仮面ライダーレーザー外伝 ~天地を駆る王者達~ (たんぺい)
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零速 二つの悪の波紋

~サジタリアーク船内~

 

「ナリア!ナリアァ!」

 

そこは、地上を見上げる天空よりも遥か上。透き通る様な漆黒の宇宙にて。

その宇宙から地球を見渡せる、そんな位置に…宇宙船サジタリアークと言う、天秤の様な形をした方舟が浮かんでいる。

その船内で、そんな響く渋い声を上げる、青黒い六面体…キューブブロックを固めた様な姿の化け物が苛ついた様にウロウロしている。

 

彼の名前は『アザルド』。

チームアザルドと言う、無法者『デスガリアン』達を束ねるチームリーダーの一人であり、サジタリアークの食客の様な男でもある。

 

そして、アザルドが何度も名を叫んでいる『ナリア』と言う者はどんな存在かと言うと。

この宇宙船のオーナー…つまり所有者であり、デスガリアン達が執り行う『ブラッドゲーム』と名付けた破壊や虐殺を主とした最低最悪のゲームを観測する主催者の男の秘書の女性でもある。

緑と黒を基調とした身体の美しく冷徹な女性である彼女は、ブラッドゲームの参加者にコンティニューなどの幾つかのサポートをオーナーから任されているが故に、或いはチームリーダーよりもブラッドゲームについての知識を得たりしている。

その為に、ブラッドゲーム中のトラブルに対しての対応も任されている様なものであった。

 

しかし…そんなナリアが見当たらない。

アザルドは、常駐している筈のナリアが居ない事と、ブラッドゲームが始まらない事の両方に腹立てていたと言う訳であった。

 

そんな苛ついたアザルドの前に、威圧感たっぷりに、白亜と金の姿をしたこの宇宙船のオーナーが現れる。

 

彼の名前は『ジニス』。

デスガリアン達を束ね、宇宙の99の星をも遊び半分の感覚で次々壊滅させた最低の悪党。

そもそも、ブラッドゲーム自体が、ジニスの酒のアテを兼ねた暇潰しの玩具遊びと言う、宇宙史上でも浅くろくでもない理由で始まったものでもある。

その為に、ブラッドゲームの最中に星ごと一族を滅ぼしたせいで、本来手下の様なブラッドゲームの参加者のチームリーダー『クバル』の反乱すら起こす羽目にもなったが…そんな事すら、まるで羽虫を弄び握り潰すかのような感覚で返り討ちにして、恐怖で屈服させるぐらいの実力を誇る悪の天才だ。

 

そんな彼は、甘く囁く様にアザルドに問いかける。

どうしたんだい、アザルド?と。

そんなジニスの疑問に対して、アザルドはこう答えるのであった。

 

「オーナーか…実はな、ブラッドゲームに参加するハズのウチの『エキデイン』が、地球で行方を眩ませちまった。ブラッドゲームがいつまで経っても始まらねえんだ!!」

 

そう言って、更に苛つくアザルドに、ジニスは妖しく問いただす。

エキデイン…どんなゲームをするつもりだったんだい?と。

 

「おお、アイツはな、どんなガキでもジジイでもまるで一流のマラソンランナーの様に走らせる力が有る。そう、筋力も体力も関係無くな。どこまでもどこまでも、休み無く終わりなきマラソンに強制参加させちまうんだわ。つまり…」

「…つまり、エキデインの力に嵌まった参加者は、疲労困憊で意識不明にでもなってショックで死ぬか、物理的に足でも引きちぎれて死ぬか、どちらかがゴールの死のゲームと言う訳か。中々、面白そうなゲームだな」

 

ジニスの相槌に、だろう?と得意気に返すアザルドだったが、しかし…直ぐに、無表情なハズの表情を曇らせる。

その肝心要のエキデインの姿が居なくてゲームが始まらない事にゃどうしようもねー、と告げて。

しかし、対するジニスはと言うと…得心がいったとばかりにカンラカンラ笑いながら、アザルドにこう返したのであった。

 

「ナリアがさっき『失礼します』なんて慌てて私に告げて地球に向かったのは、プレイヤーが行方知れずになって探しに行ったせいなのか。クバルの事も有って神経質にでもなってるんだろうなぁ…あれはあれで面白かったけど、ナリアは真面目だからね。まあ、そう言う訳だから、アザルド…君が慌てる必要は無いよ」

 

そう言って、フフフと笑うジニスに対し、アザルドはなんだよと、安心するのであった…

 

 

~同時刻、某所、路地裏~

 

「心が、踊るなぁ…!!」

 

パーマネントをかけたような髪型の、漆黒の服を着た優男風の青年が、芝居がかった口調で歓びの声を上げる。

彼の名前は、『パラド』。

そのパラドと言う男が、歓びを分かち合おうと近くにいたスーツのピッチリした髪型の青年に対して声をかけている最中だった、と言う訳だ。

 

「君はいつもそればかりだな…」

 

そう言って、パラドの口癖に対して軽口を叩きながら呆れる青年…『檀黎斗』と言う、幻夢コーポレーションと言うゲーム会社の社長は、更にこう続ける。

しかし…良い披検体を良く見付けてくれたね、パラド、と。

その黎斗の視線の先には…件の行方不明と化したエキデインと言うブラッドゲームのプレイヤーだった異聖人が、ぐるぐる巻きにワイヤーで縛られ、そして、その身体は消えかけている。

 

離せだのなんだのと呻くエキデインを、革靴で黎斗は踏みつけて黙らせながら、彼はこう締めた。

 

「…エイリアンのゲーム病、面白そうなデータだ。これは究極のゲームを完成させるには、充分なデータの一端になるかも知れない」

 

そう言って、黎斗とパラドはエキデインにはまるで目もくれず、己のノートパソコンの画面へと視線を同時に向ける。

 

『KAMEN RIDER CHRONICLE』

 

そう、鈍く銀色に耀く文字の『究極のゲーム』。

その誰にも…パラドはおろか、黎斗ですらまるで完成した暁の姿の予想がつかないだろうゲームの未来予想図に、パラドの口癖の如く、二人は心を踊らせるのであった…

 



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一速 貴利矢 IS 仮面ライダー

ふぅ…と、溜め息を吐いて、街の公園へと佇む怪しい青年が居た。

十二月の寒風吹き荒ぶ東京の街。

そこに、あまりにも場違いな格好をしている、良い歳をしてるだろう男だ。

赤い革のロングジャケット…は、まだ良い。

カジュアルなパンツも、まあ許される類いだろう。

彼の締まった身体と端正な整った容姿もあいまり、それだけならば『爽やか』で済まされる。

 

だが、この寒空の下でアロハシャツに丸眼鏡型のサングラスと言うのはどうだろう。

途端に、不審者としか言えない雰囲気が漂ってくる。

平日のまっ昼間から公園に彷徨いてたら…通報されても可笑しくはない。

 

怪しいキャッチセールスかマルチ商法かの勧誘か。

或いは、ヤクザの下っ端か。 

AVか何かのプロデューサーか。

はたまた、単なる無職の浮浪者か…知らぬ人には、そう見えてもおかしくはない。

 

だが、彼はどれとも違う。

立派なカタギの仕事をこなす、医師免許を取得した青年であり、『監察医』と言う役職をこなす現役の医師である。

 

 

彼は『九条貴利矢』。

バグスターウイルス…ゲーム病と呼ばれる、感染者の身体を蝕むどころか喰い荒らす様に乗っとることで患者を死に至らしめる病のウイルス、その謎や感染源を追い求める探求者である。

そして、そのバグスターウイルスの対抗手段を持つゲーマードライバーの適合手術を受けた、バグスターを滅ぼせる可能性を持つ男の一人…だった。

 

その彼が、何故気を緩めているかと言うと…簡単な話、こんな事情があったからだ。

 

 

かつて起きたパンデミック『ゼロ・デイ』の悲劇に巻き込まれた友人の死に報いようと、バグスターウイルスの謎を探す中で、彼は『宝生永夢』と言う、一人の小児科医に出会う。

宝生永夢、彼は天才ゲーマーとして数々のゲームのタイトルを総ナメにした『M』と言う顔を持ち、更に詳しく言うと『エグゼイド』と言う仮面ライダー…偶発的にバグスターウイルスへの対抗手段としての能力を得た若い研修医だった。

 

そんな永夢の事を…まあ、貴利矢は、バグスターウイルスの謎を探す為に利用しようとした。

あまり悪気がなかった部分はあったのとトラウマに踏み込んで欲しくなかった部分があった事も有り…貴利矢は、永夢に対して『真実』を『嘘』と告げた事が発端となり、もう一人のエグゼイドである『黒いエグゼイド』に対しての言の信頼を失うトリックが幾度も重なってしまう結果、自業自得な話も多分にあったとは言え『嘘つきで信用なら無い屑』のレッテルを張られてしまう。

 

そのレッテルを、檀黎斗…黒いエグゼイドこと『仮面ライダーゲンム』の正体を暴き、漸く取り除けた。

それは、貴利矢が自分自身にすらつき続ける嘘をもうつかなくて良いと言うことですらあった。

それだけでなく、貴利矢自身が無意識に気をかけていた永夢を若さ故の青臭さと優しすぎる性格、そして彼自身も知らない身体の謎についての事を心配していた永夢の信頼を取り戻せた事への安堵ですらあったのだろう。

 

…勿論、それだけで貴利矢の仕事は終わった訳ではない。

貴利矢の仕事は、あくまでもバグスターウイルスの殲滅の為の…二度と、ゼロ・デイの様な悲劇は繰り返さない為の謎を解明すること。

ジュンゴ、ゲーム病に苦しみ暴走して交通事故に逢った貴利矢の親友だった男の死に報いることが、貴利矢の本当の使命なのだ。

 

止まっている時間は無い。

光線の様に、彼は走り続けなければならない。

それは、本当に自分を信じ始めてくれた永夢ならず、バグスターウイルスの脅威に立ち向かう医師達への義理返しでもあった。

 

 

とは言え、肩の荷が下りた状況だったのも、事実ではある。

多少は一服しても許されるだろう。

彼自身もそう考えて…公園の自販機で買ったオロナミンCを片手にベンチで一休みしながら、何気なしにぼんやりとしている、丁度そんな時だった。

 

ドカーンと、火薬の弾ける様な轟音が、近くの道路の方向から響いてくる。

 

「な…なんだぁ!?」

 

間抜けな悲鳴をあげて貴利矢が思わず飛び起きるが…またか、と貴利矢は状況を整理して、あっさりと結論を脳内で片付ける。

バグスターウイルスの脅威はまだまだ終わっていない、あのゲンムこと、バグスターに荷担している黎斗が語っていたではないか。

バグスターウイルスが分離して、暴れているのかも知れない。

 

或いは…ここ最近、我が物顔で地球を荒らし回っているデスガリアンと言うクソッタレな野郎の可能性もある。

もしかしたら、貴利矢すら知らぬ未知の地球の脅威が顕れたのかも知れないだろう。

最悪、変なテロリストかも知れないだろうし 水道管かガス菅でも爆発した単なる事故…と言う可能性もあるが。

 

まあ、最後に関しては警察か会社の仕事ではあるだろうが、まあ…なんにせよ。

市政の人間の悲鳴がキャーキャー上がっている現状、監察医とは言え医者である彼が動かない理由も無い。

慌てて、貴利矢が現場に駆け付けたら、その場に居たのは…貴利矢の予想通りの惨状だった。

 

かつて、『名人』と永夢を呼んでいた頃に一度倒したことがある、金色のバイクのバグスター…モータスバグスターと言う、自分にとっては非常に因縁深いバグスターが、異形の進化を遂げて再び貴利矢の目の前に姿を現していたのであった。

 

上半身は、かつてとまるで変わらないが、下半身があまりにもおかしくなっている。

かつては普通に跨がっていたバイクが、癒着する様な形で上半身と繋がって一体化している。

そのバイクのホイールがあるべき部分からは車輪ではなく、太い脚が四本、馬のように芋虫の様にぐにぐに動きながら生えており…その脚で、かつてはバイクだった頃よりも道路を速く疾走していた。

 

その脚が地ならしする様に地を駆ける度に、周囲には無差別に衝撃波が広がっている。

ガラス張りだったろうショーケースのある店も、周囲にあるガードレールも、衝撃波で粉々になっており…車かバイクだったのであろう、破壊された車輪が転がっている先に、嫌な匂いを充満させながら炎上する鉄の塊が道路を幾つも転がっていた。

貴利矢が聞いた爆発音も、恐らくそれだったのであろう。

 

 

「…自分が見てるってのに、悪のりし過ぎだぜ、バグスターさんよ!!」 

 

現場に着いた貴利矢は、無差別に破壊を撒き散らしながら、道路を滅茶苦茶に走り回る…ある意味で、己の分身とも言えるバグスターに対して、怒りを見せる。

そして、貴利矢自身が持つバグスターへの対抗手段…ゲーマードライバーを何処からか手に取るなり、己の腰に巻き、そして、怒りを鎮めるように冷静に思考しながら、対策を立てる。

 

「…いきなり3速じゃ追い付けねえし、永夢もアイツらも居ねえから5速なんて無茶言えねえよなぁ…しょうがねえ、永夢が居ねえから馬力が出ねえから不安だが、射程に突っ込むまでは2速で行くぜ!!」

 

そう言って、貴利矢は己のドライバーに『爆走バイク』と言うゲームソフト…否、仮面ライダーの力が宿った『ライダーガシャット』と言うソフトをドライバーに突き刺して、ぐるりと回りながら虚空を蹴りながらこう叫ぶ。

 

「変身!!」

 

貴利矢の叫びに、まるで答えるかの様にゲーマードライバーはこう叫ぶ!

 

レッツゲーム!

メッチャゲーム!!

ムッチャゲーム!!!

ワッチャネーム!!!?

I 'm a KamenRider !!!!!

 

 

そして、テンション高く叫ぶドライバーに呼応する様にそこに顕れたのは…

…白くて玉子型の、なんかゆるキャラみたいな物体である。

 

なんか、やる気無い様な玉子型のデザインのこの貴利矢の姿。

これは、これこそがバグスターへの対抗手段である仮面ライダーの一人、『仮面ライダーレーザー』、その姿の一つ『レベル1』の姿である。

 

そう、この姿はあくまでも『レベル1』。

人からバグスターを分離させる最適の力ではあるが…戦闘力は最弱の形態だ。

パワーは高いが、リーチも短いし、足回りもそんなに速くない…特に、足回りに関しては、レーザーは特に顕著と言えるだろう。

バグスターへの絶対の力になりうるのはその次のレベルである形態…

 

「ん~…2速!!」

 

そう言って、貴利矢は己の姿を2速…仮面ライダーレーザーの本来の力を存分に振るえるだろう、『レベル2』へと進化させようとする。

 

 

「…なんだ、アレは?」

 

そして、そんな貴利矢の行動を…白亜の髪をしたオールバックの民族服の様な男が、眼光鋭く物陰から訝しげに覗いていた…

 

 

 



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二速 爆走!激走!独走!暴走、ジュウオウバード!?

「ん~…2速!」

 

そう貴利矢が叫び、己のゲーマードライバーのマゼンタのレバーを、ガッチャーンと言う音声と共にぐいと操作して開く。 

すると、どうだろう!

ゲーマードライバーの中から、元気良くレベルアップ!!と言う叫びが鳴り響き、こんな音声と共にレーザーのレベル1は己のタイヤを三輪車の様に押し付けて、ゲームソフトよろしく仮想空間を駆け回りながらこんな音声が次に響いてくる。

 

爆走!激走!!独走!!!暴走!!!!

爆走バァイクゥゥ!!!!!

 

そんな声と共に…レーザーのレベル1の外装は吹き飛び、その真の姿へと文字通り『変身』…否、最早『変形』するのであった。

 

 

その真の姿たるレーザーバイクゲーマーのレベル2、それは…バイクである。

比喩なく、黄色い細身のバイクに、ゲーマードライバーのベルトとライダーの顔面がついたハンドルがくっついていると言う、とんでもないシュールさだ。

 

そう、このレーザーと言うライダー、レースゲームの力を宿しただけに本当にピーキーな能力を誇る。

一応人型の体裁は整ったレベル1だと、初期症状のバグスターウイルスは兎も角も、分離し実体化したバグスターや他のライダーと比べてあまりにも力不足。

しかし、レベル2の力はと言うと…自走可能とは言え、操縦者ありきの設計の為か本来の馬力が出せない上に、バイクの為に直接戦闘力があまりに足りてない。

永夢の協力ありきでレベルアップする特殊すぎるレベル5は兎も角、貴利矢が自前で用意できるガシャットでもレベル3ならばその弱点も遠近隙がなくカバーが出来るが…まあ、今はそれは置いといて、レベル2の話に戻そう。

 

とまあ、レーザーのレベル2の能力はほぼ『スピード』の一点に集約される癖に、乗り手となる他のライダーが居ないと本来のスピードすら出せないと言う…あまりにも使いにくい能力である事は、貴利矢自身も良くわかっている話だったのであったが…しかし、レベル1はおろかレベル3ですら、あのモータスバグスターの変異体が駆け回る惨状にスピードで追い付く事は出来はしまい。

 

まあ、かつての変異する前のモータスバグスターですらレーザー単独で追いきれなかった苦い記憶は貴利矢には有るが、しかし、他に貴利矢の手持ちの手札であの金色の暴走バグスターに追尾する手段があった訳でもない。

貴利矢の知り合いで言えば、ジェットコンバットガシャットを駆り飛行能力の有るライダーのスナイプの様な手筋が有れば話は別だろうが…無い物ねだりが出来るわけでもなかった。

 

さて、そんなレーザーが…雑念を振り払うかの様に、ハンドルをひとりでにブルンブルンと捻ってエンジンをふかしギアを温める。

あのバグスターをライダー達の共通能力でもあるステージセレクトの結界に取り込める範囲内に近付くか、レベル3のクリティカルストライクで狙撃で狙える射程に回り込むために、さあ行こう!と気合いを入れた…まさに、その時であった。

 

 

「本能、覚醒!!」

 

そう、貴利矢の背後から若い声の男の叫びが響く。

バード!と言う海のように深い声の男の声がするなり、オーオー!オーオー!と言う閧の声と合わせて四角い金色の立方体が彼の身体を包み込み…その姿は、オレンジ色の鳥の様なマスクを被る戦士へと変化した。

 

思わずバグスターの事も一瞬で頭から抜けてしまった貴利矢が、彼に質問する。

お前さんは、なにもんだ?と。

そのオレンジ色の戦士は…迷わず、こう返した。

 

「俺は…天空の王者、ジュウオウバード!!」

 

ジュウオウバード…そう言えば、と貴利矢は思い出す。

デスガリアンと対峙しては平和維持の為に戦う戦士が居る、ジュウオウなんとかってチームだったハズだ。

いつか、TVで見たこと有るのと同じデザインだ、ならば敵ではないだろう、と。 

そう考えた貴利矢は…ついつい、何時もな調子で、軽い口調で声をかけたのである。

 

「自分で自分を『王様』なんて言うなんて…アンタ、イケるノリしてるじゃん?良かったらさ、俺と相乗りしてくれねえか?なんか知らねえが、デスガリアンとかいう輩と戦うジュウオウなんとかって一人なんだろ?」

 

そう言って、気さくに声をかけた貴利矢に対して、ジュウオウバードと名乗る男はと言うと。

そんな貴利矢の気遣いを一蹴するかの様に、こう返したのであった。

 

「俺は、別にデスガリアンと戦ってる訳ではない…正式な仲間じゃ無いんだ、だからお前の期待には答えられない。第一、初対面の癖に、馴れ馴れしくて信用ならん。お前こそ、何者だ?」

 

そうジュウオウバードに言われて、貴利矢は…確かに、それはそうだ、と得心する。

信用する事の難しさ、信用される事の得難さを。

 

あの純粋なお人好しな永夢の協力を得るのにも、貴利矢風に言えば『悪ノリ』してしまったせいで、手近に結果を求めようとしてその信用を裏切った結果どれだけソレを取り戻すのに苦労したかわからない。

まして、こんな難くなそうなジュウオウバードを名乗る男の信用を得るには…貴利矢からしたら苦手なことではあるが、嘘は吐いてはいけない、そう直感が告げていた。

幾度も監察医として調査に出向いていた際の、経験則でもあったのである。

 

とは言え、因縁深い相手が現在進行形で暴走している現状、いちいち事細かに自分の素性を明かす時間はない。

故に、かいつまんで語る事にした。

 

「あそこで爆走しながら暴れている怪物はバグスターって言う…まあ、悪い病気の塊で、自分はソレを退治する専門の医者の一人って感じだ。こんな姿でわりいが…自分の名前は、仮面ライダーレーザーって言うん…だぁあ!?」

 

そう言って、敵と己の正体を真面目にジュウオウバードへとただただ説明していただけだと言うのに、いきなりそれは質問した張本人からの攻撃により中断させられてしまった。

 

イーグライザー…大空の王者と天空の王者にのみ所持を許されし、蛇腹型に伸縮可能な鞭と剣の二つの顔を持つジュウオウバードの必殺武器。

その一撃が、何も悪いことをしていない貴利矢に向かって、鞭の様にピシャリと飛んできたのである。

 

「あっぶねえ…いきなり、何しやがる!?」

 

思わずごろごろと、貴利矢はレーザーのゲーマードライバーを器用に閉じて、ガッシューン…と言う音声と共にレベルダウンして緊急回避する。

しかし、狼藉を働いた側のジュウオウバードは、臆面もなくこう告げたのだ。

黙れ、嘘つきめ!と。

 

『嘘つき』と言われて…思うところの多い貴利矢はカッとなり反論しようとするが、対するジュウオウバードは貴利矢に構わずこう続けるのであった。

 

「仮面ライダー…大和、ああ、貴様に言ってもわからないかも知れないが、知り合いからその姿を聞いた事がある。パーカーを被った戦士で、丸い玉を使って変身する背の高く足の長い、蹴りが似合う戦士だ、と。似てもにつかないじゃないか、貴様の全てが。貴様の何処が『仮面ライダー』なんだ?答えてみろ!」

 

 

…そう、ジュウオウバードは『仮面ライダー』と言うモノを知っている。

だが、ソレが故に、恐ろしくややこしいことへとなっていたのであった。

 

ジュウオウバードに大和と言われた男、ジュウオウイーグル及びゴリラやホエールの変身者でもある風切大和は、たまたま仮面ライダーと共闘した事があり…ジュウオウバードに変身する男へと数年ぶりに再会した際、彼にもソレを伝えた事がある。

しかし、その仮面ライダーは…まあ、色々とレーザー達の言う仮面ライダーとは根本的に似付かないシステムにより変身する、目的自体が根本的に違うライダーだったのだ。

おかげで、その大和の説明を鵜呑みにしたジュウオウバードの中の仮面ライダー像と、貴利矢の言う仮面ライダー像がまるで噛み合わず、齟齬が互いに発生する事になっていた。

 

或いは、レベルアップに関係無く人型のエグゼイドやブレイブやスナイプならば、ジュウオウバードも仮面ライダーに対する齟齬のギャップも『大和の勘違い』や『説明に無いシステムのライダーが世界に存在する』、と納得できたのかも知れないが…よりによって、レベル2がバイクと言う、骨格がどうしたらそうなるかわからない狂った変形をこなすレーザーが相手だったのが不味かった。

ゆるキャラからバイクが出てきて『俺も仮面ライダーです』と言われて、納得できるヤツを探す方が難しいだろう。

まだ、『デスガリアンがジュウオウバードを騙そうとライダーの名前を騙っている』と思考する方が、完全に建設的だろう。

 

ソレが故に、ジュウオウバードの脳内では、貴利矢が『仮面ライダーを騙る悪い偽物』としか思えずに、ひどい行き違いから威嚇ぎみに攻撃する事になっていた。

 

 

とは言え…貴利矢の方からしてみたら、ジュウオウバードの思考なんてわかるわけがない。

いきなり、トラウマの様な言葉でもある『嘘つき』と罵られた挙げ句、親友ジュンゴの仇を討てるかも知れない自分に残されたギリギリの誇りでもある『仮面ライダー』の名前すら否定されたのだ。

 

ソレを許して置けるほど、貴利矢は老いては居ない。

青臭いと言うか面倒臭いとは、貴利矢自身も思うが…ジュウオウバードと名乗り自分を否定する目の前の男へは、貴利矢自身の怒りを抑える事は出来なかった。

 

「言わせて置けば…アンタ、俺とはノリが合わねえみてえだな!」

 

そう言って、貴利矢は自身のガシャットのホルダーから、己の最強兵力である『ギリギリチャンバラ』のガシャットを、爆走バイクが差さっていない空いたスロットへ差し込むなり、こう告げるのである。

仮面ライダーレーザーの戦闘形態であるレベル3の姿へと変身する為の、切り札を呼ぶ掛け声を。

 

「行くぜぇ…3速!!」

 

そう言って、爆走バイクのガシャットとギリギリチャンバラのガシャットを2本差ししたゲーマードライバーのレバーを、再びガシャーンと鳴るベルトと共にぐいと操作するのであった…



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三速 ギ・リ!ギ・リ!二人の関係!?

3速…貴利矢がこう叫びながら、新たに差したギリギリチャンバラガシャットと共に爆走バイクのガシャットを合わせて、ゲーマードライバーのレバーを操作する事で改めてレーザーのレベルアップを謀る。

レベル1だったレーザーがレベル2を更に振り切る強さへと進化する『レベル3』の境地へと進化する為にだ。

 

レベルアップ!と言う音声が響き、ゲーマードライバーはこう叫ぶ。

爆走!激走!独走!暴走!爆走バイク!と言うレベル2を唱う声に間髪入れず、更にアガッチャ!と言う音声と共に和風なBGMが鳴りながらこう告げるのである。

 

ギリ!ギリ!ギリギリチャンバラァァ!!!

 

そう言って、貴利矢のドライバーが鳴り終わり、レーザーのレベル2であるバイク体が空に浮かんだかと思いきや…すると、いきなりどうだろう。

虚空にいきなりギリギリチャンバラガシャットの化身である武神を模した様なロボットが一体召喚されて、ジュウオウバードに向けて牽制の攻撃をロボットが数発放つ。

巻き込まれたジュウオウバードが、ぐわぁ、と小さく叫び吹き飛ばされるのを貴利矢は見つつ…レベル3への変身、否、合体に着手するのである。

 

さて、ここでいきなり話は飛ぶが、ここまでスルーしていた貴利矢の爆走バイクに並ぶ『ギリギリチャンバラ』とはどういうゲームなのか、と言う事を軽く解説すると。

真剣勝負の武士達による斬り合いをモチーフにした、一撃貰ったらゲームオーバーの危険も見える、命がけな文字通りのチャンバラゲームである。

その力を宿したレーザーは…今までのバイクやらゆるキャラとはまるで異なる、人型の姿へと姿を変化させるのである。

 

身体からバイクの車輪が吹き飛んでバラバラになっていたかと思いきや、チャンバラガシャットの化身のロボットが綺麗に分解されて、鎧の具足をモチーフにしたであろう手足を形成するパーツがバイクの身体にくっついて、レーザーの四肢を為す。

そして、兜を模したロボットの頭部が改めてレーザーの頭へなることで、ここにレーザーのレベル3の変身シークエンスが完成するのである。

 

これぞ、仮面ライダーレーザー・チャンバラバイクゲーマーレベル3の姿であった。

 

 

「お前は…何だ?地球の生き物…か?」

 

こんな物理法則を無視した変化に対して、ジュウオウバードは至極真っ当な突っ込みを入れる。

…まあ、ジュウオウバードはアザルド何て言う、レーザーに負けず劣らずの物理法則を無視したバラバラ野郎を一度見ているからこその、真面目な感想だったのであるが。

 

しかし、言われた貴利矢はと言うと、天然気味とも言える彼の突っ込みのせいで梯子外しを食らって、折角かっこよくレベル3への進化をしたのにずっこけていたりしたが…まあ、それは兎も角も。

 

「…幻夢の社長さんか何かに聞きやがれ!自分は正真正銘、健康優良日本男児の監察医だっての!」

 

そう言って、レーザーは虚空からガシャコンスパロー…レーザー自身の体色に合わせたかの様に山吹色をした己の専用武器を取り出すなり、Aボタンをパンと一回叩いてス・パーンと言う音声と共に分離させ、二刀流の鎌モードでジュウオウバードへと殴りかかる。

対するジュウオウバードも、己のイーグライザーを構え直し、レーザーの攻撃に備えようと対峙するのである。

…そんな折だった。

 

 

「ウワァァァアア!?」

「トシキ!?トシキィィィ!?」

 

声変わりもまだであろう甲高い少年の悲鳴と、少年の母親なのだろうか、トシキと名前を連呼する女性の悲鳴が貴利矢とジュウオウバードの二人の耳に飛び込んでくる。

何事だ!?と、二人が声のする方向へと目を向けると、こんな光景が広がっている。

 

モータスバグスター変異体、あの金色に疾走する悪魔が…右腕に少年を俵か何かのように抱えあげながら、正気を失ったかの様に、やたらめったらな方角へと衝撃波を撒き散らしながら道路を縦横無尽に駆け回る。

その抱えられた少年は、暴走しまくっているモータスの腕から振り落とされない様に、必死で全身を使い捕まりながら…時速数百キロの悪魔の暴走に食らいついている。 

 

そして、もしも…モータスバグスターの腕からスピードに耐えきれずにトシキが離れてしまえば、起こりうる事は目に見えている。

超速の速さで地面に叩きつけられて…運が良くても少年の手足が複雑解放骨折、運が悪ければ、熟れたトマトか柿でも地面に叩きつけられたかの様に頭がザクロになって死んでしまうだろう。

 

そして、一方のその少年の母親が為すすべもなく子供の名前を連呼して…ソレでも現場に赴こうと必死の形相で手を伸ばそうとしているのを回りの大人達が必死に安全圏に逃がそうと抑えている、そんな地獄絵図だったのだ。

 

 

「…あんにゃろう、何でか知らねえが正気を失っている癖に、やることがまるで変わらねえじゃないか!」

 

貴利矢は思わず、モータスバグスターの狼藉を見て悪態をつく。

ニッシーと気安く貴利矢が呼ぶ仲の同僚、彼の妹の拉致事件を思い起こす様な、嫌な事件だ。

あの時は…グラファイト、炭素を名乗る龍のバグスターが拉致の主犯ではあったとは言え、根本的にはモータスバグスターが完全体のバグスターへ進化する為にやらかした事件でもあった。

 

そして…思えば、貴利矢が他のライダー達との関係性が拗れてしまったきっかけのバグスターでもある。

そんなバグスターが、また彼の目の前で同じような悪行を働いていると言うのだ。

根がわりとお人好しでもある貴利矢が怒りを覚えるのは当たり前であった。

…自分のガシャットから出た灰汁の様なバグスターだとしたら、尚更であろう。

 

しかし、貴利矢は自分の弱さも、一人で戦う難しさもよく知っている。

爆走バイクと言う、あまりにもピーキーなガシャットが相棒だった彼からしたら、誰かの力を借りる事の大切さと言うのもよくわかる話だった。

…まあ、彼の場合、その方法が初手で『協力』ではなくて『利用』と言う方向性だったのが彼のいけなかった部分なのだが、それはそうと、と言う話に戻そう。

 

貴利矢は、目の前のバグスターの凶行を止めるには、レベル3の力の自分でも足りてない事は自分で良くわかっていた。

ならば、借りるべき相手は…目の前の、『天空の王者』を自称する、いけすかないこの男しか居ない。

頭を下げるのは正直シャクではあったのだが、目の前でモータスバグスターに振り回されているトシキと言う少年を救うには、本当に時間が足りない。

そこで、貴利矢はジュウオウバードに言いたいことを全部飲み込んで…こう告げた。

 

「さっき、俺が言ったことは嘘じゃない…今日の自分には嘘はねえんだ。頼む、俺が仮面ライダーと信じられなくても良い!いや、何も自分が信じられないってんなら、ソレでも良い…!だが、俺はバグスターウイルスのせいで人が死ぬのは絶対に見たくない!今だけで良いんだ、ジュウオウバード!俺に力を貸してくれ、あのガキを助ける為に!!」

 

そう言って、貴利矢は頭を下げながら…己の脳裏には、ジュンゴの死体が鎮座されていた死体安置室の悲しい光景が広がっている。

ゲーム病…バグスターウイルスのキャリアだった事を遠慮なく告知してしまったせいで、死の恐怖から正気を失ってしまい、錯乱してしまったままに交通事故に巻き込まれて命を落とした親友の…妙に冷たくて綺麗な顔が、だ。

 

あのバグスターを放置したら、また、ジュンゴと同じようなバグスターウイルスによる二次被害の犠牲者が出てきてしまうだろう。

ニッシーの妹の時は永夢が助けてくれたからこそ、余裕を以て瀕死のモータスを解剖でもしようとあんな真似が出来たが…今はまるで余裕がない、己のガシャットよろしくギリギリの状況だったのである。

あのままならば、トシキと言う少年は、一分もしないままにモータスバグスター変異体に振り落とされてしまうだろう。

 

そんな状況で頭を下げる貴利矢に対して…ジュウオウバードと名乗った男は、一言だけ、こう貴利矢に返した。

 

「顔を上げてくれ…俺が悪かった、謝るのは俺の方だ。すまなかった、お前が仮面ライダーかどうかは今は聞かない…と言うか、わりと真面目にお前の身体が地球の生き物かどうかも今は聞かないが、きっと悪いやつじゃない事は解ったよ。あの少年を助けたいと言うなら、俺も協力することは、吝かじゃない」

 

そう言って、ぶっきらぼうに告げる彼に対して、貴利矢は、本当か!?と嬉しそうに返すが、ジュウオウバードと名乗った男は、貴利矢の言を制するかの様に、こう続けるのであった。

 

「…俺こそ、本当は王者と名乗るのもおこがましい、ただの罪人に過ぎない男だ。『バド』、それが俺の本当の名前だ。俺を呼ぶならば、そう呼んでくれ」

 

そう…ジュウオウバード、改め、バド。

彼の言に対して、貴利矢は、おう!と元気良く答えるのであった…



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四速 其々のSTAGE

さて、今まで『ジュウオウバード』と言う表記で語っていた、バドと言う男。

彼は…人間ではないと言う事を、ここで明かそう。

彼自身の本当の姿こそ、レーザーよりも常識はずれである。鷲のような顔を持った、鳥男なのだ。

 

彼は『ジューマン』、『ジューランド』と言う隠された異界の、人間とは異なる進化を遂げた動物達のその末裔である。

彼は、鳥の遺伝子を持つジューマンであり、かつては『王者の資格』…ジューランドを作る礎を築いた鯨のジューマンの英雄ケタスが作り上げた伝説のキューブ、ソレを守護する番人であったと言う。

 

だが、ジューランドに迷い混んだ少年との交流、そして悲しい結末に絶望した彼は…

二度とジューランドと人間が交わらぬように、彼自身が言うように、罪を背負ってでも人間とジューマンを守ろうと、王者の資格を盗んでしまった。

ジューランドの秘宝であるその王者の資格の一つは、少年時代の風切大和に渡した事でバドの目論見こそ達成したが…デスガリアンの襲撃によるゴタゴタからアム・レオ・タスク・セラの四人の王者の資格の番人達が人間の世界に迷い混んでしまい、そのゴタゴタの隙に、外れた王者の資格の一つをバドは改めて持ち去ることになるのだが、まあこれは長すぎる話になるのでそこは割愛するとしよう。

 

…と、そうした経緯があり、バドからしたらかつての少年を悲劇に巻き込んだ哀しみの象徴でもあり、彼自身こそ自覚はなかったものの、大和との絆の象徴でもある最後の王者の資格。

『ジュウオウバード』とは、その因縁深い王者の資格から『ジューマンパワー』と言うジューマンの野生の力を増幅した姿にこそ過ぎないのであった。 

 

 

「ところで、俺は自転車にも乗ったことが無いんだが、その、バイク…と言うのか?お前の第二形態らしき姿にいきなり乗っても大丈夫だったりするのか?」

 

…と、まあ、そんな真面目な理由がある訳で。

 

バドは王者の資格を最初に盗み出して以降10年以上も人間界に放逐されていたとは言え、その間は山奥で隠者の様に人目につかぬままに生きていた為か、仮面ライダーの知識どころか人間界の常識と言うか生活面の知識が足りてない部分も有る。

レーザーとの共闘を宣言するなり、貴利矢に向かいいきなりボケた言動をしたバドは、別に何一つふざけている訳ではなかったのである。

 

「…勘弁してくれよ兄さん…自分、乗れ無いどころかエンストしそうだぜ…!」

 

まあ、バドのこんな事情がわからない当の貴利矢はと言うと、レベル3の状態のままずっこけていたが。

 

 

それはそうと、貴利矢はギアを入れ直すと、バドに向かい何ができるのかと言う質問をする。

バド自身が言っている様に、免許も無い上にその手のマシンに乗った経験が無い彼にレベル2を乗り回せと言っても困るだけだろう。

恐らく、バドをレーザーレベル2に乗せて運転させたところで、転倒するかガードレールに激突するのが関の山だ。

ならば、共闘をする為の次善策として、貴利矢は彼が何ができるのかを把握してサポートしよう…と言うことだったのである。

 

そんなバドの答えはと言うと、こんな具合だった。

 

「…飛べる!!バグスター、だったな。アイツがごちゃごちゃ速いのは、平面だけの速さだ。俺が上をとってあの怪物の頭を抑えて…」

「…後は、急降下してあのガキを直接拾うなり、あの鞭みたいな剣でガキだけを巻き取ってバグスターの手から奪い去るって寸法か。良いぜ、乗った!!」

 

そして、バドの答えを最後まで聞かないままに、貴利矢はガシャコンスパローをズ・ドーンと言う音声と共に弓形態へと再合体させて、モータスバグスターが走り回る戦場へと走って向かう。

そんな貴利矢に、バドは一言だけ、小声でせっかちなヤツだなと悪態をつきながらも…腕を、羽を広げるように構えながらこう叫ぶ。

 

「野生、解放ゥ!!」

 

そう告げるバド…ジュウオウバードの両脇には、羽ばたくためのオレンジ色の羽根が生えてくる。

『天空の王者』の本来の姿にこそ相応しい、バドの野生の力を全開にした、ジュウオウバードの真の姿である。

その皮膜のような気高き翼を羽ばたかせ、ジュウオウバードはイーグライザーを片手に天高く飛翔する。

 

そんなバドの姿を尻目に、貴利矢はガシャコンスパローを疾走しながら構えて、バンバンと音を鳴らしながら矢を放っていく。

モータスバグスター、少年を人質に取りつつ縦横無尽に駆け回るあの忌まわしきバグスターが居る方向に、だ。

 

 

だがしかし、その貴利矢から放たれたガシャコンスパローの矢は…まるで、モータスバグスターに当たらない。

バシュッと良い音を鳴らしながら放たれた一条の矢は、高速で疾走するバグスターの横を通り過ぎ空を切るばかりである。

外した矢は、1発や2発どころではない。まるで見当違いな方向へと、ガシャコンスパローの矢は飛んでいく。

むしろ、貴利矢の矢こそバグスターに中らないようにわざと外しているのではないか、と言うぐらいであり…地上から見たら、まるで下手くそな新兵が矢を無駄射ちするようにしか見えない醜態にしか思えない有り様だった。

 

そして、安全な場所に逃げた人間から、或いは少年の母親からですら、貴利矢に向かいヤジが飛ぶ。

何処を狙ってんだ、この下手くそ、と。

ガシャコンスパローの矢の流れ弾により、道路がバグスターが暴れてる以上に穴だらけになってしまったかならば、致し方ないことだったのであろう。

…だが、貴利矢は、そんな周りを気にしないままに、矢を幾度も放っていく。

 

ソレこそが、貴利矢の真の狙いだったからだ。

 

 

「…多少、雑で荒っぽいやり方だが…悪くない。これなら、あの子を助けられる!!」

 

そんな貴利矢が矢を滅茶滅茶に放っている…ように見える状況下、その隙に天を取ったバドが上から急降下してモータスバグスターに向かい突っ込んでいく。

ソレに気付いたバグスターは慌てて距離を取ろうと本能的に動こうとして…躓いてしまった。

 

そう、貴利矢は最初から、あのモータスバグスターを直接狙っていた訳ではなかった。

そもそも、レースゲームのキャラクターの化身の全力疾走を狙い撃てるとは、貴利矢は考えていない。

当たる確率が低いだろうし、何より、バグスターの手に有る少年に当たる確率がある。

助けようとして、自分がその対象を撃ち抜いてしまうなど…最早、笑えないギャグでしかないじゃないか。

 

ならば、貴利矢のすべき事は、『モータスバグスターを足止めすることに徹すること』である。

具体的に言うならば、モータスバグスターを走り回らせないようにすれば良い。

バドが言っていることでもあったじゃないか、『モータスバグスターの動きは、平面的でしかなかった』と。

破壊も妨害も有りとは言え、バイクレースゲームの化身であるモータスバグスターには、本能的にジャンプするだの飛ぶだのと言う行動が取れる訳ではなかったのである。

ならば、そのバグスターの動きを止めるには…簡単だ、走れなくすれば良い。

道を、全力疾走で走れないフィールドに変えてしまえば良いのである。

 

貴利矢が道路を穴だらけにした事は、要するにそう言うことだ。

円を描くように道路に穴を空けることで、モータスバグスターを知らず知らずの内に追い込みながら、全力疾走できる範囲を狭めていき、上を抑えているバドが救出しやすいように調整していたのであった。

飛びながら貴利矢の矢の弾道を上から見ていたバドは、そんな貴利矢の狙いを直ぐに看破していたのである。

 

 

そして、貴利矢の策に嵌まり全力疾走しそこなったモータスバグスターの手から、少年が離れ、空を舞う。

そこに、少年の身体にイーグライザーの鞭モードが疾風の様に巻き付き、少年を巻き取るなりバドは優しく抱き上げながら、返す様に少年の母親の下へと舞い降り、優しく母親へと少年を引き渡す。

 

泣きながら再会を喜ぶ母子を尻目に、バドと貴利矢はガツンと肘を無言でぶつけ合いながら、お互いの健闘を称え合いつつ、最後の始末に向かう。

 

 

…STAGE SELECT…

 

貴利矢が己のドライバーの能力の一つである、疑似空間転送能力をそんな音声と共に発動し、関東のとある石切場跡を模したデータ空間へと、バドとモータスバグスターを引きずり込んだのであった…



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X速 盤外、番外!GM・ザ・クライシス…!!

(何故…ヤツは、何者だ!?)

 

ナリア…デスガリアンのオーナージニスの秘書であり、ブラッドゲームの調整者でもある彼女は、内心でこう呟いていたと言う。

目の前の、まるで理解の範疇を越えた様な、『死神』を前にして…

 

 

 

話は、貴利矢とバドの二人がモータスバグスターと共闘する、そのわずか1時間ほど前に遡る。

そう…貴利矢等の戦いとは別な場所で、また別な『仮面ライダーの戦い』があったのである。

やや本筋から離れた脱線ではあるが、これからの話に必要な『盤外』のこの一時間の内に起きた別な話を、少し挟ませていただこう。

 

エキデイン…チーム・アザルドに所属するブラッドゲームの『プレイヤー』の反応を、ナリアは丸々三日半、ブラッドゲーム再開を望むジニスの為に一睡もせずに探し回り…

ついにソレを見つけた時は、ゲンムコーポレーションが所有する数々の倉庫の一つの裏手の路地裏に、まるで錆びたドラム缶でも放棄するかの様に無造作に転がされている姿だったと言う。

 

漸く見つけた、何故か妙に反応がか細くなった為に探し出すのが大変だったエキデインに、嫌味の一つでも付けようかと思っていたナリアだったのであるが…ハムみたいに縛り付けられていた、その情けない姿以上の異常がエキデインには見受けられている。

そう、『ゲーム病』に感染した為に、その姿が薄いビニールの様に透明になってしまったのである。

 

 

「な、何が…!?」

 

ナリアは、目の前のプレイヤーのその異常に気が付き、つい狼狽えた様に反応を見せた途端、ハハハ…と、わざとらしい気持ちが籠らない笑い声が倉庫街に響き渡る。

ナリアは、その笑い声の主に向かい、思わずこう怒鳴り付けた。

 

「何が可笑しいのですか!?下等生物め…!居るなら、早く出てきなさい!!」

 

そう怒鳴り付けたなり、手持ちの銃を兼ねたヌンチャクを両手に構え威嚇すると、その声の主たる男は臆さずに現れる。

スーツ姿に、きっちりセットした黒髪の端正な青年…壇黎斗、それはゲンムコーポレーションの社長。

『仮面ライダー』達のゲームのGM(ゲーム・マスター)であり、倉庫街の管理責任者でもある男だった。

 

 

「倉庫の持ち主が、手持ちの土地に表れて可笑しい理屈は有るまい」

 

そうわざとらしい口調のままに告げる黎斗は、消えかけのエキデインの方向に目だけ向けながら、更にナリアに向かいこう続ける。

 

「『ブラッドゲーム』…中々、ゲーム会社の社長としたら面白いアプローチの話だ。侵略行為をゲームに見立てての戦い、ゲーム内容によっては、知人の言葉を借りれば『心が踊る』と言うモノだ。開発中の最新式ゲームである『Knock Out Fighter』と『Perfect Puzzle』も、元々は君達デスガリアンのゲームからインスパイアされたモノなのさ。そう言った部分に関しては、素直に礼を言うべきだろう」

 

そう言って、軽く会釈をして一拍置くなり…しかし、黎斗は、今度は『素』をさらけ出しながら、苛ついた語調を出してこう続けるのである。

 

「だが…『下等生物』は、取り消して貰おうか、エイリアン風情が!バグスターウイルスにかかった異星人のデータは『KAMEN RIDER CHRONICLE』完成の何かの役に立つかと期待していたが…疾患のスピードどころか、人間との身体の作りそのものすらゲノム単位で違うせいで、まるでデータは役に立たない!時間を無駄にしてしまったのだよ…!私からしたら、デスガリアンとはアメーバ以下の存在に過ぎないそれが、私に向かい偉そうな口を利くことは赦さない!」

 

 

そう、傲慢すぎる口を叩く黎斗に対して、ナリアは…あまりにもあまりな言に、唖然とするしかなかったが

しかし、直ぐにナリアは正気に立ち戻り、黎斗へと怒りをそのまま向けるかのごとき銃弾をヌンチャクから浴びせる。 

 

「お前こそ…力の差を思い知りましたか!!我等デスガリアンでも、ジニス様に見初められた私と、下等な現住生物との力の差を噛み締めながら…そこで果てなさい!」

 

そう、怒鳴り付けたナリアは、だめ押しとばかりに追撃の銃撃をガガガガッ!と連射する。

 

アルファルトで固められた大地は、まるでバターナイフでマーガリンの塊を抉るかの様に削られて。

周囲には、硝煙と火花により煙が充満している。

マシンガンの攻撃をした直後の様な無惨な跡を見たナリアは、自分の攻撃を以て、黎斗はまるでぼろ雑巾の様になったのであろうと思い立ち去ろうとする。

大人げないとも自分で感じたナリアだったが、あの傲岸不遜な下等生物の顔を見なくても良いと判断したからであろう。

 

そして…バグスター・ウイルス、要するに、現地の死病にかかったプレイヤーの処遇をどうすべきかジニスに相談しようと連絡を入れようとする。

サジタリアークに回収して治療するか、何処か空気のきれいな星にでも隔離するか、或いは…役立たずになったプレイヤーを『処分する』か。

 

恐らくは、面白くも無くなった玩具の末路なぞ最後の選択肢なのだろうとはナリア自身も思いつつ…しかし、あくまでも秘書たるナリアではジニスの意向の全てなんかわからない為、彼女自身だけでは判断は出来ない。

そう考えるナリアは、通信機に手をかけた瞬間…パンッ!と言う、一発の銃声が、ナリアに向かい響く。

  

思わず、その銃声がする方向に顔を向けたナリアは…更なる銃撃に、吹き飛ばされて膝を地につける。

何事かとナリアは改めて銃声がする方向を確認すると…そこには、紫のゲームパッドの様な銃、『ガシャコンバグヴァイザー』を持ちながらナリアを攻撃して来る黎斗の姿が、硝煙が晴れた先から無傷で在ったと言うのである。

 

 

「く…!しぶとい下等生物が!?」

 

止めは刺せないどころか反撃まで許したナリアは、その事に恥と怒りを同時に見せながら、通信機から手を離して再び攻撃しようとする。   

 

一方の黎斗はと言うと、淡白な表情のままに冷淡過ぎる視線を以てナリアを見ながらも、淡々と持論を、何事もなかったかの様に続けるのである。

 

「…何より、私が君達デスガリアンを気に入らない理由は、『ブラッドゲーム』こそ最高のゲームだと思い込んでいることだ。気に入らない、最高のゲームを産み出せるのは、この私だけなのだ!実際、そうだろう?もし、本当に君達が最高のゲームをするプレイヤーならば…例えば、今だったとて、さっきの攻撃で私を肉塊にできるだろうに」

 

そう挑発する黎斗に、額に青筋を浮かばせながらナリアはなんですってと反論しようとするが…当の黎斗は、淡々とした口調のままに、いきなり手持ちの武器だったガシャコンバグヴァイザーを腰に充てながら、こう締めたのであった。

 

「最高のゲームとは、例えばこう言うゲームの事を言う。『テストプレイ』には丁度良い、レベルⅩの新型ゲームさ…変身!!」

 

そう言って、黎斗は白いライダーガシャットを、パチッとスイッチを押しながら水平に構える。

デンジャァラス・ゾンビィィ…!!と、まるで唸り声のような叫びを響かせたガシャットを、腰に充てたヴァイザーのスロットに斜め下に向け一直線に挿す。  

 

デンジャァァア!

デンジャァァア…!!

デス・ザ・クライシス!!!

 

そう、地獄の亡者の様な叫びが、黎斗の腰から響くなり…黒と赤に染まったヴィジョンから、ガラスを突き破る様に現れた白い死神か亡者の化身の様なライダーが姿を顕した。

 

 

「な…貴様は、一体…!?」

 

ナリアは、目の前の異様なライダーに驚き、まぬけな声を見せるが、当の黎斗は気にしない。

黎斗は、変身してくぐもった声をしながら、こう告げた。

 

「私は、仮面ライダーゲンム、ゾンビゲーマーレベルⅩ(テン)…!『デンジャラスゾンビ』とは、無数の倒しても倒しても甦る亡者達が蔓延るゾンビの街から逃げ惑う、死のゲームだ。光栄に思え、他のライダーすら知らない新作ゲームの、最初の目撃者になれることを…!!」

 

そうして、ゾンビゲーマーへと変身した黎斗は語り終えるや否や、いきなりナリアに殴りかかり彼女を吹き飛ばす。

其れに怒ったナリアは、ゾンビゲーマーを、文字通りに亡者にしようと攻撃を再開する。

…そして、二人の戦いは、一時間以上にも及んだと言う。

 

 

そして、話は、ナリアの冒頭の内心描写へと立ち戻る。

 

ナリアの計算ならば、既に、あのゾンビなんちゃらと言う亡者は死体になっている筈だ。

それだけの弾を、打撃を、打ち込んだ。

あの悪の天才でありナリアが唯一心服しているジニスや通称通りに不死身のアザルドならばともかく、何度も邪魔してきた憎きジュウオウジャーですらただでは済まない筈の攻撃を黎斗に浴びせている。

 

だが…そんな、死ぬ筈だった致命傷を受ける度、黎斗はぐねぐね気持ち悪い動きを見せながら、本当にゾンビの様に意に介さず立ち塞がってくる。

 

…これは、もしかしなくても分が悪い。そう、ナリアは目の前の敵へと判断を向ける。

戦闘技量ならば、百戦錬磨なナリアと黎斗はそう変わらないだろうが、或いは…アザルド以上に不死身な能力の有る敵へと対処するのは困難だろう。

 

「…ちっ!一旦、サジタリアークに退却するべきですか、不本意ですが…!」

 

舌打ちしつつ、ナリアはそうぼやくなり…何時ものように、メダルの様なエネルギーでワープしようとした瞬間に、それは起きた。

 

 

「ぐ…苦し……ミギャァァァアアアアアア!!!?」

 

先程から弱っていたエキデインが、断末魔の絶叫を上げながら、突如として苦しみを訴えるかの様にもがきだす。

何事か…!と、ナリアはおろか、黎斗ですら一瞬驚き、そちらの方に顔を向けたなり、その『異常』の正体が判明する。

 

ゲーム病の末期症状、それはつまり、この世界からの文字通りの『消滅』。

 

そう、黎斗によって大量のバグスター・ウイルスを散布されゲーム病に犯されたエキデインは、黎斗の予想以上のスピードでゲーム病は進行し…遂に、ゲーム病の最終stageに到達して『死』に至ったのである。

 

 

「ふむ、データとしては役立たずのプレイヤーの末路はデリート、か…まあ、花程度は添えてやるか、その辺の雑草で花束にして」

 

そう言って、黎斗はエキデインが居た場所に目を向けながら、ポツリと呟く。

一方のナリアは、目の前の異常事態に呆気に取られながらも、一人ではどうしようもないと判断して、捨て台詞すら吐かずにジニスとアザルドに『プレイヤーの病死』の事実を伝えるためにサジタリアークに帰艦する。

 

 

その事は、丁度…貴利矢とバドが、モータスバグスターを異空間に転送した直後のことだったのであった…



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