世界の引き金を引く者 (曇天もよう)
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番外編
天谷隊⓪


注意
この回は当小説のオリジナルキャラの紹介となっています。設定を見ずに先に本編を見たい方はブラウザバックしてください
設定から見たいという方はどうぞ見ていってください


A級9位天谷隊

結成したのはボーダーでも古参にはなるが、ランク戦に参入したのは1年ほど前になるチーム。それにもかかわらず、スピード昇格を果たし、A級へとなった。B級上位に辿り着いたときに新人宇野を入隊させたため、一度はB級下位に戻った経験があるため、実際はそれよりも早くA級になっていた言われるチーム。

全員が普通の隊員とは異なった戦術を扱うため、他のチームとは一味変わった強さを誇る。

隊員はアタッカー1名、オールラウンダー2名で構成されているため、近、中距離において強さを発揮する。遠距離に関しては攻撃こそできないが、隊長天谷のサイドエフェクトによってカバーしている。

 

戦力評価(10段階)

 

近距離 8

中距離9

遠距離3

 

隊長 オールラウンダー

天谷 翔(あまや かける)

トリガー構成

メイン サブ

アステロイド 孤月(改)

メテオラ 旋空

シールド バイパー

バックワーム(グラスホッパー) シールド

 

パラメーター

トリオン13

攻撃9

防御・援護9

機動6

技術8

射程5

指揮5

特殊戦術5

Total62

 

誕生日 12月28日 17歳

身長175㎝

好きな物

ドリア 料理 仲間

嫌いな物

苦い物 裏切り

 

多彩な射撃用トリガーと、特殊な弧月を使い分けるオールラウンダー。もともとはシューターであったため、中距離戦において真価を発揮する。また、頭がキレるため、戦術を深く練って攻めるタイプである。

主なトリガーとしてバイパーを扱うが、アステロイド、メテオラ、そひてハウンドも扱う。さらに合成弾の扱いにも長けており、中距離の支配力はボーダーでも随一。

また、弧月を用いた戦いでは攻撃を受けてのカウンターを得意とするスタイルで、比較的防御よりな戦いを得意とする。天谷の弧月と言えば、特殊なチューニングを施していることが挙げられる。天谷の弧月はメテオラを推進力として切れ味を挙げる加工がされている。手元のトリガーを引くことで、それは発生し、その用途は火力アップや推進力による移動なども可能にする。

 

師匠として二宮匡貴を仰いでおり、指導(ただの爆撃)をしばしば受けている。二宮曰く、頭があるが暑くなると冷静さを欠く点がダメ、とのことである。

 

ボーダーに入った経緯は第一次大規模侵攻により両親を失ったことにより悲しみに暮れていたところを迅に誘われたというのが始まりである。しかし入隊したのはそれから半年が経ってからである。派閥は自由派閥で、ボーダーの派閥間の争いを抑えるように行動をする。城戸派からは彼の一言で自由派閥が団結することもあり得るといったことで、敵に回さないようにと注意されている。

 

基本的に穏やかで、分別のつく人物のため、多くの人と仲がいい。普段は従兄弟である橘高の家に居候しているが、偶に実家である家に寝泊まりすることもある。

 

学校には進学校である六頴館高等学校に通っており、所属は2-C。成績は中の上、特別飛び抜けているというわけではない。よく苦手な英語を那須に教わる様子を目撃されている。逆に化学や数学などは他の隊員に教えているようだ。

主に仲が良い隊員として、同級生全般と、二宮隊、王子隊、那須隊などが挙げれる。特に師匠である二宮、弟子である那須、幼馴染の剣持、従兄弟にあたる橘高、クラスメートで親友の辻と仲が良い。趣味の料理を偶に作るということがあるが、どれも基本は絶品らしい。

 

人物関係(簡略版)

剣持 舞→幼馴染

宇野 比奈→戦術面の弟子

二宮 匡貴→信頼する師匠

那須 玲→弟子

橘高 羽矢→従兄弟

辻 新之助→親友

王子 一彰→チェスのライバル

 

サイドエフェクト

立体空間認識

自身を中心として35メートルほどの空間を強く認識できる。その範囲内に存在するものは、たとえ直接見ることのできない場所であろうとも、どこに何かがあるのかシルエットのように認識できる。この範囲内に入って来るもの、また動くものに対して敏感に反応するため、狙撃、ステルスなどに滅法強い。また、バイパーによるリアルタイムで弾道を引く際も、他人よりもやりやすいと言った利点もある。

しかし、他人を意識しすぎるため、精神的に疲れやすいというデメリットが付いて回る。特に戦闘時は他人よりも意識が他のことに散りやすくなるなどあるため、他人よりも処理能力を超えるとパニックになるなどもあり得る。

この能力は天谷が冷静な時には常時発動するが、熱くなった時や、感情的になった時には意識から離れてしまうため、サイドエフェクトを認識できなくなってしまう弱点もある。

 

隊員 アタッカー

剣持 舞(けんもち まい)

トリガー構成

メイン サブ

スコーピオン(改) スコーピオン(改)

テレポーター(試作) グラスホッパー

シールド シールド

スパイダー バックワーム

 

ステータス

トリオン4

攻撃11

防御・援護6

機動11

技術9

射程2

指揮3

特殊戦術4

Total50

 

誕生日 2月12日 17歳

身長 152㎝

 

好きな物

グミ ハンバーグ ランク戦

嫌いな物

こそこそする人 根付さん

 

ボーダー屈指の変わり者アタッカー。スコーピオンを変形させて槍を作ってみたり鎌作ったりと型にはまらない攻撃をする。普通に二刀流で戦ったりもするが、その日の気分や相手によってマチマチである。ただ頭がとても残念である。とてもである。所謂残念美人というものである。

ボーダー入隊したきっかけは第一次近界民侵攻によって親戚を多く亡くした事に対して、誰かを守れたらという思いである。ただ最近は強い人と戦うことが楽しみになってきており、少々目的が変わってるのではないかと両親からは思われている。しかし、強くなるために多くの敵をいつも倒しているため、結果オーライではある。

所謂戦闘バカのため、勉強をせずボーダーに行く、勉強をしない、成績が下がる、ランク戦に行く、の繰り返しを3年以上も行なって来たため、成績が悪くなる一方。上層部も頭を抱えてる。忍田本部長は偶に天谷などに命じて勉強させたりしているが、成績に反映されることはほとんどないため、天谷や柳本は毎日頭を抱えている。

性格は一度これと決めたら絶対にやり遂げないと気が済まない猪突猛進な性格である。この猪突猛進は良い意味でも発揮されており、天谷隊を結成することになったり、新人だった宇野を誘ったり(引き込んだり)している。

また、コミュニケーション能力がとても高いため、多くの人と仲がいい。女性版米屋ではないかと言われている。

 

人物関係(簡易版)

天谷 翔→幼馴染

柳本 亜美→親戚

太刀川 慶→ランク戦仲間

米屋 陽介→ランク戦仲間

出水 公平→ランク戦仲間

緑川 駿→ランク戦仲間

影浦 雅人→ランク戦仲間

熊谷 友子→クラスメート

小佐野 瑠衣→クラスメート

 

 

隊員 オールラウンダー

宇野 比奈(うの ひな)

トリガー構成

メイン サブ

アステロイド(拳銃) レイガスト

ハウンド(拳銃) スラスター

鉛弾(改) バックワーム

シールド シールド

 

ステータス

トリオン8

攻撃6

防御・援護10

機動6

技術7

射程4

指揮2

特殊戦術5

total51

 

誕生日5月21日 16歳

身長 153㎝

好きな物

クッキー レモン 味方の援護

嫌いな物

苦い物 人を傷つける人

 

特注の銃剣をメインに戦うオールラウンダー。主な戦闘スタイルはレイガストを使い攻撃さばきながら銃弾を撃っていくスタイル。チームメイトが近くにいると主にこのスタイル。単独なら銃を用いた機動戦も行う。

入隊してすぐ頭角を現した逸材。入隊した経緯は友人であった照屋に誘われたから入った。新人王を獲得し、多くの隊から勧誘があったが、剣持によるゴリ押しに押されて天谷隊に入った。

冷静で重要な所をしっかりと見ているため、サポーターとしてとても優秀で、援護上手な隊員として知れ渡っている。

 

基本的にポーカーフェイスで、比較的人見知りな傾向があるため、新しく友人を作るのがとても苦手。そのため、剣持のように積極的に話しかけて来てくれる人はとても嬉しいと内心思っている。

学校はお嬢様学校である星輪女学院に通っていっていて、照屋と同じクラス。派閥は自由派閥であるが忍田派に近い。あまり他人に言いふらしたりしないため、知られてないが、学年でもトップの秀才。

 

人物関係(簡略版)

天谷 翔→信頼できる先輩

剣持 舞→信頼できる先輩

柳本 亜美→信頼できる先輩

照屋 文香 →親友

 

 

柳本 亜美(やなもと あみ)

誕生日7月22日 19歳

165㎝

好きな物

チョコ 鮭の塩焼き 裁縫

嫌いな物

苦い物 真面目にしない人

 

パラメーター

トリオン1

機器操作8

情報分析7

並列処理10

戦術7

指揮7

Total39

 

天谷隊最年長のお姉さん。常に冷静で物事を考え判断する力に長けている。オペレーターとしてもとても優秀で、特に並列処理においては誰にも負けないと言われている。

才色兼備を文字通り体現していて、なおかつ明るく快活なためボーダー内にも隠れファンが多い。

趣味の裁縫はプロ並みのため編んで欲しいと頼んできたり、編み方を教えてもらおうとやって来るオペレーターも多い。

親友の橘高と基本セットでいることが多く、橘高との間には一切の隠し事がないくらいの仲。

 

人物関係 (簡易版)

天谷 翔→親友の従兄弟

橘高 羽矢→親友

月見 蓮→大学のクラスメート

 

 

 

 

 




*10/30 各キャラのパラメーターを一部変更
*1/21 各キャラの紹介を刷新


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那須玲⓪

本日は6月16日。
那須さん誕生日おめでとう!





私は身体が弱かった。

 

生まれつき病気を持っていた私は外で遊んだことなんてなかった。たまに外へ出かけ外の世界を眺めることは私にとってとても特別なことであった。普段は自宅で過ごし、窓から見える景色を見ていた。窓の外に見える景色はとても身近に存在しているのに私にとってはるか彼方にあるようだった。

 

そうして幼稚園の時にも外で遊ぶ友達を見ていることしかできなかった。外でみんな揃ってドッジボールや鬼ごっこをしている様子はとてもうらやましく思っていた。何も考えなくても遊べるからだ。このころ私はよくお母さんやお父さんに聞いていた。どうして私は自由に体を動かせないのか。私も外で遊びたい、と。

 

そんな私の願いはかなうはずもなく、小学生になった。幼稚園と比べ、さらに身体が丈夫になったみんなはさらにいろんなことをしていた。私はその様子をまた見ていることしかできなかった。小学生というのは自分と違う人をいじめるようになる。現に私がそうだった。とある男の子がある日私に言ってきた。

 

お前は体が弱いとか俺らとは違うんじゃね?こいつが運動してるとこ見たことないし。お前怪物かなんかだろ!

 

その言葉はとっても悲しかった。私だって好きでこんな身体を持って生まれたくなかった。普通の身体がよかった。その悪口を言った男の子は後日私の家にその子の両親と謝りに来た。謝ってこそいたが彼は不服そうな顔をしていたのを私は今でも覚えている。

 

それ以来学校で外を見るのが怖くなった。外を見ているとまた嫌なことを言われてしまうのでは?と思うようになってしまった。学校ではずっと持って行っていた小説などを読むようになっていた。小説は普段外へ出ることのできない私に面白い世界を見せてくれるものだった。

そんな生活をしていたが、再びそんな生活は変わってしまった。

 

ネイバーによる第一次侵攻だった。偶然にも隣町の蓮乃辺市に出かけていた私は無事だった。しかし、友達だった子や私をいじめていた子が死んでしまったり、行方不明になったと聞いてとても悲しくなった。

 

その日以来私は今まで以上に外へ出ることができなくなっていた。走ることのできない私はネイバーの格好の的だからだ。

私の人生で最も大きな転機になったのは私のいとこである透くんが久しぶりにうちにやってきた時だった。透くんは私にとある提案をしたのだ。

 

『ボーダーに入ってみないか』と。

 

ボーダーの存在はテレビなどで見たりしていたため知っていた。ネイバーを倒し三門市を守るために活動している組織であるのだと。

なぜ身体の弱い私なんかにボーダーに入らないか、なんていうのか私は疑問に思った。

そしてその理由を聞いたとき私は心が躍った。

 

私が体を自由に動かせるかもしれない、と聞いたからだ。それは今まで夢に思っていたことだった。自由に体を動かせる。今までどんなことよりも願っていたことだった。

 

私はもちろんボーダーに入りたいと言った。しかしお父さんに猛反対された。それもそうだ、私は人体実験の被検体としてボーダーに入ることとなるからだ。私がもしもお父さんの立場に立っていたのならば反対しただろう。しかし私は必死に説得をした。何度も何度もした結果、何とかボーダーに入隊するのを認めてもらえた。これは実際にボーダーに入り、隊員として働いていた透くんの説得が大きかったのだろう。

 

その後トリオンという戦うときに必要な力を測定されたが、これも基準値よりも高く無事にボーダーへと入隊することができた。

 

初めてトリガーを起動するときには多くの人に見られていた。ボーダーの上層部の方々やお母さん、そして最後まで反対していたお父さんも見にきていた。

 

みんなに見られながら私はトリガーを引いた。あっという間にトリオン体へと変換されたようだったが、私にはとても長く感じた。

もしもトリオン体になっても体を動かすことができなかったら…そう考えていたのを覚えている。

 

しばらくして私は恐る恐る動いてみた。体は今までと全く違って軽かった。いつもならば走ろうとして息が上がり、走れなかった。

しかし、今回は違っていた。いくら走ろうとも息が上がることはなく、どこまでも走れるようだった。

 

私が楽しそうに走り回っているのを見て、ボーダーの上層部の方々も嬉しそうにしていたが、何よりもお母さんとお父さんが嬉しそうにしていたのが一番印象に残っている。

 

 

 

 

こうして初めてのトリガーの起動は成功したのだが、ボーダー隊員になるということはしなければならないことがあった。異世界から攻めて来るというネイバーを倒し、三門市を守るということだ。

だが、本格的に三門市を守るのはB級隊員という、訓練を受けてその中でも成績がとても優秀な人たちになってからだと聞いた。

 

私は病弱な人でもこうして戦いに出れるほど健康になる、ということを示すためになるべく早めにB級隊員とならねばならなかった。

といっても何をすればいいのか?何を使うのか?全く分からなかった私に、上層部は専門の師匠を付けると言った。

 

その師匠と初めて会うため、訓練室の前へとそのとき私はやってきていた。これからやって来るという師匠はどんな人物なのだろうか?やっぱり上層部が直々に言われてやって来るような人だからすごい人なのだろう、と思いながら待っていると、1人の男性が私の元へとやってきた。

 

最初はぶっきらぼうな人だと思った。やってきてから特に私に話しかけてくることもなく、お互いに黙り込んでいた。

でも彼は最初から訓練をするとは言わなかった。まずは私と世間話をした。彼は私と同い年の人だった。同い年でも上層部に信頼されるほどの実力を持っていることにとても驚いた。

 

世間話をしたことでお互いに緊張が解け、笑顔で話すようになった。第一印象とは全く違って優しい人なのだと思った。

 

しばらくして、彼はいくつかの質問をしてきた。

集中力は続くほうなのか、学校の成績がいいかなど数多くの質問を受けた。

 

最初は何を聞いているのかと思っていたが、それはポジションの選定に必要なのだと言われた。その後私はどうやら中距離で戦うガンナー、シューターに向いていると言われた。

 

それからは様々な訓練をした。基本的なトリオン体を使った運動や、悪路走行、隠密行動、敵探知などをまずはした。戦闘がどうこうの前にこれが出来なければダメらしい。

全ての訓練で満点が取れるようになってから初めての戦闘用のトリガーを持った。

今はアステロイドとメテオラ、ハウンドという三種のトリガーがあるらしい。アステロイドは普通の弾丸で威力が高くらメテオラは炸裂弾で、着弾点で爆発する弾丸だ。そして、ハウンドは相手を追尾する弾丸だと聞かされた。

 

聞いたところによるとハウンドが、戦いやすそうだと思ったけど、アステロイドが使えなければB級になることなど夢のまた夢だと言われた。

だから私もアステロイドを確実に当てる練習をした。

最初は立ち止まっている相手に、続けて動く相手に。そして自分も動きながら当てれるように私はなった。

 

その様子を見て、彼はネイバーと戦ってみようと言ってきた。

いきなりネイバーと戦うなんてできるはずがないと私は思った。私が武器を手にとってまだまだ時間は経っていなかった。それなのに戦うなんて無謀だと言った。すると彼はこれから戦うのは訓練用のネイバーで、もしやられても怪我もしないから大丈夫だと言った。

それでも心配だった私は、彼に戦ってみてほしいと頼んだ。

 

彼はすんなりと受け入れ、訓練室へと入った。私はその姿に驚いた。現れたバンダーと呼ばれる私たち三門市民にとって良く知られているネイバーを一瞬にして蜂の巣にしたその姿は、今でも覚えている。なんて鮮やかで、かっこいいんだろうと思った。

 

その後私も戦うこととなった。彼の戦っていた様子を考えて動いてみた。彼のようには動かないかもしれない。それだとしても彼の動きは洗練されたもので、実際に戦っていく上で参考になると思った。

結果として私は37秒で倒すことができた。

 

訓練室から出てくると彼は私をとても褒めてくれた。この訓練では1分を切るととても優秀なのだ、と彼は教えてくれた。実感はわかないけど、褒められたことは嬉しかった。

だが、彼が訓練室で倒したタイムは2秒だった。わずか2秒であの大きなネイバーを蜂の巣にしてしまうなんてすごいことなのだと改めてその日に感じたのだった。

 

 

 

それから私はネイバーとの仮装訓練をしながら、個人ランク戦をしていくようになっていった。もちろん、ネイバーと戦うのが私たちの仕事だ。だが実戦で戦えるようになるためには、手の甲のところに表示されているポイントが4000を超えなければならないらしい。

私のポイントは最初2560だった。

普通は1000からのスタートらしいのだが、元のトリオン能力の高さから最初から少しプラスされているらしい。

 

根付ボーダーメディア対策室長は最初から4000ポイント与えようと言っていたらしいのだが、彼がその意見を一蹴したらしい。

確かにいきなり実戦配備されても私も困っていたと思うため良かったと思っている。

 

 

 

彼と訓練をしながら合間にランク戦をする日々が1ヶ月を過ぎた頃、私は順調に3800ポイントを稼ぐようになっていた。やはり彼の教えは的確で、私はかなりの高確率でランク戦に勝てるようになってきていた。

しかし、この頃になって新しい問題が起こっていた。

それは、『最初から現役隊員に教えてもらっているのだから当然だ』、『少しかわいいからって言って調子に乗ってる』などと陰口を言われるようになっていた。

 

彼は『羨ましいから嫉妬しているんだ。気にせず自分なりの戦いをすればいい』と言ってくれたが、昔にされていたいじめを思い出してしまうようで私は辛かった。

このような言葉を言われるようになってからというもの、勝率も悪くなり、ポイントも同じところを彷徨うようになっていた。

 

ポイントが伸びなくなっていった私は焦りを感じていた。もっと勝たないといけない、そう言った考えが余計に自分の動きを悪くしていたのだ、と今では感じる。

 

しばらくして彼はとある提案をしてきた。『この前出来たばかりの新作トリガーで気持ちを落ち着かせてみたらどうか?』

新しいトリガーを使うということは、ポイントを最初の1000ポイントからのやり直すことになるということであったため、最初は私は拒否した。

しかし、この悪循環を取り除くために私はそのトリガー、『バイパー』を手に取った。

 

『バイパー』は今までの弾丸トリガーとは一線を画する物だった。自分の指定したコースを思い通りに飛んでいく弾であった。アステロイドでは対処できないコースであろうとも、バイパーではできた。

 

バイパーは自分ととても合っていた。今まで、どんなに体を自由に動かせたら…、と考えていた私はイメージをする力が優れていたらしい。他にも客観的視点、空間認識能力も必要とされるらしいが、そこも私にはあったらしく、バイパーを扱うようになってから3週間足らずで私は4000ポイントに届くことができた。

 

正式にボーダー隊員として働くことができるようになったため、私はテレビに出演して、宣伝をしたり、実際に戦闘をするようになっていった。

 

ボーダーの正式な隊員となってからは忙しい日々だったけれども、これも彼が根気よく教えてくれたからなんだと思っている。

 

 

今までは教えてもらうばかりだったけど、今度からは私から教えてあげるね、天谷くん。



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日常編
天谷翔①


今回初登場のボーダー隊員達

爆殺系剣取り扱います 天谷 翔
メテオラにより加速する剣を扱う当小説の主人公。両攻撃と見せ方のりや、意識の外からのバイパーとなかなかたちが悪いことでも有名でサディスティクな一面も取り揃えている一品。鈍感属性も完備していて主人公らしい。信頼も高く羨ましい限り。

鎌バカ 剣持 舞
剣持という苗字にもかかわらず鎌を扱ったりするA級4バカの一角。成績悪い、物覚えが悪い、仕事しないの三拍子が揃っている。だが姉御肌のため意外と友達も多く信頼も高い。ただ、成績が残念すぎる。

貴方の心も狙い撃ち 宇野 比奈
後輩属性、お嬢様、性格良いとどこかの恋愛ゲーに出てきそうな逸材。みんなに愛され今日も弓で貴方の心(トリオン体)を撃ち抜く。ボーダー内にファンクラブが存在する有望な若手筆頭である。

縁の下の力持ち 柳本 亜美
天谷隊の影の支配者。彼女に逆らうととんでも無いことになるといううわさが立っていることから本人は気にしている。主人公部隊で一番キャラ設定に悩んだ人物。これにより出番は少なくなると思われる。

貴方の気持ちを鳥かご 那須さん
弾バカ2号ことどう小説のヒロイン。作者は見た瞬間に心を奪われました。天谷に気づいてもらうためにあの手この手と頑張ってるけど気づいてもらえない不憫キャラも追加された。本編と比べると病気の症状は軽めとなっている。

ナスカレー いこさん
2016年初登場キャラインパクト第1位をかっさらった強烈キャラさん。ナスカレーという名言により那須さんを狙っているのでは?と言われている。本人は違うこと言ってるのに。関西弁が意外と難しくて大変なキャラ。

と、思うじゃん? よねやん
強い個性をもちそれでいてコミュ力も持つという投稿者助けのキャラ。扱いやすい、動かしやすいと完璧のため今後も出番が多めという見通しが立っている。

シスコンの体現者 三輪
シスコン、ネイバー絶対殺すマンと米屋とは違ったベクトルでキャラが立っているためこれまた使いやすいため作者は助かっている。天谷は同類だと思ってたが、まさかの自由派閥のためかなり嫌っている。





月の光が差す中、すでに廃墟となってしまった民家に腰をかけて座る一人の男がいた。少し目をしょぼつかせていて眠そうにも見える。そんな彼はA級9位天谷隊隊長である、天谷翔である。腰には彼の武器である孤月がある。武器を携えているというのも不思議なことであるがこの三門市は戦争状態にある。今から4年前、突如として三門市は攻撃を受けた。その攻撃を止めた組織こそがボーダーである。そしてボーダーは日夜進行して来るネイバーと言われる兵器を倒している。そんな防衛任務と言われる物に今参加しているのが天谷隊である。

そんな男は欠伸をしながらしゃべった。

 

「はぁ〜、眠い… まだシフトチェンジまで時間ある?」

 

「あと1時間くらいですよ、頑張りましょう!」

 

そう声をかけたのは宇野 比奈。見た目は育ちの良さそうなお嬢様といった様子だ。彼女の武器は銃である。その銃は先に剣を取り付けていて自由に出し入れできる代物で、近距離での銃撃を得意とし、援護もトップクラスという人物だ。

 

その隣にいるのは髪を短くし、かなりボーイッシュな印象を受ける少女のような見た目をしている剣持 舞である。彼女は二刀流の剣を扱う天谷隊の中では比較的ステレオタイプな戦いをする。そんな彼女も特殊な戦闘スタイルを持っているが後々出そう。そんな彼女がしゃべる。

 

「暴れ足りないなー、トリオン兵来ないかな?」

 

『こら、トリオン兵が来ないっていうのはいいことなんだからそんなこと言わないの』

 

インカムを通して透き通るような声が聞こえて来る。この声を発した人物は柳本亜美、天谷隊のオペレーターである。そんな彼女が注意していると突如として声が変わる。

 

『トリオン兵が来るわよ、誤差は4.15よ。一匹は3人のいるとこから離れているから舞は先行して追いかけて。』

 

「了解、先に追います」

 

そう言って剣持は光る板を生成し、踏んだ。すると彼女は一気に推進力を得て追いかけて行く。そうしている間に他の二人が戦闘を開始した。

 

「そらそら、アステロイド!」

 

アステロイドが炸裂したトリオン兵は音とが鳴ると同時に破壊されて行く。そんな弾を打ち出した天谷を狙おうとしたモールモッドと呼ばれるトリオン兵は突如として現れた弾丸によってその攻撃を阻まれた。

 

「ハウンド!」

 

ボーダー屈指と謳われる宇野の援護により一挙にやられてしまい残ったトリオン兵は2体となってしまった。その残った二匹も宇野を狙おうとしたが、目の前に現れた天谷の剣により一刀両断されてしまい活動を停止した。

 

「こっちは全て片付きました。舞のほうはどうなりました?」

 

『舞も追いついて倒したわ、多分この後にトリオン兵が来ないと思うけど、注意しておいてね』

 

「「了解です」」

 

その後トリオン兵は来ることなく無事、防衛任務は終わった。

 

 

 

防衛任務を終えた新た俺たちは報告書を書き上げている。防衛任務終わりには報告書を書いて提出しなければならないからだ。みんな各々お菓子を持ち寄って食べながら作業をしている。そうしていると作戦室のドアが開いた。

 

「こんばんは、天谷くんいるかしら…?」

 

そこに立っていたのは那須玲。B級12位那須隊の隊長で、天谷の弟子である。

 

「あ、那須先輩こんばんは、天谷先輩いますよ。天谷先輩〜?」

 

「玲ちゃんこんばんは、これから時間が余ってるなら少し休憩していかない?お菓子もあるし。」

 

「いえ、大丈夫ですよ。このあと天谷くんとランク戦をする予定ですので。」

 

「あら、積極的なのね?こんなにいい子なのに気持ちに気がつかない翔は…」

 

「もう…止めてくださいよ。恥ずかしいですし…。」

 

「おう、那須すまんな、こっちが遅れてしまってるせいで」

 

「いえ、いいのよ。私から頼んだことだからね」

 

「玲ちゃんは何を約束してたの?」

 

「この後一緒にランク戦をする予定だったんだ。それで、時間が来てないけど、ちょっと早めに来ちゃったからこっちに寄ってみたの。」

 

「そうだったの!このバカのせいで迷惑かけたね。仕事はこっちがやっとくから連れて行っていいよ。」

 

「誰がバカだこの鎌バカ。仕事はいつも俺たちに押し付けるくせに何言ってんだ。」

 

「先輩今日こそはしてくださいよ? あ、天谷先輩はどうぞ行ってください。」

 

「いやでも、申し訳ないよ。仕事は後少しだからやってくよ」

 

「翔くんは心配しないで行ってきなさい。ちゃんとやっておくから。」

 

「分かりました。じゃあ行こうか那須。」

 

「ええ、行きましょう」

 

そう言って行こうとすると柳本先輩がしゃべる。

 

「あ、そういえばもちろんランク戦を終えた後は玲ちゃんを家まで送っていくのよ?」

 

「え?那須は親が迎えに来るから別にいいんじゃ?」

 

「いいから連れて帰りなさい」

 

「え、でも…」

 

「連れて帰ってくださいよ?先輩。」

 

俺は先輩、後輩からの謎の威圧を受けて連れて帰る他なくなったのだった

 

 

 

 

 

俺と那須はランク戦の会場にやってきた。今は夜のためランク戦をしにきている人も少ない。そのためすぐにランク戦のブースに入れた。

 

「俺は146番に入るから設定とか出来たら言ってきて。」

 

「分かったわ、129番に入るから準備できたら言うね。」

 

しばらくすると那須から連絡が来た。準備ができたらしい。その声を聞いて少しすると体が転送された。景色を見るとステージは市街地Bらしい。少し移動していると向かって左側から弾丸が飛んで来る。それを少し余裕を持って回避していると全方向から弾丸が囲うように飛んで来る。それを俺は両防御で守っているとさらに追撃で弾が飛んで来る。それを同様に防ごうとすると弾は一箇所に集中し俺の両防御を貫通する。その弾丸を俺は咄嗟に生成した剣で断ち切り回避する。すると那須が追撃としてさらに両攻撃のバイパーを放って来る。

 

「ちっ、なかなかめんどくさい弾道を引いてくる、かなりよくなったな」

 

「そういいながらも余裕を持って回避してるなんてまだまだそうね」

 

会話をしているがなかなか高い攻撃密度の前になかなか踏み込めない

でいると那須はアステロイドを打ち込んでくる。だがその打ち出す一瞬近くに仕掛けておいたメテオラが爆発する。それに驚いた瞬間旋空を発動し那須は体勢を崩す。そこで、俺は一気に那須に接近した。那須は咄嗟にシールドを出したが那須は後ろからの攻撃によって蜂の巣となりベイルアウトした。

その後も9戦行ったが、10戦全てを俺がとって終わった。

 

「お疲れ、なかなか良くなってたぞ。」

 

「ありがとう。でもまだまだね。一本も取れなかったわ。」

 

「いやいや、一本も中盤まではこっちから攻撃をすることできずに防戦一方だったし、7戦目の合成弾もきれいにできていたからな」

 

「じゃあ次はきっちりトドメをさせるように頑張るわね?」

 

そういいながら反省会をしていると一人の男が話しかけてくる。

 

「翔と那須ちゃんやないかい。珍しいの、この時間にいるなんて」

 

「あ、生駒先輩こんばんは。」

 

「いこさんこんばんは。」

 

「なんや、二人で仲よう修行かいに?仲睦まじいの」

 

「はいそうですけど、生駒さんは何しに来たんです?」

 

「そうやそうや、米屋とランク戦に来たんや。」

 

「米屋くんはさっき見ましたけどね?」

 

「よ!翔、お前もランク戦か?この後一緒にランク戦しないか?」

 

「あーすまんな、那須を送って帰るからできん、わりーな」

 

「那須を送ってくのか?ようやくお前は気づいたのか、そうかそうか兄ちゃんは嬉しいぞ。」

 

「は?何言ってんだお前は?俺が何に気づいてないってんだ?」

 

「はぁ、翔お前はまだ気づいてへんのかい」

 

「いこさんも何だっていうんです?」

 

「那須ちゃんも大変やの…」

 

「はい…でも絶対気づかせてみせますから!」

 

「健気でかわいいなぁ〜。こんな子に気付かないなんて全く翔は…」

 

「本当になんだっていうんです?教えてくださいよ?」

 

「自分で気づくことだな。早く分かってやれよ?」

 

「米屋に分かってて、俺に分からないってのはなんだか屈辱だな…」

 

「そりゃ酷いぜ翔。」

 

「確かに米屋くんに負けてるってのはちょっと…ね?」

 

「那須も酷いな?」

 

「ははは、おもろいな。」

 

「米屋…後ろや後ろ。」

 

「ん?何です?いこさん。」

 

「米屋くん、後ろを見てみればすぐに分かるわよ?」

 

「…?」

 

米屋が後ろを見るとそこには明らかに怒った表情を浮かべる三輪がいた。

 

「米屋?お前、課題もやらずにどうしてランク戦をしにきているんだ?」

 

「………」

 

「さあ、課題やるぞ米屋」

 

そう言って米屋は三輪に連れてかれた。そこに居た3人も時間も時間だと言うことで解散した。

 

 

 

 

「今日はありがとうね?しかも送ってくれるなんてとっても嬉しいな」

 

「いやいや、帰る方向も同じだしいいよ。それよりも体は大丈夫?

本当は迎えにきてもらうんだったんでしょ?」

 

「ええ大丈夫よ。心配かけてごめんなさいね?」

 

「こっちこそ大丈夫だよ。それよりもさっきから話してたことって何?」

 

「いえ、いいのよ?まだ知らなくてね。」

「?」

 

「あ、もううちが見えてきたわ。本当にありがとうね。またランク戦しましょ?」

 

「またしような!それじゃまたね。」

 

「おやすみなさい」

 

「うん、おやすみ。」

 

「…でも、絶対に気づかせてあげるからね?」

 

何か那須は言ったようだが俺には聞き取れなかった。それでも気に留めず俺は暗い夜道を歩いて帰った。

 

 

 

 




新年明けましておめでとうございます。今年もよろしくお願いします。次の投稿は2月くらいになってしまいそうなので見てくださってる人は気長に待っていてください。


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二宮匡貴①

今回初登場のボーダー隊員さんたち

ダンガー 太刀川
戦闘面では最強。圧倒的強さで一位へと上り詰め、ランク戦も熱心行う完璧さ。ここまで聞いていれば素晴らしい人物だが、実際は英語を読めば風間さんが呆れ果て、餅を食べれば伸ばす、生活空間はカオスといった私生活最低人間でした。ただ彼は戦闘スキルに振りすぎたんだ…

弾バカ(初代) 出水
ルックスはイケメン、戦闘はアシスト上手で敵をつるのも上手いといった実力で圧倒的人気ポジションを築いた。性格面も典型的な男子高校生でとても扱いやすい。こんな友人が欲しいと作者は思います。

ふわっふわ 国近
ゆるふわ系の始祖。体つきが素晴らしいというギャルゲーに出て来てもおかしくない属性を持ち合わせている素晴らしいポテンシャル持ち合わせている。ただ生活面はとても残念。それでもダンガーよりはマシだと思います。

体は子供、頭脳は大人 風間さん
ボーダーにおける最強のコスパを実現した機体。男気、イケメン、冷静さなどのすべての生みの親。しかしそんな彼にも一つだけ欠点はあった。それは低身長だ。だが考えて欲しい。風間さんが高身長だとしたら、もはや手がつけれない完全無欠の人物となるだろう。やはり人間何かしら欠点がある方がいいのだろう。本人は全く気にしていないが。

第二の使徒 みかみか
風間さんをも上回るスペックを作り出そうとして生まれた人物。風間さんから男気を引いて母性を付与した結果、ボーダー女子はメロメロとなってしまった。とても危険とされているが接してみるとすぐに骨抜きにされるそうです

ふわふわアタッカー 緑川
その親しみやすさ、本人の人柄により後輩にしたい子第一位に君臨する最強の後輩。その本性は迅バカ。迅さん、迅さんと迅の周りを歩き回る様子はまさに子犬。だがその様子もまたいいのだとか。彼も扱いやすく、作者は大助かりです。

たけのこの使徒 奈良坂
かっこいい(確信)。頭も良く、スナイパーとしても正確無比の射撃で上位に君臨する。学校が同じため天谷の特に仲の良い友人枠を手に入れた。きのこ派と見せかけてのたけのこ派のため、上げて落とすことにかけては右に出るものはいないとされる。

汗かきメガネ 古寺
ワールドトリガー本編ではオッサムと同じキャラのためあまり目立たないため不遇キャラで売り出して行こうか悩んでいる。所属部隊も戦闘員全員1つ年上のため辛い思いもしている。宇佐美にも気づいてもらえため追撃を食らっている。頑張れ。

スタイリッシュ☆ 二宮
初登場は太刀川の批判、その直後主人公の拠点に殴り込み。文面だけで見るとモブキャラ感が強い。しかしスタイリッシュ☆な彼は違った。一切の傷を負うことなく主人公を爆殺。これによりネットでは話題となった。しかしその後、戦闘終了後に雪だるまを作る、隊服が一番コスプレ感ある、そしてそれに気づかないなど天然キャラも持ち合わせていることが判明。ワールドトリガー最強のキャラの個性を持っている。二次創作では主人公の師匠をやっている率が高いため師匠属性も持ち合わせていると考えられる。カッコイイキャラだと思います。やっぱりスタイリッシュ☆

犬は飼ってないよ 犬飼
二人の姉に叩き込まれたコミュ力を武器に誰とでも仲良くなれる。自らの隊が強いからといって驕らず、対戦相手の勉強するため真面目な一面も持っているんだと思われる。先輩としては素晴らしいと思います。

つるっつる ひゃみさん
頭がつるっつるながら冷静に情報を伝えるクール系。ただし鳥丸の前では慌てふためくひゃみさんが見れるため連れていってみたいと思う作者です。作者のワールドトリガーで好きな女性ランキング3位のため少し出番が増えることが予期される。

美しいお姉さん 橘高さん
サラサラヘアで優しく見守ってくれそうなお姉さん。作者のお気に入りランキング第2位のため天谷の従兄弟ポジションを獲得。所属チームが狙撃手がいないたて敵をチームの狙撃手割り出しに長けているなど、ポテンシャルはとても高そうに思われる。作者はカバー裏でどのような情報が出るか楽しみにしてます。




今日、俺はランク戦をしに来ている。といっても、前回のように那須の指導に来ているわけではない。今日は定期的に来る鍛錬のために来ていた。どこかのブースに適当に入ろうと考えて移動しようとすると、そこにはがやがやと盛り上がっているA級4バカと太刀川さんがいた。

 

「あ、天谷先輩だ。一人でランク戦をしに来るなんて珍しいね」

 

「おう、緑川、久しぶりだな。今日は特に教えるような相手もいないし、体を動かすつもりで来たからな。ところで米屋、お前らは集まって何してるんだ?お前らは集まるなりランク戦してそうだが。」

 

「大人数でのランク戦がしたいなって話してたところなんだ。そうだ!おい翔、お前もやろうぜ、チーム戦。面白そうだろ?」

 

チーム戦形式のランク戦はあまりする機会がないため貴重な経験になる。しかも普段戦い慣れたチームではなく即席チームですることによって他の隊員との連携も磨けるため一石二鳥だ。

 

「もちろんいいぜ。ランク戦をするためにやってきたんだからな。」

 

「おっやったぜ。久しぶりにお前とランク戦するな翔。蜂の巣にしてやるぜ。」

 

「俺が蜂の巣にしてやるさ。今は6人だからちょうどいいくらいか?それとも他にも誘うか?」

 

「そうだな…、だったらそこら辺にいる人捕まえて来ようぜ。4チームのランク戦をするのも面白そうだからな。」

 

「それいいな!普段あんまり来なそうな人とか誘って来ようぜ?なあ弾バカ!」

 

「誰が弾バカだこの槍バカ。取り敢えず二人一組になって各ポジションを誘って来るってのはどうだ?」

 

「でもいずみん?アタッカーはすでに5人いて多いから、一組はシューターかガンナーを誘って来ない?」

 

「確かにそうだな。それじゃそうしようか。」

 

「ほう、それは面白そうだ。だったら俺と緑川でアタッカーとシューターかガンナーを誘って来るか。」

 

「じゃあ、誘って来るね!」

 

「じゃあ俺たちはスナイパーを誘って来るか。うちの隊の二人でいいか?」

 

「それで良さそうだな。じゃあ、天谷と剣持、お前らはシューター、ガンナーを誘ってこいよ!」

 

「じゃあ、俺たちはシューターかガンナーを二人誘って来るか。」

 

「それじゃ行こう!」

 

こうして俺たちはランク戦をするためランク戦をする人たちを誘いに行った。30分してみんながランク戦会場に集まった。

 

「それじゃ誰を連れてきたのか教えようぜ!」

 

「それじゃ、俺たちから言うか。俺たちは比奈と、犬飼先輩だ。」

 

「よろしく〜。このメンバーで戦うのは面白そうだからね〜楽しみだよ!」

 

「よろしくお願いします。先輩たちとのランク戦楽しみです!」

 

「普段戦わないし楽しみだね!」

 

「そうだな。それじゃ次は俺たちだ。俺たちは奈良坂と古寺だ。」

 

「よろしく。」

 

「今日はよろしくお願いします。」

 

「古寺、そんなに緊張しなくて大丈夫だ。気を楽にして戦えばいいよ」

 

「はい。頑張らさせてもらいます。」

 

「じゃあ最後に僕たちだね!僕たちは二宮さんと風間さんだよ!」

 

「これまたなかなかすごい人を連れてきたもんだな…」

 

「なんだ?俺たちだと何か問題でもあるのか?」

 

「い、いえ、そういうわけではないですよ。」

 

「ところでチーム分けはどうするつもりだ?」

 

「じゃんけんでの勝ち抜け順で良くないですか?」

 

「ならば1、4、7が一緒なるように3飛ばしでチームを組むとするのはどうだ?」

 

「早くチーム分けしようよ!」

 

「それでいきましょうよ」

 

「それじゃ、早速。最初はグー、じゃんけん、」

 

「「「ポン」」」

 

「それじゃ確認するぞ。Aチームが俺、犬飼、出水。Bチームは二宮、古寺、緑川。Cチームが天谷、宇野、奈良坂。そしてDチームが太刀川、米屋、剣持。これでいいな?」

 

「それでいいです。それでチームで戦うならオペレーターが必要ですよね?」

 

「俺は冷見に来てもらっているからな。」

 

「よろしく。」

 

「うちからも三上に来てもらってるぞ。」

 

「俺もだ。国近を呼んでるからな。」

 

「みんなよろしく〜」

 

「みんなさんよろしくお願いします。」

 

「天谷先輩どうします?柳本先輩は今日休みですし…」

 

「月見さんも今日はいないはずだ」

 

「そうだな…ちょっと探してくるか?」

 

「あら、翔。どうしたの?困った顔して。」

 

「あ、羽矢さん。いやーこれからチーム戦をするんだけど、うちのチームだけオペレーターがいなくて。」

 

「そうなの?なら私がオペレーターをしましょうか?これから用事もないからね。」

 

「やってくれる?ありがとう。風間さん。これでうちも揃いました。」

 

「分かった。それじゃ各チームブースに入ろう。試合は20分後でいいか?」

 

「「「異議なし」」」

 

こうして各チームブースに入って作戦会議をすることとなった。

 

 

「さて、ステージは河川敷Aに決まったわけだけど何か作戦はあるかしら?」

 

「やっぱり各チーム隊長クラスは一対一で対面するのはきついから全員が援護しあえる位置に集まっておきたいな」

 

太刀川さんとタイマンで張り合うのはきついからな…あの人と模擬戦やっても3割勝てたらいい方だしな…。二宮さんもスタイリッシュ爆撃してくるし風間さんと斬り合うのもきつい。うちのチームにあって他のチームにはない利点は何だ?そこを生かしていかないと明確なエースがいないうちはきついからな…

 

「先輩、橋を中心に立ち会うのはどうでしょうか?不利と見たら橋を落としてしまえばいいんじゃないでしょうか?」

 

「確かに落としてしまったら分断は出来るが転送が良くないと諸刃の剣になってしまうからな。ちょっときついかな」

 

「でもうちには奈良坂くんがいるからそこも生かしていきたいわね」

 

「透、援護よろしくな」

 

「きっちり仕事はこなしてみせるさ」

 

「そろそろ時間よ、準備してね」

 

「了解です。」

 

「指揮は俺と羽矢さんがとるから従っていってね」

 

「「「了解」」」

 

 

そうしているとアナウンスが流れる

 

「「転送開始」」

 

俺たちは転送され戦闘が開始した

 

 

 

 

 

自分の周りを確認すると閑静な住宅街が広がっていた。レーダーを見る限りこちら側には6人いるようだ。そのうち二人が同じ場所に集まっていっているから同じチームなんだろうと思いながら俺は通信をして情報を聞く。

 

「羽矢さん、みんなの位置はどんな感じですか?」

 

『そうね、翔の後方に誰かいるけどその人を挟んだところに宇野ちゃんがいるわね。奈良坂くんはそこからさらに離れているけど同じ岸にいるわね。』

 

「それじゃあ、透はそのまま俺たちを援護できる位置に移動してくれ。比奈はこのまま誰かわからないけど挟んでいる相手を挟撃しよう」

 

「了解しました。すぐに移動します」

 

「分かった。すぐに援護できる位置に移動する。橘高さんルートをお願いします。」

 

『分かったわ。すぐに情報を送るわ。』

 

すぐに移動しようとすると誰かが自分の範囲内に入って来たみたいだ。俺はサイドエフェクトによって誰であるか分からないにしてもどこに誰がいるかなら分かる。このままいくと挟撃する前に捕まってしまいそうだ。そう考えた俺はバックワームを起動して身を隠して移動しようとした。だがその考えはすぐに打ち砕かれることになった。突如として道は一刀両断され民家は崩れ、俺は回避をせざるを得ず、そしてこの状況を作り出した張本人と対面することになった。

 

「なかなか派手に出迎えてくれますね。太刀川さん?」

 

「お前とはなかなか対戦できないからな。この久しぶりの機会を楽しみにしてたんだ。さて早速やろうか…天谷!」

 

そういうと太刀川さんは二刀の刀を構えて切り込んでくる。俺も孤月を起動してさばきながら話す

 

「羽矢さん、比奈は来れそうですか?」

 

『いえ、厳しそうね。挟撃しようとしていた相手と遭遇したけど、二宮さんだったのよ。だから宇野ちゃんは二宮さんを翔の方へ行かせないようにするので精一杯だわ。合流しても太刀川さんと二宮さんの二人を相手取らないといけないわ。』

 

「すみません先輩。援護には回れそうにありません、先輩もご武運を!」

 

「俺も援護出来る位置にはついた。援護のタイミングを計るから細かい指示があれば言ってくれ。」

 

「…了解。援護頼むぜ、透!」

 

「どうした?作戦会議は終わりか?ならばお前と本気で斬りあおうじゃないか!」

 

そう言うとお互い剣を構えて相手へと切りつけた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「よねやん、いまどこ?」

 

「こっちはまだ遠いな。ま、その間足止め頼むぜ鎌バカ?」

 

「うるさいよ槍バカ。よねやんが来る前に仕留めておくから。」

 

そう言って私は通信を切って目の前にいる相手を見つめる。中学生2年生でA級部隊に入り活躍している緑川俊だ。その小柄な体を生かした素早い動きで鋭い一撃を打ち込んで来る手強い相手だ。

 

「剣持先輩、そんな余裕あるかな?いくよっ!」

 

そう言って緑川は突っ込んで来る。緑川は二刀のスコーピオンとグラスホッパーを利用して攻撃して来る。私は二本のスコーピオンを組み合わせた鎌が得意だけど、スピード型のアタッカーである緑川には相性が悪い。だから私も二刀のスコーピオンを構えて、一つ一つの剣をさばく。周りには剣同士がぶつかる乾いた金属音だけが響き渡る。

 

「やるね緑川!だったらこれはどうかしら?」

 

私は二本のスコーピオンをタガー状に変えてさっきよりもさらに細かく速く斬りつける。さっきまでは攻撃の全てを回避していた緑川も回避しきれず、細かいかすり傷をくらい少しづつトリオンが漏れていく。私はダガー状にスコーピオンを構えて細かい攻撃をする方が普通に持って攻撃するよりも得意なのだ。こちらの攻撃に耐えかねて緑川は利き腕とは反対側のスコーピオンをしまう。おそらくグラスホッパーを使いながら回避し、攻撃に転じるつもりなのだろう。そう考えた私は一旦距離を離すため、私もグラスホッパーを使い距離を取ろうとした。

 

「逃さないよ!」

 

すると緑川はピンボールを使い私の周りにまとわりついて逃げられなくした。ピンボールはグラスホッパーを対象の周辺に複数配置して高速移動をする技だ。一見すれば簡単に見えるが、高速移動する中で体勢を崩さない平衡感覚と動体視力が必要でボーダーの中でも出来る人はごく限られている技だ。ピンボールをされている相手は捉えられないためなかなか大変であるため強力な技でもあるが。それはそれとして、この状況をなんとかしなければ今度は私が少しづつ削られていくため早くなんとかしなければ。そのため私はスコーピオンを背中にハリネズミ状に展開する。すると高速移動が仇となったのか自分からそこへ突っ込んでしまった緑川は左腕を大きく損傷し、離れようとする。その一瞬を逃さず私は鎌を生成して一気に攻勢に出る。損傷していた左腕を少し気にしていた緑川は少し遅れてシールドを張って私の攻撃を逃れようとする。しかしそのシールドをすり抜けて鎌は緑川を一刀両断する。

 

「剣持先輩の鎌のことすっかり忘れてたよ…やらかしちゃったなー」

 

「今回も私の勝ちだね!まだまだ負けないよ?」

 

「次は負けないから!」

 

そういうとベイルアウトの光が立ち上り緑川はその場からいなくなった。

そういえばよねやんが来ないな、と思った私は通信で聞くことにした

 

「国近先輩、よねやんはどうしました?」

 

『ん〜?今風間さんに捕まってて動けてないんだよ〜。援護に向かってあげて〜』

 

「分かりました。ルートの指示お願いしますね」

 

『了解〜』

 

よねやんが戦っている場所が送られてきた私は移動を始めた。それと同時に違う場所からベイルアウトの光が立ち上った。

 

 

 

 

 

剣持がベイルアウトの光を見てから遡ること10分前、Cチームの宇野は天谷との合流をするため土手道を移動していた。すると突然通信が入る。

 

『宇野ちゃん、翔にものすごいスピードで近づいている敵がいるわ。このままだと挟撃は少し大変そうだわ。一人での対処になるわ、大丈夫かしら?』

 

「大丈夫ですよ。必ず倒して援護に行きますから!」

 

そう言っていると目の前から突如としてハウンドが雨あられと降って来る。それも普通では考えられない量がだ。回避することよりも防御する方が良いと判断した宇野はサブトリガーであるレイガストを起動し、シールドモードによって雨を凌ぐ。ハウンドが止むとそれを撃った人物の姿が見えるようになる。

 

「……二宮先輩ですか…なかなかきつい相手ですね。」

 

「御託はいい。いくぞ宇野、アステロイド」

 

すると二宮は手をポケットに突っ込んで自身の周りには二つのキューブを展開する。その大きさは誰よりも大きい。それを四角錐に分割し宇野へと向け放つ。それを宇野はレイガストで守るが、ハウンドの時とは少し違い、レイガストにヒビが入る。ハウンドは追尾弾であるがため威力が少々低い。だがしかし、アステロイドはこれといった特徴はない。代わりに威力が高い弾丸である。それに加え、二宮はトリオン量がボーダートップクラスである。トリオン量が多いということはその弾丸に威力がより加わる、シールドの耐久力が上がるなどがある。そのためヒビが入ったのだ。まともに打ち合うのはまずいと思った宇野は土手から飛び降り住宅地の方へ後退していく。

 

「橘高さん、天谷先輩はどうですか?」

 

『翔は太刀川さんと対面しているわ。二人ともなかなかきつい相手をすることになってるわ。』

 

「分かりました。この辺に他に敵はいますか?」

 

『ちょっと待ってね。そうね、今移動しているところに二人いるわね。多分同じチームよ。巻き込むつもりかしら?』

 

「はい。私一人で二宮先輩を相手取るのはきついので。人数が増えてちょっと大変になりますけど、奈良坂先輩の援護と合わせれば倒しきれる可能性が出て来ると思うので。」

 

『分かったわ。でも二人もこっちへ向かってきてるわ。このままだと挟撃されるわ。何か対処を考えてるの?』

 

「策はあります。追撃が厳しくなってきたので通信切ります。ありがとうございます!」

 

『分かったわ。気をつけてね』

 

そう言って私は通信を切り戦闘に戻る。二宮さんがハウンドで逃げる方向を誘導しようとしてくる。それをレイガストで弾きながら、右手に拳銃を構えて、後ろから敵が来るのを待つ。ジリジリと後退していると…

 

「アステロイド!」

 

後ろから二宮先輩と勝るとも劣らない数のアステロイドが飛んで来る。

 

「スラスターON!」

 

スラスターを起動し屋根の上へと移動して回避をした。すると二宮先輩もアステロイドが飛んできたためシールドを張って守る。

 

「ちっ逃したか、宇野ちゃんを捉えられていたら楽だったのになー」

 

「げっ、二宮さんとの勝負か〜きついな〜」

口上では軽そうに思える二人だが、二人とも全く油断はない。むしろこちらの動きをひとつひとつ注視して動いている。今のこの状況では確実に私が不利だ。二宮先輩は一人であっても私や出水先輩、犬飼先輩を突破していけるだろう。それに、出水先輩犬飼先輩は二人だから打てる手も多い。一方で私は一人であり、援護もあまり望めない。こうなってくるとやっぱりみんなを巻き込んだ乱戦で足止めにかかるしかなさそう……。

 

「アステロイド」

 

こうして考えている間にもアステロイドは飛んでくる。そのアステロイドを回避し私もアステロイドを打ち返す。それを見た犬飼先輩は二宮先輩を牽制する。二宮先輩が放ったアステロイドが弱くなった瞬間、私が一気に犬飼先輩と距離をつめ、銃の先端に取り付けている剣を振るう。しかし犬飼先輩はそれを回避して、先ほどまで犬飼先輩がいた場所にハウンドの雨が降ってくる。それをシールドモードのレイガストで防ぐ。すると再び二宮先輩がアステロイドを撃ってくる。みんなが深く攻めて行けず、膠着状態が続いていた。

 

「めんどくさいな、早く宇野を落とさないとな!」

「…アステロイド」

 

だが両方が宇野だけを狙ってくる。それもそうだ。宇野はこの戦っている中ではあきらかに戦力が低いからだ。確かに宇野はボーダー全体で見れば上位に食い込んでいくだろう。だが、ここで戦っているのは、個人総合2位、A級1位部隊の名アシスト、個人総合2位の右腕だ。一人で戦うには分が悪い。更に言えば、彼女がしないといけないのは、足止めだ。状況を良く観察し、戦局をコントロールしない立場にあり。それは考えを巡らし、その上で戦わないといけない。それがこの不利な状況に拍車をかけていた。

 

『橘高先輩、目星はつきましたか?』

『多分この二箇所よ。奈良坂くんにも聞いたから多分信憑性は高いわ。気をつけてね』

『分かりました。多分そろそろ来ますから構えておきます。』

 

そう言って宇野は通信を切り戦場へと意識を戻す。宇野がこの戦況をコントロール上で最も大変なこと、それは3人の攻撃を凌ぐことではない。ではそれは何なのか?それは狙撃だ。彼女が届かない射程からの攻撃は普通は防ぎようがない。一部には狙撃が分かるものもいるがそれはほんの一部の例外だ。その一撃で戦況は一気に変わる。それゆえに最も気を張る必要があった。

 

「宇野ちゃん〜?心ここにあらずって感じだね?目の前気にしてないと死んじゃうよ?」

「そこまで落ちぶれてないですよ。」

 

レイガストで守りながら攻撃をする。お互いに防御が堅いためほとんど攻撃は通っていないが。この膠着状態を嫌った出水が攻めに出る。

 

「もう飽きたぜ。両攻撃アステロイド!」

 

先ほどまでとは比べものにならない量の弾丸が飛んでくる。それを各々か回避する中一人大きく振りかぶっている人物がいた。

 

「スラスターON!」

 

防御状態を保ったままレイガストか一直線に出水の元へと向かっていく。レイガストは出水の元から飛んでくるアステロイドを防ぎ、宇野の元へとは行かせないようにしている。

 

「やばっ…」

 

出水は咄嗟に回避に入るが左腕の先に突き刺さり、左腕からトリオンが漏れ出す。出水はさらなる追撃を防ぐため両防御に入る。しかし追撃が来ることはなかった。

 

宇野はどこからともなく飛んで来た弾丸によって体を大きく後ろへとそらしていたのだった。

 

 

 




どうもお久しぶりです、歩くスピーカーです。前期国立試験も終わって少しホッとしてます。さてこれからの更新ですが、後期試験が終わったら本格的に更新していけると思います。他にもシリーズを出すということもしているのでまた遅くなると思いますが気長に待っていてください


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天谷翔②

どうもお久しぶりです。なんとか、第一志望大学に合格出来ました。しかし、大学の模試で追われていたためなかなか投稿できませんでした。これからも大学までの移動時間で書き続けるため2週間に1つくらいが早くて出来そうなくらいです。なるべく早く書き上げるつもりですが、亀更新は変われそうに無いのですみません。

今回から今その状況を見ている人や、その周りにいる人が話す言葉は「」で、通信で話している人は『』、その状況を見ている人の考えは()で表現するようにしています。

それでは本編をどうぞ!


二宮『古寺、お前がここだ、と思うタイミングで宇野を狙撃しろ。』

古寺「う、宇野先輩をですか…?」

二宮『賢いお前なら分かっているだろう。一人戦力として劣っている宇野を狙うのは当然だ。分かったか?』

古寺「分かりました。」

 

そう言って二宮は通信を切る。古寺はイーグレットのスコープを覗き込み宇野を見る。二宮が、宇野を攻撃し、それに合わせて宇野や犬飼が撃ち返している光景がスコープの中から見える。二宮が自分のタイミングで撃てと言っていたため、古寺は宇野のガードが一番弱くなるタイミングを静かにうかがう。

 

それから少ししてこう着状態を嫌った出水が両攻撃をする。すると宇野がレイガストを手放して攻撃に入った。

 

(今だ!)

古寺は今こそが絶好のチャンスと考えて、構えているイーグレットのトリガーを思い切って引く。

 

弾丸は宇野へと一直線に向かっていった。そのまま弾丸は宇野を貫きヒットしたと古寺は確信した。

狙撃をしたため移動をしようとしていると、二宮から通信がかかってくる。

 

二宮『早くその場から離脱しろ!宇野に釣られた」

 

ここで古寺は動揺し、スコープで宇野を見ようとする。その目に映ったのは確かに当たったと確信していたにもかかわらず、一切の怪我もなく攻撃をしている宇野だった。

 

(嘘でしょ…?なんで?)

 

急いで逃げようとした古寺であったが、逃げることは叶わなかった。

古寺は右方向へから飛来した狙撃をくらいベイルアウトしていったのだった。

 

 

 

 

奈良坂『わざと狙撃を受けて古寺の位置をあぶり出すなんて無茶苦茶をしてくれるな。一歩間違えれば宇野がベイルアウトしてたぞ。』

宇野「これくらいしないときつかったんで…」

 

宇野は再び自分へと飛んでくるアステロイドをかわしながら奈良坂と通信をしていた。確かに今の会話の通り宇野は狙撃を自ら受けて古寺を見つけ出した。

狙撃を受けるというのは大きなリスクを伴う。受けることが出来なければ、一撃で戦闘が続行出来なくなる。確かに生身であれば狙撃を見切るのは不可能だろう。しかし、身体機能を大きく強化するトリオン体をもってすれば回避することは出来る。

狙撃が視界の範囲内から飛んできたならば……だが。宇野は今回の狙撃を真後ろから受けた。いくら警戒しているとはいえ、完璧に狙撃を防御しきることはボーダートップクラスの太刀川や二宮をもってしても厳しい。それにもかかわらず宇野が防御出来たのはなぜなのか?それはチームメイトである天谷のサイドエフェクトに理由がある。

 

天谷のサイドエフェクトは立体空間認識。平たく言えば、自分を中心とする一定の範囲に存在するものを見えていなくとも認識出来る能力だ。さらに言えばその範囲内で動くものに対してはより一層敏感に反応する。これは風間隊の菊地原が持っている強化聴覚と同じ部類に属する。このサイドエフェクトの効果により、死角からの狙撃を防いだのだ。

 

宇野「でも長時間のサイドエフェクトは気持ちが悪いですね…」

奈良坂『仕方ない。それが副作用なんだからな。こっちも移動するから通信を切るぞ。』

宇野「分かりました。あとは天谷先輩の援護をお願いします。」

奈良坂『分かった。』

 

そう言ってお互いに通信を切って自分の戦いへと意識を戻す。宇野は目の前にいる敵へ拳銃を再び撃ち始めた。

 

 

 

 

剣持「今のベイルアウトって誰だろ?」

国近『今のは古寺くんだね〜奈良坂くんのカウンタースナイプを受けたみたいだよ〜」

剣持「てことはこっちにはスナイパーはいないってことですね。すると動きやすくて楽ですね」

国近『楽なのはいいけど早くよねやんの元へ行ってね〜結構きついみたいだから〜』

剣持「分かりました。急ぎます!」

 

そう言って通信を切ってパックワームを起動して、目の前に表示される情報に従って移動していく。

 

しばらく移動をしていくと示されたポイントより少し奥側で金属音がするのが聞こえてくる。そこで剣持は建物に急いで二階へと登る。

 

剣持「よねやん、奇襲するからこっちへ来れる?」

米屋『剣持か、遅いな全く…。きついけどなんとかするぜ』

剣持「気をつけて!」

 

するとすぐにこっちへと風間さんと米屋が向かってくる。タイミングをはかって勢いよく窓を突き破り剣持は突撃する。二つのスコーピオンを接合して作った鎌を風間がいたところへ思いっきり払う。しかし風間はすんでのところでかわしお返しにとスコーピオンを切り返す。それを米屋がシールドで守り、お互いに距離をとる。

 

剣持「面白そうなんで私も混ぜてくださいよ!」

米屋「遅いぞ剣持!きつかったんだからな!」

剣持「ごめんてば。さっさと倒して暴れにいくよ!」

風間「さっさとやられるわけにはいかないな。」

 

剣持をさらに交えて3人の斬り合いはさらに激しくなっていく。剣持がスコーピオンを腕と手のひらから出して攻撃する。風間は体をひねってかわしカウンターをしてくる。それを剣持はグラスホッパーを使ってかわす。そしてかわしたところから米屋が槍を構えて一気に突き出す。咄嗟のことで風間は少し判断が遅れてかわす。

しかしかわしたはずの風間の左足から少しトリオンが漏れ出す。

 

米屋「惜しいなぁ。最近は足を狙うのがトレンドなんだよな。」

風間「やはりお前の幻踊は少しの判断の遅れが致命傷になるな。」

米屋「そりゃあ、そうですよ。それを狙ってるんですからね!」

 

再び米屋は槍を払って攻撃する。それと同時に反対側に着陸した剣持もスコーピオンを変形させて攻撃する。それを両手に作ったスコーピオンで器用にさばいて風間は避け、少しづつ後退していく。

 

米屋「風間さん、このまま後退していっても俺らは突破はできないですよ!」

剣持「そうですよ!」

 

二人は相手に一切の隙を与えない連携攻撃を繰り出す。並みの相手ならばすぐにベイルアウトすることとなっていただろう。しかしこの二人を相手取っているのはボーダー総合ランキング3位の風間だ。二人の厳しい攻撃を顔色ひとつ変えることなくさばいていく。もっとも顔色を変えないというのは、風間自信がもともと顔色をあまり変えるようなことがあまり無いというのもあるだろうが。

 

暫くこうした攻撃を続けていると剣持は疑問に思い始めた。

 

(何かがおかしいわ…。いくらこっちの攻撃が激しいからといってここまで反撃してこないなんて風間さんならばありえない。何か風間さんが仕込んでいる…?まさか…)

 

剣持「よねやん!下がって!」

米屋「ん?今が攻め時だろう!」

 

米屋はそのまま攻め続けようとした。しかしその米屋の攻撃は風間には届かなかった。突如として現れたブレードによって米屋の右肩を切断されたのだ。

 

米屋「やべっ…」

風間「これで終わりだ。」

 

風間は一気に米屋との距離をつめる。米屋も必死で左手に槍を持ち替えて攻撃をするがらすでに槍の間合いの内側に入り込んだ風間が首を刈り取った。

 

米屋「…やちまったな…」

 

「伝達系切断ベイルアウト」

機械音が周りは響き渡り米屋はベイルアウトをしていった。

 

剣持「今のは風間さんお得意のモールクローですね…」

 

モールクローとは壁などにスコーピオンを通し、視覚の外側から攻撃する技術だ。一般的には奇襲に適しており一方的に攻撃できるため強いと言われている技術ではあるが、実際に使うボーダー隊員はほとんどいない。強いと言われているにもかかわらずだ。それはなぜなのか?その答えは単純だ。スコーピオンを生やしている部分を攻撃中は一切移動させることができないからだ。

 

スコーピオンを扱うアタッカーは基本的に機動力を生かしたアタッカーが多い。それはスコーピオンに重さがほぼ無いため軽やかに動けるためだ。その代わりに耐久面には問題がある。そのためスコーピオンを扱う者は基本は回避することで防御をする。同じアタッカーの武器でも孤月はバランス型で受け太刀もできる。言わずもがなレイガストは防御に特化された性能のため、レイガストも受け太刀は簡単にできる。しかし、スコーピオンは出来ない。そこがスコーピオンの問題点だ。

モールクローは発動地点を壁や道路、床などに固定しなければならない。すると回避はできるだろうか?いやできない。この弱点があるため、反撃をくらうときに回避ができなくなり会心の一撃をくらうことになる。そのためモールクローはあまり使用されないのだ。

しかし風間は軽量型アタッカーではあるが、剣さばきにも長けている。風間は動けなくなるという弱点を補えるからこそモールクローを使うのだ。

 

そうしている間にも風間は剣持に攻撃を仕掛ける。その攻撃は先ほどまでと比べて圧倒的に素早くそして鋭くなっていた。それもそのはず、今までは二人をさばいていたのが一人で良くなったからだ。

 

(一人になると風間を倒すのはかなり困難になるな…。どうやって崩すかな…)

 

風間「どうした?戦いの最中に考え事できるほど余裕とでも言うのか?」

剣持「いやー、決してそんなわけじゃないんですけどね…」

 

(やばい…早くなんとかしないと…。今日の私の付けてるトリガーは二つのスコーピオン、グラスホッパー、スパイダー、テレポーター。となるとスパイダーを張る方がやりやすそうかな?)

 

そう考えている間にもどんどんと風間の攻撃は止まらない。考えに徹しすぎたため数カ所トリオン漏れが起こる。これはまずいと思った剣持はすぐに行動に移った。

 

剣持「グラスホッパー!」

 

グラスホッパーを起動して風間から一気に距離を取る。それを風間は追撃しようとするが、グラスホッパーを用いた移動のため、剣持と風間との距離は次第に開いていく。

 

暫く移動した後剣持は迎え撃つのに適した住宅地にたどり着く。

(ここら辺がスパイダーを仕掛けやすそうかな。早く張らないと風間が追いついてくる。急ごう。)

 

剣持は急いでスパイダーを、周りの民家へ張る。8割方のスパイダーを張り終えると風間が追いついてくる。

 

風間「逃げ回るのはここまでか?いくぞ剣持!」

 

風間がそう言い、剣持へ斬りかかる。それをギリギリのところでかわした剣持はスパイダー地帯に入り込み回避に専念する。普通の斬り合いならば風間に軍配が上がっていただろうが、ワイヤーを使った立体機動によりほぼ互角といった戦いになった。

 

剣持は風間の攻撃を避けながら、風間の射程外からスコーピオンを大きく伸ばして攻撃する。それを風間は最低限の動きでかわし、カウンターをしかける。しかし、再び剣持はワイヤーを使って移動する。

 

お互いにこれという決めてもなく斬り合っていると風間が先に動き始める。風間は剣持がいないところのスパイダーを切り落とし始めた。これをまずいと思った剣持は風間との距離をつめて阻止しようとする。

 

しかし突如として風間は肘からスコーピオンを伸ばして剣持へ攻撃する。その不意打ちに驚きバランスを崩した剣持はスパイダーに足を引っ掛けてしまった。その隙を見逃すことなく風間はスコーピオンで首を切り落とした。

 

剣持「…流石ですね…先輩…。」

風間「まだまだ鍛錬が足りないな、また鍛え直してやる。」

剣持「…まだ私の攻撃が終わった訳じゃないですよ…」

 

剣持がベイルアウトをしたことで煙が発生し、風間の視界が瞬間的に奪われる。先ほどの剣持の言葉もあるため警戒し、回避する体勢に入る。

 

すると上空からスコーピオンが二刀降ってくるそれを横に動いて回避する。すると突然風間の右腕が切り落とされた。

 

風間「最後の最後で油断してしまったか…とはいえ上手くやられたな…」

 

そう言いながら移動していく風間は言葉とは裏腹に表情では笑っていた

 

 

 

 

 

 

太刀川「どうした?お前の本気はこの程度なのか?」

 

太刀川はそういいながら激しい二刀流の攻撃をしてくる。それをなんとか耐えながら天谷なんとか答える

 

天谷「太刀川さんの攻撃が強過ぎるせいで反撃できないんですよ…」

太刀川「お前の全力はこんなもんじゃないだろ?」

天谷「こっちは本気でやってるんですけどねっ」

 

太刀川の二刀を天谷は一刀で防いでいる。単純に考えて不利だ。それに加えて太刀川は個人総合一位。ボーダーにおいて太刀川とランク戦を行なってワンセットで死なない者の方が少ない。それほど太刀川は強い。

そのため天谷はなんとかしのいでこそいたが、少しづつかすり傷を負っていた。かすり傷といってもそこから少しづつトリオンを漏らしているためより不利になっていっているのだ。

 

(そろそろ何か手を打たなければベイルアウトしかねないな。何を打とうか…?)

 

そう天谷が考えていると通信が入る

 

橘高『大丈夫翔?奈良坂くんが狙撃ポイントに着いたから援護出来るわよ。』

 

奈良坂が狙撃を決めた後追撃を逃げ切り再び援護の体勢に入った今、先ほどまでの圧倒的不利から状況は変化した。奈良坂が狙撃ポイントに着くと同時に天谷は立ち回りを変化させる。それは先ほどまでのような引きながらの反撃ではなく、相手を崩しにかかる攻撃だ。

突如として相手の戦い方が変化した太刀川は警戒し、先ほどまでの厳しい攻撃を抑えるようになる。それを見た天谷は一気に動く。

 

天谷『透、お前から見て俺と太刀川さんが重なった瞬間に撃ってくれ。頼む。』

奈良坂『正気か?お前道連れするつもりなのか?』

天谷『こっちに考えがある。こうでもしないと太刀川さんは崩さないんだ!時間もない頼む。』

奈良坂『…分かった。こうでもするんだから絶対に決めろよ?』

天谷『もちろんだ。絶対にやってやる!』

 

天谷はそう言って通信を切ると目の前の相手をゆっくりと見て、深呼吸をする。少しの間お互いに攻撃をせず、待っていると、天谷から攻撃を仕掛ける。天谷は攻撃をしながら奈良坂が狙撃をするのを待つ。

 

(……今だ!)

 

天谷は右方向へ飛び狙撃を回避しようとする。弾は天谷の服をかすりながら太刀川の体へと一直線に向かう。

 

太刀川「やばっ」

 

太刀川は咄嗟の判断で二刀の孤月を弾丸へと向け、叩き切った。太刀川が一瞬冷や汗を流していると先ほどまで目の前にいた天谷が消えていた。太刀川は急いで天谷のいる場所を探す。前、右、左、後ろにもいない天谷を探していると太刀川の上空から声が鳴り響いた。

 

天谷「今だ!旋空孤月!」

 

天谷の放った旋空孤月は太刀川が防御のために作り出した二刀の孤月とぶつかり、激しい音が発生した。

なんとかもちこたえていた二刀もひびが入り、旋空孤月は太刀川の体を貫き太刀川は苦痛の表情を浮かべる。

 

太刀川「……一本取られちまったな…」

 

太刀川の言葉をかき消すようにベイルアウトの爆発音が鳴り響き、太刀川はベイルアウトしていった。




今のところの状況

Aチーム(風間チーム)
風間→川を横断中
犬飼→出水共に戦闘中
出水→犬飼と戦闘中

Bチーム(二宮チーム)
二宮→犬飼、出水、宇野を相手取り戦闘中
古寺→ベイルアウト
緑川→ベイルアウト

Cチーム(天谷チーム)
天谷→太刀川撃破し、移動中
宇野→圧倒的不利な状況で孤軍奮闘中
奈良坂→移動中
Dチーム(太刀川チーム)
太刀川→ベイルアウト
米屋→ベイルアウト
剣持→ベイルアウト

次回でこの戦闘を終わらせ、もう一つ日常を描いた後、本編に突入していくので、次回もよろしくお願いします


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二宮匡貴②

ずいぶんと投稿が遅くなってしまいました。申し訳ありません。今回で戦闘は終わりです。
では本編をどうぞ!


奈良坂『本当にお前たちの部隊は無茶苦茶をしてくれるもんだな』

天谷「そうでもしないときつかったからな、透もよくやってくれたよ。助かった。」

奈良坂『そこらへんも同じようなことを言っていたぞ』

天谷「似た者同士で集まったチームだからな、みんな似たんだろうよ」

奈良坂『全くだ。』

 

そう話しながら天谷、奈良坂は移動をしているともう一人のチームメイトから通信がかかってくる。

 

宇野『奈良坂先輩!犬飼先輩が奈良坂先輩を追いかけて行きました!気をつけてくださいね』

 

奈良坂『分かった。逃げに徹するから通信を切るぞ』

 

天谷「了解。羽矢さん、奇襲攻撃するのに適した場所教えてもらえますか?」

 

橘高『分かったわ、今から情報を送るからちょっと待ってて。』

 

天谷「分かりました。」

 

そのまま移動をしながら待っていると天谷の視界に情報が入ってくる。天谷はその情報を見ながら移動をし、奇襲ポイントに着く。

 

天谷「奇襲ポイントに着いた。比奈が大丈夫なら突撃するぞ。」

 

宇野『大丈夫です。というより早めに来て欲しいです。』

 

天谷「了解、行くぞ!」

 

天谷は窓のビルを孤月で叩き割り重力に従って落下しながら、下で戦っている二宮、出水へ向けてアステロイドを叩き込む。

それを二宮は余裕を持って回避するが、出水は二宮からのアステロイドの回避もあったため少し反応が遅れ、少し被弾しながらもその射線上から外れる。

 

出水「ちっ、このタイミングで翔の登場かよ…。こっちは一人なのによ。」

 

宇野「出水先輩、よそ見してる場合ですか?」

 

宇野はガラスを突き破り登場した天谷の姿に気を引かれている出水の背後に回り、一気に銃口を引く。

出水も必死に移動をしようとするが、宇野の放ったアステロイドの方が速く、出水の体を貫いていく。

 

出水「本当にお前ら二人厄介だぜ…」

 

「戦闘体活動限界、ベイルアウト。」

 

機械音とともに出水は爆発し離脱していく。一瞬だけ気を緩めた瞬間天谷と宇野は突如として現れた上空からの攻撃に襲われる。二人とも出水を倒した瞬間であったため、気が緩んでいた。その一瞬を逃さず二宮が攻撃したのだ。

ハウンドだとサイドエフェクトにより判断した天谷はすぐに回避に移るが、宇野は反応がサイドエフェクトによる恩恵がないため回避に移ることができず、シールドを展開しその場を凌ごうとする。

 

出水がベイルアウトした爆風に飲み込まれたいる中で弾丸を見た天谷はいつも二宮が放つハウンドとは何かが違うと直感的に判断した。

 

天谷「比奈!これはハウンドじゃない!サラマンダーだ!」

 

天谷はそう伝えるがハウンドだと思っていた宇野は自分の上側にのみシールドを展開していたため、自分の真上に降ってきたサラマンダーは防ぐことに成功したが、自分の周辺にきていたサラマンダーの爆発にもろに巻き込まれた。

天谷も宇野にシールドを張り守ろうとするが、自分自身にも被弾しそうになったため、宇野にシールドを張ることができず、自分を守るしかできなかった。

 

宇野「っ……。すみません、しくじりました…。」

 

宇野は体に多くのダメージを負いとても戦闘を続行するには辛い状況だった。

 

天谷「比奈、援護を少しでいい、してくれ。」

宇野「分かりました。残るトリオンでできるだけのことはします。」

 

天谷は二宮に詰め寄り孤月をもって対応する。二宮は天谷の師匠であるため、純粋なシューターとしての力では圧倒的に力の差があるからだ。天谷はそのため二宮と自分との違いである、孤月を使った近距離戦を仕掛けたのだ。だが相手しているのは個人総合2位の相手だ、ら1位の太刀川とはうって変わり、その頭の良さを生かした賢い立ち回り、そしてボーダートップクラスのトリオン量を生かした攻撃により本来シューターやガンナーが苦手とする近距離戦においても無類の強さを誇る。

今は純粋に近距離戦に使う孤月を用いて対応していること、そして体がすでに限界に近いが、援護射撃をしている宇野の存在がいることによって互角以上に今は立ち回れているのだ。しかし、宇野はベイルアウトも近いため援護射撃も少しもすれば止まってしまうだろう。そのため出来る限り早く二宮を倒す必要があるのだ。

 

そのため天谷は勝負を焦っていた。

 

(早く急がないと戦いが厳しくなる…。風間さんもいるし、早く倒さないと…)

 

すると二宮の後方から二つの光が飛び立った。誰か二人がベイルアウトしたのだ。

 

天谷「透!どうなったんだ?」

 

奈良坂『すまない、風間さんとの挟撃にあった。だが、捨て身で犬飼先輩を攻撃したら当たったから犬飼先輩もベイルアウトした。風間さんがそっちへ行くぞ。気をつけろよ。』

 

天谷「ああ、分かった。通信切るぞ。」

 

天谷はそう言い通信を切った。外向きには落ち着いているように見えるが内心かなり焦っていた。先ほどいったように焦っていたが、それに加えて風間もこっちに向かっているのだ。焦っていた人からすればさらに焦ってしまうだろう。

 

(どうしよう…早くしないと…)

 

焦れば焦るほど攻撃は単調になり、次第に次第に状況が悪くなっていく。そのとき突如として通信が入ってくる

 

橘高『翔、落ち着いて。焦れば焦るほど不利になるわ。』

宇野「そうです、先輩。まだ負けると決まったわけではありません。ゆっくり狙っていきましょう。」

 

天谷「そうだな。悪い癖が出ていた。ありがとう。さあ、倒しに行くぞ!」

 

天谷は頼もしい仲間たちに支えられて落ち着きを取り戻した。それにより少しずつ押し返されてきた戦況を逆に押し返すようになっていった。

 

宇野「先輩、そろそろ限界が近いです。仕掛けます!」

 

宇野は銃撃の密度を心臓部一点に絞り、圧力をかける。二宮を壁際に追い詰めてから宇野は自身の拳銃部に取り付けている剣を外し、二宮めがけて放つ。二宮は銃撃の隙間を縫って回避して、反撃していたが、剣は二宮が絶妙に回避できないタイミングで放たれていた。そこで二宮はシールドを用いたガードに入った。宇野の放った剣は銃口に取り付けたタイプのため、アタッカーが使っている孤月やスコーピオンなどに比べるとかなり攻撃性能は低い。そのため二宮は余裕を持って受け切ることができた。

 

しかし、二宮の目に映ったのは剣を受け切ったシールドではなかった。二宮のシールドは突如現れた天谷の孤月のブレードによって粉々に叩き割られ、二宮の右腕を斬り裂いた。

天谷が二宮の右腕を斬り裂くためには弾丸が飛び交う射線上を旋空孤月で攻撃しなければならない。一撃たりとも弾丸に触れることなく攻撃した弟子の進歩に二宮は内心喜びながらもその仏頂面を天谷達へと向ける。

すでに宇野はトリオンが限界で攻撃はできないためまずは宇野を狙おうとする。

しかし、後ろから現れた風間によって宇野はベイルアウトし、そこには天谷、二宮、風間が残される。

全員傷を負っているが誰が不利であるか、それは誰の目から見ても明らかだった。天谷は地力で二宮、風間に負けベイルアウトし、二宮が風間を制し勝ったのだった。

 

 

 

橘高「お疲れ様、3人とも。いい活躍だったわ。Aチーム3点、Bチーム2点と生存点2点で4点、Cチーム5点、Dチーム1点よ。生存点こそ取れなかったけど撃破ポイントが最も多いから私たちの勝ちよ。」

 

宇野「本当ですか?やりましたよ!先輩!」

奈良坂「ああ、みんながいい動きをしたからな。」

天谷「本当にありがとう。焦っていた俺を助けてくれて本当に助かったよ。」

宇野「先輩は、ちょっとせっかちで勝負を焦ってしまいますから慣れたもんですよ。もうちょっと気をつけてくださいね?」

天谷「はい、気をつけます…。」

奈良坂「後輩に言われてしまったらどうしようもないな。でも本当に気をつけろよ?」

 

Cチームは少しの反省会をしてからブースを出て他のチームと合流する。

 

緑川「あ、おそーい。俺なんか早くやられちゃって暇だったんだからね?」

天谷「それは舞に負けた緑川のせいだ。遅れたことに関してはすまんな。」

 

皆が集まり先ほどの試合について談話していると二宮が天谷を呼ぶ。

 

二宮「相変わらず追い詰められると焦る。焦りをどうにかしようとすればするほどお前はドツボにハマるタイプだ。しっかり考えろ。まだまだ甘い。」

 

二宮の指摘はもっともだ。天谷は勝負に焦ってしまう弱点がある。自分でも抑えようとはしているが、やはり土壇場になると焦ってしまう。そのため二宮の指摘はとても大切なのだ。

 

天谷「はい、分かりました。また稽古つけてください、二宮さん。」

 

二宮「…だが、宇野との連携はよかった。そこをしっかり磨いていけ。それとお前はもう少しシューターとしての立ち回りも考えろ。今度シューターの技術を叩き込んでやるから覚悟しておけ。」

天谷「!はい、分かりました!お願いします!」

 

天谷と二宮が話していると太刀川が話に割って入ってくる。

 

太刀川「本当に二宮は素直じゃないな。天谷にだけはお前は甘いんだからなこのこのっ」

 

太刀川が普段二宮が見せないような姿を見せているためいじっていると後ろからガシッと掴まれる。

 

風間「太刀川?お前今までランク戦していたらしいが大学のレポートはどうなっている?まさか明日が提出なのに終わっていないなどと言わないだろうな?」

 

そう聞かれた太刀川の顔が青くなっていく。どうやら全くしていないようだ。

 

風間「二宮、こいつを本部長の元へ突き出す。手伝ってくれるな?」

二宮「もちろんです。このバカを突き出すのに協力します。」

 

太刀川「誰か助けてくれ!頼む!」

 

太刀川はどうにかしてこの場から逃げようとするがすでにみんな聞かなかったことにしている。普段よくランク戦をする米屋、出水、緑川ですら目を背けている。風間、二宮、忍田本部長に逆らって生きておけるはずがないからだ。正確に言えば彼らも同類のようなものなので、巻き添えをしないようにしているというのが正しいが。

 

太刀川はそのまま風間、二宮に引きずられていく。その後には太刀川の虚しい叫び声が聞こえてきたが誰もが無視をしたそうだ。

 

 




2週間くらいと言っていたのに投稿が遅くなってしまいさらに今回は語数も少なかったので申し訳ないです。さらにちょっと最後は略してしまった感もあります。なのでゴールデンウィーク中にもう1話出しますので皆さま楽しみにしたいてください。
本編に入ると那須さんが登場しにくくなるので那須さんとの絡みも入れるつもりなので楽しみにしててください。


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那須玲①

なんとかGW中に書き上げる事ができました!
今回はワートリの始まる季節を考えるとこのイベントがあったんじゃないかなーって思って書きました。後半は那須さんとの話がメインですのであしからず。

今回の作品にて最初に把握してもらいたいこと
理系 天谷、冷見、辻、熊谷、米屋
文系 奈良坂、那須、三輪、剣持

この設定はオリジナルなので皆さんの考えとは違うかもしれませんが、今回はこれでやらせてもらいますので理解した上で読んでください。
それでは本編をどうぞ!


コンコン…。

 

部屋の戸を叩く音がその部屋へと響き渡る。

 

「入ってくれ。」

 

天谷がその部屋へと入る。目の前には腕組みをした忍田本部長が座っていた。そしてその隣には沢村本部長補佐が控えている。そして天谷が部屋に入ると、忍田は話し始める。

 

「そろそろあの時期だが、今回も頼むぞ。」

 

「はい、もちろんです。これは必ずなんとかしなければならないことですから。」

 

「では今回もよろしく頼む。そのためのシフトの変更は受け付けるから遠慮なくいってくれ。」

 

「分かりました。では追って連絡させてもらいます。では、失礼します。」

 

そう言い残して天谷は部屋を出た。そして、自分の携帯を取り出し連絡を取った…

 

 

 

 

米屋「横暴だ!なぜこんなことをするんだ!」

剣持「そうだそうだ!善良な市民を拘束することなんてでしょう!」

 

目の前には体を縄で縛られて文句を言っている米屋と剣持がいた。彼らはこれまで何度も逃げようとしてきたため三輪が鉛弾を打ち込み拘束をされている。

こうまでして彼らを拘束した理由、それは…

 

三輪「なぜ?そりゃお前たちのバカげた成績をどうにかするために決まってるだろう。」

 

天谷「お前たち前々回一緒に勉強した時にはそこそこな成績とったのに、前回俺たちがしなかったらお前たち赤点とったよな?」

 

確かに前回米屋、剣持は赤点をとった。彼らは基本的に勉強をせず、ランク戦に没頭する人種のため、悲惨なテスト結果となったのだ。同じようにレポートを全くせず後輩たちにやらせ、自分はランク戦をするといった行為を行う者がボーダーにはいるため、そのような者を作らないように忍田本部長は天谷たちに命令したのだった。

 

三輪「とりあえずお前たちは天谷の家に連れて行く。行くぞ天谷。」

天谷「分かった、他のやつらも呼ぶけどいいよな?」

三輪「いいだろ、このバカたちに教えられるやつらならむしろ来て欲しいくらいだ。」

天谷「それじゃ連行するか。」

 

米屋「そんな…」

剣持「横暴だぁぁぁぁぁ…」

 

こうして米屋、剣持は無理やり天谷の家に連れていかれた。

 

 

 

 

 

それから少し経ち天谷の家に天谷たちが着いた。二人は雑に放り込まれるとしゃべりだす。

 

米屋「言っとけど、俺たちは勉強なんてしないからな。」

剣持「そうだそうだ!絶対しないからね。」

三輪「お前たちは子供か。」

 

三輪が冷静に突っ込んでいると、天谷がしゃべる。

 

天谷「ほう、そんなこと言えるんだな。んなこと言ってていいと思ってんのか?」

 

天谷がいつになく威圧感を出してしゃべるため同じチームメートである剣持さえも驚く。しかし、勉強をしたくない二人はあくまで抵抗する。

そこで天谷は言い放つ。

 

天谷「そうか、そんなにしたくないなら帰ればいい。」

 

突然の帰ればいいという発言に三輪すらも驚く。言わずもがな米屋、剣持も驚いている。あれだけ勉強しろと言っていた天谷が帰ってもいいという。それは3人の意表をつくには十分過ぎた。その言葉を聞いた二人は帰ろうとする。しかし、天谷がしゃべる。

 

天谷「ただし、帰った場合お前たちに今日の夜に作る飯は作らないし、後々お前たちには料理を作らないことになってもいいというのならばな。」

 

その言葉を聞いて二人は立ち止まる。天谷の料理というのはとても絶品だ。ギャンブル料理であるA級6位加古望の成功チャーハンや玉狛第一の木崎レイジが作る料理に匹敵する美味しさで有名で頻繁に料理をしているが、ありつけることは少ないためとても希少価値がある。

そのためこれから先彼らが天谷の料理を食べられないというのはとても辛いことであった。特に同じチームメートである剣持は他の人より食べている回数が多いためここで勉強をせずに帰るという選択肢がいかに自分に辛いこととなるか分かっていた。

そのため二人は180度進行方向を変えテーブルに座り自ら勉強を始めた。

 

三輪「お前の料理はこんなに効果があるのか?とてつもないな。」

天谷「まあな、こいつら割と食ってる方だからな。さて、そろそろみんなも来るかな。」

 

天谷がそういうと玄関が開き、数人が入って来る。

 

奈良坂「邪魔するぞ。」

冷見「お邪魔しまーす。」

辻「久しぶりに来たな。」

熊谷「私は始めて来たよ。今日は私も教えてもらうよ。よろしくね。」

 

各々そう言い、天谷の家へと入って行く。しかし熊谷だけが入ってこない。天谷が不思議に思って玄関へと見に行くと、熊谷と那須がいた。

 

天谷「おう、那須じゃん。お前も来たんだな。そんなとこいないで、早く上がりなよ。」

 

天谷がそういうと那須は少し気恥ずかしいそうに天谷の後に続いて入る。

 

那須「お、お邪魔します…」

 

その様子を見ていた熊谷は少しにやけながら天谷の家へと入っていった。

 

那須たちが部屋へ入るとそこには広めのリビングとそこにあるテーブルで必死に勉強している米屋、剣持の姿があった。

 

奈良坂「陽介がこんなに意欲的に勉強をしてるのか?」

冷見「まさかふたりがこんなことになってるなんて…」

辻「お前たち頭でも打ったのか?」

 

米屋「俺たちは勉強に目覚めたのさ。」

剣持「何が何でもしなければならないのよ。」

 

後から来た人たちもその異常な光景に驚いている。なぜこうなったのか、天谷と三輪が説明すると皆がその理由に納得する。そして皆すぐに勉強の準備を始めた。

いかに三門市を守っているボーダー隊員といっても彼らは一介の高校生。もちろん彼らの本分は勉強だ。そのためいかにボーダーの活動が忙しくとも勉強を疎かにするわけにはいけないのだ。

 

みんなが得意教科がばらけているため、お互いにカバーをしあう。

 

辻「この数学の積分が分からないんだけどどうすればいい?」

奈良坂「ああ、この問題はさっきやったやつだ。ここについてまずは見てだな…」

 

冷見「玲ちゃん、この英語を訳すの全然分からないのだけど、分かるかしら?」

那須「そうね、この文を訳すのならまずはこの部分から見た方がいいんじゃないかしら?」

 

米屋「わかんねー。意味わかんねぇよ。何だよまずこの記号、意味わからん。」

剣持「そうだよ、これを解いて私たちに何の徳があるの?」

熊谷「私もここわからないんだよね。天谷、ここ分かる?」

天谷「ああ、過冷却の計算問題か。まずこのグラフの理解からしようか。まずこのグラフを見て…」

 

天谷がひとしきり鉛蓄電池について話し終わると、なぜかすごく視線を感じることに気づいた。その正体が気になったが明後日提出の課題が天谷にはあるため課題をし始めた。

 

天谷が課題をし始めてからも1人天谷の方を見ている人物がいた。その人物は那須だった。那須は話しかけたいけどなかなか話しかけるきっかけを見いだせず、天谷も自身の課題をし始めてしまったため余計にタイミングを見失っていた。

 

(どうしようかしら、天谷くん課題をし始めちゃったし、話しかけづらくなっちゃったわ…。どうしても分からないわけではないから別に絶対聞かないといけないわけではないのだけど…。天谷くんの隣に座って一緒に勉強していたいからなんて口が裂けても言えないし…。)

 

そうして少し困っていると、親友である熊谷が助け舟を出す。

 

熊谷「天谷ー?玲が化学基礎が分からなくて困ってるらしいから手伝ってあげて?」

天谷「ん?何だよ、困ってたなら早く言ってくれたら早く教えたのに。何が分からないの?」

那須「えっ、あ、そうそう、この酸と塩基について分からないから教えてもらいたいの。時間大丈夫かしら?」

天谷「大丈夫だよ。それで問題見せてくれるか?」

 

天谷に問題を見せようとする那須だが、突如鋭い視線を浴びたため、隣を見ると熊谷が目で『早く隣に行け』と指示しているようだった。

 

那須は恥ずかしく感じたが、天谷の隣へと移動をし、天谷の隣に座って勉強を教えてもらう。

 

(恥ずかしくて天谷くんが言ってることが入ってこないよ…。熊ちゃんも笑いながらこっちの方見てるし、亜季ちゃんも暖かい目で見てくるしで余計に恥ずかしいよ…)

 

天谷「どうした那須?ちゃんと話を聞いてくれないと困るからちゃんとこっち向いて話を聞いて。」

 

そういうと天谷は那須の顔がこっちに向くようにするために那須の肩をツンと触った。

 

那須「ひゃっ!」

 

突然の那須の言葉にみんなが勉強を一度止めて那須の方を見る。みんなその様子を見るとニヤァと笑いながら自分の勉強に戻る。さの行動が那須を恥ずかしくさせた。

 

(う、突然触られちゃったから変な声出しちゃったわ…。ちゃんと話を聞かないと。でもいきなり肩をツンとするなんてずるいよ、天谷くん…)

 

その後なんとか問題を解き終わり皆がやらなければならないことをやり遂げたため、みんなでご飯を食べることになった。

 

剣持「私はこの時を待ってたのよ!さあ、早く料理を作りなさい。」

米屋「俺も腹減ってきたから早めでよろしく。その間に俺たちはゲームしてるから。」

三輪「お前たちは待ってる間も勉強だ。さっさと積分を終わらせるから早くしろ。」

剣持「えー?もうしたくないのに…」

米屋「まじかよ、でも天谷の飯にありつけなくなるから頑張るわ。」

 

珍しく二人が勉強意欲を出していると冷見が俺の料理のサポートをすると言ってきた。冷見は天谷に料理を習っている。その目的は単に料理技術を向上させたいというのもあるが、実際は冷見の思っている烏丸の胃袋を掴むためだった。そのため意欲的に習いにきている。

 

冷見が天谷の料理の手伝いをすると聞いた那須は慌てる。

 

(亜季ちゃんが天谷くんと一緒に料理をするですって…?一緒にダイニングに立って料理をして…。な、なんてこと考えてたのかしら…。そ、そんなことより私も手伝うって言わないと…)

 

那須「私も手伝うよ?何か出来ることあるかしら?」

 

那須が手伝うと聞いて天谷も驚く。

 

天谷「那須って料理出来るのか?出来るんだったら料理も手伝って欲しいのだけど、那須って病気あるから大変だろ?無理はしなくていいよ。」

 

那須「少しくらいなら料理できるから手伝うよ。気を使ってくれてありがとうね。じゃあ、料理をしましょう。」

 

三人で料理をしたためテキパキと進み、料理は出来た。剣持と米屋はちゃんと勉強をしていたためなんとかご飯にありつくことができ、喜んでいた。その後少しみんなで話をした後、8時を回る時間が来たためここでお開きとなった。

 

奈良坂「夜で暗いから女性陣を送っていかないとな。冷見、熊谷、剣持はどっちの方向なんだ?」

 

冷見「私は三門第三中学の近くよ。」

熊谷「私は鈴鳴の方角だね。」

剣持「私は熊ちゃんとだいたい同じ場所だよ!」

 

奈良坂「三輪が三門第三中学の近くに住んでたよな?」

三輪「ああ、そうだ。俺が送っていく。」

 

奈良坂「辻と俺で熊谷と剣持を送っていく。」

 

米屋「じゃあ、俺が那須を送ればいいのか?」

奈良坂「いや、お前は三輪と帰ればいい。玲は天谷が送る。」

天谷「俺?いいけど、他に近い人いなかったっけ?」

 

天谷がそういうと奈良坂から哀れな目で見られた。

 

天谷「どうして俺のことをそんな哀れんだ目で見るんだよ。」

奈良坂「はあ、お前分からないのか?」

天谷「何のことだ?」

「「「朴念仁」」」

 

天谷は皆に言われたことを疑問に思いながらも那須を送っていくことになった。

 

那須「わざわざごめんね。」

天谷「いや、いいよ。それよりもさっきのみんなが見てきた哀れみの目って何だったの?」

那須「そうね、まだ今の天谷くんだとまだ分からないでしょうね。」

天谷「えー?那須は教えてくれないのか?」

那須「そうね、今はまだ教えれないけどいつかまた今度教えてあげるわ。」

天谷「じゃあそのまた今度教えてくれるのを期待してるよ。」

那須「そうね。」

 

那須はすごく楽しそうに笑っている。天谷もその様子を見て笑いながら話をし、那須の家までやってきた。

 

那須「ありがとうね、天谷くん。」

天谷くん「いや、大丈夫だよ。それよりも体調大丈夫か?結構歩いていた気もするけど。」

 

確かに那須の家と天谷の家は少し距離がある。那須は体が弱いため、生身であまり出歩くことはないので、息がかなりあがっていた。

 

那須「大丈夫よ…。天谷くんとおしゃべりしながら帰ってこれて嬉しかったわ。」

天谷「それなら嬉しんだが、ちゃんと体調に気をつけないとダメだぞ。これで那須が倒れちゃったら俺は悲しいからな。」

那須「そうね、これからは気をつけるからまた今度お買い物に行きたいのだけど一緒に来てくれないかしら?」

天谷「那須の体調が大丈夫ならばいいよ。いつ行きたいかまたLINEしてきてくれ。」

那須「ありがとうね。それじゃあ、またね。」

天谷「ああ、またな。しっかり休むんだぞ。」

那須「うん。気をつけて帰ってね。」

 

那須はがそのまま家に入って行くのを天谷は見届け、家に帰ったのだった。

 

 




見てくださりありがとうございました。那須さんとのデートは黒トリ争奪戦終了後に書く予定なのでまたしばらくお待ちください。
ちょっと那須さんがキャラ崩れしてるかもしれませんがご愛嬌ということでお願いします。
次回はついにワートリ本編スタートです。次回も2週間後くらいですのでまた気長にお待ちください。


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黒トリガー争奪編
三雲修①


今回初登場のボーダー隊員さん

ブラコンとシスコンの両刀 嵐山
ブラコンとシスコンを兼ね備え、我が道を行く男。圧倒的爽やかさで周りの者を眩しくさせる。天谷にとって頼れるお兄さんであり、嵐山にとって天谷は頼れる後輩であり、お互いに尊敬しあっている。

出来るキノコ トッキー
怒っている人を宥める、裏方をこなす、戦闘援護などあらゆるサポートをこなす出来るキノコ。その腕前の高さは多くのボーダー隊員から評価されてたり、多くの勧誘がなされているとか。だが時枝は嵐山の元で働くのがいいと言っているため勧誘される可能性はないと言われている。天谷も剣持と一日交換してみたいと考えている。

ツンツンデレ 木虎
ツンの割合がとてつもなく大きいツンデレ。天谷は比較的デレが多い側の人物に当たるため他のボーダー隊員から羨ましがられているとか。実際は戦闘に関する技術を教えてもらったため尊敬していると言うのが正しい。天谷はもう少しみんなと仲良くできたらいいな、と保護者のように感じている。


「ふう、これで最後だな。」

 

そう呟いた天谷の周りにはおびただしいほどのモールモッドの残骸が広がっていた。その理由は何か?ここ最近異常なほど門の発生数が増えているのだ。そのため多くのボーダー隊員が臨時で防衛任務に入り、対応している。今まさに天谷も臨時で防衛任務に入っているのだ。

「お疲れ様!流石の活躍だな。」

 

明るく爽やかな青年が話しかけてくる。その男は嵐山准。ボーダーの広報を担当しており、いわゆるアイドル部隊と言われている。しかし実力はもちろん折り紙つきである。

 

「まあ、天谷さんならその程度造作もないですよね。」

「木虎、そんなことはないよ。俺なんか二宮師匠に比べればまだまだ甘い。」

「ですがやっぱり私からすればとても強いです!」

「はいはい。まだ二人とも終わってないんだから気を抜かないで。」

 

木虎と呼ばれた少女はいわゆる天才だ。デビュー当初からその類い稀な実力を発揮し、ランク戦を勝ち上がっていった。だがそれは木虎自身のたゆまぬ努力に裏打ちされたものであるので皆から認められている。少し性格に難があるが天谷も良き後輩だと思っている。

そして二人の会話を止めるように促したのが時枝充。嵐山の右腕で、援護能力の高さに定評があり、トッキーというニックネームで親しまれてる。人柄もよく、頼りになる後輩だ。

 

皆が一度門から現れたネイバーを撃退したため少しだけ気を緩めていたときだった。みなのインカムに突如として音声が聞こえてくる

 

『門が市街地に発生しました!場所は三門第三中学校です!おそらくイレギュラー門だと思われます。』

 

「なんだって!?三門第三中学には副と佐補が…」

「急いで向かいましょう!」

「嵐山さん、俺はグラスホッパー装備しているので先行して向かいます!」

「ああ…天谷頼む!俺たちも急いで向かうぞ」

「「「了解」」」

 

天谷はそれを聞くとグラスホッパーを起動し一目散に三門第三中学校へと向かった。

 

グラスホッパーは機動戦に使うトリガーだ。そのため長距離を素早く移動するためにも使われる。天谷は全速力で突き進んでいた。しかし、いくら移動が速いとはいっても三門第三中学校までは5分はかかる距離だった。

天谷はその5分がとても長く感じた。わずか5分されど5分である。戦うすべを持ち合わせていない者が逃げるのに5分というのはとても長い時間だ。もしも自分が着くまでに誰かが死んでしまっていたら…そう考えていると身の毛もよだつ…

 

そうしていると三門第三中学校に到着した。すぐに天谷は教員のもとへ行き、状況を確認する。

 

「教員はいますか?早くしてください!」

 

すると教員がやってきて状況を説明する。

 

「まだあの北棟にボーダー隊員が一人残って戦っています。そして、まだ一人安否が確認できていない子がいます…」

 

「なんだって!?安否不明者がいるだと!?急がないと…」

 

天谷は教員の言葉を聞くなりすぐに北棟に走っていく

 

「おかしいな…確か三門第三中学校にB級以上のボーダー隊員がいたか…?いなかったはずなのだが…いやそんなこと考えている暇なんてない…急がないと…」

 

天谷は北棟を見ると4階から煙が上がっているのが見えた。

 

「あそこだな……グラスホッパー!」

 

天谷が4階へと駆け上がると弧月を振るい廊下へと入りこみ確認する。

 

「…モールモッドが一撃で切り裂かれている…明らかに手練れの隊員がやった痕跡だ…

 

そう考えていると反対側から再び爆発音が聞こえる。

 

反対側からか…行くぞ!

 

反対側に行くとモールモッドがもう一匹いた。天谷が弧月を構えた瞬間だった、突如としてモールモッドが音を立てて地に倒れ伏した。

倒れ伏した先にいたのは黒い隊服に身を包んだ白い少年だった。そしてその側にメガネをかけた少年が立っていた。

 

「君が一人ここに残って戦っていたというボーダー隊員か?」

 

天谷の問いかけに白い髪の少年は少し黙っていた。そしてその側の少年は困ったように冷や汗をかいていた。そして二人で話す。その様子を疑問に思った天谷は話しかける。

しばらく待っていると天谷にとある考えが浮かぶ。

 

(そうか、この子は訓練兵だな。訓練兵がボーダー基地以外でトリガーを使用すると厳罰が下るとなっていたな。ならば…)

 

「…なぜ肯定しない?お前は訓練兵だというのはわかっている。確かに厳罰を受けなければならない立場であるのも分かっている。だが今回は緊急事態につき起動したのだろう。だから俺からも許しを請う。」

 

天谷の提案にも白い髪の少年は何も言わない。それにしびれを切らした天谷が強くいう。

「…名乗った方がいいぞ。このまま何も言わないというなら俺とてお前が近界民であることを疑わずを得ない。余計な誤解を生み出したくないのなら名乗ろう。」

 

その言葉に白い髪の少年ではなく隣のメガネをかけた少年が言う。

 

「訓練兵所属の三雲修です。一体は撃破できたのですがこの一体にやられてしまい、ピンチだったのをこの友人に助けてもらったのです。」

 

「…嘘だな。お前は倒していないな。」

 

天谷の発言に三雲が驚き言う。

 

「嘘をつく理由がありません!どこが嘘だと言うんですか!」

 

三雲は少し怒りながら天谷へと言う。その三雲に天谷は告げる。

 

「お前…あちらにあったモールモッドをお前が倒したと言ったな。」

 

その発言を受け三雲は答える。

 

「はい、自分が倒しましたが…」

 

三雲は答えるが少し語尾を濁しながら言う。そんな三雲に天谷は続けて言う。

 

「あのモールモッドは一撃で切り裂かれていた。あの傷は正隊員ですらなかなか作らないような鋭い傷跡だった。あのような傷跡を残せるような者がさらさらモールモッドに負けるはずがないな。」

 

「こちらでは守るべき友人がいて庇った結果負けてしまったんです!」

 

三雲も強く言い返すが、次の一言を受けて黙ることとなった。

 

「では、お前。そこのモールモッドとあっちのモールモッド。どちらも同じような太刀筋で切られているのはどう説明する?第一素人がこんな太刀筋を放てるはずがない。大方そこの白髪は近界民なんだろ?」

 

その一言を聞いて白髪の少年は距離を取り警戒をする。しかし三雲は二人の間に立って言う。

 

「聞いてください!こいつは悪いやつではないです!街を襲うようなことはしません!」

 

三雲の叫びを聞き天谷は孤月を鞘へとしまい白髪の少年へと話しかける。

 

「ああ、俺は別にお前が近界民だろうとそうでなかろうと別にどうでもいい。お前が街を襲わないというのならここで殺す必要はないからな。」

 

白髪の少年は天谷をじっと見つめ、しばらく立っていた。すると警戒を解き天谷へと近づく。

 

「お前は信じても大丈夫そうだ。俺は空閑遊真。お前が信じているように近界民だよ。でも何で俺を殺そうとしないんだ?こっちの人間はみんな近界民を目の敵にしているのに。」

 

空閑の不用意な天谷への接近に三雲は下がるように言うが空閑は三雲の話を聞かず天谷の元へと歩いていった。すると空閑の質問に天谷が答える。

 

「ああ、俺は天谷翔だ。ボーダー隊員をしている。さて、お前の質問だが確かに俺も近界民は憎い。なんたって俺の両親を殺した奴らだからな。」

 

「ふむ、両親を殺されたのにか?」

 

「ああ、俺の両親を殺したのは近界民だ。その事実は変わらない。だがそれで全ての近界民を憎んでいては意味がない。お前が俺の両親を殺したという証拠もない。だから危害を加えてこない近界民は問題がない。だが危害を加えるというなら話は別だ。だからお前も街へ危害を加えないな?」

 

「うむ、俺もわざわざ襲う必要がないからな。約束するよ天谷先輩。」

 

そういうと二人は握手をした。その姿に三雲が呆けていると天谷が言う。

 

「とりあえず下に降りよう。傷がついたこの校舎にいては危険だ。そして三雲。お前についてはおそらく何かしらの処分は下るだろう。覚悟しておきなよ。三雲くんはそれだけ危険なことをしたんだ。いいね?」

 

「はい。もちろんです。」

 

処分という言葉にショックを受けずむしろ分かっていたような態度をしている三雲の姿を見て天谷は驚いていた。普通ならば処罰から逃れようとするものだが彼にはそのような行為がなかった。その態度を見て天谷は続けて言う。

 

「ただ、今回は君の活躍による被害者0というのもあるだろう。今回は俺からも罰を緩めてもらえるように頼もう。」

 

「本当ですか!?ありがとうございます!」

 

先ほどまでは少し悲しそうな顔をしていた三雲であったが天谷の言葉を聞き嬉しそうな顔になった。その姿を見るとやはり年相応な子なんだと天谷は感じた。

 

「さあ、下へ降りるぞ。みんなが待っている。」

 

 

 

 

 

天谷たちが下へと降りると三雲に助けられたらしい子たちが三雲の元へと駆け寄ってくる。三雲は当然のことをしたまでだから誇れることではないと言っているが、隣の空閑が話に尾ひれをつけて話しているためみんなの興奮は止まらないようだった。

 

「先生、校舎内にいた近界民は殲滅完了しました。殲滅が確認できていますが、まだ油断はできません。もうしばらくシェルターに戻っていてください。」

 

天谷が教員たちに報告していると嵐山、木虎、時枝がやってくる。

 

「敵は全滅したようだな。流石だな、天谷。」

「この程度、天谷先輩ならできて当然です。」

「お疲れ様。」

 

三者三様に労いの言葉をかけてくれるが皆に天谷が伝える。

 

「いや、今回は俺がモールモッドを斬ったわけではない。その場に居合わせた彼、三雲くんが倒した。彼の活躍がなければ多くの生徒が亡くなってしまっていたかもしれない。」

 

その天谷の報告を受けて嵐山は早速三雲のところへ行き労いの言葉をかける。

 

「君が三雲くんか!君の活躍で多くの生徒の命が助けられた。本当に感謝している!」

 

テレビでアイドルのような存在である嵐山が目の前にいて、しかも三雲に感謝の言葉を述べていることに他の生徒たちは興奮しているがそれを良しとしない者がいた。木虎だ。

木虎はプライドが高く、上級生には頼りにされたい、同級生には負けたくない、下級生にはナメられたくないといった考えを持っていた。

同級生が訓練兵であるにも関わらずモールモッドを2体も実践で倒したというのは彼女のプライドに火がついたのだった。

 

「あなた訓練兵でしょう?訓練兵はボーダー基地以外でトリガーを使うことは禁じられています。それにもかかわらず使ったというのを分かってるんですか?」

 

木虎の強い口調に興奮していた生徒たちも黙る。そして三雲も申し訳なさそうに俯いていた。

その様子を見た空閑が木虎と三雲の間に割り込み言う。

 

「なんだお前、偉そうに言って。」

 

空閑の発言に木虎は食ってかかる。

 

「何かしら?ボーダー隊員でもない者がこの話に入ってこないでもらえるかしら。」

 

「俺は修に助けてもらった者なんだが。修に助けてもらっていなかったら俺は死んでいたかもしれない。だから修に文句をつけるのは間違っている。」

 

「私たちの到着を待っていればよかったでしょう?わざわざあなたがする必要なんてなかった。分かるかしら?」

 

「いや分からないね。現にあんた達は間に合っていなかった。早く来た天谷先輩さえギリギリのタイミングだった。それなのに感謝も言えないなんてお前、さては修に嫉妬しているな?」

 

空閑の言葉により核心を突かれた木虎はさらに言い返そうとするが、そこに天谷が二人を諌めるように言う。

 

「そこまでだ、木虎、空閑。三雲に関しては俺が厳重に注意した。確かに空閑の言う通り俺ですらほぼアウトのタイミングで到着した。言い返すことなんてできない。分かったかい、木虎?」

 

「でも…」

 

まだ言いたそうな木虎に時枝がなだめるように言う。

 

「はいはい、木虎そこまでにして。三雲くんの処罰に関しては上層部が決めることだよ。とりあえず現場調査は終わったから帰るよ。」

 

「…はい。」

 

木虎はかなり渋々ながら引き下がった。その様子を見て嵐山が三雲に言う。

 

「三雲くん、上層部の元へ行ってもらわないと君はいけない。だから、夕方に来てくれるか?」

 

「はい、分かりました。」

 

そう言うと俺たちはその場を後にした。

この出会いが三門市を、ボーダーを大きく変えていくことになっていくなんてまだ誰も知らなかった。

 

 

 

 

 

 




今回も投稿遅れて申し訳ありません。次回はもう少し早く上げますのでまたお待ちください。


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天谷翔③

本編投稿がまたも遅れてしまいました。もっと早く投稿できるようにしていきます。
前回天谷のトリガーにグラスホッパーが入っていましたが、これは天谷が普段の防衛任務の際はバックワームを外してグラスホッパーを入れているからです。
説明していませんでした。これからはこういうミスを減らしていきます。

感想、評価を書いてくださると、とてもうれしいのでぜひ書いてみてください。

それでは本編をどうぞ!


三門第三中学校で突如として門が開いてから数時間後、天谷は防衛任務も終わり、自宅への帰路についていた。

彼はすでに家族がいないため1人で生活しているため、料理などの家事も1人でしているため、彼は今商店街へとやってきていた。

 

「お、翔じゃないか。いつもお疲れ様だな。防衛任務の帰りか?」

 

天谷はよくこの商店街で買い物をしているため、多くの店主と仲が良かった。

 

「さっきまで、仕事してたから疲れたよ。ところで今日は何の野菜がオススメ?」

 

「そうだな…その横に置いているトマトとここに置いてるキャベツなんかがオススメだな。天谷だから安くしとくで?」

 

「ならそれを買ってくよ。おっちゃんは安くしてくれるからありがたいよ。」

 

「いやいや、近頃はスーパーがあるにも関わらずこっちまで来てくれるのは俺たち商店街の人たちにとっても嬉しいことなんよ。これからも来てくれよな!」

 

そう言って天谷が野菜を受け取ろうとしたときだった

街の中をけたましいサイレンが響き渡った。そのサイレンはネイバーが現れる門が街中に出現することを指し示すものだった。

 

音が鳴り終わると同時に上空に発生した門からネイバーが2匹現れた。

 

「な、なんだあれは!?」

 

天谷もその姿を見て驚いていた。そのネイバーは小学校ほどの大きさを誇っていたのだ。

そしてそのネイバーは天谷にとって見たことがないタイプであった。

 

(ちっまさかの新型かよ…こいつは一体どんなタイプなんだ…?)

 

天谷がトリオン体に換装して様子を見ていると新型ネイバーは突如として市街に向けて爆撃を開始した。

 

(爆撃タイプだとまずい!市街に大きな損害が出かねないぞ…)

 

天谷はすぐに周りにいる人々に指示を出す。

 

「みなさん、ネイバーです。急いでシェルターへと避難してください!」

 

天谷の声とともに大勢の人々が逃げていく。それは先ほどまで天谷と話していた青果店の店主もそうだった。

みなが避難をし、先ほどまで賑やかにしていた商店街が嘘のように閑散としていた。その中で天谷は新型を撃退するために動き始めていた。

 

「忍田さん!こちら天谷!市街上空に新型のネイバーを確認。敵は爆撃タイプで、市街へ積極的に攻撃していることが確認できます。」

 

忍田本部長へ天谷が通信をとるとすぐに応答が帰って来た。

 

『こちら忍田。状況を確認した。天谷隊員は市街への被害を減らすことをメインとしながら、ネイバーの撃墜を命じる。オペレーターとして冷見隊員がつく。増援として二宮隊がそちらへ向かっているが到着には時間がかかる。できるだけ被害を食い止めてくれ!』

 

「了解しました。戦闘に入ります。」

 

天谷は返答をして通信をとりグラスホッパーを踏んで一気にネイバーへ接近する。近づいてみるとさらにその大きさが分かってきた。

 

(本当に今日はバックワームを外してグラスホッパーを付けてきてよかった…それにしてもこの大きさ…下手に撃墜をすると市街に落下して市街に被害が出かねないな…)

 

小学校ほどの大きさのネイバーを市街に落下させようものなら、一帯が吹き飛んでしまうことは目に見えていた。

 

「冷見!聞こえてるか?このネイバーの周回軌道を予測してくれ!川の上に来たところを叩き斬る!」

 

『聞こえてる。だいたい予測はついたわ。データを送るから確認して。』

 

冷見から送られて来たデータを確認する。するとそこには一体は周回軌道に川を通ることが確認できたが、もう一体は周回軌道上で川を通らず常に市街の上空を飛んでいた。

天谷が送られて来た情報を確認している間にも新型のネイバーは市街に爆撃を繰り返していた。

 

「チッ爆撃ばっかしやがって…バイパー!」

 

天谷はバイパーを動かしてネイバーの攻撃を空中で当てて、爆発させた。しかし2匹から放たれる爆発の範囲は広く、カバーしきれなく、何発かは市街へ落下していった。

 

「範囲が広すぎる!これじゃ全てはカバーしきれない!」

 

そう言った時だった。

 

ドゴォォォォ!

 

1匹の新型の上から爆発音が鳴り響いた。

 

「誰か他にも戦ってる人がいるのか?」

 

『確認したところ、木虎ちゃんが戦ったいるみたいよ。今攻撃をして撃破したみたい。』

 

冷見に言われて確認すると、市街に近い方の新型が徐々に落下をし始めているのが確認できていた。

確かに撃破したように見えた。

 

しかしよく見てみるとその様子は変だった。空中にいる敵を撃破すると、その進行方向へと落下していくのが普通だ。それは重力の力を受け、自由落下していくため当然の現象であった。

 

だが今回は違っていた。明らかに新型は進行方向とは逆の方向…市街の中心部へと向けて落下をしていたのだ。

そしてその中心部に存在しているもの、それは人々が避難をしている、シェルターがあった。

明らかに新型は人が多くいる地点めがけて落下をしていっていた。

 

「まさか…新型は自爆特攻しようとしているのか!?」

 

『天谷くんグラスホッパーを飛ばして落下地点に先回りできる…?』

 

冷見も新型が自爆をしようとしていることに気づき、天谷へ聞くがいつもと違って焦っているようであった。

 

「いくらグラスホッパーだとしても、あの距離離れていたらさすがに間に合わない!木虎はどうにかできそうにないのか!?」

 

『木虎ちゃんもスコーピオンを使ってなんとかしようとしているけど、さっきまでとは打って変わって全然装甲が剥がれないらしいの…このままだと…』

 

天谷の他に木虎の援護に行ける人物はいなく、天谷も距離がありすぎで援護に行けない。

そんな絶体絶命の時だった。

 

川を挟んだ反対側から鎖のようなものが伸びて行き、新型へ巻き付いた。そして次の瞬間、新型は鎖が伸びてきた方向へと勢いよく引っ張られていった。

引っ張られた新型はそのまま川の中へと墜落していき、その姿が見えなくなった瞬間、

 

ドゴオオオオォォォォォォッ!!!

 

 

川の水を吹き飛ばすような大爆発が起こった。その大爆発は周辺一帯を大きく揺らし、天谷もグラスホッパーを使って空中に逃げて体勢を整える。

 

(今の鎖…ボーダーのトリガーじゃないな…となると…遊真のトリガーか?木虎が三雲の連行をしようとしていたっていうならつじつまも合いそうだし、何より木虎の性格上ありえそうだ。それにしても遊真がいなければ危なかった…)

 

しばらく考えていると、冷見から通信が聞こえてくる。

 

『天谷くん聞こえてる?今のは何があったの?』

 

あったことをありのまま伝えると遊真がその身を追われてしまうため嘘を天谷は嘘をついた。

 

「俺もこっちにいる新型の爆撃をさばくのに必死で何があったかは分からない。けど一体減ったから楽になった。あいつをおんなじように川に落下させるからタイミングを氷見が教えてくれ!」

 

『わかったわ。カウントダウン、5...4...3...2...1...今よ!』

 

氷見がカウントダウンをし終えると同時に天谷はグラスホッパーを力強く踏み、新型のいる高度に一気に近づく。

 

「裂空弧月!」

 

天谷は手に持った弧月に備え付けられているトリガーを弾きながら、新型を斬りつける。

すると新型は真っ二つにたたき斬られ、先ほどのように自爆をすることなくその巨体は川に向かって落下していった。

川に落ちた瞬間に再び大きな音が回りへと響き渡り、川には大きな水しぶきができていた。

 

天谷は新型を斬った後、近くにあった橋へと非難しており何とか川に落ちることは避けていた。

 

「ふう、裂空だったから斬れたけど旋空だったら斬れていたか微妙だったな…」

 

天谷がこれまでに見たこともない敵を斬ったことを振り返っていると、再び氷見から通信が来る。

 

『天谷くん、お疲れ様。もうじき二宮さんたちが到着するから、状況を説明して。それと忍田本部長が会議室に来てほしいって言ってたよ。なるべく早く移動してね。』

 

「さっき仕事終わったばかりなのにまた戻らないといけないのか…」

 

『仕方ないよ、新型だもの。鬼怒田開発室長も早くしろって言ってるよ。』

 

「鬼怒田さんに残業代は高くつくよって伝えといて。」

 

『ははは、分かったよ。伝えとくね。』

 

「そんじゃよろしく。」

 

そういって通信を切ると同時に二宮隊がやってきた。やはり戦場でスーツ姿をしているのはいかがなものかと思っていると二宮が天谷に状況説明を求めてくる。そのため天谷は自分が感じたこと、敵の攻撃方法、自爆をしようとしたことなどを二宮に伝えた。

 

「…自爆特攻するなど聞いたこともないな。まためんどくさそうな新型が現れたもんだ。」

 

「確かに人が多く集まっているところに向かっていくなんて、俺もびっくりですよ!俺も戦ってみたかったな~」

 

「市街に大きな被害をもたらすネイバーなんで数多く出なくてよかったですよ。犬飼先輩もそういうこと言ってちゃダメでしょう。」

 

「そうだな、今回は天谷や木虎たちが近くにいたからこの程度の被害ですんでいるが、実際はもっとひどくなっていただろう。犬飼、もう少し言葉を考えて話せ。」

 

「そうですね、今回ばかりは俺が悪かったです。」

 

先ほど二宮が述べたように、天谷はなんとか被害が拡大するのを抑えたが街のいたるところに爆撃を受けた後は残っていた。その跡は重々しく戦争などのむなしさが見て取れた。

 

「すいません、二宮さん。もっと俺に力があればこんなにひどくならなかったのに…」

 

天谷はの言葉に静かながらも強く二宮は天谷に言う。

 

「いつからお前は全てのことができるようになったんだ?」

 

天谷は二宮の言葉に何も言えず黙っていた。すると続けて二宮は言う。

 

「この世ですべてのことを100%できる奴なんていない。それはお前に何度も言ったはずだ。だから限りなく100%に近い仕事ができるように、お前にできる最大限の努力をしろ。まだお前はそこが分かっていないようだな。今度鍛えなおしてやる。次にこっちが指定した日に、お前のその体にみっちり教えてやるから覚悟しておくんだな。」

 

「…わかりました、師匠。また今度よろしくお願いします!」

 

「ふん!行くぞ犬飼、辻。天谷も早く基地に戻れ。」

 

そういうと二宮は市街に向けて移動し始めた。その二宮を追って犬養と辻も移動していく。

天谷も忍田本部長や鬼怒田開発室長に報告するために走り出した。

 

 

 

 

 

 

ある場所、そこで一人の男が爆撃型ネイバーのイルガーをたたき斬った1人の青年を見ていた。

「…イルガーをああも容易くたたき斬るとは…面白いやつだ…俺の部下にほしいもんだ…」

男の不気味に笑う声のみがそこには響き渡ってていた…

 

 



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迅悠一①

前回登場した忍田さんたちの説明をしていませんでした。今回します。申し訳ございません。

今回初登場のボーダー隊員たち

威圧感 城戸司令
座っているときの威圧感で原作作者にも認められた男。冷徹な判断も下すが、それはボーダー隊員たちのことを思ってのことだから実際はいい人なのだと思われる。目にある傷は何によりつけられたのか不明で不気味さも漂っている。

最強の虎 忍田さん
ボーダーの上層部の中ではかなり若めな虎。本編での仕事を見ていると、中間管理職感がハンパないので、ストレスにより頭の髪がサヨナラしてしまうかもしれないことが危険視されている。しかし、本人はあまり気にしていなそうなので天職なのかもしれない。沢村さんの気持ちには気づいてあげましょう。…いやまじで。

実はいい人 鬼怒田さん
強気な態度で最初はみんな印象があまり良くなかったであろう上層部の一人。しかしその人並外れた知識や、部下に対する優しさ、そしてその体型によりボーダーが誇る三大マスカットとなったため、厚い手のひら返しをされたであろう人物。実際に当作者もそうです。鬼怒田さんは実際の上司に欲しいです。

見た目通り 根付さん
修に対して否定的であり、会見でも出汁に使うなど、これまた印象があまり良くなかったであろう人物。だが、実際にしている仕事はとても大切なことであるため、とてもすごい人物であることに間違いない。

おい、俺とラグビーしろよ 唐沢さん
爽やかな上層部であり、ラグビー論を唱えるラグビー信者。ラグビーをすれば大抵のことはできると考えており、実際にスタンドプレーにより根付さんを翻弄することに成功。やはりラグビーは最強なのか?
唐沢さんは駆け引き上手で、この人が外務担当である限りボーダーは安泰だと思われる。

林藤さん
変人の集まりである玉狛支部のボスである変わり者。この世界では数少ないネイバー友好派であるため大事な人物。本編を見ていると玉狛第二の父親のように見えてくるのは作者だけだろうか?そして林藤さんの過去はどんな戦い方をしていたのかとても気になるところである。

残念エリート 迅さん
自称実力派エリート、無職、セクハラ常習犯と文面だけで見れば残念すぎるエリート。よく、沢村さんやくまにセクハラしているが、一度だけ那須さんに手を出したとき、天谷が修羅と化したのでそれ以来手を出さなくなった。エリートは天谷が怖いのだ。未来が見えるというのはとても辛いもので迅さんはどれほどの辛さを味わってきたのだろうかと思う。



新型トリオン兵を撃破した天谷は、その状況を報告するために再びボーダー本部へと戻ってきていた。

時間は夕方を回り夜になってきていたため、ボーダー本部に現在いるのは比較的年の高い人たちが多くなっていた。

 

現在天谷は忍田本部長を訪ねて本部長室へと行ったのだが、会議に行ったと聞いたため、上層部の会議室を目指して長い廊下を歩いていた。

 

そちらから呼び出したのにいないなんて本部長も人使いが荒いなぁ…なんて考えながら歩いていると、周り角から見知った人物が歩いてきた。

 

「あら、天谷くんこんばんは…かしら?」

 

重そうなダンボールを両手使って持って、大変そうにしていたのは綾辻だった。重そうなダンボールを持っているところを見る限り上層部がこれから行うであろう会議で使う資料を運ばされているのだろう。

 

綾辻はただでさえ、学校の生徒会副会長、ボーダーの広報、防衛任務と大変なんだから断ればいいのに…と思いながらも綾辻の性格的に絶対に仕事をしてしまうんだろうと天谷は思う。

 

「天谷くんは何か用事があるの?」

 

「ああ、忍田本部長に呼び出されたのにいないから会議室に行こうとしてるんだ。綾辻もそうだろう?だったら俺がその重そうなダンボール持つよ。」

 

「そうなのよ、重くて大変だったから天谷くんが手伝ってくれるのがすごく助かるよ。」

 

綾辻は一旦天谷に荷物を渡すためダンボールを床に降ろす。降ろした後、天谷も荷物を保とうとするが、あまりのダンボールの重さに思わず驚く。

 

「おっ重!?よくここまで一人で運んできたな!?」

 

「そうなの、重くてすごい時間がかかってたからすごく助かったわ。」

 

天谷と綾辻は話しながら会議室に向かって歩いていく。

 

「期末試験の成績どうだった?」

 

「んー、国語と英語は良かったよ。どっちも学年1位が取れたよ。でもやっぱり理系の科目があんまり取れなかったよ。」

 

「綾辻は典型的な文系だしな。それにしても綾辻は副会長に広報なんてしてるのにいつ勉強してるんだ?」

 

「そうだね…夜に家に帰ってからやってるよ。正直眠たくて最近つらいよ…」

 

「そりゃあ、あんな生活続けてたら眠気がやばいでしょ?今日の仕事はまだ残ってるん?」

 

「あとは今日の新型に関する資料作りだね。藍ちゃんが今は作ってるから手直しして、資料を出したら今日は終わりだよ。」

 

やはり綾辻はそうとうブラックな仕事をしているようだ。政府は上層部は高校生にどれだけの仕事をさせてるんだか…林藤支部長なんか休みいっぱいとってんだから代わってあげろよ、と天谷は思った。

 

「それだったら後で俺がその資料は作っておくよ。俺もあの新型と交戦したからこの後で書類を作らないといけないから、木虎のもまとめとくよ。」

 

「えっ、でも天谷くんもしないといけないんだから、大変でしょう?いいよ、私がするから。」

 

「いや、マジで綾辻は休まないと体壊して倒れるぞ?俺は最近フリーな時間多いし、やっとくさ。今日くらい早めに帰って休んだかないと。」

 

天谷に言われて綾辻もようやく了承した。そのような話をしているうちに会議室の目の前までやってきていた。

 

「俺は今手が塞がってるから綾辻が扉開けてくれん?」

 

「分かったよ。あけるね。」

 

扉を開けた先は普段の外観が見えるような光景とは違って、遮光され暗くなっていた。その中に忍田本部長、城戸司令、唐沢さんなど、ボーダーの上層部と、城戸司令直属の部隊である三輪、おそらく今回の会議を開く発端になった三雲がそこにはいた。

 

「失礼します。頼まれていた書類を持ってきました。」

 

綾辻がここに入ってきたことを説明し、資料を上層部に渡す。天谷もダンボール降ろし書類を配る。配り終えたところで忍田本部長に話を聞こうとする。

 

「忍田さん、新型についての報告はどうすればいいですか?」

 

「ああ、この会議が終わった後でゆっくりと聞くとする。しばらく待っていてくれ。」

 

「天谷!お前の話はわしも聞くから帰らずに待ってるんだぞ!」

 

 

どうやら天谷はこれで残業コース行きが決まってしまったようだった。そのことに心の中で大きなため息をついていると、綾辻が後ろで励ましてくれた。

 

そのまま退席しようとしていたところで後ろの扉が大きく開き、後ろから少し男性にしては高めな声が室内に響き渡る。

 

「実力派エリート迅ただいま参上しました!」

 

誰もが突然現れた男に驚く。

 

迅悠一。ボーダー玉狛支部所属の隊員であるが、圧倒的センスでかつて太刀川と総合ランキング1位を争った男で、今でもボーダーのトップクラスのアタッカーでも敵わないと言われている。

 

そして彼の特徴といえば何よりも彼の持っているサイドエフェクトだ。彼のサイドエフェクトは未来が見える。なんでもかんでも未来が見えるというわけではなく、そのまま未来が起こる確率が高いものは何年も後のことを見ることができ、不確定なものは少し先しか見えないらしい。

 

天谷もサイドエフェクトを持っているため、その辛さなども分かるが、迅のそれは辛さのレベルも段違いであった。それは自分にとって辛い未来も見えてしまうからだ。見たくない未来さえも見てしまう、それがどれだけ辛いものなのか、それは他人には決して理解できるようなものではなかった。

 

 

「…迅か…よく来たな。天谷もこの会議に参加してくれ。綾辻は下がってもらえるか?」

 

「はい、分かりました。」

そういって綾辻は会議室を出ていった。出ていったのを確認して、忍田本部長は話す。

 

「それでは会議に戻るぞ。まずは三雲くんの処遇についてだ。」

 

忍田本部長は迅が来たことを労いつつも、天谷たちが来たことによって中断していた会議を再び始める。

 

「処遇?処遇も何も先ほど話した通りだ。クビだよクビ。自分が戦えるようになったからとこのように勝手な行動をする人がいては困る。」

 

「そうですよ。勝手な行動をされてはこっちも困るのです。」

 

鬼怒田開発室長と根付メディア対策室長は三雲の処分に関してクビでいいだろうと言っている。確かにそうだ。ボーダーの規則ではC級はボーダーの外でのトリガーの使用を禁止されている。

 

鬼怒田開発室長と根付メディア対策室長の発言を黙って聞いていた唐沢外務、営業部長は三雲に質問をする。

 

「正直に答えてくれ。君はこれから先に今日のようにネイバーに人が襲われたとしたら君ははどうする?」

 

三雲はしばらく考えるようなそぶりをする。しばらくの間沈黙が会議室の中にただよってから、三雲はその口を開く。

 

「僕は再びネイバーに人が襲われたいたならば、助けに行くと思います。困っている人を見過ごすことなんてできないです。」

 

三雲は正直に話す。普通ならかっこいいことを言っているのだが、この場では話が別だ。これは自らの命に関わる問題だ。ここでそのような発言をするのは間違っている。

 

実際天谷もそう思っていた。だが、馬鹿正直な三雲はそう言ってしまうだろうと思っていた。

天谷が上層部の様子を見ていると、鬼怒田開発室長や根付メディア対策室長も呆れ果てたような様子をしていた。城戸司令もその発言を受けて、『ボーダーには規則を守らない隊員はいらない』と言われてしまう始末であった。

 

 

四面楚歌な状態になった三雲に、一言援護しようとした天谷だったが、ここで迅が話す。

 

「ここで三雲くんを処分するのはもったいないよ。木虎ちゃんが書いた報告書でも彼の活躍によって街に被害が少なくすんだと書いてあるし、ほら、これこれ。根付さんこれ見てよ。」

 

そう言って迅はポケットからスマホを取り出して、とある映像を見せる。

その様子は、シェルターに避難をすることとなった人たちの話を写していた。避難をした人たちは、みんな『三雲によって助けてもらった、助かった』と言っており、三雲に対して文句を言っている人はいなかった。

 

「これをうまく使えば根付さんなら、上手く印象操作できるでしよ?」

 

「ああ、確かに…」

 

「それとこのメガネくんの処遇については俺に預けてもらえないですかね?このイレギュラー門の問題を解決するのにこの三雲くんが鍵を握っている。」

 

そのことを聞いて全員が驚く。ただでさえ手詰まりで困っている問題を迅は三雲を借りることだけで、解決できるというのだ。

 

「…彼が関わっているというのか?」

 

「はい、俺のサイドエフェクトがそういってます。」

 

その一言で城戸司令は迅の提案を受け入れ会議を終了させた。

みながそれぞれ話をしている中、天谷は忍田本部長の元へ行く。

 

「忍田さん、報告です。新型のネイバーは巨大な爆撃型のネイバーで、主に空中から爆撃をします。基本装甲は固く、孤月などでなんとか装甲を剥いでいけるという感じでした。そして、ある程度のダメージを負うと、人が最も多くいる場所目掛けて自爆特攻を行うタイプのようです。このとき、装甲が先ほどよりもかなり厚くなり、木虎曰く、スコーピオンですら全く装甲に傷が入らなくなるとのことです。」

 

「ああ、報告ありがとう。また、厄介なネイバーが現れたものだな…」

 

「はい、気をつけねば街に多くの被害が出ると考えられます。」

 

「分かった。対策は考えておこう。今日はもう帰ってもらって構わないぞ。」

 

「では失礼します。」

 

そういって帰ろうとした天谷だったが、鬼怒田開発室長に呼び止められる。

 

「まさか天谷?今から帰ろうとしていた訳じゃあるまいな?新型について教えてもらうと言っていただろう。付いて来い、色々と教えてもらおう。」

 

天谷は鬼怒田開発室長に捕まることなくそそくさとこの部屋を出ようとしていた。なぜなら、鬼怒田開発室長は新型が現れるとその特徴について細かく聞き、再現をしようとするからだ。今からしていると夜が明けそうな勢いだから天谷は逃げようとしていたのだった。

 

「今日は疲れてるから明日にしてもらえませんかね?」

 

「ダメだ。明日も学校は休みにしてやるから、今からするぞ。」

 

そう言って天谷は連れていかれてしまった。

後ほど、会った綾辻が聞いたところ、その再現が終わったのは翌日の朝方だったらしい。



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空閑遊真①

迅が三雲の処分を決めると言ってから半日後、俺たち全ボーダー隊員たちはイレギュラー門の原因となっていたトリオン兵の駆除をした。

会議室で三雲の処遇を任された迅と三雲が原因を発見したらしい。

その小型トリオン兵を撃破したことによりイレギュラー門が開くことはなくなり、またいつもと変わらない日常がやってきていた。

そんな中天谷たち天谷隊の面々は今日も防衛任務についていた。

 

「にしてもあんな小型トリオン兵が原因でイレギュラー門が開いているなんてね。意外だったよね。」

「そうか?あれだけ鬼怒田さんが必死になって探しても見つけられなかったんだ。そうとなれば小型トリオン兵で潜伏してると思っていたぞ。」

「確かにそうですね。小型トリオン兵の駆除の時の舞先輩はすごく楽しそうでしたよね。」

 

確かにその日剣持は嬉々とした表情で小型トリオン兵を狩っていた。その様子は天谷もよく覚えている。天谷は剣持が笑い過ぎていてひいていたが。

 

「んー、そうだね。どっかの誰かさんのせいで嫌な勉強をめちゃくちゃさせられたせいだよ。それでそのストレスをぶつけてたらあんな感じになったんだよね。」

「それはそれで怖いですよ。」

「その前に勉強しないお前が悪い。しっかり勉強しておけばなんの問題もなかっただろう?」

 

天谷の言葉に言い返すことができず、悔しそうな表情を剣持は出していた。もっとも勉強嫌いな剣持はこの手の話で天谷に勝てたことはない。テストが近づくと毎回勉強させられるので、テストが終わるとランク戦などに籠るのだ。

それが勉強しないことに繋がるんじゃ…とみんな思っているが、なんだかんだ勉強はするし、宿題を人に任せるといったことはしないためよく思われている。餅をよく食べる個人総合1位に比べれば…

 

『それにしても今日は全くトリオン兵が来ないわね。』

「そうですね。ここまでで3時間くらい待ってますけど一体も来ません。」

「だから暇なんだけどー、暇ー。」

 

普段の防衛任務ではおよそ2回は戦闘が起こる。だがここまでトリオン兵が来ないのは珍しかった。

 

「なんかそろそろ来そうですね。しかも大群で。」

 

そう宇野が言った時だった。

 

【門発生!門発生!トリオン兵が現れます。付近の皆様はお気をつけください。】

 

機械音が周辺へと鳴り響き、トリオン兵が来る警告を促す。

 

『トリオン兵が現れたわ。…かなり多いわね。モールモッドが10体、バムスターが14体来たわ。何体かのモールモッドが旧弓手町駅の方向へと進んでいってる。あそこは警戒区域ラインから近いから早めに撃破しにいって。』

 

「「「了解!」」」

 

「剣持はバムスターの撃破をしてくれ。俺と比奈でモールモッドの撃破をする。数が多いからとっとと仕留めていくぞ。」

「おっけい。それじゃあ…行くよ!」

 

剣持はグラスホッパーを起動し、バムスターの集団の中に突撃していく。バムスターは動きが遅く、三門市を襲うトリオン兵の中では最も弱いとも言われている。そのためスピードの速く、ボーダーでも指折りの剣持が相手では一瞬でやられていくだろう。

 

「よし、こっちも撃破してくよ。比奈は後ろから、俺は先行するから前から挟撃していくよ。」

「分かりました。いきましょう!」

 

天谷もグラスホッパーで一度宇野と別れて先頭のモールモッドを目指す。少し移動すると先頭を移動するモールモッドが見えてきた。

 

よし、先頭が見えてきた。比奈も…後方のモールモッドを2体すでに撃破したな。俺も暴れるか!

 

天谷は空中から一気にモールモッドに向けて急降下し、その手に構えた孤月で切り落とす。

モールモッドは視覚外から突如として現れた天谷の攻撃に気がつくことなく胴体が一刀両断されてしまった。先頭のモールモッドがやられたことを確認した後続のモールモッド3体は戦闘モードに入る。複数の足を持つモールモッドがその足を天谷に向けている。

 

そのまま3体のモールモッドは天谷を切り裂くためにその足を連携して攻撃して来る。天谷はその足を一発一発避けていく。そしてその足が向かう先にメテオラを仕掛け、爆破し、その足を削っていく。

徐々に足が削られ不利になっていくモールモッドを天谷は弄ぶように避けている。

モールモッドが一斉に一箇所を攻撃してきた瞬間を狙って天谷は大きく飛び上がる。モールモッドは激しい一撃を与えようと振りかざした一撃だったため、足が地面に突き刺さり、動くことができない。

そこに天谷はアステロイドの雨あられを降らしたことによって先ほどまで動いていたモールモッドは活動を停止し、ただの残骸となってしまった。

 

「ふぅ、いい運動だった。亜美さん、残りのモールモッドはどこにいる?」

 

『比奈ちゃんが倒したから今はもういないわ。バンダーの方もあらかた舞ちゃんが倒してるからもう戦闘も終わると思うわね。』

 

「よし、それじゃあ待機場所にもどろ…」

 

天谷はあることに気がついた。他の人ならば気づかないことであろうが、天谷には違和感を感じたことがあった。

 

ん…?何かわからない存在が旧弓手町駅の中にいる…?だがここは警戒区域内のはずなのだから人はいないはず…いるとしたら防衛任務中の隊員のはずだが、弓手町の防衛任務は俺たちが担当しているからそれはない。となるとまた勝手に入ってきた輩か?

 

『翔くんどうしたの…?急に黙るから…何かあったの?』

 

急に黙ったことによって柳本に天谷は心配されていた。同じように合流した宇野にも心配された。

 

「いや…今サイドエフェクトで旧弓手町駅内に誰かがいることが分かったんです。おそらく、不法侵入してきた学生か何かだと思います。」

「最近結構いますよね。早くボーダー本部に連れて行かないと面倒なことになりますね。」

『そうね、それなら二人は行ってちょうだい。私は舞ちゃんに伝えるから、先に行っておいて。』

「分かりました。追って連絡します。」

 

そう行って天谷と宇野は旧弓手町駅の中に入って行った。

 

 

 

 

旧弓手町駅ホーム、そこに天谷たちがたどり着いたとき、そこにいた人物、それは天谷にとって見知った人物だった。小さく白い髪をした少年、空閑遊真とメガネをかけたさえない少年三雲修だった。

しかし同時に見たことない人が2人…いや、1人と1匹いた。それは少女と黒い空を飛ぶ不思議なものがそこにはいた。

おそらくネイバーであろうと天谷は考えていた。

 

「なんだ、空閑か。ここは警戒区域内だぞ。下手すれば見つかるからここにはいないほうがいい。」

「天谷先輩じゃん。どうも。」

 

空閑が声を返すと同時に三雲もあいさつをする。三雲は天谷たちが入ってきたときにビクッとしていたが、天谷と分かると安心をしていた。しかし一緒にいる女の子は警戒をしているようだった。

 

「おっと、そっちの女の子は初めてだな。俺は天谷翔。ボーダー隊員をしている。よろしく。」

「よ、よろしくお願いします…」

 

見た目通り少し気が弱そうな少女であった。するとここで宇野が天谷に彼らが誰なのか質問する。

 

「ああ、そうだな、宇野には説明していなかった。こちらのメガネが三雲。ボーダー隊員をしてる。あの小型トリオン兵の発見をした人物だ。」

 

そういうと宇野もあいさつをする。それに合わせて三雲もあいさつを返すが、そこからどちらも真面目な性格であることが見て取れた。

 

二人のあいさつが終わると説明を続ける。

「えっと…こっちの女の子が…」

 

女の子の説明をしようにも自分が初めて会った人物のため説明できない。少し困った様子をしていると、三雲が天谷に変わって女の子の説明を始めた。

 

「えっと…この子は雨取千佳です。僕の家庭教師をしていた人の妹さんで昔から知ってる人です。」

 

「雨取です。よろしくお願いします。」

「宇野です。よろしくね。」

 

雨取とも宇野はあいさつするが、雨取は緊張をしていふようだった。そんな様子を見た宇野は雨取を気遣っていたため、その様子は本物の姉妹のようであった。

 

「それじゃあ…この白い子。この子は空閑遊真。そっちの三雲くんのクラスメートだ。そして…ネイバーだ。」

 

突然空閑のことをネイバーであると天谷が言ったことに三雲は驚く。

空閑も少し距離をとって警戒をしているが、宇野は二人が予想していた反応とは違っている反応を示した。

 

「ネイバーなんだ。私は初めてネイバーを見ましたけど、普通の人間なんですね。よろしく。」

 

思っていたのと違っていたことに三雲は驚かされている。その様子を見た天谷が三雲に伝える。

 

「突然言ってしまって申し訳ないな。だけど、安心してくれ。宇野は…いや、俺たちの部隊はネイバーだからといってすぐに襲いかかったりはしない。別に市街に被害を与えないネイバーなら、俺たちは手は出さない。被害を加えるなら話は別だがな。」

 

「そうですね。正直天谷先輩がいなければかなり警戒をしていたかもしれませんが…空閑くんは天谷先輩が警戒をしていませんでした。それなら信じるに値すると判断しました。」

 

天谷の言葉に続けて宇野も言う。

宇野の言葉を受けて三雲は驚きのあまり地面に少し脱力したように座った。空閑も警戒を解いて宇野に握手を求める。宇野もそれに応じて握手をした。

 

「宇野も信じてくれてよかった。ところで、亜美さんも聞いてました?」

 

天谷が耳に手を当てて自分たちのオペレーターに話を聞く。すると返答が返ってくる。

 

『聞いてたわよ。翔くんが信じるのなら私も信じるわ。よろしくと伝えておいて。あと、舞ちゃんにも映像は繋げておいたから説明の心配はないわ。舞ちゃんも早く会って話をしてみたいといってるわ。』

 

やっぱりうちのオペレーターは仕事ができると天谷は思いながら柳本に感謝を告げて会話に戻る。

 

「それと…そちらの…黒いのはなんなんだ?」

 

天谷の質問を受けて黒い物が話し始めた。

 

「初めまして。私は自律型トリオン兵のレプリカだ。遊真のお目付役兼友達をしている。よろしくお願いする。」

 

以外にも喋ったことに天谷たちは驚きながらもあいさつを返す。一度ネイバーフッドに行ったことのある天谷は初めて見る自律型トリオン兵に興味を示していた。

ここで、宇野が空閑たちに質問をする。

 

「それにしてもなんでここにいたの?」

 

「それは、この千佳がネイバーに頻繁に追いかけ回されるって聞いたからそれの相談に乗っていたんだ。」

 

空閑が簡潔に述べる。

ネイバーに頻繁に追いかけ回される理由、それは天谷が知る限りではトリオン量が多いことが関係しているのだろうと考えた。

 

「それでトリオン量を測ろうとしていたところだったんだ。でも怖いから修が先に安全だって示して今から千佳のを測るところ。」

 

天谷は納得がいった。それでレプリカがここにいたのだろう。今までで見たことがない、レプリカを出して計測しようとしていたのだと。

その話を聞いていると天谷も気になったため、空閑に聞いてみた。

 

「それは俺も計測してみたいのだが、できるか?」

 

「うん。できるよ。千佳はまだ不安そうだしやってみる?」

 

天谷の提案は空閑にすんなりと受け入れられ、早速計測をしてみることになった。

計測の仕方はとても不思議な方法だった。レプリカの口から出てきた舌のようなものを持って少し待機しているだけで計測ができるのだ。

 

しばらく待っていると計測が完了したらしく、目視できるようにレプリカはしてくれた。

それはトリオンキューブ状になって天谷の前に現れた。しかし、それが大きいものなのかわからなかったため、空閑に聞いてみることにした。

 

すると、これは全体の中でも大きめに値されるとのことだった。ボーダーの中ではトリオン量がとても多いと言われるが、近界民から見ると大きめであってとても多いわけではないらしい。そのことに天谷が驚いていると宇野も気になったようで、計測していた。

計測が終わってみると俺よりもさらに大きなトリオンキューブが発生した。さすがにこの大きさには空閑も驚いていた。

 

だが、雨取はもっとすごかった。ボーダーでも1,2を争うトリオン量である宇野の3倍はあるのではと思ってしまうほどであった。さすがにこの量は見たことがないほどであるとレプリカも感嘆していた。これにそこにいなかった柳本も驚いていると再び駅の中に人が入ってくる音が響き渡った。

その音に宇野は別行動していた剣持がやってきたのだと思っていた。しかし違っていた。

 

宇野の目の前に現れた人物、それは三輪と米屋であった。

 

「やっぱりいたのか…ネイバーめ!!絶対に俺が殺してやる!!」

 

 



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三輪秀次①

ずいぶんと遅くなってしまいました。すみません。
夏休みに入ったのでもう少し早く更新していきます


「…三輪たちか…」

 

物音がし、天谷たちが話をしていた場所、旧弓手町駅の中へと入って来た人物は三輪と米屋であった。

 

「おっ、天谷と宇野ちゃんじゃん!お前ら何してるんだ?」

 

三輪はこちらを疑っているような目で見ている。一方の米屋は普通に聞いているだけだった。

 

「どうも、米屋先輩。先ほどまでここでネイバーの戦闘があったのですが、どうやらここに一般人が入り込んでしまっていたようで。その対処のためこの子達と話をしていたんですよ。」

 

宇野は咄嗟に嘘をつく。実際ネイバーと戦ったことに嘘はないし、記録を確認してもらえば分かることであった。

しかし俺たちを疑っている三輪は続けて質問をする。

 

「ならそこにいる三雲は何だ?そいつはB級隊員になったはずだろう?規則を知っているものがわざわざここへ連れて来るというのか?」

 

痛いところを突かれた…確かに三雲はボーダー隊員だから、ここはやって来ることがいけないことだと知っている。それにも関わらずここに連れてきていることも疑われる。

 

「それに…天谷、お前はあのとき会議の場にいたはずだ三雲の顔を知っているはずだ。にも関わらず一般人だと…?ふざけるな!大方そのどちらかがネイバーなんだろう!この際どちらでもいい!ネイバーは排除するまでだ…」

 

そう言うと三輪は腰に差している孤月を取り出して戦闘体制に入る。それを見た米谷も独特な孤月である、槍を作り出して戦闘モードに入る。

 

「おっ俺は初めて人型ネイバーと戦うんだ!ワクワクするぜ!だけど三輪、間違って一般人を攻撃しちまったらどうするんだ?」

 

「関係ない…本物なら戦いに来るだろうし、本物ならその瞬間まで反応できない。それを見極めろ。」

 

「…了解。」

 

そう言うと二人はこちらへ距離を少しづつ詰めて来る。

それを見た空閑がついに喋る。

 

「俺だよ。俺がネイバー。」

 

三輪たちが空閑の話した内容に反応する。米屋はおもちゃを見つけた無邪気な子供のような目をしているのに対して、三輪は憎き相手を見つけたいうような目で睨みつけていた。

 

だが空閑はそんな二人のことを気にも留めず話す。

 

「こっちの女の子は関係ない。ただ、ネイバーに追われて困るのだと言われたからその原因を調べてただけだ。」

 

「そんなこと信じられるか!大方庇っているのだろう。貴様らはそうやって卑怯な手を取るんだ!」

 

いきなり空閑の言葉を突っぱねた三輪は雨取に向けて、拳銃を放った。

 

三輪の拳銃から放たれたアステロイドは一直線に雨取へと向かって行く。あまりに突然のことに打たれた雨取も驚く暇さえなかった。

 

しかし、三輪から放たれたアステロイドはとっさに反応した天谷と空閑によって防がれたため、雨取に当たることなく済んだ。

 

天谷はアステロイドが雨取に当たらなかったことを確認して、三輪に対して普段の彼からは想像もつかないほどドスの効いた声で質問をする。

「おい、三輪…お前、今何したか分かってんだろうな?」

 

普段あまり怒ることの少ない天谷がこれまでに見たことがないほど怒っていることに宇野や、通信でその様子を聞いていた剣持、柳本もとても驚いていた。

それは敵対している米屋も同じで、驚き飛びのいたほどであった。

だがしかし、唯一三輪だけは一切顔を変えることなく、天谷を睨みつけていた。

 

「何をしただと?決まっている。ネイバーの排除だ!ネイバーを駆逐するのが俺たちボーダー隊員の仕事だろう!」

 

「ああ、そうだな。敵性ネイバーを駆逐するのが俺たちの仕事だ。けどな、敵とも、味方とも、そして一般市民とも分からない人にいきなり銃を向けていいものだと思ってるのか!それじゃあお前がやっていることは殺人行為じゃないか!」

 

「なんだと…?こいつは俺たちのことを騙しているかもしれないだろう!それにアステロイドなら一般市民に当たったところで気絶するだけだから問題ない!」

 

「その行為が問題だって言ってんだろうが!お前はどうしてすぐにネイバーに対する憎しみだけで行動をとるんだ、三輪!もう少し落ち着いて考えろ。」

 

お互いに理念を譲ることなく言い争っていると空閑がこちらへとやって来て天谷に話す。

 

「なんかごめんね、天谷先輩。迷惑かけたね。これは俺が問題なことだ。天谷先輩に迷惑をかけたくないから大丈夫だよ。」

 

「やはり天谷はネイバーを隠していたのか!お前は俺と同じ仲間だと思っていたのに……もういい…ネイバーは殲滅全て殲滅だ!!」

 

三輪は怒りに身を任せてすぐに空閑に襲いかかった。三輪の様子を見て米屋も空閑へと攻撃を開始したが、米屋は複雑そうな顔をしていた。

 

 

 

 

三輪と米屋のコンビネーションはボーダーにおいてもトップクラスの相性を誇る。米屋が前衛を務め、切り込んでいき、その隙間を縫って三輪がハンドガンを打ち込む。そして、ハンドガンを避けようものなら、死角に三輪が入り込み、孤月で攻撃をする。

 

空閑は武器を持たず拳で戦う戦闘スタイルであるために、回避しながら反撃を静かに狙っていた。

 

しかし、ぱっと見れば三輪と米屋のコンビネーションの前に手が出せなくなっているようであった。

 

そのため、三雲や宇野は焦った様子を見せていた。

 

「天谷先輩!空閑のことを助けてやってくださいお願いします!」

 

「先輩、私が加勢した方がいいでしょうか?」

 

二人が焦っている中で天谷はあることに気がついていた。それは天谷にしか気づかないことであった。

 

「…迅さん、駅の近くにいるでしょ?何してるんですか?」

 

天谷のサイドエフェクトが発動し、駅のホームの屋根の上に迅がいるのを確認していた。天谷が迅に質問するとすぐに迅から返答が返ってくる。

 

『さすが、翔。すぐに俺のことに気がついちゃったよ。』

 

「迅さん、単刀直入に聞きます。このまま俺たちが加勢しなければ空閑はやばいかやばくないか教えてください。」

 

『いや、お前たちが加勢しなくともあいつは一人で三輪隊全員をあしらえるよ。なんて言ったってあいつは黒トリガーだからな。』

 

迅からもたらされた衝撃の情報に天谷は驚きが隠せなかった。

 

 

 

黒トリガー、通常のトリガーとは一線を画するトリガー。通常のトリガーが生産性を追求したトリガーであり、大勢の人が使えるようにしたものであるとしたならば、黒トリガーはそのトリガーが使い手を選ぶ一点物のトリガーである。

必ずしもそのトリガーは誰でも扱えるわけではなく、その黒トリガーと相性が必要である。その相性がよければその出力も上がるという変わったトリガーでもある。

黒トリガーの強さは通常のトリガーとは比べ物にもならないほどであって、その戦力は圧倒的である。

 

そしてその黒トリガーを空閑が持っていると聞いた天谷はひとまず安心したが、少しでも手伝うため、剣持や、宇野たちに指示を出す。

 

「剣持!お前は今どこにいる?」

 

『えっと…旧弓田町駅近くのビルに近づいてるあたりかな。』

 

「それじゃあ、柳本先輩の援護をもらって近くの狙撃地点を抑えてくれ。その近くに奈良坂と古寺が潜んでるはずだ。攻撃するんじゃなくてその地点を抑えるのが目標だ。頼んだぞ。」

 

『分かった。柳本先輩お願いします!』

 

『了解したわ。すぐに情報送るから待ってて。』

 

「続けて、宇野は三雲、雨取の保護をしてくれ。特に雨取は防御手段を持たない一般市民だ。必ず守り通してくれ。」

 

「了解しました。天谷先輩はどうされるのですか?」

 

「俺も近くの狙撃地点を抑える。頼んだぞ。」

 

天谷が指示を出し終えると同時に全員が一斉に動き出した。天谷は旧弓手町駅の近くから、剣持は旧弓手町駅に近づきながら狙撃地点一箇所づつ潰しにかかった。

 

天谷がグラスホッパーで空中を移動しながらスナイパー二人を探していると、かなり近くの建物の上で銃を構えている奈良坂を発見した。

 

「あんな近くに…あの位置から狙われたらさすがに反応するだけで精一杯だ。抑えなければ…」

 

すぐに方向転換して奈良坂の元へと向かう。建物に天谷が到着すると奈良坂が銃を構えるのをやめたこちらへと話をかけてくる。

 

 

「…戦闘は終わった。」

 

戦闘が終わったと言われて空閑がやられてしまったのでは…と心配になり、すぐに空閑がいた場所に振り返る。

するとそこにいたのは鉛弾を何発も食い、地面に倒れはしている米屋と三輪だった。

空閑も二発鉛弾をもらっていたが、腕に受けていたため、大きな問題はなさそうであった。

 

そして先ほどまで近くから高みの見物をしていた迅が空閑の隣に立っていた。

その様子を見るに決着がつき話をしているのだろう。とりあえずなんとか無事に済み、天谷も安心していた。

 

「それにしても…両親を殺されているのにお前がネイバーを倒すのではなく、守ろうとするなんて思いもしなかった。」

 

奈良坂は疑問に思ったことを素直に口に出す。

その疑問に天谷は答える。

 

「そうだな…俺はあいつに両親を殺されたわけじゃない。あいつは全く関係のない一人の人間だ。それならあいつを憎むのは筋違いだ。そして、あいつは俺と初めて対面したときに攻撃をしたわけでもない。それならわざわざ、敵対する者を増やす必要はないと思ったからだな。もちろん空閑が敵対するなら俺はあいつに容赦しない。」

 

天谷の答えを聞いて奈良坂も納得をしたようだった。

 

「そうか…そうならいいんだ。迷惑かけたな。」

 

「いや…すまんな…俺の方こそ邪魔する形になってしまって。」

 

互いに自分の行った行動を謝っていると、古寺と剣持がこちらへやってきた。古寺は剣持にプレッシャーをかけられたのかいつにも増して汗をかいているようだった。

 

「翔!古寺を抑えたって伝えてんのに通信を聞かないんだから!ちゃんと通信も気にしといといてよね。」

 

「まじか…すまんかった。」

 

通信を聞いていなかったことを謝っていると先ほどまで三輪たちがいたところから光が一筋立ち上がった。

その様子を見るに三輪がベイルアウトしたのだろう。奈良坂と古寺が通信で指示を聞いていた。

 

「…はい、分かりました。本部に戻ります。それじゃあ通信を切ります。」

 

そういって奈良坂は通信を切って天谷に一言伝える。

 

「天谷、おそらく城戸司令は空閑の討伐命令を出すだろう。だから…再び対立するかもしれないだろう。気をつけておけよ。」

 

「ああ、分かった。忠告をありがとう。じゃあ、俺たちももう少し防衛任務があるから戻るわ。」

 

そういってお互いに別れ、それぞれが行くべき場所へ向かった。

 

 

 

 

防衛任務の待機場所に向かう最中に天谷は考え事をしていた。

 

今回は咄嗟にみんなに空閑を守ることで動いてもらったが、みんなは本当にそのことをいいことだと思っているのだろうか?いざとなつたら俺一人で戦わないといけないかもしれない…

 

「どうしたの?なんか深く考え事してるみたいだけど?」

 

どうやら天谷の顔は深く考えている間にかなり険しい顔になっていたらしい。剣持が心配そうにこちらを覗き込んできたため、天谷はギョッとして飛びのいた。

 

「いきなり飛び退くなんてどうしたの?あ!もしかして私の美しさにやっと気づいちゃったのかな?全くこれだからモテる女は辛いのよ。」

 

剣持はドヤ顔をして腕を組んでいた。その様子を見てなぜか無性にドヤ顔が目に付いたので足を引っ掛けて、剣持を転ばした。

 

「いてっ…何するのさ!」

 

「いや、何でもないさ。さっさと戻るよ。」

 

「あっこら!逃げるんじゃない!」

 

 

剣持の行動で軽くなった気持ちで天谷は防衛任務の待機場所へと戻っていった。



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那須玲②

えー、一年近く更新しなくてすみませんでした(謝罪)

最近ワートリファンの方と話することが増えて熱が再燃したので、また不定期ながらも再開していきます

今回はリハビリがてら那須さんとの日常回です


冬も本番、それも年末も近づいて来ているこの時期、日の暮れる早さはとても早くなっており、天谷隊が防衛任務を終え、帰路につこうとする頃にはすっかり日の光は消え、夜の暗さが空を支配していた。今回はイレギュラーな事態があったため、更に長くなってしまったというのもあるが…。

 

防衛任務を終えた報告書を書き上げ、提出した後、天谷隊はこれからの動向などを話し合った。黒トリガーを持った空閑遊真という少年、それを味方する迅悠一の存在、その空閑と戦い存在を知った三輪のこと…いろいろと話をした。

具体的にどうするかなどは今すぐに判断するのは時期尚早、そう判断し、追ってまた集まり話そうということになったのだ。

 

 

そしてそんな話を終え、天谷は特にやることもないため、帰路につこうと作戦室から出て出口へと歩いて向かっていた。

時刻は間もなく7時を回ってくる時間帯のため、食堂に人が向かっているのか、帰り道に人は多くなかった。そんな人の気配の少ない廊下を一人歩いていた天谷であったが、廊下の先に見知った人たちが話しているのを見かけたため、その人物たちの元へ駆け寄っていった。

 

「那須に透!こんなところで何しているんだ?」

 

天谷の見つけた人物たち、それは那須に奈良坂であった。那須は廊下のイスに腰掛けるように座っており、奈良坂はその近くで立って話をしていた。二人は顔がとても整っているため、その姿だけでもとても絵になりそうな様子であった。

 

「ん?翔か。今は防衛任務の帰りか?」

 

「天谷くん!今から帰りなのかしら?」

 

「ああ。防衛任務の報告書も出したし、部隊会議も終えて今から帰るところだ。そっちこそ何してたんだ?」

 

「…俺の方も翔と同じさ。もうじきいい時間だし、帰ろうかとここを歩いてたら座ってる玲に出会ったわけだ」

 

天谷と奈良坂は目配せをしてお互いに昼にあったことを那須には晒さないように気をつける。いまはまだボーダー上層部及び、一部の面々にしか知られていないネイバー出現、しかも黒トリガー持ちのことを悪戯に広めるわけにはいかない。もしも知ってしまえば厄介ごとに巻き込んでしまうかもしれない可能性もあったからである。

 

「私は体調が今日は良かったから、個人ランク戦をしに来てたの。それで少し長くしすぎちゃって…。今から帰ろうかなって思ってたけど、少し疲れちゃったからここで休憩してたの」

 

二人が目配せをしたことに那須は気がついていないようであった。それに少しホッとしながらも、違和感が無いように那須や奈良坂との会話を続ける。

 

「あれ?俺らと三輪隊同じだったのか。お疲れ様だ。那須は無茶するといけないってあれほど言ってるのに…リーダーとエースを兼ねてるから苦労してるのは分かっているが、それでももう少し自分の身体を労わらないと」

 

那須には少し強めに注意を天谷は促す。こう天谷が言うのは、かつて一緒に訓練している時に無茶をしすぎて倒れてしまったことがあったからである。そんなことがあってからと言うもの、天谷は那須の体調については本人以上に注意を払うようにしていた。それは上層部からの命令というものもあったが、それ以上に天谷自身が不安に思っていたからであった。

 

「ご、ごめんね…ちゃんと今度からは気をつけるね」

 

「全く那須はすぐオーバーワークするんだから…今度一緒に訓練するからしばらくは個人ランク戦は休みなよ。無茶して倒れたら本当困るから」

 

「…え?今度一緒に訓練してくれるの?」

 

「基本的に防衛任務がない日ならいつでも暇してるからな。ただし体調が万全で、今日から1週間くらいは期間明けてからじゃないとダメだから。蓄積疲労貯めたらいけないからな」

 

「本当!?嬉しい!ちゃんと体調整えるから約束だよ!」

 

いつになく嬉しそうな那須を見て、そんなに訓練できることが嬉しいのかと不思議に思う天谷であったが、こうも喜んでるならいいかと思い相槌を打っておいた。

 

「良かったな、玲。俺からも玲が無茶しないようによく翔には監視しておいてほしい。真面目なのはいいんだが、どうも意固地で無茶したがりな気が出ることもあるからな」

 

「真面目なお前が言うか?」

 

「俺が真面目なのは重々承知してるさ。それよりもこれから翔も家に帰るんだろ?」

 

「それはそうだが。それがどうしたんだ?」

 

「それならいいんだ。俺も帰ろうと思ってたんだが、どうにも用事ができてしまって今から少し作戦室に戻らないといけなくなった。だから翔は玲が帰り道で倒れたりしないように一緒に帰ってもらえないか?」

 

「ん?だったら俺はお前が帰ってくるのを待ってるが…その方が良くないか?」

 

至極当然のように天谷は答えるが、奈良坂は呆れたような表情を浮かべつつも続ける。

 

「翔が良くても玲が良くないだろう。那須隊が夜勤のシフト組んでないのは玲の師匠してるお前なら知ってるだろう?それは女性が夜に出歩くのはあまり快く思ってない玲の両親などの考えがあるからだ。だから帰りが遅れると余計な不安をかけさせてしまうかもしれない。だから少しでも早く送り届けて欲しい」

 

もっともな意見に天谷も納得する。那須隊は全員女性で構成させれているため、夜のシフトは断っていると話は聞いていた。そのため、大いに奈良坂の言うことは納得のいく説明だった。

 

「なるほどな、理解したよ。それで俺はいいが那須はいいのか?」

 

一応那須にも確認を取っておく。もし嫌だと言われたら送っていくのはやめておかなければならないと思ったからである。

 

「わ、私は…一緒に帰ってくれるなら…一緒に帰って欲しい…かな…?」

 

 

那須は天谷と目線を少し逸らしながら答える。那須も納得してもらえているようなので、俺が一緒に帰ることは決まったようだ。

 

「納得いったようだな。それじゃあ翔、頼んだ」

 

簡単に奈良坂は言うと駆け足で三輪隊の作戦室の方向へと向かっていってしまった。

奈良坂が去ってしまったことで、沈黙がこの場を支配する。このままずっと黙っているのも送り届けるのが遅れてしまい、問題になるので、行こうか、と声をかけてボーダーの出口に向かって行くことになったのだった。

 

 

 

 

 

 

ボーダーの連絡通路を通り、外に出たとき、すでに陽は山の向こうへと沈んでしまい、辺りは夜の闇に包まれていた。ボーダーの連絡通路があるのはすでに人が生活することを放棄した一帯であるため、普通の住宅地と比べても、かなり暗くなっている。街灯はいくらか残っており、灯りはあるが、道はがぼんやりと見え、空に瞬く星が綺麗に見える程度であった。

 

「もうすっかり暗くなってしまってるな…」

 

「そうね…もう年末も近づいてきてるもの。こんな時間ならもう暗くて仕方ないわ」

 

「そりゃそうか…それにしても今日は空に雲がないみたいで月や星が綺麗に見えるな」

 

黙って帰るのはどうかと思うので他愛もない話をする。こう気の利いた話をできるほど口八丁めはないので、星が綺麗だのそういった話をすることしかできないが、しないよりはマシかと思い続ける。

 

「…そうね…このまま時が止まってしまえばいいのに…」

 

「でも時が止まっちゃったらこうした話することできないぞ?」

 

「…そ、そうね…」

 

「ん?何か違う考えあった?」

 

これまで楽しそうに話していた那須が少し寂しそうな顔を浮かべていたように見えた天谷は質問をする。その顔の変化は僅かなものであったが、天谷にははっきりと見えたのだ。

 

「い、いえ、何もないよ。それよりももう少しで私の家に着くね」

 

「ん、そうだな。意外と話ししてると短いよな」

 

「そうね……どうして私の表情には気づいてくれるのに、言葉には気づいてくれないのかしら…」

 

「ほら、那須の家だ。やっぱり早く感じたな」

 

天谷は那須の家が見えてきたことに意識がいっているようですでに、那須の呟いた言葉にはすでに気づいてなどいないようであった。

 

「はぁ…いつになったら気づいてもらえるのかしら…」

 

那須は朴念仁な想い人に少し溜息をつきながらも天谷の元へ向かって少し重くなってしまった足を動かし、移動するのであった。

 

 

 




次回からはワートリ序盤の黒トリガー争奪戦の本番に入っていきます


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迅悠一②

お久しぶりです
ワートリついに再開しましたね
また投稿遅いですけど、少しづつ進めていけたらと思います


奈良坂に那須を家に送り届けるように頼まれた天谷は、那須を無事に家まで送り届け、そのまま家路についていた。

その帰り道は外歩く人も走る車もなく、静まり返っており、冷たい冬の風が天谷の肌に突き刺していた。そんな寒さに体を震わせながら、少し小走りで帰っていた。

 

そんな中、天谷は来月から再び参加することになるランク戦について考えていた。

ランク戦は3ヶ月を戦い、1ヶ月を休み期間として行われるボーダーでのランク決めの戦いである。その中でも天谷はA級と呼ばれる上位層の部類にされらようになった。前回シーズンでB級上位になったため、昇格試験を経てA級になったのだ。

そして、次からのシーズンはA級としての初めてのシーズンであった。これまでとは違うさらにハイレベルな戦いのため、今までの戦いとは違う戦術を取り入れてみようかと思っていたのだ。

 

「二宮隊、影浦隊クラスがそろってるからきつい戦いになりそうだな…。単純に俺たちのチームの戦法はパターンが少ないし、もう少し考えた方が良さそうかな。今度柳本さんを誘って考えてみるか」

 

天谷隊の基本戦術は、天谷、宇野の二人のサポートを受けて剣持が敵懐で暴れるというものだ。剣持の攻撃性の高さ、天谷、宇野のサポート性を合わせてかなり安定感があるため、基本はこの戦術だ。

そして、これとは別に天谷を主体とした中距離戦も天谷隊としてのメインの戦いであった。

 

天谷、剣持はボーダーの中でも古参で、古くからチームとしては組んでいた。ランク戦に参入したのはつい最近であったが、長い付き合い故の連携があるため、阿吽の呼吸で、特に強くなると他の隊員たちの間では言われていたわ、

しかしながら、つい最近天谷隊に入った宇野と二人の連携はまだ完璧とは言えない。宇野自身がアシスト上手のため、今まではなんとかなってきたが、A級相手ともなると一筋縄では行かない、そう天谷は考えていた。

 

そして、今回このように考えるようになった一因として、最近宇野は悩んでいるようだということを知ったからというのがある。

 

宇野は入隊してからの時期がまだ短い方である。恵まれたトリオン量に才能も相まってここまで大きな苦戦をすることなく戦ってこられた。

 

しかし、B級上位、特に言えば二宮隊、影浦隊クラスともなれば、話は別になる。何度も戦って来たチームワークに努力によって積み上げられて来た練習量によってB級中位と比べると大きな差がそこにはある。

 

実際、前回シーズン、B級上位を相手するときに宇野は落とされることが多くなった。それも自分の役割をこなすことができる前にだ。

例えば東さんの狙撃、例えば二宮さんの両ハウンド…多くの方法で落とされた。

 

これが応えたらしく、今のままでいいのかと悩んでいるようであった。まだ入隊してから日が浅い方だし、仕方がない、これからランク戦をこなしていけばまだまだ伸びると柳本さん励ましたこともあったが、ダメだったと以前柳本さんに言われた。

 

責任感の強い宇野は、自分が何もできないことで俺や舞に迷惑をかけてしまっていると思ってしまってるらしい。

そんなことはない、むしろ多くのアシストで何度も助けてもらっているとこちらは思っているのだが、そうは伝わってないらしい。

 

そんな彼女をどうにか励ましたいところだが、うまい解決策は思い浮かばない。どうしたものかと悩んでいるところ、目の前に薄っすらと人影が見えてきた。

こんなところに誰がいるのかと目を凝らして見てみると、その人物は天谷の方へと歩いてきたのだった。

 

「やあ、天谷。元気してる?ぼんち揚食う?」

 

独特な話し方をしてきたその人物は自称、実力派エリートの迅悠一であった。いつものように手に抱えているぼんち揚を食べながら天谷の元へと歩み寄ってくる。

 

「迅さんこんなところで待ち伏せですか?悪趣味ですよ」

 

「悪趣味だなんで存外だなぁ。俺はただ用事があってここで待ってたのさ」

 

「俺がここを通るのも予測済みで?」

 

「ああ。俺のサイドエフェクトがそう言ってるからな。そして現に天谷はここにやってきたのさ」

 

迅悠一にはサイドエフェクトがある。それは未来を見ることができるという能力であった。高い確率で起こる未来ほど、遠い未来のことを見ることができ、不確定な未来ほど、見ることの出来る範囲は限られていくというものであった。

 

「…それで、迅さんは俺に何のようです?迅さんがわざわざこんなところで話しかけてくるなんて何かあるとしか思えないですから」

 

「なんだ、話があるってことが分かってくれてるなら話は早いな。簡単言わせてもらうとだな…」

 

それまでの軽い雰囲気は鳴りを潜め、急に真面目な顔になる迅さんに俺は、これから離されることがただ事ではないと直感的に思った。元々迅さんが直接何かを伝える時には何か大きなことが関わっていることが多いが、今回はその中でも特に重大なことかもしれない。

どんなことを話すのかと、息を呑みながら待っていると話を迅速さんは続ける。

 

「近く、ボーダーでの派閥戦争が勃発する可能性が高い。主に玉狛・忍田本部長派VS城戸司令派での争いになりそうなんだ」

 

衝撃の内容がその方から話された。ボーダーには主に3つの派閥が存在する。一つは城戸司令率いる派閥だ。この派閥はボーダー最大派閥で、ボーダー全体の3分の2の隊員が入っている。主な方針はネイバー撲滅で、ネイバーの住む世界に攻め込むことも考えている派閥だ。

そして、その派閥とは真逆、ネイバーの中にも仲良くしてくれる人はいるから、仲良くしようという考えをしているのが、今俺の目の前にいる迅悠一も所属する玉狛派だ。

 

基本的にこの派閥は仲が悪く、もめることもあるくらいであった。それは互いの言い分がまるで真逆であるというのが主な原因だが…。

 

その二つの派閥とは違うのが忍田本部長率いる、街の警備を最優先にしよう派閥だ。他二つの派閥と比べると温厚な派閥だが、ここにも微妙なところはある。

そんな一長一短なところがある3つの派閥が本格的に争うことになると言われたのだ。驚かないわけがない。

 

「信じられないだろが、これはほぼ確定した未来だ。城戸司令派はユーマの黒トリガーを奪取しに動く。それをうちと忍田派が迎え撃つ感じだ」

 

「その未来を回避する方法はないんですか?」

 

「俺もその方法を探してきたが、ついにそれは叶わなかった。俺たちはもう戦うしかないんだ」

 

「…なるほど、確かにこれは重大なことだ。しかし、なんでそんな話を自由派の俺に話してきたんです?」

 

今俺が言った通り、俺はどこにも所属しない自由派閥として知られている。それにうちの部隊は全員自由派閥で、どこの派閥にも深く干渉しないようにしている。

俺たちの意見はどこも極端すぎて、賛同できるところとできないところがあるから、そう言った立場になっている。同じように加古隊、影浦隊、那須隊などが同じようなスタンスになっている。

 

そんな俺になぜ派閥間争いの話を持ち出してきたのか、そこをきにしていると、迅さんは続けて話をする。

 

「なぜそんな話を俺に?って顔だが、天谷にも今回は関係してくる話だ。なにせ、今回はユーマの黒トリガーを奪いにくるというものだからな。それにここでユーマに戦わせずに守れなかった場合、これからの未来が危うくなる可能性が高い。極端な話、この三門市がネイバーの襲撃で壊滅的ダメージを負う可能性すらある」

 

「ユーマの黒トリガーを城戸派は奪いに行くと?それを庇うために空閑を玉狛に迎え入れたりでもするんです?」

 

「天谷は賢いから話がすぐに通って助かるよ。ああ、その通りだ。ユーマにはボーダーに入ってもらってその力を貸してもらう。本人もやる気になってくれてるさ」

 

流石は暗躍を趣味としている(小南談)だけあって、手際がいい。確かに黒トリガーの持ち主をわざわざ手にかけて奪うよりも確実に使える人物を仲間に入れる方が、こちらとしてはありがたい話だ。巨大戦力が一つ仲間になるのだから。

 

 

確かにその話なら俺自身は迅さんの話に乗ってもいいとは思った。デメリットに対してメリットが遥かに大きい。それに未来が見える迅さんのことだから信頼していいと思う。ただ気になる点があるのでそこは確認しておくことにする。

 

 

「確かに話を聞けば悪くないことだと思いますよ。ただ…空閑を玉狛に加えることによって偏る戦力、城戸派との対立によって起こる摩擦、その後の処理はどうするつもりなんです?そこがまず決まらないと話には乗れないですよ」

 

「相変わらず慎重派だな。そこはしっかり考えてるよ。偏る戦力に関してはこの『風刃』を本部に渡す。これで戦力の均衡は取れる上に終わった後の交渉の切り札にもなる」

 

その発言に俺は驚きが隠せなかった。迅さんの持っている黒トリガー、『風刃』は迅さんの師匠だった人物が作ったトリガーだ。そのトリガーの争奪戦を迅さんはあっという間に制して、その所有者となった。そんな大切な形見のトリガーを明け渡すほど今回の件に本気なのだろうということが伝わってきた。

 

「迅さんが『風刃』を交渉のカードに使うなら、それは間違いなく本気だということですね。分かりましたよ、あくまでも今回の派閥争いの仲裁として参戦します。城戸派に撤退を求めてそれでも引かない場合は戦闘もやむなしと言ったスタンスでいきますよ」

 

「それだけでも助かるよ」

 

「ただし、うちの隊員たちがどうかは分かりません。それぞれに話を聞いて、納得してもらえたなら共に来てもらいますし、ダメなら俺一人になりますけど、それでもいいのであれば、協力します。どうですか?迅さん?」

 

「そういうと思ったよ。しっかり話をして決めてほしい。特に、今回参加することは宇野ちゃんにとって大きな転換点になると思うからね」

 

「それってどういう…」

 

「それじゃ、 また会おうか。ちなみに勝負の日は遠征組が帰ってくるその日の夜…つまり来週だ。きちんと気持ちを整理して来た方がいいと思うよ。それと、天谷は孤月のトリガー外して射手としてのトリガー構成で来るといい。それじゃあ、よろしく」

 

肝心なところをはぐらかして迅さんは帰って行ってしまったのだった。

最後に話した内容が一体どういうことなのか、それを考えながら、天谷は改めて帰路につくことになったのだった。

 



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天谷隊①

ワートリ熱が再燃しまくってて、アニメ、原作全部見てました。
明日からランク戦再開ですし、楽しみです


天谷が迅悠一と秘密裏の話をしてから3日後、天谷は天谷隊のメンバーを自分たちの隊室に集めて、例の件について話そうとしていた。

 

「それで、話って何?」

 

あまり装飾品はなく、机と椅子、本棚など最低限のインテリアだけがある部屋の中で剣持が天谷に質問をする。

 

「昨日は招集かけられてたのに行かなくてごめんなさいね。それにしてもわざわざ全員集まるってことは何か大事なことがあるのかしら?」

 

実は俺は昨日…迅さんに話を聞いた次の日にできれば集まってこの件を話したいと思っていた。これはこの一件が、すぐにでも集まって話すべき重大なことだと判断したからだった。

しかしながら、すぐにすぐ全員が集まれると言うわけではなかった。そのために今日になったのだった。

 

「まずはわざわざ集まってもらってありがとう。それで早速本題に入るんだけど、もうじきボーダー内での派閥間争いが起こることが分かったんだ」

 

その言葉を聞いて室内の空気がピリついた。ここまで笑顔で話しをしていた剣持も真剣な表情になって話を聞く。

 

「それは確かな情報なんですか?」

 

宇野が挙手して俺に質問する。俺はそれに対して、確かで間違いないと返事をした。迅さんがわざわざ俺に直接話してくることならばそれは避けることのできないことだと思われるからだ。

 

「どうして起こるって分かったの?情報の出所とか教えてほしいな。そこは確認しておかないといけないと思うの」

 

柳本さんも俺に質問をする。情報の正確さは重大なことなので、聞かれるのは最もなことだろう。詳しく話そうとすると話が長くなってしまうので、俺は簡潔にまとめて話した。

 

「これは迅さんのサイドエフェクトで見えた未来だと迅さん本人に言われました。その未来は、城戸司令派が前回俺たちも見た黒トリガーの持ち主、空閑 遊真を襲撃しようとしている…といった内容らしいです」

 

俺たちは全員が空閑 遊真については知っている。ボーダーには所属してない、所謂ネイバーと呼ばれる人物だった。

空閑がいつからこちら側に滞在しているのかは知らないが、こちらの世界に住んでいる。本来は敵対するはずのネイバーが…。そして、それを発見した三輪隊は早速排除を試みたが、空閑の持っていた黒トリガーの反撃を受けて返り討ちにされたのだった。

 

「そこは分かりましたけど、なぜ玉狛派は空閑くんを守ろうとするんですか?ボーダーにも入っていないのに?」

 

「それはそう思うのも仕方ないと思う。けれどもそのネイバーは玉狛支部に入隊することになったんだ。だから玉狛派は全力で彼を守ろうとしているわけだ」

 

そのことを聞いて三者三様の反応をする。剣持は一番顔に表情が出ていた。それに身を乗り出して俺に確認をしてくる。宇野は顔はいたっていつも通りのようだが、様子からしてやはり驚いているようだった。柳本さんはポカーンとしているようであった。

 

「それってどういうこと!?ネイバーがボーダーに入隊するってどういうことなの!?」

 

剣持はグイグイと迫って質問してくる。あまりに迫ってくるので一旦落ち着くように促して、みんなに椅子に座ってもらって話を続ける。

 

「前代未聞のことで信じるのは難しいことだと思う。俺も流石に信じがたかったから、実際に玉狛に行って書類を見せてもらった。これが証拠だ。」

 

俺はそう言うと、林道支部長から借り受けた書類を見せる。勿論、個人のプライバシーの関係があるため、

 

俺は昨日、玉狛支部に招かれ、その書類を見せてもらった。そこには『空閑 遊真をボーダー玉狛支部に入隊することを許可する』と林道支部長のサインが書かれていた。

それに加えて実際に空閑に会って話す機会を得たのだった。

 

その時の空閑はボーダーととても敵対する意思があるとは思えなかった。元々知り合いであるという補正があるのかもしれないが、やはり空閑は排除しなければならないネイバーとは考えられないと判断したのだった。

 

そのことをみんなに伝える。みんなしばらく考えているようで室内には暫しの沈黙が流れた。

 

「天谷の話すこと、信じていいんだよね?」

 

いつになく真剣な目で舞が見つめてくる。普段の様子からはとても思えないような真面目な雰囲気で、宇野や柳本さんもその様子を固唾を飲んで見ている。

 

「…ああ、勿論だ。俺は迅さん、空閑が嘘をついているとは思えない。だから俺はこれから起こるであろう派閥間争いを全力で止めに行く。喩え舞や宇野、柳本さんに信じてもらえなかったとしても」

 

俺は語気を強くして答える。迅さんには言わないように言われているが、迅さんは本気でこの問題を考えている。そうでもなければ、形見の黒トリガーを明け渡すなんて手段を取るとは思えないというのが一番の根拠だ。

 

「そう、分かった。これだけ本気で言うなら翔の言うことは間違ってないと思う。私も翔のことを信じるよ」

 

意外にもあっさりと舞は認めてくれた。そのことに驚いていると舞が続けて話す。

 

「確かに信じられるか分からないところはあるけどさ、ここまで翔が強く言うことって あまりない気がするんだよね。だから、それだけ真剣なことなんだなって思うの。そう宇野ちゃんも柳本さんも思わないです?」

 

振り返って他の二人にも話を振る。二人もしばらく考え込んでいた表情をずっとしていたが、舞に話を振られたことで考えていたことが全て解決したようで軽やかな表情を浮かべる。

 

「そうね、言われてみたらそうだと思う。天谷くんがこんなに自分の意見をぶつけることなんてあまりなかったものね。いつもみんなをまとめるように徹してて、そんなことなかったもの」

 

「私も剣持先輩に言われて納得しました。私も天谷先輩を信じます」

 

「みんな…ありがとう…本当に助かるよ」

 

頭を下げて感謝の言葉をみんなに俺は伝える。本当に俺はいいチームメイトを持ったと思う。

嬉しさで少し感極まっていると、3人は今回の作戦について話し始めた。

 

「とりあえず二つの派閥に戦闘させないように警告をするのがいいでしょうか?」

 

「多分それがいいと思うわ。それでも引かないなら戦闘も辞さないと言った体制がいいと思う。おそらく戦闘は避けられないと思われるけど…」

 

「迅さんによると、今日から6日後の夜に城戸司令派の部隊が玉狛支部を出る空閑を狙うらしいです。そこで迅さんはまず撤退してくれないか確認をするみたいです」

 

俺も迅さんから聞いたことを言っておく。知っている情報はなるべく全員で共有しておきたい。

 

「なるほど…因みに予想されている襲撃部隊は誰か分かるものなんです?」

 

宇野が敵の質問をする。やはりそこは気になるものだろう。

 

「今のところ、太刀川隊、冬島隊、風間隊、三輪隊の面々が確定といったところ、未来によっては別の部隊も入って来る可能性はあるらしい」

 

「…それは厄介な隊ばかりですね。いくらうちの隊と迅先輩がいてもこれを全て捌くにはかなりきついような気がします」

 

宇野や柳本さんも苦虫を噛み潰したような表情を浮かべる。これが全員厄介な相手であるからだ。

 

A級8位三輪隊。隊長三輪を筆頭に米屋、奈良坂、古寺と、攻撃手、万能手、狙撃手が二人のバランスの良いメンバー構成をしている。

三輪と米屋の連携はさることながら、狙撃手2位の実力を持つ奈良坂の一撃なども考えないといけないチームだ。

 

次にA級3位風間隊。攻撃手2位で個人総合ランキング3位の風間さん、聴覚強化のサイドエフェクト持ちの菊地原、万能手の歌川で構成されていて、スコーピオンを使った素早い切り込み、カメレオンを使った隠密戦闘にも強いチームだ。

 

続いてA級2位の冬島隊。このチームはかなり特殊なチームで、特殊工作員の冬島さんと狙撃手1位の当真さんの二人構成だ。戦術はシンプルに、当真さんを冬島さんがサポートしながらガンガン落としていくスタイルだ。それに仮に当真さんを捉えてもワープで逃げられてしまう。厄介な相手だ。

 

そして、A級1位太刀川隊。攻撃手1位で総合ランク1位の太刀川さんを隊長でエースにして、射手の出水のシンプルなチームだ。純粋な実力の差を感じさせられる太刀川さんを出水がサポートするスタイルだ。太刀川さんを止められるのはごく一部のものだけだ。もう一人いた気もしたが、気のせいだろう。

 

「え!?そんな豪華な人たちと戦えるの!?嬉しくない?」

 

宇野や柳本さんは困った表情をしていたが、戦闘バカの舞は一人興奮していた。こういう時に楽しんでいける舞の楽観的な様子は見習いたくなる。

 

「舞ちゃんは相変わらずのワクワクしてる様子なのね」

 

「そりゃ風間さんとかと戦えることなんてそうそうないからね!俄然やる気が出てきたよ!早く話し合い終わらせて6日後のためにランク戦したくなってきた!」

 

すでに体を伸ばしたりしていて、ランク戦をしてくる気満々らしい。

早く行きたそうでそわそわしている。

 

「だったら舞ちゃんはランク戦に行ってきたらいいわよ。私たちでとりあえず陣形の確認とか戦い方の確認をしておくから」

 

「本当ですか?ありがとう!柳本さん!」

 

柳本さんから許可が下りるやいなや、舞はすぐに出口の扉に向かって走っていく。

 

 

「行くのはいいけど、明日また話すから絶対遅刻するなよ?それに明日はしっかり話すから、明日の分もやっとしとけよ?」

 

「えー!明日ランク戦できないの!?」

 

「当たり前だ。大事なことなんだから明日話す。それにお前、テストの点の話を聞いたぞ。ランク戦してる暇あるのか?」

 

今月の最初に期末試験があったのだが、剣持は赤点ギリギリの点数ばかり取っていたのだ。その直前に俺たちが教えたというにもかかわらずだ。

 

「げっ…熊ちゃんが喋ったのかな…ここは逃げるに限る!」

 

「あ!おい待て!」

 

その言葉だけを残して風のように舞は走り去って行った。

宇野は笑っていたが、俺と柳本さんは頭を抱えていた。舞の勉強の不真面目さ、成績の悪さはトップクラスで、将来の太刀川さんと同じ道に進みそうだと忍田本部長も頭を抱えているのだ。

 

「そんなに舞先輩って成績が悪いんですか?」

 

「悪いってもんじゃないんだ…。まじで留年しかねないから不安になる…隊員が留年とかシャレにならない…」

 

「その件も話さないといけないけど、また今度にしましょう。とりあえず今は今度ある戦いについてだけど、少し休憩してから話しましょうか。何か飲み物でも買って来ようと思ってるけど二人ともいつものものでいいかしら?

 

「「いいんですか?」」

 

俺と宇野は口を揃えて柳本さんに聞く。

 

「ええ、もちろんよ。それじゃ買ってくるから少し待っててね」

 

柳本さんも俺たち3人分の飲み物を買いに部屋の外へと出て行った。室内には俺と宇野が残っているが、柳本さんが飲み物を買いに行ったので、部屋に常時置かれているお菓子を二人で用意して待っておくことにした。

そして、その準備をしている最中に迅さんが話していたことを宇野に伝えておこうと思ったので話すことに俺はした。

 

「…なあ、宇野?」

 

「はい、どうしました?」

 

いいとこのどら焼きの箱を机に置いてから宇野は振り返って不思議そうな顔を浮かべる。

 

「最近宇野が悩んでいることは知ってる。真面目な宇野だから一人で抱え込んでるみたいだけど、チームなんだ。一人で抱えてなくていいんだぞ?」

 

「やっぱり先輩にはバレてたんですね」

 

他のお菓子の準備をしながら宇野は答える。俺も引き続き手伝いながら続ける。

 

「当然だ。宇野が悩んでるのなら力になる。困ったことがあればいつだって相談に乗るさ」

 

「そう言ってもらえるだけでとても嬉しいですよ」

 

改めてこちらを見て感謝の言葉を宇野は話すが、表情はどこか曇っていて、やはりまだ悩んでいるようだった。

 

「…今回の戦いは宇野にとって大きな転換点になる…って迅さんが話していた。何があるから分からないけど、少しリラックスして次の戦いには行こう。こんなこと言われたら意識しちゃうかもしれないけどな」

 

「分かりました。迅先輩が言うなら何かあるのかもしれないですね。それでも先輩たちが戦いやすいように全力でサポートしますよ」

 

その返事をする宇野は先ほどの曇ったような表情は隠れて、いつもどおりの宇野に戻っていた。

 

「お待たせ、買ってきたよ。…あら?お菓子の準備しててくれたのね!いいとこのどら焼きもある!食べながら話ししましょうか?」

 

ちょうど柳本さんも帰ってきたので、そこまで話していたことはやめて席に着く。

そこからしばらく、戦う場所の確認、相手の確認など様々なことを話し合ったのだった。




柳本さんは意外と甘い物好き。
因みに柳本さんが買ってきた飲み物は、天谷が炭酸飲料、宇野はオレンジジュース、柳本さんは烏龍茶だったりします。

次回は別作品の投稿+作者テスト週間で少し遅くなる(いつものこと)と思います


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天谷翔③

お久しぶりです
原作通り、全サブタイトルを人物名にしてみました
やっぱりこの方がいいかなと思ったのでそうさせてもらいました


天谷隊が派閥間争いの仲裁に決めてから6日後、戦いが発生すると迅に言われた日がやってきた。

天谷たちは予め立てた作戦、迅から聞いた話とプランについて確認してから出撃した。3人はすっかり夜の闇に包まれて、明かりがなければ見渡せないような暗闇の中、迅が指定したポイントに向かって走っていた。

 

「ねえ、あとどれくらいでそのポイントにつく?」

 

特に喋る事もなく目的の場所へと走っていたが、久しぶりにボーダー上位の実力者たちと戦えることにワクワクが止まらない様子の剣持は、そわそわした感じでまだかなとつぶやき始めた。

このまま無視していてもいいかと思っていたが、あまりにそわそわとしていい続けるので、天谷は目印でつけられたポイントを確認してどれくらいか推測して答える。

 

「あと2分程度だと思う。そわそわし過ぎて動きが硬くなるなよ?」

 

「はーい。というか、私が緊張で固まるタイプじゃないって知ってるでしょ?」

 

「それもそうだな」

 

相変わらず軽い感じで話す剣持であったが、顔は真剣な表情をしていたため、本気で集中を高めているようであった。

 

「…柳本先輩、周りに誰か反応はありますか?」

 

剣持が集中している表情の一方、どこか気になることがあるのか呆けているような表情をしていた宇野がレーダーに写っている人を確認する。

 

『そうね、宇野ちゃんたち以外には一人…多分これは迅くんかな?だけが映ってるだけね。それ以外には確認できないからバックワームを使ってるのかも』

 

「……」

 

「宇野ちゃん?大丈夫?」

 

「…あっ、すみません。教えてくださってありがとうございます」

 

やはり最近の戦いが上手くいってないのが気になっているのか、どこか浮ついた様子を比奈はしていた。

迅さんいわく、この戦いが宇野にとって大きな転換点になるらしいが、実際はどうなるか…。これ以上悪くならないのならいいのだが…。

 

『もうじき指定のポイントに着くわ。しっかり警戒してい来ましょう』

 

インカムからハッパをかける柳本さんの声が聞こえてくる。とりあえず不安に思っていることは一度忘れて、集中を高める。ここでの戦いが今後のボーダーの行方を左右すると行っても過言ではない。

意識を余計な考えから離し、集中力を高めて、その目的に向かって地面を蹴って進んで行った。

 

 

 

 

 

 

 

 

「実力派エリートとして、可愛い後輩を守んなきゃいけないな」

 

迅はその腰に身につけた黒トリガー、『風刃』に手を掛けながら対峙する集団、城戸司令派の刺客、太刀川隊、冬島隊、風間隊、三輪隊に威嚇をする。

思わぬ迅との遭遇、更に黒トリガーを使っての戦闘の構えに全員が警戒態勢をとる。

 

「模擬戦を除くボーダー隊員同士の戦闘を固く禁ずる。隊務規定違反で厳罰を受ける覚悟はあるんだろうな?迅」

 

迅に対して、ボーダーに所属するものが従わなくてはならない規定を持ち出して、戦闘を抑えようとする風間であったが、迅はそんな警告にも顔色一つ変えることなく余裕な表情を浮かべながら返す。

 

「それを言うなら、うちの後輩…空閑 遊真だって立派なボーダー隊員だよ。あんたらがやろうとしていることもルール違反だろう、風間さん?」

 

空閑遊真は隊務規定に則り、ボーダーへと入隊した。風間が持ち出した規定によれば、そんな空閑を強襲し、黒トリガーを奪い取るのは、正に隊務規定違反だ。そんなことを突きつけられ、驚きの表情を浮かべたが、そんな迅の返しに対して三輪が噛み付く。

 

「立派なボーダー隊員だと……!?ふざけるな!近界民を匿っているだけだろうが!!」

 

近界民根絶という意識の強い城戸司令派の中でも特にその意識が強い三輪は到底受け入れられないと叫ぶ。目を三角にした様子で、まるでそこに姉を殺したトリオン兵がそこにいるかのように睨みつけている。

 

「近界民を入隊させちゃいけないなんてルールはない。正式な手続きで入隊した正真正銘のボーダー隊員だ。誰にも文句は言わせないよ」

 

流石の三輪もここまで言われると形勢悪く、苦虫を噛み潰した表情を浮かべて反論できないことを悔しそうにしていたが、そこに待ったをかけたのは、A級一位部隊隊長にして、迅の最大のライバルとされた太刀川だった。

太刀川は身につけていたバックワームを解除しながら話す。

 

「玉狛での入隊手続きが済んでいても正式入隊日を迎えるまでは本部ではボーダー隊員と認めていない。俺たちにとっておまえの後輩は1月8日を迎えるまではただの野良近界民だ。仕留めるのになんの問題もないな」

 

「邪魔をするな迅。おまえと争っても仕方がない。俺たちは任務を続行する。本部と支部のパワーバランスが崩れることは別としても、黒トリガー持ちの近界民を野放しにしておく状況をボーダーとして許すわけにはいかない。城戸司令派どんな手を使ってでも管理下に置こうとするだろう」

 

太刀川の反乱に続いて風間も抵抗をしないように伝える。迅も城戸司令が絶対にそうしてくるとは思っていた。それでも、僅かにでも戦闘を回避することができるのなら…そう思い、追い返そうとしていたが、それは無駄に終わってしまったと諦めて戦闘開始の構えをする。

 

「あくまでも抵抗するつもりか。おまえも知ってるだろうが、遠征部隊に選ばれるのは黒トリガーに対抗できると判断された部隊だけだ。他の部隊ならいざ知らず、俺たち四部隊を相手にして勝つつもりか?」

 

「おれはそこまで自惚れてないよ。遠征部隊の強さに三輪隊を加味して、いいとこ五分だろ」

 

その言葉を言っている最中も城戸司令派は狙撃手を除くメンバーがバックワームを解除しながら迅を取り囲むように展開する。各々の武器を生成し、戦闘態勢を整える。全員が整えたところで迅は再び不敵な笑みを浮かべて呟く。

 

「ただ…俺だけだったら…の話だけど」

 

その言葉とともに、二つの部隊が到着し、声を上げる、

 

「嵐山隊、現着した!忍田本部長の命により玉狛支部に加勢する!」

 

「天谷隊、到着。目標も確認!」

 

嵐山隊は城戸司令派から見て左方に、天谷隊は右方の家の屋根から姿を現し、狙える位置を保っている。

 

「…!嵐山隊ということは忍田本部長派と手を組んだのか…」

 

太刀川が警戒をしながら少し後方へと下がる。同じように他のメンバーも後退を少しするが、それを見て、嵐山隊は迅のそばに降りて、話をする。

 

「天谷!お前も裏切り者の玉狛に回るのか!」

 

対して天谷隊に対して三輪が強く叫ぶ。先日の一件もあったため、かなり強く睨みつけ、声を荒げる。

 

「…裏切り者…?聞いたぞ。城戸司令派は議会での話を無視し、強奪を強行しようとしていると。俺たちはあくまでも中立の立場だ。もしも三輪たちがここに来なければ何もしなかった。けど、強行をし、ボーダー内部での内戦を起こそうとしている。俺たちはそんなことを見逃さない」

 

「だとしてもだ!黒トリガーを野放しにしてもいいって言うのか!近界民の排除が我々ボーダーの責務だ!」

 

「責務だとしても、強行は許されないかな。別に私たちは派閥間争いなんてどうでもいいけど、身内を不当な目的で退けようとするのは行かないと思う」

 

剣持も三輪に対して意見する。だが理解をしてもらえるはずもなく、決裂し、辺りを先程まで口論していたとは思えないほどの静寂が支配する。

互いに距離を取りながら、相手の先制攻撃を警戒する。そんな中、天谷はサイドエフェクトが発動し、3人ほどの人物がこちらへ急接近していることに、天谷は気がついた。

 

「舞!比奈!後ろだ!シールド張れ!」

 

天谷が叫んだ瞬間、剣持と宇野は後ろにシールドを展開し、かわすように動く。すると、その場所へと大量のアステロイドが天谷隊のメンバーへと襲いかかった。

 

天谷が間一髪気がついたため、シールドにヒビを入れられた程度で済んだが、もし天谷にサイドエフェクト、『立体空間把握』がなければ、全員が蜂の巣にされていた可能性もなきにしもあらずであった。

 

弾丸の嵐が止み終わった後、天谷たちが構えていた家の屋上に天谷たちの見知った人たちがやってきたのだった。

 

「ちっ…天谷が気づいたか」

 

「お待たせー、援護に来たよ?」

 

「到着しました。皆さんの援護します」

 

三者三様の反応を示しながらその人物たちはやって来た。

 

「ここで二宮さんかよ…厄介すぎる…」

 

嵐山隊、天谷隊の合流で流れが傾きかけていたこの場の雰囲気は二宮隊の到着によって一転、どちらに転ぶとも分からない予想のつかない展開へと進んでくのであった。

 




原作と比べて二宮隊参戦


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犬飼澄晴①

遅くなりました(謝罪)
今回の内容一回納得がいかなくて書き直した結果遅くなってしまいました(建前)。…というのもありますが、本音はスマブラをしまくってました。
スマブラ楽しい


「まさか二宮さんも出て来るとは…。どうやら低い確率を引いちゃったみたいだな」

 

突然天谷隊の後方から出現した部隊は、B級1位にして個人総合ランク2位の実力者、二宮匡貴率いる二宮隊であった。彼らがここへやってくるということはら未来視の出来る迅ですら驚いている様子であることから、この可能性は低かったのであろうと天谷は考えた。普段は余裕綽々で涼しい顔をしている迅の顔から余裕が消え、普段では決して見ることのできない真剣な表情を浮かべている。その表情がこの状況の悪さを物語っていた。

 

「迅!敵の数が増えたがどうする?Aプランをこのまま実行するのか?」

 

嵐山たち嵐山隊のメンバー(どこにいるかは分からない佐鳥を除く)は即座に各々の銃を構えて臨戦態勢に入りつつ迅の判断を仰ぐ。ここですぐに臨戦態勢に入って冷静な判断を出来るのがA級としての強さだろう、そう天谷は思った。

そんな嵐山隊に遅れながらも、剣持はスコーピオンを、宇野もレイガストをホルダーから抜き、シルードモードにして相手を見据える。俺は今回孤月を装備して来ていないので、トリオンキューブを展開した。いつでも攻撃が出来るということを見せるためにいつものように手の周りを分割したトリオンキューブを周回させる。

そしてその態勢をしながら、嵐山隊と同じく迅さんの判断を仰ぐ。

 

「正直なところ、Aプランで通して行きたかったけど、二宮隊が参戦した以上、Aプランを成功させるのはかなりの至難だな。だから…」

 

 

迅はこれからの作戦内容を話しながら風刃をホルダーから抜き、風刃を起動する。すると風刃の鍔の部分から光の帯が数本溢れ、ゆらゆらと揺れているのが夜の闇の中でははっきりと目視することが出来た。

そしてその光の帯が見えるようになった瞬間、迅はその場で風刃を薙ぎ払った。

 

それはあまりに突然のことだった。この攻撃に咄嗟に反応出来たのは太刀川、二宮、風間の3人だけだった。3人は即座に各々の武器やシールドで首を守るようにガードの体勢を取った。

しかしながら、その3人を除く城戸司令派はその攻撃に反応をすることすらできなかった。全員がそこで起きた出来事なら気付くことはなく、それによって起きてしまった出来事を理解するしかできなかった。

迅の突然のその場での薙ぎ払いによって得られた結果、それは菊地原士郎のベイルアウトであった。

 

「…えっ………?」

 

やられた本人ですら何が起きたのか理解できないといった表情を浮かべていた。そして次の瞬間には機械の音声が閑静な住宅街に鳴り響き、菊地原は光となって空へと舞い上がった。光は一直線にボーダー本部北に向かって進んでいく。

多くの隊員はその光を呆然と見つめることとなってしまった。

 

「菊地原!」

 

隣にいた歌川が叫ぶが、すでに菊地原はベイルアウトをしてしまい城戸司令派は戦闘員を一人失うことになってしまった。

 

「相変わらず厄介な能力だ」

 

太刀川が迅に向かって呟く。かつてライバルとしてしのぎを削った故か、この状況でも冷静に、そしてとても楽しそうにこちらを見据えている。

 

「風刃…視野の届く範囲ならどこにでも遠隔斬撃を放てる…。やはり要注意な黒トリガーだ」

 

風間が城戸司令派のメンバーに黒トリガー『風刃』の説明をする。

 

『風刃』は簡単に言えば所有者の眼に映る範囲が攻撃の射程範囲だ。この見えるというのがミソで、見えてさえいればどんな場所ですらそれは射程範囲内となる。そんな超遠隔斬撃を放てるというのが『風刃』の恐ろしい力であった。

そんな破格の性能を持っている『風刃』だが、もちろん弱点はある。それは、一定数の弾数を使い切ると一度再装填をしなければならない。もちろんその再装填に時間はあまりかからないが、上級者同士の対決だとその一瞬が命取りになる。

そして、もう一つ大きな弱点があった。それは…

 

ガキンッ!

 

そんな最中、太刀川は手にした二刀の弧月でいきなり迅に斬りかかった。

 

「いかに強力な遠隔斬撃でも距離を詰めてしまえばただのブレードトリガー。それならなんら弧月を持っているのと変わらない。」

 

「よく対策を練ってるじゃないの…太刀川さん!」

そして『風刃』のもう一つの大きな弱点、それは近距離に持ち込まれると遠隔斬撃を活かしきることができないという点だった。それを知っていて、対策をしている太刀川は遠隔斬撃を撃たせまいとガンガン詰め寄る。

迅は風刃で太刀川の孤月を弾き返し、後方へ下がる。太刀川ははじき返された勢いを利用して着地をし、さらに攻撃態勢を整える。そんな睨み合いをしながら二人は互いの味方に指示を飛ばした。

 

「嵐山隊は三輪隊を受け持ってくれたら助かる。三輪の鉛弾とかを相手するのは応えるから頼みたい。天谷隊は二宮隊の相手を頼む。俺は太刀川さん、風間隊、当真を受け持つから頼んだぞ」

 

「三輪隊と出水は嵐山隊の足止めだ。二宮隊は天谷隊の足止めをしろ。俺、風間隊、当真、奈良坂で確実に迅を仕留めるぞ」

 

指示を飛ばし終えるとすぐに太刀川は距離を詰め、再び近距離戦を仕掛ける。そんな太刀川を引き気味に捌きながら、迅は自分の敵を引きつけて行った。

 

「分かった!俺たちは三輪隊をやる。そっちも頼んだぞ!」

 

「…了解。行くぞ」

 

奈良坂を除いた三輪隊と出水、嵐山隊は即座に銃撃戦を展開しながらこの辺りでは比較的大きめなマンションの方向に向かっていった。恐らく嵐山隊のスナイパーがそちらの方向に潜んでいるのだろう。

 

「俺たちも行くぞ。二宮隊だけはなんとしてでも足止めを成し遂げるぞ」

「おっけー!」

「分かりました」

 

「犬飼、お前は剣持と宇野の足止めをメインに行え。辻は太刀川たちのフォローだ」

「犬飼了解!」

「…辻、了解」

二宮と犬飼はこちらに対して早速アステロイドを放ってくる。俺たちは俺のシールドと比奈のレイガストでその弾幕を凌ぐがその間に辻に離脱されてしまった。

 

「歌川、お前は辻に変わって犬飼の援護だ」

「了解しました!」

 

辻の代わりに歌川がやってきて、スコーピオンを構える。こちらも同じくスコーピオンを両手に構えるが、その瞬間に歌川は素早く切り込んだ。突然の切り込みに態勢を崩されながらも、剣持は歌川の攻撃を全て回避する。

全て回避した剣持は後方に下がろうとグラスホッパーにトリガーを切り替える。そして、グラスホッパーを展開して踏もうとするが、それを黙って見ている歌川ではなかった。

「逃がしません」

 

グラスホッパーの方向から判断して後方に下がると思った歌川はアステロイドに切り替えて攻撃態勢に入った。そして、踏んだ瞬間にその方向へと放とうとした。しかしながら、攻撃は不発に終わってしまった。踏み込もうとした場所に強烈な天谷からのメテオラが叩き込まれたからだった。

咄嗟にシールドを展開し、なんとかメテオラの爆風から要所を守ったが、続けて天谷のバイパーが歌川に襲いかかる。シールドを前方に展開し側面などは完全にがら空きの歌川に対して、側方、後方、上空と多角的な攻撃が仕掛けられた。

歌川もなんとか必死に避けようとシールド局所防御に入るが、到底防げるようなものではなかった。障害物が近くには少ないため撃破されてしまうかもしれないと思ったその時、不意に歌川は腕を引っ張られたのだった。

 

腕を引っ張られたことによって歌川は難を逃れた。歌川のいた場所には無数のバイパーが襲いかかった。引っ張られなかったやられていたと思うと

「すみません、ありがとうございます」

「いやいや、今は仲間なんだから気にする必要はないよ。それよりも出過ぎないようにね?」

「分かりました」

 

犬飼に諭された歌川は自分の勇み足を控えるように犬飼の少し前方に構える。その様子を見て剣持は仕留められなかったことを悔やむ。

 

「ほぼ完璧に釣れたと思ったんだけどなあ。犬飼先輩に上手いことカバーされちゃった」

「仕留められなかったのは仕方ない。次で決めるよ」

「オッケー!」

「分かりました」

 

そうした時だった。

「アステロイド」

 

天谷のバイパーをも上回る凄まじい数のアステロイドを二宮は天谷隊に向けて放った。それをガードして受けるにはきついと判断した天谷隊は、全員が回避を選択した。しかしそれによって道を分けて左側に剣持と宇野。右側に天谷と分断されてしまったのだった。

 

「しまった…!」

 

二宮が何をしようとしてきるのかすぐに理解できた天谷はすぐに反対側に移って全員で迎え撃つようにしようとするが、それを許す二宮ではなかった。

 

「ぐっ…」

 

そんな合流を狙う天谷に今度はハウンドが放たれる。先ほどのアステロイドとは打って変わって曲がる軌道によって完全に進行方向を塞がれてしまった。

「お前の相手は俺だ。どれくらい上達したのか、久しぶりにあいてしてやろう」

 

「ランク戦とは違って負けることはできないんで、必ず勝たせてもらいますから」

 

道路で分けられた右方、こちらではボーダートップクラスのシューター二人の熾烈な火兵戦が始まったのだった。

 

 

 

「このまま仲良く隊で相手してもいいんだけど、こっちも指示されてるからね。君たちは俺たちが相手だ。少し付き合ってもらおうかな?」

その一方、天谷と分断された剣持、宇野は少しづつ後退しながら追われていた。

 

「先輩、このまま後退を続けていると天谷先輩と合流できないですし、きつくなる気がします」

 

このまま押されるだけでは状況が不利なので、なんとか反撃の隙を剣持が狙い、宇野がレイガストで犬飼や歌川から飛んでくるアステロイドを防いでいた。

しかし、先ほどの釣りのことがあってか二人は前がかりには攻めては来ない。どころか剣持のマンティスの射程外ギリギリを保ちながら少しづつ削ってくる。

「流石にきついね…亜美さん!この先に開けた場所あります!?」

 

あの様子だと崩す前にこちらの防御が削られて押し負けるので、この状況を変化させるために開けた場所がない聞く。しばらく待ってた伝えられてから少し耐えていると、データがおくられてくる。

 

『ここから左方に進んだ先に小さなアパートと公園が近くにあるよ。ここなら今いる住宅地よりも開けてるから戦いやすいかも。もっと先にも公園があるけど、そちらは嵐山隊の任された方だから邪魔になるかも』

 

剣持が欲しがった情報にプラスアルファで情報を柳本は教えてくれる。優秀な自分の部隊のオペレーターに感謝をしながらこれからのことを決める。

 

「正直考えて戦うのは苦手だけど、いつもは考えてる翔がいないからやるしかないよね。引きながらそのアパート付近で戦おう。狭い場所じゃ私がお荷物になっちゃう」

 

「確かにこのままだときついで先に構えてスパイダーとかで、こっちに有利な陣形整えていきたいところです」

 

「そうとなれば急ごう!早く向かうよ!」

 

作戦が決まって柳本からも目指す場所へのルートよ送られてくる。それ見て早速行動を開始しようとする二人だったが、そんな二人の様子を見て犬飼は不敵に笑った。

 

「なんだか作戦が決まってそこに誘い込もうって魂胆に見えるね。けど…そんなに簡単に逃がしはしないよ?」

 

犬飼がそう言うやいなや犬飼と歌川は地面を蹴って急激に間合いを詰めた。それまで弾幕を張って攻撃をしていた相手が急に間合いを詰めてきたことに宇野は対処しきれず、完全に不利な間合いまで詰められた。

 

「二人がやろうとしていることは分かるけど、それを黙ってさせるわけにはいかない」

 

そう言いながら、犬飼は手に持ったアサルトライフルですぐに撃ち始める。これに合わせてレイガストで防いで守ろうとするが、その反対側から歌川のスコーピオンが伸びてくる。それを剣持が辛うじてカバーし、なんとか防いだがそれでも犬飼の不敵な笑みは消えなかった。

次の瞬間、宇野は大きく吹き飛ばされていた。吹き飛ばされた本人が一番何が起きたのかわからないといった表情を浮かべていた。

 

「比奈ちゃん!」

「剣持先輩の相手はボクです。援護にはいかせませんよ」

 

歌川はほぼゼロ距離の近距離戦闘をガンガン仕掛けていく。剣持は近距離アタッカーでありながら、ある程度の射程でも攻撃を仕掛けられるからだ。

歌川が張り付いて足止めをするため、剣持はカバーに向かうことができなくなった。それを見越した上で犬飼は追撃を仕掛ける。

 

「まだまだ甘いね。そらそら!こんなものじゃないよ?」

 

吹き飛ばされて塀に体を打ち、倒れてしまった宇野に向けて無数のアステロイドが放たれる。無数のアステロイドが塀にぶつかることで塀が倒壊し、ガラガラと音を立てて崩れていく。

 

「比奈ちゃん!」

 

剣持の宇野を心配する声が月明かりが照らす闇の中で響くのであった。

 

 

 

 

 




犬飼先輩は飄々としてるけど、めっちゃ考えて動くタイプのように思えて好きです


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犬飼澄晴②

戦闘シーンの描写をうまくしたくていろいろ錯誤してしてみましたがどうみなさんが感じるかドキドキしてます


「アステロイド」

 

「アステロイド!」

 

相対する二人は共にアステロイドを放つ。互いにボーダートップクラスのトリオン量を誇る二人の弾幕は激しさを増し、周囲を蜂の巣状態にしていた。

天谷と比べるとトリオン量は劣るが、ボーダーの中でも随一の指導者、東に師事を受け、その戦略に基づいて攻撃するのはNo,1シューターにして、個人総合2位の座に就くシューターの王たる二宮である。ハウンドを上手く使いこなして天谷を誘導しながら本命のアステロイドでシールドをゴリゴリと削っていた。

 

対して二宮と比較して年季に差はあるが、持ち前のトリオン量による物量の多さと、バイパーのリアルタイム軌道変更によって二宮を少しづつ削っているのが天谷であった。

しかしそんな戦いを続けていたが、側から見ればその戦いは二宮が終始押していた。普段から稽古でぶつかり合う二人にとって相手の特徴は手に取るように分かる。そのため、相手の弱点を突くように徹しながら戦うが、模擬戦の勝率は二宮に軍配があがる。天谷は二宮に大きく負け越しているのだ。

 

(このまま正面から撃ち合っても埒があかない…。正面きっての撃ち合いは二宮さんの得意な戦いだ。複雑な路地とかに引き込んでの乱打戦に持ち込まないと…)

 

このままでは埒があかないと思った天谷はバイパーによる攻撃をやめて後方に下がっていく。機動力の面では二宮に比べて優っているので距離は少しづつ距離を取れてはいるが、距離をとってなお二宮の射程範囲から逃れることはできない。

 

(ぐっ…射線を切りたいけど、直線続く道だからきつい…。なんとか後ろのあの路地まで辿り着ければ…)

 

矢継ぎ早に撃ち込まれてくるアステロイドとハウンドをシールドを細かく分解して避けながら、天谷は急いで路地の入り口を目指して駆ける。

しかしそんな天谷をおいそれと逃す二宮ではなかった。

「ハウンド+メテオラ…ホーネット」

 

二つの効果を併せ持つ至高の弾幕、合成弾をここで二宮は放った。ホーネットはそれまでのハウンドたちとは違い、天谷の上空方向から次々と天谷に襲いかかる。

 

ドドドッ!

 

ホーネットは天谷のガードや地面に当たると即座に爆発を起こす。ハウンドなどを持ち前のサイドエフェクトで細かく把握しながら小さなシールドで対処していた天谷のガードは薄くなっており、その爆発に天谷も飲み込まれる。

 

(ガード広げた瞬間にホーネットを使っての広範囲爆撃…!それにこの視界…まだ二宮さんの攻撃は終わってないに違いない…)

 

視界を奪った天谷に対して二宮はさらに追撃を仕掛ける。爆煙が立ち広がる道にアステロイドが放たれた。

 

ガガガッ!

何かの物に当たった音が聞こえてくる。ヒットの音が聞こえてくるため当たってはいるようだが、ベイルアウトの光が立ち昇らないことからクリティカルな攻撃にはなっていないと二宮は判断した。

 

爆煙がようやく晴れてくるとそこで二宮の攻撃が何にヒットしたのかようやく判断することができるようになってきた。

煙の白い中に薄っすらと見えるのは大きなフォルムの物体。そこには確かに何もなかったはずだが、二宮の攻撃を防いだシールド…いや、エスクードがそこにはあれほどの激しい攻撃を受けたにも関わらずどっしりと構えられていた。

 

(エスクードだと…?あいつが使うことがあまり見たことがないはずだが、これも迅の入れ知恵か?)

 

普段天谷が使うことのないトリガーのために余計に不思議に思いながらも、エスクードの後ろに天谷が潜んでいて奇襲を仕掛けてこないか確認するため、ハウンドを放つ。

しかし、今度はエスクードにヒットする音と地面を抉る音しか聞こえてはこなかった。

 

(ちっ…路地に逃したか。少し厄介だ)

 

目の前で逃してしまったことを表情にこそ出さないものの、悔しそうに天谷が逃げ込んだ路地を見つめる二宮であった。

 

 

 

***

 

 

「はは!防戦一方じゃいつまで経っても俺を倒すことはできないよ?」

 

場面は変わって宇野と犬飼の対面。犬飼に回し蹴りをくらい吹き飛ばされたことで剣持と分断されてしまった宇野は、肩に数カ所のかすり傷を負ったものの、なんとか塀を使っての射撃戦に持ち込んでいた。

 

(普段は天谷先輩のおかげでこういう撃ち合いのときも相手の場所が知れて有利だけど今はいないから顔を出して攻撃するこにも時間差ができちゃう…。剣持先輩と合流すれば戦いやすいけど、ルートを完全に塞がれてるから無理そうだし辛いな…)

 

宇野が考えているように、剣持との合流ルートは犬飼が完全に塞いでいた。反対側から大回りして合流することはできた。しかしながらそちらのルートは迅の戦っている方向で、そちらの戦場にぶち当たる可能性がある。

今回の作戦の目的は城戸司令派閥の撃退だが、お互いに任された相手をしっかりと受け持つことだ。そのルートを使って他の人に迷惑をかけられないという点で使えない上に、建物が低く、射線が通るため狙撃をされる可能性があった。そのため、ここでなんとか耐え凌ぐか、ここから押し返して合流を果たすという道しか宇野には残されてなかった。

 

(中距離の撃ち合いだとアサルトライフルを使う犬飼先輩には到底かなわない。どうにかしてハンドガンの小回りが効く近距離戦まで持ち込みたいところ…。でも迂闊に飛び出せば蜂の巣にされるのも分かってるから、覚悟を決めたら一気に距離を詰めなきゃ…)

 

これからやることが決まった宇野は両手に持った二つの武器を見つめながら深呼吸をする。ゆっくりと息を吸って吐いて心を落ち着かせる。

 

(うん、私ならできる…。私も天谷隊の一人なんだ。苦しい状況だけど必ず…倒す!)

 

***

 

一方、宇野の隠れている方角をいつでも攻撃できる態勢を取って待っていた犬飼は、一切反撃をしてこなくなった宇野のことを疑問に思っていた。

 

(うーん…宇野ちゃんはなんで反撃してこないんだろう?ここよりも下がるのは太刀川さんたちの戦場にぶち当たるから避けるはず。ここで押し返さないといけないと思うんだけどな?)

 

不思議に思った犬飼は耳に手を当ててオペレーターの氷見に宇野についての情報を訪ねようとする。

 

「もしもし?ひゃみちゃん?宇野ちゃんに動きがあるか教えてもらってもいいかな?」

 

『少し待ってくださいね。ちょっと今二宮さんの方に情報送ってるんで』

 

少し忙しそうな声をした氷見からの返答が聞こえて来る。どうやら二宮からの指示のようで、これでは仕方ないと諦めて、宇野のことは警戒しながら少し待つことにした。

 

「余裕があったら答えて欲しいんだけどね、二宮さんの方はどんな感じ?」

 

『……えっとですね、二宮さんが天谷くんを後退させて…傷を合わせた感じです。路地に逃げられたましたけど、二宮さんのダメージは軽微で優勢を保ってる感じです』

 

「さすがうちの隊長。俺じゃ天谷を単独で抑えるのはきついかな〜」

 

『流石に二宮さんの弟子をしてるので…強いとは思いますけどね』

 

「ははっそうだね。うちの隊長が唯一教えているくらいだし、そうじゃなきゃ」

 

『……さて、お待たせしました。えっと…宇野ちゃんは特に動いているような動きはないですね…それと……』

 

しばらくの間、宇野に関する情報や、歌川の状況、辻を通しての太刀川たちの戦況も聞く。どうやら歌川はかなり押されつつもなんとか踏ん張っている様子で、太刀川率いる集団は互角といったところらしい。それと他にも犬飼にとっては有益な情報もいくつか聞くことができた。

 

「ありがとうひゃみちゃん。俺の方はもういいから二宮さんと辻ちゃんの方をサポートしてあげてほしい。俺もさっさと決めて歌川の援護に行かないと。剣持を一人で足止めするのは骨が折れるだろうしさ」

 

『分かりました。それと犬飼先輩の言った通り伝えておきます』

 

「それじゃよろしく〜」

 

そう言って通信を切る。再び宇野のいる方角に目を向けてみるが、一切として宇野は動くようなそぶりを見せてはいなかった。まるでそこにはもう誰もいないように感じられるくらいに辺りは静まり返っていた。

 

(しかしとても戦場とは思えないくらいの静寂具合だね。しかし、流石にそろそろ手を打ってくるかな?気を引き締めていこう)

 

ここで一筋の光が立ち上り、ボーダー本部に向けて伸びていった。

思わず犬飼もそちらの方向を見つめて誰かがベイルアウトしたのだろと考えた。

 

(ん?あれは誰だ?迅さんの黒トリガーには脱出装置がないはずだから違うはずだけど…?)

 

そんなことを思っているとついに宇野が塀から飛び出してきた。前にレイガストを構えて、全速力でこちらへの走りこんでくる。

 

「やっときたね!もう来ないのかと思ってたよ?」

 

タタタタッ!!!

 

軽口を叩きながらも犬飼はアサルトライフルの引き金を引き続ける。銃口から放たれたアステロイドの弾は次々と宇野に襲いかかる。

 

ガキキキンッ!!

 

それらを回避しながら、回避が間に合わないものはレイガストで防ぎながら少しづつ宇野は犬飼との距離を詰めていく。しかし犬飼も近距離戦は持ち込まれまいと、後退しながらドンドンと弾丸を放っていく。

 

ピシッ!

ようやく犬飼までの距離が少しづつ迫ってきた中で、ついにレイガストに小さいながらもヒビが入り始めた。レイガストを持つ宇野の表情も不安によってどんどんと曇っていく。

 

「もう少しで割れるね。これでトドメだ!」

 

このままではまずいと思った宇野はレイガストと反対側に構えたハンドガンでのカウンターを試みる。しかし、犬飼はこれを難なくシールドで防ぎ、宇野に攻撃を続ける。

 

(これならもう少しで割れる…!このままベイルアウトに持って行こうか)

そう犬飼が思った時だった。

 

「今です!スラスター!」

 

シールドモードのレイガストを宇野はスラスターを起動してから犬飼に向かって放り投げた。スラスターによる推進力を得て持ち手のいなくなった壊れかけのレイガストは犬飼に向けて突っ込んでいく。

 

(シールドチャージ…?いや、宇野ちゃんはレイガストの後ろからの攻撃とシールドに切り替えている…。これは近距離戦に切り替えるための時間稼ぎか!)

 

宇野はレイガストを手放すと素早くハンドガンを撃ち、ハウンドの包囲網を展開する。これによって犬飼が左右や飛んで逃げることを防ごうとする。

 

「…なるほど…!なかなか考えたね。でも…」

 

犬飼は広く展開していたシールドを集約してレイガスト前に展開した。集約されたシールドは余裕を持ってレイガストを受け止めた。それに加えてハウンドはあくまでも、制限するための攻撃。その場に留まっていれば被弾することはなかった。

 

「シールドチャージはなかなか面白い考えだったと思うよ。でも残念。それじゃ俺には届かない」

 

今度は犬飼が一気に距離を詰める。右手に持ったアサルトライフルをオフにして、スコーピオンを伸ばしての不意打ちトドメを刺しにかかる。それはB級2位の隊長、影浦の使うマンティスのような要領であった。彼の使うマンティスはスコーピオンを二つ組み合わせたものだが、犬飼のものは一つだけのものである。そのため、伸ばせる距離は影浦のそれと比べると短いものであったが、今回の間合いなら十分に事足りていた。

薄く伸ばされたスコーピオンは宇野がその攻撃を防ぐためのシールドをすり抜けていく。

 

「これでおしまいだね!」

 

ついにその首に刃が届く、その瞬間犬飼が見たのは不敵に笑う宇野の姿であった。奇襲のようなシールドチャージに移動抑制のハウンド。まさに宇野の切り札を使わせた上でそれらを看破した。それに加えて今まさにとどめが刺されそうであるという場面での笑みに犬飼は恐ろしい予感がした。そして、その予感はすぐに的中することとなる。

 

『犬飼さん後ろです!』

「犬飼先輩!」

 

通信によって聞こえた声、そして後ろから聞こえた声が指し示したいたもの、それに犬飼はすぐに気がつくことができた。

犬飼は咄嗟の判断で首や胸元に厚くシールドを張って横に飛び退いた。そこには予め宇野の放っていた弾が仕掛けられていたので、ダメージは覚悟の上だ。

バチバチと腕や足にアステロイドが当たることでトリオンがどんどん漏れていく。しかし体の重要なパーツ、トリオン伝達脳とトリオン供給期間である頭の心臓は守り抜くことができた。もし咄嗟の判断で飛び退いていなければそこに襲いかかった鋭いスコーピオンによって完全に斬られていただろう。

 

「あらら、厄介だから分断したのに合流されちゃうなんてな」

 

今の攻撃によって重傷を負った右手から左手にアサルトライフルを持ち変えてアステロイドを、着地したてで硬直状態の剣持に向けて集中的に放つ。

 

「やばっ!」

剣持は犬飼を攻撃するためにスコーピオンを両手で使っていたため、シールドをすぐに貼ることができなかった。そのため、防御をすることも回避をすることもできない、そう思われた。

しかし、その反撃は攻撃を仕掛けた剣持には届かなかった。後ろに控えている宇野がシールドを張ったからだった。

 

「ありがとう比奈ちゃん!なかなか合流できなかった!大丈夫?」

「先輩がいい場面で合流してくれたので助かりました。何とか大丈夫です」

 

剣持は特に傷を負った様子はなかったが、宇野はかなりボロボロの状態であった。その様子からかなり追い込まれていたのだと剣持は判断した。

 

 

 

「すみません、足止めしきれませんでした…」

 

一方その剣持の相手をしていた歌川はかなり満身創痍な様子で、身体中に傷ができている上に左手をやられていた。

 

「ううん、剣持ちゃんを足止めしてくれたからかなりこっちも削れたよ。合流されたのは正直きついけど、こっちにも策はある。こっからが勝負だよ」

「…分かりました」

 

そこまでは足止め叶わず、自身もダメージを負ってしまったことにかなり悔しそうな表情を浮かべ、下を向いていた歌川だったが、先ほどまでとは違い前を見据えている。

 

 

両者敵を見据えながらジリジリと距離を取って相手の出方を伺う。互いに相手の先手を伺う中、犬飼が不意に表情を緩める。

 

「犬飼さんが笑ったってことは何か仕掛けてくるよ!比奈ちゃん気を付けて!」

「はい!」

犬飼が笑うとき、それは何か仕掛けてくることが多いと、幾度となく戦ってきた剣持は知っていた。それによって辛酸を舐めさせられたことが何度もあったからだ。

 

「やだなぁ人が笑っただけでもそんな言われ方するなんて。でも…」

そんな言葉を言いながらも犬飼の不敵な笑みは消えない。そして、最後の言葉を言おうとした瞬間、剣持だけは気づいた。今から何が起こるのか。

「比奈ちゃん!」

「それは正解だね」

剣持が叫び、犬飼が最後の一言を告げたその瞬間宇野には何があったのか理解することができなかった。突然視界がぐらついたということを認識することすら出来ないまま体にピシピシッとにヒビが入っていく。

 

「…ごめんなさい、先に落ちます…」

こうして宇野はベイルアウトに追い込まれてしまったのだった。

 

 

 

 




今までの話の中で、天谷が宇野を呼ぶときに、「比奈」と呼んでいましたが、これからは宇野で統一させてもらいます
突然の変更ですが、よろしくお願いします


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二宮匡貴③

明けましておめでとうございます(遅い)
なかなかうまくいく描写が書けなくて苦労してました。色々研究してますけど、難しいものですね
もっと頑張ります


「比奈ちゃん!」

 

宇野を心配する声が住宅地に響く。

 

「あっ…」

狙撃をされてしまった宇野はその衝撃で身体にヒビが入っていきながら、倒れていく。

そんな宇野を心配する剣持だが、宇野のことを心配する余裕はなかった。

 

「まずい!」

 

剣持は慌てた様子でその場から飛び退く。そしてその場所に寸分狂わず狙撃が飛んでくるのであった。飛び退かなければヘッドショットをされていたと思うと剣持は背筋が凍った。

しかしここで動きを止めているわけではない。すぐにグラスホッパーを使ってこの挟み撃ちの状況を打破しようとする。

 

「ははっ!逃すと思った?」

「逃がしません!」

 

回避しようとする剣持だが、それを予測して犬飼や歌川が攻撃をして逃げ道を防ぐ。

それをグラスホッパーの機動力で器用に避ける剣持だが、それでも3人から狙い撃ちされてる状況で、少しづつかすり傷を受けていく。

 

(これは避けられない…!)

 

ついに塞がれた逃げ道によって、剣持は動くことができなくなってしまった。グラスホッパーで飛ぼうとするのも、後方に下がるのも出来ない。まさに八方塞がりと言ったところであった。

 

「これでトドメだ!」

 

逃げられなくなった剣持に対して犬飼と歌川は一気に畳み掛けてきた。歌川はすでに剣持との戦いでボロボロのため、トリオン量が限界に近い感じではあったがここが勝負所と惜しまずアステロイドを放っていた。

 

「テレポーター!」

 

そんな攻撃を剣持は最後の切り札であるテレポーターでギリギリで瞬間移動をして避ける。瞬間的に移動をした剣持は一気に歌川の目の前に移動して歌川に斬りかかる。

 

「逆にトドメだよ!」

「ぐっ…!!」

 

突然のテレポーターによるカウンターによって油断していた歌川は肩から大きな一撃を受けた。ピシピシと身体にヒビがどんどんと入っていく歌川を気にすることなく、グラスホッパーで上空に逃げようとする剣持だが柳本から警告される。

 

『ダメ!舞ちゃん!間に合わない!』

飛んで逃げようとするよりも早く弾がすでに間近に迫っていた。とてもではないが、逃げ切れるとは思えない。

(やられる…!)

 

間違いなく自分がグラスホッパーを踏むよりも早く弾が自分を撃ち抜く。そう思い目を瞑ってしまう。だが、その時だった。

 

ガキンッッ!!!

 

弾が剣持の目の前でシールドに阻まれる音が辺りに響き渡った。何かと思い目を開けて見ると、剣持の目の前に確かにシールドが出されていた。

自分は出していないのになぜ目の前にシールドが目の前にあるのか不思議に思っていると、不意に体が上に向かって弾かれるように飛び出した。

 

「わわっ!!」

 

自分で作り出したグラスホッパーだったが、突然のシールドに意識を取られていたため、グラスホッパーのことを忘れてしまっていた剣持は空中で大きく体を崩す。

その隙を狙ってさらに狙撃をされるが、先ほどとは違い多少の余裕があったため、軽くグラスホッパーで飛んで回避をする。

そんな回避をした瞬間に耳に通信が入って来る。

 

『すみません…先に落ちさせてもらいます…』

 

ドンッ!!!

 

その声が聞こえなくなると、先ほどまで宇野がいたところが緊急脱出の光が空へと立ち上って、ボーダー基地へと伸びて行く。

その間剣持は一気にグラスホッパーで加速して狙撃をして来た本人がいるであろうアパートに向かって猛進する。

 

女性である上に身長が小さく体重も軽い剣持はグラスホッパーを空中で使うことで移動できる速さが他のグラスホッパーの使い手に比べて早い。

ぐんぐんと目標のアパートが目の前に迫って来る。どこから反撃をされても防げるようにサブトリガーにはシールドを選択して、すぐに出せるようにしておく。

 

グラスホッパーを踏みながら辺りを見渡すが、誰か動いているような様子は見えない。

 

「ええい!眼周りを探すのめんどくさい!」

 

剣持はグラスホッパーで加速した勢いそのままにアパートの一室の窓を蹴り飛ばし、ダイナミックに部屋へと入った。

剣持が蹴り飛ばしたガラスの破片が勢いよく散乱して来る中、部屋の奥にイーグレットを構える当真の姿を見つけることができた。

 

「おいおい、無茶苦茶してくれるじゃないか…」

 

あまりに突拍子もない入り方をして来た剣持に呆れた様子を当真はしていた。

 

「俺は屋上から狙撃したんだが、この部屋に俺がいるって分かったんだ?普通なら狙撃手は一度場所を知られたらその場から遠くに逃げるだろう?」

 

どうして隠れている場所がバレたのか不思議に思っている当真はやられる前に剣持に質問する。

狙撃手としてNo.1に位置するものとしてあっさりと潜伏場所がバレたというのはこれからのこと先に戦うことのことも含めて気になるものだ。

 

剣持はゆっくりと近づきながらその答えを口にしようとする。

 

移動する様子を見られたのか、それとも天谷のサイドエフェクトの恩恵を受けたのか。どんな答えが返って来るのか息を呑んで回答を待つ。

 

そんか当真に帰って来たのはあまりに単純で拍子抜けな回答であった。

 

「え?勘です。なんかいそうな予感したんで」

 

あっけらかんとした様子でさも当然のように剣持は答える。その様子からとても嘘をついてるとは当真は思えなかった。

 

「そりゃどうしようもないか…」

 

呟き終わると剣持は即座に当真の胸を一瞬で刺し切った。

 

『トリオン体供給機関破損。緊急脱出』

 

機械の音声が響き渡ると同時に当真の意識はこの場から離脱をしていったのであった。

 

 

***

 

「またベイルアウトか…それも近いけど誰がベイルアウトしたんだ…?」

 

二宮の猛追を振り切り、細い路地の奥へと入り込んだ天谷は二宮から追撃を受けないように奥へと逃げ込んでいた。その移動の間に連続して複数のベイルアウトの光が上空を通り過ぎていったのだ。

 

『比奈ちゃんと、辻くん、それと当真くんがベイルアウトしたみたいね。舞ちゃんが当真くんの撃破に成功したの』

 

天谷の呟きに対して柳本から連絡が入る。状況は膠着状態から一転、少しづつ進み始めているようだ。

 

(宇野がやられたか…でも話しぶりからして舞はあまりダメージはなさそうなのが幸いと言ったところか…)

 

『すみません、満足な活躍もできずに離脱してしまいました…』

 

通信で宇野から謝罪の言葉が聞こえて来る。話し方からかなり落ち込んでいるように思えるように聞き取れた。

 

「仕方ない。今は失敗でも次に生かせばいいよ。それと、反省会はこの戦いが終わってからだ。わかった?」

 

『…分かりました。先輩の援護に入ります』

 

しばらく間を置いてから宇野から返事が帰って来る。その口ぶりは先ほどまでの沈んだ声ではなく、いつもの宇野の話し方に戻っていた。

 

「よし、その調子だ。それでこっちの話だけど…」

 

こうしている間にも二宮は移動をしようとしている素ぶりが見受けられる。こちらは二宮の足止めをしなければならない。二宮がここから移動するようなら必然とこちらは動いて止めに行かなければならないのだ。

 

(しかし無策に釣られて飛び出したら、確実にカウンターしてくるはずだ。というか二宮さんなら絶対にしてくる。相手の位置を予測して攻撃を予め仕込みながら近くまで行かないければ…)

「柳本さん、ここら辺一帯の立体マップ図送ってもらえないですか?」

 

とりあえず天谷は柳本に周辺一帯のマップの情報を確認する。天谷はしっかりと考えて戦う理論派のため、そういった情報を多く戦闘中に求めるのだ。

 

『そう言うと思ったからもう準備しておいたわ。すぐに送るわね』

 

言い終えるよりも前に情報が送られてくる。この仕事の速さは、長くチームを組んでいるからこそできる事だろう。

 

「流石柳本さん!いつも早いお仕事で感謝しかないです!」

 

『他にも欲しい情報があったら気軽に教えてね。なるべく早く伝達するから!頑張って!』

 

柳本に感謝の言葉を伝えてすぐに情報の確認する。柳本からも激励の言葉をもらって、天谷は情報を読んでどこで仕掛けるかなどを脳みそをフル回転させて考える。

戦闘の地形、今までに戦ってきた経験、二宮の癖、それらを踏まえて様々なパターンを考え込むんだ。

 

 

(よし、ある程度の考えは思いついた…。あとは…二宮さんを誘導して仕掛けるだけだ…。チャンスは一度。確実に仕留める…!)

 

これからの攻撃手段を思いついた天谷は早速トリオンキューブを発生させ、早速仕掛けの準備に取り掛かり始めたのだった。

 

 

 

***

 

(ここでいつまでも天谷と鬼ごっこをしてるのは無策だな。このまま睨み合いが続くようならば剣持を先に落としに行く方が得策か?)

 

天谷が作戦を練る少し前、天谷を取り逃がした直後、二宮はここからの行動をどうするか考えていた。

 

「氷見、周辺のマップと犬飼、辻の戦況を教えろ」

 

少々苛立っているようにオペレーターの氷見に指示をするが、これが普段のトーンなので氷見も特に気にもとめず淡々と二宮に言われた仕事をこなす。

 

『マップは少々待ってください。その間に犬飼、辻両名の戦況を伝えます。まず辻の方ですが、現状は戦況優位に進めている模様。しかし黒トリガーの爆発力を考えると予断を許さない状況といったところです』

 

辻の状況を聞いて二宮も大方その通りだろうと思った。いくら黒トリガーとはいえ、自分よりも強いただ一人の人物、太刀川がいるのだ。早々負けることはないだろう、そう思っていた。

そんな状況を聞いて、ライバルが活躍してる様子に少しだけ鼻高々としながら犬飼の状況も続けて聞く。

 

『犬飼は宇野との睨み合いによる膠着状態に入りつつある模様。歌川の方は剣持に押され気味となってます。以上が経過となります。それとお待たせしました。マップ情報を送ります』

 

淡々と氷見から戦況が伝えられる。概ねこちらが優位に立っているのに内心で安心する。そんな様子を氷見には気づかせないように、いつも通り冷静にマップを確認しながら氷見に伝えておかなければならないことを伝えておく。

 

「分かった。しばらくしたら天谷が攻撃を仕掛けてくる。可能な限りバイパーの弾道予測をしろ。そう攻撃してくるはずだ」

 

『了解しました。弾道予測の準備を整えておきます』

 

「それと、犬飼に余力あれば剣持の合流に警戒させておけ。分断したつもりでも、あいつは瞬時に追いついてくる。合流させないように注意を払うようにしておくんだ」

 

『並行して伝えます。……弾道予測の準備完了しました。いつでも起動可能です』

 

「了解だ。すぐに天谷は現れる。警戒をしておけ」

 

『氷見、了解』

 

すでに二宮は犬飼たちの方向に向かって移動を始めていた。天谷の性格上、与えられて仕事は必ずこなす。自分が多方面に向かえば戦況が大きく変わるだろう。それをさせまいと必ず突っ込んでくるはずだ。

こちらの優位は戦況を変化させることができることだ。常に警戒して、こちらの優位を保てばいい。

 

『警戒!』

 

氷見から警戒の声と、警告のアラート聞こえてくる。同時に弾道予測機能が発動する。

 

「来たか…」

 

氷見からの警告と、弾道予測、天谷との戦闘の経験からまずは後方にシールドを張る。

ガキンッ!

大きな音を立ててシールドに天谷が放った弾がシールドに被弾する。次々と飛来する攻撃はそれを読みきった二宮のシールドによって塞がれているが、続けて広範囲に展開された攻撃が二宮を襲う。

 

「ちっ…!」

 

先ほどのように一極集中された軌道ではなく、拡散された攻撃は貼られたシールドを躱して二宮に迫る。

そんなバイパーを二宮は付近の物で弾道を少しでも減らしながら走って回避しようとする。普段との天谷との勝負で天谷がバイパーを使っているときにシールドを張ってもあまり意味をなさないからだ。無理にシールドでかわそうとするよりも走って弾道から外れる方が早いのだ。

 

「ハウンド」

 

攻撃の合間を縫って二宮はハウンドを放って反撃を試みる。しかし視覚上に天谷の姿は見えていないので、ここはトリオン探知でのハウンドによる索敵をメインとして射程を長くチューニングして放つ。

 

ドドドッ!!!

 

ハウンドが地面を抉る音があたり一帯に響き渡る。けれども天谷にヒットした感触はないため、不発になったことを確信する。

 

二宮は攻撃をしながら天谷がどこから攻撃を仕掛けて来てるのかを考えながら後退していく。

(最初の一撃は間違いなくアステロイドによるものだ。あのシールドを削る音からして高威力でないはずはないから、バイパーではない。だから後方に仕掛けたが…合成弾か…?)

「氷見、弾道予測から逆算して天谷の位置を予測して目印をつけろ」

『分かりました。すぐに取り掛かります』

 

二宮はすぐに氷見に天谷の位置を予測するように命令し、周りの音に注意を払う。こちらは視界が切られているが、天谷はサイドエフェクトでこちらのことを常に捉えているだろうと考えられる。

すると必然的にサイドエフェクトの効果範囲内に潜んでいるとは思うのだが、どこから飛んでくるのか予測をできないこの状況では不利な状況に変わりない。

 

「まずは炙り出すか。…メテオラ」

 

二宮はメテオラのトリオンキューブを非常に細かく分けて全方位に向けて放つ。細かく分解されたメテオラたちは次々と周りの家屋や塀たちに直撃していく。

 

ドドドンッ!!!

 

メテオラの爆発の衝撃で辺りの民家たちは文字通り音を立てて崩れていく。それは塀なども関係なく等しく破壊していく。

もくもくと建物が倒壊する粉塵が舞い上がる中、辺りに天谷の人影はないかと目を凝らして周囲を見渡すが天谷の姿はいまだに見えない。

 

(周囲を結構崩したつもりだがいないとは思わなかったな…。どこに隠れている…?)

 

周囲をキョロキョロと探す二宮に今度は地面にすれすれの軌道から攻撃が仕掛けられる。

(今度はこっちが巻き上げた粉塵に紛れての奇襲か。戦況を握られているな。どこかでこちらのペースに引き込まなければ一方的に殴り倒される。今は機会伺いながら反撃をして探すしかないか)

 

二宮は体の重要な部分である頭と胸にシールドを張りながらいまだ立ち込める煙の中回避を続ける。

流石は個人総合2位といったところか、一発たりとも被弾をすることなく攻撃をいなしていく。しばらく回避を続け、カウンターを繰り返す。

 

ガコンッ!.

「!?」

 

そんな中、二宮は突然体勢を崩される。不意に足元からエスクードが出現していたのだ。右足方向だけを高く生やされ、斜めに出現したことで崩された態勢をどうにか整えようとジャンプを二宮はする。高くではなく少しだけ飛ぶことで隙をなくすように気をつけていた二宮だが、そんな二宮の行動を予想していたかのように全方位から攻撃が襲いかかる。

 

(態勢を崩してジャンプするのを予測して弾を張っていたか。それにこの弾幕だと流石に被弾する…!)

 

二宮は身体を折りたたみ、少しでも被弾をしないようにする。しかし二宮はその後の弾の動きに困惑されることになった。

 

(全弾俺のことをスルー…?いやこれは…)

 

何故か逸れていった弾のおかげで無傷まで済んだ二宮は手をついて地面に受け身をとる。腕の力で地面を押し返して着地をした二宮だが、目の前に更に追撃がやってくる。

 

「くっ…シールド!」

 

なんとかシールドが間に合ったため、攻撃をシールドが受け止める。しかしその顔はいつもの余裕のあるポーカーフェイスな表情ではなく、余裕のない必死な表情になっていた。

 

つづけて同じ軌道から弾が襲いかかる。

アステロイドによってヒビの入ったシールドの後ろに新たにシールドを展開して攻撃に迎え撃つ二宮。しかし、それはこの攻撃には悪手だった。

 

ドドドドッ!

 

シールドに当たった瞬間、その弾は弾けた。爆発による爆風が二宮を襲う。爆発による攻撃はシールドによって防ぐことができた二宮だが、至近距離で弾けた爆風をモロに受ける。

 

爆風は凄まじく、高身長な二宮すら簡単に吹き飛ばす。後方にあった塀に叩きつけられて、その痛みが少しながら伝わった二宮は苦悶の表情を浮かべる。

「トドメだ!ギムレット!」

 

塀に爆風で叩きつけられて動けない。そう判断した天谷はここで姿を見せて一気に畳にかかる。

両手にアステロイドを構え、その二つを合成し、二宮に向けて一気に放つ。

 

これにも二宮もなんとかシールドを張って凌ごうとする。

削り倒す先か、攻撃のトリオンが切れるのが先か。なんとかギムレットの猛攻を凌ぎ切った二宮はすぐに体勢を整えて回避にしようとする。

天谷はもう一発ギムレットを放ちその後は合成する時間を嫌ってアステロイドを無数に展開して多角的に攻撃する。

二宮はメインサブ両トリガーをシールドに切り替え、なんとか攻撃を受けようとする。

 

ギムレットやアステロイドによる攻撃はシールドに炸裂し弾け飛ぶ。そんな攻防の中、ついに二宮のシールドにヒビが入っていく。

 

ピシピシッ!

 

そしてそんな攻防についに終止符が打たれた。ついに耐久の限界を迎えたシールドは粉々に砕け散った。シールドを粉砕した攻撃は尚も二宮に向けて迫っていく。

 

「かはっ…」

 

そしてついに二宮の身体にアステロイドがヒットした。腕、肩、足…防御の薄かったポイントから二宮にアステロイドは当たり、部位を抉る。

用意周到に仕掛けた罠が成功し、二宮に攻撃を集中させて行く天谷はどんどんと接近していく。アステロイドをより多角的に放っていく。

 

 

「!!?」

 

しかしここで攻撃を受けたのは二宮ではなかった。背中から突然弾が放たれたのだ。

完全に油断していた天谷は攻撃をモロに受けて大ダメージを受けてしまった。ダメージを受けた箇所からどんどんとトリオンが漏れていく。

 

「以前にも言ったはずだ。最後の詰めや熱くなった時、お前は意識が完全に油断する。そしてそれによってサイドエフェクトの効果範囲内の把握すら出来なくなる。そこが悪いところだと。今回もそれだ」

「くそっ…最後の詰めを誤ったか…」

 

ピシピシと天谷の身体にヒビが入っていく。

 

『戦闘体、活動限界。緊急脱出』

そして、ついに身体は爆散して緊急脱出をしてしまったのであった。

 

 




ひゃみさんは普段の生活では犬飼先輩、辻くんって呼んでそうだけど、戦闘中の二宮さんへの連絡時のみ呼び捨てで呼んでそうですよね


そして、もう少しで黒トリガー争奪戦が終わりの予定です。次は早く出せるように頑張りますね


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迅悠一③

最近は寒くなってきましたね
体調管理には気をつけたいものです


『戦闘体、活動限界。緊急脱出《ベイルアウト》』

 

天谷の体が爆発し、空へと光が登っていく。そんな光をそばで見つめていた二宮も、肩や足などから多くのトリオンが漏れ出していた。漏れだしている箇所の中でも特に大きい右肩とを手で押さえているが、漏れ出していくトリオンが止まることを知らず、ドンドンと漏れ出していく。

 

『…トリオン漏出過多、このままだと戦闘続行は厳しい状況です』

 

氷見の操作するパソコンには二宮のトリオン残存量が表示されているが、それはもう危険領域まで達し始めていた。トリオン漏出過多を知らせる警告のアラートも鳴り始めている。

 

「ちっ…天谷め…最低限の仕事はこなしたということか…」

苦虫を噛み潰したような表情を浮かべて悔しそうな表情を浮かべている二宮の姿が氷見には実際には見えていないにもかかわらず想像できた。二宮はそれ以上続けて話すことはなかったが、他戦場の状況と太刀川から伝えるように伝えられた伝言を二宮に氷見は伝えることにした。

 

『他の戦況を伝えます。嵐山隊と対峙していた三輪、米屋、出水ですが、米屋、出水が緊急脱出(ベイルアウト)。対して嵐山隊は時枝のみ緊急脱出(ベイルアウト)していると言った様相。続けて太刀川率いる戦況ですが、こちらも奈良坂、古寺を除いて既に緊急脱出(ベイルアウト)しているため維持も困難と言った模様。犬飼、歌川の戦場も、歌川が離脱、及び援護に入った当真も撃破され、犬飼と剣持は未だ交戦中です』

 

淡々とすべての戦況が氷見の口から語られる。ほぼ全ての戦いにおいて劣勢、及び敗北の状況を知らされる。

 

『この状況では撤退を余儀なくされますが…如何しますか?』

 

撤退するかどうかの判断を氷見は二宮に委ねる。これは指揮の全権を委ねられた太刀川が緊急脱出(ベイルアウト)した以上、今現在戦場に残っている隊員の中で一番指揮を執れる二宮に任せると太刀川から伝えられたからだった。

しかし、その判断は火を見るよりも明らかであった。

 

「…撤退だ。この状況ではここを突破することすら無理だろう。仮に突破したところで玉狛第一及び黒トリガー(ブラック)トリガーを相手にするのはあまりに無謀だ。現在戦闘を続けている隊員は直ちに撤退だ。速やかに本部基地に帰還しろ」

 

『了解しました。すぐに全隊員に伝えます』

 

 

 

***

 

「撤退ですか?分かりましたよ、すぐに撤退に入ります」

 

右耳に手を当てて犬飼は二宮から撤退の連絡を受ける。戦闘中に突然足を止めて連絡を取っていたため、剣持は何か仕掛けてくるのかと警戒を強めていた。

しかし犬飼は突撃銃(アサルトライフル)をしまい、手を挙げたのだった。

 

「参った参った。撤退命令出たからこれ以上戦わないよ。今回は俺たちの負けだ」

 

負けて髪を掻いているため、悔しく思ってはいるのだろうが、相変わらず飄々とした口ぶりで話すため、本当に悔しなっているのか、剣持には図りかねた。

しかし、勝ちが決まったということは間違いなかったので、剣持は声を上げて喜ぶ。

 

「よっし!私たちの勝利!!当然の結果だね!」

 

犬飼に対して剣持は鼻を鳴らし、比較的薄めの胸を張って勝ったことを勝ち誇っていた。犬飼とは対照的に勝った喜びを前面に押し出していた。

 

「今回は負けたけど、次は負けないよ?次は確実に仕留めてあげるからね」

「次来たってまた返り討ちにするから!」

「腹立つくらいのドヤ顔だね。まあ、また後で会うだろうし、そこで話そうか」

「???どういうことです?」

「言葉のままさ。寒いし、さっきから帰って来いってひゃみちゃんが言い続けてるからりまた後でね」

 

そう言うと、すぐに犬飼は踵を返して撤退していった。

剣持もこれ以上ここにいても何もすることはないので、柳本の指示に従って早々と基地へと帰ることにしたのであった。

 

 

 

***

 

「みんなお疲れ様。満足な仕事が出来なかったかもしれないけど、きちんとやらないといけなかったことは達成できたと思う」

 

剣持が隊室に帰ってきてから少し経って、天谷は自分の席から立ち上がり、改めてみんなに感謝を述べる。

そんな突然天谷の謝辞に皆が一瞬キョトンとするが、全員が柔らかな笑顔を見せる。顔を上げたときに全員が笑ったいたことに逆に天谷が驚いていると、まずは剣持が寄ってきて話す。

 

「何言ってるの。当然のことをしただけじゃん!」

普段から声の大きい剣持が一段と声を腹から出して話す。『当たり前』。そんな単純な言葉に嬉しさを天谷は感じていると、続けて柳本と宇野も近くにやってきて各々の言葉を天谷に伝える。

 

「剣持先輩の言うとおりですよ。私は仕事はできなかった身なので、言える立場か分かりませんが、同じく当然のことだって思います。先輩は一人でよく抱え込んじゃうところあるんで、私たちをもっと頼っていいんですよ?」

 

「そうね、翔くんは一人じゃないんだもの。私たちもいるから頼っていいの。でも、テスト期間中の舞ちゃんみたいに頼りっきりになられるのは困るけどね?」

 

「亜美先輩それは酷いですー!私そんなに頼ってないですから!」

 

「いえ、剣持先輩はそこに関しては反論できないような…?」

「比奈ちゃんも酷い!」

 

いつのまにか話がずれてしまっているが、3人は笑顔を浮かべながら談笑している。和気藹々としている様子は天谷が最初に隊を組むときに、望んでいた姿そのものだった。

本当にこの3人がチームメイトで良かった。自分はもうあの日のように一人じゃないんだ、そう天谷は感じられたとき、天谷の目頭が熱くなってき始めた。

 

「あー!!翔がちょっと泣いてる!珍しい!」

 

感動して目を潤んでいるところに目ざとく剣持が駆け寄ってくる。滅多にそんな姿を見せない天谷を見ようと柳本や宇野も一目見ようと寄って来ようとする。

 

「泣いてなんかいない…」

「嘘!翔は嘘つくとき眉が少し動くんだから!」

「勉強するときには全然覚えないくせにそういうところは気づくのかよ!?」

「うっさい!よけないことを言うな!」

「いててっ!?ヘッドロックすんな!」

 

剣持が天谷にヘッドロックを思いっきりかけているのを、宇野や柳本が眺めて笑っていると、隊室の扉が開き、とある人物が入ってくる。

 

「楽しんでるところ悪いけど入らせてもらうよ?」

 

中へと入ってきたのは迅であった。迅は中の様子を見ると少しだけ入るタイミングを間違えたと後悔しているようで、バツが悪そうに頭を掻いている。

 

「迅さん、そろそろ交渉に行く時間ですか?」

 

ようやくヘッドロックから解放された天谷は迅の方に居直って話す。

天谷たちは今回の戦いに参加した経緯について後々問われる可能性がある。対応が遅れれば、隊の全員に迷惑がかかる可能性があると考えたため、迅が交渉に行く席に同席することにしたのだ。

 

「いや、もう少ししたら行こうかな。今会議始まったぐらいだから、今頃忍田さんが睨みを効かし始めたくらいかな?」

 

いつのまにか柳本が出したお茶を飲みながら迅は答える。

忍田本部長は本部のノーマルトリガー使いとして最強の存在だ。そんな忍田本部長が怒っていると考えると、天谷は背筋が凍るような思いがした。

 

「まあ、もうじき出るから準備だけはしといてくれよ?それと、ここに来たのは簡単に言えばお礼を言いに来たと言う目的もあるかな。ありがとう。二宮さんたちを足止めしてくれたおかげで上手いこと展開をすることができたよ」

 

いつも飄々として掴み所のない迅が真面目な顔して頭を下げる。

あまりに珍しい光景に、全員が唖然として呆然と口をポカーンと開けてしまっていた。そして、剣持に至っては頬を自ら引っ張って夢じゃないか確認していた。

 

「痛い痛い!…ってこれ夢じゃない!迅さんが真面目な顔して頭下げるとか信じられない!」

「一体俺のことをどう思ってるんだよ…?」

 

「掴み所がなくて、いつも暗躍をしているやばそうな人」

 

「それは辛辣だな!?」

 

剣持の赤裸々な発言にツッコミを入れる迅だったが、徐ろに席から立ち上がって時計を確認する。

 

「さて天谷、そろそろ行こうか。今から行けばいいくらいの時間になるだろう」

 

先ほどまでの笑っていておちゃらけとしていた雰囲気は鳴りを潜め、真面目な本気モードに切り替えている。そんな様子を見て天谷も緊張感が高まって来た。

 

「まあ、そんな緊張することはない。基本は俺が話すから、天谷は自分が話すべきだと思ったところだけ話してくれたらいいよ。交渉は俺に任せてくれたらいいから」

 

天谷の緊張をほぐそうと迅は優しく声をかけ、天谷の背中を軽く叩く。

天谷は背中を叩かれた勢いでつまづきかけるが、ゆっくりと息を吸って、吐いて深呼吸をする。しばらくすると、ドキンドキンと緊張していた心臓の鼓動が感じられなくなって来た。

 

「うん、いい感じだ。それじゃあ行こうか」

 

迅は隊室の扉を開けて先に歩いて行く。天谷もその後を追って駆け足で向かおうとするが、扉をくぐる前に振り返ってみんなにもう帰っても大丈夫だと伝えておく。

すでに時刻は21:00を周っている。女子高生や女子大生ならそろそろ帰らなくてはならない時間だ。そのため、みんなを気遣った天谷の言葉だったが、全員が首を振ってその提案を断る。

 

「翔のこと待ってるよ。今回の件はみんな揃って解決してからじゃないと帰れないよ」

「そうね。私たちだけ先に帰るっていうのは翔くんに失礼だわ」

「そうですよ。天谷先輩が終わって戻ってくるのを待ってますから」

 

三者三様に言葉を伝える。

 

「分かった。なるべく急いで戻ってくるから」

 

天谷もみんなのため、必ず損にならないように立ち回らなければといつも以上に気合が入るのであった。

 

 

***

 

「失礼します。実力派エリート迅、ただ今参上しました!」

 

忍田本部長が城戸司令派と対立をする重々しい雰囲気の中、迅悠一は、さも当然のように軽々しく会議室へと踏み込んでいった。

突然の迅の登場に、誰しもが呆気に取られた様子で迅のことを見つめる。

 

「きっさまぁ〜〜!!よくものうのうと顔を出せたな!」

 

しかし、すぐに顔を真っ赤にして鬼怒田開発室長は迅に怒鳴りつける。この鬼怒田開発室長の怒りは真っ当なものであったため、根付メディア対策室長も鬼怒田開発室長の隣でうなづいてたが、二人のことを迅はいなす。

そして、堂々と室内へと入って行き、城戸司令とテーブルを挟んで対立する。

天谷も挨拶だけはして迅の隣に立つ。天谷の登場にも鬼怒田開発室長は怒った様子だったが、今度は城戸司令が鬼怒田開発室長を抑えて質問をする。

 

「何の要件だ、迅、天谷。同盟でも組んで宣戦布告にでもきたつもりか?」

 

座りながらも圧倒的な威圧感で迅、天谷に圧力をかけにかかる。普段から仏頂面で考えが分かりにくい城戸司令だったが、実際にこのような状態に置かれて責められると、圧倒的である。

天谷は少しだけ心臓がドクドクと脈打つスピードが速くなっていくのが感じられた。

ギロリと睨みつけるように城戸司令はこちらを見てくるため、天谷から話そうとするも、迅が天谷の前に手を出し、「ここは俺から話すから」と伝えて前に出る。

 

「俺は…いや、俺たちは交渉に来たんだ。こちらの要求は一つ。空閑 遊真のボーダー入隊を認めていただきたい。その一点だ」

「入隊だと!?誰が認めると思っとるんだ!」

「そうですよ!ここは界境防衛機関ボーダーですからね。なぜ敵対する相手をみすみす懐に入れようとするのですか!?敵に情報を与えるようなものではないですか!?」

 

鬼怒田開発室長や根付メディア対策室長がいち早く迅の要求を突っぱねる。しかし、その二人とはちがう反応を示したのが唐澤外務担当だった。

 

「いえ、彼にはサイドエフェクトがある。それによって見えた未来によって、メリットがデメリットを上回ると判断した。そうだろう?」

 

交渉上手な唐沢営業部長は迅に質問をする。

 

「流石唐沢さん、よく分かってる」

 

迅は大きく頷きながら答える。サイドエフェクトで未来を見ることのできる迅の発言はボーダーの作戦会議においても重宝していた。それ故に信憑性が高かったが、だからと言っておいそれと納得が出来るようなことではなかった。

 

「私がそれで納得するとでも?君たちはボーダーの隊務規定を違反して戦った。それを理由にトリガーを取り上げることも可能なのだが?」

 

案の定城戸司令は迅に対して噛み付いてくる。迅はすぐに言葉を返そうとするが、それよりも先に天谷が言葉を発する。

 

「俺たちは同じボーダー同士の仲間です。それにもかかわらず味方を強襲しようとした。これは他の隊員たちも疑問を抱きかねない重大なことであると俺自身思ってます」

 

「それがどうしたというのだ、天谷隊員?」

 

「お言葉ですが、味方同士で対立することによって生じる軋轢は、組織そのものを壊しかねないものにまで発展する可能性すらあります。そんな味方同士で争っているところに、もしもかつての大規模侵攻と同等、もしくはそれ以上の規模の侵攻が行われた時、対応できるでしょうか?」

 

「私も同意見だ。味方同士で争うことに利益は何も見出せない。我々は界境防衛機関だ。この三門市を守るために存在している。その目的を履き違えてはいけない」

 

天谷の発言に続いて忍田本部長も意見を述べる。これは正論であるため、反論の余地もなかった。この意見に対してどう返せばいいのか、鬼怒田開発室長や根付メディア対策室長が困っていると、迅が続けて話す。

 

「天谷と忍田さんの言う通りだ。そして城戸さん、俺もただで納得してもらおうなんて思っちゃいないさ。俺は…」

 

そう言うと迅は腰元をゴソゴソとして手につかんだ迅にとって大事な大事なトリガー、『風刃』を机の上に置いた。

 

「俺は…代わりに『風刃』を差し出す。これで(ブラック)トリガー一つそちらに渡して戦力の拮抗は取れるだろう?」

 

迅はいたって普通にそれを述べた。しかしそれは迅の事情をする者からすれば異常な事態であった。

全員がその事態に一体どう言うつもりなのかと迅の狙いを推し量る。ただ、交渉ということに慣れている唐沢営業部長だけはその狙いがすでに分かったようで納得をした表情をしていた。

 

「この取り引きはこちらにとって優位すぎる。迅、お前は何が狙いだ?」

 

「嫌だな。俺は何も狙っちゃいないさ。強いて言うなら、天谷の言う通り、身内で喧嘩しないようにしようとするだけさ。多分最上さんもそれを望んでいると思うよ」

 

迅が言葉を言い終えるとしばらく会議室を沈黙が支配する。誰しもが固唾を飲んで城戸司令の返答を伺う。特に反対派である、鬼怒田開発室長、根付メディア対策室長は湧き出てくる汗をハンカチで拭いながらじっと見つめていた。

 

1分ほどたっただろうか。城戸司令はつぶっていた目を開いて迅の方を見る。そして、迅の取り引きに対する返答を返した。

 

「分かった。取り引き成立だ。『風刃』を本部預かりとする代わりに玉狛支部、空閑 遊真のボーダー入隊を正式に認める。そして、今回に際しての戦闘行為は全隊員不問とする」

 

「さっすが城戸さん。分かってくれると思ったよ。それじゃ、俺たちはこれで下がらせてもらうよ。さあ、行こうか、天谷」

 

「えっ、ちょっと待ってください、迅さん!」

 

そう言うと迅は天谷を連れて強引に会議室から出ていったのであった。




ルビを振るなどやってみました
少しでも読みやすくなっているといいのですが…


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宇野 比奈

この話で黒トリガー争奪戦も終わりになります


「お疲れ〜。どうだった?」

 

会議室から少し離れてから迅が天谷に話しかける。

 

「どうもこうもないですよ。よくあんな緊張する空間で堂々としてられますね…」

 

天谷は普段は経験することのないピリついた雰囲気に、正直ヘトヘトだった。先程意見を述べたときはなんとか平常を保っていたが、内心はドキドキしっぱなしであった。そして、今でも少し心臓の鼓動が早く感じられるくらいに緊張していたのだ。

 

「ははっ、そこはまあ実力派エリートですから。天谷にも交渉とかの才能がありそうだから、将来的に俺のポジションを担ってくれたら嬉しいんだけどね?それとぼんち揚食う?」

 

一方の迅は余裕綽々で、いつものことのように笑っていた。さらにいつものようにどこからか取り出したぼんち揚の袋を開け食べ始めていた。

 

「それはしたくない役割なんですけどね。あ、ぼんち揚は貰っておきます」

ヒョイと迅の持っている袋からぼんち揚を拝借しながら天谷は返す。

しかし、普段から暗躍を趣味としている(小南談)らしい迅の後任など、真っ平御免だった。今回の一件だけでもヘトヘトなのに、他のこともやるとなるとどれだけの心労が溜まることか。改めて迅のすごさを身をもって体験したことになったのだった。

 

「あらあら、それは残念。それでも天谷はいずれ上層部の会議とかに将来的に加わる可能性もあるから経験しといた方がいいと思うぞ。少年よ、何事も経験だ!」

 

迅は天谷の方に振り返り、手を開いて言ってくる。

 

「何事も経験は積んだ方がいいですけどね?あんまり経験したくないことではありますけども」

 

「まあ、そういうことだ。これからもいろいろ参加してもらえると嬉しいんだけど?」

 

「分かりましたよ。…と言ってもその回答もどうせサイドエフェクトがそう言ってるんでしょう?」

 

「ご名答。同じサイドエフェクトの持ち主同士これからもよろしく頼むよ、天谷。苦労することはあるが、必ず天谷の将来にも役立つだろうからな」

 

「俺のは迅さんに比べたらまだ副作用が少ない気がしますけどね。協力できる限り、手は貸しますよ」

 

「それは助かる。…おっと、それじゃここら辺で!」

 

十字路に差し掛かったところで迅は俺とは違う方向に行こうとしていた。その方向には仮装訓練室へ向かう道と一部の隊の作戦室くらいしかなかった。

 

「うん?ここでですか?何かこの後あるんです?うちの作戦室でお茶でもしようかと思ってたんですけど」

 

「暗躍…と言いたいところだけど、今回は違うんだな。ちょっと太刀川さんと二宮さんと風間さんがこっちにいるから話しして行くんだ。すまないがお茶はまた今度させてもらおうかな」

 

「それなら俺も行った方がいいんじゃないです?今回の一件はかなり深く足を突っ込みましたし」

 

「いや、天谷はそれよりもした方がいいことがあるからな。真っ直ぐ隊室に帰って、柳本と剣持から話を聞くといいよ」

 

「また意味深なこと言いますね?まあ、迅目には何か未来が見えてるんでしょうから、従いますけど…」

 

「うん、素直でよろしい。それじゃまたな〜」

 

そう言うと迅は手を振りながら歩いて行ってしまった。

迅が言ったこれから起きることはなんだろうか、それを考えながら隊室に向かって歩いていると、後ろから誰かが走ってくる音が近づいて来た。

こんな時間に誰が走っているのかと思い、天谷は振り返るが、その視線の先にいたのは先ほど別れたはずの迅だった。

 

「すっかり忘れてた。話を聞く前に天谷のお土産セットを持っていく準備をしておくといいよ。それじゃ、今度こそお別れだ。おやすみ〜」

 

そう言うと迅は十字路で天谷隊の隊室とは違う方向へ向かって行ったのだった。

 

 

 

 

***

 

「ただいまーってあれ?宇野はどこ行った?」

 

迅の言ったことが一体何を示しているのか、それを考えながら天谷は隊室の扉を開けて中に入るが、中には剣持と柳本しかいなかった。壁に掛けられた時計を見てみると、あれからさらに時間が経っていて22時回ったところであった。流石に時間が遅いので先に帰ったのだろうと一度は思ったが、宇野の荷物が丁寧に机の上にまとめられているので、帰ってはいないようであった。

 

「あ、おかえりなさい。比奈ちゃんはちょっと前に犬飼くんと氷見ちゃんがやってきて、用事があるからって言われたから、二宮隊の作戦室に行ったんだよね。それと、犬飼くんが翔くんにも来て欲しいって言ってたわよ」

 

柳本から宇野がどこに行ったのか簡単に経緯を説明される。どうやら宇野は二宮隊の面々と一緒にいるとのことだ。しかしわざわざこんなタイミングで宇野を連れていくとは何事なのか?

しかし、これは迅が示唆していたことでもあるので、何か宇野の悩みに関することなのだろうと天谷は思った。

 

「分かりました。長く待たせてもあれですし、今からすぐに向かいますね」

 

迅に言われた通り、差し入れ用の「鹿のや」のお菓子詰め合わせとをお菓子の棚から取り出す。それを差し入れ用の紙袋に入れてから立ち上がったところで剣持が大きな声を上げた。

 

「あー!!!あたしが目をつけてたバターどら焼き入りのセット!なんで持ってくの!?あたしが食べようと思ってたのに!!」

 

「いや、新之助これ好物だし、二宮隊に持ってくならこれくらい良いやつじゃないと。それに、犬飼先輩とかひゃみさんの好きなお茶菓子も入ってるし、何よりこれ俺が差し入れ用に買っておいたやつだから勝手に食べていいやつじゃないんだぞ?」

 

「勝手に食べてないし!そこにあったから食べただけだし!」

 

「それを世間一般につまみ食いって言うんだよ」

 

天谷は紙袋を一旦机に置いて剣持にアイアンクローをかける。そうというのも、ここ最近天谷の買って来たお菓子を勝手に誰かが食べていたのだ。とはいえ、宇野や柳本は勝手に食べるようなことはしないため、もともと剣持が犯人としか思ってはいなかったのだが…。

 

「痛い痛い!ギブギブ!!」

 

天谷の握力は強いもので、剣持は暴れて必死に逃げようとするが、天谷が早々と逃がすわけもなく、むしろ力が増していく。

 

「ごめん、ごめんってば!もうしないから許して!」

 

あまりに痛いため、早々に剣持は根を上げて平謝りする。しばらくはどうするか悩んでいたが、これ以上待たせていたらまずいことになるため、ここで一応許しておくことにした。

 

「はあはぁ…酷い目にあった…」

 

「舞ちゃんも勝手に食べたらダメだよ?基本的に買って来た人が食べたりする権利があるんだからね。私の買ってきたものは食べてもいいけど、ダメなものもあるんだからね?」

 

「分かりましたよ…」

 

剣持が肩で息をしながら、頭を抑えていると、柳本が剣持に軽く注意をする。剣持は少しだけふて腐れた顔をしながらも返事をする。普通なら怒られそうなものだが、柳本が優しいため許されたのだった。

 

「今度からは気をつけてね、舞ちゃん。それと…翔くん、今回の会議の方はどうなったのかしら?」

 

「あっ…」

 

剣持に制裁することや、宇野がいなかったことによって、すっかりそのことを話すを天谷は忘れていたのだった。

 

「それがですね…かくかくしかじかで…」

 

「かくかくしかじか?何言ってんの?」

 

「うっさい」

 

ゴツンッ!

「いった!!!」

 

余計なことを言った剣持にゲンコツが振り落とされ、剣持が悶絶してる中、柳本にさも何もなかったように天谷は会議で起こったこと、その結果を説明した。剣持は頭を抑えてのたうち回りながらも話は聞いているようであった。

柳本はその内容に納得したようだったが、剣持は理解できなかったのかしてないのか、黙って頷いているだけであった。

 

「分かったわ。なんとか今回の戦いだけで解決できたようで良かった。これ以上内部抗争にならないようで安心したわ」

 

「ふむふむ、まあ、解決できたならよし!」

 

「本当に理解してんのか?」

 

「理解してますから!」

 

剣持は少し胸を張ってドヤ顔を浮かべる。本当に理解してるのか怪しいところだったが、解決したことだけ理解したようなので追求しないようにした。

 

「それじゃあ、時間も遅いし私は帰らせてもらうわね。舞ちゃんはどうするの?」

 

剣持がドヤ顔してる間に柳本は帰り支度をしていたようで、コートを羽織って、マフラーを巻いていた。

 

「うーん、まだランク戦したいけど、今日は疲れたし、帰ろうかな?亜美さん一緒に帰りましょ!」

 

「分かったわ。待ってるから、帰りの準備整えてね。天谷くんも遅いから気をつけね」

 

「分かりました。お疲れ様です、おやすみなさい」

 

「お疲れ様」

「お疲れ!」

 

剣持は荷物をまとめながらだったが、柳本に続いて別れの挨拶をする。

これ以上犬飼を待たせてもあれなので、先に退出させてもらうことにし、天谷は外へと出たのであった。

 

 

 

 

***

 

 

「こんばんは。犬飼先輩はいますか?」

 

天谷は自分たちの隊室に入るよりも遥かに丁寧にノック、挨拶してから二宮隊の隊室に入る。

これは以前、天谷隊の隊室に入るのと同じように隊室に入ったときに、「礼儀がなってない!」と二宮に厳しく説教を受けたことがあるからだ。それ以来、天谷は二宮隊の隊室に入室するときにとても丁寧に挨拶するようになったのだ。

 

それはさておき、天谷が中に入ると、目的にしていた犬飼と宇野はそこにはいなかった。椅子に辻が座っており、オペレータールームの方に氷見が座っているのが見えた。

 

「ん?翔か。二宮先輩は出かけてるから気楽にしたらいいと思う。それと、今ちょうど犬飼先輩が宇野に指導始めたところだよ」

「天谷くん、荷物は私の椅子の上に置いておいたらいいよ。それと、準備できたらトレーニングルームに来て欲しいって犬飼先輩が言ってたよ」

 

とりあえず、氷見の厚意に甘えて持ってきた荷物を置かせてもらって、トリガーを起動する。瞬時にトリオン体に換装を終えると、持ってきた鹿のやのお土産セットだけ辻の渡しておく。

 

「これバターどら焼きの入ってるやつじゃん!ありがとう!」

「天谷くんありがとう!後でいただくね」

 

バターどら焼きは辻の好物のため、目に見えて嬉しそうな表情を辻は浮かべる。氷見の方もちょっとだけ嬉しそうな顔を浮かべたが、犬飼から指示があったのか、すぐに作業をしていた。

 

「それと昨日任務で新之助が授業から抜けた時のノート持ってきたから、まだ残るなら写しといていいぞ。それと、ひゃみさんの抜けた授業の分も聞いて持ってきてるから、ひゃみさんの分はここに置いておくよ。こっちはまだやらないからゆっくりしてから写してもらったら大丈夫だよ」

 

「ありがとう。今のうちに早速やっておく」

「ありがとう、天谷くん。なるべく早めにやって返すね」

 

そう言うと、辻は早速カバンから筆箱などを取り出してノートを写し始めた。そんな様子を横目に見ながら、天谷はトリガーを取り出して早速起動する。

いつもの隊服に換装し終えると、早速トレーニングルームに走って向かうのであった。

 

 

 

 

***

 

「すみません、少し遅れました」

 

トレーニングルームに入ると、入ってすぐの場所に犬飼と宇野がいた。周りは住宅地を再現した作りになっているようで、家々が連なっていた。

二人は何か話しをしていたようだが、天谷が入ってきたことに気がついた犬飼がこちらに駆け寄ってくる。

 

「お、天谷も来たか。ちょうど宇野について思ったことを今から言おうとしてたところだよ。ナイスタイミング〜」

 

そう言っていると宇野もすぐにこちらは走ってやってきた。

 

「先輩、会議お疲れ様でした。犬飼先輩の方から事態は解決したと聞きました」

「うん、解決したよ。これでいつも通りだ」

 

宇野がほっと一息ついていると、犬飼が手をパンパンと叩いて、注目を集めさせる。

それによって2人は会話をやめて犬飼の方を見つめた。

 

「解決したところで今回宇野ちゃんを呼び出した要件について話そうかな。まず簡単に言うと、宇野ちゃんは戦闘のスタイルとトリガーがあってない気がするんだよね」

 

「スタイル…ですか?」

 

「うん、スタイル。宇野ちゃんは基本的にレイガストを用いた防御をウリにしたスタイルでしょ?」

 

「そうですね。私が入隊の時から使ってるトリガーですし、一番慣れてると思います」

 

宇野は「レイガスト」を選択してボーダー隊員になった。レイガストは他のアタッカー用トリガーと比較すると重く、攻撃性能も低い。そのため、他のアタッカー用トリガー、「孤月」、「スコーピオン」と比較して使用者が極端に低い。

しかし、「レイガスト」は他のアタッカー用トリガーと比較して、耐久性能が高い。その特性を生かした守備的な戦いで着実に勝ちを重ねた宇野は、そのシーズンに加入した隊員で最もポイントを稼いだ隊員、新人王になったのだった。

 

「そうだね。実際レイガストだけで新人王になったくらいだし、その実力はよく分かるよ。けど、宇野ちゃんはハンドガンでの射撃が最近は攻撃のメインだよね?」

 

「そうですね。レイガストを防御に使って、ハンドガンで削るスタイルにしてます。援護をするなら今のスタイルの方がしやすいんです」

 

「うんうん、分かるよ。剣持は基本援護を必要としない単独エース型のアタッカーだし、下手にアタッカーの連携をして剣持の邪魔をしないいい判断だし、中距離エースの天谷の近接ガードができて、尚且つ中距離の援護もできていいと判断だと思うよ」

 

「そうですよ。実際俺も色々助けてもらってますからね。いいと思うんですけど、どこがダメだって言うんです?」

 

犬飼は否定どころか肯定ばかりするので、どこが悪いのかいまいちわからない。天谷も宇野も不思議に思っていると、犬飼は続けて話す。

 

「一見したら悪くないだろって思うだろうね。チームのバランスを取るバランサーとしていいトリガー構成だ。でも、それはあくまでもバランサーとしてはの話だ。問題は宇野ちゃんが一人で戦う時の話だ」

 

そこ天谷はハッと言われたことが分かった。以前宇野はわからないようだったが、気にせず犬飼は続ける。

 

「援護をするためなら何の問題もないトリガー構成も、単体勝負だと違う。宇野ちゃんが一人で戦う時のスタイルは、どっしりと構えて守る普段のスタイルと比べると、機動力を使っての戦いに近い。そうなった時に、レイガストとハンドガンの組み合わせが親和性が低くなるんだ」

 

「なるほど…」

 

「どう言うことですか?」

 

宇野が犬飼に質問をする。すると丁寧に犬飼は答える。

 

「簡単に言えば、レイガストの重さが宇野ちゃんの機動力を低下させてると思うんだよね。C級の時はレイガスト単体でのどっしり構えたスタイルだったから問題なかったけど、新たにハンドガンを加えたことで加わった機動力が相殺されてるんだ」

 

「なるほど…」

 

「その傾向は特に今日の戦いで特に思ったんだよね。レイガストの重さで回避できるものができないから守りながら進まないといけない。それによって使える手段が減ってるんだ。今まではそれでも何とかなっていたけど、B級上位クラスになってくるとその隙を見逃す人は少ない。これが最近調子を落としてた主な理由じゃないかな?」

 

「なるほど。確かに納得がいきました。その他にも何かあるようですけど、何かあるんですか?」

 

「そうだね、宇野ちゃんがレイガストに長けた使い手ってのは話ししたよね?」

 

「はい。舞もそこがいいって言いながら連れて来ましたから、よく分かりますよ」

 

「レイガストの扱いが長けている。その弊害かな、宇野ちゃんはシールドの扱い方が他と比べるとあまり上手じゃないんだ。現に今日の戦いでシールドをほとんど使わなかった。それがもう一つの問題だと思う」

 

宇野はそれを言われて今日の戦いを思い返してみる。確かに自分が覚えている場面だけでも、シールドを使っている場面はとても少なかったように感じられた。

 

「確かにそうかもしれません。私が思い返すだけでもあまりシールドを有効活用できてないと思いました」

 

「やっぱり自分でも分かるくらいってことはそれほどってことだね。レイガストの扱いが良過ぎた故の悩みかな。これについては俺や天谷で教えるよ。撃ち合いでのシールドの教え方は俺が、天谷はそのための射撃練習相手に呼んだってわけ。2人ともやること理解できた?」

 

2人とも納得できたようで、早速距離を取る。宇野はハンドガンを、天谷はいつものようにトリオンキューブを形作る。

 

「まずは見本で俺が見せようか。ちゃんと見ててよね?」

 

その声と同時に犬飼による宇野の特訓が始まり、犬飼と天谷が遅いからと宇野を無理やり家は送り返すギリギリまで行われたのであった。




天谷隊の設定について、少なからず変更点があったので変更させていただきました。今までのものだと少し矛盾が起こる可能性があるので、すみません。
変更したものはまた『天谷隊⓪』に書いていますので、疑問に思われた方は確認ください

そして長く続いた(一時期書いてなかったけど…)黒トリガー争奪戦も終わりです。次回からは冬休み閑話を5話程度挟んで、入隊式、第二次大規模侵攻編と進めていきますので、これからもよろしくお願いします


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閑話 冬休み編
天谷 翔④


お久しぶりな感じですね
寒さが強くて最近はなかなか朝が辛いです。皆さんも身体の健康にはお気をつけてくださいね

さて、今回は天谷の過去話などについてです。後半はかなり重い話になってますので、お気を付けてください


(今日はやることもないし、本屋にでも行こうかな…)

 

お出かけ用のカバンを肩に下げて、宇野は冷たく冷える空気の中、目的の本屋のあるショッピングモールに向かって歩いていた。ファーのついたコートに暖かそうなモコモコとして服を着て防寒対策はしているが、肌を刺す寒さは強く、吐く息はとても白く鮮明だった。

(今日はとても寒い…。あんまり休みがないとはいえ、今日出かけたのは失敗だったかも…)

 

周りの人たちも急ぎ足で目的地へと向かっているようで、歩くペースが速く見える。宇野も早く本を買ってしまって家に帰って暖を取ろう、そう思って少し歩くペースを上げて急いでショッピングモールへと向かっていると、宇野の知っている人物が先の方を歩いているのを見つけた。

普段は人見知りをよくする宇野だが、人が人なので、無視するわけにもいかなかった。少しだけ深呼吸をして、呼吸を落ち着けてから意を決して話しかけてみたのだった。

 

「お、おはようございます、橘高先輩」

 

宇野は最初の一言を噛んでしまったが、なんとか話しかけることができた。そのことに少し安堵していると、気づいた様子の橘高も近づいてきて挨拶をする。

 

「あら、おはよう、宇野さん。どうしてここに?」

 

「私は本屋に行こうと思ったんです。久しぶりに何もない休みの日なので、小説でも買いに行こうかなと思ったんです。橘高先輩は何か用事があったんですか?」

「私?私はね、明日の夜のための準備をしにきたの。ほら、明日ってクリスマスイブじゃない?」

 

「そう言えば明日ってクリスマスイブですね。明日の夜ということは、橘高先輩はケーキでも予約にきたんですか?」

 

そう言われてみると、明日は12月24日。明日はクリスマスイブだった。ショッピングモールを見渡してみると、クリスマスモード全開で、至る所にクリスマスフェアと称した看板などが存在していた。

 

「ううん、今からケーキ頼んでも予約受け付けてくれないと思うわ」

 

「あ、そうなんですね。すみません、世間知らずなもので…」

 

宇野は箱入り娘として育てられたお嬢様だった。そのため、俗世に少々疎く、そういった類のことがあまり分からないのであった。

最近は積極的に外を出歩いて、こういったことをなくそうとしてはいるが、まだまだ勘違いや知らないことが多かった。

 

「自分で買いに来ないと意外とそういうことは分からないわよね。分かるわ。私も高校生になってそういうことは知ったから大丈夫よ」

 

少しショボンとしてしまった宇野を励ますように、橘高は宇野に言葉をかける。

 

「…そうなんですか?」

 

「ええ、そうよ。今日は明日買うケーキを見にきただけなの。私の両親はあんまり甘いものが好きじゃないからホールのケーキじゃなくて、ショートを好きなものでみんな買うの。だから何があるのか確認に来てたってわけ」

 

「あっ、そうなんですね。自分で好きなもの食べられるっていうのもいいですね」

 

「そうなのよ。いいのがあったから、明日が楽しみなの。それはそうと、宇野さんは本屋に寄った後暇?」

 

「そうですね、本屋に寄った後も今日はすることがないので、適当に散歩して帰るか、本部に寄ってランク戦をするか程度にしか予定もありません」

 

「それなら今お昼時だし、一緒にお昼食べにいかない?」

 

突然の誘いに少し戸惑う。滅多にない誘いだし、見知った人ではあるため、行ってみたいと思うが、持って生まれた人見知りの一面がその誘いに答えるのを躊躇させる。

「はい、いいですか?」ただそれだけのことを言う勇気がなかなか出てこない。何も言えず黙っていると、逆に橘高が気を使ってしまっているようで、何とも申し訳ない気持ちになる。しかし、口に出すことができない。

 

「突然言われても迷惑よね?それに普段あんまり話すことがないし、困らせちゃったね。ごめんなさい」

 

ついに橘高が謝ってしまった。そして帰ろうとし始めている。

ここで断ってしまうのはやっぱりよくない。何とか言わないといけない。そう思った時、別れて帰ろうとしていた橘高に言葉を伝える。

 

「や、やっぱり行かせてください!!!」

 

いつになく大きな声になったことで、周りの人達も突然の声にびっくりした表情を浮かべていたが、何よりも橘高が一番驚いているようであった。

しかし、すぐにいつも通りの優しい顔になって、そんな宇野の言葉を受け止めてくれたのだった。

 

 

 

 

***

 

どこで食べるのか、そのようなことに疎い宇野だったが、橘高が近くにいい店があると言ったので、その店に行くことに決めたのだった。

橘高に着いていった結果、比較的近くにある和食のレストランに着いた。最初はここで本当に良かったのかと、聞かれたが、宇野も和食は好きなので、このお店で決めたのだった。

 

席に座ると、早速手慣れたように橘高は何を頼むのか決めたようだった。宇野もメニューを見て何にするか少し悩んだが、比較的即断即決なタイプの宇野はすぐに決めて早速注文をした。

明るそうな店員が注文を受けて戻っていき、しばらくすると注文したメニューが出てくる。

美味しそうな料理を二人とも美味しそうに食べ、普段の学校生活の話などをして、少し盛り上がる。橘高にとってお嬢様学校である星輪女学院の様子は物珍しいようで、特に興味深そうに聞いていた。

 

料理も食べ終わる頃には、人見知りをしてしまう性格のせいであまり人と仲良くなれない宇野もすっかり慣れていた。多くのことを聞かれていたので、今度は最近気になっていたことを橘高に質問してみることにした。

 

「天谷先輩って昔からあんな感じだったんですか?」

 

橘高は質問を受けると少し昔を回想する。そして、目に浮かんでくる光景を懐かしみ、頬杖をしながらあのにその様子を語り始めた。

 

「そうね、昔から考えることが好きだったわね。本とかを読み耽って、1日を過ごすことも普通にあったと思うわね」

 

「やっぱりそうなんですね。先輩はよく作戦室でも図書館で借りてきた本とか、ランク戦のデータとか色んなものをよく見てる気がします」

 

普段から天谷は宇野の言う通り、よく何かしらの本やデータを見ていることや読んでいることが多い。それは頻繁に見受けられるのだ。

そのため、1日本を読んで過ごしているという昔の天谷の姿は宇野にも容易に想像できたのだった。

 

「確か翔って作戦室にも本を何冊も置いてたわよね?前も作戦室に訪ねさせてもらった時にさんを読んでたわね。でもね、同じくらい話すことも好きだったんだの。多分今よりも昔の方が明るくていろんな人と話ししていたと思うわ」

 

「そうなんですか?でも確かに天谷先輩って交友関係広いですし、色んな方と話してる気がします」

 

「そうでしょう?年上、年下問わず色んな人と仲良くしてる気がするわ。私からしたら羨ましい限りだわ」

 

「分かります。私も話すことがあんまり得意じゃないので…」

 

大きく頷きながら宇野も橘高の考えに賛同する。コミュニケーションをとることが苦手な宇野はあまり友人が多い方ではない。そんな宇野からすれば、友人が多いということは羨ましかったのだ。

友人を増やしたいと思う気持ちはあるが、持って生まれた人見知りのため、あまり自分から積極的に行けない自分をもどかしく思っているのだ。

 

「宇野さんはもう少し勇気を持ってみたらいいと思うわ。今まであまり話したことなかったから分からなかったけれど、こうして実際話してみると楽しいって思えてるわ。もっと笑顔で話すことを心がけてみたら仲良くなれる人が増えると思うよ」

 

「そうですかね…?それならもう少し笑顔で話してみることを意識してみようかな…?」

 

少し宇野は笑顔を作る練習をしてようとする。しかし、普段はポーカーフェイスな宇野が無理して笑おうとしているため、その笑顔はどこか不恰好に橘高に見えてしまっていた。

 

「少し肩に力が入ってるのかも。もっと自然な笑顔をしてみよ?」

 

そう言われて一度深呼吸をしてから笑顔を作ってみる。それを見た橘高の反応を待ってみるが、すぐに意見が来ないため、やはりダメだったのかと思い一人内心落胆していると、予想外の一言が発せられた。

 

「そんな感じだよ!今の笑顔いい感じだったわ!今のは絵のいいモデルになりそう…!」

 

「…えっ…?良かったんですか…?それと絵って?」

 

「あ、絵については何も関係ないの、忘れて?それよりも!今の笑顔はとても良かったと思う!」

 

少し息巻いた様子で今の宇野の笑顔を褒める橘高。そんな様子に少し驚きつつも、良かったと言われたことが嬉しくて少し頬が緩む。

 

「今の笑顔もいいと思う!そんな宇野さんだったらもっと色んな人と仲良くなれると思うな」

 

「なんかすごい嬉しいです。なんだか自信もつきましたし、ありがとうございます」

 

あまりこう言った深い話は親友である照屋くらいにしかして来なかった宇野にとってとても新鮮な経験になったので、感謝の言葉を伝える。

 

「こんなことなら全然普通なことだし気にしないでいいのよ。それに、笑顔が苦手だったのは昔の翔も同じだったから懐かしい感じがしてたの」

 

「そうなんですか?なんだか意外な感じです」

 

宇野からしてみると、天谷は普通になように見えているため、とても笑顔が苦手だったなんて思えなかったのだ。

 

「今でこそ普通に笑うようになってるけどね。でも小さい頃はポーカーフェイスで全然表情が変わらなかったの。それでも、色んな人と接してるうちに自然と表情が出るようになってたわ。表情が出るようになってからの翔を例えるなら、出水くんや米屋くんみたいな感じかな。明るくて活発で…とても信じられないでしょう?」

 

「それは意外です…」

宇野にとって、とても橘高の話でもとても信じられない話であった。比較的冷静な天谷が、元気で活発な姿なんてとても信じれなかった。それこそ正反対な性格にすら見えてしまうのだ。

あまりに信じられないことに、目が点になっている宇野だったが、橘高は続けて話す。

 

「信じられないって顔ね、宇野さん。分かるわよ。私が宇野さんの立場だったら絶対信じられないもの」

 

「はい…とても信じられません…。何か変わるようなことがあったんですか?」

 

その質問をした瞬間、橘高の表情が一気に曇った。

何かまずい質問をしてしまったのかと不安になっていく宇野だったが、そんな宇野に橘高は一つの質問をする。

 

「そうね…宇野さんは『第一次大規模侵攻』の時のことを覚えているかしら?」

 

橘高に言われて宇野も「あの日」のことを思い返してみる。宇野の家族は幸いにしてその日、県外に出かけていたため、被害に遭うこともなく生きることができた。そして今では警戒区域とされている地域から比較的距離があったため、家も無事だった。そのため大きな被害を受けることはなかった。そのため、宇野はかなり運が良かったと思っていた。

しかし、多くの友人が行方不明となったり、死んでしまったということを後から知らされたのだった。そんなことを知らされた時の絶望感、当たり前だと思っていた日常が一瞬にして非日常に変わってしまう恐怖感。そんな苦しく悲しい日だったことは今でも鮮明に脳裏に焼き付いている。

 

「私は覚えています。とても…とても悲しい日でした。ボーダーの人たちが抑え込む頃には雨が降っていたことも覚えています」

 

宇野は避難所の中から外の景色を見ていた。暗い外に暗い雲が広がっており、黒煙が至る所から立ち上っていて、雨が降っていた。それだけでも嫌な予感を感じさせていたのだった。

 

「そう、あの日は雨が降っていたとても悲しい日だったわ。『あの日』、叔父さんと叔母さん…翔のお父さんとお母さんは死んでしまったわ。それも、翔を庇って…」

 

先ほどまでの楽しそうな表情とは違って憂いを帯びた表情で悲痛そうに言葉を紡ぐ橘高。その様子からもどんなに悲惨なことが起きていたのか、想像に易かった。

 

「あの日、私たち家族は無事に逃げることができたの。偶々ボーダーの人たちが参戦した地域に近かったのが大きいと思うわ。そして、すぐに避難所にたどり着いた。あの時はひとまず安心したことをよく覚えているわ。これでひとまず安心だって…思ったことを…」

 

あの日、突然の未知の襲来にどうしていいか分からず、多くの人が行き場に困った。しかし、ボーダーの隊員たちの先導により各学校などに逃げる様に誘導されたのだった。

宇野も橘高と同じであった。とりあえず家を出ようとなったときに、近くをボーダー隊員が通った。そんな彼らの先導により、無事に避難所へ到達できたのだった。

 

「…でも避難所に翔たちの家族はいなかった。お母さんたちは別の場所に避難したに違いないわって声をかけてくれたけど、翔たちが無事なのか気になって仕方なかったわ。そして、私たちが避難してからどれくらい経っていたのかしら…全身ボロボロになって、顔も涙で腫らした翔がボーダーの人たちに連れられて私たちの避難所にやってきたの」

 

「私たちはボーダー隊員の方の「知り合いがいないか?」という声を聞いて急いで確認に行ったわ。でもそこには変わり果ててしまった翔しかいなかった。その時、以前のような姿をした翔はもういなかった。そして、翔は私たちの姿を見るや否や倒れ込んでしまったの」

 

回想で思い出す橘高の脳裏には酷くやつれた様子の天谷の顔が思い出されていた。橘高や、一緒に連れてきた隊員の人が声をかけるも目は虚ろで焦点が合っていなかった。

こんな様子の天谷なんて見たことがなかった橘高はただならぬ様子に悪い予感がしていたのだった。

 

「私の両親は翔の両親のことをその時のボーダーの人に聞いてたわ。私はもう翔を抱えていたから話を聞いている余裕はなかった。その時の翔は酷く冷たく、そして身体中に怪我をしていた。とりあえず近くの負傷者手当の場所に翔を連れて行くったのだけど、その後やってきた私の両親の顔を見て察したわ。もう、叔父さんや叔母さんはいないのだって…」

 

話しをしながら握っていた手が震えているのが宇野には分かった。どんなに悔しかったのか、悲しかったのかが何も言わずとも伝わってくる。

 

「今なら分かるけど、翔ってほら…トリオン能力がずば抜けて高いじゃない?だから狙われていたと思うの。トリオン兵たちに狙われて逃げる中、捕まりそうになった翔を庇って伯父さんと叔母さんが犠牲になってしまった。そんな様子を目の前を見て精神的に限界が来ちゃったんだと思うの…。それが、『あの日』の話。そこから色んなことがあったわ。最初は酷く消耗しているから何をしても喜ばなかったし、感情を示さなかった。言うなれば廃人になってしまっていた感じを想像して貰えば分かりやすいかな。それでも、色んな人の助けもあって、今の翔になったの」

 

「そうだったんですね…全然知りませんでした…」

 

今まで何も知らなかった天谷の過去を今初めて知ったため、驚きが隠せない。自分は幸いにして被害がなかったがもしも天谷に起こったことが自分に起きていたらと思うと身の毛がよだつ。

 

「あっ…ごめんなさい…。こんな重い話をしちゃって…」

 

しばらく沈黙が場を支配していると、話を始めた橘高は謝る。

 

「こっちから話を振ったようなものですから…」

 

同じように宇野も謝る。しかし場の空気は重くなってしまった。

しばらく気まずい雰囲気になってしまうが、ここで橘高が一つ話をする。

 

「…実はね、翔が今のようになったのは剣持さんや亜美、そして宇野さんの影響が大きいの。だから私はみんなにとても感謝してるの」

 

「どういうことですか?私は何もしてない気がしますが…」

 

自分に何かした覚えがない宇野は橘高の感謝の言葉にイマイチ実感がわかない。これが剣持や柳本ならば、付き合いが長いため分かるが、まだ1年程度の自分にそんなことをした覚えはなかったからだ。

不思議そうに首をかしげる宇野。そんな宇野に橘高がその説明をする。

 

「実はね、ボーダーに翔が入ったのは最初は復讐って気持ちがあったと思うの。そんな気持ちを外には出してなかったけど、なんとなくそんな様子は分かってたの。だけど、隊を組むようになってから少しづつ考えが変わっていったと思うの」

 

「それだと私はあんまり関係のない気がするんですが…」

 

「ところが、関係あるのよ。そこではまだゆっくりと考えが変わり始めていったって感じなの。明確に変わったのは宇野さんが隊に加入してからなのよ。翔にとって後輩ができたからいろいろ意識が変わったと思うの。だからみんなにはいろいろ感謝してるの。これからもいろいろ迷惑かけちゃうと思うけど、翔のことをよろしくね」

 

橘高は頭を下げて宇野にお願いをする。そんな急なお願いに最初は戸惑った宇野だったが、天谷隊に加入した時から、みんなを支えるという気持ちは何も変わってないので、もちろん頷く。

 

「ありがとう…!」

 

「そんな、当然のことですよ。私だって色々先輩にお世話になってるんで、支えないと貰うだけになっちゃいます。これからも全力でサポートしますから!」

 

「翔もこんなステキな後輩がいて幸せ者ね。本当嬉しいわ、ありがとう。…あ、もうかなり時間経っちゃってるし、出ましょうか。お会計は私がしておくから気にしなくていいからね」

 

そう言うと、橘高はコートを羽織って伝票を持っていこうとする。しかし、お金を払おうと宇野も急いで財布を取り出すが、ここはお礼として奢らせてと言って聞かないので、大人しくお言葉に甘えさせてもらうことにしたのだった。

宇野は外に出て橘高を待っていると、しばらくして橘高が外に出てくる。奢ってもらったので、しっかりとお礼を言うと、少し照れくさそうに橘高はしていたのだった。

 

 

 

 

 

 




次回は(作者が)待ちに待った那須さんとのクリスマスデート回の予定です
作者がこの二次創作を始めたきっかけは大体が那須さんに関することなので、今からもう次の回を書くのが楽しみなんですよね

上手く表現できるように頑張ります!


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那須 玲

遅くなってすみません
今回はかなり力入れて書いたので、1万字超えてしまいました。



冬の冷たい風が頬を吹き抜けるクリスマスイブ。雪こそ降ってはいなかったが、通り行く人の吐く息が辺りを白くしていた。

そんな多くの人が行き来する広場の一角にあるベンチ。そこに座っている一人の少女に往来する人たちは目を惹かれていた。

 

他の女性と比べても華奢な体格。今にも消えてしまいそうな儚げな雰囲気。寒さで少し顔が赤くなっている端正な顔立ちが周囲の人間の注目を集めていた。

(少し早く来すぎちゃったかな…。まだ待ち合わせの時間より20分も早く来ちゃったし…。それになんだかすごく周りの人に見られてるみたいで嫌だな…)

 

近くの時計は10時40分を指している。少女は待ち合わせの時間を11時にしていたのだが、楽しみの余りに早く来すぎてしまったのだ。 これが普通の日ならまだしも、今日は一段と冷えが強く、待っている者としては早くどこか室内に入りたいと思うほどであった。それに加えて周りからの強い視線。少女は早く待ち合わせの人物と合流してこの場から離れたいと思っていた。

 

(あと少し…。ドキドキが止まらないよ…)

 

胸を押さええみると、心臓がドキンドキンッと強く鼓動している。時間が近づくにつれてその鼓動は早さを増して行き、待っている少女もソワソワとして来る。早く逢いたいけど、ドキドキが止まらないそんなドキドキを抑えようと深呼吸をしたりしてみるが、なかなか胸の高まりは止まってくれない。そんなことをしていると、横の方から待ち合わせをしてる人物がついに歩いてやってきた。

 

「悪い那須、待たせた!」

 

待ち合わせをしていた人物、天谷が駆け足でやってきた。時計を見てみると50分を指しているため、天谷は遅れてなどいないのだが、着くなりすぐに謝ってくるので、そんなことはないと那須は伝える。

 

「わ!私もちょっと前に着いたばかりだから大丈夫だよ、翔くん」

 

「っ!急に大きな声で話すからびっくりした。那須にしては大きな声だね?」

 

緊張のあまり最初の声が大きくなってしまった。恥ずかしさで伏し目がちになってしまった。そんな那須の姿に少し困った表情を浮かべる天谷。

そんな二人の間に少しの間気まずそうな雰囲気が漂っていたが、しばらくすると、この沈黙に耐えられなくなった天谷が話を切り出す。

 

「今日は突然誘ったのにすまん。しかし、出かけることになったけど、本当に体調は大丈夫なのか?無茶してないよな?」

 

「うん、今日は家でゆっくりするくらいしか予定はなかったから大丈夫だよ。それに、お母さんや病院、ボーダーにも外出することは伝えたし、トリオン体でいるから大丈夫だよ」

 

普段は身体が弱いため外出がほとんどできない那須だが、今日は両親やボーダー、病院に許可を取って外出していた。実を言うと久しぶりになる本当に自由な外出。それだけでも嬉しいものであったが、今回は自分の気になる天谷からの誘いもあって余計に楽しみだったのだ。

 

「それなら良かった。それにしても寒いし、早く暖かいところに行った方が体調的にもいいかもな。それになんだか周りの人たちがめっちゃ見てくるし…」

 

ボーダーの中でも有数の美人とされる那須だが、その特殊な入隊事情により、テレビに出ることもあった。そのため、多くの市民からその存在を知られている。

そんな那須が男と待ち合わせしているとなって周りの男たちから天谷に向けて羨望や嫉妬の視線が向けられていたのだ。しかし、そんな事情を知らない天谷はなぜそんな視線を向けられるのか気づいていない様子であった。

 

「そうだね。最初は雑貨屋に行きたいんだっけ?すぐそこにあるから行こう!」

 

最初の目的地の雑貨屋は待ち合わせ場所から目と鼻の先の距離なので、二人は足早にその場を後にして雑貨屋に入っていくのであった。

 

 

 

***

 

「こんなマグカップなんてどうかな?」

 

「うーん、こっちの方が女子は喜ぶかも。こっちの方が柄があって可愛いと思うよ」

 

「イマイチこういうのは分からないや。でも那須が言ってくれるんだし、これにしとこうかな。それに色も何色もあってみんなで分けて使うのにも良さそうだしいいかも」

 

そういうと、天谷は自分の手に取っていたマグカップを商品棚に戻して、那須のオススメしてくれた花の描かれたマグカップを4つ買い物カゴの中に入れる。

「あとは何を買うつもりだったっけ?」

 

「次は取り皿を買おうかなって思ってるんだよね。えっと…あっちこな?」

 

天谷が次に向かうコーナーの場所へと先導して歩いていく。その横を那須が付いて歩いていく。

今回雑貨屋にやってきた主な理由、それは天谷隊の作戦室のマグカップや取り皿などを買い足しにきたのだった。元々天谷隊のメンバーのマグカップは常備されていたが、誰かが作戦室に遊びにきた時用の物がないことに気づいた天谷は買っておこうと思ったのだった。

しかし、天谷はこの手の物を選ぶセンスが皆無だと従姉妹の橘高に昔から言われ続けてきた。実際、天谷は無地のものなどを好むため、自分でもセンスはないと思っているため、自覚はしていた。

しかし、自室のものであるので、剣持や柳本、宇野それに橘高などと買いに行こうかと思ったのだが、三人ともすでに予定が埋まってしまっていたのだ。

困った天谷だったが、そこで白羽の矢が立ったのが那須だったのだ。あまり外に出かけることが出来ない那須だったので、流石にダメかと思ったが、意外にも食い気味に行きたいと言われたので、今回の話がまとまったのであった。

 

「皿って一括りに言ってもいろんな種類があるなー。機能面とかしか気にしないからこういう時に困るんだよな…」

 

話をしながら移動して、皿の売っているコーナーにやって来ると、そこには様々な柄の施された皿が陳列されていた。まずはお互いに分かれてどんなものがあるのか物色していたが、こういったものに疎い天谷にとってどれが良いのかイマイチ分からず、とりあえず近くにあったものを手にとって見比べをしてみるが、どれがセンスのいいものなのかわからない。

どちらでも変わらないんじゃないかとさえ思えてしまっているのと、いいものが見つかったのか、那須が手招きしていたので、那須の方へ向かって行ってみる。

 

「これとかどうかな?お菓子を取り分けるときにいいと思うよ」

 

那須が紹介してくれる皿の中でとりわけ天谷が気に入ったのは、皿の中心に様々な模様の描かれたものであった。様々なデザインのものがあって、どれにしようかと話し合ったが、結局那須が選んだものに決めたのだった。

 

 

***

 

欲しかった食器も無事に買うことができ、ボーダー本部への郵送の手続きもした二人は、昼に二宮に教えてもらったおしゃれなレストランで食事をしたのだった。そして、二人は食事を終えると今度は作戦室に置いておくお菓子を買いに「鹿のや」に向かっていた。

「鹿のや」は今いる場所から離れた場所に立地しているので、二人はいろんな話をしながら向かっていた。学校での話、勉強の話などを話していると、反対側から歩いてきた剣持とその母親と出くわしたのであった。

 

「あれ!翔と那須さんじゃん!偶然だね!何してるの?」

剣持は天谷と那須を見つけると、すぐに走って駆け寄ってきた。そして、いつものように朗らかに話しかけてきた。

 

「剣持さんおはよう。私たちは買い物に行ってたの」

「ん?舞じゃん。俺たちは作戦室の雑貨を買いに行ってたんだよ。そんで、買い終わったから鹿のやにお菓子でも買いに行こうとしてたところなんだよ」

 

そんな剣持に那須と天谷は二人同時に説明をし始める。話を聞き終えると納得したようで何度も縦に頷いていた。そうしていると、後ろからゆっくり歩いてきた剣持の母親が合流したのであった。

 

「あら?翔くんじゃない!久しぶりね!こんなところで偶然ね!」

 

「あ、おばさんこんにちは。偶然ですね」

 

 

「本当そうよね!またうちに来てね。ご馳走するから!それにしてもこんなところでどうしたの?」

 

猛烈な勢いで話し出す剣持の母親。その勢いに完全に置いてきぼりを那須は受けていた。

顔自体は剣持と似ているようには感じなかったが、その話す時のマシンガンのような勢い、話している時の姿勢や表情などはこれぞ親子と思えるようであった。

 

「また機会あれば行かせてもらいますよ。俺はこっちにいる那須と一緒に買い物をしていたんですよ。これから鹿のやに行こうとしてたところです」

 

そんなマシンガントークを気にもせず話す天谷。そんか天谷は二人の勢いに押され気味で困っている様子の那須を自然に紹介する。

 

「は、初めまして、那須玲と言います。よろしくお願いします」

那須も紹介されたので、丁寧にお辞儀をして自己紹介をする。

そんな様子をまじまじと剣持の母親は見つめていた。そんな視線に少々もどかしさを覚えながらも反応を待っていると、剣持が話しかける。

 

「買い物ってなんで那須さんと行ったの?柳本さんとか比奈ちゃんは?」

 

「それが二人とも予定入ってるからダメって。それで、俺が仲良くしてて、こういった買い物をするときに楽しんででそうなのは誰か考えた時に思いついたのが那須だったってわけ」

 

「あー、なるほどね!那須さんなら確かにセンスよさそうだし、いいの買えたんじゃない?」

 

「そりゃもちろん。色々アドバイスしてもらって買ったよ。郵送で届くようにしてるから、明後日には見れるからな」

 

褒められたこと、そして一緒に買い物をしてて楽しいって思われていたことに少し照れくさく感じ、髪の毛をくるくるといじって視線を逸らしている那須。そんな那須の様子を見ていた剣持の母の目がキランと光ったような気が天谷にはした。

直感的に嫌な予感が天谷の脳内によぎった瞬間、天谷の予想通り剣持の母は口角を少し上げながら爆弾発言をしたのであった。

 

 

「ところで翔くん、いつになったら舞と付き合ってくれるのかしら?」

 

その瞬間、仲良く話しをしていた3人の口が一斉に止まり、静寂が空間を支配する。

そしてその言葉を全員が理解した瞬間、各々がそれぞれの反応を示したのだった。

 

「…は?」

「そんな約束あったっけ?」

「つつ…付き合うっ…!!??」

 

天谷は剣持の母のいつもの様に人をからかっていることに気づいていたため、何かしてくるとは思っていたが、思わぬ方向性の嘘のため驚いて言葉が出なくなっていた。

対して剣持は純粋にそんな話があったのかと疑問に思っていた。自分の記憶をたどってそんな話があったのかを思い出そうと腕を組んで考えていたが、そんな話をされた記憶は思い浮かばなかった。そのため、不思議そうな顔を浮かべていた。

そして、この突然の剣持の母親の言葉を間に受けてしまったのが那須であった。言葉を聞いて以降顔がどんどんと紅潮していき、慌てた様子でテンパっていた。

 

そんな三者三様の様子を面白がりながら、剣持の母親は続けてからかいにかかる。

 

「あら、翔くんは舞の許嫁だもんね?早く付き合ってくれないと私は安心できないんだけどな?いつになったら安心させてくれるのかしら?」

 

ケラケラと笑いながら話し出す剣持の母。そんな様子に呆れて溜息をついている天谷だったが、剣持はついに思い出すことができなかったのでそんな話があったのか問うことにしたのであった。

 

「母さん、あたしそんな約束されてたっけ?そんな記憶覚えてないけど?」

 

頭の上にハテナマークを浮かべたような表情聞く剣持。そんな気づいていない様子の剣持に、剣持の母は騙す様に言葉を意気揚々と並べる。

 

「あんたはすぐ記憶力が低いから忘れてるだけよ。ずっと昔に翔くんのご両親と約束したんだから。ねえ、翔くん?」

 

「うーん…そんな話しされたっけ?記憶にないけどなぁ…」

 

相変わらず楽しそうな笑みを浮かべながら嘘を並べる剣持の母。言われたものの、違和感によって頭を唸らせる剣持だったが、そんな剣持は放置して天谷が呆れた様子で話し始めた。

 

「はぁ…おばさんはそうやってすぐに人をからかいたがるんだから…。そんな嘘をついて何が楽しいんです?」

 

「あら、翔くんには通じないのね。残念だわ。こうして反応を見るのが楽しいのにね?」

 

嘘をついてもあっけらかんとしている剣持の母にさらに溜息をつく天谷だったが、その言葉を聞いていた剣持が嘘だと知って、顔を少し赤くしながら急に迫ってきた。

 

「また母さん騙したの!?これで何回目よ!?」

 

「うーんとね、数えきれないかしらね?」

 

「ひどい!娘のことなんだと思ってるの!?」

 

剣持が文句を言っているにも関わらず、「悪い悪い」と適当に返しながらけらけらと剣持の母は笑っている。そんな母に、剣持は何を言っても無駄だと思ったのか諦めて項垂れてしまった。

天谷はこの間那須が何も話さないのでどうしたのだろうと思って振り返ってみると、顔が紅潮していつもの那須らしからぬ様に慌てているようであった。

「ん?那須?どうした?」

 

普段は冷静で物静かな那須にしては珍しい慌てた様子にどういうことか困惑している天谷。そんな天谷の疑問に思っている様子も気にならないようで、那須は慌てて話し始めた。

 

「あっ…いや…その…翔くんと剣持さんがそんなご関係なんて知らなかったから…」

 

話しを聞くに、那須はどうやら完全に剣持の母の嘘に騙されてしまっている様であった。さらに何故か翔と目を合わさずに、さっきからずっと目線が下の方を向いてしまっている。それにどこか落ち込んでしまっている様にも天谷には見えた。

このままだと話が進まない上に、剣持の母がずっと笑っていそうな気がしたので、天谷は那須の誤解を解くことにした。

 

「あー…那須、今の話は全部嘘だ。剣持の母さんは人をからかうのが好きなんだ。だから、今の話は全部作り話なんだよ」

「えっ…本当…?翔くんと宇野さんって許嫁じゃないの!?」

 

ずっと下の方を向いていた那須が少し食い気味にこちらに近づいてきて肩を掴んで話を聞いてくる。

先ほどまでの落胆している様な様子からの突然の那須の変わり様に少々驚かされながらも、それを証明するために剣持にも嘘だと言ってもらうために話を聞く。

 

「あぁ、本当だよ、なあ舞?」

 

剣持は母に騙されたことに不貞腐れて、地団駄を踏んでいたが天谷に聞かれたので、天谷の方に歩いてきて天谷の話を肯定する。

 

「本当だよ、那須さん。あたしの母さんはこうやってすぐに嘘をついて人があたふたしたりしてる様子を見て楽しむんだから!第一、あたしは翔のことタイプじゃないし、もしも仮に、万が一だよ?告白されても絶対に断るから!」

 

「なんかそれはそれで俺に失礼じゃね?」

 

「別に翔だしいいでしょ。無礼講って感じで!」

 

幼馴染故に特に天谷も意識したことなどなかったが、そこまで強く否定されるとやはり傷つくものがある。天谷が内心傷ついていたのだが、そんなことも意に介さず剣持は天谷との関係について否定していた。

 

「ごめんなさいね、那須さん。からかっちゃって」

 

「い、いえ、大丈夫です…。少々驚かされましたが…」

 

しばらくすると、騙した張本人の剣持の母が那須に直接謝罪しにやってきた。内心つかれた嘘が嘘なのでちょっと思うところが那須にもあったが、表面上は意に介していないという様にしておく。

 

「ふふっ、信じてたみたいでからかい甲斐があったわ。応援してるわよ、貴女の気持ち。翔くんにいつか伝えられるといいわね。でも翔くんは鈍感だからちょっとのことじゃ気付かないから、もっと積極的に行かないとね?」

 

「えっ…?」

 

「それじゃ、二人とも楽しんでね〜」

 

そんな言葉を残して剣持の母親は、剣持を連れて嵐のように去って行ってしまったのであった。

そして、残された二人は呆然としていたのだが、那須は隠していた想いをすんなりと看破されたことでようやく顔から引いていっていた紅潮が一気にぶり返してきたのであった。

 

 

***

 

「今日は1日付き合ってくれてありがとう。色々買い足すことが出来たし、1日楽しかった」

 

「私も楽しかったよ。翔くんと休みの日に出かけたことなかったから最初は緊張してたけど、途中からもう楽しくて仕方なかったよ」

 

陽はすでに山の向こうへと姿を消しつつあり、二人の後ろに伸びる影は辺りの暗さに同化し始めていた。

買い物を全てを終えた二人はゆっくりと帰路についていた。予め持っていた天谷のカバンには今日買ったものがいっぱいに詰められていて、そんなカバンを満足そうな顔で見つめながら話す天谷。

そんな嬉しそうな天谷の姿を和やかな表情で見つめる那須。そんな那須の視線に気づいたのか、天谷が振り返って那須の顔を見つめ返す。

自分が見つめていたのに、いざ自分が見つめられると気恥ずかしさが全身を駆け巡り、那須は視線をそらしてしまう。そんな那須の顔は今まさに沈みゆく夕陽のように紅く染まっていた。

そして、しばらく黙り込んでしまった那須を気遣って黙って歩く天谷。しばらくの間カラスが鳴く声のみが閑静な住宅地に響いていた。

 

そんな中歩いていると、ついに那須の家が視界に見えてきてしまう。楽しかった時間が終わりを告げるように太陽も山の向こうへと消えてしまっていた。

 

「わざわざ送ってくれてありがとう。楽しい時間ってあっという間だね」

 

家の門の前に着くと那須は振り返って天谷に家まで送ってもらったことを感謝する。

 

「付き合ってもらったんだし、当然のことだよ。それに俺も那須と一緒に出かけられて嬉しかった。俺たちって普段は戦ってるけど、普通の高校生なんだよな。すっかり忘れちゃってたわ」

 

「ふふっ、そうだね。私たちって普通の高校生だもん。休みの日は友達と遊びに出かけたくなるし、戦いの合間に他愛もない話をしたりする。それに勉強だってしないといけないもんね?」

 

「勉強のことは触れたくないな…」

 

勉強の話となると少し天谷の目が泳いでしまった。実はこの前の期末試験の英語の成績があまり良くなかったのだ。そのため、英語の課題が担当教員から特別課題を出されていたのだ。

 

「翔くんは英語のテストがあんまり良くなかったんだよね?」

 

「ああ…特別課題出されちゃったし、次のテストは挽回しないといけないんだよな…」

 

それを話す天谷の顔は少し暗い。天谷は比較的勉強ができる方だが、英語だけは例外なのだ。そのため、英語に限ってはあまりしたがらないため、このようになってしまっているのだ。

そんな天谷の顔を見ていた那須は一つの提案をする。

「明後日の防衛任務終わりに一緒に勉強するのはどうかな?確か翔くんたちも明後日は朝からのシフトだよね?」

 

天谷はそう言われると、自分のスマートフォンの予定帳を確認する。確認すると、朝からの勤務になっていて、その後も予定が入っていない。それなので天谷も喜んでその提案に乗ることにした。

 

「一緒にしてくれたらこちらとしてはめっちゃ嬉しい。那須の説明って分かりやすくて、課題が早く進むんだよな」

 

「そんなことないよ。翔くんの理解が早いからだと思うよ?」

 

那須はそんなことはないと謙遜する。しかし、素直に褒められたことが嬉しかったらしく、少し髪の毛を左手の人差し指でいじっていた。

「あっ、もう遅くなっちゃったし、翔くんも帰らないといけないだろうし、またSNSで話そう?」

 

「それもそうだな。ちょっと寒くなってきたし、那須も疲れてるだろうしな…ってあっ!ちょっと待って!」

 

帰るようなそぶりを見せていた天谷が何かを思い出したように自分のカバンの中をごそごそと探し出す。

しかし、買ったものが多すぎるせいで、目的のものがなかなか見つけられないらしく、しばらくの間その目的のものを探していた。

 

「うん…?どうしたの?もしかして何か買い忘れた物でもあったの?」

 

なかなか見つからない様子から、買い忘れをしたのかと那須は思ったが探している様子からどうやら違うらしい。一体何を探しているのだろうか、そう不思議に思いながら目的の物が見つかるのを待っていると、ようやく見つけられたようで、カバンの中から綺麗に閉じられた袋を天谷は取り出したのであった。

 

「はい、これ。今日1日ずっと付き合ってくれたお礼と、クリスマスプレゼントなんだ。大切に使ってくれたら嬉しいな?」

 

突然の天谷からのプレゼントに驚く那須。驚きのあまり声が出なかったが、天谷からの渡されたプレゼントを受け取ると、意外と大きさの割に重さがない。一体何が入っているのか気になっていると、天谷が何を買ったのか言い始めた。

 

「ほら、ちょっと前に、学校に行った時に膝下が寒いって言ってたから、膝掛けを買ってみたんだ。ちょっと薄く見えるけど、凄くあったかいやつだから、大丈夫だと思う。那須がどんな柄を好きなのか知らなかったから、俺のセンスで買ったけど、どうかな?あんまりいいデザインじゃないかもしれないけど…」

 

天谷も少し照れくさそうに顎を手で触りながら那須に説明する。実は那須との今日のデートが決まった時に、お礼として買いに出かけていたのだった。

あまりこういったものを買うことがない天谷はかなり悩んだのだったが、悩んだ末に今那須に渡した膝掛けを選んだのであった。

 

「これって前に少し世間話で話したことだけど…覚えててくれたの?」

 

「この時期女子は寒くて大変ってよく言うし…少しでもそれがなくなったら…って思ったんだ。気に入ってもらえると嬉しいんだけど…」

 

「もちろん嬉しいよ!大事にするね」

 

少し前に話しした些細なことを覚えていてくれたこと、そして、天谷がわざわざ自分のために買ってくれたことが那須にとって何よりも嬉しかった。

手に持った袋を少しぎゅっと抱きしめながら感謝の言葉を伝える。

 

「…あれ?もう一つ小さな袋が入ってる…。これは何?」

 

膝掛けの入っている袋の中にもう一つ小さな袋が入っていることに気がついた。何だろうと思って取り出してみるとそこから出てきたのは、今日の昼に訪れた雑貨屋の包み袋であった。

 

「今日雑貨屋に行ったときにそのストラップをしきりに見てたから、トイレに行ってる間に買っておいたんだ。今日手伝ってもらったお礼と思って受け取ってほしいな」

 

那須は言われてその時のことを思い出す。確かに那須はとあるストラップのことを見ていた。テレビなどで紹介されていたもので、普段はそういったものを見ても食指が動かないのだが、物がものであったため、気になっていたのだった。

しかし、値段が少々高かったこと、そして、そのストラップがペアストラップで、意中の相手に渡すと恋が成就すると言われていたものであったが、それを買っても天谷に渡す勇気がどうしても出なかったので諦めたのだった。

そんなストラップを天谷が買ってくれたこと、それは神様がくれたチャンスだと那須は思った。けれども、そんな意中に思っているなんてことは今の自分じゃとても言えないとも思った。

「ありがとう、天谷くん!ところでね、このストラップって仲のいい友達と分け合ってお互いに使うといいって言われてるやつなの」

 

「確かにペアストラップみたいだな。黒地のやつと白地のやつで対照的になってるし、そうなのか。那須は誰と分け合うんだ?やっぱり熊谷?」

 

言えないからこそ、仲の良い友達に渡すものだと那須は咄嗟に嘘をついた。今はまだ言えないけど、いつかは必ず伝えたい。そう思いながらも、天谷に不思議に思われないように話を続ける。

 

「くまちゃんとも分けたいけど………」

 

「…けど…?」

 

「もしも良かったなら、翔くんと分け合えたら嬉しいな…って。受け取ってくれるかな…?」

 

途中から恥ずかしくて下の方を向いてしまったが、黒地に青の星があしらわれたストラップを天谷に向けて渡そうとする。もう一つは白地にピンク色の星があしらわれているため、女性向けなので必然的にそちらが男性向けになっているのだ。

 

「本当に俺でいいのか?そうなら俺は嬉しい。那須に仲がいいって思われているのはとても嬉しいんだ」

 

そう言って那須の手からストラップを受け取る。そして、それを嬉しそうな表情で見つめていた。

そんな天谷の表情を見ていると、那須な方も嬉しくなってきた。

 

そんな那須にもう一つお願いしたいことが出てきた。それはずっと奥手で一歩が踏み出すことができなかった那須にとってとても勇気のいることだったが、この流れに乗って言えなければもう2度と言い出すことなんでできないと思ったため、一気に言ってしまう。

 

「あのさ!その…私って、ほら…翔くんのことを下の名前で呼んでるよね?だけど、翔くんって私のことを苗字で呼ぶじゃない…?」

 

「うん、確かにそうだな。けれど、それがどうしたんだ?」

 

呼び止められた理由が分からず不思議そうな顔を浮かべる天谷。そんな天谷に那須は今出せる限りの勇気を振り絞って天谷にお願い事をする。

 

「私だけ下の名前の呼ぶのって変な気がするから…翔くんも私のことを下の名前で呼んでくれたら…嬉しい…んだけど……どう…かな…?」

 

精一杯の勇気を振り絞ってお願いする那須。しかし、勇気を振り絞ったにも関わらず、後から気恥ずかしさが全身を襲ってくる。恥ずかしさの余り語尾がドンドンと小さくなってしまう。

そんな羞恥心によって下を向いて遂に黙ってしまった那須。しかし、天谷が話す。

 

「寧ろ俺が下の名前で呼んでもいいのか?ほら、女子の名前を呼ぶのってあんまりこう…あれじゃん?」

 

天谷の方も少し照れくさそうに話しているのが那須にはわかった。天谷は本当に照れくさい時には左手を頭に当てて話す癖があるのだが、今まさにそうしていたのだ。

「確かに普通の人なら嫌だけど…翔くんなら普段から仲良くしてるし…それに…」

 

「それに?」

 

「…うんうん、何でもないよ。翔くんはちょっと特別なだけ。だって色々こうやってお話しするし、ボーダーでも教えてもらってるし…。お世話になってるから!」

 

自分の今言えるだけの想いを那須は精一杯伝える。言っているときに顔がまた熱く火照っているような感覚がしたが、なんとか言い切ることができた。

 

「那須がそう言うのなら……玲、これからもよろしくな」

 

そんな那須の様子に少し釣られてか、天谷も少し気恥ずかしそうに小さくだが那須のことをした名前で呼んだのであった。

 

「…うん、よろしくね、翔くん」

 

こうして、二人のクリスマスデートは終わったのだったが、那須は自室に入ると、想い人に初めて名前を呼んでもらえた嬉しさ、そして恥ずかしさでベッドの上でしばらくの間で悶えていたのであった。

 

 




実はもうワンシーン書こうと思っていたのですが、流石に長すぎると思ったのでカットしたんですよね。それでも平均文字数の倍以上になってしまいましたが…

それと、那須さん英語とかの文系科目得意そうだから教えてもらいたい…

次回は別作品を書いてたから出す予定なので、また遅れてしまうかもしれませんので、予め伝えさせていただきます


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