Fate/Crossing Order (傘沙羅)
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序章プロローグ

どうも傘沙羅です。
FGOを終章までクリアした記念に書き始めていきたいと思います。
ちなみに俺TUEEEEE!にはならないようには心がけます

後、恋愛要素はほぼ書けないのでご了承ください





それではどうぞ!



 目の前は地獄だった。

 

 もはや人が生きているなんて、考えられない有り様だった。

 

 空は黒く、厚い黒雲が天蓋の如く垂れ下がっている。

 

 足元は瓦礫と灰、そして赤いナニカで埋め尽くされ歩く度に不快な音を鳴らす。

 

 空気は肌を焦がすほどに熱く、腐臭を伴って鼻腔を通る。

 

 

「………マ……ュ…、マシュ!しっかりして!」

 

 

 新しい居場所でできた大切な後輩。

 

 最後に自身の目に映っていたのは助かる見込みのないはずの彼女だった。

 

 そして彼女は今、私の腕の中で気を失っている。

 

 マシュの額からは止めどなく赤いナニカが刻一刻とポタリ、ポタリと落ちていく。

 

 何度目になるか分からない轟音とともに青色のナニカが転がり込んでくる。

 

 

「嬢ちゃん、しっかりしな!何も打つ手無しじゃあ、ジリ貧になんぞ!」

「そ、そうよ!貴方なんとかしなさいよ!このままじゃ、し、死んじゃうじゃない!」

 

 

()()

 そんなことを言われても打つ手はない。

 例え自分が人外のナニカを使役していたとしても、相手も同じ人外のナニカであるなら、同じ土俵の上にたっている以上、絶対的な勝利などない。

 

 

「ー解析始動(アウェイクン)ーーーー抽出不可(コードエラー)ーー」

 

 

 最後の手も今の状況では使うことができない。

 

 その時こちらと対峙する人外のナニカと目があった。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 その口が、ニタリと三日月を描いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 時は数時間前に遡る。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私の名は衣碕(いざき)藍華(あいか)

 

 日本と言う小さな島国からこの辺境の地、人理継続保証機関『フィニス・カルデア』へと来た三流の魔術使いです。

 私の家は鎌倉時代から続く呉服屋で私の持つこの異能は一種の先祖帰りだと親戚の人々は言っていました。

 ………しかしこの力は私にとっては迷惑か極まりないものでした。

 昨日まで親友だった者に忌避の目で見られ、外を出る度に見知らぬ人に頻繁に声をかけられ、家族一同からは隔離され…………。

 

 

「……本当、何でこんな力が私なんかに『其処の貴方!ちゃんと人の話を聴いているの!?』ひゃ、ひゃい!」

 

 

 私を壇上から指摘した女性はオルガマリー・アニムスフィア。

 このカルデアの所長を務められているらしい。

 周囲からの聴こえる失笑を意識の外に追いやって、このカルデアでの新たな生活をどうにかしようかと考え始めたが………それも直ぐに止めた。

 

 

(………またどうせ、ろくなことにはならないだろうな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「ハァ……君のそういう悲観的すぎるところは悪いと僕は思うよ?」

「会って一日もたってない相手の思考スタンスによくここまでズケズケと口出しできますね、Dr.ロマンさん」

 

 

 私に支給された部屋は既にカルデアの職員の休憩室として使われていたが、その職員ことロマニ・アーキマンさんは所長と比べればこの人の方が所長に向いてるんじゃないか、と思える程にフランクで話しやすかった。

 

 

「しかし、君の魔術についてだけどよくこんなことをして体がもつね。

 僕だったら半日もしないうちにあやふやになってしまうよ」

「そう大したことじゃないですよ。

 慣れと研鑽と閃きと後、天からも見捨てられてるんじゃないかと思うほどの悪運があれば出来ますよ、大方は」

 

 

 私は自分の右手の上に有るリンゴを軽く握る。

 すると、リンゴは面白いように中心に向けてパックリと割れていく。

 そのまま握りしめるように拳を作ると指の隙間から細く切られたリンゴがポトッと皿の上に落ちた。

 

 

「自身の体に他の物体の性質を付与させる、なんて魔術はあまりメジャーじゃあないからね」

 

 

 Dr.ロマンの言うとおり、私の魔術は他の個体の性質を自身に付与し、自身の力を強化する性質がある。

 例えば今したように包丁などの刃物の持つ『切断』という性質と『硬度』という性質を腕に付与してリンゴを切ったり、岩盤のような高硬度の物体の性質を付与し銃弾を受け止めたりできる(後者は試したことはないが……)

 

 

「折角だし、ゆっくりしていきなよ。

 僕は医務室の方に戻るから、B班の出撃時間までにはコフィンのところに集まっててね」

 

 

 そう言ってDrロマンは私のマイルームから出ていった。

 そうは言われてもゆっくりするといいと言われても何をしようか。

 この場には簡易的な生活用品と申し訳程度の私物、後は自分自身の体のみ。

 ………何をしようかと考えた結果、

 

 

「……日課の鍛練でもしてるか」

 

 

 自分の体を使って暇潰しをすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 

 

 ???side

 

 

 

「こっちの方に先輩の部屋があると聞いたのですが、詳しい部屋の番号まで聞くんでした……」

 

 

 こんにちは、マシュ・キリエライトです。

 先程から先輩……衣碕先輩の部屋を探しているのですが、見つかりません。

 ドクターから自室にいるとだけしか聞いていないので、場所が分かればお会いできるのですが……

 

 

『………硝子玉一つ落とされた♪

 追いかけてもう一つ落っこちた♪……………』

「ん?先輩の声が……でも、歌ってる?」

 

 

 先輩は初対面から素っ気ない性格だと思っていたのですが、そんな先輩がこんなに楽しそうに歌を歌ったりするのでしょうか。

 少し歩くと僅かにドアの空いている部屋があり、その中から先輩の歌声が聞こえてきます。

 そっと隙間から覗くと………

 

 

「♪そうさ、必ず~僕らは出会うだろう~

 ♪沈んだ理由に十字架を建てる時~

 ♪約束は果たされる~♪僕らはひとつになる~」

 

 

 ………あの先輩が部屋の中で赤いドレスのような衣装を纏って、クルクルと回りながら笑顔で歌っています。

 もう一度言います、笑顔で歌っています。

 それはもう心底楽しそうにまるで舞台の上で歌う歌手のように。

 しかも衣装の装飾を次々と変化されていきながらしているので、ドクターから聞いた先輩の魔術とは別の何らかの魔術を使っているようです。

 

 

「やっぱり、歌を歌うと集中出来るね。

 Dr.ロマンに言われた時間までもう少しあるし、もう一曲いってみようか!」

 

 

 どうやら先輩はもう一曲歌を歌うらしいので、引き続き覗いてみましょう。

 しかし、先輩ってあんな風に笑うんですね。

 ずっと不機嫌そうな顔をしてレフ博士や所長の話を聞いていたのでとても意外です。

 

 

「じゃあちょっとだけ恥ずかしいけど『TRUST HEART』いっちょ、いってみますか!

 ♪鉛玉の大バーゲン♪バカにつけるナンチャラはねぇ~

 ♪ドンパチ感謝祭さぁ踊……れ………」

「っ!その先輩これはあっと、え~と………」

 

 

 笑顔でクルッと先輩が回った時に偶然、先輩と目がバッチリ合ってしまい、先輩がギシッと言う音と共に石のように固まってしまいました。

 そこから先輩は壊れかけの機械のようなぎこちない動きで此方に歩み寄って来て、少しだけ空いていたドアを完全に開けて、とても無機質な顔で…………

 

 

「………今のことはすぐに忘れて。

 後、他言したら命は保証出来ないから」

 

 

 そう言って自室のドアを完全に閉めてしまいました。

 その間、私は無言で直立することしか出来ませんでした。

 管制室の方に戻る際に先輩の部屋の方から叫び声が聞こえましたが………聞かなかったことにしましょう。

 

 

 

 

 

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「………それで医務室に来たんだね」

「恥ずかし過ぎて死にそうです」

 

 

 マシュが去ってから私はすぐにDrロマンのいる医務室へと転がり込んだ。

 自分を先輩と呼ぶ後輩にあんな醜態を晒してしまったことが恥ずかし過ぎてもう立ち直れません。

 こんな絶望感は初めて魔術の修行が友達にばれた時以来です。

 

 

「そろそろファーストミッションが始まるから、君もコフィンのある管制室に行った方が」

 

 

 突然、医務室の照明が落ちた。

 条件反射で腕先にサイリウムの性質を付与し、軽く指の骨を鳴らす。

 すると手首から先が光を放ち簡易的な光源となった。

 Dr.ロマンが感心したような声を出していたが、そんなことは気に止めず回りの状況を確認する。

 

 

 

『緊急事態発生。 緊急事態発生。

 中央発電所、及び中央管制室で火災が発生しました。

 

 中央区画の隔壁は90秒後に閉鎖されます。

 職員は速やかに第2ゲートより退避してください。

 

 繰り返します、緊急事………』

 

 

 そんな私の内心を察したかのようにアナウンスが鳴り響く。

 

 

「管制室で火災!?ドクター、マシュや他のマスター達はどうなったんですか?」

「今モニターを繋ぐからちょっと待ってて!

 モニター、管制室内を映してくれ!皆は無事なのか!?」

 

 

 医務室のモニターが切り替わった。

 ………真っ赤だった、ただただ赤かった。

 床には多くの瓦礫が積み重なり、その隙間からは赤い炎が立ち上ぼり、その下からは黒いナニカが川のように流れ出している。

 幾つかのコフィンは砕け、マスター候補だったモノの欠片が割れた箇所から垂れ下がるかのように飛び出ている。

 そして部屋の中央に鎮座するカルデアスは黒く濁ったように染まっている。

 

 

「っ!」

 

 

 その瞬間、私は医務室のドアを叩き開け中央管制室に向けて走り出した。

 Dr.ロマンの言葉を振りきるようにして管制室の扉を目指した。

 幸い、中央管制室と医務室は歩いて2分ほどの距離だったのですぐに辿り着いた。

 …………辿り着いたが、

 

 

「どうして!?どうして開かないの!?」

 

 

 どうやら火災が原因で扉を開くシステムがダウンしてしまっている。

 触ろうとしても中からの熱気によって扉が加熱され、下手に触れては火傷をしかねない。

 

 

「ハァ、ハァ、衣碕くん!ちょっと待ってくれよ」

「ドクター、扉が開かない!他に開閉手段はないの!?」

「何だって!?多分火災は何者かの破壊工作によるもので、爆弾の衝撃でシステムが故障したのか!

 今手動に切り替えるからちょっと待って!」

 

 

 Dr.ロマンは胸元から端末を取りだし、扉の横のカバーを開けてコードを指した。

 すると、僅かに数秒でドアがスライドし管制室内の状況が確認できた。

 

 

「僕は予備の電力施設に向かうから、君は急いで第2ゲートに退避して!」

「………わかりました。けど、生存者がまだいるかもしれないのでもう少しいます!」

 

 

『隔壁が降りるまで後少ししかないよ!』と言うDr.ロマンの言葉を受けながら、管制室内に足を踏み入れた。

 炎による熱気はどうにか我慢して、生存者を探すが見つけたモノはどれもこれも残骸ばかり。

 生きてる人はいないだろうと断言するには十分な環境だった。

 だからだろう、

 

 

「……せ…ん、ぱい…」

「マシュ!何処!?何処にいるの!?」

 

 

 こんな状況でも彼女の小さな声に過剰なまでに反応した。

 声を頼りに瓦礫の山を進むと、瓦礫に下半身挟まれている彼女を見つけた。

 

 

 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 システム レイシフト最終段階に移行します。

 座標 西暦2004年 1月 30日 日本 冬木

 

 ラプラスによる転移保護 成立。

 特異点への因子追加枠 確保。

 

 アンサモンプログラム セット。

 マスターは最終調整に入ってください。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 鳴り響くアナウンスを無視して自分の体に強化魔術を付与し、瓦礫を持ち上げようとした。

 しかし、いくら強化したとはいえ十代の女性に持ち上げられるほど瓦礫は軽くはなかった。

 

 

「先輩……逃げてください、今なら…まだ……」

「諦めないで!ドクターの所にいけば絶対治るから、だから

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『生きることを諦めるな』!!!」

 

 

 しかし、その言葉を塗り潰すように背後の隔壁が轟音と共に降りる。

 そしてもう一つの変化が起きた。

 

 

 

 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 観測スタッフに警告。

 カルデアスの状態が変化しました。

 

 シバによる近未来観測データを書き換えます。

 

 近未来百年までの地球において

 

 人類の痕跡は 発見 できません。

 人類の生存は 確認 できません。

 人類の未来は 保証 できません。

 ▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼▼

 

 

 黒く染まっていたはずのカルデアスが一転して赤く、紅く光を放ち出した。

 

 

 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 コフィン内のマスターのバイタル

 基準値に 達していません。

 

 レイシフト 定員に 達していません。

 該当マスターを検索中・・・・発見しました。

 

 適合番号48 衣碕藍華 を

 マスターとして 再設定 します。

 

 アンサモンプログラム スタート

 霊子変換を開始 します。

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 実験用の機材達からおびただしい駆動音が鳴り始めて、体が金色の粒子のようになって、溶けていく。

 それでも、マシュの手だけは話さない。

 マシュの目が私の目を見据え、そして彼女はポツリと言った。

 

 

「………ありがとうごさいます、先輩」

「いいってことよ、気にすんなよ後輩」

 

 

 

 

 ▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲▲

 レイシフト開始まで あと3、2、1、

 

 全工程 完了

 

 ファースト オーダー 実証を 開始 します

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次は年明けになりそうですね、
タグの通りの更新速度なので気長に待っていてください

それではありがとうごさいました!


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特異点F 一幕目


どーも、剣式エドモンXオルタで爆死した傘沙羅でーす
いや!課金はしてないけどね!無課金だからね!?

すり抜けピックアップでライダーが充実していく………



という訳で前話からかなーーーーり時間が飽きましたが
特異点Fの始まりです!


 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

………暗い、暗い、なにも見えない。

 

 いや、見えないんじゃない、見たくないんだ。

 

 自分が握っていたマシュの………後輩の手の温もりが感じられない。

 

 だから目を開きたくない。

 

 

『先輩、先輩………起きてください』

 

 

 マシュの存在が感じられない、しかし体の周囲は熱くまだ火の手があることは感じられる。

 

 

『……先輩、早く起きてくれないと…』

 

 

 いやだ、起きたくない。マシュの声がするが温もりが感じられないかr

 

 

「………殺しますよ?」

「突然に現れた生命の危機!!」

 

 

 耳元でとんでもないことが呟かれ、意識が一瞬で微睡みから覚醒、むしろ興奮状態までハッキリと冴え渡った。

 と言うかこの後輩、今とてつもなく恐ろしい単語が!

 

 

「先輩!良かったです無事で。しかし早くここから移動しましょう」

「マシュ、今私のことを殺すって言ったよね!?」

「そ、それは言葉のあやと言うもので……

 コホン、訂正すると起きなければ殺されます」

『『『Gaaaaaaaaaaaaaaa!!!!!!』』』

 

 

 すると、物陰から異形のモノ……動く骸骨が現れた。

 確かに気絶したままでは無抵抗に殺されていた、それは事実だ。

 しかし、完全に思考が冴えている今なら話は別だ。

 

 

「先輩……いえ、マスター下がっていてください。ここは私がなんとかしますので!」

「あ、大丈夫大丈夫。今さらスケルトンぐらいでビビることないからね。

 マシュは防御をよろしくね」

「え!せ、マスター!?」

 

 

 まずは目視で骸骨の数を確認。凡そ6体で弓持ちが2体で剣持ちが4体。

 となればまずは、

 

 

「まずは弓持ちから捌く!」

 

 

 体に強化魔術を掛けて、剣持ちの骸骨の頭部を殴り付ける。

 すると、ピキッと言う音と共に亀裂が走り大きく仰け反り手元が疎かになる。

 そこで骸骨の腕を蹴り上げ、持っていた剣を弾き上げて胴体に蹴りを一撃入れて距離を取る。

 落ちてきた剣が地面に刺さり、それと同時に弓持ちからの攻撃が降ってくる。

 

 

「させません!」

「マシュ!ナイスフォロー!」

 

 

 骸骨の射撃をマシュが弾いた隙に落ちている剣を左手で引き抜く。

 そして、ポツリとあるワードを紡ぐ

 

 

「ー解析始動ー」

 

 

 左の剣からの情報が頭の中に入ってくる。その情報を整理し、硬度と切断の概念を空の右腕に付与させる。

 私の魔術には少しピーキーなところがあり、触れることで対象から情報を読み取らなければならないから、見ただけでは発動できない。

 一度したものはストックとして保管できるけど、骸骨相手でもさすがに包丁レベルの硬度じゃ逆にこっちが壊れる。

 

 

「ちぇいさぁぁああ!!!」

『Gaaaaaaa!?』

 

 

 まずは弓持ちの骸骨……の持っている弓の弦を切る。

 これによって弓持ちは戦力として数えなくて済むようになり、楽に制圧できる。

 さらに、指を揃えて『貫手』の要領で骸骨の頭部を突き割る。

 さすがに頭蓋骨を貫通させるのは容易ではなく、破片によって指に傷ができ、そこから少量の血が滴り落ちる。

 振り向くとマシュが身の丈に迫るほどの盾を縦横無尽に振り回し骸骨を凪ぎ払っていく。

 

 

「マシュ………強かになったなぁ」

『Gaaaaaaaaaaaa!!!!!』

「五月蝿い!」

『Nandesa!?』

 

 

 何か可笑しな声を骸骨が上げながら崩れていったが気にせずにマシュの所に加勢する。

 

 

「マシュ!お疲れ、後2体位だから気にを抜かないでね」

「せ、先輩!もう2体も倒してきたんですか!?」

「弓使いは懐にはいれば唯の案山子だから!」

「それは極論過ぎますよ先輩!」

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 

「……以上が特異点における初陣の報告になります」

『う~ん、こう言ってはなんだけど衣碕くん、君何者?』

「唯の下町の魔術使いですね、齢十代の」

「『絶対嘘ですよね(だよね)!?、それ!』」

 

 

 という訳で、Dr.ロマン………もうドクターでいいか、ドクターとの通信が回復したから状況を説明してする。

 でも弓や剣、棒使いの対処法は自己防衛の為には必至ですよね?

 

 

「いえ、先輩の常識と一般的な常識とは確実な誤差があるようです」

『下町の女の子って、そんなに過激だったっけ?』

 

 

 さて、そんなことはどうでもいいとして。

 

 

「ここの、町なのかな?この火災のレベルはいったい何が起きたんだろう。

 マシュが起きた時にはもうこの状況だったの?」

「はい、そうです。

 しかし資料にあるフユキとは思えません。資料によれば日本の平均的な地方都市であり、2004年にこんな災害が起きたと言う記述はありませんでした」

『おっと、そろそろ通信が切れそうだ。マシュの状態もある程度は把握できたから、詳しい話は送った座標にサークルを設置してからしt』

「あ、切れちゃった」

 

 

 モニターは消えてドクターとの通信が途絶した。

 座標の指すのは現地点から少し離れたところにあるらしい。

 マシュはデミ・サーヴァントとなってるから足は速くなってるはずだから、走れば20分ぐらいで着くだろう。

 

 

「……それじゃあ先輩、目的地点まで移動しましょう」

「わかった、マシュの出せるスピードに合わせるから気にしなくていいよ」

「……………先輩、私、サーヴァントになってるので先輩を置いてくことになりますよ?」

「因みに目的地点までどれくらいで行けるの?」

「全力疾走すれば3分程で着けます」

「………サーヴァントの性能、嘗めてたよ」

 

 

 

 

 

 

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「そい!」「はぁぁ!!」

 

 

 マシュのフルスイングと私の蹴り(鉄の硬度)によって骸骨が骨の欠片を散らしながら吹き飛び、砕け散る。

 マシュは防御力があるから骸骨の攻撃を防げるけど、私は肌に剣の硬度を付与してるだけだからもちろん耐久度はマシュに比べれば低い。故に密集した形で進んでいる。

 一度、狙撃されかけたときはヒヤッとしたけど……

 

 

「先輩、そろそろ目的地点に着きます。サークルを設置すれば多少は物資の供給が期待できます」

「了解、やっと休めるよ~。

 一回狙撃させかけたときはどうなるかと思ったよ」

「………先輩が私の左側にいてほんとによかったですよ」

「右側だったらズドンだったね~、ははは……」

 

 

 攻撃されるときにマシュが盾を掲げやすい右側にいたからなんとか無事だったね。

 しかし、いくら私が前衛で戦ってるとはいえもう一人くらい戦力がほしいところだなぁ。

 周りは相変わらずの炎の海で生きてる人は見あたらな……

 

 

『キャァァァーーーー!!!』

「っ!先輩!」「わかってるよ、マシュ!」

 

 

 突然した悲鳴の元へと急いで駆けつける。

 この特異点での始めての生存者かもしれない、何がなんでも助けなくては!

 声のした方向からさらに骸骨達の動く際に発せられる擦過音が強化した聴覚を刺激する。

 すると、前方に人垣のように群がっている骸骨達の姿が見えてきた。

 さらに走る速度を上げて、加速しそのまま足に剣の『硬度』を付与し、

 

 

「くらえ、ダイナ○ック・エントリー!!」

「やぁぁ!!!」

 

 

 骸骨達の壁に穴を開けながら内部に飛び込む。

 心地よい音とはいかなかったが、多重の破砕音と共に突破口を作り、声の主を探す。

 

 

「こ、今度はいったいなんのよ!!」

「オ、オルガマリー所長!?ご無事だったんですか!?」

「マシュ!それより今は離脱を考えて。

 さっき開けた穴は塞がったから、内側からどうにか制圧するよ!」

「り、了解です!」

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 いい加減に骸骨の対処法も理解できたのでかなりの数がいたがものの数分で最後の一体をマシュの盾が叩き割った。

 

 

「………戦闘終了ですね。所長、お怪我はありませんか?」

「……………どう言うことよ、何でマシュのデミ・サーヴァント化が発露してるのよ!

 そして、どうして貴方なんかがこの子のマスターになってるの!?」

「あ、私曲がりなりにも魔術使い何でマスター適正と魔術回路は持ってます」

「所長、先輩はなにもしてません。

 むしろ私の方が無理やり契約してもらったようなものです」

 

 

 助けたオルガマリー所長はそれはそれはお怒りだった。

 いきなり私とマシュの関係に口出ししたり、人をいきなりそれもナチュラルに貶してきたり、何だか実家の方の長老達を思い出すなぁ………

 …………無性に腹が立ってきた。

 

 

「ねぇ、この人処していい?いいよね?」

「ひぃ!?」

「先輩!?駄目ですし、落ち着いてください!顔がものすごいことになってますよ!?」

『おい!君たち、お取り込み中のところすまないが敵性反応が接近してる!

 すぐに対処してくれ!』

 

 

 あまりにも出来すぎたタイミングでまた骸骨共がワラワラと出て来やがった。

 腰の抜けている所長は視界から外してマシュに一言かけておく。

 

 

「マシュ!戦闘準備、いくよ!」

「り、了解しました!先p「砕けろ、サンドバッグ!!!」先輩本音が漏れてます!」

 

 

 骸骨が武器なんて使ってんじゃねぇえええええ!!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

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「戦!闘!終!了!」

「ふぅ、お疲れ様です……スッキリしましたか?」

「……骸骨殴りすぎて手首痛めなかったら満点だった」

 

 

 流石に鉄の硬度を付与してもやっぱり消耗すれば怪我もしやすくなるから、もう少し硬いものが欲しくなってくるなぁ。

 まぁ、そんなこんなで所長と合流出来たってことで今のカルデアと他のマスター候補達への緊急措置やらがドクターと所長との間で交わされていた。

 

 

「………しかし、貴方マスターとしての自覚があるの?

 自身のサーヴァントと共に前線に立つなんて最早ただの自殺行為よ!?」

「いや、でもマシュがいくらサーヴァントでも疲労が溜まったら私達の生存に支障が出るので……」

「支障が出るもなにも貴方が倒れたらサーヴァントを維持できないんだから、貴方の命が最優先だって事を自覚しなさい!!」

 

 

 交わされていたのだが、何時からか私に対する説教へとシフトしていた。

 確かにドクターからの説明から私がこの実験の唯一のマスターになってしまったから私の死=実験の失敗となってしまう。

 だとしても、私だけを大事にしてもマシュが疲労しては勝てる戦闘でも勝つことができなくなってしまう。

 ……しかし、話してみると案外所長は悪い人間ではないようだ。

 さっきの話やドクターとの会話の中のほとんどは相手の事を主体にして考えられている。

 この所長は心が弱く、ビビりで、弱腰で、ひねくれものだけど芯は通っている………頼れる人らしい。

 

 

「………なによ、さっきから黙り込んで」

「…………」(ナデナデ)

「い、いきなり何するのよ!」

 

 

 それともう一つ、意外とこの人かわいいかも。

 よ~しよ~し、いい子いい子。

 何だか身長的に少し小さいから撫でるのに丁度いいなぁ。

 

 

 

 

「さてと、まずはサークルの設営でもしよっか」

 

 

 

 

 

 

 

 





今度の投稿はいつになりますかね~

…………早く書いたらオルタちゃん来てくれるかな?


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特異点F ニ幕目



オルタちゃんがほしい!!
その一心で書き上げたぞ、私は!


と、まあそんなこんなで三話目の投稿です。
いよいよタグの一つが疼きます!


それではどうぞ!!!!



 

 

 

 

 

 

 

 

 

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 ……ガチャ。

 それは全てのマスターに与えられた地獄であり、マスター達はその中の地獄と知ってなおあしを踏み入れる極点。

 

 ある者は言った、『出るまで回す!』と。

 ある者は言った、『回せ、回転数が全てだ……』と。

 又、ある者は説いた、『課金は家賃まで!』と。

 

 その者達の中で祝福された者達がいた。

 しかしその何倍の量の者達が絶望の谷へと突き落とされた………

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「という訳でサークルも設置しましたし、英霊召喚と参りましょうか!」

「先輩?何だか一瞬だけ夥しい量の呪詛が聞こえた気がしましたが……」

「この子の頭の中って、一体どうなってるのかしら……」

 

 

 ドクターの指示にしたがってサークルを設置している折りに、ドクターから戦力の増強が必要と言われた。

 確かに私がマスターである以上、前衛で戦闘し続けることはリスクが大きすぎる。

 かといってマシュ一人で戦闘を続けていくのも難しい。

 そこでマシュが防御に専念出来るように英霊をもう一人召喚することになった。

 

 

 

「触媒になるのがこの聖晶石でマシュの盾を召喚サークルに見立てて実行すればいいんですよね?」

「えぇ、ただしどんな英霊が現れるかは全くの未知数よ?」

「どうせなら前衛の任せられる人が来てほしいな~」

 

 

 オルガ・マリー所長からもらった聖晶石と私が此処に来るまでに拾ってきた聖晶石を合わせると全部で九つ、三回の英霊召喚ができるらしい。

 

 

「それじゃあ、まずは一投目。参りましょうか!」

 

 

 マシュの盾の上に出来たサークルに3つの聖晶石を放り込む。

 すると聖晶石が砕け散り、サークルに3つの光輪が発生した後一本の光の柱が発生した。

 光の柱が弱まっていくとマシュの盾の前に一人の女性が姿を現した。

 桃色の髪に銀色のヒラヒラとした戦闘服(?)を身に纏っているその女性が静かに目を開けて言った。

 

 

「……マリア・カデンツァヴナ・イヴ、クラスはセイバー。

 よろしく頼むわね、マスター」

「やった!早速前衛で活躍してくれそうな人が来てくれたよ、マシュ!」

「先輩、おめでとうございます!」

 

 

 セイバーのクラスで見たところ接近戦を得意にしてそうだからまずまずは狙い通り!

 

 

「じゃあ続いてニ投目ぇ!!」

 

 

 再び3つの聖晶石をサークルの中に放り込むとまたも3本の光輪が発生し、同じような現象がもう一度起きる。

 

 

「この光で骸骨達が寄ってこないのが不思議でしかたないなぁ」

「先輩、次の方が来ます!」

 

 

 続いて出てきたのは、少女だった。

 もう一度言う…………少女だった。

 紅い目と黒い髪、そして風にたなびく黒マントととんがり帽子。

 いかにも魔法使いチックな格好で現れた少女は高らかに宣言した。

 

 

「我が名はめぐみん!!紅魔族随一の魔法の使い手にして、爆裂魔法を操りし者!

 あまりの強大さ故に世界に疎まれし我が禁断の力を、汝も欲するか?」

「…………ロリッ子!!!」

「な!だ、誰がロリッ子ですか!これでも私は一人前のレディなんですからね!?」

「せ、先輩!めぐみんさんの声に反応したスケルトンが接近してきます!

 戦闘準備を!」

「貴方、何でこんな非常事態でヘラヘラできるのよ!」

 

 

 やって来てくれたのは嬉しいけど、余計な手間は抱えてこないでほしかったなぁ。

 あと一回分はまた今度に取っておくってことで、早速二人の力を見せて貰いましょうか!

 

 

「マシュ!マリアさん!めぐみん!戦闘を開始するよ!」

「了解。押し切ります、先輩!」

「分かったわ。さぁ、始めるとしましょう!」

「え、いきなり戦闘ですか、では私は少し蚊帳の外で見学してますね。

 私、キャスターですし」

 

 

 約一名全然ノリ気じゃないのがいるけど気にしない!

 増えた戦力を把握するには絶好の機会、そして今までの煩わしさからのおさらばを兼ねて……

 

 

『君達すぐその場から離れるんだ!』

「ちょ、ドクターいきなり何言って………」

『スケルトンの後方から接近してくる敵影を3つ捕捉した。

 観測計の反応から間違いなく、三騎ともサーヴァントだ!』

「ちょっとロマニ!どうにかしなさいよ!」

『僕にはどうもできないから慌てて警告してるんです!

 藍華君!頼んだよ!』

 

 

 …………今までの興奮が嘘だったかのように血の気が冷めていった。

 確かにこの特異点に来てからの戦闘は動く骸骨が中心だったから、英霊の力を宿したマシュと魔術使いである私でも相手ができた。

 しかし、相手がサーヴァントであるのならばおそらく此方の勝率は一気に下がるだろう。

 ましてや三騎ともサーヴァントなら此方のサーヴァントが一対一で全員戦わなければならない。

 その場合、めぐみんがキャスターであるため単騎ではまともな戦闘ができない。

 マリアさん単騎で戦えるとして、マシュは所長を護ることもしなければならない。

 

 

「マシュ!すぐに盾を置いて召喚サークルを設置して!

 すぐに三回目の召喚をする!」

「分かりました!サークル、展開します!」

「貴方、正気!?そんな投げやりの召喚じゃあまともなサーヴァントが出てくるかどうか」

「そんな事いってる場合じゃ無いんですよ!」

 

 

 残っていた3つの聖晶石をサークルに投げ入れ召喚を待つ………が、

 

 

「光輪が少ない?」

 

 

 二人を召喚したときには三本発生していた光輪が一本しか発生しなかった。

 そしてさらに、光の柱が立つこと無く光が爆発し、硬い地面に一つの球体が音をたてて落ちた。

 

 

「…………ぇ?」

 

 

 絶望的な状況で希望を唐突に裏切られた人間はこんな気持ちなんだ、とまるで俯瞰者のような気分に一瞬なりかけたが慌ててその球体を解析する。

 

 

「………フラガ・ラック?」

 

 

 聞いたことのあるような響きだったが、それよりもその能力と耐久性、切れ味から私の中で一つの案が浮かび上がった。

 それはあまりにも穴の空きすぎていて、魔術師が聞けば自殺行為だと罵るどころか嘲笑を受けるほどの代物だった。

 しかし、これより他の道はないのならばやるしかない。

 

 

 

 

「みんな、策があるから心して聞いて………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 

 音をたてて燃える瓦礫の山を瞬く間に踏破しながら三騎のサーヴァント……『ランサー』、『ライダー』、『アサシン』が獲物へと接近している。

 

 

「ランサー、少シハ静カニシロ。獲物ガ逃ゲテシマウ」

「ハハ、ハハハハハハハハ!!!!!!」

「ハァ、ライダーヲ見習ッタラドウダ」

「………………………………」

 

 

 

 アサシンが高笑いし続けるランサーを諌めるがまるでとりつく島もない。

 ライダーはまるで先行する獣のように無音で二人の前を少し距離を空けて駆けている。

 ライダーはいざとなれば二人を置き去りにして行けたが、目標のサーヴァントの気配が一期に二体増えたことを残された数少ない理性が察知し一人では分が悪いと考えたため、二人の速度に合わせていた。

 しかし、そのライダーの行動は裏目に出てしまった。

 二人から離れていれば……巻き添えを食らわなかっただろう。

 

 

 

 

 

 

我が人生の爆裂道(エクスプロージョン)!!!!!!!』

 

 

 

 

 突如、空に真紅の魔方陣が発現し、後に炸裂。

 ライダー達をまず襲ったのは目を直撃する閃光と破裂……いや爆裂音。

 続いて、超高温の衝撃波が三騎に迫ってくる。

 ライダーとアサシンはかろうじて回避できたがランサーはその衝撃波を食らってしまった。

 

 

 

「ヌゥゥゥゥゥゥ!!!!!!!!」

「ランサー!」

「はぁぁあ!!!!」

「チィ!!」

 

 

 瓦解仕掛けたビルの影からマリアが飛び出し、意表を突く形でアサシンを2騎から遠ざける。

 マリアの短剣とアサシンの持つダークが鍔迫り合いをする中、ライダーとランサーに向けてアサシンが叫ぶ。

 

 

「何ヲシテイル!サッサト手伝エ!!!」

「よっと、ごめんなさいね、ちょっと通るよ!」

「「!?」」

 

 

 

 軽快な声と共に一人の少女がサーヴァントの戦場に飛び込んできた。

 サーヴァント達とは違って迸る程の魔力を帯びていないただの魔術師と平和な地域では思われるだろう。

 しかし、今の冬木とその手に赤く光る痣ーーー令呪があるのなら話は別だ。

 

 

(バ、バカナ!マスターデアル魔術師ガ英霊ノ戦闘ニ介入シテクルダト!?)

 

 

 聖杯戦争ではまず考えられない状況にアサシンは戸惑い、結果としてマリアの攻撃によって2騎から離れた河川敷の方へと追いやられた。

 それを確認した少女ーーー藍華はそれを確認してから次なる合図を出した。

 手の中にあった小石、それにはオルガ・マリー所長の魔術によって簡易閃光弾としての役割を持っていた。

 それを空高く投げ上げて叫んだ。

 

 

「令呪によって命ずる!めぐみん、宝具発動!」

『分かりました、藍華さん!

我が人生の爆裂道(エクスプロージョン)!!!』

 

 

 二度目の爆撃はライダーとランサーとの丁度中間辺りの位置に着弾した。

 またも巻き込まれたランサーを尻目にライダーは短剣と鎖を使い、ビルに登った。

 初撃は完全に不意打ちであったが、二度目は敵のマスターによる合図があった。

 故に音の反響により、宝具の放った敵の大まかな位置に検討をつけていた。

 果たして、ビルから見て河川敷と真逆の方向に100メートル程行ったところに仰向けに倒れている人影を見つけた。

 格好からしてまず一般人ではなく、手には宝玉の埋め込まれた杖が握られている。

 

 

「……………見ツケタ!!」

 

 

 ライダーはそのままビルから短剣を飛ばし、それについた鎖を手繰るようにして飛び出していった。

 かくて、二度の爆撃を食らったランサーだが流石は三騎士の内の一騎、まだかろうじて動けるらしい。

 

 

「ウォォォオオオ!コロスゥゥゥ!!!!」

「食らえぇぇ!!!!」

 

 

 そんなランサーを相手取っているのは藍華ただ一人。

 今頃めぐみんのもとに行ったライダーは待ち構えていたマシュと幾重にも張られた所長のトラップに立ち往生しているだろう。

 そしてマリアとアサシンの戦いとマシュ達とライダーとの戦いのその間でたった一人のマスター対サーヴァントの戦いが始まった。

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

「アァァァァアアア!!!!」

 

 

 ランサーの薙刀が唸り声を上げて、頬の横を過ぎ去る。

 しかし、二度の()()()()を食らえばいくらサーヴァントでも大きく消耗する。

 故に大振りの一撃を丁寧に回避し、お返しとばかりにランサーの腹にトーキックを叩き込む。

 まるで削岩機で岩を粉砕したときのような音と共にランサーの腹に黒いブーツの爪先が僅かに刺さる。

 そのまま刺さった足を素早く抜いて追撃を捌く。

 大振りの凪ぎ払いを大きく飛び退いて、突きによる連撃を体の捻りと腕を薙刀の側面に添えていなす。

 

 

(少し、ヤバイかな……)

 

 

 流石に直接的な外傷は受けていないが、魔力が恐ろしい勢いで無くなっていく。

 藍華の魔術のデメリットがあるとしたら、それは対象の情報の複雑さと量によって魔力消費が格段に跳ね上がることだろう。

 故にこの作戦において藍華の役目、それはマリアかマシュのどちらかの戦闘が終わるまでの時間稼ぎ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 体よく言えば『時間稼ぎ』、悪く言えば『囮役』

 人類最後のマスターは自分から囮役をかってでたのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 






いや~、鯖化は難しいですね~。
今のところ8騎のサーヴァントの内の半数が多作鯖の状態で第一章を攻略していきます。


ご感想、ご意見をどしどしお願いいたしま~す!!


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特異点F 三幕目


待てど暮らせど来ないえっちゃん…………

ひたすらコインと禁頁を集めまくる日々を送る傘沙羅で~す
戦闘シーンは好きですが、上手くはなく
日常シーンは苦手なので、上手くはない

まぁ、そんなこんなでいよいよこの特異点の紅一点(用途誤り)が登場デェス!

それではどうぞ!!






 

 

 

 

 

 

 燃え盛る冬木に通る未遠川、そこに架かる冬木大橋の袂にある海浜公園で二つの影がぶつかる、暗い空に火花を散らす。

 

 

「シャァ!!!」

「フッ!」

 

 

 アサシンの放った三本のダークをマリアが左腕のガントレットで弾き、お返しとばかりに短剣をアサシンに向けて投擲する。

 しかし、その短剣はアサシンに当たる手前でまるで自ら避けるかのように明後日の方向へと飛んでいく。

 

 

「……厄介ね、遠くからの攻撃が当たらない。

 何らかの力が働いてるのかしら」

「ハッ!温イワ、温イワ!ソンナ攻撃ハ通ジンゾ!!」

「確かに厄介だけど、対処の方法がない訳じゃない」

 

 

 マリアは武器を納めて胸に手を当てた。

 当然アサシンもその隙を見逃さず一度に七本のダークをマリアに向けて放つ。

 

「~Granzizel bilfen gungnir zizzl~」

 

 

 黒い旋風と共に七本のダーク全てが空高く弾き飛ばされる。

 続いてアサシンに向けて暴風が迸る。

 アサシンはその風にわざと巻かれるようにして距離をとった。

 アサシンが目を向けるとそこには黒い鎧を身に纏ったマリアの姿があった。

 

 

「ホウ、面白イコトヲスルナ。ソレガ貴様ノ宝具カ?」

「そうとも言えるかもしれないわね。

 でも私にとってこれは罪の証、そんなに誇れたものじゃないわ」

 

 

 マリアは新たに手にした大型の槍を片手で構え、突撃した。

 さっきとは打って変わってマリアが攻防の主導権を握っていた。

 マリアの身に纏う物はFG式回天特機装束、この世界線とは別の世界線でとある天才学者により提唱された特殊装備である。

 

 またの名を、シンフォギア

 

 世界を三度救った歌姫達の魂の結晶である。

 

 

「さぁ、派手に踊りなさい!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

「ーッ!!」

「っ!……めぐみんさん、援護をしてください!」

 

 

 ビルの合間を燕のように舞いながらライダーが倒れたままのめぐみんに襲いかかる。

 それをマシュが防ぎ、オルガ・マリーがめぐみんを抱き抱える。

 

 

「ちょっと貴方、しっかりしなさい!マシュ援護をしなさい」

「いや~それは無理ですね、私は爆裂魔法しか……あの宝具しか使えません」

「なぁ!?貴方それでもキャスターなの!?」

「失敬な!私は紅魔族随一の魔法の使い手にしてアークウィザード、上級職の魔術使いですよ!」

「所長、めぐみんさんに構わずに作戦を続行してください!」

 

 

 マシュが大盾を薙ぐとライダーが鎖を使ってまた間近のビルの中の入っていった。

 藍華はどうにかなるかと考えていたが、想定以上にめぐみんが使えn………役に立たn………特殊すぎて、まともに戦闘ができていない。

 彼女の出身である紅魔族は本来、非常に高い魔力適正と高度な魔術構築を得意とする一族である。

 しかし、彼女は最強の攻撃魔法『爆裂魔法』に魅せられた結果、膨大な魔力を消費する魔法を極めたアークウィザードとなってしまった。

 ちなみに彼女の宝具『我が人生の爆裂道』は対城宝具だけたって威力は折り紙つきだが、放てば魔力が供給されるまで動くことすらできなくなってしまう。

 

 

「分かったわよ、やればいいのでしょ!」

 

 

 オルガ・マリーが魔術で強化した小石をライダーの入っていったビルに向けて投げ込んだ。

 小石に刻まれた魔術が発動し、それが引き金となってビル全体に張り巡らされた術式が起動した。

 ビルの下層部の柱がひとりでに瓦解し、文字通り崩れ落ちるかのようにしてビルが倒壊した。

 いくらサーヴァントと言えどもビルの倒壊に巻き込まれては無事では済まされない。

 なおかつ先ほどのビルには下層部に対象の重さの増加、中層部には軽減、上層部には増加という術式を組んでいたので、下層が真っ先に落ち、中層と上層が一体となってサーヴァントを押し潰した。

 

 

「ーーーー!!!!!!!」

 

 

 しかし、相手もサーヴァントである以上ただではやられない。

 ライダーは持ち前の機動力を発揮し、崩れ行く瓦礫の上を跳躍し倒壊に巻き込まれる前にビルから飛び出した。

 

 

 しかし、ライダーが外に飛び出た瞬間目の前に広がっていたのは燃え盛る町並みではなく硬質な輝きを放つ盾のエッジだった。

 

 

「せいやぁぁぁあ!!!!」

「グ、ガァ!?」

 

 

 ライダーはそのまま崩れて行くビルの中にまた叩き込まれた。

 ビルが完全に倒壊し、辺りには燃え立つ炎の音だけが響く。

 

 

「………戦闘終了のようです、お疲れさまでした。

 所長、めぐみんさん!先輩の元へ急ぎましょう!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

「ガァアァァァァアアア!!!!」

 

 

 ランサーの横凪ぎを避け、懐に入って鳩尾にフラガ・ラックの硬度を帯びた拳を叩き込む。

 もちろん体には強化魔術をかけているが、それでも鉛を殴ったような感触と共に腕の関節が軋む。

 戦闘が始まってもう何分経ったかなんて分からない。

 ただ避けて、避けて、時間をより多く稼ぐために避け続ける。

 攻撃は単調になってはいけない、弱者が強者と対峙する時の鉄則は常に相手の裏の裏をかき続けること。

 正攻法は論外、どんな卑怯なことでも良いから一分一秒の命を延命し続ける。

 

 

「っ!おっと!」

「ヴォァァァ!?!?」

 

 

 ランサーの攻撃を利用して街路樹を倒し、視界から外れる。

 その隙に手近なビルの中に飛び込んで、ビルを駆け上がり、扉の空いた一室に飛び込んで扉を静かに閉めてから魔術を一度解く。

 

 

「っ!……はぁ、は、はぁ………かなりキツいなぁ」

 

 

 全力での魔術行使により磨耗した魔術回路が悲鳴を上げ、それに追随するように肉体的な痛みも上がってくる。

 窓から下を覗くと、薙刀を乱暴に振り回しながらランサーが吠えている。

 どうやらいったんはまけたようだ。

 

 

「……魔術回路の状態と魔力の残量から見て、これは少し厳しいかなぁ。

 マシュ達の方からの揺れからして、ビル爆破でもしたのかなぁ……

 エグいことするなぁ我が後輩は……」

 

 

 場違いな考えを巡らしながら、再度ランサーの様子を窺おうと、窓の方に寄った。

 下にいるランサーは街路樹を手当たり次第に薙ぎ倒しながら、私のことを依然として探している。

 

 

「ふぅ~、もう少しは休憩できそうだなぁ。

 何か緊張が溶けて喉が乾いてきた、水があるかなぁ?

 てか、水道通ってるの?これ」

 

 

 部屋の中を物色するが冷蔵庫の中は全て腐っていて、製氷機も止まっている。

 電気や水道といったインフラ設備はまるごと止まっているようだ。

 

 

「ん~、ホントに何もない……流石に水ぐらいはあってもいいんだけどなぁ」

「おぅ、嬢ちゃん、水ぐらいなら持ってるがいるか?」

 

 

 顔の前に差し出されたのは200㎜ペットボトルに入った天然水だった。

 

 

「あ、あぁ!ありがとう!いや~助かったよ、流石に乾燥しすぎて喉がカラカラでさぁ……」

「そうだろうな、ずっと上から見てたが……

 良くもまぁサーヴァント相手にあそこまで食い下がれるもんだなぁ」

「いくらサーヴァントでも人が相手なら、急所に攻撃を入れつつ死角から出ないように立ち回れば時間稼ぎぐらいは…………」

 

 

 ………私、今誰と喋ってるの!?

 そう思って背後に振り向くと、そこには青いドルイドが立っていた。

 顔はフードで隠れているが、その暗闇から赤い目が此方を値踏みするかのように見てくる。

 おそらく、サーヴァントで間違いないだろう、だがいつから、そしてどこから入ってきたのか。

 扉は閉めた、あの立て付けの悪い扉が開けば音が鳴るはず………

 

 

「まぁ、そんな怖い顔すんなよ。因みに俺が元からいた部屋に嬢ちゃんが飛び込んできただけで、俺は初めからこの部屋にいたぜ?」

「………何で私の考えてることが分かったんですか?」

「ん?嬢ちゃんの顔にそう書いてあったんだか……

 嬢ちゃん、考えが顔に出やすいって言われねぇか?」

 

 

 このサーヴァント、良くもまぁズケズケと……

 

 

『ドコダァァァァァァアアア!!!!!!!!』

 

 

 今までの届いてこなかったランサーの怒号と共にビルが大きく震える。

 どうやら虱潰しに私を探しているランサーがこのビルに目をつけたようだ。

 よりによってこんな時に!

 

 

「……貴方に構ってる暇ないから、また私のことを監視でもしてなよ」

「まぁ、そんなこと言うなって嬢ちゃん。

 嬢ちゃんにも利のある話だから、少し聞けや」

「なるべく手短にお願い」

 

 

 そう来なくっちゃ、とそのドルイドは赤い目を歪めてニヤッと笑った。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 

「アァァァァアアア!!!!」

 

 

 ビルの通路の壁が吹き飛び、黒い靄を纏ったランサーか雄叫びを上げながら突き進む。

 すでに一階は穴だらけになり、これ以上の衝撃が加われば倒壊しかねない状況になっている。

 理性の欠けているランサーはそんなことを考慮することはないだろう。

 たとえ、ビルが倒壊してもランサーのステータスからすれば多少の傷はあっても死ぬことはないだろう。

 

 

「………随分と暴れてるなぁ、おい」

 

 

 ランサーが声のした方向を向くとそこにはこの⬛⬛⬛⬛で対峙することになった青いドルイドーーーキャスターが通路の影からゆっくりと出てきた。

 ランサーはその姿を目にした瞬間、もうキャスターを自身の得物で凪ぎ払っていた。

 

 

「ハ、ハハ!、ハハハハハハハハハ!!!!!!!」

「いちいち煩いねぇ、もうちっとは静かにできねぇのか?」

「ヌゥ!?」

 

 

 しかし、ランサーがたった今凪ぎ払ったキャスターは青く光る粒子となって消え、ランサーの背後にキャスターは再び現れた。

 

 

「ズァァァァ!!!!!」

「遅ぇよ、アンサズ!」

 

 

 キャスターの腕が空を切り、その軌跡を辿るようにルーン文字が踊る。

 ルーン文字が一際眩しく発光し、数発の火球へと変化しランサーに向けて飛翔する。

 屋外ならまだしも屋内、しかも狭い通路では回避はできず、なおかつ背を向けていたことも相まって全弾がランサーの背に着弾する。

 ランサーはその衝撃によりビルを突き破りながら外に吹き飛ばされるが、空中で受け身をとり地面を滑りながら着地した。

 

 

「おら、余所見はすんなよ!」

 

 

 ビルの中から飛来する火球を、今度は左右に動きながら避けてキャスターへと接近する。

 流石のキャスターもランサーとの接近戦は避けたいものだが、今回は彼にも心強い用心棒がいた。

 

 

「そら、出番だぜ嬢ちゃん!!」

「!!!???」

 

 

 突然、ランサーの胸を鋭い衝撃が襲った。

 何もいなかった筈の自身とキャスターの間に先程まで探していた少女が、手に持つルーン文字の刻まれた鉄剣を自身の左胸部に突き立てた姿で現れたのだ。

 前もってキャスターのルーンにより視覚的、聴覚的に敵に気付かれないように身を潜め、ランサーの意識が完全にキャスターに向くまで待っていた。

 そして、急激に動いたために解けてしまった隠密のルーンの残滓を纏うようにしてランサーの心臓部ーー性格にはそこにある霊格を、これまたキャスターのルーンによって強化された骸骨から奪ったままの用済みの鉄剣で貫いた。

 

 

「ガァ、ァァァァァァア!!!!」

「嬢ちゃん離れな、これで終いだ!」

 

 

 藍華が飛び退くとランサーの足元に魔方陣が浮かび上がり、その内側にいたランサーを飲み込むほどの火柱が立ち上ぼった。

 火柱が完全に消えるとそこにはもうすでにランサーの姿はなかった。

 

 

「やれやれ、これで依頼達成だな嬢ちゃん」

「それじゃあ、報酬を貰おうか。この街で一体、何が起きたの?」

 

 

 キャスターは目深にフードを被り直してその答えを口にした。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「…………聖杯戦争だよ」

 

 

 

 

 





この小説に出てくるキャラは自分の趣味(100%)なので、かなりの独自解釈(タグ通り)があります、

因みにマリア、めぐみんのステータスは

マリア……筋B敏C魔D耐B幸C宝B
めぐみん…筋E敏C魔A耐E幸D宝A++

………という感じで設定してます。
正直、幸運の基準が分かりません。

という訳で、ご感想ご意見どしどしお願いいたします!











えっちゃんは諦めてえれちゃんに賭けるか………




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特異点F 四幕目

連投に続く連投で腕がマッハで腱鞘炎!
どうも、ハイになりまくってる傘沙羅デェス!

おそらく後二、三話で冬木が終わります。
オルレアンに入るときに新鯖が増えますが、その分更新速度は一気に下がります。

それでは、どうぞ!!!




 

 

 

 

 

 

「聖杯戦争…………て、何?」

「貴方、魔術については全くの素人ね!?」

 

 

 マリアさんとめぐみん、所長、マシュと合流した私とキャスターはこの街で起きた儀式ーー『聖杯戦争』について聞いていた。

 万能の願望器と言われる『聖杯』をめぐって七人のマスターと七騎のサーヴァントで行われる、血で血を拭うような戦い………だったらしい。

 

 

「だが、俺達の聖杯戦争はいつの間にか別の何かに刷り変わってたんだよ」

「刷り変わっていたって、何でですか?」

「それはだなチビッ子『誰がチビッ子ですが、誰が!』まぁ、カッカすんなや。

 ………たった一夜にして町は廃墟になって、人っ子一人いなくなっちまった」

 

 

 キャスターはおどけたように首をすくめた。

 めぐみんが敵意むき出しの眼差しを向けるなか、マリアさんがキャスターに聞いた。

 

 

「しかし、この町はどうなってるのかしらね。

 さっき、アサシンと戦ってるときに町を横切るように何本も亀裂が生まれていたのを見たのだけど」

「………マリアさん、何処まで行ってたんですか?」

「え?そ、それは~」

「マシュ、世の中には聞いちゃいけないこともあるんだよ」

 

 

 質問の腰を折られたマリアが顔を背ける中、キャスターが口を開いた。

 

 

「そりゃ、セイバーの奴の仕業だ。

 さっきの話の通り、俺らのマスターすら死んだ中で奴さん、水を得た魚のように暴れまくって町中滅茶苦茶だ。

 んで、そのセイバーに負けた俺以外の五人のサーヴァントは相手の家来みたいに生きてる奴らを探してんだよ。

 ……て、言っても俺しか生きていちゃいねぇがな」

 

 

 キャスターは話を一度区切り、締め括った。

 

 

「これが今この町で起きてる全てだ。

 次に、嬢ちゃん達の目的も教えて貰おうか」

「分かったわよ、私達カルデアは……」

 

 

 所長が今の人類の状況、カルデアの使命について話す間にちょっと確認しておくことがある。

 

 

「マシュ、マリアさん、めぐみん。怪我とかしてないよね?」

「えぇ、大丈夫よ。かなり余裕を持って倒せたわ」

「私達の方はなんとか、といった感じでしたね。

 特にめぐみんさんの能力が使えn…コホン、特殊過ぎて少々手こずりました」

「マシュさん、今使えないって言おうとしてましたよね!?しましたよね!?」

「ん~、めぐみん。ちょっと話があるんだけど」

「断固拒否します!……あ、すいません眼帯引っ張らないでくださいぃ!」

「そ~れ!」

「ギァアア!!イッッタイ、メガァア!!!」

「貴方達、何してるのよ!」

 

 

 ゴロゴロと地べたで悶絶するめぐみんを放っておいて、所長とキャスターの方に近づく。

 話を聞くとキャスターの案内でこの特異点の主点となる、『大聖杯』の元へと行くらしい。

 そこに行けばこの特異点の、聖杯戦争の謎に迫ることができる……可能性があるらしい。

 

 

「となれば、善は急げだ!」

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 砕けたアスファルトの道をサーヴァントの皆の力(めぐみんを除く)を借りて、この町の中心にある大聖杯の眠る山ーー円蔵山の麓にある学校で一晩明かすことにした。

 幸い、キャスター以外のサーヴァントは一定の場所から動かないらしいので骸骨の群れだけに注意すれば安全、とのことらしい。

 

 

「マ~シュ!」

「ひゃあ!せ、先輩!?急に抱きつかないでください!」

「ごめんね~」

 

 

 教室の中で眠ることにした一行はかなり寛いでいる。

 マシュと藍華がじゃれ合い、既に藍華によって仕置きを受けためぐみんは教室の隅で丸くなっている。

 

 

「………マスター、あの、そろそろ」

「マシュ、なにか悩みがあるんでしょ?」

「な、何のことでしょうか。私は特に」

「マシュも私に負けず劣らず顔に出やすいからねぇ」

 

 

 それっきりマシュは黙ったままになってしまったが、その後にポツリポツリと悩みを打ち明けてくれた。

 サーヴァント、いや英霊にはその個人の逸話を元にした特殊な力……『宝具』というものがある。

 めぐみんならあの爆撃、マリアの場合はあの衣装そのものが宝具の一種である。

 マシュはデミ・サーヴァント、他に類の無い英霊と人間のハイブリッドである故にその宝具を使いこなせていない、とマシュは口にした。

 

 

「だから、私は先輩のお役に立てているのか不安で…」

「マ~シュ、そんな事はないよ。……フゥ、」

「っ!先輩、耳に息がっ!」

「私がカルデアの管制室内に入ったとき、もう誰も生きていないって本気で思ってた。

 だからかな、私はマシュが生きてあることが本当に嬉しかった」

 

 

 藍華はマシュの首に後ろから手を回して、マシュの体にもたれ掛かった。

 

 

「私が咄嗟に言った『生きることを諦めるな』って言葉だけど、私が昔言われた言葉なの。

 私が魔術のせいで皆から迫害されたときに祖母に言われた言葉で、そのお陰で私は狂わずにいれたの」

 

 

 藍華は昔のことを思い出す。

 魔術を見た両親の罵声、友達からの誹謗中傷と軽蔑の眼差し、近所からの嫌がらせと怒号。

 殴る蹴るはしてこなかった、それは私が異質だったから触れただけで殺されると思っていたからだろう。

 親友と祖父母だけは私を理解してくれた。

 だけど、いじめを気に学校は中退して祖父母から護身術を学び、私を被検体として捕らえようとしてくる魔術師を撃退し続けた。

 

 

「だから私が一番嬉しかったのは、マシュ、貴方が生きていてくれたことだよ」

「先…輩………」

「マシュ………」

 

 

 マシュが振り向き、藍華と目が合う。

 そして二人の目と目が結ばれ、少しずつ顔と顔とが近づいていき………

 

 

「…………マスターにマシュ、何やってるの?」

 

 

 二人が視線を向けると戦闘時とは別の服を着たマリアが教室の扉にもたれ掛かって呆れ顔で見ていた。

 マシュが藍華を振り払って飛び退くが、当の藍華はマリアに抗議した。

 

 

「も~、マリアさん後もう少しでマシュのあられもないところに見られたのに」

「あ、あらっ!!先輩、最低です!!」

「全くもう、あの二人じゃあるまいし……」

 

 

 マリアさんが呆れ顔のまま教室の中に入ってきて、藍華の額にデコピンをいれた。

 

 

「アイタッ!」

「早く寝なさい、明日は大変なんだから。

 今のうちに寝ないと、明日に響くわよ」

「………まぁ、それもそうか。ところで所長とキャスターは?」

「二人なら今、屋上でこの校舎に簡易的な結界を張ってるらしいわ」

「ふ~ん……あれ?マシュとめぐみんは?」

 

 

 マリアが無言で指差す方を向くと、めぐみんとマシュとまるで猫のように隣り合って丸くなっている。

 その姿はとても愛らしく、マリアさんと数秒だが眺め続けていた。

 じゃあ、私もその横を頂いて。

 

 

「じゃあ、私も寝るね。マリアさんお休み」

「えぇ、お休みなさい………」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 

「……下の子達はみんな寝たわよ」

「そうかい、アンタも寝な。アンタも重要な戦力だからよ」

「お気遣いどうも、でももう少し起きてるわ。

 ところで所長さんは?」

「おう、眠りのルーンを掛けたらコロッと眠ったわ」

 

 

 どうやら所長は夜を徹して明日の決戦の準備をしていたのだが、根を詰めすぎると良くないのでキャスターが無理やり寝かせてルーンで保護した教室に入れてきたそうだ。

 

 

「貴方も大変ね。私達が加わった分、負担も増えたのでしょう?」

「いんや、そういう訳でもねぇよ。あの盾の嬢ちゃんは明日の決戦の鍵になるし、チビッ子の宝具は奴に対しての有効策になるだろう」

「………貴方から見てあの子はどう見えるの?」

「マスターの嬢ちゃんか?ありゃ、まともな人間じゃないな。

 いや、違うな。アレはマトモじゃいられなくなった人間だな」

 

 

 マリアもキャスター、いや『クー・フーリン』も常人とは一線を画した世界で生きてきた。

 クー・フーリンは、故郷の為に戦い続けた戦士。

 マリアは、全世界を二度も救った救世主の一人。

 だからこそ人を殺す/倒す術を身に付けることが自然だった。

 だが、マスター……衣碕 藍華は違う。

 ただの少女がいきなり魔術の世界に問答無用で放り込まれた。

 それでいて、今までの世界から無理やり切り離された。

 

 

「あの子の目はいつも笑ってる、本心で笑ってるの。

 どんな些細なことがあの子にとってはそんなに愛しい物なのね」

「あの嬢ちゃんはこれからもっと辛いことにぶち当たるだろうなぁ。

 それでも、絶対に曲がらないだろうなぁ」

「それは英雄としての経験談かしら?」

「そうでもあるかもな、ハッハッハ!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 

 一晩明けた次の日、藍華が腕を見ると昨日使って二画に減った筈の令呪が三画に戻っていた。

 所長曰く、カルデアからのバックアップで一日に一画だけ令呪を回復させれる、とのことらしい。

 その時のキャスターは複雑な顔をしていた。

 

 

「こんなに大きな洞窟があったなんて、これは全て天然なんですか?」

「違うわよマシュ、半分天然で半分人工ってところね。

 ここの洞窟に目をつけた魔術師が代々に渡って増築したのね」

「大きいけど、めぐみんの宝具は使用禁だからね」

「な、何でですか!?」

「こんな狭い空間で爆撃何てしたら、みんな生き埋めになってしまうわよ」

 

 

 円蔵山の地下の大空洞にやって来た一行はキャスターの案内の元で地下深くの大空洞に………『大聖杯』に続く回廊を歩いていた。

 

 

「お嬢さん方、そろそろ気合いいれとけよ?

 こっから先は敵の本拠地のど真ん中だからな」

「という訳でキャスター、あちらに居るのは貴方の言ってた家来みたいになったっていう人かしら?」

『………フン、そちらの援軍は中々に手強そうじゃないかキャスター』

「言ってろ、聖剣信奉者。流石にこの人数相手にたった一人で挑む気か?」

 

 

 キャスターとマリアの目線の先にはライダーやアサシン達と同じく黒い靄のようなものを纏った人物が立っていた。

 その手には大きな黒塗りの洋弓を持っていることからアーチャーのサーヴァントだと推測できる。

 

 

「別に信奉者になった覚えは無いのだがな。

 それに、此方にも心強い援軍がいるものでな」

「?………!?、まさかテメェ!!」

「そのまさかだよキャスター、流石の君でもアレの相手をすることは出来ないだろう?」

「ちょ、ちょっと貴方達勝手に話を進めないでちょうだい!

 キャスターも詳しく説明しなさい!」

 

 

 所長が憤慨する中、キャスターはいきなり振り返り杖を振り上げて唱えた。

 

 

「我が魔術は炎の檻、茨の如き緑の巨人。因果応報、人事の厄を清める社───

 倒壊するはウィッカー・マン!」

 

 

 キャスターの詠唱と共に巨大な藁人形のようなものがキャスターの背後から出現し、その巨大な腕を振りかぶり、

 

 

「ちょ、キャスター!なにを」

「テメェ等、そこをどけぇぇぇ!!!」

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!!!!!」

 

 

 キャスターの宝具『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』の腕と藍華達の背後から現れた黒い何かの斧剣が激突し、こともあろうか『灼き尽くす炎の檻』の片腕が弾き飛ばされた。

 

 

「チィ!やっぱり無駄か、お嬢ちゃん気ぃ付けろ!

 ソイツはギリシャの大英雄『ヘラクレス』だ!」

 

 

 その黒い何かーーヘラクレスは大空洞の天蓋を仰ぎ、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 虚空を震わす雄叫びを上げた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 





炎上都市冬木、市民マラソン
ウルトラハードモード開幕です!!

いや、だってエミヤonlyで四騎相手取るとか流石にエミヤTUEEEEEになりますしね

一応、明日には冬木を終わらせたいと思います!

所長の運命はいかに!

ご感想、ご意見どしどしお願いいたします!!!






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特異点F 五幕目


本日の連投最後となりました傘沙羅です!
連投に次ぐ連投で駄文度が右肩上がり、留まるところを知りませんなwwwww(黒髭並)

ラストに向けてがかな~り自己満足の話となってしまいました。

鉄オル一期のラストのようにキリキリ舞いですね!
誰のせいだよ(俺のせいだよ)

と、言うわけでどうぞデェス!




 大空洞の壁面を空中でぶつかる火球と刀剣が弾けた爆発が彩る。

 その隙間を縫うようにしてマリアが銀色の衣装を身に纏い、アーチャーに向けて飛翔する。

 しかし、アーチャーが腕を振るとマリアの進行方向上に巨大な剣による壁が出現する。

 

 

「っ!本当にやりにくい相手ね!」

「誉め言葉として受け取っておこう」

 

 

 マリアは大きく迂回することになり、その間にアーチャーは四本の矢を弓に構え引き絞る。

 

 

「喰らい付け、『赤原猟犬(フルンディング)』!!!」

 

 

 アーチャーの矢が不規則な軌跡を描きながらマリアに殺到する。

 マリアは咄嗟に蛇腹剣を取りだし全ての矢を弾くが、赤い鏃の矢達はまるで何事もなかったかのように再びマリアに襲いかかる。

 マリアが短剣を射出して迎撃するが、数で勝っていても強度が違いすぎる。

 打ち漏らした数発がマリアに降り注ぐ。

 

 

「吹き飛びな、アンサズ!」

 

 

 そこにキャスターの援護が入り、残った赤原猟犬を全て粉々に砕いた。

 マリアは新たな短剣を取りだしアーチャーの懐に入るが、アーチャーの造り出した中華剣により迎撃されて後退を余儀なくされる。

 

 

「キャスター、本当に彼はアーチャーなの?

 双剣を持って尚且つ剣を造り出す弓兵なんて聞いたことが無いわ」

「それには同感だ。アイツはパクリ野郎だからな」

「人聞きの悪いことを言わないで欲しいな、よく言うではないか、

俺の剣は俺の剣(俺の物は俺の物)お前の剣も俺の剣(お前の物も俺の物)』とね」

「聞いたこと無いわね、そんな暴言」

 

 

 キャスターとマリアがアーチャーと対峙する中、マリアの頭の中はもう一つの戦場のことでいっぱいだった。

 

 

(マスター、マシュ、めぐみん、どうか無事ていて!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 

「マシュ!全力で防御!」

「⬛⬛⬛⬛⬛!!!!」

「か、はっ!うぁぁあ!!!!」

 

 

 大英雄ヘラクレスの一撃がマシュを盾ごと割らんばかりに振り抜かれる。

 マシュも全力で防御姿勢を取っているが、それでもたった一撃でマシュの体力が目に見えて減っていく。

 なんとかしたいけど私の魔術は役立たずだし、めぐみんの宝具はこの大空洞を破壊しかねない。

 マシュが今していることもただ亀になって時間稼ぎをしているだけで、具体的な解決策が何一つない。

 

 

「マ、マスターさん!どうにかしないと、マシュが死にますよ!?」

「分かってる、分かってるよ!でも、他に手段が一つもないの!

 出来るとしたら二人がアーチャーを倒すまで時間を稼ぐことしか出来ないの!」

「キャスター、貴方はマスターの指示に従いなさい」

「で、でもマシュを見殺しにするなんて!」

「一番辛いのはそれを選択したこの子なのよ!」

 

 

 そう、この手段を選んだその時から私達の命と人類の未来は今、マシュの心に懸かっている。

 そんな事を強制した自分の不甲斐なさに、そして何もできない無力さに今にも押し潰されそうになっている。

 

 

「⬛⬛、⬛⬛⬛⬛、⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!」

「はぁ!…ふっ!!…………つぁぁああ!!!!」

 

 

 マシュも背に守る私達を守るために必死になって戦っている。

 激しい衝撃がマシュの細い身体に折ろうと駆け巡る。

 それでもマシュは諦めない、絶対に諦めていない。

 マシュの背中には自分に命を託していれている仲間の命が乗っているから、だから折れることはない。

 

 

「はぁ、はぁ、はぁ……ま、まだやれます!」

「………⬛⬛⬛…⬛⬛⬛⬛⬛…⬛⬛………」

 

 

 マシュの姿はあまりにも美しかった。

 だからだろうか、ヘラクレスから滲み出ていた狂気が一瞬だが和らいだように見えた。

 だが、ヘラクレスは再度大空洞を揺るがすほどの雄叫びを上げて手に持った斧剣を背中に当たるまで引き絞り、マシュを狂気に染まった赤い眼孔で睨む。

 ミシミシという筋肉の軋む音と踏み締めている足が地面を抉る音がはっきりと耳に届いてくる。

 

 アレを食らえば、マシュは二度と立ち上がれなくなる。

 

 そう、理解してマシュに向けて叫ぼうとした時にはもう遅かった。

 

 

「⬛、⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!!!!!!!」

「……………ぁぁぁぁ」

「マシュゥゥゥゥ!!!!!」

 

 

 神速の九連撃がマシュを盾ごと吹き飛ばした。

 マシュはそのまま数秒間宙を舞い、何度もバウンドしながら私とめぐみんにぶつかってきた。

 身体に強化魔術をかけていても、ズシリと重い衝撃が伝わってきた。

 慌ててマシュを抱き起こす。

 

「マシュ、しっかりして!マシュ!」

 

 

 マシュの額からは止めどなく赤いナニカが刻一刻とポタリ、ポタリと落ちていく。

 

 何度目になるか分からない轟音とともにキャスターが転がり込んでくる。

 遠くではまだマリアがアーチャーと剣撃を交わし合っている。

 

 

「嬢ちゃん、しっかりしな!何も打つ手無しじゃあ、ジリ貧になんぞ!」

「マ、マスターさん!」

「そ、そうよ!貴方なんとかしなさいよ!

 このままじゃ、し、死んじゃうじゃない!」

 

 

()()

 そんなことを言われても打つ手はない。

 あの大英雄を倒す術なんて初めから揃ってなどいなかった。

 しかし、それでもと最後の足掻きにマシュにある魔術を行使した。

 

 

「ー解析始動(アウェイクン)ーーーー抽出不可(コードエラー)ーー」

 

 

 どうやら、最後の手も今の状況では使うことができない。

 

 その時、彼方でマリアと対峙するアーチャーと目があった。そして、

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 私に向けて矢を引き絞ったその口が、ニタリと三日月を描いた。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………偽・螺旋剣(カラドボルグⅡ)!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 恐ろしく、その瞬間がスローモーションに私には見えた。

 こちらに向けて剣の檻の中から叫ぶマリアが、私の後ろで恐怖に怯えるめぐみんと所長が、私の横で間に合う筈の無いルーンを構築するキャスターが、そして私の腕の中で眠っているマシュの頬から落ちる赤いナニカと私に向けて駒送りのような速度で迫り来る捻れ曲がった矢の存在が、くっきりと見えた。

 これが私の走馬灯なのだと自然に理解できてしまった。

 これが何の取り柄もない自分にとっての末路だと、はっきりと認識できた。

 

 

 

 

(逃げ出してしまうのかい?ここまで来て)

 

 

『ここまで着たからこそ、もう十分じゃないか』

 

 

(諦めが早いのは欠点であり、長所でもある)

 

 

『諦めるより他に術がない、考え抜いた結果だ』

 

 

(……ワスレタカ?アノヨルノ、アノチカイヲ……)

 

 

『………あの……………夜…………』

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

『ジ~ジとバ~バはわたしがこわくないの?』

 

『怖いもんかい、私にとっての大事な大事な孫じゃよ』

 

『それに、儂にとっての最後の弟子かもしれんしなぁ!』

 

『………それだけなの?それがわたしのかちなの?』

 

『藍華、人の価値なんてその人しか分からんさ。他人の意見なんて、ただの一面を取ったに過ぎないんじゃよ』

 

『価値の有るか無しかで人を選ぶなんざ、馬鹿のすることじゃ。

 価値ってものしか考えられない、それは悲しいことじゃよ』

 

『でも…………

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 わたしはわたしのかちがわからないよ?』

 

『それはそうだよ、価値ってものは自分のうんと深いところにあるからね』

 

『儂らも自分の価値に気づいたのもつい最近じゃよ』

 

『?ジ~ジとバ~バのかちってなに?』

 

 

『『それはな(じゃな)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 藍華、お前を愛することが出来ることだよ(じゃよ)』』

 

『……………わかった、わたしはわたしのかちをぜ~ったい、みつけてみせる!

 ジ~ジやバ~バよりもはやく、みつけてみせるから!』

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

(シブンニハ、カチガナイナドバカナコトダ)

 

 

『………すっかり忘れてたよ、でも昔のことだ』

 

 

(カコノコトナド、イクラデモフリカエレル

 ジ~ジトバ~バノ、イッテイタコトダロ?)

 

 

『……策がないからどうしようもないじゃん』

 

 

(サクナラアルサ、オマエガソノカギダ)

 

 

『私が鍵?』(……ガ、オマエニハアルダロ?)

 

 

『……そうだね、まだまだマシュ達との旅は!』

 

 

(ソウダ!コレマデノクソッタレナジンセイヲ!)

 

 

『引っくり返してくれた皆との日々に!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『終止符を打つ訳には、絶対にいけない!』

(コンナトコロデ、オワラセルモノカヨ!!)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

「なんだと!」

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛!?」

「きゃあ!!」

「なんだ、こりゃ!」

 

 

 アーチャーの矢が藍華を貫こうとした瞬間、突然藍華からサーヴァントに匹敵する量の魔力が放出された。

 その息吹は、大空洞の中に魔力の竜巻を起こしマシュと藍華の姿を完全に覆っていた。

 

 

「うひゃぁあ!?」

「いったぁ、ちょっと、一体何が起きてるの!?」

 

 

 めぐみんと所長も弾き出され、ついに竜巻の中にはマシュと藍華だけが残された。

 藍華はただ一言、此処に来てからは一度も口にしていなかったキーワードを口にした。

 

 

「ー抽出完了(コードオープン)重奏付与(エンチャント)斬り抉る戦神の剣(フラガ・ラック)ー」

 

 

 突如として内側か竜巻が絶ち斬られ、藍華とその腕の中で眠るマシュの姿があらわになった。

 しかし、そこにいた全員はその瞬間だけ声が全くでなかった。

 皆が藍華の身に纏っている戦装束に目を奪われいてた。

 純白の絹のような着物を身に纏い、髪は腰ほどまでに伸び首元で束ねられている。

 白の生地に映える黒い帯には、空を流れる天の川が細やかに描かれている。

 そして、藍華の周囲には三つの球体がまるで藍華を守るかのように一定の周期で回っている。

 誰もが押し黙る中で一人アーチャー……エミヤだけが藍華の装束を見て驚愕していた。

 

 

(馬鹿な!?彼女の纏っているあの衣は間違い無く聖骸布!

 彼女は聖骸布を一から生成することができるとでというのか!?)

 

 

 ならばと、アーチャーは考え再度『偽・螺旋剣』を藍華向けた。

 しかし、彼の心眼(偽)がそれを止めるように警告を出したため矢を納めた。

 それが彼にとっての致命的な隙となってしまった。

 

 

「はぁぁぁぁ!!!!!!」

「っ!なに!?」

 

 

 

 剣の檻を断ち切りながらマリアがエミヤへと飛翔した。

 慌てて干将・莫耶を生成したが遅かった。

 マリアの右手が動き、短剣を左腕のガントレットに接続。

 それにより短剣の刃が拡張しロングブレード並の長さとなった。

 マリアはさらに腰のブースターの出力を上げ、

 

 

「『銀の左腕、償いの光を放て(SERE†NADE)』ェェェ!!!!」

 

 

 すれ違い様にエミヤを干将・莫耶ごと切り放った。

 

 

「⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛!!!!!」

 

 

 ヘラクレスが我に帰り、マシュごと藍華を潰さんと斧剣を振り上げる。

 しかし、それよりもはやく藍華が自分の周囲を旋回する球体を掴み、ヘラクレスへと向けて唱えた。

 

 

「アンサラー…………斬り抉る戦神の剣(フラガ・ラック)!」

 

 

 球体が突如刃となり、光線となってヘラクレスの心臓を名の通り斬り抉っていった。

 ヘラクレスとエミヤはそのまま金色の粒子となって溶けながら、消えていった。

 藍華は自分の姿を見て、静かに目を閉じた。

 

 

「あぁ、此れが私の本当の価値だったんだ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 




冬木市民マラソン大会
ウルトラハードモード無事完走(?)です!

いや、ヘラクレス入れようとしたときは絶対に十二の試練切らないとだし、セイバーに負けてセイバーの守護サボってたら十二の試練は回復しないよネ!

つうわけで、主人公こと衣碕 藍華の知られざる能力の開花となりました。
ちなみに彼女の衣は投影と固有結界(固有時制御系)を織り混ぜたもので、衣自体が一種の固有結界となっているんです。

このネタはずっと前から考えてましてね、妄想の中でですけど。

多作鯖は本編では絡みはないですがイベントではすこし絡めたいと思います、

例として、

プリズム⭐コーズwithキャロル(戦姫絶唱より)
空の境界コラボwith空白(ノゲ・ノラより)

等々の意見、ご感想をどしどしお願いいたします!




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特異点F 六幕目



連投が少しずつペースダウンしてる傘沙羅です!
今回と次回で特異点Fは終いになります!

ヘラクレスを倒してしまったから、アーサー王が少し軽めの戦闘になってしまった感が凄まじいです………


そんなこんなでどうぞ!




 

 

 

 

 

 

 

 冬木の大聖杯、その外縁の崖を背にして黒い聖騎士ーーセイバーが佇んでいた。

 セイバーは聖杯から伸びていたパスが切れたことから、アーチャーとバーサーカーが消滅したことを察知した。

 そして、この大聖杯へと進んでくる一行の姿を己の中から響いてくる怨嗟の声を捩じ伏せながら悠然と待った。

 

 

「…………来たか、異邦からの旅人よ」

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 アーチャーとヘラクレス……バーサーカーとの戦闘の後に休養をとっていると所長が私の元に歩み寄ってきた。

 それもかなりの形相で。

 

 

「あ~な~た~は!

 一体何度私の中の常識に喧嘩を売ってくるのよ!」

「常識の範疇ではこの業界では生きていけませんよ(キリッ)」

「あ、冗談です説明しますからカンドは本当にやめてください」

 

 

 冗談で返したら、とても据わった目で青筋を浮かべながら呪いの弾丸を指先に構えて、鼻先に突きつけてきた。

 流石にゼロ距離射撃はこたえます、ハイ。

 

 

「私の魔術が性質の付与ってことは知ってますよね?」

「えぇ、貴方のパーソナルデータには目を通してあるわ。

 貴方の起源が『衣』なんて言う位置のわからないだってこともね」

「なら話は早いです、私のあの魔術は付与と投影の複合魔術なんです。

 いくら付与魔術でも完全に性質を丸写しすることはできません。

 なんで、投影魔術で造り出した衣に解析した対象の性質を限界まで付与させて、それからその衣自体の性質を付与させてるんです。

 私の魔術は対象に直接触れ続ける方が出力が高くなるんで、この方が本来の性質を限り無く原物に近いまま使用できるんですよ」

 

 

 その説明を聞いていた所長は唖然としていたが、そんな事は全く気にせずにマシュやキャスターのいる方に駆け寄った。

 マシュはキャスターの治癒のルーンにより、治療を受けている。

『もう体力は回復したのでこれからも防御は任せてください!』と、元気そうに笑いかけてくる。

 マリアさんにも労いの言葉をかけて、私は大空洞の隅で小さくなっているめぐみんの元に近づいた。

 

 

「め~ぐみん、何してるの?」

「っ!マ、マスターさんでしたか。

 いきなり話しかけないでください、ビックリするじゃ無いですか………」

「………無力な自分を戒めるなんて随分とらしくないことしてるね」

「………やっぱり、バレましたか」

 

 

 めぐみんはどうやらさっきの戦闘で何もできずにいたことが、悔しくて仕方ない……いや情けなくて仕方ないようだ。

 サーヴァントとしてマスターを命を変えても守らなければならないと、頭では思っていても身体が動かない。

 死んでも大丈夫と言われても、嬉々として死んでいく人など限られている。

 めぐみんはそんなとてもプライドが高くて真面目で純粋な子だ。

 ……だからこそ私はめぐみんの肩を掴み、此方を向かせる。

 

 

「マ、マスターさん。ごめんなさい、わt

『バッチィィィンン!!!!!』

 イッタァァァア!?!?!?!?」

 

 

 私の腕が煌めき、めぐみんの眼帯を一瞬にして10

 ㎝ほど引っ張って離す。

 全くの不意打ちにめぐみんは絶叫を上げたが、めぐみんの額に私の額をつける。

 めぐみんの目は……痛みとそれ以外の何かによって生まれた涙が浮かんでいた。

 

 

「めぐみん、適材適所は突き詰めれば環境によっては足手まといがいるってこと。

 今回はめぐみんの力がこの環境に合わなかっただけ。

 実際に地上での戦闘の時に宝具による奇襲がなければ、今頃私は此処にいないの」

「で、でも」

「だからめぐみん、そんな顔しないでよね。

 めぐみんの明るさは私にはない眩しさだから、曇らさないでね」

 

 

 めぐみんは潤んだ目を顔ごと伏せて、私の胸に額を当てて肩を震わせた。

 そんな小さな背中を私は優しく、優しく………

 

 

「コチョコチョコチョ!!」

「ブフォア!!??マスターさん、何を!?」

「え~い!真面目すぎる子はこうだ~!」

「ま、ちょ、ちょっ、や、ヤメロ~!!!!!」

 

 

 私はいつでもマイペースじゃあ!!!!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

「………ほう、面白いサーヴァントがいるな」

「なっ!テメェ喋れたのか!」

 

 

 休憩を終えて、いよいよ大聖杯のある大きな空間に辿り着くと、そこには黒く染まった剣を地面に突き立ててこちらを待ち構えているセイバーの姿があった。

 キャスターとセイバーがいくつかの言葉を交わすが、不意にセイバーが剣を天蓋に向けて真っ直ぐに掲げ上げた。

 キャスターから聞き、アーチャーの言葉からアレが聖剣、あのバーサーカーすら葬った一撃が私達に向けられる。

 空間が軋み、セイバーからは黒い魔力が螺旋を描いて剣へと注がれていく。

 

 

「マシュ!私達の全てを、その盾に懸けてるよ!」

「マシュ、決して下は見ずに前だけを見なさい!」

「マシュ・キリエライト、自身の使命を果たしなさい!」

「嬢ちゃん、来るぞ!!」

 

 

 マシュが私の前に盾を顔前に構え、セイバーを見据える。

 そしてセイバーはその手に摂る聖剣の穢れし真名を宣う。

 

 

卑王鉄槌(ひおうてっつい)極光(きょっこう)反転(はんてん)する……(ひかり)()め……

 

 

 

 

 

 

  『約束された勝利の剣(エクスかリバー・モルガン)』!!!!!」

 

 

 黒く染まった聖剣の一撃がマシュごと私達を呑み込まんとばかりに襲いかかる。

 だが、マシュは、私の後輩は決して震えてはいない。

 彼女の目に写るものは黒き極光ではない、それは自分を抱きしめ守ってくれたマスターの横顔と燃え盛るあの管制室で自分に力をくれたあの英霊の姿だった。

 

 

「私はここで、倒れるわけにはいかないんです!」

 

 

 マシュの構えた盾から蒼く光る障壁がマシュの前に展開され、その障壁と黒き極光がぶつかった。

 マシュな盾が裂いた極光が私達の左右を通り過ぎる。

 怯えてはいけない、マシュの力を信じ抜くことが今の最善。

 はたして、

 

 

「ぁぁぁぁぁぁぁぁああああ!!!!!!!!」

 

 

 聖剣からの極光が止むとそこには、傷を負いながらも盾を構え続けたマシュの姿があった。

 マシュの身体がグラリ揺らぐ、すかさずマシュを後ろから抱き込み笑いかける。

 

 

「ありがとう、マシュ。本当に私の後輩は最高だよ」

「先輩……私、やりましたよ……」

「うん、ゆっくり休んでてね」

 

 マシュを所長とめぐみんに預けてマリアとキャスターに向けて叫ぶ。

 

 

「第ニ波は防げないから、今のうちに倒すよ!」

「分かったわ、マスター少し本気を出すから。

 指示は頼んだわよ!」

 

 

 マリアがそう口にすると、何処からともなく歌が戦場に流れ始めた。

 皆が………セイバーすら唖然とする中、マリアか口を開く。

 

 

 

「♪真の強さとは何か?探し彷徨う

 ♪誇ること?契ること?まだ見えず」

「おいおい、何急に歌い出してんの?おたく」

 

 

 キャスターの言葉にマリアは歌いながら『仕方ないじゃない』とでも言いたげな視線を投げかける。

 しかし、すぐに視線を外しセイバーへと翔んだ。

 だがその速度は………今までとは比べ物にならないほどの速度だった。

 

 

「っ!なに!?」

 

 

 セイバーの直感による未来視に追随するほどの速度でマリアの短剣が襲いかかる。

 マリアの纏うギア、シンフォギアは聖遺物という旧世代の異端技術を応用して作られた特殊な戦闘衣装である。

 本来の世界線では歌を歌わなければギアを纏うことができない、しかし英霊となった今は歌を歌うことはステータスの大幅な上昇を生み出している。

 故にステータスのほぼ全てが限定的にBランクに達しているマリアはステータスにおいてセイバーを……アーサー王を僅かに凌駕する。

 

 

「♪惑い迷い苦しむことで

 ♪罪を抉り隠し逃げずに」

「っ!全く、あの少女とは違った意味で面白いサーヴァントだ、な!!」

 

 

 アーサー王はステータスでの差を武器の差で弾き返す。

 マリアもブースターを吹かして、キャスターの横に並ぶび、続いてキャスターによる攻撃が始まる。

 

 

「後は頼んだわよ、キャスター!」

「おうよ、出番だぜ!『灼き尽くす炎の檻(ウィッカーマン)』!!」

 

 

 マリアの歌が止まったのと同時にセイバーに左右に巨大な魔方陣が出現し、巨大な腕が現れた。

『灼き尽くす炎の檻』の腕がセイバーを左右から挟み込もうと迫る。

 セイバーは魔力を剣から噴射し上空へと回避する。

 それを追うかのように藁人形の腕が迫る。

 

 

「ハァァァァ!!!!!!!」

 

 

 アーサー王は上空で『風王結界(インビンジブル・エア)』を繰り出し、『灼き尽くす炎の檻』の片腕を根元から吹き飛ばす。

 しかし、もう一本の腕がセイバーの身体を握り込む。

 

 

「今だ!出番だぜ、チビッ子!!!」

「チビッ子じゃありませんけど、感謝しますキャスター!!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『黒より黒く、闇より深き漆黒に

 

 

 我が深紅の混交を望む給もう』

 

 

『覚醒の時来たれり、無謬(むびゅう)の境界に堕ちし理、

 

 

 無行(むぎょう)の歪みとなりて現出せよ!』

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

  『我が人生の爆裂道(エクスプロージョン)』!!!!!!!!!」

 

 

 キャスターの『灼き尽くす炎の檻』を残った腕を吹き飛ばすほどの爆発が、その拳の中から解き放たれた。

 爆炎は『灼き尽くす炎の檻』を焼却し、天蓋を吹き飛ばすほどの火柱が立ち上った。

 めぐみんの汚名返上に十分すぎる一撃をモロに受けたセイバーは、真っ逆さまに地面に叩きつけられるようにして落ちてきた。

 鎧はほとんどが砕け散り、聖剣は担い手から少し離れたところに真っ直ぐに突き立っている。

 

 

「………ハァ、私としたことが最後の最後で手が緩んでしまったか。

 まぁいい、私一人では運命など、どうにもできなかったからな」

「おい、セイバー。テメェ、何を知ってやがる」

「いずれ貴様も分かるだろう、アイルランドの光の御子。

 ーーーーグランドオーダー、聖杯を巡る戦いはまだ始まったばかりなのだとな……」

 

 

 そういってセイバーのサーヴァントは消滅した。

 それに続くようにして、置き台詞を残してキャスターも消滅していった。

 セイバーのいた場所には金色に光る杯ーー聖杯が漂っている。

 

 

「……ふぅ、みんなお疲れ様!」

「やりましたね、先輩!」

「若干歌い足りなかった気がするけど、まぁいいわ」

「めぐみん!よかったね、トドメ刺せて」

「フッフッフ、私の力もざっとこんなもんですよ!」

「よ~しよし、いい子いい子……」

 

 

 倒れたままのめぐみんの頭を撫でてから、さっきから一言も喋らない所長へと視線を向けると所長は一人ブツブツと呟いている。

 

 

「……冠位指定……、

 あのサーヴァントが何故その呼称を……」

「どしたんですか、所長?浮かない顔して」

「あ、あぁ、気にしないでちょうだい。

 それよりも、衣碕藍華及びマシュ、よくやりました

 これにて、ファーストオーダーは終了よ。

 不明な点も多いけれども、あの水晶体を回収してカルデアに帰還しましょう」

 

 

 所長の指示に従って聖杯を回収……しようとしたが、突然聖杯が独りでに大聖杯の外縁へと浮かび上がっていった。

 慌ててマシュと所長の元へと戻り、聖杯の行方に目を凝らすと、そこには独りの人影が見えた。

 それは、私がカルデアの内部で顔を合わせたことのある人物だった。

 

 

「………レフ・ライノール教授、随分と久々の再会ですね?

 この状況を読んでたとしか思えない劇的な登場ですね」

「フン、相変わらず減らず口が多いな衣碕君。

 一度、気品や上品さを身に付けてはどうかな?」

 

 

 そこには私がカルデアにいた頃に一目で嫌いになった人物、

 近未来観測レンズ『シバ』の提供者、レフ・ライノールが物凄い人の悪い顔を浮かべてながら佇んでいた。

 

 

 

 

 

 

 








サーセン!所長の処遇まで書けませんでした!
字数をなるべく揃えたい主義なんで、途中で切れてしまいます!
(どうでもいい主義だな………)


イベントについては配信時系列と大体合わせていきます
あ、ネロ祭はちょっと無しですので
団子かハロウィン、本能寺が先に来ます。

因みに本能寺では多作キャラ連発になるでしょうねぇ……

感想欄に前話で上げた内容があればどしどしお書きください!
褒められると伸びるタイプなんだよねぇ(白猫感)

えっちゃんの件はまだ諦めてませんよ!!!!











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特異点F 七幕目



特異点F最終回イェェェエイイイイ!!!!!
終わりました、疲れました、ぐだりました!!
もう、夜中のテンションってヤバイですね(;゜∇゜)

という訳でどうぞ!


 

 

 

 

 

 

 

『レ、レフだって!?彼がそこにいるのか!?』

「レフ教授!?生きていらっしゃったんですか!?」

「レフ……レフなの!?あぁ、良かった!いきていたのね!」

「っ!所長、なにやってんですかぁ!!」

 

 

 久々に通じた回線からドクターの声が聞こえてくる。

 明らかにあの時の爆発の中で、無傷でいられるはずがない。

 それだけでレフ・ライノールへの不信感は強くなる。

 だが、彼女にはそんな事を考える余裕は無かったのだろう。

 いきなり駆け出そうとした所長の腕をつかんだが、彼女はそれを振り払ってレフ・ライノールの元へ行ってしまった。

 その背中をに追い付いて止めることはできたかもしれない。けども、レフから滲み出るどす黒いナニカのせいで迂闊に動くことが出来なかった。

 マリアとめぐみんにもなるべく動かないように、指示を送っておく。

 視線の先ではレフと所長が言い争っている。

 そしてレフが顔前に聖杯を掲げると大聖杯のちょうど真上に歪みが生じ、そこにカルデアの管制室が映し出された。

 いや、このカルデアスからの存在圧から見て恐らく本物で空間を繋げたのだろう。

 しかし、その後の現象に私は凍り付いた。

 所長がゆっくりと空中に浮かび上がり、カルデアスの方に少しずつ近づいていった。

 反射的に走りかけたが斬り抉る戦神の剣(フラガ・ラック)はこの状況では役立たずで、それにもう間に合わない。

 所長の身体がカルデアスの中に溶け込むようにして消えていった。

 

 

「っっ!!!!!!」

「先輩、抑えてください!

 今行ったら先輩も同じように殺されます!」

「ほう、流石はデミ・サーヴァントだ。

 私が根本的から違う生き物だど感じ取っているな。

 では、君達に改めて自己紹介をしよう。

 私はレフ・ライノール・フラウロス

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 貴様たち人類を処理するために遣わされた2015年の担当者だ」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 ………数時間前に起きたことが私の頭の中をかき乱す。

 吐き気と頭痛が際限なく襲い掛かってくる。

 整理されていたマイルームの壁には幾つもの血の線が走り、それが自分の指先から滲み出ていることを遅まきに理解した。

 所長を止められなかったのは私、所長を見殺しにしたのも私、だから全て私が悪い。

 

 

「はぁ、はぁはぁ、は、はぁ、はぁ………」

 

 

 喉が削られたかのように疼く。

 声はすでに渇れて、浅い呼吸を繰り返すだけで痛みがする。

 そんな姿をマシュ達に見させるわけにはいかないだろう。

 ここまで取り乱したのは『アノ日』以来になるだろうか。

 苦しくて、苦しくて、でも死ぬことはできない。

 死にそうになったことなんて、幾らでもあった。

 けれど、肝心な時になって自分は死ねないなんて、できすぎた喜劇だ。

 レイシフトから戻り、マシュと再会し、マリアとめぐみんにカルデアを案内して直ぐにこの部屋に戻ってきた。

 そこからはよく覚えていない。

 気付けば服や壁には血が付き、シーツと枕は引き裂かれ、ベッドは足が砕けて、観葉植物もバッサリ斬られている。

 無意識に魔術が暴走でもしたのだろうか、身体中の魔術回路が傷付いているし、魔力も若干だが減っている。

 果ての無い無力感と虚脱感が身体を蝕む。

 ジ~ジとバ~バに言ったことをこの特異点で思い出してしまったことも反動を大きくした原因だろう。

 

 

「………私の意味…価値…意義…そんなもの無いよ」

 

 

 人を殺した人に価値があるなら、それは人の悪性の手本というレッテルだろう。

 

 

「………これじゃ、めぐみんに言えた義理じゃないなぁ」

「あぁ、全くだね。

 人の価値を一人で決めきるなんて、ただの無駄骨だよぉ?」

 

 

 プシュ、という音と一緒にマイルームの扉が開き、美術書等で見たことのあるモナ・リザにそっくりの人物が入ってきた。

 彼女はかの有名なレオナルド・ダヴィンチその人らしい。

 よくモナ・リザはレオナルド・ダヴィンチの自画像だったなど言われていることは、あながち間違ってはいなかったらしい。

 

 

「ほら、コーヒーでも飲んで落ち着きなよ。

 そんなんじゃ、せっかくの美人が台無しだ」

「………ダ・ヴィンチさんの方が美人ですけどね」

「お褒めに頂きありがとう、素直になるのも必要だよ君」

 

 

 ダヴィンチさんの淹れてくれたコーヒーは、今まで飲んだ中で一番美味しかった。

 しばらくダヴィンチさんは私がコーヒーを飲みのを傍らで見ていた。

 そんなに面白いだろうか?私は。

 

 

「君は、自分が可愛いとか思ったこととか無いのかい?」

「そこまで美人でも美少女でも無いですし、

 美少女はマシュやめぐみんのことを

 美人はマリアさんやダヴィンチさんのことを言うんですよ」

「ふ~ん、でもこの部屋で歌い踊っていた君も中々のものだったよぉ?」

「ブッフォォ!!!???」

 

 

 み、見られてたの!?何時!?何処から!?

 

 

「各マスターのメディカルチェックは医務室のモニターからするから、ロマンが作業傍らでちょっぴりモニターで君の部屋を覗いてたんだよ」

「…………………」

「お~い、聞いてるのかい?」

「………因みに見たのはダヴィンチさんだけですよね?」

「いや、動画を焼き増しして職員に配り終えたとこだけど」

「何しとんですかアンタはぁ!!!!!!!」

 

 

 てことは、私が歌いに歌った約十曲がカルデア内で聴かれていると!?

 あまりの恥ずかしさに悶死してしまいそうだよぉ!!!

 

 

「ハハッ!やっと明るい顔になったね、君!」

「え…………あ、」

「君、帰ってきてからずーっと塞ぎ込んでてみんな心配してたんだよ?」

「……流石に立ち直り憎いですよ。

 自分のせいで………所長が死んだんですから」

 

 

 今でも瞼の裏に所長の顔が、カルデアスに呑み込まれる時の所長の顔が明確に浮かんでくる。

 あの時、別の行動を起こしていれば所長が死ぬこともなかったのかもしれない。

 そう思うと、自分のしたことに自分自身が潰されそうになる。

 

 

「ん~、あの状況ではアレが最善だって私は評価してるし、どうせあの状況からオルガマリーを救うことはできなかったよ」

「でも、もしもの解決策が他にあったら」

「あの子はね、生まれながらに才能は人一倍持っていた。

 けれども、どうしてかレイシフトの適正だけは持っていなかった。

 そこで私はモニター越しでロマンが格闘する最中に管制室に行ってみたんだ。

 ………そこで私はオルガマリーの身体を見つけた」

「……………え?」

 

 

 それはおかしい。

 何故ならあの時、所長は私達と共に冬木にいた。

 なら、所長の肉体は管制室内には存在しないはずだ。

 

 

「正確にはオルガマリーの欠片を見つけたんだ。

 あの爆発、どうやら彼女の真下が爆心地のようでね。

 …………指一本しか残っていなかったよ」

「……………」

「だから私は確信した。

 トリスメギストスが彼女の残念粒子を検知し、それをレイシフトによって冬木に送ったんだ。

 レイシフトは霊子化した魔術師、サーヴァントを過去に送る装置だ。

 故に肉体のなくなったオルガ・マリーはそこで初めて、念願のレイシフトの適正を手にいれたんだ」

「…………………」

「結論から言うと彼女と初めて冬木であった瞬間、いや、彼女が冬木の地を踏んだときからこの結末は定められていたんだ」

「…………そうだったんですか………」

 

 

 何だか自分の悩みが全部吐露だったと一瞬感じたがすぐに打ち消した。

 所長のことは忘れるわけにはいかないだろう。

 所長のためにもこの私に課せられた使命を果たさなければならない。

 

 

「ダヴィンチさん、ありがとう。

 私、少し立ち直れた気がします」

「い~よい~よ、それにさん付けじゃなくてちゃん付けでい~よ♪

 マシュやロマンは医務室にいるから行ってきなよ」

「アリガト!ダヴィンチちゃん!」

 

 

 ダ・ヴィンチちゃんにお礼を言って、私はマイルームから駆け出して医務室へと走って行った。

 廊下で職員とすれ違う度に声をかけられる。

『頑張れ、歌姫!』『青春を謳歌しなさいよ!』『歌姫、よくやった!』『歌姫!』『新曲待ってるぞ、歌姫~』

 ………やっぱりダ・ヴィンチちゃんを一発ぶん殴りたくなった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………やれやれ、凡人のカウンセリングは天才の仕事じゃないんだけどねぇ」

 

 

 ダヴィンチは肩をすくめて、腰掛けていたベッドから立ち上がった。

 そして、改めて彼女の部屋の惨状を見渡した。

 

 

「ん~~、結構汚れちゃってるけど、まだまだ綺麗にできる範囲内だね。

 天才が隅から隅まで綺麗にしてあげるのだありがたく思いなよ、人類最後のマスター!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 

 医務室ではマシュがロマンに簡易的な検査を受けていた。

 生まれた経緯から少し病弱なマシュだったが、今回のデミ・サーヴァント化により体力、筋力が上がり健康的な水準まで検査結果が上がっていたのだ。

 ロマンとマシュが談笑し合っていると医務室の扉が開かれ、藍華がマシュの背に向けて飛び込んできた。

 

 

「マ~シュ~~~!!!!!!」

「うひゃあ!せ、先輩驚かさないでくださいよ……」

「ゴメンゴメン、でもマシュが元気になってくれて良かったよぉ…」

「その点で言えば、今のマシュは以前よりも健康的な身体になってるよ。

 デミ・サーヴァント化による影響だけど、これは良い弊害だったね」

「あ~、戦闘前の事前警告が遅いドクターじゃないですかぁ……

 私決めましたよ、人理修復、してやろうじゃないですか」

 

 

 その言葉にロマンは目を見張ったが、すぐにいつもの柔らかい目に戻った。

 マシュも肩越しに私の方を見てくる。

 その目には私に対する『信頼』と『羨望』が込められていた。

 

 

「人理を、人類の未来を取り戻す大仕事、やらせてもらいます。

 私にできることがそれなら、私は全力で頑張ります!」

「そうか、分かったよ………衣碕 藍華君」

「ハイ!」

 

 

 ロマンが居住まいを正したので、私もマシュの背中から離れて踵を揃えて真っ直ぐに立つ。

 

 

「これよりカルデアは前所長オルガマリー・アニムスフィアか予定していた通り、人理継続の尊命を全うする。

 目的は人類史の保護、及び奪還。探索対象は各年代と、原因と思われる聖遺物・聖杯。

 我々が戦うべき相手は歴史そのものだ。君の前に立ちはだかるのは多くの英霊、伝説となる。

 それは挑戦であると同時に、過去に弓を引く冒涜だ。

 我々は人類を守るために人類史に立ち向かうのだから。

 けれど生き残るにはそれしかない。いや、未来を取り戻すためにはこれしかない。

 ……たとえ、どのような結末が待っていようとも、だ。

 以上の決意を持って、作戦名はファーストオーダーから改める。

 これはカルデア最後にして原初の使命。

 

 人理守護指定・G(グランド).O。(オーダー)

 

 

 ロマンはそこで一度言葉を切って、力強く続けた。

 

 

「魔術世界における最高位の使命を以て、我々は未来を取り戻す!!」

 

 






書き切りました、第一部完!(違います)
次のオルレアンに入るのは少し先になると思います。
少し妄s……想像力を膨らませないといけないので(竜種対策等)

こんな駄文を見てくださってる皆様、本当にありがとうございます!

これからもFate/Crossing Orderをよろしくお願いします!!!!!


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幕間の物語 序章→→→第一章



お久しぶりです、傘沙羅です。
この前の連続投稿から少し開きました。
息抜きを兼ねた幕間です
次回からは第一章に入りたいと思います!


それではどうぞ!



 

 

 

 

『………お~い、藍華。早く起きなよ』

 

 

 目を開けると、そこは何もない真っ白な部屋の中だった。

 だけど、この部屋には見覚えがある。

 この部屋に私が初めて迷い込んだのは魔術の存在を知覚した頃、私が身の回りから迫害を受けていた頃だった。

 それから何度もこの部屋には来ている。

 当然、この声の主のことも知っている。

 

 

「……久しぶりだね。それにその喋り方、逆に不自然だよ」

『………クックック……ヤハリソウカ、些カ芝居ヲウッテハ見タノダガ』

 

 

 私が声を発すると黒い影法師が私の影から離れて、私の目の前で立ち上がった。

 全身が墨で塗られたように真っ黒で目と口が白い空洞となって、今は目と口を三日月のように歪めている

 

 

「で、アンタが私の夢を弄ってまで出てきた理由から聞こうか」

『相変ワラズ話ガ早クテ助カル、オマエガアノ特異点デ力ヲ使ッタコトニツイテダガ………』

「………大丈夫、アノ時ほどのダメージは無いから。

 アンタ、見た目に似合わず心配性なんだねぇ」

 

 

 すると、影法師がその身体を震わせながら笑った。

 

 

『ハッハッハ!!!オレヲソンナ風ニ、カラカエルノハオマエクライダロウ。

 このオレガ他人ヲ心配シテイルヨウニ見エルカ?』

「見えるよ、アンタにとって私は大事な依り代なんでしょ?」

 

 

 しかし、私の言葉を聞くと影法師は嗤うのを止めた。

 

 

『ソノ話ハ、マタ別ノ機会ダ』

「おい、露骨に話を反らすなよ」

『用件ハモウ済ンダ。モウ、ココニイル必要モナイダロウ』

「いきなり呼びつけておいて、それはないでしょ。

 あ、ちょっと!マジで私を弾き出すつもり!?

 待って、まだ話は」

 

 

 そこで、私の意識は絶ちきられた。

 次に目を開けたときには、カルデアのマイルームのベッドの中だった。

 

 

「くっそ~、自分勝手すぎるだろアイツ!」

 

 

 思わず私は愚痴を溢した。

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「?カルデアの調理師ですか?」

 

 

 私はカルデアの食堂で皿を洗いながらマシュにこのカルデアの食堂事情について聞いた。

 今朝の一件から心を入れ換えて、食堂で朝食を……取ろうとしたのだが調理師がいなく仕方なく自分で軽めの朝食を食堂で合流したマシュの分を合わせて二人分作った。

 といっても、簡単な炒飯ぐらいだったけど。

 

 

「カルデアは国連直轄の研究機関なので、皆さん食事は大抵サプリメントや栄養食ぐらいで済ませています。

 そもそも料理のできる人が少数なので食材が余ってしまう始末です」

「うわ~、確かにドクターも少し痩せぎみだからなぁ。

 なんか差し入れでも作っていこうかなぁ」

「……職員全員分が必要になりますよ?」

「たかが女子校生の手料理にそこまでマジにならなくても……」

 

 

 カルデアの食事情に幻滅していると、食堂の入り口からマリアさんとめぐみんが入ってきた。

 マリアさんの髪が少し濡れているから、シャワーでも浴びてきたのだろう。

 

 

「マリアさん、めぐみんオハヨー」

「朝から元気ねマスター。朝食は何処で取れば良いのかしら」

「あ~、セルフサービスでよろしくお願いします」

「な、カルデアはそんな不憫な所だったんですか!?

 私帰ります、座に帰ります!」

 

 

 そんな事を言うめぐみんを放っておいて、マリアさんのためにもう一度食堂の調理場に入って炒飯を作る。

 当然その匂いに刺激されためぐみんが食い付いてくる。

 

 

「マ、マスターさん!私の分もありますよね!?」

「あ、めぐみん座に帰るっていってたからマリアさんの分しか作ってないよ」

「何でですかぁ!?帰るのやめますから作ってくださいよぉ!」

「……それで良いのか英霊」

「空腹とひもじさにはどんな者でも勝てません!」

 

 

 そんなこんなでめぐみんの分も作ってあげることにしたけど、流石に毎朝朝食を作るのも苦労する。

 しかも自分で言ってはなんだがレパートリーが少ないから、流石に飽きるし………!

 

 

「そうだ、料理人のサーヴァントを召喚しよう!」

「……マスター、貴方サーヴァントを何だと思ってるの?」

「ですが先輩、現代料理に精通した英霊というのはあまりにも少なすぎるのでは……」

「何とかなるなる!そんじゃ早速召喚ルームに急ぐとしましょうか!」

 

 

 食堂を足早に飛び出し、ドクターとダヴィンチちゃんから英霊召喚に必要な呼符を一枚づつ貰って……

 ーーーいざ召喚ルームへ!!

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

 

 カルデアの召喚ルームには『フェイト』というマシュの盾を代用したのとは違う、きちんとした召喚システムの基盤が鎮座していた。

 

 

「さてと、勢い半分でここまで来たけど料理人のサーヴァントとか実際にいるだろうけど、来てくれるかなぁ」

「かなり確率は低いですけどゼロではありません。

 頑張りましょう!」

「ありがとう、マシュ。めぐみんとマリアさんも同行しますか?」

「私は一応マスターの護衛も兼ねて一緒にいるわ」

「………(ハグハグハグ)」

 

 

 めぐみんは食堂から私の炒飯を皿ごと持ってきて頬張っている。

 召喚ルームにパラパラの米を撒かないように。

 

 

「まずは一投目をシュート!!」

 

 

 ダヴィンチちゃんから貰った分の呼符を『フェイト』の召喚サークルに投げ込む。

 すると聖晶石と同じように呼符が弾け、召喚サークルの上に三本の光輪が発生した。

 以前の冬木の時に分かったことだけど、どうやら光輪が三つでサーヴァントが、光輪が一つでそれ以外が出てくるのが召喚の決まりのようだ。

 はたして、光輪の内側から光の柱が立ち一人の小柄な少年が現れた。

 身長はめぐみんと同じぐらいかそれより少し高いぐらいで、体格はグリーンの大きめのジャケットを来ているから判別は難しい。

 だけど、一番異質なのは彼の目だろう。

 そこには一切の感情が見えず、ただの虚のように空っぽで見ていると少し怖くなってくる。

 

 

「…………アンタ誰?」

「私は衣碕藍華、ただの魔術使いだよ。貴方の名前は?」

「俺?………三日月・オーガス」

「そっか、じゃあ『ミカ』、よろしくね」

 

 

 私がそう言って握手しようと右手を差し出すと彼は一度持ち上げかけた右手を見てから、私の右手を握った。

 私は正直驚いた。ミカの腕はとてもゴツゴツしていて力加減を調節してるようだけど若干痛く感じる。

 めぐみんもそうだけど、サーヴァントって異質な子供達の含まれてるんだなぁ、と私は思った。

 ………そして今一番の最優先事項をミカに聞いた。

 

 

「そういえば、ミカは料理できるの?」

「料理?アトラにいつもして貰ってたから、やったこと無い」

「オウ、その歳で彼女持ちなんだミカ……」

 

 

 ミカの返答に別方向のダメージを受けながらも気を取り直して…………

 

 

「続いて、ニ投目をシュート!!」

 

 

 次はドクターから貰った呼符を召喚サークルに放り込む。

 先程と同じように三本の光輪が発生した。

 

 

「良かったぁ、手持ち最後の召喚って、何気にトラウマなんだよねぇ」

「確かにあの時のマスターの顔は決して人には見せられない物だったわね」

「まるで異端審問にかけられたある冒険者のような顔でしたよ」

「めぐみんとマリアさん、少し黙ろうか」

 

 

 軽いフラッシュバックが起きそうな精神状態の中でサークルから出てきたのは…………

 

 

「……サーヴァント・アーチァー、召喚に応じ参上s『ガァァァアアア!!!!!!!』ヌゥ!?」

「「「先輩(マスター)!?」」」

 

 

 貴様は……キサマはぁ……私の敵だぁ!!!

 魔術により身体能力を強化、懐にしまってあった斬り抉る戦神の剣を取りだし切れ味と強度を付与。

 今世紀最大の殺意と魔術の無駄遣いをこの手に、この手刀に乗せてあの皮肉顔のアーチァーの心臓を貰い受ける!!

 だが、後少しでアーチァーに触れられる所で不武装したマシュとマリアさんに取り押さえられた。

 

 

「Aaaaaacherrrrrr!!!!!!!!!」

「先輩!止まってください!」

「離せマシュ!私にはアイツを、この憎たらしい程の皮肉顔を全面的に押し出してくるアーチァーを殴らなければならない義務がぁ……使命があるぅ!!」

「貴方、魔術使ってたわよね!?殺す気だったでしょ!」

「大丈夫です!たかだか致命傷です!」

 

 

 後少し、後数センチでアイツの胸を抉れるのに!

 このもどかしい気持ちを何処にぶつければいいのか、そうだアーチァーにぶつけよう!!

 

 

「……ァァァァァアア!!!!!!」

「クッ!先輩、すいません!」

「…ガッ、!」

 

 

 お、おのれマシュ、よもや後頭部を盾で殴るとは………

 

 

 

 

 

 

 

 ⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛⬛

 

 

 

 

「………と言うことがありまして、マスターには少しだけ大人しくして貰っています」

「ありがとう、めぐみんくん。

 しかし…………どうして藍華君の親指と足首をロープで結んで、しかも猿轡なんてつけてるんだい?」

「~~~~~~~~~!!!」

 

 

 召喚ルームでの一幕から少しだけ時間が過ぎ、昼頃になるとカルデアの食堂は朝と比べて明らかに活気付いていた。

 職員が代わる代わるに席を立っては座り、調理場のカウンターにはそこそこ長い行列ができている。

 互いに談笑しながら食事をする職員達にその当事者である、アーチァーとマリアが笑みを浮かべる。

 

 

「やれやれ、何処に言っても料理と言う物の力は凄まじいな」

「仕方無いじゃない、皆ちゃんとした食事にありつけたことが最近なかったんでしょう。

 嬉しそうに食べてくれるわ」

 

 

 アーチァーとマリアが並び、調理場で職員に注文されたものを手早く作っていっている。

 マリアは朝食を作ろうとしたことからある程度は料理が出来ると踏んでいたが、アーチァーの料理は家庭で出されるソレを遥かに凌駕していた。

 いくつもの調理器具を使い分け、プロ顔負けの料理を次々と造り出す姿は英霊にはまるで見えなかった。

 もはやシェフの領域だ。

 

 

「~~~~~!、~~~~~!!!!」

「……マシュさん、そろそろ猿轡だけでも外しましょう」

「……それもそうですね。先輩、失礼します」

「~~~プハァ!マリア、アーチァーに私の分の親子丼頼んでおいて!」

「「え、そっち(ですか)!?」」

 

 

 どうやら藍華は全て水に流したらしい。

 その後も、アーチァーから貰った親子丼を他の職員と談笑しながら平らげていった。

 昼食時が過ぎ、あらかた人がいなくなったところで藍華はサーヴァント全員をひとつのテーブルに集めた。

 

 

「さてと、それじゃ改めて自己紹介でもしよっか。

 まずは名前と出身から……私は衣碕 藍華、魔術使いです」

「マシュ・キリエライト、カルデアの職員兼フォウさんのお世話係です。

 こちらがフォウさんです」

「フォウ!……キュウ?」

 

 

 マシュがテーブルの脚に隠れていたフォウくんを持ち上げる。

 めぐみんの視線がフォウくんに鋭く突き刺さる。

 

 

「次は私ね。マリア・カデンツァヴナ・イブ、セイバーのサーヴァントよ。

 出身は米国で一応歌手よ」

「あ~、だから戦闘中に歌なんて歌うんだ」

「それは私の宝具の発動に歌が必要だからよ。

 昔は歌わなかったら戦うことすらできなかったのだけど………」

「マリアさんの宝具については後ほど聞くとして、次はめぐみん」

 

 

 するとめぐみんがいきなり席から勢いよく立ち上がった。

 

 

「我が名はめぐみん!

 紅魔族随一の魔法の使い手にして、最強の攻撃魔法『爆裂魔法』を操るアークウィザード!」

「はい、めぐみんはこんな感じの子だから皆気にしないでねぇ」

「マスター、流石に私の扱いが雑すぎませんか!?」

「はい次~『マスター!』」

「私か…………私は名もない英雄でね、私のことはアーチァーとクラスで呼んでくれ」

「じゃあアーチァー、詰まんないからやり直し」

「………これはただの自己紹介じゃなかったのか?」

「細かいことは気にしない気にしない」

 

 

 アーチァーは呆れたように首を竦めて苦笑いする。

 しかし、少し考える素振りを見せてから再び口を開いた。

 

 

「…………訂正しよう、私のことは『エミヤ』と呼んでもらっても構わない」

「そっか。じゃあエミヤ、これからよろしくね!」

「あぁ、マスターの期待に応えれるよう全力を尽くそう」

 

 

 少し芝居がかった言い回しでアーチァーがーーーーエミヤがニヒルに笑う。

 藍華は最後の人物にお題を投げかけた。

 

 

「そんじゃ、次はミカの番だよ」

「ん、三日月・オーガス……………」

「………………………それ以上の何かは無いの?」

「うん、別に特別な役割なんて無いし」

「そっか……今はそれでいいか!それじゃ改めて!

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 皆、ようこそカルデアへ!」

 

 

 

 

 

 

 






さてとこれで鯖化三体目、鉄華団の遊撃隊長です!

ステータスは筋A(EX)敏D(A)魔D耐C(EX)幸C宝EXとなってます。
()ないは宝具発動時のものです。
宝具は………まぁ分かりますよね♪

そして我がカルデアの弓引き(?)隊長のエミヤさんです。
とてもお世話になってます、全体バスターマジで最高です。
これでカルデアの食事情は解決です!(材料難は除く)


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第一特異点 一幕目

 

 

 

 

 

 

 

「………という事で、一つ目の特異点へのレイシフトの準備が整ったとのことなので、早速出発しようと思います」

 

 

 ファーストオーダー終了から約一週間経ち、いよいよグランドオーダー………人理修復への第一歩が今まさに踏み出されようとしている。

 カルデアスのある管制室には私を含めた出撃メンバーが揃っている。

 制御室ではオペレーターや職員が忙しく動き回っているのが見てとれる。

 

 

『……え~、藍華君、聞こえるかい?』

「聞こえてますよ、ドクター」

 

 

 管制室のスピーカーからドクターの声が聞こえてくる。

 

 

『まずは、現地に到着したら霊脈のある所に冬木の時と同じようにサークルを設置してほしい。

 そうすればこちらからの援助もしやすくなるし、君の意味消失も高確率で防ぐことが出来る』

「前回と同じくですね、分かりました」

 

 

 他の英霊の皆はサークル設置後に召喚されるらしく、まずはマシュとそれぞれのコフィンに入る。

 

 

『アンサモンプログラム スタート………

 

 

 

 

 

 

 

 

 グランド オーダー 実証を開始します』

 

 

 

 ■■■■■■■■■■■■■■

 

 

 

 

 

 

 

 

 「━━━━レイシフト、成功したみたいだね」

 「そうですね、先p……いえ、マスター」

 「……………………………」

 

 

 軽い浮遊感を覚え、目を開けてみると私は広大な草原に仰向けで寝ていた。

 青い空には、形を変えながら流れていく雲と白銀に光り輝く円環が浮かんでいた。

 隣を向くとマシュとミカが同じように寝ていた。

 

 

 「マスター、そろそろいいかね?」

 「ん……ごめんねエミヤ、少しぼーっとしてた」

 「なに、気にする事はない」

 「それよりも何にもないですねぇ、民家どころか人っ子一人見えませんよ」

 

 

 立ち上がって振り返るとエミヤとめぐみんが周囲を見回しながら近づいてきた。

 その奥で変身後のマリアさんが白い装束についた草を払っている。

 どうやら全員揃っているようで安心した。

 

 

 「さてと、まずは前にもした拠点づくりをしなきゃだよね?」

『そうしてくれ、サークルが設置できれば此方からの支援がしやすくなるし観測も安定する。

 なるべく大きな霊脈の上に設置してほしいね』

 「分かりました、みんな行こっか!」

 

 

 事前に貰った資料によれば今は百年戦争の休戦時期のようだから、いきなり鉛玉や砲弾が飛んでくることもないそうだ。

 …………でもそれは正史の常識であって、この特異点では通用しないのかもしれない。

 それも踏まえて移動する必要もある。

 

 

 「とりあえず、まずは人探しからだね。そこからこの時代にある聖杯の所在を突き止めないとね!」

 「でもマスター、こんなに広い草原を見渡しても人影が全くないわよ?」

 「所々に丘陵もあったりしますので相当移動しなければいけませんね」

 「私疲れるの嫌なので、マスターさんおんぶして下さい」

 

 

 約一名ほどサーヴァントとは思えない発言をしたのもいるけど、確かに人影が全くと言っていいほどない。

 

 

 「エミヤ、遠くの方に人影とか見える?あの丘の方とか」

 「残念だか、木陰で穏やかに寝ている野兎の親子しか私には見えないな」

 「…………………なんかいる」

 

 

 ふと、これまで話しに入って来ないで寝ていたミカが声を出した。

 そしてそのまま起き上がって北東の丘の向こうを指差してからこっちに向き直った。

 

 

 「あっちの方に並んで歩いてる奴等がいる」

 「ミカ、そんな事分かるの?」

 「………何となく」

 「何となくですか、マスターひとまず三日月さんの示した方角に行ってみましょう」

 

 

 ミカを先頭にして北東の丘陵に向けて私達は歩き出した。

 下は短い草が生い茂っていたけどそこまで苦にはならなかった。

 これからの戦闘での役割を話し合ったり、それぞれの思い出話を順番に聞いたり、背中に乗ろうとしためぐみんの眼帯をスパーキングさせたりしながらとりあえず丘陵を越えた。

 すると目の前には1本の道に隊列を組んで歩いている甲冑姿の団体を見つけた。

 

 

 「あ、アレかな?ミカが感じ取ったのは」

 「本当にいたとはな……あの距離で地形の影にいる兵士たちに気づくとは、凄まじい索敵能力だな」

 「そう?普通でしょ?」

 「取り敢えずあの人達に聞き込み調査でもしてみようか」

 「マスター、フランス語話せるんですか?」

 

 

 痛いところを突かれてしまった、流石は我が後輩。

 フランス語なんて習ったこともないし、そもそも海外旅行(カルデアを除く)なんてものにも言ったことないし。

 英語に関しては平均的な成績だし、そもそもここで英語って敵国語なんだよね?

 下手したら即打首?

 

 

 「分かったわ、マスターはちょっとここで待っててちょうだい」

 「マリアさんフランス語喋れるんですか?」

 「私……こう見えても国家エージェントだから」

 

 

 そう言ってマリアは変身を解いて兵士たちの方へ歩いていった。

 遠目から見ているといきなり現れたマリアさんに兵士たちが各々の武器を突きつけた。

 しかしマリアさんが話しかけ始め、次第に彼等も武器を下ろし互いに会話をし始めた。

 暫くしてマリアさんが兵士たちに手を振りながら戻ってきた。

 

 

 「おぉ、流石国家エージェント」

 「自分で言ってはみたけどそこまで大それたものじゃないわよ。

 それでだけど、彼等から聞いた話だと今このフランスは戦争の真っ只中らしいわ」

 「……それは妙だな。この時代、ジャンヌ・ダルクが既にイギリスに引き渡されたならこの戦争は粗方終わっているのではないか?」

 「そうなのだけど、なんだか話によるとそのジャンヌ・ダルクが邪竜を率いて蘇った、との事らしいわ」

 

 

『ジャンヌ・ダルクが蘇った』

 普通なら有り得ないはずの出来事、死者が生き返ることなんてこんなに大昔ではまず考えられない。

 そうすると、恐らくそのジャンヌ・ダルクの一件には聖杯が絡んでる可能性が高い。

 

 

 「マリアさん、それで蘇ったジャンヌ・ダルクは今どこにいるって?」

 「どうやら、オルレアンの城に大量の竜種と共に君臨しているそうよ。

 中でもとてつもなく強大な竜種がいて手出しができないらしいわ」

 「マスター、どうします?

 その城ごと我が爆裂魔法の餌食にスイマセンスパーキングダケハヤメテクダサイ」

 

 

 よろしい、しかし一筋縄では行きそうにないなぁ。

 今のメンバーだと消耗戦になると不利になる一方だし、でもその強大な竜種ってのがどんなものかも分からないんじゃ━━━━━━

 

 

 「━━━━━━━━来る」

『愛華君、今すぐ戦闘に備えてくれ!高速で接近してくる神秘の群れがそこに迫ってくるよ!』

 

 

 ミカとドクターの警告を受けた数秒後に兵士たちが慌て始め、東の空を指差し始めた。

 地平線の彼方から空を背に黒い影が何十も飛んでくる。

 色は緑に赤に黒と色とりどり、しかしいずれもが鋭い双眸と牙、長い尾、そして大きな翼を広げて飛翔してくる。

 

 

『ワイバーンだ!』

 「エミヤとマリアさんは兵士たちのフォローに行って!

 マシュとミカは私と、めぐみんは待機で!」

 「先程から私の扱いが酷すぎませんか!」

 「つべこべ言わずに動いた動いた!」

 

 

 群れは此方に六割、兵士たちの方に四割ぐらいに分かれて飛んでくる。

 マリアさんとエミヤが駆け出すと同時に腰に差してある、前もってエミヤに投影して貰った莫耶を構える。

 右手には左手で持った莫耶の強度と切れ味を付与して、顔の横で構える。

 

 

 「マシュ、守りは任せた!ミカはなるべく相手の翼を狙ってね!」

 「分かりました!

 マシュ・キリエライト、戦闘を開始します!」

 「わかった」

 

 

 ミカの撃つ拳銃の発砲音を背に低空飛行している一匹の噛みつきを身体強化した敏捷性で躱し、柔らかそうな喉元に莫耶を振り下ろす。

 エミヤ製の武器はそのまま喉元を一文字に切り裂き、ワイバーンがバランスを崩して地面に叩きつけられるようにして沈む。

 上空にいる何匹かのワイバーンにミカの射撃が命中し、暴れながら高度を下げてくる。

 そこへマシュが盾の縁を脳天に叩きつけ、地面に沈める。

 うん、我が後輩ながらアグレッシブ。

 

 

 「よし、このまま押し切るよ!」

 

 



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