-闇霊 剣の騎士シグナム-に侵入されました (からすにこふ2世)
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-闇霊 剣の騎士シグナム-に侵入されました

薪を継がないエンド後、ロードランから逃げ出した名もなき不死人が主人公。モデルは作者の作った筋バサとなります。SLは150くらいと思ってください。
あとシグナムの口調に違和感を感じるかもしれませんが、わざとフロムっぽくしてあります。なんで空飛べるのに地上で戦ってるの? とツッコミも無しで頼みます。


-闇霊 剣の騎士シグナム-に侵入されました

 

不死となり、幾十年が経っただろう。不死院から解放され、成り行きで薪の王グウィンを屠ってから幾年が経っただろう。不死の体を利用して、何度も死にながらロードランから逃げ出してからしばらく。

 

-闇霊 烈火の将シグナムに侵入されました-

 

 

久しく無かった、異世界からの招かれざる客の侵入を知らされる。

アノール・ロンドで手に入れた岩から削り出されたかのような鎧を身に纏い、三人羽織を叩き潰して手に入れた子の仮面を頭に被る。

武器は何年も使い続けている、オーンスタインの槍を右手に。そしてわずかばかりの保険に生命湧きを使う。それから鎧と同じく巨大な岩から削り出された盾を左手に。

指輪を太陽の長子の指輪、緑花の指輪に変えて、戦闘に臨む準備は完了する。

 

「……」

 

私が居るのは、もはや生者の消えた故郷。ここに居た不死の成れの果て、亡者達は私が狩った。邪魔をする者は何もいない。遠慮をして戦う必要はない。

自分が不死となる前……はるか昔、幼い頃に遊んだ広場の地面から立ち上がり、盾と斧を地面に突きたてて黒霊を待つ。

 

「我が名はシグナム。さぞ名のある騎士とお見受けする。早速だが、我が主のため、貴公のリンカーコアを貰い受ける」

 

現れたのは、まさか霊体ではなく生体の女だった。炎のような赤い髪を持ち、よく切れそうな片手剣を真っ直ぐに構えた美しい女性。ロードランで顔を見た女性といえば、聖女レア、混沌の娘、師匠、ウーラシールの宵闇、太陽の王女グウィネヴィア、あとは異端の魔女ビアトリス。そのどれとも違う、覇気のある空気を発している。

『Very good』

 

永らく人と話していなかったせいで声を出す方法を忘れている。話せないので、ウーラシールで手に入れた顔面を投げて意気を評価する。

覇気に刺激され、亡者を狩る時とは違う昂揚感を得る。丁寧な一礼をして、そこまでの覇気を出す実力に敬意を表する。そして武器と盾を取り、構える。

 

「参る!」

 

かつて戦った、竜狩りオーンスタインを思わせる速度で突っ込んでくる。だが、その程度。合わせて盾の裏側で握っていた粗布のタリスマンに力を入れ、神の物語を一瞬で読み上げる。

高位の聖職者のみが使えると言う奇跡、「神の怒り」を発動。全方位に強力な神秘性を持つ衝撃波を放つ。

 

「っ!?」

 

効果範囲に入る直前で踏みとどまり、ステップで間合いを開いた。まあ普通の反応だ。ロードラン初級生でもなければ、発動したところで難なく避ける。ロードラン上級生なら閉鎖空間でも避ける。ドアを開いて入ってくるところを狙わなければ当たらない。先ほど奇跡は当たればラッキー程度で使った。

 

「……」

 

奇跡が当たらないとわかれば、今度は盾を構えてにじり寄る。よく侵入されていた頃は盾槍野郎と罵られていたが。勝てば官軍という言葉もある。卑怯な手を使っても勝てばいい。

 

「やりにくい……」

 

相手が小さく漏らす。こちらが間合いを詰めれば空いては後ろに下がり。下がれば追い。機を見て槍を突き出す。そして避けられる。それの繰り返し。 そしていい加減に相手もこの状態を打破しようと、さっきの素早い動きで回り込もうと動き出した。

だが、私もそういうのには慣れている。何十回何百回とバックスタブを喰らえば、亡者でも避け方を学ぶものだ。また神の怒りそ使い距離を置かせ、また別の奇跡……穏やかな平和の歩みを使用する。効果範囲内では、相手は走れなくなるし回れなくなる、どこが平和なのかと少々疑問のある奇跡を使う。

 

「くっ、妙な魔法を!」

 

妙というかなんというか。不死人の間ではかなりメジャーな戦い方なのだが、それを知らないとはどういうことか。

だからといって手を抜くつもりはない。動きの鈍ったところにもう一度神の怒りを放ち、その後槍で突きまくる。剣でなんとか弾いてはいるが、この槍は雷属性なので、属性によるダメージは少しずつ積み重なっている。

なんというか、実力はあるのだろうが未知の相手に戸惑っているような感じがする。昔の私がそうだったし。

 

そしてしばらく。平和の歩みの効果が切れると同時に、恐ろしい勢いで後退した。後退しただけでなく、空を飛んだ。

今まで空を飛ぶ不死人なんて見たことがない。落ちるところならあるが。

 

「レーヴァテイン!」

 

彼女がおそらく剣の銘であろう名前を叫ぶ。なんとなく嫌な予感がしたので、竜狩りの槍を背中に回し、ハベルの盾を両手で持つ。今までこの防御を正面から破られたのは、黒龍カラミットのブレスを防ごうとした時だけ。つまり、それ以上またはそれ並みの攻撃が来なければ問題ない。

背中を刺されたことなら何度もあるが。

 

「カートリッジロード、紫電……」

 

彼女の剣の柄から円筒形の何かが煙を蒔きながら排出され、刀身に大きな炎が灯る。グウィン王の剣ほど大きくはないが、亡者となった王とは比べようもない技量を持つ彼女の攻撃だ。注意はしておこう。

 

「一閃!」

 

ブレた、というよりは消えた、が正しいか。姿が見えなくなった次の瞬間には、背後から岩の鎧を叩き壊され、背骨を突き抜けるほどの衝撃と激痛、肉を焼く猛烈な熱さに全身を覆われ、地面に膝をつく。

 

「っ!!」

 

数年ぶりに膝を突かされたことに驚きを禁じ得ない。だがまだ死んではいない。手を抜かれたのか、鎧の頑強さに助けられたのか。 後者だと思いたい。

すぐに立ち上がり、エストを飲んで傷を回復する。

あんな速度の攻撃をしてくるなら、重い鎧も、盾も邪魔なだけだと判断。鎧を捨て、籠手だけを残してあとは全部脱ぐ。ソウルに変えるわけだから、消すのは一瞬だ。盾も投げ捨て、槍だけを持つ。

 

「まだ立ち上がるか」

「……」

 

槍を肩に担ぎ、空いている方の手を伸ばす。掌を空に向け、指を二度曲げる。

 

『来いよ』

 

言葉は出せないが、意思を表すことはできる。

 

「フッ……いいだろう。ならもう一度! カートリッジロード!!」

 

ここからはある意味賭けになる。負ければ以前休んだ篝火、ロードランへ逆戻り。今まで稼いだ数多のソウルと人間性を一度に失ってだ。それは困る。何年歩いて故郷まで戻ったか憶えてないのに、なんでまたロードランまで戻る気になろうかというものだ。

 

「紫電…一閃!」

 

今度は正面から。さっきと同じスピードだが、一度見たのでなんとか追える。振り下ろされる剣に対し、積み上げられた経験によって養われた勘を頼りに腕を振る。籠手と剣がぶつかり、炎の中に火花が散る。だが軌道は大きくそらせずに、胴を深く傷つける。

だが、生命湧きの効果かまだ死んでいない。あいての剣を持つ腕を握り潰さんばかりに掴み、ガラ空きの胴へと槍を突き出す。

ほんの少しの抵抗はあったが、穂先が鎧ごと体を貫いて血が飛び散り、龍すら殺す強烈な雷が肉を焦がす。どうも、彼女は霊体でなく生身だったらしい。だがそんなことはお構いなしに、もう一度深く刺し、彼女の体を蹴り飛ばして強引に槍を引き抜く。何か、誰かの名前を言っていたが、気にはならない。

 

「……貴公」

 

戦いが終わり、勝利した歓喜の中で古い自分の家に戻ろうとした時。声をかけられた。

 

「名を……聞かせてくれ」

「……」

 

奇跡の記された羊皮紙の裏に、サイン蝋石で名前を書き、それを見せる。

 

「いい……名だな……」

 

そのまま離れようとすると、また侵入を知らせる文字が目の前に浮かんだ。

 

-闇霊 鉄槌の騎士ヴィータ-に侵入されました

-闇霊 盾の守護獣ザフィーラ-に侵入されました

-闇霊 湖の騎士シャマル-に侵入されました

 

……もはや不利というレベルではない。周りを見ても白サインなど見つからなかったので、すぐにその場を離れて路地へ駆け込み、指輪を静かに眠る竜印の指輪と霧の指輪に変えて、さらに魔法『擬態』を使って隠れる。そのすぐ後に、エリアを支配するデーモンの居るフロアに入った時と同じような結界が張られた。

直後、路地に侵入してきた三人が路地に入ってきた。ここで『神の怒り』を使えば一掃できたかもしれないが、もう使えない。『炎の大嵐』を使えばどうにかなる可能性もあるが、失敗したら袋叩きにされるのがオチ……不死教区の教会で亡者の群れに囲まれた時のこと。最下層でネズミの群れに囲まれた時のこと。地下墓地で骸骨に囲まれた時のことを思い出すと、やらない方が賢明な判断だとわかる。

 

「臭いはここで途切れている」

「その壺が怪しいけど……」

「中は空よ……転移魔法で逃げたのかしら」

 

どうやら、こいつらはさっきの女騎士の仲間のようだ。じっくりよく観察すれば、全員どこの騎士団の流れも汲まない甲冑と武器を持っている。シバのように、遠い異国の不死人なのか。あるいはロートレクのような特別な騎士なのか。

 

まあ、見つかってないならこのまま動かずにどこかへ行ってくれるのを待つだけだ。




注・シグナムはこの後シャマルにきちんと治療されました。


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