書士隊活動録 (まさ(GPB))
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アリシア編 1 ―長い一日の始まり―

2017年1月5日に王立古生物書士隊botが5周年を迎えます。
そこで新たに、書士隊の活動をオムニバス形式で書く事にしました。

第一弾はbotに登場しない小説オリジナルのアリシアさん。
アリシア編は4話ほどの予定です。


砂原(すなはら)(昼)・エリア4―

 

「――気を付けろよ?」

心配そうな声音で私にそう言う兄さん。

「ガンナーである私に、ボルボロスは相性のいい相手ですよ?」

「フッ、そうだったな。それじゃあ、行くか!」

「はい!」

岩陰から飛び出した兄さんはドスジャギィへ向かい、私もアイシクルボウⅡに矢をつがえて弓弦を最大まで引き絞ります。

「さぁ、こっちに来なさい!」

兄さんがドスジャギィに攻撃すると同時に、私もボルボロスの背後から矢を()っていきます。

 

乾燥した大地に僅かに吹く風と体力を奪う強烈な日差し。

ボルボロスの狩猟と砂原の調査依頼を受けて、私たち兄妹は砂原に来ています。

この日は忘れられない程、とても長い一日になりました。

 

申し遅れました。

私はアリシア。砂漠の街ロックラックを主な活動拠点とするハンターであり、それと同時に王立書士隊の一員でもあります。

兄のカイルは書士隊員ではなくただのハンターですが、たまに私の仕事を手伝ってくれます。兄さん大好き。

……コホン。今回の依頼は書士隊としての仕事の一環で、砂原近辺に中型・大型モンスターが複数確認されたと報告がありました。そこで調査を兼ねたボルボロスの狩猟依頼が出されました。

この報告があったのは今朝の事です。

 

× × ×

 

―ロックラック・ゲストハウス―

 

まだ日が昇りきっていない早朝、私はハンターズギルドに呼ばれ、ギルドマスターから依頼を受けました。

準備のためにギルドから戻ると、丁度そこへ兄さんが起きてきます。

「兄さん、おはようございます」

「あぁ、おはようアリシア。こんな早くにどうしたんだ?」

「はい。ここ最近、砂原で大型モンスターの目撃報告が多く挙がっているのですが、先程その砂原での狩猟依頼を受けてきました」

「確か……モンスター達が活発になって縄張り争いが頻発してるとかで、狩猟環境がかなり不安定になってるんだよな?」

朝食を食べながら兄さんが聞いてきます。……なんだかいつもより食べるのが早い様な?

「……ええ、そうです。そこで現地調査を兼ねたモンスターの狩猟を、ギルドマスターから頂きました」

「なるほど、直々にアリシアが指名された訳だ」

兄さん?

「何だアリシア、行かないのか?」

「もちろん行きますが……いえ、それよりも兄さん。なぜ狩りの準備をしてるのですか?」

「俺も行くからに決まっているだろう?」

あぁやっぱり……。最初から誘うつもりではありましたけど。

そう言って兄さんは、ここロックラックで作った愛用の防具、レウスGシリーズを着始めました。

現在では滅多に見る事がない“G”を冠された防具。レウスシリーズに強化を重ね、上位のリオレウスを狩猟した証でもあります。

「兄さん、いつも使ってるヒドゥンサーベル改が見当たりませんが、どうしたんですか?」

「それなら強化の為に工房に預けてある。そろそろ出来てるだろうから、今から取ってくるよ。酒場で待っててくれ」

そうして兄さんは工房へ。

私も早く準備に取り掛かりましょうか。

武具は以前バルバレに訪れた際に作った物で、武器はアイシクルボウⅡ、防具はジンオウSシリーズを装備します。

アイテムは出発前に、砂原の状況をギルドマスターに確認してから、必要な物を選びましょうか。

それでは、私は兄さんを待つためにギルドの酒場へ向かいます。

 

     ◇

 

―ロックラック・ハンターズギルド―

 

まだ人が少ない酒場で兄さんを待っていると――

「あれ、アリシアちゃん?」

と、聞き覚えのある男性の声が。

「あなたは確か……兄さんのご友人の……ガルフさん、でしたね?」

「覚えててくれたのか! いやぁ、嬉しいねぇ!」

声の主は兄さんの友人であるガルフさん。ハンマーを扱う上位ハンターです。

以前、兄さんの狩りに同行した時にガルフさんもご一緒だったのですが、凄く目立ってましたね。煩くて。

「兄さんのご友人の中で、ガルフさんほど賑やかな方はいませんから」

「そうかそうか! はっはっは!!!」

朝から煩いです。静かにしてください。まだ寝てる人だっているんですよ? ほら、受付嬢もこっちを睨んでるじゃないですか。

「それはそうと、アリシアちゃんは今からカイルと狩りかい?」

「……はい、そうです。まさか、ガルフさんも一緒に行きたいんですか?」

「いやぁ、ホントは一緒に行きたいんだけど、実はさっき狩りから戻ってきたばかりなんだよ」

なるほど、夜の狩りで余計にハイテンションだったんですね。

「なら今からお休みになるんですね」

「そう言う事。もう眠くて眠くて……ふぁぁぁ~」

今にも寝そうですね。早く帰って寝ればいいのに。

「……大丈夫ですか?」

「そろそろ限界かも……。じゃあ俺は帰るよ……おやすみ~。くぁぁぁ~」

「はい、おやすみなさい」

ガルフさんはふらついた足取りで、宿屋通りの方へと消えていきます。

……極限の睡魔は、煩い人も静かにさせる。良い事ですね。

 

ガルフさんと別れ、暫く待っていると兄さんが工房の方から出てきました。

「すまない、また待たせたな」

「いいえ、大丈夫ですよ。武器の強化は無事に済んだんですね」

「あぁ。夜刀(やとう)月影(つきかげ)】、素晴らしい業物だ」

自慢げな声で強化したばかりの太刀を見せてくれる兄さん。こういう所は少年のようで、少し可愛いです。

各工房の情報共有や技術の向上によって、現在はこのロックラックでも、他の街のような武器が出来るようになりました。

それでも街の工房や村の加工屋によって、武具の性能に僅かな差が出たりします。なのでハンター達は各地の街などへ行って、自分に合った装備を作る訳です。

今でも職人に頼めば、そこでしか出来ない武具を作ってくれます。最近はロックラックでしか作れない装備も珍しいんですよ。

例えば、今近くのテーブルに座っているハンターが装備しているスラッシュアックス、ディーブレイク援。ロックラックではディーエッジから強化する際に攻、援、輝の3種類が選べます。

攻は攻撃力が高く、援は装飾品のスロットが多く、輝は会心の一撃が出やすい。と、他では見られない強化が出来るのです。最終的には、天か剛の2種類しか選べませんが。

他にも、ガンナーの武器では組み立て式ボウガンとミドルボウガンですね。どちらもロックラックでしか作れません。

防具は兄さんが装備しているようなG防具。今ではタンジアやドンドルマで見られるS防具やU防具もありますが、G防具も強化で作る事が出来ます。

私もこのジンオウSシリーズを作る前はレイアGシリーズでしたが、その話はまた別の機会に。

「その太刀の性能は砂原で存分に発揮して頂きます。では兄さん、そろそろ」

「そうだな。では早速――」

「ギルドマスターから現在の砂原の状況を聞きます」

「……そう言う事は先に言ってくれ」

出鼻を挫かれてガッカリしてる兄さん。意外と良いですね……。

 

「おぉアリシア殿。それにカイル殿もご一緒ですか」

ギルドの受付カウンターに向かうと、ギルドマスターが私達に気付いて声をかけました。

「はい。これから砂原に出発します。そこで現在の状況を伺いたく」

「うむ、依頼目的の土砂竜(どしゃりゅう)はまだ砂原におりますが、付近で狗竜(くりゅう)のボスと群れを確認したようですな」

「日が昇って、巣から出てきた訳ですね」

「昨晩までは雌火竜(めすかりゅう)も確認されとりましたが、既に砂原を離れた様子。戻ってくる事もないでしょう」

「気が変わったのか、(ある)いは別の理由か……」

考えるように兄さんが言います。

「リオレイアが砂原を去った理由は、現地に行ってみないと分かりませんね」

「……そうだな」

するとギルドマスターがもう一つ、気掛かりな事があると言いました。

「砂原の近辺で竜巻を目撃した、という話も上がってきておりますな。まだ正確な情報ではありませぬが、お気を付けて」

「分かりました」

ギルドマスターから砂原の状況を聞き終えると、私が先に受けていた依頼書に兄さんの名前を書き加え、持っていくアイテムの準備に掛かります。

普段のアイテムに加え、消散剤やクーラードリンク、念の為にホットドリンクもポーチに。目標はボルボロスの狩猟ですが、調査がメインの依頼なので、夜までかかる可能性もありますからね。

「兄さんもホットドリンクを忘れないで下さいね」

「ああ、分かった」

この他にも、アイシクルボウⅡに装着出来るビンを専用ポーチに、調合用の空きビンと材料も持ちます。

罠や爆弾は使わなかった場合、不要な荷物になるので今回は置いていきましょう。

「準備出来たぞ」

「こちらも終わりました。それでは行きましょうか」

「よし」

互いに装備やアイテムの確認をして、砂上船の発着所へ。手続きをして、中型の砂上船に乗り込み、砂原に向けて出発します。

 

× × ×

 

―砂上船・甲板―

 

ロックラックを出発してから数時間。

すっかり日も昇り、強烈な日差しが私たちを襲い始めます。

「そろそろ砂原が見えてくる頃ですね」

「ああ……ん? アリシア、あれは何だ?」

「え?」

兄さんが不思議そうに見上げる方向に目をやると、飛竜らしき生物が見えました。

ギルドマスターの話では、リオレイアは砂原を離れ、戻ってくる様子もなかったはず。そう思いながら目を凝らすと、その飛び方からリオレイアではないのが判ります。

あの四足歩行の飛竜特有の飛び方は……。

「……ティガレックスか?」

兄さんはその飛竜をティガレックスだと判断したようです。

確かにティガレックスは、この砂原に現れる事があります。しかし、ティガレックスにしては飛び方が優雅と言いますか、しなやかと言いますか……。

(いず)れにせよ、まだかなり遠い為、あの飛竜が一体何なのかは判別出来ません。

「向こうは気付いていないみたいですね」

「ああ、このまま素通りしてくれれば良いんだがな」

……兄さん、あまりそういう事を言うのは止めて欲しいのですが。

 



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2 ―熱砂の土砂竜―

お待たせしました。アリシアさんの2話です。
当初4話の予定でしたが、長くなりそうなので何話で終わるかは未定になりました。


砂原(すなはら)(昼)・拠点(ベースキャンプ)付近―

 

「もうすぐ拠点だな」

無事に砂上船を降りた私達は、砂原の拠点へ。

「恐らく支給品はまだ届いていないでしょう。なので、ベッドの確認のみをして、ボルボロスの縄張りに向かいます」

「先に調査しないのか?」

「はい。今回は調査も依頼に入っていますが、まずはボルボロスを狩ります。調査はその後で、ゆっくりとしましょう」

兄さんの分も含めてクーラードリンクがあるとは言え、この暑さの中を歩き回って、体力を消耗した状態でボルボロスと対峙するのは避けたいです。ドスジャギィと狗竜(くりゅう)の群れも周辺にいるでしょうし。

「そうか……。ま、俺としてはコイツ(太刀)を試せるなら何だって良いさ」

……そんなに目をキラキラさせながら言わなくても。

兄さんは所謂(いわゆる)“戦闘狂”ではありません。ですが、武器――太刀の事になると、周りが見えなくなります。狩りの最中はあまり気にならないのですが、それ以外で太刀の話になるとなかなか止まりませんね。今は拠点近くですが、狩場にいる事に変わりはないので自重はしていますが。

 

そうこうしてる間に、拠点に着きました。

兄さんに仮眠用ベッドの確認を任せ、私は支給品ボックスを覗きます。思った通り、中に支給品はありませんでした。辛うじて、砂原の地図が幾つか入っている程度です。

「やはりありませんね」

「ある方が珍しい。いつも遅れて来るからな」

「仕方ありませんよ」

支給品が遅れてくるには理由があります。

まず上位クエストのほとんどは、今回のような緊急の依頼がほとんどです。当然、危険性が高いのも多いですね。

その為、ギルドの準備が整う前にハンターが出発するので、結果的にクエスト開始までに支給品が届かない、と言う訳です。今回はギルドマスターからの依頼なので、少し期待はしていましたが……。

他にも、運んでいる最中にモンスターに襲われて遅れる、又は届かない事もあります。こちらは自然が相手なので、文句は言えません。護衛のハンターを雇うと言っても難しいでしょうし。

無い物を強請(ねだ)っても仕方ありません。

「兄さん、ベッドの方はどうですか?」

「少し砂が掛かってはいたが、問題なしだ。いつでも行ける」

兄さんもベッドの確認が終わったようなので、予定通りボルボロスの縄張り――エリア3の泥沼を目指します。

 

     ◇

 

―砂原(昼)・エリア3―

 

北西部に砂漠地帯が広がる砂原は、昼は強烈な日差しによる暑さが、夜は吹き荒れる砂嵐と寒さが襲い掛かります。

しかしこのエリア3を含む東側は、ドリンクが必要なほど気温差は激しくありません。その為、ここには植物や水が僅かながら存在し、草食種のモンスターも生息しています。

「何だ、アプトノスがいるだけか?」

「エリア1にリノプロス、エリア2にはアイルー。ここまでは、いつのも砂原と変わりませんね」

周りを警戒しながら、泥沼へと近付いていきます。どうやら、目的のボルボロスはいないようですね。

 

土砂竜(どしゃりゅう)の別名で呼ばれるボルボロスは、泥沼を中心に縄張りを作ります。

普段は泥沼の中に潜っているのですが、その際に呼吸を冠状の頭殻上部にある鼻孔(びこう)でしているので、それを探せば見つける事が出来ますね。

しかしここに居ないと言う事は、恐らくエリア4かエリア8で餌となるオルタロスを捕食しているかも知れません。

「どうする?」

「ここで待ち続ける訳にもいきませんし、一度エリア4に向かってみましょう」

と、泥沼を出てエリア4へ向かおうとした瞬間、地鳴りと共に地中から土砂竜がその姿を現しました。

「向こうからお出ましだぞ」

「そのようですね……行きます!」

兄さんはペイントボールを取り出し、気付かれない様にボルボロスの背後へと走って行きます。私は注意を引く為、アイシクルボウⅡに矢をつがえ前方に回ります。

こちらに気付いた土砂竜は泥沼の近くにいる私を、自分の縄張りに侵入した外敵と判断したようで、対峙した私に威嚇(いかく)してきました。

すかさずアイシクルボウⅡの矢を放ちます。その矢が命中すると同時に、ボルボロスは二度地面を蹴って大きく咆哮(ほうこう)。私は堪らず耳を塞いでしまいました。

「くっ……!」

耳をつんざくモンスターの咆哮によって、呼び覚まされる人間の本能。これは何度狩りに出ても、慣れる事はありませんね……。

兄さんの方は、身体を前へ投げ出す様に跳び、地面に激突した衝撃で身体の硬直を防いだようです。

素早く起き上がり、手にしていたペイントボールを投げると同時に、夜刀(やとう)月影(つきかげ)】を抜刀して土砂竜に斬りかかりました。

右脚を斬られたボルボロスは私に向かってくる事は無く、首を動かして自分の脚を斬りつけた存在を確認すると、獣竜種(じゅうりゅうしゅ)特有の動作で兄さんとの距離を取ります。

その間に硬直から立ち直った私は、アイシクルボウⅡに五本の矢をつがえ土砂竜の側面へ。

「そこです!」

弓弦(ゆづる)を引き絞った矢を放つと、横並びになった五本の矢は全てボルボロスの巨体へ命中し、矢先に秘められた属性である氷が弾けます。

 

熱が苦手な土砂竜は泥沼に潜んだり身体に泥を纏う事で、強烈な日差しからその身を守っているのですが、これが中々に厄介ですね。

身体を揺すって付着している泥を飛ばしてくる攻撃もそうですが、この泥はボルボロスが苦手とする熱を遮断します。つまり弱点である火属性の攻撃はあまり効果がありません。

なら泥を落とすにはどうすれば良いのか?それは水が一番です。水属性の攻撃であれば、土砂竜が纏う泥を素早く落とす事が出来ます。しかし逆に、ボルボロスは水への耐性が高く、有効なダメージにはなりません。

毒や麻痺といった、状態異常を引き起こす武器で攻撃してもいいですが、彼らはそれにも慣れて耐性が付いていきますね。

そこで、ハンター達と王立書士隊員の調査と検証によって判明したのが、氷属性による攻撃でした。これによって泥を纏っていてもいなくても、安定してダメージを与える事が可能になったと言う訳です。

 

横から攻撃をされたボルボロスはこちらを向き、小さく頭を振り上げる動作を見せます。

「――っ!」

それを見た私は、地面を蹴って後ろへと飛び退くとそれと同時に、土砂竜が勢いよく振り下ろした頭殻は地面へと叩きつけられ、上部に付着していた泥が周囲に飛び散りました。

ボルボロスが私に気を取られている隙に、兄さんは再び背後に回り込んで尻尾を攻撃。二回振り下ろした後、刃を横にして土砂竜の右脚に突きを、そして下からすくう様に切り上げます。

私と兄さんの挟み撃ちを受けるボルボロスは(かす)かに唸ると、上体を小刻みに揺すって身体に付着している泥を周囲へ撒き散らし始めました。

「兄さん、離れて下さい!」

「了解だ……うおっ!?」

兄さんは太刀を左に払う様に斬りながら、右側へ飛び退いた。その目の前に、撒き散らされた泥が降ってきました。

「兄さん!」

「……大丈夫だ。少し危なかったがな」

幸い泥は被らずに済んだようですね……。

それを確認した私はアイテムポーチから麻痺ビンを取り出して、アイシクルボウⅡに装着。そして弓を上に向け、矢を放ちます。

空に向けて放った矢はボルボロスの頭上に到達すると、小さな破裂音と共に複数に炸裂、そのまま土砂竜へ降り注ぎます。しかしこれだけでは、麻痺させる事は出来ません。

「アリシア、それ(ビン)は?」

「麻痺ビンです。ボルボロスの動きを止めます」

「分かった」

言葉を交わしつつも、互いにボルボロスから目は離しません。

土砂竜は私達が泥を受けていないのを認識したのか、威嚇行動をしてきます。

「はあッ!」

その隙に兄さんが背後から再び斬撃。一撃では終わらず、流れる様な動作で二撃、三撃と繰り出していきます。私もつがえた五本の矢で攻撃。

しかし、ボルボロスもただやられている訳はありません。背後から攻撃する外敵を追い払う為、その場で巨体を回転させて、長い尻尾を振り回します。

「ぐッ……」

ちょうど太刀を振り下ろす瞬間だった兄さんは、その尻尾を回避する事が出来ずに、殴打されて地面に叩きつけられる様に飛ばされました。

私は尻尾が届かない範囲から矢を二射、三射と立て続けに放ちます。

「そろそろですね」

私が呟いたそれと同時に、ボルボロスがこちらへ噛みつこうと迫ってきます。が、これを土砂竜の懐に飛び込む形で回避。一瞬で矢をつがえ、振り向きざまにボルボロスを()つと、いよいよ麻痺ビンの効果が現れました。

「兄さん、今です!」

「ああッ!」

土砂竜の身体が麻痺で動けなくなったのを確認した私は、アイシクルボウⅡに装着している麻痺ビンを強撃ビンへと切り替えます。

その間に、尻尾の一撃を受けていた兄さんもすぐに立ち上がって、麻痺で動けないボルボロスに斬りかかります。そして兄さんの太刀に変化が。

 

ハンターが扱う武器の中には通常の物とは他に、特殊な機能を持つ物が幾つか存在します。その多くが、元となったモンスターの特徴、特性を現しています。

兄さんの扱う太刀――夜刀【月影】は、迅竜(じんりゅう)ナルガクルガの素材から作られた太刀。その刀身には、ナルガクルガの特徴とも言える刃翼が用いられ、その鋭い一撃は致命傷を与える事も容易です。

更にこの太刀最大の特徴は、隠された刃が存在し、それがある条件によって出現する機構ですね。その条件とは、攻撃する事で“気”を練る事。今兄さんが振るっている夜刀【月影】は、隠されていた刃が、その姿を見せています。

つまり、それは兄さんの気が極限まで練られたと言う訳です。

 

そして、ここまで練った気をより高める事で、遂に太刀の真価が発揮されます。

「うおぉぉぉッ!」

兄さんは雄叫びを上げながら、夜刀【月影】を右上から大きく振り、ボルボロスを切り裂きます。素早く刃を返し、今度は左から斬撃。

更に太刀の速度を上げて再び右左から斬り、そして夜刀【月影】を真上に構えると、全身の力を込めて叩きつけるように振り下ろしていきます。

太刀を極めたハンターのみが扱える奥義、気刃斬り。

最高にまで高めた練気を刀身に乗せる斬撃は、通常では弾かれてしまう程の甲殻すら、気にせず攻撃出来る技です。

――しかし、これで終わりではありません。

地面に叩きつけた事で土煙を上げる夜刀【月影】。それを僅かに持ち上げたかと思うと、瞬時に刀身を横にして、兄さんは踏み込みながら身体を一回転させます。

「はぁッ!!!」

そして周囲を薙ぎ払う様にして、太刀で大きく横一文字に、鋭くボルボロスを切り裂いていきます。

気刃斬りをも極めた者だけが会得出来る、太刀使い究極の秘奥義――気刃大回転斬り。その一撃は通常の攻撃はもちろん、気刃斬りよりも素早く斬撃を繰り出します。

しかしその攻撃速度の為に、気刃大回転斬りをした後はもう一度身体を回転させて、勢いを相殺させなければなりません。これが隙となる故に、こうしてモンスターを拘束するなどして動きを止めている間でなければ、なかなか使うタイミングも無いようです。

 

気刃大回転斬りを当てた兄さんは土砂竜を背後にして、身体を回転させながら夜刀【月影】を鞘に納めます。――いつ見ても、この時の兄さんは()()れしますね。……んん゛。

私もただ見惚れているだけではありませんよ?

兄さんが気刃斬り、気刃大回転斬りでボルボロスを攻撃していた最中、私も強撃ビンを装着したアイシクルボウⅡに矢をつがえ、兄さんに矢が当たらない場所を狙い射っていきます。

一気に畳み掛けた事で、土砂竜が纏っていた泥はそのほとんどが剥がれ落ち、茶褐色の甲殻がその姿を見せています。

「まだ頭の泥が残っていますが、時間切れみたいですね……」

麻痺の効果が切れ、動けなくなっていたボルボロスがこちらに振り向きました。

私達を再び視界に捉えた土砂竜は、地面を二度蹴って大きく咆哮。

「ぅ……!」

「ぐッ!」

ボルボロスの頭殻にある鼻孔からは、興奮で荒くなった鼻息が蒸気の様に吹き出しているのが分かります。それは怒り状態になったサイン。

さて、本番はここからですね……!

 



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3 ―乱入者―

久しぶりの更新です。
しかしまだ半分ほど?と言ったところ……。


砂原(すなはら)(昼)・エリア3―

 

土砂竜(どしゃりゅう)咆哮(ほうこう)に耳を塞ぐ私と兄さん。

そんな私達を睨んでいるボルボロス。その頭殻にある鼻孔(びこう)からは、興奮して荒くなった鼻息が、蒸気のように吹き出しているのが見て取れます。

 

怒り――それはほとんどの生物が持っている感情です。私達人間はもちろん、モンスターも当然持ち合わせていますね。

小型モンスター、特に草食種などは反撃をしてくる程度ですが、これが大型モンスターともなると怒り状態のパワー、そしてスピードは凄まじいもの。ガンナーである私は、その一撃が命取りになるので油断は出来ません。

ボルボロスの怒り状態での突進は非常に驚異ですからね。通常時でもその威力は危険ですが……。

そして何より獣竜種の特徴として、脚を攻撃して怯ませても怒り状態では踏ん張って一切転倒しない、という厄介極まりないものがあります。こちらにも注意が必要ですね。

 

硬直していた身体も回復し、これで動けると思ったその瞬間。土砂竜はほんの少しの動作から、勢いよく全身を使い体当たりを仕掛けてきました。

「おわっ!?」

「――ッ!」

兄さんは転がるように回避して難を逃れましたが、僅かに反応が遅れた私は、これをまともに受けてしまいます。

「アリシア!」

「ぐ――ぁっ!」

「この……!」

衝撃で吹き飛ばされ、泥沼へ叩きつけられるように倒れる私に、ボルボロスは更に噛み付こうと迫ってきます。ですが兄さんがその間に走り込み、土砂竜の前脚に一太刀を浴びせて気を逸らしました。

私はその隙に起き上がり、身体の状態を確認します。全身を包むジンオウSシリーズのおかげで、ダメージはそれ程ではないみたいですね。

……泥沼に突っ込んだおかげで、そこら中泥まみれではありますが。

「やってくれましたね……」

反応出来なかった私が悪いのですけれど。まぁ天然の泥パックが使えて良かった、と思う事にします。

――はぁ、ロックラックに帰ったら髪は念入りに手入れしないと……。

ボルボロスの気を引いていた兄さんは、立ち回りながら横目で私を見ます。それに私は頷いてから五本の矢を手に取り、アイシクルボウⅡにつがえて土砂竜の背後へ。

「ふぅ……――――ハァッ!!」

兄さんに噛み付こうとしていたボルボロスに撃ち放った五本の矢、そのうち四本が命中し、矢先から氷が弾けます。それにより土砂竜は攻撃を中断して、私を再びその視界に捉えました。

その隙を突いて兄さんが切りかかりますが、私を正面に見る形で移動しながら向きを変えた事で、夜刀(やとう)月影(つきかげ)】は(くう)を切ります。

「チッ!」

更にボルボロスは数歩後退し、頭部を下げて地面に着けたと思うと、今度は凄まじい勢いで私達に向かって突進してきました。

迫る土砂竜を前に、兄さんは咄嗟に右へ身を投げ出して(かわ)し、私は左へと転がって回避すると同時に矢を三本つがえて、振り向きながら突進を終えて隙だらけの胴体に射ちます。

嫌がるような仕草を見せたボルボロスは私を見るや否や、縄張りである泥沼へ一目散に向かって行きました。剥がされてしまった泥を、再び全身に纏うつもりなのでしょう。

「それは困ります……ねッ!」

アイシクルボウⅡに矢をつがえ、泥浴びをしている土砂竜の真上に向けて放ちました。その矢は無防備なボルボロスの直上で破裂し、無数の破片が降り注ぎます。

範囲外にいた兄さんは、破片が全て落ちてから攻撃に向かいますが、同時に泥浴びも終わったみたいですね……。土砂竜が起き上がってしまいました。

外敵が近付いてくる事に気付いたボルボロスは、その存在――兄さんに勢いよく頭殻を振り下ろしてきます。

「くそッ!」

ちょうど正面だった兄さんは懐に飛び込むようにして回避すると、その後ろで大きく泥が弾け飛びました。

土砂竜の股下をくぐり抜けた兄さんはすぐに振り返って攻撃に移ろうとしますが、当のボルボロスは私どころか兄さんすら見ずに背を向けて歩き始めます。しばらくすると、前脚の爪を使って地面を掘り始めました。

 

地中に潜った土砂竜。移動する際に出る土煙を見ると、どうやらエリア4に向かったようですね。ペイントボールの匂いも、同じ方向から漂ってきます。

私はアイシクルボウⅡを折り畳んで背中に収め、砥石を使って夜刀【月影】を研いでいる兄さんの側に駆け寄りました。

「兄さん、お怪我はありませんか?」

「ああ、俺は大丈夫だ。アリシアこそ、あの体当たりを受けただろ?平気か?」

「はい、防具のおかげでそこまでのダメージではありません。……全身泥まみれなのは問題ではありますが」

顔に少し付いた泥は半乾きになり始めていますし、防具の隙間からも入ってるのも気持ち悪いのですね……。

「まぁボルボロスとやりあって、そうなるのは仕方ないだろ」

笑いながらそう言った兄さんは、研ぎ終わった夜刀【月影】を(さや)へ収めます。

「終わったぞ」

「ではこのまま、ボルボロスを追いましょうか」

「よし!」

私と兄さんは互いに頷き合い、ボルボロスの後を追ってエリア4へと向かいます。

 

     ◇

 

―砂原(昼)・エリア4―

 

砂原のやや東部、中央付近にあるエリア4。ここも砂漠地帯に近いことから強い日差しが照りつけますが、エリア3と同様にドリンクを飲まずとも熱に体力を奪われる心配はありません。

そのおかげか、ここには暑さに強いリノプロス以外に狗竜(くりゅう)の群れが度々目撃されますね。現に今も、ボルボロスを追って足を踏み入れたエリア4には、小型のジャギィが数頭確認できます。

「こちらから近付かない限り、向こうから襲ってくる事はないでしょうが……」

厄介なことに今回の砂原には、狗竜のボス――ドスジャギィの存在も確認されている点です。

――今はまだ実際にその姿を見ていませんが、ここで現れると最悪ですね……。

 

エリア4に移動したボルボロスは先程まで鼻孔から出ていた鼻息は収まり、今度は口から(よだれ)を垂らしていました。

生物である限り、疲労というものに無縁ではありません。古龍は別としてですが……それはさて置き。とにかくモンスターであっても、生きている限りは疲れが溜まります。この疲労状態になると普段よりも行動が遅くなったり、ブレスが出ないといった変化が見られますね。

「アイツも疲れが出てきたみたいだな」

「そのようです。ここで畳み掛けたいですが、そう簡単にはいかないでしょうね……」

「だがチャンスなのは変わらないだろ? じゃあ、一気に行くぞ!」

兄さんはそう言って、ボルボロスに向かって駆けていきます。

全く……そういう所は頼りになりますけど、それでももう少し兄さんは慎重になった方がいいですよ。

 

ボルボロスは兄さんから攻撃を受けるものの、疲労状態にあるためか、すぐに反撃をする事が出来ないようです。

私はアイシクルボウⅡに装着していた強撃ビンを接撃ビンへと切り替えて、土砂竜に近い位置から頭部と胴体を狙って矢を放っていきます。

兄さんの斬撃と私の射撃で再び剥がれ落ちていく泥。左の後脚から泥が剥がれると同時に、踏ん張る事が出来なかったボルボロスは転倒し、その巨体を地面へ横倒しにしてしまいました。

「今だ――ッ!」

隙だらけになったところを狙い、兄さんは再び練気を開放して気刃斬りを繰り出していきます。

「はああぁぁッ!!!」

夜刀【月影】を大きく左右に振って連撃、ボルボロスの尻尾に狙いを定めて振り下ろします。更にそこから体を捻り気刃大回転斬りで切り裂きました。しかしまだ切断には至らないようですね……。

納刀する兄さんの背後で土砂竜が起き上がりますが、入れ替わるように私も矢を放って攻撃していきます。疲労状態のところをこれだけ攻められれば、かなりのダメージになったはずです。

起き上がったボルボロスは近くにいた私を見つけるとその場で回転し、尻尾で追い払おうと攻撃してきました。

「――っ! はぁッ!!」

私は後方へ跳ね、距離をとって回避。尻尾が眼前を通り過ぎてから、今度は土砂竜の背後から矢を射ちます。

その私の横を兄さんが走り抜けて、再度ボルボロスへ。夜刀【月影】を抜刀すると同時に、先ほど切断出来なかった尻尾に狙いを定めて振り下ろすと、遂にその尻尾を切る事が出来ました。

「よし、いい調子だ!」

「油断は禁物ですよ?」

「あぁ!」

痛みとバランスが崩れたことで、ボルボロスは地面に倒れていましたが、またすぐに立ち上がります。向こうもまだまだやる気、のようですかね……。

しかし土砂竜は私達を見ていたかと思うと、エリア4の西側――エリア6とエリア8へと繋がる二つの通路の中間にある、穴の開いた岩石のような物へ向かっていきます。

「行かせるかッ!」

兄さんがボルボロスを追って攻撃しますが、これだけでは止まりません。目的地に到着した土砂竜は頭を下げると、岩石を地面ごと(えぐ)るかのように掘り起こして破壊しました。

破壊された場所には穴があり、そこから甲虫(こうちゅう)オルタロスが出てきます。あそこは甲虫の巣穴――所謂(いわゆる)アリ塚ですね。

ボルボロスは巣穴から出てきたオルタロスを見つけると、片っ端から捕食(ほしょく)し始めました。

 

陸上に棲息(せいそく)する大型モンスターは疲労状態に(おちい)ると、他の生物や植物等を食べてスタミナの回復を(はか)ります。私達と同じですね。ボルボロスの食性は大型の竜の中でも珍しい昆虫食で、アリ塚も多い事からオルタロスを好んで食べているようです。

と、悠長に見ている暇ありませんね。大型モンスターは疲労状態の回復を優先して行動するので、私達はそれを阻止しなければいけません。

オルタロスを捕食しているボルボロスの右側から兄さんが攻撃。私は反対側に回って攻撃しようと、弓に矢をつがえた、その時――。

 

背後から聞き覚えのある――そしてこの場で一番聞きたくない――特徴的な鳴き声に、私達は振り返りました。

エリア4東部、エリア1に通じる道からドスジャギィが歩いてくるのが見えます。しかし、まだこちらを見つけていないようですね。辺りを見渡しているのが確認出来ます。

――そのまま気付かずに行ってくれれば……。

そう願いながらボルボロスへ目を向けると、丁度オルタロスを捕食し終えたところ、という最悪のタイミングでした。

「兄さん!」

私の呼びかけに兄さんもボルボロスを見たその瞬間、地面を軽く二度蹴った土砂竜が、大きな咆哮を上げて再び興奮状態になります。

耳を塞いで耐えた私達に振り向いた土砂竜は、頭を低くして突進する体制に入りました。

「くっ、またか!」

「っ……!」

何とか突進を回避します。

ボルボロスの勢いはすぐに止まらず、私の後ろにあった岩に激突。そのまま頭殻を振り上げて岩を破壊しました。

「まずいですね……」

土砂竜が岩を壊したことで、ドスジャギィがこちらに目を向けます。

位置が悪かったですね……兄さんには気付きませんでしたが、私に気付いたようです。狗竜が上体を起こして吠えると、今まで遠巻きに見ていたジャギィ達が反応して動き始めました。

「ボルボロスは怒ったばかりで、ドスジャギィまで参戦してきますか……!」

近くまでやってきた一頭のジャギィを、手にした矢で直接斬りつけます。

「チッ、厄介だな。――アリシア! 前に避けろ!」

兄さんの呼びかけで咄嗟に前転すると、私の影をボルボロスの口が飲み込んでいるところでした。間一髪、と言ったところですね……。

しかし今度はドスジャギィが噛み付こうと迫ってきます。

「こ、のぉっ!!」

迫る狗竜のアギトをアイシクルボウⅡ本体を使い、下から押し上げるように逸らしてそのまま下を潜り抜けます。

 

ボルボロスとドスジャギィは、互いが近くに来た事で小競り合いに発展したようですね……。この隙に兄さんと合流して、エリア8へ向かう道にある岩陰へと身を潜めます。

「アリシア、大丈夫か?」

「少し危なかったですが、平気です」

「良かった……それで、これからどうする?」

鳴き声で周りにいるジャギィ達に命令をするボスと、それを蹴散らす土砂竜。今回の依頼はボルボロスの狩猟と砂原の調査なので、出来る限り他のモンスターを狩るのは避けたいところです。

「私がボルボロスの注意を引いて引き離すので、その間に兄さんがドスジャギィを追い払ってください」

いつもなら私が追い払うのですが、今回扱っている武器はアイシクルボウⅡ。小型のジャギィと中型のドスジャギィが相手では少々分が悪いので、兄さんにお任せします。

「追い払うだけでいいのか? なら“こやし玉”をぶつけてやれば良いんじゃないか?」

「いえ、出来ればドスジャギィが巣で休んでる間に片付けたいので」

こやし玉でも良いのですが、それだとすぐに縄張りの巡回を始めるので、可能な限り避けたいです。

「そういう事なら了解だ。気を付けろよ?」

心配そうな声で兄さんが言います。ふふ、心配しなくても大丈夫です。

「ガンナーである私に、ボルボロスは相性のいい相手ですよ?」

「フッ、そうだったな。それじゃあ、行くか!」

「はい!」

岩陰から飛び出した兄さんはドスジャギィへ向かい、私もアイシクルボウⅡに矢をつがえて弓弦を最大まで引き絞ります。

「さぁ、こっちに来なさい!」

 



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4 ―砂原の簒奪者(さんだつしゃ)たち―

砂原(すなはら)(昼)・エリア4―

 

「はぁッ!」

「――ふっ!」

兄さんがドスジャギィに、私はボルボロスにとそれぞれ攻撃していきます。

それまで互いに争っていた狗竜(くりゅう)土砂竜(どしゃりゅう)は、再び自分達に向かって攻撃してくる存在(ハンター)を認識すると、二頭は先程までと同様に私達を狙い始めました。

私は攻撃を続けながら少しずつ下がり、ボルボロスとドスジャギィをなるべく離すように距離を開けていきます。

何かあった際にすぐ駆けつける事は出来ませんが、これで乱戦になる事は避けられるはずです。

 

ドスジャギィとその群れに対峙する兄さんは、周りのジャギィ達による攻撃を避けながら、確実に狗竜へとダメージを与えているようですね。

さて、兄さんなら大丈夫なので、私も目の前のボルボロスに集中しましょうか。

接撃ビンをある程度残すために外し、そのまま矢を射っていきます。

土砂竜は全身の泥が剥がれ落ちているので、それらを撒き散らす攻撃は出来ません。最中が隙だらけである、という点で見れば少し惜しいですが、これは言っても仕方のない事ですね……。

「はっ!」

なるべくボルボロスの視線が私から外れないように、矢を放ちつつ左右に動き回ります。突進が来ても兄さんの方へ届かない距離で。

そんな私に対し、土砂竜は歩いて距離を詰めてきました。

ここで向かってくるボルボロスから逃げるように動くと、それを追って後を付いてくるので私は動きません。下手に動いて兄さんに意識を向けられても困りますからね。

「そのまま……やぁっ!」

迫り来る鼻先をアイシクルボウⅡで射ち、一瞬怯んだ隙を見て土砂竜の下をくぐり抜けます。

ボルボロスは外敵()が自分の巨体をすり抜けて後ろにいる事は分かっているので、辺りを見渡さず即座に振り向いてこちらを向きました。

「いい子です。当面は私だけがあなたの相手ですよ」

矢をつがえた私は、土砂竜の正面で弓弦を引き絞って立ち上がります。

 

     ◇

 

アリシアがボルボロスを引き離して自身に注視させているのを、彼女の兄カイルも分かっていた。

「さて。ある程度傷を負わせて、追い払えばいいと言われたからな……。悪いが手早くやらせてもらうぞ」

そう口にした彼は、ドスジャギィが薙ぎ払うように振った尻尾を潜り抜けると、即座に反転して夜刀(やとう)月影(つきかげ)】で突きと斬り上げを繰り出す。

カイルはそのまま太刀を振り下ろすまでやりたかったが、周りにいたジャギィの一頭が飛び込んできた為に回避を選択する。

その回避先に今度はドスジャギィが噛み付いてくるのが見えたが、彼は冷静にこれを避けた。

――チッ、幾ら相手がジャギィとは言っても上位は油断禁物だな……!

考えながらも、近付いてきた別のジャギィを切り伏せる。

 

「くっ……少しばかり数が多いか」

自身とドスジャギィの周囲にいるジャギィの数は五頭。彼の実力自体はもちろん、武具も優秀と言えどもボスが率いる集団に囲まれては苦戦は免れないだろう。

だからと言ってジャギィばかりにも構ってはいられない。

「アリシアの事も心配だしな……」

再びドスジャギィが噛み付いてくるがカイルは夜刀【月影】で薙ぎ払いながら後ろへと飛び下がる。

狗竜は頭部を斬られた事で怯んだが、彼の背後を一頭のジャギィが狙う。

「チッ!」

カイルは舌打ちをして横に転がって回避、ジャギィ達の包囲から抜け出した。

ドスジャギィは上体を起こして吠える。すると周りにいたジャギィが次々に飛びかかってきた。

「ここで使うのは少し賭けだが!」

しかし彼は襲い来るジャギィ達を、練気を込めた剣撃――気刃斬りで迎え撃つ。

太刀を右上から振り下ろす一撃でまず一頭。返す刃で二頭目。

「おおぉぉぉッ!」

さらに連続で右左にと繰り出す斬撃で二頭を纏めて斬る。

――これで残りは……!

真上から振り下ろす一撃で残った一頭のジャギィを狙う。だが、仲間がやられるところを見ていたその個体は、後方へ飛び退く事でカイルの攻撃を回避した。

それでも――

「はぁッ!!!」

彼は地面に夜刀【月影】を叩きつけるが、そこから流れる動作で身体を一回転させると横に太刀を一閃。先程の一撃を避けたジャギィと、カイルの正面にいたドスジャギィの頭部を、気刃大回転斬りによって同時に切り裂く。

これによって五頭――その前に倒した一頭も合わせて計六頭――のジャギィは全滅し、頭部を斬られて仰け反った狗竜の“王者のエリマキ”とも呼ばれる大きな耳もボロボロになってしまっていた。

「これで逃げてくれればいいが……」

 

痛手を負ったドスジャギィは咆哮(ほうこう)した後、威嚇行為を取る。怒り状態へと入ったようだ。

と、狗竜の咆哮によって呼び出されのか、二頭のジャギィが姿を現す。

「そう上手くはいかない、か」

気刃大回転斬りを繰り出した事で、一度(さや)へ収めた夜刀【月影】に手をかける。

カイルは状況を見て呼び出されたジャギィ達がまだ僅かに遠いと判断した。しかし抜刀するよりも先に、目の前にいたドスジャギィはその巨体を使ったタックルを仕掛けてきた。

「おっと!」

だが彼は身体を投げ出すように転がって避ける。

――流石に、あの怒り状態の体当たりを受ける訳にはいかないな……!

即座に立ち上がったカイルはドスジャギィに向かって走り出すと同時に、タックルを外した事で隙だらけのその背後へと夜刀【月影】を振り下ろす。

斬られた狗竜は振り返りながら噛み付いてくるが、彼は上体を後ろに反らしてギリギリで回避した。

一度カイルが距離を取ると、改めて向き直ったドスジャギィが威嚇して吠える。そこに、呼び出されたジャギィも合流してきた。

「……そろそろ逃げてくれてもいいだろ?」

思わずドスジャギィに向かってこんな事を口にしてしまうカイルだが、当の狗竜達はお構いなしに飛びかかってくる。

まず小型のジャギィ二頭による体当たりと噛み付き。続けてドスジャギィが勢いよく踏み込みながら、その鋭い牙でカイルを狙う。

「ええい!」

怒り状態に加えて統率された連続攻撃に、彼も回避に専念する。

しかし、こうして避けているだけではドスジャギィを追い払えない。

「いい加減に……!」

再び噛み付こうとしてきた一頭のジャギィに斬撃を見舞って沈黙させる。

「はッ!」

さらにカイルは動きを止めることなくドスジャギィの胴体へと太刀を振るう。

流れるような動作による攻撃で、狗竜の反撃を躱しつつ確実にダメージを与えていくと、遂に耐え切れなくなったのかその巨体が大きく吹き飛んだ。

 

それでもドスジャギィはすぐに起き上がる。

「これで行ってくれよ……」

こう言いながらもカイルは再度、夜刀【月影】を構えた。

彼としても早くドスジャギィを追い払って、ボルボロスを抑えているアリシアの援護へ向かいたいのだ。

――ガンナーがボルボロスに相性がいいとは言っても、ずっと一人で戦わせる訳にはいかないからな。

そんなカイルの思いが通じた――という訳ではないだろうが、起き上がったドスジャギィはカイルに目をやると、一つ吠えて自分達が巣にしているエリア5へと繋がる道に向かっていく。それに残っていた一頭のジャギィも付いて行くようだ。

「漸くか……」

逃げるドスジャギィの後ろ姿を確認して、カイルはさらに自身の背後で戦っているアリシアとボルボロスを見る。

――まだ砥石を使わなくても行けるな。

彼は夜刀【月影】を一度鞘に収め、走り出す。

 

     ◇

 

流石にそろそろキツくなって来ましたね……。

ボルボロスの怒り状態は収まっていると言っても、気を抜くと危ない場面が何度かありましたし……。

「アリシア!」

攻撃の為に矢を手にしていると、私を呼ぶ兄さんの声が聞こえました。

「少し遅いですよ、兄さん!」

私はボルボロスから目を離さずに答えます。

「すまん! アイツ等(ドスジャギィ)が中々にしぶとくて……なッ!!」

全速力で走ってきた兄さんはそのままの勢いでボルボロスに斬り掛かりました。

斬られた土砂竜は怯みましたが、すぐ兄さんに反撃しようと噛み付こうとします。

「やらせません!」

そんなボルボロスの横顔へアイシクルボウⅡで射撃して妨害していきます。兄さんに噛み付く寸前で攻撃され怯むと、今度は私に狙いを定めてきました。

ある程度ですが距離が近かった事もあり、ボルボロスは動作が少ない体当たりを繰り出してきます。

「っ――!」

これを二回ほどバックステップで離れて難を逃れます。

隙が出来たところを後ろにいる兄さんと正面にいる私から挟撃(きょうげき)を受け、ボルボロスはエリアの中央辺りまで移動していきました。

土砂竜が穴を掘って潜り、移動していく先を確認しながら兄さんと合流します。

 

「逃げたようだな」

「そのようですね……。そろそろ、ボルボロスも限界のはずです」

「出来れば次のエリアで仕留めたいな」

「えぇ、依頼目標はボルボロスですが、本来の目的は砂原の調査ですからね」

会話をしながらも、兄さんが切断したボルボロスの尻尾から甲殻などを剥ぎ取っていきます。

「……よし、こんなもんだろう」

尻尾の剥ぎ取りを終えたので、土砂竜が逃げた方向に進むとしましょう。

ボルボロスが向かった先はエリア8。ここから先はその過酷な暑さから、クーラードリンクが必要になりますね。

アイテムポーチからドリンクを取り出して、一気に飲み干します。

兄さんは砥石を使って太刀の手入れも済ませたようです。

「待たせた。準備完了だ」

その言葉に私は頷く。

「では、行きます」

ボルボロスの後を追って、私達も灼熱の砂漠地帯へと足を踏み入れました。

 



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