Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜(番外編) (黒曜【蒼煌華】)
しおりを挟む

番外編:クリスマスイブ(前編)

お久し振りで御座います、黒曜月華と申します!
丁度1ヶ月近くが経ちましたね。
待ってて下さった読者様方、誠に感謝致します。
今回は番外クリスマスイブ回という事で、本編でまだ登場していないキャラも出ます。
設定としては、主人公(九条大祐)とその親友(森山碧)がZ/X原作のいざこざ問題を解決し、平和になった世界。
ディンギル(神様)やウェイカー(竜)の敵対すら無くなっております。
一言で言うなら。
普通の人間とZ/Xが共存成功した世界ですね。

読んでいて分からない事、面白かった所等御座いましたら感想にお願い致します!
作者としてはどんな感想も大歓迎ですからね!
(因みにこの話は、後々本編に関わってきます)


「うーん…どうするか」

 

 華美と呼ぶに相応しい程綺麗な白い結晶が降り積もるある日。

 九条大祐は一人、様々な種類の店屋に足を運んでいた。

 

 彼此四時間は立ちっぱなしの歩きっぱなし。

 自らが探し求める物に出会うまで、その歩みは止まる事を知らない。

 

 最初は洋服店から始まり、次にアクセサリー等を取り扱う小物専門店、そこでも探し物が見付からない、と…

 更には本屋へ寄り、オススメの旅行先が紹介された雑誌を物色。

 それでもピンと来ない九条大祐は、頭を抱えて悩んでいた。

 

 彼が何故、こんなにも苦悩しているのか。

 気になった方々も少なくは無いだろう。

 

 抑、前提として九条大祐には二人の恋人が存在する。

 別に浮気だとか、彼自身が女っ誑しという訳ではない。

 相手二人の了承をしっかりと得ての関係だ。

 間違っても昼ドラ、深夜ドラマの様な泥沼は無い。

 至って普通の、純粋な恋愛だ。

 

 例の相手二人が少々特殊である事も含め。

 

「いやぁ…やっぱり寒いな。早いとこ切り上げないと凍え死ぬ事間違いない」

 

 その前提を踏まえ、彼が頭を抱える理由。

 先程の彼女二人に上げるプレゼント選びをしていたのだ。

 

 プレゼント?一体何の日?

 まさか彼女二人が同日誕生日だったり?

 いや、そうではない。

 

 しんしんと沢山の雪が降る季節、冬。

 そんな冬に起こるイベントと言えば、先ず最初に思い浮かべるであろう。

 

 そう、今日はクリスマスイブ。

 残念ながら当日ではないものの、明日にはクリスマスという特別な日を迎える。

 故に九条大祐はプレゼント選びに苦悩を強いられていたのだ。

 

(女性が貰って嬉しい物かぁ…考えた事も無いな)

 

ㅤ指を口元に当て、下を向きながら兎に角歩く。

ㅤ一番手っ取り早いのは本人達に聞く事だが、彼は二人に内緒で外出している。

ㅤサプライズとしてプレゼントをあげたいからだ。

ㅤそれがバレては元も子もない。

ㅤ今日は二人も外出するという、タイミングが合わさった為に勢いで出てきたものの。

ㅤ手詰まってしまったのが現状。

 

(流石に何も渡さないってのは嫌だし、意地でも探すか)

 

ㅤクリスマスという特別な日に大切な人へのプレゼントは絶対。

ㅤ彼の中ではそれが最もとなっている。

ㅤだからこそ、ここまでプレゼントに執着しているのだ。

 

「さぁて…漂う詰みゲー臭。ここは誰か違う女性に聞いてーー」

 

ㅤ彼女達に聞けないのであれば、自分の知っている女性に相談すれば良い。

ㅤそう思った九条大祐は片っ端から女性の知り合いを思い出そうとする。

ㅤが、次の瞬間。

 

「大祐くん、み〜つ〜けたっ♪」

「おぁっ!?」

 

ㅤ急に後ろからど突かれた様な衝撃が体全体に走り、九条大祐は前に押し出される。

ㅤ更には首元に腕を絡ませられ、身動きが制限された。

ㅤ一瞬何が起こったのか分からなくなった九条大祐だが、直ぐに察しはついた。

 

ㅤ自身の首元に回されている華奢な腕。

ㅤ自身の背中に押し付けられる二つの大きな物体。

ㅤその気になれば男性を一発で落とせそうな艶やかな、そして少しの幼さが混じった声。

ㅤ明らかに自分の物では無い綺麗な紫色の髪の毛。

ㅤ加えて、自身を指して呼ぶ一人称。

 

ㅤ九条大祐は思い当たる人物が1人しかいない。

 

「…ルクスリアさん、何故普通に出てきてるんですか」

「面白そうだったから?」

 

ㅤそう、先程九条大祐に背後から襲い掛かって来たのは『七大罪色欲の魔人・ルクスリア』

ㅤ何時も自由奔放な彼女の名前だ。

 

「はぁ…ルクスリアさん、来るのは一向に構いませんよ?ですが、その服を何とかして下さい」

 

ㅤ今二人が話し合っているのは、大勢の人が行き交う大通り。

ㅤそんな場所で、ルクスリアは何時も通りの露出が高い衣服を身に付けていた。

ㅤ通り過ぎる男性は皆足を止めルクスリアに魅惑され。

ㅤ通り過ぎる女性は皆嫉妬という感情を顔に出し。

ㅤある意味九条大祐も注目の的になっていた。

 

ㅤ人気者として受ける視線は誰も嫌がりはしないだろう。

ㅤ事実、九条大祐もその一人だ。

ㅤだが、今浴びている視線はそういう類の物では無い。

ㅤ嫉妬や哀れみといった視線だ。

 

ㅤそれでいて、ルクスリアは相変わらずニコニコしている。

ㅤ対して九条大祐の表情は萎えていた。

ㅤ一刻も早くこの場から消えたいと思った彼だが、それよりも気に掛かっていた事があった。

 

「えーと、この服じゃ駄目だったかな…?」

「悪くはありませんよ。けどですね、此処は大勢の人が居るんです。派手過ぎじゃーー」

「私はこれが普通だけど」

「…何より、寒く無いんですか?そんなに色々露出してて」

 

ㅤ九条大祐はルクスリアの体を心配していた。

ㅤ幾らZ/Xとはいえ、体は人間。

ㅤ冷やしてしまっては風邪を引いてしまうと、気を使っているのだ。

 

ㅤその気持ちに気付いたルクスリアは、もっと強く彼の体に抱き付く。

ㅤ周囲の男性の嫉妬度が100上がった。

 

「大祐くんって、何かといって私を気遣ってくれるわよね。流石私の大祐くんっ♪」

「俺はルクスリアさんの物になった積りは無いですから!…ほら、早く洋服屋に行きますよ」

「えっ?」

 

ㅤルクスリアは自分が予想していた未来と違い、少し驚愕の音を漏らしてしまった。

ㅤ彼女の予想。

ㅤ彼に抱き付く→引き剥がされる→帰れと言われる→それでも強引に付いていく。

 

ㅤだった筈が、まさかの展開。

ㅤルクスリアは少しの時間思考がストップした。

ㅤ彼女は九条大祐の体に抱き付くのを止め、彼の後ろで呆然とする。

 

ㅤすると、ルクスリアの前に九条大祐の右手が差し伸べられた。

 

「その服じゃ幾ら何でも寒いでしょう。俺からお金出すんで、新しい服を買いに行きましょ?移動中は俺のコートを貸しますから」

「えっあっ…う、うん」

「サイズは大丈夫だと思いますが…デカ過ぎても文句はーー」

「言わないに決まってるじゃないっ、ありがとね♪」

 

ㅤそう言いながら、ルクスリアは手渡された彼の黒コートを羽織る。

ㅤ何時も素っ気無い反応を返す九条大祐に優しくされた彼女は、満面の笑みを浮かべた。

ㅤその笑顔を、不覚にも可愛いと思ってしまった九条大祐。

ㅤ彼はルクスリアから視線を逸らし、遠目に見える洋服屋を目指す。

 

「やっぱり大祐くんは優しいわね」

「…!」

 

ㅤ九条大祐は彼女の言葉に一瞬反応してしまったものの、無言の早歩きを始める。

 

「あっ、女の子を置いてっちゃ駄目なんだぞー」

 

ㅤ少しの幼さが混じった声でそう呼び掛けながら、九条大祐のゼロ距離まで近付く。

ㅤ丸で本物の彼女の様に、ルクスリアは彼の腕を離さずに付いて行った。

ㅤ道中何人もの男性に睨まれながらも九条大祐は気にせず目的の洋服屋に歩みを進める。

ㅤそんな彼とは正反対の如く、彼女はるんるん気分で楽しんでいた。

 

…言うて遠目に見えるだけ。

ㅤ徒歩5〜10分程で二人は洋服屋に到着。

ㅤ外装は、若い者達が入りそうなキャピキャピしてるものでは無く、何方かとか言えば清楚な見た目。

ㅤ建物自体は黒く、店の名前等の文字系統は白。

ㅤそこはかとなく高級感のある洋服屋だ。

 

ㅤドアは手動。

ㅤ九条大祐が手前に引き、ルクスリアを先に入店させる。

ㅤ常にレディーファーストの精神を持つ彼にとって、最早この行為自体が体に染み付いていた。

 

ㅤルクスリアは一言御礼を言いながら、洋服屋へと入って行く。

ㅤそれの後に続く様に九条大祐も入店。

ㅤ内部は外装と違い、仄かなオレンジ色の暖かな光で包まれていた。

ㅤ何とも目に優しく…そして売り物の衣服に映える。

ㅤ売られている服に奇抜な見た目の物は少なく、シンプルな仕上がりの物が置かれている。

 

「どれがルクスリアさんに似合うかな…」

「ここのお店の服、随分と露出を押さえてるわねぇ」

「普通ならこれ位ーーいや、ルクスリアさん基準じゃ押さえてる方か…」

「?」

 

ㅤ九条大祐はルクスリアに聞かれないよう、小声で声を漏らす。

ㅤ取り敢えず目の前に台に置いてある衣服を見つめ、ふと大事な事を思い出す。

ㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤㅤ

「…こんな質問したくないんですが」

「私なら何時でもオッケーよっ♪」

「ルクスリアさんのスリーサイズ」

「んもぅっつれないわねぇ。…私のスリーサイズ…94-60-90ね。もしかして大祐くんは巨乳派?それなら、大祐くんと私がーー

「…何言おうとしてるんですか!?」

「ーーすれば、もっとおっきくなって、大祐くんを満足させてあげれるわよ♪」

 

ㅤルクスリアの放送禁止用語は九条大祐の大声で掻き消されたが、周囲の客の視線を一気に集める始末となってしまった。

ㅤ九条大祐は無言で頭を下げ、彼女の腕を引っ張って試着室まで連れて行く。

ㅤその間にルクスリアが甘い声を出し続けるも、彼は無視を貫いた。

 

ㅤルクスリアを連れ、彼女を試着室の中に押し込む。

ㅤ一緒に行動をしなければ静かにする筈だと思った九条大祐。

ㅤ考えられる方法は、これしか無かった。

ㅤ彼は苦虫を噛み潰した様な表情でルクスリアを見る。

 

ㅤ彼女はその視線に体をくねらせる、九条大祐は呆れて溜息を吐く。

ㅤ誰かにヘルプを出したくなった彼であった。

 

「良いですかルクスリアさん、俺が服を選びますから、貴女は此処に居て下さい。良いですか、絶対ですよ。分かりました?」

「…むぅ〜、つまらないわね。まあ、大祐くんが選んでくれるなら素直に待ってるとするわ」

 

ㅤそんなルクスリアの言葉に強い不信感を抱いた九条大祐は、彼女を睨む形で見つめる。

 

「なーに?丸で発情期の動物みたいな目をしてるわよ。大祐くんって試着室でヤっちゃうタイプ?」

「あああぁぁぁ!もう、ちょっと行ってきますから!」

「行ってらっしゃい、旦那様♪」

「…疲れた…精神的疲労で死ぬ…」

 

ㅤフラつく足取りでありながらも、約束は守る為に努力する。

ㅤ九条大祐はルクスリアに似合う衣服を探しに店内を歩き回る。

ㅤ彼の顔は若干老けていた。

ㅤ途中倒れ掛けた体を、服選びの相談を受けてくれていた男性の店員に助けて貰った。

 

(…あれ、当初の目的って…何だっけ)

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

ㅤ凡そ20分程。

ㅤ試行錯誤の末、ルクスリアに着せる為の衣服を何着か見つける事に成功。

ㅤサイズの問題や見た目、何より彼女が気に入ってくれるか。

ㅤこの三点を重視して選んだ為に時間が少々掛かってしまった。

ㅤ九条大祐は選抜した衣服を片手に急いで試着室に戻る。

 

ㅤ其処には、待ち草臥れた様子のルクスリアが頬を膨らませて待っていた。

ㅤ試着室の外で。

 

「女の子を待たせちゃいけないって前にもーー」

「言われた覚えはありませんからね。…けどまぁ、待たせてしまい申し訳御座いません」

「でも、大祐くんが私にお似合いの服を探してきてくれたんだから。私が気に入ったら許してあげても良いよ?」

「…気に入らなかったら?」

 

ㅤルクスリアはその言葉を待っていたと言わんばかりに、舌で唇をペロリと舐める。

 

「気に入らなかったら…勿論、大祐くんを頂いちゃうから…♪」

「何故そうなるんですか!?」

「損害賠償?」

「意味違いますからね」

 

ㅤ衣服を買ってあげ、その衣服が彼女に似合うか悩んだ末に、損害賠償請求。

ㅤ冗談でも止めて欲しいと九条大祐は願った。

 

ㅤ兎に角、このままでは話が進まない。

ㅤ九条大祐は片手に持ち掛けている衣服をルクスリアに手渡す。

ㅤこれさえ済めば、後はルクスリア本人で何とかしてくれるだろう。

ㅤ彼の心に一瞬の安堵、そして油断が生まれた。

 

「それじゃあ、何かあったら俺を呼んで下さい。ルクスリアさんが出てくるまで此処にいますんで。あ、コート」

「勿論お返しするわ、ありがとねダーリン♪」

「…もう好きに呼んで下さい」

「ふふっ♪」

 

ㅤルクスリアは可愛らしい笑顔を彼にプレゼントし、試着室の中へ入って行く。

ㅤ女性の着替え=長いと認識している九条大祐は、近くの壁に背中を預ける形で靠れる。

 

(ダーリンて…相馬さんは何処へ)

 

ㅤ彼の中では思う所が多々あるのだろう。

ㅤ然しそんなどうでも良い事を脳内から振り払う様に、頭を左右にブンブンと動かす。

 

ㅤ取り敢えず何もせずにルクスリアを只管待つ。

ㅤ腕を組み、目を瞑って、その状態が10分程経過した時。

 

「大祐くん、ちょっと良いかしら…?」

 

ㅤ彼女が試着室から顔だけを出し小声で九条を呼ぶ。

ㅤ九条はルクスリアに呼ばれ、試着室へと近付いていき。

ㅤ要件だけを聞く為に耳を寄せる。

 

「この服の着方なんだけどね」

「…俺は試着室の悪魔にでも取り憑かれているのか」

 

ㅤ彼がこんな事を言うのには訳があった。

ㅤ以前、九条大祐は各務原あづみという少女の着替えを手伝ってあげた事があり。

ㅤその時以来、あまり女性の試着に付き合うのは遠慮していた。

 

ㅤ各務原あづみと彼はお互いを理解し合っていたから良かったものの。

ㅤルクスリアと九条大祐は其処まで親密な関係では無い。

ㅤでは何故、例の少女は大丈夫だったのか。

 

ㅤ単純に、その各務原あづみという少女は前述に記されている九条大祐との親密な関係を築いた女性だ。

 

ㅤそしてもう一人、九条大祐と相思相愛の仲の女性とは。

ㅤ各務原あづみを一番大切で自身の宝物とする、各務原あづみのパートナーであるZ/X「リゲル」。

ㅤこの二人が九条大祐と恋人同士なのだ。

 

ㅤだが、リゲルは最初の頃、各務原あづみを愛し過ぎているが故に自分自身が彼に好意を抱いていようが各務原あづみが九条大祐と繋がる事を応援していた。

ㅤ然し幾度と無く彼の魅力に惹かれたリゲルは九条大祐に対する思いが我慢の限界に達し。

ㅤ遂に彼へ、自分の気持ちを素直に伝えた。

 

ㅤその後は色々とあったが、三人承知の上で結ばれる結果に。

ㅤ二人の女性の真っ直ぐな気持ちが、こうしたハッピーエンドを迎えた。

ㅤ因みに最初は各務原あづみから自ら好意を伝えたらしい。

 

「…で、要件は」

「…やっぱりなんでもなーい」

「いや、必要なら何でもしますけど。性的行為以外なら」

「だって大祐くん、嫌々そうなんだもん。だからもうちょっと待っててくれるかしら?私だけで解決するから、ね?」

 

ㅤそう言って、ルクスリアは試着室の中へ戻っていった。

 

ㅤ九条は直様察する。

ㅤ彼女は自分を思いやり、一人で何とかすると言ってくれた事を。

ㅤそしてその彼女の表情は何処か寂し気な雰囲気を醸し出していた。

ㅤ少しの罪悪感に包まれつつも、言われた通りにルクスリアを待つ。

ㅤ下手な手出しは無用と考えたのだろう。

ㅤ今度は、ルクスリアを心配する様に試着室を見つめる。

 

ㅤ大体20分程経過した時。

ㅤ再度ルクスリアが試着室から出てきた。

ㅤ今回は顔だけでなく、しっかりと全身を。

 

「じゃーん♪似合ってるかしら?」

 

ㅤ彼女はそう言うと、その場でくるっと一回転をして見せた。

ㅤ対する九条大祐はルクスリアの姿に無言となる。

 

ㅤ彼は自ら彼女に似合う服を探していた。

ㅤだが、あまりにもルクスリアの容姿とマッチし、可愛さに絶句とい訳だ。

ㅤ思わず視線を逸らす九条大祐。

ㅤその反応を面白く感じたのか、ルクスリアが前屈みになってゼロ距離まで詰め寄る。

ㅤ彼女の顔は笑顔で一杯だった。

 

「あれ?何か言ってくれると思ったんだけどなぁ?」

 

(完全にルクスリアさんになめられてる…!)

 

「い…いや、純粋に可愛いと見て取れますよ」

「本当!?やった〜♪」

 

ㅤ九条は精一杯の受け答えをした。

ㅤ自分に嘘は吐かず、素直に感じた事を彼女に伝える。

ㅤするとルクスリアは彼に褒められたのがよっぽど嬉しかったのか、機嫌良さ気に九条の腕に抱き付く。

 

ㅤ急に何かと内心構えてしまった九条だが、次の彼女の発言で抵抗するのは止しとした。

 

「ありがとっ、大祐くん♪」

 

(ルクスリアさんにとっては、これが普通なんだろうな)

 

ㅤスキンシップを好むルクスリアに、馴れ合いを嫌う九条大祐。

ㅤ性格的にも性的な面でも正反対な二人の会話を遠目に見ている人達は、口を揃えてこう言う。

 

『付き合いの長い恋人同士か?』

 

ㅤだが。

 

『違うっ!』

『あったり〜♪』

『1ミリも合ってませんからね!?』

 

ㅤその質問に対しての答えは何時も変わらない。

ㅤ九条が否定しルクスリアが肯定。

ㅤ相変わらず正反対な二人だった。

 

(というか…ここまでとは想像していなかった)

 

ㅤ九条とルクスリアの茶番劇は置いておき。

ㅤ彼は目を逸らしつつも偶にルクスリアをチラ見する。

ㅤそして又逸らす。

ㅤ気付かれない内に。

ㅤ万が一気付かれてしまえば厄介事からは免れないからだ。

 

ㅤでは、九条が彼女に選んだ服とは。

ㅤルクスリアが凄く満足した服とは。

 

ㅤ髪飾りやアクセサリー等の小物は一切無く、彼女の角らしき何かが生えている位。

ㅤ上半身には肩出しの白いセーターを、下には黒いミニスカート。

ㅤそして九条大祐コーディネート恒例の黒いニーソを穿いている。

ㅤ言うてそれだけ。

ㅤだけなのだが、ルクスリアはそれさえも可愛く、そしてそこはかとなくエロく着こなして見せた。

 

「でも、これじゃ寒いままだよね?」

「なので、ルクスリアさんにはこの白いコートか薄く赤いカーディガン、若しくは俺と似たような黒いコートを御自身で選んでーー」

「じゃあ大祐くんと一緒のっ♪」

「…早いですね。それとも、一応全部買っときますか?」

「此れだけで私は充分よ?」

 

ㅤ黒いコートを両手に持ちながらルクスリアはニコニコと、今日一番の笑顔を見せる。

ㅤその純粋無垢な表情に、九条も思わず笑顔で返した。

ㅤが、一瞬で我に返り無表情へと顔を変貌させる。

ㅤ彼がほんの僅かに見せた笑顔をしっかりと記憶しておきながらも、ルクスリアは静かに黙っていた。

ㅤあまりしつこくちょっかいを出せば彼に嫌われる事位彼女も承知済みだからだ。

 

「んじゃ、会計済ませてーーあ、そうだ」

「どうかしたの?」

「いや、ちょいとルクスリアさんに相談事が。後で宜しいですか?」

「もっちろん☆お姉さんにまっかせなさーい」

「有難いですよ、ほんと」

 

ㅤそんな会話を交わしながら、彼女の服の会計を済ませるべくレジへ向かう。

…前に、ルクスリアが服を着替えるのを待つ。

ㅤ着衣したままでは買い上げる事が出来ないのは常識だ。

ㅤその後九条が勘定を進めている間ルクスリアは、彼に買って貰った衣服の入っている袋を大切そうに抱いて持っていた。

ㅤやはり何処か幼さを感じる彼女を見て、九条は微笑みを零す。

 

ㅤして、二人は買い物を終わらせて外に出てみると。

ㅤ右斜め前方に見える大きな交差点を、九条の知り合いが全力で走っていった。

 

(…え、へっきー?)

 

「…大祐くん?」

「あ…すみません、知り合いが居たもんですから」

「そうなの?でも、今は私とのデートに重点を置いて欲しいなっ」

 

ㅤ内心デートじゃないと突っ込んでおき、何方かと言えば親友の森山碧が全力疾走していた事が気になった九条だった。

ㅤだが、同時に鉢合わせをしたくないと思ったのも事実であった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

ㅤ森山碧の案件を気に掛けつつ、九条はルクスリアと二人で飲食店へと足を運んでいた。

ㅤ九条がオススメの店があると言うと彼女は直ぐにでも行きたいと言い出して聞かなかった。

ㅤテンションが異常に高いルクスリアに嫌な予感を感じながらも、渋々例の飲食店へ行く事に。

 

ㅤこの飲食店はカレー等を主なメニューに、+αで様々な食材を扱う此処らでは人気の高い店だ。

ㅤ然しながら表通り等には店を構えずに、人気ながらも所在地は余り知られずひっそりと経営している、謂わば隠れた名店。

ㅤ九条とルクスリアは人気の無い裏通りを進み目的のこの店へ到着。

ㅤ既にその店の椅子に座りながら何を頼むか悩んでいた所なのだが。

 

「ルクスリアさんはお決まりで?」

「大祐くんと一緒のなら何でも」

「こういう時位は自分の好きな物を頼めば…まぁ、貴女が良いなら大丈夫ですけど」

「うん♪」

 

ㅤメニューを決め、呼び出しのベルで従業員を呼び付ける。

ㅤあまり関係無いが現在ルクスリアは何時もの服を着衣中。

ㅤ彼からプレゼントの服は折角買って貰ったのに汚したく無いとの事。

ㅤそんな彼女の反応についつい嬉しくなった九条だった。

 

ㅤそれはさて置き、従業員が二人の座る席に着き。

ㅤいざメニューの中から飲食物を頼もうとした、その時。

 

「いらっしゃいませ!ご注文は何にしはりますか?」

「えーと、…………ん?」

「ありゃ?」

 

ㅤ九条は注文を受けに来た店員の声を聞いて動きを止めた。

ㅤして、徐々に徐々に顔を視界に入れていく。

ㅤ相手方も九条の存在に気付いたのか、彼をじっくり見つめ続ける。

ㅤゆっくりと重なっていく目線が丁度一直線に繋がった時。

ㅤ目と目が合う。

 

「飛鳥君!?」

「大祐君!?」

 

ㅤ驚く。

 

「うぉっ」

 

ㅤ九条が手を滑らせる。

 

ガツッ!

 

「痛った!」

 

ㅤ結果、近くの窓淵へと頭をぶつけた。

 

「ちょっ、大丈夫かいな!」

 

ㅤ天王寺飛鳥は手に持っていた注文を記す為の表をテーブルに置き、手を差し伸ばした。

ㅤ若干の痛みが残る後頭部を摩りながらも、九条は飛鳥の手を取る。

ㅤしっかりと握られたのを確認した飛鳥は一気に引っ張り上げた。

ㅤそれと同時に体勢を整た九条はテーブルの上に項垂れる。

 

ㅤあまりの痛さに目からは涙が少量溢れていた。

ㅤ未だに後頭部を摩り続けている九条。

ㅤその光景に我慢が利かなくなったのか、ルクスリアが自身の掌を上から重ねる。

 

ㅤ無論、それで痛みが引く事等無いのだが、彼女は咄嗟に行動へと移してしまった。

ㅤ気持ち少しでも治まってくれれば良いなという感情で。

 

「うぅ…ありがと、ルクスリアさん…」

「どうせなら私の膝の上に乗せる?前みたいに膝枕をしてあげても良いのよ♪」

「いや、遠慮します。そのまま何されるか分かりませんから」

「む〜…偶にはしてくれても罰は当たらないと思うけどなぁ」

「ルクスリアはんがして欲しいだけやないかい。相変わらずラブラブやな!」

 

ㅤ天王寺飛鳥の言葉を耳に入れた瞬間、九条は徐ろにバトルドレス『サバーニャ』を装着し。

ㅤ飛鳥の額にGNピストルビットをゼロ距離で構えた。

 

「もういっぺん言って?」

「…ほんま、冗談やて」

「飛鳥の身に危険が…!其処の貴方!今直ぐにその銃をーー」

 

ㅤ威嚇の積りで行った行為が、奥の厨房から天王寺飛鳥のパートナーZ/X「フィエリテ」を呼ぶ事となってしまった。

ㅤ更にフィエリテはこの一部始終しか目に収めていない為に九条を敵対視し始める。

ㅤ彼女自身、相手が世界の一悶着を一つに纏めた人物と知った一瞬は動きを止めたが、それを悟られぬよう一伯置いて飛鳥へと駆け寄る。

 

ㅤフィエリテが、大好きな彼を敵対関係者として見なした事に気付いたルクスリアも立ち上がって九条の前に出る。

ㅤ今にも戦闘へ発展しそうな程に威圧の空気が漂っていた。

 

「…七大罪色欲の魔人「ルクスリア」。例え相手が誰であろうと飛鳥を狙うのであれば…!」

「あらあら、私を敵に見るのは好きにして構わないけど…大祐くんをその対象にするのだけは許せないわね」

「…ルクスリアはん、大祐君にぞっこんやないか」

「飛鳥君が言う…!?」

 

ㅤ女性側二名は争い始め、男性側二人は引き気味に距離を取る。

ㅤだが、店の店長が困っている事に目が行った天王寺飛鳥は引くに引けなくなってしまい。

ㅤ無言でフィエリテの腕を掴んで厨房の奥へと連れて行った。

 

「何をするんですか!飛鳥!」

「…このままじゃ僕の給料が激減してまうやないか。それだけは嫌や」

 

ㅤ独り言を呟く飛鳥に怒鳴り散らすフィエリテ。

ㅤそんな二人の背中を見ながら、九条とルクスリアは静まり却ってしまった。

ㅤ今日は他に人が居なかったのが不幸中の幸いだっただろう。

ㅤ人気といえど隠れた名店の宿命だ。

ㅤそれが功を奏したとも言えるのが現状、彼等の場。

ㅤルクスリアと九条はどうする事も出来ずに唯呆然と飛鳥の帰りを待つ事にした。

 

…凡そ五分程。

ㅤ互いの問答が済んだのかフラフラとしながら天王寺飛鳥が奥から姿を現した。

ㅤそれに続き、未だに頬を膨らませ腕を組み、決して九条と顔を合わせようとしないフィエリテが後ろを歩いていた。

ㅤその光景に九条は苦笑い、ルクスリアは気付かれないように笑いを堪える。

 

「…大祐君、ご注文はお決まりですか」

 

(飛鳥君の魂が抜けて、標準語になってる…!?)

 

「酷い有様ね」

「七大罪に言われたくありません」

 

ㅤ意気消沈した天王寺飛鳥を尻目に二人の険悪な雰囲気。

ㅤ味方の居ない九条はこの場から一刻も早く逃げ出したいと思うばかり。

ㅤそして幾ら話し合いをしたとは言えど、ルクスリアとフィエリテの仲が解消される事は無かった。

ㅤ無論、話し合いをしたのは天王寺飛鳥とフィエリテであり、ルクスリアは関与していない。

ㅤ当然距離が縮まる事も仲良くなる事も無い。

 

ㅤそうして女性側二人が言い合っている隙に、九条は天王寺飛鳥へと注文を済ませる。

ㅤ勢いで目に付いた品々を頼んでしまった所為で彼自身、何を注文したのか覚える暇すら無かった。

ㅤが、唯一つ。

 

(あれ?俺…頼み過ぎたんじゃ…)

 

ㅤ彼がその事実に気が付いた時には最早手遅れだった。

ㅤ急ぎ注文、後々後悔。

ㅤ早く頼んで早く食べ終わり、そうでもしないと早く帰れないという風に自分を急かし、あわや大惨事を招く結果になりうるとは。

ㅤ注文の品々が目の前に運ばれてきた瞬間、九条は笑いながら涙を流した。

 

(あはは、俺のばーか…食いきれねぇよ…)

 

「わあ、凄い量ね。あれ?でも大祐くんってこんなに食べれたっけ…?」

「無理ですよ…」

「じゃあ何でーーあ、私を喜ばせようとしてくれたのね?もうっ、私は大祐くんと一緒に居れるだけで悦び溢れるのに♪」

「…あ、はい?あー…じゃあもうそれで良いですよ…うん」

 

ㅤ九条は、ずらっと並んだ飲食物を少しずつ退かし、僅かに空いているテーブルの上に両腕を置き。

ㅤその両腕の上に自身の頭を乗せて落胆していた。

 

「大祐君が危ういやんか!!」

「良い加減萎えますよ…何処に俺の居場所がーー」

「…はっ!大祐くんの今の言葉、略すと苗◯になるわよ!」

「ルクスリアはん…それはあかんやろ…」

 

ㅤ天王寺飛鳥の発言に、ルクスリアはてへっと笑顔を見せる。

ㅤフィエリテは聞かなかった振りをしており、飛鳥は九条に憐憫の視線を送る。

ㅤ天王寺飛鳥のその気配を感じ取り、九条は顔を上げた。

ㅤだが、ルクスリアよりも目の前に沢山と置かれている料理に萎えて、再度顔を俯ける。

 

ㅤ生まれた時から…等とは言わないが、元々小食な九条。

ㅤされど彼は完璧主義者。

ㅤ幾ら自分の間違いで頼んでしまったとはいえ、全部食べきらないと気が済まないのが九条だ。

ㅤ事の元凶は考え無しに行動した彼の問題ーー

 

「…いや違うだろ。この現場がこんなにも混沌とした首魁はルクスリアさんじゃないのか?」

 

ㅤ頭を下げっぱなしに一人でぶつぶつと喋っている九条を、ルクスリアは心配そうに見つめていた。

ㅤ彼女は彼女なりに罪悪感を感じている様だ。

ㅤ主に、というか九条だけに対して。

 

ㅤ流石のルクスリアも、このままでは彼に嫌われるという危機感を察したのか。

ㅤ一向に独り言を止めない+顔を上げない九条に近付き、謝罪しようとしたその時。

ㅤ店の扉が開く音が周囲に響き渡り、全員がその扉に視線を釘付けとされた。

ㅤ唯一人、九条だけを抜いて。

 

ㅤ誰もが地味に入って来て欲しくないと願うも、段々と開かれる扉。

ㅤ其処から姿を現したのは。

 

「ろーぜ、ここどこ?」

「人があまり居ない、けれど人気なお店…とでも言えば理解出来るかしら?」

「ぅゅ…ろーぜ、ひといっぱい」

「まぁ、何れきさらにも分かーーえ?」

 

ㅤ現実とは非常だ。

ㅤ然し、それが時には救いの神にもなる。

ㅤ入店してきた百目鬼きさらとヴェスパローゼの声を耳にした瞬間、九条は即座に立ち上がった。

ㅤそう、俯いていた状態から即座に。

 

ㅤ最初は気付かなかったきさらやヴェスパローゼも、九条大祐の存在にぴたりと動きを止めた。

ㅤ取り敢えずお客様の来店という事で、天王寺飛鳥が「いらっしゃいませ」と言葉を投げ掛けようとした一瞬。

 

「だいすけっ!」

 

ㅤ百目鬼きさらは、九条大祐を視界に入れた瞬間に彼の元へと走って行く。

ㅤ勢い良く飛び込んで来たきさらの抱き着きを、九条は膝を着き両腕を広げて受け入れる。

ㅤが、きさらを受け止めたと同時に割と強めの衝撃で後ろに倒れ掛ける。

 

「おっと…偶然だね、きさらちゃん」

「うぃ!」

「きさらったら…他の誰にも目をくれずに真っ先に大祐の所へダイブするなんて」

「………しっかし、きさらちゃんで思い出したんだけど」

「?」

「そう言えば皆さん、どうして青の世界に居るんです?」

 

ㅤ此処で唐突なる質問。

ㅤそう、一応だが九条の家は青の世界に位置する場所に建っている。

ㅤ加えて各務原あづみやリゲルと同棲しており、中々に豪邸。

ㅤ彼の家内情報等は置いといて構わないのだが、という事は九条が青の世界にいるのは何ら可笑しく無い。

 

ㅤだが、一応ながらこの場にいる全員が違う世界という事に疑問を抱いた九条。

ㅤルクスリアは黒の世界。

ㅤ天王寺飛鳥&拗ねて何処かに行っているフィエリテは白の世界。

ㅤ百目鬼きさら&ヴェスパローゼは緑の世界。

 

ㅤ其々の世界のいざこざは九条や彼の親友が鎮めたが、やはりまだ各々の世界の概念は消えていない。

ㅤ世界を一つに纏めた張本人がこんなんでは未来が不安だ。

ㅤという声が無いとも言えないのが現状、彼の立場。

 

「まぁまぁ、そう言うのは無しで行こうや!」

「そうね、私もそれにさんせーい」

「ルクスリアさんは元から固定の世界が無かった様な…」

「大祐、今更そんな事を気にしても仕方無いわ。貴方が先陣切って全員を導かないでどうするのよ」

「きぃ、ずっとだいすけについてく!」

「ヴェスパローゼさんにきさらちゃん…」

 

ㅤ二人の意見に感極まる九条。

ㅤぶーぶーと、彼に受け入れられたきさらを羨ましがり、横から九条の肩に引っ付くルクスリア。

ㅤ彼女の体を引き剥がそうと試みる九条だが、どうやっても離してくれないルクスリアに諦め。

ㅤ至ってシンプルな結論、放置という対処を取らざるを得なかった。

ㅤそれに甘えてルクスリアはどんどん顔を近付かせていく。

ㅤ遂には手を出しかねた九条だったが、天王寺飛鳥とヴェスパローゼの「恥ずかしくないのか」という質問に身を引いたルクスリアを見て、自身の心と体を鎮めた。

 

ㅤそんな、九条にとって1日たりとも無聊な日々の無い空間に包まれていると、又もや扉が開き始める。

ㅤ今度は九条を含めた全員が同じ方向に視線を集めた。

ㅤすると思いっきり、バン!と開く扉。

ㅤ荒々しくダイナミック入店して来た人物を見て最初に反応したのは。

 

「はあ…はあっ…逃げ切ったか?」

「そーま…あたし、もう無理…」

「相馬君!?」

 

ㅤルクスリアがその人物に声を上げる。

ㅤそう、もう何度目かも分からないZ/X使い&Z/Xの入店。

ㅤ既にこの場がZ/Xに関する人物の集合場所みたいになってしまっている。

 

「なっ!ルクスリア!?…というか、何だこの賑やか振りは。随分と異色過ぎる面子だな」

「…んで、相馬君とフィーユさんは何から逃げてたの」

「せやな。凄い焦ってるやん」

「あのへんたいにつかまったらおしまいだぞ!みつかるまえににげなきゃ…!」

 

ㅤ生憎話が噛み合っていないようにも見える。

ㅤだが、九条は変態という言葉に少なからず疑問を覚えた。

ㅤそれは何故か。

 

ㅤ彼の身内に一人、思い当たる人物がいるからだ。

 

ㅤ九条はまさかと、嫌な予感を察する。

ㅤそれに気付いた時には既に体が動いていた。

ㅤ百目鬼きさらをお姫様抱っこし、ヴェスパローゼに耳打ち。

ㅤルクスリアや天王寺飛鳥、先程来店した剣淵相馬とフィーユには何も言わずに。

ㅤヴェスパローゼは九条の忠告を受けて直ぐに「有り難う」と伝え、幸甚の意を示す。

ㅤその後九条、百目鬼きさら、ヴェスパローゼは一緒に店を出る準備を始めた。

 

「すまん飛鳥君!勘定はテーブルの上に置いといたから!お釣りは要らないよ!あと、俺の頼んだ飲食物お好きにどうぞ!最後に良かったら明日のクリスマスパーティに招待するから!んじゃあ!!」

「えっちょ待っ…」

「大祐くーん、私も行くからね♪」

 

ㅤ準備と言っても、九条が自身の注文した品々の会計を済ませるだけ。

ㅤ金銭を店のテーブルの上にざらっと置き、三人は風の様に外へと出て行った。

ㅤそんな彼の行動に天王寺飛鳥等は只々困惑した。

ㅤ少しすると、扉が静かにパタンと閉まる音が店内に響き渡る。

 

「一体…何だったんや」

「あ、ああ」

 

ㅤその10数分程経った、わいわいと賑わいを見せるその店に例の変態が来た事は、九条は予想済み。

ㅤだが、フィーユとやらがもみくちゃにされた事実は明日のクリスマスパーティにて知る事となった。

 

---




誤字脱字等御座いましたら、指摘して頂けると有難いです!
本日は後一回更新させて頂きますので!
お楽しみに!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編:クリスマスイブ(後編)

本編でもここまで上手く行けばなぁ…
というか空白で見辛かったですね、申し訳御座いませんでした!


「…あの子達、可哀想ね」

 

ㅤ九条大祐に連れられ移動中のヴェスパローゼは、静かなる呟きを漏らす。

 

「まぁー…あのフィーユって子が一番災難な目に遭うんじゃないですかね」

 

ㅤそれに対して九条は飽くまでながら、自分の予想でありながらも的確に答える。

ㅤ丸で最初から分かっていたかの様な口調だ。

ㅤ彼が此処まで言い切れるのには訳があるのだが、一言で片付けるのであれば【身内】。

 

ㅤ九条が感じた嫌な予感の正体だ。

 

「ですが、あの場から早々に撤退して正解だったんじゃないですか?」

「それもそうね。でないと『冥滅』と呼ばれる彼女と鉢合わせしてしまうもの」

「『冥滅』…エレシュキガルの事かしら?」

 

ㅤ百目鬼きさらをお姫様抱っこしたままの九条、その彼と意気投合しているヴェスパローゼ。

ㅤ二人が先程の事を話題に話を進めていると、ふと目の前に金髪ポニーテールの女性が姿を現す。

ㅤそれに一瞬虚取った九条。

 

「何故イシュタルさんが此処に?」

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 

 

ㅤ突如として現れたイシュタルさん。

ㅤ一応程度の説明として、彼女は自らを『神』と呼ぶ。

ㅤ願い事という願望を持ち得る人々やZ/Xの目の前にこうやって出現し、如何なる願いも難無く叶えてみせる。

ㅤ代わりに叶えさせて貰った側と契約し、自らを信奉させ、今度は自身の野望を満たす為の手や足として使う。

ㅤ神ーーいや、神と偽った悪魔だ。

ㅤ物で相手を釣り、欲しければそれに値する重い代償を払えと。

ㅤ甘い言葉で誘惑という、もしかしなくとも悪魔より太刀が悪いかも知れない。

 

ㅤだが、『神』と呼ばれる者達はイシュタルさんのみならず、他にも多数存在する。

ㅤ更にそれと重ね掛けに神様等は互いに啀み合っているようだ。

ㅤ要は神に願いを叶えさせて貰った者達は、その意味不明な神同士の戦争に巻き込まれる。

ㅤ何の苦労もせずそんな馬鹿みたいな癒しを求めるから、当たり前の結果だ。

ㅤ当然の…報いだ。

「だいすけ?」

「貴方…私が来たからって泣く事無いじゃない」

「あぁ……申し訳ない、ちょいと嫌な記憶を思い出してしまってね」

「嫌な?…まぁ、確かに。貴方にとって神とは害悪でしかないものねぇ…」

 

…いや、あれは既に過ぎた事だ、忘れろ。

ㅤ最終的にあづみさんもリゲルさんも助けが間に合ったから良いものの。

ㅤあの時1分でも…1秒でも手遅れだったら。

ㅤ二人はお互いに殺し合ってーー

ㅤ想像したくも無い。

 

ㅤ相思相愛、丸でそんな言葉が当て嵌まるあづみさんとリゲルさんが一瞬でも敵対したなんて。

ㅤあの時は夢でも見ているのかと自分の目を疑った。

ㅤ現実逃避も視野に入れたな。

ㅤまぁ、迷わず二人の間に突っ込んで正解だったという訳だ。

ㅤ結果良ければ全て良し。

ㅤ勝てば官軍負ければ賊軍だ。

 

…さて、何だかしんみりとした雰囲気になってしまったな。

ㅤその中で俺にお姫様抱っこされながら小首を傾げるきさらちゃん。

ㅤ可愛い、非常にもふもふしたい。

ㅤ恐らくこの発言をした瞬間、大抵の人はこう思うだろう。

 

『おう、このロリコン野郎』

 

ㅤ違う、この言い方は何処ぞの森山☆碧だ。

ㅤ言ってる意味は合っているが。

ㅤうん、話が大分逸れたな。

ㅤ全力で戻さねば。

 

「えっ、で…イシュタルさんは何しに来たんですか?」

「きさらちゃんと貴方が隣…じゃないわね。お姫様抱っこしてされているから、丁度挨拶がてら警告をね」

「警告?」

 

ㅤ今から地球に隕石降ってくるから素手で受け止めなさいってか?

ㅤ無理無理、んな事出来ないから。

ㅤなら神様が何とかしてくれるでしょう。

ㅤそれを端から見てるからさ。

ㅤえ?俺?

ㅤ俺なんかがやったら「バトルドレスの力は…!」とかなんとか言って、押し切るもその場で食い止めるもくそもなくボムって終了だろう?

ㅤ嫌だよそんなの。

ㅤ葬式に骨一本すら無いって…。

 

ㅤいやそういう問題じゃないって。

ㅤ然もこれじゃ、警告よりもイシュタルさんからの頼み事だって。

ㅤってって五月蝿いな。

 

「で、警告って何の?」

「ナナヤが貴方を探していたわよ」

「…はぁん?」

 

ㅤイシュタルさんが口にしたこの「ナナヤ」という人物。

ㅤん?人物じゃないな。

ㅤそのナナヤという、見た目は少女らしさ全開の神。

ㅤ人ではなく、神様。

ㅤが、どうやら俺を探しているらしい。

ㅤ何か全うな理由が無い限りは構う必要が無さげ。

 

ㅤというか俺は忙しんだ。

ㅤあづみさんとリゲルさんにあげるプレゼント選びに手も足も出ないでいるんだよ。

ㅤの前に、ルクスリアさんに「女性は何を貰えば嬉しいのか」って相談出来なかったし。

ㅤもういっそのこと、ヴェスパローゼさんにもプレゼント渡すから代わりに選んでくれないかなぁ。

ㅤきさらちゃん?

ㅤああ、きさらちゃんはあげる前提でいたから気にしてなかった。

ㅤ兎に角それは置いといて。

 

「何故ナナヤ嬢が俺を?」

「さあねえ…、あの子はまだ幼い所があるから…もしかしたら遊んで欲しいんじゃ無いのかしら?」

「憶測ですら聞きたくない言葉を飛ばして来ましたね」

「だって貴方、ナナヤのお気に入りじゃない」

 

ㅤおいおい、随分と嬉しく無い事を言ってくれるじゃないか。

ㅤあの子(ナナヤ)に構うのは結構体力使うんだぞ。

ㅤ軽く口にしないで貰いたい。

 

「じゃあ、きぃとあそんでくれる…?」

「あ、きさらちゃんは大歓迎。何時でも良いよ」

「うゆゆ〜♪」

 

ㅤ全くもって、きさらちゃんは可愛気が満載だな。

ㅤお姫様抱っこしている今だからこそなのかもしれないが、態々顔を近付けて頬擦りしてくれるなんて。

ㅤ思わず口元が緩んでしまう。

ㅤずっとこうしていたい。

 

…すりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりすりーー

 

…はっ!

ㅤ意識が何処か遠くへ飛んでいた。

ㅤ危ない危ない…きさらちゃんの癒しパワーに負けるところだった。

ㅤ既に敗北済みだが。

 

「もう、きさらはずっと大祐の側に居れば良いのに」

「ろーぜもいっしょ」

「じゃあ大祐は居なくてもーー」

「やっ!だいすけ、ずっといっしょにいる!」

 

ㅤおおう、きさらちゃん、幾らそれが嫌だからって急に抱き締められるのは流石にビビる。

ㅤまぁ…幼い少女の抱き着きなんて可愛い物だよ。

ㅤ油断してるとあの色欲の魔人とかいう女の人の胸に埋められてしまうからな。

ㅤ例えば今みたいな、きさらちゃんに癒されて隙だらけな状態の時とかにーー

 

「こんな感じでね♪」

「るくすりあ!」

 

ㅤほらな、言っただろう。

ㅤだから正直諦めはついてたさ。

ㅤ今更その事実に気付いても遅いって。

ㅤだが、ルクスリアさんは何故俺達が此処に居る事を分かっていたんだ?

ㅤ確かにあの店から出てからそこまで時間は経っていないが…

 

「やぁ、俺だ」

「ああ、君か」

「そうさ…変態という名の紳士、所謂オ・レー参上!」

 

ㅤうん、此方もある程度予測していたさ。

ㅤこういう謎事態には必ずと言って良い程に、この森山碧さんが関わっているんだよなぁ。

ㅤ森山クオリティ、やるわ。

 

ㅤさてさて…その最も避けたい人と合流してしまったが。

ㅤへっきーがいるという事は近くにエレシュキガルさんもいるという事だ。

ㅤ今は姿が見当たらないが何処に居るのやら。

ㅤまぁ。

ㅤどうせ。

ㅤへっきーの背後に。

ㅤ居ると予想して回り込んでみるぅ!

 

「あれま!大祐さんではないですか!」

「うわぁ!?」

 

ㅤ何だと!?

ㅤへっきーの背後にいたのはエレシュキガルさんではなくて…骨…骸骨…が黒いスーツを着てーースケルタルセールスやん。

ㅤまさかの出来事に驚かされた。

ㅤ親友の恋人を一目見ようと回り込んだら骨て。

ㅤいや、エレシュキガルさんがいられても困りものだが。

 

…でー、ですね。

ㅤどうして此処にスケルタルセールスが?

ㅤへっきーとこの骸骨さんが一緒に行動してるのは其処まで珍しい光景ではないのだが…やはり商売の手伝いか。

ㅤそれともスケルタルセールス商品に対するクレームの後始末か。

ㅤ何方もあり得るのが嫌だな。

 

「大祐、こんな場所で何してんの?」

「きさらちゃんと仲良く話してた」

「うぃ!」

「良いなー良いなー、俺にもお姫様抱っこさせーー」

「やぁっ!」

 

ㅤ何だ今のきさらちゃんの拒絶っぷり。

ㅤ身を縮こませながら震えてんぞ。

ㅤへっきーが何をしたのか分からんが、この二人はあまり近付けない方が吉か。

ㅤきさらちゃんがここまで拒絶する理由が知りたくもあるが。

 

ㅤって、へっきーが頭を抱えて項垂れてる。

ㅤ相当ショックだったんだろうな、こんな美少女に拒否されて。

ㅤ彼方ではルクスリアさんとスケルタルセールスで何か企んでるし。

ㅤヴェスパローゼさんはイシュタルさんと、きさらちゃんの可愛さを語り合ってるし。

ㅤああやって見ると、ヴェスパローゼさんがきさらちゃんの本当の母親に見えるのが不思議だ。

ㅤ最初の頃は「道具」やら何やらとしか考えてなかったらしい。

ㅤそれが今は………Z/Xも神様も変わるって事だな。

 

「んで、へっきーは何してたの」

「スケルタルセールスの商品を繁盛させて、フィーユをもふもふする為に追い掛けて、スケルタルセールスのクレームから逃げてきた」

「繁盛させて直ぐにクレーム来たんかい。……成る程な、あの時嫌な予感がしたのはフィーユの件か。通りで二人が焦ってた訳だ」

「クレーム大歓迎☆馬鹿か」

 

ㅤ何やらへっきーが一人でボケ始めた。

ㅤまぁとはいえ、この場でスケルタルセールスやルクスリアさん、へっきーに会えたのは幸運か?

ㅤあづみさんとリゲルさんのプレゼントは何が最適か、多数の意見を述べて貰えるし。

ㅤ万が一はスケルタルセールスにオススメを聞いてーー

 

「あ、大祐さん?今私の商品に目を付けて頂きましたよね?いや〜お目が高い!私個人の意見ですと、女性の方へのプレゼントはこの「アイアンメイデン」なんかがオススメですよ!」

「何故処刑道具を勧められたし、てか何故悟られた」

「前回のアイアンメイデンとは違いますよ!この商品は大の大人が二人は入れるスペースが御座います。アイアンメイデンの中で二人、しっぽり朝まで誰にも邪魔されずに楽しめます!」

 

ㅤ最早聞いとらん。

ㅤまぁ、後半の説明には魅力を感じるし聞こえは良いが、残念ながら二人じゃ足りないぞ。

ㅤ第一、あづみさんはまだ14歳だ。

ㅤ言うて俺も15歳。

ㅤちょっとそういうのは早くないですかね…期待してる自分が憎いわ。

ㅤ然もメイデンプレイとか斬新過ぎる。

ㅤ誰がやるんだ、それ。

 

「更に、今なら何と!横向きも用意させて頂いております!どうです?この扉を閉じるとーー」

「よし」

「お、まだまだ説明途中ですよ〜?それでもお買い上げを決定なされましたか?」

「聞くより試せだ」

「じゃあじゃあ、私と大祐君が一緒に入って朝まで…きゃっきゃうふふって♪」

「きぃがだいすけと…はいるっ!」

「いや、スケルタルセールス、お前が入れ」

「はい!?」

 

ㅤ横で何やら妄想を膨らませている魔人を無視し、抱っこ中のきさらちゃんを一旦降ろして、スケルタルセールスの両肩を掴み。

 

「おっ?おっとこれは?」

 

ㅤやっぱり、骨だからそこそこ軽いな。

ㅤなんて思いながら例のアイアンメイデンとやらに打ち込む。

 

ぶんっ

 

ㅤ自分の両腕を大きく動かすと固形物を思いっきり振り回した時の様な音が耳に伝わる。

ㅤそれと同時にスケルタルセールスの体(骨)がアイアンメイデンの鉄部分に当たり、ガツンと良い音が響きわたった。

ㅤするとあら不思議。

ㅤアイアンメイデンが物体を感知したと共に、分厚い鉄の扉を閉じていくではないか。

ㅤ処刑道具だけあってびっしりと針?棘?が張り詰めているのには目を向けないでおこう。

 

「ちょっと!?ここから出して下さいよ!早くしてくれないと私の体がーー痛いっ、痛いですって!こいつぅ♪」

「…あの骨さ、自分の商品に対して愛着沸かせ過ぎじゃないか?」

 

ㅤ何故だろう、何処からかミシミシと擬音が鳴り響いているな。

 

「止めて!それ以上スケルタルセールスを虐めないで!」

 

ㅤへっきーがなんか言ってるが無視。

ㅤ暫くこの映像を眺めるとしよう。

ㅤちょっとへっきー止めなさいよ、肩を揺らさないで。

ㅤルクスリアさんは一度俺から離れて。

ㅤきさらちゃんは…何時から俺の足にくっ付いてたんだ?

ㅤしょうがない、お姫様抱っこ再開だな。

 

「うゆ?だっこ♪」

 

ㅤぐふぅ可愛い。

ㅤもうこの場で癒しを求めるのであれば、きさらちゃんを抱く位しか無いな。

ㅤ後はきさらちゃんと遊んであげるとか…というか此処に癒しを求めてはいけないような気が、しなくもない。

ㅤ取り敢えずスケルタルセールスの処理は終えたから皆さんにプレゼントの件をーー

 

「なぁなぁ」

 

ㅤなんだへっきー、きさらちゃんは渡さんぞ。

 

「いやそうじゃなくてだな」

「ああ違うの」

 

ㅤなんだ、なら良い。

ㅤ軽く心中を見切られたのは気にしないでおこう。

 

「お前さ、ニーソ穿いてる女性が好みなんだよな?詳しい部分は除いて」

「まぁ…強ち間違っちゃいない」

「きさらちゃんニーソ穿いてないけど」

「にーそ?」

 

ㅤ如何にも平仮名で表記されそうな言い方でニーソと口にするきさらちゃん。

ㅤそしてじっと此方から視線を外さない。

ㅤどうして獲物を捕らえる様な目をしているのかは分からない。

ㅤそれすら可愛いと思えるのもまた不思議だ。

 

「えーとねぇ…きさらちゃんは論外。ニーソじゃなくても関係無し」

「あ…さいですか。逆にきさらちゃんの男性に対する理想像は?」

「りそうぞう?」

「例えば、こんな男性が好き〜とかーー」

「だいすけっ!」

「畜生めぇ!」

「ふっ」

「笑ごっちゃねぇぞ、大祐!」

 

ㅤなんかもうコントみたいになってきてるな。

ㅤ正直察していたが、へっきーは漫才の道を進む事をお勧めするよ。

ㅤツッコミ役として誰かに付き合って貰ってさ。

 

…あ、待てよ。

ㅤ確かトーチャーズにいたよな「バシバシするジャネット」とかいうのが。

ㅤへっきーとその相方虐待娘を組ませればもう完璧な布陣じゃね?

ㅤ漫才で二人の右に立つ者は居ないみたいなね。

ㅤうん、例の相方虐待娘の隣に立っていた森山碧が何時の間にかいなくなってそうな予感。

 

ㅤ悲しきかな悲しきかな。

ㅤ後程ルクスリアさんに頼んでみようかな、ジャネットと漫才の事は。

ㅤ尚、へっきーに拒否権は無し。

 

「はあ全く、これだからハーレム野郎は………あ」

「ハーレム言うな。てかどうした?」

「私もそのハーレムの一人にーー」

「ルクスリアさんは相馬氏がいるでしょう!」

「あの人構ってくれなーい」

 

ㅤいや知らんがな、構ってくれる人なら誰でも良いんでしょ、ルクスリアさん。

ㅤ誰か、この人の旦那さんになってくれる方募集しまっせ。

ㅤ四六時中ルクスリアさんと遊んであげれるって人は最適。

ㅤ更には体目的じゃなければもっと最適。

ㅤこの方、口では好き勝手言ってるけど変態は好きそうにないんで。

ㅤ寧ろそれに関する事に無関心な人を揶揄うのが好きらしいですよ。

ㅤSだな、この人!

 

ㅤさて、ルクスリアさん旦那募集のチラシは後で貼っておくとして。

ㅤルクスリアさんの所為で話の内容に齟齬をきたしてしまったではないか。

 

ㅤだが、彼女は色欲の七大罪でありながらも行き過ぎた行為はそりゃ、自分の一番大切で好意を抱いている人物以外とはしないだろうし。

ㅤ間違っても彼女をビッチなどという流言に惑わされてはいけない。

ㅤ実際に現場を見た訳でも無い奴等に、そんな事を言う権利は無い。

ㅤルクスリアさん本人が断言するなら肯定する他、選択肢がないけど。

 

「話、戻して良いか?」

 

…へっきーも、もうちょっと押し通す力を付けて欲しいものだ。

ㅤそんなんじゃルクスリアタイプの人物に歯が立たないぞ。

 

ㅤん?あ、俺がこんな言い方するから、彼女が勘違いされるのか。

ㅤ残念ながらこれは実体験だ。

 

「あのよ、大祐よ」

「その喋り方をなんとかしなさい」

「いや、早く家に帰ってやれって話。もうそろそろ17時過ぎんぞ」

「それが?」

「まぁまぁとやかく言わずに、しっかりプレゼントも買って帰るんだぞ」

 

ㅤ?

ㅤ森山碧君が急に態度を変えたな。

ㅤ然も、何やら含みのある言い方で帰れって…

ㅤんな事を唐突に言われたってどうすれば良いのやら。

 

「明日お前ん家でパーティーやるんだろ?忙しくなるのは目に見えてんだから、今日位は彼女達と楽しく過ごせって」

 

………成る程な。

ㅤへっきーは気を使ってくれていたのか。

ㅤそれならお言葉に甘えさせて貰おう。

 

「…だな。んじゃ、もう帰るわ」

 

ㅤ俺はお姫様抱っこしているきさらちゃんをゆっくり下ろす。

ㅤどうやらヴェスパローゼさんは分かってくれている様子で、此方に笑みを浮かべていた。

ㅤイシュタルさんは…既に何処かへ消えている。

ㅤ本当にきさらちゃんを見に、俺に警告を言いに来ただけだったな。

ㅤ神様とは気紛れだ。

ㅤスケルタルセールスは変わらずアイアンにメイデンされている。

 

ㅤルクスリアさんはーー

 

「ほら、早く行ってあげなさい?」

 

ㅤと、背後から両肩に抱き着かれた。

ㅤ相変わらず、根は優しくて芯の強い、可愛らしい人なんだなと思わせられる。

ㅤ割と本気で良い人を見つけて欲しい。

ㅤてな訳で、ルクスリアさんの旦那さん募集中!

 

「だいすけ…もうかえっちゃうの?」

 

ㅤいざ帰ろうとすると、きさらちゃんが寂し気な表情でコートの端を掴んでいた。

ㅤこうされると弱いのが俺なのだ。

ㅤが、今日だけは理性を振り絞って。

 

「今から家で遊ぶ?」

「うぃ!」

「帰れぇ!」

「…という訳なんだ。ごめんね、きさらちゃん。良かったら明日はヴェスパローゼさんと一緒に家においでよ。歓迎するからね」

「うゆ……うぃ」

 

ㅤあぁ、そんな悲しまなくても。

ㅤ顔を下に向けて、大きな黒い帽子だけが俺の視界に映る。

ㅤ何だろう、頗るいたたまれない。

ㅤ明日は存分に遊んであげよう。

ㅤ仕方が無いがルクスリアさんも。

 

「じゃあね」

「あした、いっぱいあそぶっ!」

「うん。きさらちゃんが満足するまで付き合うよ」

「ろーぜ!かえってねよっ!」

「きさらったら…気が早いわね」

 

ㅤやれやれといった表情を見せるヴェスパローゼさんだが、丸で母親の様な優しさが伝わってきた。

ㅤあの人がきさらちゃんの実親でも可笑しくないよな。

ㅤ外見に難があるが。

 

ㅤして、その面子とは其処で別れた。

ㅤ一応ながらクリスマスパーティーの詳細時刻等を教え、来場人数は不特定という注意事項も付けて。

ㅤするとルクスリアさんは、絶対に、何があっても行くからと言い残して去っていった。

ㅤきさらちゃんは夜眠れるのか不安になる程にるんるんと、テンポ良く歩きながらヴェスパローゼさんと帰って。

ㅤへっきーは穴だらけのスケルタルセールスを担いで新しい商品を売り込みをしに、目の前から消え。

 

ㅤ俺は一人、帰り道と重なる店で二人へのプレゼントを買い。

ㅤ二人以外に渡すプレゼントも買って帰路へついた。

ㅤ自宅は既に目と鼻の先だった。

 

 

 

 

 

---

 

 

 

 

 

ㅤ青の世界で一番の大きな家ーー何方かと言えば要塞と例えた方が正しい程に城らしい自宅を持つ九条大祐。

ㅤ先ず手始めに指紋認識での解読を行い、檻と間違える位に頑丈で縦に長い黒い門を開く。

ㅤ次にガラス張りにされた扉…結界に見えなくもない扉を、虹彩認識で抜け。

ㅤ最後にカードをスキャンして終了。

ㅤ此処までは全て一本道。

ㅤこれでやっと九条家の敷地内に入る事が出来る。

ㅤ視界一杯に広がる庭を抜けて後は自宅の扉へ歩みを進めるだけ。

 

「ただいま」

 

ㅤ九条は家の鍵を外し、帰って来た事を知らせる為に一言口にする。

ㅤ次は直ぐ側に設置してある殺菌作用の高い消毒液を手に付け、その隣にある洗面台で手を洗い流す。

ㅤそれが終わると、広々とした玄関をスルーしてリビングへと向かう。

ㅤ因みにリビングは二つ。

ㅤ一階に一つ、最上階に一つ。

ㅤ玄関の横隣にエレベーターが設置されており、それで最上階へ移動出来る。

ㅤいや、エレベーターと偽ったワープが正解。

 

ㅤ彼は迷わずそのワープゾーンに足を踏み入れた。

ㅤすると一瞬にして最上階、リビング手前に到着。

ㅤ其処で漸く靴を脱ぎ、リビングへと続く扉を引いて入室。

 

ㅤ先ず目に映るのは配列が綺麗に整われた椅子&ソファー。

ㅤその二つの間に挟まれるかの様に置かれている横長のテーブル。

ㅤ更にその後ろは全面ガラス張りの周囲一帯が見渡せる窓。

ㅤ此処から見る夜景は素晴らしい位に綺麗だとか何だとか。

 

ㅤ九条は取り敢えず、疲れた足を休めるべくソファーに歩いていく。

ㅤ流石に数時間歩きっぱなしは辛かったのか動きがグダグダだ。

ㅤ丸でゲームに出てくるゾンビの様に背中を丸くして移動していると。

 

「あっ、大祐くんっ」

 

ㅤ少し離れた右手から、可愛らしい、幼い少女の声が九条の意識を鷲掴みにする。

ㅤ直ぐに姿勢を正し、即座に声のした方に顔を向ける九条。

ㅤ其処には水色よりも薄い青色の、ウェーブがかかった長い髪の毛。

ㅤ思わず吸い込まれそうになってしまう大きくて紅い瞳。

ㅤふわふわとした印象を受ける衣服を身につけている少女が、何かを持って立っていた。

 

「あづみさん…ただいま」

「えへへ、おかえりなさい、大祐くん」

 

ㅤそう、彼女は九条大祐と愛を築いた一人の女性『各務原あづみ』。

ㅤ未だ14歳ながらも辛い運命を辿り、九条と共に乗り越え、最終的に互いが繋がるまでに成就した。

ㅤ兎に角彼女を愛して止まない九条は直ぐ様各務原あづみの元へ足を動かす。

ㅤ既に彼は疲労という概念を忘れていた。

 

「だ、大祐くん、ちょっと待ってて!」

「り、了解」

 

ㅤそう言うと彼女は曲がり角の奥へと走っていった。

ㅤ各務原あづみの唐突なるストップタイム発言に一瞬体を揺らした九条大祐。

ㅤ更には戦闘中に多用する言葉「了解」を使って受け答えをする。

ㅤ年齢的には彼が1歳年上なのだが、九条からすれば各務原あづみという存在は高嶺の華なのだろう。

ㅤ以前までは敬語を使用して会話していたらしい。

ㅤだが、華と例えるのを九条は嫌う。

 

ㅤ一見綺麗で可憐な印象の「華」という言葉。

ㅤ自分の手では届かない存在を高嶺の華と言うのだが、それ程に地位が高い、可愛い等と色々な意味で見受けられる。

ㅤ相手方からすれば褒め言葉として受け取れるが、九条は逆だ。

ㅤ何故なら「華」というのはこういう風にも使えるからだ。

 

ㅤ華の命は短くて

 

ㅤ好きな人程ずっと一緒に居たいと思える。

ㅤだが、華という言葉を使用した文章、言葉は先程の意味としても受けられる。

ㅤだからこそ彼は華といった言葉をあまり使用しない。

ㅤ名前や技名に入れると中二感が増す為に使う時はあるらしいが。

 

(…ていうか、彼処ってキッチンがあったような。)

 

ㅤ話を戻すが、彼女は何かを手に持っていた。

ㅤ然もエプロン姿。

ㅤ九条大祐は察しつつも本人の前では知らない振りを貫こうと心の中で決める。

 

(帰って来たらあんな美少女がエプロン姿でニコニコしながら「おかえりなさい」って……ヤバイ、何か唆られる)

 

ㅤ九条大祐は理性を抑えるのに必死になっていた。

 

ㅤ各務原あづみから待機指令を出されてから1分。

ㅤいや、1分も経っていないだろう。

ㅤ彼女は焦りながら九条大祐の目の前まで走ってきた。

 

ㅤ少しの息切れを見せながらも彼に笑顔を向ける各務原あづみ。

ㅤ何をそんなに急いでいたのか気に掛かった九条だが、取り敢えず彼女の背中を摩って落ち着かせる。

 

「一体どうしたんだい?こんなに息切らして」

「う、ううん。何でもないよ。大祐くんのお出迎えにあの格好は恥ずかしくて…」

「じゃあ、この頬に付いてるクリームは?」

「えっ!?…ほんと、に?」

 

ㅤ各務原あづみは自身の手で頬を触り始める。

ㅤだが、惜しい所で一歩届かずに苦戦していた。

ㅤそんな光景を見ている九条大祐。

ㅤ彼はゆっくりと手を伸ばし、各務原あづみの頬に付いているクリームを取って見せる。

 

「ほら、取れた」

「うぅ〜…リゲル、教えてくれれば良いのに…」

「まあまあ、クリーム付けた可愛いあづみさんが見れて俺は満足だよ。後はこれを頂くだけだから」

「私は恥ずかしーーえっ?」

 

ㅤすると九条大祐は、各務原あづみの頬から取ったクリームを趣に口に入れた。

ㅤ自分の指は入れずに。

 

「うん、おいしい」

「えと…大祐くん、汚いから駄目だよぅ」

「あづみさんの頬に付いたクリームは俺だけの物だ。無論、あづみさんもね」

「あ、ありがと…えへへ///」

 

ㅤ顔を真っ赤にさせる各務原あづみを、九条は和かな表情で見つめていた。

ㅤその視線に気付いた彼女も恥ずかしがりながら笑顔で返す。

ㅤだが、各務原あづみは違う所へ目が向いた。

 

ㅤそれは、九条大祐の傍らに置いてある何個か束ねた袋。

ㅤ然も袋自体はかなりの量がある。

ㅤ一括りにして持ち帰って来た九条大祐の手には、持ち手の跡がくっきりと残っていた。

 

「大祐くん、その袋ーー」

「あづみー、どうかしたの?」

 

ㅤ各務原あづみが彼の持ち帰って来た袋の事を聞こうとした時、キッチンの方から女性の声が響き渡る。

 

「あっそうだ。二人共まだ、大祐くんが帰って来た事知らないんだった」

「俺もキッチン行って良いですか?」

「うん!二人を驚かしてあげてよっ」

 

ㅤ瞳をキラキラとさせる各務原あづみ。

ㅤ九条大祐はそんな彼女の思いに応えるべく、買った物をソファーの上に置いてキッチンへと足を運ぶ。

ㅤその後ろをドキドキしながら付いて行く各務原あづみ。

ㅤ目的地のキッチンに近付く毎に二人の女性が話し合っている声が九条の耳に入ってくる。

ㅤどうやら、何かを言い争っている風な口調だ。

 

ㅤキッチンに誰が居るかなんて既に分かっている九条大祐だが、分かっているからこそ少し緊張してしまうのが今の彼だ。

ㅤ恐る恐る近付き、遂にキッチンは横を曲がった所に。

ㅤいざ踏み出すといったその時。

 

「あづみー、何かあったのー?」

「い、今行くー!」

 

ㅤ一瞬の気の緩みが九条大祐の体を凍り付かせた。

ㅤだが、 何時までも固まっている時間は無い。

ㅤ彼は各務原あづみのフォローを無駄にはさせまいと一気に二人の居るキッチンへと体を進ませた。

 

「…これはここに乗せるべきだと思うわ」

「いえ、此方の方が大祐は喜ぶと考えます」

「でもそこじゃあ目立たないわよ?」

「無駄に派手で無いのも彼は好むと言ってました。リゲルはあの人とずっと一緒に居て、好みの一つも聞いてないのですか?」

「し、知ってるわよ!…でも、ここは敢えてあづみに任せましょう」

「リゲル、呼んだ?」

「その意見には賛成です。あづみ、貴女は何方が良いと思いーー」

「勿論私の方に賛同よーー」

 

ㅤ言い争いをする二人の女性。

ㅤ目の前に立つのは一人の少女と。

 

「「だ、大祐!?」」

「何してんですか…リゲルさんにベガさん」

 

ㅤ九条大祐に見られたくも無い状況を見られてしまった二人の女性。

ㅤ右で目をぐるぐると回す金髪ロングヘアーの『リゲル』に。

ㅤ左でそっぽを向きながらも頬を赤く染めている水色髪ポニーテールの『ベガ』。

ㅤ前者は各務原あづみのパートナーZ/X&九条大祐と昵懇な間柄を築き上げ。

ㅤ後者は各務原あづみの実の母親でありながら、九条大祐に少しの気を持っている。

ㅤ尚、その事実は本人とリゲル、各務原あづみの中でしか知られていない。

 

「ていうか何で二人共クリームまみれなんですか!?」

「こ、これには深い事情があって…」

「リゲルの料理スキルは見直しが必要です。誰か料理の上手い方がいらっしゃれば…」

「じゃあ何でベガさんまでクリーム沢山なんですか」

「これには深い事情があるのです。出来れば貴方には知られたくないのですが…」

 

ㅤ互いに同じ言い訳をする二人。

ㅤこれはどうにかしないと、と思う九条だが、それよりもある所に意識を持っていかれていた。

ㅤ誰を横に並べようと変わらぬ美しさを持つ美人女性二人の体の彼方此方に、真っ白いクリームが。

ㅤ年齢的にも身体的にも健全な男の子をしている九条大祐にとって、その光景は目に毒其の物だった。

 

ㅤ彼はその場で、バトルドレスを持ち得る者のみが扱えるデータボックスを展開。

ㅤメニューから持ち物と表示されているアイコンをタッチし、その中から仕舞っておいた厚く大きなタオルを二枚と、そこそこ大きな桶を取り出す。

ㅤして、次はキッチンに設備されている蛇口を捻って温水を流し始めた。

ㅤ先程取り出した桶を幅の広いシンクに設置しそれに温水を流し込み、中にタオルを一枚ずつ着水させていく。

 

ㅤある程度の温水が溜まったのを確認すると、蛇口を逆に捻って閉める。

ㅤ先ずは先に入れた一枚のタオルを持って強く絞る。

ㅤ極力温水を残さないように、且つクリームの汚れを取る為に少しの水は残しておいて。

ㅤそんな絶妙な力加減で絞ったタオルを、横で興味津々気味に見ていたリゲルに渡す。

 

ㅤ先と同じ要領で絞ったタオルを今度はベガへと渡し、事無きを得る努力を尽くした九条大祐。

ㅤ最早タオルどうこうの問題よりも精神的に疲労した彼であった。

 

「…で、何故ケーキ作りに俺を呼んでくれなかったんですか?」

「えーと…サプライズ!みたいな…?」

「リゲルさん、その無理は通せませんよ」

「道理は?」

「引っ込みません」

 

ㅤ笑顔で何とか誤魔化そうするリゲル。

ㅤ九条大祐は彼女の目の前まで近付き、顔に触れ始める。

ㅤ彼の唐突なる行動にピクッと体を揺らしたリゲルだが、そのままじっと、九条を見て動きを止めた。

ㅤそんなリゲルのありと凡ゆる所に目を配り、手を離す。

 

ㅤすると今度はベガの頬に手を当てる九条。

ㅤ男性に触れられる事があまり無かったベガは、行成自身の顔を触られて身を小さくする。

ㅤ両手を重ね合わせて落ち着き無くもじもじとするベガ。

ㅤ九条は、一切視線を合わせてくれない彼女の顎を人差し指で上に上げる。

ㅤ俗に言う「顎クイ」だ。

ㅤだが、こうして強制的に目と目を合わせる理由が九条にはしっかりとあった。

 

「…二人共、怪我は無いようですね。なら良かった」

「もしかして…心配してくれたのですか?」

「当たり前じゃないですか。これから何を作るのかは分からないですが、俺も手伝いますよ」

「んじゃ俺もー!」

 

ㅤと、リビングの方から聞き慣れた感じの男性の声が周囲に響き渡る。

ㅤ九条が其方の方へ様子を見に行くと、人の家にも関わらず誰かが勝手にソファーに座っていた。

ㅤ普通ならここでバトルドレスを装着→不法侵入者を即刻排除するところなのだが。

 

「…へっきー、頼むから一言掛けてくれ」

「はは、すまんな。お前と美女二人、美少女一人のラブラブシーンを見せられたんじゃ声をかけ辛くてな」

「後でセキュリティ強化しとかないと何時か親友にやられるわ」

「…ねぇ、まさか碧の方が強いの?」

 

ㅤ九条と森山碧が何時もの調子で話していると、彼の背後から銀髪ロングヘアーの美人女性が姿を現した。

ㅤ彼女の背中には小さな黒い翼が生えており、頭からは角らしき何かも生えている。

ㅤ露出度は異常に低く服全体が黒で統一されている。

 

「…え、エレシュキガルさんもお手伝いに?」

「勘違いしないで。貴方の手伝いなんかじゃなく、私は碧の手伝いをしに来ただけだから」

「勘違いなんてしませんよ。まあでも、有難うとは言っておきます」

「好きにすれば?貴方には関係の無い話だから」

 

ㅤ誰もが分かっていた事だ。

ㅤ前々から説明はしていたが、森山碧を好む人物は九条大祐を滅法嫌う。

ㅤそして逆もまた然り。

ㅤ例としてあげるならば、百目鬼きさらなんかがそれに該当する人物だ。

ㅤ九条大祐には甘えて。

ㅤ森山碧は拒絶。

ㅤ彼女以外にもベガやリゲルといった女性等は大概がそんな感じだ。

ㅤ各務原あづみは遠慮して言わないのが目に見えている。

 

「大祐くん、お客様ーー」

 

ㅤ事実、森山碧を視界に入れた瞬間に九条大祐の後ろへ隠れた。

ㅤ最早お客様どうこう等関係なくなっている。

ㅤだが、それ程までに二人を好む女性は対照的だというのが見受けられる。

 

「取り敢えずへっきーが来たなら手早く終わるだろう」

「…大祐、本当にこれに手伝って貰うの?」

「これ言うなや」

「碧の悪口は私が許さない」

「…一向に話が進まんな。じゃあ、最初の内は俺とあづみさんとリゲルさんにベガさんでやるから、其方は好きな様にやって頂戴な」

「おう、任せとけ。料理に関しては長けてるからな!自負するぜ」

「あぁ、料理に関してはな。それ以外は…」

「うるせぇ!」

 

ㅤそんな会話で笑い合う二人。

ㅤ九条大祐と森山碧、彼等の仲は非常に良好なのに対して、女性同士は何故こんなにも険悪なのか。

ㅤこれは既に諦めるしかないのかもしれない。

 

…その日は6人で夜中近くまで料理を作り続けた。

ㅤどうせだから泊まっていけと九条大祐の配慮に甘え、森山碧とエレシュキガルは九条家に一泊する事に。

ㅤ値段の高いホテルの様に部屋数が凄まじい九条家にとって、二人が泊まる事など人数的に気にする程度ですらない。

ㅤ更に二人は一緒の部屋が良いとの事で部屋自体は一室しか埋まっていない。

 

ㅤそんなこんなでクリスマスイブは終わりを告げた。

ㅤだが、明日はクリスマス当日。

ㅤまだまだ疲れている暇の無い九条だった。

 

ーーー

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編:クリスマス

書くのをすっかり忘れていましたが、クリスマスイブ、クリスマス、大晦日、元日の話は態と突っ込み所満載にしております。



ーーー
ソトゥ子の部屋

「はぁ…明日はクリスマス………飛鳥君に会いたい……」

バンッ!(ソトゥ子の部屋の扉が思いっきり開く音)

「なっ、なに……?」
「すみませんソトゥ子さん!貴女の知り合いで、寝ている人達にメッセージをお願いします!」
「…あづみちゃんとリゲルちゃんの…想い人……リア充が来た…」
「何言ってるか分かりませんが、明日は俺の家でクリスマスパーティを開催するので、来たい人は来てと伝言頼みます!」
「私はーー」
「ソトゥ子さんも勿論招待しますよ!飛鳥君も来ると思います」
「本当…!?…じゃあ、行く…!」
「お願いしますね!」
「分かった…任せて」

バンッ!(九条が扉を閉めて行く音)

「…丸で嵐………それよりも明日は、飛鳥君に会える…やった…♪」


ㅤ朝。

 

「突撃!隣のハーレムさん!」

「うぇあ!?」

 

ガタッガシャンッ

 

「痛って!」

「あれ、嫁さん達は?」

「別室だから!てか嫁言うな!!」

「そうか、すまん」

「許すかぁ!!!」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「…ってな事が朝から勃発してた」

「それは大変やったな」

 

ㅤ昨日から1日経った今日。

ㅤ待ちにも待っていないクリスマスが訪れた。

ㅤ朝からテンションの高いへっきーに起こされて頭をぶつけて、朝のシャワーを浴びに大浴場へ行ったらあづみさんとベガさんが仲睦まじく話していて。

ㅤ可笑しいな、何で男湯に二人がいるんだろうって思って暖簾を確かめに行ったら男湯と女湯の暖簾が逆になっていて。

ㅤ森山の碧野郎に殺意が湧いた。

ㅤその後はあづみさんとベガさんが話を分かってくれて一大事にならずに済んだが。

 

ㅤ何であんなにテンションが異常なんだ、あの変態は。

ㅤ去年なんかはサンタがソリからひっくり返って死ねば良いのに、すればクリスマスなんか無くなるだろ。

ㅤ的な発言をしていたのにな。

ㅤエレシュキガルさんが居てくれるからクリぼっちという呪縛から逃れられた、そんな解放感を味わいたいのだろう。

 

ㅤいや、それは一向に構わない。

ㅤだがこれだけは言わせてくれ。

ㅤ人を巻き込むなと。

 

「まあまあ、そんな事気にしてても良い事起きへんで。今はクリスマスパーティを楽しまな!」

「…飛鳥君の優しさに乾杯」

「何故僕に乾杯してんねん!」

 

ㅤいやー打てば響く様な突っ込みを有難う。

ㅤ飛鳥君は…何かこう、普通だから話し易いっていうか。

ㅤ匕首が良いんだよな。

ㅤ気が合うっていうか。

ㅤ昨日の騒ぎの件は謝ったら軽く許してくれたし。

ㅤ彼は単純に優しいんだろうな。

ㅤだから周りに女性が集まってくるのか?

 

…それは違うよな。

ㅤ飛鳥君が好きな女性達は如何にも彼の人間性に惹かれたのだろう。

ㅤハーレムどうこう言うなら俺じゃなくて飛鳥君に言えば良いのにな。

 

「おい」

 

ㅤなんて、飲料の入ったグラス片手に飛鳥君と話していると、不機嫌そうな表情の相馬氏が仲に入ってきた。

ㅤ何だ、話し相手がいないから寂しかったのかな?

ㅤだからそんなに機嫌悪そうにーー

 

「昨日、彼奴があの店に来るってどうして教えてくれなかったんだ?」

「確信が持てない以上は唯の迷惑行為にしか過ぎないからね」

「あの虫と幼女は別だった」

「ヴェスパローゼさんもきさらちゃんも、俺を信頼してくれていたから」

「…まぁ、良いか。今日はパーティに誘ってくれてありがとな。それを言いに来ただけだ」

 

ㅤえ、今のは俺が殴られる風な流れじゃないの?

 

「相馬さんもツンデレやな!」

「男のツンデレとか誰得」

 

ㅤでも…ああいう感じでも御礼を言われれば嬉しい。

ㅤ素直に伝えられない相馬氏、ルクスリアさんも大変、ルクスリアさんの相手をする相馬氏も大変。

ㅤ結局どっちもどっちじゃないか。

 

ㅤそんな相馬氏。

ㅤ現在フィーユを追いかけ回しているへっきーを追い掛け中。

ㅤ森山氏もエレシュキガルさんがいるんだから止めた方が良いと思うんだけど。

ㅤあ、エレシュキガルさんから制裁が食らわされてる。

 

「…ていうか、大祐君家はほんまに広いなぁ。住んでるの四人だけやろ?」

「ベガさんからのプレゼント。家庭を築く為に必要なんだと」

「それ結構意味深な発言やん!要するに大祐君とーー公共の場で言う事じゃないな」

「うん?」

 

ㅤすまんな飛鳥君。

ㅤ其方関連の事は察しが悪いんだ。

ㅤ中学三年間溝に捨てた様な奴だからさ、保健体育には疎いんだ。

ㅤ公共の場で言えないって事はそういう事だろう?

ㅤ駄目だぞ飛鳥君、そんな事を言うと何処ぞの七大罪とーー

 

「あっ、大祐君見つけた!」

 

ㅤ何処ぞの変態がーー

 

「お?ピンクな話か?」

「くるなぁぁ!!!」

 

ㅤ全く…何だ?

ㅤフラグを立てると直ぐに回収してしまう病でも患ったか?

ㅤ飛鳥君、頼むからその目をやめてくれ。

ㅤ然も苦笑いて、物凄い悪意感じるよ、うん。

ㅤルクスリアさんと表情が対照的過ぎる。

 

ㅤああもう、この場から早々に退出したい。

ㅤまだ始まって10分も経ってないのに疲れて来た。

ㅤ自室で休もうかな。

 

「てか相馬氏は!?」

「巻いた」

「だからって此方に来なくても…疲れた」

「せや、あづみちゃんの所へ行きーや。すれば少しは気持ちも落ち着くで」

「大祐君、あづみんにぞっこんだもんね」

「逆もまた言えるな」

「…いや、それだけは駄目だ」

「どうして?」

 

ㅤ確かにあづみさんは少し離れた正面位置でリゲルさん、ベガさんと楽しく話をしているけど…。

ㅤあの輪に入って行く自信は無いし。

ㅤ何より年に一度のクリスマスなんだ。

ㅤ親子水入らず楽しんで貰いたい。

 

ㅤリゲルさんはもう、あづみさんにとっては友達以上の関係なのだろう。

ㅤベガさんもそれは承知の上か今は仲睦まじく、料理を片手に会話している。

ㅤ何だか見慣れない光景だけど不思議と違和感はない。

ㅤ嬉しいと思える自分しかいない。

ㅤ3人がああやって和解出来た事が。

 

「…俺は遠くから見ているだけで満足だよ」

「大祐は積極性が足りないなー」

「そうね。時には嫌われる勇気も必要よ?」

「踏み出す一歩が大事や!」

「…でも…それが大祐くんの……良いところなんじゃないのかな」

 

ㅤへっきーを除いた二人が俺の背中を押してくれていると、いつの間にか輪の中にソリトゥスさんがいた。

ㅤその姿に少しばかり驚くルクスリアさんだが、直ぐに表情を切り替える。

ㅤうむ、どんな時でも思う。

 

ㅤ二人が姉妹に見えない。

 

ㅤ外見、中身何方も似つかない二人が姉妹だなんて…初見で聞いた時はビビり物だったぞ。

ㅤだがまぁ似ていないからこそ良いのかも知れないが。

ㅤ似過ぎた物同士は憎み合うと聞いた事あるし。

ㅤちょいと気になる二人の事情だが、あまりズケズケと踏み込むのは宜しくない。

ㅤ彼女達には彼女達なりの問題がある訳だし。

 

「あら、お姉様も大祐君狙いで?」

「ルクスリア……それは貴女でしょ。私は………えと…その…あ、あす」

「ソリトゥスさん、無理しなくても察してるから大丈夫」

「何の話や?」

 

ㅤ流石、鈍感系主人公は違いますわ。

ㅤ君の事が好きな女性が君の名前を呼ぶ瞬間に限って肉食べてるってどういうこっちゃ。

ㅤこの人フィエリテさんの気持ちにも気付いてないし…後、上柚木の綾瀬嬢でしょ?

ㅤ他にも誰か居た筈だけど忘れた。

ㅤ唯、一つ言えるのはまだ飛鳥君を想っている女性はいるという事。

 

ㅤ鈍感系主人公を好きになっていく女性達…これこそハーレムの典型だよね。

ㅤでもなぁ、飛鳥君がハーレムになっていくのは分かる気がする。

ㅤ人間性も勿論の事、気遣い出来るし戦闘嫌々系男子だし。

ㅤとどのつまり野蛮な部分が一切見受けられないという事だ。

 

ㅤ女性に対しても男性に対しても優しく接し、誰に対しても態度を変えない。

ㅤ素晴らしいね、モテる男は違う。

 

ㅤだが逆に、俺がモテるのはどうかと思う。

ㅤあづみさんにリゲルさん、きさらちゃんは…あの子は俺をどう捉えているのか。

ㅤそれに加えてベガさんやヴェスパローゼさんは何だか、何時でも優しいし。

ㅤナナヤ嬢には気に入られてるらしいし。

ㅤ分からない、何故俺がこんなに優遇されているのかが分からない。

 

「大祐くんが頭を抱えてる……」

「にい、大丈夫?」

「大祐さん!?何があったんですか?」

「おぉ…世羅に怜亜くんか…。お兄さん疲れたから外出てくるねー…」

「世羅も行くっ」

「お共しますよ!」

 

ㅤいや、違うんだ。

ㅤ決して君達が嫌いな訳じゃないんだよ。

ㅤ唯ね、一人になりたいんだ。

ㅤじゃないとね、俺の精神がーー

 

「わぁ〜雪だ♪」

「世羅!大祐さんに迷惑掛けないでよ!」

「むぅー…怜亜くんのケチ…」

「…連れて来てしまった」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ㅤ九条は庭に出る一歩手前で倉敷世羅、戦斗怜亜の雪遊びを呆けっとしながら見つめていた。

ㅤ後ろの、玄関を抜けた先にあるパーティ会場では更なる盛り上がりを見せている。

ㅤだが、彼自身はあまり乗り気では無かった。

ㅤ自分以外の人達が楽しんでいる姿を見て満足してしまっているからだろう。

ㅤこの世界のZ/X、人間が分かり合えてこうして賑やかに暮らせる日々に。

ㅤ大切な人達が害に怯える事無く平穏に暮らせる日々に。

 

ㅤ九条大祐はもう既にこれ以上の幸せは無いと確信している。

ㅤ未だ小学生の二人が目の前で存分に遊んでいる光景を見れば誰だってそう思える。

 

ㅤ家の壁に寄り掛かりながらそうして佇んでいると、左側から白い髪の男の子が此方に近付いていた。

 

「…あの二人の相手、疲れるだろ」

「幼い子供の面倒を見るのがお兄さんの役目さ」

「…ふっ。どんよりとした顔でそんな事言われても、丸で説得力が無いぞ」

「雷超君にはお見通しだったか」

 

ㅤ白い髪の男の子…雷鳥超(らいちょう すぐる)は九条大祐と同じ様に壁へ体の重心を預ける。

ㅤ彼の目は九条大祐を心配するような眼差しだった。

ㅤそれに気付いていた九条だが、敢えて何も言わない選択肢を取る。

 

「………」

「………」

 

ㅤお互いに話す話題が無いのか、沈黙が二人の間を支配する。

 

(雷超君は何をしに来たんだろう)

 

ㅤ二人が静まり返っている空間には只管に倉敷世羅、戦斗怜亜の楽し気な声が響き渡っていた。

ㅤ雷鳥超は彼等と1歳年上なだけなのだが、幼さという言葉から掛け離れている。

ㅤそんな彼を内心逆に心配し始める九条大祐。

ㅤその気持ちが沈黙を打ち破った。

 

「…雷鳥君って怜亜くん達みたいに遊んだりしないのかい?」

「彼奴等と同じにされたら困る。各務原あづみとやらも似た質問をしてきたな」

「あづみさんが?」

「年下にさん付けか」

「まあね。…で、あづみさんも同じ事を?」

「ああ。面倒だから追い返した」

「どうやって?」

「邪魔だから早くお前の所に帰れって催促したら顔真っ赤にして何処か行ったぞ」

「意味が良く分からないや」

「俺の台詞だ」

 

ㅤ雷鳥超の答えに疑問を浮かべる九条だが、一番謎に思ったのは雷鳥超彼自身だ。

ㅤ相手をするのが面倒なあまり付き合いをしている九条の元へ追いやろうとしたら謎の反応。

 

「あづみさんは天然だから。可愛いから」

「…話が噛み合わないな」

 

ㅤ全くの受け答えになっていない九条に呆れつつも苦笑いをする雷鳥超。

ㅤ各務原あづみの事になると何時も「可愛い可愛い」と言ってしまう九条大祐にとって、その苦笑いの意味は理解出来なかった。

 

「…で、何か用があって話してきたんだよね」

「ん?あ、ああ…まあな」

 

ㅤ九条は知っている。

ㅤ雷鳥超という男が何の用も無しに話し掛けてくる奴では無いという事を。

ㅤでなければ、態々会いたくも無いであろう倉敷世羅や戦斗怜亜の前に出てくる筈も無い。

ㅤ雷鳥超のお兄さん役として手は何時でも貸すと言わんばかりに、何でも任せなさいといった表情で要件の話を待つ。

ㅤその顔が気に食わないのか雷鳥超は目を背けるが、ふっと鼻で笑いつつ九条へと向き直る。

 

「…今日位は好きに過ごせ。只何もしないっていうのも一つの選択肢だ。…彼奴等の面倒は俺が見る」

「君ほんま小学生か?」

「五月蝿い、分かったらさっさと行け」

「へぇ…雷鳥君って、何かと言って優しいよね」

「…っ!」

 

ㅤ九条大祐の言葉に、雷鳥超は顔を真っ赤にさせながら何かを言おうとしたが。

ㅤ溜息一つ吐き、倉敷世羅、戦斗怜亜の元へと歩いて行った。

 

『お前等、今日は大祐に関わるな』

『えー何で雷鳥に指図されなきゃなんねーの?』

『世羅、にいと遊びたい!』

『止めろ』

『俺、大祐さんの所にーー』

『…いい加減にしないと』

『ひぃっ、雷鳥さん、すんませんでしたぁ!」

『…野蛮』

 

(あの3人、あんな調子で大丈夫か?せめて七尾嬢さえ居てくれれば…)

 

ㅤ熟気を使わされる九条。

ㅤ小学生組が気になりつつも雷鳥超の気遣いを無駄にしないよう、その場を静かに立ち去った。

ㅤ最後に後ろを振り返ると、3人が雪の上で楽しく遊んでいる光景が目に焼き付く。

ㅤ唯一、1人を抜いて。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ㅤ九条は1人、誰も居ない廊下を歩いていた。

ㅤパーティ会場とは別方向へ向かっているのだから当たり前と言えば当たり前だろう。

ㅤ彼は一体何処へ行くのか。

ㅤ階段という階段を上って行き、九条はある部屋の前で立ち止まった。

ㅤそして何の躊躇いも無しに部屋の扉を開く。

ㅤ入室して二歩三歩進んだところで、一般家庭のリビング並みに大きな部屋の真ん中にあるソファーが視界に映る。

ㅤその上でゆっくりと寛いでいるヴェスパローゼに、彼女の膝の上でスヤスヤと寝ている百目鬼きさら。

ㅤ九条大祐は百目鬼きさらを起こさない様、静かに歩いて近付いていく。

 

ㅤ彼がソファーの直ぐ傍まで歩いて行くと、ヴェスパローゼは自身の隣をぽんぽんと叩いて此処に座れと合図する。

ㅤ言われた通りに隣に座る九条大祐。

ㅤ横から見るヴェスパローゼの、百目鬼きさらに対する母親の様な笑顔に彼の心には様々な感情が湧いた。

ㅤだが、その中でも大きく存在する感情は「嬉しさ」。

ㅤ2人が幸せそうな時間を過ごしている光景を目にして、九条大祐までつい嬉しく、ほのぼのとしてしまう。

ㅤ自分の願った夢が一つ叶った事に喜びを隠し切れない。

ㅤ彼の顔は自然と笑顔になっていた。

 

「…きさらのこんな寝顔が見れるなんて、本当、貴方には感謝しきれないわね」

「前々から見てませんでした?」

「確かにそうね。でも、こんな気持ちは初めてだわ。以前は面倒な子としか思っていなかったのに…」

 

ㅤそう呟きながら、ヴェスパローゼは百目鬼きさらの髪の毛を触り始める。

 

「人もZ/Xも、変わるって事ですよ」

「あら…私を変えてくれたのは貴方よ?これでも本当に感謝してるんだから」

「それはどうも」

「ふふっ、私の台詞よ」

 

ㅤヴェスパローゼは九条大祐へ和かな笑みを浮かべる。

ㅤそして直ぐに百目鬼きさらへと向き直り、今度は彼女の頭を撫で始めた。

 

「…むー…ろーぜ…」

「あら、寝てるのに名前を呼んでくれるなんて、きさらは嬉しくなる事をしてくれるわね」

「…楽しんでるところ悪いんですが…それで、きさらちゃんの体はどうです?」

 

ㅤ百目鬼きさらに癒されているヴェスパローゼに、九条大祐は真剣な表情で質問を投げ掛けた。

ㅤ一体何の話かと言うと、百目鬼きさらは一回だけディンギルと呼ばれる神様に願い事を叶えさせて貰った事がある。

ㅤその契約者がイシュタルなのだ。

 

「今は何も無いし、イシュタルも代償は要らないって言ってくれてるから大丈夫だと思うわ」

「神様も可愛さには負けるんですね」

 

ㅤ九条は今の、それからこれからの百目鬼きさらの未来を心配していた。

ㅤ幾ら神様本人が代償無しと言ったとはいえ、決して無害という訳では無いだろう。

ㅤまだ7歳と幼い百目鬼きさらを最大限気に掛ける九条。

ㅤそれはヴェスパローゼも同じだった。

ㅤ表情に余裕はあるものの、内心では不安と心配で沢山なのが彼は直ぐに分かった。

ㅤ今日は百目鬼きさらと遊ぶ約束をしたのもあるが、そんなヴェスパローゼを安心させたいと思いこの部屋に呼び出した九条。

ㅤ彼の中では既にクリスマスパーティ等どうでも良くなっていた。

 

「もし何かありましたら、何時でも呼んで下さい。話でも何でも聞きますから」

「それは心強いわね。丸できさら専用の医師みたい」

 

ㅤ余程の安心剤を求めていたのか、九条の言葉にヴェスパローゼはクスクスと笑みを返す。

ㅤ彼女のその笑顔に少し気持ちを高ぶらせた九条だが、悟られぬ様に顔を直ぐ背ける。

ㅤだが、ヴェスパローゼには既にお見通しだった。

ㅤ然し彼女は内緒に、気付いた事がバレない様に寝ている百目鬼きさらを再度撫で始める。

 

「ねぇ大祐」

「何で御座いましょう」

「少しきさらの面倒を見ててくれるかしら?ちょっとパーティ会場から食べ物を拝借して来るから」

 

ㅤそう言うと、ヴェスパローゼは百目鬼きさらを九条の膝の上に預けて立ち上がる。

 

「それなら俺がーー」

 

ㅤ見兼ねた九条は動くなら自分がと言い張ろうと前に出ようとする。

ㅤだが、ヴェスパローゼに肩を掴まれソファーに座らされた。

 

「良いの、私が取ってきたいんだから。貴方は此処できさらと待ってて頂戴。ね?」

 

ㅤそれだけ言い残してヴェスパローゼは部屋を出て行った。

ㅤ直後、百目鬼きさらが腕を伸ばして九条の体をよじ登る。

ㅤ卒然過ぎる出来事にソファーごと後ろに倒れそうになるが、何とか持ち堪える。

 

「き、きさらちゃん!?寝てたんじゃ…」

「おきてた」

「えっと…いつから?」

「ろーぜがたって、だいすけのひざにのってから」

「ついさっきか…」

 

ㅤ九条は取り敢えず百目鬼きさらを膝の上まで下ろそうと両脇を抱える。

ㅤすると彼女はそれに反抗するかの如く首元に腕を回してギュッと抱き着いた。

ㅤ疑問に思いながらも九条はどうすられば良いか考える。

ㅤこのまま好きなだけ遊ばせてあげるか、一度離れて貰って膝の上だけに留めて貰うか。

 

(いや、好きにさせるって言ったんだから自由にして貰おう)

 

ㅤ九条は前者を取り、百目鬼きさらが満足するまでそのまま何もせずに待とうと考える。

ㅤ彼の気持ちを感じ取った彼女は抱き着く力を弱めた。

ㅤそれでもゼロ距離から離れようとはしない。

 

「きさらちゃん、急にどうしたの?」

「なんえもない…だいすけに、あまあたかった」

「…分かった、じゃあ俺はこのままでいるよ」

「うぃ」

 

ㅤ先程まで流暢に話していた百目鬼きさらは、何故か以前の口調に戻ってしまっていた。

ㅤ一応ながら説明すると、彼女がイシュタルに叶えて貰った願いは「ヴェスパローゼの為に頭を良くしてくれ」という願い。

ㅤその御蔭で前々から続いていた、言葉として成り立つか分からない曖昧な片言が治ったのだが、今になって逆戻り。

ㅤ百目鬼きさらは自分の口調に違和感を感じて咄嗟に、両手で口を隠す。

 

ㅤだが、九条大祐は一瞬無言になった程度。

ㅤ後は何時も通りの笑顔を彼女に見せる。

ㅤそれでも百目鬼きさらは顔を下に俯けた。

 

「どうしたの?きさらちゃん」

 

ㅤ彼女が目を合わせてくれない理由等とっくに知っている九条大祐。

ㅤじゃあ何故質問するのか。

ㅤ何が彼女を嫌な思いにさせてるかなんて本人にしか分からないからだ。

ㅤそれに相手から直接聞き出さなければ断定すら出来ない。

ㅤというのが彼の思考。

 

「…きぃ、あたまよくなぃ。ろーぜにきあわれる…」

「いいや。それは無いかな」

「ぅゅ?」

「ヴェスパローゼさんは最早、きさらちゃんを自分の娘みたいに思っているからね。嫌われる事は先ず無いよ」

「…じぁ、だいすけは?」

 

ㅤ百目鬼きさらは少しばかりビクビクとしながら彼の目を見つめる。

ㅤ彼女が至極怖がっているのは見なくても分かる事。

ㅤ九条大祐は震える彼女の体、背中に手を回す。

ㅤそして今度は彼の方から百目鬼きさらを抱き締めた。

 

「だいすけ…?」

「大丈夫。俺がきさらちゃんを嫌う事は絶対に有り得ないから。君に誓うよ」

「…うぃ…だいすけっ!」

 

ㅤ九条は彼女の小さくて細い体を優しく、包み込む様に腕の中へ。

ㅤ受け入れてくれた彼に百目鬼きさらは存分に甘え始める。

ㅤ先よりも強く彼を抱き締めるものの、言うてまだ7歳の力。

ㅤだが、百目鬼きさらが九条を思って精一杯抱き着いているのは遠目から見ても分かる光景だった。

 

ㅤその状態で20秒程経過後。

ㅤ百目鬼きさらが絡ませていた腕を離し、再度九条大祐の膝の上へちょこんと座る。

ㅤ九条はそれに合わせ自分の腕を前に出して後ろから彼女を抱く様に、百目鬼きさらの腹部へと手を当てる。

 

「こうしてても良いかな?」

「こえ、しぃき!」

 

ㅤ本人はそう言っているが本当に嫌がっていないか、後ろから彼女の顔を覗く。

ㅤ然し、九条大祐の不安は無駄な物となった。

ㅤ百目鬼きさらはニコニコと満面の笑みを浮かべながら体を左右に揺らしている。

ㅤこの状態が余程嬉しくて楽しいのか、彼女は鼻歌を歌い始める。

ㅤそんな、可愛らしい声で歌う鼻歌を九条は後ろから満喫していた。

ㅤほのぼのとした空間が2人を包み込む。

 

「〜♪♪」

「…ふぅ」

「だいすけ?」

「きさらちゃんの鼻歌は癒されるなぁ」

「じゃあ、うたう」

「ありがとね」

「〜♪♪」

 

ㅤ百目鬼きさらは九条大祐の要望に応えるように鼻歌を続ける。

ㅤ偶に後ろを振り返る彼女に対して、九条は頭を撫でてあげ。

ㅤそんな時間が30分程経った頃。

ㅤ九条の膝の上で、百目鬼きさらはスヤスヤと眠りに就いた。

 

ーーー

 

「申し訳無いわ。イシュタルとの話が長引いて……あら」

 

ㅤその後、ヴェスパローゼが部屋に戻って来た時には既に九条大祐の姿は無かった。

 

「…ぅゅ…だいすけ…しゅき…」

 

ㅤ部屋に残されたのは熟睡中の、ソファーからベッドへ移された小さな少女と。

ㅤその少女の枕元に置かれた、赤い包装紙と金色のリボンで華やかに彩られているプレゼントだった。

 

「…ふふ、きさら専用の医師、は嘘ね。きさら、後でサンタさんに感謝しないとね」

「………うぃ……」

 

ーーー

 

 

 

 

 

「よし、きさらちゃんへのプレゼントは渡せた」

 

ㅤサプライズという言葉が好きな彼にとって先程の行いは自己満足にも近い。

ㅤだが、百目鬼きさらという少女にプレゼントを渡せた事が何よりも嬉しいかったのか、相も変わらず誰もいない廊下で喜んでいる。

ㅤその後直ぐに気持ちを切り替え何処か別の場所へと足を運ぶ。

ㅤ彼が向かった先は彼自身の部屋だった。

ㅤクリスマスパーティの主催者である九条本人が姿を見せないというのもあれな話だが、彼の中では雷鳥超の気遣いを無駄にしたくないという思いがある。

ㅤ恋人という存在の各務原あづみやリゲルには存分に楽しんで貰い、自分は素直に休もうと彼は考えた。

ㅤどうやら、各務原あづみの母親であるベガにも今日一日位は好きに過ごして欲しいと思っているらしい。

 

ㅤ九条は自分の部屋の前…最上階一歩手前の部屋の扉を開けようとドアノブに手を掛ける。

ㅤそして握り、そのまま手前へ引くとガチャリという音が周囲に響き渡った。

ㅤ開いた扉の隙間から自身の体を通す。

ㅤしっかりと扉が閉まったのを確認すると、九条は前へ前へと足を進ませた。

 

ㅤ彼の部屋の構造は右手に寝室、左手に客が来た時などに使う所謂客間、真ん中はどの部屋とも同じくリビング。

ㅤ入室すると同時に見えるのがこの大きなリビングだ。

ㅤ部屋の中心にはテーブル一つ、それを囲う様にソファーが二つ。

ㅤ奥には九条大祐専用の椅子と机が置いてあり、丸で一国の王が座ってそうな雰囲気が漂っている。

 

ㅤ然し、九条は右へ曲がり寝室の方へ向かう。

ㅤちゃんと寝床で休みたいというのが彼の現状だろう。

 

ㅤ九条大祐は寝室の扉をゆっくりと開ける。

ㅤだが、次の瞬間彼の心には焦りが生まれた。

 

「あの…ベガ、さん?」

「…!」

 

ㅤ九条の寝室のベッドの上にベガ。

ㅤ更に彼女は、何故か彼の黒いコートを抱き締めながら息を荒げている。

 

「えっと…パーティ会場は彼方ですよ?」

 

ㅤ最早どうやって部屋の鍵を開けたのかすら聴かない九条。

 

「…あづみのクリスマスプレゼントに相応しいかどうか、見定めていたのです」

 

(ベガさん、それは流石に無理があるよ!?ていうかあづみさんに俺のコートなんか渡さないで下さい!?)

 

ㅤ色々と突っ込みたくなった九条だが、一度深呼吸をして心を静める。

ㅤそして一歩、また一歩とベガに近付いて行く。

ㅤ九条が迫ってくる度に体をビクつかせるベガ。

ㅤ例えるなら人間に慣れていない小動物の様だ。

ㅤそんな彼女の反応を可愛いと思った九条は、一気にベッドへダイブする。

 

…手前で、動きを止めた。

ㅤベガと彼の顔の距離が略ゼロに近い。

 

「で、俺のコートで何してたんです?」

「あっ…えっと…その…」

 

ㅤ見た目は大人の女性其の物なのだが、如何にも初々しい反応を返すベガ。

ㅤ彼女の予想外な弱点を発見した九条は勢いで攻め立てる。

 

「気になる事でもありました?それなら直接聞いてくれればーー」

「ち、違います」

「じゃあ何ですか?何をしてたんですか?」

「うぅ…///」

 

ㅤベガは顔を真っ赤にさせ、九条の黒いコートで顔を隠す。

ㅤ自分の衣服を、こんな美人が顔に当てているのを直で見せられると彼にも来るものがあった。

ㅤこのままでは精神的に持たない、取り敢えずリビングのソファーに移動しようと九条は試みる。

 

「…ベガさん、それ持ってでも良いので彼方の部屋に行きましょう?」

「わ、分かりました」

「さあ行きますよ」

「えっ?」

 

ㅤ九条大祐はベガの足、背中に手を回し、軽々と彼女を持ち上げる。

 

「…あ、貴方、意外と力持ち…なのね…」

「反応するのそこでしたか。てっきり恥ずかしがるかと」

「十分恥ずかしいです…が、何だか心地良いですね。これならあづみが好むのも分かります…」

 

ㅤベガは最後に小さく呟きを漏らす。

ㅤその呟きを聞き逃した九条大祐は頭にクエスチョンマークを浮かべながらベガをソファーへ運んでいった。

 

ㅤだが、九条とベガがソファーへ到着した瞬間。

ㅤ彼の部屋の扉の方から力強くバタン!と音が鳴り響いた。

ㅤ突如として起こった出来事に二人共驚くが、中に入って来た人物を見て更に驚愕する。

 

「大祐の部屋に入る不届き者は排除しまーー!」

「待って!お、お母さん!?」

「…あづみに…リゲル」

「えっと…大祐とベガ、が…え?」

「二人共、取り敢えず此処に座ってくれます?」

 

ㅤ互いに互いを見て驚愕し合う3人だが、その中で一人冷静な判断を下す九条大祐。

ㅤ話がややこしくなってしまうのを未然に防ぐ為だろう。

ㅤベガをソファーの上へ、ゆっくりと下す。

ㅤすると今度は各務原あづみとリゲルの前まで歩いて行き、二人に有無を言わさずソファーへ誘導する。

ㅤ九条があまり面倒事にしたくないという気持ちを察した各務原あづみとリゲルは、素直にその誘導に釣られて行った。

 

ㅤ四人全員が座ったのを確認した九条は、早速本題へと移る。

 

「で、何故ベガさんと俺があんな状況になっていたのか。先程までの状態を二人に教えますね」

 

ㅤその話を聞いた二人が動揺したのは言うまでもない。

ㅤ然しながら、各務原あづみもリゲルも笑って許したという。

ㅤある意味3人の意思の共有が成功した様にも見える。

ㅤ唯一人、何故二人が許してくれたのか分かっていない男を抜いて。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「あっ、そうだ!大祐くんに渡したい物があるのっ」

「渡したい物?」

「言ってしまうとクリスマスプレゼントなのだけれど…受け取ってくれるかしら?」

「無論、私からもあります」

 

ㅤそれを聞いた九条は片手に持っていたグラスを一旦テーブルに置き、3人へと体を向ける。

ㅤとは言ったものの、各務原あづみは先程の許してあげるという代わりに膝の上に乗せてくれと、顔を真っ赤に至極恥ずかしそうにして九条に頼み込んだ。

ㅤリゲルは隣に居させてくれるだけでも良いからと彼の右隣に座っており、ベガだけ一人は駄目だと彼の左隣に座っている。

 

ㅤ元は大人3人が座れる位には大きなソファーなのだが、流石に窮屈そうな九条大祐。

ㅤ前に女性、両隣に女性と。

 

「…ていうかこれ、両手に華以上じゃないですか」

「大祐くん苦しくない?」

「狭いと感じたら直ぐに言って頂戴」

「そしたら私とリゲルが対面に移ります」

 

ㅤ各務原あづみを動かそうとしない辺りがやはり母親、等と思っている九条をじっと見つめる3人。

ㅤ窮屈ではないというのが彼の内心だが、居心地の悪さを感じているのは間違い無い。

 

「俺は大丈夫ですよ。話の続きをどうぞ」

 

ㅤそれでも無理矢理話を進めようと、自分の心配はするなアピールをする九条。

ㅤ彼の表情を疑いつつも各務原あづみは口を開く。

ㅤだが、偶にーーというよりも頻繁に九条の顔を伺うのは本心から彼を心配しているからだろう。

ㅤ対してベガやリゲルはプレゼントについて話し合っている。

ㅤすると二人はバトルドレスを装着。

ㅤ目の前にプレゼントボックスを合わせて3箱取り出す。

 

「…あれ、3人はもう?」

「交換したよー♪」

 

ㅤその言葉を聞いた九条もバトルドレスを装着。

ㅤデータボックスを漁り、中からプレゼント箱を3箱取り出す。

ㅤ同じバトルドレスが故に作業工程としてはベガやリゲルと何ら変わらない。

ㅤ自身に目の前…では無く、各務原あづみの前に唐突に出現した事により、彼女の身体がビクッと跳ねた。

ㅤ九条は3箱共見事にテーブルの上へ落下するように出現させる。

ㅤ然し、箱からは軽いコトンといった音が鳴った。

 

ㅤ要するに大きい物ではないと。

ㅤそう見受けるのが妥当だ。

 

ㅤだが、九条は又もやデータボックスを弄り始める。

ㅤそして今度は大小混じった袋が三つ、テーブルの上に置かれた。

ㅤ更にテーブルと接地した際の音も別々。

 

「えっとですね…これがあづみさん、リゲルさん、ベガさん」

「どうして箱と袋があるのかしら」

「プレゼントは二つという事です」

「それじゃあ私達からも」

 

ㅤ九条大祐が3人其々にプレゼントを手渡しすると、相手3人からもプレゼントが返ってくる。

ㅤ丸でプレゼント交換…いや、プレゼント交換其の物だ。

 

「じゃあ、3人から開けてくれますか?」

「あら?こういうのは全員で開封するものではないのですか?」

「うん!大祐くんも一緒に開けようよっ」

「…そういうもんですかね」

「そういうものよ」

 

ㅤ九条大祐は3人の勢いに負け、全員で一斉に開封する選択肢を選んだ。

ㅤ本来は先に開けて貰いたかったというのが彼の本心だが、彼女達の思い遣りや笑顔に勝てる筈も無かった。

ㅤ因みに3人共座る位置を変え、九条大祐の隣に各務原あづみ。

ㅤ正面にはベガとリゲルという位置決めになっている。

 

ㅤそして彼は三つのプレゼント箱を綺麗に並べ、左から順に開けていく。

ㅤ九条が最初に開封しようと手を掛けたのはベガの物だった。

ㅤそれが合図代わりになり、3人共九条からのプレゼントを開けていく。

 

「…ベガさん…これって」

「どう?大祐なら気に入ってくれると思って」

「いや、あの…んん?」

「大祐くん、どうかしたの?」

 

ㅤ九条大祐の反応が気になったのか、各務原あづみが横からチラッとプレゼントの中身を覗く。

ㅤだが…それを見て絶句したのは彼女自身だった。

 

「…お母さん、これ…」

「そう、あづみ。貴女の母親だからこそ出来た事よ」

「恥ずかし過ぎるよぅ!大祐くんも何も言えずにーー」

「あづみさんの…嬉しいけど、どうすれば…」

「必死に使う用途を考えてくれてる……」

 

ㅤ一体、ベガからのプレゼント箱には何が入っていたのか。

ㅤ一言で片付けるなら「各務原あづみの写真」だ。

ㅤ確かに、彼女の事が好きで片時も離れたくないと思っている九条にとっては最適なのかもしれない。

ㅤだが、その写真の中には各務原あづみの幼少期時代等の、本人からすれば恥ずかしい事この上無いであろう物も混じっていた。

 

「ていうかベガさん、こういう写真をいつの間に…?」

「うぅ…大祐くん、そんなにまじまじと見ないでぇ///」

「ふふっ、照れてるあづみも可愛い」

「あ、リゲルの物も混じってますよ」

「マジですか!?」

「うそ!?大祐!そんな勢い良く探さないでぇ!」

 

ㅤプレゼント箱の真ん中にきっちりと固定されたケースの中身を隈無く探す九条。

ㅤすると本当にリゲル本人の写真が出てきてしまった。

 

「…二人共、可愛い…」

「わあああ!!??」

「このままではリゲルが壊れてしまいますね」

「次!大祐くん、次のプレゼントを開けて!」

「り、了解」

 

ㅤ自身の一番最初の頃、まだ青の世界に忠実だった頃の写真を見られて発狂するリゲル。

ㅤ中にはある時の、九条に抱かれた時の物まで撮られていた。

ㅤその写真を見た瞬間は九条も目を逸らした。

ㅤ状況が状況だったとはいえ、流石に自分のした行為を恥じている様だ。

 

ㅤそんな二人を見てくすりと笑みを零すベガ、自分の写真がこれ以上見られる前に次のプレゼントへ意識を移そうと、九条に催促する各務原あづみ。

ㅤ焦りを隠し切れていない彼女の催促を受け入れ、九条は隣に置いてあるプレゼントに手を伸ばす。

ㅤそれは各務原あづみ、彼女自身のプレゼント箱だった。

 

「おぉ…あづみさんのプレゼント可愛い!」

「えへへ、リゲルとお母さんにもこれにしたんだ。どう…かな」

「すっごく嬉しいよ、ありがとう」

 

ㅤ九条は各務原あづみからのプレゼントを絶賛した。

ㅤ少し横に長いプレゼント箱に入っていたのは赤いマフラー。

ㅤ各務原あづみ、リゲル、ベガ、四人お揃いになるように彼女が選んだという。

 

ㅤ最高のプレゼントを貰った九条は笑顔を、各務原あづみは彼のその笑顔に頬を赤く染めてテレテレする。

 

「外出する際はこれ絶対だな」

「そこまで嬉しがって貰えると…何だか渡したこっちの方が嬉しくなっちゃうな」

「私のプレゼントでは不満でしたか?なら今直ぐにでもーー」

「いや、ベガさんのは精神面で有難いです」

「じゃあ私のはどうかしら?」

 

ㅤ九条が二人のプレゼントに感謝の気持ちを伝えていると、先程まで疲れ果てていたリゲルが自信満々な態度でプレゼントを勧める。

ㅤ余程外れる事が無いと信じているのか、少しドヤ顔が混じりつつある表情で九条を見つめていた。

ㅤここまでされたのでは期待せざるを得ない。

ㅤ九条はドキドキと、心臓の鼓動を早めながらプレゼント箱を開けていく。

 

ㅤリゲルが彼にプレゼントした物とは、一体何なのか。

 

「これは…日本刀?」

 

ㅤ横長な箱の中に入っていたのは本物の日本刀。

ㅤ振れば何でもスパッと切れてしまいそうな日本刀だった。

ㅤ九条は試しに鞘の部分を握り締める。

ㅤ何故急に日本刀?と思った彼だが、次の瞬間頭の中に聞き覚えのある音が響き渡る。

 

[解放条件物質を確認しました。新しいバトルドレスを解放します。]

 

「何故今!?然もレッドフレーム!嬉しい!」

「え、えっと、良かったわね。…大祐が何言ってるか分からないわ…」

「有難う御座います!リゲルさんの御蔭で新しいバトルドレスが解放されました!」

「そ、そうなの?なら私も嬉しいわ!」

 

ㅤ九条の勢いに流されるがままに流されるリゲル。

ㅤだが、彼が嬉しがっている事だけは分かった彼女は素直に喜んだ。

ㅤ新しい戦力が増えたやらそういった訳ではなく。

ㅤ彼の笑顔が見れたから。

 

「いや、本当。皆さん有難う御座います」

「良いわよ、お礼なんて」

「リゲルの言う通りです。それに…」

「私達も大祐くんからプレゼントを貰ってるから」

「…それじゃあ、今度は俺のプレゼントをどうぞ!」

 

ㅤそしてその日はーーいや、その日も、四人は仲睦まじく笑い合いながら1日を過ごした。

 

ーーー

 

 




「大祐くん、これ…綺麗」
「私のは水晶、あづみは蒼いクリスタル」
「私はダイヤモンドです」
「3人に合った煌びやかな物をあげたくてですね…さあさあ、残りも開けちゃって下さい!」

(3人がプレゼント袋を開ける音)

「わぁ、新しいお洋服だっ♪」
「あづみのそれ…何着入っているのかしら」
「大祐、これは…コート?」
「ベガさん、コート欲しがってたじゃないですか。他にも面白い物が入ってる筈です」
「これですか?…ふふ、大祐は素晴らしい物をプレゼントしてくれましたね」
「高評価で何よりです」
「凄い…このビームサーベルに、ロングレンジライフル…ビームツインダガーまで付いてるわ」
「本来は戦闘系のプレゼントなんてしたくなかったんですけどね。リゲルさんが欲しがっていたのを思い出してーー」
「ありがとっ!大祐!」

(リゲルが九条大祐に抱き着く音)

「ちょっ、リゲルさん!待って…」
「相変わらず、リゲルと大祐くんは仲良しだね」
「ほんと、熟思い知らされます」
「あっ…えっと…その」
「照れてるリゲルさん可愛いね」
「わああぁぁぁ!?」

ーーー

「そう言えば、何故日本刀?」
「大祐がこの前、日本刀持ってブンブンしたいって言ってたから?」
「…ヤバイ奴じゃん、俺」

ーーー





クリスマス、とっくに過ぎてるやん…。
(主人公がベガさんへ渡したプレゼントの内容は、元日の話で明らかになります)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編:大晦日

良いお年を!


「はあ…今年も終わりを告げるのかぁ」

 

ㅤ俺は自室で一人、自分用の椅子に座りながら呟く。

ㅤ昨年は確か…豪邸で一人年末を迎えたのか。

ㅤ此方の世界に来てからは波乱万丈?な生活を過ごしていたからな。

ㅤ今ではこうして平和になったから気楽でいれるものの、此れ迄の選択肢を一つでも間違えていれば今俺は此処に居ないだろう。

ㅤ過去で行った行為が此れ程までに関わってくるとは予想だにしなかった。

 

ㅤふと、机の上にある時計に目が移る。

ㅤ23:15

ㅤ時計にはその四つの数字が表示されていた。

 

ㅤ席から立って窓を見てみると外は真っ暗な闇に包まれていた。

ㅤ今日はリゲルさんもベガさんも、ある用事で家を出ている。

ㅤ二人が無事に帰って来れる事を願いながらも、内心今年も一人で年末を迎えるのかと少し寂しくなる。

 

ㅤそんな気持ちで窓に手を当てていると。

 

コンコン

 

ㅤと、扉をノックする音が俺の意識を掻っ攫った。

ㅤそれでも急かずに歩いて向かう。

ㅤ走る程でもなかろう。

ㅤ俺はドアノブをゆっくりと引き、客人を出迎える。

 

「大祐くん、ご一緒しても良いかな…?」

「あづみさん!どうぞソファーへ」

 

ㅤここでまさかのサプライズゲストの登場。

ㅤ今思い出せば出掛けたのはベガさんとリゲルさんだけだったな。

ㅤという事はあづみさんが居ても可笑しくない、ていうか当たり前というか。

ㅤ確か二人が家を出たのはついさっきだから…あれ、その間あづみさんは何してたんだろうか。

ㅤ彼女に関する事はついつい気になってしまう俺だ。

 

ㅤ取り敢えずあづみさんにはソファーへ座って貰って…あ、後は。

 

「今、菓子やら飲み物やら持ってくるから」

「そんな…お構いなくーーで、合ってるよね…?」

「合ってるけど構わせて貰うよ。何も無いのは味気ない、それにあづみさんに申し訳ない」

「別に、私は大丈夫だよぅ」

 

ㅤ無駄に動いて欲しく無いのか、少し強請り気味なあづみさん。

ㅤだが、彼女が良いと言っても俺が許さない。

ㅤ折角あづみさんが来てくれたのにお持て成しの一つも無いだなんて。

ㅤ男…いや、人として失格だ。

 

ㅤ等と勝手な思い込みをしながら、冷蔵庫や、菓子類を保管してある部屋を物色。

ㅤ飲み物も菓子もあづみさんの口に合えば何でもええんや。

ㅤ兎に角色々持ってくか。

 

「この位かな…」

「あ、大祐くーーて、何か大変な事になってる!?」

「大変な…あぁ、確かに凄いな」

 

ㅤ選んだ物があづみさんの嫌いな物だったら嫌だな。

ㅤなんて考えながら様々な種類の菓子を取り出してきたら…彼女がびっくりした表情でテーブルの上を見つめていた。

ㅤ自分でも改めて見ると、うん、素晴らしい。

ㅤ軽く2mはあるであろう横長のテーブルが隙間無く埋められていた。

ㅤ何故こうなるまで気づかなかった、俺。

 

ㅤこれじゃあ飲み物置けない。

ㅤそして何処に何があるのかすら分からない。

ㅤ然もあづみさんが好きそうな菓子があるか未確認。

ㅤその所為で要らない類の菓子は戻さなければならない。

ㅤ考えなく出してくるからこうなるんだよ。

 

「…そうだ。あづみさんは何か食べたい物とかある?」

「えっと、今はカレーが食べたいかな」

「カレーかぁ。軽いのだったら作れるけど」

「本当!?大祐くんの作ったカレー、食べたいなぁ…」

 

ㅤあづみさんに其処まで言われると最早引けない。

ㅤ基本的な材料とかは一応認知してるけど、彼女に食べさせるのであれば上品な仕上がりの物を出したいな。

ㅤへっきーならそういうのに詳しいし、材料なら何でも揃っている。

ㅤあの人に連絡すれば答えてくれるだろう。

ㅤ一番手っ取り早いのはへっきーに作って貰う事だが…それは、俺のプライド的な何かが許さない。

 

ㅤさて、もたもたしていると年が越してしまう。

ㅤ後30分位あるから心配はない、と思いたい。

ㅤ何とかギリギリで作り終わりそうな雰囲気だな。

ㅤキッチンは直ぐ其処だ。

ㅤさっさと行ってきっちり作って、あづみさんにご馳走して。

ㅤ恐らくおかわりするであろう彼女の為に余分に作り置きでもしとくか。

 

「よし、じゃあ行ってくる」

「…あ、あのっ」

 

ㅤ早速作りに行く…前に菓子類を仕舞っていると、後ろからあづみさんが尋ねるように話し掛けてきた。

ㅤ一体何事か。

 

「どうかしたかい?」

「えっと…あのね、一緒に作りたいなぁ…なんて」

「良し、菓子類は放置!さぁ行こうか」

「あっ、うん!」

 

ㅤあづみさんが自分から言ってくれるなんて。

ㅤ実は一人でキッチンに立つとなると、お互い孤立してしまうからどうしたものかと考えていたが。

ㅤこれならその心配は無さそうだ。

ㅤ勇気を出してくれたあづみさんに拍手喝采だな。

 

「大祐くん、その…」

「あづみさんと二人だけでカレー作りなんて、夢でなら幾らでも妄想してた」

「えぇっ///」

「だからね、ありがとう。誘ってくれて。そして宜しくね」

 

ㅤ俺がそう言うと、あづみさんは俯きながら顔を真っ赤にしていた。

ㅤ更に両手を握って、もじもじと、恥ずかしがっているのが目に見えて分かる。

ㅤそんな彼女をじっと見つめていると、あづみさんは顔を上げて逆に見つめ返してきた。

ㅤ思わずその赤い、大きくて綺麗な瞳に吸い込まれそうになる。

 

ㅤ然しお互いで見つめ合うというのには限度があった。

ㅤ俺も彼女も、ハッとして直ぐに目を逸らす。

ㅤだが、再度彼女の方を向くと…あづみさんも此方をチラッと見ていた。

ㅤ又もや行動が被ってしまった。

ㅤそして何故か笑ってしまう。

ㅤそれはあづみさんも同じだった。

 

「…そろそろ行くかい?」

「えへへ、そうだね。今日は宜しくお願いします」

「いえ、此方こそ」

 

ㅤそんな会話を交えながらキッチンへと向かう俺とあづみさんだった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ㅤ二人で仲良く話しながらカレーの材料を準備し、必要な物は携帯でへっきーに連絡を取りつつ確認。

ㅤあづみさんと楽しくお喋りをしていた御蔭で早く準備が整った。

ㅤ後はカレー作りを始めるだけだ。

 

「切る作業等は私(わたくし)が致しますので、あづみ姫は包丁にお手を触れぬよう」

「だ、大祐くん…何だか執事さんみたいだね」

「俺みたいな執事を誰が求めるのやら」

「…私は、欲しいかな」

 

ㅤマジか。

ㅤ案外、というか普通にあづみさんに受けて頂けた。

ㅤ凄く嬉しい。

 

ㅤんで、俺の執事ごっこは置いといて。

ㅤえーと…へっきーからの情報によるところ、水を使わないでトマトジュースを使え、チョコレート等の隠し味は不味くなるから止めろ、但しポテチは除く。

ㅤ更に砂糖を用意しろって…んな専門的な事は聞いてない。

ㅤまぁ、指示された通りに作れば上手くいくんじゃないのか?

 

ㅤそれじゃあ始めよう。

ㅤどれどれ、先ず最初は…と。

 

「野菜を切る、指示されんでも分かるわ」

「もう包丁使うんだ」

「使わないで手刀とかで切れれば早いですよね」

「わぁ、大祐くん出来るの?」

「無理っす」

 

ㅤ彼女との会話を弾ませながら事を進めていく。

 

「わりとマジで包丁危ないので、ジャガイモと玉葱、そして人参の皮剥き頼んでも良いかな?」

「うんっ!」

 

ㅤ俺からの頼み事を快く受け入れてくれるあづみさん。

ㅤ玉葱の皮剥きは簡単だが、ジャガイモや人参は如何だろうか。

ㅤピーラーも一応ながら刃物は付いているし、不安で不安で仕方がない。

 

「ゆっくりで大丈夫だからね」

「ありがと、やっぱり大祐くんは優しいね」

 

ㅤお互い少し離れた位置で作業しているにも関わらず、俺は不意に顔を隠す。

ㅤ自分でも咄嗟に判断してしまった所為で何故隠したのかよく分からない。

ㅤこのままでは何も進まない為、へっきーからの連絡の中に表示されている「カレーに入れる野菜」の項目をチェックする。

 

ㅤあづみさんが皮剥きをしてくれている間、俺は切る作業をしておこう。

ㅤまあ取り敢えずはあづみさんと具材を決めてからだな。

 

「キャベツとか春菊とか書いてあるけど…あづみさんはどうしたい?」

「うんとね、私はシンプルで良いと思うな。今ある食材だけでも十分じゃないかな」

「流石あづみさん。あれ…じゃあこれ、俺も皮剥きするしか無いやん」

 

ㅤ個人的にはマッシュルームなんか入れたいけど、あれは切るんじゃなくてスライスだし。

ㅤまあまあ、あづみさんと一緒に皮剥きしようじゃないか。

ㅤ楽しい楽しい作業が待ってーー

 

「待ったあづみさん。エプロン着てない」

「あっほんとだ!」

「直ぐ其処にあるから、着ておいで。俺がやっておくから」

「…此処で着ても大丈夫?」

「勿論」

 

ㅤ俺が了承すると、あづみさんはキッチンの壁に掛かっている彼女専用のエプロンを手に取る。

ㅤそしてぎこちない手付きでしっかり紐を結んで…いや、後ろの紐で苦戦していた。

ㅤ至極可愛い、凄く手伝いたい。

ㅤだが俺には皮剥きという作業がある。

ㅤそんなものは放っておいて今直ぐ彼女に手を貸したいが、自分自身で頑張っているあづみさんはそれを望まないだろう。

 

ㅤここは見守ってあげるのが吉。

ㅤ俺的にも、あづみさんがエプロンを目の前で着ている姿を見ていたい。

ㅤとか言う自分の欲望は投げ捨てて。

ㅤ俺はこの皮剥きに専念しなければ。

 

ㅤ大体五分程。

ㅤ漸くエプロンを着れたあづみさんはクルッと回って此向く。

ㅤ最早、超絶可愛い最高、に似た言葉しか思い浮かばない。

 

「大祐くんごめんね、私も頑張るから!」

「そこまで張り切らなくても、マイペースだよマイペース」

「ううん、大祐くんがやってくれた分、頑張るのっ」

 

ㅤ両腕を曲げてヤル気ポーズを見せてくれる彼女に、元気付けられる自分がいる。

ㅤというかあづみさんのエプロン姿に理性が抑えきれないのですが、それは。

…っと、今はしっかりカレー作りに集中集中。

 

ㅤ何処か一歩でも間違えると不味くなってしまうからな。

ㅤその点からすれば人の人生と言えなくもない。

ㅤなんて思いながら作業を再開した。

 

「さて、ジャガイモは終了」

「玉葱も終わったよ〜」

 

ㅤ凡そ五分も掛からずに二種類の野菜の皮剥きを完了した。

ㅤ後は人参だが。

ㅤピーラーは意外と危ない。

ㅤこれは俺がやってあげるのが一番だ。

 

「あづみさんは剥き終わった野菜を洗って、ボウルの中に入れて、俎板の近くに置いといて貰えるかな」

「はーい♪」

 

ㅤ何だか凄い上機嫌なあづみさん。

ㅤ何時も一人で何かしていた俺にとっては共同作業とは慣れない物がある。

ㅤだが、こうしてあづみさんと二人だけで楽しく、色々な事をするのには抵抗が一切無い。

ㅤそれもこれもまた、彼女の御蔭なのだろう。

ㅤ優しく接してくれるあづみさんが居てくれてこそ、俺はそう思える。

 

…さて、人参の皮剥きも終わり、水で綺麗に洗って。

ㅤ元からあづみさんが洗ってくれていた野菜の入っているボウルに、これも入れて。

 

「さあ、次は包丁で切りますよ」

「…ちょっと、怖いな」

 

ㅤ大丈夫だよあづみさん。

ㅤ包丁持って万が一指を切るのは俺だから。

ㅤそんな光景、彼女に見せたくもないな。

ㅤだからこそ気を付けよう。

 

ㅤ最初はジャガイモを切ろうと俎板の上に置き、いざ包丁で切ろうとすると。

ㅤあづみさんが俺の背中にくっ付きながら興味津々に見つめていた。

ㅤ彼女はリゲルさんが料理する所を見た事が無いのか、俺が右手に持っている物体Xから目を離さない。

ㅤ丸で包丁を使う作業工程を始めて見るかの如く、素晴らしい食い付き様だ。

 

ㅤ俺はあづみさんの視線を気にしつつ野菜を切っていく。

ㅤあまりぶつ切りにはせずに、あづみさんの口に合うサイズで調整。

ㅤ結果、小さくて細やかな切り方になった。

 

ㅤそして、流石に高い包丁なだけあって切れ味は抜群。

ㅤ下手すれば手を切るじゃなくて指を切り落とすになりそうだ。

 

ㅤ然し、プロの人達は高い包丁ではなく、愛用のMy包丁を使うらしい。

ㅤやはり自分の手に馴染んだ物が一番使い易いという事なのか。

ㅤ料理に関しては其処までガチる気は無いのでどうでも良い話ではあるが。

 

「うん、ジャガイモはオッケー。次は玉葱かな」

「大祐くん切るの上手だね。どうしたらそんなに上手く出来るの?」

 

ㅤ未だ背中にくっ付きながら質問してくるあづみさん。

ㅤだが、この手の問いに対する答えは一つしか無い。

 

「完璧に慣れが関わってきますよ。やってればその内出来る様になります」

「そうなんだ…」

「俺で良かったら教えてあげるよ。丁度、切り易い野菜の人参があるからね」

「えっ、良いの?私がやっても…?」

「手取り足取り、あづみさんが満足するまで付き合うよ」

 

ㅤそう言うと彼女は笑顔で「ありがとっ」と、嬉しそうな表情を俺に返してくれる。

ㅤ全く、あづみさんの可愛さは卑怯だよ。

ㅤ誰が何と言おうが彼女のその魅力は本物だ。

ㅤというか、あづみさんの可愛さに口出し等させて堪るか。

 

ㅤって、いつの間にかあづみさんを語る時間になってしまっていた。

ㅤ気を抜くと直ぐにこれだ。

ㅤちゃんと反省しなければならない。

 

「…あ、俺から離れたほうが良いよ。玉葱切るんで」

「玉葱…切ると涙が出るって聞いた事ある…」

「ささっと終わらせるんで、そしたら人参切ろうか」

「うんっ」

 

ㅤ元気な返事をしてくれたあづさんは、少し俺から距離を取る。

ㅤゼロ距離だった先程から、一歩引いた程度で。

ㅤ然も恥ずかしそうに俺のコートの裾を掴んでいる。

ㅤだが、逐一そんな事を気にしていたら年越しを迎えてしまう。

ㅤそれにあづみさんの可愛さに耐えられないーーふぅ、自制自制。

 

ㅤ略さなければ自粛規制。

ㅤ頗るどうでも良い。

 

ㅤさて、玉葱は微塵切りにして終了。

ㅤ玉葱を切った時に散る成分が鼻や目に入って涙が出るらしいが、俺は何故かそれが効かない。

ㅤ理由は自分でも分からない、後で色々検証してみようと思う。

ㅤ因みに少し後ろにいるあづみさんの瞳からは綺麗な滴が…。

 

ㅤ俺は彼女に、棚に常備しているタオルを手渡す。

ㅤするとあづみさんは真っ白でふかふかなタオルに顔を埋(うず)める。

ㅤその状態が2分程経つと、彼女はタオルから顔を離す。

ㅤどうやら、既に涙は治った様だ。

 

「大丈夫かい?もしあれなら人参も俺がーー」

「私がやりたいっ。…駄目、かな」

「それじゃあ、十分に気を付ける事だよ。後ろから俺が支えてあげるから」

「う、うんっ。頑張るっ!」

 

ㅤあまり力み過ぎないのも大事な必要事項なんだが…今それをあづみさんに言っても、余計緊張するだけだ。

ㅤだから最大限俺が出来る事をしてあげて、彼女の心を安定させる。

ㅤそうすれば間違って指を切る事も無くなると思う。

ㅤあづみさんを第一に考えているからここまで思考を働かせてしまうのだろうな。

 

「俺があづみさんの後ろに立って、切り方を教えるから」

「えっと…確か、猫の手にするんだよね?」

「正解だよ。第一第二関節を曲げた所に包丁の横を当てて」

「こう?」

 

ㅤおぉ、言った事を直ぐに実行、そして完璧なフォームで俺の指示を待ってくれてる。

ㅤあづみさんは料理系統の事、磨けば光るんじゃないのか?

 

…彼女だけを過大評価するのも反省の一つだったり。

ㅤそれでも、初見でしっかり行動しているんだから過大評価でも何でもないと俺は思う。

 

「次はその包丁を下に落とす」

「下に………」

「…あづみさん?」

 

ㅤやはり、分かってはいたが包丁を使用して物を切るという行為が怖いらしい。ㅤ

ㅤそりゃあ始めて人殺しに使われる道具なんて持ったら恐怖しか無いよな。

ㅤ生半可な力で刺すと肋骨を貫通しないに定評のある包丁さん。

ㅤ切れ味が良過ぎるのも問題だ。

 

「ちょっと御手に触れますよ」

「えっあっ…うん」

 

ㅤ俺はあづみさんの後ろから、包丁を持って震えている彼女の手に自分の手を添える。

ㅤ左手でしっかりと人参を押さえ付けているあづみさんの手の上に被せる様に、包丁を握っている彼女の右手を俺がぎゅっと握る。

 

「あうぅ///」

「大丈夫、ここにクッと力を入れる位で切れるから。あまり力を入れないように」

「は、はいっ」

 

ㅤこの会話のやり取りは丸でーーいや、何でもない。

ㅤ兎に角、あづみさんが危なくないように事を進めていかねば。

ㅤこれで怪我なんてさせたらリゲルさんに申し訳が立たない。

ㅤ何より、あづみさんが傷付くなんて一番駄目なルートだ。

ㅤ彼女が怪我するくらいなら俺が身代わりになる。

 

…ふと、包丁と俎板が互いにぶつかり合う「ストン」という音が頭に響く。

ㅤ意識を其方に向けると、あづみさんが凄く嬉しそうな表情で俺を見つめていた。

ㅤ彼女から俎板に視線を移すと、見事に人参の端が切られていた。

 

「流石あづみさん!次に行きますか」

「始めて…切った。大祐くんの御蔭、ありがとっ!」

「さあさあ、ゆっくりで良いですからね。どんどん行きましょう!」

「うんっ!」

 

ㅤ一度やってしまえば早いもの。

ㅤオドオドとしながらも勢い付いたあづみさんは一気に人参を切っていく。

ㅤ俺が後ろから手を添えながらだが、それでも軽く作業を終わらせた彼女の表情には達成感が宿っていた。

 

「…なんかこうしてると、その…夫婦…みたいだね」

「新婚さん?俺的には付き合い始めた彼氏彼女みたいな感覚だけどね」

「そ、そうだよね!行成夫婦とか、私何言ってるのかな…///」

「あづみさんと夫婦関係かぁ…憧れるな」

「ふえぇっ!?」

「あづみさんはどう思います?」

 

ㅤそんな他愛も無い、自分的には至って本気な話をしながら手を動かす。

…とは言っても後は一般レシピ通りに作るだけだ。

ㅤ厚手の鍋にサラダ油を熱し野菜を炒めて、水ーーじゃなくてトマトジュースを加えて、へっきーレシピによると最初は弱火で煮込むと。

ㅤ結構時間が掛かるな。

ㅤ沸騰してきたら湧き出てくるあくを取り除いて、今度は野菜が柔らかくなるまで又煮込む。

ㅤこれ、まだ弱火で良いのかね。

ㅤ何時もならここらで中火にしてるんだけど…まあ、従うか。

ㅤ後はタイマーを15分に設定して。

 

ㅤその間、待っている時間はあづみさんと仲良くお喋りタイム。

ㅤ例え煮込むのを待っていなくとも話しているけど。

 

「私が…大祐くんと夫婦に…?」

「俺はもう夢にまで見るよ」

「えへへ…///私も、かな」

「…いや、全てが上手くいって、僅か一年間で世界の問題が解決出来るなんて。その御蔭で今こうしてあづみさんと居られる」

 

ㅤそしてこんな小っ恥ずかしい話だって出来る。

ㅤ俺がこの世界に転移してから何もかもが上手く働いてくれて、苦労をしたときも確かにあったが…それでも選んだ全ての選択肢が正しくて。

ㅤあづみさんやリゲルさんを幸せにしてあげられたのは何よりの喜びだ。

ㅤそれに加えてベガさんとも和解、誰一人として傷付く事なくこの世界に平和が訪れた。

 

「…そう言えば、あの時私達の未来を変えてくれたのは大祐くんなんだよね」

「あの時?」

「うん。私達と大祐くんが初めて会った時。緑の世界を目的地として旅をしていた私達に、大祐くんは「白の世界に行きましょう」って言ってくれたよね」

「…本当、あれが原点みたいな物だよなぁ」

 

ㅤ二人の行く先を否定して白の世界へ。

ㅤそれがこの物語の始まりだった。

ㅤ理由等無い、唯勘で話してみただけ。

ㅤそれを何とか誤魔化そうと様々な理由を付けて話を進めた。

ㅤ碌にこの世界の事なんか知らないのに、下手すれば二人の命を危険に晒すかも知れないのに。

ㅤけれど、不思議な事にそう思えなくて…只管に白の世界を強く押して。

 

ㅤ結局、最終的にはリゲルさんが折れて白の世界へ行く事となった。

 

「最初の頃は、大祐くんの装着してたあのバトルドレス…リゲルが凄く戦力になるって言ってたんだよ?」

「あぁ、ストライクフリーダムだね」

「…本当はね、自分達を守る為の駒だってリゲルが。でもその本人が大祐くんを好きになっちゃったね」

「俺なんかの何処に惹かれたのかーー『ピピピッ』ーーあ、15分経った」

 

ㅤあづみさんと過去の出来事を思い返している内にタイマーが15分経過の合図を知らせてくれる。

ㅤ一旦火を止めて粗熱を取る為に時間を置く。

ㅤまだまだ浮いてくる細やかなあくが頗る目障りだ。

ㅤ再度レードルを使って取り除いていく。

 

ㅤ大体5分程。

ㅤその場に放置していた鍋にカレーのルウを割り入れて投入。

ㅤちゃんと溶けたのを確認してなら再び弱火で煮込んでいく。

ㅤ今度はタイマーを10分に設定。

ㅤ年越し前には何とか出来上がりそうだ。

 

「あ、砂糖入れろって連絡来てる!」

 

ㅤへっきーからの唐突な連絡に慌てて砂糖を入れる。

 

「あっぶねー…ここにきて失敗するところだった」

「でも、大祐くんは手際が良いね。羨ましいなぁ」

「一人暮らしは伊達じゃないよ。…もう、一人じゃないけどね」

「えへへ…私とリゲル、お母さんだって居るからねっ」

「ありがとう、あづみさん」

 

ㅤ二人親密な空気に包まれていると、徐々にあづみさんが近付いて来ている事に気がつく。

ㅤいつの間にかゼロ距離、腕と腕同士がくっ付き会う程にまで彼女は接近していた。

ㅤまさか俺が気付かないまでに隠密スキルが上達したのか…って、そんな冗談は良いんだ。

ㅤ今はあづみさんがゼロ距離な理由を考えよう。

 

ㅤえーとね、料理を教えてあげたお礼?

ㅤ俺は包丁の扱い方を教えただけだ、それは無い。

ㅤ待てよ。

ㅤちょっとテンパってるな、大丈夫か俺。

ㅤ焦るな、さっきもゼロ距離だったじゃないか。

ㅤ寧ろ俺からお近付きになったんだ。

ㅤそれが今はあづみさんから来たってだけで。

ㅤ落ち着け、俺。

 

「あ、あの…あづみさん?」

「…そうだよ」

「一体どうしーー」

「…うん。大祐くんはもう、一人じゃないよ」

 

ㅤそう言いながら、彼女は此方に体を向けて両手を広げている。

ㅤ言動の割には頬を真っ赤に染めながら、恥ずかしながら、俺に対して、一人だった俺を受け入れようとしてくれている。

 

…今年は大好きな彼女とーーあづみさんと一緒に年越しを迎えれるんだ。

ㅤこんなに幸せな事は無い。

ㅤならば俺も、一人で苦しんでいた彼女を受け入れて…。

ㅤいや、元からあづみさんの事は、彼女の全てを受け入れる気しかない。

ㅤだから。

 

「…有難うと言っても伝え切れない。これしか言えない自分がもどかしい。でも、言わせて貰うよ。有難う、あづみ」

 

ㅤ俺はそう言って、彼女の片腕をクイっと自分の方へと引っ張る。

ㅤそのまま両腕であづみさんを抱き寄せる。

ㅤ彼女は突然の出来事にも動じず、俺の背中に手を回して抱き締めた。

 

「…私からも、こんな私を好きになってくれて、ありがと。大祐くんと一緒になれた事が、生まれて一番の幸せだよっ」

 

ㅤ彼女の、俺を抱き締める力が強くなった。

ㅤそれに合わせて俺もぎゅっと、あづみさんの細い体を抱き締める。

ㅤ今この瞬間、彼女と一つになれた気がした。

「…あづみさん」

「大祐…くん」

 

ㅤこのまま勢いに乗じさせて貰おう。

ㅤ今まで、世界のいざこざが終わるまでは彼女と出来なかった。

ㅤ本物のキスという物をさせて頂こう。

 

ㅤあづみさんは俺の想いを察してくれたのか、以前と同じく目を瞑る。

ㅤ躊躇いなんて要らない。

ㅤ俺がするべき事は唯一つ。

ㅤ彼女の唇と自分の唇を、重ねるだけだ。

 

ㅤ俺は、目を閉じて少し息を荒くしているあづみさんの唇に、段々と自身の唇を近付けていく。

ㅤやっとこの時が来たんだ。

ㅤ前みたいに邪魔が入らない内に、させて貰おう。

 

ㅤそして、あづみさんと俺の唇同士が粗ゼロ距離になった。

ㅤ瞬間。

 

『ピピピッ』

 

「ふぇあっ!?」

「うぇ!?」

 

ㅤ設定していたタイマーさんが、丁度10分を知らせてくれた。

ㅤこの野郎…!

 

「タイマー君は壊されたいのかなぁ?(にっこり)」

「大祐くん叩きつける気満々だよ!?」

「…まぁ、焦げたら元も子も無いですもんね」

 

ㅤ彼女の大好きなカレーを不味くしてしまっては本末転倒。

ㅤ今までの時間が水の泡となってしまう。

…それでも、あづみさんとキス出来たなら関係無いんだけどさ。

ㅤ然し、それは飽くまで俺の都合だ。

ㅤ時間を設定したのも俺だ。

ㅤ元凶、俺だ。

 

「取り敢えず、カレー食べますか」

「うん、そうだね。楽しみだなぁ♪」

 

ㅤ予め炊いておいた白飯を皿に盛り、その上からカレーを盛り付けていく。

ㅤそうだ、肉が入ってないんだから、最後にアスパラガスでも切って飾り付けようか。

ㅤ茹でる時間は…無さそうだな。

ㅤしっかり洗って、俎板の上に置いて、斜め半分に切ればーー

 

スパッ

 

………やらかした。

 

「痛ってぇ」

「大祐くん!?指から血が出てる!」

 

ㅤ焦った結果、自らの指を切る羽目になってしまった。

 

「…って、あづみさん?どうしました?」

「えっとこういう時は……はむっ」

「ええええぇぇぇ!!??」

 

ㅤ彼女の予想外な行為に、思わず声を上げてしまった。

ㅤだって血が出てる俺の指を、あづみさんが口にパクッと…えぇ!?

 

「リゲルが、応急措置だって」

「いやでも駄目ですよ!」

「ただいまー!あづみいるー?」

「こら、リゲル。夜中に五月蝿くしてはいけませんよ」

「…噂をすれば何とやら」

 

ㅤ外出中だったリゲルさんとベガさんが、俺の部屋を勝手に開けて入室する。

ㅤ鍵を掛けてなかった俺が悪いんだが、まぁ…良いか。

ㅤ折角だし四人で食べよう。

ㅤその方が賑やかで楽しい。

 

「年越し蕎麦じゃなくて、年越しカレー」

「そうだね。…蕎麦じゃなくても、ずっとずうっと、大祐くんの傍に居るからねっ♡」

「上手い。…あづみさん、こんな俺だけど、これからも宜しくね」

「うんっ!」

 

ㅤそして俺を含めた四人で年越しを迎える事が出来た。

ㅤテーブルに並んだのは蕎麦では無く、カレー。

ㅤそれでも3人共、満足気な表情で食べてくれていた。

ㅤ無論、俺も例外ではない。

ㅤ4人で色んな事を話して、盛り上がって。

 

ㅤ疲れてそのまま眠ってしまったあづみさんをお姫様抱っこし、俺の使っているベッドの上で寝かせる。

ㅤ二人は自分の部屋へと戻っていった。

ㅤ俺は何処で眠ろうか考えていると、寝ている筈のあづみさんから服の裾を掴まれた。

…一緒に寝るしか無いよな。

 

ㅤその日、俺とあづみさんは一緒のベッドで一緒に眠りに就いた。

ㅤお互いに抱き締め合いながら。

 

ㅤ二人で就寝した時刻は午前12時37分だった。

 

ーーー

 

 

 

 




明けましておめでとう御座います!
今年も「Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜」を宜しくお願い致します!

(因みに最後の12時37分とは、九条大祐の誕生日3月31日、各務原あづみさんの誕生日、9月6日を合わせた時間です)
主人公の誕生日はプロローグで紹介済みです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編: 元日(前編)

更新遅れて申し訳御座いません…。
体調が優れない日、小説以外に手を回さなければならない日等が続いてしまい、結果このような情けない事態になってしまいました。
これからは一話を細かく刻んで投稿して行きたいと思っております。
毎週水曜日更新、余裕があれば週に二回更新等は変わらない方向性でやらせて頂く所存で御座います。

もし水曜日更新が無い場合は活動報告に書かせて頂きます故。
ですが、万が一等が起きない場合は毎週一回更新は確実です。
今回は本当に申し訳御座いませんでした。


ーーー翌日ーーー

 

「ふ…あぁぁ…」

 

ㅤ年が明けた日の朝。

ㅤ今日は何だか気持ちの晴れた寝起きだ。

ㅤ何時も感じていたあの気怠さも無く。

ㅤ一年の厄全てが体から剥がれ落ちた感じ、とでも言えば説明つくか?

ㅤ心身共に切り替わった気分だ。

ㅤとはいえ本当にそうなった訳では無いので注意と。

 

…さて、それよりも何時も通り部屋の換気をするべく窓を開けるか。

ㅤ寝起きでぼーっとする頭から身体に無理矢理指示を出して。

ㅤ外は寒いから、本来なら開けたくないのが本音だ。

ㅤ然しそれをしないと淀んだ空気が部屋に篭ってしまう。

ㅤなら開けるわ。

ㅤ取り敢えずは体を起こしてっと。

 

「ん?」

 

ㅤ何だろうか、左腕が動かない。

ㅤ金縛り?部分的な金縛りとか聞いた事無いぞ。

ㅤ然もなんだかもふもふしてーー

 

「…あ、そうだった」

 

ㅤ俺はふと、昨夜の出来事を思い出して布団の上部分を剥ぐ。

ㅤすると左側…其処には可愛い女の子が「くー…すー…」と寝息を立てながら熟睡していた。

ㅤ自分の左腕が動かない理由は、この少女が俺の左腕を抱き締めながら寝ているから。

ㅤぎゅっと抱き締めて離さない。

ㅤ何とも言えんな。

 

ㅤだが、このままでは俺が動けない。

ㅤ何とも言えんな。

 

ㅤまあ、一回起きて貰えば良いだけの事。

ㅤ俺はあづみさんの肩に右手を掛けた。

 

「…うみゅ…だいすけ…くん……」

 

ㅤそして左手で自身に右手を押さえつける。

ㅤ何とも、言えんな。

ㅤ更に両手を胸に当てて悶絶する。

ㅤ分かってはいたーーというかずっと思っていたが、この子の可愛さは異常だ。

ㅤその可憐さ故に道端で攫われないか心配になる。

ㅤだがまぁ、リゲルさんが何時も傍にいるから安心だろう。

ㅤ後一つ、ずっと思っていた事と言えば。

 

「…くー…」

 

ㅤ今は寝ているあづみさん。

ㅤ彼女と俺は昨日の夜、碌に着替えもしないで寝てしまった。

ㅤだからあづみさんは何時もの水色主体の大きなスカートにリボンが特徴的な衣服、俺は言わずもがな。

ㅤ二人共普段着で就寝してしまったのだ。

 

ㅤだが、今現在のあづみさん。

ㅤ普段着では無く、青いラインの入った真っ白でひらひらとしているネグリジェに着替えて隣で寝ている。

ㅤ然も彼女にしては珍しく、足を殆ど、加えて腹部を露出していた。

ㅤ下から覗けば見えてしまいそうな彼女の胸。

ㅤ更には、下着と見間違えてしまいそうになる…というか、見た目完全に下着……。

ㅤなに?ネグリジェってこんな服なの?

ㅤというかあづみさん、一度起きてネグリジェに着替えてから、また俺と一緒のベッドで寝始めたのか。

 

ㅤ一体、何時着替えたのやら。

…その着替えシーンを見たかったなぁ、とか言ったら変態扱いされるんだろうな。

ㅤじゃなくて。

 

ㅤずっとこうして、あづみさんが起床するまで待ってても良いのだが…そうもいかない。

ㅤ俺は彼女の胸元に拘束されている左腕をスルッと抜き取る。

 

「んっ…あっ」

 

ㅤ何やら寂し気な声が聞こえたが、気にしたら負けだ。

ㅤ彼女の反応に気を取られていては何時まで経っても事が進まなーー

 

「…んん〜……」

 

…どうした、あづみさん。

ㅤ其処には何もありませんよ。

ㅤ何故そんな、何かを求める様に手を動かしているんですか?

 

「…だいすけくん…」

 

…あぁ、無理、耐えられない。

ㅤこんな美少女に求められたら誰だって我慢出来ないでしょ。

ㅤ寝ているのにも関わらず手で探り始めるなんて…。

 

ㅤ俺はあづみさんの可愛さに屈し、一度抜いた腕をもう一度傍まで持っていく。

ㅤ換気は後でで良いや。

ㅤ内心そう思った。

 

ㅤ彼女は俺の腕を見つけると、即座にギュウっと抱き締める。

ㅤその姿は完全に見た目年齢同等の幼い少女だ。

 

ㅤとはいえ、あづみさんは14歳。

ㅤ俺と彼女は年齢が一つしか違わない。

ㅤなのにこうも甘えて貰えるなんて…嬉しい事この上ない。

ㅤこれは年齢では無く、信頼度の証だろう。

ㅤ其れ程までにあづみさんから信頼されてると考えて間違い無い。

…よな?

 

ㅤ兎に角、彼女が起きるまでの辛抱だ。

ㅤ幸い片腕はフリーだから、何か片手だけで出来る事をして暇潰し。

ㅤこれまで、そしてこれからもお世話になるであろうブラックボックスの整理とか。

ㅤ片腕…そうだな、それ以外思いつかなーー

 

「…だいす…き…」

 

ㅤあづみさんはそう言いながら、俺の腕をより一層強く抱き締める。

ㅤ凄くにこにこしながら。

 

ㅤその瞬間、俺は片手で出来る事を閃いた。

…いや、閃きという程でも無いけどさ。

ㅤ俺はフリー右手君を、あづみさんの頭の上に優しく乗せる。

ㅤそしてそのまま右へ左へとゆっくり動かしていく。

ㅤ彼女の頭を撫でる度、さらさらとした髪の毛の触り心地を体感出来る。

 

ㅤそれにあづみさんは元からウェーブ掛かった髪の毛。

ㅤ触っている内に手全体に絡んでくる。

ㅤ然し上にスッと上げるだけで指と指の間からするりと抜けていく。

 

ㅤ女性の髪の毛って皆こうなのか?

ㅤリゲルさんの髪の毛も触らせて貰った事があるが、あづみさんと同じ感想しか出て来ない。

ㅤ唯、リゲルさんの場合は髪の毛がストレートな御蔭もあって余計そう感じたのかも知れないけど。

 

「…うぅん…ふぁ…」

「あっ、あづみさん…」

「大祐くん…おはよ〜…」

「…ごめん、起こしちゃったかな」

 

ㅤ俺があづみさんの頭を撫でていると、彼女は虚ろ虚ろとした瞳で意識を起こした。

ㅤそして此方を向き、何だか気の抜ける感じの声で朝の挨拶をくれる。

ㅤ対して俺は、自分の所為で起こしてしまったのでは無いかと心配になって謝る。

 

「…?どうして謝るの?」

「いや…俺があづみさんの頭を撫でていたから起きちゃったのかなと…」

「ううん、そんな事無いよっ。寧ろ気持ち良かったなぁ…」

 

ㅤ何かを思い出す様に目を瞑り、心配ないよという風に態度を表すあづみさん。

ㅤ彼女が気にしていなければ何でも良い。

ㅤなんて思っていると、あづみさんは瞑っていた目を開いて、此方をチラチラと目配りをする。

ㅤ同時に体も揺らして…なんかもじもじしてないか?

ㅤなんか…恥ずかしがってる…?

 

ㅤまぁ。

ㅤ誰だって。

ㅤ異性に頭撫でられたら恥ずかしいよな。

ㅤ因みに俺は異性だろうが同性だろうが頭を触られるのを異様に嫌う。

ㅤ理由、知らない。

ㅤ知ってたら苦労しない。

ㅤ心では何と無く嫌いだなと思いながらも、体は拒絶反応を示す。

 

ㅤだからルクスリアさんは天敵だ。

ㅤ俺が頭を撫でられるの嫌っている事を知っているのかいないのか、偶に手を伸ばしてくる。

ㅤあぁ、クリスマスイブの時のカウントは無しで。

ㅤあれは不可抗力だ。

 

ーーて、俺の話は良いんだよ。

ㅤ今は彼女が恥ずかしがっている理由を聞かねば。

 

「………」

「………」

「…ええと、あづみさん?どうかした?」

「……うんとね…その…また、撫でて欲しいなぁ…なんて」

 

ㅤあ、成る程。

ㅤならば。

 

「御構い無しに」

「あ、ありがと…えへへ…///」

 

ㅤ俺は彼女が望んだ事は何でも実行する。

ㅤ右手を徐にあづみさんの頭の上へ、そっと置き。

ㅤ軽く左右へ動かす。

 

ㅤすると、彼女はニコニコとしながら気持ち良さげにしていた。

ㅤ何だか小動物を撫でている気分になる。

ㅤ何時迄もこうしていたい。

 

「……あ」

 

ㅤふと思い出す。

ㅤ換気という名の2文字を。

 

「大祐くん?」

「ごめんねあづみさん。少し布団に潜っていて」

 

ㅤ俺はあづみさんにそう促し、ベッドから下りて、自身の部屋の窓を思いっきり開ける。

ㅤ外は一面、真っ白い気色に包まれていた。

ㅤ降る雪が青の世界を白に変えていく。

ㅤ心成しか綺麗に見えた俺だった。

 

ㅤというかーー

 

「くしゅんっ」

 

ㅤあづみさんの嚔が可愛い。

ㅤじゃなくて。

ㅤ流石に雪の日に窓全開は寒い。

ㅤ加えて此処は割りかし高い標高に位置する場所。

ㅤ余計に温度が下がっている。

 

「寒いな…冬真っ盛りだからだろうけど」

「大祐くんはこっちに来ないの?」

 

ㅤあづみさんは此方を心配そうに見つめている。

 

「…入っても良いんですか?」

「えっと…二人の方が…暖まる、から」

 

ㅤ顔を真っ赤にさせながら、途切れ途切れの言葉を繋げて会話にしているあづみさん。

ㅤやはりゼロ距離という物は誰でも恥ずかしいよな。

ㅤ彼女が俺を気遣ってくれての事なのか、将又一緒に居たいだけなのか。

 

「………///」

 

ㅤ布団で目の下辺りまでを隠して、じっと此方を見つめて視線を外さない。

ㅤこの光景、凄い可愛い。

ㅤもうこれは俺に選択肢等無いでしょ。

 

「…彼方に炬燵が有るけど…それでも?」

「う、うん…」

「了解。お邪魔するね」

 

ㅤ炬燵の存在すら拒否した彼女の望みに従い、窓からベッドへ近付いて行く。

ㅤそしてあづみさんが潜っている布団を一度渡して貰い、羽織る様に布団をひろげてから彼女を包む様に後ろから覆い被さる。

ㅤその後足を胡座の状態にさせ、あづみさんに上へ座って頂き。

ㅤ彼女の体全体を布団で包めば完成。

 

ㅤうん、異常に恥ずい。

ㅤ暖かいのには間違い無いが。

ㅤこの気不味さを掻き消そうと何か話題を考えていると、先に喋り始めたのはあづみさんだった。

 

「…大祐くん、あのね」

「ん?どうかしたかい?」

「ずっと思ってたの。大祐くん、私やリゲルの願いを聞き入れ過ぎなんじゃないのかなって。それじゃ大祐くんが疲れちゃうんじゃないかって」

「…いいや」

 

ㅤ俺は彼女の腹部に両手を重ねて当てる。

ㅤあづみさんの柔らかくて触り心地の良い肌に、直で。

 

「ひゃうっ」

「あっ、ごめん…大丈夫…?」

「だ、大丈夫。ちょっとびっくりしちゃっただけ」

「…このまま話を続けても?」

「えっとね、寧ろこのままが良いな…」

 

ㅤあづみさんもあづみさんで、人の事言えない位に献身的だ。

ㅤもしかしたら「このままが良いな」という言葉、俺を気遣って言ってくれたのかもしれないし。

ㅤまぁ…気にしても仕方ないよな。

 

ㅤ彼女の許可も頂き、この状態で話を進める。

 

「何時も言ってると思うけどね、俺は二人の望みを叶えてあげたいんだ。それが俺の幸せであり、生きている意味でもある。この気持ちはずっと変わらない。死ぬまでーーいや、死んでからも」

 

ㅤ死んだら先ず存在自体が危うくなるけどな。

ㅤなんて心で突っ込みを入れておきながらも、これは本心から思う気持ち。

ㅤ言葉にして述べた通り、一生変わる事は無い。

ㅤ二人の幸せが俺の望みでもあるのだから。

 

「…私だって、同じだもん…」

「あづみさん?」

「…あっ、ううん!何でも無いよ?」

「?」

 

ㅤあづみさんが何か呟いたが、残念ながら言葉を聞き取れなかった。

ㅤ彼女は偶に、こうして小さく呟く事があるだけど…今まで耳に入って来た事は一度も無い。

ㅤそろそろ歳かなぁ…嫌だなぁ…。

 

「…でも」

「でも?」

「大祐くんが生きて傍に居てくれるだけで、私とリゲルは幸せなんだよ?」

「それ、本当ですか?」

「本当よ」

 

ㅤ何やら今日初めて、然し乍ら聞き慣れた感じの声に慌ててあづみさんの腹部から手を離す。

 

(むぅ〜…離さないもんっ)

 

「おぁっ!?」

 

ㅤなんか凄い力で両手を掴まれてる。

ㅤ離せない、でも…暫くあづみさんに掴まれたままでも良いかな。

ㅤって、一番手っ取り早い方法があった。

 

「ひぁっ!?」

 

ㅤ俺は自身の手をワシャワシャと動かして、彼女の露わになっている腹部を擽ぐる。

ㅤこうすれば直ぐに拘束を解けるだろう。

 

「大祐くんっこれっいやぁ…」

「え?何の話です?」

「あ、あづみ、大丈夫?」

 

ㅤ布団の中でもぞもぞと動くあづみさんを、リゲルさんが不思議そうに見ている。

ㅤそんな中でも俺は擽ぐりを止めない。

ㅤまだ拘束されているから。

 

「これ以上はっ…壊れひゃう…」

「じゃあこの手をーー」

「いやぁっ」

「二人で何して…まさか!大人の階段を!?」

 

ㅤ布団から顔だけを出して怪しげな動きをする俺とあづみさん。

ㅤそれが余程気に掛かったのか、リゲルさんが思いっきり布団を剥いだ。

ㅤその衝撃であづみさんが下にスルッと落ちてしまい。

ㅤ胡座の状態をキープしていた俺がそれを食い止めてギリギリ落ちずに済んだものの。

ㅤあづみさんの着ているネグリジェの中に手が入りそうになっているのが現状。

 

「大祐!?何しようとーー」

「違いますからね!?断じてあづみさんの胸部を触ろうとだなんて…!」

「………」

「…あづみ…さん?」

 

ㅤ唐突に、急に、黙り込むあづみさん。

ㅤ一度自分の胸元を見つめ。

ㅤそして頰を真っ赤に染めながら此方を振り向き。

 

「…大祐くんになら…触られても…良い」

 

ㅤ衝撃の一言。

ㅤアニメとかで良くある、唇だけズームインして放たれそうな一言。

ㅤ無理、耐えられない。

 

「あづみ!?」

「…耐えろ、俺」

「大祐!手が動いてる!駄目ぇ!」

 

ㅤ今度は何事かと思いきや、リゲルさんが隣へダイブ。

ㅤそして俺の手を鷲掴みにして。

 

「さ、触るなら…その…私ので我慢しなさいっ!」

「リゲルさんまで!?」

「べ、別に大祐に触られたい訳じゃないわ!あづみが襲われない為に言ってるんだから!」

「あぁもう!襲いませんから!」

 

ㅤなんかもう…朝から波乱の幕開けとなってしまった。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「…と、いう訳です」

「成る程…私の勘違いだったわね。ごめんなさい…」

 

ㅤソファーに座りながら落胆するリゲルさん。

 

「いえ、側から見ればあれ、結構危ない映像でしたもんね」

 

ㅤあづみさんの表情も、何だかとろ〜りとしてたし。

ㅤ凄く…こう…心の底から襲いたくなった。

 

「あづみさんも何故あんな事を…」

「そうよ!幾らあづみでも年齢的にあれはーー」

「ご、ごめんなさい…気付いたら、その…つい、自然に…」

 

(可愛えぇ!!)

(困ってるあづみ…可愛い)

 

ㅤ至極言い辛そうに喋るあづみさん。

ㅤ次第にその声は小さくなっていき、遂には縮こまってしまった。

ㅤ俺は、そんなあづみさんの肩をポンポンと叩く。

ㅤすると地味に半泣きになりながら此方を向いてくれた。

 

「…あづみさん、先の発言。冗談でも嬉しかったよ」

「…えっとね…あれ…本気だったの」

 

ㅤ俺から視線を外して恥ずかしがる彼女に、俺はぐいっと顔を近付ける。

 

「だとしたら凄く嬉しい。ありがとね」

「〜〜〜///」

「…少し羨ましい…」

 

ㅤリゲルさんがじっと此方を凝視しながら、寂しそうにしている。

ㅤだとすれば。

ㅤ後でリゲルさんだけを部屋に呼んで色々と話し合ったりしようかな。

ㅤ二人っきりで。

 

「取り敢えずリゲルさん。貴女も衝撃発言してましたからね」

「えっ…な、何の事かしら?」

「そうだね。あのままだったら、大祐くんとリゲルがーー」

「あ、あづみ、それ以上は…」

 

ㅤベッドからソファーへ連れて来たのは良いが、赤裸々な話に変わりは無さそうだ。

ㅤこのまま話を続けられると俺の精神が死んでしまう。

ㅤ一旦別の話に切り替えて…。

 

ㅤそう思った俺は時計の時刻を確認する。

 

AM6:00

 

ㅤ6時ぴったりか…。

ㅤ今日って何か特別な行事とかってーー

 

「あ!」

「…びっくりしたわね」

「どうしたの?大祐くん」

「けましておめでとう御座います。今年も宜しくお願い致します」

「急に礼儀正しい挨拶ーーそうだ……今日は元日だったね」

「私とした事が…すっかり忘れていたわ」

 

ㅤどうやら三人共、元日という概念が頭から消え去っていたようだ。

ㅤ一年を越して、又新しい一年を始める一歩の日。

ㅤそんな特別な日を思い出しすらしなかったとは。

 

「大祐くん、リゲル、明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします」

「あづみ、大祐、明けましておめでとう。今年も宜しくお願いするわね」

 

ㅤ後はベガさんだけなんだけど今は外出中で家に居ないらしい。

ㅤ昨日から忙しそうにしているのを見ると、何か秘密の行事に出ているとか…。

…秘密の行事って何だ?

 

ㅤまぁまぁ、ベガさんには会った時に挨拶するとして。

ㅤ全員新年の恒例挨拶が終わった所で、時間も時間だし。

 

「新年と言えば神社ですよね。準備して行きません?」

「御参りね。私は賛成よ」

「うんっ!私も行きたい!」

 

ㅤ満場一致。

 

ㅤこうして俺、あづみさん、リゲルさんで神社に行く事となった。

ㅤ平和で楽しい時間が、始まりを告げる。

…波乱になる予感が当たりませんように。

 

ーーー




小説を止める気は一切御座いません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編: 元日(中編)

リアルの仲良い友達様が遠くへ行ってしまい、気持ちナーバスな作者です…。
精神面的に辛い。
という理由で小説投稿が遅れてしまいました。
本当に申し訳御座いません。
もっとしっかりしないと駄目ですね…。


ㅤそんなこんなで神社へ御参りをしに行く事となった俺達三人。

ㅤ此れからの一年が、平和で幸せであるように。

ㅤ彼女達が笑顔でいられる世界であるように。

ㅤたった二つの願いだが、かけがえのない、全ての願いの中で一番の想いだ。

ㅤ祈願位は、しておかないとな。

 

「二人共歩くの速いよぅ」

「これでもあづみのペースに合わせている積りなんだけど…」

「普段着じゃなく、着物だからじゃ無いですか?」

 

ㅤ気付くと、あづみさんが一歩遅れた所でいそいそと小走りしていた。

ㅤ可愛らしい桜柄の着物の所為で、至極動き辛そうだ。

ㅤリゲルさんは着物であるにも関わらず何時も通り、自分のペースを崩さずに歩いている。

ㅤ雪で白く覆われたこの世界の中、彼女の綺麗な赤い着物に目を奪われてしまいそうだ。

ㅤ何とも美しい。

 

…そう、今日は二人共着物、然も明るい色を身に付けている。

ㅤというのも、着物の色選びは俺がしたからな。

ㅤリゲルさんは相変わらずの赤。

ㅤ彼女の金髪に合わせる為、水色や黒なんかも候補に上がった。

ㅤ然し今は冬真っ盛り。

ㅤ水色も黒も落ち着いた色だ。

ㅤ何方かと言えば夏祭りなんかに浴衣の色として選び、着せてあげたい。

 

ㅤあづみさんに関しては、彼女の普段着が水色や青、白なんかが主体となって作られている為。

ㅤ今日は明るい、それも華やかな色で決めようという事になった。

…なった?いや違う、俺がそう言う事にしたんだ。

 

ㅤとまぁ、だからあづみさんは普段着ない色、ピンク(桜色)にした訳だが。

ㅤ柄が桜しか無かった。

ㅤなので、必然的に春っぽい着物になってしまった。

ㅤ冬なのにな。

ㅤだが、これであづみさんが桜色も似合うという事が分かった。

ㅤこれから彼女に着せる衣服のカラーの一つとして、覚えておこう。

 

「ちょっと…疲れちゃった…」

 

ㅤなんて考えていると、あづみさんが少し程息を切らしながら俺の目の前で前屈みになっていた。

ㅤ失敗した。

ㅤ彼女の体に負担を掛けてはいけない筈なのに、気遣ってあげるのを忘れてしまっていた。

ㅤまだまだ労わりの精神が足りないな。

ㅤこうなったら。

 

「あづみさん、少しばかり膝を曲げてくれるかな」

「え?う、うん」

 

ㅤ俺の唐突な要望に一瞬動揺するも、直ぐに膝を曲げて待ってくれるあづみさん。

ㅤそんな彼女の膝の後ろに左腕を当て、肩を抱くように右腕を回し、左腕から一気に持ち上げる。

 

「きゃっ大祐くん!?」

「こうすれば疲れない。…ごめんね、無理させちゃって」

「わ、私は…大丈夫、だよ?」

「嫌だったりしない?」

「ううん…寧ろ、嬉しい…///」

 

ㅤ人前でお姫様抱っこは恥ずかしかったのか、目を瞑りながら俺の胸元に縮こまるあづみさん。

ㅤ最近彼女の顔が真っ赤になる所ばかり見ている気がする。

ㅤなら今回から違う箇所に目配りしてみるのも良さそうだ。

 

ㅤ例えば…心臓の鼓動が速く、彼女の体に更なる負担を掛けている。

ㅤ足や肩が小刻みに震えていたり。

ㅤ少しでも太腿に触れるとビクンッと反応を示す。

ㅤだが、抵抗のての字すら無く、彼女は何だか俺の為すがままにされている事を望んでいるのかと錯覚してしまう。

ㅤそして一瞬でも膝の後ろ、定位置へと腕を戻すと…あづみさんは目を開けて物足りなさそうな瞳で見つめてきた。

 

ㅤ一体何が目的なのか、何をされたいのか、言ってくれれば今直ぐにでも行動に移すというのに。

ㅤ彼女の可愛く真っ赤に染まった頰、俺を求めるかの様な瞳に焦らされて仕方がない。

ㅤ然し、何も言って来ないという事は。

ㅤきっと人前では話し辛い内容なのだろうと察する。

 

ㅤ彼女から言えないなら此方から攻めるまで。

 

ㅤ俺はあづみさんの耳元に顔を近付ける。

ㅤそれに気付いた彼女の息が段々と荒くなっていくのが一瞬で分かった。

ㅤ丸で何かを期待している感じだ。

ㅤその望みを叶えてあげようと、いざ口を開けて喋り始めようとしたその時。

 

「こら、二人共。家の中でならまだしも、人前でいちゃいちゃするのは感心しないわよ。…それに、もう着いたわ」

 

ㅤまさかのリゲルさんからストップを喰らってしまった。

 

「…申し訳無いですね。さぁ、あづみさん。着いたよ」

「う、うん!ありがとね、大祐くん」

「続きは帰ってからのお楽しみって事で」

「ふえぇ///」

 

ㅤ全く、何時も可愛い反応をしてくれるな。

ㅤこれを求めて言ってみたものの、成功するとは。

ㅤだが、言った事は達成せねばなるまい。

ㅤ帰ったら存分にあづみさんを可愛がってやらねば。

…うん、自分で言ってドン引いた。

ㅤ帰ってから何かしてあげるのには変わりないが。

 

「………」

 

ㅤふと、リゲルさんの方にチラッと視線を向ける。

ㅤすると彼女は、気持ち寂しそうに此方を見つめていた。

ㅤあまり態度を示さないリゲルさんが、寂しそうに?

ㅤ俺の視線に気付いた彼女はパッと目を逸らす。

 

…薄々察した。

ㅤ俺は最近、あづみさんとしか話したり、一緒に何かしたり、彼女との時間を楽しんでいた。

ㅤだが、リゲルさんとは深い交流をしていない。

ㅤ今更ながら深刻な問題だという事を理解し始めた。

 

 

ーーー

 

リゲル視点

 

ーーー

 

 

ㅤ失敗した。

ㅤあづみと大祐がいちゃいちゃしているのを見て、思わず止めてしまった。

ㅤその私の愚行の所為であづみのしゅんとした顔を見る事になってしまうなんて…。

 

ㅤ私が二人にストップを掛ければこうなるのは分かっていたのに。

ㅤ考えるよりも先に口に出てしまうのは何故なのだろう。

ㅤどうして、あづみと大祐の関係が羨ましく思えるのだろう。

 

…私も大祐と色んな事、話したいのに。

ㅤ彼は何時もあづみと仲良く喋っていて。

ㅤ私と話す内容なんか、殆どが戦闘関連。

ㅤ付き合っているという事を利用して、一回拗ねてみようかなんてのも頭の隅に置いていた。

ㅤでも、いざ大祐の目の前で素っ気無い態度を取るのには勇気が必要で。

ㅤもう逸そ、感情其の物を態度に表さないと頭では決めていた。

 

ㅤけど、駄目だった。

 

ㅤ彼と話したり、彼に触れられたりすると、自分でも気付かない内に感情を制御出来なくなって。

ㅤそんな私を大祐は「可愛い」なんて言ってくれて。

 

…素っ気無い態度等、見せれる筈もない。

 

ㅤけど、最近彼はあづみとしか交流を深めていない。

ㅤ大祐と話し合う機会も減ってきた。

ㅤ私という存在は…どうでも良くなってーー

 

「…さん…リゲルさん?」

「はっ…大祐…?」

「どうしました?ぼうっとして」

「な、何でも無いわ」

「そうですか。…人が多いので、あづみさんと手を握って離れない様にして歩いて下さいね」

 

ㅤ大祐は恐らく、あづみが心配で私を傍に置いておけば大丈夫だろうとでも考えているのだろう。

ㅤ彼にとって私は…どういう存在なの?

 

「逸れると危険だもんね」

「あづみさんの言う通り。特にリゲルさんが心配だからね」

「えっ…」

 

ㅤ私が…心配?

ㅤどうして?

 

「そのグラマラスな体を目的に襲ってくる男共がいるやもしれません。…まぁ、俺のリゲルさんを渡す気は更々無いですがね」

「だ、大祐の…わわ、私!?」

「無論、その可愛らしいお顔目当てであづみさんが攫われる可能性もあるけど。させないよ、そんな事」

「リゲル、やっぱり大祐くんが居てくれると心強いよね」

 

ㅤ大祐自身からそんな事を言われたら…心では分かっていても彼を拒否出来ない。

ㅤ自分が求めている人から、求めていた嬉しい一言。

ㅤたったそれだけで先程まで抱いていた感情は崩れ去っていく。

ㅤ此れこそが人の脆さを語っている。

 

ㅤでも、不思議と悪い気がしない。

ㅤ自分自身の欲する物を与えられたのだから。

ㅤ然し乍ら、これだけで満足してしまう私の感情が恨めしい。

ㅤ決めた事を一つすら、自分の納得行く様に出来ていない。

ㅤ唯、今日一日、大祐の前から居なくなりたいだけなのに。

ㅤ昔の私なら出来た、そんな他愛も無い事を実行するだけなのに。

 

…どうしてこんなにも、怖いのだろう。

 

ㅤそれでも、自分が納得行く為にはやらざるを得ない。

ㅤ丁度今日は沢山の人集りの中。

ㅤ態と彼から離れて、見付ける、見付けられない状況を作ってしまえば良いだけの事。

ㅤ私の欲求不満に大好きなあづみを巻き込みたくなんか無いのだけれど…。

ㅤ御免なさい、あづみ。

ㅤ後でしっかり謝らなきゃ。

 

「さて、何処から見て行きますかね」

「…私は遠慮するわ。二人で一緒に見てきて。その間、自由にさせて貰うわね」

「リゲル…?」

 

ㅤ一瞬、本当に一瞬…あづみから疑わしき眼差しを向けられた。

ㅤだけど、私は知っている。

ㅤこの眼差しは、私を心配してくれる彼女の想いだという事を。

ㅤそんな彼女の想いを無駄にしてまで…私は自己満足を得ようとしているの?

ㅤ側から見れば下らない事なのは知っている。

ㅤでも、今の私の気持ちは誰にも分からない。

ㅤ自分の好きな人同士が仲睦まじく話しているのを見て嬉しくなって。

ㅤその二人が私を好きだと言ってくれていて。

 

…段々と二人だけが仲良くなって行くのを見て。

ㅤ嫉妬と言えば当たりなのかもしれない。

ㅤけど、私はこの感情を嫉妬だとは思えない。

ㅤもっとこう、別の何か。

 

「リゲル!何処に行くの…?」

「…御免なさい、あづみ。今日は一人にさせて」

 

ㅤ私は彼女にそう告げて、その場を離れて行った。

ㅤ去り際…チラッと後ろを振り向くと、悲し気な表情を浮かべて此方を見つめているあづみが居た。

ㅤ心が居た堪れなかった。

ㅤ心臓を握られる様な痛みに襲われもした。

ㅤでも、ほんの僅かな時間だけでも、離れなければ。

ㅤ再度振り返ると、二人の姿は見えなくなっていた。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ㅤ人混みを掻き分けて、屋台や御参りやらで賑わいを見せている場所から抜け出せた。

ㅤ普段ならあづみも一緒に居て…危ないからと互いに手を繋ぎ合っていただろう。

ㅤ私は自分の手を見つめながら、グーとパーを繰り返す。

ㅤ然し、そんな感覚今は無い。

ㅤ当然だ、私は今一人で居るのだから。

 

「…はぁ、私…何してるのかしら」

 

ㅤ自分で行った行為の筈が、後々後悔に繋がる。

ㅤそんな話は良く聞く。

ㅤ事実、今の私がそうなのだから。

 

「…ちょっと疲れたわね。何処か休める場所はーー」

「リゲルー、何処に行っちゃったのー?」

「あづみ!?」

 

ㅤ後悔ばかりをしてしまう中、群衆から可愛らしい一人の少女の声が私を呼んでいた。

ㅤ私は少女の姿を見て直ぐに駆け寄ろうとした。

ㅤだが、それでは二人から離れた意味が無くなってしまう。

ㅤ一体何の為に距離を置いたのか、しっかり自分で把握しなければ。

 

「リゲルー?」

 

…あづみの私を呼ぶ声が、私の心をズキズキと痛める。

ㅤ本当ならこの1分1秒が勿体無い。

ㅤ今直ぐにでも彼女の元へ走って行きたい。

ㅤでも、駄目…。

ㅤ駄目な事位…自分でも分かっているのだけれど。

ㅤこれが、葛藤という感情なのね。

 

ㅤそれでも、自分の気持ち以上にあづみが心配で。

ㅤ暫くあづみを観察…じゃなくて、見守っていようと彼女に目を配ると。

ㅤあづみに近付く不届き者を発見した。

 

「リゲル…見付からないなぁ」

「あれ、あづみちゃんやないか!久しぶりやな!」

「あ、飛鳥さん…」

「あれは…」

 

ㅤ天王寺飛鳥。

ㅤ一度あづみを助けてくれた男だ。

ㅤだが、私には関係無い。

ㅤ大祐以外の男共があづみに近付くなんて、絶対に許されない。

ㅤそんな不埒な輩は私が成敗してくれる。

ㅤこれから天王寺飛鳥の排除行動にーー

 

「いやー、奇遇やね。一人かいな?こんな人混みの中で一人は危険やて。良かったら僕達と…」

「えっと…私は一人じゃない。大祐くんもリゲルも一緒に居る。だから放って置いて…」

「ちょっ、せめて大祐くん達に会えるまではーー」

「失礼します」

 

ㅤあづみが走って天王寺飛鳥から離れて行く。

…ふふ、大祐以外には本当に人見知りね。

ㅤ大祐と話す時なんか、必死になって素の自分をだして攻めているのに。

ㅤ相も変わらず…私のあづみは可愛いわね。

 

ㅤさて、あづみの事が心配だわ。

ㅤあんな男置いといて、早くあづみを追い掛けなきゃ。

ㅤ天王寺飛鳥…残念だったわね。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

ㅤ勢いで走ったあづみは、何処か分からない場所へ来てしまった。

ㅤ周りは樹木ばかりで少し薄暗い。

ㅤ一応木陰から彼女を覗いている訳だけど。

…何やらあづみの体に異変が起きている。

 

ㅤリソース症候群では無く、況してや息切れでも無い。

ㅤそれなのに胸元を押さえて苦しそうな表情で。

ㅤ自分のプライドなんか、目的なんか捨ててあづみに駆け寄りたい。

ㅤもう二度と、あづみが苦んでいる姿なんて見たく無い。

 

…良し、待っててあづみ、今行くわね。

 

(最終的にこうなるのなら、最初っからやらなければ良かった)

 

「あづーー」

「きゃっ!」

 

ㅤいざ彼女の元へ近付こうとしたその時。

ㅤ一瞬、瞬きをした一瞬の内に、あづみは見知らぬ男にお姫様抱っこをされていた。

…いえ、見知らなくはないわね。

 

「また一人、この美しい私の餌食となる美女を見つけてしまった…」

 

ㅤあのナルシストっぷり。

ㅤ黒い仮面を顔に付けている事から、ディアボロスだという事が直ぐ察した。

ㅤ加えてマント。

ㅤその姿を見た私は直ぐにバトルドレスを装着した。

 

「いやっ、離して…」

「おや、美女では無く美少女だったのか。…まあ良い、美しい事に変わりは無い」

 

ㅤあづみは美しいよりも可愛いの方が似合っている気がするのだけれど…そんな事はどうだって良いわ。

 

「私がゆっくりと食べてあげようではないか…」

「いやぁっ」

 

ㅤこの距離なら狙える!

 

ㅤ私は大きなビームスナイパーライフルを左手に持ち、狙いを定める。

ㅤ正確に、一ミリの狂いも無く。

ㅤディアボロスの口があづみの首へ触れ掛けたその一瞬。

 

「…そこっ!」

 

ㅤ力を入れて引き金を引くと、バシュンという音と共に青いレーザーが放たれる。

ㅤだが。

 

「おっと危ない」

「なっ!?」

 

ㅤ相手のディアボロス『サエウム』はクイッと頭を後ろに下げ、私の放った一撃をスルリと躱す。

ㅤそしてそのまま、あづみを抱えて此方に接近。

ㅤ慌ててサーベルを構えたものの。

 

「これでどうかな?」

 

ㅤサエウムはあづみを盾として前に突き出す。

 

「くっ…!」

 

ㅤこのまま避けてしまうとあづみが地面に叩きつけられてしまう。

ㅤかと言って受け止めれば、間違い無く私もあづみもナルシストに捕まってしまう。

ㅤ一体どうすればーー

 

「…リゲル、避けて」

 

…!

ㅤあづみは自分の体を投げ出されているにも関わらず、私に避けろと指示して…。

ㅤその瞬間、私に残された選択肢は一つだった。

 

「………」

 

ㅤ私は真正面からあづみを受け止め、地面へと足を着く。

 

「リゲル!?」

「何と美しき友情か!…だが、私のこの美しさに敵う筈も無い」

「…それはどうかしらね」

 

ㅤ何の躊躇も無く突っ込んでくるナルシストディアボロス。

ㅤ本当、力量を測り損ねた愚か者ね。

 

「私があんたみたいな変態に負けるとでも?」

「へんたっ…!?」

 

ㅤ私も、最初から迷う必要なんて無かった。

ㅤ最近はあづみや大祐の事で精神的に不安定な場面もあったりしたけど。

ㅤ今は今。

ㅤこんな雑魚程度、あづみを抱えてでも倒せる。

 

「あづみ、準備は良い?」

「うんっ!」

 

ㅤ元気良く返事をくれるあづみ。

…けど、何だか息が荒い。

ㅤ私はそんなあづみを両腕で支えながら体を前屈みにさせ、その場でくるっと一回転。

ㅤするとナルシストは、何も無い場所に寂しく抱き着く。

ㅤ今の一瞬で背後に回った私は、その隙だらけの背中に思いっきり蹴りを入れる。

 

「反応出来ないとでも?」

 

ㅤだが、ナルシストは即座に振り返り、両腕をクロスさせながら私の蹴りをガードする。

ㅤとは言え私の力一杯の蹴りを喰らったナルシストは、一歩二歩後退りを見せた。

…此奴、反応速度だけは良いわね。

 

「極力傷付けたく無かったのだが…致し方あるまい。抵抗するならそれまでだ」

 

ㅤそう言うとナルシストは何処から出したのか、ナイフの様な小刀を手に持つ。

ㅤあんな武器があったなんてね。

ㅤディアボロスの情報はルクスリアから殆ど聞き出したのだけれど。

ㅤ彼女にも把握し切れない情報があるのね。

ㅤその情報の取り引きとして大祐を使ったのは後々気が引けたけど。

 

ㅤさて、そんな話は後で幾らでも出来るわ。

ㅤ今はナルシストとの戦闘に集中しないと。

ㅤせめてあづみだけでも安全な場所にーー

 

「やっと追いついた…って、何で此処にZ/Xがおるんや!?」

「チッ…男は目障りだ」

 

ㅤ天王寺飛鳥…しょうがない、タイミング的にはバッチリね。

 

「其処に居る貴様!」

「僕、まだ本名で呼ばれへんの!?」

「そんな事どうだって良いわ!あづみを守って頂戴!」

「えぇっ!!」

 

ㅤ私はあづみを腕から下ろし、天王寺飛鳥の元へ走らせる。

ㅤその間はナルシストを引き付ける為にビームサーベルで斬りに掛かる。

ㅤ然し相手も中々やる。

ㅤ少々苦しげな表情を浮かべながらも私の攻撃を捌いていた。

 

「フィエリテはん!援護を頼むで!」

「勿論です」

「あづみちゃん!此方や!」

「はぁっ…はぁ…」

 

ㅤ二人のやり取りを聞いているだけで、後少し、あづみが天王寺飛鳥の元へ辿り着くのが分かった。

ㅤ私の方もこの勢いで押し切ってしまえば、誰も傷付かずに此奴を排除出来る。

ㅤやっぱり、始めからやれると思えばやれるものね。

ㅤあづみの安全が確保されてからリソース供給を頼もう。

 

…うん、改めて認識したけど、大祐が居ると居ないではエネルギー量が桁違いね。

ㅤ何よりあづみが疲労しなくて済むかどうかに繋がる。

 

「チィッ!」

 

ㅤなんて余裕で考えていると、ナルシストが意味も無く武器を振り始める。

ㅤ遂に力の差を思い知った様子だ。

ㅤこのままとどめを刺すとしよう。

 

ㅤ此方に目を向けてアイコンタクトを取るあづみ。

ㅤ良かった、無事に着いたのね。

ㅤ天王寺飛鳥があづみの肩に触れているのが気に食わないけど。

ㅤまぁ…それは後で注意するから良いわ。

 

ㅤ私はあづみのアイコンタクトに対して頭を一回下に下げ、頷きを示す。

ㅤたったこれだけで、私と彼女の意思疎通は終わり。

ㅤ全く…どれだけ私があづみを愛していると思っているの?

ㅤなんて言ってしまいたくなる。

 

「さぁ…そろそろ終幕と行きましょうか」

 

ㅤ私のあづみ自慢。

ㅤは、後程一杯紹介しよう。

 

………困ったわね、この戦いが終わったら話したい事が有り過ぎて何処から話せば良いのやら。

ㅤ別に誰かを対象にして喋る訳でも無いから、好きな様に話せば良いだけなんだけど。

 

ㅤそんな戦闘とは全くもって関係無い事を考えながら、私はビームサーベルを前に構える。

ㅤその場で目を瞑り、あづみからのリソースをしっかり受け取る。

 

「…これは、逃げた者勝ちかね」

 

ㅤ流石に状況を理解したナルシスト。

ㅤ彼奴の動きは素早いから、予め避けられる体勢を整えられると当たらない可能性が高い。

ㅤ今からでもスナイパーライフルに変えるべきかしら…?

 

ㅤいや、もう既にナルシストは此方に背を向けて逃げている。

ㅤこれではスナイパーだろうが間に合わない。

ㅤ十分な距離を稼がれ、躱されて終了だろう。

ㅤ何だかあづみから受け取るリソースが弱々しい事も含めて。

 

ㅤここは素直に逃すべきなの?

ㅤと、思った矢先。

 

「…にがさない」

 

ㅤ背後から幼い少々の声、蜂の羽ばたく音が耳に入り、振り返る。

ㅤ其処には百目鬼きさらと数匹の蜂、そして。

 

「二人に何してくれているんだ…!」

 

ㅤナルシスト側から本気で怒っている大祐の声が聞こえてきた。

ㅤ慌てて其方に体を向けると、其処にはナルシストを捕まえて離さない大祐と二、三匹の蜂が。

 

「離せ!男も虫も、美しく無い物は嫌いだ!!」

「誰が離すかよ。これから美しい女性に一斬りされるんだから喜べ」

 

ㅤそう言って大祐は、準備万端といった表情で此方を見つめる。

ㅤやはり大祐が居てくれると違うわね。

ㅤ私は現状溜められるだけのリソースをこの剣に宿し、構え、そして地面を蹴る。

ㅤそのまま一気にナルシストへと接近。

ㅤ私との距離が近付いて来たところで、大祐と蜂達はナルシストから離れていく。

 

ㅤこのディアボロス、本来なら今からでも逃げられた筈だろう。

ㅤ何にも縛られていないのだから。

ㅤ然し、大祐が何やら細工を施したのだろうか。

ㅤナルシストは体が動かせないまま、私の攻撃を待つしか無かった。

 

「たあああぁぁぁぁ!!!」

 

ㅤそして、一閃。

ㅤ当たる確率が低い代わりに威力高い一撃が、ナルシストを切り裂いた。

ㅤ漸く、排除完了。

ㅤこれで心置きなく今日を楽しめるわね。

 

ーーー




誤字脱字等御座いましたら、メッセージor感想に宜しくお願い致します。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

番外編: 元日(後編)☆

更新遅れ申し訳御座いません。
活動報告に書いた通り、更新が金曜日になってしまいました…。
ですが、此れからも頑張って書かせて頂きますね!
(次から更新遅れそうになりそうな場合、活動報告に書かせて貰います)

今回は少しばかり展開を早めてしまいました…。
なので、ゆっくり見て下さると丁度良いと思われます。
後から修正致しますので…。

挿絵を描かせて頂きました。
前よりはマシなので、下手な絵でも見れるという方はどうぞ。
因みに横端に居るのは主人公です。
(髪の毛切ってる前提の主人公です。)
主人公は超絶雑なので悪しからず。
絵も小説も、腕としてはまだまだ未熟です故、ゆっくりとお付き合い頂ければ有難いです!


ㅤ一つ仕事を終えた九条大祐達は、木で作られた椅子とテーブルの上で屋台で買い上げた飲食物を口にしていた。

ㅤ天王寺飛鳥、そしてもう一人をメンバーに加えて。

 

「…へぇ、まだそんなZ/Xいたんだ」

「へっきーも気を付けなよ?エレシュキガルさんが奪われないようにさ」

「それ、そっくりそのまま返してやるよ」

 

ㅤ九条は親友の森山碧を揶揄った積りでそう言い放ったが、ブーメランで返されてしまった。

ㅤ更に追撃を喰らうかの如く、森山碧の後ろから現れたエレシュキガルに。

 

「私が碧を嫌う事は先ず無いわ。…貴方こそ、この程度で止まっている積りなら何時か後悔する」

「忠告どうも。そうならないように頑張るからさ」

「…話の分からない奴だ」

 

ㅤエレシュキガルからの言葉すらスルーする九条。

ㅤそんな彼を内心心配している森山碧。

ㅤ長年友達付き合いを続けている彼には察していた。

 

ㅤ九条が心の何処かで焦っているという事を。

ㅤそれを態度に表さない為、少々反抗的な意を示している事を。

ㅤこのままじゃ駄目だ。

ㅤ何かきっかけを作らないと、九条の心の中はそればかりだった。

 

ㅤ森山碧は考える。

ㅤどうすればこの臆病者を動かせるか。

ㅤ女性からのアピールが無い限り自ら動こうとしない此奴を、どうしてくれようかと。

 

…だが、女性からアピールが無い限り、というのは只の逃げだ。

ㅤ九条大祐という男は、好意を抱いている人に嫌われるのが怖くて逃げているだけだ。

ㅤそれに気付いた森山碧は、複数の作戦を閃く。

 

「リゲ…ル…」

「あづみ、まだ休んでて」

「うん…」

「…ところで、へっきーはあづみさんのこの症状とか分かる?」

「あ?あぁ」

 

ㅤ当たり前だろ風な発言をする森山碧に、九条大祐はがっついた。

 

「今直ぐ教えて頂戴」

「…ったく、こういう時は積極的なのに、もったいねー人間だよな」

「俺の話は良いから」

 

ㅤ各務原あづみは元々病弱な体。

ㅤそんな彼女の身に何かが起こると我先に解決しようとするのが九条だ。

ㅤ然しその積極性が恋愛に活かせないのが彼の残念な部分。

 

「まぁまぁそう急くなって。割りかしタイミングが重要なんだからよ」

「はぁ…?」

 

ㅤ半ギレと疑いが5割5割でどうすれば良いか分からなくなった九条は、教えてくれそうに無い森山碧から離れ、各務原あづみの傍らへ寄る。

ㅤだが、森山碧に腕を掴まれて引き戻されてしまった。

 

「…へっきー、良い加減何がしたい訳?」

「取り敢えずお前は此処に居ろ。少しの間で良い、あづみとやらに近付くな」

 

ㅤ九条は態と、森山碧の言葉を聞き逃そうとするが、もう何年も経つ親友関係の人間の言う事だけは素直に聞き入れた。

ㅤ苦しんでいる各務原あづみを、遠くからしか見れない。

ㅤその苛々は段々と彼の心に積もっていく。

 

(作戦通り、後はーー)

 

「天王寺氏、其処で横たわっている女の子を看病してやって」

「はぁ!?僕が!?」

「………」

 

ㅤ森山碧の提案に、九条は只管無言に各務原あづみを見つめていた。

ㅤ自分が近付く事すら許されないのなら、他の誰かに看病して欲しい。

ㅤ自分以外の誰かが彼女に触れるのなんて死にたくなる位に嫌だが、それで彼女が楽になれるのなら…。

 

ㅤというのが九条大祐、現状の心境だ。

 

ㅤ天王寺飛鳥はそんな九条に申し訳無さそうにして、各務原あづみへと手を差し伸ばす。

ㅤだが。

 

「…何?あづみに何の用?」

 

ㅤ丸で鬼の形相の様な表情を浮かべているリゲルが、天王寺飛鳥を更に睨み付ける。

 

「…やっぱり、大祐君じゃないと駄目らしいで。はよ此方にきいや」

 

ㅤこうなる事は最初から薄々気付いていた天王寺飛鳥は、若干呆れながらも九条へ声を掛けた。

ㅤそんな、優しさが滲み出している彼の言葉に九条は顔を下に向ける。

ㅤ応答も一切無し。

ㅤ只下を見ているだけ。

ㅤ自分への落胆を隠し切れていない。

 

「…ふぅ、着物ってこんなに暑かったかしら…?」

「だいすけ、おまいい、しにいく!」

「……きさらちゃん」

 

ㅤ俯いて動かない九条の目の前で、百目鬼きさらは両手を広げて自分をアピールする。

ㅤ流石の彼も、目と鼻の先でそんな事をされたら気付く。

ㅤニコニコと笑顔を見せる百目鬼きさら。

ㅤそこはかとなく心配の眼差しを含めたその瞳。

ㅤ九条は自分を元気付けてくれようとする百目鬼きさらをじっと見つめ。

ㅤ頭の上に手を置いて撫でてやる。

 

ㅤすると、彼女は至極嬉しそうに九条の膝下へ駆け寄る。

ㅤそして必死になりながら膝の上へよじ登る。

ㅤその光景を見兼ねた九条は、百目鬼きさらの両脇を抱えて自身の膝の上にちょこんと乗せた。

 

「あいがとっ」

 

ㅤ彼女はそう言って、足をばたつかせる。

ㅤ九条はこうして、何度も百目鬼きさらに癒されて来た。

ㅤ見ているだけで心が静まり、浄化されていくというのは正にこの事。

ㅤ然しそれは百目鬼きさらに限った話では無い。

ㅤ今更ながら彼は各務原あづみ、リゲルという存在其の物に癒されている事に気付かされた。

ㅤ本当に今更ながら…いや、忘れていたと言った方が正しいだろう。

 

ㅤずっと一緒に居て、もう二度と離れ離れになる事は無い、そんな過信が九条の心の何処かに芽生え。

ㅤ二人の存在、大切さを隅に追いやって。

ㅤ事を進めるのは何時でも遅くは無いと錯覚。

ㅤ結果、中途半端な愛情、熱意を注いでしまった。

 

ㅤ其処に気が付いた九条大祐は、ハッと我に返る。

 

(…案外、気付くの早かったな。きさらちゃんに感謝しろよ、大祐)

 

「…此方こそ有り難う、きさらちゃん」

「うゅ?」

 

ㅤ九条はそう言うと、百目鬼きさらの腹部の前に腕を置き、ぎゅっと抱き締める。

ㅤ出来るだけ苦しくさせないように、優しく。

ㅤ彼の卒然たる行為に一瞬たりともビクつかない百目鬼きさら。

ㅤ寧ろ、九条の腕を自身の腹部に押し付け「もっと強く」と言わんばかりにアピールする。

ㅤその要望を了承した九条は百目鬼きさらの体を、自分の体に密着させた。

 

「うゆゆ〜♪」

「ふふっ、そんなに嬉しいの?」

「うえしいっ!」

 

(先ずはきさらちゃんへの積極性を示したか。だが、問題は…)

 

ㅤ丸で兄妹の様に親しく、仲良く会話をしている二人を見て森山碧は安心と不安を感じていた。

ㅤ誰かを愛すると誰かが犠牲になる可能性も生まれる。

ㅤそれはその人自身が幾人もの人達に愛されているのならば、以ての外。

ㅤ独り孤独に生きている人種には分からない話だ。

 

ㅤ事実、九条大祐自身が百目鬼きさらを構ってあげる度に、彼を想う人達は少なからず傷が付く。

ㅤ現在進行形で、各務原あづみとリゲルの二人がその対象になっていた。

ㅤ彼女達は羨ましいという感情が込もった眼差しを九条へと向けている。

ㅤだが、各務原あづみは直ぐに視線を逸らし、座っているリゲルへ目を移す。

 

「…リゲ…ル…何だか…体が暑い…よぅ」

「あづみ!?顔が真っ赤!」

「後ね…大祐くんの…事…ずっと見てると…ね、胸が…」

「これって…まさか…!」

 

ㅤ味わった事の無い感覚に襲われ、自身の病状を必死にリゲルへ伝える彼女。

ㅤ然しリゲルには思い当たる節があった。

ㅤこの症状は、自分も患った事があると。

ㅤいや、大前提として病気では無いと。

 

ㅤ苦しそうに胸へ手を当てる彼女。

ㅤ流石に我慢の効かなくなった九条が、堪らず各務原あづみへ近付く。

ㅤ勿論、百目きさらには一度離れて貰って。

ㅤ一瞬止めに入ろうとする森山碧だったが、彼は寧ろその場から一歩二歩後ろへ下がる。

ㅤ状況を理解する為に頑張って頭を回転させている天王寺飛鳥を連れて。

 

ㅤ各務原あづみは、九条大祐が側に居る事に気が付くと、直ぐ様其方を向いて手を伸ばす。

ㅤ段々と差し伸べられる彼女の手を、九条はぎゅっと握る。

ㅤそして横になっている各務原あづみの体を、力強く抱き締めた。

 

「…!大祐…くん…?」

 

ㅤ毎度の事乍ら、行動が卒然過ぎる九条。

ㅤ然し彼女はそんな九条を全身で受け入れて…。

 

「…違うね…大祐くんが、私を受け入れてくれてるんだよね…」

「…何時も何時も、ごめん。俺がこんなんだから…変なプライドなんか持っているから…」

「大祐くん、急にどうしたの?」

 

ㅤ丸で互いを愛し合うかの様に抱き合う二人を見て、リゲルは何かを言い放とうとした。

ㅤ然し、口にする前にぐっと抑える。

ㅤそして二人に気付かれない様、静かにその場を立ち去ろうとした。

 

ㅤだが、九条が咄嗟にリゲルの手を掴む。

ㅤ彼の手の感触を直に感じたリゲルは、体をビクリとさせ、ゆっくりと後ろへ振り向いた。

 

「…私はこの場に不用でしょう?」

「いえ、リゲルさんにも話したい事が有ります。だから此処に居て下さい」

「…正直に言わせて貰うわ。見てる此方が辛いの」

「…」

 

ㅤ一行にリゲルの手を離そうとしない九条。

ㅤ何時もと様子が違う彼を疑問に思ったリゲルは、しょうがなくその場に残る事に。

ㅤ其処から10秒程。

ㅤ各務原あづみと九条はお互いに手を離した。

ㅤだが、未だにリゲルの手は離さない。

ㅤその間、リゲルはずっと外方を向いて九条と目を合わせない様にしていた。

 

「それで、話って?」

 

ㅤ若干呆れ口調で尋ねるリゲル。

ㅤすると九条、今度は彼女の体を抱き締める。

 

「だっ、大祐!?」

 

ㅤ一体全体、何がどうなったのか状況を把握仕切れないリゲル。

ㅤそんな彼女に対して九条は、自身の手を彼女の後頭部へ当て、自分の胸元へ押し付ける。

ㅤゼロ距離で伝わって来る彼の鼓動に、リゲルはどうして良いのか分からず仕舞い。

ㅤ只顔を真っ赤にさせて九条の好きな様にさせて。

ㅤリゲルのその反応に、九条は自分の腕を彼女の背中に回し。

ㅤ最早離す気等更々無いと言わんばかりに抱き締め続ける。

 

ㅤリゲル…彼女自身、ずっと望んでいた事を彼がしてくれたという満足感に浸っていた。

ㅤぽーっと気が抜けた風な表情を見せているリゲル。

ㅤ九条はそんな彼女から一度手を離し、彼女の顔と自身の顔を目と鼻の先で見合わせる。

ㅤそして彼は、頰を赤く染め何かを期待しているリゲルの額と、自分の額をぴったりとくっ付けた。

 

「…!」

 

ㅤ既に目と鼻の先の距離すらを通り越したゼロ距離。

ㅤ流石にリゲルも目が覚め、慌てて後ろへ下がろうとする。

ㅤ然し乍ら九条は、予め彼女の背中へ回していた腕を引き寄せてリゲルの体を離さない。

「ほ、ほんとにっ、どうしちゃったの、大祐///」

 

ㅤ彼女は至極恥ずかしそうにそう言いながらも、抵抗の意思は示さない。

ㅤ要するに、このままが良いという事だ。

ㅤそれを察した九条は、互いの額を一旦離す。

 

「…ずっと、こんな事したかったんですよ」

「えっ?」

「リゲルさん、もうちょっと此方に来れます?あづみさんを膝の上で休ませたいので」

「え…えぇ」

 

ㅤもうどうすれば良いのか分からなくなって来たリゲルは、素直に彼の指示に従う。

ㅤ九条は横になっている各務原あづみの近くまで寄り、彼女の頭を膝の上に乗せてやる。

ㅤすると各務原あづみは更に彼を求めるかの如く九条の太腿へ顔を擦り付けた。

 

ㅤそれを見ていたリゲルは九条の肩と自身の肩をピッタリと合わせ、頭を彼の肩へコテンと置く。

ㅤあのリゲルさんが珍しい…等と思いながらも、九条はリゲルの腰へ手を回す。

ㅤそして引き寄せる。

 

(ラブラブじゃん、後は彼奴次第だな…)

 

ㅤ三人以外誰も入れないであろう空間を見つめながら、森山碧は少しばかり笑みを零す。

 

(碧が笑ってる…写真に残したいなぁ)

 

ㅤエレシュキガルが、ある意味人間の作りし物に興味を示した瞬間だった。

 

ㅤ天王寺飛鳥、フィエリテの二人もそんな三人を見て微笑んでいる。

 

「いやー、やっぱりモテる男は違うなぁ」

「…飛鳥もその一人である事に、何時気付いてくれるのでしょう」

「フィエリテはん?何か言うた?」

「言ってません!」

 

ㅤ妙に機嫌の悪いフィエリテに困り果てる天王寺飛鳥。

ㅤ彼も、何時になったら自分がモテ男と気付けるのか。

ㅤそれには時間が掛かりそうだと呆れるフィエリテ。

ㅤはぁ〜…と大きく溜息を吐く彼女を気遣うべく、天王寺飛鳥は屋台へと誘い出した。

 

ㅤ賑わいを見せる屋台へ歩いて行く二人を見て、エレシュキガルは人差し指を自分の唇に当てて行きたいアピールを示す。

 

「ん?あぁ、良いよ。気を付けてな」

「ありがと、碧」

 

ㅤエレシュキガルは森山碧にお礼として抱き付く。

ㅤ只単にこうしたかった、というのは彼に内緒で。

ㅤ10秒程度すると手を離し、エレシュキガルは屋台の方へと歩いて行く。

ㅤ完全に彼女が視界から消えたその時、森山碧は胸を抑えて悶え始めた。

 

(くっそ…可愛過ぎだろ、ていうか後ろから大きな二つの物体を押し付けられたんじゃあ、危うく襲う所だったぞ…!)

 

ㅤ完全にエレシュキガルラブな森山碧だった。

 

「はっ…!大祐達は?」

 

ㅤ可愛さ、そして積極性。

ㅤ二つの魅力を持つエレシュキガルに苦しんでいると、森山碧は、はっと我に帰る。

ㅤまぁな、エレシュキガルは可愛い、よりも美しいだよな。

ㅤなんて未だに彼女の事を考えなから。

 

ㅤ森山碧は再度、九条大祐等に視線を向ける。

ㅤ三人は仲良くお喋りタイムの様だ。

ㅤ相も変わらず各務原あづみの頰は赤いが、ニコニコと笑いながら二人と話している。

ㅤリゲルは各務原あづみを見て微笑んで…。

ㅤ何にせよ、三人共距離感が凄い近い。

 

(このままキスまで持ってけよ〜…今誰も居ないんだから)

 

ㅤふと、ん?と頭にクエスチョンマークを浮かべる森山碧。

ㅤあ、俺が居るか、と一人でボケる。

ㅤ彼は一回咳込みをして三人の監視を続けた。

 

「あづみ、汗が凄いわね。本当に大丈夫なの?」

「う、うん。私にも何が起こっているのか分からないけど、多分大丈夫」

「とは言え心配だ。汗で風邪を引くやも知れないから、リゲルさん、これであづみさんの体を拭いて貰えますか?」

「勿論!任せて」

 

ㅤ何故だか機嫌の良い彼女。

ㅤ恐らく九条大祐と久しぶりの会話、各務原あづみとの幸せな時間を過ごせているからだろう。

ㅤ九条はデータボックス(ブラックボックス)から少し大きめのタオルを二枚取り出し、リゲルへ手渡す。

ㅤそれをしっかりと受け取り、上機嫌で各務原あづみへ近付く。

 

「あら、そう言えば着物だったわね。あづみ、ちょっと脱いでくれる?」

「えっえっと、大祐くんの目の前で…?」

「あぁ、俺は彼方向いてるんで安心して下さい」

 

ㅤそう言って九条は、先程まで向いていた逆方向へ体を向ける。

ㅤ本当は屋台の方へと足を運んでこの場から居なくなろうと考えた彼だが、先の事を踏まえて女性二人だけでは危ないと。

ㅤそう思って此処に残る事を決めた。

 

ㅤ然し、この判断が九条を苦しめる事となる。

ㅤ因みに森山碧は自重し、一旦その場から離れていた。

 

ㅤ周りに誰も居ない事を確認したリゲルは、徐々に徐々にと、着物の帯を解いていく。

ㅤその際に着物や帯同士が擦れる「シュルシュルッ」という音に、ピクッと反応する九条。

ㅤリゲルは着物の上部分だけを脱がし、各務原あづみの肩を露出させる。

 

ㅤだが、今の季節は冬。

ㅤそんな中での肩露出は寒くて凍えてしまうだろう。

ㅤその為のタオル二枚なのだ。

ㅤ先ずリゲルは、1枚目をタオルを手に取って各務原あづみの肩にふわっと乗せる。

ㅤそして2枚目を使って彼女の背中を拭いて行く。

 

「あづみ、寒いでしょう?」

「うーん…でも今ね、すっごく体が暖かいの。…ちょっと、触ってみて」

「あ、あづみの体に!?」

「そうすれば、何れだけ私の体が暖かいか分かるよ?」

「そ、それじゃあ、お言葉に甘えさせて貰うわね」

 

ㅤリゲルは恐る恐る、各務原あづみの背中へと手を伸ばす。

ㅤ何方かと言えば冷たい彼女の手が、ヒタァっと触れた時。

 

「んっ…」

 

ㅤ一瞬体をビクッとさせ、甘い声を出す各務原あづみ。

ㅤそんな彼女にリゲル、後ろを向いている九条は爆発してしまいそうな精神を必死に持ち堪えていた。

 

「ほ、ほんとだ、あっつい…」

「えへへ…でも、大丈夫だよ。偶に大祐くんとリゲルを…凄く求めたくなるけど」

「…!」

 

ㅤ笑顔で衝撃の一言を言い放つ。

ㅤ直ぐ後ろでは一人の男が悶えに悶え苦しんでいた。

ㅤ一方でリゲルは、咄嗟に各務原あづみを抱き締める。

 

「り、リゲル…?」

「…私は、何時もあづみが恋しい」

 

ㅤ衝撃発言に衝撃を重ねて行くリゲル。

ㅤ背後で美人美少女という、自身の恋人二人が抱き合っていると想像するだけで脳内制御が効かなくなる九条。

ㅤ同時に、彼女達が愛し合っていた事は承知済みだったからか、嬉しいという感情も湧き上がる。

ㅤ二人が仲良しの領域を超えて、付き合い始めたりしたら…等と彼は考えてしまう。

ㅤ百合の類には一切の興味を持ち得ない九条だが、二人のそれには興味無いと言えない。

 

ㅤ自分が居なければ、間違い無く百合ルートで完結したであろう。

ㅤそれはそれで良かったんじゃないかと思い浮かべてしまう。

ㅤ九条は笑みを浮かべ、ゆっくりと後ろを振り向く。

「…ちょっくら買い出しに行ってきますんで、二人の時間をーー」

 

ㅤ引っ込み思案な九条はやはり遠慮してしまう。

ㅤ各務原あづみとリゲル、二人が楽しんでいる時間を邪魔したくないから屋台へ赴こうと思った彼は、それを伝えようとした。

 

ㅤだが、二人の方を振り向いた瞬間、気付かされる。

 

ㅤ各務原あづみの体を拭き終わる前だった為、彼女は未だに肩付近にタオルを掛けている。

…筈だった。

 

ㅤ彼女はタオル其の物を取り、肩を露出していた。

ㅤ此方を向いて、恥ずかしそうに頰を赤く染め、けれど目は何かを求める様な瞳をしていた。

ㅤそれは各務原あづみの隣にいるリゲルも同じで、彼女も又、帯は緩めて無いものの態と着物をはだけさせていた。

 

「…え、っと?二人共どうし…ました?」

 

ㅤ彼女達に何が起きたのか察せない九条。

ㅤ只只管に動揺するしか無く。

ㅤそんな九条の、各務原あづみが右手を、リゲルが左手を握る。

 

「あ、あの、あづみさん?リゲルさん?」

 

ㅤ何も喋らない二人。

ㅤこうなる確固たる思い当たりが無い九条は、不意に彼女達の手を握り返す。

 

「…大祐くん、お願いだよ…」

「お願い…?」

「何時もそうやって、私達の為に何処か行こうとしないで…」

「あづみ…さん…?」

 

ㅤ彼女は半泣きになりながらも、自分の想いをきっちりと伝える。

ㅤ丸で先とは逆の立場になりつつある。

ㅤ各務原あづみの卒然な言葉に、どうすれば良いかと戸惑う九条。

 

「お、俺は何処にもーー」

「いえ、大祐。貴方は何かあると直ぐに何処かへ行こうとするわ。私達を引き止めたり、無理矢理でも輪に入ろうともしないで」

「だって…!」

「もし、…有り得ないけど、私達が他の男共に目移りしたら、大祐はどうするの?」

「…どうするも何も」

 

ㅤ九条は悔し気に顔を下げる。

 

「貴方は恐らく、私達を手放すでしょ?引き止めたりなんかしない」

「…!!!」

「大祐くん…大祐くんは、私達をどう思ってくれてるの?」

 

ㅤリゲル、各務原あづみの言葉に返答出来ない九条。

ㅤそれは自分にはどうする事も出来ないと認めているからだ。

 

「……人とは、独占欲の強い生き物です」

「…?」

「若し二人と恋人関係を築いたのが俺じゃなかったら、意地でも二人を離そうとしないでしょう。例え二人が離れたいと言っても」

「…私達には分からないわ。けれど、それが普通の考えなのね?」

「無論、美人美少女である二人を手放す等、一般的には有り得ないでしょう。それは俺も同じです」

 

ㅤすると九条は、二人の手を強く握り締める。

ㅤそして顔を上げ、二人の瞳をしっかり見つめながら話を続ける。

 

「けど、俺は違います」

「…どうして?」

「二人を手放したくない=自分の独占欲という下らない理由で二人を縛るのと同じです。そんな自分勝手な…」

「私とリゲルは…大祐くんになら、縛られてもーー」

「俺に二人を縛る権利なんて無いよ。況してやそれは以前の青の世界だ。解放した鳥を又捕まえて、鳥籠の中で飼う。何て外道なのかってね」

 

ㅤ段々と自分を取り戻して来た九条は、冷静に、坦々と話し続ける。

 

…そう、これが九条大祐の思考だ。

ㅤだからこそ、各務原あづみやリゲルに対して容易に手を出そうとしなかった。

 

「それに、若し二人が俺から離れたいと思った時。次、好きになったその人にこそ二人を絶対に幸せにして貰いたくて。あづみさん、リゲルさんが純潔なままで送り出してあげたくて…。俺は所詮こんなんで、それでも其々色んな魅力を持った女性から好意を抱いて貰って…好き、なんて言われたら断れなくて。側から見れば女誑しとかハーレムだと思われるよね。…でも俺はそんな考えを持った事は無いよ。好意を寄せてくれたならその想いに答えてあげなきゃ、なんて使命感が働いてね。例え相手のその女性が、大人の恋愛をする為の道でも構わない。好きと言ってくれたからには、その間だけでも幸せな時間を過ごして欲しくて。…何時か絶対に、二人からは見限られるなんて心の隅で思っていた。そしたら俺は一人に…なんて、見えない恐怖に怯えて。それなら逸そ…二人に俺という存在を嫌でも覚えさせようとも考えたけど、やっぱり俺にはそんな事する度胸も無くて。じゃあ、二人が俺から離れて行く時位は笑顔で見送ってあげたいと思って、極度な触れ合いは出来るだけ避けていたんだ」

「「……………」」

 

(大祐…その気持ちは流石に察せなかった)

 

ㅤ草陰に隠れながら聞き入ってしまっている森山碧。

ㅤ親友の彼でさえ、九条大祐という男の本心を察する事は出来なかった。

 

(だが、それは大祐の見当違いだな)

 

「…それで、大祐くんは幸せなの?」

「えぇ!二人が幸せなら…俺は…それで、満足です…」

「大祐…じゃあどうして目を逸らすの…?」

 

ㅤ九条大祐はその言葉を聞いて、二人から手を離そうとする。

ㅤだが然し、二人は彼の手を離すまいと、ぎゅっと握る。

 

「…使命感で好きになられても、全然嬉しく無いよ…」

「………」

「私やあづみ…いえ、大祐を好きだと想っている人達は、貴方から離れる気なんて更々無いのよ。寧ろ一つになりたいと望んでいる。それを大祐は、使命感で好きになっていたて言うの!?」

「…違う…」

 

ㅤリゲルは感情がそのまま口に出てしまい、声を荒げる。

ㅤ各務原あづみはリゲルの隣で、九条大祐の瞳を見つめる。

ㅤ九条大祐は否定と肯定が混ざり合い、どう答えれば葛藤していた。

 

「「大祐(くん)は私達を使命感なんかでーー」」

「違う!!!」

 

ㅤ先程のリゲルの声よりも大きく、響く声で、九条大祐は怒鳴る。

 

「俺は本心から二人を愛しているんだ!…二人だけじゃない、こんな俺に好意を寄せてくれている女性全員を…使命感なんかじゃない、本心から、本当に愛しているんだ」

「…大祐、貴方のその言葉が聞きたかったの。貴方がそう想い続ける限り、私達が離れて行く事は無いわ」

「私やリゲルも、大祐くんを…その…愛、してるよ。だからね、大祐くんと同じ。貴方の幸せが私達の幸せ」

「あづみさん…リゲルさん…」

 

ㅤ貴方が愛してくれている、私達も貴方を愛している。

ㅤ二人の口からそんな事を言われた九条は、体から力が抜けて行く感覚に襲われた。

「まぁ…何て言うのかしら、大祐が離れても、私達は追い続けるわ」

「うんっ!大切な大祐くんを、簡単には渡さないからね…!」

「…二人がそう言ってくれるなら、俺は何処にも行かないよ。二人の事が好きなこの気持ちに嘘は無いから。逆にガンガン攻めて行くかも知れないな」

「か、覚悟の上よっ」

「えへへ…わ、私は何時でも良い…よ?」

 

ㅤ物凄く恥ずかしそうに、頰を紅潮させ、もじもじと体を動かす各務原あづみ。

ㅤそんな彼女を見て、九条大祐とリゲルは又もや爆発しそうになる精神を保つ。

ㅤ然しながら今回は我慢仕切れ無くなった九条。

ㅤ未だに露出している各務原あづみの肩に、直に触れる。

ㅤリゲルは既に露出していた肩を隠していた。

 

「…もー我慢ならないよ。そうやって誘って、あづみさんったらーーって、ごめん!あづみさんの肌に軽々しく触ってしまった…」

「もうっ、大祐くん、何時迄も気にしてちゃ駄目だよ」

「そうね、ならお姫様抱っこは如何なのって話」

「それはぁ〜まぁ…ね」

 

ㅤふっと目を逸らす九条大祐。

ㅤそんな彼を見て各務原あづみ、リゲルは笑顔を見せる。

ㅤ二人の笑顔を見て、九条大祐も笑い始めた。

ㅤ最早連鎖的になっている。

 

「そう言えば、如何して二人共肩なんか出して誘惑して来たんですか?」

「え、えぇと…何でか分からないけど、大祐を振り向かせる為にはああしないとっていうか…」

「随分と珍しかったですね」

「えーとね、大祐くんを見てたら、急に胸が苦しくなって、体があっつくなってね、大祐くんの事しか考えられなくなって…」

「それって…媚やーー」

 

ㅤ九条大祐がとある性欲活性化薬の名前を口にしようとした瞬間、彼は膝の皿部分に違和感を感じた。

ㅤ小さい手らしき何かを当てられている様な、そんな違和感。

ㅤ彼はテーブルの下に隠れている自分の足元を覗くと。

 

「き、きさらちゃん!?」

「きぃも、だいすけとおしゃえりすゆ!」

「きさらちゃんも大祐くんの事、好きだもんね〜」

「うぃ!あづも、しぃき!」

「あら、あづみの事は私と大祐が一番好きだと自負してるわ」

 

ㅤ手を額に当て、今までの空気は何処に行ったのだろうと疑問に感じる九条大祐。

ㅤそれは遠くから見ていた森山碧も一緒だった。

ㅤ何時になったらキスという目標を達成出来るのか。

ㅤ自分が気になっても仕方がない事なのは分かっているが、どうしても手助けをしたくなる森山碧。

ㅤはぁ〜…と、小さな溜息を吐きながら九条大祐の元へ近付こうとしたその時。

 

「碧」

 

ㅤ何時の間にか後ろに居たエレシュキガルに呼ばれて、ビクリと驚く。

 

「ほぁっ!?…エレシュキガル…頼むから、前か横に出て来て…心臓に悪い…」

「屋台のクオリティが低かったから、前に碧が言ってた「こんびに」に行って来た」

「スルー…ていうか…こ、コンビニに負ける屋台のクオリティって…、で、何買って来たの?」

「えーとね…飲み物、主食になる食べ物、後は菓子…これ、ポッキーっていうのかしら?」

 

ㅤ森山碧はその場で無言の勝利を確信、片腕を天を貫くかの如く思いっきり上げた。

ㅤ彼の唐突な行動にびっくりしながらも、エレシュキガルは考える。

ㅤ何故ガッツポーズなんかしているのか。

ㅤそんなに嬉しくなる出来事でもあったのか。

ㅤ彼女は頭に?を浮かべながら森山碧を見つめる。

 

「エレシュキガル、そのポッキー1、2本貰って良い!?」

「う、うん。良いけど…」

 

ㅤ彼女の許可を得た森山碧はポッキーの箱を持って、勢い良く九条大祐等の元へ走って行った。

ㅤエレシュキガルは走り出した森山碧の後ろを、焦りながらもついて行く。

 

「大祐!ゲームしようぜ!」

「うわぁ、びっくりした…。ていうか何時から其処に居たの…」

「ずっと」

「はぁ!?ずっと!?恥っず!」

 

ㅤ九条大祐は草陰から出て来た森山碧に驚き、彼の返答に対して、両手で自分の顔を隠す。

ㅤ余程恥ずかしかったのか、森山碧と顔を合わせようとしない。

ㅤだが、各務原あづみ、リゲル、百目鬼きさらは彼の登場に至極微妙な表情を見せていた。

ㅤその表情に地味な傷を心に負った森山碧だった。

 

「…まぁ、俺の事は良いんだ」

「誰もへっきーの話はしてないよ」

「うぅ…悲しいーーって、ほっとけ。大祐、お前は何時キスする迄に至るんだよ!見てる此方が焦らされている気分だわ!」

「関係無いでしょ。ていうか知らんわ、此方には此方のタイミングがあるの」

 

ㅤ急かす森山、反論する九条。

ㅤ二人の言い争いを何気無く聞く女性陣。

ㅤ唯一人、各務原あづみという少女を抜いて。

ㅤ彼女は薬の効果が切れたにも関わらず頰を紅潮させている。

ㅤ「キ、キス…大祐くんと…///」と繰り返し口にしながら。

 

「…でだ、お前が其処までに発展しないからさ、これを使ってゲームしようと思ってな」

「…ポッーーそれな、ゲームって言わないからな!?」

「?ポッキーを使って、どんなゲームするの?」

 

ㅤ各務原あづみの無知能力が発動、九条は思わず襲い掛かりそうになる。

 

「名前はまんま、ポッキーゲーム!勿論、参加するのはあづみ様と九条様だよ〜!」

「はぁ!?」

「大祐くんと…ポッキーゲーム?」

 

ㅤルールを知らない、というかルール其の物が存在しないポッキーゲームに動揺するしか無い各務原あづみ。

ㅤリゲルも何が何だか分からずにいた。

ㅤデータベース→ゲーム関連→で開いても出てこないポッキーゲーム。

 

「まぁ、あづみと大祐のペアなら安心ね。やってみれば良いじゃ無い!」

 

ㅤ軽々と了承してしまうリゲル。

ㅤ彼女の中で九条大祐という存在は、最早既に各務原あづみの安定剤になっていた。

 

「まぁ、リゲル殿も含めて、だけどな」

「私も!?」

「きさらちゃんは俺と仲良く遊んでーー」

「いあっ!」

 

ㅤ百目鬼きさらは咄嗟に九条大祐のコートをぎゅっと握る。

ㅤ森山碧は悔しくて後ろを振り向くと、エレシュキガルに抱き締められた。

ㅤ丸で子供をあやすかの様な手付きで頭を撫でてやり、胸元に森山碧の顔面を押し付ける。

ㅤ孤独から解放された嬉しさ、締め付けられる苦しさ。

ㅤ両方相まってどの選択肢を取れば良いのか分からなくなる森山碧だった。

 

「…大祐って、ああいうのどう思う?」

「どうもこうも…まぁ、少し羨ましいなぁ的な?」

 

ㅤエレシュキガルの行っている行為について、リゲルが九条大祐に意見を求める。

ㅤ彼からすれば、一応興味はあるらしい。

ㅤ今迄女性をお姫様抱っこし、女性に甘えた事の無い九条にとってあれがどういう感覚なのか掴めずにいた。

ㅤルクスリアから頻繁に抱き付かれるのに慣れた御蔭なのか、ルクスリア以外の女性にやられた事が無いからなのか。

ㅤ何方にせよルクスリアという女性が絡んでいる事に変わりはない。

ㅤという事は必然的に慣れた、という事になってしまいそうな気がしそうだ。

 

ㅤ九条があの行為に羨ましいと感情を持つ事が分かったリゲルは、何か決めたのか、意を決した風の表情で彼を見つめる。

ㅤ一方で九条はポッキーゲームをどうしようか、とばかり考えていた。

 

「と、取り敢えずこのポッキーをあづみ嬢とリゲル嬢で口に咥えて」

「は、はいっ」

「貴様の指示に従うのはあまり気に乗らないけど…」

 

ㅤ各務原あづみは恐る恐る、リゲルは嫌々、渡されたポッキーを口に咥える。

 

「…で、どうすれば良いのかしら」

「大祐が、反対側からポッキーを食べる。食べ切れば成功!」

 

ㅤそんな森山碧のルール説明に、リゲルは一瞬吹き掛ける。

ㅤ未だに状況を理解しついない各務原あづみは、ゆっくりと九条大祐へ近付いて行き。

ㅤ彼の目の前で一言。

 

「…大祐くん、ぽっきーげーむ、しよ?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

ㅤ九条大祐は急に肺呼吸が出来なくなる感覚に陥った。

ㅤ各務原あづみの可愛さ、そして態となのか短いポッキー。

ㅤそんな彼女のあざとさに屈した九条は、段々と口を近付けて行く。

ㅤそしていざ、各務原あづみの咥えているポッキーを、九条が咥えようとした時。

 

「あー!いたー!」

 

ㅤ少し遠い場所から少女らしき声が周囲に響き渡る。

 

「な、ナナヤ…」

「良いところで邪魔しやがって…本当、大祐も大変だな」

「もう、ずっと探してたんだからねっ。大祐くんが何処にも居ないから…でも、見付けた!今からでも私と遊びにーー」

「待って、頼むから待って!」

 

ㅤ空気を読まずに九条を後ろから羽交い締めにするナナヤ。

 

「きぃとあそぶのっ」

 

ㅤ負けじと足元にくっ付く百目鬼きさら。

 

「そんな簡単に大祐くんは」

「渡さないわ!」

 

ㅤそう言いながら九条大祐の両腕をがっしり掴む各務原あづみ、リゲル。

 

「んじゃ、俺はエレシュキガルと屋台回って来ようかな〜…」

「屋台、全部回ったけど…」

「うそん!?」

 

ㅤ地味に空回っている森山碧、エレシュキガル。

ㅤ今は何処で何をしているのであろう天王寺飛鳥。

 

「ちょっと、順番、お願い!頼むから!」

 

ㅤやはり側から見ればハーレム男な九条大祐。

ㅤ既に正月等関係無くなっている彼等の日常は、常に幸せな日々に包まれていた。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

「さぁ、屋台を制覇するのじゃ!」

「何であんさん此処におるんや!」

「卑弥呼さん…太っちゃうよ?」

「食べれば何時かは…ソリトゥス、お主みたいな胸にーー」

「こら飛鳥!お金の使い過ぎですよ!」

「何でこないなってしもうたんやあああぁぁぁ!」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「ふむ…最後は展開を早めてしまったかな?だが、これが彼等の日常だ。未来の姿だ」

「パパ〜、お茶が入ったデース!」

「有難う、七尾。…まさかあのナナヤくんが九条君に付くとは、予想外だったが」

 

ㅤ男は手に持っている手帳を机の上に置く。

 

「ふぅ…良い物が書けたな…ん?」

 

「ふふ…残念、私だよ」

 

ーーー

カール・ワイバーンの手記

ーーー




はい、という訳で今投稿していた番外編はカール・ワイバーンさんの手記だったという事で。
一応未来の主人公達を描いた話という…。

そして、次回投稿出来るのは2月14日になるかもしれません。
次も番外編ですが、何か特別な日が無い限りは本編を再開しようと思っております。
…というか早く本編を進めたい。
2月14日までに、出来るだけ一話は更新したい!
(カール・ワイバーンであってるよね…?)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バレンタイン(前編)

今回の話も三話に分けて投稿していきます。
このバレンタインの話が終わり次第、一度番外編は終了。
誕生日やエイプリルフール、ハロウィン等の特別な日にはまた再開という形で此れからやって行きたいと思います。
その間は全力で本編を進めて行きたいと思う所存で御座います!


ㅤ朝日が昇り、今日も今日という日が訪れる。

ㅤ外からは小鳥の囀りが、部屋の中にまで響き渡る。

ㅤ九条大祐はゆっくりと体を起こそうと、後ろへ手を着いた。

ㅤそのまま起き上がろうとしたその時。

ㅤ腹部から下にかけて若干の重みを感じた九条。

ㅤ彼はそれが気になり、布団の上を確認する。

 

ㅤ然し其処には誰も、何も無い。

ㅤだが、違和感は直ぐ其処にあった。

ㅤ明らかにもそもそと動いている布団。

ㅤ自身の腹部辺りで感じる何か。

ㅤ九条は苦笑いをしながら掛け布団を剥ぐ。

 

「…うみゅ…」

 

ㅤすると何故か、可愛らしい女の子が自分の体に乗って寝ているでは無いか。

ㅤ然し少しばかり開いている瞳を逃さない九条。

ㅤこれは完璧に寝た振りだ。

ㅤそう確信した彼は、その少女の脇に手を通し、ゆっくりと持ち上げる。

 

ㅤ次に自分の体を起き上がらせ、持ち上げた少女を自身の胸元に寄り掛からせる様にして膝の上に乗せる。

ㅤすると少女は至極嬉しそうに九条の胸元へと擦り寄って行った。

 

「…きさらちゃん、起きてるでしょ」

「…!(ビクッ)」

 

ㅤ九条大祐の朝は相変わらず、百目鬼きさらのアピールから始まる事となった。

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「…で、来ているのでしたら教えてくれても良いと思うのですが」

 

ㅤ百目鬼きさらを膝の上に、九条大祐はヴェスパローゼと対談をしていた。

 

「あら、朝起きたら可愛い幼女が自分の上に…。そんな演出はお嫌いかしら?」

 

ㅤくすくすっと笑い、丸で揶揄う様な口調のヴェスパローゼ。

ㅤそんな彼女の趣味を若干疑う九条大祐。

ㅤやはりS側の性格なのだと、彼は改めてそう実感していた。

 

ㅤ二人の会話を聞きながらうとうと、頭を予測不能な方向に倒し続ける百目鬼きさらを見て、ヴェスパローゼは笑みを絶やさない。

ㅤ言わずもがな、百目鬼きさらにとって九条大祐の膝の上というのは彼女の定位置と化している。

ㅤ後ろから九条が支えているから良いものの、それが無ければ直ぐに、床へ頭をぶつけているだろう。

 

「…きさらったら、本当に其処が好きなのね」

「ヴェスパローゼさんも乗ってみます?なんて」

「ふふっ…じゃあ、お言葉に甘えて夜にお邪魔しちゃおうかしら」

「キツイ諧謔ですね」

 

ㅤ冗談を言う九条に半々冗談、半々本気のヴェスパローゼ。

ㅤ二人のやり取りは何時もこんな感じだ。

ㅤ互いが互いに理解し合える部分があるのか、見ているだけで匕首が合っているのだと思えてくる。

ㅤ嘘や騙し合いという可能性を二人共捨てているからこそ、気楽に話し合えるのだろう。

 

ㅤヴェスパローゼは座っていたソファーから立ち上がり、九条の隣へ腰掛ける。

ㅤ一方で九条は、驚きや何の抵抗も無く、百目鬼きさらの頭を撫で撫でと摩る。

 

「あ、そうだ。二人が今日此処に来た理由をーー」

 

ㅤと、聞き出そうとした瞬間。

 

ㅤコンコン

 

ㅤ扉をノックする音が部屋中に響き渡った。

 

ㅤ対談中、加えて百目鬼きさらを膝の上に乗せているという状況でどうするか悩む九条大祐。

ㅤするとヴェスパローゼは百目鬼きさらを抱え、扉の方へと手を差し伸ばした。

ㅤ私達を気にする必要は無い、お好きにどうぞ。

ㅤ彼女は言葉を口にしなくても伝わる程に優しい笑顔を向けながら、百目鬼きさらを膝の上に乗せて面倒を見始める。

 

ㅤそんなヴェスパローゼの気持ちを無駄にしない為にも、九条は扉を開けに行く。

ㅤ誰が来たのかなんて三択だが、早朝から用事を伝えに来る人物を特定する事は出来ない。

ㅤ各務原あづみやも知れない、リゲルという可能性もある、話だけならベガという存在も出てくる。

ㅤ三人の中から一人だけ、若しくは三人全員、何方かを特定するのは流石の九条でも難しい。

 

ㅤそう考える時間があるのであれば取り敢えず出よう、と九条は扉を開ける。

ㅤキィと音を立てながら開く扉の前に居たのは。

 

「大祐、今少し宜しいですか?」

「ベガさん!どうかなさりましたか?」

 

ㅤ綺麗な水色の長い髪の毛を、ポニーテールに結んだ美女…ベガが其処に立って居た。

 

「兎に角、中へどうぞ」

「有難う」

 

ㅤ例え薄い内容の話だろうと、廊下で口を開き合うのは好まない九条はベガを部屋へ招き入れる。

ㅤ中では、幸せそうに寝息を立てている百目鬼きさらを、実の母親の様に見つめるヴェスパローゼの姿があった。

ㅤ以前のヴェスパローゼとは見違える様な光景にベガは思わず。

 

「ヴェスパローゼ…貴女、変わりましたね」

「あら、貴女が言える事かしら、ベガ」

 

ㅤそう言い合う二人の口元には、笑みが浮かんでいた。

ㅤ扉をしっかりと閉め、後からその場に来た九条は何も知らずにソファーへ座る。

ㅤ今度はヴェスパローゼの対面へ。

 

ㅤ彼女達を変えた張本人…九条は寝ている百目鬼きさらの顔を見てほっこりとしていた。

ㅤ百目鬼きさらの寝顔は、九条の口元が不意に緩んでしまう程に癒される代物だ。

ㅤヴェスパローゼやベガ、彼女達二人も幼い少女の寝顔を見て無言になる。

 

ㅤふと、九条はずっと立っているベガに対して自身の隣へと手を差し伸ばす。

ㅤそれに気付いたベガは頰を少しばかり赤くさせながら彼の横へ座った。

ㅤ好きな人物の隣というのは、誰にとっても特別な物。

ㅤそれはZ/Xだろうが関係無いようだ。

 

ㅤ照れるベガを見て、ヴェスパローゼはクスッと笑う。

 

「…何ですか、ヴェスパローゼ」

 

ㅤ自分の意外であろう一面を見られて恥ずかしかったのか、将又笑われた事に不満を抱いたのか、ベガはヴェスパローゼへほんの僅かな苛立ちを見せる。

 

「いいえ?貴女も大祐には弱いんだと思っただけよ」

「…!」

「あぁ〜…ベガさんが俺に弱いとか分からんのですが、俺に優しくしてくれて助かってますよ」

「大祐、話が逸れるわ」

「あれ?そういう話じゃ無いんですか?」

 

ㅤ相も変わらず女心を理解するのに時間が掛かる九条だった。

ㅤそんな彼を、横からじっと見つめるベガ。

ㅤ九条が振り向く度に顔を逸らし、彼の意識が違う方へと向いた時に又見つめ始める。

ㅤヴェスパローゼは内心こう思いながら再度クスリと微笑む。

 

(恋する乙女は大変ね)

 

ㅤ自分に対しても言える事なのは彼女自身も分かっているが、ヴェスパローゼだけはこの距離感が凄くしっくり来ていた。

ㅤ九条とは楽しく話し合うだけの関係。

ㅤ然しそう思うと、彼女の心はチクッと、何かに刺される様な痛みに襲われていた。

 

ㅤ此処からは少しヴェスパローゼの話になる。

 

ㅤしっくり来ているのに、何故痛むの?

ㅤヴェスパローゼは九条と出会い、変わると、そんな難題に悩まされていた。

ㅤ自分自身はもっと親密になりたくある…でも、この距離感を保ちたくもある。

ㅤ彼女がそう思ってしまうのには理由があった。

 

ㅤこれ以上に深い関係を持ちたいと攻めれば、嫌われる可能性があるから。

ㅤ人間とは明らかに違う自身の体を気にしたりと。

 

ㅤ要するに、ヴェスパローゼ自身も悩める乙女だという事だ。

ㅤ彼女が変わったのは、恋という存在に自分自身が変えさせられたからなのかも知れない。

ㅤだからこそ、自分を変えてくれた九条と離れる事も、近付く事も無いこの距離感で満足してしまっているのだろう。

 

「…ろーぜ、つらそお」

「ヴェスパローゼさん、何処か体調でも悪いんですか?らしく無い顔をしてますよ」

「ん〜…ふふっ、心配は無用よ。ところできさら、貴女寝てなかったの?」

「ぅゅ?」

 

ㅤ丸で自分は最初から起きていた、とでも言わんばかりの表情を示す百目鬼きさら。

ㅤ事実、彼女は最初こそ寝てはいたが、ベガが入室した際に鳴った扉の開け閉めの音に反応してしまった様だ。

ㅤ結果、三人の話は全て聞いていた。

ㅤという事は必然的に最初から起きていたも同然となる。

 

「…取り敢えず、二人共何か用事があって来たんですよね?」

「「勿論(です)よ」」

 

ㅤ九条の問いに声を揃えて答えるヴェスパローゼにベガ。

ㅤ互いに息がピッタリ合って顔を見合う二人だが、直ぐに九条へ向き直る。

ㅤその際、又もや互いの行動が重なり、二人の美人からの視線を浴びせられた九条は一歩後退りしてしまった。

 

(やたら破壊力あるよな…二人共…)

 

ㅤ心の声が喉を通り、現実へと放ちそうになる九条だった。

 

「…ま、まぁ、大祐が宜しいのであれば…その…用事の有無関係無く、お邪魔したくもあるのですよ…?」

 

ㅤ徐々に声が小さくなっていくベガ。

ㅤ最終的に聞き取るのが困難になる程にボソボソと喋ってしまい、九条へ自身の気持ちは伝わらなかったのだが。

 

「えーと、いや…来てくれるのであれば何時でも歓迎しますよ?俺なんかで良ければ、ですが」

「…!」

 

ㅤ彼は何と無く、あまり深く考えずにそう返した。

ㅤ然しそれがベガにとって何れ程嬉しかったことか。

ㅤ事実、彼女は九条から顔を背けつつも笑みが止まずにいた。

ㅤ何故かヴェスパローゼも。

 

ㅤ唯一、百目鬼きさらだけが頭に?マークを浮かべている。

ㅤそんな純粋無垢で無知な彼女を見て、九条は自分自身から百目鬼きさらを手招きした。

ㅤ既に彼という一人の人間も、彼女の幼い魅力に取り憑かれてしまっているのが目に見える。

 

ㅤだが、九条から手招きするのは結構珍しい事。

ㅤそんな滅多に無い出来事に驚きながらも、百目鬼きさらはいそいそとヴェスパローゼの膝から下り、とてとてと可愛らしく九条の元へ走り。

ㅤ最後に彼の膝の上によじ登って完了。

ㅤ誘ったのは自分だがここまでテキパキと動く百目鬼きさらを見て若干驚愕する九条。

ㅤ更に、最後のよじ登り。

ㅤ本来なら九条が百目鬼きさらの両脇を抱えて膝の上へと乗せる筈だった。

ㅤそれが百目鬼きさら、彼女自身によって覆されたのだ。

ㅤ何れだけ九条大祐の膝の上が好きな事か。

 

「…幼いって、偶に羨ましいと思うのですが」

「あら、奇遇ね。私も現在進行形でそう思っているわ」

「幼さは凶暴な武器になりますからね〜…」

「♪♪♪」

 

ㅤベガとヴェスパローゼ。

ㅤ彼女達二人は羨まし気に、百目鬼きさらを見つめる。

ㅤ然しまだ7歳の彼女は自分の可愛さという凶悪な武器の存在に気付きもしない。

ㅤ百目鬼きさらは九条大祐の膝の上で鼻歌を歌い始めていた。

 

「…はぁ、相変わらず癒されるな〜…」

「良いじゃない、きさらを嫁にすれば何時でもその鼻歌が聴けるわよ?」

「きぃ、だいすけのおよぇさん?…に、なゆっ!」

「ん〜……ん!?」

 

ㅤまだ7歳の少女…いや、幼女から衝撃の一言。

ㅤ然し誰しもが思うであろう。

ㅤ百目鬼きさらが口にしたこの言葉は、よく「幼い少女が父親に対して言ってしまう」一時的な物だと。

 

ㅤだが、百目鬼きさらは違かった。

ㅤ至って本気で九条を見つめ、獲物を狙うかの如く視線を外さない。

ㅤ年齢的にも彼は父親というより兄に近しい存在だ。

ㅤその事もあり、将来的には結婚出来なくもない年齢差。

ㅤ果たして百目鬼きさらがそれを分かった上で言っているのかは謎だが。

 

「と、取り敢えずその話は後で…ね?今は二人の用事を先に聞かなきゃだから」

「むぅ〜…」

「珍しいわね、きさらが不貞腐れるなんて」

「あづみが不貞腐れるのは良く見ますよ。…あの子ってば、大祐が居ないと直ぐに寂しがって…可愛いの領域を遥かに超えてます」

 

 

ーーー

「くしゅんっ」

「あづみ?もしかして寒いかしら?部屋は温かいのだけれど…」

「う〜…大丈夫。心配してくれてありがと、リゲル」

「パートナーへの気遣いは心配の内に入らないわ。…それにさっきの嚔…もしかしたら、誰かがあづみの噂でもしてるのかも」

「えぇ…私、噂される程の存在じゃないよぅ…」

「ふふっ、それはどうかしらね?」

ーーー

 

 

(今一瞬、あづみさんの声が聞こえた様な…気の所為か)

 

ㅤ別の部屋に居る各務原あづみの声すらも拾う九条大祐だった。

 

「…あ、で。何の話なんです?」

 

ㅤヴェスパローゼとベガが部屋に来てから少しの時間が経過していた。

ㅤ流石にそろそろ本題に移らねばと、九条は二人の顔を順番に見ながらそう質問する。

ㅤ二人も時間を忘れて話に夢中になっていた事に今気付き、一度「コホン」と咳払いをしてから本題を切り出そうとする。

ㅤ唯一、百目鬼きさらだけがまったりしていた。

 

「…先に伝えておくわ。私とベガは大祐に同じ内容の話をしに来たの」

「同じ内容の?」

「はい。…えっとですね…」

 

ㅤここからいざ、本題に入ろうとするベガ。

ㅤだったが、何故かモジモジとして一向に口を開く気配が無い。

ㅤ誰が見ても絶世の美女と言うであろう彼女。

ㅤそんな美女が隣でモジモジとする所為で、九条はそれが至極気になって仕方が無い。

ㅤすかさず見兼ねたヴェスパローゼがフォローに入る。

 

「まぁ…そうね。大祐は今日の特別行事って知ってるかしら?」

「特別行事…特別行事ーーあ!バレンタインでしたね!」

「当たりよ」

 

ㅤ何時もなら鈍感で「何でしたっけ?」と言ってしまうであろう九条も、バレンタインに関しては覚えているらしい。

ㅤ彼の鈍感レベルは相手を焦らす位には高い。

ㅤそれが本日バレンタインという特別な日には低い様だ。

ㅤ唯、九条が覚えていただけという気がしなくも無い。

 

ㅤ然し其処は置いて。

ㅤ彼が即座にバレンタインと気付いた御蔭で、早く話が進められると安心するヴェスパローゼ。

ㅤ態々回りくどく言うのも、彼女は疲れてきた様だ。

ㅤそんなヴェスパローゼに対して、日々優しい言葉の一つや二つ、投げ掛けてやる九条。

ㅤ幾ら疲れてきたとはいえ、そういう理由含めで彼を嫌う事は出来ないらしい。

 

「それで、バレンタインがどうしました?」

 

ㅤ話がガラリと変わるが、此処に来て九条の察しの悪さが目立つ。

 

「バレンタイン…それは、女性にとって、男性にとっても大事な日でしょう?」

「チョコを渡す為に勇気を振り絞る女性に、そのチョコを貰う為に戦争を起こす男性。…ん?一体男性のメリットって何だ…?」

「チョコを貰えるチャンスがあるから…かしら?」

「そんな下らない理由で戦争なんか起こすのか…」

「実際は起こさないでしょう」

 

ㅤあ、そうか、的な表情で片手で掌をポンと叩く九条。

ㅤ如何やら彼は、本気でそう思っていた様だ。

ㅤそんな九条に微量な苦笑いを浮かべるヴェスパローゼ。

ㅤ九条にとって、バレンタインというのは本当に如何でも良い日らしい。

 

「…ま、本音を言ってしまえばバレンタインに限らず誕生日とかなんかも興味無いんですよね」

「では、大祐はあづみの誕生日は祝ってくれないのですか…?」

「あぁいや、自分の誕生日の話です。あづみさんやきさらちゃん、勿論御二方にその他の方々の誕生日は、絶対に、何が何でも祝福すべき日なんですよ」

「大祐は…自分を過小評価し過ぎです」

 

ㅤベガの放ったその小さな呟きに、九条は無関心という感情ーーいや、感情其の物が湧かなかった。

ㅤ自分は一番最底辺に位置する人間と確信してしまっている彼は、自分を過小評価…それも、全ての人の中でも生きている価値すら無い人間だと思ってしまっている。

ㅤだからこそ、自身を対象にした話には興味を持たないのだ。

ㅤ生きている価値すら無いこんな人間の誕生日等、祝う必要すら無いと。

ㅤ正に自画自賛の逆、自暴自棄の成りの果てだ。

ㅤ遂には自分自身に興味のきの字すら持たない。

 

ㅤだが然し彼が問題なのは、それを未だに、九条を愛してくれている彼女達に伝えた事が一度たりとも無い事だ。

ㅤ優しくて力強く、そんな美しさを持ち得ている彼女達に話せば、反論される事は分かっている。

ㅤ知っているからこそ、九条は話したく無いのだ。

ㅤ「自分」の中で決めつけている「自分」という存在を否定されるのが嫌だからなのだろう。

ㅤ例えそれが、良い意味でも悪い意味であっても。

 

ㅤ彼は誰にどう否定されようが「自分が最底辺」というのは譲りたく無い様だ。

ㅤ側から聞けば何を言っているのか良く分からないだろう。

ㅤ何人もの美人美少女から愛されて、充実した生活を送っていて、そんな自分が最底辺なんて。

 

…だが、九条は其処に観点等置いてはいない。

ㅤこれは彼本人にしか分からない事だ。

 

ㅤとまぁ、九条の話は此れ位にしておこう。

ㅤ大分話が逸れてしまった為、強引にでも路線を戻そう。

 

「取り敢えず、一旦誕生日の話は置いときましょう?」

「…それでも、大祐の誕生日は絶対に皆で祝いますよ。例え貴方が拒否しても」

「人からの好意は素直に受け取る積りです。こんな俺を祝ってくれる…有難うと感謝の音しか上がりませんよ」

「…本題に移って良いかしら?」

 

ㅤヴェスパローゼはそう、少し遠慮気味に告げる。

ㅤ彼女からすればベガと九条大祐の話の輪に入り辛いらしい。

ㅤやはり、心の何処かで自分を諦めている彼女。

ㅤその点からすれば九条と似たり寄ったりな性格である事が分かる。

 

ㅤそんな、僅かに気力が消えているヴェスパローゼを見つめる百目鬼きさら。

ㅤ勘の優れている彼女はヴェスパローゼの心境を何と無く想像し、察する。

ㅤすると百目鬼きさらは九条の膝から下り、彼をヴェスパローゼの隣へ誘導し始めた。

ㅤ九条は素直に彼女へ付いて行き、ヴェスパローゼの隣へ座る。

ㅤそれを確認した百目鬼きさらは、再度九条の膝の上へ乗る。

 

「…?どうしたの、きさらちゃん?」

「こっちのほおが、ききぁすい」

「成る程。確かに、隣同士の方が聞き易いね。ヴェスパローゼさん、続きをお願いします」

「え、えぇ」

 

ㅤ少しばかり戸惑うヴェスパローゼだが、此方を向いている百目鬼きさらに気付き、優しい微笑みを返す。

ㅤ百目鬼きさらは至極嬉しそうに足をパタパタしていた。

 

「…それでね、バレンタインだし、折角だからイベントでも如何かしらと思って」

「イベント?どんなですか?」

「鬼ごっこ」

「…はい?」

 

ㅤヴェスパローゼの口から放たれたその言葉に、九条は首を傾げた。

 

「詳しくは違うのだけれど…もう準備は万端なの。後は大祐の許可だけ」

「俺の許可、ですか?別に構いませんけど」

「本当?…ふふっ、有難う」

 

ㅤ九条直々の許可が下りた事により、満足気に笑みを浮かべるヴェスパローゼ。

ㅤ一体全体何のイベントが行われるのか知る由も無い彼は、何故彼女が笑っているのかが分からない。

 

「そうね…じゃあ、午後1時頃、隣の敷地に集まってくれるかしら?」

「例えの出て来ないあんな広大な場所で…イベント参加者は何人居るのやら」

「来てからのお楽しみって事よ」

「ろーぜときぃは、ぜったいいゆ」

 

ㅤ其れだけでも行く気の湧く九条大祐。

ㅤ相手方は既に準備万端という事で、遅れない様にと準備を始める。

 

「…それじゃ、お邪魔して悪かったわね。私達はもう行ってるわ」

「恐らくあづみやリゲルも来ます。あの子達の為にも来て貰えるとーー」

「あ、いや、もう行く気満々ですので。後で合流しましょう」

「…流石です」

 

ㅤ九条に見えない様に、小さく微笑むベガ。

ㅤ自分の目的の為でもあっただろうが、あづみとリゲル、二人の名前を出して即座に反応を示した彼に、二人への愛を感じていた。

 

ㅤ其処から1分も経たない内に彼女達は部屋を出て行った。

ㅤ取り残された九条は黙々と準備を進める。

ㅤ一体何の支度をしているのか。

ㅤ彼は薄々嫌な予感を感じていた。

ㅤ然しヴェスパローゼやベガ、百目鬼きさらに各務原あづみ、リゲルの名前を出されたら行くしか無いと。

ㅤ彼の中での使命感が、彼自身を駆り立てていた。

 

ーーー




どうやら、あづみさんとリゲルさんが一話でも登場しないと、作者は精神的に辛い事が分かりました。
…ですが、それを踏み越えて書いて行かねば。
バレンタイン最終話は、恐らく明日になってしまうかと思われます。
すみません。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バレンタイン(前編2)

以前と比べて少しは話の構成がマシになった…と、信じたいです。
その分時間が掛かってしまいますが…。
作者としては楽しく書かせて頂いております。
本来は挿絵を間に合わせる予定だったんですが、小説との両立が割と厳しいので、メインは小説に集中。
サブとして絵を描き、偶に挿絵を投稿しようと思っております。
描く時間が無いのが悲しい…。


ㅤかくかくしかじか、そんなこんなで九条大祐は隣の敷地に足を運んでいた。

ㅤ範囲的には…いや、例える物が浮かばない程の大きさだ。

ㅤ本来なら其処に家を建てたり、庭を作ったり、将又身内全員で自由に遊べる空間を作ったりと悩んでいた筈だったが。

ㅤ何時の間にかヴェスパローゼとベガが企だてたイベントの会場となっていた。

 

ㅤ果たして其処では何が待ち受けているのか。

ㅤ九条は目的地へと足を踏み入れると、人集りの出来ている中心部へと向かう。

ㅤ然し彼が気になったのはそれでは無い。

ㅤ如何にも無造作に散らばらせたのであろうかなり大きな岩、生え方の可笑しい樹木、更にはトラバサミに似せて作られた何か。

 

ㅤその光景を見て九条は思った。

ㅤ嫌な予感が的中したな、と。

ㅤこれはやらかしたな、と。

 

ㅤそんな彼の背後から近付く一つの影。

 

「よっ、大祐!すげー嫌そうな顔してんな」

「…へっきー」

 

ㅤ如何やら森山碧まで招待されていた様だ。

 

「何だ此処?作りにしては甘いよな…」

「というかこの敷地が使われる日が来るなんて…思いもしなかった」

「取り敢えず全員彼処に居るんだろ?んじゃ、行こうぜ」

「…りょーかい」

 

ㅤ親友の乗りにすら付いて行けない位に嫌々な九条だが、来てしまった以上は仕方が無い。

ㅤ森山碧の後に続く様に、重い足を一歩又一歩と進めて行く。

 

ㅤだが、九条のそんな気分は一瞬にして晴らされた。

ㅤその人集りに見える、二つの影。

ㅤ軈てそれは彼の目の前にまで接近する。

 

「大祐くんっ来てくれたんだ!」

 

ㅤボーッとする意識を声の主へ集中させる。

 

「あづみ…その言い方だとバレてしまうわ」

「あっ…そうだ…だ、大祐くんも此処に招待されたの?」

「………!?」

 

ㅤそして漸く、目の前に居るのが各務原あづみ、リゲルだと分かった瞬間。

 

「あぁ…天国や…」

 

ㅤ思わず昇天し掛ける九条大祐。

 

「大祐くん…?えと、大丈夫?」

「…はっ!」

 

ㅤ各務原あづみは彼を心配して手をぎゅっと握る。

ㅤその感触に気付いた九条は、明後日の方向へと飛んで行く意識を無理矢理戻した。

ㅤすると目の前には自身の大好きで大好きで仕様が無い少女が、自分の手を握りながら此方を見つめてーー

 

「精神的ダイレクトアタックは駄目だろぉ…!」

「リゲル、大祐くんが何を言ってるのか分からないよぅ」

「あづみも其処まで悲しむ事あるかしら…?」

「だって…その…大祐くんの事は何でも知っておきたいから…」

 

ㅤ両方の人差し指をツンツンとさせながら、上目遣いで男という存在を殺しに掛かる天才少女各務原あづみ。

 

…とは言ったものの、彼女は企み等一切頭に無く、素でこの様な事をする。

ㅤどうすれば可愛く見えるだろうか、どうやったら相手にして貰えるだろうか、といった考えは存在しない。

ㅤ彼女の考えは唯一、どうすれば九条大祐を満足させてあげられるか、という献身的な物だ。

ㅤだからこそ、九条大祐に頼まれた事は無理をしてでも実行する。

ㅤその考えが彼を心配させている事に気付いて無いのは置いておこう。

 

(大祐くん…偶には命令みたいな事、言って欲しいなぁ…)

 

ㅤ然し彼女も苦労をしているものだ。

ㅤ歳の近い男性に「何でも言う事を聞く」なんて度胸があっても言えない事を口にして。

ㅤ彼女がそんな事を言っているのにも関わらず、九条は絶対に手出ししない。

ㅤその所為か、各務原あづみは心の何処かで物足りなさを感じていた。

ㅤ本人は九条大祐という男に少し過激な事をして欲しいのに。

 

ㅤ別に各務原あづみは其方系が好きな訳では無い。

ㅤ寧ろ彼女は嫌う、女性を傷付ける男性を、自分の勝手な理由で男性を弄ぶ女性を。

ㅤ話が少し変わるが、前者は完全に九条を好きになった理由だ。

ㅤ彼は第一に女性を考える。

ㅤ彼女はそれ以外にも、ぐっと来た部分が色々とあるらしいが。

ㅤ口にしてしまえば止まらないらしい。

 

ㅤ話を戻し、加えて、後者の様な女性に九条大祐が取られる可能性があるから…だから自分も負けじとそう言った大胆発言をしてしまった。

ㅤ各務原あづみという少女からは有り得ない言葉が出て来たのには、こう言った理由が挙がる。

ㅤまぁ…好きで仕方無くなり、想いをぶつけたというのもあるというのは本人は隠しているが。

ㅤ完璧な惚気話だ。

 

「全く、あづみは可愛過ぎね」

「凄いですよね、何時見ても可愛いなんて。リゲルさんに関しては美しさに凛々しさを兼ね合わせ…まぁ要するに、二人共何時見ても俺の目の保養になるって話ですね」

「…じ、じゃあ、もっとグイグイ来ても…良いんだよ…!」

 

ㅤ九条の言葉をチャンスと捉えたのか、各務原あづみは期待の込もった眼差しを彼に向ける。

ㅤだが然し。

 

「いや…まだ14歳の少女に手を出すなんて…」

「大祐くんも15歳だよ?」

「…それにほら、リゲルさんも了承しないだろうしーー」

「はぁ…大祐、逆という事に気付いて。私もあづみも…その…大祐に襲って欲しかったり…て、言わせないで!恥ずかしくて死んじゃうわ!」

「えぇっ!?」

 

ㅤ美しくて凛々しい女性から、まさかまさかの一言。

ㅤ自分が思っていた返しと全くもって真逆な答えを返され、驚愕の音を上げる九条大祐。

ㅤ其処に集まっていた全員が彼に視線を集中させた。

 

「お、なんや。ラブラブ話かいな!」

「…興味無いわ」

「綾瀬もそんな事言わんで、何時か自分も体験するかもせえへんで」

「ばっ…!天王寺飛鳥!貴方って人は…!」

「うわぁ、綾瀬が怒ってもうた!」

 

ㅤZ/Xのカードデバイス所持者に、そのパートナー達が集う場所で。

ㅤ一人小学生じみた低脳を見せ付けていく男が居た。

ㅤその名は天王寺飛鳥。

ㅤ九条大祐…程では無いがハーレムな野郎。

ㅤ九条とは共感し合える所が多いのか、親友の中になりつつある。

ㅤハーレム同士、鈍感部隊結成の兆しか?

ㅤあぁ、丸で要らない情報だった。

 

「おいおい、女を怒らせると怖い事位分かんないのかよーー」

「飛鳥に…何か言ったか?」

 

ㅤそんな天王寺飛鳥を揶揄うかの様な発言をする剣淵相馬だったが、自分の命を危険に晒す行為だという事に今更ながら思い出す。

ㅤ勿論、カードデバイス所持者全員という事は天王寺飛鳥の兄、天王寺大和もその場に居るという事だ。

 

ㅤ誰しもが認める弟好きな天王寺大和の前で、天王寺飛鳥を揶揄えばどうなるか。

ㅤそれを今、剣淵相馬が証明してくれた。

ㅤ現在彼は、顎の下に拳銃を突きつけられている。

ㅤ引き金が引かれれば即死間違い無い距離だ。

ㅤ況してや天王寺大和…彼の銃を扱うスキルは折り紙付きだ。

ㅤその才能を軍隊と引き換えにしてもお釣りが来る程に素晴らしい技術。

ㅤ少し煽て過ぎと思われるかも知れないが、それが彼、天王寺大和だ。

ㅤそんな、黒いコートに葉巻といったイケメンな組み合わせが頗る似合う男だが、大の弟好きという謎の要素があり、女性からも男性からも近づき難い存在。

…というか天王寺飛鳥を守る為ならば、女性だろうが容赦無く撃つ男だ。

 

ㅤ近づき難い、では無く、近付けないが正解かも知れない。

 

「す、すんませんでした…」

 

ㅤ剣淵相馬は苦笑いでそう告げる。

ㅤ対しては天王寺大和は、蛙を睨み付ける蛇の如く鋭い目線を当てまくる。

 

「まぁまぁ、相馬きゅんも悪気があった訳じゃないだろうし…此処は手を引いて、ね?」

「…ふんっ、次は無いと思え」

 

ㅤ二人の緊迫した空間にルクスリアが乱入し、何とか事態を穏便に済ませる。

ㅤ剣淵相馬も、何かと言ってルクスリアという女性の存在に助けられているのが良く分かる一面だった。

 

「…助かった、ルクスリア」

「んふふ〜、もっと褒めても良いのよ♪」

「いや遠慮しとくわ」

 

(…ていうか、相馬さん、あれ絶対悪気あったよね)

 

ㅤ九条大祐の要らぬ突っ込み。

ㅤ彼もそれを口にするとまずいと思ったのか、喉で出掛かっていた言葉を素直引っ込めた。

 

「大和は本当にあの弟が好きなのね」

「クレプスには関係無い」

「ふふっ…そうかも知れないわ」

「む〜…」

 

ㅤ仲睦まじく喋る二人の珍しい光景に、一人ヤキモチを妬く少女。

ㅤ上柚木綾瀬の妹、上柚木八千代だ。

ㅤ可愛らしく頰をふくらませて、パートナーZ/Xであるアルモタヘルの後ろに隠れながら二人をじーっと見つめ続けている。

 

「八千代?どうしたの?…八千代?」

「えっ?あっ…アルモタヘルには関係…無い…」

「そうなの?なんだー…八千代の役に立てるなら良かったのに」

 

ㅤアルモタヘルは彼女の役に立てない事に不満を覚えたのか、至極詰まらなさそうな態度を取る。

 

「…八千代、頑張れっ」

 

ㅤ状況を理解しているのかしていないのか、上柚木八千代の双子兼妹である上柚木さくらは、影から彼女を応援していた。

ㅤ大好きなお姉さん二人の片方が全力で恋愛中、妹としては応援したい気持ちが湧くのも当たり前か。

ㅤ然し上柚木八千代はそんなさくらを嫌う。

ㅤ言い方が悪いが、彼女自身、妹のさくらの下位互換と思い込んでしまっているからだ。

ㅤ様々な面で劣り続ければそう思ってしまうのも無理は無いだらう。

ㅤだが、天然な上柚木さくらはその事実を知らないのだ。

ㅤ無自覚な物程恐ろしい物は無い。

ㅤどうすれば良いのやら…と、上柚木綾瀬とさくらのパートナーZ/Xであるフォスフラムは悩み続けた。

 

ㅤ小さい頃から割と険悪な空気を漂わせる八千代に、それでも大好きなお姉さんに近付きたいさくら。

ㅤそこそこの確率で喧嘩をした事が無きにしも非ず。

 

ㅤだが、それは過去の話となり、二人の関係は変わった。

ㅤ其処に無理矢理九条大祐、天王寺飛鳥、森山碧の三人が割り込んだからだ。

 

ㅤ事の初めは、姉の八千代と決別し、悲しむ上柚木さくらに話し掛けた九条大祐という存在だ。

ㅤ更に天王寺飛鳥、森山碧が加わり、八千代を探し回って説得。

ㅤ最終的には二人を対面で話し合わせ、偶に三人が口出し、それで対話の成立が完了。

ㅤ上柚木八千代と上柚木さくらは仲の良い二人姉妹と変わったのだ。

 

(さくらがずっと此方を見てる…)

 

「応援してくれてるんだね、きっと」

「…うん。ありがと、さくら」

「ーーで?何の応援してるんだろ?」

「もうっ、アルモタヘルは静かにしてて」

「え〜…」

 

ㅤ丸で子供の様な反応を返すアルモタヘルに、上柚木八千代の表情には笑みが生まれた。

 

「あっ、八千代が此方に手を振ってくれたよ!」

「ふふっ…良かったですね、さくら。でも、さくらもお姉さんを応援している場合じゃありませんよ?」

「う、うんと…そうだね」

 

ㅤ八千代から初めて手を振って貰い、嬉しくなって舞い上がるさくら。

ㅤ然し、フォスフラムも言う通り、彼女も人の応援ばかりしている訳にはいかない。

ㅤそう、上柚木さくらという少女もまた、恋する乙女の仲間なのだ。

ㅤ相手が誰か等、フォスフラム以外には口外していない。

ㅤ謎だ。

 

「良いじゃん、戦斗君は雷鳥君に渡せば?」

「ぶっ」

「ちょっ大祐さん!?可笑しな事言わないで!?」

「…男から男にチョコとか、頭ヤバいんじゃないのか…?」

「ホモかよ」

「碧さんまで!?」

 

ㅤ今度は女性陣を置き去りに、男性陣の会話が始まった。

ㅤ内容は同性愛に関して。

…然し彼等は深く考えずに、明らかに同性愛を嫌っている。

ㅤ世の中にはそういう類の人種が居るのも考えず。

 

ㅤその会話を耳にしたクレプスは天王寺大和を見つめる。

 

「…クレプス、何だその目は」

「いや、思い当たる人物が居ただけよ」

「兄ちゃん同性愛だったんか!?」

「違う飛鳥!俺は断じて、飛鳥以外に興味は無い!」

「断じちゃ駄目だろ!?」

 

ㅤ三人の会話の中に、森山碧の突っ込みが炸裂する。

ㅤ誰がどう聞いても同性愛(ブラザーコンプレックス)な天王寺大和は、段々と立場が危うくなってきた。

ㅤ本人があんな事を断言してしまったのだ。

ㅤ誰しもが確信するとは思わないが、殆どの人は確実に天王寺大和を危険視するだろう。

ㅤ戦闘力的な面も、趣味的な面も。

 

「何やら楽しそうな事をしてるデース!私も交ぜてくだサーイ!」

「ボクも一緒に交ざるニャー!」

 

ㅤそして明らかに場違いな二人も乱入。

ㅤ場が混沌とする前に其処から離脱する九条と森山碧。

 

「後は宜しく」

「ちょっ大祐さん!?」

「彼奴っ…!」

「…俺は撤退するとしよう」

「私もそうするわ」

 

ㅤ逃げる二人に続いて背中を向ける天王寺大和にクレプス。

ㅤ最後にその場から聞こえたのは「クレプスさーん!」という少年の声だった。

 

「…それで、イベントは何時始まるのでしょうか?」

「ふむ、分からんな」

 

ㅤどうすれば良いのか分からないまま動揺する弓弦羽ミサキに、腕を組んでその時を待つガルマータ。

ㅤ更に隣には彼をチラ見するケィツゥー。

ㅤ偶に弓弦羽ミサキとケィツゥーの視線が合わさるが、お互いににっこり笑顔で違う方へと目を逸らす。

ㅤその度に気まずく、漂う空気に耐えられなくなるガルマータだった。

 

「ふん、誰がこんな企画を考えたんだ…」

「良いじゃねぇか!ちょことやらは俺が全部ぶん取ってやる!」

「「「さいてー!!」」」

「…神門、前言撤回だ」

「俺は何も言っていないぞ…」

 

ㅤ多数の女性から殺意の視線と批判を喰らい、滅多に前言を撤回しないアレキサンダーが引っ込む。

ㅤどうやら本気で殺されると思ったらしい。

ㅤ然し同時に、彼の中の闘志が湧いたのも事実。

ㅤ何れだけ戦闘狂なのかと、脳筋なのかと頭を抱える黒崎神門。

ㅤそんな彼の足元には彼の妹、黒崎春日がベッタリとくっ付いていた。

 

「みか兄様、イベントというのが楽しみです!」

「そうか…春日が楽しみというのなら、相当面白い事に違いない」

 

ㅤ兄妹ながらも互いを愛し合う二人。

ㅤ九条大祐の居た前世からすれば、ネジの飛び方が可笑しいと思われるだろう。

 

「なんでもっと上手くそのネジを飛ばせなかったんだ…」

 

ㅤ九条の心の声が口に出てしまう。

 

「全く…ブラコンが居て兄妹で愛し合っててホモが居て父親好きが居て…やはり頭のネジがーー」

「ホモじゃないですってぇ!」

「…気のせいか、少年の声が聞こえた様な気がしたが」

「気のせいだろ」

 

ㅤ九条大祐の悪ふざけに態と乗っていく森山碧。

ㅤ確かに、この場に居る人物達は一癖も二癖もある者ばかりだ。

ㅤそれは誰も否定出来ないだろう。

ㅤだからこそ意見の食い違いが生まれ、お互いを認め合うという事が出来ない。

ㅤそれも…昔の話となってしまったが。

 

「あら、ハーレムはその仲間じゃないのかしら?」

 

ㅤふと、騒ぎ立てる全員の前に一人の女性が現れる。

ㅤ九条大祐に刺さる言葉を口にしながら。

 

「…ヴェスパローゼさんに言われたらどうしようも無いじゃないですか」

「だいすけっ!」

「おっと…きさらちゃん、相変わらず元気だね」

「うぃ!」

 

ㅤ百目鬼きさらは九条大祐を視界に入れた途端、走り出し、彼の胸元へとダイブする。

ㅤそしてその後ろに居るのは紛れも無い、このイベントを企て準備を進めていた張本人、ヴェスパローゼ。

 

「大祐、来てくれたのですね」

「お母さんっ」

「…まさか、ヴェスパローゼだけじゃなくベガも一緒だったなんて」

「?リゲルさんはこのイベントの事、知ってたんですか?」

 

ㅤ九条は然りげ無く、リゲルの核心を突く言葉を投げ掛ける。

 

「い、いいえ?私にはさっぱり…何の事か分からないわね」

「リゲルさん、目が泳いでますよ」

「…なぁ、それは良いからよ。主催者が来たんだからさっさと始めようぜ」

 

ㅤ割り込む様に、催促する様に森山碧が話し掛ける。

ㅤ何時から居たのか分からない、背後にエレシュキガルを連れて。

 

「えぇ、そろそろ始める積もりよ。それと今此処に居ない人達は別件で忙しいと思って頂戴。一応、倉敷世羅って子は連れて来たわ」

「私も居ますの!」

「あほのめ五月蝿い…」

 

ㅤヴェスパローゼの隣から倉敷世羅がピョコッと姿を見せる。

ㅤ更にその隣で蝶ヶ崎ほのめが大きな声で自分をアピールし、彼女から一歩置いた距離感で迦陵頻迦が耳を塞いでいた。

ㅤ彼女等は仲が良いのか悪いのか。

 

「取り敢えず、これで全員ね。じゃあ始めましょうか」

「…世羅、もしかして道に迷った?」

「ううん…違うの。にいの為に…」

 

ㅤ倉敷世羅はあまり照れる事の無い活発少女。

ㅤモジモジとしながら手に持っている何かを必死に隠すという見慣れない光景に、九条大祐と戦斗冷亜は疑問を覚えた。

ㅤ特に戦斗冷亜。

ㅤ彼は倉敷世羅の幼馴染であるからこそ、近くで彼女を見てきた。

ㅤ何時もの彼女らしく無い所を至極怪しんでいる。

ㅤバレンタインというイベントで、そんな事気にしてられないと、直ぐに何処かへ視線を変えるが。

 

「さぁ、兎に角話を聞いて頂戴。この場に居る全員が参加者なんだから」

「…鬼ごっこの、ですか?」

「そうよ。唯、今回の鬼ごっこは普通の鬼ごっこじゃないわ。ルールは簡単、女性は鬼、男性は逃げる者達、捕まれば女性は10分以内に好きな事を一つだけ男性に命令出来るわ」

「うんうん……うん?」

 

ㅤ相槌を打った積もりの森山碧、疑問に感じる事があるようだ。

 

「あの…さーせん、それって男性陣のメリットが無くないすか?」

 

ㅤそんな彼の質問に、ヴェスパローゼは九条大祐を見ながら舌で自身の唇を舐める。

ㅤ彼は背筋に寒気を覚えた。

 

「まぁ…この鬼ごっこも時間制限有りなのよ。そして、見事逃げ切った男性には素敵な素敵なメリットがあるわ」

「素敵なメリット?なんやそれ」

「指名した女性からチョコを貰えて、且つ好きな命令を一つ下せるわ」

「ちょっと僕、やる気出てきたわ」

 

ㅤヴェスパローゼの言葉に珍しくやる気を見せる天王寺飛鳥。

ㅤこの時誰もがこう思った。

ㅤお前はやる気を出さなくても、チョコを貰えるだろと。

 

「…ふふ、私もヤル気が出て来ちゃった、相馬きゅん♪」

「ルクスリア、お前のやる気は字が違うから止めろ!」

「…それで、何時からスタートなんだ?武器使用の有無も問いたい」

 

ㅤルクスリア、剣淵相馬が言い合う中、天王寺大和は至って冷静にヴェスパローゼへ質問を投げ付ける。

 

「そうね…武器の使用は全面的に禁止するわ。そしてスタートの時間よね。此れなら男性の全員は驚くわよ?」

「驚く?」

「だって、武器も何も無いのよ?体格差があるもの。女性側に有利が付かないと」

 

ㅤ現在進行形で男性陣の脳裏に嫌な予感が通り過ぎた。

 

「今から私がスタートと言うわ。そしたら男性陣のスタート。それから30秒経過したら、女性陣のスタートよ♪」

「ヴェスパローゼさんまでもがやる気スイッチ入ってる!?」

「それじゃあ…スタートよ!」

「………え?」

「もうスタートしたんか!?…ちょっ、大祐君!固まってないで逃げるで!?」

「飛鳥、安心しろ。俺が付いてる」

 

ㅤそう言いながら徐に弟をお姫様抱っこしてその場を離れる天王寺大和。

 

「何で雷鳥まで此方に来るんだよ!」

「五月蝿い…お前が離れろ」

 

ㅤ始まって直ぐに啀み合いを起こす戦斗冷亜に雷鳥超。

ㅤ相変わらず仲が悪い。

 

「ふん…俺は此処から動かんぞ」

「じゃあ、みか兄様は春日が頂きます♪」

「あぁ、好きにしてくれ。春日」

ㅤ最早一種の変態と化した黒崎神門。

ㅤ近くで見ていた女性陣は全員がドン引きしていた。

 

「ヤバいぞ…ルクスリアに、男として殺されるーーて、おい!九条、お前が一番狙われる確率が高いんだぞ!さっさと逃げるぞ!」

「…えっ、あっはい…ガルマータさんは?」

「冷や汗全開でもう遠くまで逃げてる!」

「えぇっ!?」

 

ㅤルクスリアという女性から逃げるべく必死になる剣淵相馬に、多数の女性から視線を一気に向けられ、既に戦意喪失の九条大祐。

ㅤ彼は剣淵相馬に連れられる様にその場から逃げ始める。

ㅤガルマータは…とある女性二人から兎に角距離を取るべく、スタートダッシュで全力を出していた。

 

「…ふふっ、誰も逃がさない」

 

…戦慄の、リアル鬼ごっこ(バレンタイン)の始まりだ。

 

ーーー




黒崎神門のキャラ崩壊っぷりがエゲツない…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バレンタイン(中編)

先週投稿する筈が今日になってしまい、誠に申し訳御座いません。
急いで書いてしまった為、前話に比べて少しばかり雑になってしまいましたが頑張って書かせて頂きました。
加えて、話が長くなってしまいますので後編は二話に分けて投稿致します。

更に、本編のタグに追加致しましたが、毎週水曜日更新が一月に二回以上の更新に変えさせて頂きました。
しつこいようで申し訳御座いませんが、小説を止める気は一切無いので此れからも宜しくお願い致します。


『さーて、遂に、遂に始まってしまいました!恐怖のバレンタインデー鬼ごっこ!男性陣は既に遠方まで逃げています!』

 

「…はっ!?へっきー!?其処で何してんの!」

 

『何って…解説兼実況だよ、ハーレム君』

 

「その呼び名を止めろぉ!」

 

ㅤ敷地内に一つだけ立っており、至極目立つ解説席。

ㅤ森山碧、彼の姿は其処にあった。

 

「何か騒がしいのが居ないと思ったら…!」

 

『おいおい、軽く俺をディスるの止めてくれよ。大祐の現在地を公開しちゃうぞ〜?』

 

「全てはへっきーの手中って事かよ…」

 

ㅤ早くも息切れを見せる九条大祐。

 

『おっと?もう疲れてきたのか、九条大祐!女性陣、彼奴を襲うなら今しか無いぞ〜?意外に持つからな、大祐は』

『碧、彼方の方が面白い事になってる』

『おぉ、ありがとうエレシュキガル。後でお礼しなければだな!』

『楽しみ…♪』

『さぁて、彼方では何やら波乱な状況が巻き起こっている様子だぁ!逸早く逃げたガルマータが二人の女性に囲まれている!』

 

ㅤ森山碧の実況通り、ガルマータはケィツゥーと弓弦羽ミサキに挟まれていた。

ㅤじわじわと間隔が無くなっていく恐怖。

ㅤガルマータはそんなものを感じていた。

 

「…ミサキ、ケィツゥー、一回其処で止まーー」

「嫌です☆」

「幾らガルマータ様の命令とはいえど、今回ばかりは聞けません!」

「ふ、二人共、待て!話し合えばーー」

 

『あーっと!此処でガルマータ脱落か!?先に彼に触れたのはーー」

 

ㅤ其処で森山碧の解説が止まる。

ㅤガルマータの体に触れていたのは、紛れも無く弓弦羽ミサキとケィツゥー。

ㅤ然し余りにも同タイミング過ぎた所為か、解説の森山碧が困る事態となってしまった。

 

『…うん、そうだな…ビデオ判定と行きましょう!』

 

ㅤ自分では判断出来ないと思ったのか、早くも最終手段のビデオ判定を利用する。

 

「…て、一体何処に監視カメラが付いてんだか…」

 

ㅤこんな状況だからかも知れないが、些細な事に気が行ってしまう九条大祐。

ㅤ彼は設置されているトラバサミの簡易的な物を回避し、逃げつつも突っ込みの精神だけは忘れない。

ㅤ一体何時からそんなキャラになってしまったのか。

 

『…はい!判定が出ました!これはもう同時にタッチしたとしか言えないレベルですので、ガルマータさん!二人の美女と…素敵な1日を!………滅びれば良いのに』

 

「おいへっきー!最後の何だ!」

「…お、俺は…どうすれば」

「ガル君は、私と一緒に何処かお出掛けに行きましょう!」

「いえ!ガルマータ様は…私と…その…うぅ…」

 

ㅤケィツゥー…彼女はガルマータと何がしたいのか、言えないという事はそういう意味だろう。

ㅤ対して弓弦羽ミサキは、一般的に考えて優しい命令を下す。

ㅤ最早命令というか唯のお誘いだが。

ㅤこれでは、捕まったガルマータが間違い無く弓弦羽ミサキ側へ付くのは目に見えている。

 

ㅤ然し、恐らく誘い出してからが始まりなのだろう。

ㅤ弓弦羽ミサキとしては、先ずケィツゥーからガルマータを離す事からがスタートだ。

ㅤ其処から一気に畳み掛けて…と、見た目の割には際どい線を辿る彼女。

ㅤ純粋なアイドルでは無かったのか?

 

「…ガルマータ様、では、弓弦羽ミサキとの交流が終わり次第、その…私と…で、でで…でーとなど如何でしょう…?」

「………う、うむ…ガーディアンとして、ルールは絶対だからな…。二人の要望に応えられる様、頑張らせて貰おう」

 

『やだ、ガルマータ君イケメン』

 

「へっきーキャラ崩壊してんぞ」

 

『うるせ』

 

ㅤ九条大祐と森山碧の会話が既に日常の物となっている。

 

…こうしてガルマータと弓弦羽ミサキは何処か知らぬ場所へと姿を消した。

ㅤケィツゥーはガルマータの帰りを待つべく、ずっとこの場に居座る様だ。

ㅤ譲り合い、等と言って良いのか分からないが、弓弦羽ミサキを優先した優しさは彼女の一つの取り柄だろう。

ㅤこの時、ガルマータの中でのケィツゥーという女性の株が少し上がっていた。

 

『というか女怖ぇぇ…乙女とか嘘だろ…見てる此方がはらはらするな』

 

「やってる奴等の方がもっとはらはらしてるからな」

 

『だろうな、まぁ頑張れよ。…さて、彼方は天王寺大和の逃げる道をクレプスが遮断している!弟を抱き抱えた大和兄ちゃん、此処からどうする!?」

 

ㅤ森山碧の、解説+日常会話を使い熟す辺り、九条大祐は至って普通に上手いなと感じていた。

ㅤだが、余裕を持って逃げていた彼にも危機が迫っていた。

ㅤ背後から忍び寄る気配。

 

「…!」

 

ㅤ九条は無言で横にサッと避ける。

ㅤすると、彼が先程まで居た場所を羽交い締めにしようとする女性が一人。

 

「あらら、逃げられちゃった♪」

 

ㅤその女性は九条を見て、にっこりと笑顔を向ける。

ㅤ彼女の笑顔は九条の背筋を凍らせた。

 

「…ルクスリアさん、貴女…相馬さんが目的じゃーー」

「私が何時、相馬きゅんを好きだと言ったかしら?」

 

ㅤルクスリアの意外な答えに驚愕を隠し切れない九条大祐。

ㅤ彼の中ではてっきり、自分は遊びで剣淵相馬が本命と思っていた為、口から言葉が出なくなってしまった。

 

「そんな冗談…通じませんよ」

「ふふっ、どうかしらね。現に私は…貴方を狙い仕留めようとしている」

「ルクスリアさん一人位なら逃げ切れる自信、有りますけど?」

「そうね。だから、応援を呼ばせて貰ったわ」

 

ㅤ九条はこれ以上話している時間は無いと、その場から即座に離れようと走り始める。

ㅤ然し時既に遅し。

ㅤ彼の周りには、彼を囲うかの様に円を描いて逃がそうとしない女性陣。

ㅤ状況的には先程のガルマータと同じ事になっている。

 

「さぁ、大祐。大人しく捕まって頂戴」

「…そういう悪役染みた話し方、久しぶりですね、ヴェスパローゼさん」

「言うて此方も人数自体は少ないわ。逃げようと思えば、貴方なら逃げられるんじゃ無いかしら?」

「貴女は何時も…無理難題を仰る」

 

ㅤ口では強気な九条も、顔には苦笑いを浮かべていた。

ㅤヴェスパローゼの言う通り、周りの女性はベガ、リゲル、各務原あづみ、百目鬼きさら、ヴェスパローゼ、ルクスリアの6人。

ㅤバトルドレスが起動出来るのであれば、九条は余裕で振り切れるだろう。

 

ㅤそう、バトルドレスを起動出来れば、だが。

 

ㅤ武器の使用を全般禁止したのにはこういう理由も含めていたのであろう。

ㅤ九条はバトルドレス装着を試みるも、何故かバチッと弾かれてしまう。

ㅤヴェスパローゼ…いや、この場合はベガが何か仕掛けたに違いない。

ㅤどうすればこの窮地を脱せるか、この短い時間で九条は試行錯誤を繰り返す。

 

「…大祐、どうして逃げる必要があるのですか?捕まってしまえば、貴方の大好きなあづみとリゲルと…貴方は繋がる事が出来るのですよ?」

「残念ながらこういうイベントは、面白さを取る人間でしてね。縛られた空間の中で多数VS自分一人というのは、スリル満点で楽しいじゃないですか」

「…私は大祐くんに、本当は普通に渡したかったなぁ…」

 

ㅤ各務原あづみの本音が口から漏れ出す。

 

(しっかし…この場を乗り切るにはルクスリアさんとヴェスパローゼさんが厄介だな。さてどうするか…)

 

ㅤ九条大祐としてはこの状況を楽しみたくもあるが、失敗すれば反動が自分に返って来る事を悩んでいた。

ㅤそれがルクスリア、ヴェスパローゼという女性二人を攻略出来れば話は別らしい。

ㅤ要するに、先ずは二人をどうにかしなければ逃げようにも逃げられないという事だ。

 

ㅤそんな、一触即発という言葉が相応しい状況で、天は彼を見捨てはしなかった。

 

「大祐くん、掴まって!」

 

ㅤ何処からか、自分の名前を呼ぶ声が周囲に響き渡る。

ㅤ九条大祐を「大祐くん」と呼ぶ人物は各務原あづみ。

ㅤだが、彼女は九条を追い詰める側の立場に居た。

ㅤそんな「私が触れないなら相手から触って貰えば良いじゃない」みたいな発言をする人物では無いと、九条大祐自身が一番分かっている。

ㅤならこの声の主は誰なのか。

 

ㅤその場に居る全員がそう思った瞬間、九条の背後から少女らしき影が現れる。

 

「ナナヤ!有難いタイミングだ、助かる!」

 

ㅤ彼はそう言って、後ろから伸ばされる彼女の手を握る。

 

「…此方こそ、ありがと…♪」

「はい?」

 

ㅤ九条は一瞬、腑抜けた声を出した。

ㅤ然し直ぐに気付く。

ㅤこれは、危険な選択肢だったという事に。

 

「さ、ちょっと遠くに…二人でデートしに行こっ♪」

「まっ待って!…大祐くんを何処に連れて行くの」

「う〜ん…そうだね、この敷地内には居るから、見つけられたら私は大祐くんから手を引くよ?けど…見つけられなかったら、んふふ〜大祐くんをどうしよっかな♪」

「ちょっ、ナナヤ、頬擦りは止せ」

 

ㅤ九条大祐の正真正銘、お互いの了承の元、付き合いをしている各務原あづみの前で彼女に見せ付けるかの様な言動をするナナヤ。

ㅤ彼は私の物だと言い張りたいからなのか、将又自分の方が彼に相応しいと言い張りたいからなのか。

ㅤ何方にせよ考えている事が卑劣で幼稚なナナヤだった。

 

ㅤ然し、自分の一番大好きで大切な存在にそんな事をされて黙っている程、各務原あづみは大人では無い。

ㅤいや…大人でも黙る筈がない。

ㅤ現にリゲル、ベガ、ヴェスパローゼ、百目鬼きさらもナナヤに対して険悪な雰囲気を醸し出していた。

ㅤ唯一人、ルクスリアを抜いて。

 

「さぁ、私と大祐くんを見つけてみてよ。出来るなら、ね♪」

「ナナヤの方がよっぽど悪役染みてるじゃないか!」

「ほらほら大祐くん、行くよー」

「へ?行くって何処にーー」

 

ㅤ彼の言葉を最後に、ナナヤと九条大祐はその場から消え去った。

ㅤ唐突なイレギュラーの登場に、沈黙する各務原あづみ達。

ㅤ然しその沈黙は直ぐに打ち破られた。

 

「…大祐くんを、見つけに行かなきゃっ」

 

ㅤそう言って、各務原あづみは何処に居るかも分からない二人を探しに走り出す。

 

「私も、あづみの意見に賛成するわ」

 

ㅤ彼女に続いて、リゲルも走り出す。

 

「当てがないのは困ったものですが…」

「途中出場であんな自由勝手な事されたんじゃ、流石の私達も黙っては無いわよ。きさら、スカウトシーク達を呼んで」

「うぃ!…きぃも、だいすけさがすっ」

 

『おっと…俺が天王寺大和とクレプスの戦いに集中している間に、大祐サイドが訳分からん事になってるな。解説が追いつかん』

 

ㅤそんな森山碧の解説も耳に入っているのか分からないが、彼女達は一人の男性を探しに足を動かした。

 

『…あれ?このゲームの趣旨、意味無くね」

『碧の言う通り。全員が全員自由過ぎるわ。…特にナナヤ。あんなハーレム男に味方する訳じゃ無いけど、今回ばかりは大変そうね』

『まあ、彼奴に同情は要らねぇよ。ハーレム路線を進む奴に碌な人間は居ないからな。…頑張って乗り越えて欲しいもんだ』

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「…ナナヤ、あれは一体どういう事だ」

「んー?愛の確かめ?」

「はぁ…」

 

ㅤ九条大祐には、ナナヤが何を言っているのかが分からず終いでいた。

 

「一体何の話をーー」

「だって、大祐くんの事が本当に好きな子達なら、必死になって私達を探すでしょ?これは…あの子達が大祐くんを好きかどうか、確かめるためにやってるの」

「…他に目的は?」

「大祐くんはバトルドレスが起動出来ない=私からは逃げられない。という事は、大祐くんと二人っきりになるチャンスだと思っただけだもん」

 

ㅤ少しの幼さを見せ、九条大祐を魅了するナナヤ。

ㅤ彼が「幼い」という言葉に弱い事を知っていて態とやっているのか、中々に悪巧みが上手い彼女。

ㅤ完全にナナヤの思い通りにされていると、弄ばれている自分が悲しくなる九条だった。

 

「…にしても、こんな手作り感満載な木で作られた小屋に連れて来て、何するの?如何にもヴェスパローゼさんかベガさんが、男性陣の逃げ場所として作ってくれた場所っぽいけと…」

 

ㅤ頭に?マークを浮かべ、周囲をキョロキョロと見渡す九条大祐。

ㅤそんな彼を見つめるナナヤは、口元をニヤリと歪ませる。

 

「ふーん…これ、此処に逃げたら絶対に捕まーーちょっ…ナナヤ!?」

「あ、バレちゃった?」

 

ㅤ九条大祐の反応に、ナナヤはキャピッと笑顔を見せる。

ㅤ一体彼に何があったのか。

ㅤ外見は至って普通の、何時も通りの九条大祐だ。

ㅤ然し彼の身には何かが起こっていた。

 

ㅤそう、体が動かないのだ。

 

ㅤ両手は後ろに縛られた様に、両足はロープで固定されたかの様に。

ㅤ九条大祐の体は動きに制限を掛けられていた。

 

「…ナナヤ、これを解除しろ」

「いーやっ。だって、私はちゃんと言ったんだもん。あの子達が大祐くんを見つけられなければどうなるかって」

 

ㅤナナヤはそのまま、身動きの取れない九条大祐に近付き、彼の身をゆっくりと地面に倒して行く。

 

「だから、大祐くんをゲットした私は、貴方を好きな様にしていいの…♪」

 

ㅤそして彼の腹部の上へ、徐に股がった。

 

「ナナヤ、本当に止せ。何をする積りだ」

「悪いのは大祐くんなんだよ?私に構ってくれないから。…それに、これからする事なんて大祐くんも分かってる筈だよ」

「…正気か?神様と人なんだぞ?」

「だからこそ。神様と人間の間に産まれるのって、何方なんだろうね…♪凄い気になっちゃう」

 

ㅤナナヤはずっと彼を見つめ、笑みを浮かべ、九条の頰から首へと撫でる様な手付きで触り始める。

 

「私は知ってるよ。大祐くんが、誰ともした事無いの」

「当たり前だ、まだ15歳なんだからな。…というか、神様にはプライバシーを尊重するって概念が無いのか?」

「それは置いといて。…という事は大祐くん、穢れって物を知らないんだよね」

「だから?」

「そんな大祐くんを見てたらね…んふっ♪」

 

ㅤするとナナヤは、自らの唇を九条大祐の唇へ近付けて行く。

 

「壊したくなっちゃった…♪」

「…!」

 

ㅤそう言ってナナヤは九条大祐へと、徐々に徐々に唇の距離を短くして行く。

ㅤそして互いの唇同士がが触れ合いそうになった瞬間。

ㅤほんの一瞬だが、眩い光が二人を包んだ。

ㅤあまりの眩しさ故にナナヤは目を閉じ、直ぐにパチっと開く。

ㅤすると先程まで股がっていた彼が目の前で立っていた。

 

「…本気で、危なかった」

「あー逃げちゃ駄目なんだよっ」

 

ㅤ駄々をこねるナナヤ、対して九条大祐は冷や汗を額から流していた。

ㅤそんな彼の体にはバトルドレスが装着ささっている。

ㅤ恐らくベガが、武器の使用禁止を解除したのだろう。

ㅤ理由?多分、女の勘というやつだ。

ㅤそれに伴い九条のバトルドレスも解放、間一髪でナナヤの力を振り切って逃げたという訳だ。

 

「んもぅー…酷いよ、大祐くんっ」

「ファーストキスを易々と奪われてたまるか」

「全く…私をその気にさせたのは大祐くんなんだから。責任取ってよねっ」

「んな無茶な…」

 

ㅤ頭に手を当て、やれやれと左右に動かす。

ㅤ九条大祐は本心から呆れていた。

ㅤ然しそれと同時に、ナナヤは本気で自分を狙いに来ているとも感じた。

ㅤこのままでは何時しか…それとも今この場で、又襲われ兼ねない。

ㅤ先程部屋を見渡し、この小屋の何処に扉があるのかは把握していりる。

ㅤ後は出るだけなのだが。

 

「ナナヤ、どうせこの扉…オンボロそうに見えて開かないんだろ」

「大祐くんはさっすがだね。そうだよ、外部からの力は受け付けるけど内部からのそれは拒否する様に改造しといたのっ。どう?凄いでしょ〜?」

「その頭をもっと違う事に活かしてくれないか…」

 

ㅤ再度額に手を当てる九条大祐。

ㅤ因みにナナヤは、先程の行為は幼さを利用した言動をして彼に襲い掛かった。

ㅤだが、彼女は普通にしていても精神的に幼い所が多々見受けられる。

ㅤ今のこの扉の仕掛け、実はかなりの時間を費やして思い付いた物なのだ。

ㅤ常人であれば直ぐに思い付きそうな発想だが。

ㅤどうしても九条大祐と自身を二人っきりの空間に閉じ込めたいと、悩んだ末にこの仕掛け。

ㅤ寧ろ悩む必要があったのかと突っ込みたくなる程だ。

 

ㅤそれに、ナナヤの言動は誰がどう見ても、どう聞いても少女其の物だ。

ㅤ見た目が少女であるが故に言動までもが少女化しているのか。

ㅤ神様の実態というのは熟分からない事だらけだ。

 

ㅤと、考えながら九条大祐はナナヤを見つめる。

 

「…でも、その好意は素直に嬉しいよ。有難う」

「えっ…と…そ、そんな急に態度変えられても、私が困っちゃう…ていうか…なんていうか…」

「取り敢えず、今迄通り背中にくっ付くのは気にしないから。極度な触れ合いは遠慮願うけど」

「むぅ〜…どうせあの各務原あづみって子とリゲルってグラマラスな子に攻められたら、最後まで到達しちゃうんでしょ?」

「二人がそれを望めば、だけどね。…後、来客が一人来ている様だから入れてあげて」

 

ㅤ九条のその言葉に反応するかの如く、扉がガタッと音を立てる。

ㅤ最早誰かが居る事等明白だ。

ㅤそれはナナヤも分かっていて、だからこそ嫌な表情を浮かべている。

ㅤ本来は二人っきりの予定がこんなにも早く誰かに見つかったから、という理由もあるのだろう。

ㅤ彼女は渋々「開いてるよ」と一言。

 

ㅤすると、ボロボロの扉がギィという音を鳴らしながら開く。

ㅤ其処に居たのはーー

 

「…にい、お、おじゃまします」

「世羅!良く此処が分かったね!」

「何で大祐くんは嬉しそうなの…」

「にいは世羅が来て、嬉しいの?」

「うん」

「…そう言ってくれると、世羅の方が嬉しくなる///」

 

ㅤ幼い少女はモジモジと両手を合わせ、顔を下に向けながら照れていた。

ㅤ然し九条大祐としては、何時もの彼女らしく無い事が気に掛かっている。

ㅤ倉敷世羅の取り柄である活発さがあまり目立たないというのは、彼の中に違和感を齎した。

 

「…えーと、で。世羅はどうして此処に?戦斗君は探さなくて良いの?」

「戦斗くんは近くに居るきこくしじょむねにくに夢中だから、嫌いっ。男の子は皆、なんで胸の大きい女性が好きなの?」

「厳密に言えば誰も彼もが胸が好きな訳じゃないんだよ。実際、俺自身が胸の大小を気にする男じゃないしね」

「大祐くんは確かにそうだよね〜…」

「それに、好きになってしまえば胸の大きさなんてどうでも良くなるんだよ。相手の内面含めて愛しているわけだから」

 

ㅤ九条大祐の諭すような口調に何かを気付かされた倉敷世羅。

ㅤそして彼の「胸の大小を気にする男じゃない」という言葉を聞き、又もや恥ずかしがっている。

ㅤ何故か調子の狂う九条大祐だった。

 

「…じ、じゃあ…にいは、胸の小さな女性も受け入れるって事…?」

「相手が俺に好意を持って接して来てくれるのであれば、その好意には最大限応える積りだよ」

「それが…世羅でも…?」

 

ㅤそう言いながら倉敷世羅は、ずっと後ろに隠していたハート型の何かを九条大祐の前へ出す。

ㅤ流石の九条も状況を理解したのか、あたふたと慌てふためく。

 

「い、いや…世羅。君は俺なんかよりずっと素晴らしい人と絶対巡り会えるって。世羅は凄く可愛いんだから。勿論、内面もね」

 

ㅤ彼は倉敷世羅にそう告げると、彼女の頭を撫でてやる。

 

「…世羅じゃ、だめ…?」

「駄目じゃないよ。でも…世羅にはもっと良い人が見つかるから。何と無くそんな気がする」

「大祐くん、せめて確証を得てから話そうよ」

 

ㅤナナヤに痛い所を突かれ九条は「うぐっ…」と声を出す。

ㅤ確かに、彼自身が確証を得ないと動かないタイプの人間なのに、人に対してその中途半端っぷりはなんだと。

ㅤこの時「やっぱり勘で話しちゃ駄目だな」と内心後悔する九条大祐だった。

 

「せ、世羅は…にいが良いのっ」

「ほらー、世羅ちゃんは自分の気持ちをちゃんと伝えてるよー?大祐くんも応えてあげなきゃ」

「…そうだよな」

 

ㅤ何故ナナヤにリードされているのか、抑リード出来る立場に居るのか?等、色々と余計な事を考え始める。

ㅤそんな事を言ってしまえば自分もそうだと言われてしまうが為に口にはしないが。

ㅤ然し乍ら彼は真剣に倉敷世羅の将来を考えていた。

ㅤ自分なんかが彼女の相手で良いのか、だが、相手からの好意は素直に受け取って応えると言ってしまった。

ㅤ倉敷世羅に好意を寄せられた以上、現状九条大祐は彼女を受け入れる他無い。

 

「…うん。世羅が良いなら、俺は構わないよ」

「ほんとっ!?」

「でも、これだけは覚えておいて欲しい。もし他に好きな人が出来たら、俺よりも其方を優先して欲しいんだ。其れだけは絶対」

「む〜…にいの他に好きな人なんて出来ない…て、思うのに」

「万が一だよ。…それに、神門はどうなの?」

「みかにいはお兄ちゃんって感じなの。凄く優しいお兄ちゃん」

「戦斗君」

「彼奴は…許さない」

「世羅ちゃんこわーい。あははっ♪」

 

ㅤ丸で揶揄うかの様に笑って見せるナナヤ。

ㅤやはり神様にデリカシーという概念は存在しないらしい。

ㅤ笑顔は凄く可愛い、が然し言っている事が微妙な気持ちになる事から、九条大祐はナナヤに苦笑いを浮かべる。

ㅤそれは倉敷世羅も同じらしく、彼女は苦笑い…では無く頰を膨らませて怒りを表していた。

 

…怒りを表している筈なのに可愛いとは、等と思ってしまう九条。

ㅤやはり可愛さは正義という事なのか。

ㅤcute=justice、正にその通りだ。

 

「…あ、そうだ。世羅に見つかったんだから、戻っても良いよね」

「えー…もうちょっと二人だけで居たかったのに…」

「あづみお姉ちゃんと隣に居るむねにく、にいの事必死に探してたよ?」

「マジか!じゃあ帰る!!」

「大祐くんの基準って何なのかなぁ…?」

 

ㅤ二人の事になると考える間も無く行動に移す。

ㅤそれが九条大祐という男だ。

ㅤだが、ナナヤは彼が何故そうなのかとずっと悩み続けている。

ㅤ何故二人を対象に取った時だけあんなにも俊敏なのか。

ㅤ答えはまだ見つかっていない様子だ。

 

「ナナヤ、マジで此処から出してくれないか?」

「うーんとね…その必要、無いかもしれないよ」

「自力で開けろって事か…」

 

ㅤ一時的に封じ込められたバトルドレスを解放した今、九条は破ろうと思えばナナヤの謎結界を簡単に解く事が出来るだろう。

ㅤだが、ナナヤはそういう意味合いで「必要無い」と言った訳では無い。

ㅤじゃあどういう理由で必要無いと口にしたのか。

ㅤそれは直ぐに分かった。

 

ㅤ九条は自分の思い込んだ通り、扉を強引に開けようとドアノブに手を掛ける。

ㅤ然しその瞬間。

 

「大祐くん!!」

「おあっ!?」

 

ㅤ急に勢い良く開いた扉に押し出され、九条は地面へ尻餅を着いてしまう。

 

「大祐くん…見つけーーきゃっ」

 

ㅤ更に扉を開けた張本人、各務原あづみが足を滑らせて九条の胸元へとダイブ。

ㅤ然も彼女の後ろに居た女性陣までもがバランスを崩し、九条の上へ覆い被さる様に倒れ込む。

ㅤどうしてそうなってしまったのか。

ㅤ実はナナヤは嘘を吐いていたのだ。

ㅤ彼女は「内側からは開けられないが、外側からは開けらる」と九条に伝えた。

ㅤ然し、これが嘘だった。

 

ㅤ正しくは「内側からも外側からも開けられない」が正解だ。

ㅤでは何故、倉敷世羅は入れたのか。

ㅤあの時ナナヤは「開いてるよ」と一言言い放った。

ㅤ只其れだけで扉の絡繰は一時的に解除されたのだ。

ㅤだが、九条大祐が倉敷世羅との会話を真剣にしている間に再度絡繰を掛け直した、という。

 

ㅤ何をしても開かない扉を前に、各務原あづみ達は強引に突破しようと考えた。

ㅤリゲルやベガがバトルドレスを起動させ、攻撃。

ㅤヴェスパローゼと百目鬼きさらが蜂に攻撃を指示。

ㅤ然しそれでビクともしない扉。

ㅤ結果、全員で押した方が早いという事になり、押してみたところ。

 

ㅤ九条大祐が同タイミングで扉のドアノブに触れ、ナナヤの結界を打ち破った。

ㅤ偶然に偶然が重なり、見事こんな状況になったという訳だ。

 

「いてて…あれ、あづみさんにリゲルさん…ベガさん達まで」

「ありゃ?可笑しいなぁ…どうして解除されたんだろ…」

 

ㅤ自身の力が打ち破られ、本気で悩み始めるナナヤ。

ㅤ完全にナナヤ潰しと化している九条大祐。

ㅤだが、彼女の結界が破られた理由は彼だけでは無かった。

 

「ナナヤ…貴女は好い加減大人しくしなさい」

「おいおい大祐、折角助けに来てやったのに。リア充生活全開を俺に見せ付けているのか?」

 

ㅤそう、同じ神であるエレシュキガルに、神である彼女の恩恵を一番得ている森山碧が加わり、ナナヤの謎結界を潰したのだ。

 

「結構強い聖域を生成したのね」

「それが大祐くんに一瞬で破られた…」

「あら、神の力が人間に敵わなくて、悲観しているのかしら?」

「…ふふっ…やっぱり、大祐くんは流石だねっ!」

「…ナナヤが壊されたわ」

 

ㅤエレシュキガルは鳩が豆鉄砲を食らったかの様な表情で、ナナヤを見つめる。

ㅤ以前の彼女なら従わない者、自分よりも上の力を持つ者が居れば即座に排除しに掛かっていた。

ㅤだが、今の彼女は違う。

ㅤ純粋に九条大祐の能力を評価している。

ㅤ見た事も聞いた事も無いナナヤの言動に、少しばかり戸惑うエレシュキガル。

 

「神様って、案外変わり易いのか?」

「…その考え方は間違い。私は碧の御蔭で変われたのは認めるけど…ナナヤがあんな風になるなんて」

 

ㅤ驚きを隠し切れないエレシュキガル、対して森山碧は興味を示していなかった。

ㅤ興味其の物が無いからだ。

ㅤナナヤに無関心なのだから当たり前だろう。

 

「あっ、だ、大祐くん、大丈夫…?怪我してない?」

「大丈夫…あづみさんやリゲルさん達が無事なら俺は良いんですよ」

「武器縛りを解除して正解でしたね。立てますか?大祐」

「有難う、ベガさん」

「私も手伝うわ」

 

ㅤ尻餅を着いた時の振動が頭に来たのか、フラフラと安定した行動が取れない九条。

ㅤそんな彼を、リゲルとベガで両脇で支える。

 

「俺、今凄く幸せです」

「ふふっ、大祐もそんな事を思うのね」

「にい、私が前を歩いてとらばさみって危ないの、どけとくっ」

「きぃもてつだう!」

「じゃあ、私は後ろを付いて歩いてようかしら。万が一倒れたりしたら危ないわ」

「という事は、後ろに倒れればヴェスパローゼさんの膝枕でも待ってるんですか?」

「いいえ?体勢的にそれはキツイわ。だから、この胸で大祐をキャッチしてあげる」

 

ㅤそう言いながらクスクスと笑うヴェスパローゼ。

ㅤそんな後ろからの笑い声に、苦笑いを見せる九条大祐。

ㅤ二人で仲良く話していると目の前に各務原あづみがぴょんっと現れる。

 

「え、えっと、私は大祐くんの話し相手で良いかな…?」

「それなら私も〜」

「あづみさんも有難うね。でも…ナナヤ、本当に反省しているのか?」

「してるもんっ。本来ならこうなる予定じゃなかったんだよ?」

 

ㅤ彼は、あぁ、そりゃそうだろと心の中で突っ込む。

ㅤナナヤの目的は完全に九条其の物であって、話したいから〜愛を確かめたいから〜といった事は建前にしか過ぎない。

ㅤあのままナナヤの思い通りに事が進んでいたら、間違い無く九条大祐は彼女の物となっていただろう。

 

「だから何時も言ってんだろ。事は早めに済ませろってさ」

「そういうへっきーは、エレシュキガルさんとどうなの?」

「ん?あぁ…まぁ、な」

「えっ…まさか…済ましーー」

「てませーん!…あ、これマジな」

 

ㅤ森山碧のフェイントに思わず殴り掛かりそうになる九条大祐。

ㅤだが、リゲルとベガに挟まれ、支えられている今はぐっと我慢を貫く。

ㅤ目の前には各務原あづみも居て、後ろにはヴェスパローゼが居て、背中付近にはナナヤが居て。

ㅤ因みに彼を支えているベガは、隣で好きな人がこんな事を話している為、顔を真っ赤にさせていた。

 

「…何だろう、凄く苛々するわー」

「へっきー、それは個人の見解でしょ。…それはそうと、バレンタインイベントはどうなったの?」

「一応続いてるぜい。まぁ、殆ど終わったけどな。結果は後で報告するわ。お前、疲れてるだろ」

 

ㅤ森山碧は丸で見通したかの様に、鋭い視線を九条へ浴びせる。

 

「…何故分かった」

「そりゃあ分かるわよ。だって大祐、顔が窶れているわよ?一体ナナヤに何されたの…」

「てへっ☆」

「全く…ナナヤは…」

「それは兎も角、今は大祐を自宅で休ませるのが先です。私達はこのまま帰りますので、後は森山碧…貴方が仕切って下さい」

「俺!?イベント主催者が居なくなったらやる意味ないじゃないすか!」

「私は大祐の心身の方が心配です。だから其方を優先させて頂きます。イベントを企画した者として、思わぬ危害が加わってしまった者の看病は見るべきだと考えているので」

 

ㅤすらすらと自分の意見を述べるベガの言葉を聞いて、森山碧は微妙な表情を見せた。

ㅤ彼女は只、親友の側に居たいだけなんじゃないかと思ってしまったからだ。

ㅤ然しそれは口に出さない森山碧。

ㅤたった一言「了解した」と言って、エレシュキガルと一緒にその場を立ち去る。

 

ㅤ彼の背中を見ながら、九条大祐は親友である森山碧に申し訳無い気持ちで一杯だった。

ㅤ何時もこういう面倒事を引き受けてくれるのは彼だ。

ㅤ直接「有難う」という気持ちを伝えるのはキャラじゃないと、九条は思っているが。

ㅤ本心から森山碧という存在に感謝をしている事に嘘も間違いも無い。

 

「大祐、もう少しで着くから。頑張って」

「…極度のストレスって、やっぱり厳しいなぁ」

「ひっどーい、大祐くん…其処まで言わなくても良いじゃん…」

 

ㅤ割と本気で沈み込むナナヤ。

 

「違う違う。ナナヤだけの所為じゃないよ。最近悩み事が多くてね…此れからの事とかさ」

「大祐くん…あのね、もうちょっと私達を頼ってくれても良いんだよ…」

「あづみさん達に迷惑を掛ける位なら自分一人で抱え込んだ方がずっとマシだよ」

 

ㅤそう、ニコッと無理矢理作った笑顔で彼女達を安心させようとする。

ㅤ然し彼女達はそんな事は望んでいない。

 

「大祐…貴方が倒れただけで何れだけの人が心配するのかを、しっかりと認識した方が良いわ。私やきさらだってその一人なの」

「だいすけ…たおれちゃ、いあっ…」

 

ㅤ百目鬼きさらは悲し気な声で、九条の足元にくっ付く。

ㅤいつの間にか倉敷世羅まで彼を抱き締めていた。

 

「にいには…ずっと元気でいて欲しい…」

「ふふっ…大丈夫だよ。二人共有難う」

「…大祐くんは私達にとって大切な人…だから、辛い事とか…えと…なんていうか、そういう事が起きて欲しくないの」

「あづみさんまで…」

 

ㅤ彼女達の九条を心配する心に偽りは無い。

ㅤその気持ちが彼にも、嫌という程伝わった。

 

ㅤ各務原あづみは百目鬼きさら、倉敷世羅の手を握って、再度歩き始める。

 

「…それでも、俺には分からない」

 

ㅤ九条大祐は最後にそう呟いて、自分も再度歩き始める。

ㅤ其処からあまり間も無く自宅に着き、自室のベッドの上でゆっくりと休息を取る。

ㅤ彼が次に目を覚ましたのは夜遅くの事だった。

 

ーーー




森山碧君の解説があまり書けなかったので、何時か書かせて頂きます。
(後書きにでも)
早く本編を進めたいこの頃…。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バレンタイン(中編2)

Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜を読んで頂いている方々、長期間お待たせてしまい申し訳御座いませんでした。
一ヶ月半近く間を空けてしまい、活動報告等何も書かずに…。
お詫びと言うにはアレですが、今回は3話連続更新させて頂きました。
どの話も10000字を越しておりますので一気に読まれるか、ゆっくり読まれるかはお好きにどうぞ。
(先ず作者が決める権利等無いのですけど)

本編も何話か書いていましたので今月中に一回位は更新出来るかと思われます。
漸く本編に戻れます…此方も、お待たせしてしまい申し訳御座いませんでした。
本編の主人公はこんな幸せ者とは真逆だったりしたり…次回からの小説投稿を少しでも楽しみにして頂けていれば嬉しいです。

バレンタインとか何時の話だよって思いますよね…。
今回の話は主人公が一番の幸せを掴んだ場合、という設定なので、兎に角ハーレムしております。
苦手な方はブラウザバックを強く推奨致します。
待たせておいて何だそれと思われた方、本当にすみません。
そう思われ無かった方には深く感謝致します。
此れからもこんな作者の書く小説で良ければ、宜しくお願いします。

長文失礼しました。
何か感想等御座いましたら、遠慮無くどうぞ。
どんな意見も作者は受け入れますので。


ㅤカチャカチャと音が聞こえ、ふと目を覚ます九条大祐。

ㅤ窓から見える外の景色はすっかり暗闇に包まれていた。

ㅤ自室に帰って来てから殆ど記憶が残っていない彼は、取り敢えず辺りを見渡す。

ㅤ其処には何時もの、自室の光景のみが目に映っていた。

ㅤ寝起きで未だにぼーっとする頭を背伸びして起こし、一旦布団から出る。

ㅤすると次の瞬間、隣の広い部屋からガチャンッという音が鳴り響いた。

ㅤ一体何事だと、九条大祐は自室の扉を少しだけ開いてクリアリング染みた行為を行う。

ㅤすると彼の目には驚くべき光景が飛び込んできた。

 

「あづみ!怪我は無い!?」

「リゲル、ちょっと大袈裟だよう…きさらちゃんがお皿を落としちゃっただけだから」

「飛び散った破片で傷付く事もあるから気を付けなさい。…それより、大祐が起きてないと良いのですが」

「お母さんは色んな人を心配して大変だね。私は全然平気だよっ」

 

ーーー

 

「きさら、今度は私も一緒に持って行くわ。充分に気を付けた方が良いわよ」

「きぃ…がんばゆっ!」

「きさらちゃん、世羅お姉ちゃんも手伝うよ!」

「せあ、あぃがと」

 

ーーー

 

「ますたの為に作ったこれ…どうやって持って行きましょうか」

「type,Vなら、バランス感覚的に良いんじゃ無いかしら?」

「それならtype,II、貴女も優れている筈です」

「…でも、一人や二人じゃ持てないわね。あっ、オリジナルXIII全員で持って行けば良いじゃない」

「その方が効率的に最適な判断ですね」

「私も手伝いますわ!」

「いえ、ほのめ様が加わってしまうと、これを落としてしまう確率が90%まで跳ね上がります。よって、大人しくして貰えれば有り難いです」

「うぅー…酷い言われ様ですの」

 

ーーー

 

「大祐くん、早く起きないかなぁ…♪」

「バンシーちゃん、今大祐くんが起きてきちゃったら全部台無しになっちゃうわよ?」

「あっそうだった…でも、早く起きてこないとあれ、グラちゃんに食べられちゃう」

「大人のレディがそんな事する筈…無いじゃない。自分でもそれが心配で先にディナーを済ませて来たのよ?」

「準備万端だね」

「当然よ!」

 

ーーー

 

「…ばれんたいん…とは、どんな行事なんだ?」

「あれ、ウェルキエル知らないのー?」

「好きな人にチョコという、甘いお菓子をプレゼントする行事ですよ〜」

「ウェルキエルは大祐くんの事好き?」

「わ、私が…彼に対して抱く感情は…好意とかではない。共に認め合う戦友の様に感じている」

「うわー…」

「何だその反応は。そう言うムリエルはどう思ってーー」

「ん?好きだよ?」

「ぶっ」

「二人の会話、聞いているだけで飽きませんよね〜」

 

ーーー

 

「やっぱり、こうして見ると大祐は一夫多妻…いえ、一夫大多妻という言葉が似合います」

「和修吉…貴女もその一人なのよ?それに大祐は未だに誰を妻にするとかは言っていないわ」

「私を選んでくれれば、彼が満足するような生活を送らせてあげます。ヴェスパローゼにはそれが出来ますか?」

「あら、心外ね。出来るに決まってるじゃない。きさらと共同すれば完璧よ」

「ぅゅ?」

「…やはり、貴女は悪どいですね」

 

ーーー

 

ㅤ九条大祐は口を押さえ、思わず漏れてしまいそうな声を押し殺す。

ㅤ何故自分の部屋にあんな大勢の女性が居るのか。

ㅤ頭の中が混乱する九条大祐。

ㅤというかこのタイミングで起きてしまって良かったのか。

ㅤもう何をどうすれば良いのか分からなくなって頭を抱えてしまう。

 

「あ、そうだ!大祐くん起きてるか見てくるね」

 

ㅤビクつく九条。

 

「私も一緒に行くわ。最近大祐の寝顔、見れてなかったし」

「リゲルにとってはそれが日課みたいになってるのね」

「ふふっ、私…知ってるわよ?ベガが偶に、大祐の部屋に忍び込んで寝顔を見に行ってるの」

「リゲル…その秘密、絶対に口外禁止ですよ」

 

ㅤ照れながらもリゲルに圧力を掛けるベガ。

ㅤ然しリゲルはニコニコと笑いながら「どうかしらねー?」と言い、逆に優勢な立場に躍り出る。

ㅤそんな二人のやり取りを見て、各務原あづみも自然と笑顔を浮かべていた。

 

「じゃあ、取り敢えず大祐を見てくるわね」

「あづみも、お願い」

「うんっ」

 

ㅤという事で、各務原あづみとリゲルの二人が九条の寝室に向かう訳だが。

ㅤ肝心の九条は兎に角一度布団に戻らねばと、焦りに焦ってベッドの足に小指をぶつける。

 

「〜〜〜!!!」

 

ㅤ声にならない痛みが彼を襲った。

ㅤ然し、こんな馬鹿な事をしている暇は無い。

ㅤ九条は急いで掛け布団の中に潜り込み、寝た振りをする。

ㅤ余りの謎事案が発生しているからか、彼の心臓は大きな鼓動を鳴らしていた。

 

ㅤそして遂に、二人が寝室へと入って来る。

ㅤ扉はきっちりと閉めておいた為、起きた事がバレるというのは先ず無いだろう。

ㅤ後は彼自身が下手な演技を見せなければ良いだけ。

 

ㅤガチャッと、二人が扉を開ける音に若干反応を示してしまう九条。

 

「ふふっ…大祐くん、まだ寝てる」

「あら、本当ね。相当疲れたのかしら」

 

(バレてない…という事は、セーフ…)

 

ㅤ自分が起きていた事がバレずに安堵する。

ㅤだが、問題はここからだった。

ㅤ各務原あづみとリゲルは、寝ている(寝た振り)九条の両サイドに座り、彼の寝顔(演義)を微笑ましく見つめる。

 

「…大祐、今日は災難だったわね」

「でも、あのナナヤって女の子も悪気があってやった訳じゃ無いんでしょ?唯、大祐くんが好きだったから、自分からアピールしに行っただけで…」

「その結果がこれ。…少し冷たい言い方になるけど、もう少し遠慮して欲しいわね。大祐は…あの子だけの存在じゃないの」

「うん…。だけど、私達が大祐くんに積極的じゃないのも…原因だよね…」

「…否定のしようが無いわ」

 

ㅤリゲルの言葉で二人共静まり返る。

ㅤ自宅へ帰る間際、加えて寝て起きてから、九条は彼女達の何処かしんみりとした場面しか見ていない。

ㅤ現在も二人はしょぼくれていた。

ㅤそんな各務原あづみとリゲルの会話を耳にして、九条は自分に情け無さを感じていた。

 

ㅤ彼女達は何も悪く無い、悪いのは俺自身だと。

 

ㅤ相手からアピールが来るまで自ら動こうとしない自分が、積極的に接して来てくれたナナヤに対して偉そうな口を叩いて。

ㅤ各務原あづみやリゲルとお互いに好きだという気持ちを伝え合って、尚手を出さない。

ㅤベガやヴェスパローゼには優しくされて。

ㅤ百目鬼きさらや倉敷世羅は、まだあんなにも幼いのに自分を好きだと言ってくれて。

ㅤ自身が気付いて無いだけで、こんなに好意を向けられているのにも関わらず。

 

ㅤ九条大祐は彼女達に手出し等しなかった。

 

ㅤ今でも変わらずに、彼女達を汚したく無いと思っているからだろう。

ㅤ然しそれでは何時か、自分では無い誰かに汚されてしまう。

ㅤそれが彼女達の望みなら九条は何も気にしないだろう。

ㅤだが、彼に想いを馳せている女性達は、全員が彼と深い関わりを持ちたいと心に秘めている。

ㅤその気持ちに気付かない時点で情けないどうこうの問題では無いが。

 

「…でも、大祐くん本人の前でそれを言うのは…ちょっと…恥ずかしい、よね…」

「なら今が絶好のチャンスじゃない。大祐、寝ているから」

「そんな…寝てるからって駄目だよぅ…」

「…まぁ、かく言う私も、口にする度胸は無いけど」

「もうちょっと積極的にならないと駄目かなぁ…例えば朝、いきなり、だっ抱き付くとか…!」

「そういう積極性…?」

 

ㅤ九条は二人の会話を聞いていて思った。

ㅤうん、もう無理だ。

ㅤすると彼は、何の躊躇も無く体を起き上がらせる。

 

「…別に二人が悩む必要は無いよ。悪いのは俺だから」

「大祐くん!」

「…もしかして、全部聞いてたのかしら?」

 

ㅤ九条は無言で頷いた。

ㅤ彼の反応に、二人共顔を真っ赤にさせ、両手で覆い隠す。

 

「ごめん…俺がこんなんだから、二人の望みを叶えてあげれてない」

「そんな事無いっ、私達は大祐くんと一緒に居れるだけで満足だから。望みとか関係ないよっ」

「あづみの言う通り。…だけど、私からすれば…その…一つだけ、大祐ともっと親密になりたい…なんて」

 

ㅤしんみりとした空間の中、リゲルが一人でボソッと呟く。

ㅤだが、九条はそれを聞き逃さなかった。

ㅤ何時もは聞き逃してしまいそうな彼女の小声、呟きを。

 

ㅤ故に彼まで少し顔を赤くさせ、それが二人にバレない様に片腕で頰を隠す。

ㅤ部屋全体が暗い御蔭もあり、二人は何も気付かず話を続けていた。

 

「…あの…えっと…大祐くんは…」

「?」

 

ㅤと、先程まで流暢に話続けていた各務原あづみが、急にオドオドし始める。

ㅤ彼女は彼に何を聞きたいのか。

ㅤ取り敢えず各務原あづみの質問を耳に入れてから、と待つ九条。

ㅤすると、右側に居た彼女は九条大祐の右手をぎゅっと握ると、彼女の口から凄まじい言葉が放たれた。

 

「…大祐くんは、私達をどうしたいの…?」

「…!」

 

ㅤ頰を真っ赤に染め、上目遣いで、完全に九条大祐という男を殺しに行く各務原あづみ。

ㅤ更にこんな台詞を吐いてまでアピールするという事は、相当言葉に悩んだのか、将又切羽詰まったか。

 

ㅤ前者に関しては有り得る可能性だが、後者に関しては一体何をそんなに切羽詰まったのか理由が分からない。

ㅤ此処で九条の意識を自分やリゲルに向けなければ、とかなんとか思わなければ後者の可能性は皆無に等しい。

ㅤ悩みに悩んだ末、言葉がこれしか思い付かなかったからというのが正解だろう。

 

「あづみさん…急にどうしたの…?」

「…えっ?あっ、いや、何でも無いよ?…だ、だから、あまり気にしなくてもーー」

 

ㅤやはり前者が正しい様子だ。

 

「…あづみさんもリゲルさんも、本当はやっぱり何か望んでいる筈です。俺に対して。…でも、その何かが俺には分かりません」

「………た、例えば」

「例えば?」

 

ㅤそう言って、途中で止まってしまう。

ㅤどうしてもこの先を口に出せない彼女は、只管に心の中で悔やんでいた。

ㅤ心では幾ら思っても口に出せない葛藤。

ㅤリゲルはそんな感情を味わっていた。

 

ㅤすると彼女の頭の中に誰かの声が響き渡る。

 

(そんなんだから大祐くんが違う女に取られ兼ねるんだよ。私みたいにもっとガツガツ行かなきゃ!)

 

(…まさか、ナナヤ…?)

 

ㅤこの場面では救済の神であろうナナヤが、彼女に助言を与えた。

ㅤ確かに助言というよりは「もっと攻めろ」的な内容だが。

ㅤ然しそれがリゲルにとって、何れだけ心強い言葉だった事か。

ㅤ内心、神様の指示等受け入れたくも無いと思った彼女だが、此処は素直に聞き入れる。

ㅤそれでナナヤは成功の直前まで言ったのだから信憑性は高いと、効率で誤魔化した。

 

「…えぇ、例えば…キ…キス…とか…!」

「…俺とですか!?」

「も、もちろん…よ。他に誰が居るっていうの…!」

「もしかしてリゲルさん、へっきーに何か唆されたんじゃーー」

「ほっ本心よ!」

 

ㅤ彼女の最後の言葉に、何処か気圧された九条大祐。

ㅤそしてリゲルの本心を初めて聞き、動揺する他無くなってしまっている。

 

「…私もリゲルと同じ」

「あづみさんまで…!?」

「でも、私がしたいのはキスだけじゃ無いの…もっと、色んな初めてを、大祐くんと体験したいなぁ…」

「凄く意味深な発言だね…」

「えっと…どういう意味?」

 

ㅤ九条大祐は胸を押さえ付け、苦しそうに悶え始めた。

ㅤ理由としては最早一つしか挙がらないだろう。

ㅤ各務原あづみ…彼女の無知スキルが彼の心を鷲掴みにする。

ㅤそれをその張本人は首を傾げながら見つめる。

ㅤだが、胸を押さえ付けていたのは九条大祐だけでは無かった。

 

ㅤ彼の左側…とある美人な女性迄もが苦しそうに悶えている。

ㅤ各務原あづみの可愛さ、恐るべき破壊力。

 

「…はぁ、二人にここまで言って貰って、俺は幸せ者ですね」

「えへへ///」

「当たり前じゃない。あづみから一番に好かれている、これ程幸せな事は無いわ」

「リゲル、それはリゲルだけじゃーー」

「全くの同意見です」

「えぇっ…!?」

 

ㅤリゲルの放つ各務原あづみ大好きアピールに何の違和感も無く乗っていく九条。

ㅤやはり、二人の共通点は各務原あづみという少女の存在だろう。

ㅤ彼女が居なければ二人は恐らく、繋がりを持っていなかったのだから。

 

ㅤだが、共通点があるのは九条大祐と各務原あづみも同じ。

ㅤこの二人の共通点は、本人が無自覚であっても周囲から好かれる事だ。

ㅤ何か特別な力がある訳でも無いのに…側から聞けば羨ましいと感じる人達も多いだろう。

ㅤだが、好かれる対象迄もが二人共偏っている。

ㅤその対象とは、間違い無く女性だ。

 

ㅤ九条大祐も各務原あづみも、女性からの好意が凄まじい。

ㅤ前者に限っては、逆に男性からあまり良い印象を受けていない。

ㅤつまり天王寺飛鳥や森山碧は珍しい人種だという事になる。

ㅤ彼の親友二人の話は又今度にするとして、ならば後者はどうなんだろうと。

 

ㅤ各務原あづみは確かに女性に好かれる。

ㅤだが、彼女も男性から好印象は受けていない。

ㅤ先ず第一前提として、各務原あづみ自身が男性を得意としない+九条大祐然り、二人共極度の人見知り。

ㅤ更に各務原あづみの周りには、彼女を何としても守り抜こうとする女性が複数。

ㅤ取り敢えず近付けない。

ㅤそれを問答無用で近付いたのが九条大祐だが。

 

ㅤ兎に角、二人共女性には好かれるという事だ。

ㅤ「なんで?どうして?」と聞かれても、そういう星の下に生まれたからとしか返せない。

ㅤ理由は具体的に説明がつけられないからだ。

ㅤこの話は強制的に終了にしよう。

 

「…ん、そうだ。皆さん俺の部屋で何してるんですか?」

 

ㅤそれよりも、九条大祐は自分の部屋に大勢の女性が押し寄せている事が気掛かりで仕方が無かった。

ㅤ彼の疑問にハッと何かを思い出す各務原あづみとリゲル。

ㅤ二人はいそいそと慌てながら、九条の寝室の扉をしっかりと閉める。

 

「…あのね、大祐くんが寝た後の話なんだけどね…?」

「う、うん」

 

ㅤ今度はリゲルが何故、扉をガードしているのかが気掛かりで仕方無い九条。

ㅤ先程の行動からするに恐らく隠し事をしているのだろうと憶測する。

ㅤ試しにジト目をリゲルに送る。

ㅤすると彼女は九条から目を逸らし、作り笑いで「あ、あはは」等と口にし始めた。

 

ㅤ何時も近くで見ていた彼には分かる。

ㅤ明らかに怪しいと。

 

「リゲルさん、扉と俺、どっちが好きですか?」

「えっ…えぇ!?……そんなの、大祐に決まってるーー」

「じゃあ、此方に来てちゃんと話して下さい。今の部屋内部の現状を」

「うっ……やっぱり、大祐に隠し事なんて出来ないわね…。私達専用の嘘発見機みたいだもの」

「誰が嘘発見機ですか…ていうか、軽く俺の事ディスりましたよね?」

「それだけは無いわっ、それ位大祐が私達を分かってくれてるっていう…えっと…褒め言葉?」

 

ㅤリゲルは恥ずかし過ぎて、自分で何を言っているのか分からなくなる。

ㅤもじもじと照れるそんなリゲルを見て、九条は正直どうでも良くなった。

ㅤ彼女の口から「九条大祐は私達の事をしっかり把握している」という、信頼の言葉を貰えたからだろうか。

ㅤ各務原あづみの方へ視線を向けると、彼女も恥ずかしそうに頷いた。

 

ㅤ最近は顔を赤くさせている二人しか見ていないなと、少し嬉しくなる九条大祐。

ㅤ各務原あづみは人見知りが故に信頼が置ける人物にしか恥ずかしがらない、リゲルは抑限られた人物にしか恥じらいを持たないと。

ㅤ条件が中々に厳しい二人が、自分の前ではこんなにも照れを見せている。

 

ㅤ然し彼は、優越感等微塵も感じていなかった。

ㅤ二人が自分に好意を抱いて近寄って来てくれる=二人が自分を愛してくれている限りはずっと側で、三人で楽しく幸せに暮らせる。

ㅤそういう嬉しさだけが彼を包んでいた。

ㅤ加えて二人は「貴方が離れるなら私達はずっと追い続ける」という大胆発言をかましている。

ㅤ要するに、三人がバラバラになる事は無いという意味だ。

ㅤその事実があるだけで九条は優越感等どうでも良くなっていた。

ㅤ況してや命を賭けてまで二人の幸せ、自由を掴んだ男だ。

ㅤ他人よりも優れている、そんな感情は湧きもしないのだろう。

 

「…あづみさん、続きをお願い」

「うんっ。それでね…大祐くんが寝た後、沢山の女性の人達がこの部屋に来たの」

「全員大祐に用事があると言って、その用事が全員同じだったから共同作業中。そろそろ終わる寸前で、大祐が起きたっていうのが現状かしら」

「用事?共同作業?」

 

ㅤ九条大祐には思い当たる節が無かった。

ㅤあんなに大勢で、女性のみが自室に押し寄せてくる等。

ㅤ一つあるとすれば今迄自分が何かしら絡んで来た面子だという事。

ㅤ然し関わった理由は其々が別。

ㅤ関連性が丸で見つからない。

ㅤ頭を抱え、何とか思い出そうと頑張る九条。

 

「…駄目だ。全員一致の用事、内容が掴めん」

「気付かれていないのなら好都合よ。此方はサプライズとして企画している訳だし」

「そうだね。もう少しで終わるから、大祐くんはちょっと待っててーー」

 

ㅤ各務原あづみとリゲルはそう言って寝室から出ようとしたその時。

 

「あづみ、リゲル…大祐は寝てますか…?」

 

ㅤ寝室の扉が開き、そろりとベガが入室する。

 

「お、お母さん…!?」

「あれ、ベガさん。お早う御座います」

「起きていたのですね、大祐。…タイミングバッチリです。では、少し急ですが此方の部屋に来て貰いましょう」

「準備はどうするの?」

「恐らく二人は大祐と仲良くお話していたのでしょう?その間に、済ませるべき事は済ませました」

「やっぱり…お母さんは凄いなぁ…」

 

ㅤ手際の良さというべきか。

ㅤ各務原あづみとリゲルが九条の寝室で仲良く話をしている間に、ベガは彼に用事がある女性達に指示を出し、サプライズの準備を終わらせていた。

ㅤ流石、青の世界を指揮していたアドミニストレーターの一人。

ㅤそんなベガを見ながら、各務原あづみは尊敬の眼差しを送りまくる。

 

ㅤベガも娘に良い所を見せれたからなのか、少し誇らし気に寝室から隣の部屋へと移動して行った。

 

「ほら、大祐も一緒に行くわよ?」

「えっ、あ、はい」

「大祐くん、えっと…一応、目隠しして貰っても大丈夫…?」

「了解」

 

ㅤそれに続く様に目隠し状態にの九条を連れ、各務原あづみとリゲルも移動する。

ㅤ丸で拘束されていたかの如く目隠しされた九条が寝室から現れた瞬間、初見で見た女性達に僅かな衝撃が走った。

ㅤ然しハッと思い返す。

ㅤこれはサプライズなのだと。

ㅤというか、九条は何時から起きていたのかと。

 

「大祐くん、もうちょっと此方に…」

「ここら辺ですか?」

「うん、完璧っ」

「…それじゃあ、目隠しを取って貰おうかしら」

 

ㅤリゲルの合図を受け、九条は目隠しを外す。

ㅤすると彼の目の前に広がった光景はーー

 

「「「ハッピーバレンタイン!!!」」」

「うえぁっ!?」

 

ㅤ目の前にはどデカいチョコレートケーキ、更には先程彼の部屋に居た女性達全員が、九条を囲う様に円になって一斉にそう言い放つ。

ㅤそんなサプライズに驚き、体勢を崩して思わず後ろに倒れそうになる。

ㅤだが、倒れた矢先に何やら柔らかい物体で支えられた九条。

ㅤ恐る恐る後ろを振り向く。

 

「…大祐なら、絶対こうなると分かっていました。後ろで構えていて正解でしたね」

「べ、ベガさん…申し訳無いです…」

 

ㅤ彼は苦笑いをかましつつ起き上がろうとした。

ㅤするとベガは後ろから九条を抱き締め、頭を撫で始める。

 

「へっ…!?」

 

ㅤ彼女の珍しい行動にどうすれば良いのか分からなくなり、そのままの状態で様子を伺う。

ㅤ少しして、ベガは口を開いた。

 

「…大祐、貴方にはもうちょっと体を休める事を勧めます。勝手に部屋に上がり込んで言える事では無いのですが…」

「ベガさん…」

「大祐の体調が優れないと聞き、駆け付けました。バレンタインの案件も含めて、ですけど…」

「和修吉さんにまで心配掛けていたとは…」

 

ㅤだが、彼を心配していたのは二人だけでは無い。

ㅤこの場に居る全員が、九条に気遣い、そして心配していた。

ㅤ彼には圧倒的な存在力という言葉が当て嵌まる。

ㅤそれは女性達から見たもの限定では無い、男性からしてもだ。

ㅤ終わりの見えない啀み合いを続ける5つの世界を、一つに纏めた男なのだ。

ㅤ確かに、仲間に支えられていたからこそ成し遂げられたのは事実。

ㅤ然し周りからすれば、彼が1番変革という名の行動を起こしていたと。

ㅤその御蔭で変われたという人物は大勢居る。

 

ㅤ一体九条大祐が何をしでかして此処までの人間になれたのかは、また別の話。

ㅤ今は置いておこう。

 

ㅤ兎に角彼は、自分が思っているよりも大きな人物という事だ。

ㅤ九条が自分自身を過小評価する理由等、彼以外には理解出来ないだろう。

 

「大祐くん…もう、大丈夫…なの…?」

 

ㅤ一人彼女達の優しさを実感していると、其処に、フリフリの付いた可愛らしいゴシック系衣服を身に付けたバンシーが近付いて行った。

ㅤ何時も着ている衣服よりも何と無く豪華さが増し、バンシー自身の衣服というよりはーー

 

「ありがとね、バンシーちゃん。俺は全然平気だよ」

「えへへ…それなら…良かった」

「…それよりもバンシーちゃん。君の着てる服…まさか」

「えっと…似合ってる、かな?ヴェスパローゼさんが選んでくれたんだ…♪」

 

(やっぱりか…)

 

ㅤ何処かヴェスパローゼの仕業だと確信していた九条。

ㅤそれがこれ、案の定の結果だった。

ㅤバンシーは普段、似た様な黒いゴシック系の服を着ている。

ㅤそんな彼女に対して九条は「今日は何故だろう…何処と無くヴェスパローゼさんの服に似ているな」と、バンシーを視界に入れてからずっと思っていたらしい。

ㅤ薄々気付いていたとでも言うべきか。

 

「…うん。とても似合ってるよ、バンシーちゃん」

「…!あ、ありがと…///」

「ふふっ、バンシーちゃんが照れてる」

「もー…グラちゃん、あまり揶揄わないでよぅ」

 

ㅤ黒の世界出身である二人の掛け合いに、思わず笑みを零す九条大祐。

ㅤ彼はバンシー、グラの頭の上に手を置き、摩る様に撫で始める。

ㅤするとバンシーは目を瞑り、ニコニコとしながら九条のそれを受け入れる。

ㅤだが、片方は不満気に彼を見つめる。

 

「…あ、グラ嬢…嫌だったかな」

「嫌…じゃ無いの。でも、大人のレディである私は…その…子供っぽく扱われるのが嫌いなの」

「あぁ、成る程。以後、気を付けるよ」

 

ㅤそう言って九条はグラから手を離し、今度は近くに居たムリエルの頭を撫で始める。

ㅤまぁ…ムリエルが近くに居た理由が「彼に撫でて欲しい」という訳で偶然を装っていたのだが。

 

「えへへ〜…大祐くんのこれ、気持ち良い♪」

「ねー…♪」

「………」

 

ㅤバンシーとムリエル、二人共満面の笑みを浮かべながら九条に擦り寄っている。

ㅤその光景を側で見つめるグラ。

ㅤ先程自分で「子供扱いは嫌い」と言ったものの、彼に撫でられるのはまた別らしい。

ㅤ二人が撫でられているのを見て、遂に羨ましいという感情が爆発したグラは。

 

「…だ、大祐、やっぱり私にもしなさい!」

「えっと…り、了解。じゃあ少し待っててくれるかな」

「レディをあまり待たせないでねっ」

「無論、承知しているよ」

 

ㅤやはり女性からは大人気。

ㅤ然し、現状だけを見ると幼気な女性にしか好かれている様に見えない。

ㅤ側から見れば唯のロリコ…と見られてしまうのも仕方がないのだろう。

ㅤだが、彼自身がロリコンで無ければ好かれる相手も少女と呼べる女性達だけではない。

ㅤヴェスパローゼやベガ、リゲル等、大人の女性からも好意を向けられている…のだが。

ㅤ九条はずっと悩み、分からずにいた。

ㅤ何故、こんな自分を好いてくれるのか。

 

ㅤこの疑問の解答は彼女達にしか分からない。

ㅤ充分に女心を理解出来れば、九条も気付ける日がくるのだろう。

…多分、恐らく、きっと。

 

「だいすけ、こぉこ、すわゆ!」

「…ここ?」

「うぃ」

 

ㅤ三人を順番に撫で撫でしていると、百目鬼きさらがとある場所を指差して座れと命ずる。

ㅤいや、実際には命令というよりも要望と言った方が正しいが。

ㅤ九条は素直に彼女に従い、大きなチョコレートケーキが視界一杯に広がるテーブルの前に座る。

 

ㅤすると百目鬼きさらは九条大祐の膝の上に乗り片手にフォークを持ちながら、らんらんと足をバタつかせる。

ㅤそれを見た周りの女性達も、テーブルを囲う様に椅子に座る。

 

ㅤこんなに人数がいるのにも関わらず空きのできるテーブル。

ㅤそんなテーブルを埋め尽くすかの如く置かれているチョコレートケーキ。

ㅤ九条大祐の頭の中は「どうしよう」と動揺するばかりで、他に何も考えられなくなっていた。

 

「…こ、これは…皆さんで作ってくれたんですか…?」

「えぇ。全員が同じ目的で共同作業していたっていうのは、これの事なの。…その、大祐への…バレンタインの気持ち…としてね」

「あづみさん、このチョコレートケーキへの感想は?」

「え、えっと…凄くおっきい…ね?」

「あぁ…ですよね」

 

(俺からすれば、食べ切られるのか?って感想しか出て来ないよ…)

 

ㅤそう思いながら頭を抱える。

ㅤ然し、下に顔を俯けた瞬間に百目鬼きさらも同タイミングで上を向き、互いに目が合った。

ㅤ一瞬の出来事に驚いた九条は、思わず仰け反りをするギリギリで持ち堪える。

ㅤ一方で百目鬼きさらは照れ照れと、顔を赤くして、それでも敢えて九条大祐の体にくっ付き。

ㅤ他の女性達からの視線を回避する様に、自身の顔を彼の胸元へと埋めた。

 

「あー、きさらちゃんだけ良いなぁ…」

「にい、世羅にもしてっ」

「あれは大祐くんがやってるんじゃ無いと思うよ?」

「良いじゃない、あづみもすれば?タイミングを計って大祐と目を合わして…多分大祐はイチコロね!」

「えぇっ!?…そんな、私には出来ないよぅ…恥ずかしいし…」

 

(なんかバレンタインから話が逸れ過ぎじゃ…ないか?)

 

ㅤふと、そう思った九条だった。

 

ㅤこのままでは話が進まないと気付いたのか、強引に路線を引き戻す。

ㅤ何故自分なんかをバレンタインチョコの相手に選んだのか、と。

ㅤだが、その疑問は直ぐに打ち晴らされた。

ㅤ彼の言葉に対し、一拍置いてマルキダエルがこう答えたのだ。

 

「…だって、好きですから〜」

 

ㅤそれに続いて他の女性達も「勿論私も」と、順番に口にしていく。

ㅤ中には言えずに恥ずかしがる者、ツンツンしてるが完全に照れている者、真っ直ぐに自分の気持ちを伝える者と、其々が其々、自分の「本当」という姿を彼に晒す。

ㅤ唯一、ウェルキエルだけが途中で部屋を出て行ってしまったが、最後に九条へこう言い残していった。

 

「此れからも…末長い付き合いを、宜しくお願いする」

 

ㅤそれが戦友としてなのか、将又異性としてなのか、九条にははっきり分からなかった。

ㅤだが、ウェルキエルは態とそうしたのだ。

ㅤ戦友としても異性としても、曖昧な関係で居たいと。

ㅤ彼女自身、気持ちの整理が出来ていないからだろう。

ㅤそんなウェルキエルを気遣い、彼女の分までチョコレートケーキを口に運ぶ九条大祐。

ㅤ吐きかける手前まで追い詰められていた。

 

「ちょっ、大祐くんっ…私達も食べるから無理しないでっ」

「…ウェルキエルさんの、分まで…うっ」

「ほら、大祐のその体じゃ流石に二人分は食べきれないわよ…ウェルキエルも、無理して食べて貰う為に作ってなんかないわ」

「そう言えば、ウェルキエルがなんか言ってたなー…。確か「…美味しく出来てると良いな…」だったかな?大祐くんに美味しく食べて貰いたいのはこの場の全員なのにね。ウェルキエルも面白い事言うんだって初めて知ったよ〜」

「…大祐、反省は?」

「存分に反省してます。えぇ…存分に後悔しています」

「え、どうして?」

 

ㅤ全く意味の分かっていないムリエル。

ㅤようやっと乙女心に気付く九条大祐。

ㅤ二人共違う意味で察しが悪い。

ㅤ周囲の女性達は若干の笑みを浮かべながら、どう反応すれば良いのか困っていた。

 

「…はぁ、大祐くんはあんまりですの。こんなにも魅力のある女性達がアピールしてるのに、全く気付かないですの」

「にい、どんかん」

「…否定しないし出来ないな」

 

ㅤそして蝶ヶ崎ほのめ&倉敷世羅からのダブルアタック。

ㅤ九条は言い返す言葉も無く、顔を下に俯かせる。

ㅤ改めて、自分の情けなさを実感した様だ。

 

ㅤだが、蝶ヶ崎ほのめの言葉を耳にした九条は、自らの想いを彼女達へと伝える事を心で決めた。

ㅤ座っていた椅子から立ち上がり、深呼吸をする。

ㅤすると楽し気にお喋りをしながら、チョコレートケーキを口へと運ぶ彼女達の視線を一気に集めた。

ㅤ九条は全員が此方を向いているのを確認し、口を開いて自らの意思を言葉にする。

 

「…皆さん…俺から、伝えたい事があります」

「むぐむぐ…んくっ…大祐くん?どうしたの?」

 

ㅤチョコレートケーキを幸せそうに頬張り、咀嚼して飲み込んだ後、各務原あづみは頭に?を浮かべながら九条へ話し掛ける。

ㅤリゲルやベガも同じ様に、チョコレートケーキを食べながら九条の方へと体の向きを変えた。

ㅤ唯一グラだけが未だに手を止めずにチョコレートケーキを頬張り続けている。

 

「先ず最初に言わせて下さい。…皆さん、こんな俺を好きになってくれて、本当に有難う」

「…急に改まり始めて、何かあったのかしら?」

 

ㅤ手に持っていたフォークをテーブルに置き、リゲルを始めとしたその場全員が九条に対して疑問を抱く。

ㅤ何時も自分からこんな事を言わない彼が、「感謝」と呼ぶに相応しい想いを自らの口から言い放って。

ㅤ疑わない方が可笑しい。

「…確かにほのめ嬢の言う通り、こんなにも魅力的で言葉では表せない程の存在と言える貴女達に好かれて、俺は幸せ者…いや、それ以上の立場というのをこの身で味わせて貰ってます」

「ですの!漸く気付きましたわ!」

「……ですが、だからこそ言いたい事があります」

 

ㅤ九条大祐はもう一度、先程よりも深く深呼吸をする。

ㅤそして座っている各務原あづみとリゲルの後ろに立ち、二人の肩に手を置いた。

ㅤ二人共少し動揺している。

ㅤ然し何も言わずに、只九条の瞳を見つめ続けていた。

ㅤそんな二人に「有難う」という想いを込めた笑顔を送り、再度全員へと視線を変える。

 

「率直に申し上げます。俺はあづみさんとリゲルさんが大好きです」

「ぶっ!だ、大祐!?」

「ですが、二人に対する「好き」と同じ位…俺は皆さんが好きです」

「あら、嬉しいわね」

 

ㅤ彼の言葉に、思わず本音を漏らすヴェスパローゼ。

 

「確かに…私達からすれば途轍も無く嬉しいですね」

 

ㅤそれに合わせるかの如く、和修吉も乗っていく。

ㅤだが「嬉しい」という感情が湧いたのは彼女達だけでは無い。

ㅤ三人を抜いたその場全員の心の中に、例えようの無い感情が芽生える。

 

ㅤ然し、各務原あづみとリゲルだけが、微妙な心境でいた。

ㅤ彼女達からすれば九条大祐という男の存在は、一番付き合いの長く、深い関わりを持った人物だから。

ㅤ後々彼と関わりを持ち、彼を好きになった女性達と同じ愛情を注がれるというのは色々と思うところがあるのだろう。

ㅤ要は九条大祐の一番になりたいという事だ。

ㅤそれが今、彼自身の発言で、叶わぬ夢となってしまった。

ㅤ空気の読めない、情けない等といった言葉では済まされない。

ㅤ只の最低クズ野郎だ。

 

「…えっと、結論からすれば、大祐くんは何が言いたいんですの?」

「俺の中では全員を平等に愛したいんです」

「………大祐くんがそうしたいなら、私は…大歓迎だよ…?」

「…あづみの言う通り、ね。誰かを一番と言って特別扱いするのは…良くない…もの」

 

ㅤ迷い無く即座に答えを出す九条に、落胆を隠し切れない二人。

ㅤそれは周りの女性達も気付いていた。

ㅤ無論、九条大祐自身もだ。

ㅤだが、彼は二人の顔を一切見ず、二人以外の女性達を見つめる。

ㅤその行為に流石のベガもカチンと来たのか、彼女は席を立って九条大祐へ近付く。

 

「…大祐。その言葉は確かに嬉しいです。でも、今回ばかりは我慢が効きません。貴方がこの世界に来てから…一番側に居たのは誰だと思っているんですか!?」

「ベガさん……話は終わっていません。余りこう言いたく無いのですが、最後まで聞いて貰えませんか?寧ろ此処からが本題ですから」

「…?」

「お母さん…大祐くんの話、聞こ…?」

「…っ!」

 

ㅤ隠そうと思っていても、表情には出てしまうものだ。

ㅤベガは…自分の娘が此れ迄に無い位悲し気な表情を浮かべている事に気が付き、怒りという感情を湧かせながらも、自らのそれを押し殺して席に座る。

ㅤ勿論、リゲルも自分自身の感情を押し殺していた。

 

「大祐くん、続き…どうぞ…?」

 

ㅤ今にも消えそうな小さい声で、各務原あづみはそう告げる。

ㅤ然し顔は下に向けて、彼と瞳を見合わせない様に。

 

「…有難う、あづみさん。そして…御免なさい」

 

ㅤ初めて味わう、複雑な気持ち。

ㅤ九条大祐の最後の言葉に、彼女の綺麗な赤い瞳からは大きな雫が零れようとしていた。

 

………だが、その涙が地へ落ちる事は無かった。

 

ㅤ九条大祐は地面へ膝を着き、各務原あづみと自分の顔が向き合う丁度の高さに調整。

ㅤすると九条は各務原あづみの顎の下へと手を伸ばし。

 

「あづみさん」

「……?」

 

ㅤ彼は彼女の名を呼ぶ。

ㅤ各務原あづみは九条大祐の声に惹かれ、彼の方へと顔を向けた。

ㅤその…一瞬の出来事だった。

 

「んっ…!?」

「だ、大祐!?」

「…ふふっ、あらあら」

「わぁ、見せ付けてくれるねー。ウェルキエルなら顔真っ赤にしてるよ」

「えっ、えっと、これって見てて良いの…!?」

「バンシーちゃんは動揺し過ぎよ。大人のレディなら…此れくらい…」

「そう言って顔を赤くさせているのは誰ですか?」

「う、うるさいわねっ」

「世羅ちゃんやきさらちゃんには、少し刺激が強いです〜!」

「えっ?にい、なにしてるの?」

「きぃも見たいっ」

「幼い子供には早いですの。こういうのは大人になってからーーはわわ…何時までしてる積もりですの…!?」

 

ㅤ周りが騒がしい。

ㅤと、九条はそんな事に気を取られずに、今している行為に集中していた。

 

…だが然し、流石に長いかと感じた九条大祐はその行為を直ぐに終わらせる。

 

「んっ…ぷぁっ…」

 

ㅤすると先程まで悲し気な表情を見せていた各務原あづみの顔は、とろんとした表情に変貌していた。

 

「大丈夫ですか?あづみさん」

「…ふぇ…んと…なに…が…?」

「ありゃりゃ、もしかして刺激が強過ぎたかな?」

「…えと…ね…わたし、だいすけくんと…なに、を…?」

「軽くファーストキスを捧げ、ファーストキスを頂きました」

「〜〜〜///!!!」

 

ㅤそう、各務原あづみが九条大祐の方へ顔を向けたその瞬間、彼は自分自身の唇と彼女の唇を重ねたのだ。

ㅤ確かに互いの唇を重ねるだけのキスだった、が。

ㅤ二人にとってはそれが何れだけ大切な瞬間だった事か。

ㅤにこにこと余裕を見せる九条に、顔を真っ赤に染める各務原あづみ。

ㅤ二人共、かなり対照的だ。

 

「え…えっと…でも、大祐くん…キ、キスするの…初めてだったでしょ…?」

「ん、勿論だよ?あづみさんもでしょ?」

「そ、そうだけど…!大祐くんの…その、ファーストキスの相手が私なんかで…ほんとに良かっーー」

 

ㅤ照れ、動揺、嬉しさ、疑い、様々な想いが各務原あづみの中で交錯する。

ㅤもうどうすれば良いのか分からなくなった彼女は、愚問を彼に投げ付けた。

ㅤだが、愚問はやはり愚問。

ㅤその「問」は直ぐに「答え」として彼女の元へ投げ返された。

 

ㅤ九条大祐はおどおどと落ち着かない各務原あづみの体を、ゆっくりと自らの両腕で包み込む。

ㅤすると不思議な事に、不安と疑問で埋め尽くされていた彼女の心の中は徐々に徐々にと晴らされていった。

 

ㅤそれでも、先程の行為をした後に抱かれてしまった各務原あづみの心臓の鼓動は遅まる事を知らない。

ㅤドキドキと早い鼓動を繰り返し、彼に対して異常なまでに反応してしまっている。

ㅤそんな中、九条大祐は各務原あづみの耳元に顔を寄せ、一言呟いた。

 

「…俺は始めから、あづみさんの唇を狙っていたんだよ?」

「〜〜〜!!!///」

 

ㅤ大好きな人からこんな事を耳元で囁かれて耐えられる者は居ない。

ㅤ現に、各務原あづみは九条大祐の胸元で爆発寸前となっていた。

ㅤ然し彼女がこういう反応を示してくれているから良いものの、彼が一番恥ずかしく爆発一歩手前まで到達している。

ㅤ深い関係を築けた各務原あづみにだからこそこの様な事を言えるが、リゲルを抜いた他の人達には口にすらできないのだろう。

 

ㅤ「最初から貴女の唇を狙っていた」等、互いに理解、もとい愛し合っている仲でなければヤバい奴だと認知され兼ねない。

ㅤそれこそ一種のストーカー行為に似た様な物だ。

ㅤだが、其処に純粋な「愛」という単語が混じってしまえば丸で別物。

ㅤ各務原あづみ、九条大祐、お互いにそういう関係になって暫く経った今だからこそ言えたのだろう。

ㅤ今までは彼の踏ん切りの悪さが目立ってばかりいたが、今回は覚悟を決めたようだ。

 

「でも…どうして、「御免なさい」って謝ったの…?」

「あぁ、あれかい?あの謝罪はあづみさんに対してじゃ無いよ」

「えっ…じゃあ」

「うん。この場に居る、『あづみさんとリゲルさんを抜いた』全員に対して謝罪させて貰ったの」

「私とあづみを抜いた…全員…?あづみは分かるけど、どうして私までーー」

 

ㅤ彼の言葉に疑問を抱き、質問するリゲル。

ㅤすると九条大祐は彼女の前まで移動し、座っているリゲルの顎の下へと手を伸ばす。

ㅤそして自分と向き合わせる為に、クイッとその手を上に動かした。

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バレンタイン(後編)

3話連続更新の2話目です。
まだ読んで無い方、宜しければ3話連続更新の1話目からどうぞ。
バレンタインの話自体は6話近くありますけど…。

ルクスリアさん?
察して頂いた通り、主人公にはくっ付きませんよ。
これが『一番の幸せを掴んだ場合』ですから。


「…だって、俺が一番大好きなのは二人なんですから」

「!!??」

 

ㅤ九条大祐は又もや、全員の前で大胆発言をかます。

ㅤそうした後、リゲルを自身の胸元へ「そっと」優しく押し付けた。

ㅤこの言動が一体先の謝罪と何の関連があるのか。

 

…いや、関連しか無いのだ。

ㅤ彼はそのままリゲルを抱き締め、先程の話を再開し始める。

ㅤ前に。

 

「リゲルさん、苦しく無いですか?」

「はわっ…わ、私、は…えぇ、大丈夫よ!」

 

ㅤ自分自身の卒然とした行為に、彼女が付いて行けているか心配する九条大祐。

ㅤそんな彼に向かって途切れ途切れの言葉を必死に繋げるリゲル。

ㅤ明らかに無理してると察していた九条だが、彼は敢えてそのまま、自らの意思を全員へ伝える為に口を開く。

 

「…そう、俺は全員大好きです。こんな俺を好きと言ってくれた貴女達全員が」

「でも…さっき」

「…はい。リゲルさんの言う通り。先程俺は『あづみさんとリゲルさんが一番好き』とこの口から言い放ちました。この言葉を、俺は嘘とも冗談とも言いません。況してや撤回なんて以ての外。本気でそう思っていますから」

「…という事は、私達は盛大にフラれたという訳…で良いのかしら…?」

 

ㅤ何時も余裕がある口調で喋るヴェスパローゼも、今回ばかりは気落ちしているのが目に見えて分かる。

ㅤそれは他の女性達も同じで、皆が皆、総じて「しゅん」としていた。

ㅤ唯一、ベガを抜いて。

ㅤ彼女だけはにこにこと、九条大祐、各務原あづみに笑顔を向けていた。

 

「…私はそれで良いと思います。自分の娘が、娘の一番好きな人から「大好き」と言って貰えたのですから。その言葉を聞けただけでも満足です…」

 

ㅤと、如何にも無理矢理作ったであろうその笑顔を彼に向け、直ぐに視線を逸らした。

ㅤ出来る限り自分に集中して欲しくなかったのだろう。

ㅤ然し彼女の演技はバレバレだった。

ㅤ九条大祐は無表情で、今度はベガの目の前まで歩いて行く。

 

「ベガさん、忘れて貰っては困ります。俺は確かに二人が大好きと言いましたが…何も貴女を『嫌いになった』とは言っていません。それに、これはベガさんに限った話ではありませんよ。この場に居る全員に対してです。俺は先程話した通り、彼女達やベガさんに向かって『二人と同じ位大好き』と言ったんですから」

「…どういう意味、ですか…?」

「俺は全員を平等に愛したい。この想いは誰に口出しされても変える気は無い。でも…その中で、あづみさんとリゲルさんを優先してしまう事が多々出てきてしまうと思います。その時点で皆平等、というのは可笑しい話なんです。…だからこうして、今の俺は二人が一番大好きと言わせて頂きました」

「…成る程ですの。要するに大祐くんは『私達誰かを贔屓するのは嫌で、然も全員が大好きだけど、あづみちゃんとリゲルさんを優先してしまう場合がある』という事で宜しいですの?」

 

ㅤ九条大祐の話した内容を一括りに纏め、聴き易くする蝶ヶ崎ほのめ。

ㅤ彼の難しい心境をすらすらと述べる彼女に、九条は無言の頷きを返した。

 

「…そして、これが兎に角大事で重要な話です」

 

ㅤそう言って、彼は深い深呼吸を吐いた。

ㅤその行動に彼女達は思わず身構える。

ㅤだが、内容は至ってシンプルで難題な問題だった。

 

「…出来る限り、俺を一番と考えない方が良い。こんな優柔不断ではっきりと決められない男が貴女達の中で一番になってしまえば、貴女達を不幸にしてしまう可能性がある」

「それで?」

「加えて、俺は二人を優先する場合があると言いました。本当は誰かだけを優先も何もしたくない。誰か『だけ』を見たくも無い。俺は一人一人、全員を見たい。貴女達其々の魅力を語れる位には、全員を知りたい。でも…二人を優先してしまう。こんな自分勝手な都合を押し付ける俺を、あまり深くは好きにーー」

「…少し良いかしら。今度は私達を話させて?」

 

ㅤ九条大祐の話を断ち切る様にヴェスパローゼが口を挟む。

ㅤだが、彼はそれをすんなりと許した。

ㅤ先程までずっと、自分の話ばかりで彼女達の意見を聞いていなかったからだろう。

ㅤ元の席に戻って話を耳に入れようとした時、後ろからコートの裾を誰かに掴まれた九条。

ㅤこういう事をするのは大抵が百目鬼きさらなのだが、今回ばかりは違った。

 

ㅤ至って真剣な表情で彼を見つめるベガ。

ㅤ丸で自分の側から離れるなと言わんばかりだ。

ㅤその眼差しに込もった意味に、九条大祐は素直に従う。

 

「…はぁ…大祐、貴方なら絶対にそう言うと思っていたわ。自分が私達を差無く愛せないから離れろ…ね。それは確かに自分勝手過ぎるわよ」

「そうだよ大祐くんっ。私達はそんなの関係無いもん」

「ムリエルさんの言う通りです〜…誰に何と言われても、その…一度好きになってしまっからには、後戻りも何も無いんです〜!」

「大祐くんはもう少し『女』という物を理解した方が良いと思うわ。でないと、レディに嫌われちゃうわよ♪」

「グラちゃん…女の子は、物じゃないよ?」

「…はっ、そ、そうね!」

 

ㅤしんみりとしたこの空間を、九条大祐の言葉を打ち砕くかの如く、彼女達は全員が彼に各々の想いをぶつける。

 

「でも、グラちゃんの言うことは最も…だよ。それに、大祐くんは私達一人一人をしっかり見てくれてる…」

「…どうして、そう思うの」

「今迄貴方と過ごして来た時間の中で…その…不思議とそう思えたんだよ…?」

「バンシーちゃん…」

「この場に居る事自体お忘れになられてると思うのですが、マスター…私達も同意見です」

「忘れてなんかいないよ。…ずっと席に座って俺の話を聞いてくれてた君達を忘れろって方が無理な話だね」

 

ㅤ彼女達一人一人の想いを真摯に受け取める九条の頭の中では、様々な考えが交錯していた。

ㅤどうして其処まで自分に付いてきてくれるのか。

ㅤどうしてこんなに自己中心的で情け無い自分を好きになってくれたのか。

ㅤ彼にとっては分からず仕舞いで考えるのも諦めたくなる程に難しい問題だった。

ㅤこればかりは彼女達本人にしか分からない、回答があるかもあやふやな話だ。

ㅤもしかしたら、分からなくて当然と言えるやもしない。

 

ㅤだが、一度気になれば最後まで明かしたくなるのが人間という生き物。

ㅤ九条大祐はこの難問を、頭を抱えながら必死に考えていた。

 

「…大祐くん、そんなに悩む必要無いですの」

「えぇ。蝶ヶ崎ほのめのこの言葉が、最大のヒントです」

「ほの姉もゔぁーすきも、何言ってるのか…世羅には分からないよ〜…」

「単純な話ですよね。世羅ちゃんにはまだ分からないかもだけど」

 

ㅤと、如何にも『元からこの場に居座っていた』かの様な雰囲気を醸し出しながら、上柚木さくらが部屋の扉を開けて彼の目の前まで歩いて行く。

ㅤそして彼女達の見ているその場で。

 

「…突然ですみません。あの、遅くなっちゃったけど…これ、受け取って貰えますか…?」

 

ㅤ両手で後ろに隠していたとある物を、彼の前に差し出す。

 

「…えーと、これは…チョコで合ってるかな」

「は、はい」

「さくらちゃんはさっきの俺の話、聞いてたりした?」

「…え、あ、はい…全部」

「それを踏まえて尚、俺にこんな素晴らしい物をプレゼントしてくれるの?」

「…飛鳥さんや森山碧さんにも、渡して来ました。私と八千代の問題を一緒に悩み、そして解決してくれたお礼として」

 

ㅤそう言うと上柚木さくらは一拍置いて、深い深呼吸を吐く。

ㅤ絶対に何か大切な話だと流石の九条も察する。

 

ㅤすると彼女は、チョコを受け取った彼の手を自分の両手でぎゅっと握り締めた。

ㅤそして顔を上げお互いに目と目を合わせ、じっと見つめ合って。

ㅤ上柚木さくらは頰を赤く染めながら話の続きを彼へ伝え始める。

 

「…勿論、九条さんに渡したこのチョコにはそういう感謝の意も込めました。でも、このチョコに込めた本当の私の気持ちは違います」

「さくらちゃん…けど」

「…例え貴方の一番になれなくても良い。ずっと側に…居させて下さいっ」

「…!!!」

 

ㅤ九条大祐へ、心の奥に秘めた自分の想いを告白として伝える上柚木さくら。

ㅤ彼女は大胆な事に、その場で彼に抱き着いた。

ㅤ普通なら周りに居る『九条に好意を寄せている』女性達はあまり良い気分にはならず、寧ろ止めに入るだろう。

 

…だが、彼女達は違う。

ㅤ優しい微笑みを浮かべ、その告白を祝福するかの様に見守る。

 

ㅤ九条も何かに気付かされたのか、若干泣きそうになっている上柚木さくらをそっと抱き込む。

 

「…有難う、さくらちゃん。こんな俺の側で良ければ幾らでも好きに居て。絶対に不幸になんかさせないから」

「…九条…さん」

 

ㅤそう、彼はこう言ったのだ。

ㅤ絶対に不幸にさせない、と。

ㅤよくよく考えれば一番好きな人の一番になれない時点で、不幸等そういうレベルでは無い。

ㅤでは何故、九条はそんな発言をしたのか。

 

ㅤ彼自身、まだ気の迷いがある証拠だ。

ㅤ全員を一番として見たい彼は、今日一日で何回もの葛藤を繰り返して来た。

ㅤだが、それも上柚木さくらの言葉に打ち砕かれた。

ㅤ自分が第一として考えられなくても良い、だから側に居させてくれと。

ㅤそれは九条大祐が一として嫌う言葉だった。

ㅤ然し彼にはそれを否定する勇気が無かった。

ㅤじゃあ何故否定出来ないのか。

 

ㅤ自分では嫌だと思いつつも、各務原あづみとリゲルを第一に考え、想っているからだろう。

ㅤ抑、嫌と思っているかどうかも彼自身が分からなくなっている。

ㅤ二人の事は確かに一番好きで、けど全員平等に愛したくて。

ㅤ人間、実際にこうなってしまえば決断其の物が下せなくなる。

ㅤ様々な問題にぶち当たり、困難を乗り越えて来た彼にも、恋愛という精神的直に来る問題には足を躓かせていた。

 

「…何やら色々悩んでいるらしいわね」

「そりゃあ…俺の中で主張し合う感情が矛盾しているので…」

「大祐、この問題はそんなに難しく考える物じゃありません。私達全員が企みそうな解決法…それが答えです」

「企み…?うーん…」

 

ㅤべがの話した内容に、兎に角食らい付こうと脳内をフル回転させて思い付く事全てを口にする。

…と、しようとした九条大祐は、何も思い浮かばずに意気消沈していた。

ㅤそんな彼を見て最初に口を開いたのはヴェスパローゼ。

 

ㅤでは無かった。

 

「…ぅゅ…みぃな、なにぃってぅの?」

 

ㅤ上柚木さくらから手を離し、唯突っ立っている九条大祐の足元には可愛らしい少女が首を傾げていた。

 

「きさらちゃんは…どう思う?」

 

ㅤすると九条は、まだ7歳という幼い少女に先程の複雑な話の答えを求めてみる。

ㅤ試しに…みたいな軽い気持ちで聞いた九条。

 

「…きぃ、いま、だいすけのぃちいじゃない…?」

「…えーと」

 

ㅤこれが面白い展開を生み出すとは、この場に居た誰もが思わなかった。

ㅤ全員が恋愛という、難しく、答えの見えない問題を必死に解く中で。

ㅤたった一人の少女だけが只管真っ直ぐでいた。

ㅤ百目鬼きさらは九条大祐の足にくっ付き、思いっきり抱き締める。

ㅤそして直ぐにこう言い放った。

 

「じゃあ、だいすけのいちいに、きぃがなゆっ!」

「…へ?」

「あづにも、りげゆにもまけない。きぃ、だいすけにふさあしぃおとあのじょせいになるっ!」

「きさら…ふふっ…あの子ってば」

「そしてだいすけの…ぅゅ…およめさんに…なゆ」

 

ㅤ顔を真っ赤に、照れ照れと体を揺らす百目鬼きさら。

ㅤ彼女のこの言葉が全員に答えという光を見出させた。

ㅤ一人、動揺を隠し切れていない男を抜いて。

 

「…そう…大祐、私達の企みとは、其々が貴方の一番になる事なのです」

「…何、で…」

「あはは、何もそこまで驚かなくても良いんじゃないかな。相変わらず大祐くんは面白いよね〜。…むぐむぐ」

 

ㅤベガ自身から明かされた、企み。

ㅤ九条はあまりに的外れな事を言われた所為か、一瞬間を置いてから静かに驚愕の音を上げた。

ㅤそんな彼の反応に、ムリエルが笑いながらチョコレートケーキを口に運ぶ。

ㅤ横ではマルキダエルが、ムリエルの頰に付いたチョコレートを布巾で拭ってあげていた。

 

ㅤ一方で倉敷世羅が我もと言わんばかりに九条の足へくっ付く。

ㅤすると百目鬼きさら、彼女と目を合わせる羽目になってしまい。

 

「にいの一番…?む〜…じゃあ、せらが一番になるっ」

「きぃ、せあにまけない」

「せらだって、きさらちゃんには負けないもん」

「え?あの…二人共?」

 

ㅤ現在進行形で九条大祐の足元では、二人の幼い少女が睨み合っていた。

ㅤお互いに目から眼光を放ち、バチバチと火花を散らしていそうな絵面となっている。

ㅤ只管に九条大祐が困っているのにも気付かずに。

ㅤ唯睨み合って。

ㅤ彼の足を抱き締め。

ㅤ若干苦しそうに苦笑いをする九条大祐。

ㅤそれは空気的にも、足元的な意味でも。

 

「これはもう何かしら、締め付けちゃってるわね」

「ヴェスパローゼさん…見てないで止めて頂けると助かります」

「ふふっ、分かったわ」

 

ㅤ少女達の争いから助け船を求める如く、九条はヴェスパローゼに二人の睨み合いを止める様に促す。

ㅤすると彼女は笑顔で了承した。

ㅤそして動けない彼の後ろに回り、両腕を背後から伸ばしてーー

 

「…って、何してるんです!?」

「何って…大祐争奪戦に参加してるだけよ?」

 

ㅤそう言って後ろから抱き付いたヴェスパローゼは、故意に自分の胸を九条の背中へ押し付けていた。

ㅤ更に彼の耳元で「絶対に逃さない…♪」等と囁き、抱き締める力を強くする。

ㅤ流石の九条も三人の女性から一気に攻められては太刀打ち出来ない…どころか、身動き取れずに好き勝手されている。

ㅤふと、見兼ねたリゲルが割って入る。

ㅤ九条大祐から離されたヴェスパローゼは、にこにこと笑いながらリゲルの背中をトンと押した。

 

「きゃっ」

 

ㅤ可愛らしい声が辺りに響き、リゲルは咄嗟に九条大祐の背中へと寄り掛かった。

 

「…あの…リゲルさん、大丈夫ですか?」

 

ㅤ恥ずかしながらも先ず彼女を心配する九条大祐。

ㅤ然し、最も恥ずかしがっていたのはリゲル自身だった。

ㅤ彼女は目を逸らしながらも、そのまま彼の背中に寄り掛かっている。

ㅤするとヴェスパローゼが一言。

 

「あら?やっぱり貴女も大祐争奪戦に参加したいんじゃない」

「ち、ちがっ…!抑貴女が押したからーー」

「じゃあ、大祐は私達が貰っちゃっても良いのね。なら遠慮はしないわ、だって好きだもの」

「…リゲルさん、あまり無理しなくてもーー」

「う〜…!えぇ、私だって誰にも負けない位に大祐が好き…だから!そんな簡単に渡さないわ!」

 

ㅤ皆の見ている目の前で大きな声を出し、大胆発言をかますリゲル。

ㅤ一拍置いて、彼女は他の女性達がにやにやと笑みを浮かべながら自分を見ている事にハッと気付く。

ㅤすると九条大祐の背中に顔を押し付け、表情を悟られない様に顔を隠した。

 

ㅤ然し、恥ずかしいのはリゲルだけでは無い。

ㅤ足元に少女二人、背後に美女、横にも美女と、嬉しくとも恥ずかしく、心の中で湧き上がる感情を堪える九条。

 

ㅤだが、彼が気にしていたのはそれだけでは無い。

ㅤリゲルが自分に向けられている視線から耐える為に、九条大祐のコートをぎゅっと握っていた。

ㅤその力が強まる度に、彼自身の心が締め付けられていく。

ㅤ何故?答えは単純だ。

ㅤ彼女はあまりスキンシップというものを好まない女性だ。

ㅤ初見の人物には勿論の事、例え彼女の心に深く入り込んでいようが触る事を許可しないだろう。

 

ㅤそう、これが九条大祐の内心の答えだ。

ㅤ彼はリゲルが心配なのもあるのだろうが、そんな彼女が自ら自分の背中にくっ付いて来ている。

ㅤという「リゲルさんは俺だけに…」みたいな独占欲を感じない様に心の中で踏ん張っていた。

ㅤリゲルという存在に悪戦苦闘を強いられているのだろう。

ㅤ偶に吹き掛かる彼女の吐息に、理性が明後日の方向へぶっ飛びそうな九条。

ㅤ今は足元で睨み合いを続けている少女二人を見て理性を保っているが、二人だけの空間だったらどうなっていた事やら。

 

ㅤ九条大祐が手を出してそのまま大人の階段をーーと考えられなくも無いのだが、彼にはその勇気が無い。

ㅤ加えて九条大祐の中で彼女達の存在というのは、汚れなき純粋な乙女と認知されている。

ㅤそれを自分の色に染めるのは気が引けるらしく。

ㅤ寧ろ彼の色に染めて欲しいと願う彼女達の想いは其方退けで…。

ㅤ側から聞いてれば「これは酷い」という言葉しか出てこないであろう。

 

ㅤだが、リゲルが九条大祐へ、こうも抵抗無く自分から触れに行くのにはこれが関わっている。

ㅤ単に彼が好きだというのもあるのだろう。

ㅤ然し彼女達を一番と考える九条が、自分の都合で手を出したりはしないと。

ㅤ完全にそう信頼しているからこそ、こうして自ら攻めているのだ。

 

ㅤそれに加えて、九条大祐はリゲルを身体目的として見ている気が一切無い。

ㅤもう「いや、好きだから」の一点張りだ。

ㅤ確かにリゲルからぐいぐい来られれば、流石に彼も反応を示してしまう。

ㅤそれでもそれは「男」として当たり前の反応だ。

ㅤ然し九条の中では「そんな本能的な物に従って堪るか」という謎の反抗心がある。

ㅤ要するに、彼は人間の本能という概念に囚われたくない人種な訳だ。

ㅤ相手から来てるなら此方からも攻めてやろう…では無く、相手から来てくれたのであれば相手が満足するまで付き合ってあげようという、完全に受け身の精神。

ㅤリゲルはこれに甘えているだけなのだ。

 

ㅤ本題の結論に戻るが、リゲルの中では「九条大祐は私に手出しをして来ない絶対の自信」というものがある為、自分から彼へ触れに行っている。

ㅤ九条本人もそれを承知の上なのか、リゲルに限らず彼女達を一人として自分の好きにしていない。

ㅤつい先程、各務原あづみへの愛を見せるべくキスをしていたが。

 

ㅤ然し、それは以前までの話だ。

ㅤ結局リゲルは「相手のタイミングにきっちり合わせてくれる」九条大祐を信頼して、自分と彼で二人だけの時間を過ごせる隙を、それこそタイミングというのを伺っていた。

ㅤそれが最近は、九条自身から来て欲しいという欲求が芽生えてきただけであって。

ㅤ「自分からは行動に移さない」九条大祐と「彼から求められたい」リゲルが噛み合っていないのだ。

 

ㅤ中々遠回しな言い方になってしまったが、結論は至ってシンプル。

 

ㅤ待てど待てど全然言動に移さない彼に焦らされている気分を味合わされ、だからリゲルは積極的に九条に触れる様になったと。

ㅤだがまぁ…彼がリゲルの想いを察しているとは思えないのだが。

ㅤこれでは何時迄経っても進展無しで終わる事だろう。

ㅤどうなる事やら。

 

「大祐くんの一位…かぁ…私にもなれるのかな…」

「バンシーちゃん可愛いからね〜。大好きアピールすれば、大祐くんもイチコロじゃないのかな?」

「ふぇ…えっと、ありがと…。でも、ムリエルちゃんも可愛いから…チャンスはいっぱいあると思う」

「私、もう二位以下は嫌ですの〜!」

「…ふふっ、皆さん…そうこう言っている間に真夜中になってしまいましたよ?早く御暇しましょう。大祐に迷惑が掛かってしまいます」

 

ㅤ九条大祐という堅い強固な城を落とそうと、どさくさに紛れて攻め込むバンシー、ムリエル、蝶ヶ崎ほのめ。

ㅤ相変わらず攻め手を緩めない二人の少女、二人の美女。

ㅤそんな彼女達を見つめながら微笑んでいる各務原あづみにオリジナルXIII。

ㅤ一方でマルキダエルや上柚木さくら、和修吉は優雅に紅茶を啜っていた。

 

ㅤ美女美少女に囲まれて何かが心の中で聳り立つ九条大祐。

ㅤ必死に端っこへ逃げようとするが、直ぐに捕まり定位置に戻されてしまう。

ㅤそんな、苦笑いを浮かべながら彼女達の対応に手を焼いている彼の前に、一人の美女がおどおどとしながら現れた。

ㅤそう、先程から九条を見つめ、とある一つの質問をしたくて仕方が無い…綺麗な水色の髪の毛の持ち主。

 

ㅤベガだ。

 

ㅤ彼女が何だか何時もと違う事に気付き、九条大祐は動きを止める。

ㅤ「彼が動かない=最大の隙」という思考が働いたヴェスパローゼ。

ㅤその隙を逃すまいと九条大祐を後ろから羽交い締めにしようとしたが、リゲルに然りげ無く頭をポンと叩かれ、止められた。

 

ㅤ実の母親がもじもじとしている事が気になったのか、各務原あづみはベガの隣へ寄り添う。

ㅤ更にもう片方にはA−zが、心配そうに彼女を見つめていた。

ㅤベガはそんな二人に勇気を貰い、いざ一つの疑問を九条大祐にぶつける。

 

「…今更で凄く聞き難いのですが…大祐、ええと…貴方は…その…」

「どう…しました?」

「わ、私達全員を、その…愛してくれているという認識で…間違い無いでしょうか…?」

「えぇ、勿論ですよ?それがどうかしました?」

「…えっあっ…いや」

「…ふふっ、愚問だったらしいわね。態々聞く必要無かったんじゃ無いかしら?ベガ」

 

ㅤ思いの外即答され、少しキョドってしまうベガ。

ㅤヴェスパローゼはそんな彼女を見て、微笑みながらそう言う。

ㅤその意見にはリゲルも同意しているらしく「恋する乙女は心配し過ぎる傾向があるわね」等と、少しばかりベガを揶揄って見せた。

 

「もう…皆さん私を「恋する乙女」と呼び過ぎです。そんな可愛らしい渾名を付ける程、私は可愛く等ーー」

「うーん…ベガさんは可愛いというか、美しいの部類に入る外見をしてらっしゃるんですよ。それでいて、心は恋愛に初々しくて可愛いらしい乙女。そのギャップが何れ程素晴らしい事か…!まぁ要するに、美しさと可愛さを兼ね備えた美女という事です」

「…ふぇっ!?」

「ほらね。ベガの魅力をこんなスラスラと言い放てるのよ?心配する必要があるかしら?」

「…いや、まだ話足りないんですが。ベガさんの魅力はまだまだ沢山有りますからね」

 

ㅤこれが九条大祐や天王寺飛鳥等のハーレム男の最大の武器。

ㅤ相手の魅力を吃る事無く伝え、相手に有無を言わせる前に攻め立てるという、言葉を利用した落とし方。

ㅤだが、彼等は自覚等無い。

ㅤ自分の思っている事を素直に伝えるからこそ、相手の胸に届くというものだ。

ㅤ全くもって恐ろしい。

 

「…後は気遣いしてくれるところとか。疲れている時に優しく「もう休みなさい、明日もあるんですよ?」なんて言われたら…そりゃ休むしか無いでしょ」

「や、大祐、私との会話を思い出さないでっ」

「珍しく敬語じゃ無い。…よっぽど焦っているのね、ベガ」

「お母さんと大祐くん、本当の夫婦みたいだね。羨ましいな…私もそうなりたい…な?」

「大祐と…夫婦…!?」

「あづみさん、貴女さえ良ければ何時でも準備は出来ております」

「えへへ…子供は、何人が良いかな…?」

「「「ぶっ!!!」」」

 

…やはり、先程の九条大祐や天王寺飛鳥の話といい、無知や無自覚というのはなんて恐ろしいものなのか。

ㅤ特に各務原あづみや百目鬼きさら。

ㅤ彼女達は其方関連の事を知らない。

ㅤだが、知らないのにも関わらず九条大祐には爆弾発言をかます。

ㅤそんな二人の発見は、此れ迄幾度と無く彼の胸を締め付けてきた。

ㅤあまりにも辛過ぎる九条大祐は、一回森山碧に相談を持ち掛けた程だ。

ㅤ森山碧から返って来た答え。

 

『…ハーレムロリコンめ…後ろから刺されてしまえーーん?あぁ、適当にあしらっとけばいんじゃね?』

『へっきーの答えが適当過ぎるわ!ていうか全部丸聞こえだったからな!?』

『ああ、悪ぃ☆』

『絶対反省してないだろ!』

『…バレた?』

 

(九条大祐がバトルドレス「ストライクフリーダム」を装着し、目の前でロングレンジライフルを放つ音)

 

…なんてぐだぐだなやり取りをしている二人なのだろう。

 

ㅤ話が逸れてしまった。

ㅤ少しばかり強引に路線を戻そう。

 

「いや…子供って…」

「あづみ、意味を分かっているのですか?」

「えっと…確か、コウノトリさんが運んで来てくれるってお母さんが…」

「…ベガさん?」

「…もし、大祐と本気で夫婦になりたいなら、その時教えましょう」

 

ㅤ各務原あづみという少女が無知な理由、母親であるベガが嘘を教えているから。

ㅤ然し、実の娘に性行為の話など出来たものか。

ㅤ答えはNO、ノーだ。

ㅤ加えてベガは、今迄各務原あづみを誰にも渡そうとして来なかった。

ㅤ抑母親にその気が無いのであれば話は始まらないし変わらない。

 

ㅤだが、九条大祐と出会い、実の娘と相思相愛の仲である事を目の前で証明され。

ㅤベガも認めざるを得ない、というか認めざる他選択肢が無かった。

 

ㅤつい先程もお互いのファーストキスを捧げ、軽いキスを済ませたばかり。

ㅤそろそろ其方関係の話を各務原あづみへ聞かせようとした際に起こった出来事だった。

ㅤだから余計にベガは話辛くなってしまい、まさかこの場で話す訳にもいかず。

ㅤバレンタインパーティが終わっても、恐らく話さない積もりなのだろう。

ㅤ彼女の「本気で夫婦になりたいなら」という発言が証拠だ。

 

ㅤだが然し、各務原あづみは。

 

「…わっ私、大祐くんと本気で夫婦になりたいですっ…だから、お…教えて下さいっ!」

「あづみさん…」

「…後は大祐次第って事ね。勿論答えは決まってる筈よ?」

 

ㅤ各務原あづみの後押しをするが如く、確定付いた答えをリゲルは九条へ催促する。

ㅤ無論、彼の口にする言葉も決まっているようなものだ。

ㅤ一言「俺もです」といった言葉を放てばいいだけ。

ㅤ難しい事等何も無い。

 

ㅤだが、九条大祐が口にした言葉は。

 

「…俺は、まだこの関係で良いと思います」

「大祐!?」

「大祐くん…」

 

ㅤ予想外の答えが返って来た所為か、各務原あづみとリゲルの二人は思わず彼の名前を口にする。

ㅤ各務原あづみの夫婦になりたい告白を断った理由、それは九条大祐なりにしっかり考えていた。

 

「あづみさんは子供を持つ以前に、どうすれば子供が出来るかを知らないですし…もし知っていても俺には一つだけ心配な事があるんです」

「心配な、事…?」

「うん。あづみさんの体の事が兎に角心配なんだ」

「どうして?私は全然平気だよ。前よりも丈夫になったよ?」

 

ㅤ九条を納得させたいが為に、必死に問い掛ける各務原あづみ。

ㅤすると彼は、彼女の体を優しく抱き締め、話を続けた。

 

「…あのね、あづみさん。子供を持つ為にする行為っていうのは、今迄の比にならない位にぐったりするんだ。この言い方だと全くそう思えないだろうけど、実際にそういう事をした時…あづみさんの体に何かあってからじゃ遅いんだ。ベガさんなら、分かってくれますよね?」

「…えぇ、勿論です」

「でも、大祐くんとなら…!」

 

ㅤ九条が説得しようとも、怯まず押しの強さを見せる各務原あづみ。

ㅤ然し。

 

「こればかりは…譲らない」

「…!」

 

ㅤ彼女の耳元で静かに呟き、自らの意思をしっかり示す九条大祐。

ㅤそんな彼の言葉に各務原あづみは、見るからに気落ちしてしまっていた。

ㅤリゲルは九条大祐の答えに納得がいかないのか、一歩前に出て反論しようとする。

ㅤだが、後ろにいるベガから肩を掴まれて止められた。

 

「…ここからは大事な話をします。申し訳無いですが、あづみさんとリゲルさん、ベガさん以外はーー」

「分かっていますよ、大祐。ヴェスパローゼ、皆を違う部屋に連れて行く誘導を手伝って下さい」

「言われなくても既に終わっているわ。部屋に残っているのは私達だけよ」

 

ㅤ事情を理解し、気を利かせて全員を退場させようと試みた和修吉。

ㅤ然し、彼女よりも早く察したヴェスパローゼが、九条大祐達に気付かれない様に全員を違う部屋へ移動させていた。

ㅤヴェスパローゼの行動力の高さに、九条は頭を下げて感謝の意を示す。

ㅤすると彼女は何も言わず、唯にこにことしながら片手を振って部屋から退室した。

 

ㅤそれに付いて行く形で、和修吉も退室する。

ㅤ彼女はその際「愛していますよ、大祐」と言い残していった。

ㅤ一体どういう意味でそう言ったのか。

ㅤ九条大祐は「好きだから」という単純な意味だけには感じられ無かった。

ㅤ何か別の意味が込められいる様で。

ㅤだが、それは今考えるべき事では無いと、一度頭の隅にへと追いやった。

 

ㅤそして再度、各務原あづみの方へ体を向ける。

 

「…あづみさん、俺の本心を言っても良いかな」

「…うん」

 

ㅤ二人共、一拍置いて会話を続ける。

 

「…俺はね、いや…俺もかな。あづみさんとは今迄以上の関係を築きたい」

「…!」

「でも、それでも…あづみさん自身の体が一番だから。何かあったんじゃ、関係も何も無いから。それだけは分かって欲しい」

「…ううん、私…分かってたんだ。自分の体がまだ弱くて丈夫じゃない事。でも、前よりは少しでも強くなったって自分で信じたくて、大祐くんにもそう認めて欲しくて………ごめんね、自分勝手で…」

 

ㅤ今にも泣きそうな程に、震えている声。

ㅤそんな彼女の本音を耳にした九条は、この判断が本当に正しいのか疑心暗鬼になっていた。

 

「…けど、あづみさんは…それでも俺を求めてくれた。受け入れてくれた。だから本来俺に拒否権なんて無い」

「違うよっ、大祐くんは私を心配してくれただけ…無理強えをしたのは私だから」

 

ㅤ互いに自分の非を悔いては相手を悪く無いと言い張る。

ㅤ自分が一番最低辺だと思い込み、そんな自分に尽くしても意味は無い…だからその分他人に尽くそうとする少年。

ㅤ相手にとことん献身的で、争い事を好まない優しい性格の少女。

ㅤ献身という二文字を持ち得る二人は、相手を認めても自らを認めようとはしない。

ㅤ何方かが悪いでは無く、何方も悪くないで事済む話であるにも関わらず。

 

「大祐が優しくリードしてあげれば良いだけの話なんじゃないかしら?」

「リゲル、子供を作る為に必要な行為というものを知っているのですか?」

「勿論知ってるわ。キス以上の事をするだけでしょう?」

「…駄目ですね」

「何が!?」

 

ㅤ至って真面目に話をしている九条大祐、各務原あづみの後ろでは愉快な会話をしているリゲルにベガ。

ㅤ正に対象的だ。

 

「…リゲルさん、幾ら俺が優しくリードしたって、あづみさんの体は耐えられるか怪しいですよ」

「それにあづみはまだ14歳です。大祐だって15歳という若さで…子供を作るには早過ぎる。私は時を待つ、という大祐の意見に賛成です。その間に子供を作る為に必要な知識を、あづみに教えれば良いのですから」

「お母さん…」

「大祐やベガの見解がよっぽど正しいって思い知らされるわね…」

 

ㅤ少し考えるだけで別の選択肢が見えてくる。

ㅤ目先の事に囚われていては、新しい道など生まれはしない。

ㅤ大袈裟な例えではあるが該当に当て嵌まる例えではある。

ㅤ然し誰もが視野の広い人間では無い。

ㅤだからこそ、頭で考えるという行為が何れ程大切な事か。

ㅤ九条大祐も、先程から悩んでいる問題に視野を奪われ過ぎている。

ㅤ彼もまだ大人では無い証拠だ。

 

「でも…なれるなら…今直ぐにでもあづみさんともっと深い関係をーー」

「大祐くんと繋がりたい…なぁ…」

「…ベガ、あづみって結構重症よね」

「…私や貴女も否定出来ませんよ」

「わっ、私はちゃんと弁えているわ!大祐と大人の恋をするにはもう少し待たなきゃって……そう…何時迄、待たなきゃいけないのかしらね……」

「あ、そうでした」

 

ㅤ各務原あづみの爆弾発言を受け流す九条大祐。

ㅤそうでもしなければ生き長らえる事すらままならないからだろう。

ㅤそして彼はリゲルの言葉に、とある事を思い出す。

 

「あづみさんにはお互いにファーストキスという初めてを体験しました。では、リゲルさんはどうしましょうか」

「えぇっ!?そんな…急に言われても…///」

「わぁ、リゲル、凄い顔真っ赤だよ」

「照れてる証です。あづみも大祐に対しては何時もあんな感じですよ?」

 

ㅤそう言われた各務原あづみは、自分で気付かない内に顔を真っ赤に染めていた。

ㅤベガに微笑ましく「ふふっ」と言われ、気付き、両手で顔を隠す。

 

「…そうなんだよね。私、大祐くんときっキス…したんだよね///」

「うっ、あづみさんに言われるとなんか恥ずい…。思い出したくーー無い訳でも無いな。寧ろ一生忘れたくない思い出の一つだ」

「や、思い出さないでぇ…いやぁ…うぅ〜…///」

「か、かわええ…!」

 

ㅤ彼女とのファーストキスを思い出し、口元がにやけ…はせずに恥ずかしがる九条大祐。

ㅤそんな彼を見て更に恥という感情が湧き上がって来たのか、各務原あづみは九条大祐と目を合わせる事が出来なかった。

ㅤ可愛らしい彼女の照れというものを目の当たりにし、九条は少し揶揄い気味に「いや〜嬉しかったな」等とほざいて見せる。

 

ㅤ然し、その言葉が各務原あづみに火を付けた。

ㅤ彼女は膝を着いている九条大祐を見事押し倒し、彼の腹部辺りに馬乗りになる。

 

ㅤそして唖然としている九条の顔の近くにグッと接近し。

 

「だ、大祐くん…これ以上は我慢出来ないよっ」

「あづみ、口封じにキスしようとしてるわ」

「良いのでは無いですか?あの子があんなに積極的なのは、見ていて新鮮です」

「ちょと!のほほんと見るもんじゃ無いですからね!?あづみさんも、謝るから落ち着いて!」

「む〜…」

 

ㅤ不貞腐れた様に頰を膨らませ、怒っているのだと表情で九条に伝える。

ㅤ 流石にそこまでされれば気付かずにはいられないだろう。

ㅤ九条大祐は苦笑いを浮かべながら、「どうどう」と各務原あづみを落ち着かせようと試みる。

ㅤだが、其処で思い掛けない出来事が起こってしまった。

 

「あづみさん、本当にごめんーー」

「えーいっ」

「ふむっ…!?」

 

ㅤ彼が謝ろうとしたその瞬間。

ㅤ何処からか聞き覚えのある声が聞こえたかと思うと、各務原あづみはいつの間にか九条大祐の唇に自分の唇を重ねていた。

 

「んっ!?」

 

ㅤ唐突な出来事に驚く事しかできない九条。

ㅤまさか彼女がこんなにも積極的だとは、彼でも知らなかったと。

ㅤだが、近くで見ていたリゲル、ベガは至極機嫌の悪そうな表情を見せていた。

ㅤその理由とは一体。

 

「…ぷぁっ」

「不可抗力過ぎだろ…ナナヤ、あづみさんに謝って」

「え〜、だってあんな面白そうなチャンス、逃す方がどうかしてるよ」

「ナナヤちゃん…んと…」

「ほら、あづみさんだって困ってるから」

 

ㅤナナヤに、自分のした事を謝罪するように催促する。

ㅤ言うべき時には言っておかなければ、今後ナナヤはまた好き勝手にやってしまうからだろう。

ㅤ何時もとは違う、威厳をしっかり持って彼女に注意を促す。

ㅤ然し又もや、各務原あづみに驚かされる事となった。

 

「ち、違うの。大祐くん…あのね、ナナヤちゃん。えと…ありがと」

「…へっ?」

「でしょでしょ〜♪あづみちゃんが心の中で「もう一回…したいな…」みたいに思ってたから、手伝ってあげたんだ〜♪」

「な、ナナヤちゃん、言っちゃだめっ」

 

ㅤあまりに衝撃的な出来事が起こり過ぎた所為か、九条大祐は言葉を発するという力を失った。

ㅤそれはリゲル、ベガも同じ。

ㅤまさか各務原あづみとナナヤが結託していとは。

ㅤ何より三人が思ったのは、何時からお互いに仲良かったのか…という疑問だった。

 

ㅤにこにこと笑うナナヤに、恥じらう各務原あづみ。

ㅤそんな二人を見て、三人共自然に笑みを浮かべていた。

ㅤ内二人はナナヤに良い印象を持っていないが。

 

「さてさて〜お次はそこの貴女だよっ」

 

ㅤ又何かやらかす積もりなのかと、頭を抱える九条大祐。

ㅤそんな彼を無視し、ナナヤはとある人物を指差す。

ㅤさぁそれは誰なのか。

 

「…えっ、私!?」

 

ㅤ無論、リゲルだろう。

ㅤだが、本人は指差された方向に驚いていた。

ㅤあのナナヤが仕掛けて来る事だ…身構えた方が良いだろう。

ㅤ彼女はそう思い、ナナヤに対して身を低くして構えた。

ㅤ送り付ける視線もキツい眼光にして。

 

ㅤそこまでされると、流石のナナヤも少し遠慮しようかと一考した。

ㅤ然し彼女はニヤリと笑い、リゲルに笑顔を向ける。

 

「安心してよ。直接私が手を出す訳じゃないからさっ♪」

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

バレンタイン(後編2)

「…?どういう意味ーー」

 

ㅤナナヤの言葉に翻弄されるリゲル。

ㅤそれでも警戒を解かない彼女は、一歩又一歩と後退り、ナナヤ距離を取る。

ㅤだが然し、ある程度距離を離した瞬間…リゲルの体は誰かに持ち上げられた。

 

「…!は、離しなさい!」

 

ㅤナナヤに気を取られ過ぎた。

ㅤ見事彼女の罠に引っ掛かってしまった、と、リゲルは後悔していた。

ㅤ兎に角、自分の体をお姫様抱っこしている奴から解放されようと必死にもがく。

ㅤすると、彼女の一番親しみのある声が耳に入ってきた。

 

「…り、リゲルさん。落ち着いて。俺ですから」

「大祐!?」

「ほーらねっ」

 

ㅤ声の主が九条大祐だと分かった瞬間、リゲルは平常心を取り戻し。

ㅤ同時に申し訳無さと恥ずかしさという感情が芽生えていた。

ㅤそれは彼女の表情に表れており、どうにかして九条大祐から顔を逸らそうとしている。

 

「いや…急に御免なさい。俺の勝手で驚かせてしまって…」

「…ナナヤに操られてる可能性は?」

「無いですよ。だから、安心して下さい」

 

ㅤそう、彼は優しく言い放った。

ㅤリゲルはその言葉を素直に信じ九条の胸元に寄り添う。

ㅤそんな光景を、まじまじと見つめる三人。

ㅤ中でも、ベガだけが母親の様な微笑みを浮かべていた。

 

「…それで、えーとですね…」

「?」

「もう少しの間、リゲルさんの事を好きにさせて貰っても良いですか…?」

「!!!」

 

ㅤ恐る恐る尋ねる九条大祐。

 

「…えぇ、その…任せるわ」

 

ㅤ最早既に、彼に身を委ねるリゲル。

 

「有難う御座います。それじゃ、ちょいと寝室に移動しますよ」

「…?どうして?」

「直ぐに分かります。そして、直ぐに戻って来ますから。ちょっと待っててくれますか?」

「うん、行ってらっしゃい」

「どうぞ〜楽しんで来てねっ」

「ふふっ…リゲル、覚悟した方が良いですよ」

「…へっ!?大祐、今から何するの…!?」

「お楽しみ?ですかね?」

 

ㅤニコッと、爽やかな笑顔を向ける九条大祐。

ㅤその表情にリゲルは胸を押さえ、身を縮こませる。

ㅤ先程はああ言ったものの、いざとなると怯みを隠せない。

ㅤ九条大祐とリゲルは、そのまま寝室へと入っていった。

 

 

 

 

ーーー

 

10分後

 

ーーー

 

 

 

 

「あ、リゲルと大祐くんが出て来たよ」

「…ありゃりゃ…これは」

「リゲル、完全に堕とされましたね」

 

ㅤ寝室から姿を出した二人を見て、三人は直ぐにこう思った。

ㅤリゲルが凄くぽけーっとしている。

ㅤ何をされたんだと。

 

ㅤそんな彼女を見て、心配そうに抱き締める九条大祐。

ㅤ相も変わらずお姫様抱っこでリゲルを運び、ソファーの上に寝かせる。

 

「…リゲルが、ショートしてる」

「まさかとは思いますが…大祐、リゲルと最後までしてしまったのですか?」

「大祐くんの初めては…わたしが貰いたかったのに」

「何言ってるんですか!?してませんよ!てか、ナナヤはまだ狙ってたのか…」

「当たり前だよっ♪」

 

ㅤこれではおちおち寝てもいられないと、九条大祐は若干萎え始めていた。

ㅤ何時か気付かない間にナナヤのお腹が大きくなって、それを祝う為に拍手を送ったら自分の子供と気付かされる。

ㅤ何て悲惨な未来なのだろうか。

ㅤそんな事を想像した彼は、顔を真っ青にして後悔していた。

 

「でも、まだしてないんだよね?じゃあ、何れ私の物になる日が…ふふっ♪」

「怖いからナナヤ!不敵な笑みで此方を見るな!」

「そうです。大祐の初めてはあづみと決まってますから」

「「えぇっ!?」

 

ㅤベガの言葉に、九条大祐と各務原あづみが同時に驚く。

 

「…母親公認か…いや、でも…まだ早いよな。うん。まだ…まだ早い、じゃあ何歳まで待てば良いんだろうか」

「大祐くん…私は、何時でもオッケー…だよ?」

「あづみ、先程の話を忘れてはいけません」

「そうだそうだ〜、大祐くんは私の物なんだからっ」

「俺は、物じゃ、ないから!」

 

ㅤ実の親から許可が下り、一瞬だが心が揺らいだ九条大祐。

ㅤ然しそれでは本能に従ってしまう事となる。

ㅤ本能=彼の中では一番嫌っているものだ。

ㅤ加えて此処を本能で動いてしまうと、自分の言葉に責任を持たない「責任放棄野郎」という最低な人間になってしまう。

ㅤそれは、それだけは嫌だと。

ㅤ九条大祐は各務原あづみの誘惑に押され掛けたものの、頭をぶんぶんと振って理性を取り戻す。

 

ㅤと、四人で話している内に。

 

「…う、うん…と。私は一体何をーー」

「あっ、リゲルおはよっ」

「あづみ…有難う。やっぱり何時見ても癒されるわね」

「大丈夫ですか?急にパタッと意識を切らしたのでびっくりしましたよ」

「えぇ…何があったのか、ちょっと思い出せなーー」

 

ㅤふと、リゲルは九条大祐の顔を見て頰を真っ赤に染めた。

ㅤそう、彼としたある一つの事。

ㅤ九条の顔を目に入れた瞬間、それを思い出してしまったリゲル。

ㅤ彼女はハッとし、後退り、そして腕を滑らせて頭をぶつけてしまいそうになった。

 

「きゃっ」

 

ㅤその時、瞬時に体を動かしてリゲルの肩に手を回し、支える九条。

 

「…ちょっと、落ち着きましょ?何だか凄く慌ててますから」

「あっ…いや、その…だって…」

 

ㅤ自分の慌てている理由を説明しようとしたリゲルだが、喉で引っ掛かって出て来ないままでいる。

ㅤ何故って?

ㅤ彼女にとって、九条大祐とした行為は口にする事の出来ないものだと認識しているからだ。

ㅤそれは彼も一緒だということに気付いていないのも事実だが。

 

「…二人は一体、何をしていたんですか」

「わ、私も気になる…!」

「俺とリゲルさんが何してたかって…言ってしまえばキスですよ」

「だ、だい…すけ…恥ずかしから言わないで…」

「協力した事、ちょっと後悔してるー…」

 

ㅤベガやナナヤより、まさか各務原あづみの興味津々さの方が勝っていた。

ㅤ一人は何故かしょんぼりとし、頰を膨らませてリゲルを威嚇している。

ㅤそれに対してリゲルは、普段しない様な勝ち誇った表情をしながらドヤ顔染みた顔を見せ付けていた。

ㅤナナヤはそれが気に入らなかったのか、咄嗟に九条大祐へ抱き付いて彼を困らせた

 

「ねーねー大祐くん、やっぱり…二人とした事よりももっと激しい事、しよ?」

「やだ」

「即答!?」

「…それよりも、リゲルにとってキスは初めてです。が…大祐にとってはそうでもありません。何が貴方の初めてだったんですか?」

 

ㅤ彼とナナヤが茶番の様な会話を繰り広げていると、ベガが素朴な疑問をぶつける。

ㅤ自分の体に引っ付くナナヤを剥がそうと必死になっていた九条大祐だが、ベガの質問に答えるべくちらっとリゲルの方に視線を送った。

ㅤすると彼女は照れているのか目を逸らしたが、コクンと頷いて了承を示す。

ㅤそんなリゲルの側には、各務原あづみが彼女の手を握って心配そうに見つめていた。

 

「…まぁ、確かにキスは初めてじゃありません。ついさっきあづみさんに捧げたばかりですからね」

「私との初めては何が良い?何でも良いよっ」

「ナナヤちゃん、ほんとに大祐くんが好きなんだね」

「うんっ!だからね、あづみちゃん達には負けないよ〜」

 

ㅤ九条大祐の話を遮断するかの如く、割って入るナナヤ。

ㅤ然し各務原あづみとは互いに笑顔で話し合っているのが伺えた。

ㅤ意外に仲が良いんだと九条大祐は思いながら、話を続ける。

 

「話を戻して、まぁ結論を言うとリゲルさんとは大人のキスをした訳ですよ」

「〜///」

「大人の…キス?」

「多分、ディープじゃないかな?」

「当たり。…そうしたらリゲルさんが俺の理性を吹き飛ばしそうな声を出して、いつの間にかショートしていた。どうやって起こそうか考えていたら遅くなったと、そういう話です」

「リゲル…どうでした?大人のキスは」

「でぃーぷキス、だよね?」

「や、やめてっ。感想とか言ったらまた倒れる自信しかないから!」

 

ㅤそう言ってリゲルは、近くにあったクッションに顔を埋める。

ㅤ自分の真っ赤な顔を見られたくないからだろう。

ㅤそんな、恋乙女真っ盛りのリゲルを見てベガや各務原あづみは不意に「可愛い」と思ってしまった。

 

ㅤすると九条大祐はリゲルの側まで寄り、彼女の上に被さる様にしてから顔のクッションを退ける。

 

「…それじゃあリゲルさんの可愛らしいお顔が見えませんよ?」

「や、見られたくないから隠してるのっ」

「大祐が急に肉食系になりましたね」

「いや、一回こういう事を言ってみたかったんですよ」

 

ㅤ物は試しに、みたいな感覚で普通は出来ない事をちゃっかり仕出かす九条大祐。

ㅤやはり無自覚というのは恐ろしいものだ。

ㅤ彼はそのままソファーに座り、ゆったりと寛ぐ。

ㅤ隣では息を切らしたリゲルが然りげ無く九条の肩に寄り掛かり。

ㅤその逆隣には各務原あづみが座り。

ㅤ向かい側にベガ、ナナヤと、必然的に座る席が決まっていた。

 

ㅤと、五人で楽し気に話していると部屋の扉がガチャッと開き、誰かが勢い良く入ってくる影が彼の瞳に一瞬映る。

ㅤすると九条大祐の元へ走って行く少女が一人。

ㅤ直後、彼の胸元に向かってダイブした。

 

「うおっ…と、きさらちゃん…走ると危ないよ。それに飛び込んで来るなんて、急にどうしたの?」

 

ㅤそう、走っていた影は彼女…百目鬼きさらのものだった。

ㅤ九条は自身の胸元に抱き付いている百目鬼きさらを、あやす様に頭を撫でてやる。

ㅤだが何故か、彼女の瞳からは雫が零れ落ちていた。

ㅤ流石に九条大祐も理由が分からない。

ㅤどうして百目鬼きさらは泣いているのか。

 

ㅤ周りの四人も心配そうに彼女を見つめていると、そこへ一人の美女が歩み寄ってくる。

ㅤ無論、ヴェスパローゼだ。

 

「…きさらちゃん?どした?」

「ヴェスパローゼ、またあの少女に何か吹き込みましたね」

「人聞きが悪いわよベガ。私は事実をきさらに教えただけ」

「へぇ〜…じゃあ、相当キツい事を言ったんだ」

 

ㅤベガはヴェスパローゼの核心を突く様な言葉をぶつけるも、彼女から返って来たのは否定だった。

ㅤそれに乗じて珍しくヴェスパローゼへ話し掛けるナナヤ。

ㅤ然し、当の本人はそれを完全無視。

ㅤ困り果てる九条大祐と、その彼の胸元で泣いている百目鬼きさらをじっと見つめていた。

 

「あの…きさらちゃんに何を言ったんですか…?」

 

ㅤ更には各務原あづみまでもがヴェスパローゼへ問い掛けていた。

ㅤ恐る恐る話し掛けてくる彼女に対してヴェスパローゼは、ふっと笑みを浮かべる。

ㅤそしてこう答えた。

 

「…大祐ときさらって、お似合いじゃないかしら」

「随分と突拍子も無いわね」

 

ㅤ彼女の返答があまりに唐突過ぎる内容の所為か、思わずリゲルが突っ込む。

 

「いや、飽くまで私個人の意見よ?」

「そう…それで?」

「気付いていないのかしら?私は二人がお似合いだと思う。だから大祐にはきさらを貰って欲しいの」

「…一体、何の関係があるのかしら」

 

ㅤそれが幼い少女の泣いている理由と、何の関連性があるのか。

ㅤリゲルだけでは無く、各務原あづみやナナヤも疑問を抱いた。

ㅤ二人…九条大祐とベガを抜いて。

 

「…成る程。ヴェスパローゼさんがどう伝えたのかは分かりませんが何と無く察しましたよ」

「ですね。恐らく「このままだと大祐の一番にはなれない」とでも言ったんでしょう。大祐自身があづみとリゲルを一番に見ているのも事実ですから」

 

ㅤすると百目鬼きさらは、彼の胸元で無言の頷きを見せた。

ㅤそんな、少し寂し気な表情で自分を見つめてくる彼女の頭を撫で続け、九条大祐は微妙な気持ちを抱く。

ㅤどうしてやれば良いのだろう、と。

ㅤ九条が百目鬼きさらを子供の様に見ていようとも、彼女からすればたった一人の好きな人…という認識なのだ。

ㅤとはいえまだ7歳の幼い少女を恋愛対象として見ろというのには難がある。

 

ㅤだからと言って彼女の気持ちを蔑ろには出来ない。

ㅤそれが今の、九条大祐の心境だった。

ㅤ葛藤、正にその通りだ。

 

ㅤするとヴェスパローゼが彼の近くに寄り、耳を貸してと一言。

ㅤ九条大祐は素直に従い、ヴェスパローゼへ耳を傾ける。

 

「…流石に今直ぐとは言わないわ。でも、きさらがもうちょっと大人になったら…あの子を一人の女として見て欲しいの。子供でも妹でも無い、恋愛対象として」

「…ですが」

「お願い。これは私からの勝手な申し出でもあるけれど、きさら自身の想いでもあるの」

 

ㅤ自分が良い印象を受ける為の嘘か真か。

ㅤヴェスパローゼの言葉が本当がどうか確かめるべく、九条は百目鬼きさらと顔を見合わせた。

ㅤ綺麗なその瞳と視線を合わせると、彼女は照れながら下を向いて頷く。

 

ㅤこれには九条も押し負けた。

 

ㅤもう、ここまで自分を好きだと思ってくれている百目鬼きさらをこのまま放っておく訳にはいかないと。

 

「…ありがとね、きさらちゃん」

「いぃ…の。きぃ、だいすけがすき…だから」

「ふふっ、ちゃんと自分の気持ちを言えたわね」

 

ㅤヴェスパローゼがそう言うと、百目鬼きさらは照れ隠しをする様に九条の胸元に顔を押し付けた。

 

「ま、私も大祐を諦めた訳じゃ無いわ。今度からは『攻め』という立場を得て…存分にアピールさせて貰うわね?」

「具体的には何を」

「そうね…朝に起きたら隣で寝てたり、昼は食事に誘ってそのままデートしたり、夜は…言わずもがな?」

「何故疑問系…」

「大祐なら察してくれるだろうと思って…ね?」

 

ㅤ彼からすれば、察しが良かろうが悪かろうが何れにせよ想像したくは無いだろうという気持ちだった。

ㅤ15歳という思春期真っ盛りの年齢だろうが、九条はそういう事を頭で考えるのに抵抗を抱いている。

ㅤその理由は。

ㅤ苦手意識が高いから…だけでは無かった。

ㅤ例えどの選択肢を選んだとしても最初に傷付くのは女性だ。

ㅤそれを踏まえて初めて、彼女達と一つになると。

ㅤどんな痛みだろうと関係無い。

ㅤ彼女達が痛がる姿を想像する事になる時点で、心が拒否して止まない。

 

ㅤ唯想像するだけでも、無理な物は無理だと。

ㅤ彼の中では頑なにそれを貫き通していた。

 

「ちょっと待つですの!ヴェスパローゼさんだけ抜け駆けとは卑怯ですわ!私も大祐君という男性を諦めた覚えはありませんの…私だって色んな事をしてみたいですのっ」

 

ㅤすると盗み聞きをしていたのか何なのか、蝶ヶ崎ほのめが扉を力強く開けて割り込みに入る。

 

「…え、色んなって何をですか!?」

「わ…私は、もう18歳ですわ。結婚出来る年齢には到達してますの。子供だって身籠れる位には体も出来上がってると思いますのよ。だから…その、あれですわ?」

「…ほのめ嬢もヴェスパローゼさんと似た感じですね!?その察せよみたいな疑問系。それに俺はまだ結婚出来る年齢ではありませんし…何だかすみません」

「謝る必要は無いですの!大祐君がその時になったら…お、美味しくいただきますのっ…」

「意味分かってます?」

「ヴェスパローゼさんの真似してみたのですわ」

「下手な真似はよした方が身の為ですよ…特にヴェスパローゼさんの真似は」

「あら失礼」

 

ㅤ二人の会話を聴きながら、ヴェスパローゼはにこにこと笑っていた。

ㅤそんな彼女に見向きもせず蝶ヶ崎ほのめは九条大祐の近くへと寄って行く。

ㅤ彼の胸元では幼い少女がゆっくりと呼吸しながらリラックスし、誰にも譲らないと言わんばかりに彼を抱き締めていた。

ㅤ九条大祐は蝶ヶ崎ほのめを気にしながらも百目鬼きさらの背中を優しく叩いてやっていた。

 

ㅤその光景を羨ましそうに見つめる蝶ヶ崎ほのめ。

ㅤすると百目鬼きさらは一瞬だけ振り向いて彼女と目を合わせるが、直ぐにぷいっと視線を逸らす。

 

「ぐぬぬ…幼い事がこんなに恨めしく感じたのは初めてですの。私にも是非して欲しいですわ…」

 

ㅤそう言って、悲しそうな表情を浮かべる。

ㅤ然し目の前でそんな事をされたんじゃあ、九条大祐も黙っちゃいない。

ㅤ両隣りに座っている大好きな二人とアイコンタクトを取り、蝶ヶ崎ほのめを手招きする。

ㅤ彼女は九条の指示通り側まで近付いた。

ㅤそして彼は、百目鬼きさらを右腕で抱き、蝶ヶ崎ほのめのを左の腕で抱き締める。

 

「…!は、はわっ…急に何ですの!?」

 

ㅤ慌てる彼女の耳元に、九条大祐は顔を寄せてこう言った。

 

「…すみません。ほのめ嬢が2番以下は1番嫌いなのを知っていながらもあんな事を口にして。でも俺は、皆を二人と同じ位好きですし愛してます。無論ほのめ嬢もその対象ですからね。もしこんな男は嫌と言うのでしたら、何時でも離れて貰って構いません。貴女を縛りたくはありませんから」

「大祐君は…卑怯ですの」

「ふふっ、その照れてる顔といい。ほのめ嬢は可愛らしくて…普段から芯の強い美しい女性ですよね」

 

ㅤ彼の言葉に顔が真っ赤に染まる蝶ヶ崎ほのめ。

ㅤ九条大祐は彼女の顎の下に手を置き、クイっと上に上げて自分と目が合うようにする。

ㅤ俗に言う本日三回目の「顎クイ」だ。

ㅤそんな、周りの女性達が見ている中での大胆行動。

ㅤ九条大祐は躊躇等せず、次は大胆発言をかました。

 

「…思わず落としたくなっちゃうな」

「ふぇ…えぇっ…!?」

「珍しく大祐が攻めてる」

 

ㅤ不敵な笑みを見せながら蝶ヶ崎ほのめという女性の心を完全に鷲掴みしに行く九条。

 

「だ、大祐くん…私にもしてっ…」

「うーん…あづみさんにはもうちょっと恥ずかしい事、言ってみようかな」

「大祐は本当に恥ずかしがってるのかしら」

「はい、死にたくなる程恥ずかしいですね」

「私が一番恥ずかしいですのっ!…で、でも、嬉しいですの」

 

ㅤ蝶ヶ崎ほのめは素直に思った事を口にする。

ㅤそれに対して九条大祐は「好かれている」事の大切さ、有難さを実感していた。

 

ㅤ無論、忘れて欲しくないのは彼を嫌う人物もいる事だ。

ㅤ男性は以ての外だが、女性からも勿論嫌われる。

ㅤ九条が極端な所為か彼の周りに集まる人物も、1か100という極端さを持っていた。

ㅤ彼を好む者はとことん好きになり、彼を嫌う者は何が何でも関係其の物を持ちたくないと、九条の存在自体を渋る。

 

ㅤだが、当の本人は全く気になどしていなかった。

ㅤ自分が嫌われる人種である事は重々承知済みだからだ。

ㅤだからこそ、こんなにも自分を好きになってくれる人達がいてくれる事に疑いを持っていた。

ㅤそれも今日という日で消え失せた訳だが。

 

「…はぁ」

 

ㅤ様々な想いが混ざり合い、思わず溜め息を吐いてしまう九条大祐。

 

「…こんなんだから女ったらしって思われるのかなぁ。やっぱり否定って事も覚えなきゃならんのか」

「どうかしらね。相手の全部を理解して受け止めてくれる大祐だからこそ、好かれるのかもしれないわよ?それは女性だけに限った話じゃあ無い訳だし…」

「否定する位なら肯定してやれってタイプだからな…相手を拒否する理由が分からんのですよ」

「でも、駄目な事は駄目って言うからね。じゃなかったら今頃は私の物になってたのに〜…」

 

ㅤナナヤは詰まらなそうに頬を膨らませ、九条の背後から両腕で抱き付く。

ㅤもしかすれば各務原あづみとリゲルを抜いた中で彼が一番好きなのは、百目鬼きさらとナナヤの二人やもしれない。

ㅤだが九条大祐自身が順番付けというのを嫌うからか、彼女達からかしても「誰が一番九条が好きか」という概念は無いのかも分からない。

ㅤ何れにせよ彼を我が物にするという目的は潰えないようだ。

 

「…それで、私達を騙してまで大祐を奪おうとしたのですか?ヴェスパローゼ」

 

ㅤそんな会話を繰り広げていると、怒り気味な表情の和修吉が何時の間にか扉の前に立っていた。

ㅤ周りには先程部屋を出て行った物達全員もおり、全員が全員不満そうな表情を見せている。

 

「私は騙した覚えは無いわよ?只一言「大祐の邪魔になるといけないから」って部屋を変えただけ」

「問題はその後です。貴女と百目鬼きさらは「外で空気を吸ってくる」と嘘を吐き、大祐の部屋にお邪魔していた。何時までも戻って来ないから嫌な予感はしてましたが…まさか本当に騙していたとは」

「…あれ?じゃあ、ほのめ嬢は?」

「私は怪しい二人の後を追っている内に道に迷ったのですわ。探してる内に大祐君の部屋の前を横切る事になり、話し声を聞いて乱入致しましたの」

 

ㅤあれは確かに乱入だった、それ以前に和修吉さん達はそんな単純な手に引っ掛かったのか…と九条は意外さを感じていた。

ㅤこれは後々役立つだろうと頭の隅で何やら企む九条だが、彼の周りには何時しか女性陣全員が集まっていた。

ㅤ少しばかり窮屈そうにしている各務原あづみとリゲルを自分の方に寄せ、ちょっとは楽になるかなと期待する。

 

ㅤ結果は丸で逆さまの様になってしまったが。

ㅤ九条の近くに寄せられた事により、嬉しさ、恥ずかしさ、照れがごちゃ混ぜになり上手く感情をコントロール出来ない二人。

ㅤそしてそれを実行した本人は全然気付いていない。

 

「…まぁ、でももう12時過ぎましたよ。皆さん寝た方が宜しいような気がしてならないんですが」

「私達はまだ話し足りないよ〜…ねぇマルキダエル、今日位夜更かしして大祐くんといっぱいお喋りしようよっ」

「九条さんが宜しいのであれば、是非お願いしたいです〜」

「わ、私もっ…言いたい事とか…沢山ある、から…」

「あら、バンシーちゃんが珍しく自分を出してる。大祐君、勿論レディファーストって言葉…知ってるわよね?」

「………え?これ、夜通しパターン…?」

 

ㅤ先程から話していた面子とは別の、騙されてしまった側の女性達が「もっとお喋りしようよ」と熱烈な意思を示す。

 

「にい、せんたくしは二つに一つだけだよ」

「世羅怖いよ!?」

「ますた、私達はどうすれば良いのでしょうか?」

「…好きにしてくれ、としか言えないよ…」

 

ㅤ最早逃げるという選択が潰されている。

ㅤそんな中、唯一上柚木さくらだけが「強要は良くないです」と九条に味方していた。

ㅤ更に彼女は、全員の核心を突く言葉を口にする。

 

「それに、九条さんが体調を崩したりすれば後悔するのは私達です。あの時無理させなければ、と」

「…さくらちゃん…」

 

ㅤ上柚木さくらは純粋に、九条大祐の体を心配していた。

ㅤつい先まで寝込んでいた彼の事を。

ㅤだからこうして、真っ直ぐな瞳と言葉を彼女達にぶつけている。

 

ㅤすると各務原あづみまで九条の顔を、心配する様に見つめていた。

ㅤそれはリゲルや百目鬼きさら、蝶ヶ崎ほのめも一緒であり。

ㅤ九条大祐のゼロ距離にいる彼女達は今の今まで、彼に甘えてきた。

ㅤ無論ナナヤも含めだ。

 

「…ふぅ」

 

ㅤそんな表情を向けられ、思わず溜め息を吐く。

ㅤ何時も通り…何かあれば溜め息を吐く癖を止めたいと思いつつも、九条大祐は深呼吸をする。

 

「ありがとう、さくらちゃん。…でも、そうだね。今日位は夜更かし夜通しのお喋りデーでも良いのかもしれない」

「…大祐、貴方は疲れている身です。しっかりと休息を取らなければーー」

「ベガさんの言う事も正しいと思ったりしてます。ですが、彼女達は俺に対して精一杯尽くしてくれているのに…俺はしてあげれていない。最低だとは思いませんか。幸せにしてあげたい、幸せにすると言ったのに相手だけが俺に尽くすなんて。それが嫌で嫌で仕方無いんですよ。特にあづみさんとリゲルさん…ナナヤときさらちゃん。四人は俺にこれでもかと献身的で…一人は違う感じがしなくも無いですが」

「…それ、絶対私に言ってるよね」

「けど俺に尽くそうとしてる事に変わりは?」

「ん、大祐くんが望めば何でもするよ?」

「ね。俺の言う事を何でも聞いてくれる。そう言ってくれるだけで献身的ーーというか自分がその人の物になる覚悟が出来ている訳だ。………話が逸れたけど、何も俺に献身的な人は四人だけじゃない。この場で俺が好きだと言ってくれた全員だ」

「…それが尽くす尽くし返すのと、大祐が無理する事と何が関係あるのですか?」

「…行動を起こさなければ当たり前の様に『何も起きない』。でも俺は何もしなかった。俺自身が貴女達が好きであろうと。理由なんて前に言った通りのつまらないものです。それに嫌われる事、拒否される事は怖いでしょう?…でも、貴女達はリスクを伴ってまで俺にこうして想いを伝えてくれて、実際に行動に移してくれて。こんな…俺に。……でも、俺からは何もしてあげられてない。見返りも何も無い。そう思う度にやっぱり俺って情け無い憶病者だって思い知らされるんです。だから今日ばかりは…いや、此れからは…俺が返す番なんです」

 

ㅤ九条大祐は彼女達の顔が見れなかった。

ㅤ顔を下に向ければ百目鬼きさらと蝶ヶ崎ほのめが、両隣には各務原あづみとリゲルが、後ろにはナナヤ、正面にはベガやヴェスパローゼ、更には和修吉やバンシー達が。

ㅤだから九条大祐は目を瞑った。

ㅤ瞑って彼女達を視界から消した。

 

「…見境無く、貴女達の望んだ事をしてあげれば良かったんですかね」

 

ㅤ限度等無い。

ㅤ『何でも』言われた事を実行すれば、正しかったのか。

ㅤ九条大祐はそう思いながら苦し気な苦笑いを浮かべた。

ㅤどうせは自分を守る為だけの言葉という壁を作っていただけなんじゃないか。

ㅤ建て前だけの碌でもなしだ、と。

ㅤ嫌われるリスクを恐れて何もして来なかった後悔が、今になって反動として彼を襲った。

 

…いや、本当は九条もずっと返してあげたい気持ちで一杯だったのだろう。

ㅤ然しそれをずるずると引き摺り、こんなにまで時が過ぎてしまったと。

ㅤ彼女達に尽くしてあげたい、けど過剰な事をすれば嫌われてしまうだろう。

ㅤでも彼女達が望む事はそのラインギリギリを越すか越さないか位の願いだ。

ㅤ確かに全員が全員そう望んでいる訳では無いが、例としてナナヤや各務原あづみ。

ㅤ前者は自分を捧げる気満々でグイグイ攻め、後者も然りげ無くそういったアピールをチラチラ見せている。

 

ㅤ百目鬼きさらは既に九条の嫁になる前提でおり、リゲルだって彼が許してくれるのであれば一緒に大人の階段を登りたいと願っている。

ㅤその願いを叶えさせてあげたくても勇気が無くて踏み出せない自分の行動力の無さが、自分を苦しめた訳だが。

 

「…違うよ、大祐くん」

「そうね。あづみの言う通り…それは違うわ」

「どうして…ですか?」

 

ㅤ各務原あづみとリゲルの二人は、先の九条大祐が放った言葉を否定した。

ㅤ理由が一切分からなくて直接聞いてしまう九条。

ㅤすると二人は真剣な表情で彼を見つめた。

 

「…大祐くん、勘違いしてるもん。私達は見返りが欲しくて大祐くんに自分を見せてる訳じゃ無いよ…?」

「えぇ。私達は大祐に振り向いて欲しくて、自分を見て欲しくて勝手にしてるだけ。勇気を出して動いているのは私達だから代償を払え…なんて自分勝手な事、言ったかしら?」

「でも俺は…!」

「否定したいなら私達の『全部』を受け入れる事になるの。私達の望んだ事をしなきゃいけないの」

「………!」

 

ㅤリゲルの口から放たれた彼女自身の本心に、九条は悔やんだ。

 

「…叶えてあげたい、貴女達の願いを!でも…俺が手を出すなんて身の丈以上の事をしてはいけなーー」

「その思い込みを何とかしなさいっ…私達が何時、大祐が下の存在だと口にしたかしら…?」

「リゲルさん…」

 

ㅤ感情を露わにしたリゲルは、口で強く言いながらも涙目になっていた。

ㅤ好きな相手が何時迄も「自分は底辺に位置する人間だから」と言い続けていれば、辛くなるのも仕方無い事だ。

 

ㅤ何故?

ㅤ好きになった人を底辺と思う者は居ない。

ㅤだからその考えを否定したがるのは当然だ。

ㅤ然し本人が自らを下の存在と認知し変える気がないのであれば、嫌になるのも当たり前。

 

「大祐くんは私達の、大好きで大切な人。だからもう…自分に酷い事を言って虐めないでよぅ…」

「あ、あづみさんまでーーて、全員…しんみりしなくても…」

「…きぃ、は…どんなだいすけも、しゅき」

「きさらの意見は最もよ。けど…逐一「底辺」や「下」という言葉を耳にする此方の身にもなって欲しいわ。時には自分を否定するだけじゃなく、認めてあげる事も大事なの」

 

ㅤヴェスパローゼはそう言って百目鬼きさらを抱き上げる。

ㅤして、何故か九条大祐の目の前に立った。

ㅤその行動に何の意味があるのか、今度は蝶ヶ崎ほのめが立ち上がってヴェスパローゼの隣に並ぶ。

ㅤ更にベガや和修吉、バンシーやグラ、倉敷世羅にムリエル、マルキダエルに続いて上柚木さくらにオリジナルXIIIまでも九条大祐の目の前に立ち、全員が全員彼を真っ直ぐな瞳で見つめていた。

 

ㅤ唯一、各務原あづみとリゲルだけが九条の両隣りに座ったまま。

ㅤ然し二人も九条の方を向いて。

 

ㅤ急に何だと混乱する九条。

ㅤそして最初に口を開いたのはーー

 

「…例え大祐くんが自分を認めなくても」

「私達は大祐を認めてる。それに貴方の全てを受け入れる。自分を肯定する貴方も、否定する貴方も」

 

ㅤ各務原あづみに被せる様に、リゲルは九条に好意を寄せている女性全員の想いを彼に伝える。

 

「だから此れからは…大祐の全部を理解して、貴方という存在を受け止める積もりよ」

「それじゃあ貴女達が疲れてーー」

「ううん、大丈夫だよ。私達は全員で大祐くんを受け止めるから」

「………どうして、そこまでしてくれるんですか」

 

ㅤ彼女達の想いを聞いても尚、愚問をぶつける九条。

ㅤ未だに自分を否定している証拠だ。

ㅤだが、そんな下らない思い込みを吹き飛ばす様に彼女達は其々の想いをぶつけ返す。

 

「あら?全部受け止めるって言ったじゃない」

「きぃも、ろーぜといっしょ!」

「大祐が否定する分、私達は認めましょう」

「ふふっ、貴方が自分を肯定出来る日が来るのを信じてますよ?大祐」

「大祐くんは…一人じゃ、ないっ」

「女の子を待たせるのは厳禁よ?」

「あ、珍しくレディって言わない。グラちゃんも本気だね〜」

「そう言うムリエルさんも本気です〜」

「もっちろん!あんな状況から助けてくれた恩人だもんっ。今度は私達から返さなきゃっ」

「にい、せらに何でも言って!にいの願いはせらが叶えるからっ」

「…そうですの。私達は其々、一度大祐君に助けて貰っていますの。本来は此方側が返すのが正解ですわ」

「九条さんへの恩返し、ですね」

「ますた、ご命令を。何でも熟して見せます」

 

…九条大祐にはまだ何も見えていなかった。

ㅤ彼女達がこんなに優しくしてくれる理由、答えが。

ㅤそんな彼の気持ちを察した各務原あづみとリゲルが口を開く。

 

「…ね?皆同じ。大祐の事を信じてるの」

「実はね…私達も大祐くんに対してここまで尽くしたいって気持ちが湧く理由が、見付かって無いの。只好きだから…ってだけじゃない。何か違う…もしかしたら理由なんて無いのかもしれないけどーー」

「…俺も、貴女方がどうしてこんなに尽くしてくれるのかが分からない」

「だからね。一緒に探したいんだ…大祐くんが自分を嫌う理由、私達が大祐くんに尽くしたい理由、お互いにお互いの事を知る為に」

「…あづみさん」

 

ㅤ九条大祐は彼女の名前を口にし、各務原あづみの胸元に項垂れた。

 

「…俺なんかよりも、よっぽど大人ですね。やっぱり俺なんかには勿体無い存在ーーっ」

 

ㅤ言われた側から学ばない。

ㅤだが、九条の言葉は物理的に押さえ付けられた。

ㅤそう…各務原あづみが自身の胸に彼の顔を押さえ付けていたからだ。

ㅤ両手で九条の頭をぎゅーっと抱き締めて離さない。

 

「それ以上は言わせないもんっ。せめて今日だけは、自分を認めてあげてよぅ…」

「ーーー!!」

「大祐が何か言ってる。…全然分からないわ」

「ふふっ、あづみ、ナイスアタックです」

「こ、攻撃じゃないもん」

 

ㅤ喋ろうにも物理的な口封じを食らっている所為で言葉を発する事すらままならない九条大祐。

ㅤ彼の頰は真っ赤に染まり、熱でもあるんじゃないかと思われる程になっていた。

 

ㅤと、百目鬼きさらがヴェスパローゼの腕から下り、とてとてと九条に近付いて行く。

ㅤそれに気付いた各務原あづみは「どうしたの?」と一言。

ㅤすると百目鬼きさらは「きぃも、したい」と返答。

ㅤ耳まで塞がれている為、九条には丸で聞こえていない。

ㅤそんな中、倉敷世羅迄もが負けじと寄って行く。

 

「きさらちゃんには負けないもんっ」

「きぃも!せあにはまけなぃ」

 

ㅤ二人のやり取りを聞いて、各務原あづみはにこにこしながら彼から手を離す。

ㅤ彼女の拘束から解除された九条は思いっきり息を吸う。

ㅤ余程苦しかったのだろう。

ㅤだが、その瞬間に又がっちりと掴まれてしまった。

 

「ぷはぁーーんー!?」

「だいすけ、にがさない」

「にい捕まえたっ」

「私も参加するっ」

 

ㅤ右から倉敷世羅、左から百目鬼きさら、どさくさに紛れて背後から再度登場ナナヤ。

ㅤそんな三人からぎゅっと抱き締められ、又もや身動きが取れなくなる九条。

ㅤ彼の正面からは「いいぞーもっとやれー!」というはしゃいだ声が部屋を騒ぎ立てていた。

 

ㅤ九条大祐はもごもごと何か言っているが、全く以って聞こえない。

ㅤ加えて、これは中々宜しくない絵面と化していた。

ㅤ二人の少女の胸元に顔を押し付けられ。

ㅤいや、ナナヤも見た目は少女…という事は三人の少女に攻められ。

ㅤ今ロリ◯ンと言われても否定の仕様が無い状況となっている。

 

「ーーちょっ、待って…!息を、吸わせて…!」

「大祐くんが苦しみながら欲求してくる姿…良いかも…♪」

「外道か!?」

 

ㅤナナヤのふとした言葉に全力で突っ込みを入れる。

ㅤ然し彼にそんな暇等無い。

ㅤ百目鬼きさら、倉敷世羅の二人が二度目のアタックを仕掛けようとしていたからだ。

ㅤそれに気付いた九条は二人の肩を掴み、自身の胸元に抱き締め、一旦落ち着かせる。

 

「ぅゅ…♪」

「にい、凄くあっついよ?」

「気にしたら負けだよ」

「ナナヤが言うな」

 

ㅤ逐一突っ込む九条に、ナナヤは「むぅ〜…」と頰を膨らませて不機嫌そうな表情を浮かべた。

ㅤ自業自得だと一瞬思った彼だったが、何かを察して危機感を覚える。

ㅤそう、何時の間にかヴェスパローゼや和修吉、上柚木さくら達に囲まれていた。

 

「それじゃあ、次は私達の番ね?」

「…え、あの…もう深夜ーー」

「此れからですのっ」

「夜更かしはあまり良くないけど…今日は良いよね…」

 

ㅤこんな真夜中から何をしようと言うのか疑問が湧いた九条だが、嫌な予感がした為に黙る。

ㅤ聞けば微笑みを返され、そのまま朝まで部屋から出してくれなさそうだからだ。

 

ㅤ彼に休みを与えずに攻め続けるヴェスパローゼ達。

ㅤそれに乗じて、他の女性達も一緒になって九条大祐の側へと近寄って行く。

 

「わ、私を本当の『大人のレディ』にしてくれるのよね…?」

「グラ嬢…随分と意味深だね」

「さぁ、夜は長いですよ。大祐…覚悟は良いですね?」

「ベガさんまで乗り気…えぇ、見事今日を乗り越えて見せますよ!」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

ㅤその日、全員九条大祐の部屋で寝たと。

ㅤ態々他の部屋からベッドと布団を運び、朝の片付けの事等考えもせず。

ㅤ流石に寝室には収まり切らず、何時も使っている部屋で眠る事に。

 

「…ん、ぅ…だいす…け…くん」

「…あづみ…だい…すけ…ずっと…」

「…誰が寝れるって言うんだよ」

 

ㅤ彼女達が満足するまで付き合った九条。

ㅤ本来ならば疲労で睡魔に襲われる筈だが、状況が状況な為に唯一彼だけが眠れずにいた。

ㅤ目を擦ったり欠伸をしたりと脳は寝ろと指示するが、その脳と目がギンギンに覚めていては寝れないのも当たり前だろう。

 

「…あぁ、きさらちゃん。乗って寝るのは構わないけど登って来ちゃだめだよ。…あ、両腕使えないんだったなーーこら、ナナヤ。俺が動けないからって顔を近付けない。…だからって下に行っちゃ駄目…ってか起きてるよね!?絶対!」

 

ㅤ彼女達が周りで寝ているからと小声で喋っていた九条だが、ナナヤの行動に痺れを切らして少しばかり声を上げる。

ㅤするとナナヤは明らかに笑っていた。

ㅤ此奴…!と思いながらも、彼は疲労の溜まった体を動かす気にはならなかった。

 

ㅤふと、各務原あづみとリゲルが起きた事に気付く。

ㅤ恐らく先の声で目を覚ましてしまったのだろう。

ㅤ九条大祐は小さな声で、且つ全力で謝っていた。

 

「…大丈夫、だよ…?ふぁ…」

「大祐は…寝れてる?」

「いや、全然ですよ。眠たくはあるんですがね…」

「そうなの…?じゃあ、ちょっと此方に寄ってくれるかしら…」

 

ㅤ九条は何かと思いながらも、リゲルの側に寄って行く。

ㅤ各務原あづみもリゲルも寝惚けているのか、前者は既に又夢の世界へ、後者は意識が明らかにはっきりしていないであろう状態で話している。

 

ㅤそしてリゲルに近寄ろうにも一苦労な九条。

ㅤ左腕は各務原あづみにぎゅっと抱き締められ、百目鬼きさらに乗られ、ちゃっかりナナヤがおり。

ㅤ然も太腿の上という微妙な位置に。

ㅤこんな身動きが取り辛い状況でも、何とかリゲルの側へ近寄る。

 

ㅤ何かあったのかな、そんな気持ちで彼女に近寄った彼だがーー

 

「リゲルさーーっ!?」

 

ㅤ九条の頭は一瞬にして彼女の胸に包まれる事となった。

 

「これで…寝れる…かしら?」

「んー…んー!!んんー!」

 

ㅤ身動きどころか口まで封じられた彼は、兎に角声を出してリゲルを起こそうと考える。

ㅤだが、彼女は気持ち良さそうに「くー…すー…」と寝息を立てながら眠っていた。

 

「んー!……………んー……」

 

ㅤ九条大祐は抗う事を諦めた。

ㅤ朝起きたら解放されている事を願い、素直に寝ようとする。

ㅤ周りには美人美少女が何人も寝ていて…自分は美女の胸に押し付けられーー

 

「………んんん!!!!!(だから眠れないって!!)」

 

ㅤ相変わらず波乱万丈な九条大祐の日常だった。

 

ーーー




3話連続更新の3話目です。
まだ読んで無い方は是非、1話目からどうぞ。

次回から投稿する話は本編に戻ります。
此れからも、マイペース作者の書く「Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜」を宜しくお願い致します。

…本編の主人公には幸せが掴めるのかな?



ーーー

「そう言えば、最近ベガさんが出掛けていた理由って…」
「えぇ。あの敷地をバレンタインイベントの場にする為。ヴェスパローゼと色々考えたのですよ?」
「いや、中々楽しかった…です。他の人達がどうなったかは知りませんが」
「知りたいのですか?」
「…いえ、遠慮しときます」

(まぁ、こういうイベントも偶には有りかな…率先して計画を立てくれるベガさんにこそ、あのクリスマスプレゼントは最適だったのかもしれないな)

ーーー

ベガさんへのプレゼントの内容はまだ明かしてませんけど…。
本編で明かしていきたいと思います。

ーーー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!

今回も甘々ですので、そういった展開がお好きな方のみどうぞ(*´꒳`*)
会話文だけですので…小説?というよりは本当、あづみさんの誕生日を祝うだけの話です故、本編とは何ら関わり有りません。
1000文字ちょっとのみですが、細々と更新していきます。
(1日ずれたー….°(ಗдಗ。)°.)


《リゲル》「あづみ、誕生日おめでとうっ!」

 

《ソリトゥス》「あづみちゃん…お誕生日、おめでとう…」

 

【2人からの拍手】

 

《あづみ》「えへへ…ありがと、リゲル、ソリトゥスさん」

 

《リゲル》「あづみの誕生日なんだからっ、祝わない方が可笑しいわ?」

 

《ソリトゥス》「強要は…良く無い。けど、あづみちゃんみたいに…健気で…可愛くて…思わず守ってあげたくなる様なお嫁さんをおいて…旦那さんは何処に…?」

 

《あづみ》「だっ…旦那さん…?」

 

《ソリトゥス》「あれ……大祐くんって、あづみちゃんの旦那さんじゃ…?」

 

《あづみ》「…っ!ち、違いますっ…大祐くんは旦那さんじゃーー」

 

《ソリトゥス》「少し…意外。てっきり、大祐くんとそういう関係になりたい…って、思っているのかなって…。寧ろ、もうなってたり…」

 

《あづみ》「うぅ〜…///返答、し辛い…」

 

《ソリトゥス》「本音は…?」

 

《あづみ》「………大祐くんが望むなら、私は…えっと…その…」

 

《ソリトゥス》「もっと深く…親密な関係に…?」

 

《あづみ》「……………//////」

 

《リゲル》「あづみがショートしたわ…」

 

《ソリトゥス》「じゃあじゃあ…大祐くん関係無しで、あづみちゃんはどう思ってるの…?大祐くんと…そういう仲に…?」

 

《あづみ》「……ふぇっ…///」

 

《リゲル》「…こりゃ駄目ね。あづみの言語回路が可笑しくなってきてるもの」

 

《ソリトゥス》「…恋する乙女は…大変」

 

《あづみ》「もうっ…リゲルもソリトゥスさんも、絶対揶揄ってる…」

 

《リゲル》「…私!?」

 

《あづみ》「だって、止めてくれないだもんっ」

 

《リゲル》「その責任を私に押し付けられても……それに、照れてるあづみが可愛くて仕方無くて…映像と音声を永久保存したいわね」

 

《あづみ》「リ〜ゲ〜ル〜!」

 

《ソリトゥス》「…あ…大祐くん…」

 

《あづみ》《リゲル》「えっ!?」

 

《あづみ》《リゲル》《ソリトゥス》「…………………………………………………………………」

 

《ソリトゥス》「…嘘」

 

《あづみ》「………大祐くん」

 

《リゲル》「あづみが目に見える位にしょんぽりしてる…」

 

《ソリトゥス》「ご、ごめんね…?そういうつもりで言ったんじゃ…」

 

《リゲル》「そう言えば、大祐からは何も聞いてないわね」

 

《あづみ》「うん…大祐くん、用事があるんだって」

 

《リゲル》「あづみの誕生日よりも自分の用事が優先、ね…流石の私もぷっちんしそう」

 

《ソリトゥス》「可愛く言ってるけど怖い……けど、大祐くんに限って、あづみちゃんを放っておくとは考え難い…」

 

《リゲル》「…まさか、誕生日プレゼント!?」

 

《あづみ》「えへへ…そうだったら、嬉しいなぁ…」

 

《ソリトゥス》「…じゃあ、大祐くんが来るまで、あづみちゃんに関してのトーク、する?」

 

《あづみ》「もう夜中、ですけどね…」

 

《リゲル》「良いじゃない?あづみの誕生日は夜通し明日まで、よ」

 

《あづみ》「ふぇっ…!?」

 

《ソリトゥス》「それ…名案。私も…深夜のテンション高い方だから…!」

 

《あづみ》「ソリトゥスさん…やる気に満ち溢れてる」

 

《リゲル》「取り敢えず、大祐が来るまでの辛抱ね。三人で楽しみましょ?」

 

《ソリトゥス》「賛成…」

 

《あづみ》(大祐くん…来てくれると良いな…)

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.2

明日も投稿予定です(*´꒳`*)


ーー凡そ1時間が経過ーー

 

《あづみ》「でねでね、大祐くん…私のプレゼントした赤いマフラー、外出する時は絶対に着けてくれて…」

 

《ソリトゥス》「流石…女性キラー……然り気に大胆…」

 

《リゲル》「大祐が侮辱されてる気がするのは、私だけかしら?」

 

《ソリトゥス》「そういう意味で…言った訳じゃ無い………と、思う」

 

《あづみ》「でも、大祐くんがそう呼ばれちゃうのも…仕方無いよね」

 

《リゲル》「まぁ…わからなくも無いわ。……………………あ、でも。最近はあづみだけを見ているらしいわよ?」

 

《あづみ》「………ほぇっ…!?」

 

《リゲル》「実際に大祐が言ってたの。『最近あづみさんだけが目に映って仕方が無い』って。勿論、大祐は相変わらず私達全員を見てくれてるけれど…」

 

《ソリトゥス》「一途……良いんじゃないかな…?」

 

《リゲル》「本来なら、ね…でも、大祐は悩みに悩んでいるって」

 

《ソリトゥス》「ハーレム故の…悩み…大変そう」

 

《あづみ》「大祐くんが…私だけ、を…う、ううん…大祐くんが…えと…///」

 

《リゲル》「私としては、あづみが嬉しいなら何よりだわ?誕生日って事も有って、大祐も気付かない内に意識してーー」

 

《ソリトゥス》《リゲル》「…………………………………………………………………………」

 

《あづみ》「……ど、どうかしたの…?」

 

《リゲル》「あぁいえ…大祐があづみを意識してるなんて、何時もの事、って思って…」

 

《ソリトゥス》「同感……あづみちゃん、大祐くんの心を独り占めにするなら…今しか無いよ…!!」

 

《あづみ》「わ、私はそんな…私一人だけの大祐くんじゃ無い…から……」

 

《リゲル》「ふふっ、本当は、一度で良いから独り占めしたいんじゃ無いの?」

 

《あづみ》「ち、違うもんっ」

 

《ソリトゥス》「…あづみちゃん、我慢は…いけないよ…?駄目、絶対…」

 

《あづみ》「………………」

 

《リゲル》「一年に一度の誕生日なんだから…ね?」

 

《あづみ》「………………」

 

《ソリトゥス》「…あづみちゃんがその気になったら…で、良いんじゃ無いかな…?無理する必要も…無い…」

 

《あづみ》「…ありがと、リゲル。ソリトゥスさん…」

 

《リゲル》《あづみ》《ソリトゥス》「………………」

 

《リゲル》「ほらほら、この微妙な空気、さっさと飛ばしてしまいましょ?ソリトゥス、違う話題って何か有るかしら?」

 

《ソリトゥス》「…呼び捨て…!!嬉しい…」

 

《リゲル》「あ…ソトゥ子…さん?」

 

《ソリトゥス》「呼び捨てで…!お願い……。それに、ソトゥ子って名前、もう使って無い…」

 

《あづみ》「勿体無い気がする…ソトゥ子さん、良い名前だと思う」

 

《ソリトゥス》「誰も…呼んでくれない。…大抵、ソリトゥス…」

 

《あづみ》《リゲル》「…………………………………………………………」

 

《ソリトゥス》「……あ、で…えっと、元気になる話題…?だよね…。ちょっと色々探してみる…」

 

《リゲル》「お、お願いするわ」

 

《あづみ》「ソリトゥスさんの密かな悩み…聞いちゃったね」

 

《リゲル》「…えぇ」

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

《ソリトゥス》「えっとね…沢山、って程じゃないけど…あづみちゃんに聞きたい事は、色々有った…。例えば…」

 

《あづみ》「例えば…?」

 

《ソリトゥス》「日常生活での、他人との関わり……サイクル…趣味…将来の夢…とか…?」

 

《リゲル》「どれも答えやすい物ばかり。あづみとしては助かるんじゃないかしら」

 

《あづみ》「うんっ」

 

《ソリトゥス》「…後は…深夜、大祐くんと何してる…?とか、子供の予定ーーは禁止…だよね。うん、自重自重…」

 

《あづみ》「ソリトゥスさんが小声で何か言ってるよ…?」

 

《リゲル》「うーんと…夜は、大祐と何してるのかって」

 

《ソリトゥス》「聞かれてたっ…!」

 

《あづみ》「え、えっと…夜は大祐くん、と?殆ど一緒に居ないです…。何時もリゲルと一緒の部屋で、一緒のベッドで寝てます」

 

《リゲル》「そうね」

 

《ソリトゥス》「お、おぉ…その間、大祐くんは…他の女性といちゃいちゃしてたり…」

 

《あづみ》「うんと…大祐くん、自分が眠る時は誰も部屋に入れないし、誰の部屋にも入らないって言ってました。確か…プライバシーがどうとか…?」

 

《リゲル》「理性がどうとか、とも言っていたわね。大祐…『貴女達に手を出す様な真似はしたくない』とか。…只の諧謔かとも思ったのだけれど、冗談で無いのだけは察したわ」

 

《ソリトゥス》「相変わらず…引っ込み思案。あづみちゃんや、リゲルさんみたいな可愛くて…美人な女性…早く自分の物にしちゃえば良いのに…」

 

《リゲル》「両思いだから余計そう感じるわ…大祐、自分からは絶対に来ないもの」

 

《あづみ》「えっとね…私個人の話だけど…大祐くんには、もう少しぐいぐい来て欲しいなぁ…」

 

《リゲル》「激しく同感だわ。こう…強行突破して来る感じで…」

 

《ソリトゥス》「強行突破…何を突破するんだろ…」

 

《リゲル》「さぁ…?」

 

《ソリトゥス》「ピンクな話、かな…」

 

《あづみ》「ピンク…?……はーと?」

 

《リゲル》「はーと……心臓………成る程!心の壁、って話ね?」

 

《ソリトゥス》「ううん…二人共、間違ってる。…あづみちゃんもリゲルさんも、純粋過ぎる…眩しい…」

 

《あづみ》「ち、違うんだって、リゲル…なんだろね」

 

《ソリトゥス》「あづみちゃんもリゲルさんも……大祐くんと通る道なんだから…覚えとかないと………」

 

《???》「そういう事ならお任せあれっ♪」

 

《ソリトゥス》「こ、この声はっ…!」

 

《???》「呼ばれて飛び出てじゃんじゃじゃ〜ん♪」

 

《ルクスリア》「ルクスリア、参上♪」

 

《ソリトゥス》「……場が混沌と化す…そんな未来しか見えない…」

 

《ルクスリア》「どんどんカオスにしていくわっ」

 

《あづみ》《リゲル》「………??」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.3

やはりその日の内に書き、その日の内に更新するのは厳しかったです…申し訳御座いません。
挿絵も背景に悩まされている途中でして、もう少ししたら完成致します。


《あづみ》「大祐くんと…いけない、こと…?」

 

《ルクスリア》「そそ♪あづみんはどう思っているのかなって。やっぱり、したいよね〜。だってだって、両思いで、片方は自分の命を投げ打ってでもあづみんを守ろうとする様な………あれ……大祐くんって、一歩でも道を踏み外すと…………実は危ない…?」

 

《あづみ》「えっと、そ、その前に……いけないことって…なに…?」

 

《ルクスリア》「………………え…?」

 

《ソリトゥス》「……あづみちゃんは…純粋無垢な女の子。幾らルクスリアでも………穢すのは躊躇うと、信じたいな…」

 

《ルクスリア》「……待って、あづみんって14歳だよね?」

 

《あづみ》「は、はい」

 

《ルクスリア》「…成る程」

 

《リゲル》「……何を企んでるかは何と無く察するわ。けど、あづみを穢す様な真似をしたら、只じゃ済まされないとーー」

 

《ルクスリア》「あづみんは、無知…大祐くんはそれに興奮してあづみんを襲う…!!ベタだけど確かに確実な方法ね♪」

 

《あづみ》「か、確実…?」

 

《リゲル》「呆れるわね……あづみに変な事を吹き込まないで。抑、先ず持って、大祐が、無知なあづみを襲う事自体無いと思うわ」

 

《ルクスリア》「え〜…じゃあ、私が今此処で教えてあげればーー」

 

《リゲル》「その口を閉じなさい」

 

《ルクスリア》「む…つれないなぁ……だから他の女の子に、大祐くんを危うく奪われるんだよ〜…?」

 

《リゲル》「何か言ったかしら?」

 

《ソリトゥス》「……二人共、落ち着いて………」

 

《ルクスリア》「この際だから言わせて貰うわ。ナナヤって娘ーー神様の方がまだ、素直で、率直で、大祐くんに何回もアタックして…寧ろ大祐くんにはナナヤちゃんの方がお似合いじゃないのかな〜?」

 

《あづみ》「………………」

 

《ソリトゥス》「あづみちゃん……ルクスリアの話を真面に聞いちゃ………だめ」

 

《リゲル》「…七大罪「色欲」の魔人、ルクスリア。良い加減にしないと、私の全力の1発をお見舞いするわよ」

 

《ソリトゥス》「また……壁、無くなっちゃうのかな………?」

 

《リゲル》「というか、それ以前の問題よ。私もあづみも、易々と大祐を渡したりしないわ。特にナナヤ、それに貴女になんて」

 

《ルクスリア》「私は別に…でも、うーん…気が無いって言えば嘘になるかな♪相馬きゅんがもうちょっと構ってくれるなら、其方に行くけどっ」

 

《リゲル》「私の話を聞いてるの…?」

 

《ルクスリア》「大丈夫、ちゃんと聞いてるから♪それに、私は事実を伝えたまで。もたもたしていれば、何れ後悔する。志しだけの建前なんて、何時かは崩れる」

 

《リゲル》「なっ…」

 

《ソリトゥス》「ルクスリア…今日は、あづみちゃんの誕生日………だから、控えて……」

 

《ルクスリア》「へぇ…誕生日……ん〜………」

 

《リゲル》「何を悩んでいるの?早いところ退場して貰えないかしら」

 

《ルクスリア》「……そっかぁ…誕生日、なんだ…ふふっ…ねねっ、あづみちゃん」

 

《あづみ》「な、なに…?」

 

《ルクスリア》「最後に、一つだけアドバイス。…偶には自分の欲に従ってみるのも楽しいよ?…重く考えちゃダメ、軽い気持ちで良いの。多分だけど、何時も我慢してるでしょ…?」

 

《あづみ》「わ、私っ…我慢なんて、してない…」

 

《ルクスリア》「それは嘘。我慢してないのなら、そうして『大祐くんから来て欲しい』なんて言わない。自分から過度に攻める事が出来ないから、相手から近付いて来て欲しいと、心の中で思ってるでしょ」

 

《あづみ》「…!!」

 

《ルクスリア》「でも、それはあづみんだけじゃ無い。大祐くんにもリゲルにも言える事。三人共好きな人には、よっぽど嫌われたく無いんだね〜」

 

《リゲル》「あ、当たり前…じゃない。誰だって、好意を向けている人から嫌われたいなんて思わないわよ…」

 

《ルクスリア》「でも、『嫌われる覚悟』を持って関係を築けないなら、正直関係どうこう以前の問題」

 

《リゲル》「一度、大祐に嫌われろ…って…?」

 

《ルクスリア》「そんな威圧的な目で見なくても、ね。良く考えてみて。あづみんとリゲルが、例えどんな事をしようとも、大祐くんが嫌うと思う?」

 

《ソリトゥス》「大祐くんの…あづみちゃんとリゲルさんに対する愛は………深海の様に深く、宇宙の様に広い……」

 

《ルクスリア》「正にその通りだよね〜♪羨ましいったらありゃしないっ」

 

《ソリトゥス》「………流石に……行き過ぎた行為は、大祐くんでもあれだと思うけど………」

 

《リゲル》「その行き過ぎた行為って、例えば…」

 

《ルクスリア》「あまりに大祐くんを愛し過ぎて、大祐くんの血肉を求めるとかぁ……後は、両手両足を切り取って、自分だけの物にするとか?あ、けどね…大祐くんの血なら欲しいかな♪」

 

《リゲル》「知った事では無いわ。…それに、そんな殺人紛いな事しないわよ」

 

《ソリトゥス》「でも逆に………いや、それでも………そんな事をされても…大祐くんは、二人を好きでいると思うよ……?」

 

《ルクスリア》「大祐くんの愛が深過ぎるわね〜」

 

《あづみ》「…大祐、くん…」

 

《リゲル》「そう考えると、私達から大祐に攻めるのって……」

 

《ルクスリア》「可愛いものね。大祐くんにとってはご褒美、幸せ其の物なんじゃないかな」

 

《あづみ》「大祐くんの、幸せ…って」

 

『ソリトゥス》「……二人が側に居てくれるだけで………幸せなんじゃ、ないかな…?」

 

《あづみ》「もしそうだったら、嬉しいなーー」

 

《ルクスリア》「『そうだったら』じゃなくて、『そう』なの。大祐くんの口から飽きる位聞いてるでしょ?『俺が犠牲になっても二人だけは何としても守る』とか…『二人の幸せが俺の幸せ』が代表例」

 

《あづみ》《リゲル》「…///」

 

《ソリトゥス》「二人共…顔、真っ赤…」

 

《ルクスリア》「あらあら、可愛いっ♪」

 

《リゲル》「…こうして聞くと、そんな恥ずかしい台詞を…」

 

《あづみ》「大祐くんは、どうして平然と…言えるんだろ…?」

 

《ソリトゥス》「…それも、二人に対する愛………ほんと、大祐くんは…」

 

《ルクスリア》「見ている側の胃が靠れる勢いで、甘々な展開を繰り広げるよね〜。それ位二人が好きなんだと、大好きで仕方無いんだと、周りは認めてる」

 

《ソリトゥス》「だからもう………見ていて微笑ましい……けど、確かに………早く夜の営みに…発展しないのかなって、これ以上関係を……深めないのかなって。疑問には思うかな……」

 

《ルクスリア》「まぁ…かと言って、大祐くんが消極的なのも認めざるを得ないよね〜。あの人、中々自分からは攻めないもの。女性を傷付けたく無い想いが強いのは嫌でも分かるわ?……でも、その鉄の鎖が、大祐くんに思い馳せる女性達を苦しめているとも気付いて欲しいわね〜」

 

《ソリトゥス》「それが…大祐くんの…欠点」

 

《リゲル》「…七大罪、侮れないわね」

 

《ルクスリア》「ん〜?私の事かな♪」

 

《リゲル》「貴女以外に誰が居るのよ…」

 

《あづみ》「…………………はぁ…」

 

《ルクスリア》「あづみんが大祐くんに発情してるわ?」

 

《あづみ》「ふぇっ…!?は、発情なんてしてないっ…」

 

《ソリトゥス》「溜息がそう聞こえるルクスリアは………末期……」

 

《リゲル》「違う意味で侮れないわね」

 

《あづみ》「うん」

 

《ルクスリア》「完全に侮辱されてるわよね、私」

 

《ソリトゥス》「侮辱リア」

 

《ルクスリア》「扱いが雑!それに、ネーミングセンスの欠けらも感じられない…」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

《ルクスリア》「結局長居しちゃったなぁ…大祐くんは一向に来ないし」

 

《あづみ》「何してるのかな…」

 

《リゲル》「気長に待ちましょ?」

 

《あづみ》「うん…」

 

『ソリトゥス》「一応、報告……大祐くん、未だに睡眠無し………丸一日以上…寝てない」

 

《ルクスリア》「他の女性達と24時間、フルタイムを楽しんでいるのかしら」

 

《リゲル》「またそんな事を……大祐の印象って、どんな風に思われてーー」

 

《ルクスリア》《ソリトゥス》「ハーレム」

 

《リゲル》「……………」

 

《あづみ》「え、ええと…」

 

《ルクスリア》「……………まぁ、それは置いといて♪」

 

《リゲル》「置いとくべき話でも無いわよね」

 

《ルクスリア》「まぁまぁ♪………うん、私はそろそろ御暇するわ。最後に、って言ってから、相当時間経っちゃったし」

 

《ソリトゥス》「……もし、又来る事があったら……飛鳥くんの現状報告を……」

 

《ルクスリア》「はいはーい♪」

 

《あづみ》「仲良し…だね」

 

《リゲル》「私とあづみ程では無いと、自負するわ?」

 

《あづみ》「えっ…?」

 

《リゲル》「えっ?…えっ!?」

 

《あづみ》「えへへ…嘘。私も、自負出来るもんっ」

 

《リゲル》「…ふふっ、ありがと、あづみ」

 

《ルクスリア》「あ、そうだあづみちゃん、あづみちゃん」

 

《あづみ》「は、はいっ」

 

《ルクスリア》「…大祐くん、来てくれると良いねっ♪」

 

《あづみ》「…うん///」

 

《ルクスリア》「可愛いっ」

 

《リゲル》「ほら、行った行った」

 

《ルクスリア》「私の扱いがあづみちゃん以外、雑!良いもんっ、相馬きゅんに慰めて貰うからっ」

 

《ソリトゥス》「………え、寝込みを襲う気、満々……だよね」

 

《リゲル》「…………………」

 

《あづみ》「…………………」

 

《ソリトゥス》「標的が大祐くんじゃなくて……良かった、ね…」

 

ーーー




本編もしっかりストーリーを固めて、書かなければ…!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.4

《あづみ》《リゲル》《ソリトゥス》「……………………………………………………………………………………………………………………………」

 

【時計の針が時刻を刻む音】

 

《ソリトゥス》「…静かな空間………ルクスリアが帰って……テンションと…話題を、全部持っていかれた……」

 

《リゲル》「七大罪を相手にすると、こんなにも疲労するのね…碌な事無いわ…」

 

《あづみ》「やっぱり、大祐くんは凄いなぁ……」

 

《ソリトゥス》「……ルクスリアに…何時もあんな感じで、襲われてるんだよね…?メンタルヤバそう……」

 

《リゲル》「実はそうでも無いって、本人が言っていたわよ。あのルクスリアを…簡単にいなせてしまうのよね、大祐…」

 

《あづみ》「他の人達とも沢山関わってて…大祐くん、大丈夫かな…」

 

《ソリトゥス》「疲労困憊……何時もは、何してるの…?」

 

《あづみ》「大祐くん、ですか…?」

 

《ソリトゥス》「うん……」

 

《リゲル》「大祐は…部屋に篭りっきり。偶に外に出てきて、又直ぐ戻って。そんな事が日常茶飯事ね。世界の治安維持を目的に、私達にとっては訳の分からない書類とか片付けたり…」

 

《あづみ》「でも、特別な日には絶対、皆と一緒に過ごしてくれるよね」

 

《リゲル》「何も無い、至って普通の日常の中でも、必ず私達に会いに来てくれて」

 

《ソリトゥス》「………あづみちゃんやリゲルさんからは……会いに行かないの……?」

 

《あづみ》「私は…その…」

 

《リゲル》「あづみは毎朝、大祐の顔を見てるわよ?」

 

《ソリトゥス》「何で…あづみちゃんだけ……?」

 

《あづみ》「えっ…と、毎日、大祐くんが朝起きてるか…私が確かめに行くんです。大祐くん、殆ど起きてますけど…」

 

《リゲル》「毎朝毎朝、起きるとあづみが部屋の中に…なんて、夢の様な一時…」

 

《ソリトゥス》「……あれ…?じゃあ…起きてない時は……」

 

《あづみ》「私が…えっと…起こして、ます…///」

 

《リゲル》「あづみ、どうしてか凄く照れてるわね。毎朝大祐と何してるのか、気になって仕方が無いのは私だけかしら」

 

《ソリトゥス》「私も……気になーー朝の営み……はっ…!だから…夜は体力維持の為に…しっかり休んでる…!」

 

《あづみ》「そ、そんな…やましいことなんてしてないよぅ…」

 

《リゲル》「ほんとかしら?…実はこっそり、大祐に聞いたりしてるのよ?」

 

《あづみ》「え…ふぇっ…!?」

 

《リゲル》「あづみとの朝を過ごしている時間、その時の事を思い出した大祐の顔ったら……頰を赤くして、目を横に逸らしたのよ?恥ずかしそうに片手で口の辺りを隠しながら。…表情は至極幸せそうだったわ」

 

《ソリトゥス》「…それ……絶対、口元にやけてる…」

 

《リゲル》「いいえ?本当に恥ずかしがってたわ…あづみ、一体何をーー」

 

《あづみ》「な、何もしてないもんっ。大祐くんと……い、いちゃいちゃ、だなんて………」

 

《ソリトゥス》「………あづみ…ちゃん…」

 

《リゲル》「…私達…いちゃいちゃだなんて、一言も言ってないわよ…?」

 

《あづみ》「…!はぅっ…」

 

《ソリトゥス》「あづみちゃん………墓穴を掘る……」

 

《あづみ》「あうぅぅ〜…///」

 

《リゲル》「ほらほら、白状しなさい…?じゃないと、こしょこしょの刑にーーー」

 

《あづみ》「は、話すよぅ…」

 

《リゲル》「……くっ…惜しい」

 

《ソリトゥス》「リゲルさんの煩悩も………見え見え…の、透け透け………」

 

《リゲル》「これは煩悩では無いわ…願い、望みよっ!」

 

《ソリトゥス》「…それも……どうかと…」

 

《あづみ》「り、リゲルは…何時も通り、だね…?」

 

《ソリトゥス》「あづみちゃん……然りげ無く話題を変えちゃ、ダメ……」

 

《あづみ》「……!」

 

《リゲル》「図星ね」

 

《ソリトゥス》「……此れから、あづみちゃんの口から…どんな言葉が放たれるのか………楽しみ」

 

《あづみ》「は、恥ずかしいよぉ…」

 

《ソリトゥス》「…毎朝、大祐くんと…。どんなプレ……どんな事をしてるのかな……?」

 

《あづみ》「し、してないっ…大祐くんは、何時も起きてて、私は大祐くんと…お話ししたり……」

 

《ソリトゥス》「じゃあ…大祐くんが、まだ寝てる時は…?」

 

《あづみ》「………///」

 

《ソリトゥス》「……黙り込んじゃった………けど、顔は真っ赤……んふふ〜…これ、ちょっと楽しいかも……」

 

《あづみ》「だ、大祐くんは、何時も…私の為に、飲み物とか、食べ物とか……用意、しててくれて…」

 

《ソリトゥス》「話が…違う方向へ、逸れた……」

 

《リゲル》「それで良いの。…ま、あづみに無理させたって仕方無いわ。後は本人に直接聞けば良いだけ、でしょ?」

 

《あづみ》「えっ…り、リゲル…?」

 

《ソリトゥス》「すかさず…助け舟…」

 

《リゲル》「あづみに無理矢理聞く位なら、大祐に無理矢理聞いた方が得策よ。明らかにね」

 

《あづみ》「……リゲル、ありがと」

 

《リゲル》「それに、あづみが半泣きしているのを見逃すなんて、到底理解出来ないわ。…私達も、少しやり過ぎたわね…ごめんなさい、あづみ」

 

《あづみ》「リゲルは何も悪く無いよっ、えっと…私に質問してきてたのは…」

 

《ソリトゥス》「……ご、ごめんなさい…悪気は無くて………その…調子に乗り過ぎて……」

 

《リゲル》「ソリトゥスは何処か、人のプライバシーに土足で踏み込む節が有るわね」

 

《ソリトゥス》「はっきりと言われた…!」

 

《リゲル》「何か…間違ってたかしら…?」

 

《ソリトゥス》「あ、あづみちゃん……リゲルさんが、怖い………」

 

《あづみ》「リゲル、ストップだよ?ソリトゥスさんが震えてる…」

 

《リゲル》「あづみをもふもふして良いのなら、許す」

 

《あづみ》「えっ…なんで私…!?」

 

《リゲル》「…あ、そうよね。『私の』あづみなんだから、別に許可を得る必要は無かったわ」

 

《あづみ》「そ、そういう話じゃなくてっ」

 

《ソリトゥス》「私のって…断言した……」

 

《あづみ》「わ、私は……リゲルもだけど……大祐くんの……もの…」

 

《ソリトゥス》「…其方も断言……!?」

 

《リゲル》「ふふっ、流石あづみね。大祐の事は何時何処でも忘れない」

 

《あづみ》「…忘れるって方が、有り得ない…かな」

 

《ソリトゥス》「大祐くんって……影響力、高いもんね………その分、周りの人達も…癖が強い……」

 

《リゲル》「森山碧、が代表例じゃないかしら」

 

《あづみ》「大祐くんの…親友さん、だっけ」

 

《???》「呼んだか?」

 

ーーー




既にもう一話完成していますので、今週金曜日or日曜日に更新致します(*´꒳`*)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.5

《ソリトゥス》「………あれ…?今、誰か喋った……?」

 

《???》「呼ばれた気がしたからな。颯爽登場ーー」

 

《リゲル》「呼んだ覚えは無いわ」

 

《???》「そうか、じゃまた」

 

《リゲル》「………………………」

 

《あづみ》「……リゲル?」

 

《リゲル》「…あ、いえ…ああいう輩とは口を利かないのが得策なの」

 

《あづみ》(誰か居たのかな…?)

 

《ソリトゥス》「…完全なる無視……得策……そうなんだ…勉強になる…」

 

《リゲル》「飽くまで、私個人の意見だけれどね」

 

《森山碧》「おいおいおい待て待て待て」

 

《リゲル》「取り敢えず、話の続きでもしましょ。…えーと……確か、ルクスリアの話から繋げて……」

 

《森山碧》「此処までスルーされるとは思わなかったわぁ…!!」

 

《ソリトゥス》「わっ………びっくりした……」

 

《リゲル》「……あ、それでね、あづみ。話が急に変わるのだけれど…大祐が昨日、衣服をプレゼントしてくれたの。なんだっけ………そう、ハロウィンに向けて、って言ってたわ」

 

《あづみ》「あっ、それなら私も貰ったよ!てっきり私……あれが誕生日プレゼントなのかなって…えへへ」

 

《森山碧》「お、確かにそろそろハロウィンだな。今回は仮装してみたい気分満々だぜっ」

 

《ソリトゥス》「…碧くん、かそうって、あの火葬…?」

 

《森山碧》「そうそう!遺体を埋葬する為に、先ずは火で遺体をーーって、其方の火葬ちゃうから」

 

《ソリトゥス》「ナイス……乗り突っ込み……」

 

《あづみ》「私にくれたのは…えっと……、今回も猫さん、かな?まだ見てないから、楽しみなのっ♪」

 

《リゲル》「私もまだ…でも確か……、私が猫嫌いだから、猫では無いって言っていた気がしなくも無いわ。…あれ、けど…あづみと私、二人が猫の仮装して戯れ合う姿を見たい…とか、何とか?」

 

《あづみ》「そ、それなら…二人で猫さんになって、大祐くんと戯れ合って…なんて…///」

 

《リゲル》「その発想は斜め上だったわ……ね。だ、大祐が喜んでくれるなら…う、ううん…あづみがしたいなら、私はそれに付き合うだけ。別に大祐と戯れ合いたい訳じゃ…無い…から」

 

《あづみ》「私は…大祐くんと、ら、ラブラブ…したいな…」

 

《リゲル》「ラブラブ…!」

 

《ソリトゥス》「…リア充は、火で葬る…?」

 

《森山碧》「そう!正に言葉の通り『火葬』さ!ははっ」

 

《ソリトゥス》「そういう碧くんも………今となっては…その一人……」

 

《森山碧》「……………………………………………………」

 

《ソリトゥス》「…………………………………………………だよね…?」

 

《森山碧》「あぁ…その事実が存在するだけで、嬉しい気持ちが溢れて止まらない!」

 

《ソリトゥス》「良いな……私の王子様……迎えに来てくれないかな…。やっぱり、私から行かないと駄目かな……?」

 

《あづみ》「大祐くん……来てくれるかな」

 

《リゲル》「大丈夫、言い方が少しあれだけど…何れその心配は無駄になると思うわ。大祐があづみの事大好きなの、あづみ自身が一番理解しているんじゃないかしら?」

 

《あづみ》「う、うん…///」

 

《リゲル》「例え遅れたとしても、絶対に来る。不思議と確信出来るのよね。だからあづみも…信じて待ってあげて?いざ御対面すれば、あづみはがちがちに固まるだろうから…心構えも大事よ」

 

《あづみ》「も、もしそうなったら…リゲルに頼っちゃうかも…」

 

《リゲル》「えぇ!幾らでも頼って欲しいわ?」

 

《あづみ》「リゲルは相変わらず…優しいな…」

 

《リゲル》「あづみは相変わらず、恋する乙女ね」

 

《あづみ》「そ、それはリゲルもだよっ」

 

《リゲル》「ま、まぁ…否定はしない…けど、乙女では無いかな…」

 

《森山碧》「んな事は無いと思うぞ。って、大祐なら言うだろうな」

 

《リゲル》「〜///」

 

《ソリトゥス》「……空気に紛れるのが……上手な碧くん…」

 

《森山碧》「流石だろう?俺クオリティだからな」

 

《あづみ》「………ひゃっ…!?い、何時から此処に……?」

 

《森山碧》「…ん!?今更!?最初の方で会話してたよね…其処の金髪さんと」

 

《リゲル》「あら…態と無視していたのに」

 

《森山碧》「いやいや酷いな。親友の嫁さんが、誕生日迎えたから祝いに来たのに…仕打ちがこれとは」

 

《あづみ》「お嫁…さん…///」

 

《リゲル》「…別に、今に始まった事では無いわ」

 

《森山碧》「ほんとだぜ。何時も俺にツンケンしてるよな〜、金髪さん」

 

《ソリトゥス》「……?どうして…名前で呼ばないの…?」

 

《リゲル》「私が許可してないから」

 

《森山碧》「…だ、そうだ」

 

《ソリトゥス》「そ、そうなんだ………でも、あづみちゃんのお祝いに来たなら………お誕生日、おめでとうってーー」

 

《森山碧》「俺は言わねぇよー」

 

《ソリトゥス》「えっ…ど、どうして……?」

 

《リゲル》「森山碧……まさか貴様、あづみの生まれた日がめでたく無いとでも…」

 

《森山碧》「充分めでたい話だろ」

 

《リゲル》「じゃあ何故ーー」

 

《あづみ》「…り、リゲル…待って。………その…あ、ありがとう…ございます…」

 

《リゲル》「あづみ…?」

 

《ソリトゥス》「あづみちゃん…」

 

《森山碧》「おうおう、察しが良くて助かるわぁ。ま、恋愛においては論外、だがな」

 

《リゲル》「どういう意味…?何故あづみが、礼を言わなければならないの?」

 

《ソリトゥス》「…………あ、そっか……」

 

《森山碧》「察しが悪いのは金髪さんだけか」

 

《リゲル》「カチンと来るわねっ…」

 

《ソリトゥス》「まぁまぁ………」

 

《森山碧》「祝いの言葉なんて、一番最初は自分の好きな人に言われたいだろう?それが自分の誕生日なら、尚更」

 

《あづみ》「…………………………………………………」

 

《森山碧》「この子はまだ、異性からその言葉を受け取っていない…よな?この説明だけで足りる筈だ。皆まで言う必要は無いだろ」

 

《ソリトゥス》「………だって……リゲルさん………」

 

《リゲル》「………悔しいけど、納得」

 

《あづみ》「だ、だから…お礼したの」

 

《リゲル》「…成る程」

 

《ソリトゥス》「…このタイミングで……違う男性が、一番最初にお祝いの言葉を口にしたら………最悪」

 

《森山碧》「それフラグや」

 

《ソリトゥス》「ふら……はっ…………しまった…」

 

《あづみ》「ふらぐ?」

 

《リゲル》「表に何を表すのかしら」

 

《ソリトゥス》「…其方じゃ、無い……」

 

《あづみ》《リゲル》「…?」

 

《森山碧》「要は誰かが「こうなると」良いな、悪いな、って口走り、それが現実に起こり得るのが『フラグ』。そう言った瞬間に、それが実際に起こってしまう事が『フラグ達成』とか『フラグ回収』。…だったか?深い経緯は知らん」

 

《あづみ》「えっと…少し、難しい…」

 

《ソリトゥス》「例えばこの場合だと………大祐くん、碧くんを除いた異性に……お祝いの言葉を言われちゃう」

 

《リゲル》「?けれど、その『フラグ回収』とか何とかが起こらなければ…問題はーー」

 

《ソリトゥス》「フラグは………恐ろしい……」

 

《あづみ》「で、でもっ、ソリトゥスさんの部屋には、この4人しかーー」

 

《???》「おー、おったおった!まだ4人しか集まってないんか?折角の誕生日なのに、薄情な方々ばっかやな」

 

《リゲル》「ちっ…この声はっ…」

 

《ソリトゥス》「は、はわわ………どうしよう……まだ、心の準備が………」

 

《あづみ》「………………飛鳥」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.6

本編も書き進めたい為、これ以上今週の更新は難しいかも知れません。


《天王寺飛鳥》「なんや、元気無いなぁ。大祐君も来ておらへんし……ま、兎に角。あづみ、誕生日おめーー」

 

《森山碧》「おうおうおう、待てや兄ちゃん。ちっとは空気読もうや」

 

《天王寺飛鳥》「なっ…へっきーはん、顔が怖いで。もっとにっこり、笑顔が大切…」

 

《森山碧》「(ニタァ…)」

 

《天王寺飛鳥》「だから怖いで!?」

 

《森山碧》「今に始まった事じゃないだろ」

 

《天王寺飛鳥》「そ、そうやったか?へっきーはん、昔からその顔………なんか」

 

《森山碧》「スッとディスるのやめい!」

 

《天王寺飛鳥》「そんなつもりで言うたんやないで!?」

 

《森山碧》「ははっ。………ま、取り敢えずだ。天王寺の兄ちゃんは彼方でソリトゥスさんとでも楽しんでな。少しばかりのご指名だ」

 

《ソリトゥス》「…………ふぇっ…!?わ、私…そんな事、一言も言って無い…………」

 

《森山碧》「ほら、ソリトゥスさん待ってるぞ?女性を待たせて良いのか?」

 

《天王寺飛鳥》「ま、マジなんか?ソリトゥスはん、固まっとるで?彼女の緊張が解けるまで、あづみの誕生日を皆でワイワイ楽しんで、祝なあかんちゃうかーー」

 

《リゲル》「さっさと行きなさい」

 

《あづみ》「呼び捨て……やっ…」

 

《天王寺飛鳥》「なんでや!?訳分からん…」

 

《森山碧》「完全に嫌われ者と化してるな。これ以上嫌われたくないなら、早いとこ退散しないと……」

 

《リゲル》「これ以上と無い位に嫌ってるから、安心して」

 

《あづみ》「飛鳥ーーううん…天王寺飛鳥、あっち」

 

《森山碧》「おっほほ〜、見てて楽しいな、これ」

 

《天王寺飛鳥》「なんも楽しくなんかあらへんで!?…うぅ…僕だって傷付くんやからな。あづみみたいな可愛い子ーー」

 

《あづみ》「………………………」

 

《天王寺飛鳥「……あづみちゃんみたいな可愛い子に、リゲル…さんみたいなべっぴんはんに嫌われるとか…」

 

《リゲル》「名前で呼ばなくて結構よ。寧ろ呼ばないで」

 

《あづみ》「わ、私も…」

 

《天王寺飛鳥》「なんかあたりかたが強ない…!?」

 

《あづみ》「…全然、まだ柔らかい方」

 

《リゲル》「えぇ、是迄に無く優しい接し方を選んでいる事に、何が不満なのかしら?」

 

《天王寺飛鳥》「是迄に無い位厳しいで…丸で初めて会った時みたいな態度やんか」

 

《あづみ》「…………………………………大祐………くん……」

 

《森山碧》「……………………………」

 

《天王寺飛鳥》「なんや…?大祐君が来ないから、僕に八つ当たりしたんか…?幾らあづみと言えど、それは御門違いーー」

 

《森山碧》「やめとけ、というか…そっとしてやれよ。恋する女の子は色々と複雑なんだ。幾ら鈍感な天王寺でも、察してやれ」

 

《リゲル》「察しが悪い……同類みたいで頗る嫌ね」

 

《天王寺飛鳥》「…はぁ、ま、2人に嫌という程嫌われてるっちゅうのは身に染みたわ。でも心配あらへんやろ。大祐君は必ず来る、それは俺でも確信してる。理由なんて無いに等しいけど…」

 

《ソリトゥス》「…あ、飛鳥くん、飲み物でも……如何…?」

 

《天王寺飛鳥》「お、ほんま助かる。やっぱりソリトゥスさんは優しいなぁ〜」

 

《ソリトゥス》「えへへ…///」

 

《森山碧》「他人の誕生日にいちゃいちゃするな〜。当の本人はまだ出来てないんだから。主に男側に問題有り。あっづみ〜んは何も悪くない」

 

《あづみ》「…?それ、愛称…みたいなのですか…?」

 

《森山碧》「ん、あぁ…まぁ」

 

《リゲル》「良くあづみを愛称で呼べたわね。死ぬ覚悟が出来てるって事かしら」

 

《森山碧》「更々ねぇよ」

 

《あづみ》「愛称…そう言えば大祐くん、私の事…何時もさん付けばかり。それを大祐くんに言ったら、必死に悩んでくれたけど…【あづみ姫】が一番しっくり来るって……」

 

《森山碧》「其れ位大切なんだろな。彼奴にとって、各務原あづみという存在は」

 

《リゲル》「あづみ姫………という事は必然的に、あづみは大祐のお姫様って事よね」

 

《あづみ》「…!わ、私が…大祐くんの…お、お姫様…///」

 

《森山碧》「さっさと王子様が迎えに来れば良いんだがな。タラタラし過ぎなんだよ、大祐は」

 

《天王寺飛鳥》「気ままに待つっちゅうても、かなりの時間経ってるんやろ?へっきーはん、親友なんやから…なんかこう、伝言みたいなのは預かってないんか?」

 

《ソリトゥス》「……あ、リゲルさん、あづみちゃん……飲み物のおかわり、いる…?」

 

《リゲル》「有り難く頂くわ」

 

《あづみ》「お、お願いします」

 

《森山碧》「で、えっと?伝言か?伝言………確か……………あ」

 

《リゲル》「ん…ソリトゥス。別でお水、頂けるかしら?」

 

《ソリトゥス》「…?分かった………用意して来る……」

 

《リゲル》「悪いわね、感謝するわ」

 

《ソリトゥス》「お客様には……最善を尽くすのが、当たり前………」

 

《天王寺飛鳥》「…それで?へっきーはん、どないしたんや。なんか思い当たりでもーー」

 

《森山碧》「ああ、すっかり忘れてたわ。俺が此処に来た理由。…大祐が、其処の少女に手紙を渡してくれって、頼まれたんだったわ」

 

《あづみ》「わ、私に……大祐くんが…?」

 

《森山碧》「内容は軽いものらしいぞ。今渡す」

 

《天王寺飛鳥》「手紙…気になるなぁ。ロマンティックがーー」

 

《森山碧》「ロマンティックが止まらねぇぜ!!」

 

《天王寺飛鳥》「わいのネタが奪われた!?」

 

《あづみ》「大祐くんからの…手紙…なんだろな………」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.7

今週も金曜日、又は日曜日にもう一話更新致します(*´꒳`*)


《リゲル》「手紙…大祐から?」

 

《あづみ》「うん、真っ白な手紙…」

 

《ソリトゥス》「内容は……もう、確かめた……?」

 

《あづみ》「まだ…です。でも…少し怖いな…」

 

《ソリトゥス》「どうして………?」

 

《あづみ》「……………」

 

《リゲル》「…大祐が来れない、みたいな内容を想像したのね」

 

《あづみ》「う、うん…」

 

《森山碧》「まぁ、そうでは無いと思うぞ〜。俺に手渡した時、すげー必死そうだったからな」

 

《天王寺飛鳥》「必死?大祐くん、何か忙しいんか」

 

《森山碧》「彼奴は何時も忙しいだろ」

 

《天王寺飛鳥》「そ、そうなんか」

 

《森山碧》「呑気にしていられないだろ。書類片付けに彼女さん達との親交深め。その他諸々。こうして口に出してみると前者より後者の方が、絶対疲れるわ」

 

《リゲル》「好き放題言ってくれるわね」

 

《あづみ》「…でも、大祐くんが疲れてるのは事実だよ…?やっぱり、私達がお荷物に……」

 

《リゲル》「それは…」

 

《森山碧》「おうおう、待てい。彼奴は一度たりともそうは思った事ないだろうよ。それは俺でも分かる」

 

《天王寺飛鳥》「僕にも分かるで!大祐君がそういう男じゃないって事。あんだけ愛されてるのに、二人はまだそんな事を思うんか?」

 

《ソリトゥス》「……うん。大祐くんは、絶対にそんな事……思ったりしない…。だから二人も…存分に甘えた方が……良い」

 

《天王寺飛鳥》「せやな」

 

《あづみ》「そうなの…かな…。そうだと良いな…」

 

《ソリトゥス》「…あづみちゃん、違うよ?……ルクスリアも言っていた通り、そうだと良いな……じゃなくて、そうなんだよ…?」

 

《あづみ》「えっと…は、はいっ」

 

《天王寺飛鳥》「それはそうと、手紙…確かめなくて良いんか?」

 

《あづみ》「…あっ…そうだった」

 

《リゲル》「ふふっ…相変わらず、ね」

 

《森山碧》「なにがだ?」

 

《リゲル》「あづみの話よ。大事な事を見落としてしまうのは、何時もと同じなのね、と思って」

 

《天王寺飛鳥》「可愛いやん。こう…天然みたいな感じで」

 

《ソリトゥス》「………飛鳥くんは、天然が好み……」

 

《あづみ》「私、天然じゃないもんっ。飛鳥はいい加減な事、直ぐ言う…」

 

《天王寺飛鳥》「そ、それは何ちゅうか…ごめんな?許してくれると嬉しいんやけど…」

 

《リゲル》「本当…適当に物を言うのはやめて欲しいわ」

 

《森山碧》「んぁ?別に適当とかいい加減じゃなくないか?十分当たってると想うぞ」

 

《リゲル》「森山碧…貴様もーー」

 

《ソリトゥス》「え、えっと…あづみちゃんが天然なのは………私もそう想う……」

 

《あづみ》「ふぇっ…!?」

 

《リゲル》「三人共口を揃えて…」

 

《ソリトゥス》「だって……大事な事を見落としちゃう…然も、それが素なら………天然としか…」

 

《リゲル》「う…………それは…」

 

《森山碧》「というか、さっきの会話…天王寺氏とあづみんが付き合ってそこそこの彼氏彼女みたいだったな。ははっ」

 

《天王寺飛鳥》「そ、そうだったんか?いや〜…それを言われると、僕も嬉しいというか…」

 

《あづみ》「……………………」

 

《リゲル》「随分と酷い冗談ね」

 

《森山碧》「おう!…ってなぁ…天王寺氏、あんた…絶対あづみんにその気があるよな」

 

《ソリトゥス》「へっ…!?」

 

《天王寺飛鳥》「ち、違うて!ただ、あづみみたいな可愛い子の彼氏とか言われたら、誰だって嬉しくなるやん!?へっきーはんやて、そうやろ?」

 

《森山碧》「否定はしない、が、肯定もしない。要はその程度だ。確かにあづみんは可愛いが」

 

《ソリトゥス》「そ…そんな………飛鳥くん…」

 

《リゲル》「…これ以上その話を続けると、二人の額を撃ち抜くわよ。流石の私も我慢ならないわ」

 

《天王寺飛鳥》「わわっ、待て待て!冗談やて、冗談!調子に乗り過ぎただけなんや!!」

 

《森山碧》「…あ?あぁ…ま、無理だろうけどな」

 

《リゲル》「良い度胸ね、森山碧。幾ら大祐の親友と言えど、容赦はしない…何時か貴様の体を蜂の巣にしてやるわ」

 

《ソリトゥス》「わ、わぁ……お星様が見える…」

 

《天王寺飛鳥》「ちょ、ソリトゥスさんの意識が遥か遠くに飛んでる事に、誰も突っ込まないんか!?誰がこんな…」

 

《リゲル》《森山碧》「貴様(お前)の所為よ(だ)」

 

《天王寺飛鳥》「僕!?」

 

《ソリトゥス》「あ、あはは〜……もう私……駄目、かも…」

 

《天王寺飛鳥》「ま、待つんやソリトゥスさん!戻って来るんや!!」

 

《あづみ》「………………………………………」

 

《リゲル》「……あづみ?」

 

《森山碧》「ほらー、皆五月蝿い所為で、あづみんーー水色髪少女が黙りしちゃったじゃんかー」

 

《リゲル》「…チッ、外したか…」

 

《森山碧》「人が話してる時に横槍入れるのやめい」

 

《あづみ》「……………………私……」

 

《ソリトゥス》「…………はっ…!………此処は何処…?私は…ルクスリーーソリトゥス…、私は……ソリトゥス。…ルクスリアだなんて………ううん、ネタでも言いたくない………」

 

《天王寺飛鳥》「お、おお…ソリトゥスさんが無事に帰って来た…良かったわ〜」

 

《ソリトゥス》「…!あ、あ……あす……あすか…くん……!?ちょっと……近い……!」

 

《天王寺飛鳥》「なんやどしたんや?顔が真っ赤やで?」

 

《ソリトゥス》「そ…そんな……わ、私は…至って普通……飛鳥くんが、幻覚を見てるだけ………」

 

《森山碧》「無理な押し通しを…」

 

《天王寺飛鳥》「そうなんか!?」

 

《森山碧》「違うわ!気付け!!」

 

《リゲル》「…はぁ……本当、騒がしいわね。こういう時に、全員を一纏めにしてくれる人材が居れば良いのだけれど………ね、あづみもそう思わない?」

 

《あづみ》「………?えっ…う、うん…そう…だね」

 

《リゲル》「…あづみ?どうしたの…?何だか元気無い様子だけれど…」

 

《あづみ》「えっと…大丈夫だよ。ありがと、リゲル」

 

《リゲル》「………もしかして、天王寺飛鳥との関係、その話?」

 

《あづみ》「…っ」

 

《リゲル》「大祐より、実は天王寺飛鳥の方が好き…とか、かしらーー」

 

《あづみ》「違うもんっ!」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.8

《森山碧》「おわっ…ビビった」

 

《天王寺飛鳥》「な、どないしたんや、あづみ」

 

《ソリトゥス》「あづみちゃん…?」

 

《リゲル》「…凄く強い拒否、ね。余程嫌だったのかしら」

 

《あづみ》「………あっ…ご、ごめんなさい…」

 

《森山碧》「おうおう、只ならぬ気迫を感じたな。気になる気になるぅ〜」

 

《あづみ》「そ、その……」

 

《リゲル》「…段々、貴様が無遠慮で、土足で、私達に話し掛けて来る事が増えて来てるわね。後で覚えておきなさい」

 

《森山碧》「雑談が過ぎるぞ。今はあづみんの話を聞こうぜ〜」

 

《リゲル》「此奴っ…!」

 

《ソリトゥス》「お、落ち着いて……リゲルさん…今はその時じゃないよ………?」

 

《天王寺飛鳥》「タイミングとかあるんかいな…」

 

《森山碧》「…んで?」

 

《リゲル》「森山碧、貴様は少し口を閉じなさい。私が、あづみに聞くのだから」

 

《森山碧》「へいへ〜い」

 

《ソリトゥス》「…碧くん、その余裕は何処から……」

 

《天王寺飛鳥》「あの人から睨まれても怯まないとか…化けもんか…?」

 

《ソリトゥス》「或いは…M」

 

《森山碧》「ちゃうわ!少し静かにーー」

 

《ソリトゥス》「…ブーメラン」

 

《森山碧》「ごはぁ!」

 

《リゲル》「………あんな奴等は放っておいて、あづみ…何かあったの?急に大きな声出して…珍しいったらありゃしないわ」

 

《あづみ》「…うん………私も、自分でびっくりする位…大きな声出しちゃったなって…」

 

《リゲル》「滅多に無いからこそ、心配…良かったら、話してくれないかしら」

 

《あづみ》「………大祐くん…」

 

《リゲル》「…?」

 

《あづみ》「私………大祐くんが、リゲルと同じ位…1番大好き。だから…大祐くんと違う、他の男性の人とそういう関係だって言われるのが…嫌っ………」

 

《リゲル》「…ふふっ…ブレないわね、あづみは」

 

《あづみ》「だ、だって…!………大祐くんの事が、大好きなんだもん…///」

 

《リゲル》「まぁ…所謂一種の独占欲ね。何方かと言えば、独占されたいと願う欲なのだけれど…」

 

《あづみ》「独占……されたい…」

 

《リゲル》「そ、誰にも渡したく無い、奪われたくないって思う…若しくは相手からそう思われたい」

 

《あづみ》「はぅっ…」

 

《リゲル》「あづみ…その反応からして、独占って言葉は嫌いな様ね。大祐との関係以外限定で」

 

《森山碧》「しょうがないだろ。大祐が自分の欲を、あづみんにぶつけてない訳だからな」

 

《リゲル》「…森山碧、盗み聞きとあづみへの愛称、何方も此れから禁ずるわ」

 

《森山碧》「禁じられる気はねえよ。俺は俺のしたい事をするだけだからな」

 

《リゲル》「…熟、危険な男ね」

 

《あづみ》「あ、あのっ………」

 

《森山碧》「お、あづみんから質問とは、これも又珍しいな…どした?」

 

《あづみ》「えっと……その、だ、大祐くんの……欲って…?」

 

《森山碧》「良い質問…とは言わないが、悪く無い。ぶっちゃけた話、あづみんが思っている事を大祐も思っている」

 

《あづみ》「私の…?」

 

《森山碧》「彼奴…引っ込み思案が平常運転でな。本当はあづみんを独占したくて仕方が無いとか何とか」

 

《あづみ》「えっ…ふぇっ…!?」

 

《森山碧》「その反応好きな」

 

《リゲル》「親友だからこそ、聞けたのかしら…?」

 

《森山碧》「ま、そんなとこだ。だけどな…独占されたいとは言って無かった。何だか訳分からんわ」

 

《あづみ》「こ、こうして聞くと…独占…って、凄い…言葉…///」

 

《森山碧》「今更か」

 

《リゲル》「…それは良いとして、要は大祐…女性からの攻めは受け付けないって話よね」

 

《森山碧》「ん?ん〜……ああ、あれだ。女性の手を煩わせたく無いって奴。簡単に説明すると、告白は男から、仕掛けるのは男から」

 

《リゲル》「…?言っている意味が理解出来ないわ?」

 

《森山碧》「要は、告白する時には勇気が必要だろ?」

 

《リゲル》「え、えぇ…確かに」

 

《あづみ》「…あっ、私、分かった…」

 

《森山碧》「お、察しが良い…のかは分からんが、相変わらず鈍い金髪さんだ」

 

《リゲル》「何か…言ったかしら…?」

 

《あづみ》「り、リゲルが怒ってる…」

 

《森山碧》「それはさて置きだ」

 

《リゲル》「そんなナチュラルにスルーさせないわよ」

 

《森山碧》「話が脱線するから、一度は置かせろ」

 

《リゲル》「くっ…」

 

《あづみ》「リゲルが…怯んでる…」

 

《森山碧》「………でだ、話を戻すと、その勇気を振り絞るのは男の役目だと。それで振られて傷付くのも男の役目だと。女性は傷付く必要は無い…とかいう、紳士気取りの馬鹿だ」

 

《あづみ》「…何としても、女性に傷付いて欲しく無い…」

 

《森山碧》「あぁ…だが、その思考の所為で女性側を縛っている事に、何時になったら気がつくんだか」

 

《リゲル」「女性からは手を出させたく無い。万が一にも傷を付けさせたく無い。それじゃあ、女性からは意見の一つも切り出せない…」

 

《森山碧》「そして彼奴からも手を出さない。そりゃあ、何時迄経っても関係が進まない訳だ」

 

《あづみ》「大祐くん…」

 

《森山碧》「…………………………………ま、大丈夫だろ。そろそろ大祐自身も攻めに出るだろうからな」

 

《あづみ》「…??」

 

《森山碧》「あ、因みに、金髪さんの事も独占したいだとよ。…甘い…甘過ぎる!話が甘過ぎる!胃が凭れる位にな!!」

 

《リゲル》「…大祐と私達を侮辱するの、やめてくれるかしら。……………………でも……大祐が、私を独占………うぅ…考えただけでも爆発してしまいそう…///」

 

《あづみ》「リゲル、顔真っ赤だね」

 

《森山碧》「…あ、そうだ。天王寺氏とソリトゥスが見当たらないが。それに手紙は読んだのか?」

 

《リゲル》「あづみに対しての口調が軽過ぎるわ。もっと敬意を払いなさい」

 

《森山碧》「めんどくさー……大祐、良く落としたな。この金髪さんの事」

 

《リゲル》「落とす?何の話?」

 

《森山碧》「……堕とすの方が正しいかもな」

 

《リゲル》「…?訳が分からないわ」

 

《あづみ》「はーとはすないぱーされたよね」

 

《リゲル》「…あづみ、可愛く言っているけれど、至極恥ずかしいわ。………最もなのは確かだけど」

 

《森山碧》「狙撃の上手い奴が狙撃されるとは、思いもよらないわな」

 

《天王寺飛鳥》「…お、何時の間にか話が終わってる雰囲気やな」

 

《ソリトゥス》「あづみちゃん………結局、手紙の中身は…見た……?」

 

《あづみ》「は、はい。皆、言い争ってる間に……」

 

《リゲル》「言い争う…あっ、あの時ね」

 

《森山碧》「皆して五月蝿かった時だろ。あづーー」

 

【森山碧の顔面に思い切り水の掛かる音】

 

《森山碧》「……………………………………………………んぁ?」

 

《ソリトゥス》「お水……?」

 

《リゲル》「用意周到、備えあれば憂いなし、言ったでしょ?容赦はしないって」

 

《ソリトゥス》「凄い……あ、碧くん……今タオル持ってくるね…!」

 

《森山碧》「…やってくれるわ〜、完全に油断してた」

 

《リゲル》「あづみに軽口を叩いた罰よ」

 

《天王寺飛鳥》「うっわ〜…相変わらず厳しいなぁ?」

 

《リゲル》「天王寺飛鳥、貴様も標的の一人だって事を忘れて貰っては困るわ。あづみに手でも出したら、命は無い物と思いなさい」

 

《天王寺飛鳥》「き、肝に命ずるから、せめて情けを…」

 

《あづみ》「もう、リゲルったら…」

 

《リゲル》「因みに、下手をしなくても大祐が一緒に殺しに行くわ」

 

《天王寺飛鳥》「恐ろしっ!!あづみちゃーー少女は絶対防壁に守られてるから、触れも出来へんな〜、あはっ…ははは…」

 

《あづみ》「…リゲル、銃を下ろしてあげて…?」

 

《リゲル》「あづみがそう言うなら」

 

《天王寺飛鳥》「……作り笑いって、意味ないな」

 

《リゲル》「全く…森山碧然り、天王寺飛鳥然り、あづみが居なければ死んでいたのよ。あづみに感謝しなーーひゃいっ!?」

 

《あづみ》《天王寺飛鳥》「!!??」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.9

《ソリトゥス》「…何か、凄く可愛らしい声が聞こえたけど…………」

 

《リゲル》「………………………………………っ!!」

 

《森山碧》「丸で鬼の形相だな」

 

《リゲル》「………私に触って良いのは…あづみや大祐だけよっ!!」

 

【リゲルが力の限りビームサーベルを一閃する音】

 

《森山碧》「おっと、危ねぇ危ねぇ」

 

《天王寺飛鳥》「………まさか、信じられへんな……リゲーー金髪美女の背後を取り、肩に手を置くなんて…」

 

《あづみ》「…リゲルもあんな声、出すんだ」

 

《リゲル》「くっ………」

 

《森山碧》「お〜、そんな屈辱的な表情を浮かべんでも良いだろ」

 

《ソリトゥス》「……………碧くんのターン」

 

《森山碧》「俺は一応、注意を促す為にしたんだからよ」

 

《リゲル》「注意…?何故貴様に注意されなくてはーー」

 

《森山碧》「金髪さんよ。自分自身が相当美人だという事を、ちゃんと意識した方が良いぞ。其処の少女を守るだけじゃなく、自分の事もしっかり守れ」

 

《リゲル》「………だから何」

 

《森山碧》「…気付いて無い様だな。ま、砕いて簡潔に述べるわ。『自分が他の男に手を出されない様にしろ』って話」

 

《リゲル》「どうしてこのタイミングでーー」

 

《森山碧》「貴女は其処の少女を守る事に専念し過ぎだ。無論、それが悪いとは言わない。だがな…金髪さん、貴女を付け狙う奴等はゴロゴロ居るだろうよ。其処ら辺気を付けとか無いと、何時かは金髪さん自身が襲われる」

 

《天王寺飛鳥》「で、でも…金髪美女ーーはもう言い辛いわ!リゲルがそんな簡単に襲われるなんてあるんかいな…」

 

《森山碧》「今やって見せた通りだ」

 

《ソリトゥス》「……………説得力の塊」

 

《あづみ》「でも…その人の言う通りだよ、リゲル。私を守ってくれるのは嬉しいけど……リゲル自身も、注意しなきゃ」

 

《リゲル》「あづみ……」

 

《あづみ》「もし……万が一、リゲルが襲われたら…私も大祐くんも………」

 

《リゲル》「…………………………………………………」

 

《ソリトゥス》「…あづみちゃんも……リゲルさんの事、大好きだもんね………」

 

《森山碧》「…ま、頭の隅に置いとく程度でも良いだろ。驚かせてすまなかった。水を掛けられた腹いせも含め、おあいこだろ」

 

《天王寺飛鳥》「寧ろ其方が本命ちゃうんか」

 

《森山碧》「あ、バレた?」

 

《リゲル》「森山碧……絶対に蜂の巣にしてやるわ」

 

《森山碧》「おわっ、怖っ!けど大祐にはすっげー優しいもんな?ははっ」

 

《リゲル》「そ、それはっ…大祐…だから…///」

 

《ソリトゥス》「リゲルさんが…照れた。………こうしてみると分かるけど……大祐くんって、凄いよね………」

 

《天王寺飛鳥》「ほんま、そう思うわ」

 

《あづみ》「リゲルの心、鷲掴みにしちゃうなんて…最初は私も驚いたなぁ…」

 

《???》「あら、それはあづみもそうでしょう?」

 

《あづみ》「…!」

 

《リゲル》「…まぁ、来て当然よね」

 

《天王寺飛鳥》「誰や?」

 

《ソリトゥス》「一人じゃない…3名様、ご来店」

 

《森山碧》「もっと癖の強い面子が来たな。何れにせよ、大祐の物という」

 

《ヴェスパローゼ》「その言い方…嫌いじゃないわよ?」

 

《森山碧》「マジかよ…少し位否定しようぜ」

 

《きさら》「へあ、ごちゃごちゃ」

 

《ソリトゥス》「……ほんとだ。私が来るまでに………色々有ったんだね…片付けなきゃ………」

 

《天王寺飛鳥》「僕も手伝うで。責任は僕らにあるからな」

 

《ソリトゥス》「…飛鳥くん………えへへ…ありがと…」

 

《あづみ》「わ、私もお手伝いーー」

 

《ベガ》「駄目ですよ、あづみ。今日は貴女が主役なのですから。じっとしていれば、それで良いのです」

 

《あづみ》「でも…お母さん…」

 

《リゲル》「…漸く、場を一つに纏められるのが来たわね」

 

《ベガ》「リゲル、貴女はもっとカリスマ性を高める事です」

 

《ヴェスパローゼ》「ふふっ、何処か幼くて良いじゃない。大祐の大好物よ」

 

《リゲル》「大好物…って、言い方を変えなさい。……………嬉しいけれど」

 

《きさら》「りげゆ、てぇてる?」

 

《リゲル》「いえ…照れてなんか、無いわ…」

 

《きさら》「ぅゅ…?」

 

《あづみ》「わぁ、きさらちゃん…一緒に、遊ぼ?」

 

《きさら》「あづ!あそぶっ」

 

《あづみ》「えへへ…きさらちゃん、可愛いなぁ」

 

《ヴェスパローゼ》「……意外な関係発覚ね。丸できさらのお姉さんみたい」

 

《ベガ》「私も、びっくりです」

 

《森山碧》「……やべぇ、付いていけねぇ」

 

《天王寺飛鳥》「当たり前っちゃあ、当たり前やな。だって…この場に居る男性は僕達二人だけやで?他は全員、高嶺の花たる美女や美少女………」

 

《森山碧》「確かにな」

 

《ベガ》「………貴方方、居たのですね。てっきり大祐だけが居るものかと」

 

《リゲル》「それが…寧ろ大祐はまだ来てないの」

 

《ベガ》「早く来て欲しいものですね。何処か待ち侘びてる自分が居ます」

 

《森山碧》「ま、その内来るだろ。雑談でもして待ってようぜ〜」

 

《天王寺飛鳥》「雑談…あー、最近フィエリテはんにキレられた話とかどや」

 

《ソリトゥス》「少し…気になる……」

 

《森山碧》「何時もの事だろうな、面白そうだから聞くけど」

 

《リゲル》「どうせ、女性関連の話でしょ。全く…女癖の悪い男ね」

 

《天王寺飛鳥》「…僕!?」

 

《きさら》「てあたり、しだぃ?」

 

《あづみ》「きさらちゃん、その言い方はちょっと…当たってるかも………」

 

《天王寺飛鳥》「いやいやいや、可笑しいやろ!?」

 

《森山碧》「じゃあ、どんな話なんだ」

 

《ソリトゥス》「……フィエリテさんが怒る位………やっぱり…?」

 

《天王寺飛鳥》「ちゃうて!綾瀬を出掛けに誘った位や」

 

《森山碧》《ソリトゥス》「……ですよね…」

 

《天王寺飛鳥》「なんその微妙な反応は…」

 

《ヴェスパローゼ》「ふふっ、其処の女誑しな男の話は置いて、ソリトゥスさん…よね?私達も飲み物、頂けるかしら」

 

《ソリトゥス》「はっ…!そうだった……い、今直ぐ用意して来ます……!」

 

《ヴェスパローゼ》「焦ると危ないわよ?ゆっくりで構わないわ」

 

《ベガ》「…ヴェスパローゼ、貴方が他人を気遣うなんて。この部屋に居るだけで人格が変わる、そんな作用でも含まれているのでしょうか?」

 

《ヴェスパローゼ》「随分と疑り深いわね、ベガ」

 

《森山碧》「やべぇな…この部屋って、んな効力が有ったのか」

 

《ヴェスパローゼ》「無いに決まってるじゃない」

 

《天王寺飛鳥》「…こ、こうして2人が並ぶと…大物感がヤバイな…」

 

《ベガ》「貴方は…天王寺…」

 

《天王寺飛鳥》「は、はいっ!」

 

《ベガ》「…大和?」

 

《天王寺飛鳥》「其方は兄ちゃんや!」

 

《ベガ》「意外とノリが良いのですね。最も…全て大祐の下位互換としか感じませんが」

 

《天王寺飛鳥》「…ん!?」

 

《森山碧》「おっほ、キッツイ一言」

 

《ソリトゥス》「…ううん、そんな事…無いと思う………はい、ヴェスパローゼさん…お待たせしました」

 

《ヴェスパローゼ》「あら、有難う」

 

《リゲル》「…ん…?」

 

《きさら》「りげゆ、りげゆ〜」

 

《あづみ》「きさらちゃん、リゲルのバトルドレスに興味津々だね」

 

《きさら》「りげゆ、ろーぜ、こぇ、なぁに?」

 

《リゲル》《ヴェスパローゼ》「「大量虐殺兵器」」

 

《きさら》「たいょう……うゅ…?」

 

《ヴェスパローゼ》「ふふっ、冗談よ」

 

《リゲル》「強ち間違いでは無いけれど」

 

《ベガ》「こら、リゲル。幼い少女に、良い加減な事を教えてはいけませんよ」

 

《あづみ》「そうだよリゲル、きさらちゃんが困っちゃったよ?」

 

《きさら》「ぎぁく…さ?」

 

《森山碧》「簡単に言えば、大祐が戦う時に使ってる奴と一緒だ」

 

《天王寺飛鳥》「凄い簡略化しとるな」

 

《ソリトゥス》「それも強ち……間違いじゃない………」

 

《きさら》「だいすけ…?……だいすけ!」

 

《ヴェスパローゼ》「変な覚え方をしてしまいそうね」

 

《ベガ》「森山碧…余計な事を」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.10

《リゲル》「余計な事…今更ね」

 

《森山碧》「…お、俺は何もしてませんって〜、だから許して下さいよ〜」

 

《ソリトゥス》「……オタクみたい」

 

《天王寺飛鳥》「確かに、オタクの末期みたいやな」

 

《森山碧》「うるせ」

 

《きさら》「ぉたくっ」

 

《森山碧》「きさらちゃんの?」

 

《きさら》「やっ!」

 

《天王寺飛鳥》「ぶっ、速攻拒否られてるやんか、面白いなぁ!」

 

《ヴェスパローゼ》「きさら然り、大祐以外には抵抗心強めよ?」

 

《森山碧》「お兄さん傷付くわー…」

 

《ソリトゥス》「オタク……傷付いてるー…」

 

《森山碧》「やめなさいって」

 

《リゲル》「仕返しに丁度良いわね。森山碧…今日から貴様の名前は、オタクよ」

 

《森山碧》「こらぁ!!おあいこだっただろ!」

 

《リゲル》「あら?何の話かしら」

 

《天王寺飛鳥》「流石、しらばっくれるのがお上手やな!」

 

《きさら》「りげゆ、かぉ、こあい」

 

《天王寺飛鳥》「…は、ははっ…冗談やて…ま、全く、冗談が通用しないな〜…リゲーー金髪さんは」

 

《ソリトゥス》「切り替えの早さは…異常……」

 

《天王寺飛鳥》「然りげ無くdisられたわ〜…」

 

《ソリトゥス》「…!?ち、ちがっ………」

 

《森山碧》「良いぞ〜、もっとやれ〜!」

 

《リゲル》「オタク」

 

《森山碧》「だからやめいって!!な!?」

 

《リゲル》「ふんっ、いい気味だわ?」

 

《ヴェスパローゼ》「…少し騒がしくて疲れるわね。きさら、彼方でゆっくり、大祐を待ちましょ?」

 

《きさら》「うぃ!ろーぜ、はあくいこっ」

 

《ヴェスパローゼ》「ふふっ…えぇ、分かったわ」

 

《リゲル》「…私達も、少しこの輩と離れましょ」

 

《森山碧》「おうおうおう、此方から離れたるわ」

 

《リゲル》「二度と近付かないで」

 

《森山碧》「………俺だって傷付くからな!?…ま、別に良いけどさ」

 

《天王寺飛鳥》「相変わらずツンケンしとるなぁ。大祐君が来た時の変わり様を、この目で見てみたいわ」

 

《ソリトゥス》「…きっと、丸で別人………」

 

《リゲル》「はいはい、私の事はいいから。全く…行きましょ、あづみ。……………………………………あづみ?」

 

《ソリトゥス》「……あれ…?ベガさんも居ない……」

 

《リゲル》「あづみ!ベガ!何処へ行ったのかしら…?」

 

《森山碧》「ま、少なくとも部屋の中には居るだろうな」

 

《天王寺飛鳥》「部屋っちゅうたって、屋敷並みに広いんやで?素直に戻って来るのを待つのが吉やろ」

 

《リゲル》「あづみ………」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

《ベガ》「大祐との関係…の、深め方ですか?」

 

《あづみ》「え、えっと…はい…」

 

《ベガ》「以前お話した様に、男女としての関係性を深く築くのは、まだ早いかと思います」

 

《あづみ》「で…でもっ」

 

《ベガ》「………ですが、確かに。知識の有無、それだけであづみ自身にも関わって来ます。大祐と此れからを過ごしていく中で、必ず必要となってくる知識。…もし、私からの話を聞かずに大祐と夜を楽しんでしまっても、世の中には『避妊』アイテムという謎の物体が有りますからね。大祐なら弁えてくれーーいえ…二人共、理解してでも作ってしまいそうです。そういう問題では無いのですが」

 

《あづみ》「ひ、ひにん…?」

 

《ベガ》「えぇ。あづみはその辺りの知識が無知、と言って良い程に

皆無です。親としては心配でなりません」

 

《あづみ》「うぅ〜…」

 

《ベガ》「…まぁ、覚えておいて損は無いでしょう。もう認識を得ていても可笑しくない年齢です…折角ですから、ソリトゥスさんに部屋をお借りして、私とあづみ…リゲルは………えぇ、リゲルもですね。三人で少しばかり話をしましょう」

 

《あづみ》「お話…?お母さんの…」

 

《ベガ》「はい。もしあづみやリゲルが、大祐と繋がる時を迎えた場合…しっかりと学んでおかねばならないでしょう?」

 

《あづみ》「は、はいっ」

 

《ベガ》「最悪、大祐が教えてくれるでしょうけど…大祐も恥ずかしいと思います。況してや、それが初恋で大好きな女性だとしたら。彼ばかりに頼ってもいられませんし」

 

《あづみ》「うん…大祐くんだけに頼ってちゃ、だめ…自分で学ばなきゃ」

 

《ベガ》「………ですが、其処を優しくフォローしてくれるのが大祐です。あづみやリゲルにも分かりやすく、砕いて説明しますけど…もしそれでも理解が難しい場合。大祐に頼らせて貰いましょう」

 

《あづみ》「お母さんと、リゲルと一緒に…」

 

《ベガ》「心配は無用です。万が一の場合、ルクスリアやヴェスパローゼが居ますからね」

 

《あづみ》「あ、そっか…心強いなぁ…」

 

《ベガ》「こういった事に関しては、という、限定的な心強さですけどね」

 

《あづみ》「勿論、お母さんが居てくれるだけでも…私は、凄く心強いです」

 

《ベガ》「…有難う御座います、あづみ。ですが…敬語は禁止ですよ。私は貴女の『お母さん』なのですから」

 

《あづみ》「じゃあ…お母さんも、私に敬語はだめっ。私はお母さんの『娘』…だから」

 

《ベガ》「一拍置いた時点で、不安がバレてますよ。…ふふっ、あづみ、確かに貴女は私の『娘』です。この事実に何ら変わりは有りません。だから安心して…私を『母親』として、存分に甘えて来て下さい」

 

《あづみ》「お母さんっ…!」

 

《ベガ》「…敬語は…私の中で、誰に対してもという意識が高く…あづみだけには、徐々に『母親』として話せるよう、段々と慣れて行ければ…」

 

《あづみ》「え、えっと…お母さん、無理だけは…」

 

《ベガ》「ふふっ…一つ、私の中で目標が出来てしまいましたね」

 

《あづみ》「わ、私もっ」

 

《ベガ》「?」

 

《あづみ》「…私も…お母さんと一緒に、沢山話したいから…一生懸命頑張るっ」

 

《ベガ》「あづみ、無理だけは駄目ですよ?」

 

《あづみ》「えへへ」

 

《ベガ》「…大祐は、この天使の様な笑顔を何時も見ているのですね…羨ましいです」

 

《あづみ》「お母さん…?」

 

《ベガ》「…いえ、何でも有りませんよ。えぇ…さて、リゲルの所に戻りましょうか」

 

《あづみ》「うんっ」

 

《ベガ》「…!」

 

《あづみ》「あっ…えと…だめ、かな…」

 

《ベガ》「そんな、駄目だなんて…寧ろ嬉しいです。あづみから手を握ってくれるだなんて」

 

《あづみ》「えへへ…お母さんの手、暖かい」

 

《ベガ》「私の手が…?珍しいですね…何時も冷えているというのに」

 

《あづみ》「お母さんが、優しいからかな?」

 

《ベガ》「あづみの方が思いやりが有って、優しいですよ。…偶に天然でドジっ娘な所も有りますけど…それも全部、可愛らしいと思えるのが不思議です」

 

《あづみ》「私、ドジっ娘じゃないもんっ」

 

《ベガ》「天然は否定しないのですね」

 

《あづみ》「あっ…」

 

《ベガ》「やっぱり、可愛らしいです」

 

《あづみ》「むぅ〜…」

 

《ベガ》「…ふふっ」

 

《あづみ》「えへへ…」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.11

《リゲル》「ん…やっと帰って来たわね」

 

《ベガ》「やっとと言えど、まだ10分程しか経ってませんよ」

 

《リゲル》「あづみが私の側に居ない時点で、1秒も10分も同じようなものよ」

 

《あづみ》「リゲルは相変わらず、心配性なんだから…」

 

《ベガ》「何時かあづみも独り立ちをする日が来るのですよ?その時が訪れたら、どうするつもりですか」

 

《リゲル》「私と大祐が居る、絶対…あづみを独りにはさせない」

 

《あづみ》「盛大に勘違いしちゃってる…」

 

《ベガ》「そういう話では無いのですけどね」

 

《リゲル》「?どういう話…?」

 

《ソリトゥス》「あの……えっと………飲み物、飲む……?」

 

《リゲル》「えぇ、頂くわ」

 

《ベガ》「ソリトゥスさん…丁度良いタイミングですね。一つ、お願いしたい事が有ります」

 

《ソリトゥス》「は、はいっ…!?な、なんでしょう…!?」

 

《ベガ》「…そこまでガチガチにならなくても…何も、取って食ったりしませんから、安心して下さい」

 

《あづみ》「取って、食べちゃうの…?」

 

《ベガ》「食べませんよ?」

 

《森山碧》「『意味深』」

 

《ベガ》「貴方はその口を閉じなさい」

 

《森山碧》「俺にだけ命令口調かよ!?」

 

《リゲル》「ベガ、あれは『貴方』ではなく『オタク』よ?間違うのは失礼じゃないかしら」

 

《ベガ》「…成る程、確かに。幾ら相手が相手と言えど、失礼な事に変わりは無いですね」

 

《森山碧》「何方が失礼だよ…」

 

《天王寺飛鳥》「ま、まぁ…大祐君以外には手厳しいのは何時もと同じ、流石やなぁ」

 

《ベガ》「『大祐は論外』ですけどね」

 

《あづみ》「お母さん…其処だけ主張してる…」

 

《ベガ》「あづみやリゲル、二人だってそうでしょう?」

 

《あづみ》「え、えっと…うん…///」

 

《天王寺飛鳥》「あはは…こりゃ、大祐君以外の男は近付けそうにもあらへんな」

 

《森山碧》《リゲル》「「何を今更」」

 

《ソリトゥス》「………ハモった」

 

《天王寺飛鳥》「意外に気が合うんやな」

 

《リゲル》「誰がこんな奴と…」

 

《森山碧》「偶然、タイミングが重なっただけだろ」

 

《リゲル》「それに、気が合うって使い方、間違ってるわよ」

 

《天王寺飛鳥》「…何か…僕が指摘されてるちゃうか…?」

 

《ソリトゥス》「………恋愛においても……色々、指摘された方が………」

 

《ベガ》「それは禁句ですよ。指摘した所で、伝わる事すら無いでしょうし」

 

《森山碧》「ま〜、こう言う鈍感系男子には、当たって砕けろで攻めた方が良かったりするんだよな」

 

《あづみ》「一発本番…告白…?」

 

《天王寺飛鳥》「なんや皆して。もう少し僕にも聞こえる声でーー」

 

《森山碧》「…なぁ、知ってるか?鈍感系男子の特徴、此れだけは絶対に外せない要素が一つだけ有る」

 

《天王寺飛鳥》「き、急にどないしたんや」

 

《リゲル》「…例えば?」

 

《森山碧》「難聴」

 

《ソリトゥス》《リゲル》「「ぶっ」」

 

《ベガ》「…納得ですね」

 

《あづみ》「なん…ちょう?」

 

《天王寺飛鳥》「…僕!?」

 

《森山碧》「んな、あったりまえだろ。やっぱ天王寺氏、そろそろお歳が……」

 

《天王寺飛鳥》「まだ16歳や!現代を生きる若者の一人やて!!」

 

《リゲル》「只…鈍感な男性が難聴な事は、否定出来ないわね」

 

《ソリトゥス》「うんうん……」

 

《あづみ》「なんちょうって…蝶々?」

 

《ベガ》「軟らかい蝶、軟蝶…可能性は有り得ます」

 

《森山碧》「話が脱線する」

 

《天王寺飛鳥》「こう…倒れる感じやな」

 

《ソリトゥス》「………違う方向に進んでる」

 

《リゲル》「言いたい放題ね」

 

《???》「大祐くんの前でも、自分の気持ちを言いたい放題出来れば良いのにね〜」

 

《森山碧》「はっ…!此奴、直接脳内に…!?」

 

《ソリトゥス》「普通に……聞こえるよ…?」

 

《ベガ》「……ん、厄介者が来ましたね」

 

《リゲル》「何時迄も嫌ってちゃ、仕方無いわよ。…あづみなんて、ほら」

 

《あづみ》「ナナヤちゃん、久し振りだね…?」

 

《ナナヤ》「うんっ、久し振りだね、あづみちゃん」

 

《リゲル》「…ね?」

 

《ベガ》「…流石です、あづみ」

 

《天王寺飛鳥》「だ、誰や…この女の子」

 

《ソリトゥス》「…初見さん…いらっしゃいませ」

 

《ナナヤ》「ん〜?見掛けない人が二人居る…貴方達は?」

 

《森山碧》「…あらら?俺の事は知ってたのか」

 

《ナナヤ》「インパクトが強過ぎて、嫌でも頭に残っちゃうんだよね〜」

 

《森山碧》「そりゃどうも」

 

《リゲル》「それより、早く自己紹介を済ませてしまえば?」

 

《天王寺飛鳥》「せ、せやな。長引かせるのもアレやし……じゃあ僕から。本来なら相手方から名乗る筈なんやけど…コホン、僕は天王寺飛鳥。白の世界のZ/X使い………そか、もう世界とか関係あらへんかったな。えーと…あ、好きな物はーー」

 

《森山碧》「女の子」

 

《ナナヤ》「…え」

 

《リゲル》「ドン引きね…」

 

《森山碧》「アンタらの旦那にも言える事だぞ…」

 

《リゲル》《ナナヤ》「「大祐(くん)はーー」」

 

《森山碧》「わかったわかった、大祐は天王寺氏みたいな女誑しじゃ無いって言うんだろ?」

 

《天王寺飛鳥》「女誑しちゃうわ!又そうやってへっきーはんは…さっきから僕をいじり過ぎやわ〜…」

 

《ソリトゥス》「…それで、飛鳥君の好きな物は………?」

 

《天王寺飛鳥》「…せやな〜、今この瞬間…平和な世界や!」

 

《ナナヤ》「ふーん…」

 

《天王寺飛鳥》「……………」

 

《リゲル》「…はぁ、ナナヤにそんな事言ったって無駄よ。関心が無いんだもの」

 

《天王寺飛鳥》「なっ…平和な世界に、関心が無いやて…?」

 

《森山碧》「当たり前だろー。誰だって、天王寺氏と同じ様に『皆の為に』みたいな思考じゃ無いんだからよ。それに其奴…」

 

《ベガ》「神々の戦い…戯れ、その為だけにこの世界を支配しようとした、ディンギルなんですから」

 

《ソリトゥス》「……ディンギル……要するに…」

 

《天王寺飛鳥》「あの訳分からんかった『ルル』って奴と、同じだって言うんか…」

 

《ナナヤ》「うんっ。私はディンギル…昇熱の『壊做』ナナヤ。だからこうして、空中にも浮けちゃうよ〜♪」

 

《天王寺飛鳥》「おぉっ、ホンマや!神様ってのは、相変わらず凄いんやな〜。………………ん?けど、神様を信奉する子達とか居らへんかったか?」

 

《森山碧》「何方かと言えば、信奉させてるが正しいな。願いを叶えさせてやる、その代わりに我が軍として戦え、的な?」

 

《リゲル》「そんな感じね」

 

《ソリトゥス》「…じゃあ、ナナヤちゃんを……信奉している子達も多いの………?」

 

《ナナヤ》「ううん?1人しか居ないよ〜」

 

《ベガ》「自分に対しての利益より、愛を選びましたからね」

 

《天王寺飛鳥》「愛?どう言うことや?」

 

《ナナヤ》「私と契約を結んだのは只1人…大祐くんだけだからね…♪」

 

ーーー




恐らく、次の更新は来週の水曜日になるかと思われます。
本編もそろそろ更新して行こうかな、と考えており、書き進めている途中ですので…1週間に2回更新する場合は、水曜日の更新にてしっかりとお伝えさせて頂きます(*´꒳`*)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.12

《リゲル》「…ん、あづみがきさらと遊んでる…ヴェスパローゼ、私も近くにお邪魔するわ」

 

《ヴェスパローゼ》「えぇ」

 

《きさら》「りげゆ、そえ、とって」

 

《リゲル》「…これかしら?」

 

《きさら》「あぃがとっ」

 

《あづみ》「えへへ…リゲル、優しいね」

 

《ヴェスパローゼ》「少し前まではきさらも貴女も、敵視していた仲だと言うのに。人は変わるものね」

 

《ナナヤ》「………ま、私の自己紹介は此れくらいかな?」

 

《天王寺飛鳥》「でも、なんで大祐君だけと契約したんや?他の神様は、沢山契約者を増やしてるんやろ?」

 

《森山碧》「確かにな。大祐だけってのは気になる」

 

《ベガ》「それこそ、彼女の愛なのでしょう」

 

《ナナヤ》「当たり前だよっ。大祐くんと契約する為だけに、今まで願いを叶えさせて来た子達の契約を、全部解除したんだもんっ」

 

《ソリトゥス》「……それって、意味……有るの…?」

 

《天王寺飛鳥》「確かになぁ〜…態々全部解除なんてせえへんでもーー」

 

《ナナヤ》「私が、大祐くんだけを見てるって証♪………それに、大祐くんから言われたの。『俺と契約したいのなら、他の子達との契約を解除しろ』って」

 

《森山碧》「…ん?告白か?」

 

《ナナヤ》「私も最初は期待しちゃったなぁ…でも、全然違った。神様と契約を結び、その深度が深くなるとどうなるか、それは知ってるよね?」

 

《森山碧》「あぁ」

 

《天王寺飛鳥》「うろ覚えや」

 

《ナナヤ》「…まぁ、良いけど。それで…大祐くんは自分以外の他の契約者達、その子達に危害が加わらない様に、私を納得させたの」

 

《天王寺飛鳥》「要するに…?」

 

《ベガ》「…他の契約者達の罪を全て自分で背負い、貴女と契約を結んだ」

 

《ナナヤ》「どんな願いも、神様なら全て叶えられる。簡単に。けど…自分で何の努力もせず神様に頼った時点で、その存在は全て神様に委ねられる。それが例の『願いは叶えさせてあげる、代わりに我が軍として戦え』って件に繋がるの」

 

《森山碧》「…本来なら神様の駒として動かされる筈の奴等の代償を、全て請け負ったって事か?」

 

《ナナヤ》「そう!確かに、代償って言葉が一番当て嵌まるね」

 

《天王寺飛鳥》「…っちゅう事は、大祐くんのナナヤちゃんに対する深度ってどの位なんや?それに…ナナヤちゃんが命令を下せば、大祐くんの事を好き放題出来るんやないか?」

 

《ナナヤ》「深度に関しては…私もいまいち分からない、かな。大祐くんとの深度が深過ぎて………それでも、大祐くんの事は好き放題出来ないの。大祐くんは、操り人形じゃないって事だね」

 

《ベガ》「操り人形…大祐が忌み嫌う言葉です」

 

《森山碧》「ま〜、彼奴自身、誰かに縛られるのが大嫌いだからな。そういう意味だろ?」

 

《天王寺飛鳥》「せやなー…例え大祐君でなくとも、縛られて嬉しいとか思える人間は、そうそう居ないやろ」

 

《森山碧》「…ってか、深度の深さが分からないってヤバいよな…流石に限界がある筈だぞ」

 

《ナナヤ》「ん〜…大祐くんの事を好き勝手に出来るのなら、今直ぐにでも私だけの物にしたいのに…♪」

 

《森山碧》「スルーかよ」

 

《天王寺飛鳥》「………なんか、大祐君の周りに集る女の子って……独占欲強ないか…?」

 

《ソリトゥス》「世羅ちゃん…ムリエルちゃん、あの辺りは………至って純粋…」

 

《ベガ》「独占したいと思える様な存在、という事は否定しません」

 

《ナナヤ》「独占したいって事も否定は無しかなっ♡」

 

《森山碧》「うわ…怖っ…」

 

《ナナヤ》「何か言った?」

 

《森山碧》「はて?幻聴では?」

 

《ナナヤ》「…別に、良いんだよ?貴方の日常生活全てを、この世に生きる人達全員に晒しても」

 

《森山碧》「待って、それだけは勘弁して下さい。何でもーーしないから」

 

《天王寺飛鳥》「受け答えにセンスを感じるなぁ」

 

《ソリトゥス》「日常生活……晒されると、まずい事を……?」

 

《森山碧》「人には人のーー」

 

《ソリトゥス》「乳酸菌…」

 

《森山碧》「そうそう、しっかり摂取しないと駄目だよ………じゃねぇ!プライベートだ、プライベート!!」

 

《ベガ》「プライベート…」

 

《ナナヤ》「大祐くんのプライベートを含めた全ては、私が一番知ってるよ?」

 

《森山碧》「知るかよ!」

 

《ベガ》「………それより。先ず聞かなければならない事が有ります」

 

《ソリトゥス》「……聞かなきゃ…?」

 

《天王寺飛鳥》「ならない事?」

 

《森山碧》「どうしたら大祐を堕とせるか?」

 

《ベガ》「……………………。どうして貴女は、此処に来たのです?」

 

《ナナヤ》「ん〜?私?」

 

《森山碧》「おい何だ今の黙り込んだ時間!!」

 

《ベガ》「それは置いて下さい」

 

《森山碧》「お、おぉ…」

 

《天王寺飛鳥》「(キリッとしとるなぁ…)」

 

《ソリトゥス》「(でも………大祐くんの前だと…)」

 

《ナナヤ》「私が…此処に来た理由?」

 

《ベガ》「はい」

 

《ナナヤ》「…あっ!そうだった!今日って、あづみちゃんの誕生日なんだよね?」

 

《ベガ》「やはり、関係しているのですね」

 

《ナナヤ》「関係も何も、大祐くんに色々頼まれたんだった…思い出せて良かったよ〜…」

 

《森山碧》「因みに俺もその口だ」

 

《天王寺飛鳥》「僕は1人で勝手にお邪魔しただけやけど…てっきり、皆んな集まっているかと思って来たら、殆どが薄弱な人ばっかやな」

 

《ベガ》「まぁ、変に人が集まられても困ります。最低限の人数で祝えれば、それで」

 

《ナナヤ》「とか言って、本当はあづみちゃんを盛大にお祝いしたいんでしょ?最大限の人数で、ド派手に…パァーッと♪

 

《ベガ》「……………………………………あづみ次第です」

 

《天王寺飛鳥》「苦し紛れな正論やな…」

 

《ソリトゥス》「……苦し紛れでも…正論を言えるって、凄い………」

 

《リゲル》「ま、ベガにとってもあづみが全てって事ね」

 

《ヴェスパローゼ》「実の娘を愛するのは、当たり前の事であり…何も恥ずかしい事では無いわ?」

 

《ベガ》「…貴女に諭されるとは、思ってもみませんでしたよ」

 

《きさら》「ろーぜ、ぁそぶっ」

 

《ヴェスパローゼ》「ふふっ、きさらったらまだ遊び足りないの?」

 

《きさら》「うぃ」

 

《ソリトゥス》「…其処ら辺にあるものなら、好きに使って…?……あ、あと……何か探してこよっか…?きさらちゃんが遊べそうな物…」

 

《きさら》「そぃとぅす、あぃがと!」

 

《ヴェスパローゼ》「私からも、お願い出来るかしら」

 

《ソリトゥス》「うん…少し、待ってて…」

 

《天王寺飛鳥》「流石、ソリトゥスさんは気が利くなぁ」

 

《森山碧》「疲れそ」

 

《あづみ》「……あ、えっと…お母さん」

 

《ベガ》「あづみ?なんでしょう」

 

《あづみ》「ソリトゥスさんに、お話聞いた?」

 

《ベガ》「…今から聞きます」

 

《リゲル》「意外と忘れっぽいのね?」

 

《ベガ》「人を揶揄うのは宜しく無いですよ、リゲル」

 

《ナナヤ》「大祐くんを揶揄ったりはしないのにね」

 

《リゲル》「そ、それはっ…別でしょう…?………というか、ナナヤ…貴女まだいたの」

 

《ナナヤ》「だって大祐くんから色々頼まれたんだもんっ」

 

《ソリトゥス》「ん〜…何か無いかな……」

 

《ベガ》「ソリトゥスさん…立て続けにすみません、少しばかり空いている部屋を借りても宜しいですか?」

 

《ソリトゥス》「あっ、は…はいっ…お好きにどうぞっ…!」

 

《天王寺飛鳥》「なんやソリトゥスさん、ガチガチやな?」

 

《森山碧》「おいおい、忘れたとは言わせないが…相手はアドミニストレーターだぞ。そりゃ固まるだろ」

 

《天王寺飛鳥》「それは百も承知やけど…もっと、こう……」

 

《森山碧》「フレンドリーに、ってか?」

 

《天王寺飛鳥》「せや!」

 

《ベガ》「……私が、限られた人物以外に、心を許すとでも?」

 

《天王寺飛鳥》「無理やったわー…」

 

《森山碧》「諦め早くないか!?」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.13

《ソリトゥス》「ほ、ほら…飛鳥くんっ…謝らないと…!」

 

《ベガ》「…ですが、ソリトゥスさんは別です。貴女は見知らぬ人にも優しく、弁える所はしっかりとしてますから」

 

《ソリトゥス》「えっ………と、……………………………えへへ……、ありがとう…ございます…」

 

《ベガ》「それに、雰囲気が何処と無く…こう、あづみに似ているのです」

 

《森山碧》「性格の問題じゃないのか?」

 

《天王寺飛鳥》「一概にそうとは、言えへんけどな」

 

《ソリトゥス》「…?」

 

《ベガ》「物静か、という接点でしょうか」

 

《あづみ》「お母さん、どうしたの?」

 

《リゲル》「あづみがベガに対して『お母さん』、ね…相変わらず慣れないわ」

 

《ベガ》「慣れるも慣れないも個人次第ですよ、リゲル。ですが…私が各務原あづみの母親である事に、何ら変わりは有りません」

 

《ヴェスパローゼ》「あら、良い事言うのね」

 

《きさら》「ぃいこと?」

 

《リゲル》「…ヴェスパローゼとベガって、何方の方が立場上なのかしら…」

 

《ナナヤ》「同等?」

 

《天王寺飛鳥》「はっきりとは分からんやろな」

 

《森山碧》「おーい、知ったかみたいな発言は止しとけ」

 

《あづみ》「お母さんと…ヴェスパローゼさん…?」

 

《ソリトゥス》「あづみちゃんは………実感…湧いてないみたい……」

 

《ベガ》「まだ、馴染めていないというのもありますね」

 

《リゲル》「ベガが馴染めていないのなら、私が慣れないのも仕方ないわよね?」

 

《ベガ》「それとこれとは話が別です。他人の所為にしてはいけませんよ」

 

《リゲル》「…う…諭されてる気分だわ…」

 

《ヴェスパローゼ》「ま、何方が上であろうと…大祐の妻になるのはきさらで決まっているから、あまり関係無いわね」

 

《ベガ》《リゲル》「…!」

 

《きさら》「つ、ま…ぉよめさん?」

 

《ナナヤ》「そうだよ〜」

 

《きさら》「だいすけ、の?」

 

《ナナヤ》「うん」

 

《きさら》「なゆっ!」

 

《ナナヤ》「だめっ、私がなるの〜」

 

《きさら》「ぅゅ…きぃ、まけなぃっ」

 

《ヴェスパローゼ》「小競り合いが始まってるわね」

 

《ベガ》「…ヴェスパローゼ、今の言葉は聞き捨てありませんね」

 

《ヴェスパローゼ》「小競り合いの事かしら」

 

《リゲル》「いいえ、その前よ」

 

《ベガ》「ヴェスパローゼ、大祐の妻に相応しいのはあづみです。それだけは頭に入れておいて下さい」

 

《あづみ》「ふぇっ…!?」

 

《リゲル》「そうね、あづみ意外有り得ないわ」

 

《あづみ》「リゲルまで…」

 

《天王寺飛鳥》「なんやなんや…大祐君争奪戦かいな」

 

《森山碧》「ああいうのには、ぜってー首を突っ込んじゃ駄目だ。二次災害が飛んでくるぞ」

 

《天王寺飛鳥》「はははっ、大祐君も大変やなぁ」

 

《ソリトゥス》《森山碧》「…………………………………………………………………………………」

 

《森山碧》「(先ずは自分の心配をしろよ…)」

 

《ソリトゥス》「飛鳥君…鈍感過ぎ………」

 

《天王寺飛鳥》「?」

 

《ナナヤ》「ちょっと!私を抜いて話を進めるの禁止っ」

 

《ヴェスパローゼ》「ふふっ、確かに…その可能性がなきにしもあらず、ね」

 

《ベガ》「なきにしもあらず、ではないです。あづみの将来は、大祐に全て託してますから」

 

《あづみ》「お、お母さんっ」

 

《リゲル》「だからあづみ以外に有り得ないって話ね」

 

《あづみ》「り、リゲル〜…」

 

《きさら》「あづ…、きぃ…」

 

《あづみ》「…うん…きさらちゃんも、嫌だよね…」

 

《きさら》「うぃ」

 

《ヴェスパローゼ》「こういう時の為に、予め大祐に伝えておいて良かったわ?きさらが大人になったら、1人の『女性』として見て頂戴って」

 

《ベガ》「大祐がその子をどう見ようと、大祐自身があづみを大好きな事に偽りは生まれません。彼自身、あづみの事を妻にしたいと思っているでしょうし」

 

《リゲル》「それに、きさらが悪いとは言わないわ。自分の望みをきさらに押し付ける、貴女が悪いのよ」

 

《ヴェスパローゼ》「ブーメランね」

 

《リゲル》「…!と、兎に角、私達で啀み合ったって仕方無いじゃない」

 

《ベガ》「親の意見より子の意見を優先しろ、という事ですか?リゲル」

 

《リゲル》「えぇ」

 

《ヴェスパローゼ》「急に正論を並べ始めたわね」

 

《リゲル》「正論なんだから、良いじゃない。…………けど、私だって大祐の事……」

 

《ベガ》「リゲル?」

 

《リゲル》「………はっ、な、何でもないわっ」

 

《ヴェスパローゼ》「あらあら、自分に素直になれば良いじゃない」

 

《リゲル》「う、五月蝿いわねっ。余計なお世話よ」

 

《ナナヤ》「………あれ、私…放置されてる?」

 

《森山碧》「安心しろ、俺達も同類だ」

 

《ナナヤ》「そういう話じゃないもんっ、大祐くんは渡さないからね!」

 

《森山碧》「…俺に言うなよ!?」

 

《天王寺飛鳥》「確かに二次災害喰らっとるな」

 

《ソリトゥス》「…色々と、付いていけない…」

 

《ヴェスパローゼ》「リゲル、貴女も本当は大祐のーー」

 

《リゲル》「最初はあづみって決まってるもの。私は……次点、かしらね」

 

《ベガ》「…意外に消極的ですね」

 

《リゲル》「だ、だって、大祐の1番はあづみじゃない。私の大切な2人が結ばれてくれるのであれば、大歓迎よっ」

 

《ヴェスパローゼ》「無理しても良い事無いわよ?」

 

《ベガ》「リゲル、貴女は優しいのですね」

 

《リゲル》「そんな事…無いわよ…?」

 

《ヴェスパローゼ》「…それでも、大祐の1番の妻になるのはきさら、だけれど」

 

《ベガ》「いいえ、あづみです」

 

《リゲル》「…………………」

 

《あづみ》「…お母さん、リゲル」

 

《きさら》「ろーぜ…」

 

《リゲル》「…あづみ、どうかしたの?」

 

《ベガ》「大祐の事でしょうか」

 

《ヴェスパローゼ》「それなら…ふふっ、きさら…貴女なら大祐の良い妻になれるわよ?」

 

《きさら》「ろーぜ…ぁかった」

 

《ヴェスパローゼ》「あら、意外とやる気満々ね。その意気で…大祐を我が物にしてみなさい?」

 

《リゲル》「何だか、きさらに対しての試練みたいになってるけれど…私達がそうはさせないわ」

 

《ベガ》「ええ、それに、あづみと大祐の愛は崩れませんから」

 

《あづみ》「お母さん、リゲル…じゃあ…」

 

《あづみ》《きさら》「「私(あづ)ときさらちゃん(きぃ)の2人だけ、大祐くん(だいすけ)のお嫁さんになる(なゆ)」」

 

《ベガ》《リゲル》《ヴェスパローゼ》「………っ!?」

 

《森山碧》「……んぁ?凄い事になってきたな…ってか、何時になったら来るんだよ…大祐」

 

《ナナヤ》「ちょっと!オチは譲らないからねっ。さっきからずっと放置されてたんだもんっ、少しは見せ場を…」

 

《森山碧》「いや、知るかよ!?早いとこ大祐に頼まれた事を熟せ…」

 

《ナナヤ》「…あ、そうだった」

 

《天王寺飛鳥》「この子、天然なんか…?」

 

《ソリトゥス》「さ、さぁ………?」

 

《ナナヤ》「私だって、大祐くんは譲る気無いからねっ」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.14

長くなってしまったので、読み易い様に分けさせて頂きました。
後少しでこの話も終了、本編へ移りたいと思います。
更新は又来週となりますが…分けて書いた分、書き溜めが出来ましたので、その間に本編を書き進めたいと思っている所存です。


《あづみ》「だって…私もきさらちゃんも、大祐くんの事…だ、大好きなんだもんっ」

 

《きさら》「だいすけは、きぃとあづのものっ」

 

《ナナヤ》「ちょっと〜!?」

 

《ヴェスパローゼ》「………ふふっ、これは…予想外ね」

 

《ベガ》「してやられた、と言うのが…一番でしょうか」

 

《リゲル》「大祐の事になると、流石のあづみも大胆ね」

 

《あづみ》「…え、えっと…///」

 

《森山碧》「おうおう、其処の2人がタッグを組んで攻め込めば…大祐は直ぐに落ちるだろうな。誰も勝てないだろ」

 

《ソリトゥス》「…大祐くん……やっぱり、ロリコン説…濃厚………」

 

《天王寺飛鳥》「あづみが14歳に、きさらちゃんが7歳。大祐君の恋愛年齢対象が、危ういな…」

 

《森山碧》「もう、ロリコン認定で良いだろ」

 

《ベガ》「それは論理的に可笑しいです。大祐は小さな子供達からも好かれるというだけで、大祐が幼女好きとは…」

 

《ヴェスパローゼ》「えぇ、事実、戦斗怜亜が良い例じゃないかしら」

 

《ナナヤ》「世羅ちゃんは既に、恋愛対象として大祐くんを見てるけど」

 

《リゲル》「だからこそ、大祐はロリコンなんかでは無いって話でしょう?」

 

《森山碧》「…まぁ」

 

《天王寺飛鳥》「正論でロリコン説論破されとる」

 

《ソリトゥス》「…確かに……大祐くん、グラマラスな女性も………近くに沢山居る……」

 

《あづみ》「えっと、リゲルとか…お母さん?」

 

《きさら》「ろーぜ!」

 

《ヴェスパローゼ》「あらあら」

 

《リゲル》《ベガ》「…ふぇっ!?」

 

《森山碧》「随分と珍しい声を上げたな、ははっ」

 

《天王寺飛鳥》「殺されるで」

 

《森山碧》「そら勘弁」

 

《ナナヤ》「…あれ、私って…?」

 

《ソリトゥス》「何方かと言えば…少女…?」

 

《リゲル》「そうね」

 

《ナナヤ》「じゃあ大祐くんはロリコンで決定!」

 

《ベガ》「都合が良いですね」

 

《ナナヤ》「ふっふ〜ん」

 

《森山碧》「ドヤ顔されても反応に困るよな」

 

《きさら》「うぃ」

 

《天王寺飛鳥》「ドヤ顔する場面やったんか?」

 

《ナナヤ》「なんで皆で私を否定するの〜!?」

 

《ベガ》「今日はあづみの誕生日です。あづみ以外は静かに、出しゃ張らない様にしましょう」

 

《ナナヤ》「更にスルーされたよぅ…」

 

《リゲル》「…ナナヤが珍しく、悲しんでる」

 

《森山碧》「こりゃ、大祐に見せるしか無いな」

 

《ナナヤ》「…っ!わ、私、悲しんでなんかないもんっ」

 

《森山碧》「本当か?顔に出てるぞ」

 

《ナナヤ》「…ふんっ」

 

《森山碧》「なんで拗ねるのぉ…!?」

 

《天王寺飛鳥》「………な、なぁ…ナナヤちゃんって」

 

《ソリトゥス》「……案外………健気…?」

 

《天王寺飛鳥》「せやな…」

 

《ヴェスパローゼ》「好意を抱いている異性との関係を、ずっと否定されているのよ?悲しむのも当たり前じゃないかしら。向ける愛が深ければ尚更、ね」

 

《リゲル》「……でも、今日はあづみの誕生日。ナナヤだけじゃなく、私達も自重しましょ?」

 

《あづみ》「そ、そんな…私は大丈夫、だよ…?」

 

《天王寺飛鳥》「なら僕は…何であんなに否定されてもうたんや…」

 

《ソリトゥス》「あ、飛鳥くんっ…!……私が……その………居るよ…?」

 

《きさら》「ぅゅ?」

 

《ヴェスパローゼ》「どうかしたのかしら、きさら?」

 

《天王寺飛鳥》「ソリトゥスさん、天使や〜…此処に天使が居るわ〜…」

 

《森山碧》「おいおい、男がふらふらしてるとか、情けないぞ」

 

《リゲル》「本当ね」

 

《ベガ》「大祐は疲れた時も、私達には頼りませんし甘えませんよ」

 

《あづみ》「えっ…?」

 

《ベガ》《リゲル》「…えっ?」

 

《森山碧》「おっと?此処に来てまさかの展開か!?」

 

《ベガ》「静かにして下さい」

 

《森山碧》「…さーせん」

 

《リゲル》「あ、あづみ…?今の「えっ」って?」

 

《ナナヤ》「えっ?だって大祐くん、本当に疲れた日は…確か、あづみちゃんに甘えに行くよ?」

 

《あづみ》「そ、その…甘えに来るってよりは、悩み相談…とか…」

 

《ナナヤ》「あづみちゃんの声を…むぐむぐ…聞いて、んくっ…癒されたいって、前に言ってた〜」

 

《リゲル》「…ナナヤ、カステラを食べるのか喋るのか、何方かにしなさい」

 

《ナナヤ》「だってこのカステラ、美味しいんだもん」

 

《ソリトゥス》「…!そ、それ、何処から…持って来たの…?」

 

《ナナヤ》「其処にあった貯蔵庫」

 

《森山碧》「飛鳥くーん、いい加減起きましょうねー」

 

《天王寺飛鳥》「嫌や」

 

《森山碧》「チッ…此奴、もう駄目やっ…」

 

《ソリトゥス》「…うぅ〜……後で世羅ちゃんに……怒られる…」

 

《天王寺飛鳥》「人を駄目扱いすんのは、駄目なんやで?」

 

《森山碧》「子供か」

 

《ナナヤ》「?…むぐむぐ…おいしっ♪」

 

《ヴェスパローゼ》「…ねぇ……ベガ、少し良いかしら」

 

《ベガ》「どうかしました?貴女からとは、珍しいですね」

 

《ヴェスパローゼ》「それは置いて。…あづみやリゲルに、性の話を教えるだのなんだの。そんな事を考えていたの?」

 

《ベガ》「はい。あづみは兎も角、リゲルも知らずでは後々が恐ろしいので。バトルドレスの機能、データベースを参照すれば、性の事なんて色々と載ってる筈ですが…」

 

《ヴェスパローゼ》「そう…成る程ね。無知な娘達に彼方の世界を教えるのは、結構気が引けるでしょう?細かい所は、大祐が教えてくれるだろうと信じても」

 

《ベガ》「だとしても、何れは必ず頭で理解する必要が有ります」

 

《ヴェスパローゼ》「…ふふっ、そう。それなら早く済ませてしまいなさい?もう直ぐ大祐も来る頃合い、でしょう?」

 

《ベガ》「…!そうですね。気にはしていましたが…まだ余裕があると思ってばかりいました。…であれば、少しばかり三人で席を外します。後は貴女が場を纏めて下さい。…任せましたよ、ヴェスパローゼ」

 

《ヴェスパローゼ》「言われなくても、その積もりよ?」

 

《ベガ》「頼もしい限りです」

 

《ヴェスパローゼ》「此処から出て、行き当たりに有る部屋。其処が丁度良いわ。…って、ソリトゥスが」

 

《きさら》「そぃとす、やさしぃ」

 

《ベガ》「…ふふっ。そうですね。ソリトゥスさんにも…えぇ、ヴェスパローゼにも感謝します」

 

《ナナヤ》「なになに〜、何の話〜?」

 

《ベガ》「いえ、今から私とあづみ、リゲルの三人で席を外す。そんな話です」

 

《ナナヤ》「ふ〜ん………まっ、私は此処に居た方が面白そうだから、ちょっかい掛けるのはやめとこうかなっ」

 

《森山碧》「俺がちょっかい掛けたろか」

 

《ベガ》「…あづみ、リゲル。少しばかり部屋を変えますよ。又此処に戻って来るので、話の内容は部屋を変えてから伝えます」

 

《あづみ》「は、はいっ、お母さん」

 

《リゲル》「…?えぇ」

 

《天王寺飛鳥》「女性だけで集まる大事な話に、ちょっかいはアカンて」

 

《森山碧》「あぁ」

 

《ソリトゥス》「碧くんも………本気じゃ…無いと思う……」

 

《ヴェスパローゼ》「本気で言われても困るだけね」

 

《きさら》「ゆぅえん、じっこぉ?」

 

《ナナヤ》「大祐くんが良く言ってる〜」

 

《ヴェスパローゼ》「軽く言う割には、言葉の意味が重いわ」

 

《ナナヤ》「うん………けど、大祐くんにとっては、それが丁度良いんじゃないかな」

 

《きさら》「だいすけ、せきにん、とゆ?」

 

《ヴェスパローゼ》「きさらもきさらで危なっかしいわね」

 

《きさら》「うゅ?」

 

《ベガ》「………さて…では、ソリトゥスさん。有難く部屋をお借りします」

 

《ソリトゥス》「…ど、どうぞ…!」

 

《ベガ》「あづみ、リゲル。移動しましょう。其処まで長話にはなりません。内容は濃い、かもしれませんが…」

 

《あづみ》「ちゃんと…聞かなきゃっ」

 

《リゲル》「あづみが意気込む位の話…ね。確かに興味有るわ」

 

《ベガ》「話の冒頭で直ぐに分かります。どんな内容なのか、大切な話ですからね?」

 

《あづみ》「リゲル、頑張ろ?」

 

《リゲル》「何をどう頑張れば良いのか…分からないけれど。あづみがそう言うのであれば、頑張らせて頂くわ」

 

《ナナヤ》「んじゃ、いってらっしゃ〜い♪」

 

《ヴェスパローゼ》「リゲル、ショートして帰って来そうね」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.15

《リゲル》「どうして部屋を変える必要が有ったのかしら?」

 

《ベガ》「そう言った話だから、です。公共の場で話せる様な内容ではないですから」

 

《リゲル》「ふーん…。あづみはもう分かった?」

 

《あづみ》「私は…お母さんと、色々話してたから。その時一緒に聞いたよ?」

 

《ベガ》「詳細は未だに、ですけど」

 

《リゲル》「丸で『この期に』って感じね。大祐と関わりが有りそう」

 

《あづみ》「寧ろ、大祐くんとしか…」

 

《リゲル》「?」

 

《あづみ》「う、ううん、何でも無いよ?」

 

《リゲル》「意味有りげな切り方ね。あづみのそれは、絶対に何か隠してる証拠よ?」

 

《あづみ》「私、何も知らない…よ〜…?」

 

《リゲル》「…あづみって、嘘吐くの、あまり上手く無いわよね」

 

《あづみ》「うぅ〜…」

 

《ベガ》「さぁさぁ、兎に角です。お話は此れからですよ。もう着きましたから。この部屋に入ったら、早速始めたいと思います。一応覚悟を決めておいて下さい」

 

《リゲル》「…え?何、そんなに重い話なの…?」

 

《あづみ》「り、リゲル、心の準備…しないとね」

 

《リゲル》「…何だか怖くなって来たわ」

 

《ベガ》「では、行きますよ」

 

《リゲル》「躊躇無いわね」

 

 

【ベガが扉を開ける音】

 

 

《ベガ》「何も、過度に心配する必要は無いですよ。軽い気持ちで聞き、しっかりと頭に入れておけばーー」

 

《リゲル》「…っと……、ベガ、急に止まらないで…って、ベガ…?」

 

《あづみ》「お母さん?どうかしたのーー」

 

《ベガ》「……………………ふふっ、いえ………タイミングが少し遅かったです。けれど、これで私が教える事は無くなってしまいましたね」

 

《リゲル》「何を言って……、っ…!」

 

《ベガ》「えぇ…、あづみ。貴女の大好きなーー」

 

《あづみ》「〜〜っ!!」

 

《???》「……おっ、と」

 

《リゲル》「…ま、そりゃそうなるわよね?」

 

《ベガ》「私に疑問系でぶつけないで下さい。……ですが、こうなりますよね」

 

《???》「2人共、一見和んでる風に見てますけど…見せ物じゃ有りませんからね」

 

《ベガ》「貴方が此処まで、焦らす様な事をしたのがいけないのですよ?…あづみの誕生日なんですから、一番乗りで祝って貰わないと…困ります。あづみの夫となりたいので有れば尚更です、大祐」

 

《九条大祐》「…ご最もな意見、感謝します。確かに今回の件は、全面的に俺に非が有りますからね。自覚はしてますし、責任も負うつもりです」

 

《リゲル》「貴方の胸元に泣き付く少女を見ても、そんな事を言えるのかしら?…ね、責任なんてどうだって良いの。今はあづみだけを見てあげて」

 

《九条大祐》「リゲルさん…」

 

《あづみ》「…大祐っ…くん…」

 

《リゲル》「…ほら、ね?」

 

《九条大祐》「…熟、俺は男として最低ですね。あづみさんを泣かせてしまうとは」

 

《ベガ》「又ネガティブな発言をーー」

 

《九条大祐》「責任とか何やらは、やっぱり考えてしまう。だからこそ。最低な俺がするべき事は、あづみさんに最高の時間を過ごして貰う事だ」

 

《リゲル》「…あら、意外」

 

《九条大祐》「…今まで散々待たせて、申し訳無い。本当は、誰よりも先に会いたかった。祝いたかった。あづみさんが、この世界に生まれてきてくれた事を。今じゃ何を言っても、言い訳にしか聞こえないかもしれないけど…」

 

《あづみ》「…ううん…私、気にして…無いよ…?こうして大祐くんと会えたのが…一番嬉しいから…///」

 

《九条大祐》「じゃあ、今からもっと幸せな時間を、一緒に過ごそうか。あづみさんの望む事なら、何でもするから」

 

《あづみ》「えっ…えっと…」

 

《九条大祐》「遠慮無く、どうぞ?」

 

《あづみ》「…じゃ、じゃあ…ぎゅ〜って、したい…な」

 

《リゲル》「して貰いたいの間違い、でしょう?」

 

《あづみ》「り、リゲルっ」

 

《九条大祐》「…ん?あづみさんの事、抱きしめて良いのかな?」

 

《あづみ》「…んと…その…、大祐くんが…良いなら…」

 

《九条大祐》「やったぜ。…とか、言って良いのかね。まぁ、遠慮無くあづみさんを抱かせて貰うけど」

 

《ベガ》「大祐も危ない言葉を使いますよね」

 

《あづみ》「…えへへ…幸せ…///」

 

《リゲル》「あづみが嬉しそうで、何よりじゃないかしら?」

 

《ベガ》「勿論です」

 

《九条大祐》「…あれ、そう言えば、手紙…見てくれたかな。へっきーに任せたんだけど」

 

《あづみ》「うんっ。ちゃんと、全部見たよ」

 

《九条大祐》「今思うと、小っ恥ずかしいな」

 

《あづみ》「私は…嬉しかったよ?」

 

《九条大祐》「そう言って貰える此方としても、嬉しい事この上無いね」

 

《あづみ》「……………………大祐くん、その………」

 

《九条大祐》「祝いの言葉、俺も早いとこ…この口から言い放ちたいところだ。けど、もう少し待ってくれるかな。これ以上待たせるのも癪に触るけど…誕生日プレゼントと一緒に、あづみさんに届けたい」

 

《あづみ》「誕生日プレゼント…?」

 

《九条大祐》「喜んでくれると嬉しいけど…不安で仕方がない。こういった事のセンスって、丸で無いから」

 

《リゲル》(苦笑いしながら…)

 

《ベガ》(ほんとに不安なのですね)

 

《あづみ》「わ、私はっ…大祐くんから貰えるプレゼントなら、何でも…」

 

《九条大祐》「あづみさんの誕生日なんですよ?この世で一番素晴らしい日です。…各務原あづみという、可憐で、何にも勝る可愛さを持つ少女が誕生した日。そんな特別な日に、本人にプレゼントするものですから。悩みに悩みまくりましたよ」

 

《あづみ》「大祐くん…」

 

《ベガ》(…っ!ま、まさか…誕生日プレゼントが…あづみとの、こ、子供…っ!?)

 

《九条大祐》「…あ、自分で言ってて、誕生日プレゼントがこれで良かったのか、益々不安になってきました」

 

《あづみ》「大祐くんって、不安になりやすい…?」

 

《九条大祐》「あづみさん達の事になると、異常に」

 

《あづみ》「それ位…」

 

《九条大祐》「愛してやまないから、ですかね。なんて」

 

《あづみ》「え、えへへ…///」

 

《九条大祐》「あづみさんのその笑い方、俺、大好きです」

 

《あづみ》「あぅっ…えっ、と…ありがと…」

 

《九条大祐》「ふふっ、さっきからずっと、顔が真っ赤ですね。何時見ても可愛らしい」

 

《あづみ》「うぅ〜…///」

 

《九条大祐》「…うん。俺も良く、今まで理性で欲望を抑えられたもんだ」

 

《あづみ》「…あっ!」

 

《九条大祐》「どうかしました?」

 

《あづみ》「大祐くん…敬語」

 

《九条大祐》「…あっ、懐かしいですね」

 

《あづみ》《九条大祐》「………………………………………」

 

《あづみ》「えへへ」

 

《九条大祐》「あ、はは…」

 

《あづみ》「大祐くん、笑い方がぎこちないよ…!?」

 

《九条大祐》「この笑い方に慣れてないもんで」

 

《あづみ》「そ、そうなの…?…………確かに、そうだね」

 

《九条大祐》「ほんと、笑顔ですらぎこちないとかどういう。笑い方が分からないんですよね、ははっ」

 

《あづみ》「顔が笑って無い…」

 

《九条大祐》「ね?」

 

《あづみ》「う、うん」

 

《九条大祐》「…反応に困る様な話題を出して、申し訳無い」

 

《あづみ》「ふふっ、私は楽しいから大丈夫、だよ?大祐くんとお話すると、つい時間を忘れちゃう…」

 

《九条大祐》「……あづみさん」

 

《あづみ》「…ん…と、大祐くん…?」

 

《九条大祐》「ああいや、ずっとあづみさんの事を抱き続けてて良いのかなって」

 

《あづみ》「私は…此処が、良い…な…?」

 

《九条大祐》「ベッドの上に俺が座って、その俺の膝上に、あづみさんが乗る。なんだこの…言い表せない感情はっ…!」

 

《あづみ》「…何時も思うの。大祐くんの膝の上、胸元、腕の中、凄く安心するな…って」

 

《九条大祐》「あづみさんが側に居て、あづみさんの笑顔を見ていられるなら、それで満足です。俺が何かをする事で、あづみさんが笑ってくれるのなら…どんな事だってしますよ」

 

《あづみ》「大祐くん…ありがと。でも、無理はだめ…だよ?」

 

《九条大祐》「いえ、無理でも熟してみせますよ。それが俺の幸せですから。…あづみさんが笑顔で居てくれる事が」

 

《あづみ》「…じゃあ、大祐くんも、私に……あ、甘えて…?私は何時でも、大祐くんを受け入れるから」

 

《九条大祐》「それは嬉しい…けど、あづみさんに負担が掛かるなら、話は別。『甘えたい気持ち』というか…こう、癒されたい気持ち…?」

 

《あづみ》「わ、私に出来る事…なにかないかな…?」

 

《九条大祐》「俺の側で、笑顔で居てくれる事。…それが俺幸せで有り、同時に癒しにもなる。あづみさんの笑顔は、最高に可愛いですから!…なんて」

 

《あづみ》「…えっと……私、大祐くんと会ってから…ずっと、照れてばかり………///」

 

《九条大祐》「その照れてる表情のあづみさんも、可愛い事この上ない。…そんな娘が、俺の胸元に顔を埋めているんですよ?理性が吹き飛んでしまいそうで怖いです」

 

《あづみ》「…そ、そのまま……襲われちゃうのかな…?」

 

《九条大祐》「頰どころか顔全体を真っ赤にしてまで、無理しなくても大丈夫だよ。…襲い兼ねないのは間違いないけど」

 

《あづみ》「大祐くんになら、良い…よ…?」

 

《九条大祐》「……じゃあ、今直ぐ襲わせて貰いますね」

 

《あづみ》「ふぇっ…?」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.16

《あづみ》「大祐くん…今ーー」

 

[九条大祐が、各務原あづみをベッドに優しく倒す音]

 

《あづみ》「……えっ…………あっ…だ、大祐くん……ほんとに…?」

 

《九条大祐》「………あづみさん…相も変わらず、可愛らしいこと…」

 

《あづみ》「んっ…」

 

《九条大祐》「こんな美少女に此処まで誘われて、我慢出来る男性が何処に居ますって?…それに、あづみさんは本気じゃなかったと?」

 

《あづみ》「ち、違うのっ……ただ、少しびっくりしちゃって……」

 

《九条大祐》「何時もなら、否定の意を示してましたからね」

 

《あづみ》「………ね、ねぇ…大祐くん…?…大祐くんは、ほんとに私で…良い、の…?」

 

《九条大祐》「今から何をするのか、多少は理解している様な口調ですね」

 

《あづみ》「………………………‥………………」

 

《九条大祐》「…いや、やっぱり…あまり分かってない…?」

 

《あづみ》「わ、分かってるもんっ。………ちょっと、だけ」

 

《九条大祐》「まぁ、細かい説明は俺がしますよ。順を追って。今は取り敢えず、あづみさんを襲わせて下さい。我慢ならない」

 

《あづみ》「だ、大祐くん………が、決めて…?」

 

《九条大祐》「…あづみさん、何処か何時もと違いますね」

 

《あづみ》「だって…大祐くん、が…急に変わっちゃう…から」

 

《九条大祐》「………………………ははっ…。ふぅ、やっぱり、あづみさんには敵いませんね」

 

《あづみ》「えっ…?」

 

《九条大祐》「俺の態度が急に変わっても、俺にその身を捧げる気満々じゃないですか」

 

《あづみ》「…大祐くん、だから。攻めてくる大祐くんも…えへへ…///」

 

《九条大祐》「先の攻撃的な態度、謝ります。…その、本当にこの誕生日プレゼントをあげて良いのか、という悩みからつい…」

 

《あづみ》「凄く…気になる…」

 

《九条大祐》「今此処で渡しても良いんだけど…ちょっとロマンに欠けるかな」

 

《あづみ》「じゃあ、皆の前で…?」

 

《九条大祐》「そういう事になりますかね。へっきー辺りが茶化しに来そうでなりませんけど」

 

《あづみ》「…あっ」

 

《九条大祐》「どうしました?」

 

《あづみ》「……お母さんとリゲル、何時の間にか居なくなってる」

 

《九条大祐》「い、今更…!?」

 

《あづみ》「だ、だって…分からなかったんだもん」

 

《九条大祐》「あの二人が居る目の前で、こんな大胆な事…出来ませんよ」

 

《あづみ》「…私、幸せ」

 

《九条大祐》「…?」

 

《あづみ》「こうして大祐くんと、2人っきりで…その…お互いに凄く近くて…」

 

《九条大祐》「………………………………………………………………………………………………」

 

《あづみ》「………………………………………………………………………………………………」

 

《九条大祐》「…そうやって口に出して言われると…意識してしまうな」

 

《あづみ》「す、少し…近いかな…?」

 

《九条大祐》「あづみさんが望むのであれば、離れますよ?」

 

《あづみ》「…ううん、嫌…このままが良い…な」

 

《九条大祐》「俺が覆い被さっている感じになってますけど…良いのかね」

 

《あづみ》「えと…うんっ」

 

《九条大祐》「…言うて、そろそろ皆の集う場所へ移動しなきゃ、ですけど」

 

《あづみ》「それまで……このままが、良い…」

 

《九条大祐》「…姫、仰せの通りに」

 

《あづみ》「…っ!?ひ、ひ…姫っ…?って…お姫様の、事…だよね?」

 

《九条大祐》「ふふっ、なんてね」

 

《あづみ》「…びっくりしちゃったよぅ…」

 

《九条大祐》「まぁ、俺からすれば強ち間違ってはいない」

 

《あづみ》「ふぇっ…」

 

《九条大祐》(顔を真っ赤にしてあたふたしてる…)

 

《あづみ》「その…じゃあ、大祐くん……が、私の王子様…?」

 

《九条大祐》(更には上目遣いで、目を逸らしながら、大胆な質問)

 

《あづみ》「…それなら…良いな…///」

 

《九条大祐》「…あぁ、あづみさんが可愛過ぎて死にそうだ」

 

《あづみ》「え、えぇっ…!?それはだめだよぅ…」

 

《九条大祐》「昇天しまいそうな位に、あづみさんが可愛いって事ですよ」

 

《あづみ》「あぅ…」

 

《九条大祐》「…何方かと言うと、あづみさんがショートしてしまいそうな勢いだ」

 

《あづみ》「大祐くんが、私の事…かわ、可愛いって…沢山ーー」

 

《九条大祐》「言ってはなりませんかね?少なくとも、俺は事実だと思ってますよ」

 

《あづみ》「うぅ〜…///」

 

《九条大祐》「……………ま、取り敢えず。皆、あづみさんの誕生日を祝いに来てくれてるん…だよね?」

 

《あづみ》「う、うんっ。お母さんとリゲル、ソリトゥスさんに…ヴェスパローゼさんにきさらちゃん。あと、ナナヤちゃんとへっきー…さん?」

 

《九条大祐》「本名、森山碧」

 

《あづみ》「えっと…森山碧…と、天王寺飛鳥」

 

《九条大祐》「おっ…!?久々にあづみさんの、冷淡な口調を耳にしたね」

 

《あづみ》「大祐くんと出会う前…リゲルとも、こんな感じだったの」

 

《九条大祐》「へぇ…意外な過去が…まぁ、でも何故2人だけフルネーム?」

 

《あづみ》「…男性を呼ぶの、慣れてない」

 

《九条大祐》「口調、無理して維持しなくても…」

 

《あづみ》「大祐くんは…どっちの方が、好き…?」

 

《九条大祐》「迷わない。何方もだ」

 

《あづみ》(…!今…)

 

《九条大祐》「…あ…、申し訳無い…」

 

《あづみ》「ううん…私も、どっちの大祐くんも……大好きだから…」

 

《九条大祐》「ん?最後なんて?」

 

《あづみ》「何でもないもんっ♪」

 

《九条大祐》「…どんな口調でも可愛いとか、反則だと思ってしまうな」

 

《あづみ》「…?」

 

《九条大祐》「いえ、何も言ってませんよ?」

 

《あづみ》「口元、にやけてる…」

 

《九条大祐》「…それは置いといて、話を急に戻すけど良いかな」

 

《あづみ》「あ…うんっ」

 

《九条大祐》「先の『誕生日の件』、全員が全員…あづみさんを祝う為に来てくれているのであれば、主役がその場に居なきゃつまらないでしょうよ?」

 

《あづみ》「…主役」

 

《九条大祐》「だから、そろそろ戻ろうか。待たせてしまってるだろうし」

 

《あづみ》「…あ、えっ、えっと…大祐くん」

 

《九条大祐》「ん?」

 

《あづみ》「………我儘、言っても…良いかな…?」

 

《九条大祐》「えぇ、勿論ですよ。今日はあづみさんの誕生日なんですし、どんな要望にも応えます。…誕生日じゃなくても、ですけど」

 

《あづみ》「えへへっ…ありがと。あのね、その…あと少しだけ、二人っきりで居たいの…。ほんとに、少しで良いのっ」

 

《九条大祐》「…了解致しました。いえ、あづみさんが彼方に足を運びたくなったら、お好きにどうぞ。俺の事は気にしないで下さいね」

 

《あづみ》「やっぱり………大祐くん、優しい」

 

《九条大祐》「これが素ってものですよ」

 

《あづみ》「ふふっ、リゲルも大祐くんに、我儘とか…」

 

《九条大祐》「言って欲しいものですねぇ〜…」

 

《あづみ》「リゲル、私や大祐くんの事になると頑なになっちゃうから……もっと、甘えて欲しいな…」

 

《九条大祐》「まぁ…リゲルさんからすれば、情け無い姿は見せられない、とでも思っているのでは」

 

《あづみ》「甘えるって、情け無い事なのかな」

 

《九条大祐》「いえ、全然そんな事有りませんよ。ただ…リゲルさんは恐らくプライドの高い女性ですから。自分に厳しく、相手に厳しく。甘えは許さない、みたいな…」

 

《あづみ》「でも、私と大祐くんには優しいし…甘えさせてくれる」

 

《九条大祐》「ん〜…、其処はやはり、本人にしか分からないのでしょうね。甘えさせる対象や、どの程度までが甘えなのか」

 

《あづみ》「………あのね……こういう時に言うのって、変かもしれないけど……」

 

《九条大祐》「どうかしました?」

 

《あづみ》「うん。甘いもの、食べたいな…って……えへへ」

 

《九条大祐》「『甘え』に関して、話していたからでしょうか」

 

《あづみ》「た、多分っ…」

 

《九条大祐》「それなら其処に、沢山置いて有りますよ。ほら…」

 

《あづみ》「えっ…?あっ、ほんと…だ。…けど、この部屋に入った時は、何も無かったよ…?」

 

《九条大祐》「ん、確かに。誰かが用意して下さったのでは?…飲料に菓子類、主食と言うには少し遠く、それでも胃に溜まりそうな物ばかり」

 

《あづみ》「…これ、気になる」

 

《九条大祐》「カレー味の菓子…って、ふふっ…相変わらずカレーがお好きな様で」

 

《あづみ》「カレー、の味も好きだけど…温かい物が好き」

 

《九条大祐》「俺とは逆な様で」

 

《あづみ》「そうなの…?」

 

《九条大祐》「えぇ。まあ…猫舌故の、とでも言えば説明つきますか。かと言って冷やしてある物を口にすれば、胃に来ます。何分、腹部の耐久性が脆くてですね…」

 

《あづみ》「た、大変…だね」

 

《九条大祐》「それでも、食べれるだけマシ、という意見には賛成ですよ」

 

《あづみ》「………そう言えば、これ…誰が持って来てくれたんだろう…。お母さん…リゲル…?」

 

《九条大祐》「有り得ますね。………ですが、正直1人しか居ないと思います」

 

《あづみ》「………??」

 

《九条大祐》「あぁいえ、此方の話です。きっと神様が、あづみさんと一緒にゆっくりしろ、って言ってくれているんだなと」

 

《あづみ》「神様……ナナヤちゃん…?」

 

《九条大祐》「違うと思います」

 

《あづみ》「そ、即答…」

 

《九条大祐》………………………………………………………………」

 

《あづみ》「……………………………………………………ふふっ」

 

《九条大祐》「…………………………………」

 

《あづみ》「お菓子食べながら、飲み物飲んで…」

 

《九条大祐》「えぇ…他愛の無い話をしながら、2人で笑い合う」

 

《あづみ》「…ちょっと違うかもしれないけど」

 

《九条大祐》「?」

 

《あづみ》「…なんだか…夫婦、みたいだね」

 

《九条大祐》「なりたいものですねー……」

 

《あづみ》「………………………………………………………」

 

《九条大祐》「……………………………………………………」

 

《あづみ》「〜〜〜///」

 

《九条大祐》「何言ってんだ、俺」

 

ーーー




現在、少しばかり体調が不安定な為、来週の更新は未定で御座います。極力頑張らせて頂きますが、それでも間に合わなかった場合はご了承願えますと幸いです。


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.17

何とか更新出来ました〜(*´꒳`*)


《リゲル》「あら?楽しい時間はもう終わり、なのかしら」

 

《九条大祐》「あづみさんや貴女方と居られるのであれば、楽しい時間というものは…何時になっても終わりませんよ」

 

《ベガ》「ロマンチスト、ですね」

 

《九条大祐》「光栄です、ベガさん」

 

《ヴェスパローゼ》「何時になっても終わらない、変わらないのは、大祐の敬語やさん付けじゃないかしらね」

 

《きさら》「…?」

 

《あづみ》「あ、そっか…きさらちゃんは、敬語もさん付けも使われてなかった…ね」

 

《ベガ》「羨ましい限りです」

 

《リゲル》《ヴェスパローゼ》「…………………………………………………………………」

 

《ベガ》「………はっ…!ち、違います。羨ましく等…」

 

《ヴェスパローゼ》「前言撤回の余地は無いわよ、ベガ」

 

《ナナヤ》「完っ全に大祐くんに落とされてるよね」

 

《リゲル》「人の事言えないわよね」

 

《ナナヤ》「ブーメランアタック!」

 

《あづみ》「…確かに」

 

《リゲル》「な、あづみまで…」

 

《九条大祐》「それ程までに俺を好いて下さるとは、有難き幸せ」

 

《森山碧》「…おいおいキザ野郎さんよ。親友が目の前で恥ずかしい台詞を吐いてるんだぞ?少しは、聞かされてる此方の身にもなろうぜ」

 

《九条大祐》「聞かなければ、問題無い」

 

《森山碧》「それがこの俺、碧ルール」

 

《九条大祐》「何時からライドオンしてたんですかね」

 

《森山碧》「メタいぞ、大祐」

 

《天王寺飛鳥》「な、なんの話をしとるんや…?」

 

《ソリトゥス》「……私、知ってる。けど…ノーコメント……」

 

《九条大祐》「メタ発言なんてしょっちゅう。日常茶飯事みたいなもの、でしょう」

 

《森山碧》「あのなぁ…少しは方向性を決めてからーー」

 

《九条大祐》「あ、ほら。へっきーも。この話の方向性を決めてからって…」

 

《森山碧》「ちゃうわ!いや、合ってるけどな!?その話じゃねぇんだ。発言に問題が大有りなんだよ…!!」

 

《ルクスリア》「はいは〜い♪呼んだ?」

 

《森山碧》「呼んでねぇから…引っ込んでくれ…なぁ…?確かに発言に問題が大有りだけどよ…」

 

《ソリトゥス》「…同じく」

 

《ルクスリア》「もぅ!酷い人達ばっかり。…あ、大祐く〜ん♪」

 

《九条大祐》「Don't Touch Me」

 

《ルクスリア》「…最早【触れるな】の領域にまで…うぅ」

 

《天王寺飛鳥》「皆、ルクスリアさんが可哀想やん。もっと仲良くしようや〜」

 

《ルクスリア》「良いもんっ。大祐くん、強がってるだけだからっ」

 

《九条大祐》「何でそうなーー」

 

《ルクスリア》「んふふ〜♪大祐くん、勿論覚えてるよね?今日の夜中、2人だけで会おうねって。密室であんな事やこんな事、しようねって。約束したの覚えてるからねっ。まさか忘れたとか言わせないよ〜?ちゃんと、この耳で聞いて、この口で約束したんだから。じゃあ、大祐くんの用事が終わったら、貴方のお部屋にお邪魔するからね。ちゃんと教えてね〜。ばいば〜い♪」

 

《九条大祐》「…はい!?」

 

《森山碧》「…マジか、大祐。お前…遂に色欲の七大罪にまで手を出したのか…」

 

《九条大祐》「こら」

 

《ソリトゥス》「…ルクスリア、さぞ満足………あの娘の事……宜しく、お願い…」

 

《九条大祐》「こらっ!?ソリトゥスさんまで…乗らんで良いですって」

 

《リゲル》「大祐も…大変ね」

 

《あづみ》「う、うん…」

 

《九条大祐》「ルクスリアさんはそれっぽい事言って…周りを騙すのがお上手なんですよ、本当…」

 

《森山碧》「相馬氏涙目」

 

《ヴェスパローゼ》「意外と『ラッキー』程度にしか、思って無い気がしなくもないわね?」

 

《ベガ》「他人の恋愛事情に、首を突っ込みたくは有りません。面倒です」

 

《リゲル》「…大祐が一番、面倒だと思ってるわよ」

 

《ヴェスパローゼ》「そうね…、私達全員に気を配って、且つ構ってさん達を相手して。疲れ知らずなのかしら」

 

《九条大祐》「疲れ知らず…というのは間違いですね。実際、精神的な面はあづみさんに頼らせて貰ってますし」

 

《あづみ》「えへへ…私、大祐くんから頼られてる…?」

 

《九条大祐》「えぇ、相当」

 

《あづみ》「やった…♪」

 

《リゲル》「もう。あづみだけでなく、私達全員を頼って欲しいわね」

 

《九条大祐》「その前に…リゲルさん。貴女は少しでも周りに甘えた方が良いですよ。でないと、リゲルさんの疲労した心身共に、癒しが………」

 

《リゲル》「…まさか大祐から心配される、なんて」

 

《九条大祐》「何時でも何処でも、心配はしてますよ」

 

《リゲル》「〜///」

 

《ナナヤ》「………ん!そうだ!」

 

《天王寺飛鳥》「なんや、どないしたん?」

 

《ナナヤ》「んっふふ〜…あづみちゃんが、大祐くんの心を癒しているなら。私は大祐くんの『か、ら、だ』を癒してあげたいな〜、って♪」

 

《九条大祐》「…へぇ。有難い話だね。確かに相当ガタが来てるから、純粋に助かる」

 

《森山碧》《ベガ》《ヴェスパローゼ》「!!!!????」

 

《ソリトゥス》「これは………意外な、展開……」

 

《天王寺飛鳥》「大祐君、意味分かっとるんか…?」

 

《あづみ》《リゲル》《きさら》「…??」

 

《ナナヤ》「…っ!だ、大祐くん…ほんとに良いのっ?」

 

《九条大祐》「ん?あぁ。最近、少し溜まって来てるからな………ところでーー」

 

《ナナヤ》「…溜まって来てるって…大祐くん、やっぱり…大胆だね…♪」

 

《九条大祐》「はい?溜まってるのは確かだけーー待て、ナナヤ。勘違いはよくない……」

 

《ナナヤ》「それだけ、私に発散したいって事、だよね〜…ふふっ……。もし出来ちゃったら、ちゃんと責任取ってよねっ。大祐くん♪」

 

《九条大祐》「…ナナヤ、一体何の話をしている。俺が話していたのは『疲労が溜まっている』という意味での、溜まっている、だ。主語が無かった俺が悪いが…ナナヤのお腹に子供を作るとはーー」

 

《リゲル》「ちょ、ちょっと待って?どうしてこんな話になったのか、経緯が知りたいのだけれど…」

 

《森山碧》「…なぁ、大祐」

 

《九条大祐》「ん?へっきーがナナヤの相手してくれるの?」

 

《森山碧》「待て待て待て、何でそうなった。流石の俺でも、神様2人からの過度な恩恵は耐えられん。寧ろ俺が神になりそうだわ」

 

《ベガ》「更に話が脱線しますよ」

 

《森山碧》「…あ、俺の所為?」

 

《天王寺飛鳥》「結構、理不尽やな」

 

《森山碧》「まぁ良いけどよ……話を戻そうか。金髪さんやあっづみ〜んーー」

 

[青い閃光と共に、森山碧の頰から血が流れる]

 

《森山碧》「……おい!完全に殺す気だっただろ!?」

 

《リゲル》「次は無いと言ったわ?」

 

《九条大祐》「へっきー…リゲルさんに何したのさ」

 

《リゲル》「…危うく、この男に襲われるところだったのよ」

 

《森山碧》「言葉を選べ言葉を!大祐はその刀を下に下ろせ!!」

 

《九条大祐》「問答無用!」

 

《ヴェスパローゼ》「………色々と、大変な事になってるわね」

 

《きさら》「きぃ、たのしぃ」

 

《ヴェスパローゼ》「…そう。じゃあ…きさら、お願い。大祐を止めて来て貰えるかしら」

 

《きさら》「きぃ、が…だいすけ、とめゆ!」

 

《ベガ》「…あづみ、大好きな人が、ストレスを発散している姿は…」

 

《あづみ》「…っ。私、頑張るっ…!」

 

《ベガ》「……………全くもって、私は貴女の親としてあづみを尊敬します」

 

《ナナヤ》「ね〜、大祐くん。私、大祐くんのお手伝いしたよ?だから、報酬が欲しいなって」

 

《九条大祐》「待ってて、ナナヤ。へっきーに洗いざらい話して貰わんと気が済まん」

 

《森山碧》「少し落ち着けって!又ソリトゥスの部屋が壊れーーって、然りげ無く狙撃するんじゃないよ!ったく、十字砲火かよ…!!」

 

《天王寺飛鳥》「………ぷは〜っ!ソリトゥスさん、もう一杯貰える?」

 

《森山碧》「おいこら!のんびりしてないで止めに入ってーーっと…危ねぇ…!」

 

《ソリトゥス》「…うんっ…………はい…、どうぞ…」

 

《天王寺飛鳥》「っと、ありがとさん。……………こうして、騒がしい場所からは一歩身を引いて傍観するのが一番や。全く…大祐君が来たら来たで、女性陣のやる気が格段に違う。流石、ハーレムの上を行くハーレム。レベルが違うなぁ」

 

《ソリトゥス》「………飛鳥くん、人の事……言えない……」

 

《天王寺飛鳥》「なんか…いうたか?」

 

《ソリトゥス》「う…ううん………何も……」

 

《天王寺飛鳥》「…言うて、ソリトゥスさんにも魅力が沢山有る。さっきからずっと楽しんでる、彼女達に負けない位に。ソリトゥスさんは…良い嫁さんになる、というのが目に見えて分かるわ〜」

 

《ソリトゥス》「…えっ…と……き、急に…そんな………///」

 

《天王寺飛鳥》「フィエリテはんも、もう少し『お淑やか』って感じが欲しいって言うか……何時も怒られてばかりやから、偶には優しくして貰いたいって言うか…」

 

《ソリトゥス》「……飛鳥くんは、女心………察せないタイプ…」

 

《天王寺飛鳥》「?」

 

《森山碧》「…どわっせい!?好い加減、平静を取り戻してくれって…ちょ、おまっ!」

 

《九条大祐》「リゲルさんの言葉に、偽りは無い。間違ってるなら、否定して」

 

《森山碧》「否定も肯定も、曖昧なラインなんだって!」

 

《九条大祐》「なら、へっきーに当たるまで俺はライフルを撃つ事をやめない」

 

《森山碧》「狡賢いなっ…!この部屋を傷付けない為に、態々I『フィールド』を発動させるとは…後々の謝罪会見から逃げる気だろっ…」

 

《九条大祐》(…まぁ、へっきーがリゲルさんを襲っただなんて。嘘に決まっているだろう。恐らく、リゲルさんの言葉の意味が紛らわしかった、というのが正解だ)

 

《九条大祐》「だが…何があろうと、俺は彼女達の所為だとは認め………………………?」

 

《きさら》「だいすけ、おちつぃて…?きぃ、やっ」

 

《九条大祐》「…きさらちゃん」

 

ぎゅっ【九条大祐が抱き締められる】

 

《九条大祐》「っ!?」

 

《ヴェスパローゼ》「捕まえたわ。これで、動きたくても動けない、でしょう?」

 

《九条大祐》「………ええ、動く気、もう更々無いですよ」

 

《ヴェスパローゼ》「話し合いも大切だって、教えてくれたのは貴方の筈よ。大祐。あまり私達の事で熱くなるのは、頂けないわ」

 

《九条大祐》「…ですね。申し訳御座いません」

 

《ヴェスパローゼ》「そしてリゲル、貴女も紛らわしい事を口にするのは駄目。でないと、今回みたいに大祐が暴走してしまうわ?」

 

《リゲル》「…そうね」

 

《ヴェスパローゼ》「最後に森山碧」

 

《森山碧》「ぜーっ…はーっ………、は、はい、なんすか…」

 

《ヴェスパローゼ》「大祐の色々、ぶつける相手になってくれて感謝するわ」

 

《森山碧》「結局そんな感じですか、知ってましたよ…!!」

 

《ベガ》「…やはり、多少のカリスマ性が有れば違いますね」

 

《ヴェスパローゼ》「少しでも、状況を把握、理解出来ていれば直ぐに収める事が出来るのだけれど。大祐が得意な分野の筈…でも、私達の事になると、手が付けられなくなるわね」

 

《リゲル》「其れ位、想ってくれている、という事よね…」

 

《ヴェスパローゼ》「ふふっ…ほら、今じゃ膝の上にきさらを乗せて、2人で楽しくお喋りタイムね」

 

《ベガ》「背中にナナヤが引っ付いてますけどね」

 

《ヴェスパローゼ》「鎮圧出来て、何よりだわ?」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.18

少し遅れてしまいました…。


《リゲル》「あれ…あづみ…?」

 

《あづみ》「リゲル?私、此処に居るよ?」

 

《リゲル》「…周りと一緒に騒ぎ過ぎて、あづみの存在に気が付かないなんて………うぅ…」

 

《あづみ》「そ、そんなに落ち込まなくても…」

 

《ナナヤ》「ね〜ね〜、大祐くん、ご褒美はー?」

 

《九条大祐》「ん?何の話?」

 

《ナナヤ》「もぅっ、そうやってはぐらかそうとしても、駄目なんだからねっ」

 

《九条大祐》「…悪かった。そう…だな。何が良いか、とは聞けないのが残念だ」

 

《ナナヤ》「う〜…私に選択権は無いの?」

 

《九条大祐》「…とはいえ、ナナヤの御蔭で此処に来れた訳だからなぁ」

 

《ナナヤ》「そうだよっ。だからその分の、報酬!」

 

《森山碧》「…ん?ナナヤが大祐に何かしら施して、お前は此処に来れたって話か?」

 

《きさら》「ろーぜときぃも、がんばった」

 

《森山碧》「益々話が分からん」

 

《九条大祐》「あ〜…まぁ、簡潔に説明すると、俺が眠れなかった。その一言に尽きる、かな」

 

《あづみ》「眠れ…なかった…?」

 

《ナナヤ》「……………大祐くんってば、あづみちゃんの誕生日を祝うのを心待ちにし過ぎて、ずっと興奮状態。御蔭で眠れなかった…ね、大祐くん」

 

《森山碧》「マジかよ…」

 

《リゲル》「大祐、相変わらずね」

 

《ベガ》「それ位あづみが愛されている、という事でしょう。親として、私は嬉しく思いますよ」

 

《ソリトゥス》「……皆で集まって…お話タイム……?私も………混ざって良い…?

 

《天王寺飛鳥》「ほな、僕も混ぜて貰うで」

 

《ヴェスパローゼ》「…誰も意図せず、段々と集まってしまうものね」

 

《九条大祐》「それで、良いのでは無いでしょうか」

 

《きさら》「こぉこ…しゅき…♪」

 

《九条大祐》「ふふっ。きさらちゃんは、安定の位置だね」

 

《きさら》「うぃっ」

 

《ヴェスパローゼ》「大祐の腕に包まれて…ほんと、羨ましいわね。きさら?」

 

《きさら》「ろーぜも、くゅ?」

 

《ナナヤ》「…話を戻そうよ〜…じゃなくて、戻すからねっ」

 

《森山碧》「惚気を聞かされ一向に進まん」

 

《九条大祐》「俺が寝れない、ナナヤがこの部屋に干渉、意識を無理矢理此方に飛ばす。終わり」

 

《ナナヤ》「…説明が簡素過ぎるっ…!?」

 

《九条大祐》「ま、強制的に眠りに就いた、というイメージか」

 

《ナナヤ》「確かに…間違ってはいないけど…」

 

《森山碧》「神様は何でも有りなんだな」

 

《ソリトゥス》(遂に……神様にまで干渉されちゃったんだ……………この部屋……)

 

《ベガ》「ソリトゥスさんが、げんなりされてますよ」

 

《リゲル》「又一つ、問題が増えたからじゃないかしら」

 

《ソリトゥス》「カステラと言い……どうしよう…」

 

《天王寺飛鳥》「…た、大変やな」

 

《ナナヤ》「それは置いといて…」

 

《天王寺飛鳥》「置いとくんかいな…!?」

 

《ナナヤ》「うん。…だって、大祐くんからの報酬が今一番だもん」

 

《九条大祐》(何故ナナヤは其処まで俺に拘るのだろうか…)

 

《森山碧》(…とか何とか、大祐なら絶対思っているだろうな。女心の分からん奴め。人の事言えないけどな!)

 

《あづみ》「…あっ、大祐くん…その、誕生日プレゼントの話って…今聞いても、良い…かな」

 

《きさら》「きぃもがんばった…だいすけ、ほおしぃう…」

 

《ヴェスパローゼ》「きさら…少しの間、待ってあげましょ。大丈夫、そんな顔しなくても、大祐はきっとくれるわ?」

 

《きさら》「…うぃ!」

 

《ナナヤ》「…えっ、私…又放置コースの流れ…?」

 

《九条大祐》「誰も忘れたりしてないから、悪い…少し待っててくれる…?」

 

《ナナヤ》「う、うん…」

 

《森山碧》「…んぁ?俺も貢献した気がしないでも無いが…此処は敢えてノーコメントだな。面倒ごとに発展しかねない…」

 

《天王寺飛鳥》「空気を読むのが上手なんやな」

 

《森山碧》「俺自身、空気だからな!」

 

《ソリトゥス》「…ミスト………」

 

《森山碧》「人を霧扱いするんじゃあない…」

 

《リゲル》「存在感が強い割には空気の様に影が薄いから、濃くても空気に変わりない霧なんじゃないかしら?」

 

《森山碧》「…ははん?」

 

《ベガ》「今はそんな事、放っておきましょう。私達があづみと大祐から一歩離れただけで、2人が良い雰囲気に有りますから」

 

《リゲル》「私達が距離を置いてから一瞬よ…?凄いわよね…何時も2人だけだったら、お互い依存になってしまわないか…心配だわ」

 

《ベガ》「あづみとリゲルにも言える事ですよ」

 

《リゲル》「わ、私は…………あづみが大切だから、絶対に守ってあげたいってだけで……」

 

《ベガ》「私も、その気持ちはリゲルに負けず劣らずと自負します」

 

《ヴェスパローゼ》「…それに、あの2人は依存を超えた先の愛を育もうとしている途中よ?」

 

《ベガ》「2人共、お互いに依存していないと言えば嘘になります。…ですが、私達だって少なからず、あづみや大祐に依存している節は無きにしも非ずです」

 

《ヴェスパローゼ》「私ときさらも、似た様な物ね」

 

《きさら》「ろーぜ、しぃき!」

 

《ヴェスパローゼ》「ふふっ、ありがと、私の可愛いきさら」

 

《ソリトゥス》「………依存……かぁ………………」

 

《ベガ》「…難しいところですね」

 

《天王寺飛鳥》「……なぁ、そんな真面目な話をしてるところ悪いんやけど…」

 

《森山碧》「あぁ、大祐が遂に誕生日プレゼントを渡しそうだぞ」

 

《リゲル》「…!大祐、あづみに何をプレゼントするのかしら…?」

 

《ベガ》「楽しみですね…」

 

《ヴェスパローゼ》「ベガが柄にも無く、ワクワクそわそわしてるわ?」

 

《森山碧》「母親さん、意外なところで可愛らしいよな」

 

《リゲル》《ソリトゥス》「!?」

 

《ベガ》「かっ、かわっ…!?」

 

《ヴェスパローゼ》「あらあら」

 

《天王寺飛鳥》「おぉ!へっきーはん、大胆やな」

 

《森山碧》「んぁ?俺は素直な感想を述べただけだぞ。美人な女性がワクワクそわそわとか…男として、反応しない訳無いだろ」

 

《ベガ》「………………」

 

《天王寺飛鳥》「せ、せやな〜…確かにベガさんは、かなりのべっぴんさんやからな。そんな女性に可愛らしい姿を見せられたら、もうあかんて」

 

《ベガ》「…か、かわいいというのは…………」

 

《リゲル》「べ、ベガが…大祐以外の男から可愛いって言われて、反応してる…!?」

 

《ソリトゥス》「…………実はベガさん………ちょろイン…?」

 

《森山碧》「あ〜…それは違うと思うぞ」

 

《ソリトゥス》「え………?」

 

《ヴェスパローゼ》「森山碧、貴方…意外と察しが良いのね」

 

《森山碧》「そらどうも」

 

《リゲル》「…?どういう意味…?」

 

《ベガ》「///」

 

《ヴェスパローゼ》「…実は、少し前の話。何時もの様に、ベガが大祐の寝室に忍び込んだの」

 

《ベガ》「し、忍び込んではいません…!ただ…少し、お邪魔しただけで…」

 

《森山碧》「それ、何時からだ?」

 

《ヴェスパローゼ》「去年から、ね」

 

《天王寺飛鳥》「なんやなんや、大祐くんの寝顔でも見たかったんかいな」

 

《ナナヤ》「…仕方無いね〜…大祐くん、寝る時は何時も1人で部屋に誰も入れないもん…………ふぁ…」

 

《リゲル》「一応、特別な日は別よ?あづみが何度か一緒に寝ている様子だから」

 

《ソリトゥス》「………という事は………?」

 

《きさら》「きぃも、たまぃしのびこんでゆっ」

 

《ヴェスパローゼ》「…ま、その時の話ね」

 

《森山碧》「あー、あー、聞きたく無い聞きたく無い。これ以上の惚気は勘弁だ」

 

《天王寺飛鳥》「ええやないか。こんな高貴な女性に、どんな秘密が有るのか…気になるやろ?」

 

《ソリトゥス》「…大祐くんを夜這いしに………」

 

《ナナヤ》「………へっ…!?」

 

《ヴェスパローゼ》「違うわ」

 

《ナナヤ》「良かった〜……」

 

《ベガ》「貴女に先を越される位なら……大祐には悪いですが、恥ずかしくてもさせて頂きます」

 

《ナナヤ》「ふ〜ん…じゃあ、私が一番乗りでも文句は言わせないからねっ」

 

《天王寺飛鳥》「ちょっと待ったー!話がずれるから、言い争いは後にしてくれへんか…?」

 

《森山碧》「賛成だ」

 

《ヴェスパローゼ》「…で、強制的に戻すわよ。その時大祐が起きてしまって…」

 

《森山碧》「戸惑ってる母親さんを見て、大祐が『可愛い』の一言を言い放ち、落とされたと」

 

《ヴェスパローゼ》「洞察力は頭一つ抜けてるわね。その通りよ」

 

《森山碧》「ちょっと待て、誰情報だ、それ」

 

《ヴェスパローゼ》「………さぁ?私には分からないわ」

 

《天王寺飛鳥》「今の間、凄く怪しかったで」

 

《リゲル》「でも…ベガ、よ?幾ら大祐からの一言だとしても…流石に他の男性から言われて、それを思い出して欲情する様な女性じゃ…」

 

《ベガ》「リゲル、言葉に気を付けて下さい。私は…」

 

《ヴェスパローゼ》「強ち間違ってはいないと思うわ?」

 

《森山碧》「激しく同意だ」

 

《ソリトゥス》「…大祐くん、こんな美しい女性から………欲情されてる事……………………気付いてないんだ……」

 

《きさら》「ょくじぉ?」

 

《ナナヤ》「………ZZZ」

 

《ベガ》「わ、私はっ…その…………大祐には、あづみにとって相応しい旦那になって貰いたくて、ですね………」

 

《天王寺飛鳥》「な、なんや…話が変わったで」

 

《リゲル》「…?だ、大丈夫?ベガ」

 

《森山碧》「おいおい、顔真っ赤になってんぞ」

 

《ヴェスパローゼ》「ふふっ、ベガも『乙女』の1人ね」

 

《ベガ》「私を乙女と言うのはやめて下さいっ…!」

 

《ヴェスパローゼ》「……あら」

 

《天王寺飛鳥》「…!さ、流石に気に障ったんちゃうか…」

 

《ベガ》「………っ、急に声を上げてしまうなんて……」

 

《リゲル》「珍しい事も…有るものね」

 

《ベガ》「情け無い…ですね。こんな事で平常心を失って…大祐絡みの話になると、何時も何時もです…」

 

《ソリトゥス》「………その位、大祐くんを……意識してるって事………」

 

《天王寺飛鳥》「せや、ベガさんは想いが純粋なだけや」

 

《森山碧》「というかよ…母親さんまで色々我慢してんじゃないのか?…あんまりだと、ストレスで肌に影響が…」

 

《リゲル》「そう言う話をしてる訳ではないでしょう…」

 

《ベガ》「…ふふっ、確かに…女性は肌が大切ですからね」

 

《ヴェスパローゼ》「何と無く、分からない気がしなくもないわ」

 

《森山碧》「だろ?だから、悩み事でも何でも、全部大祐にぶつけちまえば良いんだ。難しい事なんて考えなくて良い。それで『どうしよう』の無限ループに入ってしまうよりは、言ってスッキリした方が楽になる。…あのベガさんからのお話だ。大祐なら、どんな悩みだろうが不安だろうが、願いだろうが聞いてくれるだろうよ」

 

《リゲル》「…極稀に、良い事言うのね」

 

《森山碧》「あまりこういう事を口にしたくないだけだ」

 

《ソリトゥス》「………飛鳥くんに…大祐くんに、碧くん………………凄い派閥が出来そう………」

 

《森山碧》「既に出来上がってるだろ」

 

《天王寺飛鳥》「…えっ、そうなんか!?」

 

《リゲル》「私やあづみは、当然大祐のに加わるわよ?」

 

《ヴェスパローゼ》「きさらに、私もね」

 

《きさら》「うぃっ!………………はぁつ…?」

 

《ナナヤ》「………………わたし……も………んにゃむにゃ………………」

 

《森山碧》「知ってるから、安心しろ」

 

《天王寺飛鳥》「確定事項からは変わらない、という事やな」

 

《ソリトゥス》「………ブレない精神……」

 

《ベガ》「………悩み…大祐、聞いてくれるでしょうか……?」

 

《リゲル》「もう…そんなに抱え込んでどうしたの?らしくないわよ…?」

 

《ベガ》「い、いえ…大祐は……私の事、どう思っているのかと…」

 

《森山碧》「少なくとも恋愛対象じゃあ無いだろ」

 

《ヴェスパローゼ》「理由付きで、ね」

 

《ベガ》「…理由…?」

 

《天王寺飛鳥》「………そらそうやな。大好きな女の子の『母親』やで?幾ら大祐君でも、其処は弁えてるやろ」

 

《森山碧》「ふとしただけで、好きな女の子の母親に『可愛い』とか……どんな精神だ」

 

《ヴェスパローゼ》「少なからず、大祐もベガに対して気が有るというのは確かね」

 

《ベガ》「ほ、本当でしょう…?」

 

《リゲル》「問題はベガが、大祐をどう想っているのか、よ?」

 

《ベガ》「私…は…」

 

《ソリトゥス》「素直が……一番…………」

 

《ベガ》「…!わ、私は………大祐の事、大祐に対して………好意を…………………………」

 

《天王寺飛鳥》「…っ、す、ストップ!み、皆!あれ見いや!!

 

《森山碧》「おいおいおい天王寺氏、ちょっと待てよ〜。母親さんが言葉を振り絞って、自分に素直になれる直前でそれはなーーは?」

 

《ヴェスパローゼ》「………先を越すだの何だの、馬鹿馬鹿しくならないのかしら…?」

 

《ベガ》「…ヴェスパローゼ、それは私に言っているのでしょうか。……ですが、確かにそうですね。大祐は…何時も然りげ無く、大胆です」

 

《ソリトゥス》「あれが………あづみちゃんへの……誕生日プレゼント……………」

 

《きさら》「きあきあしてゆ…」

 

《ナナヤ》「………ん〜…?」

 

《リゲル》「…大祐…あづみにとって、一番の誕生日プレゼントね。………年齢的には、まだ早いかもだけれど」

 

《ベガ》「ふふっ…2人なら、きっと………いえ、絶対に、大丈夫でしょう」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.19

更新遅れました…申し訳御座いません。
この時期の寒さにやられる情け無さ。
それでも頑張って更新していきたいと思っております。

【各務原あづみ happybirthday!】は次の更新で終了したいと思っている所存です。
あづみさんの誕生日、何ヶ月前だよという突っ込みは遠慮して頂けると…(笑)
次の更新では、あづみさんの誕生日に合わせて描いた筈の挿絵もご一緒に投稿致します。良ければ見て頂けると嬉しいです(*´꒳`*)
そして予め、クリスマスイブ、クリスマス、大晦日、元日の番外編は難しそうですので、今年は無しとさせて頂きます。

代わりに、ちまちまと書いていた本編を『やっと』更新致します。
其方も細々と短く投稿致しますので、ご了承の程宜しくお願致します。
何時の間にか10000UA数も突破して…本当に、見て下さってる方々には感謝してもしきれません。
10000UA数突破は、本編でも祝わせて頂きます。

そして此れからの更新、偶に作者の息抜きとして、番外編に日常編的な物を投稿するかも分かりません。
はよ本編進めろやという感じですけどね…(苦笑)

前書きが長くなってしまい、申し訳御座いません。
今回も相変わらず甘々ですけど…私はその路線で行きたいと思っております故。
では、長文失礼致しました。


《九条大祐》「彼方は随分と騒がしいこと」

 

《あづみ》「お母さんの事…話してるのかな…?」

 

《九条大祐》「耳から入ってくる情報からすれば、恐らくは」

 

《あづみ》「みんな、楽しそう」

 

《九条大祐》「あづみさんも混ざりに行きます?」

 

《あづみ》「う、ううん…大祐くんからのプレゼントの方が、その………」

 

《九条大祐》「大事、とでも言ってくれるのです?」

 

《あづみ》(無言の頷き)

 

《九条大祐》「…有難ね。俺なんかの渡すプレゼントでも良ければ、受け取って貰えるかな…?」

 

《あづみ》「だ、大祐くんからのが…一番、嬉しい…!」

 

《九条大祐》「わぉ、相変わらず…嬉しい事を言ってくれますね」

 

《あづみ》「えへへ……あっ、勿論リゲルとお母さんから貰うプレゼントも、嬉しいよ…?」

 

《九条大祐》「それは俺も同感します」

 

《あづみ》「プレゼントの中身が、凄いけど…」

 

《九条大祐》「ですがまぁ…あづみさんという途轍も無く可愛い美少女、リゲルさんにベガさんという麗しく艶やかな、美しい女性。3人から貰えるプレゼントなら、誰でも…どんな物でも嬉しいですし、貰った側は舞い上がりますよ」

 

《あづみ》「でも…そう考えてみるとね、大祐くんって凄い人だなって思うの」

 

《九条大祐》「何故、故?」

 

《あづみ》「だって、リゲルからもお母さ…………ヴェスパローゼさんとか、ナナヤちゃんとか…皆んなが、大祐くんを…す、好きって言うんだよ…?それに…大祐くんは、この世界を変えた人。そんな人と、私は…………えと……んと、一緒に…居られるんだって…」

 

《九条大祐》「一緒に…居られる。俺は貴女方の様な沢山の魅力を持ち得ている女性と一緒に居られて、というか…関係を築けて、もう一生死にたくないと思える様になりましたよ」

 

《あづみ》「大祐くん……それって、どういう…?」

 

《九条大祐》「ん?…ん〜……まぁ、あづみさん達と出会える前までは、何時死んでも可笑しく無い。だからこそ、自分の好きな様に生きようって考えだったんです。けど…ね。貴女方と出会って、こういう関係になってからは…絶対に死なない。何が有っても死ぬものかって、考えに変わったんです」

 

《あづみ》「死んじゃ、いや…」

 

《九条大祐》「ふふっ…えぇ、勿論。死にませんよ。『もう二度と、こんな素晴らしい人生は歩めませんし過ごせません』。生まれ変わっても、なんて言うのは嫌いです。今この瞬間が、一番幸せなのですから。叶うなら…あづみさん達と、そして大切な人達全員と、一生生きていたいです」

 

《あづみ》「大祐くん…………私も、どんな事が有っても、死にたくない…。ずっと、ずっと…皆んなと、大祐くんと…一緒に居たいから」

 

《九条大祐》「…じゃあ…本当に、俺とずっと一緒に居てくれますか?」

 

《あづみ》「うんっ…!」

 

《九条大祐》「…………有難う、あづみさん」

 

《あづみ》「急に改まる大祐くん…何だか、久し振りに見た」

 

《九条大祐》「確かに、久し振りですね」

 

《あづみ》「こういう時は何時も、大事な話をする時なんだって…えへへ、もう知ってるもん」

 

《九条大祐》「流石、としか言えません…」

 

《あづみ》「前にも…大祐くんの事は、何でも知りたいって…自分で言ったから…///」

 

《九条大祐》「それじゃ、俺はあづみさん以上に、あづみさんの事を知りたいです。………いえ、知ってみせます」

 

《あづみ》「わ、私だって負けないもん」

 

《九条大祐》「…ふふっ、そう言ってくれるなんて、可愛いったらありゃしない」

 

《あづみ》「も、もぅ…大祐くんは、直ぐに私を可愛いって………」

 

《九条大祐》「事実だからこそ、こうして何度も口に出来るのですよ?要は、何時見ても可愛いって事ですね」

 

《あづみ》「〜///」

 

《九条大祐》「然りげ無く俺の右手を、両手で、ぎゅっと握ってくれるなんて」

 

《あづみ》「ぐ、具体的に言わないでよ〜…!」

 

《九条大祐》「ついつい」

 

《あづみ》「うぅ〜…///」

 

《九条大祐》「ずっと顔真っ赤ですけど…大丈夫、です…?」

 

《あづみ》「だ、大祐くんが…私の嬉しくなる事、言ってくれるから………」

 

《九条大祐》「只のキザ野郎とか言われなくて、安心しましたよ」

 

《あづみ》「私、大祐くんにそんな事…絶対言わないもん」

 

《九条大祐》「それは…有難う、としか言えませんね。俺の親友は容赦無いから…優しいあづみさんに感謝です」

 

《あづみ》「そ、そんな…私、別に優しくないよ…?」

 

《九条大祐》「いいえ、天使の様に優しいです。…天使が優しいかどうかは置いといて」

 

《あづみ》「えへへ……ありがと、大祐くん」

 

《九条大祐》「…………………そんな、誰にでも優しくて、何時見ても可愛くて…俺が、この世に生きる意味であるあづみさんに、俺からの誕生日プレゼント。貴女に渡すと、覚悟を決めました」

 

《あづみ》「だ、大祐くん…?急に…どうしたのーー」

 

《九条大祐》「俺は貴女の事が…あづみの事が、大好きだ。だから…失敗しても後悔は無いさ」

 

《九条大祐》「確かに、ずっとこのままでも良いって…心の何処かで微かに思っていた。幸せで楽しいこの時間。あづみが側に居てくれるだけで、俺は満足『だった』。…………けど、今のままの関係で収まる程、俺があづみに対して抱くこの想いはそんな微かな物じゃ無い」

 

(…そうだ)

 

《九条大祐》「あづみからも、こんなに好いて貰っている。何度も何度も、あづみは俺に…………………その…なんだ、あづみの想いを、色んな形で俺に伝えてくれた」

 

(何時も何時も、お互いの距離を縮めようと頑張っていたのは、彼女だ)

 

《九条大祐》「だから今日は、俺からあづみに…自分自身の本心を、形として伝えたい。これを受け取ってくれるかどうかは、あづみ次第だ」

 

(…最後の壁位は、俺から当たって砕くと決めたんだ)

 

《あづみ》「…っ!………大祐くん………こ、これ……」

 

《九条大祐》「あぁ、俺は貴女と……あづみと、ずっと一緒に居たいから。この一線を越えなきゃ、これ以上の関係は築けないと確信したから…。だから、あづみさえ良ければ…」

 

(頼む、届いてくれ…この想いっ…!)

 

《九条大祐》「俺の、あづみに対する想い、その『形』を…受け取ってくれませんか…?」

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………………【流れる沈黙】

 

《あづみ》「………………………………………………」

 

《九条大祐》「………………………………………………」

 

《九条大祐》(此処まで引き伸ばしたのは自分だ。駄目なら駄目で………諦めーー)

 

《あづみ》「あ、あのねっ…………こういうの、渡された時の受け取り方とか…………私、ちゃんとは、分からない…けど」

 

《あづみ》「えっとね、その…ほんとに、私で…私なんかで、良いの…?大祐くんはっ…」

 

《九条大祐》「あづみが良い…いや、あづみじゃなきゃ、嫌なんだ。だから…お願い」

 

《あづみ》「私、が…受け取っても、良いの…かなっ…」

 

《九条大祐》「それは…あづみ次第だよ。俺からの誕生日プレゼント、受け取ってくれるかな」

 

《あづみ》「…う、うんっ…、凄く、嬉しい…」

 

《九条大祐》「それなら…良かった。ずっと、あづみに渡すか悩んで居たんだけど…決心して正解だった」

 

《あづみ》「あり、がとっ…大祐くん…」

 

《九条大祐》「ふふっ、此方こそ。………あづみ、此れからも2人で、皆んなで、ずっと一緒に。笑い合って、この幸せな時間を未来にも築いて行こう」

 

《あづみ》「んっ…ひぅっ………」

 

【頭を下げ、頷きを見せる各務原あづみ】

 

《九条大祐》「…だから、ね?もう…泣かないで?どんな経緯であれ、あづみが泣いている姿を見るのは…耐えられない」

 

《あづみ》「…!ご、ごめん…なさい…」

 

《九条大祐》「どうして謝るのさ。あづみが謝る理由なんて、何一つ無いのに。…………ごめんなさい、って言われる位なら、あづみの笑顔が見たい。何時も俺に見せてくれる、その…可愛らしい笑顔を」

 

【手に取ったハンカチで、各務原あづみの閉じている瞼を、頰へと伝う涙を優しく拭き取る】

 

《あづみ》「………んっ…………」

 

【九条大祐からのプレゼントを両手で、自分自身の胸に押し当てながら、笑顔を見せる】

 

《あづみ》「ありがと…大祐くん」

 

《九条大祐》「俺は何も…………それより、あづみの笑顔が見られて嬉しいよ。こんな俺からの、こんなプレゼント…あづみは喜んでくれたかな…」

 

《あづみ》「はい…凄く、嬉しいです。…大祐くんからの、プレゼント。私と貴方が…一緒に居る、ずっと一緒って、そんな『証』みたいな気がして…///」

 

《九条大祐》「…それが、そういう『証』になってくれるのであれば…一生外す事は無いです」

 

《あづみ》「私も…………でも、例えこの証が無くても…私はずっと一緒、だよ…?」

 

《九条大祐》「えぇ、勿論…俺だってずっと一緒です」

 

《あづみ》「えへへ……大祐くん」

 

《九条大祐》「ん?」

 

《あづみ》「私だって…大祐くんの事、だ…大好きっ…///」

 

《九条大祐》「…有難う、あづみ。此処まで一緒に歩んでくれて…、俺からのプレゼントを受け取ってくれて」

 

《九条大祐》「あと…さっきは言うタイミングを見付けられなかったけど…」

 

《あづみ》「…?」

 

《九条大祐》「誕生日おめでとう、俺の大好きなあづみ」

 

《あづみ》「〜〜///!!」

 

《九条大祐》「……………ずっと言いたかった事を、想いを、やっと伝えられた。これで一歩は進展出来たかな?」

 

《ベガ》「一歩と言わず…何段か踏み越えていきましたよ、2人は」

 

《あづみ》「お、お母さんっ」

 

《九条大祐》「ベガさん…」

 

《ベガ》「……とは言え、折角大祐から貰ったプレゼント。あづみは早く身に付けたいでしょう。ですが…まだその時では無い事、大祐は重々承知してますよね?」

 

《九条大祐》「はい、勿論です。かなり段を飛ばしてしまったので…次からはしっかり、段を踏んでいかなければ…」

 

《あづみ》「大祐くんと…一歩ずつ」

 

《ベガ》「…ふふっ、前よりあづみは大祐にべったりですね」

 

《森山碧》「とか言ってるけど、今日の夜にでもしちゃうんですよね?やっちゃうんですよね?いや〜、期待してますわ」

 

《九条大祐》「あ、あぁ…あづみさえ良ければ…」

 

《あづみ》「え、えっと…?」

 

《森山碧》「…マジかよ。あんなに手を出したく無い〜、とか言ってた奴が…踏み切ったな、おいおい〜!」

 

《あづみ》「な、何の話…?大祐くん、何かするの…?」

 

《ベガ》「段を飛ばす、どころか蹴り飛ばしてますね」

 

《九条大祐》「…あ、ベガさん。予めご了承を頂けると幸いです…」

 

《ベガ》「?」

 

《九条大祐》「あづみさんを絶対幸せにします。何が有っても、俺がどうなろうと、彼女だけは守ってみせます。…どうか、あづみさんをーー」

 

《ベガ》「大祐」

 

《九条大祐》「は、はいっ」

 

《ベガ》「今更、私の許可が必要ですか?2人の幸せに、私が口を出す理由は有りません。大祐なら、安心してあづみを任せられる、そう思っていたのは今に始まった事では無いです。…あづみだって、相手が貴方だから、こうしてデレデレになっている訳で」

 

《森山碧》「デレデレ…って、凄く照れているか、べったりくっついてたりする事だよな。2人の現状にお似合いだ。笑ってやる」

 

《九条大祐》「…あづみさんの母親である貴女から…ベガさんからそう言った言葉を頂けて、光栄です」

 

《あづみ》「大祐くん、何だか騎士みたい」

 

《九条大祐》「あづみさんを絶対に守り抜くと決めたから、かな?」

 

《あづみ》「えへへ…ありがと」

 

《ベガ》「…ですが、大祐。此れだけは何が何でも守って下さい」

 

《九条大祐》「…?」

 

《ベガ》「あづみを絶対幸せにする。それは当たり前の事です。ですが、口では無く行動として。…此れからずっと、それを私に示して下さい。万が一あづみを不幸にした場合、幾ら大祐と言えど…」

 

《森山碧》「許しません!っ的な?」

 

《ベガ》『消しますよ?』

 

《あづみ》「お、お母さんっ…!?消すって…」

 

《九条大祐》「…っ!はいっ!」

 

《森山碧》「何で若干嬉しそうなんだよ、お前は…」

 

《九条大祐》「ん?いや…其れ位、ベガさんはあづみさんが大好きなんだって。まぁ、俺と比べる時点で雲泥の差だけど」

 

《ベガ》「………私からは以上です。後はあづみと大祐、2人で好きな様に過ごせば良いと思います。例えそれが…子作りでも」

 

《あづみ》「ふぇっ…」

 

《森山碧》「…下がらせて貰おう」

 

《九条大祐》「ベガさんからも了承頂けましたし…あづみさん、早速現実に戻ってしちゃいますか」

 

《あづみ》「はぅっ……………あ、あの、えっと………はい……///」

 

《ベガ》「事は迅速に…では無いですよ。お姫様抱っこから、あづみを下ろして下さい」

 

《九条大祐》「…冗談ですって。以前お話しした通り、あづみさんの体の事も有ります。出来てしまった場合の事だって、考えないといけませんから。生々しい話ですけど」

 

《ベガ》「分かっているなら良いのです」

 

《九条大祐》「………ですが、ベガさん。正直、此処まで来て止まる様な関係ではいたくない。それも分かって頂けると」

 

《ベガ》「強気な姿勢…えぇ、私を押し切ってでも、あづみと結ばれてみて下さい」

 

《あづみ》「は、話に付いていけないよぅ…」

 

《九条大祐》「どんな壁も乗り越えてみせますよ。…あづみさんと一緒に」

 

《あづみ》「一緒に…って、何だか嬉しいね」

 

《ベガ》「流石、頼りになります」

 

《九条大祐》「…とは言え、あづみさんの事が最優先なのは確かです。この判断は全て、彼女に委ねさせて頂きますよ」

 

《あづみ》「…えっ、わ、私…!?」

 

《ベガ》「悪くない判断ですね」

 

《あづみ》「わ、私は………知識なんて、全く無いけど……大祐くんと、したい…な…///」

 

《九条大祐》「何をするのか、詳しくは分からないです…よね?」

 

《ベガ》「手取り足取り、大祐が教えてあげれば良いと思いますよ」

 

《九条大祐》「俺だってした事無いですからね…!?」

 

《あづみ》「大祐くんも…初めて」

 

《ベガ》「2人がお互いを理解していれば、何も問題無いです」

 

《九条大祐》「…もう、ベガさんからそう言われてしまうと、引き下がる事は出来ませんね。あづみさん、取り敢えず現実に戻りましょうか。話はそれからです」

 

《あづみ》「う、うんっ…!」

 

《あづみ》(心の準備、しておかないと…!)

 

《ベガ》「…あづみを、絶対に傷付けないで下さいね」

 

《九条大祐》「あづみさんが傷付く様な真似をしたら、自害しますから」

 

《ベガ》「その覚悟でお願いします」

 

《九条大祐》「えぇ、承知致しました。………………さて、あづみさん。…行きましょうか」

 

《あづみ》「は、はいっ」

 

《九条大祐》「…お手を」

 

《あづみ》「うん…///」

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

《ベガ》「手を繋ぎながら、微笑ましいですね」

 

《リゲル》「………………………………………………」

 

《ベガ》「リゲル?」

 

《リゲル》「……な、何かしら?」

 

《ベガ》「…いえ?何でも無いですよ」

 

《リゲル》「…?」

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

各務原あづみ happybirthday!No.20

明けましておめでとう御座います(*´꒳`*)
年末に投稿する予定が、色々と年末は重なってしまうもので…申し訳御座いませんでした。
そして今回の内容、少しばかり甘々を過ぎてしまいました。
一応ながら、閲覧される際にはご注意を。
其処まで過激な事は執筆してませんけど…R18にならないよう…(笑)
後は…長いです。
3話位に切って投稿も考えたのですが…また時間が掛かってしまうと思い、一気にこのまま。
大体16000字以上です。
今回が《各務原あづみ happybirthday!》の最終話ですので…。
加えて『、』や『…』が多いので、ゆっくり見て頂ければ幸いです。

今週の投稿はこれにて、となりますが、来週からは書き溜めていた本編をやっと再更新致します。
今年はハイスピードで投稿出来たらな…というのは置いて(苦笑)

今年も【Z/Xの世界に転移 〜この世界で幸せを見つける〜】を、何卒…宜しくお願い致します。
書き忘れてましたが、今回の話、挿絵も有りますので…宜しければ見て頂けると嬉しいです。
因みに髪の毛の色、態とかなり深い色を選ばせて頂きました。
長文失礼致しました〜。


《九条大祐》「………………ん、ん〜…!うぁ〜…………」

 

《あづみ》「……ふぁ…ん〜………」

 

《九条大祐》「………あー…精神的にぐったりだな、こりゃ……ははっ……あづみさんの可愛さにやられた」

 

《あづみ》「えへへ…大祐くんからのプレゼント、大事にしなきゃ。………………ふぅ、ちょっとだけ、落ち着こ……………………まだ、ドキドキしてるよぅ…」

 

《九条大祐》「………ん?」

 

《あづみ》「ふぇ…?」

 

《九条大祐》《あづみ》「……………………………………………………………………………………」

 

《九条大祐》「…っ!?あづみ、さん…!?」

 

《あづみ》「だ、大祐くん…!?」

 

【後退りした各務原あづみの片手が空に着き、ベッドの上から落ちそうになる】

 

《あづみ》「きゃっ…!」

 

《九条大祐》「っ、危ない…!」

 

【九条大祐は咄嗟の判断で各務原あづみの腕を引き、背中に手を回し、彼女が落ちないよう支える】

 

《あづみ》「………?」

 

《九条大祐》「…何とか、間に合った」

 

《あづみ》「あっ…大祐くん…ご、ごめんなさい…!」

 

《九条大祐》「あづみさんが大丈夫なら、それで良いのです。…さ、取り敢えず此方に」

 

《あづみ》「う、うんっ」

 

【2人でベッドの上に座り、改めて話を始める】

 

《九条大祐》「………しっかし、びっくりしましたよ…。あのままあづみさんが落っこちてたら…なんて、考えたくも無い」

 

《あづみ》「大祐くん…あ、ありがと。私もちょっと…びっくりしちゃって…」

 

《九条大祐》「俺もです…………まさか、起きたらあづみさんが隣で寝ていたんですもの」

 

《あづみ》「ここ…大祐くんのお部屋、だよね…?」

 

《九条大祐》「えぇ、ですけど…俺がナナヤに頼んで寝始めた時は…この場にあづみさんは居なかった筈…」

 

《あづみ》「わ、私も…どうしてここに居るのか、分からなくて…」

 

《九条大祐》「謎が一つ、誰がこんな事ーーん…?置き手紙、か…?」

 

《あづみ》「大祐くん、それ…なに…?」

 

《九条大祐》「紫色の封筒に、ハート形のシール………………………まさか、な。どうやら、誰かからの置き手紙のようです」

 

《あづみ》「誰かからの…………リゲル、は…私と大祐くんがソリトゥスさんのお部屋から退出した時は…居たもんね」

 

《九条大祐》「まぁ、何と無く察しました」

 

《あづみ》「…?」

 

《九条大祐》「………………………ふんふん………ははん…?はぁ………はいはい」

 

《あづみ》「だ、誰か…分かった…?」

 

《九条大祐》「………………………………………………!!…………全く…相変わらず的を得た事を言ってくれますね…」

 

《あづみ》「まとをえた……」

 

《九条大祐》「えぇ…ルクスリアさんの事です。この置き手紙…そして、あづみさんを此処に寝かせたのは、彼女の仕業です」

 

《あづみ》「で、でもっ…どうして…」

 

《九条大祐》「…端的に言えば、彼女なりの背中の後押し、です」

 

《あづみ》「(何て、書いてあったんだろう…?)」

 

《九条大祐》「………何だか、気にしてる表情を浮かべてるね」

 

《あづみ》「ふぇっ…!か、顔に出てた…?」

 

《九条大祐》「ん〜…、パッと見?」

 

《あづみ》「…その、私が大祐くんと同じベッドの上に寝かせられてた事が、やっぱり…気になって…」

 

《九条大祐》「半分正論、半分彼女の下心。そんな感じの内容でしたね」

 

《あづみ》「あ、あはは…」

 

《九条大祐》「あづみさんの苦笑いも、新鮮なことで」

 

《あづみ》「………そう言えば、大祐くんからの手紙…」

 

《九条大祐》「態々ポケットに取っておいたのですか…!?」

 

《あづみ》「だ、駄目…だったかな…?」

 

《九条大祐》「ああいえ……嬉しい、けど恥ずかしいな、と…。要ります?それ…」

 

《あづみ》「えへへ…大祐くんからのお手紙、大事にとっておきたくて…///」

 

《九条大祐》「………あー、もう…可愛過ぎますって…あづみさんは」

 

《あづみ》「大祐くんだって、か…かっこいい、よ…?」

 

《九条大祐》「…ありがと、お世辞でも嬉しいよ」

 

《あづみ》「お世辞じゃないもんっ。…ほんとの事だから」

 

《九条大祐》「相変わらず、さらっと言われる一言に悶えそうです…。あづみさんの放つ言葉は驚異的ですね」

 

《あづみ》「大祐くんも、私の事言えないよ…?」

 

《九条大祐》「そうですかねぇ…」

 

《あづみ》「然りげ無く、大胆な事を言うって…ソリトゥスさんも言ってた」

 

《九条大祐》「…ほう?」

 

《あづみ》「自覚…」

 

《九条大祐》「無い…ですね。平常運転ですので」

 

《あづみ》「…むぅ〜…」

 

《九条大祐》「…っ!頰を膨らませたあづみさん、やばいですって…!」

 

《あづみ》「…?え、えっと…?」

 

《九条大祐》「可愛い」

 

《あづみ》「うぅ〜…///」

 

《九条大祐》「…ふふっ、ほんと…何度言っても足りない位だ」

 

《あづみ》「………私だって、何回言っても足りないもん」

 

《九条大祐》「?」

 

《あづみ》「う、ううん…何でも、ないよ…?」

 

《九条大祐》「あづみさんの小さな呟きを聞き逃すの、好い加減どうにかしなきゃな…」

 

《あづみ》「だ、大祐くんが気にする事…無いよ…?……私も、ふと口に出しちゃうから…」

 

《九条大祐》「それが又可愛さの一つ」

 

《あづみ》「あ、ありがと…?」

 

《九条大祐》「………………………………………………」

 

《あづみ》「…大祐くん…ど、どうしたの…?」

 

《九条大祐》「………………………………………あ、いえ…」

 

《あづみ》「?私の顔に、何か付いてる…?」

 

《九条大祐》「…ご安心を、何も付いていませんよ。ただ単純に……一生、こうしてあづみさんと過ごせたらなって…」

 

《あづみ》「………私も、そう思ってる。リゲルとお母さん、そして…大祐くんとずっと一緒に。えへへっ…楽しく過ごすの」

 

《九条大祐》「えぇ…ずっと、一緒です。あづみさんさえ良ければ、ですけど…」

 

《あづみ》「…誰に何て言われても、私は絶対…大祐くんの側から離れないよ…?」

 

《九条大祐》「ふふっ…なら俺も、絶対にあづみさんの側から離れない。…ストーカーみたいだけど」

 

《あづみ》「そんな事無いよっ」

 

《九条大祐》「………ありがとう、あづみ」

 

《あづみ》「…っ、大祐くんの…偶に、そう呼んでくれるの………ずるい…///」

 

《九条大祐》「あづみが嫌なら…やめますけど?」

 

《あづみ》「あうぅ……い、いやなんかじゃ…ない」

 

《九条大祐》「それなら良いんだけど………」

 

………………………………………………………………………………………………………………………………………………………【安定の沈黙】

 

《九条大祐》「………………………………………………」

 

《あづみ》「………………………………………………だ、大祐くんーー」

 

《九条大祐》「…あづみ」

 

《あづみ》「は、はいっ…!」

 

《九条大祐》「…?ふふっ、そんなに緊張しなくても、大丈夫だよ?何も食べる訳じゃ無いから」

 

《あづみ》「……………………う、うん…」

 

《九条大祐》「性的な意味は除いて、ね」

 

《あづみ》「ふぇっ…」

 

【九条大祐が、各務原あづみをベッドに優しく押し倒す】

 

《あづみ》「あっ……だ、大祐くん…?」

 

《九条大祐》「ん?」

 

《あづみ》「えっと、あの…ね、わ、私……」

 

《九条大祐》「…うん」

 

《あづみ》「…まだ…心の準備、出来てなくて……」

 

《九条大祐》「……………じゃあ、あづみはどうしたい?」

 

《あづみ》「えっ…?」

 

《九条大祐》「このまま先へ進むか、一度ストップして、あづみの心の準備が出来るまで待つか」

 

《あづみ》「……………………………」

 

《九条大祐》「…なんて、ね」

 

《あづみ》「…?大祐く…っ…………んっ…」

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

…この時、恥じらいなんて有ったのだろうか。

ㅤ頰を真っ赤に染め、内股をもじもじと擦り合わせ。

ㅤ少しばかり荒い吐息を吐きながら、何かを欲求する様な彼女の瞳。

ㅤ自分の瞳に映るそんなあづみが、どうしようも無く愛おしくて。

ㅤ俺は何の躊躇いも無く、自分の唇を、あづみの唇へと重ね合わせた。

 

「ん…んんっ………っ」

 

ㅤあづみにあまり無理はさせられない。

ㅤ勝手にそう思った俺は、少し、ほんの少しだけ、あづみの口の中へと舌を這わせる。

ㅤすると彼女は甘い声を上げ、それでも俺を受け入れようと…俺の手をぎゅっと握ってきた。

 

「…んっ……ぷぁっ、あっ……ん………」

 

ㅤそんな彼女の右手を、俺は優しく握り返す。

 

…細くて綺麗なあづみの指。

ㅤそして俺の指。

ㅤ丸で絡み合わせる様に、俺とあづみは互いの手を握り合う。

 

「………っ、あづみ…大丈夫かい…?」

 

ㅤふと、彼女の心臓が過剰に鼓動している事に気が付く。

ㅤこれは…一度落ち着く為の時間が必要だ。

ㅤそう思った俺は、ゆっくりと、彼女の唇から自分のを離す。

 

ㅤ自分で言うのも癪に触るが…どうしても駄目だ。

ㅤ少しでもあづみに何か有ると、心配で不安になってしまう。

 

ㅤ愛して止まない彼女が苦しむ姿は、二度と見たく無いから。

 

「ふぁ…はぁっ…はぁっ……」

「あづみ、やっぱり…体の事が最優先………」

「いや…だ。大祐、くん…」

 

…あづみのトロンとした目が、物欲しさを語っている。

ㅤ表情も何だか、ほわっとした雰囲気で……そんな瞳で見つめられたら、我慢も何も出来なくなってしまうだろ。

 

ㅤ俺だって、男だ。

ㅤ好きな女の子が目の前で、自分を欲している姿を見て…理性を保つ事なんて到底出来やしない。

ㅤ言うなれば、今直ぐにでも襲いたい位だ。

ㅤけど…、ここは抑えろ。

 

ㅤ流れは自分で掴め。

ㅤ勢いに身を任せて、あづみを傷付ける様な真似だけは絶対に許されない。

ㅤ何より、俺が俺を許さない。

 

「……あづみ、一旦ストップ。ちょっと落ち着かないと、あづみの体がーー」

「〜〜〜っ」

「…ごめんね。でも…あづみの体を優先したいんだ」

 

ㅤ俺がストップをかけると、あづみは、我慢していた自分の想いに耐えられなくなったのか。

ㅤ胸元に、ぎゅ〜っと抱き着いてくる。

ㅤこれは…俺が支えてあげないとな。

 

ㅤ自分の右腕を彼女の背中に回し、右手の平で後頭部に触れる。

ㅤかなりきつい体勢では有るが…あづみの為だ。

ㅤ俺はそのまま、ゆっくりと彼女の体を、ベッドの上へと寝かせる。

 

…彼女も自分の気持ちを抑えるのに、必死なのだろう。

 

「大祐くんっ…」

 

ㅤ俺の名前を呼びながら、細んだ瞳で此方を見つめている。

ㅤそんな彼女をじっと見つめ返すと、右手の握る力を強くしつつも、ほにゃっとした笑顔を見せてくれた。

ㅤうっとり…といった表情、何とも可愛らしい。

 

「あづみ……、唐突に悪いけど…少し質問して良いかな」

「…?」

「一度落ち着く為に…少しだけ」

「…ん」

「夢とか…将来的に何がしたいとか、あづみは何か有る…?」

「………夢……うん、沢山ある…」

「あづみが良ければ、聞かせて貰えるかな…」

 

ㅤ先程までの言動からはかけ離れてしまったが…俺がこれを訊ねるのには、ちゃんとした理由が有る。

ㅤ単純な考え…では有るが、俺にとっては大事な物。

ㅤ此れからのあづみの事。

ㅤ今此処で、しっかりと聞いておきたい。

 

「………あ、あのね……私、学校に行きたい…な」

「学校、ですか?」

「うんっ!……小さい頃から、体が弱くて…あまり通えなかったから」

「あづみさん…」

 

ㅤ気落ち…とは違う。

ㅤ彼女は明らかに、落ち込んでいた。

ㅤ瞳に、少しばかりの滴を溜めながら。

 

ㅤ学園生活…辛かった事の方が多かっただろうに。

ㅤ俺だって、楽しくは無かった。

ㅤ無理をしてでも周りに合わせて…一体何が楽しい。

ㅤそれでも俺は…確かに、しょうが無く周りと合わせた。

ㅤ遅れを取るまいと勉強して、他愛も無い話に相槌をうって、頼まれた事をこなして。

 

ㅤ結果、ただただ自分が疲れてしまった。

 

ㅤ周囲に溶け込めない、周りと違った事をする。

ㅤその軽度がどうであれ、痛い視線は飛んで来るものだ。

 

ㅤ周りの目線を気にして生きていく程、不自由で辛い物は無い。

 

「……私が…小学生だった頃」

「確か……保健室への出入りが多かったとか…?以前あづみさんが、そう言ってました…よね」

「うん。…だからね、周りの子から、色々言われてたの」

「…………はぁ、相変わらず、苛々する話に変わりはないな」

「あっ…ご、ごめんなさい…」

「違う。あづみの事をとやかく言っていた、その周りの奴等に対してだ」

 

ㅤ俺も…あづみの気持ちは嫌という程、理解している。

ㅤいや、あづみの気持ちを理解出来たという時点で、嫌なんかでは無い……嬉しかった。

 

ㅤ俺の小学生時代、あづみと境遇が似ていたからだ。

ㅤ体が弱く、大体二時限目から昼前近くに登校、それでも保健室には出入りし。

ㅤ周りからの視線は、丸で針を刺された様な鋭い痛みを伴った。

ㅤ心身両方に。

 

「……だからね…?私は、周り子と違うんだって……」

「悪い意味で捉えてしまった…と」

「………それでも、学校には通いたかった。お母さんも、お父さんも…優しくて…」

「ですけど、それは子供の義務では無い。優しくしてくれていた母親、父親に対しての恩返し…とでも?」

「うん……………だけど、それだけじゃないの」

「?」

「私…学校、好きだったから、かな…」

 

ㅤ彼女は涙目で、それでも笑顔を浮かべて…。

ㅤ俺の左手を、ぎゅっと握って離さなくて。

 

ㅤあづみは…昔から相当苦しんでいた、それは少し前までずっと…続いていた。

ㅤだけれど…。

 

「…外の世界は、如何でした…?好き、ですか?」

「えへへっ…私は、大好き。学校…自由には出来ないけど、同じクラスメイトの人と喋って…遊んで。そんな学校生活を…夢、見ててっ…………私の夢、叶わなくて……」

 

ㅤあづみ…泣かないでくれ。

ㅤあづみが悲しんでいる姿を見ると、心の奥底が握り潰される感覚に襲われる。

ㅤ彼女の事が、大好きだから。

ㅤもう嫌なんだ、あづみが苦しみ悲しむ姿を、この目で見るのは。

ㅤそんな、目に見えない物からも…彼女を守ると誓ったから。

 

ㅤそしてあづみの願いは、全て叶えさせると決めたから。

 

「………ねぇ、あづみ。じゃあ…その夢、俺が実現させても良いかな」

「…っ、ど、どう…やって…?」

「至って単純。学校を設立させて、学園を築き上げる。其処があづみの…通う学校」

「で、でも…」

「大丈夫、心配ご無用さね。クラスメイトは沢山居ますし…多世界からも連れて来ます。Z/Xと人間…そんな蟠りや隔たりの無い、学校。……出来れば女の子だけのクラスに、あづみさんを入れさせてあげたいなぁ」

「…大祐くん…」

「ん?」

 

ㅤあづみの夢は、俺の夢でも有る。

ㅤ夢は、一度見れば風船の様に膨らんでいくもの。

ㅤその膨らんだ風船を、そのまま空高く飛ばすか、諦めて割るか。

ㅤ自分自身に委ねられた判断。

ㅤ夢を叶えるのも諦めるのも、自分で選ぶ事。

 

ㅤ俺は…あづみの夢や願い、望みを全てを実現させたい。

ㅤ責任は全て俺が持つ。

ㅤだから、あづみには自由になって欲しい…。

ㅤ今迄苦しんで来た事全てを、忘れ去るかの様な幸せな時間。

ㅤ彼女には…そんなひと時を過ごして欲しいんだ。

 

「…大祐くんって、やっぱり…優しい、よね」

「今のままじゃ、所詮建前を飾っているに過ぎないさ。あづみの学園生活…全力で実現させる。可愛い『俺のあづみ』の為だから、何だってこなして見せるさね」

「あぅ…うぅ…///」

 

ㅤかなり大胆な発言を口にしてしまったが…あづみは頰を赤らめ、目をぎゅっと瞑っていた。

ㅤ何時もなら両手で顔を隠しているのだが、今回はその手が塞がっている。

ㅤだから目を瞑ったのだろう。

 

「あづみは相変わらず、可愛いこと……まぁ、学園の案件は全て任せて。ベガさんやヴェスパローゼさんにも手を借りますから、安心でしょうし。多世界にもZ/X使いがいるやもしれない。俺はその子達を優先して、探しに出る旅にでも出ますかね」

「大祐くん…何処か、行っちゃうの…?」

「ん…、あづみと似た境遇の子が居れば放っては置けないし………Z/X使いってだけで、かなり苦労してるだろうから」

「離れるの……やだよぅ…」

「大丈夫、ずっと居なくなる訳では無いよ。必ず帰ってくるから…ね?」

「ん〜…!」

「おっと……」

 

ㅤ俺がこの家から当分離れる。

ㅤそう聞いたあづみは、赤らめていた頰を膨らませ、俺の体を自分に寄せようとしていた。

ㅤが…。

 

ㅤ何とも可愛らしい力で。

 

ㅤ此方が少し力を入れるだけで、あづみに寄せられるこの体は微動だにしない。

ㅤその位、彼女の力が『可愛い』という。

ㅤ可愛い…可愛いんだ。

ㅤあづみの華奢な腕からすれば、納得させられる位の。

ㅤそんな必死なあづみが、可愛くて愛おしい。

 

「…ずっと、一緒って決めたんだもん…」

「…そうだな。じゃあ、1日2日だけ、出掛けるってのは?」

「う、うんっ…」

「不安かな…?」

「ちょっと、だけ…」

「…大丈夫、リゲルさんにベガさん、皆さん此処に居ます。もし…俺の事なら、御心配無く。直ぐに帰って来ますから」

 

ㅤ此方をじっと、不安そうに見つめるあづみ。

ㅤ何度も『大丈夫』『心配しないで?』『直ぐ戻る』という言葉を、彼女が安心するまで言ってあげたいと。

ㅤ逆に俺の方が心配でならなくなりそうだ。

 

…事実、本当に持ち場を離れて良いのか、なんてのはずっと思っている。

ㅤその間にあづみが、リゲルさんが、彼女達が何かに襲われたら。

ㅤそんな不安が頭をよぎって仕方が無い。

ㅤ絶対に守ると決めたんだ。

ㅤ彼女達は誰にも奪わせない…失って堪るものか。

ㅤだからこそ、俺が何からでも守るんだ。

 

ㅤこれは…あぁ、俺の方が心配性じゃないか。

ㅤだが、何としても守りたい大切な人、物が出来れば…必然的に心配性となってしまうものだろう。

ㅤ失う事が怖いから。

ㅤ自分の全てと言っても、過言では無いから。

 

「俺だって…不安で不安で、怖くて仕方が無い。だけど、ずっとそれを言っていたらあづみの夢を叶えさせてあげられない。それに俺は、貴女達を信じてますから」

「…!」

「だからあづみも、俺を信じてくれるかな。絶対に…帰ってくるって」

「…うんっ」

「ふふっ…有難う。何も死地に向かう訳じゃないから、そんな大袈裟に考え無くても良いのは知ってるけど…」

「だ、大祐くんっ」

「ん」

「あのね…何か、私にも出来る事、無いかな…?大祐くんが私の夢を叶える為に頑張ってくれてるのに…私だけ見てるのは、いやだ…。私は大祐くんの望みを、叶えたい…から」

 

ㅤ相変わらずというか何というか。

ㅤされたら返すという、献身的な部分はあづみらしさの一つだな。

ㅤそれが彼女自身の負担になったり、疲れに繋がらなければ良いのだけれど…。

 

ㅤ人からの好意は素直に受け取れ。

 

ㅤ俺が良く言われる言葉の一つ。

ㅤ折角、あづみが、恥ずかしがりながらも言ってくれたんだ。

ㅤ此処は甘えてみるのも、良いかもしれない…か。

 

「う〜ん…とは言われたものの」

「な、何でも良いのっ…」

「何でも?」

「うんっ」

「…じゃあ、少し早いけど…あづみの学生服姿が見たい、な」

「わ、私の…学生服姿…?」

「ああ。…これから設立を始める学園の制服は、色々と決めてからになるからまだまだ先って事で…無いけど」

「…!確か、リゲルが用意しててくれた筈…」

「凄まじいな、リゲルさん…」

「えっと…小学生の頃をイメージして、リゲルが着せてくれたの。『せめて形だけでも』って」

 

ㅤ優しいし行動力は流石としか言いようが無いしで、俺がリゲルさんを尊敬してしまうのは当たり前の事だろう。

ㅤあづみへの愛は、リゲルさんが一番深い事は知っている。

ㅤだが…俺も負けてはいないと自負、したい。

ㅤそれはリゲルさんに対しても、だ。

 

ㅤ彼女達への愛は誰にも負けない、負けたく無い。

ㅤそういった意思を強く持っているからこそ、彼女達を失いたくないという想いも強くなってしまうのだろう。

ㅤこの言葉、建前だけでは終わらせない。

 

「えっと…じゃあ、あづみの制服姿…見てみたいな。あづみさえ良ければ…」

「は、はいっ…!ちょっと…恥ずかしい、けど…」

「恥じらうあづみも可愛いこと」

「う、うぅ…///」

「…………………って、あれ…そう言えば衣服は何処に…?」

「あ、えっと…多分…私の部屋に有ると思う…。だから、大祐くんの事…待たせちゃうよ…?」

「大好きなあづみの制服姿が見れるなら、何時までも待つさ。…後は…お互いに落ち着く時間には丁度良いだろう」

「…じゃあ…少し、着替えてくるね…」

「焦らないで…ね?」

 

ㅤそう言って俺は彼女の頭を撫で、覆い被さる様な形からあづみを解放し、そのままベッドの上へと胡座で座る。

 

「えへへ…また、お邪魔します」

「何時でもおいで」

 

ㅤ可愛らしい笑顔を見せる彼女に、俺も笑顔で、返答を返す。

ㅤそしてあづみは部屋の扉を開け、一度退出。

ㅤ1人の、少し寂しいが落ち着く為の時間が訪れた。

 

ㅤこうして1人になってみると、ふとした事であづみさんを思い浮かべてしまう。

 

ㅤこのベッド…さっきまで、あづみさんが仰向けで寝転んでいたんだよな、とか…。

ㅤあづみさんと俺は、本当に釣り合っているのか…やら。

ㅤ今更そんな事を気にしたって仕方が無いのは分かっている。

ㅤだがやはり…頭の隅で考えてしまうのは変わらず、か。

ㅤ完全に自分だけの、と認識が持てれば気にならなくなる…と信じたい。

 

ㅤそれも…今日で決まる。

ㅤ彼女の実の母親であるベガさんからも許可は下りた。

ㅤあづみさえ良しとするならば、未成年だろうが何だろうが、その一線を越えてでも。

ㅤ彼女と一つになりたい。

ㅤあづみと…繋がりたい。

 

ㅤもう、うだうだとこの関係で止まるのは嫌なんだ。

ㅤ周りからも認められて。

ㅤいや、例え認められなくても…あづみがその壁を越えたいと言うのなら。

ㅤ俺は彼女と一緒に進むだけだ。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「お、お邪魔…します…」

「…えっと、あづみ、さん」

「あ、あまり見ないで…!恥ずかしいよぅ…///」

 

ㅤ少しして、彼女は戻って来た。

ㅤ戻って…来たのだが。

 

「俺…あづみさんに手を出して、犯罪者と間違われる気が…」

 

ㅤあづみさんの制服姿。

ㅤまあ…可愛いのは当たり前だ。

ㅤだが…何故ランドセルまで一緒に付いてきた。

 

「だ、大祐くんっ…少し、私の部屋に来て貰える、かな…?」

「…っ、は、はい…?」

 

ㅤ何事だ…。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「…これは?」

「え、えと…」

「その様子ですと、あづみさんにも分からない状況…?」

「うん…そう、なの…」

 

ㅤあづみの部屋。

ㅤに、お邪魔した訳だが。

ㅤ何故こうなった。

 

「…部屋、間違えてません?」

「あ、あってるもん」

「ですよね…」

 

ㅤ本当に見間違いと思ってしまう位だ。

 

ㅤ本来のあづみさんの部屋は、リゲルさんと2人で過ごす為に作られた物だ。

ㅤ俺の部屋と同じく、寝室は別。

ㅤその寝室に問題が有った。

 

「…リゲルさんは?」

「まだ、帰って来てないみたい…」

「此処で寝た、という訳ではないのですね」

「うん…」

 

ㅤまあ…リゲルさんが居れば、即座に元の部屋へと戻すだろう。

ㅤ壁紙まで変えられちゃってまぁ…。

ㅤベッドは何時ものダブルベッド…に、枕はご丁寧に青と桜色の2つが並べられて。

ㅤ掛け布団まで少しお洒落な模様に…ハート型の抱き枕(?)みたいなのが1つ。

ㅤベッドの横には、先程あづみさんが背負っていたランドセルが。

ㅤ壁紙はピンクのラインが入った…何これ…。

 

「徐なピンクで染まってる…」

「ね、ねぇ…どうしよう。リゲルに怒られちゃうよぅ…」

「いや、それはないでしょうけど…」

 

ㅤあづみさんがあたふたしてる。

ㅤ右往左往しながら、何処から片付けようか…何から手を付けようか。

ㅤ大丈夫なのか、これ…。

 

「取り敢えず、あづみさんはベッドの上にでも座ってて下さいませ。俺が何とかしてーー」

「むぅ…だめ。大祐くんも…一緒に座るの」

「あはは…了解、です」

「け、敬語もだめっ」

「駄目です?」

「だ、だめ…」

 

ㅤ強気で攻められると弱いらしく。

ㅤ一瞬にして日和りを見せた。

 

ㅤけれど…今日はあづみの誕生日だ。

ㅤ素直に彼女の言う事を聞き入れよう。

 

「…分かった。それじゃあ、お言葉に甘えようかな」

「っ!うんっ」

 

ㅤ元気良く返事を返してくれること。

ㅤふと…ベッドの上に設置されている物置台に、気になる物体が2つ。

 

「あづみ、これ…」

「大祐くーーわ〜っ!?」

 

ㅤ俺がその物体に話を持って行こうとした瞬間、あづみは慌てて『それ』を隠そうと抱きしめる。

 

「…………リゲルさんの、小さなぬいぐるみ…?」

「…っ!さ、流石大祐くん…!これ、リゲルが作ってくれたの」

「リゲルさん自身が?」

「えっと…私が、作って欲しいって…お願いして…」

「成る程」

「えへへ…」

「もう片方は?」

「………………………な、内緒」

 

ㅤリゲルさんの小さなぬいぐるみ。

ㅤ彼女はそのぬいぐるみを手に乗せて、嬉しそうに此方へと差し出してくれる。

ㅤ可愛い。

ㅤだが。

 

「………………っ!」

「はひゃあっ…!?」

 

ㅤ俺は見逃さなかった。

ㅤあづみがもう一つ、片手に『誰かの』小さなぬいぐるみを握って…それを自分の胸元に抱きしめていた事を。

ㅤどうやら、彼女なりに隠している様子だ。

 

ㅤ然しあづみが隙を見せた瞬間、俺は彼女の肩に片手を回し、首元を擽る様にもう片方の手を動かす。

ㅤ間違えてあづみが倒れたりでもしたら、危ないからな。

ㅤなら擽るなという話だが。

 

「んー…!!」

「…随分と頑なですね」

 

ㅤだが、彼女は『それ』を断固として見せたく無いのか、遂には自身の服の中へと、ぬいぐるみを隠してしまった。

ㅤ凄まじい早業…丸で刹那の如く。

 

「……や〜…!」

「あづみがこんなに幼げな態度を取るというのも…珍しいな。ごめん、悪かった…」

「あっ…だ、大祐くんの所為じゃなくてっ…!」

 

ㅤあまりしつこ過ぎるのは宜しく無い。

ㅤ少しやり過ぎたと、自分で反省した上で彼女に謝罪する。

ㅤすると、あづみは焦って否定を始めた。

ㅤそんな否定する必要は無いのだが…。

 

ㅤそう思った矢先。

 

「………………………あづみ、さん…?」

「…?」

「あの…落ちてます、よ?」

「………っ、きゃあ…!?」

 

ㅤ焦って否定をした瞬間、彼女は両手を自分の膝上に置き、胸元に隠していたぬいぐるみが落ちてしまった。

ㅤその際…誰を催して作られたのか、一発で分かった。

 

「あづみ…えっと…」

「〜!///」

「あづみさんストップ!其処に隠しちゃ駄目ですって!?」

 

ㅤ彼女は一拍置いて顔を真っ赤にし、ぬいぐるみをスカートの中へと隠そうと試みていた。

ㅤだが…流石にそれを許す訳にはいかない。

ㅤ俺は咄嗟に彼女の手を掴み、少しキュッと握りしめる。

 

「…………一旦、落ち着こう」

 

ㅤ落ち着く、という言葉を今日だけで何回言った事やら。

ㅤ取り敢えず俺は、掴んでいたあづみの手を離す。

 

ㅤそして至って冷静にそう言うと、彼女は恥ずかしがりながら、そのぬいぐるみを又胸元に抱きしめて…。

ㅤ兎に角…収まってくれた様子だ。

ㅤ今なら話を進めても問題無いだろう。

 

「…あづみ、そのぬいぐるみ…見間違いじゃなければ、『俺』を催して作られたのか…?」

「………(こくん)」

「そう、か…」

「ごめんなさい…!いや…だったよね」

「大丈夫、全然嫌なんかじゃないさ。寧ろ嬉しい位だから…けど、問題は……」

 

ㅤ俺を催して作られたぬいぐるみが、あづみの胸元に当てられていたり…服の中に入れられたり、終いにはスカートの中へと入れられるところだった。

ㅤ自分自身の見た目に似せて作られた小物が、好きな女の子のあんなところに…という気まずさ、それに。

ㅤこう、なんと言うか…あれだ、そう…あれ。

 

ㅤ恥ずかしくて言葉も浮かんで来ないって…!!

 

「と、兎に角…一体何の為に俺のぬいぐるみを…?」

「………………」

「…言いたくない、かな」

「………御守り」

「御守り?」

「うん……リゲルと、大祐くんの。この2つを側に置いておくだけで…何時でも、何処でも三人一緒って…」

「…成る程」

「後は、リゲルと一緒に眠る前……大祐くんのぬいぐるみを、私とリゲルの間に置いて…二人でーー」

「あづみさん…ストップ、それ以上は俺の精神が持たなくなります、から…」

 

ㅤこれは、完全に俺の責任だ。

ㅤ何時も何時も、就寝する時は1人だけで眠りに就いていた。

ㅤこんなにも魅力的な女性達と一緒に夜を過ごす等、俺が襲ってしまう可能性が有るが故に、到底無理な話で。

ㅤだが…あづみさんは。

 

「…えっとね…私、寂しかったんだ…。だから、リゲルに2人のを作って貰って…」

「眠る時は…」

「ううん、違うの…」

「?」

「…眠る時だけじゃなくて、何時も。私が寂しくなった時に、大祐くんのぬいぐるみをぎゅってすると…何だか安心して…」

「あづみ…さん」

 

ㅤそう言う、彼女の表情は微笑んでいた。

ㅤどうやら本当の事…なのか。

 

ㅤあづみさんの事もリゲルさんの事も襲って堪るかという、俺の勝手な思いは、逆に彼女達を寂しくさせてしまっていたのか。

ㅤ何時だって、そうだ。

ㅤ自分の思い込みが楔となって、彼女達を縛り付けていた。

ㅤ俺は自身の抑制を図ってやっていた事だが…それが仇となってしまうとは。

 

…ならば、その償いを含めて。

 

「あづみさん、今日は貴女の誕生日です。何か…他に欲しい物は有りませんか…?」

「…?私の欲しい…物」

「えぇ、何でも構いません。俺が全て用意しますから」

「ほ、ほんと…?」

「はい、勿論ですよ」

「…あの、えっと…じゃあ、私が一番欲しい物を言う…だから、大祐くんの欲しい物も教えて欲しい、なぁ…」

「あづみさんの誕生日ですのに…ですけど、今日は貴女の言う事を一番にさせて頂きます。例えイエスマンになろうとも」

「じ、じゃあ…私が一番欲しいの、言うね…?」

 

ㅤ彼女は何故、返してくれようとするのか。

ㅤ今日はあづみさんの誕生日なんですよ、返す必要は…と、以前なら言っていただろう。

ㅤだが、逆に考えろ。

ㅤ今日が誕生日の人、その人の願いを優先すべきでは無いのか。

 

ㅤならば、あづみさんの願いを最優先にするべきだ。

ㅤああ、今に始まった事では無いという突っ込みは受け付けない。

ㅤ話がずれそうなので強引に撤去するが。

 

ㅤ果たして彼女は、一体何を欲しがるのか。

ㅤ今の俺はイエスマンだ、何を言われてもイエスと答えるだけーー

 

「えと、その……」

「イエス」

「…?い、いえす…?」

 

ㅤ間違えた。

 

「…申し訳御座いません、続けて頂けると」

「う、うん…。あのね…」

「………………………」

「私、大祐くんがずっと一緒に…側に居てくれるっていう、幸せが欲しい…な」

「………………………………ふふっ、あづみさんってば………」

「だ、だめ…?」

「…いや、違います……あづみさんの願い、直ぐに叶えられる事で良かったって」

 

ㅤあづみさんの一言。

ㅤその一言で、又もや『あの』雰囲気が訪れる。

 

ㅤ俺は、あづみさんの体を、ゆっくりとベッドの上へ倒していく。

ㅤ彼女の肩に回していた手…腕を、自分の体を前へ倒すのと同じペースで。

ㅤあづみさんの体を支えながら。

ㅤ先程と同じ様な、瓜二つの状況へと変貌させた。

 

「…他に、欲しい物は…?」

「…………さっきの、続き………」

「して欲しい事、になってしまいますね?」

「欲しいの…は…、大祐くんの………………こ、こ…っ!」

「こ…?」

「こっ…こど、も…///」

「…あづみさん、大胆なこと」

「だ、だって…!大祐くんは、何が欲しいの…?」

「ん?あづみさん、ですかね」

「はうっ…!うぅ〜…」

「…本当、ですよ」

「大祐…くん………………んっ」

 

ㅤ以前にも違う誰かさんから言われた気がするが…その時は真っ向から否定した覚えが有る。

ㅤだが然し、今回そう言って来たのは紛れも無い、あづみさんだ。

ㅤ大好きで大切で大事な彼女からそう言われてしまうと、気が狂いそうで仕方が無い。

ㅤ幾ら抑制しようと、我慢しようと思うも、体は言う事を聞いてはくれやしない。

 

ㅤ俺は思わず、あづみの唇に口付けを交わした。

 

「んっ…んん………ぷぁ…あっ…」

 

ㅤ彼女の甘い声、そして交わるキスの音。

ㅤ俺の脳、精神は、其れ等の音に溶かされていく。

ㅤこの流れ…もう離しはしない。

ㅤ先程は自ら手放してしまった様なものだが、あづみさんの体の為。

ㅤ致し方無かった。

ㅤだが今回こそは、必ず一歩を踏み出してみせる。

 

ㅤあづみさんの願い、欲する物を聞かせて貰ったのだから。

ㅤ俺がそれを、プレゼントしてあげねば。

 

「…………………はぁっ………ん、くっ…」

「……………………っ、はぁっ…」

「………………………………………………………」

「………あづみさん…」

 

ㅤお互い息切れを起こし、一度、重ねていた『それ』を離す。

ㅤどうやっても彼女の体が心配なのは、最早どうしようも無い。

ㅤやはり気になってしまうものだ。

 

「………大祐、くん……」

「…?」

「あの、ね…大祐くんが、プレゼントしてくれた…あの『指輪』……はめて、みる…?」

「………いえ、まだ。あの指輪は、その時が訪れたら。…それ以前に、いけない事をしようとしているのですが…」

「えへへ…分かった。じゃあ、大祐くん…」

「はい…?」

 

ㅤあづみさんへの誕生日プレゼント。

ㅤそう…あの場で彼女にプレゼントした物は、『指輪』。

ㅤあづみさんとの関係を進める為には、これしかない、と。

ㅤ自分の考えをぶつけている様で…彼女が喜んでくれるか、ずっと不安だった。

ㅤだが、その不安は要らない、不要物と化していた。

 

ㅤ泣きながら…喜んでくれたのだから。

 

ㅤ俺まで嬉しくなった、のは当たり前の話で。

ㅤまだ早い…お互いの年齢を考えると、先走り過ぎたかも分からない。

ㅤそれでも、俺はプレゼントしたかった。

ㅤ年齢なんてどうだって良い。

ㅤあづみさんの事が大好きだから…年齢なんて壁に、阻まれて止まる様な物では無い。

ㅤ一方的な愛だとしたら、止まっていたかもしれないが…。

 

ㅤその、あづみさんにプレゼントした指輪。

ㅤ彼女は大層喜んでくれたのか、今からする事に重ね、指輪をはめようか悩んでいた様子だ。

ㅤ然し…其処はちゃんとした場所で、初めて彼女の指にはめてあげたい。

ㅤ順序が逆だと、ベガさんからお叱りを受けてしまいそうだ。

ㅤだがそれも又、一興。

 

ㅤ今はその時では無い、そうあづみさんに伝えると…彼女は体を起こし始めた。

ㅤ押し倒され、一方的に攻められるのは苦手だったのか…?

ㅤまさかな。

ㅤそんな考えが脳裏を掠める。

 

…が、彼女は予想外の行動に出た。

ㅤ一般的に言われる『女の子座り』をし、上に着ている自身の服を口に咥えて。

ㅤ魅惑の腹部を見せながら、たくし上げ。

ㅤそして一言。

 

「…大祐くん…続き、しよ…?」

 

 

【挿絵表示】

 

 

「〜っ!!」

「えへへ…」

「あづみさんっ…!!」

「んっ…♡」

 

ㅤまさか、あづみさんがこんな事をしてくるだなんて。

ㅤもう…我慢ならない。

ㅤ其処からは、2人だけの、きゃっきゃうふふな展開を繰り広げる夜の始まりだった…。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

…朝。

ㅤ何時もとは違う、彼女が隣で寝ている朝。

ㅤ「くー…すー…」と寝息を立てるあづみさんの頭を、思わず撫でたくなってしまう。

 

…………………いや、既に手は動いていた。

 

ㅤ此れだけは何時も通りと言えるだろう。

ㅤそれはさておき。

 

ㅤ昨夜は中々、説明し難い夜だった。

ㅤあづみさんのあづみさんがあづみさんにあづみさんを…みたいな。

ㅤ最早狂気である。

ㅤただ一つ言える事は…あづみさんが可愛過ぎて死ぬ寸前だった。

ㅤ後は…避妊って何ぞ?みたいな展開になってしまったのが、一番気まずかったというか…。

ㅤこれ、話して大丈夫な内容か…?

 

ㅤ駄目だろ駄目…駄目だ。

ㅤ思い返すと、今隣で寝ているあづみさんを襲ってしまう。

ㅤ落ち着け…先ずは、彼女が起きた時の為に何かしら用意しておくのが、出来る旦那の一つだろう?

ㅤ取り敢えず、あづみさんが寝ている間に作れそうな物…とか、飲み物…。

 

ㅤ此処、俺の部屋じゃなかった…!!

 

「う、あぁぁ……」

 

ㅤ変な声を出してしまった。

ㅤ実は昨夜、全く眠れなかったのだ。

ㅤ誰かさんが用意してくれた青い枕の所為でな!

 

ㅤとか、単純にあづみさんの隣だったから…か。

ㅤ記念日位だからな…一緒に寝るというのは。

ㅤ後は旅の途中、野宿する時とか…。

 

ㅤ懐かしいな…あづみさんと出会って間も無い時の事、色々な事を思い出してしまうな。

ㅤあの頃から、もうこんなに経ったのか…。

 

「思い出に浸るのは悪く無いけれど、私の事も頭に入れてて欲しいわね…?」

「…っ!リゲルさん…お早う御座います」

「えぇ、お早う…大祐」

「昨日は…眠れました?何処にも居なかったので…」

「………///」

 

ㅤふと、何時の間にか背後に居たリゲルさん。

ㅤ質問の答えが頰を赤らめて目を逸らすって…一体どうしたのだろうか。

 

「リゲルさーー」

「………ベッドの『ギシギシ』と軋む音に、私の聞いた事が無いあづみの声。それに加えて大祐の…えぇ。眠れると、思うのかしら…!?///」

「この部屋に居たのですか…!?というか俺の…えぇ、って何です!?」

「私とあづみの部屋だもの…居て、当然よ…」

「…まさか、全部聴いてました…?」

「………………///(こくん)」

「あー…もう、リゲルさんってば!」

「な、何よ…!私は何も悪くないーー」

「何故あづみさんと言い、貴女まで…そんなに可愛いのですか!!」

「か、かわっ…!?私に聞かれても、困る…わ」

「リゲルさん」

「な、何かしら…?」

「…俺とあづみさんの声を聞きながら、何をしていたんです?」

「………………………………………………何も、してないわ…?」

「ほんとに?」

「し、してないわよっ…」

「…………………」

「………してない……から…///」

「…目、泳いでますよ」

「…っ!」

「………………………」

「べ、別に…あづみと大祐の関係が羨ましい訳じゃ…無いんだから…!」

「………そう、ですか…まぁ、俺も深い詮索は止めですかね」

「………………えっ…あっ……」

「申し訳御座いませんでした…プライバシーに土足で踏み込む辺り、何も考えてない事がバレバレですね」

「大祐……ね、ねぇ…」

「…さて、あづみさんが起きた時の為に、何かしら用意してーー」

「〜〜〜!!」

「っと…!?り、リゲルさん…?急に抱き着かれると……」

「…わ、私だって…寂しかったんだから…!」

「……………………」

「ずっと、大祐とあづみだけ…関係が進んで行って、私だけ取り残されてく感じがして…。遂には、あづみと…し、したんでしょう…?私だって…大祐とあづみの事、大好きなんだからっ…!」

「………………………ふふっ…その本音が聞けて、良かった」

「えっ…?」

 

ㅤリゲルさんは…可愛くて、美しい。

ㅤ素直じゃない所も可愛いし、怒っている時の表情、必死な時の表情も大好きだ。

ㅤ無論、そんな彼女が照れている姿なんて、精神が耐えられない位に可愛らしい。

 

ㅤ他の人には素っ気無い態度を取りながらも、俺にはこうして自分を出して話してくれる。

ㅤリゲルさんは…本当に。

 

「…食べてしまいたいな」

「…っ!?た、食べるって…えっと…」

「あづみさんとした事を、リゲルさんともしたいって事です。えぇ、クズ発言ですけどね」

「………だ、大祐が…」

「はい?」

「…大祐がしたいって言うなら、してあげても…良いわよ…?」

 

ㅤ全く…。

 

「リゲルさんは卑怯ですーーっと…!?」

「きゃっ…!」

 

ㅤと、リゲルさんは何かに躓いてしまったのか…此方に勢い良く倒れて来た。

ㅤそんな彼女を受け止めようとしたものの。

ㅤ俺まで一緒に倒れてどうするんだ。

 

「…ってて…大丈夫ですか、リゲルさーー」

「えぇ…私は平気ーー」

「……………………………」

「……………………………」

 

…何と無く、察してはいた。

ㅤ俺は…アニメや漫画で、女の子が此方に倒れてきて、気付けば男性に跨っていたというシチュエーションを何度も見た事が有る。

ㅤ良く見るのは、男性の胸元や腹部、或いは○○。

ㅤだが、何時も思っていた。

ㅤ物理的に、法則的に、それは有り得ないんじゃないかと。

 

ㅤそれは何故か?

ㅤ大体は女性より男性の方が身長が高いだろ?

ㅤ女性が男性側に倒れて来て、男性も一緒に倒れる。

ㅤ身長を考えると、女性は精々、男性の足元近くに跨ってしまう筈だ。

ㅤそれが…今この状況、せめてそうなって欲しかったと言える。

 

「…リゲルさん」

「え、えぇ…分かってる、わ…」

 

ㅤ男性は反動で少し後ろに倒れる。

ㅤ女性は男性にぶつかる為、余程加速がついてない限り、あまり前には倒れない。

ㅤそれが相まってしまうとどうなるのか。

 

ㅤ結論。

ㅤリゲルさんの豊満なとある物が、俺の何かに乗っている。

ㅤ何か、とは言わない、言いたくない。

ㅤ下ネタは大嫌いだから。

 

「………………」

「………………」

 

ㅤ取り敢えずこの状況から脱出しよう。

ㅤそう思った矢先。

ㅤタイミングとは、何時も悪く。

ㅤ2人の部屋の扉が、思い切り勢い良く開いた。

 

「大祐く〜ん!あづみんとの一夜は、どうだった?今度は私と一緒に………………」

「む〜…あづみちゃんに先を越されちゃったけど、次は私だからねっ。大祐くん、神様と人間の………………」

 

ㅤ誤解だ。

 

「誤解」

「えぇ…誤解よ」

「…誤解には、見えないわ?」

「こうなったら…私も混ざっちゃうからね!」

「待て、ナナヤ!ストップ!騒ぐとあづみさんが起きちゃうから…って、聞いてないだろ…!?ルクスリアさんもどさくさに紛れて、ああもう!!」

 

ㅤあづみさんの誕生日の朝は…波乱の幕開けとなってしまった。

 

「一度落ち着いてくれ…!!」

「んー…いや、かなっ♪」

「私もいやだからねっ」

「ちょ、ちょっと…大祐が…」

「次はリゲルさんって決まってますから…!」

「えぇっ…!?///」

 

ㅤ次は、というか…本来であるならば2人共…いや、何でもない。

ㅤそれはそれで、色々と問題有りな気がするから。

 

ㅤ兎にも角にも…あづみさん、誕生日おめでとう。

ㅤhappy birthday。

 

 

ーーー

 

 

『……ん…………大祐くん………………大………好き………』

 

 

ーーー




《リゲル》「メリークリスマス、良いお年を、何時の間にか過ぎてしまったわね………」

《九条大祐》「確か…メリークリスマスは、リゲルさんとの聖夜を過ごしましたね」

《リゲル》「き、禁句っ…恥ずかしいわ…///」

《九条大祐》「あはは…聖(性)夜違いですからね…」

《リゲル》「…………………今度は」

《九条大祐》「…今度は、あづみさんとリゲルさん。2人を同時に………………」

《リゲル》「(同じ事を考えてる…!)」

《あづみ》「あっ、リゲル!大祐くんっ」

《九条大祐》「ん…あづみさん。しっかりと眠れました?」

《あづみ》「うんっ」

《リゲル》「……あづみ」

《あづみ》「なに?リゲル…」

《リゲル》「…えっと…その、大好き…よ」

《あづみ》「…えへへっ、私も、リゲルの事大好きだもんっ」

《リゲル》「…!本当、反則級の可愛さね…」

《九条大祐》(こうなった経緯を知りたいが…まぁ、2人だからな。あづみさんとリゲルさん…本当にお似合いだこと)

《あづみ》《リゲル》「…?」

《九条大祐》「ああいえ、お気になさらず。微笑ましいな、って思ってただけですので」

《あづみ》「だ、大祐くんも一緒だからねっ」

《リゲル》「ふふっ…あづみの言う通り、ね」

《九条大祐》「有難う御座います………っと、…兎にも角にも、2人共」

《リゲル》「何かしら?」

《あづみ》「は、はいっ」

《九条大祐》「………明けまして、おめでとう御座います。今年も宜しくお願い致しますね」

《リゲル》「…っ!此方こそ、宜しくお願いするわ」

《あづみ》「えへへ…あけまして、おめでとう御座います。今年も、宜しくお願いします」

《九条大祐》「………………さて、挨拶もしましたし、初詣にでも行きますか?」

《あづみ》「うん、行きたいっ」

《リゲル》「去年も言った記憶が有るけれど…えぇ、賛成よ」

《九条大祐》「んじゃ、行きますか」

《リゲル》「行きましょう、3人で」

《あづみ》「お〜♪」

ーーー


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

happy Valentine's day

本編と同時に此方も更新致しました(*´꒳`*)
番外編『happy Valentine's day』、バレンタインのお話で御座います。
今回も長くなってしまいましたので、毎週水曜日、本編と一緒に更新致します。
今回も甘々な内容ですので、閲覧される方は十分にお気を付けを。
『各務原あづみ happy birthday!』の甘さは超えられないと思われますけど…一応ながら。
宜しければ、此方も是非、見て頂けると嬉しいです。


ㅤ2月14日。

 

「くー………………すー……………」

 

ㅤ今年もこのイベントがやって来た。

 

「……うみゅ…」

 

ㅤ色々と大変な1日。

 

「……………ゅ…」

 

ㅤそう、バレンタインだ。

 

「………………………だい………しゅけ……」

 

ㅤ朝っぱらから、中々ハードな事態になり兼ねている。

ㅤ起きたら、自分の寝ているベッドに7歳の少女が…布団の中へと潜り込んでいた。

 

「………ぅゅ…?」

 

…きさらちゃんは、相変わらずの調子だ。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「だいすけ、おはよっ」

「おはよう、きさらちゃん」

 

ㅤ暫くして、きさらちゃんが俺のベッドから元気良く起きてきた。

ㅤ彼女が起床した時の為に、軽く口に出来る物を用意しておき。

ㅤするときさらちゃんは、俺の膝の上に座り、此方をじっと見つめて来る。

 

「…ぅゅ」

「食べる前に、歯磨きしに行こうか」

「うぃ」

 

ㅤ早く食べたい。

ㅤそんな心の声が、彼女の表情から察せた。

ㅤだが然し、寝起きは歯磨きをしてから物を口にしないと、色々と大変な事になる。

ㅤ詳しくは語りたく無い。

ㅤ強いて言うなら、寝て起きたばかりの口内には菌が沢山湧いているから。

ㅤとでも言えば説明つくか。

ㅤ兎に角それは置いて、だ。

 

ㅤ何故きさらちゃんが、俺のベッドに侵入していたのか。

ㅤ確かに何時もと変わりないが…部屋の鍵が最早意味を成していない。

ㅤまさかきさらちゃんが解錠出来る訳が無い。

ㅤという事は必然的に。

 

「ヴェスパローゼさんか…」

「…ろーぜ?」

 

ㅤ歯磨きを終わらせ、俺の膝の上に乗りながら菓子類を口にするきさらちゃん。

ㅤしっかりと主食を用意したつもりが、まさかデザートから食べ始めるとは。

ㅤ今度からは、きさらちゃんが主食を食べ終わってからデザートを出すか…。

 

「…ん、そう。ちょっとね。ヴェスパローゼさん…」

「ろーぜ…………、っ!だいすけ、こえ、みてっ」

「?」

 

ㅤヴェスパローゼさんの名前を口にすると、きさらちゃんは気にする素振りを見せたが…。

ㅤ逆にヴェスパローゼさんの名前を聞いて、思い出した事も有った様だ。

ㅤきさらちゃんは何かを両手に持ち抱える。

ㅤ俺は、彼女の持つそれが何なのか、パッと見て直ぐに思い付いた。

 

ㅤ帽子だ。

 

ㅤいや、帽子というよりかは…つばの長いハット、という方が正解か…?

ㅤ魔女達が被っていそうなハロウィンハットだ。

ㅤハロウィンとか何時の話だ。

ㅤ変な事に巻き込まれたく無いと、自室に立て籠もっていた思い出しか無いぞ。

ㅤ関係の無い話に逸らしてしまったが…。

ㅤ強制的に路線を戻すとしよう。

 

ㅤきさらちゃんが両手で持っているハット。

 

ㅤ然し、驚かされたのはその素材だ。

ㅤ少しばかり光沢が目立つなと気になったが、明らかに、材質が従来の帽子に使われる物では無い。

ㅤそして漂う若干な甘い香り。

 

ㅤこれは…。

 

「チョコレート…?」

「うぃ。ろーぜが、つくぅてくえた」

「絶妙な硬さを維持させて…良く作ったもんだなぁ。でも、何故に」

「だいすけ、こっち、くゆ」

「?」

 

ㅤあまり詳細を確認出来ていないのは怖いが、きさらちゃんは迷わずに俺を引っ張って連れて行く。

ㅤ何処に。

ㅤさぁ。

ㅤ俺には全く分からない。

ㅤヴェスパローゼさんの企み然り。

ㅤ流石に此ればかりは察せないからな。

 

…ふと、少し移動した所で、きさらちゃんが足を止めた。

ㅤその場所とは。

 

「………風呂場?」

「どあぃやー」

「ど、ドライヤー…?えっと………これで良いの、かな」

「あいがとっ」

 

ㅤ朝のシャワー。

ㅤそれが俺の日課だ。

ㅤ然し何故、俺が愛用しているこの風呂場に来たのか。

ㅤそして何故、服も着衣したままなのか。

 

…いや?衣服は着たままで無いと、色々と大変な事になる。

ㅤ幾ら何でも7歳の少女の裸体を見る訳無いだろう。

ㅤ間違い無く警察沙汰に繋がってしまう。

 

ㅤだが、それにしても謎だ。

ㅤどうしてきさらちゃんは、態々此処にーー

 

「だいすけ、あっち」

「…後ろを向いてれば良いのかな?」

「うぃっ。きぃがいいってゆぅまで、むいちゃだめ」

「…了解」

 

ㅤきさらちゃん、何をするつもりだ。

ㅤ抑、ドライヤーを扱えるのか。

ㅤ俺として火傷やら何やら、心配で心配でならないのだが。

ㅤ間違ってきさらちゃんの可愛らしい手に、あっつい熱風が…。

ㅤ駄目だ止めろ、それが現実になったら俺は死ぬ。

ㅤきさらちゃんを傷付けたという責任を負って。

 

ㅤ本当、彼女が何をするのか気になって仕方が無い。

ㅤあまり危険な事はしないで欲しいが…。

 

ㅤふと、ドライヤーのスイッチが入った音が耳に響く。

ㅤそれと同時に、少しばかり弱めの風音が頭にも響いた。

ㅤ弱め…という事は熱い筈だ。

ㅤ十分に気を付けてね…きさらちゃん。

ㅤ心でそう願うばかりだった。

 

ㅤというか何故ドライヤー。

 

「………………ん…だいすけ、いぃ」

「きさらちゃん…火傷とかーー」

「…はっぴぃ、ばえんたいんちぉこ」

 

ㅤ呼ばれたから振り返ったものの。

ㅤハッピーバレンタインチョコ。

ㅤ彼女は確かにそう言った。

ㅤてっきり、振り返ったらチョコを手渡されるという、夢の様な展開かと思ったが…。

ㅤきさらちゃんの行動は、俺の想像斜め上へと突き進んでいた。

 

ㅤ先程見せてくれた、チョコレートで出来た帽子…それをきさらちゃんが被り。

ㅤドライヤーで溶かす。

 

「…!?な、何してるのきさらちゃんっ…!!」

「ぅゅ…ばえんたいんちぉこ、きぃ…」

「………まさか、きさらちゃん自身がバレンタインチョコレートって…?」

「…うぃ。ろーぜが、こうすれば、だいすけ…たべてくぇるって…」

 

ㅤ待て。

ㅤ頼むから待ってくれ。

ㅤ突っ込みどころ満載過ぎて、何から手をつければ良いのか分からない。

ㅤというか、きさらちゃんって普通にドライヤー使えたのか…!?

ㅤ待て…その前に、えっと…ヴェスパローゼさんが、きさらちゃんに変な事を吹き込んでーー

 

「だいすけ…べたべた、すゆ…」

「っ…!仕方無い…きさらちゃん、この風呂場を使ってチョコを流そ。出来るだけ急がないとーー」

「きぃ…ひとり、おふよ…はぃれない…」

「あの方はこれを見越した上できさらちゃんにさせたのか…!!」

 

ㅤ本当に、ヴェスパローゼさんは…。

ㅤ良くも悪くも頭が働く事。

ㅤ『悪どさ』まで目立っている事、本人は気付いているのだろうか。

ㅤいや…承知の上で仕掛けて来たのだろう。

ㅤ兎に角、チョコレートまみれのきさらちゃんを浴槽に連れてかねば…。

 

「…だが、どうしたものか」

「だいすけ、いっしぉはいゆ」

「それは…………………………」

 

ㅤ思考の停止…なんて、している暇等無い。

 

「…取り敢えず、そのチョコレート…流そうか」

「うゆゆ〜♪」

 

ㅤ駄目だ…きさらちゃん、純粋過ぎていけない。

ㅤ本当、一切の曇りも無い純粋さ。

ㅤそんな幼い少女を穢す訳にはいかない。

ㅤ早いとこチョコレートを流してあげて、事を済ませよう。

 

ㅤ最悪リゲルさんやあづみさんにお願いする他、無いか…。

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

happy Valentine's day No.2

ㅤさて、準備が出来たのは良いものの。

ㅤ俺ときさらちゃんは互いに、タオル一枚巻いただけ。

ㅤひょんな事でずり落ちない事を願おう。

 

ㅤ因みに、あづみさんやリゲルさんは未だに就寝中だ。

ㅤそれならいっそ、誰にもバレずにこのまま終わってくれ。

ㅤヴェスパローゼさんは音信不通だしな…態とというのはバレバレだけれど。

 

ㅤふと、手を握られる感触が伝わってくる。

 

「だいすけっ」

 

ㅤ目線を下にやると、きさらちゃんが此方を見つめていた。

ㅤチョコレートでべたべたになっているきさらちゃんが。

ㅤこれは…改めて見ると凄まじい光景だな。

 

「きさらちゃん…、そうだね…先ずはシャワーでチョコレートを軽く流そうか」

「うぃ」

「問題はチョコレートを完全に落とす方法だけど…其処ら辺は詳しく無いからな。何にせよ、助っ人は必須か…」

「ろーぜ?」

「ヴェスパローゼさんが主犯の様な物だからね…違う方にお願いするしか無いかな」

 

ㅤ彼女とそんな会話を交わしつつ、シャワーの蛇口を捻る。

ㅤすると、温水が勢い良くシャワーヘッドから噴出された。

ㅤ噴出口を下に向けておいたから良かったものの、反動でシャワーホース其の物が全体的に震える。

ㅤ最悪顔面に水圧アタックをかまされる所だった。

ㅤ次からは気を付けねば…。

 

ㅤと、大分温度が調節出来た所で、風呂場用に作られた柔らかなクッションの上へと、きさらちゃんに座って貰う。

ㅤ勿論タオルは巻いたまま。

ㅤ何方かと言えばクッションの方が気になる?

ㅤそうだな…材質は………………忘れた。

ㅤ今はそれどこれでは無い。

ㅤ最早クッションの設定がガバガバだ。

 

ㅤこちとら焦っているのですよ、えぇ…!

ㅤ何故が故、バレンタインデーに、7歳という幼い少女と風呂場に居るんだか…。

ㅤだが、まあ…あまり深く気にしても仕方が無い、か。

ㅤこうなってしまった以上は何とかするしか無いだろう。

 

「…きさらちゃん、お湯、当てるね」

「ぅゅ…」

「ふふっ、大丈夫だよ。怖くないから」

 

ㅤ水圧を低めに、出来るだけ熱過ぎず冷た過ぎず。

ㅤ彼女の体に対しての適温を調整し、シャワーから流れ出る温水を、ゆっくりときさらちゃんの体に当てていく。

ㅤあまりに急だと、きさらちゃんがびっくりしてしまうからな。

 

「…どう、かな。この温度で大丈夫そう?」

「…ぅ……うぃっ」

「無理しないでね、言われた通りに調節するから」

「だいじょぶ、だいすけ……やさしぃ」

「ありがと、きさらちゃん」

 

ㅤ何だか…微笑ましいな。

ㅤ本当、きさらちゃんに対して異質な感情を持たない自分に感謝だ。

ㅤ急に話が変わるが…俺はこう言った幼い少女を性的な目で見るのは、熟大嫌いでな。

ㅤ少しばかり言葉遣いが悪くなるが…胸糞悪くなる。

ㅤそう言う趣味を持つのは勝手だが、実際、行動に移すという奴は少なからず居るからな。

 

ㅤ因みにだ。

ㅤ俺の中での基準、それはあづみさんまでの年代に言える事。

 

ㅤ要するに14歳。

ㅤ未だ14歳以下の少女に、手を出すやら自らの欲をぶつけるやら…意味は同じか。

ㅤ何れにせよ、そういった幼い少女が穢される姿は見ても聞いても気分が悪いな。

ㅤ心理学的には13歳以下がどうとか言われているが…如何せん、14歳の少女達が周りに多くてな。

 

ㅤ後は先程話していた『穢される姿を〜』という話…それが2次元であろうが一緒だ。

ㅤいやまぁ…2次元だからこそ、自分の欲をぶつけられるのだろうが。

ㅤじゃあ俺自身、そういった物を視界に入れなければ良いという話だが…あぁ、知っているさね。

 

ㅤ簡潔に終わらせよう。

ㅤ世の中物騒だからな。

ㅤ何としても俺が守らねば、という話だ。

ㅤ大分狂ったな…。

ㅤうむ、そんな自己主観的な話は置いといて。

 

「…あづみさんもきさらちゃんも、まだ幼い。だからこそ、守ってあげなければ。彼女達に手出しした輩は…生かしておかない」

「…だいすけ、しゃわ…たおゆ」

「ん?」

「とえた」

「…っ!?」

 

ㅤ考え込み、その最中。

ㅤきさらちゃんから名前を呼ばれたと思いきや。

ㅤ少しの間、温水を当てていた為かタオルの巻きが緩くなり。

ㅤきさらちゃんのタオルがずり落ちてしまっていた。

 

ㅤてっきり、タオルが肌にくっ付いてくれるかと…甘い考えが招いた悲惨な結果。

ㅤ俺は慌てて目線を横に向け、きさらちゃんに一言伝える。

 

「き、きさらちゃん…タオル、巻けるかな…?」

「ちぉこ、おちてきた」

「…っ!きさらちゃん、良い、此方に体を向けちゃ駄目だからね…!?急いでチョコレートを落としてあげるから…!」

「うぃっ」

 

ㅤもう何が何だか良く分からない。

ㅤ慌てふためく自分に『落ち着け』と言い聞かせるものの、頭では色々と考えてしまい。

ㅤ取り敢えずきさらちゃんの方を向き。

 

「えっとね…タオルの端、此処ね。これを脇で挟んで貰えるかな…?」

 

ㅤそう言って見ると、きさらちゃんは無言で頷き、両脇でキュッとタオルを挟み込む。

ㅤ最初からこうしておけば焦る必要は無かった…というのは知っている。

ㅤ兎に角、きさらちゃんの裸体を見ない様に全力を尽くしているからこそ、こうしてあたふたしてしまう。

ㅤまだまだ冷静さが足りないな…そう、痛い程実感した。

 

ㅤそんな事を思いながら、きさらちゃんの髪の毛に付いたチョコレートを、温水で流していく。

ㅤだが…チョコレートがそんな簡単に落ちる筈が無い。

ㅤ分かってはいたが、まさか洗剤を使う訳が無いだろう。

ㅤきさらちゃんの綺麗な髪の毛を、傷ませる訳にはいかないからね。

 

ㅤだとするとどうするか。

ㅤ先ずは応急処置程度に、以前の俺が使用していたシャンプーを使うしかないか…。

ㅤ今は髪の毛を切ってしまったから、あまり気にしていないが…一応ながら気に掛けてはいた。

ㅤヘアーがロングしていた時の話。

ㅤ傷むとパサパサになって、変に跳ねてしまうからな。

 

ㅤそんな時に使っていた、このシャンプー。

ㅤまぁ便利な事で。

ㅤって、商品説明みたいな話は捨て置いて。

 

ㅤ例のシャンプーを泡立たせ、きさらちゃんの髪の毛へと絡ませていく。

ㅤ長い髪を洗うのはお手の物さ。

ㅤ然し…実際に女性の髪の毛を洗うのは初めてで。

ㅤ扱いが中々、難しい。

ㅤ特にきさらちゃんの髪の毛は畝り、要はウェーブが掛かっているからこそ、更に難易度が上がっている。

ㅤ出来る限り優しく、チョコレートはしっかりと落とす様に、彼女の髪を洗っていく。

 

「…きさらちゃん、痛くない…?」

「ふゅ………きもち、ぃい……」

「なら良かった…。泡が目に入らない様に注意してるけど、万が一の時は教えてくれると嬉しいな」

「んっ」

 

ㅤ少しばかり体を揺らし、反応を示してくれるきさらちゃん。

ㅤ可愛い。

ㅤそして、らんらんと鼻歌を歌うきさらちゃん。

ㅤとてつも無く可愛い。

ㅤ彼女の鼻歌には、何時も癒される。

 

ㅤそんな癒しのひと時に、ふと。

 

「………………だいすけ、だぇかきたっ」

「えっ、と…誰だろうか。今は申し訳無いが出られないーー」

「へあ……はぃてきた」

「っ…!?まさか…!!」

 

ㅤアクシデントが発生した。

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

happy Valentine's day No.3

今回は番外編のみの更新となります。
体調を崩したり、本編のストーリーをしっかりと煮詰めたりと…結果、本編を更新するのが遅くなってしまいます。
申し訳御座いません…来週は更新出来る様、努めさせて頂きます(*´꒳`*)


ㅤ誰かが俺を訪ねて来た様だが、部屋に入って来たらしい。

ㅤこの時間帯に誰だ、というのは言うまでも無い。

ㅤ朝、俺の部屋を自由に出入り出来る人間は1人だけだ。

 

ㅤ何時も自室の扉には鍵を掛けているのだが…。

ㅤ今は緊急で出られないと、後で来訪者に謝る事で大体は許される。

ㅤだが今回は違う。

ㅤ毎朝俺の部屋に来てくれて、『おはよう』の声を掛けてくれる優しい少女。

 

「あづみさん…そう言えば、きさらちゃんの事で焦ってたばかりに…」

「あづ、まぃにちだいすけと、あってゆ?」

「…そう、だね。彼女と約束してる事が有るから…毎朝来てくれるんだよ」

「きぃ、うぁやましぃ…」

「まさかの…!」

 

ㅤしゅんとしたきさらちゃんから、意外なる一言。

ㅤ羨ましい…のか…?

ㅤいや、良く考えろ。

ㅤきさらちゃんはまだ7歳。

ㅤ起きたらヴェスパローゼさんが出掛けている、という事は少なからず有るのだろう。

ㅤまだ幼い彼女にとっては、寂しい事この上無いのかも知れない。

ㅤ成る程、納得する。

 

「…だが、どうしたものか。これは誤解を招き兼ねない」

「………?」

「あづみさん…頼みますから、風呂場には…!」

「…あしぉと、すゆ」

 

ㅤ来ない筈が無いよな。

ㅤあづみさんと顔を合わせたら、何て言えば良いのか。

ㅤ言い訳を考えようにも、所詮は言い訳。

ㅤ更なる悪い展開へと進んでしまう。

ㅤとは言え正直な話をして、こんな話を信じてくれるかどうか…。

 

ㅤいや。

ㅤあづみさんなら。

ㅤ信じてくれる、そう信じられる。

ㅤおどおどしている方がよっぽど怪しまれるだろう。

ㅤなら最初から、正々堂々と。

ㅤ事実を言えば呑み込んでくれるかもしれない。

 

ㅤと、悩み込んでいたその時。

 

コンコン

 

ㅤ風呂場のドアをノックする音が、全体に響いた。

ㅤ何だこの…一歩間違えれば終わってしまう緊迫感は。

ㅤというか抑、バレンタインに違う意味での胸の高鳴りを味わうとは。

ㅤ流石、色々な意味で戦場と謳われる日だ。

ㅤ去年然り今年も戦場だな、こりゃあ。

 

ㅤふと、彼女の声が風呂場に広がった。

 

「……だ、大祐くん?その………もしかしてシャワー浴びてる、のかな。タオル忘れてるみたいだから、持ってくるね」

 

ㅤあづみさんの声の後に続く様に、パタパタという走る音が一つ。

 

ㅤ相変わらず、なんて気が利く子だ事。

ㅤそうか、俺は焦って体を拭く為のタオルを忘れてたのか。

ㅤ何時もこんな調子では、あづみさんに申し訳無いな…。

 

「…今の内、きさらちゃん。髪の毛濯いじゃうね」

「あぃがとっ」

 

ㅤならば彼女が離れた今しか無い。

ㅤ俺は泡に包まれたきさらちゃんの髪の毛に、又、シャワーから流れ出る温水を当てていく。

ㅤかなりしっかりと洗ったからな…途中アクシデントが多々有ったものの、チョコレートに関しては問題無いだろう。

ㅤ全く、ヴェスパローゼさんは複数の意味でえげつないな。

ㅤ加えて自分から来る訳で無い為に、此方からは何とも言えない。

 

ㅤ本当、つくづく好きな様にされてるなと。

ㅤだがまあ…きさらちゃんに癒されている自分が居るだけ有って、其処には触れないでおきたい。

ㅤやはり可愛さには勝てないな。

 

ㅤそれは今に始まった事では無い、そう思いながら、きさらちゃんの髪の毛を包んでいる泡を流していく。

 

「………きさらちゃん、そろそろ終わるからね。………きさら、ちゃん………?」

 

ㅤ後はしっかりとこの泡を流すだけ。

ㅤそれで終了だときさらちゃんに伝えるものの、彼女からの反応が無い。

ㅤこれは、あれか。

 

「………くー………………す……………」

「…寝ちゃってる。このままだと危ないな、早めに終わらせよう」

 

ㅤ幼い子供は、髪の毛を洗って貰っている最中に寝てしまう、というのは割と聞く話だ。

ㅤ然し彼女は座ったまま、何時前に倒れても可笑しく無い状況。

ㅤこくん…こくん…と、体を揺らすきさらちゃん。

ㅤ最早意識は夢の中、一歩手前という所か。

 

ㅤ俺はきさらちゃんが倒れない様に、自分の胸元辺りを利用し、彼女の体を支える様にする。

ㅤ要するにきさらちゃんの背中、後頭部と、俺の体がぴったりくっ付いている状態だ。

ㅤ今更恥なんて感情は持たない。

ㅤきさらちゃんを早く風呂場から上がらせ、寝かせてあげねば。

 

ㅤと、ちゃんと洗えているか下に目をやる。

ㅤその瞬間、俺は又もや慌てて目を背けた。

 

ㅤきさらちゃん自身が寝てしまった事により、彼女が脇で挟んでいたタオルが落ちてしまっていた。

ㅤこれは…一大事だ。

ㅤどうする、一度シャワーを置いて、彼女の体を見ない様にタオルを持ち上げるか?

ㅤいやだが…きさらちゃんの体を支えてしまっている以上、此処から動けない。

ㅤ地べたに置く、と…シャワーが暴れ出す可能性が限り無く大。

ㅤ後は…目視出来ないまま、彼女の髪の毛を洗うか。

ㅤそれはあまりに適当だろう。

 

ㅤあとは…何か無いかーー

 

「大祐くん、タオル持って来たよ………あれ…?」

 

ㅤこのタイミングでーーいや、寧ろ助かったというべきか。

 

「これ、きさらちゃんのお洋服………?」

「あづみさん、俺の声、聞こえてます…?」

「だ、大祐くんっ…?えっと…聞こえてるよっ」

「すみません、緊急事態でして…あづみさんに助けて貰いたいのですが…」

 

(此処に置いてあるきさらちゃんのお洋服…凄く気になる、けど…)

 

「う、うんっ。でも…私、何すれば良いの、かな…」

「その………あづみさんも、此方に来て頂けると」

「…ふぇっ…!?」

 

ㅤ可愛い。

ㅤじゃなくて。

 

「割りと大変な状況でして…、無理を承知でお願い出来ると」

「あぅ……えと……だ、大祐くんは、良いの…?」

「あづみさんさえ良ければ」

「〜〜〜!うぅ……///その………す、直ぐ行くねっ」

「毎度毎度、申し訳無いです…」

 

ㅤ良かった…何とか窮地を脱出出来そうだ。

ㅤ然し、あづみさんと会話する為にシャワーヘッドを手で押さえ、音を極力消したは良いが…。

ㅤ若干彼女の服を脱ぐ音が聞こえる。

ㅤ何時もの暖かそうな衣服…そのリボンを解く音。

ㅤ更には『パサッ』と、衣服が地面に落ちるーー

 

ㅤ止めだ、止め。

ㅤあづみさんに対して、感情を抑えられない自分は確かに居るが、今はそれどころじゃ無いだろう。

ㅤ彼女にも協力して貰って、この窮地を脱すると決めたのだ。

ㅤ上手く行くと良いが………………。

 

 

 

 

 

ーーー

 

 

 

 

 

「お、お邪魔します…」

「あづみさっーー」

 

ㅤ死ぬ。

 

「だ、大祐…くん…?」

「………………いや」

 

ㅤ彼女がタオルだけを巻いた姿、それを目にするなんて初めてで。

ㅤなんか、こう…言い知れぬ感情がーー

 

「…っ、きさらちゃん…?」

「そうなのですよ…事情は後程説明致しますけど、今はきさらちゃんのタオルを持ち上げてくれると………」

「大祐くんは、大丈夫?」

「えぇ、俺は何とも無いですよ」

「ほっ…」

 

ㅤあづみさんは胸に手を当て、安堵の息を吐く。

 

「どうかしました?」

「あっ、ううん…緊急事態って聞いて、大祐くんに何か有ったのかなって…」

「ふふっ、怖くなりました?なんて」

「もぅ、本当に心配したんだからねっ」

「直ぐに心配してくれるだなんて、俺は良いお嫁様を持ったものだ…可愛いし」

「お、お嫁さっ…えへへ…///」

 

ㅤ照れてる姿も相変わらず可愛いこと。

ㅤそれに、もじもじしながら此方に近付いて来るのは反則だ。

ㅤ頰を真っ赤にして真横に来られると、此方まで恥ずかしくなってしまう。

ㅤ先まで『恥は捨てた』的な発言をしていた自分は、何処に行ったのか。

 

「本当、新妻新夫みたいね。初々しい夫婦だこと」

「…っ!」

「ヴェスパローゼさん…貴女、きさらちゃんに何て事を教えたのですか」

「ふふっ、私ときさらのバレンタインチョコ、楽しんで貰えたかしら?」

「俺の話…」

「聞いてるわ、安心なさい?」

 

ㅤ何時もの黒いドレスを身に付け、堂々と浴室のドア前に立つヴェスパローゼさん。

ㅤ全て彼女が仕組んだ事だというのは、最早語るまい。

ㅤそして地味に警戒しているあづみさんが可愛い。

ㅤきさらちゃんは…寝たままだ。

 

「ふぅ…大祐も、堅物ねぇ。あのまま、きさらを食べてしまえば良かったのに」

「まだ7歳の女の子に手を出せと」

「14歳の少女に、自分の子供を孕ませた男性が、口にする台詞かしら?」

「まだあづみさんのお腹に子供はーー」

「ふぇっ…大祐くんの、もう私のお腹に…」

「ストップ、あづみ」

「嬉しい、な…///」

「ヴェスパローゼさんの一言で話が脱線しましたけど!!」

「あら、良いじゃない。微笑ましいわ?」

 

ㅤいやいや、『微笑ましいわ』じゃないですよ…。

ㅤこちとら必死で問題を解決しようとしてるにも関わらず、ヴェスパローゼさんは何時もの調子で俺を揶揄う。

ㅤ本当、勘弁願いたい。

ㅤそして、その揶揄いに半分慣れて来ている自分が居る。

ㅤ最早勘弁願いたいとか言う話では、無いのかもしれないな。

 

ㅤ兎に角、バレンタイン問題を引き起こした張本人であるヴェスパローゼさん。

ㅤ彼女とあづみさんが、今一番頼りになるのは他ならない。

ㅤ自分に引き金を引いて来た人物が、1番頼りって…。

ㅤふと、そう思ってしまう。

 

ㅤだが、どんな状況でもヴェスパローゼさんが頼りになる事に、何ら違いは無い。

ㅤ彼女には、色々と見習うべき点が有るからな…頭が上がらないのは事実。

ㅤ何方かと言えば、無理矢理上げさせられているというのが正しいか。

ㅤ全てはヴェスパローゼさんのペースで。

ㅤ全く、何時もと変わりないじゃあないか。

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

happy Valentine's day No.4

来週もしっかり、本編も番外編も更新出来る様に(*´꒳`*)


「大祐くんっ、きさらちゃんの髪の毛…」

「っ!そうでしたね…あづみさん、有難う御座います」

「私も手伝おうかしら?」

「抑、貴女がしてあげるべきでは…」

「じゃあ、最初から私に連絡すれば良かった、という話にはーー」

「なりませんよ。連絡出来る状況じゃ有りませんでしたからね。あづみさんが来て下さって、本当に助かりましたよ…」

「えへへ…」

 

ㅤそう言った会話を繰り広げながら、きさらちゃんの髪の毛を洗って行く。

ㅤ横隣であづみさんが、きさらちゃんの巻いているタオルを手で抑えてくれていて。

ㅤヴェスパローゼさんは変わらず…。

ㅤと、思いきや。

 

「…ふふっ、流石にその体勢は辛いでしょう?やっぱり私も手伝うわ」

 

ㅤそう、此方に近付き。

ㅤ寝ているきさらちゃんの背中を、頭を支えてくれたではないか。

ㅤ正直な話、驚く以外に他は無い。

ㅤだが。

 

「…ですけど、ヴェスパローゼさん。それでは貴女が濡れてしまうのでは…?」

「それでも、貴方の目の前で裸体になる訳にはいかないでしょう?」

 

ㅤふふっ、と彼女は微笑み、優しい瞳をきさらちゃんへと向けている。

ㅤ本当に…我が娘に対する笑みの様だ。

ㅤ何とも、母性本能を感じさせられる。

ㅤだが、その言葉には何とも言えない…返せない。

 

ㅤとはいえ、ヴェスパローゼさんは今日もドレス姿だ。

ㅤ相も変わらず、そのドレス姿が似合っているのは…彼女自身が美しいからと偽り無く言えるだろう。

ㅤ派手ながらも黒という色で控えめに見せ、何方かと言えば、その綺麗な肌を露出している方という…。

 

ㅤ女王様其の物の、基本スタイルなのか。

ㅤ少しグッと来るものが有る。

 

「…あら」

「あら?」

「…?」

 

ㅤふと、ヴェスパローゼさんの一言に、俺とあづみさんが同じ反応を示した。

 

「もう…仲が良いアピールは、沢山見てきたわよ?」

「いやいやいやいや…、絶対違う話ですよね」

「ええ、勿論。…ふふっ、少し…羨ましいと思うのは、駄目かしら」

「…!」

 

…まさかの、だ。

ㅤヴェスパローゼさんのこう言った、急に方向転換して攻めてくるのは卑怯だ。

ㅤ思わずーー

 

「大祐、顔が赤いわよ?」

「っ、話を戻しましょう…」

「あら…残念ね」

「大祐くん、だ…大丈夫…?」

 

ㅤ俺が顔を赤くした事に対し、弄ぶ様な態度を示すヴェスパローゼさん。

ㅤ一方で、俺が直ぐに逆上せる事を知っているからこそ…心配してくれるあづみさん。

ㅤこう見ると…珍しい二人と一緒に共同作業だ。

ㅤあづみさん&リゲルさんorベガさんや、ヴェスパローゼさん&きさらちゃんorベガさんor和修吉さんは…当たり前の様に目にする光景だが。

ㅤあづみさんとヴェスパローゼさん…。

ㅤ二人は、どんな会話を繰り広げるのだろうか。

 

「………って、ヴェスパローゼさん」

「何かしら?」

「先程浮かべられた疑問、一体何に対してだったのです?」

「知りたいのかしら?」

「勿論…このままでは、気になったままです」

「ええ、別に構わないわ」

 

ㅤ先にも見せた『ふふっ』という優し気な笑みを、彼女は浮かべる。

ㅤ然し、その笑みに隠された邪の瞳を、俺は見逃さなかった。

 

…ふと、片腕を掴まれる感触が伝わって来る。

 

「………………」

 

ㅤ其方を見ると、あづみさんが訴え掛ける様な瞳で此方を見つめていた。

ㅤ『大丈夫か』と。

 

ㅤそんな彼女に対し、俺は『大丈夫』という微笑みを返し、『心配しないで?』という意味を込めてあづみさんの頭を撫でる。

ㅤすると、小動物の様に身を縮こませるあづみさん。

ㅤ頰を赤らめ、それでも、にこにこと笑っている。

ㅤ反則級の可愛さだ。

 

「…私の口を開かせないつもりかしら?」

「そういう訳では御座いませんよ…」

「ふふっ」

 

ㅤヴェスパローゼさんは相変わらずの調子で…だが、確かに。

ㅤ心配してくれるあづみさんへ、反応を返してあげるのも大切だが、会話を交えているヴェスパローゼさんへとしっかり返答するのも大事。

ㅤ其処等辺、器用にこなせなければ…。

ㅤ彼女達から好意を寄せて貰っている身として、情けない。

 

ㅤとは言え、人には限界が有るのも又事実。

ㅤだからこそ、自分に出来る最大限を、彼女達へ。

ㅤむぅ…難しい事に変わりは無いが。

 

「考え事かしら?」

「何故バレたのですかね…」

「貴方と居る時間は、きさらや其処の少女よりも確かに少ない。けれど…此れでもしっかり見ているのよ?」

「…ヴェスパローゼさんはーー」

「ふふっ…貴方を何時でも、私の物に出来る様に」

「俺は、物じゃ、御座いませんから!」

 

ㅤ全く…隙を見せたら直ぐにでも襲って来そうな勢いだ。

ㅤそれがヴェスパローゼさんらしい、とも言えるが…。

ㅤあづみさんの目の前でそう言った事を言うのは、狙ってなのか。

ㅤ何れにせよ、此れではあづみさんが…。

 

「…むぅ」

「あら、頰を膨らませて…どうしたのかしら」

「だ、大祐は…渡さない…もん」

「…ふふっ、良い表情ね。流石、一線を超えただけは有るわ?」

「はわっ…///」

 

ㅤヴェスパローゼさんのお言葉に、あづみさんが可愛らしい反応を見せる。

ㅤきさらちゃんは相変わらず、胸元で寝息を立てているし…。

ㅤ可愛い2人と美しい1人。

ㅤこうして考えると、何だか感慨深いものが有る。

ㅤ然し…悩み始めては又、ヴェスパローゼさんに察せられる。

ㅤ此処は取り敢えず、物事をしっかりと片付けてから、だな。

 

ーーー



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。