問題児たちと不死身の少年が異世界から来るそうですよ? (桐原聖)
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問題児と不死身の少年が箱庭に来るそうですよ?
プロローグ


 どうも桐原聖です。
 前作品の更新、一か月以上も待たせてしまい申し訳ございませんでした。年内には更新します。
 今回は『問題児シリーズ』です。文章力のない部分があるかもしれませんが、温かい目で見守ってください。


小林芳雄は、ビルの屋上に立っていた。

 屋上から飛び降り、地面に落下する。

だが地面に落下する寸前、小林の身体を謎の靄が包み込み、落下の衝撃を緩和した。

 

「クソッ」

 

 悪態をつき、小林は立ち上がった。そして、呟くような声で言う。

 

「誰か、死なせてくれ・・・」

 

 小林は、この謎の靄によって死ねなくなった。以来、何度も自殺を試みていたが、今のように謎の靄が彼の身体を守り、死ねないでいた。

 

「死にたい・・・」

 

 小林が呟いた時、空から手紙のような物が降ってきた。

 

「何だ?」

 

 手に取ってみると、それは封書だった。そこには達筆で、『小林芳雄様』と書かれていた。

 

「僕宛てか?」

 

 丁寧に封を切り、文章を読む。

 

 

『悩み多し異才を持つ少年少女に告げる。その才能を試すことを望むのならば、己の家族を、友人を、財産を、世界の全てを捨て、我らの゛箱庭″に来られたし』

 

 

「何だこりゃ」

 

 そう言って封書を捨てようとした時、突然視界が開けた。

「は?」

 

 下を見ると、湖が見えた。

 

「何だ、ここ」

 

 その時、小林は自分が落下している事にようやく気付いた。

 上空4000mと言ったところだろうか。富士山から落ちた時に見た風景に似ている。

 

「わっ」

 

 そうこうしている内に、小林は湖に落下した。だが謎の靄が小林を球体の膜で覆ったため、小林自身は全く濡れていない。

 

「何なんだ、一体」

 

 文句を言いながら湖から上がる。と、そこには3人の男女が居た。

 

「まず間違いないだろうけど、一応確認しておくぞ。もしかしてお前達にも変な手紙が?」

 

「そうだけど、まずは″オマエ″って呼び方を訂正して。――私は久遠飛鳥よ。以後は気を付けて。それで、そこの猫を抱きかかえている貴方は?」

 

「・・・春日部耀。以下同文」

 

「そう。よろしく春日部さん。ところで、そこの全く濡れていない白髪の貴方は?」

 

「小林芳雄」

 

「そう。よろしく小林君。最後に、野蛮で凶暴そうなそこの貴方は?」

 

「高圧的な自己紹介をありがとよ。見たまんま野蛮で凶暴な逆廻十六夜です。粗野で凶悪で快楽主義と三拍子そろった駄目人間なので、用法と用量を守った上で適切な態度で接してくれお嬢様」

 

「そう。取扱説明書をくれたら考えてあげるわ、十六夜君」

 

「ハハ、マジかよ。今度作っとくから覚悟しとけ、お嬢様」

 

「おい」

 

「ん、小林つったっけ。どうした?」

 

「何で僕らはこんな所に呼び出されたんだ?」

 

「確かにそうね。なんの説明もないままでは動きようがないわね」

 

「確かにそうだな」

 

 飛鳥の意見に十六夜が同意する。

 

「おい、そこに居るんだろ。出てこい」

 

「あら小林君。貴方も気付いていたの?」

 

「あんな隠れ方じゃ誰でも見つけられるだろ」

 

「まあな」

 

「あら十六夜君。貴方も気付いていたの?」

 

「当然。かくれんぼじゃ負けなしだぜ?そっちの猫を抱いてる奴も気付いていたんだろ?」

 

「風上に立たれたら嫌でも分かる」

 

「・・・・・へえ?面白いなお前」

 

「・・・という訳だ。さっさと出てこい」

 

 小林が言うと、木の陰から一人の女が現れた。

 

「・・・ウサ耳?」

「バニーガール?」

「コスプレ?」

「自由だな、お前」

 

 四人は女を見て、思い思いの感想を言った。

 




次回は一週間以内に更新予定です。


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黒ウサギがルールの説明をするそうですよ?

 プロローグを投稿した次の日に投稿する事が出来ました。
 次回は来年になるかもしれません。


「ち、違うのですよ。黒ウサギは、コスプレでもバニーガールでもないのですヨ」

 

「じゃあ何なんだ、お前」

 

「く、黒ウサギは・・・」

 

 その時、春日部が黒ウサギと名乗る少女のウサ耳を根っこから掴み、

 

「えい」

 

「フギャ!」

 

 力いっぱい引っ張った。

 

「ちょ、ちょっとお待ちを!触るだけなら黙って受け入れますが、まさか初対面で遠慮無用に黒ウサギの素敵耳を引き抜きに掛かるとは、どういう了見ですか⁈」

 

「好奇心の為せる業」

 

「自由にも程があります!」

 

「へえ?このウサ耳って本物なのか?」

 

 今度は十六夜が右から掴んで引っ張る。

 

「・・・。じゃあ私も」

 

「ちょ、ちょっと待―――!」

 

 今度は飛鳥が左から。左右から力いっぱい引っ張られた黒ウサギは、言葉にならない悲鳴を上げ、その絶叫は近隣に木霊した。

 

 

「―――あ、あり得ない。あり得ないのですよ。まさか話を聞いてもらうために小一時間も消費してしまうとは。学級崩壊とはきっとこのような状況を言うに違いないのデス」

 

「いいからさっさと進めろ」

 

 小林が言うと、黒ウサギは情けない声で「はい」と言った。

 

「それではいいですか、皆様。定例文で言いますよ?言いますよ?さあ、言います!

ようこそ、″箱庭の世界″へ!我々は皆様にギフトを与えられた者達だけが参加できる『ギフトゲーム』への参加資格をプレゼンさせていただこうかと召喚いたしました!」

 

「ギフトゲーム?」

 

「そうです!既に気づいていらっしゃるでしょうが、皆様は普通の人間ではございません!その特異な力は様々な修羅神仏から、悪魔から、精霊から、星から与えられた恩恵でございます。『ギフトゲーム』はその″恩恵″を用いて競い合う為のゲーム。そしてこの箱庭の世界は強大な力を持つギフト保持者がオモシロオカシク生活できる為に造られたステージなのでございますよ!」

 

 飛鳥が手を上げた。

 

「まず初歩的な質問からしていい?貴方の言う″我々″とは貴方を含めた誰かなの?」

 

「YES!異世界から呼び出されたギフト保持者は箱庭で生活するにあたって、数多とある″コミュニティ″に必ず属していただきます♪」

 

「嫌だね」

 

「そんな面倒な事は嫌だ」

 

 十六夜と小林が即答した。黒ウサギは一瞬心が折れそうになるが、何とか話を続ける。

 

「属していただきます!そして『ギフトゲーム』を勝者はゲームの″主催者″が提示した商品をゲットできるというとってもシンプルな構造となっております」

 

「主催者って誰だ?」

 

「様々ですね。暇を持て余した修羅神仏が人を試すための試練と称して開催されるゲームもあれば、コミュニティの力を誇示するために独自開催するグループでもございます。特徴として、前者は自由参加が多いですが″主催者″が修羅神仏なだけあって凶悪かつ難解なものが多く、命の危険もあるでしょう。しかし、見返りは大きいです。″主催者″次第ですが、新たな″恩恵″を手にすることも夢ではありません。後者は参加のためにチップを用意する必要があります。参加者が敗退すればそれらはすべて″主催者″のコミュニティに寄贈されるシステムです」

 

「チップは何だ?」

 

「様々ですね。金品、土地、利権、名誉、人間・・・そしてギフトを賭けあうことも可能です」

 

「自分の能力も賭けられるのか?」

 

「Y、YES。ですが、負ければギフトを失ってしまいますよ?」

 

「でもそうすればこの能力も消えるんだな」

 

「あやや。小林さんはご自分の能力を失いたいのですか?」

 

「ああ」

 

「そ、そうですか」

 

 飛鳥が手を上げた。

 

「ゲームそのものはどうやったら始められるの?」

 

「コミュニティ同士のゲームを除けば、それぞれの期日内に登録していただければOK!商店街でも商店が小規模のゲームを開催しているのでよかったら参加していって下さいな」

 

「・・・つまり『ギフトゲーム』とはこの世界の法そのもの、と考えていいのかしら?」

 

「ふふん?中々鋭いですね。しかしそれは八割正解の二割間違いです。我々の世界でも強盗や窃盗は禁止ですし、金品による物々交換も存在します。ギフトを用いた犯罪などもってのほか!そんな不逞な輩は悉く処罰します―――が、しかし!『ギフトゲーム』の本質は全く逆!一方の勝者だけが全てを手にするシステムです。店頭に置かれている商品も、店側が提示したゲームをクリアすればタダで手にすることも可能だという事ですね」

 

 黒ウサギは一通りの説明を終えたのか、一枚の封書を取り出した。

 

「さて皆さんの召喚を依頼した黒ウサギには、箱庭の世界における全ての質問に答える義務がございます。が、それら全てを語るには少々お時間がかかるでしょう。新たな同士候補である皆さんを何時までも野外に出しておくのは忍びない。ここから先は我らのコミュニティお話させていただきますが・・・・よろしいですか?」

 

「待てよ。まだ俺が質問してないだろ」

「僕からも一ついいか」

 

 十六夜と小林が声を上げた。

 

「・・・・どういった質問です?ルールですか?ゲームそのものですか?」

 

「僕から先にいいか、十六夜?」

 

「ああ、構わないぜ」

 

 小林は、黒ウサギの目を見て、聞いた。

 

「この世界なら、僕は死ねるか?」

 

 その言葉を聞いた黒ウサギは、ウサ耳をへにょらせて言った。

 

「え、えっと、小林さんのギフトがどんな物か分かりませんけど、この箱庭は神魔の遊戯。小林さんがどんなギフトを持っていようと、死ぬ事は可能だと思われます」

 

「そうか」

 

「今度は俺が聞く番だぜ、黒ウサギ」

 

「は、はい」

 

「この世界は、面白いか?」

 十六夜は黒ウサギの目をまっすぐに見て、聞いた。

 

「――YES。『ギフトゲーム』は人を超えた者たちだけが参加できる神魔の遊戯。箱庭の世界は外界より格段に面白いと、黒ウサギは保証いたします♪」

 




 次は水神との闘いです。
 お楽しみに!


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血気盛んな問題児達が神格保持者を倒すようですよ?

続けざまに次話投稿です!


「ジン坊ちゃーン!新しい方を連れてきましたよー!」

 

 その言葉に、階段に座っていた少年が顔を上げた。

 

「お帰り、黒ウサギ。そちらの女性二人が?」

 

「はいな、こちらの四人が――」

 

 言いながら黒ウサギはクルリと振り返った。その顔が固まった。

 

「・・・え、あれ?もう二人いませんでしたっけ?ちょっと目つきが悪くて、かなり口が悪くて、全身から″俺問題児!″ってオーラを放っている殿方と、白い髪の、全身から″死にたい″ってオーラを放っている殿方が」

 

「ああ、十六夜君と小林君の事?十六夜君なら、″ちょっと世界の果てを見てくるぜ!″と言って駆け出して行ったわ。小林君はそれについて行ったわ」

 

「な、なんで止めてくれなかったんですか!」

 

「″止めてくれるなよ″と言われたもの」

 

「ならどうして黒ウサギに教えてくれなかったのですか!?」

 

「″黒ウサギには言うなよ″と言われたから」

 

「嘘です、絶対嘘です!実は面倒くさかっただけでしょう御二人さん!」

 

「「うん」」

 

 黒ウサギの身体がガクリ、と前のめりに倒れる。新たな人材に胸を躍らせていた自分が妬ましい。

 

「く、黒ウサギ、″世界の果て″には」

 

「あら。″世界の果てに何か居るの?」

 

「YES。″世界の果て″付近には強力なギフトを持ったものがいます。出くわせば最後、とても人間では太刀打ち出来ません!」

 

「あら、それは残念。もう彼はゲームオーバー?」

 

「ゲーム参加前にゲームオーバー?・・・・斬新?」

 

「冗談を言っている場合じゃありません!」

 

「黒ウサギ・・・」

 

「ええ、分かっています。問題児様方を捕まえに参ります。事のついでに―――″箱庭の貴族″と謳われるこのウサギを馬鹿にしたこと、骨の髄まで後悔させてやります」

 

 黒ウサギの髪が淡い緋色に染まった。そして弾丸のように跳んで行った。

 

 一方その頃――

 

小林は、蛇神に話しかけた。

 

「おい、お前」

 

『ぬ?』

 

「お前、強いのか?」

 

『ほう?この神格保持者である我に向かって『強いのか?』とは、面白い言葉だな』

 

「いいから答えろ。お前は強いのか?」

 

『ほう。ならば我に″ギフトゲーム″を挑むか?』

 

「強ければな」

 

『よかろう。ならば我と力の勝負だ!』

 

 瞬間、水柱が三本巻きあがった。水柱が三本同時に小林を襲う。

 

「何だ、これ」

 

 だが水柱が小林に当たる瞬間、″謎の靄″が小林を守るように展開し、水柱が霧散する。

 

『何だと!?』

 

「何だ、この程度か」

 

 小林の身体から″謎の靄″が展開し、蛇神を襲う。

 

『ガハアッ!』

 

 水神の腹に″謎の靄″が炸裂する。虚を突かれた蛇神はそのまま真後ろに倒れ、大きな沈柱が巻き上がった。

 

「おう、こりゃ凄えな」

 

 小林が振り返ると、後ろに十六夜が立っていた。

 

「十六夜か。何の用だ」

 

「世界の果てを見に来たんだよ。そうしたら誰かが蛇と戦ってたから、どんな奴か手合わせ願おうと思ったら小林じゃねえか。お前、こいつをどうやって倒したんだ?」

 

「別に僕は何もしていない。ただ勝手にコイツがやられただけだ」

 

「へえ、そうかよ」

 

 十六夜が不敵に笑った時、目の前に黒ウサギが現れた。

 

「あれ、お前黒ウサギか?どうしたんだその髪の色」

 

 その一言で、黒ウサギの怒りが爆発した。

 

「もう、一体何処まで来ているんですか!?」

 

「″世界の果て″まで来ているんですよ、っと。まあそんなに怒るなよ」

 

「おい、そろそろアイツが起きるぞ」

 

 小林の言葉に、黒ウサギが首を傾げた。

 

「アイツ、とは?」

 

 その瞬間、蛇神が起き上がった。

 

『まだ・・・まだ試練は終わっていないぞ、小僧ォ‼』

 

 黒ウサギが驚きの声を上げた。

 

「蛇神・・・・・!って、どうやったらこんなに怒らせられるんですか十六夜さん!?」

 

「俺じゃねえよ。小林だ」

 

「向こうが勝手に『勝負だ』とか言って攻撃してきただけだ。僕は悪くない」

 

『付け上がるな人間!我がこの程度の事で倒れるか‼』

 

 蛇神の牙と瞳が光る。巻き上がる嵐が水柱を上げて立ち昇る。

 

「小林さん、十六夜さん、下がって!」

 

 黒ウサギは二人を庇おうとするも、二人はそれを拒んだ。

 

「嫌だ。お前が下がれ」

 

「小林の言う通りだ。下がるのはテメェだろうが黒ウサギ。これは俺らが売って、奴が買った喧嘩だ。手を出せばお前から潰すぞ」

 

『心意気は買ってやる。それに免じ、この一撃を凌げば貴様の勝利を認めてやる』

「お前じゃ弱すぎて僕は死ねない。十六夜、お前に任せた」

 

「了解。おい蛇、寝言は寝て言え。決闘は勝者が決まって終わるんじゃない。敗者を決めて終わるんだよ」

 

 その挑発的な台詞に、蛇神がブチ切れた。

 

『フン――その戯言が貴様らの最後だ!』

 

 水柱が巻き起こり、十六夜と小林を襲う。

 だが――

 

「その一撃で死ねたらいいんだけどな」

 

「――ハッ――しゃらくせえ‼」

 

 十六夜は腕の一振りで、小林に至っては何もせずに、嵐を薙ぎ払った。

 

「嘘!?」

 

『馬鹿な!?』

 

 驚いた蛇神の胸元に、十六夜が飛び込んだ。

 

「ま、中々だったぜオマエ」

 

十六夜の蹴りは蛇神の胴体を打ち、蛇神の巨躯は空中高く打ち上げられて川に落下した。その衝撃で川が氾濫し、小林以外の全員に水が降りかかる。

 

「くそ、今日はよく濡れる日だ。クリーニング代ぐらいは出るんだよな黒ウサギ」

 

「おい、何か食う物無いか?腹減った」

 

 黒ウサギは、平然と話す二人を見て唖然としていた。

 

(人間が・・・神格を倒した!?)

 




次はコミュニティの現状報告です。


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黒ウサギがコミュニティの現状報告をするそうですよ?

多分今年最後の作品です。
 ・・・・多分もう一つの作品今年中の投稿無理です。すみません。


「おい、どうした?ボーっとしてると胸とか脚とか揉むぞ?」

 

「おい黒ウサギ。腹が減った。ハンバーガーとかないのか」

 

「え、きゃあ!」

 

 黒ウサギが我に返ると、十六夜と小林が背後に移動していた。十六夜の手は胸と脚に伸びている。黒ウサギは慌てて跳び退いた。

 

「な、ば、おば、貴方はお馬鹿です!?二百年守ってきた黒ウサギの貞操に傷をつけるつもりですか!?」

 

「二百年守った貞操?うわ、超傷つけたい」

 

「お馬鹿!? いいえ、お馬鹿!!!」

 

「おい、そんな事より何か食わせろ」

 

 十六夜と黒ウサギの漫才(?)に、小林が割って入る。

 

「そうだな。早くそのコミュニティとやらに案内しろよ黒ウサギ」

 

 十六夜も加勢する。二人の気迫に怯んだ黒ウサギは数歩後ずさる。

 

「わ、分かりました。ですがその前に、蛇神からギフトを戴いておきましょう」

 

 そう言って跳躍すると蛇神の上に乗り、顎の辺りに移動する。遠巻きに何かを話している姿を二人が眺めていると、直後に青い光が周囲に満ちていく。

 光の源が蛇神の頭から黒ウサギの手に移ると、ピョンと跳ねて二人の前に出る。

 

「きゃーきゃーきゃー♪見てください!こんな大きな水樹の苗を貰いました!コレがあればもう他所のコミュニティから水を買う必要もなくなります!みんな大助かりです!」

 

「そうか。それはよかったな。で、それ食えるのか?」

 

 小林が黒ウサギに聞く。黒ウサギは慌てて苗を抱きしめて跳び退く。

「だ、駄目ですよ!これはコミュニティを支える大事な役割を担ってくれるギフトです!それにそもそもこれは―――」

 

「待て。今なんて言った黒ウサギ」

 

 黒ウサギの言葉を遮って十六夜が聞く。

 

「コミュニティの支えになる?てことはお前らのコミュニティは今までどうやって支えてきたんだ?」

 

「そ、それは・・・」

 

「『コミュニティ』というくらいだから、お前一人で成り立っているわけじゃないはずだ。当然水不足も出て来る。だがお前はさっき、水は他所のコミュニティから買っていると言った。なんでだ?こんな蛇一体、俺程までとはいかなくても、俺の足元並みの奴が数人居れば充分だ。つまり黒ウサギのコミュニティは、いつでもこのギフトを入手できた。じゃあ何でただで手に入る水を、わざわざ買ってるんだ?」

 

「他所のコミュニティの水の方が美味かったんじゃないか」

 

「小林の意見も考えてみた。けど考えてみろ。ここはなんでもアリの箱庭だぜ。水を美味くするギフトくらいあるだろうよ」

 

「確かにな」

 

「え、えっと・・・」

 

「ここから考えられるのは一つ」

 

 十六夜はそこで言葉を切り、黒ウサギを睨んだ。

 

「お前、なにか決定的な事をずっと隠しているよな?」

 

「僕もそう思う。お前、見ていてなんだか必死そうだった」

 

「え、えっと・・・」

 

「これは俺の勘だが。黒ウサギのコミュニティは弱小のチームか、もしくは訳あって衰退しているチームか何かじゃねえのか?だから俺達は組織を強化するために呼び出された。そう考えれば蛇を倒さずに他所のコミュニティから水を買っていた事や、俺らがコミュニティに入るのを拒否した時に本気で怒ったことも合点がいく。――どうよ。百点満点だろ?」

 

「っ・・・・!」

 

「なあ十六夜。コイツがこれを黙ってたって事は、僕らにはまだその『コミュニティ』ってのを選ぶ権利があるんだよな」

 

「ま、そういう事になるな」

 

「・・・・・・・」

 

「沈黙は是也、だぜ黒ウサギ。この状況で黙り込んでも状況は悪化するだけだぞ

それとも他のコミュニティに行ってもいいのか?」

 

「や、だ、駄目です!いえ、待ってください」

 

「だから待ってるだろ。ホラ、いいから包み隠さず話せ」

 

 十六夜は川辺にあった手ごろな岩に腰を下ろして聞く姿勢をとる。小林もそれにならい、隣の岩に座る。しかし黒ウサギは迷っているのか、なかなか話そうとしない。

 そこに小林が畳みかけた。

 

「早く言え。僕は腹が減った」

 

「は、はい」

 

 小林の身体から一瞬、靄のような物が立ち込めたのを見て黒ウサギは怯えながら話し出した。

 

「まず私達のコミュニティには名乗るべき″名″がありません。よって呼ばれる時は名前の無いその他大勢、″ノーネーム″という蔑称で称されます」

 

「へえ・・・その他大勢扱いかよ。それで?」

 

「次に私達にはコミュニティの誇りである旗印もありません。この旗印というのはコミュニティのテリトリーを示す大事な役目も担っています」

 

「ふぅん?それで?」

 

「″名″と″旗印″に続いてトドメに、中核を成す仲間達は一人も残っていません

もっとぶっちゃけてしまえば、ゲームに参加できるギフトを持っているのは122人中、黒ウサギとジン坊ちゃんだけで、後は十歳以下の子供ばかりなのですヨ!」

 

「崖っぷちだな、それ」

 

「ホントですねー♪」

 

 小林の言葉に同意した黒ウサギは、ガクリと膝をついてうなだれた。

 

「で、どうしてそうなったんだ。大人は皆死んだのか?」

 

「い、いえ。彼らの親も全て奪われたのです。箱庭を襲う最大の天災――″魔王″によって」

 

 魔王という単語を聞いた瞬間、十六夜の目が輝いた。

 

「ま・・・・マオウ!? なんだよそれ、魔王って超カッコイイじゃねえか!箱庭には魔王なんて素敵ネーミングで呼ばれる奴が居るのか!?」

 

「え、ええまあ。けど十六夜さんが思い描いている魔王とは差異があると・・・」

 

「おい黒ウサギ。魔王って強いのか」

 

「は、はい。魔王と言っても十人十色ですが、強大な力を持っております。それこそ、強い者なら小林さんや十六夜さんでも勝てないかと・・・」

 

「魔王と戦えば、僕は死ねるのか?」

 

「は、はい。可能性はあるかと・・・」

「分かった」

 

 そう言うと小林は立ち上がった。

 

「おい黒ウサギ」

 

「何でしょう?」

 

「僕はお前のコミュニティに入る」

 

 小林の発言に、黒ウサギの目が輝いた。

 

「ほ、ホントですか!?」

 

「ああ。十六夜はどうする?」

 

 小林は複雑な顔をしている十六夜に声を掛けた。

 

「なあ黒ウサギ。聞いていいか」

 

「はい。構いませんよ」

 

「その旗印っていうのは、新しく作ったら駄目なのか?」

 

「そ、それは可能です。ですが改名はコミュニティの完全解散を意味します。しかしそれでは駄目なのです!私達は何よりも・・・仲間達が帰ってくる場所を守りたいのですから・・・!」

 

 黒ウサギの表情は固い。その決心は半端な物ではないという事だろう。

 

「茨の道ではあります。けど私達は仲間が帰る場所を守りつつ、コミュニティを再建し・・・

何時の日か、コミュニティの名と旗印を取り戻して掲げたいのです。そのためには十六夜さんや小林さんのような強大な力を持つプレイヤーを頼るほかありません!どうかその強大な力、我々のコミュニティに貸していただけないでしょうか・・・!?」

 

「ふぅん。魔王から誇りと仲間をねえ」

 

「おい十六夜」

 

「何だよ小林」

 

「僕は死ぬためにコイツのコミュニティに入る。お前はどうする?」

 

「そうだな。じゃあ黒ウサギのコミュニティに入るか」

 

「ほ、本当ですか!?」

 

「ああ。魔王なんてカッコイイじゃねえか。いいぜ、黒ウサギに協力してやるよ」

 

「あ、ありがとうございます!!」

 

 こうして二人は、黒ウサギのコミュニティに入る事になった。

 




では次回は白夜叉のギフト鑑定!・・・まで行きたい。
 


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白夜叉がギフト鑑定をするそうですよ?≪前編≫

あけましておめでとうございます。今年も張り切って書きます!
 今回のは今までに比べて長いです。あと最後の方雑です。すみません。
 飛鳥と耀の出番大幅カットしました。


「な、なんであの短時間に″フォルス・ガロ″のリーダーと接触してしかも喧嘩を売る状況になったのですか!?」「しかもゲームの日取りは明日!?」「それも敵のテリトリーで戦うなんて!」「準備している時間もお金もありません!」「一体どういう心算があってのことです!」

「聞いているのですか三人とも!」

 

「「「ムシャクシャしてやった。今は反省しています」」」

 

「黙らっしゃい!!!」

 

 話を聞くと、どうやら小林達が蛇神と戦っている内に飛鳥達はここら一帯をテリトリーとするコミュニティに喧嘩を売って、しかもその日程は明日だそうだ。

 激怒している黒ウサギを、真顔で小林が、ニヤニヤ顔で十六夜が止めに入った。

 

「コイツらも死にたいから喧嘩を売ったんだろ。ならいいじゃないか」

 

「別にいいじゃねえか。見境なく選んで喧嘩売ったわけじゃないんだから許してやれよ」

 

「い、十六夜さんは面白ければいいと思ってるかもしれませんけど、このゲームで得られるものは自己満足だけなんですよ?あ、あと飛鳥さんたちは小林さんみたいに死にたいわけじゃないと思いますよ」

 

「そうなのか」

 

「YES。しかもこのギフトゲームをしなくても、時間さえかければ彼らの罪は必ず暴かれます。だって肝心の子供達は・・・・・・その、」

 

「おい待て黒ウサギ。″フォルス・ガロ″は子供たちを殺していたんだよな?」

 

「Y、YES。ですが、それが何か?」

 

「″フォルス・ガロ″に入ったら、僕は死ねるのか?」

 

「そ、それは無理です。入ったら余計に死ねなくなりますし、何より神格の攻撃が直撃しても無傷の小林さんにガルドの攻撃が通じるとは思えません」

 

「そうなのか」

 

「YES。黒ウサギの知る限り小林さんを殺せるのは上層の、それもごく一部に限られます」

 

「そうか」

 

「く、黒ウサギ。明日のゲームは?」

 

 ジンというコミュニティのリーダーらしい少年が、慌てた様子で黒ウサギに聞いた。

 

「一度受けてしまったゲームはもう取り消せないので受けるしかありませんね。まあいいデス。腹立たしいのは黒ウサギも同じですし。″フォルス・ガロ″程度なら十六夜さんか小林さんがどちらか一人いれば楽勝でしょう」

 

 それは黒ウサギの正当な評価のつもりだった。だが、

 

「何言ってんだよ。俺は参加しねえよ?」

 

「僕もこのゲームには出ない」

 

「当たり前よ、貴方なんて参加させないわ。まあ小林君はちょっと可愛いからどうしてもっていうなら考えてあげるけど」

 

「は、はあ!?」

 

「よかったな小林。お嬢様から褒められるなんて」

 

 そこに黒ウサギが割って入る。

 

「ちょ、ちょっと待って下さい!駄目ですよ、御三人はコミュニティの仲間なんだからちゃんと協力しないと」

 

「そういう意味じゃない」

 

「そういうことじゃねえよ黒ウサギ」

 

 小林と十六夜が、真剣な顔で黒ウサギを制する。

 

「黒ウサギ。お前はさっき、″フォルス・ガロ″と戦っても僕は死ねないと言った。僕は死ねないゲームに興味はない」

 

「いいか?この喧嘩は、コイツらが売った。そしてヤツらが買った。なのに俺が手を出すのは無粋だって言ってるんだよ」

 

「あら、分かっているじゃない」

 

「・・・・ああもう、好きにしてください」

 

 黒ウサギは肩を落とした。

 

 

 

 

 

 椅子から腰を上げた黒ウサギは、横に置いてあった水樹の苗を大事そうに抱き上げる。

 

「そろそろ行きましょうか。本当は皆さんを歓迎する為に素敵なお店を予約して色々とセッティングしていたのですけれども・・・不慮の事故続きで、今日はお流れとなってしまいました。また後日、きちんと歓迎を」

 

「いいわよ、無理しなくて。私達のコミュニティってそれはもう崖っぷちなんでしょう?」

 

 ウサ耳まで赤くなった黒ウサギが頭を下げる。

 

「も、申し訳ございません。皆さんを騙すのは気が引けたのですが・・・・黒ウサギたちも必死だったのです」

 

「もういいわ。私は組織の水準なんてどうでもよかったもの。春日部さんはどう?」

 

「私も怒ってない。そもそもコミュニティがどうの、というのは別にどうでも・・・あ、けど」

 

 ジンがテーブルに身を乗り出して聞いた。

 

「どうぞ気兼ねなく聞いてください。僕らに出来る事なら最低限の用意はさせてもらいます」

 

「そ、そんな大それた物じゃないよ。ただ私は・・・毎日三食お風呂付きの寝床があればいいな、と思っただけだから」

 

 ジンの表情が固まった。それを見た耀は慌てて取り消そうとしたが、先に黒ウサギが喜々とした顔で水樹を持ちあげる。

 

「それなら大丈夫です!十六夜さんと小林さんがこんなに大きな水樹を手に入れてくれましたから!これで水を買う必要もなくなりますし、水路を復活させることもできます♪」

 

「そう。じゃあ私からも一ついいかしら」

 

「YES。構いませんよ」

 

「小林君は、黒ウサギ達のコミュニティに入るのかしら?」

 

「Y、YES。入りますが、それが?」

 

「私、彼が気に入ったわ。彼のような人間は、見た事が無かったもの。彼が入るのなら、私も黒ウサギのコミュニティに入るわ」

 

「僕は黒ウサギのコミュニティに入る」

 

「そう。じゃあ私も黒ウサギのコミュニティに入るわ」

 

「そ、それは良かったのデス」

 

 黒ウサギはほっと胸を撫で下ろした。もし小林が黒ウサギのコミュニティに入らなければ、黒ウサギは貴重な同士を二人も失う羽目になっていたのだ。

 

 ジンが苦笑しながら言う。

 

「あはは・・・・それじゃあ今日はコミュニティへ帰る?」

 

「あ、ジン坊ちゃんは先にお帰りください。ギフトゲームが明日なら″サウザンドアイズ″に皆さんのギフト鑑定をお願いしないと。この水樹の事もありますし」

 

「″サウザンドアイズ″?コミュニティの名前か?」

 

「YES。″サウザンドアイズ″は特殊な″瞳″のギフトを持つ者達の群体コミュニティ。箱庭の東西南北・上層下層の全てに精通する超巨大コミュニティです。幸いこの近くに支店がありますし」

 

「ギフトの鑑定というのは?」

 

「勿論、ギフトの秘めた力や起源などを鑑定する事デス。自分の力の正しい形を把握していた方が、引き出せる力はより大きくなります。皆さんも自分の力の出処は気になるでしょう?」

 

 同意を求める黒ウサギに四人は複雑な表情で返す。思う事はそれぞれあるのだろうが、拒否する声はなく、黒ウサギ・十六夜・飛鳥・耀・小林の5人と一匹は″サウザンドアイズ″の支店に向かう。

 道中、小林は黒ウサギに聞いた。

 

「なあ、黒ウサギ」

 

「はいな、何でしょうか?」

 

「僕はどうやったら死ねるんだ?」

 

「そうですね。小林さんのギフトがどんな物かは分かりませんけど、蛇神の攻撃を何もせずに無効化した所から、おそらく十六夜さんと同等かそれ以上のギフトだと考えられます。とすれば、先ほども申し上げた通り、やはり上層の者ではないと殺せないかと」

 

「そうか。でも死ぬ方法はあるんだな」

 

「YES。ここは、修羅神仏の集う箱庭ですから。あ、着きました。こちらでございます」

 

 話している間に着いたようだ。日が暮れて看板を下げる割烹着の店員に、黒ウサギは滑り込みでストップを

「まっ」

 

「待った無しです御客様。うちは時間外営業はやっていません」

  

 ・・・・ストップをかけることも出来なかった。

 

「なんて商売っ気の無い店なのかしら」

 

「文句があるならどうぞ他所へ。あなた方は今後一切の出入りを禁じます。出禁です」

 

「出禁!?これだけで出禁とか御客様舐め過ぎでございますよ!?」

 

 キャーキャーと黒ウサギが喚く。それを小林が止める。

 

「うるさいぞ、黒ウサギ。耳に響くからやめろ」

 

「す、すみません。小林さん」

 

 小林は一歩前に出た。

 

「おい、店員」

 

「なんでしょうか、御客様」

 

「ここの店長は強いのか?」

 

「こ、小林さん!?」

 

「はい、強いですよ。貴方など一秒もかからずに殺されるでしょう」

 

「ここの店長は、僕を殺せるのか?」

 

「ですから一秒もかからずに殺せると言っているのです」

 

「なら店長に会わせろ。僕はそいつに挑む」

 

「そうですか。では白夜叉様への挑戦者という事でよろしいですね?」

 

「そうだが」

 

「分かりました。ですが″名無し″風情がこの店に入るなど言語道断。白夜叉様に挑むのならまずは私を倒してからお願いします」

 

 言って店員が竹箒を構える。その時、店内から何者かが爆走して来た。

 

「いぃぃぃやほおぉぉぉぉぉぉ!久しぶりだ黒ウサギイィィィィ!」

 

 黒ウサギは店内から爆走してくる着物風の服を着た真っ白い髪の少女に抱き(もしくはフライングボディーアタック)つかれ、少女と共にクルクルクルクルクと空中四回転半ひねりして街道にある浅い水路まで吹き飛んだ。その際、小林に水しぶきが跳んだが、″謎の靄″で切り裂いた。ついでに、近くにあった竹箒も切り裂いた。

 

「御客様。今のは」

 

「気にするな。小林のギフトだろ」

 

 ヤハハと十六夜が笑う。その時、少女が縦回転で飛んできた。十六夜が足で受け止める。

 

「てい」

 

「ゴバァ!お、おんし、飛んできた初対面の美少女を足で受け止めるとは何様だ!」

 

「十六夜様だぜ。以後よろしく和装ロリ」

 

「お前が白夜叉か?」

 

 小林が少女に聞く。

 

「おお、そうだとも。この″サウザンドアイズ″の幹部様で白夜叉様だよ少年。して、今日は何の用だ?」

 

「お前、僕を殺せるか?」

 

「ほう?」

 

 瞬間、白夜叉の眼が輝いた。

 

「この東最強の白夜叉に『強いのか』とは、面白い童が居た者だ。まあとりあえず中に入れ。黒ウサギ達も、何か私に用があるんだろう?話は中で聞こう」

 

 店員が何かを言おうとしたが、小林を見て口をつぐんだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

「生憎と店は閉めてしまったのでな。私の私室で勘弁してくれ」

 

 と白夜叉が言ったので、五人と一匹は今白夜叉の部屋に居る。

 

「もう一度自己紹介しておこうかの。私は四桁の門、三三四五外門に本拠を構えている″サウザンドアイズ″幹部の白夜叉だ。まあ黒ウサギを助けている器の大きな美少女と認識してくれ」

 

「その外門、って何?」

 

「箱庭の階層を示す外壁にある門ですよ。数字が若いほど都市の中心部に近く、同時に強大な力を持つ者達が住んでいるのです」

 

「そんな事はどうでもいい。おい白夜叉、僕を殺してくれ」

 

「ちょ、ちょっと小林さん!」

 

「よいぞ、小僧。そんなに死にたいのなら、明日の朝ここに来い。魔王として全力で相手してやろう。ただ今は黒ウサギの用件の方が先だ。して、何の用だ?」

 

「おい白夜叉。オマエさっき、東最強って言ったか?」

 

「言ったぞ。私は東側最強の″階層支配者″だぞ。この東側の四桁以下にあるコミュニティでは並ぶ者がいない、最強の主催者なのだからの」

 

「そう・・・・ふふ。ではつまり、貴方のゲームをクリア出来れば、私達のコミュニティは東側で最強のコミュニティという事になるのかしら?」

 

「無論、そうなるのう」

 

「そりゃ景気のいい話だ。探す手間が省けた」

 

 十六夜、飛鳥、耀の三人が立ち上がった。

 

「抜け目のない童達だ。以来しておきながら、私にギフトゲームで挑むと?」

 

「え?ちょ、ちょっと御三人様!?」

 

 慌てる黒ウサギを右手で制す白夜叉。

 

「よいよ黒ウサギ。私も遊び相手には常に飢えている」

 

「ノリがいいわね。そういうの好きよ」

 

「ふふ、そうか。――しかし、ゲームの前に一つ確認しておく事がある」

 

「なんだ?」

 

「おんしらが望むのは″挑戦″か―――もしくは、″決闘″か?」

 

 瞬間、五人と一匹の視界が、白い雪原と凍る湖畔に変わった。

 

 小林以外の全員が驚く。小林は目の前に山があるのを見ると、山に向かって駆け出していった。

 

「ちょ、ちょっと小林さん!?」

 

 連れ戻そうとする黒ウサギを、白夜叉は手で制す。

 

「よいよい。死にたいのならあの山脈で十分だろう。それに奴との決闘は明日だ。今ここで私が手慰み程度に遊ぶのは奴に失礼だ」

 

 そして白夜叉は三人の方に向き直り、問う。

 

「して、おんしらはどうする?」

 

 

 

 

 一方小林は、山を登っていた。

 富士山から落ちても死ねなかった小林だが、ここは異世界。山そのものの法則が違うのかもしれないと思って登ってみたのだが、登っている時の感覚は普通の山と変わらない。あとは飛び降りてどうなるかだ。

 その時、小林の横を何かが横切った。それは、鷲獅子とそれに乗った耀だった。

 それを横目で見て、小林は山から飛び降りた。

 

 

 

 

 

 ―――結果は、死ねなかった。

 というか、前の世界の山と変わらなかった。

 

「死ねない、か」

 

 分かってたけどな、と呟きながら白夜叉たちの元に戻る。だがそれを見た飛鳥、耀、白夜叉は驚愕に目を見開いた。

 

「小林君、山から飛び降りたわよね?何で無傷なの!?」

 

「実際にやった私だから分かるけど、あの山、ただの山じゃないよ」

 

「おんし、一体どんな奇跡を見に宿しているんだ!?」

 

「さあな」

 

 驚いていた白夜叉だが、すぐに笑みに戻った。

 

「これは面白いな。さすが私に挑むだけある。そうだ、おんしにもこれをやろう」

 

 言って白夜叉が手を叩くと、小林の前に一枚のカードが現れた。

 

「何だ、これ」

 

「″ギフトカード″という。まあ簡単に言えばおんしのその才能を収納できるという訳だ。あ、先に言っておくがそれを捨ててもおんしの身体にあるギフトは無くならんからな」

 

「そうか」

 

 小林がギフトカードを見ると、そこには″名称不明″と書いてあった。

 

「おい白夜叉。これなんて読むんだ?」

 

「これか?・・・・何だと!?」

 

 白夜叉が驚く。″正体不明″はギフトをキャンセルする類のギフトならよくある事だが、″名称不明″つまり、『ギフトは分かるが呼び名が分からない』という馬鹿げた物が出た事は今まで無かった。

 

「おんし、何者だ!?」

 

「小林芳雄だ」

 

 白夜叉の問いに、小林は真顔で即答した。

 

 




次回は白夜叉VS小林!


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白夜叉がギフト鑑定をするそうですよ?≪後編≫

今回最後に重大な事が発覚します!


六人と一匹は暖簾の下げられた店前に移動し、耀達は一礼した。

 

「今日はありがとう。また遊んでくれると嬉しい」

 

「あら、駄目よ春日部さん。次に挑戦するときは対等の条件で挑むのだもの」

 

「ああ。吐いた唾を飲み込むなんて、格好付かねえからな。次は渾身の大舞台で挑むぜ」

 

「ふふ、よかろう。楽しみにしておけ。・・・・・ところで」

 

 白夜叉はスッと真剣な顔で黒ウサギ達を見る。

 

「今さらだが、一つだけ聞かせてくれ。おんしらは自分のコミュニティがどういう状況にあるか、よく理解しているか?」

 

「ああ、名前とか旗の話か?それなら聞いたぜ」

 

「ならそれを取り戻すために″魔王″と戦わなければならんことも?」

 

「聞いてるわよ」

 

「・・・・・では、おんしらは全てを承知の上で黒ウサギのコミュニティに加入するのだな?」

 

「そうよ。打倒魔王なんてカッコいいじゃない」

 

「″カッコいい″で済む話ではないのだがの・・・・全く、若さゆえのものなのか。無謀というか、勇敢というか。まあ、魔王がどういうものかはコミュニティに帰ればわかるだろ。それでも魔王と戦う事を望むというなら止めんが・・・・そこの娘二人。おんしらは確実に死ぬぞ」

 

 言い返そうとした二人は、白夜叉の威圧感に黙り込んだ。

 

「魔王の前に様々なギフトゲームに挑んで力を付けろ。小僧達はともかく、おんしら二人の力では魔王のゲームを生き残れん。嵐に巻き込まれた虫が無様に弄ばれて死ぬ様は、いつ見ても悲しいものだ」

 

「おい白夜叉。僕はどうなんだ?」

 

 小林が割って入る。

 

「おんしの恩恵はまだ詳しくは分からんが、残念ながら並大抵な魔王では死ねない事は確かだ。まあ詳しくは明日調べるから今日はもう帰れ」

 

「そうか。じゃあな、白夜叉」

 

「ああ。また明日」

 

 白夜叉とのゲームを終え、噴水広場を超えて五人は半刻ほど歩いた後、″ノーネーム″の居住区域の門前に着いた。

 

「この中が我々のコミュニティでございます。しかし本拠の館は入口から更に歩かなければならないので御容赦ください。この近辺はまだ戦いの名残がありますので・・・・」

 

「そんな事はどうでもいい。早く行くぞ」

 

 黒ウサギの言葉を遮って、小林は門を開けた。すると門の向こうから乾ききった風が吹き抜けた。だが小林は気にせずにさっさと歩いて行った。しばらくすると本拠らしき物と、ジンの姿が見えた。小林はジンの姿を見ると、「おい」と声を掛けた。

 

「あ、小林さんお帰りなさい。他の皆さんは?」

 

「もう少ししたら来るだろ。おい、屋上って空いてるか?」

 

「あ、はい。空いてますけど・・・どうしてですか?」

 

「僕は疲れたからもう寝たい。けど室内で寝ると大変な事になるから、屋上で寝たい」

 

「わ、分かりました。案内します」

 

 そう言ってジンは小林を屋上まで案内した。小林は屋上に寝転がると、すぐに眠りに落ちた。

 

 ・・・どうでもいい話だが、ノーネームの掲げる目標が、″打倒魔王″から″打倒全ての魔王とその関係者″になったらしい。小林にとっては死ねる可能性が高まるので願ったりかなったりだった。

 

 

―――そして、翌日。

 小林は、″サウザンドアイズ″の前に居た。

 

「来たか。小林」

 

「ああ。・・・・僕は死ねるんだろうな?」

 

 小林が聞くと、白夜叉はギフトカードで口元を隠しながら笑った。

 

「さて、どうだかな。まあ、多分死ねると思うぞ」

 

「そうか。じゃあさっさと始めてくれ」

 

「よかろう」

 

 白夜叉は着物の裾からギフトカードを取り出すと、昨日と同じゲーム盤を呼び出した。

 

「では行くぞ、小林。″白き夜の魔王″、白夜叉。いざ尋常に、勝負!!」

 

「ああ。来い」

 

 一方その頃、黒ウサギ達は――

 

「あら、小林君はどこに行ったのかしら?」

 

「おいおいお嬢様。小林なら今日白夜叉と対等な勝負をするって、昨日約束してたじゃねえか」

 

「じゃあ彼は今日のギフトゲームに参加しないのね。残念だわ」

 

「ま、まあまあ。次がありますから。ってちょっと待ってください。白夜叉様と対等な決闘?じょ、冗談じゃないのですよ!?」

 

「そうか?小林なら大丈夫だと思うが」

 

「さすがの小林さんでも、白夜叉様が相手では勝ち目がありません!十六夜さん、黒ウサギは審判で抜ける事が出来ないので、代わりに行って止めてきていただけませんか?」

 

「嫌だね」

 

「でも!」

 

「おい、黒ウサギ。あの喧嘩は小林が売って、白夜叉が買った。それを止めるのは無粋って奴だ。行きたいなら審判が終わってからでも行けるだろ。それに、小林があの程度でやられるわけねえだろ」

 

 その気迫に、黒ウサギは黙り込んだ。

 

 

 

 

 

 

「てい!」

 

 白夜叉の全力の一撃を、小林の″謎の靄″が弾き飛ばす。

 

 決闘を始めてから一時間。小林の身体には傷一つなく、代わりに白夜叉の着物のあちこちが破れていた。小林の″謎の靄″が白夜叉を危険だと認識して攻撃した証拠だ。白夜叉の顔には大量の汗が流れており、今にも倒れそうだ。

 

「小林、おんし、一体どんなギフトを持っているのだ?」

 

「さあな。僕もよくわからない」

 

 白夜叉は一瞬、小林を″サウザンドアイズ″に引き抜こうかと思った。白夜叉の攻撃を無効化し、反撃までできるのだ。三桁は間違いない。少なくとも、″名無し″に居ていい人材ではない。だがその時、白夜叉の頭に黒ウサギの顔が浮かんだ。もし白夜叉が小林を引き抜けば、黒ウサギが悲しむ。それだけは避けたい。

 

「済まないな、小林。私にはおんしを殺す事は出来ん」

 

「無理なのか?」

 

「ああ、済まないな。だが誇っていいぞ。おんしは東側最強の白夜叉に勝ったのだ。その事を覚えておいてくれ。そうでもなければ私の顔が立たん」

 

「分かった。覚えておこう」

 

「ではこの勝負、私の負けという事で終わりにしようかの」

 

 言いながら白夜叉はゲーム盤をギフトカードにしまった。その時、白夜叉の脳裏にひらめくものがあった。

 

「小林」

 

「何だ、白夜叉」

 

「おんし、自分のギフトネームを知っているか?」

 

「知らない」

 

「実はおんしのギフトネームは″名称不明″という、名前の無いギフトなのだ。よって、この白夜叉が、特別に名前を付けてやろう!」

 

「そうか。じゃあ頼む」

 

「そうだな。実は先ほど思いついたのだが、おんしのギフトには冗談かと思いたくなるような可能性が秘められておる。よって、″TRICKSTAR″というのはどうだろうか」

 

「トリックスター?何だそれ」

 

「おんしのギフトネームだ。どうだ、カッコいいだろう?」

 

「そうだな。じゃあそれでいいか。じゃあ僕はもう帰っていいか?」

 

「ああ。おんしを殺せるクラスのギフトゲームがあったら招待するからな。それがこの戦いに勝ったおんしの報酬だ」

 

「そうか。悪いな」

 

「何、気にするな。私も遊び相手には飢えておる。いつでも遊びに来い」

 

「そうか。じゃあな」

 

 去っていく小林の後ろ姿を見ながら、白夜叉は呟いた。

 

「ラプ子」

 

「はい、何でしょう?」

 

 ラプ子と呼ばれた者が返事をした。

 

「彼は、何者だ?」

 

「全体像は分かりかねます。断片的になら」

 

「断片的でいい。教えてくれ」

 

「・・・・実は、彼と類似する存在があります」

 

「なんだ?神仏か、それとも魔王か?」

 

「どちらかと言えば魔王です」

 

「はっきりしないな。一体何なのだ?」

 

「″退廃の風″。こういえばわかりますか?」

 

「何だと!?」

 

「しかもあの霊格。黒の″退廃の風″以上、いえ、黒の″退廃の風″とは比べものになりません。おそらく、彼を殺せるものはこの箱庭には居ないでしょう」

 

「そんな・・・・・」

 

 白夜叉は背筋が寒くなるのを感じた。

 




 次回、レティシア奪還編パート1です!


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レティシア奪還作戦を開始するそうですよ?

 気付いたので報告します。
 小林の登場するアニメは『―TRICKSTER-江戸川乱歩 少年探偵団より』ですが、ここでは英語の都合上、小林の能力は『TRICKSTAR』となっています。


小林が″ノーネーム″に帰ると、本館の入り口で黒ウサギが仁王立ちで立っていた。

 

「ただいま」

 

「小林さん。何か言う事はありますか?」

 

「白夜叉じゃ僕を殺せないらしい。で、勝った報酬に″ギフトネーム″っていうのを付けてもらった」

 

「ほら、小林さんでも白夜叉に勝てない・・・って勝った!?」

 

「ああ。僕は何もしてないけどな」

 

「で、なんて名前を付けてもらったんですか?」

 

「確か、″TRICKSTAR″とか言ったな」

 

「″TRICKSTAR″・・・・・・『いたずらの星』ですか?」

 

「さあな」

 

「いや、『冗談のような強さを誇る期待の新星』という意味かも・・・。小林さん、白夜叉様は他に何か言っていましたか?」

 

「いや、別に」

 

「そうですか。でも白夜叉様ほどの御方が、ギフトの名前に″STAR″を付けるなんて、凄い事なのですよ!」

 

「どうでもいい。僕は寝る」

 

「あ、小林さん、ちょっとお待ちを。今日ははしごを使って寝床に向かった方がよろしいかと」

 

「何でだ?」

 

「飛鳥さんが自分の初ギフトゲームに小林さんが応援に来てくれなかった事を残念に思って、黒ウサギに『小林君が帰って来たら捕まえて私の所に連れてきなさい』と言っていました。見つかったら何をされるか分かったものではありません」

 

「そうか」

 

 理不尽な怒りをぶつけられたらたまった物ではないので、小林はおとなしくそれに従うことにした。

 

「そうだ、黒ウサギ」

 

「はいな、何でございましょう?」

 

「今日のギフトゲーム、どうだった?」

 

「YES、見事に勝利したのですよ!」

 

「そうか」

 

 小林はそう言うと、黒ウサギに言われた通りはしごを使って屋上に上がり、眠りに着いた。

 

 

 

 

 

 

 

 小林が眠りについて数分後――

 

「互いにランスを一打投擲する。受け手は止められねば敗北。悪いが先手は譲ってもらうぞ」

 

「好きにしな」

 

 金髪の幼女と十六夜が戦っていた。

 

「ふっ――!」

 

 金髪の幼女がランスを構え、投擲する。

 

「ハァア!!!」

 

 怒号と共に放たれた槍は瞬く間に摩擦で熱を帯び、一直線に十六夜に落下していく。

 流星の如く大気を揺らして舞い落ちる槍の先端を前に、十六夜は牙を向いて笑い、

 

「カッ――しゃらくせえ!」

 

 殴りつけた。

 

「「――は・・・・!??」」

 

 金髪幼女と黒ウサギが、素っ頓狂な声を上げる。

十六夜の拳によって拉げたランスは、只の鉄塊と化し、第三宇宙速度という馬鹿げた速度を叩き出し、金髪の幼女に飛んでいく。第三宇宙速度で飛んでくる鉄塊を避ける事は不可能だ。金髪の幼女が血みどろになって落ちる覚悟を決めた時、

 

「レティシア様!」

 

 黒ウサギが金髪の幼女に向かって飛ぶ。しかし間に合わない。

 今度こそ本当に血みどろになって落ちる覚悟を決めた時、

 

 少年が、落ちてきた。

 

「は・・・・?」

 

 この高さから飛び降りて何もしなければ黒ウサギでも怪我をするだろう。その時、金髪の幼女の眼前に鉄塊が迫って来た。いよいよ覚悟を決めたその時――、

 

 少年の身体から靄のような物が吹き荒れ、鉄塊を切断した。

 ついでに黒ウサギも吹き飛ばした。

 

「こ、小林さん!」

 

 黒ウサギが驚いたような声を上げる。少年はそのまま地面に向かって落ちて行く。その瞬間、少年の身体からまた靄のような物が展開し、落下の速度を相殺する。

 

「な、何なんだ、あれは・・・」

 

 金髪の幼女は、呆然と呟いた。

 

 

 

 

 

 

 小林は、妙な浮遊感に包まれて目を覚ました。

 下を向くと、現在進行形で落下中だった。

 そういえば、はしごを登ってすぐに眠りについたため、屋上の端で寝ていたという事を思い出した。おそらく寝返りを打って落下したのだろう。

 その時、小林の眼下に物凄い速度が出ている鉄塊が見えた。その内一つが小林に飛んでくる。

 瞬間、小林の身体から出た″TRICKSTAR″が鉄塊を吹き飛ばす。鉄塊を危険対象と認識したのか、残りの鉄塊もまとめて吹き飛ばす。

 ついでに近くに居た黒ウサギも吹き飛ばした。

 

「って、何で黒ウサギまで―――!」

 

 黒ウサギがツッコミを入れるが、それどころではない。

 地面に衝突する瞬間、″TRICKSTAR″が展開し小林の身体を包む。

 

「よお小林。お前のギフトってやっぱすごいな」

 

 十六夜が感嘆の声を上げる。その時、金髪の幼女が降りてきた。

 

「初めまして。純血の吸血鬼、レティシアだ。よろしく、黒ウサギの同士よ」

 

「おい、お前、強いのか?」

 

「さあな。まあ白夜叉を倒した君に勝てるとは思っていないがね」

 

「で、何の用だ?」

 

 小林が聞いたその時、空から何かが落ちてきた。それは、レティシアの物と思われるギフトカードだった。

 

「″純血の吸血姫″。これがお前のギフトか?」

 

「何ですって!?」

 

 黒ウサギの悲鳴が空から聞こえて来る。黒ウサギは落下すると、小林からギフトカードを受け取り、レティシアに詰め寄った。

 

「やっぱり、鬼種は残っているものの、神格が残っていません」

 

「なんだよ。もしかして元・魔王様のギフトって、吸血鬼のギフトしか残ってねえの?」

 

 十六夜が残念そうに言う。その時、

 

「居たぞ、あそこだ!」

 

「吸血鬼を優先して捕獲しろ!あとは切り捨てて構わん!」

 

 空から声が聞こえてきた。だが小林の知ったことではない。

 

「全部どうでもいい。僕は寝る」

 

 そう、小林にとっては寝返りで屋上から落ちただけで、吸血鬼も敵もどうでもいい。とりあえずさっさと二度寝したいというのが今の気持ちである。

 

「じゃあな。お前じゃ僕を殺せない」

 

 そう言って敵に背を向けた。だが敵は頭に血が上ったのか、

 

「馬鹿にするな!この″名無し″風情が!」

 

 そう言って斧を投げつけてきた。″TRICKSTAR″の能力でそれを弾き、攻撃して来た敵に反撃する。

 

「ぐぎゃああああああ!」

 

 敵が絶叫するが、知った事ではない。何度も言うが、小林には関係ないのだ。

 小林ははしごで屋上に戻ると、今度こそ熟睡した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 どのくらい経ったのだろうか。

 不意に、誰かの声で目が覚めた。

 

「起きろ、小林」

 

 目を開けると、不敵な笑みの十六夜の姿があった。

 

「なあ、ちょっと死んでみる気はねえか?」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 一方その頃、黒ウサギ達は―――

 黒ウサギ達は、絶望の淵に立たされていた。

 ″ペルセウス″のリーダーはレティシアを″ノーネーム″に戻す代わりに、黒ウサギが″ペルセウス″に入るという取引を持ちかけてきたのだ。もちろん受けられるはずはないのだが、レティシアを取り戻すためにはそれしかない。だが飛鳥も耀も黒ウサギを渡す気などさらさらない。

 

「こんな時に十六夜さんと小林さんが居れば・・・」

 

 十六夜と小林は、数日前に「ちょっと箱庭の世界で遊んでくる」と言って帰ってきていない。″ノーネーム″に愛想をつかしたのだと誰もが思っていた。

 

「ねえ黒ウサギ。さっき話していた、″ペルセウス″の旗印を掛けたゲームっていうのは?」

 

「提示された2つのギフトゲームを乗り越え、その証を示さなければならない、厳しい試練です。いくら十六夜さんや小林さんでも一日二日でクリアできるものでは―――」

 

「ほう。そいつは聞き捨てならねえな」

 

「邪魔するぞ」

 

 瞬間、ドアが外側から吹っ飛んだ。そこには不適な笑みを浮かべている十六夜と、真顔でドアを吹き飛ばした小林が居た。二人とも脇に大風呂敷を抱えている。黒ウサギは驚いて声を上げる。

 

「い、十六夜さん、小林さん!今まで何処に、って破壊せずに入れないのでございますか貴方達は!?」

 

「そんな事より、戦利品だ」

 

「よかったな。これでオマエが″ペルセウス″に行く必要はないぜ」

 

 そう言って脇に抱えていた大風呂敷を地面に置いた。黒ウサギが驚く。

 

「まさか・・・あの短時間で?」

 

「ああ。まあ、ゲームそのものよりも時間との戦いが問題だったけどな。間に合ってよかった」

 

「十六夜に騙されてついて行った僕が馬鹿だった」

 

 小林が悔しそうに語る。

そう、二人は今しがた黒ウサギが話していた二つの難関試練に挑んでいたのである。結果は圧勝。むしろ移動時間の方が長かったくらいだ。

 全員の顔を見回した黒ウサギは、高らかに宣言する。

 

「ペルセウスに宣戦布告します。我らの同士・レティシア様を取り返しましょう」

 




次回 ノーネームvsペルセウス!!


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小林が星霊を叩きのめすそうですよ?

すいません。風邪を引いているので所々文章がおかしいです。治ったら直すので文章がおかしくても怒らないでください。


″契約書類″文面

 

『ギフトゲーム名″FAIRYTALE in PERSEUS″

 

 プレイヤー一覧 逆廻 十六夜

         久遠 飛鳥

         春日部 耀

         小林 芳雄

″ノーネーム″ゲームマスター ジン=ラッセル

″ペルセウス″ゲームマスター ルイオス=ペルセウス

 

・クリア条件 ホスト側のゲームマスターを打倒

・敗北条件  プレイヤー側のゲームマスターによる降伏。

       プレイヤー側のゲームマスターの失格

       プレイヤー側が上記の勝利条件を満たせなくなった場合。

 

・舞台詳細・ルール

 *ホスト側のゲームマスターは本拠・白亜の宮殿の最奥から出てはならない。

 *ホスト側の参加者は最奥に入ってはいけない。

 *プレイヤー達はホスト側の(ゲームマスターを除く)人間に姿を見られてはいけない。

 *姿を見られたプレイヤー達は失格となり、ゲームマスターへの挑戦資格を失う。

 *失格となったプレイヤーは挑戦資格を失うだけでゲームを続行する事はできる。

 

 宣誓 上記を尊重し、誇りと御旗の下、″ノーネーム″はギフトゲームに参加します。

                                ″ペルセウス″印』

 

「姿を見られれば失格、か。つまりペルセウスを暗殺しろってことか?」

 

 十六夜の呟きにジンが応える。

 

「それならルイオスも伝承に倣って睡眠中だという事になりますよ。流石にそこまで甘くはないと思いますが」

 

「YES。そのルイオスは最奥で待ち構えているはずデス。それにまずは宮殿の攻略が先でございます。伝説のペルセウスと違い、黒ウサギ達はハデスのギフトを持っておりません。不可視のギフトを持たない黒ウサギ達には綿密な作戦が必要です」

 

「おい黒ウサギ、不可視のギフトってこれの事か?」

 

 小林がポケットからバッジのような物を出して胸に着ける。その瞬間、小林の姿が消えた。

 

「こ、小林さん!?」

 

 黒ウサギが驚く。小林は胸からバッジを外した。小林の姿が見えるようになる。

 

「そ、それは三桁のコミュニティが常時開催しているゲームの賞品の″盲点星″!!このギフトを着けていれば相手の盲点に入ります。確かに、不可視のギフトとは少し違いますが相手から見えなくなることは間違いありません!小林さん、どうやってクリアしたんですか!?」

 

「知らん。白夜叉が紹介してくれたギフトゲームをクリアしたら、何かもらった」

 

「おい黒ウサギ。で、作戦はどうするんだ?」

 

「見つかった者はゲームマスターへの挑戦資格を失ってしまう。同じく私達のゲームマスター  ―――ジン君が最奥にたどり着けずに失格の場合、プレイヤー側の敗北。なら大きく分けて三つの役割分担が必要になるわ」

 

 飛鳥の隣で耀が頷く。

 

「うん。まず、ジン君と一緒にゲームマスターを倒す役割。次に索敵、見えない敵を感知して撃退する役割。最後に、失格覚悟で囮と露払いをする役割」

 

「春日部は鼻が利く。耳も目もいい。不可視の敵は任せるぜ」

 

 十六夜の提案に黒ウサギが続く。

 

「黒ウサギは審判としてしかゲームに参加することができません。ですからゲームマスターを倒す役割は、十六夜さんと小林さんにお願いします」

 

「あら、じゃあ私は囮と露払いなのかしら?」

 

 飛鳥が不満そうな声を漏らす。

 

「悪いなお嬢様。俺も譲ってやりたいのは山々だけど、勝負は勝たなきゃ意味がない。あの野郎の相手はどう考えても俺と小林が適してる」

 

「そうね。でも十六夜君はまだしも何で小林君まで?十六夜君一人で十分でしょう?」

 

「攻撃の余波で死ぬかもしれないだろ。相手は隷属させた元・魔王様なんだからな」

 

 十六夜の言葉に黒ウサギが驚く。

 

「い、十六夜さん何処でそれを!?」

 

「何、ペルセウスの伝承を知ってたら簡単に分かる事だ。さ、行こうぜ」

 

 そう言って十六夜は白亜の宮殿の門を蹴り破った。

 

「さ、死にに行こうぜ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「居たぞ、″名無し″の娘だ。人質にして残りを炙り出せ!」

 

「小林君、右から来るわ。まとめて吹き飛ばしてくれる?」

 

「了解」

 

 飛鳥の指示に、盲点のギフトを着けた小林が兵士達に襲い掛かった。

 

「な、何だ!?」

 

「まずい、″名無し″の敵だ!」

 

 小林の″TRICKSTAR″が兵士達を薙ぎ払う。

 

「ありがとう、小林君。もう行っていいわよ」

 

「分かった」

 

 飛鳥は一人では心細いらしく、小林に「自分と一緒にある程度戦ってから行ってほしい」と頼んだのだ。

 

「小林君、後は任せたわよ!あの外道を倒してきなさい!」

 

 飛鳥の声を背に、小林は最奥部に向かった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 小林が白亜の宮殿の最奥部である闘技場に着くと、そこでは丁度、十六夜とルイオスが話し合っていた。

 小林は″盲点星″を外す。小林の姿が見えるようになる。

 

「もう一人、ゴミが紛れ込んでいたか。まあいい、全員まとめて始末してやる!」

 

 ルイオスが飛翔し、ギフトカードを取り出した。

 

「目覚めろ―――″アルゴールの魔王″!!」

 

 瞬間、白亜の宮殿に共鳴するかのような甲高い女の声が響き渡った。

 

「ra、GYAAAAaaaaaa!!」

 

「何だ?」

 

 小林が上を見上げると、そこには灰色の髪の女が居た。身体中に拘束具と捕縛用のベルトを巻いており、女性とは思えない乱れた髪を逆立てて叫び続ける。女は全身を高速するベルトを引き千切り、半身を反らせて更なる絶叫を上げた。黒ウサギがウサ耳を塞いでいる。

 

「ra、GYAAAAaaaaaaaa!!」

 

「な、なんて絶叫を」

 

「避けろ、黒ウサギ!!」

 

 十六夜が黒ウサギとジンを抱きかかえて跳び退いた。直後、空から巨大な岩塊が山のように落下して来た。小林の″TRICKSTAR″が、それらを全て吹き飛ばす。

 それを見てルイオスが嘲笑めいた笑みを浮かべた。

 

「空を飛べない人間は不便だよねえ。落下してくる雲も避けられないんだから

 

「確かにな」

 

 小林が冷静に返す。その時、小林の能力によって弾かれた岩塊が、闘技場に落下する。その衝撃で闘技場が揺れた。揺れを感じながら、小林はジンに言う。

 

「おい、チビ」

 

「ち、チビ!?」

 

 ジンが素っ頓狂な声を上げる。

 

「十六夜がそう呼べって言った。そんな事より、どうするんだ?そのレティシアって奴が居れば、魔王に勝てるんだろう?」

 

「そ、それは・・・・」

 

 ジンの顔が暗くなった。が、すぐに真顔になると、闘技場全体に響き渡る声で言った。

 

「小林さん、十六夜さん。僕らにはまだ貴方がたが居ます。―――貴方達の実力、この晴れ舞台で僕達に証明してください」

 

 その言葉に、十六夜が不敵な笑みを浮かべる。

 

「OK。よく見てな御チビ」

 

 そして、小林の方を向き、小林に言う。

 

「おい小林、死にたいんだろ?だったら全力で戦おうぜ!!」

 

「こんな雑魚で、僕は死ねるのか?」

 

 小林が十六夜に聞く。十六夜は返事をしようとしたが、アルゴールの咆哮に遮られる。

 

「ra、GYAAAAaaaaaaa!!」

 

「さあ、来いよ元・魔王様」

 

 その言葉に、アルゴールだけでなくルイオスまで激怒した。

 

「″名無し″風情が、調子に乗るな!」

 

 ルイオスが炎の弓を引く。

飛んできた炎の矢を、小林の″TRICKSTAR″が弾き飛ばす。

 

「チッ、うちのクラーケンを倒すだけの実力はあるって事か!」

 

言いながらルイオスは炎の弓を仕舞う。代わりにギフトカードから取り出したのは″星霊殺し″のギフトを新たに付与された鎌のギフト・ハルパー。

 

「押さえつけろ、アルゴール!!」

 

「ra、GYAAAA!!」

 

アルゴールが十六夜に向かって両腕を振り下ろす。それを十六夜は真正面から受け止めた。どうやら星霊と力比べをするつもりらしい。

 

「小林、俺はコイツと戦うから、お前はゲームマスターを頼む!!」

 

「分かった」

 

「図に乗るな!」

 

ルイオスが小林の後ろに回って襲い掛かった。

 

「お前がな」

 

小林の″TRICKSTAR″がハルパーを切り裂いた。

 

「な、何だと!?」

 

驚いているルイオスの靴を、小林の能力が切り裂く。

 

「な、何!?」

 

「いいぞ、小林!!」

 

そう声を上げる十六夜は既にアルゴールをねじ伏せていた。

 

「き、貴様ら、一体どんなギフトを所持しているんだ?」

 

「″TRICKSTAR″小林芳雄」

 

「″正体不明″逆廻十六夜だ。―――ん、悪いな。これじゃ分からないか」

 

余裕を見せる十六夜の背中を見てジンは慌てた。

 

「い、今のうちにトドメを!石化のギフトを使わせては駄目です!」

 

 そう、アルゴールの本領は、身体能力とは別の所にある。

世界を石化させるほどの強大な呪いの光こそ、彼女の本領なのだ。

だが自分の力でねじ伏せたいルイオスは、更に正面対決を望んだ。

 

「アルゴール!!!本気を出せ、宮殿の悪魔化を許可する!!!」

 

 瞬間、白亜の宮殿が黒く染まり、壁が生き物のように脈打った。どうやらこれが″悪魔化″らしい。

 

「もう生きて帰さないッ!この宮殿はアルゴールの力で生まれた新たな怪物だ!貴様らにはもはや足場一つ残されていない!このギフトゲームの舞台に、貴様らの逃げ場はないものと知れッ!!!」

 

 柱の一つが、小林を襲う。柱が直撃する寸前、小林は呟いた。

 

「そうか。つまり、この宮殿ごと壊せばいいんだな?」

 

 瞬間、小林の身体から展開した″TRICKSTAR″が、宮殿を破壊し始める。落ちて来る柱も、宮殿の床も、全てが砕けて行く。

 そこに十六夜が加勢した。

 

「ど、せいッ!」

 

 十六夜の拳と小林の能力によって、宮殿が倒壊していく。ルイオスは驚くが、すぐに気を取り直すとアルゴールに命令した。

 

「もういい、奴に永遠の地獄を見せてやれ、アルゴール!!」

 

 アルゴールの口から、褐色色の光が放たれる。これこそが、世界の全てを石化できるギフト。その力が、小林に襲いかかる。

 

 だが―――

 

「何だ、これ」

 

 ″TRICKSTAR″の能力が発動し、石化のギフトを弾き飛ばす。弾いた先には、十六夜が居る。飛んできた光を十六夜は――

 

「カッ、しゃらくせえ!!」

 

 踏み潰した。

 

「え・・・?」

 

 驚いているルイオスを尻目に、十六夜と小林がアルゴールに突撃する。

 十六夜の拳と小林の能力で、アルゴールは吹き飛び、壁にめり込んだ。

 

「これで僕らの勝ちだ。おいルイルイ、約束通り旗はもらうぞ」

 

 小林の言葉に、ルイオスが驚く。

 

「おい、お前らが欲しいのはそこの元・仲間じゃなかったのか!?」

 

「そんな物はどうでもいい。僕を殺せない奴は居ても無駄だ。そんな事より、旗を手に入れたら次はお前達の名前を貰う。そうして名と旗印を手に入れればまた魔王が現れる。そして戦えば僕は死ねるかもしれない」

 

 そのかろうじて筋の通っている理論に小林と十六夜以外の全員が絶句する。そこに十六夜が畳みかける。

 

「それが嫌なら、来いよ。小林を殺して、俺を楽しませろ」

 

 その言葉を聞いたルイオスは立ち上がり、小林に殴りかかる。

 

「う、うおおおおお!!」

 

 小林の″TRICKSTAR″が、小林の身体を包む。

 

 

 

 

 

 

 

 ―ノーネーム 本拠―

 

 レティシアの石化を解いた瞬間、事件は起きた。

 レティシアの石化が解けた瞬間、十六夜、飛鳥、耀の三人は声をそろえて

 

「「「じゃあこれからよろしく、メイドさん」」」

 

「え?」

 

「え?じゃないわよ。だって今回のゲームで活躍したのって私達だけじゃない?貴方達はホントにくっ付いてきただけだったもの」

 

「うん。私なんて力いっぱい殴られたし、石になったし」

 

「つーか挑戦権持って来たの俺らだろ。所有権は俺達で等分、2:2:3:3でもう話は付いた!」

 

「何を言っちゃってんでございますかこの人達!?」

 

 驚いている黒ウサギを無視して、小林はレティシアの近くに行った。

 

「おい」

 

「ん、どうした?」

 

 不思議そうなレティシアに、小林はあらかじめ十六夜から言われていた言葉を言った。

 

「お前の悲しみは、僕が背負ってやる。お前の苦しみも、僕が背負ってやる。だから、僕と共に来い。お前の苦難は全部、この僕が背負ってやる」

 

 数秒の間、静寂が流れる。

 

「小林殿、今のはプロポーズという事でいいのか?」

 

「ちょっと小林君、どういう事よ!?答えなさい」

 

「?こうすればレティシアの分まで戦うから、死ねる確立が高くなるって十六夜が・・・」

 

「十六夜君、どういう事よ!?」

 

「み、皆さん落ち着いて!落ち着くのですよーー!」

 

″ノーネーム″がまた一段と騒がしくなった。 

 

 




テストがあるので二月半ばまで休止します。
次回から新章突入です!


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小林がレティシアとデートをするそうですよ?

すみません。前回第二章と言ったのですが、今回はオリジナルです。


ー箱庭二一0五三八0外門・内壁にて

 

 小林はレティシアと噴水広場を歩いていた。

 

「主殿、そこの店に寄らないか?」

 

「僕は別にいい」

 

「そうか。それは残念だ。この店は肉が旨いと有名な店なのだが」

 

「・・・少しだけなら」

 

「では行こうか、主殿。これはデートなのだから、楽しまないと」

 

 そう、小林は現在、レティシアとデート中だ。

 

 

 

 

 

 

 -事の発端は今から一時間前の事-

 

 小林は屋上で大の字になって空を見上げていた。すると、後ろから声をかけられた。

 

「主殿、これからデートをしないか?」

 

 振り替えるとレティシアだった。小林は聞く。

 

「何だ、デートって」

 

「男と女が一緒に出かける事だ」

 

「僕は別にいい。というか、なんで僕なんだ?」

 

 するとレティシアは、微かに頬を赤らめて言った。

 

「何を今更。あんなに情熱的な告白をしておいてそれはないだろう、主殿」

 

「だ、だからあれは十六夜に騙されただけで」

 

「大丈夫だ、分かっているぞ主殿。恥ずかしい気持ちは十分に分かる」

 

 全然分かっていなかった。

 

 

 

 その後色々あって今に至る。

 小林は目の前の『2トン肉』と呼ばれる肉を歯で食い千切る。レティシアも言っていた通り、この店の肉は旨い。ただし、量が多い。

 

「美味しいか、主殿」

 

「ああ、旨い。けど僕はもう腹一杯だ」

 

 そう言って小林は食べかけの肉をレティシアに渡した。レティシアは一瞬顔を赤くしたが、「ありがとう」と言い小林の食べかけの肉にかじりついた。

 

「行くぞ」

 

 レティシアが食べ終わり、二人して満腹になった頃、小林が言った。

 店を出ると、噴水の近くに人だかりが出来ていた。

 

「何かあったのだろうか。行ってみようか、主殿」

 

 そう言ってレティシアが手を差し出してくる。だが小林はその手を取らず、人だかりに一言「退け」と言った。その気迫に人だかりが左右に分かれる。

 

「行くぞ」

 

「あ、ああ」

 

 慌てて返事をして小林の後を追う。だがその顔は先ほどとは違い暗い。

 

(主殿は私と手を繋ぎたくないのだろうか)

 もしもそうなら悲しい。小林達に救ってもらった恩義は忘れられるものではない。それに、

 

(あの言葉、嬉しかった)

 

 旧“ノーネーム”が魔王とのギフトゲームに負けて以来、レティシアはずっと道具扱いだった。それこそ、悲しみをこらえなければならないほどに。

 だが、小林が言った、あの言葉。

 

『お前の悲しみは、僕が背負ってやる。お前の苦しみも、僕が背負ってやる。だから、僕と共に来い。お前の苦難は全部、この僕が背負ってやる』

 

 もちろん、十六夜が考えた言葉だと言うことは分かっている。だが、そんなことはどうでもいいほど、レティシアには嬉しかった。

 

「ッ!!」

 

 突然壁のような物にぶつかり、尻餅をつく。見上げると、そこにあったのは壁ではなく、小林の背中だった。

 

(じゃあ私は今何にぶつかったんだ?)

 

「おい兄ちゃん。誰に喧嘩売ってるかわかってんのか、おい」

 

「そうとも。俺たちの喧嘩を止めるなんて、いい度胸してんじゃねえか」

 

 見ると、小林は二人の男に絡まれていた。どうやら人だかりの正体は、この喧嘩だったようだ。

 

「ッ! まずい!」

 

 レティシアは小林をかばうように前に出る。彼らはおそらく人化の術を使った巨人族だ。だがそれでもなお、力も体格も小林やレティシアの倍以上だ。もし一撃でも食らえば小林の体はバラバラになるだろう。

 

「あ、なんだ姉ちゃん。こいつの付き人か?」

 

「テメエどこのコミュニティだ、名乗れよ」

 

 男に聞かれ、レティシアは悔しそうに答える。

 

「ジン=ラッセル率いる“ノーネーム”」

 

 それを聞くと、男は馬鹿にしたように笑った。

 

「おい聞いたか?“名無し”風情が、俺ら巨人族に喧嘩を売るみたいだぜ!」

 

 それを聞いた野次馬が笑った。嘲笑に耐えきれなくなったレティシアが小林に言う。

 

「行こう、主殿」

 

 だがその行く手を巨人族のもう一人の男が阻む。

 

「逃がすと思ってんのか?こいつは、俺らに喧嘩を売ったんだぜ?」

 

「それについては謝罪しよう。だから今回の事は水に流してくれないか」

 

「嫌だね」

 

 巨人族の男はそう言うと、野次馬に聞こえるようにわざと大声で言った。

 

「おいお前ら!こいつら俺らに喧嘩を売るだけ売っといて逃げるつもりだぜ!」

 

 野次馬はすぐに反応した。

 

「逃げんな名無し!」

 

「名無しに巨人族の強さを教えてやれ!」

 

「そうだそうだ!」

 

 レティシアは唇を噛んだ。こうなった以上、もう逃げられない。だがこのまま小林と巨人族を戦わせれば小林は死ぬ。それだけは絶対に嫌だ。

 

「戦う準備は出来たか、名無しの兄ちゃん」

 

 巨人族の男が拳を構える。

 

「待ってくれ!その勝負、私が受ける!だから・・・・」

 

「おい待て、姉ちゃん」

 

 小林に向かって飛び出そうとしたレティシアを、巨人族のもう一人の男が押さえつける。

 

「いいか、この喧嘩は兄ちゃんが売った。従者だかなんだか知らねえが、手を出すのは無粋ってもんだ」

 

「だ、だが・・・」

 

「ほら、そろそろ始めるぜ。目開けてよく見てな」

 

 巨人の男が拳を振りかぶる。小林は身動きひとつしない。

 

「待ってくれ!私がやる!私がやるから、主殿を助けてくれ!」

 

 レティシアはほとんど半狂乱になって叫んだ。だがその言葉も虚しく、男の拳が小林に向かっていく。

 だが、その拳が小林に突き刺さるその瞬間。

 靄のようなものが吹き荒れたかと思うと、男の右肘から先が、切断された。

 

「は・・・?」

 

 レティシアが疑問の声をあげるのと、切断された男の右腕が地面に落ちるのは、ほぼ同時だった。

 

「があああああああああ!俺の、俺の右腕があ!」

 

 絶叫する巨人族の男に、小林は歩み寄る。

 

「そんなに死にたいのなら教えてやる。格の違いってやつをな」

 

「ひいいいいいいいいっ!」

 

「今回の事は水に流してやる。だから代わりに、有り金全部置いていけ」

 

 その言葉は小林らしくなく、小林の声とは思えないほど冷え冷えとしていた。

 

「分かった、分かったから!許してくれ!いや、許してください!」

 

 巨人族の男は土下座した。

 

 

 

 

 

「なるほど。やはりあの言葉は十六夜殿が考えた言葉だったか」

 

「喧嘩を売られたらこう言えって言われた」

 

「しかしすごかったぞ主殿。さすが主殿だな」

 

 そう言ってレティシアは一呼吸つき、

 

「こんな日常がずっと続くといいな・・・」

 

 と呟いた。

 

「僕もだ」

 

「えっ」

 

「こんな日が時々あってもいい」

 

「主殿・・・」

 

 レティシアが呟いた瞬間、持っていた槍が小林の腕に当たった。

 先ほど小林に聞いた話では小林のギフトで槍が破壊されるはずだ。だが、

 

 シュッ!

 

 短い音がして、小林の腕が浅く切り裂かれた。

 

「「え・・・」」 

 

 二人の声が重なった。

 今の状況から分かる事は一つ。

 

 小林のギフトが、効かなかった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




文章力が低くて申し訳ございません。パソコンが復活次第直しますのでご容赦ください。


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問題児たちと不死身の少年が火龍誕生祭に行くそうですよ?
小林が死ぬために動き始めたそうですよ?


 ものすごく間が空いて申し訳ございませんでした。
 久し振りに書いたので所々文章がおかしくなってるかもしれませんが、温かい目で見守ってください。


「・・・林さん。起きてください小林さん!」

 

 近くで誰かが叫んでいる。でも無視した。

 

「本当は起きてるんでしょう!?起きてください小林さん!」

 

 無視した。

 

「小林さんがその気なら、こちらにも考えがあるのですよ!」

 

 無視した。何かが飛んでくる音がしたが、無視した。

 

「主殿。いい加減起きて貰えないだろうか」

 

 レティシアの言葉に、小林は起き上がった。溶鉱炉の中から。

 

「何の用だ、駄ウサギにレティシア」

 

「だ、駄ウサギ!?この″箱庭の貴族″である黒ウサギを、駄ウサギ呼ばわりするとは何ですか!?」

 

 怒った黒ウサギが小林に詰め寄る。だが溶鉱炉の熱気に耐えかねたのだろう。すぐに元の場所に戻った。

 

 何故小林が溶鉱炉で寝ているのか。事の発端は、二日前の出来事にある。

 

――二日前――

 

「なあ、黒ウサギ」

 

「はいな、何でございましょう?」

 

「僕はどうやったら死ねる?」

 

「そ、それは難しい質問ですね。小林さんはどうしたらご自分が死ねると思いますか?」

 

「知らん。だから聞いてるんだ」

 

「そ、そうですよね」

 

「毎日白夜叉の紹介でギフトゲームを受けてるけど全然死ねないぞ。強い相手と戦えば僕は死ねるんじゃなかったのか?」

 

「え、ええと、それはですね・・・。あ、そうだ!小林さん、寝ている間ギフトはどうなっているんですか?」

 

「さあな。知らん」

 

「で、ですよね・・・。ま、まあとりあえず駄目元でやってみましょう。ひょっとすると小林さんが寝ている間、ギフトは切れているかもしれませんよ?」

 

「分かった。じゃあ早速今日からやろう」

 

「分かりました。ではまず、この前小林さんがギフトゲームの賞品としてもらってきた″溶鉱炉″というのに入って寝てみるのはどうでしょう?」

 

「あれか。あれで死ねるのか?」

 

「元々中に入っていたあの熱い液体に、業火の恩恵を持ったギフトを入れておきましょう。そうすれば小林さんでも死ぬかもしれませんよ?」

 

「分かった。僕は今日からあの中で寝ればいいんだな」

 

「まずは一週間様子を見ましょう。それで駄目なら、別の方法を考えましょう」

 

――そして今に至る。当然、小林は死んでいない。

 

「落ち着け黒ウサギ。主殿も、それ以上煽るのはやめてあげよう。黒ウサギが可哀想だ」

 

「そうだな。それで、何の用だ」

 

「そ、そうでした。実は、あの問題児様方がこんな置手紙を残していったのデス」

 

 その時の事を思い出したのか、黒ウサギが悔しそうに小林に向かって手紙を投げつける。飛んできた手紙は小林に当たる寸前、切断されて溶鉱炉に落ちた。

 

「ああッ!」

 

「駄ウサギ、お前馬鹿なのか?」

 

「黒ウサギには悪いが、私も今回は主殿と同じ意見だ」

 

「ひ、酷いですレティシア様・・・」

 

 泣き崩れる黒ウサギをよそ目に、小林はレティシアに聞く。

 

「で、何の用なんだ?」

 

「ああ、実は主殿たちが北で行われる″火龍誕生祭″に行ってしまってな。そして祭りを黙っていた罰として今日中に主殿たちを捕まえられなければ三人ともコミュニティを脱退すると言っているんだ。」

 

 相当焦っていたのだろう。少し説明力に欠けたレティシアの言葉に小林は驚くが、すぐに重大な事態に気が付いた。

 十六夜たち三人は強力なギフト保持者だ。その三人が抜けてしまえばコミュニティは衰退する。それは別に構わないのだが、そんな衰退したコミュニティを狙う魔王がどこに居るだろうか。

 

「すぐに十六夜たちの元に向かうぞ、黒ウサギ」

 

 小林は泣き崩れている黒ウサギに声を掛けた。黒ウサギの速度は一度見た事がある。十六夜たちに追いつける可能性が一番高いのは黒ウサギだろう。

 

「へ?は、はい分かったのですよ。では黒ウサギは先に十六夜さんたちの所に向かっておきます」

 

 言うが早いか、黒ウサギは凄まじい跳躍力で飛び立っていった。その姿を目で追いながら、レティシアは小林の方に向き直る。

 

「さて、私達も行こうか、主殿」

 

 しかし小林は、きょろきょろと辺りを見回し、

 

「いや、先に行け。何か変な感じがする」

 

「そうか?なら私も一緒にここで待機していた方がいいのではないか?」

 

 レティシアの言葉に、小林は首を振る。

 

「僕のギフトは周りを巻き込む。いいから先に行け」

 

「分かった。多分大丈夫だと思うが、気を付けて」

 

 そう言うと、レティシアは翼を顕現させ、飛び立っていった。その姿が見えなくなった事を確認すると、小林は後ろを振り返った。

 

「誰だ」

 

「おや、気づいていたのか。流石、″無傷の帝王″だな」

 

 するとどこから現れたのか、褐色色の女が立っていた。肌を大胆に露出させており、二本のツノのような物が生えている。

 

「もう一度聞く。誰だ」

 

「ああ、これは失礼。自己紹介が遅れた。私は″一本角″頭首、サラ=ドルトレイク。

 以後お見知りおきを。″無傷の帝王″」

 

「サラっていうのか。僕は小林。で、何の用だ?」

 

 小林が聞くと、サラは軽く微笑んだ。

 

「君と同盟を組みたいと思ってね、小林君」

 

「は?」

 

「以前から君の噂は聞いているよ、小林君。″ペルセウス″の元魔王を倒し、さらにその後のギフトゲームも連戦連勝。神仏と戦っても傷一つつかないその無双ぶりは、まさに″無傷の帝王″。そんな君と、同盟を組みたいと思ってね」

 

 突然まくしたてるサラに小林は混乱する。

 

「そんな物、いきなり言われて分かるわけないだろ」

 

「確かにそうだな。では、火龍誕生祭が終わるまでに返事をくれ。我々と同盟を組めば、

・・・君は死ねるかもしれんぞ」

 

 そう言い残すと、サラは小林に向かって火球を放った。″TRICKSTAR″の能力で霧散させるものの、一瞬視界が塞がれる。視界が開けた時、サラの姿は見当たらなかった。

 

「何なんだ、あいつ」

 

 小林はつまらなそうに言うと、とりあえず″サウザンドアイズ″に向かうことにした。

 




すみません。問題児と黒ウサギの鬼ごっこを書くかは分かりませんが、書いたとしても小林は鬼です。(黒ウサギが小林に触れる事が出来ないので)


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小林が″火竜誕生祭″に行くそうですよ?

 また一か月近く開けてしまい、非常に申し訳ございません!
 このペースが限界かも・・・


小林は、″サウザンドアイズ″に向かった。

 

「おや、また貴方でしたか」

 

 小林を見て、女性店員が迷惑そうな顔をする。

 

「白夜叉に会いたい。白夜叉は居るか?」

 

 白夜叉ほどの実力者ならば、北側に連れていってくれるだろう。北までの距離はどれくらいか知らないが、歩くのは面倒くさい。小林はそう考えた。

 

「現在白夜叉様はいません。どうやら″ノーネーム″の皆さまを連れて、北側に向かってしまったようです」

 

「お前は行かないのか?」

 

「私はこの店を守るのが仕事ですから。むしろ白夜叉様が居ない今だからこそ、この店を守らなければ」

 

「そうか。分かった」

 

 言いながら小林は店の中に入る。

 

「だから、うちの店は″ノーネーム″お断りで」

 

「うるさい」

 

 店員の言葉を容赦なく切り捨てた小林に怒ったのだろう。店員が竹箒を構える。だが小林に攻撃が効かない事を思い出し、構えを解く。

 

「何がしたいか知りませんが、好きにしてください。貴方は白夜叉様のお気に入りみたいですし、どうにかなるでしょう」

 

 その言葉を聞き逃し、小林は店に展示されていた商品を手に取った。薄い板のような物で、中心に星が描かれている。何かの儀式に使えそうだ。

 

「これは何だ?」

 

「ああ、転移陣ですね。これを使えば好きな場所に転移できる代物なのですが・・・・一度しか使えない上に、場所は選択できても細かい位置までは選べないという、三流のギフトです」

 

「これを使って、十六夜たちの所まで行けるか?」

 

 小林が聞くと、店員は溜息を吐いた。

 

「行けますよ、一応。ああもう、好きにして下さい。私は責任を取りませんから」

 

「分かった」

 

 小林は転移陣を足元に置いた。瞬間、赤い光が展開し小林と店員を包み込む。

 

「え?」

 

 店員が間抜けな声を出した瞬間、小林と店員は転移した。

 

 

 小林と店員は、確かに転移した。

 

 黒ウサギの真上に。小林の″TRICKSTAR″の能力で、黒ウサギが吹き飛ばされる。

 

「な、何事ですかーー!」

 

「今だ、逃げるぞお嬢様!」

 

「分かったわ、十六夜君!」

 

 どうやら二人は黒ウサギから逃げていたらしい。二人が逃亡する。

 

「ようやく来たか主殿、十六夜と飛鳥を追うぞ!」

 

 十六夜と飛鳥を追いかけてきたと思われるレティシアが、小林に叫びながら空から二人を追う。後には、小林と店員が残された。

 

「僕はあいつらを追う。お前はどうする?」

 

「私は北側に繋がった店舗に戻ります。では失礼」

 

 言うなり店員は立ち上がると、小林に背を向けた。

 

「ああ、じゃあな」

 

 小林が言うと、店員は首だけ振り向いて言った。

 

「貴方は怪我をしないでしょうから言わなくてもいいでしょうが、一応。お気を付けて」

 

 そこには、先ほどとは違い、わずかな優しさが込められているような気がした。

 

「ああ、行ってくる」

 

 言うと、小林は走り出した。

 

 

 

 

 小林は人込みが苦手だ。小林の近くに来た人間は怪我を負ってしまうからだ。

 なので裏路地を通らなければならず、捜索は困難を究めた。

 小林が探し始めて約一時間。二人はおろか、レティシアや黒ウサギも見つからない。

 その時、後ろから声を掛けられた。

 

 「おい、お前」

 

 振り向くと、そこには三人のチンピラが居た。

 なぜ見てすぐにチンピラと分かったかと言うと、元居た世界でも同じような服装のチンピラが居たからだ。確かヒデちゃん、とか言ったか。よく覚えていない。

 

「怪我したくなければ大人しく金目の物を出せ」

 

 チンピラの一人が脅すように言ったが、むしろ怪我したい、というか死にたいので、進んでチンピラに向かって歩く。

 

「何だこいつ?死にたいのか?」

 

 だから死にたいのだ。小林はチンピラの前に立った。チンピラの方が身長が高いため、自然と見上げるような形になる。

 

「おいお前、やる気か?」

 

 チンピラの一人が言うと同時、残りの二人が拳を構える。面倒くさいが戦うしかないのか。小林がそう思っていると、チンピラの一人が拳を振りかぶった。

 

「おりゃあ!」

 

 変な掛け声と共に、小林に殴りかかる。だが拳ごときで怪我をするなら小林も苦労はしない。チンピラの右肘から先が切り裂かれる。鮮血と共にチンピラの右腕が地面に落ちる。

 

「う、うわあああああ!」

 

「畜生、何だこいつ!」

 

 残ったチンピラの二人が小林から距離を取り、ナイフを抜く。

 

「死ねえ!」

 

 チンピラの一人が小林にナイフを突き出す。″TRICKSTAR″の能力で、ナイフは切り口と柄できれいに二分される。

 

「く、くそっ!」

 

 チンピラがナイフを構えなおした、その時――

 

「そこまでだ、お前ら!」

 

 何者かが小林とチンピラの間に割り込んだ。ツインテールの髪と白黒のゴシックロリータの派手なフリルのスカートという、変わった格好だ。しかし変わっているのは格好だけではない。

 少女は何故か、火の玉の上に乗っていたのだ。いや、よく見るとそれは巨大なカボチャだ。

 

 少女はビッ、とチンピラに向かって指を突き出し、言う。

 

「おいお前ら、三人で一人を攻撃するなんてどうかしてるんじゃないか?おまけに子供相手にナイフまで使ってさ。お前ら、どこのコミュニティだ?この″ウィル・オ・ウィスプ″が成敗してやる!」

 

 十六夜が聞いたら大爆笑しそうだな、と思いながら小林は少女を見た。チンピラたちはしばらくポカン、としていたが、我に返ると腹を抱えて大爆笑した。

 

「はは、『成敗してやる』だって!今時誰も言わねえよ!」

 

「お前も災難だな。こんな奴に助けられて!」

 

 チンピラに爆笑されて、少女の頬が真っ赤になる。少女が叫ぶ。

 

「やっちまえ、ジャックさん!」

 

「分かりました、アーシャ」

 

 カボチャが返事をすると同時、ランタンから業火が迸る。業火は四方八方に広がり、裏路地を包み込む。あっという間にチンピラは飲み込まれ、小林にも業火が迫って来る。

″TRICKSTAR″の能力が、小林を守る。今回ばかりは小林もこの能力に感謝した。流石にカボチャの放った炎で死ぬのは御免だ。

 

「よっしゃー全部焼き払ったぜチクショウ!あれ、あの子は?」

 

「私の炎で焼き尽くされてしまったでしょう。流石にあの攻撃を喰らって生きているはずが―――」

 

「生きてるぞ」

 

 焦った声で言うカボチャの言葉を遮り、小林は声を掛けた。ツインテールの少女が驚いたように言う。

 

「お、おい。なんで、ジャックさんの攻撃を受けて耐えてるんだ?」

 

「こんな攻撃で死ねるなら僕はとっくに死んでる」

 

 小林が言うと、少女が息を飲んだ。どうやら小林の能力について検討がついたようだ。その時、カボチャが何かに気が付いたように言う。

 

「私の攻撃を喰らっても無傷、私達が来たとき足元に落ちていた右腕、そしてこの気配、まさか貴方、″無傷の帝王″では?」

 

「さあな。そんな奴僕は知らない」

 

 確かに、小林は本当に知らない。″無傷の帝王″という通称を小林本人は知らないし、サラがそれらしい言葉を言っていた気もするが、よく覚えていない。

 

「なあジャックさん。″無傷の帝王″って何だ?」

 

「文字通り、どんな攻撃をくらっても無傷でいる、最強のギフトを持っている者の事ですよ。

失礼ですが貴方、所属コミュニティは?」

 

「ノーネームだが」

 

 小林はぶっきらぼうに答えた。さっさと十六夜たちに合流したい。

 

「私達は″ウィル・オ・ウィスプ″と言います。名前だけでも覚えておいていただければ光栄です。機会があればぜひ私達のコミュニティを見に来てください」

 

 突然態度が変わるカボチャを不思議に思いながらも、小林は「分かった」と返事をした。

 

「貴方も早くここから出た方がいい。もうすぐ異変に気が付いた″サラマンドラ″のコミュニティが来てしまいます。では失礼」

 

 言うなりカボチャはツインテールの少女を抱えると、飛び立って行った。小林はそれを見ながら首を傾げた。

 

「何でサラとかいう奴といい、カボチャといい、なんで僕を自分のコミュニティに呼ぼうとするんだ?」

 




 次回、今度こそ本当に鬼ごっこ!


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小林が鬼ごっこをするそうですよ?

4カ月も開けてしまい、本当に申し訳ございませんでした!


「おい、飛鳥」

 

「悪いけど、その頼みは受けかねるわね」

 

 小林は飛鳥を追いかけていた。

 あの後、小林は飛鳥を再び発見。そして追跡している訳だが、やはり人込みを避けなければならず、どうしてもペースが悪い。

 

「おい、だから待て」

 

「嫌よ。だって捕まったらお仕置き確定じゃない!」

 

 飛鳥が金切り声を上げる。小林は、更に走る速度を上げる。

 

「まずい、このままじゃ・・・・」

 

 十六夜のような超人とは違い、飛鳥は只の人間並みのスピードしか出せない。このままでは、いつか追いつかれてしまうだろう。

 

「そうだわ、こうすれば・・・・」

 

 飛鳥は近くの店にあった商品を掴むと、小林に向かって叫んだ。

 

「小林君! 食べ物が欲しければ、止まりなさい!」

 

 飛鳥の言葉に、小林の身体がぴたりと停止する。とはいえ、それは飛鳥のギフトによるものではない。

 

 食べ物、という言葉に反応したのだ。

 そもそも、小林は飛鳥が逃げるから追いかけていただけで、捕まえる気は毛頭なかった。飛鳥が黒ウサギの放った刺客と勝手に勘違いしていただけだ。

 

「分かった。止まるから、早くくれ。僕は走り過ぎて腹が減った」

 

 小林のブレのない台詞に、飛鳥が微笑む。

 

「それでこそ小林君ね」

 

――――数分後

 

 小林と飛鳥は、並んで歩いていた。

 小林の手には、飛鳥に買ってもらったフランクフルトがある。

 

「こんなことの為に、へそくりを持っておいて良かったわ」

 

 美味しそうにフランクフルトを食べる小林に、飛鳥は嬉しそうな顔をする。

 

「そうか」

 

 小林は素っ気ない返事をすると、フランクフルトを食べ終わる。そして、次の食べ物を探そうと辺りをきょろきょろと見回した。

 

「そんなに焦らなくても大丈夫よ。まだ、デートは始まったばかりなのだから」

 

 飛鳥の言葉に、小林は首を捻る。

 

「デート? 何だそれ」

 

 小林の質問に、飛鳥は言葉に詰まる。

 

「え、えっとね、デートっていうのは―――――」

 

 その時、どこからか爆発音が聞こえてきた。音に驚いて小林が上を見あげると、そこには小林と飛鳥に向けて落下してくる瓦礫があった。

 

「チッ!」

 

 小林は舌打ちすると、〝TRICKSTAR″のギフトを発動。瓦礫を切り裂き、無数の破片に返る。だがそれだけではまだ駄目だ。

 

「クソッ!」

 

 小林は一言毒づくと、飛鳥に体当たりした。〝TRICKSTAR″が発動し、飛鳥の身体を吹き飛ばす。

 

「ちょっと、小林君!?」

 

 飛鳥が驚いた声を上げ、10mほど離れた位置に吹き飛ばされる。その瞬間、飛鳥が一秒前まで居た場所に破片が落下する。小林にも破片が降りかかるが、そんな物で怪我が出来るなら苦労はしない。全て〝TRICKSTAR″で文字通り粉砕してやる。

 

「おい、大丈夫か」

 

 瓦礫が収まると、小林は飛鳥に駆け寄った。飛鳥は尻餅をついたのか尻を抑えていたが、やがて顔をしかめながら立ち上がった。

 

「痛た・・・ちょっと小林君、助けてくれたのはありがたいけれど、そういう事なら一言行ってほしかったわ」

 

「間に合わなかったんだから仕方ないだろ。それより―――」

 

 小林が上を向くのにつられて、飛鳥も上を向いた。そこには、崩壊の元凶達が戦っていた。

 

「ヤハハ! 射程距離だぜ、黒ウサギ!」

 

「い、十六夜さん! やりすぎなのデスよ!」

 

 どうやら十六夜と黒ウサギのようだ。何があったかは知らないしどうでもいいが、仲間がこれ以上周りに迷惑をかけるのを見ているわけにもいかない。小林はため息を吐くと、〝TRICKSTAR″に意識を集中させた。小林の体を中心に不可視の風が渦巻き、小林を包み込む。渦がある程度溜まった所で小林は力を解放。圧縮された〝TRICKSTAR″の斬撃が、10メートル以上離れた2人の元へ飛んでいく。

 

「やめろ。迷惑だろ」

 

「「ッ‼」」

 

 十六夜と黒ウサギが同時に気が付き、斬撃を避ける。標的を外した斬撃は壁に激突し、壁を大きく削り取った。

 

「・・・あ」

 

 これでは本末転倒だと思ったが、仕方ない。今はあの2人を止める方が先だ。小林がもう一度〝TRICKSTER″を圧縮しようとした、その時だ。

 

「そこまでだ貴様ら!」

 

 激しい声音が歩廊に響く。十六夜と黒ウサギの周りには炎の龍紋を掲げ、蜥蜴の鱗を肌に持つ集団が集まっていた。皆、十六夜と黒ウサギを険しい目つきで睨んでいる。まあ自業自得だと思い、小林は突然の出来事に呆然としている飛鳥に言う。

 

「おい、逃げるぞ」

 

「えっ?」

 

「だから逃げるんだよ。ここにいると僕たちまでやったことにされる。それに、今回のはあいつらが悪い。あいつらは怒られて当然だ」

 

 そう、今回のは完全に十六夜たちが悪い。そこに小林が巻き込まれる道理などどこにもない。それに彼らと戦っても、死ねない気がする。ならば時間の無駄だ。小林は飛鳥を連れて去ろうと踵を返した、その時だ。

 

「おい、あそこにももう一人共犯者がいるぞ!」

 

 十六夜が叫んだ。その指は小林を指さしている。どうやら小林が死なないのをいい事に、とことん巻き込むつもりらしい。十六夜たちを囲っていた集団から数人が離れ、小林に向かってくる。

 

「おい飛鳥。お前は逃げろ。お前は狙われてない。ここは僕が止めておくから、さっさと逃げろ」

 

「わ、分かったわ!」

 

 小林の言葉に飛鳥は頷くと、逃げ出した。それと同時、小林に槍の穂先が向けられる。

 

「お前も同罪だそうだな、一緒に来てもらおうか」

 

「分かった」

 

 小林は了承した。ここで暴れてもいいが、そんな事をしても意味がないし、死なない事を再認識してしまうだけだろう。それに、コミュニティのメンバーに迷惑はかけたくない。

 

「さあ、来い大罪人」

 

 衛兵に連れられ、小林は歩き出した。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「随分と派手にやったようじゃの、おんしら」

「ああ。ご要望通り祭りを盛り上げてやったぜ」

「胸を張って言わないで下さいこのお馬鹿様!」

 

 スパァーン! と黒ウサギのハリセンが奔る。その後ろでは小林が「僕はやってない」と連呼し、ジンが痛い頭を抱えていた。

 

 三人は連行された後、運営本陣営の謁見の間まで連れて来られたのだ。

 

 白夜叉は必死に笑いを噛み殺しつつ、なるべく真面目な姿勢を見せる。日頃の白夜叉らしからぬ態度に小林は違和感を覚えるが、今はそんな事どうでもよかったので、黙っておくことにした。代わりに、白夜叉に言う。

 

「おい白夜叉。僕はやってない。それに僕は面倒なのが嫌いだ。さっさと話してくれ」

 

「うむ。おんしはそういう人間じゃったの」

 

 白夜叉は何もかも分かっているような顔をすると、蜥蜴のような部下達に命じた。

 

「誰か、そこの白髪の相手をしてやってくれぬか? 奴は面倒な会話が嫌いでの。ただ死ぬことしか眼中にないのだ。少し遊んでやってはくれないか?」

 

 その言葉に反応したのは部下でも十六夜達でもなく、マンドラと呼ばれていた男だった。

 

「死にたいだと⁉ なら今すぐ死なせてやる!」

 

 そしてツカツカと小林の元まで歩み寄ると、剣を抜いた。そのまま、勢いのままに振り下ろす。だがもう分かりすぎている事実だが、小林にその程度の攻撃は通じない。マンドラの剣が根元から切断され、床に落ちる。その様子を、衛兵たちは驚きの表情で、白夜叉たちは白い目で見ていた。

 

「残念じゃったの、マンドラ。まあそれも仕方ない、なにせ奴はこの私ですら傷一つ付けられなかったのだからな」

 

 その言葉に、十六夜と小林を除く全員が驚愕した。

 

「う、嘘ですよね、白夜叉様⁉」

 

「本当だ。私の攻撃は奴に当たるどころか、かすりもしなかった。――――いや、防がれた、と言った方が正確かな。とにかく、私の全力ですら、奴の前では無力化された」

 

「そ、そんな・・・・」

 

 黒ウサギが膝から崩れ落ちる。それを見て小林は思う、どうして自分の仲間の強さが証明されたのに、この女は嘆いているのだろう、と。というか普通に失礼だ。

 

「ま、まさか、そんな事が・・・・・」

 

 ジンも驚愕している。小林は首を捻った。そんなに自分は凄い事をしただろうか? ただ立って白夜叉の攻撃を受けただけだというのに。

 

 そんな中助け船を出してくれたのは、十六夜だった。

 

「おい白夜叉。小林が困ってるぞ。早くこの状況を何とかしろ」

 

 十六夜の一喝に、白夜叉は頷く。そして、もう一度部下達に言った。

 

「これを言った後で言うのもなんだが、誰かそこの白髪の相手をしてやってくれぬか? 奴は面倒な会話が嫌いでの。ただ死ぬことしか眼中にないのだ。少し遊んでやってはくれないか?」

 

 しかし、流石にタイミングが悪すぎた。部下たちは静かに動くと、扉を開けて出て行ってしまった。後の全員(十六夜と白夜叉除く)は未だに驚きが収まっていないのか、文字通り開いた口が塞がっていない。白夜叉はため息を吐いた。

 

「誰かおらんかの? 奴の遊び相手になって、かつ怪我をしない人材が。まあとはいっても、そんなの居るわけ――――いや、待てよ。別に一対一でなくてもいいのか」

 

 そこで白夜叉はバッと顔を上げると、小林の方に向き直った。

 

「おい小林。実はあと十五分後に、闘技場で制限なしのバトルロワイヤルが行われる。本当はおんしらには別の仕事を受ける力を温存してもらうためにあえて言わなかったのだが、おんしだけは別だ。おんしのギフトは基本、防御。いくら使っても疲れることはないからな。どうだ、受けてみるか? 死ねるかもしれない上に、仮に死ななかったとしても報酬が手に入る。おんしにとって損はないが」

 

 確かに、悪くない話だ。小林は頷いた。

 

「分かった。じゃあ行ってくる」

 

「ああ。頑張れよ、小林」

 

 十六夜に見送られ、小林は謁見の間を後にした。

 

  

 



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