは剛腕をクロスしてガードを固め、ザ・ワンの突進を正面から受け止めた。フォトンビクトリウムの強固なボディはびくともしない。

 

「渋川さん、早くこっちに!」

 

 オーブがザ・ワンを抑えている間に、真がカメラを回しながら渋川の元へ走り誘導する。

 

「あれ? 春香ちゃんたちは一緒じゃねぇの?」

「は、春香たちは……ちょっと体調不良で先に脱出してます!」

「そうなのか」

 

 真がやや苦しい言い訳をしている内にオーブが反撃に転ずる。

 

「ジェアッ!」

「グルウウウウッ!」

 

 ザ・ワンを押し返して距離を離すと、剛腕を振り回してハンマーのようにザ・ワンに叩きつける。重い一撃にザ・ワンの身体がよろめいた。

 

「シェエアッ!」

 

 オーブはそのまま両の腕をブンブン振るい、ザ・ワンを柱際まで追いつめていく。フォトンビクトリウムの大地のパワーにザ・ワンはなす術もない。

 

「グルウウウウウッ!」

 

 そう思われたが、ザ・ワンの長い尻尾が意思を持つようにしなって伸び、オーブの首に巻きついて締め上げ出した!

 

「グッ!?」

 

 首は生物共通の急所。そこを締められては流石のオーブも苦しい。しかも剛腕が逆に邪魔となって尻尾を振りほどくことが出来ない。一気に苦しめられるが、

 

「「『フォトリウムエッジ!!!」」』

 

 頭部から伸ばした光のムチを尻尾に叩きつけることで真っ二つに切断した!

 

「グルウウウウウウウッ!」

 

 尾を断ち切られた勢いで後ろの柱に倒れ込むザ・ワン。オーブは千切れた尻尾を投げ飛ばすと、春香と雪歩へ呼びかける。

 

『このまま決めるぞッ!』

『「「はいっ!」」』

 

 両腕を重ねてフォトリウムシュートの構えを取ったが、それを制するようにザ・ワンが動いた。

 

「グオオオオオオォォォォォォォォォォ――――――――――――――ッ!!」

 

 突然大音量の咆哮を発し、広大な放水路全体をびりびりと震動させ始めたのだ。あまりの音量にオーブも、真も渋川も耳を押さえる。

 

「わぁぁぁぁっ!?」

「こ、鼓膜が破けそうだッ!」

 

 しかもザ・ワンはただ雄叫びを上げている訳ではなかった。咆哮に操られるように、放水路の闇の中に潜んでいたおびただしい数のドブネズミがザ・ワンの元へ集まり始めたのだ。

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁっ! ネズミぃぃぃ―――――!!」

 

 思わず飛び跳ねて悲鳴を発する真。そしてザ・ワンの肉体をよじ登ったドブネズミたちは――その肉体の中に吸収されていく! 同時にザ・ワンの肉体がぶくぶくと膨張し始めた!

 

「えぇぇっ!?」

「お、おい何かやべぇぞ!?」

 

 ザ・ワンは瞬く間にオーブをはるかに超える巨体に成長し、肉が弾けて全く異なる容貌に変化を遂げる。

 

「グオオオオオオオオオオッ!」

 

 より恐ろしく、よりおぞましく、より凶悪になった威容! 悪魔のような怪獣の本領を発揮した、ザ・ワン・ベルゼブアだ!

 

「グオオオオオオオッ!」

 

 ザ・ワンは巨大化した肉体で天井を突き破り、放水路を崩壊させる!

 

「う、うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ!?」

 

 雪崩のように降り注ぐ瓦礫はオーブのみならず、真と渋川にも襲い掛かった!

 

 

 

「グオオオオオオオッ!」

 

 放水路の真上の地上はビートル隊によって封鎖がされていたのだが、その中心からザ・ワンが飛び出してきたことにより、地上は一瞬にして恐慌の渦に包まれる。

 

「わぁぁぁぁぁぁッ!?」

「こ、攻撃ぃぃぃーッ!!」

 

 ビートル隊の隊員たちは一斉にザ・ワンに銃撃を浴びせるものの、豆鉄砲ほどにも効いていない。ザ・ワンは口から青い光線を吐いて、彼らを爆発の衝撃で纏めて吹き飛ばす。

 

「うわああああああ――――――――ッ!!」

「グオオオオオオオオオオッ!」

 

 ザ・ワンは完全に地上へと這い上がると、急いで避難していく市民たちに狙いをつけて歩みを始める……!

 

『「ウルトラマンさんっ!」』『ヘアッ!』

『「ティガさんっ!」』『ヂャッ!』

『光の力、お借りしますッ!』[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

 

 その時、こちらも同等のサイズに巨大化して再変身したオーブが地面を振り上げた右腕で突き破って飛び出してきた! ザ・ワンは市民を追いかけるのをやめて振り返る。

 オーブは手の平から地下の崩落よりかばった真と渋川を地上へと下ろす。

 

「オーブ、助かったぜ! ありがとよッ!」

 

 礼を告げる渋川にうなずくと、オーブは立ち上がってザ・ワンへと構え直した。そして互いに駆け出して接近、戦いを再開する。

 

「グオオオオオオオオオッ!」

「オォッ!」

 

 グロテスクな巨体で猛然と迫ってくるザ・ワンにもひるまず、オーブは身体を紫色に光らせてスピードアップ。相手の懐に飛び込んで先制攻撃を決める。

 

「セェアッ!」

「グオオオオオオオッ!」

 

 ザ・ワンが鉤爪を振り回して反撃してくるが、オーブは身体を赤く光らせてパワーを底上げして相手の腕を弾き返し、がら空きのボディに打撃を連続でお見舞いした。ザ・ワンはどんどんと押されて、避難民のいない方向へ追いやられていく。

 

「オリャアアッ!」

 

 オーブのミドルキックが綺麗に決まり、ヨロヨロと後退するザ・ワン。だが口から光線を吐いてオーブを狙い撃ちする。

 

「「『スペリオンシールド!!!」」』

 

 しかしオーブは瞬時にバリアを張って光線を防御。そして反射してザ・ワンにお返しした。

 

「グオオオオオオッ!」

 

 自らの攻撃を腹に食らってうずくまるザ・ワン。今が好機と飛び出したオーブだが、

 

「グオオオオオオオオッ!」

 

 ザ・ワンは再生した尻尾を伸ばしてカウンターを狙ってきた!

 

『「同じ手は食わないよっ!」』

 

 だが春香たちはそれを読んでいた。オーブが即座に両腕を横に伸ばし、光輪を作り出す。

 

「「『スペリオン光輪!!!」」』

 

 飛ばした光輪が尻尾を斬り飛ばして、ザ・ワンは後ずさる。

 ザ・ワンは巨大化とともに先ほどよりもはるかに上回る戦闘力を有した。しかし春香たちも、ここまででいくつもの激戦をくぐり抜けてきた身。その戦いの中で鍛えられた精神力から生じる光のパワーは、ザ・ワンにも引けを取らないレベルなのだった。

 

「「『スペリオン光せ……!!!」」』

 

 オーブはとどめの光線を発射しようと腕を頭上と左側に伸ばす。が、

 

「グオオオオオオオォォォォォォォォォォォォォォォッ!!」

 

 ザ・ワンは再び凄まじい咆哮を発した。爆弾のような音波を叩きつけられて、オーブの動きが一瞬止まる。

 

『「「うっ……!」」』

 

 その間に、今度は新宿中のカラスがザ・ワンの背に生えた歪んだ突起に集まり、超巨大な黒い翼へと変貌させた。更にザ・ワンの首の根本に生えているネズミの頭が、カラスのものに生え変わる。

 

「ガァーッ!」

 

 カラスの能力を取り込むことで出来上がったザ・ワンの飛行形態、ベルゼブア・コローネだ!

 

「! シェアッ!」

 

 オーブが改めてスペリオン光線を発射したが一手遅く、ザ・ワンは翼を羽ばたかせて上空へと逃れる。

 

『逃がすなッ! 行くぞッ!』

『「「はいっ!」」』

 

 オーブもすぐに空へと飛び上がり、ザ・ワンを追跡する。白い雲を突き抜け、ザ・ワンの背後へと全速力で迫っていく。

 

「グオオオオオオオオッ!」

 

 ザ・ワンは光線を乱射して牽制してくるが、先ほどまでと違いオーブに自ら飛び掛かってこようとはしない。逃げに徹して振り切ろうとしてくるのを懸命に追いすがるオーブだが、相手の速度もかなりのものでなかなか彼我の距離を縮めることが出来ない。

 その内に、戦いが長引いてきたことでカラータイマーが点滅を始めてしまった。もうあまり長くは戦っていられない。

 

『まずいな……! あの野郎、俺たちの制限時間一杯まで逃げ切る腹だぞ!』

 

 オーブはザ・ワンの狙いを理解した。ウルトラ戦士共通の弱点は、地球上ではエネルギーが長続きしないこと。ザ・ワンはそれを知っていて、オーブを倒すのではなく逃げおおせることで生き延びようという魂胆に違いない。

 スペースビーストはただの人食い怪獣に非ず。狡猾な知能も持ち合わせているのだ。それも星を滅ぼすほどの脅威の要因になっている。

 

『このまま逃げられたら甚大な被害が出ちまう!』

『「何とかしないと……! でも、残り時間で確実に倒すにはどうしたら……!」』

 

 焦りながら悩む春香。フュージョンアップももう何度も行うことは出来ない。スカイダッシュマックスならば追い抜くことも出来ようが、一方で火力に欠ける。ザ・ワンを確実に仕留めることが出来なければ結果は同じだ。

 なかなか答えが出ずに苦しんでいると……その手を、雪歩がぎゅっと包み込んだ。

 

『「春香ちゃん、あきらめないで!」』

『「雪歩……?」』

 

 雪歩は普段の控えめな態度が嘘かのような、毅然とした眼差しで春香を見つめていた。

 

『「あきらめなければ、どんなに怖くて強い相手にだって負けない……! 私、それを765プロのみんなから学んだから……!」』

 

 雪歩は己の言葉一つ一つに力と、魂を込める。

 

『「私は決心したの! どんな時も、あきらめないって!!」』

 

 雪歩が宣言した、その時――彼女の懐から、かすかに光が漏れた。

 

『「雪歩! その光は……?」』

 

 雪歩がハッと顔色を変え、懐から光を取り出した。

 その正体は一枚のカードであり……銀色の甲冑を纏ったような、楔型のカラータイマーのウルトラ戦士が描かれていた。

 驚く春香とオーブ。

 

『「新しいフュージョンカード!」』

『ネクサスさんの力かッ! どうして雪歩が……!』

『「夢の中で手にした……!」』

 

 あの時のカードは、夢ではなかったのだ。

 雪歩は春香と目を合わせるとうなずき合い、オーブリングを手に握った。

 

『「ウルトラマンさんっ!」』

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

 

 春香が改めてウルトラマンのカードをリングに通し、そして雪歩が新しいカードを通す。

 

『「ネクサスさんっ!」』

[ウルトラマンネクサス!]『シェアッ!』

 

 雪歩の隣にネクサスのビジョンが立ち、雪歩がリングを掲げる。

 

『絆の力、お借りしますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 春香と雪歩、ウルトラマンとネクサスのビジョンがオーブと融合!

 

『シェアッ!』『ヘアッ!』

[ウルトラマンオーブ! スペシウムシュトローム!!]

 

 二つの渦巻きを突き破り、水しぶきのような光とともに新たな姿のオーブが飛び出し、更には加速してザ・ワンを一気に追い抜いてその前方に回り込んだ!

 

「グオオオオオオオオ!?」

 

 今のオーブはネクサスのように、甲冑を纏ったような姿に変身していた。まばゆい光の力と、何者にも縛られず大空を自由に飛翔する力を併せ持ったスペシウムシュトロームだ!

 

(♪ネクサス –Heroic-)

 

『俺たちはオーブ! 受け継がれてゆく、魂の絆!!』

 

 ザ・ワンは己の前に立ちはだかったオーブに即座に光線を発射するものの、オーブは一瞬にしてその射線上から逃れてザ・ワンの側方へと回り込んでいく。

 

「グオオオオオオオッ!」

 

 すぐに目で追いかけるザ・ワンだが、その時にはオーブはもう背後に移っていた。振り向くザ・ワンだが背後を取り直される。正面を向き直るも、今度は己の下方に回り込んでいる。

 

『雪歩! 春香! ノンストップだッ!』

『「「はいっ!!」」』

 

 オーブはザ・ワンをも上回るスピードで縦横無尽のループを描き、その身でザ・ワンを囲い込む。ザ・ワンはオーブの動きにまるでついていけず、完全に立ち止まって狼狽えていた。

 そうしてザ・ワンが目を回しているところに、オーブがいよいよ攻勢に転ずる。勝負を一気に決める!

 

「「『ウルトラフルバースト!!!」」』

 

 両腕をカラータイマーの前で回すことで全エネルギーを一点に集中。そこから楔型の光線と無数の光刃の集中砲火をザ・ワンに放った!

 

「グオオオオオオオオオオオオオオオオッ!!」

 

 スペシウムシュトローム最大の攻撃を食らったザ・ワンは空中で大爆発に呑み込まれた後、翼を焼き尽くされて真っ逆さまに地上へと転落していく。オーブはそれを追いかけて下降。

 雪歩はその中でオーブオリジンのカードを、春香が握ったリングに通した。

 

『「プロデューサー、真の姿に!」』

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

 

 オーブが着地とともにオリジンへと変身を遂げ、更に雪歩はオーブカリバーをリングに差し込む。

 

[解き放て! オーブの力!!]

「「『オーブスプリームカリバー!!!」」』

 

 地面に叩きつけられ、全身焼き焦げて最早まともに動くことの出来ないザ・ワンに向けて、オーブ最大の必殺技の、最高火力を叩き込んだ!

 

「ドゥアアアアアアアァァァァァァァァァッ!!」

 

 オーブスプリームカリバーをその身に受けたザ・ワンは全身が青い光の粒子に分解され、その粒子一つ一つも黒い煙となって消滅していった。

 オーブはスペースビーストが絶対に再生することのないように、細胞の一片に至るまで完全に焼き尽くしたのであった。

 

「決まりましたぁっ! ウルトラマンオーブの完全勝利ですっ!」

「やったぜオーブぅッ! 憎いねぇ~!」

 

 真と渋川の実況がオーブの勝利を称える。オーブは二人に対してうなずくと、腕を天高く伸ばして大空へと飛び立っていった。

 

「シュワッチ!」

 

 

 

「ミッション完了だ。二人とも、よく頑張ったな」

「はいっ! ありがとうございます!」

 

 ガイと春香、雪歩は元の姿に戻って、真たちのところに向かって歩いていく。その道中で、春香が雪歩に尋ねかけた。

 

「でもどうして雪歩がフュージョンカードを持ってたの? それ、どこで見つけたの?」

 

 雪歩は返答に困る。

 

「えっと……夢の中で……」

「夢?」

「私にもよく分かんないんだけど……」

 

 雪歩が首をひねっていると、ガイが助け船を出すように述べた。

 

「ネクサスさんはあきらめない人を助ける、神秘の力を持ったウルトラマン。きっと雪歩の強い気持ちに応えて、力を貸してくれたんだろうな」

「ふぅん? そういうものなんですか……」

 

 よく理解していない春香だったが、ウルトラマン周りでは理解を超越したことが起こりがちなものなので、あまり深くは考えないことにした。

 

「おーい、プロデューサー! 雪歩ー!」

「春香ちゃーん! 無事だったか!」

「あっ、真! 叔父さん!」

 

 そこに真と渋川の方から駆けつけてきた。春香は二人の方に向かっていく。

 

「春香ちゃん、身体の調子は大丈夫かい?」

「えっ? 何のこと……」

「春香……!」

 

 一瞬呆気にとられた春香に真がさっと耳打ちする。

 

「あ、ああー! もう大丈夫! 元気になったから安心して!」

「そうかい? ならいいんだ」

 

 春香がごまかしている後ろで、ガイがふと雪歩に呼びかけた。

 

「それにしても雪歩、今日はちょっと驚かされたな」

「何がですか?」

 

 小首を傾げる雪歩にガイは苦笑。

 

「お前の成長ぶりにだよ。ちょっと前までは色々と手を焼かされたもんだが、知らない内にすっかりとたくましくなってたんだな」

「あはは……その節は、泣いてばかりでごめんなさい」

 

 ガイの指摘に雪歩は苦笑いして、そして告げた。

 

「でも、それもさっき言ったように、プロデューサーはみんなのお陰ですぅ」

「俺たちの?」

「はい!」

 

 満面の笑顔で肯定する雪歩。

 

「私が最初の一歩を進むことが出来たのは、みんながいてくれたから……それから、背中を押してくれたみんなに申し訳のないように頑張って、今の私になれたんです。……プロデューサーたちとの最初の絆で、私は強くなれました」

 

 雪歩は輝くような笑顔で、ガイを見上げる。

 

「これからももっともっと進んでいきます。だから……ありがとうと一緒に、これからもよろしくお願いします、プロデューサー!」

「……ああ。俺たち、今よりももっと先に進んでいこうぜ」

 

 ガイは雪歩の気持ちに強く応じ、春香たちの元へと歩いていった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

雪歩「萩原雪歩ですぅ。今回ご紹介するのは、たくさんの人の絆をつないでいったウルトラマン、ウルトラマンネクサスですぅ!」

雪歩「ネクサスさんは2004年放送の『ウルトラマンネクサス』の主人公です。その設定はとても特殊で、元々はノアさんというウルトラマンだったんですけど、ダークザギという悪者との戦いで力を失ってしまい、ネクサスさんの姿になってたんです。更にその前にもネクストさんにもなってて、変身する人も番組の中で何人も交代して……何だか出世魚みたいですぅ」

雪歩「この特殊な設定は、ウルトラシリーズの新たな境地を開く『ULTRA N PROJECT』という企画の中で作られました。その一つである『ネクサス』も、それまでのお約束を打ち破ったたくさんの設定で構成された、斬新な作品でした。でもそれが裏目に出て打ち切りになってしまったんですが……残念ですぅ」

雪歩「ですが作品に一本筋を通した『ネクサス』は評価が高く、ネクサスさんの人気もまた高いです。ノアさんの設定はその後の作品でも要所要所で用いられ、ネクサスさんも劇場版『ウルトラマンギンガS』や『ウルトラマンX』で客演を果たしたんですよ!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『First Step』だ!」

ガイ「『アイドルマスター2』の雪歩シナリオで非常に重要な意味を持ってる歌だぞ。曲名は最初の雪歩のソロ曲、『First Stage』を意識したものだな。こうして見ると歴史を感じるなぁ」

雪歩「『2』で私だけ新しいソロ曲がもらったのは、私の担当声優さんが変更されたことがきっと関係してるんでしょうね」

雪歩「それでは、次回もよろしくお願いします」

 




 はいさーい! 我那覇響だぞ! あの惑星侵略連合の生き残りがジャグラーへの復讐を始めたんだ! しかもそれにぴよ子が巻き込まれちゃって……。自分たちの仲間を巻き込むなんてのは許せないぞ!
 次回『復讐のBANG』。プロデューサーたち、ぴよ子を助けて!


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復讐のBANG(A)

 

 ――それはオーブがマガオロチを撃破した直後のこと。

 地球の衛星軌道上に静止している赤い円盤の中で、ただ独り動く赤い影があった。

 

『偉大なるドン・ノストラ……何故このようなことに……』

 

 最早座る者がいなくなった玉座を見つめて声をわななかせているのは、メトロン星人タルデ。――ジャグラスジャグラーの陰謀によってノストラが討たれ、事実上崩壊した惑星侵略連合の生き残りである。彼は当時地球の調査で円盤を離れていたため、ジャグラーに斬られなかったのだ。

 

『ジャグラスジャグラー……奴の本性さえ見抜いていれば……!』

 

 タルデは最初に、ジャグラーが自分たちに接触してきた時のことを思い返す。あの時、自分はジャグラーの加入に異を唱えていたのだが……。

 

『やはりあの時、もっと強く反対するべきだった……! そうすれば、このようなことにはならなかったのに……』

 

 激しい後悔に苛まれるタルデ。だがその感情はすぐに、ジャグラーへの憤怒へと変わる。

 

『おのれぇッ! これで引き下がる惑星侵略連合ではないぞ! この恨み、晴らさでおくべきかぁッ!!』

 

 自分以外無人となった円盤内で、煮えたぎるような憎悪の念をぶちまけるタルデ。彼はここに、連合の何もかもを簒奪したジャグラーへの復讐を誓ったのであった。

 そして――。

 

 

 

『復讐のBANG』

 

 

 

「――ぐぅッ!」

 

 町の死角となっている、人目につかない陸橋の下で、ジャグラスジャグラーが斬られた腕を押さえながら倒れ込んだ。そこに突きつけられる切っ先。

 彼から奪い取った蛇心剣を突きつける主は――メトロン星人タルデである。剣だけでなく、両腕にはラウンドランチャーを巻いて武装している。

 

『どうだ、己の剣を向けられた気持ちは』

 

 タルデは両眼にありありと憎悪の感情を宿しながら、ジャグラーを見下す。

 

「お前……!」

 

 タルデは今日まで復讐のためにジャグラーを執拗に追い続け、遂に追いつめて今まさに復讐を完遂しようとしているところなのであった。

 

『ドン・ノストラと同じ苦しみを味わえ、ジャグラスジャグラー!』

 

 タルデは剣を振り上げ、一気にジャグラーにとどめを刺そうとする。ジャグラーも事ここに至っては観念する他はない――。

 そう思われたその時、どこからともなく響いてきたハーモニカの音色によって、ジャグラーは苦痛にあえいで頭を抑えた。

 

「ぐあぁぁぁ……!」

『ん!?』

 

 気を取られたタルデが振り向くと、そちらからガイがハーモニカを奏でながらこの現場に乱入してきた。

 

『紅ガイ……!』

「そんな物騒なもん振り回されたんじゃ、見過ごせないな」

 

 タルデの復讐を止めたガイだが、タルデは剣先をガイの方に向けて言い放った。

 

『君には関係のないことだ、邪魔するな。そんな暇があるなら、この星の雲行きについて考えたらどうだ』

「何だと?」

『それに、ジャグラーを野放しにして、手を焼くのは君自身だぞ』

 

 忠告してきたタルデに、ガイは苦笑を返す。

 

「生憎、手ならとっくに焼いてるぜ」

『ッ!』

 

 ここでタルデは気がついた。今の一瞬の間に――ジャグラーの姿がなくなったことに。

 タルデは怒りを覚えてガイに振り返る。

 

『君のお陰で逃げられたじゃないか! ……まぁいい。あの傷ならそう遠くには逃げられないだろうからな』

 

 そう言い残して、タルデの姿がかき消えていく。逃げたジャグラーを追って、空間転移していったのだ。

 

「……」

 

 ジャグラーとタルデの消えた後を無言で見つめていたガイの後ろから、隠れて様子を見守っていた千早、あずさ、貴音の三人が駆け寄ってくる。

 

「プロデューサーさん、お怪我はありませんか?」

「大丈夫です。ありがとうございます」

 

 あずさは真っ先に、危険な宇宙人たちと対峙していたガイの身を心配した。しかし千早は、若干批判するようにガイに聞いた。

 

「プロデューサー、どうしてジャグラスジャグラーをかばうような真似をしたんですか?」

「千早……」

 

 あずさは千早をたしなめる。

 

「千早ちゃん、確かにあの人は悪い人だけど、命が危ないのを見過ごすなんてことはひどいわよ」

 

 しかし千早はきっぱりと言い返した。

 

「あずささんは、あの男がしでかしたことを忘れたんですか? あいつのせいでどれだけの被害が出たか……。私たちだって何度迷惑を被ったことか」

「それは……」

「わたくしも千早と同意見です」

 

 貴音も千早の肩を持つ。

 

「見殺しにせよとまでは言いませんが、かの者を放置するのはまこと危険です。せめてこの先何も出来ないように無力化する程度のことはしておいた方がよろしいのでは……」

 

 そう進言する貴音に、ガイは答えた。

 

「お前たちの言うことはもっともだ。だがそう簡単にあいつを大人しくさせられるようだったら、俺もこんなに長いこと頭を悩ませてはいないんでな……」

「プロデューサー……?」

 

 千早たちは、どこか遠いところを見ているガイの様子を訝しむ。

 

「それに今はメトロン星人の方が気がかりだ。ああいう頭に血の昇った奴は、余計なことをやらかすものだからな……。しばらくは警戒しておくべきだろうな」

 

 そう語りながらガイが足を運び出す。その後に続きながら、あずさたちはひそひそと話し合った。

 

「プロデューサーさん、あの人に対して何か思うところがあるのかしら……」

「様子を見ている限りでは、深い因縁があるようではありますが……」

「そういえばプロデューサーとあの男に、どういう経緯があるのかなんてのは私たち知りませんね……」

 

 疑問を抱いた千早たちであったが、今のガイは問いただせるような雰囲気ではなかった。

 

 

 

 小鳥は出先の取引相手の会社から、765プロ事務所に戻る途中であった。

 

「もうこんな時間! 早いところ事務所に帰らないと……」

 

 ぼやきながら足を速めたが、その矢先にふらふらと歩いている人と肩がぶつかった。

 

「ああすみません……!?」

 

 反射的に謝った小鳥だったが――その相手がジャグラスジャグラーであることに気づいて顔色を一変した。

 

「あなたは……!」

 

 緊張が走った小鳥だったが、ジャグラーが急に力なく倒れ込んできたので、思わず受け止めて支える。

 

「ちょっと!? 怪我してるの……!?」

 

 小鳥はジャグラーの身体のあちこちに裂傷が走っていることを悟った。一瞬どうすべきかと狼狽したものの、決心をして彼を人気のない建物の陰まで運んでいき、コンクリートの柱にもたれかけさせた。

 手が空いた小鳥は、ケータイで事務所に連絡を入れる。電話に出たのは律子だ。

 

『律子です。小鳥さん、どうしたんですか? 帰りが遅いですが……』

「ち、ちょっと途中で問題と出くわしまして……。プロデューサーさんは戻ってますか?」

『プロデューサーなら、こっちも厄介事が起きたのでその対応に当たってもらってるところです』

「厄介事?」

 

 聞き返した小鳥に、律子は内容を話した。

 

『この町の近隣に円盤が出没したんですよ! それも形状を見るに、惑星侵略連合のものなんです。最近はずっと音沙汰がなかったんですが、また行動を開始したみたいですね……。小鳥さんは今どちらに?』

「それは……」

 

 答えかけた小鳥だが、その時にジャグラーが手を伸ばして小鳥のケータイをひったくった。

 

「あっ!?」

『えっ、小鳥さん――?』

 

 ジャグラーはケータイの電源を切って投げ捨てる。ギョッとする小鳥。

 

「何するの!」

 

 ジャグラーは傷口を押さえながら小鳥へと顔を上げた。

 

「とっとと失せろ……」

 

 吐き捨てるジャグラーだが、小鳥はうろたえつつもその場を動かなかった。

 

「このままにはしておけないわよ……」

「うるさいッ! 俺に構うな……ッ!?」

 

 怒鳴ったジャグラーはその拍子に傷口を痛め、余計に苦しんだ。それで小鳥はスカートのポケットに手を突っ込む。

 

「ちょっと待って……!」

 

 ポケットからハンカチを取り出すと、ジャグラーの腕に巻きつけて応急処置を施す。

 

「お前……何で……」

「動かないで! 傷に障るから……」

 

 小鳥がハンカチを巻き終えると、ジャグラーが改めて問いただした。

 

「何のつもりだ……」

「だって……怪我をしてる人を放っておけないじゃない」

 

 小鳥は正直に答えて立ち上がる。

 

「誰か人を呼んでくるわね」

 

 と言ってこの場を離れようとしたが、途端にジャグラーに腕を掴まれて引き留められた。

 

「あなた……」

 

 小鳥は思わずジャグラーの顔を見返した。

 

 

 

「そうですか……。分かりました」

 

 ガイは律子からの連絡を受けると、千早たちに振り返った。

 

「急に小鳥さんとの連絡が途絶えて、ケータイもつながらなくなったらしい」

「それってまさか、音無さんがジャグラーに捕まったんじゃ……!」

「もしくは、かの面妖な宇宙人に何かをされたのでは……」

 

 千早たちの間に緊張が走る。うなずくガイ。

 

「メトロン星人の円盤は未だこの周辺をうろついてるみたいだ。小鳥さんの身に危険が迫ってる可能性は否めない。早いところ見つけた方がよさそうだな」

「手分けして捜しましょう! みんなで捜せばすぐに見つかるはずです」

 

 あずさの提案により、四人は散開して小鳥の捜索を行うことにする。

 

「ではわたくしはあちらの方角を」

「あずささんは私から離れないで下さい!」

 

 貴音がこの場から離れ、千早があずさを引っ張っていくと――ガイの背後からタルデが呼びかける。

 

『私が人間をさらったとでも言いたいのか?』

 

 ガイは視線をタルデへと向けた。

 

『私の目的はジャグラーを倒すこと。最早この星に興味はない。だが……邪魔をするなら、君とて容赦はしない』

 

 脅してくるタルデに対して、ガイは毅然と返した。

 

「理由はどうあれ、この星の平和を脅かそうと言うのなら、俺は戦う。どんな相手だろうとな」

 

 タルデはそんなガイに問いかける。

 

『素晴らしい心構えだ。だが、まさか本当に気づいていないのか? 黄昏美しいこの星を覆おうとする、暗雲を』

「どういう意味だ?」

 

 聞き返したガイに、タルデはランチャーを向けた。

 

『話の途中で悪いが、円盤があの男を見つけたようだ。誰かと一緒にいるみたいだが……』

 

 今のひと言で、ガイが目を細める。

 

『紅ガイ。これは忠告だ! 大人しくしていろ』

 

 最後に言い残すと、タルデは頭上に待機していた円盤に吸い込まれていき、円盤も透明化して姿を消し去った。

 脅迫を受けたガイだが、嫌な予感を覚えたことにより、辺りに目を走らせて踵を返した。

 

 

 

 ジャグラーは小鳥をむんずと引き寄せて囁きかけた。

 

「円盤が飛び回ってる。見つかるぞ」

「……円盤から逃げてたの? だからこんな傷を……」

 

 円盤の飛行音が聞こえなくなると、ジャグラーは小鳥から手を放してうつむいた。

 

「俺も落ちぶれたもんだ……。ガイの奴のフュージョンアップ相手でもないお前如きに介抱されるとはな」

 

 無礼なことを吐きながら自嘲するジャグラーに、小鳥はある質問をぶつけた。

 

「……聞いてもいい? ずっと気になってたんだけど……プロデューサーさんとあなたって、どういう関係なの?」

 

 765プロの者たちは、ガイとジャグラーが浅からぬ因縁であることは感じていたが、そもそもどこで顔を突き合わせ、争い合う関係となったのかはガイが話すこともないので知る機会がなかった。それをジャグラーの口から確かめようというのだ。

 

「言いたくなかったら無理には……」

「ガイより俺の方が勝っていた……!」

 

 遠慮がちな小鳥であったが、ジャグラーはそう言い切ってから語り出した。

 

「え……?」

「……俺とガイは、惑星O-50の出身の戦士。俺たちは同じ勢力に身を置きながら、腕を競い合ってお互いを高め合っていた。戦いと歌……形は違えども、元々はお前のところのアイドルたちみたいな関係だったのさ」

 

 それは、意外な回答であった。ガイとジャグラー、互いを憎らしく感じているように見えていたので、昔は仲間だったなどとは考えたこともなかった。

 

「実力なら俺の方が上だった。だが……人間の限界を超えるための最後の試練、戦士の頂に俺の方が先に着いたというのに……光はあいつを選んだ。それが今のウルトラマンオーブさ……!」

 

 オーブ誕生の経緯を意外なところで知った小鳥。ガイは、初めからウルトラマンだった訳ではなかったのだ。

 

「光に見放された俺は、それでもしばらくはあいつのサポートに回っていた。だが……俺は結局光を手にすることは出来なかった。そして銀河をさまよう内に気づいたのさ……。闇こそが光に勝る力だとな。俺に光など必要なかった……!」

 

 そう唱えたジャグラーに、小鳥は聞き返す。

 

「ほんとにそうなの……?」

「何……?」

「プロデューサーさんが言ってたじゃない。誰の心にも闇はある、闇があるからこそ光がある。闇を抱えてない人間に、世界を照らすことが出来ないって……!」

 

 ガイの言葉を引用してジャグラーに訴えかける小鳥。

 

「あたしの心の中にある闇は、深い……。それは認めるわ。でも、そんなあたしの中にも光がある……! だから、あなたの心の中にも、光が眠ってるんじゃないかしら……?」

 

 ジャグラーは小鳥の顔を見つめ返す。

 

「あなただって、本当は……!」

『ようやく見つけたぞ、ジャグラー!』

 

 小鳥の話の途中で、タルデがこの場に現れた!

 

『潔く散れッ!』

 

 タルデは情け容赦なくランチャーから弾丸を発射してきた! ジャグラーが小鳥を抱えながら跳び、弾丸はもたれかかっていた柱を蜂の巣にする。

 小鳥は驚いてジャグラーの顔に目をやった。

 

「どうしてあたしを……!?」

「ここで死なれちゃもったいないんでね……」

 

 小鳥をかばったジャグラーだが、それにより傷口が開いて立ち上がれなくなる。タルデはそこににじり寄ってくる。

 小鳥は咄嗟にジャグラーの前に回って、タルデに立ちはだかった。

 

『そこをどけッ! 地球人を巻き込むつもりはない』

 

 小鳥をどかそうとするタルデだが、小鳥は聞き入れなかった。

 

「それは無理です!」

『何の真似だ』

「怪我してる人を見捨てるなんて出来ないからです!」

『何故かばう。そいつは正真正銘の極悪人なんだぞッ!』

「極悪人なんかじゃありません! だって……!」

 

 懸命に言い返す小鳥だったが、タルデにつき合う気はなかった。

 

『巻き込むつもりはないと言ったが、邪魔をするのなら仕方がない。次は外さんぞ』

 

 ランチャーの砲口が小鳥に向けられ、火を噴く!

 弾丸は――天井の鉄骨を穿った。

 

「プロデューサーさん!」

「ギリギリ間に合ったな!」

 

 ガイがタルデに飛びついて、腕をひねり上げてランチャーの射線を小鳥から外したのであった。

 

『紅ガイ……! 邪魔をするなッ!』

 

 小鳥に向けて弾丸を放とうとするタルデを食い止めるガイ。その間に千早、貴音、あずさが小鳥たちの元に駆け寄った。

 

「音無さん、ご無事ですか!?」

「みんなっ!」

「プロデューサーが止めている内に、早く!」

 

 ジャグラーを支える小鳥に貴音とあずさが手を貸し、五人は足早に逃げていく。

 

『おのれジャグラーッ!!』

 

 執拗にジャグラーを狙うタルデの腕をガイが背後からひねり上げた。タルデが怒号を発する。

 

『放せッ! 私の忠告を忘れたのか!』

「たった一人でも、誰かの平和が脅かされるなら、俺は戦うッ!」

 

 引き下がらないガイに、タルデもいよいよ我慢の限界に達した。

 

『こんな形になって残念だよ! ウルトラマンオーブぅッ!!』

 

 巨大化した勢いでガイを振り払う! 着地したガイの元には千早と貴音が駆けつけた。

 

「プロデューサー! ジャグラーを助けるのは不本意ですが、音無さんを撃とうとしたことは許せません! あの宇宙人を返り討ちにしましょう!」

「どのような理由があろうとも、これ以上の狼藉を見過ごすことはまかりなりません!」

「ああ! 行くぞッ!」

 

 ガイたちがオーブリングとカードを構える!

 

「セブンさんっ!」

[ウルトラセブン!]『デュワッ!』

「エース殿っ!」

[ウルトラマンエース!]『トワァーッ!』

「キレのいい奴、頼みますッ!」

[ウルトラマンオーブ! スラッガーエース!!]

 

 ガイと千早、貴音がフュージョンアップした、ウルトラマンオーブ・スラッガーエースが大地の上に立った!

 



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復讐のBANG(B)

 

 街が夕焼けに染まる中、変身を遂げたオーブはひねりをつけた大ジャンプからの高速の飛び蹴りによって、タルデに先制攻撃を仕掛けた。

 

『ぐわぁッ!』

 

 オーブの鋭いキックをまともに食らったタルデが張り倒される。着地したオーブは振り返ってタルデへ見得を切った。

 

『光と共に、闇を切り裂く!!』

 

 避難しているあずさと小鳥、そしてジャグラーがオーブの姿を見上げる。

 

「プロデューサーさんっ!」

「千早ちゃん、貴音ちゃん、お願いね……!」

 

 一方でタルデは起き上がると、オーブを忌々しくにらみつけた。

 

『えぇい……おのれ、ウルトラマンオーブ……! 許さんッ!!』

 

 両腕のラウンドランチャーを回転させて、弾丸を乱射! 対するオーブはトサカに手をやり、剣を召喚する。

 

「「『バーチカルスラッガー!!!」」』

 

 同時に剣を高速回転させることで飛んでくる弾丸を弾き、そのまま前進。タルデとの距離を詰める。

 

「デュアァッ!」

 

 間合いに踏み込んだところで盾にしていたバーチカルスラッガーを攻撃に転じた。オーブの斬撃をタルデはランチャーで防御。

 

「ゼェェイッ!」

 

 斬撃と回し蹴りを組み合わせた連撃を仕掛けるオーブだが、タルデも防御と回避を使い分けてオーブの攻撃を防ぐ。そして隙を見てランチャーを発射。

 

「セェイッ!」

 

 迫り来る弾丸をオーブは横に飛び込むことでかわした。それを追って撃ち続けるタルデだが、オーブはタルデの周囲を水平に飛びながら額のランプよりレーザーを放射する。

 

「「『パンチレーザーショット!!!」」』

 

 オーブに銃撃を仕掛けていて反応が遅れたタルデは直撃をもらった。

 

『おわぁッ!』

 

 吹っ飛ばされて倒れるタルデだが、ダウンはしない。すぐに立ち上がってオーブの振るうバーチカルスラッガーにランチャーで張り合う。

 オーブと互角に戦うタルデに、千早と貴音が歯を食いしばる。

 

『「なかなかやるわね……!」』

『「しかし、勝負はまだこれからです!」』

 

 オーブの奮闘の様子を小鳥たちは固唾を呑んで見守っている。

 

「頑張って、みんな……!」

 

 しかしその時、あずさがふと空の一角に目を移して気がついた。

 

「小鳥さん、あれ!」

「どうしたんですか、あずささん?」

 

 小鳥があずさの見ている先に目をやると――赤い円盤が密かにオーブの背後に回り込んでいるのが見えた。メトロン星人の円盤だ!

 

「あっ! 危ない、オーブ!!」

 

 タルデの弾丸の雨を弾き返していたオーブは小鳥の警告に気づいたがもう遅く、円盤は高速軌道でオーブの背後を取った。

 そしてがら空きのオーブの背面に怪光線を浴びせる!

 

『「きゃあああああっ!」』

『「くぅぅぅっ! 背後からとは卑怯な……!」』

 

 攻撃を食らったことでスラッガーを回す手も止まり、タルデの弾丸がオーブに襲い掛かる!

 

「グワアアアァァァァァァッ!!」

 

 前後からの挟み撃ちに、流石のオーブも絶叫を発した!

 

「プロデューサーさぁんっ!!」

 

 爆発の中に呑まれていくオーブに思わず叫ぶ小鳥とあずさ。

 だがオーブはまだ負けてはいなかった!

 

『「プロデューサー、真の姿にっ!」』

 

 千早が貴音の持つオーブリングに、オーブオリジンのカードを通したのだ!

 

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

 

 カードをオーブカリバーに変え、柄のリングを回してトリガーを引くことでオーブはオリジンへと再変身する!

 その際に発せられた閃光のエネルギーによって攻撃を吹き飛ばし、タルデの目をくらませた。

 

『うわぁッ!』

 

 体勢を立て直したオーブがオーブカリバーを掲げて、堂々と決め台詞を発した。

 

『銀河の光が、我らを呼ぶ!!』

 

 タルデは顔を上げて、改めてオーブを憎々しげにねめつけた。

 

『姿を変えても無駄だぁッ!』

 

 攻撃を再開するタルデと円盤。しかしオーブはバリアとカリバーを盾にして、両方の攻撃を防いだ。

 

「セアッ!」

 

 そしてバリアを飛ばしてタルデにぶつけることでひるませ、その隙に円盤に斬撃を飛ばした。背後からタルデが飛びかかってくるが、そちらにも振り向きざまに斬撃を飛ばすことで返り討ちにする。

 

『うおぉッ!』

 

 相手方の行動を封じ込んだところで、千早たちはカリバーのリングを回して風の象形文字を点灯させた。

 

「「『オーブウィンドカリバー!!!」」』

 

 オーブカリバーで大きく円を描くと、オーブを中心に凄まじい暴風が巻き起こる!

 

『何ッ!?』

 

 オーブの起こす竜巻がタルデの身体を持ち上げ、はるか高空に投げ飛ばしていく。更に円盤も巻き上げられ、竜巻の中でタルデと激突!

 

『おわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 円盤の破砕による大爆発の中にタルデの姿が消えた。

 

「やったわっ!」

 

 小鳥たちはぐっとガッツポーズを取ったが、貴音は爆発を見上げてハッと顔を強張らせた。

 

『「まだですっ!」』

『ぬおおおおおおおおおおおッ!』

 

 次の瞬間に爆発の業火からタルデが飛び出して、オーブにバンバンバンバンッ! と弾丸の嵐を降り注がせた! 復讐に燃える男の、灼熱の責め苦を物ともしない恐るべき執念だ!

 だがオーブも動じてはいなかった。千早と貴音がカリバーをオーブリングに差し込んでエネルギーをチャージさせる。

 

[解き放て! オーブの力!!]

 

 カリバーで大きく円を描くと、フルチャージしたエネルギーを光線にしてタルデへと繰り出した!

 

「「『オーブスプリームカリバー!!!」」』

 

 刀身より発せられた必殺の光線が、空中のタルデに突き刺さった!

 

『ぐわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 撃ち落とされ、地面に叩きつけられるタルデ。今度こそ致命傷を負っていた。

 それでも最後の力を振り絞って立ち上がると、背後の今まさに山の向こうに沈もうとしている夕陽を見やり、声を絞り出す。

 

『何と美しい……。この夕焼けが、闇に呑まれてしまうのか……』

 

 辞世の句を残して、背後に倒れ込んだタルデが、爆散。生き残りがここに倒れ、惑星侵略連合は真に壊滅の最後を迎えたのであった。

 

「シュワッチ!」

 

 オーブは空に飛び上がって去っていく。それを見送った小鳥がつぶやく。

 

「ありがとう、プロデューサーさん……」

「――俺からも礼を言うぜ、ガイ」

 

 小鳥の後方で、にやりとほくそ笑んでいるジャグラーが頭上に手を掲げる。

 その手の中に蛇心剣が降ってきて、ジャグラーがその柄を握り締めた。

 

「!?」

 

 振り向いてそれを目の当たりにした小鳥とあずさが驚愕した。ジャグラーは小鳥の顔を見返して告げる。

 

「そうだ、お前にも感謝しないとな」

「どういうこと……?」

「俺をかばえば当然、復讐に燃えるメトロンはお前にも銃を向ける。そうすれば、ガイは必ず助けに来る。そして、俺の想定した通りに戦ってくれた訳だ」

 

 嗤いながら蛇心剣の切っ先を小鳥に向けるジャグラー。その言動にあずさが目を見開いた。

 

「小鳥さんを利用してたんですか……!?」

「ハァーハッハッ! 名演技だったろ?」

 

 膝を叩いて爆笑するジャグラー。

 

「光に見放された男の身の上話を聞かせれば、お前みたいな女はイチコロさ。俺を必死でかばう姿は傑作だったぜ……!」

「あなた……っ!」

 

 小鳥を嘲笑うジャグラーに、流石のあずさも怒り心頭する。

 ――しかし、小鳥自身があずさを制して、ジャグラーに向かって言った。

 

「本当に、全部が嘘だったの……?」

「……何?」

 

 いぶかしげに振り向いたジャグラーに、小鳥は真剣に呼びかける。

 

「あたしは子供の頃に成りたかったものに成れなかった……。だけど、今も夢を追い求める気持ちがある。……あなたにも同じように、手にしたかったものをあきらめ切れない気持ちがあるんじゃないの……?」

 

 語る小鳥を見つめるジャグラーの目が細められる。

 

「だって、あの時のあなたの顔は……!」

 

 言いかけた小鳥の喉元へと、刃の切っ先が向けられた。あずさは反射的に小鳥を引き寄せる。

 

「いい気になって知った風な口を聞くな。……まぁいい。お陰でこの剣も取り返すことが出来た。言うことなしだ」

 

 ジャグラーは小鳥のハンカチを取り出すと、それを彼女の足元に落とす。

 

「せめてもの礼だ。これは返しておくぜ。じゃあな」

 

 それを最後に、ジャグラーは踵を返してあっという間にこの場から消えていった。

 その後に小鳥が、寂しげな顔でハンカチを拾うと、ガイたちが駆けつけてくる。

 

「小鳥嬢、あずさ、ご無事でしたか!?」

「……あの男はどこへ行ったんですか!?」

「また逃げられちまったみたいだな……」

 

 ガイのひと言に、千早がギリッと歯ぎしりした。

 

「今度こそビートル隊に突き出してやろうと思ってたのに……」

「……小鳥嬢、あずさ、何かあったのですか?」

 

 貴音が、小鳥たちの様子がおかしいことに気がついて尋ねかけたが、小鳥がやや動揺しながらも首を振った。

 

「な、何でもないわ。気にしないで。ね?」

「はぁ……。何事もないのでしたら、それで構いませんが」

 

 小鳥の反応に不思議がりながらも追及をやめる貴音。そこに場を仕切るようにガイが口を開いた。

 

「とにかく事務所に帰りましょう。律子が待ってるはずです」すっかり遅くなってしまった」

 

 このひと言に小鳥が慌てる。

 

「そ、そうだった! 早くやらなくちゃいけない仕事があったんだった! みんな、急いで戻るわよぉ!」

「あっ、待って下さい音無さん!」

 

 大急ぎで駆け出す小鳥を慌てて追いかけていく千早たち。最後尾を行くガイは、ふと夕焼け空を見上げて、タルデの最期の言葉を思い出した。

 

『この夕焼けが、闇に呑まれてしまうのか……』

 

 ガイは口を閉ざし、しばしその意味を思案していた。

 

「……」

 

 

 

 ――夕陽が完全に沈み、夜の帳が下りた街の中で、ジャグラーが蛇心剣を鞘から抜いて手にしていた。

 その刀身が、何かに呼応するように怪しい闇の輝きを明滅させる。

 

「……」

 

 それを確かめたジャグラーは、ニヤァと口の端を不気味に吊り上げる。

 

「この星の奥底に……まだ闇の力が眠っていたとは……」

 

 愉悦を帯びながら蛇心剣の刃を指でなぞり、次いで肩を揺らしながら笑い出す。

 

「うふッ……はははは……ア――――――ハハハハッハッハッハッハハハハッ!! アハハハハハハハハハッ!! ア――――――ッハッハッハッハッハッハッハッ!!」

 

 ジャグラーの高笑いは、いつまでもいつまでも、夜の闇に響き続けていた……。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

美希「ミキだよ。今回紹介するのは、本場ハリウッドで制作されたウルトラマン、ウルトラマンパワードなの!」

美希「パワードはシリーズで唯一アメリカで制作された実写ドラマの『ウルトラマンパワード』の主人公なの。オーストラリアで制作の『グレート』が好評だったから企画されたんだって。撮影はハリウッドだけどキャラクターデザインや脚本は日本で作られたものを、ハリウッド側が改訂して使用されたんだって」

美希「登場する怪獣は全部『ウルトラマン』に登場したののリデザインなんだけど、リメイクという訳じゃなくてシナリオはオリジナルだよ。流石ハリウッドだけあって着ぐるみのレベルは日本より高くて、内部に冷却水を循環させるパイプを入れてアクターさんの負担を減らす技術も使用されてたみたいなの」

美希「でもアメリカは日本より表現規制が厳しいから、肝心のアクションはちょっと迫力不足なの。視聴率もあんまり高くなくて、結局海外でのシリーズ化は実現しなかったんだけど、パワードも立派なウルトラ戦士の一人! 『ウルトラ銀河伝説』で版権上難しかった再登場も果たしたんだよ」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『BANG×BANG』だ!」

ガイ「シリーズ初の男性キャラの楽曲のみになるCD『Jupiter』収録の天ヶ瀬冬馬のソロ曲だ。彼のキャラクター性がそのまま歌詞になったかのような歌詞が特徴的だぞ」

美希「この作品には登場してないけどね、天ヶ崎竜馬たちは」

ガイ「名前間違ってるぜ。公式ネタだけど」

美希「それじゃ次回もよろしくなの♪」

 




 菊地真です! 恐ろしい宇宙怪獣ベムスター出現! 引き分けに持ち込みますが、プロデューサーは次も律子と美希のタッグで行くと主張! ある意味一番性格が反対の二人だけど、大丈夫なのかな……?
 次回『勇者のSTAR』。真のブレスターナイトの降臨だ!


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勇者のSTAR

 

「プロデューサー、番組内容を変更してこのUMAの突撃調査をしましょう!」

「ヤーなーのー! ミキ、あんな危ない目に遭うなんて聞いてなかったのー!」

「やらなきゃいけないのなら、私だってひと肌脱ぎますとも!」

「冗談じゃないのっ!」

「ほんと美希には困ったものね」

『「ハニー、真の姿にっ!」』

「一緒に地球の平和を守ろうね、ハニー!」

「実際に直面してみたら……震えが止まりません……」

 

 

 

『勇者のSTAR』

 

 

 

「――ウワアァァッ!」

 

 街中での戦闘中、オーブ・ライトニングアタッカーが敵怪獣に殴り飛ばされて、路上に背中から叩きつけられた。

 

『「くぅぅ……やってくれるわね……!」』

『「あいつ、ハンパじゃない強さなの……」』

 

 オーブの中で、フュージョンアップしている律子と美希がうめいた。二人がにらみつける先にいるのは――。

 

「カ―――ギ―――――!」

 

 腹部に五角形の大口を備えた、鳥型の巨大怪獣。その名は宇宙大怪獣ベムスター! しかも普通の個体ではなく、かつて異次元人によって強化改造を施され、更なる力を手にした改造ベムスターだ! その力は計り知れず、オーブをも圧倒するほどであった。

 

「「『ギンガエックススラッシュ!!!」」』

 

 オーブは頭部から三叉型の光弾を飛ばして改造ベムスターに攻撃。しかしそれはベムスターが開いた腹部の口に呑み込まれ、無効化されてしまう。

 

「カ―――ギ―――――!」

 

 しかもベムスターはその口から光線を倍返しにしてオーブに放射した。

 

「オワアアアッ!」

 

 オーブはまたも弾き飛ばされた。律子が歯ぎしりしながらつぶやく。

 

『「駄目だわ……。あいつには、光線はどんなものも効かない! それどころかエネルギーを吸収されてしまってるわ!」』

 

 ベムスターの腹の口は、どんなものでも消化してしまう恐るべき器官だ。この器官によって光線は逆効果となってしまう。ベムスターが大怪獣と称される所以である。

 ならば打撃で、と行きたいところだが、改造ベムスターは肉体強度も高く、オーブの攻撃をことごとくはねのけていた。カラータイマーも既に点滅をしている。このままでは敗色濃厚だ。

 

『奴を倒すには斬撃が有効だ。それも相当な威力と切れ味のな……!』

 

 オーブが律子と美希に助言する。それで二人は、ヒカリとゾフィーのカードを手にした。

 

『「だったらこれで……!」』

『「勝負なのっ!」』

 

 美希と律子はオーブリングにカードを通す。

 

『「ゾフィーっ!」』『ヘアァッ!』

『「ヒカリさんっ!」』『メッ!』

『栄えある力、お借りしますッ!』[ウルトラマンオーブ! ブレスターナイト!!]

 

 オーブはライトニングアタッカーから赤と青の姿に変わり、右腕より光剣を伸ばす。

 

「「『ナイトZブレード!!!」」』

 

 光剣を構えて駆け出し、ベムスターに猛然と斬りかかる!

 

「セェアッ!」

「カ―――ギ―――――!」

 

 ――だが斬撃は、交差された爪によって止められた。

 

「フッ!?」

「カ―――ギ―――――!」

 

 更に剣は弾き返され、オーブはぶちかましを食らって吹っ飛ばされた。そこに眼球からの光弾の散弾も浴びせられ、オーブはますますダメージを受ける。

 

「グワアァァッ!」

『「うあぁっ!」』

『「こ、これでも駄目なんて……!」』

 

 カラータイマーの点滅が早くなってきた。もう残り時間はわずかしかない。それなのにベムスターは未だ健在。絶体絶命だ。

 

『「こうなったら、奥の手よっ!」』

 

 律子はオーブオリジンのカードをかざし、美希の握るオーブリングに通す。

 

『「プロデューサー、真の姿にっ!」』

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

 

 オーブカリバーを召喚して、オーブオリジンへと変身。

 

『銀河の光が、我らを呼ぶ!!』

 

 そしてカリバーのリングを回して土の文字を光らせる。

 

「「『オーブグランドカリバー!!!」」』

 

 オーブがカリバーを地面に突き刺すことで、黄色いエネルギーが弧を描いてベムスターの足元から襲い掛かった!

 

「カ―――ギ―――――!」

 

 凄まじい衝撃に襲われ、立ち昇る土煙の中に消えるベムスターの姿。

 

『「やった!?」』

 

 律子は一瞬、ベムスターを撃破したものかと思ったが――。

 改造ベムスターは土煙から上空へと飛び出し、そのまま宇宙へと猛スピードで退散していった。残り少ないエネルギーからの破れかぶれの一撃では仕留めるまでには至らなかったようだ。

 

『「ま、待ちなさいっ!」』

『「律子…さん! もう時間がないの!」』

 

 追いかけようとした律子だったが、美希の言う通り最早オーブに変身していられる時間は数秒も残っていなかった。オーブの姿はその場で消え、ガイたち三人が分離する。

 

「逃げられちまったか……」

 

 ガイがベムスターの逃げた後の空を見上げてボソリとつぶやいた。その後ろでは、律子と美希が気まずい表情で目を泳がせていた。

 

 

 

 宇宙へと逃げていった改造ベムスターだが、恐らくは再び地球に攻撃を仕掛けてくることだろう。それは明日になるかもしれない。765プロは終業後、急遽ベムスター対策の会議を開く運びとなった。

 ホワイトボードには亜美と真美が『ベム☆トーバツ会議!』と大きく記した。会議の進行を務めるのはもちろんガイだ。

 

「奴も最後の一撃で痛手を負ったはずだが、怪獣の自然治癒速度なら明日にはもう全快しててもおかしくはない。それまでに奴を倒す手段を講じておきたい。ずるずる戦いを長引かせたら被害は増すばかりだからな」

 

 ガイが会議の目的を明確にすると、貴音が最初に口を開いた。

 

「オーブオリジンを見せて逃げられたのは少々痛いですね。向こうもオーブカリバーを警戒してしまったことでしょう」

「俺もそう思う。だから今度は別の形態で奴に通用しそうなのを選出して、そいつで行こうと思う」

 

 ガイがうなずくと、亜美が張り切って意見した。

 

「破壊力だったらパワーストロングだよ! あのマッチョなボディからのパンチは流石に受け止められないよー」

 

 だがすぐに伊織に反論された。

 

「でもあんな重たい身体で肝心の攻撃を当てられるかしら。向こうは宙を自在に飛ぶことも出来るのよ」

「うっ……それもそっか」

 

 言葉に詰まる亜美。攻撃、防御、そしてスピード。この三つを全て兼ね備えているのが改造ベムスターの厄介な部分であった。

 他のアイドルたちも話し合う。

 

「スピードも重要なんだけど、パワーもなかったら意味ないし……。なかなかに難しいね……」

「普通のフュージョンアップじゃまず無理だろうね……」

 

 真や響が相談していると、春香が挙手してガイに提案した。

 

「サンダーブレスターかサンダーストリームならいけると思います!」

 

 しかしガイは、美希と律子――特に律子の様子を一瞥して答えた。

 

「いや――考えたんだが、あの怪獣はブレスターナイトで倒そうと思う」

「えっ!?」

 

 アイドルたちが、律子が驚いて顔を上げる。

 

「でも、ブレスターナイトは一度負けてるじゃないですか。それなのにどうして……」

「いや、あれが本当の力じゃない。俺たちはまだ、ブレスターナイトの真の力を引き出していないんだ」

 

 ガイは美希と律子の後ろに回って、二人の肩に手を置く。

 

「それが出来るのはこの二人だ」

 

 指名された片方の律子は困惑する。

 

「で、ですがプロデューサー、どうやったらそんなことが……」

「決まってるだろ?」

 

 ガイは不敵な笑みを返して告げた。

 

「特訓あるのみだッ!」

 

 

 

 特訓、を宣言したガイは律子と美希の二人を連れて、レッスンスタジオまでやってきた。そして二人へ告げる。

 

「さっきも言ったが、俺たちはブレスターナイトの力を完全に引き出せてない。ゾフィーさんとヒカリさんはウルトラ戦士の中でも優れた力と知恵を持ったお人。その真の力を以てすればあらゆる宇宙怪獣にも互角に戦えるが、もちろん力は強いほどに扱いが難しくなる」

 

 美希たちは当初のサンダーブレスターを思い返す。あれも完全制御までに時間が掛かったものだ。

 

「だからこんな状況になってる訳なんだがな」

「それでプロデューサー、そのための特訓というのは一体何をするんでしょうか」

 

 律子が問いかけると、ガイがその説明に移った。

 

「今までお前たちみんな、互いの息を合わせて二人でのフュージョンアップを可能としてきた。だが今度は、それこそ一分の狂いもないほど呼吸をシンクロさせないと駄目だ。そこで……」

 

 言いながらドン、と床にコンポを置くガイ。

 

「やることは単純だが、これから教えるダンスの練習を通して二人の呼吸を一致させる。当然ながら、ただ踊るだけじゃなくて互いの動きをピッタリ合わせないといけないぜ。それが出来るまで終わることは出来ない! 用意はいいか?」

 

 覚悟を問われて、美希、律子の順番に返答する。

 

「もちろんなの! いつでも始められるよ!」

「わ、私もです!」

「よし。それじゃあすぐに開始するぞ! 着替えてこい」

「「はい!」」

 

 トレーニングウェアに着替える最中、律子は美希を横目でながめながら考える。

 

(最近は少しはマシになってきたけど、美希は才能はあってもぐうたらな子。ここは私が年上として、しっかりリードしないといけないわね……)

 

 律子の脳内によぎるのは、765プロに入社してからこれまで見てきた美希の姿――。

 

『あっ、律子なのー』

『律子さん! でしょう!? 年上はちゃんと敬いなさい!』

『えぇ~……? いいじゃんそんなの、ドーリョーなんだから』

『良かないわよ! 親しき仲にも礼儀あり! 大体あんたは他人に対する敬意が足りないの。そんなんじゃ将来苦労するわよ……!』

『うえぇ~……』

 

 美希は出会った当初から生意気な態度で――。

 

『美希! またこんなところで昼寝なんかして! レッスンはどうしたの!?』

『あふぅ……眠たいからお休みするの……』

『そんな舐めたこと通ると思ってるの!? とっとと起きなさいっ! サボりなんて許さないわよっ!』

『やー!』

 

 しょっちゅうレッスンをサボろうとして――。

 

『美希ぃっ! 真面目にレッスン受けなさいって何度言われたら分かるの! トレーナーさんからまた苦情が来たわよ!』

『えー? ミキはちゃんと出来てるからいいじゃん』

『そういう問題じゃないの! 全くあんたって奴は、自分の才能にあぐらをかいて……プロデューサーもちゃんと言い聞かせてくれないから美希が甘ったれるんですよ!』

 

 レッスンに出たら出たで真面目にやらないし――そんなこんなでいつも頭を悩まされていた。

 だからここは自分が引っ張らないといけない……そう考えて、特訓を開始したのだが……。

 

「律子! またターンが遅れたぞ! これで四度目だ!」

「あっ! す、すみませんっ!」

「そこのステップは左足からだ! もう一度最初からだ!」

「すみません……!」

 

 実際にガイから叱責されてばかりなのは、自分の方であった。ガイが用意したダンスは、もう大分アイドルとしての経験を積んでいるはずの今の律子でも難しいもので、何度もとちってしまっていた。

 対する美希は――完璧にやり遂げていた。たった一度のレクチャーだけで頭から最後まで覚え切り、少しの間違いもなく踊っていた。しかもその集中力は尋常ではなく、何度律子がミスしようとも一瞬たりとも途切れていなかった。

 先ほど律子が回想した人物像とは、正反対の顔つきが美希から窺えていた――。

 

(こ、これが美希なの……? そりゃあ最近はやる気になってるのは知ってたけど、まさかここまでなんて……)

 

 律子は汗だくになりながら愕然とする。美希はまだまだ手の掛かる甘えん坊だと思っていたのに……その評価は、全く外れていた――。

 

「……一旦休憩にするか。流石に体力が持たなそうだ」

 

 律子が膝に手を突いてぜいぜい息を切らしていても、美希の方は背筋を伸ばしたままであった。美希は疲労困憊の律子を気遣う。

 

「律子…さん、大丈夫? ミキ、ちょっと速かったかな?」

「そうだな。美希、この特訓の肝は律子との呼吸を合わせることだ。もうちょっと律子に合わせることを意識するべきだ」

 

 ガイが注意し、美希が返事をするのを――律子がさえぎった。

 

「いえ……美希は何も悪くありません。私がついていけてないだけです……」

「律子…さん?」

 

 美希が律子へ振り返り、ガイは目を細めて律子を見つめる。

 律子はうつむき加減で語った。

 

「初めは、私が美希をリードしないとって思ってました……。でも本当は分かってたんです。美希はもう、私にリードされる必要のないくらい成長してるって……。でも、それを認めたくなかった。認めるのは……とっくに追い抜かれてるってことを受け入れるってことだから……」

「……」

「それだけじゃない……私は、765プロの誰よりもアイドルの才能がありません。客観的に見れば、私の成績が一番劣ってるのは一目瞭然です。先の戦いだって、私が怪獣を取り逃がしたようなもの……。でもそれを認めたくなかったから、心の中で虚勢を張ってました。だけど……もう認めざるを得ません。このまま行っても、私は足を引っ張るだけだって……。プロデューサー、やっぱり春香の案を採用して……」

 

 特訓の辞退を申し出る律子の言葉を、今度は美希がさえぎった。

 

「そんなことないよっ!」

「美希……?」

 

 美希は律子の手を取り、じっと瞳を見つめながら熱弁する。

 

「律子…さんは、ずっと765プロのために頑張ってきたの。ミキたちは、半分は律子…さんに支えられてきて、キラキラ輝けるようになったんだよ。最初はぐうたらだったミキのことも、あきらめずに面倒見てくれてた。そんな律子…さんが、みんなの足を引っ張る訳なんてないの! 弱音なんて言わないで。このままでいいの? そんなわけないよ!」

 

 懸命に訴えかける美希が、告げる。

 

「出来ないなんて言わないで。一緒だったらどこにだって行けるの。ね? ……律子さん」

「美希……!」

 

 美希の言葉を受け止めて、律子が表情を変えて、ガイに振り向いた。

 

「プロデューサー……やっぱり、続きをお願いします! 何度つまずいたって、私はやり遂げますからっ!」

 

 律子の顔つきを見て取ったガイは、口元をほころばせた。

 

「先に心が一つになったみたいだな……。その調子なら特訓完了も遠くないッ!」

 

 二人を鼓舞して、ガイが特訓の再会を宣言。

 

「よぉし、行くぜッ! 言うまでもないことだが、張り切ってやれよ!」

「「はいっ!!」」

 

 コンポが再生を始め、美希と律子はダンスを再開。二人とも、先ほどよりも更に激しく、しかし生き生きとして。

 

「高く!」

「高く!」

「高く!」

「高く!」

「「もっと高くへ! 私たちは行けるっ!!」」

 

 二人の特訓は、ガイが営業のために離れてからも、途切れることなく続いた――。

 

 

 

 そして翌日の早朝。

 

「カ―――ギ―――――!」

 

 ひと晩経過して完全に傷を癒やした改造ベムスターは、早速再び都心に着陸して街の破壊を始めた。その現場に、カメラを手にした亜美と真美が駆けつけてくる。

 

「昨日逃げた宇宙怪獣が再度現れました! オーブも苦戦した大怪獣に、東京はどうなってしまうのか!」

 

 熱く実況する真美に、亜美がそっと耳打ちする。

 

「兄ちゃんたちはどうなったんだろうね……? あの後どうなったか聞いてないけど……」

「どうなんだろ……。律っちゃんとミキミキ、特訓を終わらせたのかな……?」

 

 そのガイたち三人は――既にベムスターの正面にやって来ていた。

 

「おいでなすったか……。それじゃあ律子、美希」

 

 無人の車道の上で、名前を呼ばれた二人が固くうなずく。

 

「見せてやろうぜ! お前たちの成果をッ!」

「はいっ!」「うんっ!」

 

 美希がゾフィーのカードを、律子がヒカリのカードを握る。

 

「ゾフィーっ!」

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

 

 美希がカードをオーブリングに通すことで、ゾフィーのビジョンが美希の隣に立った。

 

「ヒカリさんっ!」

[ウルトラマンヒカリ!]『メッ!』

 

 律子の隣には、ヒカリのビジョン。そしてガイがリングを掲げる。

 

「栄えある力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ゾフィーとヒカリのビジョンと、美希と律子が、オーブと融合する!

 

『ヘアッ!』『テェアッ!』

[ウルトラマンオーブ! ブレスターナイト!!]

 

 膨大な輝きと結晶の渦の中から、赤と青の身体のオーブが飛び出してベムスターの前に着地。そして――颯爽と右腕を横に流すと、バサッと青いコート型のマントが現れ、オーブに羽織られた。胸には燦然とスターマークが輝く。

 この姿こそが、ゾフィーの武勇とヒカリの叡智によって誕生する、真のブレスターナイトだ!

 

(♪ウルトラマンゾフィー(インストゥルメンタル))

 

『俺たちはオーブ! 光の誉れ、只今参上!!』

 

 堂々と名乗り口上を発したオーブに、改造ベムスターがいきなり両眼から散弾光線を発射する。

 

「カ―――ギ―――――!」

「ムンッ!」

 

 それをオーブは――全く動じず、胸を張っただけ!

 その胸筋により光線は完全に受け止められ、オーブは一切のダメージがない!

 

「!?」

 

 あまりのことに衝撃を受けるベムスターだが、すぐに意識を切り換える。今度は腹部の口からより強力な破壊光線を放射。

 

「「『ナイトZブレード!!!」」』

 

 対するオーブは右腕より光剣を伸ばし――光線を切り裂きながら前進!

 

「オォォォリャアッ!」

 

 光線を切り払いながら距離を詰めて、ベムスターに斬撃を浴びせる。

 一戦目では難なく受け止められた攻撃だが、今度はベムスターの爪を粉砕して本体の表面を切り裂いた!

 

「カ―――ギ―――――!」

 

 深手を負うベムスターだが負けじと反撃を仕掛ける。――が、オーブの剣圧に押されて腕はあっさりと弾かれた。

 オーブはがら空きのベムスターのボディに、光剣の乱撃を入れた。

 

「ジェアァッ!」

「カ―――ギ―――――!」

 

 ベムスターから激しく火花が飛び散る。オーブの圧倒的な優勢に、亜美と真美はピョンピョン飛び跳ねて大喜びしていた。

 

「やったー! すごいぞオーブ兄ちゃーんっ!」

「何て強さだー! 怪獣がタジタジだぁーっ!!」

 

 そしてオーブの中では、律子と美希が手を取り合いながらベムスターを見据え、オーブの身体を動かしていた。

 

『「いけるわ! 私たち、この力を使いこなしてるっ!」』

『「うんっ! 今のミキたちはサイキョーなのー!!」』

 

 二人は飛び抜けた努力と集中力により、昨晩の内には既に特訓を終え、心と呼吸を完全にシンクロさせることに成功させていたのだ!

 ベムスターは昨日とはまるで別人のような強さのオーブに大混乱し、たまらず空に飛び上がっての逃亡を図る。

 

「カ―――ギ―――――!」

『またも逃がすかッ!』

 

 だが足をオーブに捕らえられ、地上に引きずりおろされて叩きつけられた。

 

「シェエアッ!」

「カ―――ギ―――――!」

 

 ショックで痙攣するベムスター。その隙にオーブが宙に舞い上がってベムスターを見下ろし、右腕を肩の上に掲げた。その手先が激しく光る。

 

「「『ナイト87シュート!!!」」』

 

 膨大な輝きの光線がベムスターに命中!

 ベムスターは光線を呑み込む暇もなく、途轍もないエネルギーを一身に受けたことで大爆発。その肉体は黒い煙となって霧散していった。

 

「シュウワッチ!」

 

 改造ベムスターを圧倒したオーブはマントを翻し、そのまま空の彼方へ飛び去っていく。その後ろ姿に、亜美と真美は笑顔で大きく手を振っていた。

 

 

 

「……というのがおおまかな顛末だ」

「ほんとあの時の兄ちゃんたち、すごかったよねー!」

「律っちゃんもミキミキも、すっごい頑張ったんだって!」

 

 戦闘終了後、ガイと戦いを見届けていた亜美、真美が春香たちへ説明を終えた。

 話を聞いた春香たちはわっと盛り上がる。

 

「よかったぁ~! 美希も律子さんも、あの力を使いこなすことが出来て!」

 

 皆、美希と律子の努力とその成果を自分のことのように喜んでいたのだが……そんな中で伊織が苦虫を噛み締めたような顔になった。

 

「その余韻で律子の奴……あんな感じになったのね……」

 

 伊織たちが振り返ると――律子が美希の手を引っ張ってやって来た。

 

「みんなっ! 何をぼやぼやしてるの!? 仕事の人は早く現場に! レッスンのある人はすぐにスタジオへ! 時間を無駄にしてたらもったいないわよーっ!」

「り、律子…さん、何もそんなに張り切らなくても……」

 

 美希が苦笑いしながら律子をなだめようとしたが、振り向いた律子の目には情熱の炎がまざまざと燃え上がっていた。

 

「何言ってるのよ! 私たち765プロの快進撃はまだまだこれからよ! 足を止めてちゃ勢いがしぼんじゃうわ! このまま一直線にトップアイドルの道を駆け上がるのよ~!!」

「は、はぁ……」

 

 律子のものすごい熱意に、真剣になった美希でさえ引き気味であった。

 律子は特訓の中で芽生えた熱い感情が今になってもまだ収まり切らず、今まで以上に熱心な……言い換えればひどく暑苦しい性格になってしまったのだった。

 そして律子の熱意は、冷や汗を垂らしている春香たちにも飛び火する。

 

「ほらほら何ぼさっとしてるの! 立ち止まってる暇はないって言ったでしょ!? 早く支度するっ! さぁさぁ早くっ!!」

「ち、ちょっと待って下さいよ律子さ~ん!」

「プロデューサーも突っ立ってないで! あなたが動かないことには私たちは始まらないんですよ!」

「わ、分かった分かった! 分かったから押すなって!」

 

 しつこく急かす律子にすっかり参るアイドルたちやガイの様子を、小鳥と高木が苦笑いを浮かべてながめていた。

 

「律子さん、すっかりたくましい感じになりましたね~……」

「ははは……まぁいいことではあるよ。やる気があるというのは……」

「小鳥さんも社長も! お二人は年長者なんですから、特にみんなを引っ張らないと駄目ですよぉっ!」

「ひぃっ!?」

 

 しかしそんな二人にも律子の激が飛んできて、思わず悲鳴を上げてしまう小鳥たちであった。

 このように765プロはしばらくの間、皆が律子に振り回されてくたくたになったのでしたとさ。ちゃんちゃん。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

やよい「高槻やよいですぅ~! 今回ご紹介するのはー、うっうー! ウルトラの母ですぅーっ!」

やよい「ウルトラの母は『ウルトラマンタロウ』で初登場した女の人のウルトラマンです。その名前の通りウルトラの父の奥さんで、タロウさんはこの人の子供なんですよぉ。治療を専門とする銀十字軍の隊長さんで、普段はウルトラクリニック78で働いてます。本名はウルトラウーマンマリーさんって言います」

やよい「その役職の通り、誰かを助ける時は大抵、身体を治したりアイテムをあげたりといった裏方での活躍です。でも『タロウ』第三話でライブキングを倒すだけの光線をタロウさんと一緒に撃ったりと、戦闘が出来ない訳じゃないところを見せてますぅ」

やよい「基本的にウルトラ兄弟を助けるのはゾフィーさんやウルトラの父、ウルトラマンキングさんの場合が多いので、ウルトラの母の出番はそう多くはないんですが、登場する時はまさにお母さんみたいな優しさでみんなを導くんですぅー!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『BRAVE STAR』だ!」

ガイ「『MASTER PRIMAL ROCKIN’ RED』収録の、比較的新しい歌だな。「勇気の星」を意味するタイトル通り、かなり熱い内容の歌詞が特徴だぞ!」

やよい「うっうー! 私もやる気に溢れてるのは大好きですよー!」

やよい「それじゃ、次回もよろしくお願いしまーすっ!」

 




 如月千早です。プロデューサーたちが以前倒したはずのハイパーゼットンが出現しました! 私たちはその現場にいつも居合わせる少女を捜し始めたのですが、その先に行き着いたのは……え? 私のお母さん……!?
 次回『蒼いリボンの少女』。お母さんと少女にはどんな関係が……?


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蒼いリボンの少女(A)

 

「ハイパーゼットンを育てて、何するつもりだった?」

『お前を倒せば……俺の名が上がる……!』

『どうして勝つことが出来た……。ゼットンが恐ろしくなかったのか……!?』

「あいつらのために、プロデュースしてる俺が怖気づく姿なんか見せられるかよ」

「母です……。でももう母親だとは思ってません」

「間違っても、そんなことを言うもんじゃない」

「話すべきことは山ほどあるんだからね……お母さん」

「お母さんのこととか、過去のこととか、整理がつきそうか?」

「いきなりは無理です。でも……」

「近い内に、お母さんとも完全に仲直りします」

 

 

 

『蒼いリボンの少女』

 

 

 

 ――私がその不思議な少女と出会ったのは、いつもの街の雑踏の中でのことでした。

 

「……?」

 

 私、如月千種はある日、街の往来でただ一人、ポツンと立ったままでいる女の子に目を留めました。その子は朝から、夕方になっても恐らくはずっと同じ場所で立ったままだったのです。

 家出をしたのか、他に何か事情があるのか……ともかく気に掛かった私は、その子に話しかけてみました。

 

「こんにちは」

「……?」

 

 少女はマーヤという名前以外、何も覚えていることがないと言いました。記憶喪失……警察にも届け出てみましたが、彼女の捜索願は出ていませんでした。

 身元が分かるものも何一つ持っておらず、所有物といえば何故か外すことの出来ない腕輪だけ。そんな行き場のないマーヤちゃんを……私は思うところがあって、自分の家に預かりました。

 

「マーヤちゃん、今日からここを自分の家だと思ってくれていいからね」

「お邪魔します……」

 

 それからしばらく、私とマーヤちゃんは本当の母娘のように暮らしました。私も……失った時間を取り戻すかのように、マーヤちゃんに親身になって接しました。

 ……私は昔、幼い息子を亡くしてから、ずっと孤独でした。夫は私の元から去り、娘も私に愛想を尽くして、家を出ていきました。寂しかった……。私がマーヤちゃんを預かったのは、彼女への同情ではありません。自分の側にいてくれる人が欲しかったからだと思います……。

 そんなある日、私はマーヤちゃんに、在りし日の家族のアルバムを見せました。

 

「千種さん、この子たちは?」

「私の子供よ……。男の子の方は、もう遠いところへ行っちゃったけど……娘は、人気アイドルとして活躍してるの」

 

 私は娘――千早の出演した番組の録画や、芸能記事のスクラップ帳を見せてあげました。あの子がアイドルデビューをしてから、その収集は欠かしたことがありません。

 

『蒼いぃー鳥ぃー、もし幸せぇー……♪』

 

 マーヤちゃんは、すぐに千早のことを気に入ってくれました。

 

「素敵な歌声……! 千種さんの娘さん、すごいアイドルなんだね!」

「ええ……」

「……? 千種さん、寂しそう……。娘さんと何かあったの?」

「……いいえ、大丈夫よ。心配してくれてありがとう」

 

 千早とはずっと疎遠になっている、ということは言えませんでした。以前よりは関係は修復されたとはいえ、あの子は今や世間から引っ張りだこ。私の勝手であの子の邪魔をする訳にはいきません。直接会ったのも、奈良沢ダムでの時が最後……。

 マーヤちゃんには、千早の代わりをさせている、なんて思わせたくはありませんでした。

 

「……」

 

 マーヤちゃんは興味深そうに千早の記事をながめていましたが――不意に、その内の一つに目を留めました。

 その写真には、千早のプロデューサーさんが一緒に写っていました。

 

「ああ、その人は千早のプロデュースをしてる人よ。千早も随分お世話になってるんですって」

 

 私の説明を聞き流すほどに、マーヤちゃんは写真に食い入っていました。

 

「……?」

 

 私は何だか、その様子に変な予感を覚えました。――マーヤちゃんまでが、遠いところへ行ってしまうような、そんな――。

 

 

 

 ――765プロ事務所で、ガイや春香たちがネットに投稿されたある動画を注視していた。

 

「この怪獣って、やっぱり……」

 

 春香がつぶやくと、伊織が固い面持ちでうなずく。

 

「春香が誘拐された時……私と真が最初にハリケーンスラッシュになった時に戦った奴とそっくりね」

 

 動画の中では、空に浮遊する怪獣――ハイパーゼットンデスサイスの姿に恐れおののいた市民が逃げ惑っていた。最近投稿されたばかりの動画だ。

 パソコンを操作している律子が、動画について説明する。

 

「再び現れたこの怪獣は、何の前触れもなく現れては、暴れるでもなく突然消えるを繰り返してる。そしてもう一つ、目撃情報が飛び交ってるのが……」

「この少女ってこと?」

 

 千早が動画の隅に映り込んだ、蒼いリボンを身につけている少女の後ろ姿を指差した。

 

「ええ。通称、蒼いリボンの少女。あの怪獣が現れる時、必ず現場にいる。しかも……」

 

 動画の中の少女が腕を持ち上げると、その腕が一瞬激しく光り……閃光とともに少女もハイパーゼットンも消えていた。

 

「怪獣が消えると一緒に姿を消す。怪獣と何か関係があるのは間違いないわね……」

「怪獣を操ってた宇宙人の仲間じゃないの?」

 

 美希が質問すると、律子はその可能性を否定した。

 

「仲間がいたんだったら、あの時一人で戦わなかったはずよ」

「じゃあ、こいつは一体何者なんだ」

 

 ガイの問いかけに肩をすくめる律子。

 

「それは調べてみないと分かりませんね。目的が分かれば、すぐにでも突き止められるところなんですが……」

 

 蒼いリボンの少女について、美希と伊織が意見を交わす。

 

「捜そうにも、怪獣が出てくる時以外じゃ目撃されてないんだよね。見つけ出せるかな?」

「赤いリボンの少女だったらここにいるんだけどねぇ」

 

 春香を指差して嘆息する伊織。一方で律子はハイパーゼットンと少女の目撃情報の地点をパソコン上で纏める。

 

「怪獣と少女の出現、消息地点から推測すれば、行動範囲は絞り込めるわ。その中に行動拠点がある可能性は高いわね」

 

 そう語る律子に指示を出すガイ。

 

「すぐやってくれ。今はまだ目立った動きはないとはいえ、このまま何もしないでいる保証はない。早急に手を打たなくちゃな」

「でも、前に一度やっつけた奴じゃないの。暴れ出したところで、また倒してしまえばいい話じゃない」

 

 楽観する伊織だが、それを咎めるようにガイは言った。

 

「いや、ゼットンはエネルギーを蓄えるほどにどんどん強さを増していく怪獣だ。一回目の戦闘から大分日にちが経ってる……。次も同じように倒せるとは限らないぜ」

「えっ、そうなの……?」

 

 伊織が若干青ざめていると、律子が早くも少女の行動範囲を割り出していた。

 

「出たわ! 少女の方は、この地域に潜伏してる可能性が大ね」

「よくやってくれた。どれどれ……」

 

 ガイたちは律子が赤く染めた地図の一点を確かめた。

 すると変な声を上げた者が一人いた。――千早だった。

 

「えっ? そんな……ここって……!」

「千早ちゃん?」「千早さん?」

 

 春香、美希らは怪訝そうに千早に振り向いた。

 

 

 

 ガイたち一行は、律子が絞り込んだ地域に実際にやって来た。

 

「調査の結果、あそこの家屋の縁側で、見かけない女の子がお茶を飲んでいたという目撃情報が得られたわ。果たしてその子が、件の蒼いリボンの少女なのか……」

 

 律子が視線を送った先の一軒家……それを見つめた千早が、ポツリと声を漏らした。

 

「やっぱり……。でもまさか、よりによってここだなんて……」

「千早、一体どうしたの? あの家に見覚えでも?」

 

 様子の変な千早に伊織が問いかけたら、千早は意外なことを口走った。

 

「見覚えがあるも何も……ここは私の実家よ!」

「ええっ!?」

 

 一同、仰天して千早に振り向いた。

 

「もっとも、親は離婚して父は家を捨てていったから、ここに住んでるのはもう母だけなんだけど……。そこに女の子なんて……」

「あっ、ほんとだ! 表札『如月』になってるの!」

 

 表札を確認した美希が告げた。春香は伊織と顔を見合わせる。

 

「でも、まさか行き着いた先が千早ちゃんの実家なんて……」

「よりによって千早のお母さんが怪獣と関係してる? まさか……」

「誰が相手だろうとも、とにかく聞き込みをしてみようぜ。話はまずそれからだ」

 

 家のインターホンを押すガイ。「はーい」と中から返事があり、数秒後に玄関の戸が開かれて、当然ながら千早の母親――如月千種がその顔を見せた。

 千種は千早の顔を目の当たりにして、大きく目を剥いた。

 

「!? 千早……いきなりどうしてここに……?」

「お母さん……今日は、ある用事のために来たの」

「用事……? 何かしら……」

 

 問い返された千早が、蒼いリボンの少女の写真を見せた。

 

「この女の子を捜してるの。何か知らないかしら?」

「っ!」

 

 千種は一瞬固まったものの――

 

「ごめんなさい、知らないわ……」

「本当……? ここに見かけない女の子がいたって話も聞いてきたんだけど」

「……いいえ、何かの間違いじゃないかしら」

 

 千種の回答に――千早は若干据わった目で、彼女の顔を見つめた。

 

「お母さん……正直に話してるのよね。何も隠し事をしてないと、私に言ってくれる?」

「……」

 

 千種が妙に口ごもっていると、この場に渋川が駆け込んできた。

 

「おーい! お前たちー!」

「渋川のおじさん!? どうしたんですか、そんなに慌てて」

 

 目を丸くした伊織が尋ねると、渋川は焦った口調で告げた。

 

「避難しろ! すぐに逃げるんだ!」

「え?」

「あれを見ろッ!」

 

 渋川が指差した先の空には――動画に映っていたように、ハイパーゼットンデスサイスが空に漂っていた!

 

「あれはっ!?」

 

 真っ先に動いたのはガイだった。――渋川の言う通りに避難するどころか、ハイパーゼットンの方へと駆け出していった。

 

「おい待てッ! プロデューサー君!」

「怪獣の近くに、私たちの捜してる子がいるはずよ!」

「はいっ! 765プロ、ファイトぉーっ!」

 

 律子や春香たちアイドルもまた、ガイの背中を追いかけるように走り出した。

 

「おいお前たち! おーいッ!」

 

 渋川も彼女らを止めようと走っていくと、一人残された千種は顔色を変えて家の中に駆け込んでいって、居間に飛び込んだ。

 ――そこには広げられたアルバムがテーブルの上にあるだけで、人っ子一人の姿もなかった。

 

 

 

 大勢の市民の避難の波を逆流してハイパーゼットンの元に近づいていった春香たちは、蒼いリボンの少女の姿を求めて辺りを見回した。

 

「この近くにいるはず……」

「あっ、いた! あそこなの!」

 

 美希が指し示した先に、動画で見たのと全く同じ、蒼いリボンを後頭部に結んだ少女が、空に浮かぶハイパーゼットンに向けて手をかざしていた。

 その右腕に嵌めている腕輪から紫色の光が漏れ出ると、それとシンクロするようにハイパーゼットンの身体からも同じ光が沸き出ていた。

 

「怪獣を操ってるの……?」

「みたいね……。だけど、何をさせるでもなく浮遊させたままなんて……どういうつもりなのかしら」

 

 伊織と律子がつぶやき、ひとまず様子を見る一同。しかし春香があることに気づいた。

 

「あれ、プロデューサーさんがあんなところに!」

「えっ!?」

 

 見れば、少女の背後からガイがゆっくりと近寄っていっていた。

 ガイは少女に呼びかける。

 

「お前……何者だ」

 

 振り向いた少女が、ガイに口を開く。

 

「紅ガイ……今度こそ、お前の最期だぁぁぁっ!」

 

 叫びとともにガイに襲い掛かってきた! 少女の攻撃をガイは咄嗟に受け止めて防御する。

 

「プロデューサーさんに攻撃してるっ!」

「やっぱり敵なの!?」

「とにかく、プロデューサーを助けに……」

 

 律子が言いかけたが、それを千早がさえぎる。

 

「ま、待って! あれっ!」

 

 千早が指差したハイパーゼットンが激しいスパークを起こすという、ただならぬ様子を見せた。アイドルたちは悪寒を覚えてサッと青ざめる。

 

「ぜ、全員退避ぃーっ!」

「でもハニーが!」

「ここはひとまずプロデューサーに任せるのよ!」

 

 律子たちが慌てて逃げていく中、ガイは少女の攻撃をさばき続けるだけであった。そんなガイに少女が言う。

 

「どうした。小娘相手に何を躊躇う」

「……」

「調査通り甘い奴だ。一気に片をつけてやっ……!」

 

 ほくそ笑んでガイにとどめを刺そうとした少女だったが、急にその身体から力が抜け、ガクリと倒れ掛かったのをガイが支えた。

 一方で春香たちは大急ぎでハイパーゼットンから逃げていたのだが……。

 

「あぁっ!?」

 

 どんがらがっしゃーん!

 途中で春香がずっこけてしまった。

 

「もぉ~こんな時に何やってるのよぉ!」

「ごめぇん……」

 

 伊織と千早に手を貸されて起き上がる春香だったが……そこにハイパーゼットンが空から急速に落下してきた!

 

「あぁぁぁぁ!? こっち落ちてくるぅぅぅぅぅぅぅぅっ!?」

「いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 悲鳴を上げるアイドルたち。気づいたガイは少女を近くに寝かせて駆け出したのだが――。

 

「――あ、あれ……?」

 

 ハイパーゼットンは閃光とともに、その姿をかき消していた。唖然とする春香たち。

 

「……!」

 

 そしてガイが先ほどの少女へと視線を戻すと――少女もまた、忽然と姿を消していた。

 

 

 

 その頃、如月邸では千種が居間をうろうろしながら気を揉んでいた。

 

「マーヤちゃん……どこへ行ってしまったの……」

 

 とつぶやいた瞬間に、庭でドサリという物音が起こる。

 

「!」

 

 即座に窓へと駆け寄ると、庭の真ん中に蒼いリボンの少女――マーヤが倒れているのが目に入った。

 

「マーヤちゃんっ!」

 

 千種はすぐにマーヤへと駆け寄り、彼女を抱き起こす。マーヤはすぐに目を覚まし、千種の顔を見上げて顔を歪めた。

 

「千種さん……私、また……!」

 

 千種はマーヤのことを強く抱き締める。

 

「大丈夫よ……。どんなことになろうとも……私がついてるから……!」

 

 

 

 一旦事務所に戻った春香たちは、渋川から事情を聞いていた。

 

「千早ちゃんには悪いんだが、少し前からあの家を監視させてもらってた。こっちもあの少女と怪獣に何か関係性があるとにらんでるんでな」

「それで、あの少女が千早の実家にかくまわれてるというのは確かなんですか?」

 

 伊織の問い返しにはっきりと肯定する渋川。

 

「間違いねぇ。如月千種……つまり千早ちゃんのお母さんがあの子を世話してるところを目撃済みだ」

「千早さん……」

 

 美希たちは千早のことを気遣う。千早はソファに腰を落としながら、困惑の色を見せていた。

 

「お母さん、どうして……」

「そうだよね……。そのこと、どうして千早ちゃんにも話してくれなかったのか……」

 

 春香も重い面持ちでいると、ハイパーゼットンと少女の解析をした律子が皆に告げた。

 

「これを見て。あの時の少女の発光パターンと怪獣の音声、この二者は酷似した波長を示してるわ。これで少女が怪獣と関係あることが立証されたわね」

「さっすが律子ちゃん! やるなぁおい!」

 

 律子を褒めたたえる渋川。しかし春香は千種の方を気に掛けたままだった。

 

「千種さんも何も気づいてない訳ないと思う……。なのにどうして……」

「脅されてるのか……もしくは操られてるのか」

「そんな風には見えなかったけど……」

 

 伊織と美希が相談している一方で、千早は不安げな目で、ガイと視線を合わせた。

 

 

 

 如月邸では、千種がマーヤにワンピースの洋服を差し出していた。

 

「マーヤちゃん。昔のお洋服、仕立て直してみたの」

 

 マーヤが服を受け取って、己の身体に合わせてみる。

 

「よく似合ってるわぁ。そうだ! 千早が帰ってきたら、みんなでお出かけしてみましょう」

「お出かけ!? ほんと!?」

 

 そう聞いたマーヤの顔が輝く。

 

「ええ。きっと千早も、近い内に帰ってくるわ。そしたら三人一緒に……」

「やったっ!」

「三人一緒にずっと……暮らせたらいいのにね……」

 

 千種が小さく独白したその時、玄関から呼びかける声が聞こえた。

 

「すみませーん」

「あら、お客さん? マーヤちゃん、ちょっと待っててね」

 

 千種が応対に玄関に向かい――そこに立っている人物の姿に仰天した。

 

「っ!!」

「どうも、お邪魔します」

 

 愛想笑いを浮かべて会釈したガイとは対照的に、千早は恐い顔を千種に向けていた。

 

 

 

 ガイと千早は居間で、千種とマーヤとともにテーブルを囲んで、ガイが手土産として持ってきた串団子で一服する。

 

「君、俺のこと覚えてるか?」

 

 ガイはマーヤに尋ねかけたが、マーヤは首を振るばかりだった。

 

「ううん……分からない」

 

 一方で千早は、責めるように千種をにらんでいる。

 

「……やっぱり、いたんじゃない」

「ごめんなさい……。でも、マーヤちゃんのことを世間に知られたくはなかったのよ。この子が好奇の目に晒されるなんてことはさせられないから……」

 

 マーヤは千早とガイに向けて告げる。

 

「私、ここに来るまでの記憶がないの」

「記憶が……?」

「うん……。千種さんが一緒に住もうって言ってくれるまで、ずっと空っぽだった」

 

 そう語るマーヤの顔を、千早はじっと観察している。

 

「千種さんが色んなことを教えてくれたから、空っぽじゃなくなったの」

 

 ガイは肘で千早を小突いた。

 

「あんまりお母さんを責めてやるな。彼女を助けようと思ってのことだ」

「ですけど……」

 

 千早が何か言い返そうとしたが、それをさえぎってマーヤが言った。

 

「でも、時々……私が私でなくなる時がある」

「私でなくなる時……?」

「真っ暗な記憶だけがあって……何も覚えてないの」

 

 ガイと千早は、静かに目を合わせた。

 

「千種さんは、悪い夢を見たんだって言ってくれるけど……怖いの。いつか、千種さんのことも忘れて……真っ暗に染まった私になっちゃうんじゃないかって……」

 

 話を聞いた千早は、マーヤには聞こえないように千種に耳打ちした。

 

「お母さん……あの子は、ビートル隊に預けるべきよ」

「えっ!? でも、そんな……!」

「気づいてるんでしょう? あの子は怪獣と関係してる……。このままだと、直に大変なことになるのよ……!」

 

 千早に説得されても、千種は迷いばかりであった。

 

「でも……だけど……!」

「お母さんっ!」

 

 千早がつい声を荒げた時――マーヤがはっと顔を上げて、窓の外を見やった。

 

「どうした?」

 

 釣られて窓の外を覗き込んだガイたちも息を呑む。

 空には、再びハイパーゼットンデスサイスが浮かんでいるのだ!

 

「あ、あああ……!」

「マーヤちゃんっ!」

 

 ハイパーゼットンに怯えるかのように頭を抱えたマーヤ。かと思えば――次の瞬間に、ガイの首を両手で鷲掴みにして締め上げ出した!

 

「マーヤちゃん!? やめてっ!」

「プロデューサーに何をするの!」

「うううぅぅっ!」

 

 色めき立って制止する千種と千早だが、マーヤは収まらず、ガイともつれ合うようにして外へ飛び出していく。その現場に律子たちを乗せたトータス号が停車した。

 

「うあっ! うあぁっ!」

 

 ガイに蹴りを入れるマーヤの腕輪が黄色く発光している。その発光パターンを律子が解析する。

 

「怪獣の音声と完全にシンクロしてるわ!」

「早く何とかしないと……!」

「下がって下がってッ!」

 

 身を乗り出した春香たちを渋川が制止して、マーヤにスーパーガンリボルバーを向けた。

 

「とうとう本性を現したな宇宙人!」

 

 だが彼とマーヤの間に千種が割って入って、マーヤをかばった。

 

「撃たないで下さい! お願いですっ!」

「お母さんっ!」

「そこをどけッ!」

 

 マーヤをかばい立てる千種だったが、マーヤは突然男の声で哄笑を発した。

 

「フッフフフ……! 愉快だなぁ」

「マーヤちゃん……!?」

「危ない! 離れて!」

 

 千早が千種に飛びついてマーヤから遠ざけた。

 マーヤは先ほどまでと一転、醜悪な笑みを浮かべていた。

 

「紅ガイが攻撃できない姿を選んだつもりだったが、他にも盾になる人間が現れるとはな」

 

 マーヤから発せられる男の声に、春香と伊織が顔を見合わせた。

 

「あの声……!」

「やっぱり、あの時の宇宙人なのねっ!」

 

 伊織が指差して叫ぶと、マーヤは次のように答える。

 

「正確には、マドックのスペアだ」

「スペア?」

「作戦が失敗した時の保険として、紅ガイ抹殺を目的として生み出した人工生命体に、俺の意識を移しておいた。だが……」

 

 マーヤ……今はその身体を支配しているゼットン星人マドックの意識が、千種に侮蔑の視線を送った。

 

「こいつが下らない感情や情報を吹き込んでくれたお陰で、動作不良を起こしていた」

「そんなのって……!」

「ひどすぎるの……! 人の気持ちをもてあそんで……!」

 

 春香や美希たちが激昂して前に踏み出したが、ガイが顔を向けて視線で制止した。

 マドックは右腕の腕輪を高く掲げ、怪しい波動を発信する。

 

「これで終わりだ! ゼットォーンッ!!」

 

 マドックからの命令により、浮遊したままだったハイパーゼットンデスサイスは地上にワープし、遂に行動を開始した!

 

「ピポポポポポ……ゼットォーン……」

 

 ガイはたまらずに絶叫して駆け出す。

 

「ゼットーン! 俺はこっちだ!」

「プロデューサーさんっ!」

 

 それを追いかける春香。千早も同じように飛び出そうとしたが、美希がその前に回って止めた。

 

「千早さんは、お母さんの側に!」

 

 見れば、千種が知ってしまった真実によって立ちすくんでいた。

 

「お母さん……!」

 

 美希が千早に代わってガイを追いかけていく。

 

「焼き尽くせ! ハイパーゼットンデスサイス!」

 

 マドックの命令によって、ハイパーゼットンが火球を生成して街に向かって放とうとする。走るガイはまだハイパーゼットンの前方にはたどり着いていない。

 

「くッ、間に合え……!」

 

 急ぐガイであったが……急に、ハイパーゼットンがよろめいて火球も途中で消え失せた。

 

「ッ!」

 

 それと同時に、マーヤはその場に膝を突いて息を荒げていた。そして口を開く。

 

「駄目……絶対にさせない……!」

 

 それはマーヤ自身の声であった。

 マーヤの意識が、マドックの意識に反抗してハイパーゼットンの動きを封じているのだ。

 



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蒼いリボンの少女(B)

 

 マドックに抗うマーヤだが、マドックは荒々しく彼女の意識を押し込めようとする。

 

「邪魔をするなぁッ!」

 

 そしてマーヤの姿が、テレポートによって消えてしまう。驚く渋川たち。

 

「くっそぉ……どこ行きやがった!?」

「お母さん……!」

「行きましょう!」

 

 辺りを見回す渋川の一方で、千早たちは千種を連れてここから離れていく。

 ハイパーゼットンデスサイスが動きに異常を来たしている間に、ガイたちは正面まで回り込んだ。

 

「プロデューサーさん、やりましょう!」

「千早さんのお母さんの気持ちを台無しにしたこと、後悔させてやるの!」

「ああ……!」

 

 それまで立ち止まっていたハイパーゼットンだが、移動したマドックのコントロールによって今度こそ火球を発射する。

 

「ピポポポポポ……!」

 

 だがその寸前に、ガイがオーブリングにオーブオリジンのカードを通していた。

 

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

「オーブカリバー!」

 

 召喚されたオーブカリバーをガイがキャッチし、柄のリングを回して掲げる。その背中に春香と美希が手を置く。

 そして三人はウルトラマンオーブに変身し、火球を粉砕しながら着地した!

 

『銀河の光が、我らを呼ぶ!!』

「ゼットォーン……!」

 

 ハイパーゼットンデスサイスは即座にオーブへと駆け出し、両手のカマで斬りかかる。それを迎え撃つオーブ!

 

「トワァッ!」

 

 オーブはハイパーゼットンの繰り出す斬撃をかわし、剣で防御しながら抗戦。こちらの剣戟をハイパーゼットンが防いだ隙に蹴りを入れて突き飛ばした。

 

「シェアッ!」

 

 カリバーの振り下ろしを交差したカマで防御するハイパーゼットンだが、オーブは柄で相手を殴り、ひるませたところに後ろ回し蹴りを仕掛けて相手の腕を弾く。

 

「ゼットォーン……!」

「シュアッ!」

 

 ハイパーゼットンの防御を崩すと横薙ぎの一閃を繰り出したのだが、ハイパーゼットンは大きくのけ反って回避。次いでオーブは剣を振り上げて唐竹割りを仕掛ける!

 

「ヘアァーッ!」

 

 だがハイパーゼットンはテレポートで逃げ、空振りしたカリバーの切っ先が地面に深く突き刺さってしまった! 勢いが仇となってしまった。

 

『「あっ、しまった!」』

 

 すぐに抜こうとするオーブだが、その背後にハイパーゼットンが現れる。オーブはやむなく一旦カリバーから手を放し、振り向きざまに前蹴りで迎撃した。

 

「テアッ!」

 

 ハイパーゼットンを捕らえようと飛びつくものの、ハイパーゼットンはテレポートで尾上空に逃げていく。

 

「シェアッ!」

 

 オーブも追いかけて大空へ飛び上がった猛スピードを出しながら光輪を投げ飛ばすが、ハイパーゼットンは振り向きもしないまま全て回避。そのまま逃げるハイパーゼットンを追って、オーブは加速。

 

「セアッ!」

 

 追いつくと即座に拳を振るうが、ハイパーゼットンは何と上半身だけのワープでかわしながらオーブを蹴り飛ばした。

 

「ウワァッ!」

 

 吹き飛んでいくオーブの背後にテレポートで待ち受け、カマで殴り飛ばしてオーブを地上へ真っ逆さまに叩き落とす。

 オーブの中では春香と美希がダメージのフィードバックに耐えながら、ハイパーゼットンデスサイスを強くにらみつけた。

 

『「プロデューサーさんの言った通り、ほんとに強くなってる……!」』

『「でも、負けないの……! 千早さんのお母さんのためにも……!」』

 

 ハイパーゼットンデスサイスは以前よりもテレポートを使いこなし、オーブを完全に翻弄していた。それでもここで負けてなるものかと、果敢に立ち向かっていく。

 そしてオーブとハイパーゼットンの戦いが一望できる丘の上に、トータス号は到着。降車した律子たちと千種は、そこでハイパーゼットンを操っているマーヤの姿を発見する。

 

「いたわ!」

「マーヤちゃんっ!」

 

 思わず駆け寄ろうとする千種の腕を掴んで止める千早と伊織。律子は分析の結果、マーヤの腕輪がハイパーゼットンのコントローラーであることを突き止めた。

 

「まずは彼女の腕輪を破壊して、怪獣のコントロールを遮断しないと!」

「だったら俺に任せろッ!」

 

 律子たちと同じくこの現場に駆けつけた渋川がスーパーガンを抜くが、千早たちを振り切った千種がしがみついて懇願する。

 

「やめて下さい! お願いですっ!」

「如月さん! これ以上は見逃す訳にはいかないんだよッ!」

「後少しだけ! 後少しだけでも……!」

 

 渋川と揉み合いになる千種。伊織は空中でハイパーゼットンに連続キックを仕掛けているオーブを応援する。

 

「頑張ってオーブ! 怪獣を倒してしまえば……!」

「オオオォォォォォッ!」

 

 しかしハイパーゼットンは蹴られながらテレポートで消え、オーブの背後を取ると火球の速射を食らわせた!

 

「ピポポポポポ……!」

「ウワァァァーッ!」

 

 またも叩き落とされるオーブ。ダメージの蓄積と時間経過により、カラータイマーがいよいよ危険を報せる。

 オーブの苦戦に渋川も焦っていた。

 

「もう時間がないんだよ! やむを得ない!」

「お母さん、どうしてそこまでして……!」

 

 千早の問いかけに答えるように、千種は訴えかけた。

 

「マーヤちゃんは戦ってるんです!」

「え!?」

「自分の中に潜んでいるもう一つの意識と……! これ以上の悪さを食い止めるために……!」

 

 千種の言うように、マーヤはハイパーゼットンを操りながら、胸をかきむしって苦しんでいた。マドックの意識に反抗し、肉体の支配を解こうとしているのだろう。

 

「あの子……!」

「ぐぅッ……!」

 

 しかしマーヤは振り返ると、腕輪から千種を狙って光弾を発射してきた!

 

「! 危ないっ!」

「きゃあっ!?」

 

 千早が千種と渋川に飛びついて、光弾から逃れさせた。マーヤは千種を撃とうとした腕を抑え、追撃を食い止める。

 

「マーヤちゃん……!」

「お母さん! 行っちゃ駄目!」

「危険ですよ如月さん!」

 

 マーヤへと向かっていこうとする千種を引き止める千早と渋川だが、千種はそのままマーヤへと懸命に呼びかけた。

 

「思い出して! 私と初めて会った日のことを!」

「う……!?」

「あの時、あなたは空を見上げたままとても寂しそうだった! それから、少しずつ笑うようになっていった……! お陰で私も、寂しくなくなったの!」

「お母さん……!」

 

 千早は思わず母親の顔を見つめる。

 

「私も、ずっと寂しかった! 家族がみんな私の元から離れていって、独りぼっちになってしまって……! だから、あなたが笑顔になることで私も救われていたのよ!」

 

 マーヤは苦しそうな表情で、千種の顔を見つめる。

 

「千早のことを教えたら、会ってみたい、友達になりたいって言ったわよね! 私も、あなたと千早がお友達になれたらそれ以上に嬉しいことはないわ! 今からでも遅くないの……元のマーヤちゃんに戻ってっ!!」

 

 千種の言葉を受け止めたマーヤは――右腕の腕輪に指を掛けた。

 マドックの声が焦り出す。

 

「よせ! やめろッ! それを壊せばお前はダメージを受ける! あの女との記憶も、なくなるんだぞ!?」

「でも……あの人を護れる! 千種さんの中の……私との思い出を護れるっ!!」

 

 指を掛けられた腕輪がミシミシと音を立てて、マドックもそれに合わせるように苦しみ悶えていく。

 

「うッ、ぐわぁッ! やめろぉぉぉぉッ! 人形のくせにぃぃぃぃぃぃぃぃぃッ!」

「私は……人形じゃないっ!」

 

 身体を同じとするマーヤもまた苦痛に顔を歪めるが、それでも腕輪を壊そうとする手は止めない。

 

「マーヤちゃん、もういいの! それ以上は……!」

 

 千種が見ていられずに呼び止めたが、マーヤはそんな彼女に告げた。

 

「千種さん……! ありがとうっ! 千早さんも……私と、お友達になってね!!」

「マーヤちゃんっ!!」

「……マーヤさん……!」

 

 千種と、千早がマーヤの名前を唱えると同時に、腕輪が砕け散ってマーヤの腕から離れた。

 

『うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 腕輪を拠りどころとしていたマドックの意識は、腕輪とともに砕けてマーヤの身体から消滅していった。

 そしてマーヤは目を閉じ、その場に力なく倒れ込んだ。

 

「マーヤちゃぁんっ!! しっかりして!」

 

 千種と千早はマーヤの元へ駆け寄り、彼女を抱き起こすが、マーヤの意識はそのまま戻らなかった。

 

「ピポポポポポ……!」

 

 オーブの身体を斬りつけていたハイパーゼットンデスサイスは、腕輪のコントロールが途切れたことで行動に異常を起こし、ふらふらとオーブから離れた。その隙にオーブはカリバーへと向かい、地面から引き抜く。

 

「ピポポポポポポポポ……!」

 

 ハイパーゼットンは身体がふらつきながらも火球を生成してオーブへ放とうとするが、オーブはそこへ突っ込んでいって跳び上がりながらカリバーを振り上げる。

 

『「「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」』

 

 ジャンプ斬りが火球を両断し、ハイパーゼットンの動きも封じ込む。

 

「セェアッ!」

 

 そしてオーブの旋風とともに繰り出された回転斬りが、ハイパーゼットンを空高くに打ち上げた!

 

『「これで終わりにするっ!」』

 

 春香はベリアルのカード、美希はゾフィーのカードを握って、オーブリングへと通す。

 

『「ゾフィーっ!」』『ヘアァッ!』

『「ベリアルさんっ!」』『ヘェアッ!』

『光と闇の力、お借りしますッ!』[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]

 

 サンダーブレスターへとフュージョンアップしたオーブはハイパーゼットンの後方に回り込んで、渾身の一撃で地上へと殴り落とした。

 

「ピポポポポポ……ゼットォーン……!」

 

 それでも起き上がるはハイパーゼットンへ、着地したオーブが駆けていく。

 

『「あんたの出演はもうおしまいなのよ! 退場してもらうわっ!」』

 

 黒春香が叫び、オーブが腕を広げて竜巻のような回転でハイパーゼットンへ突撃する。

 

『「「せぇぇぇぇぇぇぇぇいっ!!」」』

 

 回転ラリアットの連撃が叩き込まれ、ハイパーゼットンはズタボロにされて立ち尽くした。

 

『「地獄へとお帰りなさいっ!」』

 

 いよいよオーブは最後の一撃を繰り出す。

 

「「『ゼットシウム光線!!!」」』

 

 光と闇の奔流が直撃し、ハイパーゼットンは背後にばったりと倒れていく。

 

「ゼッ……トォーン……」

 

 倒れるとともに爆散し、地獄からよみがえったマドックの陰謀は、今度こそ完全に潰えたのだった。

 

「トワァッ!」

 

 ハイパーゼットンを打ち倒したオーブが空の彼方へと去っていく。

 ……しかし、全ての敵を倒しても、マーヤは一向に目を覚まさなかった。

 

 

 

 マーヤがまぶたを開いたのは、彼女を如月邸に連れ帰ってからだった。

 

「目を覚ました……!」

 

 それまでハラハラしながら様子を見守っていた春香たちは安堵の息を吐いたものの、マーヤは千種の腕の中で、こう尋ねかけた。

 

「誰……?」

 

 アイドルたちは一瞬目を見開き、そしてやはりというように伏した。

 

「ここは……どこ……?」

 

 不安がるマーヤに、千種は優しく語りかけた。

 

「あなたは、旅の途中にここへ立ち寄ったのよ」

「旅の途中に……?」

「あなたにはたくさんの、行きたい場所、行くべき場所があるの。これからは、あなたの向かうべきところへと旅立つのよ」

「……私は、どこへ行けるの……?」

「どこへだって行けるのよ!」

 

 諭しながら、千種はマーヤのために仕立てた洋服を差し出した。

 

「これも、忘れないで持っていってね」

 

 洋服を受け取ったマーヤは、それを握り締めながらつぶやいた。

 

「何でだろう……何だかすごく懐かしくて……あったかい気持ち……」

 

 そのひと言に、千種は優しい微笑を浮かべて、洋服をマーヤのために用意した旅行鞄の中に入れてあげる。

 千早はそれを手伝いながら、そっと尋ねかけた。

 

「本当にいいの? ここに置いておかなくて……」

 

 千種は少し寂しそうな、それでも優しい笑顔のまま答えた。

 

「マーヤちゃんは、私の寂しさを紛らわすお人形じゃない。あの子にはあの子の人生がある……。だから、鳥かごから飛び立たせてあげなくちゃいけないのよ」

 

 千種が洋服を鞄に仕舞い込むと、それまで様子を見ていたガイがマーヤへと呼びかけた。

 

「おい、風来坊」

 

 振り向いたマーヤに、ガイはこう語った。

 

「どこへだって行ける、か……。だが、帰る場所があると、もっといいかもな」

「帰る、場所……」

 

 それを聞いて、マーヤは千種へ振り返った。千種は柔らかな表情でうなずく。

 

「旅の中で、ここに来たくなったら、いつでも遊びに来ていいからね」

 

 彼女から鞄を受け取ったマーヤは、笑顔を返した。

 

「ありがとう。また来るね」

 

 千種へと深々とお辞儀したマーヤは、去り際の直前に、千早の顔を見つめて尋ねかけた。

 

「あなたは……私のお友達に、なってくれる?」

 

 千早もまた微笑んで、マーヤに答えた。

 

「私だけじゃなくて、これからたくさんの人とお友達になれるわ。……いってらっしゃい」

「……いってきます」

 

 玄関へと向かっていくマーヤの後ろ姿を見つめながら、千早は千種へと囁きかけた。

 

「私も……暇が出来た時には、帰ってくるわね」

「!!」

「その時は、『おかえり』って言ってくれる……?」

 

 千種は口元を抑えて涙をこらえながらうなずいた。

 

「もちろんじゃない……。お母さんなんだから」

 

 そして、マーヤは未来へ向かう扉を開いて、外の世界に旅立っていく――。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

響「はいさーい! 我那覇響だぞ。今回紹介するのは、史上唯一のオーストラリアのウルトラマン、ウルトラマングレートさー!」

響「グレートさんは初めての海外で制作された実写作品『ウルトラマンG』の主人公で、平成に入ってから初めて制作された実写ウルトラシリーズでもあるんだぞ。初めは全六話の予定だったんだけど、七話追加された一クールの構成になったんだ。だから前半と後半で物語の趣がガラリと変わるんだぞ」

響「『G』の特徴は環境問題をひと際ピックアップしてるところさー。グレートさんの設定にもそれは表れてて、他のウルトラマンがあくまで地球の環境が合わないから三分間の時間制限なのに対して、グレートさんは環境破壊のために三分間しか活動できないとなってるぞ。それに最終回の真の敵は、みんなの度肝を抜くような相手だぞ」

響「特撮面では、グレートさんのアクターさんが空手の有段者だったから、アクションには空手特有のキレが盛り込まれてるのがよく分かるぞ。それからオーストラリアの環境を活かしたオープンセットも使われてて、自然光の下での画は他の作品では真似できない独特の美しさになってるぞ!」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『蒼い鳥』だ!」

ガイ「千早の初のソロ曲で、もう数百曲にも及ぶアイマスの楽曲の中でもトップクラスに有名な歌だ。歌が得意だが暗い過去を背負ってる千早のキャラクターが特に表現されているぜ!」

響「自分はダンスが得意だぞ! ゲームだと映像じゃみんな同じ動作なんだけど……」

響「次回もよろしくお願いするさー!」

 




 ミキなの。何だか海底でおかしなことが起こってるみたいなの。春香とでこちゃんがハニーと調べに行くんだけど、春香は最近の765プロが一つに集まることが少ないのを気にしてるみたいで……。そんな調子で大丈夫なのかな?
 次回『私は英雄』。ミキたちって、これからどこに向かっていくんだろう?


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私は英雄

 

「そのお陰で765プロの注目が一気に集まったのは予想だにせぬ幸運といったところかしらね」

「そこで成功を収めれば、確実にメジャーへの足掛かりを掴めるわよぉ~!」

「私たちにはちゃんとした実力があるわ」

「765プロの実力を示すという目的は達成できたと言っていい」

「今こそ765プロ躍進の時だ!」

「プロデューサーさん! ドームですよ、ドーム!」

「更にトップへ近づくことを目指して、これから頑張っていけよ!」

「はいっ!!」

 

 

 

『私は英雄』

 

 

 

 765プロのアイドルたちがウルトラマンオーブとしての活躍を始めたのは春先。しかしそれからあっという間に時間と季節は巡り、今はもう冬の足音が聞こえそうな時期となっている。

 そんなある日に、春香が事務所に出社してきた。

 

「おはようございまーすっ! ちょっと遅くなっちゃったかな……」

 

 元気良く挨拶した春香だったが、事務所にいるアイドルが伊織と響だけなのを知って、呆気にとられた。

 

「あれ? 伊織と響ちゃんしかまだ来てないの? 今日はクリスマスライブに向けての全体練習があるのに……」

 

 春香の疑問に、伊織が肩をすくめながら答えた。

 

「他のみんなは仕事が立て込んでたり、急なオファーが入ったりで遅れてくるか、欠席するかのどっちかよ。初めから通しで練習できるのは、あんたを入れたここの三人だけになりそうね」

「そうなんだ……」

 

 若干肩を落とす春香。響の方は大きなため息を吐く。

 

「練習初日からこんなに集まり悪いんじゃ、先が思いやられるって奴さー」

「まぁしょうがないわよ。せっかくのお仕事を何度も断ったりとかしたら、業界での評判にも関わるものね。売れたら多忙なスケジュールになるってのは、分かり切ってたことでしょ?」

「まぁそうだけどさー」

 

 伊織と響がぼやく一方で、春香はやや残念そうにつぶやいた。

 

「久しぶりに、みんな集まれると思ったんだけどな……」

 

 春香の独白にうなずく響。

 

「確かに。ちょっと前はほとんどの場合でみんな一緒だったけど、有名になってからはそんな機会、全然になっちゃったね」

 

 各人の予定で埋まったスケジュール表を流し見ながらのつぶやきに、伊織が二人の気持ちを切り換えさせるかのように言い聞かせた。

 

「そんなこと言ってたって始まらないわよ。とにかく、ここにいる面子で出来ることをやりましょう。そうすれば他のみんなだっていくらかは助かるわよ、きっと」

「うん……そうだね! 声援をくれるファンがいるんだもの、頑張っていかないと!」

 

 思い直して張り切る春香たちだったが……そこにガイがやってきて告げた。

 

「お前たち、悪いが今日の練習は中止させてもらうぞ」

「えー!?」

 

 出鼻をくじかれて仰天する三人。響が問い返す。

 

「な、何でなんだプロデューサー? また何か問題発生か?」

「ああ。またもウルトラマンオーブ出動案件みたいだ」

 

 ガイはそのように、はっきりと言った。

 

「戸松源三郎さんを覚えてるか? あの人のところに、ラゴンの親子がまた来たんだそうだ」

「えっ? あの半魚人の?」

 

 春香たちは思わず顔を見合わせた。

 

 

 

 それからガイと春香たちの四人は、以前ラゴンの親子がかくまわれた漁港のある町へと移動した。

 

「もう、いきなり練習を中止してこんな田舎まで移動だなんて、英雄も楽じゃないわね」

 

 源三郎の倉庫までの道すがら、伊織がため息を吐いた。

 

「しかもアイドル家業の傍らなんだから余計によ。怪獣も、いい加減出てこなくなればいいのに。いつまでポコポコ沸き続けるのかしら」

「伊織、そんな勝手な言い分は駄目だぞ。怪獣にだって事情があるんだ」

 

 うんざりした様子の伊織とは反対に、怪獣の肩を持つ響は春香に同意を求める。

 

「ねぇ、春香もそう思うでしょ?」

「うん……」

 

 しかし……春香は妙にうつむいたまま、空返事をするだけだった。それを気に掛ける伊織。

 

「春香、どうしたのよ? 何だか元気ないじゃない。乗り物酔いでもした?」

 

 春香は顔を上げると、先を行くガイの背中を見つめながら、次のように言った。

 

「ちょっと、伊織のひと言で思っちゃって……」

「何を?」

「プロデューサーさん、怪獣が出ないようになったら、765プロにいてくれるのかなって……」

 

 あ……と、伊織と響は声を漏らした。

 

「プロデューサーさん、元は魔王獣退治の任務のために地球に来たんだって。魔王獣は全部倒してもまだ怪獣が出続けるから、オーブに変身してるけど……それ以前は任務のために宇宙のあちこちを飛び回ってたそうだし……地球での役目を終えたら、元のお仕事に戻るんじゃないかって……」

 

 春香の言葉に、響と伊織も眉をひそめる。

 

「そうだよね……。プロデューサー、元々のお仕事はプロデュース業じゃないんだよね。社長が誘ったからやってるだけで……」

「当然の話なのに、考えたこともなかったわ……」

 

 と語る伊織。それだけ、彼女たちにとって紅ガイがプロデューサーとして側にいるのは、当たり前のこととなっていた。

 

「……私たち、いつかバラバラになる日が来るのかな……」

 

 春香のひと言に伊織たちは何も言えず、押し黙った。そんな重い雰囲気の三人に振り向くガイ。

 

「どうしたお前ら? いやに覇気がないな」

「い、いえ! 何でもないです!」

 

 慌ててごまかす春香。今は、自分たちの懸念を知ってほしくはない。彼の返答次第では、これから起こるかもしれないことに対する心構えが鈍ってしまいそうだから。

 

「そうか? ならいいんだが……。それより着いたぞ」

 

 一行は話している内に、源三郎の倉庫の前にたどり着いていた。

 

「ここでグビラとサメクジラと戦って、海に帰してあげたんだよね」

「何だか懐かしいわねー」

 

 響と伊織がしみじみ懐かしむ中、四人は源三郎に呼びかけて倉庫の中に入れてもらう。

 源三郎は喜んで四人を歓迎した。

 

「おぉー嬢ちゃんたち、よく来てくれたなぁ! ゆっくりしてってくれ、って言いたいとこなんだけどよ、知らせた通りそんな訳にはいかねぇんだ」

「みたいですね。それで、ラゴンの親子はどちらに?」

 

 ガイが早速話を切り出す。

 

「ああ、こっちだ。かわいそうに、二人ともすっかり怯えてるんだよ。深海で何があったのやら……」

 

 倉庫の奥へ案内する源三郎。そこでは、夏に一行が助けたラゴンの親子がその時のままの姿で四人を待っていた。

 

「キャアアァァァッ!」

「キャアーッ!」

 

 親子とも春香たちの顔に喜びを見せたが、源三郎の言う通り、その様子には気力が欠けていて、大分憔悴しているようであった。

 

「何かおっそろしいことがあったみたいなんだけど、俺じゃあ細かいところが分かんないからさ。他に相談できる人もいねぇし、それで嬢ちゃんたちに助けを求めたって訳だ」

「そうだったんですか……」

「それならちょうど響がいる時で良かったわね。響なら言葉が分かるわ」

「響、早速頼むぞ」

「任せといて! 何なに……」

 

 響がラゴンたちから事情を伺う。

 

「キャアアァァァッ!」

「えぇっ!? そ、そんなことが!?」

「ど、どうしたの? そんなに驚くような大問題なの?」

 

 話を聞いた響のただならぬ様子に、春香たちは気を動転させる。

 そして響は、ラゴンからの話を皆に告げた。

 

「深海に何だか分かんないけどとっても恐ろしい化け物が空から降ってきて、深海の生き物がみんな死にかかってるんだって! グビラもサメクジラも!」

「えぇっ!?」

 

 予想以上の内容に、全員が驚愕。

 

「自分たちは何とか命からがら逃げてきたって……」

「怪獣まで殺しかけるとは、そりゃあ普通じゃないな……」

「嬢ちゃんたち、何とかならねぇかな! あいつらもこの星に生きる命だ、どうしかしてやりてぇよ!」

 

 慌てる源三郎をなだめるように春香が呼びかけた。

 

「落ち着いて下さい、戸松さん。私たちでウルトラマンオーブにこのことを知らせて、悪い奴を退治してもらいます!」

「そっか! 何から何まですまねぇなぁ」

「すぐ行きましょう! 響はラゴンの親子についてあげてちょうだい」

「分かったぞ!」

「ぢゅいッ!」

 

 響とハム蔵に弱っているラゴン親子を託すと、ガイと春香、伊織の三人で倉庫を飛び出して海岸にまで駆けつけた。

 

「それじゃあ行くぜ、二人とも! 用意はいいな?」

「もちろんです!」「当ったり前でしょ!」

 

 三人はオーブリングとカードを取り出し、フュージョンアップを行う。

 

「ウルトラマンさんっ!」『ヘアッ!』

「ティガっ!」『ヂャッ!』

「光の力、お借りしますッ!」[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

 

 三人融合してオーブ・スペシウムゼペリオンの姿になると、颯爽と海に飛び込んで海中に一直線に潜っていく。

 

『……確かに、海の奥深くに何かやばいものがいそうな感じだな』

 

 オーブは研ぎ澄まされた第六感により、水深が深まるほどにおぞましいものの気配を肌で感じ取っていた。また、水中を取り巻く暗闇の濃度も、ただ太陽光が届かないだけではないことも感じていた。

 オーブが己の身体から発せられる光を照明に潜水していき、その末にいよいよ海底に達しようかというところで、遂に異常を発見することになった。

 

『「あ、あれは!?」』

『「何あれ!?」』

 

 三人が目撃したものは、「暗黒」としか形容できないような「何か」が、深海を埋め尽くそうというように広がっている異様な光景であった。そしてラゴンの言う通り、グビラとサメクジラがその「暗黒」に捕まって締め上げられている。

 

「グビャ――――――――……!」

「キイィィーッ……!」

 

 二体とも既に息も絶え絶えだった。焦りを覚える春香。

 

『「プロデューサーさん、早く助けないと!」』

『ああ! 行くぜッ!』

 

 オーブは右手に作り出した光輪を、いっぱいに拡大していく。

 

「「『スペリオン光輪!!!」」』

 

 それを「暗黒」に向かって投擲し、切り裂いていく。そうすることでグビラとサメクジラの拘束を解き、二体は脱出することに成功した。

 

『「さっ、早く逃げなさい!」』

 

 オーブにかばわれながらほうほうの体で逃亡していくグビラたち。一方で、一旦は切り裂かれた「暗黒」はすぐに修復し、更には不定形の状態から一つの形へと収束していく。

 

「デュッ!」

 

 警戒するオーブ。彼の前で、「暗闇」は両腕がカマ状になった巨大怪獣の姿に変化した。

 

「グアァ――――――――!」

 

 ギラギラとした赤い眼に、ただの野生生物ならばあり得ないほどの悪意を湛えたこの怪獣は、根源破滅海神ガクゾム! 生きとし生けるもの全てを滅ぼすためだけに生まれた、悪魔のような存在である!

 

『「あいつが暗闇の正体って訳ね!」』

『「海の平和のためにも退治しましょう!」』

『ああ! 行くぞッ!』

 

 オーブは正体を現したガクゾムに向かってまっすぐに挑んでいく。

 

「セェアッ!」

 

 海底を蹴ってチョップを仕掛けていくが、ガクゾムのカマに易々と受け止められて逆に蹴りを入れられた。

 

「ウッ!」

「グアァ――――――――!」

 

 ダメージをこらえて打撃を繰り出していくも、ガクゾムには全て防がれて、カマで殴り飛ばされる結果となる。

 

「ウワァッ!」

『「うう……流石に水中での戦いは練習してないから、動きづらいったらありゃしないわ……!」』

 

 伊織がうめいた。これまで様々なパターンの戦いを経験してきた765プロアイドルだが、海中は地上とは全く異なる環境。それに慣れていない身では、思うように身体を動かすことは出来ないのは自明の理であった。これではガクゾムにはスピードで大きく負けることになる。

 

『「だったら遠距離からの攻撃でっ!」』

 

 春香の判断に従い、オーブはスペリオン光線の構えを取る。

 

「「『スペリオン光線!!!」」』

 

 必殺の光線がまっすぐにガクゾムへと発射された!

 

「グアァ――――――――!」

 

 だが、光線はガクゾムの胸部の装甲に全て吸収されてしまう!

 

『「えっ!?」「嘘!?」』

 

 光線はそのままはね返されて、オーブが吹き飛ばされる結果となってしまった。

 

「ウアアァァァッ!」

「グアァ――――――――!」

 

 ガクゾムは更にカマから自前の光線を飛ばし、オーブを一層苦しめる。

 

『「うぅぅ……つ、強い……!」』

 

 ガクゾムは「海神」という別名で称されるように、ただでさえその戦闘能力は通常の怪獣とは比較にならないレベル。しかも環境も味方しており、オーブは圧倒的に不利の状況下にあった。

 そしてその環境とは、深海というだけの意味ではない。

 

『くッ、この闇のフィールドのせいでいつもよりもずっと消耗が激しいぜ……!』

 

 オーブは早くもカラータイマーが鳴り出していた。それは、ガクゾムの力によって作られた暗黒の空間が、光の存在であるオーブの力を削いでいるからだ。この空間内ではオーブはエネルギーを通常以上に消耗してしまう。このままでは後一分も変身を維持していることは出来ないだろう。

 この光届かぬ世界では、オーブは孤独なのだ――。

 

『「――だけどっ!」』

 

 しかしそれでも、春香は宣言した。

 

『「私たちは、暗闇も抱き締めて前に進んでいく! それが私たちの出した答えの一つ……それがウルトラマンオーブだからっ!」』

『「ええ! あの深海の引きこもりに教えてやりましょう! 私たちは、闇の力も抱き締めているって!」』

 

 伊織と春香が手にしたのは、アグルとベリアルのカードだ。

 

『「アグルっ!」』

[ウルトラマンアグル!]『デアッ!』

 

 伊織がオーブリングにカードを通し、アグルのビジョンが現れる。

 

『「ベリアルさんっ!」』

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

 

 春香の隣にはベリアルのビジョン。そしてオーブが叫ぶ。

 

『荒れ狂う力、お借りしますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 春香と伊織が、アグルとベリアルのビジョンとともにオーブと融合!

 

『ジェアッ!』『ヘェア……!』

[ウルトラマンオーブ! サンダーストリーム!!]

 

 宇宙牢獄を突き破り、青い光と闇が渦巻く中から、姿を変えたオーブが飛び出していく!

 

「シェアァッ!」

 

 海底に着地の際の衝撃で、ガクゾムの巨体が一瞬傾いた。

 オーブは上半身が赤と黒、下半身が青と銀という配色の、サメを思わせるような体躯に変化していた。海の力を持つアグルの特性と、闇の力による嵐のパワーを持った戦士、サンダーストリームだ!

 

(♪アグルの戦い)

 

『俺たちはオーブ! 闇を包め、光の嵐!!』

 

 名乗りを上げたオーブは、先ほどよりも数倍は速い身のこなしでガクゾムに迫っていく!

 

「グアァ――――――――!」

「オォリャッ!」

 

 不意を突かれたガクゾムはオーブの回転からの平手打ちをまともに食らい、張り倒された。

 

『「海を汚しちゃ駄目って教わらなかった!? 私たちが世の中のルールを叩き込んであげるわ、感謝しなさいっ!」』

 

 黒春香の台詞とともに繰り出されるオーブの連続攻撃にどんどんと押し込まれるガクゾム。急に動きが良くなったオーブに混乱を起こしている。

 サンダーストリームは海の戦士、アグルの力によって海戦に特化している。更に秘めたる闇の力によって暗黒の環境による影響も無効化していた。最早ガクゾムの優位は完全に覆されたのだ。

 

「グアァ――――――――!」

 

 それでもガクゾムは抵抗し、両腕のカマをブンブン振り回してオーブを八つ裂きにしようとした。しかしオーブは右手を掲げると、その手の平に稲妻が握り締められて、稲妻が三叉型の矛に変わった。

 

「「『ギガトライデント!!!」」』

 

 サンダーストリームの専用武器、ギガトライデントだ。その穂先でガクゾムのカマを受け止め、はね返す。

 

「シェエエアッ!」

「グアァ――――――――!」

 

 オーブの振るうギガトライデントが、ガクゾムの肉体を逆に裂いていく。海流を支配するギガトライデントの斬撃は速く、ガクゾムも対応できるものではなかった。

 

「オリャアァッ!」

 

 そしてオーブの鋭い刺突がガクゾムの胸部に突き刺さり、装甲をバキバキに砕いた! ガクゾムはよろよろと後ずさってもがき苦しむ。

 

「グアァ――――――――!」

『「ファンサービスが刺激的すぎたかしら? でもこれで閉幕よ!」』

 

 オーブが掲げたギガトライデントに青いエネルギーが集まり、そしてトライデントを海底に突き刺す。

 

「「『サンダーストリームネプチューン!!!」」』

 

 青い光が海流のように蛇行しながら飛んでいき、ガクゾムを呑み込む!

 

「グアァ――――――――!!」

 

 ガクゾムが光の中に消えていき、そして爆発。破片は黒い煙のようになって深海の中に消えていった。

 

「ヘェアッ!」

 

 ガクゾムを打ち破って海の静けさを取り戻したオーブは、大きく飛び上がって地上の世界へと帰還していく。

 

『「それにしても春香……闇の力を使うと相変わらずノリノリね」』

『「このノリはどうやっても抑えられないみたい」』

 

 その途中で伊織と春香はそんなことを言っていた。

 

 

 

 海の平和を荒らすガクゾムが倒されたことに、源三郎はガイたちにいたく感謝していた。ラゴン親子も再び深海の世界へと帰っていった。もう彼らの平和が乱されることがないように祈る春香たちであった。

 

「今回の事件も無事に一件落着だな」

 

 砂浜でアイドルたちとともに水平線を見やりながら、ガイが感慨深げにつぶやいた。――だが、すぐに険しい表情で述べる。

 

「しかし、魔王獣は全て倒したというのに最近怪獣の出現が多いな……。魔王獣によるバランス崩壊の影響が続いてるのか、それとも別の要因があるのか……」

 

 顎に手を掛けて考えるガイ。

 

「何にせよ、近い内にどうにかすることを考えないとな。目指すは地球のバランスを戻すことだ」

 

 との目標を立てるガイであったが、それを聞いて、春香がやや不安げに問いかけた。

 

「あの、プロデューサーさん……」

「どうした?」

「プロデューサーさんは……怪獣が出なくなったら、765プロを出ていくんですか?」

 

 春香はガイの返答に恐れを抱きながらも、それでも包み隠さずに尋ねた。このまま先延ばしにしていても、「その時」までに確かめておかねばならないことだからだ。

 伊織と響も緊張しながら答えを待つ中、ガイは言った。

 

「――いや、お前たちをトップアイドルのステージに立たせるまでは、プロデューサーは続けるつもりだ」

「ほんとですか!?」

「ああ。今となっちゃあ、それも俺にとって大事なミッションだからな。そのために努力するつもりでいるさ」

 

 ガイの返答に伊織と響はほっと安堵し、喜んで彼の背中を叩いた。

 

「だったら一層頑張らないとダメよ~! 今の調子じゃ、ミッション達成はいつになるか分かったもんじゃないわ!」

「ちゃんとやり遂げるようにお願いするぞ、プロデューサー!」

「いててッ! 分かってるから、叩くなお前ら!」

 

 手荒に扱われて悲鳴を上げるガイ。そんな様子に苦笑しながらも――春香の懸念は消えていなかった。

 

(だけど……それはあくまでプロデューサーさんだけの意向。『ウルトラマンオーブ』として、そうも言ってられない状況になったら、多分その限りじゃなくなる……)

 

 未来がどう転ぶかは分からない。そして今のガイの言葉は、決して「絶対」ではないと春香は分かっていたのだった。

 

(やっぱり、プロデューサーさんは私たちの元からいなくなるのかもしれない。ううん、それどころか、私たちみんな別々の道を進んでいって、全員が集まることもなくなるのかも……)

 

 その時のことを想像したら、春香の気分は重くなる。そしてその想像は、遠くない内に現実になるかもしれない。

 だけど――。

 

(だけど、今はこのままで、自分たちの光差す道のりと世界の平和のことを考えてるだけでいいよね……。今この瞬間は、私もウルトラマンオーブなんだから……)

 

 未来への一抹の不安は抱えつつも、それでも今の内は自分がやるべきことに専念しよう、とそう考える春香であった。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

伊織「にひひ、伊織ちゃんよ♪ 今回紹介するのは、ガイアのライバルであり無二の相棒、ウルトラマンアグルよ!」

伊織「アグルは映像作品で初めて登場した蒼いウルトラマンで、『ウルトラマンガイア』のサブウルトラマンよ。それまでのウルトラ戦士といえば正義の味方が当たり前だったけど、アグルは地球を守るものではあっても人類を守る存在ではないという、それまでのウルトラマン像を壊す衝撃的なキャラクターだったわ」

伊織「もちろんガイアの完全な味方ではなく、話によっては彼と対立することもあったわ。シリーズでは初めてとなる正義と正義のぶつかり合いは視聴者に大きな印象を与えて、アグルは制作スタッフの予想を超えるほどの人気を獲得したの」

伊織「その結果、物語前半で退場するはずだったアグルは予定を変えて、V2の姿でレギュラーの座に返り咲いたのよ。だけど本来予定がなかったところに盛り込んだから活躍は控えめになっちゃったんだけど……それでも、ガイアの相棒の地位を確かなものにするほどの知名度を確立したのよ」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『私はアイドル♡』だ!」

ガイ「アイドルマスターの当然のテーマであるアイドルを表現した歌なんだが、非常に珍しいことにフルの歌詞が二パターンあるんだ。一般的な方はM@STER VERSION、もう一つはSINGLE VERSIONと呼ばれていて、細かい差異の他に途中の歌詞が全く違うものとなってるから、一度は聴き比べてみてくれ」

伊織「どっちにせよ、伊織ちゃんはこの歌のように生まれながらのアイドルよ!」

伊織「それじゃあ次回も見なさいよね!」

 




 萩原雪歩ですぅ。あの876プロの愛ちゃんたちが、二度と行くことが出来ない幻のカフェを探しに行ったんです。だけどもちろんそのカフェは、普通のお店じゃなくって……。愛ちゃんたちに何もないといいんだけど……。
 次回『地図にないカフェのイマージュ』。あなたは夢を覚えてますか?


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地図にないカフェのイマージュ(A)

 

『地球へ攻撃を開始しましょう! ド派手に行きやしょうぜ!』

『ぐああぁぁ――――ッ!』

『俺たちが人間に侵略されるとは、どういう訳だ!』

『ぐわぁぁぁぁッ!!』

『地球人は本当に愚かだなぁ!』

『ぎゃあああああああああッ!!』

『これで引き下がる惑星侵略連合ではないぞ!』

『ぐわああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

『やっぱ、本物すげぇや……』

 

 

 

『地図にないカフェのイマージュ』

 

 

 

「ちょっとすいません! ちょっと開けて下さい!」

 

 ビートル隊が封鎖しているとある現場に、渋川が野次馬の人垣をかき分けて立ち入った。それを一人の隊員が迎える。

 

「ご苦労様です」

「おい、例のアレか」

 

 渋川の目の前、封鎖区域の真ん中には、何か大きなものが地上に墜落して出来た地面のえぐれた跡がまざまざと残っていた。隊員が調査結果を報告する。

 

「放置された人工衛星に何かが衝突して、その破片が落下したんでしょうね」

「また宇宙ゴミかぁ。今月入って何件目だよ?」

 

 疲れたように息を吐く渋川に、隊員は推測を述べた。

 

「最近レーダーに急増している、謎の飛行物体と衝突したのではないかと」

「UFOが、次々と地球から飛び去ってるみたいだな。だが来るのならまだしも、去っていくってのは解せない話だぜ……」

 

 訝しむ渋川の元に、隊員の一人がトレーを持ってきた。

 

「実は、落下物の中に少し、気になるものがありまして」

「何?」

 

 トレーには黒い豆が乗っかっていた。隊員はそれを渋川の手の平の上に乗せ、渋川が匂いを嗅ぐ。

 

「……コーヒー豆?」

「それが、地球には存在しない植物なんです」

 

 そんなものが何故現場に落ちていたのか。ますます怪しむ渋川に、隊員は続けてトレーの上のものを見せる。

 

「それと、これなんですが……」

 

 隊員が手に持ったものは、黒い五芒星の模様が描かれた布の切れ端であった……。

 

 

 

「えっ……カフェ★ブラックスター……?」

「はい、そうなんです!!」

 

 765プロ事務所を訪問した愛、絵理、涼の876プロアイドル三人組の言葉を、真がオウム返しに唱えた。

 

「病みつきになるコーヒーで巷で有名なんですが、それ以上に不思議なお店なんです」

「これが、実際に行ったって人のブログです……」

 

 絵理が見せたタブレットに表示されたブログには、『カフェ★ブラックスター』なる店の情報と、コースターの写真が載せられていた。

 コースターの裏面には『大田区黒星町一丁目零番地』という住所が記載されているが……。

 

「でも、この住所は実在しません。地図にないカフェ……」

「一度行ったという報告はいくつもあるんですが、みんなもう一度行きたくても、二度とたどり着けないと言うんです。何故か場所を忘れてしまうそうで……」

 

 絵理、涼が順々に説明する。それに真や居合わせている響、亜美真美が耳を傾けている。

 

「でもコーヒーの味は抜群で、そのまま帰ってこなかった人がいるなんて噂まであるくらいです」

「時空を超えたカフェなんて話も……?」

「それであたしたち、今度の番組の企画でこのカフェを取り上げることになったんですが、何か知らないでしょうか!? いくつもの不思議を追ってる765プロの皆さんなら、きっと何か掴んでるんじゃないかと思って来たんですが!!」

 

 と問いかける愛だが……真たちは変に目を泳がせるばかりだった。

 

「さ、さぁ~……知らないなぁ~……」

「う、うん。自分たち、そんな話初耳だぞ」

「どーせそんなのガセネタに決まってるっしょー……ねぇ真美?」

「う、うんうん! 探したってがっかりするオチが待ってるだけだよー」

 

 愛たちは、そんな彼女たちの様子に首をひねった。

 

「む~? 何だか反応おかしくないですか?」

「口調がたどたどしい……?」

「如何にもなネタなのに、頭から否定するなんてらしくないですよ」

「そ、そそ、そんなことないよ? ボクたち大体こんな感じさ!」

 

 乾いた笑いを上げる真。愛たちはますます訝しがったが、あまり深くは考えなかった。

 

「まぁ知らないならそれでいいです。自分たちで調べますから!! それじゃ、お邪魔しましたー!!」

 

 愛たち三人はペコリと会釈して、765プロ事務所を後にする。……それから、真たちはひそひそと言葉を交わした。

 

「どうする……?」

「どうするったって……」

「まぁ見つけられないとは思うけどさー……」

「もしものこともあるし、一応兄ちゃんに連絡しといた方がいいんじゃない?」

 

 真美の発案により、四人はガイへと電話を掛けたのだった。

 

 

 

 765プロ事務所を発った愛たち三人は、ブラックスターなるカフェを求めて街の中をうろうろと探し回っていた。タブレットを操作している絵理が言う。

 

「ネット情報をつなぎ合わせたら、この辺りなのは間違いない……?」

「でも絵理さん、ここさっきも通りましたよ?」

 

 三人は先ほどから、同じ場所をうろうろ行ったり来たりしているだけであった。

 

「やっぱり黒星町なんて住所、どこにもありません。大体、地図にない場所をどうやって見つけたらいいんでしょうか?」

 

 と愛が疑問を口にすると、涼がやおら背負っていたリュックを下ろした。

 

「こうなったら、秘密兵器を使うか……」

「秘密兵器!? 涼さんそんなの持ってきてたんですか!?」

 

 愛がたちまち興奮した。

 そして涼が取り出したのは、バイザーゴーグル型の機械だった。それを自分の顔に掛ける。

 

「これは律子姉ちゃんが昔作ったスペクトルバイザーだよ。これを掛ければ、人間の目には見えない光線を視覚で捉えることが出来るんだ」

「わっ!? よく分からないですけど、涼さんの従姉妹のお姉さんすごいです!!」

「用意がいい?」

「こういうのが必要になるんじゃないかと思って、借りてきたんだ。……ホントはこっそり持ち出してきたんだけど」

 

 何はともあれ、三人は捜索を再開。スペクトルバイザーを掛けている涼が左右に立ち並ぶ家屋を一軒ずつ確かめていく。

 

「絵面だけ見ると、如何にもな不審人物……」

「この際気にしないことにしましょう!! それで涼さん、何か見つかりましたか?」

 

 愛が聞いたまさにその時、涼は一軒の建物の前で立ち止まった。

 

「あった……! ここだッ!」

「えッ!? でもここ、空き家ですよ?」

「間違いないよ! ほら見て」

 

 涼が愛にバイザーを掛けさせて、その目で確かめさせた。

 肉眼だと何もない軒先が、バイザー越しだと洒脱なカフェの入り口になっていた。

 

「ほんとだ!! 黒星町一丁目零番地、カフェブラックスター、オープン……開いてます!! 入ってみましょう!!」

 

 愛の興奮は最高潮となって促したが、絵理が二の足を踏んだ。

 

「ここまで来て何だけど……迂闊に入って、大丈夫……?」

「えっ? 何でですか?」

「だって……普通じゃ見えないカフェなんて、どう考えてもおかしいし……」

 

 危険を警戒する絵理だったが、愛が説得する。

 

「だいじょぶですよ!! 何事もなく帰ってきたっていう人はたくさんいるんですし、危ないことが起きることはないはずです」

「そうかなぁ……」

「何にせよ、この目で見ないことには何も分かりません!! お邪魔しまーす!!」

 

 痺れを切らした愛がカフェの扉を開いて中に入っていき、絵理たちもやむなくその後に続いた。

 カフェのカウンターは地下にあり、愛たち三人は階段を下りてその場所を発見した。レンガ造りの壁に囲まれたカウンター内では禿頭の中年男性がグラスを磨いていて、テーブル席には若い女性とスーツ姿の老紳士が別々に座っている。女性は愛たちに奇異の目を向けてきた。客はその二人だけのようだ。

 

「随分お客さん少ないね……」

「見えないお店なんですし、限られた人しか来られないんですよ、きっと」

「あのぉ……ここ、カフェ・ブラックスターですよね?」

 

 涼が店長と思しき中年男性に尋ねかけると、中年男性はグラスを棚に並べながら答えた。

 

「店の名前を気にするなんて、珍しい客だねぇ。子供ばかりでこんな場末のカフェに来るなんて」

 

 愛たちは先客の二人に恐る恐る会釈しながらカウンター席に座った。店長はそんな三人に問いかける。

 

「君たちも最後の船に乗るのかい?」

「え? 最後の船……?」

 

 何のことかさっぱり分からず、ぽかんとする愛たち。すると店長の方が疑問の目を彼女たちに向けた。

 

「君たち……」

「はい?」

「……いや、人違いだ。気にしないで下さい」

 

 いささか奇妙に思いながらも、愛たちはメニューを開く。……が、書いてあるのは「ブラック珈琲」の一つだけだった。

 

「一種類だけ……!」

「しかも1230円も! お小遣い足りるかなぁ……」

「でも注文しなかったら冷やかしになっちゃいますよ。ブラックコーヒー三つで!! あたしはミルク多めでお願いします!!」

「かしこまりました」

 

 店長がコーヒーを淹れる間に、涼が質問を投げかけた。

 

「あの……黒星町って地図にありませんよね?」

 

 しかし店長からは質問を返される。

 

「それは妙な話ですね。ここは黒星町じゃないんですか?」

「いえ、表はそうなってましたけど……」

 

 言葉に詰まる涼に代わって愛が尋ねる。

 

「ここに来た人は二度とたどり着けないそうなんですけど、どうしてそうなるのか店長さんは分かりますか?」

 

 だがこれも要領の得ない回答しか返ってこなかった。

 

「さぁ……リピーターの客を捕まえるのは苦労すると言いますからねぇ。それより、コーヒー冷めますよ」

「は、はい。いただきます」

 

 そろって出されたコーヒーを啜った三人は――一様に驚愕した。

 

「美味しい!! これすっごく美味しいですよ!!」

「うん……! 口当たりも良くて、すごく飲みやすい……!」

「こんなに美味しいコーヒーは初めてだよ! 店長、一体どこの豆を使ってるんですか!?」

 

 涼が思わず問いかけたが、店長は口ごもった。

 

「悪いけれど、それは企業秘密でしてね」

「あッ、そ、そうでしたか……」

 

 若干気まずくなる涼。一方で、ふと横の壁に目をやった絵理は、この店に来た客の写真と感想が貼られたメッセージボードを見つけた。

 

「あの写真は、ここの常連さんですか?」

「ええ、まぁ……」

「あれ!?」

 

 すると愛が、ボードの中の一枚の写真に目を留めた。

 

「馬場さんだ!! ここに来てたんですか!?」

「ああ、彼は戦友です。昔は相当なワルだったが、今はすっかり人が変わりました」

 

 久しぶりに馬場の姿を確認できて、愛は少し嬉しそうであった。

 

「もしかして、店長もやんちゃしてたり?」

 

 絵理がからかい半分に尋ねたのだが、店長は肯定する。

 

「ええ。昔は大きな夢を思い描いていて、何度も何度も挑戦したもんです。でも今じゃ、美味しいコーヒーを一生懸命煎るだけの、カフェの親父です」

 

 その言葉に、愛が悲しげに目尻を下げた。

 

「夢を叶えられなかったんですか……?」

「恥ずかしながら……。私の夢には立ちはだかるライバルがいたんですが、それがまた獅子のように強い人でしてねぇ……。挑んでは負け、挑んでは負けで、すっかり打ちのめされてしまったんですよ」

「大変だったんですね……」

 

 競争の激しいアイドル業界に身を置く者としては、他人事ではない。店長に同情する愛たちだったが、ふと涼が聞いた。

 

「ちなみに、店長の夢って何だったんですか?」

 

 店長はしばし間を置いてから――絞り出すように答えた。

 

「地球侵略……!」

 

 ――愛たちは、コーヒーカップ片手に固まった。

 

「……ブラックジョークですよ」

「な、何だそっかぁ」

「あはははは……」

 

 乾いた笑いを上げる三人だが、愛がぼそりとつぶやく。

 

「でも、あたしだったら夢はあきらめられないです」

 

 そんな愛に、店長は諭すように言った。

 

「あきらめられない夢なんてありませんよ。お若い身では、実感が湧かないかもしれませんがね」

「……そうでしょうか……」

 

 眉間に皺を刻む愛だったが、そこに涼が呼びかけた。

 

「愛ちゃん、絵理ちゃん、あれ……」

 

 涼が指差した先には、赤いテルテル坊主のような人形がひっそりとたたずんでいた。

 

「……? あんなのあった……?」

「何かかわいいです!!」

 

 近寄って人形を観察する絵理と愛。絵理は店長へ振り返る。

 

「店長、これは……?」

「ああ、お守りみたいなものですよ。昔は大勢仲間がいたんですが、今じゃそいつだけになってしまって」

 

 答えた店長は、涼がリュックの中をまさぐっているのに気がついた。

 

「何やってるんです?」

「今動いた気がしたんです。確か生体分析機もこの中に……!」

「お客さんッ!」

 

 急に店長が怒鳴ったので、涼たちは思わずビクリと手を止めた。

 

「閉店のお時間です」

「え? でもこんな半端な時間……」

「すいませんね! 店の決まりでして!」

「でもまだ聞きたいことが……取材の許可も……!」

「ありがとうございました!」

 

 食い下がろうとした涼たちだったが、店長から半ば強制的に追い出されてしまった。

 ――それと入れ替わるように店の奥からやって来てカウンター席に座ったのは……。

 

「まさかとは思ったが、ホントにたどり着くとはな」

「様子見に来といて良かったね」

「おっちゃーん、亜美たちにもコーヒー!」

 

 真、響、亜美真美を連れたガイであった。店長はコーヒーを淹れ始めながらガイたちに聞き返す。

 

「あなたたちのお知り合いでしたか」

「アイドルの後輩なんだ」

 

 響が答えると、真が店長に頼み込んだ。

 

「店長、あの子たちを許してあげて。悪気があってここの秘密を暴こうとしてたんじゃないんだよ」

「そうですか。じゃああなたたちに免じましょう」

 

 店長がガイたちにコーヒーを差し出しながら、常連客の写真のボードを見やった。

 

「地球人でも、あなたたち765プロは特別だ。あなたたちが度々ここに来てくれたお陰で、この小さなカフェも一時は賑わったもんです。お客さんの中にも、最初はひどく敵視してたのに、すっかりと魅了された人がチラホラ」

 

 ボードに写っている写真の人たちは――皆宇宙人の姿に変わっていた。

 そしてその中の隠されていた写真には、春香や貴音らと一緒に写っているファイヤー星人やグロテス星人というものもあった。

 

「宇宙デビューの話も何度も持ちかけられてたでしょう。受けなくて、本当によかったんですか? 地球人の誰も到達したことのない広大な世界に羽ばたけるチャンスだったんですよ」

 

 店長に聞かれた真たちは苦笑を浮かべた。

 

「気持ちは嬉しかったけど……ボクたちにはこの地球のファンがいるから」

「うん。ファンのみんなに勝手に、どっかへ行っちゃうなんて出来ないぞ」

 

 響の後ろでは、ハム蔵が赤いテルテル坊主と戯れていた。――テルテル坊主は明らかに自力で動いていた。

 

「そうですか……。まぁ人の道はそれぞれですが、順調なのは羨ましくもありますな」

 

 苦笑いした店長に、ガイが真剣みを帯びながら問いかけた。

 

「ところで店長……最近あいつを見かけなかったか?」

 

 そのひと言に、真たちの表情が強張った。

 

「あいつ? ……ジャグラーなら来てませんよ。まだ戦り合ってるんですか?」

「噂を聞いてるんだ」

「あんたらは、光と闇。永遠に分かり合うことなんて、ありませんよ」

 

 と言われたガイは、何も言わずにコーヒーを飲み干し、席を立った。

 

「待ちな!」

 

 その瞬間、それまでずっと我関せずという態度を取っていた女性がガイの前に立ちはだかり、掲げた人差し指に電撃を溜めた。

 

「お前は……」

 

 女性の顔に目を細めるガイ。真たちも立ち上がってガイの傍らに張りつき、今にも攻撃してきそうな女性をにらんだが――。

 

「喧嘩なら外でお願いしますよ。店の中で、正義だの悪だのとやらないのがルールです」

 

 店長が一触即発のこの場を制した。

 

「……!」

 

 女性は電撃を消すものの、ガイへの憎々しげな視線は途絶えない。――すると、老紳士が席に腰掛けたまま女性を諭した。

 

「およしなさい、お嬢さん」

「エドガーさん……」

「私たちの世界にも道理はあります。相手の健闘を称えこそすれ、恨むのはお門違いですよ」

 

 老紳士の言葉で、女性はしぶしぶとガイに道を譲った。一方で老紳士は、今度はガイの方へこう告げた。

 

「先日はウチの若いのがご迷惑をお掛けしました。代わりにお詫び申し上げます」

「いや、それには及ばねぇさ」

 

 老紳士に断ったガイは、五人分の勘定をテーブルに置いて階段に向かっていく。

 

「ごちそうさん」

「ごちそーさまー!」

「帰るぞハム蔵ー」

「ぢゅいッ!」

 

 響がハム蔵を回収し、亜美真美がテルテル坊主をポンポンと軽く叩いて、一行は店を後にしていった。

 ――地球人が一人もいなくなってから、女性は宇宙人の顔を晒した。

 

『ようやくうるさい奴らが全員帰ったわね』

 

 ピット星人ミュー。ウルトラマンオーブ抹殺を狙ってEXエレキングをけしかけたことがあった。

 

「時々、人間が紛れ込むんで困ったもんですよ」

『ですが、郷に入ったのなら郷に従うべきです。ある程度は受け入れないと、地球でお店を開くなんて出来ませんよ』

 

 エドガーと呼ばれた老紳士は、ゼットン星人の顔になっていた。

 今更ながら、『カフェ★ブラックスター』はただのカフェなどではない。宇宙人が切り盛りする、地球に潜む宇宙人たちの憩いの場なのだ。

 しかしそれも――今日限りのことであった。

 



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地図にないカフェのイマージュ(B)

 

 カウンター席に移ったミューとエドガーに、店長が尋ねかける。

 

「お二人とも、船が出るってのに、のんびりしてていいんですか?」

 

 それに答えるミューとエドガー。

 

『最後に店長のコーヒーが、どうしても飲みたくってね』

『右に同じです。この味がもう楽しめないと思うと、残念でなりませんね』

「それはそれは……カフェの冥利に尽きるお言葉です」

 

 口元をほころばせた店長が、二人のためにコーヒーを淹れる。

 

「よかったら、どうぞ」

『ありがとう』

『ありがとうございます、店長』

 

 最後のコーヒーを味わいながら、ミューが閑散と静まり返った店内を見渡して嘆息した。

 

『昔は本当に、賑やかだったのにねぇ……』

「沈みかけた地球から、みんな逃げ出したか……」

『このお店はどうするおつもりですか?』

 

 エドガーが聞くと、店長は目を伏しながら言った。

 

「今日で閉めます。あなたたちが、最後の客なんです」

 

 その言葉を聞いたミューが、多少気を動転させながら店長に申し出た。

 

『だったら……私の船に、乗ってかない!?』

「ありがとう……。いやしかし、私には、相棒がいますから」

 

 と返した店長の傍らから、赤いテルテル坊主がひょっこりと顔を出した。

 

「こいつと一緒に、どこか別の星を見つけますよ」

『……余計なお世話だったわね。忘れてちょうだい』

 

 どこか残念そうなミュー。それを一瞥したエドガーが話題を変える。

 

『聞いてますか? 夕べ、ゴース星人の乗った船がスピードの出しすぎで宇宙ゴミにぶつかったんですよ。その衝撃で、店長からもらったお土産のコーヒー豆を落としたそうなんですよ』

『あらら、しょうがないわねぇ。ゴース星人は昔からせっかちだからね』

「返事を待たずに地底ミサイル爆撃を開始したりね」

 

 店長のひと言にエドガーたちはどっと笑った。

 

『ハハハハ。店長のブラックジョークは相変わらず冴え渡ってますね』

「ありがとうございます」

 

 笑いを収めたミューが店長に注意する。

 

『それはともかく、店長も行くなら、気をつけて行きなさいよ。宇宙ゴミとの衝突事故は相次いでるわ』

「ええ……。今や、宇宙もゴミだらけとはね。私たちは地球を侵略しに来たってのに、大人しくこの星から立ち去ろうとしたら、ゴミが邪魔をして簡単に出ていけないなんて、皮肉な話ですよね」

『次はもっと、マシな星を探さなきゃ。男選びと同じね』

 

 ため息を吐いたミューが、765プロのアイドルたちの顔を思い返した。

 

『あの子たちも、宇宙に活躍の場を移してればよかったのにねぇ。この星と運命をともにすることになるんだから』

 

 と語るミューであったが、エドガーはそれに対して言った。

 

『いえ、本当にそうなるでしょうか』

『えっ? エドガーさん、何を言って……』

『私は昔、ずっと昔、人間の底力を見ました。ゾフィーさんならともかく、よもや人間に絶対の自信があったゼットンが負けるだなんて、思ってもみなかった……。彼女たちは、もしかしたらやるかもしれませんよ』

 

 そのように人間を評するエドガーに、店長が問うた。

 

「そうお考えならば、エドガーさんはどうしてこの星を去るんですか?」

 

 エドガーは苦笑しながら回答。

 

『決まってますよ。彼女たちが運命のレールを変えたのならば、そのタイミングで火事場泥棒のように侵略しようとするなんてこと、無粋の極みだからです』

「なるほど。おっしゃる通りです」

 

 エドガーの言い分に同意した店長だが、すぐに表情を曇らせた。

 

「ですが何にせよ……私たちの時代は過ぎ去ってしまいました……」

 

 

 

 ミューとエドガーが帰っていくと、店長は表のカフェの看板をドアから取り外した。

 

「これで、地球ともお別れか……」

 

 名残惜しげに独白した店長は、傍に浮かぶテルテル坊主に振り向く。

 

「ノーバ、そろそろ行こう……」

 

 しかし、少し目を離していた間に、テルテル坊主はどこかへ姿を消していた。

 

「ノーバ?」

 

 辺りを見回して捜すと――ビルとビルの間に、巨大化したテルテル坊主が現れた! 驚愕する店長。

 

「あいつ、何やってんだ……。ノーバ、戻ってこい!」

 

 慌てて呼び戻そうとする店長だが、テルテル坊主は何かを訴えかけるように彼を見下ろしている。

 

「ノーバ……お前……」

 

 店長はテルテル坊主の気持ちを察して、言い返した。

 

「分かったよ……お前は何も、変わっていなかったんだな……!」

 

 

 

 街中にいきなり現れた巨大テルテル坊主に市民たちはすぐにパニックとなり、愛たちもまた急いで引き返してきていた。

 

「あれ!! カフェにいたテルテル坊主ですよ!!」

「怪獣だったんだ……!」

「あの店長が絶対に何か知ってるはずだよ! 捜そう!」

 

 全速力でカフェへと戻っていく愛たち。しかしそれより早く、異変に気がついたガイたちが店長の元へとたどり着いていた。

 

「店長のおっちゃん! 何やってるの!?」

「どうしてこんなこと……!」

 

 亜美と響が息せき切って問いかけると、振り返った店長はこう答えた。

 

「あいつだけは……夢をあきらめちゃいなかったんですよ!」

「夢って、まさか……!」

 

 息を呑む真。信じたくはなかったが、店長の表情に冗談はなかった。

 

「考え直してよ! 侵略者を引退したって言うから、真美たちは……!」

 

 説得する真美だったが、店長の心は変わらなかった。

 

「私たちの夢を叶えるチャンスは、これが最後! あいつ一人で戦わす訳には、いかんのですよッ!」

 

 テルテル坊主に向き直った店長の手の中には、水晶玉が握られていた。

 

「待たせたなノーバ! 地球侵略の夢、今ともに叶えようぞ!!」

「おいよせッ! 今更こんなことしたって……!」

 

 ガイの制止も振り切り、店長は光となって飛んでいき、テルテル坊主の口の中に飛び込んでいった!

 

「おっちゃーんっ!!」

 

 テルテル坊主の内部の赤い空間で、店長はステッキを持った黒ずくめの姿に変貌する。

 

『「はいッ! 私が、ブラック指令ですッ!!」』

 

 カフェのブラック店長は、長く連れ添った相棒の気持ちに触れ、往年の姿、侵略者ブラック指令となったのである!

 

「ギイイイイィィィィ!」

『「さぁノーバよ、思いっきり暴れるが良い!」』

 

 ブラック指令と一体化した赤いテルテル坊主――円盤生物ノーバが、両目から破壊光線を発射して街の破壊を始めた!

 この顛末にガイたちは動揺している。

 

「何故こんなことに……!」

「そんな……おっちゃんと戦うだなんて……」

 

 躊躇う亜美と真美だが、真と響はガイに振り返った。

 

「でもやるしかないっ! プロデューサー!」

「自分たちで店長を止めよう!」

「ああ……!」

 

 ガイがオーブリングを、真と響がティガとマックスのカードを握り締めた。

 

「ティガさんっ!」

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

「マックスさんっ!」

[ウルトラマンマックス!]『シュアッ!』

「かっ飛ばす奴、頼みますッ!」

[ウルトラマンオーブ! スカイダッシュマックス!!]

 

 フュージョンアップしたウルトラマンオーブが、ノーバに襲われる街の中に着地した。

 

『輝く光は疾風の如し!!』

 

 だがその瞬間、ノーバは奇怪な挙動でオーブとの距離を一気に詰めてくる。

 

「ウワッ!?」

 

 反射的に後ずさるオーブ。

 

『「待ってましたよ、オーブさん!」』

 

 ケタケタと小刻みに動くノーバの不気味さに、真たちは警戒している。

 

『「あの動き、普通じゃない……どんな攻撃をしてくるか……」』

『「超スピードで一気に決めればなんくるないさー!」』

 

 との響の言葉により、オーブは疾風の如き走りでノーバに突っ込んでいった!

 が、ノーバは風に舞う布きれのようなヒラヒラした身のこなしで、オーブの掴みかかりをヒラリとかわした。

 

『「えっ!?」』

『「は、速い!?」』

 

 思わず立ち止まったオーブが、ノーバの三叉ムチでひっぱたかれる。

 

「ウワァッ!」

 

 衝撃で地面の上を転がるオーブ。

 

『「いったぁ~……!」』

『「もう一度っ!」』

 

 すぐに起き上がって猛然と駆け回り、ノーバを捕らえようとするも、ノーバはやはりヒラリヒラリと翻弄してオーブの手をかいくぐってしまった。

 

『「駄目だ、掴みどころがない……!」』

『「だったら、違う手段で行くんだっ!」』

 

 うなずき合った真と響は、レオとゼロのカードを取り出した。

 

『「レオさんっ!」』

[ウルトラマンレオ!]『イヤァッ!』

『「ゼロさんっ!」』

[ウルトラマンゼロ!]『セェェェェアッ!』

『熱い拳、頼みますッ!』

[ウルトラマンオーブ! レオゼロナックル!!]

 

 オーブはスカイダッシュマックスからレオゼロナックルにチェンジして、両の拳を燃え上がらせた。

 

『宇宙拳法、ビッグバン!!』

 

 オーブの燃える拳が、ノーバの身体を激しく叩く!

 ……が、ノーバは吹けば飛ぶような体格にも関わらずオーブのパンチをその身で受け止め、両目からの光線でオーブを返り討ちにした。

 

「グワァッ!」

 

 仰向けに倒れ、ノーバの光線に苦しめられるオーブの姿に、戦いの様子を見上げている愛たちが驚愕した。

 

「ああっ!! オーブが!!」

「頑張って……!」

 

 オーブの中で響が思わず絶叫する。

 

『「あんなテルテル坊主みたいなのが、どうしてこんなに強いんだ!?」』

 

 その言葉に答えるかの如く、ブラック指令が言い放った。

 

『「シンプルイズザベスト。最近の怪獣はごちゃごちゃしてていかん」』

 

 それでもオーブは光線を振り払い、体勢を立て直して手刀を振りかざした。

 

「「『レオゼロビッグバン!!!」」』

 

 渾身の力を込めたチョップをノーバへ振り下ろすも、ノーバは瞬間移動で消えて回避してしまった。

 

『「よけられた!」』

『「どこへ行ったんだ……!?」』

 

 左右を見回すオーブの背後から、ぬっと現れるノーバ。

 

「オーブ兄ちゃん! 後ろ後ろー!!」

 

 亜美たちが叫んだ時には遅く、オーブの首にノーバのカマが掛けられて動きを封じられたところに、赤い毒ガスを吹きつけられる。

 

『うわぁッ! もうやめるんだ店長!』

『「私はもう店長ではない!」』

『「店ちょーう! やめてぇっ!」』

『「だ~か~ら~! 店長と言うなぁ!」』

 

 オーブたちの言葉に耳を貸さず、ノーバはオーブを苦しめ続ける。しかしオーブも負けておらず、ノーバを振り払って相手の頭を鷲掴みにした。

 

「ギイイイイィィィィ!」

「ウリャアッ!」

 

 強烈な握力でノーバの頭を締めつけるものの、怪奇生物であるノーバには効果が薄い。オーブを前に投げ飛ばすと、その腰にムチを巻きつけた。

 

「ギイイイイィィィィ!」

 

 ムチを巻き上げてオーブを引き寄せ、再び毒ガスを食らわせる。

 

「オワァッ!」

 

 悶絶させたところにムチを食らわせるノーバ。その中でブラック指令が告げる。

 

『「借り物の力では、積年の夢に燃えるノーバには勝てませんよッ!」』

 

 そのひと言で表情を引き締める真と響。

 

『「だったらこっちだって!」』

『「実力勝負さー!」』

 

 真がオーブオリジンのカードを手にして、響の握るリングへと差し込んだ。

 

『「プロデューサー、真の姿にっ!」』

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

 

 現れたオーブカリバーを二人で掲げ、オーブオリジンへと変身!

 

『銀河の光が、我らを呼ぶ!!』

 

 それを真っ向から迎え撃つ姿勢のノーバ。

 

『「やっと本気を出してきましたね!」』

「ギイイイイィィィィ!」

 

 ノーバが放つ光線を、オーブはカリバーを盾に防ぎ切った。思わず頭を抱えるノーバ。

 光線を弾くと、真たちはカリバーをオーブリングへと差し入れてエネルギーチャージする。

 

[解き放て! オーブの力!!]

 

 オーブが剣で円を描き、刀身にエネルギーの全てを集中した!

 

「「『オーブスプリームカリバー!!!」」』

 

 カリバーから放たれる必殺光線を、ノーバは口の中に飲み込んでいく。

 

『「ノーバぁ……!」』

 

 全ての光線を飲み込んだノーバは――溢れ出るエネルギーを抑え切れず、ロケットのようにはるか上空へと浮上。それを見上げるオーブ。

 そしてノーバの身体は、花火のようになって弾け飛んだ――。

 

 

 

 戦いが終わり――もうブラック指令ではなくなってしまった店長が、公園の中でうなだれていた。そこに静かにやってくるガイたち。

 ガイは店長の側に腰掛けて、ひと言呼びかけた。

 

「お疲れさんです……」

 

 店長はガイたちをひと言も責めずに、代わりに告げた。

 

「いい夢を……見させてもらいました……!」

「店長……」

 

 真たちは、哀愁漂う店長に何も掛ける言葉がなく、ただじっと彼を見つめていた。

 

「長い時間をともに泣き笑いして過ごした相棒を失った私には、もう……何も残っていませんよ……」

 

 そう自虐する店長に、ガイは言う。

 

「あんたのコーヒーを美味しいと言った奴らが、いるじゃないか」

 

 店長はゆっくりとガイに振り向き、そして一礼した。

 ガイが向き直った時には、店長はカフェの看板だけをその場に残して、消えていた。

 看板を抱え上げた真がぼそりとつぶやく。

 

「店長……地球侵略なんてボクたちからは受け入れられない夢だったけどさ……かわいそうだよね……。あんなに一生懸命だったのに……」

 

 響たちが伏し目がちにうなずくと、ガイが皆に向けて言い聞かせた。

 

「お前たちは着実に夢の実現に向かって進んでいる。だが、狭き門にはそれだけ数多くの脱落者がいるってことだ。俺たちがあのカフェで会った奴らは、そのごく一部に過ぎない」

「……」

「夢に向かって進む道のりは、夢半ばで破れた人たちを足場にして出来ているってことを、俺たちは忘れちゃいけないな……」

 

 ガイの言葉を、真たちは粛々と受け止めていた。

 

 

 

 後日、真たちは事務所でコーヒーを啜っていたが、吐き出したのはため息だった。

 

「この味じゃないんだよなぁー……」

「店長のコーヒーが恋しいぞ……」

「もう飲めないんだよねぇ……」

「……何だか、ごめんなさいね。納得いってもらえなくて」

 

 コーヒーを淹れた小鳥が微妙な顔になった。

 その一方で、事務所に来ていた渋川が貴音にあることを

 

「ねねね、貴音ちゃん! 君だったらきっと知ってるだろ? 君は大分好きみたいだからね! だから教えてくれよぉ住所!」

「はてさて……何のことでしょうか」

「そんなつれないこと言わないでさぁ~! どぉーしてもどぉーしても分かんねぇんだよ! 病みつきになる美味しいラーメン出してくれた店の場所!」

 

 今のひと言に、ガイたちが思わず顔を上げた。

 そんなことは露知らず、渋川は懐から割り箸の袋を取り出した。

 

「えーとね、店の名前は……ラーメン★ブラックスター! 知ってるだろ!?」

 

 その袋には、見覚えのあるマークが描かれていた。

 それを知ったガイたちは――ほんのりと微笑を浮かべ合っていた。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

あずさ「三浦あずさです。今回ご紹介するのは、ウルトラ戦士さんの間でも伝説と呼ばれる超人、ウルトラマンキングです」

あずさ「キングさんは『ウルトラマンレオ』に初登場した、M78星雲の最高齢のウルトラ族です。そのお歳は何と三十万歳。ウルトラマンさんが二万歳ですから、実に十五倍ですね。地球人に換算したら一体どれだけのご年齢になってしまうのかしら?」

あずさ「その能力はウルトラ戦士の視点からでも絶大でして、ありとあらゆることが出来るとされてます。『レオ』の時では小さくされたレオさんを元に戻してウルトラマントを授け、ババルウ星人の変身を暴き、バラバラにされてしまったレオさんを蘇生させてます。後年の作品でもヒカリさんにナイトブレスを与えたり、ベリアルさんを圧倒して宇宙牢獄に幽閉したりと要所要所で重要な活躍をされてます」

あずさ「最新作の『ウルトラマンジード』では遂に宇宙全体と一体化して宇宙を再生するという、まさに奇跡の業も披露しました。『ジード』ではキングさんの存在がどのように物語に影響していくのでしょうか。目が離せませんね」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『コーヒー1杯のイマージュ』だ!」

ガイ「この曲はアニメのDVD、BD第三巻の限定版の特典として収録されたCD『PERFECT IDOL』で初出の歌だ。昼下がりのカフェで待ち合わせをしているという状況を背景とした物語仕立ての歌だぞ」

あずさ「私もお洒落なカフェで運命の人と待ち合わせてみたいですぅ。なんて」

あずさ「それでは、次回もよろしくお願い致します」

 




 伊織ちゃんよ! 空から、宇宙から次々と怪獣が現れる! その原因は何なのかしら? 世の中はすっかり暗い空気に閉ざされちゃってる。こんな時こそ、ヒーローは希望を見せなくちゃいけないって亜美と真美が言ってるわ!
 次回『運命スターライン』。プロデューサーたち、世界に光を見せてちょうだい!


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運命スターライン(A)

 

「あれ、何かしら? 流れ星?」

「すぐに避難しましょう!」

「惑星O-50の、『戦士の頂』からの指令だ……」

『この夕焼けが、闇に呑まれてしまうのか……』

「逃げられちまったか……」

『あの子たちも、宇宙に活躍の場を移してればよかったのにねぇ』

「しかし、魔王獣は全て倒したというのに最近怪獣の出現が多いな……」

「……私たち、いつかバラバラになる日が来るのかな……」

 

 

 

『運命スターライン』

 

 

 

『繰り返す! ここは地球の大気圏内である! 直ちに退去せよ! 応じなければ攻撃を加える!』

 

 日本領空にて、二機のゼットビートルが宇宙から飛来してきた二体の未確認飛行物体を追跡し、警告を飛ばしていた。しかし相手からの応答はない。

 飛行物体は細胞がそのまま大きくなったかのような生々しい質感の楕円形の物体である。ビートルから飛行物体の分析を行った隊員が本部に報告する。

 

『飛行物体そのものから生体反応あり! 金属反応はなし! 宇宙生物のようです!』

『対象からの応答は依然ありません!』

『やむを得ん。攻撃!』

『了解!』

 

 命令が下り、ビートルからミサイルが発射された。まっすぐ飛んだミサイルは飛行物体に命中し、飛行物体は二体とも黒煙を噴きながら墜落していく。

 

『やったか!?』

 

 そのまま無人の山間部に撃墜された飛行物体だが……するとたちまち変形していき、地面の岩石と融合していく。

 そして飛行物体――宇宙球体スフィアは、二体の怪獣へと変貌した!

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

「グオオオオオオウ!」

 

 両者とも融合した岩石によって肉体を形成した怪獣。一体は全身が鋭角的であり、もう一体は岩石とともに取り込んだマグマが表面に露出して赤く煮えたぎっている。スフィア融合獣のネオダランビアとグラレーンだ!

 

『何ッ!? 怪獣になった!』

 

 ネオダランビアは鼻先から光線を発射し、二機のビートルはそれにかすめる。

 

『うわあぁぁッ!』

 

 損傷を負ったビートルは航空能力に異常を来たし、みるみる落下していく。

 

「グオオオオオオウ!」

 

 そこをグラレーンが吐き出す火炎が狙う! ビートルはかわすことが出来ない!

 

『うわぁぁぁ―――――ッ!』

 

 もう駄目だとビートルのパイロットたちは目をつむったが、その時にひと筋の光が猛然と降ってきて、火炎放射をさえぎってゼットビートルを救った。

 

『あ、あれはッ!』

 

 無事に不時着するビートル。パイロットたちが見上げたのは、銀と赤と青の雄大な背面であった。

 ウルトラマンオーブだ!

 

『俺たちはオーブ! 光の輝きと共に!!』

 

 ゼットビートルの危機を救ったオーブ・ゼペリオンソルジェントは、そのままネオダランビアとグラレーンに対して構えて抗戦の意志を見せる。

 

『「行くよ、真美!」』

『「オッケーやよいっち! どっからでもかかってこーい!」』

 

 その内部ではやよいと真美が声を張って戦意をかき立てていた。

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

「グオオオオオオウ!」

 

 目の前に降臨したオーブに、ネオダランビアとグラレーンは同時に飛び掛かっていく。しかしオーブは身体を青く光らせての高速移動で二体の間を抜け、相手の突進をかわした。

 

「デアッ!」

 

 慌てて振り返ったネオダランビアの腹部に後ろ蹴りを入れて突き飛ばし、身体を今後は赤く光らせてグラレーンの身体を掴むと、剛力で抱え上げて遠くに投げ飛ばした! ゼペリオンソルジェントのマルチアクションによってオーブは数の差を物ともしない奮戦ぶりを見せている。

 

「ジェアッ!」

 

 グラレーンを引き離したオーブはネオダランビアの方へチョップを振り下ろす。が、ネオダランビアはバリヤーを張ってチョップを跳ね返した。

 

「ウッ!?」

「グワアァァァ! ピィ――――!」

 

 オーブがよろめいた隙を突き、ネオダランビアは右腕を長く伸ばしてオーブの腰に巻きつかせて、電流攻撃を食らわせる!

 

「ウワアァァッ!」

『「うあうあー! びりびりするよー!」』

『「うー! だけどこんなの……」』

 

 電流は真美とやよいも苦しめるが、やよいたちはそれを耐えて、

 

『「「何ともないよっ!」」』

 

 ネオダランビアへ反撃する!

 

「「『マルチフラッシュスライサー!!!」」』

 

 両腕を振って光刃を飛ばし、ネオダランビアの右腕を切断したばかりかバリヤーをも同時に粉砕した!

 

「グワアァァァ! ピィ――――!」

 

 強烈な一撃をもらって一瞬動きが止まるネオダランビア。そのチャンスを逃さず、オーブは腕をL字に構える。

 

「「『ゼペリジェント光線!!!」」』

 

 必殺光線が叩き込まれ、ネオダランビアは全身を爆破されて黒い煙となって霧散していった。

 

「グオオオオオオウ!」

 

 そこにグラレーンが走って戻ってきた。振り返ったオーブは再び相手の身体を押さえ込もうと掴みかかるものの、

 

「グオオオオオオウ!」

 

 グラレーンは全身を赤く赤熱させて、オーブの手の平を焼いた。

 

「ウッ!?」

『「今度は熱っつ!?」』

 

 思わず手を放すオーブ。グラレーンはそこに高熱火炎を浴びせかける。

 

「ウワァァッ!」

 

 オーブが丸焼けにされてしまう! と思われたが、

 

『「ガイアさん!」』『デュワッ!』

『「ビクトリー兄ちゃん!」』『テヤッ!』

『大地の力、お借りしますッ!』[ウルトラマンオーブ! フォトンビクトリウム!!]

 

 オーブはフォトンビクトリウムにフュージョンアップすると、その剛腕でグラレーンの火炎攻撃を真っ向から受け止めた。

 

「グオオオオオオウ!」

『闇を砕いて、光を照らす!!』

 

 そのままずんずんと炎を押し返しながらグラレーンに接近していき、重い拳を顔面に食らわせる。

 

「セェヤッ!」

「グオオオオオオウ!」

 

 ショックでグラレーンの火炎が途切れ、オーブは一発に留まらず何発も鉄拳をお見舞いした。

 

「デヤッ! オリャアッ!」

 

 発達した剛腕はグラレーンの熱も物ともせず、その身体を粉砕していく。

 

「「『フォトリウムナックル!!!」」』

「グオオオオオオウ!!」

 

 最後はエネルギーを乗せた最大の一撃が決まり、グラレーンを粉砕。その肉体は黒い煙に弾けた。

 

「シェアッ!」

 

 スフィア融合獣二体を撃退したオーブは大空へ飛び上がり、空の彼方へと去っていくのであった。

 

 

 

 戦闘終了後、不時着したビートルのパイロットたちの救助のためにビートル隊員たちを連れて駆けつけた渋川は、現場である三人を発見した。

 

「おーい、プロデューサー君たち!」

「渋川さん、お疲れさまです」

「渋川のおっちゃんだー」

「お疲れさまですぅー!」

 

 ガイと真美、やよいである。やよいはバッと大きく頭を下げた。

 

「お疲れさん。君たち相変わらず耳が早いねぇ。怪獣とオーブのことを聞きつけて来たんだろ?」

「ええ、まぁそんなところで」

「けど、一体どうやってこんな辺鄙なとこまで駆けつけてきたんだ? 車は見当たらねぇけど」

 

 という渋川のツッコミに、ガイたちはギクリと身体を震わせた。

 

「ま、まぁ細かいことはいいじゃんおっちゃん! それより不時着した人たちは大丈夫だったの?」

「ああ、そっちは幸い怪我もなかったんだがよ」

 

 真美が顔を引きつりながらも話をすり替えると、渋川は険しい表情で空を見上げた。

 

「けど今回はまたけったいな奴が飛んできたもんだよ。怪獣になる飛行物体とかさ。ここんところ、空からおっかねぇ怪獣が降ってくることが多くなったよな」

「そうですね、確かに……」

 

 何かを思案する顔でうなずくガイ。それに気づかずに渋川は続けた。

 

「最近の地球はどうなっちまってんだろうなぁ。世間はすっかり陰鬱なムードだよ。世界の終わりが近いんだなんてこと唱える奴も出てくるし、子供たちの間じゃ空を見上げるのを怖がるケースが増えてるそうだぜ。宇宙から怪獣が飛んでくるって言ってな」

 

 渋川の世間話に、やよいは、そして真美は大きく顔をしかめた。

 

 

 

 その日の夜、事務所に残っていた亜美と真美は、ガイも交えて屋上で夜空を見上げていた。

 その中で真美がガイに呼びかける。

 

「ねぇ兄ちゃん、渋川のおっちゃんが言ってたことなんだけどさ……」

「何だ?」

「子供たちの間で、空を見上げるのを怖がるのが多くなってるっての。どう思う?」

 

 聞かれたガイは眉間に皺を寄せた。

 

「いいことじゃあないな。何かを恐れてたら、人は大きく飛躍することは出来ない」

「だよねぇ……。何とかならないかな」

「亜美も、世の中のみんなが暗ーくなってるのは気分が良くないよ」

 

 と意見する亜美たち。世間は相次ぐ怪獣災害によって、日が経つに連れて重い空気が広がっていっているのだ。

 そんな状況に関して、亜美がガイに言う。

 

「亜美さ、いつかは765プロが宇宙に飛び出して、誰もやったことのない宇宙ライブをするってのが夢なんだ」

「真美も! 宇宙から地球を見渡して歌うなんて気持ちよさそうだよね!」

「何だお前たち。そんなこと考えてたのか」

「うん。宇宙デビューの話は断ったけど、行くのなら自分たちの力でって決めてたからなんだよ」

 

 夢を語りながら夜空を見上げる亜美たちだったが、すぐにため息を吐いた。

 

「でも、世の中のみんなが空を怖がってちゃ、それも出来ないよ」

「だから真美たち、みんなにこう思ってもらいたいんだ。空は、宇宙は怖いとこなんかじゃないって」

「そうだな……」

 

 ガイも夜空を見上げながら、ぼんやりとつぶやいた。

 

「俺も同じ意見だ。宇宙はとても広大で、俺にとってもまだまだ未知とロマンで満ちた場所だ。そこを恐れてちゃ、地球人は未来に大きく羽ばたけないかもしれない」

 

 そんなことを話し合っていたら、屋上に小鳥が駆け込んできた。ひどく焦った様子で。

 

「プロデューサーさん! 大変です!!」

「どうしたんですか小鳥さん?」

 

 彼女のただごとではない様子に、ガイたちは一瞬面食らった。

 

「何と説明したらいいものか……。と、とにかく、ついてきて下さい! 大変なことが起こってるんです!」

 

 と小鳥に促されて、ガイたちは戸惑いつつも彼女の後に続いて事務室へと降りていった。

 

 

 

 そしてガイたちは、小鳥から見せられたネットニュース、その掲載画像に思わず息を呑んだ。

 

「こ、これは……!」

「プロデューサーさん、これは一体何なんですか……!?」

「うー……何かすっごいのが来てますぅ……!」

 

 亜美たちと同じく事務所に残っていた春香とやよいが、『それ』について問うた。

 画像は、様々な国の天文望遠鏡が撮影した写真であった。宇宙の果てから、外惑星を取り込みながら……『ブラックホール』が地球に接近しつつある! そうとしか言えない光景であった!

 

「ネットどころか、世界中がこの異常な天体に大パニックです。プロデューサーさん、これのことを知ってますか……?」

 

 ゴクリと固唾を呑みながらうなずいたガイが、その正体を口にする。

 

「こいつは、間違いない……! 俺も噂でしか聞いたことのない、化け物の中の化け物級……グランスフィアだッ! こんなとんでもねぇのが現れるとはな……」

「ぐ、グランスフィア……!」

「かつてダイナさんが、半ば差し違える形で倒したっていう『生きた惑星』だ。そうか、さっきの怪獣はこいつの尖兵だったんだな」

 

 高木がグランスフィアについて、ガイに問いかける。

 

「グランスフィアがこのまま地球に接近してきたら、一体どうなるのかね?」

「……グランスフィアの目的は、宇宙のあらゆる生命体を自らと同化させること。だがそれは、個々の命の自由意思を奪ってしまうということです」

「それってつまり……?」

 

 小鳥が聞き返すと、ガイは極めて険しい面持ちで言い切った。

 

「人間は二度と、夢や希望を持つことが出来なくなります。もちろん、アイドルをやることも!」

「そ、そんな……!!」

 

 それは春香たちにとって、何物よりも耐え難い未来であった。

 

「宇宙人たちが片っ端からこの星を去ってったのは、グランスフィアの接近を予見したからだったのか……?」

「ともかく、そんなことをさせる訳にはいかないよ君ぃ!」

「そうだよ兄ちゃんっ!」

 

 真美と亜美が強くガイに訴えかける。

 

「夢も希望もない真っ暗な世界なんて、真美絶対ヤだよ!」

「ヒーローはこんな時にこそ、世界に希望を見せなくっちゃ!」

「私も、アイドルが続けられない……歌のない世界になんてさせられません!」

 

 春香もやよいも語る。皆気持ちは一緒であった。

 

「全くだ。地球の防衛力じゃ、グランスフィアを止めることは出来ない。こんな時こそ俺たちの出番だッ!」

「はいっ! 765プロ、ファイトですね!!」

 

 アイドルたちがガイに応じ、春香と真美がグランスフィアの危機に立ち向かうこととなる。

 

「真美、はるるん、兄ちゃん! 頑張ってねっ!」

「地球の未来をお願いしますー!」

「みんな、よろしく頼んだよ」

「必ず無事に帰ってきて下さい!」

 

 亜美、やよい、高木、小鳥の応援を受けながら、ガイと春香、真美が窓辺に立ってフュージョンアップを行う態勢となる。

 しかしその寸前、ガイがふとつぶやいた。

 

「しかし、全ての命と同化しようとするグランスフィアか……。あの男のことを思い出すな……」

「プロデューサーさん?」「兄ちゃん?」

「ああいや、こっちのことだ。何でもない。それより行くぜ!」

 

 ガイがオーブリングを取り出すと、春香がウルトラマンの、真美がネクサスのカードを握った。

 

「ウルトラマンさん!」

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

「ネクサス兄ちゃん!」

[ウルトラマンネクサス!]『シェアッ!』

「絆の力、お借りしますッ!」

[ウルトラマンオーブ! スペシウムシュトローム!!]

 

 三人は融合してウルトラマンオーブ・スペシウムシュトロームとなり、光となって大空高くに飛び上がった。

 

「シェアッ!」

 

 スペシウムシュトロームは宙を自在に飛翔する戦士。その能力によってあっという間に大気圏を抜け、宇宙に飛び出して猛スピードでグランスフィアに向かっていく。

 そしてオーブはすぐに、闇を纏って星の輝きを奪いながら迫りつつあるグランスフィアの姿を視界に収めた。

 

『あいつだ!』

『「す、すっごい大きさ……。生きた惑星って言うだけあるね……」』

 

 グランスフィアの、目測では到底測りきれない常識外のサイズに、天真爛漫な真美も思わず震え上がった。光の巨人ウルトラマンオーブですら、グランスフィアと比べれば微生物レベルなのだ。

 

『「だけど、ここから先には絶対に通さないよ!」』

 

 それでも春香たちの戦意はくじけない。少しも速度を緩めることなく、グランスフィアへと立ち向かっていく。

 しかしグランスフィアもオーブを障害と見なしたのか、雷撃を飛ばして攻撃してくる!

 

「ウワアァァッ!」

『「わああぁぁぁぁぁっ!」』

 

 惑星クラスの生物の攻撃ともなると威力と規模も尋常ではなく、オーブは雷撃の連発によって嵐の中の小舟のように押し流される。

 

『「うあうあー! これじゃ近づくことも出来ないよー!」』

 

 宇宙の暴風によって散々に振り回されるオーブの中で、真美が悲鳴を発する。やはりウルトラマンオーブといえども、惑星を相手取ることは無謀なのか?

 しかしオーブにも手がない訳ではなかった!

 

『こうなったらとっておきの切り札だッ!』

 

 オーブがそう言って春香と真美に渡したのは、ベリアルとダイナのカード。

 

『「兄ちゃん、これは……!」』

『パワーがあり過ぎて、とても地上じゃ使えない組み合わせだ! こいつで目に物見せてやろうぜ!』

 

 春香と真美はうなずき合って、オーブリングを握り締めた。

 

『「ダイナ兄ちゃん!」』

[ウルトラマンダイナ!]『デヤッ!』

 

 真美がカードをリングに通すと、ウルトラマンダイナ・ミラクルタイプのビジョンが真美の隣に現れる。

 

『「ベリアルさん!」』

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

 

 春香が呼び出したのはベリアルのビジョン。そしてリングのトリガーが引かれる。

 

『凄まじい奴、頼みますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 真美と春香、ダイナとベリアルのビジョンがオーブと融合し、オーブは新たな姿にフュージョンアップ!

 

『ジュワッ!』『ヘェア……!』

[ウルトラマンオーブ! サンダーミラクル!!]

 

 宇宙牢獄を突き破り、淡い緑色の光と闇の渦巻きから、青くマッシブな姿となったオーブが飛び出していく!

 

(♪Fighting Theme-miracle-)

 

『俺たちはオーブ! 闇の力を、奇跡の光に!!』

 

 オーブ・サンダーミラクルはグランスフィア目掛けての突撃を再開。全身から溢れ出る莫大なパワーによる進撃は、最早止まることを知らない。繰り出される雷撃もその身一つで弾き返す。

 揺るぎない肉体強度と超能力を両立したサンダーミラクルは、破壊力に関してはオーブの全形態でも頭一つ二つは飛び抜けているのだ!

 

『「すっごーい! 全然痛くないよー!」』

 

 思わず歓声を上げる真美。黒春香はぐんぐんと視界に大きくなっていくグランスフィアに向かって言い放った。

 

『「あんたは重量オーバーよ! お引き取り願うわよっ!」』

『このまま突撃だッ!』

 

 オーブは全身をエネルギーのバリアで包み、光の速度でグランスフィアに突進!

 

「「『サンダーミラクルアタック!!!」」』

 

 オーブの全身全霊の突撃が恐るべきレベルの衝撃を生み出し、惑星サイズのグランスフィアをも震わせた!

 そしてグランスフィアの纏う重力場が揺らぎ、バランスが崩れて大きく乱れていく。

 

『離脱だッ!』

『「ええ!」「うんっ!」』

 

 攻撃に成功したオーブは180度転身し、全速力でグランスフィアから離れていった。直後に、グランスフィアは自身の重力によって押し潰されていき、黒い煙となってバラバラになっていった。

 

『「やったぁぁーっ! 大・成・こーうっ!」』

『「ダイエットしてから地球に来るべきだったわね!」』

 

 真美が大いに喜び、黒春香は皮肉を飛ばした。三人はグランスフィアの崩壊を見届けていたが……。

 積乱雲のような黒い煙の中から、闇の塊が飛び出して地球へと飛んでいく!

 

『何ッ!?』

 

 予想外の事態に、オーブは対応することが出来なかった。闇の塊を目で追うのが精一杯だった。

 

『な、何だあれは? スフィアじゃなかったぞ?』

『「プロデューサーさん、ともかく追いかけましょう! 何だか嫌な予感がするわ!」』

『ああ!』

 

 唖然としていたオーブだったが、春香の呼びかけで我に返る。

 

『「ウルトラマンさん!」』『ヘアッ!』

『「ティガ兄ちゃん!」』『ヂャッ!』

[光の力、お借りしますッ!]『ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!』

 

 オーブはスペシウムゼペリオンに変身して、謎の闇の塊が向かって言った地球へと最高速度で引き返していった。

 



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運命スターライン(B)

 

 全世界の人々を恐怖と絶望のどん底に陥れていたグランスフィアであったが、それがウルトラマンオーブによって撃破され、取り込まれた星も元通りになったことはすぐに報じられ、世界は一転して歓喜と希望に包まれた。

 

「やった! オーブは勝ったんだね、看護師さん!」

「ええ! 地球は救われたのよ!」

 

 ここ、双海姉妹の父親が勤める病院でもオーブの勝利は、テレビの緊急速報によって伝えられた。テレビに釘づけになっていた入院中の患者や医者、看護師らは、病院であることも忘れて皆大歓声を上げ、患者の少年も担当の看護師と喜びを分かち合った。

 だが、すぐに状況は変化することになる。

 

『いえ、お待ち下さい! ただいま新しい情報が入りました! ウルトラマンオーブによって破壊された暗黒惑星から正体不明の物体が地球の大気圏に突入したとのことです!』

「えッ!?」

 

 病院の待合室は一気に静まり返った。謎の惑星の危機から脱したというのに、まだ何かあるのかと彼らは静かにおののく。

 しかも次にニュースで発表された、飛行物体の落下予測地域を目の当たりにして、恐慌は瞬く間に拡大する。

 

「ま、まさか……ここに落ちてくるってのか!?」

 

 発表された地域には、この病院が入っているのだ。人々はすぐにパニックになって逃げ出そうとするが、何分重病患者も多い病院。すぐに全員の避難が出来るはずがない。

 その上飛行物体の落下は予想よりもずっと速く、ほとんどの人間が病院施設の外に出る間もなく――地上に落ちてきた闇の塊に呑み込まれることとなった。

 

「うわあああぁぁぁぁぁぁ――――――――――――!?」

 

 大勢の人間の悲鳴までも、闇の中に消えていった。

 そして、太陽が昇る――。

 

 

 

「何だありゃあ……」

 

 グランスフィアから飛び立った未確認飛行物体の落下地域はビートル隊によって完全封鎖され、指揮を執る渋川は、封鎖区域の中央にそびえ立つ『それ』をながめ、完全に呆然としていた。

 街の中央に、黒いドームとしか形容の出来ない形に『闇』が立ち込めているのだ。『闇』は太陽光でも払い除けられず、その下敷きになった区域がどうなってしまったのかは、外からでは全く分からない状態であった。

 

「一体ありゃ何で出来てんだ? おい、何か分かんねぇか?」

「駄目です……。考えられ得るあらゆる手段を用いて解析しましたが、全く正体が解明できません。あれは、我々の科学力を超越しています」

 

 渋川に聞かれた科学班が匙を投げるほど、闇の塊は人間の理解の範疇を超えた代物であった。

 

「何てこった……。全く正体の掴めないもんに、どんな手を打ちゃいいんだ?」

 

 渋川でさえどうすればよいのか見当もついていないところに、ガイが亜美、真美、春香、やよいを連れて現場に駆けつける。

 

「叔父さんっ!」

「ああ春香ちゃんたちか。あれ見てくれよ。またとんでもないことになっちまったよ」

 

 闇のドームを顎でしゃくる渋川。すると亜美と真美が青ざめた表情で言った。

 

「あれの下にあるの、亜美たちのパパの病院だよ!」

「何!? そうだったのか……」

「渋川のおっちゃん! パパたちがどうなったか分かんない!?」

 

 とすがる真美だったが、渋川は残念そうな顔で首を振った。

 

「悪りぃけど、中の状況は全く分かんねぇんだ。何使っても内部は見通せなくてな……」

「そうなんだ……」

「パパや病院の人たち、他の人たちも……みんな、大丈夫なのかな……」

 

 これほどの異常事態に、いつも明るい亜美真美も流石に落ち込んでいた。春香とやよいも戸惑ってしまうほどの異例なことだ。

 

「心配するなって! 今俺たちビートル隊が、どうにかする手段を全力で模索してるから……」

 

 見かねた渋川が励まそうとしたが、ちょうどその時に隊員の一人が泡を食って走ってきた。

 

「た、大変です!」

「何だ! まだ何かあるってのかおいッ!」

「は、はいッ! あの黒いドームですが……拡大していることが判明しました!」

「な、何ぃぃぃぃぃッ!?」

 

 渋川も、ガイたちも衝撃を受ける。

 

「拡大速度は徐々に上がっており、予測によれば三時間もあれば首都圏一帯が呑み込まれてしまう計算です……!」

「何てこった……! 早いとこ何とかしねぇとやばいじゃねぇかッ!」

 

 焦りながらも、そのための手段が思い浮かばずに苦悩する渋川。一方で、ガイたちはそっと彼の元から離れて、他人の目のない場所に隠れた。

 春香がガイに尋ねる。

 

「プロデューサーさん、あの闇のドームをどうにかすることは出来ませんか?」

「科学の力じゃ無理だな。あの闇を払うことが出来るのは、光の力だけだろう」

 

 ガイはきっぱりと答えた。それはつまり、引き続きウルトラマンオーブの力が必要だということだ。

 

「第二ラウンドってとこだな。もう一度フュージョンアップだ!」

「兄ちゃん!」

 

 オーブリングを取り出したガイに、亜美が申し出た。

 

「今度は亜美が行くよ!」

「真美にも、もう一度フュージョンアップさせて!」

「亜美、真美……!」

 

 ガイたちの視線を浴びながら、二人は熱弁する。

 

「パパたちのことは、どうしても亜美たちで助けたいの!」

「このままパパたちが闇の中に消えちゃうなんてことはさせらんないから! 兄ちゃん、お願いっ!」

「だが、流石に危険が大きすぎるぞ。あの中がどうなってるかも想像がつかないんだ」

 

 流石にためらうガイだが、二人の必死な願いを、春香とやよいも支持する。

 

「プロデューサーさん、二人を連れてってあげて下さい。きっと力になります!」

「プルデューサーたちの光があれば、暗闇になんか絶対負けないって信じてますからー!」

 

 春香たちの後押しもあって、ガイは考えた末に結論を出した。

 

「大事な人は、自分の手で救い出すもんだ。それじゃあ亜美、真美、行くぞ!」

「「うんっ!!」」

 

 亜美と真美が力強い、覚悟を固めた顔でうなずき、三人はフュージョンアップを行う。

 

「ギンガ兄ちゃん!」『ショオラッ!』

「エックス兄ちゃん!」『イィィィーッ! サ―――ッ!』

「痺れる奴、頼みますッ!」[ウルトラマンオーブ! ライトニングアタッカー!!]

 

 三人はウルトラマンオーブとなると、迷うことなく闇のドームに向かって一直線に飛んでいく。

 

「あッ! ウルトラマンオーブ!」

 

 自分たちを飛び越えていくオーブを見上げる渋川たちビートル隊。彼らの見ている前で、オーブは全身に電光を纏う。

 

「シェアァッ!」

 

 その状態からの突撃によって、オーブは闇のドームの壁を突き破って内部に突入を果たしていった。オーブの姿はすぐに闇の中に見えなくなる。

 

「オーブ、俺たちの代わりに民間人を救おうと……」

 

 渋川はオーブの進撃を見届けると、もう姿の見えなくなった彼に対してビシッと敬礼した。

 

「大勢の人たちの命をどうか頼んだぜ、オーブ!」

 

 

 

 闇のドームの内部へ侵入を果たしたオーブは、その中の異様な光景に目を見張った。

 

『「な、何これ!?」』

 

 ドームの中に広がる世界は、侵蝕された街――ではなく、どこまでも広がる平坦な荒野であった。亜美と真美は混乱する。

 

『「どうなってるのこれ!? 街はどこに行っちゃったのぉ!?」』

『どうやら闇の中は、一種の異空間になってるみたいだな……』

 

 オーブは適当な場所に着地して、周囲に目をこらす。すると荒野の中に、取り込まれたと思しき人々の姿を発見した。

 

『「あそこに人が! でも……」』

 

 しかし彼らは皆、表情が全くない顔つきで延々と立ち尽くしたままであったりその場に倒れていたりと、まるで生気がなかった。生きているのに死んでいるかのような不気味なありさまに、亜美たちは思わず寒気を感じた。

 

『「あ、あれはどういうこと……? あの人たち、どうしちゃったの……?」』

『……自由意思を奪われた人間の姿だ。今の彼らには生きようという意志がないから、あんな風に時間が止まっちまったみたいなことになってるんだ』

『「ひどい……あんなの……」』

『「パパもあんなことになってるの……?」』

 

 真美たちは人々が受けている所業にひどい嫌悪感を覚え、彼らを救わなくてはと決意した。

 

『「すぐに助けなくっちゃ!」』

『「こんなことしたの誰!? ぶっ飛ばしちゃうぞ!」』

 

 亜美の叫び声に応じるように、闇の中から巨大怪獣がオーブの前に姿を現す!

 

「ウオオオアアアア―――――!」

 

 それはまるで、白骨の悪魔を思わせるようなあまりに異形で、おぞましい容貌であった。様々な怪獣を見てきた亜美たちですら、思わず恐怖心を抱くほどの不吉さを姿形だけから醸し出している。

 

『「な、何あいつ? すっごいコワモテ……!」』

 

 しかしオーブは、別のことに驚愕して言葉を失っていた。

 

『ド、ドクターサイキ!? そんな馬鹿な……!』

『「えっ? 兄ちゃん、知ってるの?」』

『「ドクターって……あれもしかして人間なの!?」』

 

 亜美と真美が問い返すと、オーブはあの怪獣が何者かを簡潔に説明した。

 

『俺の最初のミッションで戦った、怪獣と人間が融合して生まれた怪物だ。それが何で今になって、こんな場所に……!?』

「ウオオオアアアア―――――!」

 

 オーブが考える暇もなく、悪魔のような怪獣サイクイーンは咆哮を発して襲い掛かってきた!

 

『くッ、今は考えてる暇はないか! 行くぞッ!』

『「「うんっ!」」』

 

 迫り来るサイクイーンを迎え撃つオーブ。両者のパンチがぶつかり合う。

 

「シェアッ!」

「ウオオオアアアア―――――!」

 

 渾身の力を込めたオーブだが、彼の拳の方が弾かれて体勢を崩した。

 

「ウオッ!?」

「ウオオオアアアア―――――!」

 

 そこにサイクイーンの猛打が叩き込まれる。嵐のような猛撃に吹っ飛ばされるオーブ。

 

「グアァァッ!」

『「「うわあぁぁぁっ!」」』

 

 何とか受け身を取って起き上がるも、サイクイーンは長い尾を持ち上げて翼状の角の間から先端をオーブに向けた。その尾にエネルギーが集中する。

 

『まずいッ!』

 

 咄嗟に防壁を張るオーブ。

 

「「『ハイパーバリアウォール!!!」」』

「ウオオオアアアア―――――!」

 

 しかしサイクイーンの発射した破壊光線は、オーブのバリアを呆気なく貫通する!

 

「グワアアアァァァァァァッ!!」

 

 すさまじい威力の一撃にまたも吹き飛ばされるオーブ。だがサイクイーンは容赦がなく、オーブに詰め寄ってくると鋭い爪を振りかざして攻撃してくる。

 

「ウゥッ!」

 

 どうにか相手の爪を受け止めるオーブだったが、サイクイーンは肉体から赤黒い電撃を発してオーブを苦しめる。

 

「ウワアアアアアアアアッ!」

『「「あああああっ!!」」』

 

 サイクイーンの電撃の威力は、ライトニングアタッカーも上回っていた。相手の恐ろしいまでの攻撃能力に、オーブは防戦一方である。カラータイマーも鳴って危険を報じた。

 

『くそッ……あの時と同等の強さだ……!』

 

 思わず悪態を吐くオーブ。彼は圧倒的な力を背景に立ちはだかるサイクイーンと、この温かみのない暗黒の空間を見据えて独白する。

 

『次々現れる怪獣……地球から逃げてく宇宙人……それらは、地球の未来が今のこの状況のようなものだという暗示なのか? 地球の運命は暗黒だとでも言いたいのか?』

 

 このオーブのひと言を、亜美と真美が否定する。

 

『「そんなことないよ!」』

『「地球の未来は真っ暗なんかじゃない!」』

『亜美、真美……!』

 

 二人はオーブに、サイクイーン相手に、そして自分たちに向けて言い放った。

 

『「どんな時にだって光はある! 真っ暗闇をはね飛ばすものがある! 亜美たち、それを信じてがんばってるんだよ!」』

『「真美たちには、765プロって大切な仲間がいる! みんなと結び合う絆が、地球の光を照らしてくれる! そうだよね、兄ちゃん!」』

 

 聞かれたオーブが、確信を込めてうなずいた。

 

『ああ! どんな時にも、俺たちの絆が光を作り出す! 絆の光が、希望を生むッ!』

 

 そして亜美と真美の手元に現れたのはオーブリングと、メビウスとギンガのカードだった。

 

『希望の光で、この暗黒の世界を切り裂いてやろうぜ!!』

『「「ラジャー!!」」』

 

 リングとカードを手に取った亜美真美が、フュージョンアップを行う!

 

『「メビウス兄ちゃん!」』

[ウルトラマンメビウス!]『セアッ!』

 

 真美がメビウスのビジョンを呼び出し、亜美がギンガのカードをリングに通す。

 

『「ギンガ兄ちゃん!」』

[ウルトラマンギンガ!]『ショオラッ!』

 

 それからオーブが叫ぶ。

 

『希望の力、お借りしますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 亜美と真美はメビウス、ギンガのビジョンとともにオーブと融合した!

 

『タァッ!』『シュワッ!』

[ウルトラマンオーブ! メビュームエスペシャリー!!]

 

 メビウスの輪と交差した銀河の中から、赤と銀の身体に発達したクリスタルを持った姿となったオーブが飛び出していく!

 

(♪メビウス!)

 

『俺たちはオーブ! 眩い光で、未来を示す!!』

 

 オーブの全身から発している閃光が暗黒の世界を照らし、サイクイーンの目も一瞬くらませた。

 メビウスとギンガ、どこまでも未来への希望を信じ続け、その末に暗黒の未来の運命を打ち破った勇士の信念をその身に宿したメビュームエスペシャリーが、過去からよみがえった暗黒の亡霊に挑む!

 

「セェェアッ!」

 

 オーブが右腕を大きく薙ぐと、五本の光の短剣が出現して宙に浮かんだ。その短剣の刃が伸び、オーブの腕の動きに合わせてサイクイーンに斬撃を浴びせる!

 

「ウオオオアアアア―――――!」

 

 サイクイーンは光剣を叩き割ろうと両腕を振り回すが、それぞれが自在に動き回ることで複雑な剣さばきを作り出す五振りの光剣には身体がついていかず、なす術なく斬られていく。

 

『「えぇーいっ! やぁっ!」』

『「そこだっ! とりゃあーっ!」』

 

 そしてこのメビュームエスペシャリーの固有能力の威力を最大限に引き出しているのは、亜美と真美の絶妙なコントロールだ。双子ならではの呼吸と心が完璧に合ったコンビネーションは、五本の剣を同時に操作するという神業を実現しているのだ。

 

「ウオオオアアアア―――――!」

 

 サイクイーンは一転した劣勢に業を煮やしたように、再度尾を頭上へと持ち上げて破壊光線の構えを見せた。もう一発あの攻撃を食らうのはかなりまずい。

 しかしオーブは恐れず、己の両手に作り出した光剣を中心に、五振りの短剣を一つに束ねた。

 

「「『メビュースペシャリーブレード!!!」」』

 

 全ての光剣を一つとした莫大なエネルギーの刃が、サイクイーンの破壊光線と衝突!

 そうして、光線ごとサイクイーンを一刀両断した!

 

「ウオオオアアアア―――――!」

 

 尾をぶつりと切断されたサイクイーン。これで破壊光線は撃てなくなったが、サイクイーンはまだ倒れてはいない。

 そこで亜美と真美はとどめを刺すべく、オーブオリジンのカードを握り締めた!

 

『「「兄ちゃん、真の姿に!」」』

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

 

 オーブカリバーの力で、オーブをオリジンの姿へと変える!

 

『銀河の光が、我らを呼ぶ!!』

 

 すかさず亜美真美はオーブカリバーの力を解放。

 

[解き放て! オーブの力!!]

 

 オーブはカリバーで大きく光の円を描き、全ての力をオーブカリバーからサイクイーンへと叩き込んだ!

 

「「『オーブスプリームカリバー!!!」」』

 

 虹色の光の奔流がサイクイーンの肉体を貫く!

 

「ウオオオアアアア―――――……!」

 

 今度こそサイクイーンは全身分解されて光の中に消え、黒い煙となって消滅したのであった。

 同時に暗黒の空間が晴れていき、街は元通りに暖かい太陽光の下に晒された。

 

「う、うーん……?」

「ここは……私たちはどうなって……?」

 

 闇の中に囚われて自由意思を奪われていた人たちも目を覚まし、自我を取り戻した。それを確認したオーブはおもむろにうなずき、大空へと飛び立っていった。

 

「シュワッチ!」

 

 

 

 変身を解いたガイ、亜美、真美の三人が春香とやよいの元に戻ってきた。二人は歓喜してガイたちを迎える。

 

「プロデューサーさん! 亜美、真美、無事に闇を追っ払ったんだね!」

「うっうー! 怪我人もいないみたいで、ほんと良かったですぅ~!」

 

 二人の笑顔に当てられた亜美と真美はすぐに気分を良くした。

 

「いやぁそれほどでも~。亜美たち大活躍だったけどね!」

「はるるんもやよいっちも、ちゃんと見ててくれてた~?」

「もう。それは無理だって分かってて聞いてるでしょ」

 

 あははは、と冗談で笑い合う余裕も取り戻した春香たち。――しかしその一方で、ガイは妙に浮かない顔をしていた。

 

「兄ちゃん? 一体どうしたの? 勝ったのが嬉しくないの?」

 

 気づいた亜美たちが訝しむと、ガイはこんなことを告げる。

 

「さっきも言ったが、あの怪獣は普通の怪獣じゃない。どこかその辺から湧いて出てきたなんてことはあり得ない類の奴だ。それがあんな場所にいた……こいつはただごとじゃない」

「そうなんだ……」

「もう一つ。奴は何故か黒い煙のようになって跡形もなく消え去った。俺たちはこれと同じ現象を何度か目にしてる」

 

 ガイたちの脳裏によみがえったのは、ラゴラスエヴォ、ザ・ワン、改造ベムスター、ガクゾム、そして今回の怪獣たちの姿である。

 

「あいつらは自然に発生した怪獣じゃないんだと思う。恐らくは、姿の見えない何者かの差し金……」

「それってつまり、どっかに黒幕がいるってこと?」

「そういうことだろう。そいつが、地球を覆おうとしてる暗雲の正体なのかどうかは知らないが……」

 

 ガイは決心をつけた目で、空の彼方を見上げた。

 

「いつかは直接対決する時が来るかもしれない。その時こそ、謎が全て明らかになる時だ……!」

 

 

 

 ――ここは地球から遠く離れた、惑星ヨミ。

 この星に生けるものは何一つおらず、例外は異形の姿の青い巨人のみ。この巨人が口を開く。

 

『……やはり、今のままでは怪獣の蘇生は完全ではない』

 

 巨人は己の魔力によって、はるか遠くの地球の光景――自らが怪獣墓場から復活させた怪獣たちの様子を観察していた。この男こそが、サイクイーンら怪獣をよみがえらせていたものの正体なのである。

 

『ウルトラ戦士一人にすら勝てないようでは、全宇宙の制覇など出来ぬ!』

 

 怪巨人はそのように叫び、そして独白した。

 

『やはり、蘇生能力を完全にするためにはアレが必要だ……。今よりも能力に磨きを掛け、そして必ず手に入れてみせるぞ……』

 

 巨人は惑星ヨミの太陽を見上げて、固く拳を握った。

 

『百体の怪獣を操ることの出来る、ギガバトルナイザー! このレイバトスが手に入れ、全宇宙を征服してみせるぞぉッ!』

 

 この巨人が悪しきたくらみを持ってオーブと激突するのは、まだ先の話である――。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

真美「兄ちゃんたち、はろはろ~! 真美だよ~。今回紹介するのはー、ウルトラマンダイナのミラクルタイプだぁっ!」

真美「ミラクルタイプはダイナ兄ちゃんのタイプチェンジの一つだよ。ミラクルは超能力を担当する形態で、念力や特殊能力に特化する代わりに肉体の強さが下がるのが特徴なんだ」

真美「色んな超能力が使えるっていう点から使い勝手がいいのは分かってもらえると思うけど、実際様々なことが出来るから、色々な場面で活躍をしたんだよ。必殺技のレボリウムウェーブなんか、マイクロブラックホールに相手を吸い込むなんてとんでもない技なのだー!」

真美「だけど強力な分、敵怪獣の強さを際立たせるための当て馬みたいな扱いをされることもあったよ。特に番組後半になってからは……。それでも強いってことは確かだから、最後まで活躍し続けてもいたんだ」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『黎明スターライン』だ!」

ガイ「CD『MASTER SPECIAL』シリーズ初出の亜美真美の曲で、宇宙飛行をテーマにした他に類を見ない歌だ! 「黎明」を初めとした、歌ってる当人たちも意味が分かってない難しい単語がいくつも使われてるの特徴だ」

真美「これって歌うのもかなり難しいんだよねー」

真美「それじゃ、次回もよろよろー☆」

 




 天海春香です! 遂にジャグラスジャグラーが、プロデューサーさんに本当の最後の勝負を挑んできました……! プロデューサーさん、絶対に負けないで下さい! そして必ず、私たちの元へ帰ってきて下さい! 約束ですよ!
 次回『inferno edge』。光と闇の戦いに、終止符が打たれます……!


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inferno edge(A)

 

『「――お仕置きよ」』

「かっこよかったよ……全てを破壊し尽くすお前の姿……」

『「畏れ! ひれ伏し! 崇め奉りなさいっ!」』

「ほれぼれしたなぁ……」

『「これが閉幕のベルよ……!」』

「この星の奥底に……まだ闇の力が眠っていたとは……」

「プロデューサーさん、怪獣が出ないようになったら、765プロにいてくれるのかなって……」

「ガイ、死なずにこの星が滅びるのを、たっぷり見物してくれよな」

 

 

 

『inferno edge』

 

 

 

 ――ある夜、とあるビルの屋上にたった一人、刀を中腰に構えた男がいた。

 ジャグラスジャグラーだ。彼は遠くに見える摩天楼に向かって、大振りに蛇心剣を一閃する。

 

「――うええぇあッ!」

 

 すると刀身から闇のエネルギーが刃となって飛んでいき、一棟のビルの壁に命中した。その瞬間、ジャグラーはその場に片膝を突いて息を荒げる。

 己が振るった闇の刃の痕を見やると、ひと言だけつぶやいた。

 

「まだだ……」

 

 ジャグラーの脳裏には、今となっても昨日のことのように思い出せるある記憶がよみがえっていた。

 何もかもの始まり。故郷の惑星O-50、戦士の頂に自分が先にたどり着いたのに、自分は光に拒まれ、ガイが聖剣に選ばれて光の戦士に生まれ変わった時のことを――。

 

「――俺の方が上のはずだ。手に入れてみせる……お前を切り裂く力をッ!」

 

 忌々しげに吐き捨てたジャグラーの握る蛇心剣に、闇の輝きが宿った。それを確かめるジャグラー。

 

「闇の力が満ちていく……。全てが滅びる……」

 

 空を見上げたジャグラーの視線の先には、不吉なほどに赤い月が孤独な夜の空に浮かんでいた――。

 

 

 

 ある日、ガイは営業回りの途中、公園で一時休憩を取っていた。

 公園では多くの家族連れやカップルなどのたくさんの人たちが、一時の平穏を謳歌して賑やかな空気を形作っている。そんな様子を見つめていたガイに、

 

「ガイさん」

 

 背後から声が掛けられた。振り返ったガイが目にした顔は、

 

「ハルカ……!」

 

 以前に怪獣の予知夢を見続け、夢日記をネットにアップしていたことで有名となっていた霧島ハルカだった。彼女はガイが闇のカード――ウルトラマンベリアルのカードを手にする夢を見て以来、夢日記を途絶えさせていたのだが……。

 

「また予知夢を見たのか」

 

 ガイの問いかけに、ハルカはコクリとうなずいた。

 

「ええ……。漠然としか見えないけど……何か強大な力で、世界が闇で覆われる夢を見たの。それも、そう遠くない未来……」

 

 ハルカのスケッチブックには、輪郭がはっきりとしていないが、何かおぞましい怪物の絵が描かれていた。

 スケッチブックを受け取ったガイは、彼女を安心させるように説いた。

 

「前にも言ったろ? 未来は、真っ白なんだ」

 

 スケッチブックのページをめくって、何も描いてないページを見せるガイ。

 

「運命は変えられる」

 

 言い切ったガイの元に、青いボールが弾んできた。

 

「すいませーん!」

 

 キャッチしたガイは、そのボールを地球に見立てながらハルカに告げる。

 

「心配すんな! この地球は俺たちが守る。何があっても、俺とあいつらがいれば大丈夫さ」

「……そうだよね。信じてる、ウルトラマンオーブ!」

「任せとけ!」

 

 約束したガイを、ボールを飛ばしてきた子供たちが急かした。

 

「早くー!」

「ああごめんごめん!」

 

 子供たちの元へ行ってボールを返すガイの背中を、ハルカは温かい眼差しで見つめていた――しかし、不意に何かを憂うように目を伏した。

 

 

 

 その頃、春香と美希、律子は渋川からある情報を持ち込まれていた。

 

「何これ……?」

 

 つぶやく春香。渋川に見せてもらったビートル隊のデータベースには、ビルの外壁に異様な傷が走っている写真があるのだ。

 

「自然に出来たものじゃないわね……」

 

 律子のひと言にうなずく渋川。

 

「最近色々な場所で、突然、ビルの壁とかに亀裂が見られる。これってどう思う? かまいたち、いやお前たち」

 

 渋川のしょうもない親父ギャグに冷めた目を向ける春香たちだが、美希は律子に耳打ちした。

 

「ねぇ、カマイタチって何?」

「知らないの? 大気中に条件が重なると真空状態が発生して、それが肌に当たると皮膚がパックリと裂けるという現象よ。もっとも、これはあくまで仮説なんだけど……」

 

 語りながら写真に視線を戻す律子。

 

「それに、ビルの壁なんて硬いものに亀裂を入れるなんてありえないわ」

「これも怪獣の仕業なのかな……」

 

 春香のひと言に、律子がふと思い出した。

 

「そういえば、太平風土記の最後に、これと似たようなことをする怪獣が載ってたわ!」

「それだよそれ! すぐそいつを見せてくれ!」

 

 渋川に促され、律子はネット上の太平風土記を検索した。

 

「あった、これですよ! 『その名も鎌鼬呑。禍々しき風にて、ありとしあるものを切り裂きにけり』」

「カマイタドン! これに間違いないの!」

 

 確信する美希だったが、春香は訝しげな表情だ。

 

「えぇ? この怪獣、ほんとにいるんですか? 何だか今までと比べたら安っぽいネーミングだし、挿絵も描き込みが少ないし……」

「そんなこと私に言われても分からないわよ」

「でも律子…さん、これ途中で切れてるよ?」

 

 指差す美希。彼女の言う通り、カマイタドンのページは続きがありそうなのだが、この先は破けてなくなっていた。

 

「それが、どこのデータを調べてみても全部ここで終わってるのよね。ここから先は原本を当たってみないと……」

 

 肩をすくめる律子。

 

「ちょうどいい機会だわ。原本を確かめてみましょう。この郷土資料家が保管してるみたいだけど……」

 

 話を進める律子たちだったが、不意に渋川がそれをさえぎった。

 

「ちょっと待ってくれ。写真には続きがあるんだよ」

 

 ビートル隊の資料には他にも写真があった。それを時系列順で追うと――ビルに走る亀裂が、徐々に大きくなっていっていた。

 

「だんだん亀裂が大きくなってる……!」

「それに、形が整っていってるの!」

「切れ味が鋭くなっていってる証拠ね……。怪獣が技の練習をしてるのかしら」

 

 春香たち三人はその様子を想像して背筋に悪寒を走らせた。

 

「とにかく、このまま被害が続いたら大変なことになる!」

「うん。今はまだ壁の傷だけで済んでるけど、このまま行けば倒壊するビルも出てくるかも……」

 

 懸念する春香。美希と律子も険しい表情だ。

 

「すぐに怪獣の正体を突き止めるべきだね!」

「ええ。今週の『アンQ』はこれで決まりよ!」

「はい! 765プロ、ファイトっ!」

 

 春香の合言葉を合図として、渋川を加えた四人は直ちに行動を開始した。

 

 

 

 ジャグラーは一人、ある公園の広い芝生の中央にまでやってきて、蛇心剣を鞘から抜いた。その場所に立っていると、刀身に闇のエネルギーが満ちる。

 

「ここなんだな」

 

 刀に聞いたジャグラーは、おもむろに刃を地面に突き刺した!

 すると地中から凄まじい闇のエネルギーが噴出し、それが全て蛇心剣に吸い込まれていく。

 

「あああああああッ!」

 

 闇の力を溢れ返るほど剣に蓄えたジャグラーは、蛇心剣を天高く掲げる。剣からはほとばしるエネルギーが稲妻状に放出された。

 

 

 

 事務所に戻る途中だったガイは、空へと走る暗黒の稲妻を目撃して足を止めた。

 

「何だ……?」

 

 ただごとではないことを察したガイは踵を返し、稲妻が起こった地点に向けて足取りを変えた。

 

 

 

 春香たちは一番新しい亀裂が走ったビルの前まで来て、実際の亀裂を解析していた。

 

「どうだ? 何か分かったか?」

「自然現象ではないことは確かです」

「それに亀裂というよりも、カマか何かで斬りつけたみたい……」

 

 細かいひび割れがなくなり、三日月型となっているビルの傷跡を春香がそう評した。その場にガイがやってきて、四人に気づいて足を止めた。

 

「あっ、プロデューサーさん? どうしてこんなところに?」

「ちょっと嫌な予感がしてな。何か異常はないか?」

 

 ガイが尋ねると、すぐに美希が現在の調査内容を話した。

 

「ビルにおっきな亀裂が入ってるの!」

「亀裂?」

「亀裂の両サイドが曲がって、三日月のように見えるんです! これです」

 

 タブレットで画像を見せる律子。それに目を落としたガイは、小さくつぶやく。

 

「三日月? ……ジャグラー……!」

「えっ……!?」

 

 ジャグラスジャグラーの名前が出てきて、春香たちは途端に硬直した。何も知らないのは渋川ばかり。

 

「おいどうしたんだ? 何か心当たりでも……」

 

 問いかけた渋川だったが、次の瞬間に――彼らの近くのビルを黒い光刃がかすめ、深々と切り傷を入れた!

 

「えっ!?」

「何だあれ!?」

 

 途端に周囲から巻き起こる悲鳴。そしてガイはハッと、光刃が飛んできた方向へ振り返った。

 そちらにいる市民たちが皆、血相を抱えて逃げていく。――その人の波を断つように、蛇心剣を引きずりながらジャグラスジャグラーが現れた!

 

「ジャグラー……!」

 

 名前を口にするガイ。他の人たちの姿がなくなり、唯一その場に留まっているガイたちの前で、ジャグラーが立ち止まった。

 邪に微笑みながら剣を顔の前に持ち上げたジャグラーの姿が、魔人態へと変化する。

 

「宇宙人ッ!」

 

 即座にスーパーガンリボルバーを抜く渋川だったが、ジャグラーは無言で蛇心剣を構える。

 

「伏せろぉッ!」

「うわッ!?」

 

 危険を察知したガイが渋川を引き倒すと、のけ反った渋川の顔面すれすれを黒い光刃が飛んでいき、背後の高層ビルの外壁を粉砕した。

 

「うわッ……!?」

 

 危ないところで命を拾った渋川だったが、光刃は風圧だけで彼の意識を刈り取った。慌てて駆け寄った春香たちに彼を託したガイは、険しい目つきでジャグラーと対峙する。

 

「俺に用があるのか? だったら人間を巻き込むなッ!」

 

 怒鳴るガイだが、ジャグラーは全く聞く耳を持っていなかった。

 

『ふんッ! この星が無くなる前に証明してやる。俺の方が優れていることをッ!』

「この星が……無くなる……!?」

 

 今の発言に衝撃を受ける春香たち。

 

『ガイ、今から死ぬお前には関係ないことだ』

 

 ジャグラーから向けられる殺意を、ガイは正面から受け止める。

 

『闇の力……地中に眠る闇が、俺に力を与えてくれた!』

 

 ジャグラーは闇が宿る剣を掲げて、雄叫びを発した。

 

『うおおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 それに引き寄せられるかのように、背後の立体駐車場の向こうから八つの闇のエネルギーの塊が飛んできてジャグラーに吸収される。そしてジャグラーが飛んでいって駐車場の陰に消えると――。

 

「何……!?」

 

 ビルと同等の身長となって立ち上がったのだ!

 

『フハハハハハ! フハハハハハハハハハッ!!』

 

 哄笑で大気を震動させるジャグラー。春香と美希はすぐにガイの両隣に立った。

 

「プロデューサーさん!」

「ハニー!」

 

 だがガイは、彼女たちへ言った。

 

「お前たち……この戦いは、俺一人にやらせてくれ」

「えっ!?」

 

 ガイは確固たる眼差しで、春香たちに言い聞かせる。

 

「きっとこれが、奴との本当の最終決戦となる。――あいつだけは、俺だけで倒したい! 俺自身の手で奴との因縁に終止符を打ちたいんだ!」

 

 そう語るガイの瞳には、様々な感情が織り交ぜられていた。

 ガイの訴えかけに、春香たちは一瞬ためらったものの、うなずいて了承した。

 

「分かりました。その代わり――必ず勝って帰ってきて下さい!」

「絶対だよ! 約束破ったら許さないんだからね!」

「二人とも、手を貸して。渋川さんを連れて避難するわよ!」

 

 春香たち三人は協力して失神している渋川を抱え上げ、その場から離れていく。

 一人残ったガイは、堂々とオーブリングを構えた。

 

「ゾフィーさんッ!」

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

「ベリアルさんッ!」

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

 

 リングにゾフィーとベリアルのカードを通して、オーブリングのトリガーを引く!

 

「光と闇の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ゾフィーとベリアルのビジョンと融合したガイの身体が、ウルトラマンオーブへと変身を遂げる!

 

[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]

 

 ジャグラーの頭上を飛び越えて、オーブはその背後へと着地した。振り向いたジャグラーとオーブが対峙する。

 

『闇を抱いて、光となる!!』

『待っていたぞ、この時をッ!!』

 

 オーブとジャグラーは同時に跳び上がり、空中で激突した!

 

 

 

 ジャグラーが巨大化するとともに、都市の一帯には緊急避難指示が発令された。

 

『都心に巨大宇宙人が現れました! 速やかに避難して下さい!』

 

 都市の人々は中継されるジャグラーの巨躯の姿に恐れおののき、各々の仕事を中断して迅速な避難を開始する。

 それは765プロの各アイドルたちの仕事場でも同じであった。

 

「こりゃあ大変だぞ!」

「みんな、すぐにこっから離れよう!」

 

 テレビスタジオで撮影をしていた千早、雪歩、伊織の三人は、周りのスタッフが慌ただしく避難行動を取る中、ケータイの画面からの中継映像で、ジャグラーの姿を確認する。

 

「この宇宙人は……!」

 

 千早たちは画面の中で戦闘を開始するジャグラーとオーブの様子から全てを察し、互いに顔を合わせてうなずき合った。

 そしてスタジオを飛び出すと、スタッフたちとは違う方向へと走っていく。つまり、戦場へと。

 

「お、おおい!? そっちは宇宙人のいる方角だよ!?」

 

 テレビスタッフの一人が慌てて呼び止めたが、顔を向けた千早はひと言で断った。

 

「仲間が待ってるんです! ごめんなさい!」

 

 周りの人たちの制止を振り切って、三人は全速力で戦場へ――オーブと春香たちの元へと向かっていった。

 それは他のアイドルたちも同じ。765プロアイドルの全員が、ジャグラーとの最終決戦を始めたオーブの元へと駆けていっているのだった。

 



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inferno edge(B)

 

「シェアッ!」

『ぜあッ!』

 

 空中でぶつかり合ったオーブとジャグラーは着地後、すぐにジャグラーがミドルキックを繰り出した。それをいなしたオーブが掴みかかっていくが、ジャグラーは素早く後ろを取って掴み返す。オーブはその手を振り払って平手薙ぎを振るう。

 

「オリャアッ!」

『せあぁッ!』

 

 ジャグラーはオーブの攻撃をくぐってキックを一発仕掛けるが、オーブは防御。互いに一歩も譲らない格闘戦を展開する。

 

「ウルトラマンオーブ……!」

「頑張って、オーブ……!」

 

 律子がカメラを回す中、両者の息もつかせぬ激戦を、春香と美希は固唾を呑んでオーブを応援していた。

 

「オラァッ!」

 

 オーブがジャグラーの裏拳を防ぎながら背中で抱え上げるもジャグラーは着地。そこからの後ろ蹴りを受け止めたが、

 

『はッ!』

 

 ジャグラーはその脚を軸にして回転蹴り! この一撃がオーブの顔面に炸裂した。

 

「グワァッ!」

「あぁっ!?」

 

 大きく蹴り飛ばされてオーブが倒れ込んだ。春香たちは一斉に色めき立つ。

 オーブを見下ろしたジャグラーが告げる。

 

『皮肉だよなぁ、ガイ。お前の存在が俺を強くする……』

「グウゥ……!」

 

 すぐに起き上がるオーブだが、ジャグラーはこの間に蛇心剣を召喚し、虚空から引き抜いた。剣も今のジャグラーの身長に合わせて巨大化している。

 オーブへ刀の切っ先を向けながら、ジャグラーが語る。

 

『お前への憎しみから生まれた地獄剣、受けてみろ』

 

 大振りの構えを見せたジャグラーが、闇のエネルギーを乗せながら剣を横薙ぎに振るった!

 

『蛇心剣・新月斬波ッ!』

 

 刃から赤黒い斬撃が放たれ、猛然とオーブに迫る!

 

『サンダークロスガード!』

 

 オーブはエネルギーを充填した両腕を交差して防御を固めたが、激突した斬撃は回転しながら突き破ろうとする。その勢いは止まらない。

 

「グッ……! ウオオォォ……!」

 

 遂にはガードが破られ、オーブが弾き飛ばされた!

 

「グワァァッ!!」

 

 背後のビルにまで吹っ飛ばされ、押し潰しながら倒れ込む。相当なダメージのためにすぐには起き上がれない。

 

「オーブぅっ!!」

 

 思わず悲鳴を発する春香たち。そこに、千早を始めとした仲間たちが皆、順番に駆けつけてくる。

 

「春香! プロデューサーは、一人で……?」

「うん……どうしても一人で決着をつけたいって……」

「みんな! 渋川さんが目を覚ますわよ!」

 

 律子の警告の直後、渋川が意識を取り戻して頭を振った。

 

「うぅ……どうなったんだ……?」

「渋川さん、大丈夫ですか? それが……」

 

 あずさがジャグラーの巨大化と、現在の状況を端的に伝えた。

 

「何ッ!? くっそぉ、宇宙人めッ!」

 

 渋川はオーブの危機を救おうと、ジャグラーの背面にスーパーガンの銃撃を放った。しかし、今のジャグラー相手には豆鉄砲ほどの効き目もない。

 

「あら?」

「効いてないじゃん!」

「ここは下手に手ぇ出さない方がいいんじゃ……」

 

 亜美と真美が突っ込んだが、渋川は二人を一喝。

 

「うるせぇなッ! ここでやんないとオーブがやばいだろうが!」

 

 銃撃を続ける渋川だったが、ジャグラーにはやはり効かず、おもむろに振り返ってきた。

 

『うっとうしい』

 

 そして渋川たちの近くに斬撃を飛ばして薙ぎ払う。

 

「うわあぁぁーッ!」

「だから言ったじゃんっ!」

 

 命からがら逃げる真美たち。しかし時間稼ぎは出来たようで、オーブは体勢を立て直していた。

 

「お前ら無事か!?」

「こっちは何とか……」

 

 皆の安否を確かめる渋川。瓦礫の陰から這い出てきた春香がそう答えるものの、

 

「待って! 雪歩がっ!」

「えっ!?」

 

 真の叫び声に皆が振り向いた。

 真の傍らには、目を閉じたまま立ち上がらない雪歩の姿があった。

 

『叩っ切ってやる!』

 

 間合いを詰めて剣を薙ぐジャグラーだが、オーブはハイジャンプで逃れた。そして空中でオーブオリジンのカードをオーブリングに通す。

 

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

『オーブカリバー!』

 

 オーブカリバーの力により、オーブはオリジンの姿に変身して着地した!

 

『銀河の光が、我を呼ぶ!!』

『そう来なくっちゃな……!』

 

 蛇心剣を構え直すジャグラー。オーブもオーブカリバーを握り直し、両雄が戦闘を再開する!

 

『フハハハハハハッ!』

「ウオォッ!」

 

 蛇心剣とオーブカリバーが交差し、鍔迫り合いとなるオーブとジャグラー。光の剣と闇の刃の衝突は、激しいスパークを生じさせる。

 

「ウオオオオオオオオオオッ……!」

『せええええええええええッ……!』

 

 スパークはどんどん過熱していき――限界にまで達すると、両方の得物が空高くに弾き飛ばされた。

 

「ウオッ!?」

『むッ……!』

 

 互いの背後の地面に突き刺さる剣。無手となった二人は牽制し合うようににらみ合った後、弾かれたようにそれぞれの武器へと走っていく。

 

「シェアッ!」

 

 オーブの方がわずかに早く柄を握り、カリバーを地面から引き抜いた。ジャグラーも柄を掴んだが、より深く突き刺さったのかなかなか抜けない。

 

『ぬッ……!?』

 

 この隙にオーブは炎の象形文字を点灯させ、カリバーに炎の力を宿した。

 

『オーブフレイムカリバー!』

 

 剣を回して火の輪を作り出し、それをジャグラーへと飛ばす! ようやく刀を抜いたジャグラーだが、既に火の輪に覆われている。

 火の輪は激しく回転して高熱をジャグラーに浴びせ始めた。このまま技が決まればジャグラーとて無事では済まないはず。

 

『――ぜあぁッ!』

 

 だがジャグラーは下から上へと斬り上げることで、オーブフレイムカリバーを真っ二つにして消し去ってしまった!

 

「ナッ……!?」

 

 渾身の必殺技を破られたことに、オーブもショックが隠し切れなかった。

 一方のジャグラーは悠々とオーブを刀で射しながら挑発する。

 

『そんなものか、聖剣に選ばれしものの力は』

 

 蛇心剣に再び闇の力が満ち、ジャグラーが構えを取る。

 

『思い知るがいい……!』

 

 警戒するオーブだったが、ふと背後に気配を感じる。

 

「雪歩ぉ! しっかりしなさいよぉっ!」

「こちら渋川! 至急至急、救援隊応援要請を願いたい!」

 

 彼の背後では伊織たちが一向に目を覚まさない雪歩に必死に呼びかけていた。

 動けないオーブに、闇の力の全てを乗せた斬撃が放たれる!

 

『新月斬波ッ!!』

 

 闇の斬撃をオーブカリバーで受け止めるオーブ。

 

「フゥゥゥゥゥッ……!」

 

 だが勢いを抑え切れずに、カリバーが手中から離れて弾かれてしまう!

 そして間髪入れずに繰り出された二撃目を、オーブはまともに食らってしまった。

 

「オワアアアアアァァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 全身を切り刻まれて重篤なダメージを負ってしまうオーブ。もがき苦しむオーブの後ろ姿を、冷や汗まみれの響が見上げる。

 

「自分たちをかばって……!」

「ぢゅう……!」

 

 アイドルたちは苦しげにオーブを見つめることしか出来ない。

 しかしジャグラーは一切の容赦がなく、オーブに更なる新月斬波を浴びせる!

 

『へあぁッ!』

「ウワアアアアアアアァァァァァァァァッ!!」

 

 二発目、三発目と立て続けに斬撃を食らい、オーブも耐えられずに片膝を突いた。カラータイマーが命の危機を警鐘する。

 

「もう……もうやめて下さぁぁぁいっ!!」

 

 やよいもまた耐え切れずに、絶叫を発した。

 

『フフフ……終わりだ、ガイ』

 

 彼女の願いも虚しく、ジャグラーはとどめを刺そうとしている。それでもオーブは立ち上がり、春香たちをかばって腕を広げる。

 

「やめて……お願い……!」

 

 涙ながらに訴える春香だが、オーブは逃げなかった。

 

『燃え尽きるのはお前の方だ……』

 

 ジャグラーが再び蛇心剣を脇に構える。

 

『灰になれぇぇぇぇッ!!』

 

 振るわれた新月斬波が、真正面からオーブに襲い掛かった!

 

「オワアアアァァァァァァァァァァッ!! オワアアアアアアアアアァァァァァァァァァ―――――――――ッ!!」

 

 オーブの絶叫が鳴り響き――遂にその場に倒れた。

 

「いやああああああああああ―――――――――――――――――――っ!!」

 

 その悲鳴は、誰のものだったか――。

 オーブを斬り倒したジャグラーは悠々と近寄り、顔を寄せて彼の力が残っていないことを確かめる。

 

『下らねぇ……。人間なんて構うからだ』

 

 オーブの身体を踏みつけるジャグラー。

 

『それがお前の、弱さだ』

 

 肩を蹴り上げて仰向けにすると、悠々と春香たちの方へにじり寄っていく。渋川がスーパーガンを抜くものの、その手は震えている。

 

「オーブ! 立って下さい!」

「オーブ兄ちゃーん! 負けないでぇーっ!」

 

 貴音や亜美たちが声を張ってオーブに呼びかけるのをジャグラーは見下す。

 

『おいおい……勝ったのは俺だ。フハハハハハハッ!』

 

 そして刀を振り上げて、春香たちのことも狙う。

 

『これがお前たちのしてきたことの末路だ……。ハハハハハハハハハハハッ!!』

 

 恫喝しながら嗤い続けるジャグラー。春香たちは皆、唖然とした顔で見上げている。

 しかしここでジャグラーは気がついた。彼女たちの視線が、自分――の後ろに向いているということに。

 

『……あ?』

 

 ふと背後に目を向けたジャグラーは――そのまま硬直した。

 何故ならば――己の背後に、オーブが確かに仁王立ちしているからだ。

 

『何ッ!?』

 

 驚愕したジャグラーが咄嗟に斬りかかったが、オーブは静かに片手で白刃を受け止めた。そのまま両手で掴み、ジャグラーの動きを封じる。

 散々斬り捨てたはずのオーブが立っている事実に、ジャグラーは動揺を禁じ得ない。

 

『貴様は限界のはずだッ!』

 

 目の前のオーブを否定するように吐き捨てたジャグラーに、オーブは言い放つ。

 

『誰かを守りたいと思う心は、俺に限界を超えた力を与えてくれる!』

『な……何だこの力はッ!? これが死にかけの男の力か!?』

 

 蛇心剣を掴むオーブの手を振り払おうとするジャグラーだが、刀はびくともしなかった。ますます焦るジャグラー。

 そのジャグラーに、オーブは叫んだ。

 

『お前が捨てた力だぁぁぁぁぁッ!!』

 

 同時に腕を振り上げて、蛇心剣をジャグラーの手中から空高くに放り出した!

 

「シェアァッ!」

 

 がら空きになったジャグラーの胸を蹴り飛ばすオーブ。素手になったジャグラーも咄嗟に応戦。オーブの横面に裏拳を叩き込むもオーブは微動だにしない。

 

「ウラァッ!」

『がッ!』

 

 ジャグラーを蹴りつけて胸ぐらに掴みかかるオーブ。ジャグラーも掴み返して二人はもつれ合う。

 

『ぬぅぅぅぅぅぅぅぅぅッ!』

 

 オーブを背負い投げるジャグラーだが、引っ張られて自身も倒れ込む。オーブはジャグラーを抑え込みながらマウントポジションを取って顔面を連続で殴りつける。

 

『ぐぁッ!』

「ダッ! ダァッ! シェアッ!」

 

 無理矢理オーブを振り払ったジャグラー。立ち上がってオーブに殴りかかるも直前のダメージが響いて足元がおぼつかなく、オーブの水平チョップの返り討ちに遭う。

 

「シェアァッ!」

 

 オーブはひるんだジャグラーを捕らえて、背負い上げると――。

 

「オォォリャアッ!」

 

 遠くにまで投げ捨てた!

 

『うぐあぁぁぁッ!!』

 

 背面から叩きつけられて息を吐き出すジャグラー。この間にオーブは左方へ手をかざした。

 

『オーブカリバー!』

 

 呼び寄せられたカリバーが手の中に吸い寄せられ、オーブは握り締め直した剣の力を解放する。

 

[解き放て! オーブの力!!]

 

 天高くに光の円を描いて、光のエネルギーをオーブカリバーに集中させる。

 

『オーブスプリームカリバー!』

 

 聖剣より光の奔流が、ジャグラー目掛け放たれた!

 

「ドゥアアァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 オーブの最大の一撃の、直撃を受けるジャグラー。

 

『うあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!!』

 

 ジャグラーの肉体に満ちていた闇の力が、光によって消滅していき――ジャグラーの全身が大爆発の中に隠れて消えた。

 オーブは肩で息をしながら、ジャグラーの消えた地点をじっと見つめ続けていた――。

 

 

 

「雪歩さん! 目を開けて下さい!」

「雪歩ぉっ! しっかりして!」

 

 やよいや真が雪歩のことを呼び続ける。その努力が実って、雪歩は遂に目を開いた。

 

「う、うぅん……ここは?」

「よかったぁ……!」

 

 一瞬状況を理解できないでいる雪歩の様子に、春香たちは一様に安堵して胸をなで下ろした。

 雪歩は気絶する直前までのことを思い出すと、慌てて上体を起こした。

 

「ジャグラスジャグラーは!? どうなったんですか!?」

 

 千早と伊織がにっこり微笑みながら答える。

 

「大丈夫よ。プロデューサーがやっつけたわ」

「あんた、一番いいところを寝過ごして見逃したのよ。残念だったわね」

 

 安心しておどける伊織のひと言の後に、ガイがよろよろと現れる。

 

「よう。みんな無事だったか」

「ハニー!」

 

 美希たちはすぐにガイの周りを囲んで、彼のことを支える。

 

「プロデューサーの方がボロボロじゃないかぁ」

「でも、帰ってきてくれてよかった……」

 

 響やあずさは嬉しさのあまりに涙ぐんだ。春香はガイの正面から、ひと言告げる。

 

「お帰りなさい、プロデューサーさん……」

「ああ……ただいま」

 

 そんな中でふと律子が気がついた。

 

「あれ? 渋川さんは?」

 

 亜美と真美が辺りをキョロキョロと見回す。

 

「ありゃ? いないね?」

「さっきまでそこにいたのに……。渋川のおっちゃーん?」

 

 真美たちが渋川の姿を捜す中、ガイは残った春香と美希に言う。

 

「心配、掛けたみたいだな」

 

 春香は柔らかな笑みを浮かべて答える。

 

「心配なんてしてないですよ。だって……プロデューサーさんはウルトラマンオーブだもの」

「ふふ……そうか」

「春香、そんなこと言っちゃって~。さっきはあんなにわんわん喚いてたの」

「ち、ちょっと美希ぃ!? やめてよもぉ~!」

 

 からかう美希に春香は赤くなり、ガイたちは思わず噴き出して朗らかに笑い合うのであった。

 

 

 

 その頃――ジャグラーは人間の姿にまで戻されて、高層ビルの屋上のヘリポートに大の字で倒れていた。力は失っているが、息はある。

 

「……守りたいと思う心、か……」

 

 ぼそりと、ガイの言ったことを復唱すると、近くから別の者の声が起こった。

 

「ターゲット、身柄確保」

 

 顔を上げたジャグラーの視界に飛び込んだのは――自分にスーパーガンを向けている渋川の姿であった。

 ジャグラーは銃を向けられながらも怯えず、笑いながら手を銃の形にして向け返したが、

 笑い返す渋川の背後から、ガトリングガンを備えつけたゼットビートルが浮上してきた。

 

「……」

「終わりだね、宇宙人」

 

 ひと言告げられたジャグラーが、弾を撃つ仕草を取る。

 

「ばぁん……」

 

 そのまま両手を挙げ、投降の意思を示した。

 ビルの屋上は、複数のビートルによって包囲されていた。

 

 

 

 ――ビートル隊によって確保されたジャグラスジャグラーは、厳重に拘束されて日本政府の監視下に置かれることが決定された。

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

小鳥「音無小鳥です。今回は番外編として、ウルトラマンオーブの宿敵、無幻魔人ジャグラスジャグラーをご紹介します」

小鳥「ジャグラスジャグラーは『ウルトラマンオーブ』発表の初期から、物語に関わる悪役として紹介されてました。そしてその通りに物語開始時から魔王獣を次々復活させたりと暗躍を続け、オーブを苦しめました」

小鳥「一方でオーブがいつでも倒せる状態になりながらも手を下さず、彼の本当の姿を求めるなど、ただオーブを倒したいだけではない様子も見られました。そして物語が進むにつれて、元々はウルトラマンオーブ=クレナイガイのかつての戦友であり、浅からぬ因縁があることが明らかとなりました」

小鳥「ガイさんとジャグラーの関係とその変遷については、『THE ORIGIN SAGA』と『オーブ完全超全集』収録の「ウルトラマンオーブクロニクル」に纏められてます。これらを踏まえてから『オーブ』を見返せば、ジャグラーに対する見解が変わるかもしれませんよ」

ガイ「そして今回のアイマス曲は『inferno』だ!」

ガイ「CD『MASTER LIVE』に初出の千早と雪歩によるデュエット曲だ。「inferno」とは地獄という意味で、その言葉からイメージされる通りの苛烈な歌詞と曲調が特徴だぞ。アイマスには普通のアイドルソング以外のものも豊富だ」

小鳥「バラエティ豊かな歌がアイドルのイメージも豊かにしますね」

小鳥「それでは皆さん、次回もよろしくお願い致します」

 




『番組の途中ですがここで臨時ニュースです』
『政府は、観測史上最大級の』
「終わりの始まりの地……」
「それは八つの地脈が交わる東京の聖地」
「引き金を引くのは俺じゃない」
「人間自身だ」





次回、『逆襲の超大魔王獣』。







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逆襲の超大魔王獣(A)

 

『何でだよガイッ!』

「何故お前なんだ!」

『この星が無くなる前に証明してやる。俺の方が優れていることをッ!』』

「大きな災いってマガオロチのこと?」

「律子…さん、これ途中で切れてるよ?」

「ここから先は原本を当たってみないと……」

「この郷土資料館に保管されてるみたいだけど……」

『誰かを守りたいと思う心は、俺に限界を超えた力を与えてくれる!』

『何だこの力はッ!?』

『お前が捨てた力だぁぁぁぁぁッ!!』

「終わりだね、宇宙人」

「ばぁん……」

 

 

 

『逆襲の超大魔王獣』

 

 

 

 ――ある日のこと、東京タワー周辺の市街に、突如として三体もの怪獣が地中から出現した!

 

「グバアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

「アアオオウ! アアオオウ! シャウシャ――――――!」

「ギャアオオオオオオウ! オオオオウ!」

 

 デマーガ、ゴメス、テレスドン! 突然のことに街は大混乱に陥るが、怪獣現れるところにはヒーローの姿がある。

 

「コスモスさん!」

[ウルトラマンコスモス!]『フワッ!』

「エックスさん!」

[ウルトラマンエックス!]『イィィィーッ! サ―――ッ!』

「慈愛の心、お借りしますッ!」

[ウルトラマンオーブ! フルムーンザナディウム!!]

 

 そう、世界の救世主ウルトラマンオーブである。

 

『つながる力は、心の光!!』

 

 三体の怪獣の中央に降り立ったオーブはフルムーンザナディウムの鎮静効果により、怪獣たちを大人しくさせようとした。

 の、だが――。

 

「グバアアアア……!」

 

 いきなりデマーガが横に倒れたのを皮切りに、ゴメス、テレスドンもばったりと倒れ込んだ。

 

『「えっ!? ど、どうしたんだ!?」』

『「まだ何もしてないわよ!?」』

 

 オーブの中の響と律子が驚愕。オーブは倒れたまま動かなくなったテレスドンの傍らに膝を突き、その脈を計る。

 だが、血流は停止していた。

 

『「死んでるわ……!」』

『「な、何で? どうして……?」』

 

 動揺を隠せない響。見れば、ゴメスとデマーガも同様に生命活動を停止していた。

 

『「一体、地中で何が……」』

 

 律子も疑問に思いながらも、オーブはテレスドンの目を閉ざしてあげた。

 結局、オーブは怪獣の突然死の謎を解くことが出来ずに、そのまま引き上げるしかなかった。

 

 

 

 ――春香は気がつくと、鬱蒼と霧の掛かる森の中にいた。

 

「ここは……!」

 

 木々の向こうでは、光り輝く巨人――オーブと、マガゼットンが激しく戦っている。

 

「度々見てた、プロデューサーさんの過去の戦いの夢……ひいおばあちゃんの記憶……!」

 

 夢の中にいることを自覚する春香。そんな彼女に、マガゼットンの光弾が引き起こした大爆発が襲い掛かる。

 

「きゃあああっ!」

 

 ――しかし爆炎が迫る直前、彼女の身体は横から突っ込んできた何かに抱えられ、爆炎から逃された。

 

「うっ……?」

 

 地面に寝かされた春香がうっすらとまぶたを開き、自分を覗き込んでいる人物の顔を視認する――。

 

 

 

 その寸前に春香は目を覚まして、突っ伏していた事務所のデスクから顔を起こした。

 時期は十二月、一週間後には待望のクリスマスライブが控えているのだが――窓の外には陽炎が揺らめき、セミの鳴き声がけたたましく鳴り渡っている。――ここは日本であり、断じて南半球ではない。

 

「死ぬかと思った……」

 

 ぼんやりとつぶやいた春香に、アイスを頬張っていたガイが見下ろす。

 

「どうした春香、こんなとこで居眠りなんかして。疲れてるのか? まぁこんなちぐはぐな気候じゃ無理ないかもしれないが」

「ぷ、プロデューサーさん……」

「怖い夢でも見たのか? 妙にうなされてたが」

 

 尋ねかけたガイに、春香は告げる。

 

「前にも話しましたよね? 光の巨人の夢……ひいおばあちゃんの記憶をまた見たんです。だけど、今回は続きがあって……」

「続き? ……どんな」

「怪獣が起こしたものすごい爆発に巻き込まれそうになったんですが……誰かが、私を抱いて助けてくれたんです」

 

 春香の話した内容に、ガイは驚いた顔になっている。

 

「あれって、プロデューサーさんですか?」

「いや、俺は知らない」

「ですよね……。オーブが戦ってたんだから、違いますよね。でも、だったらあれは誰……?」

 

 首を傾げた春香だが、ふと意識が現実の時間に向いて、ガイに質問した。

 

「ところで、みんなはどうしてますか?」

「大体は仕事だが、律子と亜美と真美は例の太平風土記の原本を探しに行ってる」

「太平風土記の……」

「この異常気象の原因を探るんだとさ。それで分かりゃいいんだがな。全く暑くて敵わねぇ」

 

 クリスマスライブはもう一週間後なのに、事務所にいるのが自分だけなことを気に病む春香。それを察したガイが諭す。

 

「そんな顔するな。俺も何も考えてない訳じゃない。明日からはみんなに時間に余裕を持たせて、全体練習の時間を設けてる。それでライブには間に合うはずだ」

「あ、ありがとうございますプロデューサーさん!」

「当然だろ、プロデューサーなんだから」

 

 礼を言った春香にヒラヒラ手を振ったガイは、クリスマスの日付に花丸を囲んだホワイトボードを見やりながら小さくつぶやいた。

 

「クリスマスライブか……。それまでに何事もなけりゃあいいんだがな……」

 

 

 

 律子はカメラを回して、亜美と真美のリポートを撮りながら道を歩いていた。

 

「全国の兄ちゃん姉ちゃんたち! 十二月なのに、日本は真夏日を記録してます!」

「地球から続々と飛び去るUFO!」

「日本近海から姿を消す海の怪獣たち!」

「そして、相次ぐ地底怪獣の突然死!」

「これらは世界の終わりの前触れなんでしょうか!? 亜美たちはそれを調べてます!」

「たくさんの怪獣について書かれてる歴史書、太平風土記! その原本が、この町の郷土資料家さんに保管されてることが分かりました! ネットには載ってない最後のページに、世界の終わりを防ぐヒントがあることを祈って、765プロは行きまーすっ! 続きは後ほど!」

 

 真美が言い終わると、カメラを止めた律子が首をひねった。

 

「うーん、いまいち緊迫感足りないわねー。やっぱり千早とかを連れてきた方がよかったかしら」

「律っちゃーん……いいから早くその資料館に行こうよー。亜美もう汗だくだよー……」

「もうこんなあっつい中を歩きたくない~!」

「分かった、分かったわよ。もうすぐだから後少しだけ我慢しなさい」

 

 不平タラタラな亜美と真美をなだめながら、郷土資料家の家を目指す律子。しかし道中で、ふと亜美がこんなことをつぶやいた。

 

「ところで、こんな状況が前にもあったよね。六月頃にさ」

「あー、そういえばそうだね。マガパンドンだっけ? あの時も暑くて暑くて溶けそうだったよ」

 

 亜美に相槌を打つ真美だが、律子は肩をすくめた。

 

「でもそれはもう倒したじゃない。いえ、マガパンドンだけじゃなくて、魔王獣全部をもう撃退済みよ。だから魔王獣が原因とは思えないんだけど……」

 

 言いながらも、律子は何かを考え込むように腕を組んだ。

 

「律っちゃん?」

「だけど……何か忘れてるような気がするのよね。何か見落としてることがあるような……」

 

 とぼやきながらも、三人は件の郷土資料家の自宅の前に到着したのであった。

 

 

 

 郷土資料家の奥方という老婦人に、家に上げてもらった律子たちは、婦人が席を離れている間にヒソヒソと話し合う。

 

「でも律っちゃん、太平風土記を見せてもらえるのかな……?」

「社長が昔、真美たちと同じことしてたって言ってたけど……持ってる岸根教授って人は、社長が何回頼んでも一度も見せてくれなかったそうだよ? すんなり見せてくれるかな……」

「でも行動しないことには始まらないわ。どうにか説得しましょう」

 

 覚悟を固めて、岸根教授を待つ律子たち。そこに岸根教授の妻、岸根秋恵がコスモスの花を携えて戻ってきた。

 

「庭のコスモスが満開なの。季節外れの暑さも、案外嫌なことばかりじゃありませんね」

 

 仏壇に花を添える秋恵に、律子が意を決して尋ねかける。

 

「突然すみません。岸根教授はお留守でしょうか……?」

 

 すると秋恵は、三人にこう答えた。

 

「ご存じないのね。主人は先々月亡くなりました」

「えっ……!?」

 

 仏壇には、岸根教授と思しき人物の遺影が飾られていることに律子たちは気がついた。

 

「ご、ご愁傷様です……」

「でも亜美……私たち、岸根教授に太平風土記を見せてもらいに来たんです」

 

 と申し出る亜美だったが、秋恵は次の言葉で返した。

 

「生前、主人は申しておりました。太平風土記は禁断の書……いたずらに公開すれば、この世を恐怖と混乱に陥れる。然るべき時が訪れるまで、決して、公開してはならないと」

 

 秋恵の証言に軽く驚く真美たち。

 

「だから社長には見せてくれなかったんだ……」

「でも、今の私たちにはどうしても最後のページが必要よ……!」

 

 律子は説得の意志を強めて、秋恵に臨む意欲を駆り立てた。

 

 

 

 その頃――ビートル隊本部では、ビートル隊の上層部が、特別拘束室に入室をしていた。

 そこで彼らを待っていたのは――電磁牢に入れられながら、全身を厳重に拘束されているジャグラスジャグラーであった。中央の男性はジャグラーに向かって名乗る。

 

「ビートル隊日本支部、長官の菅沼です。私に大事な話があるそうですね」

 

 顔を上げたジャグラーは、開口一番に告げた。

 

「間もなく、最後の魔王獣が現れてこの星は無くなる」

 

 ジャグラーのいきなりの告白に、菅沼は表情を強張らせた。

 

「終わりの始まりの地……それは八つの地脈が交わる東京の聖地。滅びの時は……二時間後に迫っている」

「……何か証拠はあるんでしょうか?」

 

 聞き返した菅沼に、ジャグラーは呆れたような視線を向けた。

 

「随分余裕だな。今すぐ手を打たなければこの星はあっという間に食い尽くされるぞ? あんたのせいで」

「……何故あなたが我々にそんなことを教えるんです」

「決まってるだろ……こんなとこでくたばる訳にはいかないからだよッ!」

 

 興奮したようにジャグラーが喚くと電磁牢が反応してスパークを起こした。看守のビートル隊隊員たちは菅沼たちをかばうようにジャグラーへライフルを向ける。

 ジャグラーが静かになると、菅沼が問い返す。

 

「八つの地脈が交わる東京の聖地というのは?」

 

 しかしそこに一人の隊員が駆けつけ、菅沼に報告を行った。

 

「長官! 東京タワー周辺で、ビルが沈むという怪現象が相次いでます!」

 

 

 

 東京タワーの真上の空に、天に開いた穴のように不気味な暗雲が渦巻き、その中央からタワーへ暗黒の稲妻が降り注いでいた。

 その様子を捉えた映像とともに、全国に臨時ニュースが放送される。

 

『番組の途中ですがここで臨時ニュースです。政府は、観測史上最大の怪獣災害が起こる可能性が高いとして、首都圏全域に、非常事態宣言を発令しました』

 

 そのニュースを、事務所でガイ、春香、小鳥、高木の四人が見ていた。春香はガイの顔を見上げる。

 

「プロデューサーさん、これって……!」

「……社長、小鳥さん、みんなを呼び戻しましょう」

「うむ……最早みんな仕事どころではないだろう」

「すぐみんなに連絡をします!」

 

 小鳥が慌ただしく受話器を手に取った。春香は、不安げにニュースの映像を凝視していた。

 

 

 

 ジャグラーは菅沼たちへ語る。

 

「ウルトラマンオーブに倒されたマガオロチは幼体に過ぎない。あの時奴は地底にその命を託した。間もなく、地球そのものを蛹として完全体となる。その名も……!」

 

 

 

『マガタノオロチ。地球の存続を脅かす恐ろしい怪獣であり、昨今わが国で起きている異常現象は、全てこの怪獣が出現する前兆であることが分かりました』

 

 菅沼はジャグラーから伝えられたことを、全国に発表。それを春香たちが見ていたところに、資料館へ行っている律子たち以外のアイドルが全員事務所に戻ってきた。

 

「お帰りなさい。外の状況は?」

 

 小鳥が尋ねると、千早が疲れ切ったような顔で答えた。

 

「大変な騒ぎですよ……。この辺りはともかく、都心に近いところではどこも避難する人たちで溢れ返って、あちこちで暴動染みた騒ぎも起きてるとか」

「私たちも、ここに戻ってくるまで大変でした……」

「律子さんたちは大丈夫かしら……?」

 

 雪歩がため息を吐き、あずさが律子たちの心配をした。そんな中で、春香は小さくつぶやく。

 

「でも、皮肉だよね……」

「えっ、何が?」

 

 聞き止めた真が聞き返すと、春香は目を伏しながら言った。

 

「こんな騒ぎでも起こらないと、私たち集まらないなんて……」

「……ああ……」

 

 そこに、どこかと電話をしていた高木が皆に振り向いて告げる。

 

「みんな、ビートル隊は東京タワーの直下100メートル、マガタノオロチの蛹に向けてスパイナーR1による爆撃を決定した!」

「えっ!?」

「スパイナーR1……って、何ですか?」

 

 やよいが尋ね返すと、高木はそれについて説明した。

 

「現在地球上で最も破壊力がある大陸間弾道ミサイルだ。しかしまだ実験段階なのだが……」

「そんなのを東京のど真ん中で使おうって言うの!? 避難だってまだ完了してないんでしょ!?」

 

 耳を疑う伊織だが、高木は苦渋を噛み締めた表情でうなずいた。

 

「決定事項だ。ビートル隊の友人が先んじて教えてくれた」

「そんな……!」

 

 アイドルたちは衝撃を受けて立ち尽くしているが、ガイだけは、何かを訝しむように目をそらしていた。

 

「プロデューサーさん?」

「ハニー?」

 

 ガイの異変に気がついた春香と美希が振り返った。

 

 

 

 律子たちも苦々しい顔で、タブレットで臨時ニュースを目にしていた。アナウンサーが続報を読み上げる。

 

『ただいま怪獣関連で新しい情報が入ってきました。ビートル隊はマガタノオロチの復活を阻止するため、新型ミサイルによる攻撃を決定しました。発表によりますと、攻撃範囲は、東京タワーを中心とした半径5キロ圏内とし、住民の避難が完了次第、攻撃に入るとのことです』

 

 その発表の直後に、秋恵は律子たちに述べた。

 

「天のいかずちに似たる矢、悪しき気を持ちて、オロチ、蘇らせたり」

 

 秋恵の前の机には桐の箱が置かれており、秋恵はその蓋を開けた。

 そして中に収められていた太平風土記の原本の、ネット上にはないページを律子たち三人に見せた上に、それを差し出した。

 

「持っておゆきなさい」

「でも……!」

 

 意外なほどにすんなりと渡されたことに、律子たちは逆に戸惑った。そんな三人に秋恵は言う。

 

「然るべき時が来たら、これをあなたたちに渡してほしい。それが、主人の願いでした」

「岸根教授が……?」

「何で、真美たちのこと知ってるの……?」

 

 唖然とする真美たちに、秋恵はきっぱりと告げた。

 

「年寄りを舐めんじゃないよ」

 

 そう言って机の上に乗せたのは、ノートパソコン。それを反転させて、表示されている画面を見せる。

 ひと目見た律子たちは驚愕した。

 

「えっ!? これって……!」

 

 それは765プロの公式サイトの、『アンバランスQ』のページ。それも現在更新されているものだけではなく、今では消してしまった分も含めて、過去に更新した記事が逐一スクリーンショットで保存されていた。

 

「原始哺乳類だとか大猿だとか、火星ナメクジだとか追ってた頃と比べたら、少しはマシになったみたいだね」

 

 その秋恵の発言に、亜美と真美は震えながら律子の袖を引いた。

 

「律っちゃんどうしよう……。亜美、今までで一番嬉しいかも……!」

「真美も、こんなに感動したの初めて……!」

「正直言うと、私も……!」

 

 感動で打ち震えている三人に、秋恵が呼びかけた。

 

「時間がないよ。765プロ!」

「――ファイトっ!」

 

 律子たちは力強く応じ、太平風土記を受け取って立ち上がった。

 



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逆襲の超大魔王獣(B)

 

 臨時ニュースの中継画面に映る、東京タワー半径10キロ以内の街の光景は、765プロのアイドルたちがおよそ見たことがないほどの大事態であった。大通りにはいつまでも避難する人の波が続き、途切れる気配がない。避難誘導する自衛隊員にやり場のない焦燥感や不安を当たり散らす怒号の声もあちこちで起こっている。

 中継のリポーターが報じる。

 

『ビートル隊による攻撃の発表がありましたが、指定区域の避難は未だ完了しておらず、現場では大変な混乱が生じております!』

 

 その中継の最中に、リポーターの背後のビルが三棟纏めて地中に没していき、避難民から悲鳴が発生した。

 

『皆さん、落ち着いて! 落ち着いて避難――きゃっ!?』

 

 混乱を静めようとするリポーターだったが、更に近くを竜巻が襲い、彼女も取り乱して叫んだ。

 

『逃げてぇーっ!』

 

 画面に映るこの大混乱に、見ているアイドルたちは皆一様に青い顔となっていた。

 

「まこと恐ろしきことに……。阿鼻叫喚とはこのことです」

「律子さんたちは、無事に戻ってこられるでしょうか……」

 

 貴音がつぶやき、雪歩はまだ事務所に戻って来ていない律子、亜美真美の心配をした。

 その一方で小鳥が独白する。

 

「プロデューサーさんも、社長も無事にビートル隊の基地に到着したかな……」

 

 この場には、先ほどまではいたガイの姿が、春香などと一緒になくなっていた。

 

 

 

 ジャグラーが拘束されているビートル隊基地。ここに春香、美希、そして高木とともに、ガイが駆け込んできた。

 

「叔父さんっ!」

 

 春香が呼ぶと、渋川が彼らの前にやってくる。

 

「高木さんまで、何しに来たんですか。早く避難して下さい!」

「ジャグラーに会わせてくれ!」

 

 ガイは渋川の言葉をさえぎるように、食い気味に頼んだ。

 

「それは無理だ。部外者を奴のところに通す訳にはいかない」

 

 断る渋川だが、春香たちは粘って説得する。

 

「あの人がオロチのこと話したんでしょ?」

「何でそのことを……」

「あいつは危険なの!」

「人類に手を貸すとは思えない。何か裏があるはずだ!」

 

 美希、ガイと続いて、高木も渋川に頼み込む。

 

「渋川君、私からもお願いだよ。ここでの選択を誤ったら、取り返しのつかないことになるんだよ」

「……」

 

 渋川は彼らの訴えかけを深く考慮する。その結果――。

 

 

 

 電磁牢の中で、ジャグラーが不意にニヤリと笑みを顔に貼りつけた。

 この拘束室のシャッターの前までガイたちは通されたのだ。

 

「ここです」

「ありがとう、渋川君。ガイ君」

 

 高木と目のあったガイがうなずくと、春香と美希の方へ振り向いた。

 

「春香、美希、ここで待ってろ。奴には俺一人で会ってくる」

「分かったの」

「気をつけて下さい!」

 

 春香たちに見守られながら、ガイがシャッターの前に立った。そしてゆっくりとシャッターが開かれ、ジャグラーの姿がガイの視界に入った。

 顔を上げたジャグラーは、ガイに向かって含みのある笑いを向けた。

 

「面会とは嬉しいね」

 

 ガイはジャグラーの閉じ込められている電磁牢の前に立つと、開口一番に問いを投げかけた。

 

「どういうつもりだ」

「あ?」

「何故ビートル隊にオロチの出現を教えた! 一体何をたくらんでる」

 

 それにジャグラーは、笑みを消した真顔で答えた。

 

「滅びゆく人間どもに真実を教えてやっただけだ。引き金を引くのは俺じゃない。人間自身さ」

「お前……!」

 

 ジャグラーは、ビートル隊にマガタノオロチ出現を教えた、その真意を語り出した。

 

「恐怖に駆られた人間ほどおぞましいものはこの世にない。一度は闇の力に囚われたお前なら分かるだろう? 人間どもの闇の力がマガタノオロチを呼び出し、この星を地獄に突き落とすのさ」

 

 これを聞かされたガイは憤怒で口元がわなないたが、ジャグラーに何か言うよりも、拘束室から飛び出して渋川に頼むことを選んだ。

 

「ミサイル発射を止めてくれ! 罠だッ!」

「何!?」

 

 唐突な発言に面食らった渋川は、こう返す。

 

「もう遅いよ! たった今発射された!」

「ッ!」

 

 考えるより早く、弾かれるように外へ向かって駆け出すガイ。

 

「ガイ君ッ!」

「ぷ、プロデューサーさんっ!」

 

 高木が思わず叫び、春香と美希は慌ててガイの背中を追いかけていった。

 

 

 

「着弾まで、5、4、3……」

 

 ビートル隊の指令室では、菅沼以下ビートル隊隊員らが、東京タワーに向けて発射されたスパイナーR1をモニターしていた。

 豪速で空を切り裂いていくスパイナーR1は、闇のオーラに覆われる東京タワーの根元に突き刺さり、凄絶な炸裂を起こす。

 

「スパイナーR1、目標に命中!」

 

 ビートル隊のオペレーターの一人が報告したが、すぐに別の一人が異常を発見した。

 

「これは……!?」

「どうした?」

 

 すぐに振り向く菅沼。

 

「爆発の熱エネルギーが、地底の一点に収束していきますッ!」

「何!?」

「長官、あれをッ!」

 

 ビートル隊幹部が、モニター画面に映る東京タワーを指差した。

 スパイナーR1の爆発を契機として、東京タワーを覆う闇のオーラは消えるどころか増大していた。そして全てのオーラが空の穴に吸い上げられていき――その中から巨大怪獣が地上に落下したのであった!

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 歪んだ球形の胴体を覆う青黒いグロテスクな触手と、全身に巻きつくいくつもの蛇型の首。そして肉体の半分近くを占めるのは、大きく裂けた口にズラリと並んだ鋭い牙を持った怪物の顔面。

 これこそが太古の地球に寄生し、何度もオーブを苦しめてきた魔王獣の、真に頂点に立つ闇の王である――!

 

 

 

 律子と亜美、真美は無人の街の中を、トータス号で飛ばしていく。その最中に律子が述べる。

 

「何を見落としてたのか分かったわ……! マガオロチの奇異な行動よ!」

「マガオロチの?」

「どういうこと?」

 

 後部座席から聞き返す亜美たち。

 

「マガオロチが一時的に行動を止めてた時のことよ。あの時マガオロチのバイタルはとっくに活性化してたのに、実際に動き出したのは大分時間が経ってからだった……。あの時のバイタルの上昇は、自分の分身を地中に植えつけるためのものだったのよ!」

 

 断言した律子が片手でガシガシと頭をかきむしる。

 

「ああーっ! 何でもっと早くこのことに気づかなかったのかしら! そしたら事前に何か手が打てたかもしれなかったのにっ!」

「後悔してもしょうがないよ律っちゃん! それより、マガタノオロチをどうするかを考えなきゃ!」

 

 真美が諭すと、亜美がうなずいて言う。

 

「マガオロチ、あの強さで子供だったんでしょ? だったら大人になったらどんな化け物になっちゃうの!? やばいよー!」

「全くだわ! そのためにも、早く太平風土記の解読をしなくっちゃ!」

 

 真美の抱える太平風土記を一瞥する律子。

 

「さっき少し見ただけだけど、最後のページは案の定オロチの記述だったわ。きっと何か対抗策が記されてるはず! それを見つけ出さなくちゃ!」

「うん! 急いで事務所に戻ろう!」

 

 と言う真美であったが、タブレットで臨時ニュース画面を開いてた亜美は、顔面蒼白となって二人に告げた。

 

「あんまり認めたくないんだけどさ……もう遅いみたい……!」

「え!?」

 

 ニュース画面にはちょうど、東京タワーより現れた大怪獣の姿が映し出されていた。

 

 

 

 東京タワーへと走っていたガイたちも、遠方に見える怪獣の、ここからでも肌に感じる凄まじいプレッシャーによって思わず足を止めていた。

 春香が震える声でつぶやく。

 

「あれが……本当の大魔王獣……!」

 

 

 

 ジャグラーは誰に言うでもなく語る。

 

「オロチは寄生した星の核に潜り込み、星のエレメントと結びついた魔王獣を生み出す。魔王獣はオロチが星を食いやすいように調理をするのが仕事の眷属。やがてオロチの半身が目覚めて調理の仕上げを行い、残る半身が真の姿となって星の全てを食い尽くす」

 

 ジャグラーはこれまでで一番というほどの愉悦の表情となっていた。

 

「それが超大魔王獣マガタノオロチだ。お前たちに倒せるかな?」

 

 

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 遂に目覚めてしまった、最後にして最強の超大魔王獣マガタノオロチは、手近なビルに身体をぶつけて横倒しにすると、裂けた口をいっぱいに開いてかぶりつく。

 この姿を、事務所のアイドルたちの内、千早がおののきながら評した。

 

「ビルを……食べてる……!」

 

 軽い腹ごしらえかのようにビルを瞬く間に捕食したマガタノオロチは、本格的な暴虐を開始する。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 口から絶大な威力の迅雷を吐き出して周囲の街並みを片っ端から焼き払い、更には全身から火炎弾を噴火のように飛ばして破壊の勢いを加速させる。空には瞬く間に暗雲が立ち込めて無数の竜巻が発生し、その一つをマガタノオロチ自身が呑み込んだ。

 

「……何てこった……!」

「とうとう、恐れていたことが現実に……!」

 

 ビートル隊指令室に移動してきた渋川と高木が、文字通りの地獄絵図となる東京タワー周辺の光景に戦慄した。

 この世の地獄を地上に作り出していくマガタノオロチに、あらゆる人間が恐怖する。――だが、そんな中でもガイたちは闘志を保ち続けていた。

 

「春香、美希、あれを止めるぞッ!」

「はいっ!」「うんっ!」

 

 三人はオーブリングとカードを構えて、フュージョンアップを行う。

 

「ゾフィーっ!」

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

「ベリアルさんっ!」

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

「光と闇の力、お借りしますッ!」

[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]

 

 融合したガイたちがウルトラマンオーブ・サンダーブレスターとなって空からマガタノオロチへ一直線に飛び蹴りを仕掛けていく。

 

「ムンッ!」

 

 だがいち早く察知したマガタノオロチがマガグランドキングの怪光線を放ち、オーブの飛び蹴りを止めた。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 更にそこに迅雷を飛ばしてオーブを撃ち落とす!

 

「グワァッ!」

 

 先制したつもりが返り討ちに遭い、地面に叩きつけられたオーブだが、負けてはいられない。すぐに立ち上がる。

 

『「今更カーテンコールなんて遅すぎるのよ! とっととお帰り願うわっ!」』

 

 黒春香が威圧するがマガタノオロチにはまるで通じておらず、マガタノオロチは肉体から無数のマガタノゾーアの触手を伸ばして攻撃してきた。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

「フッ!」

 

 オーブは光刃を飛ばして触手を断ち切り、手刀で弾き返す。しかしマガタノオロチはマガゼットンの光弾やマガパンドンの火炎弾を絶え間なく撃って猛攻を仕掛けてくる。

 

「「『ゼットシウム光輪!!!」」』

 

 いちいち弾いていてはきりがない。オーブは光輪を盾代わりにして相手の攻撃を防ぎながら前進。怪光線を弾いたところでマガタノオロチの口の中にパンチを繰り出した。

 

『「こんなでっかい口をだらしなく開けて! 行儀悪いわっ!」』

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガタノオロチの顎を掴んで抑え込もうとしたオーブだが、マガバッサーの竜巻に襲われて吹っ飛ばされる。

 

「グワァァッ!」

『「「あぁうっ!?」」』

 

 倒れ込んだオーブにマガタノオロチが牙を剥いて迫る。だがオーブは顎を捕らえて食い止めた。

 

『「お触りは厳禁よ! このマナー知らずっ!」』

 

 蹴飛ばしてマガタノオロチを押し返し、顔面に連続パンチを浴びせる。

 

『「このっ! このっ! これでもかっ!」』

『「えいっ! やぁっ! なのっ!」』

 

 重い打撃の連発でひるませようとするが、マガタノオロチは口からマガジャッパの臭気を吐き出してオーブをもがき苦しめる。

 

「ウゥゥッ!?」

『「く、くっさ……! 下品にもほどがあるわ!」』

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 叫んでもマガタノオロチの攻勢は緩まない。その鋭い牙でオーブの腕に噛みついてきた!

 

「ウワアァァーッ!」

 

 更にマガタノオロチの肉体に絡みつく蛇の首が伸び、オーブに食らいついて事実上の拘束となった。

 

『「う、動けない……!」』

 

 そこからマガタノオロチは電撃を浴びせて、オーブを苛んだ。

 

『「「うああああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!」」』

 

 オーブの大苦戦の様子を目の当たりにして、亜美と真美は愕然としていた。

 

「あんなに強いサンダーブレスターが……!」

「簡単にあしらわれてるなんて……!」

 

 そんな二人に律子が呼びかける。

 

「二人とも、覚悟はいい……?」

「え?」

「マガタノオロチに接近するわよ!」

 

 律子の発言に亜美真美は仰天。

 

「な、何でそんなこと!?」

「オロチの弱点を見つけるのよ! でないとプロデューサーたちが危ないわ!」

 

 言い聞かせた律子は、二人を安心させるように不敵に微笑んだ。

 

「大丈夫よ。私たちには太平風土記があるんだから。真美、しっかり持っててね」

「うん……!」

「行くわよ……765プロ、ファイトぉっ!」

 

 合言葉とともに、トータス号が再発進した。

 一方で春香と美希は、オーブリングにオーブオリジンのカードを通す。

 

『「プロデューサーさん、真の姿に!」』

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

 

 オーブカリバーの力でオーブオリジンに変身して拘束を振り払い、更に春香がカリバーをリングに差し込んだ。

 

[解き放て! オーブの力!!]

『「これで切り返すっ!」』

 

 オーブはカリバーで円を描き、全身全霊の一撃を光線として放つ!

 

「「『オーブスプリームカリバー!!!」」』

 

 剣から発せられる絶大な光の奔流が、マガタノオロチに直撃した! これは効くか!

 ――と、思われたが何と、マガタノオロチはオーブスプリームカリバーをも口の中に収めて呑み込み始めた!

 

『「えっ……!? なっ……!?」』

 

 目を見張る春香たち。マガタノオロチはスプリームカリバーを食らいながら前進し、接近してくる。

 

『「くっ……うぅぅぅ……!」』

 

 春香と美希でカリバーを支えてスプリームカリバーを撃ち続けたが、マガタノオロチはとうとうカリバーの刀身に牙を突き立てた!

 逆流するエネルギーがオーブたちを襲う。

 

「ウッ……! ウゥゥ……!」

『「ま、まだまだぁ……!」』

 

 身体が焼けそうになっても、春香たちはあきらめずにカリバーを握り続ける。

 

 

 

 ビートル隊基地の拘束室では、ジャグラーを見張っていたはずの隊員たちが全員、その場に横たわって意識を失っていた。

 その間を、ガイがいつも奏でるメロディを口笛で吹きながら悠々と歩く男が一人。黒いスーツのネクタイをキュッと締め直す。

 拘束されたふりをしていたジャグラーであった――。

 

 

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガタノオロチはとうとうオーブカリバーを奪い取り、横に吐き捨てた。オーブは武器を失い既になってしまう。

 

『「オーブカリバーが……!」』

『「……まだだよ! まだこれからっ!」』

 

 春香は美希に、自分に言い聞かせるように言った。オーブは相手の動きに注意しながら、懸命にマガタノオロチに挑み続ける。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

「デッ! テアッ!」

 

 マガタノオロチの噛みつきをかわしながら隙を見て、相手の顎を脚の間に挟み込んだ。そのまま倒れ込みながらマガタノオロチを地べたに引きずり下ろす。

 

「フゥゥゥゥゥンッ!」

「ピュウオ――――――――――ッ!」

 

 マガタノオロチの頭部を殴り、押し返すオーブ。必死に抗戦する彼であったが――マガタノオロチのクリスタルの角が光り、ほとばしる迅雷がその身体を焼く。

 

「ウワァァァァァッ!!」

 

 マガタノオロチの怒濤の攻勢にもがき苦しむオーブ。その様を、マガタノオロチに近づいてきた律子たちが見上げる。

 

「「兄ちゃんっ!!」」

「プロデューサーっ!!」

 

 思わず悲鳴を上げる三人。――この時気を取られたことが原因で、迅雷の余波によって弾け飛んだ道路の瓦礫に、彼女たちは反応が遅れてしまった。

 

「きゃあああああああああああああああっ!!」

 

 気がついた時には、トータス号は降ってきた瓦礫に呑み込まれた!

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガタノオロチは絶え間なく火炎弾や光弾を発し続けてひたすらオーブを打ちのめす。オーブのカラータイマーは激しく点滅していた。

 

「ウワアアアアアァァァァァァァァァッ!!」

『「「あああああああああああああっ!!」」』

 

 そして――遂に、怪光線がカラータイマーを貫いた。

 

「グワァッ――!?」

 

 カラータイマーの輝きは一瞬の内に奪われ、オーブはその場に倒れて消滅した。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 オーブを抹消したマガタノオロチはグルリと背を向けて、地響きを鳴らしながら歩み去っていく。邪魔者を退け、地球の捕食を再開しようというのだ。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガタノオロチの全身から火炎弾が雨あられとなって放出され、東京タワー周辺どころか、都心一帯を焼き払っていく――。

 

 

 

「プロデューサー!!」

「春香……美希がっ!!」

 

 テレビでオーブの敗北を目の当たりにした千早や真たちが絶叫を上げた。彼女たちはどうしたらよいのか分からずに立ち尽くしたが――ハッと顔を上げた貴音が叫んだ。

 

「皆の衆! すぐに外へ!」

「え――?」

「急ぐのです! 早くっ!!」

 

 その言葉の直後に、事務所の周辺に竜巻や火炎弾が襲い掛かり、建物を次々と破壊していく。

 

「きゃああああっ!?」

 

 アイドルたちと小鳥は恐怖に駆られて、事務所から脱出した。全員が外に逃げ出した間一髪のところで――。

 

 ドッッゴオオオオオォォォォォォォォンッ!!

 

 火炎弾が事務所のある雑居ビルに直撃し――765プロ事務所が爆ぜ散った。

 

「あっ……あぁ……!?」

「じ、事務所が……!」

 

 その瞬間、全員の表情が驚愕と、絶望に染まった。

 デスクが、ソファが、予定をいっぱい書き込んだホワイトボードが、律子の発明品が、『約束』の楽譜が、いくつもの写真が――ナターシャから春香へ受け継がれたマトリョーシカ人形が――事務所に詰まっていたたくさんの想い出が、灰になっていく――。

 

 

 

「ぐッ……うぅッ……!」

 

 オーブの身体が消滅しても、ガイたちは辛うじて命を拾っていた。しかしダメージは色濃く、特にガイはまともに動ける状態ではなかった。

 

「ぷ、プロデューサーさん……!」

 

 身体を支えることすらままならないガイに、春香が胸を抑えてよろめきながらも近寄ってくる。

 

「しっかりして下さい……。私……私たちは、まだ……!」

 

 訴えかける春香――その身体が、後ろから誰かに捕まった。

 

「きゃあっ!?」

「そうだ、しっかりしろぉガイッ!」

 

 これまでにないほどの笑顔のジャグラーが、春香を捕らえながらガイを見下ろしていた。

 

「は、春香……!」

 

 ガイも、美希も春香を助けようとするのだが、まともに身体を動かすことが出来ない。その間にジャグラーが続ける。

 

「ああそうだ! まだ終わりじゃないぞ。いや……終わらせない! 本当の地獄は……こんなもんじゃないぞッ!」

 

 唱えたジャグラーが――蛇心剣を抜いて、春香の背面に刃を走らせた!

 

「――!!!」

 

 美希が、ガイが声にならない絶叫を発した。

 

「――っ」

 

 春香が――ゆらりと、その場に崩れ落ちていった。

 




 
千早「プロデューサー……色んなことがありましたね」
雪歩「最初にオーブのことを知った時は驚きっぱなしでした」
やよい「だけど、一緒にいられてとっても楽しかったですぅ!」
律子「楽しいことだけではありませんでした」
あずさ「辛いこと、悲しいこともたくさんありました」
伊織「でも、今となっては全部いい想い出よ」
真「あなたからは色々なことを教えてもらいました」
亜美「勇気も教えてもらった!」
真美「優しさも教えてもらったよ!」
美希「だからミキたち、ハニーが大だいだーい好きなの!」
響「振り返ればあっという間だったかもね」
貴音「ですが、今日までの時間は光り輝いております」

春香「私たち……プロデューサーさんのこと、絶対忘れません」





「「「「「「「次回、『あの太陽へと、まっすぐ』」」」」」」」



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あの太陽へと、まっすぐ(A)

 

「ああそうだ! まだ終わりじゃないぞ。いや……終わらせない! 本当の地獄は……こんなもんじゃないぞッ!」

 

 唱えたジャグラーが――蛇心剣を抜いて、春香の背面に刃を走らせた!

 

「――!!!」

 

 美希が、ガイが声にならない絶叫を発した。

 

「――っ」

 

 春香が――ゆらりと、その場に崩れ落ちていった。

 

 

 

「んっ……! くぅ……! んんんん……!」

 

 マガタノオロチが巻き上げた瓦礫の下敷きになった律子、亜美、真美の三人だが、トータス号は潰れておらず、生き延びていた。しかし車は完全に埋まってしまっていて、どれだけ押してもドアは開かなかった。真美が律子に言う。

 

「駄目だよ律っちゃん、全然開かない……。これじゃ脱出できないよ……」

「でしょうね。それにたとえ開いたとしても、瓦礫が崩れる危険があるから外に出るのは無理だわ」

 

 太平風土記の内容を改めながら冷静に諭す律子に、亜美が若干苛立った。

 

「無理だわ、って何でそんなに落ち着いてるのさー! こんな状況で!」

「暴れたって無駄に体力を消耗するだけよ。脱出の手立てがない以上、ジタバタしててもしょうがないでしょ」

「そうかもしれないけどさぁ……」

「だからって、今太平風土記を読み返してどうなるって言うの?」

 

 律子がやけに熱心なことに真美が尋ねると、彼女はこう答えた。

 

「一つ、腑に落ちない点があるのよ」

「フに落ちない?」

「ここ、失われてたページの記述。『天のいかずちに似たる矢、悪しき気を持ちて、オロチ、蘇らせたり』。秋恵さんが言ってた部分」

 

 律子がそのページに目を落としながら語る。

 

「今の状況に酷似し過ぎてるわ。これは偶然なの? それに魔王獣が既に一度復活してたのなら、二度目に封印したのは一体誰? オロチがその時成体になってたとしたら、どうして最初幼体の姿で現代に現れたの? 奇妙すぎる……」

「もぉ~。今ここでそんなの気にしてたって、どうしようもないじゃん」

 

 肩をすくめる真美だが、律子は頭を振った。

 

「いいえ。これは勘なんだけど、この謎はきっと重要なことの気がする。何か、大きな秘密が隠されてるような……」

 

 

 

 マガタノオロチの攻撃によって爆砕されてしまった事務所を離れて、街をさまよっていた千早たち一行を、渋川が見つけて駆け寄ってきた。

 

「おーい! 君たちー!」

「渋川さん!」

「よかった、無事だったか。オロチの攻撃範囲に765プロの事務所の区域が含まれてたから、高木さんに代わって安否を確認しに来たんだ。電話回線はパンクしちまってるからな……」

 

 全員に怪我の様子がないので胸をなで下ろす渋川だったが、小鳥が悲痛の面持ちで告げた。

 

「あたしたちは無事なんですけど……事務所が燃やされちゃって……」

「……そうか。残念だな……」

「それにプロデューサーさんと春香ちゃん美希ちゃん、それと太平風土記を取りに行ってた律子さんと亜美ちゃん真美ちゃんの六人と連絡が取れないんです。何かあったんじゃないかと捜してたところで……」

 

 あずさの言葉にうなずく渋川。

 

「分かった。俺たちビートル隊地上班も手伝おう!」

「ありがとうございます……!」

「いいってことよ。市民の命を救うのが俺たちの仕事さ」

 

 と返した渋川の頭上を、ゼットビートル三機が通り過ぎていった。それを見上げた伊織がつぶやく。

 

「オロチに攻撃しに行くのね……」

「ああ……。だがオロチはマジもんの化け物だ。ビートル隊の総力をぶつけたとしても、倒せるとは……」

 

 オーブをも歯牙に掛けなかったマガタノオロチの強さを目の当たりにしたため、流石の渋川も弱気だ。それを振り払うように貴音が口を開く。

 

「ともかく、今はプロデューサーたちを捜しに参りましょう。二手に分かれて、渋川殿は律子たちの方をお願い致します」

「よし分かったッ! 急ごうぜ!」

 

 全員本心では不安で押し潰されてしまいそうであったが、それでも一縷の希望を見出そうとするかのように、ガイたちの捜索へと走り出した。

 

 

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガタノオロチの脅威に対してビートル隊は総攻撃を決定。各基地からゼットビートル全機が発進したのだが、渋川の口にした通り、ビートルは攻撃した端からマガタノオロチによって返り討ちにされていた。

 

「何て奴だ……」

「バラバラに攻撃してては駄目だ! 全機集結させ、一斉攻撃ッ!」

 

 指令室でその状況を目にしているビートル隊高官たちが指示していく。そんな中で、高木がそっと菅沼に呼びかける。

 

「菅沼……大変なことになってしまったな……」

「高木……」

 

 振り向いた菅沼が自嘲する。

 

「悪いのは全て、宇宙人にまんまと踊らされた私だ……。今更どう償えばいいものか……」

「いや、お前は全人類を守ろうと決断したんじゃないか。その気持ちが間違っていたはずがない。それに、絶望は常に希望と隣り合わせだ。完璧な生き物などいはしない! オロチにだってどこかに泣きどころがあるはず。あきらめずに戦い続けるんだよ!」

「高木……ありがとう……!」

 

 高木の励ましに感謝する菅沼であったが、モニターの中のマガタノオロチは、ビートルの攻撃を全く寄せつけずに猛威を振るっている。その姿からは、とても弱点など見つけ出せるように思えなかった。

 

 

 

 雪歩、真は渋川とともに律子たちを捜しに行き、残りはガイたちを捜しに走った。そして響のいぬ美の力を借りて、瓦礫の中でふらふらと起き上がるガイと美希を発見する。

 

「あそこだ! プロデューサー! 美希ぃー!」

 

 いぬ美と響を先頭に、二人の元に駆けつけて彼らの身体を支える。

 

「大丈夫ですか!? よかった、生きてて……」

 

 涙ぐみながら安心するやよいだったが、千早が辺りを見回して尋ねかける。

 

「春香は? 一緒だったんでしょう?」

 

 すると美希がポロポロと涙の粒をこぼした。

 

「うぅぅ……春香……春香はぁ……」

「ど、どうしたの!? 春香ちゃんに何が!?」

 

 美希の反応に焦る小鳥たち。だがその時に、ガイが近くの瓦礫の上にあるものを見つけた。

 それは、マトリョーシカ人形であった。

 

「え? どうしてこんなところに……。燃えちゃったんじゃ……」

 

 ガイの視線に釣られてそれを見やった伊織が疑問を抱く。ガイは人形を手に取って、上下に開いた。

 その中から、びっくり箱のようにピエロの玩具が飛び出てきた。

 

『じゃーんッ! ガイ君に嬉しいお知らせです!』

「ジャグラスジャグラー……!」

 

 千早たちの表情が一気に強張った。玩具から流れるジャグラーの声が、ガイに告げる。

 

『天海春香はまだ生きてるぞ。俺たちは第三埠頭にいる。来ないと斬る。今度こそ本当にな。フハハハハハ!』

 

 それでメッセージは終わった。ガイはその場に人形を落とす。

 

「春香……生きてたんだ……!」

 

 美希は安堵するものの、千早は憤怒の色を浮かべていた。

 

「だけど、人質にされたのよ。どこまでも卑劣な男……!」

「すぐ助けに向かいましょう! プロデューサー!」

「ああ……! 待ってろよ春香!」

「自分はこのこと、真たちに知らせてくるね!」

 

 響といぬ美は別れて、ガイたちは急いでジャグラーの指定した場所を目指して駆け出した。

 

 

 

「じゃーん! 未来の亜美たち、これを見てくれてるかなー?」

「真美でも、何なら誰でもいいよ! とにかくこれから言うことを聞いてねー!」

 

 相変わらず瓦礫の中に埋もれたまま、亜美と真美はビデオカメラを使って自分たちの動画を撮っている。

 二人は、それまでの人生で一番真剣な面持ちとなって語り始めた。

 

「今亜美たち、すっごいピンチの中にいるんだよね。もう助からないかもしんない」

「だけど振り返ってみたら、真美たちのアイドル人生はとっても楽しかったんだ。すごい充実してた!」

「それは一日一日、一歩ずつ一生懸命頑張ってたからだって気づいたの。みんなと一緒に、でっかい目標に向かってあきらめずに!」

「おっきな成功ってのは、いきなり掴めるものじゃない。毎日の積み重ねがあって出来るもの。当たり前のことだけど、だから誰にでも当てはまることなんだよね」

「だから……これを見てる人も、どんなにくじけそうなことがあったとしても、絶対あきらめないで。一歩一歩努力してけば、どんな長い道もゴールまでたどりつけるから!」

 

 二人がメッセージを撮り終えると、律子が尋ねかけた。

 

「未来へのメッセージって訳?」

「うん。ここで亜美たちが死んじゃったとしても、兄ちゃんたちはきっとオロチをやっつけてくれる。だから、未来に何か残そうって思ってさ」

 

 フフフッと微笑する亜美。それはあきらめの境地から生まれるものではなく、本当に未来を信じているからこその笑顔であった。

 

「未来……未来ね……そうかっ!」

「ど、どうしたの律っちゃん?」

 

 急に叫んだ律子に驚く真美たち。そんな二人に律子は断言した。

 

「分かったのよ! この太平風土記の記述は、過去のものじゃない……これから起こることだったのよ!!」

「な、何だってー!?」

「つまりこれは予言書だったのよ! 予知夢の霧島ハルカさんがいたでしょ? きっと昔にも霧島さんのように未来を予知できる能力を持った人がいて、ミサイルでマガタノオロチを攻撃したのを幻視した……。昔の時代にはミサイルの概念がないから『天のいかずちに似たる矢』と表現した! 岸根教授もこのことに気づいたから、太平風土記をひた隠しにしてたのよっ!」

 

 亜美と真美が顔を見合わせて、律子に振り返る。

 

「だったら、その先はどうなってるの!?」

「この先は……!」

 

 律子が最後のページを開き、その記述を解読する。

 

「『陽に向かい清浄の気を持ちしもの、オロチの邪気を阻み、鬼門となる』。……陽に向かい清浄の気を持つもの……!」

 

 最後のページには、マガタノオロチと思われる蛇の怪物を一人の刀を持った鬼が抑えつけ、十五人もの戦士がマガタノオロチと対峙している構図が描かれていた。

 

 

 

 ――春香は、どこかの建物の中と思しき場所で、ソファの上で目を覚ました。

 

「っ!?」

 

 混乱して腰を浮かしかけた春香だったが、すぐ近くで刀の鍔が鳴る音がして動きを止めた。

 振り向くと、ジャグラーが春香のスマホで、765プロの過去のライブ映像をながめていた。

 

「楽しそうじゃないか……。自分たちに待ち受ける破滅も知らずに、のんきなことにな」

 

 立ち上がった春香に、ジャグラーが向き直って口を開いた。

 

「弱い人間を守るために俺は強くなれる……とか何とか言ってたな。まぁ細かい文句は忘れたが、要するにあいつの強さの秘密は、お前たちだ」

「……だったら何?」

 

 気丈に聞き返す春香に、ジャグラーは刀の刃を向けながらほくそ笑んだ。

 

「それがあいつの弱点だ」

 

 にやにや笑っているジャグラーを、春香は険しい顔でにらみ返していた。

 

 

 

 律子はタブレットをネットにつなぎ、過去のニュースを検索していた。そして一つの記事にたどり着く。

 

「神尾公園の神木、マガオロチに倒される……これだわ!」

「どーいうこと? 亜美たちにも分かるように言ってよぉ!」

 

 ねだる亜美たちに律子が説明する。

 

「多分この神木が、太平風土記にある『陽に向かい清浄の気を持つもの』よ」

「うん。……だから何?」

「それがオロチの邪気を阻んで、鬼門になる。だから……」

 

 律子がハッと息を呑むと、その表情が一気に明るくなった。

 

「すぐに765プロのサイトを更新よ! サーバーが生きてるといいんだけど……」

「えぇ!? こんな時に、こんなとこで更新!?」

 

 亜美と真美は仰天する。

 

 

 

 雪歩、真、渋川の三人は律子たちの捜索を続けていたが、徐々に焦りが生じていく。

 

「律子さんたち、どこ行っちゃったんだろう……」

「律子たちの性格から考えて、マガタノオロチからそう遠くないところのはずなんだけど……何の手掛かりもなしには……」

 

 そう真がつぶやいたその時に、彼女たちのスマホが鳴った。

 

「え? 電話はつながらないんじゃ……」

 

 疑問に思いながら取り出すと、報せは電話の着信ではなかった。

 

「765プロのサイトが更新……? 事務所は燃えちゃったのに……」

「この状況で、一体誰が……」

「まさか……」

 

 渋川たちはそろって顔を見合わせる。

 

 

 

 ガイたちは第三埠頭にたどり着いた。河を挟んだ対岸の背景でゼットビートル部隊がマガタノオロチと戦う中、ガイたちの前に春香を拘束したジャグラーが姿を見せる。

 

「春香ッ! 怪我はないか!」

 

 千早たちに緊張が走る中で、ガイは春香に呼びかけた。

 

「私は大丈夫です! それよりマガタノオロチを……!」

「そうはさせない」

 

 マガタノオロチが怪光線でビートルを撃ち落とすのを尻目に、ジャグラーは春香の喉に蛇心剣を突きつけた。

 

「ガイ、お前たちにマガタノオロチは倒せない。そしてこの娘も救えない」

 

 マガタノオロチは背面から火炎弾を噴射してビートルを次々と爆破する。

 

「お前が愛したこの地球は、消えてなくなるんだ」

「ジャグラー……!」

 

 マガタノオロチは更に迅雷を吐いて街ごとビートルを焼き払っていく。

 ジャグラーはガイへと呼びかける。

 

「お前と俺は色々なものを見てきたな。……ダイヤモンド新星の爆発も、黄金の銀河に浮かぶオーロラも……!」

 

 ジャグラーの目尻から、ひとしずくの涙がこぼれ落ちた。アイドルたちは、緊張を保ちつつも驚きながらガイとジャグラーを注視する。

 

「だがそんな想い出もいずれ消える……まるで星屑のように……何もかも消える……」

 

 強く目をつむったジャグラーは、剣先をガイに向けた。

 

「唯一永遠なものが何か分かるかぁ? それは何もない暗黒だよ? お前の中にも、俺の中にも……誰の中にもある闇だ……。埋まらない心の穴なんだよ!」

 

 断言したジャグラーに対して、ガイは言い切る。

 

「闇は永遠じゃない。唯一永遠なもの、それは……」

 

 全員の視線がガイに集まる。その中で、ガイは言った。

 

「愛だ」

 

 ――ジャグラーの顔に、呆れたような笑いが生じた。

 

「はぁぁ?」

 

 構わずにガイは続ける。

 

「この宇宙を回すもの、それは愛なんだ! 暗闇の中に瞬いている希望の光だ。――俺はそのことを、みんなから学んだんだ」

「プロデューサーさん……!」

 

 春香たちは感動の眼差しであったが、

 

「おい……おい……おいおいおいおいッ!!」

 

 ジャグラーは癇癪を起こしたように地団太を踏む。

 

「今更愛だ希望だなんて台詞でこの状況がどうにかなるなんて思ってんのか? ハハハハッ!」

 

 高笑いしたジャグラーが刀を春香に向け直した。思わず叫ぶ千早たち。

 

「春香っ!!」

「俺が何もかもぶった斬ってやるよ……」

 

 恫喝するジャグラーに――春香は厳しい視線を返した。

 

「好きなだけ刀を振り回してれば? それで思い通りになると思ってるのなら」

「……何だって?」

 

 ジャグラーに構わずに、春香はガイへと告げる。

 

「プロデューサーさん! もし私が死んでも、あなたのせいだなんて思わないで下さい!」

「春香……」

 

 ガイたちの目が、春香に集まる。春香は笑顔で、ガイに呼びかける。

 

「短い間でしたけど、私……プロデューサーさんやみんなと夢を追いかけて、アイドルとして輝いて、本当に幸せでした。私……私たち……プロデューサーさんのこと、絶対忘れません」

 

 告げ終えた春香が、ジャグラーへと目を戻す。

 

「さぁ……斬れば? でも私の身体は斬れても、私たちのつないだ絆は斬れないから」

「……黙れ……」

 

 ジャグラーの手がわなわなと震える。

 

「黙れ……」

 

 その背景で、一機のゼットビートルがマガタノオロチに撃ち落とされた。

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇッ!!」

 

 ジャグラーはほとばしる激情のままに春香を突き飛ばした。

 その先に――ビートルが墜落してくる!

 

「春香ッ!!」

 

 ガイたちが驚愕して身を乗り出す。だが間に合わない。

 

「プロデューサーさん――!」

 

 ガイと目が合った春香に――落ちてきたビートルの機首が突っ込んだ。

 



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あの太陽へと、まっすぐ(B)

 

 ――千早たちは、ゼットビートルが春香目掛けて墜落して、目の前に起こった光景に目を見張っていた。

 

「そんな……嘘……嘘よ、こんな……」

「ど、どうして……こんなことに……」

 

 千早と美希は、目の当たりにしているものが信じられずにわなわなと震える。

 

「な、何でなんですか……」

「何故、このようなことに……」

「う、嘘でしょ……あり得ないわ……」

「そんな……こんなことが……」

 

 やよいも貴音も、伊織もあずさも、受け入れられずにいた。

 

「……」

 

 ただ一人、小鳥だけは、神妙に黙して見つめていた。

 そんな中でガイが、口を開く。

 

「――ナターシャが生きていたと知って、嬉しかったと同時に、疑問だった。普通の人間だった彼女が、あの爆発から、どうやって生き延びたのかということが」

 

 そして――唖然と、春香が、その顔を見つめ返した。

 

「――お前が助けてくれたんだな、ジャグラー」

 

 春香は――ジャグラーの腕の中に抱えられていた。

 ビートルに轢かれる寸前、ジャグラーが彼女を抱きかかえ、救出したのだった。

 

「……」

 

 皆の視線を集めて、何も言葉を発しないジャグラーに、ガイが告げる。

 

「お前の心には、まだ光が残っている」

「私の夢の人……あなただったんだ……」

 

 春香も、鮮明に夢の内容を思い出した。最後に見たナターシャの記憶……ナターシャを爆発から救って、エネルギーを分け与えて蘇生させた、ジャグラーの顔を。

 ジャグラーは、その時に出来た胸の三日月型の傷跡を抑えながらつぶやく。

 

「あの時……気づいたら、必死にあの女を助けていた。あの女は俺に微笑んだよ……。訳が分からなくなって、俺は尻尾を巻いて逃げちまった……」

 

 毒気が抜けたような表情のジャグラーを、春香たちはじっと見つめている。

 

「弱い物を放っておけないのがガイの弱点だ……。何故……俺も同じことを……」

 

 ガイはそんなジャグラーの胸ぐらを掴んで立たせると――その頬に拳を叩き込んだ。

 そして、抱き締めた。

 

「ありがとう……」

「……」

 

 ジャグラーは何も言えず、天を仰いでいた。

 

「みんなを頼む」

 

 そう囁いてジャグラーを放したガイは、春香に手を貸して立たせてから告げた。

 

「春香、ありがとう。お前が、お前たちがいてくれたから、俺は闇を抱き締めて、光を取り戻せた。今も、これからも、俺は光とともにあることが出来る」

「プロデューサーさん……」

「お前の言ってくれた、俺たちの絆は……どんなに遠く離れていても、同じ時間を過ごせなくても、生死を隔てたとしても……! 決して切れることはない。俺たちはみんな、どんな時も、手と手を結んでつながってるんだ……!」

 

 ガイの言葉に、春香は目が覚めたような顔となる。

 春香に呼びかけ終えたガイは、踵を返して今も暴虐を振るっているマガタノオロチの方向へ向かっていく。

 

「プロデューサー!」

「ハニー!」

 

 千早たちが一瞬追いすがろうとしたが、ガイは彼女たちに言い聞かせる。

 

「律子たちがここに来るはずだ。みんなは待っててくれ。俺は、奴を倒してくる。必ず、この地球を救ってお前たちの未来をつなぐ!」

「っ!」

「765プロ……ファイトだッ!」

 

 春香たちをこの場に置いて、駆け出していくガイ。春香たちは信頼を眼差しに乗せて、彼の背中を見送っていた。

 

 

 

 律子たちは瓦礫の中、じわりと汗をかいて呼吸を荒くしていた。

 

「何だか……息が苦しくなってきたね……」

「流石に酸素が薄くなってきたのよ……。後どれだけ持つかしら……」

 

 三人とも、酸素不足でろくに動けない状況になっていた。しかしそんな状況で、亜美が律子に告げる。

 

「律っちゃん……亜美、律っちゃんのこと、好きだよ……」

「真美も……よく悪戯してたけど、それも好きだからだよ……」

「何よ……いきなり、変なこと言い出して……」

 

 思わずはにかむ律子。

 

「だってさ……今言っとかないと、もうタイミングないかもしれないし……」

「律っちゃんだけじゃないよ……。みんなのこと、大好き……。ビデオに言っとけばよかったかな……」

「全くもう……。私だってね……あんたたちにはよく困らされたけど……大好きよ……」

 

 律子の言葉に、亜美と真美はにかっと笑った。

 

「うん、知ってた……」

「ふふ……調子に乗るんじゃないわよ……」

 

 そのひと言を最後に、律子たちはぐったりと力を失った。

 ――しかし、ふと目を開いた亜美と真美がフロントガラスを見つめて、ぼんやりつぶやいた。

 

「あれ……天使だ……。遂にお迎え来ちゃったかな……」

 

 二人には、フロントガラスの向こうから白い天使がこっちに近づいてくるように見えていた。

 

「……違うわ。あれは雪歩よ!」

「そっかぁ……ゆきぴょん天使だったんだぁ……」

「だから違うって! 私たち助かったのよっ!」

「――えーいっ!」

 

 雪歩がスコップで、トータス号のボンネットを下敷きにしていた最後の瓦礫を取り除いた。

 

「おい! 大丈夫か!? 助けに来たぞッ!」

「律子! 亜美、真美! しっかりしてっ!」

 

 陽の光に晒されたトータス号に渋川と真が飛びついて、中の律子たちに呼びかけた。

 

「渋川さん……!」

「ゆきぴょん……まこちん……!」

 

 律子たちの顔に、一気に希望の光が戻った。

 

 

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガタノオロチは吹き荒れる竜巻を呑み込んで、地球のエナジーを食い荒らしていく。そこへ向けて走っていくガイは、オーブリングにオーブオリジンのカードを通した。

 

[覚醒せよ! オーブオリジン!!]

「オーブカリバー!」

 

 カードが変化したオーブカリバーが、ガイの手の中に収まる。

 そしてカリバーのリング型の柄を回して、トリガーをがっちりと引いた。柄の象形文字が四つ瞬いて、カリバーに光がみなぎる。

 ガイの掲げたオーブカリバーから溢れ出る光が、彼の身体をウルトラマンオーブへと変身させた!

 

「シェアッ!」

 

 飛び出したオーブオリジンが、空からマガタノオロチへと急降下していく。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガタノオロチはオーブを見上げるとすぐに怪光線を吐いて撃ち落とそうとしてくる。しかしオーブは顔の前に構えたオーブカリバーからバリアを張って怪光線をそらし、マガタノオロチの正面に勢いよく着地した。

 

『俺の名はオーブ! 銀河の光が、我を呼ぶ!!』

 

 堂々と名乗ったオーブが光輪を投げ飛ばして攻撃する。

 だが光輪はマガタノオロチの牙に受け止められて、そのままバリバリと食われてしまった。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 威嚇するように咆哮を発するマガタノオロチに、オーブはめげずに挑んでいく。

 

『オーブグランドカリバー!』

 

 カリバーを地面に突き刺して、地面に伝わせたエネルギーをマガタノオロチに食らわせる。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 足元から爆発的な衝撃を受けるマガタノオロチだが、それでもダメージは見られない。

 

 

 

 大勢の人間でごった返す各地の避難所から、オーブの登場によって命懸けの中継を始めたカメラマンたちの捉える映像を避難民たちが目にして、オーブの姿に一気に沸き上がる。

 

「オーブだ!! オーブが生き返りました!!」

「うん……! 生きてたんだ……!」

「ヒーローは不滅なんだね……!」

 

 愛、絵理、涼がオーブの復活にはしゃぐ。

 

「オーブさん、頑張って下さい!」

「オロチをやっつけて!」

「いっけー! ウルトラマンオーブぅーっ!」

 

 卯月、凛、未央が熱くオーブの応援をしていた。

 そんな中で、何人かは別のサイトにアクセスしてあることに気がついていた。

 

「あれ!? 765プロのサイトが更新されてる!」

「こんな時に!? どんな内容を?」

「こ、これって……!」

 

 765プロの最新の更新を目の当たりにした人たちは、全員が驚愕していた。

 

 

 

「三人とも大丈夫だった?」

「何とかね……。ほんとにありがと……」

「間に合ってよかった……。お水ですぅ」

「ありがと雪歩……。一時はもう駄目かと思ったわよ……」

「サイトの更新から、律子のタブレットの起動を確認して位置情報をたどったんだよ」

 

 ビートル隊の地上部隊によって助け出された律子たちは、真と雪歩に介抱されながら息を整えていた。そこに渋川が駆け寄る。

 

「おい! サイトの情報、もっと詳しく教えてくれ!」

 

 律子は未だ息を荒くしながらも、渋川に答える。

 

「つまり、こういうことです……」

 

 タブレットを掲げて画面を見せる。それには、マガオロチが行動を停止していた際に地中にエネルギーを放射していた時の図がCGで再現されていた。

 

「マガオロチが地中に照射したエネルギーが、完全体になったのがマガタノオロチと仮定します。だけど、マガオロチはその時にご神木を下敷きにした。その部分だけエネルギーが木に阻まれて、マガタノオロチに届かなかった。その一点だけ、マガタノオロチには不完全な部分があるはずなんですっ!」

 

 その話を聞いた渋川が、近くの隊員に問いかける。

 

「おい! 怪獣のニュートロン分析は?」

 

 聞かれた隊員がマガタノオロチの分析結果を改めて、気がついた。

 

「顎の下の一点、ここだけ物質の構成が違いますッ!」

 

 律子たちの表情が一気に輝いた。

 そこにいぬ美を連れた響が駆けつけてくる。

 

「雪歩、真ー! 律子たちも無事だったんだなー!」

「ぢゅいッ!」

「バウっ!」

「響っ!」

 

 響は律子たちに、ガイたちの状況を手短に話した。

 

「実は……」

「! 分かったわ……!」

 

 律子たちは雪歩、真と響に肩を貸されながら立ち上がった。

 

「渋川さんたちは、今のことオーブに知らせて下さい!」

 

 律子のひと言に驚く渋川が聞き返す。

 

「ちょっとちょっと! お前たちはその身体でどこ行く気だよ!?」

 

 すると律子たちはにこっと笑いながら答えた。

 

「仲間が待ってるんです!」

 

 

 

『オーブフレイムカリバー!』

 

 オーブは剣を振るって火の輪を飛ばし、マガタノオロチを炎で包み込んだ。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 そのまま蒸し焼きにしようとしたが、マガタノオロチは身体を揺すって火の輪を吹き飛ばす。肉体の表面には焦げ目すらない。

 

「オオオオッ!」

 

 それでもひるまずに、オーブは剣戟をマガタノオロチに浴びせて次の攻撃に移る。

 

『オーブウォーターカリバー!』

 

 水の怒濤を生じさせてマガタノオロチを押し流そうとするも、それも全て飲み干される。

 

『オーブウィンドカリバー!』

 

 吹き荒れる竜巻をぶつけるも、これもマガタノオロチに破られてしまう。

 

『まだまだぁッ!』

 

 四つの必殺技が全て効かなくとも、オーブの闘志は衰えない。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 しかしマガタノオロチの吐き出す迅雷を食らって弾き飛ばされてしまう。

 

「ウワァァッ!」

 

 背中から倒れ込むオーブ。そして彼の攻勢が止まった隙に、マガタノオロチの肉体に不気味な変化が起こる。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 全身を覆う青黒い触手がぼこぼこ蠢いたかと思うと、いくつもの闇の塊に変化してマガタノオロチから切り離されたのだ。

 

「フッ!?」

 

 十数の闇の塊はそのまま地面に浸透し、地中を伝ってマントルの流れに乗り、地球の至るところへと移動していく……。

 

 

 

 マガタノオロチの惑星捕食は新たな段階に移行した。より効率的に星を食らうために、地球を破壊して調理する眷属を世界中に解き放ったのだ!

 

 

 

 マガタノオロチから切り離された闇の塊は、怪獣となって世界中への同時攻撃を開始した!

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 モスクワのクレムリン宮殿上空をマガバッサーが通過し、その際に巻き起こした突風によって宮殿が吹き飛ばされる。

 

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 パリの凱旋門が、地表を突き破って這い出てきたマガグランドキングによって下から破壊された。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 シドニーの摩天楼の間にマガジャッパが出現し、殺人的な悪臭によってシドニー中の人々を悶絶させる。

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 上海はマガパンドンに襲われ、両方の首から吐かれる火炎弾で街が焼き払われていく。

 マガタノオロチの闇の力によって復活した魔王獣たち。しかもそれだけではない。

 

「ゼットォーン……ピポポポポポ……」

 

 ハイパーゼットンデスサイスが海洋から火球を飛ばし、ニューヨークの国連ビルを木端微塵に吹き飛ばした。

 

「キィ―――キキキッ! ゴオオオオォォォォ!」

 

 プレトリアのユニオンビルが、アリチクスの吐く蟻酸によって溶かされていく。

 

「ミィ――――――――イ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 ローマのコロッセウムが、バニアボラスによって蹂躙される。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 ボゴタ市中央部にはガーゴルゴンが現れ、石化光線で辺り一帯の人間を石像に変えていく。

 

「ウアアアアアアアア! ギイイイイイイイイ!」

 

 カイロのピラミッドが、クレッセンホーに踏み潰されてしまった。

 

「キイイイイイイイイ!!」

 

 サンフランシスコに走るモノレールの線路にEXエレキングが巻きつき、絞め上げてバラバラに粉砕する。

 

「ピッ! ギャアアアアアアオウ! キャァ――――――――!」

 

 ロンドンの時計塔にディノケルビムの棍棒状の尻尾が叩きつけられ、へし折られた。

 

「ギギャアアアアアアアア!!」

 

 ニューデリーの繁華街にバキシマムが火を放ち、街は一瞬にして大火災に見舞われた。

 マガタノオロチの闇は過去にオーブによって倒された怪獣たちの邪念と結びつき、新たな眷属に変えたのである!

 

 

 

 怪獣たちによる世界攻撃はすぐに全世界を駆け巡り、春香たちも知るところとなった。

 しかし彼女たちはそれを気に留める暇もない。何故なら、マガタノオロチと戦うオーブの背後にも、闇の力によって復活した魔王獣が二体も現れたからだ。

 

「ピポポポポポ……」

「プオオォォォォ――――――――!」

 

 マガゼットンとマガタノゾーア! 二体の怪獣は光弾と触手を繰り出し、オーブを背後から攻撃する。

 

「ウワアァァァァッ!」

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 怪獣たちの元締めであるマガタノオロチにも囲まれ、オーブは大苦戦の状況に陥ってしまった。

 このありさまには、オーブを信頼しているアイドルたちも流石に焦燥を覚える。

 

「プロデューサーが……! 三対一なんて卑怯よ!」

「それだけじゃないわ。世界中が怪獣に襲われてる……! 一体どうしたら……」

「ほんとに、世界は終わりを迎えるんですか……?」

 

 伊織が怒り、あずさとやよいは悲嘆に暮れる。貴音も無言で苦渋を噛み締めていた。

 だがそんな中で、春香が力強く発した。

 

「そんなことはないよ!」

「春香……?」

 

 皆の目を集めながら、春香は語る。

 

「光は、希望は……愛は、決して終わることはない! プロデューサーさんが言ってたんだから! みんな、信じよう!」

 

 春香の言葉に、千早と美希が固くうなずいた。

 

「ええ……! 信じ続けた私たちには、奇跡が起きた!」

「今だって信じる心を持ち続ければ、希望が見えてくるの!」

 

 春香は一点の曇りもない心で、断言する。

 

「光を信じれば、希望は私たちに射し込む!!」

 

 その瞬間――彼女の左手に強く輝くものが現れる。

 

「お、お前……!」

 

 それを目にしたジャグラーが、衝撃を受けていた。

 春香が左腕を持ち上げると――その手の中には、オーブリングが現れていた。

 

「オーブリング……!」

 

 同時に、春香たちの周囲にこれまで集めてきたウルトラフュージョンカードが現れて、クルクルと回り出す。

 

「ウルトラマンさんたちの力が……! 私たちの心に、応えてくれてるんだ……!」

 

 カードの中から二枚、ゼロとネクサスのカードが春香たちの目の前で停止して、強く輝いた。

 その閃光によって空間に穴が開き、中からこちらに向かって走っていた律子たちが飛び出してくる。

 

「わっ!? びっくりした!」

「みんな! ボクたちは、どうして?」

「ウルトラマンさんたちが連れてきてくれたんですよ!」

 

 驚いた響や真たちに春香がそう答えた。彼女たちは、周囲の状況を見回しておおまかなところを察する。

 

「そう……。私たち765プロオールスターズの出番ってことね!」

 

 律子にうなずいた春香が口にする。

 

「はいっ! 私たちはみんなで一つ、一つでみんな! 私たちの希望で、私たちの光で、世界を救おうっ! 765プロー!」

 

 十三人のアイドルたちはウルトラフュージョンカードが祝福するように回っている中、円陣を組んで合言葉を叫んだ。

 

「ファイトぉぉぉ―――――――っ!!」

 

 気合いを入れたアイドルたちに小鳥が呼びかける。

 

「みんな……いってらっしゃいっ!」

 

 アイドルたちがうなずき返して、春香がオーブリングを掲げた。全員が左腕を天高く上げる。

 

「ウルトラマンの皆さんっ!」

『ヘアッ!』『ヘアァッ!』『デュワッ!』『ジェアッ!』『トワァーッ!』『トァーッ!』『イヤァッ!』『ヂャッ!』『デヤッ!』『デュワッ!』『デアッ!』『シェアッ!』『シュアッ!』『セアッ!』『メッ!』『ヘェアッ!』『セェェェェアッ!』『ショオラッ!』『テヤッ!』『イィィィーッ! サ―――ッ!』

 

 春香の呼びかけで、ウルトラマン、ゾフィー、セブン、ジャック、エース、タロウ、レオ、ティガ、ダイナ、ガイア、アグル、ネクサス、マックス、メビウス、ヒカリ、ベリアル、ゼロ、ギンガ、ビクトリー、エックスのカードがリングの中に飛び込んだ。

 そして春香がトリガーを引く!

 

「光の力、お借りしますっ!!」

 

 十三人の身体が、まばゆい光に包まれた!

 

[フュージョンアップ!]

 

 

 

 オーブは三体の大怪獣の猛攻によって、カラータイマーを鳴らしながら片膝を突いた。そこにマガタノオロチの迅雷が襲い掛かる!

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

「グッ……!」

 

 オーブももう駄目かと思われた、まさにその時、

 

『「「ヴぁいっ!」」』

 

 青白と赤黒い二つの光輪が横から飛び込んできて、迅雷を回転によって弾いてオーブの盾となった。

 

「ッ!」

 

 突然のことに助けられたオーブが驚き、そして光輪の飛んできた方角へ首を向けて更に仰天する。

 同じ方向を見上げたジャグラーも、言葉を失っていた。

 

「そんな……馬鹿な……!」

「みんな……すごいわ……!」

「ぢゅうッ!」

「バウバーウっ!」

 

 小鳥とハム蔵、いぬ美は打ち震え、『彼女たち』を応援していた。

 オーブの視線の先に居並ぶ者たち……それはウルトラマンオーブたちだ!

 

「ピュウオ――――――――――ッ!?」

 

 怪獣たちもあまりの光景に、度肝を抜かれていた。

 スペシウムゼペリオン、エメリウムスラッガー、スペシウムシュトローム、バーンマイト、ナイトリキデイター、ストリウムギャラクシー、ハリケーンスラッシュ、レオゼロナックル、ライトニングアタッカー、フォトンビクトリウム、ゼペリオンソルジェント、スカイダッシュマックス、スラッガーエース、サンダーブレスター。計十四人のオーブが堂々と胸を張った。

 その中の一人、スペシウムゼペリオン――その内にいる春香が宣言する。

 

『「私たちはオーブ! 闇を照らして!!」』

『「「「「「「「悪を撃つ!!!!!!!」」」」」」」』

 

 765プロアイドル全員が、各形態のオーブに変身して声をそろえたのだ!

 



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あの太陽へと、まっすぐ(C)

 

 トップアイドルを目指して精進を重ねる傍ら、風ノ魔王獣マガバッサー出現から今日まで、次々に現れる怪獣の脅威からガイとともにウルトラマンオーブとなって世界を守ってきた765プロアイドルたち。その日々の中で、皆で笑い、泣き、苦労や喜びを分かち合うことで育まれた絆と勇気がオーブの光に認められたことにより、彼女らはウルトラ戦士の力を借りて、今ここに「ウルトラマンオーブ」になるという奇跡を起こしたのである!

 

「シェアッ!」

 

 アイドルたちの変身した十四人のオーブの内、十二人が颯爽と大空へ飛び上がり、一旦宇宙空間を抜けて別々の方向へと飛び去っていった。彼女たちは世界中に散らばり、各都市を攻撃しているマガタノオロチの眷属怪獣を退治しに向かったのだ。

 その内の一人、スカイダッシュマックスに変身した響はモスクワ上空で竜巻を引き起こしているマガバッサーを発見して一直線に急行していった。

 

『「やぁーっ!」』

 

 響はその身一つで猛然とタックル! 不意打ちをもらったマガバッサーは対処できずに大きくはね飛ばされた。

 

「ミィィィィ――――! プォォォ――――――!」

 

 グルグル回りながらはねられたマガバッサーだが空中で体勢を立て直して、響へ竜巻を繰り出す。しかしスカイダッシュマックスの超速飛行は風の速度も大きく上回っており、響は暴風も突き抜けてマガバッサーに迫っていく。

 

『「こんな竜巻なんてなんくるないさー!」』

 

 突進とともに繰り出されたパンチがまともに決まり、マガバッサーは再び弾き飛ばされた。

 

 

 

 バーンマイトとなったやよいはパリの美しい街並みを蹂躙するマガグランドキングに、頭上から炎の飛び蹴りを仕掛けた。

 

『「えーいっ!」』

「グルウウウゥゥゥゥゥゥゥゥ!」

 

 バーンマイトの猛火の如きパワーは、マガグランドキングの超重量の巨体も一撃で蹴り飛ばし、横転させた。

 

『「うっうー! 悪い子はお仕置きですぅー!」』

 

 やよいの正義に燃える心に同調するように、全身が燃え上がるバーンマイトがマガグランドキングにぶつかっていき、重量差を物ともしないで押し込んでいった。

 

 

 

『「はぁーっ!」』

 

 シドニーに到着したナイトリキデイター=律子は両腕から光剣を伸ばし、マガジャッパに斬りかかる。

 

「グワアアアァァァァァ! ジャパッパッ!」

 

 ナイトリキデイターの流麗ながら精緻な剣技を見切れず、頭部に食らったマガジャッパが悶絶してよろめいた。

 

『「悪臭はもうたくさんよ! 文字通り元を断ってやるわ!」』

 

 大きく見得を切った律子が激しく二刀を振るい、マガジャッパを押していった。

 

 

 

『「オーブスラッガーランス!」』

 

 ハリケーンスラッシュ=伊織は上海でオーブスラッガーランスを召喚し、火球で身を包んで街を火の海に変えていたマガパンドンへ突撃。ランスのレバーを三回引いてスイッチを叩く。

 

『「トライデントスラッシュ!」』

 

 超速の乱撃が火球に叩き込まれ、火球はズタズタに切り裂かれてマガパンドンの姿が露出された。

 

「ガガァッ! ガガァッ!」

 

 地上に叩き落とされたマガパンドンは伊織へ火炎弾を連射するが、伊織はスラッガーランスを回転させて火炎弾を全て遮断した。

 

『「真冬にこんなガンガン暑くするんじゃないわよ! この伊織ちゃんが直々に社会の常識を教えてあげようじゃないの!」』

 

 言い切った伊織が火炎弾を突っ切って距離を詰め、ランスの穂先をマガパンドンの双頭に振り下ろした。

 

 

 

『「はぁっ!」』

 

 ニューヨークの市街の中心ではエメリウムスラッガー=千早が頭頂部のスラッガーを手に取り、ハイパーゼットンデスサイスへと投擲した。

 

「ピポポポポポ……ゼットォーン……」

 

 ハイパーゼットンは宙を切り裂いて飛んでくるスラッガーから、テレポートで逃れる。しかし、

 

『「そこっ!」』

 

 絶え間ない歌の練習で誰よりも優れたリズム感覚と鋭敏な聴覚を有する千早は、微細な空気の振動からハイパーゼットンのテレポート先を見切り、スラッガーの軌道をコントロールして出現すると同時に命中させた。

 

「ピポポポポポ……!」

『「オーブスラッガーショット!」』

 

 胸を切り裂かれてひるんだハイパーゼットンへ千早は更にふた振りのスラッガーを放って、腕のカマのつけ根を切断してハイパーゼットンの武器を奪った。

 

 

 

『「ちょあーっ!」』

 

 フォトンビクトリウム=真美はその剛腕を突き出して、アリチクスの顔面に強烈な拳を炸裂させた。

 

「キィ―――キキキッ! ゴオオオオォォォォ!」

『「何のっ!」』

 

 ふらついたアリチクスだが蟻酸を吐いて反撃。しかし真美は腕を盾にしてガード。フォトンビクトリウムの頑強なボディは蟻酸でも溶かされることはない。

 

『「再生怪獣は弱いってのが相場だもんねー! すぐにやっつけちゃうよ!」』

 

 真美はノリノリで剛腕を振るい、アリチクスをガンガン攻めていった。

 

 

 

『「えぇいっ!」』

 

 ストリウムギャラクシー=あずさはバニアボラスに真正面から体当たりを決める。ストリウムギャラクシーのパワフルな突撃は、屈強なバニアボラスもはね飛ばすほどの威力であった。

 

「ミィ――――――――イ! ゲエエゴオオオオオオウ!」

 

 バニアボラスが双頭から火炎と溶解液を吐き出すが、あずさは高々とジャンプして跳び越え、飛び蹴りを相手の喉元に食らわせた。

 

『「これ以上の悪いことは許しませんっ!」』

 

 温厚なあずさもバニアボラスの破壊行為には怒り、阻止するべく戦いを挑むのだ。

 

 

 

『「うりゃーっ!」』

 

 ライトニングアタッカー=亜美の電撃を纏ったパンチが、ガーゴルゴンの伸ばしてきた肩の蛇の首を跳ね返した。

 

「キュウッ! アァオ――――――――ッ!」

 

 ガーゴルゴンは以前の敗北の記憶から、最大の武器である石化光線を放とうとしない。しかしそれ故に亜美には決め手に欠け、押され気味であった。

 

『「一度やっつけた相手だもん! ラクショーだねっ!」』

 

 対する亜美には相当な勢いがあり、流れは完全に彼女が握っていた。

 

 

 

「ウアアアアアアアア! ギイイイイイイイイ!」

 

 クレッセンホーが両眼から熱線を発射するが、ゼペリオンソルジェント=美希はマルチアクションを完璧に使いこなした高速の身のこなしでかわし、相手の背後に回り込んだ。

 

『「遅すぎてあくびが出るの! あふぅ」』

 

 挑発までかましながら、クレッセンホーを背後から捕まえて、今度はパワーを高める。

 

『「とりゃあーっ! なのっ!」』

 

 大きく投げ飛ばしたバックドロップで、クレッセンホーは頭から地面に叩きつけられた。

 

 

 

「キイイイイイイイイ!!」

 

 EXエレキングはスペシウムシュトローム=雪歩が飛ばした光刃をかわし、身体をくねらせながらの突進で迫っていく。外れた光刃は地面に当たって大きな穴を穿つ。

 しかしこれこそが雪歩の狙いだった。

 

『「やぁっ!」』

 

 雪歩は猛然と迫り来る怪獣を少しも恐れず、その首を捕らえると同時に地を蹴って飛び上がった。エレキングの長い身体が地上から離れて浮き上がる。

 

『「穴掘って埋めますぅー!」』

 

 そのままエレキングを、今しがた作った穴へと投げ込んだ。

 

「キイイイイイイイイ!!」

 

 エレキングの身体がズッポリと穴に収まり、身動きが取れなくなって長所の機動力が封じられた。

 

 

 

『「せいっ! たぁっ!」』

「ピッ! ギャアアアアアアオウ! キャァ――――――!」

 

 レオゼロナックル=真はディノケルビムが振り回す棍棒状の尻尾をはたき落とし、相手の懐に飛び込んで鉄拳を二発、三発とタイミング良く打ち込んだ。

 

『「乱暴に棍棒を振り回すような雑な攻撃、食らうもんか!」』

 

 空手の実力者たる真には力任せなだけの攻撃など通用しないのであった。

 

 

 

『「バーチカルスラッガー!」』

 

 スラッガーエース=貴音は額に手をかざしてバーチカルスラッガーを握り、バキシマムに斬撃を浴びせる。

 

「ギギャアアアアアアアア!!」

 

 バキシマムが鋭い爪の生えた腕を振るうが、貴音の華麗な足取りに翻弄されるばかり。

 

『「これよりの狼藉はまかりなりません! 成敗致します!」』

 

 バキシマムの爪を切り払った貴音が堂々と宣告した。

 

 

 

「シェエアッ!」

「ウオオォォッ!」

 

 東京に残ったスペシウムゼペリオンとサンダーブレスターはマガタノゾーアとマガゼットンを引き受け、スペシウムゼペリオンはマガタノゾーアに飛びついて顔面に膝蹴りを入れ、サンダーブレスターはラリアットでマガゼットンをはね飛ばした。

 

「プオオォォォォ――――――――!」

「ピポポポポポ……」

 

 マガタノゾーアとマガゼットンは触手と光弾で反撃するが、触手はスペシウムゼペリオンの光輪で切り払われ、光弾はサンダーブレスターのサンダークロスガードで防がれた。

 闇と光の魔王獣を相手取る、光と闇のオーブを見上げて、ジャグラーは唖然と口を開いていた。

 

「馬鹿な……あいつら十三人だろ? もう一人は一体誰なんだ……?」

 

 数が合わないことの疑問に、ジャグラーはサンダーブレスターを凝視していてハッと気がついた。

 

「ま、まさか……!」

 

 スペシウムゼペリオンの中の春香は、肩を寄せ合ったサンダーブレスターに呼びかける。

 

『「なかなかやるね――春香っ!」』

『「そっちこそ流石私といったところかしら――春香」』

 

 サンダーブレスターの中にいる、黒春香が不敵に笑いながら返答した。

 光と闇の側面に分かれ、一時的に二人となった春香は一分の狂いもないコンビネーションで、マガゼットンとマガタノゾーアに飛び掛かっていく。

 

『「「ヴぁいっ!!」」』

 

 

 

「世界中に散らばったウルトラマンオーブが、怪獣と交戦しています!」

「す、すごい……!」

 

 世界中のオーブの戦闘をモニターで目の当たりにしている本部のビートル隊員たちは皆、常識を超越した出来事に驚愕するとともにオーブたちの奮闘ぶりに目を奪われていた。

 その間に、菅沼は密かに彼らから距離を取って高木に囁きかけた。

 

「高木、いつも君には驚かされるよ。これが、お前の見出した子たちの起こした世界を救う奇跡なんだな」

「さて、何のことかね?」

「とぼけなくたっていい。――彼なんだろう? 若かった頃のお前を導き、そして今ではあの頃と変わらない姿でお前の一番の部下となっている、あの不思議な青年」

 

 菅沼の指摘に、高木は不敵に微笑むだけであった。

 菅沼は構わずに、高木に質問を重ねる。

 

「しかし、ずっと疑問に思ってたんだが――どうしてアイドルなんだ? 戦いをさせるならば、格闘技やスポーツの選手みたいな者の方が適任だったんじゃないか?」

 

 その疑問に、高木は柔らかく微笑みながら答えた。

 

「確かに、戦いをするだけだったらその方が適してただろう。――しかし、強さだけがあればいいのなら、それでは怪獣と同じだ。私は、世界に光をもたらす救世主になれるのは、それだけじゃない――人々に笑顔と希望を与えられる者ではなくてはいけないと考えたんだよ。スポットライトに照らされて、その気持ちを歌に乗せるような、そんな人間だとね」

「なるほど……それが、アイドルだったという訳か。実際、お前の言う通りになっているな」

 

 菅沼は自分のやってしまったことと、高木が導き出した結果を比較して、最大級の苦笑を浮かべた。

 

「本当に……お前には敵わないなぁ」

 

 

 

「みんな……!」

 

 世界中で戦うオーブたち=765プロアイドルの姿はネット上で中継され、小鳥もハム蔵やいぬ美とともに律子の置いていったタブレットで応援しつつ見守っていた。

 その後ろで、ジャグラーがポツリとつぶやく。

 

「俺は、何だったんだろうな……」

 

 耳に留めた小鳥が振り向くと、ジャグラーは力のない声で自嘲をしていた。

 

「あんな小娘どもまで光に選ばれたってのに……俺は闇にもなれなかった……。俺は何がしたかったんだ……」

 

 すっかり腑抜けた様子になっているジャグラーに、小鳥は渋面を作って怒声を向けた。

 

「いつまでふて腐れてるのっ!」

 

 顔を上げたジャグラーの肩を、小鳥が力強く掴む。

 

「みんなと夜明けのコーヒーを飲みたいとか言ってたわよね。だけど今戦わないと! どんな善人にも悪人にも夜明けなんて来ないのよ!?」

 

 小鳥の呼びかけの言葉に、ジャグラーの顔色が変化していく。

 

「あなたがいなかったら、春香ちゃんはいなかった。今のプロデューサーさんも、みんなもいなかった。――あたしたちの光は、あなたがいたからなのよ」

 

 そして小鳥は、そんな彼に手を差し伸べた。

 

「さぁ、立って。どんな夢も、光も、遅すぎるなんてことないんだから!」

 

 

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガゼットンとマガタノゾーアは春香が引き受けたが、マガタノオロチは単体でもオーブをはるかに上回るほどの力の持ち主。そのパワーでオーブを追い詰め、鋭い牙で肩に食らいついた!

 

「グウウゥゥゥッ!」

 

 激しく苦しみ悶えるオーブ。オーブカリバーの柄を回転させて叩きつけることでどうにか引き離すも、ダメージが深くてカラータイマーが点滅を始めた。

 

『「「プロデューサーさんっ!」」』

 

 オーブの窮地に思わず振り向く春香たちだが、彼女たちもマガゼットンとマガタノゾーアを捨て置くことは出来ず、救援に回ることは出来なかった。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 それをいいことにマガタノオロチはオーブにとどめを刺そうとする。

 その時! 白刃の一閃が走り、マガタノオロチが斬り伏せられた。同時に袈裟に斬られてずり落ちたビルの陰から――巨大魔人態に変身したジャグラスジャグラーが、蛇心剣の鍔を鳴らした。

 

「……!」

 

 咄嗟に見上げたオーブに、ジャグラーが振り返らずに手だけ差し伸べる。――オーブはその手をぐっと掴んで立ち上がった。

 小鳥は二人が並んだ姿に、笑顔でうなずいていた。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガタノオロチは肩を並べたオーブとジャグラーに、持てる限りの遠距離攻撃を繰り出す。それをオーブがバリアで防ぐ。

 

「シェアッ!」

 

 彼の背中を蹴ってジャグラーが跳んだ。そのままマガタノオロチの頭上に飛び掛かり、ひと太刀を入れる。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 大きく斬られたマガタノオロチだが力は弱まらず、四つの眼からジャグラーへ雷撃を放つ。だが素早く飛び込んできたオーブのカリバーが雷撃を絡め取ってジャグラーを守った。

 

「フゥゥゥゥゥ……トワアアアァァァァッ!」

 

 オーブは絡め取った雷撃ごとカリバーを叩き込んだ! マガタノオロチの全身が爆炎の中に隠れたが――。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 自身の攻撃が乗った一撃でもマガタノオロチは止まらず、オーブとジャグラーに激突して二人同時に弾き飛ばした。

 

「ウワアアアアァァァァァッ!」

 

 ジャグラーがオーブに力を貸しても、マガタノオロチはそれすらも上回る。勝ち目はないのか――!?

 だがその時! 空の彼方から無数のゼットビートルが編隊を組みながら、マガタノオロチに向かって押し寄せてきた!

 

「!!」

 

 そしてありったけのミサイル攻撃で、マガタノオロチの顎の下の一点――律子たちが見つけたマガタノオロチ唯一の弱点を狙い撃ち始めた!

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 散々オーブとジャグラーの渾身の攻撃を食らいながらも平然としていたマガタノオロチが、ミサイル一発を食らっただけで激しく飛び上がってもがき苦しんだ。律子の見つけ出した答えは、正しかったのだ。

 そしてその弱点を託され、全責任を負ってビートル全機に攻撃命令を出した渋川がオーブへと叫んだ。

 

「オーブ! マガタノオロチの泣きどころはそこだ! そこだけが脆いんだぁーッ!」

「フッ!」

 

 知らされたオーブとジャグラーが即座に駆け出す。弱点を知られたマガタノオロチは迅雷を吐き出して二人の接近を阻止しようとするが、オーブとジャグラーは前転ジャンプで跳び越えて止まらなかった。

 

「フゥゥゥゥッ! デヤァッ!!」

 

 距離を詰めた二人の全力の拳が、マガタノオロチの弱点に突き刺さる!

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガタノオロチの顎の下から火花が噴出し、弱点が剥き出しになった。遂に開かれた突破口だ!

 

『「やったっ! とうとうやったよ!」』

『「ええ! こっちも片をつけるわよ!」』

 

 春香と黒春香はオーブたちの逆転に応えるように、二人で巨大な光輪を作り上げて投げ飛ばした。

 

『「スペリオン光輪!」』

『「ゼットシウム光輪っっ!」』

 

 二つの光輪はマガゼットンとマガタノゾーアの反撃を断ち切りながら飛び、本体をバッサリと両断した。

 

「ピポポポポポ……」

「プオオォォォォ――――――――!」

 

 ぶった斬られた二体は跡形もなく爆発四散し、マガタノオロチに先んじて消滅した。

 

 

 

 世界各地のオーブたちも、眷属怪獣に必殺攻撃を繰り出して勝負を決めていた。

 

『「スラッガーエーススライサー!」』

 

 貴音が高速回転して突撃し、バキシマムをバーチカルスラッガーで切り刻んで消し飛ばした。

 

『「レオゼロビッグバン!」』

 

 真が燃え上がるチョップを振り下ろして、ディノケルビムの頭蓋を叩き割って全身を木端微塵にする。

 

『「ウルトラフルバースト!」』

 

 雪歩が空中から光線技の連射を穴の中のEXエレキングに叩き込んで、大爆発によって穴ごと消し去った。

 

『「マルチフラッシュスライサー!」』

 

 美希の放った大振りの光刃がクレッセンホーを貫き、クレッセンホーは肉体が崩れ去って消滅。

 

『「アタッカーギンガエックス!」』

 

 亜美が手足を大きく伸ばして最大威力の電撃を繰り出し、ガーゴルゴンを撃って燃やし尽くした。

 

『「ストキシウムタイフーン!」』

 

 あずさが撃ち出した竜巻がバニアボラスを呑み込んで、バニアボラスはバラバラに爆散した。

 

『「フォトリウムナックル!」』

 

 真美の鉄拳がアリチクスを一撃で粉砕する。

 

『「(ハイパー)ウルトラノック戦法!」』

 

 千早は三つのスラッガーを打ち飛ばし、加速したスラッガーがハイパーゼットンデスサイスを貫通して大爆発させた。

 

『「ビッグバンスラスト!」』

 

 伊織がマガパンドンにスラッガーランスを突き刺し、内側から爆破して消し飛ばした。

 

『「ストライクナイトリキデイター!」』

 

 律子の手の平から発射された光弾がマガジャッパに直撃し、一瞬で吹き飛ばす。

 

『「ストビュームダイナマイトぉー!」』

 

 やよいが全身を燃え上がらせてマガグランドキングに激突し、張り手を顔面に食い込ませる。

 

『「ハイターッチ! いぇいっ!」』

 

 猛火に覆われたマガグランドキングが粉々に吹っ飛んだ。

 

『「ミラージュラッシュフィニッシャー!」』

 

 そして響が超スピードでマガバッサーに全方位から拳の猛打を叩き込んで、マガバッサーはダメージに耐え切れずに爆発四散した。

 世界中の怪獣を撃破したアイドルたちは、再び宇宙を経由して東京、オーブオリジンの元へと急行していく。

 

 

 

 残すは大元であるマガタノオロチのみ。ジャグラーはオーブと、駆け寄ってきた春香たちに告げる。

 

『よし、ありったけの光線を奴にぶち込んでやれ』

 

 しかしマガタノオロチも最後の最後まであがきを見せる!

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 触手を伸ばしてオーブたちを牽制しながら、ジャグラーを捕まえて引き寄せたのだ!

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 そして右腕に食らいつく!

 

『うわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

『「「ジャグラーっ!」」』

 

 思わず叫ぶ春香たち。このままでは、ジャグラーを光線に巻き込んでしまう。マガタノオロチはそれが狙いなのだ。

 

『な、なめるなよオロチッ!』

 

 だがジャグラーは捕まったまま剣をマガタノオロチに突き刺して、逆にマガタノオロチを抑え込む。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 その姿勢のままオーブたちに指示するジャグラー。

 

『俺と一緒に撃て! このチャンスを逃したら、次はないぞッ!』

 

 しかしやはり躊躇うオーブたち。この場に戻ってきた十二人も、マガタノオロチに密着されているジャグラーの図に驚愕する。

 ジャグラーはそんな彼らの背を押した。

 

『撃てぇ―――――ッ! ウルトラマンオーブぅぅぅ――――――――!!』

 

 ――彼の言葉にオーブは決断し、顔を上げた。

 

『みんな行くぞッ!』

 

 オーブの呼びかけに仲間全員がうなずき、オーブカリバーの力が解放される。

 

[解き放て! オーブの力!!]

『オーブスプリームカリバー!』

 

 オーブカリバーは立ち並んだオーブたちの前に広がる光のリングに変わり、彼らのエネルギーをフルチャージさせる。

 ――この光景を目にしている小鳥が焦りを見せた。

 

「犠牲を出しての勝利なんて……! あたしにも、光を――!」

 

 強く願って差し出した手の平に――二枚のカードが飛び込んできた。

 

「っ!!」

『フワッ!』『イィィィーッ! サ―――ッ!』

 

 コスモスとエックスのカードだ――。

 そしてオーブたち十五人が、必殺光線を発射する!

 

『「スペリオン光線!」「ワイドスラッガーショット!」「クロスレイスペローム!」「ストビューム光線!」「クラッシャーナイトリキデイター!」「ストキシウムカノン!」「オーブランサーシュート!」「ナックルクロスビーム!」「ギンガエックスシュート!」「フォトリウムシュート!」「ゼペリジェント光線!」「マクバルトアタック!」「エメタリウム光線!」「ゼットシウム光線!」』

『オリジウム光ぉぉぉぉぉ線ッッ!』

 

 十五の光が一つとなった光の奔流が、ジャグラーごとマガタノオロチに突き刺さる――。

 

『じゃあな――』

 

 別れの言葉を告げたジャグラーに、横からひと筋の光が飛び込む――。

 光はマガタノオロチの肉体をえぐり、闇を切り裂き、引き千切っていき――マガタノオロチは爆散して崩壊していく。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!!」

 

 八つの闇の蛇の首が断末魔となって飛び出したのを最期に、それをも呑み込む壮絶な爆発がマガタノオロチをこの世から完全に消し去ったのであった。

 

 

 

「よぉしッ!!!」

 

 ビートル隊本部で、全隊員がオーブの完全勝利に歓喜に打ち震えた。そんな彼らに菅沼が宣言する。

 

「作戦終了。お疲れさま」

 

 皆が頭を下げる中指令室を後にしようとする菅沼の表情が、一瞬で緩んだ。そして彼を待っていた高木に呼びかける。

 

「高木、今日は久々に一緒に飲もうか? 奢るぞ」

 

 しかし高木はその誘いをやんわりと断る。

 

「すまないが、みんなが待っているんだ。社長として、労をねぎらってやらんとね」

 

 

 

 夕陽が激戦の痕跡をまざまざと残す地上を赤く照らす中、アイドルたちの変身したオーブがすぅっと消えていった。そして一人残ったオーブオリジンは、地面に突き刺さった蛇心剣を見つめてうなだれる。

 ――しかしふと横に目をやると、顔を上げて空に飛び上がっていった。

 

「シュワッチ!」

 

 オーブが夕陽に向かって去っていく中――フルムーンザナディウムが、そっと両手を地上に下ろした。

 その上には、ボロボロになりながらも辛うじて息があるジャグラーが横たわっていた――。

 

 

 

 ――夕陽が照らす波打ち際、765プロの総員は、プロデューサーとしてのスーツ姿から風来坊のレザージャケットに着替えたガイと面と向かっていた。

 

「プロデューサーさん、行っちゃうんですね……」

 

 春香の言葉に、ガイはおもむろにうなずく。

 

「マガタノオロチの影響はまだ各地で残り続けてる。俺はオーブとして、世界の安定を取り戻さなくちゃいけない。――世界中が、ウルトラマンオーブを待っているんだ」

 

 テンガロンハットを被ったガイに、高木たちが思い思いの言葉を口にする。

 

「遂にお別れの時だね……。君には長い間、世話になった……」

「うぅぅ……寂しくなりますぅぅぅ……!」

 

 小鳥がしとどに溢れる涙をぬぐい、アイドルたちもガイに別れの言葉を向ける。

 

「プロデューサー……本当にお世話になりました」

「お陰で私、たくましくなれましたぁ!」

「風邪を引かずに元気でいて下さい、プロデューサー!」

「後のことは私が引き継ぎます!」

「これからも私たち、一生懸命頑張ります」

「すぐにトップアイドルに登り詰めてやるんだからね! 楽しみにしてなさいよ!」

「プロデューサー……海外でも、どうか見守ってて下さいね!」

「兄ちゃん、ずっと元気でいてねー!」

「真美たちのこと忘れたらショーチしないかんねっ!」

「自分たちも、絶対絶対忘れないから!」

「いつの日か必ず、わたくしたちの名前を海の向こうのあなた様にお届けします」

 

 しかし美希だけは、すがりつくように口走った。

 

「ハニー、ミキも連れてって!」

「ちょっと美希! あんたって奴は……」

「だってぇ……」

 

 突っ込んだ伊織に唇を尖らせた美希に、ガイは苦笑いする。

 

「馬鹿言うなよ。お前たちはお前たちの夢を突き進め。それが俺にとっても一番の喜びさ」

 

 と説いたガイは、アイドルたちの顔を見回して告げた。

 

「何、俺は風来坊さ。これが今生の別れなんかじゃないぜ。お前たちが俺を必要とする時――俺は必ず帰ってくる。この曲と一緒にな」

 

 ハーモニカを手に持ち上げたガイが、ニカッと微笑んだ。

 

「それまでの、しばしのお別れってだけさ」

 

 クールな笑顔を最後に、ガイはいつも奏でているあの曲――過去と今をつなぎ、そして未来を結んでいくオーブの歌とともに、彼女たちの元から離れていく――。

 

「ルぅー……ルルルぅー……ルールルルルぅー……」

 

 春香がそのメロディに合わせて、静かに歌を口ずさんだ。

 皆に見送られながらのガイの旅立ちを、ジャグラーもニヒルに笑いながら見送り、彼もまたどこかへと立ち去っていった――。

 

「おーい! みんなー!」

 

 ガイを見送る春香たちの元に駆け寄ってきたのは渋川。彼はガイの背中を見やって驚く。

 

「あれ!? ガイ君どこ行くの?」

「まぁ、色々ありまして……。それよりどうしたんですか?」

 

 小鳥が尋ね返すと、渋川は興奮した様子で告げた。

 

「みんなすごいぜ! 765プロのサイトが、世界中で2億4千万アクセスだって! 知ってるかい!?」

「えぇー!? ほんとですか!?」

 

 律子を中心に、その事実を確かめるアイドルたち。

 

「うわぁほんとだ! すっごい!」

「世界中が真美たちのこと見たんだー! 流石にドキドキだぁ……!」

 

 興奮を抑え切れない亜美と真美。一方で渋川は、小さくなっていくガイの背に向けて叫んだ。

 

「おーいッ! 紅ガイ! ……あばよ」

 

 そして千早は、そっと春香に問いかけた。

 

「春香、プロデューサーを止めなくてよかったの? あれだけ、離ればなれになることを不安に思ってたのに」

 

 それに春香は――活力の溢れた表情で答えた。

 

「いいの。プロデューサーさんの言ってくれたことで気づいたから」

「プロデューサーの言ってくれたこと?」

「うん。私たちのつないだ絆に、距離は関係ない……。たとえどこにいても、私たちはいつもつながってる……!」

 

 春香はじっと、ガイと、水平線の向こうの夕陽を見つめていた。

 

「この先、私たちはそれぞれ別々の道を歩んでいくのかもしれない。だけど、同じだから……! 私たちはみんな、同じ方向に向かって歩いていってるんだから……!」

 

「あの太陽に向かって、まっすぐ――!」

 

 

 

『あの太陽へと、まっすぐ』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『765プロのウルトラヒーロー大研究!』

 

春香「皆さん、これが最後のウルトラヒーロー大研究です! 最後のご紹介は――二つのパワーで戦う銀河の風来坊、ウルトラマンオーブです!」

千早「オーブは2016年、ウルトラシリーズ50周年記念として制作された『ウルトラマンオーブ』の主人公です」

雪歩「前作『ウルトラマンX』が王道路線だったこともあって、『オーブ』はそれまでにない色んな要素が取り入れられた挑戦作となりましたぁ」

やよい「歴代のウルトラマン二人の力と融合した姿になるのが一番の目玉ですね」

律子「主人公を取り巻く環境も、初めて防衛隊ではなくなりました」

あずさ「オリジナルの怪獣も、魔王獣という強さが子供に分かりやすい設定が設けられて登場しました」

伊織「主人公にやたら執着する、一概に悪役と言い切れないライバルキャラも登場したわね」

真「こうして見ると、特撮と言うよりはゲームか漫画みたいな感じですね」

亜美「でもでも大事なのは、ストーリーの面白さとキャラクターの魅力だよね!」

真美「その二つの点なら、十分成功してるって言えるっしょー!」

美希「そしてオーブは途中で、それまで無くしてた自分の本当の姿を取り戻したの」

響「一番シンプルな姿が最終形態ってのも、創作全体で見ても斬新かもね」

貴音「そうして半年の放送ながら数々の激戦があったのを、オーブは駆け抜けたのです」

ガイ「そして最後に紹介するアイマス曲は『まっすぐ』だ!」

ガイ「最初の家庭用版『アイドルマスター』のエンディングに選ばれたこの曲は、完成度の高さから数ある歌の中でも特に人気が高い一曲だ。君もアイマスをプレイして最後にこの歌が流れたら、感動は必至だぜ」

春香「どうか皆さんも、ご自身の道をまっすぐ進んでいって下さい――!」

ALL「それじゃあ皆さん――!」

 

 

 

『あばよ!!』

 

 

 

 

 




 




「俺たちはオーブ!」



「ウルトラマンオーブ・オールスター!!」



「皆の光と絆を結び、今ッ! 輝きの向こう側へ!!」





次回、特別編



『絆の力で、輝きの向こう側へ!!』







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特別編『絆の力で、輝きの向こう側へ!!』
ラムネ色のあの人


 

 

 

 

 

 ――広大な次元宇宙の一つに浮かぶ、緑豊かな星――ハルケギニア。

 この星の大地の上で、今――紅色の光線が地面に一本線を描くように走り、無数の魔法陣を生じさせた直後に連続爆発を引き起こした。

 

「シェエアッ!」

 

 爆風が巻き起こる中心地では、頭部にふた振りのスラッガーを持った青と赤の身体のウルトラ戦士――ウルトラマンゼロが、白い巨大ロボットと激戦を繰り広げている。

 ウオォンッ、ウオォンッ……!

 サイレンのような駆動音を鳴り響かせながら、両腕のパーツを半回転させて刃と光線銃つきのクローにした巨大ロボット――ギャラクトロン。自分に迫ってくるこの相手に、ゼロは啖呵を切った。

 

『この星に手出ししようなんざ許さねぇぜ! 二万年早いってことを教えてやるッ!』

 

 頭のゼロスラッガーを両手に握り締めると、地を蹴りながらギャラクトロンに斬りかかっていく。

 

「セェアッ!」

 

 電光石火の踏み込みでスラッガーを振るうが、相手も両腕に武器を持っている。スラッガーの斬撃は全て刃とクローに受け止められ、弾き返される。

 

『ちッ、やるじゃねぇか……』

 

 斬撃を全てはね返されたゼロが吐き捨てた。一方でギャラクトロンは腹部の赤いコアにエネルギーを集中し、青白色の光線を発射してきた!

 

『うおッ!』

 

 咄嗟に横に逃れるゼロ。しかし流れ弾の光線が当たった箇所に振り返って絶句する。

 

『……! こりゃあやべぇな……うおッ!』

 

 一瞬顔をそらした隙にギャラクトロンの後頭部から伸びるシャフトが飛んできたが、ゼロは瞬時に反応してかわした。

 

『甘く見んなよ! ……だが、これはあんまチンタラしてられねぇ。さっさと勝負を決めなきゃな……』

 

 光線の出した「被害」を目にしたゼロはそう判断するも、ギャラクトロンにはなかなか隙が見当たらずに攻めあぐねる。

 ウオォンッ、ウオォンッ……!

 それを知ってか知らずか、ギャラクトロンが再びゼロへと接近してくる。

 ――まさにその時、天から飛んできた光輪がギャラクトロンのシャフトを両断し、切り落としたのだ。予想外の方向からの攻撃にギャラクトロンは足を止める。

 

『! 今のは……!』

 

 驚いて光輪の飛んできた方向を見上げるゼロ。その先の空の彼方から、O型のカラータイマーのウルトラ戦士が握り締める大剣に導かれながら戦場へと飛んできて、堂々と着地した。

 そのウルトラ戦士は、高々と名乗り口上を発した。

 

『俺の名はオーブ! 銀河の光が、我を呼ぶ!!』

 

 ゼロはこの戦士――ウルトラマンオーブの横に並んで呼びかける。

 

『お前が噂のウルトラマンオーブか』

『そういうあなたはゼロさん。お初にお目に掛かります』

『とりあえず、挨拶は後だ。先に奴を片づけちまおうぜ!』

『はい!』

 

 オーブカリバーの導きによってハルケギニアへとやってきたオーブ。彼とゼロが協力して、ギャラクトロンに立ち向かっていく!

 

「シェアッ!」

 

 ゼロは走りながらスラッガーをゼロツインソードに変え、オーブとともにギャラクトロンへ斬撃を浴びせる。ギャラクトロンは両腕の刃とクローで応戦するが、二人分の攻撃はさばき切れずに徐々に押されていく。

 

「ヘッ!」

 

 振り回したクローをオーブに抱え込まれて動きを封じられるギャラクトロン。その隙を突いてゼロが横から一閃を食らわせた。

 

「シュアッ!」

 

 ギャラクトロンがひるむとオーブはクローを放し、カリバーを胴体に叩き込む。

 

「オォォリャアッ!」

 

 更にゼロが後ろ蹴りを入れて追撃。それでもなお反撃してくるギャラクトロンの両腕を二人で抑え込む。

 

「シェアッ!」

「ショアッ!」

 

 そしてタイミングを合わせて、両サイドからツインソードとカリバーの一撃を浴びせた! 二人の斬撃が、ギャラクトロンの両腕を切り落とす。

 武器を失ってショートを起こすギャラクトロン。この絶好のチャンスに、二人のウルトラマンはとどめの攻撃に移った。

 

『オーブスプリームカリバー!』

『ワイドゼロショット!』

 

 二つの光の奔流がギャラクトロンに突き刺さり、ギャラクトロンは魔法陣とともに粉々に砕け散った。

 勝負を終えたオーブはゼロと固い握手を交わす。

 

『ゼロさん、お疲れさまです。一緒に戦えて光栄です』

『俺もだぜ……と言いたいとこだが、事件はまだ終わっちゃいねぇんだ、オーブ。これを見な』

 

 ゼロが顎をしゃくった先を見やったオーブは、思わず固まった。

 

『これは……!?』

 

 先ほどギャラクトロンの光線が当たった箇所の森なのだが……その部分の木々が、どういう訳かキラキラと輝く宝石に変わっていたのだ。

 

『何ですか?』

 

 理解できずに聞き返すオーブ。ギャラクトロンにこんな能力はなかったはずだ。

 

『最近あちこちの宇宙で、こんな能力を持たせた怪獣をばら撒いてる奴がいる。そいつは次元を超えた陰謀をたくらんでるらしい』

『何者なんです?』

『皆目見当もつかねぇ。調査に行ったギンガもビクトリーも、エックスまでもが行方不明になっちまった』

『何ですって!?』

 

 オーブは衝撃を受けた。歴戦のウルトラ戦士が、三人も消息を絶つとは!

 

『俺はエックスたちの消えた宇宙に行って、詳しく調査してくる。お前も気をつけていけ!』

 

 トン、とオーブの胸を軽く叩いたゼロは、ウルティメイトイージスを纏って次元を超えていった。

 

「シェアッ!」

 

 それを見送ったオーブは、己の手の中のオーブカリバーを見つめる。

 

『次元を超えたたくらみか……。一度、地球に戻った方がよさそうだな』

 

 独白したオーブは、カリバーの導きの元にハルケギニアから飛び立ち、己が守り、愛している人たちのいる地球を目指して進んでいった。

 

「シュワッチ!」

 

 

 

 

 

THE ULTRAM@STER ORB 特別編

 

『絆の力で、輝きの向こう側へ!!』

 

 

 

 

 

 ――ここは東京都港区芝5丁目37番765号に建つ小洒落たオフィスビルに居を構えた、芸能プロダクション『765プロ』の事務所。

 

「あの、律子さん……これ何ですか?」

 

 この765プロの看板アイドルの一人、春香が疑問の声を発した。首を振る度に、頭の左右の髪を結った赤いリボンがピコピコ揺れ……ない。

 何故なら、今の春香は何やらゴテゴテした装置がくっついた黒いタイツで全身覆われているからだ。

 

「新開発の全身パワードタイツよ! 予算が増えたことで遂に試作が完成したの」

 

 アイドル仲間たちが見守る中、765プロの現プロデューサー――律子が自信満々に回答した。

 

「原理は簡単。モーションキャプチャー技術を応用して、タイツを着用してる人が動けばCGモデルが動く。反対に、CGモデルを動かせば……」

 

 リモコンを手にした律子が、パソコンの画面上のモデルを操作する。

 

「えっ、ええ!?」

 

 すると春香が、歩くモデルの通りの動作でその場を行ったり来たりし始めたのだ。

 

「春香もその通りに動く! すごいでしょ!?」

「うわー! ほんとにすごいよ律っちゃーん!」

「人間ラジコンだー! 亜美にもやらせてー!」

 

 興奮した亜美と真美がひったくるように律子からリモコンを取り、春香を思い通りに動かし始める。

 

「あはははは! ほんとにはるるんが思いのままに動くー! えいえいっ!」

「すっごーい! 宙返りまでさせられるよー!」

「ち、ちょっと亜美、真美! 待って! 待ってったら! うわあぁぁ!?」

 

 亜美たちに玩具にされる春香が慌てた声を上げた。それをよそに律子はアイドルたちに自慢する。

 

「どう? これを用いればどんな人にも完璧なダンスが出来るようになる! 完璧なバックダンサーが作り放題よ! これはアイドル界に革命をもたらすわよぉ~!」

「すごいですぅ律子さん!」

 

 やよいは純粋に感心していたが、千早や伊織は胡乱な目つきであった。

 

「確かにすごいけど……あまりに完璧すぎたら自然な動きが失われて、却ってお客さんに違和感を与えることになると思うわ」

「それに、あんな真っ黒タイツをステージに上げられる訳ないじゃないの」

「まぁそこは、まだ改良の余地があるということで……」

 

 取り成した律子だが、その直後にパソコンからピーッ、というエラー音が生じた。

 

「ねぇねぇ律っちゃーん。はるるん動かなくなったんだけど」

「ち、ちょっとほんとに動けないんですけど!? 誰か助けてー!」

「ああいけない! フリーズしちゃったんだわ!」

 

 慌ててパソコンに飛びつく律子。一方で変なポーズのまま固まってしまった春香は真や響が助ける。

 

「ほんとにまだ改良の余地があるみたいだね」

 

 春香からタイツを脱がせながら苦笑する真。律子は照れ隠しするように咳払いした。

 

「まぁとにかく、来月から我らが765プロの一大新企画、『765プロライブ劇場』がオープンするわ。そのスタートを華々しい大成功で収めるために、みんなも気兼ねなく意見を出していってね」

 

 ――最後の魔王獣、マガタノオロチとの決戦から早三か月。世界的に名前が知られた765プロのアイドルたちは今や完全に時の人である。しかしアイドルたちは決して慢心などせず、事務所の更なる飛躍のために765プロ専用のライブ劇場を新たに設立することになったのであった。劇場のための新人アイドルも高木が駆け回ってどんどんスカウトしていっており、劇場オープンの準備は着々と進められているのである。

 

「遂にミキたちの劇場がオープンするんだね。このこと、ハニーの耳にも入るかな」

「きっと応援して下さってるわよ。プロデューサーさんは、どこにいても私たちのことを見守ってくれてるはずだわ」

 

 美希とあずさが顔を見合わせて微笑み合った。すると、そこに、

 

「……私には分かりません」

「静香ちゃん」

 

 劇場オープンに先んじて、現在研修中の新人アイドル三人の内の一人、最上静香がポツリとつぶやいた。春香たち先輩アイドルの視線が彼女に集まると、静香は続けて口にした。

 

「皆さん、どうしてそんなに前プロデューサーのことを気に掛けるんですか? 何かある毎に、プロデューサーはどうしてるんだろうなどと……。この事務所が大変な時に、ある日突然いなくなってしまったような人なんでしょう?」

 

 前プロデューサーと入れ替わるように765プロに入社した静香は、765プロが何をしてきたのかということは知らないのであった。それどころか、傍から見れば突然いなくなったように見える前プロデューサーに良い感情を抱いていないようですらあった。

 前プロデューサー――紅ガイは、三か月前のマガタノオロチによる史上最大の怪獣災害の前後に、突然765プロから去ってしまった。その後はアイドルから転向した律子が引き継いだのである。

 皆を代表して春香が苦笑いしながら静香に告げる。

 

「静香ちゃん、生憎詳しいところは言えないんだけど……私たちは、プロデューサーさんがいてくれたからこそここまで来られたの」

「前プロデューサーが、ですか……?」

「うん……」

 

 遠い目をしながら語る春香。

 

「プロデューサーさんは、私たちにたくさんの大切なことを教えてくれた……。今の私たちが、私たちの道をまっすぐに行くことが出来るのは、あの人のお陰なんだよ……」

「はぁ……」

 

 春香を始め、周りのアイドルたちは皆それぞれ紅ガイに思いを馳せていたが、静香は今一つ実感が湧かないようで呆けていた。

 

「そんなに大事な人なのかしら……。いつ戻ってきてもいいように、飲み物を常に用意してまでなんて」

 

 静香が見やった小型冷蔵庫には、紅ガイの好物であるラムネがストックされている。

 そんなことをよそに、伊織が千早を相手につぶやく。

 

「私たちの活動が順調なのは何よりなんだけど……ほんと麗華の奴はどうしたのかしらね。ある日を境にパッタリだわ」

「東豪寺プロのことね。私たちに嫌がらせをしてきてた……」

 

 ため息を吐く千早。東豪寺プロとは、大企業の東豪寺財閥が擁する大手芸能プロダクションで、令嬢の東豪寺麗華がリーダーを務めるユニット『魔王エンジェル』は業界でも指折りの人気アイドルグループである。765プロのいわゆるライバルなのだが、この東豪寺プロは売れるためならば汚い手段も辞さないやり口で、765プロが有名になり出した頃から様々な嫌がらせをしてきて苦しめていたのであった。

 

「昔はあんな奴じゃなかったんだけどねぇ……」

 

 幼馴染の麗華の顔を思い出して嘆息する伊織。

 しかしその嫌がらせは、三か月ほどを前にすっかりとなくなった。初めは大災害の影響でそんな余力もないと思われたが、どうもそうではないらしい。今では魔王エンジェルは、別人になったかのように健全な活動にシフトしている。いいことではあるが、一体どんな心境の変化があったのだろうか、と伊織は首を傾げていた。

 

「何でも新しいプロデューサーを雇ったって噂で聞いたけど、それと関係してるのかしら?」

 

 また他方では、雪歩がふと口を開いた。

 

「そう言えば、未来ちゃんと翼ちゃん遅いですね。珍しいですぅ」

「確かに。いつもならばもっと早くの時間に出社してきますね」

 

 相槌を打つ貴音。春日未来と伊吹翼――静香と同じ765プロの新人アイドルである。

 と噂をすれば、その二名が事務所にやってきた。

 

「すみませーん! 遅くなっちゃいました!」

「未来と一緒に前の事務所のあった場所を見に寄ってたんですけど、そこでウチに用のあるって人を見つけまして。案内してきたんです!」

 

 と理由を語る未来と翼。その二人の後ろから入ってきた人物の顔をひと目見て、新人以外のアイドルたちは皆仰天した。

 

「スバルさん!?」

「みんな……お久しぶり」

「あれ、お知り合いでしたか?」

 

 その人物とは、765プロがまだ売れていない活動初期に取材にやってきたミッドチルダジャーナルの記者――正体は別世界ミッドチルダから宇宙人の犯罪者を追って765プロに接触した、防衛組織『Xio』の隊員スバル・ナカジマなのであった。

 

『やぁ、765プロの諸君。また会ったね』

 

 そしてスバルの腰に提げたデバイスが春香たちに呼びかけた。彼こそがこの地球に現れた二人目のウルトラ戦士であり、ミッドチルダの宇宙を守護しているウルトラマンエックスである。

 

『実は重要な話がある。ガイ君は不在なのかな……』

「わー!? 何ですかこのスマホ!」

 

 言いかけたエックスだが、唐突に未来と翼がスバルの腰からひったくった。

 

「あっ、ちょっと!?」

「すっごいゴテゴテしてるー! どこで売ってるんですか?」

『や、やめてくれ! こねくり回さないで! くすぐったい!』

「あはは! 面白い冗談ですねー。まるでケータイの中にいるみたいじゃないですか」

「こら二人とも! 人の物に勝手に触って、失礼でしょ!」

 

 エクスデバイザーをいじり回す未来と翼を叱りつける静香。その三人に、律子が言いつけた。

 

「ごめんなさい、三人とも。私たちはこの人と少しお話しがあるから、少しの間席を外しててくれないかしら」

 

 

 

 未来たちを外すと、律子たちは今日までの経緯を簡単にスバルとエックスに説明した。

 

「という訳で、以前の事務所は全焼してしまったのでここに移転したという訳です」

「そう……そんなことがあったんだ。大変だったんだね」

「いえ、お構いなく。それより、スバルさんはどうしてまた私たちのところに? また何か事件があったんですか?」

「そういえば、今日はダイチさんは一緒じゃないの?」

 

 以前の時は一緒に行動していた、本来のエクスデバイザーの持ち主のダイチの姿がないことを響が尋ねると、スバルが顔を曇らせた。

 

「それが……ダイくんは行方不明になっちゃったの」

「えっ!?」

『ミッドからしたら、私たちも行方不明者なのだが……。とにかく時間がない。この星に危機が迫ってるんだ』

 

 と穏やかならぬことを口にするエックス。

 

『そのためガイ君……ウルトラマンオーブに助力を頼みに来たのだが、そうか……旅立ってしまったのか』

「すみません……。連絡も取れない状態でして」

 

 謝る律子。

 

『いや、いないのなら仕方ない。すまないが、どうか君たちでダイチを捜してくれないだろうか。詳しい事情はそれから説明しよう。私たちがこの地に放り出されたからには、きっとそう遠くない場所にいるはずだ』

「今のあたしたちには、他に頼れるところがないから……。迷惑を掛けるけど、お願いできないかな?」

「迷惑だなんて、そんな! 私たちもウルトラマンの仲間なんですから、お助けするのは当たり前ですよ!」

 

 気前よく引き受ける春香であったが、そこで伊織が問題を呈する。

 

「でも捜すったってどうするの? ダイチさんは別世界の人間なのよ。警察には届け出せないわ」

「あんまり大事にする訳にもいかないわよねぇ……」

 

 頬に手を当てるあずさ。彼女たちは悩んだ末に、結論を出した。

 

「それじゃあ、こうしましょう」

 

 

 

「すみませーん! お願いしまーす!」

「ちょっとでも見かけたら、ご連絡をお願いします」

 

 変装したアイドルたちは総出で、駅前でダイチの顔写真を載せたビラを配っていた。ビラには、急遽設けた765プロとは一見無関係な専用のアドレスを連絡先として記載してある。

 彼女たちが取った手段は、実にアナログな人海戦術であった。

 

「あの……どうして私たち、こんなことをしてるんですか?」

 

 ビラ配りを手伝う静香が、こっそりと春香に尋ねかけた。

 

「え?」

「今は劇場の準備で忙しい時期なのに……その時間を潰してまで、何であの人のためにこんなことをしなくてはいけないんですか? あの人は何なんですか?」

 

 チラッとスバルを一瞥する静香。春香はどう説明したものかと窮する。

 

「え、えぇーっと、それはねぇ……」

「もーう、静香ちゃん。人助けを嫌がっちゃダメだよぉ?」

「765プロがただのアイドル事務所じゃないってことは静香も分かって来たんでしょ?」

 

 春香が言葉を詰まらせていると、未来と翼が横から入ってきて静香をたしなめた。

 

「まぁそうだけど……でもこんな人捜し、超常現象探究とも関係ないじゃない」

「わっかんないよぉ? わたしたちには思いもよらない深ーい理由があるかもしれないじゃん」

「ですよねぇ春香さん?」

「う、うん。まぁ、そんな感じかな……」

 

 未来に聞き返された春香がお茶を濁した。そんなところに、

 

「おい、おいおいおい! お前たちよぉ! お前たち!」

 

 渋川が走ってきて、春香たちを一喝した。

 

「こんなとこでビラ配りなんて、許可取ってんのかよ! 変装したって分かるからな!」

「ちょっ、叔父さん! 声大きいよ……!」

 

 春香が周囲の目を気にして渋川を静かにさせた。亜美と真美は渋川に文句を垂れる。

 

「渋川のおっちゃーん……。ビートル隊の偉い人なんでしょ? だったら別にやることあるんじゃないの?」

「何で真美たちにいちいち突っかかってくるのさー」

「いや、それとこれとは話が別個」

 

 言い返す渋川であったが……その時に、ふと目線をそらした雪歩があることに気づいた。

 

「どうしたの雪歩?」

「あの人たち……」

 

 振り向いた真が聞くと、雪歩が視線で、ビラに食い入っている黒服の男女数名を示した。皆の目が黒服たちに集まる。

 

「あっ、あの人たちは何か知ってるのかな?」

「近づいてはなりません!」

 

 未来が駆け寄ろうとしたのを、貴音とスバルが制止した。

 

「え?」

『気をつけろ! 彼らは……!』

 

 スバルの手中からエックスが警告すると、黒服の一人がいきなりスバルに飛びかかってデバイザーを奪い取ろうとしてきた!

 

「っ!?」

「おいやめろッ! 何してんだお前!」

 

 デバイザーを死守するスバル。渋川は反射的に黒服に掴みかかってスバルから引き離し、投げ捨てた。

 石畳に倒れ込んだ黒服の首が……虫のような人外のものに変化した!

 

「はッ!?」

「う、宇宙人だぁーっ!」

 

 絶叫する未来と翼。他の黒服も、姿がそれぞれ異形の怪人となってアイドルたちににじり寄り始めた。

 

「やばいッ! おいみんな、逃げろ!!」

 

 渋川の先導で逃亡を始めるアイドルたち。宇宙人の集団は奇怪な動きで彼女らを追ってくる。

 

『スバル……!』

「……ここでバリアジャケットは使えないよ……! 人の目が多すぎる……!」

 

 執拗に追ってくる宇宙人から逃げながらやよいが叫ぶ。

 

「うわーん! こんな時にプロデューサーがいてくれたらー!」

「ううんっ! 私たちもいくつもの危機を乗り越えてきたんだから! 自分たちの力で、このピンチを乗り越えるの!」

「そうだよ!」

 

 春香が勇ましく宇宙人たちに向き直って対峙した。同調した真や響が続くが、

 

「でも今は撤たーいっ!」

「えぇーっ!?」

 

 すぐにクルリと反転して逃げる春香。しかし、

 

「あ、あぁぁっ!?」

 

 どんがらがっしゃーん!

 足がもつれて転倒した。

 

「もう、何やってんのさ春香ぁ!」

「変にカッコつけるからだぞ!」

「ご、ごめーん……」

 

 真と響に助け起こされる春香であったが、そんなことをしている間に追いつかれてしまった。

 

「うわぁ来たぁー!?」

「くっ……!」

 

 スバルが覚悟を決めてマッハキャリバーを握り締めたが……突然、宇宙人たちが頭を抑えて苦しみ始めた。

 

『うぅ……!?』

「ど、どうしたの?」

「――この音色は……!」

 

 千早が真っ先に気がついた。少しずつ、どこかから流れてくる穏やかな音色が大きくなっていることに。

 

「ハーモニカの音色……?」

 

 未来たちは呆気にとられたが、春香たちはその途端に顔を輝かせた。

 そして建物の陰からぬっと出てきたのは――魔法使いのようなローブを羽織りながら、ハーモニカを奏でる一人の男。

 

「あの人は……?」

 

 春香たちは一斉に、歓喜の声を発した。

 

「ハニ……!」

「プロデューサーさーん!」

「プロデューサーだぁー!」

「プロデューサー! 助けに来てくれたんだね!」

 

 美希が慌てて口をつむいで、周りに呼称を合わせた。静香は唖然とつぶやく。

 

「あの人が……紅ガイ……!」

 

 アイドルたちの窮地に現れた風来坊――紅ガイは、高く跳躍すると宇宙人たちに飛び蹴りを食らわせた!

 

「おぉー!?」

 

 仰天する未来たち。ガイはそのまま襲ってくる宇宙人たちを相手に、格闘で圧倒する。

 

「おおおぉぉーッ!」

 

 宇宙人を素手でバッタバッタ薙ぎ倒すガイの姿に、未来と翼は大興奮。

 

「す、すごーい! 紅ガイさんって、あんなに強いんだー!」

「さっすが765プロの元プロデューサー!」

「いやおかしいでしょ!? 芸能プロデューサーがどうしてあんなに強いの!?」

 

 静香がガビンと突っ込んだが、亜美がさも当たり前かのように言った。

 

「それが亜美たちのプロデューサーだよぉー!」

「えぇ……」

 

 ガイは回し蹴りで宇宙人たちを纏めて蹴り飛ばした。宇宙人たちは敵わないと判断したか、一斉に逃走していく。

 

「待てッ!」

 

 追いかけるガイたちだったが、宇宙人は人間に変身し直し、往来のサラリーマンの群れに紛れて分からなくなってしまった。

 

「逃げられたか……」

 

 ひとまず敵を追い返して安全になると、春香たちはわっと喜んでガイを囲む。

 

「プロデューサーさん! お帰りなさいっ!」

「帰ってきてくれたんですね、プロデューサーさん!」

「そのカッコ何ー!? 魔法の国にでも行ってきたのー?」

「まぁそんなとこだな。これはお土産のクックベリーパイとハシバミ草のサラダだ」

 

 聞いてきた真美に手荷物を預けるガイ。そんな彼に、スバルが持ち上げたデバイザーからエックスが呼びかける。

 

『危ないところだった。ありがとう』

「エックスさん! 行方不明になったと聞きましたが……」

 

 スバルからデバイザーを受け取るガイ。

 

『心配を掛けたな。ウルトラ……』

「あぁー!?」

 

 言いかけたエックスを、ガイや春香たちが慌てて黙らせた。未来たちはきょとんとしている。

 

「ウルトラ?」

「う……ウルトラすまなかったー! ってことよ! あっははは……!」

 

 伊織が無理矢理ごまかした。

 

「ともかく、一旦事務所に戻りましょう。話の続きは落ち着いた場所で」

 

 律子が場を仕切り、一行は場所を移動していったのだった。

 



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待ち受け宇宙人

 

 事務所に戻ってきたガイたちを喜んで迎えたのは、高木と小鳥であった。

 

「おお、ガイ君! 帰ってきたのか!」

「お帰りなさい、プロデューサーさん!」

「社長、小鳥さん、ただいま戻りました。ですが、残念ながらゆっくりはしていられないんです」

 

 ガイは新たな事件に直面していることを告げ、その当事者であるエックスとスバルから話を伺い始めたのであった。

 

『私とダイチ、スバルは、仲間たちとともに封印された怪獣兵器デアボリックを狙う異星人の集団と戦っていた』

「怪獣兵器デアボリック?」

 

 春香たちがやや険しい表情で聞き返した。言葉の響きからして、穏やかな代物ではなさそうだ。

 デアボリックなる怪獣について、スバルが説明する。

 

「古代ベルカの諸王時代……いわゆる戦国時代に、ある異邦人によって生み出されたと言い伝えられてる改造怪獣だよ。質量兵器の破壊力、魔法技術による無限動力、そして怪獣の強靭な生命力の三つの力を併せ持ったデアボリックは圧倒的な暴力で国という国を蹂躙して恐怖で支配し、最終的に戦船『ゆりかご』との壮絶な一騎打ちの末に封印されたと伝承されてたの。あたしたちの世界でも、長らく伝説の中だけの存在と思われてたんだけど……」

「実在した、ということですね」

 

 律子の指摘にうなずくスバル。

 

「異星人犯罪者たちは何故かデアボリックの存在を知ってて、奪取しようと画策してた。寸前でその動きに気づいたあたしたちは、阻止するために総力戦を挑んだんだけど……結局、叶わなかったの……」

『恐ろしい相手だ……。どんな手段を用いたのかは知らないが、幾重にも張られた強固な封印をたったの一撃で砕いてデアボリックを奪い取り、自在にこの世界へのワームホールを開いてみせた。私とダイチのユナイトも空間の歪みの影響で解除されてしまい……空間の歪みに吸い込まれていったのが、ダイチを見た最後だった』

 

 うなだれたような声音のエックス。千早も眉をひそめて嘆息した。

 

「そんなことがあったんですね……」

「大変苦いですね、このサラダ……」

 

 お土産のサラダを頬張っている貴音も眉をひそめて嘆息した。

 

『今の私は、ユナイトを強制解除されたためにこのエクスデバイザーから出ることが出来なくなってしまった。もう一度ダイチとユナイトしないことには……』

「ウルトラマンギンガもビクトリーも、あの後どうなったのか……そっちも心配だよ」

 

 いくつもの不安材料が重なり、スバルも暗い表情であった。それを励ますように春香が呼びかける。

 

「ともかく、まずはダイチさんを見つければいいんですよね? 私たち、何でもお手伝いしますよ!」

 

 申し出る春香であったが、それをガイがさえぎる。

 

「駄目だ。今回はお前たちは大人しくしてろ」

「えぇー!? 何でなの!?」

 

 ショックを受けた美希が聞き返すと、ガイはアイドルたちに言い聞かせた。

 

「今度の相手は大規模の組織だ。今までのようにはいかない。危険すぎる」

 

 というガイの言葉に、亜美と真美がむすっと頬を膨らませた。

 

「も~、いつまで経っても子ども扱いするんだからー」

「真美たちだってさ、ウルトラマンオーブなんだよ――」

「ウルトラマンオーブが何ですか?」

 

 そこに未来たちと渋川が情報収集から帰ってきたので、雪歩や真らが慌ててごまかす。

 

「な、何でもないよぉ!? こんな時にオーブがいたらなぁ、なんてだけのことで……」

「そ、それより、何か収穫あった?」

「あったあった! あったんですよそれが~!」

 

 上機嫌に報告する翼に続いて、渋川が告げる。

 

「何度かビートル隊に通報があったんだけど、最近妙な噂があってな」

「妙な噂?」

 

 春香が聞き返すと、静香がパソコンを立ち上げて詳細を語り始めた。

 

「先日、夜空が変な色合いになった日があったじゃないですか。その次の日に、町外れに一夜にして謎の洋館が建ってたというんです」

「一夜で、建物が……?」

「突貫工事じゃないのか?」

 

 尋ね返した響に首を振る静香。

 

「私もそう思いましたけど……この動画を見て下さい。問題の洋館を見つけたカップルが撮ったものというのですが……」

 

 動画が再生されると、薄暗い洋館の中の様子とともに若いカップルの声が流れる。

 その動画にすぐに、セミのような首の女が現れ、カップルの声が悲鳴に変わった。すると伊織が声を上げる。

 

「あっ! あの時混じってたセミ女!」

 

 更に動画を見たエックスが発した。

 

『感じる……ここにダイチはいるッ!』

「ほんと!? エックス」

 

 驚くスバル。

 

『そんな気がするんだ……』

「……その電話の人、どうして直接ここに来ないんですか? まさか、本当に電話の中にいるとか、そんな馬鹿なことが……」

「ま、まぁまぁ静香ちゃん。細かいことはいいから」

「後のことは私たちに任せておいて!」

 

 エックスのことを訝しむ静香を雪歩とやよいが押しやり、春香たち一同はダイチ救出に出動しようとする。

 

「そうとなったら、すぐにこの洋館に乗り込もう! 『アンバランスQ』特別収録だよ! 765プロ、ファイ――」

「だから駄目だと言っただろ」

 

 しかしいつもの決め台詞をガイにさえぎられてしまった。出鼻をくじかれた真や亜美たちが抗議。

 

「えぇ~!? それはないですよプロデューサー!」

「最初に助けを求められたのは亜美たちだよー!?」

「つべこべ言うな。お前たちのためなんだ」

 

 不満げな一同に言い聞かせたガイは、スバルからエクスデバイザーを受け取った。

 

『スバルも待機していてくれ。万が一のことがあって、全滅というのは避けたい』

「わ、分かった。気をつけてね!」

『一時間経って私たちが戻って来なかったら、後のことは頼んだぞ!』

 

 エックスとともに事務所を発とうとするガイに、それでもすがりつこうとする美希。

 

「ああん! ちょっと待ってよ……!」

「お前たち、これは遊びじゃないんだぜ!」

 

 そこに割って入ったのは渋川。

 

「ここはプロの大人に任せろ! じゃガイ君! 行こ――!」

 

 言いながらガイの後に続こうとしたのだが、目の前でドアを閉められて顔からぶつかった。

 

「へぶッ!? いってぇ……」

 

 渋川がズルズルと滑り落ちていく中、春香がむくれながらつぶやいた。

 

「プロデューサーさんの馬鹿……」

 

 

 

 そして一時間後――ガイは戻らず、エックスとの連絡もつながらなくなってしまった。スバルは指示通りに、件の洋館に乗り込むことにしたのだが――。

 

「みんな……本当についてくるつもりなの?」

 

 二代目765トータス号の車内で、スバルが春香たちに問いかけた。彼女たちはやはり、スバルの同行を申し出たのだった。未来たちには留守番をしてもらい、彼女と一緒に洋館を目指しているところだ。

 

「何度も言われてたけど、どんな危険が待ち受けてるのか分からないんだよ」

 

 警告するスバルに、春香やあずさ、貴音らが答える。

 

「そんなのは百も承知です! それでもです!」

「プロデューサーさんが私たちを心配してくれたように、私たちもプロデューサーさんが心配なんです」

「覚悟は出来ております。わたくしたちに何かあったとしても、スバル嬢はお気になさらないで下さい。全てわたくしたちの責任です故」

 

 彼女たちの口調から確固たる覚悟を感じ取ったスバルは、それ以上異論を挟まなかった。

 

「分かった。ただし、なるべくあたしから離れないようにね」

「分かりました!」

「大丈夫だ。プロの俺がついてるんだからな!」

 

 渋川が己の胸を叩いて請け負ったが、真美は胡乱な目つきを送った。

 

「渋川のおっちゃんはいまいち頼りにならないんだけどな~」

「任せとけっての!」

「みんな、そろそろ到着よ。気を引き締めてね」

 

 運転する律子の視界に、森の中に隠れるように建っている目的の洋館が飛び込んできた。

 一同が洋館の前で降車し、そろそろと近づいていく。やよいと真が囁く。

 

「如何にも何か出そうな雰囲気ですぅ……」

「プロデューサーもあの中に入ってったはずですよね。大丈夫なのかな……?」

「それを確かめるためにも行かなくちゃ。……ダイくんはもちろんだけど、エックスも無事なのかな。今はあんな状態だし……」

 

 ぼそりとつぶやいて案ずるスバル。そして一行は、玄関の戸が開くかどうか確かめようとしたのだが――スバルがドアノブに触れる直前に、扉が中から開かれた。

 

「ようこそいらっしゃいました、お客様方」

 

 扉を開けて恭しく迎えたのは、うら若きメイド。スバルは直感から、彼女は異星人ではないと判断した。

 一方で伊織は、メイドの顔をひと目見て仰天した。

 

「麗華!? あんた、こんなとこで何やってるのよ!」

「えっ、知り合い?」

 

 スバルと渋川が振り向くと、千早が簡単に説明する。

 

「私たちの同業者……アイドルのライバルです。それと、まさかこんな場所で出会うなんて……」

 

 765プロアイドルは驚きを禁じ得なかった。今目の前にいるメイドこそ、魔王エンジェルのリーダーの東豪寺麗華その人だからだ。

 麗華は不敵に笑いながら伊織に返す。

 

「色々あってね、今ここで使用人のバイトをしてるのよ」

「ば、バイトぉ!? 東豪寺家のあんたが!?」

 

 ますます面食らう伊織。彼女は麗華に噛みつくように言い聞かせる。

 

「馬鹿なこと言ってんじゃないわよ! あんた、ここがどんな場所か分かってんの!?」

 

 しかし麗華は聞く耳持たず、うんざりしたように顔をそらした。

 

「あーうるさいわねぇ。そんなことより、どうぞ中へ。当館の主人がお待ちですわ」

 

 態度を切り換えて、本物の使用人のように一行を促す麗華。伊織たちは、これ以上彼女と話しても仕方ないと判断して、周りを警戒しながら慎重に洋館の中へ足を踏み入れていった。

 

「どうぞ、そのまま階段をお上がり下さい」

 

 麗華の案内のままに、入り口からすぐの階段をぞろぞろと上がっていく。二階に上がったところで、最後尾の伊織が振り返る。

 

「ところでこのこと、あんたのチームメイトは知って……」

 

 しかし、いつの間にか麗華の姿がなくなっていた!

 

「あっ、いない!? いつの間にっ!」

「みんな、気をつけてっ!」

 

 不穏なものを感じ取ったスバルが警告しながら素早く周囲に目を走らせる。

 すると前方を見やった美希が息を呑んだ。

 

「みんな、あれっ!」

 

 一行の正面に、どこからともなく鳥のような頭部の怪人が現れていたのだ!

 

「アァーッ!」

「う、宇宙人だぁッ!」

「ガッツ星人!」

 

 渋川達が思わず叫び、スバルは腕を上げてこちらに向かってくるガッツ星人に対して反射的にマッハキャリバーを握り締めた。

 しかしその瞬間、彼女たちの側の置時計の針が突然高速で逆回転を始めた!

 

「な、何事だ!?」

「面妖な……!」

 

 驚愕する響、貴音たち。そして時計の針の回転に釣られるように、周囲の空間がぐにゃりと歪んでいく。

 

「あぁーっ!?」

 

 歪みが頂点に達すると、足元がまるで滑り台のようになって、一行はどこか別の空間へと投げ出されていった――!

 

 

 

 スバルが放り出された先は、緑が生い茂った庭園のような場所であった。

 

「空間跳躍……いや、空間歪曲……! みんなっ!」

 

 スバルはすぐに辺りを見渡したが、同行していた春香たちの姿は一人も見当たらなかった。どうやら自分だけがこの場所に連れてこられたようだ。

 ともかくすぐに皆を見つけ出さなければ、と行動を起こそうとしたスバルだったが、ちょうどその時に、近くから閑静な雰囲気の庭園には似つかわしくないような、エクササイズのような音楽が流れてきた。

 スバルがそちらに目を向けると、庭園の真ん中で、ラジカセの傍らでスクワット運動を繰り返している異様な宇宙人を発見した。その肉体は、骸骨のような機械の鎧で覆われている。

 

『やぁ、お嬢ちゃんまた会ったねぇ。僕のこと、覚えてくれてるかな?』

 

 なれなれしく話しかけてきた宇宙人に、スバルは警戒を深めながら向き直った。

 

「あなたは……ガピヤ星人サデス」

『そうッ! 大宇宙の用心棒、サデスだよぉ!』

 

 ガピヤ星人サデスはスクワットをやめ、スバルに軽快に呼びかけた。

 

『この星でまた会えるだなんてねぇ。君が来てくれて嬉しいよぉ、今ちょっと不完全燃焼気味だったんでね。特に君には親近感を覚えてるもんでね』

「それは、あなたが機械の身体だから?」

『その通りッ! 君と同じでね』

 

 どうやらサデスはひと目見ただけで、スバルが完全に生身の肉体ではないことを見抜いていたようであった。

 

「同じってことは、元からそういう身体じゃなかったんだ」

『ご名答! いやぁ~、昔ドジって火口に落っこちちゃってねぇ~。それ以来こんな身体なんだけど、物事はポジティブに考えなきゃあ! 半分機械になったのは悲劇なんかじゃない、新しい人生の始まりなのさッ!』

 

 と言い切るサデスに構わず、スバルは問いかける。

 

「不完全燃焼だなんて言ったけど、つまりあたしとこの前の決着をつけたいってことでいいのかな?」

 

 スバルの方も、サデスがどういう性格の人物なのかを察していた。それ故の問いかけだ。

 対してサデスは力説する。

 

『過ぎたことなんかどぉーでもいいッ! それより大事なのは、今をどう生きるか! そして――君がどう死ぬかさッ!!』

 

 言うなり右腕に取りつけた機関銃で発砲してきた! スバルは咄嗟に転がりながら銃撃から逃れる。

 

「マッハキャリバー!」

[Stand-by ready.]

 

 銃撃を回避しながらマッハキャリバーに呼びかけ、瞬時にバリアジャケットを装着。

 

[Set up.]

 

 戦闘態勢を整えると、プロテクションで銃弾の連射を防御した。

 

『さぁ始まりだぁッ! 遠慮しないでCOM’ONだよぉッ!』

「それじゃお言葉通りにっ!」

 

 スバルは銃弾を拳で打ち返してサデスにはね返す。それを剣で切り払うサデスだったが、スバルはこの一瞬の間にローラーをうならせながら距離を詰めた。

 

「リボルバーキャノンっ!」

『んぐッ!』

 

 スバルの拳打がサデスの腹部に入った。腹筋に力を込めたサデスだが、ザザザザッ! と勢いのままに後ろへ滑る。

 しかしサデスはケロリとしていた。

 

『いいねぇー! 今の拳すっごくいいッ! 君の熱い闘志がギュンッギュン伝わってきたよぉーッ!!』

「それはどうもっ!」

 

 足元を狙って撃ってくるサデスの攻撃から走って逃れるスバル。

 

『さぁ来いよッ! まだイケるだろぉッ!?』

「もちろんっ! ウィングロード!!」

 

 スバルは走りながらウィングロードを庭園中に張り巡らせて、その上を駆け回ることで銃撃を回避しながらサデスに接近していく。

 

「キャリバーショット!」

『とうッ!』

 

 スバルの飛び回し蹴りとサデスの斬撃がぶつかり合い、相殺。サデスの剣をリボルバーナックルで打ち払いながら、スバルは呼びかける。

 

「あなたは他の異星人とは大分違うね! これでスポーツマンだったなら、仲良く出来るのにっ!」

『それは残念だったねぇー! だけど僕が求めてるのはギリギリの命のやり取りッ! 殺し合いさぁッ!!』

 

 吠えながら剣を横薙ぎするサデス。それを、姿勢を低くしてかわしたスバルは相手の胸に拳を突きつけ、同時に己の特殊能力を発動した。

 

「振動拳っ!!」

 

 拳から発生した凄まじい衝撃波が、サデスの機械の身体をバキバキに粉砕する。

 

『ぐわあああぁぁぁぁ―――――――ッ!?』

 

 サデスもこれはたまらず、後ずさってもがき苦しむ。

 

『これはきっつい……! や……やられ……!』

 

 サデスの肉体のひび割れがどんどん広がっていき――。

 

『――やられてたまるかーいッ!!』

 

 腕を振り上げて万歳したと同時に、時間が巻き戻るようにひび割れが修復されていった!

 

「!? 振動拳が直撃して再生するなんて……!」

 

 何事もなかったようになるサデスに、スバルは目を見張った。彼女のIS『振動破砕』は、対象の硬度が高いほどに効果を発揮する。鋼鉄の肉体ならば、再生機構ごと破壊できるはずなのに、それでも再生するとは!

 

『そんなの簡単さぁッ! ぼかぁまだまだこんなもんじゃあ、満足できないからだよぉッ!!』

「無茶な……!」

 

 サデスは再び銃を乱射してきて、スバルはプロテクションで防御しながら再度突撃していく。

 

『もっとだッ! もっと熱い戦いをしようぜぇッ! まだまだDANCEだよぉッ!』

「はぁぁぁぁぁっ!」

 

 気炎を吐くサデスに張り合うように、スバルが雄叫びを発する。

 

「一撃必倒! ディバインバスターっ!!」

『ギャラクティカサデスファクション!!』

 

 スバルとサデスの拳が正面衝突し、庭園に衝撃波の嵐を巻き起こした。

 

 

 

「きゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!? あ痛っ!」

 

 空間歪曲によって洋館から放り出された春香たちは、銭湯の浴場らしき場所に落下した。雪歩が辺りを見回して混乱する。

 

「わ、私たち、何でこんなところに!?」

「異次元空間に引きずり込まれちゃったみたいよ! 私たちを弄ぼうってことかしら……!」

 

 律子が置かれている状況を分析。と同時にあずさ、亜美真美があることに気づく。

 

「スバルさんがいないわ!」

「千早お姉ちゃんもだよ!」

「いおりんにやよいっちも! はぐれちゃったみたい!」

「大変!」

 

 すぐに捜そうとした春香たちだったが、その時ハム蔵が飛び上がって響の髪の毛を引っ張った。

 

「ぢゅぢゅーッ!」

「ど、どうしたんだハム蔵? あぁーっ!?」

 

 ハム蔵が指差した先、浴場の出入り口に、ガッツ星人が立ちふさがっていた。しかも二人も!

 

「アァーッ!」

「わぁぁ―――――追ってきたぁ!!」

 

 迫り来るガッツ星人。逃げ場はない!

 しかし真が片方に対して石鹸を投げ、ガッツ星人は転倒。

 

「アァーッ!?」

「やったぁっ!」

「ナイスなの真くん!」

「今の内だぁっ!」

 

 倒れたガッツ星人の脇を抜けていく春香たち。渋川はその大きい頭をバシンとはたいていった。

 回り込んできたもう片方のガッツ星人は、倒れている方に呼びかけた。

 

『何やってるんですか、私』

『ごめんなさい、私』

 

 

 

 空間歪曲によって皆とはぐれてしまった千早は一人、豪華客船の内部のような場所をさまよっていた。

 

「ここはどこなの? 早く元の場所に戻らないと……」

 

 空間の迷宮の出口を探して当てもなく歩き回る千早であったが、その前に宇宙人が現れる!

 

『見つけたぞぉッ!』

「はっ!?」

 

 ゴドラ星人がハサミを振り上げて迫ってくる! 即座に逃げようとした千早であったが、相手の足の方が速く、すぐに追いつかれてしまう。

 

『ジタバタするなぁッ!』

「くっ……!」

 

 ゴドラ星人のハサミが振り下ろされる! 千早は思わず目をつぶったが――。

 

「むんッ!」

 

 そのハサミは、横から伸びてきた腕によって受け止められた。

 

『何ッ!?』

「えっ……!?」

 

 突然のことに千早が目を開くと――どこから現れたのか、年老いた外見ながらも凛々しさと勇敢さを顔貌に湛えた男性が、自分を助けてくれていた。

 ゴドラ星人はその男性に目をやって驚愕する。

 

『お、お前はッ! ぐはッ!?』

 

 だが何か言いかける前に、男性のパンチを顔面に食らって一撃でノックアウトされた。

 

「大丈夫だったかな? お嬢さん」

「あ、ありがとうございます……」

 

 ゴドラ星人を倒した男性は千早に向き直り、千早は頭を下げてお礼を言った。

 

「あの、あなたは……?」

「何てことはない。ただの風来坊さ」

 

 尋ねた千早に、ガイみたいな言葉で返答した男性は、千早の顔をひと目見て一瞬固まった。

 

「む……? 君、もしかして……千種さんという方をご存じかな?」

 

 その質問に驚きを隠せない千早。

 

「えっ!? 母を知ってるんですか?」

「娘さんだったか。面影があると思った」

「あの、失礼ですが、母とどんな関係で……?」

 

 突然目の前に現れて自分を助け、母を知っているという謎の男性のことを気に掛ける千早であったが、男性はそれ以上答えてくれなかった。

 

「今は落ち着いて話を出来そうもない。とりあえず、ここから離れよう。君は一人でここに?」

「いえ、仲間と一緒だったんですが……」

「ならば一緒に捜してあげよう。ついてきなさい」

「は、はい……」

 

 どういう訳か自分を導く、素性の知れない男性を多少は怪しむ千早であったが、他に当てもない。ひとまずは単独で行動するよりかは良いだろうと判断して、彼の後についていくことを決めたのであった。

 



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激震の奇機械怪獣

 

「わぁぁぁっ!」

 

 銭湯から脱出した春香たちは、今度はどこかの街の路地のような場所に放り出された。

 

「アァーッ!」

 

 しかしそんな彼女たちの後を、ガッツ星人は執拗に追いかけてくる。

 

「きゃああぁぁ―――――!」

 

 必死に逃げ回る春香たち。しかし角を曲がったところで、渋川がスーパーガンリボルバーを抜いた。

 

「いいか? 俺が奴を引きつける。その間にお前たちは逃げろ!」

「叔父さん……!」

「いいか逃げろッ!」

 

 渋川は有無を言わさずに、自分からガッツ星人に向かっていった。その頭部に銃撃を食らわせる。

 

「ウアァーッ!?」

 

 攻撃を受けたガッツ星人は曲がり角の向こうへと引き返していった。

 

「早く逃げろッ!」

「叔父さんっ!」

「渋川さぁんっ!」

 

 春香たちをかばって、逃げたガッツ星人を追いかけていく渋川。

 

「おりゃあそこまでだぁッ! ……え?」

 

 勇んで飛び込んでいったのだが――その先で待ち構えていたのは、無数に増えたガッツ星人であった。

 

「な、何?」

「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「「アァーッ!!」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」」

 

 数え切れないガッツ星人が渋川へと押し寄せてくる。

 

「うわあああぁぁぁぁぁ――――――――!?」

 

 渋川もさっきまでの威勢はどこへやら、たまらず尻尾を巻いて逃げ出した。

 

 

 

 空間歪曲で迷宮と化した洋館の内部を、伊織とやよいもまた宇宙人に追われて逃げ回っていた。

 

「オォォォーッ!」

「い、いやぁぁぁーっ! 変な頭の奴が追ってくるぅ―――!」

「こ、怖いですぅーっ!」

 

 二人を追い回しているのはバド星人。その異形の見た目に、伊織とやよいは震え上がっていた。

 

「どこまで走ればいいのよぉー!?  さっきから同じとこをグルグル回ってるみたいよぉー!?」

「お、追いつかれちゃうよ伊織ちゃーんっ!」

 

 バド星人はスピードを上げ、腕を振り上げて二人に飛び掛かってくる!

 

「オォォォーッ!」

「きゃあああぁぁぁぁぁぁ―――――――!!」

 

 伊織たちの絶体絶命の危機!

 

「せぇぇぇあッ!」

 

 そこに飛び込んで、西洋剣の側面でバド星人を殴り飛ばす者が現れた。

 

「ゲブゥッ!?」

 

 横面に強烈な一撃をもらって壁に叩きつけられたバド星人は、そのまま失神。ズルズルと床に滑り落ちる。

 

「え……? だ、誰……?」

 

 いきなり見知らぬ人物に助けられ、唖然とする伊織たち。バド星人を倒して自分たちを救ったのは、剣を握る青いパーカー姿の青少年だった。

 

「よぉ嬢ちゃんたち、危ないとこだったな――」

 

 クルリと振り返った青少年だが、伊織の顔をひと目見てギョッとした。

 

「うおッ! ルイズ!?」

「るいず?」

 

 一瞬キョトンとした伊織は、ムカッと目尻を吊り上げて青少年に怒鳴り返した。

 

「この伊織ちゃんをどこの誰と間違えてるのよ! 失礼ね!」

「伊織ちゃん、助けてくれたのにそんな言い方はないよ」

 

 とたしなめるやよい。

 

「いやだって……」

「あぁ、いやこっちも悪かった。ちょっと知ってる奴に雰囲気とか声とか似てたもんでな」

 

 コホンと咳払いした青少年に、伊織が自己紹介をする。

 

「まぁいいわ。私は水瀬伊織、こっちは高槻やよい。危ないとこを助けてくれてありがとう。あなたは?」

「俺は平賀……あー、モロボシ・サイトだ。あんたたちはどうしてこんな危ねぇ場所にいるんだ?」

 

 何故か訂正したサイトなる青少年が問い返してくる。

 

「私たち、ダイチって人を捜してるの。ここに捕まってるみたいで……。あなたこそ、どうしてこんな場所に?」

「俺はこの屋敷に潜んでる奴らを調べに来たんだ。しっかしとんでもねぇとこだなここは。空間のつながり方が滅茶苦茶だぜ」

 

 などとサイトが話していると、廊下の奥手から千早と老年の男性が駆けてきた。

 

「水瀬さん! 高槻さん!」

「あっ、千早さんだぁー!」

「よかった、無事だったのね」

 

 一旦ははぐれた千早と合流できたことに喜ぶ伊織とやよい。その一方で、サイトは老年の男性に呼びかける。

 

「親父!」

「ここにいたか」

「親父……?」

 

 伊織たちは少々訝しんだ。サイトと男性は、パッと見で親子というより祖父と孫ほどにも年齢が離れているように見える。

 しかしそのことを尋ねている暇もなく、また新たな二人組がこの場にやってきた。

 

「そこの765プロの人たちー! 道に迷って困ってるんじゃなぁい?」

「あんたたちは……麗華のとこの!」

 

 今度は宇宙人ではなく、メイド服姿の少女二人。伊織は、麗華のユニットである魔王エンジェルの朝比奈りんと三条ともみだとすぐに分かった。

 ともみが千早たちに申し出た。

 

「ダイチって人を捜してるんでしょう? 案内してあげる」

「ほんとですかぁ!? やったぁ!」

 

 やよいは一も二もなく飛びついたが、伊織が待ったを掛ける。

 

「軽々信用するのは良くないわ! こいつらが何の目的でこんなとこにいるのか、分かったもんじゃないのよ」

「だけど、今は他にあても手掛かりもないわ」

「それもそうだけど……」

 

 千早の冷静な指摘。伊織はしばし腕を組んで考え込んだ末に、結論を出した。

 

「しょうがない、案内してもらいましょう。ただし警戒はさせてもらうわよ」

「そう来なくっちゃ! それじゃお客さま方、ついてきて下さーい♪」

 

 りんが手を挙げて先導する。それについていく前に、千早が男性たちに尋ねた。

 

「あなたたちはどうするんですか?」

「悪いが、私たちには他にやることがある。ここからは君たちだけで行ってくれ」

「くれぐれも気ぃつけていけよ! 武運を祈るぜ!」

 

 男性とサイトはこの場に留まり、りんとともみについていった千早たち三人を見送った。

 その後で、サイトが男性に告げる。

 

「親父、やっぱここが星々を宝石に変えようとしてる奴の根城みたいだぜ。エックスもギンガもビクトリーも、ここにいるみてぇだ」

「そのようだな。早く何とかしなければ……」

 

 男性がうなずくと、サイトは己の懐に手を突っ込んだ。

 

「俺はこのことを、ミッドの人たちに伝えてくる。後のことは頼んだぜ、親父!」

「うむ、任せておけ。そちらも頼んだぞ」

「おうよ!」

 

 応じながらサイトが取り出したのは――青と赤のサングラスのようなもの。

 

「デュワッ!」

 

 サイトはそれを己の顔面に装着し――途端に彼の肉体が青い光に変わり、洋館の壁と空間の迷路を突き抜けて、外の世界に飛び出していった。そのまま一直線に、空を越えて宇宙空間へ飛び出していく。

 

「よし……」

 

 それを見送った男性は、踵を返して洋館の奥深くへと足を踏み入れていった。

 

 

 

 アイドルたちが空間の迷路を駆けずり回っている頃、ガイは館のホールで目を覚ました。しかし身体は椅子に縛りつけられていて、身動きを取ることが出来ない。

 アイドルたちに先んじて洋館に侵入したガイであったが、そこで宇宙人たちの罠に掛かり、このように捕らえられてしまったのであった。

 そしてガイの面前には、宇宙人の化けた使用人たちを控えさせているこの館の主人が彼と向き合っていた。

 

「お前は……ムルナウ……!」

 

 偉そうに椅子に腰を下ろしている、けばけばしいドレスを纏った中年ほどの年齢層の女。ガイはその女を、ムルナウと呼んだ。

 様々な宇宙人を束ねて操る女、ムルナウはガイに対して応じた。

 

「そう、私は闇の犯罪者。あなたは光の戦士。皮肉だと思わない? 追われる定めの私が、いつの間にかあなたを追ってる!」

 

 そう言ってムルナウは、手元のテーブルからリンゴを手に取った。それに息を吹きかけると――リンゴはたちまちの内に、宝石に変化した。

 ガイはこれで、各星々を宝石に変えようとしている者たちの元締めを悟った。

 

「イカサマ魔術師だったお前が、随分大それたことを始めたみたいだな」

 

 ムルナウは平然としながら、ガイに告げた。

 

「あなたの顔、タイプよ。でも、黙ってる方が私は好き。口を開けば、正義がどうだとか仲間が何だのとか、退屈なことしか言わないんだもの」

 

 にやりと邪な笑みを浮かべて、ムルナウが宣言する。

 

「あなたを、物言わぬ宝石にしてあげる。こんな風にねっ!」

 

 言葉とともに背後の壁が開き、二人のウルトラ戦士の宝石がガイに見せつけられた。

 

「ギンガさん……! ビクトリーさん……!」

 

 それは、ゼロがエックスとともに行方不明だと言っていた二人の戦士――ギンガとビクトリーであった。

 

 

 

「わぁぁっ!」

 

 春香たちは空間の迷路を抜けて、洋館の中に戻ってきた。しかしその場に渋川はいない。

 

「渋川さんはどこですか!?」

「どんどんはぐれていっちゃってるわね……」

 

 焦る雪歩に、険しい表情となる律子。この苦しくなっていく状況を打ち破ろうとするかのように春香が唱えた。

 

「こうなったら私たちが頑張らないと! とりあえず、このパワードタイツに着替えて……」

 

 武器の一つであるパワードタイツを身に纏う春香であったが、ファスナーを上げる途中で手が止まった。

 

「あっ、引っ掛かっちゃった! 締まらないよぉ~!」

「……確かに、肝心なとこで締まらないね」

 

 ため息を吐く響たち。呆れながら春香に手を貸そうとしたが……。

 

「手伝おうか?」

 

 春香の背後からぬっと出てきたのは、執事服姿のジャグラスジャグラーだった!

 

「きゃあっ!?」

 

 突然の登場に度肝を抜かれる春香たち。思わず悲鳴を上げたのを、ジャグラーが静かにさせる。

 

「大きな声を出すな」

「あなた……生きてたのね」

「また何か悪いことをたくらんでるんじゃないの?」

 

 疑うあずさと美希。それにジャグラーは言い返す。

 

「何がいいことか悪いことかは人によって違う。覚えとけ」

 

 そして顎でしゃくりながら、ツカツカとどこかへ向かっていく。真たちは顔を見合わせた。

 

「ボクたちを誘導してるのかな……?」

「でも、ついてっていいの? あのジャグラーだよ?」

「ですが、わたくしたちだけでは堂々巡りをするばかりです。状況打破には、危険を承知で飛び込むしかありません」

 

 ためらう真美だったが貴音の意見により、一行はジャグラーの後に続くことを決めたのだった。

 

 

 

 そして春香たちがたどり着いた先は、サーペント星人とレキューム人が見張る部屋の前。その部屋には、気を失っているダイチが鎖で縛りつけられて監禁されていた。

 

「ダイチさんだ……! 遂に見つけたよ……!」

 

 宇宙人たちに見つからないように身を潜めながら、ダイチの姿を確認した亜美が興奮したが、見張りがいては迂闊に近づけない。悩む律子。

 

「でも、どうやって助け出すか……」

「お前たちは下がってろ」

 

 するとジャグラーが蛇心剣を手にしながら、ごく平然とした足取りで宇宙人たちに近づいていった。

 

「あっ、ちょっと……!?」

 

 目の前に出てきたジャグラーに、サーペント星人とレキューム人が振り向く。

 

『ん? お前は……』

『どうした? 持ち場はここじゃないだろ?』

 

 聞かれた瞬間――ジャグラーが神速で抜刀して二人を斬り捨て、ダイチにも刃を走らせた!

 

「っ!?」

 

 椅子の上から崩れ落ちたダイチへと慌てて駆け寄る春香たち。

 

「ダイチさん、大丈夫ですか!?」

 

 律子がダイチの身体を確かめたが、外傷はなかった。ジャグラーは鎖だけを切断したようだ。

 

「君たちは……!」

 

 目を覚ましたダイチは律子たちの顔を見回して驚く。律子は簡単に状況を説明した。

 

「お久しぶりです。エックスさんに頼まれて、あなたを捜してたんです」

「エックス……エックスはどこ!? エクスデバイザーは!?」

 

 ダイチが尋ねたのをさえぎるように、ジャグラーが口を挟む。

 

「おい、さっさとそこの小僧を連れてずらかるぞ。早くしないとバレる」

 

 ジャグラーの顔を知らないダイチが春香たちに問うた。

 

「この人は、君たちの仲間なの?」

「いえ全然!」

「ちっとも信用できない奴なの!」

 

 真と美希が力いっぱいに否定すると、ジャグラーは苦笑を浮かべた。

 

「おいおい、随分だな。せっかくここまで案内してやったのに。俺ほど信頼の置ける宇宙人は他にいないだろう?」

「よく言うぞ! 今まで散々やらかしておいて!」

「ぢゅうッ!」

 

 白々しいことを唱えるジャグラーに、響とハム蔵が憮然と吐き捨てた。

 その時、どこからかケータイのバイブらしき音が鳴り渡る。

 

「ケータイ? こんな時に誰?」

「私よ」

 

 ひょっこりと出てきたのは麗華。その手の中にあるのはエクスデバイザー! 大地が真っ先に反応する。

 

『ダイチ! ダイチ無事だったのか!』

「エックス!」

 

 駆け寄ったダイチにデバイザーを渡す麗華。春香たちは唖然としている。

 

「ど、どうしてあなたがそれを持ってるの!?」

 

 麗華が答える前に、この場に千早と伊織、やよいの三人を連れて、りんとともみがやってきた。

 

「みんな!」

「うっうー! 無事だったんですねー!」

「千早ちゃん、やよい! 伊織ぃ!」

 

 勢ぞろいした765プロアイドル。一方で、麗華たち魔王エンジェルはジャグラーの元に寄って彼に呼びかけた。

 

「ここまでは順調ね」

「後はムルナウだけだね、プロデューサー!」

「……プロデューサー!?」

 

 りんのひと言に、春香たちは仰天してジャグラーの顔を凝視した。伊織はあんぐりしながら問いかける。

 

「麗華! あ、あんたたちの新しいプロデューサーって……そいつだったの!? よりによって!」

「そうさ。真面目に働くことにしたんだ。褒めてくれよ」

 

 おどけたように言うジャグラーに腹を立てる伊織。

 

「馬鹿言ってんじゃないわよ! 麗華もどういうつもり!? そいつがどんな奴かほんとに知ってるの!?」

「もう、うるさいわねー。私たちのことなんだから、伊織が口を挟むことじゃないでしょ」

「いやそんな問題じゃ……!」

 

 食い下がる伊織だったが、さえぎるようにともみが声を発した。

 

「そろそろ行こうよ。ここも見つかる」

「ともみの言う通りだ。ムルナウのところへ行くぞ。そこにガイもいる」

 

 と言って麗華たちを連れ、さっさと移動していくジャグラー。春香たちも、ガイと言われればじっとしている訳にもいかず、やむなくジャグラーの後に続いていった。

 

 

 

 ガイはムルナウが握り締めている黒いリング――かつてジャグラーの元から消えたダークリングに注目する。

 

「お前さんがダークリングを持ってるとはな」

「このリングは宇宙で一番邪な心の持ち主のところへやって来る。持ち主の欲望と共鳴し、その能力を拡大してくれるの! 私の権力の源よ!」

 

 ムルナウはダークリングの力を背景に、宇宙人の大軍勢を作り上げたのだ。

 

「今や私のパワーは、星を丸ごと宝石に出来る!」

「星を宝石に……?」

 

 ムルナウは席を立って、ガイの周りを歩きながら語りかける。

 

「私が理想とする世界はねぇオーブさん、美しい人々と美しい風景が、永遠に生き続ける世界なの! 愚かな文明が環境を汚す前に、全てを宝石に変える!」

「……それはその星に、死をもたらすということだ!」

 

 突きつけるガイだが、ムルナウはまるで平気な顔だ。

 

「生きとし生けるものは、やがて年老いて死んでいく。愛だって消えてなくなるの! でも宝石は、永遠に私を裏切らない!」

「お前は孤独な奴だな……!」

「何とでも言うがいい! 私はこの美しい星を宝石にして、永遠に輝かせる! コレクションがまた増える……!」

「そうはさせないッ! 俺が絶対に阻止し……!」

「ノンノンっ! 作戦はもう始まってるのよぉ!」

 

 ガイの言葉をさえぎり、ムルナウがダークリングを掲げて怪獣を召喚する!

 

「奇機械怪獣デアボリックぅーっ!!」

 

 

 

 都心の中央に突如、ダークリングの力によって召喚された怪獣が出現! 街は一気に恐怖のどん底に陥れられる。

 

「グギャアァァァ――――!」

 

 生身の肉体と機械の肉体が融合した、腕が銃火器となっている、まさしく戦闘目的のために機械化改造された怪獣。これこそが古代ベルカを焼き尽くし、ムルナウが管理世界から奪い取った恐るべき怪獣兵器、デアボリックである!

 

「グギャアァァァ――――! ウオオォ――――ン!」

 

 デアボリックは全身から突き出た砲身全てから弾薬を発射し、辺り一面の街並みを破壊し始めた! ビルが片っ端から爆砕され、逃げ惑う人々に破片が降り注いでいく。

 

 

 

 デアボリックの巻き起こす大破壊の光景をまざまざと見せつけられ、絶叫するガイ。

 

「よせぇッ! 殺すなぁッ!」

「そんなことしないわ! 言ったでしょう? 彼らは宝石となって、永遠に生き続けるのよっ!」

 

 

 

「グギャアァァァ――――! ウオオォ――――ン!」

 

 周囲のビル街をあらかた破壊したデアボリックは右腕のレーザーキャノンをバチバチとスパークさせ、足元に叩きつけた。

 それを中心にムルナウの魔力が瞬く間に広がっていき、街が宝石に変えられていく。人も、建物も、全てが時を止められて石にされていくのだ。

 

 

 

「やめろぉーッ!」

 

 怒鳴るガイだが、ムルナウの暴挙を止めたくとも、椅子に縛りつけられていて立ち上がることすら出来ない。

 歯噛みするガイをムルナウは愉快そうにあざ笑う。

 

「すぐにあなたも宝石にしてあげる! あなたが手塩に育てた娘たちもね! きっと壮観よぉ? オホホホホホっ!」

「ムルナウぅ……!!」

 

 ギリッ……と奥歯を軋ませるガイ。

 ちょうどその時に、春香たちが柱の陰に身を潜ませながら状況を目の当たりにしていた。

 

「うあうあー……! 街が大変だよぉ……!」

「プロデューサーさん……!」

 

 あわあわと戸惑う亜美。ダイチはエックスに呼びかける。

 

「エックス、今すぐユナイトだ!」

 

 しかしそれは出来なかった。

 

『駄目だ……! この屋敷に生じている次元の歪みでユナイト出来ない!』

「そうだ……あいつの持つダークリングがパワーの源だ。あれを壊しさえすればいい」

 

 と告げるジャグラー。麗華は765プロアイドルたちに言い聞かせる。

 

「作戦はこうよ。あんたたちは紅ガイを救出すると同時にムルナウたちの注意を引きつける。ムルナウが油断してる隙を突いて、私たちがダークリングを破壊するわ。そうすればムルナウは力を失う。宝石にされたものも全て元に戻るわ」

 

 伊織は麗華の顔を見つめ返した。

 

「麗華……あんたたち、本当に世界を救うつもりで……?」

 

 麗華はふっと微笑み返した。

 

「私たちだって、この世界に生きる住人なのよ」

「……信じていいのね」

 

 伊織たちは覚悟を固め、ムルナウたちの前に飛び出していくことを決定した。

 

「よぉーしっ! 765プロ、ファイトぉ―――っ!!」

「おぉ―――――――!!」

 

 春香の掛け声とともに、765プロアイドルたちとダイチが一斉に飛び出して宇宙人たちに飛び掛かっていった!

 

「えぇーいっ!」

「いっけーはるるん!」「あちょー!」

「やぁーっ!」

「せぇいっ!」

 

 春香が亜美と真美の操作でガルメス人と格闘し、雪歩がスコップでクカラッチ星人をぶん殴り、真がセミ女に正拳突きを決め、律子が強化SAPガンでヒュプナスをがんじがらめにして、と765プロアイドルの奮闘で宇宙人たちの動きを制した。その間にダイチがガイの元へ駆け寄る。

 

「エックス!」

『よし!』

 

 エックスの力で電磁拘束を破り、ガイを解放した!

 

「助かったぜ! ありがとう!」

 

 ガイとダイチはすぐさまアイドルたちの加勢に入り、宇宙人たちを追い詰めていく。しかしそこをムルナウが狙う。

 

「馬鹿なことをするものね。みんな纏めて、永遠に宝石にしてあげる!」

「ハム蔵っ!」

 

 だがダークリングを向けようとしたムルナウの顔面に、響がハム蔵を投げつけて張りつかせた。

 

「ぢゅぢゅーッ!」

「ぎゃああっ!? 何よこのネズミぃ! 美しくないっ!!」

 

 顔を引っかかれて悲鳴を発するムルナウ。そこに後ろから魔王エンジェルが忍び寄っていく。

 

「お困りですか、ムルナウ様」

「見りゃ分かるでしょ! 何とかしなさいあんたたち!」

「かしこまりまし……たぁっ!」

「どーんっ!」

 

 麗華たちは三人がかりでムルナウを後ろから突き飛ばした。

 

「ぎゃあっ!?」

 

 衝撃でムルナウの手からダークリングが飛んでいき、床に落ちた。宇宙人たちが拾い上げようと手を伸ばすが……魔人態となったジャグラーの蛇心剣が、その手を制止させた。

 

『遂に戻って来たかダークリング! フハハハハハッ!』

「やった……!」

「大成功ねプロデューサー!」

 

 ダークリングを拾うジャグラー。その元に麗華たちが駆け寄り、にんまりと笑った。反対に激昂するムルナウ。

 

「ジャグラー……! あんたたち裏切ったわね!?」

「ふーんだ、初めからこうするつもりだったんだよー」

 

 べー、と舌を出すりん。一方で伊織が問い詰める。

 

「それ壊すんじゃなかったの!?」

 

 麗華は伊織に冷笑を向けた。

 

「相変わらず甘いわねぇ伊織。人は疑って掛からないと、この業界しんどいわよ?」

「きぃーっ! ちょっとでもあんたたち信用したのが馬鹿だったわ!」

 

 ダークリングを奪ったジャグラーたちはさっさと洋館を脱出していく。

 

「私たちも、逃げろぉーっ!」

「わぁーっ!」

 

 春香の号令で、765プロアイドルたちも急いで洋館から逃げ出していった。ムルナウは手下の宇宙人たちに怒鳴りつける。

 

「何ボサッとしてんだよ! 追うのよぉっ!」

「イィーッ!」

 

 手下を逃げたガイたちに向かわせると、ムルナウは未だスバルと戦っているサデスへと通信をつなげた。

 

 

 

 スバルとサデスの拳がぶつかり合い、凄まじい旋風と火花を飛び散らせる。

 

「はぁぁぁぁっ!」

『もっとだッ! もっと熱い血潮を燃やしていけぇッ!』

 

 だがその途中で空間が歪み、二人は一気に引き離される。

 

「これは!?」

『いつまで遊んでんだっ! いい加減にしろこの馬鹿っ!』

 

 ムルナウの怒声がサデスを叱りつけた。

 

『おいおいまた中断ぅ!? せっかくいいところだったのに、そりゃないよぉー!』

 

 それでも構わず抗議するサデスだったが、ムルナウの命令を聞いて態度が一変。

 

『オーブが逃げたのよ! あんたも追いかけなさいっ!』

『えッ、ガイ君が!? そりゃ面白くなりそうだー!』

 

 機嫌を直したサデスが飛び上がりながらスバルに呼びかける。

 

『悪いねぇお嬢ちゃん! また機会があったら、今度こそ最後まで戦おうかッ! そんじゃバイビー!』

「待てっ!」

 

 止めようとしたスバルだったが、空間が歪んでいって消滅し、スバルは洋館の内部に戻されていった。サデスの姿はなくなる。

 

 

 

 ダークリングを奪い取って逃亡したジャグラーたち。ムルナウの野望を止めようとする765プロ。ダークリングを奪い返そうとするムルナウ。三者三様の思惑が絡み合い、戦いは新しい局面に移行していく。

 



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Fate of the Galaxy

 

 洋館から外へと脱出した春香たちは、先に逃げたはずのジャグラーたちの姿を探して辺りを見回す。

 

「ジャグラーたちはどこ行ったの!?」

「もういないっ!」

「逃げ足の速い連中ね、全く!」

 

 真と伊織が吐き捨てた。そこに、後ろからムルナウの手下たちが押し寄せてくる。

 

「イィーッ!」

「うわぁ追いかけてきましたぁ!」

 

 悲鳴を上げるやよい。ガイとダイチが迎え撃とうと構えるが、

 

「やぁぁぁっ!」

 

 宇宙人たちに横からスバルが突撃を掛け、クカラッチ星人とガルメス人を同時に殴り飛ばした。宇宙人たちの進行が止められる。

 

「スバル!」

「ダイチ! エックスも、無事だったんだね!」

「そっちこそ!」

 

 ダイチとスバルは短く言葉を交わすと、スバルは宇宙人たちに立ちはだかったまま呼びかけた。

 

「ここはあたしが食い止める! そっちは、デアボリックの方をお願い!」

「分かった! みんな行こう!」

 

 ダイチたちはクルリと反転して洋館から離れていく。スバルはリボルバーナックルから衝撃波を飛ばして、突っ込んできたセミ女を弾き返した。

 

「イィーッ!」

「オオオオオッ!」

 

 昏倒したセミ女に代わって、新たなる宇宙人、ボーダ星人が突進してきた。そちらにも衝撃波を食らわせるスバルだったが、ボーダ星人はそのまま突っ切ってスバルに肉薄。

 

「っ!」

 

 相手の巨体のぶちかましをすんでのところでかわすスバル。しかしそこにスーツを破って鋭利な鉤爪を伸ばしたヒュプナスが飛びかかってくる。

 

「シャアアッ!」

「はっ!」

 

 鉤爪で斬りかかるヒュプナスだがスバルはナックルでガードし、後ろに跳んで二人の宇宙人から一旦距離を取った。

 ムルナウの手下の中でも殺傷能力が高い宇宙人のタッグが殺意を剥き出しにしてくる。だがスバルは決してひるむことはない。

 

「ここは絶対通さないよっ!」

 

 宣言してローラーをうならせ、自分から宇宙人たちへと突撃していった!

 

 

 

 トータス号の元へと急いでいく春香たちだったが、トータス号の前では彼女たちを待っている者の姿があった。

 

「皆さーん! こっちでーすっ!」

「よかった、みんな無事だったんですね!」

 

 未来、翼、静香の三人だ。律子が面食らう。

 

「あなたたち、どうしてここに!? 危ないじゃないの!」

「ごめんなさい……でも先輩方が心配でならなかったんです」

「すっごい心配ですよ! なかなか戻ってこないし、怪獣が大暴れし出すし!」

 

 と弁明する静香と未来。

 

「だからって……」

「話は後だ。すぐにここから離れるぞ!」

 

 言いかけた律子だがガイに諭され、一同がトータス号に乗り込むと律子が急発進させた。

 しかしその背景で、洋館が浮かび上がって追跡してくる! 洋館の下部にはシャンデリアのような推進装置が備わっていた。

 

「宇宙船だったんだ!」

「律っちゃん、もっとスピード出してー!」

「もう全速力よ!」

 

 焦る亜美と真美に律子が言い返した。助手席に乗り込んだダイチがエックスに呼びかける。

 

「エックス、ナビしてくれ!

『300メートル先を左折。後2キロで、目的地周辺です』

「どこ行くんですか!?」

 

 翼が問いかけると、ダイチは行く先から目を離さずに答えた。

 

「怪獣を止めに行く!」

「えぇぇっ!?」

 

 未来たち三人は仰天したが、その一方でガイは春香たちを叱りつけた。

 

「何で来たんだお前たち! 来るなと言っただろ!」

「むー、何さその言い方! 自分たちが助けなかったら危なかったじゃん!」

「ぢゅいぢゅいッ!」

 

 響とハム蔵がむくれて反論した。美希や千早、あずさがガイに告げる。

 

「ハニーの命は、もうミキたちみんなの命も同じなの!」

「あんまりお役には立てないかもしれませんが、それでもあなたの力になりたいんです」

「プロデューサーさんが私たちを大事に思ってくれるように、私たちにもあなたはかけがえのない人なんです」

 

 最後に、春香が言い切った。

 

「私たち、生まれた時と場所は違っても、向かう先は同じです。私たちはみんな、大勢で一人、一人で大勢です!」

 

 春香たちに同調するように、ダイチもガイに呼びかけた。

 

「俺にも、大勢仲間がいます。苦しい時にも、その人たちの笑顔が、何より力になるんです」

 

 彼らの言葉で、ガイは胸を打たれたようであった。その様子にほっこりと笑う春香たち。

 

『私からもひと言いいか?』

 

 エックスも発言する。

 

『間もなく、目的地周辺です』

 

 どんがらがっしゃーん!

 と、全員が器用に車内でこけた。

 

「なんてことしてる暇はないわ! 怪獣が見えてきたわよ!」

 

 律子の言う通り、フロントガラス越しに、街をみるみる内に宝石に変えていくデアボリックの姿が皆の目に飛び込んできた!

 

「グギャアァァァ――――! ウオオォ――――ン!」

 

 トータス号から降りると、未来たちはその光景に息を呑む。

 

「ま、街が大変なことになってるっ!」

「どんどん宝石になってく……!」

「でもちょっと綺麗かも……」

 

 翼のつぶやきを、春香が強く否定した。

 

「あんなの、見せかけの美しさだよ! 本当の美しさは、内面から生まれてくる輝きなんだから……! そうですよね、プロデューサーさん?」

「もちろんだ。行くぞッ!」

 

 答えたガイは、春香と美希を連れてデアボリックの方へと走っていく。ダイチも三人に並んでいった。

 

「えぇぇっ!? ちょっ、どこ行くんですかぁー!?」

「私たちはこちらへ!」

 

 仰天した未来たちを引っ張って、貴音たちはデアボリックの進行方向から離れていった。

 そしてデアボリックの正面に回ったガイたちは、そこでそれぞれオーブリングとエクスデバイザーを構えた。

 

[ウルトラマンエックスと、ユナイトします]

「エックスーッ!!」

 

 ダイチがスパークドールズをリードし、ウルトラマンエックスへとユナイト!

 

「イィィィーッ! サ―――ッ!」

 

 春香と美希はリングにウルトラフュージョンカードを通す。

 

「ウルトラマンさんっ!」

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

「ティガっ!」

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

「光の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 ガイがオーブリングを掲げ、春香と美希とフュージョンアップ!

 

『シェアッ!』『タァーッ!』

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

 

 変身を遂げた二大ウルトラマンが、蹂躙されていく街のただ中に堂々と着地した!

 

[エックス、ユナイテッド]

『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!!』

 

 その勇姿を、仲間のアイドルたちが見上げている。

 

「やったー! 久々のウルトラマンオーブだぁー!」

「ウルトラマンエックスも久しぶりだねー!」

「すっごーい! 生で見たの初めてー!」

 

 万歳する亜美と真美。未来たちも興奮を抑え切れなかった。

 律子は張り切ってカメラを回し始める。

 

「ばっちりカメラに収めるわよ! ウルトラマンの戦う姿、世界中の人に見てもらわなくっちゃ!」

 

 そして戦闘が開始される。その狼煙を上げたのはデアボリックだ。

 

「グギャアァァァ――――! ウオオォ――――ン!」

 

 両ウルトラマンに対して全砲門を突きつけ、一斉砲火を繰り出した! 無数の砲撃が嵐となってエックスとオーブに襲い掛かる。

 

「シェアッ!」

「デェヤッ!」

 

 おびただしい数の砲撃が飛んでくるが、オーブとエックスは怖気づくことなく前進。バリアで防ぎ、砲弾を叩き落として道を切り開き突き進んでいく。

 

「ヘェェアッ!」

「テアァァァッ!」

 

 二人で光弾をデアボリックの膝に撃って隙を作ると、オーブがエックスを回してデアボリックへ投げ飛ばす。エックスのフライングクロスチョップが決まり、デアボリックの巨体が後ずさった。

 

「グギャアァァァ――――!」

「デヤッ!」

「セイヤァッ!」

 

 エックスに左腕の機関銃を向けるデアボリックだが、それをオーブが蹴り飛ばした。エックスはすかさず後ろ蹴りをデアボリックに浴びせる。

 

「グギャアァァァ――――! ウオオォ――――ン!」

 

 二人に挟まれるデアボリックは肩部の砲身から砲弾を乱射して抵抗するも、オーブたちは巧みなコンビネーションでくぐり抜ける。オーブに集中して砲撃して寄せつけまいとするデアボリックだが、その背後からエックスが掴みかかって動きを制限した。

 

「すごいですぅ! 二人とも息ぴったり!」

「流石ウルトラマンだね!」

 

 エックスとオーブの奮闘ぶりに雪歩、真たちは盛り上がって応援していた。

 

「ウオオォ――――ン!」

 

 デアボリックは機関銃を乱射しながら滅茶苦茶に振り回すが、ウルトラマンは決してひるまない。オーブが気を引きつけている間に、エックスが地を蹴った。

 

「イィィィーッ! シェアァッ!」

 

 鋭い飛び蹴りが炸裂し、よたよたとよろめくデアボリック。

 

『「今なのっ!」』

『「うんっ!」』

 

 この好機にオーブとエックスが必殺光線の構えを取った。同時攻撃で一気に叩く姿勢だ!

 

「『ザナディウム光せ……!!」』

「「『スペリオン光せ……!!!」」』

 

 だが発射直前に、左方から飛んできた銃撃によって阻止されてしまった。

 

「グワアァァッ!?」

「えっ!?」

 

 目を見張るアイドルたち。今のはデアボリックの攻撃ではない。弾丸の飛んできた方向へ振り向くと、

 

『二対一なんてずるいよぉ! 僕も楽しませてくれよッ!』

 

 巨大化したガピヤ星人サデスが腕を開いて叫んだ。乱入者だ!

 

『「何なんだこいつ!?」』

『油断するなよ、ダイチ!』

 

 サデスの異様な言動に直接戦っていないダイチが怪しみ、エックスが警戒を促した。

 体勢を立て直したエックスとオーブはサデスへと反撃。

 

「『Xスラッシュ!!」』

「「『スペリオン光輪!!!」」』

 

 だがサデスは剣で簡単に打ち払った。

 

『何だよ駄目だよそんなんじゃ。気持ち伝わってこないよ!』

「グギャアァァァ――――!」

 

 デアボリックの方も機関銃を構え直して発砲してきた。咄嗟に回避したオーブたちだが、戦いが長引いたことでカラータイマーが鳴り始めてしまった。

 

『「もう時間がない!」』

『「私たちに任せて下さい!」』

『「なのっ!」』

 

 焦るダイチに春香と美希が申し出て、オーブリングと二枚のカードを握った。

 

『「ゾフィーっ!」』

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

『「ベリアルさんっ!」』

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

『光と闇の力、お借りしますッ!』

[フュージョンアップ!]

 

 光と闇の力の融合によって、オーブの姿が切り替わる!

 

[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]

『闇を抱いて、光となる!!』

 

 サンダーブレスターとなったオーブは手の平でサデスの銃撃を弾きながら距離を詰め、強烈な平手打ちではね飛ばした。

 

『うっはぁッ!? 何だいそのすんごいのは! 僕、ファンになっちゃいそうだよー!』

『「いい心がけね! これはサービスよっ!」』

 

 黒春香がニヤリと笑うと、オーブがサデスを蹴り飛ばした。

 

『ありがとうございますッ!』

 

 オーブに殴り返していくサデスだが、オーブの筋肉の鎧にはね返されてよろめいた。オーブは強固な肉体から生じるパワーでサデスを圧倒していく。

 その間、エックスはデアボリックの相手をする。

 

『「こっちもモンスジャケットだ!」』

[デバイスベムスター、スタンバイ]『ギアァッ! ギギギィッ!』

 

 ダイチはデバイスベムスターのカードをデバイザーに挿入して、エックスの身体をモンスジャケットで覆った。

 

[ベムラーダ、セットアップ]

「ヘェアッ!」

 

 デアボリックの砲撃をエックスは槍の盾で防御し、その中にエネルギーを吸収していく。

 

『「スピーアスパウト!」』

「イィッ! シェアァッ!」

 

 吸収したエネルギーを凝縮して、穂先から光線としてデアボリックに撃ち返した!

 

「グギャアァァァ――――! ウオオォ――――ン!」

 

 フュージョンアップとモンスジャケットの力で押し返していくオーブたち。伊織たちも一時は不安を覚えたが、ぐっと手を握り直していた。

 

「この調子なら……!」

 

 しかしここで、オーブに殴りつけられたサデスがバタバタと足踏みをしながら叫んだ。

 

『いいねぇ熱くなってきたぁッ! こっちもレベルアップだぁーッ!』

『「何ですって!?」』

 

 サデスの言動に驚く春香。彼女に美希が呼びかける。

 

『「ねぇ、この場所って……!」』

 

 オーブたちは気がついた。戦っている内に移動してきた先を。まだ再建が完了しておらず、辺りに荒廃している箇所が多い土地。

 

「あっ! ここは……!」

 

 律子たちも悟った。三か月前、自分たちがマガタノオロチにとどめを刺した場所だということを!

 

『ふんッ!』

 

 そしてサデスは、まさにマガタノオロチが爆散した場所に剣を突き刺した。剣先が穿った穴から、八本の蛇の首のような形状の闇が地中から噴出する!

 

『ピュウオ――――――――――ッ!!』

『「あれは……マガタノオロチっ!」』

 

 衝撃を受ける春香たち。マガタノオロチは肉体が吹き飛んでも、その怨念は大地に染みついて残っていたのだ!

 オロチの怨念が空を渦巻く中、サデスが意気揚々と語った。

 

『僕の同胞が作った傑作の怪獣兵器! だけど限界を決めてちゃ成長はなーいッ! デアボリック、お前もそれで満足しないで新しい自分に覚醒めるんだよぉーッ!!』

「グギャアァァァ――――! ウオオォ――――ン!」

 

 デアボリックにオロチの怨念が乗り移っていき、そしておぞましき闇の力によってその肉体が変貌を遂げた!

 

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 顎が伸びてワニのように発達し、機械の鎧の間からどす黒い触手が生える。頭部からは不吉に赤いクリスタルの角が伸びて、肉体がひと回り膨れ上がる。

 戦場の上空を浮遊している円盤から、ムルナウが嬉々として叫んだ。

 

「成功よぉっ! デアボリックは更に強大になった! 超奇機械魔王獣、マガタノデアボリックの誕生よぉ――――っ!!」

 

 立っているだけで大気を震撼させるほどのパワーを発するマガタノデアボリックに、流石のエックスとオーブも無意識の内にたじろいだ。

 オーブが口走る。

 

『ムルナウたちが地球に来た真の目的は、これだったのかッ!』

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガタノデアボリックは全身の砲口から、迅雷を纏った砲撃を一斉に発射してオーブたちに撃ち込んできた!

 

「ウワアアアァァァァァァァ―――――――ッ!!」

 

 更に強力となった攻撃は、最早盾もモンスジャケットも防ぎ切れず、破られてしまった。エックスとオーブは二人とも吹っ飛ばされて倒れ込む。

 

「グギャアァァァ――――!!」

 

 デアボリックはその内のオーブを狙い、右腕のキャノンを向けた。

 

『「危ないッ!」』

 

 咄嗟にエックスが飛び起き、オーブをかばった。そしてキャノンから放たれた宝石化光線をまともに食らった!

 

『「「あぁっ!?」」』

「『うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!」』

 

 エックスとダイチは、オーブの身代わりとなって宝石に変えられた……!

 

『「くっ……よくも……!」』

 

 怒りに震えた春香だったが、感情が乱れた隙を突かれ、サデスが横から飛びかかってきた!

 

『ギャラクティカサデスファクションッ!!』

「グワアアアァァァッ!?」

 

 全力の拳の一撃を食らったオーブが吹っ飛び、ビルに叩きつけられて倒れ伏した。

 

「きゃああああっ!?」

 

 凄まじい震動に見舞われてアイドルたちはバランスを崩した。そしてオーブは、エネルギーが限界となって消えていってしまう。

 

「オーブが……!」

「オーブぅぅぅ――――――――っ!!」

 

 慌ててオーブの消えた場所へと走っていくアイドルたち。そこでは、満身創痍のガイを春香と美希が支えていた。

 

「ぐうぅッ……! うぅッ……!」

「ハニー、大丈夫!?」

「プロデューサーさん、しっかり……!」

 

 だが二人も少なからずダメージを受けている。仲間たちは急いで二人に手を貸した。

 この様子を目の当たりにした未来たち三人は、愕然としている。

 

「オーブが消えた場所に、春香さんたちがいるってことは……」

「春香さんたち……いえ、ここにいる皆さんが、オーブだったんですか……!?」

「信じられない……!」

 

 一方、宝石の像にされたエックスの元には、円盤から同じように宝石にされているギンガとビクトリーが降ろされた。

 

『ワーオッ!』

「あーはっはっはっはっはっ! 遂に三つのウルトラマンジュエリーが集まったわ! 美しいぃっ!」

 

 そしてガイたちの方へ、マガタノデアボリックが接近してくる。とどめを刺そうというつもりか。

 

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 少しずつ大きくなってくる大怪獣の威容に、未来たちはすっかりと震え上がる。

 

「も、もう駄目ですぅぅぅっ!」

「皆さん、逃げましょうっ!」

 

 しかし――春香たちは全員、ガイの盾となるように彼の前に並び立った。

 

「そこの怪獣! プロデューサーさんに何かするつもりなのなら、私たちを倒してからにしなさいっ!」

「ミキたちはまだ戦えるの! 相手になってやるの!」

「私だって、戦えますぅ!」

「ボクだって!」

「わたくしとて!」

「あんたなんか、ちっとも怖くないわよっ!」

 

 美希、雪歩、真、貴音、伊織と次々に立ち上がるアイドルたち。

 

「駄目だッ! 早く逃げろぉーッ!」

 

 叫ぶガイに、アイドルたちは微笑みながら告げる。

 

「言ったじゃないですか、私たちはあなたの力になりたいんです」

「最後の最後まであきらめませんっ!」

「絶対に、あなたを見捨てて逃げるなんてことはしません」

「だって、自分たち、ウルトラマンオーブだもんね!」

 

 千早、やよい、あずさ、響が語り、ちっぽけな身体で堂々と怪獣に立ちはだかった。

 

「亜美たち、何があっても未来をあきらめないっ!」

 

 亜美が叫ぶと――宝石にされているギンガのカラータイマーに、淡い輝きが生じた。

 

「前を向き続けて、どこにだって行けるっ!」

 

 真美の叫びで、ビクトリーのカラータイマーにも同じように輝きが生まれる。

 

「限界なんて超えてみせるわ! それが私たち……765プロなんだからっ!」

 

 律子の宣言で、エックスのカラータイマーも光を発する。

 その三人の光に反応するように、ガイのカードホルダーからエックス、ギンガ、ビクトリーのカードが宙へ飛び上がった。

 

「これは……!」

 

 驚くガイたち。更にこの三枚に続き、全部のカードがホルダーから飛び上がってアイドルたちの頭上に浮遊した。

 未来たちが目を見張って見守る中、春香がつぶやく。

 

「ウルトラマンさんたちが……また、私たちに力を貸してくれる……!」

「ああ……! 俺たちは、まだ終わりじゃない……!」

 

 ガイの傷ついた身体にも力がみなぎり、円を描くように並んだアイドルたちの中心に立ち上がった。

 

「みんな一緒に、もっと高みへ行くぞッ! 765プロぉぉッ!!」

「「「「「「「ファイトぉぉぉ――――っっ!!!」」」」」」」

 

 十三人が声をそろえて掲げた腕から、色とりどりの心の光が生じて、ガイのオーブリングへと一つに集まった!

 極彩色に輝いたオーブリングを、天高く掲げるガイ!

 

「諸先輩方ッ!」

『ヘアッ!』『ヘアァッ!』『デュワッ!』『ジェアッ!』『トワァーッ!』『トァーッ!』『イヤァッ!』『ヂャッ!』『デヤッ!』『デュワッ!』『デアッ!』『フワッ!』『シェアッ!』『シュアッ!』『セアッ!』『メッ!』『ヘェアッ!』『セェェェェアッ!』『ショオラッ!』『テヤッ!』『イィィィーッ! サ―――ッ!』

 

 リングの中心に、全部のカードが飛び込んでまばゆい光となった!

 

[オールスターフュージョン!!]

「オーブスラッシャースター!」

 

 そして光は、各二色ずつの流線型の芒を持った六芒星型の武器に変わった。それを握り締めるガイ。

 

「皆さんの光の力、お借りしますッ!! オーブ・オールスター!!!」

 

 ガイと765プロオールスターズ全員で、フュージョンアップ! 誰も見たことのないウルトラマンオーブへと変身し、輝く銀河の中央から飛び出していった!

 

「わぁぁぁーっ!!!」

 

 驚きが頂点に達した未来たちの前に、威風堂々と着地したオーブ。

 銀と赤のボディをベースに、O型のカラータイマーを囲む緑のX型と黄色のV型の装飾、頭部の黄色の楔型の冠、胸部の青とピンクのプロテクター、若草色のウルトラブレスター、白と黒のラインが走る上腕、オレンジ色のファイヤーシンボルが描かれた前腕、紫色のウルトラホーン、浅葱色と臙脂色のラインの脚を備えた姿。フュージョンアップしたアイドルたちのカラーと、各ウルトラ戦士の特徴を併せ持っている。

 

『俺たちはオーブ!』

 

 オーブが右肩のオーブスラッシャースターに手をかざす。

 

『ウルトラマンオーブ・オールスター!!』

 

 オーブ・オールスターはスラッシャースターを手に移しながら、名乗り口上を発した。

 

『皆の光と絆を結び、今ッ! 輝きの向こう側へ!!』

 

 猛り狂う奈落の咆哮に、極彩色の光が立ち向かう。

 今ここに、全銀河の運命を懸けた戦いが始まるのだ!

 



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私たちのM@STERPIECE

 

 765プロ事務所では小鳥と高木が、洋館に向かったまま戻らないガイたち、彼らの様子を確かめに行った未来たちの安否を案じていた。特にデアボリックが街を襲い出し、オーブとエックスが倒されてからは、ともすれば倒れてしまいそうなほどに気持ちが焦燥していた。

 しかし律子が置いていき、静香が撮影を代行したカメラからパソコンの画面に流れているウルトラマンオーブ・オールスターの英姿によって、一気に安堵へと変わったのだった。

 

「社長、見て下さい! この姿……!」

「ああ……! あれこそが、みんなのたどり着いた境地……!」

 

 小鳥も高木も、オーブの姿から状況を把握し、そして彼らの勝利を固く信じた。

 

 

 

 ムルナウはオーブ・オールスターの全身から醸し出される、視覚からではなく魂に直接訴えかけてくるような神々しい迫力に衝撃を受けていた。

 

「何なのあの美しさ! 私の宝石より美しいなんて……!」

 

 サデスはじっとしていられないほどに大興奮。

 

『すごいじゃないかぁーガイ君ッ! 感動したッ! 僕も、本気で行くぞーッ!!』

 

 そして未来、静香、翼はオーブを力いっぱいに応援した。

 

「いっけぇぇぇ――――っ!! 765プロぉぉぉぉぉ――――――――っっ!!!」

 

 それに応えるように、オーブの中の宇宙で貴音がスラッシャースターを手にする。

 

『「エース殿っ!」』

『テェェーイッ!』

 

 貴音の後ろにエースのビジョンが生じ、スラッシャースターが臙脂色に輝いた。

 

「『カーマインスペースギロチン!!」』

 

 そして投擲されたスラッシャースターが三つの臙脂色の光輪に分かれ、サデスを六つに切断する!

 

『スッ! テッ! ピィィィ―――――ッ!!』

 

 バラバラに切り刻まれたサデスは一瞬の内に爆発四散!

 

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 マガタノデアボリックはサデスを一蹴したオーブに一斉砲火を繰り出した。が、その時に貴音がスラッシャースターを亜美と真美に渡す。

 

『「ギンガ兄ちゃんっ!」「ビクトリー兄ちゃんっ!」』

『シュワッ!』『オリャアッ!』

 

 エースと同じようにギンガとビクトリーのビジョンが亜美と真美の後ろに浮かび、スラッシャースターからエネルギーをカラータイマーに移す。

 

「「『イエローツインエスペシャリー!!!」」』

 

 オーブの全身から銀河型の円盤と無数の光弾が放たれ、砲弾を全て押し返してデアボリックに直撃した!

 

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 デアボリックは肉体の各所が爆発に見舞われる。

 

『おお……!』

『すごい……!』

「感心してんじゃねーよっ!!」

 

 ため息を漏らした側近のスーパーヒッポリト星人、テンペラー星人を怒鳴りつけるムルナウ。

 

「お前らも行くんだよっ!」

 

 テーブルのベルがチーンッ! と叩かれると、二人の足元に落とし穴が開いて円盤から投下されていった。

 

『あぁーッ!?』

 

 増援として送り込まれたヒッポリト星人とテンペラー星人は、デアボリックに追撃を掛けようとしていたオーブの背面を光線で狙い撃つ。

 

『はぁーッ!』

「グワァァッ!?」

 

 オーブはデアボリック、ヒッポリト星人、テンペラー星人に囲まれ、同時に襲い掛かられる。

 

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

『はぁッ!』

『むぅんッ!』

 

 三方向から飛んでくる殴打をさばきながら、スラッシャースターが亜美真美から伊織に渡された。

 

『「あんたたち邪魔よ! アグルっ! ゼロっ!」』

『ジェアッ!』『テヤッ!』

 

 伊織の後ろにアグルとゼロのビジョンが現れ、スラッシャースターを額へと持ち上げる。

 

「『ピンクリキデイタースラッシュ!!」』

 

 一回転しながら額から発射したピンク色の光線で敵を薙ぎ払う。

 

『ぐうわあぁッ!』

 

 一旦はデアボリックたちを押し返すものの、二人の宇宙人も強豪種族。そうそう簡単には倒れなかった。

 765プロオールスターズ全員とフュージョンアップし、過去最高に力がみなぎっているオーブだが、身体は一つだけ。三対一のハンディキャップでは流石に攻めあぐねている。

 

「頑張れー! オーブ!」

 

 苦闘するオーブを懸命に応援している未来たち。すると、その場に、

 

「フッフッフッフッフッ……!」

 

 麗華たちを連れたジャグラーがぬっと現れた。静香が一番に気がつく。

 

「あなたたちは、魔王エンジェル!?」

「何でここに……!?」

 

 もう何度目かの驚きを浮かべる未来たちに構わず、ジャグラーはダークリングを持ち上げた。

 

「さぁ、クライマックスだ! 麗華、りん、ともみ、用意はいいか!?」

「いつでもいけるわっ!」

「遂にこの時が来たんだねー!」

「ちょっと緊張するかも……」

 

 ジャグラーの呼びかけに麗華たちが応え、そして三人は怪獣カードを取り出した。

 

「そ、そのリングとカードはっ!」

 

 目を剥いた翼たちの前で、麗華からカードをリングに通す。

 

「ゼットンさんっ」

[ゼットン!]『ピポポポポポ……』

 

 麗華の隣にゼットンのビジョンが現れ、次いでりんがカードを通す。

 

「パンドンさんっ!」

[パンドン!]『ガガァッ! ガガァッ!』

 

 りんの横にパンドンのビジョンが出現。最後にともみがカードを通した。

 

「ブラックエンドさんっ……」

[ブラックエンド!]『ガアアアアアアァァァァ!』

 

 ともみの元にブラックエンドのビジョンが出てくると、ジャグラーがダークリングを高々と掲げた。

 

「闇の力、お借りしますッ!」

 

 ダークリングの力によって魔王エンジェルが三体の怪獣のビジョンとともに、ジャグラーと融合!

 

『超絶合体! ゼッパンエンド!!』

 

 爆発の中から、大怪獣に変身したジャグラーが飛び出していく!

 

『ハハハハハハハハハッ!』

 

 ゼッパンドンの肩から一対の巨大な角を生やし、先端がハサミ状の尻尾を持った怪獣。魔王エンジェルと、三体の怪獣の力をその身に宿した、超合体魔王獣ゼッパンエンドだ!

 これに愕然とする亜美。

 

『「ぱ……パクり! パクりだよ兄ちゃんっ!」』

『人聞きの悪い。リスペクトと言ってもらおうか!』

 

 しれっと豪語したゼッパンエンドが、オーブの背後から火炎弾を連射した!

 

「グッ!?」

 

 一瞬身を固めたオーブだったが、火炎弾はデアボリックたちの方に降り注いだ。

 

『うわあああぁぁぁぁぁぁ―――――――!?』

『熱ッ! あーついッ! あぁ――――ッ!』

『「あんたたち……!」』

 

 伊織が驚いてゼッパンエンドに顔を向けると、その中から麗華たちが返した。

 

『「765プロ。あんたたちは、私たちがステージの上で倒すのよ」』

『「あんな奴らに横取りなんかさせないんだから!」』

『「という訳で、よろしく」』

 

 ゼッパンエンドが前に出て、マガタノデアボリックと対峙する。

 

『オロチよ、下克上させてもらうぞ!』

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 デアボリックが集中砲火を繰り出すが、ゼッパンエンドは正面にバリアを展開。

 

『ゼッパンエンドシールド!』

 

 砲撃は完全に防がれ、更に反射されてデアボリックに返された。

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

『おのれぇッ!』

『裏切り者どもめぇッ!』

 

 代わってヒッポリト星人とテンペラー星人が光線を撃ち込むも、ゼッパンエンドは火炎攻撃で押し返した。

 

『ぎゃあああぁぁぁぁぁ―――――ッ!!』

『ふッ、流石ブラック店長から譲ってもらったカードを使ってるだけのことはある』

『「何度も頭下げた甲斐があったね」』

 

 ともみがそうつぶやいた。

 オーブも負けてはいられない。デアボリックの砲火を走り抜けながら、天高く跳躍。真がスラッシャースターを手にする。

 

『「ジャックさんっ! レオさんっ!」』

『ヘッ!』『ダァッ!』

 

 エネルギーを突き出した脚に移し、黒く輝くきりもみ回転キックでデアボリックに攻撃。

 

「『ブラックスピンキーック!!」』

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 飛び蹴りがデアボリックの横面を捉え、デアボリックは横転した。

 

「いっけぇー! そこだぁーっ!」

「怪獣も宇宙人もやっつけろー!!」

 

 未来や翼たちはノリノリでオーブとゼッパンエンドを応援するが、その時、

 

『誰をやっつけろですって?』

「えっ!?」

 

 背後からガッツ星人が忍び寄り、三人を拘束光線で捕らえた!

 

「きゃああああっ!?」

『動くな、ウルトラマンオーブ。今すぐ抵抗をやめなさい。彼女たちが死ぬことになりますよ』

 

 卑劣にも未来たちを人質にするガッツ星人! ゼッパンエンドも吐こうとしていた火炎を止めざるを得なかった。

 

『うッ!?』

『ヘッヘッヘッ!』

『うりゃああああぁぁぁぁぁッ!』

 

 それをいいことに、ヒッポリト星人とテンペラー星人はゼッパンエンドに光線と火炎をあらん限り食らわせた!

 

『「「「うわあああぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ!!!」」」』

『うぐああああぁぁぁぁぁ―――――ッ!』

 

 無抵抗のところを散々にやられ、ゼッパンエンドも耐え切れずに消滅。ジャグラーたちは合体が解けて地面に投げ出された。ダークリングも転がっていく。

 

「……一つ、分かったことがある……」

「何……? プロデューサー……」

 

 倒れたまま発したジャグラーに聞き返す麗華。

 

「正義の味方って……めんどくせぇ」

「同感……」

 

 そして四人そろって、がっくり倒れ伏したのだった。

 ゼッパンエンドが退けられたことで、オーブは再び三体の敵に襲われる。

 

『大人しくしろぉッ!』

『ふははははぁッ!』

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

「ウゥゥッ!」

 

 未来たちを盾にされているため、オーブはろくな抵抗も出来ずに袋叩きにされる。

 

『「こ、このままじゃまずいよ……!」』

『「しかし、人質をどうにか出来ないことには……!」』

 

 焦る真と貴音。オーブはこのままなす術なくやられてしまうのか!?

 

『素晴らしい。これぞ史上最大の……!』

 

 しかしその時、ガッツ星人の頭に銃撃が浴びせられた!

 

『ぐわぁッ!?』

「誰か忘れちゃいないかな?」

 

 渋川であった。ガッツ星人が倒れたことで、光線が消えて未来たちは自由になる。

 

「渋川さん!」

「助かったよぉーっ!」

「おいッ! 逃げろッ!」

『おのれぇぇぇーッ!』

 

 すぐに起き上がって追ってくるガッツ星人から、渋川は未来たち三人を連れて逃げていく。

 

『「今よっ!」』

 

 すかさずあずさがスラッシャースターを握る。

 

『「タロウさんっ!」』

『トワァッ!』

「『パープルファイヤーダイナマイト!!」』

 

 スラッシャースターを振って紫色の爆発を起こし、デアボリックたちを纏めて吹っ飛ばした。

 

『ぎゃああああああッ!?』

 

 翼は逃走する途中、道の上に落ちているダークリングを発見した。

 

「あっ! 赤い輪っか見っけ!」

 

 すぐに拾い上げると、静香が言う。

 

「あずささんが教えてくれたことには、これが悪者たちの力の源だとか!」

「よーし、壊しちゃえ!」

 

 未来たちが協力してダークリングを引っ張るが、そこにガッツ星人が追いついてきた。

 

『やめろッ! やめなさいッ!』

「わぁぁぁ来たぁぁぁぁぁぁっ!!」

 

 ダークリングを持って走る未来たち。ガッツ星人が近づくと、パスを回して遠ざける。

 

「はい静香ちゃんっ!」

「翼っ!」

「渋川さんっ!」

『寄越しなさい! 投げるんじゃないッ!』

 

 だが渋川から未来へ渡されると、未来はキャッチし損ねて落としてしまった。

 

「わぁぁぁっ!?」

「何やってんだよおいッ!」

「未来のドジーっ!」

 

 そこをガッツ星人に取られてしまう。

 

『リングはもらった!』

「とりゃあーっ!」

『あ痛いッ!』

 

 しかしその瞬間に魔王エンジェルが飛び込んできて、三人掛かりのパンチをもらってガッツ星人は殴り飛ばされた。

 放り出されたダークリングは、ジャグラーが受け止めた。

 

「ジャグラスジャグラー!?」

 

 驚愕する渋川。ジャグラーは彼らに目をやりながら語った。

 

「こいつは、宇宙で一番邪な心の持ち主の元にやってくる。……ダークリング、愛してるぜ」

 

 そしてダークリングを投げ飛ばし、その先の空間を蛇心剣で切り裂いた!

 

『あッ!? あああぁぁ―――――ッ!!』

 

 ダークリングは虚空の彼方へと転落していく。

 

「あぁーもったいない……」

「また巡り会えるよ」

 

 惜しむりんにともみが諭し、閉じる空間の穴に消えるダークリングを見送った。

 

「ノオオオォォォォォォォォォォォォ――――――――――――――――――っっ!!!」

 

 絶叫するムルナウ。ダークリングが消えたことで、拡張されていたムルナウの魔力もまた消え去るのだ。

 つまり、宝石にされたものは全て元に戻る!

 

「トゥアッ!」

「テヤッ!」

「ショアッ!」

 

 宝石にされていたウルトラマン三人から光弾が発射され、オーブを取り囲んでいたデアボリックたちを弾き飛ばした!

 エックス、ギンガ、ビクトリーの三人が復活したのだ!

 

「やったぁぁぁっ!」

 

 喜ぶ未来たちの後ろで、ジャグラーたちは苦笑しながらひっそりと立ち去っていった。

 

『「エックスさんたち! ありがとうございます!」』

 

 オーブが三人の元へ向かい、律子が礼を述べた。エックスはオーブに告げる。

 

『君たち皆のあきらめない心が、私たちの光を呼び戻したんだ!』

『「ギンガ兄ちゃん! ビクトリー兄ちゃん! はじめましてー!」』

『「いつも二人のカードにお世話になってまーす!」』

 

 亜美と真美ははしゃぎながら本物のギンガとビクトリーに挨拶した。ギンガがはにかむ。

 

『「元気な子たちだな。よしッ、一緒にあいつらやっつけようぜ!」』

『「俺たちと、お前たちの絆を見せる時だ!」』

 

 並び立つ四人のウルトラ戦士。宇宙人たちの方にもガッツ星人が巨大化して加わる。

 そして両陣営互いに光線を撃ち合いながら突撃し、正面からぶつかり合った!

 

「ショオラァッ!」『ぬぅぅッ!』

「テヤァッ!」『いやりゃあッ!』

「イィィッ! シェアァッ!」『ふぅぅぅんッ!』

「ウゥッ! シュアァッ!」「グギャアァァァ――――!!」

 

 ギンガとテンペラー星人、ビクトリーとヒッポリト星人、エックスとガッツ星人、そしてオーブとデアボリックが衝突! 各個に激しく格闘する様を、未来たちが魅せられたようにカメラに撮り続ける。

 その途中で、未来たちは自分らの姿もカメラに入れながら、ネットから視聴している人たちに向けて呼びかけた。

 

「これを見てる皆さん! 皆さんの声を、ウルトラマンに届けて下さいっ!」

「わたしたちと一緒に、ウルトラマーン! 頑張れー! って応援して!」

「皆さん! 行きますよっ!」

 

 

「ウルトラマ―――――ンっ!! 頑張れぇぇぇ――――――――っっ!!!」

 

 

 あなたたちの応援の言葉に応えるように、美希がスラッシャースターを握り締めた!

 

『「ゾフィーっ! ティガっ!」』

『ヘアッ!』『タァーッ!』

「『フレッシュ87フラッシュ!!」』

 

 カラータイマーからまばゆい閃光が発せられ、マガタノデアボリックの全身にスパークを引き起こす!

 

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 デアボリックは身体を支え切れなくなって倒れ込んだ!

 

『ぬぅぅぅ……! こうなれば秘密兵器ですッ!』

 

 エックスに押し飛ばされたガッツ星人が手を掲げると、頭上にキングジョーのパーツの円盤がワープしてきた。

 

「フッ!?」

 

 しかもただのパーツではない。ガッツ星人に纏わりついて、その身体を覆う鎧となったのだ! 頭部の上半分がキングジョーの兜で包まれたガッツ星人が言い放つ。

 

『これで私はキングガッツ星人です。宇宙最高の鎧を纏った力、見せてあげましょう!』

 

 鎧を装着してパワーアップしたキングガッツに、ダイチは言い返す。

 

『「最高の鎧だったら、こっちにもあるぞ!」』

 

 デバイザーにウルトラマンとティガのデバイスカードを挿し込み、ベータスパークハートを展開する!

 

『ヘッ!』

『シェアッ!』

[ベータスパークハート、セットアップ]

「イィッ! シェアッ!」

 

 白銀のバリアジャケットを装着し、長杖を手にしたエックスの放つ桃色の輝きに照らし返されるキングガッツ。

 

『何と!?』

『「俺たちの創り上げた奇跡、その身に受けてみろッ!」』

『小癪なぁッ!』

 

 ギンガとビクトリーに押し返されたヒッポリト星人とテンペラー星人は詰め寄り、ヒッポリト星人が呼びかけた。

 

『こちらも奥の手だ! いざヒッペラー星人に!』

『それを言うならテンポリト星人だろう!』

『何言ってんだ!』

『何だよ!』

『俺の方が先輩だぞ!』

 

 言い争っている間にギンガとビクトリーは宙に飛び上がって攻撃してくる。

 

『「ギンガサンダーボルト!」』

『「ビクトリウムスラッシュ!」』

『ぎゃああああッ! えぇいもう何だっていいッ!』

『合体だぁぁッ!』

 

 ヒッポリト星人とテンペラー星人が互いのエネルギーと生体情報を混ぜ合わせ、両者を足して二で割らなかったようなゴチャゴチャした一人の宇宙人に合体した!

 

『『ハッハッハーッ! 凄まじいパワーだぞぉ! こいつでねじ伏せてやるッ!』』

 

 だがギンガとビクトリーは失笑した。

 

『「打算だけの合体で俺たちを上回れると思ったら大間違いだぜ!」』

『「真の合体がどういうものかを教えてやる!」』

『「「見せてやるぜ! 俺たちの絆ッ!!」」』

 

 ヒカルのウルトラフュージョンブレスに、ショウがビクトリーランサーを重ね合わせる。

 

『「「ウルトラターッチ!!」」』

 

 ギンガとビクトリーの身体も重なり、一人のウルトラマンとなって降り立つ!

 

『「「ギンガビクトリー!!」」』

 

 全身から半端ではないエネルギーの波動を発するウルトラマンギンガビクトリーに、ヒッポリト星人とテンペラー星人による合体星人は一瞬たじろいだ。

 

『『く、くそぉぉぉ……! 負けてなるものかぁぁぁッ!』』

 

 エックス・ベータスパークハートとキングガッツ、ギンガビクトリーと合体星人が改めて激突し、戦いはヒートアップしていく!

 

「すごいすごーい! あっちもこっちもパワーアップ!」

「いっけぇ―――っ! ウルトラマぁーンっ!」

 

 未来と翼が興奮し切って応援を飛ばすが、その時静香があらぬ方向を指差した。

 

「み、見てあれっ!」

 

 その先には、最初にオーブにバラバラにされたサデスのパーツが転がっているのだが――その腕がピクリと動いたのだ!

 そして全てのパーツが集まっていき、サデスが再生する!

 

『まだイケるまだイケるよぉッ! こんな熱い展開に、死んでる暇なんかな―――いッ!!』

 

 完全に復活したサデスは雄叫びを上げながら、マガタノデアボリックの背後に回り込んだ。

 

『よし行くぞッ! しっかり頼むぞッ!』

 

 後ろからデアボリックを叩いて呼びかけると、背面にある穴状の突起に腕を突っ込んだ。

 

『マガタノデアボリックキャノン、スタンバイ!』

 

 サデスの操作によって、デアボリックが大口を開けてその中からひと際巨大な砲身が突き出た!

 これを一瞥したダイチが目を見張る。

 

『「あれはッ! 一撃で大都市を焦土に変えたという、デアボリックの主砲!!」』

「ッ!!」

 

 その言葉を聞き止めて足を止めるオーブ。

 

『ウルトラマンオーブ、ロックオォンッ!』

 

 発射阻止はもう間に合わない。サデスはオーブに照準を合わせて、発射準備を済ませている。

 

『「コスモスさんっ!」』

『テアッ!』

 

 その代わりに響がスラッシャースターを握り、浅葱色に輝かせた。

 

『撃てぇぇぇ――――ッ!!』

「『ライトムーンバリア!!」』

 

 放たれた暗黒の大砲撃を、オーブは浅葱色のバリアで受け止める!

 

「ウッ、グッ……!」

 

 必死で持ちこたえるだが、バリアは耐え切れずに砕かれてしまう!

 

「ドワアアアァァァァァァァァァァァッ!!」

 

 バリアで減衰してなお、砲撃はオーブを吹っ飛ばしてビルを突き破り、高層ビルに叩きつけて丸ごと倒壊させるほどの破壊力であった!

 

「お、オーブぅぅぅぅぅぅぅ―――――――――!!!」

 

 たまらず悲鳴を上げる未来たち。オーブは崩壊したビルの瓦礫の上に倒れ、カラータイマーを鳴り響かせていた。

 だがサデスは容赦なく次撃の装填を行う!

 

『まだイケるだろう!? ここで頑張らないと、ゲームオーバーだぞぉー!?』

 

 マガタノデアボリックキャノンに闇のエネルギーが充填されていく。しかしオーブはダメージが大きく、起き上がれずにいる。

 

「ウゥゥ……!」

『「うっ、うぅ……!」』

 

 アイドルたちも苦痛にあえいでいると――オーブの顔の側に、一人の男性が歩み寄ってきた。

 

「お困りのようだね!」

 

 男性の姿に、千早があっと口を開いた。

 

『「あの人は……さっき助けてくれた……!」』

『あなたは、誰です……?』

 

 オーブが問いかけると、男性は千早の時と同じ返答をした。

 

「誰でもない。ただの、風来坊さ!」

 

 そして懐から――真紅のグラスを取り出し、己の顔に身に着けた!

 

「デュワッ!!」

 

 男性――モロボシ・ダンの姿が頭から真紅の戦士に変身していき、巨大化してオーブの側に立ち上がった!

 オーブと千早たちは、一枚のカードと同じ勇姿に驚愕した。

 

『あなたは!?』

 

 戦士の名前を、ガッツが、エックスが、ヒカル、ショウが、ムルナウが叫ぶ。

 

『セブンッ!』

『セブン!?』

『「セブン……!」』

『「セブン!」』

「セブンっセブンっセブンっ!! 忌々しい~! こうなったらあいつもやっておしまいっ!!」

 

 命令するムルナウだが、千早はウルトラセブンを熱く見つめていた。

 

『「お母さんを救ってくれた人……! 私に命と、歌声をくれたっ!!」』

 

 千早の沸き上がる感情によってオーブの力が戻り、両の足で立ち上がった!

 

『「セブンさんっ! マックスさんっ!」』

『『ジュワッ!』』

 

 千早が握り締めたスラッシャースターが青く輝き、スラッガーに変化する。

 

『発射ぁぁぁぁ――――――ッ!!』

 

 サデスがマガタノデアボリックキャノンを撃ってきたが、オーブとセブンは同時にスラッガーを投擲!

 

「『ブルースラッガーソード!!」』

「デュワァッ!」

 

 二つのスラッガーが暗黒光線を切り裂いて進み、サデスの腕を切断する!

 

『うわぁぁ――――――ッ!? 手ッ、手ぇッ!!』

 

 文字通りサデスから切り離されたデアボリックは支えがなくなって転倒した。

 

「『ウルトラセブンさん……!」』

 

 呼びかけたオーブと千早に、セブンはおもむろにうなずき返した。

 腕を切り落とされたサデスだがすぐに立ち上がる。

 

『流石生涯現役ぃッ! そう来なくっちゃ面白くないぜぇッ!』

 

 新しく腕を生やしたサデスが全身でセブンに飛び掛かっていくが、受け止められて地面に叩きつけられた。

 

「デュワッ!」

『うあっちゃあッ!?』

 

 セブンはそのままサデスと格闘。この様子に、ムルナウはいよいよ怒りが頂点に達した。

 

「おのれぇぇぇ~どいつもこいつもぉぉぉぉ~! こうなったら、容赦なしよぉぉっ!」

 

 円盤からオーブに叫びつけるムルナウ。

 

「オーブっ! 宇宙を見てみなさいっ!」

「フッ!?」

 

 空を見上げたオーブは――超視力で、地球の衛星軌道上に恐ろしいものを発見してしまう。

 

『あ、あれは……!?』

 

 何と宇宙空間に、おびただしい数のバルタン星人が待機しているのだ!

 

「フォフォフォフォフォフォフォフォフォフォ……!」

「万が一の時のために、ダークリングで召喚しておいたバルタン星人の大群よ! こいつらに地球全土を襲わせてやるっ! どんな力があろうとも、違う場所には手出しできないでしょう!」

 

 ムルナウは最早何もかもをかなぐり捨て、一切の手段を選ばずオーブたちに報復しようというつもりであった!

 

「地球はあんたたちのせいで壊滅するのよ! ざまぁみなさいっ! オーホホホホホホっ!!」

 

 狂気の高笑いを上げるムルナウだったが――そのバルタン星人の大群に、いきなり光線が浴びせられた!

 

「フォオッ!」

「な、何事!?」

 

 動揺したムルナウが確認すると――宇宙にいるのはバルタン星人だけではない。ウルトラマンゼロが、バルタン星人に攻撃したのだった!

 

『へッ……待たせたな!』

 

 ゼロはオーブにテレパシーで呼びかける。

 

『オーブ! こっちは任せな! 仲間、連れてきたぜ!』

 

 そしてバルタン星人に立ち向かうのはゼロだけではない。彼の後ろに――ミッドチルダの管理局の次元航行船団が陣形を整えていた!

 宇宙空間広域にフィールドが張られ、魔導師たちも大勢船の外に出てバルタン星人の軍団と対峙している。その内の一人が、ダイチに通信で呼びかけた。

 

『ダイチくん、聞こえてる!?』

『「なのはさん!」』

『地球には一切手出しさせないから! そっちも、必ず勝って!』

『「……分かりました! みんな、ありがとうッ!」』

 

 ダイチは駆けつけてくれた仲間たちに気持ちいっぱいの感謝の言葉を告げ、改めてキングガッツと激突する。

 

『よぉーしみんな! 行っくぜぇぇぇーッ!』

 

 ゼロの鬨の声を合図に、別世界から地球の危機を救いに集った魔導師たちは一斉にバルタン星人と交戦する!

 

「ちっくしょおおおおぉぉぉぉぉぉぉぉぉ――――――――――っ!!」

 

 思惑の全てを打ち破られたムルナウは、ただただ地団太を踏む以外になかった。

 いくつもの世界から、たくさんの仲間に支えられているオーブは、熱くたぎる感情を胸にパワーを回復させる。

 

『ここが俺たちの、最高のステージだ! ラストスパート、決めていくぞぉぉッ!!』

『「「「「「「「はいっっっ!!!」」」」」」」』

 

 アイドルたちの応答とともに、オーブはもう一度マガタノデアボリックに向かっていった!

 



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Destinyのその先へ

 

「デュワッ!」

『おぉりゃあッ!』

 

 ウルトラセブンはサデスと激しくもつれ合いながら格闘。サデスが全身でセブンに飛び掛かっていく。

 

「ダーッ!」

『うおぉぉッ!?』

 

 しかし受け止められ、巴投げで地面に叩きつけられた。

 

『ぐぅぅ……!』

 

 すぐに起き上がって再びセブンに向かうサデスだが、その胸に鋭いチョップをもらう。

 

「デュワッ!」

『うぐぉッ!?』

 

 ひるんだところを狙って、セブンの強烈なココナッツクラッシュ!

 

「ダーッ!」

『うおっちゃあぁッ!!』

 

 流石に効いてよろめくサデスだが、それでも立ち上がってくる。セブンの方も負けじとファイティングポーズを取り直して戦意を表した。

 

「デュワッ!」

『ぬぅーッ!』

 

 その間、オーブはマガタノデアボリックに正面からぶつかっている。

 

『「ダイナさん! メビウスさん!」』

『ジュワッ!』『タァッ!』

 

 やよいがオーブスラッシャースターを握り、両腕を斜めに大きく振り抜いた。

 

「『オレンジライトニングサイクラー!!」』

 

 放たれたオレンジ色の大型光刃が、デアボリックのキャノンの右腕を真っ二つにする!

 

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 片腕を失ったデアボリックは左腕の機関銃を乱射してくるが、やよいはスラッシャースターを雪歩に渡していた。

 

『「ガイアさん! ネクサスさん!」』

『ジュワァッ!』『ヘアッ!』

 

 オーブはその場で高速スピン。そして、

 

「『ホワイトフォトンフェザー!!」』

 

 スラッシャースターから発射された無数の白い光刃が弾丸を相殺し、更に機関銃も粉砕した!

 

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 両方の腕を失ったデアボリックだが、代わりのように全身から触手を伸ばして反撃。だがオーブは空中に飛び上がって回避した。

 

「グギャアァァァ――――!!」

 

 すかさず怪光線を吐いて追撃するデアボリックだが、律子がスラッシャースターを握り締める。

 

『「ヒカリさん! エックスさん!」』

『テェアッ!』『トワァッ!』

「『グリーンナイトアタッカー!!」』

 

 オーブが四肢をX字に伸ばすと、全身から緑色のクリスタル状の光線が発射され、怪光線を押し返してデアボリックに命中!

 

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 デアボリックは身体中の触手が千切れて転倒。サデスの方も、セブンのドロップキックをまともに食らって吹っ飛ばされた。

 

「ダァーッ!」

『うおおおぉぉぉぉぉぉぉッ!!』

 

 同時に倒れたサデスとデアボリックはよろめきながら肩を寄せ合う。

 

『セブンのキック、効っくぅぅぅ……!』

 

 オーブとセブンも並び合って、サデスたちと対峙し直した。

 オーブたちが戦っている一方で、エックスたちも敵宇宙人と激闘を繰り広げている。

 

『はぁぁッ!』

「テェェェェアァッ!」

 

 エックスはデータスパークザンバーを大きく振り下ろし、キングガッツの装甲に深々と刀傷を刻み込んだ!

 

『ぬあぁぁッ!? こ、この防御力が意味をなさないとは……! ぐぅッ!』

 

 再び斬りかかってくるエックスだが、キングガッツは分身能力を発動して回避。更に瞬く間に六体に増殖してエックスを取り囲んだ。

 

『ぬうぅぅぅッ!』

 

 六方向から破壊光線を浴びせるキングガッツ! だがエックスは上空へと飛び上がって逃れていた。

 

『「一気にケリをつけるぞ、エックス!」』

『了解だ!』

 

 反転して地上のキングガッツを見下ろしたエックスは、ベータスパークハート・ブラスターモードを構えて六体のキングガッツの中心に照準を合わせた。

 その彼の身体に、はるか上空から光が降り注いで吸収されていく!

 

『何と!?』

 

 衛星軌道上で戦っている魔導師たちの光が、エックスに集まっているのだ!

 そしてエネルギーをフルチャージしたエックスが、杖の先端にまばゆく輝いた虹色の光より砲撃を発射する!

 

「『ベータスパークライトっ! ブレイカぁぁぁぁぁ――――――――――っっ!!」』

 

 地表に着弾した砲撃が、六体のキングガッツを全て巻き込む大爆発を起こした!

 

『ひぎゃああああぁぁぁぁぁぁ―――――――!!』

 

 光の爆撃はキングガッツのみを消し去り、エネルギーを全て放出したベータスパークハートはエックスの身体から解除されたのであった。

 同じ時に、ギンガビクトリーはヒッポリト星人とテンペラー星人による合体星人と互角以上の勝負を展開していた。

 

『『むぅんッ!』』

 

 合体星人がハサミから光のムチを伸ばして振るってくるが、ギンガビクトリーは動じずに反撃を行う。

 

『「「ウルトラマンメビウスの力よ!!」」』

『セアッ!』

 

 メビウスのビジョンを呼び出して、ともに両腕を頭上に掲げてメビウスの輪を作る。

 

『「「メビュームシュート!!」」』

 

 浅い十字に組んだ腕から撃たれた光線が、光のムチを切り裂いて合体星人に着弾!

 

『『うがぁッ! おのれぇッ!』』

 

 のけ反った合体星人が長い口吻から火炎弾を連射するも、ギンガビクトリーは次にティガのビジョンを生じさせた。

 

『「「ウルトラマンティガの力よ!!」

『ヂャッ!』

『「「ゼペリオン光線!!」」』

 

 ゼペリオン光線は火炎弾を弾き返しながら進み、合体星人に更なるダメージを与えた!

 

『『ぐわあああぁぁッ!』』

 

 合体星人を追い詰めるギンガビクトリーだが、長く戦っていることでカラータイマーが赤く鳴り始めた。

 

『「そろそろ日が暮れるな! 行くぜ、ショウ!」』

『「ああ! 行くぞ、シェパードン!」』

 

 ギンガビクトリーの左手に、呼びかけに応じて地中から飛び出してきたシェパードンセイバーが収まった。そして右手にはギンガスパークランスが握られる。

 

『「「これで決める!!」」』

 

 シェパードンセイバーとギンガスパークランス。双方を前に突き出して切っ先を合わせることで、莫大なエネルギーの螺旋状光線を発射する!

 

『「「ギンガビクトリーアルティメイタム!!」」』

『『はぁッ!? でぇぇぇぇぇッ!!』』

 

 合体星人も最大威力の光線を発射。両者の光線はぶつかり合って押し合いになるが――ギンガビクトリーの気合いが上回り、合体星人を打ち破った!

 

『『うぎゃああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!』』

 

 爆炎の中に消えた合体星人を見届けて、ギンガビクトリーは元のギンガとビクトリーに分離したのだった。

 

「ジュワッ!」

「オリャアッ!」

 

 セブンとオーブは立ち位置を入れ替え、セブンがマガタノデアボリックを、オーブがサデスの相手をする。

 

「ダーッ!」

 

 セブンが巧みな格闘技の連続でデアボリックを抑え込んでいる間にオーブはスラッシャースターでサデスの剣と切り結ぶ。だがスラッシャースターが回転すると、その勢いで剣を弾き返してサデスの腕にスラッシャースターを押しつける。

 

『痛い痛い痛い痛いッ!!』

「オォォッ! シェアッ!」

 

 スラッシャースターの振り下ろしが決まり、サデスに縦一直線の衝撃が走った!

 

『うわぁぁぁーッ!』

 

 サデスもデアボリックも全身ボロボロで、三大宇宙人も既に倒された。完全に追い込まれたサデスであったが、それでも嬉々としていた。

 

『ピンチこそ最大のチャンスぅ! リミッター解除ぉ!』

 

 剣を投げ捨ててデアボリックの背後に回り、再度マガタノデアボリックキャノンを起動。

 

『ファイナルブーストチャージッ!!』

 

 砲身にエネルギーを充填させる。しかも今度は先ほど以上のエネルギーであり、キャノンが焼きつきそうなほどである。

 だがオーブは決して恐れない。春香がスラッシャースターを受け取り、強く握り締めた。

 

『「ウルトラマンさんっ! ベリアルさんっ!」』

『シェアッ!』『フエアッ!』

 

 掲げたスラッシャースターを中心に、赤い光と闇の巨大光輪が形成される!

 

『てぇぇぇ――――――――ッ! おらおらおらおらぁぁぁぁぁ――――――ッ!!』

 

 それを、相手の砲撃と同時に投げ飛ばした!

 

「『レッドサンダー光輪!!」』

 

 巨大光輪は暗黒の砲撃を切り裂きながら突き進み――デアボリックとサデスまでも両断した!

 

『うっぎゃああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 真っ二つにされたサデスだが、それでもデアボリックから腕を離していない!

 

『まだイケるッ! まだやれるぅッ!! デアボリックぅぅぅぅッ!』

「グギャアァァァ――――!!」

 

 サデスの操作によって、デアボリックがガコンッ! と不気味な音を立てた。

 

『リミッター全解除ッ! お前の全てを燃やし尽くせぇぇぇぇぇぇッ!!』

「グギャアァァァ――――!! ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 そしてマガタノデアボリックの肉体から、暗黒のエネルギーが放出されて八つ首の蛇に変わっていく。ただならぬ様子だ!

 しかし、セブンはオーブに告げる。

 

『今こそ、絆の力を使う時だ。行け、ウルトラマンオーブ!!』

『分かりました!』

 

 オーブが前に出て、そして春香がスラッシャースターを高く掲げると、全アイドルも腕を高々と伸ばす。

 

『「これが、私たちのマスターピース!!」』

 

 春香の宣言とともに、アイドルたちの胸の内からそれぞれのカラーの光が発せられ、オーブスラッシャースターに集まって極彩色に光り輝いた!

 

『行けぇぇぇ―――――――――ッ!!』

「ピュウオ――――――――――ッ!!」

 

 輝くオーブに向かって、マガタノオロチが怨念の咆哮を上げ猛然と突進してきた!

 オーブはそれに向けて、全身から光線を放つ!

 

「「「「「「「『レインボーミラクル光線!!!!!!!!」」」」」」」』

 

 極彩色の絶大な光のロードは、暗黒の八つ首の蛇を呑み込み返す!

 

「ピュウオ――――――――――ッ!!!」

 

 マガタノオロチが光の中に消滅していき、絆の光はサデスを、デアボリックを、宇宙船のムルナウをも覆い込んだ。

 

『燃え尽きるぅぅぅ―――――ッ!! でも僕、大満足だよぉぉぉぉぉ――――――――――ッ!!!』

 

 サデスはぐっと両手の親指を立てながら消えていき、

 

「あぁぁぁ―――――――――――っ!? う、美しすぎるぅぅぅぅぅぅ――――――――――――――――――っ!!!」

 

 ムルナウの宇宙船も街の向こうに墜落。

 

「グギャアァァァ――――! ウオオォ――――ン!」

 

 最後に、デアボリックが跡形もなく爆ぜ散った。

 

「やっっったあああぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――――っっ!!」

 

 ウルトラマンオーブたちの完全勝利に、未来たちは輪を作ってあらん限りの声で喜びを分かち合ったのだった。

 

 

 

『シャイニングエメリウムスラッシュ!!』

「エクサランスカノン、フルバーストぉっ!!」

 

 宇宙空間で、シャイニングウルトラマンゼロとなのはの光線がバルタン星人の数十体を纏めて吹っ飛ばした。しかし、宇宙の大戦はそれを最後に幕切れを迎える。

 

「フォッフォッフォッフォッフォッ……!」

 

 バルタン星人の全員が突然動きを止め、背後に開いた空間の穴に吸い込まれるように飛び込んでいったのだ。その様子を驚いて見つめる魔導師たち。

 

『敵異星人、全て撤退していきます! これは……!』

『へッ……どうやら終わったみたいだな』

 

 ゼロがひと言つぶやくと、なのはは地上に向けて通信をつないだ。

 

「ダイチくん、スバル、こっちは終わったよ」

『なのはさん、こちらも終わりました!』

 

 残存のムルナウ一味の宇宙人を全て捕縛したスバルが返答。なのははにっこり微笑んだ。

 

「作戦完了! お疲れさま」

 

 

 

 すっかり夜の帳が下りた中、オーブはセブン、エックス、ビクトリー、ギンガの四人と面と向かった。

 

『皆さん……ありがとうございました』

 

 オーブが謝礼を告げると、セブンがぐっと手を握りながら言った。

 

『この星に生きる人々の信頼と絆が、我々に一番大きな力を与えてくれる! それこそが、光の力なのだよ!』

『「俺たちはみんな、この星空の下でつながってる!」』

『「困った時は、いつでも呼んでくれ」』

 

 ギンガとビクトリーもそう語ると、ウルトラ戦士たちはオーブの中の春香たちに、地上の未来たちをじっと見つめた。

 

『君たち、最高のユナイトだった!』

『「765プロのみんな、一緒に戦えて良かった」』

「生きる世界は違っても、みんな頑張って夢を実現していこうね!」

 

 エックスとダイチ、エックスの手の平の中のスバルが告げると、未来が大きな声で返答する。

 

「地球を救ってくれて、どうもありがとうございまーすっ!」

 

 その声にうなずくオーブたち。そこに宇宙から、ウルティメイトゼロがテレパシーで呼びかけてきた。

 

『みんな! 俺はそろそろミッドの人たちを送り帰すぜ。親父たちも、そろそろ引き上げたらどうだ!』

 

 それに応じるように、春香がオーブに呼びかける。

 

『「プロデューサーさん、私たちもそろそろ帰りましょう!」』

『ああ……!』

 

 オーブがうなずいたのを合図とするように、五人のウルトラ戦士は夜空に向かって勢いよく飛び上がり、それぞれの世界へと帰っていく。

 

「ありがとうござまーすっ!」

「ありがとーッ!」

「さよーならー!」

 

 未来たちは大きく手を振って、帰還していくウルトラ戦士を見送ったのであった。

 

 

 

 ――事務所へと帰る前に、春香たちは宇宙船の墜落現場に足を運んでいた。

 そこで待っていたのは、ひと足先に来ていたガイと――宝石と化して横たわっているムルナウだった。

 

「……その人、自分が宝石になっちゃったんだね」

 

 美希が静かに聞くと、ガイは無言で首肯した。

 

「……ムルナウは、純粋な人だった。本当の美しさが何かを知っていれば、こんなことにはならなかったのにな……」

 

 ガイの訥々とした言葉を耳にしながら、アイドルたちは粛々とムルナウを見つめる。

 

「永遠に美しくあり続ける物なんてない。次の世代を信じ、命を託す。その願いのリレーが、永遠なのだから」

 

 そう言い切ったガイは、ハーモニカを奏でながらムルナウに背を向ける。

 春香たちはムルナウに黙祷を捧げて、ガイの後について事務所に帰還していった。

 

 

 

 長く激しい戦いが終わり、一夜が明けると、765プロのアイドルたちは――。

 

「ふうぅぅ~……いい湯加減ですぅ」

「戦いの疲れが癒やされてくぞぉ~」

「まこと、良い心地です……」

 

 全員で銭湯を訪れて、朝風呂に浸かっていた。やよい、響、貴音が長く吐息を漏らすと、小鳥が皆に労いの言葉を掛ける。

 

「みんな、本当にお疲れさま。全員そろってのフュージョンアップは興奮したわぁ! 未来ちゃんたちも、お疲れさま」

「ありがとうございますっ!」

 

 未来が礼を返すと、翼は美希にじゃれついた。

 

「まさか美希さんたちがオーブだったなんて~! わたしもオーブになっていいですか? ってか今すぐなりたいですっ!」

「え~? ダメだよぉ遊びじゃないんだよ?」

 

 翼と談笑する美希。静香は、真剣な面持ちで律子に質問していた。

 

「それにしても、人間が一瞬であんなに大きく変身するなんてどういう原理なんですか? 質量はどこから来てるんでしょう?」

「その点については、私も研究中で……」

「真美~! 競争だよぉ~!」

「まっけないぞ亜美~!」

「こらそこの二人! お風呂で泳がないの!」

 

 律子が言葉をさえぎって、亜美と真美に注意した。

 伊織は湯船に浸かりながら、大きくため息を吐く。

 

「それにしても、ほんとあんたたちには驚かされたわよ――麗華」

 

 傍らに浸かっている麗華たち三人にそう呼びかける伊織。

 

「一体どういう経緯で、ジャグラーなんかと組んだ訳?」

 

 その質問に、不敵に笑いながら答える麗華たち。

 

「ふふっ。プロデューサーの方から私たちに接触してきてね。憧れてたものに裏切られた私たちに親近感を覚えたとか言って」

「最初は誰よこの胡散臭い男って思ったものだけど、プロデューサーが見せてくれた世界はとにかくすごくって! すっかり魅了されちゃったんだよね~」

「それで、プロデューサーについていくことを決めたの」

 

 満足げな三人に、あずさがふと尋ねかける。

 

「でもあなたたち、これから大丈夫なの? ジャグラーはお尋ね者よ。それを渋川さんに見られちゃったのだから……」

「そうなのよねぇ。今までの私たちの不正もいずれ明るみに出るでしょうし、今までのようにアイドルやるのは厳しいわね」

「いっそのこと、地球を飛び出して宇宙デビューしちゃおっか! 闇のヒールアイドルってのも面白そうじゃない?」

「いいかもね、それも」

 

 りんの提案に乗り気になるともみと麗華。

 

「私たちに地球は狭すぎる! なーんて」

「あはははははは!」

 

 破顔する魔王エンジェルを、真と千早はジトーと目を向けていた。

 

「……何か、とんでもないこと話し合ってるよ、あの人たち」

「私たちより先に宇宙デビューしようなんて……」

「でも、いいんじゃないかな? 人の夢は、人それぞれなんだから」

 

 雪歩の言葉に、春香がうなずいた。

 

「そうだよね。誰にでも、夢に向かってまっすぐ進む権利はある。どんな人にも、光を掴める可能性がある――」

 

 

 

 男湯の方では、高木がガイと話し合っている。

 

「そうか、再び旅立ってしまうのか……。どうせなら、ゆっくりしていけばいいのに」

「お心遣いはありがたいですが……俺もまだ旅の途中です。今回は、あくまで途中で起こったイレギュラー。それに対処しに来ただけですから」

「正義の味方も忙しいものだ……。しかし、落ち着いたらまたいつでも帰ってきてくれていいからね! 我が765プロは、いつでも君を待っているぞ!」

「ありがとうございます……!」

 

 高木の厚意に感謝しているガイだが、そこに水を差すように呼びかける声が。

 

「ふッ……そうやってあいつらを放っておいていいのかな? ガイ」

「ジャグラー……!」

 

 ジャグラーもまた、湯船に浸かっていた。ニヤニヤ笑いながらガイに告げる。

 

「俺もプロデュース業を始めたんだ。今度はアイドルプロデュースで勝負を挑むつもりだったんだが、お前がこのまんまプロデュースから離れるってのなら、俺の不戦勝ってことになるなぁ~! ハッハッハッハッハッ!」

 

 愉快そうに高笑いしたジャグラーに、少々むっとしたガイは、

 

「……女の子を三人も侍らせてるって、ビランキに言いつけるぞ」

「おいそれだけはやめろ」

 

 珍しく色をなくすジャグラーであった。

 

 

 

「ふ~。いいお湯だった!」

「やっぱり銭湯はいいですね~」

 

 風呂を上がり、銭湯から出てきた春香たち765プロの一団の元に、渋川が自転車でやって来た。

 

「よッ、みんな! 風呂上がりかい? 色っぽいね~」

「おっちゃーん、褒めても何も出ないよ~?」

 

 などと言いながら満更でもなさそうな亜美。しかし、

 

「ところでガイ君は? 一緒じゃねぇの?」

「あれ?」

 

 この中にガイの姿だけがないので、皆キョロキョロ辺りを見回した。

 

「社長、ご一緒だったんじゃ?」

「さっきまではそうだったんだがねぇ……」

 

 小鳥の問いかけに首をひねる高木。すると、春香が声を上げた。

 

「あっ! あそこ!」

 

 ガイは一人、川縁に沿いながらどこかへと立ち去ろうとしていた。そこに追いすがる春香たち。

 

「おーい! 風来坊!」

 

 渋川の呼びかけで振り返ったガイに、千早たちは呼び止めはせずに、代わりに尋ねた。

 

「いつかまた、帰ってくるんですよね?」

「また、お会いしましょう!」

 

 雪歩の後に、美希が呼びかける。

 

「ミキたち、ずっと待ってる……ううん! いつかきっと、追いつくの!」

「ちょっとちょっと、追いつくってどういうこと……」

 

 伊織が突っ込もうとしたが、それをさえぎるように春香が口を開いた。

 

「ううん。私たちはみんな、あの太陽に向かってまっすぐ進んでる! だから、いつかプロデューサーさんに追いつくよ! だからそれまで、プロデューサーさん……」

 

 アイドルたちは声をそろえて、ガイへと告げた。

 

「お元気でっ!!」

 

 ガイはふっと笑い返すと、皆に言い渡した。

 

「あばよ」

 

 朝焼けに向かって去っていくガイを、春香たちは見送る――。

 

 

「あばよ!!!」

 

 

 

 

 

THE ULTRAM@STER ORB 特別編

『絆の力で、輝きの向こう側へ!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――惑星O-50、『戦士の頂』。ガイはオーブカリバーを掲げ、新しいミッションを授かる。

 

「……」

 

 そして宇宙のどこかで起きているトラブルに、ウルトラマンオーブを必要としている人たちの元へと旅立とうとするのだが、その寸前に彼の脇をジャグラーがすり抜ける。

 

「ガイ、お前が光であり続けるのなら、俺も闇であり続ける。光と闇は表裏一体、決して消えることはない。お前が光の戦士である限り、俺たちの戦いは続くんだぜ」

 

 不敵に笑みながらそう言い残して、ジャグラーは先に前へと進んでいった。

 その後から、ビランキが走ってきてガイに振り返る。

 

「紅ガイ、私だってあんたに挑戦し続けるわ! だって私の愛は永遠! あんたをやっつけて、必ずジャグラー様を振り向かせてみせるんだから! ジャグラー様、待ってぇ~!」

 

 言いたいだけ言って、ジャグラーを追いかけていくビランキ。

 しばらくその場にたたずんでいたガイだが――向かう先から、彼に呼びかける声が。

 

「プロデューサー、どうしたんですか?」

「早く行きましょう、プロデューサー!」

「うっうー! みんな待ってますよー!」

「あなたを待ってる人は宇宙中にいるんですから!」

「あらあら、早く私たちを導いて下さい」

「ぼやぼやしてると置いてっちゃうわよ!」

「ジャグラーたちに先を越されちゃダメですよ!」

「ほーら兄ちゃん、早く早くー!」

「もう待ち切れないよー!」

「いつまでも、どこまでも一緒なの!」

「自分たち、運命の先にまで歩き続けるぞ!」

「さぁ、出発の時です」

 

 顔を上げたガイに、彼女たちが手を差し伸べる。

 

「プロデューサーさん、進みましょう! きらめくステージへ!」

 

 ガイの口元が綻び、一歩を踏み出した。

 

「ああ! 行こうか!」

 

 そして、『彼ら』は向かう。

 星の(ステラ)ステージへ――!

 

 

 

『渡り鳥たち、宇宙(そら)を行く』

 

 

 

 

 




 




次回予告!



――千早が前人未到のステージに進出! そこは何と……!

高木「如月君、君の次のステージは火星だ!」
千早「火星!?」

――しかしそれに文句を言ってくる宇宙人が現れた!

のヮの『私はノノワン星人エリーコォ将軍! 宇宙一の山賊だぁ!』
全員「?」

――エリーコォ将軍の恐るべき隕石攻撃が襲い掛かる!

雪歩「ドロップしてくるコンペイトウは全てレモン以上です!」
春香「うわぁそのネタ懐かしい!」

――ビートル隊は一丸となって千早のシャトルを火星に飛ばす!

渋川「地球の未来を頼んだぜぇッ!」
千早「私、火星に何しに行くんですか!?」

――火星に到着した千早たちを待っていたのは――!

律子「これが私の開発した人型決戦ロボット、キサラギよ」
千早「歌を歌うんじゃなかったの!?」

――人類の希望キサラギ! しかし一つ重大な欠陥があった……!

律子「コックピットが狭いのよ」
ガイ「どうしてそんな……!」
律子「設計ミス」
ガイ「……」(前に振り向き)

――そのため、キサラギの搭乗者になれるのは千早だけなのだ!

律子「バストが72センチ以下の人じゃないと乗れないのよ」
千早「どういう理屈!? それに別に私じゃなくてもいいじゃない!」

――千早を無理矢理押し込み、キサラギは発進! 巨大隕石に向かっていく!

モニター『たぶん10キロメートルくらい』
千早「適当!!」

――窮地のキサラギを救ったのは、伝説のキャプテン・あずさ!

あずさ「男には、負けると分かっていても戦わなければならない時もあるわ!」
千早「あずささん女でしょ」

――火星基地に落下していく巨大隕石を押し返そうとするウルトラマンオーブ! そしてキサラギ!
――果たして、人類を救うことは出来るのか!?

千早「いやこれ絶対夢オチでしょう!?」

乞うご期待!



※この次回予告は全くの嘘偽りです。






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特別編『UNION!! みんなの願い!!』
Artificial Star


 

 

 

 

 

 ――奇怪な数列がビッシリと並ぶ不気味に赤い空の下、土ではない、燃え盛る鋼鉄の大地が果てしなく広がっていた。その上には、廃墟のような建築物が立ち並び、やはり全てが無機質な鋼鉄で出来上がっている。明らかに、地球とは異なる異様な世界。

 更にその大地には、至るところに白い龍のようなロボットの残骸が転がり、その中央に、胸にリング状のカラータイマーを持った戦士――ウルトラマンオーブが十四人も集って、今は単体の敵と対峙していた。

 ウォォォォオオオオオ――――――ン……!!

 亀甲を背負った巨龍を象った、全身に砲身を生やした巨大ロボット怪獣! ――だが、その機体は既にオーブたちの猛攻によって破損箇所まみれであり、首は半壊して回路が露出している。

 

『「やっと、ここまで追いつめた……!」』

『「あともうひと踏ん張りだわ……!」』

 

 肩で息をするオーブ・スペシウムゼペリオンとエメリウムスラッガー――その中にいる春香と千早がうなずき合った。

 彼らはオリジナルのウルトラマンオーブ――プロデューサーの紅ガイと、彼と絆を交わして力を借りることの出来る765プロのアイドルたち。それが総出で、この機械の星の軍勢と一大決戦を展開していたのだ。

 

『みんな行くぞッ!』

 

 オーブオリジンが合図を出し、オーブカリバーの力を全て発揮する。

 

[解き放て! オーブの力!!]

『オーブスプリームカリバー!』

 

 立ち並ぶオーブたちの正面に光のリングが広がって、十四人が一斉に必殺光線を発射した!

 

『「スペリオン光線!」「ワイドスラッガーショット!」「クロスレイスペローム!」「ストビューム光線!」「クラッシャーナイトリキデイター!」「ストキシウムカノン!」「オーブランサーシュート!」「ナックルクロスビーム!」「ギンガエックスシュート!」「フォトリウムシュート!」「ゼペリジェント光線!」「マクバルトアタック!」「エメタリウム光線!」』

『オリジウム光ぉぉぉぉぉ線ッッ!』

 

 十四人の光が一つとなって巨大な光の奔流となり、巨龍を呑み込んだ! 重厚な機体は、跡形もなく破壊されていく――。

 

『「やった!! やりましたー!!」』

『「これで、全宇宙が救われるんですね……」』

『ああ……!』

 

 やよいが飛び跳ねて喜び、雪歩が安堵の息を吐く。それに首肯するオーブ――。

 しかし!

 

『――何!?』

 

 巨龍が消え去った後に、ふわふわと浮かぶ金属の球体。巨龍のコアである。

 それ自体には、傷一つついていなかった!

 

『そんな馬鹿な……! あれだけの攻撃を食らって……!』

 

 流石に動揺が走るオーブたちの見ている先で、コアの全体が不意にぶれてかき消えていく。コアだけでなく、オーブたちが立つ地面、引いては惑星全体が消失していっている。

 

『「デジタル化して逃げる気だわ! 早く捕獲を……!」』

 

 律子が叫んだがもう遅く、コアは惑星ごと消え失せ、そんなものはなかったかのように何もない宇宙空間の中にオーブたちだけが放り出された。

 

『……こいつは、思った以上にてこずりそうだな……』

 

 最早追跡することも叶わず、オーブオリジンはそうつぶやくのが精一杯であった。

 

 

 

THE ULTRAM@STER ORB 特別編

 

『UNION!! みんなの願い!!』

 

 

 

 M78ワールドの光の国、宇宙警備隊本部にて。

 

『巨大人工頭脳ギルバリスが、あらゆる宇宙の知的生命体を抹殺しようとしている』

 

 ゾフィー、ウルトラマン、ウルトラセブンの三大戦士に、ウルトラの父が告げていた。ゾフィーがウルトラの父に報告する。

 

『オーブたち765プロがギルバリスと交戦しましたが、ギルバリスは本拠地サイバー惑星クシアごと逃走。行方は掴めていません』

 

 ウルトラの母が皆に告げる。

 

『救助活動を続けている銀十字軍からの報告によると、ギルバリスは何かを探しているようです』

 

 ゾフィーとウルトラの母の報告を聞いたウルトラの父が、懸念するようにM78星雲の空を見上げた。

 

『何を狙っている……』

 

 

 

 消えた惑星の追跡を断念した765プロは、やむなく彼らの拠点、765プロ宇宙事務所に帰還した。外装は光の国の建物を模しているが、中身は彼女たちに最も馴染みのある、地球の765プロ事務所を再現している。

 亜美と真美が足をジタバタさせて喚いた。

 

「あーもー! やっとあそこまで追いつめたってのにー!」

「尻尾巻いて逃げるなんて男らしくないぞー!」

「性別なんてないだろうけどね」

 

 伊織が肩をすくめて突っ込んだ。

 皆も苦悶の表情を浮かべている中、あずさがガイに進言する。

 

「プロデューサーさん、ここで一旦状況を整理してはどうでしょうか?」

「ですね。律子、まとめ役頼む」

「はいはい」

 

 指名された律子がパンパン手を叩いて全員の注目を集めた。

 

「それじゃ、現在私たちが追いかけてる人工頭脳ギルバリスと、今のところまでの状況を再確認するわよ」

 

 律子がタブレットを使って空中に立体モニターを表示させる。その中に映し出されたのは、先ほどまで戦場だった鋼鉄の惑星と、それを操る巨龍のコア。更に白い龍人型のロボットの姿も表示された。

 

「これがさっきまで私たちが戦ってた、巨大人工頭脳ギルバリスとサイバー惑星クシア。これがどこからやって来たのかは現在不明だけれど、ギルバリスは知的生命体の抹殺を目的として宇宙をさすらい、既にいくつもの星を破壊してるわ。あのギャラクトロンも、ギルバリスが造り出したものだったということが判明してる」

 

 ギャラクトロンの名に、春香と美希が険しい顔となった。

 

「今回の戦闘で分かったのは、ギルバリスの機体は破壊できても、コアは異常なほど頑丈なことね。きっと、ウルトラマンの光線を全て弾いてしまうのよ。更にそこまで追いつめられると、惑星ごとデジタル化してサイバー空間に逃げ込んでしまう。こうなると追跡はほぼ不可能だわ。宇宙警備隊が何度も取り逃がしてるっていうのも、納得のいく話ね……」

 

 顎に指を掛けて、眉間に皺を寄せる律子。

 

「更に新しい情報によると、ギルバリスは同時に何か探し物をしてるみたい」

「その探し物って?」

「そこまでは掴めてないわ」

 

 真の問い返しに、律子は首を振って答えた。

 腕組みしてうなっていた響が発言する。

 

「今のまんまじゃ、いくらギャラクトロンをやっつけても何にもなんないぞ。ギルバリスをやっつける方法はないのか?」

「きっと、いえ、必ずどこかにはあるはずよ」

 

 律子が力強く返す。

 

「この世に絶対壊れない物質なんて存在しないわ。たとえば同じ物質同士をぶつければ、理論的には破壊は可能よ。問題は、ギルバリスのコアを構成する合金が不明ということなんだけど……」

「そもそも、ギルバリスはどこからやって来たからくりなのでしょう」

 

 貴音の口にした疑問に美希が同意した。

 

「それだよね。人工頭脳、っていうからには、最初に造った人がいるはずなの」

「律子、そこも分からないの?」

 

 千早が聞くと、律子は残念そうに頭を振った。

 

「それが、ギルバリスと惑星クシアに関連することは不自然なくらいに記録が残ってないのよ。恐らく、ギルバリス自身が消去してしまったんだわ」

「何でわざわざそんなことを?」

「そりゃあ、知られたらまずいことがあるからでしょう」

 

 真に律子がそう答えると、亜美と真美が肩を揺すり出した。

 

「んっふっふ~。その消された記録の中に、ギルバリスの弱点につながる何かがあるみたいですな~」

「ギルバリスの探し物も、それが関係してるかも! これが真美たち名探偵の名推理だ~!」

「それくらいの推理、誰にでも出来るでしょ」

 

 伊織がジト目でツッコんだが、

 

「はわっ!? そうなんだ~。亜美、真美、頭いいねー!」

「……やよい……」

 

 やよいが素直に驚いているのを見て、がっくり肩を落とした。

 なんてことをしていると、伊織の通信端末が着信を報せた。

 

「あっ、ちょっとごめんなさい。もしもし?」

 

 断りを入れてから通話する伊織。すると、スピーカーからの声は、

 

『はい伊織、久しぶりね。私よ、麗華』

「麗華! 電話なんかしてきて、今度は何の用よ」

 

 ある意味宿命のライバルである、魔王エンジェルの麗華からであった。とげとげしい口調の伊織に、麗華は電話越しにため息を吐いた。

 

『そんなつれない声出さないでよ。今宇宙を騒がしてるギルバリスを追ってるんでしょ? そのことで、いいことを二つ教えてあげようと思ったのに』

「え? それ、どういうことよ」

『伊織たちもギルバリスを取り逃がしたんでしょ? 実はその後に、ウチのプロデューサーがクシアに乗り込んだみたいなのよ』

「え!? ジャグラスジャグラーが!?」

 

 ジャグラスジャグラーの名前が出てきて、ガイたちの注目が一気に伊織に集まった。

 

『脱出は確認したけど、プロデューサーったら何の迷いもなく並行宇宙の地球に向かっていってるの。きっと何か掴んだんだわ。追いかければ、ギルバリスについて何か分かるかもよ?』

「……もう一つは?」

『記録が抹消されてるギルバリスの情報を持ってる人が、宇宙スラム街にいるらしいの。前にそこで情報屋を探してた三人組がいたんだって。色々と手詰まりでしょう? この二件を、追っかけてみるのもいいんじゃない?』

「何だってあんたがそんなこと教えてくれるのよ。また何かたくらんでるんじゃないでしょうね」

『ま、そこは自分で判断して。ともかく伝えたいことはそれだけよ。あとはがんばってねー♪』

「あっ、ちょっ……!」

 

 麗華は言いたいことだけ告げると、伊織が止めるのも聞かずに一方的に通信を切った。

 

「もう、自分勝手なんだから……」

「伊織、何て話だった?」

「それが……」

 

 ガイの問いかけで、伊織は皆に先ほどもたらされた話をかいつまんで報告した。

 

「ジャグラーの奴が……あいつ、どんな風の吹き回しだ」

「どうしますか? プロデューサー」

 

 雪歩が聞くと、ガイは少し考えてから結論を出した。

 

「ジャグラーがどこかの星に逃げ込んだのなら、その星が危ない。のんびりしてる暇はなさそうだ。二つのグループを作ろう。俺の方は宇宙スラムで情報屋探し、もう一方はジャグラーを追いかけてくれ」

「そうしましょう」

 

 律子がうなずき、話が纏まったところで春香が締めに入る。

 

「ギルバリスの秘密が何なのか、対抗する手段は何か……きっと、この件で明らかになると思う。今度こそ、みんなの力を合わせてギルバリスを止めよう! 765プロぉー……」

『ファイトぉーっ!!』

 

 春香の音頭でアイドルたちが声をそろえ、事件の解決に向けて再出発を始めた。

 

 

 

 春香、美希、あずさ、やよい、真、伊織の六名はガイとともに宇宙スラム街に向かい、残る千早、雪歩、律子、亜美、真美、響、貴音の七名は麗華から送られてきた情報を元に、ジャグラーの行方を追ってある惑星に到着した。その惑星とは――。

 

「またここに来るなんてね」

 

 千早が感慨深そうにつぶやいた。たどり着いた星は、以前にビランキを追いかけてやってきた、比企谷八幡という少年がウルトラマンジードと一体化してレイデュエスという悪と戦っていた地球であった。

 

「兄ちゃん姉ちゃんたち元気にしてるかなー」

「悪い人はやっつけられたのかな?」

「ネットの情報を見る限りだと、無事に決着がついたみたいね。それより……」

 

 タブレットで地球のネットニュースにアクセスしていた律子が、周りを見回しながらポツリとつぶやく。

 

「何で私たち、沖縄にいるの?」

 

 彼女たちの現在地は、沖縄県の中核都市、那覇市の片隅であった。

 

「確か、着陸場所決めたの響ちゃんだったよね?」

 

 雪歩のひと言で、皆の注目が響に集まった。

 

「何、響? 急に里帰りしたくなっちゃったの? でもここ私たちの地球とは違うんだけど」

「そ、そうじゃないぞ!」

 

 律子の呆れ半分の冗談に弁解する響。

 

「地球が見えてきたところで、何か声が聞こえたのさー。それに呼ばれるように、気がついたら沖縄を選んでたんだぞ」

「声? 一体誰の声よ」

「それはわかんないけど……でも確かに聞いたぞ。ねぇハム蔵」

「ぢゅいッ」

 

 響の頭の上に乗っかっているハム蔵がひと声鳴いた。

 

「……って、その顔信じてないなー!? ほんとだってば! 着陸地点間違えたとかじゃないんだって!」

 

 律子たちが明らかに呆れ返っている顔なので響が喚いていると、貴音が彼女の肩を持つ。

 

「わたくしは響の言うことを信じます。プロデューサーも、聞こえるはずのない状況で助けを呼ぶ声を何度も聞いた経験があると言っていたではないですか。人から人への呼び声は、心のつながりで届くのでしょう」

「まぁ、今の私たちだったらいくらでもありそうなことだけど」

「でしょ? きっと沖縄のどこかに、自分たちみたいな人を求めてる人がいるんだぞ!」

 

 貴音に味方についてもらった響は意気揚々と言い切った。しかしここで千早が、

 

「だけど、沖縄とひと口で言っても広いでしょう。顔も知らない人を見つけられるかしら」

「任せるさー! 沖縄だったら自分の庭みたいなものだからね! みんな、自分についてくるさー!」

「あっ、ちょっと響! だから……!」

 

 律子の制止も聞かず、響が先頭に立って脇道に入り、皆を誘導し始めた。

 しかしほどなくして、閑静な住宅地の真ん中まで来たところで笑顔に冷や汗を垂らした。

 

「あ、あれ? ここどこ? さっきの道が近道のはずなのに……」

「だから、いくら並行宇宙でも歴史が違えば町並みも違うわよ。特に細部は」

 

 律子にツッコまれ、響は頭を抱えて天を仰ぐ結果となった。

 

「うぎゃー! こんなはずじゃー!」

「仕方ないわね……」

 

 やれやれと肩をすくめ合った律子たちが、タブレットで現在地を確かめようとした、その時、

 

「あの……何かお困りですか?」

「あっ、すみません。実は道に迷ってしまいまして……」

 

 後ろから声を掛けられ、振り返った千早が声の主を目の当たりにした瞬間、言葉が途切れた。

 

「……あなた……」

 

 胸に青い宝石が煌めくペンダントを提げた女性から、千早たちは何かを感じ取って一様に立ち尽くした。

 女性の方も、765プロ一行から何かを見抜いたのか、驚いた顔でこちらを見返していた。

 



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天と海と命の島

 

 千早たちと、声を掛けてきた女性は道端に寄って会話を交わす。

 

「失礼します」

 

 律子が女性にタブレットを向けて、その全身をスキャンした。すると首に提げているペンダントの宝石が、地球には存在しない鉱石だという結果が出る。

 

「やっぱり……あなた、地球の人ではありませんね?」

 

 律子が尋ねかけると、女性は静かにうなずいた。

 

「そういうあなたたちも、ただの地球人じゃないみたい」

 

 聞き返され、貴音が自分たちの所属を伝えた。

 

「わたくしたちは765プロの者です」

「そう……あの噂の765プロの。私はアイル。地球では比嘉愛瑠という名前」

 

 宇宙人の女性、アイルはそう名乗り、律子と亜美、真美に顔を向けた。

 

「そういえば、あなたたち三人は、以前ジードと共闘してたね」

 

 ウルトラマンジードとの関係を言い当てられ、律子たちは面食らった。

 

「アイル姉ちゃん、何でそのこと知ってんの?」

「見てたから」

 

 何でもないことのように言うアイルだが、当時彼女とは出会っていない。その時たまたま千葉にいて自分たちの活躍を目撃したのか、はたまた千里眼のような能力でも持っているのだろうか。

 

「それで、どうしてまたこの沖縄に?」

「それなんですけど……」

 

 千早が、ジャグラスジャグラーがこの地球に向かったこと、ギルバリスが恐らくジャグラーを追いかけて地球を襲撃するだろうことを打ち明けた。

 

「そう……」

「アイルさんは、ギルバリスのこと何か知りませんか?」

 

 雪歩が駄目元で問いかけると、アイルは何やら意味ありげに押し黙った。

 

「アイルさん?」

「……実は今、ジードとその仲間たちがここ、沖縄に向かってきてる」

 

 アイルが急に話題を変える。

 

「えっ、ジード兄ちゃんたちが!?」

「何たる偶然……いえ、この巡り合わせは偶然ではないのかもしれませんね」

 

 貴音が響に振り向きながらつぶやいた。響は「声を聞いたから」と沖縄に着陸したのだ。

 それからアイルは、千早たちに真剣な面持ちで告げた。

 

「そのことで、みんなにお願いがあるの」

 

 

 

 その後765プロ一行は、那覇市の繁華街へと移動してきた。

 

「アイルさん、どうしてあんなこと頼んだんだろう?」

 

 雪歩がアイルからの依頼について小首を傾げた。アイルから頼まれたこととは、自分をこれから沖縄にやってくるジードたちと引き合わせることなのだが、自分が宇宙人であることは伏せて、アウトドア教室を開いている一般人ということにしてほしいと言ったのであった。

 

「何か事情がおありのようでした。ギルバリスのことも何かご存じのようですし、ひとまずは彼女に従いましょう」

 

 貴音の言葉で皆がそれを了承する。それはいいのだが……。

 

「で、どうやってジードと仲間たちに自然に接触して、その方向に話を持ってくかなんだけど……」

 

 律子が述べながら、物陰から少しだけ顔を出して大通りの様子を、半目で見やった。

 

「……本当に響に任せちゃっていいのかしら?」

「イーヤーサーサー! ハーイヤ!」

 

 その視線の先では、響が観光客向けに沖縄伝統の踊り、エイサーを披露する集団の中にしれっと混じって、一緒にエイサーを踊っていた。

 アイルの指示でジードの一行を発見すると、響はさも偶然彼らを見かけた風を装って接触することを提案し、自らがその実行役となったのだ。が……。

 

「けど何でエイサーの列に混ざる必要があるのかしら」

「しかもハム蔵を頭に乗っけたままだよー。あれじゃ怪しまれるって、ひびきん……」

「っていうか真美たちは顔見知りなんだし、フツーに話しかければよかったんじゃ?」

 

 亜美と真美も呆れた表情で響の奇行を見やった。千早の方は、ジード――朝倉リクの一団の方に目をやって驚きを見せる。

 

「見て、みんな! ジャグラスジャグラーが一緒にいるわ」

「ほんとですぅ! 向こうもジードさんたちと接触してたんだ」

「じゃあ、響のあれは意味なかったわね……」

 

 ジャグラーは当然響の顔を知っている。案の定、リクたちに話しかけに行った響は即正体を見破られていた。

 

「おい、こいつは何の冗談だ? 我那覇響」

「あっ、ジャグラスジャグラー!? 何でこの人たちと一緒にいるんだ!」

 

 早速ジャグラーと揉めそうになる響。

 

「あ~もう。私たちも行きましょ」

 

 律子たちはやれやれといった感じに物陰から出て、響の元へと歩いていった。

 

「我那覇さん、今のどの辺りが自然な接触だったの?」

「ひびきん、もちょっと上手くやってよ~。明らか不自然じゃーん」

「うっ……ごめんだぞ……」

 

 リクたちの近くに行くと、彼と行動をともにしている仲間の一人、目つきが良くない男子高校生が律子、亜美、真美の顔をひと目見て驚きを浮かべた。

 

「あなたたちは、765プロの……ってことは……」

「ふふ……久しぶりね、ジード部のみんな。その後お変わりなかったかしら?」

「やっほー、兄ちゃん姉ちゃん。何だか大所帯だねー」

 

 男子高校生は以前、怪獣のために命を失い、ジードが融合することで蘇生した比企谷八幡だ。律子たちが会った時には彼が変身をしていた。

 他の女子高生二人は、長髪のクールビューティーが雪ノ下雪乃。短髪の活発そうなギャルが由比ヶ浜結衣。残る三名は初対面である。

 

「彼女たちが、比企谷たちが共闘した765プロというところの子たちか。私は平塚静だ」

「どうも初めまして~♪ 一色いろはって言いまーす」

「あー……この眼鏡は材木座義輝っす」

「これはご丁寧に。わたくしは四条貴音と申します」

「如月千早です」

「萩原雪歩ですぅ」

「改めて、自分は我那覇響だぞ。こっちはハム蔵」

「ぢゅいッ」

 

 初対面組が自己紹介し合うと、ジャグラーがこちらに尋ねかけてきた。

 

「お前ら、どうしてこんなところにいるんだ」

 

 それに亜美と真美が頬を膨らませながら、咎めるように返した。

 

「そんなの、あんたがギルバリスにちょっかい掛けたって聞いたからに決まってるっしょー!? またそんな危ないことして~!」

「ギルバリスが追いかけてるみたいじゃん。よそ様に迷惑掛けちゃダメって言われてるでしょー!?」

「また何かたくらんでるんじゃないでしょうね」

「ふッ……さて、どうだろうなぁ」

 

 千早にジトッとにらまれたジャグラーは、わざとらしく顔をそらした。

 八幡たちは、今のやり取りでこちらとジャグラーの関係性のおおまかなところを感じ取ったようであった。

 

「僕たちは今、赤き鋼というものを探してるんだ。みんなは何か知らない?」

 

 リクからそう聞かれ……千早たちは一旦彼らから距離を取り、ヒソヒソと声を潜めて相談し合った。

 

「どーする? やっぱアイル姉ちゃんの言った通りにする?」

「土壇場で約束を反故にする訳にはいきません。どのような意図があるのかはともかくとして、わたくしたちは手筈通りに行いましょう」

 

 自分たちの振る舞いをリクたちが訝しんでいるので、響が代表して回答した。

 

「探し物なら、沖縄の伝説に詳しい人を知ってるさー。紹介してあげるね!」

 

 

 

 そして響たちはリクたち一行を、街を離れた林の中へと連れてきた。

 

「こんなところで待ち合わせですか?」

「まぁまぁ、もうすぐ来るって」

 

 わざわざ人気が全然ないような場所へ移動してきたことを訝しむ雪乃を、響がなだめた。そうしていると早速、連絡を受けたアイルが斜面の下からやってくる。

 

「ほら、噂をすれば。おーい、ここだぞー!」

 

 響が大きく手を振ると、アイルは足を速めて近寄ってきた。

 

「お待たせしましたぁ」

「すいません、急にご連絡しちゃって」

 

 事前の指示通りに、律子が何食わぬ顔で演技を始めた。

 

「いえ。こちらが千葉市神話研究会の?」

 

 リクたちの方も、アイルが既に全部を知っているということなど夢にも思っていないので、彼女にそう紹介するように言ってきていた。響がそんな彼らにアイルのことを紹介する。

 

「みんな、こちらはえっと……アウトドア教室をやってる比嘉愛瑠さん」

「はじめまして、比嘉愛瑠です。みんなから愛瑠って呼ばれてます」

 

 そう名乗ったアイルに、リクが代表して挨拶を返した。

 

「朝倉リクです」

「よろしくね、リクくん」

 

 アイルが差し出した手を、リクがはにかみながら握った。――アイルと面向かってから、何やら浮ついた調子で握手するリクの様子をながめて、亜美と真美がニヤッと笑う。

 

「おやおや~? リク兄ちゃんの態度がちょっと変だね~」

「もしかして、アイル姉ちゃんみたいな人がタイプなのかな? んっふっふ~」

「こら二人とも、下世話な話はよしなさい。聞こえるでしょ?」

 

 亜美と真美をたしなめる律子。千早と雪歩、貴音は八幡たちの方を観察して、小声で言葉を交わす。

 

「アイルさんが宇宙人ということ、気づかれてはないみたいね」

「傍目から見たら、地球人と違いなんてないものね」

「ですがジャグラーはやはり鋭いです。既に察している様子」

 

 貴音はジャグラーが、アイルのペンダントを怪訝に見つめていることに目を留めていた。

 

「あの、赤き鋼の伝説について調べたいんですけど」

 

 もじもじしてなかなか話を切り出さないリクに代わって、八幡がアイルに尋ねかけてきた。アイルは少し考え込みながら、次のように返答する。

 

「赤き鋼……私も詳しいことは。でもそういう伝説のある場所を回ってみる? 何か手掛かりがあるかも」

「是非!」

 

 リクが勢い余りながら了承した。

 

 

 

 こうして一行はアイルの先導の下に、沖縄各地の古い伝承が残るスポットを探索して回ることとなった。

 その内の一つ、巨大な岩壁に挟まれた斎場御嶽でアイルが解説する。

 

「琉球王朝時代、このような場所で祭事が行われ、人々が祈りを捧げてきたの」

「何をお祈りしてたのかな?」

 

 結衣が誰となく聞くと、リクが人差し指を立てて言った。

 

「多分、みんなが元気で、幸せでいられますように! ってお祈りしてたんじゃないかな」

 

 リクの答えに、一同が思わず破顔する。

 

「本当にそうならいいんだがな」

「実に子供みたいな考えね」

「な、何だよー。いけないの?」

 

 平塚や雪乃にクスクスと笑われたリクが少々気分を害したが、雪歩と貴音は擁護する。

 

「でも、私はそういうの嫌いじゃないですぅ」

「まこと。そのような単純ながら素朴な願いが、平和を築く礎なのです」

「うん。私も、リクくんの考えはとってもいいって思う!」

 

 アイルに称賛されると、リクは照れ臭くなって頭をかいた。

 

「ふふ。あのウルトラマンベリアルのクローンというからどんな人だろうと思ってたけど……リクさんって、純粋な人みたいね」

「ええ。宇宙警備隊から立派なウルトラ戦士と認められるだけのことはあるわ」

 

 リクの人となりを知らなかった千早が、律子と密かに微笑み合った。

 一方で、アイルに振り向いたいろはがふと尋ねかける。

 

「ところで、愛瑠さんってどうしてアウトドア教室やってるんですか?」

「私はね、自然が大好きなの。たくさんの人にも好きになってもらいたくて」

「何で自然好きなんですか?」

 

 いろはが聞き返すと、アイルはそっと御嶽の岩肌をなでながら、どこか遠い目で語った。

 

「命を、感じるからかな……」

 

 アイルの様子の変化に、響たちは思わず彼女に視線を集めた。

 

「大地から、生きる力を感じる。たくさんの命といるって、思えるから」

 

 妙に実感のこもった言葉に、響たちはそっと顔を見合わせた。

 

「何か、アイルさんの星にはよっぽどの事情があるみたいだね……」

「……人工頭脳ギルバリス……サイバー惑星クシア……まさか……」

 

 律子が顎に指を掛けて、何かを考え込んだ。

 

 

 

「ねーねー、材木座の兄ちゃんは何でひと言もしゃべんないのー?」

「……こいつのことはほっといてやってくれ」

 

 その後、首里城のふもとまで足を運んだところで、急に貴音が立ち止まった。

 

「四条さん、どうしたんですか?」

「あれを」

 

 雪歩が振り向くと、貴音が指差した先に、見慣れない形のシーサー像、その前に両端がコブのように膨れた棒状の石器がポツンと鎮座していた。

 

「これは?」

「こんなシーサー像、ガイドブックにはないですよ」

 

 シーサー像に近づいていってよく観察するリク。いろははガイドブックをペラペラめくって確認した。

 律子はタブレットをかざして石器を分析する。

 

「……見た目は石だけれど、未知の金属反応があるわ」

「まさか、赤き鋼?」

「とにかく、確かめてみましょう」

 

 訝しむ八幡に次いで、千早が石器を手に取って反応を窺う。……が、目立った変化は一切起こらない。

 

「何も起きないわね……」

 

 ここで材木座が眼鏡に指を当てて格好つけながら、千早たちの前では初めて発言しつつ前に出てきた。

 

「ふッ……ここはこの剣豪将軍の出ば」

「どいてろ」

「おうふッ!」

 

 が、ジャグラーに押しのけられて変な声を出しただけだった。

 ジャグラーは千早から石器を受け取り、低い声を発しながら意識を集中する。

 

「おおぉぉ……!」

 

 ――しかし、やはり何も変化は見られなかった。

 やがてアイルがジャグラーから石器を受け取り、次の通りに告げた。

 

「赤き鋼は、正しい心を持った、選ばれた戦士にしか使えない」

「……フッ! 先に言えよ。だったら俺は駄目に決まってるじゃねぇか」

 

 ジャグラーはぶっきらぼうに皆の輪から外れる。

 

「またこのパターンか」

 

 吐き捨てたひと言で、ガイから彼の事情――光を求めながら光に選ばれず、失意の果てに闇に堕ちた過去があることを聞いている響たちは、何とも言えない感情となった。

 

「愛瑠さん。どうして、赤き鋼のことを?」

 

 リクがアイルに振り返って尋ね、アイルが何かを告げようとする。

 しかしその寸前に、沖縄の空に巨大な魔法陣が開き、白い龍人型のロボット――765プロに因縁深いギャラクトロンが地上に降下してきた!

 しかもその機体は、シャフトがない代わりに後頭部に巨大で鋭利なトサカがあり、五本指の腕に換装され、顔面や四肢を甲冑のようなパーツで覆った改造を施されたものだ!

 

「ギャラクトロン!!」

「新型だわ!」

 

 街を蹂躙しながら接近してきたギャラクトロンに、一同がバッと振り返った。

 

「遂にここまで……!」

 

 ギャラクトロンの方も一行を発見し、そしてアイルの手の中の石器に注目した。

 

[見つけました。赤き鋼]

 

 ギャラクトロンのアイカメラ越しに石器を確認したギルバリスがつぶやき、ギャラクトロンが千早たちに狙いを定めて進撃してきた。

 

「みんな、こっちだ!」

「一旦退避です!」

 

 リクと貴音が真っ先に動いて、皆を先導して逃走を図る。

 

「ひ、ひぃ……! ゼロぉ……!」

「早くしろッ!」

 

 怖気づいて足がすくむ材木座は、ジャグラーに引っ張られていった。

 海の方へと全速力で逃げていく一行だが、ギャラクトロンはどんどんと接近してくる。このままでは逃げ切れないと判断したリクがジードライザーに手を掛ける。

 

「ジーッとしてても……!」

 

 だが変身しようとしたのを、ギャラクトロンが指先から照射した光線の爆撃によって阻止された。悲鳴を発するいろはたち。

 

「きゃああっ!」

「くっ……! こっちがウルトラマンだってバレてるわ……!」

 

 うめく律子。そのまま接近してくるギャラクトロンに対して、アイルが胸のペンダントを掲げ、叫んだ。

 

「グクルシーサー!」

 

 ペンダントの宝石が光り輝き、それに反応して石器が置かれていたシーサー像の目が光った。そして一瞬にして石像から巨大な本物のシーサーに変化し、ギャラクトロンの正面へと飛び出していく。

 

「グルルル……ウオオオォォォン!」

 

 グクルシーサーと呼ばれた怪獣はギャラクトロンに突進して、侵攻を食い止めた。即座に狙いを怪獣に移したギャラクトロンだが、胸部に後ろ蹴りをもらって突き飛ばされる。

 

「あいつ……!」

「愛瑠さん今、怪獣を召喚した!?」

 

 結衣たちが目を見張る。雪歩らも怪獣の存在までは知らなかったので面食らう。

 

「愛瑠さん……!」

 

 起き上がったリクも驚愕の目でアイルを見る。すると彼らの背後に、リクたちの使用している宇宙船が飛んできた。

 

『早く乗れ!』

「早く早く!」

 

 宇宙船の内部から他のリクの仲間たちが退避を促す。

 

「みんな、急ぐぞ!」

「はい!」

 

 平塚が皆を手で仰いで誘導、いろはたちが続々と宇宙船に乗り込んでいく。グクルシーサーは勇ましくギャラクトロンに立ち向かっているものの、すさまじいパワーに押し返され始めていた。

 

「ウオオオォォォン!」

 

 ギャラクトロンに殴り飛ばされるグクルシーサーを見て、響と貴音がうなずき合う。

 

「真美、ハム蔵を頼むぞ!」

「合点承知!」

 

 ハム蔵のことを真美に託して、貴音とともに殿に立つ響。

 

「ここは自分たちに任せるんだ!」

「さぁ、お早く!」

「愛瑠さんも早く……!」

 

 リクがアイルを逃がそうとするが、いつの間にか姿が消えてなくなっていた。

 

「愛瑠さん……!?」

「リク! 急げッ!」

 

 最後まで残っていた八幡がリクとともに宇宙船へと走り、響と貴音はオーブライトリングとコスモス、エックスのフュージョンカードを取り出す。

 

「コスモスさんっ!」『フワッ!』

「エックス殿っ!」『イィィィーッ! サ―――ッ!』

「「慈愛の心、お借りしますっ!!」」

[フュージョンアップ!]

 

 ウルトラフュージョンカードとオーブライトリングの力で響と貴音が合体し、オーブの姿に変身を遂げた。

 

[ウルトラマンオーブ! フルムーンザナディウム!!]

 

 倒れるグクルシーサーにギャラクトロンが指先からの光線を放つが、その間に割って入ったオーブ・フルムーンザナディウムのバリアが光線を遮断しグクルシーサーを守った。

 

『「これ以上の狼藉は許しません!」』

『「君、大丈夫か!?」』

 

 響が呼び掛けると、味方と判断したグクルシーサーはコクリとうなずいた。

 

『「よかった……」』

『「響、来ますよ!」』

 

 ギャラクトロンは即座にオーブに狙いを移して、後頭部のトサカを切り離し、戦斧にして武装。オーブに斬りかかってくる。

 

『「たっ!」』

 

 素手で斧を受け流してギャラクトロンに立ち向かうオーブだが、斧の圧力はすさまじく、力を受け流してもオーブは身体が抑えつけられた。

 

『「くっ、手強いぞ……!」』

『「ここは無理に倒そうとしなくて結構です。皆が逃げ切る時間だけ稼ぎましょう!」』

 

 オーブは攻撃をさばき続けることで、ギャラクトロンをこの場に釘づけにした。やがて宇宙船が沖合まで逃れ、ギャラクトロンの射程圏外まで離れると、ギャラクトロンもあきらめたか再び魔法陣を使って退散した。

 

『「ふぅ……」』

 

 ひとまず危機を脱したことで響が息を吐くと、姿が見えなくなっていたアイルが再び現れ、グクルシーサーにペンダントをかざす。

 グクルシーサーが光となってペンダントに吸い込まれていき、響と貴音もフュージョンアップを解除してアイルの元に着地した。

 

「ありがとう、グクルシーサーを助けてくれて」

「アイルさん……」

 

 礼を述べてきたアイルと、響たちは視線を交わした。

 



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 響たちが地球の沖縄でリクたちと出会い、ともに沖縄探索をしている頃、ギルバリスの情報を求めて宇宙スラム街に赴いたガイたちもまた、目当ての人物を発見していた。

 

「ハハ! お客サン、ボクの情報が欲しいッテ?」

 

 居並んだガイたちを見回して、何故か片言で聞いてきたのは、ヒューマノイド型の宇宙人、ジャキ星人アーロン。彼をひと目見た真と美希がガイに耳打ちする。

 

「プロデューサー、ほんとにこの人、信用できるんですか?」

「びっくりするくらい胡散臭いって思うな……」

「だが腕は確かなようだ。こういうのは、口コミが一番信じられる」

 

 二人にそう返したガイは、アーロンに頼み込んだ。

 

「ギルバリスと惑星クシアのことが知りたい」

「それは危険なネタだかラ、とっても高いヨ! お客サンに払えるかナ~?」

 

 見くびってくるアーロンに、伊織が一歩前に出ながら小切手にサラサラ数字を書き、アーロンに見せた。

 

「これで足りるかしら?」

 

 小切手を受け取ったアーロンが驚愕。

 

「エッ!? こんなにくれるノ!? 教えちゃう教えちゃウ! 何でも教えちゃうヨ~!」

 

 アーロンは小躍りして態度を180度翻した。春香とやよいが圧倒されたように伊織を見つめる。

 

「流石水瀬財閥……。宇宙進出してからも相変わらずの財力だね」

「うっうー! 伊織ちゃん、お金持ちですぅー!」

 

 伊織はフフンと自慢げに鼻を鳴らし、後ろ髪を流すようにサラリとかき上げた。

 さて、小切手を受け取ったアーロンは、何故か中国武術のような動きを交えながらギルバリスの情報をガイたちに話し始める。

 

「何万年も前の話。惑星クシアという星があっタ! クシア人ハ、宇宙でもトップクラスに頭のいい人たちデ、平和を愛してタ! 彼らは宇宙が争いばっかりなのを憐れミ、科学力を結集してものすごい人工知能テラハーキスを作っテ、宇宙に永遠の平和を築くことを命令しタ。だけド、永遠の平和実現のための計算を続けたテラハーキスハ、ある日突然、クシア人ニ、反乱! 反旗を翻しタ! 宇宙の平和のためニ、知的生命体はいらないって考えになっちゃったのネ」

 

 アーロンの説明を聞いて、春香たちは最初のギャラクトロンのことを思い返し、一瞬表情を曇らせた。

 

「テラハーキスはギルバリスと名乗るようになっテ、とんでもないロボット兵器を次々作って瞬く間にクシア人を追いつめタ。だけどもちろン、クシア人も黙ってた訳ではなかっタ。クシアの科学者ハ、ギルバリスに対抗するためのアイテム、赤き鋼を開発しタ! 赤き鋼はギルバリスに奪われないよウ、クシアから遠く離れた未開の惑星に隠されタ。クシア人を滅ぼシ、惑星クシアを乗っ取ったギルバリスはこのことを知っテ、唯一自分を倒せる可能性がある赤き鋼の行方を追っテ、宇宙中を探し回ってるという訳なのネ」

 

 アーロンから情報を聞き出したガイは、納得したように腕を組んだ。

 

「なるほど。となると、ギルバリスより先にその赤き鋼を見つけ出さなきゃならない訳だ」

「赤き鋼の隠された惑星がどこかは分かりませんか?」

「ダーイジョウブ、星図があるヨ。ほら、これネ」

 

 アーロンの差し出した一枚の星図をあずさが受け取る。

 

「ありがとうございます。えーっと……」

「貸しなさいよ。あずさ、地図読めないでしょ」

 

 星図をながめつつ首をひねるあずさから受け取った伊織が、赤き鋼の隠し場所を調べている間に、アーロンがつけ加えた。

 

「赤き鋼の開発者には一人娘がいテ、その子が赤き鋼を隠したんだよネ。クシア人最後の生き残りとなったその娘ガ、赤き鋼を扱える選ばれた戦士が現れる時を待ちながら赤き鋼を今も守ってるヨ。前来たお客サン、金払いが悪かったからこれは教えなかったネ」

「選ばれた戦士? 赤き鋼は誰でも使えるって訳じゃないんだ」

「まずはその人に会って、赤き鋼を見せてもらえるよう認めてもらわないとね」

 

 真と春香がつぶやいていると、星図を解いた伊織が少し驚いた声を発した。

 

「ちょっと! ここって、プロデューサーたちがウルトラマンジードってのと出会った地球じゃないの!」

「何! それは本当か!」

 

 ガイたちが一斉に星図を覗き込んだ。

 

「この前行ったとこがそうだなんて、すごい偶然なの」

「いや、偶然とは違うと思うぞ。俺たちの前の客というのも、赤き鋼を探してたはずだから、当然この地球に行ったはずだ。そうなると……色々な巡り合わせがこの地球に収束してることになる」

「っていうか……ジャグラーが逃げ込んだ先も、ここじゃなかった? 律子たちからの連絡にあったわ」

「はわっ! それって大変じゃないかな!?」

 

 驚くやよい。ジャグラーはギルバリスに追われているはず。そこまで考えが至ると、春香たちがにわかに焦り出す。

 

「プロデューサーさん! これはもたもたしていられないですよ!」

「ああ。ギルバリスより先に、地球に到着しないとな!」

 

 ガイの言葉を合図として、一行は地球に向けて急行していった。

 

 

 

 ギャラクトロンの沖縄襲撃の翌早朝。砂浜で赤き鋼を抱えながら一人たたずんでいるアイルの元へと、響たち七人が歩み寄っていく。

 

「アイルさん。……ジードでも、赤き鋼には選ばれなかったのかな」

 

 呼びかける響。アイルは岩場の陰から、狼狽しているリクや八幡たちに視線を送っていた。

 この直前、アイルはリクの前まで行き、彼に赤き鋼を託そうとした。……しかし、リクは赤き鋼を呼び起こすことに失敗したのだ。赤き鋼は、未だ石のままである。

 

「ジード兄ちゃんも、選ばれた戦士じゃなかったのかな?」

 

 真美のひと言に、アイルは静かに首を横に振った。

 

「ううん。リクくんには、十分に赤き鋼を扱う資格があると私は思う。ただ……今は、リクくんは何かをまちがえているだけなんだと思う」

「ジード殿が過ち、ですか」

 

 貴音の繰り返しにうなずくアイル。

 

「人は誰だってまちがいをするもの。……私たちだってそうだった。取り返しのつかない、重大なまちがいをしてしまった……」

「……アイルさん、やっぱりクシア人の生き残りなんですね」

 

 千早の聞き返しに、アイルは無言の肯定で答えた。

 

「……私たちは、宇宙に生きる人たちが日々争いで傷ついてるのを悲しんで、宇宙から全ての争いをなくし、永遠の平和を作り上げるための人工頭脳を創った。だけど……結果は、みんなも知ってる通り。宇宙中の人が不幸になってしまう、真逆の結果になってしまった……」

 

 後悔の念から声のトーンが落ちたアイルは、自分の周りに広がる青い海や空、自然を見回す。

 

「この星に来てから、私は気づいた。命の息吹が満ちる、自然が生み出す世界の美しさ。世界とは、ありのままでいいんだということに」

「……私の恩師が言ってました。食物連鎖は争いなんかじゃない。命は、バラバラに生きてるんじゃない、互いに協力し合って、一つの大きな命として生きてるんだって」

 

 律子の言葉に、アイルは寂しげな微笑を浮かべる。

 

「いい言葉だね。私たちクシア人は、考えもしなかった。どうして命は他の命を食べるのか、人と人は競い合うように出来てるのか……表面しか見えてなかった」

 

 空の彼方――今はもう存在しない彼女の『故郷』に目をやりながら、アイルが述べた。

 

「機械は間違いをしないと言われるけれど……何でそんなことが言えるのか、今なら思う。その機械を創ったのは――まちがいをする人間なのに」

「……」

 

 アイルの語ることを、響たちは黙って聞いている。

 そして、彼女たちの目の前から、アイルの姿がなくなった。

 

 

 

 その後、響たちは砂浜に食事の席を用意して、皆で朝食を取っていた。

 

「何だって? 朝倉さんでも赤き鋼は反応しなかったのか?」

 

 その席で八幡が皆に説明した、砂浜での出来事を、八幡たちとともに沖縄に来た葉山が簡潔に復唱した。それから戸部が八幡を箸で指しながら指摘する。

 

「そりゃおかしーべ! そのギガなんちゃらって、ジードが前に使ってた奴っしょ? それが今は使えないって、理屈に合わねーって」

「箸を人に向けんな。そう言われたって、実際そうだったんだからしょうがないだろ」

「ふぅむ……あの時と今とで、何か違うものでもあるのだろうか」

 

 平塚たちが考え込むが、明確な答えは出せなかった。

 代わりにいろはが、響たち765プロ一同にやや目尻を吊り上げながら振り向いた。

 

「っていうか、そこの皆さんは愛瑠さんが宇宙人だって最初から知ってたってことですよね。何で初めから言ってくれなかったんですか。そしたら話は早かったのに」

「ごめんね。アイルさんから口止めされてたから……」

「それに、アイル姉ちゃんが赤き鋼を持ってたなんてことは知らなかったんだよぉ」

 

 響と亜美が謝りながらも弁解する。

 その一方でジャグラーが大きく肩をすくめた。

 

「色々あるが、赤き鋼を誰も使えないんじゃ、結局のところはないのと同じだ。頼みの綱のジードも駄目とは、俺の見込み違いだったってことか?」

「何だって!?」

 

 リクがいきり立って声を荒げたのに、三浦や海老名が驚いて思わず距離を取った。

 

「ちょっと、リク……!」

「リク、落ち着いて……」

 

 ペガとライハがリクをなだめようとするも、ジャグラーはますますリクを煽る。

 

「宇宙警備隊からも認められたと聞いたんで、ちょっとは期待してたんだがな。こんなことになるとは、もっと違うウルトラマンに声を掛けとくべきだったか?」

「この、言わせておけば……! 地球は絶対に僕が守ってみせるッ!」

「リク! 私たちがここで仲違いしても仕方ないでしょ!」

「ジャグラーもよしなさい! どうしてあなたはいつも、挑発的な物言いばかり……」

 

 ライハが語調を強め、千早もジャグラーを咎めようとした、その時、

 

 どこかから、響たちにはとても馴染みがあるハーモニカの音色が流れてきた。

 

「何? このメロディ。ハーモニカ?」

「これって、確か前に……」

 

 その旋律を聞いたことがない三浦たちは怪訝な顔をしたが、一度耳にしている八幡らはピクリと顔を上げた。更に強く、真っ先に反応したのはもちろん、千早たちだ。

 

「肩に力が入り過ぎてるぜ。もっと冷静になりな、ジード」

 

 ハーモニカを吹きながら、春香たちとともにこの場にやってきたのは――紅ガイ。雪歩たちはわっとその男の元に駆け寄っていった。

 

「プロデューサー、到着してたんですね!」

「兄ちゃーん! 待ってたよー!」

「そちらの首尾は如何でしたか、あなた様」

「みんな、待たせたな。情報屋はちゃんと見つけたぞ」

 

 陰鬱な雰囲気から一転、ガイを囲んできゃっきゃっと楽しげにはしゃぐ亜美たち。律子は伊織らに、リクたちのことを軽く紹介する。

 

「あのデニムジャケットを羽織った人がジードこと、朝倉リクさん。その仲間たちよ」

「へぇ~。思ったよりもいっぱい仲間がいるのね」

「宇宙人さんもいますぅ!」

「あらあら。ジードさんは国際的なのね」

 

 やよいやあずさがペガッサ星人のペガに注目する一方で、ガイにゼナと陽乃が挨拶する。

 

『紅ガイ、ウルトラマンオーブ。来てくれたのか』

「ありがとうございます。私もAIBです。どうぞお見知りおきを」

「どうもご丁寧に……」

 

 陽乃相手に帽子を脱いだガイの肩が、後ろから掴まれる。

 咄嗟にその手を払ったガイが、手の主のジャグラーと一瞬にらみ合った。

 

「遅かったな、ガイ。遅刻がちなのはプロデューサーとして感心できないなぁ」

「そう言うお前こそ、どういう風の吹き回しだ」

「俺も宇宙の平和を守ってるんだ。なんてね」

「よく言うぜ……」

 

 ガイたちの間に咄嗟に真と伊織が割り込んで、ジャグラーを強くにらみつける。

 

「ジャグラー! あんまりプロデューサーにちょっかい掛けるな!」

「相っ変わらずよねあんた! 平和を守るとか、あんたが軽々しく口にするんじゃないわよ!」

「お前らの方こそ相変わらずだろう。まぁそんなことより、情報屋とか言ったな。ギルバリスについて何か掴んだのか」

「まぁな。今から話すところだった」

 

 ガイが適当なところで腰を落ち着かせ、リクたちに向かってアーロンから聞いた、ギルバリスに関する情報を説明した。

 赤き鋼はクシア人最後の生き残りが地球に隠したものだということを話すと、リクがポツリとつぶやいた。

 

「それが愛瑠さん……」

 

 それを耳にしたガイが、響たちに振り向く。

 

「何だ、もう会ってたのか」

「うん、まぁね……」

 

 響は先ほどのこともあり、少し浮かない顔で返答した。

 一方で、三浦と海老名が不安げに顔を見合わせる。

 

「そんな昔から暴れ続けてて、誰も倒せてないなんてとんでもない奴だったなんてね……」

「やっぱり、赤き鋼がないとどうしようもないのかな……?」

 

 不安に駆られる海老名のひと言に、リクが刺激されたかのように声を荒げた。

 

「大丈夫だ! 僕が絶対、地球を守ってみせる!!」

 

 自らに言い聞かせるように宣言したリクが、速足でこの場から離れていく。

 

「ちょっと、リク!」

「どこ行くの……!」

 

 その背中をペガとライハが追いかけようとしたが――ガイが腕を伸ばしてさえぎった。

 

「ちょいと、俺にあいつと話をさせてくれ」

 

 

 

 皆の元から離れて、一人憮然と腰を落としているリクの元へと、ガイが近づいていく。

 

「よッ」

 

 あえて軽い挨拶を掛けてからリクの向かい側に腰掛けたガイが、話を切り出した。

 

「765プロに入るまでは、随分長い間、一人で旅をしていた」

「ガイさん……」

「誰かと深く関わること。その誰かを失うこと。俺は恐れていた時もある。まッ、そんなの俺の思い込みだったんだけどな」

 

 ガイの脳裏によみがえるのは、魔王獣討伐任務のために地球に滞在していた時代の記憶。あの星で自分は一人の力でウルトラマンになれないほどのトラウマを負い、そして765プロの仲間たちの力で復活した。同時に、本当の意味でのウルトラマンにもなれたように感じている。

 それまでがひどく長かったな……と、自らに対して苦笑を浮かべ、リクに真摯に説いた。

 

「ウルトラマンだって完璧じゃない。一人じゃ出来ないこともある。そんな時に道を示してくれるのは……お前なら分かってるだろう?」

 

 経験に裏打ちされた重みがあるガイの言葉に、思わず聞き入っているリクに、ガイは破顔してこう誘った。

 

「この近くにいい風呂屋があるそうだ。どうだ、ひとっ風呂浴びてサッパリしてくるか」

「いえ。今は、そんなことをしてる場合じゃないので……」

「風呂上がりのラムネは格別だぞ?」

「ありがとうございます。でも、僕なら心配いりません。絶対に、みんなのことを守ってみせます」

 

 そう言い切るリクの顔をじっと観察したガイは、何も思ったかはリクからは分からないが、やがて視線を外した。

 

「そうか……。んじゃ、風呂はまた今度な」

「はい……!」

 

 二人のやり取りをながめ、そっと様子を見に来た春香たちが微笑を浮かべた。

 と、その時に、ペガが不意に空を見上げて指差した。

 

「あれ、何だろ!?」

 

 突然の事態の急変が起こり、全員が空に顔を上げて驚愕した。リクとガイも異常に気づき、声を失う。

 まだ正午にもなっていないのに空が不気味に赤く染まり、更に格子状に奇怪な数列がビッシリと並んでいる。自然ではありえない光景。

 

「何事だ!?」

「あの惑星は……!」

 

 混乱する八幡たちの一方で、ガイたち765プロ一同は事態を理解してサッと青ざめた。

 

「サイバー惑星クシア……!」

 

 そう発したのは、いつの間にかこの場に現れたアイルであった。

 

「愛瑠さん……!」

 

 アイルがペンダントを握ると、現代日本の服装から、沖縄の民族衣装――その基となったクシア人の装束に変化した。

 

「ギルバリスが、とうとう地球に……!」

 

 律子が絞り出すようにつぶやく。

 サイバー惑星クシアが地球の目前にまで迫り、更にデジタル化して地球を覆い始めたのだ。

 

 

 

 惑星クシアの地球接近は、宇宙警備隊も感知した。

 

『ジードのいる地球にギルバリスが!』

 

 焦りを見せるウルトラの母。ウルトラの父は即刻ゾフィーに命令を下した。

 

『ウルティメイトフォースゼロを向かわせるのだ!』

『はい!』

 

 了解したゾフィーが空にウルトラサインを描き出し、別宇宙でギャラクトロン討伐に動いているゼロたちへと送信した。

 

 

 

 世界中の人々が、サイバー惑星クシアに覆い尽くされていく空を見上げ、一体何が起こっているのかと不安に駆られる。そんな地球の人間全てに対して、クシアを操る人工頭脳ギルバリスが言葉を放った。

 

[私はギルバリス。宇宙に永遠の平和を築くことを使命とする者]

 

 名乗りに続けて、地球の全生命へと一方的に宣言する。

 

[この星の知的生命体とその文明、生態系を、害悪と判断しました。よってリセットを行います]

 

 地球上の全人類が衝撃を受け、どういうことなのかと狼狽する。

 そして沖縄には、ギルバリスによって改造された新型のギャラクトロンMK2が再度出現した!

 

「ギャラクトロンMK2!」

「今度は本気ね……!」

 

 雪乃が叫び、千早がくっとうめいた。

 この事態にウルトラ戦士は黙ってなどいない。ガイがリクに呼びかける。

 

「リク、行くぞ」

「はい!」

 

 ガイの後に続いて、ジードライザーで変身をしようとするリクの側に、八幡が並んだ。

 

「リク、俺も行かせてくれ」

「八幡!」

「どう見ても今までになくやばい事態だからな。ジーッとしてなんか、いられねぇんだよ」

 

 リクは一瞬逡巡したが、決心がついたか八幡の申し出を受け入れる。

 

「分かった。僕に力を貸してくれ」

「おう!」

 

 ガイの方は春香に呼びかける。

 

「春香、お前も一緒に行くぞ」

「はい!」

「ハニー、ミキも!」

 

 美希も申し出たが、ガイは首を振る。

 

「あいつは斥候に過ぎない。後ろに主力部隊が残ってるはずだ。こっちも出来るだけ戦力は温存しときたい。それに……」

 

 ガイはリクを一瞥すると、聞こえないように声を潜めた。

 

「どうにも嫌な予感がするんでな。みんなは何かあった時のために待機しててくれ」

 

 ガイの神妙な様子に、美希たちは静かに首肯した。

 ギャラクトロンはどんどんと接近しつつある。その前に、リクとガイはともにウルトラ戦士への変身を行う!

 

「行くぞ!」

 

 ガイがオーブリングを構えると、リングからまばゆい光が発せられた。

 その光の中で、春香がウルトラマンのフュージョンカードを手にする。

 

「ウルトラマンさんっ!」

[ウルトラマン!]『ヘアッ!』

 

 カードがリングに通されると光の粒子となり、春香の隣にウルトラマンのビジョンとなって再構成された。

 続いてガイがティガのカードを取り出す。

 

「ティガさんッ!」

[ウルトラマンティガ!]『ヂャッ!』

 

 ガイの横にティガのビジョンが現れ、彼と並ぶ。

 そしてガイがリングを高々と掲げ、春香たちも腕を天に向けて伸ばした。

 

「光の力、お借りしますッ!」

[フュージョンアップ!]

 

 リングから水色、黄色、そして紫色の光が発せられ、ガイの姿が光るオーブオリジンのものとなる。

 

『シェアッ!』『タァーッ!』

 

 オーブの身体に春香がウルトラマンとティガのビジョンとともに融合し、オーブをスペシウムゼペリオンへと二段変身させていく。

 

[ウルトラマンオーブ! スペシウムゼペリオン!!]

[ウルトラマンジード! プリミティブ!!]

 

 春香をその身に宿して変身を遂げたウルトラマンオーブと、ウルトラマンジードが同時に飛び出していき、ギャラクトロンの前に堂々と着地した。

 

『俺たちはオーブ! 闇を照らして、悪を撃つ!!』

『「決めるぜ! 覚悟!!」』

 

 オーブとジード、二大戦士が地球の全生命を消し去ろうとする恐怖の人工頭脳の遣いへと立ち向かっていく!

 



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殺戮のジャッジメンター

 

 オオオォォォ――――――……!

 変身を遂げて沖縄の街の中に立ち上がったオーブとジードに、ギャラクトロンMK2が早速標的にしてまっすぐ向かってくる。オーブたちはそれを完全と迎え撃つ。

 

「ハッ!」

「シュアァッ!」

 

 間合いを詰めたオーブとジードは、先制攻撃としてそれぞれ前蹴りとパンチを食らわせた。しかしギャラクトロンは二人の同時攻撃にびくともせず、腕に備わった刃を振り回してくる。咄嗟に回避するオーブたち。

 

「トゥアッ!」

 

 オーブはバク転でギャラクトロンから距離を取ったが、ジードは掴まって投げ飛ばされた。背中から叩きつけられるジード。

 

「ウワァァッ!」

『ジード!』

『「危ない!」』

 

 オーブと春香が思わず声を上げた。ギャラクトロンは倒れたジードに追撃を掛けようとするが、それを制してオーブが左腕と右腕をそれぞれ横と上にピンと伸ばした。

 

「『スペリオン光線!!」』

 

 ギャラクトロンは即座に攻撃を中断し、肩の装置からシャッターを閉じるようにバリアを張って飛んできた光線を遮断。バリアは割られるが、ギャラクトロン自体にダメージはない。

 この間にジードは立ち上がって体勢を立て直した。

 

「ナイスフォロー!」

「ジード兄ちゃん! 気をつけてね!」

 

 真が指を鳴らしてオーブの援護を称え、亜美はジードに注意を促した。

 ジードが隣に並ぶと、オーブが再びフュージョンアップして形態を切り替える。

 

[サンダーストリーム!!]

「フゥンッ!」

 

 目つきが鋭くなり赤黒の上半身となったオーブの姿に、ジードが思わず吃驚。

 

『似てる!』

『「気にしないの!」』

 

 ジードの肩をバンと叩いたオーブがギガトライデントを握る。

 

「『ジードクロー!!」』

 

 ジードの方はクローを召喚し、ともにギャラクトロンへ再度突貫していく。

 

『行くぞぉッ!』

 

 武装した二人に対抗するように、ギャラクトロンが後頭部のトサカを切り離して武装。大斧ギャラクトロンベイルでギガトライデントの刺突を受け止める。

 

「フゥゥンッ!」

「ダァァッ!」

 

 ジードクローの振り下ろしは反対の腕で受け止めつつ、胸をぶつけて二人をはね飛ばした。

 

「ヌアッ!」

 

 地面を転がったオーブたちだがすぐ起き上がり、ジードは両腕にエネルギーをスパーク、オーブはギガトライデントを地面に突き立てて二人同時に必殺技を繰り出す。

 

「『サンダーストリームネプチューン!!」』

「『レッキングバースト!!」』

 

 地面を蛇行していく光の奔流と必殺光線に対し、ギャラクトロンは再びバリアを展開。二人の攻撃が大爆発を巻き起こすが、黒煙の中からギャラクトロンが悠々と脱け出てきた。

 

「今のを耐えたぁー!?」

「これは難敵となりそうですね……」

 

 ジードたちの猛攻をものともしないギャラクトロンに、真美が驚愕。貴音は険しい顔でギャラクトロンをにらんだ。

 サンダーストリームネプチューンとレッキングバーストの合わせ技を凌いだギャラクトロンに対し、オーブとジードは同時にタイプチェンジ。

 

[レオゼロナックル!!]

[リーオーバーフィスト!!]

 

 遠距離攻撃はバリアに阻まれるとして、近接戦闘に長けた形態にチェンジし、ギャラクトロンに飛び掛かっていく。

 ギャラクトロンが繰り出す戦斧の斬撃を、ジードが斧の側面を殴って軌道をそらし、その隙にオーブが斧を掴んで動きを止めた。

 

「デヤァッ!」

 

 オーブが隙を作っている間にジードが燃える脚の蹴り上げをギャラクトロンにお見舞い。相手の体勢が崩れたところでオーブも鉄拳を食らわせた。

 

「フッ! ハァッ!」

「デアァッ!」

 

 二人の強烈なパンチとキックが炸裂するも、ギャラクトロンは一回転しながらの水平斬りでオーブたちに反撃。二人が押されて後ずさる。

 

『「くっ、強い……!」』

 

 額に流れた汗をぬぐう春香。思わず冷や汗が噴き出るほどに、ギャラクトロンの攻撃は強力であった。

 更にギャラクトロンは、戦斧を投擲してくる!

 

『「っ!」』

 

 咄嗟に身構える春香とオーブであったが、オーブたちの目の前に突然空から銀色の光が高速で降り立ち、剣の切り上げで斧を弾き返した。

 

『おりゃあッ!』

 

 斧を弾いてジードたちを助けた銀色の巨人は鎧を解除し、ブレスレットに戻して青と赤の肉体を衆目に晒した。

 

「あの人は!」

「ウルトラマンゼロだわ! 久しぶりね!」

 

 千早と伊織がその巨人の出で立ちを目の当たりにすると、弾んだ声を発した。

 オーブとジードを助けた巨人は、オーブたちと同じウルトラ戦士、ウルトラマンゼロ! 宇宙警備隊からのウルトラサインを受けて、地球の救援のためにはるばる別宇宙から駆けつけてきたのである。

 

『ゼロ!』

『待たせたな』

『お久しぶりです、ゼロさん』

 

 三人目のウルトラ戦士の登場に斧をキャッチしたギャラクトロンが警戒している間に、オーブがゼロに挨拶した。

 

『おう! 今は仲間と一緒に旅してるんだな、オーブ』

『ええ』

『主役は遅れて来るって奴ですか?』

 

 ジードがトントンと手首を叩いて腕時計のジェスチャーを取った。

 

『まぁな。さぁ行くぜ! 俺たちのスーパーノヴァ、見せてやろうぜッ!』

『はい!』

『「よーし! ファイトぉーっ!」』

 

 春香たちの力強い返事を背に受けながら、ゼロがギャラクトロンに肉薄する!

 

「シェアッ! オラッ!」

 

 回し蹴りで戦斧を弾くと、肩を捕らえてバリア発生装置のトゲに狙いをつける。

 

『エメリウムスラッシュ!』

 

 額のビームランプから照射されるレーザーが、両肩のバリア装置を破砕! これでもうバリアは使用できない。

 

「『ナックルクロスビーム!!」』

「『バーニングオーバーキック!!」』

 

 そこにオーブの額からの光線と、ジードの炎の飛び蹴りがギャラクトロンを襲った!

 

「シャッ!」

 

 転がって攻撃の直撃をもらったギャラクトロンから離れたゼロは、同時にルナミラクルゼロに変身。オーブたちの方も三度のタイプチェンジ。

 

[スラッガーエース!!]

[ムゲンクロッサー!!]

 

 バーチカルスラッガーとゼロツインソード・ネオ、ミラクルゼロスラッガーを駆使した三人の縦横無尽の斬撃が、ギャラクトロンを八方より攻め立てる!

 

「いい調子だぞ!」

「いっけー! なの!」

 

 三人の目にも止まらぬ斬撃の嵐がギャラクトロンを押していくのに、響と美希が歓声を発した。

 ゼロたちは空中で集い、オーブとジードがギャラクトロンの左右を抜けるコースで急降下していく。

 

「「ハァッ!」」

 

 二人の一閃が入ると、ゼロがストロングコロナゼロとなってギャラクトロンの正面から拳を叩き込んだ。

 

『ガルネイトバスタァァーッ!』

 

 決まった――と思われたが、ギャラクトロンは金色に発光してゼロを押し返した!

 

『おわッ!?』

「はわっ! ゼロさん!」

 

 衝撃をそのまま返されて倒れ込むゼロ。やよいが頬に手を当てて叫んだ。

 

[ストリウムギャラクシー!!]

[ダンディットトゥルース!!]

 

 ともにウルトラホーンのある形態となったオーブとジードがギャラクトロンの正面に回り込み、立ち上がったゼロと今度は三位一体の拳撃をギャラクトロンに浴びせた!

 

『うらぁぁぁッ!』

 

 これには流石によろめいたギャラクトロンだが、よく見ればこれだけの攻撃を食らい続けて、大した損傷が見られない。

 

「す、すごい頑丈ですぅ! あれだけ攻撃されて、何ともないなんて……!」

「あれは確実に対ウルトラマン用の改造個体だわ。むしろ当然の耐久力ね……」

 

 衝撃が走る雪歩の一方で、律子が冷静にギャラクトロンの性能を考察した。

 が、街では大変な事態が起こっていく!

 

「うわああぁぁぁぁぁ―――――!!」

「!? 街の人たちがっ!」

 

 地球がデジタル化した惑星クシアに覆い尽くされたことにより、ギルバリスの侵蝕が地球上の生命を襲い、人々がデータ化されてデジタルの空に吸い上げられていくのだ。

 あずさたちも驚愕したが、それ以上に動揺したのがジードであった。

 

『街の人たちがッ!』

 

 焦ったジードは、一体化している八幡に構わずにカプセルを交換し、一人でフュージョンライズしてしまう。

 

[ノアクティブサクシード!!]

『「!? ジードさん、ちょっと待って……!」』

 

 ジードが功を焦ってウルティメイトゼロソードを振り上げ、ギャラクトロンに突っ込んでいく。春香が呼び止めるが、ジードの耳には入っていない。

 

『みんなを守らなくちゃ! 僕がッ! 僕がぁぁぁぁぁッ!!』

『待てジード!』

 

 オーブも制止するも、既に遅かった。

 ギャラクトロンは向かってくるジードに、腹部から怪光線を浴びせる。

 

「ウワァァッ!?」

 

 するとジードの身体がたちまちの内にプリミティブの状態に戻された上に、データ化されて消されていった!

 

「じ、ジードさんっ!!」

 

 あまりのことに目を見張った千早を始めとして、全員がジードの消滅に唖然となった。

 ジードがデータ化されて電脳空間に引きずり込まれたことに対して、オーブの判断は早かった。

 

『エックスさんの力で、ジードを救出に行きます!』

『頼んだぜ! こっちは任せろぉぉぉぉッ!』

 

 ゼロがギャラクトロンへと突っ走っていき、彼が時間を稼いでいる内に春香が三枚のフュージョンカードを使用。

 

『三つの光の力、お借りしますッ!! オーブトリニティ!!!』

 

 春香がギンガ、ビクトリー、エックスのカードをリングに通して、オーブがオーブトリニティに変身。更にその身体を、クローを備えた青いジャケットが覆う。

 

「『ゴモラキャリバー!!」』

 

 オーブは両手のクローをX字に振るうことで空中に電脳空間につながる穴を開き、迷わずその中へ飛び込んでいった。

 

 

 

『う、うわああぁぁぁぁぁぁッ……!!』

 

 ギャラクトロンが放った電脳ウィルスによってギルバリスの電脳空間に引きずり込まれてしまったジードは、データ化した肉体が急速に分解される猛烈な苦痛に襲われていた。逃れようとしても、身動き一つ取ることが出来ない。絶体絶命のピンチ。

 しかしそこに、電脳空間に突入したオーブトリニティが救出に駆けつける。

 

『しっかりしろ、ジード!』

『オーブさん……!』

 

 ジードを抱え、現実空間へと引き返そうとするオーブ。――だがそこにギルバリスの魔の手が襲い掛かり、電脳ウィルスが四方からオーブたちに牙を剥いた!

 

『ぐわああぁぁぁぁぁッ!』

 

 二人纏めてウィルスに侵されるオーブたち。このままでは、オーブまでがデータの海の藻屑となってしまう!

 その時に、春香がオーブに呼びかけた。

 

『「プロデューサーさん、ジードさんをお願いします……!」』

『春香!? お前まさか……!』

『「大丈夫です……! 絶対……戻りますからっ!」』

 

 データ化されている春香がオーブの中から抜け出て、オーブを電脳空間と三次元世界をつなぐ穴に向けて押し出したのだ!

 

『は、春香ぁぁぁッ!!』

 

 これによってオーブの肉体データは間一髪で現実の空間に戻されたが――春香が抜けたことでフュージョンアップの効果が途切れ、オーブオリジンとなったことで空中に開いた穴が消失。春香を電脳空間に残したまま閉じてしまった。

 

『くそッ……!』

 

 春香を犠牲にしてしまったオーブだが、歯を食いしばって冷静さを保つ。――が、ジードはそうではなかった。

 

『よくもッ、よくもぉぉぉぉぉおおおおおおおッ!!』

 

 激情に駆られ、考えなしにギャラクトロンへと突撃していく。

 しかしその行動は読まれており、ギャラクトロンが腕からの光線の一斉放火を放ってくる!

 

『はッ!?』

『危ねぇッ!』

 

 ゼロとオーブが咄嗟にジードをかばったが、そのために彼らが光線の直撃を食らってしまった! 巻き起こる大爆発!

 

「ゼロぉ!?」

「プロデューサーぁぁ!!」

「ガイッ!!」

 

 叫ぶジャグラーたち。爆発に吹っ飛ばされたジードの眼前からは……ゼロとオーブの姿が、どこにもなくなっていた。

 

『ゼロ!! オーブさん!!』

 

 二人までもやられたジードは、遂に激情に染まり切った。

 

『うわあああああぁぁぁぁぁぁァァァァァァァァアアアアアアアアアアッ!!!』

 

 双眸が真っ赤に変色したジードが腕を鉤十字に組み、光が混じらない暗黒光線を発射する。

 

『レッキングバーストォォォォォオオオオオオオオオッ!!』

 

 突貫しながらのレッキングバーストがギャラクトロンに直撃。更にそのまま押し倒して光線を浴びせ続け、ギャラクトロンの装甲をバキバキに砕いていく。

 耐久の限界に達したギャラクトロンが爆裂して四散。そこでようやく正気に戻ったジードは、同時にエネルギーが底を突いて、倒れながら変身が解除された。

 

「うぅ……」

「リクぅ!!」

「何てこと……!」

 

 倒れたまま失神したリクの元へと、ペガや千早たちが慌てて走っていった。

 

 

 

 千早たちは倒れたリクを抱えながら、星雲荘が停泊している砂浜にまで引き返してきた。アイルがリクの手当てをしている間に、現在の状況を纏める。

 

「そ、そんな……ハッチーが……」

「天海さんまで、ギルバリスの餌食に……」

 

 言葉を失って力なく立ち尽くす結衣たち。ジードの変身が解除されたのに、八幡がどこにもいないことから、彼も春香と同じようにジードをかばって電脳空間に閉じ込められたと律子が分析したことを聞いたショックで絶望しているのだ

 律子たちも悔しそうにうなだれる。春香はもちろんのこと、ゼロも、オーブも戦闘終了後にもどこにも見つからなかったのだ。二人も苦楽をともにした仲間が安否不明となって、流石の彼女たちも動揺を禁じ得なかった。

 皆が沈んでいると、アイルから生命エネルギーを分け与えられたリクがうっすらと目を開けた。

 

「愛瑠さん……」

「よかった……」

 

 目を覚ましたリクに、皆の目が集まる。

 

「大丈夫? リク……」

 

 案ずるペガにうなずきながら、ゆっくりと身体を起こしたリクは、皆に問いかける。

 

「ゼロと、ガイさん、春香さんは……?」

 

 だが、誰もが沈黙したまま。それでどうなったかを察するリク。

 

「僕のせいで……」

 

 わなわなと手を震わせながら、リクは自責の念に駆られた。

 

「ガイさんが、忠告してくれたのに……それを無視して……ウルトラマン失格の僕は、ヒーローなんかじゃないッ!!」

「やめてっ!」

 

 自棄を起こすリクを、いろはが喚くように制止する。

 

「ウルトラマンはもうリク先輩しか残ってないんですよ!? リク先輩がそんなこと言ってたら……誰が先輩を……」

「だってそうじゃないかッ!!」

 

 だがリクは聞き入れない。

 

「すぐ隣にいた人すら守れなかった……。MK2より強いんでしょ、ギルバリスは……。僕一人じゃ、地球は守れないッ!!」

 

 誰よりも己を責めるリクに、雪乃たちは掛ける言葉が見当たらない。

 ――いや、アイルが前に出て、リクの腕を掴んだ。

 

「リクくん、来て」

 

 短く呼び掛け、アイルはリクを連れていった。

 

 

 

 アイルがリクを引っ張っていった後、材木座が憔悴した表情でポツリとつぶやいた。

 

「ゼロ……ゼロはどうなってしまったのだ……」

「ウルトラマンオーブも、あんなことになるなんて……」

 

 陽乃が悼むように独白すると、ジャグラーがフンと鼻を鳴らした。

 

「あいつがあれくらいでくたばるかよ。そんな奴だったら、とっくの昔に決着ついてるぜ」

 

 言いながら、あずさたちの方に振り向くジャグラー。

 

「お前らだって、ガイと天海春香が本当にくたばったなんて思っちゃいないだろ」

 

 それにあずさが、毅然とした顔つきでうなずいた。

 

「ええ。プロデューサーさんも、春香ちゃんも、きっと生き延びてる。私たちは信じます。あきらめるのは、最後の時だけで十分ですから」

 

 何の根拠がなくとも、信じる。それがただの強がりではなく、心からのことであることが、あずさたちの表情が物語っていた。彼女たちは、動揺はしても絶望はしていないのだ。

 

『……流石、強い人たちだな』

 

 ゼナが感嘆して評していると、律子の通信端末に着信が入る。

 一旦皆から離れて通信に出ると、その相手は意外な人物だった。

 

『秋月律子君、無事か!?』

「エックスさん!」

 

 かつて765プロが共闘したウルトラ戦士の一人、エックス。彼も今はあらゆる宇宙に放たれているギャラクトロンから次元宇宙を守護するのに忙しいはずだ。

 

『話は聞いている。そちらの状況を見るに、大分窮地に置かれているようだな……。よければ、私が応援に向かおう! 私だったらサイバー空間を通ってバリアを抜けることが出来る』

 

 エックスからの申し出に、律子は少し思案して、次のように返した。

 

「ありがとうございます。ですが、私たちなら大丈夫です。それより、やってほしいことがあります」

『やってほしいこと?』

 

 律子がその内容を伝えていると――リクたちの宇宙船から、けたたましい緊急警報が鳴り響いた。

 

 

 

「どうしたの、レム!」

 

 宇宙船の内部に駆け込んだライハが問うと、レムが皆に事態を報告した。

 

[周辺に、無数のギャラクトロンが転送されています]

 

 

 

 サイバー浸食された空に次々と魔法陣が現れ、その一つ一つからギャラクトロンが投下。沖縄の街を蹂躙していく。

 ウオォンッ、ウオォンッ……!

 

「きゃあああああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――――!!」

 

 悲鳴を上げてギャラクトロンの軍団から逃げ惑う沖縄の人々。しかし、今の地球のどこに逃げられる場所があるというのか。

 

 

 

『総力を挙げて、ギガファイナライザーを奪うつもりか……!』

 

 モニターに表示された外の惨状にゼナがそう発した直後に、結衣がハッと気がついて脂汗を垂らした。

 

「ちょっと待って! さっきの戦いから、まだ一時間も経ってないよ!?」

「えっ? どういうこと?」

 

 海老名が聞き返すと、レムが今の言葉の意味するところを告げた。

 

[リクは二十時間のインターバルを挟まないと、ジードにフュージョンライズすることが出来ないのです]

「えぇーッ!? そ、それって超やべーじゃんッ!!」

 

 戸部が仰天して声を荒げた。

 

 

 

 ゼロとオーブが消え、ジードも変身することが出来ず。ウルトラ戦士がいない沖縄を、ギャラクトロン軍団が我が物顔で侵攻していく!

 



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Miracle Meister

 

 ギャラクトロン軍団の沖縄襲撃はリクとアイルもすぐに察知し、森林を抜けてきたが、その二人の近くにまで既に三機ものギャラクトロンが迫っていた!

 

「うっ!」

 

 ギャラクトロンの一機から放たれた光線からどうにか逃れると、アイルがペンダントを掲げる。

 

「グクルシーサー!」

「ウオオオォォォン!」

 

 ペンダントから大地を守護する聖獣グクルシーサーが召喚され、ギャラクトロン一機に飛び掛かって動きを封じ込む。

 グクルシーサーが時間を稼いでいる間に、ジャグラーがアイルの傍らに現れて呼び掛けた。

 

「おい、そのペンダント貸せ。そいつには生命のエネルギーを増幅する力があるんだろ?」

 

 突然の要求にためらうアイルだが、グクルシーサーだけでは多数のギャラクトロンを抑えていられるはずがない。

 

「早くッ!」

 

 ジャグラーが声を荒げて、アイルはペンダントを彼に渡した。ジャグラーはリクにも目を向ける。

 

「テメェは戦わねぇのか」

「……僕は……」

 

 まだ先ほどのショックが抜け切れていないリクは後ずさりし、座り込んだ。どの道、二十時間経過しなければ再度フュージョンライズすることは出来ない。

 

「臆病モンが。引っ込んでろ」

 

 リクに見切りをつけたジャグラーは、ペンダントの力で自らの生命力を増大させ、巨大な魔人態となってギャラクトロンと互角に戦えるだけの状態となった。

 

『はぁッ!』

 

 蛇心剣を抜いてギャラクトロンの一体に猛然と肉薄していき、振るわれたギャラクトロンブレードを弾いて袈裟斬りを叩き込んだ。

 グクルシーサーやジャグラーが戦っている間に、ペガを宇宙船に残した千早たちはリクの元を目指して全速力で走っていた。

 

[皆さんは、リクとギガファイナライザーの保護をお願いします]

『うむ。急ぐぞッ!』

 

 ゼナが皆を急かすが、いくら急いだとしても人間の足で、巨大なロボットより速く走れるはずがない。彼らは瞬く間に、ギャラクトロンの大群によって包囲される形となってしまった。

 

「す、すごい数だよぉ……!」

「この前あれだけやっつけたってのに、もうこれだけの数をそろえてるなんて……!」

 

 流石に顔が強張る雪歩と真。雪乃たちの方もおびえていると、千早が振り返って告げた。

 

「ここは私たちに任せて!」

 

 765プロアイドルたちは六組のペアを組んで、それぞれオーブライトリングを取り出した。

 

「オリジナルのオーブのプロデューサーがいないと、私たちも全力を出すことが出来ないけど……」

「不足する光は、私たちで補いましょう!」

 

 つぶやく律子とあずさ。頭数は減るが、二人組となることでエネルギーを補強してギャラクトロン軍団に立ち向かう作戦だ。

 

「我那覇さん、行くわよっ!」

「なんくるないさー!」

 

 千早と響、雪歩と真美、やよいと真、伊織とあずさ、亜美と貴音、美希と律子のペアが、ライトリングにフュージョンカードを通してフュージョンアップを敢行!

 

[スカイダッシュマックス!!]

[フォトンビクトリウム!!]

[ゼペリオンソルジェント!!]

[ナイトリキデイター!!]

[パワーストロング!!]

[ブレスターナイト!!]

 

 アイドルたちが六人のウルトラマンオーブとなって、一気呵成にギャラクトロンたちへと突撃していく。

 

『「はぁっ!」』

 

 スカイダッシュマックスが超高速で敵の間を走り抜けて旋風を巻き起こし、ギャラクトロンたちの姿勢を崩す。その隙にフォトンビクトリウムとパワーストロングが重い拳を打ち込んでいき、ナイトリキデイターとブレスターナイトの剣が切り裂き、ゼペリオンソルジェントが援護射撃する。数の不利には、連携で対抗する。

 

『「やぁっ! なの!」』

 

 ブレスターナイトがジャグラーと鍔迫り合いしていたギャラクトロンの肩を裂き、押しのけた。

 

『「ジャグラー、無事!?」』

『「今だけは一緒に戦うの!」』

『ふん……好きにやりな』

 

 律子と美希の呼びかけに、ジャグラーはぶっきらぼうな返答。

 アイドルたちの加勢でギャラクトロン軍団と互角になったかと思われたが、しかし、ここで敵に強烈な増援が現れる。

 

『「はわぁっ!? た、大変ですっ!!」』

 

 あまりのことに大声で叫ぶやよい。彼女たちの前に、ギャラクトロンMK2が再度出現したのだ! 亜美が信じたくないといった風に喚く。

 

『「二体目なんて、そんなのありぃ!?」』

『「そりゃあ、予備があるに決まってるわよね……! くぅっ……!」』

 

 言いつつも苦しげにうめく律子。MK2は戦斧を振るうと、防御が固いフォトンビクトリウムを易々と吹っ飛ばした。

 

『「うわああああぁぁぁぁぁっ!」』

 

 悲鳴を発する真美たち。MK2一体で再び劣勢になる千早たちだが、悪い事態はこれに留まらなかった。

 

「ひぃぃぃ―――――!? 何だぁこいつら!?」

 

 森林の方から悲鳴が上がり、目をやると、雪乃たちが単眼のアンドロイドの集団に取り囲まれていた。

 

『「いけない! 地上制圧用のアンドロイド兵士だわ!」』

 

 律子の言う通り、ギルバリスがギャラクトロンと別に送り込んだアンドロイド兵士バリスレイダーが、雪乃たちを襲っていた。

 助けなければならないが、こちらもギャラクトロンの群れに囲まれて身動きが取れない状態にある。

 

『「このまんまじゃまずいわよ!?」』

『「それは重々承知していますが……!」』

 

 伊織も貴音も、気持ちばかり焦るが状況は好転させられない。千早は一瞬、クシアのバリアに覆われた空を見上げた。

 

『「プロデューサー、春香……! どうか無事でいて……!」』

 

 千早は自分たちも危うい状況に置かれて、なお二人の身を案じていた。

 

 

 

 電脳ウィルス攻撃によってデータ化されてしまった春香は、気がつけば光のない暗黒の世界の中にいた。

 

『ここは……早く、みんなのところに戻らないと……!』

 

 前後左右の区別もつかないような空間に放り出され、自分の今の状態すら把握することも出来ない。そんなありさまにも関わらず、春香は仲間たちのところに戻ろうと、必死にあがいた。

 

『私は……絶対、あきらめない……! 光に手を伸ばし続けて……未来を掴み取る……!』

 

 ゴールも分からないのに決して折れず、ひたすら前に進もうとする春香――その前方に突然、ヌッと巨大な影が現れた。

 

『!! あなたはっ!』

 

 全身が漆黒の色彩なのに、暗黒の世界でくっきりと全身が見える、威圧感に溢れた巨人――ウルトラマンベリアル。

 春香はかつて、一人だけ彼のカードに選ばれた。ある意味では最も因縁深いウルトラマンであるが、直接本人と対面するのはこれが初となる。

 

『フハハ。やっと会えたな、俺の力を使いこなす娘よ』

 

 ベリアルの方もそのことを感じ取っていたのか、春香にそう呼び掛けてきた。

 

『先を急ぐようだが、出口も見えないこの世界でどこに行こうというのだ。何なら、俺がお前の進むべき方向を示してやろうか』

『本当ですか!?』

 

 ベリアルの申し出に驚く春香だが、続く要求に更に驚愕することとなる。

 

『ただし、お前が俺の息子、ジードの伴侶となるならばだ!』

『えっ!?』

『心に強い光と闇を両立させているお前と、俺の血を継ぐジードの運命が合わされば、俺の血脈は宇宙で誰にも負けぬ無敵の存在となることだろう! どうだ、お前も己が子孫が宇宙の頂点に立ち続けるとなれば悪い話ではあるまい』

 

 と交渉を持ち掛けてくるベリアルに、春香は、

 

『――それは出来ません』

 

 毅然と断った。

 

『ほう……?』

『私の未来は、私が切り開きます! どんなことがあろうとも、他人に委ねるつもりはありません! ジードさんだって、自分の運命を誰かに決められるのは認めないでしょう』

『フハハ、言ってくれる。だが、俺の誘いを蹴ればお前は永遠に闇の中をさまよい続けるかもしれん。それでもいいというのか?』

 

 ベリアルの脅迫にも、春香は決してひるまなかった。

 

『それでも、私は自分の足で進んでいきます! あの太陽に向かって、まっすぐ!!』

 

 そう宣言した春香の胸の内から、本当に太陽のような輝きが生じ、闇の世界を照らし始めた。

 

『この光は……!』

 

 春香から生じる光が、遠く先のかすかな光を見つけ出した。それが出口だと、春香は直感する。

 

『あそこだっ! みんな、待っててね!』

 

 春香は迷わず駆け出し、ベリアルを追い越していく。更に彼女の光は形を成していき、オーブライトリングとなった上に一枚のフュージョンカードがリングを通った。

 

[ゾフィー!]『ヘアァッ!』

『ゾフィーさんっ!』

 

 出口に向かって駆けていく春香の背中を見つめながら、ベリアルが呆れたような愉快そうな笑みを浮かべた。

 

『フッ……俺の力を継ぐ者は誰も反抗的で、無茶を押し通すもんだ……。いいだろう、この俺がお前の進む道を祝福してやるぞッ!』

 

 ベリアルのカラータイマーからカード型の闇の欠片が飛び、それがライトリングを通り抜けた。

 

[ウルトラマンベリアル!]『ヘェアッ!』

『ベリアルさんっ……!』

 

 一瞬だけ、ベリアルを一瞥した春香は、黙祷を捧げてライトリングを固く握り締めた。

 

『光と闇の力、お借りしますっ!』

 

 地を蹴って飛び上がった春香が、光の中へと飛び込んでいく――。

 

 

 

 サイバー惑星クシアの鋼鉄の大地の上では、沖縄を侵攻するギャラクトロンとバリスレイダーの軍勢を指揮する、塔に収まっているギルバリスのコアが、新たなるギャラクトロンの部隊を送り込もうとしていた。

 

[地上攻撃部隊第二陣、転送開始。抵抗する者を残らず殲滅するのです]

『「そうはさせないわっ!」』

 

 その瞬間、ギルバリスの前方に黒い巨人が空から飛び降りてきて、大地を揺るがした。

 

[ウルトラマンオーブ! サンダーブレスター!!]

『「闇を抱いて、光となる!! 闇ですらない正義は、スクラップにして粗大ゴミに出してあげるわ!!」』

 

 サンダーブレスターの中から、春香がバサリとマントを翻してギルバリスに言い放った。

 

[指令変更。侵入者を抹消するのです]

 

 ギルバリスは淡々と命令し、ギャラクトロンを春香の方に差し向けて取り囲ませた。

 

『「そこに跪きなさいっ!!」』

 

 だが春香はうろたえも恐れもせず、ギャラクトロンを殴り飛ばしながらギルバリスに向かって飛び出していった!

 

 

 

 懸命にギャラクトロン軍団を押し返していたグクルシーサー、ジャグラー、765プロアイドルたちだったが、それでも圧倒的な物量の差と、二体目のMK2の前に崖っぷちにまで追いつめられていた。

 

『ぐッ! ぐわぁッ!』

「ウオオオォォォン!」

 

 ジャグラーとグクルシーサーが叩き伏せられる。そこに、リクたちの宇宙船が飛来してきた。

 

[援護射撃を開始します]

 

 宇宙船の船体から偏光ビームが放たれ、ジャグラーたちを斬りつけるギャラクトロンの背面を撃ち抜いた。ペガが宇宙船から叫ぶ。

 

「みんな、大丈夫!?」

『お前ら遅せぇよ』

 

 吐き捨てたジャグラーだが、それが隙となった。別のギャラクトロンが既に接近していて、クローで殴りつけてきたのだ!

 

『ぐわあああぁぁぁぁぁぁッ!?』

『「ジャグラー!!」』

 

 強烈な一撃をもらって倒れるジャグラー。伊織たちが叫んだが、MK2の斧を受け止めているのが精一杯で救援には回れない。

 

『ぐッ……!』

 

 すぐには起き上がれないジャグラーに、ギャラクトロンの凶刃が迫る――!

 が、その瞬間に白刃のひと太刀がギャラクトロンに浴びせられ、ジャグラーから追い払った。

 

『んッ!?』

 

 そしてジャグラーに差し出されたのは、銀色の腕。

 

『どうした? 宇宙の平和を守るんじゃなかったのか』

 

 皮肉げに聞いたのは――オーブオリジン!

 

『「プロデューサー!!」』

 

 アイドルたちが一斉に、疲労もダメージも一瞬忘れるほどの歓声を発した。

 

『ふん……守り抜いた後でテメェをぶっ潰す』

『勝手にしろ。行くぞ』

 

 ジャグラーがオーブの手を取り、二人並んで立ち上がった!

 

「シュアッ!」

 

 オーブが斧でナイトリキデイターとブレスターナイトを押さえつけているMK2へと走り、オーブカリバーの柄のリングを回した。

 

『オーブグランドカリバー!』

 

 地面に突き刺した刀身からエネルギーが奔り、伊織たちが左右に逃れた後にMK2に命中して爆発を食らわせる!

 

『蛇心抜刀斬!』

 

 直後にジャグラーの刀の振り抜きが、MK2に炸裂! MK2も一時的な活動停止を余儀なくされる。

 アイドルたちは一旦オーブの元に集い、体勢の立て直しを図る。

 

『「もう、遅いわよプロデューサー!」』

『「今までどこに行ってたんだ?」』

 

 伊織が安堵して憎まれ口を叩き、響がそう尋ねると、オーブは何でもないことのように答えた。

 

『すんでのところで、ゼロさんのシャイニングの力で未来に逃れてな。ゼロさんももちろん無事だ』

 

 そのゼロもたった今変身し、ゼロビヨンドとなってギャラクトロンに百裂キックを食らわせているところであった。

 

『ブラックホールが吹き荒れるぜ!』

 

 ゼロがギャラクトロンを一体破壊。アイドルたちも、オーブオリジンが戻ったことで光エネルギーが増大し、力がみなぎってきた。

 

『みんな、春香は先にクシアに乗り込んでる。すぐ迎えに行きたいところだが、リクがギガファイナライザーを呼び起こすまでここを抑えるぞ!』

『「はいっ!!」』

 

 オーブの指示にアイドルたちが応じ、勢いを増してギャラクトロン軍団に立ち向かう。

 しかし、敵も勢いだけで相手をし切れるような戦闘力でも物量でもない。特にMK2は、オーブオリジンとジャグラーの二人がかりでも押し返されるほどのパワーである。

 

『くッ、やはり強いな……!』

『ジードの奴め、まだか……!』

 

 斧と光線の合わせ技に防戦一方のオーブとジャグラーだが、てこずっている間にグクルシーサーがギャラクトロンの攻撃の前に倒れた!

 

「ウオオオォォォン!」

「グクルシーサーっ!」

 

 無防備になったアイルに、ギャラクトロンのレーザーが襲い掛かる!

 

「くぅっ!!」

 

 アイルはペンダントからバリアを張り、レーザーをどうにか受け止める。

 

「愛瑠さん!!」

 

 目を見張ったリクに、アイルはレーザーを防ぎながら呼び掛けた。

 

「リクくん……君は一人じゃない! たくさんの素敵な仲間がいること、忘れないでっ!!」

 

 そこまで語ったところで限界が来て、バリアが破られる。

 

「あああぁぁっ!!」

 

 業火の中に呑み込まれるアイル。

 

「愛瑠さぁんッ!!」

 

 絶叫するリク。オーブたちも、アイルの惨状に目を見張った。

 

「ウオオオォォォン!」

 

 アイルをやられたグクルシーサーは憤怒し、エネルギーの塊となってギャラクトロンに突進し、破壊した。

 

『「アイルさんが……! うおおぉぉっ!」』

 

 響が発憤し、スカイダッシュマックスのスピードが更に上がってギャラクトロンを薙ぎ倒した。他の五人もリクたちの前に回り込んで、彼らを守る態勢を取る。

 

『「これ以上は、誰も傷つけさせないっ!」』

 

 千早が豪語し、全員でギャラクトロン軍団を押し返していく。

 そうして時間を稼いでいる内に、彼女たちの背後ですさまじい閃光がほとばしり、五人もの戦士が立ち上がってきた!

 

[ウルトラマンジード!! ウルティメイトファイナル!!!]

 

 遂に赤き鋼――ギガファイナライザーを手にして新たなる姿に覚醒したウルトラマンジード・ウルティメイトファイナルと、ジードマルチレイヤ―によって分身したソリッドバーニング、アクロスマッシャー、マグニフィセント、ロイヤルメガマスターの五人だ!

 オーブたちやジャグラー、ゼロが、ジードたちの周りに集合する。

 

『ようやく主役の登場か』

 

 オーブは空を、惑星クシアを見上げてジードに告げた。

 

『春香が待ってる。俺たちは先にギルバリスを叩いてくるぜ。ここは任せた!』

『はいッ!』

 

 地上に残存する敵はジードたちに任せ、オーブとアイドルたちがクシアで戦う春香のところへと一挙に飛び立っていった。

 

「シュウワッチ!」

 

 そしてジャグラーの方には、インナースペースに闖入者が現れる。

 

『「プロデューサー。私たちを置いて、楽しそうなことしてるじゃないの」』

『「ほんとツレないよねー、プロデューサーはぁ」』

『「ここからを、本番にしよう」』

 

 麗華、りん、ともみの魔王エンジェル三人だ。

 

『お前ら、いつの間に』

『「まぁまぁ、そんなことはいいから。ほら、早くしないと765プロにいいとこ全部持ってかれちゃうよ?」』

 

 肩をすくめながら、麗華はダークリングを取り出した。

 

『やれやれ……んじゃ、久しぶりにやるとするか』

 

 ジャグラーがため息を吐き出しながら、闇とともに空間跳躍する。と同時に、麗華たちが怪獣カードをダークリングに通していった。

 

『「ゼットンさんっ」』

[ゼットン!]『ピポポポポポ……』

『「パンドンさんっ!」』

[パンドン!]『ガガァッ! ガガァッ!』

『「ブラックエンドさんっ……」』

[ブラックエンド!]『ガアアアアアアァァァァ!』

『闇の力、お借りしますッ!』

『超絶合体! ゼッパンエンド!!』

 

 ジャグラーは魔王エンジェルとともに、超合体魔王獣ゼッパンエンドに変身し、惑星クシアに乗り込んでいった。

 

 

 

『くっ、うぅっ……!』

 

 クシアの鉄の大地の上では、春香が満身創痍となって膝を突いていた。

 相手にしているのは、ギャラクトロン軍団ではない。彼女の予想外の奮闘によってギャラクトロンたちは後退させられ――代わりに春香を追いつめているのは、戦闘形態となったギルバリス自身!

 ウォォォォオオオオオ――――――ン……!

 亀と龍が合わさったようなシルエットの巨大ロボットであるが、全身から突き出ているのは全てビーム砲とミサイルランチャー等の破壊兵器! ありとあらゆるものを破壊することしか考えていないような機体こそが、ラストジャッジメンター・ギルバリスのありさまを体現し切っていると言えよう!

 

[抵抗は無駄です。平和に歯向かう生命体は残らず、抹殺します]

 

 ダメージにより立ち上がることが出来ない春香に、ギルバリスがビーム砲の砲口を向けて消し飛ばそうとしてくる。流石に春香の額に嫌な汗が流れるが、

 

「シュワッ!」

 

 ギルバリスの足元にオリジウム光線が撃ち込まれ、牽制で発射が阻止された。その隙に春香の周りに着地したのは、オーブ率いる765プロの仲間たち。ゼッパンエンドも近くにテレポートしてくる。

 

『「プロデューサーさん!」』

『悪い、遅くなったな』

 

 春香にひと言謝ったオーブは、ギルバリスを見据えるとアイドルたちに呼びかける。

 

『ここまで来たら遠慮は無用だ。俺たちの絆の全力、あいつに見せてやろうぜ! 765プロッ!』

『「ファイトぉぉぉぉぉ―――――っっ!!」』

 

 七人のオーブの身体が十三色の光となってオーブオリジンに融合していき、オーブリングにアイドルたちの心の光が集まって極彩色に輝いた!

 

『諸先輩方ッ!』

『ヘアッ!』『ヘアァッ!』『デュワッ!』『ジェアッ!』『トワァーッ!』『トァーッ!』『イヤァッ!』『ヂャッ!』『デヤッ!』『デュワッ!』『デアッ!』『フワッ!』『シェアッ!』『シュアッ!』『セアッ!』『メッ!』『ヘェアッ!』『セェェェェアッ!』『ショオラッ!』『テヤッ!』『イィィィーッ! サ―――ッ!』

 

 オーブが持つ全ての種類のカードがリングに飛び込み、力を一つにして六芒星型の武器を作り出す。

 

[オールスターフュージョン!!]

『オーブスラッシャースター!』

 

 スラッシャースターを握り締めたオーブが、大きく腕を回す。

 

『皆さんの光の力、お借りしますッ!! オーブ・オールスター!!!』

 

 ガイとアイドルたち全員のフュージョンアップにより、オーブは奇跡の最強形態、ウルトラマンオーブ・オールスターに変身を遂げた!

 

『俺たちはオーブ! ウルトラマンオーブ・オールスター!! 皆の光と絆を結び、今ッ! 輝きの向こう側へ!!』

 

 オーブ・オールスターとゼッパンエンドを相手に、ギルバリスが両腕を肩部から180度回転させ、びっしり並んだ砲門をオーブたちに向けると、ビーム砲撃を一斉掃射してきた!

 

『ゼッパンエンドシールド!』

 

 それに対してゼッパンエンドがバリアを展開して防御。光線をゼッパンエンドが止めている間に、オーブが飛び出していってギルバリスに接近しようとする。

 

「オオオォォッ!」

 

 雨あられと飛んでくるビームをスラッシャースターで切り払うオーブ。頭上から次々飛来するミサイルは、ゼッパンエンドの火炎弾が撃ち落とす。しかし両者の連携をもってしても、オーブがなかなかギルバリスに近づいていく隙間がないほどに弾幕が激しい。

 

『「ボクたちを近づかせないつもりか……!」』

 

 火の雨となるギルバリスの猛攻に、皆と一緒にオーブに力を与えている真が戦いの衝撃に耐えながら歯ぎしりした。しかし、春香が言い切る。

 

『「でも、私たちは前に進む! 止めさせはしないっ!」』

「オリャアァッ!」

 

 オーブが気合いとともに、スラッシャースターを前に突き出して光線を切り裂き進んでいく。が、彼がギルバリスの元へたどり着く前に、控えているギャラクトロン軍団が魔法陣の中に吸い込まれていく。

 

[地上攻撃部隊を転送します。ギガファイナライザーを抹消すれば、コアが破壊されることはありません]

 

 オーブたちと戦いながら、先にジードを始末してしまおうというギルバリス。だが、そこに律子が叫んだ。

 

『「そうは行かないわっ!」』

 

 直後、ギルバリスが異常を感知した。地球に転送したはずのギャラクトロンたちが、片っ端から全く違う場所へと送られていくのだ。

 

[何者かのハッキングにより、攻撃部隊の転送先が書き換えられています。これは……]

 

 

 

 魔法陣で転送されたギャラクトロン軍団は、ハッキングによって地球の沖縄ではなく、ミッドチルダスペースの亜空間に設けられた広大な特殊バトルフィールドで実体化した。

 

「来たっ!」

「攻撃用意!」

 

 バトルフィールドには時空管理局の全兵力が既に待機しており、ギャラクトロンの出現とともに攻撃態勢を取った。彼らとともに鬨の声を上げたのは、ウルトラマンエックス。

 

「イィィィーッ! サ―――ッ!」

 

 彼は律子の頼みにより、密かにサイバー惑星クシアのデータに潜り込み、ギャラクトロンの転送先が全てこの空間になるように細工していたのだ。この無関係の生命の犠牲の心配がない場所で、ギルバリスの残存兵力を一網打尽にする作戦であった。

 

『これ以上、如何なる命も踏みにじらせない! 私たちが相手だッ!』

 

 エックスを先頭に、管理局の勇士たちが一斉にギャラクトロン軍団に勝負を仕掛けていった!

 

 

 

「シュワッ!」

 

 そしてオーブは遂に、ギルバリスを間合いの中に収めることに成功。ギルバリスは瞬時に腹部から電磁光線を発して返り討ちにしようとする。

 

「『ライトムーンバリア!!」』

 

 だがオーブは電磁光線を浅葱色のバリアで遮断。ならばとギルバリスが一本角を振り下ろしてオーブを貫こうとしてくるのに、オーブはスラッシャースターを構える。

 

「『ブルースラッガーソード!!」』

 

 スラッシャースターが青いスラッガーの形となって投げ放たれ、角をへし折ってギルバリスの各部を斬りつけた。オーブがスラッガーをキャッチしながら後ろに転がる。

 

『食らえぇぇぇッ!』

 

 そこにゼッパンエンドが一兆度火球を発射して、ギルバリスを爆炎に呑み込んだ。

 更にオーブが、スラッシャースターから超大型の赤い光輪を作り出して投げ飛ばす。

 

「『レッドサンダー光輪!!」』

 

 光輪がギルバリスの機体を貫通し、真っ二つにする。

 

『「決まった!」』

『「だけど、コアはやっぱり無傷のはずよ! とっ捕まえて、ジードの前に引っ張り出しましょう!」』

 

 叫ぶ律子。レッドサンダー光輪が決まったことで、ギルバリスの爆散は確定したかと思われたが……。

 

[抵抗は、全て無駄です。知的生命体は誰しも、死滅する運命にあるのです]

 

 壊れゆくギルバリスの左右に、鋼鉄の地面の中から二体のロボット怪獣の残骸がせり上がってくる。

 

[知的生命体自身が造り出した、争いの道具によって]

『あれはッ!』

 

 驚愕するオーブとジャグラー。ギルバリスの左右に引きずり出されたのは、ネオフロンティアスペースの地球人類の心なき科学の象徴、デスフェイサーと、コスモスペースの無慈悲な宇宙正義の暴力、グローカービショップであった。

 この二体のロボット怪獣を、ギルバリスはデータ化して分解し、自らに取り込む!

 

『何だと……!?』

 

 ボディの修繕も兼ねた強化改造をこの場で、自らに施すギルバリス。

 そしてギルバリスの機体がひと回りほども巨大化。ケンタウロス体型となり、背面にはバーニアを備える。両腕はガトリングガンとシザーアームが追加され、ただでさえ多かった重火器が更に追加された。

 心を持たない暴走する正義の果て……生きとし生けるものを滅ぼし尽くすまで止まらない、ギルバリス・ジャッジメントデイ!

 

『――来るぞッ!』

 

 ギルバリス・ジャッジメントデイから、最早面に見えるほどの密度のビーム、ミサイル、電撃、機銃、熱線、光球などあらゆる重火力が放たれた!

 

『うおわぁぁぁぁぁぁッ!!』

 

 この圧倒的な飽和攻撃の前にはバリアも意味をなさず、ゼッパンエンドシールドも容易く破られてオーブもゼッパンエンドも吹き飛ばされた。

 

『ぐぅッ……!』

 

 それでも立ち上がろうとするオーブに、ギルバリスの胸部からネオマキシマ砲が速射された!

 

『ガイッ!』

 

 咄嗟にゼッパンエンドがオーブを突き飛ばして逃がしたが、代わりにゼッパンエンドがネオマキシマ砲の餌食となる!

 

『ぐわああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――ッッ!!!』

『ジャグラぁぁぁぁぁぁ―――――――――ッ!!』

『「れ、麗華ぁぁぁ!?」』

 

 絶大な砲撃の中に消えていくゼッパンエンドに、オーブと伊織が絶叫した。

 後には、塵すら残らない。流石の春香たちも、皆青ざめたが……。

 

『――あぁぁぁッ! もうやってられっかッ!!』

 

 姿はなくなっても、ジャグラーの悪態が念話でオーブたちの耳に届いた。ギリギリのところで脱出したようである。

 

『「もうやーだーっ! あんなの相手にするとかしんどすぎー!!」』

『「ということで、ひと足お先に失礼」』

『「まっ、後は適当に頑張っといてねー」』

『「……全く……」』

 

 りん、ともみ、麗華の捨て台詞に、伊織たちは責めることもせず、ただ苦笑を浮かべた。

 

『「しかし、どうしますか? あの様子では、戦えば戦うほどギルバリスは脅威を増していきます」』

 

 どんどんと破壊力を増大させるギルバリスを警戒する貴音。ゼッパンエンドも抜けた現状、彼女たちは崖っぷちに立たされている……。

 それをオーブが否定した。

 

『いや。あいつらがこっちに向かってきてるぜ……ジードたちがな!』

 

 オーブたちが時間を稼いでいた間に、地上のジードたちはギャラクトロンを全て撃破。こちらに向けて飛行しているのをキャッチしたのであった。

 生命を焼き払う鉄の悪魔との決着は、もう間近だ!

 



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そしてぼくらは旅をつづける

 

「オォォォォリャアッ!」

 

 オーブはスラッシャースターを大きく振るって、ギルバリス・ジャッジメントデイの放ってくるレーザー砲撃を切り払う。が、あまりの敵の手数にジリジリと押されていく。

 そんな劣勢の時、響が後ろを振り返って叫んだ。

 

『「みんな! ジードたちだぞ!」』

 

 響の言った通り、ジードとゼロがこの戦場に空を飛んで駆けつけてきた! しかもジードは赤い棍棒のような武器を携えた、春香たちが見たことのない姿――ジード独自にして最強の形態ウルティメイトファイナルとなり、ジードマルチレイヤ―による分身を四人も連れている!

 ジードたちはオーブの側に降り立って合流した。

 

『すみません、遅くなりました』

『主役だもんな』

 

 軽口で返すオーブ。それと戦っていたギルバリスは当然、ジードたちも新たな抹殺対象として標的に定める。

 

[宇宙に永遠の平和を築くため、不要な知的生命体は全て抹殺します]

 

 ウォォォォオオオオオ――――――ン……!!

 全身から蒸気を噴き出し、鉄と鉄がこすり合う金切り音を咆哮のように轟かせながら宣言するギルバリスに、ゼロ、オーブ、ジードが毅然と言い返した。

 

『やれるものならやってみろ』

『俺たちが、お前を止める!』

『愛瑠さんが望んだ、本当の宇宙の平和のためにッ!!』

 

 巨大なる殺意の塊を前にしても、オーブたちは決してひるまず、力を合わせて一挙にギルバリスに向かっていく。ギルバリスもバーニアからジェットを噴かせて、鉄の大地を砕きながら猛然と突進してきた!

 

[知的生命体は平和を望みながら、争いをやめることも、星を汚すこともやめられない、矛盾と欠陥を抱えた弱い存在です]

 

 ギルバリスを囲んで四方から飛び掛かっていくオーブたちだが、敵のあまりに堅牢な防御力に、攻撃をことごとくはねのけられる。拳を振るうソリッドバーニングとマグニフィセントはビームで撃ち返され、ジードクローとキングソードで斬りつけるアクロスマッシャーとロイヤルメガマスターはミサイルで撃ち落とされ、ゼロがガトリングガンを食らい、オーブが電磁光線を浴びせられ、ジードのギガファイナライザーの一撃がシザーアームで受け止められた上に角の振り下ろしを食らう。ギルバリスには死角が一切なかった。

 

[宇宙と平和のために、全てをリセットするのです]

「ウワアアアアアッ!」

 

 ジルサデスビームがオーブたちを纏めて薙ぎ払うが、七人はあきらめずに立ち上がっていく。

 

『「屁理屈ばっかり並べてるんじゃないわよっ!」』

『「全部壊した後に、残るものなんてある訳ないだろ!?」』

『「愛を知らない人に、ほんとの平和は作れないの!」』

『「誰のためでもない平和なんて、そんなのは平和じゃないっ!」』

 

 伊織、真、美希、春香が叫び、全員そろってギルバリスに再び飛び掛かっていこうとする。

 しかしギルバリスは全砲門をオーブたちに向け、ありとあらゆる砲撃を一斉に発射して面制圧爆撃を仕掛けてきた!

 

『うわあああああぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――――――!!!』

 

 土地ごと爆砕してくる圧倒的破壊の前には、ウルトラ戦士でも風に吹かれる木の葉のよう。何とかしのぎ切るものの、全員ばったりと倒れ、カラータイマーが点滅してピンチを示した。

 命はこのままギルバリスに消し飛ばされてしまうのか!

 

『「……確かに、俺たち人間は矛盾や欠陥だらけの、駄目な生き物さ……!」』

 

 そんな時に、ジードのインナースペースから、八幡が苦痛に耐えながら語り出した。やよいたちがジードへと振り向く。

 

『「比企谷さん……」』

『「雪乃は誰に対しても毒舌が止まらねぇ……! 結衣は優柔不断で、人の顔色ばっか窺うような奴だった……! 一色は何かと面倒事持ってきといて悪びれもしねぇし……! 平塚先生はいつまで経っても結婚できねぇ! 材木座はもう色々とアレだ! とても言い切れねぇッ!」』

 

 必死に起き上がろうとするジードの中で、渾身の想いを込めて唱え続ける八幡。

 

『「どんなに完璧そうな人間も、何かしらも問題を抱えてるのを奉仕部で見てきた! そして一番駄目だったのが俺だ! 自分じゃ何も頑張らねぇのに、不平不満ばっか! 他人を妬んでばっか! 何でも分かってるような顔して、人の気持ちをちっとも分かっちゃいねぇ! 自分が傷つくのが怖くて、自分の気持ちに嘘を吐いて! そんなクズだったよッ!」』

 

 八幡が言葉を並べるのとともに、ジードが立ち上がって再びギルバリスに挑んでいく。

 

『僕だって、駄目なところだらけだ! 子供っぽいのが抜けないし、すぐカッとなったりすねたりするし! さっきだって、意地ばっか張ってみんなにすごい迷惑を掛けた!』

 

 ホーミングレーザーやミサイル、ガトリングガンに晒されるジードだが、倒れない。気力をエネルギーに変え、ギルバリスに抗い続ける。

 

『「だけど俺は、俺たちは、変われたッ!」』

『運命を変えることが出来た!』」

『「ひとりぼっちで泣いてる心を救うことが出来た!」』

『みんなが僕を信じてくれた!』

『「最初が欠点だらけでも、人間はいい方向に進めるんだ! だから生きてるんだッ!」』

『完璧じゃないから、明日を目指して歩くんだッ!』

『「その進歩は!」』『止めさせはしないッ!』

『僕はッ!』『「俺はッ!」』

 

「『みんなと生きていく!!」』

 

 気合いを爆発させたジードが、ギルバリスの巨体を押し返した!

 

『今こそ、君たちの絆を一つにするんだ!!』

 

 オーブが叫ぶと、ジードとジードの分身全員が光となり、ジード本体と一つになっていき、まばゆいほどに激しく輝いた!

 

[エボリューション・アンリミテッド!!]

「「「「「『願いをつないで!! 限界の先へ!!!」」」」」』

 

 ジードの全身から光が弾け、新しい姿となって立ち上がった!

 ウルティメイトファイナルの肉体を基調としながらも、ソリッドバーニングの右腕、アクロスマッシャーの左腕、マグニフィセントの下半身、ロイヤルメガマスターの胸とマントを持った、秘められたジード自身の能力を解放した更にその先のジード!

 

「「「「「『ウルトラマンジード!! ウルティメイトアドヴァンス!!!」」」」」』

 

 カラータイマーも完全回復した、ジードの更なる形態にゼロが目を奪われた。

 

『ジードたちの絆が、そのまま形となってる!』

 

 限界を突破したジードに、ギルバリスがガトリングガンを連射してくる。対するジードは右手首が開き、エネルギー充填。あまりもの熱量に、腕は雪のように白く輝く。

 

「「『バーニングスノウブースト!!!」」』

 

 純白の超熱線がガトリングガンの弾丸を焼き尽くして飛んでいき、砲身も爆破して焼き尽くした。

 左腕を失ったギルバリスが、ならばと右腕のシザーアームからレーザーを放とうとするも、ジードは左腕を右腕の腹に当て、十字を組んだ。

 

「「『バインドインパクト!!!」」』

 

 放たれた光線がシザーアームに巻きつき、レーザーを封じ込んだ上で破壊した。

 両腕を失ったギルバリスは胸部からネオマキシマ砲を発射! これをジードは正面から迎え撃つ構えを取り、両腕をL字に組む。

 

「「『サイレントバスターノバ!!!」」』

 

 あまりの弾速の速さに音が遅れて一瞬無音になるほどの速度の破壊光線が、ネオマキシマ砲を切り裂いてギルバリス本体に命中! ギルバリスの超重量のボディが後ろに押される!

 

『いいぞジード! みんな!』

 

 どんどんとギルバリスを追い込んでいくジードに、オーブが声援を送った。

 武装を一つずつ失っていくギルバリスは、最早出し惜しみしないとばかりに全ての砲門を開いて全火力をジードに集中する。

 

『みんなと明日に向かって進み続けるんだ!』

 

 ジードは砲撃の嵐を飛び越えてギルバリスの頭上を取り、ギガファイナライザーに左手を当てて十字を作った。

 

「「『カラフルエンド!!!」」』

 

 極彩色の光の粒子がギガファイナライザーから発射され、ギルバリスの頭上に降り注ぐ。バーニアが爆破され、ギルバリス本体にもダメージが入る。

 

[ウルトラマンジードのエネルギーが計算される限界値を超えています。なおも増幅中。理解不能]

 

 ギルバリスは高次元増殖物質置換により、クシアの大地をデータ化して取り込んで機体の修復を図る。しかしそうはさせまいと、ゼロとオーブが動いた。

 

『あの装甲を破壊するぞ!』

『はい!』

 

 ゼロがスラッガーをつないでひと振りのビヨンドツインエッジを作り、猛ダッシュでギルバリスに突撃。

 

『ツインギガブレイク!』

 

 光速の一閃が、ギルバリスの胸部に裂傷を刻んだ。

 

『「計算では測れない力を秘めている……それが人間よっ!」』

『「みんなの可能性は無限大ですぅ!」』

『「前に進もうとする人たちの未来を破壊することは出来ないわ!」』

『「希望はどんな時だって消えなくて!」』

『「どんな時だって奇跡は起こるんだー!」』

『「わたくしたちの、彼らの明日を切り開きます!」』

『「これが、お前が持たない命の全力だぞっ!!」』

 

 千早、雪歩、律子、亜美、真美、貴音、そして響の言葉とともに、極彩色に輝いたオーブから最大の一撃が、春香の台詞とともにギルバリスの胸部へと繰り出される!

 

『「私たちの願いを、今こそ一つに(UNION)!!」』

「「「「「「『レインボーミラクル光線!!!!!!!」」」」」」』

 

 オーブの全身より放たれる莫大な光線がギルバリス全体を呑み込み、巨大な機体をバラバラにして吹き飛ばしていく。

 後に残るのは、赤い球状のコアのみ。

 

[人間、可能性、未来、希望、奇跡、明日……命……理解、不能]

 

 全ての武器を失ったギルバリス・コアは浮上し、電脳空間に逃げ込んでいく。

 だがそれを追って、ジードが電脳空間に飛び込んでいった!

 

[見せつけろ!! つないだ絆!!!]

『僕らはみんな、みんなで、ウルトラマンなんだッ!!』

 

 ジードの手にするギガファイナライザーの穂に赤いエネルギーが結集し、全てを貫き通す槍の刃となる。

 

「「「「「『アドヴァンスドジードロンギヌス!!!!!!」」」」」』

 

 ジードたちの願いを一つにした明日に進むための槍が、ギルバリスを貫通した!

 ギルバリスはとうとうコアを粉砕され、同時に惑星クシアのデータも破断。地球を覆っていたバリアは、跡形もなく消滅していった。

 

 

 

 ギルバリスの破壊によるクシアの消滅と、地球の解放を、光の国からウルトラの父たちが見届けて安堵の息を吐いた。

 

『ゼロとオーブ、そしてジードがやってくれました!』

『ジードも、一人前の光の戦士になったようですね』

 

 ウルトラの母の言葉に、ウルトラの父が力強く首肯した。

 

『我々の未来を託せる、新たな勇者の誕生だ!』

 

 

 

 ギルバリスが倒され、クシアからの命令コードが途絶したことによりギャラクトロンは全機活動停止。ウルトラマンエックスと時空管理局の戦いも、ギャラクトロン軍団が急停止したことにより終結を迎えた。

 

『やってくれたみたいだな。律子君、ウルトラマンオーブ……そして新しいウルトラマン、ジード!』

 

 エックスが時空の彼方を見やりながら、誇らしげにつぶやいた。

 

 

 

 ――全ての戦いが終わり、地球には平和が戻った。ウルティメイトフォースゼロは自分たちの宇宙に帰っていき、それを見送ったリクたちも解散しようとする。

 その現場の砂浜で、ぞろぞろと立ち去っていくリクたちを密かに見送るアイルに、響らが岩場から声を掛けた。

 

「何か、話をしなくていいの?」

 

 アイルはリクの背中を見つめながら、苦笑して首を振った。

 

「これでいいの。私は既に、この大地を守り、大地とともにあり続ける存在……。彼らと同じ時間を生きていくことは出来ないから」

 

 少しだけ寂しそうでありながらも、アイルはにこやかに語った。

 

「でも、それはお別れじゃない。私たちは絆で結ばれた。その絆が、どんなに遠く離れても私たちをつないで、一つにするから。――私は大地とともに、みんなを見守り続ける……!」

 

 響たちに振り向いたアイルは、最後ににこっと微笑んで、スゥッと沖縄の自然の中へと消えていった。

 響たちも笑顔で、アイルを見送っていった。

 

 

 

 こうして皆を見送ってから、765プロ一行は宇宙船を停泊させている場所を目指して街中を移動していく。

 

「さてと! ギルバリスの件も片づいたし、事務所に戻ったらすぐに通常業務に戻らなくっちゃね!」

「えぇ~!? すんごいハードな戦いだったんだし、ちょっとはゆっくりしようよ律っちゃ~ん!」

 

 不満の声を上げる亜美たちに、律子が厳しく言いつけた。

 

「駄目よ。ここのところはずっとこの事件に掛かりっきりだったんだから! いつまでもアイドルとしての本来の仕事を放り出してたら、ファンが離れていっちゃうでしょ!」

「そんなぁ~! ねぇねぇ、兄ちゃんからも何か言ってよ~」

 

 真美に袖を引かれたガイが、どうしたものかと目を泳がせる。

 

「そ、そうだな……まぁ、俺もひとっ風呂くらいは浴びたいし……」

「プロデューサー! いつも言ってますけど、こういう時、あなたがシャキッとしてくれないと困るんですよ!」

「うッ……」

「うふふ。いつまで経っても、プロデューサーさんは律子さんに弱いですねぇ」

 

 律子にたじたじのガイのことを、あずさがからかい気味に笑った。

 

「ねぇ見てプロデューサー。このパンダ、すごい目つき悪いと思わない?」

「ほんと! この地球だとこんなのが人気なんだ~。おかしいの!」

「私は、ちょっと好きかも」

 

 そんなところに、ガイたちの行く先の店舗から魔王エンジェルを連れたジャグラーが出てくる。

 

「あ」

 

 ばったりと鉢合わせになって一瞬固まる一同。一番に声を発したのはジャグラーだ。

 

「ふッ……テメェらより先にギルバリスの弱点を見つけて吠え面かかせてやろうと思ってたのに、とんだ災難だぜ」

「そんなことたくらんでたんだ。相変わらずしょうもないわね、あんた」

「ちょっと伊織、ウチのプロデューサーの悪口やめてくれる? ファンから性格悪いって思われちゃうわよ」

「あんたが言うんじゃないわよ!」

 

 伊織と麗華がぐぬぬと言い争うのを尻目に、ジャグラーはガイに挑発じみた笑みを向けた。

 

「ガイ、テメェを倒すまで死んでも変わってやるもんか」

「ふッ……」

 

 ガイはそれに苦笑だけ返して、帽子を被ってジャグラーたちの脇を抜けていく。

 アイドルたちを連れて去っていくガイは、背を向けたままジャグラーにひと言告げた。

「あばよ」

 

 

 

 

 

THE ULTRAM@STER ORB 特別編

『UNION!! みんなの願い!!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ――白いもやが霧のようにどこまでも立ち込め、地平線さえも見通せない世界。足をつけているのが土なのかどうかも分からない地面の上にはところどころに、複葉機やゼロ戦、旅客機やジャンボジェット機など、古今東西の種類を問わない航空機が不時着したまま眠り続けている。

 そんな空間と空間の狭間、異次元空間の落とし穴のような世界に、全身から刃物を生やしたメタリックブルーの巨大怪獣が身体を震わし、咆哮を発した。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

 

 この怪獣に向かって、どこからか正体の知れない声が命令を送る。

 

『行け、捕らえろ……カミソリデマーガ!』

 

 そう呼ばれた怪獣が進み出す先には、九人の少女たちが必死の形相で怪獣から逃げていた。

 

「ちょっとちょっとちょっとぉー!? 何よあのでかいのぉ―――!?」

「ここもどこなのにゃ―――!?」

「さっきまで、日本に帰る飛行機の中だったのに……!」

「私たち、悪い夢でも見てるのかな……!?」

「全員そろって同じ夢を見る訳ないでしょう!」

「何か、とんでもないことが起きてるんよ!」

「とにかく逃げましょう! 追いつかれたらどうなることか……!」

「誰か助けてぇぇぇぇ――――――!!」

 

 大声で悲鳴を上げる少女の一人に、サイドテールをリボンで結んだ少女が叫ぶ。

 

「落ち着いて花陽ちゃん! あきらめなければきっと、助かうわぁぁぁっ!?」

 

 しかし気を取られたことで足がもつれ、盛大にすっ転んでしまった。

 

「穂乃果!?」

「穂乃果ちゃん!?」

「何やってんのよー! おっちょこちょいなんだからー!!」

 

 一番小柄なツーテールの少女が頭を抱えるが、転んだ少女を助ける間もなく、怪獣がその少女へと腕の刃を振り上げる。

 

「グバアアアアアア! ギャギャギャギャギャギャ!」

「いっ、いやあああぁぁぁぁぁぁぁぁ―――――――――!!」

 

 もう駄目だ。誰もがそう思った、その時、

 

「シュワッ!」

 

 白刃が怪獣の刃に差し込まれ、振り下ろしを止めて少女を救った。

 

「え……?」

 

 サイドテールの少女が恐る恐る顔を上げると……いつの間に、どこから現れたのか、リング型の柄の剣を握り締めた赤と銀と黒の体色の巨人が、少女をかばって怪獣を止めていた。

 少女の仲間たちが巨人の背中を見上げ、文字通り仰天。

 

「な、何あれ!?」

「銀色の、巨人……!?」

「まるでヒーローみたいだにゃ……!」

 

 少女たちとは別の、謎の声が、巨人の出現に驚いたような、同時に怒りに染まったようなつぶやきを発する。

 

『……ウルトラ戦士……!』

 

 呆然と巨人の背中を見上げるサイドテールの少女の腕を、仲間たちではない別の少女が引っ張り、彼女を助け起こした。

 

「大丈夫? さぁ、今の内に!」

「え、えぇっ!? 誰ですかあなた!? あの巨人さんは!?」

 

 予想外の事態の連続にパニックの少女に対し、二つのリボンを頭に飾った少女――春香は安心させるように堂々とした声で告げた。

 

「あの人はウルトラマンオーブ! 私たちのオーブだよ!」

 

 銀色の巨人――ウルトラマンオーブは聖剣オーブカリバーを振るって頭上に大きく円を描き、怪獣に対峙し直した。

 

『俺たちはオーブ! 銀河の光が、我らを呼ぶ!!』

 



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