タグを御覧いただければおわかりでしょうが、この作品は真・恋姫†無双と特攻の拓のクロス作品です。で、タイトルやタグを見ればこれまたおわかりでしょうが、出てくる拓の人物はあの三人です。
ですので、元ネタがわからない方にはあまりお勧めしません。元ネタがわかって、尚且つ楽しめるかな? と思った方だけ読むことをお勧めします。
三話程度の短編になる予定です。御要望や需要が多ければ、もう一つぐらいオマケで投稿するかな? 程度に考えてます。
長々と失礼しました。短いお付き合いになりますが、どうぞお楽しみ頂ければ幸いです。
かつて、三柱の神を背負った男たちがいた。彼らは時には互い同士で争い、時には互いで協力し合って、一言では表せない複雑な関係を築いていた。
そんな彼らだったが、心の奥底ではお互いを認め合っていた。そして、そのうちの一人が言ったのだ。
俺らは兄弟(ブロウ)だ、と。
彼以外の二人も中々口には出したがらなかったが、それは同じ想いだった。
彼ら三人が揃えば向かうところ敵はなく、気持ち良いぐらいに勝ち続けていった。そして、そんな日々はずっと続くものだと漠然とだが三人とも思っていた。
しかし、運命は皮肉だった。
彼らのうちの一人が交通事故により、あまりにもあっけなくその若すぎる生涯を終えてしまった。残された二人は慟哭し、その理不尽さにこれ以上ないほど憤った。
だが、時間は戻らない。死が覆ることはない。いくら認めたくない事柄でも、現実に起こってしまえば認めざるを得ないのだ。時間は止まることがないのだから。
そして残された二人は今日も生きる。失った兄弟のためにも…
「チッ、もう終わりかよ」
つまらなそうに一人の男が呟くと、その手を放した。拘束から解放されたモノがどうと音を立てて地面に倒れこんだ。
倒れこんだそれは、いかついガタイをした男である。その身に特攻服を着ている、いわゆる族という連中だった。そしてその顔面は男にしこたま殴られたのか、酷く腫れ上がって流血していた。
そして呟いた男は、風神の刺繍をしてある特攻服を背負っていた。
「拍子抜けもいいとこだぜ…」
その傍らにはもう一人の男。その周囲には同じように小刻みに痙攣している族の連中が転がっていた。そしてその転がっている連中は一人の例外なく、グシャグシャになっている。
つまんなそうというか、不完全燃焼といった表情で懐からタバコを取り出すと、それに徐に火をつけて男は紫煙をくゆらせた。
こちらは、雷神の刺繍の特攻服だった。
「キヨシ、火」
「あぁ!?」
風神の男が雷神の男に手を向けた。
「…ったく、しょーがねーな」
雷神…キヨシが懐からライターを出すとそれを風神に放った。風神はそれをキャッチすると同じくタバコに火をつけて咥える。そして彼自身の愛車であるZⅡにその身を預けて軽くふかした。
「よぉ、ヒロシ、これからどうするよ?」
「あ!?」
風神…ヒロシから、渡したときと同じように放って返されたライターをキャッチすると、キヨシは尋ねた。
「そーだなー…」
トントンと灰を落すと、ヒロシが腕組みをして考える。
「こんなんじゃ前座にもなりゃしねえ。ストレス溜まるだけだぜ」
「全くだ」
二人してイラついた表情になって唾を吐いた。そんな彼らの周囲には、十人前後の特攻服の男たちが一人の例外もなく血達磨になって転がっていた。
何故こんなことになっているかというと大した話ではない。いつものように二ケツで走っていたらこの連中に難癖を付けられ、喧嘩を売られたのだ。もともと喧嘩っ早くて血の気の多い二人。しかも最近暴れていなかったこともあってか、ワクワクしながら売られた喧嘩を買ったものの、連中は拍子抜けするぐらい弱くてあっという間に片がついてしまい、今のこの状態というわけだ。
だが、それは仕方のないことである。何せこの二人は獏羅天の特攻一番機なのだ。並の族では満足に相手をすることも出来ない。要は彼らが強すぎたのである。
が、だからといってそれに納得するこの二人ではない。
「あー、クソッ!」
ヒロシが一番近くに転がっている族の腹に容赦なく蹴りを入れた。
「テメーらから売ってきてこれかよ!? ふざけんなよ、このどチンピラがぁ!」
当り散らすようなヒロシにおいおいと思ったキヨシだがその気持ちはよくわかった。何せ自分だって同じ気持ちなのだ。同じように八つ当たりしてもいいのだが、そんな真似をしても腹が減るだけなので止めた。
八つ当たりしているヒロシを尻目に、キヨシはタバコをふかして何の気なしに周囲に目を走らせる。と、不意にあるものに目が止まった。
「あ」
そして、思わず一言呟いた。
「あぁん!?」
何も反応のないサンドバッグを蹴ることに飽きたのか、ヒロシがキヨシに視線を向けた。
「どーしたよ?」
「あれだ、あれ」
「あ?」
尋ねるヒロシにキヨシはタバコである方向を指した。ヒロシがそっちを見ると、そこには聞いたこともないバンドのCDのジャケットの看板があった。
そんなものに何故キヨシが反応したかというと、そこに書いてある絵だった。そこには、猛々しい龍の絵が書いてあったからだ。
「チッ…」
それを見て思うところがあったのだろう、ヒロシが再びタバコを咥える。
「そういやぁ、もうすぐ一年か…。時貞のバカヤローが逝っちまってから」
「ああ」
呟いたヒロシにキヨシが頷いた。
「はえーもんだよ」
「フン、止めとけ止めとけ」
「あ?」
ヒロシが何を言ってるかわからず、キヨシが眉をしかめた。そんなキヨシに、ヒロシはニヤリと意地の悪い笑みを浮かべる。
「筋肉ゴリラのおめーが感傷に浸るなんざ似合わねーよ。明日雪になるぜ?」
「んだとぉ!?」
キヨシも黙っちゃいない。
「てめーが言えた義理かコラ! 頭の悪さはどっこいどっこいだろうが、このボケ!」
「あぁん!?」
お互いのこめかみに青筋が浮かび、互いに相手の特攻服の胸座を掴んだ。
「んだこら!」
「やんのかテメー!」
お互い本気でガンを飛ばしあう。まさに一触即発な状況であった。が、
ぐううううっ…
まるでタイミングを見計らったかのように、どちらからともなく二人の腹の虫が鳴った。
『……チッ!』
そのことに毒気を抜かれた二人は、掴んでいたお互いの特攻服から手を放した。
「とりあえずメシにしようぜ」
「そーだな」
二人は頷くと、すぐ近くにあったファミレスへと単車を走らせたのだった。
「ありがとうございましたー!」
店員に見送られ、ヒロシとキヨシはファミレスから出た。その口には、互いに楊枝を咥えている。そしてお互い満足いくまで食べたのだろうか、入る前の険悪な雰囲気は綺麗サッパリなくなり、いつもの状態に戻っていた。
「ふぅ…さて…これからどうするよ、キヨシ」
楊枝で口の中をシーシーとやりながら、ヒロシが尋ねた。そして脇に顔を向ける。
しかし、そこにいるべきキヨシの姿はなかった。
「あん?」
何処へいったのかと辺りをキョロキョロ見回す。と、少し離れたコンビニに入っていくキヨシの姿があった。
「あのヤロー、まだ食い足りねえのかよ…」
流石に呆れた表情になって愛車のZⅡのところでタバコを吸いながら待つヒロシ。暫く食後の一服を楽しんでいると、ようやくキヨシがビニール袋を下げてコンビニから出てきた。
「ったく…」
ピンとタバコを弾くと、吸殻を足で潰す。
「何やってやがんだよ、てめー!」
当然の如くヒロシが詰問した。
「わりーわりー、ちょっとこいつをな」
「あ?」
キヨシが軽くビニール袋を持ち上げた。ヒロシがその中を覗くと、そこにはタバコが数箱と、缶ビールが数本入っていた。
「ふん、今夜飲るやつか?」
「ちげーよ」
「あ?」
キヨシの返答にヒロシが訝しがる。そんなヒロシにキヨシがニヤリと笑うと、
「これから時貞んとこに行こーぜ」
と、返したのだった。
「おいおい、マジかよ…」
ヒロシが額を押さえる。
「いーじゃねーか。どうせ楽しませてくれる奴らなんか会わねえだろうし、さっきみたいなどチンピラ相手じゃストレス溜まるだけだし、それにおめーも言ってただろ? もうすぐ一周忌だぜ」
「おめー、いつからそんな信心深くなったんだよ」
ヒロシが呆れた表情になった。
「んなわけねーだろ。それに、おめーもちょっと難しく考えすぎなんだよ」
「あ?」
キヨシの言ったことの意味がわからず、ヒロシが眉を顰めた。
「“兄弟”に会いにいくのに、理由なんかいらねーだろ? 拓ちゃんに会いにいくのに、理由がいるか?」
「…フン、ま、そりゃそうか」
ようやく納得したのか、ヒロシが単車に跨った。いや本当は、ただ表に出すのが下手なだけで、とっくに納得していたのかもしれない。
(ホント素直じゃねーよな、オメーも時貞もよ)
内心でニヤつきながらシートの後ろ部分にキヨシも跨った。
「出るぜ!」
「ああ!」
愛機のZⅡに火を入れ、風神と雷神は恐ろしい速さでファミレスを後にしたのだった。
「…ったく、俺らがこんな真似するなんてな」
「全くだ。時貞のヤロー、あの世でひっくり返ってんじゃねえか?」
「ハハハ、違えねえ」
ZⅡを走らせながら、ヒロシとキヨシはそんな会話を交わしていた。
二人はまず、彼らの兄弟…ブロウである龍神…天羽時貞が眠る墓所へと向かった。そこにタバコとビールを供えると、軽く二言三言言葉をかけて後にする。
そしてその後、どちらからともなく事故現場にも行こうということになったのだ。今はそこに向かう途上なのだが、自分たちのあまりにありえない行動に自分たち自身でも信じられず、笑いが止まらなかった。
「俺らも丸くなったのかねぇ…」
「バカ言ってんじゃねーよ。丸くなったヤローが、向こうから売ってきたとはいえ喧嘩の相手を血達磨にするかよ」
「それを言うなよキヨシちゃん」
軽快に口を滑らせながら、これまた軽快にZⅡを走らせるヒロシ。そしてもうすぐ事故現場の横浜ベイブリッジに差し掛かろうかという、とある見晴らしの良くない交差点でそれは起こってしまった。
青信号のため当然そこを通ろうとしたZⅡの横っ腹から、赤信号であるにもかかわらずダンプが突っ込んできたのである。
『なっ!?』
驚いて見上げるヒロシとキヨシ。運転席の運転手が舟を漕いでいるのが、彼らのこの世で見た最後の光景になってしまった。
獏羅天の風神雷神が事故死したという事実は、翌日には周辺の不良たちの誰もが知ることとなった。その報に喜ぶ者もいれば哀しむ者もいた。やりきれない思いを抱える者も、怒りで暴れる者もいた。しかし、誰が何をしようが起こってしまった事実は覆らない。こうして又一つ、不良少年たちの伝説が増えたのだった。
そして死んだ風神と雷神も、再びこの世に生まれるために輪廻の輪に加わる…はずだった。だが何の因果か、それは許されなかった。…いや、確かにその生命は終わりを迎えたのだ。しかし、まるでそんなことがなかったかのように二人はある舞台へとその存在を移したのだった。
見渡す限りの荒野に、この光景には実に不揃いな三人の少女がいた。彼女たちは一目散にあるところをめがけて走ってくる。
「あやー……変なのがいるよー?」
「男の人だね。私と同じぐらいの歳かなぁ?」
「二人とも離れて。まだこの者が何者か分かっていないのですから」
目的地に着いた三人が対象者を少し遠巻きに見ながら口々に好き勝手な感想を漏らす。そこに伏していたのは、風神。
「こ奴……何処から現れたんじゃ?」
「さっきは居なかった。だけど気がついたら居た。……さっきの光に関連づけるのが妥当でしょうね」
夜、岩だらけの荒野で褐色の女性二人が話している。その視線の先には言葉通り、先程まではその場に居なかった存在があった。
「光と共に現れた、か。……管路の占いの通りということか?」
「占い通り、ねぇ。……ということは、この人が天の御遣いって奴かな?」
その背中には、雷神を背負っていた。
生を終え、死を迎えたはずの風神と雷神は何の因果か悪戯か、こうして場所も時代も歴史さえも違うこの世界…外史で再び生を得ることとなった。
そして……
陳留。
そこにある王城で、一人の少女が肩を怒らせながら歩いている。猫耳のフードを被り、身の丈は小さいのだが顔は赤く、表情も憤怒に塗れ、怒りに燃えているのが誰の目からも明らかに見て取れた。
「! ちょっと、そこのあんたたち!」
少女は少し先に居た兵士の一団に、まるで怒鳴るかのように声をかけた。
「! こ、これは荀彧様!」
兵士の一人が緊張気味に答えた。残りの連中もその剣幕に圧されたのだろうか、ビシッと姿勢を正す。
「あの男、何処にいるか知ってる!?」
単刀直入に彼女…荀彧が尋ねた。
「あの男…ひょっとして、御遣い様のことですか?」
兵士の一人がおずおずと口を開く。
「あんた知ってんの!? 何処に言ったか答えなさい!」
返事をした兵士に食って掛かるように荀彧が睨んだ。
「そ、その、天気が良いから外で昼寝でもしてくると…」
「…何ですって?」
兵士の返答を聞いた荀彧がワナワナと身体を震わせながらゆっくりと俯いた。
「じゅ、荀彧様?」
おずおずと兵士の一人が声をかける。と、
「ふ、ふ、ふ、ふざけんじゃないわよーーーっ!!!」
彼女…荀彧は突如顔を上げて爆発した。そして兵士達は全員耳が暫く使い物にならなくなるという被害を被ったのだった。
「Wow…」
王城の屋根の上でお日様にあたりながら気持ちよさそうに昼寝をしていた男が目を開けて上体を起こした。
「相変わらず小うるさいTinyだぜ…」
男は大きく欠伸をすると、うーんと伸びをする。そして身体を解すためだろうか首を左右に捻った。
銀髪に褐色の肌。そして紅い瞳の、見るからに先程の荀彧や兵士達とは異質な風体をした彼の背中に宿っていたもの。
それは、龍神だった。
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中
都である洛陽から少し離れた、とある開けた平野。今ここに、天下の諸侯が数多く軍勢を率いて集結していた。その目的は中央を支配し、圧制を敷く董卓を倒すため…世に言う、反董卓連合である。
その中を、諸侯が集まる軍議の場所目指して進む一団がいた。今は平原の相の身分である劉備…真名は桃花。そして彼女の護衛兼お供である関羽…真名は愛紗と、張飛…真名は鈴々の義理の三姉妹である。
「でも、ようやく着いたね~」
そう口を開いたのは桃花だった。
「ええ。しかし、着いて早々軍議とはいい頃合に到着したものです」
「日頃の行いの賜物なのだ!」
「ふふっ、そうだね」
女三人寄れば姦しいというが三姉妹は和気藹々といった雰囲気で楽しそうに話している。そんな三人を、少し後ろでボーっと見ながらついてくる影が一つ。
「ご主人様?」
その視線に気がついたのか、桃花が自分たちより少し後ろでこっちを見ているその人物に話しかけた。
「あぁ!?」
思わず眉を顰めて聞き返したその人物…トレードマークのサングラスこそかけていないものの、地下足袋にニッカボッカ、そして風神の刺繍のしてある特攻服。…まぎれもなく獏羅天の特攻一番機である風神、韋駄天のヒロシだった。
「ひぅ!」
刺すようなヒロシの返事に、思わず桃花が愛紗の影に隠れてしまった。
「こ、怖いよ~、ご主人様ってば~…」
「あ、ああ、ワリィ…」
怖がらせるつもりは毛頭なかったのだが、ついいつもの癖で凄んでしまい、ヒロシがすまなそうに謝罪した。が、
「っと、それより桃花!」
何かに気付いたヒロシが桃花の名を呼ぶ。
「な、何?」
おずおずといった感じで桃花が答えた。
「いつも言ってんだろーが! その『ご主人様』ってのはいい加減ヤメロ!」
「う…だって…」
ヒロシの指摘を受けた桃花がシュンとする。
「ご主人様はご主人様だし…」
「だから名前で良いって言ってんだろ?」
「で、でもぉ…」
助けを求めるように桃花が義理の妹である愛紗と鈴々に視線を向けた。しかし、
「ヒロシ殿が再三そう仰られているのですから、それでいいのではないですか?」
「鈴々はお兄ちゃんって呼んでるから、どっちにしろ関係ないのだ!」
「うー…二人とも、薄情だよ」
救いの手は差し伸べられなかった。仕方なくヒロシと視線を合わせると、
「その…すぐには無理だと思うけど、なるべく努力しますから、とりあえずそれで勘弁してもらえませんか、ご主じ…っとと、ヒロシ…さん」
「チッ、しゃーねーな…」
言葉通り、本当に仕方ないなといった感じでヒロシが溜め息をついた。取り敢えず了承を得たことに、桃花はホッと一息ついた。
「さて、それでは参りましょう」
「うん、そうだね」
愛紗が促して桃花が頷くと、一向は再び目的地へ向かって歩き出した。三姉妹はすぐにいつものように賑やかになる。
(しっかし、未だに今の状況が信じられねーや)
先程までと同じようにそんな三人を後ろからボーっと見ながら、少し後ろで彼女たちの後についていくヒロシ。そうしながら、もう何度目になるかわからない、今の自分の状況に思いを馳せていた。
確かにZⅡの横っ腹に居眠り運転のダンプに突っ込んでこられ、ヒロシはキヨシと共にアスファルトに放り出された。全身をしこたま強打し、ろくに動けずに意識も朦朧としていく中、あっけねーと思いながらヒロシはその目を閉じた。そしてそのまま終わるはずだったのに、何故か意識のある己に戸惑いながらもゆっくりと目を開けると、その目の前にいたのが桃花、愛紗、鈴々の三人だったのだ。
初めて彼女たちを見たヒロシの感想は、みょーなカッコしてやがるなというものだった。だがすぐに、周囲の景色がアスファルトの道路でもなければ今の時間が夜でもないことに気づいたヒロシが、とりあえず目の前にいる桃花たち三人に事情を聞く。そこで得られた情報に、ヒロシは頭がパンクしそうになった。
曰く、ここは幽州とかいうところの、五台山とかいう山の麓である。
曰く、ここは漢とかいう国である。
曰く、世が乱れ、盗賊が蔓延っている。
曰く、そんな世を正すために旗揚げした。
等々、ヒロシとしては、はぁ~? とか、おいおい…とかのフレーズの連発であった。そんな予想外どころか頭の片隅にもない事態に直面したヒロシは、目の前の三人の頭がイカレてるんじゃないかと思ったのだ。そして、彼の中でそれを決定付けたのが、この一言だった。
曰く、管路という占い師がこの地の戦乱を収めるために、天の国から天の御使いなる人物がこの国に降り立つと予言した。そして、自分こそがその人物だ…と。
それを聞いたヒロシは、彼にとっては非常に珍しいことに怯えた様子で乾いた笑いを浮かべた。そして額に汗をかきながら、しゅたっと軽く右手を上げると、じゃ、じゃあなと言い残して一目散に三人から逃げ出したのだ。
やべえ、やべえよ、あいつら…。
そのときのヒロシの偽らざる本音である。そんなヒロシの突然の逃走にビックリして固まった桃花たち三人だったが、少し経ってようやくヒロシが逃げたことに気付き、慌ててその後を追ったのだ。
三人を置き去りにしたヒロシは、とりあえず視界に入っていた集落に逃げ込んだ。が、そこの様子を見て愕然となる。
というのも、自分が知っている街の形とはまるで違っていたからだ。コンビニも、自販機も、ビルも道路も車も、単車すらそこにはない。それに、行きかう連中の姿も、現代の日本ではありえない装いをしていた。
どーなってんだよ、こりゃあ…
目の前の光景に呆然となるヒロシ。だがそれは集落の住民にとっても同じである。いきなり目の前に、自分たちとは全く違った格好をした人間が現れれば、不思議に思うのも当然のことだろう。当たり前のように目立ったヒロシは、すぐにこの集落の兵士数人に囲まれ、質問を受けることになった。
だが、そこは流石に獏羅天の特攻一番機の片割れである。唯々諾々とそんなものに従うわけはなく、早々に大立ち回りを繰り広げた。とは言え、剣の切っ先で頬に掠り傷を負い、その武装が本物であることに少々肝を冷やしたが。
それでも流石に喧嘩慣れしているだけあって、致命傷を食らうことなく兵士たちを全員のしたのである。
はぁ…はぁ…と、荒い呼吸を繰り返しながら額の汗を拭う。桃花たち三人がヒロシに追いついたのはそんなときだった。
しつこく自分を追ってきた三人にゲッ! と思ったものの、これまでの現状を鑑みてヒロシは取り敢えず三人の話をもう一度だけ聞くことにした。とはいえ、兵士たちをのしてしまった以上、この集落でそれをするわけにはいかないので、場所をこの集落から一番近くの街に移すことにした。
その城壁をくぐるとき、そして城壁の中の様子を見て、ヒロシの乾いた笑いが再び上がったことを記しておく。
奇妙な四人組はとある飯店の中に入ると、もう一度角を突き合わせてじっくり話し合いを始めた。と言っても、先ほどと同じ話題が繰り返されるだけで目新しい話は出てこない。
が、これまで自分の目で見たこと、そして経験したことを考えれば、今度はヒロシも一笑に付すことは出来なかった。例えそれが、自分の理解を超え、頭がパンクしそうな事態であっても…である。
脳味噌が熱を帯びていく感覚にヒロシは思わず頭を抱えた。が、もっとも頭を抱えたのはあることを頼まれたときだった。
私たちと一緒に、戦ってください。
それが、これである。いっそ有無を言わさず目の前の連中を殴り飛ばしてバックれることが出来たらどれだけ楽かとヒロシは思ってしまった。しかし、流石に女を…それも見てくれだけで言えばかなりの上玉の女を殴るのはどうにも気が引けたのでグッと我慢した。
そんなヒロシの逡巡を、自分たちの都合がいいように理解したのか、三人が次々と言葉を重ねた。
これが死後の世界ってヤツなのかよ…。
そんな三人の言葉を聞き流しながらヒロシは思わずそう思ってしまう。だが、これが結果的にはいい切欠となった。
と言うのも、死後の世界なんだったらこんな感じでも別に変じゃねーのか。という考えに思い至ったからである。多分に現実逃避の側面があるのは否めないが、それでもあーだこーだ考えているよりは百倍マシだった。
そういうある種の開き直りを経て、ヒロシは彼女たちに協力することにした。何せ右も左もわからない世界である。こんなところに一人で放り出されても、そう遠くないうちに行き詰るのは流石にヒロシでも理解できたからである。
こうして彼女たちと行動を共にすることになったヒロシは、その後紆余曲折ありながらも桃花を旗印として着実に勢力を伸ばし、遂にこうして諸侯の一人として反董卓連合に参加するまでに力を付けたのだった。
(夢じゃねーんだよなぁ…)
今までのことを思い起こしていたヒロシが思わずそんなことを考える。何回か自分で頬を抓ったことがあるのだが、その度に痛みが走り、これが現実だと教えてくれたのだった。
(…まあ、いい女に囲まれてるだけマシ…か?)
少し前を歩く桃花たち三人を見ながらヒロシはそんなことを考えていた。不思議なことに、自分が厄介になっている桃花たちの陣営には男の幹部が自分しかいない。他は長幼の差はあれど、皆女だった。その点でも変な世界だと思ったヒロシだが、彼も人並みに女は好きなので、不思議には思うもののこの状況は決して嫌ではなかった。
「あれ?」
と、その時、桃花が急に声を上げた。
「どうしたのだ、お姉ちゃん?」
鈴々が尋ねる。
「うん、あっちから何人か来るよ」
「ふむ…あの姿形は、袁術の客将である孫策かと」
「そうなんだ。よく知ってるね、愛紗ちゃん」
感心したように桃花が愛紗を覗き込んだ。
「朱里や雛里から大陸の主要な英傑の容姿を聞いたことがありますので。孫策と…傍らにいるのは盟友であり軍師である周瑜かと」
「そっかー。それじゃあ、もう一人の男の人は?」
「さて…孫策の陣営にあのような男子がいるとは聞いていませんが…」
「んー、でも、よく見るとあっちの男の人、お兄ちゃんと似たような格好しているのだ」
「ああ?」
鈴々の一言に、それまで興味なさ気に三人の言葉を聞き流していたヒロシが、思わず三人が視線を向けている方向に同じように視線を向ける。そしてその瞬間、ヒロシは固まってしまったのだった。
少し時間を戻して、桃花たちと少し離れた場所。そこに、桃花たちと同じように軍議の場所へと向かっている一団があった。
「さてさて、どんな感じになるかしらね♪」
楽しそうにそう言うのは孫策。後の呉国の礎を築く小覇王である。
「随分楽しそうね、雪蓮」
そんな彼女を嗜めるように、隣の周瑜が彼女の真名を呼んだ。
「なーによー、何か棘のある言い方ね、冥琳」
孫策…雪蓮が周瑜こと冥琳の発言に不満そうに頬を膨らませた。
「そんなことはないけどね。ただ、目的を忘れられてたら困るから」
「大丈夫よー、ちゃんと覚えてるって。諸侯たちがどれほどの連中か見極めるため…でしょ?」
「ええ。利用できるか、黙殺しても害はないか、敵にしたほうがいいか、味方に回したほうが得か。そういったことを判断するのが目的よ」
「わかってるって。全ては孫呉のために…ね?」
「そういうこと」
「ふふっ♪」
クイッと眼鏡を上げて頷いた冥琳に雪蓮が楽しそうに微笑んで頷いた。そんな二人に、
「よー」
彼女たちのすぐ後ろから声をかける人物がいた。
「ん?」
「あら、どうしたの、キヨシ?」
二人して振り返ると、雪蓮がその人物の名を呼ぶ。そこにいたのはヒロシと同じく獏羅天の特攻一番機であった雷神…鬼のキヨシの姿があった。
キヨシもヒロシと境遇はほぼ一緒である。呉の陣営に保護され、神の御遣いとしての立場を頼まれて、彼女らと行動を共にしていた。
「今更言うのもなんだけどよー、俺、行く意味あんのか?」
キヨシは雪蓮と冥琳に問いかけた。
「何故だ?」
冥琳が尋ねる。
「だってよー、お前ら二人で十分なんだろ? だったら別に俺が行く必要ねえじゃねえか」
そんなキヨシの問いかけに、
「ふふっ、ダメよ」
と、雪蓮が答えた。
「あ?」
雪蓮の答えにキヨシが訝しがった。
「何でだよ?」
そしてその理由を尋ねる。
「貴方のお披露目でもあるからよ」
「? 意味わかんねー」
「仕方のない奴だな」
冥琳がくいっとかけている眼鏡を押し上げた。
「神の御遣いの噂は既に大陸中に広まっている。そんな中、我が孫呉がその神の御遣いを擁しているとなれば、諸侯に対して一枚も二枚も優位に立てるというわけさ」
「そう、上手くいくんか? どっちかっつーと、無駄に警戒されるってーか、目ぇ付けられるだけだと思うけどなぁ…」
冥琳が示した回答に、キヨシは懐疑的である。
「いいのよ、上手くいかなくったって」
が、雪蓮はキヨシの危惧を気にもしてないようだった。
「あ?」
「要は、我が孫呉に御遣いが降り立った…そう周囲、ひいては天下に認識させるだけでいいんだから」
「そーかよ。けど、何度も言ってるが、俺はそんなもんじゃ…」
「それは貴方自身が納得してないだけでしょ? でも、貴方のいた世界とここは全然違うとなれば、そう関連付けるしかないじゃない」
「…まーな」
もう何度目になるかわからない問答を繰り返すと、キヨシはボリボリと頭を掻いた。
「何、心配するな。出発前にも言ったが、お前は何もしなくていい。ただ単に、我らの後ろに黙って立っててくれればいいのだ」
「そーゆーこと♪」
「…おう」
とりあえずこれ以上は話が進展しそうにないのを悟るとキヨシもそこで口を噤んだ。と、
「あら?」
何かに気付いたのか、雪蓮が声を上げた。
「どうした、雪蓮?」
冥琳が尋ねる。
「んー? あそこにあたしたちと同じ様な一団があるなって思って」
「どれどれ…」
冥琳もそちらの方へと目を凝らした。
「ふむ…あれは新しく平原の相に任じられた劉備とかいう連中だな」
「そうなの?」
「ああ。間者の報告と姿形が一致する」
「さっすが冥琳、頼りになるぅ♪」
「我が主君殿がこういうことにあまり興味を持ってもらえないようなのでな。仕方なしの側面もあるのだがな」
「う…」
藪をつついて蛇を出してしまい、雪蓮があははと乾いた笑いを浮かべて誤魔化した。その後、もう一度劉備たちに視線を戻す。
「あれ、あの男…」
その中の一人を見て、雪蓮が怪訝な声を上げた。
「気付いたか?」
「そりゃあね。…ねえ、キヨシ」
「あ?」
二人の会話に興味がなかったのだろうか、どうでもよさげにそっぽを向いて欠伸をしていたキヨシが振り返った。と、雪蓮は劉備たちの一団をスッと指差す。
「あの男、貴方と似たような格好してない?」
「ああ?」
雪蓮が指差した方向を見た瞬間、キヨシも同じように固まってしまったのだった。
「マジかよ…」
「嘘だろ…」
お互いがお互いの姿を捉えた瞬間、獏羅天の風神と雷神は固まってしまった。その様子に気づいたそれぞれの陣営の面々が訝しげに二人に声をかける。
「ご主人様?」
「お兄ちゃん、どうしたのだ?」
「ヒロシ殿、あの男が何か?」
「キヨシ?」
「ふむ…」
ただ一人、周瑜…冥琳だけが何となく悟ったのは流石は軍師というところであろうか。やがて二人はお互いに向けて走り出す。
「あ、ご主人様!」
「ひ、ヒロシ殿、お待ちを!」
「お兄ちゃん、危ないのだ!」
「ちょ、ちょっとキヨシ!」
「やはり…か?」
周囲の面々、桃花、愛紗、鈴々、雪蓮、冥琳もその後を追うように走り出した。そして、
『テメエ!』
手の届く距離まで近づくと、二人はお互い殴りかかった。そして互いに殴りかからなかった方の手でその拳を受け止める。
「ひゃっ!」
「な!」
「ええー!?」
「ちょ、あんたたち!」
「やれやれ…」
いきなり殴りかかった二人に、一人を除いて驚く女性陣。そんな彼女たちを置き去りに、二人の男は互いの目を見てニヤリと笑った。
「テメエこら! 生きてやがったんかよう、キヨシぃ!」
「そりゃこっちのセリフだぜ! 何でオメエがいやがるんだよう、ヒロシぃ!」
二人は殴りかかった拳を開くと、がっちりと腕相撲のような形の握手を交わした。
『え? え? え?』
殴りかかったかと思うと、即座に親しげに握手した二人に周囲が混乱する。そんな中、唯一冷静だった冥琳が少し前に歩み出た。
「キヨシ」
「あ?」
キヨシが振り返る。
「よければ、こちら紹介していただけると有り難いのだがな」
「こいつか? こいつは俺の“兄弟”だ」
「ほおぅ、成る程な…」
ま、そんなところだろうなと思った冥琳だったが、そのことは億尾にも出さずに頷いた。
「ほ、ホントなの? ご主人様」
おずおずと、今度は桃花がヒロシに問いかける。が、
「ご主人様ぁ~!?」
その一言に、キヨシが素っ頓狂な声を上げ、逆にヒロシはヤベッといった表情になった。
「おいおいヒロシちゃんよぉ、今のは何だよ、あ?」
ニヤニヤしながらキヨシがヒロシの肩を組んだ。
「チッ、勘違いするんじゃねーよ、キヨシ」
「あ?」
「こいつがよ」
ヒロシがスッと桃花に指を指す。
「何回注意しても止めねーんだよ。俺が言わしてるわけじゃねえ」
「ほぉー」
それでもニヤニヤは納まらないキヨシ。ヒロシはこのヤローといった表情になり、又も注意された桃花はあうぅ…とへこんでいた。
「せっかくの再会のところ、水を差すようですまないが…」
そんな中、事態を前に進めようと口を挟んできたのはやはり冥琳だった。
「あ?」
「お?」
「今は軍議の場に向けて移動中だったはずだ。積もる話は歩きながらでも出来よう。そろそろ再出発したいのだが」
「そうね」
雪蓮も冥琳の意見に同意すると、桃花たちの方に視線を向けた。
「あなたたちもそうでしょ? 劉備」
「え? 私たちのこと、知ってるんですか、孫策さん」
雪蓮から自分の名前が呼ばれたことに驚いた桃花が目を丸くした。
「当然。大陸でも一門の人物の名前を知っておくのは、君主たるものの義務よ」
「ふわー、凄いです…」
未だ駆け出しである自分の存在を知っていたことに、驚きつつも尊敬の眼差しを送る桃花。が、その横で冥琳がジト目で雪蓮を睨んでいることは気が付かなかったようだ。
そんな冥琳が軽く溜め息をつきながら、何時ものようにクイッと眼鏡を上げて桃花たちを見据える。
「しかし、そちらも我々のことを知っていたようではないか。現時点では袁術の配下でしかない我々のことを」
「こちらにも頼れる頭脳はおりますので」
桃花に代わって愛紗が答えた。
「…失礼、貴公は?」
視線を鋭くして冥琳が尋ねる。
「これは失礼を。劉玄徳の家臣で義妹の、関雲長と申します。そしてこちらは同じく家臣で義妹の張翼徳」
「なのだ!」
愛紗に紹介された鈴々がえっへんと胸を張った。
「これはご丁寧に…で、その頭脳とやらはこの場にいらっしゃるのかな?」
「残念ながら、今は我らが陣にて留守居役を」
「そうか。…いずれそちらの頭脳とやらにも お目にかかりたいものだ」
「機会があればそうもなりましょう」
冥琳と愛紗が静かに視線で火花を散らした。まるでお互い相手を見定めるかのように。
「ハイハイ、そこまでそこまで」
そんな二人の間に割って入ったのは雪蓮だった。パンパンと手を叩いて両人の肩に手を置く。
「私たちも貴方たちも、いい加減軍議に行かないと…でしょ?」
「…わかっているわ」
「…そうですな」
雪蓮に諭され、冥琳と愛紗はようやくお互いから視線を外した。
「さ、行きましょ。旅は道連れ、世は情けってね。せっかくだから、肩を並べて向かいましょ」
「そ、そうですね!」
冥琳と愛紗の間に流れていた緊迫した空気に内心でワタワタしていた桃花がこれ幸いとばかりに同意した。
「宜しくなのだ、お姉ちゃんたち!」
一人そういった空気とは無縁の鈴々が元気よく挨拶する。
「宜しくね。えっと、張…」
「張飛なのだ!」
「そ。それじゃ改めて、よろしくね、張飛」
「なのだ!」
そして雪蓮と鈴々が連れ立つように歩き出し始め、残りの三人も彼女たちの後を追うように歩き始めた。そんな彼女たちの微妙な様子を、ヒロシとキヨシは少し離れた場所で見ていた。
「…よう、キヨシぃ」
ヒロシが徐に口を開く。
「あ?」
「テメーんとこのあの二人、随分クセがあるじゃねえか」
「ちっちっちっ、そいつは違うぜ、ヒロシ」
人差し指を立てると、キヨシはそれを軽く左右に振った。
「あ?」
「クセがあるのはあいつらだけじゃねえ。ここの連中はみんなクセがある変わりモンなんだよ。テメーだって思い当たることあんだろ?」
「ハハッ、違えねえや!」
自分の陣営のあの二人のチビっ子やメンマ大好きの顔が即座に浮かび上がり、ヒロシは苦笑せざるを得なかった。と、
「ちょっと、何やってんのよ!」
「ご主人様~、早く~」
少し離れたところから、こちらの方に振り返り自分たちを呼んでいる雪蓮と桃花の姿があった。残りの三人もこちらに振り返っている。
「あいつ…またご主人様って言いやがって…」
ヒロシが心底呆れたような表情になった。
「とりあえず合流しようぜ。女を待たせると、後が喧しいからよぅ」
「そーだな」
二人は連れ立って歩き始めた。その背中に背負った風神と雷神が久しぶりに相棒に会ったからだろうか、なぜかいつもより栄えて見えた。
「さて皆さん、何度も言いますけれど、我々連合軍が効率よく兵を動かすにあたり、たった一つ足りないものがありますの」
軍議が行われている天幕にて、金髪縦ロールのやたらと偉そうな少女が、その発言通り何度目になるかわからない言葉を発する。
彼女の名前は袁紹。大陸でも屈指の名門の家に生まれ、現時点では大陸でトップクラスの実力者であった。そのため、軍議は彼女の主導のもと行われている。
…まあ実際は、軍議と言って良いとは思えないような無駄な時間であるのだが。
「兵力、軍資金、そして装備……全てにおいて完璧な我ら連合軍。しかして、ただ一つ足りないもの。さて、それは何でしょう~?」
(鬱陶しいわねぇ…)
席に着いて先程から彼女の御高説を聞いている諸侯の一人、曹操が呆れ半分、怒り半分で辟易としていた。その口ぶりから、袁紹が総大将をやりたいのは誰でもわかるのだが、彼女は決して自分から言い出さない。誰かに推され、仕方なくその役割を引き受ける…そういう形式を望んでいるのだ。だが諸侯たちも袁紹の望むようにしたことによって面倒なお鉢が回ってくることを嫌がり、誰も彼女を推そうとはしない。そのため、先程から無駄な時間だけが過ぎていた。
(バカのくせに、こういうところだけは聡いというか面倒臭いんだから)
何度席を立ってやろうかと思ったが、そんな短慮を起こしたせいで損な役回りを引き受けたら堪ったものじゃないので自制していたが、それもそろそろ限界突破しそうだった。
「はぁ…」
誰にも悟られないように短く小さく溜め息をつく。しかしそれとほぼ同時に、
「ふぁ…」
と、彼女の後ろから声が上がった。驚いて思わず振り返ると、そこに立っていた男が大欠伸を掻いていたのだった。
「華琳、少し出てくる」
そう言ってその男は、天幕を出ようと歩き始めた。
「ちょ、ちょっ「ちょっと、そこの貴方!」」
曹操…華琳が止めようとしたのだが、袁紹が結果的にだがそれに被せる形で憤懣やるかたない声を漏らして彼の足を止めたのだった。
「Wow…」
鬱陶しそうな表情で男が袁紹に振り返った。その身は龍神の刺繍の入ったコートで包まれている…そう、当然彼こそが獏羅天の三鬼龍最後の一人、龍神…天羽時貞だった。
「…何だ?」
少し苛立たし気に時貞が口を開いた。
「貴方、何考えてますの!? この大切な軍議を勝手に中座どころか、欠伸まで掻くなんて! 何なんですの華琳さん、その男は!」
「天の御遣いよ。聞いたことあるでしょ、貴方も」
いい加減馬鹿らしくなってきたのか、素っ気ない口調で華琳が返す。
「天の御遣い…ああ、貴方ですの。最近下々が噂してる、胡散くさーい人は」
合点がいったのか、袁紹は怒気を収めた。
「では、私のことを知らないのも無理ありませんわね。仕方ないから自己紹介してあげますわ。私は袁紹、字は本初。この大陸でも一番といってもいい名門の当主にして、類まれなる美貌と財力と実力の持ち主ですわ。おーっほっほっほっほっほ!」
何時ものように居丈高に自分の自己紹介(という名の自慢)をする袁紹。そんな彼女の自己紹介(という名の自慢)を、時貞はポケットに手を突っ込んで右から左に聞き流していた。
「あらあら、驚いて声も出ませんの?」
が、何も言わない時貞を都合よく解釈したのか、袁紹は更に気分よく得意げになった。そんな彼女に時貞はニッコリと微笑むと、
「Shut Up. Fuckin' Dirty Bitch」
と、流暢な英語を披露した。
「は? え? しゃ、しゃ…?」
袁紹が盛大に頭上に?を浮かべる。しかし、それは何も袁紹に限ったことではない。華琳を始め、その場にいる全員が首を捻っていた。もっとも、英語がわかるわけはないので当然のことであるが。
が、時貞がそんなことを気にする性格なはずもなく、今度こそ用が終わったとばかりに天幕から出ようとする。その時、遠くの方から男と女の入り乱れた声が聞こえてきた。
「!!!」
その遠くから聞こえてきた声を聞き、時貞は固まってしまった。そしてただ一点、天幕の入り口を見つめる。
「? 時貞?」
すっかり固まってしまった時貞に訝しげに華琳が声をかけた。が、時貞は一向に反応を見せない。
「ちょっと、どうし「失礼します」」
そのタイミングで天幕が開き、劉備や孫策が入ってきた。そして、
「!」
「!」
そこにいた時貞を見てヒロシとキヨシは固まり、時貞もまたヒロシとキヨシを見て固まったのだった。
「ご主人様?」
「キヨシ?」
「ちょっと、どうしたのよ、時貞ってば」
君主三人が、様子のおかしいそれぞれの神の御遣いに話しかける。が、誰も彼女たちに答えようとはしない。その代わり、
「ひ…ヒロシ? キヨシ?」
最初に口を開いたのは時貞だった。
「と、と、と、時貞ぁ!」
「マジか!? マジかテメェ!」
ヒロシとキヨシが我先にと時貞の下へと駆け付けた。
「お前、お前こんなところに居やがったのかよ!」
「テメエ、本物だよな!? マジモンの時貞だよなぁ!?」
「お、お前たちこそ、何でここに…」
「まあ、その辺りの事情はよ」
「おう。これからゆっくり話してやるからよう。てめーも事情話せや」
そう言うと、ヒロシとキヨシは時貞の左右からがっちり肩に手をかけた。
「ちょ、ちょっとキヨシ!」
「ご、ご主人様!?」
展開の速さについていけない雪蓮と桃花がそれぞれの神の御遣いに話しかける。しかし、
「わりーな桃花、パスするわ」
「俺もな。後で詳しいこと教えてくれや、雪蓮」
そしてそのまま三人連れ立って天幕から出ようとする。が、
「ちょっとお待ちなさいな!」
癇癪を起したのは袁紹だった。
『ああっ!?』
行動を止められて袁紹を睨むヒロシとキヨシ。その鋭い眼光と怒気を孕んだ迫力に多くの諸侯が肝を冷やしたが、生命知らずなのかバカなのか、袁紹は怯むどころかさらに威嚇してきた。
「何ですのあなたたち! 勝手に自分たちだけで盛り上がったかと思ったら出ていくだなんて、ここを何処だと思ってますの!?」
「んだとぉ!?」
「でけー口叩くじゃねえか、おい」
せっかくの再会に水を差され、ヒロシとキヨシは目に見えて機嫌が悪かった。そして肩を組んでいた腕を解いて近づこうとしたのだが、
「ヒロシ、キヨシ、止めとけ」
時貞がそれを制した。
「ああ!?」
「だけどよ、時貞…」
納得いかない表情のヒロシとキヨシだったが、時貞はスッと彼らの顔を自分に近づけさせると、
(あの女はただのバカだ。相手にする価値もないほどのな)
と、彼らにだけ聞こえるように囁いたのだった。
「それより、さっさと行こうぜ」
時貞が促すと、不承不承だったがヒロシとキヨシも歩き出した。
「ちょっと!」
置いてきぼりにされた華琳が不満げにそんな時貞を呼び止めるものの、
「Sorry 大事な用事ができたんでな」
ヒロシとキヨシと同じように素っ気なくそう告げると、三人は足並みを揃えて出ていった。後に残った天幕の中の諸侯は、本来の形に戻った風神と雷神と龍神…三鬼龍を見送ることしかできなかった。
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下
「…っく!」
徳利から口を離すと、ヒロシはどんと地面にそれを置いた。そして袖口で口元を拭う。
「未だに慣れねえ味だけど、まあ、ないよりはマシだもんな。なあ、時貞よう?」
「Exactly」
肯定の意を表して時貞も徳利に口を付ける。そして中の酒で咽喉を潤すと、同じように地面に徳利を置いた。
「…正直に言えば飲めたもんじゃない。けど、“兄弟”と一緒なら、不味い酒も美味くなる」
「ヘッ、何くせーこと言ってやがんだよ、バカ野郎が」
憎まれ口を叩くものの、ヒロシの表情は嬉しそうだ。それがわかったからこそ、焚き火を挟んで反対側にいる時貞も優しい笑みを浮かべて答えた。
紆余曲折あったものの連合軍は洛陽への最後の関門である虎牢関を抜くことが出来た。そして今はその祝いの酒盛りというところである。当然、三鬼龍も焚き火を囲むように車座になって、この世界の酒を仰いでいた。
「ところでヒロシ?」
時貞が口を開いた。
「あ?」
ヒロシが答える。
「キヨシはどうした?」
時貞がそう尋ねたのだがそれも無理はなかった。何故ならこの場にキヨシの姿がなかったからである。少し前までは三人で楽しく飲んでいたのだが、いつの間にかキヨシの姿が見えなくなっていたのだ。
「知らね」
が、ヒロシは簡潔にそう答えただけに留まった。
「いつの間にやらいなくなりやがってよぅ。オメーこそ知らねえのか? 時貞」
「…いや」
肩を竦めると、時貞は左右に軽く首を振った。
「ったく、何処行きやがったんだよ、あのクマ」
不満げに口を尖らせながらヒロシは再び徳利に口を付ける。と、
「おう、まだやってたな」
キヨシがどこからともなく戻ってきた。そしてその手には、あるものが握られていた。
「何だよ、そりゃ?」
「これか? 大体わかんだろ?」
ヒロシの指摘にキヨシがニヤリと笑うと、キヨシは持っていたものを時貞に向かって放り投げた。
難なく時貞がキャッチしたもの…それは、ギターのような形状の楽器だった。
「? キヨシ?」
「なんか演ってくれよ、時貞ぁ」
ヒロシや時貞と同じように焚き火を囲むように腰を下ろすと、キヨシは徳利に口を付ける。そしてこれまた同じようにぷはあっと袖口で口元を拭い、キヨシはそうリクエストした。
「Wow…」
軽く口笛を吹いて時貞がその楽器に目を移す。
「キヨシ」
「あ?」
「こいつはギターじゃない」
困ったような表情で時貞がその楽器を持て余した。しかし、
「わかってんよ、そんなこと」
キヨシはにべもなく答えた。
「いくら俺たちがおめーと違って音楽に疎いっつっても、それがギターじゃねーことぐらい、見ればわかる。けどよ、おめーの超絶テクなら、何とかならねえのか?」
「そーだな」
ヒロシも追随した。
「てめーのテクならどうにかなりそうじゃねえか。それに、俺らは別にちゃんとした曲じゃなくても構わねえんだよ」
「ん?」
どういうことかわからずに、時貞がヒロシとキヨシの顔を交互に見る。と、
「俺らは、おめーが演ってくれりゃあなんでもいいのさ」
「そーゆーこったよ、時貞。大事なのは、てめーの“音色”を聞くことなんだからよぅ」
二人は楽しそうに、そう言った。
「そう…か」
目の前の二人の“兄弟”の向ける視線にくすぐったい感覚を覚えながらも、時貞はギターのようにその楽器を構えた。そして、ポロン、ジャランと音を奏でる。
「何だよ、やっぱり出来るんじゃねえか」
ヒロシがそう揶揄した。が、時貞は軽く首を左右に振る。
「絃を弾いてるだけさ。演奏のうちに入るようなもんじゃない」
「構わねーよ、それで」
キヨシが徳利を口にしてそう言った。
「音楽に疎い俺らにとっちゃあ、有名な曲だろーが難しい曲だろーが関係ねえ」
「そーゆーこった。俺らは、お前の音楽が聞きてえんだよ」
「ふふ…嬉しいこと言ってくれるじゃないか、ヒロシ、キヨシ」
風神と雷神の言葉に気を良くしたのか、龍神は慣れない楽器を少々苦戦しながらも気持ち良さそうに弾いている。そんな時貞の音楽を、ヒロシは横になって頬杖をつき、キヨシはつまみや酒を口にしながら静かに聞いていた。
即席の、そしてちゃんとした演奏にもなってない龍神のライブだったが、風神と雷神にはそれでも十分だった。何せ、もう聞けないと思っていた“兄弟”の音色が聞けたのだ。今はそれ以上を望むのは贅沢というものだろう。
近場の兵士たちもちょくちょく視線を向ける中、三人はリラックスした表情でこの時間を存分に楽しんでいた。
「いいなぁ…」
そんな三人を遠くから見る人影が一つ。ヒロシが身を寄せている勢力の大将である、桃花である。しかし、その場にいるのは彼女だけではなかった。
「ホント、いい雰囲気よね」
「私たちを無視して、男三人で楽しんでるのはちょっと腹立たしいけどね」
「孫策さん! 曹操さん!」
示し合わせたわけはないのだろうが、キヨシのところの大将である雪蓮と、時貞のところの大将である華琳である。三人は横並びになると、同じように視線の先にいる三鬼龍を見つめていた。
「…まあ、“兄弟”が久しぶりに顔を合わせればああいう風にもなるか」
「ええ。加えるなら、もう二度と会えないと思っていたんだもの、喜びも一入よね」
「孫策さんに曹操さんも聞いたんですか? ご主人様たちの事情」
「ええ」
「当然」
桃花の疑問に雪蓮と華琳が大きく頷いた。三人が久しぶりに再会して軍議をフケたあの後、中々戻ってこない彼らに業を煮やした三勢力の大将が、各勢力の神の御遣いを連れ戻して事情を説明させたのだ。
その結果、彼ら三人の関係性や、もう二度と会えないと思っていたが何の因果かこうして又集まることが出来たという背景を知ることが出来たのである。
故にあれ以降、ちょくちょく三人はこうして集まっては三人だけの時間を楽しんでいたのであった。桃花・雪蓮・華琳の三人も彼らの事情を考慮したのか、作戦行動中などではない、空いた時間ならそれを止めようとはしなかった。
「…でも、今回は凄かったですね、三人とも」
「そうね」
「ええ」
桃花が話題に上げて雪蓮と華琳が同意したのは、先程までの虎牢関での戦いであった。この戦いで三鬼龍は久々に三人で大暴れしたのだ。
「もし万一のことがあったら大変だから、流石に敵将は遠慮してもらいましたけど、一般兵相手でも十分に活躍してくれましたからね」
「そうね。まあでも、しょうがないんじゃない? 敵将が敵将ですもの」
「華雄に張遼、そして何と言っても呂布だものね。どの陣営の一線級の武将でも、互角に渡り合うのですら厳しいからね」
「ええ。加えて、あの布一枚羽織ってるだけの格好じゃあ防御は期待できないし、攻撃は攻撃で徒手空拳ですもの。武将相手じゃ、どうぞ殺してくださいって言ってるようなものよ」
「あはは…」
華琳の辛辣な物言いに、桃花は苦笑するしかなかった。が、
「…でも、あの三人の中で一番活躍したのはやっぱりうちのご主人様ですよね」
と、いきなり且つ決して雪蓮と華琳が看過できない爆弾を落したのだった。
「ちょっと待ちなさい」
「聞き捨てならないわね…」
案の定、雪蓮と華琳は即座に口を挟んできた。
「だって、うちのご主人様が一番敵の兵士さんを倒したじゃないですか。そこを考えれば、やっぱり一番はうちのご主人様…風神ですよ」
「何言ってるのよ、うちのキヨシが何度も大岩担ぎ上げて敵陣に放り込んだの見たでしょ? あれで敵兵が怯んだから、残りの二人が好きに攻められたんじゃない。それを考えれば、一番はうちの雷神よ」
「おめでたいわね、貴方たち。好き勝手に暴れるあの二人を支援しながらも、二人に引けをとらないだけの敵兵を倒したうちの龍神…時貞が一番に決まってるじゃない。現に、時貞が割って入らなければ、あの二人が致命傷を負ってた場面が何度もあるわ」
三人はお互いの主張をぶつけ合って決して退こうとはしない。知らず、お互いの視線に見えない火花が散り始めた。
「うちの風神が一番です!」
「何言ってるのよ、うちの雷神に決まってるじゃない!」
「何処に目を付けてるのよ、貴方たち。うちの龍神に敵うと思ってるの!?」
ムムムとばかりに桃花・雪蓮・華琳の三者が敵意をむき出しにしていがみ合う。が、
『ハハハハハハハ…』
不意に、笑い声が風に乗って聞こえてきた。その声色に笑い声の聞こえてきた方向を見てみると、三鬼龍が焚き火を囲み、楽しそうに談笑している姿が目に入った。
大分扱いにも慣れてきたのか、時貞の音色も随分それらしいものになり、それを聞きながらヒロシ、キヨシ、時貞の三人は穏やかな表情で何かを喋っていた。
「……」
「……」
「……」
そんな三人の姿を見てしまった桃花・雪蓮・華琳の、同じく三人は誰からともなくいがみ合うのを止めた。そして先程までと同じように横一線になって三鬼龍に視線を向けた。
「バカバカしいわね…」
口を開いたのは華琳だった。
「当の本人たちが楽しそうにしてるのに、私たちがあいつらのことでいがみ合ってるなんて」
「そうね」
雪蓮も追随する。
「久しぶりに“兄弟”に会えたんだもの。外野は大人しくしてましょうか」
「そうですね。変なこと言っちゃってすみません」
騒動の原因を作った桃花が二人に謝った。
「私がご主人様…風神を一番だと思ってるように、孫策さんは雷神さんを、曹操さんは龍神さんをそう思ってる。それでいいですよね?」
「そういうことね」
「ええ。どうせこの話題は何処まで行っても平行線よ。そう考えれば、それが一番お互いに納得のいく答えかもしれないわね」
「はい!」
華琳の指摘に桃花は元気よく頷いたのだった。
「それに、いずれ答えは出るわよ」
「え?」
華琳の言葉に桃花が首を捻ると、華琳はニヤリと不敵な笑みを浮かべた。
「私はいずれこの大陸を制覇してみせるわ。そうなればうちの龍神…時貞が本物の神の御遣いということになるでしょう?」
「言ってくれるじゃない」
宣戦布告を受け取って、雪蓮も不敵な笑みを浮かべる。
「大事を成すのは私たちよ。神の御遣いはうちの雷神…キヨシだけで十分だわ」
「わ、私だって負けません!」
桃花も二人に負けじと割って入る。
「今は曹操さんにも孫策さんにも敵いませんけど、天下に対する志はお二人に負けません! 最後に勝つのは私たちと風神…ご主人様です!」
「へえ…大きく出たわね」
「言ってくれるじゃないの」
三者、再び火花を散らす。しかし先程とは違い、今度は彼女たちの周りに険悪な雰囲気が流れることはなかった。
「…ま、いいわ」
そう言ったのは華琳だった。
「いずれ答えは出るはずよ、嫌でもね。とりあえず今日は…」
その視線をヒロシ、キヨシ、時貞へと再び向けた。
「せっかく楽しんでるあの三人に水を差すのも無粋だしね。これで失礼させてもらうわ」
そして身を翻すと、自分の陣地へと戻っていった。
「それじゃ、私も戻ろうかしら。確かに、男同士の話に女が首突っ込むのは野暮ってもんだしね」
雪蓮も踵を返してこの場を後にした。残ったのは、桃花一人。
「ご主人様…」
少しの間ヒロシに視線を向けていた桃花だったが、やがてペコリと軽く一礼すると、華琳や雪蓮と同じようにその場を後にしたのだった。
残された三鬼龍は自分たちから少し離れた場所でそんなことがあったなどとは露知らず、この時間を過ごしていた。
煌々と燃える焚き火が楽しんでいる三人を照らし出し、そして月の光が優しく彼らを包む。そんなロケーションの中、三人はいつ果てることのない、三人だけの宴会をいつまでもいつまでも楽しんでいたのだった。
読了、ありがとうございました。作者のノーリです。
これで、この物語はとりあえず終わりになります。
リクエストがあれば、この続きをもう一話ぐらいいけるかな? と思いますので、もし読みたい方がいらしたらリクエストいただければと思います。
では、また違うお話でお会いしましょう。
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