鉄屑の海から (オンブレ)
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1話




 

 

これは夢だと、自覚できる時がある。

 

 

 

それは大抵の場合で夢の終わりかけでわかるのだけれど、たったひとつだけ、私がもっとも多く見て最初から夢だと自覚できる夢がある。

 

 

 

その夢で私は、仄かに暖かい何かに包まれていて、そのナニカは私を優しく撫でてくれている。少しだけ目を開けば、広がっているのは錆び付いたりボロボロになり、それでも地面に突き刺さっている剣や刀、あるいは槍や古式のライフルなど―――おおよそ、武器といわれるだろう全てと、しかし全くその場にそぐわない金管楽器もそこにはある。

全くもっておかしいけれど、私はそれを確認した途端に、なぜだかものすごく眠気に襲われるのだ。夢のなかで眠気というのもおかしいが、そうとしか言い様のないものが私を襲い、私は暖かなナニカにもう一度包まれながら、眠り、そして

 

 

 

次に目覚めれば、そこはいつも通りの私の部屋なのだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

==============

 

 

 

 

 

 

 

ふわぁ、と。止まることのないあくびを噛み殺しながら、彼女は家のポストに突っ込まれていた紙を引っ張り出す。

入っていたのは、新聞に隣からの回覧板、通販広告と胡散臭い悪魔召喚のチラシ。その内、悪魔召喚のチラシだけを家に入った途端にその場でクシャクシャに丸めてゴミ箱へと投げ捨てた。まぁ当然である。

 

 

 

そのままテーブルの上に残りを放り出して、彼女はソファーに転がった、が、途端にドタドタと階段を降りる音が響く。ちらりと時計を見れば、既に八時を回っている。思わずハァ、とため息をついて彼女はソファーから立ち上がり、

 

 

 

「アァリスぅーーっ!」

「あまり大きい声を出すとご近所に迷惑ですよ、姉様」

 

 

 

自分よりも遥かに小さく、しかし姉と敬愛する小さな少女を受け入れた。さすがに彼女が発した大声には一言注意をいれていたが。

てひひ、と笑いながらアリスと呼んだ少女()を見上げる彼女()の名はプルという。パッとアリスから手を放した彼女は、くるりと踊るようにアリスの周りを跳ね回る。

 

 

「わかっているわ、アリス。だからこそ声だけで済ませたんですもの。本当ならトランペットを吹きながら来ようかな、と思っていたのよ?」

「それは、その、本当に止めていただけると………」

 

 

そうならなくてよかった。いや、本気で。と胸を撫で下ろすアリス。無駄に広い日本家屋に住んでいる二人だが、近所に人が居ないわけではない。そして、彼女のトランペットは諸々の理由でとても響き渡るのだ。一度、彼女が堪えられなくなって吹いたときは、近所どころか街中に響き渡った位だ。吹かれなくて本当に良かった。

 

 

 

「まぁでも、そろそろ一回くらい吹きたいし、ちょっと出掛けようかしら?もしくはアリスで暇を潰すか………」

 

 

う~ん、悩むわ!とニコニコ顔でこちらをガン見するプルを見て、アリスは『あ、これはなんか企んでる』と察した。そして蘇るのは、姉に付き合わされた様々な思い出(ト ラ ウ マ)

 

 

あるときは曲を作らされ、つづいてそれをプルが演奏してアリスが歌ったものをネットに晒す、という本人にとっては羞恥プレイをさせられ、ある時は大富豪たちのお見合いパーティに事前情報もなしに放り込まれたりもした。

 

後者はパーティ自体ではなく婚約云々の話を断り、しかしダンスだけでもとせがまれ、軽く数人と踊って帰ってきたら姉がなぜかマジギレしており、それがトラウマになっているだけだが。

 

 

他にもいきなり『隕石落とすから頑張ってどうにかしてね?』と無茶振りされたり―――。

 

 

 

そんな思い出を噛み締めているアリスをジーっと見ていたプルは、何かに気づいたように突如目を輝かせる。同時に、アリスの背中に走る寒気。

 

「そうだわ、そうね、それが良いわ♪ああ、なぁんて素晴らしいんでしょう!」

 

 

一人で事故完結してうなぎ登りでハイテンションになるプルと、比例して悪寒が走り続けるアリス。ちょっと待ってくれと声をあげようと口を開き

 

 

「アリス!貴女は明日から()()()、よ!」

「……………ぇ?」

 

 

 

言われた台詞に理解が追い付かず、アリスは口を開いたまま呆けた。そんなアリスを見ながら、プルは続ける。

 

 

 

「そう、貴女は明日から駒王学園の二年生―――

 

 

 

 

 

         アリス・P・アムドゥシアスよ!」

 

 




読んでいただき、ありがとうございました。


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2話




うん、まぁね。お願いするのを忘れてた私が悪いんだけどね。
第一話からの無言の低評価はね、作者の心にぐっさり突き刺さるのだよ………




まぁそれはともかく、今回は一人称です。



 

 

 

姉がいつも通り、というべきなのか案の定というべきなのか、ともかくこれまでの例に逸れることはなく、盛大に私を使った暇潰しを考えたのが、三日前のこと

 

 

 

現在私は、駒王学園の制服に身を包み、その立派な校門を潜るところで、立ち止まっている。

なぜか?そんなのは簡単で

 

 

「何時までついてくるのですか、姉様」

「いいじゃない。………私は入れなかったのだから」

「その見た目では当然ですよ、姉様」

 

 

先程から、私の後ろにピッタリと姉様がくっついているからだ。どうやら姉様、私と同じく駒王に入るつもりだったらしいのだけど――――

 

 

「まったく、今代の魔王は揃って頭でっかちなのだから。いえ、どちらかといえばシスコンかしらね?」

 

 

魔王であるルシファーとレヴィアタン。その両名からやめてください、妹がストレスで死んでしまいます(意訳)と説得され、しぶしぶ行くのを諦めていた。そもそも、パッと見ただの小学五年生くらいの姉様が高校に入るのは無理だと思うのだが………。

 

 

「ま、良いわ。それに、どちらにしろ私の付き添いはここでおしまいよ」

「…………そうですか。それでは、行ってまいります」

 

 

………別に寂しいわけではない。ただ、姉様を一人で帰して大丈夫かと心配になっただけです。ですのでそのニヤニヤするのをやめてください。

 

 

「ふふふ………。それでは、ね?」

 

 

 

そういって去っていく姉の後ろ姿を見送り、私も歩き出す。目指すのは、職員室。

 

 

 

………………ちょっとだけ、姉様の暖かみが恋しい。

 

 

 

 

 

 

 

 

==========

 

 

 

 

 

 

「はい。では少しお待ちください」

 

 

言われた書類への手続きを済ませた私は、その書類をもって行く事務員の後ろ姿を見送ってから、近くにあったソファーに腰をかける。

 

 

特にすることもなくただただ暇な時間ができてしまったので、なんとなく私は昨日になって姉様から聞かされたことを思い返していた。

 

 

 

 

 

――――いわく、この世界には天使と悪魔と堕天使の勢力があり、この駒王学園―――というより、この駒王という土地は悪魔が管理しているということらしい。

悪魔云々は、姉の知り合いなどがそうであるし、そもそも自分自身ヒトではないらしいので、特に驚きはない。

 

 

だけれど、ここが悪魔の土地、というのには少し驚いた。姉の正体を考えると、別に悪魔の経営する学校の方が色々都合がつくのはわかる。けれど、あの姉が()()()()()()学校に通わせる、というのは少しおかしい。

どこがおかしいのか、といわれると、そもそも私の入学理由からオカシイのでなにも言えないのだが。

 

 

まぁ、でも、私は――甚だ不本意だが――姉様いわく『世間知らず、ではないけれどどこか抜けている』ということらしいので、暇潰しついでだろうが、そういうのを治すために融通の効く学校に入れたのかも知れない。

 

 

結局、考えても仕方はないので、あまり考えることはしないのだけれど。

 

 

 

なんて考えていると、トントン、と肩を叩かれた。考え込みすぎたな、と思いつつも顔をあげると、そこにはなんとなく真面目そうな青年が立っていた。

 

 

「えーっと。アリス・P・アムドゥシアスさん、ですか?」

 

 

合っているので頷く。今、私に名前を聞くということは、多分案内係かそれっぽい者だろう。事実、彼は私が頷いたのを見ると、ホッとしたように顔を崩した。

 

 

「お………自分は、生徒会の匙 元士郎です。これから、生徒会室へと案内しますので、ついてきて下さい」

 

頷きながら立ち上がれば、匙と名乗った彼は私を先導し出した。生徒会室へと向かっているのだろう。

 

 

 

そうして歩き続けて数分、私は生徒会とプレートのついた扉を開いた。少しだけ眩しい逆光に目が慣れたとき、そこにいたのは―――二人の女性。眼鏡をかけた見覚えのない女性と同じく眼鏡をかけた見覚えのある女性。

 

 

 

「ようこそおいでくださいました。………お久しぶりです」

 

 

とりあえず、頷いておく。ああ、やっぱり驚くなぁ、予想もしていなかった。だってまさか、ねぇ?

 

 

こんなところで会うなんて、こんなに変わっているなんて、思わないのだから。

 

 

 

「改めて、名乗りを。駒王学園生徒会会長、支取蒼那。悪魔としてはソーナ・シトリーです」

 

 

 

 

数年前に出会ったとある魔法使いの妹が、そこには居た。

 

 






読んでいただき、ありがとうございました。


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