ゆゆこさまといっしょ (ハカナ)
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ゆゆこさまとくりすます
━━━━クリスマスイヴ。それは彼の聖人の誕生を祝う前夜祭である。そこから色々発展してサンタクロースが子供達にプレゼントを送るようになったりカップル同士がデートしたり何なり…………。
そんな自分は白玉楼でクリスマスを過ごしている。今日は妖夢がクリスマスケーキを作ってくれるみたいだからとても楽しみだ。
「ねぇ?」
「……幽々子さん、いきなりどうしたんです?」
不意に、幽々子さんが問いかけてきた。今度はどんなことを聞いてくるだろうか。自分の名前も内容も伏せて質問してくる時は大体ぶっ飛んだ質問だ。
「私達、いつになったら結婚するのかしら」
知ってた。やっぱりぶっ飛んでた。結婚しようだなんて……結婚?
「け、結婚!?い、いや、そんなのまだ早いですって!」
その言葉の意味を理解した途端、顔が熱くなる。やっぱ幽々子さんには敵わない。平然とそんなこと言える精神力には抵抗のしようがない。
「つれないわねぇ、私達仮にも恋人なんだから。もっとこう、何て言うか……もっとあんなことやこんなことをしたいとか思わないの?」
「だから、そういうことはまだ━━」
「そう?私は別にいいわよ?」
「っ……!」
更に顔が熱くなる。凄い。身体中から蒸気が沸き上がるんじゃないかってくらい凄い。幽々子さん、何で恥ずかしがってないの?
「なんて、冗談よ。何、まさか本気にしちゃった?」
「はぁ……」
呆れから、ため息をつく。幽々子さん、本当に凄いなぁ……。冗談にしてももっとマシな冗談は無いんですかと言いたい。心臓に悪い。
……まぁ、いつもこんな感じだ。何気ない会話は楽しい。実際の所ほぼ痴話喧嘩だが。そこは気にしちゃいけない。
「ケーキ、できましたよ」
そう言って戸を開ける者が一人。妖夢だった。ケーキをここに持ってきてくれたようだ。そのケーキはチョコケーキだった。とても綺麗な形で、何より美味しそうだ。早く食べたい。
「あぁ、ありがと」
こんなに美味しそうなケーキを作ってくれた妖夢には感謝しかない。
「いえ、私は当然のことをしたまで。では私はこれで━━」
「いや、妖夢も一緒にいていいんだぞ?」
「何言ってるんですか、クリスマスは恋人同士が過ごすと決まってるもの。私は場違いです。では、楽しんでください」
そう告げて、妖夢は部屋から出ていった。……妖夢は俺と幽々子さんに気を配ったんだろう。
「妖夢も中々やるじゃない。私達の邪魔をしないように空気を読んでくれたんだから」
「……えぇ、そうですね。こんな辛気くさくなるものあれだし、ケーキ食べちゃいましょう!」
「そうね、こんなにも美味しそうな物を放ってはおけないわ」
妖夢の気持ちを無下にする訳にはいかない。このままだと暗い方向に話が進んでしまうので話を変える。幽々子さんも妖夢のケーキを楽しみにしてたんだ。ここで台無しにしてはいけない。
「じゃ、いただきます」
「いただきまーす!」
食べる直前の挨拶を済ませ、一切れを口に入れる。甘い。スポンジがふんわりとしている。チョコはしっとりとしていて滑らかだ。
「甘い!癖になる甘さよ!」
幽々子さんも喜んでる。彼女が食べてる時の表情とても嬉しそうでついつい見入ってしまう。女神かよ。
「貴方はどう?何か感想は」
「できるならずっと食べていたい位です」
「そうよね!」
そう言ってケーキを頬張る。可愛い。
「はい、あーん」
「むぐっ……」
いきなり、ケーキを口の中の入れられる。勿論幽々子さん仕業だ。
「フフ、照れちゃって。可愛いんだから」
「……あーん」
やられてばかりじゃこっちのプライドが許さない。滅茶苦茶恥ずかしいが俺もやり返す。
「んっ……上出来ね。てっきり恥ずかしがってされるがままかと思ったわ」
「それはまずいですよ、男として……」
とは言え、されるがままもそれはそれで役得かもしれない。因みに俺は被虐体質ではない。いたって正常な男です。
「ケーキ、美味しかったわね」
「はい、とても。妖夢には何てお礼を言えばいいか……」
「そうね、後で二人一緒にお礼を言いましょう」
互いに微笑み合う。この空間を作ってくれた妖夢に心の底から感謝しつつ、このまま談笑を交わした。
※※※
━━━━目が覚めた。というのも、どこからともなく鈴の音がシャンシャン鳴り響いているからだ。その音はどんどん近づく。
これはあれか。サンタクロースか。サンタクロースが
鳴らしてるのか。本当に存在するのかサンタクロース。
好奇心から、俺は布団から出る。寒いが、そこは重要ではない。電気をつけ、足音を立てないようにそっと前に進む。一歩。また一歩。足音を最小限に抑えて歩みを進める。
ついに戸の前に着いた。いつもなら十秒もかからないが、緊張のせいなのか数分経ったように感じた。そして、震える手で戸を開ける。その時だった━━━━。
「メリークリスマス!」
快活な女性の声と同時に戸が開いた。……なのだが、この声を俺はよく知っている。そうだ、この声の正体は。
「幽々子さん……?」
「あら、貴方起きてたのね」
「鈴の音で起きちゃいましたよ」
「そう……」
幽々子さんは驚いている。俺も驚いている。幽々子さんは俺が寝ていると予想していたのだろう。
「そんなことよりも、どう?このサンタ服、紫がくれたのよ」
「あ……」
見ると、いつもの水色の着物ではなかった。赤と白のツートンカラーの帽子。同じの色の服。若干胸が見えてる。同様にミニスカート。下にはスラリと伸びる生足。あぁ眼福眼福…………ってまずいですよ幽々子さん!露出し過ぎじゃありません?
「フフ、やっぱり顔が赤くなってるわぁ。本当に可愛いんだから」
幽々子さんに指摘されて初めて気づいた。急に顔が赤くなる。自分でも分かるくらい熱い。
「前置きはこれぐらいにして、本題入りましょう」
「本題……?」
「サンタクロースは皆にプレゼントを配るのでしょう?だからね、私もプレゼントを配ろうと思ってね」
「配る……もしかして、俺にか?」
「そうよ。貴方に送るクリスマスプレゼントはずばり━━━━」
直後、幽々子さんの腕が俺の首に絡みつく。顔が徐々に近づいてくる。そして━━━━互いの唇が触れ合った。
「っ!?」
瞬間、何が起こったのか分からなかった。しかし、理解には時間は掛からなかった。俺と幽々子さんはキスしてる。少しして、幽々子さんの顔が離れていった。触れた時間は十秒あったか分からないくらいだが、永遠と思えるくらいに長く感じた。
「ワ・タ・シ」
最後の言葉で心を射貫かれた。理性陥落。もういいです、幽々子さんと一緒に暮らしてダメになってもいいです。いつになるか分からないが、俺が死ぬ時、最後にきっとこう言うだろう。
“幽々子さんと一緒に過ごしたいだけの人生だった”と━━━━。
どうも、儚夢想です。
今回はクリスマスということで幽々子様とクリスマスを過ごしたいという欲望をそのまま形にした小説を書きました。今回は殆どノリだけで書いています。考えたことは話が暗くならないように、そして如何に幽々子様とイチャイチャできるか……それくらいです。本当に。
それではこの辺で。楽しんで頂ければ幸いに思います。
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ゆゆこさまとおはなみ
幻想郷は博麗神社。周囲には沢山の桜が綺麗に咲いている。各地から集まった皆がワイワイ叫んでいてとても楽しそうだ。というのも、今日は博麗神社で花見が開催されているからだ。様々な人や妖怪が一斉に満開の桜を背に語らい、笑い合うその姿は、見ていてなごやかな気持ちになる。
「あらあら、随分楽しそうね」
同じく自分の隣に座って周囲を見つける女性━━西行寺幽々子さんが、笑みを浮かべて話し掛けてきた。彼女も楽しそうである。
「はい、ここの花見は活気があって、とても楽しいのでつい……」
こんな大規模な花見は初めてだった。いつもは数人いた程度だったので、この光景を見た途端感銘を受けた。こんなに凄い花見が存在するのかと。
「それに、ここの桜は綺麗ですし、ただ見てるだけでも満足しちゃいますよ」
何より、ここは桜が美しい。その数もさることながら、それら全てが立派だ。これ程の桜を見られたことに感動すら覚えた。
「まぁ、一番は嬉しいのは幽々子さんと一緒に花見をできたことですけどね」
「フフ、嬉しいことを言ってくれるじゃない」
「ッ!?」
不意に、後ろからヒヤッとした感触を全身に感じた。その冷たさに体が震える。その理由は、もう分かってる。
「ちょっと幽々子さん、嬉しいからってここで抱きつくのは……」
「これくらいいいでしょ。なんならここで私達がどれだけ仲良しか見せつけてやりましょう?」
「それはまずいですって……」
白玉楼でやるならまだしも、ここは博麗神社で、沢山の人妖がいる。この状況を誰かに見られたなら、イジられること間違いなしだ。彼の巫女や白黒、文屋……数に限りがない。うぅ、面倒だ。
「バレたらどうするんです?色々と面倒じゃないですか」
「紫に知られてる時点でどうもこうもないと思うわよ?」
「あっ……」
八雲紫。幻想郷内では妖怪の賢者として知られ、その存在は神出鬼没。彼女は幽々子さんの親友で、白玉楼にもよく来る。紫さんとは何回か会っているが、毎回からかわれる。何が一番まずいかって言うと、紫さんは口が軽く、どこにでも現れること。しれっと話す可能性は大いにある。一番知られたくない人に知られたなぁ、とつくづく思った。
「でも、貴方って案外こういうの嫌いじゃないでしょう?だって抵抗しないもの」
「うっ、それは……」
幽々子さんの言う通り、こういうことは嫌いという訳ではない。寧ろ好きである。自分を好いて触れてくれるのは嬉しい。幽々子さんの冷たい肌が妙に心地よくて、気持ちいい。ただ、もの凄く恥ずかしい。隙あらば触れてくるし、当たる所はしっかり当たるし。とにかく、刺激が強すぎる。
「まぁ、嫌いではないですけど……恥ずかしいんですよ、凄く」
「やっぱり好きなのねぇ。貴方、口では恥ずかしがってるけど内心は嬉しそうだもの」
完全に看破されてた。ホント、幽々子さんって切れ者だな。いつもおっとりとした様子でいる人とは思えない。
「でも、こうして触れあってると私も嬉しいのよ」
「え……?」
唐突に、幽々子さんの声が悲しげなものに変わる。
「桜を見て思ったの。桜は満開になっても、すぐに散る。人も同じ、命は長くない」
「幽々子さん……」
それは事実だ。人間は妖怪のように永い年月を生きることはできない。妖精とは違い死という概念が存在する。そして、幽々子さんは亡霊だ。亡霊は未練を成就することで成仏するが、彼女は例外である。閻魔様から冥界の管理を任されていて、成仏することはできない。故に、幽々子さんは永遠の時を過ごす。
「だから、貴方が生きている内にもっと温もりを感じていたいの……」
幽々子さんはより強く自分を抱き締める。……そうか、自分のことをこんなにも想ってくれていたのか。それを感じることはあるが、今日程感じたことはない。だからか、生きて幽々子さんと過ごせる時間に限りがあることに歯痒さを感じた。だが。
「確かに、生きて過ごせる時間には限りがあります。でも、その時は俺を殺すなり何なりしてください」
「何言ってるの……?私は……」
「そうすれば、俺と幽々子さんはずっと一緒ですから……幽々子さんになら、俺は何されたって大丈夫ですから……」
幽々子さんには“死を操る程度の能力”がある。文字通り、対象を死に至らしめるもの。この能力によって殺された者は幽々子さんの支配下に置かれ、成仏できなくなる。この能力で死ねば、俺は亡霊として未来永劫幽々子さんと一緒に過ごせる。我ながら狂気的な考えだ。
「話がずれましたね、ごめんなさい」
「━━━━バカ」
「……?」
「バカ……それって死んでもいいって言ってるのと同じじゃない……!」
「ッ……!」
確かに、そうだ。自分は死んでもいいと言った。それは事実だ。
「貴方には生きていて欲しいの……それが、私の一番の願い」
幽々子さんは自分を亡霊にして永遠に、そして幸せに暮らせると知っている。それでもなお、自分に生きて欲しいと、そう願っている。子どものように泣きじゃくる幽々子さんを見ていると、それが痛い程伝わってきた。
「……幽々子さんがそう言うなら、そうします」
答えは、ただ一つ。肯定する以外に存在しない。幽々子さんがそう願っているなら、自分はそうあるべきだと心の底から思う。
「ありがとう……貴方、本当に優しい人だわ」
幽々子さんは微笑んで、感謝の言葉を告げる。その端正な顔で彩られた笑みはとても綺麗だ。頬に残る涙が、それに拍車を掛ける。咲き誇る桜さえ霞む程の美しさに、ただただ魅了されるばかりだった。
※※※
そんなこんなで、楽しい花見の時間が過ぎていった。ドンチャン騒ぎも今では静まり、皆帰り支度を始めている。それは俺らも例外ではなく。
「どう?今日は楽しめた?」
「はい、とても楽しかったです」
荷物をまとめながら、幽々子さんと他愛のない会話をする。本当に、今日は楽しかった。博麗神社の桜は、人里の桜を軽く凌駕していた。何より、幽々子さんと一緒に桜を見ることができた。それに、自分をどれだけ愛してくれているか分かった。これ程嬉しいことはない。
「で、幽々子さんは?」
「う~ん、そうねぇ……」
幽々子さんが、いつになく真剣に考える。なんだか……嫌な予感がしてきた。
「あ、そうそう!貴方、さっき何されてもいいって言ったでしょう?」
「━━ッ!!」
はい知ってた。絶対にこんなこと言う気がしてましたよハイハイ……はぁ。
「いや、それはアレで……」
「言ったからには、とことん付き合ってもらうわよ?」
「……はい」
幽々子さんには逆らえない。まぁ、それはそれで役得……なんて最近は思ったりしてる。
「じゃあ、まずは……」
早速何か言う気だ。もう、何も言うまい……。
「━━━━これから私とずっと一緒にいなさい。約束よ?」
幽々子さんの口から放たれた言葉は、予想外のものだった。余りにも予想外過ぎて認識に少し時間がかかった。
「……はい!」
「これからも、改めてよろしくね?」
……幽々子さんに振り回されて過ごす毎日も悪くないかなって、ちょっとだけ思った。
どうも、儚夢想です。
春と言ったら桜、桜と言ったら幽々子様……と思って我慢できなくなったので書きました。後悔はしてません、えぇ、してませんとも……。今回は桜が満開の時に投稿してやるぞと意気込んでたら案の定遅れました。今や葉桜です。早いもんですねぇ。これも全てモンスターハンターダブルクロスって奴の仕業なんだ(こじつけ)。次回書く時は予定通りに投稿したいです(できるとは言っていない)。
それではこの辺で。楽しんで頂ければ幸いに思います。
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ゆゆこさまとやつはし
因みにこの“やつはし”は九十九八橋ではないです。ご了承を。
白玉楼縁側。青空を見ながら、ただボーッとしている最中。━━━━それは、余りにも唐突だった。
「甘い物が食べた~い!」
急で、荒唐無稽な言葉。いつも自分を振り回す少女の口から、それは放たれた。
「でも、今は甘い物は白玉楼にはありませんよ?」
残念なことに、現在白玉楼にそんなものはない。何故なら幽々子さんが食いつくしてしまったからだ。
「でも食べたいの!」
「うーん……」
どうしたものか。いつも通りのわがままな幽々子さんだ。今から大急ぎで買ったとしても時間がかかるし、それを幽々子さんが我慢できる筈がないし。途方に暮れて、思わず溜め息を吐こうとした、その時だった。突然━━━━床が裂けた。
「……!?」
これだけでも驚くというのも更にその直後、床の割れ目から何かが出てきた。片手で持てるくらいの小さな箱だ。紙も添えてある。
「これ、何かしらね」
「さぁ……」
箱の外装は真っ白で何も書かれていないため、中身を判別することができない。
「ねぇねぇ、紙には何て書いてあるのかしら?」
「そうですね、今調べてみます」
箱に何も書いてないとすると、情報を知る術はこの紙だ。そう思い、手に取って確かめてみる。すると、その紙には何か書かれていた。
『甘い物が食べたいということなのでそちらに送ります。八雲紫より』
「何でこんなに都合よく来るんだ……?」
あたかも狙い澄ましたかのように届いた箱。その送り主は紫さんだった。あの人ならとりあえず安心か。特に変なことは起こらないだろう。というかあの人、さらっと盗み聞きしてたのか……全く気づかなかった。
「甘い物が食べたいということなので……そちらに送ります……」
後ろで幽々子さんが手紙の内容を口に出す。徐々に内容を理解したのか、急に上機嫌になり。
「紫ったら何て気が利くのかしら!早く頂きましょ、ね!」
ご覧の有り様である。食べ物を前にした幽々子様は誰が見ても嬉しそうだ。
「待ってくださいよ、中身を確認しないと……」
甘い物だということは確定しているが、中身がどんな食べ物かまでは分からない。包装紙を外し、いざ蓋を開けてみる。
そして、蓋を開け出てきたのは。黄土色で縦長のものが一ダース程。奇妙なことに、それら全ては曲がっている。
「何かしら、これ……?」
「八つ橋って焼き菓子ですね、これ」
間違いない。以前、外の世界で食べた記憶がある。
「何か美味しそうね、この八つ橋ってやつ!」
「……そうですね」
自分も幽々子さんに釣られて想像してしまった。焼き菓子特有の噛んだ時の快音と共に広がる芳醇な甘さ━━━━以前の記憶が鮮明に蘇る。ダメだ、余計に食べたくなってしまった。
「早く食べましょ、ねぇ!」
「分かりました……」
スイッチの入った幽々子さんは食べ終わるまで止まらない(食べ終わっても止まらないけど)。まぁ、これ程楽しそうな幽々子さんを見ることはあまりないし、それはそれでいいかな。
そんな訳で、八つ橋を一つ手に取る。間近で見てみると、これでもかと言うくらい綺麗に焼き上がっていて、見ただけでも美味しいと分かる。
「いただきまーす……」
ゆっくりと口に入れる。そして、一噛み。
━━━━これは。
先程想像した通り、いや、それ以上。そして、その快音と同時に広がる仄かな甘み。今まで食べたことがない程に絶品だ。
「どう?八つ橋の味は」
「美味いです、最高ですよこれ!」
また食べたいと思わせるような味が堪らない。一つ、また一つと全身が欲する。思わず舌鼓を打った。
「ホントだ!とっても良いわ!」
「ですよね!ですよね!」
今まで食べた八つ橋……というよりも和菓子の中で五本の指に入る程だ。幽々子さんの心中を汲んで八つ橋を送ってくれた紫さんには感謝の言葉しかない。
それから、二人で他愛のない話をしながら八つ橋を食べた。その最中。
「あ……」
途端に、幽々子さんからもの悲しい声が零れた。
「八つ橋が、ない……」
「あ……」
箱を見てみると、そこに八つ橋は無かった。そして、その八つ橋は自分の手にある。どうしたものか。
「譲りましょうか?」
幽々子さんの悲しむ姿は見たくない。このまま自分が食べるよりも、幽々子さんにあげた方がいい方向に事が進む。
「いいわ、貴方が食べて……」
「……!?」
言っている意味が分からなかった。いつもの幽々子さんなら何の躊躇いもなく貰って食べる。だというのに、それを断った。一体どういう風の吹き回しだ? 余りの事態に、思考が追いつかない。考えろ。このまま自分が食べるのは論外だ。幽々子さんに八つ橋をあげる以外に道は無い。けどどうすれば食べる? 今渡しても「それは貴方のよ」と言って突き返すに違いない。そうされずに済む方法は無いか━━━━そうだ!
「幽々子さん」
「どうしたの?」
「あ、あーん……」
恥ずかしい。クッソ恥ずかしい。もしかしなくても顔が熱い。恥ずかし過ぎて幽々子さんの目を見れない。でも、真っ先に思いついたのがこれだった。仕方がない。強引過ぎるのは百の承知だ。お願いします幽々子さん!食べてください!
「…………はむっ」
食べた!良かった!幽々子さんなら絶対に食べてくれると信じていた。安堵から、ほっと胸を撫で下ろす。
「……フフフッ」
突然幽々子さんが笑いだした。何か面白いことでもあったのだろうか。
「ホント面白かったわぁ。貴方ってばびっくりするぐらい思い通りに動いてくれるんだもの」
「え?」
何を言っているんだ。そんな面白がられるような行動したか。あっ。
「幽々子さん、アレってもしかして」
「そうよ、嘘よ。いつも違うこと言ったらどんな反応するかな~って」
「詰まるところ、俺は幽々子さんの掌で踊らされてたと……?」
「そういうことよ♪」
「はぁ……」
してやられた。勇気を出してあんな恥ずかしいことやったっていうのに。それを利用されてたなんて余計に恥ずかしくなるだけだ。
……でも、こんなに楽しそうな幽々子さんを見てると何でも許せてしまう気がした。
どうも、儚夢想です。
友達が土産でくれた八つ橋が思った以上に美味しかったのでこのような話を書いた次第です。予定通りに投稿したいとか言ってたら夏休み直前まで先伸ばしになってしまいました(学習しない人間の屑)。夏休み中も二話くらい投稿できたらなと思います(フラグ)。
それではこの辺で。楽しく読んで頂ければ幸いに思います。
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ゆゆこさまとゆきがっせん
「最近雪ばかりですね」
雪が降る空を見上げながら呟いた。
「冥界なのに四季があるのってホントに不思議ですよね」
この場所に来てからずっと思っていたことだ。冥界──それは死後の世界、あの世とも言える。そんな世界だというのに、何故か四季という概念がある。てっきり何もないと思い込んでいたから初めて来た時は衝撃を受けた。幻想郷では常識に囚われてはいけない──という言葉があるけれど、正にその通りだと思った。
「死んだとしても四季くらいは楽しみたい……貴方はそう思わない?」
隣に座る幽々子さんが問いかけてきた。
「……そうですね、冥界は静かなので四季を楽しむには良いと思います」
「でしょう?私も具体的なことはよく分からないけれど、幽霊たちが成仏や転生まで退屈しないように、冥界にも四季が存在する……そう解釈しているわ」
「なるほど……良い考え方だと思います」
「でしょう?」
幽々子さんの解釈を肯定すると、こちらを向いて微笑んだ。彼女の笑顔は何度も見たが、余りの美しさと愛らしさに思わず目を逸らしてしまう。
「じゃあ、この冥界の冬を楽しみましょう!」
「冷たっ!?」
と、こちらが目を離した隙に何か冷たいものが頬に直撃した。幽々子さんの方を見ると、その手には野球ボール程度の大きさの雪玉が握られていた。
「ウフフ、雪合戦~♪」
と、無邪気に笑って再びこちら目掛けて雪玉を投げてきた。幽々子さんの投げる球はそれほど速くないため、見てからでも避けることができた。
「俺も本気でいきますよ!」
幽々子さんが雪玉を作っているうちに、こちらも雪玉を作り、力を込めて投げる。すると幽々子さんは避けられずに当たってしまった。
「私が作ってる間に当てるなんてずるいわ!」
雪玉を当てられてプンスカ怒る幽々子さん。ムキになって雪玉を投げてくるも、やはりそれほど速くはない。
「もう!大人しく当たりなさい!」
「不意打ちで当てましたよね!?」
不意打ちで当てておいてそんなことを言うのか……と思いながら雪玉を作り、再び投げる。一度当てられて警戒したのか、これは避けられた。
「私も本気でいくわ!」
幽々子さんがそう言って、宙に浮いた。確かに飛び回っていれば走るより速いし、思うように狙えない。というか、これでは飛べない僕は余りにも不利では?
「ほら飛んでいればこういうこともできるのよ!」
と、得意げな幽々子さん。瞬間、脳天に冷たい衝撃が走る。
「真上は流石にズルくないですか?」
「真上から当てちゃダメ、なんてルールは無いわ。だからズルじゃないわ」
「飛ばれたら流石に勝てないですよ……」
幽々子さんは強大な力を持った亡霊。対する自分はこれといった能力の無い普通の人間。この間のは越えられない差がある。死んでも彼女を超えることはできないだろう。
「──いいのよ、貴方は普通で。寧ろ普通でいなさい」
「へ?」
唐突に、幽々子さんの柔和な表情はそのままに纏う雰囲気が張り詰めたものに変わった。何故だか分からないけど、幽々子さんがこういうことを言うときは決まって自分が考えていることを見透かしている。
「貴方が普通だからこそ私は惹かれたの。普通じゃないところがあるとするなら、偶然にも幻想郷に迷い込んで死なない程度の運、かしらね」
自分が幻想郷に迷い込んだ時にいた場所──無縁塚。沢山の無縁者──その殆どが外の世界の人間──が土に眠り、紫色の桜が咲き誇る奇怪な地。あそこには外から迷い込んだ人を狙う人食い妖怪がいて、見つかったら食われて死ぬということが少なくないらしい。偶然にも冥界に近い位置に迷い込み、偶然にも通りかかった幽々子さんに拾われたため死なずに済んだ。無縁塚にいたのはものの数分だっただろうけど、体感的には数時間だと錯覚する程に生きた心地がしなかった。
「私ね、普通の人の恋に憧れてたの」
幽々子さんは頬を赤く染めて、こちらに語り掛ける。彼女にしては珍しい、恥ずかしげな態度だった。
「貴方と一緒に過ごして、好きになって、とても幸せ」
間近で見るその笑顔はとても愛らしく、輝かしい。死者とはとても思えない程の眩しいその表情に、思わず顔が熱くなるのが分かった。
「俺もとても幸せです。幻想郷に来て最初に会ったのが、好きになったのが幽々子さんで良かったって、心の底から思います」
「フフ、嬉しい……」
そう言って、幽々子さんは自分の頬に手を当てる。
「貴方はいつだって温かい……ずっと一緒にいてね」
幽々子さんの手は自分とは逆で、雪のように冷たい。でも、今の燃えるように熱い僕の顔にとってはいつまでも感じていたいと思える心地の良い冷たさだった──。
どうも、儚夢想です。
気がつけば最後の投稿から二年半以上が経っていて時の流れの早さ戦慄しています。一応書きかけの話が幾つかあって、どれも時期的に遅れて放置してます(書け)。今回の話も頑張って2月中に投稿しようと思ってどうにかこうにかできました。頑張りました。因みに次はいつ投稿するか未定です。できれば夏までに投稿したいと思います(フラグ)。
今回はこの辺で。楽しんで頂ければ幸いです。
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ゆゆこさまとおはなみそのに
「綺麗だな」
────無意識に、言葉が漏れた。
冥界は白玉楼の縁側。枯山水が広がる庭の奥には見渡す限りの桜たち。咲き誇る姿は優雅で、目に映る姿は雄大だ。一人で静かに花見というのもなかなか乙なものだと思うけど、はっきり言うとただぼーっとしているだけなので眠くなってしまいそうになる。太陽の光を浴びているものだから、余計に。
「今年も春が来たわねぇ」
後ろから声が聞こえた。このどこか眠たそうな声──この屋敷では彼女以外に有り得ない。
「幽々子さん」
「最近は暖かくて眠たくなっちゃうわぁ……」
と、言い終える直前に欠伸が出てしまった。余程眠たいらしい。普段の柔らかい声がいつも以上に柔らかい気がする。
「そんなに眠いなら素直に寝ればいいと思うんですけど」
「今日は貴方と話したくって、ふわぁ〜……」
また欠伸。秒刻みで欠伸するくらい眠いのに話すことって一体何だろう。欠伸が終わると「隣いい?」と言って互いの肩が触れるくらい近くに座ってきた。
「それにしても桜が綺麗ねぇ」
「はい、いつまでも見ていられます」
そう言葉を返すと、幽々子さんは微笑んだ。
「貴方が初めて冥界に来た時も桜が綺麗に咲いていたわね」
「……そう、ですね」
「こっちに来てからもう三年くらい経ったかしら」
「もうそんなに経ってたんですね」
時の流れとは早いもので、幻想郷に偶然迷い込んだあの日から三年。ここでの生活は元の世界とは外観や常識など、何もかも違くて驚きの連続だった。しかし、今となっては幻想郷で起こる大体のことに慣れた。三年もあれば人は変わるものだな、と感傷的な気持ちになった。
「幻想郷は楽しいかしら?」
「勿論楽しいですよ。幻想郷は何をするにも飽きない場所です」
「そう、それは良かったわ」
自分の返答を聴いた幽々子さんは嬉しそうに頷いた。
────その時だった。彼女の言葉と同時に、強めの風が吹いた。それは暖かな空間に似つかわしくない冷たい風だった。桜の木々の揺れる音が、桜の花びらが散りゆく姿が堪らなく不安を掻き立てる。そして、少し間を置いて、彼女は。
「────で、外の世界についてはどう?」
その問いは余りにも唐突だった。今まで一度だって問われたことはなかった話。余計な詮索はしないと敢えて聞いてこなかったんだろうけどやはり気になったのだろうか?
「どうして今その話を?」
「ある程度時間も経ったし、そろそろ聞いておこうと思ったのよ」
「そうですか……」
まぁ、三年と言えば人が変わるには十分な時間だ。自分もその例外ではない。だから、恐れずに答えよう。
「……特に未練は無いです。家族はいないし、凄く仲が良い友達もいないし。外の世界にはもう大切なもの、ありませんから」
外の世界のことは正直思い出したくない。自分は酷く口下手で人付き合いが苦手だった。だから友達も少なく繋がりも薄い。中学、高校と上がっていく度に友達は減っていき、高校を卒業してからはいよいよ友達はいなくなった。卒業後は東京の専門学校に入学したが、その数日後に母親が亡くなった。母子家庭で一人っ子だったため、完全に孤独だった。今思えば、自分が幻想郷に来たのは誰にとってもどうでもいい存在だったからだろう。今更そんな世界に戻って死ぬまで独りで生きるなんてとてもできない。
「なので、大丈夫です。これからも答えは変わることはないでしょう」
「そう……」
「とは言っても、時々思い出しちゃうんですけどね。あっちにいた時のこと」
外の世界では色々あった。楽しい出来事も苦しい出来事も。だから、どうしようもなく思い出す時がある。どちらかと言えば苦しい出来事の方が多いけど、これらの体験が今の自身の一部であることに変わりはない。そう考えると、嫌な過去であろうと全てを否定する訳にもいかない。
「まぁ、色々あったので忘れないように心の片隅に留めておこうって感じです」
「……強くなったわね、貴方」
幽々子さんの口から出た言葉は意外なものだった。それがどういう意味なのか分からず「どうしてですか?」と返す。
「会ったばかりの貴方はいつも俯いていて苦しそうだったけれど、今は前を向いて楽しそうに生きているわ。同じ人とは思えないくらいにね」
「そんなに変わったように見えますか?」
「えぇ、妖夢や紫たちもきっと同じことを言うわ」
「まぁ、色々変わったのは事実です。幽々子さんたちと一緒にいるようになってからは毎日が楽しいです。そうやって過ごしていく内に過去のことでずっと悩むのも馬鹿らしくなりました」
母親が死んでからの自分は鬱状態で、抜け殻のようだった。そんな時に幻想郷に迷い込み、幽々子さんと出会った。彼女の楽しくあろうとする姿勢に感化されて、自分は変わることができた。今隣に座る亡霊の少女が、何かを楽しみ、愛し、生きることの大切さを自分に教えてくれたのだ。
「俺が変わることができたのは幽々子さんのおかげです。感謝しても感謝しきれません」
「そうやって褒められると流石に照れちゃうわね……」
珍しく幽々子さんの頬が赤く染まった。冗談ではなく、本当に照れているようだった。
「まぁ、もし辛くなったら思う存分私に甘えなさい。一人で苦しむのはダメよ?」
その言葉と同時に幽々子さんに抱き着かれ、更に頭を撫でられた。彼女の身体は冷たいが、心は温もりに満ち溢れていた。こうしていると不思議と安心感がこみ上げる。
「……努力はします」
「これは命令よ?貴方は形式上私の従者なんだから、ね」
「……こういう時だけ都合良いですよね」
普段対等に接するんだから主従も何もないだろう、と思った。なんだか可笑しくて笑えてくる。
にしても、幽々子さんに包まれているのは心地良い。桜のように上品な匂い、聞くだけで心が安らぐ柔らかな声、火照った身体に効く絶妙な体温、一心に向けられる愛情。春の暖かさも相俟って頭がぼんやりしてきた。
「すみません、少し寝てもいいですか?」
「えぇ、勿論」
柔和な笑みを浮かべて、頼みを聞き入れてくれた。瞬間、全身の力が徐々に抜けていき、幽々子さんにもたれ掛かった。
「おやすみなさい」
と、幽々子さんが耳元で囁いた。直後、朦朧とする意識が暗闇の中に落ちた────。
※※※
「────あら、起きたかしら?」
目覚めると、最初に映ったの幽々子さんの穏やかな微笑みだった。まだぼんやりとする意識が、彼女の声によって徐々に明瞭になる。
「あれ……?」
後頭部に柔らかい感触を感じた。それが幽々子さんの太ももだということに気づくのに時間は掛からなかった。目覚めが良いと感じるのも膝枕によるものだろう。
「寝顔、とっても可愛かったわよ」
優しく、慈しむように頭を撫でられた。その手付きがとても心地良くて、今までの苦労や悩みをつい忘れてしまいそうになる。同時に無防備な姿を顕になっている状況を理解し、恥ずかしくなってきた。
「うぅ……」
熱い、顔が熱い。絶対赤くなってる。自身の表情を見られまいと、腕で目を覆い隠した。
「ふふ、やっぱり貴方はこうでないとね」
「幽々子さん、貴女って人は────!」
気恥ずかしさを抑えきれず、思わず叫んだ。幽々子さんは面白そうに笑っているが、こちらとしては堪ったものじゃない。しかし、この温かい雰囲気がいつまでも続けばいいと思う自分がいるのも確かだった。
心と身体はほのぼのとした話を求めているのに手はシリアスな話を書いてしまうの、本当に救いが無い。次は明るい雰囲気の話を書こうと思います。
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ゆゆこさまとこんよく
「はぁ~」
熱い湯船に浸かる。全身がみるみるうちに温まり、体内の血液が活発に動き、意識が少し興奮気味になる。
白玉楼の風呂は露天風呂である。屋根も囲いも存在せず、冥界の空や屋敷の庭の景色をそのまま見ることができる。
そんなわけで、難しいことを考えずにただぼーっと桜を眺める。夜の帳が下り、暗くなる時分だというのに桜はハッキリと視認でき、その凄まじい存在感を放っている。今では花が散って葉が増えたが、それでも美しさは健在だ。優雅に咲き誇る姿とは違ってどこか切ない気分になるのも葉桜の魅力だと思い、センチメンタルになる。
────そう、こうして夜桜に見惚れていたために、その存在に気づくことができなかった。
「ウフフ♪」
その笑い声を聴いた瞬間、全身が総毛立つ。熱湯に浸かっている筈なのに悪寒が止まらない。理由は考えなくても分かる。考える必要なんて無い。理由はいつだってただ一つ、変わらないのだから。
「来ちゃった♪」
「幽々子さん……!」
風呂の入り口の方を振り向くと、タオルを巻いて胸から太ももを覆う幽々子さんが立っていた。普段着ている露出度の低い着物でも凄まじい身体を隠せていないのに、タオル一枚という非常にセンシティブな格好ではいつも以上に目のやり場に困る。良くも悪くも刺激的だ。
「私と貴方の仲よ、混浴くらい問題無いでしょう?」
「俺からしたら大問題です!」
「そう言っても嫌じゃないのは分かってるわよ。案外むっつりよね、貴方」
「うぐぐ……」
自分も健全な男、女性の身体を見れば当然興奮する。そして幽々子さんとなると話。話が違ってくる。愛する人の身体とあらば、その興奮は何倍も増し、計り知れない。できることなら完全なる黄金比のように綺麗な身体をまじまじと見たいという衝動に駆られる。だから、幽々子さんの言うことは正しい。残念ながら否定することができない。
「っ……!」
そして、ここである事実に気づいてしまった。
────隠すものが一切無い。
普段は幽々子さんの乱入を想定してタオルを持ってくるのだが、今日は不幸にも忘れてしまった。この状態では色々と不味いことになる。幽々子さんに見せないようにして取りに戻るか──と思った時だった。
「安心しなさい」
そう言って、幽々子さんは振りかぶって何かを投げてきた。それは薄い布のようなものにも見えた。
「洗面所に置いたままだったから持ってきたわ。いつもここに持っていってるでしょう?」
「あ、ありがとうございます!」
その正体はいつも使っているタオルだった。幽々子さんに見られないように、即座に腰に巻く。
幽々子さんの機転によって最悪の展開は回避できた。もし持って来てくれなかったらとんでもない大惨事になっていた筈、色々な意味で。想像すると恐怖が止まらない。本当にありがとうございます、幽々子さん。感謝してもしきれません。
……なんて束の間の安心に浸る中、次の幽々子さんの発言が、新たな恐怖を自分にもたらすのだった。
「────さて、これで解決したし、背中でも洗ってくれるかしら?」
まさかのスキンシップ要求である。
「もし嫌って言ったら?」
「貴方のこと嫌いになっちゃうかもね」
「……その言葉はずるいと思います」
例え冗談であろうと、そんなことを言われたら大人しく従うしかない。この人、本当によく自分のことを理解している。言われたら嫌なこと、幽々子さん無しに生きられないこと、その他諸々。
そんなことを考えながら、幽々子さんの後ろに移動する。それを確認した幽々子さんはタオルを外し、全身の肌を完全に露出した。
「丁寧に、優しくね。女の子の身体なんだから」
こうして間近で見ると、幽々子さんは白く透き通るような肌をしている。まるで上質なガラス細工を鑑賞しているような気分だった。非常にきめ細かく、輝いているように感じる。最早、一種の芸術品と言っても差し支えないレベルのものだ。同時に、少し力を入れれば砕け散ってしまうような、そういった脆さや儚さも内包していた。
近くに置いてある石鹸を取り、泡立てる。それからできる限り優しく、丁寧に、彼女の雪のように白い肌に触れる。
幽々子さんの肌は柔らかく、ちょっとした弾力がある。絶妙な触り心地であり、中毒性があるように思える。もっと強く触りたいという欲をなんとか抑えつつ、背中に泡を馴染ませる。
「フフ、やっぱり良いわ、貴方の手付き。とっても優しくて安心できる」
「そう言ってもらえるなら何よりです」
「じゃあ、マッサージもお願いできるかしら?揉んで欲しい所があるの」
「は……!?」
唐突の言葉に、思わず怯んだ。マッサージ? 揉む? 女性の身体で揉むような場所といえばあそこしか思い浮かばなかった。
────本当に、揉むのか? そんなことをしてもいいのか? 幽々子さん、もしかして酔ってます?
様々な考えが頭をよぎる。これからどうしろというのか、行動は慎重に判断する必要がある……とか何とか考えていると、幽々子さんが口を開いた。
「ねぇ、揉むのは肩よ? もしかして“そっち”の方を想像しちゃった?」
「……男はそういうのに弱いので止めた方がいいと思います。何が起こるか分かりませんよ?」
幽々子さんの思わせぶりな発言を諫めると同時に、己の愚かさに心底落胆するのだった。こういう状況になると酷く視野が狭くなるのは自分の悪い点だと改めて理解した。
「大丈夫よ、貴方はそんなことしないって分かってるから」
「そうとも限らないかもしれませんけど」
「────貴方は私に対して負い目がある。だから、私には絶対にそういうことはできない……違う?」
「……流石ですね。その通りです」
ここまで言い当てられるといっそ清々しい。心を読んでいるのかと錯覚してしまうほどの洞察力の前では隠し事もできない。
確かに、自分は未だに幽々子さんに対して負い目がある。自分のような人間如きでは彼女とは釣り合わないと思っている。これは自分を認めてくれた妖夢や紫さん、何より幽々子さんに失礼である。早急に払拭しなければいけない考えだ。
「……今はまだ、幽々子さんの想いを全て受け止めることはできません。でもいつか──きっといつか、ちゃんとその想いに応えてみせます。できる限り長くならないように努力します」
「その言葉、信じてるから。女の子を待たせちゃダメよ?」
「はい!」
幽々子さんの隣で心の底から笑い合えるように────そんな決意を込めて、威勢よく答えた。後ろからでは幽々子さんの顔は見えないけど、きっといつものように笑っているだろう。その笑顔に報いるためにも、自分は頑張らなければならない。
「……だから、早く肩を揉んでくれると嬉しいわ。私の想いに応えたいのでしょう?」
「……本当にずるい人ですよね、幽々子さんって」
「人聞きの悪いこと言わないで頂戴。愛するが故の優しさと言って欲しいわ」
「……そういうことにしておきます」
他愛のない会話を交わしながら幽々子さんとの混浴を楽しむ。こういう何気ない雰囲気に包まれていると悩んだり苦しんだりするのが馬鹿らしくなる。これからも、一緒に明るく楽しんでいこうと改めて決意した。
因みに、幽々子さんの肩の揉み心地はとても良かった────。
明るい雰囲気になるよう心掛けて書いたら???って感じになりました。過去の自分はどうやってクリスマス回みたいな明るいはっちゃけた話を書いたんでしょうね。一時のテンションによる爆発力は凄いんだなって思いました。
あと、今回は混浴ということで幽々子さんの身体の特徴を頑張って書きました。やっぱり、その、凄く凄いです(語彙崩壊)。推しを美しく描写するのはとても難しいですね、まだまだ実力不足が否めないです。
それではこの辺で。楽しく読んで頂けたら幸いです。
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ゆゆこさまとおつきみ
「今日は十五夜よ」
幽々子さんに言われて、今日が十五夜────中秋の名月だということに気が付いた。
「言われてみれば、最近満月が近づいてきましたね」
「お団子の用意、大丈夫?」
お月見に団子は欠かせない。白玉楼には健啖家の幽々子さんがいるのだから尚更必須である。
「あー……」
「まさか、できてないの?」
ここ最近は大きな動きが無かったから、年中行事の準備を怠っていた。恐らく妖夢が準備をしてくれた筈だ。そうだと願いたい。
「いや、多分準備はできてたと思います……多分」
「今すぐ確認してきなさい」
普段は呑気な幽々子さんも、食べ物が絡むと非常に真剣になる。ただ食い意地を張ってるだけなのだが。まあ、いつものことだと軽く流す。こうでもしないとこの白玉楼では過ごせない。
「じゃあ、先に縁側の方に行っててください。あったら持ってくるので」
「は~い」
先に幽々子さんを縁側に向かわせて、自分は団子があるかどうか確認しに台所へ向かう。
「頼むぞ……」
だらけてばかりの自分や幽々子さんと比べ、妖夢は生真面目でしっかりと働いているのだ。団子はきちんと作ってくれたに違いない。
※※※
「幽々子さん、月は出てますか?」
「えぇ、ばっちりよ」
幽々子さんが空の方に指を差す。その先には煌々と輝く満月があった。雲一つ無い綺麗な晴夜で、月を遮るものは何も無い。中秋の名月と呼ばれるに相応しい、非常に美しい光景だった。
「で、お団子は?」
「はい!」
後ろに隠していた団子の乗った皿を彼女の隣に置く。事前に準備してくれた妖夢に最大限の感謝と謝罪を抱く。後で何かお礼をしなければ。そして、次の年中行事はしっかりと確認して妖夢の手を煩わせないようにしよう。
「うふふ、お団子~♪」
「妖夢が作ってくれたんです。俺がちゃんと用意していればこんなに慌てる必要は無かったんですけどね……本当にすいません」
「丸く収まったから大丈夫よ。満月だけに、ね?」
幽々子さんは洒落たことを言って、団子を一つ口に入れる。
「美味しいわ~!」
やはり妖夢お手製の団子なだけあって、味は一級品のようだ。幽々子さんは満面の笑みで団子を食べている。そんな表情を見ていると、団子がどれほどの味なのか気になってきた。一つ手に取って、彼女と同じように口の中に入れる。
「これは……!」
外見は普通の団子だった。たれが掛かってる訳でも、胡麻や砂糖がまぶしてある訳でもなかった。しかし、どういう訳か噛むと甘みがあった。団子の中に餡子が入っていたのだ。
「流石妖夢ね!」
「はい。本当に妖夢のセンスには驚かされます」
非常に手の込んだ作りにだた圧倒された。本当に妖夢には感謝してもしきれない。
「綺麗な月の下で大切な人と食べるお団子は美味しいわね」
「俺もです」
幽々子さんと月を見ながら食べる団子はいつも以上に美味しい。冥界に来なければこのような体験をすることは絶対に無かったと断言できる。外の世界にいた頃はこのような生活をできるなんて考えられなかった。
「どうしたの? そんなにぼんやりしちゃって」
「いや、何でもないです!」
自分は本当に幸せ者だと思う。大切な幽々子さんと共に過ごし、笑い合っている。それが心の底から嬉しくて、明日も生きようと頑張れる。
月は変わらず輝いている。その光に当てられた彼女の笑みはどんなものにも負けない素晴らしい表情だった。
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