GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~ (死姫)
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ブラッド編
1話 神の名を継ぐ者



ちょっと早いかもしれませんが、3,4話書き溜めたのでUPします!

今回も長くなると思いますが、楽しんでいただければと思います!


 

 

赤い雨・・・。

誰かの命を悼んでか・・・。それとも・・・・。

 

壊れかけの世界が血を流す中を、移動する大きな物体。

フェンリル極致化技術開発局の移動要塞、『独立機動支部 フライア』。

キャタピラの音を響かせて進む巨大な城の一角に、小さな教会が設けられている。「死者の尊さを、忘れぬように」と、設立者の一人が、、希望したためだ。

 

正面に飾られた大きなステンドグラスに描かれる『花を抱く聖女』に、両手を汲んで祈る一人の女性。フェンリル極致化技術開発局の副開発室長の、ラケル・クラウディウスである。

閉じていた目を開け、その顔をゆっくりと上げてから、妖しい笑みを浮かべ声を洩らす。

 

「さぁ・・。新しい世界の、幕を上げましょう・・・」

 

エイジス事件から、3年の時が経った。

圧倒的に不利とされていた荒神との生存競争も、少しずつではあるが良い方向へと進み始めていた。

ゴッドイーターの戦術強化、各支部で受け入れられぬ人々の為の安全な住居確保など、「失う覚悟を持って」の理念から、「生き抜く為の勇気」の行動へと変化したのが大きいだろう。

決して表立って語られぬ、事件を解決へと導いた英雄達の意志によって・・・。

・・・・・しかし神も、ただ滅びるつもりはない。

人の織り成す新たな力に対し、神も新たな力を身に着けたのだ。

 

再び大きな歯車が、時を刻み始める。

GOD EATER達の、物語を始める為に・・・。

 

 

 

薄暗い夜明け前の空を、ヘリはある場所へと向かっている。

曇った窓を擦ってから、少年は靄がかった世界を見渡す。特に面白味のない、平坦な荒野を・・。

少し眠たい目を擦る彼は、これから向かう場所に、期待と不安の両方の気持ちに、自然と口の端を浮かせる。

(これで・・・、僕もやっと・・・)

ある人との出会いによって、夢と諦めていた彼の願いは続き、今日やっと叶うのだから・・・。

「そろそろ着陸しますので、ベルトを締めて貰えますか?」

「あ、はい!」

下の方に影が見えたかと思った時、パイロットの指示に慌てながら、締めっぱなしのベルトを再確認して、彼は大きく深呼吸する。

ゆっくりと降下するのに合わせて、影はどんどんと大きくなる。仰々しいその姿が輪郭を現した頃には、ヘリは地面へと足を付けた。

扉を開き、外へと降りた彼の目に映ったのは、その巨体を走らせ続ける、移動要塞フライアだった。

 

 

カッ!カッ!カッ!

音を立てて照明が点くと、部屋の真ん中には大きな機械が置いてある。予め説明を受けていた少年は、そこへとゆっくり足を運び、右手を機械にそっと置く。そこへ、スピーカーから女性の声が流れる。

『ようこそ。フェンリル極致化技術開発局、フライアへ。これからあなたには、ゴッドイーターになる為の、洗礼を受けてもらいます。準備はよろしい?』

「はい!お願いします」

大きな声で返事をしてから、両足を肩幅に開き、足を思い切り踏ん張る少年に、「ふふっ」と声が洩れてくる。

『では・・・』

 

ガァーンッ!!!!

 

「ひ、ぐぅぅっ!!」

部屋中に響いた大きな音に驚いたのも束の間。彼は苦悶の表情を浮かべ、自然と口を大きく開き、叫んだ。

「ん・・ぐぅ、うあぁぁぁぁーーーーーーー!!!!」

 

 

小さな小窓から様子を伺っていたラケルの元に、フライア所属の特殊部隊『ブラッド』隊長の、ジュリウス・ヴィスコンティがやって来る。

ラケルの隣へと位置を取ると、彼女に倣って小窓を覗き込み、少し控えめに喋りかける?

「失敗・・ですか?」

「いいえ。あなたの時も、こんなものだったわ」

考えを見透かされたような返事に、ジュリウスは一瞬目を細めてから、改めて小窓の向こうの少年を見つめる。

すると、苦痛が治まってきたのか、彼は着いた膝をゆっくりと伸ばし始める。

「ふふふっ。成功ね・・」

「・・・そのようだ」

ジュリウスのそっけない返事に、ラケルは微笑んで見せてから、マイクのスイッチを入れる。

 

まだ少し震える足に気合を入れてから、彼は右腕にガッチリはまった黒い腕輪を見る。それから、自然と握りしめていた神機をゆっくりと持ち上げて、その黒い刃を一気に振り下ろす。

 

キィィンッ!

 

振るった刃の震える音に、少年は歓喜の笑みを浮かべる。

『おめでとう。これであなたも、晴れてゴッドイーターとなりました。これから訓練の後、ここフライア預かりの特殊部隊、ブラッドに所属してもらいます』

「・・・・はい」

声の主が、天井近くの小窓の向こうにいるとわかってか、そこで微笑むラケルを見つめて返事をする。

『後程、検査を行います。呼び出したら、3階の私のところまで来るように。・・何か、決意表明でもある?』

「・・・・決意」

ラケルの言葉に少し考えてから、彼は尊敬する人がくれた言葉を思い出す。

 

「もし神機を握る時が来たら、大切なものを守るために使うんだよ」

 

それを噛みしめるように目を閉じてから、軽く息を吐いてから目を開け、口を開く。

「この神機を振るって、僕の大切なものを・・・守ります!」

その言葉に、横に控えていたジュリウスは目を大きく開き、ラケルは満足そうに大きく頷く。

『その決意を、どうか忘れぬように・・。神威ヒロ。今日からあなたは、フェンリル極致化技術開発局の、ゴッドイーターです』

 

 

待ち時間を持て余したヒロは、少しの冒険心に、エレベーターで2階に上ってみる。

色々な施設が並ぶ中を、物珍しそうに見て回るヒロ。彼にとっては全てが目新しく、とても輝いて見えた。

彼が見ていた景色には、「空っぽ」という言葉が当てはまっていたからだ。

 

しばらく歩いたところに、ガラス扉を見つける。それもまた珍しいと、ヒロは特に何も気にせずに、その扉の中へと踏み込む。

ガチャッ

「・・・・・すごい」

『楽園』

彼の連想も、あながち間違いではない。

そこには、色とりどりの花が咲き、その周りを小さな小川が流れている。真ん中には、アクリル天板まで立派に育った木が立っていた。

「はじめて・・・、見た」

「・・・・・ん?」

ヒロが必死に見回しながら洩らした声に、木の下に座っていた先客が顔を上げる。それに驚いてしまったヒロは、慌ててポケットの中にしまっておいた、IDカードを取り出し、認識番号と睨めっこする。

「あ、と・・・。自分は・・・えっと、・・これかな。これ?んーっと・・」

「あぁ、おまえか。畏まらなくていい」

おたおたするヒロを手で制してから、男はゆっくりと立ち上がる。

「俺の名前は、ジュリウス・ヴィスコンティ。ここフライアの特殊部隊ブラッドの隊長をしている。以後、お前の上司となるな」

「あ、はい!改めまして、神威ヒロです!よろしくお願いします!隊長!」

「はは・・。そんなに固くならなくていい。良ければ・・、座らないか?」

ジュリウスが再び腰を下ろしてから、自分の隣を指すと、ヒロは拍子抜けした感じで、そこへと座る。

会話のないまま少し沈黙が続いた後に、ジュリウスがふと口を開く。

「ここは・・・、良い所だろう?」

「え?・・・はい。そう、ですね・・」

そして、会話が途切れてしまう。

それをどうにかしようと、ヒロが必死に首を捻っていると、ジュリウスが困ったように笑みを浮かべて、ヒロへと顔を向ける。

「すまない。どうにも、俺は人とのコミュニケーションが苦手でな・・・。気の利いた事一つ考えるのも、苦労してしまう。別にお前を嫌っているわけではないんだ」

「あの・・・いえ。僕も、来たばかりで緊張して・・・、すいません」

それから二人共謝ってることに気付いてか、つい顔を合わせて笑ってしまう。そこへ、

 

『神威ヒロさん。検査を行いますので、ラケル博士の研究室へ出頭して下さい。繰り返します。神威ヒロさん。検査を・・』

 

ヒロを呼ぶ放送の声が流れる。

反射的に立ち上がったヒロは、ジュリウスへと目を向ける。それに応えるように、ジュリウスも小さく頷いて見せる。

「行った方が良い。またゆっくり話す機会もあるだろう・・」

「はい。それじゃあ・・・・」

「ん?」

すぐに立ち去るかと思ったヒロが、手を差し伸べてきたので、ジュリウスは一瞬考えてしまう。しかし、彼の意図が読めたのか、ジュリウスもその手を掴んで見せて、口の端を浮かせる。

「これから、よろしくな。ヒロ」

「はい!隊長!」

固く握ったその手の温もりに、ヒロは大切なものを一つ見つけたと思った。

 

 

 





僕っ子なんで、ユウとかぶりそう・・・。
でも、似ているということで話を進めるから、いいんだ!


・・・・・・・多分。


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2話 血の力

 

 

少し遅れて入った部屋で、たんたんと作業をするラケルを見て、ヒロは背筋を伸ばして緊張してから、傍へと歩み寄る。

「遅くなりました!神威ヒロです!」

「・・・・そこに座って」

怒るわけでもなく、涼しい声で促してきたラケルに拍子抜けしてか、ヒロは軽く息を吐いてから席へとつく。

ヒロが腰を落ち着けたのに合わせてか、ラケルは作業の手を止め、今は動かなくなった足の代わりの電動式車椅子を動かし、ヒロへと向き直る。

「さて・・・、調子はどう?気分が悪いとかは、ない?」

「あ、いえ。特に変わったことは・・」

その妖美な微笑みに、ヒロは照れ笑いをしながら頭を掻く。女性の好みなど考えたこともなかったヒロでも、ラケルの美しさには心乱してしまう。

そんな彼の心境を置いて、ラケルは簡単に検査を終わらせる。

「もう安定しているみたいね。・・・はい、検査は終了。何か、気になることはある?」

「え?・・・。そう、ですね。・・・・・あの、僕が所属する特殊部隊って・・」

きちんと質問を返してきたヒロに、フッと笑んでから、ラケルは質問に答える。

「あなたが訓練後に所属する、フェンリル極致化技術開発局特殊部隊。通称『ブラッド』は、従来のゴッドイーターとは、異なる偏食因子『P-66因子』を打ち込んだ、第3世代のゴッドイーターの部隊よ」

「P-66・・・って、違うんですか?」

首を傾げて聞き返すヒロの顔が可笑しかったのか、ラケルは口に手を当てて静かに笑ってから、話を続ける。

「これまで第1,2世代のゴッドイーターが打ち込んでいたのは、『P-53因子』。マーナガルム計画という、荒神に対抗するための新たな新人類を創造する計画に使われた、『P-73因子』というものがあったの。それを人体直接投与できるように改良されたもの。でも、あなたが今回打ち込んだ偏食因子『P-66因子』は、ブラッド専用のもの。あなたのように、選ばれた人間のみ許された、偏食因子ブラッド」

「選ばれた・・・人間。これまでと、どう違うんですか?」

「選ばれた人間には、特別な力を・・・。そう歴史が語るように、あなた達ブラッドにも、それに相応しい力が宿るでしょう」

「そう・・・なんです?」

疑問が尽きないといった感じに、ヒロは腕を組んで頭を捻る。ラケルの方は笑みを崩さず、優しく諭すように声を掛ける。

「また、気になることがあれば、訪ねてきなさい。・・・あなたのこれからの活躍に、期待しています」

「あ・・は、はい!」

話を打ち切られたのだと理解してから、ヒロは勢いよく立ち上がり、深く礼をして部屋を立ち去る。

ヒロが去った部屋の中で、ラケルは微笑んだまま元の作業に戻る。

 

 

本日の予定を消化したヒロは、夕飯までの時間をつぶすために、フライアの中を散策する。

先程のジュリウスとのやり取りの後に気付いたのか、その場所は立ち入っていいのかよく考えてから、行動するように心がけて・・。

「んぐ・・んぐ・・、ん?あっ!新人さん、発見~!!」

「え?」

大きなディスプレイが設置してあるフロアを通りがかったところで、ヒロは急に大きな声に呼び止められる。

そこには、猫の耳のように髪を立てた少女が、何やら大口で食事しながら手を振っていた。

「え・・・っと、僕でいいのかな?」

「うん!君でしょ?新しく配属された、新人くんって?」

「あ、はい!じゃあ、先輩ですか?」

「ううん。あたしも、今日入った新人~」

少女の何気ない一言に、ヒロは目を細めて「じゃあ、何故新人と言った」と、心の中でつぶやいた。

「あたし、ナナ!香月ナナ!よろしく~」

「あ、僕は神威ヒロ。よろしくね、ナナ」

「うんうん。よろしくされました!」

軽く握手をしてから去ろうとしたヒロに、ナナは思いついたように、横に積んであったモノの一つを、ヒロの前へと突き出す。

「はい!」

「・・・・なに、これ?」

「はじめましての、おでんパン!!」

「おでん・・・パン・・、だと?」

ヒロの中で訴えかける本能が、『それ、掛け合わせねぇよ!』とツッこむ。が、当の彼女は、さもそれが世界一の至福と言わんばかりに、食している。

自分が間違ってるのかと、ヒロは頬を伝う汗を無視して、ゆっくりとそれを口に運ぶ。

(これもコミュニケーション・・・これもコミュニケーション・・・)

震える手のまま、口を大きく開けて、ヒロは一口かじる。

「ん・・ん・・。あ、おいしい」

「でしょ~!嬉しい時には、おでんパンが一番!」

「そう・・・・なの?」

疑問は拭えないが、ヒロはフッと笑んでから、ナナの隣に腰かけてから、もう一口頬張る。

 

並んでおやつ(?)を楽しんでいると、鼻歌を歌いながら一人の少年が歩いてくる。それからヒロとナナに気付いてから、後ろ頭に組んでいた手を解いてから、オーバーリアクションで話しかけてくる。

「お?おぉ~!もしかして、お前等、今日入った新人!?」

「え?あ、はい」

「そうで~す!」

二人の返事に更にテンションを上げて、彼は二人の前へと飛び座る。

「そっかそっか!これで俺も、晴れて先輩になるんだな!」

「あ、今度こそ先輩ですか」

「なんだ、それ?」

「いえいえ、何でも・・」

一瞬ヒロの言葉に首を傾げたが、再びハイテンションで話し始める少年。

「俺は、ロミオ!ロミオ・レオーニ!ブラッドでお前等の先輩になるから、『ロミオ先輩』って呼べよな!」

「僕は神威ヒロです!よろしくお願いします!ロミオ先輩!」

「あたしは、香月ナナで~す!よろしくです!ロミオ先輩!」

「お、おぉ。なんていうか・・・、お前等素直なのな・・」

突然の先輩風に、戸惑うことを期待していたロミオは、二人の素直さに自分が戸惑ってしまう。

「そ、それで?お前等、明日から訓練だろ?」

「はい。訓練課程を終えれば、ブラッドに配属するって・・」

「ラケル先生が、言ってました」

何を納得したのか、ロミオは深く2度頷いてから、神妙な表情を作って見せる。

「訓練はきついぞ~。上から戻すのは、覚悟しとけよ!」

「ロミオ先輩・・・・、食事中・・」

「あ、わりぃわりぃ」

真面目になってみたのに失敗したと、ロミオは頭を掻いてナナに謝る。それから1点変わって明るく立ち上がってから、ロミオは何やらポーズを決める。

「でもな!訓練を越して経験を積めば、俺等ブラッドは他のゴッドイーターとは違って、凄いことが出来るんだぜ!」

「凄いこと・・・ですか?」

「おうよ!なんと・・・、必殺技が使えるようになるんだぜ」

「ひ、必殺技!!!」

その言葉に目を輝かせるナナに、ロミオは更に調子に乗って、座っていた椅子の上に立つ。

「そう!俺もまだだけど、使えるようになれば『あっ』という間に、荒神なんてボッコボコなんだぜ!?きっと、ジュリウスが見せてくれるよ!」

「必殺技・・・かー」

「必殺技!!・・・・楽しみ!!」

「だろ~!」

三者三様に想像する、必殺技。

全然違っているが三人はその話で、暫くの間盛り上がった。

 

 

ビーッ

『目標達成。訓練プログラムを、終了します』

あれから1週間。

ヒロとナナの戦闘も、様になってきていた。

ロングソードのヒロの動きは、訓練始めからかなりの動きを見せ、新たな神機ブーストハンマーに慣れないナナのフォローまで回れる程だ。

ナナの方も大分慣れたのか、小さな体に似合わぬ力で、その巨大な神機を上手く使いこなせるようになった。

そんな二人の様子を伺っていたジュリウスは、組んでいた腕を解いて管理室から出る。それから、携帯端末を使って、ある所へと連絡をする。

「・・・俺です。・・はい。そろそろ、あの二人に最終訓練を受けさせます。・・・・大丈夫です。二人なら、必ず・・・」

会話を終了してから、ジュリウスは口の端を浮かせてから、歩く速度を上げた。

 

 

近場のオラクル反応に合わせて、ヒロとナナ、ジュリウスはヘリから降下する。二人が神機の具合を確かめている中、ジュリウスは無線を使って、フライアのオペレーターのフラン=フランソワ=フランチェスカド・ブルゴーニュに連絡を入れる。

「こちらジュリウス。フラン、現場に変化は?」

『いえ、当初確認のままです。ヒロさんとナナさんは初実践ですから、このぐらいが妥当かと・・・。でも、早すぎませんか?』

二人を心配するフランに、ジュリウスは笑みを浮かべてから返答する。

「問題ない」

無線を切ってから、並んで待つ二人の前へと歩み出るジュリウス。それぞれの顔を確認してから、口を開く。

「本日は二人の最終訓練を行う。だが、訓練である前に任務だ。疑似プログラムの荒神との違いに、最初は戸惑うと思うが、落ち着いてやれば何の問題もない。お前達なら、難なくこなせると信じている」

「「はい!!」」

二人の返事に大きく頷いてから、ジュリウスは更に前へと歩み出て、崖下を闊歩するオウガテイルの群れを指さす。それに目を向けてから、ヒロとナナも気を引き締めなおす。

「あれが人類の敵、荒神だ。俺達のやるべきことは一つ。荒神を、倒すことだ」

「「はい!!」」

「・・・いくぞ」

すっと下へと飛び降りたジュリウスに続いて、ヒロとナナも崖下へと飛び込み、声を上げる。

「「了解!!」」

 

「てぇい!!」

ガァンッ!

壁に追い込んだところに神機を振り下ろし、オウガテイルを地面にめり込ませてから、ナナは慌てた様子でコアを捕食する。

ホッと息を吐いたところに、ジュリウスが歩み寄り、優しく肩を叩く。

「よくやった、ナナ。コアの捕食が、荒神殲滅の近道だ。出来る限りは、忘れず捕食するように」

「は、はぁ~い」

少し疲れた顔で苦笑いを浮かべるナナに、ジュリウスは微笑んで見せてから、ヒロの方へと目を向ける。ナナも気になってか、その視線を追ってヒロを見つめる。

「ふぇ~・・・。ヒロ、凄い」

「ふっ。そうだな」

二人に注目されてるのも知らず、ヒロは目の前のオウガテイルを一閃してから、その勢いのまま、空中で体を半回転させてから、後ろから飛び込んできたオウガテイルも斬り裂く。

ザシュッ!!

「はぁ!!」

ギュルッガビュウッ!!

後ろに1歩飛んでから捕食形態にし、2体を貫きコアを回収する。神機を元に戻してから周りを警戒するヒロの姿に、ジュリウスはゆっくり歩み寄り、ナナもそれに続く。

「二人共、文句なしに合格だ。だが、これは始まりに過ぎない。より強力な荒神を倒すために、これからも精進するんだ」

「「はい!!」」

二人に伝え終わったとしてか、ジュリウスは後ろを振り返る。その先から、新たに3体のオウガテイルが、こちらへと向かってくる。

それに気付いたヒロとナナが神機を構えなおすと、ジュリウスはそれを片手を挙げて制してから、もう2,3歩前へと出てから神機を構える。

「いいか。俺達ブラッドには、他のゴッドイーターにはない『血の力』というものが存在する」

「血の・・・力」

ヒロの返事に頷いてから、ジュリウスは中段に構えた神機を握る手に、力を籠める。

「はぁっ!!」

 

キィィンッ

 

小さな耳鳴りがしたと思った時、ヒロとナナは体の変化に気付く。

「これは・・」

「・・・力が・・・湧いてくる」

二人が驚いてる中、ジュリウスは迫る敵を目にしながら、話を続ける。

「これが血の力だ。お前達にも、個々に特色を持った『意志』として、いずれ目覚めるだろう。そして・・・・、これがっ!!」

 

ヒュッ  ザシュザシュザシュッ!!!

 

「・・・え・・」

「嘘・・・・・」

ジュリウスがオウガテイルの間を斬り抜けた瞬間、無数の光の斬撃が斬り裂き、その動きを沈黙させ倒れた。

驚きに動けないでいるヒロとナナに振り返ってから、ジュリウスは二人の疑問に答えた。

「これが、血の力に目覚めた俺達ブラッドの奥義、『ブラッドアーツ』だ。この力を以って、俺達は世界に蔓延る荒ぶる神に、終止符を打つ」

 

 

 

 




ブラッドアーツ。
出来るだけ全部覚えて、使ってみます!

でも、多いな~・・・


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3話 荒廃した世界の歌姫

 

 

壁を背に目を閉じているヒロ。そこへ、無線からジュリウスの声が入る。

『・・・ヒロ、今だ』

「ふっ!!」

壁を飛び越えてから体を捻り、スコープに標的をとらえた瞬間、

ダダダッ!

グアゥッ!!

ヒロのバレットがコンゴウの足を貫く。

それに合わせて走り込んできたジュリウスが、神機を振り上げ頭を砕く。

ゴズッ!!

「ヒロ!捕食だ!」

「はぁっ!!」

グリリリィッ!

ヒロの神機が、倒れたコンゴウの背中からコアを削り取ると、コンゴウは震える手を天に伸ばすような仕草をした後、その体を地に伏せた。

戦闘の終了に、ヒロは緊張を解いて息を吐くと、ジュリウスがフッと笑みながら隣へと歩み寄る。

「お前にはこれ以上のアドバイスは無いな。ある意味、教え我意がない」

「そうかな?う~ん・・・・でも、今2発外したし・・」

「足止めだけだというのに・・、お前は欲張りすぎだ」

「いえいえ。隊長ほどじゃないですよ」

「ふっ・・」

笑い合う二人、ヒロとジュリウス。

もう何度目かの共闘で、かなり息の合った連携が出来るようになっていた。元々、精神的にも相性が良いのかもしれない・・。

そこへ、

 

ドォーンッ

 

『ちょっとぉ・・・、先輩はあたしを殺す気なの!?』

『お前が突っ込みすぎるから、距離を取らせようとしただけだろう!?』

遠くの爆発音と無線からの声で、ヒロは頬を掻き、ジュリウスは溜息を吐いてから察する。

「やれやれ・・。ヒロ、二人のフォローに向かうぞ」

「了解。・・・またなんか、揉めてるね」

「全く・・・、どうしたものかな・・」

再度溜息を洩らすジュリウスの肩を軽く叩いてから、苦労続きの隊長を労うヒロ。

現場に到着してみれば、体のあちこちから煙を出すナナとロミオ、それと・・標的だったシユウが転がっていた。

 

 

フライアのロビーから階段を上ると、オペレーターが控えている受付と、その奥に神機保管庫がある。

それぞれ神機を定位置へ戻すと、先を歩いていたジュリウスとヒロは、受付で礼をしてくるフランへと声を掛ける。

「ただいま、フランさん」

「今戻った。これで暫くは、フライアの近辺に近付く荒神はいないだろう」

「お疲れ様です。そうですね・・・。まだブラッドは正式に認可された部隊ではないので、他の支部や本部からの要請もありません」

「まぁ、もうすぐ全員揃う。その時には、フランの仕事を増やしてやれる」

「わかりました。お待ちしています」

苦笑してから再び一礼するフランに手を振ってから、ジュリウスはヒロへ頷いてから、一人エレベーターへと乗り込み去って行く。

残されたヒロは、今だ言い合いを続けるナナとロミオを見てから、「押し付けられた」と溜息を吐いてから、二人の仲裁へと向かった。

 

 

フライア天板のヘリポートに、一機のヘリが到着する。フライア局長グレゴリー・ド・グレムスロワと、開発室長のレア・クラウディウスが迎えに立っていた。

因みにレア博士は、ラケル博士の姉にあたる。

二人の招待に応じてやってきたのは、フェンリル外で暮らすサテライトの人々の物資供給などに力を注ぐ、『歌姫』葦原ユノとマネージャーの高峰サツキである。

今や世界のアイドルと化したユノは、戦場に疲れた兵士の「息抜き」と称したコンサートを行い、その裏で、サツキがフェンリルとの物資取引、更には裏情報を取得し、ゲリラ放送で暴露などの活動を行っている。

勿論、後者は秘匿にだが・・・。

「よくいらっしゃいました!」

「ここまで、わざわざありがとうございます!」

「話は、中で!」

挨拶をする二人を促し、彼らを先導に、ユノとサツキはフライアへと入っていく。

 

「いやいや~。こうしてお目にかかれるなんて・・。私の娘も、ラジオ放送の時からの、ファンでして」

「光栄です。私などの歌を支持して下さって」

ロビーへと続く廊下を進みながら、グレム局長の言葉にユノは軽く頭を下げる。その仕草が可愛いのか、グレム局長の緩んだ頬は、より垂れて地面に落ちそうなほどだ。

そんなグレム局長の顔を横目に見てから、サツキは心の中で「狸め」と呟いている。

「ご謙遜を。今や世界で、あなたのことを知らない人などいませんわ。そんなあなたが慰問に伺ってくれたとなれば、うちの職員や兵士の励みになります」

「そう言っていただけると、自分の活動に自信が持てます」

その笑顔を崩さず大人を相手するユノに、グレム局長もレア博士もより一層感心している。そんな様子を目にしてか、サツキは苦笑してから息を吐き、口を開く。

「今回のお招きに応じたのは、こちらのフライアからも、本部訪問に口添えしていただければと思いまして」

「あら、ストレートですね。やはり、本部の方にもコンサートを?」

聞き返してくるレアに、サツキは1度頷いてから続ける。

「本部の方々には中々認可をもらえず・・。向こうの方にも、この子の歌を届けたいのですが」

「そういうことなら、私が紹介状を書きましょう。な~に、あなた方にお会いすれば、すぐに意見も変わりますよ」

「ありがとうございます」

グレムの計らいに、サツキが頭を下げた頃には、フライアの受付前にさしかかる。そこで足を止めたグレムは、ユノとサツキに下心丸見えの提案をする。

「どうです?今日は泊って行かれては?今日は珍しく、天然牛の肉が手に入りましてなぁ。きっとお口に合うかと」

その分かりやすい誘い文句に、サツキより早くユノが口を開く。

「大変ありがたいのですが、今日はここの後に、極東支部へと移動して、現在のサテライト拠点の食糧事情の改善について、お話ししなければなりませんので」

「そ、そうですか・・、いや、大変ですな~、はっはっ!」

まさか17歳の女の子にそんな返しをされるとは思ってなかったのか、グレム局長は笑って誤魔化さざる負えなくなる。それを可笑しく思ったのか、レアも声を殺して笑い、サツキはユノにウィンクして見せる。

気を取り直すように咳払いをしてから、グレムは階段下のエレベーターへと案内しだす。

まだ煮え切らないロミオとナナの言い合うロビーへ・・。

 

「だからさ、お前は前に突っ込みすぎなんだよ!」

「えぇ~、先輩がビビりすぎなんじゃないんですか?」

「ビビッてねぇし!?」

ちょっと疲れて座っていたヒロは、何度目かの溜息を吐いてから、重い腰を上げて二人に割って入る。

「ナナもロミオ先輩も・・・、もう良いでしょ?言いたいこと言い合ったんなら、今度はお互いの妥協点探そうよ」

「妥協するのはこいつ」

「妥協するのは先輩」

示し合わせたようにお互いを指さす二人に、本当は自分は揶揄われてるんじゃないかと、ヒロは目を細める。

「先輩の引けた腰を、前に出せばいいと思う」

「だ~か~ら~、ビビッてないって・・!」

「わっ!?」

興奮したロミオが手を振り上げると、油断していたヒロがそれに驚き後ろに仰け反る。そこへ、

「え?きゃっ!?」

通りすがったユノにぶつかり、それをサツキが支える。慌てて体制を整えたヒロは、グレムやレアの顔も目に入って、青ざめる。

「す、すいません!ボーっとしてました!」

「ちょっと!どこに目を付けてるんですか!?・・・え?」

「サツキ、大丈夫だから。こちら・・こそ・・」

捲し立てるサツキを宥めながら、ユノも振り返ってヒロを見る。そして一瞬だが、二人の思考が止まってしまう。恐る恐る上げたその顔に、何故か既視感を感じてしまったのだ。

「・・・・あ・・っと、その・・」

「バカモン!大事なゲストに、失礼を働きおって!」

《すいません!》

凝視してくる二人に見とれていたのも束の間、グレムに怒鳴られ、今度はナナとロミオも一緒に深々頭を下げて謝る。それに目を覚ましたようにお互いを見返すユノとサツキは、短く深呼吸をしてからグレムへと顔を向ける。

「私は大丈夫ですので、どうか怒らないで上げてください」

「そ、そうですか?・・・わかりました。お前等、感謝するんだな!全く、戦闘しか取り柄のない馬鹿共は・・」

文句の言い足りないグレムがエレベーターに向かうのに、ユノとサツキも後に続く。その場に残ったレアは、しょげているヒロの頬を撫でてから、軽く注意を口にする。

「ロビーでは、他の人に迷惑はかけないように。騒ぐ時には、娯楽室を使うか、私に許可を取りに来ること。わかった?」

「あ・・・・、はい」

「よろしい!」

軽く手を振ってから去って行くレアを待ってから、エレベーターの扉は閉まり、その場には三人だけとなった。

そんな中妙に静かだと思ったのか、ヒロとナナが揃ってロミオの方を見る。すると力でも溜めていたのかの如く、ガバッと顔を上げてから、大きく開いた眼で訴えかけてくる。

「今の・・・・ユノじゃん」

「「?・・・誰?」」

「知らねぇの!?葦原ユノじゃん!?『歌姫』の!」

腕をブンブン振り回しながら興奮するロミオに、ヒロとナナは首を傾げたままだ。

「知ってる?ナナ」

「知らない。でも、可愛いかった~!」

「何で知らないんだよーー!!」

頭を抱えて暴れるロミオ。そこへ、入れ替わりにジュリウスがエレベーターから出てくる。

「まだ騒いでいるのか?ロミオ」

「あ、ジュリウス!丁度いいところに!葦原ユノ!知ってるよな!?」

「ん?・・・あぁ、今日は彼女の慰問の日だったな」

「ほら見ろ~!知らないのは、お前等だけじゃん!」

彼の返事に跳んで喜ぶロミオに、馬鹿にされてると剥れるナナ。この状況はとジュリウスが見てきたので、ヒロは苦笑してから肩を竦める。その反応が可笑しかったのか、フッとジュリウスは微笑んだのだった。

 

 

移動の為に待たせていたヘリに乗り込み、ユノとサツキは極東支部へと向かっていた。

暫くは二人共黙っていたが、その沈黙を破るように、サツキが声を洩らす。

「似ていたわね・・・」

「・・・うん。一瞬心臓が止まるかと・・」

その返しを期待してたのか、途端にサツキはニマーッと悪戯な笑みをユノに向ける。それに気付いた時には、ユノは逃げれないでいた。

「やっぱり~。まだ、お兄ちゃんが恋しいのぉ?」

「ち、違っ!んもぅ!だから、サツキとこの話したくなかったのに・・!」

「良いじゃない。私達の仲なんだから、教えてよ~」

「いやっ!!」

面白がってつついてくるサツキに無視を決め込んでから、ユノは窓の外に焦ったヒロの顔を思い浮かべてから、クスッと笑った。

 

 

 





仮タイトル『荒地の歌姫』

読み返したら、どうしても法子さんじゃなくて、三輪さんっぽいからやめました。

ユノ「黙れ小僧!!」

あ、キャラ違った。


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4話 グラスゴーの問題児

 

 

まだ日が昇らぬうちに目覚めたレアは、隣で大きくいびきをかくグレムを見る。その醜い裸を眺めてから、「ふんっ」と鼻を鳴らしてから起き上がる。

自分の研究を有利に進めるためにと、体を1度許したら、盛った猿のように求めてくる。調子の良いことをよく言うが、果たしてどこまで本音で言ってるのかと、レアは最近嫌気がさしてきていた。

着替え終わってから扉の前まで行き、幸せそうに眠り続けるグレムに向かって、ピアスのついた舌を長く伸ばしてから、

「役に立ってね。下手糞な、狸さん」

と言って出て行った。

 

シンッと静まり返った研究室で、ラケルはPCの画面に映し出された資料を眺めている。

そこへ、レアが軽くノックをしてから、隣へと歩み寄る。

ラケルの見ているモノを覗き込んでから、少し考えて口を開く。

「また・・・、ブラッドを増やすの?」

「えぇ、お姉さま。これで、5人目のブラッド」

資料に視線を置きつつ、ラケルは静かに笑みを浮かべて答える。

「・・・・ギルバート・マクレイン。どこかで聞いた名前だけど・・」

「おそらく、フェンリル本部の査問議事録で見たのじゃないかしら?」

「・・あぁ・・、『フラッキング・ギル』。上官殺しのギルね」

疑問が解けて納得したように、レアは顎に手を当ててから頷く。しかしすぐに表情を一変して曇らせてから、ラケルへと抗議の目を向ける。

「でも、ラケル。これ以上ブラッドを増やす意味なんてあるの?神機兵が完成すれば、もう必要なくなるんじゃ・・」

『神機兵』。

亡くなったクラウディウス姉妹の父、ジェフ・クラウディウス博士の考案した、神機のオラクル細胞制御機構で応用した、人型機動兵器。

第2世代ゴッドイーターの平均を上回る強さを有すこれが完成すれば、ゴッドイーターでなくとも、大型種の荒神を駆逐することが出来る。その研究を、現在はレアが引き継いで進めているのだ。

しかし、それにも色々と問題は尽きないが・・・。

「いいえ、お姉さま。まだまだ全然足りないわ」

「ラケル・・」

やっとこちらを向いた妹に、レアはどこか気圧された気持ちになる。

「『血の力』は、研ぎ澄まされた意志の力・・・。強い意志は、新たな意志の呼び水となる・・。それは、新たな世界には必ず必要だわ」

「・・・・」

「ねぇ、お姉さま。これからも二人で、全てを乗り越えていきましょう?人という種に与えられた試練を・・、人類の新しい未来の・・為に・・」

「・・・えぇ、わかてるわ。ラケル・・」

その目に意識を吸い込まれたように、レアは自然と手を取り、大きく頷く。その返事を満足気に笑顔で応えるラケルの瞳の奥には、もっと大きな未来が見え隠れしていた。

 

 

エレベーター前で待ち合わせていたヒロは、先に来ていたジュリウスに手を上げてから、エレベーターへと乗り込む。

今日は新しい仲間を迎えるということで、ヒロは少し緊張している。

「・・・不安か?」

「うぅん。なんか、こう・・・・、緊張してる」

「そうか。お前でも緊張するんだな」

鼻を撫でながら笑うジュリウスに、少しだけムッとしてから、ヒロは反撃する。

「ジュリウスは慣れてるかもしれないけど、僕は初めてなんだから良いでしょ?」

「それは、すまなかったな。だが、俺もなかなか慣れない」

「それは・・・・・、そうなのかも・・」

「ふっ・・・。努力はするさ。惜しみなくな」

いかにも真面目なジュリウスらしい返答に、ヒロはつい笑ってしまう。そうこうしているうちに、エレベーターが目的地に到着する。

 

ガッ!

「いっ・・・てぇ。何すんだよ!?」

二人が到着した頃を見計らったように、問題は勃発していた。

頬を押さえて叫ぶロミオ、オロオロするナナ。それに、新しい仲間であろう人物が、ロミオを睨みつけて立っている。

いつもながら問題が尽きないと溜息を吐いてから、ジュリウスはその場へと足を運ぶ。

「・・・状況を、説明してくれるか?」

「こいつが・・・いきなり殴ってきたんだよ!」

即座に答えてきたロミオに頷いてから、ジュリウスは視線を問題の人物へと移す。

「あんたが、隊長か?・・・俺はギルバート・マクレイン。ギルでいい」

「そうか。よろしくな、ギル。それで・・?」

「こいつがムカついたから、殴った。それだけだ」

完結に自分のしたことを述べてから、ギルは踵を返して歩き出す。

「懲罰なり、クビにするなり・・・、好きにしてくれ」

それだけ言い残して去ってしまったギルに、再び溜息を吐いてからロミオとナナに目を向ける。

「ロミオ・・・、どうしたんだ?」

「あいつの・・、元いた支部とか、色々聞いただけだし・・」

「・・・ナナ?」

「喧嘩は良くないけど・・・、今回は先輩がしつこすぎ」

それで理解したように、ジュリウスは眉間に出来た皺を撫でる。

「早く仲良くなるのにお互いのこと聞いて、何が悪いんだよ!?」

「それが良くないことだってあるよ。ちゃんと謝ったら?」

「嫌だよ!なんで殴られた俺が・・」

ナナの指摘にそっぽ向くロミオを見て、ヒロは苦笑してからジュリウスの肩を叩く。それを合図に目を開けてから、ジュリウスは口を開く。

「今回のことは、不問とする。だが・・・、任務に私情を持ち込まれては困る。関係は修復するように」

「えぇー!?やだよ!!無理無理、絶対無理!!」

「ぷぷっ。先輩、子供っぽい」

「ナナ。これ以上、問題を起こすな」

「は~い」

流石に顔をしかめるジュリウスに、ヒロが笑って声を掛ける。

「僕が彼のところに行ってくるよ。彼も謝れば、ロミオ先輩も謝れるでしょ?」

「そりゃあ・・・まぁ」

「決まりだな。頼めるか、ヒロ」

「了解」

まだ思うところがあるような表情のロミオをナナとジュリウスに任せて、ヒロはギルを探しに、エレベーターへと向かった。

 

 

2階の庭園に来ていたギルは、屋根付きの休憩所の椅子に寝転がって、思いにふけっていた。

元々第1世代のゴッドイーターであった彼も、P-66因子に適合し、晴れてブラッドの一員になりフライアへと転属となった。

(まぁ・・・・、もういられなかったしな・・)

上官殺しの異名がついてからは、誰も彼とは任務に行こうとはせず、完全に居場所を無くしていたところを、ラケルに拾ってもらったようなもの。

さっそく問題を起こしてしまったことを、少しだけ後悔していたのだ。

「ここにいたんだ」

「・・・ん?」

声を掛けられ起き上がると、ヒロが覗き込むように立っていた。

「何だ。もう処分が決まったのか?」

「そう。今回は不問だよ。条件付きでね」

笑って言ってくるヒロを見上げてから、キャップをかぶり直してから聞き返す。

「何だ?1週間ぐらいの拘留か?」

「ロミオ先輩と、仲直り」

「なんだと?」

少し驚いてから溜息を吐き、ギルは立ち上がってから、自分より低い身長のヒロを見下ろす。

「あの隊長も、甘いな。それとも、お人好しそうなお前の提案か?」

キッと睨みつけてくるギルに対して、特に怖気ずくこともなく、ヒロは表情を崩さず返事を返す。

「『任務に私情を挟まないように』。割と普通の答えだと思うけど?」

「・・・・・なるほど。ごもっともだ」

拍子抜けしてしまったのか、それともヒロの人柄に負けたのか・・・。ギルは笑みを浮かべてから、改めて挨拶をする。

「ギルバート・マクレインだ。ギルで構わない」

「神威ヒロ。ギルより、ちょっとだけ先輩だよ」

「はっ!言うじゃねぇかよ!」

握手を求められその手を握ったギルは、今度はバツが悪そうに鼻の頭を掻く。

「さっきは悪かったな。俺もやりすぎたと、反省してる。あいつにも、謝っておいてくれ」

「それは、ギルが直接言わなきゃダメ。隊長からのお達しなんだからね」

顔に似合わぬはっきりとした物言いに、ギルは苦笑してしまう。

「わかった。ちゃんと、謝る」

「そうこなくっちゃ」

二人は笑い合ってから、歩き出す。

その後、素直に謝罪してきたギルに驚いてから、ロミオも素直に非を認めて、問題は事なき終えた。

 

 

雪に覆われた旧高速道路跡。

任務の為に移動してきたブラッドの面々は、高台から見下ろしながら戦闘準備に入る。

そこでギルの取り出した新しい型の神機、チャージスピアに注目が集まる。

「すっごーい!!これがギルの神機!?」

「あぁ。ブラッドに転属してから、持ち替えた」

「マジかよ!いきなり持ち替えて、使えんのかよ?」

「お前よりは、マシだろう」

「知らないだろ!?俺のこと!」

皆引っ切り無しにギルに喋りかけてる中、ジュリウスとヒロは現場の確認をしながら笑顔で話している。

「大分、馴染んでいるじゃないか。お前のお陰だな、ヒロ」

「元々そんなに人と関わるのが、嫌って訳じゃないと思うよ。ギルは」

人と人とを繋ぐきっかけになっているのを、無自覚なんだろうヒロを見てから、ジュリウスは羨ましく思いつつ、頼もしく感じていた。

 

ギャウッギャギャッ!

 

遠くから声が響き、小型がこちらの方へとやって来る。その数を数え、目的の敵が見当たらないことを、ジュリウスとヒロは頷き合い、他の三人に声を掛ける。

「さぁ、任務に向かうぞ。視認できるのはザイゴートが5体。討伐対象のウコンバサラは、おそらくもっと奥にいるだろう。先に確実に手前の5体を殺る。一人1体。問題ないだろう?」

《了解!!》

皆の返事に頷いてから、ジュリウスは先頭に立って下を見下ろす。

「先に片付けた二人で先行偵察。無理はするな。・・・行くぞ」

それを合図に、一気に荒神の群れに向かって飛び降りた。

 

「はぁっ!」

ザンッ!

胴体からコアごと斬り捨ててから、ヒロは周りへと目を配る。すると、

「はぁぁぁっ!!」

ズンッ!!

ギルがザイゴートの身体に、スピアを捩じ込んで大穴を開けていた。それから向こうも、こちらを見てくる。

「早いな」

「ギルもね」

そんなやり取りに笑みを浮かべてから、ジュリウスはナナとロミオの方を向いて指示を出す。

「ヒロ、ギル。お前達で偵察に向かえ。戦闘に入るのは、出来るだけこっちに引っ張ってきてからにしてくれ」

「いや・・・。向こうさんも、やる気満々みたいだ」

ギルの返事に後ろを見ると、ウコンバサラが電気を走らせながらこちらへと向かってきていた。それならばと、ジュリウスは指示を変更する。

「ならば戦闘に入れ。俺達も、すぐに応援に来る」

「「了解!!」」

そう言ってヒロとギルは、標的へと駆け出す。

こちらへ気付いたのか、ウコンバサラは自慢の尻尾を振り上げ、振り抜いてくる。それを想定内と、ギルは盾を展開して受け、ヒロは真上へと飛び、そのまま重力に乗せてウコンバサラに神機を突き立てる。

ガシュッ!

グゥウアァァグルルッ!!

それを引き抜いてから後ろに跳び、ヒロはギルへと声を掛ける。

「ギル!」

「任せろ!!」

怯んだ隙に力を溜めていた神機を一気に開放し、ギルは切っ先を突き出す。

ザリィィッ!

ギャグゥゥッ!!

「ちっ!浅いか・・」

まだ少し不慣れなのか、反動でブレてしまった神機は、ウコンバサラの背中を抉るが、決め手にはならなかった。

それをチャンスと反撃に転じたウコンバサラだったが、

「てぇーい!!!」

ゴシャッ!!バキィッ!

飛び込んできたナナのブーストハンマーを頭にくらって、地面にめり込む。それに合わせて、ロミオの振り抜いた神機は、尻尾の先を砕く。

「おっしゃぁ!見たかよ、ギル!俺の実力!」

「・・・まぁまぁだな」

頭をやられてフラフラするウコンバサラに、ジュリウスが神機を振り抜いてから、顔だけを向けてから背中越しに勝利宣言をする。

「これが、俺達の力だ」

ザシュザシュザシュザシュッ!!

無数の斬撃が走り抜け、ウコンバサラはその場に倒れ伏せた。

 

コアを回収後、帰り支度を始めるギルに、ロミオが話しかける。

「どうよ、俺の実力!お前に負けてなんかないだろ!?」

「最後の一撃を言うんなら、ナナのおこぼれだろ。良い一撃だった」

「本当に~!?ギルに褒められちゃった!」

「あれは俺の方が先だろ!?」

気に入らないのか騒ぎ立てるロミオに、耳を塞ぐギル。そんなギルの周りを飛び回るナナ。その姿を見守るヒロの肩に手を置いてから、ジュリウスは口を開く。

「良いチームになってきたな。ブラッドも・・」

「そうだね。やっぱり、隊長がいいんじゃない?」

「そうでありたいな」

そう言って微笑むジュリウスとブラッドの頭上に、迎えのヘリが到着する。そのヘリを見上げてから、ジュリウスはプロペラの駆動音にかき消されるような声で呟く。

「あと・・・一人か」

皆が乗り込んでから、ヘリはフライアへと針路を取り、その場を飛び去った。

 

 

 

 





新年となりました!
これからも、よろしくお願いします!



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5話 騎士道を以って・・

 

 

「君達が・・・・、ブラッドかい?」

神機の調整を終え、保管庫から戻るヒロとギル。急に話しかけられて、二人はゆっくりとその人物に振り返る。

「僕はエミール。栄えある極東支部第1部隊所属、・・エミール・フォン・シュトラスブルグだ!」

何故かビシッという音が出る程の構えを決めて、自己紹介してくる彼に、ギルが呆れ顔で返事を返す。

「・・・そうか。よろしくな」

それを合図に立ち去ろうとすると、エミールは手を前に突き出し、それを止める。そして、何やら思いつめたような表情で、思いの丈を語り始める。

「このフライアは、良い船だね。・・・・実に、趣味が良い。しかし!この美しい船の、祝福すべき航海を妨げるかのように・・・、怒涛のような荒神の大群が待ち受けているという。きっと・・・君達は不安に怯えているだろう。そう思うと・・・僕は、いてもたっても、いられなくなったんだ!」

「・・・・・はぁ」

何やら大袈裟に喋っているエミールに、ヒロは空返事を返してしまう。

怒涛のような荒神の大群を倒すのに力を貸すのは、ブラッドの方だからだ。

「そう言う訳で、この僕が君達の力となるべく、参上したのだ。大船に乗ったつもりでいてくれたまえ!」

「・・・・結構です」

「バカ!」

何か怖くなってきたヒロが、つい言ってしまった言葉にギルが小突くが、それも遅かった。エミールは更に派手な振る舞いで、語り始める。

「君は、非力を恥じているのか?いや、恥ずべきことはない!強大な敵との戦いには、この正義の助太刀こそあるべきだ!頼りたまえ!弱きを助けるのが僕の義務!『騎士道精神』だからだ!!」

「いえ、いいむぐぅっ!」

「わかった。そうさせてもらう」

余計なことを言いそうなヒロの口を塞いでから、ギルが代わりに答える。それに満足したのか、優雅と言った感じの足運びで、エミールはゆっくりと歩み始める。

「共に戦おう。人類の、輝かしい未来のために!!我々の勝利は、約束されている!!」

嵐が過ぎ去ったような静けさに、ギルはヒロの口を塞いでいた手を放してから、溜息を吐く。

「ややこしいヤツが・・・、来たな」

「・・・・うん」

二人は肩を竦めてから、再び歩き始めた。

 

 

任務の説明を受けるために、ブラッドは神機保管庫に集まっていた。

それぞれが神機を移動用のケースに入れてから待つと、ジュリウスがエミールを連れて入ってくる。

「誰?あの人?」

「ヒロとギルが会ったっていう、極東の奴じゃね?」

ロミオとナナが小声で話しているうちに、二人は皆の前へと到着する。

「本日は初の外からの要請任務だ。ここ極東地域も、最前線とはいえ、決して万能ではない。任務に割ける人員にも、限界がある」

「それで、俺達にか?」

ギルの質問に、ジュリウスは頷いて見せてから、話を続ける。

「今後、こういった任務がメインとなるだろう。俺達ブラッドは、要請のあった地域に赴き、力を貸す。必要なら独自に戦闘へ介入する」

「そうか・・・。君達は俗に言う、遊撃部隊というやつだね」

「そういうことになります」

口を挟んできたエミールに丁寧に受け答えしてから、ジュリウスは改めて任務の内容を口にする。

「今回は極東に向かっている荒神の集団を、二つに分断し、排除する。その為、2班に分かれて行動する」

そのジュリウスの言葉に、ヒロとギルは嫌な予感に、目を合わせる。そして、その予想は的中する。

「第1班は俺とナナとロミオ、第2班はヒロとギルに、彼にも加わってもらう。極東第1部隊の、エミールさんだ」

「君達への自己紹介は済んでいるが、彼等にはまだだったね。僕はエミール・・・栄えある極東支部第1部隊所属、エミール・フォン・シュトラスブルグだ!!」

ヒロとギルの時とは違ったポーズを決めるエミールに、二人は溜息を吐き、ナナとロミオは少し固まってから立ち上がる。それから自分の神機ケースを手に持ち、ナナはヒロを、ロミオはギルの肩に手を置いてから、エールを送った。

「えっと~・・・・がんばってね」

「自棄になって、殴るなよ」

先に歩き始める二人の優しさに、尚嫌気がさしてきたヒロとギルは、逃げ出したくなる前にと、移動の為にヘリポートへと移動していった。

そんな彼等の様子を、前髪のカールを指で遊びながら、エミールは余裕の笑みで目を閉じる。

「ふふっ。何も緊張することはないのだが・・・。僕の溢れんばかりの強さと輝きに・・・酔ってしまったかもしれないねぇ」

その台詞に1点の曇りがないのを理解できてか、ジュリウスも絶句していた自分を悟られぬように、移動を始めた。

 

 

荒野を駆ける荒神の大群の上空から、ブラッドとエミールは銃型にして構える。

そして、それぞれの無線に、フランからの連絡が入る。

『メテオライト、発射してください!』

 

ドゥオォーーーーンッ!!!!

 

一斉に発射されたバレットは、上空で交わり、拡散して荒神へと降り注ぐ。

 

ドドドドドドドーーーンッ!!!!!

 

その威力に大半の荒神は沈黙し、残った荒神は中心から左右へと別れる。

『分断確認。降下してください』

『いくぞ』

フランとジュリウスの声を確認してから、ヒロは神機を剣型に変形しながら飛び降りる。

 

片腕を押さえて飛び退くシユウを目で追いながら、ギルはヒロの名前を叫ぶ。

「ヒロ!いったぞ!」

それを合図に、シユウが背中にする壁の後ろから、ヒロが飛び越えて銃口を向ける。

ドドドドッ!!

ギャギャアッ!!

頭を押さえられて屈み込むシユウ。そこへ、ギルの容赦ない1撃が、その胸を穿つ。

「くたばれ!!」

ズゥンッ!!

大きな穴を確認することも出来ず、シユウはその場に倒れ込む。そこへ、二つの大きな口が、喰い荒らそうと構えていた。

ガビュウッ!!!!

 

フランとの連絡で確認を終えたのか、ギルは顔を上げてヒロを呼ぶ。

「おい、やはり後1体だけだ」

「そう。じゃあ・・・・、あれってことだよね」

二人の視線の先に映るのは、大口で笑うような素振りを見せるウコンバサラと、傷だらけの騎士(?)のエミールだった。

手を貸そうとはしたのだが、「助太刀無用!!」と止められたので、ヒロもギルも周りに警戒をしつつ、見守っているのだ。

「はぁ・・はぁ・・、闇の眷属め・・」

グアアァウッ!!!

「ここは・・・僕の、騎士道精神にかけて!貴様を土に、還してやぶぅあっ!!」

長口上はお気に召さないのか、エミールが喋り終わる前に、ウコンバサラは相手を吹っ飛ばす。

「おのれ・・・、なかなかやる!だが!今度は、こちらの番がぁぁっ!!」

やはり喋らせてもらえず、エミールは壁に激突し、倒れる。

もう無理だろうと歩き始めたところで、立ち上がるエミールに気付いたヒロが、ギルを止める。

「おい。もう良いだろう。子供の遊びじゃないんだぞ」

「でも・・・、あの人はやる気みたいだし・・」

その言葉が聞こえていたのか、エミールは口の端を浮かせてから、神機を構えなおす。

「待っていてくれ。今・・・、僕の騎士道精神を示してみせる!!」

グアァウッ!

「ふっ・・・いいだろう。そろそろ、僕の本気を見せぎゃふっ!!」

何度宙に浮いたのか、エミールはふらつく頭を抱えながら、ゆっくりと立ち上がる。

流石に見ていられないとヒロも同調してか、ギルと走り出すが、エミールの口から洩れる声に、その足を止めてしまう。

「ゴッドイーターの・・戦いは・・・、ただの戦いではない・・。この絶望の世に於いて、神機使いは・・・、人々の希望の依り代だ!!」

「・・・・へぇ」

長々喋るめんどくさい人としか思ってなかったヒロは、少しだけエミールに関心の目を向ける。

「正義が勝つから、民は明日を信じ!正義が負けぬから、皆前を向いて生きる!!故に僕は・・・騎士は!絶対に、倒れるわけにはいかないのだ!!」

「だから・・・長いんだよ。話が」

ギルのツッコミに同意してか、ウコンバサラが再びエミールへと突っ込む。しかし、そこには目標はなく、空から降ってきた強烈な痛みに、叫ぶ暇もなくその場で倒れた。

その1撃をもって沈黙した荒神を目にしてから、歓喜の笑みを浮かべたエミールは、曇りがかった空に向かって、勝利の雄叫びを上げる。

「うおぉぉぉぉっ!!騎士道精神の、勝利だぁ!!」

ガビュウッ!!

「は?」

それを遮るような音がして、エミールは背後へと振り返る。そこには、捕食をしているヒロとギルが、白い目で見つめていた。

「・・・・そういうことは・・」

「コアの回収を済ませてからにして下さい」

「あ・・・・・・・・・・・・、すまない」

本気で忘れていたらしい表情に、ヒロとギルは溜息を吐いてから、回収を終えたのを確認してから、歩き始める。

それにハッと我に返ってか、エミールも早足で後を追う。

「ま、待ってくれ!普段は、決して忘れたりはしないんだ!」

そんな彼の声を無視しながら、ヒロはジュリウスへと報告する。

「隊長・・・帰投します」

『・・・・ご苦労だった』

その苦労を理解できるといった感じで、ジュリウスはそれ以上何も聞かなかった。

 

もうすぐ合流地点というところで、ヒロとギルが足を止める。そして、

 

オオォォォォォンッ!!

 

狼の遠吠えのような声が木霊する。

その雄叫びが聞こえた方向を探るように見回しながら、ギルは舌打ちをしてから口を開く。

「くそっ・・・。新手かよ」

「そうみたいだね。僕はジュリウスと連絡とるから、ギルはフランさんに確認取って」

「わかった」

「エミールさん・・・・あれ?」

振り返って指示を出そうと思った時には、エミールの姿はそこにはなかった。そこに、ジュリウスからヒロへ無線が入る。

『ヒロ。荒神らしき声を確認した。お前達の状況を、教えてくれ』

「それが・・・・、エミールさんが単独でいなくなりました」

『なんだと?』

つい呆けてしまった頭を振ってから、ヒロはギルと目で示し合わせる。それから別方向に移動を始めてから、改めてジュリウスに返事を返す。

「今からギルと別々に探します!隊長達も、手を貸して下さい!」

『わかった。こちらも捜索に移る。未知の荒神の可能性が高い。できるだけ、単独での戦闘は避けろ』

「了解!!」

無線を切ってから、建物の中に入り、影になったところから水の中まで、ヒロは視線を走らせた。

 

独断先行してしまったことを、今更ながら後悔しているエミールは、荒神に警戒しつつ足を進める。

「闇の眷属よ・・・。姿を見せろ」

言っていることに反して、彼の声は普段より響かない。

周りに仲間が確認できないことに、正直怖気づいているからだ。

その時、近くの瓦礫の隙間が赤く光ったように見え、エミールはそちらを向いて神機を構える。その瞬間、

ズシッ

「な・・・んだと!?」

今まで重いと感じなかった自分の相棒が、急に手の中にのしかかってくる。焦ったエミールは、必死に神機を振ってみる。

「どういうことだ!ポラーシュターン!いったい・・」

 

ガアァァーーーンッ!!

 

そのタイミングを待っていたとばかりに、瓦礫の裂け目は崩れ、赤く光る二つの瞳が、ゆらゆらとエミールを見つめる。

「な・・・なな・・」

神機のことでパニックになっているエミールは1歩、また1歩と後ずさる。

それを嘲笑うかのように、赤黒いオーラを纏った荒神は、その顔を天に向けて、絶望を謳う様に叫ぶ。

 

オオォォォォンッ!!!

 

それを耳にしたブラッドの誰もが、目を見開いて鳥肌を立てる。

新たな力を持った、神の降臨に・・・。

 

 

 

 





エミール、台詞なげぇよ!!

でも、好きなキャラだ!w


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6話 意志の覚醒

 

 

一心不乱。

こんな時に使うべき言葉だろうと、今考えるべきではないことを頭に浮かべながら、エミールは必死の形相で走る。

「何故だ・・・。何故なんだ!?」

沈黙を続ける自分の神機に、問いかけるように叫ぶエミール。

後ろから迫る脅威に立ち向かうには、神機が起動しなければ話にならない。彼の心は騎士道精神を忘れて、ただひたすら疑問を叫び続けるばかりだ。

「何故だ!何故・・ぐわぁっ!!」

ガンッドザーッ!

砂埃を上げて転がったエミールは、もう何も考えれなくなり、ゆっくりと瞼を閉じる。そこへ、容赦ない荒神の1撃が、振り下ろされる。

 

ギィンッ!

 

その爪によって貫けるはずだったと疑問を覚えてか、荒神はゆっくりとした動きで、阻止した人間へと目を向ける。

低姿勢に神機を構えるヒロが、威嚇する様に睨みつけてそこにいた。

 

ギリギリ間に合ったとはいえ、自分一人、劣勢だと思い浮かべるヒロ。

しかし逃げるそぶりは見せずに、その構えのまま踏ん張る足へと力を籠める。

「あの人なら・・・、絶対に逃げない!」

そう言ってから勢いよく突っ込み、ヒロは下から神機を斬り上げる。そのスピードが予想外だったのか、相手も躱せずにいる。

「とった!」

ギィンッ

「な!?ぐぅ!!」

バチィッ!!

斬り裂いたはずの荒神の胸は、その攻撃を弾き、逆にヒロの方が相手の尻尾に吹き飛ばされる。

「ぐ・・・うぅ・・、かはっ!」

体制を立て直そうと咳込んでから、ヒロは神機を杖に立ち上がる。

だが、こっちの攻撃は通らない。

(どうする・・・・どうする・・・)

必死に考えるが、浮かんでくる映像は、エミール諸共荒神に喰い殺されるモノばかり。

「はぁ・・・はぁ・・・はぁ・・・」

息が荒くなる・・・。

汗が全身から吹き出る・・・。

絶望に目が見開く・・・。

どうしようもないと、死の覚悟を決めかけたその時・・・。

 

『もし神機を握る時が来たら、大切なものを守るために使うんだよ』

『この力を以って、俺達は世界に蔓延る荒ぶる神に、終止符を打つ』

『選ばれた人間には、特別な力を・・・』

『この神機を振るって、僕の大切なものを・・・』

 

「・・・守る!!」

 

キイィィィィィィンッ!!!

 

 

「何だ?」

「これって・・」

「隊長の時と・・・同じ」

「・・・覚醒、したか」

 

ブラッドの皆に届いた朗報。

それに応えるように、ヒロの神機は赤く、血のように紅いオーラを纏う。そして、

 

「はあぁぁぁっ!!!!」

ザンッ!!!

クゥオォオォォォッ!!

 

剣は荒神の左目を斬り裂き、その巨体を後方へと吹き飛ばす。

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・」

すぐに起き上がった荒神だが、ヒロの気迫に気圧されたのか、1歩後ろへと距離を取る。そこに、

ダダダダダッ!!

無数のバレットが、その身を包む。たまらず近くの建物に上ってから、現状を把握する様に伺う。

ようやく到着できたギル、ロミオ、ナナの顔を見て、その後ろでヒロを支えるジュリウスを見る。

その場を劣勢と判断したのか、荒神は自分に傷を負わせたヒロを見つめてから、その場から走り去った。

残されたものは、緊張を解くように息を吐き、立っていられなくなったヒロを支えるジュリウスの一言で、皆笑顔を見せる。

「まったく・・・、大したやつだ」

 

 

フライア2階の庭園に来ていたヒロは、ボーっと景色を眺めていた。

正確には、虚空を見つめていたのだが・・・。

覚醒したおかげで、何とか新種の荒神を退けることが出来たが、自分の実力がまだまだだと思い知らされたので、反省の意も込めて、静かなその場所に身を置いていたのだった。

「・・・おい」

「ん?・・・あ、ギル」

止めていた時間を再開するきっかけとなったギルを見て、口の端を浮かせてから、差し出されたジュースの缶を受け取る。

「ありがと・・」

「あぁ・・」

隣に腰を下ろしてきたギルに倣って、ヒロもプルタブを開けてから喉に流し込む。その様子に安心したのか、ギルは1度安堵の息を吐いてから、真面目な顔をする。

「ヒロ、あまり無茶するなよ。人を守るのも結構だが、自分の命も守るようにしろよ」

「うん。ごめんね・・・」

「まぁ、良い仕事をしたとは、思うがな」

そう言って一気に飲み干すギルを見て、ヒロは目を閉じて微笑みながら、もう一口口に入れる。

しばらく黙った後に、ギルが再び口を開く。

「・・・なぁ。覚醒した・・」

「あぁーっ!!ヒロ、見っけぇ!!」

ギルの声を遮って、ナナが走り寄って来る。その後ろにはロミオの姿もある。

「昨日あんまり話せなかったのに、どっか行っちゃうんだもん。探したよぉ」

「そうだよ!なぁ、なぁ、血の力に目覚めたんだろ?どんな気分だ?力が漲る感じか?」

「あぁ・・うっせぇな」

「おまえに聞いてんじゃ、ないだろ!?」

静かな庭園が、急転騒がしくなる。そんな様子が嬉しいのか、ヒロは笑顔で喜びを露わにした。

 

「なぁ、ヒロの力って、どんなやつ?」

「あたしも知りた~い!」

「・・・俺も、興味がある」

「・・・・・よく、わかんない」

「「「・・・・は?」」」

 

 

研究室に来ていたジュリウスは、ヒロの覚醒のことをラケルに報告していた。

本人も自覚できないと知ると、さしものラケルも顎に手を当て、少し考える仕草を見せる。

「そう・・・。いずれ分かると思いますが、彼自身が疑問に悩まぬように、私の方でも調べてみましょう」

「お願いします。力に目覚めたばかりで、ヒロも不安になってると思いますので」

軽く一礼をするジュリウスの行動に、ラケルは嬉しそうに目を細める。

「仲良くやれてるみたいで、嬉しいわ。彼は、お気に入り?」

「私にとっては、ブラッド皆が特別です」

「そうね。・・・・この子も、きっとあなたの特別になるわね」

「この子・・とは?」

質問を返してから、ジュリウスはラケルの眺めるPCの画面が見えるよう移動する。そこに写っている資料の写真を見て、少し驚いた後に、フッと笑みを浮かべて答えを返す。

「当然です。一緒に育った、妹のような存在ですから」

答えに満足してか、ラケルは資料の名前の部分をなぞりながら、声を洩らす。

「これで・・・・、全員揃ったわ」

 

 

訓練所を借りたヒロとジュリウスは、神機を構えて並び、静かに呼吸を整える。

「いいか、ヒロ。ブラッドアーツは、己の血の流れを早くするイメージを作るんだ。そして、それを神機を握る手に、そこから神機の切っ先まで広げる」

「・・・・うん」

二人の神機の刃が、徐々に輝きだす。それを目で確認できたところで、ヒロはジュリウスを真似て、神機を上段へと持ち上げる。

「それを前方に飛ばすように振り抜き、オーラを飛ばせれば、きっと自由に技を出すことが出来る。いくぞ?」

「・・・・いきます!」

 

ブンッ!ギャァンッ!!!

 

二人同時に振り下ろした神機から、ブーメランのように飛び出したオーラが、設置した障害物を真っ二つにし、ヒロはゆっくりと息を吐く。

「ふっ・・、上出来だ。おまえは呑み込みが早くていい」

「ど、どうも・・」

集中したことに疲れたのか、ヒロは膝に手をついて苦笑する。

「今は自由度にかけるが、訓練を続ければお前の望んだ時に技を繰り出せる。精進だな」

「・・はぁ・・、そうする」

落ち着きを取り戻したヒロが背筋を伸ばすと、ジュリウスは肩を軽く叩いて訓練所の外へと促す。ヒロも大きく息を吐いてから、ジュリウスの後へと続いた。

 

休憩室に入ってから、ジュリウスは静かに口を開く。

「明日・・・、新しいブラッドが配属される」

「そうなの?これで・・・、六人か」

「あぁ」

手に持ったドリンクを口にしてから、ジュリウスはフッと笑みを浮かべて話を続ける。

「それと・・・・。いや、これは明日にしよう」

「え?何?気になるんだけど・・」

聞き返すヒロに対して、ジュリウスは少し悪戯めいた顔を見せてから、空いた缶をゴミ箱に入れてから、出入り口に歩き出す。

「楽しみにしているんだな。・・・訓練、がんばれよ」

「ん~・・・、わかりました」

不満の表情を隠さないヒロに手を振ってから、ジュリウスは部屋を出ていく。残されたヒロは溜息を吐き、ブラッドアーツのイメージを浮かべる為、目を閉じて手を前に構える。

 

部屋に戻る途中、気配を察知したのか、エレベーターの前で足を止める。

「お久しぶりです。ジュリウス・・」

その声に、心の中の予感を核心に変え、ジュリウスは背中越しに声の主へと返事を返す。

「久しぶりだな・・・、シエル。もう着いていたのか」

「えぇ。挨拶もかねて、今日到着するようにしました」

「そうか・・・」

軽く頷いてから、改めて声の主シエル・アランソンの方へ振り向く。

「よく、来てくれた」

「はい。正式にブラッドの隊員として招聘された・・」

「挨拶は明日でいい」

そう言われて、シエルは下げかけた頭を上げ、小さく首を縦に振る。

同じ施設育ちの彼女の変わらない態度に、静かに微笑んでから、ジュリウスは改めてエレベーターへと向かう。

「ブラッドは癖はあるが、良いやつばかりだ。仲良くやってくれ」

「・・・努力、します」

少し戸惑った顔を容易に想像してか、また問題にならないかと心配しながら、開いた扉に入り、ジュリウスはその場を後にした。

 

 

ヘリポートの出入り口で、見送りに来たブラッドに対し、エミールは華麗なポーズを決めていた。

「君達のお陰で、僕は命を繋ぐことが出来た。特に、ヒロ君!君の騎士道によってね!」

「・・・・違います」

おもむろに握った手に力を籠めるエミールに、ヒロは肩を竦めて返事を返す。その言葉が聞こえてないのか、エミールは更に自分の世界で話し続ける。

「僕は、まだ未熟だった。相棒ポラーシュターンも、きっと慢心するなという意味を込めて、僕にメッセージを送ったに違いない。だからこそ、君の永遠のライバルである、僕は立ち上がる!共に騎士道精神を磨く者として、新たなエミール『NEWエミール』として、再び君の隣に並ぶために!!」

「・・・・・」

もう何を言ってもという諦めから、口を噤むヒロ。それに何を納得したのか、エミールは深く頷いて見せてから、ヘリポートへの扉を開く。

「ふっ・・・。『本物の男同士の友情に、別れの言葉は無い』ということだね。ならば!僕も黙って行こう!再会の、輝く未来まで!!」

ヘリの風圧で扉が閉まると、エミールの高らかな笑い声は聞こえなくなる。それに合わせて、ブラッドは踵を返してその場から離れる。

「最後まで、やかましい奴だったな」

「そうだね・・・」

「でもぉ、きっと良い人だよ!」

「そうだな」

「ヒロは永遠のライバルなんだろ?な~んか、大変だな」

それぞれの感想を言い合いながら、明日に備えて皆部屋へと戻って行った。

 

 

 





ヒロの覚醒!

そして、次回にやっとブラッド終結です!




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7話 新生部隊ブラッド

 

 

朝から研究室に集められたブラッドは、新たな仲間を目の前に、期待と興味の視線を向ける。

「本日付けで、極致化技術開発局所属となりました、シエル・アランソンと申します」

綺麗な姿勢で敬礼をしてから、自己紹介を続けるシエル。

「ジュリウス隊長と同じく、児童養護施設『マグノリア=コンパス』にて、ラケル先生より薫陶を賜りました。基本、戦闘術を特化した教育を受けてまいりましたので、今後は戦術、戦略の研究に勤しみたいと思います」

その真面目な口ぶりに、皆一様に黙ってしまい、それを見ていたジュリウスは自然と笑みをこぼしてしまう。

当のシエルは、何かまずいことを言ったのかと目だけで様子を伺い、敬礼していた右手を胸の前で握ってから少し俯く。

「・・・以上です」

その言葉に、息を止めて緊張していたロミオが大きく息を吐く。余計なことを言いそうなら息を止めろと、ナナとギルに釘を刺されていたからだ。

そんないつもより大人しいブラッドに静かに笑いながら、ラケルはシエルの傍へと近寄る。

「シエル。固くならなくて、いいのよ。ようこそ、ブラッドへ」

「あ・・・、はい」

「これで、ブラッドの候補生は揃いましたね」

シエルの隣から皆の顔が見える場所へ移動して、ラケルは改めて全員の顔を見回す。

「血の力を以って、遍く神機使いを・・・ひいては救いを待つ人々を導いてあげて下さいね・・・。ジュリウス」

話の主導権をジュリウスに渡し、ラケルは後ろへと少し下がる。入れ替わりで前に立ったジュリウスが、自分の部隊に声を掛ける。

「これからは、戦術面における連携を重視していく。その命令系統を1本化するために副隊長を任命する。ブラッドを取りまとめる役割を担ってもらいたい。そこで・・」

1度言葉を切ってから、ジュリウスはヒロに顔を向けてから、再び話し始める。

「ここまでの立ち回り、血の力に早々に目覚めたことから・・・、ヒロ。お前に副隊長を任せたいと思っている」

「・・・・そういうこと」

「ふっ・・そういうことだ」

昨日の思わせぶりを思い出して、ヒロはジュリウスに苦笑する。それから、皆の意見をと、目を向ける。

「どう?」

「聞くのかよ・・・。まぁ、順当じゃないか」

「いいじゃん!副隊長!ヒロ、がんばれ~!」

「俺も構わないよ!・・ギルじゃなきゃな」

「お前だってありえねぇよ」

また喧嘩になりそうなのを、ジュリウスは軽く咳をしてから空気を読ませ、ヒロの方へともう1度確認する。

「俺個人的にも、お前が適任だと思ってる。やってくれるな、ヒロ?」

「了解です。僕で良ければ・・」

敬礼をして応えてくれたヒロに笑いかけ、ジュリウスは皆を見回してから、話の終わりを告げる。

「まだ不安は尽きないが、今日からは正式な部隊だ。皆、より一層励むように」

《了解!》

この日、本部の承認をもらい、極致化技術開発局移動支部フライア所属、特殊部隊『ブラッド』は正式に認可された。

 

 

顔合わせが終わった後、ヒロは別の部屋へと呼び出される。

おそるおそる入ってみると、そこにはタブレット型の端末に目を落とし、考えに耽っているシエルが立っていた。

ジュリウスに伝えられたからか、ヒロはてっきりラケルに呼ばれたものと思っていたので、少しだけ驚きを表情に浮かべてから、シエルの傍へと足を運ぶ。それに気付いてか、シエルも顔を上げてから一礼し、こちらへと歩み寄る。

「改めまして、シエル・アランソンと申します。本日よりよろしくお願いします、副隊長。それで、これからの連携戦術を踏まえて、実践とは別に、私なりに訓練プログラムを組んでみましたので、その確認と意見をお伺いしたく、お呼び立てしました」

「あ・・・、はい・・」

丁寧な説明と口調に、ヒロは自分の思考がフリーズしないよう、耳に入る言葉の一つ一つをきちんと理解する為、必死に頭を回転させている。

そんな相手の気も知らずか、シエルは更に話を続ける。

「私の調べたところによる個々の技量や能力、ツーマンセルでの動き、任務の達成時間や内容などを加味して、1日のスケジュールから行う実技訓練と座学、任務での采配などを記したのが、こちらになります。後程副隊長の端末にも転送いたしますので、今はこちらをご覧ください」

「・・・」

彼女に淡々と言われるままに、ヒロはシエルの差し出したタブレットを受け取ってから、それに目を向ける。

表に区切られたそれを目にし、急ぎ頭に入れるよう、ヒロは文字や数字に目を走らせる。

シエルの几帳面さのあらわれか、食事や寝る時間までも、全て記載されている。

「・・・・・これを・・、みんなに?」

「はい。何か問題があれば、修正させていただきますが?」

そう言われても、何が正しいのか・・。ヒロは皆の名前の部分を一つずつ確認してから、頭を掻いてそれをシエルへと返す。

「う・・ん。・・・・・・・・とりあえず、実際に任務をこなしてからじゃ、駄目・・ですか?」

「新参者の私に、敬語は結構です副隊長。それで・・・、任務をこなしてからというのは?」

変わらずクールに喋り続けるシエルに、ヒロは軽く深呼吸をしてから、自分なりの意見を口にする。

「データ上の・・・これ、間違ってないけど・・。実際にみんなのことを知ってからでも、良いんじゃないかな?」

「・・・・つまり、『自分の目で確かめてから、先のことを決めろ』と、そうおっしゃるのですね?」

「えっと・・・、そうかな?」

「成る程・・・一理ありますね」

少し考えるように下を向いてから、シエルは背筋を伸ばし敬礼をする。その行為に、思わずヒロも敬礼を返す。

「了解しました。データだけに依存しない為、副隊長に従います。明日の任務後に、改めてご相談させていただきます。本日は、貴重なお時間ありがとうございました。それでは、失礼いたします」

「・・・・はい」

一方的に喋られた感が否めないヒロは、彼女が部屋を去るまで動けずにいて、部屋に一人になってから、大きく溜息を吐いて、首をカクッと下げて疲れを表したのだった。

 

 

任務へと向かうヘリの中で、何度目かの溜息を吐くヒロに、見かねたジュリウスが声を掛ける。

「どうした?副隊長としての初任務、プレッシャーを感じているのか?」

「・・・・本当は、そうでありたい・・」

ヒロの言葉に、昨日シエルと二人で話したであろうことを思い出してから、ジュリウスはフッと笑みを浮かべてから、彼の肩に手を置く。

「そう難しく考えるな。シエルは単に真面目なだけだ」

「でも・・、問題が起こりそうなんでしょ?ジュリウスが僕に押し付ける時は、大抵そうじゃない?」

「・・・まぁ、否定はしないがな。だが、お前しか副隊長は無理だと思ったのも、本当だ」

「それは・・・、嬉しいけど・・」

自分を高く評価してくれることは、素直に嬉しい。隊長で尊敬するジュリウスの言葉なのだから、尚のことだ。

しかし、彼の笑顔には、何だか騙されてる気分になるのも事実。それを拒否できない性格なのも、承知な上で言ってる気がして、ヒロは恨めしそうな表情を返すことしかできないでいる。

「そんな目をするな。ヒロ、お前にしかできないことだ」

「ずるいなぁ。・・・・頑張るけど」

「頼もしい限りだ」

笑ってその場を去り、目的地を確認するジュリウス。もう諦めたと言わんばかりに、もう1度大きな溜息を吐いてから、ヒロは対面に座るギルの前まで行ってから、すでに手にしている神機を担いでから話し掛ける。

「ギル・・・、揉めないでね」

「・・お前がそう心配してくるってことは、約束はできないな。だが・・・、副隊長命令なら努力する」

「じゃあ、命令」

「はっ!癖が強い女らしいな・・。了解だ」

疲れた顔のヒロが可笑しいのか、ギルは笑って立ち上がり、自分の神機を手にする。

そこへジュリウスが戻ってくると同時に、無線からフランの声が入る。

『目的地上空です。皆さん、降下して任務開始してください』

「了解」

『了解しました』

ジュリウスと別のヘリに乗り込んでいるシエルからの返事に合わせて、ヘリの降下用扉が開く。三人はそこへと足を運び、目の前のヘリからシエル、ロミオ、ナナの降下を確認する。

「俺達も行くぞ」

「「了解!」」

そしてジュリウスを先頭に、ヒロとギルも飛び降りた。

 

「はっ!!」

ザシュッザスッザンッ!!

目の前から飛んでくる3体のザイゴートを、華麗な体捌きで斬り付けるシエル。通り抜けた先で銃型へと変形させ、スコープに捉えた敵を、貫通弾で綺麗に3体撃ち抜く。

沈黙した荒神のコアが破壊されているのを黙視で確認してから、シエルは離れた場所のロミオとナナのところへと走り出す。

そんな彼女に、自分達の標的のコクーンメイデンからコアを回収しながら、ギルは関心の眼差しを向ける。

「正に教科書通りだな。ナナとロミオの手本に、打って付けじゃないか?」

そんな彼に同調してか、ヒロも頷きながら隣に立ち、ジュリウスも満足気な表情で歩み寄って来る。

「シエルに負けていられないな。俺達も、残りを片付けに行くぞ」

「了解だ」

「了解」

そして三人も、苦戦しているナナ達の元へと駆け出した。

 

 

戦闘の疲れからか、ロミオが勢いよく腰を落とす。

それに合わせてか、少し離れた場所で、ジュリウスはフランへと任務完了の報告をしている。

そんな中、今日も生きていることに安心しきっていた皆の心とは裏腹に、少し渋い顔をしていたシエルが、おもむろに口を開いた。

「・・・少し、よろしいですか?」

「へ?」

ロミオが疲れた様子で顔を上げて声を洩らすと、シエルはそれをきっかけに話し始める。

「今の戦闘を拝見させていただいて思ったのですが・・・。まず、ナナさん。どうして飛び回るザイゴートに対し、銃型での牽制、足止めを行わないのですか?ブーストハンマーは強力ですが、敵がスピード重視ならば捉えるのが難しいのでは?」

「あ~・・・あたしね・・、銃を撃つのって苦手だから・・」

「苦手ならば、克服するために訓練することをお勧めします。今の立ち回りですと、いつ後ろや上を押さえられるともしれません。明日からは任務を休んで、銃型の訓練を行うべきです」

「え~・・・そんな~」

困ったように肩を落とすナナから視線を外して、今度は座り込んでいるロミオへと話し掛ける。

「ロミオさん。あなたも同様です。銃型に切り替えるところは良いですが、私が数える限りでも命中率が10%にも達しません。ナナさんと共に、銃型の訓練に入って下さい」

「えぇー!?俺はいいって!」

「駄目です。今のままでは、連携以前の問題です。実際、私や隊長達が介入するまで、標的の荒神を倒した数は2体。残りの8体に同時に責められた場合、行き当たりばったりで事を解決では、今後のブラッドの任務に支障をきたします」

「だ・・・だけどさー・・」

正しい意見を言い切ったという表情で威圧するシエルに、ロミオとナナは顔を見合わせて戸惑う。流石にそれは目に余ったのか、黙って聞いていたギルが割って入る。

「おい、シエル。その辺で良いだろう?こいつらは実戦経験が浅いんだ。誰もがお前やヒロみたいに、器用にこなせるやつばかりじゃない」

「実戦での経験が必要なのも理解しますが、訓練での努力で補えることもあります。明日も大丈夫という訳ではないのが、戦場ではありませんか?」

あくまでも自分が正論だと主張するシエルに、ギルも眉をピクリと動かしてから、引かぬと彼女へと詰め寄る。

「訓練はいつだって必要だ。だがお前の言う、御大層な戦術やら連携やらを学ばすには、実践こそが最大の近道じゃないのか?」

「個々の最低限の技量の話をしているんです。それを欠いて、戦術など成り立ちません。彼等には訓練を優先してもらい、それから連携に加わってもらうべきです」

「連携もままならない状態で、二人も割けるか。安全マージンを稼ぐためには、こいつらの力も必要だ。これは荒神と人との戦争だ。遊びじゃないんだぞ?」

「その戦争で、彼等を無駄死にさせるのですか?遊びじゃないからこそ、訓練を行うんです」

一触即発の状態の二人の間に、黙って見ていたヒロが神機を地面に突き立ててから、間に割って離れさせ口を開く。

「二人共、そこまでだよ。ここは二人の言う『戦場』なんだから。話はフライアに戻ってからにしよう?」

「・・・・・了解しました」

「・・・わかった」

副隊長の言葉として受け止めてか、睨み合いが続いていた二人は素直に引き下がる。

そこに離れてタイミングを伺っていたジュリウスが戻ると、上空に迎えのヘリが到着する。

「・・・話し合いは結構だが、まずは帰投してからにしろ。それと、いがみ合いになるなら、俺か副隊長を交えてからにするんだ。いいな?」

「・・・了解」

「了解です」

二人の返事に頷いてから、下を向くロミオとナナの肩を軽く叩いて促すジュリウス。それを合図に、ブラッドは全員ヘリに向かって歩き始めた。

 

 

 

 

 





ブラッド全員集合しました!

シエル、好きだな~。クーデレ最高!



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8話 優しさの欠片

 

 

 

ドンッ!!

唐突に響いた音に、ロミオはその身を跳ねさせてから、音の方向へと視線を向ける。

食堂に綺麗に並べられた長机を殴り、わざと派手に座って見せたギルが、苛立ちを露わにしていたのだ。

その行為を咎めるわけでもなく、ただ疲れたといった感じで隣に座るナナは、屈伏していた顔をゆっくりと上げる。

「・・・・疲れちゃった、ね」

「あぁ・・・」

「・・まぁ、なー・・・・」

普段は否定や空元気でその場で言い合いを始めるギルとロミオも、今回ばかりはとナナの意見に賛同する。

シエルが来てから、早1週間立った。が、彼女との関係が芳しくないのは、変わらないらしい。

毎日のように言い合うギル、苦手な銃型でしか戦えないナナ、後ろで淡々と口出しされ緊張しっぱなしのロミオ。それぞれが個々に悩む日々に、精神が擦り減ってきているのだ。

そんな三人は、それ以上無駄なことを喋らず、目の前に置かれた食事が冷めるまで手を付けれずに黙っていた。

 

 

2階の庭園。

木陰で寝そべっているヒロの隣に、ジュリウスが無言で腰を下ろす。声を掛けても良かったのだが、何となく彼が望まない気がしていたのだ。

「・・・・どうしました?隊長殿」

「不貞腐れてるのか?お前らしくないな」

目を閉じたまま話しかけてくるヒロの口調に、ジュリウスは苦笑してから返事を返す。

任務中でも『隊長』と呼ばなくなったヒロの言葉に、わざとらしさと皮肉を汲んだのだ。それを気に留めないジュリウスに、ヒロは体を起こしてから再び口を開く。

「最近・・・、みんなが荒れてるのはわかってるんでしょ?ジュリウスは時間の経過に任せようとしてるのかもだけど、ギルとかはそろそろ限界だよ」

「わかっているさ。だが、ギルとシエルに関してならば、どちらも正論だ。下手な言い回しはフォローにならない」

そう言ってから立ち上がり、ジュリウスは天井を覆うアクリルの向こうの太陽を、手でかざして見つめる。

「ヒロ。・・・お前のやり方で良いんだ」

「・・・え?」

少し間の抜けた返事をするヒロへと笑顔を見せてから、ジュリウスは続ける。

「こういう時は、マニュアルに凝り固まる俺よりは、お前の方が適任だ。お前の人徳は、俺には無いモノだ」

「ジュリウスにだって・・」

「俺の持つモノと、お前の持つモノの違いぐらい、理解しているつもりだ。・・・好きにやって見ろ。失敗したって、良いんだ」

彼にしては何の確証のない言葉だが、色々気にしていたヒロにとっては、それが必要だったかもしれない。

大きく深呼吸をし、ヒロは決意を新たに立ち上がる。

「わかった。やってみるよ」

「あぁ。明日からラケル先生の御付きで、俺もいないからな。お前にすべて任せる。・・・頼んだぞ」

「了解・・・」

ヒロは思い立ったことを実行するため、その場から走り去る。それを見送ってから、ジュリウスは改めて腰を下ろし、優しく微笑むのだった。

 

 

荒神出現から荒廃していった世界に、数少なく残された駅前のアーケード街。

そこに小型の群れが巣くっているという情報から、ブラッドに任務が下った。

今更誰がいる訳でもない遺跡だが、そこをサテライト拠点にという極東支部からの意見によって、手柄の横取りの為に本部がわざと、ブラッドに要請してきたのだ。

 

『本当のフェンリルは、腐っている・・』

 

電波ジャックでのラジオ放送で、良く聞く言葉だ。

だが、誰も肯定しない代わりに、否定もしない。フェンリル上層部以外は・・・。

 

丁度真ん中に位置するビルの屋上に降り立ったブラッドは、今回の指揮を任されているヒロに注目する。皆の注目が集まったところで、一つ咳払いをしてから、ヒロは話し始める。

「えーっと・・・今日は僕が隊長代理として、指示を出します。そんな難しいことを言うつもりは無いけど、よろしくお願いします」

「いよっ!隊長代理!!」

「茶化すなよ・・」

「ヒロ、頑張れぇ!」

「よろしくお願いします」

それぞれに返事をしてくる皆に頷き返してから、ヒロは任務内容を改めて口にする。

「今回はサテライト拠点建設予定地のここから、荒神を追い出すことが第一目的です。別に倒すなとは言わないけど・・・」

「コアの回収を行っても、霧散したオラクル細胞から、新たに荒神が出現する・・ですか?」

シエルの答えに頷いてから、ヒロは話を続ける。

「そう。そうなると、ここは人が住むには不適切ってなっちゃうから、倒すのは誘き出して最低でもここを中心に半径20mは引き離してからにしたいんだ。もちろんそれをしたからと言って、此処が発生源になってる可能性もあるけどね」

「要するに、むやみやたらに倒すな。それと、建物を壊すなってことだろ?」

「「あぁ、成る程!!」」

ギルが簡潔に説明してやると、ナナとロミオが手を叩いて納得をする。なんだかんだ言いながらも二人に甘いギルに、ヒロはクスッと笑顔を見せる。そこで、時間を確認していたシエルが声を掛けてくる。

「副隊長、時間です」

「うん、ありがとう。じゃあアーケードの外に追いやるから、出入り口2方向に分かれて。東にはギルとロミオ先輩、西にはナナとシエル。僕がここから指示と一緒に荒神を追いやる役をやるから、そのつもりで。いくよ!」

《了解!!》

それを合図に、皆それぞれの持ち場へと移動した。

 

西側へと陣取ったシエルは、ナナを前線に、自分は後方の瓦礫に身を屈めて、銃型のスコープで状況を確認する。

そして、任前にヒロに言われたことを思い返していた。

 

『全て・・ですか?』

『うん。今回だけでいいんだ。全行動を、僕に従ってほしい』

『それは、構いませんが・・。私は・・・・、副隊長からも信頼をされてなかったのですね・・』

『そうじゃないよ。僕達は、ちゃんとやれるってことを、君に証明してあげたいんだ』

『ですが、ここ最近のブラッドの戦闘は悪くなっていく一方です。やはり訓練スケジュールを綿密に・・』

『大丈夫。そんなことをしなくても、僕達は上手くやれる。君も含めてね』

 

(・・・・いったい・・、どういう・・)

ヒロの言葉に疑問を拭いきれないうちに、スコープ内の映像に、変化が訪れる。

 

 

ただ黙って時を待つギルに、ロミオはグッと背筋を伸ばしてから声を掛ける。

「なぁ・・・。ヒロは、何で俺とお前を組ませたんだろうな?相性最悪ってのに・・」

「・・・・あいつなりに、考えた結果だろう。何か意味ぐらいあるんじゃないか?」

「そうかねぇ~」

現状確かにギルとシエル、ナナとロミオの組み合わせは有りえないことぐらいは、二人の間で納得できることだ。

だが特別仲の良いわけではないと認識するロミオにとって、ギルと組まされたのは納得できないのだろう。

その時、

 

ボゥンッ!!!

 

大きな音に合わせて、アーケード中を覆うほどの煙が発生する。

「な、なんだぁ!?」

「・・・・・こいつは・・。成る程な」

「なにがだよ!?」

「戦闘だってことだよ!」

ギルが神機を構えると、ロミオも慌てて構える。

煙の向こうからオウガテイルやヴァジュラテイルが飛び出してくるのに合わせて、ギルに・・・皆の無線に、ヒロの声が入る。

 

 

『ナナ。シエルが後ろから撃つバレットに合わせて、標的を討つこと。シエルなら正確に狙ってくれるから、下手に動き回らないで、必ずシエルの攻撃の後手に回ってから行動してね』

「了解!」

指示を聞いたナナは、足を大きく開いて構え、グッと神機を持つ手に力を込めて待つ。その間に、ヒロからシエルにも指示が入る。

『シエル。確実に1体ずつ足止めしていって。それを合図にナナも動くから。ペースを上げずに、ナナの1撃が決まるのを見届けてからにしてね。自分の方に逃がしたり、ナナが囲まれた時のみ、近接で加わることを許可します。わかった?』

「了解しました」

少し半信半疑ではあったが、シエルはスコープに捉える荒神を、距離を引き付けてから引き金を引く。

ドゥオンッ!!

「てぇやっ!」

ゴシャッ!

自分のバレットが着弾したのと同時に、ナナが上からハンマーで叩き割る。そんな光景に自分の理想を見た気がして、シエルは目を大きく開く。

だがすぐに、捕食をと立ち上ろうとしてから、その場にすぐに座り直す。

「捕食!」

ガビュウッ!

自然な流れでナナが捕食を行ったからだ。

今まで忘れがちだったのにと疑問に思っていると、ナナが耳に手を当てているのがわかった。それも見越して、ヒロが指示を出していたのであろう。

それを理解すると、少しだけ安心してか、自分の課せられたことを全うしようと、シエルは第2射を発砲した。

 

ガコンッ

「ふぅ~・・・・、終わった!終わったよ、シエルちゃん!」

「・・えぇ」

構えた神機を下ろしてから、声を掛けてくるナナに、シエルもスコープから眼を離してから息をつく。

煙が晴れた頃に、全てのカタがついた。

アーケードの向こう側に見えたギルとロミオも、神機を担ぎなおし、歩いて移動をしていたからだ。

シエルもゆっくりと立ち上がり、携帯端末で時間を確認する。

(・・・・4分・・13秒・・)

荒神と対峙してから殲滅までの時間である。

今までならば15分近くかかっていたことを、今日に限っては3分の1以下の時間で決着したのだ。

(これが・・・・、私達は出来るということ・・)

ブラッドの本当の底力を見た気がしたシエルは、ギルとロミオとこちらへ歩いてくるヒロに、深々と頭を下げたのだった。

 

 

「すみませんでした」

呼び出されて早々に頭を下げられて、ヒロは驚いて頭を上げさせる。

「い、いいよ!シエルが謝ることは無いんだって!」

「ですが・・・。私は、間違っていたわけで・・」

「それは違うよ」

シエルの言葉を遮るように、ヒロは手を前に出して制する。それから軽く深呼吸をしてから、彼女へと喋り掛ける。

「シエルが言ってることも、正しいんだよ。・・・でもね、みんながそれに従って動いてるわけじゃないんだ。それぞれにあった行動や考え、どう動きたいのかとか・・・。だから、君が間違ってるんじゃない。それを押し付け、それで測ることが、間違ってるんだよ」

「あ・・・・」

シエルも何となく気付けたのか、声を洩らして驚く。

ヒロの伝えたかったことは、悪いのは思想であって、人ではないということなのだ。

「・・・私は・・・・、そうですね。自分の正しいことは、人も正しいものと・・」

「マニュアルや理論って、とっても大事だと思うよ。経験も、訓練もね。でも、全て人の為にあるモノだよ。人を縛る為じゃないと思うよ」

「はい・・・」

少しだけ落ち込んでしまった様子のシエル。ヒロもそれを望んだわけじゃないと考えたのか、優しく笑顔を作って見せる。

「・・・今度、僕に教えてよ。シエルの知ってる戦術理論や・・・シエルのこと」

「え?・・・・それって・・」

聞き返してくるシエルに、ヒロは笑顔のまま答える。

「まずは・・・、そういうところからでしょ?」

「・・・・・・・はい!」

思わずつられてか、シエルの微笑んだ顔に、思わず見とれてしまうヒロであった。

 

 

 





シエルの話、時系列が少しおかしくなりましたが、これで一旦はブラッドも軌道にのった感じです!



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9話 災厄の雨

 

 

冷たい壁に背中を預けた状態で、ナナは耳元に意識を集中する。

そこへ陣取ってから10数分。焦る気持ちを必死に押さえつけ、自分の任された事を頭の中で反復させる。

『・・・・ナナさん。標的を追い込みました。7秒数えてから振り抜いてください』

「・・・・了解」

シエルからの連絡に頷いて見せてから、手の中の神機にゆっくり力を籠める。そして・・・、

「・・えぇいっ!!」

ゴシャッ!!

ぴったりのタイミングで振ったハンマーに殴られ、壁伝いに移動していたコンゴウはその身を転げさせる。

確かな手応えを感じてからナナも飛び出し、標的へと走り出す。

動揺でもしているかのごとく暴れるコンゴウの上から、ギルがスピアの先端を下に飛び降りてくる。それが突き刺さったのに合わせて、シエルが捕食形態で襲い掛かり、

ギャブゥッ!!

コアを引き千切りコンゴウを沈黙させた。

「・・・捕食、完了です」

コアを確認したシエルの声に、二人は肩の力を抜いてフッと笑みを浮かべる。

「中々良かったんじゃないか?」

「えぇ。標的が少数なら、この戦術はかなりの効果を得られそうですね」

「とにかく~、良かった良かった!」

ナナの締めにシエルとギルは苦笑してから、ジュリウス達との合流地点へと向かった。

 

 

任務の報告を済ませたブラッドは、1時間の休憩を経て、会議室の1室を借りて集まっていた。

今後の予定などを共有するために、簡単な話をする為に、ジュリウスが集合を掛けたのだ。

「・・・・皆、疲れている中集まってもらって、悪いな」

「そういうの良いからさ、早く始めようぜ」

「ふっ・・、そうだな」

ロミオの返答に少し笑って見せてから、ジュリウスは話の本題へと移る。

「現在フライアは北京支部での補給を済ませ、一路極東支部へと向かっている。今後しばらくは、最前線の極東支部で任務にあたるようになるからだ」

「・・極東に根を下ろすってことか?」

「『しばらくは』だ、ギル。やはり最前線というだけあって、優秀な人材が揃っていようと、極東支部の荒神との戦いは常にギリギリと言って差し支えない状態だからな」

ジュリウスの綺麗な返しに、ギルは頷いてから、乗り出した体を背もたれへと戻す。

「今言ったこととは別に、理由は幾つか存在する。その内の1つに、『感応種』の存在がある」

「・・・・『感応種』?」

聞き返してくるヒロに視線で頷いて見せ、ジュリウスは更に続ける。

「以前ヒロが退けた荒神。・・・あれだけではないが、最近はああいった荒神が姿を現すようになった。なにより感応種の厄介なところは、第2世代までの神機を、沈黙状態にすることにある」

「それって・・・つまり・・?」

「わかりやすく言うならば、生体兵器である神機を、1時的に眠らせるということだ」

その言葉に、誰もが息を飲み込む。

神機が眠る。それは=神機が使えないと、同義であるということだ。

荒神に唯一対抗できる武器、神機。それを戦場で唐突に使えなくなるということは、その瞬間『死』という恐怖に背中を撫でられるようなものであろう。例の件でエミールの神機を目撃したヒロは、ジュリウスの言っていることを誰よりも重く理解をしていた。

しかし、そこで1つの疑問が浮かぶ。

「・・・あ・・。でも、僕等は使えた」

「そうだ。ヒロの言う通り、俺達ブラッドは感応種の影響を受けない。だからこそ、感応種の数が最も確認される、極東支部に赴く。・・・ここまで、大丈夫か?」

自分の話についてこれているかを確認してから、ジュリウスは再び話し始める。

「特殊な電磁パルス・・、『偏食場パルス』というものを発生させる感応種だが、第3世代である俺達ブラッドは、その偏食場パルスの影響を跳ね返すことが出来るらしい。血の力の影響か・・・、詳しいことは解明されていないが、とりあえず俺達にとっては、戦えるという事実だけで十分だろう。今後は感応種討伐の任を優先するようになると思う。そのつもりでいてくれ」

《了解》

その返事に微笑んでから、ジュリウスは立ちっぱなしの足を緩め、席についてから一息つくように促した。

 

少しの間の休憩後に、ジュリウスはもう1つの話へと移る。

「さて・・。極東に行くもう1つ大きな理由も話しておこう。それが、『無人制御型神機兵』の実験の為だ」

「もう・・・、そんな段階まで?」

「そのようだ」

シエルとジュリウスが納得し合ってる中、残された四人は置いてけぼりにあったようになる。そこで、真っ先に手を上げたナナに気付いて、ジュリウスは彼女の発言を促す。

「あのさぁ・・、神機兵って、あれ人が乗らなきゃ動かせないんじゃなかった?でも、ジュリウスは今、無人って・・」

「良い質問だ、ナナ。これに関しては・・・、シエル」

「はい」

名を呼ばれてから立ち上がり、シエルは手元の端末に手早く資料を呼び出し、ジュリウスに代わって説明を始める。

「従来の神機兵は、ナナさんの言う通り、中のコクピットに人が乗り込んでから操縦する、というモノでした。しかし、この研究に並行して、無人制御システムを搭載した、遠隔操作による神機兵の研究が行われていたのです」

「遠隔操作・・・・。それが、試運転まで研究が進んだ・・・ってこと?」

「どうやら、そのようです」

ヒロの質問に、端末で資料を確認してから、シエルは慎重に答える。

「現在閲覧できる資料によりますと、フライア外での試運転をするのに、極東を選んだ模様です。今のところの実験段階では、有人の時と遜色ない成果を確認しているようです」

「そいつはつまり・・・、第2世代の平均以上の力を、無人の状態で望めるってことか?」

「あくまでも実験段階で・・ですが」

ギルの質問に答えるシエルの方も、驚いた表情を見せる。ジュリウスやヒロも、少し考えるような素振りを見せる。

そんな中、ナナとロミオは、いまいちわかってないという顔で首を傾げる。

「・・・・・・わからないなら、後で勉強しろ」

「あんだよーっ!まだ、なにも言ってないだろ!?」

「はーい!勉強する!シエルちゃん、お願い!」

「わかりました。後程わかりやすく説明します」

素直なナナに笑みを浮かべるシエル、ギルの冷たい一言に噛みつくロミオ。騒がしくなってきた場を引き締めるよう、ジュリウスが咳払いをしてから話を引き継ぐ。

「わからない者は、わかる者に聞くのが一番だな。・・・話を戻す。この無人制御の神機兵の試運転を近々行う。研究主任の九条博士が、最前線で十分通じると判断してのことだろう。話が長くなったが以上だ。極東支部の管轄内に入れば、戦闘もより困難になると予想する。だが、やることはこれまでと同じだ。皆、しっかりな」

《はい!》

皆の返事が部屋に響き渡ると、ジュリウスが立ち上がるのを合図に、をの場から解散した。

 

 

荒野を駆けるフライア。

その行く手を阻まれたかのように、体で感じられる程に、急にスピードが遅くなる。

ロビーに集まっていたブラッドの面々は、その感覚に違和感を覚えてか、皆それぞれに顔を見合わす。

そこへ・・・。

 

『ご連絡いたします。現在、フライアは赤い雨の中を走行中。万が一に備えて、走行速度を押さえての進行へと切り替えます。いかなる事情があろうとも、屋外への出入りを固く禁じます』

 

2,3度流された放送後に、ロビーは静けさに襲われる。

そんな中、やはり静寂に我慢できなかったのか、ロミオが半笑いで口を開く。

「な、なぁ?・・・赤い、雨って?」

それに対しては、上手く答えられないという空気になってしまうブラッドの中で、唯一知識として勉強していたシエルが、重い口を開き、話し始める。

「現在、極東地域を中心に見られる、赤い積乱雲から発生する特殊な雨のことです」

「なんか~、聞いたことがあるよ。確かそれに触れたらなる、病気?だっけ。・・こくしゃ・・・コクショ・・」

「・・・・『黒蛛病』」

その禍々しい名を口にしてから、シエルは目を閉じてから話を続ける。

「赤い雨に触れることにより、高い確率で発症すると言われている病、通称『黒蛛病』。今のところ、有効な治療法は確立されておらず、その致死率は・・・100%と・・・されています」

「・・・ひゃ、100・・!?」

所詮『正』か『負』か。『陰』か『陽』か・・・。二つに一つの答えしかない世界。

しかし、可能性ではなく・・・絶対の100という数字に、いつも涼しい顔をしているジュリウスさえも、眉間に浮かせた皺を隠そうともせず、苦悶の表情を見せる。

雨は・・・・、日付を跨ぐまで降り続いた。

 

 

目的地へと進み続けるフライア。その側面に位置する場所から外へと出るテラスのような場所に出て、ヒロは世界を見渡す。

走る音はうるさいが、外を見渡せるその場所に来ることを、彼は気に入っている。

そんな自分ぐらいしか足を運ばぬであろうという場所に、もう一人影を落とす。

「・・隣、よろしいですか?」

「え?シエルか・・。良いよ」

シエルは了解を得てから、設置された長椅子に腰かけるヒロの隣へと自分も腰を下ろす。

後数刻も経てば、朝日が見えるという時間。

二人は申し訳程度に見える星を見上げながら、静かに時の流れに身を預ける。

「・・・・・・知らなかったよ。全然・・」

「黒蛛病の・・・ことですか?」

「うん・・・」

彼もまた、外で生きてきたはずなのに・・・知らなかった。その事実が、彼の心に大きな動揺を生み出しているのだ。

「私も、極東地域での活動に合わせて調べている時に、知った事です。まさか、そんな病気が存在するなんて・・」

「・・・うん。ちなみに・・何だけど、・・・・ゴッドイーターも・・・なるの?」

おそるおそると言った感じの口調で聞いてくるヒロに、シエルは自分にも改めて言い聞かせるように、返事を返す。

「はい・・・。人の病気に対して、ほぼ絶対態勢を持つ我々ゴッドイーターでさえも、黒蛛病には・・・勝てません」

「そう・・なんだね」

どこか予想していたかのように頷くヒロ。しかしその現実はあまりに酷で、彼は再び心を揺さぶられる。

そんな彼を気遣う様に、シエルはそっと肩に手を置く。

「安心して下さい。現在赤い雨発生の原因となる赤い積乱雲を発見した場合、ゴッドイーターは撤退の自由を許されています。私達が、赤い雨の中戦うことはありません」

「うん・・・・そっか。ありがとう、シエル」

「いえ・・」

その言葉に少し救われた気がして、ヒロはようやく険しい顔を崩して笑みをこぼす。

それを喜ばしく思って手を離してから、シエルはヒロに触れていたという事実に顔を赤くする。

それに気付かずか、ヒロは立ち上がり大きく背伸びをしてから、何かを吹っ切った表情を浮かべる。それから、シエルへと振り返ってから、笑顔で声を掛ける。

「そろそろ入ろうか?」

「あ・・・、はい」

二人が中へと戻った後も、フライアはその冷たい巨体を走らせ続けた。

極東支部までの、道のりを・・・・。

 

 

 





フライアの構造を、勝手にいじってます!

初めて見た時、正面の円のところから、ビームみたいなの出るかなとガキ臭いこと考えてました!

出ないかなー



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10話 1歩先の強さ

 

 

 

任務のない日に稀に、ブラッドはジュリウスからの報告という名の座学を受けている。主には荒神の種類別の特性、各支部で上がった問題などである。

この日も任務が入っていなかったので、ジュリウスが皆に集合を掛けていた。本当のところは、彼自身の為の、『皆との交流』なのかもしれないが・・。

 

「本日は、各支部からの報告などから得られる、感応種の特質を話そうと思う。後に質問等は受け付けるが、メモなどを取って、出来るだけ自分自身で理解する様に」

「は~い!」

「わ、わかってる・・・わかってる・・」

元気のいい返事をするナナとは対象に、自分に必死に言い聞かせるようにペンを握るロミオ。それに水を差すまいと、ヒロにギル、シエルは黙って頷いて見せる。

皆の言質を取ったという判断をしてから、ジュリウスはロビーに設置してあるスクリーンに、自分の手元の端末から情報を送り、資料を映す。

「極東を主に多数の目撃、接触の報告が上がっているが、今のところ確認できる種類は3つだ。シユウ種に酷似したもの、ヴァジュラ種に酷似したものが2つ。そんなところだ。1体に関しては、前回話した通りシエル以外の俺達が接触したものだな」

「3種・・・・。意外と少ないね」

「今のところは、な・・」

ジュリウスの意味深な答えに、問うたヒロは嫌な汗を感じる。未確認なだけで、もっといると判断したほうが良いからだ。

「だが確認できるものだけでも情報を共有すれば、いざ戦闘になった時に焦らずに動ける。今日のところはその位だ」

「良かったなロミオ。すぐ終わりそうだぞ?」

「お前は一言余計なんだよ!」

おそらく本気で気遣っているギルの言葉だが、ロミオでなくても余計だと思ってしまう。『犬猿の仲』とは、先人もよく言ったものだ。

「まずはおさらいになるが、感応種の特徴を・・・、ナナ」

「え~っと、第2世代?までの神機を眠らせちゃうってやつだよね?」

思い出しながら答えるナナにフッと笑みを浮かべてから、ジュリウスは続ける。

「そうだ。前回皆に伝えたのは、神機の不調、不能を起こす偏食場パルスの存在だったな。それに対して補足がある。どうやら影響は神機だけではなく、周辺の荒神にも影響するらしい。・・・シエル」

「はい。私も個人的に調べてみたところ、偏食場パルスの影響は周辺の荒神へのコンタクトにも使われているようです。簡単ではありますが、人がなす対話に近いものと・・」

模範的な回答に深く頷いて見せ、ジュリウスはシエルへと座るよう促し、話の主導を自分に戻す。

「感応種と名を付けられただけあって、奴らの発する偏食場パルスは、第2世代以降のゴッドイーターの感応現象に近いものと判断されている。・・・俺は、もっと別に近いものを感じているが・・」

「・・・ジュリウス?」

少し考えるような仕草に、ヒロが声を掛ける。それに反応してか、ジュリウスは落としていた視線を皆へと戻す。

「すまない。・・・感応種の特徴は今言ったものと取ってくれて構わない。それを踏まえて、種別ごとに話をしよう」

前置きは終わったという素振りで、ジュリウスはスクリーンに別の資料と、写真を映す。

「こいつはシユウ種に酷似した、イエン・ツィーという。先に伝えた感応種の特徴とは別に、自ら荒神を生み出す能力を持っていると、報告に上がっている」

「荒神を・・生み出すだと?」

「えぇ~!ずるい~!」

ギルの反応に比べたら非常に子供っぽい返事だが、ナナの言葉に一理あると皆は頷く。

「だが対処できないわけではない。詳しい報告があった資料を見てみると、イエン・ツィーは自分の護衛といった感じで、2体までしか生み出せないらしい。まぁ逆に言えば、常に対象の周りに2体は存在するということになるが・・。生み出された方を、チョウ・ワンと名付けたようだな」

「じゃあ、相手にするなら、必ず3体同時にって、考えた方がいいのかな?」

「戦い方次第ではあると、俺は考えている。だが、概ねそうだと思っておくのが妥当だな」

ジュリウスの返答に少し思案するヒロ。確かに、戦い方によってはと思うところがあったのだろう。そう考えながらスクリーンに映しだされている資料に目を戻してた時、ある1点に視線が定まった瞬間、ヒロは何かに弾かれたように立ち上がる。

「うわっと!びっくりした!」

「え!?なに、なに!?」

「どうした?」

「副隊長?」

皆の声が耳に入らないのか、ヒロはスクリーンに近付いて再確認してから、ジュリウスの方を向く。

「この報告書を提出した人・・・、どうなったの?」

「どうなった・・とは、任務の結果と捉えていいか?」

「うん・・・・」

ヒロの反応についていけてない4人にも聞こえるように、ジュリウスははっきりとした物言いで答えた。

「・・・・討伐した。最終的には、一人でだ」

「えぇ!?」

「な、んだと!?」

「・・・うっそ~」

「そんな・・・・、まさか」

ジュリウスも最初は驚いたこと。だが、ヒロはそれを知っていたかのように、歓喜に目を見開き肩を震わせる。

「どういうことですか?現在感応種に対抗できる第3世代のゴッドイーターは、私達ブラッドだけのはずです」

シエルの疑問はもっともだ。そうでなければ、今までの話に矛盾が生じる。が、ジュリウスは驚きなれたかのように苦笑して見せ、その質問への答えを口にする。

「何事にも、例外はある。彼はその内の一人だ。・・・・・報告書の提出者、神薙ユウさんはな・・」

《!!?》

ここ3年以内にゴッドイーターになった者で、彼の名前を知らない者はいない。フェンリル上層部が煙たがっている、極東支部が生んだ英雄の名を・・。

「おかしいと思わなかったか?俺達ブラッドが接触したのは1体のみ。しかも満足に情報を引き出してはいない。にも拘わらず・・・・先に言ってしまうが、俺達が接触した感応種以外の情報が、こうも詳細に存在していることに」

「それは・・・・・、確かに、そうですね」

一時言葉に詰まってから、シエルも納得をする。

「更に言うなら、もう1体確認されているヴァジュラ種に酷似した感応種、ガルムも、居合わせた第1世代のゴッドイーターによって討伐されている」

「第1世代!?もう最強じゃん!?でたらめじゃんか!」

ロミオの嘆きに苦笑しながら、ジュリウスはもう一人の名も口にする。

「そう、地上最強のゴッドイーター、ソーマ・シックザールさんによってな」

「はっ・・・。伝説級の二人なら、納得するしかねぇな」

ギルでなくとも納得する事実。

極東が誇る、二人の最強。彼等ならばと・・・。

「いいか。彼等は例外であったとしても、厄介な足枷がついていたのは事実。だが、それを跳ねのけて見せた。それがない俺達が、怯えて後ろに下がるわけにはいかない。英雄が示した道を、俺達で広げるんだ。希望としてな・・」

ジュリウスの言葉に、皆グッと拳に力を込めて、心の中の迷いを振り払ったのだった。

 

英雄の新たな伝説を耳にしてから、少しだけ休憩を取り、高ぶった気持ちを落ち着けていると、

 

『緊急連絡!オープンチャンネルに救援要請!繋ぎます!』

 

急な出来事に、今度は違った緊張がブラッドの間を駆け抜ける。

 

『こちらサテライト拠点第2建設予定地!感応種と思わしき反応あり!北北東30km地点!他に複数の荒神反応も確認!至急応援を!』

 

感応種というワードに反応してか、全員がその場で立ち上がる。その一人一人の顔に頷いてから、ジュリウスは駆け出す。それに続くように、皆もロビーから神機保管庫へと走り出す。

「あ、ジュリウス隊長!今の放送・・」

「聞いていた!フラン!ヘリの準備をさせてくれ!ブラッド全員で、救援に向かうとな!」

「は、はい!」

伝え終わったジュリウスも、神機保管庫へと向かい、その道すがらヘリに向かっているであろうパイロットに無線で連絡を繋ぐ。

「こちらブラッド隊長、ジュリウス。状況が知りたい。ハッキングでも構わない。現場のゴッドイーターとの、連絡を試みてくれ」

『了解です!』

 

 

瓦礫の影に身を潜めて、少女は先輩ゴッドイーターの無事を祈る。

自分を逃がすためにと、おとりになって時間を稼いでくれたのだ。今だ反応を見せない自分の神機を握り締めて・・。

感応種の存在は知っていた。

だが一太刀浴びせれたことが、彼女の目を狂わせたのだ。

先輩のことが心配で・・。

でも、動く勇気が持てなくて・・。

彼女はかたかた歯を鳴らしながら、涙を流すことしかできなかった。

そこへ、

 

カラッ

 

何かが落ちたような音が鳴る。

瞬間、先輩なのかと思った彼女背中には、人間とは明らかに違う生物の呼吸音が聞こえる。

咄嗟に立ち上がってしまったのもまずかった。すぐそこに感じる殺気に、少女は膝を震わせ失禁してしまう。

彼女は完全に逃げ道を失った。

 

ザスッ!!

 

命の終わりをイメージした彼女は、閉じた目を開けられないでいた。

しかし現実は、

「大丈夫ですか?」

「・・へ・・?」

間が抜けた声だが、ちゃんと耳で確認できる。それでおそるおそる光を求めて目を開けると、涼しい顔をした美麗な青年が、そこに立っていた。

「ヒロ、そっちはどうだ?・・・そうか。では、そこはお前達に任せる。終わり次第、こっちに手を貸してくれ。・・・・ふっ、感応種相手だ。大口は叩かないさ」

誰かと無線で連絡を取っていたのか、耳にあてていた手を下ろし、神機を握り直して声を上げる。

「ギル!ナナ!聞いての通りだ!ヒロ達が合流するまでは、俺達3人で相手をする!無理はするなよ!」

「「了解!!」」

離れた場所で交戦を始めた二人に指示を終えてから、彼は優しく微笑んで少女に声を掛けた。

「隠れていて下さい。後は、俺達ブラッドが代わります」

そうして駆け出した彼の背中から眼を離せずに、少女はペタンと尻もちをついてから声を洩らした。

「・・・・ブラッド・・」

 

 

後ろに高く飛んで距離を取るイエン・ツィーに、ギルはチョウ・ワン1体と交戦しつつ、苛立ちに舌打ちをする。

「ちっ!やっぱり話で聞いてても、なかなか上手くいかねぇな!」

「そうだな。やつは戦闘を有利に運ぶために、進化を遂げたのかもしれない」

「はっ!貧弱な自分に、刃を届きにくくしてるだけだろう?」

ようやく1体を沈めたところで、ギルとジュリウスは同時に前につめる。だが、

 

ズズズズズッ

 

黒い渦が生まれたかと思ったら、再びチョウ・ワンが姿を現しジュリウスの行く手を阻む。

「くっ!知っていても、厄介だな。ギル!本体を叩いてくれ!」

「わかった!」

駆け出すギルから視線を横に反らすと、ナナもチョウ・ワンにかかりっきりのようだ。3人で相手しても、やはり有利に運ぶのは難しい。

(まったく・・・、神薙ユウさんは、どうやって一人で相手をしたのだろうな・・)

思わず苦笑してしまうジュリウスだが、このまま手をこまねいている気はない。腰のバックからスタングレネードを取り出し、口で安全ピンを引き抜く。

それから、銃型に切り替え交戦するギルに指示を出す。

「ギル!スピアに切り替えて目を閉じろ!」

「!!?」

ナナとの距離を測っていたのか指示は出さず、ジュリウスはイエン・ツィーに背中を向けた状態で、グレネードを足元に落とし、地に着く前に踵で思い切り後ろへと蹴飛ばす。

パァァンッ!!

イエン・ツィーの手前で、狙いを定めたように光が弾ける。それに一瞬怯んだのを隙に、ギルが突き出したスピアが片翼を貫く。

ズゥシュウッ!!

ケエェェェッ!!

流石に痛みを感じたのか、高音域の声を上げて地面に転がる。

そこへナナが追い打ちとばかりに、ハンマーを叩き下ろす。

「てぇやっ!」

グシャアッ!!

その1撃で、片翼は完全に機能を失ったのか、イエン・ツィーはダランとした右腕を抱いて、後ろへと距離を取る。

「良い判断じゃねぇか、ナナ」

「えっへへ!何となくだけど、ジュリウスが何するかわかっちゃったんだよねぇ!」

「上出来だ」

三人1度集まってから構えなおし、離れた高台に降り立つイエン・ツィーを睨みつける。が、それが可笑しいと言わんばかりに、ジュリウスは笑って見せる。

「そこは、行き止まりだ」

彼の見つめるイエン・ツィーの更に後ろに、銃を構えるシエルが立っている。

「シエル・・、いいよ」

語りかけるような声と同時に、シエルの発砲したバレッドがイエン・ツィーの背中を撃ち抜く。怯みつつも振り返ったそこに、刃に赤黒いオーラを纏わせたヒロが飛び込んできていた。

「ブラッドアーツ『韋駄天』」

風が吹き抜けたかと思った時には、イエン・ツィーの頭は半分削り取られていた。耐えられなくなったのか、その場に崩れ落ちる寸前に見たものは、ロミオが展開した、捕食形態の大口だった。

ガビュウウッ!!!

 

 

 





感応種イエン・ツィーとの戦闘でした!

あぁ~、出しちゃったな~。大好きな二人を・・・。

まぁ、彼等は私の中で、常に最強ですよ!


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11話 神機兵

 

 

 

 

シエルに周囲のオラクル反応を確かめてもらっている間、ブラッドは周りの警戒をしつつ、迎えと救護のヘリを待っていた。

ヒロは、初めて実戦で使ったブラッドアーツの感触を確かめるように、自分の右手を握っては開いて、自分の力の前進を感じていた。

そこへ、

「・・・・・ユウ?」

声を掛けられ、全員が一気にそちらへと振り向く。

そこには、本来救援で駆け付けるはずだったであろうゴッドイーターの少女が立っていた。帽子から流れる銀髪の向こうの表情は、どこだったかで見たことあるかのように、ヒロに既視感を与えた。

皆対応に困ってる中、ジュリウスが1歩前に出て、挨拶をする。

「極東支部の方とお見受けします。我々はフェンリル極致化技術開発局所属ブラッド。私は隊長の、ジュリウス・ヴィスコンティと申します。以後、お見知りおきを」

「あ・・・・、はい。私は極東支部所属、独立支援部隊クレイドルのアリサ・イリーニチナ・アミエーラと申します」

呆けていた自分に今更気付いたかのように、アリサは頭を深く下げる。

「オープンチャンネルに救援要請を察知したので、勝手ながら戦闘に介入させていただきました。以後このような場面でも遭遇することがあるかもしれませんので、今後もよろしくお願いします」

「はい。救援、感謝します」

挨拶が済んだので下がろうと思ったところで、ジュリウスはアリサの視線に気付く。さっきもそうだったが、ヒロのことが気になるようだ。

「あの・・・、私の部下が何か?」

「あ、いえ!すいません。・・・ちょっと・・、知り合いに似ていたもので・・」

「・・?そうですか」

見られているヒロの方も、特に心当たりがあるわけでもなく、一人困惑している。そこへ、

「隊長、時間です」

シエルが連絡を済ませたのか、声を掛けてくる。それに手を上げて応えて見せてから、ジュリウスはアリサに一礼をする。

「では、私達はこれで。いずれ、また・・」

その挨拶に合わせて、ブラッドは先に歩き出したジュリウスについて歩き出す。ヒロも、自分に対してとわかっていたので、視線の送り主のアリサに一礼してからその場を離れた。

 

ブラッドの去った後も、アリサは暫く立ち尽くし動けない。

そこへ、

「おーい!アリサー!!」

「アリサさん!大丈夫ですか!?」

別任務から駆け付けた、第1部隊の現隊長藤木コウタとエリナ・デア=フォーゲルヴァイデが到着したのだ。

「コウタ・・・、エリナさん」

「ん?どうしたんだ?」

「どこか、怪我でもしたんですか?」

「い、いえ・・。少し・・・考え事を・・」

アリサの返事に、二人は状況を把握できないでいると、アリサは無意識のような静かな声を洩らす。

「コウタ・・・・前に言ってた、『世界にはその人に似た人間が三人いる』って話ですけど・・・・。私、信じるかも・・しれません」

「「・・・は?」」

アリサの言葉になお理解不能と、コウタとエリナは同時に声を発し、首を傾げるのであった。

 

 

任務終了後に座学の続きをと提案するシエルに、ロミオとナナが全力で抵抗したので、結局その日はそれ以降自由時間となった。

そんな中、ヒロは一人訓練所に足を運んで、模造の神機に30kg程錘を付けて、素振りをしていた。

ブラッドアーツでの攻撃は、自分が想像していたよりも強力だった。その為に、制御しきらなかったせいで切っ先がぶれ、削ったのが頭半分となったのだ。

(もっと・・・、強く・・)

しかし、それとは別に理由もあった。

任務に出る前の話の中に出てきた名前、神薙ユウとソーマ・シックザール。極東支部のゴッドイーターででなくとも、二人に憧れる者は世界中にいる。

そんな英雄の彼等のことを思うと、ヒロは火照る身体を休めるのが勿体ないと思ったのだ。

(強く・・なりたい・・。あの人達のように・・)

憧れから来る歓喜を力に変え、ヒロは握る手に力を込めて、振り続けた。

 

ドサッ

自分の流した汗が小さな水溜りになった頃に、ヒロはようやく手を休めてその場に倒れ込む。

荒く息を吐き続ける彼の元に、1本の缶が降って来る。それを取る力がなかったのか、頭で受けてから拾い上げると、出入口のところでギルが手を軽く上げて見せる。

それに笑顔を作ってから、ヒロはゆっくり立ち上がってからそちらへと足を運び、ギルの隣に座り込んで、貰ったドリンクを一気にあおる。

「随分と熱心だな、副隊長さんは」

「・・・・ちょっとね・・」

落ち着いてきた呼吸を確かめてから、高い天井に設置された照明を薄目で眺めるヒロ。そんな彼に、ギルは任務前から気になっていたことを聞く。

「おまえ・・・、ユウさんに会ったことでもあるのか?」

「・・・うん。1度だけね。・・もしかして、ギルも?」

「あぁ。グラスゴーで腐ってる時に、1度な」

それから二人は、黙ってドリンクを飲み干してから、しばしの静寂に身を預ける。

どのくらい経ってか、ギルは背中に隠していたスピア用の模造神機を手に、部屋の中心へと歩き出す。

そんな彼が妙に可笑しくなり、ヒロは笑いながら駈け寄ってギルの背中を軽く叩く。

「いてっ・・・。なんだよ?」

「別に。ギルは素直じゃないよね」

「俺も、ジッとしてられなくなっただけだ」

「・・・そっか」

ヒロの反応にぶっきら棒に答えながらも、ギルも握る手に力を籠める。と、そこへ、

「あっれー?ヒロとギルもいる!」

「はぁ!?何なんだよ、揃いも揃って俺の真似してー!」

「私達の方が遅れてきたので、結果だけで判断するのであれば、私達が・・」

「固いんだよ、シエルはー!」

ロミオとナナとシエルが、神機を銃型に変形させてやってきたのだ。

彼等もまた、興奮が治まらないでいるのだろう。

その名だけで影響を与える。二人の最強のちょっとした感応現象に、ヒロは改めてすごいと尊敬の念を抱いた。

「何だ。やっと練習する気になったのかよ」

「はぁ!?練習じゃねぇし!向上だし!」

「ロミオ先輩、素直に言った方が良いよ?今日もシエルちゃんに指摘されたって」

「余計なこと言うなよな!」

「丁度良かったです。副隊長。前におっしゃっていた資料を、私なりにまとめておきましたので、後程確認してみて下さい」

「あぁ、ありがとうシエル」

急に賑やかになった訓練所。

その外で、一人静かに微笑みながら、ジュリウスは暫くその声に耳を傾けていた。

 

 

フライアが極東地域に入った頃を見計らってか、グレム局長から招集をかけられ、ジュリウスはヒロとシエルを連れ立って、3階の奥の局長室へと訪れていた。

2度ほどノックを鳴らし、中へと入り敬礼をする。

「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティ、以下二名。招集に応じ、参上しました」

「あぁ。少し待て・・」

何か不機嫌といった感じで返事を返すグレムの前で、レア博士と九条博士が、何やら物々しい感じで黙って立っている。

入り口付近に陣取っているラケルは、相も変わらず涼しい表情を崩さずに、成り行きを見守っているという感じだ。

そんな中、九条博士が消えかけたモノを再燃させるかのように、口火を切って喋り始める。

「レア博士。神機兵の無人運用テストに、どうして反対なさるのですか?」

「反対ではなく、時期尚早と申し上げているのです。グレム局長も、何故許可を?」

話を振られてから、きっと何度目かの溜息を洩らしたのだろう。グレムは高価そうな椅子にその巨体を預けながら口を開く。

「有人神機兵の運用が非人道的だと、本部の方で難色を示す声が上がってね。更に悪いことに、退役した元ゴッドイーター達も、それに同調していてね」

「な・・・そんなっ!?」

「だから、ここである程度の実績を認めさせないと、神機兵の計画自体が縮小を免れないんだよ・・。レア博士には申し訳ないが・・・ここは私に免じて、な?」

「くっ・・・」

少し気に喰わぬといった表情を浮かべつつも、レアは何も言えずに立ち尽くす。が、それも短い時間で、俯いていた顔を上げてから真っ直ぐグレムを見つめてから、軽く一礼をする。

「・・・失礼します」

そうして去って行く先にブラッドの三人とラケルを目にしてから、何とも言えない切なげな表情を見せ、それっきり何も言わず部屋を後にした。

レアが去ってから早々、グレムはそれが無かったかのようにブラッドを自分の前まで来るよう手招きし、並んだ顔を順々に見てからジュリウスへと視線を落ち着ける。

「話を聞いていたなら、お前達を呼んだ理由はわかるな」

「神機兵の、無人運用テストを行うという風に受け取りましたが、我々ブラッドはなにを?」

「ふん!これだから戦闘しか能のない奴は・・」

悪態をついてからラケルがいるのにハッとし、グレムは1度咳払いをしてから、話し始める。

「今回の実験に、ブラッドには神機兵について現場へ行ってもらう。要するに、護衛だ」

「護衛、ですか?」

そうだと言わんばかりに深く頷いてから、手元にあった資料をジュリウスに投げてよこす。

「詳しいことは・・・九条君」

「は、はい・・」

急に声を掛けられ驚いたのか、九条は下がった眼鏡をクイッと上げてから、ジュリウスの前に立って説明を始める。

「えー・・ジュリウス君とシエル君は確か、マグノリア・コンパス出身だとか?」

「はい。私達はレア博士、ラケル博士に育てられたも同然ですので、神機兵のテストパイロットも行っています」

「それは・・素晴らしい。今回護衛とはいっても、あくまでも神機兵の戦闘データを記録することが目的ですので、戦闘に介入するのではなく、戦闘する様子を見守っていただくということを重きに、動いて欲しいのです」

「なるほど・・・」

ジュリウスの返事に頷いてから、九条は更に続ける。

「ですがただ見守るという訳ではなく、荒神と1対1という状況を作り出してほしいというのが任務です。勿論、万が一神機兵が危なくなれば、護衛としてそれを排除してください」

「つまり・・・、露払いをしろと・・」

ジュリウスの言葉に理解したかと鼻を鳴らしてから、グレムは口を開く。

「いいか。お前等普通の兵士の何十倍も金がかかっているんだ。絶対に神機兵を壊すんじゃないぞ!」

「「「了解!!」」」

話すことが終わったとそっぽを向くグレムに一礼し、ブラッドの三名は部屋を後にする。それに合わせて、一緒に部屋を出るラケル。それを熱い視線を向ける九条は、ぽーっとして手元の資料をぶちまけるのだった。

 

 

話が終わって外に出たところで、ジュリウスとシエルがラケルに呼ばれて研究室へと入っていく。待つように言われたので、廊下にある長椅子で座って待とうと思い移動するヒロ。そこで、先に来ていたレアと鉢合わせする。

「あ・・、どうも」

「ん?・・・あら、こんにちは。さっきは、みっともない所を見せちゃったわね」

「いえ・・」

さっきのことを考えると、相席しずらいと思い迷っていると、レアの方からヒロを促す。

「座ったら?・・ちょっと、お話しましょ?」

「あ、はい・・」

言われるがままに隣に座ると、レアは値踏みする様に、ヒロを眺めだす。それをくすぐったく思ってか、ヒロは声を洩らす。

「あのー・・・」

「あ、ごめんなさい。最近シエルと一緒にいるところを、よく見かけるから・・・なにか、凄い魅力でもあるのかな~って・・」

「そ・・そんなこと、ない・・かと」

「謙虚なのね」

ヒロの反応が面白いのか、レアは口元に手を当てて静かに笑う。

それから、急に真面目な表情になったかと思えば、溜息まじりに話し始める。

「シエルは、もともと裕福な軍閥の出身でね、・・・両親が亡くなったのをきっかけに、ラケルに引き取られたの」

「・・・そう・・なんですか・・」

少し固い所や、生真面目なところなんかは、遺伝なのだろうかとヒロは想像してみる。でも、ちょっと自分では想像できないと、苦笑してしまう。

「マグノリア=コンパスで、シエルはとても過酷で、高度な軍事教育を施されていたようね・・。極限状態でのストレステストや、少しのミスで懲罰房に入れられたりして・・」

「・・・・・なんか、想像してたのと違いますね。児童養護施設って聞いてましたし・・」

「そう?マグノリア=コンパスは、軍事学校としての評価の方が高いぐらいなんだけど。でも、表向きには違うんだけど・・」

何かを思い出したかのように、少し遠い目をして見せてから、レアは話を続ける。

「久方ぶりに会った時には、彼女は命令に忠義を誓う、猟犬のような子に・・・なっていたわ。その後も、歳の近さからか、ジュリウスのボディーガードを任されていたんだけど、守る・・守られる・・の関係からか、二人は友達という関係にはなれなかったみたい」

「友達・・・ですか・・」

少し考えてから、ヒロはここでのシエルやジュリウスを思い返してみる。少なくとも、自分が見る限りでは、そんな風に二人を見たことが無いなと思ったからだ。

「・・・・どうして、その話を僕に?」

「・・・・ふふっ、何でかな・・。余計な、お節介かな?」

「お節介・・ですか」

復唱するとレアは立ち上がり、ヒロの頭を2,3度撫でてから歩き始める。その途中、ふいっと振り返り、ヒロに笑顔を向ける。

「ここで目にするあの子達は、私が知らない良い表情をしてる。その中心には、あなたがいる。それが理由かな?」

「はぁ・・・」

「これからも・・、仲良くしてあげてね」

「・・・はい」

なんだかどういう話だったのかよく分からないままだったが、ヒロはただ、レアがジュリウスとシエルのことを思う気持ちに共感できた。それを返事に変えたつもりで答えると、レアは満足そうにその場を後にした。

 

 

 

 





最初、神機兵という存在を見た時、モンハンのオトモアイルー的な存在だと思ってました。

実際は、あんなガシャコンッて音させながら走りそうなやつ、嫌ですけど・・。
何か、怖いし・・


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12話 優先順位

 

 

 

少しひらけた旧高速道路跡の真ん中に、ヒロとロミオは神機兵を連れ立って目標位置を目指す。

人を模して造られたとはいえ、その姿は想像の世界の巨人といった方が良いだろう。肩に担ぐ神機も、軽く2mは越している。

遠隔操作といっても、ある程度は自分の考えで動く無人制御神機兵。というのも、荒神に対抗すべく、簡易ながらも学習型人工知能が搭載されているからだ。

そのあまりに違和感のない動きに、ロミオはしばらく眺めてから、ヒロに喋りかける。

「なぁなぁ、ヒロ。これって、本当に人、入ってないんだよな?」

「そうですね。それ以前に、ここまで人間の動きを再現されると、逆に怖いですよね」

ヒロも苦笑しながら、1度神機兵の顔を見上げてみる。

動きはあっても、感情は無いと見てとれるその無機質な目に、味方であるとわかっていても、こっちが落ち着けないのが本当のところだ。

「・・・・やっぱり、怖いですね」

「なー。当たり前だけど、なんも喋んないし・・」

そんな雑談の最中、急に神機兵が足を止める。それを目的のポイントについたと判断してから、ヒロとロミオは神機を構え、周りへと警戒する。

数分経ってから、二人の無線に声が入る。

『皆、配置に着いたようだな。本日は運が良いのか、目的の荒神以外は少数しか確認していない。だが油断はするな。あくまでも神機兵との戦闘は、1対1で行わせるように配慮してくれ』

『了解だ』

『りょーかい!』

『了解です』

「了解ー!」

「了解」

 

それぞれの返事に、ジュリウスはフッと笑みを浮かべてから、無線を九条博士へと繋ぐ。

「配置、完了いたしました。お願いします」

『わかりました。では・・・、おっ・・βに接近するオラクル反応あり。おぉ、αにも!さぁ、見せて下さい。私の最高傑作!』

 

向かってくるシユウの動きに警戒するギルとナナ。が、そんな矢先に、神機兵は突然動き出し、シユウへと突進を始める。

「あー・・行っちゃったけど、これは1対1だから良いんだよね?」

「戦闘の邪魔をしなきゃいいんだ。突っ立ってるよりは、俺達も即介入できる位置には、行ってもいいと思うぞ?」

だからと言って急がないという感じで歩き出すギルに、笑いながらナナも付いて歩き出す。

「そだねー!って・・わっ!凄い!」

「・・・ほー」

神機兵が接触したと思った瞬間、二人の目の前でシユウが吹っ飛ばされていたからだ。傍目から見るその状況は、敵であっても心配したくなるほどに、瓦礫に叩きつけられていた。

ブゥオンッザスッ!

まだ距離もある状態なのに、神機兵の振るった神機は、空を割く音までもこちらに響かせる。単純なパワーだけならば、ゴッドイーターなんて軽く凌駕しているのではと思わせる。

「・・・護衛、いる?」

「一応警戒は解くなよ」

「りょーかい」

二人が呆れかえる程あっさりと、シユウはその動きを沈黙させて、神機兵は何事もなかったかのように、ゆっくりと定位置に帰って来るのだった。

 

神機兵β近辺に現れた小型を倒し終わってから、ヒロは神機兵の近くに待機させていたロミオの元へと駈け寄る。

すると、何故か心此処にあらずといった感じで、ロミオは周りの警戒も忘れて立ち尽くしている。気になったヒロは足早にロミオの隣に立って、神機兵に目をやってから、驚きに眼を大きく開く。

ザシュッザシュッ

ガフゥッガゥッ

俯せに倒れたコンゴウに跨り、神機兵はその手に握る神機で、背中を何度も刺し貫いていたからだ。

その光景に、恐怖とは別の感情が込み上げてきてか、ヒロは神機を握る手に緊張を走らせる。

「・・・な、なぁ・・・、これ・・・本当に・・・。いや・・・・」

「・・いいですよ。多分・・・、僕も同じこと・・、考えてますから」

そんなヒロの共感の言葉に、1度唾を飲み込んでから、ロミオは再び喋り始める。

「荒神を倒すって・・・いう意味じゃさ、俺達も・・・同じだと、思うんだ。だけどさ、これは・・・・もう、人間が荒神と戦ってるっていう風に、見えないっていうか・・」

「・・・きっとこれが・・・、綺麗事ですけど・・・、兵士と、兵器の違いなのかも・・・しれません」

完全に動かなくなってからも刺し続ける神機兵。その姿に、何故か今頃になって、ヒロとロミオは『戦争』というモノを、意識させられたのだった。

 

今だ標的を確認できないでいる、シエルと神機兵γ。

実験時間の終了が近付いている中、一人持ち場を任されたシエルは、薄く雲のかかった空を見上げる。

『そんなことでは駄目だ!お前は兵士だ!戦うことを考えろ!命令に従え!!』

「・・っ!」

急に昔のことを思い出してしまうシエル。

それはきっと、今日の空が、殴られすぎて意識が朦朧としている時に、懲罰房の小窓から見た空に、似ていたからだろう。

別に自分の過去に嘆いたりはしない。両親が亡くなった時に、自分で選んだ道だからだ。

でも、フライアに来てからは、少しだけ何かが変わったのかもしれない。

(何か、諦めかけた何かが、この手に・・・)

少しぼーっと考え事をしていたその時、

キュウゥゥゥゥンッ

「え?・・」

妙な音と共に、目の前の神機兵の目から、光が消えたのだ。

 

 

『何だ?・・何なんだ?・・・・・・いったい、どういうことなんだ!?』

「落ち着いて下さい!九条博士!・・・くっ、駄目か」

急に焦りを口に出すばかりで、用途を得ない九条。もう聞いても無駄だと判断してから、ジュリウスは現場のブラッドへと無線を繋ぐ。

「こちらジュリウス。状況が知りたい。α班から、順に頼む」

『こちらα班、ギル。神機兵が急に動かなくなりやがった。どういうことか、こっちが知りたい』

『β班、ヒロです。こっちも同じく、神機兵が急に停止しました』

『γ班、シエル。同じく神機兵が沈黙。こちらは荒神との接触もありませんので、外部からの衝撃などでの故障ではないと判断します』

運ばれた3体とも、ほぼ同時に停止。この事実に、ジュリウスは眉間に皺を寄せてから少し考えてから、実験時間と照らし合わせて指示を出す。

「一先ずの実験のデータは取れたと判断する。何か事が起こる前に、神機兵の回収を行い、そこから離脱しろ。迎えが来るまで、引き続き神機兵の護衛にあたってくれ。すぐに、向かわせる」

『α班、了解だ』

『β班、了解』

『γ班、了解しました』

指示を終えてから一息つき、少し動揺した気持ちを落ち着けるように、ジュリウスはゆっくりと深呼吸をする。

しかし、不測の事態には、大抵追い打ちがかかる。

「・・・っ!ジュリウス隊長!これを!」

目の前で連絡を回していたフランが、焦った様子で、周辺地域のレーダーを見せる。

 

回収作業を終えたギルが、ナナの元へと駈け寄る。

「ねぇ、ギル。あれ・・・」

ナナの指す方向に、災厄を降らすモノが、ゆっくりと近付いてくる。

「赤い積乱雲・・・。くそっ!ジュリウス!もう、見えてるぞ!」

『わかっている。念のためだ。作業効率を上げる為、お前達は次のβ班の元に向かってくれ』

「わかった!おい、ナナ!ヒロたちのところへ行くぞ!」

「りょーかい!」

ナナを連れ立って走りながら、ギルはシエルの話した赤い雨のことを思い出す。

『触れれば、高い確率で発症し、・・・・その致死率は、100%と言われています』

黒蛛病の恐ろしさに、歯をギリッと鳴らしてから、ギルは走る足に更に力を籠める。

 

『ジュリウス!もうそんなに時間がねぇよ!シエルの方にも、別で回収に行けないのかよ!?』

「すまないロミオ。今避ける人員が無いんだ。・・くそっ・・・・」

赤い積乱雲は、刻一刻と近付いてくる。シエルの方を回収する頃には、実験地域一帯は、赤い雨に覆われる。

(限界だな・・・。なら・・)

大きく息を吐いてから、ジュリウスは新たな指示を出すべく、インカムのマイクを口元に寄せる。

「もういい。総員、そこから離脱しろ。これ以上は危険だ。回収班には、赤い雨が過ぎてから・・」

「待て!!」

急にロビーに響き渡る声に、ジュリウスの言葉はかき消される。それに驚き振り向いた先に、普段顔もろくに見せに来ないグレムが、足取りゆっくりと受付前までやってきたのだ。

「ジュリウス君。君は今、何を言おうとしていたのかね?」

特にこちらの言い分を聞く気もないのに、グレムは言葉だけは飾って質問してくる。時間との争いに苛立っているが、ジュリウスもそこは落ち着いて口を開く。

「赤い雨です、グレム局長。これ以上の現場での作業は、無理と判断したので、隊長として、部下に撤退を命じようと・・」

「はぁ・・・。君は、私の言ったことが、理解できなかったのかね?」

「・・・と、申しますと?」

溜息交じりに返された言葉に、苛立ちが増しながらも、ジュリウスはあくまで冷静に聞き返す。

それに対し、さも当たり前の如く、グレムは非道な命を下す。

「私は、神機兵を守れと言ったんだ。お前達が離れている間に、荒神に壊されるともしれんだろう。どんな不足な事態が起こったとしても、お前達は、ただその命令に従っていればいいんだ。わかったか?」

「なっ・・・」

驚きのあまり、一瞬声を失ってから、ジュリウスはすぐに言い返しにかかる。

「馬鹿な!赤い雨の危険性は、あなたも良く知っているはず!あれに触れたら、人間がどうなるかを・・」

「それが、どうしたというんだ。お前達兵士と違って、そうそう替えのきくモノじゃないんだよ、アレは。わからないか?これは、命令だぞ!?神機兵を守れ!!」

ダンッ

「ふざけるな!」

その物言いに、いい加減頭に血が上ったのか、ジュリウスは受付台を殴りつけ、怒りを露わに声を荒げた。

「現場にいるのは、私の部下だ!こんなことで、部下に死ねと命令できるものか!」

「こんなことだと?・・・このガキ・・」

睨み合いが続く中、無線の信号音が鳴り、シエルの声がスピーカーから流れる。

『隊長・・・。あなたの命令には、従えません』

「なっ!?・・シエル!」

説得の声を掛けるより先に、シエルは続けて話し出す。

『現在、この護衛任務に関し、1部隊の隊長の御言葉より、最高責任者であるグレム局長の御言葉の方を、最優先と考えます。よって、護衛任務は続行。回収が終わり次第、他の隊員のみ下がらせてください。・・・私は、残ります』

「待て!・・シエル・・・シエル!」

伝え終わったと判断したのか、シエルからの反応は得られない。フランの方に顔を向けると、フランは悲しげな顔で、首を横に振る。

「シエルさんは、無線を切られました・・。多分・・・」

「・・・・くそっ!」

悔しさに顔を歪めるジュリウスとは相反して、グレムは満足気に笑いながら口を開く。

「はっはっはっ!いやー、実に教育の行き届いた、良い犬を飼ってるじゃないか、ジュリウス君。誇っていいぞ?優秀な部下だとな。はっはっはっはっ!」

「くっ・・・!」

その暴言に食って掛かろうとするジュリウスを制止する様に、再び無線の信号音が鳴り、なにやら後ろが騒がしい中、ナナが喋りかけてくる。

『あのさー・・・・隊長』

またも何か問題かと、ジュリウスは焦りを隠さずにナナへと話し掛ける。

「どうした、ナナ!?」

『・・・・ヒロ・・えっと、副隊長がさー・・』

「ヒロが、どうした!?」

『・・・・・・・・・・・・神機兵に乗って、行っちゃった・・』

「なっ!?」

「なんだと!?」

ジュリウスだけではなく、高笑いを決め込んでいたグレムまでも、驚きに声を発してしまう。

『多分ね・・・、シエルちゃんのところに、行ったんだと思う』

「っ!!」

「くそっ!何てやつだ!!」

まさかの報告に、ジュリウスは歓喜に肩を震わせ、逆にグレムの方が怒りに震えだす。それから吐き捨てるように「くそっ」と叫んでから、グレムはジュリウスを睨んでから口を開く。

「・・・・・ジュリウス君。君の部下がやったことだ。それなりの処罰を、君も覚悟するんだな」

「・・・・・なんなりと」

いつもの落ち着いた表情が余計に腹ただしいのか、「ふんっ」と鼻を鳴らしてから、グレムはその場から去って行った。

急に静かになったロビーで、フランが心配そうな表情で、ジュリウスへ声を掛けようとしていると、急に声を出して、彼はわざと響くように大きな声で笑った。

それから、インカムのマイクを口元に寄せて、ブラッドに無線で指示を出す。

「全員、今すぐその場から離脱しろ」

『・・・ヒロ達は、どうする?』

ギルの問いに、おさまらない笑いを嚙み殺しながら、ジュリウスは答える。

「二人なら、大丈夫だ。すぐに無事に、生きて帰って来る」

 

 

 





なんか、ガンダムっぽくなっちゃったなー。

まぁ、同じ戦争の話だし・・・いっか!



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13話 手と涙

 

 

ヘリから外を必死に見ようとするナナ。それを落ち着けるために、ギルは溜息を吐いてから声を掛ける。

「ナナ。あいつらなら、大丈夫だ」

「んーーーー・・。でもさ、咄嗟に乗り方教えちゃったの、あたしだし・・」

「ナナが神機兵の動かし方を知ってる方が、俺的にはびっくり何だけどな!」

「あーー、ロミオ先輩が馬鹿にしてる!私も訓練だけなら、ラケル先生のところで習ったんだから!」

ブーブーと膨れっ面で抗議するナナに、ロミオが手を前に出して謝罪を表していると、珍しくもギルが声を出して笑いだす。その様子に驚いてから、二人は顔を見合わせて首を傾げる。

一頻り笑って落ち着いたのか、ギルは口の端を浮かせたまま、優しく鼻を鳴らしてから、再び口を開く。

「あいつら・・・・帰ってきたら、説教だな」

「・・・うん!そうだー!お説教だ!」

「だな!なんか奢らせようぜ!」

そんなことを言いながら、三人は赤い雨の中の二人の、無事を祈るのだった。

 

 

サァーーーーッ

雨の勢いが増してきた様子を眺めながら、シエルは丁度屋根になりそうな崩れ方をしている瓦礫の下に、神機兵を運び込んで、一人座っていた。

幸いにも、神機兵のテストパイロットの経験があったので、ちょっとした距離ならばと、自分で動かして来たのだ。

(・・・・・・・・・・寂しい・・・)

ふと頭によぎった考えに、シエルはハッと顔を上げる。

(私は・・・・今、寂しいと・・・・)

マグノリア=コンパスに所属してから、同年代と過ごした時間はほんの僅か。ジュリウスの護衛の際に、彼とだけ。

しかし、フライアに来てからは、そこが今までと決定的に違った。

独りに慣れすぎたせいで、知らなかったのだ。人との関わり合いから生まれる、こんなありふれた感情を・・・。

気付いてしまえば、なおのこと辛く、シエルは抱えた膝に顔を埋めてしまう。

そこへ、

パシャッ

「・・っ!?」

雨が落ちるのとは違う別の音を耳にし、シエルは神機を手に構える。

耳を研ぎ澄ませるまでもなく、その正体は目の前に確認できた。

「・・・シユウ」

本来神機兵に相手させる予定だった、標的の荒神シユウ。ほとんど身動きが取れない赤い雨の中動き出すことを、誰が予想しただろう。

1歩踏み出れば、赤い雨の中。しかしその代償として、自分は絶対の死、黒蛛病になってしまう。

(・・・命令は絶対・・。死を・・恐れるな・・・。神機兵を、守る!)

覚悟を決めて飛び出そうと前に体重をかけた時、シエルは違和感に気付かされる。足が地面に張り付いたように、その場から動こうとしないのだ。

(どうして・・・・・、どうしてっ!?・・)

敵はその牙をむこうと、着実に近付いてきてるというのに、自分は戦う為の1歩が踏み出せないでいる。

そして、あの日のヒロの横顔を思い出す。人の死を悲しむ、切なげな眼を・・。

(・・・あ・・あぁ・・・・、私は・・・)

「死にたく、ない・・・」

声に出してしまえば、答えは簡単だ。

理解をしてしまえば、シエルの脳裏に、フライアに来てから関わった人達の顔が駆け巡る。

レア、ラケル両博士に、ブラッド。

ナナ、ロミオ、ギル、ジュリウス、そしてヒロ。

水溜りに映る自分の顔に、今までしたこともない表情の自分に、シエルは逆に1歩退く。

(・・・・駄目・・・、命令を・・でも・・・・、神機兵を・・・やだ・・・)

混乱で目が泳ぎ、神機を持つ手は自然と下がる。

それを好機と見逃さなかったシユウは、嫌らしい笑みを浮かべてこちらへと突進してくる。

「・・・・・いや・・・、死にたく、ない・・・・誰か・・・」

もう声に出すのも抵抗なくなり、咄嗟に盾を展開してから、今まで出したことのない大きな声で、シエルは叫ぶ。

「・・誰かーーーーーーっ!!!!」

 

ザンッ!!!

 

ギャウゥゥゥゥッ!!

盾の隙間から見えた光景に、シエルはゆっくりと顔を上げる。

そこには、神機を振り抜きシユウを斬り裂いた、神機兵が立っていた。そして、その神機を、赤黒いオーラが覆っていた。

「・・・・・・・・・まさか・・」

驚きに足を動かすシエルに、神機兵から声が飛んでくる。

『シエル!動かないで!少し風が出てきたから、雨に濡れないように奥に!僕が風よけになる!』

「・・副隊長・・・」

搭乗者がヒロとわかると、シエルは安心したのか奥の壁に背中をぶつけて、その場に座り込んでしまう。

それに満足したのか、神機兵は隙間を隠す様に、自分の身体を覆いかぶせる。

色んなことが頭を巡って、何が何だかわからなくなって、シエルは躊躇いがちに口を開く。

「・・・・あ・・・・、あの・・」

『ごめん。・・・・・少し・・・・すごく、疲れちゃったから、話は、フライアに戻ってからで・・・いい?』

「・・・はい・・・」

すぐにでも聞きたいことがあったのだが、それ以上は声を出さず、呼吸音だけをさせるヒロを気遣い、静かに雨が止むのを待った。

 

 

ガシャンッ

懲罰房での1週間の拘留。

今回の命令違反、及び神機兵の無断搭乗などで与えられた、ヒロの罰である。

本当は3週間以上を進言されたが、ラケルの計らいと、神機兵の損傷がないことから、そこまで刑を軽くしてもらったのだ。

トイレと寝床、後は床といった狭い空間に、ヒロは半笑いで汗を流す。入る前に渡された毛布と一緒に、ヒロはとりあえず寝床に倒れてみる。床の硬さを感じながら、ヒロは眠ってしまおうと目を閉じた。

 

コンコンッ

「・・・・ん?」

疲れて眠ってしまったのか、小さな窓から日がさしている。目をこすりながら辺りを見回すと、入り口前にシエルが立っていた。

「・・・ごめん。寝てた・・くぁ」

「い、いえ・・・。私も、時間を選ばずに・・」

何故シエルが謝っているんだろうと考えながら、ヒロは立ち上がってから背伸びをして、入口を背にして声を掛ける。

「で、どうしたの?」

「その・・・・・、今回のことで・・、聞きたいことがありまして・・」

少し控えめに話してくるシエルに、ヒロは頷いて見せると、彼女も背中を入口の格子に預けて、話し始める。

 

「・・どうして、助けに来たんですか?」

「どうしてって・・・」

「命令違反だとわかって、何故あのような行動をしたのかと・・・、いうことです」

「あっ、でも神機兵に勝手に乗っちゃいけないってのは、知らなかったよ。でも凄いね、神機兵。結構自由度きくんだね。その分すごく疲れちゃうけど・・」

「茶化さないで下さい!神機兵に事前検査もなく搭乗するということは、最悪死を招くということですよ!?ましてや、赤い雨の中だというのに・・・・どうしてなんですか?私の為に・・こんな・・・理解に苦しみます!」

「・・・・うーん。・・そうしたかった・・・ていうのじゃ、駄目?」

「そうしたかったって・・」

「うん。僕は、大切なものを守るために、ゴッドイーターになったんだ。昔ある人と約束したからっていうのもあるけど、何より僕自身も、そうありたいって願ったから」

「だからと言って、命令違反していい理由にはなりません。私達は、兵士なんですよ?」

「うん。・・・でも僕は、兵士の前に一人の人間だから・・・。大切なモノを守るために、少しぐらいの無茶も・・・したいかな~って」

「そんなこと・・・答えになるはず・・・・・。私を助けたことによって、あなたは処罰を受けることに・・」

「いいよ。そのくらい・・」

「そんなっ!?」

「大切なモノの1つである、君を助けれるなら、この程度の事、どうってことはないよ」

「・・・・・・やっぱり、理解に苦しみます」

「そかな?・・・ごめんね」

「・・・まったくです・・・・。でも・・・来てくれて嬉しかったという気持ちも・・・・」

「うん。無事で、良かった」

「・・・・ここに来て・・あなたに出会ってから、私は心を乱されっぱなしです」

「えー・・・」

「でも・・・・・暖かい・・」

「・・・・シエル?」

 

長い沈黙を気にして、ヒロが振り返って手を置いたその上に、外からもう1つ手が重なる。せいぜい指が触れる程度の行為だが、ヒロは耳まで真っ赤にして俯く。それからそっとシエルに視線を上げてみると、涙ぐみながらも優しい微笑みを浮かべるシエルがそこにいた。

「命令よりも・・・自分よりも・・・、守りたい大切なモノ・・・。それが、あなたなんですね・・・・、ヒロ」

触れた指先から何かが弾けるように、小さな波紋は、やがて大きく広がる。

シエルの心に、新たな光が輝きだした・・。

 

キイィィィィィィンッ!

 

「あ・・・、これって・・」

「あん時の・・・」

「こいつは・・」

「シエル・・。・・・そうか」

 

ブラッドに届いた意志の覚醒は、何故か頬を綻ばせる様な、優しい温もりだった。

 

 

1週間の拘留が明けて、ヒロは少し疲れた面持ちで廊下を歩く。

懲罰房のあるエリアから、見慣れた景色が目に入るようになったところで、待ちくたびれたといった表情で苦笑する、ジュリウスが目に入る。

「ご苦労だったな」

「そう思うなら、何か美味しいものを食べさせて」

「ふっ・・・、罰を受けていたんだがな。良いだろう」

「・・ありがと」

少しだけ笑って見せてから、ヒロはジュリウスの出した手に自分の手を当てて、パンッと鳴らす。

「元気そうで、何よりだ。ヒロ」

「これが元気そうに見えるなんて、どうかしてるよ。ジュリウス」

それから二人は並んで歩き、ヒロの希望を叶える為、食堂へと向かった。

 

 

「おい、ヒロ」

「ん?むぐぁに?」

「・・・・まず、飲み込め」

食堂で一心不乱に食べまくるヒロを囲むように、ブラッドは集まって食事していた。そんな中、ずっと黙っていたギルが声を掛けてきたので、ヒロは口の中そのままに、返事をしたのだ。

指摘されたので、とりあえず口の中のモノを飲み込んでから、ヒロは「ふぅ」と息をついてからギルに目を向ける。

「ごめん。それで?」

「あぁ・・・・・。ヒロ、仲間を大事に思うことは結構だが、お前自身の命も大事に考えろ。・・・そいつを、言いたかったんだ」

それを言われると、還す言葉もないといった感じで、ヒロは頬を掻いて苦笑する。

「ははっ・・ごめん。気を付けるよ」

「まっ・・わかればいいんだ」

そこからは静かにスープを口にするギル。そこで何か悪戯を思いついたように、ナナとロミオがニマーッと笑い合い、わざと聞こえるようにヒロに耳打ちする。

「ギルはねー、ずっとヒロのことが気にかかってたんだよ?」

「心配だーって感じで、たまにロビーを意味なく徘徊するぐらいにな」

「ぶほっ!げほっげほっ!・・・お前等っ!」

急な攻撃に、ギルは思わず口の中のスープを吐き出してしまい、その原因となったナナとロミオを睨みつける。

「別に心配なんかしてねぇ!」

「してたじゃん!溜息多かったし!」

「ねー!任務に行ったら、ヒロのこと探してるし!」

「ナナ!お前なぁ!」

「ギル、食事中だ」

「ギル、食事中です」

顔を赤くして思わず立ち上がるギルに、ジュリウスとシエルが静かに指摘する。

「俺を注意するなら、こいつらもだろ!?」

「そうですね、ナナさん、ロミオも、食事中は静かに」

「あー!食事のマナーなら、ヒロもだと思う!」

「そうだそうだ!シエルはヒロを贔屓してる!」

「なっ!・・し・・してません!」

「はぁ・・、シエル」

思わぬところから矛先が向いて、慌てて立ち上がるシエルに、最終的にジュリウスが溜息を吐き、皆席に落ち着く。

少しばかり静かに時が流れたと思った矢先に、

「シエルちゃん。ヒロの食べ方、注意しないの?」

悪びれもなく言ったナナの一言で、またもその場は騒がしくなる。

「だ、だから!贔屓なんてしてません!」

「そんなこと言ってないよー!」

「そうだよ!贔屓してるのは、ジュリウスだよ!ヒロを迎えに行ったりしてさ!贔屓、贔屓!」

「げほっ!ろ、ロミオ!俺は別に・・」

「焦ってるところが怪しいな、隊長さん」

「何達観してるんですか、ギル!そもそもに、あなたが副隊長が心配で眠れないから・・」

「なっ!さらっと捏造するな、シエル!俺が何時そんなこと言った!?」

「わかります!副隊長が拘留されてから1週間、あなたの目の下にクマが・・」

「俺は元々、寝つきが悪いんだよ!」

「嘘だねー!お前部屋に戻ったら、全然出てこないくせに、今回は・・」

「ロミオ!!」

「いい加減、静かにしないか!ここは俺達だけの施設じゃないんだぞ!」

「はーい!隊長もうるさいと思いまーす!」

大騒ぎになってしまった自分の周りを見つめながら、ヒロは戻ってこれたと実感しながら笑顔になる。そんなヒロを見てか、皆一斉にヒロへと詰め寄る。

《何、当事者がのうのうと食べてるんだ(ですか)(の)!!!》

「・・・・・はい、ごめんなさい」

 

 

 




暖かいって思えること、歳食ってからないな~。

温もりを下さい・・・。


次からいよいよ舞台は、極東支部です!



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14話 激戦地、極東へ

 

 

ヒロが解放された次の日。

ブラッドはラケルの研究室に呼ばれていた。

皆の顔を確認してから、ラケルはいつもの涼しい表情のまま、話し始める。

「神機兵の無人運用テストの護衛、御苦労様。あなた達の互いを思う気持ち、そのお陰で、神機兵も、あなた達ブラッドも失わずにすんだわ。これからも、その気持ちを忘れずに、励んで下さい」

《了解!》

六人揃っての返事に、満足気に頷いてから、ラケルは話の本題へと移る。

「今日呼んだのは、他でもありません。シエルが血の力に目覚めたことによって、ヒロ。貴方の血の力が判明しました」

「え?・・僕の・・・」

ヒロが自分を指さし訴えてくる目に、ラケルは静かに頷いて話を続ける。

「ずっと・・・貴方の血の力は、沈黙を続けてきましたが、先日シエルの血の力が覚醒した時に、同時に貴方の血の力が発動しました。それで確信しました。貴方の血の力は、『喚起』」

「『喚起』・・・?」

「そう。心を通わせた者の、真の力を呼び覚ます能力」

「・・・・・えっと・・」

よくわからないといった感じで、ナナとロミオと一緒に頭を横に傾けるヒロ。その仕草に静かに笑って見せてから、ラケルはわかりやすく説明を始める。

「貴方はシエルと関わっていく中で、彼女の心の中に閉ざされていた感情を揺さぶり、解放しました。それに重ねて、対象のシエルの意志の力を増幅し、ブラッドの真の力、血の力の覚醒へと導いたのです」

「感情の・・・解放?」

「あ・・あの、・・あまり見ないで下さい」

自分ではあまり意識のないことだったので、ヒロはとりあえず当人のシエルに聞いてみるが、その彼女は照れているのか、顔を伏せてしまう。

「血の力を覚醒するには、何か自分の中での感情の高ぶりや意志の強い表れが必要です。その為、覚醒するタイミングにも、個人差が生じます。ですが・・・、貴方の喚起の力で増幅し、後押ししてあげれば、より早い段階で、目覚めさせることが可能でしょう」

皆何故か、大きな息を吐いてから、ヒロを見て感心する。当の本人は無自覚だったので、説明された今でも、実感が湧かないでいるが・・・。

そんな中、元気良く手を上げて、ナナがラケルへと質問する。

「はいはーい!ラケル先生!じゃあじゃあ、ヒロと仲良くなって、シエルちゃんの感情が弾けて、血の力に目覚めたってことで良いんですか?」

「べ、別に弾けては・・!?」

「ふふっ。そうね。間違っては、いないわ」

「ラケル先生!」

恥ずかしさからか目だけチラチラ見てくるシエルに、ヒロの方も何だか緊張してしまう。

すると、ナナは勢いよく立ち上がってから、ヒロにびしっと指をさす。

「じゃあ、ヒロ!もっとあたしと、仲良くなろう!ほらほら、感情を逆撫でして!」

「逆撫でしてどうすんだよ・・」

「ずりーー!!そうだ、ヒロ!俺と一緒に、訓練しようぜ!」

「ロミオ先輩こそずるい!私も訓練する!」

急に騒がしくなった状態に、ジュリウスはわざと咳をして見せ、まだラケルの話の途中だとわからせる。そんな彼の気遣いを理解してか、二人は恥ずかしそうに席に戻る。

「ふふっ。ヒロは一人しかいないんだから、みんなで仲良くね」

「はーい!仲良くしまーす!」

「喧嘩なんかしません!」

どこか幼児をあやす様な台詞に、ナナとロミオは素直に返事をする。それに笑顔で応えてから、ラケルは話を戻す。

「ヒロの喚起の力の説明は以上よ。それと、今日のお昼頃に極東支部に着く予定だから、正装に着替えて準備してね。極東支部で、学べることも多いでしょう。皆、これまで通りに、精進する様に」

《了解!》

 

ブラッドを解散させてから、ラケルは一人、自分のPCの画面を眺める。そこに映っているヒロの映像をゆっくりなぞりながら、妖しく微笑む。

「血の導き手・・・やはり、貴方なのね・・・。最後のコマで、良い拾い物をしたわ・・・」

 

 

装甲壁の内側に設置されてる、貨物トレーラーなどが利用する広い道を通り、フライアは中心に位置する建物の横へとつける。

その様子を、部屋の窓から眺めるグレムは、忌々し気に舌打ちをする。

「何だってこんな、最も危険な支部なんかに来なきゃならんのだ」

「・・・そう言わないで。極東での功績は、本部に認められる一番の近道。あなたが左遷ではないと、本部上層部で踏ん反り返ってる人達に、思い知らせるチャンスでもあるのよ?」

グレムの愚痴に、さっきまで行為に及んでいたレアが、衣服を整えながら答える。食べるところだけじゃなく、性行為にがっつくところまでも、豚とよく似たものだ。

「ふん・・。それに、わしはここの支部長は好かん!挨拶なら、君達姉妹で行ってくれ。わしはここに残る」

「ご自由に。・・・シャワーを浴びてから、挨拶に向かうわ」

「あぁ・・」

鼻息荒く見向きもしないグレムを置いて、レアは部屋を後にする。それから歩き出して、口から本音を洩らす。

「元々こういったことには、期待してないわよ。盛りのついた豚が・・」

 

 

滅多に開かないフライアの大扉。そこから降り立ち、ヒロは辺りを見回す。目の前の建物を中心に、広がる居住区。それを護るように円形に囲う、巨大な装甲壁。

その壮観な景色に緊張しながら、大きく深呼吸をする。

「ここが・・・・・・、極東支部・・」

対荒神殲滅組織フェンリルで最も過酷といわれる最前線の戦闘区域。そこを守護する極東支部。通称『アナグラ』。

憧れの人が戦う地に、ヒロはようやく来ることが出来たのだ。

「ヒロ。そろそろ行くぞ」

「うん」

ジュリウスに声を掛けられてから、ヒロは先を行くブラッドへと、駆け寄った。

 

来客用の入り口から中に入ったところで、一人の青年が丁寧に頭を下げる。それに合わせて、ブラッドも一礼し、代表でジュリウスが挨拶をする。

「初めまして。フェンリル極致化技術開発局所属ブラッド部隊、隊長のジュリウス・ヴィスコンティ、以下五名。本日より、お世話になります」

その丁寧な挨拶に、改めて礼をしてから、青年も自己紹介の挨拶をする。

「長旅、御苦労様です。本日案内役をさせていただきます、フェンリル極東支部指導教官兼独立支援部隊クレイドル所属の、空木レンカと申します。ようこそ、極東支部へ」

握手の為に手を差し出され、ジュリウスはその手を握って挨拶として返す。

「皆さんお疲れだと思いますので、本日は支部長への挨拶と、今後皆さんの神機を管理する開発主任への挨拶のみとさせていただきます。歓迎会の方は明日に予定しておりますので、本日は終了次第、ゆっくりとお休みください」

レンカは1度時計を確認してから、「どうぞ」と促し、自分を先頭に案内を始める。

長く続く廊下を歩く中、黙っていられなかったのか、気になったのか、ロミオがレンカに話しかける。

「あ、あのー。空木さんって、ゴッドイーターですよね?腕輪してますし」

「ロミオ・・」

「あぁ、構いませんよ」

注意しようとするジュリウスを制してから、レンカは自分の腕輪を見えるように少し上げて見せてから、質問の返答をする。

「私は特殊な例ですが、肩書きは退役兵となります。以前色々と無茶をしすぎた影響で、長時間の戦闘が不可能となった為、今は後進の育成に努めています」

「あ・・その、すいません」

「良いんですよ。気に病まれることはありません」

優しい笑顔に胸を突かれて、ロミオはシュンとしてしまう。が、もう話が出来ると判断したナナが、更にレンカに話しかける。

「あのー、因みにですけどー・・・、空木さんって、どんなゴッドイーターだったんですか?」

「どんな、ですか?」

その質問には少し思うところあってか、レンカは少し恥ずかし気に苦笑してから、答える。

「お恥ずかしい話、私はかなり無鉄砲なところがありまして・・。よく先輩や、上官指導員に怒られていまして・・」

「えー!何か落ち着いてるし、全然見えなーい!」

「ナナさん・・」

ナナの反応に、困るレンカ。それを見かねて、シエルが袖を引っ張り注意をする。しかし、別に聞かれて困るようなことではないという感じで、レンカは話を続ける。

「どんなゴッドイーターかという話に、私の戦闘の実績や経験も含むのでしたら、さして自慢できることはありません。ただ・・・、私が誇れることがあるとしたら、旧第1部隊・・今は独立支援部隊クレイドルになるのですが・・。そのメンバーと共に、戦えたこと位ですね」

「旧・・第1部隊・・ですか?」

その言葉が妙に引っかかって、ヒロが聞き返す。それに答えようとレンカがヒロへと振り返る。そこで、レンカは驚きに眼を大きく開く。

「・・・え?えっと・・」

「・・・・あ、すいません。・・ちょっと」

視線を前に戻して、レンカは少し考えているのか、神妙な表情を作る。が、それもすぐに、廊下の先に到達するというところで、元の優しい顔に戻る。

「続きはまたにしましょう。ここから騒がしくなりますので、皆さん離れないようにお願いします。まぁ、さして広くはありませんが・・」

レンカがそう言い終わってすぐに廊下を抜けると、

そこは、別世界だった。

 

「おい!早くしろ!間に合わなくなるぞ!」

「救護班!すぐにヘリを飛ばせるようにして!」

「第3部隊!今日はヴァジュラ2体の討伐だ!」

『第6,7部隊は、防衛班の援護に向かって下さい』

「道を開けろ!俺達が先だ!」

「黙りな!あんた達、任務申請したんだろうね!?」

 

その喧騒に、ブラッドは飲まれそうになる。

フライアには、自分達以外部隊は存在しない。だが、他支部、取り分け極東支部ともなれば、このように忙しく動き回るのは、当たり前のことだ。

しかし、中には意味なく殴り合いになったりしているところもあり、前に進むのも一苦労だと、ブラッドは顔を見合わす。

すると、先頭に立っていたレンカが、一人1歩前に出たと思ったら、今までの優しい顔が嘘のような鋭い眼光に代わり、大声で怒鳴りつけたのだ。

「うるさいぞ、貴様等!!客人の前で恥ずかしい醜態を、いつまで晒すつもりだ!!」

《っ!!?》

その声に全員がびくっと跳ね上がり、その場で直立する。その様子を見回してから、自分達が向かう先のエレベーターに向かって、再び怒号を浴びせる。

「道をあけろ!客人が通る!・・どうした?任務に向かうんじゃないのか!?道ぐらいあけて、行動しろ!無駄に喋る暇があったら、やるべき事をやれ!いいな!?」

《はい!!》

それから、また忙しく動き始めるが、誰も通るのに邪魔な動きはしないし、怒鳴り合いもやみ、話し声は最低限に静まった。

それを良しと確認してから、また元の優しい顔に戻ったレンカが、ブラッドへと振り返る。

「お待たせしました。では、こちらに・・」

誰も何も言えないまま、極東の人間同様に緊張した面持ちでついていく。

その途中、受付らしきところで1度足を止めて、「少々お待ちを」とその場から離れたレンカを目で追ってから、ロミオが一言洩らす。

「・・・・あの人、怒らせないようにしよう」

「うん・・うん」

必死に頷くナナにつられて、ジュリウスまでも1度頷いてしまう。

 

「ヒバリさん、ブラッドの皆さんが到着しました。榊博士は、部屋に?」

「あ、はい。さっきは助かりました、空木さん」

「いえ。何かありましたら、連絡ください。今日は彼等に付きっきりになると思いますので。フライアの代表が来られた際にも、一報ください」

「わかりました」

 

話を終えたのか、レンカが戻ってきてからブラッドを促す。

「すいません、何度も・・。では、支部長室にご案内します」

ブラッドと共にエレベーターに乗り込み、レンカの姿が見えなくなった頃に、まだそこにいた人間達は、大きく息を吐いて緊張を解いたのだった。

 

 

極東から、遠く西に位置する場所。

そこで荒神の討伐が終わったのか、一人の青年が神機を担いで歩き出す。が、自分の携帯端末が震えるのに反応して、足を止めてポケットからそれを取り出す。

画面に映るメール有りの文字を確認し、メール画面を呼び出し文章を読む。

朗報だったのであろう。青年は笑顔で、それを何度も読み返す。

そこに、凛とした女性がやってきて、青年に声を掛ける。

「どうした?極東から連絡でもあったか?」

「えぇ、リッカから・・」

「何だ、惚気か?もう聞き飽きたぞ」

「そんなんじゃ、ありませんよ。・・・今、着いたみたいです。ブラッドが」

その言葉に、女性は肩眉を上げて見せてから、息をつく。

「そうか・・・。私達も、1度戻らねばな・・・。お前も、久方ぶりに会いたいのだろう?」

「そうですね。彼が、どんなゴッドイーターになってるか、楽しみです」

そんなことをいう歳になったかと、女性はフッと笑みを浮かべてから、青年を呼ぶ。

「ならば、さっさと片付けるとしよう。行くぞ、ユウ」

「はい、ツバキさん」

そう声を掛け合って、神薙ユウと、雨宮ツバキは目的の場所へと向かった。

 

 

 





ブラッド、極東支部に入りました!

はい!こっからは、完全に私のワールドに突入!
前作引継ぎなので・・w

レンカをどう登場させるか悩みましたが、この方が面白そうなのでw



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15話 変わり者が集う支部

 

 

 

エレベーターは4階へと昇り、そこを出て奥へと向かうと、いかにも偉い人がいるという様な扉が現れる。

先だってレンカがノックをし、声を掛ける。

「空木です。支部長、ブラッドの皆さんをお連れしました」

『あぁ、入ってくれたまへ』

「失礼します」

返事に答えてから扉を開け、ブラッドを先に通してから、レンカも入り扉を閉める。レンカのような教官がいる支部の上役だからと、少し緊張して対面したブラッドだったが、何とも想像とはかけ離れた、優しそうな人が笑顔で待っていた。

「こちら、極東支部長及び開発局長も兼任されている、ペイラー・榊支部長です」

「いやいや・・。君に支部長と呼ばれるのも、中々慣れないねぇ」

「支部長・・」

「いや、失敬」

そう言ってから立ち上がり、榊博士は軽く礼をしてから挨拶をする。

「改めまして、ブラッド部隊諸君。私が紹介に預かった、支部長のペイラー・榊だ。どうにも支部長と呼ばれるのに慣れなくてね・・、気軽に『博士』と呼んでくれると助かるよ」

やたら軽い感じで話してくる榊博士に、ブラッドはどうしたものかと顔を見合わす。

そんな中、代表して挨拶する為、ジュリウスが1歩前へと出る。

「本日よりお世話になります、フェンリル極致化技術開発局フライア支部所属、ブラッド部隊、隊長ジュリウス・ヴィスコンティ、以下五名。短い期間かもしれませんが、よろしくお願いします」

《よろしくお願いします!》

「うん、よろしく」

ひどく簡単に返されて、流石のジュリウスもどうしたものかと戸惑ってしまう。

しかし、榊博士の方はあくまでマイペースで、さっさと席について話を始める。

「君達・・・というより、フライアの用事になるかな。神機兵の運用テスト及び研究協力の為に、極東に来たんだったね?」

「はい。そう伺っております」

「そうだったの?」

「知らなかったー」

後ろでひそひそ話すナナとロミオを、とりあえずは無視して、ジュリウスは榊博士との会話に集中する。

「その要請に応える代わりに、我々ブラッドの力を借りたいとも、伺っております」

「そうだね。・・・今、極東支部は感応種の出現によって、ちょっとばかり困ったことになってるんだ。何しろ、感応種が発する偏食場パルスは脅威だ。神機の不能、周辺の荒神の誘因。極東地域だからこそ、かなりの有効打だからね。荒神も面白い進化をする。実に、興味深い」

「は?・・」

「支部長・・」

思わぬ言葉に、ジュリウスが目を丸くして驚く。それに慣れたかのように、レンカが指摘の声を出すと、「失敬」と言ってから、榊博士は特に何を気にした様子もなく、話を続ける。

「つまりだ、我が極東支部のゴッドイーターが手を焼いている、感応種の討伐に、一役買ってはくれまいかと思ってね。それと、君達ブラッドの戦闘データなんかも取らせてほしい」

「戦闘データを、ですか?」

ジュリウスの返答に深く頷いて見せてから、榊博士は更に続ける。

「我々も手をこまねいてるわけにはいかないのでね。君達が何時までもいてくれるわけでもないし、出現する度にユウ君を呼び戻すわけにもいかない。だから・・」

「ユウさんは!・・・いないんで、すか?」

「ん?」

「ヒロ」

思わず話に割って入ってしまってから、ヒロは不味いことをしたと、顔を伏せる。

「すみません。部下が失礼を・・」

「いや、構わないよ。・・・そうか。君が、神威ヒロ君だね?ふふっ、ユウ君に聞いていた通り、真っ直ぐな良い眼をしてる」

「え?・・・ユウさん、が・・僕を?」

驚くヒロに笑顔で応えてから、榊博士はブラッドの中から、今度はギルの顔に視線を向ける。

「もちろん、君のことも聞いてるよ。ギルバート君。・・・うん。君も彼が言ったとおり、良い眼をしてる」

「お、俺のことは・・・、良いです」

照れたのか、ギルは帽子を深くかぶり直してから、下を向く。

「他の子達も、良い眼をした子ばかりだ。君もね。ジュリウス君」

「え・・・いえ。・・・支部長、話を・・」

話が反れたことを指摘しながら、ジュリウスも照れた顔を誤魔化す。榊博士も「失敬」と言ってから、元の話に戻る。

「話を戻すけど、うちの最強二人におんぶに抱っこじゃあ、いつか必ず限界が来る。そこで、君達の戦闘データや、血の力のデータを元に、打開策を練っておきたい。なので、そちらも協力願いたい」

「我々としては一向に構いませんが・・・、その話は、ラケル博士を通していただいてからで、よろしいでしょうか?」

「勿論そのつもりだが、データを取られるのは君達だ。ちゃんと了解は得ないとね」

そう言ってから立ち上がり、榊博士は眼鏡をクイッと上げてから、手を差し出す。代表して、ジュリウスがそれを握り返す。

「それでは、大した持て成しはできないし、逆に苦労を掛けることになるけど、これからよろしく頼むよ」

「こちらこそ、お世話になります」

そう挨拶を交わしてから、支部長への挨拶は終了した。

 

 

エレベーターで再び1階のエントランスに移動し、そこから神機保管庫へと向かう。そこから更に奥へと入っていくと、廊下の先でチカチカ光が洩れる部屋が見える。そこへブラッドを案内してから、レンカは中で作業するタンクトップの華奢な人に声を掛ける。

「リッカさん!」

「・・んーー!?レンカ君!?」

「・・・女性だ」

「女の人だね?」

「そりゃ、いるだろう」

声の主に驚くブラッドを他所に、作業の手を止めた女性は、溶接面を外してから振り向く。

「・・・美少女だ」

「綺麗だね?」

「僕に振らないでよ」

「副隊長・・」

「黙ってろ・・」

話し声が耳に入ってか、少女は笑いながら分厚い手袋を外して、ブラッドの前に立つ。

「リッカさん、こちらが今日到着された、ブラッドの皆さんです」

「あそ。後さ、その畏まり過ぎってぐらいの敬語、似合わないよ。レンカ君」

「ちょっ・・・、勘弁してくださいよ」

「あははっ」

レンカが慌てた表情を見せたのを笑い飛ばしてから、少女は全員の顔を見回してから、自己紹介を始める。

「初めまして。私は極東支部開発局所属、神機開発主任を任されてる、楠リッカって言います。今後ブラッドのみんなの神機のメンテナンスを担当するから、何かあれば遠慮無く言ってね」

「リッカさん、お願いしますよ!一応公式の対面なんですから・・」

「えー?別に良いじゃん?みんなだって、畏まったことに疲れてるでしょ?」

「はい!疲れました!」

「ナナ・・」

リッカの言葉に真っ先に反応したナナに、ジュリウスが注意するが、そんなやり取りが可笑しいのか、リッカは笑いだす。

「あははっ、素直で良いじゃない。あー、自己紹介は不要だよ。あらかじめもらった資料に目を通して、ちゃんと顔と名前と神機は一致してるから」

「そう・・、ですか・・」

さっさと話を進めるリッカに、ジュリウスも完全にタイミングを逃し、レンカは眉間を押さえて溜息を吐く。

「君が隊長のジュリウス君。それで、左からシエルちゃん、ギルバート君、ナナちゃん、ロミオ君・・・・そして、ヒロ君」

本当に覚えてると皆が驚いてる中、リッカはわざと最後に呼んだ、ヒロの前まで歩いて行く。何事かと思い、1歩退いてしまうヒロを逃がすまいと、素早く正面に立ってから、じっくりと見回す。

その状況に取り残された他の面々も、どうしようと迷っていると、何かを納得したように、リッカはヒロに優しく微笑んで見せる。

「あ・・・・あの・・」

「うん。・・・うちの旦那様の言った通り、中々良い顔してるね、君」

「へ?・・・・旦那、様?」

またとんでもない言葉が飛び出したと、全員が固まってしまう中、言われたヒロは顔をギギギっと音がしそうなゆっくりとした動作で横にし、よく理解できませんという意思表示をする。

「あの・・・・、その・・」

「会ったんでしょ?2年位前に」

「誰と・・・ですか?」

「うちの旦那様。・・・神薙ユウ君に」

さらっと言ったものだから、皆一斉に5歳児が描いた絵のような、愉快な表情になり、

《ええぇぇぇぇーーーーーーーーっ!!!!!》

と叫んだのだった。

 

 

再びエントランスに戻ってからエレベーターに乗り込み、一同2階の居住エリアに降りる。疲れた顔で・・。

皆の表情に気を遣ってか、レンカが申し訳なさそうに話し掛ける。

「あの・・・本当にすいませんでした。リッカさんは・・、かなり明るい方と言いますか・・、冗談好きと言いますか・・」

「え?じゃあ、さっきのユウさんが旦那様っていう話もですか?」

皆が聞きたかった、今日1番の驚きをヒロが聞いてくれたので、全員が歩きながらもレンカに注目する。

レンカの方も少し疲れていたのか、1度大きく息を吐いてから、質問に答える。

「あれに関しては、ノーとも言えますし、イエスとも言えます」

「それってー、どういうことですかー?」

「つまり、結婚はされてませんが、結婚を前提にお付き合いなさっているので・・・、まぁユウさんにこれ以上女の人のファンがつかないように、牽制しているとでも、思って下されば・・」

その答えに何度か頷いてから、ロミオが手を上げて、ちゃんと核心に触れる。

「ようするに、リッカさんの彼氏は、あの神薙ユウさんなんですよね?」

「はい。その通りです」

「わぁ~・・・・。英雄の彼女さんと、会っちゃった・・」

それぞれの反応を見せる中、目的地に到着し、レンカはその場所の紹介に入る。

「こちらがブラッドの皆さんにご利用いただく、宿舎となっております。各個人に1部屋ずつ準備しましたので、どこでもお好きなところをご利用ください」

「お気遣い、痛みります。ですが、我々は、フライアでの寝泊りで構わないのですが・・」

ジュリウスの言葉に笑顔を見せてから、レンカは返事を返す。

「今後任務に赴く際に、極東の受付をご利用いただくように手配してあります。馴染みのオペレーターのフランさんにも、こちらに滞在の間は極東の方に入っていただきます。フライアとの行き来は苦だと思い、そちらのラケル博士の承認も得て、準備しました。勿論、フライアとの行き来は自由ですので、もし落ち着いて睡眠がとれないなどの不備がございましたら、フライアの方でもお休みいただけます」

「そこまで・・・。何から何まで、ありがとうございます」

深々頭を下げるジュリウス。それに倣って、皆も頭を下げてお礼を言う。それを制してから、レンカは話を続ける。

「極東滞在の間は、使える施設をすべて開放します。訓練所や、資料室、休憩所、団欒室など、自由にご利用ください。・・・・以上で予定は終了です。本日はお疲れさまでした。後はごゆっくりお休みください」

そう言ってレンカは一礼し、その場を去ろうとして、思い出したかのように振り返る。

「あ、それと食事は団欒室でできますので、部屋の中の時間を確認して、それに合わせてご利用ください。それと・・、本日は皆さん以外にも特別な客人を招いておりますので、トラブルだけは避けていただけると・・」

「空木君」

「レンカさん」

言葉尻を遮られ、レンカが声の方に顔を向ける。それから、笑顔でちょうどいいといった表情を見せる。

「どうも。お二人共ご部沙汰してます」

「ご部沙汰って・・、何ですか?その爺臭い敬語」

「ちょっと、サツキ!?」

その声に聞き覚えがあるのか、シエルとギル以外のブラッドは徐々に視界に入ってくる映像に、目を大きく開く。

「うっそー・・」

「まさか・・」

「凄い・・偶然だな」

「何が・・でしょう?」

「・・・さぁな」

「あわ・・あわわ・・はわ・・」

ブラッドがそれぞれの反応を見せる中、渦中の人はその姿を皆の前に現す。

「そんな敬語使ってると、さっさと年取っちゃいますよ?って・・・あら」

「どうしたの、サツキ?・・あ・・・」

「丁度お二人の話をしていたところです。こちら、フライア所属部隊のブラッドの皆さんです」

簡単に紹介してもらってる間、ロミオは感動からか驚きからか、半分気絶しかかっている。自分の憧れの人に、再び出会えたのだから。

二人に事情を説明し終えたのか、レンカはブラッドの方を向いてから、二人を紹介する。

「こちらが、皆さんとは別に本日から滞在される、葦原ユノさんと、高峰サツキさんです」

「どうも~」

「初めまして」

ユノの笑顔の挨拶に、持ち応えていたロミオの意識はぷつっと切れて、その場にひっくり返った。

 

 

「あらら、気絶しちゃってる・・」

「あ、あの、大丈夫でしょうか?」

「すぐに医務室へ!」

「あ、気ぃ遣わなくても平気なんで・・こいつ」

「あ~・・、先輩、白目むいちゃってる」

「今日一日、色々衝撃的なこと、あったしね・・」

「ですが・・・何故か、幸せそうに見えます」

「まったく・・・、困ったやつだよ。お前は」

 

 

 

 

 

 





どんどん、世界観をめちゃくちゃにしてる気がする。

でも、成長したリッカさんは、ユウを好きなこと以外、こんな感じだと思う!



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16話 世界に響くメロディー

 

 

 

極東に準備してもらった部屋で、ヒロは朝を迎える。

寝惚けた顔を洗い、歯を磨いてから、いつもの私服に着替えて、極東のエントランスへ降りるために部屋を出る。

「・・・あ・・、おはよう」

「・・ん?・・おぉ」

同時に出たのを鉢合わせ、ヒロはギルに挨拶する。ギルの方も、ジッとしてられなかったのか、朝早くに起き抜けてきたのだ。

二人は目的が同じなのだろうと、並んで廊下を歩き出す。

「昨日は・・・、流石に疲れたな」

「ギルも?・・僕は色々ありすぎて、頭がパンクしそうだったよ」

「はっ・・・、お前がそんなたまかよ」

「いやいや、本当だって」

何でもない会話をしながら、エレベーターの前まで行き、ボタンを押して中に乗り込む。

着いた先のエントランスに降り立ってみると、流石に早かったのか、昨日程人はいない。静かなもんだと歩き出してから、二人はあるモノが目に入り、これまた同時に顔をしかめる。

「・・・ん?おぉー!我が同志にして、永遠のライバル!ヒロ君じゃないか!」

「はぁ!?あ・・ちょっと!」

極東に来たのだから、当然いるとはわかっていたが、敢えて会わないようにしていた人物、エミールである。

それを後ろから追いかけてくる、少女が一人。

「・・・・・どうも」

「ふふっ。相変わらず、口数が少ないんだね、君は。だが!わかる!君の内なる叫びは、この私との再会に、心振るわせるほど感動していることを!!」

変わらぬ華麗なポージングに、二人は「今日も疲れる」と、心の中で出会ってしまったことを呪う。

「・・・・帰っていいか?」

「いてよ!」

小さな声で会話しながら、愛想笑いを浮かべていると、エミールを追ってきた少女が、何やら家畜を値踏みするかのような目で、じろじろと見てくる。

「えっと・・」

「貴方達ね。ブラッドっていう、新しい部隊は」

「・・・それがどうかしたか?」

「別に。ただ、はっきり言わせてもらうけど・・・」

「ギルバート君!君も久しぶりだ!なに。決して忘れていたわけではないのだよ。だが感動の再会を表すのに、二人同時などと、つまらない事で薄れさせてはならないと思ったからね!!」

「エミール、うるさい!!今、私が話してたでしょ!?」

噛みあっているのか、いないのか・・・。もしや同じ部隊と思った二人は、隊長の気苦労を、会ったこともないのに心配する。そこへ、

「おう!待たせたな!って・・・、またやってんのかよ・・」

その隊長らしき人がやって来る。

「あれ?この人達って・・」

「隊長!さぁ、今日は!誰がために立ち上がれば、いいんだい!言ってくれ!応えて見せる!この、騎士道・・・」

「隊長が早く来ないから!こいつなんかと待たされるし!」

「あー、もう!うるさい、うるさい!お前等に聞いた、俺が馬鹿だったよ!」

二人が喋り続けるのを黙らせてから、隊長らしき青年は、自己紹介を始める。

「見ない顔ってことは、君等がブラッドだよな?俺は、藤木コウタ。第1部隊の隊長を・・・押し付けられたんだけど」

「「・・・はぁ・・」」

「じゃあ、ソーマさんあたりと代わって下さい」

「必要ならば!この騎士道精神を持つ、僕が!」

「1番ありえないわよ!!」

極東の第1部隊は、最前線の更に最前線で戦う、過酷な部隊と聞いていたものだから、ヒロとギルは揃って「別の意味では?」と疑いの眼差しを向けてしまう。

「あー、うっさいよ!本当に!お前等はいいから、あっちで準備してろ。すぐ行くから」

「了解した!」

「ふん!」

二人を追い払ってから、コウタは頭を掻きながら、頭を軽く下げる。

「何か、ごめんな?変なこと言われてたりしたなら、後でとっちめとくから・・」

「あ、いえ・・。・・・あ、すいませんでした!ブラッド副隊長、神威ヒロです!」

「ブラッド隊員、ギルバート・マクレインです。・・・心中、お察しします」

「よろしくな!って・・・・頼むから、言葉にしないでくれません」

ギルは気遣ったつもりだが、コウタにとっては、その言葉を受け取ることが切なくて嫌なのだろう。がくっと頭を肩ごと落とす。

と、そこへいつ戻ったのか、騒いでいた少女が、ヒロの前に立っていた。

「・・エリナ・デア=フォーゲルヴァイデ・・・。貴方、副隊長なのね?」

「え?・・・・あ・・、はい」

睨みつけてくるエリナに少し驚くヒロ。そんな彼に、「ふん」と鼻を鳴らしてから、エリナは言葉を投げつける。

「別に、貴方達の力なんて、必要ありません。極東を舐めてると、痛い目見ますよ?」

「エリナ!いい加減にしろよ!」

ゴッ

「あいたっ!!」

わかりやすく敵意を向けたエリナに、流石に目に余ったコウタが殴りつけて、頭を下げさせる。

「本っ当にごめんな!こいつ、口だけは達者で・・」

「なっ!?口だけじゃ・・はぎぎっ」

「いいから謝れよ!」

「くぅ・・・・・・・・・・・・・・、・・・・・ごめん」

ぼそっと言ってから、コウタの手から逃れ、べーっと舌を見せてからエミールの元へ走り去る。

普段は温厚であろうコウタも、肩を震わせ怒りを露わにしているが、目に入った時計を見てから、急に慌てだす。

「あっ!と・・えっと・・、悪い!ちょっと、急ぎの仕事があるから!歓迎会の時に改めて!」

そう言って二人のところへ走り寄り、そのまま神機保管庫の方へと消えていく。

残されたヒロとギルは、またも同時に溜息を吐いてから、疲れた面持ちで団欒室へと足を運ぶ。

「・・・・・あの隊の隊長は、嫌だな~・・」

「あれはあれで、バランスとれてんじゃないか?」

 

 

夕方になると、ブラッドは1度集まってから、歓迎会に参加すべく、団欒室へと向かう。

事前にレンカから教えてもらった通り、エントランスには人影はなく、任務も緊急以外受け付けないようにされているようだ。

団欒室に入ると、部屋全体に飾りが施され、『ようこそ!ブラット隊!&お帰り!歌姫!』と書かれた横断幕が目に入る。

『ブラッド』が『ブラット』なのは、ご愛敬で・・・。

「わぁーーー!すっごーーい!!」

ナナは集まった人達や、テーブルに並べられた数々の料理に目を輝かせ、まだ始まってもいないのに、はしゃいでいる。

「流石に・・・、壮観だな。名の通ったゴッドイーターばかりだ・・」

珍しくジュリウスも感動しているのか、言葉を口にしながら歓喜を表す。

そこへ、こちらに気付いた一人の青年が、話していた人間に手を上げてから、駆け寄って来る。

「えっと、君等ブラッド隊でよかったか?」

「はい」

ジュリウスが代表して答えると、青年は1度頷いて見せてから挨拶をする。

「俺は今日の接待役を任されてる、大森タツミ。極東支部防衛班の隊長だ。よろしく!」

「ブラッド隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。よろしくお願いします」

「あぁ。まぁ、とりあえず君等はこっちへ」

軽く握手を交わしてから、タツミに案内されて、用意された席に着く。

そこでふと気になってか、ヒロがタツミへと声を掛ける。

「あのー・・・、今日はレンカさんじゃないんですか?」

「あいつ?あいつは今忙しくてな。こっちに手を回せないから、俺が頼まれたんだ。あー、顔は出すと思うから、始まれば会えるぜ。じゃっ、もうすぐ始まるから」

そう笑顔で手を振ってから、タツミも自分の席であろう場所へと戻る。それに合わせて、挨拶用のマイクを準備していたコウタが、「テス、テス」と軽く喋ってから、ささやかながらのパーティーの幕を上げた。

「えー、それでは!主役も到着したので・・・、フライア所属ブラッド隊の歓迎アーンド、極東の歌姫お帰りなさい会を、はっじめまーす!!」

《イエェーーーーーーーーイッ!!》

それぞれの席を綺麗に整列させて用意されているから、もっと堅苦しいものかと思っていたブラッドは、極東のはじけっぷりに、驚き、そして、笑顔になった。

 

しばらく続いたクラッカー音や拍手が治まった頃を見計らって、カンペを確認しながら、コウタが喋り始める。

「えー、まずはですね・・・、極東を代表して、榊支部長様に、今夜は無礼講の、お許しをいただきましょう」

そう名を呼ばれてから、少しだけ困った表情で、榊博士がマイクの前へやって来る。

「ふむ。まぁ、私から言えることは、ただ1つだ。・・・ツバキ君にだけは、ばれないように気を付けてくれたまへ」

《はーーーい!!》

「では、楽しもう」

《おっしゃーーーーーーーー!!!》

最高責任者の言質を取って、より一層盛り上がる極東支部。ただ、ブラッドだけが、「ツバキ」という名に、首を傾げるが・・。

榊博士と入れ替わりに、コウタがマイクへと戻ってきて、手元の紙を確認してから1度頷いて口を開く。

「続きまして、ブラッドを代表して、隊長のジュリウスさんに、一言いただきましょう!拍手!!」

《イエーーーーイ!!》

聞いていなかったのか、少し固まってしまうジュリウスを、ヒロが隣から小突いて気付かせる。それに、ジュリウスは困ったという風に苦笑しつつ、マイクの方へと歩み寄り、いつもの涼しい表情を作る。

「ご紹介に預かりました、フライア所属ブラッド隊の隊長、ジュリウス・ヴィスコンティです。本日は、このような素晴らしい会を開いて下さり、隊員共に、感謝の気持ちでいっぱいです」

いつも通りに喋っているジュリウスに、極東の人達は感心しているが、ブラッドの方は苦笑いしてしまう。

例えるなら、子供の誕生日に、クソ真面目な教員が卒業式の祝辞を読んでいるようなものだ。

「数々の偉業を成し遂げた先輩方に倣い、そして学び。我々もそれに恥じぬよう、努力する所存です。至らぬところはありますが、どうぞご指導、ご鞭撻のほど、よろしくお願いいたします」

《・・・・・・・・お・・おおぉぉぉっ!》

少しの間の後の礼に、完全にタイミングを外しつつも、皆ジュリウスの素晴らしい挨拶に拍手を送る。

「何とも・・」といった空気に、進行のコウタも苦笑しながら、次の指名者の名を口にする。

「えー、っと・・。それじゃあ・・、極東の歌姫、葦原ユノさん!お願いしまーーーす!!」

《うおぉぉぉぉぉーーーーー!!!ユーーノさーーーーーーーーん!!!》

世界中に指示されているとはいえ、やはり地元。極東地域の人気は、計り知れない感じだと、ヒロが感心していると、隣に座っていたロミオも、立ち上がって叫んでいた。

「ユノさーーーん!!」

「ロミオ・・・」

「先輩・・」

そんな彼を、ブラッド女性陣は白い目で見つめる。

少し照れながらも、マイクの前まで笑顔でやってきたユノは、高揚した気分を落ち着けるように、深呼吸してから喋り始める。

「えっと・・・皆さん・・・、ただいま」

《おかえりーーーー!!!》

「あははっ。えっと・・・私とサツキの旅も、ようやく一区切り付きました。ですので、これからは、ネモス・ディアナと極東に身を置きつつ、活動をしていくことになります。これから、迷惑をかけることもあるかもしれませんが、サツキ共々、仲良くしてください」

《当たり前だーーーーーー!!!》

「・・・こりゃ、軽く宗教だな」

その光景に、ギルが肩を竦めて声を洩らす。

まぁ、アイドルとファンの関係なんて、こんなものだ・・。

「・・それじゃあ、1曲歌っちゃおうかな?」

「待ってました!実は、すでにピアノとマイクの準備万全!」

知っていてわざと口にしたのだが、大袈裟に反応するコウタが可笑しくて、ユノは笑いながら、ピアノの席に着く。それから、馴らしで簡単に音を奏でる。

「や、やや、やべぇ・・・。生で・・・聴けるよ・・」

緊張からか、椅子ごとカタカタ震えるロミオを、ヒロが隣で落ち着かせていると、奏でるメロディーに変化が生じたと気付く。

そして、歌姫の声が、部屋中に響き渡る。

 

窓を開けて 濡れたその瞳上げて

凛と澄み渡る青空は

激しい夜の雨に磨かれた空

悲しみを見つめた眼は

優しさ湛えるよ

未来はあなたを見捨てない

勇気の断片(かけら)があれば

 

歌詞の言葉を一つ一つ噛みしめながら歌うユノ。そんな彼女の目に、ある人物が映る。それに笑顔を作ってから、歌い終わると同時に、

「え?・・・あれ?」

1曲のつもりで構えていたコウタが、予定外の事に声を洩らす。急に別のピアノ伴奏を始めたユノは、そのままもう1曲歌いだす。

 

終わらない歌がないなら

くり返し歌えばいい

枯れない花がないなら

別の種蒔けばいい

life・・・my life

 

突然の2曲目に、皆驚きながらも、その澄んだ声に耳を傾け、終わった瞬間、盛大な拍手を浴びせるのだった。

 

 

 





歓迎会は、やっぱ派手でないと!
歌姫ユノ様、降臨ーーー!!



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17話 地上最強

 

 

 

「それじゃあ、今日は立食パーティー形式をとってるから、自由に飲み食いして、時間が許す限り、騒げーー!!」

《イエーーーーーーーイ!!》

ユノの歌が終わってから、コウタが食事のGOサインを出すと、皆料理に飛び掛かるように動き出す。ブラッドからも、ナナがその中をすいすい泳ぐが如く割って入っていく。

そんな中、歌い終えたユノを、ヒロは何となく目で追ってると、ある人物の前で足を止め、話し掛けているのが見える。

その姿に、ヒロは思わず身震いし、我を忘れたかのように、そこへと足を運ぶ。

 

ユノが駆け付けるのを目にし、青年はその長身を預けていた壁から離れ、ユノへと歩み寄る。

「帰ってたんですね」

「あぁ。気を遣わせたか?妹」

「兄さんの親友ですから。ソーマさんは」

「ふん。兄妹揃って・・」

褐色の肌にかかる雪のような白髪をかき上げてから、ソーマ・シックザールはユノに笑いかける。

「あいつは・・・間に合わなかったみたいだな」

「えぇ。兄さんはイタリア支部の方に行っているみたいです」

「そうか。・・・だが、リンドウは戻ってきてるだろう?」

「俺が、なんだって?」

名前を出した矢先に、ソーマの肩に手を回してきた雨宮リンドウ。その後ろから、アリサとレンカが顔を出す。

「リンドウさん。お久しぶりです」

「よう!お前さん、また綺麗になったな」

「そ、そうですか?」

「あんまりお痛が過ぎると、サクヤさんに報告しますよ、リンドウさん」

「おいおい。この程度、別に構わんだろ」

手をヒラヒラ振ってからアリサに反論するリンドウの腕を、ソーマは掴んで肩から外させる。

「いい加減重い。・・・空木、変わりないか?」

「あぁ。今のところ、ソーマの手を借りる程の問題は無いから、研究の方を優先してくれ」

「そうか・・」

「あらあら。クレイドルが揃って、悪巧みですか?」

後輩に掴まってるコウタと、遠征で戻ってない二人を除いて、独立支援部隊クレイドルが揃った場所に、サツキもひょっこり顔を出す。

「おう、サツキちゃんも久しいな。また背が伸びたか?」

「こんな歳で、伸びるわけないじゃないですか。もう酔ってるんですか?リンドウさん」

「まったくです。あ、サツキさん。例のサテライト拠点の第3建設予定地の件、話がまとまりましたよ」

「うっそ!?流石アリサさんは、仕事が早い!」

「おいおい、仕事の話を今するなよな~」

クレイドルと深い縁を持つユノとサツキ。会えばまるで家族のように、話の輪が広がる。とそこに、

「・・・・あの」

「ん?」

ソーマの前まできたヒロが、話し掛けてきたのだ。

「ソーマ・・・・シックザールさん、ですよね?」

「あぁ。・・・お前は・・・・、確かブラッドの・・」

「神威・・ヒロです」

「・・・そうか。お前が、あいつの言ってた・・」

意味深な言葉と共に、ヒロへと体ごと向けて立つソーマ。その威圧感に、ヒロは緊張で背中に汗を流す。

「ほぉ~。あん時の少年か・・。男はすぐデカくなるな」

「リンドウさんも、面識あったんですか?」

「あぁ。ユウと姉上と、回り始めにな」

「あ、あの・・・・その・・・」

ユウとソーマのことが気になり、歓迎会の前の空いた時間を使って、ヒロが調べたこと。

独立支援部隊クレイドル。旧極東第1部隊。

その顔ぶれが揃っていることに、今頃になって気付き、ヒロは背中だけでなく、全身から汗が噴き出る。それと一緒に、ソーマに聞きたかったことも、零れてなくなってしまい、軽くパニックになってしまう。

「なんだ?用でもあるのか?」

「この状況で、その聞き方自体、どうかと思いますけど?」

「ヒロさん。ソーマに質問があるなら、何でもおっしゃってください。彼なら答えてくれますよ?」

「出たよ!姉上仕込みの他所向け敬語!気持ち悪~」

「なっ!リンドウ!」

周りが盛り上がるばっかりで、話が進まないのをよくないと思ってか、ソーマは溜息を吐いてヒロの腕を掴む。

それから振り返り、ユノへと声を掛ける。

「妹。悪いが話は明日以降でもいいか?こいつが、俺に用事らしいしな」

「え?あ、はい」

「それと、ユウの近況なら、リンドウに聞いた方が良いだろう。・・・おい、行くぞ」

「わ・・ちょ、えぇ!?」

言うだけ言って話を終わらせ、ソーマはヒロを引っ張って、団欒室から表へ出た。

 

「・・・行っちゃった」

「リンドウさん、あの子殺されたりしませんよね?」

「サツキちゃんはソーマを何だと思ってんだよ」

「大丈夫ですよ。ソーマは何だかんだいって、優しいですから」

「本当に。柔らかくなっちゃいましたよね。ソーマ」

 

 

騒ぐのが嫌いなわけではないとはいえ、何となく取り残されたギルは、ビリヤード台の近くの椅子に腰かけて、一人ビールを飲み干す。

最初口にした時には、2度と飲むかと思っていたが、ある時から飲むのがやめられなくなっている。

(・・・・やっぱり・・・、まだ不味いです。・・ユウさん)

「フラッキング・ギル」なんて不名誉な呼ばれ方をされ、いつしか腐っていた自分を叱ってくれた尊敬すべき人を思い出しながら、ギルは持ってきていたビールをもう1本手に取り、喉へ一気に流し込む。

「・・・・酒、飲むようになったんだな?ギル」

「え?」

聞き覚えのある声に、ハッと顔を上げると、そこにはかつての上官の顔があった。

「・・ハルさん!?」

「よぉ!ブラッド隊に、転属してたんだな」

そう言って隣に腰を下ろした真壁ハルオミは、ギルの持ってきていたビールの1本を拝借し、勝手にぐいっと流し込んでから、笑顔を見せる。

「ハルさんこそ、極東に転属してたんですね」

「あぁ。グラスゴーから逃げ出して、シカゴ支部に行ってたんだが、肌に合わなくてな。結局古巣の極東に戻ってきちまったよ」

「そう、ですか。・・・そういえばハルさん、極東出身でしたよね?」

突然のハルオミの登場に、少し緊張してしまうギル。かつての上官と部下にしては、妙な空気ではあるが・・・。

そこへ、

「ギルー!」

ナナが両手にチキンを持って、走って来る。

「ん?・・ナナか。どうした?」

「あのね、ヒロがいないんだけど、誰も知らなくて・・。ギル、知ってる?」

「いや・・・。わかった、俺も探す」

そう言って逃げるように立ち上がってから、ギルはハルオミに軽く一礼する。

「ハルさん、すいません。用事が出来たんで・・」

「あぁ、構わないさ。一緒の支部にいるんだ。またゆっくり、話そうぜ」

「はい。ナナ、シエル辺りが知ってるんじゃないのか?」

「そのシエルちゃんが、オロオロして言ってきたんだもん」

二人の去って行く背中を見送ってから、ハルは残りのビールを一気に流し込み、それから切なげに笑ってから言葉を洩らす。

「まだ・・・、気にしてんのかよ。・・・・ギル」

なんだか無性に、昔辞めた煙草を吸いたくなったハルの目の前に、タイミングよく煙草が1本飛んでくる。それをキャッチしてから視線を向けると、リンドウが壁に背を預けて右手を上げて見せる。

「・・リンドウさん」

「ハル。付き合わねぇか?」

そんな気遣いに、軽く肩を上げて見せてから、ハルは立ち上がりリンドウの元へ歩き出す。

「リンドウさんの誘いじゃあ、断れませんな~」

「こらこら~。悩み多き若者への救いの手を、悪の道への誘惑みたいに言うんじゃない」

そうして二人連れ立って、喫煙室へと足を運ぶ。

 

 

静まり返ったエントランスの一角。

ソファーに腰を落ち着けてから、ソーマはヒロへと声を掛ける。

「悪かったな。・・・基本極東は騒がしいのが好きな連中が揃っていてな」

「え・・・いえ。僕が緊張して、話せなかっただけで・・」

「そうか・・」

元々物静かな性格のソーマに、少しだけ落ち着きを取り戻してから、ヒロは話し掛けてみる。

「あの・・・、ソーマさんは・・やっぱり、強い・・・ですよね?」

「あ?・・・そんなことが、聞きたかったのか?」

「・・えっと・・・、さっきてんぱっちゃって、聞きたいこと、忘れちゃって・・」

少し恥ずかしそうに頭を掻くヒロの様子を、ソーマは黙ったまま見つめる。それから、何か思うことがあったのか、フッと笑みを浮かべてから、口を開く。

「何を基準に言ってるかわからないが、俺は周りが騒ぎ立てる程、強くはない。「地上最強」ってのも、フェンリル本部に威厳を示すために、親父が言い出したのが切っ掛けだしな」

「そう・・・だったん、ですか」

「あぁ。後は尾ひれがついて、今に至るって訳だ」

以外にも普通の応対をしてくれるソーマ。話に聞いていたより、ずっと友好的な人なのかもと、ヒロは少しだけ笑顔を作る余裕ができる。

そこへ、

「ヒロ、探したぞ」

「あ、ジュリウス」

団欒室から出てきたジュリウスが声を掛けてくる。

その言葉に、ヒロはブラッドの誰にも何も言わず行動してたことを、今更ながら思い出す。

「ごめん。よく考えたら、誰にも言ってなかったね」

「いや、構わない。シエルが一人騒いでいたと、ナナから聞いたからな」

そう言って笑いかけてくるジュリウスに、ヒロも笑顔を返す。そんな光景に、在りし日の自分と親友を重ねて、ソーマは懐かしさに目を閉じてから立ち上がる。

「ヒロ・・だったな。また聞きたいことがあれば、榊のおっさんの研究室に来い。運が良ければ、そこに大抵いる」

そう言って歩き出した彼に、ジュリウスがハッとして声を掛ける。

「ソーマ・シックザールさんと、お見受けします」

「・・・・そうだ」

ジュリウスの呼びかけに、足を止めて振り返るソーマ。彼も最強に話を聞いてみたいのかと、ヒロは楽観的に考えていると、ジュリウスは飛んでもないことを口にした。

「地上最強の異名を持つあなたに、お願いがあります。私と、お手合わせ願えませんか?」

「え?・・・」

「ほぉ・・」

ヒロとは違い、特に驚きもしないで、ソーマはジュリウスへ聞き返す。

「何故俺と、手合わせなんだ?対人格闘も必要ではあるが、俺達が相手するのは、荒神だぞ?」

「理解しています。ですが、その強さを知るのに、直接肌で受けた方が、身になると考えたからです」

そんな彼の目を見てから、本気なんだと思い、ソーマは目を閉じてから「ふん」と鼻を鳴らす。

その瞬間、

ドクンッ!

「「・・っ!!?」」

その殺気を向けられたジュリウスだけではなく、その場にいたヒロも、心臓を鷲掴みにされたような恐ろしさに、身を震わせる。

「・・・最強なんてものに、興味はねぇんだ。俺も、あいつもな・・。だが、実戦に出だしのひよっこに舐められる程、弱いつもりもねぇ」

「・・・・重々・・・、承知しています・・」

「・・・うっ・・」

気圧されないように足を踏ん張らせる二人に、面白いといった感じで冷たく笑いかける。

「良いだろう・・。明日の朝7時に、訓練所に来い。・・・怪我ぐらいで済むなんて甘い考えは、捨てて来いよ」

そう言ってソーマは、神機保管庫の方へと去って行った。姿が見えなくなってから、二人は膝をつき、呼吸を整えるのに、暫くの時間を要するのだった。

 

ジュリウスとヒロがいるすぐ近くの階段下で、残りのブラッド四名も、ソーマの殺気にあてられてか、その場で呼吸を荒げている。

外を探していたのを戻ってきたところ、ジュリウスの話し声にそこへ向かった瞬間、その恐ろしさに、思わず階段下に隠れたのだ。

防衛本能とでも、言うべきものが働いて・・。

今だ治まらぬ呼吸のまま、ギルが声を洩らす。

「はぁ・・はぁ・・、俺も、・・明日参加する」

「本気・・・はぁ・・はぁ、です、か」

シエルの問いに答えるように、ギルはゆっくりと首を縦に振る。

「あいつ等だけ・・はぁ・・、先に、行かせるかよ・・」

「そう、ですね・・はぁ・・。私も・・参加します」

「はぁ・・はぁ・・はぁ、んっ・・あ、あたしも・・やる」

「はぁはぁはぁ・・く・・ぎぃ、お・・・はぁ・・俺も・・やるよ・・」

それぞれの思うところを胸に、ブラッドは明日対峙する、最強の恐怖に、立ち向かう覚悟を決めた。

 

 

「えーっ!?本気なの!?」

「あぁ・・・」

自分の神機の調子を伺いに、リッカのところへやってきたソーマは、ついさっきの出来事を、リッカに世間話感覚で口にしたのだ。その話に、リッカは溜息交じりに、「どうかしてる」と頭を掻く。

「そんなことより、神機はどうなんだ?」

「そんなことって・・・。まぁ、ソーマ君は細目に調整に出してくれるから、良好かな」

「ならいい。明日は、昼に1度出る」

それだけ言ってから、ソーマは立ち去ろうとする。そんな彼の背中に、リッカは何か気にかかってか、声を掛ける。

「それで?・・・ブラッドの方は、どうする?」

「・・・ふん。どうせ、察しはついてるんだろ?」

そう返してくるだろうと予想していたのか、リッカは苦笑してから作業台へと戻る。

「わかったよ。・・・あんまり、苛めないであげなよ?旦那様のお気に入りも、いるんだからさ」

「お前の旦那程、俺は優しくできないな・・」

「あっそー」

手をヒラヒラさせて話を切ったリッカを見てから、ソーマはその場を後にした。

 

 

 





結構一気にアップしました!

その理由は、ソーマがかっこいいからです!
ちょっと色付けすぎてる気がしますけど・・・w



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18話 覚悟の重さ

 

 

早朝。トイレに行きたくなり、コウタは体を起こす。

目を擦って周りを見渡すと、どうやら昨日のどんちゃん騒ぎのまま眠ったらしく、団欒室の床に転がっていたみたいだ。

コウタだけでなく、ほとんどの人間が眠りこけている中、一人厨房スペースで鼻歌を歌いながら、支倉ムツミが鍋をかき混ぜている。

配給の食事にケチをつけてみると、9歳にして調理師免許を持つ彼女が、ここを取り仕切る料理長となったのだ。

「あー、だり・・。おはよう、ムツミちゃん」

「あ、起きたんですか?おはようございます、コウタさん」

笑顔で応えてくれるムツミに、笑って見せてから、トイレへと足を運ぶコウタ。そこでふと何かを思い出したように戻ってきて、焦った様子でムツミに話しかける。

「ムツミちゃん!ブラッド隊の人達は!?もう起きてる!?」

「え?あ、はい。朝食はいらないって、さっき来られましたけど」

「やっべー・・。俺幹事なのに、最悪だー!」

頭を抱えて暴れるコウタに、ムツミは少し神妙な顔で、声を掛ける。

「あ、でも・・・」

「え?な、なに?」

「なんだか・・・・皆さん・・、これから任務に向かう様な、ピリピリした雰囲気でしたけど・・」

その言葉に、コウタは急に真顔になり、首を傾げる。

「それは・・・、おかしいな。確か感応種の緊急任務以外、今日までブラッドは休暇扱いにするって、レンカが言ってたんだけど・・・」

少し考えるように顎に手を当て、床を見つめるコウタのところに、エリナが焦った表情で入って来る。

「た、隊長!大変です!」

「あー?今俺取り込んでんだけど・・」

どうせまたエミールと揉めたのだろうと、追い返そうとしたコウタに、エリナはその真相を口にする。

「そ、ソーマさんと、ブラッド部隊の人達が、戦闘訓練で組み手をするって!」

「・・・・・・・・・・・・・はぁー!?」

 

 

ほんのごく少数ではあるが、訓練所の外に見物人が集まる。

それに緊張などしていないかと、ソーマはブラッドに目を向ける。

それぞれに覚悟を決めてきたのだろう。その強い眼差しに、ソーマは満足気にフッと笑う。

「・・・・最初は、誰だ?」

「・・・私から、お願いします」

「ふん・・。言い出したのは、お前だったしな」

ソーマは2,3歩前に出て立ち、それに合わせてジュリウスは全員下がらせる。どのタイミングで攻めるか、動くか・・・。色んなことを頭の中で反復させながら、ジュリウスはゆっくり構える。

じりじりと距離を詰めていく中で、ジュリウスはあることに気付く。ソーマが構えを取らないのだ。それどころか、その場所から、動こうともせず、ただ視線だけでジュリウスの動きを追っている。

「・・・・構えないのですか?」

「構える必要、あるのか?」

その言葉が切っ掛けとなり、ジュリウスは一気に距離を詰めにかかり、そして木刀で素早く下から斬り上げる。

(とった・・・)

しかし、

ブンッ

「なっ!?」

完全に虚を突いた1撃のはずが、それは大きく空を切り、音だけが部屋に木霊した。

「・・・・どうした。隙だらけだぞ?」

「くっ!」

そう声を掛けられ、ジュリウスは後ろへと大きく距離を取る。そこですぐに構えなおし、ソーマの出方を伺う。

しかし、その行為に期待外れといった感じで溜息を吐き、他の待機しているブラッドのメンバーに喋りかける。

「今のこいつ以上のことが出来るというやつ、前に出ろ」

そう問われるとは思っていなかったのか、聞かれたブラッドも、ジュリウスも、驚きに体を強張らせる。

その反応に全て察したのか、ソーマは「ふん」と鼻を鳴らしてから、自分の中の狂気にそっと触れる。

「大体わかった。とりあえず、今度はこちらも攻撃する。・・そのかわり」

ドクンッ

昨日同様、殺気を叩きつけ、冷笑する。

「動けないやつは、下がってるんだな」

その瞬間、ソーマの姿はジュリウスの懐に入り、

ドゴッ!

「・・っがぁ!」

力任せにジュリウスをブラッド目掛けて吹き飛ばす。

ガァーーンッ!

大きな音が鳴ったと思った時には、ブラッド全員、床に倒れ伏していた。

「か・・・かはっ・・」

「う・・・くっそ・・」

「そん・・な・・」

「ジュリウスが・・・簡単に・・」

「ま・・・・・マジ・・かよ」

「ここ・・まで、とは」

苦しむ六人を見下ろしながら、またもソーマは溜息を吐く。

「・・・・誰も反応できなかったのかよ。言っとくが、今のは技でも技術でもない、ただの力任せだぞ。・・そんなもんか?お前等は・・・」

その言葉に、皆目を大きく開き、絶句する。

 

外から見ていたエリナは、その凄さに、内から溢れる優越感に、顔を綻ばせる。が、そんな彼女の頭に、コウタは軽く手を置いてから、目の前の光景から目を反らさずに口を開く。

「何喜んでんだ、エリナ。お前なら、今のソーマの1撃、どうにか出来たとでも言いたいのか?」

「え?・・あ・・・・、そ、れは・・・」

言葉に詰まってしまうエリナに、コウタはそのまま優しく撫でてから、エリナに声を掛ける。

「よく見とけ。うちの二人の最強の力が、伊達じゃないってことを・・。そして、それに立ち向かおうと踏ん張ってる、ブラッドのことを・・」

 

中々動けないでいるブラッドに飽きたのか、ソーマは無防備に歩み寄りながら、彼等のプライドを挑発する。

「面倒だ。一人ずつが怖いなら、全員で来い。それで、互角ってことにしてやる」

《っ!!?》

それでやっと奮起してか、ブラッドは全員で一気にソーマへと踏み込む。一人、二人、三人と、斬りかかっていく。

だが、それを焦る様子もなく、ソーマは最小限の動きで躱し、隙を見つけてはその者に1撃入れていく。

「く・・・っそーーー!!」

悔しさに叫ぶヒロの声も虚しく、ブラッドは体が動く限り攻め続け、そして・・・惨敗した。

 

 

ドサッ

ジュリウスが倒れたのを切っ掛けに、ソーマは終わりという様に、木刀を1度振ってから、ブラッドへと声を掛ける。

「良い時間だ・・・。少し早いが、昼飯でも食え。傷が痛むなら、医務室に行って寝てろ。俺はこれから用事がある・・・、じゃあな」

そう言って去ろうとするソーマの足を、ヒロが掴む。そんな彼の前に座り、ソーマは黙って見降ろす。

「・・・・まだ・・・・・・・・、お願い・・・しま、す」

やっとの思いで絞りだした声に、ソーマは溜息で応えてから、他のブラッドに目を向ける。すると、何とか立ち上がろうと、必死に身体を起こそうとしている。

「・・・・・まぁ、根性だけは認めてやる」

そう言って立ち上がり、ヒロの手を振り払う様に足を動かし、訓練所の出入り口へと歩き出す。そして、途中でと止まってから、全員に聞こえるよう喋りかける。

「2時間だ・・・」

「・・・・え?」

「2時間後に神機を持って、ヘリポートに来い。俺達の戦場に、連れて行ってやる。・・・無理にとは、言わないがな」

そう言ってソーマが去って行ってから、ブラッドは全員、悔しさに体を震わせた。

 

訓練所の出口を出てすぐの所で、リンドウが煙草を吸いながら手を上げて見せる。そんな彼に、「ふん」と鼻を鳴らしてから、ソーマは口を開く。

「喫煙所で吸えよ。臭いぞ・・」

「固いこと言うなって」

軽く笑って見せてから、リンドウは煙を吐いて喋りかける。

「ちっと厳しすぎやしねぇか?」

「あいつらが望んだことだ。俺に挑んだのも・・・強さを求めたのも」

「成る程。お優しいことで・・」

「何なら、お前が教えてやれ」

ソーマの言葉に、リンドウはヒラヒラ手を動かしてから、喫煙所の方へ歩き出す。

「知ってるだろ?俺は教えるのが、下手なんだよ」

「ちっ・・・・、言ってろ」

そう言って、ソーマはシャワー室の方へと、足を運んだ。

 

 

神機保管庫に集まったブラッドは、ボロボロの姿を隠そうともせず、大欠伸をしているリッカのところへとやってきた。

そんな彼等を見回してから、苦笑いを浮かべてリッカは頬を掻く。

「これは、また・・・・随分と、派手にやられたね」

「お見苦しい所を見せ、申し訳ありません」

代表して頭を下げるジュリウスに、大きく溜息を吐いて見せてから、リッカは部屋を出ようと歩き出す。

そして、伝えるべきことを・・・彼らが望んでいることを、口にする。

「神機の調整は終わってるよ。保管庫のIDも登録済み。言っとくけど、死ぬことだけは許さないからね」

「・・・ありがとうございます」

「はいはい。じゃあ、お休み」

そう言ってから出て行ったリッカの言葉に、シエルが真っ先に反応する。

「まさか・・・徹夜で、作業して下さったのでは?」

「・・後で、お礼を言わねばな。・・・・行くぞ」

ジュリウスの声に合わせて、ブラッドは歩き出し、一人一人認証端末に腕輪を読み込ませ、自分の神機を呼び出した。

 

 

ヘリから降り立ち、しばらく歩いた場所で、先頭を歩いていたソーマが、全員の顔が見えるように振り返る。

「俺の用事は、ここに出現した大型荒神のコアの摘出だ。お前等には、その大型荒神との戦闘を任せる」

「承知しました」

「そうか。じゃあな・・・」

そう言ってその場から歩き去ろうとするソーマに、ロミオが慌てて声を掛ける。

「ちょ、ちょっと待って下さいよ!?」

「なんだ?」

「任せるって、ソーマさんはどこに?」

その質問に、言葉足らずだったかとソーマは考えてから、自分の立っている場所へ来いという風に、顎を動かす。

それに従って前へ進み出ると、自分達の真下の光景に、全員がその目を疑う。

数十体の荒神が、蠢いていたのだ。

「・・・まさかっ!?」

「俺は、こいつらを掃除しておく。だから、お前等は大型だけに集中しろ」

「掃除って・・・。一人でこんなにですか!?」

ヒロの言葉に、気にすることがあるのかといった目で、応えるソーマ。それから、言い忘れたことがあったのか、彼はブラッドに条件を付与する。

「一つ言い忘れてた。・・・ブラッドアーツを使わず倒せ」

「な!?そんな・・!」

「なければ、戦えないのか?」

「あ・・・・、いえ・・」

それだけといった感じで、ソーマはポケットから玉のようなものを取り出し、それを荒神の群れの中へ、思い切り投げつけるすると。

ギイィィィン!!

嫌な音が響き渡ったと思ったら、荒神が急に暴れだす。それを確認してから、ソーマは神機を担ぎなおしてから、ブラッドに声を掛ける。

「・・5分で合流する」

そう言って飛び降りてから、おとりになるように荒神を引き連れ、走り去った。

残されたブラッドが黙っていると、ジュリウスが皆へと口を開く。

「俺達も行くぞ。ブラッドアーツなしでも、俺達ならやれる」

その言葉に気を引き締めなおしてから、ソーマと逆の方向へと走り出した。

 

暫く進んだ先で、ブラッドは足を止める。今回の標的を発見したのだ。

しかし、その相手は、予想の斜め上のモノだった。

「まさか・・・・、ウロヴォロス・・」

ジュリウスの口にしたその名に、皆は驚愕する。

大型の中でも、超大型とされている荒神。ウロヴォロス。それを本来ならば、ソーマは一人で狩ろうとしていたのだ。

その巨体に緊張をしてか、全員唾を飲み込む。

しかし、今更引けないと覚悟を決めてか、ジュリウスの号令に合わせ、ブラッドは戦場へと飛び込んだ。

「行くぞ!」

《了解!!》

 

 

ギルの一突きで、1本触手が千切れ跳び、それに合わせて後ろに控える仲間へと、彼は叫ぶ。

「ヒロ!」

「はぁっ!!」

その一閃で、もう1本斬り飛ばそうとしたヒロだが、

ザズッ!

「くっ、そぉ!」

振り抜けずそれを蹴ってから、後ろに距離を取る。

ウロヴォロスは広範囲に放つ攻撃が多く、下手に受けてしまうと身体が麻痺してしまう。すでに、ロミオとシエルがその餌食となり、離れた場所で休ませてる状態なため、四人での戦闘となっている。

ブラッドアーツを使わないという条件以上に、初めての超大型の、しかも情報が乏しい状態での戦闘に、戸惑うばかりだ。

すでに満身創痍なのも相まって、上手く動けない戦闘に、皆徐々に苛立ちを見せ始める。

そこへ、

「ふん・・・。良く戦えてるじゃねぇか」

「っ!?ソーマさん!」

純白の神機を肩に、ソーマがやって来る。

皆の状態とウロヴォロスを見てから、フッと笑みを浮かべ、目の前に集まってる四人の前に立ってから、神機を構える。

「ウロヴォロスはデカいだけあって、その攻撃範囲や威力が厄介だ。だが、コアの場所さえわかっていれば、何のことは無い、ただの木偶の坊だ」

「そ、それは・・・・。しかし、我々には情報も戦闘経験も・・!」

「情報が無ければ、戦えないのか?」

ジュリウスの言葉を遮って、ソーマは問いかける。

「対峙したことがないから、ブラッドアーツが使えないから、体力も精神力もギリギリだからと理由を付けて・・・自分を、仲間の命を諦めるのか?」

「そ・・れ、は・・」

皆黙ってしまったのを切っ掛けに、ソーマはウロヴォロスへと走り出す。来させまいと、無数の触手を伸ばして攻撃してくるウロヴォロスに対し、ソーマは素早い動きで躱していき、高く飛びあがる。それと同時に、捕食形態へと切り替え、顔面に食らいつかせ、そのまま一気に振り抜いた。

ガボゥッ!!!

そのまま地に降り立ち、神機を肩に担いだ瞬間、ウロヴォロスの巨大な身体は、その場に崩れ落ち、オラクル細胞は霧散した。

目を疑いたくなるような光景に、今日何度目かの驚きを見せるブラッドに、ソーマは振り返って口を開く。

「これが・・・ゴッドイーターの本当の戦場だ。・・ようこそ、くそったれな職場へ・・」

本物の最強を目の前に、ブラッドは今まで積み上げた自信をへし折られた。

 

 

現場が見渡せる離れた場所で、リンドウとアリサ、レンカにハルが、密かに見守っていた。

沈黙を破るように、リンドウが煙草の煙を吐いてから喋りだす。

「レンカ・・。あいつらが道に迷わないよう、フォローしてやれ」

「・・いいのか?他所の部隊以前に、彼等は客人だぞ?」

そんなレンカの言葉に、リンドウは神機を担いでから背伸びをする。

「いいんだよ。極東だろうが何だろうが、あいつらも俺達の仲間だ。そうだろ?」

「・・・・空木教官。俺からも、よろしく頼む」

「ハルさん・・・・。わかった。」

レンカが頷いたのを確認してから、リンドウは踵を返して歩き出す。それに合わせて、三人も後に続く。

心配に思っているのか、アリサがリンドウへと話し掛ける。

「彼等は、大丈夫でしょうか?」

それに対し、リンドウは煙を吐いてから答える。

「お前も経験したことだ、アリサ。駄目なら、そこまでだ。・・・・だが、あいつ等なら、大丈夫だろ」

 

ブラッドの、長く、悔しい1日が、終わろうとしていた。

 

 

 





はい!ソーマ、最強!!ヒャッホーウ!!

万能じゃないからこそ、最後には化ける!
そう思って、勘弁して下さいw



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19話 英雄に憧れて

 

 

極東支部の開発局。そこの3階奥にある、榊博士の研究室で、ソーマは一人PCのキーボードを打ち、作業している。

そこへ、

ガチャッ

「いよっ!」

「ん?・・お前か」

コウタが缶コーヒーを2本持って、入って来る。

その内の1本をソーマに投げると、彼は特にそちらを見ずに、それを手の中に収める。

「少しは、休憩しろよ」

「・・・あぁ」

コウタの笑顔に観念してか、ソーマはデスクから立ち上がり、ソファーのところまで移動して腰を下ろす。

それから、手の中の缶を確認してから、それが缶コーヒーとわかってから、顔をしかめて舌打ちし、再び立ち上がる。

「ちっ・・・。コーヒーなら、自分で入れる。ついでに、お前のもな」

「あんだよ~。これ、美味いと思うんだけどな~?」

「俺は、お前ほど甘党じゃない・・」

そういって自動ドリッパーのスイッチを入れて、数分もしないうちにガラスポットの中にコーヒーが出来上がる。手慣れた手つきでカップに注ぎ、一つをコウタに渡してから、改めて腰を落ち着ける。

暫く黙って飲んでいたコウタが、ソーマに視線を向けてから口を開く。

「なぁ・・・。何で・・・このタイミングで、ブラッドの奴らに指導したんだ?」

「指導はしてねぇ。売られたから、買ってやっただけだ」

「喧嘩のつもりでアレかよ!?怖いんだよ!!」

思わずいつものノリで突っ込んでしまった自分に咳払いしてから、コウタは話を続ける。

「そうじゃなくって。・・・ブラッドは駆け出しだろ?正式に認定されて間もない新人の、自信を挫くことなかったんじゃないかって、言ってんだよ」

そんなコウタの言葉に、ソーマは手の中のカップをテーブルに置いてから、天井に顔を向けてから答える。

「・・・感応種が増え続ける今、遅かれ早かれ、あいつ等はゴッドイーターの中心となる。その時になって、遅かったじゃあ話にならねぇ。それは、あいつ等自身もわかってたはずだ」

「ソーマ・・・」

「お前だって、ピターの時に思ったんじゃないのか?・・俺も、その時痛感した」

「・・・・・あぁ」

今思い返しても、悪夢のような時間だったと、コウタは手の中のカップに力を籠める。

「荒神の成長は止まることを知らない。いずれ俺やユウも、殺されるかもしれない」

「お・・おいおい・・、よせよ・・」

「無いという保証が、どこにある?事実、俺達が経験した驚異の前で、ユウはいつでもギリギリだった。逆に言えば、あいつが限界を超えた力で踏ん張ってなかったら、極東どころか・・・下手をすれば、世界なんざ当に滅んでる」

「・・わかってるよ」

少し切ない気持ちで、自分の前でいつもボロボロの姿で戦う神薙ユウの背中を思い出し、コウタは目を閉じる。

「あいつ等は世界の希望になる。だから・・・今でいい。挫けるのも・・・、這い上がるのもな」

夜は静かに、時を刻む。

 

 

宿舎の近くの廊下で、ジュリウスは窓に手を置いて、外を眺めていた。

 

『今日は・・・、解散する。皆、明日からの任務に備えろ』

 

今日最後にブラッドに言った言葉を振り返り、本当はもっと言うべきことがあったのではと、ジュリウスは目を閉じて後悔する。

ブラッドの始まり。最初の第3世代のゴッドイーターにして、最初に血の力に覚醒したジュリウス。そのことに、自信を持っていた。早くに実戦を経験し、自分はやれると思っていた。

しかし今日、それは思い上がりだと知らされた。

(いや・・・違う。そうじゃないだろう!・・・)

そう。自分は最強と謳われる一人、ソーマ・シックザールとも渡り合える隊長なのだと、ブラッドの更なる躍進につなげようと・・・、正直舐めていたのだ。

(ソーマさんが言った時点で、気付くべきだったんだ。・・・『舐めるな』という言葉に・・)

結果、自分に巻き込まれる形で、ブラッドは自信を喪失している。それが歯痒くて、ジュリウスは顔を歪ませ、ガラスに顔を打ち付ける。

「・・・・意外ですね。貴方のような綺麗な顔の人は、そんな顔しないものだと思ってました」

突然声を掛けられてからハッとなり、ジュリウスは声の主へと顔を向ける。

「あ・・・あなたは・・」

「でも、その方が好感持てますよ?ジュリウスさん」

いつの間にそこにいたのか・・。優しく笑う、歌姫ユノが立っていた。

軽い足取りで隣まで来ると、ユノは大きく背伸びをしてから、ジュリウスに話し掛ける。

「聞きましたよ。ソーマさんに、ぼこぼこにされちゃったって」

「・・・私の・・、思い上がりのせいです」

もう知れ渡ってるのかと、ジュリウスは更に気落ちした表情になる。しかし、そんな彼の前に人差し指を突きつけてから、ユノは少し厳しい顔をする。

「わかりません?挑んだことが思い上がりじゃなく、今落ち込んでることが、思い上がりなんです!」

「え・・・・いえ、それは・・・」

「ここでうじうじして、自棄になってて、いいんですか?」

突然責め立てられ、ジュリウスは戸惑ってしまいながらも、ユノの言葉が、胸に刺さるのを感じる。

「ソーマさん、言ってましたよ?『極東の後輩達に見習わせたい、良い部隊だ』って。そんなソーマさんの気持ち、踏みにじるんですか?」

「・・・ソーマさんが・・・、そんなことを・・」

少しだけ生気が戻ってきた顔に満足してか、ユノは再び笑って見せる。そして、遠くの空に輝く、青い月を指さす。

「あの月・・・・。何故、青くなったか・・・知ってます?」

「あ・・・、いえ」

何故そんな話をと、困惑するジュリウスに、ユノは昔話を語る。

「荒ぶる神が蔓延る世界。その最前線である極東に、一人の白い少女が産まれました。彼女は・・・、人の形を模した、荒神でした」

「なっ!?・・それは、本当・・」

「最後まで・・・、ね?」

人差し指を前に、「静かに」という仕草を見せ、ジュリウスが黙ったのを合図に、彼女は話を続ける。

 

彼女は自分が産まれた意味がわからず、仲間も見つけられず、一人寂しく暮らしていました。

そんな時、一人の傷付いたゴッドイーターに出会い、『あ、これは仲間だ』と、優しく介護します。しかし、彼は突然いなくなってしまい、彼女は前以上に寂しさに襲われます。

それから数日が立ったある日、ご飯を食べに外へと散歩に出かけた彼女の前に、六人のゴッドイーターと一人の博士が現れます。

ずっと独りぼっちだった彼女に、彼等はご飯だけでなく、服や、知識や、言葉や、感情を与えてくれました。

そんな彼等の中の一人の少年に、少女は他の人達とは違った感情を覚えます。彼は、彼女に『シオ』という、名前をくれました。

シオは彼や仲間達が大好きになり、彼等もまた、シオを大好きになりました。

もう独りぼっちじゃない。寂しくないと思って暮らしていたある日、シオは彼等の目の前で攫われてしまいます。

彼女を攫われた怒りに奮起し、彼等・・・ゴッドイーター達は、攫って行った悪者と必死になって戦い、最後には勝利を収めます。

ですが、あと1歩間に合わず、シオは空っぽの身体を残して死んでしまいました。

悲しみに明け暮れる彼等に、そんな時間を与えまいと、悪者はシオを使った大きな実験によって作った、巨大な荒神を解き放ちます。

『終末捕食』。彼は世界を滅亡させようと、していたのです。

しかし、奇跡は起こりました。

巨大な荒神に取り込まれたはずのシオが、生きていたのです。

シオは、自分が巨大な荒神ごと宇宙に行くと言い出しました。勿論、ゴッドイーター達は、必死に説得します。

でも、シオは、『大好きなみんなを、殺したくない。食べたくないよ』と泣いて、自分の選んだ道を、許してほしいと頼みました。

そして最後に、一番大好きだった少年に、別れを告げ、彼の神機に、自分だった体を与え、空へと飛び立ちました。

少年の想いと、シオの想いが重なってか、彼の神機は、彼女の身体のように真っ白に変わり、皆それを見つめながら、泣き続けました。

止まらない『終末捕食』を月で起こし、世界を救った彼女は、今もそこで待っています。

また、みんなに・・・・彼に、会える日を・・。

 

話し終えたユノの横顔を見つめながら、ジュリウスは途中で止められた質問を、彼女へと改めて口にする。

「何故その話を・・・、いえ。今の話、創作ですか?それとも・・現実に、あったことですか?」

「貴方は、どっちがいいです?」

「え?・・・」

「貴方なら、どっちを望みますか?」

逆に聞き返されて、ジュリウスは少し考える。それから、何かを思い出したかのように、フッと笑みを浮かべて、ユノへと答える。

「私は・・・、事実であってほしいと、願います」

「そう。なら、明日から、また頑張れますね」

そう言ってユノは、自分の部屋に戻る為に、踵を返して歩き始める。そんな彼女を見送りながら、ジュリウスは自分の質問の答えを求めて呼び止める。

「あ・・・待って下さい、ユノさん!私の質問の答えを・・」

その呼びかけに足を止め、ユノは顔だけ振り向いてから、優しく微笑んで答えた。

「貴方達が大好きな、英雄の話ですよ」

 

 

誰もいない神機保管庫で、ヒロは自分の神機の前に立っていた。

そんな彼の耳に、ジュリウスが最後に言った言葉が、ついて離れない。

 

『今日は・・・、解散する。皆、明日からの任務に備えろ』

 

落胆していた。悲しんでいた。苦しんでいた。

それをわかっていたのに、自分の事でいっぱいいっぱいで、何も声を掛けれなかった。

そんな自分が嫌で、ヒロは手すりに置いた腕の中に、顔を埋める。

「・・あの・・」

「あ・・・・」

声を掛けられて驚き、ヒロは涙ぐんでいた顔を拭いてから、振り返る。

「シエル。・・どうしたの?」

仲間とわかってか、副隊長として情けない顔を見せまいとしてか、ヒロは必死に笑顔をシエルに作って見せる。

そんな彼に、シエルは黙って近寄り、その傷付いた背中に、体を預ける。

「副た・・・、ヒロ。・・無理に、笑わなくても、良いんです。貴方だって、辛いんですから・・」

「あ・・・その・・・、え・・・・・・・くぅっ!」

その優しさと温もりに、ヒロはシエルに見えないように、顔を歪ませ、涙を零す・・・が、

「はい、ストップ!!」

「「へ?・・・・・・ひゃぁっ!!」」

それを許さぬといった渋い表情で、リッカが手の平を前に出して、二人に声を掛けてきた。

そんな彼女の存在に跳びあがってから離れ、二人は思わず正座する。

「あ・・・の、その・・」

「ど、どうも・・。リッカさん」

何故か反省しなければという意思を込めて縮こまっている二人。それを見降ろしながら、リッカは盛大に溜息を吐いて見せる。

「あのねー、隠れてラブラブしたい気持ちは理解するけど、私と旦那様の思い出の場所でするのは、やめてくれる?なーんか、少しだけ似た状況だし・・」

「ら・・ラブラブなんて!?」

「ぼぼ、僕達は、そんな!?」

その初々しい反応に、またも溜息を洩らしてから、リッカは右手の親指を立ててクイッと捻り、自分について来いと合図する。

少し固まってから顔を見合わせ、ヒロとシエルはゆっくりと立ち上がり、リッカについて歩き出した。

 

自分の作業場に二人を連れてきてから、リッカは小さな冷蔵庫からビールを取り出す。それを喉に一口流し込んでから、移動した先の台に置かれた電話のワンプッシュダイヤルを押して、その隣へとすがる。

いったい何なのだろうと、二人が首を傾げていると、数回のコール音後に、スピーカーから声が響く。

『もしもし』

「もしもし。今、大丈夫?」

『うん、大丈夫だよ。時間通りだね』

「私があなたとの約束を、破ったことあったっけ?」

『うーん・・・、どうだったかな?』

「また、そうやって意地悪ばっかり言うんだから。そんなとこも、好きだけど」

何のこともない世間話を聞かされていると、シエルは疑問に疑問を重ねた顔をしていたが、隣のヒロの反応に、目を大きくして驚く。

彼は口を半開きにし、目にいっぱいの涙を浮かべて、震えていたのだ。

そんなヒロが、何か言おうと必死に口を動かしてるのに気付き、リッカはフッと微笑んでから電話の主に用件を伝える。

「先に話しすぎたね。すぐそこにいるから、彼。話したかったんでしょ?」

『うん。ありがとう、リッカ』

「いいえ、旦那様」

その言葉でハッとし、シエルもヒロ同様、緊張をその顔に見せる。

『聞こえる?ヒロ。僕の事、わかる?』

「・・・・・わす・・、忘れたことなんて、1日も・・・ありません、でした」

もう流れ出した涙で、ぐちゃぐちゃになった顔を隠すのも忘れて、ヒロはゆっくりとその場に膝をつく。そんな彼を、何故か自分までも感動に涙しながら、シエルが優しく肩を抱く。

『そう?嬉しいな。・・・ちゃんと、ゴッドイーターになったんだね。おめでとう』

「あ・・・あの・・、ありが、とう・・・ご・・・・うあっ・・」

もう抑えられない感情に、言葉が上手く話せないと判断してか、ヒロは大声で彼の名を叫んだ。

「ユウざーーーーーん!!!」

『うん。元気そうで、良かった』

ヒロにとって、彼の言葉こそが救いだった。

ユウの名を叫びながら泣くヒロ、それを支えながら貰い泣きするシエルを見守りながら、リッカは静かに笑みを浮かべてビールを飲み干した。

 

 

二人が去ってから、リッカは2本目のビールを取り出して一口飲み込む。それから、まだ繋がっている電話に向かって声を掛ける。

「あなたらしい、素敵なアドバイスだったよ。ユウ君」

『そうかな。上手く・・、伝われば良いんだけど』

心配そうな声を出すユウに、リッカは微笑みながら頬杖を突き、答える。

「大丈夫。ヒロ君も、ブラッドも・・・、ちゃんとあなた達の気持ちを理解できてるから。もっとも・・・、ソーマ君は遠慮ないと思うけど・・・・ね?」

「ふん・・・。優しくするとは、言ってねぇ」

そこにいたのを気付いていたのか、わざと嫌味を言ったリッカの言葉に、返事をしながらソーマが部屋に入って来る。

そして、それに続いて、リンドウ、コウタ、アリサ、レンカと、クレイドルのメンバーが入って来る。

「ぞろぞろとまぁ、夫婦の愛の語らいの邪魔をしに・・もう!!」

「ま、まぁ、良いじゃないですか。俺達は、滅多にユウさんとは話せませんし」

「ちわっす!ユウさん!マジ元気っすかー!?」

「ちょっと、コウタ!?押さないで下さい!ユウ、お久しぶりです」

「よう、ユウ。1ヶ月ぶりか?・・・そこに姉上はいないよな?」

『はは。いたりして・・』

『私がいたらどうだというんだ?リンドウ』

「ふん・・・。相変わらず、揃えば騒がしい」

ほんの一時ではあるが、クレイドルも久方ぶりの会話に、花を咲かせた。

 

 

 





こんな先輩、欲しいわ~。
書いてて、羨ましくなる。

本当の意味で、ブラッド始動です!




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20話 最前線の実力

 

 

 

極東支部の訓練所に、多くのゴッドイーターが集まっている。

珍しく大人数での戦闘訓練が行われるその場に、ブラッドもいた。

 

 

1時間前・・・。

「「お願いします!訓練してください!」」

朝早くに、レンカに頭を下げて懇願する、ナナとロミオ。彼等も一晩悩みぬいてから、自分達なりに答えを出したのだろう。

「訓練・・・ですか」

「はい!俺達は、このままじゃ、駄目だと思いました!」

「ずっとどこかで、隊長や副隊長に、甘えてたと思います!」

それぞれの思いを言葉にし、自分達の本気さを伝えようと、ロミオとナナは更に頭を深く下げる。

そんな二人の両隣で、別の頭が下がる。

残りのブラッドの、ジュリウス、ヒロ、シエル、ギルの四人だ。

「私達からも、お願いします。空木教官」

「ジュリウス・・・、おまえ」

「みんなも・・・」

全員の気持ちを受け止めたレンカは、小さく息を吐いてから、今一度覚悟を確認する。

「良いんですね?言っておきますが、私は・・・極東は、厳しいですよ?」

「覚悟は、出来ております。今度こそ・・」

ジュリウスが皆を代表して答え、他の者も相違ないと眼で訴える。

「・・・・わかりました。では・・・」

そう前置きしてから、レンカは厳しい目つきになり、腹から声を張る。

「頭を上げて、整列!」

《っ!?・・はい!!》

突然の対応変化に、1度ビクッと体を震わせるが、皆サッと直立し、レンカに注目する。

「いいか!?これからはお前達新人を、客人扱いはしない。俺の部下のつもりで対応してもらう。わかったな!?」

《了解!!》

サッと敬礼をして見せたブラッドに頷いてから、レンカは更に続ける。

「本日は極東の大半のゴッドイーターを集め、戦闘訓練を行う。お前達も参加しろ。木刀持っての、対人格闘だ。時間は今から1時間後。時間に遅れる様な事があって見ろ?ただじゃ済まさんぞ!いいな!?」

《了解!!》

伝達を終えたレンカは、そのままそこを去ろうとし、まだ動こうとしないブラッドに向かって、怒声を浴びせる。

「いつまで突っ立っているつもりだ!さっさと、動かんか!」

《は、はい!!》

 

 

皆が整列する前に、自分も木刀を手に、レンカが前に立つ。

「本日は、午前任務外の者、全員参加の対人戦闘訓練を行う!いつものように、二人一組となって戦闘を行い、勝負がついた者から次の相手を見つけ、戦闘を・・・その繰り返しだ!時間は・・・そうだな、2時間とする!それまで休むなよ!?」

《はい!!》

『いつも』という言葉を聞いて、ヒロは周りを見渡す。極東のゴッドイーターは、そんな訓練を当たり前のようにやってきたのだと・・・。

「それと、今日はブラッド隊も参加する。無様な醜態だけは、晒すなよ?」

《はい!!》

「・・あの!」

皆の返事の後に、エリナが思い切って手を上げる。それに、レンカは静かに視線を向ける。

「なんだ、エリナ?」

「・・・・それって、倒しちゃっても・・・良いんですよね?」

自信ありげな彼女の言葉に、周りはどよめき出す。しかし、その言葉を待っていたかのように、レンカは口の端を浮かせてから、答える。

「・・構わん」

その言葉に火がついてか、ブラッドの方も気合いを入れなおす。

皆が訓練の為に、気持ちを高ぶらせるのを確認してから、レンカは大きな声で、合図を叫ぶ。

「始めっ!!」

 

 

休みなく続く戦闘を繰り返す中で、ヒロは目の前に飛び込んできたエリナと対峙する。

エリナも疲れているのか、肩で息をしている。しかし、ヒロに向ける目は、まだ強く光っている。

「・・・ブラッドの、副隊長さん。余裕ですね」

「そんなことないよ。僕も少し疲れてる」

「じゃあ、それを理由に、負けを認めても良いんですよ?」

「・・・いや。僕は、負けないよ。そう簡単にはね・・」

お互い言葉での鍔迫り合い終えたとみて、ゆっくりと構えた木刀を揺らす。

「ふっ!」

「なっ!?」

先に動いたヒロの突進に、エリナは思わず気迫負けして、木刀を前に出して下がってしまう。その瞬間・・。

カンッ!

「・・あっ・・」

振り抜いたヒロの木刀によって、エリナの木刀は宙に舞ってしまう。それを目で追っている隙に、ヒロはエリナの首筋に木刀を当てる。

「・・・僕の勝ちだね。ありがとうございました」

丁寧に礼をしてくるヒロに、肩を震わせながらも頭を下げるエリナ。まさか1撃で決着がつくとは、思っていなかったからだ。

そんな彼女に優しく笑んで見せてから、ヒロは次の相手を探しに走り出す。その姿に、暫く悔しさから睨みつけていたエリナだったが、認めざるを得ない彼の強さに、溜息を吐いてから笑ってしまっていた。

 

残り時間を確認してから、レンカが戦うゴッドイーター達の様子を見ていると、

ガチャッ

「よう!教官殿!」

そうわざとらしく大きな声を掛けられ、そちらを向く。

訓練の真っ最中の者達も、その聞き覚えのある声に、思わず手を止めてそちらへと視線を集める。

「どうしたんですか?揃いも揃って・・」

レンカが声を掛けると、先頭に立って入ってきた青年が、大きく背伸びをしながら答える。

「ん~っ!・・・会議で体が固まっちまってさ。俺達も、混ぜてもらおうと思ってさ」

そういって笑う防衛班隊長大森タツミを筆頭に、クレイドルの雨宮リンドウ、アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、第1部隊長藤木コウタ、第4部隊長真壁ハルオミ、防衛班副隊長ジーナ・ディキンソンが姿を見せたのだ。

「いや~、やっぱ会議は苦手だわ。なぁ、タツミ?」

「リンドウさんは、ほとんど寝てたでしょうが!」

「でも・・・、少し体を動かしたいのには、賛同します」

「そうね~。ふふっ、楽しみたいわ」

「少しは成長したかどうか、見てやんねぇとな~」

「ハルさん・・。女の子ばっかり相手しちゃ駄目っすよ~?」

極東の隊長格の登場に、皆疲れとは別に、汗が流れ出す。

彼等の登場は予定外だったのか、レンかも少し驚いた表情を浮かべていたが、すぐに口の端を浮かせ、戦闘の止まった者達に向かって、声を張る。

「ブラッド隊!前に出ろ!」

呼び出されたことに驚きつつも、それぞれ前へと進み出てくる。

全員の顔を確認してから、レンカは自分の後ろで木刀を手にする隊長格を指さし、ブラッドへと命じる。

「丁度いい。お前達には、まだ越えられない壁があることを、改めて認識してもらう。・・・・うちの隊長格に、相手をして貰え」

そう言ったレンカの真意を組んでか、隊長格はそれぞれに名指しで相手を指名する。

「ジュリウスだったな、隊長さん。俺が相手をしてやるよ」

「・・雨宮、リンドウさん」

「ナナちゃん、だったかしら?来なさい。お姉さんが相手してあげる」

「えっと・・・確か、ジーナさん・・」

「ギル。久々に、揉んでやるよ」

「・・・ハルさん」

「ロミオ、来いよ。俺も伊達に隊長やってねぇから、覚悟しろよ?」

「こ・・コウタさん。うっす!」

「本気で、かかってきてください。シエルさん」

「・・お相手します。アリサさん」

それぞれ相手と共に四方に離れていく中で、ヒロは目の前でトントンとリズムを刻むように跳ねるタツミと、その場に残る。

準備運動が終わったという風に、タツミは任務に赴く際の、ゴッドイーターの顔をする。

「ヒロ・・だったな。余りモンで悪いが、俺の相手になってもらうわ」

「いえ。よろしくお願いします・・・タツミさん」

「あぁ。ただ・・・・、先に言っとくわ。舐めてると、痛い目みるぜ」

そう言って構えるタツミに、ヒロも負けじと、目に力を籠める。

そして同時に、ブラッド対隊長格の幕は、切って落とされた。

 

 

周りの者も、滅多に見れぬものと固唾をのむ中、レンカの元に、エミールが駈け寄ってくる。

「教官!ヒロ君の相手は、この永遠のライバルである、僕こそ相応しい!何故!僕を指名して下さらない!?」

「・・・そんなに相手が欲しいなら、俺が相手になってやろう」

その言葉を挑発と受け取ってか、エミールは不敵に笑って見せ、木刀の切っ先を前に、フェンシングの構えを取る。

「そうか。良いでしょう!僕の騎士道精神を、貴方に示せと!ヒロ君に挑むには、この溢れんばかりの情熱を見せてからだと!そうおっしゃるのですね!?ならば!この僕の、必殺のエミールサンダースペシャルデンジャラスビューティー突きで!」

「ふっ!!」

カァンッ!!

「は?・・おぐぅっ!!」

ゴズッ!!ガシャーーンッ!!!

エミールの長口上後に繰り出した必殺(?)の突きを一振りで弾き飛ばしてから、レンカはそのままの勢いで体を回転させ、後ろ回し蹴りをエミールの顎に炸裂させ、そのままアクリル板の壁へと吹き飛ばしたのだ。

ぴくぴくと痙攣を起こしながら気絶するエミールを確認してから、レンカは改めてブラッドの戦闘へと目を向けた。

 

ジーナの流れる様な動きを捉えきれずに、ナナは次第に息切れが増してくる。

何度木刀を振り回そうとも、ジーナは独眼となったハンデをものともせず、柔らかい動作で躱していく。そのせいで、無駄に力が入り、ナナはただ体力を消費するばかりなのだ。

一定の距離を取ってから、ジーナは妖美な笑みのまま、肩を揺らすナナに声を掛ける。

「あなたの動きは、無駄が多いわ。力はあるみたいだけど、ただ振り回しているだけじゃ、敵を捉えることは出来ないわよ」

「そ・・・れは、・・はぁ・・わかって、ますぅ!」

何とか答えを返しつつ、攻撃に転じてくるナナを、揶揄う様にふわりとよけるジーナ。そこで勢い余ってか、ナナが自分の攻撃の反動によろけたところで、

「隙あり」

「え?・・・・」

ダァンッ!!

「う・・かはっ!」

つんのめったナナの脇に木刀を滑り込ませ、ジーナは足払いをして半回転させ、背中を地面に叩きつけたのだ。

何が起こったのかわからないうちに、天井を眺めるナナに、ジーナは優しく微笑みながら、口を開く。

「荒神相手でも、同じ。力任せに突進して行っても、こんな風にいなされて隙をつかれる事だってあるのよ。『柔よく、剛を制す』。おわかり?お嬢ちゃん」

その言葉に、ナナは自分が負けたのだと、ようやく認識したのだった。

 

「でやっ!」

ブンッ

「くっ・・のぉ!!」

ブンッ

何度振り抜いても、コウタの木刀にすら当てることが出来ず、ロミオは次第に苛立ちを露わに、突進を繰り返す。

そんな彼に溜息を吐いて、コウタは頭を掻きながら声を掛ける。

「なぁ、ロミオ。俺が新人の時でも、もうちょっとマシな動きしてたぞ?」

「それ、なんか悔しいんっすけ、ど!」

ブンッ

「どういう意味だコラー!?」

相変わらずのツッコミを入れながらも、コウタはロミオの攻撃を躱す。だが、一変して真剣な表情をした瞬間、ロミオの踏み込みに合わせて、コウタも1歩踏み込み、彼の木刀よりも先に、肘打ちを胸に食らわす。

ドスッ!

「ぐぅっ!!」

思わず尻もちを付いたロミオの頭を、木刀が軽快に音を鳴らす。

カァーン!

「いってぇあ!!」

頭を押さえてうずくまるロミオに、コウタは苦笑しながら喋りかける。

「お前は単純だな?そんな簡単に、熱くなるなよ。荒神は、俺ほど優しくねぇんだからな」

 

カンッ!コンッ!ガッ!

打ち合いの末、ギルはハルから少し距離を取ろうとする。

だが、ハルはその癖を知っているかのように、わざと距離を詰めるように前に出る。

「くっ!」

「焦るなよ、ギル」

そう言いながら木刀を振り抜いてくるハル。何とか身を屈めて躱してから、ギルはここぞといった感じに、蹴りを繰り出す。

だが、

「駄目だな」

「なっ!?ぐぅっ!」

ガツッ

それも予想の範疇と言わんばかりに、ハルは木刀で、ギルの蹴り込んできた足の脛を受ける。

まさかの痛みに体制を崩したギルの腹に、ハルは木刀で軽く突いてやる。

「がはっ!・・かっ・・は・・!」

無防備になったみぞおちを軽く小突かれただけで、ギルはその場で息を荒げ倒れる。

胃の中を吐き出しそうなのを我慢する彼に、ハルは軽く息を吐いてから、優しく声を掛ける。

「知ってるか?ギル。荒神は勉強家らしいぞ。いずれはこちらの攻撃パターンを読んでくるだろう。だから俺達も、咄嗟の判断で捻じ曲げなきゃいけない事もあるってこと、忘れるな」

そんなハルの言葉にハッとさせられて、ギルは負けたはずなのに、少しだけ笑顔になっていた。

 

それは、とても美しい光景。

二人の戦乙女が、まるで舞う様に木刀を打ち合う。

目にする者を魅了する二人。だが、少しだけ違いはある。シエルが攻め続け、アリサは受けに回っていることだ。

何かを確かめるように受け続けるアリサに、試されていると気付いているシエルは、今を好機と打ち込み続ける。

そんな中、アリサがフッと笑みを浮かべた。

「貴女は、本当に昔の私に良く似ています」

「・・どういう、意味でしょうか?」

打ち合いを続けながら話すアリサに、ここぞという隙をみて、シエルは素早い動作で彼女へと木刀を振り抜く。

「はぁっ!!」

ブンッ

しかし、完全に当たったと思った木刀は空を切り、

ガッ!!!

「かっ・・あう・・!!」

跳びあがって躱したアリサが、空中で前転しながら、踵をシエルの頭に叩き落した。

地面に倒れてから、シエルは体制を整えようと顔を上げる。だが、そんな彼女の目の前に、アリサの木刀が突きつけられていた。

「・・・・・参りました」

シエルが頭を下げるのを確認してから、アリサは木刀を引いて口を開く。

「戦いは綺麗にするものではありません。剣で戦うからと言って、剣でなければいけないという道理はないんですよ」

それを言われたシエルは、自分が木刀でしか攻撃していなかったことに気付き、悔しさに目を閉じて大きく息を吐く。

 

「はぁっ!!!」

カッ!

「おっとっと・・・」

素早くかつ正確に攻め込んでくるジュリウスに、リンドウはふらふらしながらそれを受け流す。

一見ジュリウスが優勢に思えるが、勝負の決め手には届かず、彼はリンドウに遊ばれている気分になり、1度離れて、攻めの手を止める。

「ん~?どうした?疲れちまったか、隊長さん?」

「・・・真面目には、相手をして下さらないのですか?」

ジュリウスが真剣に聞いてきたので、リンドウは頭を掻きながら、苦笑いを浮かべる。

「そうか?俺は、いたって真面目なんだがな?お前さんとの訓練、俺なりに楽しんでるつもりだぞ」

「そうですか・・・。なら、あなたを本気にするまで、攻め続けるのみ!」

そう言って距離をつめてくるジュリウスに、フッと口の端を浮かせるリンドウ。

そして、無防備に構えるリンドウに、ジュリウスが渾身の力で木刀を振り下ろした瞬間、

ガッ!

「なっ・・・」

それはリンドウの右手の中に収まった。

「どうした?驚いてちゃ・・・、こうなるぞ!」

ドゴッ!

「がっ!・・・あ・・」

無防備な横腹に木刀が食い込み、ジュリウスその場に崩れ落ちる。それで終わりといった感じに、リンドウは右手の中の木刀を開放する。

「不測の事態が起きた時、すぐに隙を見せるのは良くないな、隊長さん。俺達は生きるか死ぬかの、命のやり取りをしてるんだ。お前さんの判断一つが、部隊全体の命運を分けるって事、よく考えてみた方が良いな」

その痛みは、己の死だけでは済まない。

その言葉の重みを、ジュリウスは心に刻みつけながら、咳込んだ。

 

駆けるスピードに乗せて、ヒロは距離を詰めながら、タツミへと攻撃する。それをわざと距離を開くように、タツミは逃げ続ける。

捉えきれない焦りを押さえつつ、ヒロはどうすれば一手取れるかと、タツミを目で追い続ける。

すると、急に足を止めたタツミに、ヒロは何かの作戦かと、自分も走る足を留める。

タツミはヒロへ警戒を置きつつ、周りへ視線を走らせる。そして、何かを納得したように、フッと笑みを浮かべる。

「さーってと。大分体も温まったし、そろそろ俺達も、決着つけようか?新人」

「・・・どういう、意味ですか?」

さっきまで逃げていた彼の言葉に、ヒロは少し目を吊り上げて構えて見せる。

その気迫にうんうんと頷いてから、タツミは大きく背伸びをし、それから軽く足先を鳴らしてから目を細める。

「いいのか?そんな余裕の態度とって・・・」

その瞬間、タツミは一気にヒロの傍まで踏み込んできて、木刀を振るう。

「くっ!?」

それをギリギリで躱してから、ヒロは即座に反撃に転ずる。だが、そこにタツミの姿はなく、彼の声は、背中から聞こえた。

「ほらな?舐めるなって、言ったろ!?」

ドガッ!

「がぁっ!・・・くぁ・・!!!」

タツミの木刀をもろに背中に食らい、ヒロは4,5m程転がされて、地を舐める。立ち上がろうとするが、肺の中の空気が抜けたのか、軽い眩暈のせいで、息を吸うのがやっとだ。

そこにタツミが歩いてきて、目の前に座って声を掛ける。

「俺がただ逃げ回ってたと思ったのか?ちょっとお前の手の内が、知りたかったんだよ。で、そのお前のやってたことで、お前を叩いた。わかるか?」

「あ・・・う・・、そん、な・・」

声を絞り出せるぐらい回復したなと思い、タツミは立ち上がってから話を続ける。

「荒神の手の内が読めない時は、逃げながら戦うってのも、一つの手だ。向こうさんの都合に合わせる必要は無いんだ。俺達人間も、賢くいかなきゃな?」

そう言ったタツミの元に、他の隊長格が集まる。

敗北に、ブラッドが地に手を付いてる姿に、リンドウが背を向けて手をヒラヒラ振りながら声を掛ける。

「まだまだ俺達も捨てたもんじゃないだろ?さっさと楽をさせてくれよ、新米部隊」

 

極東の壁は、ブラッドよりも、まだまだ高い。

 

 

 

 

 





今回は久々に、1話分が長くなりました。

ゲームでの違和感を解消したくて、今回まで3話分ぐらいのオリジナルを混ぜました。正直、ブラッドアーツは脅威ですけど、それで経験豊富な先人を簡単に追い越すなんて、虫が良すぎると思いまして・・・。我がままかな?

しかし、ここから強くなる方が、絶対ブラッドはかっこいい!!

そうするし!!



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21話 偶然の弾丸

 

 

光を失った錆びれたネオンが並ぶ、旧中華街。

その内の廃ビルの上で、シエルは静かに下を見降ろす。

入り組んだビルの隙間に目を凝らしていると、急に砂煙を起こしながら、直立型の荒神、ヤクシャが走り込んでくる。

十分に引き付けたと判断して、シエルはビルから飛び降り、ヤクシャの前に立ちはだかる。

「・・ここから先は、行き止まりです」

グガガガガァッ!!

声を唸らせ、ヤクシャが右手の砲身へと手を掛ける。だが、

キィンッ!!

「させないよ・・」

後ろから追ってきたヒロに、斬り落とされる。

自分の身体の1部が失われた事に、ヤクシャが怯えているところで、今度は視界が反転するのを感じる。

だが、気付いたころにはもう遅く、ヤクシャは自分の首と胴体が離れていた。

「遅いな~、荒神。・・シエル!」

「了解!」

ドドゥンッ!!

首を斬り落としたタツミの合図で、銃型に切り替えて狙いを定めていたシエルは、バレッドを胸の辺りに打ち込む。それによって剝き出しとなったコアを、正面に構えていたブレンダン・バーデルが、捕食形態に喰らいつかせる。

ガビュウッ!!!

 

 

ブラッドが極東に来て、2週間が経った。

始まりこそ激動だった極東での生活も、皆それぞれにいつも通りの習慣に戻っていく。ブラッドも含めて・・・。

最近のブラッドの活動は、隊を分断して、ブラッド隊の任務と、別部隊の応援と別れて行動することが増えてきている。

今日はヒロとシエルが、防衛班の張った特殊な網を抜け出した、ヤクシャの討伐の応援に来ている。

「いや~、悪いな!最近あいつ等の偏食傾向が、また変わったらしくてよ。どうにも・・・・・・・・、はぁ。ソーマ博士様に、相談か・・・。嫌味言われんなぁ~」

タツミがガクリと肩から頭を下げて落ち込むと、隣に控えていたブレンダンが肩に手を置く。

「よし。俺が行こう。いつもタツミにばかり、任せてきたからな」

「じゃあ、もうずっと行ってくれよ。あいつ、たまにマジな顔して怒るし・・」

「・・・・・だ・・・・、やめておくか・・」

そんな二人のやり取りを、ヒロとシエルは苦笑しながら聞いていた。

確かに戦闘以外でも、ソーマを怒らせると・・・怖そうだ。

 

 

タツミ達と極東に戻ると、一同報告の為、受付へと顔を出す。

そこにいつもの人を見つけて、タツミは軽やかな足取りで、その人の前へとやって来る。

そう。彼の永遠の片思いと噂の、竹田ヒバリの前に・・。

「ヒバリちゃん!今、無事に戻ったぜ!」

「はい、お疲れ様です。それでは報告の方を・・」

「それよりさ!今日こそ、晩飯でもどう?実は本部から、天然のマグロってのが・・」

「・・・・ヒロさん、報告をお願いします」

笑顔のまま、視線をタツミから反らして、ヒバリは何事も無かったかのように、ヒロへと報告を求める。

「あ・・その、こほんっ!対象のヤクシャは討伐。回収した素材は・・・あ、これです」

そう言って、自分の携帯端末から、データを転送する。そこに簡単な報告書も入っており、ヒバリは手早くそれに目を通し、笑顔で頷いて見せる。

「はい。確認しました。では、お疲れさまです!あ・・・後、タツミさん邪魔なんで、持って行ってくださいね♪」

「は・・はい」

毎度ながらスルーされて固まったタツミを、笑顔でゴミ扱いするヒバリに、ヒロとシエルは慣れないでいる。

「過去に何かあったんでしょうか?」

「う~ん。女の人って、怖いな~」

ズルズルズルッ

そんな風に話しながらも、忠実にヒバリからの任務をこなす二人に、馬鹿真面目なブレンダンも、苦笑いを浮かべたのだった。

 

 

任務後に、シエルの希望を受けて、ヒロは訓練所へと来ていた。

神機の銃型の調子がおかしいということで、ヒロの神機と比べてみたいということらしい。

だが、バレッドの話を始めたシエルは、珍しく饒舌に喋り続けるものだから、ヒロはそれに戸惑っていた。

「ヒロは、バレッドのカスタマイズは行っていますか?あれは、とても素晴らしいです。確かに、扱いが難しく、多くの神機使いに嫌煙されがちですが、きちんと自分にあったモノを作り上げれば、命中率の向上や、1撃の威力を上げることが可能となり、遠距離からの攻撃に多くの選択肢を与えてくれます」

「・・そ、そうなの?」

「えぇ。今は第2世代のゴッドイーターが増え、遠距離からのバレッド攻撃は、牽制に使われることが多くなりましたが、2,3年前までは第1世代で銃型のみのゴッドイーターの皆さんも多く、皆その研究に勤しんでおられたようです。今でも、ジーナさんなんかは・・」

「あ、あの、シエル!ストップ!」

留まることを知らないシエルの弁論を、ヒロは必死に呼びかけて止める。ハッとしてからシエルが恥ずかしそうに俯くと、ヒロもホッと胸を撫で下ろし、ゆっくりと話し掛ける。

「えっと・・・、それで?シエルの銃型が、どうおかしいの?」

「そ、そうでしたね。失礼しました。・・・壊れたという程の事ではない、違和感といった方がよろしいでしょうか?ほんの些細なことなんですが」

そう言って、シエルは目の前でバレッドを、訓練用の標的に当てる。着弾したそれを見ても、特に違和感を感じれないヒロは首を横に傾ける。

「えっと・・・・。よく、わかんないんだけど・・」

「そうですよね。・・・でも、任務中には、確かに違和感を感じるんです」

シエルの方も首を傾げてしまう始末で、解決には程遠いと思ってか、ヒロはある提案を口にする。

「あのさ、こういうのって、専門家に聞いた方が早くない?」

「え?」

 

 

シエルの神機を、とりあえず目で確認していきながら、リッカは引き金にかけられていた疑似偏食因子サポーターのスイッチを押す。

調整の為に神機に直接触れないリッカ達開発者は、これを使って神機の使い勝手を調べている。

ガァンッ!!

発射されたバレッドが着弾した的を眺めて、リッカは頷きながらヒロとシエルの傍へと戻って来る。

「成る程。違和感って、多分威力が上がってるからじゃない?」

「威力、ですか?」

シエルの疑問に、思案の表情を崩さぬまま、リッカは続ける。

「正確には、『付与されてる』って言った方がいいのかも・・。君達ブラッドが使う、ブラッドアーツのデータで見たものと、近いものだと思うんだけど・・」

「ブラッドアーツに・・似た・・バレッド」

ヒロが何となしに口にした言葉に、思いついた事があるのか、リッカはもう1度シエルの神機の傍へと移動する。それから、的を透明なガラスに切り替えて、その中に何かを落としてから、もう1度発砲する。

ガァンッ!!

着弾した的を取り出し、それを見てから、リッカは納得したように口の端を浮かべる。

「やっぱり・・。凄いなぁ、これ。シエルちゃん、お手柄だよ」

「え?・・あ・・はい」

何のことかわからず答えるシエルの元に、リッカは笑顔のまま近寄り、的を見せる。ガラス面は当然割れており、中に入れられた何かも、焼失したのか見当たらない。

ヒロと顔を見合わせてから、シエルがリッカに目を向けると、彼女は二人の疑問に答えてくれる。

「これの中にはね、サンプルに貰ってた感応種の1部が入ってたの。でも、見事ドカーン!この意味、わかるよね?」

「・・・・あっ!?」

「そう。これは、ブラッドの血の力を付与し、形状変化したバレッドって事。言うなれば、『ブラッドバレッド』ってとこかな」

「ブラッド・・・・、バレッド」

二人は思わず呆けてしまったが、リッカは楽しくなったのか、勝手に一人で別の実験の準備を始めていた。

 

 

リッカの実験を名目に、外に出てきたヒロとシエル。そこに偶々居合わせたジーナも、「面白そう」ということで、付き合ってくれていた。

使う回数を増やすごとに、ブラッドバレッドは色々な傾向が見えだし、『喚起』の能力の影響か、ヒロも撃てるようになってきた。

しかし、

「ん~・・・やっぱり、駄目みたいね」

ジーナの神機からは射出されなかった。

ブラッドバレッドを作るコツを掴んでか、シエルが自分の神機で生成したものを、ジーナに渡していたのだが、変化が起こるどころか、引き金を引いてもバレッドは飛び出さなかった。

やはり、ブラッドバレッドは血の力に反応していると、言わざるを得ないという結果になったのだ。

「すみません、ジーナさん。わざわざ付き合って下さったのに・・」

「あぁ、いいのよ。どうせ暇してたし、撃ちたかったしね・・ふふ」

「撃ちたかった・・ですか・・」

妖美に笑って見せるジーナに、ヒロは背筋が寒くなってか・・・それとも疲れがでたのか、ふらついてジーナに寄りかかってしまう。

「あっと・・、大丈夫?」

「あっ!?す、すいません!」

「ふふっ。初心なのね」

揶揄う様な目つきで見てくるジーナに、ヒロはどぎまぎしながら離れる。それにムッとしてか、シエルが後ろから彼の右手をツネる。

「いたっ!シエル、ちょっと!?」

「・・・知りません」

そっぽを向くシエルと、困惑するヒロを見て、ジーナは可笑しそうに笑う。そんな彼女の目に、二人の向こうで飛んでいる、ザイゴート1体が映る。

「二人共。あれ、貰うわね」

「え?」

返事はいらないと言わんばかりに、ジーナは二人を追い越してから構え、スコープ内に荒神を捉えてから、引き金を引く。

ガァンッ!!

「・・・・あら・・」

「あれ?」

「まさか・・」

見事命中し、沈黙するザイゴートを他所に、三人は今の事象に、同時に疑問符を浮かべる。

そして、撃った当人のジーナが、頬を軽く指で掻いてから、固まってしまった二人へと視線を向ける。

「何か・・・出ちゃったけど?ブラッドバレッド・・」

「「えぇーーーっ!?」」

ブラッド以外で初の、感応種に対抗できる力が生まれた瞬間だった。

 

 

極東に戻った三人は、リッカとブラッドへ報告し、リッカの勧めで、榊博士に相談しに来ていた。

榊博士も驚いていたが、ヒロ達の説明を聞いているうちに、自分なりに答えを推測したのか、1つの答えを提示する。

「おそらくだけど、ヒロ君の『喚起』の力によるものだと、私は考える」

「僕の・・、ですか?」

大きく頷いてから、榊博士は続ける。

「ジーナ君との任務の中で、彼女の中の真の力を目覚めさせたのだろう。上手くいけば、第1,2世代のゴッドイーターもブラッドアーツを使えるようになるだろう。これはラケル博士の言葉を借りてになるが、君の血の力は、ブラッドだけではなく、全てのゴッドイーターの導き手になるのかもしれないね。まぁ、血の力もというのは、無理だろうけど・・」

「は、はぁ・・」

またも無意識だった為、ヒロは首を傾げることしかできない。そんな彼に、榊博士は笑いながら、フォローをする。

「なに。君は、難しく考えなくていい。ただ、ジーナ君のように、みんなと仲良くしてくれれば良いって事さ」

「な・・・成る程・・」

取り合えず納得といった表情になるヒロに安心してか、榊博士は背もたれに体を預ける。

そこで急に、ナナがガバッと立ち上がってから、ヒロへと嘆きだす。

「あーーっ!!よく考えたら、ヒロってば!私達より、ジーナさんを優先したって事!?」

「・・・え?」

そんなことを言い出すものだから、お騒ぎ番長のロミオも、同調して立ち上がる。

「あーーっ!!そうだよ!ヒロ!お前、ジーナさんの色香に、優先順位を代えたな!?」

「えぇ!?そんな・・違っ!」

慌てて否定するヒロを面白がってか、ジーナはいつもの妖美な微笑みのままヒロを捕まえて、頬に手を当て、自分の方へ向かせる。

「へぇ~。ヒロ君は、お姉さんにそんな劣情を抱いていたの。言ってくれれば、いいのに・・」

「い、いいい、いやその・・・」

顔の近さに完全に狼狽えてしまうヒロ。そんな光景を面白くないと思ってか、シエルがヒロの隣に、音を立てて座り、ヒロの右手を力強くツネる。

「いたっ!痛い痛い!シエル、ちょっと!!」

「ヒロ・・・・、不潔です」

世話になってる極東支部長の部屋で騒がしくなったのを、ギルは可笑しそうに声を殺して笑い、ジュリウスは眉間を押さえて険しい表情になる。

そんな皆を眺めながら、榊博士は笑顔で声を洩らすのだった。

「君も・・・興味深いね。ヒロ君」

それから30分後。報告に訪れたレンカによって、全員その場で正座させられたのだった。

 

 

 

 

 





何とか本編に寄せようとして、何かやりすぎたかも・・。

でもシエルを可愛く書くのは、楽しい!



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22話 上官殺し

 

 

非番をもらったヒロは、緊急の呼び出しまで自由ということを、同じく非番のギルに伝えようと、極東内を歩き回っていた。

もう随分とフライアに戻ってないなと、すぐそこにある古巣を思いながら、窓の外を眺めながら歩いていると、

「よっ!副隊長さん!」

「あっ・・、ハルさん」

一人長椅子に座って足を伸ばしている、ハルに呼び止められた。

手招きされて近寄って行くと、ハルはスペースを作って、ヒロを隣に促す。

「今日は、天気が良い。時間が空いてるなら、一緒に日向ぼっこと洒落込まないか?」

「それって、洒落てるんですか?」

「ふっ、青いな。お前にも、人生の楽しみってのを、教えなきゃいけないらしい」

そう返されては断れず、ヒロはハルの隣に腰を下ろし、外の景色を眺める。

少し強めの日差しを浴びながら、目を閉じてみるヒロ。何となく落ち着く以外、特に感じないなと思っていると、隣で見透かしたように、ハルが喋りかけてくる。

「わからないか?この日差しの暖かさが・・。この何とも形容しがたいこれに、俺は似ているモノを知っている。何だか、わかるか?」

「え?・・・わから、ないです」

疑問に思って隣へと顔を向けた時、ハルはクワッと目を大きく開いてから、ヒロの肩へと手を置き、答える。

「女性だよ」

「は?」

「女性に包まれた時の、あの何とも言えない胸の高鳴り・・・そして、温もり。若かりし頃の青春を忘れるなと言わんばかりに、照らしてくるこの光こそ正に、女性そのものと言っても、良い様に思える。いや、いい!」

「・・・・はぁ・・」

『何を言い出すんだろう、この人は』という風に、目を点にしてから聞くヒロ。極東には、本当に変わった人しかいないと、彼は痛感してしまう。

と、そこへ・・・。

「ハルさーん!そろそろ、行きますよー!?」

「ん?おぉ、そうだったな」

ハルを呼びに、ピンクの髪をなびかせて、駈け寄ってくる女性が現れる。初見だったのを見抜いてか、ハルは彼女の隣に立って、ヒロへと紹介する。

「この子は、台場カノンちゃん。俺と二人っきりの、第4部隊の隊員だ。以後、よろしくやってくれ。カノン、こいつはブラッドの副隊長で、神威ヒロっていうんだ」

「あっ、ブラッドさんの!初めまして!台場カノンと言います。よろしくお願いしますぅ」

「あ、神威ヒロです。よろしくお願いします」

二人が礼し合ってるところを見て、「若いな」と意味なく口にしてから、ハルはカノンを連れ立って歩き始める。

「じゃあな、ヒロ。また、神秘について、語り合おう」

「え、いや・・はぁ」

「神秘って、なんですか?」

カノンの質問に笑いながらはぐらかしつつ、ハルは去って行った。

彼の登場に、完全にペースを狂わされたヒロは、自分がギルを探していたのを思い出し、急ぎ足でギルの捜索を再開した。

 

 

訓練所近くの休憩所を覗いたところで、ヒロはようやく探し人のギルを見つける。

訓練をしてたのか、汗をタオルで拭きながら、ヒロに気付いて手を上げてくる。

「よう。お前も訓練か?」

「ううん。ギルを探してたら、神秘について語られてた」

「・・何だそりゃ?」

ヒロの返事に首を傾げてくるギル。その隣に、ヒロは腰を落ち着け、要件を話す。

「今日僕とギルが、非番だって。緊急の要請があるまで、自由にしていいってさ」

「そうか。今からヒバリさんに聞きに行こうと思ってたところだったから、丁度良かった」

そう言って立ち上がり、設置されている怪しい自販機の前で、スポーツドリンクを2本買ってから、ギルは片方をヒロへと投げる。

「気前、いいね」

「・・ロミオとナナには、黙ってろよ?」

そう言ってからプルタブを鳴らし、中身を喉へと流し込む。ヒロもありがたく頂戴し、彼に倣って一口飲み込む。

何となく会話のない時間を過ごしていると、ギルが沈黙を破るように口を開く。

「なぁ、ヒロ。・・お前がユウさんに会った時ってのは・・・」

そこから言葉が出ないのか、ギルは黙ってしまう。

そんな彼に、ヒロは自分なりに考えて答える。

「・・・僕がユウさんに会ったのは、もう2年位前になるよ。まだ、外で生活してた頃に、荒神に襲われてるところを助けてもらった時に、ね」

「お前・・・、外で暮らしてたのか・・」

「うん」

彼の経歴の1部分を垣間見て、ギルは自分も話さねばと思い、自分の事を話し始める。

「俺が・・・、グラスゴーで何て呼ばれてたか、知ってるか?」

「ううん。知らないけど・・」

「『フラッキング・ギル』。『上官殺しのギル』って、呼ばれてたんだよ」

「上官・・・殺し・・?」

その異名に、ヒロも目を大きく開き驚く。それも想定内といった感じで、ギルは話を続ける。

「俺は、ある任務で追い込まれ、それを救ってくれた上官を・・・、この手で・・・殺したんだ」

「・・・・・どうして?」

特に声色を荒立たせるわけでもなく、ヒロが普通に聞いてくれたのを嬉しく思ったのか、ギルは苦笑いを浮かべて答える。

「彼女の・・・上官の、腕輪が破壊されたからだ。ほっとけば、彼女は荒神化していた。そして・・・・・彼女自身に懇願され、俺は・・・・・・彼女を!」

「もういい!」

徐々に高ぶっていた気持ちを制されて、ギルはヒロへと顔を向ける。彼は切なげな顔で、すまなそうに目線を落としている。

「ごめん。・・・・嫌だったよね・・、言うの」

「・・・・馬鹿。お前が、謝ること・・・」

少しの沈黙の後、ギルが再び話し始める。

「1つの事件として、俺は本部の査問にかけられ、2ヶ月の拘留後に、不問となった。でも、誰も俺とは任務に行きたくないって・・な。当然だ。誰だって、命は惜しい」

「ギル・・・」

その頃の自分を思い出したのか、ギルは苦笑いを浮かべ座り込む。

「腐ってたよ。何もかも、嫌になってな・・。さっさと死なねぇか?なんて、自棄になって任務に向かってた。そんな時だ・・・、ユウさんに会ったのは」

そこで本来の話題の人物の名前を耳にし、ヒロも自然と食い入るような姿勢になる。

「ユウさんは、サテライト拠点の計画を持ち込みに、グラスゴーを訪れてた。そんな時に、荒神の大群が出現してな。運の悪いことに、手の空いてるのが俺一人ってなわけで、二人でそいつらを相手することになったんだ」

 

 

壁だけが切り立っている古城跡で、ユウは近付いてくる荒神を確認してから、ギルへと目を向ける。

「じゃあ、よろしくお願いしますね。ギルバートさん」

「・・・・うるせぇ。俺は、勝手にやらせて貰う」

ユウの挨拶を一蹴してから、ギルは単独で荒神に突っ込んでいく。しかし、

ガッ

「・・・・どういうつもりだ」

ユウに腕を掴まれ、その足を止められる。

睨みつけようと視線を向けた時、ギルは思わず腰が引けてしまう。さっきまでの優しい顔とは一変して、ユウが怒りを露わに睨みつけてきたからだ。

「どういうつもりだって?それは、こっちの台詞じゃないかな?二人しかいないのに、何で単独で突っ込むの?」

「・・ちっ。てめぇには、関係ねぇだろ」

「そう。・・・だったら・・」

ガスッ!!

何を思ったか、ユウはギルの頬を思い切り殴りつけ、近くの壁に吹き飛ばした。

「が・・・・くぅ・・あ・・・・、て、めぇ・・」

そのあまりにも強力な1撃に、ギルは膝が震えて立ち上がれないでいる。

そんな彼の様子を確認してから、ユウは神機を担ぎ、一人荒神の大群へと歩き始める。

そんな彼の背中に、かつての上官が重なって、ギルは止めようと声を絞り出す。

「ま・・待て!・・・てめぇ、こそ・・・、一人で行く気じゃ・・」

「黙れ!」

ユウに怒鳴られてから、ギルは柄にもなくビクッと体を跳ねさせる。

「死ぬ気の人間を戦場に出すほど、僕は馬鹿じゃない。戦う気がないなら、そこで黙って待っていてくれる?」

「だ、だが、あんた一人で!」

ギルの言葉に応えるように、ユウは神機で空を斬って見せてから、答える。

「・・一人で、十分だ」

 

 

聞き入っていたヒロは、はぁーっと息を長く吐いてから、感心を表す。

「それで?どうなったの?」

「はっ・・・。目の前で、伝説を見せられちまったよ。終わったら終わったで、その場で説教されちまうしな。・・本当、型破りな人だったよ」

「ははっ。型破りって言葉、あってるかも・・」

二人は顔を見合わせて、つい笑ってしまう。そしてギルが、話の続きに戻る。

「ユウさんに、言われたよ。『生かされた命、託された思いを、無駄にするな』ってな。その言葉が嬉しくてな・・・、つい泣いちまったよ」

「そっか」

ユウのことを思い浮かべて、ヒロは彼らしい優しい言葉だと、また笑顔になってしまう。

そんな彼に、気恥ずかしくなったギルは、手の中の缶が空なのを確認してから、ゴミ箱に入れる。それから、時間を確認してから、ヒロへと声を掛ける。

「昼飯の時間だ。行こうぜ」

「あ、もうそんな時間?じゃあ、行こっか」

共通の尊敬すべき人に思いを巡らせながら、二人は団欒室へと向かった。

 

 

団欒室に向かう途中で、ヒバリが何やらせわしく連絡を取っているのが目に入る。少し気になったのか、ヒロはギルと顔を見合わせて、受付へと足を運ぶ。

ついた頃には連絡を終えてか、ヒバリは大きく息を吐いて席に座り直していた。

「ヒバリさん。どうかしたんですか?」

「あぁ、ヒロさんにギルさん。いえ、ちょっと不測の事態がありまして・・」

その言葉に反応してか、ヒロとギルは表情を険しくする。しかし、ヒバリは笑顔を作り、彼等に応える。

「大丈夫ですよ。第1部隊が、任務外の荒神の出現を確認したっていうだけで、特に問題は起こってません」

「そう・・ですか」

緊張を解いた二人に、ヒバリは頷いて見せてから、一応の情報共有として、更に続ける。

「何でも、未確認だったらしく、エミールさんが卒倒してこけて気絶し、それを背負いながら離脱して苦労したとか」

「あいつは・・・、本当に世話の焼ける」

そう言って苦笑するギル。しかし、次のヒバリの言葉に、彼の表情は驚愕へと変わる。

「今回襲ってきたのは、赤いカリギュラだそうで・・」

「っ!?な・・・んだと・・?」

「ギル?」

彼の表情にヒバリの方も驚き、ヒロの方もただ事ではないと真剣な眼差しを見せる。

「今の話・・・、本当ですか?ヒバリさん!赤いカリギュラって!?」

「あ、あの・・ギルさん?」

「ギル!落ち着いて!どうしたの!?」

掴みかかる勢いでヒバリに迫るギルを、ヒロが羽交い絞めにして、落ち着かせようとする。

と、そこへ・・・。

「・・・赤いカリギュラが・・・、なんだって?」

静かながらも響く声に、その場の三人は受付の後ろへと振り向く。

そこには、普段の楽観的とは程遠い表情を浮かべ、怒りを露わにするハルが立っていたのだ。

「ハルさん・・」

「聞かせてくれよ、ヒバリちゃん。確かにコウタが見たのは、赤いカリギュラなんだな?」

ギルのように激情にではないが、ハルもまた、それを言わねば何をするかといった感じで聞いてくる。

それに答える為に、ヒバリは少し焦った感じで、報告されたことを伝える。

「えっと・・・、はい。確かに、姿は従来のカリギュラそのものですが、その色は青ではなく、赤だと・・」

「そうか・・」

聞き終えたハルは、ギルに1度目を向けてから、ヒバリへと軽く頭を下げる。

「怖がらせて、悪かったなヒバリちゃん。ついでと言っちゃあ何だが、任務の報告はカノンから聞いてくれ。俺は、少し気分が悪いんでな・・・」

「あ、いえ・・。わかりました」

それだけ言い残し、ハルは後ろに控えていたカノンの肩を軽く叩いてから、去って行った。

それを追いかけるように、ギルもヒロの手を振り切ってから、走り去る。

残されてしまったヒロとカノンは、ヒバリの方を見てから首を傾げてみる。だが、何が起こっているのかわからないのは同じと、ヒバリも首を横に振ることしかできなかった。

 

「ハルさん!」

追い付いたギルが、ハルの肩に手を掛けた瞬間、

「触んな!」

「っ!?」

急に声を上げられ、ギルはその手を引っ込める。

背中を向けたまま、ハルは少し俯いて表情を見えないようにし、口を開く。

「悪いな、ギル。頭では・・・わかってんだよ。だけど、今は・・・・そっとしといてくんねぇか?」

「す、すいません・・・」

それから再び歩き始めてから、ハルはもう一言だけ、ギルに伝える。

「後、これだけは言わせてくれ。ギル・・・ケイトの仇討ち、一人で行こうなんて考えんなよ?」

「・・・・・・・・はい」

それから、ハルの背中が見えなくなってから、ギルは壁を思い切り殴りつけていた。

「全部・・・、俺のせいじゃないっすか・・・。ハルさん・・」

 

 

 





ハルさんの、ちょっとマジなシーン。
あんまり触れてなかったけど、ハルさんだって色々あるはず・・。



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23話 過去への『さよなら』

 

 

昼の出来事が気になってか、ヒロは眠れずにいた。

最初はベッドに入ってしまえば、自然と眠れると思っていた。しかし、結局何度寝返りをうっても無駄だと判断し、彼は起きだし、部屋を後にする。

水分を取ろうと、近くの自販機まで行くと、その前に設置された長椅子に、一人缶を傾ける姿が目に入る。

月の光に照らされるその顔に、ヒロは思わず声を掛けてしまう。

「・・・ハルさん?」

「・・ん?・・あぁ、ヒロか。よっ!」

手を上げて見せるハルの表情に、ヒロは昼間のことを聞こうか迷ってしまう。そんな彼の考えを読んでか、ハルは自分の隣を軽く叩く。

「座れよ。・・・昼間の、事だろ?」

「・・・・はい」

誘われるままに隣へと移動し、ヒロが腰を下ろすと、ハルはフッと笑んで見せてから、また外の月を見つめる。

「・・・聞きたいこと、あるんだろ?」

「何から・・、聞けばいいか」

「何でも、いいさ。今なら、お前には話してもいい気分なんだ」

「・・・・・なら」

そう前置きをしてから、ヒロは真剣な眼差しで質問する。

「赤いカリギュラに、何があるんですか?」

彼の問いに、ハルもまた真剣な目をして、答える。

「奴は・・・・、俺の嫁さんだった人の、仇敵だ」

「・・・・え?」

予想よりも更に重い答えに、ヒロは前に組んだ手に力を籠める。そんな彼の様子を知っていてか、ハルは少しの間を置いてから、昔の事を話し始める。

「俺がグラスゴー支部にいたことは、ギルから聞いてるか?」

「はい・・」

「その頃にな、俺は同じゴッドイーターで部隊の隊長をしていた、ケイト・ロウリーって女と結婚していた。強情な女でな、退役勧告を受けてたくせに、人員不足が解消されるまでって・・・、無理してゴッドイーターを続けてた」

ゴッドイーターにも、個人差がある。体内に取り込んだ偏食因子を、時間の経過とともに制御できなくなるといった事例もあり、そう言った人間は、退役勧告が下され、前線から外される。

無理を続ければ、当然オラクル細胞が暴走を起こし、荒神化するか・・・・あるいは、死も・・。

「そんなあいつを、当時部隊の隊員だった、ギルも気遣ってくれていた。『早く退いて、ハルさんと幸せになって欲しい』ってな・・」

「・・・まさか・・・・」

「その反応は、ある程度しか、ギルから聞いてないんだな。そうだ・・・。あいつが殺した上官ってのは・・・・、ケイトだ」

ハルの名前を出されなかったことに、少し疑問に思っていた。だけど、どこかでホッとしていたヒロは、その思慮の足らなさに、悔し気に目を閉じる。

ハルは月に目を向けたまま、小さく溜息を吐きながら、苦笑いを浮かべる。

「わかってんだよ。あいつの活動時間がギリギリだったこと、腕輪を壊され浸食が始まっていたこと、そして・・・・・あいつ自身が望んだ事ってのも・・」

「ハルさん・・」

口にしてしまったと後悔してか、ハルは表情を隠すように手で顔を覆う。

「でもな・・・、仇敵が見つかったって知っちまってから、ギルの・・・あいつの顔をまともに見れねぇ。どうしたらいいかも、よくわかんなくなって・・・くそっ!」

「・・・・・」

こんな時どんな言葉をかければいいのか、頭の中を引っ繰り返して考えて、ヒロは閉じていた目をゆっくりと開けて口を開く。

「・・・・仇、取るんですよね?・・・・・・僕も、行かせて下さい」

「・・・・ヒロ、お前・・・」

ヒロの申し出に、ハルはゆっくりと顔から手を離す。

「僕は、ギルやハルさんの苦しみは・・・わかりません。きっと、そんな経験が無いから・・・だと思います。けど・・・・・今、二人だけで行かせたら、僕は後悔すると思います」

「・・・・・・いいのか。お前には、何の因縁もない相手だぞ?」

そう言ったハルの真剣な眼に応えるように、ヒロもまた、真剣な眼を向ける。

「行かないで後悔するよりも、行って一緒に死ぬ方がマシです」

月明かりに照らされたヒロの姿に、ハルは・・・神薙ユウの影を見た気がした。

 

『どうせ後悔するなら、生きて後悔しましょうよ。ハルさん』

 

ハルは目を閉じてから微笑み、それからヒロのおでこを軽く叩く。

「あいたっ!」

「ばっか。お前とは、死んでやんねぇよ」

「ハルさん!・・」

「だから、一緒に生き残ろうぜ。ヒロ」

そう言ってから月に視線を戻したハルに、ヒロは口の端を浮かせてから、強く頷く。

「・・はい!」

 

 

情報のあったエイジス島近くの港に、ハルとギル・・・そして、ヒロはやってきていた。

赤いカリギュラの出現した場所から推測し、エイジス近くと当たりを付けたのだ。

「・・・・何で、お前まで来てんだよ?」

「良いでしょ?一人でも多い方が」

笑顔で返してくるヒロに、ギルは舌打ちをして顔を反らす。そんな二人に、ハルは頬を伝う汗を拭ってから、自分の目の前の事を、伝える。

「・・・よぉ、お二人さん。極東は本当に、優秀だな。・・・・当たりだ」

ギャオォォォォッ!!!

見降ろす形で発見した標的、赤いカリギュラは、自分の威厳を示すように、高らかに天に吠えて見せた。

その姿に、ギルはキッと睨みつけ、ハルは静かに神機を握り直す。

そして、ヒロは・・・・、強い意志をもって、前へと進み出る。

「行くぞ!ギル!ヒロ!」

「「了解!!」」

 

 

ガキイッ!!

「くっ・・・、そ!!」

腕の鎌に攻撃を弾かれて、ハルは距離を取ってから、ギルに声を掛ける。

「ギル!足を狙え!」

「了解!つあっ!!」

ザシュッ!

ギルの放った1撃で、赤いカリギュラは膝に傷を付ける。

それを不味いと思ったのか、カリギュラは大きく唸り声を上げて、その口から炎の渦を吐き出す。

「しまっ・・!!」

グゥォーーンッ!!

「ギル!!」

壁に叩きつけられ、耳をやられたのか、ヒロの声は届かない。

立ち上がれないでいるギルに近付かせまいと、ハルは銃形態に切り替えて牽制する。しかし、その速さに追いつけず、カリギュラは着実にギルへと迫る。

「ちぃっ!ギル!立て!聞こえねぇのか!?」

「う・・・あっ・・」

後もう1歩っで、その爪が届く・・・・というところで、

キィィンッ!!

ガァァウッ!!

「まだ、終わりじゃないよ・・・ギル!!」

ヒロの神機に阻まれて、カリギュラは後ろへと大きく退く。

自分の邪魔をしたヒロを睨みつけながら、顔に張り付いたトサカのようなものを広げて威嚇してくるカリギュラ。しかし、そんなヤツに怒りを込めて、ハルは睨みつけながら口を開く。

「てめぇ・・・・・、やっぱり持ってやがったか・・・」

「え?・・・・あっ!?」

ハルの言葉に、ヒロは視線を巡らせ、あるモノを見つける。

カリギュラの肩口に刺さった、一振りの神機を・・・。

「上等だぁ!!俺の嫁の形見、還してもらうぜぇ!!!」

そう叫んでから、ハルは神機を構えて走り出した。

 

「・・・る・・・・、ギル・・・・!」

「うっ!・・・・・あ?」

「ギル!!聞こえる!?」

「くぅ・・・・・・ヒロ、か?」

聴力が戻ってきたのか、ギルはヒロの方を向いて、答える。それを確認してから、ヒロは神機を構えなおして、喋りかける。

「良かった。・・・でも、もうそろそろ立って貰わないと、ハルさんがヤバいかも」

「なに!?」

言われるままに視線を動かすと、カリギュラに飛び掛かるハルが目に入る。怒り狂ってお構いなしなのか、攻撃を食らおうとも、相手との距離を取らない。

冷静な彼に似つかわしくない姿に、ギルは必死の形相でヒロへと叫ぶ。

「何でハルさんを、一人で戦わせてんだ!事情はわかってんだろ!?あいつを相手に、冷静さを失ってる!まさか・・・、今更遠慮してるなんて!」

「気を失ったギルを放って、離れる訳にはいかないでしょ」

「な!?・・・・・俺の、為に・・」

自分を守るために、残っていた。その事実を理解してから、ギルはゆっくりと視線を落とす。

「・・・もう行くよ、ギル。・・・・生きて、帰るよ!」

そう言い残してから、ヒロはカリギュラに向かって走り出す。

彼の背中を目で追いながら、ギルは拳を握り締めて、地面を殴りつける。

(くそっ!・・・また、足手まといに・・・。また、何も出来ないのかよ!)

悔しさに体を震わせながらも、ギルは壁に手を掛け、救ってくれた人の言葉を、思い出す。

 

『君は、戦う力を持っているのに・・・諦めるの?君の思いは、その程度なの?・・・・違うでしょ』

 

「そうだ。・・・こんなところで、諦めてたまるかぁーーー!!!」

気力を振り絞って立ち上がったギルを感じながら、ハルは口の端を浮かせて声を洩らす。

「・・そうだぜ、ギル。俺達は・・・・、止まっちゃいけねぇ!」

ハルの撃ち込んだバレッドが、カリギュラの横っ面に炸裂したのに合わせて、ヒロは左腕の鎌を斬り飛ばす。

ザンッ!

グアァァーーーーッ!!

やられたことに動揺してか、カリギュラはがむしゃらに腕を振り回す。それを咄嗟に刃で受けようとしたのが失敗だったのか、

ガキィィッ!!

「うっ・・くそ!」

神機を弾き飛ばされる。

「なっ!?ヒローーー!!」

目の前の出来事に焦りを覚え、ギルは大声で彼の名を叫ぶ。しかし、ヒロは最悪の状況に冷静さを欠かず、敵の姿をその目から逃がさない。

そして、仲間の名を叫ぶ。

「ギルーーーー!!!」

「っ!!?」

(この状況で・・・・、俺を信じてるっていうのか?・・・お前は)

考えるより動いた足を、1歩でも速く・・・。

ギルは神機を構えて、走り出す。

それに応えるように笑って見せるヒロの姿に、ギルは・・・自分が最期を看取った、ケイトを見る。

 

『ギル・・・信じてる』

 

振り下ろしてきた拳を、体を反転させながら飛び避け、ヒロはカリギュラの腕を踏み台に飛び込み、大きく振り上げた右足を振り下ろす。

「ケイトさん・・・、僕等に力を!!!」

そう言って、ケイトの神機に叩き込む。

ブジュウッ!!

ギャァァーーーッ!!!

より深く刺し込まれたケイトの神機に、カリギュラは肩を押さえて、苦悶の声を上げる。そこへ、ギルがスピアに力を込めて、突き出す。

(ケイトさん・・・・ユウさん・・・。俺は、今度こそ守りたいんだ!だから・・これは、この1撃だけは・・・・・・・、ヒロを、ハルさんを護るために!!!)

「とどけぇぇぇーーーーーー!!!!」

ズォンッ!!!!

辺りに強烈な音を響かせ、ギルの神機は・・・・カリギュラの胸に穴を穿つ。

それがとどめとなったのか、赤いカリギュラはゆっくりと膝をついて、倒れる。

相当な威力だったのか、その勢いによって、ケイトの神機は宙を舞い、ハルが腰を下ろした隣へと突き立つ。

肩で息をするギルの元に、ヒロはゆっくりと近付いて、手を伸ばす。

「・・・・生きて、帰れそうだね」

「・・・・あぁ。何とかな」

そう笑顔で応えてから、ギルはヒロの手を取って立ち上がり、優しく微笑んだ。

 

久方ぶりの再会を果たしたケイトに、ハルは静かに笑んでから、話し掛ける。

「なぁ、ケイト。俺も、聖人君子じゃないから、ずっとギルの事・・・お前の事が、引っ掛かってたんだと思う」

何も答えないケイトの分身。しかし、どこか笑っている気がして、それを想像しながら、ハルは続ける。

「でもな、あいつが・・・あの若いヤツのお陰で、ギルが前を向いて歩き出したんだ。だから・・・・・・俺も、いつまでもくすぶってないで、前に・・・・進むよ。・・・・いいよな?ケイト。・・・・まっ、気長に待っていてくれよ」

『・・・・待ってるよ、ずっと。ハル!』

ケイトの声が聞こえたような錯覚を覚え、ハルはゆっくりと立ち上がり、その足をヒロとギルの元へと向ける。

そして、二人の肩をガッチリと捕まえてから、顔を確認して、笑顔を見せる。

「おしっ!んじゃあ、帰るか!!」

ハルの笑顔につられてか、ヒロとギルも、満面の笑みを浮かべた。

 

キイィィィィンッ!

 

「お、おい・・これって・・」

「あ・・・、ギル?」

「そうですか。・・・ギルも」

「・・・ふっ。問題解決・・か」

 

ギルの心の靄は、今日晴れたのだった。

 

 

「ヒッバリちゃーん!今日も元気に、お仕事終わらせて・・!」

「ブレンダンさん、報告お願いします」

「あ、あぁ・・」

今日もまた、防衛班の応援に出ていたヒロとシエルは、日に日に悪くなっていくヒバリの対応に、苦笑している。

そんな時、ふと目を向けた先でヒロは、ギルとハルが一緒にいるのを見つける。二人笑いながら話をする光景に、ヒロは優しい気持ちに微笑む。それに気付いたシエルが、彼の視線の先を確認してから、自分もフッと笑顔になる。

「ヒロ。何か、良いことありましたか?」

わざとそうやって聞いてみると、ヒロは小さく頷いてから、目を閉じる。

「うん。とても、良いことがね・・」

いつも通りタツミを引きずって去るまで、ヒロとシエルは、ギルとハルの笑う姿を、眺め続けた。

 

 

 

 





ギルの話は、こんな感じで・・。

次は、少しコメディ色でいきます!!



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24話 少しの面倒が、日常のスパイス

 

 

少し曇ったある日・・。

別々の場所で、それぞれに面倒を抱えた二人の話。

 

「僕を・・・・・、殴ってくれ!!」

「・・・・・・わかりました」

 

「この子の、面倒を見てやってくれ!」

「・・・・・・は?」

 

 

ヒロの面倒 1

 

その日、突然の嵐に巻き込まれる。

「やぁ!待っていたよ、我が友よ!!」

「・・・・・・・・」

相変わらずのやかましいポージングに、ヒロは来て早々、帰りたいと不満の表情を浮かべる。

そんな彼に、苦笑しながらヒバリが申し訳なさそうに、事情を説明する。

「えっと・・・・・実はですね、極東の西側に位置する河川近くで、多数のオラクル反応を確認しまして。皆さん出払っていて、手が空いていたのが・・・」

「何!案ずることは無い!僕と彼ならば、問題なく解決して見せよう!!」

「・・・・・・・偵察ですよね?じゃあ、僕一人で・・」

そう言って、さっさと任務申請を済ませようとしたヒロを制し、エミールは悟ったように頷いて見せる。

「わかるよ。前回の僕は、あまりに不甲斐無く、君の足枷となってしまった事実を・・。だがしかし!僕は生まれ変わった!!以前の情けないエミールの皮を脱ぎ捨てて、『NEWエミール』としてね!!」

「・・・・・・・そですか」

だんだんどうでもよくなってきたヒロは、エミールに任務申請を任せて、ヒバリへと恨めしそうな無表情を向ける。

「あの・・・・えっとー・・・、すいません」

申し訳なさそうに頭を下げるヒバリに、ゆっくり頭を下げ、ヒロは神機保管庫へと一人で向かった。

それを気の毒そうに見送るヒバリとは対称に、エミールは静かに笑みを浮かべて声を洩らす。

「ふふっ。流石はヒロ君。その寡黙な姿勢も、愛しいというモノだ!」

言葉のチョイスを間違っているんじゃないかと、ヒバリは背中に走る悪寒に、より一層申し訳なさを感じた。

 

 

ギルの面倒 1

 

その日、ギルは非番で空いた時間を、訓練で消化しようと歩いていた。

そんな折、エントランスに降りてきてすぐに、ハルの姿が目に入る。何やら女性と口論になっていると思い、余計なお世話と思いつつも、ギルは溜息交じりにハルへと声を掛ける。

しかし、それが不味かった・・・。

「ハルさん。何かあったんすか?」

「お?・・おぉ!ギルー!お前は何て良いタイミングで現れる、出来た後輩なんだ!」

わざとらしく声を上げるハルに、ギルはやっぱりかと目を伏せて、ついでに彼の方も注意しようと、彼等の傍へと歩み寄る。

「ハルさん・・・。今回みたいな・・・・・、ん?何すか?」

喋り始めに手を前に制されてから、ギルは面食らって黙ってしまう。そんな彼の様子に不敵な笑みを浮かべてから、ハルは口論していた女性を、自分とギルの間へと滑り込ませる。

「・・・えっと・・・」

「あのぉ、ハルさん?」

突然向かい合わせにされ、ギルと女性は戸惑いを隠せずにいる。ハルの方は、一人納得しているように頷いている。

「ギル、こちら台場カノンちゃん。俺が隊長をしてる、第4部隊の紅一点だ。カノン、こいつはギルバート・マクレイン。ブラッドの隊員にして、グラスゴーの時の俺の後輩だ」

「あ、はぁ。ブラッドさんの・・」

「・・・どう、も・・」

まだ今一状況が吞み込めない二人に、ハルは今しがた思いつき、勝手に決めたことを、高らかに宣言する。

「実はな、カノン。彼が!今日からお前の、教官だ!!」

「そ・・・、そうなんですかぁ!?」

「・・・・・・はい!?」

何がどうなってこんな話になったのか、理解できずにいるギルを他所に、ハルはカノンへと喋りだす。

「いいか、カノン。お前は・・・・・・本当に、よくやってる。俺は、そう思う。だが、まだだ!きっとお前には、まだ欠けているところがある!」

「は、はい!で・・でもですよ、私の教官はハルさんじゃあ・・?」

カノンの返しに、ハルは遠い目をしながら、フッと微笑む。

「俺が教えられることは・・・・、もうない。これからは、彼に!ブラッド流戦闘術を学ぶといい!」

「ブラッド流戦闘術・・・・、はい!学ばせていただきますぅ!!」

そんなものは無いと否定しようとしたギルの口を、ハルは素早い動作で塞ぐ。それから、カノンに聞こえないように、ギルへと耳打ちする。

「・・頼む、ギル。俺を助けると思って、引き受けてくれ。この埋め合わせは、いつか必ず・・・・・な」

「・・・・ぷはぁ!ちょっ!?」

口を解放されて、抗議しようと詰め寄ったところを、ハルは華麗にスルーし、カノンと抱き合わせる。

「んなっ!す、すいません!」

「わわ!ご、ごめんなさい!」

二人が赤くなって離れたところを見て、ハルは2,3度頷いてからウィンクして見せる。

「何だなんだ~?お前等案外、お似合いじゃないか?そういや二人共・・・、ゴッドイーターになってから5年だったか?同期ってのも、ポイントが高い!」

「な、なな、何のポイントっすか!?」

ギルの叫びを笑いながら誤魔化し、ハルはゆっくりと歩き出す。その方向がエレベーターだと気付いた時にはもう遅く、ハルはエレベーターに滑り込む。

「・・・じゃあな。後は任せた」

そう言い残して、ハルは去って行き、思わぬ事情を抱えたギルは、その場で固まってしまう。

そんな彼を、ジッと見つめながら、カノンはおずおずと声を掛ける。

「あ、の~・・・・教官先生?もしかして、迷惑でしたか?」

「あ・・・・・いや、その・・。教官先生は、やめて下さい」

「じゃあじゃあ、ギルバートさんも、敬語はよして下さいね?」

「・・・・・ギルでいい」

カノンの期待の眼差しに、引けない状況を理解してか、もう諦めてか・・・。

ギルは、カノンへと右手を差し出す。

「まぁ、引き受けちまったからな。よろしくな、カノン」

「はい!よろしくお願いします、ギルさん!!」

そういって握り返してきたその手を、ギルは小さいなと思って息を吐いて、静かに笑みを見せた。

 

 

ヒロの面倒 2

 

「はぁっ!!」

ザンッ!!

最後の1体を薙ぎ倒し、ヒロは捕食をしてコアを抜き取る。

それから、事の発端である、エミールの様子を伺う。彼は、何かを憂いているように、立ち尽くしている。

 

情報通りに、偵察の任務に来ていた二人。

だが、荒神を確認したエミールは、ろくに数の確認もせず、「闇の眷属よ!」といつもの調子で突っ込んでいった。

その結果、大量の荒神に追われる破目になり、何とか切り抜けて今に至る。

 

エミールに声を掛けようかと考えていると、彼は目に涙を浮かべ、両手を広げ懇願してくる。

「僕を・・・・殴ってくれ!ヒロ君!!」

「・・・・・・わかりました」

何の迷いもなく、ヒロは拳を振り上げる。

「そうだね・・。突然こんなこぐぅはっ!!」

ガスッ!

何かまだ喋っていたような気がしたが、ヒロはその拳を、エミールの顔面へと叩き込む。

その場に倒れたエミールを観察していると、彼は何事も無かったように立ち上がる。

「ふっ・・・。やはり君は、言葉よりも行動派なんだね。だが、聞いてくれ!僕の後悔の念を!」

「・・・・はぁ」

前置きから、更に長いんだろうなと、ヒロはジト目を向ける。しかし、エミールは特にお構いなしに、話を続ける。

「僕の軽率な行動によって、君までも危険に晒してしまった。だが僕は!どうしてもあの闇の眷属を目にすると、いても立ってもいられなくなるんだ!」

「・・・・・・はぁ」

「しかし!その為に人の命を危険に巻き込むことは、騎士道精神とは言えない!僕は、そんな僕が!許せそうにない!!」

「・・・・・わかりました」

ドゴッ!

「ぐはぁっ!!」

要するに殴ってくれと言いたいのだろうと、ヒロは左アッパーを顎に炸裂させる。体を浮かせてから倒れ込むエミールの様子を、再び伺っていると、エミールはのそりと起き上がる。

「なんて、早急にことを運ぶ人なんだ、君は。だが、それ程に僕を思っていての行動だろう。気に入った!!」

「は?・・・」

殴りすぎて気がおかしくなったのかと、ヒロは立ち上がったエミールを見る。すると、今度こそはと覚悟を決めてか、両手を広げ、エミールはヒロへと思いを叫ぶ。

「さっきまでは準備が出来ていなかったが、もう大丈夫だ!さぁ!君の拳で、弱く情けない僕を、殴り飛ばしてくれ!!」

「・・・・・・わかりました」

殴り飛ばせと言われたからにはと、ヒロは後ろへと下がる。そして、助走をつけ、思い切り彼の鼻っ柱に、拳を叩き込む。

「どうしたぶぅぅっ!!!」

ゴシャッ!!!!

ヒロの拳に吹っ飛ばされ、エミールは5m程離れた壁に、激突する。

それから、壁に積もっていた瓦礫に埋もれて、エミールは暫く倒れ伏せている。

今回は流石にやりすぎたかと、ヒロは瓦礫へと近付いていく。すると、

「とぉーっ!!!」

瓦礫の中から、エミールが飛び出した。顔面を腫らして・・・。

「ふふっ。何て騎士道の籠った、拳だ。心が、顕れるようだよ・・」

「・・・・・・・良かったですね」

心配は無用だったかと、呆れた顔をして見ていると、エミールは華麗にポージングを取り、ヒロへと指さし叫ぶ。

「君の思い!この胸に刻みつけた!これで僕はまた、生まれ変われる。そう!今度こそ真の騎士道精神を掲げる男!『NEOエミール』としてね!!!」

「・・・・・・帰ります」

もう付き合いきれないといった表情で、ヒロは彼を放って歩き始める。

そんなヒロを呼びながら、エミールは後を追って駆けてくる。

「待ってくれ、ヒロ君!君の行く道は、僕の道でもあるのだから!!」

「・・・・・・・・違います」

そうして、やたら長く感じたエミールとの任務を、ようやく終われるとヒロは胸を撫で下ろした。

 

 

ギルの面倒 2

 

訓練所に来ていたギルは、唖然としていた。

訓練を付けると一緒した、カノンの変貌ぶりを見て・・・・。

「あーはっはっはっはっ!!!ほらほら、どうしたの?プログラム何て、そんなものなの!?」

ガァーンッ!ドォーンッ!チュドドーンッ!!

疑似荒神との戦闘訓練プログラムを行って、彼女の実力を測ろうとしたギル。その結果思ったことは、「こいつと組んだら、どこにいれば安全なんだ?」ということだった。

一応、衛生兵も兼ねてると本人からは聞いていたが、回復させてくれるより、破壊されるんじゃなかろうか。ギルは逃げて行ったハルを思い浮かべ、自分も無理ですと伝えたかった。

 

訓練プログラムが終了すると、カノンは何事も無かったかのように戻ってきて、無垢な瞳で、ギルに訊ねてくる。

「えっとぉ・・・・、どうでしたか?」

「・・・どうって・・、本気で聞いてるのか?」

「はい!お願いします!!」

今までどんな訓練や経験をすればこうなるのか、逆に疑問に思うギルだが、カノンが目を瞑って覚悟の表情を浮かべたのを見てから、溜息をもらしながら苦笑し、ナナを褒める時の癖で、彼女の頭を撫でる。

「あ・・・・えっと、あれ?」

「良かったんじゃないか?少なくとも、荒神を倒すうちはな。だが、あんたは衛生兵でもあるんだろ?だったら、前衛が入り込める位置取りと、回復弾を使い分けれるようにしといたら、良いんじゃねぇかと思う」

「・・・・・・あ・・・」

男に撫でられるのが初めてで、カノンは少しぽーっとしていたが、ギルが褒めてくれているとわかると、その頭を深々と下げ、お礼の言葉を告げる。

「あ、ありがとうございます!なんか、的確にアドバイスまでもらって・・」

「この程度のアドバイス、誰でも言いそうだがな・・」

ギルにとっては当たり前の台詞のつもりだったが、彼女にとってはそうではなかったらしい。

それも、その筈。デンジャラス・ビューティーの異名を持つ彼女と訓練や任務に出て、まともに喋れる人は、ほとんどいなかったのだから。もしくは、怒られてたか・・・。

『褒められたい』という少し子供っぽいことを求めていたカノンにとって、ギルの行為や言葉は、希望を満たす何かになったのであろう。

「私、頑張ります!これからも、すごく!だから・・・その、また・・褒めてくれますか?」

「あ?・・・あ、あぁ。・・まぁ、な」

「はわぁ~!!」

何だかよくわからない奇声を上げるカノンに、ギルは「早まったか?」と思いつつも、喜ぶ彼女に水を差すまいと、フッと微笑んで見守っていた。

 

 

夕食を取る為に、ヒロは部屋を出たところで、ギルと鉢合わせる。目的は一緒だろうと、二人はそのままエントランスへと降りてくる。そこで、

「やぁ!ヒロ君!待っていたよ!君との友情を深める、晩餐の為にね!!」

「あっ!ギルさん!これ、クッキー焼いてみたんですけど!」

エミールとカノンが、それぞれに話し掛けてくる。

そんな二人を目にしてか、ヒロもギルも、今日は疲れたからといった表情を見せ、お互いがその顔に気付き、改めて二人同時に溜息を吐いたのだった。

 

「お前・・・、本当に大変だな」

「ギルはまだ、役得っぽいよ・・」

 

 

 





途中でこういう話を書くのが、少しの楽しみだったりします!

カノンちゃんとギル。
この組み合わせは、きっと面白い・・・・はず!!



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25話 黒い痣

 

 

普段使われない資料室。

静かに時を刻む極東唯一の場所に、アリサは静かに入って来る。

自分だけだろうと思って軽く息をもらすと、先客が視界に映る。

「ん?あぁ、アリサか」

「レンカ。今日は事務仕事ですか?」

「あぁ。座るか?」

隣を促してくるレンカに、アリサは笑顔で応えながら、そちらへと足を運ぶ。席に着こうとスカートをたたんでいる姿勢で、ふとレンカの手元の資料が目に入り、アリサは真剣な表情を見せる。

「・・・・黒蛛病・・ですか・・」

「・・・あぁ」

そう答えて、レンカは資料を持ち上げて、写真に写るモノを見つめる。

極東の抱える2つの大きな問題。1つは感応種、そしてもう1つが・・・赤い雨による被害、黒蛛病だ。

「少し前にも、視察先で遭遇しました。住民は避難させて、大事には至りませんでしたが・・・」

「あぁ。雨に気を付けていても、そこを荒神が襲ってくれば・・・。2次、3次被害は免れない。こればっかりは、ゴッドイーターでも中々・・な」

溜息を吐いて資料をテーブルに落とし、レンカは眉間を押さえ、軽く揉む。そんな彼に苦笑しながら、アリサはスッと肩に頭を預ける。

「・・疲れてるなら、ちゃんと言って下さい。私が癒しに、なってあげますから」

「ん?・・・あぁ。ありがとう」

軽く流しているわけではないのだが、アリサには不満だったらしく、ぷいっと背中を向けて、タブレット型の端末を操作し始める。堅物レンカは疑問に思いながらも、結局離れないアリサに笑顔を向けてから、自分の仕事に戻った。

しばらくそんな時間が続いた後、アリサが思い出したかのようにレンカに聞いてくる。

「あ・・・そういえば、今日はブラッド隊の皆さんの姿、見ませんね?任務です?」

「ん?あぁ。彼等には、ユノさんの護衛で、第2サテライト拠点に行ってもらってる」

 

 

装甲壁でできた門を最小限に開け、車を中へと運ぶ。

降り立つと、そこはフェンリルの居住区に似た世界が広がっていた。

初めてサテライト拠点を目にしたブラッドは、皆物珍しそうに視界を巡らせる。

先に立って守衛と話していたサツキが、何やら紙に記入を済ませ、確認を取ってもらっている。

「えっと~・・・、はい。これで良いですか?」

「はい、ありがとうございます。サツキさんやユノさんは毎度の事なのに、どうもすいません」

「いえいえ。規則って、大事だと思いますよ」

そう言ってからこちらへと駈け寄ってきて、皆へと声を掛ける。

「お待たせ!それじゃあ、ブラッド御一行様、ご案内~!」

笑いながら横に並んで歩くユノと共に、サツキは奥へと進んでいく。それに逸れぬ様にと、ブラッドも後へ続いた。

 

奥に進んで行った一行は、ある建物へと入っていく。

中に入ると、何やら鼻を刺激する薬品の匂いに、包まれる。それに皆、本能的にそこがどこかを察する。

「・・・・ここは、診療所ですか?」

「隊長さん、ご明察」

ジュリウスの答えに、サツキが即座に切り返す。だが、それ以上は口を噤んで、「後は己の目で確認しろ」といった感じで、ある場所の前で足を止め、天井からかかった2重の幕を潜って、ドアを開ける。

中にも2重に幕が覆ってあり、その手前で防護服のようなものを渡され着替える。

そしてようやく中へ入って確認すると、そこはブラッドの知らない世界だった。

いくつものベッドが部屋ごとに並べられ、そこに横たわる人達。一見元気に振舞っている人もいれば、痛みから苦しみの声を上げる人。一番左端奥に至っては、暗くて何もわからないが、呻き声だけがこちらへと響いてくる。

ただ共通することは、全員・・・・体のどこかに、蜘蛛のような黒い痣があること・・だ。

「ここは・・・、黒蛛病の患者の為の、診療所です」

サツキの言葉に、ようやく理解が及んでか、ブラッドは全員息を呑み込む。

「ここに・・いる、全員ですか?」

おそるおそるヒロが聞くと、マスク越しでもはっきりわかるように、サツキは頷いて見せる。

「そうです。・・・・ただ、何も解決には・・・・なってませんが」

言葉通りの意味だろう。

時折ベッドを動かしては部屋の移動が行われ、空いたスペースには、また新たなベッドが設置される。そこから出ていく人は、防護服を着た者ばかりだ。

致死率100%。聞くよりも見る方が恐ろしいと、ヒロは黒蛛病の脅威に、息を荒げてしまう。

そんな中、慣れたように中へと入っていくユノ。そして、主に子供達を中心に、手を取りながら会話をしている。

その様子に微笑みながら、サツキは口を開く。

「あの子の習慣みたいなものです。ああやって、黒蛛病に苦しむ人の気が紛れればって・・・。サテライトの訪問も、半分はあの子のこれが、目的ですから」

「そう・・だったんですか」

ジュリウスはそう答えて、子供達と笑顔で話すユノから、目が離せずにいた。

 

 

日が落ちた頃に、ようやくサテライト拠点から出発した一行は、途中野営の為に設けられた区画に車を止め、テントを張って火を起こす。女性陣が食事の準備をしている間、男性陣は周りの警戒や、火の管理をする。

ナナやロミオ何かは、「キャンプだ!」とはしゃぎそうなものだったが、サテライトでの光景が頭から離れないのか、準備は静かに行われる。

皆揃って火を囲みながら、食事を済ませた頃を見計らって、ジュリウスが口を開く。

「・・私は・・・荒神を倒せば、世界は平和になると思ってました。しかし、世界にはまだ、荒神以外の脅威が存在するのですね・・」

彼の真剣な問いに、サツキは軽く息を吐いてから、自分の知る世界の話をする。

「この世から、荒神がいなくなったら・・・どうします?」

「え?・・・どう、と・・言われましても・・」

「荒神が今いなくなっても、きっとあなたの言う平和は、すぐには訪れませんよ」

「な!?何故ですか!?」

ジュリウスが思わず立ち上がったのを見上げて、サツキは目を閉じて見せてから、「落ち着け」と頷いて見せる。

それから、彼が再び腰を落ち着けたところで、サツキは話の続きを喋り始める。

「荒神は、世界の脅威です。私やユノの家族と言うべき大切な人達も、荒神によって殺されました。ですが・・・・・本当は、別の理由によって、殺されたも同然でした」

「別の・・・・理由?」

ヒロの声に視線を向けてから、サツキはその答えを口にする。

「フェンリルの・・・、非公式な実験によって、です」

《っ!!?》

まさかその名を耳にするとは思わず、ユノ以外の全員が、目を大きく開き驚く。

世界を救済すると謳うフェンリル。自分達が所属する組織の名を・・。

「当時私は、フェンリルの広報部にいました。当然、色んな筋からの情報網を持っていて、そこから知ったんです。『大がかりな非公式の実験が行われ、大多数の犠牲者が出た』ってね」

「そんな・・・。フェンリルが、まさか・・・」

「言い切れますか?あなた達の所属する、フライアの局長も、良い人間とは言い難いと思いますけど?」

グレムのことを言われると、何も言えなくなってしまうブラッド。それが答えだと判断し、サツキは話を続ける。

「当時の私も、怒り狂って『公表しろ』って、上司に打診しました。でも結果は・・・・まぁ、ここまで話せば、わかりますよね?」

《・・・・・・》

「皆が榊博士のように、良い人間なわけではないんです。フェンリルは・・。ですから、私は別の角度から戦うことを決めて、ユノとこうやって世界を回ってるんです。ね?ユノ」

「そうね・・・。これが、ゴッドイーターじゃない、私達の戦い」

皆が黙ってしまうと、サツキは立ち上がり、大きく背伸びをする。そして、お開きをする前に、最後の言葉を彼等へ伝える。

「これだけは、覚えておいて下さい。フェンリルという組織は、根が腐っているということを・・・。世界は、荒神がいなくなれば、即平和という訳にはいかないんですよ」

 

 

夜の見張りを買って出たジュリウスは、一人周りを警戒しつつ、サツキの話を思い出していた。

『荒神がいなくなれば、即平和という訳にはいかないんですよ』

自分は、ただ荒神を倒せばいいと・・・、兵士だからそれが仕事だと、そう思っていたのだ。

考えていなかった。本当に恐ろしいのは、その後生き残った人間なのだと・・。

学者の中には、こう唱える人がいる。

『荒神こそが、救済!世界を汚す人間達を、浄化する神なのだ!』と。

だが、それを認めてはいけない。ジュリウスはそう思い、頭を横に振る。自分達はゴッドイーター、荒神を倒すために生まれたのだから・・。

「また・・、難しい顔してる」

「え?・・・あ、ユノさん」

「こんばんは、隊長さん」

毛布を手に現れたユノは、1枚をジュリウスに渡し、もう1枚で自分をくるみ、隣へと腰を下ろす。

「ごめんなさいね。サツキは、ゴッドイーターは支持しているけど、基本的にフェンリルが嫌いなの」

「いえ。私も・・・色々と、勉強不足でした」

「その返しは、おかしいですよ」

ユノは声を殺して笑いながら、月を見上げて彼へと話し掛ける。

「私達はね、大切なモノを一気に失ったの。優しいお婆ちゃん、多くの親類、小さな弟と妹、そして・・・幼馴染を・・。たった一晩で全部がなくなり、絶望に心が折れそうになった」

彼女の遠い目を見つめながら、ジュリウスは止められない疑問を、考えた末に問うてみる。

「あの・・・・、何故立ち直れたのですか?」

「・・・・・・大切な人が、覚悟を示したから・・・かな」

そう言ってユノは、優しい笑顔をジュリウスに向ける。その瞳に吸い込まれたかのように、彼は何も言えずに見つめ返す。

「今は悩まなくても良いんです。あなた達に出来ることを、精一杯やって下さい。平和を願えば、いずれ繋がりますから・・ね。ジュリウス」

呼び捨てられてからハッとし、ジュリウスは我に返った気分になる。それから、彼女の優しさと強さに惹かれ、彼も笑顔になる。

「はい。必ず、繋いで見せます。・・ユノ」

「・・うん・・・」

それから朝日が昇るまで、二人は黙って月を見つめ続けた。

 

 

「はぁぁっ!!」

ザシュザシュザシュッ!!

追っていたヴァジュラを沈黙させ、捕食を済ませたジュリウスは、仲間の方へと振り返る。

「任務完了だな。それでは次に向かう」

「えぇーーっ!?ちょっと休もうぜ!?」

「いや、そうはいかない。コウタさんからの急ぎの要請だ。隊が分断されて、隊員のエリナさんやエミールさんが危険らしい。時間がない。すぐにヘリで飛ぶぞ!」

《了解!》

「うへぇ~!」

ロミオの嘆きも返事と判断し、ジュリウスは颯爽とヘリとの合流地点へと足を運ぶ。そんな彼の様子を見ながら、ナナは首を傾げて疑問を口にする。

「何かさ~、最近ジュリウスってば気合入ってるけど、何かあったのかな?」

「・・・さぁな。だが、良いことじゃねぇか。隊の士気が上がる」

ギルの返答に、ヒロとシエルも笑顔で頷き、前を行く隊長の背中を見つめる。

「そうですね。おそらくですが、サテライト拠点での1件以来かと・・」

「そうだね。ジュリウスにも、新しい目標かなんかが、出来たんじゃないかな?」

良かったと笑い合う四人に向かって、ロミオは疲れた足を引きずりながら喚き散らす。

「ついてくこっちの身にもなれってんだよ!出る前も訓練だったし・・・、俺はもうバテバテだよ!!」

そんな彼の腕を掴んで、ナナとヒロは引っ張りながら苦笑する。それを見て、ギルは溜息を吐きながら、皮肉を口にする。

「そういうことは、自分の足を動かしてから言うんだな」

「うっさいよ!お前みたいな体力馬鹿とは、違うんだよ!」

「ですが、空木教官もおっしゃっていた通り、神機を扱うのは人間ですので、体力作りは基本だと・・」

「だーかーらー!シエルはこのタイミングで、真面目なこと言わなくていいんだよ!わかってるよ!体力だろ!?ごめんなさいだよ!!」

皆が明るく話している先を走るジュリウスは、それを笑顔で見守りながら、途中携帯端末に送られてきたメールを、改めて目にする。

そして、内容を覚えるように読み返してから、目の前に見えてきたヘリを確認し、それをポケットへと押し込んだ。

 

『今日は北京支部で、慰問会を行います。ジュリウスも、今は任務ですか?無理せず、仲間と共に頑張ってね』

『ユノ』

 

 

 

 





戦争はどう終わらせるかが大事とよく聞きますが、対人間でなくとも、きっと同じだろうと思います。

真面目だな~。
難しい!



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26話 心の傷

 

 

 

「どう?調子の方は・・」

「はい・・・。最近また、頭が痛くなることがあります」

「そう。・・・・記憶が戻ろうと、しているのかしら・・」

「記憶・・・・。はい。お母さんの事を・・少し」

「・・もしかしたら、覚醒の兆しかもしれないわね」

「覚醒・・・」

「貴女の、意志の覚醒・・・・、血の力の覚醒よ・・」

 

 

久方ぶりにラケルに会ったヒロは、御付きとして、極東支部長室に足を運んでいた。

正直、自分は必要だろうかという疑問が拭えないが、ラケルに頼まれたのであれば、ブラッドとしては断れない。そんな使命感のみで、榊博士とラケルの話している側に、黙って立っているのである。

「お陰様で、随分と研究の助けとなっております。ブラッド隊も面倒を見ていただき・・・。姉共々に、感謝の言葉しかありません」

「いやいや。こちらもブラッドの皆に、助けられている身です。そちらへの協力なんてものも、微々たるものです。他に要望などございましたら、何なりと・・」

社交辞令を交わす二人に、ヒロは動けないことに、ムズムズしていた。基本的に、体を動かしている方が、性に合うのだろう。

「まぁ、堅苦しい挨拶なんてものはこのぐらいにして・・。ヒロ君も限界のようですしね」

「あら。それでは、仕方ありませんね」

「あ、いえ!僕は・・」

突然自分に話を振られたものだから、ヒロは焦って手を前に振って、誤魔化す。そんな彼に、二人は笑顔で応えてから、お互いに1礼する。

「それでは、今後とも・・。昼過ぎには、私は本部の方へ向かわなければなりませんので」

「いや、それは長くお引止めしました。私からも、今後とも良きお付き合いを望みます」

それを話の終わりにと、ラケルはヒロを促して、支部長室を後にする。

 

支部長室を出て少し歩いたところで、正面から歩いてくる顔に驚き、頭を下げる。

「お疲れ様です、ソーマさん」

「ん?お前か・・。榊のおっさんは、中にいるのか?」

「あ、はい」

それだけ聞いて、ソーマはその場から去ろうとしてから、ふとその足を止める。それから、ヒロの隣に位置する、ラケルを凝視してしまう。

「ソーマ・・・。もしかして、シックザール前支部長の、息子さんの?」

「・・・・そうだ」

紹介を買って出ようとしたヒロだったが、何故か異様な空気になったことに立ち止まり、その場から動けなくなる。

「ご挨拶が遅れました。昔、貴方のお父様にお世話になった、ラケル・クラウディウスと申します。是非1度お会いして、お礼を申し上げたく思っていたのですが・・」

「・・・・・」

丁寧に挨拶をするラケルに対し、ソーマは黙って見返すだけ。それを疑問に思ってか、ラケルは小さく首を傾げる。

「あの・・、何か?」

口を閉ざすソーマに、ラケルが疑問を口にすると、ソーマは少し目を細めてから、逆にラケルに問い返す。

「あんた・・・・、何者だ?」

「何者・・とは、どういった意味でしょう?」

その返しがとぼけていると判断したのか、ソーマは思ったことをそのまま口にする。

「あんたからは、俺と同じ匂いがする。・・・・混ざって、壊れた匂いがな・・」

その言葉の真意はわからずとも、ヒロはソーマがとんでもないことを言っている事だけは理解する。

しかし、言われた当人であるラケルの方は、声を殺してクスクス笑いながら、ソーマへと喋りかける。

「ふふっ。随分と物騒なことを、はっきりおっしゃるのね。・・・・だから、お相手に月へ逃げられたのかしら?」

「・・・っ!」

何の比喩だろうとヒロが思った瞬間、ソーマは少しだけ”あの時”の殺気を、表に出す。

ヒロが緊張して固まってしまう中、ラケルは笑みを崩さぬまま、首を横に傾けて一言、

「冗談です」

と口にする。

流石に大人げないと思ってか、ソーマは殺気を引っ込めてから、フッと笑う。

「・・・そうか」

そう言ってから、支部長室へと歩みを再開する。

それに合わせてか、ラケルも自動車椅子を前へと進めだす。

慌ててラケルに付いて行こうとするヒロ。だがその肩をソーマが掴んでから、自分へと引き寄せ、耳元でラケルに聞こえないように小声で何かを伝えてから、支部長室へと入って行った。

ヒロはその言葉が何を意味しているのかよくわからないまま、先を行くラケルを追って、駆けだす。

 

『あの女には、気を付けろ』

 

 

次の日から、ラケルの御付きでジュリウスが不在となった代わりをする為、ヒロはシエルに隊長の責務である情報共有や、部隊報告などのノウハウを教わっていた。

淡々と説明しながら話を進めるシエルに、ヒロは手元の資料を、「あれでもない、これでもない」と、四苦八苦しながら聞いている。

それを後ろから見ていたロミオが、苦笑いを浮かべて、ギルに話し掛ける。

「あれじゃあ、どっちが隊長代理かわかったもんじゃないな?」

「何事も慣れだ。あいつにも、いい勉強になる」

そう言ってから、ギルは横へと顔を向けたところで、ふと表情を曇らせる。それに気付いたロミオも、同じように自分の隣へと目を向ける。

「・・・ナナ?」

「どうした。気分でも悪いのか?」

二人が気にするのも無理はない。ナナは青ざめた顔で肩を揺らしながら、瞼が落ちそうなのを必死に堪えていたからだ。

「・・・え?・・・・だ、大丈夫・・・だ、よ?」

強がりを言いながら、笑顔を作ろうとするナナに、ロミオは肩を貸しながら声を掛ける。

「大丈夫なもんかよ!お前、さっきからふらついてんだぞ!?」

その声に反応して、ヒロとシエルも振り返る。

四人が心配そうに見つめてくるのを、ナナは見回してから、そのまま膝から倒れ落ちる。

「あ・・・・・・あれ?・・やば・・・」

その言葉を最後に、ナナは気絶してしまった。

 

 

『ナナ!はい、おでんパン!』

『わーい!ありがとう、お母さん!』

 

『じゃあお母さん、ちょっと出てくるから。良い子に待っててね?』

『うん!泣かない、怒らない、寂しくなったらおでんパン!』

『うん!偉いね、ナナ!』

 

『ナナ・・・・・・、逃げて』

『お母さん・・・・・、おか・・お母さん!!』

 

「っ!!?お母さん!?」

夢にうなされたのか、ナナは勢いよく起き上がる。

焦った様子で周りを見回してから、ヒロとシエルの顔を認識すると、ホッとしたように倒れ込む。

「・・・はぁー・・。夢、かぁ」

「ナナさん?無理をしないで。あなたは、倒れたんですよ?」

シエルが何が起こったか確認させようと、状況を説明すると、ナナは小さく頷いてから、顔を覆っていた腕をずらす。

「うん。薬、飲むの忘れちゃってたから・・」

「薬?」

ヒロが聞き返してきたのに合わせて、ナナは体を起こし、自分の事を話し始める。

「私ね、昔の記憶が曖昧で・・・。小さい時に、ラケル先生に引き取られた時から、定期的に薬を飲んで、精神を落ち着けてるんだ」

「・・何かの・・、病気ですか?」

「ううん。昔の記憶がね・・・たまに、ぶわーってやって来る時に、苦しくなっちゃうの。それで、ラケル先生が『これを飲みなさい』って。気分が高揚するのを、押さえる薬らしいんだけど・・・、よくわかんない」

少し寂し気に笑うナナの肩を、シエルは優しく撫でる。

それをくすぐったく思ったのか、ナナは少し笑ってから、立ち上がる。

「でも、大丈夫!もう大分よくなったし、部屋に戻ったら薬飲むし!ね!?」

空元気なのかと思っても、ヒロとシエルはそれを口にせず、笑顔で応えてから、自分達も立ち上がる。

「ナナがそれでいいなら、僕等は何も言わないよ。でも、無理はしない事。いいね?」

「はーい!隊長代理殿!!あ、ヒロ~。お腹減ったー」

「それでは、ナナさんが薬を飲み終わったら、一緒に食事しに行きましょう」

「わーい!!」

元気にベッドから飛び降りてから、ナナは我先にと、医務室の扉まで駆けていく。

そんな様子を眺めながら、二人は今後の事を考えていた。万が一ナナが今回のような状態になった時、どう対処するかを・・。

 

 

ナナの1件を報告しに、ヒロはレンカの元へと訪れていた。

彼から話を聞いてから、レンカは少し考えてから口を開く。

「そうか。・・・わかった。俺の方でも、気を付けておく。榊博士にも、俺から伝えておこう。・・ゴッドイーターになった者には、そういった精神に何かしらを抱えた者は多いしな」

「そう・・なんですか?」

ヒロの疑問に、レンカは目を伏せてから答える。

「あぁ。家族、友人、共に暮らした仲間が、目の前で殺されたなどが切っ掛けで、ゴッドイーターに志願する者は、今でも幾人か存在する。そう言った場合、心が不安定になることも、よくあることだ」

「・・・・知りませんでした」

肩を落として縮こまってしまったヒロに、レンカは優しく笑みを浮かべ、肩に手を置く。

「気にするなとは言わないが、そんな顔、ナナの前ではしてやるなよ?いつも通りのお前が、一番の特効薬になるはずだ」

「あ・・・、はい」

ヒロの返事に頷いてから、レンカは本来の目的の為に移動を始める。そんな背中に、ヒロは気になったことを、つい口を滑らせてしまう。

「あの!もしかして、レンカさんも・・・あ、いえ。何でも・・ないです」

再び黙ってしまうヒロに、レンカは懐かしむような表情で、質問に答える。

「俺は・・・・、育ててくれた家族を・・失った。意地になって、ゴッドイーターになって、荒神を殺しつくす・・機械みたいになろうとしていた」

「あ、の・・その、僕は・・」

言葉が見つからず、またもヒロが肩を落としていると、レンカは笑顔で言った。

「だが、そんな俺を、叱ってくれた人がいた。支えてくれる仲間がいた。共に生きようと、手を握ってくれた人がいた。・・・だから俺は、こうして生きている」

彼の実体験の言葉に、ヒロは目を大きく開いてから、希望を見出す。

「お前達も、そうであればと願う」

「・・・はい!」

そう強く返事をしてから一礼し、ヒロは駆けて行った。

そんな彼の様子を見届けてから、レンカもその場を後にした。

 

 

数日たって、ジュリウスが戻っての任務に行く途中、ヒロは隣に座るジュリウスに、ナナの事情を説明する。

静かに聞いていた彼は、ヒロが話し終えると、ゆっくりと頷いてから口を開く。

「そうか・・・。留守中に大変だったな。ナナにも、色々あるらしいな。恥ずかしい話、隊長なのに何も把握してなかった」

「それは・・、ジュリウスが謝ることじゃないよ」

ヒロは苦笑しながら、フォローをする。

何も知らないことに、仲間である以上、隊長も隊員も無いと思ったからだ。

そんな彼の気遣いに、ジュリウスの方も苦笑して、ヒロの肩を軽く叩く。

「お前には苦労させっぱなしだな。こんな隊長のフォローまでさせて・・」

「副隊長だし、当然でしょ?」

「そうか。ありがたいな」

現場まであと少しというところで、ジュリウスは立ち上がり、自分の神機を手に取ってから、ヒロへと声を掛ける。

「一緒に、守ろう。仲間を・・」

「・・当然でしょ!」

そう答えてから、ヒロも立ち上がって神機を手にする。

 

 

「どぉうりゃっと!!」

ドスッ!

ロミオが勢いよく神機を振り下ろし、シユウの頭を潰すと、シエルが捕食してコアを抜き取る。

任された区域の殲滅を確認してから、シエルはロミオへと微笑んで見せる。

「ロミオ。今の動きは、良かったです。訓練の成果、出てるんじゃないですか?」

「あったぼーよ!伊達にほぼ毎日、空木教官に転がらされてねぇっての!」

元気よく答えるロミオに頷いてから、シエルはジュリウスへと連絡を取る。

「隊長。こちらシエル。対象の荒神の殲滅確認。本部とも連絡を取って確認しましたので、間違いないかと・・」

『御苦労、シエル。ロミオと共に、ギルの方へ、応援に向かってくれ。数が少ないとはいえ、あいつ一人ではきついだろう』

「了解。すぐに向かいます」

無線を切ってから、シエルはロミオの方へと目を向ける。

「ロミオ。ギルの応援に向かいます。準備を」

「えぇー!?あいつにはいらないだろう!?どうせ、『何しに来た。シエルにばかり仕事させたのか?』とか言うんだぜ!絶対!!」

そう嘆く彼を、「いつものこと」といった感じで、シエルは先に立って走り出す。それを慌てて、ロミオは後を追う。

「嘘、嘘!さっきの、無しな!ギルには絶対言うなよ!?」

「はぁ・・・、わかってます」

二人がギルの元へと走り出したその時から、事態は変化を始めていた。

 

 

 

 





ソーマとラケルのぶつかり合いを前倒ししてます。

自分で書いててなんですが、私はソーマが好きなんだな~と思います。
原作とは段違いに出番作ってますし・・・。

だがしかし!本当に好きなのは、神薙ユウ君一択なのです!

早くだした~い!!w



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27話 ゴッドイーター・チルドレン

 

 

目の前から逃げようと走るコンゴウの後を追いながら、ジュリウスは前に待ち構えるヒロへと叫ぶ。

「ヒロ!頼む!」

「はっ!!」

ザシュッ!!

ヒロが飛び上がって回転しながら、コンゴウの背中を斬り抜けると、すかさず横から、ナナが神機を横に振り抜いてくる。

「てやっ!!」

ガンッ!!

もろに食らって顔面が割れると、コンゴウは頭を抱えて転げまわる。そこへ、とどめと言わんばかりに、ジュリウスが捕食形態で飛び込み、胸へと抉り込ませる。

ガリュウ!!

コアを抜き取って、ジュリウスが着地すると、ヒロとナナは周りへと警戒する。少しの間の沈黙の後、ヒロが息を吐いたことにより、三人は緊張を解く。

「どうやら、目的は達成したようだな」

「みたいだね。お疲れ様」

「お疲れ~!!」

三人は笑顔を交わしながら、ジュリウスを中心に集まる。

極東へと連絡を取る為に、ジュリウスは無線を繋ぎ、喋りかける。

「こちらブラッド隊、ジュリウス。フラン。俺達の区画は、目的を達した。ギル達の様子を教えてくれ」

『はい。少々お待ちを・・・』

待っている間に、ナナの様子を伺うジュリウス。今日聞いたばかりとは言え、少し気にしすぎかと、そんな自分に苦笑してしまう。

しばらく待っていると、フランから返事が返って来る。だがそれは、彼の望んだ答えとは違うものだった。

『ジュリウスさん!そこから離れて下さい!』

「どうした!?フラン!?」

『多数のオラクル反応が、突然に・・!!』

「ジュリウス!」

「っ!?」

ヒロに呼びかけられ、フランの連絡から耳を背け、顔を上げる。すると、倒した数の倍の荒神が、自分達を囲みに現れたのだ。

「フラン!一旦切る!」

『あ!ジュリウスさん!?』

無線を切ってから神機を構えて、ジュリウスは頬を伝う嫌な汗に、思わず苦笑してしまう。

「囲まれたね、ジュリウス。どうする?」

「応援を頼むしかないな。ギル!聞こえるか!?こっちに来られるか!?」

無線をギルに繋ぎなおしてから叫ぶと、ギルから即座に返事が返って来る。

『援護に行ってやりたいのは山々だが、こっちもそうはいかなくてな』

「どういうことだ?」

『そっちもかもしれないが、こっちも追加のお客さんが大量に到着だ!』

「くそっ!・・大丈夫なのか!?」

じりじりと距離をつめてくる荒神に目を向けながら、ジュリウスは声を掛け続ける。

『まだ何とかなるが・・・おらぁ!!・・そうは、もちそうにねぇな!』

「ジュリウス!どうするの!?」

前で食い止めるヒロにせっつかれて、ジュリウスは眉間に皺を寄せて考えた末、全員に指示を出す。

「ブラッド!ここから直ちに、撤退する!シエル!そっちの退路をひらけ!ナナ!ここは俺とヒロで食い止める!お前は先に逃げろ!」

『了解!』

「え・・・・・、逃げる?」

彼の指示に、何かを感じたのか、ナナはその場で固まる。それに気付いたヒロが、すかさず声を掛ける。

「ナナ!早く!」

しかし、彼の思いを断るように、ナナは急に首を横に振りだす。

「やだ・・・・やだよ、やだ。みんなが・・・だって、・・・・・死んじゃう・・」

「え?・・・ナナ?」

その場にへたり込んでしまったナナの異変を察知してか、ヒロは背筋に寒気を感じる。

そして・・・。

 

『ナナ・・・・、逃げて』

「いやぁーーーーーーーーーーーっ!!!!」

 

キイィィィィィンッ!!

 

「なんだと!?」

『・・まさか!?』

『この感じ・・・、ナナ!?』

『そんな・・・、こんなタイミングで!?』

 

辺りに響き渡るナナの叫び。

それと同時に、彼女の血の力が覚醒した。

 

「あぁぁぁーーーーんっ!!」

ナナの叫びに呼応してか、荒神の動きに変化が見えだす。

『お、おい!どうなってんだよ!?』

『俺が知るか!』

「どうした!?」

無線の向こうで言い争うロミオとギルに、ジュリウスは状況の説明を要求する。すると、代わりにシエルが報告する。

『荒神が、一気に引いていきます。・・・いえ!おそらく、そちらに向かってます!』

「はは・・。噓でしょ?」

無線を聞いていたヒロが、自嘲気味に笑ってしまう。しかし、変化は目の前でも起こり始める。

荒神が、ゆっくりではあるが、ナナへと目標を定めて動き出したのだ。

「これは・・・覚醒に伴う、血の力の暴走・・・なのか?」

ジュリウスが声を洩らしたのを聞きつけたのか、無線の向こうの三人が声を上げる。

『すぐに向かいます!』

『5分だ!それまで、踏ん張ってろよ!?』

『すぐにそっちに行くよ!!』

そう言って無線を切った三人に苦笑してから、ヒロはジュリウスに話し掛ける。

「どうする?みんな隊長命令を、無視しちゃったけど?」

「こういう違反は、お前で慣れてるさ。ヒロ」

そう言って笑うジュリウスに、ヒロは肩を上げて見せてから、ナナの前に移動する。

「ヒロ。お前のブラッドアーツで、どのぐらい倒せる?」

「そうだね・・。今目の前にいるだけなら、3分の1ってとこかな?ジュリウスは?」

「・・・同じぐらいだな。今の俺個人の技能でどうにかなる領域は、当に越してる。こういう時、ブラッドアーツ頼りの自分が、情けなくなるな」

「同感だね・・」

目の前の数、推定40以上。ギル達の方から流れてくる数がわからない以上、三人を待つ余裕がないかもと嫌な汗を感じる二人。

しかし諦めぬと、神機を構えて見せる。

そして、ナナに向かってくる荒神が数匹、飛びかかってきたのを迎撃しようとした時、

「なら、三人なら余裕だな」

ズガァーーーーーンッ!!!

「「っ!!?」」

思わぬ声に驚く間に、目の前をバスター特有のオーラが走り抜け、飛び込んできた荒神を一掃する。

その発生源の先に立っていたのは、極東の最強の一角だった。

「ソーマさん!」

「まさか、貴方がここにいらっしゃるなんて・・」

二人とナナに視線を巡らせてから、ソーマは「ふん」と鼻を鳴らして、声を掛ける。

「たまたまだ。・・話は後にしろ。先にこいつらを、片付けるぞ」

「「了解!!」」

ソーマの登場に、戦況は一気に反転する。それから、三人が合流したところで、ナナを抱えて全員極東へと撤退した。

 

 

連絡を終えた榊博士は、溜息を吐いてから椅子に背を預ける。

そこで、ノックの音に反応して、

「どうぞ」

と声を掛けてから、座り直す。

入ってきたナナを除くブラッドに、榊博士はいつもの笑顔で迎える。

「やぁ、待ってたよ。・・・・ナナ君の、事だね?」

「はい。榊支部長の、見解をお伺いに参りました」

『支部長』というワードに苦笑してから、榊博士は説明を始める。

「先程、ラケル博士と連絡を済ませたところだよ。まず、ナナ君の血の力なんだが・・・、『誘引』ということだよ。要するに、特定の偏食場パルスを発生させ、荒神を引き寄せる、一種の疑似フェロモンを纏うといった能力だ」

「荒神を・・・引き寄せる、ですか?」

「そう。ジュリウス君の『統制』、シエル君の『直覚』、ギルバート君の『鼓吹』。そして、ヒロ君の『喚起』。どれも、味方のゴッドイーターに影響を及ぼす力だが、彼女の場合は違う。ラケル博士によれば、意志の力の具現化が『血の力』となるそうだね?おそらくナナ君の意志は、皆を守りたいが故に、荒神を一身に受け止める・・と、言うことなのかもしれないね」

榊博士の説明に、納得しつつもやるせない表情を浮かべるブラッド。そんな中、ギルが榊博士へと、質問する。

「俺も、いいっすか?どうして、ナナの血の力は・・暴走したんすか?」

その質問に、榊博士は大きく息を洩らしてから、いつになく真剣な表情で答える。

「君達は、ゴッドイーター・チルドレンというのを、知ってるかい?文字通りの意味なんだが、ゴッドイーターから生まれた子供の事を、フェンリルではそう呼称している。彼女は、そのゴッドイーター・チルドレンなんだよ」

そう言われても、今一納得がいかないのか、ギルは続けて疑問を返す。

「それに、なんか問題でもあるんっすか!?」

「ギル・・」

苛立ちも交じって少し声を荒げたのを、ジュリウスが落ち着くよう名を呼ぶ。しかし、榊博士はそれを構わないといったそぶりを見せ、説明に戻る。

「ゴッドイーター・チルドレンは、その身に微量ながらも、偏食因子を持って生まれる。ゴッドイーター自体、言うなれば新たな人種だ。そこから更に子孫が生まれたとなると、未知な部分が多くてね」

「未知な部分ですか?それは、どんな?」

ヒロが聞き返すと、榊博士は軽く首を横に振ってから、話が脱線したことに反省し、大筋を戻して話し出す。

「その説明は、今はやめておこう。ギル君が聞きたいことから、話が横道に反れるしね。・・・簡単に判明していることは、ゴッドイーター・チルドレンの大半は、精神が不安定になりやすい。ましてや、ゴッドイーターになろうものなら、体内の偏食因子の濃度に精神が耐えられなくなり、ある種の発作を起こしてしまうんだ。その為、従来のゴッドイーター以上にメディカルチェックを行ったり、精神安定剤などを服用しなければならなくなる」

その言葉にハッとして、ブラッドは顔を見合わせる。その反応に再び息を吐いてから、榊博士は目を閉じる。

「心当たりは、あるみたいだね。彼女は自分が昔の記憶の不安定さと認識しているようだけど、実際は・・・起こるべくして起こっている事象に対して、ラケル博士が対処されてるだけなんだよ。暴走は・・・タイミングが悪かったと、いうことになるね」

 

 

研究室の奥の部屋で、ナナは天井を見ながら溜息を吐く。

榊博士に、血の力の暴走が治まるまで、そこにいるようにと連れてこられてから、もう3日が過ぎていた。

しかし、何もない部屋で、寝食だけを行っていると、覚醒した日の事を思い出して、心が潰されそうになる。

胸をぎゅっと抱くように寝返りをうって、目を閉じて寝てしまおうと思い悩んでいると、

コンコンッ

ノックの音に反応して起き上がる。

「・・・暇、してるか?」

「ソーマさん。・・・遊びに来てくれたんですか?」

そんなナナの言葉に、フッと笑みを浮かべて、ソーマは自分の後ろへと指さす。

「俺は、そこまで暇じゃない。・・・俺はな」

「え?・・・」

そう疑問に思っていると、

「いよっ!ナナ!」

ロミオが元気よく顔を出す。

それに続いて、ヒロ、シエル、ギルと顔を出し、最後にジュリウスが入って来る。

「みんな・・・」

ナナが感動に涙を浮かべると、皆笑顔で応える。それを確認してから、ソーマがその場から去ろうとすると、ジュリウスが頭を下げて感謝を口にする。

「ソーマさん。無理を言って、申し訳ありません」

「俺がいつ、無理を聞いた?」

そう言って軽く手を振ってから、ソーマは出て行った。

そんなソーマの背中を見送ってから、ヒロは思い出したように喋りかける。

「そうそう。ナナに、お土産があるんだ」

「おみやげ?」

「じゃ・・・、じゃん!・・・・・・チキン、です」

突然シエルが柄にもないことを口にする。

誰が渡すのか、ジャンケンで決めた結果だ。

しかし、そんな事然したる問題ではないのか、ナナは嬉しさに涙を拭いだす。

「おいおい。泣くやつがあるかよ」

「やっぱりー、シエルの『じゃんっ!』が、寒かったんじゃね?」

「なっ!?ろ、ロミオがやれって言いだしたんじゃないですか!ジャンケンに負けた、罰ゲームなどと言い出して!!」

「まぁまぁ、シエル。怒らないでよ。可愛かったよ?」

「か、かわ・・・・えぇ!?」

「シエル、落ち着け。ナナが困っているぞ?」

皆に囲まれて過ごすことが、こんなにも嬉しいことなのだと痛感し、ナナは早く戻りたいと、強く願うのだった。

 

 

 





実はゴッドイーター・チルドレンの細かい設定、今回調べて知りました!w

勉強不足だな・・・。




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28話 嬉しさがいっぱい!

 

 

ズウゥゥゥーーーンッ

「え?・・・・なに?」

急な地響きに、眠っていたナナは体を起こす。壁を探って、電気のスイッチを入れた瞬間、警報が鳴り響く。

 

『緊急警報!荒神がB地区の装甲壁を突破!防衛班は直ちに急行してください!第4部隊及びブラッド隊は、住民の避難をお願いします!』

 

ブラッドが呼ばれたことに過剰反応してか、ナナはベッドに立ち上がる。

何かしなければと、部屋を見回していると、スピーカーから榊博士の声が入る。

『ナナ君、聞こえるかい?』

「榊博士!?あの!荒神が・・!!」

『大丈夫。君が心配することは無い。いいかい?とにかく、気持ちを落ち着けて、その場でジッとしてるんだよ。いいね?』

そう言い終えて、榊博士の声は聞こえなくなる。

大丈夫と言われたのだ。とにかく、言われた通りジッとしていようと努めるナナ。

しかし、元々考えるより先に動いてしまう性格があだとなってか、ナナは強い眼差しで立ち上がり、扉を思い切り殴りつけた。

 

神機保管庫に車を入れて、ユノとサツキはリッカへと声を掛ける。

「どうも、リッカさん。それとも・・・未来の妹とでも、呼んだ方が良いですか?」

「いいよ~。いつでも、そう呼んでくれて!」

そうサツキに返してから、リッカはユノへと目を向ける。

「じゃあ、差し詰めユノちゃんが、私の未来の妹かな?」

「え、えっと~・・・そうなりますか?」

少し照れた様子のユノを撫でながら、リッカは余裕の笑みを浮かべる。それに苦笑しながら、サツキは両手を軽く上げて見せる。

「まったく、揶揄いがいがないですね。あ・・そういえば、さっき緊急警報が流れてましたけど、大丈夫なんです?」

「あぁ、大丈夫だよ。さっき防衛班が出てったし、ハルさんの所とブラッドが住民の避難救援に行ったから」

そう言ってユノの頭から手をどけて、保管されている神機の方へと目を向ける。すると、今ここに居てはいけない人物を見てしまう。

「・・・は?ナナちゃん?」

ナナは神機の認証を行い、自分の神機を手に取ると、目の前に止められたサツキの車に飛び乗って、エンジンをかける。

「え?あ、ちょっと!?」

「ごめんなさい!借ります!!」

それだけ言い残し、ナナは車で走り去ってしまった。

後に残された三人は、唖然として立ち尽くしてしまう。

「あの、行っちゃいましたね?」

「行っちゃったね・・・。神機、持たせちゃ駄目だったんだけど・・」

「わ・・・・私の車がーーーーー!!!」

 

作戦指令室に入ったレンカは、自分のデスクの上からインカムを殴り取り、極東の各ゲートの衛兵へと繋ぐ。

「こちら空木だ!ブラッド隊、香月ナナを通すな!車で移動のはずだ。強行突破されぬよう、ゲートは・・」

『こちら西口ゲート!すみません!すでに通してしまったと・・』

「くそっ!遅かったか!どこへ向かったかわかるか!?」

「周辺の地図、出します!!」

無線を切ってレンカが叫ぶと、ヒバリが手元のキーボードを操作し、極東近辺の地図をスクリーンに表示する。

ナナの腕輪のビーコンを発見すると、レンカはもう1度無線を繋ごうとする。しかし、ある異変に気付き、その手を止めてしまう。

「空木さん!荒神が、極東から離れていきます!この先は・・・」

「ナナの奴、これが狙いか。・・・ジュリウスに繋いでくれ!」

そう叫びながらも、レンカは昔の自分と重なるモノを感じ、苦笑いを浮かべてしまう。

 

「ナナが・・・。わかりました」

レンカからの連絡を受け、ジュリウスはブラッドへと声を掛ける。

「ブラッド隊!ナナが、極東から単身外に出た!目的は、極東に入り込んだ荒神の誘導だ!」

《っ!!?》

その言葉に、皆顔色を変えて戸惑う。その様子を見ていたハルが、神機を担いで口を開く。

「行って来いよ、ブラッド隊。ナナちゃんが囮になったなら、俺等だけで十分だろ?」

「でも、ハルさん!」

ギルが声を上げると、カノンも傍で声を掛ける。

「行ってあげて下さい、ギルさん。ナナさん、きっと待ってますよ!」

「カノン・・」

「決まりだね、ギル」

ヒロが軽く背中を叩くと、ギルもようやく二人だけの部隊を置いて、離れる覚悟を決める。

「な、なぁ!?早く行かないと、不味いんじゃないのか!?」

「ヘリに要請、着きました!すぐに移動を!」

「わかった。さぁ、うちの迷子を・・迎えに行くぞ」

皆の言葉に頷いてから、ギルはハルとカノンに、軽く会釈して走り出す。その隣について、ヒロも全力で走り出した。

 

 

乗り捨てた車から距離を取って、ナナは荒神を引き付けながら、1体1体確実に倒していく。

しかし、予想に反してその数は多く、苦戦を強いられ、ナナは肩で息をする程に体力を奪われている。

(みんなを・・・守るんだ。・・・大好きな・・、みんなを・・)

気力を振り絞って、神機を握り直すナナ。だが、荒神を一掃するイメージが湧いてこない。

少しでも気を抜けば、泣いてしまいそうな状況で、ナナは歯を食い縛って足を踏ん張る。

そんな時、曖昧な記憶の中で微笑む、母親の姿が目に浮かぶ。

「お母さん・・・」

その笑顔で、ずっと自分を守り続けた母。その姿に祈るように、ナナは声を洩らす。

「お母さん・・・あたし、みんなを守りたいんだ。大切なみんなを・・・。だから、力を貸してね」

「あぁ、力を貸そう」

ドォンッ!

答えが返ってきたのに驚き、ナナはそちらへと目を向けると、ジュリウスを先頭に、ブラッド隊がそこにいた。

バレッドを撃ったヒロが笑って見せるのに合わせて、全員が神機を構える。

「ブラッド隊!仲間を守るために、荒神を倒すぞ!!」

《了解!!》

皆一斉に走り出すと、荒神へと戦闘を開始する。

その行動を理解しつつも、納得のいかないナナは声を上げる。

「なんで!みんな、どうして来ちゃったの!?せっかくあたしが、荒神を・・!」

それに答えるために、皆目の前の荒神を駆逐していく。

ガンッ!

「ナナ!っと・・・このっ!お前は、本当に馬鹿だよ!」

「え?・・」

ザンッ!

「あぁ。珍しくロミオに同意見だ。はっ!・・・なにも、一人で行くことはねぇだろ?」

ドドンッ!!

「私達は、仲間ですよ。・・はぁっ!!ナナさんが私達を思う様に、私達だってあなたを思っているんです」

「だ、だけど・・・」

ザシュッ!!

「ふぅっ!!仲間の為の苦労ぐらい、買わせてよ・・ナナ。僕達は、六人でブラッドなんだよ?」

ジュバッ!!

「一人でも欠けたら、意味がないんだ。ナナ・・。俺達と一緒に、帰ろう」

「うぅ・・・・・くぅっ・・・うっ・・」

ナナが泣きながら動けない代わりに、ブラッドは目の前の荒神を、1体も残さず消滅させていった。

 

戦闘が終わっても、泣き止まないナナを、シエルが優しく背中をさする。

そんな中、一人リュックを背負っていたヒロが、中身を取り出して、それをナナに渡す。

それを目にした瞬間、ナナはゆっくりと手を伸ばして、それを受け取る。

アルミホイルに包まれた中からでも、匂いで察したのか、その中身を迷わず口へと運ぶ。

「急いで持ってきたから、ちょっと形崩れちゃったけど・・・。こういう時に、食べるんでしょ?それ」

「あ・・・」

そう言われて、ナナは思い出す。

母がいつも言ってくれた言葉を・・。

 

『ナナがおいしそうに食べてくれるから、お母さん・・とっても嬉しいわ!』

 

「そうだ・・。嬉しい時は、おでんパンだ。あはは・・」

もう一口噛り付いてから、ナナは笑顔を浮かべて、皆への感謝を口にする。

「冷めてるけど・・・とっても、温かいよ。みんな・・、ありがとう。とっても、嬉しい」

そんなナナの笑顔につられて、皆も優しく微笑んだ。

 

 

ガツッガツッガツッ

極東に戻ったナナは、一心不乱に食べまくっていた。

大量に作ってくれとブラッドが要請した、おでんパン。そんな希望に応える為、料理長ムツミの粋なはからいで、夕飯は全員おでんパンとなったのだ。

最初は皆意外と美味しいと食べていたのだが、量がありすぎて、一人また一人とギブアップしていく。

今となっては、ナナしか食べていない程に・・。

「う~ん。ちょっと作り過ぎちゃいましたかね?」

「ほんはほほはいお!ほっへも、おいひい!(そんなことないよ!とっても、おいしい!)」

ご満悦のナナはまだ食べ続けているが、他のブラッドは気持ち悪そうに、口を押えている。

「お・・・お前・・、まだ、食うのかおぷっ!」

「ロミオ・・・・。どうか、その行為はお手洗いで・・・・うっ!」

「・・・・・んっ!ナナ。頼むから、もう見せないでくれ」

「無理・・・・・・。僕、色々・・・無理」

「・・・・・・・・・・・・」

ジュリウスに至っては言葉も出ない程、気持ち悪いらしい。

しかし、ナナの幸せそうな笑顔を目にして、ブラッドは喜びに顔を綻ばせるのだった。・・・・・吐きそうになりながら。

 

別のテーブルでは、サツキが顔を伏して嘆いていた。

それを榊博士は、頬を掻きつつ慰めようと声を掛ける。

「い、いや~。まさか、ナナ君がサツキ君の車に乗って行くなんてね。流石の私も、予想すらできなかったよ」

「・・・・慰めれないなら、無理しないで下さいー」

弱冠幼児退行してしまってるサツキの背を、ユノが苦笑しながら撫で続ける。

何しろ、一切合切の機材を積んでいた状態で、ナナが飛び掛かってきた荒神を巻き込む形で轢き殺し、更には横から突っ込まれた拍子で、吹っ飛んで横転。

当然、車は大破し、中の機材はすべてお釈迦になったわけだ。正直、嘆くなという方が難しい。

そんな彼女を見かねたのか、リッカが溜息を吐いて、榊博士に話し掛ける。

「博士。今回はこちら側の過失なんだし、何とかしてあげなよ?」

「そうは言うがね、リッカ君。車はともかく、彼女が所持していたような機材は、中々手に入らないんだよ?よしんば手に入るとしてもだ、私のポケットマネーにも限界がある」

「・・・・いくら位です?」

研究費、開発費などで、結構な金額の動きを相手する榊博士がいう値段に興味が湧いてか、リッカは榊博士がタブレット型端末に出した金額を、横から覗く。

そして、それが洒落じゃないと理解してか、優しくサツキの肩に手を置く。

「・・・・・これは、無理」

「あぁぁーーー!!極東支部まで冷たいーーー!!」

「ちょ、ちょっと、サツキ」

更に嘆くサツキに(おそらく半分は嘘)、リッカはあることを思いついてか、手早く携帯端末でメールを送る。

それから数分もしないうちに返信があり、リッカは苦笑しながら、サツキに内容を伝える。

「喜びなよ、サツキさん。『良いよ』ってさ」

「・・・・・うぅ、誰が?」

そう聞き返してくるサツキに、返信されたメールを液晶に映したまま、サツキへと見せる。

「『良いよ。サツキ姉さんの為なら』・・って、ユウ!?これ、本当に!?」

「何となーく、ユウ君ならこう言いそうな気がしてさ。うちの旦那様は、倹約家だから」

その言葉に確信を得たのか、サツキはユノに飛びついて喜びを露わにする。

「やったーーーー!!持つべきものは、出来る弟よねー!!」

「んもう!サツキは調子いいんだから。でも、良いんですか?リッカさん。結婚資金とか・・色々と」

そう聞かれたリッカは、手をヒラヒラさせて笑って見せる。

「心配ないって。ユウ君程じゃなくても、私だって稼いでるんだし。本人が良いっていうのに、私が止めらんないでしょ?」

そんなリッカに笑顔で礼をするユノ。それに対し、サツキは自分の携帯端末をカチカチとせわしく打っていた。

「・・サツキ?何してるの?」

「え?ユウにお礼のメールよ。それと、相当な金額をサラッと出すって言ったユウの貯蓄を、教えてって」

「なっ!?何でそんなこと、聞いちゃうのよ!」

ユノが怒っている間に、サツキの携帯端末にユウから返信が帰ってくる。それに反応して、リッカと榊博士も覗き込むように体勢を変える。

「ちょっと!リッカさんに、博士まで!」

「まぁまぁ。私は将来の妻だし」

「私は直属の上司だしね」

ただ見たいだけなのだろう二人に目配せしてから、サツキは開封ボタンを押す。

「さーって。ユウの貯蓄はいくら・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「・・・・・・・」

「?どうしたの?みんなして・・?」

全員の・・・まさか榊博士までも目が点になっているのを不思議に思い、ユノも携帯端末の内容を覗く。

そして・・・。

《ええぇぇぇぇーーーーーーーーー!!!!!》

どれだけ稼いだのか・・・、はたまたどれだけ使わなかったのか・・・・。神薙ユウの明かした貯蓄は、極東支部全体を3年動かせる数字だった。

 

研究所でPCのキーボードを打ちながら、ソーマは運ばれたおでんパンを一つ手に取る。そしてそれを頬張ろうとしてから、山と積まれたおでんパンを目にし、溜息を吐く。

「どうやって処理しろってんだ。こんなに・・」

そう呟いてから立ち上がり、コーヒーを入れてからソファーに腰を下ろす。と、そこで、携帯端末が鳴っていることに気付き、ソーマは液晶を確認してから、コールボタンを押す。

「俺だ。・・・・あぁ。お前の言ってた、女に会った。・・・・そうだ。・・・・お前の言ってたこと、わかった気がする。・・・あぁ、そうだ。まさかとは思うけどな・・・・・・。わかってる」

電話の内容がよろしくないのか、ソーマは終始険しい顔をしている。そして、最後に溜息をもらしてから、彼の名を口にする。

「あぁ・・・・。もしかしたら、お前に帰ってきてもらうかもしれねぇぞ、ユウ」

 

 

 





ナナの話、完結です!

作家さんってすごいなぁと、思います。
ちょっと書いてみた程度の私は、たまに気が狂いそうに・・w

次は、コメディ色で!休憩、休憩w



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29話 極東支部の日常

 

 

戦場を駆ける、ゴッドイーター達。

そんな彼等にも、戦いとは別の生活が存在する。

 

 

 

その1

 

時間を持て余したシエルは、特に目的もなく、団欒室へと足を向けていた。

そんな時、ナナと極東の女性隊員が、集まって騒いでいるのが目に留まり、シエルは自然とそちらへ足を運ぶ。

「あ!シエルちゃん!やっほー!!」

「どうもー!シエルさん!」

「お一人ですか?」

「こっちこっち!」

呼ばれたことに対し、笑顔を見せてから、シエルは近寄って喋りかける。

「皆さん集まって、どうされたんですか?」

「実はね、極東の・・・・えっと・・、四天王?」

ナナが首を傾げるのに苦笑しながら、三人の中の一人が、代表して答える。

「違いますよ、ナナさん。極東の『BeautifulQuartet』ですよ」

「ビューティフル・・・ですか?」

聞き返したシエルに、三人は勢いよく詰め寄り、力説を始める。

「そう!この極東支部が誇る、四人のイケメンの事を、私達は敬意を込めて、そう呼んでるんです!」

「第4部隊隊長、真壁ハルオミさん。あの甘いマスクから飛び出す細やかな気遣いと微笑み・・。例え軽い人とわかっていても、こう・・・背筋がゾクゾクって」

「極東支部教官の、空木レンカさん。普段厳しい言葉を発する彼が、唐突に見せる優しさ。その笑顔を、アリサ先輩ではなく・・・私だけのものにしたい」

熱弁が続く中、シエルはとんでもない所に足を運んだと、頬に汗を伝わせる。そんな彼女とは対称に、隣で聞いてるナナは、ひたすらニコニコと楽しんでいる。

「そして極東が誇る最強の一人、神薙ユウさん。あぁ、ただ優しく微笑んで下さるだけで、私の心は春の様に暖かい。リッカさんという障害を越えて、抱き締めてほしい」

「そ・・・そうなん、ですか?」

何とか言葉を口にしたシエルに、今度は三人揃って声を発する。

「「「そして!何といっても・・・・」」」

三人が溜めに溜めて言おうとしているところに、その当人がエレベーターから姿を現す。

「「「きゃぁーーーっ!!!ソーマ様ーーーーーーーっ!!!!」」」

無表情のままソーマは視線だけを移動させ、声のする方へと声を掛ける。

「あ?・・・どうした?」

「「「はぁ~・・・・」」」

ドサッ

話し掛けられたことに腰が砕けたのか、三人は嬉しさに涙を流しながら、その場に倒れて失神した。

そんな様子に慣れているかのように、ソーマは軽く息を吐いてから、受付へと歩き出す。

そして、声を殺して笑うヒバリに、「ふん」と鼻を鳴らしてから、口を開く。

「ヒバリ、少し出てくる。それと・・・・あれ、片付けといてくれ」

「ふふっ、わかりました。どうぞ、お気をつけて」

そのやり取りを眺めながら、ナナはシエルを覗き込んで喋りかける。

「ねぇねぇ、シエルちゃん!あたし達ブラッドも、『BeautyConditioner』作る?」

「・・・・髪の毛が艶やかになりそうですね」

「え?なんで?」

ナナの間違いを正さずに、シエルはヒロにもファンクラブが出来ないかと、内心ヤキモキしていたのだった。

 

 

 

その2

 

団欒室の中に設けられた、巨大スクリーン。

ニュースを眺めていたギルの隣に、カノンはちょこんと座っている。微妙に距離を詰められたと思い、ギル自身微妙な気持ちを表情に表している。

すると、

『みんなーっ!神機兵に乗って、世界を守りましょ!?』

フェンリルの神機兵搭乗者を募集する、宣伝が流れ出す。

妙にブリブリしている昔のアイドルチックな女の子、『シプレ』を見て、ギルは顔をしかめて声を洩らす。

「・・・何だこりゃ?」

「知りません?『シプレ』。最近男性隊員の間で、大人気なんですよ?」

その言葉を拾って、カノンが会話に持ち込むと、ギルはそれに気付かないのか、更に言葉を返す。

「神機兵と、何の関係もないじゃねぇか?何なんだ?この女は・・」

「さぁ・・、素性は一切明かしてませんし・・・。ただ、噂ではユノさんに対抗して、本部が後押ししているアイドルだとか!」

「それが本当なら、上層部は随分と平和なもんだ。サツキさんが『根が腐ってる』というのも、頷ける」

「あくまでも、噂ですよ!?」

自然と会話をしていることに、カノンは嬉しさに頬を赤くしている。と・・。

『今日は、私の最新ナンバー、『コイメカ』を聞いてもらいます!』

「何を言ってんだ、こいつ・・・・、ん?」

「え?・・・・えぇ!?」

悪態をついていたギルの変化に合わせて、カノンも一緒に振り向くと、コウタを先頭にした男衆が、綺麗に整列して構えていたのだ。その中には、ロミオの姿も・・。

「あの・・・・、コウタさん?」

「黙ってろ、ギル。ここからは、俺達の時間だ」

「へ?」

カノンが声を洩らしたその瞬間、画面の中のアイドルは、パッとポーズを決めてから、いつも(?)の言葉を口にする。

『シプレ~』

《シルブプレーー!!》

男達の叫びに、ギルとカノンは思わず飛び退いて、驚愕の表情を浮かべる。

そして、『シプレ』の曲に合わせて、男達の祭りが始まる。

 

『女の子は♪恋の機械♪計~算は苦~手なの♪』

《・・・・はい!・・・はい!・・・・・・・・はいはいはいはい!!》

『もちょっとだけ♪後ちょこっとだけ♪お~ね~が~い♪こ~っち向いて♪』

《・・・・・・・はい!・・・・・・はい!・・・・・・・・こ~っち向いて!!》

『オ~~バ~ヒ~ト♪目と目が合~った瞬間♪』

《おーーーーー!ふわっふわっふわっふわっ!!っおい!!っおい!っおい!っおい!》

『起動し~た♪恋を知~った♪この胸の~ド~キ~ド~キ~~♪』

《おーーーー!おーーーーー!!はいはいはい、へいっ!ド~キ~ド~キ~~♪》

『神機兵~』

《シルブプレ!!》

 

曲が終わると、何事も無かったかのように、男達は去って行く。その様子に唖然としていたギルは、固まってしまったカノンを抱えて、医務室へと逃げ去った。

 

 

 

その3

 

「ちょっと!今回は私がヒロ先輩を誘ったんだから!エミールが引いてよ!!」

「ふっ。いくらエリナの頼みとはいえ、それは聞けないな。何故なら!彼と僕は、運命共同体だからだ!!」

目の前で繰り広げられる、自分の取り合いに、ヒロは感情を無にして「早く終わらないか」と、切に願っていた。

 

少し前に、エリナに呼び止められたヒロは、訓練に誘われた。

最近打ち解けたなぁと思っていたので、より関係を良好にする為に受けたところで、どこから湧いて出たのか、エミールが「待った!」をかけてきたのだ。

そして、二人の関係上ヒートアップしていき・・・・今に至る、という訳だ。

 

「先輩は、私の誘いを受けてくれたの!あんたはしょっちゅう、任務に行ってもらってるじゃない!」

「ふふっ、エリナ。それは違うな。僕達は!共に必要としあってるからこそ!任務を共にしているんだ!!」

「あんたなんかが、先輩と肩を並べていると思ってること自体、腹ただしいのよ!」

「思っているのではない!感じているのさ!僕とヒロ君は、ね!!!」

(帰りたい・・・・・)

ヒロがだんだんとその場に沈んでいきそうな感覚に襲われていると、

チャーチャララチャ~♪ジャッジャン♪

どこからか音楽が流れ出す。

そして・・・ついに、彼が動き出す。

「ふっ・・。全くお前等は・・、何て青春真っ盛りなんだ」

「は・・ハルさん!?」

ハルの登場に、エリナとエミールは口論を止め、ヒロは・・・更にややこしくなりそうな予感に襲われた。

面倒になる前に先手を打とうと、ヒロはこちらに歩いてくるハルに近寄る。だが、彼が喋るより先に、口の前に人差し指を立てられ、「ちっちっちっ」と横に振られる。

「安心しろ~、ヒロ。ここは、俺に全て任せておけ」

絶対に面白がっているというジト目で見つめるヒロに、ハルは素知らぬ態度で、エリナとエミールの前に立つ。

「いいか~エリナ、エミール。昔の偉大なる人は、こう言った。『時に欲しいモノは、力ずくで奪え!』と!!」

「力ずくで!?」

「奪う!!」

二人の復唱に、ハルは1度頷いてから、両手を広げて話を進める。

「ただ戦えと言う訳じゃない。そう!文字通りに、奪い合うことこそに!意味がある!!」

「な、成る程・・」

「一理、ありますな」

本人の知らぬ間に何かが決まったのか、二人はハルに言われるまま、ヒロの腕を1本ずつ握る。

そして、ハルが高々と上げた右手を下ろして、

「始め!」

と叫んだ瞬間、力いっぱい引っ張り出した。

「いっ・・・いだだだだっ!何!?なんな・・痛い痛い!!」

当たり前だが、ヒロは痛がっている。

その様子を心配したのか、エリナがハルへと声を掛ける。

「あの!ハルさん!?先輩、もの凄く痛がってるんですけど!?」

「ふっ、青いなエリナ。痛みを分かち合うことこそが、真の絆を生むということじゃないか!」

「そ・・・くっ!そう、何ですか!?」

ハルの答えに首を傾げているエリナの隙をついて、エミールが勝負をかけようと力を籠める。

「ふんっ・・・ぬ~!!エリナ!そんなに心配なら、ヒロ君を離すといい!!後は僕に任せてね!!」

「なっ・・こっのぉ!!だ・れ・が、離すもんかーーー!!!」

「いだだだだっ!!!裂ける!割けるーー!!まっ・・痛いーーー!!」

流石にヒロが涙目になってきたところで、ハルは不敵に笑みを浮かべながら前へと歩み出る。

「そうだ。そして、死力を尽くして欲しいものを我が手にと引っ張った時、痛みを訴える相手を気遣い、手を離した方が勝利者となる!」

そう力説すると、二人はハッとしてその手を・・・・、離してなかった。

「な・・・・何、言ってるんですか!?離した隙に、エミールが先輩を連れてっちゃったら・・・くぅっ!どうするんですか!?」

「・・・・なに?」

「そ・・・それに、ここまで情熱を見せつけているというのに・・・がぁっ!離した瞬間、その情熱をも手離すも同義!そんな者に、ヒロ君の横に立つ資格はない!」

「・・・成る程な。確かに、それも1つの心理かもしれない」

一人感心しているハルに、ヒロは必死に声を掛けようとしている。だが、左右にかかる力と痛みのせいで、だんだんと声も出せなくなってくる。

そんなヒロの必死な顔に、何を思ったのか、ハルは自分の中に芽生えた疑問を問うていた。

「ヒロ。お前はどう思う?」

その言葉を聞いたのを最後に、ヒロは意識がぷっつりと途切れてしまった。

後に、その様子を見た者達が語り継ぐ、『真壁ハルオミの、理不尽な大岡裁判』事件であった。

 

 

 

その4

 

任務から戻ったジュリウスは、今日共に戦ったタツミとブレンダンに、お礼の言葉を口にする。

「本日もありがとうございました。また、色々と勉強させていただきました」

「いや、構わない。お前と一緒に任務に行くと、俺の方も考えさせられる。まだまだ精進しなければな。お互いに・・」

「はい。ブレンダンさん」

そんな二人の会話を聞きながら、タツミは大きく息を吐く。

「お前らな~、固いにも程があるぞ?特にブレンダン!お前は、昔っからその調子だしな!」

「うん?何か問題でもあったか?」

気にした様子もなく、真顔で聞いてくるブレンダンに、タツミは更にもう1つ溜息を吐く。

「どこか悪いところがあったら言ってくれ、タツミ。隊長であるお前の言葉を、俺は全て受け入れよう」

「固い!でも、間違ってない!悪いとこ何てねぇよ!」

「・・そうか?」

少し首を傾げたが、ブレンダンはエントランスへの道を先に進む。

その後ろで、肩を落とすタツミに、ジュリウスが声を掛ける。

「あの、タツミさん。大丈夫ですか?」

「あ?平気、平気。防衛班は一生一つになれないって、確信してるから・・俺」

「心中、お察しします」

「・・・お前に説得力はねぇよ?」

エントランスへ入り、ブレンダンの背中を見つけたタツミは、ジュリウスを促し受付へと向かう。

そして、自分の心のオアシス、竹田ヒバリをその目で探す。

しかし、休憩にでも行っているのか、ヒバリの姿は無く、またがっくりと肩を落とす。

「なんだよ。ヒバリちゃんいねぇのか・・」

「そのようですね。なら、私がフランに報告をしましょう」

「そだな~。慣れたオペレーターが1番だ。な?ブレンダン」

ようやく追いついたブレンダンの肩を、軽く叩いて受付へ行こうと合図するタツミ。

だが、彼は何故かその場から動かない。気になったタツミとジュリウスは、ブレンダンへと振り返ると、二人はぎょっと驚きの表情になる。

「ぶ・・・ブレンダン?」

「どう、されたんですか?」

ブレンダンは、神々しいものを見たかのように、感動の涙を流しながら立ち尽くしていた。そして、一言洩らす。

「・・・・・可憐だ」

「「・・・・・はぁ!?」」

彼の瞳の中には、てきぱきと書類を片付けるフランが、女神の様に映っていた。

 

 

極東支部は、今日も平常運転・・・。

 

 

 





はい、滅茶苦茶!w

花男の『F4』みたいなの作りました!マジ恋にもありましたか?『エレガント・クアットロ』だったか・・?

ふざけすぎですね^^;



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30話 孤独な闘い

 

 

建物の影に身を潜めて、ヒロは静かに息を整える。

目を閉じると、シエルの『直覚』によって認識している、荒神の数を感じる。それが1つとなったところで、ジュリウスから無線が入る。

『ヒロ、そっちへ行った。偏食場パルスを起こす前に、決着をつけるぞ』

「・・・了解!」

そう言って飛び出し、逃げ延びてきたガルムの前に立ちはだかる。

グルルルッ

「こっから先は、行かせないよ」

そう言って神機を構え、体の中から湧きだす力を、神機に込める。

そんな暇を与えまいと、ガルムは飛び掛かろうと低く構える。だが・・。

グッ・・ガウッ

突然後ろへと意識を持っていかれる。

そこへ走り込んできたナナが、神機を大きく振り上げ叫ぶ。

「ヒロ!あたしの『誘引』で引き付けてる間に、よろし、く!!」

ガツッ!

振り抜いてきたハンマーを肩で受け、ガルムは足をもつれさせる。それを好機と思ったギルが、血の力を開放する。

「保険だ、ヒロ!1発で決めろよ!?」

『鼓吹』の力の影響で、ヒロの神機に集まったオーラは、更に大きく膨れ上がる。それを振り上げ、ヒロはその場で強く振り下ろす。

「ブラッドアーツ、『落花の太刀・紅』」

ズアァンッ!!

高音が突き抜けたと思った瞬間、ガルムの首はゆっくりと地面に落ちる。そこへ、ジュリウスが捕食形態を喰らいつかせ、コアを摘出する。

そこまで見届けてから、ヒロは大きく息を吐く。

「お疲れ様です。良い太刀筋でした」

後ろに控えていたであろうシエルが、ヒロへと声を掛ける。それに応えるように、ヒロは笑顔を向ける。

「大分様になってきたな。感応種も、確実に相手できるようになってきている。以後もこの調子で行こう」

《了解!》

「・・・了解」

全員の返事を確認してから、ジュリウスは合流地点に向かいながら、連絡を取る。その後ろについて、ブラッドも移動を開始する。

そんな中、珍しく元気な返事をしなかったロミオが、少し遅れているのに、ナナが気付く。

「先輩ー!早く帰ろー!?」

「あ・・・、あぁ!」

少し反応鈍く答えて、ロミオも皆に追いつこうと走り出す。そして、いつもの調子で誰かを捕まえようと伸ばした手を見てから、つい引っ込めてしまう。

それを胸に当てて、誰にも聞こえないように、声を洩らす・・。

「・・・・・俺も、ブラッド・・・だかんな・・」

 

 

エリナに付き合って、訓練をしていたヒロは、彼女を連れて休憩所に移動していた。

「先輩!今日の私の動き、良くなかったです!?」

「うん。エリナは呑み込みが早いから、すぐに追い越されそうで怖いな」

「え・・・・えへへ」

照れ笑いを浮かべながら、もじもじするエリナ。そんな彼女が、ふと立ち止まってから声を洩らす。

「まだ・・・やってる」

「ん?」

その声に反応して、ヒロはエリナの視線の先に目を向ける。訓練所の区画内にある、筋体力を鍛える部屋の奥で、ロミオがロードランナーの上を走っている。

特に変わったことは無いと思っていると、エリナが話し出す。

「ロミオさん・・・・多分、もう3時間以上は走ってます」

「え!?・・・どうして、そんな・・」

「あ・・・いや!?決して先輩を待つのが楽しみとかで、早く来たんじゃないですよ!たまたま!たまたまですから!!」

「え・・あ、うん」

焦って弁解してから、エリナは改まって続きを話す。

「早めに来た私が見た時と変わらないから・・・もしかしてと、思いまして。ただ、ずっと走ってたらですよ?」

「そう・・・。ちょっと・・、気になるね」

そう言って、ヒロは扉を開けて中に入る。それに次いで、エリナも入ってついていく。

突然声を掛けるのもと躊躇って、ヒロは側へと近寄る。だが、その考えを、すぐに捨てて駈け寄る。

「先輩!ロミオ先輩!10時間って、走り過ぎですよ!?」

「えぇ!?嘘でしょ!?」

ヒロの言葉に驚いてから、エリナも駈け寄る。しかし、二人に気付かないのか、ロミオは黙って走り続ける。

彼の足元をよく見てみると、汗と瞑れたマメから噴き出した血で濡れている。見てられないと、ヒロはロミオの身体を無理矢理ロードランナーから引きはがし、名を呼ぶ。

「ロミオ先輩!どうしたんですか!ロミ・・・・え?」

「先輩。ロミオさん・・・気絶してますよ?・・・まさか、気絶したまま走って!?」

エリナの言葉に納得してか、ヒロはエリナへと叫ぶ。

「ごめん!エリナ!訓練できなくなっちゃうけど、ロミオ先輩を運ぶの手伝って!それと、医務室に運んだら・・・・、ジュリウスとレンカさんを呼んできて!」

「あ、はい!そっちの肩、私が!」

「ありがとう!」

二人でロミオを抱えると、そのまま医務室へと駆け出す。と、そこに通りがかったエミールが、口遊む鼻歌を止め、ヒロへといつもの挨拶をする。

「やぁ!我がライバルよ!こんなところで会うのも、運命と・・」

「あんた、邪魔!!」

ガスッ!

「はがぁー!」

前に立ちふさがったところで、エリナが思い切り蹴り飛ばし、二人は部屋を後にする。

残されたエミールは、倒れたまま、どこから取り出したのか薔薇を一輪手に持ち、フッと笑みを浮かべる。

「流石我が親友エリックの妹、エリナ!見事な前蹴りだったよ!その意気や、よし!!ごほっ!」

そんな彼を、その場にいる全員が、見ないふりをしていた。

 

 

念の為に鎮静剤も打たれたロミオを囲んで、ヒロとジュリウス、レンカは厳しい表情を浮かべていた。

彼の足にまかれた包帯に、痛々しさを感じながら・・。

「・・・すまなかった。俺は、教官失格だな」

「空木教官が、謝ることなんてありません。私が、隊長として・・・もっと、早くに異変に気付いていれば・・」

「僕だって、そうだよ。ジュリウスよりは、ロミオ先輩と組んで任務に出てたのに・・何も・・・」

自分を攻め合い、三人は再び黙ってしまう。

そこへ、

コンコンッ

「入るぞー」

そう前置きしてから、リンドウが顔を出す。

「リンドウ。戻ってたのか?」

「あぁ。丁度さっきな。エントランスでエリナがへこんでてな。事情は何となくだが、把握してる」

「そう、ですか。エリナに・・・・ブラッドには、まだ言わないでって・・」

ヒロの言葉を最後まで言わせずに、リンドウは三人に声を掛ける。

「とりあえず、ここから出るぞ。・・・煙草、吸いたいんでな」

そう笑って見せたリンドウに、三人は緊張を解いて、部屋から出て行った。

 

近場の休憩所にエリナも呼んで、五人で長椅子に座る。

リンドウが煙草に火をつけると同時に、エリナが泣きそうな顔で、ヒロへと頭を下げる。

「先輩、ごめんなさい。・・・リンドウさんに・・喋っちゃって・・・」

「いいんだよ。僕こそごめんね。黙っとけって言いながら、カヤの外にしちゃって・・」

逆に謝られて、エリナは首を必死に横に振り、顔を覆う。

それでそっちは話がついたと判断してか、リンドウは煙を一吹きしてから、話し始める。

「ロミオのやつは、多分焦ってんだろ」

「焦って・・・・いるんですか?」

ジュリウスが聞き返してきたのに対し、頷いてから、リンドウは続ける。

「確かロミオは、隊長さんの次に古参のメンバーだったよな?それが、後入りのヒロが早々に血の力・・・だっけか?目覚めて、副隊長に。他の隊員も、どんどん目覚めていって・・・・今じゃ、あいつだけ。取り残されたくなくて、無茶でも何でもする。・・・そんなとこじゃないのか?」

「それが・・・ロミオが無茶する、理由ですか?」

「・・・おそらくな」

頭を掻きながら、ジュリウスへと答えて、溜息と一緒に煙を吐き出す。

「ある1線を越えていくってのは、人それぞれだ。早い奴もいれば、遅い奴もいる。同じ釜の飯食ってようが、同じ教官の訓練を受けようが、同じ任務をこなして経験積もうが・・・な。こればっかりは、最後には個性だと割り切るしかなくなっちまう」

「・・でも、リンドウさん」

ヒロが声を上げたのに頷いてから、リンドウは煙草を吸殻入れに捨てて、答える。

「わかってる。ロミオは割り切れる程、器用じゃない。期間は浅いが、俺もあいつを見てるからな。駄目なら、それを克服するまで努力を重ねるやつだ。体が悲鳴を上げようがな」

まるで見てきたように喋るリンドウに、感心の目を向けるジュリウス。その視線に気付いたのか、苦笑いを浮かべながら、リンドウは肩を軽く上げる。

「俺もな、伊達に隊長をやってたんじゃないからな。な~んとなくだ・・。お前さんも、いずれその位やってのける」

「お心遣い、感謝します」

頭を下げてくるジュリウスに、頭を掻いて息を吐き、2本目の煙草に火をつける。

「リンドウ。今後、どうすればいい?俺は・・」

少し思いつめた表情を見せるレンカに、笑いながらリンドウは手をヒラヒラする。

「特に何もしなくていい。若いやつは、勝手に成長する。・・・無理をしないように、助けてやればいいんだ。な?」

そう言ったリンドウに、その場にいる全員が頷くのを確認してから、リンドウは大きく背伸びをしてから立ち上がる。

「よっし!この話は終わりだ!あぁ、ブラッドの他の奴らをここに呼ばなかったんだ。先入観を与えないように、黙っておくのも良いかもな」

そう言って休憩所の外に出ようとするリンドウを、レンカが呼び止める。

「待て、リンドウ」

「んあ?何だよ。話は終わりって言ったろう?早く帰らないと、嫁さんがうるさいんだよ」

「わかっている。だが、煙草は消していけ」

「・・・・・喫煙者に厳しくなったな~、おい」

口に咥えていた煙草を捨てて、苦笑するリンドウ。それにつられてか、皆もフッと笑んでいた。

 

リンドウの予想は当たっていたが、最後の提案は、後に悪い結果となってしまう。

 

 

あれから1週間が経ったが、ロミオの過剰な訓練は続いていた。

寝る間も惜しんでいる為か、任務中にボーっとすることも増え、事情を知らない他の者にも、心配の色が見えだす。

その状況が不味いとわかっていても、皆体は1つ。リンドウはすぐに次の出張へ、レンカは一人に付きっきりとはいかない。ジュリウスもタイミング悪く、ラケルに付いてフェンリル本部へ。

ヒロも皆の分までと気を張っていたのだが、そんな矢先に、事件が起きてしまう。

 

「いっや~。マジ敵なしって感じ?俺等ブラッドも、すげぇ成長したよな!?」

任務を終えたロミオが、いつも通り軽口を叩く。

だが今回ばっかりは聞き逃せなかったのか、ギルが強めの口調でロミオへと話し掛ける。

「おい、ロミオ。今日という今日は、お前に言っとかねぇといけねぇことがある」

「はいはい、わかってるよ。『無駄に前に出すぎるな』だろ?」

軽い調子のまま答えてきたことが気に障ってか、ギルは眉間に皺を寄せて話を続ける。

「わかってるなら、何で実行しねぇんだ!いったい、どういうつもりだ!?」

「ギル!落ち着いて!」

ヒロが間に手を入れて制すると、ギルは前のめりになった姿勢を戻す。それを笑い飛ばすように、ロミオは口の端を浮かせながら手を前で振る。

「まぁまぁ、落ち着けよギルちゃ~ん。固いことは言いっこなしにしようぜ!?」

そんな彼の発言に、ナナが目を伏せながら声を掛ける。

「駄目だよ、ロミオ先輩。ギルは先輩の事心配して、言ってくれてるんだよ?」

「えー!?なになに?俺は心配ないって!いつも通りだろ?なぁ!?」

「本気で・・・・・言ってるんですか?」

その態度に、遂にはシエルも怒りを顔に出す。

何とも言えない微妙な雰囲気に、ロミオは自分以外のブラッドを見回す。それから頬を掻いて、半笑いで口を開く。

「えぇ?何、この空気?みんな今日も、生きて帰ってこれたんだから、オールオッケーだろ?」

その言葉に腹を立てたシエルの前に手を伸ばして止め、ギルが歯をギリッと鳴らしてから叫ぶ。

「今のお前がいたんじゃ、俺達の誰かが死ぬって言ってんのがわかんねぇのかよ!?やる気を失くしちまったんだったら、とっとと辞めちまえよ!!」

「ギル!!言いすぎだよ!!」

ギルの怒りを収める為か、今度はヒロが声を荒げる。

しばらく睨み合うヒロとギル。そんなヒロの背中で、ロミオが小さく声を洩らす。

「・・・・・・やる気が・・・ない、だと・・」

その反応にハッとしたのも遅く、ロミオに突き飛ばされる。そして、その勢いのまま、ロミオはギルへと拳を叩き込む。

ガッ!

「ぐぅっ!・・・・て、めぇ・・。何しやがる!?」

尻もちをついた状態で、ギルは怒りをロミオへとぶつける。だが、その怒りも一瞬にして冷めてしまう。

ロミオが、今にも泣き出しそうな切なげな表情で、彼を睨みつけていたからだ。

「お前なんかに言われなくても、わかってんだよ!俺がみんなの足を引っ張ってる事ぐらい!!」

「・・・先輩」

壁にぶつけた肩を押さえて、ヒロは声を洩らす。

1度感情が弾けてしまえば歯止めはきかず、ロミオは一気に全員に捲し立てる。

「俺はお前みたいに経験豊富じゃないし、ジュリウスみたいに強くもない!シエルみたいに頭が良いわけじゃないし、ナナみたいに開き直る勇気もない!ましてや!ヒロみたいに入って早々、才能を発揮して、ソーマさんやユウさんに認められるみたいな・・・・そんな、・・・・・くっそぅ!」

《・・・・・・》

皆が何も言えないでいると、ロミオは俯いて肩を震わせる。

「俺は・・・・いつも、どこでも・・足手まといで・・・・必要とされなくて・・」

「っ!!?それは違う!ロミオ先輩は・・!」

その言葉は最後まで言わせまいと、ヒロが叫んだのをきっかけに、ロミオはハッとして顔を上げる。

皆が切なげに見つめてくるのが目に入り、ロミオはゆっくり後ろへと下がり、そのまま走り去ってしまう。

それを追えずに、伸ばした手で拳を作ってから、ヒロは壁を思い切り殴る。

ガァンッ!

「くっ、そぉ・・・・」

皆何も言わず、その場に立ち尽くした。

 

 

「はぁ・・はぁ・・はぁ・・。ちっ、くしょうーーー!!!」

極東の中を走りながら、ロミオは自分のしてしまったことに後悔を叫びながら、そのまま北門から外へと飛び出していった。

 

 

 





努力をしても、成長速度は人それぞれです。

正解のない孤独な葛藤は、凄く苦しいですよね。



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31話 逃げることも、進むことも・・

 

 

「周辺の地図を洗い直せ!ロミオは腕輪のビーコンを切ってるんだ!予想できる範囲で、あいつが行きそうな場所を割り出せ!」

《はい!!》

指令室で指示を出し終えてから、レンカは椅子へと腰を下ろす。

大きく深呼吸をしてると、軽く肩を叩いて、コウタが顔を出す。

「よっ、親友。手、貸そうか?」

「あぁ。空いてるなら、頼みたいな」

そう言って苦笑してから、レンカは目を手で覆う。

そんな彼の代わりに地図を確認しながら、コウタは切なげに喋りかける。

「俺さ・・・。ロミオの気持ち、わからないでもないんだ。俺も、お前等に・・・置いてかれないように、必死にもがいてた時期、あったからさ・・」

「・・エリナか。あんまり後輩を虐めてやるなよ?また、ヒロに謝る破目に・・」

「お前の訓練の方が、よっぽど虐めですけど!?」

相変わらずのツッコミに、レンカは懐かしくなり、少し声を洩らして笑う。

それから、休憩を終わりとしてか、立ち上がって、自分の目の前の小型スクリーンに、地図を呼び出し、目を走らせる。

「時間はかけられない。あいつは、今日すでに・・・偏食因子を投与してないからな・・」

「レンカ・・・」

オラクル細胞の浸食の恐ろしさと、苦しさを身をもって知っているレンカは、何度も見返すように、地図を上下左右と見回した。

 

 

 

もうすぐ日が暮れるという頃に、ロミオは小さな建物に手を当てて息を整える。

極東から随分と離れてしまい、少し帰り辛くなっていたのだ。

そんな時、彼の目に嫌なものが目に入る。災厄の雨を降らす、赤い積乱雲が・・。

「おぉおぉ、出たかのぉ。遠目で見たら、綺麗に見えるんじゃがのぉ」

「は?・・へ?」

誰もいないと思っていた建物から、一人の老人がひょっこり顔を出したのに驚いて、ロミオは後退りすると、更にもう一人老婆が顔を出す。

「あや。お前さん、お客さんですか?」

その言葉に、老人はジッとロミオを見つめてから、ニッと笑って見せる。

「丁度今、知り合ってな。なぁ?少年」

「え・・っと・・、その」

ロミオが戸惑っていると、いつの間にか側に来ていた老人が、肩を抱いてから案内する。

「汚い所じゃが、雨露はしのげる。これも、何かの縁じゃ。入っていきなさい」

「まぁまぁ、一人分食事を増やさないと・・」

二人の優しさに引っ張られるように、ロミオは家の中へと足を運ぶ。

扉を開けて中に入ると、とても良い匂いに、自分が空腹だったのを思い出させるように、腹の虫が鳴く。

それを笑いながら、老人は奥へと声を掛ける。

「おーい!少年は空腹じゃ!早めに飯を頼むぞい!」

『はいはい』

『えー!?さっきはゆっくりでいいって、言ってたじゃない?もう・・』

老婆とは別に声が聞こえてきて、ロミオはゆっくりと顔を上げる。すると奥との仕切りに垂れ下がっている布を揺らして、老婆ともう一人顔を出す。

「お客さんがいっぱいで、嬉しいねぇ」

「まったく・・。来客があるなら、事前に・・・・・あら」

黒髪を後ろで束ねた女性は、ロミオを見て少し驚いて見せてから、フッと微笑んでから話し掛ける。

「ゴッドイーターが、迷子にでもなったのかしら?」

「え?そ・・・それ、は・・」

「少年はの、さっきわしの友達になったんじゃよ」

「へぇ。やるじゃない、お爺ちゃん」

そう言った彼女の右腕を見て、ロミオは目を見開く。そんな彼に、老人は思い出したように、彼女の紹介をする。

「そうそう。少年よ。彼女は、雨宮サクヤちゃん。たまにこうして、寂しいわしらの、話し相手になりに来てくれとるんじゃ」

「初めましてね、ブラッド隊の隊員さん。雨宮サクヤよ。旦那から、話は聞いてるわよ?凄いんだってね♪」

そうウィンクをしてくる彼女の名字に、ロミオはやっと自分の疑問の靄を晴らす。

「雨宮って・・・、旦那って・・。まさか!?」

「話は後にして、ご飯にしましょ。お腹すいてるんでしょ?」

そう言ってサクヤは、手早く料理をテーブルに並べだす。

 

 

訓練所で、何度目かの戦闘プログラムが終了して、ヒロは肩を揺らしながら膝をつく。

どれだけ汗を流しても、ちっとも落ち着かず、ヒロは立ち上がってもう1度プログラムを打ち込みにコンソールへと足を向ける。

しかし、そこに行かせぬといった感じで、シエルがナナと一緒に立ち塞がる。

「あ・・の・・、シエル・・」

少し落ち込んでいるナナと違い、シエルは少し怒った表情をしていたので、ヒロは目を背けてしまう。

そんな彼に近付いていき、シエルは思い切り頬を叩く。

パァンッ!

「あ・・・・・」

「今、あなたに倒れられたら、私達はどうしたらいいんですか?」

肩を震わせながら唇を噛むシエルに、ヒロは小さく「ごめん」と呟く。そんな彼の手を取って、シエルが歩き出すと、ナナもヒロの反対側の手を取って歩き始める。

落ち込んで前を見ていなかったヒロの肩を、入口付近で待っていたギルが軽く叩く。

「ギル・・・」

「あいつは、すぐに見つかる。だから・・・迎えに行くために、飯食って力を蓄えとこうぜ?」

「・・・・・うっ、ん!」

眼から零れた涙を拭い、ヒロは皆に支えられながら、団欒室へと歩き出した。

 

 

三人が興味深げに聞いてくれるものだから、ロミオは徐々にヒートアップして話し続ける。

「だからさ!俺がそこで、ギュワっと神機を振るって助けた訳なんだよ!そしたらさ!」

『ふえーーーんっ!!』

「あら・・・。もうそんな時間?」

突然の泣き声に、サクヤは立ち上がり奥へと移動する。そんな様子を見送ってから、老人はロミオへ話の続きを促す。

まだ話せると思うと嬉しくなり、ロミオは派手に身振り手振りを付けだす。

「そんでさ!俺等ブラッドてのが、凄い部隊な訳なんだよ!こう血の力っていう必殺技を使えて!隊長のジュリウスなんて、すぐにそれを使いこなしてさ!?副隊長のヒロってやつもすげぇんだよ!?シエルも、ギルも、ナナも・・・・・さ」

話の途中で、声のトーンが下がっていくのに気付くと、聞き入っていた二人は心配そうな表情を見せる。

「・・ロミオちゃん?」

「俺は・・・・、そんな凄い部隊の、落ちこぼれなんだ。力に目覚めてないし、弱いし、すぐ感情的になって・・・・あいつを、殴っちまうし・・」

そう言って、下を向くロミオ。そんな彼の手を、老婆はそっと手を重ねる。

「その・・・力っていうのを使えないと、ロミオちゃんは仲間外れにされちゃうのかい?」

「え?・・そ、そんな!?あいつ等は、そんな事、絶対にしないし!」

「じゃあ、簡単じゃな。殴った彼に、謝る。それで解決じゃ!」

老人の言葉にハッとして、ロミオは顔を上げるが、またすぐに肩と一緒に下げてしまう。

「でも・・・俺、逃げ出しちゃったし・・」

「駄目なら、またここに来ればいい」

「え?・・」

今度こそ顔をしっかりと上げたロミオに、老人は肩に手を置いて、力強くも優しく揺する。

「わしらも伊達に歳を食っとらん。ロミオちゃんの相談の1つや2つ、なんぼでも聞いてやれる」

「それとも、どうしても無理なら・・・、ここで暮らすかい?私らは早くに子供を亡くしたから、寂しくてね・・。ロミオちゃんさえ良ければ、家の子になってくれるかい?」

「・・・ふっ・・くぅ・・・うっ・・うぅ・・うぅっ」

優しい二人の言葉に、ロミオは涙を零してテーブルに顔を伏せた。

 

 

皆が寝静まっても、眠れずにいると、奥からサクヤが姿を見せる。

「眠れないの?」

「すいません。何か・・・色々と・・」

頭を下げてくるロミオの前に座り、サクヤは静かに頬杖をついて口を開く。

「明るい所は、コウタに似てる」

「え?」

知っている名前に、ロミオは思わず顔を上げると、サクヤは優しく微笑んでいる。

「仲間を自慢に思うところは、レンカに。真面目なところは、アリサに。調子が良いところは、リンドウかしら?」

「あ・・の、何を・・」

ロミオが戸惑っているのを理解しながらも、サクヤは更に続ける。

「思いつめるところは、私かしら?強くあろうとするところは、ソーマに。そして、自分に謙虚なところは、ユウに」

「サクヤさんって・・・、まさか・・」

出てきた名前を線で結ぶと、ロミオの中には答えは1つしかない。旧第1部隊。

「私は・・・まぁ置いといたとしても・・。あなたには、私の知る限りで最高のゴッドイーターと似ているところが、こんなにも存在する」

「・・・・あ・・」

「わかる?あなたには、その分だけ、可能性があるのよ。ロミオ」

その言葉に、ロミオは目を大きく開いて、内から溢れる喜びに、その身を震わせる。

「お、俺が・・ソーマさんや・・、ユウさんと・・似ている」

「えぇ」

優しく答えてから、サクヤは一変して真面目な表情を作る。

「どうするの?ロミオ。このまま、お爺ちゃん達を理由に、逃げ続ける?それとも、可能性を信じて、前に進む?・・・あなたが、決めるのよ」

「俺は・・・。でも、弱いし・・」

そう口籠る彼に、サクヤは自分を救ってくれた言葉を口にする。

「『仲間を頼れ』」

「え?」

「私はね、リンドウから引き継いで第1部隊の隊長になったの。そんななりたての頃に、仲間を危険に晒したことがあるの」

「マジ・・っすか?」

深く頷いてから、サクヤは話を続ける。

「その時は、リンドウ達のお陰で事無き得たけど・・・・嫌になっちゃってね。それで自棄になってる時に、リンドウが言ってくれたの。『全部一人でやらなくていい。仲間を守るだけじゃなく、頼れ』ってね」

「仲間を・・・頼る・・」

少しずつ目に希望が戻ってきたのを確認してから、サクヤはゆっくり立ち上がってから、奥へと移動する。

「そろそろ、寝るわね。後は、あなた次第よ、ロミオ。ただ言えることは、仲間は・・・きっと、あなたの帰りを待ってるわよ」

一人になってからロミオは、雨が上がったのを確認してから、外へと飛び出す。それから大きく息を吸ってから、腹の底から叫ぶ。

「うおぉぉーーーーーっ!!やるぞーーーーーーっ!!」

 

奥から裏戸を抜けて外に出てから、サクヤは表へと出てくる。

『うおぉぉーーーーーっ!俺も!ソーマさんやユウさんみたいになって、あいつらを頼るぞーーーーーぉぉお?今のはおかしいな・・』

「ふふっ。面白い子ね」

そう口にしてから、携帯端末を操作してから、電話をかける。

「・・・あぁ、レンカ?・・えぇ、久しぶり。・・・えぇ。レンは元気すぎるぐらいよ。ふふっ。また今度、会いに来て上げてちょうだい。・・えぇ。それより、あなた探し物があるんじゃない?・・・・うん。私の腕輪のビーコンを拾ってちょうだい。そこにいるわ。えぇ・・・それじゃあ」

 

 

昼前になって、ロミオは身支度を済ませ、外へと出る。それを見送ろうと、老夫婦とサクヤも追って外へと足を運ぶ。

「いっぱい・・いっぱい!お世話になりました!」

頭を下げるロミオに微笑みながら、老夫婦は彼の肩に手を置く。

「また、遊びにおいで。ロミオちゃんの話は、動きがあって楽しいからの」

「疲れた時には、休みに来ていいからね?」

「爺ちゃん・・・婆ちゃん・・」

そう言ってから顔を拭って、元気よく答える。

「うん!近いうちに、また来るよ!今度は、俺の自慢話を持ってさ!!」

ロミオの言葉に満足そうに頷いてから、老夫婦は少し後ろへと下がる。それに合わせて、ロミオはサクヤへと視線を向ける。

「サクヤさんも、お世話になりました!」

「私は何もしてないわよ。・・頑張りなさい、後輩君」

「はい!!」

それを別れにと思って、彼が顔を上げた瞬間、

ピィーーー

『北地区に、多数のオラクル反応を確認。近隣の住民は、極東へと非難して下さい』

老夫婦の家に設置されたスピーカーから、避難警報が鳴りだす。

それを耳にしたロミオは、驚きに慌てだす。

「北地区って・・ここじゃんか!?どうしよう・・。俺、神機持ってきてないし!?」

「落ち着きなさい!ロミオ!」

慌てふためくロミオを落ち着かせる為、サクヤは大きな声を出す。それに反応してか、ロミオは反射的に直立する。それを確認してから、サクヤは笑って見せてから、彼に昨晩話したことを、改めて言う。

「ロミオ、『仲間を頼れ』よ。ここは大丈夫だから、行きなさい」

「でも!?」

「そんなに気掛かりなら、守って見せなさい。あなたは、ゴッドイーターでしょ?」

サクヤの言葉に目を覚ましたのか、ロミオは力強く返事をする。

「はい!行ってきます!」

そして走り出した彼の背中に、サクヤは微笑んでから二人を自分の車へと誘導した。

 

 

 





ちょっと早くも、出しちゃった感じです^^;

でも、ロミオの話の聞き手には、持って来いかと・・w




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32話 思いはすぐそこに・・

 

 

ロミオは走りながら、ブラッドへと無線の信号を送る。

「出てくれよ・・・・。・・あっ」

『ロミオ先輩?』

耳に聞こえるヒロの声に、ロミオはパッと表情を明るくし、話し掛ける。

「繋がった!ヒロか!?俺だけどさ、連絡早々頼みたいことが・・・じゃない!とにかく昨日は、ごめん!!」

「別に、良いですよ」

「え?」

急に近くなった声に顔を上げると、彼の目の前に仲間が立っていた。

「みんな・・・」

「レンカさんから教えてもらったんです。この近辺にいるって」

「レンカさんが、何で・・・。あっ・・・、サクヤさん」

助言をくれたサクヤの顔を思い浮かべて納得し、ロミオは顔を綻ばせる。

それからすぐ、真剣な顔になり、皆へと頭を深々と下げる。

「ごめん!!俺、一人で拗ねて・・逃げ出して、本当にごめん!でも今は、力を貸して欲しい!虫のいい話だってわかってるけど・・・俺、ここに守りたい人がいるんだ!」

喋りきってから、1,2発殴られる覚悟を決めて目を閉じてると、

ドサッ

「・・・・え?」

目の前に自分の神機ケースを置かれ、顔を上げる。

それを置いたギルが、呆れ顔で鼻を鳴らす。

「ギル・・」

「貸し1、だ」

「え?」

そう言って前に歩き出すギルに続いて、皆口々に言いたいことを言って通り過ぎる。

「僕は、代わりにエミールを相手するってことで」

「私は、説教します」

「あたし、チキン10ピース」

先を行く彼等に、ロミオは目頭が熱くなるのを感じながら、目の前の自分の神機ケースを空ける。

それを握って前を向くと、皆笑顔で待っていた。

「行くぞ。急いでんだろ?」

「早く片付けちゃって、一緒に帰ろう?先輩!」

「守りたい人が、いるのでしょう?」

「行こう、ロミオ先輩」

そんな彼等の言葉に応える為に、ロミオは顔を拭ってから、元気よく返事をする。

「おう!!今行くよ!!」

 

車を走らせているサクヤの隣で、老人は大きく溜息を吐く。

「はぁー。サクヤちゃんが余計なアドバイスをするから、わしらは息子をもらいそこなったわい」

「あら?それは、ごめんなさい」

本気で言ってないのをわかっていてか、サクヤは軽く舌を出して見せてから、笑って答える。

そんな中、後部座席でレンをあやしている老婆が、後方を気にしながら声を洩らす。

「ロミオちゃん・・・、大丈夫かねぇ?」

そんな彼女に、サクヤは優しく微笑んでから、安心させるように声を掛ける。

「大丈夫よ、お婆ちゃん。確かな覚悟を持ったゴッドイーターは、荒神なんかには負けないわ」

そう言ってから、在りし日の自分を思い出し、サクヤは車の運転に集中した。

 

 

荒神を殲滅してから、ブラッドは極東へと戻る。

その足で、ロミオは真っ直ぐ作戦指令室へと向かい、レンカの前へと行く。

「勝手に飛び出して、連絡もせずに、すみませんでした!」

頭を下げてくる彼に、レンカは素知らぬ態度で口を開く。

「何のことだ?」

「あ・・いえ、その・・。昨日の事で・・」

「あぁ、そうだったな・・」

そう言ってから、レンカはロミオへと歩み寄り、軽く頭を小突く。

「あてっ!・・って、あの」

「休暇届けは、先に出せ。以後気を付けろ。以上だ」

そう言って、元の作業へと戻るレンカ。何が起こってるのかわからないまま、ロミオはおそるおそる、疑問を口にする。

「あの・・休暇届けって?」

「ギルに頼んだのだろう?電話でな。だから、今後は先に出せと言った」

「・・・ギルが・・。でも!?」

納得出来ないといった感じに詰め寄ると、レンカは溜息を吐いてから、肩に手を置く。

「いいか。昨日はお前は、休暇を取った。・・わかったな」

「・・・・・あ・・、はい!ありがとうございます!」

やっと皆の真意が見えたのか、ロミオは改めて頭を深々と下げる。それに微笑んでから、一変顔を引き締めてから、レンカは声を張る。

「わかったら、さっさと行け!そんなところに突っ立っていられても、邪魔なだけだ!」

「はい!」

ロミオが走り去ったのを見送ってから、作戦指令室中にクスクスと笑いが起きる。それが恥ずかしくなったのか、レンカは頭を掻いてから、大きく咳払いをした。

 

 

久方ぶりにフライアへと呼ばれたのを機に、ヒロは庭園へと足を運び、寝っ転がっていた。

ラケルも何かと立て込んでいるのか、時間を持て余してフラフラするよりも、そこへ来たいと思ったのだ。

「・・・どうだ。久しぶりのフライアは?」

「・・・極東に慣れたと言っても、ここが落ち着くのは間違いないね」

突然声を掛けられても驚くことなく、ヒロは声の主と会話する。それから、隣に腰を下ろす気配に、上半身を起こして、ヒロは笑顔を向ける。

「久しぶり、隊長」

「あぁ。久しぶりだな、副隊長」

そう言い合ってから、軽く拳を合わせて、二人は笑い合う。

ここから始まった。そう振り返りながら、ヒロは時間が許す限り、ジュリウスとの会話を楽しんだ。

 

 

ようやくお呼びがかかったラケルの研究室の前で、ヒロは身形におかしなところがないか確認してから、中へと入り敬礼する。

「神威ヒロ、招集に応じ、参上しました」

「えぇ、久しぶり。それとも、『お帰りなさい』の方が、しっくりくるのかしら?」

相変わらずの妖美な笑顔に、ヒロは恐縮しながら頭を下げ、ラケルの側へと近寄る。

そんな彼の様子を観察してから、ラケルは本題へと入る。

「貴方を呼んだのは、他でもないわ。神機兵の研究も、極東支部の協力のお陰で随分と前身出来たの。そこで、最終調整を行うために、貴方にはそれに必要な素材を集めて欲しいの」

「僕・・一人でですか?」

「あら?寂しい?」

「いえ!?そう言う訳では!?」

焦るヒロを面白がるように笑ってから、ラケルは話を続ける。

「大丈夫。貴方の実力を見込んで、お願いするんだから。それに、無理な任務を宛がうつもりは無いわ」

「・・わかりました!僕で、お役に立てるのであれば!」

「そう。ありがとう」

そう言ってから、ラケルはPCのキーボードを打ってから、データをヒロの携帯端末へと送る。

「詳しいことは、今送ったことを参照して、九条博士の指示に従ってね。わからないことがあれば、聞きに来てくれて構わないわ」

話は終わりといつものように、ラケルが自身の作業に戻ったところで、ヒロはふと疑問に思ったことを聞いてみる。

「あの・・・、九条博士ですか?レア博士ではなく・・」

「そうよ。もしかして、仲がよろしくない?」

「いえ!そんなことは!?了解です!」

聞き違えてなかったと、ヒロは退室しようとする。そこで、ラケルが声を洩らしたのが気になり、振り返ると、ラケルが手に何かを持ってこちらへと近付いてくる。

そして、目の前まで来ると、手の中のそれを彼に渡す。

「これ・・手紙、ですか?」

「えぇ。それを、九条博士に渡してくれる?」

「あ、はい。わかりました」

「よろしくね・・」

そう言ってラケルは元の位置に戻ったので、ヒロは退室して、1度極東へと戻った。

ヒロの去った研究室に一人になってから、ラケルは何が楽しいのか、口の端を吊り上げて笑った。

 

 

「えぇーーー!?ヒロ、行っちゃうの!?」

ブラッドへ自分の事を報告に行くと、ナナが声を上げて抗議してくる。それを落ち着けるように、シエルが背中をさすりながら、口を開く。

「確かに、急ですね。何故ラケル先生は、ヒロ一人を?」

「極東から、部隊全員を割く訳にはいかないからな。それで副隊長で実績もある、ヒロに白羽の矢が立ったわけだ」

「そうだったの?」

「何でお前が、知らねぇんだよ」

ギルにツッコまれてから、ヒロは頭を掻いて恥ずかしがる。その様子に笑みを浮かべてから、ジュリウスは皆へと話し掛ける。

「ヒロが抜けた穴はデカい。だが、俺達も経験を積み、着実に強くなっている。その自信をもって、ヒロを安心して向かわせてやろう」

「当然だな」

「あったぼうよ!」

「う~ん。わかったよ」

「問題ありません」

皆の言葉に微笑んでから、ヒロは軽く頭を下げてから口を開く。

「少しの間だけど、行ってくるね」

彼の言葉に皆も微笑んでから、応える。

そんな仲間との1時の別れを、ヒロは惜しみながらもフライアへと向かうのだった。

 

「忘れ物はありませんか?ハンカチは?あ、襟が乱れてます」

「シエルが、お母んみたいになってる」

「シエルちゃんは、心配性だな~」

「ヒロの世話が焼きたいんだろ?」

「あ、あはは・・」

「全く・・・。そうだ。ヒロ、回復錠などを補充する、お金は足りてるか?」

「「「こっちはお父んか!?」」」

 

 

フライアのロビーで待っていると、5分程遅れて、待ち人が現れる。

「いや、申し訳ない。色々と立て込んでいて・・はぅっ!!き、君は!?」

「あの・・・、どうも」

やって来て早々に、九条博士が後退るのを見てから、ヒロは自分が勝手に神機兵に乗ったことを思い出す。

「その節は、すいませんでした」

「え、あ・・いや。反省していてくれるのなら、もう良いです。それに今回は、君に頼みごとをするのだから・・」

そう言ってから、九条博士は手元の資料を確認しながら、説明を始める。

「今回、以前神機兵の試験運用の時に起こった異常を踏まえて、新しく改良した自律制御装置の研究を進める為に、君に指定の荒神の素材を集めてきて欲しいのです」

「一応は、ラケル博士から伺ってます」

「そうですか。なら、話は早い。早速、明日からお願いします」

軽く会釈する九条に礼を返してから、ヒロは疑問に思ったことを口にする。

「博士は、どうして無人神機兵にこだわるんですか?」

以前見た光景を思い出し、ヒロは、”あれ”が本当に必要なのかと、気にかかっていたのだ。

質問された九条は得意気に笑みを浮かべて、ヒロへと熱弁を振るう。

「よくぞ聞いてくれました!無人制御にかける、私の哲学を披露しましょう!」

「は、はぁ・・」

「いいですか?無人型の神機兵は、パイロットが不要です!この意味がわかりますか?破壊されても、誰も傷つかない!もう誰も、荒神に殺されることは無いということです!」

「・・・・」

それは当たり前の話。

誰も乗っていないし、誰も戦場に出なければ、命を落とす人はいない。わかってはいるのだが、ヒロはやはり何かが引っ掛かってしまう。

「有人型ときたら、どうです?あれでは、ゴッドイーターとなんら変わりは無い!それでは、意味がないのです!無人型こそ、最先端の兵器!『人にやさしい』兵器なんですよ!」

「・・そうですか」

彼にそのつもりが有ろうが無かろうが、自分達を否定された気がして、ヒロは少しだけ心の奥で怒りを覚える。

「レア博士も、どうして有人型にこだわるのか・・。いえ!決して、嫌っているわけでは無いのですよ?ただ、わざわざ非効率的な研究を続けるのか・・・、私には理解が出来ないというだけです」

「わかりました。・・ありがとうございます」

これ以上この人と、この話をしたくないと思ってか、ヒロは話を切り上げるように頭を下げ、その場から離れようとする。

と、そこであることを思い出し、九条の所へ戻り、ポケットにしまっていた”それ”を、彼に渡す。

「ん?・・・これは?」

「すみません、忘れるところでした。ラケル博士から渡してくれと・・」

「ラケル博士から!?この、私に!!?」

過剰に反応され、ヒロはびっくりして後退る。何を興奮しているのか、九条は鼻息荒く、それを見つめ続ける。

「おぉ・・おぉっ!・・・・なんということだ・・。彼女が・・、この私に・・」

「あ、あの・・」

もうこちらが言っていることが耳に入っていないのか、九条は何も答えてくれない。

それどころか、彼は気持ちが高ぶったのか、それを抱きしめだす始末だ。

ならもう良いかと思い、ヒロは背筋に嫌な汗を流しながら、その場を去って行った。

 

 

静かな研究所に、扉が開く音が響く。

「・・あら。わざわざ御呼び立てして、申し訳ございません。九条博士」

ラケルの口から名を呼ばれて、九条は落ち着けたはずの気持ちが昂り、動機が激しくなる。

「手紙・・・、ありがたく読ませていただきました。それで?私などに、用事というのは?」

「『私など』とは、ご謙遜を・・。貴方の研究への情熱には、目を見張るものがあります」

「情熱だなんて・・・、そんな・・」

どこか勘違いしてそうな反応を見せる九条を無視して、ラケルはPCを手早く操作してから、顔を上げる。

「こちらを・・ご覧になっていただけます?」

「え・・えぇ」

そう言って緊張しながら、九条はラケルの側へと近寄る。そして、PCの画面を覗き込んでから、目が覚めたかのように驚く。

「こ・・これは!神機兵の生体制御装置!?」

「流石は九条博士。・・貴方が進めている、自律制御装置の研究の、お役に立てればと思って・・、これを」

ラケルの言葉に嬉しさを感じつつも、九条は必死になって画面を見返す。

「ブラッド偏食因子の応用・・・、そうか!これこそ、私が追い求めていた、答えそのもの!」

「感応現象による教導効果と、極東で得られた研究の成果。その2つを組み合わせて、辿り着いたモノです」

「す、すごい・・・・。やはり、あなたは・・はぁわ!?」

自分の研究に置き換えているところで、九条は妙な声を出す。

ラケルに、手を握られていたのだ。

震える彼の手を持ち上げ、彼女は両の手でそれを包み、妖艶な笑みを浮かべて話し掛ける。

「ねぇ、クジョウさん。この研究を、引き継いでいただけません?・・私の、為に・・・・・ふふっ」

元々魅了されていた九条は、目に涙を浮かべて、感動に声が出ない代わりに、何度も頷いて見せる。

そうして俯いて手を握り返してくる彼に、ラケルは口の端を浮かせて、微笑む。

「そう・・・・・・。良い子ね・・・・、クジョウさん」

フライアは極東を離れ、しばしの旅に出る。

それが、最後の旅となるのも知らず・・・。

 

 

 





ロミオ、完結です!

次は漫画を参考にしつつ、ちょっとしたオリジナルです!



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33話 闇の中で・・

 

 

目を閉じて風を受けながら、ヒロは静かに連絡を待っている。

フライアで極東を離れてから、1週間。

少しずつ一人の任務に慣れてきたヒロだが、仲間がいるのが当たり前の生活が長くて、夜眠るのにだけは慣れれずにいた。

 

ピピッ

『ヒロさん。オラクル反応の接近を確認しました。準備、お願いします』

「了解、フランさん」

ヒロ専属にと一緒に戻ったフランの連絡に答えてから、ヒロはゆっくりと目を開け、立っていた崖から下を見降ろす。

「・・・・ふぅー。・・・行きます!」

そう言って飛び込み、ヒロは荒神へと走り出した。

 

 

 

「「はぁ・・・」」

夕飯時に、団欒室で食事をとっている最中、シエルとエリナは、同時に溜息をもらす。

その様子を各部隊が目にしてから、「またか」といった感じで、苦笑いを浮かべる。

「シエル。ヒロが心配なのはわかるが、食事はきちんと取るべきだ」

「エリナ。ヒロがいなくて寂しいのはわかるけど、何べん溜息つきゃ良いんだよ」

ジュリウスとコウタ、それぞれの隊長に注意されると、二人は焦った様子で立ち上がる。

「なっ!?違います!ヒロなら大丈夫と、信じてます!!」

「べ、べべ、別に寂しくなんか!ちょっと先輩に会いたいなって、思っただけです!!」

「「・・・・・・え?」」

お互いが言った言葉に反応し、シエルとエリナは顔を見合わす。そんな二人の様子に、ジュリウスとコウタは、今度は自分達が溜息を洩らす。

ヒロの事を気にしているのは、何もシエルとエリナだけではない。ジュリウスを始めとするブラッド隊、第1部隊、第4部隊、防衛班など・・・。皆口にはせずとも、単身フライアと旅立ったヒロの事を、心配していた。

「あぁ!ヒロ君!!君をこんなにも遠くに感じると、僕は・・・僕は!胸が張り裂けて、食事もいつもの3分の2しか、喉を通らない!!早く帰ってきてくれ!君の騎士道精神が、僕は欲しい!!」

「それだけ食えれば、十分だろう」と皆が思う中、タツミが目を細めながら、手に持ったスプーンでエミールを指し、口を開く。

「こいつ・・・、やっぱホモじゃねぇのか?」

《うん・・・・》

皆が頷いた姿が目に入らないのか、エミールは椅子の上に立ち、涙ながらポーズを決めている。

そこへ、遅めの食事にやってきたレンカに殴り飛ばされ、エミールは1時間程正座させられた。

 

 

任務を終えたヒロは、部屋でシャワーを済ませ、ベッドへと体を放り込んでいた。

自分がこんなにも寂しがりだとは思わなくて、ヒロは恥ずかしさ半分、疲れ半分で、食事をせずに眠ってしまおうと考えていたのだ。

目を閉じて、ゆっくりと微睡んでくるのを感じると、ヒロはそれに身を預けて、静かに意識を閉ざす。

 

『君は・・・・、選ばれた子だ』

(・・・・・なに・・・、これ?)

『君は・・・・、英雄になれるんだよ?』

(これは・・・、いったい・・)

『誰よりも強く・・。荒神を、倒すんだ・・』

(夢・・なのか、な・・・)

 

『君は、人間じゃないのだから』

 

「わぁぁっ!!?」

体中から汗を噴き出させ、ヒロは勢いよく起き上がる。

嫌な夢を見てうなされていたのか、ヒロは息を荒くして頬を伝う汗を拭う。

「今・・・なにか・・・・」

夢の内容を思い出そうとして、ヒロは目を閉じてみる。だが、濃くかかった霧のようなものに邪魔されて、もう何も思い出せずにいた。

「・・・・・・・・・はぁーー」

大きく溜息を吐いてから、ヒロは再びベッドに倒れ込む。それから、左腕で顔を隠すように覆うと、自然と口から声を洩らす。

「・・みんなに、会いたいな・・・・」

それからゆっくりと起き上がり、汗を流そうとシャワー室へ足を運ぶ。

神威ヒロの出生を、誰も知らない。

彼自身、ここ2,3年より前の記憶が、存在しないのだから・・・・。

 

 

明けて次の日、任務を終えたヒロに、フライアでの仕事の終了が言い渡される。それを聞いてホッとしたのも束の間、ヒロはフライアの大広間で緊張をしていた。

 

『助かったわ、ヒロ。お礼と言っては何だけど、一緒に食事でも、どう?』

 

ラケルに誘われたのであれば断れぬと、軽い気持ちで受けた誘い。食堂に行くと思っていたら、想像の斜め上の場所に通され、ヒロは落ち着きなく周りを見渡している。

(・・・あれ、シャンデリア・・かな?初めて、見た)

見るもの全てが仰々しく、ヒロはテーブルマナーを知らない事に、ひどく戸惑っている。

そこへ、遅れてラケルが入室してくる。すると、傍につていた人に声を掛け、ヒロの対面に位置する場所へと落ち着く。

「さぁ。晩餐を始めましょうか?遠慮なく食べてね」

「は・・・・はい!」

緊張に上ずった声を出し、ヒロは目の前に並べられる銀食器を数え、「多くないか?」と汗を流す。

 

カチャカチャ

運ばれてくるもの全てが見たことがなく、ヒロはまずどうやって食べるかを考えてから食事をするを繰り返す。

今は、目の前に出されたお肉らしきものをジッと見つめ、それが何なのかを考えている。

「・・ヒロ?子羊の肉は、お嫌い?」

「へ?あ、あぁ!子羊、ですか?いや、そのー・・・・、どうでしょう?」

苦笑しながら、ラケルの見よう見真似で切り分け、口へと運ぶ。

(・・・緊張、してるのかな?・・・・・味がわからない)

吐き出すわけじゃないから、きっと美味しいと思いながら、ヒロは不器用ながらも切り分けて、手早く口へと運ぶ。

そんな彼を見ながら、ラケルは静かに笑って声を掛ける。

「そういえば、ヒロ?あなたは、どうしてゴッドイーターに?」

「え?・・・・・それは、えっと・・」

本来、ゴッドイーターになる際、過去のありとあらゆることをデータとして残すため、大仰な面接が行われる。

しかし、ブラッド隊は特殊で、全員ラケルの息がかかった者ということで、その詳しいデータは、ラケルが個人的に取ったモノのみとなっている。

その際にも、ヒロはほとんどの質問を、「よく、わかりません」と答えていて、これを機に聞いてみようと思ったのだ。

「その・・、前にラケル博士に面接してもらった時にも言ったんですが、僕は・・昔の事を覚えてません。ただ、荒神を倒すのはゴッドイーターだって知って・・・。それから、ある人に出会ったのが・・切っ掛けに・・」

「ある人?私も、知っているかしら?」

「はい!極東の英雄、神薙ユウさんです!」

「・・・・神薙、ユウ・・・・・・・」

自分が記憶する中で、1番の自慢ともいえる記憶。それを嬉しそうに話したヒロだったが、何故かラケルは・・・普段見せたことのない、感情の『無』を表す顔をする。あるいは・・・・・、嫌悪・・。

「あ・・・・・あの、ラケル博士?」

急に黙ってしまうラケルの表情を伺っていると、彼女は何も無かったかのように、いつもの優しい顔に戻る。

「いえ。何でもないの・・。そう。良き出会いが、あなたをゴッドイーターにしたのね」

「は・・はい」

内心ビクついていたヒロは、ホッと胸を撫で下ろす。

だが、その後にラケルが口にした言葉に、ヒロは更なる動揺を覚えてしまうのだった。

「でも・・・間違いは、正さないと。ヒロ・・。神薙ユウは、英雄なんかでは、ないのよ」

 

ヒロが退室した大広間で、ラケルは静かに紅茶を嗜む。

そして静かに、長く息を吐いてから、目を鋭く細め、過去の出来事を思い出す。

たまたま本部ですれ違った、神薙ユウの事を・・。

『・・・あなたは・・・・、誰ですか?』

ピシッ

彼の言葉を思い浮かべて、ラケルは手の中のカップに力を籠め、ヒビを走らせる。

「・・・邪魔は、させないわ・・・・。神薙ユウ・・・・・」

ガシャンッ!!

そのままカップをを握りつぶして、ラケルも大広間から退室した。

 

 

 

明後日、フライアは極東支部へと到着する。今度はグレム局長の指示で、装甲壁の外に着ける形で・・。

東口ゲートを潜ってから、グレムはよっぽど榊博士が嫌いなのだろうと、ヒロは苦笑する。

そんな彼の元へ、近付いてくる姿が目に入る。

「ヒローーーー!!お帰りーーー!!」

ブラッドの先頭に立って叫ぶナナの声に笑顔を作り、ヒロは少しだけ足を速める。

そんな彼等の後ろから、もの凄い速さで走って来る影が二つ。

「シエル・・・エリナ。って、何で走って来るの?」

ヒロが首を傾げている間にも、シエルとエリナは競走でもしているかのように、肩をぶつけている。

「・・エリナさん?別に急がなくても、同じ部隊の私が迎えますんで、ご心配なく」

「・・シエルさんこそ。先輩の穴を埋めるのは、大変だったんでしょ?どうぞ、休んでいて下さい」

何やら言い合いしているなと思って見ていると、ヒロの肩にそっと乗る手がある。その無駄に華麗な仕草に覚えがあり、ヒロはギギギっと顔をそちらに向ける。

「ふふっ。待っていたよ!我がライバル、ヒロ君!!君の帰りが待てず、ここに張っていて正解だったようだね!」

「・・・・・・・えー」

口から息を吐くように声を洩らして、ヒロは顔の表情を無くしていく。

その隣では、特に気にせずポージングを決めるエミール。そこへ、もの凄いスピードで飛んできたシエルとエリナが、エミールの顔面に蹴りを決める。

ゴシャアッ!!!

「はぁーーー!」

「何であなたが1番何ですかーー!!」

「何であんたが1番なのよーーー!!」

二人のツインキックに吹っ飛ばされ、エミールは華麗に回転しながら、儚げに地に伏した。

 

 

極東に戻った事を、榊博士に報告してから、ヒロは極東の自分の部屋へと移動する。その途中、

「・・・お?いよっ!ヒロ!」

「あ、ロミオ先輩」

ロミオが支部長室前で待っていた。

ヒロが見せる笑顔に、ロミオは頬を掻いてから、喋りかける。

「ちょっとさ・・・、付き合わねぇ?」

 

ヒバリに届けを出してから、ロミオはヒロを連れてある場所へとやって来る。

「ここは・・・」

そこには、微量ながらも自然の草が生え育ち、それに護られるように水が溜まった、小さな池だった。

フライアの庭園程、整えられているわけでは無いが、太陽の光でキラキラと水面が輝く様は、素直に美しいと思える。

「良いだろ、ここ?前にハルさんと任務に出た時に、教えてもらってさ。ブラッドみんなに見せたくて・・・今日は、お前を誘ったんだ」

「先輩・・・・・、ホモですか?」

「ちっげーよ!!お前が最後の一人なだけだよ!!」

「冗談ですよ」

揶揄ったことに頭を下げるヒロに、ロミオはフッと笑って見せてから、池へと視線を移動させる。

「・・・俺さ、みんなに感謝してんだ。俺なんかを・・・あー、やっぱ今の無し!とにかくさ、俺・・・極東に来て、本当に良かったって思う」

「・・・ですね。僕もです」

ヒロの返事に頷いてから、ロミオは改めてヒロへと、お礼を口にする。

「ヒロ・・・。マジでありがとな!これからも、よろしくな!」

「はい。ロミオ先輩・・」

それからしばらく池を眺めてから、二人は極東へと戻って行った。

 

 

 

ピピッピピッ

「・・・はい。あぁ、九条博士・・。はい・・はい・・。そうですか。完成、されたのですね?わかりました。・・・えぇ。試験運用の日取りを、極東支部と相談しましょう。・・・はい・・・では」

ピッ・・・

ピッピッピッ・・ピッ

「・・・・私です。・・どうも、ご部沙汰しています。えぇ・・・。今日は折り入ってお願いがございまして・・・。はい・・。・・・・・・神薙ユウの所在地と、2ヶ月先までの彼の予定を・・・お教え願えますか?」

 

 

 

 





少しだけヒロの事を書きました。

後々、全てを明かします!(私の妄想ですが・・w)

次からが・・・・、憂鬱だ・・。




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34話 明日も笑えるように

 

 

支部長室に呼ばれたブラッドは、そこに集まっている隊長格を見回して、何か大きな作戦だろうかと、緊張の面持ちを見せる。

全員が揃ったというところで、榊博士が立ち上がり、皆へと説明を始める。

「みんな、忙しい中集まってくれて、ありがとう。今回君達を呼んだのは、ある大規模な作戦の説明をする為だよ」

「大規模な作戦・・・ですか?」

アリサが問い返してきたのに頷いてから、榊博士は続ける。

「フライアから、改良された無人型神機兵の試験運用をお願いされたんだが・・・。それに合わせてか、大量のオラクル反応がこちらに向かってるとわかってね。そこで・・」

言葉を切って、榊博士は同席している九条へと目を向ける。それを合図に、九条が説明を引き継いで、話し出す。

「これを機会に、無人型神機兵を実戦投入することにしました。ですので、今回は護衛という形ではなく、神機兵と共闘といった形で、作戦を進めていただきたいのです」

ブラッド以外は、神機兵と言われてもパッとしないのか、少しだけどよめきが起こる。

それを諫めるように、榊博士が軽く咳払いをしてから、再び喋り始める。

「まぁ、試験運用という形ではなく、実戦投入だ。神機兵は遊撃兵とでも考えて、君達はいつも通りやってくれたらいい。・・懸念することがあるとしたら、感応種の存在だ。このオラクル反応を引き連れているのが感応種だとしたら、これ程厄介なことは無い」

そう言って榊博士は顎に手を当てて、少し厳しめな表情を見せる。

「荒神は明日にも、極東支部の管轄内に到達する。ヒロ君のお陰で、極東の過半数が、ブラッドアーツ、ブラッドバレッドを扱えるようにはなったが、まともに感応種と戦闘経験があるのは、今の極東にはブラッド以外存在しない。・・・まるで誰かが、狙ったかのようにね」

「博士。リンドウさんが出張中なのは知ってますけど、ユウとソーマは?」

タツミが口を挟むと、榊博士はそれだと言わんばかりに、眉間に皺を寄せて答える。

「ユウ君はツバキ君とイタリア支部。ソーマ君も、今は北京支部に行っていてね。嫌なタイミングさ」

二人がいないことに動揺が走る中、ジュリウスが1歩前に出て、口を開く。

「厳しい戦いになるのは承知の上で、私達は2班に分かれて、皆さんを援護しようと思います。感応種が出現した際には、ブラッドに要請を。私達にとっても、極東はもう大切な場所です。荒神に壊させはしません」

彼の言葉に頷きながら、ブラッドも前へ出る。

そんな中、皆の心配は無用といった感じで、九条は自信満々の表情で発言する。

「大丈夫です!私の神機兵ならば、感応種なんてものに怯えることはありません!必ずや、皆さんの期待に応えてくれるでしょう!」

 

 

団欒室のビリヤード台の近くで、ハルとギルは酒を酌み交わしている。

明日の作戦前にと、ハルに誘われて、ギルも付き合って飲んでいるのだ。

「・・・ギル。神機兵には、どのくらい期待できる?」

ハルの質問に少し考えてから、ギルはグラスの中の氷を鳴らして答える。

「力はあります。スピードも・・。ただ、前回の試験運用の時の様に、急に動かなくなると・・・、ただのポンコツっすね」

「ポンコツか・・、ははっ。お前らしい、言い回しだな」

そう言ってから、ハルはグラスに映る自分を飲み干すように煽り、笑って息を吐く。

「最後は己を信ずるのみ・・か。まぁ、ゴッドイーターらしくて、良いじゃないか。背中を預けれる仲間は、十分多い。・・・生き残ろうぜ、ギル」

「ハルさん・・・。はい」

それから二人は、グラスを掲げて、軽く合わせてから、笑い合った。

 

「ところでー・・相談なんだがな、ギル。お前の班の誰とでもいいから、うちのカノンちゃんと交換しないか?」

「・・・・・・・」

「あれ?・・・ギルくーん?」

 

 

居住エリアの窓から、外を眺めるジュリウスとユノ。

ゆっくり話をするのは、サテライト拠点の時以来だ。

「明日は、私も住民避難のお手伝いをするの」

「それは、危険では?」

心配の声を掛けてくるジュリウスに、ユノは笑って答える。

「あなたほど危険じゃないわ、ジュリウス。それに、いざという時は、守ってくれるんでしょ?」

「・・・ふっ、敵わないな。あなたには・・。必ず、守ってみせます」

急に敬礼をしてくるものだから、ユノは声を出して笑い始める。ジュリウスはいたって真面目なのだがと思ったが、彼女の笑顔につられて、自分も口の端を浮かせ微笑んだ。

 

「兄さんの分まで、ちゃんと守ってね?」

「兄さん?ご兄弟が、ゴッドイーターを?」

「知らなかった?極東じゃ有名なんだけどな・・。私の兄さんの、神薙ユウって」

「・・・・・・は?」

 

 

自室に戻ったロミオは、自分の携帯端末と睨めっこしながら、懸命にメールを打ち続ける。

しかし、ある程度打ったところで、頭をがしがしと乱暴に掻いてから、それを消す・・・を繰り返していた。

「あぁー!・・やっぱ、シンプルにお願いするのが良いのかなぁ?わっかんねぇなー」

もう何度目かという溜息を吐いて、ロミオは腰かけていたベッドに倒れる。そこへ、目的の人とは別の者から、メールが届く。

少し驚いて携帯端末を覗いてから、ロミオはフッと笑みをこぼす。

「なんだよ。・・・久しぶりだな」

そう声を洩らしてから、内容を開示する。

『元気か?私はこっちの生活に慣れた。お前はどうだ?元気なのか?だが心配は少ししかしてない。お前なら大丈夫だ。約束。忘れるなよ。破ったら殺して死ぬ。体には気を付けろ。またメールする』

「最後とんでもないこと書いてんだけど!?あいつ・・・、喋るのも苦手だったしな・・・・・・・・ったく」

苦笑しながら、ロミオは返信メールを手早く打って返す。慣れた人間には、簡単なのだが・・。

『バリバリ元気だっての!ってか、約束忘れてねぇから、怖えぇ事サラッと書いてよこすなよ!?俺はお前の方が、心配だよ。何かあったら、連絡しろよな?大好きだぜ!』

ピピッ

「早っ!?」

送って数秒で返ってきたことに、ロミオは驚きながら、メールを見ると、

『馬鹿者。私もだ』

とだけ書いていた。

何となくさっきまで悩んでた自分がバカバカしくなり、ロミオは少し晴れやかな気分になる。

それから、もう1度携帯端末で文章を打ち、メールに乗せて、本来の目的の人へと送った。

 

『ユノさん、お疲れっす!!実は是非お願いしたいことがあるんっすけど・・・』

 

 

団欒室のカウンターで、ナナは大量に並べた食べ物を、片っ端から口の中へと放り込む。

「んぐんぐ・・・うっ・・ん!!明日の為に、いっぱい食べとかないと!!」

ひたすら食べまくるナナに、周りの人間は唖然として見ていた。

 

「んぐんぐ・・・、ん?はへふ?(食べる?)」

《いえいえいえいえ・・》

 

 

ヒロはエントランスの長椅子に座って、中央に設置された巨大スクリーンを見ている。

映し出された極東全域の地図を見て、明日どう動こうかと考えていたのだ。

ジュリウスから、β班としてシエルとナナを預かって動くことになったヒロ。今は珍しく緊張しておらず、むしろ自分でも驚くほど冷静になっている。

そんな脳に、有りとあらゆる事を想定して叩き込んでいく。

ある程度自分の中に折り合いがついたのか、ヒロは大きく息を吐く。そこで初めて、自分の隣に、誰かがいると気付く。

「あ・・・シエル。ごめんね、気付かなくて・・」

「いいえ。・・・ヒロ、明日はよろしくお願いします」

「うん。よろしく!」

そう言ってから、ヒロは再び視線を、巨大スクリーンへと移す。しかし、シエルがそのまま隣にいるのが気になって、集中を削がれてしまう。

すると、シエルが急に自分の肩に寄りかかってきたので、ヒロはぎょっと驚いて体を強張らせる。

「・・あ、の・・シエル?・・・どしたの?」

「・・・黙ってて下さい。今は、私も上手く喋れそうにありませんから」

「そ・・そう・・」

それから二人は、しばらくは静かに時の流れに身を任せていた。

 

「・・・・あのさ・・・、本当にどうしたの?」

「・・・・・鈍感・・」

「はい?」

「何でもありません!」

「・・・怒ってる?」

「・・・・他の女性に優しくしないなら、許してあげます」

「ん?・・・えっと、なんで?」

「もう良いです!」

「あれー・・・」

 

 

フライアの研究所。

静かなその場所で、小さく響く笑い声。

その声の主、ラケル・クラウディウスは、思い通りに事が進むさまを喜んでいるのだ。

「うふふふふっ。・・さぁ、これで条件は・・整ったわ。誰も、運命を覆せない」

 

作戦前夜は終りを告げ、朝を迎えようとしていた。

 

 

 

作戦指令室で、レンカは無線から連絡を取る。

「各配置は完了したか?」

その声に応えるように、各班の代表が返事を返してくる。

『こちら防衛班。極東支部全域に、配置完了!』

『ブラッドα、北地区南、配置完了』

『第1部隊、北地区北東、配置完了!』

『第4部隊、北地区北西、配置完了だ』

『ブラッドβ、北地区東、配置完了です!』

『アリサ・イリーニチナ・アミエーラ、配置に着きました』

『じ、神機兵の配置、完了です。・・はい』

全ての位置情報を確認してから頷き、レンカは荒神の動きへと目を向ける。

「今のところは真っ直ぐ南下している。戦闘が始まれば、おそらく分散してくるだろう。常に無線の回線は、指令室へと繋いでおけ」

《了解!!》

伝え終えたレンカは、大きく深呼吸をしてから、荒神を表すポインタに向かって、声を洩らす。

「さぁ・・・・どうでる?荒神」

 

黙って立っているのが我慢できないのか、エミールは普段の態度には似つかわしくなく、そわそわしている。

それによって、カタカタと神機が音を立てるのをうるさく思ったのか、エリナがエミールを睨みつける。

「エミール!あんた、うるさい!」

「エリナー。お前もうるさいぞー」

冷静にツッコミを入れながら、コウタは前方から眼を離さない。そんな彼に、エミールはエレガントにポーズを決めて見せてから、喋りかける。

「隊長!迫りくる敵がわかっていながら、何故待たなければいけないのですか!?騎士ならば!立ち向かうべきです!!」

「俺、騎士じゃないしな。それに、騎士だって待ち伏せ位するっての」

「そ・・・そうですか」

隊長として扱いに慣れているのか、コウタはあくまで冷静に努める。『真面目に相手をするだけ損をする』と、ヒロから助言をもらったのもあるが・・。

そこへ、西に陣取っている、ハルから連絡が入る。

『コウタ、聞こえるか?』

「ハルさんっすか?聞こえるっすよ」

『こっちで荒神を視認した。少しこっちに反れてるかもしれねぇ。西に配置、流しといてくれ』

「了解!」

無線を切って歩き出すと、エリナとエミールがそれに続く。しかし、宛がわれた神機兵はその場から離れずに、静かに佇んでいる。

「・・あの!?神機兵、良いんですか?」

エリナが気になり聞いてくると、コウタは面倒くさそうな表情をして、手を2,3度横に振る。

「良いんだよ、別に。所詮扱ってんのは、現場を知らないずぶの素人なんだ。戦闘だけ期待すりゃ、それで御の字ってもんだよ。それにな・・」

「それに?」

聞き返してくるエリナと、その横にいるエミールに目で合図してから構えさせ、自分も神機の銃口を、前方へと向ける。

「俺、あいつ嫌いみただし・・。行くぞ!」

そう叫んで、前方に見えてきた荒神へと走り出す。それに続いて、エリナとエミールも応える。

「「了解!!」」

第1,4部隊が接触したことで、戦闘の幕は切って落とされた。

 

 

 

 





最近、自分が『オタク』ではなく、『ヲタク』だと気付きました。

ははは・・・。

次は重要な話ですね・・・。頑張ります!色々と・・・。


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35話 冷たい雨

 

 

極東支部に設けられた、九条専用の1室で、九条は歓喜の声を上げる。

衛星カメラから映し出されている、神機兵の活躍を、その目に映しながら・・。

「凄い・・・凄いぞー!前回とは違って、立ち回りもより人間に近い。なにより、ゴッドイーターより強い!ははははっ!」

各班に1体ずつ、戦闘に参加させた神機兵は、その巨体に見合った巨大な刃を振るって、目の前の荒神を駆逐していった。

 

 

「はぁっ!!」

ザシュッ!!

「いっくよー!!」

ガビュウッ!

サリエルの首を跳ね飛ばしたヒロの後ろから、ナナが飛び上がって捕食する。沈黙したのを確認してから、避難経路を確保したアリサへ、シエルが声を掛ける。

「アリサさん!大丈夫です!ここは任せて、住民をシェルターに!」

「ありがとうございます!皆さん!私から離れないように、お願いします!」

アリサについて移動を開始する住民を横目に、シエルはヒロへと話し掛ける。

「副隊長。アリサさんは、極東支部近くまで住民を避難させると、おっしゃってます。時間にして約10分で、ここから下がった方がよろしいかと・・」

「そうだね。ナナにも伝えて、シエルは先に下がって。僕は5分遅れで、追いつくから」

「了解です」

シエルが離れたのをきっかけに、ヒロは目の前に降り立つシユウ3体を睨みつける。

そして、神機の刃に力を込めて、一気に距離を詰める。

「ブラッドアーツ、『朧月』」

ザンッザンッザンッ!!

振るう刃から飛び出した光は、線となってシユウを斬り裂く。そこから捕食を手早く済ませ、ヒロは再び構えて警戒する。だが・・。

「・・あ・・、くぅ!」

頭がぐらついて、膝をついてしまう。

ブラッドアーツの反動。強力な技だが、連発しすぎると、体力、精神力が擦り減り、体がついて行かなくなる。

当然使える者は、そこに気を付けて使用しているが、今回住民の避難が遅れがちだった為、ヒロは多少無理をして連続で使ったのだ。

膝が震える自分に苦笑いしてから、ヒロは回復錠を齧って立ち上がる。

自分の周辺は今のところ大丈夫と判断して、無人型神機兵を下がらせるため、目の前に行って自分を認識させる。

すると、神機兵はヒロについて走り始める。

前回の様に、同じ定位置の行き来では不便だと、九条も考えての処置だ。

まだ好きになれない神機兵を連れて、ヒロは先に下がったシエル達と合流すべく、その足を速めた。

 

 

深く攻め込んできたヴァジュラを倒してから、ロミオは周りを見渡す。

「・・・ひでぇ」

昨日まで人の暮らしていた家屋は、荒神との戦闘の為、火に包まれていたからだ。そんな彼の隣に立って、住民の避難の助勢に加わっていたユノが、強い眼差しで声を洩らす。

「大丈夫。・・・人は、生きている限り、何度だって・・・やり直せる」

その言葉にロミオは歯を食い縛りながら頷き、顔を上げる。

そこへ、更に追い打ちと言わんばかりに、災厄が顔を出す。

 

「・・・やがて、雨が降る・・」

 

それを目にした者は、焦りの表情を浮かべる。

「あれって・・・まさか!?」

「赤い積乱雲!?このタイミングで・・」

ロミオとユノの言葉に「くそっ」と声を洩らしながら、ジュリウスは司令部のレンカへと無線を繋ぐ。

「空木さん!こちらブラッドα、ジュリウス!北西の空に、赤い積乱雲を発見!」

『確認している!司令部より、全ゴッドイーターに告ぐ!住民を避難させ、シェルターの入り口を固めろ!赤い雨に触れるなよ!?』

《『了解!!』》

ジュリウスもロミオとユノを促し、近くのシェルターへと撤退した。

 

「雨は降りやまず・・・」

 

シェルター入り口付近を固めていたヒロ達は、残りの住民を連れてきた第4部隊を目にし、ホッとする。

それで力が抜けたのか、ヒロは膝から力が抜けて倒れそうになる。しかし、地面に着く前に、ハルが腕を取って、ウィンクしてくる。

「寝るには早いぜ、ヒロ。まぁ、後はうちのデンジャラス・ビューティーに任せて、少し休め」

「デンジャラスって・・・はい?」

疑問に思ったのも束の間、ヒロは目の前で変貌をとげたカノンを見て、別の意味で青ざめる。

「あーはっはっはっはっ!!何?痛い?・・ねぇ、痛いのー!?」

ガァンッガァンッ!!

全員が引いてしまう程の迫力で笑うデンジャラス・ビューティーを他所に、ハルは名簿を見ながら、住民の確認をしていた。

 

『ハルだ。第4部隊、ブラッドβ共に、シェルターへと引っ込んだ。入口を固めて待機する。おっと・・、担当区域の住民も確認済み。オーバー?』

「了解です、ハルさん!アリサ!?お前の方は、どうだ?」

『こっちも住民の照合、終了しました。入口を固めて待機します』

「了解!ブラッドα!そっちはまだか!?」

『もう少々、お待ちを!』

 

「時計仕掛けの傀儡は、来たるべき時まで・・・眠り続ける」

 

ブゥゥーンッ

「え?どういうことですか!?」

 

ブゥゥーンッ

「ちっ・・・。マジかよ!?」

 

ブゥゥーンッ

「な!?コウタ隊長!神機兵が!?」

 

『何だ・・・どうして・・、あわ・・・・そんな・・。そんな馬鹿なーーー!?』

「九条博士!?どうしたんだ!?」

急に騒ぎ出した九条に、レンカが声を掛けていると、無線から一気に声が雪崩れ込む。

『レンカ!神機兵が動かなくなったんですけど!?』

『ハルだ!神機兵が鉄屑になっちまったんだが、こいつも雨に濡らさない方がいいのか?』

『こちら第1部隊!レンカ、動かなくなった神機兵より、住民を優先していいよな!?』

「レンカさん!配置した全神機兵、停止しました!」

不測の事態に、レンカはデスクを殴りつけ、歯をギリッと鳴らしてから指示を出す。

「神機兵は捨て置け!住民の命と、自分の命を優先しろ!!」

《『了解!!』》

 

「人もまた自然の循環の1部なら・・・、人の作為も、またその1部。そして・・・」

 

ジュリウスが自分の見ていた名簿から顔を上げ、他の二人に声を掛ける。

「名簿の確認、急げ!」

「ちょっと待って!」

「こっちは・・・・OKだ!」

ギルは顔を上げたが、ロミオはまだ紙を捲っている。

そこで、ある部分を見て止まり、急に震えだす。

「ロミオ?・・どうした!?」

ロミオの元へ駆けつけようと走り出すジュリウス。だが彼がそこへ着くより先に、無線から声が上がる。

『こちら、北の集落。突然白い荒神が現れて、逃げ遅れて・・・は?はぁぁーー!!』

「・・爺ちゃん・・・婆ちゃん・・」

そう声を洩らした瞬間、ロミオは防護服を着こんでから、外へと走り出す。

「ジュリウス!ギル!ごめん!!」

「ロミオ?待て!?どこ行くんだ!!」

後を追おうと駆け出そうとするギルの足を、降り出した赤い雨が立ち塞がる。

「くそっ!降ってきやがった!・・あの馬鹿!」

悔しげな表情を浮かべるギルの肩に手を置いて、ジュリウスが防護服を手に声を掛けてくる。

「俺が行く。ギルはここで、住民を荒神から守ってくれ」

「・・・わかった。生きて戻れよ?」

「わかっている!」

そう言ってジュリウスは、防護服を着こんで、フードをかぶる。

 

「あぁ・・・やはり、あなたが『王のための贄』だったのね・・。ロミオ」

 

ジュリウスからの連絡に、ヒロは勢いよく立ち上がり、入口へと駆け出す。

ガァンッ

だが、それを行かせまいと、ハルが神機を振り下ろして、立ち塞がる。

「行かせねぇよ、ヒロ。どうしてもっていうなら、俺を力ずくで倒してから行け」

「ハルさん・・、でも!?」

「冷静になれ!今から行って、どうにかなるのか!?」

ハルに叫ばれると、ヒロは悔しそうに下を向く。そんな彼の肩に手を置いてから、ハルは唇を嚙みしめながら、声を掛ける。

「・・・信じろ。今は黙って、仲間の無事を・・」

赤い雨は、勢いを増していく・・。

 

 

北の集落付近にロミオが辿り着くと、そこは荒らされた後だった。

焦りながら周りを見回していると、数匹のガルムを従えて、”あの時”の白い荒神が姿を見せる。

「このっ!!」

構えたロミオへ、ガルムの1体が飛び込んでくる。それを、

ズァァンッ!!!

「ブラッドアーツ、『ドライブツイスター』」

ジュリウスが斬り上げて、隣へと着地する。

「ジュリウス・・」

「こうなっては、逃げられないな。ロミオ、二人でやるぞ」

「おうっ!!」

ロミオの返事に合わせて、二人は同時に駆け出す。

 

「ロミオ・・・貴方はこの世界に新しい秩序をもたらすための礎。貴方のお陰で、もう1つの歯車が回り始める」

 

ガルムが下がったのを合図に、白い荒神が前へと出る。そして・・・。

オォォーーーンッ!!!

赤いオーラを発しながら、赤い空へと雄叫びを上げる。

飛び掛かって来る白い荒神を、ジュリウスが斬り付ける。しかし、素早い動きでそれを躱し、鋭い爪で攻撃し返してくる。

ガキィッ バリッ

「くそ!?」

盾で受け流した勢いで、ジュリウスの防護服の袖が破られる。それを気にしたのを見逃さず、白い荒神は勢いよく体当たりを食らわせ、彼を吹き飛ばす。

「うっ・・・かはっ」

当たりどころが悪かったのか、ジュリウスは俯せに動かなくなる。

 

「あぁ、ロミオ・・・。貴方の犠牲は、世界を統べる王の名の下に、未来永劫・・・語り継がれていくことでしょう」

 

「ジュリウス!」

ロミオの呼びかけに反応しないジュリウス。それを守るためにと、ロミオは刃にオーラを溜めて、白い荒神へと放つ。

「おっらぁ!!」

ギャァンッ!!

しかし、その攻撃は白い荒神には届かず、躱された先にいたガルムへと当たる。

技の為に大振りしたロミオが体勢を整える前に、白い荒神はロミオの懐に入り、彼を空中へと吹き飛ばす。

「がぁっ!!」

朦朧とした意識の中、ロミオはブラッドの皆の姿を見る・・。

 

目の前の機械を操作しながら、嫌らしく涎を垂らし、ラケルは目を大きく開いて笑い続ける。

「偽りの英雄の刃は、届かない・・・ふふふっ。おやすみ、ロミオ・・・。『新しい秩序』の中で、また会いましょう・・・」

 

落下してくるタイミングに合わせて、白い荒神は、ロミオの腹を、その黒い爪で抉り飛ばす。

ブジャァッ!!!

腹から流れる血を撒き散らし、ロミオは10m先まで転がされる。

倒れたロミオから、血が溢れるのを確認してから、白い荒神は興味を無くしたように、その場から去ろうとする。

しかし、その目に映った事実に、足を止めてしまう。

「・・・・・・」

ロミオは腹から内臓のようなものをぶら下げながら、立ち上がっていたのだ。

 

半分意識を失った状態で、ロミオは大切な人の顔を思い出す・・・。

『ギル・・』

『ナナ・・』

『シエル・・』

『ユノさん・・』

『極東のみんな・・』

『爺ちゃん・・婆ちゃん・・』

『ジュリウス・・』

『ヒロ・・』

『・・・・・リヴィ』

 

キイィィィィンッ!

 

「・・こいつは!?」

「ロミオ・・先輩?」

「・・・まさか、そんな!?」

「あ・・・あぁ・・、ロミオ先輩!!」

 

「うおぉぉぉぉぉーーーーっ!!!」

 

血の力を発動して、ロミオは天高く叫んだ。

 

 

サァーーー

「うっ・・・」

雨の中目覚めたジュリウスは、意識の回復に合わせて、ゆっくりと立ち上がる。

荒神の攻撃を受けた影響か、左足を引きずりながら、目的の場所へと向かう。そして、腹から赤黒いものが飛び出して倒れるロミオを、ゆっくりと抱き起す。

「・・ロミオ。・・ロミオ!しっかりしろ!?」

「・・・・うっ・・・あ・・、ジュリ・・ウス・・?」

彼の呼びかけに、弱々しく目を開けたロミオは、必死に口を動かす。

「あ・・・ご、め・・ん。あいつ・・・・倒せ、なかった・・・・よ。ごほっ!」

「良いんだ。そんなこと、気にしなくて良いんだ!とにかく、今は喋るな!」

「い・・・や・・・、喋ら・・・せて、くれよ・・」

そう言って、ロミオはゆっくりと手を伸ばして、ジュリウスの手を握る。その力は、まるで赤ん坊のようで、ジュリウスは顔を歪ませる。

「ジュリウス・・・。ごめん・・な。俺、・・・弱く・・て・・」

「何を・・言ってる。お前は、俺を守ってくれたじゃないか!?」

「守れ、たのか・・。そっ・・か・・・。じゃ、あ、・・北の・・集落・・の・・。爺ちゃんや・・・・婆ちゃん・・は?」

「あぁ、大丈夫だ!お前のお陰で、みんな助かったんだよ!ロミオ!」

その言葉に救われたかのように、ロミオは優しく笑みを浮かべる。そして、握っていた手を、地面へと落とす。

「っ!!?ロミオ?・・・」

「良かっ・・・・た・・・・・・」

それを最後に、ゆっくりと目を閉じる。

 

「ロミオ・・、逝くな。目を開けてくれ・・」

「・・・・」

「一人でも欠けたら・・・・、意味ないんだ!・・ロミオ・・」

「・・・・」

「頼む・・・逝かないでくれ・・!ロミオ!」

「・・・・」

「逝くなぁーーーーーーーーーーーーーーーーー!!!!!」

 

赤い雨は、勇敢な少年を・・・連れ去って行った。

 

 

 

赤い雨を抜けたところで、白い荒神は、ガルムの群れと、高らかに笑う様に声を上げる。

突然の血の力に押し負けたのに驚いていたが、命があるのを・・・自分達の勝利を喜ぶかのように・・。

ガァンッ!!

「なに・・・・笑ってやがる・・」

そんな荒神の声を許さぬといった殺気を放ち、鋭い目を向ける男が立っていた。

極東の危険を知らされて、赤い雨の外まで戻って来ていた、ソーマ・シックザールだ。

「このまま逃げられるなんて、思ってないよな?」

その殺気の禍々しさに、白い荒神は背中を向けて走り去る。しかし、地上最強はそれを逃すまいと一足飛びで襲い掛かる。

「・・なっ!?くそっ!!」

しかしそれを阻むように、ガルムが2,3体残って、彼の行く手を阻む。

すでに追いつけそうもない距離を取られたが、諦めぬとガルムの1体を叩き潰してから、ソーマは叫ぶ。

グシャッ!!

「くそがっ!!・・待ちやがれーーー!!!」

その叫びも虚しく、白い荒神は手の届かぬ所へと去って行った。

 

 

「ロミオ・・・。頼む・・・・・、ロミオー・・・逝かないでくれ・・」

赤い雨に体温を奪われ、冷たくなってしまったロミオを抱いて、ジュリウスは泣き続けた。

雨が去って、ソーマが迎えに来るまで・・・。

 

 

 





私、自分の文章ながら・・・これ書きながら泣いてしまいました。

次回から、次に向かう前のブラッドを書きます。



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36話 鎮魂歌

 

 

フライア2階の庭園。

そこに、1つの墓石が置かれる。

『勇敢な友 ロミオ・レオーニ ここに眠る』

その墓石の前に、フライア、極東から集まった人々は、彼を黙って見送る。歌姫のレクイエムに包まれながら・・。

 

この命はすべて主の為に捧げました

彼の腕に抱かれて我が罪を赦されましょう

 

ですから、どうか私をこの場所へ・・・帰したまえ・・

 

ナナは、立っていられなくなり、シエルへとしがみついて泣き・・。

ギルは、震わす肩をハルに擦られながら立ち尽くし・・。

ジュリウスは、泣き腫らした目で毅然としようと努め・・。

ヒロは・・・・・感情を閉ざしたように、ただ前を見つめていた・・。

歌が終了すると、北の集落の老夫婦が、声を上げて泣き始めたのをきっかけに、関わった仲間達からも、少しずつ声が上がりだす。

「こんな、形になっちゃったけど・・・・、ロミオさんに・・届けばいいのだけど・・」

「・・・・そうね」

サツキに寄りかかって、ユノは目を閉じる。それを労う様に、サツキは優しく頭を撫でる。

『実は是非お願いしたいことがあるんっすけど・・・。迷惑かけたブラッドのみんなの為に、1曲歌ってもらえないっすか?』

 

グレムは面白くなさげに、早々に立ち去っていき、レアも少し惜しむように目を閉じてから、その場を後にする。

ラケルは隣に立つジュリウスへと、何かを耳打ちした後、集まった人に1礼してから庭園を出て行った。

 

庭園を出てすぐの廊下で、ラケルは壁に背を預けて後輩を見守る、ソーマを目に留める。それに1礼して去ろうとしたところで、ソーマの方から声を掛けてくる。

「今回・・・やけに嫌な条件が重なったな・・」

「えぇ・・・。その代償が、彼だということ・・・重く、受け止めております」

「そうか?・・・・お前、顔が笑ってるぞ?」

「・・・・・なんの、事でしょう?」

あくまでとぼけるのかと思い、ソーマは「ふん」と鼻を鳴らしてから、壁から背を離す。そして、去り際に、ラケルへと意味深な置き土産をする。

「まぁ、いい。・・だが、これだけは覚えておけ。いずれ”うち”の最強が、お前に挨拶に来るだろう。その時は、もっとマシな言い訳でも考えとくんだな・・」

ソーマが庭園に入っていくと、ラケルは再び前へと進みだす。そして、口の端を浮かせてから、ひっそりと呟く。

「・・・その頃には、全て終わっています・・・」

 

『ジュリウス。私は決めました・・。2度とこんな悲劇が起きぬよう、神機兵を一緒に完成させましょう。貴方の・・・大切なモノを守る為に・・』

 

 

ロミオの葬儀の後、ヒロは一人、神機保管室に来ていた。

そこに今も大切に保管されている、ロミオの神機を見る為に・・。

簡単な検査を行う為、今は調整室の1室に運び込まれている。ガラス越しに機械に固定されたそれを、ヒロは黙って見続ける。

『ヒロ・・・。マジでありがとな!』

(感謝なんか、しないでよ・・・ロミオ先輩。もっと、一緒にいてよ・・)

悔し気にガラスに当てていた手を握るヒロ。

と、背中に気配を感じて、ヒロは振り返る。入口付近の暗がりに、リッカが立っている。それから彼女が入ってくると、もう一人影が見える。

「あの・・・、リッカさん・・」

「ごめんね、邪魔して・・。でも、君には・・・この人が1番の薬だと思って、ね」

「え?・・・」

そう言って横へかわしたリッカの後ろから、もう1つの影が入って来る。その姿がはっきりしてくるのに合わせて、ヒロの顔は、徐々に歪んでいく。

「あ・・・、あ・・・・・」

その人はヒロの目の前に立ち、優しく肩へと手を置く。

「ごめんね、ヒロ。大事な時に、いてあげられなくて・・」

「そん、な・・・、そんな!?」

「そんなに我慢しないで・・、泣いて良いんだよ?・・ヒロ。大丈夫だから」

「あぁ・・・・・、ユ・・ウさん!!」

そしてヒロは、彼・・・神薙ユウにしがみついて、やっと涙を流し始めた。

「ごめ・・ごめんなざい!ユウざん!!僕は・・・僕は約束を・・・・あぁぁ・・」

「良いんだよ。君も、みんなも・・・全力で頑張ったんだから・・」

「ああぁぁぁーーーーーーーーーっ!!!」

大声を上げて泣くヒロの背中を、ユウは優しく撫でながら、頷いてあげた。

 

 

泣き疲れたのか、ヒロが眠ってしまうと、ユウは優しく抱きかかえ、部屋に設置された長椅子へと寝かせる。その上に、リッカが持ってきた毛布を掛ける。

「・・ごめんね、忙しいのに呼び戻して。でもさ・・・、このままじゃ、この子駄目になっちゃいそうだったから・・」

「ううん。ありがとう、教えてくれて。本当はもっと、早く帰ろうと思ってたのに・・、先延ばししちゃってたから・・・」

そういって微笑むユウに、リッカはこつんと頭を預ける。

そこへ、軽くノックをしてから、ソーマが入って来る。

「・・・邪魔したか?」

「うん。邪魔・・」

「リッカ・・・。大丈夫だよ、ソーマ」

リッカに苦笑しながら、ユウはソーマへと視線を向ける。ソーマも、久方ぶりに会った顔に口の端を浮かせてから、すぐに真剣な表情になる。

「今回の作戦、お前はどう思う」

「どう、というのは?」

聞き返してきたユウに、ソーマは壁に背を預けてから腕を組んで、話し始める。

「無人型神機兵のテスト運行をすっ飛ばしての実戦投入、それに俺やお前、リンドウがいないタイミングで行ったこと。それと・・・、都合よく振ってきた赤い雨。偶然にしちゃあ、出来すぎてる」

その説明に頷いてから、ユウも少し目を細めてから喋りだす。

「そうだね・・。実はサツキ姉さんの情報筋で、ある事が気にかかってね・・。だから、リッカの連絡で1度戻ろうと思ったんだ」

「ある事?なにそれ?」

リッカの疑問に目を閉じてから、ユウは答える。

「僕の予定を、わざわざ調べた本部の人間がいたそうだよ。向こう2ヶ月のね・・。その人は口を閉ざしてるらしいけど、僕の名前が挙がったからって、サツキ姉さんが連絡くれたんだ。・・・・これも、タイミングが良すぎるよね?」

「それって・・まさか!?」

「お前が極東にいないことを知りたがった人間が、いるってことになるな」

ソーマが核心をついてくると、リッカは口を押さえて、目を大きく開く。

ユウは閉じていた目を開いてから、ソーマへと口を開く。

「ソーマ。僕等の介入を良しとしない誰かが、この結果を望んでいたというなら、僕は戻った方が良いかな?ここに・・」

「いや・・。確証がねぇのに、お前を引っ張り出すわけにはいかねぇ。前に電話で言ったのは、俺が誰かさんの尻尾を掴んでからの話だしな。それに、お前とツバキを無理矢理戻して何もなけりゃ、極東の信用問題に関わる。お前も、わかってんだろ?」

「・・・・うん」

話の全てがわかったわけでは無いリッカだが、二人が何かを掴んでると理解して、それを確かめる為に、声を掛ける。

「ユウ君達は・・・、この件の裏で動いてる人物に、心当たりあるみたいだけど・・」

その質問に答えるか悩んでから、ユウはリッカへと耳打ちする。

「ん?・・・・え?・・なんで?だって!?」

「確定じゃないよ。・・・・でも、おそらくは・・・」

そう前置きしたユウの言葉に続けて、ソーマが口を開く。

「気を付けるに、越したことはない。だが、お前は自分の仕事に戻れ。・・・俺が、極東に残っておく」

ヒロの眠っている間に、三人は今回の事件の首謀者を予想し、自分達に出来ることを話し合った。

 

 

朝方、ブラッドは神機保管庫に呼ばれる。

ジュリウスはロミオの件で事後処理があると断ったが、他の者は任務もなかったので、足を運んでいた。

リッカの作業室に向かいながら、ヒロがいないことを気にするシエルを引っ張って、まだロミオの事を引きずったままの三人は、リッカの作業室へと入る。

「・・あれ?ヒロいたの?」

ナナの声にパッと明るい表情を見せたシエルだったが、そこに待っていた人物を目にし、驚きの表情へと変わる。

それは、ギルの方も同じで、ナナだけが首を傾げている。

「えっと~・・・誰?」

「まさか・・・、お会いできるなんて・・」

「・・・ユウさん」

ギルの呼んだ名に、しばらく目をぱちぱちしてから、ナナは驚きに声を上げる。

「ユウサン・・って・・。うっそー!?」

「ははっ。元気な子だね」

ナナに応えるように笑って見せてから、ユウはギルとシエルにも顔を向ける。

「ギル。大分良い顔になったね・・。それに、シエルさんだっけ?電話以来かな?」

余りにも気軽に声を掛けられたことに唖然としたが、二人はすぐに頭を下げる。それに驚いてから、ナナも急いで頭を下げる。

「頭を上げてよ。話、しづらいでしょ?」

「あ・・・は、はい!」

「りょ・・こほんっ!了解、しました!」

「あ、は~い!」

「「ナナ!」」

「え?えぇ?」

皆の反応に、ヒロは苦笑して、同席しているリッカは口を押えて笑っている。当のユウは頬を掻いて、少し困った表情していた。

皆が落ち着いたというところで、ユウは話し始める。

「今回は・・・、大変だったね。僕がいてどうにかなったなんて思えないけど、何も力になってあげられなくて、ごめんね」

ユウが頭を下げるのに、ギルとシエルは慌ててそれを止めさせるよう声を掛ける。

「そ、そんな!頭を上げて下さい!!」

「ユウさんが謝ることなんて、何もないっすよ!!」

「ユウさんって、良い人だ~」

ナナだけ視点のずれたことを言っているが、ユウは二人の説得に応じて、顔を上げる。それから一変し真面目な表情を見せると、ユウは再び話し始める。

「じゃあ、お言葉に甘えて・・。それで?今後君達は、どうする?」

《え?・・・》

その質問には、ヒロも一緒に疑問符を浮かべる。

これから・・・。それを、余り意識していなかったからだ。

「凄く・・・悲しかったと思う。辛くて、苦しかったと思う。でも、そんな夜を越して、君達は今後どうするの?ゴッドイーターを続ける?それとも、1線退いて、後進の指導をする?」

「そ、れは・・・」

ヒロが口籠って黙ってしまうと、皆も黙って俯く。しかし、それを良しとしないといった感じで、ユウは強く叱咤する。

「顔を上げろ!ゴッドイーター!キツイことを言うようだけど、外には荒神がいて、君達の力を必要とする人達がいるんだよ!?」

《っ!!?》

思わず顔を上げる皆を見回してから、ユウは自分の手を前に出す。

「戦う勇気がまだあるなら、この手を取って。僕が、君達に・・・彼の思いを上げる」

「彼って・・・・」

そう言った目の先に・・作業台に移動された、ロミオの神機が目に入る。それに気付いたら引けぬと、全員勢いよく、ユウの手を掴む。それに笑顔を見せてから、ユウは空いた手をゆっくりとロミオの神機へと触れさせる。

ビキィィッ

少し浸食してきたのを感じてから、ユウは眉間に皺をよせる。それから大きく深呼吸をして、口を動かし、呪文を唱えるように声を洩らす。

「感応現象、『想』」

キィィィィィィンッ!!

その瞬間、四人の頭の中に、ロミオの想いが流れ込む。

 

『みんなの分も、俺も頑張らなきゃ!』

『ブラッドはさ、すげぇ部隊なんだよ!!』

『あいつ等は、そんな事、絶対しないし!!』

『うおぉぉーーーーーっ!!やるぞーーーーーっ!!』

『俺さ、みんなに感謝してんだ』

 

「うっ!・・・・」

「ユウ君!もう限界だよ!?」

ユウが手を離したのをきっかけに、皆は視界が元に戻る。そして、目の前で息を荒げながらリッカに支えられるユウを見て、すぐに駈け寄る。

「ユウさん!?大丈夫ですか!?」

「あぁ・・・はぁ・・、やっぱ、慣れないね・・これ」

ヒロの心配の言葉に、ユウは苦笑しながら体勢を整える。それから、目の前の皆を見てから、改めて話し掛ける。

「どうだった?彼の・・・ロミオの想い」

「・・・はい。とっても、暖かかったです」

「少し切なげで、でも・・」

「いつも、あたし達の事を、考えてくれてて・・」

「俺等に、感謝してました」

そんな彼等に頷いてから、ユウはさっきの質問をもう1度する。

「彼の想いを受け止めたところで・・・、もう1度聞くよ。どうする?ブラッド隊?」

その言葉に応えるように、皆背筋を伸ばして、強い眼差しを見せる。

「続けます。これからも、仲間を守るために!」

「あたしも、頑張ります!先輩の分まで!」

「俺も、今度こそ逃げません!」

「僕も、ロミオ先輩の分まで、戦います!」

四人の強い決意に、ユウは優しく微笑んでから、全員を抱き寄せる。

「うん!君達は、やっぱり最高だよ!」

「わ!ユウさん、ちょっと!?」

「お、俺は、そんな歳じゃ・・」

「わーい!英雄に抱き着いちゃう!」

「あ、あの・・・その・・」

そんな彼等の元気な姿を見て、リッカはホッと胸を撫で下ろして見守った。

 

「ねぇ、旦那様?何も、女の子まで抱くことなかったんじゃないかな?」

「あ、え?お、怒ってる?リッカ・・」

「おぉー。英雄が怒られてる」

「リッカさんの前じゃ、形無しっすね。ユウさん」

「私は・・・・もっとヒロと・・」

「え?シエル?・・」

 

 





遂にユウとヒロの接触です。

ユウが少し変わった事してますが、それは後のお楽しみということで!w



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37話 離別

 

 

朝方、ユウは再びイタリア支部へと戻って行った。

それを一人見送ってから、ヒロは極東の中へ戻る。

ヘリポートから続く廊下を歩きながら、ヒロはユウが別れ際に言った言葉を思い返す。

 

『近々、大きな事が起こるかもしれない。だからヒロ、気を付けて』

 

ロミオの死も、十分大きな事件だと思っていたヒロ。それよりも大きな事なのだろうかと、ヒロは真剣な表情で足を進める。

「・・・・ヒロ」

「ん?あぁ、ジュリウス」

廊下の先から声を掛けられ、ヒロは手を軽く上げて応える。

そんな彼の姿を見つめ、ジュリウスはどこか切なげな笑顔を見せる。

「事後処理は、終わったの?」

「あぁ・・・。なぁ、ヒロ。・・・・俺と、任務に出ないか?」

突然の申し出にヒロは首を傾げたが、断る理由は無いと思い、笑顔で頷いて見せる。

「良いよ。実は話したいことがあるんだ!」

「そうか・・・。楽しみだな」

二人は並んで廊下を進み、受付へと向かった。

 

 

ザシュッ!!

「ジュリウス!」

「任せろ!」

ヒロに斬られて距離を取ろうとしたボルグカムラン。しかし、先回りしていたジュリウスのバレッドで、尻尾の先の針を撃ち落とされる。

ドドゥオンッ!!

キィアァァーー!!!

驚いて盾を出して身を固めるボルグカムランに、ヒロとジュリウスは、同時に捕食形態で咬み千切る。

ギャリ!リィィー!!

「このまま、行くぞ!!」

「了解!!」

示し合わせたように二人は同じ構えをし、その刃に込めたオーラを一気に開放する。

「「ブラッドアーツ、『疾風の太刀・鉄』」」

ザシュザシュザシュザシュザシュザシュッ!!!

左右を駆け抜けた二人の斬撃によって、ボルグカムランはその場に倒れ伏す。それからヒロがコアを抜き取ると、オラクル細胞は霧散していく。

「・・・見事だ、ヒロ」

「始めてジュリウスがこの技を見せてくれた時、かっこいいと思ったから・・。様になってるでしょ?」

「あぁ・・・」

ヒロが笑ってくるのに頷いてから、ジュリウスは遠くの空を見つめる。

ヒロも隣へと移動して、何か珍しいものがあるのかと、目を凝らして見てみる。すると、ジュリウスは静かに話し始める。

「ヒロ・・。お前は、本当に強くなった。・・お前だけじゃない。シエルも、ナナも、ギルも・・・」

「ジュリウスも・・・でしょ?」

「・・・・」

何故か答えてくれないジュリウスに、ヒロは少し不思議な雰囲気を感じる。それは、徐々に心の中で膨らんでいき、彼の表情を濁す不安となっていく。

「・・・・お前がいれば、ブラッドは大丈夫だ。極東の人達と一緒に、上手くやっていける」

「ちょ・・ちょっと、ジュリウス。何で・・」

「ギルは、お前が上手く導いてやれ。まだ感情的になりやすいところがあるしな。ナナは・・・、食べ過ぎに注意だ。シエルは、お前を慕ってる。これからも、お前の支えとなってくれるだろう・・」

「だから、待ってよ!さっきから何で、他人事みたいに・・!?」

彼の言葉を遮るように、ヒロは叫ぶ。だがジュリウスの澄んだ瞳を見た瞬間、声を出せなくなる。

そして、ジュリウスは・・・・ヒロの1番望まない言葉を、口にする。

「俺は・・・、ブラッドを抜ける。後任の隊長は、お前だ。ヒロ・・・」

カランッ

ショックのあまり神機が手から零れ、ヒロはその場で凍り付いてしまった。

 

ヒロを極東に送り届けてから、ジュリウスはフライアへと帰還する。

携帯端末は、さっきから鳴りっぱなしだ。

これ以上バイブレーションの音を聴きたくないと思い、ジュリウスがそれを取り出したタイミングで、1件のメールが届く。

その宛名を見てから目を大きく開き、彼は少し迷いながらも、内容を開示する。

 

『ジュリウス。フライアにいるの?あなたが心配です・・。会いたい・・。連絡待ってます』

『ユノ』

 

目を通し終えてから、ジュリウスは目をきつく閉じて、歯を食い縛る。

それから、全てを諦めたように目を開け、携帯端末の電源を落とした。

「・・・・・もう、会えないんだ・・・ユノ。俺は・・・・」

そう言って彼は、左腕の袖を捲くり、絶望を再確認する。

そこには、蜘蛛を模った様な、黒い痣が浮かび上がっていた。

 

極東の自室で、ユノは携帯端末を見つめる。

「・・・・返事、待ってるのに・・」

待ち人からの、連絡を待って・・・。

 

 

翌日、納得のいかぬまま、ブラッドはフライアのグレムの部屋に呼ばれ、隊の引継ぎを行われる。

「まったく・・・・九条の奴。あいつが失敗しなければ、俺は本部に返り咲けたものを・・!」

文句を洩らしながら、書類へと判をついていくグレム。

今回の事件で、「無人型神機兵の実戦投入は早すぎた」と、開発担当の九条は責任を取らされ、本部に拘留されることになったのだ。

そしてグレムも、責任者として・・・本部栄転の道は途絶えたのだ。

「くそっ・・・・・・、ふん!これで、いいだろう?これを持って、さっさと極東へ行け!後任の隊長は・・・、お前だったな?」

「はい。・・書類、確かにお預かりしました」

「ふん!愛想のないガキめ!」

まだ少し落ち込んでいるヒロを、腫物を見る目で悪態をついてから、グレムはブラッドの顔を見回す。

そこで、ナナがおずおずと手を上げて、グレムへと質問する。

「あのー・・・・、ジュリウス・・・元隊長は・・・?」

「知らんのか?嫌われたもんだな、お前等も。彼は今後、ラケル博士の研究の補佐をするそうだ。・・・これでいいか?」

「あ・・・・・、はい・・」

怒られたわけでは無いが、ナナは子供の様にシュンと縮こまってしまう。

「極東に行ったからと言って、お前等はあくまでフライア所属の部隊だ。くれぐれも、面倒は起こしてくれるなよ?あの・・・ロミオとかいうガキのようにな」

その名を口にされて、ギルは完全に頭に血が上ったのか、目を鋭く睨みつけ、グレムへと飛び掛かろうとする。

「てめぇが・・・あいつの名を、軽々しく・・!!」

そこまで声を荒げたところで、ギルを行かせまいと、シエルが腕を前に伸ばし、彼を止める。

「シエル!」

「わきまえて下さい、ギル」

そう言われて、ギルは舌打ちしながら後ろへと下がる。

「ふん!・・・・・・・おい。何だ・・その眼は?」

グレムの言葉にギルはシエルを見て、初めて気付く。止めに入ったシエルも、相当に怒りを覚えていることを・・。

「いえ・・・・、何でもありません。お言葉、確かに拝聴しました」

「可愛くないガキ共め。さっさと、行け!」

「失礼します」

ヒロの言葉に合わせ、ブラッドは一礼すると、その場を後にした。

一人になったグレムは、むしゃくしゃしてか、近くにあったゴミ箱を蹴飛ばした。

 

部屋を出てからすぐに、ギルはシエルへと謝罪する。

「悪かった。軽率だった・・」

「いえ・・。あなたが怒ってくれて、良かったと思ってます」

「二人共・・・、大丈夫?」

心配してくるナナに、軽く笑みを見せてから、シエルは前を歩くヒロへと視線を向ける。

背中を見ているだけでは、感情が読み取れず、シエルは切なげに顔を歪める。

そこへ、配備された長椅子に座っていたレアが、こちらの姿に気付いて立ち上がる。

「レア博士・・・」

「みんな・・・・・・、行くのね」

そう言って俯くレアに、先頭に立つヒロが、困った顔で笑顔を作り、頭を下げる。

「短い間でしたけど、お世話になりました」

その行動に合わせて、全員が頭を下げる。

何かを言いたげに口を動かしていたが、レアは小さく息を吐いてから、いつもの優しい笑みを浮かべる。

「元気でね。あなた達の活躍、フライアから応援してるわ」

そう言って去って行くレアの背中に、もう1度礼をしてから、ヒロは皆へと声を掛ける。

「ねぇ・・。しばらくは、フライアに来れないらしいんだ。だから・・・、ロミオ先輩の所に・・・行かない?」

彼の言葉に賛同して、皆は2階の庭園へと足を運んだ。

 

 

庭園の入り口から中に入ると、アクリル天井から、眩しい光が視界を遮る。

それを手で躱してから、ロミオの墓石へと目を向けるヒロ。

視界が慣れてから、彼等は気付く。墓石の前に、先約がいることに・・。

「・・・誰?」

ナナの声に誰も反応できない。誰も、その褐色の少女を知らないからだ・・。

とにかくそこへと足を進めて、彼等はまたも驚いてしまう。彼女が静かに、泣いているのを見て・・。

「・・・・・あの」

どうしようか迷ってから、ヒロが声を掛けると、彼女はハッと我に返ったのか、涙を拭ってから振り返る。

「・・・・・お前達、ブラッドか?」

腕輪を見てから判断したのであろう。従来の赤い腕輪とは違い、ブラッドは黒い腕輪だからだ。

「そうですけど・・・・。あなたは、ロミオ先輩の知り合いですか?」

「・・・・関係ないだろう・・、お前達には・・」

そう吐き捨てて、彼女はそこから去って行こうとする。が、少し歩いてから足を止め、彼女は振り向かずに声を掛けてくる。

「・・・なぁ。ロミオは・・・・、どうだった?」

「え?・・・どうって・・」

「元気に・・・・馬鹿みたいに明るく、やっていたのか?」

そこまで言われて、皆顔を曇らせる。彼女が、ロミオと深い繋がりがあったのだと理解したからだ。

少し戸惑いながらも、ヒロは言葉を選んで、無理矢理笑顔を作って答えを返す。

「とても・・・・明るくて・・。僕等の、大切な先輩でした」

「そうか・・・・・。邪魔したな・・」

今の答えで納得したのか・・。わからないまま背中を見送ってから、ブラッドは暫く会いに来れないことを、ロミオに報告した。

 

フライアのヘリポートへ続く廊下に、待ち合わせ時間より早く辿り着いてから、褐色の少女は、静かに壁に手を付いて涙を零す。

「・・くっ・・・う・・、馬鹿者。・・・約束、しただろう・・・ロミオ。私を・・・・一人に、しないと・・」

痛々しく巻かれた右腕の包帯を振り乱しながら、彼女は壁を軽く叩きながら、泣き続けた。

 

 

極東の団欒室のスクリーンを借りて、ブラッドはずっと切望していた、ジュリウスとの会話をこぎつけた。

予定の時間になってしばらくして、スクリーンにジュリウスが映し出される。

「ジュリウスだー!こっち見えてるー!?」

ナナが手を振るのに、彼はそっけない態度で話し出す。

「俺も忙しんだ。用があるなら、手短に頼む」

「え・・・・・あ、ごめん」

そんなことを言われると思ってなかったナナは、一気に気持ちが下がり、落ち込んでしまう。

ならばと前に出たギルが、ジュリウスへと声を掛ける。

「なら単刀直入に聞く。何で、ブラッドを抜けた?」

その言葉に溜息を吐いてから、ジュリウスは答える。

「人はあまりにも脆い。それは・・・、ゴッドイーターも同様だ。それよりも、大量生産でき、壊れてもパーツ交換が可能な、神機兵の開発を進めることの方が、合理的だと考えたからだ」

「てめぇ・・・、本気で言ってんのか?」

「あぁ。俺は、真面目に答えている」

その言葉に頭に来たのか、ギルは座っていた椅子を倒しながら、彼へと叫ぶ。

「ポンコツ共の王様になりたくて、お前はブラッドから逃げたってのか!?」

「それに、何の問題がある?異論があるなら、実戦で示すんだな」

そう言ってから連絡を絶とうとするするジュリウスの前に、ヒロがゆっくり歩み寄る。それを目にして踏みとどまったのか、ジュリウスは席に座り直す。

「・・・・・ジュリウスが、選んだならそれで良いよ。・・・でも・・・」

「”でも”・・・・、なんだ?」

「ユノさんに・・・・連絡してあげなよ。・・・ずっと、待ってるよ?」

「っ!?」

ほんの一瞬だけ、彼の表情が変わった気がしたヒロは、更に踏み込もうと1歩前へと踏み出す。

だが、彼は目を閉じてから、話の終りを告げる。

「・・・彼女には・・・、『すまない』と伝えてくれ」

それを最後に、スクリーンは真っ暗になる。

後に残されたのは、切なさと静寂のみだった。

 

連絡を切ったジュリウスは、大きく深呼吸をして、背もたれに背中を預ける。

「いいの?・・・お友達に冷たくして・・」

目の前の操作盤をいじりながら、ラケルが声を掛けてくる。しかし、落ち着きを取り戻したジュリウスは、そちらに目を向けず、小さく言葉を返す。

「縁を切ることが・・・、彼等の為だ。俺にはもう、時間は残されていない」

そう言って、ジュリウスは自分の身体に刻みつけられている黒蛛病の痣を見つめ、軽く咳込む。

「安心して。『エメス装置』は、着実に貴方の戦闘データを学習しています。もう、一般のゴッドイーターは凌駕しているでしょう」

「早く・・・ブラッドを越えてもらわなければ困る」

そう必死な形相で、訴えてくるジュリウスに、ラケルは操作盤の手を止めて、嫌らしく口の端を浮かす。

「そうね・・。これ以上、ブラッドを戦場に立たせないために・・。貴方が、死に追いつかれる前に・・・・ね」

 

 

 





ジュリウスと別々の道へ・・・。


そういえば、OPのカッコよさに負けて、ゴッドイーター・オンラインの事前登録をしてしまいました。

だって曲が、かっこよかったし・・。

今回はtouch my secretというバンドさんが担当されてます!
出されてるアルバムを一通り聞きましたが、私個人的には、結構お勧めです!
(in this mormentの邦楽版みたいな、エモーショナル・メロディック・ハードコアな音楽です!)

ゲームの方も、期待してみよう!



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38話 血の因縁

 

 

榊博士の研究室。

もうすっかり私物化しているソーマが、PCのキーボードを打って、研究の報告書をまとめている。

しばらく作業を続けたところで、ソーマは大きく溜息を吐いてから、口を開く。

「・・・・・おい、妹。いつまで、ここに居るつもりだ?」

「別に良いでしょ?・・・どうせソーマさん、一人で黙々と作業してるんだから。私の事なんて、気にならないでしょ?」

少しご立腹な様子のユノに、ソーマは再び溜息を吐く。それから、立ち上がってコーヒーを2つ準備し、1つをユノへと渡す。

「・・・ありがとう、ございます」

「それを飲んだら、出ていけ」

「冷たい!兄さんが、優しいって言ってたのに!」

「あいつの勘違いだ・・」

そう言ってソファーに腰を落ち着けてから、ソーマは一口飲んでから、ユノへと話し掛ける。

「・・・・・それで?」

「え?・・」

「聞いて欲しいことでも、あるのか?」

「・・・・やっぱり、優しい」

そう微笑んだユノに、ソーマは「ふん」と鼻を鳴らす。

「コーヒー、飲み終わるまでだ」

ぶっきら棒に答えるソーマの前に座り直し、ユノは大きく息を吐いてから、話し始める。

「ジュリウスがね・・・・、連絡くれないの」

「色恋の話なら、リッカかアリサにしろ」

「もう!聞いてくれるんでしょ!?」

「・・・・それで?」

話の腰を折ったことを悪かったと手を上げて見せ、ソーマは再び聞く態勢をとる。

「・・・ブラッドに・・、ヒロ君に伝言だけ伝えてさ・・・。ずるいよ。『すまない』って、何?私・・・・わかんない」

いつもの丁寧口調を忘れて、ユノは抱えた膝に、顔を半分埋める。それを面倒と思ってか・・・不憫に思ってか・・。ソーマはジュリウスの現状で、知っている限りを伝える。

「ヒロかシエル辺りに聞いてるかもしれないが、ジュリウスは今、無人型神機兵の研究に協力してるらしい。ラケルが作った、無人運用を行う生体制御装置『エメス装置』ってのに、あいつの戦闘情報を学習させるためにな」

「・・・そんなに詳しくは・・多分、ブラッドのみんなも知らないと思うけど・・」

「俺は知ってる。それだけだ」

本部回線を介してハッキングしたのだが、ソーマはそのことは黙っている。

「エメス装置から神機兵のAIに展開させることで、ジュリウスの戦闘スキルを神機兵に学習させる。そうすれば、実力は底上げされるって事らしい。コウタが喜びそうなネタだな・・・」

ソーマが苦笑しているのを見つめながら、ユノは再び膨れっ面になり、ぷりぷりと怒り出す。

「とにかく忙しいのは、わかったもん!それで!?なんで、『すまない』なの!?博識なソーマ博士!?」

その質問に対して、ソーマは表情を一変させて真面目になり、ユノへと答える。

「まだ色々と情報不足だが・・・・いいか?妹」

「え?・・あ、はい」

ソーマの言葉に、ユノは正座をしてから聞く態勢をとる。

「あくまで推測だが、ジュリウスは『連絡とらない』じゃなく、『連絡をとれない』じゃないかと、俺は思う」

「・・・それって・・」

「理由は色々ありそうで特定できないが、あいつがお前の事を憎からず思ってたんなら、真面目な性格のあいつは・・」

「連絡を・・・とれない・・・」

最後の言葉をユノが口にし、ソーマは頷く代わりに目を閉じる。

そこまで聞ければと、ユノは立ち上がり、冷めたコーヒーを一気に飲み干す。それから研究室の出入り口まで駈け寄ると、ソーマへと振り返ってお礼を言う。

「ソーマさん、ありがとう。元気出ました!」

いつもの笑顔に、ソーマはフッと笑みを浮かべてから応える。

しかし、彼女が出て行こうとしたところで、少し神妙な表情を見せ、ユノを呼び止める。

「・・・おい、妹」

「はい?何ですか?」

再び振り返って来るユノを見てから、ソーマはその笑顔を濁すのを躊躇ってか、苦笑して別の言葉を言う。

「・・・さっきの話、他言するなよ?」

「はーい!また、来ますね!」

そう言って出て行ったユノを見送ってから、ソーマは改めて自分のPC(榊博士のPC)の前に座る。

そして、報告書とは別にウィンドウを呼び出し、その中の写真を見て声を洩らす。

「何を企んでやがる、ラケル。ジュリウスを巻き込んで・・・」

写真には、幼いころのジュリウスを抱く、ラケルが写っている。しかしその顔は、新しいおもちゃを手に入れたという様な、無邪気かつ嫌らしい笑みを浮かべたものだった。

 

 

任務に出ていたブラッドは、標的の殲滅を確認し終えて、極東に戻る途中だった。

ナナがシエルに褒めて欲しそうに言い寄ってるのを後ろから眺めながら、ギルは隣を歩くヒロへ話し掛ける。

「あいつは・・・、あいつなりに考えてるのかもな・・」

ユノが早速他言してきたことに考えさせられたのか、ギルは自分がジュリウスに取った態度を思い出し、苦笑いを浮かべる。

「あいつは、俺達ブラッドの為に、神機兵を完成させようとしてるのかもしれねぇ。ロミオみたいに・・・ならないようにな・・」

「そう、かもね・・。先輩の最期を看取ったのも、ジュリウスだもんね」

そう答えてから、ヒロは苦しげな表情を浮かべる。が、突然ギルへと視線を向けると、彼は鼻息を荒くして声を上げる。

「でもね!ギル!僕は、あれが嫌いだよ!」

「は?・・・あー、まぁ・・・そうか」

そう答えるしかといった感じのギルを他所に、ヒロはいつになく興奮して、喋り続ける。

「ジュリウスの気持ちは、嬉しいよ?でもね!僕は、あれが大っ嫌いなんだよ!無機質だし、すぐ動かなくなるし、うー・・・・・とにかく!嫌いなんだよ!!」

「わ・・わかった、わかった!珍しく、うるせぇな」

そう言ってギルは、ヒロの頭を少し力を込めて、撫でまわす。

そんな事にも怯まず、ヒロはジュリウスに対しての、決意を口にする。

「次にジュリウスに会ったら、1発ぶん殴ってやる!決めたから!?」

「あぁ、そうしろ。俺も、付き合ってやるよ。隊長」

そんな二人に遅いと叫ぶナナと一緒に、シエルが笑顔で待っていた。

 

 

任務前に榊博士に呼び出され、ブラッドは支部長室へと足を運ぶ。

そこで、彼等は表情に怒りを表すようになる。

「見つかったよ・・。ロミオ君の仇・・・、感応種『マルドゥーク』がね」

彼等の感情を露わにした態度に怯むことなく、榊博士は話を続ける。

「第3サテライト拠点の建設状況を視察に行った、アリサ君から連絡があったよ。かなり離れた場所だったが、衛星カメラに捉えた姿に、間違いないとね。マルドゥークは、ガルムの群れを連れて、東へと去って行ったそうだ。今は、レンカ君が全力で足取りを追っている」

言い切ったといった感じで、息を吐く榊博士に、ヒロは冷静に努めて聞き返す。

「博士。場所を特定したら、僕等に行かせて下さい」

「勿論君達にもとは思っているが、ブラッドだけで行く気かい?ガルムの群れも相手する事になるんだよ?」

そう返されても引かぬといった感じで、シエルが前に出る。

「必要ならば、全て倒します。支部長、お願いします」

「俺も、異論はない」

「あたしも」

それに続けとばかりに、ギルとナナも前へと進み出る。それに溜息を吐いてから、榊博士は苦笑いを浮かべる。

「君達ゴッドイーターは、いつも私を驚かせてくれる。いつかの極東での事を、思い出すよ」

そう前置きしてから、榊博士は真剣な眼差しで応える。

「わかった。君達ブラッドに、任せよう。ただし、マルドゥークにこだわるなら、分断はさせてもらう。それと、応援も要請させてもらう。君達を、失う訳にはいかないんだ。これだけは呑み込んでくれ。いいね?」

《了解!!》

彼等の返事に頷いてから、榊博士は時計を確認する。

「今からだと・・・・・3・・いや、2時間だ。レンカ君なら、確実に特定する。今日の任務はキャンセルして、準備に入ってくれたまえ」

《はい!!》

彼等が出て行った後、榊博士は連絡回線を、ある場所へと繋ぐ。

『はい、何でしょう?』

「応援を、要請したいのですが。大丈夫ですか?」

 

「何なりと・・・、榊支部長」

微笑むラケルは、後ろに控える、ジュリウスへと目を向ける。

 

 

作戦指令室の周辺地図で、目的のオラクル反応を目で追いながら、レンカは無線で指示を出していく。

「ハルさん!標的が南に反れそうです!牽制を!」

『了解!カノン!』

『逃がすか!犬っころ!はっはー!!』

「タツミさん!1部群れと分断しました!囲んで逃がさないで下さい!」

『おうよ!シュン!突っ込みすぎんなよ!?お前は、ブラッドアーツ持ってねぇんだからな!』

『うっせぇな!どうせ出張明けだよ!』

『ブラッドバレッド・・・・いいな、それ』

『ふふっ。カレルもヒロ君と、仲良くならなきゃね』

『お前達!遊びじゃないんだぞ!』

「コウタ!第1部隊で側面から、集中砲火!ガルムの群れを引き離してくれ!」

『了解!エリナ!エミール!弾数気にせず、ぶっ放せ!!』

『はい!!』

『元より、承知!!』

マルドゥークからガルムを引き離したのを確認し、レンカはその先で待つ部隊へと、連絡する。

 

『ヒロ!そっちに誘導した!周辺の荒神を呼ばれる前に、ケリをつけろ!頼むぞ、ブラッド!!』

「・・・了解」

落ち着いた声で返事をしてから、ヒロはブラッドの1歩前へと出る。

そこへ、レンカの予告通りに、マルドゥークが単身で飛び込んでくる。その片目は、ヒロのブラッドアーツで付けられた傷跡がある。

グルルルルルルッ!

傷が疼くのか、マルドゥークはヒロを睨みつけ低く吠える。

「マルドゥーク・・・・・、会いたかったよ」

そう言って神機を構えるヒロに倣って、後ろに控える三人も神機を構える。

「僕等の大切な人を奪った代償、受けてもらうよ・・」

「先輩の・・・仇!」

「全員、生きて帰りましょう・・」

「・・・当たり前だ。こいつを倒して、ロミオに報告するまでは、死ねるか」

大きく息を吸ってから少し止め、それから吐き出す。

そして、ヒロはブラッド隊、隊長として、皆へと叫ぶ。

「ブラッド隊!荒神を喰い荒らせーーー!!!」

《了解!!》

グゥオォォォーーーン!!!

マルドゥーク対ブラッド・・。戦いの火蓋が切って落とされる。

 

 

神機保管庫に神機を取りに来たソーマが、悠々歩いているのを見て、リッカは怒りを露わに近付いてくる。

「ちょっと!!ユウ君に『任せろ』みたいな事、言っといて!余裕で遅れてくるって、どういうつもりなの!?ソーマ君!!」

「・・うるせぇ。俺はハナッから手を出す気はねぇんだよ」

「はぁ!!?」

更に憤慨するリッカに溜息を吐いてから、ソーマはブラッドが戦闘をしているであろう方向に目を向けて、喋りだす。

「マルドゥークは、あいつ等のもんだ。手出しするのは、無粋ってもんだろう」

「だからってねー!」

「現場には行く。ヤバそうなら、手は貸す」

「・・・そうなの?」

やっと落ち着きを取り戻してきたリッカに、「ふん」と鼻を鳴らしてから、ソーマは車に神機を積み込む。

そして、リッカへと頼みごとを口にする。

「リッカ。現場に着いたら、映像データをお前のPCに送る。それをそのまま、お前の旦那に転送してくれ」

「え?ま、まぁ・・良いけど。何かあるの?」

『旦那』と呼ばれると機嫌が良くなることを熟知してか、ソーマはわざとそう口にしてから、車のバックドアを閉める。

「俺の目的は、別にある。気になることは、全部調べるたちでな。あいつとツバキの意見も欲しい。頼んだぞ」

「ふ~ん。まぁ、わかったよ。・・・ねぇ。もしかして、例の事?」

リッカが真剣な表情で聞いてくると、ソーマは苦笑しながら首を横に振る。

「この程度で尻尾は出さねぇだろ。だが今回は、後に苦労しない為の保険みたいなものだ」

そう言ってからソーマは、車の運転席へと乗り込んだ。

 

 

 





さぁ、対決の時間です!!

レディー・・・ゴー!!!



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39話 一握りの希望

 

 

先頭に突っ込んだヒロが斬り付けてくるのを躱して、マルドゥークは反撃にと腕を振り上げる。

ドゥオンッ!!

ギャウッ!!

シエルの撃ち込んだブラッドバレッドに、顔をしかめて飛び退く。

それを待っていたと言わんばかりに、ギルが横っ腹に神機を突き刺す。

ドシュッ!

「動くな。・・・すぐ終わるからよ」

マルドゥークを逃がさぬよう、足に踏ん張りを利かせるギル。それを面白くなさ気に、マルドゥークが睨みつけていると・・。

「ブラッドアーツ、『ガイアプレッシャー』!」

ガコォンッ!!

ギャンッ!

ナナが空中から強力な1撃をお見舞いし、そのまま地面へとめり込ませる。

「全員!距離をとれ!ブラッドバレッド、一斉発射!!」

《了解!!》

ドドドドドドドゥォンッ!!!

弾幕で煙が上がる中、ブラッドはバレッドを撃ちこみ続ける。

そして折を見て、ヒロが撃つ手を止めたところで、全員引き金から手を離す。

煙の中に飛び込むか・・・否かを、ヒロが迷っていると・・。

ゴォォォンッ!!

オオォォォォォーーーーーーン!!!

赤いオーラを天へ柱にし、マルドゥークはゆっくりとブラッドを睨みつけてくる。

「こいつ・・・!」

「全然、元気みたい・・」

「偏食場パルス、発生。おそらく、仲間を呼んだのかと・・」

三人が背中に寒気を感じている中、ただ一人ヒロは、そんなヤツへと歩き始める。

「・・・・なら、合流される前に、決着を付ければいい・・」

そう言って飛び込んだヒロは、マルドゥークの右前足を斬り払う。が、その刃は固い皮に阻まれて、食いこんだまま抜けなくなる。

「なっ!?くっ、そ!!」

それを見越していたように、マルドゥークは前足を地面へと沈めだす。そこから溶岩を発生させながら・・。

「熱っ!・・くそ!しまっ・・!?」

グァーンッ!!ゴォォオォッ!!

火山が弾けたように、球状の溶岩を弾けさせ、マルドゥークは自分の周囲を火の海へと変えた。

それに巻き込まれたであろう、ヒロの姿を隠すように・・。

「うそ・・・」

「くそっ!ヒロ!?」

「・・・・ヒローーーッ!!」

彼の名を叫ぶブラッドを嘲笑うかのように、マルドゥークの周りに、近隣に潜んでいたヴァジュラが集まりだした。

 

 

火柱のようなものが上がったのを目にし、コウタは舌打ちをしてからレンカへと無線を繋ぐ。

「レンカ!ブラッドの応援に向かっちゃ、駄目なのかよ!?後1体でこっちは・・」

「っ!!?隊長!ヴァジュラが!!」

「なっ!?くそっ!」

エリナの叫びに顔を向けると、2体のヴァジュラが姿を現していた。

『・・今は、目の前の事に集中しろ!コウタ!今加勢に行っても、余計な敵与えるだけだ!』

「・・・く・・、わかった。とにかく、片付ける!」

『・・死ぬなよ、コウタ』

「わかってるよ、親友・・」

そう言ってから無線を切り、コウタは部隊へと指示を出す。

「俺とエリナで回り込む!エミール!外すなよ!?」

「「了解!!」」

苛立ちを押さえながら、コウタはガルムへとバレッドを連射する。

 

 

何か指示でも出したのか、ヴァジュラは一斉にブラッドへと飛び掛かって来る。

「くっ!・・・・ギル!左、1体!任せます!ナナ!私のバレッドに合わせて!」

「「了解!!」」

咄嗟に指示を出してから、シエルはバレッドをヴァジュラへと的確に貫通させる。それをタイミングとし、ナナが顔面へとハンマーを叩き込む。

「こっ、のぉー!!」

ゴシャッ!!

1体を沈めてから、ナナが顔を上げた時・・。

「え・・・」

ドゴッ!

「あぐっ・・・・」

突っ込んできたマルドゥークによって、彼女の小さな体は吹っ飛ばされる。

「かはっ・・あ・・・・うぅあ・・」

意識は失ってないにしても、すぐには立ち上がれないナナ。

「ナナ!・・はっ!?」

ガキィッ!!

「あぁっ!!・・・・く・・・」

今度はナナに気を取られていたシエルを、ヴァジュラがその爪の餌食にと攻撃してきたのだ。

咄嗟に銃身で受けてしまったせいか、衝撃に耐えられずシエルは大きく後ろへと投げ出される。

「くっそ!・・・シエル!ナナ!」

叫ぶギルに返事をしようとする二人だが、回復しきらないのか、口を動かせずにいる。

「ちぃっ!!」

二人に追撃させまいと、ギルがもう1体ヴァジュラを斬り払う。しかし、それを盾に飛び込んできていたマルドゥークに、爪で引き裂かれる。

ザシュッ!

「ぐあぁっ!!」

ギリギリで体を捻ったおかげで、致命傷にはならなかったが、左肩に傷を負って、血が滴り落ちる。

「く・・・そが・・!」

憎らし気に目を向けた時に、ギルは初めて気付く。マルドゥークの足に刺さったヒロの神機と、それを手放さずに気絶して引きずられる、ヒロの姿に。

「こ・・・の野郎がぁー!!」

右手1本で神機を振りかざすギルを笑う様に、マルドゥークは口を大きく開いて見せる。

 

 

『・・・ヒロ』

「・・・・う・・」

『ヒロ・・・』

「う・・あっ・・、ユウ・・さん」

『君は、その手で何を望む?』

「・・僕、は・・」

『ゴッドイーターになったからといって、全てが思い通りに何て、いかない。でも、望むことはできる』

「僕は・・望む・・」

『望みは、力となる。後1歩を踏み出す、勇気となる。君が何かを成しえる為に望むなら・・・』

「僕は・・・」

 

『君のその手は・・・希望を掴む為の、力を得る!』

 

ドクンッ!

「え?・・」

「な、なに?これ・・」

「血が止まりやがった・・。まさか!?」

 

ザンッ!!!

ギャオンッ!

急に転がって暴れまわるマルドゥークの足元で、ヒロが神機を振り抜いた姿勢のまま、声を上げる。

「僕は・・・望みます。この手に、みんなを守れるだけの力を!!!」

キイィィィィンッ!!

彼が『喚起』の力を発生させたのか、ブラッドの三人は、自分の内側から力が溢れるのを感じる。

「これは・・・ヒロの『喚起』の・・力・・」

「じゃあ・・、力の底上げってこと?・・」

「はっ!・・・・最高のタイミングで、やってくれるな。ヒロ!」

三人が驚いているのも束の間、ヒロは神機を斬り上げ、その勢いでマルドゥークを吹き飛ばす。

それに驚いたのか、残り2体となったヴァジュラはじりじりと後退りだす。そこへ、

ドドンッドドンッドドンッ!

突然撃ち込まれたバレッドに、ヴァジュラは頭や腹を吹き飛ばされて、沈黙する。

「・・・・神機兵・・、ジュリウス!?」

数体の神機兵は、標的をマルドゥークへと切り替え、再びバレッドを連射し始める。そして、ブラッドへと声を掛ける。

『今だ!止めをさせ!ブラッド!!』

《っ!!?》

ジュリウスの声に目が覚めたように顔を上げて、全員、マルドゥークへと走り出す。

《ああぁぁぁぁぁーーーーっ!!!!》

タイミングを見計らったように弾幕は止み、マルドゥークが顔を上げたところで、四人の神機が目に入る。

《はあぁぁーーっ!!!!》

ザシュッザシュッグシャッドスッ!!!

同時に放たれた内の1本が、コアに到達し・・・破壊する。

パリィィッ!!

勢い任せで飛び込んだ為、着地できずに、四人は地面に転がり落ちる。そして、ゆっくりと倒れるマルドゥークを目にしてから、ヒロが口の端を浮かせて、拳を上げる。

「・・・勝った・・・・」

そして仰向けになったまま、四人は声を上げて笑い出した。

 

戦いの最期を見届けてから、ソーマはフッと笑みを浮かべる。

しかし、彼等から神機兵へと目を向けると、途端に真面目な表情となる。

カメラを回し続けながら、去って行く神機兵を見つめ続けるソーマ。その顔は、この勝利を素直に喜べないといった感じであった。

 

 

医務室のベッドの上で、ギルが治療に顔を歪ませる中、ヒロはぽつりと呟く。

「榊博士の言ってた『応援』って、ジュリウスだったんだね・・」

「・・・そうですね。神機兵ではありましたが、アレは間違いなく、ジュリウスでした」

シエルが優しく笑みを浮かべると、ナナは疲れた体を彼女に預けながら、頬を膨らませる。

「ぶーっ!でもぉ、すぐ帰っちゃうしさ?もうー・・・。今度、チキンをたっぷり買ってもらう!」

「ははっ。良いと、思うよ」

ヒロが笑いながら答えると、肩の傷を縫い終わったギルが、包帯を巻いてベッドから起きてくる。

「挨拶無しに帰ったんだ。もう少し、良いモノ食わせてもらおうぜ?」

それを聞いて、ヒロが少し考えてから、思いついたように人差し指を立てる。

「前に・・・ラケル博士に御馳走になった、子羊?・・の肉とか、高そうだった!」

「ほう?何で高そうなんだ?」

ギルが聞き返してくると、ヒロは真面目な顔をして答えた。

「だって・・・、味がわからなかった!」

その言葉に、一瞬呆けてから、シエルとギルは笑い出し、ナナはまたも膨れっ面になる。

「ふふっ。ヒロの口には、合わなかったようですね」

「まぁ、俺も合わねぇだろうさ。貧乏舌なんでな。ははっ」

「味がわかんないなら、いらないよー!やっぱり、チキンがいい!」

「・・・・・はははっ」

和やかな雰囲気のブラッドに、治療にあたっていた医者や看護師等は、クスクスとばれないように笑った。

 

 

「お前か?神威ヒロってのは?俺様は小川シュン先輩だ!さぁ、ブラッド何とかを教えろよ!?」

「ブラッドアーツだろ、馬鹿。カレル・シュナイダーだ。金は出せないが、ブラッドバレッドを寄越せ」

「・・・あ、あのー・・・」

極東の団欒室で、簡単ながらも祝勝会を開いてもらっているブラッド。

そんな最中に、ヒロはカツアゲをされているかのように、出張から戻ったシュンとカレルに絡まれていた。

止めに入ってやりたいと思ってはいるが、古参の二人に、周りは物申せないでいるのだ。

それを呆れた顔で間に入ってから、ジーナが二人へとデコピンを食らわす。

「あたっ!何すんだよ!?」

「・・いてぇよ」

文句を言ってくる二人に、ジーナは溜息を吐いてから口を開く。

「わかってないのね。言ったでしょ?ブラッドアーツも、ブラッドバレッドも、ヒロ君と”仲良く”ならなきゃ、使えないのよ?」

「はぁ!?んなの、知らねぇし!てか、いてぇし!」

「・・冗談かと、思った」

そんな二人にわからせようとしてか、ジーナはその細い体を艶めかしくよじってから、ヒロへと抱き着いて見せる。

「こんな風に・・・ね?ヒロ君」

「は・・・はの・・・あわわ・・」

「そんな事、できっかよ!」

「・・困ってないか?」

急に絡みつかれて、ヒロが緊張してると、烈火の如く怒りに身を震わせながら、シエルとエリナが、ジーナからヒロを奪い取る。

「ジーナさん!ヒロが困ってます!」

「先輩を誘惑するの、やめて下さい!」

「あら・・・、残念。ふふっ」

絶対に面白がってるとヒロがジト目で見ていると、ジーナは苦笑しながらも、投げキッスを飛ばしてくる。

その瞬間、

「いっ!いたたたっ!なに!二人!?痛いよ!痛い!」

「ヒロが悪いんです!」

「先輩が悪い!!」

二人に抓られ、尚且つ怒られる始末。ヒロは理不尽だと、溜息を吐いた。

 

そろそろお開きと言うところで、タツミが巨大スクリーンの前に椅子を置いて、その上に立つ。

その下で、コウタがグラスを箸で鳴らすと、全員の注目がタツミに集まる。

「ブラッド。今日は、お疲れさんだったな。みんなもな・・・。明日もあることだし、最後に乾杯して終わろうと思う」

そう言ってからグラスを上げると、全員グラスを持ち上げる。

それを確認してから、タツミは目を閉じて少し口の端を歪ませてから、声を張る。

「・・今日の勝利を、ロミオに・・・」

《・・・・》

皆黙って掲げたグラスの中身を飲み干す。

短期間で色々なことが、一気に駆け巡ったが、この言葉を最後に、一応の決着はついたのだった。

 

 

ごほっ ごほっごほっ

静かな部屋の中で、ジュリウスの咳込む音が響く。

黒蛛病の痣もどんどんと広がり、今では上半身を覆う程になっていた。

苦しみを紛らわすように、窓の外の月を見る。

青い月は、優しく彼を照らして、痛みを労わるように撫でてくれているようだ。

 

『貴方達が大好きな、英雄の話ですよ』

 

ユノがしてくれた、人類を救った白い少女の話を思い浮かべながら、ジュリウスは頬を伝う涙をそのままに、小さく呟く。

「俺は・・・・・英雄には、なれないよ。・・・ユノ・・」

黒蛛病は、彼を刻一刻と蝕んでいく・・。

 

 

 

 

 

 





決着です!!

これを書いたら、少しだけホッとしました・・。




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40話 極東支部の日常2

 

 

戦いに疲れた戦士達に、一時の休息を・・。

 

 

 

その1

 

「じゃーん!」

「・・・・・また、俺なんだ。ナナ・・」

突き出した手の上に、水色のカプセルをのせて、ナナが満面の笑みを浮かべる。引きつった顔を見せるコウタに・・・。

 

『回復錠やデトックス錠も、味がした方が絶対良い!』

 

そう言いだしたナナが、榊博士やムツミを巻き込んで、『味がする回復錠』を開発して、皆に振舞ったのが始まり。

その時に1番いい反応を見せたコウタが、面白い・・・もとい・・、面白いという理由で、ナナにタゲられてしまったのだ。

「コウタさん!今度はね~・・・」

「待った!頼むから、誰かも巻き込ませてくれ!」

その言葉に、ナナは困った表情を浮かべてから、首を横に傾ける。

「でもー・・・、1つしかないよ?」

「それで、俺1択かよ!?他にも色々、いんだろう!?」

「・・・えへへ」

「褒めてないんだよ!?」

何故か照れるナナに、コウタはツッコミをいれる。しかし、ナナの差し出された手は、引っ込まない。

しばらく黙って見ていたが、コウタは諦めたように大きな溜息を吐いてから、水色の回復錠(?)を手に取る。

「・・・・今度は、まともな味か?」

「はい!食べられるものです!」

「・・・何味かは、教えてくれないのな」

そう言って頬に汗を流してから、コウタはそれを口の中に入れ、目を閉じて嚙み砕く。

「・・ん・・ん・・。・・・・・・・・・・・・・・・・・」

「・・どうですか?」

期待の眼差しを向けるナナ。どこか悪戯が成功した、子供のようだ。

そして、極東のツッコミ名人は、期待通りの反応を見せる。

「・・・・何だろう、・・これ。えっと・・・、何ていうか・・・・何だ?」

「あははー。実はー・・・・、ここで売ってた『初恋ジュース』ってやつで・・」

「げぇーーーっ!!!!」

奇声を上げたコウタは、その場でごろごろ転がりだす。

「やっぱりーーーー!!不味い不味い不味い不味い不味いーー!!!」

極東支部で有名な、初恋の味を表現したという、謎の飲料。

あのソーマの顔をありえない程歪ませた、ある意味伝説の飲み物である。・・・不味くて・・。

「えー?おっかしいな?ちゃんとミントの味も足して、すっきりな後味に仕上げたのに・・」

「はっ!?だからこんなに喉が・・・痛い!鼻も無駄にスースーする!余計に、あの忌まわしい味が鼻を通る!とにかく・・・・、不味いよ!?これ・・、不味いよ!!?」

首を傾げるナナに叫びながら、1日中初恋ジュースに取りつかれた、コウタだった。

 

 

その2

 

ブンッ ブンッ

「ふぅ・・」

訓練所で素振りをしていたギルは一息ついて、額から流れる汗を袖で拭う。すると、

「どうぞ!」

カノンがタオルを差し出して、ニコニコ笑って立っていた。

「・・・はぁ・・。悪いな」

「いえ!」

そっけない態度をとるギルであったが、カノンは特に気にすることなく、笑顔のまま彼を見つめ続ける。

「・・・カノン。何がそんなに楽しいんだ?」

「え?・・・それは~・・」

ギルに聞かれてカノンは、指を顎に当てて考える素振りを見せてから、再び笑顔になって答える。

「よくわかりませんけど、ギルさんを見てるの・・好きですよ!」

「なっ!?・・ば、馬鹿!お前・・」

わかりやすく狼狽えてしまったギルを見て、カノンは自分が言った言葉を思い返し、顔を赤くしていく。

「あ、あの!ち・・違う、ですよ!?違わないですけど!・・その、違うんですー!!」

顔を真っ赤に、目の前で両手を振りながら慌てるカノン。帽子を深くかぶって誤魔化すギル。そんな二人の周りで、訓練をしていた者達は、ほんの少しほっこりした気分になったのだった。

《(あ~・・・・、平和や~・・・)》

 

「・・俺の出番は、なかったか・・ふっ」

「何ジュークBOXの前でぶつぶつ言ってんだ?ハル」

 

 

その3

 

アリサの部屋に来ていたシエルは、シャワー室から顔を出してから、姿を見せる。

「あの・・・・、どうでしょうか?」

普段の服装から着替えて、アリサの持ち合わせの服を着た姿を、アリサとリッカに披露する。

「う~ん・・・・。どう思います?リッカさん」

「・・・・そう、だね~・・。可愛いと、思うよ?ただ・・・」

「ただ!?何ですか!?」

言葉を濁したリッカに、シエルは詰め寄って質問する。その勢いに目を大きくしてから、息を吐いて苦笑する。

「・・・ちょっと、エロい。シエルちゃんのイメージじゃ、ない気がする」

「そうですか?私はそうは思いませんけど・・」

「・・・みんながみんな、アリサちゃんやサクヤさんみたいに、露出の多い服を着る訳じゃ、ないんだよ?」

「リッカさんだって、結構な露出してるじゃないですか」

「私のタンクトップを、一緒にしないでよ!作業着だよ!?」

二人が言い合いになっているのを見かねて、シエルはミニスカートの裾を揺らしながら声を掛ける。

「あの!結局、どうなんですか!?」

少し零れそうな胸を隠しつつ、シエルが顔を赤くしていると、アリサとリッカは交互に答える。

「これならヒロさんを、ドキドキさせれます!急な服装の変化は、男心をくすぐりますから!」

「でもイメージと違う!シエルちゃんは、もっとおとなしめな雰囲気で、優しく包む方が、ヒロ君をドキドキさせれる!」

「・・・・どっちなんですか?」

聞き返しながらも、どこか諦めたように、シエルは肩を落としながら溜息を吐いた。

 

「わかりました!じゃあ、サクヤさんも交えて、決着をつけましょう!」

「望むところだよ!きっとサクヤさんなら、イメージの方が大事ってわかってくれるから!」

「・・・あの・・、私の為ですよね?」

 

 

その4

 

手の中のグラスを傾けながら、ハルはぼそりと呟く。

「なぁ・・・。本当の魅力ってのは・・・、『胸』で解決しても良いんだろうか?」

「・・・・はぁ?・・」

ヒロは、『また始まった』と思いながら、掴まってしまった自分の運命を呪った。

 

ある時から、急にハルに個人的に呼び出されるようになったヒロ。深刻な表情に、心配して聞いてみれば、『女性の魅力とは何ぞや?』という、下らない・・こともないが、そんな話であった。

それを探求すると言われ、彼に付き合わされてから・・数回。ようやく『胸だよ!』というのに落ち着いたと思ったら、今回のこれである。

 

「ヒロは・・・もしかしたら、女性の胸で満足かもしれない。だが俺は、まだ迷っているんだ。それで、良いのか?・・と」

「あの、周りに誤解を招く言い方、やめてもらって良いですか?」

そうヒロが手を前に出したところで、ハルは気持ちを込めた眼を向けて静かに叫ぶ。

「俺はな、今『うなじ』に、惑わされている!」

チャーチャララチャ~♪ジャッジャンッ♪

「・・・・うなじ、ですか」

大きく頷き返してくるハルを見ながら、『何故いつもタイミングよく、音楽が流れ出すんだろう?』ということを、ヒロは気にしていた。

「今まで、女性の下半身に逃げがちだった俺は、お前のお陰で、男の原点たる『胸』に還ってくることが出来た。だが、その時気付いてしまったのさ。女性の美しさを象るしなやかなラインの、存在にな」

「・・・それで?・・・今度は、誰なんですか?」

いつものパターンに、ヒロが呆れ顔で返してくると、ハルは悟ったような表情で、笑顔を見せる。

「ふっ・・・。お前も気になるか?次なる、神秘が・・」

「そういうことに、しときます」

「まぁ、そう焦るなよ。これから・・・、じっくり二人で決めようじゃないか」

ついにはナンパにまで付き合わされるのかと、ヒロは疲れた表情を見せ、息を洩らす。

一人生き生きと立ち上がるハルに引っ張られ、ヒロが立ち上がったところで、レンカがやって来る。

「あぁ・・ここにいたか、ヒロ。探したぞ」

「あ、レンカさん・・」

フッと笑みを浮かべながら、レンカは、ヒロが待ちわびていた要件を口にする。

「例のフライアへの訪問許可、下りたぞ。早急だが、1時間後になる。ブラッドは全員非番だろ?すぐに集めて、行ってくると良い」

「本当ですか!?ありがとうございます!早速、みんなに知らせてきます!」

喜びを顔いっぱいに表してから、ヒロは1礼してから駆け出す。

そんな彼に、ハルは手を上げて見送りながら、声を掛ける。

「俺からも、よろしく言っておいてくれ。・・後は、任せとけ」

とっても良い顔でウィンクするハルを、ヒロは見ないようにしながら去って行った。

 

「ふっ・・・。確かにお前の気持ち、その背中から受け取った」

「ハルさん・・。程々にしてやってくださいよ?」

 

 

フライアへとやってきたブラッドは、目的の場所へと真っ直ぐ向かう。

彼が教えてくれた場所に、ひっそりと咲いていた小さな花を持って・・。

「来たよ。ロミオ先輩・・・」

2階の庭園の真ん中に位置するその場所で、皆は優しく微笑む。

ロミオの、墓前の前で・・・。

ナナが代表して、花を添えると、物言わぬ彼に話し掛ける。

「先輩・・。仇、取ってきたよ・・。みんなで・・、ジュリウスも一緒に。話したいことが、いっぱいある気がするんだけど・・、あははっ。何か、言葉が出ないよ」

そんなナナの肩に、シエルが優しく手を置く。

ギルも、帽子を深くかぶり直してから、表情を悟られぬようにする。

ヒロも、何か言おうと前に進み出たその時、彼は自分達が持ってきたものと、別の花が添えられているのに気付く。

「これって・・・」

ヒロの声に合わせて、皆その花へと注目する。

それにハッとしたように、ナナが声を洩らす。

「これ・・・・、ジュリウス?」

おそらくはそうであろうと思ったのか、皆それを見つめて小さく息を洩らす。

「来てたんだね。ジュリウス・・・」

「えぇ。一人でなんて・・彼らしい、ですね・・」

「まったくだな・・」

「ねぇ!?・・・うふふっ」

ナナがこぼした笑い声に同調して、皆笑顔を作る。それから静かに手を合わせて、彼の眠りが安らかにあるよう、祈るのであった。

 

 

その5

 

極東に戻った四人は、しばし黙って歩いていた。

だが、急に思い出したかのように、ナナが皆に向かって話し掛ける。

「ねぇねぇ?今日はみんな、何してたの?」

そう聞かれてから、三人は少し考えた後、顔を赤くして慌てだす。

「お、俺は!別に・・・・、訓練・・してただけだ」

「私も!その、あの・・。ちょっと、アリサさんとリッカさんに・・・いえ」

「僕も・・・・・・ハルさんと・・、何も!何もしてないよ!まだ!」

「ん~?・・・」

皆の反応に首を傾げるナナ。そんな彼女に、ヒロも同じ質問を返す。

「な、ナナこそ!今日は、何してたの?」

「あたし?」

聞かれることを待っていたかのように、ナナは胸を張って喋りだす。

「あたしはね!コウタさんを実験に使って、初恋の味を確かめてた!」

「「「・・・・えぇ!?」」」

どこか誤解を生みそうな言い回しを、聞いていたのはブラッドだけではなかったのが問題だ。

その後、コウタは有らぬ事実が噂となり、周りから質問攻めにあうのだった。

 

「それで?ナナさんに、何をしたんですか?『初恋の味』だなんて・・・ドン引きです!!」

「だからー!違うって言ってんだろ!?」

「き、キスとか・・まで、いったのかよ?」

「タツミさん!?目がマジで、怖えぇんっすけど!?」

「面白いから、旦那様に報告しようっと」

「ユウさんに変なこと報告するのだけは、勘弁して下さい!!あの人、絶対信じますし!」

「まぁ・・・・、好きなら・・。良いんじゃないか?」

「そうね~・・ふふっ」

「違うって言ってんだろ!?親友だろ!?信じろよ!!」

「付き合いは、真面目にな・・」

「どーでも、いいぜ!」

「・・・同じく・・」

「じゃあ、口挟まないでもらえます!?」

「隊長!ちゃんと責任とって下さいよ!?」

「貴方なら、出来る!僕は!隊長の清廉な心を、信じている!!」

「あぁぁーーー!!もうーー!!!誰か収集つけてくれよぉーーーー!!!!」

 

 

極東支部は、今日も平常運転・・・。

 

 

 

 





まったりな感じで、早くも40話です!

先は長いな・・・。

まだまだ続く物語に、お付き合いください!w



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41話 すぐそこにある陰謀

 

 

極東支部の装甲壁を挟んで、隣に停泊しているフライア。

そのヘリポートで、グレムは見送りに来たラケルとレアに、留守を頼んでいた。

「くれぐれも、よろしく頼むよ?それと・・・、わしの留守中は、わしの部屋には誰も通さないようにしてくれ」

「わかりました。その様に・・」

レアが深々と頭を下げたのに対し、グレムは深く頷いてから、ラケルへと視線を移動させる。

「ラケル博士。ジュリウス君は、どうしてる?」

「彼は、徹夜での作業が続いてましたので、今は休んでおります」

変わらぬ笑顔で答えるラケルに、今回は見てわかるように、グレムはしかめっ面で鼻を鳴らす。

「ふんっ!・・局長が出かけるんだ。礼儀ぐらい、教えてもらわないと困るな」

「彼も、重々承知しております。ですが、今が1番大事な時・・。彼に倒れられたら、局長もお困りでは?」

「わかっている・・・」

簡単にラケルに返されたのも腹が立ったのだろう。グレムは面白くなさげに、ヘリの奥へと入っていく。

ヘリが飛び立つのに合わせて、姉妹は頭を下げて見送り、それから、出入り口へと戻りだす。

「ラケル・・・。ジュリウスは本当に、大丈夫?私も暫く会ってないのだけど・・」

少し眉をひそめて、レアが心配を口にすると、ラケルはいつも通りの笑顔で、彼女の疑問に答える。

「大丈夫ですわ・・、お姉さま。彼は、元気に働いてくれてます」

「・・・・そう」

何故かそれ以上聞いてはならない気がして、レアは口を固く閉ざした。

 

 

自分の研究室で、報告書を作成していたレアは、ふと手を止めてから、大きく溜息を洩らす。

最近、ラケルとの接触が減ってきていることにだ・・。

姉妹であろうと、お互い研究者。自分の研究に没頭すれば、会わないことなどざらにあったはずだが、ここ数週間は、食事すら一緒に取っていない。

(ジュリウスとは、一緒にいるみたいだけど・・・)

彼に嫉妬しているわけでは無い。むしろ、彼も会っていないので心配している。

ロミオが亡くなる少し前から、何かが変わった様な・・・。レアは言いようのない不安に、静かに震える肩を抱いた。

コンコンッ

そこに、ノックの音を聴いて、レアはスッと立ち上がって、ドアまで足を運ぶ。

「はい」

「レア博士、私です。フランです・・」

「あぁ、フラン?入って」

ラケルでなくてホッとした部分を隠しながら、レアはドアを開けて、フランを迎え入れる。

「どうしたの?貴女がこんなところに来るなんて、珍しいわね?」

「いえ・・・。あの・・実は、少しご相談したいことが・・」

訊ねてこられるのも珍しかったが、相談されるのはもっと珍しいと、レアは驚きながらも、笑顔で応える。

「何かしら?私で役に立てるなら・・」

「はい。レア博士にしか、正直聞けない事です」

神妙な表情を見せるフランから、相談の内容を聞いていくうちに、レアの笑顔は、驚愕な表情へと変わって行った。

 

 

「黒蛛病患者の、受け入れ?」

ヒロが聞き返すと、ユノは笑顔で頷く。

支部長室に呼ばれたブラッドは、ユノがいるのにも驚いたが、その口から出た言葉にも驚いていた。

「治療の目処が、立ったということですか?」

「いえ。そう言う訳では、ないんですけど・・」

シエルに聞かれて、困った顔をするユノは、榊博士へと助け船を求める。それを笑顔で頷いて見せてから、榊博士が代わりに説明を始める。

「サテライト拠点や、ここ極東支部も、手狭でね。患者を受け入れる場所に、困っていたんだよ。そうしたら、ラケル博士が『フライアに受け入れましょう』という、話になってね。私からもお願いしたんだよ」

「そういうことっすか。・・・まぁ、元々部屋は有り余ってたんだ。役に立つなら、使うに越したことはないだろう」

ギルの返事にフッと笑んでから、ヒロも頷く。

「じゃあ、これでユノさんも、堂々とフライアを訪問できるね」

「え?・・・あっ!?・・その・・・、うん」

ヒロの言っている意味を理解したのか、ユノは少し顔を赤くしながら、小さく頷く。

フライアに入れれば、ジュリウスにも会える。・・・そう言うことだ。

皆が笑って和やかに過ごしていると、軽くノックの音で合図してから、レンカがブラッドへと声を掛ける。

「話し中、悪いな。ブラッド隊、そろそろ任務の時間だ」

その言葉に時計を見てから、皆少し慌てた様子を見せる。

「す、すいません!すぐに!」

「慌てなくていい。本日はギルとナナは、第4部隊と。ヒロとシエルは、タツミさんとジーナさんに合流してくれ」

《了解!》

軽く敬礼をして見せてから、ブラッドは支部長室を飛び出していく。

レンカも、残った二人に一礼してから、その場を後にした。

榊博士と二人になったところで、ユノは間が持たないと思ったのか、ポケットからトランプを出して見せる。

「あの・・ババ抜きでも、します?」

「私も、仕事だよ。ユノ君」

「ですよね~・・・」

恥ずかしそうに俯いてから、ユノもゆっくりとした動作で、部屋を後にした。

 

 

フランの相談を聞いてから、レアはフライアの集積場へと足を運んでいた。

(そんな・・・・、まさか・・!?)

自分の目で確かめなければ、納得が出来ないのが研究者。とはいえ、今回の件に関しては、誰もが同じ行動に出るであろう。

 

『今日フライアに運ばれた・・・いえ、以前から受け入れていた黒蛛病患者が、集積場に安置されてるカプセルに入ってるって噂・・・、ご存知でしょうか?』

 

黒蛛病患者を受け入れていることは、レアも知っていた。だが、フランに言われるまで、考えもしなかった。

患者が、何処に収容されているかなんてことを。

当たり前のように、療養施設を使っているものとばかり思っていた。しかし、フランの言うことが本当なら・・・。

集積場の扉の前まで来て、レアは自分のIDカードを、リーダーへと通す。しかし、

『Error』

「・・噓でしょ」

研究開発の最高責任者であるレアのIDを、管理システムは『Error』を吐き出したのだ。

「くっ!・・・・舐めるんじゃないわよ・・」

そう言ってから、近くの操作盤へと走り寄り、管理システムに干渉する。しばらく操作を続けていると、扉のロックを表す照明が、赤から青へと代わり、扉が開く。

それを目にしたレアは、そこへ飛び込むように入り込み、目の前に広がる光景に唖然とする。

・・・・フランの言ったことが、真実であった事に。

 

逃げるように部屋に戻ってきたレアは、扉を閉めて鍵をかける。

それから、腰が抜けたように、その場に座り込んでしまう。

(どうしよう・・・・。こんな事って・・・、いったい誰が?・・・ううん。本当は、私は気付いてる・・)

色んなことが一気に頭を駆け巡り、レアは年甲斐もなくカタカタと歯を鳴らしながら震えてしまう。

(どうしたら・・・。いったい・・・)

音をさせぬ様に指を咥えて、レアは必死に考える。そこへ・・。

ピピッ

「っ!!?」

自分のPCが、メールを受信したことを訴えてくる。

震える膝をゆっくりと持ち上げてから、レアはPCまでゆっくりと足を運ぶ。画面に映し出される、『unknown』の文字を目にして、おそるおそる開示ボタンを押す。

すると。

「・・・・なに、これ・・・」

打ち間違いか、文字化けか・・。メールは、内容を確認できなくなっている。

だが、レアは少し考えた後、そのメールの全文をコピーして、メモに映し出し、PCに繋がれた回線を引き抜いてから、そのメモの文字として成り立っているところを、抜き出していく。

それから、共通の文章などを重ねていき、ようやく1つの文章へと導く。

 

『お前は、極東の敵か?それとも、味方か?その答えを以って、エイジス近郊の港に来い』

 

誰が送ってきたのかわからない、メールの内容・・。

だが、レアは『極東』というワードに希望を見出し、自分の簡単な手荷物をまとめ、PCのメールとメモを削除し、電源がついたままの状態で、電源プラグを引き抜く。

PCが落ちたのを確認してから、レアは資材倉庫へと向かって走り出す。その途中の受付で、作業しているフランを見つけた彼女は、その場へ駈け寄り、彼女の手を引いて更に足を速める。

「え!?あ、あの・・、レア博士!?」

「黙ってついてきなさい!貴女も知ってしまっている以上、ただじゃ済まないわ!」

その言葉に青ざめてから、フランは必死に頷いてから、レアに送れぬよう走り出す。

資材倉庫で、適当な車に乗り込んでから、レアは扉の管理をしている人間にIDを見せて叫ぶ。

「早く開けて頂戴!急いで!!」

「は、はぁ。・・あの、どちらに?」

「何処だっていいでしょ!?早く!!」

「は、はいー!!」

扉が開くと同時に、レアはアクセルをふかせて、外へと飛び出していった。

車の助手席でシートベルトを閉めながら、フランはレアへと声を掛ける。

「博士?私が相談した・・・噂・・」

「噂じゃないわ。事実よ・・」

それを聞いて、フランは驚きに口を手で塞いで、もよおした吐き気を必死に抑える。

「・・・誰が・・・、そんな事を・・」

苦し気に洩らした彼女の言葉に、レアは厳しい表情で答える。

「・・・ラケルよ」

車はスピードを落とさず、エイジス近郊へと向かって走り続けた。

 

 

回収し終えたコアを確認して、タツミは無線を極東に繋ぐ。

「こちらタツミ。ヒバリちゃん、予定のコアの回収終わったよ」

『ご苦労様です。では、無事のお帰り・・』

「それでさ、戻ったらどう?俺と今日こそご飯でも・・」

『・・・・・・』

無線が切れているのに溜息を吐いてから、タツミは笑いながら指示を待つ三人に声を掛ける。

「・・・帰るぞー」

とぼとぼと歩き始めるタツミの後ろについて、三人は笑いながら話し出す。

「中々上手くいきませんね、タツミさん」

「あれはもう、病気みたいなものだから・・。ほっといても良いのよ?」

「でも、少しだけ不憫ですね。1度くらいは、ヒバリさんも受け入れられても良さそうですが?」

「それに関しては、タツミの自業自得な部分があるから・・・。後はヒバリちゃんの気が済んでからね。・・もう3年位立つけど」

聞こえるように言っているのはワザとと知りながらも、タツミは黙って歩き続ける。

しかし、あるモノを目にすると、その足を止めて皆へと声を掛ける。

「・・おい。あれ・・、フェンリルの車か?極東のじゃ、ないよな?」

タツミの言うモノを見ようと、三人は前へ進み出る。

そこには、確かにフェンリルのマークが入った車が横転しており、その周りをオウガテイルが囲んでいた。

「あれ・・・、フライアの!?シエル!」

「はい!」

シエルと共に駆け出したヒロに、タツミは頭を掻いてからジーナへと顔を向ける。

「どうするんだ?この場合?」

「あら?私達は、ゴッドイーターでしょ?荒神を倒して、一般人を守ればいいのよ。ふふっ」

「だよな!」

ジーナの答えに笑って見せてから、タツミは二人を追って駆け出し、ジーナはスコープを覗き込んで荒神へと引き金を引く。

ドゥオンッ!!

 

タツミとジーナに周辺を警戒してもらいながら、ヒロは運転席のドアを開ける。すると、

「・・・あ・・・、ヒロ君・・シエル・・・」

「レア博士!?」

どこかにぶつけたのか、頭から血を流しながら、気絶しているフランを抱いたレアがそこにいたのだ。

「レア博士!フランさんは!?いえ・・。その前に、博士も!?」

「私は・・、大丈夫・・。それより、フランを・・、この子を・・!」

必死にフランを手渡そうとするレアの手を取り、ヒロは勢いよく引っ張り上げて二人を抱きとめる。

「大丈夫ですか!?」

「え・・えぇ。凄いのね、ゴッドイーターって・・」

今更なようなことを口にするレアの頭に、シエルが応急処置にとガーゼを当てて、包帯を巻きだす。フランの方はジーナが診てくれて、大丈夫と笑顔で教えてくれる。

「ところで・・・。何でレア博士が、こんなところに?極東に用事なら、すぐ隣でしたけど?」

「・・・俺が呼んだからだ」

突然声が響くと、皆そちらへと目を向ける。

ゆっくりとした歩みで近付いてきた彼に、ヒロが驚きに声を洩らす。

「ソーマ・・さん?どうしてソーマさんが、レア博士を?」

ヒロの質問に目を閉じてから『待て』の意志を示してから、レアの前まで来て足を止める。

「そう・・・。貴方だったんですか、ソーマ博士。あ・・今は、ゴッドイーターのソーマ・シックザールさんとお呼びした方が?」

「どっちだって良い。・・・・その様子じゃあ、メールの答えは・・後者のようだな」

「・・・・・はい」

二人の話に首を傾げる四人であったが、ソーマがタツミに声を掛けて、その場を一旦収める。

「とにかく、極東に戻るぞ。タツミ。二人をお前等の車に、隠してから連れて入ってくれ。・・・・話はそれからだ」

「あ・・あぁ。わかった」

そうして移動を開始したところで、ソーマはふと後ろを振り返る。

しばらくどこかを睨みつけてから、彼も再び歩き始めた。

 

ソーマの見つめた先で、ゆっくりと起き上がる姿・・。

瓦礫に身を潜めていた神機兵は、踵を返して去って行った。

 

 

 

 





ここから更にクライマックスへ!

すぐ側での悪巧みって、わかんないものですよね~。
案外陰口に気付かなかったり、しますし・・。



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42話 歪んだ心

 

 

極東で治療を終えてから、レア博士は支部長室へと呼ばれる。

榊博士の他に、ブラッド、居合わせたタツミとジーナ、レンカ。そして、フライアから呼び出したソーマに囲まれる状態で・・。

今一話が呑み込めない他の人間を置いて、ソーマが閉じていた目を開けて、口火を切る。

「おそらく時間がないんでな。早速聞かせて欲しい。・・・フライアで、ラケルは何をしてやがる?」

その言葉に、より一層理解できないという表情を見せる中で、榊博士とヒロだけは、何か思い当たる節があるような顔を見せる。

レアは大きく深呼吸をしてから、自分が見たモノと照らし合わせ、研究者として・・そして、ラケルをよく知る姉として、答えを返す。

「・・・ラケルは、無人型神機兵の研究を、九条博士から引き継ぐ形で進めていました。・・ジュリウスと、共に・・。ただ、その研究に・・・・・、黒蛛病患者を利用していると・・思われます」

《っ!!?》

その答えにはヒロも驚愕な表情を見せ、榊博士も考え込むように口元に手を当てる。

唯一驚いていないソーマは、話を続けさせる為に、口を開く。

「何故、あんたはそう思った?・・・フライアで、何を見た?」

ソーマの切り込みに、レアは涙を浮かべながら、自分の見解を話す。

「今日、まで・・、治療の為に黒蛛病患者を受け入れてたという・・話を、聞いてました。しかし、事実は・・・・違いました。彼女・・・・ラケルは・・、黒蛛病患者を・・おそらくですが、患者の偏食因子と感応できるようカプセルに収容し、神機兵の教導に利用しているからと、判断したからです」

「・・・教導か・・。だがそれは、神機兵のAIに、ジュリウスの血の力『統制』を利用して行うモノじゃなかったのか?」

聞き返してくるソーマに、レアは苦笑しながら答える。

「・・何でも、ご存じなんですね。・・そうです。私も、そう聞いていました。ですが、神機兵はあくまで機械です。AIを搭載していてるとはいえ、今の技術でも限界はあります。第2世代以降のゴッドイーターが持つ感応現象は、偏食因子との呼応。全てをジュリウスの神機の様に調整しても、所詮は兵器と人。人と人との感応には遠く及ばないと、私も思っていたからです。それは、荒神にしてもそう。感応種が、偏食場パルスで神機を破壊や暴走まで持ち込めないのも、その為と考えます」

彼女の説明に2,3度頷いてから、ソーマは納得したように、ある答えを口にする。

「つまり・・・。ラケルは、機械の限界を・・・人間で補おうとしたってことだな。・・赤い雨の影響で、黒蛛病に侵された患者に微量ながらも検出される、偏食因子を使って・・・な」

「・・・・間違い・・ないと、思います」

全員が息を飲む。

それは、とても人が行う所業ではないと・・・。

「それって・・・、ジュリウスも・・関与、しているんですか?」

ヒロがやっと絞り出した声で、レアへと尋ねると、彼女は首を横に振る。

「わからないわ・・。ただ、彼の意志がどうであろうと、ジュリウスがこの実験の鍵なことには、代わりはない」

その言葉に後退ってしまったヒロを、ギルが肩に手を置いて、支えてやる。

誰もが、何が起こっているのかわからずにいる中で、ソーマは更に踏み込んでレアへと質問する。

「大体は、わかった。・・・他の奴も色々聞きたいだろうから、俺からは最後にする。・・・・ラケルは、最終的に何を企んでいる?」

「・・・・・・わからない、です・・・」

レアが顔を手で覆って俯くと、シエルがそれを気遣う様に肩を抱いて、聞いたソーマは、大きく息を吐いてから、榊博士に目配せして、自分の考えを口にする。

「・・俺の考えは、こうだ。・・・あいつは、神機兵の軍隊を使って、荒神と人類、両方を滅ぼす・・・。『終末捕食』の真似事をしようとしているんじゃないかってな」

その言葉に、ただでさえ驚きに声を失っていた者達は、更に驚愕に顔を歪める事となったのだ。

 

 

話疲れた様子のレアを、医務室へと連れて行ってから、ヒロとシエルはその場を後にする。

出たところで、ギルとナナ以外にも、ソーマがその場で待っており、ヒロ達を促して、近くの休憩所へと足を運ぶ。

人数分飲み物を買ってから手渡し、ソーマは小さく息を吐いてから話し始める。

「ラケルの事・・・少し、俺なりに調べた。俺の『親父に世話になった』という部分が、引っ掛かってな。・・・勿論、それだけじゃないが」

「・・・はい」

代表する形でヒロが返事をすると、ソーマは話を続ける。

「あいつは、1度死にかけた時に・・・P-73因子・・、俺と同じ偏食因子を打ち込んでいる」

《えっ!?》

全員が揃って驚くと、ソーマ目を閉じて頷いてから、続きを話す。

「些細な姉妹喧嘩だったそうだ・・。誤って階段から落ちたラケルは、脊椎に大きなダメージを負った。そこで、フェンリルの研究者だったラケルの父親が、当時偏食因子との結合に成功した、俺の親父に頼んで、損傷した肉体の回復の為に、P-73因子の投与を行った。結果は・・・まぁ、成功だ」

それで一息ついてから、ソーマは目を開けて空いた缶をゴミ箱へと入れ、更に話を続ける。

「ただ、回復したラケルの事を、当時父親はおかしいと思っていたらしい。埋もれていた記録を掘り出してみたら、父親はラケルの事を、こう記していた。『私はあの子が、恐ろしい』とな・・」

《・・・・》

手の中の空き缶を持つ手が震えるブラッドに目を向けながら、ソーマは腕を組んで壁に背を預ける。

「それから間もなくのことだ。父親、ジェフサ・クラウディウスが亡くなったのは・・。自宅を襲った、荒神によってな・・」

「どうして、ソーマさんは・・・、ラケル博士の事を・・?」

ヒロが質問をすると、ソーマは目を細めて、初めてラケルと会った時の事を、思い浮かべながら答える。

「あいつから・・・、人間の匂いがしなかったからだ。ユウから言わせれば、人を道具の様に見る目が、人間じゃなかったそうだがな・・」

聞いてはいけないことを聞いたように、ブラッドの四人は肩を落とす。

そして、自分達を導き、作り上げた人の事を、四人は初めて恐ろしいと思ったのだ。

 

 

ごほっ ごほごほっ

顔まで痣が広がってきたジュリウスは、頻繁に咳込むようになっていた。時折、口から黒ずんだ血を吐きながら・・。

そんな彼の側で、操作盤をいじっていたラケルが、その手を止めて、口の端を浮かして彼に喋りかける。

「・・・ジュリウス、お疲れ様。神機兵は、ほぼ完成したわ」

「・・・・ごほっ・・そ、そうか。間に合ってくれたか・・」

「えぇ。全て、予定通りにね・・」

ラケルの言葉に安心したのか、ジュリウスは口から零れる血をそのままに、座っていた座席に深く持たれて、笑顔を見せる。

「これで・・・。誰も、死なずに済むん・・ですね?」

そう問いかけると、ラケルは目を大きく開いてから、嫌らしく笑って見せてから答える。

「そうよ・・。誰も、死なないわ・・。『新しい秩序』の中で、1つになるのだから・・ふふっ」

「・・『新しい秩序』・・?何を・・、仰ってるのですか?」

疑問に思い、視線をラケルに移そうとしたところで、ジュリウスは自分の目の前に映し出された、カプセルの中の黒蛛病患者を見せられる。

「・・こ、これは!?黒蛛病に感染した!?どうして、カプセルの中に!?」

「神機兵を動かす、道具だからよ。これらは・・」

「な・・んだと!?」

自分が耳にした言葉が、嘘であって欲しいと、ラケルへと目を向けるジュリウス。だが、彼女の笑みを見た瞬間、それが事実だと認識し、力が抜けたように座席からずり下がってしまう。

「ど・・・どうして・・」

「ふふっ。全ては、貴方という『世界の王』を創り、新しい世界を創り上げるためよ・・」

そう言った彼女の後ろから、巨大な物体が現れる。その姿は、物語の世界に出てくる、ゴーレムの様だと、ジュリウスは認識する。

「私専用の・・・、神機兵のプロトタイプ。少し元気が良すぎて・・・、お父様を壊してしまったり・・ふふっ。困った子なの」

「くっ!・・・俺も、殺すのか?必要、なくなったから!?」

必死に立ち上がろうとするジュリウスに対し、ラケルは涎を垂らしながら笑い続ける。

「貴方は殺さないわ、ジュリウス。眠ってもらうだけ・・。次に目覚めた時には、貴方は『世界の王』となっているでしょう。・・『終末捕食』を導く・・ね」

「・・くっ・・、誰が・・簡単に!!」

そんな彼の威勢も虚しく、ラケルのおもちゃに掴まってしまい、地面へと叩きつけられる。

ダァンッ!

「くっ、はぁ!!・・・」

意識が遠のく中で、ラケルは自動車椅子からゆっくりと立ち上がり、彼の元へとやってきて顔を持ち上げる。

「・・・く、そ・・・。全部・・・嘘、だった・・のか?」

「嘘ではないわ。みんな1つになるのだから、『死』なんて概念、存在しないでしょ?・・・さぁ、お休み。ジュリウス・・。ママの胸で、安らかに・・・ふふふっ」

胸に抱きよせてから優しく撫でると、ラケルはジュリウスを神機兵に掴ませ、部屋の奥に設置された広めのカプセルの中へ、ジュリウスを寝かせる。

そこでジュリウスは、大切な者達を思いながら、静かに意識を失った。

(・・・・ギル・・ナナ・・シエル、ヒロ・・・・・・・ユノ)

 

研究室に戻ってから、ラケルはフェンリル本部へと、連絡を繋ぐ。

上層部のお偉方が一同に会する場所に繋がると、妖艶に微笑んでから、ラケルは喋りかける。

「フェンリル本部の皆さん。この声明を、全世界へと発表しなさい。新たな『世界の王』ジュリウス・ヴィスコンティの名において、フライアは、フェンリルから離脱すると・・」

全員が驚きに声を上げる中、ラケルは一方的に連絡を切ってから、声を上げて笑い出す。

「うふふふふふっ!準備は、整ったわ!!・・でも、宣戦布告はしない・・。あなたに出てこられると、厄介ですしね・・。神薙ユウ」

 

 

『繰り返します。昨日未明、フェンリル極致化開発局フライアは、フェンリルからの独立を宣言しました。よって、フライアに残った職員及び、収容された黒蛛病患者の安否が心配されています。これについて、本部に戻っていた局長のグレム氏は・・』

団欒室でニュースを見ていた極東支部の面々は、すぐそこにある脅威に、身震いをしてしまう。

「くそっ!ジュリウスは・・・あいつは、無事なのかよ!?」

「落ち着け、ギル。何もわからねぇんだ。誰もな・・」

拳を握り締めて苛立つギルを、ハルが肩に手を置いて落ち着ける。

そんな中、ヒロが呟くように声を洩らす。

「ソーマさんとレア博士の話だと・・・、ラケル博士はジュリウスを必要としてる。だから、殺しはしないと思う。・・・だけど」

「だけど・・・、何?」

それに真っ先に反応してきた声に、ヒロは不味いといった顔で振り返る。

肩を震わせながら立っているユノは、目に涙を浮かべて、拳を握り締めている。

「『連絡とれない』って・・・そういうこと?黒蛛病患者の安否って・・・、ジュリウスはどうなったの!?」

「ユノ!?落ち着きなさい!」

隣に立ってたサツキが、ユノの肩を抱いて声を掛ける。

しかし、彼女の憤りは収まらず、駆けだしてヒロへと掴みかかる。

「何か知ってるなら、教えてよ!ヒロ君!?ジュリウスは?黒蛛病の患者達は?ねぇ!どうなってるのよ!?」

「・・それは・・・」

話すべきかと考えているヒロの目の前で、ユノはその頬を思い切り叩かれる。

パァンッ

「・・・え・・」

驚いた眼を向けた先で、叩いたサツキが彼女を抱きしめて声を掛ける。

「落ち着きなさい!取り乱さないで!!あんたは私の希望で、神薙ユウの妹でしょ!?しっかり、しなさい・・」

「サツキ・・・。くぅ・・うっ・・」

ユノが泣き出したのを切っ掛けに、ヒロは何かを決意したように、大きく息を吐いてから、宣言する。

「・・・フライアに、行こう。シエル、ナナ、ギル」

《・・・・》

その言葉に驚きながらも、三人は黙って頷く。

それから四人は団欒室を飛び出し、神機保管庫へと足を運んだ。

 

 





ちょっと、原作と変えました。
何か、嫌だったんで・・。

ジュリウスは、あくまで正義マン!



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43話 影の支配者

 

 

フライアの外壁を回っていると、ヒロは集積場への大扉が開いているのが目に入る。

「これ・・・、なんで・・」

レアが出てきた場所かと、疑問に思っていると・・。

《うわぁぁーーっ!!!》

奥の方から叫び声が聞こえ、その異常に反応し、ブラッドは中へと飛び込む。

すると、中から職員や研究員等が、雪崩のように外へと走り抜けていく。

一瞬の出来事だったかのように、静けさが周りを支配すると、ヒロは慎重に奥へと足を進める。残りの三人も、後に続けと歩き始める。

少し開いた扉から中へと体を滑り込ませ、ブラッドは少し暗がりの世界を見渡す。そこには・・・・レアの説明にあった、忌まわしい光景が広がっていた。

「・・・これは・・。全て、黒蛛病の・・・」

シエルの言葉を確認する様に、百と並べられたカプセルの中身を確認していくと、黒蛛病に苦しむ人達が、ヘッドギアのようなものを付けられて、眠らされている。

「・・くそっ!これ、全部そうなのかよ・・」

「ひどいよ・・」

ギルが歯を鳴らし、ナナが落ち込んでいる中、

『そのまま・・・、ここを立ち去れ』

部屋に響き渡る声が、ブラッドへ警告してくる。

『それ以上踏み込んでくるならば、お前達とて・・・容赦はできない』

「・・この声・・・、ジュリウスなの!?」

『・・・・・』

こちらの質問には答えぬが、その声は確かにジュリウスのものだった。

そうとわかった瞬間、ギルとシエルは、怒りを露わに気持ちを叫ぶ。

「どういうことだ!?これが・・・、お前の望んだ正義だとでも言うのかよ!?」

「あなたは・・・何をしてるのか、本当に理解しているのですか!?こんな非人道的な・・。赦される行為ではありません!!」

二人の怒りが木霊すると、集積場の奥の扉がゆっくりと開き、緊急サイレンが鳴り響く。

ウーッウーッ

『警告はした。・・・これより、侵入者を排除する』

《っ!!?》

奥の扉が開き切ると、中から独特の機械音が近付いてくる。

「・・・・本気なんだね。ジュリウス・・・っ!」

ヒロが悔しさに唇を噛むと、神機兵が3体、中へと飛び込んでくる。

以前とは違って、赤いオーラを全身から放ちながら・・。

「これって・・・、血の力・・」

「これが、答えなんですね・・。ジュリウス!!」

「やろうってんなら、容赦はしねぇ!」

三人が神機を構えたのを背中で感じ、ヒロは声を上げて神機を振って空を斬る。

「ブラッド!神機兵を再起不能に!!黒蛛病患者を、極東支部へ!!」

《了解!!》

それを合図に、ブラッドは神機兵へと飛び掛かる。

 

 

逃げ込んできた職員を確認しながら、アリサは事情を聴いていたレンカの元へと駈け寄る。

「レンカ。どうしますか?」

「・・・どうもこうも・・、俺も頭が追い付かない」

眉間に手を当てて目を閉じてから、レンカは軽く舌打ちをしてアリサへと振り返る。

「タツミさんが、他の隊を連れて極東を固めてくれてる。アリサは、中に飛び込んだブラッドのフォローに行ってやってくれ」

「わかりました。ここは、任せます!」

そう言って走り出そうとしたアリサに、

「待て・・」

声を掛ける者が一人。

「・・ソーマ」

ソーマは髪を括っていたゴムを解いてから、アリサとレンカに喋りかける。

「空木、一応黒蛛病患者を受け入れる準備をしといてくれ。何人かは、連れ帰れるかもしれないからな。それとアリサ、俺も行く。相手は十中八九、神機兵だ。対策を伝える」

「わかった。手配しておく」

「わかりました。久し振りですね、あなたと組むのも」

「ふん・・。期待してるぜ、お前等」

そう言って笑うソーマに笑顔で応える二人。そして、それぞれの戦場へと走り出す。

走りながら、神機兵について説明をしようと口を開きかけたソーマ。しかし、それを阻むように、サツキが行く手に入り込んで必死の形相を見せる。

「ソーマ君!アリサさん!」

「ど、どうしました?サツキさん」

アリサがサツキを落ち着かせようと、肩に手を置いて声を掛ける。しかし、ソーマはその状況に違和感を覚えたのか、目を大きく開いて声を洩らす。

「・・・・そういうことか。サツキ!妹がいないのか!?」

「あ・・そうなんです!ユノが!」

「なんてこと・・・。ソーマ!?」

「あぁ・・。ちっ・・・くそが!」

舌打ちをしてから、ソーマは珍しく焦った様子で、フライアへと目を向ける。

「お転婆娘が・・。フライアに行きやがったな」

「っ!!?」

ソーマの言葉に、サツキはビクッと体を跳ねさせ、その場に膝をつく。

そんな彼女の目を覚まさせるように、ソーマは無理矢理立ち上がらせ、サツキへと叫ぶ。

「サツキ!救急用の車で待機してろ!俺達もすぐ行く!」

「は・・・はい!!」

サツキが走り出したのを見送ってから、ソーマはアリサと共に神機保管庫へと向かう。その途中で、アリサはソーマに話しかける。

「良いんですか?彼女まで連れて行って?」

「あのまま暴走されるよりマシだ」

「・・・・変わりましたね。ソーマも・・」

「お前ほど変わってはねぇよ」

神機保管庫に飛び込んだところで、二人は同時に腕輪の認証を行い、自分の神機を呼び出す。

 

 

ガキィンッ!!

ギンッ キィンッ!

神機兵相手に苦戦を強いられるブラッドの様子を伺いながら、ヒロは口の端から流れた血を下で掬い取り、ぺっと吐き出す。

「くそっ!ジュリウスが三人いるみたいだ・・。やり辛い・・」

構えた神機に、自然と力が入る。

黒蛛病の患者に被害が行かぬよう、攻撃は制限され、相手からは守らなければいけない状況。更には、相手はジュリウスに近い強さとなると、ブラッド四人では、3体相手するのは、分が悪くなってきている。

考えを巡らせているヒロの元に、シエルが飛び込んできて、声を掛けてくる。

「ヒロ。このままでは、分が悪すぎます。戦闘を回避しながら、患者を運び出すのも・・。何より接触感染の恐れがある以上、私達にはどうしようも・・」

「くっそ!ごめん!考えてなかったよ、そこまで・・」

「いいえ。あの時冷静でなかったのは、私達も同じですし」

撤退の道しかないかと、後ろへと意識を向けるヒロとシエル。

そこへ・・・、声が響き渡る。

「もう、やめてーーっ!!」

《っ!!?》

『・・・・・』

その声に神機兵も1時止まったのを確認して、ブラッドは大きく後ろへと距離を取る。そして、声の主の側へと陣形を固める。

「ユノさん!どうして!?」

ヒロの声に小さく頷き、謝罪を表してから、ユノは部屋全体に響き渡るよう喋り始める。

「ジュリウス!聞こえてるんでしょ!?私の声が!ジュリウス!!」

『・・・歌姫か・・』

ようやく返してきた返事に、ユノは続けて喋り続ける。

「これが、あなたの望んだ事なの?あなたが『繋いでみせる』と言ってくれたことは、こんな事なの!?あの時、黒蛛病の悲惨さに憂いたあなたが、どうしてこんなことを!?」

四人の知らない、ジュリウスとユノだけの交わした約束。その話を必死に訴えながら、ユノは彼へと声を掛ける。

「あなたは、こんな事をする人じゃない!あなたは、英雄になりたいって!みんなを守れる、英雄になりたいって・・!?」

「・・ジュリウス」

彼女の訴えが、届いたのかと思い、ヒロも自然と神機の構えを解く。

しかし、返ってきた答えは、彼等の望むべき言葉ではなかった。

『・・・戯言に付き合う気はない。歌姫・・、あなたも警告を聞けないのなら、排除する』

「そんな・・・・」

ナナが目を伏せて悔しがりながら、声を洩らす。しかし、その声を向けられたユノの反応は、何故か別の事で驚いているかのように、目を見開いていた。

「・・・・あなたは・・、誰ですか?」

『・・っ!!?』

《えっ?》

ユノ言葉に驚いて、皆彼女に注目する。声だけを響かせるジュリウスも、驚いているようだ。

そこへ・・。

「猿芝居は、もう良いだろう?」

グシャッ!!

飛び込んできたソーマが、神機兵の1体を地面にめり込ませ、アリサへと声を掛ける。

「アリサ!外すなよ!!」

「当然です!!」

ドゥオンッ!! ガァンッ!

アリサのブラッドバレッドが、正確に神機兵の背中を撃ち抜く。すると、神機兵は目の光を失って、動かなくなる。

「ソーマさん!アリサさん!」

ヒロの声に、ソーマとアリサはブラッドの前に移動して、神機を構える。

そして、ソーマが声だけのジュリウスへと話し掛ける。

「いつまで、ジュリウスのふりをしてるつもりだ?・・・ラケル」

その言葉に全員が、驚愕の表情を見せる。

『・・・・・・・・ふふっ。やはり・・、貴方は誤魔化せませんか。ソーマ・シックザールさん・・』

彼の答えを認めるように、ラケルが自分の声で喋り始める。

 

研究室から神機兵を操作していたラケルは、エメス装置に手を置いたまま、話し掛ける。

「何時から・・・疑ってまして?」

『初めからだ・・。もっとも・・、先にお前を危険視したのは、ユウだったがな』

その名を聞きたくないのか、ラケルは急に声を荒げる。

「・・・その名を、私の前で口にするな・・」

『・・どうした?本性が出ているぞ?・・・荒神』

「っ!!?」

そう言われてラケルは、怒りに眉間に皺を寄せたまま、口の端をゆっくりと浮かせていく。涎が滴る程に・・・・。

 

「どういう・・事ですか?ラケル先生が・・・・荒神?」

シエルが驚きに口元に手を当てながら、ソーマへと質問する。すると、ラケルは笑い声を洩らし始める。

それを相手の答えと受け取って、ソーマは簡単に説明する。

「以前に、あいつの事を話したろう?P-73因子を投入し、一命をとりとめたが、人格が変わった・・・なんてことをな。だから、俺とユウは・・・ある仮説を立てていた。そして、そのカマを・・・今かけた。結果は、・・・これで十分だろう?」

「そんな・・・」

今だ笑い続けるラケルの声に、ヒロは下を向いてしまう。そこで、自分がソーマとユウから言われた言葉を、思い出す。

 

『あの女には、気を付けろ』

『ヒロ、気を付けて』

 

ヒロの中で、線が繋がった。

最悪な形で・・。

『そこまでお気づきなら、もう話はよろしいかしら?私もジュリウスを目覚めさせる、準備が必要ですので・・』

そこまで言って、言葉が途切れると、神機兵は再び襲い掛かろうと構えを取る。それにソーマは舌打ちしてから、呆けているブラッドへ声を掛ける。

「ちっ・・。ブラッド!一旦退く!アリサ!シエルとナナを連れて、退路を確保しろ!ヒロとギルバートは、俺と妹を守りつつ後退だ!」

《っ!?了解!!》

アリサが動いたのを確認してから、ソーマは目の前に迫る神機兵の攻撃を半身で躱してから、足を思い切り撥ねる。

ガギャッ!!

勢い余って足を吹き飛ばすと、神機兵は1回転して地面に倒れ伏す。

「ギルバート!背中の装置を、貫け!」

「っ!?り・・了解!!」

ザォンッ!!

スピアで思い切り貫くと、神機兵は沈黙して動かなくなる。それを目にして、ヒロも、刺したギルも驚いてしまう。

「ソーマさん・・、これって?」

ヒロが説明を求めると、ソーマは足元に転がった神機兵を踏みつけてから、喋りだす。

「こいつの戦闘している姿を、映像で解析してな・・。ユウとツバキ・・リンドウの姉だが、その二人と意見を出し合って、榊のおっさんに最終ジャッジしてもらった弱点が、ここだ。神機兵とエメス装置を繋ぐ、心臓部。疑似AIが埋め込まれてるところだ」

「そうか・・・。それで、動かなくなったんすか」

ギルが感心の声を上げると、ソーマは頷いて、ユノの手を取り走り出す。

「詳しいことは、極東に戻ってからにする。色々準備不足なんでな」

「「はい!!」」

二人の返事を背中に受けて、ソーマは来た道を戻りだす。扉の隙間には車が見え、サツキがそこで必死に手を振っている。

しかし、必ず不測の事態は起こるもの・・。

「ま、待って!!ソーマさん!あれ、アスナちゃん!!」

急にユノがソーマの手を振り解いて、カプセルの方へ走り出したのだ。

「なっ!?馬鹿!戻れ!!」

ソーマの声を振り切って、ユノはカプセルを開けるスイッチを探す。そこへ、

ギギギギィ

「あっ!?」

神機兵が巨大な刃を振り上げて、彼女を見降ろす。

それを不味いと思ってか、ソーマは咄嗟に神機を構えてヒロを呼ぶ。

「ヒロ!俺の神機を踏み台に行け!攻撃を防ぐだけでいい!!」

「あ、はい!!」

そう言ってヒロは飛び上がり、ソーマが降り抜く神機に足を掛け、ユノと神機兵の間に飛び込み、盾を展開する。

ガァンッ!!

「きゃあっ!!」

「くっ・・そぉ!!」

パリンッ

何とか攻撃を受け止めたヒロだったが、体が地面に半分捩じ込まれる形になる。その攻撃で、カプセルのガラス窓が割れて、ユノの方はそこから少女を救い出す。

そこまで確認できればといった感じで、ソーマは神機兵の背中に、神機を叩きこむ。

「寝てやがれ!!」

ガキャッ!!

その威力に半分千切れた状態になって、神機兵はその場に倒れ伏せる。

ヒロを引っ張り起こしてから、ソーマはフッと笑みを見せる。

「てめぇは・・・、本当にあいつに似てるな。無茶を要求したのは俺だが、簡単にやってのけやがる」

「極東で、鍛えてもらってますから」

ヒロの返事にソーマは懐かしむように目を閉じてから、ユノへと声を掛ける。

「妹、問題ないか?」

「駄目!触らないで!!」

手を取ろうとしたソーマを、ユノは突然拒絶する。だが、その理由を、彼女の身体を見た二人は、即座に理解する。

蜘蛛のような忌まわしい痣が、ユノの右腕に浮かび上がっていたのだ。

「黒蛛病・・・。ユノさんが、何で!?」

「くそっ!接触感染か・・」

ソーマの言葉に、ヒロはシエルが先刻いった言葉を思い出し、悔し気に唇を噛む。

「大丈夫。自分で走れますから!早く!ソーマさん!?」

ユノが少女を抱えて、力強く立ち上がって見せる。そんな彼女の姿に、ソーマは決心してから、全員に声を掛ける。

「全員、撤退しろ!車には、妹だけを乗せろ!」

その言葉通り全員が動き始めたのを確認してから、ソーマは去り際に、部屋の中央に向かって口を開く。

「借りは・・・必ず返す・・」

 

 

 





ゴッドイーター2編、最終段階です!

残りも気合入ってますが、レイジバースト編を思うと・・・。

無理せず、行こうっとw



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44話 逆転の可能性

 

 

極東の診療所の外で、ブラッドとアリサ、ソーマにサツキは、黙って時を待った。感染したユノの診察を行う、榊博士の言葉を・・。

待っている時間に耐えられなくなってか、ヒロが口を開く。

「あ・・あの、サツキさん。僕達がいながら・・・、こんな事に・・」

「・・え?・・あ、あぁ。良いのよ・・。あの子の無鉄砲な行動が、招いた事なんだし・・」

サツキが笑みが痛々しくて、ヒロは切なげに顔を歪めて、目を反らしてしまう。

皆も、下手なことは言えないと、口を噤んでしまい、再び静寂が訪れる。

と、そこへ・・。

「・・・ふぅ」

防護服のマスクを取りながら、榊博士が外へと姿を現す。

それに真っ先に反応して、サツキは椅子から立ち上がり、榊博士へと詰め寄る。

「博士!どう、なんですか?ユノは!?」

必死に聞いてくるサツキに、榊博士はすまなそうに顔をしかめて、首を横に振って答える。

「・・・残念だが、彼女が感染しているのは・・間違いない。進行は、通常の人よりは、遅いがね・・・」

「・・・・・・そ、んな・・・」

サツキの掴みかかった手が力を無くし、その場にへたり込むと、それを支えるようにアリサが駈け寄る。

しばらくそんな彼女を見守ってから、榊博士はソーマへと視線を移動させる。

「ソーマ君・・・。少し、相談したいことがある。いいかな?」

「・・・・・あぁ」

ソーマの返事を受け取ってから、榊博士は全員を見回して、声を掛ける。

「みんな、今日は疲れたと思うから、もう休んでくれたまえ。くれぐれも、ユノ君との接触だけは避けてほしい」

そう言い残して、榊博士はソーマを連れ立って、その場から去って行く。

残された者達は、自分達の無力さに苦い思いをしながら、しばらく立ち尽くした。

 

 

「・・・・本気か?」

「・・それしか、ないと思うんだ」

榊博士は目を閉じて深く頷きながら、自分を落ち着けるように息を長めに吐く。

それから、手を前に組んでから、苦笑いを浮かべて口を開く。

「今度ばっかりは、ユウ君に怒られてしまうかな?」

その言葉に、ソーマは「ふん」と鼻を鳴らしてから、窓の外の青い月を見つめて返事をする。

「あいつ自身が納得してるなら、ユウは何も言わねぇだろ。・・・準備は、いつ終わる?」

ソーマが聞き返してきたことに笑って見せてから、榊博士は細い目を片方広げて見せる。

「・・・・明日には。今度は、こっちの番だよ」

 

療養室の窓から外を眺めながら、ユノは自分の右腕を撫で、フライアにいる想い人のことを考える。

「ジュリウス・・・。待っててね・・・・私が、あなたを救ってみせる」

呟くように発した言葉は、夜の静けさへと吸い込まれていく。

青い月が、見守る中で・・・。

 

 

翌朝、極東支部の全ゴッドイーターは、作戦指令室へと集められる。

しかし、そこにユノがいることに、皆違和感を感じているようだ。

全員揃ったと判断したところで、レンカは榊博士に頷いて見せ、榊博士は壇上へと上がる。

「皆、忙しい中集まってくれて、ありがとう。今日は君達に、色々なことの決着をつけてもらおうと思ってね・・」

いつもの雰囲気とは違う榊博士の真剣な表情と言動に、皆は少しざわつく。それを諫めるように、レンカが咳払いをして黙らせると、榊博士は話の本題へと移る。

「知っての通り、極東のすぐ隣で、独立を宣言したフライアは、黒蛛病患者を利用した非人道的な実験により、神機兵を大量に生産し、その武力を救出に向かったブラッド、ソーマ君にアリサ君・・・そして、ユノ君に向けてきた。これは、立派な反逆罪だ。当然、向こうもそれだけで終わるつもりは無いだろうし、何時攻め込んでくるとも知れない。なので・・・・、今度はこっちから、攻め込んで、武力制圧を試みようと思う」

珍しく過激な言葉を口にする榊博士。その彼の言葉に呼応したかのように、今度は誰も意を唱えず、黙って話を聞き入る。

「作戦の説明をする前に、今回の首謀者と、その意図を話しておかなければならない。・・・首謀者は、ラケル・クラウディウス。目的はおそらく、世界の終焉・・・『終末捕食』の完遂だ。ソーマ君とも話し合ったが、もう間違いないと思われる」

「・・・・『終末捕食』・・」

ヒロの呟きに反応してか、榊博士は小さく頷いてから話を続ける。

「そもそもに・・・、赤い雨による被害、黒蛛病はいったい何なのか?私はそれを、独自に調べていた。そして、昨日のフライアでの出来事と、ユノ君の発症した状態を調べて、ある答えに辿り着いた。・・・あれは、『終末捕食』を起こす特異点を失った世界が、『新たな特異点』を創り出す為にまいた、種のようなものだったんだよ」

そこまで説明されても、よくわからないといった反応を見せる者ばかり。中には、神妙な顔を見せる者もいるが・・。

「ゴッドイーターになったみんなは、荒神が世界にもたらす『終末捕食』の話は聞いていると思う。3年前、ここ極東でも・・・『特異点』を発見した前支部長が、それを強行したのが、記憶に新しいと思う。そして今回、ラケル博士は赤い雨のシステムにいち早く気付き、感染したジュリウス君を特異点として、『終末捕食』を遂行しようとしている」

「・・・はっきり、言い切ってますけど・・。根拠はあるんっすか?」

それにはタツミが手を上げて、質問してくる。それに対して、ソーマが代わりに答える。

「ラケルはこう言った。『ジュリウスを目覚めさせる』とな。おそらく、あいつを完全な荒神へと目覚めさせるという意味で、間違いないだろう。神機兵は、その護衛ってことだ」

「はぁ~ん。・・・今回も、壮大だな」

タツミが頭を掻きながら座ると、それに合わせて榊博士は、話の続きを口にする。

「『終末捕食』を起こされてしまったら、いくら君達でも、太刀打ちできない。だから・・・、今回は私達も、『終末捕食』で対抗しようと思う」

《・・・・・・・え?》

まさかの言葉に、全員が同じ台詞を口にして固まってしまう。

 

 

大きな虫の繭のようなものが、脈打つのを眺め、ラケルはその目ざめを今かと待ちわびていた。

「・・・・あぁ、ジュリウス。早く目覚めて頂戴。全てを・・・終わらせるために・・」

それに応えるように、繭は一筋のヒビを入れる。

 

 

皆が唖然としている中、榊博士はいたって真面目な表情のまま、話を続ける。

「前回は、特異点が私達の意志を尊重してくれたが、今回はそうはいかない。荒神として目覚めたジュリウス君は、ラケル博士の言いなりだ。『終末捕食』は必ず起こる。ならば、『終末捕食』には『終末捕食』を。2つをぶつけて、相殺してしまおうという訳だよ」

「それって・・・、出来るんですか?」

ヒロが思わず手を上げて立ち上がると、榊博士はユノへと顔を向けてから、頷いて見せて続きを話す。

「ユノ君は感染したが、状態は安定している。彼女ならば、特異点として『終末捕食』を起こせると、私もソーマ君も確信している」

「ユノさんが・・・。でも、どうやって・・」

「・・・『歌』だよ」

榊博士の言葉に、またも皆は首を傾げる。だが、榊博士は怯むことなく話し続ける。

「感染した彼女の偏食因子を、ブラッドの血の力・・・特にヒロ君の『喚起』の力で増幅し、彼女の歌によって力を開放する。偏食因子が存在するなら、君達ブラッドの感応現象で後押しすくらい、訳ないだろう?」

「な・・成る程」

わかってはいないが、自分達が力を貸すということで、ヒロは無理矢理自分を納得させ、座り直す。

「もちろんブラッドだけじゃなく、君達にも手伝ってもらうよ。リッカ君が開発した、リンクサポート装置というのが間に合ってね。これを全て、ユノ君に影響がいくように設定してある。君達から発する偏食因子も収束させ、彼女の力とするんだ。極東のゴッドイーター全ての力を、ユノ君に集めれば、『終末捕食』は起こせると、私は確信しているんだ」

そこまで説明した榊博士に代わって、今度はレンカが作戦内容を説明しだす。

「今回、フライアとは全面戦争になる。だから、そのつもりで配置も決めてある。まず極東全域を、防衛班タツミさんの指揮のもと、第5から第10部隊までで徹底的に固める。極東支部周辺を第4部隊のハルさんの指揮で第2第3部隊で守ってもらう。第1部隊はサツキさんのフライアでの護衛。彼女に音響の設備を扱ってもらうからな。頼めるか、コウタ?」

「問題ないって。任せとけよ、親友」

「俺も、問題ないぜ」

「任されたぜ。教官殿!」

コウタに続いて、ハルとタツミも返事をする。それに頷いてから、レンカはブラッドへと目を向ける。

「そして、ブラッド。ソーマとアリサが、道を開いてくれる。ユノさんを守りつつ、ジュリウスを助けに行ってこい」

《え?・・・》

レンカの言葉に驚いて、ブラッドは戸惑いながら声を洩らす。そんな彼等に、レンカはフッと笑みを浮かべる。

「なんだ?もしかして、諦めてるのか?博士は、『終末捕食』を相殺するとは言ったが、ジュリウスを殺して来いなんてことは、言ってないぞ?」

「で、ですが!・・・ジュリウスは、荒神に・・」

シエルが語尾を小さくしながら俯くと、レンカに代わって、ソーマが笑みを見せて声を掛ける。

「かつて・・・完全に荒神となった人間を、救った奴がいた。・・・お前等は、そいつに憧れてるんじゃないのか?なぁ、ヒロ」

「え?・・・・あ・・・、まさか!?」

自分が憧れる背中を思い浮かべ、ヒロは息を飲み込む。

「あいつなら、仲間を諦めねぇぞ。お前等は、どうするんだ?」

「・・・・・・・僕達も、諦めたく・・ないです!」

代表してヒロが叫ぶと、その場にいる全員が、極東の英雄を思い浮かべて笑顔になる。

それを満足気に見つめてから、榊博士は大きく頷いてから、声を上げる。

「私達は、何時だって諦めずに戦ってきた!今回も、取られたものを取り返すだけだ!今ここを離れてる英雄の言葉を借りて言うなら、『諦めるな!前を向け!生きることから、逃げるな!』だ!私達の誇りにかけて、悪を討て!ゴッドイーター達よ!!」

《了解!!》

それを合図に、皆それぞれの戦場に向かう為、指令室を後にした。

 

 

作戦指令室で、全員の配置を確認し終えてから、レンカは無線で連絡を取っていく。

「各配置完了、確認した。向こうからも、オラクル反応の動きを確認。重ねて、フライアを中心に、偏食場パルスが発生した。各方面から、荒神が迫ってきている。標的を確認次第、戦闘を開始する。第1部隊とブラッドは、戦闘の混乱に乗じて、フライアへ突入。いいか?」

『防衛班α、了解だ!』

『防衛班β、了解よ」

『防衛班γ、了解した!』

『防衛班Δ、了解・・』

『極東支部防衛班、了解だぜ』

『第1部隊、了解!!』

『ブラッド、了解です!!』

全員の返事を確認し、レンカは大きく息を吐いてから、タイミングを計り声を上げる。

「全部隊!敵を、討てー!!」

《『了解!!!』》

フライアと極東支部。

生き残りをかけた戦いが、始まった。

 

 

フライアへ突入したブラッド。それに付いて走るソーマが、コウタへと連絡を取る。

「コウタ。お前に渡したルートなら、神機兵に接触しても、向こうは身動きとり辛いはずだ。戦闘はなるべく避けて、サツキをさっさと安全圏に入れてやれ」

『わかってるよ!てか、俺の心配はしてくんねぇの?」

「・・・気持ち悪い事いうな」

『はぁ!?どこ・・』

無線を切ってから、ソーマは閉じている扉を薙ぎ払い、中へと突入する。

そこには、神機兵が5体、待っていたかのように構えて見せる。

咄嗟に構えたブラッドに、手を伸ばして制してから、ソーマはアリサと並んで声を掛ける。

「お前等も、無駄な戦闘は避けろ。さっさと地図に記された場所に行け。おそらくジュリウスはそこにいる。・・・・ラケルもな」

「あ・・・・はい!ここ、お願いします!」

ヒロの声に合わせて、皆一礼し、目的地に向かって走り去る。

残されたソーマとアリサを標的としたのか、神機兵はじりじりと二人に迫って来る。

そんな様子に、ソーマもアリサも、声を押し殺して笑いながら、神機を振って見せる。

「たった・・5体ですか・・。私達も、舐められたものですね」

「まったくだ・・。ジュリウスの模造品の分際で・・、笑わせてくれる」

そう言って構えた二人は、その手の中の神機に力を籠める。

「行くぞ、ガラクタ」

「格の違いを、教えて上げます」

その瞬間、二人は同時に先頭の2体の首を、跳ね飛ばした。

 

 

 

 

 





最終決戦です!!

頑張れ、ブラッド!!!




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45話 終焉を斬り裂く光 前編

 

 

フライアを守護するように、横一列でバレッドを撃ってくる神機兵。

それを装甲壁の影から様子を伺いながら、タツミは溜息を洩らす。

「あぁー、くっそ!なんて弾、撃ってくんだよ!?当たったら、人間なんてバラバラだぞ!?」

苛立ちからか、苦笑いしか出ない状態で、タツミはバレッドの弾を補充している隊員に、声を掛ける。

「おーい!まだかよー!?そろそろ撃ってくんねぇと、俺等前衛は何も出来ねぇぞー!?」

「もう少し・・・待って下さい!」

焦りながらバレッドを装填する後輩隊員を目で確認してから、タツミは自分が新人だった頃を、ふと思い出してしまう。

初任務の時の自分の情けない姿を思い出して、タツミはまたも苦笑してしまい、返事を返してきた隊員に、もう1度声を掛ける。

「なぁ!ゆっくりでいい!落ち着いて、行こうぜ」

「あ・・・・、は、はい!」

今度は明るく返事を返したのに頷いてから、タツミは今だ止まぬ弾幕の音に、手の中の神機に力を籠める。

「・・・・よし!みんな、良いか?装填完了しました!」

「おし!ぶっ放せ!!」

ドドドドドドドドゥオンッ!!!

全員が一斉掃射したことにより、神機兵は怯みだす。それを隙と捉えて、タツミは前衛組を引き連れ、一気に距離を詰める。

「頭じゃねぇぞ!?背中だからな!」

《了解!!》

彼の声に合わせて、隊員は二人一組で神機兵に飛び掛かり、背中の装置を破壊にかかった。

 

 

攻め込んできた荒神を相手に、ブレンダンは十分装甲壁に引き付けて、バレッドを構える隊員へと指示を出す。

「よし!撃てー!!」

《了解!!》

ドドドドドドドゥォンッ!!!

先に突っ込んできた荒神を掃討すると、今度はシュンが近接班を連れて、飛び込んでいく。

「おっしゃーー!!1番乗りだぜー!!」

「シュン!油断は禁物だぞ!?」

「うっせーよ!ガチガチ頭!!」

「な・・なに!?」

シュンの捨て台詞を真剣に考えてから、ブレンダンは隣にいる隊員に声を掛ける。

「・・・なぁ。俺は、頭が固いのか?」

「え!?・・・そう言われましても・・」

急に話を振られて、困ってしまう隊員を見て、「やはり、そうなのか?」と、更に悩むブレンダン。

そんな彼の無線に、答える声・・。

『そんなことありませんよ、ブレンダンさん。私は、あなたの判断は間違っていないと思います』

「はっ!?・・フラン・・さん」

フランの声を耳にした瞬間、ブレンダンは急に一筋の涙を零し、肩を震わせ天を仰いだ。その姿に、その場に残った隊員は、何事かと一歩後退る。

「フランさん・・・、ありがとうございます。見ていて下さい!あなたの言葉を、俺が正論にして見せます!」

『え?・・・あ、はい・・。頑張って下さい・・?』

そう言ってから、ブレンダンは自分の役目を忘れ、装甲壁の下へと飛び込んでいく。

「あ!?あの!ブレンダンさん!?」

「そこは、任せたぞ!うおぉぉぉぉっ!!」

戦場をいつになく元気に駆け回るブレンダンを見て、残された隊員達は、皆同じことを思い浮かべる。

《(・・・・・なんて、単純な・・)》

 

 

ドゥオンッ! ドゥオンッ!

「ふぅ・・・。カレル?そっちは、どう?」

粗方の荒神を殲滅し終えたジーナは、無線で反対の位置を守るカレルに声を掛ける。

『・・別に、問題ない。神機兵じゃないから・・・つまらないな』

「あら、以外。楽なお仕事で、お金が良いのがもっとうでしょ?あなた・・」

『まぁな・・・。だが、ブラッドバレッドの試し撃ちにもならねぇ雑魚ばっかりじゃ、金も良くないだろう』

そんな文句を洩らすカレルに、ジーナは少し考えてから、フッと笑みを浮かべる。

「だったら隊を分断して、タツミの応援にでも行ったら?苦労してるみたいだし、相手は神機兵よ?」

その言葉を待っていたかのように、無線越しにカレルは低く笑いだす。

『なら、そうする。お前等は来るの、遅くていいぞ。全部俺の獲物だ・・』

無線が切れると、ジーナは肩を竦めて、口元に手を当てて笑い出す。

「本当・・・、わかりやすい子・・」

それから、現場を見降ろして状況を確認し、その視線をフライアへと移動させる。

(頑張ってね・・・。ヒロ君)

 

 

極東に入り込んできた神機兵を、ハルは器用に攻撃を躱して、背中をとる。

「それじゃあ、当たんねぇよ!っと」

ガァンッ!

背中を強打され、膝をついたところで、ハルは大袈裟に後ろへと距離をとる。そこへ・・・。

「あーはっはっはっ!!機械仕掛けのおもちゃが!!これでも、食らってろー!!」

ドガーンッ!!!

神機兵の背中どころか上半身を吹き飛ばし、カノンは笑いながら着地して、ハルの側へと駈け寄る。

「ハルさん!これで、一通り倒したと思うんですけど?」

「あ・・おぉ。相変わらず、変わり身が早いな」

頬を掻きながら、ハルは背中に汗を感じながら、返事をする。

(ギルよー。お前は一体・・、何を教えたんだ?前よりパワーアップしてないか?)

そう心の中で嘆きながら、第2部隊と連絡をとるハル。

「どうだー、そっちは?」

『はい!問題ありません!ハルさん達は、そのまま神機兵の対応、お願いします!』

「・・・・なんか、妙に畏まってないか?」

『いえ!そんなことは、ありません!どうーぞ!!そちらで、頑張って下さい!!』

無線を切ってから、ハルは溜息を吐き、おそらくの原因であるデンジャラス・ビューティーに目を向ける。

彼女の方は、首を傾げて不思議そうに見てくるだけである。

そこへ、もう1体神機兵が、支部へ向かって走って来る。

「ちぃ!また、お客さんか!?」

「ハルさん!」

神機を構えたカノンに、ハルは大きく息を吐いてから、ウィンクして見せる。

「おし!やっちまえ!」

「はっはーー!!くたばれ、ポンコツ人形ーー!!!」

ドガァーーーンッ!!!!

その威力を目にしながら、ハルは神機兵の前に、カノンに殺されるのではなかろうかと、自分を心配した。

 

 

フライアの奥へ進みながら、ヒロは思ったよりも広いフライアに、今更ながら感心していた。

自分がいた時には、研究施設の方に顔を出すことがなかったので、今走っている通路も、まったく別の場所のような感覚を覚えているのだ。

暗がりを真っ直ぐ進んだところで、大きな扉へとつき当たる。

全員で開ける方法を調べていると・・、

ギィィッ

扉は自動的に開き、中へと誘ってくる。

「・・・・当然、罠だな」

「でも、行くんでしょ?ヒロ」

ギルとナナに頷いてから、ヒロは躊躇わず真っ直ぐと中へと足を踏み入れる。

妖艶に微笑む、ラケルの元へ・・・。

 

 

最後の神機兵の背中から、神機を引き抜いて、アリサは軽く息を吐く。

「・・・ふぅ。ソーマ、片付きましたよ?」

「・・・・いや、まだだ」

アリサの声に答えながら、ソーマは神機保管庫の方角に目を向けている。それに倣って、アリサも視線を移動させた瞬間、

ガッシャーーンッ!!!

グゥゥゥーーンッ

巨大なゴーレムのような物体が、受付や壁を吹き飛ばして現れる。

「・・・・これは・・」

「まだ、こんなおもちゃを隠してやがったか・・」

その巨体を眺めながら、アリサとソーマはゆっくりと位置を決めるように歩きながら、意見交換する。

「大きいですね・・。ウロヴォロスぐらいは、あります?」

「あぁ・・。資料で見た、神機兵のプロトタイプに、似てるな。大分見た目が変わってやがるが・・」

「神機は、持ってないみたいですね。何か、情報はあります?」

「さぁな・・。データはあてにならないだろう。こいつは、どう見ても荒神だ」

話しながら、お互い足を止めると、神機を構えて体勢を低くする。

「何か・・、アドバイスはありますか?」

「ふん・・・。俺達のもっとうは、決まっているだろう?」

「それも、そうですね」

諦めたように息を吐くアリサに、ソーマはフッと笑みを浮かべる。そして、二人揃って同じ言葉を口にする。

「「『死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そして隠れろ、隙を見つけてぶっ殺せ。そして・・・・』」」

吠える神機兵プロトタイプに向かって走り出し、声を上げる。

「「『生きることから、逃げるな!!』」」

ザァンッ!!!

 

 

フライアの放送室に潜り込んだサツキは、必死に作業を進める。そんな彼女に、コウタは攻め込んできた神機兵を1体沈めてから、声を掛ける。

「サツキさん!まだっすか!?こういうの、専門なんでしょ!?」

その言葉に、サツキは作業の手を休めずに、苛立ち半分に答える。

「専門って言っても、他所様の機械は、把握するのにも時間が掛かるんですよ!?えっとー・・・、マイクの配線はここで・・・、スピーカーは・・・。もう、いい!フライア全体に流すんだから、全部上げて!!」

「・・・・なんか、すんません」

声に出しながら作業をする彼女に、コウタは謝りながら、目の前の出入り口へと集中する。

そこへ、通路の方に出ているエミールから、無線が入って来る。

『隊長!神機兵が2体ほどやってきました!彼等も、壊してよいのですか!?』

「一々伺いたてなくていい、つってんだろ!?神機兵は、もう俺等の敵なの!荒神なの!わかったか!?」

『なんと!?闇の眷属め!ついに正体を現したか!!食らえ!エミール・スペシャル・クラッシュ・・・!!』

「うるさいよ!無線切ってから、戦え!!」

そう言って自分から無線を切断すると、サツキがチェックを終えたのか、顔を上げて叫ぶ。

「オッケーよ!!これで、いつでも行けるわ!!」

「よしっ!!エリナ!中を固める!通路からこっちに入ってくれ!」

『了解です!!』

エリナに連絡を取ってから、コウタはブラッドからの連絡を待った。

 

 

微笑むラケルに、ヒロより先に、シエルが前へと踏み出し話し掛ける。

「お久しぶりです、ラケル先生。・・・このような形での再会、とても残念です」

あくまで礼を尽くすシエルに、ラケルは楽しそうに笑いながら、彼女へと口を開く。

「シエル・・、良いのよ?取り繕わなくても・・・。聞きたいことが、あるのでしょう?」

その言葉に過剰反応してか、シエルはあからさまに殺気を剝き出しにして、ラケルへと声を掛ける。

「・・・では、単刀直入に聞きます。何故、こんな事をしたんですか!?」

その殺気を心地良いという風に受け止めながら、ラケルは答える。

「この世界を、あるべき姿に還すためよ・・。人も、荒神も、全て一つの無に帰して、新たな秩序の元に再構築する。当たり前の事を、当たり前に行うことが・・そんなに、おかしい?」

自分が絶対の真理であるかのように、彼女は語って見せる。その振舞いは、あたかも自分が、神であると言わんばかりだ。

そんな彼女に、今度はヒロが1歩前へと歩み出て、冷たい瞳で口を開く。

「これ以上話し合っても、無駄なんですよね?だったら、僕等は抗わせてもらいます。ラケル・クラウディウス!」

「ふふっ。無駄な足搔きは、体を傷付けるだけよ?ヒロ」

ラケルは表情をそのままに、ゆっくりと手を伸ばす。抵抗せずに、こちらへ来いというように・・。

しかし、ヒロは1度目を閉じてから深呼吸をし、彼女へとある者からの伝言を口にする。

「『例えあなたが、神になろうとも・・。僕達”人”は・・・、生きることから逃げない。僕を遠ざけたところで、結果は変わらない。あなたの言い回しで言うならば、神になった時から、あなたは勝てない”運命”だ』」

「・・・・・・何を、言ってるのかしら?」

今までの笑みが嘘だったかのように、ラケルは表情を険しくする。そんな彼女に追い打ちをかけるように、ヒロは伝言を最後まで言い切る。

「『僕達は、ゴッドイーター。神を喰らう者だ・・。本当に抗うのは、あなたの方だ』」

「だから・・・、何を言っているのよ・・」

言い終えたヒロを、睨みつけるラケル。そんな彼女に、ヒロは彼女がもっとも嫌う名前を、口にする。

「極東の英雄、神薙ユウさんからの伝言です。そして、それが僕等の・・・”人”の答えだ!ラケル・クラウディウス!!」

「っ!!?・・・・神薙、ユウ・・・!どこまでも・・・神を冒涜した、偽りの英雄が・・・!!」

怒りに震えるラケルの足元に、ゆっくりと木の根のようなものが這い出して来る。彼女の後ろにある、もう1つの扉の向こうから・・。

「・・・良いでしょう。新たな王が目覚めた今、私の計画は成功したも同然。抗うことが、如何に無益なことか、身を以って知るがいい!」

その言葉を最後に、ラケルは木の根の様に伸びてきた触手の中へと消えていく。

ブラッドはそれを斬り払って、中へと突入する。

そこには、優雅に宙を舞う、白い王が待ち構えていた。

それを目に留めながら、ヒロは無線をコウタへと繋ぐ。

「コウタさん。目的地に到達。ユノさんも・・・スタンバイ終わりました」

『了解!じゃあ、後は頼むぜ!ブラッド!!・・サツキさん!』

『先輩!!・・・・負けないで!』

途中割り込んできたエリナの声に、ヒロはフッと笑んでから答える。

「うん。負けないよ・・」

無線を切ったところで、ヒロはブラッドの先頭に立つ。

「世界は、終わらせません・・」

「ジュリウス!今度は、あたしが助けてあげる!」

「俺達が・・だ。死ぬなよ、お前等・・」

皆の顔を見回してから、ヒロはゆっくりと神機を構える。

《隊長!命令を!!》

三人の求めに応じて、ヒロは腹から声を上げる。

「ブラッド隊!荒神を、喰い荒らせー!!」

《了解!!!》

ブラッドが飛び込んでいく様子を見つめながら、ユノはセットしたマイクの前に立ち、自分の中の”何か”に呼びかけるように、歌い始める。

(ジュリウス・・・・。届いて!!)

 

 

 





最近・・・肩が重いなぁ・・。

きっと・・・、猫をかまいすぎてるせいだ・・w




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46話 終焉を斬り裂く光 後編

 

 

振り下ろされた腕を躱してから、ソーマは神機で頭を殴る。

ガァンッ!!

「ちっ・・・、固いな」

文句を洩らしながら、片足で顔面を蹴り後ろへと飛ぶと、アリサがバレッドで目を撃ち抜く。

ドドンッ!!

ゴォオォォッ!

「足、もらいます!」

神機を近接に切り替え、アリサは左前脚を斬り抜ける。そしてその勢いのまま、斬った箇所に捕食形態を喰い込ませ、思い切り千切る。

ガリィイッ!!

「ソーマ!!」

巨体を支えきれなくなった神機兵プロトタイプは、地面へと倒れ込む。そこへ、ソーマが空中で神機を振りかぶり、口の端を浮かせる。

「こいつで・・・、終わりだ!!!」

ゴシャッ!!!!

頭を半分潰されて、神機兵プロトタイプは身体を跳ねさせてから、動かなくなる。その胸の辺りに、コアを確認すると、ソーマとアリサは同時に捕食形態で喰いつかせ、真っ二つに割った。

ガリィィッ!!

神機を振ってから肩に担ぎ、ソーマはブラッドの向かった先へと目を向ける。

「・・・ソーマ?」

「成る程・・。どうやら、合流はさせねぇらしいな・・」

そう彼が声を洩らすと、神機兵が新たに5体、部屋へと入って来る。

「・・・まったく・・、人気者ですね。私達も・・」

「ふん・・。勘弁願いたいな・・」

諦めたように二人は神機を構え、神機兵を睨みつける。

「後は、あいつ等に任せるしかねぇな」

「そのようですね」

そうして素早く距離を詰めて、ソーマとアリサは神機兵を薙ぎ払う。

 

 

6本の刃を宙で操りながら、ジュリウスが特異点となった姿・・・終焉の王は、ブラッドへと反撃してくる。

「俺が牽制を撃つ!」

「あたしは、本体を!」

「バックアップを、私が!」

「僕が、刃を受ける!」

それぞれの役割を叫んで、ブラッドは対応する。

「はぁっ!!」

ギンッ! ガキィッ!!

飛んでくる刃を、ヒロが剣で受け流し・・、

「おらぁ!!」

ドドドンッ!

ギルがバレッドで、相手の足元を撃つ。

「どっりゃーー!!」

ガァンッ!!

怯んだ相手に飛び込んで、ナナがハンマーで頭を殴り、

「そこです!!」

ドゥオンッ!!

シエルがブラッドバレッドで、横から撃ち抜く。

ブラッドの連携に翻弄されてか、終焉の王は大きく後ろへと下がる。

「このまま、行くよ!!」

《了解!!》

再び連携をとるため、ブラッドは散開して標的へと走る。

だが、終焉の王は大きく後ろに力を溜めて、何かを狙う様に動きを止める。

「っ!?まさか!?」

その構えに既視感を覚えて、ヒロは構えの先へと方向転換する。

「なっ!おい、ヒロ!」

ギルの声を無視して、ヒロはその先のシエルを庇う様に神機を前に飛び込む。

「シエル!伏せて!!」

「え・・・、ヒロ?」

その瞬間・・、

ザシュザシュザシュザシュザシュザシュッ!!!

「ぐぅ・・・・あぁ・・っ!!」

終焉の王が放った6本の刃により、ヒロは体中を斬り裂かれる。

「あ・・あ・・・、ヒローッ!!」

神機のお陰で致命傷は免れたが、ヒロは血を撒き散らして、その場に倒れる。

「こいつ・・!ジュリウスの技を!?」

「ヒロー!大丈夫!?」

ギルとナナが駈け寄ろうとしたのを、ヒロはゆっくりとした動作で立ち上がり、手を前に制してから、神機を拾う。

「・・はぁ・・はぁ、そう・・。もう・・・、いいや」

そう言ってから、シエルの前に立ち塞がり、ヒロは呼吸を整えて、神機を振り下ろす。

「・・・ヒロ?」

「みんな・・・・・、手出し・・しないでくれる。僕一人で、相手をする」

その言葉に、三人は目を大きく開いて反論する。

「ふざけるな!!何考えてやがる!?」

「そうだよ!ヒロ一人じゃ、死んじゃうよー!!」

「私達を気遣っているのだとしても、そんなこと・・・容認できるはずがありません!ヒロ!?」

全員の言葉を受け止めてから、ヒロはフッと笑みを見せてから、終焉の王へと向き直る。

「みんなに、ジュリウスの刃を向けさせたくないっていうのも、本当だよ。だけど、そうじゃないんだ。・・・僕一人で、十分ってことだよ」

そう言ってヒロは、ゆっくりとした足取りで、標的へと向かって歩き出す。

 

「くっ!・・・・~♪」

集まり始めた偏食場パルスを体に受けながら、ユノは歌う声を緩めない。

そして、目の前で起こっている、悲しい戦いを、目に焼き付けようとしている。

(ヒロ君・・・・・、ジュリウスを・・止めて!)

 

シエルは立ち上がって応援に向かおうとするが、それをギルが呼び止める。

「待てよ、シエル」

「止めないで!私は、ヒロを死なせるわけには・・」

「隊長命令だぞ?」

「あんな命令!聞けるはずありません!!」

激昂するシエルに、ギルは軽く息を吐いてから、ヒロの方を指差して笑う。

「大丈夫なんだよ・・」

「だから!・・・え?」

「ヒロ・・・凄い・・」

三人の視線の先で、ヒロは終焉の王の攻撃を、完璧に見切って躱していた。

 

ブンッ ブンッ ブンッ

ザシュッ!

空を斬る刃の音が響く中を、ヒロは舞うように躱して、斬り付けていく。

自分の攻撃が全く通じないことに苛立ってか、終焉の王はレーザーのようなものを発射してくる。それが1点に集中したものと理解して、ヒロは飛び上がって、頭を叩き割る。

ガァンッ!!

その威力に、地面に倒れ込んで、終焉の王は肩で息をするような仕草を見せ、動けないでいる。

そんな彼に、ヒロは神機を担いで声を掛ける。

「神機兵よりも、完璧にジュリウスと同じ動きをするんだね。だったら、僕には勝てないよ。・・・僕が、どれだけ彼の動きを見てきたと思ってるの?」

誰よりも近くで、誰よりも参考にしたジュリウスの動き。それがわかってるヒロには、彼の攻撃を躱すことなど容易なことだ。

「もう・・・休みなよ。ジュリウス・・。僕等と一緒に、帰ろう・・」

そう言って、ヒロは終焉の王を仰向けになるよう蹴り飛ばし、胸に浮かんだコアへと、神機を突き立てた。

パリィンッ

 

 

終焉の王が沈黙したのを確認して、ヒロはゆっくりとそれに手を伸ばす。

そして、その手が触れた瞬間・・・。

キイィィィィンッ

『ヒロ!離れろ!!』

「っ!!?」

感応現象がジュリウスの声を届ける。

それに応える様に、ヒロが後ろへと飛び退くと、部屋の奥から伸びてきた触手が、終焉の王を飲み込み、暴走を起こしたように部屋全体へ広がりだす。

「くっそ!!」

「ヒロ!大丈夫ですか!?」

駈け寄ってきた三人に支え起こされ、ヒロはその様子に驚愕の表情を見せる。

「始まったんだ・・・。『終末捕食』が!」

《っ!!?》

赤いオーラを放ちながら、触手はどんどんと大きくなり、部屋の半分まで飲み込んできた。

 

 

指令室でモニターを確認していた榊博士は、眉間に皺を寄せて眼鏡をかけなおす。

「強力な偏食場パルス、確認!これは・・・ジュリウスさんのものです!」

「始まったか・・。『終末捕食』が・・。ヒバリ君!ユノ君の方は!?」

榊博士に言われ、ヒバリはユノが発する偏食因子を確認する。

「もう・・少し・・。でも、このままでは、ジュリウスさんに押し切られます!」

「リッカ君!リンクサポートの出力を上げてくれ!」

『もう限界ですよ!?』

それを聞いて、榊博士はサツキへと連絡を取る。

「サツキ君!音量を上げてくれ!単純に力押しで、こっちも無理矢理・・」

『そうしたいのは・・、山々なんですけど・・・』

曖昧な答えを返してくるサツキに、榊博士はインカムのマイクへ顔を寄せる。

 

『どうしたんだい!?サツキ君!?』

榊博士の声がするインカムを落とし、サツキは顔を引きつらせる。

「嘘でしょー・・・。本当に・・」

第1部隊が神機兵に掛かりっきりになってる間に、放送室まで、触手が浸食してきたのだ。

「これは・・・私も、積んだかしら・・」

声に出すと恐怖が汗となって、頬を伝って落ちる。

しかし・・・、

ザァンッ!!

その触手は、サツキに届く前に消滅する。

「・・・ふぅ。よう、サツキちゃん。生きてるかー?」

「嘘・・・。リンドウさん!?」

出張を早めに切り上げて戻ってきたリンドウが、煙草を一吹きしてから、笑って見せる。

「や~れやれ。帰って来て早々、これだもんな~」

「リンドウ!ぼやいてないで、こっちを手伝え!」

通路側では、レンカが久方ぶりに握った神機を振るって、第1部隊を援護していた。

驚きに言葉を失っているサツキを引っ張り起こして、リンドウは笑顔で声を掛ける。

「んじゃあ、サツキちゃん。とっとと終わらせて、帰ろうや」

「あ・・・、はい!!」

返事をしてから、サツキはフェーダーを限界まで上げて、放送用マイクで、ユノへと声を掛ける。

「ユノ!聞こえる!?みんな、生きるために必死に戦ってくれてる!だから、あんたも・・・戦場の歌姫も、歌で応えなさい!?」

 

サツキの声を耳にし、ユノは押さえていた胸を奮い立たせながら、ゆっくりと前へと力を籠める。

「みんな!ユノさんに、触手を近付けさせないで!!」

「了解!」

「わかった!!」

「ユノさん!あたし達に、任せて!!」

四人も陣形を組みなおし、ユノへと迫って来る触手を弾き返す。

そんな彼等を見つめながら、ユノは目に浮かべた涙を拭う。

そこへ・・。

 

『ラ~ララ~♪ラ~ララ~♪・・・・・』

 

スピーカーから、ユノの声とは別に、歌が流れ出す。

それも、大勢の人の・・・。

 

極東中の無線から、音声を抽出して、サツキがリアルタイムで流せるよう、音響卓に接続したのだ。

「・・聴こえる?ユノ・・・。みんなが、あなたの歌に希望を抱いてる。みんな一緒よ・・、だから・・・」

 

極東の指令室で、フランは涙を流しながら、必死に榊博士へと状況報告する。

「・・うっ・・皆、さんの・・・、声が・・・。偏食場パルスとなって、ユノさんに・・・・集まって、います・・」

彼女の言葉に頷いてから、榊博士はフッと笑みを零す。

「現象的には、ただの空気の震えでしかない。でも・・・歌には、確かに力がある。人の想いを、遠隔にも伝え・・・増幅し、新たな力となる」

「・・・博士」

その歌の心地良さに、榊博士は目を閉じて、息を洩らしながら口を開く。

「旋律と鼓動、心と言葉、人の営み・・・・。何て、素晴らしい『感応現象』なんだろう・・・」

 

 

光の声が 呼んでいる

失くした日々の向こう側

 

再び歌いだしたユノの周りにも、触手が渦を巻いて発生し、攻め込んでくる触手を絡めとる。

「これは・・・」

ヒロが声を洩らすと、ユノの体から、赤いオーラが放たれだす。

「みんな!ユノさんの側へ!!」

そう言って、ヒロはユノの隣へと駈け寄る。

ブラッドも、ヒロの呼びかけに答え、ユノの周りへ集まる。

 

心にある一筋の 希望だから

さぁ 歩き出そう

 

歌が天へと上り、赤いオーラは竜巻状に形を成す。

「ユノさん。手を・・・」

「うん・・」

ヒロの手にユノが触れた瞬間、『喚起』の力で、光は一気に膨れ上がる。

意識が飛びそうな眩い光の中で、榊博士の無線の声が耳に届く。

『ブラッド・・・。2つの『終末捕食』が遂行された。ここからは、私にも何が起こるかわからない。叶うならば、みんな・・・・無事で・・・・』

光は強さを更に増し、榊博士の声をかき消した。

 

 

 

 





あぁ・・、ようやく一区切りだー!!

といいますか、今更ながら・・、家庭用の続編。ゴッドイーター3(仮)が製作開始していたそうで・・。

書くのか?私は・・・。
ゲームは100%やるけど・・。
書くのか?




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47話 一人は皆の為に・・・

 

 

薄靄が掛かった世界。

眩い光を抜けた先で、ブラッドとユノは、辺りを見回す。

鉄の壁に囲まれたフライアの中とは違う、どこか『迷いの森』という名称が似合いそうな場所で、ヒロは霧の向こうに立つ、ジュリウスを目に留める。

「・・ジュリウス・・」

《・・っ!?》

ヒロの洩らした声に、皆はその名の者の姿を確認し、その場所へと駈け寄る。

しかし・・。

ブゥンッ

「え?・・・なに、これ?」

真っ先に辿り着こうと先を走っていたナナが、見えない壁に阻まれて、前に進めず困惑している。

他の者も、そこまで行きつくと、必死に押したり叩いたりして、壁を越えようとする。

それにようやく気付いてか、ジュリウスの方も、フッと笑顔を見せてから、見えない壁の近くまで歩いてくる。

「・・・みんな。久し振り・・だな。何故かそう言って差し支えない程、懐かしく感じる・・」

「ジュリウス・・・」

ユノが切なげに声を洩らすのに、ジュリウスは静かに目を閉じて、下を向く。

「・・知らなかったとはいえ、俺がしたことは・・・赦される事ではない。ラケルの甘言に乗せられ、命の限りを尽くして・・・ただ、みんなを守りたかった。しかし、結果は・・・このザマだ。・・・・すまない」

深く頭を下げるジュリウスに、皆かける言葉を見失ってしまう。

今回起こったことは、彼自身が最も嫌う、悪の所業だからだ。

「償いは・・・しなくては、ならない」

そう言ったジュリウスは頭を上げて、後ろへと振り返る。

そこには、影の様に黒く染まった荒神が、群れを成して、こちらへと向かってきている。

「・・・こいつは・・」

「『終末捕食』だ・・。俺とユノという特異点を中心に、世界を喰らいつくす下準備といったところだ」

冷静に解説するジュリウスに、皆違和感を覚える。

その顔が、余りにも穏やかであった為に・・・。

「・・ジュリウス、まさか・・・!?」

「・・特異点は、1つで十分。俺が・・・・あれらを、食い止める。『終末捕食』の完遂を阻止するために」

《っ!?》

先に声を出したヒロ以外の者達は、驚いて必死にやめさようと、見えない壁に張り付く。

「ふざけんな!どこまで、一人で勝手に決めれば気が済むんだ!?」

「そうだよ!あたし達も、今度は一緒に!!」

「あなたの罪は、私達も背負いますから!」

「一人で行かないで・・。ジュリウス!!」

そんな皆に、ジュリウスは感謝の涙を零して、優しく微笑む。

「ありがとう・・。だが、俺はそちら側には行けない。『終末捕食』に、決着をつけるまでは・・」

「そんな・・・」

ナナが俯く頭を、ヒロは優しく撫でながら、ジュリウスの前へと立つ。

「ジュリウス・・・」

「ヒロ・・。また、頼めるか?」

「・・・・ずるいな。僕が断れないのを、知ってるからって・・」

「・・すまない」

切なげに笑い合う二人。

そんな彼等を引き裂くように、軽く地響きが起こる。

「くっ!・・・・もう、時間がない!みんな、行ってくれ!!」

彼の叫びに、ブラッドは涙を流しながら、別れの言葉を、惜しみながら口にする。

「・・・・くそっ。・・・・ジュリウス。待ってるぞ・・」

「あぁ、ギル。今度は、ちゃんと戻る」

「・・・うぅ・・・・。ばいばい、ジュリウス・・・!」

「元気にな・・・、ナナ」

「早く・・・・帰ってきてくださいね・・。ジュリウス・・」

「シエル・・。みんなと、仲良くな・・・」

言い終えた者達は、壁から遠ざかるように、霧の中へと歩き出す。

その場から中々動けずにいたヒロも、沢山の言いたいことを必死に飲み込んでから、壁に拳を当てて、涙ながらも笑顔で一言伝える。

「・・・・・またね。・・・・・親友」

「・・・・あぁ。・・・またな、親友」

それに応えるように拳を重ねて、ジュリウスも笑顔で返事を返す。

 

ヒロが下がった後、ユノは手を胸の前に組んで・・抱いて、呼吸を落ち着けてから、彼に声を掛ける。

 

「・・・・行っちゃうんだ」

「・・はい。俺が行けば、あなたは助かる。『終末捕食』には、特異点が1つあれば・・・」

「そんな事、聞きたいんじゃない!」

「・・っ!?」

「・・ずっと会えなかったのに・・・やっと会えたのに、また・・遠くに行っちゃうなんて・・。どうして、自分ばかりを犠牲にするの!?」

「・・・・・英雄・・」

「え?・・・」

「あなたが話してくれた、青い月となった英雄の話・・。彼女が何故、その道を選んだのか、わかる気がします」

「・・・・どうして?」

「俺にも、自分よりも守りたい・・・大切な人達が、出来たからです」

「・・・ジュリウス・・」

「俺は、ロミオを守れず、黒蛛病になった時に、英雄にはなれないと思っていたんです。だが、今なら・・・・」

「・・・・・帰って来るの?」

「・・・約束は、出来ません」

「ブラッドのみんなには、ちゃんと言ったくせに・・・、ずるい」

「・・・・・しかし、これだけは約束します」

「なに?・・」

「・・・あなたを、守って見せます」

「っ!?・・・・・本当に、ずるい・・」

 

地響きが強くなってきたところで、ユノを待っていたヒロが手を伸ばしてくる。

「ユノさん!もう限界だ!早く!!」

「待って!・・・・あと、少しだけ・・」

そう言ってから、ユノは目を閉じて壁にゆっくりと手を当てる。すると、世界が不安定になったのか、壁はゆっくりと消えていき、ユノの手がジュリウスへと届いた瞬間・・、

「・・ん・・・・」

「んっ・・・・・・・」

彼を引き寄せて、彼女は唇を重ねた。

ほんの数秒の出来事の末、ユノはヒロに手を引かれて、ジュリウスとの間の地面は崩れ落ちていく。

彼の名を叫んだ二人の目に映ったジュリウスは、背中越しに手を上げて見せ、顔だけを少し振り向かせて、口を動かした。

それを最後に、再び強い光の中へと、吸い込まれていく。

 

 

一人残ったジュリウスは、己の中に感じる、特異点の力と、血の力を開放し、天高く声を張り上げた。

「おおぉぉぉぉぉぉーーーーーーーっ!!!」

キイィィィィィンッ

 

 

光の中から目を覚ましたブラッドとユノは、すぐそこまで迫って来ていた触手が、ジュリウスがいたであろう場所を中心に集まるのを目にする。

パキッ パキパキパキッ ゴゴゴゴォッ!!!

それは絡み合い、太く伸び、大きく・・・更に大きく、渦を巻くように伸び続け、フライアの天井や壁を吹き飛ばす。

ガァァーーーーンッ!!!

・・・静けさが訪れた頃に、目を向けると、それは巨大な木となりそびえ立っていた。

極東を見守るように姿を見せた大木は、その巨体から花の胞子のような、光る粒子を散りばめる。

その一部が、ユノに触れた瞬間・・、

「・・・あ・・・・痣が・・」

黒蛛病の、忌まわしき黒い痣は、その光に包まれるように、消えて無くなった。

 

それは、極東全域に広がり、黒蛛病で苦しむ人達を解放していく。

彼の想いが・・、世界を救ったのだ・・・。

 

 

極東の支部長室。

今回の事件の顛末を報告書にまとめていた榊博士は、ふとその手を止めて、大きく溜息を洩らす。

ラケルの謀略、ジュリウスが『終末捕食』を閉じ込めた『螺旋の樹』、黒蛛病からの解放・・・。

どこまでをフェンリルが公表するのか・・。

以前の事件を思い出し、榊博士は少しだけ憂鬱な気持ちになる。

(・・・・こんな事が、続いて良いのだろうか?・・・)

湛えられるべき者達を差し置いて、上層部は自分達を神のように謳うだろう。だがそれは、今回の首謀者であるラケルと、何が違うのであろう?

「人と神・・・。正しいのは・・、どっちなのだろうね・・」

そう言葉を洩らしてから、榊博士は窓に近付き、螺旋の樹を見つめる。

そこで、目線を落とした先で見たモノに、榊博士は優しく微笑んで、眼鏡をクイッと上げる。

「・・・・だが君達なら、良い答えを・・・見つけてくれるのかもしれないね」

 

 

ザスッ!

フライアの残骸の中で生き残った、ロミオが眠る庭園。

そこにやってきたブラッドは、ジュリウスの神機を、ロミオの墓石の隣に突き立てる。

偏食因子の暴走を抑える手袋を外して、ヒロは螺旋の樹に笑顔を向ける。

「・・・ジュリウス、任せたよ。・・・こっちは、僕等が守るよ」

その言葉に微笑みながら、シエル、ナナ、ギルも小さく頷く。

螺旋の樹は、光の粒子を纏いながら、静かに見守っていた・・。

 

 

荒ぶる神との戦いが続く世界で、少年達は、今日も武器を手に取り立ち上がる。

GOD EATER達の物語に、まだ終わりはない・・。

 

 

 

 

 





何とか、第1部『ブラッド編』を、無事に終わらせることが出来ました!
ここまで読んで下さり、ありがとうございます!

ここから2,3話番外編を掲載後に、『レイジ・バースト編』をスタートさせます!
・・・・少し休憩しつつw

ある一定まで書き終えましたが、ここからが本番だと思っています。
これから、ヒロとブラッド、ユウにクレイドル。多くの人を巻き込んで、物語を加速させていこうと思います。

いつも読んで下さり、時にメッセージを下さる皆さんの応援に励まされてます。
これからも、暖かく見守って下さればと思います!

GOD EATER2 ~絆を繋ぐ詩~を、これからもよろしくお願いします!



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番外編 彼の知らない1日

 

 

ジュリウスの力で、『終末捕食』が螺旋の樹に閉じ込められてから、1週間経った。

ヒロは起床してからしばらく、窓の外に見える螺旋の樹を眺めていた。

(君は・・・・今も、戦っているんだね・・。ジュリウス・・)

螺旋の樹の中、戦い続ける友を思うヒロ。

そんな彼の、特別な1日・・・。

 

 

少し遅めの朝食に降りてくると、団欒室で珍しい人に会う。

「ん?よぉ~、新米隊長~」

「リンドウさん」

珍しく団欒室で食事をとっている、リンドウと鉢合わせて、ヒロは隣の席に着いて、ムツミに声を掛ける。

「おはよう、ムツミさん。リンドウさんと、同じのを」

「は~い。少々お待ちくださいね~」

手早く準備をして、ムツミはお膳をヒロの前に置く。

「・・・・これだけ?」

「あ、はい。リンドウさん、お茶漬けだけですから」

そう言って下がって行ったムツミと、目の前のお膳を交互に見てから、ヒロは渋々箸をつける。

「ははっ。俺も歳かな~。朝は小食でよ。まぁ、食ってみろって」

「・・は、はぁ・・」

そう言って、ダシに漬かったご飯をほぐして、口の中へ掻き込む。

「・・・・あ、美味しい」

「だろ?」

しばらく黙って口の中へ流し込んでみると、空になる頃には、以外にも腹は満たされていた。

軽く息を吐いて手を合わせていると、リンドウが煙草を咥えて話しかけてくる。

「今回・・・大変だったな。俺は・・・ギリギリ駆け込んだだけで、たいして役に立たなかったからな・・」

「あ・・・・いえ。僕より・・・きっと、今も螺旋の樹の中で戦ってる、ジュリウスの方が、大変ですから」

「そうか・・・」

そう言ってから、リンドウは立ち上がって、軽くヒロの頭を撫でまわしてから、喫煙所へと移動する。

「なら・・・、あんまりシケた面、するなよ?笑顔だぞ~」

「え?・・・・」

そう言われて、ヒロは自分の顔を気にしだす。しかし鏡はないし、人に聞くのも気が引けたので、そのままトイレへと足を向けた。

 

「ん~・・・・・」

トイレの鏡の前で自分を見てみたヒロは、自分の表情が確かに硬くなっているのに気付く。

気付いてしまえば気になり、ヒロは頬の筋肉をほぐすように、伸ばしたり揉んだりしてみる。

そこへ、大便の所から出てきたコウタに、白い目で見られる。

「え?・・何?それ、新しい遊びか?」

「へ?あ!?こ、コウタさん!?い・・いや、これは・・」

慌てるヒロを見てから、そのまま鏡にも目を向けたコウタは、軽く溜息を吐いてから、手を洗い出す。

「誰かに、『シケた面、すんな』とか、言われたか?」

「え!?わかっちゃいます!?」

「図星かよ・・・」

洗い終わった手をハンカチで拭いてから、コウタは優しく笑みを浮かべてから、軽くデコピンを食らわせる。

ビシッ

「あたっ!?・・え?」

「顔の筋肉ほぐす前に、色々考えすぎてる、頭の中でも整理してみろよ?少しは、良くなるんじゃね?」

「は・・はぁ」

手を振りながら出ていくコウタを見送りながら、ヒロは自分が何か悩んでいるのかと、更に険しい表情になった。

 

 

「あ?表情だと?・・・それを、俺に聞くのか?」

「あ・・あはは~」

あんまりにも気にしすぎて、ヒロはついソーマに相談に来ていた。

しかし、彼に指摘された通りである。いくら棘が無くなってきたとはいえ、ソーマはそんなに表情が豊かな方ではない。

言われて今更気付いたように、ヒロは頭を掻きながら笑うしかない。

そんな苦笑いにも、ぎこちなさを感じ取ったのか、ソーマは溜息を吐いて立ち上がり、コーヒーを2つ用意してから、1つを手渡す。

「あ・・・ありがとう、ございます」

「取り合えず、無理に笑おうとしなくて・・良いんじゃないか?」

「・・・えっ?」

ソファーに腰を下ろしてから、ソーマはコーヒーに口をつけ、喋りかける。

「お前の今の悩みは、正直わからん。この際、どうでもいい」

「ひ・・酷い・」

「だが・・・・・、作り笑いは・・・見てる方が辛い・・・・らしいぞ」

「・・・・・・」

黙ってしまい、ヒロはコーヒーを飲み続ける。

自分は上手く笑えていないのかと認識すると、ヒロはコーヒーを一気に飲み干してからカップを置いて、ソーマに1礼して出て行った。

ほんの少しだけ・・・、恥ずかしくなってしまったのだ。

 

 

「・・・・それで、ここに来たんですか?」

「はい・・。このままじゃ、良くないと思いまして・・」

書庫にやってきたヒロは、「『上手く笑う方法』という本はあるか?」と、その場にいたアリサに聞いたのだ。

聞かされたアリサは、盛大に溜息を吐いて、眉間を指で撫でる。

「ヒロさん・・。はっきり言わせていただきますけど、そんな本は在りません。少なくとも、”ここ”には・・」

「そ、そうですよね・・。・・・あ、でも何で断言できるんですか?」

「へ?い、あ!?それは・・・・。いいじゃないですか!?」

「す、すいません!」

ヒロの指摘に過剰に反応を示すアリサ。以前探した経験が、あるからだが・・。

軽く咳払いをして、アリサは足を組みなおして、口を開く。

「あなたの悩みを解決する方法は、この書庫にはありません。・・・ですが、旧友に相談するのも、良いかもしれませんね?黙って聞いてくれる・・そんな、人に」

「黙って・・・・あっ!」

思い当たったのか、ヒロはアリサへと深々、頭を下げる。

「ありがとうございます!」

「・・・いいえ」

ヒロが去って行くと、アリサは暫く頬杖をついて、彼の出て行った扉を眺めた。

 

 

「・・・急だな。どうした?」

「あ、あの・・・・。ちょっと・・」

突然フライアへの訪問許可を求めてきたヒロに、レンカは肩眉を上げて、少し驚いて見せる。

しかし、断る理由も浮かばなかったので、レンカは手早く申請書を作成する。

「あの・・・急で、すいません」

「いや、構わない。お前は真面目だからな、たまには困らせられるのも、悪くはない。何か・・・思うこと、あるんだろう?」

「はい・・」

「なら、今日の休暇中に済ませて来い。・・・ほら。これを守衛に持っていけ」

そう言って渡された紙を受け取り、ヒロは笑顔を作って、1礼する。

「ありがとうございます!」

「あぁ・・。良い、休暇をな・・」

ヒロを見送ってから、レンカは少し考える様な表情をする。それに気付いたヒバリが、声を掛けてくる。

「あの・・・、どうされました?」

「ん?・・いえ。何でも・・」

そう言いながらも、難しい表情のままのレンカを気にしていると、ヒバリは無線を受けてから、驚きの表情を浮かべる。

「・・レンカさん!?この信号って!?」

「ん?どうしました・・?」

 

 

フライアの中へ入ったヒロは、すっかりボロボロになった壁をなぞりながら、庭園へと足を運ぶ。

ロミオと、ジュリウスに会う為に・・。

しかし、そこに先客がいるのを目にして、二人に話そうと思ったことが、頭から零れ落ちる。

「あ・・・あの・・」

「え?・・あら・・」

ロミオの墓前に花束を持ってきていたサクヤが、笑顔で立ち上がる。

「確か・・ヒロ君、だったわね?久し振り・・。ロミオの、葬儀以来かしら?」

「あ・・はい。サクヤさん。お久しぶりです」

丁寧に頭を下げるヒロに、笑顔のまま隣へと促すサクヤ。そして二人並んで座り、ロミオへと手を合わせる。

しばらく黙ってそのまま過ごしていたが、サクヤはゆっくりと立ち上がり、軽くヒロの肩を叩く。

「それじゃあ、私は行くわね?」

「あ・・もう、ですか?僕の事なら・・」

「話したいこと、あったんでしょ?ロミオに・・」

「それは・・・・」

口籠ったヒロを、目を細めて見つめてから、サクヤは頬を軽く抓ってぐりぐりと動かす。

「へ?・・ふぁ、はの・・・」

「こら!いい男が、台無しよ?・・・次に会う時には、いい顔見せて頂戴ね?」

そう言って手を離し、サクヤはウィンクしてからその場から去って行った。

残されたヒロは、軽く深呼吸をしてから、ロミオと・・・ジュリウスに話しかける。

「・・・ロミオ先輩、ジュリウス・・・また、来たよ」

そう口にすると、先程頭から零れ落ちたのとは違った、彼等に話したいことが思い浮かんでくる。

 

 

僕は・・・・、言われるまで気付かなかったよ。多分、事件が解決して、張り詰めてた気が緩んで・・・・、寂しくなったんだと、思う。

ずっと六人だったから・・・。

記憶を失くして、外の世界を駆けずり回っていた僕が・・・たった独りだった僕が、手に入れた大切なモノが、欠けてしまったことを、再認識させられたことに、落ち込んでいたんだと、思う。

 

やっぱり、寂しいよ・・・。ロミオ先輩・・・ジュリウス・・・。

 

でも、隊長の僕が、何時までもこんなんじゃ、駄目だよね?

だから、今日愚痴って・・・、明日から元気に、また頑張ろうと思う。

もしまた・・・、辛くなったら・・・。寂しくなったら、会いに来ても・・良いよね?

 

ロミオ先輩と、ジュリウスが守った世界を、今度は僕が・・守るよ。

それから・・・、

僕に、出会ってくれて・・・ありがとう。

 

 

極東に戻ってから、誰もいない訓練所に、ヒロは静かに入っていく。

電気をつけずに、ゆっくりと目を閉じると、ジュリウスと打ち合った日々が思い浮かぶ。

何だかんだと、ジュリウスとの訓練が1番多かったなと、今になって気付く。

ブラッドに入ってからの、自分を振り返ると、とても誇らしくなり、ヒロは自然と笑みを零す。

そこへ・・。

ヒュッ パシッ!

「っ!?・・・え?」

木刀が1本飛んできて、ヒロはそれを手にし、驚いてそちらへと顔を向ける。

天井の近くの窓から射す、青い月の光に照らされ、その人の顔を浮かび上がらせる。

「月が・・・綺麗だね。ヒロ・・」

「ゆ・・ユウさん!?」

「うん」

いつ戻ったのか・・・。神薙ユウが木刀を手に、姿を見せたのだ。

そして、笑顔のまま、ヒロへと優しく話しかける。

「・・うん。みんながいう程、ひどい顔はしてないね。でも・・、まだスッキリはしてないかな?」

「あの・・その・・」

戸惑うヒロへゆっくり距離を詰めてから、ユウは静かに木刀を前に構える。

「っ!?・・・・ユウ、さん・・」

「やろうか・・、ヒロ。少し体を動かせば、もやもやの解消になるかもしれないよ?」

「・・・はい!」

ヒロが木刀を構えたのを確認し、優しく微笑んでから、ユウは開始の合図に叫ぶ。

「本気で来なよ!?ヒロ!!」

「お願いします!!ユウさん!!」

そうして二人は同時に、木刀を振り下ろした。

 

 

ドサッ

ヒロが倒れると、ユウは軽く木刀を振ってから、戦闘の終了を示す。

そこへ、クレイドルとサクヤが苦笑しながら入って来る。

「や~れやれ。お前も、容赦ないな?」

「本当に。もう少し、手加減してあげるかと思ってたのに・・」

「ユウさんはレンカやソーマよりも、ある意味厳しいからな~」

「俺は、ちゃんと加減はしているぞ?」

「本気で言ってます?エミールさんが、本気であなたに恐怖してましたけど?」

「ふん・・・。なんでそんな面倒なことを、してやらなければならない」

「いや~・・・。ヒロ、思った以上に強いから、楽しくなっちゃって。ははっ」

クレイドルが揃って話しているその場で、ヒロは寝息を立て始める。

それに気付いて、全員彼へと注目する。

「ははっ。寝る元気があるなら、問題ないな」

「何か、笑ってるみたい・・。ふふっ」

「心配する必要、なかったかな?」

「ふっ・・、そうだな」

「きっと、彼も疲れていたんですね・・」

「まぁな。だが・・・、明日からは大丈夫そうだな」

「そうだね。・・・僕が、運ぶよ」

ユウがヒロを背中におぶると、二人の木刀をソーマが自然と手にする。そんな彼に、ユウは笑顔を浮かべたまま話しかける。

「ソーマ・・・・、この子は・・強くなるよ。きっと、僕やソーマよりも・・」

「ふん・・・・。知ってる・・」

そんな二人のやり取りに、他の者は驚きの表情を浮かべる。

が、すぐに微笑んでから、二人とヒロの周りに駈け寄る。

 

憧れの者達に囲まれて、ヒロの休日は過ぎていく・・・。

それは、彼の知らない、特別な1日。

 

 

 

 





こんな話でした!

疲れたヒロへ、ヤブレ同人作家モドキから、ちょっとしたプレゼント・・。

カッコつけすぎた・・。顔洗ってきますw




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番外編 新しい自分の為に・・

 

 

『ラケル・・・・。貴女・・・』

『お姉様・・。これからも二人で、頑張りましょう・・』

 

 

フェンリル本部、査問会。

その場で、レア・クラウディウスの処分が言い渡される。

『今回の件、知らなかったとはいえ、君の妹君であるラケル・クラウディウスの取った行いは、赦される事ではない。よって・・・、身内であり、プロジェクト責任者でもある君には、罰を受けてもらわねばならない』

「・・・・承知しております」

ゆっくりと頭を垂れるレアに、査問委員長は静かに頷いてから、判決を言い渡す。

カンッカンッ

『レア・クラウディウス。本部にて、2週間の拘留を言い渡す。尚、神機兵の開発プロジェクトも、事件を起こした元凶とみなし、研究の一切を凍結とする。・・・フライアに残ったデータの処理に2日ほど与える。拘留前に、全てこちらへ提出する様に・・。以上だ』

「謹んで・・・、お受けいたします」

結果を聞き終えた傍聴席の者達が退席し、査問委員会も退席する。

一人残されたレアは、小さく肩を震わせて、しばらくの間立ち尽くした。

 

 

極東の支部長室に訪れたレアは、榊博士へと、事の顛末を説明していた。

聞き終えた榊博士は、静かに息を吐いてから、手を前に組む。

「そう・・ですか。やはりプロジェクトは・・・、凍結しましたか・・」

「はい。・・色々と、便宜を図っていただき、ありがとうございます。望む結果とはいきませんでしたが、榊博士のお陰で、研究者としては生き残れそうです」

「それは、良かった。貴女のような優秀な研究者を失うのは、非常に惜しい事ですから」

微笑んで見せる榊博士に、レアも笑顔で応え、もう1度深く頭を下げる。

「もう、行きませんと・・。フライアでの最後の仕事が、残ってますので」

「そうですか。・・・何かありましたら、連絡を・・。出来うる限りの、協力をさせていただきます」

「ありがとうございます。・・・では・・」

そう言って、レアは支部長室を後にした。

見送った榊博士は、少し心配な表情を浮かべてから、持ち上げた腰をゆっくりと下ろした。

 

 

守衛に許可証を確認してもらってから、レアは懐かしのフライアへと入っていく。

それ程時間が経っているわけでは無いのだが、壁や床、天井などに残された戦闘の跡に、彼女は改めて事件があったのだと認識させられる。

馴れた足取りで自分の研究室へと向かい、扉を開けて中を確認する。

螺旋の樹が発生した影響か、部屋は引っ繰り返されたように散らかっていた。

ゆっくりと屈んで、散らばった書類を拾い集め、それらを必要なモノと不必要なモノに分けていく。不必要なモノは、デジタルデータが存在するので、シュレッダーへとかけ、必要なモノは持ってきたファイルへと収めていく。

その作業を繰り返しているうちに・・。

ポタッ

「・・・・あ・・」

不意に涙が、書類へと零れ落ちる。

無駄な行為と自覚しながらも、どんな些細なことも紙に落としたレア。それを処理しだして初めて、『本当に終わった』と、思い知らされたのだ。

ラケルの反乱、本部での査問会・・。いくらでも落胆するタイミングは存在した。だが、自分の・・・父の研究の一部を処分することこそが、レアの夢を砕くスイッチとなったのだ。

「・・・うっ・・うぅ・・・。くっ・・・・ふっ・・うぅぅ・・・」

溢れる涙を止められず、レアは書類に顔を埋めて、泣き続けた・・。

 

 

自分の部屋を処理し終えた後に、レアは1日目の終了前に、庭園へと足を運ぶ。

本当に最後になるかもしれないと思って、ロミオに手を合わせに訪れたのだ。

もう日は落ちて、青い月が、螺旋の樹の影を落とす。

その中に、レアは人影を目に留め、足を止める。

「・・・・あの・・」

「え?」

振り返ってきた青年の顔がはっきりしてくると、レアは驚きに声を震わせる。

「貴方は・・・・・、神薙、ユウ・・さん?」

「・・・どこかで、お会いしましたっけ?」

名を呼ばれたユウは、ロミオの墓前からゆっくりと近付き、レアへと向き合う様に立つ。

「い、いえ!?・・・初めて、お会いしたと・・。フェンリルに身を置いて、貴方の事を知らぬ人間は、いませんから」

「そうですか。・・改めまして、神薙ユウです」

「・・・・レア・クラウディウスと、申します」

「クラウディウス・・。そうですか、あなたが・・」

自己紹介を返してきたレアの姓に反応して、ユウはゆっくりと礼をする。

それから、ユウはその場を去ろうと歩き出したところで、レアはハッとして彼を呼び止める。

「あの!?・・・何も・・、仰られないのですね・・」

「え?・・僕がですか?」

そう言って振り返ったユウに対して、レアは小さく頷いて口を開く。

「私の妹・・・ラケルが、極東支部に行ったこと。貴方の・・・仲間を傷付けようと・・・」

何故か上手く話せなくなったレアは、子供のように俯いてしまう。

極東が誇る最強の一人、神薙ユウ。

レアは、知らずに彼に、恐怖していたのだ・・。

(怒られるのが怖いなんて・・・・。何て幼稚な・・・)

口を噤んでしまった彼女を見て、ユウは少し考えてから、優しく微笑む。

「今回、事件を起こしたのは、あなたではないと伺ってます。僕があなたを責めることは、何もないかと・・」

「いえ!?それは・・・」

「責めて・・、欲しいんですか?」

「え?・・・・」

小さく首を傾げるユウに、レアはまたも言葉を失ってしまう。

「生きているあなたが負う罰は、査問会で出たはずです。僕みたいな一兵士が、口出しすることなんて、ありませんよ」

「・・・・・はい」

「・・・罰を欲するより、自分に出来ることを・・見つめて下さい」

「あ・・・・・」

彼の笑顔と言葉に、レアは目を大きく開いて驚く。

ユウの瞳に、並々ならぬ説得力を感じて・・。

「あなたを必要としてくれる人達は、必ずいますから・・。それでは・・」

そう言ってユウは、庭園から出て行ってしまう。

その言葉を噛みしめるように、レアは胸に手を当て、それをギュッと握り締める。

それから、ロミオの墓前へと移動し、目を閉じて祈りを捧げた。

 

 

2日目の午前中に、レアはラケルの研究室へと訪れた。

そこに静かに佇んでいた、彼女の車椅子を優しくなぞってから、彼女のPCにアクセスする。

パスワードはかけられておらず、データの吸い出しはあっさりと終了する。

そのあっけなさに溜息を洩らしてから、レアは小型のスタンガンを取り出し電流をを流す。

PCが煙を上げて真っ暗になると、大きく深呼吸をしてから、レアは誰もいない部屋に礼をして、出て行こうとする。

 

『・・・お姉様。・・・・・いずれまた、ね』

 

いないはずのラケルに声を掛けられた気がして、レアは足を止める。だが、それを振り切るように首を横に振ってから、扉を開け放つ。

「いずれは・・・来ないわ、ラケル。・・・・・さようなら」

そう口にしてから、レアは部屋を出て行った。

 

 

極東のヘリポートに移動して、レアは作業を終えたことを伝えると、パイロットはヘリに向かって移動する。

どこか名残を惜しみながら、レアは極東へとゆっくりと頭を下げると・・。

「あっ!!いたーーー!レア先生ーーー!!」

「・・・あ・・・・」

聞きなれた声に顔を上げると、彼女の胸に飛び込んでくるナナが目に入る。

彼女を優しく受け止めながら、レアはその後ろから歩いてくるヒロ、シエル、ギルに驚きの表情を浮かべる。

「みんな・・・」

「何も言わないで行かれるなんて、ひどいじゃありませんか。レア先生」

シエルが微笑みながら声を掛けると、ヒロとギルもフッと笑みを見せる。

「ラケルがいなくなっちまった今、ブラッドの身内はあんただけだ」

「僕等に・・・・家族に何も言わないで、行ってしまうつもりですか?レア博士」

「・・・・私が、家族・・?」

ヒロの言葉を確かめるように口にしてから、レアは胸の中のナナへと視線を向ける。

小さく震えるレアに、ナナは満面の笑みを見せて応える。

「あたし達のー・・・、お母さん?みたいな人でしょ?レア先生!」

「・・・私は・・・・・」

涙を浮かべて、口元を押さえるレア。そこで初めて、昨晩ユウがいった言葉に意味を見出す。

 

『あなたを必要としてくれる人達は、必ずいますから・・』

 

「貴方達が・・・・そう、なのね・・。私にも・・、まだ、あったんだ・・」

そう言葉を洩らしてから、レアはブラッド全員を抱き寄せる。その顔に、笑顔を確認してから、皆優しく微笑んで見せる。

ヘリのエンジンがかかり、プロペラが回りだす音を聴いてから、レアはブラッドの皆から手を離す。

それから、涙を拭ってから、敬礼をして見せて、笑顔でウィンクして見せる。

「みんな、行ってきます!・・・遠く離れていても、いつも貴方達を思ってるわ!」

そんな彼女に応えるよう、ヒロを先頭に並んだブラッドも、笑顔で敬礼をする。

「行ってらっしゃい、レア博士」

「向こうでも、達者でな」

「あたし、メール送るー!」

「いずれまた、必ずお会いできること、楽しみに待っています。レア先生」

四人の言葉に小さく頷いてから、レアは背筋を真っ直ぐに伸ばしてから、ヘリに乗り込んだ。

空高く飛び上がったヘリを、ブラッドは見えなくなるまで、見送り続けた。

 

 

拘留が明けて、レアは本部の廊下を早足に歩いて行く。

その先に見知った顔を目にすると、小さく頭を下げ去ろうとする。しかし、相手の方がそれを許さず、声を掛けてくる。

「やぁ、久しぶりだね。拘留期間を終えたと聞いて、様子を見に来たところだよ」

相変わらず白々しい事を口にするグレム元フライア局長が、レアの身体を舐めまわすように見つめながら話しかけてくる。

「ご心配の言葉、痛み入ります」

「そう、畏まらなくていい。君と私の、仲じゃないか?」

グレムは嫌らしく口を耳元に近付け、レアの肩に腕を回す。

「どうだ?・・・・そろそろ、身体が寂しくなってきたんじゃないか?」

そう言ってレアの胸に手を伸ばしてきたところで、彼女はその手を抓り、肩にかかった腕からすり抜ける。

「痛っ!・・なにをするんだ!?」

手を擦りながら睨みつけてくるグレム。しかし、レアは凛とした表情で睨み返し、口を開く。

「これ以上の行動は、セクハラとして訴えます。今後のご自身の立場の為に、自重したほうがよろしいかと・・」

「なんだと・・・。貴様、誰に!?」

「必要なら!前回の関係の一切を、公表しても構いませんが!?」

強い眼差しに、グレムは目を反らしてしまい、レアはそれを確認してから、再び歩き始める。

そんな彼女の背中に、グレムは周りの目も気にせず叫びだす。

「今の貴様に何が出来る!?研究を失って・・・。貴様に何がある!?何もない女に、いったい何が出来る!?」

そんな彼の叫びを耳にしながらも、レアはフッと笑みを浮かべ前に足を進める。

「・・・・帰りを待ってくれる、家族がいるわ・・」

そう声を洩らしながら、彼女は、自分に出来ることを見つめながら、前へと歩み続けた。

 

 

 





レア博士の話も、なんとなく書きたかったです。
彼女のこれからの為に、こんな話・・いかがでしょうか?



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番外編 観測者の憂鬱

 

 

フェンリル極東支部長、ペイラー・榊。

彼は開発局長を兼任した、フェンリル唯一の支部長である。

元々が研究者だけに、支部長の業務より、研究をしたいのが本音である。

そんな彼の、憂鬱な1日が今日も始まる・・。

 

 

書類を積まれたデスクを眺めて、榊博士は朝のコーヒーを片手に、大きく溜息を吐く。

その紙束が、研究資料や実験報告書ならば、喜んで目にするのだが、実際はゴッドイーターの任務報告や、本部及び各支部への必要物資などの見積もり。

彼にとっては、魅力の欠片もない極東運営の為のものばかりだ。

人や荒神、研究対象を観察して喜んでいるだけの頃を懐かしみながら、榊博士はまたも大きな溜息を吐く。そこへ・・。

コンコンッ ガチャッ

「おはようございます、榊博士」

レンカが姿を見せて、一礼する。

「早速ですが、今日の予定を申し上げます」

挨拶もそこそこに、レンカは自分の手元のタブレット型端末を目にしながら、淡々と喋り始める。

「まず9:00より、資材倉庫の方で、届いた物資の確認と、こちらから受け渡す物資の確認をお願いします。普段は担当にお願いしているのですが、今回は第2サテライト拠点への分配品もありますので、今後の為にもそちらも含めてお願いします」

「そうか・・。今回から1度こちらを通すことに、なっていたんだったね。わかったよ」

「次に10:30より、食糧事情の一環として、地下の生産地区で新しく品種改良に成功した食材の試食と、生産区域の確認をお願いします」

「・・・今回は、なにかね?」

「今回は・・・、『ジャイアント茄子』ですね」

とりあえず量を稼ぐためとはいえ、大きくなれば味は落ちる。

それを思って、榊博士はまたも大きく溜息を吐く。

「ま、まぁ、茄子は味付け次第ですので・・。それを昼食の代わりとして、12:30より、午前任務に出ていた者達の報告書を確認し、判をお願いします。その後、13:00には終了してもらい、開発局の第1会議室にて、装甲壁の補修の為に、必要素材を改めて確認し、補修班の代表に指示をお願いします」

「・・レンカ君。休憩は・・?」

「試食の際に休んでいただければと・・。続いて、14:00より居住エリアの視察をお願いします。特に、C地区の住人から、『電気の供給が悪い』と報告もありますので、そちらを中心に回ってもらいます」

「そ、そうかね・・。電気の供給が悪いのは、よろしくは無いね」

頬を伝う汗をそのままに、榊博士は顔を引きつらせる。

「視察が終わりましたら、こちらで事務作業を行っていただきます。今日中にお願いします。以上です・・」

「今日中!?・・・かね・・」

「はい。今日中に、です」

目の前の紙束を見回してから、榊博士はまたも溜息を洩らす。そんな彼に一礼し、レンカは声を掛ける。

「それでは、俺も仕事がありますので・・」

「君は、ついてこないのかね?」

「仕事がありますので。では、失礼します」

そう言って、レンカは部屋を後にする。

一人になった榊博士は、壁にかけられた時計を見て、自分の手の中の飲みかけのカップへと視線を移動させる。

それから、立ち上がって洗い場まで移動するとカップを置き、少しだけ背筋を伸ばしてから、部屋を後にした。

 

 

「それでは支部長、またお願いします」

「いえ、こちらこそ・・」

今回の取引相手、北京支部の者へと挨拶を済ませ、榊博士は運び込まれた荷を見上げる。

軽く撫でてから、荷物番の者達へと顔を向けて、小さく頷いてから声を掛ける。

「それでは、後はお願いするよ」

《はい!ご苦労様です!!》

元気の良い返事に笑顔を浮かべてから、榊博士は移動を始める。

少しだけ肩が凝ったのか、軽く揉みながら・・・。

そのまま神機保管庫に差し掛かったところで、ナナとシエルに出くわす。

「あぁ!榊博士だ!!」

「お疲れ様です、支部長」

何故かゴッドイータを目にすると、ホッとしてまう榊博士。ずっと彼等を相手に、研究を重ねてきたからであろう。

「やぁ。二人は、任務の帰りかい?」

「うん!榊博士は?」

「ナナ!・・申し訳ありません、支部長」

「いや、良いんだよ」

ナナの馴れ馴れしい態度を謝罪してくるシエルに、榊博士は手を前に出して、笑顔を見せる。

「私も色々忙しくてね・・。今度時間を作るから、ブラッドのみんなで遊びに来ると良い。お菓子も用意しておくよ、ナナ君」

「本当に!?やったー!」

「お気を遣わせて、申し訳ありません。隊長に伝えておきますので、その際には隊長に」

「あぁ。ヒロ君にも、よろしく伝えてくれたまへ」

そう言って手を振ってから、榊博士は再び歩き始める。

後ろの方でシエルに注意されてる、ナナのはしゃぎ声を耳にしながら・・。

 

 

地下の生産地区から戻った榊博士は、お腹をさすりながら、口を押えてゲップをする。

(・・・・少人数であの量は・・、多すぎたのでは・・)

大量の茄子の炒め物を、3,4人でたいらげたので、小食の榊博士には少々きつかったようだ。

ようやく辿り着いた支部長室に入って席に着くと、大きく深呼吸して座席に腰を深く預ける。

そこへ、ノックをせずに扉を開けて、ソーマが顔を見せる。

「・・・戻ったのか」

「や、やぁ・・ソーマ君。どうかしたかい?」

「あぁ」

一応苦しそうにしているのだが、ソーマは特に心配をするでもなく、自分の要件を話しだす。

「以前俺が話した件だが、やはり『原初』の野郎の素材が、必要不可欠と判断した。・・おっさんの読み通りだな」

「そうか・・。今だ目撃情報が少ないし、運よく拾った素材で調べた程度だったけど、結果は変わらなかったかね」

「あぁ・・」

手に持っていた報告書を榊博士の目の前に置いて、ソーマは部屋の出入り口へと移動する。

「詳しい事は、そいつに書いてある。リンドウが戻り次第、俺とアリサも、しばらく極東を離れるつもりだ。そのつもりでいてくれ」

「了解したよ。手配はしておくから、出る前に一声かけてくれるかい?」

「あぁ」

そのままソーマが出て行こうとするのを見て、榊博士はもう一声かける。

「ソーマ君。・・・コーヒーでも、一緒にどうだい?」

「・・・・断る」

たった一言を残して、ソーマはあっさりと出て行ってしまう。そんな彼に苦笑しながら、榊博士は小さく溜息を吐いて、レンカが置いて行ったのであろう任務報告書を手に取り、1つずつ目を通し始める。

 

 

開発局での会議を簡単に済ませた榊博士は、神機開発工房を訪れ、作業の音に耳を傾けていた。

研磨機の鉄をする音、溶接の火の粉が飛び散る音・・。

神機の生みの親ともいえる榊博士の、本日唯一の休憩時間となっている。・・予定にはないのだが・・。

「・・・ん?榊博士?なにやってんですか?」

「やぁ、リッカ君」

休憩しようと出てきたリッカに、榊博士は軽く手を上げて応える。そんな彼の疲れた顔を見て、リッカは苦笑いを浮かべて、側へと歩み寄る。

「また、サボりですか?レンカ君に怒られますよ?」

「そう言わないでくれないか。朝から予定が詰め詰めでね・・、少しだけ時間を作って休むぐらいは、勘弁してほしい」

「こんなうるさい作業場を、休憩場所に選ぶなんて・・、博士も変わってるなー。まっ、程々にね~」

「ありがとう、リッカ君」

手をヒラヒラさせながら去って行くリッカを見送って、榊博士は鉄の焼ける匂いを思い切り吸い込み、立ち上がる。

そうして、次の予定を消化すべく、移動をし始める。

 

 

「・・・・つ・・、疲れた・・・」

夕方、支部長室に戻ってきた榊博士は、ソファーの上に倒れ込む。

居住区を視察に行った際に、C地区の代表と話すつもりが、D地区の代表が殴り込んできて、まさかの取っ組み合いが展開されたのだ。

荒事にめっぽう弱い榊博士は、それに巻き込まれもみくちゃにされ、たまたま見回りをしていたタツミとブレンダンに運よく割って入ってもらい、事無き得たのだが・・・。

榊博士は、1日の疲労困憊で、もういっぱいいっぱいなのであった。

しばらく顔を突っ伏していたが、榊博士はゆっくりと顔を上げて、自分のデスクの上を見る。

山と積まれていた書類の束が、何故か1つ増えているように見えた。・・実際、増えているが・・。

「・・・・・はぁ・・」

本日何度目かの溜息を吐いてから、榊博士は立ち上がり、カップに新しいコーヒーを注いでから、口にする。

それから、切なげに窓の外を眺めてから、夜の訪れを見守りながら声を洩らす。

「・・・・・いっそ・・、自分を観察してみるかな・・・」

『自分程興味のないモノはない』と思っていた榊博士。彼の口からこんな言葉が飛び出るなど、旧友であるヨハネス・フォン・シックザールですら、予想しえなかったであろう。

 

『実に・・興味深いな。ペイラー・・』

 

「よしてくれ・・・、ヨハン」

想像の中で笑われた気がした榊博士は、独り言を口にした後、デスクへと移動する。

それから、書類の山から1枚ずつ手に取り、確認し次第、判を押す仕事にとりかかった。

 

 

朝日が顔を照らし出した頃、レンカがノックの後に、部屋へと入って来る。

「おはようございます、榊博士」

「・・・お、おはよう」

寝不足で肩を震わせながら、榊博士は無理に笑って見せる。

研究での徹夜は頼んでまでするが、別の理由での徹夜は、彼には難しいようだ。

処理を終えた書類を確認してから、レンカはフッと笑みを浮かべて小さく頷く。それは、休んでも良いのかと判断しかけた時、部屋に新たな書類を運んできた者を見て、榊博士は落胆の表情となる。

「こっちも運んでくれ。・・ありがとう。それでは、今日の予定ですが・・」

「・・・・勘弁・・、してくれないかい?」

「・・・残念ながら。支部長ですから・・」

そう答えてから、レンカは淡々と予定を読み上げる。

呪いの言葉を耳にするように、榊博士は手にしているカップをカタカタ震わせて、1日の恐怖に身を縮めるのだった。

 

1番偉い人だからこそ、1番大変だったりする・・。

真面目な彼の犠牲のお陰で、極東支部は正常に活動し続ける。

 

 

 





2になっても榊博士が支部長やっているのを見て、不憫に思ったのは、私だけだろうか?w

極東の為に、頑張れ『星の観測者』!


結局3話も引っ張りましたが、次から『レイジバースト編』を開始します!
さぁ、いったれ!ゴッドイーター!!




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レイジバースト編
48話 西へ東へ・・・


 

 

静けさに支配された、雪山の開けた場所。

そこで、一人の男が、右腕を押さえて苦しみの声を上げる。

「ぐぅ・・・・・・が、がぁ」

ゴッドイーターの象徴である腕輪の隙間から、黒ずんだモノが脈を打つ。

偏食因子の浸食。それが、彼を苦しめているようだ・・。

そこへ、赤いフードを深くかぶった少女が、大きな鎌の形をした神機を手に現れる。

「・・・・・対象を発見した。これより、任務へと移行する」

『了解しました』

無線を切ってから、更に近寄り、少女は鎌を振りかぶって、男へと話し掛ける。

「・・・言い残すことは、あるか?」

「くぅ・・・『処刑人』、か?・・・なら、1つだけ・・。娘に・・・・がぁ、『すまない』・・くっ・・・と」

「・・・・わかった」

返事をしてから、少女は一気に鎌を振り下ろす。

ザシュッ!  トサッ

腕輪事右腕を斬り落とした後、少女はもう1撃と、神機を構える。しかし・・・。

「ぐ・・・・があぁぁぁぁっ!!!!」

「・・・・ちっ」

急に叫びだした男の身体が、徐々に黒く変貌しだす。

それに舌打ちしながら、少女はあらかじめ確認していた、彼の神機の所まで飛びのき、自分の神機を捨てて、それを手に取る。

バキッ バキバキッ

「くぅっ・・・・ぐぅうぅっ!!」

拒絶による浸食が、彼女の腕に絡みつき、荒神化を始めようとする。だが、それは徐々に治まっていき、彼女が呼吸を落ち着ける頃には、神機は彼女の手に馴染む。

「・・・・ふっ!!はぁぁっ!!!」

ドスッ! パキィンッ

完全に荒神化する途中の男の胸に、彼自身の神機を突き立てて、少女は的確にコアを破壊する。

その瞬間、オラクル細胞は霧散化を始め、彼の残った体は、雪の中へと倒れ込む。

「・・・・・ふぅ・・・」

彼が動かなくなったのを確認してから、少女は彼の神機を手放す。そして、投げ捨てていた自分の神機を拾い上げてから、無線を繋ぐ。

「・・・対象を排除した。・・・任務完了」

『ご苦労様でした。今、迎えを送ります』

「・・・了解」

無線を切ってからしばらくして、少女は斬り飛ばした右手の側へと歩み寄り、腕輪をゆっくりと持ち上げる。そして・・・、

キイィィィィンッ!

『パパ、頑張ってね!早く帰って来てよ!?』

「うっ・・・・!!」

感応現象が彼女に、持ち主の思い出を伝える。

それはほんの些細な日常。しかし、持ち主の男にとって、賭けがいのないもの・・。

それを思いながら、少女は優しく腕輪を胸に抱く。小さく描かれた、彼であろう絵を見つめながら・・・。

しばらく静かにその場で腕輪を抱いていると、ヘリが頭上へとやって来る。

『お待たせしました、リヴィさん。乗り込み次第、フェルドマン局長の所へ・・』

「わかった・・」

ヘリが降り立つのを眺めながら、リヴィ・コレットは小さく声を洩らす。

「・・・・極東支部に・・か・・」

 

 

ラケル・クラウディウスが起こした『終末捕食』は、『特異点』ジュリウスによって、2つの『終末捕食』の受け皿となる螺旋の樹の形成によって収束した。

「彼が戦い続ける事で、『終末捕食』を食い止めている」という極東支部長の主張により、フェンリル本部は、螺旋の樹を『平和の象徴』として、人類に危険は去ったと発表した。

多くの者達の奮闘によって、世界は救われたと・・・そう思われていた。

しかし・・・・、事件はまだ、終わっていなかった。

誰も予想し得なかった事が待つ未来へ・・。

GOD EATER達の物語は再び加速しだす。

 

 

 

朝早く起きたシエルは、身形を鏡の前で何度も確認してから、自分の部屋から出る。

昨日正式に移動が終わり、今日から極東支部所属となったブラッド隊。

それを良き日にしようと思い立ったシエルは、早めに起きて、ヒロを起こそうと考えたのである。

ヒロの部屋の前についてから、自分のリボンや髪形を何度か直して、軽く咳払いをするシエル。それから大きく深呼吸をしてから、控えめにノックをして声を掛ける。

コンコンッ

「・・・ヒロ、お迎えに上が・・・、迎えに来ました。その・・、起きてますか?」

声を掛けてから数秒・・。返事がないのを確認してから、シエルは小さく息を洩らして、ヒロの部屋へとそっと入る。

素早く扉を閉めると、ヒロのベッドに、なるべく見ないように近付いてから、腰を下ろす。

「あの・・・、ヒロ?朝です・・。起きてくれると、ありがたいんですけど・・」

そう言いながら優しく彼を揺すると、その手が布団に吸い込まれるように埋まっていく。

「・・・・・え?」

人体にはありえない弾力に、シエルはおそるおそる布団をはぐってみる。すると、そこには・・・。

「・・・・・・・・・・・人形・・」

毛布を丸めて紙に書いた顔が張られた、ダミーだった。

 

「・・・・・きゃあぁぁぁぁーーーーーーっ!!!!」

 

シエルの叫びに驚いて、同じブラッドの区画に部屋を持つギルとナナは、飛び起きて表へと顔を出す。

「なんだ!?どうした!?シエル!!荒神か!?」

「・・・・どうしたの~・・くあっ。また、カルビに咬まれた~?」

寝惚けながら目を擦るナナと、何事かと周りを警戒するギルに、シエルは涙目になって、ダミー・ヒロ人形(毛布)を引きずってきて、声を上げる。

「ヒロが・・・・、攫われましたー!!」

「「・・・・・・・はい?」」

朝5:30の悲劇に、シエルが極東中を駆け回る、ちょっとした事件となった。

 

 

ガタガタと荷を揺らしながら、車は坂を上り続ける。

そんな事は何のそのといった感じで、運転するリンドウは、口笛を吹きながら楽し気に走らせる。

「いや~、朝早いのも中々いいもんだろー?少し冷たい空気が、身を引き締めるこの感じ・・。旅の楽しみの1つだよな~」

そう言って、助手席に座るアリサに目を向けると、彼女は上り始めた太陽を見つめながら答える。

「そうですね。少しゆったりとした時間を楽しめるのは、とても良いです。最近働きづめでしたし・・・」

彼女がそのまま荷台へと顔を向けると、黙って座っていたソーマが、「ふん」と鼻を鳴らしてから首を鳴らす。

「どうでもいいが、安全運転で頼むぞ。替えのきかない機材もあるんでな」

「任せとけって、ソーマ博士。何年運転してると思ってんだよ?」

「ふん・・・、どうだかな」

そんな会話を楽しむように、リンドウは再び口笛を吹きだす。

そこで、いい加減諦めたという様に溜息を吐いてから、荷台に転がったヒロが声を掛ける。

「・・・あの、もう良いですから・・。逃げませんから・・。縄、解いてもらえませんか?」

そう言った彼は、布団に簀巻きにされて、その上にソーマの足で押さえつけられていた。

・・・要するに、拉致られたのである。

「おっ?もう良いのか?いやいや~。随分とその格好のままでいたから、お前さん、癖にでもなったのかと思って、気ぃ遣ったんだがな~」

「そんな訳ないです!?大体、突然襲い掛かられて、簀巻きにされて連れ出されたら、誰だって抵抗するでしょ!?後!ソーマさん、そろそろ本当に痛いです!足どけて下さい!」

「・・・悪かったな」

ソーマが足を下ろしてから、手早く縄を解いてやると、ヒロは布団から抜け出し、身体を伸ばしたり曲げたりしてから、剥れた表情で荷台の席に着く。

「まぁまぁ、そう怒るなよ~。今日から同じ極東支部の正式な仲間になったんだから、楽しいピクニックに誘いたかった訳だよ?俺は・・」

「ピクニック・・・」

その言葉に反応してか、ヒロはその場に立ちあがって、大きな声で叫んだ。

「これの・・・、どこがピクニックなんですかーーーーっ!!!!」

「おぉ~、ビックリした~」

「元気ですねー、ヒロさん」

「うるせぇぞ。・・座ってろ」

ヒロの叫んだ声は、木霊して遠くへと響き渡る。

だが、それが極東支部に届くことはないだろう。何しろここは・・・・極東支部から、すでに300km近く離れた、山岳地帯なのだから・・。

 

 

作戦指令室で溜息を吐いたレンカは、落ち着かないシエルを捕まえてきたギルとナナに顔を向けて、喋りかける。

「今、リンドウからメールが届いた。『ちょっと、行ってくる!(ブラッドの隊長さんを、借りるな)』だそうだ」

「は、はぁ・・・」

「な~んだ。ヒロは、リンドウさんと一緒に行っちゃったんだ~」

「・・・・・・・」

ギルが今一理解していないのを納得させるため、レンカは彼等の目的を伝える。

「リンドウ・・・と、アリサとソーマも一緒だが・・。あいつ等はクレイドルの仕事で、旧中国地方へと向かった。・・・・はぁ・・。ヒロを連れてな・・」

「・・そいつは、ヒロも納得済みなんっすか?」

「いや、強制だ。まぁ、あいつの性格上、諦めてると思うが・・」

「あぁ~、わかるかも~・・」

ヒロが溜息交じりに、『わかりました』と言う顔を想像し、ナナとギルは苦笑してしまう。

そこで、ずっと黙って聞いていたシエルが、恨めしそうにレンカに視線を向けてから、口を開く。

「・・・・・いつですか?」

「なに?」

「・・・いつ、帰って来るんですか?ヒロは・・」

聞かれてから少し考えて、レンカは苦笑いを浮かべて答える。

「おそらく・・・・、早くて1週間といったところか?」

「1っ!!週間・・・・・・・・」

その言葉を最後に、シエルはその場で気絶してしまう。

シエルを掴んでいたギルは、その様子に溜息を洩らし、ナナはシエルの頬を指でつついて遊ぶ。

「とにかく・・・。朝早くから、すいませんでした。俺等は・・・まぁ、これで」

「失っ礼しま~す!!」

「あぁ。今日も頼んだぞ」

ギル達が去って行った後、レンカは自分のデスクに頭を落とし、盛大に大きな溜息を吐いた。

 

 

少し緩やかな道に落ち着いた頃に、ヒロは三人に向けて、質問をする。

「それで・・・そろそろ、目的を教えてもらえませんか?」

「ん?・・・・おぉ!?忘れてたなー!?」

リンドウがわざとらしく大きな声で言うと、アリサとソーマは同時に溜息を吐く。それから、ソーマが閉じていた目を開けて、説明しだす。

「俺達は今、旧中国地方に向かっている。極東が『日本』と呼ばれていた頃のな。そこで、俺達クレイドルが追ってきた、『原初の荒神』の素材を手に入れるのが、今回の旅の目的だ」

「・・・『原初の荒神』?」

聞きなれない言葉に、ヒロは首を傾げる。それに答えるために、ソーマは話を続ける。

「従来の荒神は、オラクル細胞同士が交じり合って成長を遂げた細胞を中心に、形を成している。交じり合うことによって学習する・・・。それが、普段相手にしている荒神だ。だが、『原初』は違う。特殊な地域で、交じりっ気なしに成長し、学習能力に特化した細胞、『レトロオラクル細胞』で形を成した荒神だ。全ての始まり・・・原点という意味で、『原初』って訳だ」

「・・は、はぁ・・。それが、その・・・、旧中国地方にいるって・・ことですか?」

「そうなるな・・」

ソーマが頷いたのに合わせて、今度はアリサが口を開く。

「今後、荒神に対して私達が『有効』となるモノを作り出すのに、その『レトロオラクル細胞』が必要になってきます。携帯式簡易シェルターや、自動形成を行う装甲壁などですね・・・。それの研究を進めるためには、『原初の荒神』の素材が、必要不可欠という判断を・・・ソーマ博士がしましたので」

「・・・博士はよせ」

ソーマに睨まれてから、アリサが笑いながら顔を引っ込めると、リンドウが煙草を咥えながら話し出す。

「まぁ、細かいことを気にするよりは、いつも通り荒神を倒すって考えてくれていい。・・・俺達三人で手が余りそうだったんでな。期待の新人を巻き込ませてもらったわけだ。どうだ?楽しいピクニックだろ?」

「もう・・・ピクニックが何なのか、わからなくなってきました」

ヒロが頭を捻っている様子を、バックミラーで確認しながら、リンドウは煙草に火をつけて笑い出す。

「はははっ。まぁ、気楽にいこうぜってことだ。とにかく、現場付近に到達するには時間が掛かる。何にもねぇが、旅を楽しもうや」

「・・・はい、わかりました」

彼の言葉に軽く息を吐いてから、ヒロはようやく笑みを零してから、車から見渡せる景色を眺める。

ほんの少し・・・・、楽しくなってはきたのだ。

四人を乗せた車は、その車体を揺らしながら、目的の場所へと走り続ける。

 

 

 





さぁ、『レイジバースト編』の始まりだ~い!

下手糞な文章に、またお付き合いください!!



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49話 昔語りの妖魔

 

 

極東から遠く離れた山中。

手元のタブレット型端末に映される映像と見比べながら、ソーマは土をゆっくりとなぞる。

その指の先には、屈んでいるソーマをすっぽり収める程の、大きな足跡があった。

「どうですか?」

「・・あぁ、間違いないな。おそらく、2,3日以内のモノだろう」

「なら、明日には追い付けそうですね」

「そうだな・・」

近隣を警戒していたアリサと話しながら、ソーマはゆっくりと立ち上がり、車へと足を進める。それに合わせて、アリサも構えた神機を下ろして、後に続く。

「ん?おぉ!飯、出来てるぞ!」

キャンプの準備を済ませて待っていたリンドウが、手を上げて二人に応える。その隣で、何故か項垂れているヒロ。

その様子を見てから、アリサとソーマは溜息を洩らす。

「何したんですか?リンドウさん」

「あ?何もしてねぇぞ。なぁ。楽しかったよな?料理」

「・・・・はい・・。アクロバティックでした」

「・・・・そいつは、食えるんだろうな?」

ヒロの背中をバンバンと叩いて笑うリンドウに、アリサとソーマは『胃薬はあったか?』と考えるのであった。

 

 

その頃、極東では・・・。

 

団欒室での食事時、シエルとエリナは、ヒロのいない憂鬱な日々に、溜息を洩らしていた。

そんな二人の重苦しい空気に、慣れてしまった周りの者達は、いつも通りに談笑しているのだが・・。

しかし、この状況をほっとかないのが、やはり彼・・・真壁ハルオミである。

「よっ!お二人さん!溜息ばかり増えると、早くに老け込むって聞くぞ」

いつも通りに爽やかな笑顔で話し掛けるハルに、シエルとエリナはゆっくりと顔を向ける。

「ハルさん・・」

「ほっといて下さいよ・・」

そっけなく答える二人に、ハルは両の手を肩まで上げて、首を横に振り、わざとらしく息を吐く。それから、背中に『ドーン!!』とか効果音が付きそうな勢いで、カッと目を開き声を上げる。

「ほっとけないな・・。何故なら!ヒロは、可愛い女の子が好きだからだ!!」

チャーチャララチャ~♪ジャッジャン♪

「「・・・・はい?」」

《(また・・・始まった・・)》

二人が疑問に首を傾けていると、周りの全ての者が心の中で、別の意味で溜息を吐く。

「いいか?俺は・・・、ヒロの事はよ~くわかってる。好みの女性の、部位までもな!」

「「こ、好みの!?」」

《(あ・・・、食いついちゃった)》

ハルの発言に立ち上がったシエルとエリナ。そんな二人に、ハルはフッと笑って見せる。

「俺とヒロは、女性について語りあかした仲だ。・・・残念なことに、今好きな女の子がいるかどうかまでは、聞けなかったがな・・。だがしかし!あいつが女性の何処に、魅力を感じるかは、はっきりとわかっている!!」

「ヒロの好み・・・」

「先輩が・・魅力を感じるところ」

思わず後ろ脚を引いて構える二人。その勢いで、椅子がギギッと音を立てる。

そしてハルは、その答えをビシッと1点を指差して、高らかに宣言する。

「ヒロの好み・・・、それは!しなやかな、『手』だよ!!」

「「・・『手』!?」」

《(『胸』じゃないんかーーーい!!?)》

心を打たれたかのように驚くシエルとエリナ。だが、周りは心の中で、予想外な彼の答えに、ツッコんでしまう。

「わからなかったか?あいつが、もっとも女性を意識してしまう瞬間・・。それは、ジーナちゃんの・・・しなやかで真っ白な『手』だろ!?」

「「なっ!?・・・ジーナさん!?」」

「ん?・・あら、私?」

タイミングよく席に着いたジーナが、シエルとエリナを見る。それから、側に立つハルに視線を移動させてから、察したようにフッと笑みを浮かべる。

「ふふっ、そうね~。”ヒロ君”は、私にメロメロだから」

《(察してるーーー!!尚且つ、揶揄って楽しんでるーー!!)》

そんな彼女を、シエルとエリナは、悔しそうに睨んでから、団欒室から飛び出していく。

「おっ?元気になったみたいだな~」

「あら、もう終わり?残念・・ふふっ」

ハルとジーナだけが楽しんだだけのような件に、周りの者達は、『不憫な・・』と思うのであった。

 

ダダダダダッ

「ん~?・・・なんだ~!?」

「よろず屋さん!1番高級な、ハンドクリームいただけますか!?」

「私には、色白になる乳液下さい!!」

「な・・・・あ・・、ま、毎度~」

 

 

 

「『キュウビ』・・ですか?」

「あぁ」

食事後に、アリサが簡易シャワーを浴びている間に、ソーマはヒロへと、標的の情報を話していた。

「漢字で書くなら・・『九尾』だな。3本の尾と、奴が形成する6本の炎の尾・・。合わせて、9本の尾を持つことから、そう名付けられた。後はまぁ、極東の昔語りに出てくる化け物からも、取っているらしい。『九つの尾を持つ狐』・・」

「狐・・ですか。似てるんですか?」

「まぁ、見えなくはないな・・」

焚火に、拾って来た木片を投げ入れながら、ソーマは答える。

昔語りの化け物。それを想像しながら、ヒロは少しだけ身震いをする。ただ、彼の頭の中の化け物は、すでに狐ではなく恐竜に近いモノではあるが・・。

そんなヒロに、ソーマはフッと笑み浮かべてから、車の方を指差して口を開く。

「そろそろ交代だ。お前はリンドウを起こして、寝て来い」

「あ・・・はい。じゃ、じゃあ、失礼・・します」

妄想が膨らんだのか、ヒロはビクビクしながら、テントへと移動する。そんな彼の背中の頼りなさ気な雰囲気に、ソーマは戦闘の時とのギャップに苦笑するのであった。

 

「・・・・わぁっ!!!」

「きゃぁぁーーーーっ!!」

「はっはっはー!・・て、おい?ヒロー?」

「リンドウー!!」

 

 

朝方移動を開始した一行は、山道を抜ける手前辺りで、新しい足跡を発見する。

その足跡に手を当てて、リンドウは神妙に頷く。

「・・・んー。まだ新しいな・・。もう大分近くだろうな」

「わかるんですか!?」

「いや、わからん」

「・・・え?」

あっけなく否定されて、ヒロは固まってしまう。だが、その言葉に根拠があるかの如く、ソーマとアリサは自分の神機の準備を始める。

「ヒロさん。神機の準備を」

「え?あれ?・・・でも」

「こいつの感は、当たるんだよ」

長い付き合いの二人が言うのであればと、ヒロは慌てて自分の神機を準備する。それから、リンドウが四方を見渡してから、スッと指した方向へと、走り出す。

走り出して早々気になって、ヒロはリンドウへと声を掛ける。

「あの!リンドウさんは、神機を・・」

「ん~?おぉ、そういや~知らないんだったな。まぁ、すぐにわかるさ」

「は、はぁ・・」

意味深な笑いを浮かべるリンドウに首を傾げながら、ヒロは三人に遅れまいと、走る足を速めた。

 

 

瓦礫の中を慎重に移動するソーマは、目を凝らしながら舌打ちをする。

「ちっ・・・。探すのが面倒だな・・。ユウがいりゃ、すぐ見つけてきやがるのにな」

「その場合、あいつが一人で片を付けそうだがな~」

「そうですね。ユウは何にしても、早いですから」

三人がそうボヤくのを耳にしながら、ヒロは密かに興奮していた。

ユウの名前を聞くと、何故か体が熱くなる。

憧れの強い者に向ける純粋な感情は、彼の戦う原動力の1つとなっているのかもしれない。

しばらくの捜索の後、先頭を歩いていたソーマが、足を止めて手を上げる。

「・・・・いたぞ」

その言葉に身を屈めたリンドウとアリサに倣って、ヒロも頭を低くする。

ソーマが崩れた建造物の壁に背中を預けて、リンドウ達へと合図する。それに従って、三人も壁際まで駆けていき、隙間からそっと相手を伺う。

『原初の荒神』キュウビ。その体を丸めて、呑気にも寝息を立てている。

その様子に『しめた』と思ってか、リンドウは作戦を皆に伝える。

「寝ててくれるなら、それに越したことはねぇ。先手を打たせてもらうか。ソーマ、あいつの背後に回ってくれ。アリサ、銃型でキュウビの頭が狙える位置に陣を取ってくれ。そっちに意識は持ってかせねぇようにする」

「了解です」

「わかった」

二人が頷くと、リンドウはヒロへと顔を向け、軽く肩を叩く。

「ヒロ。お前さんは、俺と一緒に正面から行くぞ。1撃めは俺とヒロ、その後にソーマ。最後にアリサのバレッド。相手が動きを見せてからは、各自の判断に任せる。いいな?」

「了解です!」

ヒロの元気のいい返事に、リンドウは笑みを浮かべながら煙草に火をつける。煙を一吹きしてから、懐かしむように語りだす。

「アリサ、ソーマ・・・立派になったもんだな」

「・・何ですか、急に」

アリサが笑いながら聞き返すと、リンドウは煙草を咥えたまま、右肩を壁についてすがる。

「お前等と第1部隊をやってた頃が、懐かしく思えてな・・。きっと、ヒロの影響だろうな」

「え?僕、ですか?」

「あぁ。お前さんを見ていると、まだ新人だった頃のユウを思い出す。それを楽しんでたら、ソーマやアリサの事なんかも、思い出してな・・」

「リンドウさん・・」

ユウに似ているという言葉に、ヒロが感動していると、ソーマが「ふん」と鼻を鳴らしてから口を挟む。

「思い出話は、あいつを倒してからにしろ。そろそろ動くぞ」

「そうだな・・・」

そう言って、リンドウは煙草を捨てて踏み消して、自分の右手に体重をかけてから立ち、皆へと声を掛ける。

「手筈通り頼むぜ。いつも通りに行くぞ~。死ぬな、死にそうになったら逃げろ、そんで隠れろ、隙を見つけてぶっ殺せ。いいな?」

《了解!》

三人の返事に満足気に頷いてから、リンドウは右手に力を籠めだし、合図をする。

「よし!行くぞ!」

彼の言葉に、皆が持ち場へと移動しようとしたその瞬間、

ガラッ

「ん?・・・あら?」

リンドウの身体が、壁と一緒に傾いていき、そして、

ドカーーンッ!!!

「・・・・・あら~」

隠れていた壁が倒れて、リンドウはその壁に寝っ転がるように倒れて、間抜けな声を上げる。

壁が倒れる程の音が響いたので、当然・・・キュウビはゆっくりとその巨体を起こす。

「あ~・・・・はっはっはっはー。まいったな、こりゃ」

「「リンドウさん!!」」

「ちっ・・・、馬鹿が」

こちらの姿を目に捉えて、キュウビは低く構えてから、空に向かって吠える。

コオォォォォーーンッ!!!

相手がその気になったのを切っ掛けに、四人も即座に臨戦態勢に入る。

「もう!作戦が台無しじゃないですか!ドン引きです!!」

「ははっ。正面からやり合うしかなさそうですね」

「構わん・・。リンドウ、いいな?」

「しゃ~ないな。じゃあ、いっちょカマすか~」

リンドウは右腕から神機を形成し、その手に握る。

そして、全員に、戦闘開始の声を上げる。

「行くぞーー!!荒神を喰い荒らせーー!!」

《了解!!》

キュウビへと一気に駆け出して、皆神機を振り上げて斬りかかった。

 

 

一方、極東では・・。

 

「そうだな・・。ヒロは、ユウの強さに惚れ込んでいる。つまり!強い女も、きっと好きだ!!」

「負けません!シエルさん!!はぁぁーー!!」

「私がヒロを守ります!せぇぇーーーい!!」

「ハル・・・・。いい加減にしとけよ?」

 

シエルとエリナが、まだハルに踊らされていた・・。

 

 

 





やっぱり、リンドウさんはこうでないと・・w
すいません。
私の理想です!



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50話 同じ夢

 

 

「ふんっ!!」

ブゥオンッ!!

ソーマの振り抜いた神機を跳んで躱してから、キュウビは口を大きく開いて炎を吐き出そうとする。

「甘いです!!」

ドドドドッ!!

キャウッ!

しかしアリサの放ったバレッドによって、その場に倒れ落ちる。そこへ、ヒロとリンドウが捕食形態を喰いつかせ、皮を剝ぎ取るように振り抜く。

バリィッ!!

「捕食成功です!」

「どうだ~?痛てぇだろ?」

そこへアリサとソーマが追い打ちにと、神機を大きく振り下ろす。

流石にそれは食らうまいと、キュウビは身体を捻って後ろへと転がり、ゴッドイーター四人を睨みつけてくる。

「・・ようやく、本気になったか」

「そのようですね」

斬り付けた二人が構えなおして、相手の出方を伺うと、キュウビは身体を小刻みに震わせ、赤い炎をいくつも浮かび上がらせる。

「ちっ・・・。全員、散れ!」

ソーマが舌打ちをして叫ぶと、キュウビはその炎を拡散させ、レーザーのように発射する。

パッァン!! バババババババッ!!!

「こいつは・・・、厄介だなっと」

「ヒロさん!無理しないで、盾の展開を!」

「くっ!はい!!」

三人が上手く躱したのを見届けてから、ソーマはキュウビの側にあった壁を走って跳び、尻尾の付け根に神機を叩き込む。

「足掻くな。・・すぐ楽にしてやる!」

ドゴォッ!!

キィギャァーー!!!

後ろ脚を地面に減り込ませ、キュウビが叫ぶと、リンドウはヒロに声を掛けながら走り出す。

「ヒロ!1撃に備えろ!道は、拓いてやる!!」

「あ・・、はい!」

言われた通りにヒロは、神機の刃に力を籠める。同時に、血の力『喚起』を発動し、高まるオーラを更に膨らませる。

それに応えるように、アリサは銃型を上に構え、キュウビの足の隙間をすり抜けながら、バレッドを乱射する。

「地に伏せなさい!キュウビ!」

ドドドドドドドッ!!!

上半身を浮かせて尚、倒れぬといったように踏ん張るキュウビ。

その頭を押さえるために、リンドウが真上から攻撃を仕掛ける。

「頭を下げろ!」

そう言って振り下ろした神機を弾こうと、キュウビは口から炎を吐き、抵抗する。

コォォーーッ!!

バキンッ!

「ちぃっ!・・・こんの・・!」

リンドウの神機が弾け飛んだのを目にし、ヒロは動揺の色を見せるが、すぐに別の事に驚いてしまう。

リンドウの右手のプロテクターの下に見た、黒く禍々しい腕に・・。

しかしリンドウは怯むことなくそのまま突っ込み、その右手で直接キュウビの頭を掴んで、地面へと叩きつける。

「躾の行き届いてない、犬っころが・・。お座りだ!!」

ガアァンッ!!

ギャウッ!!

キュウビが完全に地面についた状態を作ってから、リンドウはヒロへと叫ぶ。

「今だ!!ヒロ、やれ!!」

「っ!?おおぉぉぉーーーっ!!!」

溜めた力を一気に解放し、ヒロは刃を横薙ぎに振り抜く。

「ブラッドアーツ、『疾風の太刀・鉄』!!」

ザシュザシュザシュザシュザシュッ!!!

無数の斬撃を放って、ヒロが駆け抜けると、ソーマがフッと笑みを見せてから、後ろに大きく構えた神機を振り下ろす。

「・・・上出来だ」

ドォォーーーンッ!!!

その1撃に、身体を大きく揺らして、キュウビはその場で動かなくなる。

そんなキュウビの頭から覗いていたコアを、リンドウが右手でもぎ取ってから軽く2,3度投げて確認し、沈黙した敵にウィンクする。

「まっ・・、相手が悪かったな」

激闘の終了に気が抜けてか、ヒロはその場に尻もちをつき、息を乱さず会話をする三人を見て、改めて尊敬の念を抱いたのだった。

 

 

オラクル細胞が霧散する前にと、ソーマとアリサは手慣れた様子で、キュウビの身体から素材を回収していく。

本来は、荒神が霧散した後に回収できるモノだけという感じなのだが、特別必要な場合、フェンリル研究者を中心とした回収班が、任務に同行してそういった作業を行う。

二人はそんな素養もあるのだと、ヒロは感心しながら眺めていた。

「・・・よう、ヒロ。後は任せて、ちょっとこっちに来ないか?」

「え?・・あ、はい」

車の上に転がっていたリンドウに呼ばれて、ヒロはその隣へと移動する。

雨よけ用に展開したコンテナの上で、リンドウは軽く右手を上げながら、煙草の煙を吐き出す。

彼の隣へと座ったヒロは、その右手をまじまじと見つめてしまう。

「ん?これか?・・・やっぱ、気になるか」

「あ、いえ、それは・・!?」

「いや~、いいんだって」

リンドウは右手を握ったり開いたりして見せてから、それに視線を落とす。

「こいつはな・・・、俺が生きているっていう、証みたいなもんだ」

「生きている・・証・・」

「あぁ。俺はな、ある任務でドジっちまって・・・荒神になっちまったことがある」

「なっ!?荒神に!!?」

驚くヒロに笑い掛けながら、リンドウは話の続きを口にする。

「もう諦めちまうかって、思った・・。それを、仲間が助けてくれたんだ。どちらかというと・・・、怒られちまったんだがな。『生きることから、逃げるな!』ってな・・」

「・・・もしかして・・・、それ・・」

フライアとの全面戦争前に、ソーマが言った言葉を思い出したヒロの表情を見てから、リンドウは小さく頷いて見せる。

「あいつとみんなが、命懸けで俺に伝えてくれた言葉を忘れない為にも、俺はこれで良かったんだと思ってる。だから今は・・・俺の、誇りにもなってる」

「・・・そうですか」

リンドウの笑顔につられてか、ヒロも笑顔を彼に返す。

そんな彼に思うところがあってか、リンドウは少し神妙な顔をしてから、何かを喋ろうとする。何度か躊躇ってから後に、頭を掻いて、思い切ったように口を開く。

「・・・なぁ、ヒロ。お前等ブラッドも・・・・、クレイドルに入らないか?」

「・・・え?」

突然の申し出に戸惑うヒロ。そんな彼に、リンドウは更に続ける。

「俺達は、人が安心して暮らせる世界を作るのを夢に、活動してる。荒神なんかに怯えず、安心して眠れる世界・・・『ゆりかご』みたいな世界をな。その夢には・・まだまだ遠いが、いつか必ず実現できればと願ってる。・・・その夢を、お前さん達とも、一緒に見てぇな・・・ってな」

「リンドウさん達の・・・夢を・・」

驚きながらも、ヒロは彼の言う夢を想像してみる。誰もが笑って暮らせるその場所で、子供達が穏やかな表情で眠っている。

目を閉じて微笑むヒロに、リンドウは軽く肩を叩いて笑いかけていると、作業を終えたソーマとアリサが、笑いながら口を挟んでくる。

「な~んか、出来の悪い宗教の勧誘みたいですね」

「まったくだ・・。聞いてるこっちが、恥ずかしい」

「なっ!?お前らなぁ!!」

リンドウが声を上げると、二人はさっさと車の荷台へと姿を隠す。そんなクレイドルの暖かさに、ヒロは小さく息を洩らしてから、リンドウへと話し掛ける。

「極東に戻ったら・・・、みんなに相談してみます。けど・・」

「ん?けど・・、何だ?」

不思議そうに聞き返すリンドウに、ヒロは遠くを見つめながら立ち上がり、答える。

「僕は・・・、『ブラッド』であり続けたいと・・・。そうも、願うんです」

そんな彼の笑顔に、リンドウは頭を掻いてから立ち上がり、同じ方向を見つめながら、声を洩らす。

「・・・そうだな。そいつは、間違いねぇな」

ヒロの素直な気持ちに、リンドウは若かりし日の自分に重なる部分を見て苦笑し、煙草を消してから、大きく背伸びをする。

「よっし!んじゃあ、帰るとするか!帰るまでが、遠足だからな!」

「はい!」

「何言ってるんですか」

「ふん・・・、馬鹿が」

そうして、四人は極東に向かって、舵を切った。

 

 

長い道のりを経て、ようやく極東へと戻った一行は、車を神機保管庫へと直接入れて、荷解きを始める。

そこへ、レンカが榊博士と共に、やって来る。

「やぁ。お疲れ様」

「無事に戻って、何よりだ。特に・・・ヒロはな」

そんな二人に1礼するヒロ。しかし、レンカの台詞が気に食わないのか、アリサは目を細めて彼へと詰め寄る。

「何で、”ヒロさん”なんですか?レンカは恋人の心配が出来ない程、鈍感になっちゃったんですか?」

「い、いや・・。そういう意味じゃ・・」

アリサの不満気な表情に、レンカが戸惑っていると、自分の神機を保管庫に戻したソーマが、溜息を吐きながら口を開く。

「帰って早々、痴話喧嘩か・・。極東も、平和で何よりだな・・」

その言葉に、レンカとアリサは急に恥ずかしくなり、顔を真っ赤にして俯く。それから、アリサがレンカを上目遣いに見てから、小さく「馬鹿」と呟く。

そんな様子を笑いながら見ているリンドウ。が、彼の頬に膝が食い込み、車の荷台へと吹き飛ばす。

ガァーンッ!!

「あがっ・・・・痛ぅ・・、さ、サクヤ!?」

「ふん!」

子供を抱いたまま跳び膝蹴りを華麗に決めたサクヤが、倒れたリンドウを見降ろして溜息を洩らす。

「・・出張から帰ってきて早々、連絡もなしに飛び出して10日・・。何か、言うことは?」

「・・・・いや~、奥様?これも~、仕事ですよ?」

「ふんっ!」

パァンッ!

言い訳をするリンドウに、今度は平手打ちを食らわせてから、屈んで彼を見つめるサクヤ。そんな彼女に同調してか、二人の娘、レンもリンドウの頬を引っ張る。

「お・・・おいおい・・・。悪かったって・・。降参だよ、レンも」

「あぶっ・・ぶぅ!」

「ほ~ら。悪いパパちゃんよね~?」

ちょっとアグレッシブな家族団欒に、ヒロが声を殺して笑っていると、榊博士がニコニコしながら話しかける。

「なに。安心したまへ、ヒロ君。君もちゃんと、愛されているよ」

「はい?」

疑問に首を傾げる彼の耳に、神機保管庫の扉の向こうから、久しぶりの声が届く。

『ねぇねぇ、シエルちゃん。本当にその顔で、ヒロに会うの?』

『変ですか?完璧なリサーチの基に、ヒロの好みを追及したのですが・・』

『あいつにサプライズって意味じゃあ、いいのかもな』

その声に顔を綻ばすヒロに、ソーマはフッと微笑んでから、彼の背中を軽く押してやる。

「行ってこい。・・・仲間を、安心させてやれ」

「あ・・、はい!」

そう言ってヒロは、荷解きをソーマ達に任せて、保管庫の出入り口へと駆け出した。

 

「えっとー・・・、シエル?どうしたの?ハロウィンってやつ?」

「なぁっ!!?」

「そんなに落ち込むことか?結果は目に見えてたろう・・」

「あぁ~、シエルちゃんがまた固まっちゃったよ~」

 

 

研究室に戻ったソーマは、一息つこうと、コーヒーメーカーのスイッチを入れて、出来上がったコーヒーをカップに注ぐ。

そこへ、携帯端末の呼び出し音が響く。

溜息交じりに画面へと目を向けてから、ソーマはフッと笑ってから、着信ボタンを押す。

「・・・俺だ」

『ははっ。そりゃ、そうでしょ。どうだった?キュウビの相手は?』

「問題ない。・・・お前がいれば、もっと楽だったがな、ユウ」

そう彼が口にすると、電話の向こうで、神薙ユウは笑いながら答える。

『僕がいても、大して変わらないでしょ?リンドウさんもアリサも一緒だし・・・、ヒロも連れて行ったんでしょ?』

「あぁ。情報が早いな・・。空木か?」

『少しヒロの心配をしてね。まぁ、大丈夫って伝えておいたけどね』

「ふん・・・、言ってろ」

話しながらソファーに腰を落ち着けてから、ソーマはコーヒーを一口すすり、再び話し始める。

「こっちの研究も大幅に動く。・・・お前の方も、とっとと終わらせてこい」

『そうだね。こっちにはフェデリコもいるし、もう少しで帰れると思うよ』

「そうか・・・」

親友との話に心を休めながら、ソーマはこれからの研究に、思いを巡らせた。

 

 

「先輩!どうですか!?」

「・・・・どうって言われても・・・、ハロウィン?」

「はうっ!!?」

「・・ふっ。へこたれるな、エリナ。ヒロの心は、すぐそこだ!」

「・・・ハルさんのせいだったんですか・・」

「ヒロ君!!あぁ、ヒロ君!!君の帰りを、どれほど待ちわびたことか!!さぁ!行こう!騎士道精神の、明日に向かって!!!」

「・・・・黙っててもらえます?」

 

 

 





キュウビとの対決、終了です!

ヒロも確実に成長している・・・・はず!w



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51話 頑張れ、女の子

 

 

診療室のベッドの上で、青年は痩せ細った手で、泣き伏せる女の子の頭を撫でる。

「・・・エリナ。僕は、十分に生かされた。誰かの為に戦えたことを、誇りに思うよ・・」

「いや・・・・。嫌だよ!お兄ちゃん!」

しがみついて離れない妹・・エリナに、兄のエリックは優しく微笑む。

それから、自分の呼びかけに集まってくれた、仲間達へと顔を上げる。

「ソーマ・・・、ユウ・・、みんなも・・。来てくれて、ありがとう」

「エリック・・」

「良いんだよ、エリック。君の為なら・・」

ソーマとユウを先頭に、皆表情を曇らせた状態で、静かに彼の言葉に耳を傾ける。

「妹は・・・・エリナは、ゴッドイーターになると言っている。強情な子だ・・。きっと父の反対を押し切って、夢を現実とするだろう。・・・・僕のようにね。でも、僕はそれを見守ってやれそうにない。だから・・・、お願いだ・・。この子を、どうか導いてやって欲しい。ソーマや、ユウやリンドウさん・・・、みんなのように、立派なゴッドイーターになれるように・・」

「そんなこと・・、言わないでよ。死んじゃ、やだよ!お兄ちゃん!」

エリックは瘦せこけた頬をフッと緩ませて笑い、エリナの頭を撫でながら、皆を見つめる。

「・・・空木君。君のお陰で、今日まで生き残れた。後進を育成するならば、どうかこの子を・・」

「エリックさん・・。俺はあなたを・・、救えたわけじゃ・・」

苦い表情で俯くレンカに、エリックは笑顔のまま答える。

「救ってくれたさ・・。君のあの時かけてくれた言葉が、僕を戦士として生かしてくれた。・・・・それだけで、十分さ」

「エリックさん・・」

レンカに声をかけてから、エリックは改めて皆へと頭を下げる。

「みんな・・・、よろしくお願いします」

深々と礼をするエリックに応えるように、ソーマはエリナの頭に手を置いてから、小さく頷く。

「・・・・わかった。死なない程度に、鍛えてやる」

「・・・ソーマ、さん?」

エリナが顔を上げてソーマを見つめる様子に、エリックは満足そうに笑ってから、目を閉じて声を洩らす。

「ありがとう・・・、ソーマ」

 

それから半月後、エリック・デア=フォーゲルヴァイデは、短い生涯を終えた。

 

 

「・・・・あ・・」

自室のベッドで目を覚ましたエリナは、ゆっくりと体を起こしてから、頬を伝う涙を拭って、夢の内容を振り返る。

「お兄ちゃん・・・」

しばらく静かな部屋を見つめてから、エリナはベッドから起きだして、顔を洗う為に、洗面所へと足を運んだ。

 

 

団欒室に降りてきたエリナは、視線を巡らせて、ある人物を探す。

その人物が目に留まると、少し憂鬱だった気持ちをフッと軽くして、そこへと歩みを速める。

 

「なっ?頼むよ~、ヒロ。暇なんだろ?」

「それは・・、まぁ。・・・良いですけど」

非番だというヒロを捕まえて、リンドウはしきりに頼み込んでいた。

提出書類の整理を手伝ってくれと・・。

「よし!決まりな!いや~、持つべきものは、出来る後輩だな!」

「・・・ばれても、僕のせいじゃないですからね?」

「わかってるって!」

結局折れたヒロは、リンドウの手伝いを承諾し、溜息を洩らした。

そこへ、エリナが後ろからひょっこり顔を出して、ヒロへと笑顔を向ける。

「先輩!一緒に、訓練しませんか?私、今日は非番なんで!」

「あ・・、エリナ」

相手の予定もばっちり調べていたエリナが、任務中のシエルのいぬ間にと、声をかけたのだ。

そんなエリナに、リンドウは悪戯な笑みを浮かべて、彼女の肩をがっしりと掴む。

「そうかそうか~。エリナも、暇か~。ヒロ!一人手伝いを、確保だ!」

「え?な、なんですか?」

「はぁ・・・、エリナ。タイミングが悪かったよ・・」

「え?えぇ?」

なんのことか理解できずにいるエリナに、リンドウはニッと笑って見せてから、グッと親指を立てて見せる。

「訓練だよ!エリナ!」

 

 

 

極東の居住区の1軒に、女の子が泣きながら駆け込む。そして、中で編み物をしていた母親らしき女性へと飛びつき、顔を埋める。

「ひっく・・・うぅ・・、お母さん・・」

「あらあら・・。また、泣かされちゃったの?」

母親は優しく頭を撫でながら、女の子をあやす。

「だって・・・うくっ、だって~・・」

中々泣き止まない女の子に、母親は優しく笑顔で語りかける。

「ほら、いつまでも泣かない。こんな世の中になってしまったからには、女も強くならなくちゃ」

「・・・強く?」

「そうよ。男の子にも、荒神にも負けない・・・強い子。あなたなら、なれるわよ。お父さんと、お母さんの子供だもの」

「・・・っすん。・・・・・うん」

ようやく泣き止んだ女の子に、母親は自分の額を女の子のおでこに重ねて、小さく頷く。

「この世界に負けない、強い子になってね・・・・・。カノン・・」

 

この言葉を強く、重く心に刻みつけた台場カノンは・・・、その通りに、強くなった・・・・・。極東支部の影の最強、デンジャラスビューティーとして。

 

 

「あーはっはっはっはー!!死ね・・死ね死ね!クソ猿ー!!!」

ドォーンッ!!ドォーンッ!!

今日も絶好調にバレッドを撃ちまくるカノンを眺めながら、タツミはギルの肩へと手を置く。

「なぁ、ギル・・・」

「何っすか・・、タツミさん」

「俺達の任務、ここじゃないんだけどな・・」

「・・知ってるっすよ」

「・・・・・じゃあ、何で・・こうなった?」

コンゴウを完膚なきまで撃ち滅ぼすデンジャラスビューティー。だが、それは任務対象外で、たまたま通りかかった所で、後輩部隊が戦っているのを目撃したのが切っ掛け。

彼等が助けを求めたばっかりに、このような惨事(?)に、なってしまったのだ。

「お前達!早くこっちへ、避難しろーー!!」

《ひぃーーー!!!》

ブレンダンが後輩部隊に声を掛けているのを見てから、ギルは溜息を吐いて、灰となっていくコンゴウへと目を向ける。

「・・・・・結果、オーライじゃないっすか?」

「・・・・・結果、オーライなのか?これ・・」

タツミとギルは、爆発によって更地になっていくその場所を眺めながら、「始末書を書かなくては」と、心の中で思うのだった。

 

 

資料室にやってきたヒロとリンドウとエリナは、さっそく溜まりに溜まったリンドウの報告書を、1つずつ処理していく。

訓練と聞いて、ヒロと二人きりというのを我慢して付き合ったエリナは、大きな溜息を吐いてから、1枚目に目を通す。

「はぁ・・・。なんで、こんなことに・・・」

「ごめんね、エリナ」

思わず漏らした愚痴に、ヒロが謝ってきたので、エリナは慌てて首を横に振る。

「あ、いえ!先輩が謝ることなんて!?」

「そう?・・なんか、巻き込んじゃったみたいで・・」

すまなそうに苦笑するヒロを見てから、リンドウは声を殺して笑いながら、1枚目を終わらせて声を掛ける。

「おいおい、エリナ。もう許してやれよ?ヒロも謝ってることだしな~」

「な!?全部、リンドウさんのせいじゃないですか!?こんなに報告をサボって!」

苛立ちにエリナが立ち上がると、リンドウの横で、何故か手伝っているハルが口を挟んでくる。

「こらこら~、エリナ。女の子は、お淑やかにだぞ?」

「うっさいです!もう、ハルさんの言うことは聞きません!!」

「ははっ。まいったな~、ヒロ」

「それ・・、僕に振るんですか?」

笑って誤魔化すハルに話を振られて、ヒロは困ったように息を吐く。それから、自分の手元の報告書を見てから、資料を取りに、本棚へと移動する。

隣同士に座っていたヒロが去ると、エリナは名残惜しそうに手を伸ばしてから、拗ねたように席に着く。それから、改めて目の前の報告書を見つめる。

そんな彼女に、リンドウは作業をしながら声を掛ける。

「・・・ところで、どうだ?エリナ。ゴッドイーターには、慣れたか?」

「え?・・・・あ、その・・・・・・・・・はい。少し・・」

急に真面目なことを聞かれて、エリナは驚いて手を止めてしまう。

「そかそか。・・・お前さんが楽しくやれてないと、あいつに顔向けできないしな・・」

「リンドウさん・・・」

いつの間にか席を外したハルのお陰で、リンドウは思い出話を語れるようになっていた。

「ソーマやユウが面倒見てやれんのが、1番良かったんだが・・・。あいつ等は忙しいしな・・。二人共、たまに気にしてたしな。だが、その心配は無用だったか?」

「え、っと・・そう、ですか?」

「あぁ。・・・あいつのお陰だろ?」

そう言って、リンドウは自分の後ろを指差す。そこには、脚立に上って、資料を集めているヒロがいた。

それを目にして、エリナは恥ずかしそうに頬を染めて、「あ・・」と声を洩らす。

「あいつは、面白いな。見ていて飽きさせない奴等ばかりの極東でも、一際目立ってる気がする。お前さんも・・、惹かれてるんだろ?」

「・・・その・・、はい」

リンドウが茶化していないのを感じて、エリナは素直に頷く。そんな彼女に、リンドウは笑顔を見せながら話を続ける。

「その気持ちが、『兄』を求めてか。それとも・・・別の何かなのか・・。良い答えが、見つかると良いな」

そう言ってくるリンドウに対し、エリナはフッと微笑んでから、立ち上がって口を開く。

「もう・・・、答えは出てます。『兄』は、極東に沢山いますから!」

「・・・・そか」

エリナの笑顔に、リンドウは満足気に頷いてから、作業を続ける。

そして、立ち上がったエリナは、自分も資料を取りに行こうと、ヒロの側へと駈け寄る。

「先輩!私も資料、探したいんですけど!」

「あ、ごめんね。今降りるから・・」

エリナに言われて、脚立を降りようとするヒロ。それを見てから、ハルが脚立を押さえて、支えになってやる。

「ヒロ、気を付けて降りろよ?」

「ありがとうございます、ハルさん」

「むぅ!」

そんな二人のやり取りが面白くなかったのか、エリナも負けじと脚立の足を支えるために、手をかける。

「私が支えて上げます、先輩!ハルさんは、手を離してください」

「いやいや~。こういうのは、男の仕事だぞ。エリナ君」

「またそうやって、私のこと馬鹿にして!私もゴッドイーターなんですから、こんなこと訳在りません!」

「おいおい、揺らすなって。ヒロが落ちちまうぞ?」

二人が奪い合う様な形となり、脚立がガタガタ揺れ始めたので、ヒロはしがみついて下へと声を掛ける。

「ちょ、ちょっと二人共!?僕、まだ上にいるんだからね!?」

「ほら!?先輩が怖がってます!早く離してください!」

「こんなに揺れてる状態で離す方が、危ないだろう?とにかく、落ち着けエリナ」

一応は支えようとしている為か、脚立の揺れは、どんどん小刻みになっていく。そして・・。

バキンッ

「「・・・・あ」」

「へ?・・今・・・、へ!?」

二人が起こした振動が不可となってか・・。ゴッドイーター二人の馬鹿力によって、脚立の足が両側とも1段分、もぎ取られてしまう。

そうなると、当たり前だが・・・倒れる。

「あ・・嘘。ちょっとー!?」

ドカーンッ ガンッ ガンッ ガンッ・・・

「あら~・・」

「・・・・やば」

「いたたっ・・」

倒れた勢いで、本棚はドミノ倒しのように順々に倒れていき、最後にリンドウの目の前の本棚が倒れ、報告書を積んだ長机を破壊する。

ガシャーンッ!!

「・・・・・・・・こいつは・・・」

少し唖然としたリンドウは、そのまま三人へと振り返り、笑いながら頭を掻く。

「・・仕事するなって、天のお告げか?」

「「「・・・・すいません」」」

頭を下げる三人を見て、リンドウは可笑しそうに笑い転げた。

 

 

任務を終えたカノンは、顔をシュンとしながら、ギルの下へと歩み寄る。

「あの・・・・、すみません」

「・・いや・・、誰も死んでねぇしな。・・・良かった・・、かもな」

少し顔を引きつらせながら、ギルは目の前の更地を見つめる。

そんな彼に、後ろからげっそりとした顔で近付いてきたタツミは、ジト目でギルへと喋りかける。

「ギル・・・、甘やかすな。”これ”は、良くねぇよ」

「・・・・すんません」

「はわーーっ!!本当に、すいませんー!!」

彼の言う”これ”とは、目の前に広がる更地のこと。正確には、”元廃ビル街”だった場所である。数刻前まで・・・。

カノンの猛攻は留まることを知らず、先の後輩部隊を助けた戦闘から、バンバン撃ちまくっていった結果・・・・。

隕石でも振ってきたかのように、何も何もなくなってしまったのだ。

虚しく吹き抜ける風の音に、そのまま同行した後輩部隊は涙し、ブレンダンは「胃が痛い」と車に引っ込み、タツミは燃やされそうになり・・・と、その被害に、ギルは帽子を深くかぶってから、目を伏せる。

当の本人であるデンジャラスビューティーは、顔を手で覆って謝り続けていた。

「・・・・・どうすんだよ、これ。・・・なんて報告、すんだよ?」

タツミが肩を落としながら声を洩らすと、ギルがその肩に手を置いて、答える。

「俺が・・・・、報告しますんで・・」

それから、しばらくの間立ち尽くした後に、皆極東へと引き返した。

 

 

「いや~・・・・・・、すまん!」

「本当に、すいませんでした!」

俯いて肩を震わせるレンカに、代表して、リンドウとギルが頭を下げる。

もう怒りが何周も回ってしまったのか、レンカは口から低く笑いをこぼし始める。それに恐怖を感じてか、エリナはヒロの、カノンはギルの背中に隠れ、タツミとブレンダンは1歩後退り、ハルは苦笑いする。

「・・・・もう・・、いい。・・・・いいから・・。明日・・だ。明日、改めて呼ぶ・・・」

我慢をしているのか・・、頭の中を処理しきらないのか・・・。レンカの呟くような声に、皆敬礼をしてから、逃げるようにその場を後にした。

残されたレンカを伺っていた、作戦指令室の職員達は、「ひぃっ!!」と声を上げて目を反らす。

彼が握っていたデスクの角が、完全に握りつぶされていたのを目にして・・・。

 

 

逃げ出した廊下を歩きながら、エリナとカノンは同時に溜息を吐く。

そんな互いに視線を向けてから、情けなく声を洩らす。

「こんなんじゃ、先輩に嫌われちゃう」

「あう~。ギルさんに、駄目な子だと思われちゃいますよ~」

 

頑張り屋な二人の女性隊員の道は、険しい・・。

 

 

 





ちょっとしたオリジナルでした!

前作からエリックが宙ぶらりんな状態だったので、『あの場は助かったけど、負傷の為に偏食因子の適合率に耐えられなくなった』という事にしました。ケイトさんと同じですね。

次回は、レイジバースト編に欠かせない人を・・。



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52話 大鎌の少女

 

 

「・・・うん。安定してるね。オッケーだよ、ヒロ君」

「はぁ・・。特に何もしてないですけど・・」

リッカに呼ばれて、開発局まで足を運んだヒロは、持たされた手のひらサイズの機器に目を落としながら、彼女に質問する。

手元の操作盤を終了させてから、リッカはヒロへと振り返り、説明を始める。

「ごめんごめん。これはね、感応現象を自分の神機に試みるための機械・・・って、言うのかな?細かい説明をはぶくと、そんな感じ」

「自分の神機に・・感応現象を・・?」

小さく頷いてから、リッカは更に説明を続ける。

「リンクサポートシステムの応用でね。元々は旦那様の無茶を軽減できればって、あの人の出鱈目な適合率に、感応現象・・。それを使って、一時的にも力を大幅に増幅できたらって思ってね。う~ん、何て説明すればいいんだろ?・・要は、神機って生体兵器でしょ?だから、ある程度のリミッターがかけられてる状態なの。それを、取っ払っちゃえっていう、システム?」

「それ、取っ払っちゃって良いんですか?」

「だから、これなの!これ・・・『感応制御システム』を使うことによって、神機に語り掛け、そのリミッター・・拘束を解いちゃうの。本来なら、神機は暴走して、侵食が始まっちゃうんだけど、それを感応現象での対話によって、押さえつけられないかってね。結局、使えるのはヒロ君ぐらいかなって感じだけど・・」

「そうなんですか?・・・ユウさんは」

ユウの名前を出したところで、リッカは珍しく眉間に皺を寄せて、妙な笑い方をする。

「あー、旦那様ね・・。ははは・・・。もう、最悪だったよ。色々と!」

「ひっ!な、なんか、すいません!」

その威圧感に縮こまるヒロを見て、リッカは溜息を吐いてから、彼の手の中の感応制御システムを奪い、簡単に調整しだす。

「とにかく!今は、ヒロ君の方の話。ヒロ君の血の力『喚起』の能力を使えば、旦那様とは違って、”きちんと”神機と対話できるかもってふんだの。結果は、大当たり」

「は、はぁ・・」

まだ今一理解できてない様子のヒロの表情に、リッカはフッと笑みを浮かべてから、感応制御システムを投げ渡す。

「あ、・・っと・・」

「今は、『切り札が出来た』程度に思ってくれたら、それで良いよ」

「僕の・・・・、切り札・・」

首を傾げながら、手の中のモノをじっと見つめるヒロに、リッカは最後に釘をさす。

「ただ、覚えておいて。切り札は、あくまで切り札・・。条件が揃わなければ発動しないし、使えばそれ相応に身体や精神を痛めつける。ブラッドアーツを連続使用するのとは、訳が違うからね。わかった?」

「・・・は、はい・・」

手の中の切り札を大事にポケットにしまってから、ヒロは大きく頷いた。

 

 

極東支部のヘリポートに来ていた榊博士とレンカは、到着したヘリの中から出てきた人へと礼をしてから、話し掛ける。

「ようこそいらっしゃいました。長旅、お疲れ様です」

「いえ・・。堅苦しいのは、無しにしましょう。榊支部長」

そう答えてから、厳しい目つきの紳士は、軽く礼を返してから歩き出す。その後ろに、赤いフードをかぶった少女を連れて・・。

極東の建物に入ってから、彼は改めて自己紹介をする。

「改めまして、榊支部長。空木レンカ君。フェンリル情報管理局局長の、アイザック・フェルドマンです。それとこちらは、今回の研究の為に同行した・・」

「リヴィ・コレットです。初めまして・・」

フェルドマンに紹介されて、リヴィはフードを取ってから敬礼をして、またフードを深々とかぶる。

レンカが先へと促すと、三人は廊下を先に進みだす。

「急な来訪だったため、歓迎の準備が出来ませんで・・」

「いえ、それは結構。私達は、仕事の為に来ましたので。それよりも、さっそくで申し訳ないのですが、螺旋の樹について、改めて榊支部長にお話を伺いたい」

「それは、構いませんが・・・。彼女は?」

そう言って榊博士は、リヴィの表情を伺う様に目を向ける。

それに答えるために、フェルドマンは小さく頷いて見せる。

「それについてですが・・・、彼女から希望がありまして。出来れば支部長に承諾いただければと・・」

「それは・・・、いったい?」

榊博士が疑問の目を向けると、リヴィは小さく息を吐いてから、口を開く。

 

 

作戦指令室に呼ばれたブラッド隊は、リヴィの顔を見て驚いていた。

ロミオの墓前で泣いていたその顔を、忘れるはずなかったからだ。

「本日より、お前達ブラッド隊に一時的に配属という形になった、リヴィ・コレットだ。皆、上手くやるようにな」

「リヴィ・・さん?・・」

「よろしく頼む」

ヒロが呟くように名を呼んだことを気にせず、リヴィは静かに頭を下げる。

対面を済ませたの見届けてから、レンカは1つの任務を、ブラッドに与える。

「とにかく、お互いを知るにも、任務が手っ取り早いだろう。簡単な仕事だが、行ってくると良い。ヒロ、後を頼むぞ?」

「あ・・、はい!」

話が終わると、レンカは自分の仕事の為に、その場を後にする。

残されて中々動けずにいたヒロとブラッド。そんなヒロに、リヴィは改めて手を差し出し、握手を求める。

「現隊長は、お前だったな。神威ヒロ・・。これからしばらくだが、よろしく頼む」

「はい・・・。リヴィ、さん」

「リヴィで、構わない」

ヒロは、リヴィの独特な雰囲気に汗をかいてしまった手を上着で拭ってから、彼女の手を取った。

 

 

「ギル!回り込んで!」

「わかってる!」

追い込んだヴァジュラを誘導しながら、ギルはヒロとは反対の側面へと回り込む。

その場を何とか逃げ切ろうとするヴァジュラに、正面から、シエルがバレッドを放ち足止めする。それに驚いて、後ろへと撥ねたところで、リヴィが大鎌を振り下ろし、綺麗に右前脚を斬り落とす。

ザンッ!!

ギャウゥッ!

「ナナ!今だ!」

「いっけぇー!!」

リヴィの合図に飛び込んできたナナは、ヴァジュラの頭へと、神機を振り下ろす。

ゴシャッ!!

頭を減り込ませたヴァジュラに、全員同時に捕食形態を展開させる。そして・・。

ガビュゥッ!!

5つの大口に喰い千切られ、ヴァジュラは完全に沈黙した。

 

任務を終えて、車に戻る途中、リヴィはある場所で足を止める。

「ここは・・・・」

彼女の洩らした声に、皆は足を止めると・・。そこは、ロミオがブラッド隊に教えてくれた、小さな泉だった。

それに惹かれるように見つめるリヴィの隣に、ヒロはゆっくりと足を運ぶ。

「ここ・・・、ロミオ先輩が好きだった場所です」

「・・・そうか。どことなく、フライアの庭園に・・・似ているな」

そう言ってから、静かに立ち去ろうと踵を返したところで、リヴィは急に膝をガクッと折ってから、倒れそうになる。それを、ヒロが咄嗟に手を掴んで、支える。

「だ、大丈夫ですか!?」

「・・あぁ、すまない。少し・・立眩みがしてな」

そう言って、そのままヒロの腕に体重をかけて立ち上がろうとした瞬間・・。

キイィィィィィンッ!

「・・なっ!」

感応現象が、彼女の中に映像を見せる。

 

『・・・俺さ、みんなに感謝してんだ。俺なんかを・・・あー、やっぱ今の無し!とにかくさ、俺・・・極東に来て、本当に良かったって思う』

(・・あ・・あぁ・・、ロミオ・・)

『ヒロ・・・。マジでありがとな!これからも、よろしくな!』

(・・・そうか・・。幸せ・・だったんだな)

 

映像が途切れたところで、リヴィはゆっくりとヒロから手を離す。

自分にも少しだけ見えたモノがあったのか、ヒロも自分の手を見つめながら、黙っている。

すると・・・。

「・・・うっ・・・・ふっ・・うぅ・・・くぅ・・」

漏れ出した声に、皆が視線を向けると、リヴィが右手を胸に抱いて、涙を流していた。

「あ・・あの・・・」

シエルが心配そうに手を伸ばすと、リヴィは首を横に振って、ゆっくりと喋り始める。

「私は・・・・、マグノリア・コンパスで・・、ラケルの実験体だった」

《っ!!?》

皆が驚いている中、リヴィは話を続ける。

「今思えば、特異点・・・ジュリウスを作る為の、実験だったんだろう。私はその影響で、どんな神機にも適合できる身体となった。だが・・・、ジュリウスが現れてからは、もうお払い箱で・・・。マグノリアの下位のクラスに回されて、独りぼっちになった。自分の意味は?何をすれば?孤児の私に、確かな自信としてあったモノを奪われて、私はどうしていいかわからぬまま、毎日を過ごしていた。そんな私に、声を掛けてくれたのが・・・ロミオだった」

「・・・マグノリア・コンパスで・・・」

「ロミオ先輩と・・」

同じ出身のシエルとナナは、少し感慨深い気持ちで、リヴィを見つめる。

「自棄になって、遠ざけようとしていた私に、ロミオは何度も話し掛けてくれた。時には、見下して罵声を浴びせた・・こんな私にだ。そんなあいつがいたから、私は生きる意味を、もう1度見つける事が出来たんだ。・・・約束・・してくれたんだ。『ずっと一緒だ』って・・。『独りにしない』って!」

徐々に感情が抑えられなくなってきたのか、リヴィは顔を歪ませて、膝をつく。それを、シエルとナナがそっと抱き寄せると、彼女はしがみついて顔を埋めて声を上げる。

「大切だったんだ・・。好きだった・・・・、大好きだったんだ!あいつがいたから、生きてこれたんだ!!なのに・・・・・どうして・・」

「リヴィさん・・」

「どうしてあいつが、死ななければならなかったんだ!?どうして・・・、あいつの最後に・・・、私は側にいてやれなかったんだ!!」

想いを全て吐き出してから、リヴィは声を出して泣き続けた。

そんな彼女を、ブラッド隊は優しく見守りながら、ロミオの笑顔を思い出していた。

 

リヴィが落ち着いた頃に、皆は車へと再び移動を始めた。

その途中で、リヴィはヒロに目線を向けてから、口を開く。

「お前の中の記憶・・。感応現象で見た映像の中で、ロミオはお前達に感謝していた。あいつは・・・・、幸せだったんだな」

「リヴィさん・・」

ヒロが何か言おうとすると、リヴィがそれを遮って、話を続ける。

「マグノリアから、フェルドマン局長に引き取ってもらって、私は偏食因子に侵されたゴッドイーターを排除する、『処刑人』をしていた。あらゆる神機に適合するんだ・・。『天職だ』と・・・、そう思っていた。だが、ロミオに先立たれ、また生きる意味を見失いかけている私を見て、フェルドマン局長が、今回の極東訪問に連れ出してくれた。そして・・・、こう言ったんだ。『お前の行きたい場所は、お前が決めて良いんだ』と」

「・・・・それって~、どういう事なの?」

ナナが首を傾げるのを見て、リヴィはフッと笑みを見せてから、彼女の乱れた服を直す。

「・・・お前達、ブラッドに会って・・・決めることにしていたんだ」

「あたし達に?」

「そうだ・・」

直し終わると、ナナの頭を軽く撫でてから、リヴィは強い眼差しで思いを口にした。

「今回のここでの用事を済ませた後に、もう1度訪問することになる。ある作戦の為にな・・。それを最後に、私は『処刑人』を辞め、ブラッド隊配属を、願い出ようと思う」

その言葉に、ギルが苦笑しながら声を掛ける。

「突然・・・でもないのか。だが、最初にあった時、あんたは俺達を恨んでいるように見えたが?」

「あの時は・・・な。突然のロミオの死に、関わった人間全部を、恨めしく思った」

そう困った表情を見せてから、リヴィは顔を引き締めて背筋を伸ばす。

「だが、今は違う。ロミオが・・・あいつが、命懸けで守った部隊を、今度は私が守りたいと思ったからだ。あいつの大切なモノは・・、私の大切なモノだ」

「リヴィさん」

ヒロが優しい笑みを見せると、リヴィはその笑顔に応えるように、笑顔を返す。

「ロミオ程じゃなくても、面倒を見なければいけない奴もいることだしな。P-66因子を打ち込んで、晴れてブラッドになった時には、改めてよろしく頼む」

「あぁ、よろしくな」

「別にもう、ブラッドでも良いのに~」

「そうですね。ロミオの大切な人は、私達の家族同然ですから」

「これからも、よろしくね。リヴィさ・・・・リヴィ」

ブラッドと笑い合ってから、リヴィは目を閉じて、今は亡き想い人に、心の中で訊ねてみるのだった。

(・・・別に構わないだろう?・・・・ロミオ・・)

 

 

 





ちょっと予定よりも早く、リヴィちゃんと完全に打ち解けさせました。
リヴィちゃん、良いですよね・・。

卵祭り・・・・書くのが楽しみです!



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53話 『恋』と『変』は紙一重

 

 

清々しいまでに晴れ渡った、ある日の午後。

極東に新たな『不治の病』を抱えた男、ブレンダン・バーデルは、天気とは裏腹に、心に雷をともなっていた。

「な・・・、どういうことだ?これは・・!?」

 

ここから始めよう。純情な感情を空回りさせる、GOD EATERの物語を・・(笑)

 

 

非番の午前の時間を使って、ブレンダンは軽い訓練で汗を流していた。

『規則正しく』をもっとうに過ごす彼の日常に、色気の欠片もなかった彼。だが、最近はそんな彼にも、心の春が訪れる。

フラン=フランソワ=フランチェスカ・ド・ブルゴーニュ。

ブラッド同様に、フライアから来たオペレーターの彼女に、ブレンダンは心の底から、惚れ込んでしまったのだ。

目立ってアピールする訳でもない彼の日課は、影ながら見守ること・・。

はたから見たら変な行為ではあるが、真面目な彼の最大限の求愛行動なのだ。(ハル曰く)

シャワー室で汗を流して、いつものように受付の見える廊下の影へと移動するブレンダン。

しかし、そこで見たモノに、彼は驚きに体を震わせる。

「こ・・、これは!?」

彼の視線の先には、いつも通りにフランがいて・・・その隣に、任務を終えたヒロがいたのだ。

報告をしながら笑い合う二人。それをあらぬ方向に捉えたブレンダンは、ゆっくりと後退ってしまう。

「まさか・・・・、まさか!?」

頭を抱えながら壁に手を付き、よろける身体を支えるブレンダン。そんな彼に、後ろから通りがかった、タツミが軽く肩を叩いて声を掛ける。

「よっ、ブレンダン。訓練上がりか?」

「っ!!?た・・タツミか・・」

「お、おう・・。何?声かけちゃ、不味かったか?」

勢いよく振り返ってきたブレンダンに、タツミは驚いて手を上げて見せる。それに対して、首を横に振ってから、ブレンダンは自分の胸の辺りをグッと掴んでから顔を歪める。

「なんでも・・・ないんだ。何でも・・・」

「え?・・・気分、悪いのか?」

彼の反応に少し戸惑いながら、タツミは何となしに受付の方へと視線を向ける。

そして、それによって今度は、タツミも同じ状態に陥ってしまう。

「な・・んだ、と・・・」

彼の視線の先には、オペレーターの竹田ヒバリと・・・、任務に向かおうとしているソーマ・シックザールが話している姿が・・。

 

「あ・・、ソーマさん。ネクタイ、曲がってますよ?」

「ちっ・・・、余計なことをするな」

 

ヒバリの世話焼きな性格から、だらしなくしていたソーマへの、ちょっとした気遣い。

それがタツミには、恋人同士の甘いやりとりに見えたのだ。

 

『いってらっしゃい、ソーマさん』

『馬鹿・・・。人前ではよせ』

 

会話も勝手に脳内で変換され、このようになってしまう始末だ。

「は・・はが・・・・、あぁぁぁーー!!」

「ありえない・・ことも、ないのか?確かにヒロは、いい男だ・・。だが、しかし!」

妄想が妄想を呼び込んで、頭を抱えて落ち込む二人。

そこへ・・・、やはり彼が登場する。

「見ていられないな~、お二人さん」

「「はっ!?その声は・・!?」」

いつの間にか彼等の後ろで、壁に背を預けた状態で軽く敬礼をしてくる、色恋問題ではお馴染みの、真壁ハルオミが笑みを浮かべて立っていた。

「な・・・なんの用だよ・・、ハル」

「ハルさん、自分は・・」

「ふっ・・、とぼけちゃあいけないな~。全て、お見通しなんだぜ」

「「っ!!?」」

ハルの言葉に、二人は過剰に反応してしまい、これ以上は誤魔化すまいと、諦めて重い口を開く。

「やっぱり・・・、ヒバリちゃんは・・ソーマと・・」

「フランさんには・・、フライアの時から・・ヒロがお似合いなのかと・・」

認めたくないといった暗い表情で、もごもごと喋るタツミとブレンダン。そんな彼等に、自称『恋愛マスター』のハルは、ありがたい(?)言葉を口にする。

「いいか。真実は残酷かもしれないが、それを確かめずには・・・恋は先には進めない。ならば、確認するしかないだろう?本当の答えを!」

「それは・・、わかるけどよぉ・・」

「どうすれば・・」

「本人に直接聞くのも良いが・・・躊躇ってるなら、周りの女性に聞けばいいだろう?」

そう言ってからハルは、ビシッといった感じで指を差し、声を上げる。

「戦術と同じだ。情報を制する者は、恋を制する!!」

チャーチャララチャ~♪ジャッジャン♪

「情報を・・制する者は・・」

「恋を、制する・・」

動揺していたためか、すんなりと受け入れてしまった二人は、希望をその目に宿しだす。

そんな彼等に、満足気に頷いて見せてから、ハルは軽く背中を押してやる。

「行け、恋の戦士達よ。女性の色恋の情報網から、確かな真実を掴み取り、一途な想いを実らせてくるがいい!」

「「はい!マスター!」」

二人が駆けていく背中を見送りながら、ハルは優しい笑みを浮かべた。

 

 

ジーナ カノン

 

「はぁ?ヒロ君と、フランちゃん?」

「ヒバリさんと・・・、ソーマさんですか~?」

最初に二人が選んだ女性陣。極東で最も任務を共にしている二人に声を掛けたタツミとブレンダンは、真剣な顔で頷き返す。

「どんな些細な情報でも、かまわない!」

「俺等に教えてくれよ!」

そんな二人の様子に、ジーナとカノンは顔を見合わしてから、少し笑いながら答える。

「あんた達、バカなの?まぁ、知ってたけど・・。その2つの組み合わせって、ありえないでしょ?」

「そうですよね~?フランさんがヒロさんと仲が良いのなんて、フライアから一緒だったからですし・・。ヒバリさんとソーマさんなんて、もっと長いんですから」

最もな女性陣の意見・・・なのだが、彼等は納得出来ないのか、更に突っ込んで聞いてくる。

「そんな事は、百も承知してるんだ!」

「些細なことでも良いんだ!何か知らねぇのか!?」

珍しく簡単に食い下がらない二人に、ジーナとカノンは再び顔を見合わせてから、はっきりと答える。

「知らないわ」

「知らないですね~」

彼女達の言葉に嘘はないと判断したのか、タツミとブレンダンは溜息を洩らして、そのまま去って行く。

「・・次だな・・」

「あぁ・・」

彼等の背中を見つめながら、悪戯な笑みを浮かべたジーナ。そのまま後について歩き出す。それを見て、カノンが声を掛ける。

「あの・・ついて行くんですか?ジーナさん」

「だって・・、面白そうじゃない?ふふっ」

そう言い残してから、ジーナも行ってしまい、カノンはタツミとブレンダンの事を、少しだけ心配した。

 

 

シエル ナナ リヴィ

 

ブラッドの任務を終えて集まっていた女性陣を捕まえて、二人は情報収集に励む。後ろでは、ジーナが面白そうに見守っている。

「ヒロと・・・フランさん、ですか?」

「あたし達の、専属オペレーターみたいな感じだよね~?」

「それに、ヒバリさんと・・ソーマさんか?付き合いが長ければ、仲も悪くはないだろう?」

三人の意見に、ジーナは2,3度頷いて納得しているが、タツミとブレンダンは首を横に振って、先にタツミが切り込んでくる。

「だってよう・・・・ヒバリちゃん、ソーマのネクタイを直しながら、何か・・恋人同士みたいな・・」

「そんな会話を、なさってたのですか?」

「それは・・・」

 

『無事に・・・帰って来てくれなきゃ、嫌ですよ?』

『・・お前を残して、死ねるかよ』

 

「ってよーー!?」

「本当なのか?この会話は・・」

「う~ん、想像できないな~」

首を傾げるリヴィに、ナナも同じように首を横に傾け、人差し指を口元に当てる。

タツミが頭を抱えて唸っている横から、今度はブレンダンが自分の話を切り出してくる。

「なら、ヒロとフランさんはどうだ!?・・・あんな優しい彼女の笑顔を、俺は見たことなかったんだ!?」

「あ・・・、おバカ・・」

ジーナが口にしたのも遅く、当然この問題に過敏に反応する女性が一人。

「・・・・そうですか。・・・あの、ブレンダンさん。私、用事を思い出しましたので、失礼します」

「なっ・・・お、おい!?待ってくれ、シエル!」

彼の呼びかけを無視して、シエルは冷たい瞳を見せてから去って行く。そんな彼女の背中を見て、ナナが溜息を洩らす。

「あ~あ、行っちゃった。シエルちゃん、ヒロの事になると、目の~・・色?変わっちゃうから」

「そうか・・・。シエルは、ヒロを愛しているのだな」

リヴィは勉強になったと言わんばかりに、サラッと核心を口にする。それがまた可笑しかったのか、ジーナは声を殺して笑う。

シエルが去ってしまって焦りの表情を浮かべたブレンダンは、勢いよくナナへと掴みかかる。

「なぁ!今のシエルの反応・・。やはり、フランさんと!?」

「あの・・・えっと~」

ナナが驚いて引いていると、リヴィが急に目を鋭く光らせ、華麗に脚を伸ばしてブレンダンの側頭部にハイキックを決める。

バコッ!

「ぐはっ!!」

ナナから手を離し倒れたブレンダンを、ゴミを見るような目で見下ろしながら、リヴィは守るようにナナを抱き寄せる。

「下衆が・・。先輩だからと言って、女性に・・ナナに気安く触れるな。フランが無理なら、次はナナか?見境ない・・。失望したぞ、ブレンダン・バーデル」

「うっわ~。大丈夫ですか?ブレンダンさん・・」

ナナが心配して介抱しようとすると、リヴィはそれを遠ざけて、彼女の背中を押しながら歩き出す。

「話は終わったか?ならば、失礼する。シエルとヒロの事が気掛かりでな・・。それと、ブレンダン。2度とナナに近付くな」

そう言い放って、リヴィはナナを連れて去って行った。

残された男性陣二人を見ながら、ジーナはお腹を抱えてしゃがみ込んで笑った。

 

 

リッカ アリサ

 

「無いね」

「無いですね」

神機保管庫に移動した一行は、神機の調整に来ていたアリサと、調整を請け負っていたリッカに、一言で一蹴された。

「あの・・・、それだけ、なのか?」

「もっとさ~、ないの?ほら!二人は、情報通だしよ!」

そう簡単には納得しないという様に聞いてくる二人に、リッカとアリサは目を細めてから溜息を吐く。

「・・・そんなに気になるなら・・」

「本人に聞けばいいんじゃないですか?」

そう言って興味を失くしたように振り返らず、神機の話をしだした冷たい彼女達に、タツミとブレンダンは肩を落として、部屋から出て行った。

二人を目線で追いながら、ジーナはアリサとリッカに声を掛ける。

「・・お二人さん。この事の顛末の、報告は?」

そう聞いて目を向けると、二人は手を上げてから、

「よろしく~」

「お願いします」

と答えた。

それに満足気に笑ってから、ジーナは再び、哀れな男二人の後を追った。

 

「ジーナさんも、好きですね」

「仕事の邪魔だから追っ払ったけど、アリサちゃんも好きでしょ?」

「リッカさんだって」

「まぁ~ね~」

「「・・・ふふふふふっ」」

 

 

結局、目覚ましい成果を得られぬまま、タツミとブレンダンは、エントランスのソファーへと腰を落ち着ける。

ブレンダンは頭を抱えて、ぶつぶつと口を動かし、タツミに至っては妄想が更に加速して・・。

 

『今夜、部屋に行っても良いですか?』

『ふん・・・。いつもの時間にな・・』

 

どこかのオフィス・ラブな台詞へと、すり替わっていた。

流石にそろそろ不憫に思ってか、ジーナは苦笑いを浮かべながら声を掛けようとする。

しかし、新たな展開を目にして、ジーナはその場から2,3歩後ろに下がる。

「あの・・、ブレンダンさん」

「はっ!?・・フランさん!?」

「タツミさん!」

「は?うぇっ!?ひ、ヒバリちゃん!?」

本人の登場に、焦りの表情を浮かべるタツミとブレンダン。その様子に、ジーナは悪い笑みを浮かべて、成り行きを見守る。

「あの、ブレンダンさん。何か、私に至らないところでもありましたか?」

「は・・いや!どうして、そんな・・・。貴女に間違いなど!?」

フランの不安そうな表情に、ブレンダンは必死になって喋りだす。

「貴女は・・・そう!完璧だ!完璧な女性だ!そんな貴女に、至らぬところなど!!」

「・・ですが、ブレンダンさんが私の事を、皆さんに聞いて回っていると耳にしましたので・・・」

「そ、それは!?」

その言葉に目を大きく開いてから、ブレンダンは自分がしていることが、ストーカーまがいな事だと、今更ながらに気付いたのだ。

「私もオペレーターになって、日が浅い未熟者です。何かあるなら、直接・・。あの・・・、ブレンダンさん?」

「・・・・・・違うんだ」

「はい?」

立ち上がって少しずつ後退りを始めるブレンダンに、フランは手を伸ばして心配の表情を浮かべる。

その無垢な瞳に耐えられなくなってか、ブレンダンは涙を流しながら走り出した。

「違うんだ!俺は・・・・、違うんだーーーー!!!」

「あ・・・・・・、あの・・・」

走り去っていくブレンダンに、フランは伸ばした手を引っ込めてから、首を傾げる。

そんな二人のやり取りを見てから、ヒバリは冷たい眼差しを、タツミに向ける。

「そう・・ですか。タツミさんが、原因ですか・・」

「へ?・・いやいやいや!違うって、ヒバリちゃん!これは~、ほら!ハルがさ!」

事実ではあるのだが、他人の名前を出して言い訳をしだしたタツミに、ヒバリは怒りのボルテージが少しずつ上がっていく。

「”ハルさん”?・・・いないじゃないですか。今、ここに・・」

「いや・・それは、その~。ヒバリちゃんがね・・、ソーマと~」

「今度は”私”に、”ソーマさん”ですか・・。随分と、多いですね」

「ち、違っ!?だから、ね?それは・・・、その・・」

なんといったらいいか迷っているタツミに、ヒバリは自分の怒りの頂点を感じた。その瞬間、

パァンッ!!

「はがっ!!!」

力強く平手打ちを決めると、フランの手を取ってから、出荷される豚を見るような目でタツミを見下ろしてから、口を開く。

「・・・しばらく、話し掛けないで下さい」

そのままフランの手を引いて、ヒバリが行ってしまうと、タツミはソファーからずり下がっていき、床へと軽く尻もちをついた。

全ての事を見届けたジーナは、近くの手すりをバンバン叩きながら、声を出せずに笑い続けた。

 

 

それから3日後・・。

タツミとブレンダンは、それぞれ新たな悩みを抱えて、溜息を吐いていた。

タツミは宣言通り、話し掛けれないオーラをヒバリに向けられ、ブレンダンは後ろめたさから、話し掛けられないでいた。

そんな二人に、軽く息を洩らしながら、ジーナが近寄って来る。

「お二人さん。調子はどう?」

「これが、良く見えるのかよ?」

「俺は・・・、何てことを・・」

二人の負のオーラを心地良さげに、ジーナが笑っていると、タツミがおもむろに声を上げる。

「人様の不幸を、面白がりやがって・・。だいたい、お前にはねぇのかよ!?色恋の1つや2つ!?」

「私?・・・・そうね~」

タツミの言葉に、ジーナは少し考えてから、同じ防衛班である二人に、今まで見せたことのない優しい笑顔で答える。

「二人みたいに、熱を上げる程じゃないけど・・・。お気に入りの男の子は、ちゃんといるわよ。ふふっ」

 

 

「へっくし!!」

「風邪かよ?」

「風邪!?すぐに体温を測りましょう!」

「シエルは、ヒロに過保護だな」

「おでんパン、食べる~?」

 

 

 





何か、無駄に長い話でしたw

ブレンダン、頑張れ!
負けるな、タツミちゃん!!




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54話 人類の聖域

 

 

極東支部、大会議室。

集められた各部隊の隊長、副隊長は、巨大モニターの前に立つ榊博士とフェルドマンの前に並ぶ。

同席するレンカとソーマに頷いて見せてから、榊博士は口を開く。

「皆、集まったようだね。それでは、フェルドマン局長」

「はい・・」

榊博士に代わって前に進み出たフェルドマンは、軽く咳払いをして話し始める。

「フェンリル本部、情報管理局局長、アイザック・フェルドマンだ。極東に所属する部隊の隊長、副隊長の君達に集まってもらったのは、他でもない。この度、本部の正式な決定により、螺旋の樹を情報管理局の管轄に置き、人類の共有財産の『聖域』として認定された。以後、調査の一切は、我々情報管理局の管理のもとに行う」

突然の発表に、皆は戸惑いの表情を浮かべる。

そんな中、目を閉じて黙っていたソーマが、ゆっくりと背を預けた壁から身を起こし、フェルドマンへと意見する。

「そいつは・・・、本部が極東から螺旋の樹を搾取し、自分達のモノにしようってことか?」

「・・・そう思いたいのなら、それで構わない」

そう返されたソーマは、フェルドマンに対して厳しい目つきをする。

「これまで、極東では大きな問題が起きすぎている。本部の預かり知れないところでな・・・。危険を危惧して、しかるべき対処を取るのは、ごく自然なことだと思うがね?」

「・・・何だと?」

気に食わない言い分があったのか、ソーマは殺気を洩らしながら、歩み寄ろうとする。しかしそれを、榊博士が割って入り、ソーマに向かって首を横に振る。

「ソーマ君、押さえて。実際、螺旋の樹の研究は、我々だけでは進められない。本部の力を借りれるんだ。それに、越したことはないだろう?」

「・・・ちっ」

舌打ちをしながら、ソーマが元の位置に戻ったのを確認してから、榊博士は再びフェルドマンへと話の続きを促す。

「・・人類への一斉配信にともない、ここ極東で式典を執り行う。近隣や極東の一般人も参加できるようにする為、君達には近辺の警護を、万全にしてもらいたい。螺旋の樹も、状態の確認を含めて、我々が開発した偏食場パルス制御装置を設置する。設置に際しての護衛には、ブラッド隊にお願いしよう。隊長の・・・神威ヒロ。よろしく頼む」

「了解!」

「以上だが、質問はあるか?」

全員を見渡してから、フェルドマンは小さく1度頷いてから、話の終わりを告げる。

「式典は3日後だ。皆、ご苦労だった。解散しろ」

《了解!》

 

大会議室を出てから、リンドウは大きく背伸びをしてから、首を鳴らす。

「や~れやれ。出張から解放されたと思ったら、また面倒なことが始まるのかよ」

「リンドウさん、聞こえるっすよ?」

リンドウの発言に、タツミが苦笑いをしながら言うと、ハルが溜息交じりに口を開く。

「聞かせりゃ良いじゃねぇかよ。固い頭には、リンドウさんの意見は良い薬になるだろうさ」

「その前に俺等全員の、首が飛ぶっすよ」

コウタが疲れたように肩を落として喋ると、皆は笑いながら歩き出す。

そんな中、ヒロは気になることがあってか、足を止めて大会議室の方へと振り返る。彼の行動を気にして、シエルは側によって声を掛ける。

「どうかしたんですか、ヒロ?」

「え?・・うん。何か、リヴィに聞いた感じと、違うなって・・」

リヴィの話の中では、優し気なイメージだったので、ヒロはそのギャップにポロリと声を洩らす。

「・・・・螺旋の樹を調べるって・・・、ジュリウスは大丈夫なんだよね?」

心配そうに俯くヒロに、シエルは優しく手を取って、先へと誘導する。

「きっと大丈夫ですよ。私は、リヴィさんのおっしゃるフェルドマン局長も、間違いではないと思いますから」

「うん・・・。ありがとう、シエル」

そう言って笑って見せるヒロに、シエルは笑顔で応える。

二人が歩いてほどなくして、廊下の先でリンドウ達が待っているのが見える。それを確認したヒロとシエルは、早足で向かった。

 

 

「その反応が正常だ。フェルドマン局長は、そういう方だからな」

リヴィと一緒に、螺旋の樹の周辺に、偏食場パルス制御装置を設置に来ていたヒロは、会議室での出来事を、リヴィに聞いてみたのだ。

「じゃあ、普段から・・・あんな風に?」

「あぁ。若くして情報管理局を任される地位まで、上り詰めた方だ。隙を見せない・・・と言ったら、庇っていることになるだろうか?良くも悪くも、本部に忠実なんだ」

「そっか・・・。大人って、難しいね」

働いてる分、ヒロも大人の仲間だろうと思いつつも、リヴィはあえてそこには触れず、話を続ける。

「フェルドマン局長は、この樹の研究に、人類の未来を見ているとおっしゃっていた。式典後に戻ってきた時には、私はその手伝いの為、ジュリウスの神機に適合を試みる事になってる」

「ジュリウスの?それは・・・、どうして?」

「この樹は、いわばジュリウスそのもの。ジュリウスが荒神化したものと取ってもらっていい。それを切り開くのに、ジュリウスの神機を使うのが、もっとも効率が良いという事だ」

「・・・あ・・、『処刑人』の最後の仕事って・・」

ヒロが顔色を変えると、リヴィは苦笑しながら首を横に振って見せる。

「安心しろ。なにもジュリウスを殺すという訳ではない。それに、螺旋の樹内部で、ジュリウスが均衡を保っている以上、彼との接触自体、禁止となっているしな」

「そ・・そっか。良かった・・」

大きく息を吐いて、胸を撫で下ろすヒロに、リヴィは優しく頭を撫でてから、笑顔を見せる。

「素直な奴だな・・、お前は。そういうところを、ロミオは好意に思っていたのかもしれない」

「・・う・・、単純って事かな?」

「それは、悪い事ではない」

そうこう話しているうちに、管理局の者達が、設置を終わらせ、ヒロ達へと合図してくる。

任務終了に、ヒロは軽く息を洩らしてから、リヴィへと顔を向けて、ニッと笑って見せる。

「ねぇ、リヴィ。この後、暇でしょ?ちょっと付き合ってくれない?」

「ん?構わないが、浮気は駄目だぞヒロ」

「へ?浮気?・・・誰が?」

「・・・鈍感なんだな。覚えておこう」

そう言って先に歩き出したリヴィを追って、ヒロは迎えの合流地点へと足を進めた。

 

 

フライアへとリヴィを連れてきたヒロは、庭園へと足を運び、先に来ていた者達へと声を掛ける。

「ごめん!待った?」

「おっそーい!!早く終わるって、言ったのにー!」

両手にチキンを持って異議を唱えるナナ。その周りには、シエルにギル、そしてユノとサツキが手を振って待っていた。

駈け寄ってから謝るヒロの横で、リヴィはナナの口の周りを拭いて微笑む。

全員揃ったところで、ヒロが螺旋の樹とロミオの墓石の間に立ち、渡されたコップを掲げる。

「ジュリウス、ロミオ先輩。みんなで、会いに来たよ。新しい仲間の・・リヴィも一緒に・・」

それを合図に、みんなそれぞれにコップを軽く上げてから、中身を飲み干す。

それから、何でもない昼食会が始まる。そんな光景を目にしながら、リヴィは目を閉じて、ロミオとジュリウスを思い浮かべてみる。

その場にいなくても、ずっと仲間・・・家族。

その中に自分がいることに、喜びを感じていた。

 

そろそろお開きにというところで、ユノはゆっくりと立ち上がって、ジュリウスの神機の隣へと移動する。

それから、静かにハミングをした後に、優しく歌い始める。

「~~♪~~~♪・・・」

突然の歌姫の気まぐれに驚いたものの、皆黙って、その歌に聴き耳を立てる。

歌が終わって静かになったところで、ユノは螺旋の樹を見上げて、声を洩らす。

「・・ジュリウス・・・。聞こえた?」

その言葉を待っていたかのように、サツキが飛びついてユノの頬を突っつく。

「や~っと白状したか~。このこの♪」

「べ、別に白状とか!?もう!知ってるくせに、意地悪よ?サツキ」

楽し気に笑うサツキに揶揄われて、ユノは顔を赤くして剥れる。そこへ、ヒロ達も立ち上がり歩み寄る。

それから、一緒に螺旋の樹を見上げて、思いを巡らせた。

 

「そうか。葦原ユノは、ジュリウスが好きなんだな」

「そ、そんな・・・。言葉にしなくても」

「そうそう。この子、完全に惚の字なんですよ~」

「サツキ!」

「僕は・・・・知ってます」

「ヒロ君まで!?」

「素敵じゃないですか。ユノさん」

「まっ、見てればわかるけどな」

「ジュリウス、早く帰って来ると良いよね~」

「もう!みんな、絶対に面白がってる!」

 

 

夜、寝静まった頃に・・。

団欒室のカウンターで、フェルドマンはグラスの中のウィスキーを眺めながら、小さく溜息を吐く。

「・・・一人酒は、寂しいですかな?」

「っ!?榊支部長・・」

声の先に振り返ると、榊博士が一升瓶を片手に、隣へと座る。それから、小さなグラス2つに酒を注いで、1つをフェルドマンに差し出す。

「極東のお酒でも、いかがですかな?」

「・・・いただきます」

グラスを手に持ち、一気に煽ってから、フェルドマンは軽く息を洩らす。

「・・旨いですね」

「それは良かった」

満足気に笑って見せてから、榊博士もグラスの中身を飲み干し、再び2つを酒で満たす。

「・・・私の今日の発言に、何もおっしゃられないんですね?」

手に収めたグラスを見つめながら、フェルドマンは声を掛ける。そんな彼に、榊博士は、今度は味わう様に一口飲み、それから優しく答える。

「あなたにも、守らなければいけない立場というモノがある。それは・・、私にも当てはまることですから」

「ですが・・・、今日ソーマ博士が怒りを覚えたことは、我ながら白々しい意見だと思います」

榊博士を真似て、フェルドマンも舌で味わう様に一口含んでから、話を続ける。

「『本部の預かり知らぬ』なんて・・。報告書が提出されているのに、これ程バカバカしい話はないでしょう。ましてや・・・前回も今回も、本部の人間が関与して起こった事件だ。それを・・・極東が諸悪のように語るなど・・」

そこまで口にしてから、フェルドマンは酔いを冷ますように、首を横に振ってから苦笑する。

「すみません。どうか、してますね・・」

「いやいや。必要悪を演じ続けるのは、疲れますからね・・」

そう言って笑顔を返す榊博士に、フェルドマンは救われたような表情を見せてから、手の中のグラスを傾けて、中身を飲み干す。

「・・ふぅ。もう少し・・・付き合って、いただけますか?」

「上司の命令は、断れないですね」

「いえ。一研究者の後輩として、先輩に付き合っていただきたい」

「・・・喜んで」

それから二人は、もうしばらくの間、酒を酌み交わしたのだった。

 

 

式典当日。

極東のヘリポートを開け放って、会場が作られると、極東の近隣からも多くの人が集まり、全員が入ることが出来ない程、ごったがえしていた。

そんな様子を遠目に見ながら、リンドウは一緒に会場入りしたサクヤと話していた。

「はぁ~。よくもまぁ、・・・・感心するなぁ・・おい」

「そこなの?他に思う事、あるんじゃない?」

サクヤの指摘に、リンドウは笑いながら軽く頷いて、口を開く。

「わかってるって。・・・・本部の連中もいるな。全世界放送だからな・・、この式典は」

「カメラやマイクなんかも・・。そこまで手柄が欲しいのかと思うと、呆れて何も言えないわ」

そう言ったサクヤは、フェルドマンと話している本部の人間を見て、溜息を洩らす。そんな彼女の肩を抱いて、リンドウは優しく撫でる。

「お偉いさんは、明日の飯の心配をしなくて良いからな。自分の権力を誇示するのに、忙しんだよ」

「それで現場のゴッドイーターが馬鹿見るのが、納得できないのよ」

少しご立腹なサクヤを宥めながら、リンドウは式典の主役の螺旋の樹を眺めた。

螺旋の樹は、今日も静かに極東を見守っている・・・。

 

ブラッド隊は特別に、会場の警護という名目で、式典に参加していた。

慣れない制服に着られたような状態で、気恥ずかしさにヒロは頭を掻く。

「これで・・いいの、かな?」

「襟が曲がっています。動かないで・・」

シエルに直してもらっているヒロの隣では、ナナがリヴィに上着を着せてもらっている。それを見て、ギルは可笑しそうに笑いながら、声を洩らす。

「これじゃあ、児童会だな」

「そう言わないでよ、ギル」

ヒロが照れながら頬を掻いていると、ソーマがいつものラフな服装ではなく、ビシッとスーツを着込んでからやって来る。

「・・・仲良いな、お前等」

「ははっ・・どうも」

ヒロが軽く会釈すると、皆揃って頭を下げる。それにフッと笑顔で応えてから、ソーマはマイクの準備されたステージへと目を向ける。

「そろそろ・・、始まるか」

ステージ袖で話していたフェルドマンが、ステージ中央へと移動を始める。それに合わせて、準備された神機兵が後ろへと整列し、手の中の神機を右に抱えて直立する。

それを始まりの合図とし、フェルドマンはマイクに近付いて話し始める。

 

 

 





フェリドマン局長、嫌いではないです。
厳しいけど、部下思いの良い上司だと思っています!



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55話 狂い始める歯車

 

 

『まずはこの極東において・・・、皆さんと共に人類の新しい1歩を踏み出すことを、喜ばしく思います。ご存知の通り・・あの螺旋の樹は、ジュリウス・ヴィスコンティ元大尉の尽力によって、『終末捕食』をあの場に安定させ、留保し続けている。正に、奇蹟の産物と言えます。つまり・・・、我々人類は、『終末捕食』の脅威から・・・、永久に解放されたのです!』

《ーーーっ!!!》

 

 

極東の会議室でモニタリングしていた研究員は、フェルドマンの言葉に感心の声を洩らす。

「流石局長だな・・・。言うことが違うぜ」

「だなー。・・・ん?」

その一人が、モニタリング中の偏食場パルス制御装置の1つを見て、首を傾げる。

「なぁ、また5番の制御装置の波形、おかしくなってないか?」

「はぁ?・・いや、ノイズが入りやすい場所だって、九条博士が言ってただろう?波形が見えてるうちは、荒神に配線を齧られたりしてねぇよ」

「そ、そうか・・」

そこで気にするのを止めた研究員は、再びフェルドマンの演説に視線を向ける。

しかし、状態を表す波形は、どんどんと大きくうねり出す。

 

ズズズズズズズッ

バキンッ!!・・・・

現場に設置された例の5番の制御装置は、赤く染まっていき、そして・・。

バキャァッ ズガガガガガガッ!!!

黒い触手のようなものを伸ばして、螺旋の樹の根元へと張り付く。

 

『よって我々、フェンリル本部は・・・あの輝かしい人類の至宝を、『聖域』として認定し・・・未来永劫、安全に管理していくことを、ここにお約束します!』

《ーーーーーーっ!!!!》

 

グジュグジュッ バキュッ

ズズズズッ

黒い触手に取りつかれた螺旋の樹は、そこからゆっくりと紫色に毒されていく。

そして・・・・。

 

 

ガァーーーーーーーンッ!!!!!

 

 

「なっ!?ぐわっ!!」

「ちっ!頭を下げろ!!」

「うわっ!じ、地震!?」

「ヒロ!そのまま、伏せて下さい!」

「なんて・・タイミングだよ!」

「ナナ!私から離れるな!」

「わわわっ!う、うん!!」

「サクヤ!掴まってろよ!?」

「この状況じゃあ、死んでも離さないわ!」

 

突然の地震が治まると、フェルドマンはゆっくりと立ち上がる。そして、目の前に見えたモノに対し、驚愕の表情を浮かべる。

「・・・・何だ・・、これは・・」

その台詞は、おそらく目にした者全てが思ったであろう。

ついさっきまで、穏やかに呼吸をしているように見えた螺旋の樹が、その姿を毒々しい紫色の悪魔の手のように変化させていたのだから・・・。

それを目にしたソーマは、すぐに立ち上がり、会場を出ていく。それと入れ替わりに、管理局の者が、フェルドマンに駈け寄り、何やら耳打ちしている。

それを聞き終えたフェルドマンは、強い口調で指示を出している。

状況の変化についていけないでいたヒロは、隣のシエルへと視線を向ける。すると、シエルは驚きに眼を見開いた状態で、静かにブラッドだけに伝える。

「今、管理局の方が・・・・フェルドマン局長に耳打ちした言葉を、読唇しました。・・・・・制御装置で確認できていた・・・ジュリウスの生体反応が・・・消失、したと・・・」

《っ!!!?》

平和の象徴とされるはずの螺旋の樹は、たった数分で・・・恐怖の象徴へと変わった。

 

式典に呼ばれていたユノは、ゆっくりとした足取りで、螺旋の樹を見渡せる位置まで移動する。

その禍々しい姿に、肩を震わせながら、ユノは想い人の名を口にする。

「・・・何なの・・これ・・。ジュリウス・・・、嫌よ・・」

 

 

ガァンッ!!

「ぐぅっ!!」

式典が中断されたので、ヒロ達は話を聞こうとフェルドマン訪ねて大会議室へと駆け込んだ。そこで、フェルドマンはソーマに胸倉を掴まれて、壁へと押し付けられているのを目にする。

「ソーマさん!」

「き、貴様!何を!?」

「黙ってろ・・」

殺気をぶつけて、ブラッドと管理局の職員を威嚇すると、ソーマはその鋭い眼光を、フェルドマンへと向ける。

「御大層に並べた、細心の注意とやらが裏目に出たな。どうするつもりだ?あぁ!?本部の犬が!!」

「ぐっ・・うぅ・・。申し、ひらきも・・ない」

「これでもまだ!極東が原因と言い張るのか!?」

「うっ・・・・・、が・・はっ・・」

息が苦しくなってきたのか、フェルドマンは足をばたつかせて、口から泡を吹きだす。

それを止めさせようと、遅れて到着したリンドウが、ソーマの腕を掴んで声を掛ける。

「その辺で良いだろう、ソーマ。お偉いさんが、死んじまうぞ?」

「・・・・・・・ちっ!」

舌打ちをしてから、ソーマは掴んでいた手を離し、その場にフェルドマンを落とす。それから、何度も咳込んでいる彼を見下ろしてから、「ふん」と鼻を鳴らす。

「・・・・2度と、極東を悪く言うな。生きてる人間に恨み言が必要なら、前支部長の息子の、俺に言え」

そう吐き捨てると、ソーマは苛立ちを押さえるために、離れた場所の壁に背を預けて、静かに目を閉じる。

ソーマが落ち着いたのを見て、リンドウは面倒くさそうに頭を掻いてから、フェルドマンの前に屈む。

「手は貸しませんぜ、お偉いさん。ソーマの言う事には、俺も一理あるんでね」

「・・・・承知・・・げほっ・・、している・・」

そう言って立ち上がると、フェルドマンは上着の襟を整えてから、ふらつきながらもスクリーンの前へと移動する。

「まずは・・・、状況を確認だ。・・・現場の、様子は?」

彼に聞かれて、研究員達はすぐに操作盤をせわしく打ち出す。そして、衛星カメラの映像を呼び出してから、説明へと移る。

「現在、確認できることだけを説明します。螺旋の樹は何らかの事象により変貌。その原因の1つに、例のノイズを発していた5番制御システムが関与していた模様。それと、螺旋の樹内部で確認できていた、ジュリウス元大尉の特異点反応が消失。全ての問題が、なぜ起こったかは、今のところ特定できておりません」

「・・・・そうか」

説明を聞いてから、フェルドマンは何度か頷いて、それから駆け込んできたブラッドとリンドウ、ソーマに視線を向けてから、話し掛ける。

「・・聞いた通り、今は何もわからない状況だ。原因究明のためには、現場に赴くしかない」

《・・・・・》

全員が黙っているのに対して、フェルドマンはゆっくりとした動作で、頭を深く下げる。

「力を、貸して欲しい。ゴッドイーター・・。極東の為・・・・世界の、為に」

皆思うところがあるのか、中々返事を出来ずにいると、ソーマが会議室の出入り口に向かって足を進めながら、口を開く。

「・・なら、2つ約束しろ。1つは、現場の判断は、俺達ゴッドイーターに一任すること」

「わかった。・・・2つ目は?・・」

聞かれてから、ソーマは足を止めて、フェルドマンへと振り返る。

「今回の螺旋の樹の事が治まったら、情報管理局の局長であるお前の権威で、全ての真実を人類に公開しろ」

「っ!!?・・・そ、れは」

驚いて答えを迷うフェルドマンに、ソーマはフッと笑みを見せる。

「・・・冗談だ。出来ない約束を取り付けても、何の意味もない。・・2つ目は、ジュリウスを助ける方法を、全力で考えろ。以上の2つを飲めば、少なくとも・・・俺とブラッドは、協力してやる。それで、良いか?」

「あ・・・」

話を振られたブラッドは、全員が希望をその目に浮かべて、深く頷く。そんな彼等を見て、フェルドマンは改めて頭を深々と下げる。

「委細承知した。・・・ありがとう」

「ふん・・・・。今の言葉、忘れるなよ」

そう言って、ソーマはブラッドを促して会議室を出る。ソーマに頷いたブラッドも、フェルドマンに一礼してから彼の後を追って、出ていく。

その場に残ったリヴィとリンドウは、1度顔を見合わせる。それからリンドウが、リヴィに「お先に」と促したので、リヴィが先に要件を口にする。

「局長。ならば、私はブラッド共に行動する。・・ジュリウスの神機を、適合させます」

「・・・任せる」

フェルドマンの言質を取ってから、リヴィはブラッドを追ってすぐに出ていく。

そんな彼女の背中を見送ってから、リンドウは無線を繋いで話し掛ける。

「レンカ・・。極東の全ゴッドイーターに伝えろ。変貌した螺旋の樹の調査に、協力しろってな」

『わかった。すぐに伝える』

レンカの声が洩れ聞こえると、フェルドマンは驚きの表情でリンドウを見る。

「・・・リンドウ君」

「あんたの為じゃないぜ。極東と、世界の為だ。独立支援部隊クレイドル隊長代理として、当然の判断をしたまでだ」

そう言って煙草を咥えてから、リンドウも出入り口へと歩き出す。だが、途中で思い出したように振り返って、フェルドマンに笑いながら忠告をする。

「あ、そうそう。ソーマとの約束、ちゃんと守って下さいよ~。うちの隊長は、怒らせるとソーマより怖ぇっすよ?」

「・・・ふっ。だから、本部は彼を煙たがっている」

その答えに満足そうに笑ってから、リンドウは手をひらひらと振ってから、その場を後にする。

 

 

ヒロと共に、フライアの庭園を訪れたリヴィは、ジュリウスの神機の前に立つ。

「本当に・・・大丈夫なの?」

「痛むのは、最初だけだ・・」

そう笑って見せてから、リヴィはジュリウスの神機に手をかける。

そして・・。

グジュウッ! バキバキッ

「くぅ!!」

一気に引き抜くと、リヴィは右手から黒い骨格のようなものを発しながら、強く目を閉じて集中する。

それがゆっくりと治まっていくと、徐々に呼吸を整えてから、ヒロへと顔を向ける。

「完全・・・とまではいかないが、適合した」

「そっ、か・・」

安心した表情を浮かべるヒロを先にと促してから、リヴィは大きく深呼吸をして、ロミオの墓石へと声を掛ける。

「・・・・ロミオ、行ってくる」

それから、変貌した螺旋の樹を見上げて、強い眼差しのまま庭園を後にする。

 

 

螺旋の樹周辺にやってきた、ブラッドとソーマは、変わり果てた螺旋の樹の根元を観察する。

「こいつは・・・、どうなってやがんだ?」

「ギルバート、下手に触れるなよ。サンプルの採取は、俺がやる」

触れようと手を伸ばしていたギルを注意して、ソーマはゴム手袋を装着して、慎重に表面をはがして、ガラス瓶に入れていく。

「・・・2班に分かれるか。俺とギルバートにナナで、周辺の調査をする。ヒロはシエルとリヴィを連れて、この近辺に荒神がいないか警戒してくれ」

「わかりました!」

ヒロがリヴィとシエルを連れて駆けていくと、ソーマは今度はナナへと注意する。

「ナナ・・。こいつは食っても、美味くないぞ?」

「あーーっ!ソーマさんが、意地悪言うー!!」

「ははっ」

ナナが剥れて言い返すと、ギルは思わず声を出して笑う。そんな二人に、ソーマは手荷物と神機を担いでから、声を掛ける。

「行くぞ。もっと奥に踏み込んでみる」

「了解っす!」

「りょーかーい!!」

三人は変色した根を躱しながら、奥へと足を進めた。

 

少しひらけた場所から、ヒロ達は螺旋の樹に向かって歩みを進める。

周りを見渡したが、今のところ荒神は確認できず、簡易のオラクルレーダーにも反応はないので、螺旋の樹を確認しようと思ったのだ。

ただ、移動中もリヴィは時折苦しそうに顔を歪めるので、休み休みに移動をしている。

「・・・一旦、引き返そうか?」

リヴィを見ていられなくなってか、ヒロがそう提案すると、シエルも頷いてリヴィの汗を拭く。

「そうですね。リヴィさんの適合率が不完全という状態で、これ以上進むというのは・・」

「・・・・心配性だな、お前達は」

リヴィは苦しげにも笑顔を見せてくる。しかし、これ以上は本当に危険だと思い、ヒロはリヴィの腕を肩に回す。それに倣って、シエルも反対側の腕を自分の肩に回して支える。

「・・・一人で、歩ける」

「駄目です。私達はもう、仲間なんですよ?」

「うん。支え合っていこうよ」

「・・・ロミオみたいなことを」

少し照れくさそうに俯いてから、リヴィはそのまま足をゆっくりと動かす。

そのまま無線で連絡を取ろうと、ヒロが操作しようとした瞬間・・、

ガァンッ! ガシャン

「な・・・・、嘘でしょ?」

螺旋の樹の張った根の上から、赤く発光した神機兵が、姿を見せたのだ。

「神機兵・・・。何故、こんなところに・・」

「ラケルの無人型か?・・・これは、帰してくれないようだな」

三人はすぐに距離を取って構えて、神機兵へと臨戦態勢に入る。

リヴィは苦しみながらも、ジュリウスの神機を構えて、ヒロとシエルに声を掛ける。

「・・こいつの性能は、どの程度だ?」

「ジュリウスの戦闘データが、移植されてますので、通常の神機兵よりは・・」

「でも、模造品だしね。ジュリウスのように、考えたりは出来ないよ」

「・・了解した。つまり・・・私達より弱い、でいいな」

リヴィの言葉に笑みを浮かべてから、ヒロは二人へと指示を飛ばす。

「シエル!バックアップよろしく!リヴィは右、僕は左!」

《了解!!》

ヒロが駆けだしたのに合わせて、シエルとリヴィも、それぞれの役割の為、走り出した。

 

 

 

 





少しローペースになってますんで、申し訳ないです。

来週もちょっと遅めにアップすると思いますんで、そのように・・。




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56話 闇を照らす金色の翼

 

 

螺旋の樹の体皮を、いくつか採取し終えたソーマは、軽く息を吐いてから、それを鞄へとしまう。

そこへ、

ガシャンッ

「・・・あ?」

頭の上の方から、神機兵が降って来る。

「ソーマさん!」

「こんのー!!」

ギルとナナは咄嗟に神機を構えて、ソーマを助けにと走り出す。

しかし、二人がそこに辿り着く前に、神機兵は上半身を吹き飛ばし、残った足だけがその場に崩れ落ちる。

「・・・ほぅ。ブラッドアーツってのは、いよいよ便利だな」

《・・・・》

自分の振るった神機を眺めながら、ソーマはゆっくりと立ち上がり、元来た道を歩き出す。

「ギルバート。ヒロと連絡を取れ。こっちの作業は、終了したとな」

「あ・・、はい」

「ソーマさん・・・、すっごーい」

指示を出されたギルが連絡を取り出すのを確認してから、ソーマはナナの頭を軽く撫でる。

少し歩みを進めたところで、ギルがソーマへと声を掛けてくる。

「ソーマさん。向こうも、神機兵と接触したみたいです」

「そうか・・。荷物を置いたら、一応応援に移動するか。お前等は、先に行ってろ。後で追いつく」

「「了解!!」」

二人の背中が遠のいていくのを見ながら、ソーマは帰りの合流地点へと歩みを進めた。

 

 

ギィンッ!

「ぐぅ!」

神機兵の振り下ろした刃を、ヒロが受け止めて踏ん張る。その隙に、リヴィが後ろに回って背中へと一閃する。

「はぁっ!!」

ザァンッ!!

弱冠の暴走が見られる背中のAI部分を斬り付けられ、神機兵は膝を崩す。そこへ、シエルがバレッドを放ち、ヒロとリヴィは同時に離れる。

ドンッ!! ブゥゥーーン!

眼の光が消え、神機兵が沈黙すると、ヒロ達は息を吐いて肩の力を抜く。

「お疲れ様です。では、移動しましょう」

「そうだね。リヴィは、大丈夫?」

「問題ない」

そのまま移動を始めたところで、三人は妙な音にその足を止める。

ズズズズズズズズズッ

「・・・・何か、来る」

リヴィの言葉に、再び神機を構える。

しかし、その向かってくるモノを目にして、三人は驚きに表情をしかめる。

「・・あれは・・・、あの時の!?」

シエルの叫びと共に、皆一斉に踵を返して走り出す。

螺旋の樹を形成する触手の波が、こちらを飲み込もうと迫ってきたのだ。

「何なんだ、あれは!?」

初めて目にしたリヴィに、ヒロとシエルが簡単に答える。

「あれは、『終末捕食』が起こった時に出てきた・・・・いわゆる、螺旋の樹の基になったモノだよ!」

「飲み込まれると、おそらく死にます!」

「・・・厄介だな!」

徐々に早くなってくる波のスピードに、リヴィは苛立ちを口にする。

そこで、目についた螺旋の樹の汚染された根元を目にしてから、ヒロへと声を掛ける。

「ヒロ!あれを倒して足止めする!私は左、お前は右だ!」

「了解!」

声を掛け合ってから、リヴィとヒロは左右へと飛び、螺旋の樹の1部を斬り付ける。

「はぁっ!!」

「ふっ!!」

ザァンッ! ザンッ!!

倒れたそれらが妨害となってか、波は一気にそのスピードを緩める。それを機にと、走る足に力を込める三人。

しかし・・・。

ゴゴッ ゴゴゴゴッ

「なっ!?」

足元が急に割けだし、それを目にしたヒロは思わず声を洩らす。

更に、そのひび割れは、リヴィの足元へと広がっていき、ヒロはそこへと足を向ける。

「リヴィ!跳んで!」

「何!?・・くっ!」

バキバキバキィッ!!

その声と同時に、裂け目から足元が崩れ落ちていき、リヴィは大きな穴へと吸い込まれていく。

それをさせまいと、ギリギリ手を取ったヒロが、神機を残った地面へと突き立て、握った手に力を入れる。

「ぐ・・・・くぅっ!!」

「くっ・・・、私を離せ!そうすれば、お前だけでも!」

「い・・・嫌、だ・・」

リヴィの提案を断り、必死にリヴィを持ち上げようとするヒロ。目の端には、シエルがこちらへと助けに向かってくる姿が映る。

それで気が抜けた瞬間、ヒロの神機を握っていた手は、汗でするりと抜けてしまう。

「く・・っそ!ごめん!」

「仕方ない!着地に備えろ!・・シエル!皆に連絡を・・!」

「ヒロ!!リヴィさん!!」

シエルが辿り着いた頃には、ヒロとリヴィの姿は、穴の奥深くの闇の中へと消えていた。

愕然と膝をつくシエル。そこへ、ギルからの無線が入る。

『こちらギル。シエル、ヒロと連絡が取れねぇんだが、何かあったか?』

「・・・ギル。応援を・・・、早く来てください!リヴィさんが・・、ヒロが!」

 

 

『・・・・お前には、何もない。だからこそ、英雄になれる!』

(・・・・また・・・、夢?)

『さぁ・・・・全てを、受け入れるんだ。全てを・・』

(・・・・何だろう・・・。すごく、嫌だ・・)

『さぁ・・さぁ・・、さぁ!!』

(嫌だ・・・・・・、やめて・・)

 

『受け入れるんだ・・・・。化け物!』

 

 

「はっ!!?」

勢いよく起き上がったヒロは、全身から噴き出した汗に寒気を感じながら、ゆっくりと周りを見回す。

「気が付いたか?」

声を掛けられ、そちらを向いてから、それがリヴィだっと理解すると、安心したかのように息を洩らす。

「うなされていた様だが、大丈夫か?」

「・・・うん。大丈夫・・、っ痛!」

笑って見せたところで、ヒロは自分の身体に走る激痛に顔をしかめる。それを気遣う様に、リヴィは側によって肩を抱く。

「無理はするな。あばらが2本ほど折れていた。固定はしてあるが、しばらく動かない方が良い」

「くぅ・・・ご、ごめんね。・・足引っ張っちゃって」

「謝ることはない。私こそ、足元が厳かだったばかりに、お前を巻き込んでしまった。その上・・・・、お前の神機が・・」

それを聞いてから、ヒロは自分が神機を手放してしまったことを思い出す。手から離れてしまった相棒を思いながら、手を握っては開いてみて、ほんの少し寂しい気持ちになる。

「もし・・・戦闘になったら・・」

「気にするな。皆の救援が来るまで、私が守ってやる」

「心強いね・・」

少しだけ笑みを見せたヒロに小さく頷いてから、リヴィは無線を繋ごうと試みる。しかし、ザーッと音がするだけで、誰からの反応もない。

「やはり・・、無線は駄目か。結構下に落ちたようだしな・・」

「そっか・・。じゃあ、上のみんなに期待して、動かない方が良いよね」

「そのようだな・・」

短い会話を済ませてから、リヴィはヒロの隣へと腰を落ち着ける。

そんなリヴィに後を任せるように、ヒロは身体を横にして楽な姿勢を取り、折れたあばらの負担を軽くしようとする。

そこで、ふと気になってか、ヒロはリヴィの右腕にまかれた包帯に視線を向ける。

「ねぇ、リヴィ・・・。その・・、右腕って・・」

「ん?・・あぁ、これか?別に大したことはない。昔から、何度も神機適合の実験をされていてな・・。あまり、人の目に見せて気持ちいいものではないだけだ」

「そ・・そうなの?」

「あぁ。興味があるなら、見るか?」

そう言って、おもむろに包帯を取ろうとするリヴィに、ヒロは起き上がって必死に手を振る。

「いやいやいや、良いよ!?」

「そうか?・・・そういえば、ロミオにも嫌がられたな。別にお前達になら、見せても構わないんだが・・」

「見たくないよ!怖いよ!あっ・・痛ぅ・・」

「騒ぐな。傷に障るぞ?」

「う・・・、はい」

リヴィの言葉に、ヒロは大人しくもう一度横になろうとする。

だが、そこで異変に気付き、ゆっくりと立ち上がる。当然、リヴィも気付いてか、神機を手に構え、ヒロの前へと出る。

「・・・最悪のタイミングだな。私も、まだジュリウスの神機への適合が不完全だというのに・・」

「くそ!僕は、神機事態ないのに・・」

文句を口にしながら、二人が身構えていると、それはゆっくりと闇の奥から姿を現し、彼等を標的にして声を洩らす。

グルルルッ!

背中から大きな腕を2本前へと伸ばし、四肢を大きく踏ん張ってから、二人へと声を上げる。

グアォォォーーーーーッ!!!

「・・・新種か」

「本当に・・・、最悪だね」

黒い体表面に、骨のような鎧を纏った荒神が、二人へと襲い掛かろうと、体重を前に低く構えた。

 

 

底の見えない穴を覗き込みながら、ブラッドの面々は途方に暮れていた。

どうやって降りるか、二人は無事なのか・・・、と。

「どうすれば・・」

「くそっ!ロープでどうにかって、レベルじゃねぇし・・」

「思い切って飛び込んでも、どうなるかわかんないし・・」

三人が迷いを口にしていると、黙っていたソーマが、覚悟を決めたように息を吐いてから、そちらへと振り返る。

「リンドウに救援を要請してる。とにかく、俺達はヒロ達を迎えに行くぞ。万が一・・、あいつ等が荒神と遭遇してるなら、助けは必要だろうしな」

そう言ってから、ソーマはヒロの神機の前まで移動する。それに思い当たることがあってか、シエルは声を洩らす。

「ソーマさん・・、まさか・・」

「黙ってろ。・・・俺も、初めてだからな。後は頼むぞ・・。っ!!」

大きく深呼吸をしてから、ソーマはヒロの神機へと手を伸ばし、その持ち手を掴んだ。

グジュッ バキバキッ!

 

 

ギィンッ! キンッ!!

「くぅ・・・、本当に・・厄介だな!」

実質リヴィは一人で相手をしながら、敵に対して文句を洩らす。

背中からはやしているもう2本の腕は、神機のように刃を形成し、スピードに乗せて風の如く斬り付けてくる。

ヒロも陽動になればと動いてはいるが、荒神は神機に反応する様に動いていて、あまりヒロの方へは意識を向けてはこない。

「賢いね!こんな時に・・、感心なんかしたくないけど!」

「ヒロ!あまり無理はするなよ!?」

攻め込めきれない二人は、とにかく声を掛け合ってと、何とかお互いの士気を保っている。

だが、それを嘲笑うかのように、荒神はその場で回転して、竜巻を起こしてリヴィを吹き飛ばす。

ギャァンッ!

「ぐあっ!!」

「リヴィ!!」

吹き飛ばされたリヴィを庇って、ヒロはその体を受け止めてから、壁に打ち付けられる。

「あ・・・がはっ!!」

「く・・馬鹿者・・。私を庇って・・」

衝撃に動けないでいると、荒神はゆっくりと近付いてきて、背中の腕から刃を覗かせ、貫こうと眼を光らせる。

それをさせまいと、ヒロはリヴィを庇う様に前に立ち塞がり、乱れた息を整える。

「・・く、そ・・。どけ・・ヒロ」

まだ立てずにいるリヴィの声に、ヒロは首を横に振ってから、前を見据える。

「諦めない・・・。僕は、誰の命も・・・もう、諦めないって誓ったんだ。だから、・・・仲間には手出しさせない!!」

「ヒロ・・・・」

「・・・なら、こいつが必要だろう」

ヒロの叫びに応えるように、何処からかリヴィとは別に声がしたと思った矢先に、

キィィンッ!

ヒロの前に神機が降って来る。

「っ!!?これは・・・僕の・・」

おそるおそる手にした神機を持ち上げると、上層からシエル、ナナ、ギルと順に降り立って、荒神へと神機を構える。

「みんな・・・」

声を洩らすと、隣に左腕を押さえながら、ソーマが歩み寄る。

「助けが必要だろうと思ってな・・。だが、俺は暫く無理だが・・」

「ソーマさん・・。まさか、僕の神機を!?」

左腕の袖が割けて、火傷を負ったような痕を見て、ヒロは驚きの声を上げる。それに応えるように、ソーマは苦笑しながらその場に座り込む。

「ユウの奴を真似てやってみたが・・・・、2度とごめんだな」

「・・・ありがとうございます」

そう言ってから、ヒロは自分の身体の状態と、状況を加味して、シエル達に声を掛ける。

「みんな!1分でいいから、僕に時間を!!」

「はっ!来て早々、注文かよ!・・わかったぜ!」

「1分でいいの!?りょーかい!!」

「了解しました!」

三人が荒神へと駆け出すと、ヒロは自分の懐から感応制御システムを神機へとセットし、自分の血の力と呼応させる。

「・・・みんなの血の力と連動、リミッター解除時間は30秒、神機との感応率クリア・・・・。リッカさん、切り札・・・使います!」

「・・・ヒロ、お前・・・」

ソーマの声に頷いてから、ヒロはリヴィへと声を掛ける。

「リヴィ・・・。後は頼むよ」

「ヒロ・・・、何をする気だ?」

その言葉に返事をせず、ヒロはゆっくりと前へと進み出て、神機を前に構える。それを見て何かを察したのか、ソーマが戦闘中の三人に叫ぶ。

「お前等!そこから離れろ!!」

「へ?」

「何だ?」

「・・ヒロ?」

ソーマの声と、ヒロの姿を確認してから、全員戦闘を中断して、荒神から距離を取る。

そして、ヒロは神機のコアに浮かび出た結晶に力を込めるように、手の中の神機に力を籠めて、口を開く。

「・・・『ブラッド・レイジ』発動」

パキンッ ドオォーーンッ!!!

その瞬間、結晶は弾け、ヒロの右腕と背中から金色のオーラが溢れ出して、彼の身体の周りで小さな嵐を起こす。

「はあぁぁぁーーーっ!!!!」

溢れる力に身を任せて、ヒロは声を張り上げながら、荒神へと走り出す。

それは、まるで光の線を引いていくが如く、荒神は抵抗できずに斬り刻まれていく。

ザシュッ! ザンッ! キィンッ! ザシュゥッ!!

「ああぁぁぁーーーーーっ!!」

グッガガッ ガァァーーッ!!

閃光となったヒロに成すすべなく、荒神は身体を斬り裂かれ、遂には背中の腕も斬り飛ばされ、その場に倒れ伏せる。

「なんだ、こりゃ・・」

「すっごーい。ヒロ、羽が生えてるみたい」

「これは・・、一体・・」

その圧倒的な力に、誰もがこのまま決まると思った瞬間・・。

「・・・っ!!?ぐ・・うぅ・・、あ・・」

パッァン!!

《っ!!?》

ヒロから発していた金色のオーラが、音を立てて消え、そのまま彼は倒れ伏せる。

「ヒロ!?どうした!?」

「どうしちゃったの!?」

「限界・・・?ヒロ!?」

「ちっ!・・・、元のダメージがデカすぎたか」

ヒロが倒れたのを隙と見たのか、荒神は震えながらも体を起こし、そのままヒロへと突進しだす。それに意表を突かれたと、誰もが焦っている中、リヴィが口の端を浮かせながら神機を構えて迎え撃ちに掛かる。

「・・後は、任されたぞ。ヒロ・・」

そう言って飛び込んでいったリヴィに、ジュリウスの神機から映像が流れ込む。

キイィィィンッ

(くそ・・・こんな時に・・)

一瞬顔をしかめたリヴィだったが、その映像に目を見開いてから、口を開く。

『友が・・・帰りを待っている。だから、邪魔をするな!はぁぁーーーっ!』

「ジュリウス・・・なのか・・」

一人荒神へと剣を振るうジュリウス。そんなジュリウスと同調したように、リヴィは神機を構えて声を洩らす。

『「ブラッドアーツ、『疾風の太刀・鉄』」』

ザシュザシュザシュザシュザシュッ!!

駆け抜けた斬撃によって、荒神はその体をゆっくりと地面に沈める。それをチャンスと、シエル達は一斉に捕食しコア回収を始める。

自分の握ったジュリウスの神機を見つめながら、リヴィは倒れたヒロの側へと歩み寄ると、他の皆も集まってくる。

シエルがヒロの様子を見てから、気絶しているだけだと笑顔を浮かべると、全員が胸を撫で下ろす。

「・・・・まったく、大した奴だな。お前は・・・」

ソーマの言葉に、全員が優しく微笑んだ。

 

 

 

 





少しの間お休みしてましたが、来週からまた加速していきたいと思います!




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57話 開かれた魔窟

 

 

フッと目を開いたヒロは、自分がベッドの上だと気付くのに、少しばかり時間が掛かった。

螺旋の樹の下層に落ちてから、1日。彼の記憶は、気絶したそこで、プッツリと途切れていたからだ。

「・・・目が覚めたか」

「あ・・・、リヴィ」

ベッドの側の椅子に座っていたリヴィが、不愛想ながらも笑って見せる姿に、ヒロも自然と笑顔を見せる。

よく周りを観察すると、シエルとナナは長椅子でお互いに寄りかかって眠り、ギルも壁に背を預けたまま、静かに寝息を立てている。

「・・・皆疲れているのに、お前が目覚めるまでと聞かなくてな」

「そっか・・・。ありがとう、リヴィ」

「私に礼を言われてもな・・。お前の切り札のお陰で、助かったわけだ。礼を言うのはこちらの方だ。ありがとう・・、ヒロ」

リヴィが軽く頭を下げると、ヒロは軽く首を横に振ってから、頭を上げさせる。

三人の寝息を、心地良さげに耳を傾けるヒロを見て、リヴィはゆっくりと立ち上がる。

「では、私はお前が目覚めたことを、榊支部長とフェルドマン局長に伝えてこよう。・・・今は、ゆっくり休め」

「うん。そうするよ・・」

そう言ってリヴィは入口に足を向ける。

しかし、すぐに出て行かずに、少し迷う様な表情を浮かべてから、彼女は再びヒロへと振り返る。

「ヒロ・・・。皆にはすでに話したことだが・・、やはりお前にも伝えておこう」

「ん?なに?」

そう前置きをしてから、リヴィは小さく息を吐いてから、真っ直ぐにヒロを見つめて口を開く。

「・・・・ジュリウスは、生きている」

 

 

医務室を出てからしばらく歩いた廊下の先で、リヴィは設置された長椅子に座るフェルドマンを目にし、近寄って一礼する。

「丁度、お伺いしようと思っていました」

「そうか・・。彼の様子は?」

「今しがた目覚めたところです。最初は多少の記憶の混濁が見えましたが、今は安定し、問題はないかと・・」

「そうか・・。それで、君の方はどうだ?」

そう言われてから、リヴィは右腕をそっと撫でながら、目を閉じて答える。

「ジュリウスの神機との適合は、出来ました。ブラッドアーツも習得したので、こちらも問題ないかと・・」

「その報告は受けている。・・・君の、身体の事を聞いているんだ」

フェルドマンの台詞に少し驚いた表情を見せるリヴィ。しかし、すぐにいつもの冷静な顔つきをしてから、首を横に振って見せる。

「そちらも、問題ありません。先程も申しましたが、安定してますので」

「そうか。ならば・・・、もう聞かないことにしよう」

そう口にして小さく息を吐いてから、フェルドマンは軽く顎を擦りながら、別の質問をする。

「・・ブラッドアーツに目覚めた際に、ジュリウス君が生きていると判断したそうだが?」

聞かれてから、少し考えるように視線を外すリヴィ。それから自分なりの解釈で返事をする。

「彼の神機から、感応現象で読み取れたことから判断しました。彼は、螺旋の樹の中で、戦っていました。それは、おそらく今も・・・」

「・・・ふむ。根拠のないことだが、君がそう言うのであれば・・・信じるしかないな。第2世代以降のゴッドイーターの持つ、感応現象か・・」

再び考えるような姿勢をとるフェルドマンに、リヴィは軽く頷いて見せる。

「報告できることは、以上です。榊支部長にも、ヒロが目覚めたことを伝えるので、私はこれで・・」

「あぁ」

フェルドマンの返事に礼をしてから、リヴィはそのまま廊下を歩き始める。

そんな彼女に、フェルドマンは気にかかったことがあるのか、もう1度呼び止める。

「リヴィ。彼の・・・神威ヒロの、『喚起』の力について・・君はどう思う?」

背中越しに訊ねられたリヴィは、しばらく立ち止まった後、顔だけ振り向かせて答える。

「私には、わかりかねます。・・・血の力・・、彼の意志だという事以外は・・」

言い終わると、リヴィはそのまま歩いて行く。その背中を見送ってから、フェルドマンは自嘲するように苦笑いを浮かべる。

「・・・・嫌われてしまったか、な?」

そう口にしてから、もうしばらく長椅子に座って、今後の事を考えるのだった。

 

 

次の日。

再び集められた極東の主だったゴッドイーター達は、目の前のフェルドマンの言葉に耳を向けていた。

「今回、螺旋の樹の汚染によって、ジュリウス君の特異点反応が消えてしまったのは、皆も承知しているだろう。それについて、我々は議論の末、螺旋の樹の内部調査を早め、螺旋の樹の安定化を試みようと思う」

「・・・螺旋の樹の、安定化ね」

リンドウが息を吐きながら声を洩らす。しかし、それを聞こえなかったかのように、フェルドマンは話を続ける。

「ソーマ博士が回収してきた、螺旋の樹の表面皮を調べたが・・・結果を述べると、良くわからないっと言った状態だ。ただ、人類に何らかの影響は出そうだという・・」

「回りくどいぞ・・」

フェルドマンの話を遮って、黙っていたソーマが前へ出てくる。そんな彼を恐れてか、情報管理局の職員達は身体を強張らせる。

「現場に行くのは、俺達ゴッドイーターだ。情報はわかりやすく正確に伝えろ。『終末捕食』が、再び発動しそうだってな・・」

《っ!!?》

ソーマの言葉に、ゴッドイーター達は息を飲み、フェルドマンは目を閉じてから溜息を洩らす。

核心をついてもなお、喋り辛そうなフェルドマンの代わりに、ソーマは続けて説明を始める。

「俺が採取した螺旋の樹の表面から、微量ながら偏食場パルス特有の反応が検出された。そこから導き出される答えは、中のジュリウスが保つ均衡が崩れつつあるという事だ。つまり・・」

「『終末捕食』が・・・再び、起ころうとしている」

「そういうことだ」

ヒロが口にした言葉に、ソーマは頷いてから答え、フェルドマンへと視線を向ける。そこで、ようやく観念したのか、彼も重い口を開く。

「・・・今の話に、間違いはない。だからこそ、中の調査を急務と考えたのだ。2日後に、準備が整う。そこで、螺旋の樹の開闢作戦を決行する。・・・君達の力を、再び借りたい」

そう言って頭を下げるフェルドマンを見て、皆が戸惑う中、目を細めて静かに怒りを見せるコウタが、彼の前へと出てくる。

「なぁ、あんた・・。もしソーマが言わなかったら、今の事実を俺等に言わないまま、作戦を決行しようとしてたのか?」

「・・・・」

黙って頭を下げ続けるフェルドマンに、その質問に対して「イエス」と判断したコウタは、胸倉を掴んで頭を無理矢理上げさせる。

「あんた等にとって、俺等兵士は使い捨てかもしれねぇ。けどな、こっちは仲間の命がかかってんだ。そういうの、マジでやめてくんねぇっすか?」

「・・・コウタ、よせ」

顔を突き付けて睨みつけるコウタを、レンカが肩に手を置いて引かせる。

その様子に大きく溜息を吐いてから、タツミは黙ったままのフェルドマンに、ブラッドの先頭に立っていたヒロの肩に手を置いてから喋りかける。

「局長さん。今回も、おそらくこいつ等が1番危ない橋を渡ることになるのは、わかってんだろ?取り繕うのは、世界の人達に勝手にやってくれて構わねぇよ。でも今は、関係ねぇだろ?いつまでも、良い恰好すんじゃねぇよ」

「・・タツミさん」

珍しく手を震わせるほど怒っているタツミに、ヒロはそんな状況でないのを理解しつつも、嬉しさに顔を綻ばせてしまう。

タツミの言葉に共感したゴッドイーター達に注目され、黙ったまま動けないでいるフェルドマンに助け舟を出すべく、榊博士が彼の隣まで歩み出て、作戦概要を口にする。

「とにかく、今は一刻を争う事態なんだ。フェルドマン局長の事は、一先ず横に置いておくとして、作戦の内容について私から・・。先ずはジュリウス君の神機に適合したリヴィ君に、螺旋の樹への入り口を開いてもらう。それを、本部から明日届く予定の、開闢ドッグによって広げ、固定する。そこから内部に、神機兵に搭乗した作業員の手で、偏食場パルス制御装置を内部にて設置する。そこから探索を行い、ジュリウス君との接触を試みて、今後の対策を練ろうと思う。質問はあるかな?」

榊博士が視線を巡らせると、皆納得したように頷いて見せる。

「ありがとう。その際、ブラッドは護衛の任で、入り口付近を固めて欲しい。他のみんなには、その周辺と極東の守りを固めてくれ」

「ちなみにっすけど、何処を開くんっすか?」

少し落ち着きを取り戻したタツミが質問すると、榊博士は静かに頷いてから、口を開く。

「・・・・フライアの・・、神機兵保管庫からだよ」

その言葉に、ヒロ達ブラッドは、身体に緊張を走らせた。

 

 

ゴッドイーターの居住エリアの窓から、フライアを眺めるヒロ。

再び古巣が戦場になるのかと思うと、色々な事が頭の中を駆け巡る。それを落ち着けるために、夜の月明かりに照らされるその場所を、目に焼き付けていたのだ。

(・・・いつかは、失くなっちゃうのかな・・。ロミオ先輩のお墓、移せるかな)

思いはロミオの墓石へと切り替わってきたところで、突然彼の視界が閉ざされる。

「・・だ~れだ?」

「へ?え!?・・・えっと・・」

突然の出来事に戸惑っている彼にくすくす笑いながら、目を手で覆い隠していた人物が、振り向かせて笑顔を見せる。

「久しぶり、ヒロ君」

「あ・・、レア博士」

レアの優しい微笑みに、ヒロはつられて笑顔を見せてから、身体ごと彼女に向き直る。

「何時こっちに来たんですか?」

「うん。少し前に、ね。シエル達とはさっき会ってきたんだけど、ヒロ君の姿が見えないから、探しに来たの」

「あはは・・、すいません」

何故か恐縮して謝ってしまうヒロに、レアは再び笑い声を洩らしてから、隣へと並んで立つ。

「今回ね、フェルドマン局長の要請で、有人神機兵のメンテナンスと、偏食場パルス制御装置の管理と監視の為にこっちに来たの。兵士としては・・まだまだだけど、作業用ロボットとしては神機兵も使い道があるってね」

「そうだったんですか。・・じゃあ、しばらくはこっちに?」

「えぇ、そうなるわね。嬉しい?」

「はい!」

素直に返事を返してくるヒロに、レアは慈しみの目を向けながら、小さく息を洩らす。

『家族』を知らないヒロにとって、もうレアは、母親のような存在であり、レアの方も、彼等の母のような気持なのだろう。

「螺旋の樹の汚染の話を聞いた時、私も焦ったわ。・・中のジュリウスの事も心配でね・・」

「はい・・。でも、ジュリウスは絶対生きてます。だから・・、僕は」

ヒロの強い信念を見える眼差しを見つめてから、レアも大きく頷いて見せてから、再び螺旋の樹とフライアに視線を向ける。

「えぇ。助けましょう・・。私達の、家族を・・」

そっとヒロの肩に手を置いてから、レアもまた強い眼差しを見せた。

 

 

作戦当日。

ブラッドに護衛されながら、神機兵が2機、装置を抱えて、作戦域へと到着する。静まり返ったその場所には、多くの神機兵が眠ったまま、保管カプセルに収まっている。

しばらく待っていると、無線からフェルドマンの声が入る。

『神機兵搭乗者、準備はいいか?』

「神機兵α、準備出来ました!」

「こ・・こちら、神機兵β、・・も、問題ありません!」

『よろしい』

その声に聞き覚えがあってか、ギルは眉間に皺を寄せてから、ヒロへと話し掛ける。

「何で、九条の野郎がいるんだ?」

神機兵βの搭乗者を買って出た九条。

螺旋の樹周辺の制御装置の件で、責任を感じた彼が、自ら申し出たことに対し、フェルドマンが特別に容認したのだ。

「来ていることは、昨日レア博士に聞いていたけど・・」

「信用ならねぇな。何か企んでたりしねぇよな?」

疑ってかかるギルに、シエルが横から口を挟む。

「以前の事件の事で言うなら、彼もまた被害者です。汚名返上のチャンスを与えても、よろしいのでは?」

「ふん・・・。お優しいことだな」

ギルがそっぽを向くと、再び無線からフェルドマンの指示が入る。

『ブラッド諸君。不測の際は、よろしく頼む』

「了解です」

『リヴィ、頼む』

「・・了解。皆、離れてろ」

返事を返してから、リヴィは螺旋の樹へと近付いていき、ゆっくりと神機を構える。

「・・・ふぅー・・・」

息を静かに吐き出しながら集中し、それから一気に振り上げて力を籠める。

「・・はぁっ!!」

ザンッ!!

ほんの数秒の沈黙の後、螺旋の樹の表面に大きな亀裂が入り、そこから大きく口が開く。

「・・・任務完了。・・・作戦は成功のようですね・・」

 

 

 

 





いよいよです!
色んな意味で、いよいよです!!!



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58話 悪夢、再び・・・

 

 

「今だ!開闢ドッグ、設置しろ!」

『了解です!』

作戦指令室から指示を出すフェルドマンの声に応えるように、開闢ドッグは、その大きな爪を滑り込ませ、亀裂を一気に開いていく。

開き切ったところで固定された入口に頷いてから、フェルドマンは次の指示を出す。

「よし!足場を伸ばせ!」

『了解!足場、伸ばします!』

リヴィが立っていた場所から、足場となる伸縮性の橋が伸びていき、入口へと固定される。

そこまで見届けてから、作戦指令室の者達は緊張に固まった肩を撫で下ろす。

「よし・・。では、神機兵α。装置を取り付けに入れ。慎重にな・・」

『了解です!神機兵α、中へと移動開始します!』

『ブラッド、神威ヒロ。2名連れて、護衛に入ります』

「よろしく頼む」

目立った問題もなく進む作戦を、ソーマも作戦指令室で映像を確認する。

そこで、何故か今まで気にしていなかった何かが引っ掛かり、その場にいたレアへと話し掛ける。

「おい・・。今更で悪いが、この偏食場パルス制御装置ってのは、誰が考案したんだ?」

「え?・・はい。考案と開発は、九条博士となっておりますが。・・それが、なにか?」

その名前を聞いてから、ソーマは見落としていた何かが少しずつ鮮明になって行くのを感じる。

「おい、フェルドマン。前回の制御装置も、当然九条が開発したんだよな?」

「・・そうだが?」

「なら、あいつの研究資料を、今すぐ俺に見せろ」

「・・・レア博士、資料を・・」

ソーマの表情に思うところがあってか、フェルドマンはレアへと資料を要求する。

資料をタブレット型端末に呼び出したレアが、ソーマに手渡すと、彼はもの凄い速さでそれを読破していく。そして、その中のあるページに目を止めた瞬間、ソーマはヒバリへと声を上げる。

「ヒバリ!シエルとナナに連絡しろ!九条の神機兵を中に行かせるな!」

「は、はい!」

そんな彼の指示も1歩遅く、ヒバリが連絡する前に、シエルから無線が入る。

『作戦本部!神機兵βが、単独で中へと!』

 

 

 

「はぁっ・・・はぁっ・・・、あは・・ははは・・・」

一心不乱に神機兵を走らせる九条の脳裏に、数ヶ月前の出来事が浮かぶ。

 

「うぅ・・・くぅ・・、ラケル・・博士~・・うぅ~」

ピピッ

「んー?・・・本部から、か?・・・・・これは!?映像メール!?」

『・・・・クジョウさん、お久しぶりね』

「ら・・・・ラケル、博士・・?」

『この映像を見ているという事は、私は死んでしまっているという事でしょうね』

「そ・・んな・・、どうして・・」

『クジョウさんは、きっと怒っていらっしゃるわよね?私が、貴方を置いて行った事に・・。でも、勘違いなさらないで。私の心は、常に貴方と共にあったのですよ?』

「あぁ・・あぁ・・、もちろん!存じていました!私も!貴女の事を!」

『ですから、お願いしたいの。貴方と、私の・・・未来の為に・・』

「私と、貴女の・・・未来・・」

『私の願いを叶えて下されば、私達はまた・・・会うことが出来る・・』

「・・・やります・・。何でもします!貴女の為に!」

 

「ひゃーっはっはっはっはははーーー!!ラケル博士ー!!ラケルさーーん!!!」

奇声を上げながら走り続ける九条は、先行していたヒロ達を追い越して更に奥へと駆けていく。

「なんだ?シエル達は、どうした?」

「わからん。ヒロ、何か連絡は?」

「ちょっと待って。作戦本部、こちらヒロです」

ギルとリヴィの言葉に、ヒロが無線を繋ぐと、ヒバリの代わりにソーマが連絡を受ける。

『ヒロ!ギルバート!リヴィ!神機兵αを下がらせて、神機兵βを追え!』

『待て、ソーマ!リヴィは神機兵αの護衛について退がれ!ヒロとギルは・・!』

『空木!今は、野郎を優先して!』

「あ、あの!とにかく、神機兵βを追いますよ!?リヴィ、神機兵αを退がらせて!」

「わかった。装置は固定したんだ。後を頼むぞ」

リヴィが神機兵と入口へと向かったのを確認してから、ヒロはギルを促して走り出す。

「ちっ!ほら、見てみろよ!何かすると思ったぜ!」

「今は、言いっこなしだよ!とにかく、九条博士を!」

そう言って走り出した先で、九条の乗った神機兵βは、肩に抱えていた装置を地面にセットしていた。

「ひひひひっ!ラケルさーーーん!これで、私達は!1つだーー!!!」

ビキッ パキバキッ グチャーッ!!

装置から黒い触手のようなものが飛び散り、螺旋の樹内部は、外壁のように黒ずんで、紫色に変色しだす。

「こ、いつは・・・!?」

「くそっ!・・一旦引こう!ギル!」

ヒロの叫びに合わせて走り出したギルを追って、ヒロ自身も入口へと駆け出す。その時・・。

キィンッ

「え?・・・」

一瞬自分の顔の前を、黒い何かが通り抜けたような錯覚を覚える。

しかし、それを気にしては間に合わないと、振り切って外へと足を速める。

 

 

『ソーマさん、レンカさん!すいません!装置を埋め込まれた瞬間、汚染が始まって・・。今、撤退しています!』

「・・いや、正しい判断だ。とにかく、外へ出ろ!」

「ちっ・・・、クソが!」

作戦指令室で舌打ちをしたソーマに、まだ良くわかっていない周りの人間は、スクリーンに映し出される映像を見ることしかできないでいた。

そして・・・、誰もが予想し得なかった、災厄が顔を出す。

ザザザッ  ・・ザザッ

「・・・なんだ?」

ザザッ・・・・ザッ

 

『・・・デフラグメンテーションを・・、開始します・・。ふふふっ』

 

《っ!!?》

その声に、全員が驚愕の表情を浮かべ、立ち尽くしてしまう。

「・・・てめぇ・・、ラケル!」

ソーマの言葉に我に返った瞬間、ヒバリが目の前の装置を目に、焦りの声を上げる。

「これは!?・・システム、ハッキングされています!?」

その言葉にフェルドマンはハッとさせられ、すぐに対応をと、指示を出す。

「シャットダウンしろ!」

フランが指示通りにコマンドを操作するが、すでに装置は乗っ取られたのか、操作の全てが「Error」を表示する。

「シャットダウンコマンド、応答在りません!」

「くそ!電源を断て!遮断しろ!!」

「くっ!ケーブルパージ!」

「・・駄目です!止まりません!」

スクリーンに勝手に映し出された制御装置の画面は、どんどん『異常』を示す赤色に変わっていく。

それを見かねたソーマが、操作盤のケーブルを思い切り引き抜こうとする。

「クソが!」

『・・・少し、遅かったですね。ソーマ・シックザールさん・・』

再び聞こえたラケルの声に顔を上げると、ヒバリが青ざめた顔でソーマを見つめる。

「螺旋の樹・・開口部、完全に汚染されました。同様に・・・・、周辺の汚染も、再進行を始めました」

「なんて・・ことだ・・」

フェルドマンが肩を落とすと、そこに追い打ちをかけるように、フランが目を大きく開いて声を上げる。

「偏食場パルスに、大きな乱れが!・・これは!?荒神です!!」

 

『神機兵α!退がれ!荒神だ!』

「え?・・今何と?ノイズがひどくて・・」

バキャッ!!

「え?・・・・なん・・で・・?」

フェルドマンの叫びも虚しく、神機兵αは、搭乗者ごとその身を貫かれていた。

「ちぃ!クソ!!」

リヴィが悔し気に神機を振るうと、荒神はそれを躱してから神機兵を投げ捨て、開口部付近に構えていたリヴィとシエルとナナを警戒するように、身を低くして構える。

「なに、これ?前にヒロとリヴィちゃんが戦ったやつと、似てるけど・・」

「例の新種、クロムガウェインとは、少々異なりますね」

「油断した。すまない・・」

三人が構えると、後ろから荒神を斬り付けるように前に駆け抜けてきたヒロとギルが、三人の前へと並び立つ。

ザシュッ! ザンッ!

「ちぃ!効いてねぇのかよ!?」

「頑丈だね!」

ブラッドが揃ったところで、レンカから無線が入って来る。

『ブラッド、無事なようだな!今のところはそいつ1体だ!いけるな!?』

「やります!任せて下さい!」

ヒロが強く返事を返してから、全員へと声を上げる。

「ブラッド隊!荒神を、駆逐するよ!」

《了解!!》

そう言って皆はクロムガウェインが仮面をつけたような荒神へと、神機を前に攻め込んだ。

 

ヒロとの無線を切ったレンカは、そのまま周辺の警護に当たっている隊長格へと連絡する。

「こちら作戦指令室。開闢作戦に不測の事態発生。そちらは、どうなっている?」

『こちら防衛班タツミ。今のところは、問題はないが・・』

『極東前の第4部隊ハルオミだ。そうだな、こっちも特には変わってない』

『居住区周辺第1部隊コウタ。螺旋の樹が、より黒ずんで見えるっつう感じだな』

『フライア前のリンドウ。まだ、面倒なことにはなってねぇぞ』

全員の返事を聞いてから、レンカは小さく溜息を吐き、指示を出す。

「とにかく、今は現場の者に対応させる。皆、持ち場を離れぬよう頼む」

《了解!!》

レンカの連絡が済むのを待ってから、ソーマは息を洩らしてから思い切り壁を殴る。

ガァンッ!!

「見落としていたな。九条が考案したっていうこいつは、ラケルの『エメス装置』だ。まともに作動するモノを作って、野郎がラケル復活の為の隠れ蓑にしやがったんだ!」

「・・・そんな、馬鹿な・・・」

フェルドマンが膝をついて声を洩らすと、レアが目を細めて口を開く。

「九条博士は、妹を・・・ラケルを心酔していましたから。間違いないかと・・」

「・・・・・くぅ!」

自分の情報不足に、フェルドマンが拳を握り締めて、肩を震わせていると、ソーマは再び映像に切り替わったスクリーンを見つめながら、「ふん」と鼻を鳴らす。

「とにかく・・、今は目の前の事に、対処すべきだ。あいつ等のようにな・・」

彼の口にした「あいつ等」・・・ブラッドが戦う映像を見て、フェルドマンは情けなく地に手を付いてる自分に、涙を零した。

 

「動きが速いからと言って、捉えられない訳ではない!ナナ!1撃にそなえていろ!!」

「オッケー!!」

ナナに指示を出した後、リヴィは後ろへと回り込んで、グレネードのピンを抜く。

「リヴィ!20秒後で!」

「わかった!」

ヒロの言葉に答えてから、リヴィは盾を展開しその時を待つ。

その間に、荒神が背中の腕の刃を引っ込めたのを見計らって、シエルが空中へと舞い上がる。

「ブラッドアーツ、『ダンシングザッパー』」

ザシュッ ザシュッ ザシュッ・・・ザシュッ!!

空中を旋回するように斬り廻り、背中の腕2本に集中攻撃を浴びせる。

そこから彼女が退いた瞬間、ヒロとギルが背中の2本の腕の根元を狙って、思い切り神機を振り切る。

「はぁっ!!」

「おらぁっ!!」

ザンッ!!

グガガァーーー!!

斬り飛ばされた自分の腕を見て絶望したのか、荒神はその場でしばし動けなくなる。そこへ、グレネードと一緒に、目の前にリヴィが現れる。

「・・20秒。お前の、負けだ」

そう言ってグレネードを荒神の前に放ってから目を閉じて、ナナへと声を上げる。

パッァン!!

「ナナ!私の後ろにいるな!?」

「作戦通りだよ!リヴィちゃん!!」

グレネードの光を、リヴィで遮りながら、ナナがハンマーを大きく振りかぶって飛び込んでくる。

そして、光が消えたのを見計らって頭の上に振り下ろす。

「仮面、悪趣味だよ!!っと!!」

バキィッン!!!

地面に叩きつけられ、仮面が割れると、荒神はその場で動けなくなる。それをチャンスと、ブラッド全員で捕食形態に切り替え、大きな口を展開させる。

《はぁぁーーっ!!》

ガビュウッ!!!

五人が喰いつかせたことにより、ナナがコアを回収して、荒神は完全に沈黙した。

「おぉ?イエーイ!あたしの、勝っちー!!」

「勝ち負けじゃねぇだろ?ったく・・」

「いや、ナナの勝ちだ。偉いな」

「リヴィさんは、ナナに甘すぎます」

「ははは・・、一応任務中なんだけどな・・」

とりあえずの苦難が去った事に、ヒロは騒がしい仲間達に笑顔を見せる。

そんな彼等を見つめるように、黒い蝶が、ひらひらと開口部辺りを飛んでいた。

 

 

 





ラケル、再びです!


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59話 繋がる意志

 

 

ガシャンッ ガシャンッ

「ひゃーはっはっは!!やったぞー!やってやったぞーー!!」

奇声を発しながら、奥へ奥へと進み続ける九条。

その顔は狂気に満ちていて、とても正常な人間ではなかった。

彼はただ、求めたのだ。想い人の姿を・・・。

「・・・・クジョウさん」

「っ!!?・・・あぁ・・」

求め続けた声の主を見つけた九条は、ゆっくりと神機兵から降りる。そして、ふらふらとした足取りで、彼女の側へと近付いていく。

「この日を・・・どれ程、待ちわびたか・・。ラケルさん・・・、ラケルさーん・・くぅ・・、うっうっ・・」

涙を零しながら、車椅子に座るラケルの膝の上に顔を埋める九条。そんな彼を、優しく撫でながら、ラケルは妖艶な笑みを浮かべてそっと顔を上げさせる。

「私の願い、叶えて下さったのね。ありがとう・・。これで私も、復活することが出来ました」

「貴女の為なら、何だってします・・・ラケルさん」

涙ぐみながら頬を染める九条の頬をそっと撫でて、ラケルは舌なめずりをしながら口の端を浮かせる。

「私も、それなりに運命を感じてました。・・・役に立ってくれて、本当にありがとう。さぁ・・・、1つになりましょう。・・・永遠に、ね」

そう言った瞬間、景色は一気に黒く染まり、彼の身体は徐々にその闇の中に溶けていく。恍惚な笑みを浮かべたまま、九条が消えて無くなると、ラケルはゆっくりと立ち上がり、瞳を青から、赤く染める。

「さぁ・・・、始めましょうか」

 

螺旋の樹の最上階層。

そこに眠るジュリウスの身体の前に移動したラケルは、ゆっくりとした手つきで、彼を覆っている透明の殻をなぞる。

「あぁ・・、ジュリウス。待っていなさい・・・」

そう言ったラケルは、彼の心の世界へと、意識を潜り込ませる。

 

ザァンッ!

『はぁ・・はぁ・・、くそ!中々、数を減らせないな・・』

『・・・いつまで抗うつもり?世界は、終焉を求めているというのに・・』

『なっ!?ラケル!?』

『貴方がどれだけ頑張っても、結果は変わらないのよ?』

『黙れ!もう俺は、貴女の言葉に惑わされない!必ずやり遂げて、仲間の許へ帰る!』

『あら、冷たいのね。・・・仲間・・だけなの?なら、この娘はもう・・・いらないかしら?』

『なん、だと!?』

『・・・・ジュリウス、助けて・・』

『ユノ!待て!ラケル!彼女を・・!』

『・・・・・・・ふふっ。もう逃がさない』

『しまっ!!・・・・・・っ!!?』

 

黒い蝶で覆っていた殻から、ゆっくりと体を離してから、もう1度ラケルは殻に手を当てる。すると、その手は中へとズブリと埋まっていき、奥に眠るジュリウスへと到達する。

「さぁ、私のモノになりなさい。全てを、終わらせましょう・・ジュリウス」

そう言って笑い出したラケルに呼応するように、螺旋の樹は地響きを鳴らして、黒く変貌しだした。

 

 

開口部で異変に気付いたヒロ達は、螺旋の樹の方へと振り返る。

すると、螺旋の樹の内部から、荒神が1体・・また1体と、出現し始めたのだ。

「何だ、こいつは!?」

「荒神が、生まれてるの!?」

「この数は、異常だぞ!」

「ヒロ!とても私達だけでは、対処しきれません!」

「くっ!!」

全員が戸惑いに声を洩らしていると、レンカから無線が入る。

『ブラッド!大量のオラクル細胞を感知した!開口部の制御装置を破壊して、撤退しろ!』

「レンカさん、駄目です!今塞いだら、ジュリウスは助けれないし、『終末捕食』も止められない!」

『だからと言って、どうするというんだ!!ヒロ!』

レンカの言葉に、必死に考えたヒロは、ポケットから感応制御システムを取り出して、神機にセットする。

「・・・・僕が、防ぎます。だから、応援を!クレイドルの皆さんをここに!ブラッドレイジも使って、10分はもたせますから!」

『なっ!?馬鹿を言うな!そんなことを・・!』

レンカとの無線を切ってから、ヒロは耳からインカムを外して、シエルに手渡す。

「みんな、撤退だよ。僕が殿になるから、先に行って。クレイドルに応援を要請したから・・」

「駄目です」

ヒロの話を遮って、シエルは目に涙を浮かべながら、自分の無線も切って、インカムを耳から外し、地面へと落とす。

「シエル・・・」

その行動に倣って、ギルも、ナナも、リヴィも、同じように無線を切ってからインカムを捨てる。

「一人でなんて、無理に決まってんだろ?一緒に戦わせろよ、ヒロ」

「ヒロにばっかり、負担をかけたくないよ。あたし達は、家族なんでしょ?ヒロ」

「お前達を守ると、言っただろう?ヒロ・・。どうせ死ぬなら、仲間と共にが良い」

「ギル・・ナナ・・、リヴィ」

三人が笑いながら神機を手に前へ進み出ていくと、シエルが涙を拭ってから笑顔を作り、そっとヒロの手をとる。

「最後まで・・・ずっと、一緒にいさせて下さい。死ぬも生きるも、あなたと一緒が良いんです、ヒロ」

「シエル・・・・・・・、ありがとう」

自分の事を大事に思ってくれる仲間に、ヒロは照れくさそうに笑ってから、自分も神機を構える。

「でも、どうせなら・・・・生きて帰ろう!みんなで!」

そう言ったヒロに、皆笑顔を浮かべてから、声を張る。

《了解!!》

もう100体以上となった荒神の大群を目の前に、ヒロ達は声を上げて走り出す。

《おおぉぉぉーーーーーーっ!!!!》

その時、全員の心を揺さぶる何かが、奇跡を起こす。

 

キイィィィィンッ

「え?・・嘘!?」

「この感じは・・あいつの!?」

「ありえません!だって彼は・・!?」

「・・・・そんな、まさか!?」

「・・・・ロミオ?」

 

気を取られてしまったと、皆が神機を構えると・・・。

「・・・・あ・・れ・・?」

荒神の大群は、その場から消えていた。

その不思議な出来事に、皆は気が抜けたように、その場に座り込んでしまった。

 

 

「大馬鹿者が!!」

レンカの声が響き渡る作戦指令室で、ブラッド隊は頭を深々と下げていた。

その様子に溜息を吐いてから、リンドウは怒りの治まらぬレンカの肩に手を置く。

「もう良いだろう、レンカ?このままじゃあ、地面に埋まっちまうぜ?」

「これが怒らずにいられるか!?俺は!・・・くそっ!」

リンドウの顔を見て、毒気を抜かれたのか、レンカはブラッドに背を向けて自分のデスクを殴る。

「俺は・・・・こいつ等に、俺のような馬鹿なことを、させたくないだけだ」

「あぁ。わかってるよ・・。後は任せろ」

「・・・・・・・あぁ」

レンカが去って行くと、リンドウが苦笑しながら頭を掻いて、全員の肩を軽く叩いて顔を上げさせる。

「あの・・・・リンドウさん・・」

「昔の自分と、ダブったんだろ。気にすんな・・」

そう言ってから、リンドウはヒロ達について来いと手招きしてから、先を歩き始める。

ブラッドも顔を見合わせてから、リンドウを追って後について行った。

 

 

神機保管庫に連れられてきたブラッド隊は、ロミオの神機が保管されてる部屋へと案内され、先に来ていたソーマとリッカに軽く礼をする。

「来たか・・・。空木の説教は終わったのか?」

「あぁ~、俺が終わらせてきた」

「ははっ。リンドウさんが出しゃばっちゃあ、レンカ君も太刀打ちできないよね」

レンカとは打って変わって明るい雰囲気に、少しだけホッとしたヒロ達に、ソーマは軽く息を吐いてから、話し始める。

「今回のお前等の行動・・・。嫌いじゃないが、褒められたことじゃない。・・仲間に救われたことを、ありがたく思うんだな」

「あの・・・すみませんでした。・・・それで、仲間ってやっぱり」

ヒロが代表して質問すると、ソーマは小さく頷いて見せてから、話を続ける。

「気付いたんだろ?お前等を助けたのは、こいつだ・・・。ロミオの神機に残った、あいつの意志が・・・お前等のピンチを救ったんだ」

「ロミオ・・・・。あれは、やっぱり・・」

リヴィが胸に手を当てて目を閉じると、その肩をシエルがそっと抱く。

「あの時、ロミオの血の力が、神機から突然発生した。『圧殺』・・とでも言うべきか・・。正直、危険な能力だがな」

「危険・・・ですか?」

シエルが聞き返すと、今度はリッカが代わって説明を始める。

「ロミオ君の神機から力が発動した瞬間、極東中のオラクル細胞・・・主に神機なんかが沈黙したんだよ。つまり、今回荒神が消えたのも、例のマルドゥークが逃げ出したのも、1時的とは言え、オラクル細胞の活動が停止させられたからなんだって考えに、至ったんだ。下手に使えば、自分の仲間にも影響しかねない諸刃の剣。それが、ロミオ君の『圧殺』の力だね」

「・・・すっごーい」

ナナが素直に感心しているのをクスリと笑ってから、リッカはソーマに話の主導権を返すように、目で合図する。

「今回はロミオの神機のお陰で、開口部を閉じずに済んだが・・新たな問題が起こった。お前等が説教されてる間に、アリサが調べに行ったが・・・・中でオラクル細胞による暴風壁が起こっていたそうだ」

「暴風壁っすか?」

「あぁ。要するに、それ以上先には進めないってことだ」

ギルの疑問にソーマが端的に答えると、何かを察したかのように、リヴィが肩を抱いていてくれたシエルの手から離れて、前に進み出る。

「・・・ロミオの神機に残る意志の力に、頼らねばならないと」

「そうだ・・。俺は強要はしない。どうする?リヴィ」

ソーマとリヴィの会話にハッとさせられたブラッド隊は、リヴィへと注目する。

「迷う事はない、ソーマさん。私が、ロミオの神機を使う」

「リヴィちゃん・・」

ナナが心配そうに寄ってきて、彼女のスカートの裾を掴むと、リヴィは優しく微笑んでから、そっと頭を撫でる。

「大丈夫だ、ナナ。ロミオの神機と共に戦えるなら、それこそ望むところだ」

「でも・・・、リヴィちゃん・・苦しそうだし」

「やらせてくれ。仲間の為に・・」

そう言ってからリヴィは、改めてソーマへと顔を向ける。

「・・・時間の猶予は?」

「わからない。ただ、時間がないとだけ、言っておく」

「了解した。訓練所を借りる。1日程、私に時間を・・」

「・・・あぁ」

ソーマの返事に頷いてから、ゆっくりと前に進み出て、リヴィはガラス越しに固定されている、ロミオの神機を見つめた。

 

ブラッドが去った後、部屋に残ったリンドウとソーマは、それぞれに携帯端末で連絡を試みる。

しかし、呼び出しのコールすらならず、目的の相手には繋がらない。

「・・ちっ・・。どうだ?リンドウ」

「駄目だな。こっちも繋がらない・・。今回は、マジでヤバいってのにな~」

リンドウが頭を掻いて携帯端末を眺めていると、ソーマは手早くメールを打って送信する。

それから、別の番号を呼び出して、ソーマは連絡する。

「・・・・俺だ。久しいな」

『どうしたんですか?ソーマさんが連絡してくるなんて』

「あぁ。お前に聞きたいことがあってな」

『僕にですか?はい、何なりと!』

「畏まるな・・。ユウとツバキに連絡が取れない。何かあったのか?」

『そう言う事ですか。極東、厄介になってるみたいですね。すぐに連絡をつけます!』

「あぁ。頼んだぞ、フェデリコ」

 

 

訓練所に一人籠ったリヴィは、ゆっくり深呼吸をしながら、ロミオの神機を握る手に力を入れる。

ブラッドアーツは何とか使えたが、肝心の血の力は、まだ使えていない。

「・・・・まったく・・、頑固者め」

苦笑しながら声を洩らしてから、リヴィはゆっくりと神機を持ち上げ、目の前に構える。それから、ブラッドの皆に聞いたように、自分の内側から神機へ、そして神機から外へ・・・という力の流れを想像する。

すると・・・。

 

キィィンッ

「くっ!・・」

 

少しだけ反応があったのか、立眩みのようなものに襲われて、リヴィは膝をつく。少し息が乱れたが、それを整えるように大きく息を吸って吐き出してから、リヴィは希望の笑みを浮かべる。

「よし・・・・、わかってきたぞ。言う事を聞け、ロミオの相棒」

それから、リヴィは何度も同じように血の力のコントロールに時間を費やした。

 

 

 





実はちょっとウルッときた設定でした。
ロミオ素敵や~って!



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60話 死の黒蝶

 

 

慎重な足取りで前へと進んでいたアリサは、周囲の安全を認めて、神機の構えをとく。

螺旋の樹内部に巻き起こった、オラクルの渦。

それを忌まわし気に睨みつけてから、無線を作戦指令室へと繋ぐ。

「こちらアリサです。予定通り、オラクルの暴風壁手前までの、制圧完了。ただ、今後の荒神の発生を予測しかねますので、今連れてきている部隊を残してから帰投します」

『了解した。気を付けてな、アリサ』

無線の向こうからレンカが返事をしてくると、アリサは優しく笑みを浮かべてから返事を返す。

「はい、気を付けます。あなたも、無理はせずに・・」

『あぁ、わかってる』

そう言って途切れた無線のスイッチを切ってから、アリサは今1度、オラクルの渦へと目を向ける。

「・・・私達の極東は、やらせません・・・」

声に出して宣言してから、アリサは踵を返し、極東支部へと戻って行った。

 

 

神機保管庫で自分の神機を見つめながら、ヒロは手の中に握っている、感応制御装置をポケットから出す。

そちらへと視線を落としながら、つい先程にリッカに言われたことを思い返す。

 

『良い?ブラッドレイジは、あくまでも神機のリミッターを解除するだけ・・。君自身の身体能力や動体視力、精神力が上がったわけじゃないことを、良く理解して使ってね。ゴッドイーターであっても、光速で飛ぶ戦闘機に、生身で掴まっていられないのと同じとでも、思ってくれたらいいかな?とにかく、無理はせずにね』

 

全快で使ったわけでは無くても、ブラッドレイジの負担は半端ではなかった。

気絶してしまったのも、そのスピードとパワーに翻弄されたからだ。諸刃の剣だからこその、切り札・・。

ヒロは何度も自分に言い聞かせながらも、どこかで別の覚悟をしながら、大きく深呼吸をする。

(・・・それでも、僕は・・・。ジュリウスを助けるためなら・・)

ヒロが決意を胸に、感応制御装置をポケットにしまったところで、神機保管庫にブラッド隊が入って来る。

「時間だぜ、ヒロ」

ギルが声を掛けてきた言葉に応えるように、ヒロはもう1度深呼吸をしてから、自分の神機を手に取り、仲間へと振り返る。

「・・行こう。ジュリウスを助けに・・」

彼に頷いてから、ブラッドの皆も、自分の神機を認証してから手に取り、ヒロの後へと続く。

それに交じって、リヴィもロミオの神機を手に、彼等と共に歩き始めた。

 

 

現場にブラッドが到着したのを確認してから、レンカは軽く頷いてから、インカムをソーマへと手渡す。

それを装着してから、ソーマはブラッド全体の無線に声を掛ける。

「準備はいいな?まずは目の前のオラクルの暴風壁を、リヴィに『圧殺』の力で、局地的に解除を試みてもらう。上手くいかなかった場合、お前達の神機が一時的に使えなくなるかもしれんが、焦らず・・ヤバければ即撤退しろ。いいな?」

《『了解!!』》

全員の返事を受け取ったところで、ソーマはリヴィへと指示を出す。

「リヴィ、頼むぞ」

『了解です。任務、開始します』

彼女の返事を聞いてから、無線のマイクに落としていた視線を、目の前のスクリーンへと向けるソーマ。

その隣で、レンカも真剣な眼差しで、様子を見守る。

「・・・上手く、いくのか?」

「いかなかったら、その時だ。別の手を考える」

いつも通りの言動のソーマだが、その表情は珍しく緊張の色を見せている。そんな彼に小さく頷いてから、レンカは最悪は自分も神機を握る覚悟を決める。

 

「みんな・・・、良いな?始めるぞ」

そう言って自分から少し離れて位置を構えるブラッド隊に、リヴィは声を掛けてから、手の中のロミオの神機を、目の前へと構えて目を閉じる。

キイィィンッ

ゆっくりと力が神機へと集まり、リヴィの呼びかけに応えるように輝きだす。

それからリヴィは目をカッと開いてから、神機へと声を掛ける。

「私に・・・私達に、力を貸せ!ロミオ!!」

キイィィィィィィンッ!!!

その叫びを合図に、神機は一気に輝きを増して、四方へと光の波紋を放つ。

少しの間を置いてから、リヴィは眩しさに閉じた眼をゆっくりと開いてから、目の前の暴風壁を確認する。

ほんの数秒前まで吹き荒れていた風は、嘘のように消失している。

それからブラッドの皆へと振り返って、皆の様子を伺う。彼女の不安を打ち消すように、彼等が笑って神機を持ち上げてみせると、リヴィも自然と口の端を浮かせてから、無線を作戦指令室へと繋ぎ、口を開く。

「作戦成功。暴風壁は消え去り、ブラッドの神機も無事のようです」

『よくやった。流石だな・・。今から、アリサとリンドウがそっちへ向かう。そこを引き継いだら、お前等は奥の探索へと移れ』

「了解です」

ソーマに返事を返したリヴィの側に、ヒロがゆっくりと足を運んでから、微笑んで喋りかける。

「お疲れ、リヴィ。君がいてくれて、本当に良かった」

「・・・”ロミオがいてくれて”の間違いだ。私は、あいつの力を借りただけだ」

そうそっけなく言ってから、リヴィはシエル達の方へと足を運ぶ。そんな彼女の背中に頷いてから、ヒロはオラクルの渦が消失した、更に向こうへと目を向けて、友の無事を祈るのだった。

 

 

現場に到着したリンドウとアリサは、簡単に引継ぎを済ませてから、改めて周りを警戒しながら、偏食場パルス制御装置を設置するのを見守っていた。

「やれやれ・・。こんなけったいな場所で、サテライト拠点を作るってのは・・皮肉なもんだな」

「正確には、違いますけどね」

リンドウの言葉にツッコんでから、アリサは周辺のチェックを済ませて、彼の隣へと並び立つ。

「済み次第、追いますよね?彼等の事・・」

「当然だろ。なんてったって今回の相手は、自分が失敗した時の事まで想定していた奴だぞ?まーったく、敵ながらあっぱれと言うべきかなぁ」

煙草を吸いながら頭を掻くリンドウに、アリサも同意するように頷いてから、先へ進んで行ったブラッドを心配するように、螺旋の樹の奥を見つめる。

「・・・また、全面戦争になるんですね」

彼女が洩らした言葉に、リンドウは煙草を踏み消してから、自分も螺旋の樹の奥へと振り返り見つめる。

「そうだな。・・・世界を滅ぼす神と、世界を守る人間の・・な」

そう言葉を発してから、リンドウは目の前にヒュッと右手を伸ばしてから、ゆっくりと引っ込める。

「・・?リンドウさん?」

「・・・・いや、何でもない」

アリサが首を傾げる横で、リンドウは踏み消した煙草の横に落とした黒い蝶を、素早く踏みつけてから、忌々し気に眉間に皺を寄せた。

 

 

先を進んだブラッド隊は、大きく拓けた場所に出てから、周りを見渡していた。

今まで毒々しかった景色が、一変して初めの螺旋の樹に似た、澄んだモノになったからだ。

「ふ~ん。中はまだ、綺麗なところもあったんだね~?」

ナナが神機で足元を突ついたりしていると、ギルは壁の外の事を想像しながら、少しだけ気分悪げに顔をしかめる。

「ギル?どうしました?」

シエルに声を掛けられると、ギルは軽く手を上げて見せてから、首を横に振る。

「いや・・・、何でもない。・・・少し、高いところが苦手でな」

「へぇ~?ギルにも、苦手なモノあったんだ~」

「茶化すなよ・・。少しだけだ」

可笑しそうに笑いながら近付いてくるナナに、ギルは軽くおでこを小突いてから、苦笑いを浮かべる。

そんな彼等の様子に笑顔を向けてから、ヒロは先頭を更に前へと進む。

すると・・。

ヒラヒラッ

「・・・黒い、蝶?」

リヴィが口にしたのに反応して、皆がそれに注目すると、

ドバァーーーーっ!!!

その蝶が波のように発生し、全員を覆う様に渦を描き出す。

「くっ!みんな!気を付けて!!」

咄嗟に声を上げたヒロに、皆は神機を前に盾を展開する。

その姿が、大量の蝶で見えなくなってきたと彼が思った瞬間・・・。

世界が、ヒロを中心に黒く染まる。

 

「・・・・みんな?」

盾を引っ込めてから声を洩らすと、ヒロは皆がいない事の不安以上に、背中に悪寒を感じてから、神機を突き出して振り返る。

「・・・・・・・・ふふっ。何をしに来たのかしら?・・・ヒロ」

彼が突き出した刃の先には、妖艶に笑みを浮かべる、ラケルが立っていたのだ。

「ラケル・・博士・・・・」

ヒロが声を洩らすと、ラケルは神機の切っ先手前までゆっくりと歩いてきてから、彼の目を見ながら話し掛ける。

「意外・・・と言う訳では、なさそうね。ソーマ・シックザールさん辺りが、私の復活を想定していたのかしら?」

「・・はい。あなたが、エメス装置によって、散らばった自分の意志を収束させて、形を成しているだろうと・・」

「ふふっ・・、流石ですね。・・・それで?貴方は、何をしに来たのかしら?」

特に驚きもせずに淡々と、ラケルは最初にした質問をヒロへと向ける。

「ヒロ・・・。貴方は、ジュリウスに全てを任せ、彼を一人ここへ置いて行ったのでしょう?『終末捕食』を止められず、彼に頼って・・・」

「・・・・」

「もし、貴方が彼を手放したくなかったのなら、そう願えばよかったものを・・。例えば・・・・ロミオが、生贄に捧げられた時に・・ね」

「っ!!?」

ブンッ!!!

ロミオの名前を出されたことに怒ってか、ヒロは迷わずラケルを斬り付けに掛かる。しかし、刃は空を切り、ラケルは黒い蝶と共に、今度はヒロの横へと姿を形作る。

「ふふふっ、・・・怒ったのかしら?確かに・・私が起こした事。白々しく聞こえるかもしれませんが・・。あの時、ロミオとジュリウスに付いて行けば、ロミオは死なず・・・ジュリウスが黒蛛病を発症させることは、無かったのではなくて?」

「・・・あなたは・・!!」

「図星・・でしょう?ジュリウスがブラッドを去ったのだって、そう。貴方がもっと、彼を留めていれば、螺旋の樹なんてものは・・・生まれずに済んだのかもしれない」

「くっ!この!!」

ブォンッ!!

苛立ちに更に神機を振るうと、同じようにラケルは黒い蝶となって霧散し、今度は彼の後ろへと立つ。

「全ては、私が貴方達に与えた試練・・。でも、人の作為、無作為に関わらず、これまでの事象は、起こりえた貴方への試練」

「・・・勝手な・・事を!」

怒りに肩を震わせながら、ヒロはゆっくりと後ろへと振り返る。

「・・・もう一度、尋ねます。成すべき時に、成すべき事を成せなかった貴方が、・・・・」

そこまで言ってから、ラケルはスッと彼の目の前まで瞬時に顔を突き出して、その真っ赤な瞳を大きく開いて、口の端を嫌らしく浮かせる。

 

「今更・・・、何故ここにいるのです?」

 

「ふっ!!!」

ブォンッ!!!!

胴を斬り裂くように神機を振るってから、ヒロはその勢いで前へと駆け抜ける。

変わらず空を薙いだ音が響き、それに続いて彼女の笑い声が響き渡る。

「ふふふふっ。迷いなく、3度も斬り付けてくるなんて・・。覚悟を決めて・・とでもいうのかしら?ふふふっ」

「くそっ!ラケル!!」

今度は姿を現さないラケルに、ヒロはその名を叫んで辺りを見回す。

しかし、彼女の声以外、確認できるものはなく、黒い世界は蝶となって、ゆっくりと崩れ始める。

「良いでしょう・・。ジュリウスを取り戻したければ、せいぜい足掻いて見せなさい。・・・奇跡は、そう起こるモノでは・・・ないのよ。ふふふふふっ・・・」

「くっそぉ!!逃げるなー!!」

黒い蝶が飛んでいくと、光が彼の周りを包む。

 

身体を揺すられてハッとしてから、ヒロは辺りを見回す。

すると、心配そうにこちらを見てくる仲間達が目に入り、小さく溜息を吐く。

「ヒロ、大丈夫ですか?すごい汗ですけど・・」

「え?・・・汗・・って?」

シエルに言われてから、自分が汗だくになっているのに気付くヒロ。それから、顎に滴る汗を拭ってから、深呼吸をして息を整える。

「・・・何でも・・、無い」

そう口にしてから、ヒロはラケルが言った言葉を思い返して、神機を握る手に力を籠めた。

 

 

 

 





なんか、ホラーですねw

作品となんの関係もありませんが、ソードアートオンラインの劇場版を見に行ってきました。
ハーメルンでもたくさんの方々が題材として書いてらっしゃる、SAO。
今回の映画をまだ見てらっしゃらない方は、是非に御鑑賞いただきたい!
マジで、面白かったですから!

ちなみに、GOODSは初日で売り切れたと言われて、何も買えませんでした。
ちくしょー!!



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61話 手が届かなくても・・・

 

 

ブラッドが螺旋の樹内部からの帰還の報告を受け、レンカは大きく息を吐いて安堵する。

その隣で、インカムを外したソーマも、フッと笑みを浮かべる。

「・・・中腹までは、問題なかったか」

「そうだな。ソーマ博士の、見立て通りだ」

「博士はよせ、空木。うすら寒い・・」

ソーマが溜息を吐いてその場から離れると、レンカは改めて螺旋の樹のマッピングデータを参照する。

「ジュリウスは・・・、無事だろうか?」

つい弱気に発言をしてしまい、ハッとするレンカに、ソーマは歩みを一旦止めてから口を開く。

「無事じゃなかろうが、あいつは引きずってでも連れて帰る。それが・・・俺達だろ?空木」

「・・・・・そうだな。そうだったな」

苦笑するレンカに、ソーマは「ふん」と鼻を鳴らしてから、作戦指令室を後にした。

 

 

螺旋の樹、最上層。

ジュリウスを包む殻を撫でながら、ラケルは極東に飛ばした自分の分身、『黒い蝶』によって映し出される映像に、目を細める。

そこから読み取れる感情が、彼女の望んだ『焦り、憤り、嘆き、悲しみ』よりも、『望み、励み、慈しみ、優しさ』の方が、勝っていたからだ。

『・・・怖いのか?』

「はい?・・」

突然の呼びかけに応じるように、ラケルはその身体を、蝶と化して霧散させる。

 

心の深層世界に舞い降りてから、捉えたジュリウスの目の前に現れたラケルは、苦しげにも笑う彼に、苛立ちの表情を浮かべる。

『どうした、ラケル?極東支部に・・・ヒロに啖呵を切った割には、随分と気にしているじゃないか?』

『情報を得るのは、戦術の基本よ。教えたでしょう?ジュリウス』

『あなたが覗いていたのは、そう言ったモノではなかったように思えるが?』

『・・・・・人の心を覗き見なんて、いけない子ね』

『正に今、あなたもしている・・』

少しの間、睨み合う二人。

その沈黙を切るように、ラケルがいつもの調子で、クスクスと笑い声を洩らしだす。

『ふふふふっ。とても、良いわよジュリウス。上に立つ王に相応しい、見事な見解ですこと・・』

『・・・・ふっ。どうせ俺の意志のない話だ・・。どこか他所で、一人でやっていただきたいな』

まだ勇ましく振舞えるジュリウスに、ラケルはゆっくりと近付いていき、鎖に繋がれて無防備な彼の顎を、優しく撫でる。

『世界が再構築される際には、重要かもしれないわよ?貴方の意志も・・ね』

そう楽しそうに喋るラケルに、ジュリウスも負けじと余裕の笑みを作って見せ、顔に掛かった彼女の手を振り払って、喋り返す。

『やはり・・、神の紛い物だな。荒神は・・』

『・・・・・どういう、意味かしら?』

ジュリウスの言葉が癪に障ったのか、ラケルは一変して表情を硬くする。

『荒ぶる神と呼ばれていようと、『終末捕食』の先の世界の事などわからない・・。壊すしか能のないお前達が、偽りの神以外、何だというんだ?』

『・・・・・口が、過ぎるわよ?・・・・』

怒りに身を震わせ出したラケルに、ジュリウスは更に続ける。

『わかっていたのだろう?あなたの中の、”人間の心”も!資源の枯渇しがちな地球は救えても、意志ある生物である人や動物・・・・荒神は、救えないと!』

『黙りなさい!ジュリウス!』

パァンッ!

息を荒げてから、自分がジュリウスを平手打ちしたことを認識し、ラケルはその突き出した手を優しく撫でて、引っ込める。

『感情的になるのは、図星の証拠。あなたから教わった事だ。やはり・・・、あなたの中には、まだ人の心が残っているのですね?』

『ち、違う!・・私、は!?・・・・うっ・・・』

珍しく狼狽えてしまった自分に更に苛立ってか、ラケルは軽く指を鳴らして、ジュリウスを縛り付けた鎖を、強く締め出す。

『ぐぅっ!・・がっ、は・・・・!』

『人の心が残ってるから・・・、どうだって言うの?破壊が終われば、きちんと再生する・・。月が、証明してるわ』

そう言ってから、ラケルは踵を返してから背中越しに話しかける。

『もう少しで、『終末捕食』は完遂される準備が整う。そうなれば、誰も止められない・・・。そう・・・・・・、貴方のブラッドにも・・』

どこか寂し気な声を発したラケルに、違和感を感じながらも、ジュリウスは今一度訴えるように、喋りかける。

『・・・ブラッドを・・・・、ヒロを・・甘く見ない事だな。ラケル・・』

『・・・・何ですって?』

首だけを少し振り向かせて、ラケルが聞き返してくると、ジュリウスは渾身の力で強がって見せ、話を続ける。

『あいつは・・・ヒロは、俺なんかよりも・・ずっと、優秀だ。さっき貴方が恐れていたのは、あいつを取り巻く・・・絆・・、だろ?』

『絆・・・』

その言葉に思うところあってか、ラケルの赤い瞳の片方が、ゆっくりと元の青い瞳へと変化しだす。

『俺は・・・ヒロを、信じている・・。あいつなら、奇跡を起こせる・・英雄になれると。・・・・3年前、ここ極東を救った・・・神薙ユウさんの・・ようにな』

『っ!!?・・・神薙・・ユウ・・!!』

彼の出した名に我を取り戻したのか、ラケルは首を横に振ってから、青く変化した片目を隠すように押さえてから、キッとジュリウスを睨みつける。

『・・ははっ・・・。余程荒神は、彼の事が・・怖いようだな。だが、今恐れるべきは・・・ユウさんじゃない。彼の意志を継いだ俺達ブラッドの隊長、神威ヒロだ!』

『・・・・・なら、・・・・殺せばいい。神薙ユウも・・・、神威ヒロも!』

叫んでから手を顔から離すと、ラケルの目は、赤い色に戻っていた。それから両手を広げて見せてから、嫌らしく口の端を上げて、目を大きく見開き声を上げる。

『絆?・・・そんな不確かなモノが力になるなら、それごと壊してしまえばいい!人間の繋がりが、いかに脆いか・・・。そこで見ているがいい!!ジュリウス!所詮傀儡のお前には、見ている事しか出来ないでしょうけど!』

そう言って消え去ろうとするラケルに、ジュリウスは何故か悲し気な眼を向けながら、声を洩らす。

『俺は・・・人間だ。・・・あなたもだろう?ラケル・・』

 

「は?・・・・・」

疑問に声を洩らした頃には、ラケルは元の位置に立っていた。

それから自分の頬に手を当てる。

「・・・・なに?これ・・・・」

自分の手についた液体に、ラケルは驚きに眼を細めて何度も触る。

1度青く元に戻っていた瞳から、涙が伝っていたのだ・・。

 

 

 

極東のヘリポートに来ていたユノは、装甲壁の向こうに見える螺旋の樹を見つめながら、軽く深呼吸をする。

それから、胸の前に組んだ手をゆっくりと広げながら、目を閉じて歌い始める。

螺旋の樹の中に囚われているであろう、ジュリウスを想って・・・。

 

 

遠い空の下で あなたは何を想ってる?

私の事 考えてくれたら・・・

世界のルールが こんなにも悲しく

別れを強要してくる だけど・・・

 

あなたの声が 温もりが 二人を繋ぐ

不確かな Melody

言葉では 言い尽くせない程

涙が 溢れる程

気持ちよ 風に乗って 愛しい人へ

届けて Melody

約束のない 形のないモノより

もう一度 優しく笑って・・・

 

 

歌い終わってから、ユノは広げた手をゆっくりと下ろし、閉じていた目を開ける。

「・・・ユノ」

「サツキ?・・・居たんだ」

「えぇ・・」

少し離れて聴いていたのか、サツキはゆっくりとユノへと近付いてから、持ってきたストールで彼女を包む。

「夜は冷えるのよ?上着くらい、持って出なさい」

「うん。ありがとう・・・」

それから二人並んで、螺旋の樹を見つめる。

ソーマから聞いた話では、ジュリウスを助けれる可能性は、1%もないという。それは、『終末捕食』を止められたとしても、変わらない。

何故なら、彼が特異点として『終末捕食』を、螺旋の樹に留めていたからだ。

『終りのない破壊と再生』

榊博士の提唱したことによれば、螺旋の樹は、中でそれを繰り返し、『終末捕食』を半端に、局地的に繰り返していたのだという。

・・・・・ジュリウスの手によって・・。

「・・・やっぱり、ジュリウスは・・・、助からない・・かな?」

少し弱気に目を伏せるユノを、サツキは慰めるようにそっと肩を抱いてから、口を開く。

「・・・大丈夫よ。ソーマ君が言ってたでしょ?『可能性は、0じゃない』って。信じましょう?みんなを・・・、ジュリウス君を・・」

「うん・・・」

「それに・・」

少し前置きしてから、サツキはフッと微笑んで見せてから、ユノを元気づける言葉を口にする。

「私達がピンチの時には、あの子が来てくれるわよ!」

「あ・・・・、そうね。きっと、来てくれる!」

そう確かめるように言葉にしてから、二人は遠い地で戦う兄妹を思って、希望をその目に宿した。

 

 

研究室で何度目かの添付ファイルを送ってから、ソーマは背筋を伸ばすように立ち上がって、背伸びをする。

そこへ、ノック無しで顔を出したリンドウが、「よっ」と手を軽く上げて、ビールを投げてよこす。

「おい・・・、俺は・・」

「部屋に籠って出来ることは、もう無ぇだろ?ソーマ。息抜きしようや」

「そうよ。たまには、私にも付き合いなさい♪」

リンドウの背中からひょっこりサクヤが顔を見せると、ソーマは溜息を吐いてから、デスクから離れてビールを開ける。

「明日は世界の命運をかけるってのに・・、呑気な夫婦だな」

「明日の事がわかんねぇから、今日を楽しんで生きるんだろ?」

「な~に?負ける気なの?『地上最強』の名が、泣くわよ?」

「そんな名に、興味は無ぇ。何なら、リンドウ。お前にくれてやる」

「冗談だろ?いらんいら~ん」

他愛のない話をしながら、三人はビールを片手に笑い合う。

かつては、第1部隊で共に戦った三人。

気の許し合える仲間だからこそ、こんな状況でも彼等は笑い合えるのだ。

「・・・それで?明日はどうするんだ?ソーマ」

「作戦概要なら、空木に伝えてある」

「今、聞かせろよ・・」

「ちっ・・・。面倒な奴め」

言葉とは裏腹に、笑顔を見せてから、ソーマは作戦内容を口にする。

「もう小細工をする必要は無い。総力戦に持ち込む・・。ブラッドに先行させて、その後を追う形で、クレイドルに出てもらう。それから・・・全員で、螺旋の樹内部を、完全に制圧する。リンドウは、アリサとコウタ、それと空木を連れていけ。俺は最後尾に着く。・・・以上だ」

「ほぉ~。お前にしては、力押しに出るな。・・・焦ってるか?」

そう聞き返されてから、ソーマは少し黙って見せてから、ビールの缶をテーブルに置いて答える。

「焦ってないとは・・・・、言えないな。まだユウと連絡がつかねぇし、ラケルが何を仕掛けてくるかわからないしな」

「成る程。・・・まぁ、不測の事態に備えて、ハルんとこと、防衛班は前に出しといてくれ。ブラッドがヤバい時には、完璧にフォローしてやりてぇしな」

「わかった・・・」

「あ、それなんだけど・・」

二人が話しているところへ、サクヤが口を挟んでから、軽く息を吐いてから喋りだす。

「明日は、私も参加するから」

「「・・・・はぁ?」」

サクヤの突然の言葉に、二人は素っ頓狂な声を上げてしまう。

「・・あのー、奥様?明日がどういう日か、わかって言ってます?」

「わかってるから、言ってるんじゃない。私がただ黙って見送るだけの女じゃないことぐらい、あなた達が1番よく知ってるでしょう?」

「・・・・ふん。違いないな・・」

「おいおい、ソーマ・・」

リンドウが訴えてくるような目を向けてくるのを、ソーマは素知らぬ顔でサクヤへと話し掛ける。

「・・娘の方はどうする?ベビーシッターは、いねぇぞ?」

「お婆ちゃんに預けてあるから、大丈夫。ちゃんと訓練も続けてるから、問題ないわ」

「はぁ・・・、言い出したら聞かねぇよな・・お前さんは。・・・死ぬなよ、サクヤ」

リンドウが頭を掻きながら苦笑いを浮かべると、サクヤはウィンクしながら、笑みを返す。

「元隊長に対して、失礼よ?リンドウ。私は死なないわ」

「へぇ~へぇ~、そうですか。じゃあ、背中は頼むぜ・・サクヤ」

「任されたわ♪」

「ふん・・」

二人が笑い合うのを見て、ソーマは鼻を鳴らしてから、コーヒーを入れようと移動する。

そんな彼に、リンドウは自分達にもと手で2つと指を立ててから、口を開く。

「そういやよ~・・、本当に向こうの二人は間に合わねぇか?」

そう声を掛けられてから、ソーマはコーヒーを入れる手を止めて、窓の外へと視線を移してから、フッと笑みを浮かべる。

「・・間に合う。あいつが、本当にヤバい時に、間に合わなかった試しがねぇ」

 

 

 





久々に、歌詞を書きました。
実は元々、地元のアマチュアではありますが、作詞作曲をしていたバンドマンでしたのでw

お好みでユノっぽくメロディを想像してみて下さい!



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62話 過去を背負って、未来へ 前編

 

 

一夜明けてから、ヒロは大きく深呼吸をして、自分の部屋の鏡に映る、自分を見つめる。

それから、昨日のラケルの言葉を思い出してから目を閉じて、もう1度深呼吸をしてから目を開く。

「・・・・うん。大丈夫・・」

そう声に出してから、自分を奮い立たせてから部屋から出ると、廊下でブラッド隊の皆が、待っていた。

「遅ぇぞ、ヒロ」

「ちゃんと眠れたのか?」

「今日は頑張ろう!ヒロ!」

「・・ジュリウスを、助けましょう。ヒロ」

皆がそれぞれ口にする言葉を受け止めてから、ヒロは笑顔で頷いて、先に立って歩き出す。

「うん。・・・行こう!」

そんな彼に続いて、ブラッドは神機保管庫へと歩き始めた。

 

 

螺旋の樹の開口部前で、レンカは久方ぶりに握る神機を手に、無線でヒバリと連絡を取る。

「ヒバリさん、ブラッドの方は?」

『はい。現在中腹地点を更に奥へと進み、3階層へと上がる手前です』

「わかりました。5分後に俺達も動きます。後の指示は、お願いします」

『了解です。ご武運を』

無線が切れたのを見計らってから、リンドウが彼へと話し掛ける。

「どうだ、レンカ?フライアの時より長く握ってもらう訳だが、調子の方は?」

「あぁ。今のところ、問題はない。サクヤさんはどうですか?」

そうレンカが話を振ると、軽くストレッチをしていたサクヤは、笑顔で手を上げて応える。

「大丈夫よ。あなたと違って、私は復帰を目処に、偏食因子を打ち込んできてたから」

「そうですか。・・・まさか、育児休暇中のサクヤさんまで出てくるとは、思いませんでした」

そう心配そうな表情をするレンカに、アリサが溜息交じりに声を掛けてくる。

「貴方の場合、サクヤさんより自分の心配をして下さい。ただでさえ、無理をしたがる質なんですから」

「ははっ、違いねぇな~。一人で突っ走ってくれんなよ?」

「そんな事はしない。子供扱いは、勘弁してくれ」

「ふふっ。どうかしら?」

レンカに気を回しつつ、和やかに時を待つクレイドルの元に、ソーマがコウタと一緒にやって来る。

「そろそろ時間だ」

「ごめん!やっとエリナとエミールに、指示出し終わったよ!」

合流を果たしたコウタを含めて、リンドウが咥えていた煙草に火を点けてから、ソーマへと頷いて見せる。

「そんじゃ、行きますか!ソーマ。後ろが落ち着いたら、合流してくれ」

「あぁ・・・。頼むぞ」

二人が拳を軽くぶつけたのを合図に、サクヤ達は螺旋の樹へと、足を踏み出す。

「さ~て、久々のお仕事ね」

「まっ、この面子なら楽勝でしょ!?」

「油断は禁物ですよ?コウタ」

「俺は、足を引っ張らないよう、気を付ける」

そんな四人に続いて、リンドウは前へと進み出て、仲間へと声を掛ける。

「クレイドル・・・、行くぞ!」

《了解!》

隊長不在にも拘わらず、その圧倒的な強さのオーラを発しながら、独立支援部隊クレイドルは、戦場を駆けだした。

 

 

中腹を抜けて、3階層へとやってきたブラッド隊は、再び赤黒く染まった景色を目に、緊張を高める。

「・・・いよいよだな」

「ここを抜けたら、ジュリウスがいるんだよね?」

ギルの洩らした言葉に、ナナが次いで口を開くと、皆静かに頷きながら、慎重に足を進める。

五人が足を動かすたびに、ふわふわと舞う黒い蝶に、リヴィが視線を巡らせながら口を開く。

「・・黒い蝶が、増えてきたな。昨日のヒロの話が事実なら、これはラケルの分身とでも思うべきか・・・」

「・・・それで、良いと思うよ。僕は確かに、この蝶に包まれた瞬間、ラケルが目の前に現れたから」

ヒロが警戒しながら答えると、ナナは気持ち悪そうに顔をしかめる。

「う~ん・・・。虫、嫌いじゃないんだけど・・・、これは・・何か気持ち悪い」

「・・・そうですね。しかも、こう多いと・・」

シエルが顔の前に跳んできた蝶を掃うと、ナナはそれが落ちるのを目で追っていく。

「実はさ・・・、この地面が黒いのも・・。蝶のせいとか・・・、ないよね?」

その言葉にハッとさせられて、皆一斉に足元へと視線を向ける。

その瞬間・・・。

 

ドババババババッ!!!

「ぬぁっ!くそ!」

「わぁっ!なになにー!?」

「前が・・、くぅっ!」

 

後ろについて歩いていたシエル、ナナ、ギルの三人の足元から、大量の黒い蝶が舞い上がり、ヒロを包んだ時同様に、彼等を閉じ込めてしまう。

「しまった!?」

「くっ!ヒロ、どけ!『圧殺』を使う!!」

リヴィが神機を構えて叫ぶと、ヒロは後ろへと距離を取る。しかし、彼女が『圧殺』の力を使う前に、黒い蝶の壁は消えて、三人の立っていた場所には、大きな穴が開いていた。

「・・やられたな。まさか、分断に掛かって来るとは・・・。どうする、ヒロ?」

「くっ!・・・・・ラケル!」

怒りに震えて、次の行動に移れないでいるヒロに代わって、リヴィが無線を作戦指令室へと繋ぐ。

「こちら、リヴィ。シエル、ナナ、ギルの三名と分断された。三名のビーコン反応を確認してほしい」

『リヴィさん、了解しました!少々お待ちを!』

返答に応えたフランを待ちながら、リヴィは立ち尽くすヒロへと視線を向ける。彼の視線は、今だぽっかりと空いた穴へと注がれている。

『・・・・ビーコン反応、確認しました!三名とも、無事です!』

「・・ふぅ。そうか・・・」

『ただ・・・三名とも、中腹辺りにおられるようですが?』

「あぁ・・。ちょっと、落ちたからな。生きてるなら、問題ない」

そう言ってから、リヴィは無線から意識をヒロへと向けて、話し掛ける。

「ヒロ、三人は中腹まで落ちたようだ。どうする?戻るか?それとも・・・、救援を要請するか?」

「・・・・・・僕は・・」

頭の中で色々考えているのか、ヒロは目を泳がせて、はっきりと言葉を言えないでいる。

そんな彼の額を、リヴィは軽く小突いてから、真剣な眼で彼を見つめる。

「ヒロ・・。昨日ラケルに何を言われたかまでは聞かなかったが、それに惑わされるな。お前の正しいと思う事を信じて、それを実行しろ。例え間違っていたとしても、私達は仲間だ。罰も一緒に受けてやる」

「でも・・・・、みんなが・・」

「しっかりしろ!お前は、ブラッド隊の隊長だろ!?お前の答えが、我々隊員の答えだ!信じろ!」

「・・・・リヴィ」

彼女の声が届いたのか、ヒロは徐々に気を引き締めた表情へと変わる。その時、無線からフランとは違う声が、聞こえてくる。

『良い仲間が揃ったな~、ヒロ。お前の人徳ってやつだな』

「っ!?リンドウさん!?」

無線の向こうで、我が事のように嬉しそうな声を発するリンドウに、ヒロは驚いて声を裏返してしまう。

『事情はフランから聞いたぜ。中腹辺りなら、丁度俺達がいる。仲間の捜索は、俺達に任せろ』

「でも!?・・良いんですか?」

『あぁ。こういう時は、仲間を頼るのも大事だぜ。ナナの方は、俺とサクヤ、コウタが行くか』

『なら、シエルの方は俺とアリサで探そう』

リンドウに続いて、レンカの声も耳に入る。

『なら、ギルは俺等第4部隊に任せろよ、ヒロ。迷子も神秘も、捜すのは得意だぜ』

『中腹全域のフォローは、防衛班で固めますよ、リンドウさん。これで、問題ないだろ?ヒロ』

「ハルさん・・・、タツミさん」

ハルとタツミが会話に参戦してくると、ヒロは自然と涙を零していた。そんな彼に、もう一人声を掛けてくる。

『ヒロ君、聞こえる?あなたはもう、極東支部のゴッドイーターなのよ?ブラッドだけじゃないのよ?あなたの仲間はね』

「ジーナさん・・・。ありがとうございます」

礼を口にしながら頭を下げると、再びリンドウが声を掛けてくる。

『行ってこい、ヒロ。仲間は俺達が送り届けてやる。そっちにも、迎えを待ってる仲間がいるんだろ?』

「・・はい!・・みんなを、お願いします!」

『《了解!!》』

希望を取り戻したヒロの背中に、リヴィはフッと笑顔を浮かべてから、無線の向こうで待機していたフランに、喋りかける。

「捜索は、リンドウさん達に任せる。私とヒロは、一足先にジュリウスの元へと向かう」

『了解しました!お気をつけて、リヴィさん!』

「フラン・・・・、ありがとう」

『あ・・いえ。オペレーターとして、当然の事をしたまでです!』

そのフランの言葉に嬉しさを感じながら、リヴィは自分もすっかり極東のゴッドイーターなのだと認識し、照れ笑いしてしまう。

無線を切ってから、今一度緩んだ顔を引き締めて、リヴィはヒロへと視線を向けると、彼も強い眼差しで見つめ返してくる。

「行こう!ジュリウスの元へ!」

「あぁ。行こう!」

そう二人は声を掛け合い、螺旋の樹の最上層へと足を向けた。

 

 

ゆっくりと目を開いたギルは、自分が立っている場所に困惑し、目を大きく開いて声を洩らす。

「ここは・・・、グラスゴーの・・・。イギリス、なのか?」

かつて自分が所属していた支部の管轄区域。見慣れた景色に、ギルは驚いてしまっていたのだ。

そして、その場所は・・・・彼にとって、忘れられない場所・・。

「どうして・・ここに・・」

「・・・ギル」

「っ!!?」

突然声を掛けられ、振り返った先に見た人物に、ギルはまたも驚きに表情を硬くする。

「・・な・・、ケイトさん」

「ギル・・・」

そう。ここは、赤いカリギュラとの因縁が出来た場所。ハルの妻だった、ケイト・ロウリーが亡くなった場所。

ギルが最期を看取った彼女が、彼の目の前に立っていたのだ。

「どうして・・。ケイトさんは、あの時・・」

「実はね、ラケルさんに助けてもらってたの。1時的に、だけどね・・」

「そんな・・馬鹿な!?」

ギルが困惑していると、ケイトはゆっくりとした足取りで彼に歩み寄りながら、喋りかける。

「ねぇ、ギル。ラケルさんの言ってる事って、間違いなのかな?『終末捕食』が起これば、神機使いも荒神も、みんないなくなる・・・。必要なくなるんだよ?そうしたらさ、誰も・・・明日に怯えなくて済むんだよ?それって、悪い事なのかな?」

「そ、それは・・・。でも、俺は・・」

ギルが目を反らすと、ケイトは彼の頬をゆっくりと撫でながら、優しく微笑む。

「ギルも、楽になりたいでしょ?誰も傷つかない方が、良いでしょ?」

「・・・・違う」

「え?・・・」

振り絞ったように声を洩らしてから、ギルは泣きそうな顔を見せながらも、必死に訴えかける。

「それは違うよ、ケイトさん!例え『終末捕食』を止めることが、間違っていても・・・。ユウさんや、ジュリウスや・・・、ヒロ達が戦ってきたことが、間違いなわけじゃない!そんな絆を・・・、あなたが俺に・・教えてくれたじゃないですか!?」

「・・・ギル」

思いを言い切ってか、ギルはケイトの顔を見れずに、目を伏せる。そんな彼に、ケイトは優しく語り掛ける。

「それでいいの?『終末捕食』は、全ての苦しみから解放してくれる、唯一の望みなのに・・」

「・・ケイトさん」

「あんまり人の嫁さんの事を、捏造するのやめてくれるか?」

「え?」

背中から聞こえた声にギルが振り返ると、神機を前に突き出したハルが、軽くウィンクしてくる。

「ハルさん!?」

「よっ。迎えに来たぜ、ギル」

そう言ってから、ハルは自分の突きつけた神機の先にいるケイトに視線を移し、溜息を吐いてから話し掛ける。

「こんな狭い空間に、よくもまぁこんな場所を再現したもんだ。ついでに死んだ嫁さんまで作って、ギルを惑わそうなんて・・・。あんた、相当性悪だな?ラケルさんよ」

「・・・・」

黙って睨みつけてくるケイトから目を反らさずにいるハルに、ギルは戸惑いながら声を掛ける。

「ハルさん・・、これは一体?」

「いいか、ギル。ここにはな、何も無いんだよ。螺旋の樹の中腹の、だだっ広い景色が広がってるだけだ」

「でも!ここは、グラスゴーの!?」

「あぁ、そうだ。俺にも、そう見えてる」

ギルの疑問に頷いてから、ハルは更に説明を続ける。

「どうやらブラッドのお前等が、心のどこかで見たいモノが具現化しているのかもしれねぇな。俺の場合は・・・、わかるだろ?」

「・・そうか。ケイトさん・・」

ギルが納得してからケイトの方へと顔を向けると、彼女は可笑しそうに笑っている。

「どうしたの?ハルオミ。私は、あなたの奥さんでしょ?」

「・・・わかってねぇな。やるなら、ちゃんとリサーチしてから再現してくれ。ケイトは、俺を”ハルオミ”なんて呼ばねぇ」

「・・・・・あら、そうだったの?失敗ね」

そう言ってから、ケイトは黒い蝶に覆われてから、ラケルへと姿を変える。

それを目にしてから、ギルが怒りに神機を構えるが、ハルの方は可笑しそうに声を洩らして笑い始める。

「あらあら、どうしたのかしら?」

「いや~、笑っちまうぜ。なぁ、ギル?」

「え?いや・・」

ハルの反応に、ギルが戸惑っていると、彼は鼻を鳴らしてからラケルに言い放つ。

「さっきの話、嘘に決まってるだろ?場合によっちゃあ、”ハルオミ”とも呼ばれてたしな」

「あ・・・」

ハルの機転に、ギルはハッとさせられ、ラケルは表情を硬くする。

「さぁ~て、笑ったことだし・・・。ギル、合図したら後ろに跳べよ?」

「は?どうしてっすか?」

「・・・ご立腹の上に、待ちくたびれてんだよ。うちの隊員が、な」

ハルの言葉に驚きつつも、ギルは笑いをこぼしてから、後ろへと意識を集中する。

「さてさて、しっかり味わえよ。極東の最強の1撃を放つのは、ユウとソーマだけじゃないんだぜ!」

「ふっ!」

言葉尻に跳んだハルに合わせて、ギルも後ろへと跳ぶと、入れ替わりに飛び込んできたデンジャラスビューティーが、目を大きく見開いてから、冷たく声を発する。

「・・ギルさんに、2度と近付くな。下郎が・・」

ドゴォーーンッ!!!

爆風に乗って後ろへと着地したカノンの1撃に、景色は一気に晴れて、元の中腹の広場へと変わる。

よく見てみると、ラケルが立っていた辺りに、荒神らしき姿を確認して、ギルはハルの方へと顔を向ける。

「ハルさん、あれって!?」

「あぁ。俺やお前には、見えてなかった真実だ。ケイトに見えていた俺達と違って、カノンには最初から荒神に見えてたみたいだ。目の前でお前がやられそうなんだ。恋する女としちゃあ、怒り狂って当然だろ?」

「恋って!?・・・ま、まぁ、良いですけど」

照れくさそうにキャップを深くかぶるギルに、カノンは黙って駈け寄って来てから、神機をその場に投げ捨ててから、抱き着いてくる。それに応えるように、ギルの方も微笑みながら、頭を撫でてやる。

「ありがとな・・・、カノン」

「うぅ・・うぅぅうぅうぅぅっ!!!」

言葉にならないのか、カノンは顔をギルの胸に押し付けたまま、首を横に縦に振って、泣きじゃくる。

そんな二人に笑顔を見せてから、ハルはグッと親指を立てて右手を前に出す。

「これで、お前も簡単には死ねなくなったな!」

「・・・べ、別に・・・。もう、死のうなんて・・思ってないっすよ」

彼の返事に満足そうに頷いてから、ハルは上を見上げながら息を吐く。

「落ち着いたら、上に向かうぞギル。ジュリウスを、助けにな!」

「・・・はい!」

カノンを撫でながら、ギルは力強く返事をして、神機を握り直した。

 

 

 





ハルさんに見抜けぬ女は、いない!!

という、オリジナルな設定?w



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63話 過去を背負って、未来へ 後編

 

 

意識を取り戻したナナは、横たわった身体を起こしてから、目を擦って周りを見渡す。

「・・・あれ?ここって・・・」

どこか懐かしさを覚えるその場所に、ナナは首を傾げていると、自分の目の前に人の気配を感じて、視線を向ける。

「あら・・、起きたの?ナナ」

「あ・・・、お母さん・・」

彼女の目に映ったのは、亡くなったはずの母親の姿だった。

「なんで・・・」

「おでんパン・・、食べるでしょ?」

「え?・・・う、うん」

テーブルの上に置かれたおでんパンを差し出され、ナナは戸惑いながらもそれを手にし、一口頬張る。

「どう?美味しい?」

「うん・・・・・、美味しいよ。お母さん」

ぎこちなく笑うナナに、母親は優しく微笑んで、彼女の手を取る。

「今まで・・・いっぱい、頑張ったね?でももう、良いのよ?これからは、お母さんとずっと・・・一緒にいましょう」

「ずっと・・・、一緒?」

「そうよ・・」

ナナが聞き返すと、母親はその微笑みを絶やさずに、更に話を続ける。

「ゴッドイーターになって、沢山戦って・・・。もう、疲れたでしょ?だから、もう休みましょ?お母さんが、ずっと傍にいるから」

「・・・・うん。・・いいな、それ・・」

母親の手の温もりに、ナナは照れくさそうに笑いながら、その手を握り返す。

「・・でもね、無理だよ」

「・・え?」

ナナはゆっくりと立ち上がってから、近くに立てかけてあった神機の前へと移動する。そして、それを手に取ってから、どこか諦めたような笑顔を母親へと向ける。

「だって・・、お母さんは・・死んじゃったんだもん」

「・・・お母さん、ここに居るわよ?」

「うん、知ってる。あたしの・・・、夢の中だし」

「夢・・って」

母親が困惑していると、ナナは自分の手の中の神機を目にしながら、大きく深呼吸をする。

「これはね、あたしの夢・・・理想だよね。だから、2度と会えないと思ってたお母さんに会える、唯一の手段。たまに見てたから、わかるよ・・・。久し振りに見れたし、本当はもっと一緒にいたいけど・・・、もう行かなきゃ。みんなが待ってるし!」

満面の笑みを浮かべるナナに、母親は少し厳しい目つきをしてから、喋りかける。

「いいの?もう2度と、お母さんとは会えないかもしれないのよ?その”みんな”も、ナナを必要としていないかもしれない・・・。邪魔に思ってるかもしれないのに・・」

「そんなこと、絶対無いよ」

「・・・どうして、言い切れるの?」

問われてから少し考えて、ナナは再び満面の笑みで答えた。

「だって、ブラッドも極東支部のみんなも・・・、あたしの家族だもん!お母さんが死んじゃった後のあたしを支えてくれた、あたしのもう一つの家族だから!絶対無いんだよ!」

「・・・・・」

何の迷いもなく口にするナナに、母親は恨めしそうに見つめながら、ただ黙っている。そんな彼女に背中を向けて、ナナはゆっくりと出入り口へと向かう。

そこで今更ながらに、彼女は気付く。そこは、ナナが幼少期に母親と暮らしていた家だという事に・・・。

「・・・そっか。ここが、あたしの家・・だったんだ」

そう声を洩らしてから、ドアノブに手をかけて、力強く開け放つ。そして、振り返ってから、ナナは母親に笑顔で別れを口にする。

「じゃあね、お母さん!話せて良かった!今度は、もっとゆっくり・・いっぱい話そうね!」

「・・・・・ナナ」

ナナが家の外へと目を向けると、夢の中と思っていたその場所に、リンドウとサクヤ、コウタが立っている。

「ん?あっれ~?夢の中に、リンドウさん達が見える!?なんで~?」

「はぁ?夢って・・・。お前、何呑気にごばぁ!」

コウタが何かを言おうとしたところで、リンドウが拳を口の中に突っ込んでから黙らせると、ナナへと声を掛ける。

「・・もう、いいのか?ナナ」

「えっと~・・はい!だって、ジュリウスが待ってるし!」

「そうか・・」

そう言ってリンドウは、コウタの口から手を引き抜くと、ゆっくりと前に出る。そんな彼に首を傾げているナナに、サクヤが優しく微笑んでから、両手を伸ばして彼女を呼ぶ。

「ナナちゃん・・、おいで」

「え?・・・えへへ。サクヤさんにも優しくされて、良い夢だな~!」

照れながらナナは、サクヤの胸へと飛び込むと、その豊満な胸の中に顔を埋める。それを優しく受け止めて、ナナの視界を遮ったのを確認してから、サクヤはリンドウに目配せして頷く。

彼女の合図に頷き返してから、リンドウは冷たい目のまま、ナナが母親と呼んでいたラケルへと近付き、右腕から神機を形成する。

「俺達ゴッドイーターが、絶対の正義なんて思ってないがなぁ・・。あんた・・相当、悪趣味だぜ」

「貴方の右腕は、とても素敵ね。雨宮リンドウさん・・」

「勧誘してんのか?褒めても・・・、これ位しかやれねぇな」

そう言って、リンドウは神機を振り上げて、ラケルの首と腹を斬り付ける。

ザシュッ ザンッ!!

すると、ラケルの姿は黒い蝶となって消え、荒神がその場に倒れ伏せる。それを見下ろしながら、リンドウは咥えていた煙草をプッと吐き捨ててから、後ろへと振り返る。

「・・・よう!ナナ!よく寝られたか?」

「ん?え?・・・・あれ?さっきまで、あたしの住んでた家が・・・」

サクヤの胸から顔を上げてから、ナナはキョロキョロと周りを見回していると、サクヤが優しく彼女の頭を撫でながら、喋りかける。

「ちょっと疲れて寝ていたのよ。大丈夫?良い夢、見れた?」

そう聞かれてから、ナナは笑顔で答える。

「えっと・・はい!とっても、良い夢でした!」

「そう・・」

ナナの笑顔に、リンドウとサクヤは笑顔で応えてから、ラケルのいた場所へと視線を向ける。

それから、一人拗ねたように座り込んでいるコウタに目を向けてから、苦笑いを浮かべる。

「あー・・・・、コウタ?悪かったって・・」

「ごめんね、コウタ」

「良いですよ・・。どうせ、夫婦の阿吽の呼吸には、付いていけないっすから」

そっぽを向くコウタに、ナナが首を傾げながら、ポケットの中を探って何かを取り出して差し出す。

「コウタさん、元気ない?これ・・・『初恋回復錠』食べる?」

「そんな不吉なモン、まだ持ってたのかよ!?本気で慰める気、あんの!?」

思わぬモノに勢いよく距離を取るコウタに、リンドウは笑いながら煙草を咥えて、火を点けて煙を吐くと、神機を肩に担いでから口を開く。

「おし!コウタも元気になったし・・・、ナナ!ジュリウスでも、迎えに行くか!?」

「あっ、そうだ!行きま~す!!」

「元気になってないっすよ!いや、元気だけども!」

コウタが騒ぐ中、ナナを連れて、リンドウ達も上へと向かって歩き始めた。

 

 

一人暗闇の中を歩くシエルは、時折聞こえる蝶の羽音に耳を澄ませながら、神機を握る手に集中する。

そこへ・・。

「何をしに来た、シエル・・・」

聞きなれた声に、足を止めると、シエルは銃型へと変形させてから、声の出所を探る。

「お前は、ここを俺に任せたんじゃないのか?・・・ならば、お前に出来ることなど・・無い。即刻、ここから立ち去れ」

「・・・・私に意見を言いたいのなら、ご自分の声で仰ったらいかがですか?ラケル先生・・」

そう言って振り返ってから、剣型へと戻して突き出すと、そこに黒い蝶が集まって、ラケルがその姿を見せる。

「流石ね・・、シエル」

「貴女がジュリウスの声真似をするのは、2度目ですから。もう、惑わされません」

「ふふっ・・、優秀ね。嬉しいわ・・」

妖艶に笑う彼女とは対称に、シエルは冷ややかな目つきでラケルを見つめる。そんな彼女の視線をモノともせず、ラケルはシエルに語り掛ける。

「優秀な貴女なら、わかっているでしょう?特異点であるジュリウスを、助けることは出来ないと・・。特異点を失えば、『再生無き永遠の破壊』により、世界は破壊しつくされる・・。それならば、『終末捕食』を完遂し、『破壊から生まれる再生』を選ぶのが、賢明じゃなくて?」

「・・・その為に、ジュリウスを諦めろと・・仰るのですか?」

「そうは、言わないわ・・。私の下に帰りなさい、シエル。そうすれば、ブラッドもジュリウスも・・・、皆一緒に永遠となれるわ」

「お断りします」

ラケルの提案に、シエルは間髪入れずに、強い眼差しで答える。その表情に、ラケルは間抜けにも、口を半開きに硬直してしまう。

「貴女の仰る通り、どこかで理解しているのかもしれません。・・ジュリウスを救うのが難しいという事も・・。『終末捕食』を止める事も・・」

「だったら・・」

「それでも!貴女に従うことは出来ません!!」

「・・・何故かしら?」

強く言い切ったシエルに、ラケルが問い返すと、彼女は怒りの表情で、言い放つ。

「貴女は、私の愛しい人を傷付けました。あの眩しい笑顔を、曇らせました!理由は、それで十分です!!」

ザンッ!!

言葉尻に思い切り神機を斬り付けると、ラケルの姿は蝶となって崩れ始め、その後ろで荒神が沈黙し倒れる。

振り抜いた状態で睨みつけてくるシエルに、ラケルは口の端を嫌らしく吊り上げてから、姿を消していく。

「たった一人の為に、世界を危険に晒そうなんて・・・。もっと、賢いかと思っていたのに・・。残念ね、シエル」

完全に姿を消したラケルに、シエルは大きく深呼吸をしてから構えを解き、声を洩らす。

「人の思いは、小さくとも良いんです。寄り集まれば、それは大きな力となる。極東に来て・・・彼と共に歩んで、知った事です。ラケル先生・・」

暗闇が晴れていくと、シエルの目の前には、レンカとアリサが笑顔で立っている。

「アリサさん・・。空木教官」

「助けは、必要なかったみたいですね」

「あぁ。シエルは優秀だからな・・」

二人の並び立つ姿に、シエルは笑顔を見せてから駈け寄り、そのまま三人は先へと歩き始める。

「・・・いつか、私もお二人のように・・・、ヒロと肩を並べれるでしょうか?」

「え?あ、はい!?それって・・・、そういう事ですか?」

「そう・・・いう、ことか?」

二人が困惑して顔を見合わせて、照れ笑いを浮かべると、シエルは小さく頷いてから、前を見据える。

「絶対に、生きて帰ります。ジュリウスを助けて・・・、ブラッドと・・ヒロと共に!」

強い決心を口にするシエルに、レンカとアリサは驚いてから苦笑する。

「誰かの為に戦えることは、悪いことじゃないな」

「まさか、ここでシエルさんが素直になるとは思いませんでしたけど」

そんな二人の台詞が聞こえてか、当のシエルは耳まで顔を真っ赤にして、顔を見せぬように前を陣取って進んだ。

 

 

最上層に一早く到達したヒロとリヴィは、中心に立つ大きな柱を目指して足を進める。そして、その頂上付近の光るモノが確認できる位置まで来た瞬間、二人は目を大きくして声を洩らす。

「・・・ジュリウス」

「あれは・・・、囚われているのか?」

元は青かったであろうモノが赤く染まっていく殻の中に、ジュリウスは拘束されたような状態で眠っている。

「解放すれば、ジュリウスは助かるのか?」

「どうだろう?とにかく、行ってみよう!」

ヒロが駆けだすのに続いて、リヴィが駆けだすと、そこへ黒い蝶が集まってきて、渦を形成しだす。

ゴオォォォォッ

「ちっ!何か来る!」

「くぅ・・・・、やっぱり、簡単にはいかないよね。そうでしょ?・・・ラケル!!」

ヒロがその名を叫ぶと、ジュリウスの前に姿を現したラケルが、見下すように笑いかけてくる。

そして、黒い蝶の渦が晴れると、そこには終焉の王が仮面をつけた、赤黒い荒神が姿を現す。

「なんだ・・、こいつは?」

「・・以前ジュリウスが、荒神化したヤツに似てるよ。強さも、ジュリウスそのもの・・だったけど、今回は・・」

「察しが良いわね、ヒロ。前回のようには、いかないわよ?さぁ・・・、足掻いて見せなさいな。人間・・」

そう言って、ラケルが殻に手を当てると、その色は急速に赤へと変化を始める。

「何となくだが、あのまま赤く染めたら不味そうだな?」

「その前に、決着をつけよう!」

ヒロが神機を構えると、リヴィも次いでロミオの神機を構える。

その行為に反応してか、仮面の終焉の王も、背中の6本の刃を構えて、ヒロ達を警戒する。

「行くよ!リヴィ!」

「了解だ!」

二人が駆けだすと、仮面の王は大きな声で吠え、二人へと飛び掛かった。

 

 

 





このまま最終決戦へ突入!

ラケルの陰謀を砕け、ブラッド!




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64話 英雄の帰還

 

 

作戦指令室で様子を伺っているフェルドマンは、状況を映像で確認できないことに、苛立ちを感じていた。

元々現場を見る機会は少なく、報告書のみで情報を管理していたので、リアルタイムの情報がこんなにも乏しい事に、落胆していたのだ。

(こんな悪条件で・・、ゴッドイーターは戦っていたのか・・)

オペレーターにしても、腕輪のビーコン反応とオラクルレーダーの確認のみで、現場へと指示を仰ぐ状態。

機材の不足差加減に、最前線に対する本部の怠慢を感じずにはいられない。

色んなことが目に入り、フェルドマンが集中できずにいると、榊博士が肩を軽く叩いてから、声を掛けてくる。

「落ち着いて下さい、フェルドマン局長。今は・・・彼等を信じる以外、私達研究者には出来ることが無いのだから。必要な時に動けるように、今は耐え忍んで」

「・・・すみません」

ただ謝ることしかできず、フェルドマンはそのまま項垂れると、榊博士は気を遣って背中を優しく撫でてやる。

そこへ、ユノとサツキが足早に入ってきて、榊博士へと一礼する。

「博士、お願いです。私達も、ここにいさせて下さい」

「私からも、お願いします。身勝手は承知してます。ですが・・どうか!」

ユノに続いて、サツキも頭を下げると、榊博士は二人の頭を上げさせてから、厳しい表情で頷く。

「構わないが・・・、覚悟の上だね?・・・誰かが死ぬことも、ここでは即座に耳にすることになるんだよ?」

そんな彼の言葉に、ユノもサツキも、深く頷いてから強い眼差しを向ける。

「知らないところで、大切な人を失うくらいなら、死んだ方がましです!」

「私は元ジャーナリストです。言いたくはないですけど・・・、慣れてますから!」

二人の覚悟を確認してから、榊博士は彼女達に場所を提供し、自分もまた、スクリーンへと目を向ける。

サツキが緊張に顔を強張らせている隣で、ユノは胸の前で手を組んでから、祈るように目を閉じる。

(・・・ジュリウス・・・みんな。どうか・・、無事で!)

 

 

キィンッ! ギンッ!

「くっ!・・リヴィ!後ろを!」

「もう、とった!!」

ザシュッ!

ヒロが目の前で刃を受けている隙に、リヴィが背中を斬り付ける。

少し仰け反ってバランスを崩したところを見計らって、ヒロとリヴィは距離を取って合流する。

「おい、ヒロ。今更ながら思い出したが、以前はお前一人で決着をつけた相手ではなかったか?」

「以前はね。ジュリウスとまったく同じ力に戦闘スタイルで動いてたけど、戦闘を真似てる間は、大したことなかったんだよ。でも、こちらの出方を伺いながらだと別だよ」

「つまり・・・本当の意味で、こいつは完成体と言う事か?」

「そうなるかな・・。本当の意味で、ジュリウスそのもの・・だよ」

ヒロの言葉に、リヴィは忌々し気に舌打ちをしてから、笑みを零してしまう。

「厄介だな。だがジュリウスそのものなら、活路は見出せないか?」

「だと良いけどさ・・。ただ・・ジュリウスは、刃を6本も持ってないし、浮いてないけど?」

「それを言われたら、元も子もない!」

そう言ってから、リヴィはヒロを蹴り飛ばしてから、その勢いで自分は後ろへと跳ぶ。そこへ、仮面の王の3本の刃が降って来る。蹴られた勢いを利用して、ヒロは近場の柱を切ってから倒し、煙を上げる。

それを隠れ蓑に、リヴィが思い切り斬りかかると、仮面の王はそれをいなしてから腕で殴りつける。

「ぐぅ・・はぁ!」

「リヴィ!」

当てが外れたのに焦っていると、仮面の王は標的をヒロへと移して、拡散レーザーのようなモノを撃って来る。

「くそっ!」

盾でヒロがそれを受けていると、相手は距離を詰めてきてから、ヒロの背中を斬り付ける。

ザシュゥ!!

「ぐあっ!・・・この!!」

ドドドドドドドッ!!

咄嗟に銃形態に切り替えてから連射して、その反動で距離を取ってから、ヒロは剣形態へと戻して、肩で息をする。

「はぁ・・はぁ・・、ああいうの、ズルくない?人の出来ない動きを、してくれちゃってさ・・」

「だから・・、神なのでしょう?」

ヒロのぼやきに、ラケルが嫌らしく笑みを浮かべながら答えると、ヒロはそちらへと視線を向ける。

「以前とは比べ物にならないでしょう?ジュリウスそのモノの動きに、人には出来ない立ち回り。人に出来ぬことをやってのけるからこそ・・・神なのよ」

「・・・そうかもね。・・・・でも、神なら・・勝てる」

「はい?・・・」

その笑みを保ちながらも、苛立ちを含ませた声を洩らすラケルに、ヒロは立ち上がってから、神機を構える。

「前にも言ったはずだ・・、ラケル・クラウディウス。僕達はゴッドイーター・・神を喰らう者だ。相手が神なら、絶対に負けない!」

「それはお前の言葉ではないでしょう!神威ヒロ!」

感情を露わに叫ぶラケルに、ヒロがフッと笑みを浮かべると、軽く息を吐いて答える。

「そうだよ・・。でも、僕は・・僕達は負けない!この言葉をくれた、あの人の遺志を継ぐ、ゴッドイーターだからね!・・・・でしょ?」

その言葉に応えるように、ヒロの側に1つ、2つと影が降り立つ。

「そうだな、ヒロ。ユウさんの言葉は、俺達の言葉でもあるんだ」

「神薙ユウさんか・・。随分と期待された部隊に、入ったものだな・・私は」

「それにソーマさんやリンドウさんにも、いっぱい鍛えてもらったんだから!」

「私達の意志の力は、貴女には屈しません。英雄の示した道を・・・私達は知っているのですから!」

ギル、リヴィ、ナナ、シエル・・・。そしてロミオの神機に、ヒロ。ジュリウス・・。

今まさに、ブラッドが1ヶ所に集まった事に、ヒロは涙をこらえながら目を閉じ、そして力強く開いて叫ぶ。

「極東支部ブラッド隊!荒神を、喰い荒らせ!!」

《了解!!》

ヒロの声に答えてから、皆一気に仮面の王へと走り出す。

そして、ヒロだけはその場に残り、感応制御装置を神機にセットし、皆へと指示を出す。

「みんな!今度はしくじらない!1分だけ、僕に時間を!!」

それに無言で頷いてくれたのを確認してから、ヒロは感応制御システムを起動する。

 

ヒロだけが留まっているのに違和感を感じ、ラケルは眉間に皺を寄せてから、そこへ行こうとする。

しかし、彼女の腕を掴むモノがあり、ラケルは思わず振り返ると、意識のないままのジュリウスが、右腕の拘束を解いて掴んでいたのだ。

「くっ!・・・ジュリウス!貴方・・!」

「・・・・」

物言わぬままのジュリウスが、どこか笑っている気がして、ラケルは逆上に目を見開き歯を鳴らす。

その時・・・。

パッアァンッ! ドォーーーーンッ!!

「なに!?」

彼女が視線をジュリウスからヒロへと向けた時、彼の身体を、金色のオーラが包んでいた。

 

ガキィ! ズバッ!

「ぐあっ!くぅ!」

ギルが横腹を斬られて転がったのを目にして、ナナが庇う様に前に立つ。

「ギル!平気!?もう1度、あたしの『誘引』で!」

「よせ!使いすぎると、すぐにへばるぞ!?」

そう言って立ち上がってから、ギルはナナに並び立ってから神機を構える。

「でも、リヴィちゃんもシエルちゃんも・・そろそろ限界だよ!?」

「1分ってのも、意外と長いんだな。・・・・けど、もう経ったぜ!」

「ホント!?シエルちゃん!リヴィちゃん!離れて!!」

「了解!」

「わかってる!丁度、1分だ!・・ヒロ!」

リヴィが叫ぶと、ヒロはゆっくりと神機を前に構えて、戦況を覆す言葉を口にする。

「ブラッドレイジ、発動」

その瞬間、ヒロの背中と右腕から金色のオーラが噴き出し、彼の身体を包む。

「行くぞーーー!!!」

そう叫んだ時には、ヒロの姿は仮面の王の前まで移動し、その仮面を思い切り叩き割っていた。

バキンッ! ザシュッ ザシュッ

「はぁぁぁーーーーーっ!!」

ザスザシュバシュガキィッ! ザァンッ!!!

 

「何なの・・・あれは!?」

ヒロのブラッドレイジを目にして、ラケルは恐怖の色をその顔に見せる。

そして、ジュリウスの言葉を思い出してから、殻の中で腕を掴み続けるジュリウスへと目を向ける。

 

『ヒロを・・甘く見ないことだな。ラケル・・』

 

「・・・おのれ・・。人間風情が・・」

悔し気に声を洩らしてから、もう1度ヒロへと視線を向ける。

その先で、今まさに決着がつこうという瞬間だったが、ラケルはあることに気付いて、再び嫌らしく笑い始める。

 

「これで・・・、終わりだーーー!!!」

ザンッ!!! バキィンッ!!

胸のコアごと真っ二つに斬り付けて、ヒロのブラッドレイジが時間切れと言わんばかりに解ける。

「うっ・・・はぁ・・はぁ・・。よし・・・、よし!」

仮面の王はその場で霧散し、ヒロはそれを確認してから、付いた膝に力を籠めて立ち上がる。

そこへブラッドの皆も駈け寄り、全員でジュリウスの側に立つラケルを、睨みつける。

「これで・・、勝負ありでしょ?・・・ジュリウスは、返してもらうよ?」

ヒロの言葉に同意するように、訴えかけてくるブラッド隊に、ラケルは可笑しそうに笑い続ける。

「なんだよ・・。ついに頭が、おかしくなったのか?」

「ふふふふふっ。・・”勝負あり”ですって?」

笑い続けるラケルに、声を掛けたギルの方が苛立って神機を構えると、ラケルは笑い声を唐突に止め、静かに口を開く。

「ほんの少し焦ったけど・・・、切り札は使いどころが大事よ。ヒロ」

「・・・っ!?まさか!?」

ヒロが声を上げた瞬間・・・。

 

ガァーーーーンッ!! ゴゴゴゴゴゴゴゴッ!

「何だ!?ぐぅ!」

「えぇ!?地震!?わぁ!」

「くっ!まだ、何かしようってのか!?・・なっ!?」

「頭を下げて!体勢を低く!きゃっ!!」

「くぅ・・、嘘でしょ・・。ぐぅ、あ!」

 

突然の地響きに足を取られていると、皆の足元から螺旋の樹の触手が伸びて、全員の手足を拘束する。

それを見下しながら、ラケルは手の中の黒い蝶をふっと一吹きしてから散りばめる。

「・・な・・、何を・・した!」

拘束された身体を無理矢理起こしながら、ヒロが叫ぶと、ラケルは右手を口元に当ててから、再び笑い声を洩らす。

「ふふふっ・・。貴方のお友達に、プレゼントよ」

そう彼女が口にすると、螺旋の樹で戦ってる者の声が、階層全体に響き渡る。

 

『こちらエリナ!新たに荒神が出現して、エミールも・・・。もう抑えきれません!!』

『そんな!・・・螺旋の樹全体に、大多数のオラクル反応を確認!これでは、いずれ極東支部も!!』

『こちらハルだ!応援呼べねぇよな!?タツミ!』

『悪い、ハル!こっちもいっぱいだ!シュンの野郎もへばってきてるしな!』

『はぁ!?へばってねぇし!っと・・ぐわ!!』

『口より手を動かせよ・・。一人、50ノルマか?』

『極東支部!このままじゃ、新人達がもたない!せめて開口部近くだけでも、撤退させてやってくれ!』

『う~ん・・・。弾、もたないかしら?』

『はぁ・・はぁ・・、ハルさん!回復弾が、もう!』

 

聴こえてくる仲間のピンチに、ブラッドの皆が、絶望の色を顔に浮かべる。

「・・・やめろ・・。くそぉ!ラケルーーー!!!」

ヒロが悔しそうに叫ぶのを聞いてから、ラケルは更に口の端を浮かせて笑い出す。

「そう!やはりさっきの切り札は、連続での使用は出来ないのね!更に言えば、条件が必要なんでしょう!?わかるのよ!私も研究者だから!!」

それからラケルは、自分の身体を螺旋の樹に溶け込ませるように姿を消し、ジュリウスの殻を中心に黒い蝶を大量に発生させて、形を成していく。

それは大きく・・・どんどん巨大化し、ラケルの容姿の名残を残した、荒神へと姿を化す。

ジュリウスを、コアのように胸に光らせて・・・。

『切り札は・・・、こうやって使うのよ。お勉強になって?人間』

「・・・・・くっ」

ヒロがギリッと歯を鳴らすと、ラケルは愉快そうに笑いながら、ゆっくりとブラッドの許へと近付いてくる。

『さぁ。もう・・眠りなさい。1つになりましょう?ジュリウスが・・寂しがっているわ?』

彼女の言葉に、全員が悔しがっている中、ヒロが静かに喋りだす。

「・・・みんな。先に謝っとくね・・。ごめん」

「え?・・・」

ヒロの言葉に、シエルが声を洩らすと、ヒロは自分の右手を力いっぱい持ち上げて、神機を口の近くで離してから、話を続ける。

「このままじゃ、みんな死んじゃうから・・。だから、もう1度ブラッドレイジを使うよ」

「なっ!?だが、お前・・動けないだろ!?」

ギルが疑問を口にすると、ヒロは自嘲気味に笑いながら、答える。

「わかってるよ。・・・だから、折れた左腕を・・・斬り捨てる」

《っ!!?》

彼の言葉に信じられないといった顔をする皆を無視して、ヒロは更に続ける。

「この触手みたいなのが絡まった時にね・・・。だから、左半身は拘束が甘いんだ。左腕を切り捨てれば、後は力技で抜け出れると思うんだよね」

「失敗したら・・どうする?」

「その時は・・・どうしようかな?」

リヴィに痛いところを突かれたという顔を見せるヒロに、全員がもがきだす。

「待て!ヒロ!ならば、私がこのまま『圧殺』を使う!』

「いや!俺のスピアをギリギリまで伸ばせば、あいつの右腕辺りの拘束を斬れるかもしれねぇ!」

「あたしが『誘引』を使うよ!これも荒神なんでしょ!?だったら!」

「どれも駄目です!『圧殺』を万全で使えなければ、全員共倒れ!ギルの神機にヒロが触れれば、暴走を起こしかねません!それにナナの『誘引』だって、ナナがただで済むはずが!」

皆が自分の為に必死になっているのを聞いて、ヒロは最悪の状況なのに、嬉しさに笑顔を浮かべる。

「議論してる暇、ないでしょ?最悪、ブラッドレイジを使えない時には、みんなの拘束を解くから・・・。よろしくね」

そこまで言うと、ヒロは神機の柄を口で咥えてから、思い切り首を伸ばし自分の左腕まで切っ先を運ぶ。

「馬鹿!よせ!」

「ヒロ!やめてよ!!」

「くそ!動けよ!俺の腕!!」

「ヒロ!やめて下さい!いや!いやーー!!」

鼻息がどんどん荒くなる中、ヒロは目を閉じてゆっくりと刃を刺し込もうとする。

その瞬間・・・。

 

ズァーーーーンッ!!!!

 

「なっ!」

「あれっ!?」

「こ、拘束が・・」

「これは・・、ブラッドアーツ?」

「・・え?」

 

突然拘束が解かれて、全員が地に落ちると、皆驚いて顔を上げる。

『・・・な、なに!?』

巨大荒神化したラケルが見つめる先に視線を移動させてから、ヒロ達は声を失って涙を零す。

そこへゆっくりとした足取りでヒロの前まで来た青年は、神機を肩に担いで皆に声を掛ける。

「みんな、よく頑張ったね。ありがとう・・・、極東を守ってくれて」

彼の言葉に、皆それぞれに喜びを嚙みしめていると、ラケルがその者の名を叫ぶ。

『お、のれ・・・。神薙ユウーーーー!!!』

「・・・お久しぶりですね。ラケル・クラウディウス博士」

ユウが不敵に笑って立つ姿に、ラケルはその巨体を震わせながら怯えた表情を見せる。

 

 

 





ユウとラケル、遂に対面です!

この瞬間の為に、書いてきました!w




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65話 絆の刃

 

 

コッ コッ コッ

作戦指令室は、突然の荒神の出現に、騒然としてしまう。

このまま押し切られれば、『終末捕食』は・・。

そんな時、戸惑うばかりのその場所へ、懐かしい怒号が響き渡る。

ダァンッ!

「何を狼狽えている!?まだ戦闘中だぞ!?」

《っ!?》

部屋に響き渡るその声に、フェルドマンすらも背筋を伸ばして、立ち尽くす。

そんな中、ヒバリと榊博士だけは、笑顔に顔を綻ばせる。

「ツバキさん!?」

「間に合ったんだね?」

そんな二人に小さく頷いて見せてから、雨宮ツバキは即座に周りへと指示を出す。

「戦闘の出来ない者は、後ろに下がらせろ!負傷者には手を貸すように、連絡を回せ!」

「は、はい!」

「ヒバリ!中に向かった者に、カメラを持たせてある。信号を読み取って、スクリーンに展開しろ!それと、私の端末に情報を送れ!」

「はい!すぐに!!」

最近ではレンカが立っていたデスクの前に立ち、ツバキは自分のタブレット型端末に送られてきた情報に、素早く目を通す。

そんな彼女の側に、フェルドマンが駈け寄る。

「雨宮ツバキか?どうしてここへ?」

「・・・それは、『閉じ込めていたのに』という意味を含めて、仰っているのか?」

「なに!?」

その発言に疑問を口にしてすぐ、ツバキはフェルドマンを黙らせるように、鋭い視線で彼を射抜く。

「私と奴を遠ざけていたのが、本部だというのはわかっている。言いたいことは山ほどあるが、まずはこの問題を解決してからで、構いませんか?」

「・・・・わかった。君に、任せる」

それっきり黙ったフェルドマンに一礼してから、ツバキはヒバリの持ってきたインカムを手にしてから、指令室の全員に声を掛ける。

「希望を捨てるな!あいつが向かった今、作戦は必ず成される!全ゴッドイーターに回線を繋げ!極東に、英雄の帰還だ!!」

 

 

勝利を確信した瞬間にユウが現れたことで、ラケルは何とも言えない恐怖に囚われる。

そして、そんな彼の後ろから、六人のゴッドイーター達が姿を見せる。

「お~お~。こりゃまた、でっけぇなー、おい」

「エイジスのノヴァと同じぐらいかしら?」

「うぇ~。あんま思い出したくない出来事っすね」

「結局あの時は、シオに助けられたしな・・」

「でも今回は、そうもいかないですしね」

「ふん・・・。的がデカい分、こっちの方が有利だ」

白で統一した制服を身に纏う、最強のゴッドイーターの部隊。

「独立支援部隊クレイドル、隊長の神薙ユウ。以下六名・・・。戦闘に参加させてもらうよ」

ユウを中心に集まったクレイドルが、ラケルに余裕の笑みを見せながら立ち塞がる。

『こ、この・・タイミングで・・』

ラケルが後退りを始めると、ユウは全員に指示を出す。

「じゃあ、みんな!手筈通り、よろしく!」

《了解!!》

そう言ってクレイドルが散開し、ラケルへと交戦を始めると、ユウはすぐ側で座り込んでいるヒロに、目線を合わすよう屈んでから声を掛ける。

「ヒロ。話す時間が勿体ない状況なのは、わかるよね?ただ、聞かせて欲しい。他のみんなも、まだ・・・やれる?」

そんな彼の言葉に応えるように、ブラッド全員が応えるように、立ち上がって見せる。

《はい!やれます!》

「そう。良かった・・・。じゃあ、無理させるけど・・・、倒すよ」

そう口にしてすぐに、ユウは手早く指示を出す。

「ギルとシエルは右方へ、ナナと・・えっとリヴィは左方へ。気を引いてくれるだけでいいから、時間が欲しい。危ない時には、クレイドルに任せてくれていいよ。君達は疲弊してるしね。とにかく、死なない事!いいね!?」

《了解!!》

四人が走り去った後に、ヒロと二人になってから、ユウは優しく微笑みながらヒロの頭を撫でて喋りかける。

「ヒロ。1番無理させるけど、構わない?」

「・・はい!でも・・・、僕は左腕が・・」

「右腕1本で、たった1撃。それだけで良いよ」

「え?」

ユウの言葉に驚くヒロの後ろに回り、彼の背中を軽く叩いて笑って見せる。

「大丈夫。・・・みんなが、繋いでくれるから」

「みんなって・・・」

『極東全員という意味だ、神威ヒロ』

無線に知らない女性の声が入り、ヒロが困惑していると、ユウは自分のインカムからその女性へと声を掛ける。

「ツバキさん、準備の方は?」

『丁度今、済んだところだ。いつでもいけるぞ、ユウ』

「了解です。じゃあ、始めます。・・感応制御システム、起動」

そう言ってから、ユウは神機を前に構えてから、胸の辺りに手を当ててから深呼吸をし、口を開く。

「感応現象、『発』」

パリッ パリリッ ドゥォーーーンッ!!

 

作戦指令室でヒバリからインカムを借りたツバキは、無線を極東のゴッドイーター全員に声を張る。

「作戦指令室、雨宮ツバキだ。貴様等、準備はいいな?諦めることも、死ぬことも許さん!これは命令だ!いいな!?」

『《了解!!》』

そう言ってから、インカムを口元から降ろして、榊博士、フェルドマンと視線を移動させてから、ユノとサツキに目を止める。それから優しく微笑んで、自分の側へと目配せする。

「あ、の~・・・。やっぱり、怒られちゃいます?」

「そんなにビクビクするな、サツキ。こんな時に、お前に説教をしてどうする?」

「あ・・あはは~」

サツキが顔を引きつらせている隣で、ユノが何故と言ったように目を向けているのを感じて、ツバキは目の前のスクリーンを指差す。

「もうすぐ、ユウに持たせたカメラが起動する。映像が入ったら、自分の目で確認するがいい」

「自分の・・・目で、ですか?」

そう話している間に、スクリーンに映像が入り、最上層の様子が映し出される。

「・・・兄さん。良かった・・・、来てくれた。・・・・・え?」

「・・・なにこれ・・。ユウ・・・の、これって」

二人が驚いてると、遅れて入ってきたリッカが頭を掻きながら、溜息を洩らす。

「はぁ・・・。本当に、最悪!・・・でも、二人には最高でしょ?」

 

ユウの神機から電流のようにオーラが溢れ出すと、それはユウの身体に伝わり、そして背中に集まって形を成していく。

「・・・ユウさん・・。これって・・・」

「これが、僕の・・・切り札かな?」

目の前で見せられているヒロは、驚きに何度も瞬きを繰り返し、自分が見ているのが夢ではないことを確認する。

そして、ユウから発せられたオーラが、一度弾けたように光を放つと・・。

パッァン!

「ふぅ。・・・安定したみたいだね」

『ははっ。みたいだな』

「・・・へ?」

ユウの肩の上に、一人の女性が浮いていたのだ。

しかも、聞き違いでなければ・・・喋っている。

「え?はれ?・・・えっと・・、誰?」

切迫した戦闘の最中、ヒロが困惑していると、オーラで透き通った女性の方が、手を振って挨拶してくる。

『おっす、ヒロ!あたしは、神楽ミコ!ユウの心臓やってる、元嫁だ!よろしくな!』

「・・・えぇ!?」

軽いノリで挨拶をされて、ヒロは更に困惑してしまう。

そんな彼を笑い飛ばしてから、ミコはユウの視線の先を追って、ラケルへと目を向ける。

『またけったいなのを相手にしてんな、ユウ。倒せんのかよ?』

「僕一人じゃ、キツいだろうね。でも、今日はヒロがいるから、何とかなるよ」

『そうかい。じゃあ、あたしも気張ろうかね!』

「うん。お願いするよ」

そう言ってから、呆けているヒロの肩に手を置いて、ユウは話し掛ける。

「色々疑問が尽きないだろうけど、今は目の前に集中してね、ヒロ」

「あ・・・は、はい!」

「リッカ?いるよね?リンクデバイスを、全てのゴッドイーターから、ヒロに・・」

『了解!後で、話があるから・・・ちゃんと帰って来てね?』

「わかってるよ」

ユウが微笑みながら優しく声を返すと、リッカは溜息交じりに、「起動!」と照れくさそうに返してくる。

その間に、ヒロが気を取り直して神機を構えると、ユウは1度目を閉じてから、ゆっくりと開け、神機を地面に突き刺し、それに手を添える。

『じゃあ、いこうか!ユウ!』

「いくよ、ミコ」

『「感応現象、『響』」』

キイィィィィィィィンッ!!!!

二人が声を揃えて発すると、ユウの神機は目に見えて震えだし、そこからヒロの神機へとオーラが繋がる。

すると、

パキンッ パキパキンッ

「これって!?」

「僕の感応現象をミコの力で拡散して、リッカの作ったリンクデバイスに繋いで・・って説明は、今は良いか」

『あんたの話は、一々長いからね』

そんな彼等から目線を落としたヒロは、自分の神機を見て驚く。

神機の感応制御システムが作動し、ものすごい勢いでコアの周りの結晶が増えていく。それによって、ヒロの神機そのものが埋まっていくほどに・・・。

「ヒロ、感じる?そして、聞こえる?みんなの想いが、君に集まっていることを・・」

「え?・・・」

言われてから集中すると、神機からヒロへと、戦っている全てのゴッドイーターの気持ちが伝わって来る。

 

『はぁ!!この騎士道精神を、ヒロ君へ!!』

『先輩の為に、私だって!!』

『くっそー!これでいいのかよ!ユウ!ヒロ!』

『神薙にも神威にも、割のいい仕事付き合ってもらうぜ』

『ヒロ!負けるなよ!自分を信じろ!』

『ヒロ君、頑張ってね。応援してるわ』

『ヒロ!全部ぶつけて、ジュリウスを引っ張ってこい!』

『俺達の神秘の探求は、終わらないぜ?ヒロ。ぶちかましてこい!』

『ヒロさん!ギルさんを・・・、極東をお願いします!』

『お前に全部任せたからな!やれー!ヒロ!』

『私達がついているわ!やっちゃいなさい!ヒロ君!』

『お前ならやれるさ!ヒロ!運命を覆してこい!』

『ヒロさん!あなたの1撃に、全てを繋ぎます!』

『お前さんの強さは、俺達が1番知ってる。決めて来い、ヒロ!』

『お前なら・・・・大丈夫だ。見せてやれ・・、人の強さってやつをな』

 

沢山の思いに堪えきれなくなり、ヒロは涙を零しだす。

そこへ、ブラッドの皆の気持ちも入り込んでくる。

 

『お前のお陰で、俺の中のやりきれない気持ちにケリを付けれたんだ。今度は、俺がお前を助けるぜ!ヒロ!』

『あたしね、ヒロと同期って言うのが自慢なんだ!だから、もっと一緒にいよう!その為に、負けないでよ!ジュリウスも一緒に、帰ろう!』

『お前が教えてくれたロミオの気持ちが、今の私の支えになっている。そして、あいつが残したブラッドもな。ありがとう、ヒロ。負けるな!』

『あなたに出会えたことが、私の宝物です。あなたとずっと、歩んでいきたいんです。だから、生きて!そして勝って、ジュリウスを取り戻しましょう!ヒロ!!』

 

涙で前が見れなくなったヒロの涙を、ユウは後ろから拭い、笑顔で話し掛ける。

「これが、君が極東で手に入れたモノだよ。君の大切なモノ・・・絆だよ」

「僕の・・・大切な・・、絆」

「僕にとっても、大切なモノだよ。だから・・・、守ろうか。集中して!道は、僕が切り拓く!」

そう言ってから、ユウは飛び上がって、ラケルの両腕を斬り付ける。

ザァンッ!ザシュウッ!!

『ギィィヤァァーーーーー!!!!』

両腕を吹き飛ばされて、前のめりに倒れたラケルに、何本かの触手を切り捨て、その上に立っていたソーマが喋りかける。

「ロミオの葬儀の日に、言ったよな?『いずれうちの最強が、挨拶に行く』と。・・・気の利いた言い訳は、準備出来たのかよ?」

『ひ、ひぃ!!』

言われてから思い出すと、目の前に立つユウがとても恐ろしくなり、ラケルは両足で必死に後ろへと下がろうとする。

「今恐れるのは、僕じゃないでしょ?・・・覚悟しろ、ラケル・クラウディウス。あなたの野望を断ち切る、最強の刃だ」

『な・・・なに!!?』

背中を向けたユウの向こうに見えたヒロが、金色のオーラを背中と右腕から放ち、その刃は、黄金に眩い光を発する。

「ブラッドレイジ、発動!!!おおぉぉぉぉっ!!!!」

『馬鹿な・・・・、そんな!!?人間に!!?神の、私が!!』

彼女が嘆いていると、ヒロは右腕を振り上げた状態で、ラケルの頭へと目掛けて飛び込む。

そして・・・・。

「はあぁぁぁーーーーーーーーっ!!!!」

『そんな・・・・!!?』

 

ザァンッ!!!!!

『ぎゃぁあぁーーーーーーーーっ!!!!』

 

ヒロの渾身の一撃が頭を斬り裂き、ラケルはその勢いで、胸の中のジュリウスを零れ落とす。

それを受け止めようとヒロが飛び込むと、受け止めた瞬間オーラが弾ける。

パッアァンッ

「あ、れ・・・、やっちゃった・・」

そのままジュリウスと一緒に地面にぶつかると覚悟を決めていると、

ガシッ

その手前で、シエルとナナ、ギルとリヴィに受け止められる。

「無理すんなよ、隊長さんよ!」

「そうそう!助け合いでしょう?」

「まったく、世話がかかるな。お前は」

「ヒロ・・・本当に、良かった」

そんな四人に身を任せながら、ヒロはジュリウスの顔を見てから、意識を失ってしまう。

そんな彼等に微笑んでから、ユウはラケルへと振り返り、ミコと同時に口を開く。

『「僕達(あたし達)の、勝ちだ」』

ラケルは恨めしそうな目を向けてから、そのまま顔を地面へと埋めた。

 

 

映像を見ていた指令室の者達は、目の前の事が信じられないのか、黙ったまま硬直している。

そんな沈黙を破るように、ツバキがインカムを手に小さく息を吐いてから、無線の繋がった全ゴッドイーターへと伝える。

「荒神化したラケル・クラウディウスは、沈黙。ジュリウス・ヴィスコンティの救助にも成功した」

『《おおぉぉぉっ!!!》』

その声にやっと反応してか、指令室の者達も歓喜の声を洩らす。

そんな中、ユノとサツキは、ジュリウスが助かった事とは別の事でも、涙を流していた。

「ミコ姉さん・・・。嘘みたい・・。サツキ」

「何よ・・・、何なのよ!あの馬鹿ミコは!!・・・本当に、馬鹿」

二人の流す涙に微笑んでから、リッカはスクリーンに映る愛しい人に、小さく声を掛ける。

「・・・・お疲れ様。ユウ君・・」

誰もが歓喜する中、ツバキは一人真剣な面持ちで、再び無線へと話し掛ける。

「タツミ。現在荒神の状況はどうだ?」

『うっす!ちょっと前に、急に消えたんで・・・。多分ラケルが倒れたのと同時に、いなくなったんじゃないっすか?』

「そうか。ならば!全ゴッドイーターに告ぐ!今すぐ螺旋の樹から撤退しろ!怪我人には手を貸せ!時間はそうないぞ!いいな!?」

『《了解!!》』

彼女の声に、今度は静まり返ってしまう指令室。そこで、榊博士も神妙な顔で前に歩み出て、口を開く。

「まだ・・・、終わっていないよ。『終末捕食』を、どうするかだ」

彼の言葉に、皆動揺が走る。

問題は、まだ解決してはいなかったのだ。

 

 

 

 





こんな感じで、戦闘は決着です!!

この話を書くために気張ってきたので、3回ぐらい書き直しましたが、果たしてこれで良かったか疑問なところも・・・w

ユウのネタが若干ONLINEとかぶってるくさいことがわかった瞬間、やめようかなとも思いましたが・・・・、まぁ2次作品ですしw

ここから更に本気出して書きます!
あっ・・これ、駄目な奴の発言ですね・・。
でも、本気出します!



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66話 少女の願い

 

 

『ラケル!ラケル!!お父様!?ラケルは、死んじゃうの!?』

(・・・・お姉様・・?)

『私、ちゃんとする!あの娘に、優しくするから!だから・・・死なないで』

(・・・・・・あぁ・・。そうだ・・。私は・・・・・、これが・・欲しかった)

 

 

ヒロの隣に横たわっていたジュリウスが、ゆっくりと目を開くと、周りに集まっていたブラッド隊は、その顔を覗き込む。

「ジュリウス!?目が覚めた!?」

「よう・・。気分は、どうだ?」

「会うのは初めてか?ジュリウス。私はリヴィ。お前の後にブラッドに・・」

「リヴィさん、自己紹介は後程に・・。ジュリウス、またお会いできて、嬉しいです」

皆の言葉に微笑んでから、ジュリウスは身体を起こして、隣で眠るヒロへと視線を向ける。

「・・・そうか。ヒロが・・・、また・・やってくれたか」

そう言ってから、ジュリウスはヒロの頭を優しく撫でる。

そこへ、ユウが歩み寄ってから、ジュリウスの肩へと手を置く。

「やぁ、ジュリウス。初めましてになるね・・。独立支援部隊クレイドル隊長の、神薙ユウだよ」

「・・・存じています。こんな時ですが・・・、お会いできて光栄です」

そう言って握手を求めると、ユウは笑顔でそれに応えてから、ラケルへと顔を上げる。

ズリッ ズリッ

失った腕の代わりに、顎を使ってこちらへ・・・ジュリウスへと近付いてくるラケルに、ソーマが神機を振り下ろそうと構える。しかしそれを「待って欲しい」という感じに、ユウが首を横に振ってから、彼女の前へと移動する。

『・・う・・じゅ・・・、ジュリウ、ス・・・』

ユウの姿に動きを止めるが、彼女はジュリウスを呼び続ける。

そんな彼女の側に、ジュリウスはナナとギルの肩を借りて、歩み寄る。

「・・俺は、貴女の下には・・・戻らない。人と神の戦争に・・・、貴女は負けたんだ」

『・・まだ・・・・・、負けていない・・。特異点の・・貴方を、手に・・・・入れれば・・』

ほとんど力を失ってきているのか、足先から霧散し始めるラケル。その姿に、ジュリウスが目を反らすと、ユウが代わりに話し始める。

「ラケル・・博士。あなたは・・・本当は、何が欲しかったんですか?」

『・・・何を?・・・それ、は・・、ジュリウスを・・』

「違うでしょう?・・・・人であるあなたが欲しかったのは、特異点でも、『終末捕食』でもなかったはずでしょ?」

『・・・・・・・・・・・そ、れは・・・』

ユウの言葉に迷いの色を見せるラケルに、彼はそっと手を当ててから、口を動かす。

「・・・失礼します。感応現象、『想』」

『な・・・やめ・・・』

キイィィィィンッ!

ユウが感応現象を発動させると、ラケルの頭の中に、人であった記憶が濁流のように流れ込んでくる。

そして・・・・。

 

『お前は・・・・何を、望む?人間・・・』

「・・・・私は、お姉様と・・・仲良く・・。兄妹が・・・家族が、仲良くいられる、世界が・・・欲しい」

『・・・・・それは、『終末捕食』の先に、ある・・。私が、力を貸してやろう』

「・・・貴方は・・・・・、誰?」

『・・・神だよ・・、ラケル・クラウディウス。そして、これからは、お前になる』

 

「・・・なら、私の願いは・・・・・叶いますか?」

 

願ったことは、些細な事。

ただ、無垢な少女と・・・荒ぶる神の見解が、違っただけ・・。

 

在りし日の記憶に、自分の想いを気付かされた時、ラケルは涙を零し始め、その瞳はゆっくりと青い・・・人の頃の色へと変化する。

『・・・・・そうだ。私は・・、ただ・・・お姉様と仲良く・・・。お父様と、三人で・・・家族で、仲良く暮らせればと・・。そして、そんな幸せを・・、お父様の作ったマグノリア=コンパスの子達にも・・・』

そう泣き出すラケルに、ジュリウスやナナ、リヴィにシエル・・・。マグノリア=コンパス出身の者達は、切なげに顔を伏せる。

「・・・あなたが犯した罪は、赦されるものではないです。でも、あなたが本当に望んだ事により作り上げられた、彼等の事は、どうか・・・誇りに、思って欲しい。・・・かつて同じ過ちを犯した、ヨハネス・フォン・シックザールのように」

『・・・・・』

オラクル細胞が霧散し、もう顔だけとなったラケルは、そんなユウをジッと見つめてから、フッと笑みを零す。

『・・・・ふふっ。だから・・・、貴方は嫌いよ・・・神薙ユウ。そんな優しい嘘を、簡単に口に出来るのだから・・・』

「・・・ラケル・・先生」

彼女が消えてしまうと思った瞬間、ジュリウスは思わず声を掛ける。そんな彼を中心に集まったブラッド隊を目にしてから、ラケルは最期の言葉を置いていく。

 

『さようなら・・・子供達・・。幸せに・・仲良く、ね』

 

彼女の姿が消えてしまうと、白い蝶が舞う様に、螺旋の樹の上へと昇って行った。

 

 

ピシィッ バキバキィッ

ラケルが消えてしばらくしてから、螺旋の樹は崩壊を始めたのか、音を立てて亀裂を走らせ始める。

「・・・もう、もたねぇな。どうする?」

ソーマが声を掛けると、ユウは神機を肩に担いでから、ジュリウスへと視線を向ける。それから、リヴィの手の中のロミオの神機を見てから、ブラッド隊へと喋りかける。

「手は、あるよ。・・ロミオの神機を使って、螺旋の樹を不活性化しよう」

「ロミオの・・・ですか?」

そう言ってジュリウスがそれに目を向けると、リヴィが持ち上げて見せて、口を開く。

「ですが、『圧殺』を使って不活性化しても、一時しのぎにしかならないのでは?」

「え?『圧殺』って?」

リヴィの言葉に、ユウが首を傾げると、話の嚙み合わなさに、全員が同じように首を傾げる。

「えっと~・・・。だから、ロミオ先輩の血の力で・・」

「うん。ロミオの神機に残っていた血の力でしょ?『対話』だよね?」

「『対話』・・・?」

ソーマが推察した名前と違ったものを口にするユウに、リヴィが聞き返すと、ユウは説明しだす。

「前にロミオの神機に触れた時にわかった事だけど、ロミオの意志・・・血の力は『対話』って言った方が良いんじゃないかな?オラクル細胞に意志の疎通を行って、不活性化を促す・・・。優しい彼らしい力だな~って」

《・・・・・・》

皆が黙ってしまうと、ユウは頬を掻きながら苦笑する。

その発言が初耳だったのと、自分の考えが外れていた恥ずかしさに、ソーマはユウの側へと足を運び、横腹へと拳を軽く打ち込む。

「おい。知っていたなら、何で言わねぇんだ?」

「え?痛っ!だって、ソーマなら気付いてるかなって・・」

「てめぇは・・いつも、言葉が足りねぇんだよ」

「あれ?何で、怒ってんの?痛いってば」

珍しく顔を赤くしているソーマに、皆苦笑いを浮かべていると、いつの間にか目を覚ましていたヒロが、シエルの手を借りて起き上がって来る。

「じゃあ、ロミオ先輩の『対話』の力で、螺旋の樹の不活性化を試みる・・・ですよね?」

「うん。そういうこと」

そんなヒロに笑顔を向けてから、ユウは更に付け加えるよう話をしだす。

「それでも1回きりの博打だから、ブラッドみんなの力を持ち寄った方がいいよ。シエルの『直覚』で螺旋の樹の意志を特定して、ナナの『誘引』でこちらへと引っ張り込む。ギルの『鼓吹』で力の倍増を測り、ジュリウスの『統制』でみんなの意志を取りまとめる。後は、ヒロの『喚起』の力でもう一押し・・・。リヴィさんがロミオの『対話』を発動するのに合わせて、そこまでやれば、きっと君達の・・・僕達の願いは聞き届けられると思う」

《・・・・・はい!》

ブラッドの返事に、ユウは満足そうに笑って、ヒロの肩を軽く叩いてからソーマを連れて距離を取る。そこへ、クレイドルの皆が集まって、ヒロ達を見守る。

 

「ヒロ・・・大丈夫か?」

ジュリウスが声を掛けると、ヒロは苦笑しながら、ジュリウスの頬に軽く拳を当てる。

「・・・とりあえず、1発。後は全部終わってから、だからね・・ジュリウス。散々僕達に心配させて、散々僕に無理をさせたんだから・・」

「・・・・ふっ。わかった・・覚悟しておく」

そんな二人に肩を回してから、全員が円陣を組み、その中心にロミオの神機を突き立ててから、リヴィがそれに手を置く。

「では、やるぞ・・」

「あぁ。・・いつでもいいぜ」

「やるよー!」

「えぇ。ロミオも、一緒に・・・」

「守ろう。この世界を・・・」

「うん!ブラッド隊!いくよ!!!」

キイィィィィィィィィンッ!!!!

ブラッドの周りに、ヒロの影響からか、ブラッドレイジの時と同じ金色のオーラが舞いだす。

それを見守りながら、ソーマがユウへと話し掛ける。

「・・・どうにかなると、思うか?」

「なるよ・・・。きっとね」

その言葉にソーマがフッと笑みを浮かべると、ブラッド隊を中心に、オーラが天へと昇り始め・・・そして、

 

ドオォォォォーーーーーーーーーーンッ!!!!!!

 

巨大な光の柱となって、その場を全て包み込む。

 

 

極東支部の作戦指令室で、映像を見ていた者達は、眩しい光に顔を背ける。

その光がゆっくりと治まって行くと、ツバキが真っ先にスクリーンへと目を向ける。

そして、自分が目にした光景に、小さく息を吐いてから、無線を全回線へと繋いでから、声を発する。

「・・・・・成功だ。皆、良くやった」

《『よっしゃーーーー!!!!』》

その声に反応してか、徐々に皆はスクリーンへと顔を向けて、目にした景色に声を洩らし始める。

 

禍々しく変化した螺旋の樹は消え、そこには・・・美しい『自然の大地』が映し出されていたのだ。

 

 

『・・・あぁ・・。最後に、貴方達の奇跡を目に出来るなんて・・・。ありがとう、子供達。・・・・奇跡には、相応の奇跡を・・。私からも、貴方達へ・・奇跡を授けましょう』

 

 

ゆっくりと目を開けたヒロ。それに続くように、ブラッド隊の面々が目を開けて、周りを見渡す。

その美しい景色に、誰もが心を奪われて、声に出来ずにいた。

「・・・凄いね」

最初に口を開いたヒロに、ジュリウスが肩に手を置いてから、優しく微笑む。

「・・・やったな、ヒロ。本当に・・・大した奴だよ、お前は・・」

「・・・みんなの力・・でしょ?ジュリウス」

そう言って笑い合う二人に、皆が笑顔を零しだすと、少し離れた湖の近くから声が聞こえるのを耳にする。

「・・・あれー?・・えっと、俺・・なんで?」

《っ!!?》

その懐かしい声に、全員が即座に振り向く。

そして、その在りえない筈の光景に、皆涙を浮かべて、肩を震わせる。

「えっとー・・、俺・・生きてる?」

《ロミオーーー!!!》

首を傾げて苦笑いを浮かべるロミオに、全員が飛びついて、押し倒す。

「ロミオ!この野郎が!マジで生きてんのかよ!?」

「先輩だーー!!夢じゃないよね!?お母さんみたいに!」

「ロミオ!何て・・・奇跡が・・!」

「ロミオ!俺は・・、俺は・・お前に・・・!くっ!!」

「えぇ!?なになになに!?何だよ、これ!?」

「ロミオ先輩!!よ、よがったーー!!」

みんながそれぞれに泣きながら声を掛けてくるのに、困惑するロミオ。そこで、一人まだ信じられないといった表情の白髪の少女に、ロミオは驚いてその名を口にする。

「・・・え?リヴィ!?」

「っ!!?」

名を呼ばれてから、自分の中の何かが吹っ切れたのか、リヴィは思い切りロミオの胸に飛び込み、大粒の涙を流しながら想いを叫ぶ。

「馬鹿者!!この、大馬鹿!!大馬鹿者!!私を置いていくなと、何度も・・・。お前が・・・あぁ、お前がいないと・・私は・・!生きられないと言っただろう!!ロミオーーー!!」

「あ・・・・・っと・・、ごめん、な。リヴィ・・。でも、生き返った・・みたいだから、勘弁してくれよ?」

「駄目だ!絶対に許さん!許さないからな!!!ああぁぁーーーっ!!!」

泣きじゃくるリヴィの頭を優しく撫でるロミオ。そんな二人を囲むように、ブラッドはこの奇跡を喜んだ。

 

 

林の側に神機を置いて、クレイドルの皆は優しく微笑んで、後輩達を見守っている。

そして、ユウが視線をそのままに、ソーマへと話し掛ける。

「ソーマ・・・」

「あ?・・・なんだ?」

「どうにか、なったでしょ?」

「・・・ふん。・・・・・・そうだな」

ユウの笑顔にそっぽを向きながら、ソーマは目を閉じてから頷いた。

 

 

ブラッドの無事を確認してから、黙って全ての成り行きを見守っていたレアは、ホッと胸を撫で下ろす。

そんな彼女を見つめるように、ふわふわと白い蝶が背後を舞う。

 

『さようなら・・・、お姉様。これからは・・どうか、ご自分の幸せの為に・・』

「え?・・・」

 

声が聞こえた気がしてレアが振り返ると、そこには誰もおらず、ただキラキラと光る何かが宙を舞っている。

それを手でそっと救い上げてから、レアはハッとしてから目を閉じて、笑顔で涙を零した。

「・・・・さよなら、ラケル」

全ての事件が解決した喜びの声が上がる中、レアは静かに泣き続ける。

 

少女の願いは、今・・・報われた・・。

 

 

 





これで本当に、決着です!!

レイジバースト編、いよいよ終幕です!!




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67話 Re:ブラッド

 

 

極東支部長室。

そこで榊博士は、新たに起こった事件の報告書を基に、日記のようなものを個人的にまとめながら、小さく溜息を吐く。

 

人類の共有財産として『聖域』認定した螺旋の樹は、故ラケル・クラウディウスの二重の画策により、再び『終末捕食』を起こす、爆弾と化した。

その脅威を止めた、極東支部ゴッドイーター。

特にブラッド部隊が起こした奇跡のおかげで、『終末捕食』は地殻変動のような緩やかなものに変化し、人類は滅びの危険から救われた。

螺旋の樹のあった場所には、美しい自然の大地が広がり、ブラッド隊の面々は、力の代償からか腕輪を失って、普通の人へと戻っていた。

(「喜ぶべきか?」と、本人達は複雑そうであったが、これこそが『究極の破壊と再生』と言うべきかもしれない)

ちなみにフェンリル本部上層部は、責任の所在をどこに向けるかで、躍起になっている。

借りを作りたくないが為に、神薙ユウと雨宮ツバキに極秘と偽った任務を与えて遠ざけ、更には自分達が指名した研究者、九条ソウスケの暴走によって、螺旋の樹崩壊に一役買ってしまった事など・・。

ラケルの手の上で踊らされていたのを隠すために、おそらくは現場総指揮についた、アイザック・フェルドマン情報管理局長になすりつけるであろうが、本部に貢献してきた彼との対峙に、結果はどうなることか・・・。

 

結局、人はどこまでいっても人であって、常に荒ぶる神に、試されているのかもしれない・・。

 

書き終えてから、榊博士はそのウィンドウを保存してから消し、目を閉じて大きな溜息を吐く。

そこへ、ノックをしてから、ユウが顔を見せる。

「どうも、博士」

「やぁ、ユウ君」

短い挨拶を交わしてから、ユウは榊博士にいくつかのファイルを手渡す。

「こちらに協力的な意向を示してくれた支部での、今後の問題点や、改善点なんかをまとめたモノです。確認して下さい」

「そうか。もう2年・・いや、もうすぐ3年か・・・。長い間飛び回ってもらって、悪かったね」

「いえいえ。僕がそもそもに、言い出したことですから」

ユウの笑顔にホッとしてか、榊博士は先程の険しい表情はどこにといったような笑みを見せる。

「コーヒーでも・・、どうだい?」

「じゃあ、いただきます」

そう答えたユウの為に、榊博士はわざわざ立ち上がってから、コーヒーを2つカップに準備し、片方を彼に渡す。

それを口にしながら、ユウはデスクの上に置かれた報告書を目にして、少しだけ神妙な表情を見せる。

「・・・・君が戻って来てくれて、本当に助かったよ・・ユウ君」

「いえ・・。僕の力なんて、たかが知れてます。今回の事件を解決したのは、間違いなくヒロとブラッドのみんなですから」

「そんな彼等を、導いたのは君だよ。・・・また・・、助けられたね」

「はは・・。そんなに持ち上げられると、何か怖いですね」

ユウが苦笑する姿に、榊博士は初めて会った時の彼を重ねる。

懐かしさに微笑みながら、榊博士はユウへと喋り掛ける。

「・・・・覚えているかな?ユウ君。君が初めてゴッドイーターになった時に、言った言葉を?」

「・・・えぇ。今でも、変わらない僕の・・・決意ですから」

「『明日を切り開く』・・・。君のあの言葉に、私は救われた気がしたよ。きっと私だけじゃない。当時のソーマ君や、荒神化したリンドウ君。極東の古参のメンバーから始まって・・・、今やブラッド隊の子達も、君の決意に救われた。あの時、君に賭けた私は、間違っていなかったよ」

「・・・大袈裟ですよ」

そう言ってから、ユウは照れくさそうにカップを傾けながら、昔を懐かしむように話し出す。

「誰にしたって、自分の意志で行動した結果です。僕自身がそうであったように・・。でも・・・もし、僕の言葉や行動が救いとなっていたなら、逆に僕も関わった人達から救われているんです。僕一人がどうかではなく、みんなとの繋がり・・・絆が、世界の救いになっているんですよ」

ユウが笑顔で答えると、榊博士は小さく頷いて見せてから、手の中のカップに視線を落とす。

それからユウは、飲み終えたカップをテーブルに置いてから、軽く一礼をしてから扉へと向かう。

「それじゃあ、僕はこれで・・。大切な用事がありますから」

「うむ。それじゃあ、またゆっくり話でもしよう」

「えぇ・・」

ユウが出て行ってしばらくしてから、榊博士はもう1度デスクへと戻り、先程閉じたウィンドウを呼び起こしてから、もう1文付け加える。

 

それでも私は、信じている。人と人とが繋ぐ、絆という名の未来を・・・。

 

 

団欒室に集まっていたブラッドの面々は、腕輪の失くなった右腕を擦りながら、今後の事を話していた。

「どうだ?久方ぶりに、普通の生活に戻って?」

ジュリウスが全員を見回して聞くと、ナナが勢いよく手を上げてから発言する。

「はい!!ご飯が美味しいと思います!」

「元々美味そうに、食ってたじゃんかよ?」

彼女の言葉に、ロミオが苦笑しながら言うと、皆一様に笑いだす。

そして、ヒロが自分の右手を掲げながら、目を細めて口を開く。

「・・・うん。何て言うのかな・・。正直に言うと、”物足りない”・・かな?」

彼が言った言葉に納得したように、ギルが頷いてからキャップをかぶり直す。

「そうだな・・・。今更普通に暮らせって言われてもな・・」

「私もだ。『未来の選択肢が増えた』と、フェルドマン局長に言われたが、どうにも落ち着かない」

ギルに続いて、リヴィが思いを口にすると、シエルがフッと笑みを浮かべながら、喋りだす。

「私達は・・もう、戦う理由があるからだと・・思います」

皆がジュリウスへと視線を向けると、彼は静かに頷いてから、ヒロへと笑顔を向ける。

「・・・決まりだな、隊長」

「それ、やめてって言ってるでしょ?ジュリウス」

彼の言葉に苦笑して返してから、ヒロも覚悟の眼差しを皆に向けてから、頷いて見せる。

「だったらさ、この覚悟を・・・受け取ってもらいたい人がいるんだ」

 

 

神機保管庫の奥にある作業場で、リッカは調整が終わったばかりの神機を前に、大きく息を吐く。

「んー・・・・、よしっと」

「リッカ」

「ひゃい!?」

突然声を掛けられて驚いたのか、リッカは変な声を上げてから、振り向く。

そんな彼女に声を掛けて不味かったのかと、ユウは苦笑しながら頬を掻く。

「あれ?タイミング、悪かった?」

「ユウ君か・・。いや、だって・・・独り言・・。ううん。何でもない」

落ち着きを取り戻したのか、リッカは軽く咳払いをしてから、いつもの笑顔を見せる。

「えっと・・それで?どうしたの?ユウ君」

「うん。話があってさ・・。ちょっと出ない?」

そうユウが誘ってくると、リッカは困ったように眉を下げる。

「ごめんね。今急ぎで終わらせなきゃいけない仕事があって、抜けられないから・・。話なら、ここで聞くよ」

「そっか。じゃあ、ここで」

彼女の提案に素直に従って、ユウは作業を再開するリッカに話しかける。

「えっとね・・・。僕の仕事がさ、やっと一段落ついたんだ」

「へぇ~。それじゃあ、しばらくは極東?」

「しばらくというか・・・、出張以外はずっとここかな?」

「ふ~ん。良かったじゃない?これで気が休まるってもんでしょ」

「うん。それでね・・・、約束してたこと、ちゃんと叶えようかなって」

「約束ね~。・・・・・ん?・・約束?」

リッカが疑問に思って振り返ると、ユウが小さな小箱を目の前で開けて見せてから、笑顔を見せる。

「ずっと待たせて、ごめんね。リッカ・・、結婚しよう?」

「・・・・・・・・・」

しばらくその小箱の中に光る物を見つめながら、リッカは言葉を失ってしまう。

そして・・・。

「ええぇぇぇーーーーーっ!!!?」

「わっ!?びっくりした」

彼女が叫ぶと、ユウは驚きながら1歩後退ってしまう。

「え?ちょっ!?えっと・・えぇ?何?これ?え?・・・これって、結婚?えええぇぇ!?」

「えっと・・・・うん。指輪、受け取って欲しいかな?」

困惑して慌てるリッカに、ユウは照れながら頭を掻きつつ、指輪の入った小箱を更に前に出す。

震えながらそれを受け取ってから、リッカは何度もユウと指輪に視線を移動させてから、顔を真っ赤にして怒り出す。

「何でここーー!?ここ作業場だよ!?私、作業着だよ!?何で、このタイミング!!?」

「え?だって、ここで話聞くって・・。それに早い方がいいって、リンドウさんが」

「言ったよ!?言いましたよ!?でも、ここ!?早い方が良いけど、ここなの!?」

リッカが騒ぎ立てるから、ユウは首を傾げながら困った表情になる。

そんな顔を見せられたら弱いリッカは、呼吸を落ち着けながら胸に手を当ててから、小箱をユウへと突っ返す。

「・・・・もう・・。わかったから、やり直して」

「え?」

「ちゃんと!私の指に、はめて!」

「・・・あぁ、そうだね!でも・・・作業中だし、後にした方が」

「そんな事を気遣わないでよ!正しいけど!いいから!・・・お願い」

「えっと・・・じゃあ」

とにかく自分が悪かったのだと思い、ユウはリッカの突き出してきた左手を手に取り、薬指にスッと指輪を通す。

飾りっ気のない銀の指輪を、優しく撫でてから微笑むリッカに、ユウは改めて大切な言葉を口にする。

「・・・楠リッカさん。僕と、結婚して下さい」

「・・はい。喜んで・・・」

そう答えてから涙を浮かべるリッカを、ユウは優しく抱きしめる。

そんな二人の時間を破るように、扉がバタンッと開く。

「うっ・・うっ・・、ユウざん!リッカざん!!よがっだーーー!!」

「へ?」

「は?」

何故が涙を流しまくるヒロと、それにつられて涙ぐむブラッドの皆が、盛大に拍手をしながら入ってきたのだ。

そんな状況に、流石のユウも顔を真っ赤にして、同じく真っ赤になったリッカと抱き合ったまま固まってしまう。

「素敵です!とても素敵です!!」

「おめでとーー!ユウさん!リッカさん!」

「やっとっすか、ユウさん。・・・良かった」

「おめでとうございます、二人共。次は私とロミオだ」

「えぇ!?何でこのタイミングで!?と、とにかく、おめでとうございまーっす!」

「ユウさん、リッカさん。俺は今、とても感動的な場面に、心が震えています!」

皆が口々に祝福の言葉をかけてくるのに、やっと我に返ってか、ユウは軽く咳をしてから、喋り掛ける。

「えっと・・・・ありがとう。それで?みんな、どうしたの?」

「あ、そうでした」

一番冷静そうなジュリウスに視線を向けると、ジュリウスは一番泣きじゃくるヒロの背中をさすりながら、全員を整列させる。

「こんな大切なお二人の時間に恐縮ですが、是非ユウさんに聞いていただきたいことがあります」

「えっと・・僕に?」

ようやく落ち着いてきたリッカを離してから、ユウはブラッドへと向き直す。すると、ヒロが涙を拭ってから深呼吸をして、ユウを真っ直ぐ見つめて口を開く。

「えっと・・・、以前ユウさんに誓ったことを、もう1度誓いに来ました!」

「僕に・・・誓った事?・・・あぁ~・・・、そっか」

思い当たることがあったのか、ユウは自分も姿勢を正してから、改めてブラッド隊を見つめる。

「・・・聞こうか」

「はい!・・・僕達は、改めて戦う覚悟を決めました!ですから、その覚悟をユウさんに誓わせて下さい!」

「うん。・・・良いんだね?」

《はい!!》

ユウの聞き返した言葉に、力強く答えたブラッド。そんな彼等に、ユウとリッカは顔を見合わせてから、頷き返した。

 

 

ガァンッ ガァンッ・・・・・・・ ガァンッ

『これで・・君達は・・・・・・』

 

広大な庭園を見下ろせる高台に位置取り、七人のゴッドイーターは神機を構える。

「予定通りだな。数は大したことないが、油断せずに行こう」

「オッケー!まっ、俺等なら楽勝でしょ!?」

「軽口を叩くな。そういうのを、油断と言うんだ」

「まぁまぁ~。大丈夫!みんな、いるんだし!」

「そうだな。気張り過ぎも良くねぇしな」

「では隊長、ご命令を・・」

ジュリウス、ロミオ、リヴィ、ナナ、ギル、シエル・・。仲間の視線を一身に受け止めて、ヒロは大きな声で叫ぶ。

「極東支部所属、新生ブラッド隊!荒神を、倒せ!!」

《了解!!》

そして彼等は、荒神が闊歩する戦場へと飛び込んだ。

 

戦う覚悟と、仲間との絆を以って・・・。戦場を駆ける少年達の物語は、新たな幕を開く。

GOD EATER達の物語は、続いていく・・・。

 

 

 

 





レイジバースト編、完結です!!

正直ブラッド編より長く感じましたが、何とかこの章も完結まで辿り着けました!w
これも読んで下さる皆さんのおかげだと思います。
本当に本当に、ありがとうございます!!

ですが・・・、当然まだ終わりではないです!
ここからもう少し物語は続きます!
・・・終わらねぇ~w

まだ本編での事が残ってますし、回収してないネタがありますんで、全て喰い尽すまで終わりません!

更に!
本編をたどった後に・・・・・オリジナルも・・・考えてたり・・。
はぁ~・・・頑張らんと。
自分が読みたいだけで始めた物語。いつになったら、ゆっくり読めるのか?w
まぁ、納得いくまで書き続けますよ!

なのでなので、もう少しこの物語にお付き合いいただければと思います!

それでは引き続き、GODEATER2~絆を繋ぐ詩~をお楽しみ下さい!!



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番外編 彼女のリミット

 

 

開発局の一角。

リッカの作業場に来たユウは、彼女が新しく考案した感応制御装置の実験に協力していた。

「えっとー・・・・、うん。これでよしっと!お待たせ」

「うん。もう使ってみても良いのかな?」

「うん!よろしくね!」

リッカガ明るく答えると、ユウは目を閉じて深呼吸をしてから、装置を起動する。

「んっ・・・。」

しばらく神機を握る手に痺れを感じたが、それを我慢してやり過ごすと、痺れと入れ替わりに、大きな音が響き始める。

「・・・ね、ねぇ、リッカ。これ、大丈夫だよね?」

「えっと・・・・、設計も組み立てにも・・不備は無い筈なんだけど・・」

リッカもその事象に戸惑っているのか、頬を掻きながら苦笑いする。

パリィッ バリバリィッ!!

空を切り裂く稲妻のようなモノが発生しだすと、装置の音はより一層大きく鳴り出す。

そして・・・。

キイィィィィィィィンッ!!

「うっ!・・・・感応現象・・・きたみたい・・」

「ほら!大丈夫!って・・・・、ユウ君!?」

耳鳴りのような音に頭を痛めながらも、ユウはそれ以上に激しく動悸する胸を押さえて膝をつく。

そんな彼を心配して、リッカが駈け寄ると、急に光が部屋いっぱいに広がる。

「わっ!?」

「きゃっ!?」

二人が眩しくて目を遮ると、頭の上の方から、声が聞こえてくる。

『・・・ん?・・はっ?あれー!?・・・これ、マジかよ?』

「はい?」

「・・・女・・の声?」

ゆっくりと顔を上げた二人の目の前には、常識では計り知れない存在が浮いていた。

『はは・・・。お?よぉ!ユウ!何ていうか・・・、久しぶりだな!それと、リッカ!初めましてか?はははっ!』

「・・・・あんた、誰よ?」

「えっとー・・・・、ミコ・・だよね?」

「ミコって・・・・、はいー!?」

ユウの口にした名を耳にして、リッカは驚きにユウへと顔を近付けて叫ぶ。そんな彼女が可笑しかったのか、けたけた笑いながら、神楽ミコは戸惑う二人の前にVサインして見せる。

『おうよ!あんたの1番目の嫁の、ミコさんだぞ!旦那!』

 

 

「はぁ~・・・・」

話を聞きながら、感心の声を上げるヒロを見て、具現化したミコは楽しそうに笑っている。

そんな彼女に触れられないかと、同席しているユノは、ミコの肩や髪の毛に指でつついたりしていた。

「なんか・・・凄いですね。やっぱりユウさんは!」

「はは。そうかな?」

『お前はどんだけ、ユウを美化して見てんだよ?面白い奴だな!』

ヒロが目を輝かせながら見つめる姿に、ミコが茶々を入れると、ユウとユノは苦笑いを浮かべる。

ちなみにユウの部屋に集まっていて、ヒロとユノの他に、サツキとリッカも同席していた。サツキはやんちゃな子供を見守るような表情を見せ、リッカは面白くなさげに目を細めて頬杖をついている。

「あの・・・、質問なんですけど・・」

「ん?何、ヒロ?」

ヒロが手を上げてユウに質問する光景に、ユノとサツキは『朝凪』の頃のユウを連想し、懐かしみながら笑顔になる。

隣に、ミコの姿があるからでもあろう・・・。

「今日は凄くあっさりとミコさんが姿を出してくれたんですが、螺旋の樹の時点では、やっぱりまだ慣れてなかったとか・・・無理なさってたとか?」

「あぁ・・。実は~・・・、それね・・」

少し言いにくそうに言葉を濁すユウに代わって、ミコが胸を張って堂々と声を張る。

『ああいう風に出た方が、インパクトあるだろ?真打登場!!みたいな?・・なっ!!』

《・・・・・・・・》

「あ・・あはは」

悪びれもせず口にしたミコの言葉に、全員が固まってしまい、ユウは困ったように頭を掻く。

そんな少しの沈黙を破るように、サツキが眉間に皺をよせながら、ミコへと詰め寄る。

「あんたねぇ!あの状況で、よくもそんな事をユウにやらせたわね!?馬っ鹿じゃないの!?」

『はぁ~?なに言ってんだよ、おっぱい眼鏡。最初が肝心だろ?「神薙ユウに、神楽ミコ在り!」みたいなよ~』

「大勢の命がかかってたのよ!?世界の存亡も!?本当にそういうところ、変わらないわね!後、おっぱい言うな!!」

『うるせぇな~。ちゃんと勝ったんだから、問題ないだろ?なぁ、ヒロ!?』

耳を押さえる仕草を見せながら、ミコがヒロへと話を振ると、彼はより一層目を輝かして、ガバッと勢いよく立ち上がる。

「はい!!カッコいいです!!」

『ほら、見ろ!』

「純粋な少年の憧れを、利用すんじゃないわよ!」

「はは・・、そっかな?」

「兄さんも照れてるけど?」

「・・はぁ。・・・・何なのよ、もう」

ヒロとユウのやり取りにサツキが溜息交じりに頭を抱えていると、ユノが落ち着くように背中を擦る。

それを遠目に眺めるように見ていたリッカは、ふとミコの表情に目を止めて、訝し気に眉を上げる。

皆を見つめるミコの顔は、どこか切なく、儚げな影を落としているように見えたのだ。

 

 

夜。

忙しいユウとリッカの二人には珍しく、寝所を共に出来る時間を得られ、ユウの部屋で同じベッドに横になっていた。

隣で穏やかに寝息を立て始めたユウの頭を優しく撫でてから、リッカは一人起きだしてから上着を羽織り、静かに口を開く。

「・・・ミコ。起きてるんでしょ?出てきてよ」

そう喋りかけると、ユウの背中から一瞬の光を放ってから、ミコが姿を現す。

『なんだよ、リッカ。眠れないのかい?』

「ちょっと・・、あんたに話があってね」

唯一「あんた」と呼ぶミコに対して、リッカは小さく息を吐いてから、話し始める。

「・・昼間、なんか表情を曇らせてた瞬間・・あったでしょ?ユノちゃんやサツキさんと再会できたのに、なんか・・・思う事でもあったの?」

『・・・・そんな顔、してたのかい?参ったねぇ・・』

頬を掻く素振りを見せてから、ミコは夜の極東支部を窓から見つめながら、観念したように口を開く。

『リッカ・・・。あたしさ、いつまで”このまま”でいられるかな・・ってさ』

「いつまでって・・、ずっとじゃないの?あんた、ユウ君の心臓なんでしょ?」

そうリッカが口にすると、ミコが「それ」と言ったように、指を差してくる。

『あたしは、あくまでユウの心臓・・・体の、1部さ。こいつの偏食因子過剰投与も、循環器官のあたしが、元々ゴッドイーターの適正にあったから、受け皿の役目を担っていた・・・て、こいつはユウが言ってたことだけどな』

「・・それで?」

『話逸れたか?とにかくな、あたしはユウの身体の1部だからかな・・・。今日ユノとサツキに会って確信したんだけど、徐々に昔の事を・・・思い出せなくなってるなって・・』

「え?」

ミコの言葉に、リッカは腰かけていた椅子から思わず立ち上がりそうになる。それをミコが制してから、苦笑する。

『まぁ、当たり前だよな?あんたの作った感応制御装置で、イレギュラーに具現化した曖昧な存在だ。ユウっていう主人がいる身体に、二人もいらねぇだろ?・・普通』

そんな彼女が、再び切なげな表情を見せたので、リッカも眉を下げてから、言葉を返す。

「・・そう、だね。正直、あんたの事はわからないことだらけで・・。ただ、ユウ君の体内に流れる偏食因子・・オラクル細胞があんたの心臓に残った思念を具現化したものじゃないかって、榊博士も言ってたよ。『心臓移植を行った患者には、その心臓のドナーとなった人の人格が、一時的に備わる』っていう・・・例に、基づいたモノじゃないかともね」

『な?曖昧だろ?存在自体がさ・・。だからさ、ちょっとセンチメートルになった訳だよ』

「・・センチメンタル、でしょ?」

『サツキみたいに返してくんなよ』

そのまま少しの沈黙が、二人の間に訪れる。

神楽ミコは、もう存在しない・・。この事実を捻じ曲げる存在の自分に、彼女は溜息を洩らしながら、極東の明かりを見つめ続ける。

リッカも、これ以上どんな言葉を掛けたらいいかと迷っていると、ミコの方から、リッカへと声を掛ける。

『なぁ、リッカ・・。ちょっと頼みたいこと、あるんだけどな・・』

「なに?ユウ君はあげないけど?」

『先に結婚したのはあたしだろ?そうじゃないって。・・・聞いてくれるかい?』

「・・・・いいよ」

リッカが笑顔を見せると、ミコもニッと笑って見せてから、頼みごとを口にした。

 

 

翌日。

リッカ立っての頼みで、ツバキから休暇を貰ったユウは、彼女と二人で車を走らせていた。

急な申し出だったが、いつかはと思っていた場所へと、リッカが連れて行って欲しいと望んだからだ。

極東から2時間程走らせた先で車を止めると、ユウは小さく頷いてからリッカへと目的地に着いたと知らせる。

リッカも頷き返してから車を降り、後部座席に積んでいた花束を手に持ってから、ユウの隣へと位置取り、付いていく。

少し歩いた場所でユウが足を止めると、そこには小さな石が綺麗に積まれていた。

何もない荒野にひっそりと置かれた場所・・。

朝凪カンパニーの最後の場所・・。

そこへリッカは花束を添えてから、静かに祈りを捧げる。隣でユウも、同じように目を閉じて祈る。

少しの時間を経てから顔を上げて、リッカはユウへと視線を向けて、口を開く。

「着いたわよ・・。ミコ」

「え?」

ユウが驚いていると、ミコは姿を現してから、周りへと視線を巡らせる。

『・・・・うん。ここだったな・・。サンキュー、リッカ』

「私もいつかはって、思ってたからさ。ついでだよ・・」

「え?リッカ?・・・ミコも、ここに来たかって事?」

一人用途を得ないユウに微笑んでから、ミコは花束の置かれた小さな墓石に手を当てる。

そして・・・。

『・・・感応現象、『想』』

呟くように口にすると、その場所を包み込むように、一斉に光が溢れ出す。

その光がユウ達の目の前に集まりだすと、ミコはその光にゆっくりと手を伸ばす。

『ユウ・・。みんなの気持ち、受け取ってくれよ』

「みんな・・って。まさか!?」

『気をしっかり、もてよ?』

そう言い終わると、ミコは伸ばした手で、光に触れる。

すると、その場に残る想いの欠片たちが、ユウの頭へと流れ込んでくる。

 

『優・・・』

『優!・・』

『お前が生き残ってくれて、良かったよ!』

『先生!先生・・僕、守れたよ?先生との約束!』

『先生!あたし、ちゃんとカケルと仲良くするよ?だから、ね!』

『どうか・・・どうか。お前さんは、幸せにの?優・・。ずっと、嘘ついていて・・悪かったのぉ。わしの・・・大切な・・自慢の孫よ』

 

『えぇんよ?幸せになって・・・。わしらの分も、幸せにおなり』

 

光が飛び去ると、辺りはまた、何もない荒野へと変わる。

伸ばした手を下ろしてから、ミコはユウへと顔を向けてから優しく微笑むと、リッカと二人包み込むように、ユウを抱きしめる。

ユウは、肩を震わせながら、下を向いて涙を零していたのだ。

「ぼ・・僕は、ずっと・・・後ろめ・・たかった、んだ。怖かった・・。みんなを、守れずに・・・・いた、ことを・・。だから!」

『良いんだよ・・。あたしがあんたに命を託したのと同じだけ、みんなもあんたの事を、想ってたんだよ?』

「うっ・・くぅ・・・ううぅぅっ!!」

ユウはその場に崩れるように膝をつくと、久方ぶりに声を上げて泣いた。そんな彼を抱き締め、リッカも涙を零しながら、ミコへと微笑む。

「・・・ありがと・・、ミコ」

『良いってことさね♪』

ミコがウィンクして見せると、リッカはそのままユウへと顔を埋める。

それから二人が泣いているのを見守りながら、ミコは手に残った光を自分の胸に抱いてから、声を洩らす。

『婆様。ナズナ、カケル・・・みんな。もう少し、あたしをユウの・・・二人の側に留めておくれよ』

そう言って光を自分の中に取り込むと、ミコは優しい声で、ユノの歌を歌い始めた。

二人が泣き止むまで、ずっと・・・。

 

 

 





終了・・・とかいいながら、番外編です!w
まぁ、これは本編から外して書きたかったので!

ミコの設定はここまで含めてです。
ですから、ユウの過去編を書いた時から、この話を書くまでやめられないなっていう思いもあって2に手を付けたのもあります。
私のオリジナルのキャラ、神楽ミコ。
きっともうしばらくはユウの力になってくれるはずです!




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絆編
68話 開拓宣言


 

 

螺旋の樹での事件から、3週間が経過したある日・・。

限定された範囲とはいえ、緑の大地が広がる螺旋の樹跡地に調査に来ていたツバキは、荒廃した今の世界では、写真や映像でしか目に出来ないような自然を見渡してから、軽く息を吐く。

「・・・・・さて。どうしたものかな・・」

フェンリル本部が、事件の事後処理で追われている為、元『聖域認定』されたこの場所の調査、対応は、一旦とはいえ極東に任されたのだ。

湖の水を手ですくって、そしてゆっくりと戻す。

何度か同じことを繰り返した後に、ツバキは溜息を洩らしながら、手の水を軽く掃ってから歩き出す。

「やはり・・・、博士の言う通りに動くべきかな・・」

独り言を呟きながら自分に確認をし、連れてきていた二人の新人ゴッドイーターに合図をして、極東へと戻って行った。

 

 

「君達!農業をしてみる気は、ないかい?」

《・・・・・は?》

支部長室に集められた部隊長クラスの者達は、一斉に首を傾げながら、発言してきた榊博士へと声を洩らす。

「農業・・・ですか?」

「うむ、そうだよ」

ジュリウスが確認するように訊ねると、榊博士は大きく頷いてから満面の笑みを見せる。

「質問!」

「はい、タツミ君」

「博士はついに、おかしくなったんすか?天才と馬鹿は紙一重って言いますし・・」

「いやいや。私は至って、真面目に言ってるんだよ」

タツミの疑いの眼差しに、榊博士は言葉では焦りつつも、笑顔のまま手を振って見せる。

「実はね、螺旋の樹跡地の調査を行っていたんだけど、喜ばしくも不味いことが判明してね・・。あの元聖域認定された場所が、世界で唯一の”安全地帯”であることがわかったんだ」

「”安全地帯”・・?」

ヒロが疑問を口にすると、頷いて見せてから、榊博士は話を続ける。

「簡単に言うと、あの場所にいる限り、荒神が襲ってくることは無いという事だよ」

「・・は?え?・・なんでっすか?」

「あそこは、『終末捕食が完遂された場所』ともいえる場所だ。荒神が喰い荒らす理由も、終末捕食が起こる理由も、存在しない場所ともいえる。だからこそ、喜ばしい事であり、不味い事であるのだよ」

「えっと・・・・・、なんでだ?」

「まだわからないんですか?ドン引きです」

自分で聞き返していながら、わからないといった表情をするコウタに、アリサは溜息交じりに額に手を当てる。

そんな二人のやり取りに、周りから笑いが起きる中、リンドウが手を上げてから1歩前に出て、発言する。

「つまり~・・、俺等であの場所を、開拓しちまおうってことですか?」

「そういう事だね」

榊博士が笑顔で応えると、ヒロはわからないといった顔で口を開く。

「あの・・・急ぎの用って、聞いてたんですけど・・。何で急ぐ必要があるんですか?」

「・・・本部が手を付けられないうちに、所有権を主張できるようにするってことだ。螺旋の樹の時のように後手に回ると、首を突っ込みたがるバカ共が寄って来るからな」

「こらこら~。口が悪いぞ~?ソーマ博士」

榊博士に代わって答えたソーマの言葉に、リンドウが苦笑しながらたしなめに掛かると、彼は相変わらずに「ふん」と鼻を鳴らしてから、再び黙ってしまう。

そんな彼から視線を皆へと戻してから、榊博士は改めて提案を口にする。

「そこで、過去の偉人に倣って、我々の手で、農業をしてみないかい?」

ズイッと前のめりに聞いてくる榊博士を見てから、皆は顔を見合わせてからそれぞれに意見を洩らす。

「とは言ってもっすね~、俺等戦いしか知らないバカっすよ?・・コウタを筆頭に」

「タツミさんには言われたくないんっすけど!?」

「そもそもに、やり方がわからないわね~」

「それに、私達にも仕事はありますし」

「機械いじりの方が、向いてるかもな?俺達の場合は」

「面倒だしな~」

好き勝手に言ってくれる中、一人黙って俯いているジュリウス。そんな彼が気になって、ヒロが肩へと手を伸ばすと、その手が行きつく前に、ジュリウスは口を開く。

「私に・・・、やらせてもらえませんか?」

「え?ジュリウス・・、えぇ!?」

ヒロが隣で驚いているのを笑顔で躱してから、ジュリウスは更に続ける。

「私は・・・ある時からずっと、荒神を倒す以外の・・自分に出来ることは無いかと、考えてきました。農業は人が生きるための糧を得る方法の1つで、これに触れることが出来れば、私の中の新たな可能性が芽生えると思うんです。そもそもに、農業とは食物連鎖の・・」

「長いよ!つまり、ジュリウスがやりたいって事か?」

コウタにツッコまれて、ジュリウスは恥ずかしそうに咳払いをしながら、小さく頷く。それから、ヒロの方へと顔を向けてから、話し掛ける。

「どうだろうか?隊長」

「こんな時に、隊長なんて呼ばないでよね。・・・・はぁ。わかったよ」

「ありがとう、ヒロ」

諦めたように溜息を吐いたヒロに、ジュリウスが笑って見せると、榊博士が軽く手を鳴らしてから、話し合いを締めくくる。

「決まりだね。では、ジュリウス君を中心に、ブラッド隊には苦労をかけるけど、よろしく頼むよ。なに・・、ちゃんと講師はつけるよ」

 

 

突如聖域に集められたブラッド隊。

手に持たされた鍬やスコップを目にしてから、ロミオはぶつぶつと文句を口にする。

「何なんだよ、いったい・・。何でゴッドイーターが、農業なんだよ?ジュリウス~?」

「付き合わせる形になって、悪いな」

丁寧に頭を下げられると、ロミオは慌ててそれを止めさせる。そんな二人の様子に、皆は笑いながら口を開く。

「まぁ、良いんじゃねぇか?興味がない訳じゃないしな」

「そうだぞ、ロミオ!卵を!卵を自分の手で・・・。卵だぞ!?」

「おぉ。リヴィちゃんが、テンション高い」

「つまり・・い、生き物を飼育するのも、農業ですよね!?」

「シエルも、乗り気だね。はは・・・、良かった」

最終的に決定を下したヒロは、皆の反応を聞いてから、ホッと胸を撫で下ろす。

それから辺りを見回してみてから、ジュリウスへと喋りかける。

「ところでさ・・・、何すればいいの?」

「・・・・・」

《え?》

ジュリウスが黙ってしまった瞬間、皆一気に沈黙してしまう。

当たり前ではあるが、何か始めたらいいのか、誰も知らなかったのだ。

「え?・・・マジで?誰もわかんねぇの!?」

「い、いや、待て!待ってくれ!すぐに調べて・・!」

珍しく焦るジュリウスに、皆が苦笑していると・・、

「まずは、下準備を進めなきゃね」

声を掛けてくる者があった。

「あれ?ユウさんだ~!?」

ナナが声を上げると、ユウが笑顔を見せながら、ジュリウスの隣へとやって来る。

「あの・・ユウさん、下準備とは?」

「何をするにも、準備が必要ってことだよ。作物や野菜を育てるにも、畑を作らなきゃいけないし、水の供給の為に水路や井戸なんかもあった方が良いよ。生き物を育てるにも、餌となる牧草なんかも育てた方が良いし、簡単な囲いや飼育小屋も必要だろうね」

「・・お詳しいんですね」

「昔は、生業としてたからかな」

感心しながら皆が手を叩いている中、ヒロは榊博士が言った講師と言うのが、ユウの事だと気付く。

「何をするかを考えだすとキリがないと思うから、とりあえず畑の範囲を決めて、耕していこうか?」

《はい!》

皆が鍬を持って作業に移動しだすと、ユウはジュリウスと話し合いながら、今後どうするかと意見を出し合った。

 

 

「それで?何なの、この状況?」

次の日。

大きめの木槌を持たされたコウタは、無表情で隣に立つレンカへと顔を向ける。

「聞いていなかったのか?リンドウ達が切り出した木から作った杭を、一定間隔で打って行けと・・」

「聞いた。・・な?それ、聞いた。流石に俺も、馬鹿じゃないから・・そこまで」

そう言って1度深呼吸をしてから、コウタは自分の目の前の光景を見つめる。

「なんで・・・、ゴッドイーターが揃いも揃って・・。農業してんだよぉーーー!!!?・・・ってこと」

昨日1日で、圧倒的な人の足りなさにロミオが口を滑らしたばっかりに、ユウが鶴の一声とツバキと共に極東の全ゴッドイーターに声を掛けたが為に、急遽全員参加となった訳である。

 

「そっち!これ、運んでくれるか!?」

「石は全部取り除けってよ!?」

「この井戸、まだ掘るのか?」

「そこ、肥溜めになるのよ?」

「金網が届いたよ!骨組み、まだできないの!?」

「うっせー!レベルが出てねぇんだよ!」

「こっちのウネに、水持ってきて!」

 

すっかり農作業場と化した聖域を見つめながら、呆然と立ち尽くしているコウタ。

彼が溜息を洩らすと同時に、彼の目の前に杭が飛んできて刺さる。

ザクッ!

「危なっ!?」

「いつまでボーっとしている!!?さっさと作業を進めんか!?」

「は、はい!!」

ツバキが怒号を浴びせると、コウタはすかさずその杭に木槌を打ち込んでいく。

 

「ところで、レンカ。これ、何本打てばいいんだ?」

「ん?・・あぁ。200本も打てば・・」

「200っ!!?」

 

地下の培養研究所から運ばれた苗を確認しながら、ユウは丁寧に葉の裏などをチェックする。

そんな彼の隣で、同じように作業を進めるリッカは、溜息を吐いてから、チェック表をユウのタブレット型端末へと転送する。

「はい、終わったよ。・・まったく、もう・・・。どうして何でも受けちゃうかな~」

「ん?駄目だった?」

「それを不満として声に出したら、私が悪い人みたいになっちゃうでしょ?・・もう」

反論できない状況に頬を膨らませるリッカに、ユウは苦笑いしながら頭を掻く。

「まぁまぁ。ジュリウス達、困ってたしさ。それに・・・、引退したらこういう暮らしに戻るのも、いいなって」

何かを懐かしむように話すユウに、リッカは諦めたように微笑みながら、頭をそっと肩に預ける。

「そう・・だね。じゃあ、式を挙げたら・・・ここに隠居しようか?」

「リッカ・・・」

二人が見つめ合っていると、何処で聞きつけたのか、大量のゴッドイーター達が走り寄ってから、必死に彼等に土下座し始める。

《勘弁して下さい!!お二人が抜けるには、結婚式後は早すぎます!!お願いします!!》

そんな彼等を目にしてから、ユウとリッカは肩を竦めて笑い合った。

 

カンッ カンッ ミキメキッ ドシャァア!!

軽快な音の後に木が倒れると、リンドウはタオルで顔を拭くと、休んでいたハルに声を掛ける。

「お~い、ハル!運搬班を呼んでくれ~!」

「了解で~す!お~い、お前等!青春の時間だぞ~?」

《うーっす!!》

《はーい!》

ハルに声を掛けられると、数人のゴッドイーターがやってきて、手に持っている縄を木の幹に巻き付けてから固定して、準備をする。

その中に、一人「ひぃひぃ」と息を荒げる探求者の姿も・・。

「あの~、榊博士?大丈夫ですか?」

「無理しすぎると、身体壊すっすよ?」

カノンとギルに心配される、極東支部で一番偉い人、ペイラー・榊は青い顔を持ち上げながら、笑顔を作る。

「そ、そうかい?・・・じゃ、じゃあ、そろそろ・・」

そう言って逃げようとしたところで、両側からリンドウとハルに捕まってしまう。

「おいおい、カノン。女の子が頑張ってるのに、支部長様が逃げる訳ないだろ~?」

「そうだぜ、ギル。なにしろ働く俺達を観察する程、お暇なんだからな~」

「・・・・・・か、勘弁してもらえないかい?」

「「勘弁って、なんすか~?」」

ちょっと様子を見に来たつもりが、リンドウとハルに目を付けられたのが不幸の始まり。

普段使わない筋肉を無理させたお陰で、榊博士は体中の穴と言う穴から、水分が噴き出していた。

そんな彼を苦笑いで見守りながら、カノンとギル・・・他の運搬にあたっているゴッドイーター達は、何本目かの木を加工班の許へと運んだ。

 

水路を掘る手を休めて汗を拭ってから、ジュリウスは周りを見渡してから微笑む。

そんな彼に、疲れて座り込んでいたヒロは、鼻の頭を袖で拭きながら、笑顔で声を掛ける。

「どしたの?ジュリウス」

「・・いや。少し、感動してな・・」

そう感慨深く声を洩らしてから、ジュリウスはヒロへと手を伸ばす。

「ヒロ・・。ここ最近、何度も同じ言葉で悪いが・・、ありがとう」

「・・・良いよ、親友」

そう言ってヒロはジュリウスの手に掴まって立ち上がると、二人笑い合いながら、再び作業を始めたのだった。

 

 

 





絆編、スタートです!

いよいよ最終章です!
サブタイ通り、《絆》というワードに基づいて書いていければと思います。

ゆっくり書くと思いますので、まったり待っていただければと思います!!




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69話 二人の距離

 

 

神機保管庫で出撃準備をするブラッド部隊。

そこに、最も珍しい人物が遅れてやって来る。

「すまない!せっかく植えたトマトの葉から、謎の物体が生まれて・・。対処していたら、遅くなった!」

「今日はジュリウスが当番だったね、野菜の。良いよ。揃ったし、行こうか?」

《了解!!》

ヒロが笑顔で声を張ると、皆は返事をしてから車庫へと向かう。

その途中、ロミオがヒロの傍まで駈け寄り、小さく耳打ちをする。

「なぁ、ヒロ。最近ジュリウス、疲れてないか?」

「え?・・・そう、ですね。農業の件に関しても、率先して行動してますし・・。少しきつそうですよね」

ロミオに言われて、何となしにジュリウスの顔を伺ったヒロは、少し心配そうに表情を曇らせる。

そんな二人の会話が耳に入ったのか、リヴィがロミオの隣へと並び、会話に参加してくる。

「あいつが選んだことだ。疲れた時には、私達がフォローすればいい。それよりも、あいつは彼女に会っているのか?」

「彼女?誰だよ、それ?」

ロミオが首を傾げると、リヴィとヒロは顔を見合わせてから、誰も彼に伝えてなかったのかと溜息を洩らす。

「葦原ユノのことだ」

「あー・・・・、実はですね。ロミオ先輩が知らぬ間にと言いますか・・、はは」

「・・・・・・・・・・・・・・っ!!!?」

声を出さずに固まってしまったロミオを、すれ違いざまに見たジュリウスは、心配そうに声を掛けてくる。

「どうした、ロミオ?疲れているのか?」

「あ、あはは・・・。それをジュリウスが、言っちゃうんだ」

ヒロが苦笑すると、ジュリウスはしきりに首を傾げだしたが、リヴィがロミオの前に立って「ふん」と鼻を鳴らし、手で追い払う様に振って見せる。

「先に行け。少しムカついたので、文句を言うついでに、私が連れていく」

「んー・・・うん。じゃあ、任せたよ。車は、4号機だから」

「い、いいのか、ヒロ・・?」

ジュリウスがしきりに訊ねてくるのを流しながら、ヒロは彼の背中を押して先へと歩き出す。

残されたリヴィは、立ったまま気絶しているロミオの前で指を鳴らしながら、肩眉をひくつかせながら、口の端を浮かす。

「そうか・・・。ユノのファンだという事は認識していたが、ショックで気絶するほど好きだとはな。・・・ふふふふ」

一頻り笑ってから、リヴィは拳を振り上げて、ロミオの鼻っ柱へと叩き込んだ。

 

「・・・どうしたの?ロミオ先輩」

「いや・・・、なんか・・記憶が曖昧で・・。俺、事故った?」

「今車に乗り込んだ奴が、どうやって事故るんだよ?」

「階段などで転びましたか?それにしては、顔が・・・。リヴィさん?」

「知らん。私が駆け付けた時には、こうなっていた。通り魔かもしれん」

「・・・嫉妬の悪魔でしょ?」

「ロミオ・・。一体、何があったというんだ?」

 

 

極東地域に作られた、第2サテライト拠点。

新しい入居者の受け入れ作業を行う為に、ユノとサツキは訪れていた。

黒蛛病の脅威が去ったとしても、外は荒神が闊歩する世界。住居の確保や食料配給が充分となった今、出来うる限り周りの住民を、混乱なく受け入れなければならない。

その為に、極東からもアリサとカノン・・・それと、ユウが二人の護衛も兼ねて同行していた。

「当面の予定よりは、まだ余裕なようです。手続きを済ませた方から、簡単な食事と、毛布などの支給も間に合っているようですね」

「そう。流石アリサだね。極東のサテライトの件、君に頼んで正解だったよ」

「褒めても何も出ませんよ?隊長」

アリサがお道化て返してくると、ユウは苦笑しながら頬を掻く。

そこへ、作業が一段落したのか、ユノとサツキが合流しに来る。

「お疲れ様、ユノ。サツキ姉さんも」

「あはは・・、ちょっと疲れたかも」

「はぁ~・・!つっかれたわ!!」

肩をぐるぐる回しながら、衛兵と一緒に配給品を渡していた疲れをほぐすサツキ。ユノの御付きという立場なのに、何故かサツキにも握手を求めてくる人間もいるので、慣れないアイドル対応に疲れたのだ。

「聞いてよ!私の手を必死に撫でるおっちゃんがいたの!こんなご時世じゃなきゃ、ぶん殴ってるところだわ!」

「ちょっと、サツキ!?駄目よ、そんなの」

「サツキさんも、モテますね」

「まぁ、姉さんは綺麗だしね」

そんな談笑をしていると、ユウの肩にスッと光が集まり、ミコが姿を現す。

『どうせ使いどころねぇだろ?需要があるうちに、使ってもらえよ』

「あんた・・・、久々に出てきたと思ったら、随分なご挨拶じゃない?」

ミコを睨みつけるサツキに、ユウとユノが落ち着くよう宥めていると、カノンが周辺の偵察から戻って来る。

「ユウさーん。この辺りに荒神の反応、ありませんね」

「ありがとう、カノン。それじゃあ、休憩にしようか?」

ユウが笑顔で声を掛けると、皆は簡易テントへと移動を始める。

その移動途中に、ユウは何となしにユノへと話し掛ける。

「ところで、ユノ。ジュリウスとは会ってるの?」

「え!?に、兄さん!」

「この前、全然会えないってソーマと僕の所に・・」

「待って待って!!それ、待って!!」

ユノが静止したのも遅く、首を傾げるユウ以外の者達は、ニヤリと笑って目を光らせる。

「へぇ~。ユノは隠れて、そんな相談を♪」

「随分と楽しそうなお話ですね♪」

『ユノの新しい恋の話ってやつか~♪』

「是非!今後の参考に!!」

楽しそうに前を行く四人を見てから、やっと察したユウは苦笑いを浮かべながら、ユノへと顔を向ける。ユノの方は、顔を真っ赤にして頬を膨らませて、恨めしそうに睨んでくる。

「もう!兄さんのバカ!」

「はは・・・、面目ない」

ユウが申し訳なさそうに頭を撫でると、ユノはそっぽを向いてみせながらも、暖かなユウの手に嬉しさを感じていた。

 

 

ザシュッ!

ギャウゥッ

「回り込んで!シエル!」

「了解!」

ヒロに斬り付けられて、後退るプリティ・ヴィマータの後ろから、シエルが銃型で構えて撃ち抜く。

ドゥオンッ!

ギャァッ

足を弾かれてバランスを崩して倒れたところへ、ジュリウスが瓦礫の上から飛び込んで、背中かから捕食形態を喰い込ませ、コアを捥ぎ取る。

ガリュウッ!

コアを回収されると、プリティ・ヴィマータはその場に倒れ伏せ、身体を霧散化させだす。

そこまで確認してから、シエルが警戒を解くと、ヒロとジュリウスも構えた神機を下ろす。

「周囲に反応は無いようです。お疲れ様です、二人共」

「うん。お疲れ、シエル」

「どうやら、任務完了のようだな」

三人が笑い合うと、ヒロの無線にギルから連絡が入る。

『ヒロ。こっちも片付いた。今から、合流地点に向かう』

「うん、気を付けてね。こっちも向かうよ」

『はっ!子供じゃねぇぞ?まぁ、お互いにな』

無線が切れると、そのまま本部へと連絡を始めるヒロ。そんな彼に視線を向けるジュリウスに、シエルは軽く服の埃をはたいてから、話し掛ける。

「ジュリウス。最近、休みを取られてませんね。そろそろ休ませろと、ツバキさんからお話をいただいたのですが・・」

「・・そう、だったな。すまない・・。少し農業が、楽しくなってきていてな。もう一段落着いたら、申請を・・」

「そう仰るだろうと思い、ツバキさんからお言葉を預かっています。『休め。これは、命令だ』だそうです」

「・・・・そ、そうか・・」

自分の行動を見透かされていたのに恥ずかしくなり、ジュリウスは照れ笑いを浮かべる。そんな彼に微笑み、シエルはヒロの方へと歩み寄りながら、喋りかける。

「明日明後日は、貴方はお休みです。・・良い機会ですから、しばらく会えてない方に会ってはいかがですか?ちょうど彼女も、明日お帰りになるそうですよ?」

「・・・そうだったな。では、そうしよう」

観念したように笑みを零しながら、ジュリウスもシエルに続いて歩き始める。

しばらく会っていなかった、彼女を想いながら・・・。

 

 

次の日の午後。

ジュリウスは極東支部全域を見渡せるよう、ヘリポートへと一人来ていた。

忙しさを理由にしていたつもりはないが、彼女と会うのが久方ぶりで、何を話そうかと考えているうちに、自然とここにやって来ていたのだ。

自分が守り、暮らす小さな世界を眺めていると、そこへソーマがやってきてから、隣へと並び立つ。

「休みか、ジュリウス?」

「はい・・。雨宮指揮官に、怒られてしまい・・」

「ふん・・。あの女らしいな」

鬼の教官、戦場の鬼女と呼ばれる彼女を”あの女”呼ばわりするソーマに、ジュリウスは思わず笑ってしまう。

それからしばらく黙っていると、珍しくソーマの方から話を振って来る。

「・・・お前、妹とはどうなんだ?」

「え?そ、それは・・・・。何と言いますか」

「会ってやってるのか?」

「・・いえ。今日、久方ぶりに・・」

特に悪いことをした訳でもないが、ここ最近この話題を色んな所で言われたものだから、ジュリウスは少しだけ罪悪感を感じていた。

そんな彼の表情を見てから、ソーマは溜息を交えながら話しかける。

「そんなに気負わなくていい。俺にとっては、どうだっていい話だ。・・・ただ、妹が会いたいと騒ぎ立てに来るから、とっとと会ってやれってだけだ」

「そう・・なんですか?」

「あぁ。仕事の邪魔だ。ちゃんと、相手してやれ」

そうソーマが言ったところで、遠くからヘリの駆動音が聞こえだし、数分もしないうちに彼等の頭の上へとやって来る。

ゆっくりと着地を済ませると、中から飛び出すように駆けてきたユノが、ジュリウスの胸へと飛び込む。

「・・もう!いつまで待たせるの!?」

「あぁ、すまなかった」

「はい、許します!・・久し振り、ジュリウス」

「久し振りだな・・・、ユノ」

後から降り立ったユウ達は、そんな二人の様子を見ながら笑顔を浮かべる。そこへソーマが歩み寄り、ユウへと話し掛ける。

「・・お前、今どんな心境だ?」

「う~ん・・。ちょっとだけ、複雑だけど・・・嬉しいかな」

そんな二人の会話を耳にすることなく、久方ぶりに会えたジュリウスとユノは、黙って抱き合っていた。

 

 

サテライトから戻って早々、ユウはソーマに研究室に呼ばれていた。

彼の入れたコーヒーを口にしながら、ユウは軽く息を吐いてから話し掛ける。

「それで?わざわざヘリポートまで迎えに来てたけど、僕に用があったの?」

「あぁ。・・・少し、気になった事があってな」

そう前置きしてから、ソーマはデスクの椅子に腰を落ち着けてから、ユウへと視線を向ける。

「お前とツバキが、螺旋の樹の事件を知ったのは、フェデリコに聞いてからってことだが・・・。それまで、何処にいた?俺もリンドウも連絡がつかなかったが・・面倒なことにでもなっていたのか?」

「あれ?ツバキさんから報告書、回って来てない?」

その言葉に、ソーマは「ちっ」と舌打ちをする。

「・・本部か。もしかしたら、握りつぶしたのか?」

「まぁ、やりそうだけどね」

「俺が気掛かりなことと、重なるかもしれねぇ。ユウ、話せ」

「良いけど、少し長くなるよ」

そう言ってから、ユウは近くに折りたたまれた椅子を引っ張り出して、腰を下ろす。

すでに話す気でいる彼に、ソーマはフッと笑みを浮かべてから、目を閉じて片手を上げて見せる。

「構わねぇ。時間はあるしな・・」

 

 

夜の星空を見上げながら、ユノはジュリウスへと寄りかかって目を閉じている。

特に会話は無いにしろ、二人はそれだけで十分といったように、満足気に笑みを浮かべている。

そこに、スッと流れ星が流れる。

気付いた時には無くなってしまっていたが、ジュリウスはユノの肩を軽く揺すってから、空を指差す。

「今、流れ星を目にした。気を付けていれば、また見れるかもしれない」

「本当に?じゃあ、見つけたらお願い事しなくちゃ」

「それは、不可能な迷信では?流れ落ちるまでに、3回願い事を言うなど・・」

「ロマンを追い求めなさい、ジュリウス。貴方に足りないモノです」

ワザとらしい口調で言うと、ユノはペロッと舌を出して見せ、それを見たジュリウスは困ったように照れ笑いを浮かべる。

「ロマン・・か。そうだな・・。そういう心のゆとりは、大事なのかもしれないな」

「そうよ?そういう気持ち、ちゃんと大事にしてね」

「あぁ・・」

それから二人は再び星空を見上げる。

そこで、ユノは一際輝く青い月に手をかざしてから、優しく声を洩らす。

「・・・・おかえり・・、ジュリウス」

「・・・あぁ、ただいま。・・ユノ」

螺旋の樹の事件から約2ヶ月。

二人はようやく、大切な言葉を口にすることが出来たのだった。

 

 

 





ジュリウスとユノ。
私にとっては、自然な関係です。

こんな距離感がすごく好きですね!



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