インフィニット・ストラトス 慟哭の白銀少女 (アブソリュート)
しおりを挟む

プロローグ「原点」

え~どうもアブソリュートです(*´ω`*)

アンチものは初めてですのでコメントを頂けると嬉しいです(*´∀`)

それでは楽しんで下さい!!(* ̄∇ ̄)ノ


ここ日本のとある家族が一家団欒を過ごしていた。

 

「お父さん、お母さん、それにお兄ちゃん。お誕生日おめでとう!」

 

向日葵のような眩しい笑顔をする少女、六条エリス。今年から小学一年生なったばかりの少女である。髪は肩より少し長く下ろしている。身長はクラスの中では平均より少し大きいぐらいである。大きいとは言っても列で言うと中間より上にいくかいかないか程の差だ。

 

そして、特徴的だと言えるのはなんと言っても髪の毛の色だ。白銀とも言える髪色。幼いながらか髪質が柔らかく、さらさらとした髪は風が吹けばそれは綺麗に見えるだろう。肌は雪のように白く傷一つ付いてない。親からすれば自慢の娘だろう。

 

「あら、ありがとね」

 

「うぅ……父さん、嬉しすぎて涙が出そう」

 

「いや父さん。すでに涙出してんじゃん」

 

兄の祐樹が父、正樹に指摘する。その光景を母、静香はあらあらと言いながら微笑んでいた。そんな暖かい雰囲気がエリスにとって幸せの時間だった。

 

「私、ちょっと出かけてくるね!」

 

「あら、どこに行くの?」

 

首を傾げる静香にエリスは内緒と言って玄関に向かう。

 

「時間には戻って来てね~」

 

「なにっ!?出かけるだと!こうしてはいられん!私もこれから出かけ――――」

 

「そう言ってこの前、警察の人に不審者扱いでお世話になっただろうが!」

 

祐樹が正樹に叱咤するとがっかりした様子をしながらうな垂れる。そうなのだ、一ヶ月前にエリスが心配だからという理由で後をつけていたのだが、周りから不審者に間違われ警察の人に連行されたのだ。

 

服装はいかにも怪しい格好、顔はお決まりのマスクに黒いサングラスを付け電信柱に隠れながらハァハァとしていたのだ。そんなことをすれば誰だって不審に思うのは仕方がないと思う。

 

父を引き取りに行くと祐樹は呆れており、静香に関してはあらまあと驚いた表情をして終わった。エリスに関してはお父さんが警察に連れて行かれたことが理解できていなかったのか、お父さんカッコいいね!と言い出したのだ。

 

そんな一言に正樹はお父さんはカッコいいに決まっているだろ!と言い出した。祐樹はそんな父に制裁を加えて事が終わったのだ。

 

「全く、エリスが可愛いからってそんなことばっかりして恥ずかしいったらありゃしない」

 

「でも、そんなお父さんもカッコいいわよ」

 

呆れている祐樹とは違って静香はうっとりした表情で言う。その言葉を聞いた瞬間、正樹は先程と同じように元気を見せる。

 

「当たり前だ!俺を誰だと思ってる!」

 

「あほでどうしようもない馬鹿親父」

 

「がーん!?お父さんショッキング!!」

 

「うふふ。本当、お父さんったら」

 

喜怒哀楽が激しい正樹を見ておかしそうに微笑む静香。

 

「……ん?なんか聞こえない?」

 

そんな幸せな空間だったが外から聞こえる音に不思議に思う祐樹。何だろうと思いながら玄関から外を見上げると何かがこちらに近づいている。

 

「お、なんだ?何かイベントでもやってんのか?」

 

「あらあら、私も見てみたいわ」

 

正樹と静香も外に出て祐樹と一緒に空を見上げると黒い点の『モノ』が空を裂く音を辺りに響き渡らせる。

 

「――――え?」

 

「――――ッ!マズイ!しずk」

 

「あな―――」

 

空から降ってくるものが確認できた時にはもうすでに遅かったのである。そして、それぞれが何かを言い終わる前に――――大きな爆風に襲われるのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「えへへ……」

 

エリスの手には卵が入っているビニール袋を落とさないようにしながらスキップをしている。先程出かけると言ったのは今日、母、父、兄にオムレツをご馳走するためであった。エリスは小学生にしては家の手伝いをする方である。そのためか家事がある程度できる。料理に関しては母と一緒にしていたため簡単なものなら一人で作れるのだ。

 

だが、母は一人ではまだ駄目だと言うので一緒にいる時以外は作れないのである。本当は家族には内緒で作り驚かせたいのが本音だが火事になったりしたら元も子もないのでそこは母に見てもらいながら作ることにするのであった。

 

(喜んでもらえたら嬉しいな……)

 

実はうちの家族は私以外みんな同じ誕生日なのだ。なんで同じなのかは全くわからないらしい。ちょっとだけ羨ましかったりする。なんだか自分だけ除け者にされているみたいだからだ。それをみんなに言ったら困ったような表情をしながら頭を撫でくれた。

 

実のところおつかいに一人で行くのは初めてだった。いつもは母と一緒に電車に乗って隣町まで行って買いに行くのだ。近くにもあるにはあるのだが隣町の方がなにかと便利なものが多いということで行くらしい。お金に関してはいつもお手伝いで貰っていたのから出しているから大丈夫であった。

 

母と毎回の様に買い物について行くせいか、お店の人に顔を覚えられている。事前に買い物リストを作っていたので、それをお店の人に渡してどれを選んだらいいのかを聞きながら買ってきたのだ。

 

『エリスちゃんは偉いね。特別に持っていきなさい』

 

卵と一緒に入っているもの。おまけに貰った林檎だった。家族全員が好きな食べ物だ。だから買ってきた日にはいつも無くなってしまう。オムレツと林檎を夕食に出したら喜んでもらえるだろうか。

 

そう思いながら来た道を帰っていると地面が大きく揺れるのであった。

 

「きゃっ!」

 

揺れた際に手に持っていたビニール袋を落としてしまう。中からグシャっと嫌な音をたて林檎は道に沿って転がっていく。

 

「ああ……せっかく買ってきたの、に」

 

落ちた卵が全滅していることを確認し落ち込みながら林檎を拾おうと前を向くと――――自分の家の方角に煙がたっていた。

 

「……え、うそ」

 

そんなはずはない。そう思いエリスはビニール袋を地面に置いたまま自分の家に向かって走り出す。まだ、6歳の少女が速く走れるわけがない。それでもエリスは一歩でも多く進もうと走る。息が上がり転んでしまいそうになるのを必死に耐えながらも走り続けた。

 

そして、自分の家だと思われる場所にたどり着く。

 

「………………」

 

もはや自分の家だと思われるものが何一つ無かった。ここで間違いはない。そう断言できる。何度も行き帰りしているのだ。忘れるはずが無い。

 

だが、自分の家だった場所は何かの爆発源だと思われるような跡があり近所の家などが吹き飛ばされていた。辺りから悲鳴と叫び声が響き渡る。

 

「俺の家がああああああぁぁぁぁぁぁ!!!!!!!!」

 

「いやあああああああああああ!!?」

 

「おかーさん!どこー!?」

 

さまざまな感情が伝わってくる。怒り、悲しみ、苦しみ、嘆き、さまざまだ。そんな中エリスは感情のない表情で空を見上げていた。

 

「………………」

 

そんな無表情に空を見上げているエリスに一人の女性が近づいてくる。

 

「……ここは、お前の家だったのか?」

 

感情の篭ってない瞳で女を見る。女は黒い制服を身に纏っている。目元は鋭く、制服の色と同じ黒い髪、エリスとは反対に毛がくせっ毛が特徴的だった。声は低く男のような口調である。だが、顔はひどく悲しそうな顔をしている。

 

「………………」

 

「お前の家族はどうした?」

 

女がエリスに問いかけるが反応があまり良くない。反応に困っていた女にエリスは独り言のように語る。

 

「……今日、家族の誕生日だったんだ」

 

「………………」

 

「私の家族って面白いんだよ?私以外、同じ日に誕生日なんだよ」

 

「………………」

 

「だからね?今日、みんなにオムレツを作ってあげようと思ったの」

 

「…………………」

 

「お父さんが作ってくれて、言ったらみんなも食べたいって言ってたんだ」

 

そう、彼女が何故この日に家族にオムレツをご馳走しようとしたのかというと……父である正樹の一言がきっかけであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……え?オムレツが食べたい?」

 

「そう、お父さんに作ってくれないか?」

 

エリスの父、正樹が自分の娘にオムレツを食べたいとせがんでいるのには理由があった。エリスが母のこと静香に内緒で一人だけで料理したのだ。静香と一緒に作ったオムレツをどうやって作ったのかを思い出しながらやっていたところを正樹に見つかってしまったのだ。

 

その時に正樹が自分に食べさせてくれるなら黙っといてあげるという言葉に釣られてしまったのだ。そして、調理したオムレツを正樹が口にすると……。

 

「……静香にそっくりだ」

 

正樹は驚愕の表情でエリスを見ていた。エリスは父の表情に自信を無くしていた。

 

「……おいしくなかった?」

 

「……いや、おいしかったんでびっくりしたよ」

 

正樹はエリスの髪を撫でながら自分が食べた感想を言う。するとエリスは嬉しそうな顔をしながら正樹に抱きつく。その後は結局のところ黙って料理していたことがばれてしまう。しかも、静香ではなく兄の祐樹に見つかってしまったのだ。特に怒られたのが正樹であった。

 

「親なんだからちゃんと注意しなきゃ駄目じゃんか!」

 

「はい、すいません……」

 

――――何故か自分よりも父が怒られるということになってしまったのだ。

 

そんなことがあって以来、父がたまに私に言って来るのだ。その度に作るのだが毎度毎度作っては面白みがかけてしまう。それを正樹に言うと手をポンッと叩き告げる。

 

「じゃあこうしよう。お父さんのお誕生日の日にオムレツを作ってくれないか?」

 

「えっ?お誕生日の日がいいの?」

 

いつもは外で食べた後に家でケーキを食べるといったのが我が家の決まったパターンだった。さすがにオムレツだけでは駄目だろうと思うと正樹は食べに行く前に食べたいと言った。

 

「でも、お腹が膨れちゃうよ?」

 

「お父さんはエリスのオムレツが食べた後に夕食を食べると幸せになれるんだ」

 

本当かなと思っていると静香と祐樹がこちらにやって来る。

 

「なにそんなこと言ってんだよ……」

 

「お前もそう思うだろ?」

 

「まあ……可愛い妹が作ってくれた料理をもらえばそりゃ思うけどさ」

 

頬をほんのり赤らめる祐樹に正樹はにやにやとした顔で言う。

 

「や~い。シスコンにロリコ~ン!」

 

「ふんっ!!」

 

ドコンッ!!

 

「へぶしっ!?」

 

祐樹は渾身の一撃を正樹の腹に叩き込む。正樹は訳の分からない叫び声を上げてから床に倒れこむ。

 

「ふ、普通、父の腹を、殴ったりしないと思うのですが……」

 

「実の息子にロリコンだのシスコンだの言わないと思うが?」

 

冷たい視線で父を見下ろす兄。その光景を見ていた静香は楽しそうな表情をする。

 

「いつも楽しいわね」

 

「そうだね!」

 

エリスが静香にそう答えると静香はそうだと言いながら父と同じように手を叩いて言う。

 

「今度の誕生日は家で食べましょう!そうすればオムレツと夕御飯が一緒に食べられるでしょ?」

 

「―――っ!うん!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「だからね、今日は作ってあげようと思ったんだ」

 

「………………」

 

理由を聞いた女はエリスに対して何も答えない。ただ、ひたすら顔を俯かせ拳を震わせていた。

 

「でも、もうみんなに作ってあげられないんだね」

 

エリスは目に涙を溜め頬に流す。そのことに気づいていないのかエリスは拭おうともしない。

 

「―――もう、お父さんとお話ができないんだね」

 

『エ~リ~ス!』

 

あの陽気な声がもう聞くことができない。

 

「―――もう、お母さんと料理ができないんだね」

 

『あらあら。上手にできたわね、エリス』

 

あの優しい手で撫でてもらう事ができない。

 

「―――もう、お兄ちゃんと遊んでもらうことがないんだね」

 

『エリス、今日はお兄ちゃんがどっか連れてってやる』

 

もう、あの背中を見ることができない。

 

―――ああ、もう、あの温もりは戻ってこないのか。

 

「―――アア」

 

抑えきれない。

 

「―――アア、アアア」

 

もう、止まらない。

 

そして彼女は――――慟哭する。

 

「アア、アアアアアアアア、アアアアアアアアアッッッッッ!!!!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

エリスは獣のように叫び、喉が枯れるまでやった後、女はエリスに問いかける。

 

「……お前はこんなことをした奴がいたらどうする」

 

「……殺してやる。もし、そんなのがいたら」

 

小学生とは思えない言動振りである。そのことに女は一瞬驚いた顔をしたがすぐに先程と同じ表情に戻す。

 

「だが、どうやって?何か方法はあるのか?」

 

「………………」

 

女の問いかけにエリスは答えられないでいた。それはそうだ。彼女はまだ小学校に上がったばかりの子だ。そんな子が答えられる筈がない。すると、女はエリスの目の前に行き膝を付いて目線を合せる。そして、女はエリスに一つ提案を持ちかける。

 

「……なら、私と共に暮らさないか?」

 

「……え?」

 

エリスは何故そんなことを言ってくるのか理解できないでいた。だが、そんなことはお構いなしに女は話を進める。

 

「家も無く、お金も無く、食べるものも無いだろ?なら、私の家に来い。……なに、弟がいるが悪い奴ではない。それに、私がお前の復讐の手伝いをしてやろう」

 

「どうして、そんなことしてくれるの?」

 

女は何故だろうなと呟く。しばらく女は考えた後、口を開く。

 

「……償い、だろうな」

 

エリスは何に対しての償いかは分からない。だが、このままではいけない。知らなくてはいけないのだ。どうしてこんなことが起きたのかを。そのために必要なことを彼女が用意してくれるというのだ。なら、利用させてもらおう。

 

「……わかった。あなたと一緒に行く」

 

「……そうか。名前は何て言うんだ?」

 

「……エリス。六条エリス」

 

「……そうか」

 

「あなたの名前は……?」

 

「私か?私の名前は――――」

 

――――織斑千冬だ。

 

これが彼女との出会いである。

 

そして、私の復讐の始まりの日でもあった。

 

 




設定はなるべく本編で語りたいとおもいます(*´∀`)

その方が面白いと思いますので( ´△`)

それでは、また!!Σ(゜Д゜)


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第一話「あれから十年後」

早くも第二話投稿しました!!

段々とエリスの成長がわかります!

楽しんでもらえたら嬉しいです!!


「全員揃ってますねー。それじゃあSHR始めますよー」

 

黒板の前にでどこか抜けているような顔をしている山田真耶。彼女はここIS学園の一年一組の副担任である。身長はやや低めで、生徒とほとんど変わらない。しかも服のサイズが合っていない。全体的に服がだぼっとしているせいかますます小さく見えてしまう。

 

「皆さん今年一年よろしくお願いしますね」

 

「………………」

 

学園初日だから真耶の言ったことに誰も反応を返さない。

 

「うぅ……で、では自己紹介をお願いします」

 

真耶は誰からも返事が返って来ないことに残念に思い涙目になりながらも教師としての職務に励む。そんな中一人の生徒が肩身を狭くしながら何かに必死に耐えている様子だった。

 

「……………」

 

この男、織斑一夏はあることがきっかけでIS学園に通うことになったのだ。そんな彼が肩身を狭くするのには理由があった。なにしろ彼以外のクラスメイトが全員女子なのだ。ここIS学園はいわゆる女子校なのだ。それには理由があった。

 

―――ISは女にしか扱えない。

 

これはある事件が起こったことでその事実が証明された。そのせいで今の世界は女尊男卑という世界に変わり果ててしまった。今では町で女性に声をかけられられたら使うだけ使い、もはや奴隷と変わらない始末を受けるはめになるのだ。

 

そんな女性しか使えない彼がISを動かしたことで世界中が大騒ぎ。世界初の男性として今では有名人きたものだ。そんな珍獣扱いを受けている彼が肩身を狭くするのも無理もない。

 

「……………」

 

一夏は何かしらの救いを求めて窓側の方に視線を送る。だが、薄情なことに六年ぶりの幼なじみの篠ノ之箒はふいっと窓の外に顔をそらす。久し振りの幼なじみに対する態度なのだろうかと疑問に思いながら一夏は自分の席の左隣の席の子に救いの視線を送る。

 

「……ん?どうしたの兄さん?」

 

少女は一夏の視線に気付き声をかける。一夏は少女にこの状況をどうすればいいのかを視線で送る。

 

(周りの視線がきついんだが……どうすればいい?)

 

(どう……って、いつもの兄さんらしく振る舞えば良いんじゃない?)

 

(それが出来れば苦労しないと思うんだが……)

 

そんなやりとりをしていると山田先生が顔を真っ赤にしながら一夏に声をかける。

 

「あ、あの、織斑くん!」

 

「え、何でしょう?」

 

「あ、あの、ここは教室なのでそんなに見つめあって……」

 

「え、いや!違いますよ!」

 

どうやら周りからはみつめあう男女にしか見えなかったらしい。その事に気付いた一夏は自分達がそういう事をしていたのではないことを主張する。

 

「ち、違いますから!山田先生が考えていることとは違いますからね!」

 

「ほ、本当ですか?」

 

「ええ……勘違いさせてすいません」

 

一夏がそう言うと山田先生はどこか安心した表情を見せる。少女に関しては気にしていない様子だった。少女とは反対に箒はどこか苛立ちを見せている様子だった。

 

「じゃ、じゃあ自己紹介お願いしますね?」

 

「はい」

 

一夏は席を立って後ろを振り向くと今まで背中に感じていた視線が一気に向けられることを自覚する。

 

(……わーお)

 

なに言っていいのかわかんねぇ……。とにかく自己紹介をしなくっちゃな。

 

「えー……名前は織斑一夏です。よろしくお願いします」

 

礼儀正しく頭を下げる。すると、辺りから『もっと喋ってよ』だの『まさかそれだけじゃないよね?』といった空気が漂ってくる。どうすれば困っていると先程の少女が制服の裾を引っ張ってくる。耳を貸せというジェスチャーを確認し少女から助言を貰う。そして、少女が言ったことをありのまま告げる。

 

「特技は無意識に女の子を口説くことです!俺にハートを奪われるな、よ……」

 

―――ちょっと待て。もしかして、俺、変なこと言ってないか?

 

「さすが兄さん。盛大にやらかしたね」

 

いや、やらかしたね……じゃねえよ!?

 

「何てこと言うんだよ!?」

 

第一印象最悪だろ!?

 

「そんなうっかりしている兄さんが良いと思う」

 

「うおおぉぉぉぉぉ!!!」

 

会話が成り立ってねえ~!もうやだこの妹!そんなに面白いか!?

 

「うん。面白い」

 

しかも心の中ちゃっかり読まれてるし……。

 

俺は再度教室の様子を確認すると予想していたものと違っていた。教室にいる生徒の大半が顔を赤らめ恥ずかしそうにしていた。……何故?

 

パァンッ!!

 

いきなり背後から何か硬い物で頭を叩かれる。痛みが強すぎて思わず頭を抱えたまましゃがみこんでしまう。……知っている。この叩き方―――絶妙な力加減、計算ずくされた角度、適度な速度、俺がよく知っている人物。そう、そいつの名前は―――。

 

「出たな―――呂布!」

 

「ふんっ!!」

 

バシンッ!!

 

今度は頭ではなく顔の頬を叩かれる一夏。

 

「……誰が呂布だと?」

 

トーンが低めの声。よく見ると黒のスーツにタイトスカート、すらりとした長身、よく鍛えられいるがけして過肉厚ではないボディライン。組んだ腕に、狼を思わせる鋭い吊り目。そう、この人が俺の姉である織斑千冬だ。

 

「あ、織斑先生。もう会議は終わられたのですか?」

 

「ああ、山田先生。いつもすまない。それとあの馬鹿が迷惑をかけた」

 

まだ、顔が赤いものの千冬姉に声をかける。千冬姉は山田先生に謝罪し終えると今度はこっちに向いて鋭い視線を、送ってくる。馬鹿とは心外だな。どこをどう見たら俺が馬鹿に見えるんだ?

 

「お前は何も考えるな、聞くな、見るな、思考を働かせるな」

 

もはや人ではない気がするんだが……。人権侵害はいけないと思うぞ、千冬姉。

 

「諸君、私が織斑千冬だ。君たち新人を一年で使い物になる操縦者に育てるのが仕事だ。私の言うことはよく聴き、よく理解しろ。出来ない者には出来るまで指導してやる。私の仕事は弱冠十五歳を十六才まで鍛え抜くことだ。逆らってもいいが、私の言うことは聞け。いいな」

 

さすが千冬姉。なんという暴力発言。しかし、教室には批判するような発言はなく、むしろ黄色い声援が響き渡る。

 

「キャーーーーー!千冬様よ!」

 

「ずっとファンでした!」

 

「あたしたちを調きょ……指導して下さるなんて!」

 

おい、今調教って言おうとしなかったか?

 

「私、千冬様の指導を耐えてみせたいです!」

 

「アオーン!ヘヘッ!」

 

すでに何か違うものが混じってるよ千冬姉!?もはや調教された犬だろ!

 

「はぁ……毎年思うんだがよくこれだけの馬鹿者を集めるものだ。それとも何か?これは私に対する何かの当て付けなのか?」

 

本当にうっとうしがっている千冬姉。まあ、気持ちは分かんなくはないけどさ。人気者で良いじゃないか。

 

「それで?お前はまともに挨拶も出来んのか」

 

「いや、千冬姉聞いてくれよ。エリスが―――」

 

バコンッ!!本日三度目の出席簿アタック。もはや叩く音が違う。

 

「お前は人のせいにすれば解決出来ると思っているのか?」

 

「痛たた。……そうじゃねえけどさ、理不尽だろ」

 

「妹に叩けと言う兄もどうかと思うがな。あと、織斑先生だ」

 

そんなやりとりをしていたのが不味かった。教室に兄妹だということがバレた。

 

「え……?織斑くんって、あの千冬様の弟………?」

 

「それじゃあ、世界で唯一男で動かせるっていうのも、それに関係して………」

 

「あのそこに座っている白銀色の髪をした人も知り合いなの?」

 

知り合いもなにも白銀の髪をした少女は織斑家の一員、六条エリスである。

 

「ついでに自己紹介しておけ、エリス」

 

「はい」

 

千冬姉の言ったことに返事を返すエリス。そして、俺と同じように後ろを振り向き自己紹介を始める。

 

「初めまして私の名前は六条エリスです。好きな食べ物はオムレツと林檎。趣味は兄を弄ることです」

 

落ち着いた声で自己紹介をするエリス。その自己紹介に満足していた千冬と一夏だがそれ以外の人たちは反応できずにいた。

 

「………………」

 

普通はここで先程と同じように騒いだりするであろう。だが、反応できずにいるのには訳があった。

 

―――左目が開いていないのだ。眼のところに傷が縦に深く入っている。右目は綺麗な翡翠色の瞳に対し左目は誰が見ても痛々しさを感じさせる。隠す気がないのか眼帯もせずありのままに晒しだしていた。

 

その様子を観ていた一夏や千冬は暗い顔をする。だが、エリスは気にした様子を見せず自己紹介を終えると千冬に声をかける。

 

「終わりましたけど……どうすればいいですか、姉さん?」

 

「……ああ、座っていいぞ」

 

千冬の言葉にエリスは従い席に座る。

 

「……では、これでSHRを終わりにする。諸君らにはこれからISの基礎知識を半月で覚えてもらう。いいな?分かったら返事しろ」

 

まだ先程の雰囲気が残っているせいか千冬姉に返す返事は小さかった。

 

こうしてぱっとしないままSHRが過ぎていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

参った。これはマズイ。ムリだ。

 

「……………」

 

一時間目のIS基礎理論授業が終わって今は休み時間。だが、この教室の異様な雰囲気がなんとも言えない。ちなみに、IS学園ではコマ限界までIS関連教育するため、入学式当日から普通に授業がある。学園案内は地図を参照しろってさ。親切心がかけているな、全く。

 

(だが、どうにかならないもんかな……)

 

俺以外の生徒は全員女子。クラスだけではなく学園全体がそうなのだ。ちなみに『世界で唯一ISを使える男』というのは世界的にもニュースになったらしい。当然、学園の関係者から在校生まで俺の事を知らない人はいないと思う。

 

そういうわけで廊下には他のクラスの女子が二、三年の先輩が詰めかけている。しかし女子だけの空間に馴染んでしまっているせいか、なかなか話かけようとしてこない。それはクラスの女子も同じなのか緊張感が満ちている。

 

……いや、恐らくそれだけではない気がする。何故、俺に声をかけてこないのか薄々思うのだが……。

 

「兄さん、お疲れ様」

 

エリスが一夏の首に腕を回し背中に胸を当てる。ふゆんと背中越しから柔らかい感触が伝わってくる。制服からなのに暖かいのが伝わってくる。男としては嬉しい限りだ。だが……。

 

「……ときにエリスよ」

 

「なんですか、兄さん?」

 

優しく微笑みながら兄を呼ぶ。見ているだけで癒される顔をするのだが、なんとか流されないように注意を払いながらこの行為の真意を問う。

 

「……なんで胸を当ててくるんだ」

 

「そ、それをわざわざ言わせるのですか?」

 

頬を赤らめながら恥ずかしそうな仕草を見せるエリス。だがしかし、俺は知っている。

 

「ああ、言ってくれないと分からないな」

 

きっぱり言うとエリスは清々しい顔をしながら言う。

 

「兄さんの困った顔を見てみたいから」

 

はい、確信犯、決・定!!やっぱりか!絶対こうなることが分かってやっただろ!?

 

「うふふ。兄さんカッコいいですよ?」

 

嘘おっしゃい!明らか面白いの間違いだろ!?そのにやけている顔が何よりも証拠だ!

 

「……ちょっといいか」

 

「「え?」」

 

突然、話しかけられた。二人して間抜けな返事をする。誰だろうと思い正面に立っている女子生徒を見る。

 

「………ほ、箒?」

 

「………………」

 

目の前にいたのは、六年ぶりの再会になる幼なじみだった。

 

篠ノ之箒。俺が昔通っていた剣術道場の子。髪型は昔と同じポニーテール。肩下まである黒い髪を結ったリボンが白色だから映えて見える。身長は平均的な女子。うちのエリスより少し小さいくらいだ。

 

ちなみにエリスの身長は一六五センチ。女子にしては大きく千冬姉より一センチ小さい。そういえばこの前二人で身長の争いが起きていたような……。

 

「………廊下に出るぞ」

 

「おう―――グエッ!?」

 

箒の提案に乗り席を立とうとしたところをエリスの腕によって阻止される。

 

「どこに行こうとしてるの、兄さん?」

 

なあエリスよ。落ち着こうじゃないか。そして話し合えばわか……。

 

「おい、早くしろ!」

 

うわー。六年も会わなかっただけでこんなにも変わるとは。時が流れるのは早いもんだな……。

 

「全く、なにをぐずぐずしているんだ……むっ?」

 

「……………」

 

箒は一夏が来ないので連れに戻るとエリスの姿を確認する。エリスは箒が戻ってくると嫌そうな顔をしながら威圧の籠もった視線を送る。

 

「お前は……エリスか?」

 

「馴れ馴れしく呼ばないで」

 

箒がエリスの名を呼ぶとエリスは拒絶の思いを籠めて言う

 

「なっ、久しぶりに再会する幼馴染の言葉ではないだろう!」

 

「うるさい。兄さんが好きで好きでしょうがないメロン野郎が」

 

……メロン?食べ物のメロンか?箒ってそんなにメロンが大好きだっけな?

 

「う、うるさいぞ!大体、そんなこと言ったらお前もそうだろうが!」

 

「だから、何です?私は兄さんのことが好きですよ」

 

まあ、俺も好きだけどな。何だかんだ言ってエリスは可愛いしな。

 

「俺も好きだぞ」

 

「――――っ!兄さん!」

 

エリスは嬉しそうな顔をする。それに対して箒は顔色が蒼白になっていく。だが、織斑一夏にはある欠点があった。それは――――鈍感なのだ。しかも、超が付くほどの。

 

「まあ、家族が好きなのは当たり前だと思うんだけどな」

 

ピシッ!

 

……ん?何の音だ?

 

「……兄さん」

 

「どうしたんだ、エリ―――ス!?」

 

エリスは一夏の首に回していた腕に力を込める。すると、一夏の首からメキメキと音をたてる。一夏はエリスに首が絞まっていることをジェスチャーで知らせるが無視される。

 

「ええ、兄さんがそういう人だって分かっていました。期待した私が馬鹿でした」

 

「ちょ、エリス、やめ、くびがぁ!?」

 

そんな光景を見ていたクラスメイトは何故だかエリスと仲良くなれると思うのであった。

 

 




何故、箒に対してあれだけ冷たくするのかは今後の話で紹介しますのでよろしくお願いします!!

感想待ってます!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第二話「憤怒」

え~超心配です……

うまく書けているといいのですが……

なにか不満があったらコメントください!




「――であるからにして、ISの基本的な運用は現時点で国家の認証が必要であり、枠内を逸脱したIS運用をした場合は、刑法によって罰せられ――」

 

すらすらと教科書を読んでいく山田先生。そんな中、俺は全くついて行けていなかった。

 

「……………」

 

どっかりと詰まれた教科書五冊。その一番上のものをぱらりとめくるが、意味不明の単語羅列にしか見えない。

 

(お、俺だけなのか?みんな意味がわかってんのか?このアクティブなんちゃらとか広域うんたらとか、どういう意味なんだ?というかこれ、全部覚えないといけないのか………?)

 

ちらっと隣の女子を見ると、山田先生の話に時々うなずいてはノートを取っている。

 

(ぐ……。しかしこのIS学園に入るやつて事前学習しているっていうのは本当だったんだな……)

 

その事実がわかりこの授業をどう乗り越えようかと考えていると脇腹からチクチクとした痛みが襲ってくる。何だろうと思い原因を調べようと見ると……エリスがシャーペンで一夏の脇腹を刺していたのだ。

 

「……………」

 

「ふふっ。兄さんったら以外に我慢強いんだね?」

 

……何やっているんだエリス。妹が何故、脇腹を刺してくるのかわからなかったがきっと理由があると信じて訊く。

 

「俺に用事か?」

 

山田先生に気づかれないように小声で話しかける。

 

「ん~多分、兄さんが授業について行けなくて困っているから助けてあげようと思ったからのと……」

 

おおー!流石、兄妹が困っていたら助ける!これこそが兄妹愛だよな。千冬姉とは大違いだ。

 

「あと授業が聞いてて暇だったら兄さんに悪戯しようかと思って」

 

……前言撤回。千冬姉より性質が悪い。いや、どっちもどっちか?

 

「じゃあ、これ」

 

「ん?これは……」

 

エリスが俺に一枚のルーズリーフを渡してくる。それを受け取り中身を確認すると、今日授業で習うだろうと思われるところがまとめられていた。ぱっと見た感じだがわかりやすい。試しにどっかりと積まれている教科書の一冊を抜き出し照らし合わすとエリスがくれた物の方が理解ができる。

 

俺がルーズリーフを見ているとエリスはゴメンと謝ってくる。

 

「?なんで謝るんだよ」

 

「あのね?入学前に参考書が届いたの覚えている?」

 

「ああ、なんか古い電話帳みたいなやつだろ」

 

危く間違えて捨てそうになったけどな。そのことがばれて千冬姉に怒られたんだったな。

 

「実はあれ……私が捨てちゃったの」

 

「……マジで?」

 

一夏はエリスが捨てた理由がわからなかった。すると、エリスは何故捨ててしまったのかを話す。

 

「あの時の私、寝惚けてて何で同じのが二冊あるんだろうって思ってたの」

 

確かに、あの時のエリスは異様に眠そうだったな。しかも、見てからしばらく経ってから倒れてたな。

 

「同じの二冊もいらないと思ってそれで……」

 

まあ、理由がともあれ過ぎてしまったことは仕方がない。俺はエリスの頭を撫でながら告げる。

 

「もう過ぎたことなんだし気にすんなよ」

 

「でも……」

 

「だったらエリスが教えてくれ」

 

「……え?」

 

エリスは一夏に頼まれると顔を赤らめ恥ずかしそうな顔をする。

 

「い、良いんですか?」

 

「ああ、そうしてもらえると助かる」

 

「……はい!」

 

エリスははにかんだ顔をしながら返事をする。その表情を見れて安心したところで……後ろから殺気を感じる。振り向けない俺に代わってエリスが後ろに目掛けて指を指す。

 

「兄さん?」

 

「……なんだ」

 

「兄さんの後ろに――――般若が立っていますよ」

 

……聞きたくないことをわざわざありがとうございます。俺は恐る恐る後ろを振り向くと般若のこと千冬姉が出席簿を上にかざしている状態でいた。

 

「……なにか言い残すことはあるか」

 

「……べ、弁解の余地は?」

 

「あるわけ無いだろ」

 

そうして俺は視界が暗闇になっていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ちょっと、よろしくて?」

 

「へ?」

 

二時間目の休み時間、またしても針のむしろを味わうかと思っていた俺は、いきなり声をかけられて素っ頓狂な声を出してしまった。

 

話しかけられてきた相手は、地毛の金髪が鮮やかな女の子だった。白人特有の透き通ったブルーの瞳が、ややつりあがった上体で俺を見ている。わずかにロールがかかった髪はいかにも高貴なオーラを出していて、その女子の雰囲気も『いかにも』今の女子という感じだった。

 

今の世の中、ISのせいで女性はかなり優遇されている。優遇どころか、もはや行き過ぎて女=偉いの構造にまでなっている。そうなると男の立場は完全に奴隷、労動力だ。今じゃ町中ですれ違っただけの女にパシリされる男の姿なんて珍しくも無い。

 

つまりそういう、いかにも現代の女子が目の前にいた。腰を当てた手が様になっているあたり、実際いいところにの身分なのかもしれない。

 

ちなみにこのIS学園では無条件で多国籍の生徒を受け入れなくてはいけないという義務のせいで、外国人の女子なんて珍しくも無い。むしろ、クラスの女子半分がかろうじて日本人というだけである。

 

「訊いてます?お返事は?」

 

「ああ、訊いているけど……俺に何か用か?」

 

私がそう答えると、目の前の女子はかなりわざとらしく声をあげた。

 

「まあ!なんですの、そのお返事。わたくしに話しかけられるだけでも光栄なのですから、それ相応の態度というものがあるんではないかしら?」

 

「……………」

 

正直、この手合いは苦手だ。

 

ISを使える。それが国家の軍事力になる。だからIS操縦者は偉い。そしてIS操縦者は原則女しかいない。だからといって、その力を振りかざすのは違うと思う。力が粗暴なら、そんなのはただの暴力だ。

 

もし、エリスがここにいたら大変なことになっているだろう。彼女も俺と同じくこの手合いの者は苦手としている。いや、彼女の場合は苦手としているんじゃなく嫌っていると言った方がいいだろう。

 

「悪いな。俺は君が誰だか知らないんだけど」

 

「わたくしを知らない?このセシリア・オルコットを?イギリスの代表候補にして、入試主席のこのわたくしを!?」

 

ああ、名前はセシリアって言うのか。へーえ。

 

「質問いいか?」

 

「ふん。下々の要求にこたえるのも貴族の務めですわ。よろしくてよ」

 

「代表候補生って、何?」

 

がたたっ。聞き耳立てていたクラスの女子数名がずっこけた。

 

「あ、あ、あ・・・・・・」

 

「『あ』?」

 

「あなたっ、本気でおっしゃいますの!?」

 

「ああ、知らない」

 

素直に答える。

 

「……………」

 

セシリアは怒りが一周して逆に冷静になったのか、頭が痛そうにこめかみを人差し指で押さえながらぶつぶつ言い出した。

 

「信じられない。信じられませんわ。極東の島国というのは、項まで未開拓の地なのかしら。常識ですわよ、常識。テレビが無いのかしら・・・・・・」

 

失礼な、テレビくらいはあるさ。……正確に言うとあったけどな。

 

「で、代表候補生って?」

 

「国家代表IS操縦者の、その候補生として選出されるエリートのことですわ。……あなた、単語から想像したらわかるでしょう」

 

「そうだな」

 

言われてみればそうかもな。

 

「そう!エリートなのですわ!」

 

おお、復活した。さすがは代表候補生。

 

びしっと俺に向けた人差し指が、鼻に当たりそうな位近かった。

 

「本来ならわたくしの様な選ばれし人間とは、クラスを同じすることだけでも奇跡……幸運なのよ。その現実をもう少し理解していただける?」

 

「へぇ~、まあ俺にはどうでもいいや」

 

「な、なんですって!?」

 

セシリアは俺の机を思いっきり叩く。

 

「別に俺はそんなことして貰わなくてもいいし。大体、そっちから勝手に声をかけて来ただろ?」

 

「わたくしの優しさを無駄にするのですか!?」

 

「ああ、必要ないから」

 

俺はセシリアにきっぱり言う。すると、セシリアはわなわなと震えだす。

 

「よ、よくもまあそんな事が言えますわね!?大体あなたって言う人は!」

 

キーンコーンカーンコーン。

 

「っ……!後で覚えてらっしゃい!逃げるんじゃなくってよ!?」

 

「誰も逃げねえのに……」

 

むしろここから逃げる奴がいたら凄いと思うぞ。ほぼ確実に千冬姉に捕まると思うが。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「それではこの時間は実習で使用する各種装備の特性について説明する」

 

一、二時間目とは違って山田先生ではなく千冬姉が教壇に立っている。よっぽど大事なことなのか山田先生までノートを手に持っていた。

 

「ああ、その前に再来週行われるクラス対抗試合に出る代表者を決めなくてはいけないな」

 

ふと、思い出したかのように千冬姉言う。

 

「クラス代表とはそのままの意味だ。対抗戦だけではなく、生徒会の開く会議や委員会への出席……まあ、クラス長だな。ちなみにクラス対抗戦は、入学時点での各クラスの実力推移を測るものだ。今の時点でたいした差はないが、競争は向上心を生む。一度決まると一年間変更はないからそのつもりで」

 

ざわざわと教室が色めき立つ。まあ俺には関係ないだろうと思っていた。クラス長と言うんだから面倒に違いないな。なった奴は大変だな。

 

「はいっ。織斑君を推薦します!」

 

……はい?あ、そっか。千冬姉のことか!そうだよな、織斑って名前の人って千冬姉しかいない――――ってんなわけあるか!

 

「私もそれがいいと思います!」

 

ちょ、みんな!待て!落ち着け!

 

「ま、待てくれ!俺かよ!?」

 

つい思わず机から立ってしまった。だが、千冬姉は俺のことなんか無視しているのか話を続ける。

 

「他にいないのか?いないならこの馬鹿で決定になるぞ」

 

「待ってくれ!俺はそんなものになる気は――――」

 

「自薦他薦は問わないが他薦されたものには拒否権など無い。諦めろ」

 

うわー。相変わらず横暴な発言だな。

 

「で、でも――――」

 

反論を続けようとすると後ろの席から甲高い声が遮った。

 

「待ってください!納得がいきませんわ!」

 

バンッと叩いて立ち上がったのは、あのセシリア・オルコットだった。うわ、さっきの子か。

 

「そのような選出は認められません!大体、男がクラス代表だなんていい恥さらしですわ!わたくしに、このセシリア・オルコットにそのような屈辱を一年間味わえとおっしゃるのですか!?」

 

なら何でさっき挙手をしなかったんだよ……。

 

「実力から行けばわたくしがクラス代表になるのは必然。それを、物珍しいからという理由で極東の猿にされては困ります!私はこのような島国までIS技術の修練に来ているのであってサーカスをする気は毛頭ありませんわ!」

 

ずいぶんと酷い言いようだな。日本とイギリスはそんなに変わんだろ。

 

「いいですか!?クラス代表は実力トップがなるべき、そしてそれはわたくしだけですわ!」

 

興奮冷めやらぬ―――というか、ますますエンジンが暖まってきたセシリアは怒涛の剣幕で言葉を荒げる。

 

「ましてやこんな『日本』なんてくだらないところに何故、わたくしが来なくてはならないのですか!こんな馬鹿げた国に――――」

 

バンッ!!

 

「――――『日本』が何だって?」

 

教室にいる全員がものすごい音が出た場所に目を向ける。すると、エリスが怒気を含んだ視線をセシリアに向ける。机を叩いたと思われる手から血が床に降り落ちていく。叩かれた場所はひびが入っており机としての機能を失っていた。

 

「……お前らはいつもそうだ。力を手に入れたら簡単に人を見下し、奴隷のような扱いをする。そんなことだからこんな世界になってしまったんだ」

 

「あ、あなた何を言って……」

 

「ISなんて物ができなければよかったのに……。そうすれば私の家族は――――」

 

――――死なずに済んだのに。

 

エリスは机を叩いた手をさらに強く握り締める。そのせいでエリスの床の周りには血の海に変わろうとしていた。唇をきゅっと噛み締め必死に怒りに堪える。少ししてから深呼吸をし千冬に告げる。

 

「私もそこのイギリス野郎と同じく自薦したいと思います」

 

エリスが言うと周りのクラスメイトがざわめきだす。

 

「……一応、自推する理由を聞いておこう」

 

「はい、あいつにISの何たるかを教えてあげようと思いまして」

 

エリスがそう言うとセシリアは若干びびった様子を見せながらも言ってくる。

 

「ふ、ふん!いいでしょう。なら、あなたにISが何たるかを教えてもらいましょうか」

 

「ええ、言われなくても」

 

「ハンデはいりますか?」

 

セシリアはエリスがISの初心者だと思いハンデの提案を持ちかける。すると、千冬がセシリアに警告する。

 

「……オルコット。これだけは伝えておく」

 

「は、はい?何でしょう?」

 

「―――死ぬなよ」

 

「……え?」

 

セシリアは千冬の言ったことが理解できずにいる。それはセシリアだけではなくクラス全員が思ったことだった。

 

「千冬姉。それってどういう意味なんだよ」

 

一夏が千冬に問いかけるがただ口を閉ざすばかりである。一夏はエリスの方に視線を向けると先程と変わらずセシリアのことを見続けている。

 

「……後悔させてやる。ISに乗ったことを一生―――」

 

それはいつも兄を困らせるエリスではなく獲物を狩ろうとしている狼と同じであった。

 

そして、これから一週間後に行われる戦いで分かるのであった。

 

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第三話「同居人」

やばい……妄想が止まらない。

このまま書けるだけ書いていこうと思います!!

あ、あっちも書くので心配しないで大丈夫ですよ(笑)

上手く書けているかわかりませんが楽しんでもらえたらうれしいです!!


「……………」

 

放課後、俺は机の上で項垂れていた。

 

「……はぁ」

 

あの後、授業が再開されたのだがもはや授業になっていなかった。エリスの表情はいつも通りだったのだが雰囲気が残ったままだった。それに感化されたクラスの女子達はハラハラしながら受けていた。山田先生に関しては半泣きになりながらも授業をしていた。

 

エリスは半壊になった机で授業を受けていた。保健室に行かずに自分の席で応急手当てしていた。床に水溜まりとなり果てていた血はエリスがしっかり片付けていた。そのことについて千冬姉は何も口出しをしなかった。

 

机を壊したこと、床を血まみれにしたこと、さっきの発言に対して何一つ言わなかったのだ。どこか千冬姉はエリスに対して甘い気がする。甘い、のかは分からないが上手く言葉が見つからない。

 

「ああ、織斑くん。ここにいたんですね。よかったです」

 

「はい?」

 

呼ばれて顔を上げると、副担任のこと山田先生が書類を片手に立っていた。何度見ても思うが服のせいで身長が小さく見えてしまう。実際は平均らしいが。

 

「えっとですね、寮の部屋が決まりました」

 

そう言って山田先生は部屋番号の書かれた紙とキーを渡してくる。ここ、IS学園は全寮制なのだ。生徒はすべて寮で生活を送ることが義務づけられている。理由はなんでも将来有望なIS操縦者たちを保護する目的があるらしい。まあ、言いたいことはわかるけどな。

 

「俺の部屋は決まってないんじゃなかったんですか?この前聞いた話だと、自宅から一週間通学だって」

 

「そうなんですけど……なんでも事情が事情なので一時的な処置として部屋割りを無理矢理変更したらしいのですが。そのあたりって政府から何か聞いていますか?」

 

山田先生は俺だけに聞こえるように耳打ちをしてくる。ちなみに政府というのは日本政府だ。今までにない前例だから国としては保護と監視の両方を付けたいらしい。そういえば俺のことがニュースに流れたら自宅にマスコミだの遺伝子研究の人や他にもいろいろ来ていたな。

 

「そういうわけで、政府特命もあって、とにかく寮に入れるのを最優先にしたいみたいです。一ヶ月後には個室の方が用意出来ると思いますので、しばらくは相部屋で我慢してもらえませんか?」

 

「あの……それはいいんですが。耳、くすぐったいので離れてもらえませんか?」

 

俺がそう言うと山田先生は顔を真っ赤にしながら急いで耳から離れる。

 

「あ、あの、これはそのっ、別に深い意味があるわけでなくってですね……!」

 

「いや、わかってますけど……。でも、荷物を一旦取りに帰らないと着替えとかもないんで」

 

「あ、それについては―――」

 

「私が用意しておいたぞ。ありがたく思え」

 

……でたよ。この横暴かつ暴力的な姉が。

 

「貴様は学習能力がないのか?それとも何か……マゾに成り果てたのか?」

 

「い、いや、そんなことはないけど……」

 

そんな自分想像したくねよ……。というか家でマゾになったら大変だぞ?喜びまくりじゃん。……あれ、なんか別に良くね?

 

「そんなことになったら二度と家には入れん。気持ち悪くて仕方がない」

 

あ、あぶねえ……。一瞬考えちまったじゃん。

 

「そ、それで俺の荷物は?」

 

「ああ、相部屋の奴に持っていかせた。携帯電話の充電器と着替えがあればいいだろう?」

 

なんか相部屋の人可哀想だな。千冬姉にこき使われてさ。……ちょっと待て?

 

「お、お姉様……質問いいでしょうか?」

 

「なんだ愚弟」

 

「着替えが仕舞ってある場所にあった雑誌って……」

 

「ああ、燃やしといたぞ」

 

うおおおおぉぉぉぉぉ!?弾から渡された姉妹のエ〇本がああぁぁぁぁぁ!?

 

「まあ、お前がどんな性癖持ちかよくわかったから良しとしよう。あと、私から半径一メートル以内に入ってくるな」

 

……もうすでに範囲内に入っていますよ、お姉様。あと、あれは弾から無理矢理渡されたものだから!

 

「ご、誤解だ!信じてくれよ千冬姉!?」

 

「あーわかったから。……とにかく私に近づかなければ許してやろう」

 

いや分かってないじゃん!?それ分かったって言わないから!

 

「お、織斑くんも男なんですね……」

 

「いや、あの、違いますから!」

 

頼むから顔を赤らめながら納得しないでくれ!俺はそんな性癖を持ち合わせていないから!

 

「ええっ?女の子に興味がないんですか!?そ、それは問題のような……」

 

面倒くせえぇぇぇぇ!?話を聞いて!一生のお願いです!

 

山田先生の声が廊下にまで聞こえたのか伝言ゲームのごとく噂が広まっていく。

 

「スクープよ!織斑くんって男の人に興味があるんだって!」

 

「それ、ホント!?」

 

「もしもし!?大至急、薄い本の作成に入るわよ!!」

 

……もうやだ。女子が怖い。

 

「えっと、それじゃあ私たちは会議があるので、これで。織斑くん、ちゃんと寮に帰るんですよ。道草くっちゃダメですよ」

 

校舎から寮まで五十メートルくらいしかないのに、どうやって道草を食えと言うんですか……。薄情なことに言いたいことを言って会議に向かう山田先生と千冬姉。教室から出ていくのを見送って、俺はため息混じりに立ち上がる。

 

廊下に出るとさっきの雰囲気が残っているのか俺の方に視線を向けてはひそひそ話をしてくる。何て言うか……俺が変な人みたいな目で見られている感じで居心地が悪いな。

 

「はぁー……」

 

俺はなんとも言えない疲労感に襲われながらも紙に書かれている部屋へと足を運ぶのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「ここが1025室だな」

 

俺は先程帰り道で部屋番号をさっと確認したので大丈夫だろうと思いながらドアに鍵を差し込むが上手く入らない。

 

「……あれ?」

 

鍵が入らないことに不思議に思いながらももう一度鍵を差し込んでみる。だが、鍵穴に入らないので壊れているのだろうと思い仕方がなく扉をノックする。

 

「すいませーん。誰かいませんかー?」

 

試しにドアノブに手をかけ、回すと扉が開く。

 

「あ、開いた」

 

ガチャと音を鳴らし部屋に入ると、まず目に入ったのが大きめのベット。それが二つ並んでいる。そこいらのビジネスホテルより遥かにいい代物なのは間違いないだろう。見ているだけでふわふわ感が醸し出されている。

 

自分の荷物がどこに置いてあるかを確認するためにベットに向かう。だが、目的の物が見つからないので辺りを探そうとするが人間の欲望に勝てずベットに飛び込んでしまう。

 

「……おおおお、やばい。このまま寝るかも、俺」

 

ベットのモフモフを堪能していると奥から声が聞こえる。

 

「誰かいるのか?」

 

おそらくシャワーか何かに入っているためか曇った声が聞こえる。そういえば全室にシャワーが付いているんだよな。―――ん?

 

「すまない。こんな格好で悪いな。なにぶんシャワーに入っていていた為このような姿―――」

 

―――何か、いや物凄く、悪い予感がする。

 

「……………」

 

「よ、よう……箒」

 

シャワー室から出てきたのは、今日再会を果たした幼馴染だった。バスタオル一枚を巻いただけの姿だった。白いバスタオルの面積は色んな意味でギリギリで、その端から下は瑞々しい太ももが露出している。シャワーを浴びていたのを証明するように、肌から水玉が脚線を滑り落ちていく。エリスほどではないが健康的な白さを持った肌が眩しく見える。

 

「……………」

 

「……………」

 

お互いにこの場から動けずにいる。だが、この場の雰囲気を先に壊したのは箒であった。俺の脇を超速で通り抜け即座に壁に立てかけてあった木刀を取ると、くるり一回転して上段打突の構え。そこから基本に忠実な低腰短歩で一気に間合いを詰めて来る。さすが去年全国剣道大会を優勝した奴だな。感心感心――――ってそんなこと考えている場合じゃねえ!

 

「うおおおっ!?」

 

俺はベットから飛び降りると一目散にドアを目指して走る。

 

バタンッ!

 

「ふうっ……危ない、危ない」

 

ドアを開けてすぐに閉める。なんとかドアの向こう側へと間一髪脱出することができた。勢いで閉めたため背中が痛む。

 

ズドン!

 

「うおっ!?」

 

顔の真横、わずかに頬の二ミリ隣から木刀の切っ先が突き出していた。いくらこのドアが木製だからって非常識過ぎるだろう……。ズズズ……と木刀の切っ先がドアの中に沈んでいく。それを確認した俺は諦めたのかと思いきやすぐさま二発目の突きが放たれる。

 

ズドン!

 

「おわっ!?ま、待て!落ち着け!話をしようじゃないか!」

 

俺の知り合いはどうして話を聞かない連中ばかりなんだ!?少しは聞いてくれてもいいだろう!?

 

「あれ……?」

 

「お、なになに?」

 

「あそこって織斑くんの部屋なのかな~?」

 

騒ぎを聞きつけて、それぞれの部屋から女子達がぞろぞろ出てくる。女子校特有なせいか全員の格好がラフな格好をしている。男の目を気にしない格好ばかりだ。中でも長めのパーカーを着て、下にはズボンやスカートすら穿かないといった子もいる。ちらちら見える白の下着がなんとも可愛らしい。なんとか理性を保ちながら俺は箒に交渉を請う。

 

「き、聞きたいことがあるんだが!」

 

「……なんだ?」

 

お、木刀が戻っていくな。俺は聞かなくちゃいけないことがあるんだ。

 

「相部屋の話って……聞いているか?」

 

「相部屋だと……?そんな話は聞いていないぞ?」

 

おかしいな……そんなはずはないんだが。俺はもう一度部屋を確認するためにさっきもらった紙を見る。

 

「……………」

 

……ああ、そっか。俺、疲れてたんだな。

 

――――書かれていた部屋の番号は隣の1024室だった。

 

「ほ、箒さん」

 

「なんだ?言いたいことがあるなら早く言え」

 

ドア越から不機嫌な声が聞こえてくる。言いにくいことだが言わなくてはいけないと思い素直に告げる。

 

「実は……隣が俺の部屋だったわ」

 

「………………」

 

シーン……。

 

それからしばらく沈黙が続く。反応がないので困っていたら……さっきの倍の突きがドアに放たれる。

 

ドドドドドドドドドッッッ!!!!

 

「うおおおおおおおぉぉぉぉぉぉ!!?」

 

俺は連続の突きから逃れるため隣の部屋、1024室のドアノブを回す。すると、鍵がかかっていなかったのか、そのまま転がるように部屋に入っていく。

 

「し、死ぬかと思ったぜ……」

 

安心した束の間。俺は今日から一緒に過ごすことになる人に謝罪と今後お世話になる気持ちを込めて挨拶をしようと思ったが――――。

 

「あ、兄さん。お帰りなさい」

 

今度はシャワールームから妹のエリスが出てくる。しかも箒のときとは違いタオルを首に下げているだけの状態だったのだ。つまり、何が言いたいのかと言うと……全身裸なのが丸見えなのだ。

 

「……………」

 

普通、兄妹に裸を見られたら騒いだりするものだろう。だが、エリスは特に恥ずかしそうな様子も見せず、ましてやタオルで身体を隠そうともしない。そして俺もここで背を向けて妹の身体を見ないようにするのが当たり前だと思う。しかし俺は動けずにいた。何故動けないかというと……エリスの身体についている傷に目が離せなかった。

 

―――また傷が増えてる。昔、家に住むようになった頃は傷一つなかった白い肌だった。だが、年を重ねるごとに傷が増えていっている気がする。どこでそんな傷をつけてきたのかわからない。聞いても必ず話をはぐらかすのだ。千冬姉に聞いても知らないの一点張りだ。

 

全身隈なく傷がついている。腕は制服が長袖なため気づかれることはない。足は黒いストッキングを穿いているから目立つことはない。だから普段一緒に過ごしていても気になることはない。けれど、エリスは誰かと一緒にお風呂に入ることはなかった。いつの日かこんなことを言っていた。

 

『私が一緒に入ったら嫌な気持ちになっちゃうでしょ?あまり他の人に迷惑をかけたくないから』

 

エリスは自分は傷だらけの身体でも気にしないと言っていた。だが、自分は気にしなくても他人は気にするのだ。だからエリスは銭湯や旅行先の温泉に誰かと入ったことはないのだ。唯一、一緒に入ったことがあるのは俺と千冬姉だけだ。俺の場合小さい頃に入ったぐらいだがな。

 

「……兄さん?」

 

「あ、ああ……悪い」

 

俺は背中を背けエリスの裸から視線を合わせないようにする。するとエリスが部屋に帰るのが遅かったのか訊いてくる。

 

「なんでこんなに遅かったの?」

 

「ああ、実はな……」

 

俺はエリスにここまで来る経緯を話す。するとエリスがこちらに近づく音が聞こえてくる。音がなくなり何をするつもりなのだろうと思っているとエリスに予想外のことをしてくるのであった。

 

「えいっ!」

 

ゴンッ!!

 

「~~~~~~~~~ッッッ!?」

 

エリスは一夏の背後に立つと素足で男の急所を蹴り上げる。あまりの痛みに一夏は床に崩れ落ち悶絶する。一夏は顔を青ざめ大事な場所を押さえながらエリスの方に視線を送る。

 

「な、なんで、俺は蹴られたんでしょうか……?」

 

「私の裸ならともかくあのメロン野郎の裸を見たことが気に入らなくて。『つい』蹴ってしまいました」

 

いやよくないだろ。なにも蹴らなくてもいい気がするような……。

 

「まあ、兄さんのそれについては今に始まったことではないですけど」

 

「えっと……すいません」

 

俺はエリスに謝るといいですよと言う。すると、エリスは部屋の奥に行き着替えをしてくる。寝巻きのパジャマを着てもう一度こちらに戻ってくる。

 

「大丈夫ですか?まだ痛いですか?」

 

「ああ、大丈夫だ」

 

まだ痛みが残っているものエリスの手を借りて立ち上がる。俺の視界にエリスのパジャマ映し出される。さっきの子達のようなものではなく上下長袖長ズボンといったパジャマを着ている。ちょっとはエリスの格好を彼女達に見習って欲しいと思ったりする。でないと廊下を歩くとき苦労するからな。

 

「もう遅いので寝ましょうか、兄さん」

 

「ああ、そうだな」

 

本当はお風呂に入りたかったが疲れて寝ると危ないからな。朝早くに入ることにしよう。

 

「兄さんはどちらのベットで寝ますか?」

 

「そうだな……」

 

ドア側のベットか窓側のベット。悩んだ末に決めたのは窓側のベット。それを口に出そうとするが……。

 

「じゃあ窓側のベッ――――」

 

「じゃあ私は窓側のベットにしますね」

 

エリスは俺が言い終わる前に窓側のベットを陣取る。もはやわざととしか言いようがない行動に呆れてしまう。

 

「はぁー……知ってて聞いたのか?」

 

「たまたまですよ」

 

エリスはうふふと言いながらベットの中に入り寝始める。まだ時間はそんなに経っていないのにも関わらず寝息が聞こえ出す。

 

「……エリスも疲れてたんだな」

 

きっと俺が帰ってくるまで寝るのを我慢していたんだろう。今日一日だけでいろんなことがあったしな。疲れていてもおかしくはないだろう。

 

「さて、俺も寝るか」

 

俺は明日に備えて授業の準備だけをしてベットに入り込む。すると眠気が一気に襲い掛かる。そしてそのまま俺は夢の中へと連れて行かれるのであった。

 




セシリア戦までが長い……だが、そこまでの過程が大事だから飛ばすことができないでいたりします

そしてオリジナルISを考えたもの上手く表現ができるか心配です

それでは次回もよろしくお願いします!!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第四話「パートナー」

セシリア戦までわずかです……遅くてスイマセン

今回は疑問になっている部分がわかるものがいくつかわかると思いますので

どうぞ楽しんでください!


「はあ、はあ……」

 

私、六条エリスは姉の織斑千冬と一緒に剣の鍛練をしていた。朝4時から現在の時刻6時になろうとしていたところまでやっていた。

 

本来こんな時間から道場を借りることなどできないのだが姉の権限により使わせてもらっている。剣道といえば防具を着けてやるのが一般的だろう。普通防具を着けずにやれば怪我をする可能性が出てくるからだ。まして普通の人なら防具を着けずにするなどしないだろう。

 

だが、今行われている鍛練は剣道とかけ離れているものだった。両者共々防具を身に纏わずこれから通うところの格好をしている。何故、ジャージや体操着でやらなかというと姉曰く普段着で対処が出来ないようでは強くは成れないということらしいが真実は定かではない。

 

制服とは元々勉強に相応しい格好で挑むものとして作られている。なので運動するのには適していない服装だ。それにも関わらずにもだ。動きにくくて仕方がない。

 

防具を身に着けずやるのには理由がある。まず私達がやっているものは『剣道』ではない。『剣術』であるからだ。剣道とは活人剣だ。これは多くの意味があるが大抵は己の心を強くする意味合いが大きい。

 

だが、私達がやっているものはそんな生温いものではない。お互いどちらかが死ぬか生きるかそんなことをしている。しかし、そうは言っても本当に殺し合うわけではない。それはお互い理解している。あくまでも実戦に近いことを行っていた。

 

「どうしたエリス?貴様はこの程度なのか?」

 

「はぁ、はぁ……ま、まだ、やれる」

 

震える体に叱咤をおくり足を立たせようと力を入れるが上手く入らない。そんな光景を見ていた姉は私の足に追い打ちをかけんばかりか蹴りを放つ。

 

ドコンッ!!

 

「くうっ!」

 

「口は正直じゃないが体は正直者だな」

 

「あ、くう……!」

 

姉は今度は腹に目掛けて蹴りを放つ。それをまともに食らった私は道場の床にひれ伏す形になる。

 

「どうした、早く立て。もしこれが私ではなかったらお前は殺されているぞ」

 

「ぐうっ……ううっ!」

 

床に転がっている竹刀に手を伸ばしたところを姉の足によって妨げられる。ぎりぎりと徐々に力が入れられ痛みが襲うが必死に耐える。

 

「あっ、があっ……!」

 

「お前が憎んでいる相手は2000発以上のミサイルを撃ち落とし戦車や戦闘機相手に無傷で勝ったやつだぞ。しかも誰も殺さずにな」

 

姉の足の力が増す。上から私を見下ろしながら挑発をしてくる。

 

―――そうだ。私は誓ったじゃないか。アイツをこの手で殺すと。

 

「―――オオ」

 

―――忘れるな。

 

「―――オオ、オオオオ」

 

―――あの時に味わった想いを。

 

「オオオオオオオオオォォォォォォォォォ!!!!」

 

叫べ、吠えろ!私はどんなことがあってもアイツを殺すと家族に誓ったではないか!

 

肉体はメキメキと音を鳴らし骨が軋む。踏まれていた足を振り払い立ち上がる。

 

「はぁ、はぁ……があっ!!」

 

立ち上がったものは良いが体が思うように動かずにいた。すると姉が私に声をかける。

 

「……今日は終わりだ」

 

「なっ、私はまだ―――」

 

「ここは学校だぞ。私達はそれぞれやることがあるだろう?」

 

「くっ……!」

 

ここで終わらせられたことに不満に思いながらも姉の言っていることが正しいため反論できずにいた。今日も勝てなかったことが悔しく唇を噛み締める。

 

「わかったか?ならいい。いつものやるぞ」

 

「……はい」

 

私は制服を脱ぎ姉の前に身体の傷を見せる。すると姉は愛用の応急セットで傷の手当てをしていく。腫れている部分にはコールドスプレーを使って冷やし擦りむけている傷には消毒液を塗ったあとガーゼをのせテープで固定する。

 

「―――っ!!」

 

「すまん。痛かったか?」

 

「ん……平気」

 

姉は普段横暴かつ暴言などを吐いてばかりだが根は優しいのだ。鍛練もそうだがあんな雰囲気だが終わった後は必ずのように手当てをしてくれる。

 

「……………」

 

「……………」

 

お互い無言で道場には外の鳥の鳴き声しか聞こえない。だが、そんな空間がいやではないと思っている私だった。

 

「……お前は」

 

「……姉さん?」

 

姉さんは何かを言おうとするが途中で口を閉ざす。何を言っているのか聞こえなかった私は姉さんに聞き返すがなんでもないと言って応急セットを片付けだす。

 

「さて、これから私は食堂に行くとしよう。……エリスはどうする?」

 

「うーん……。私は教室で寝ようかな」

 

「はぁ……。また朝食べないのか?」

 

「だって……」

 

あんまりお腹が空いてなんだもん。兄さんは朝食べろって言ってくるけど鍛練した後にご飯ってちょっと……。それに空腹の方が眼が覚めていいから。

 

「……まあ倒れるようなことがなければ一向に構わんがな」

 

「じゃあ、行こ?」

 

「ああ、そうだな」

 

そして私達はそれぞれ向かうべき場所へと向かいだすのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「全く……なんだっていうんだ?」

 

朝起きたらすでにエリスはいなかったし、箒を誘って食事していたところに三人の女子が来てから箒は不機嫌になるし……訳がわからん。ちなみに千冬姉が寮長だって知ったのが三人の内一人が言っていたからだ。あれはびっくりしたな。

 

「千冬姉が寮長か……」

 

もはや寮じゃなくて監獄の間違いじゃ……おっと、これ以上考えているとまた怒られるな。

 

「ん……?」

 

そんなことを考えてながら歩いていると目的の教室にたどり着く。教室のなかに入るとエリスが机の上ですやすやと眠っている。

 

「すぅ……すぅ……」

 

「……よっぽど昨日の疲れが残っているんだな」

 

昔からそうだがエリスは必ずのように寝ている気がする。いつも朝一緒に行こうとしてもすでにいないことが多々あった。でも、学校に行くとこうして寝ているのだ。嫌われているのかと思ったこともあるがそうではないらしい。

 

詳しい理由は聞かされていない。だけどエリスにはエリスなりに何かあるんだろうと思いそのことにはあまり追及しなかった。

 

「……こうして見ると可愛いな」

 

確かにいつも可愛いけど寝顔はまた別だと思う。無垢な子どものように無防備な姿はなかなか良いと俺は思う。まあ、言ったら何か言われるのは目に見えているから言わないが。

 

「おっと、そろそろ時間だ」

 

授業の始まりのチャイムが鳴る。するとそれと同時に山田先生と千冬姉がやってくる。

 

「では、これより授業を開始する」

 

千冬姉が授業の号令をかける。するとクラスが一気に静かになる。

 

来週には俺とセシリアの試合がある。少しでも多くISの操縦について知らないといけない。

 

(まあ頑張って勉強すればなんとかなるだろう)

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

―――結論から言おう。なんともなりそうにない。二時間目が終わった時点で、俺は早くもグロッキーだった。

 

(……やばいな)

 

昨日はエリスのカンニングペーパーでなんとか凌いだが今日は予習をしてないうえにエリスから紙を貰っていないので全くついていけない。

 

「すぅ……すぅ……」

 

……まだ寝てんのかよ。起きた方が良いと思うぞ。

 

「……………」

 

千冬姉はエリスを見ながら指をポキポキと鳴らしている。横で授業をしている山田先生は音が鳴る度にビクビクしている。頼むから起きてくれ。でないと俺まで被害が来るんだが……。

 

「と、というわけで、ISは宇宙での作業を想定して作られているので、操縦者の全身を特殊なエネルギーバリアーで、つ、包んでいます。ま、また、生体機能も補助する役割があり、ISに操縦者の肉体を安定した状態へと保ちます。これには心拍数、脈拍、呼吸量、発汗量 、脳内エンドルフィンなどがあげられ――」

 

「先生、それって大丈夫なんですか?なんか、体のなかをいじられてるみたいでちょっと……」

 

クラスメイトの一人がやや不安げな面持ちで尋ねる。確かに、今の話を聞けば普通思うよな。山田先生はうーんと唸り声を上げる。すると何か思い付いた顔をする。

 

「そんなに難しく考えることはありませんよ。そうですね、例えばみなさんはブラジャーをしていますよね。あれはサポートこそすれ、それで人体に悪影響が出るということはないわけです。もちろん、自分にあったサイズのものを選ばないと、形崩れしてしまいますが―――」

 

ふと、俺と目が合う。そこで一回きょとんとした山田先生は、数秒置いてからボッと赤くなった。

 

「え、えっと、いや、その、お、織斑くんはしていませんよね。わ、わからないですね、この例え。あは、あははは……」

 

その山田先生のごまかし笑いはなんとなく教室中に微妙な雰囲気を漂わせた。俺よりもむしろ女子が意識しているみたいで、腕組みをするフリで胸を隠そうとしていた。

 

ちなみに今更女子の下着を見て騒いだりしない。昔から千冬姉やエリスの下着を洗濯してきたのだ。でも千冬姉と違ってエリスは自分の下着は自分で洗濯すると言ってやってたな。それに比べて千冬姉は……。

 

すこーんっ!!

 

「お前は本当に学習能力がないな」

 

……なんでバレるんだ?

 

「一度自分の顔を見てみろ。よくわかるぞ」

 

失礼な。毎朝顔を洗うとき鏡で見ているさ。特におかしいところはなかったんだけどな。

 

「ええと……授業を続けてもいいでしょうか?」

 

「むっ、すまない。続けてくれ」

 

千冬姉がそう言うと山田先生ははいと返事を返し授業を再開する。

 

「そ、それともう一つ大事なことは、ISにも意識に似たようなものがあり、お互いの対話―――つ、つまり一緒に過ごした時間でわかり合うというか、ええと、操縦時間に比例して、IS側も操縦者の特性を理解しようとします」

 

へぇ……。そんなこんなが出来るなんてな。すごいな。

 

「それによって相互的に理解し、より性能を引き出せることになるわけです。ISは道具ではなく、あくまでパートナーとして認識してください」

 

すかさず、女子が挙手をする。

 

「先生ー、それって彼氏彼女のような感じですかー?」

 

「そ、それはですね……。うぅ、私、彼氏がいなかったので……」

 

どよーんと暗くなる山田先生。挙手した女子はしまったという顔をしている。……おそらく今の発言は地雷のようだ。

 

「先生ー、ファイトです!」

 

「いつかできますよ!」

 

「そうですよ!」

 

「……そう思っている内に三十が過ぎ――」

 

「うぅ……どうせ、私なんかに、彼氏が……」

 

おい、最後の人。いくらなんでも可哀想だろ……。

 

キーンコーンカーンコーン。

 

「つ、次の時間では空中におけるIS基本制動をやりますからね~!」

 

うわーんと泣きながら真耶は教室を出ていく。千冬は溜め息をつきながら山田先生の跡を追っていくのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

私は授業中ずっと寝ていようかと考えていたのだが山田先生が授業で話していたISとはパートナーという言葉を聞いて眼が覚めてしまった。表向きでは寝ているフリをしていたが実際はずっと起きていた。それに気づいていた姉さんは私に制裁を加えてこなかったのだ。

 

(……パートナー、か)

 

私は首につけている白色チョーカーを指でなぞる。そして、いつの日か姉が言っていたことを思い出す。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

『いいか、よく聞け。これが今後お前のパートナーとも言えるモノだ』

 

『……これがIS』

 

手に渡された白色のチョーカー。それを見つめ思う。

 

(これが……私の力となるもの。そして―――)

 

―――家族を死なせた原因となるもの。

 

『……………』

 

『……憎いか?』

 

『―――ッ!!ええ、憎いわ』

 

こんなものに本当は頼りたくなんかない。だが、この世界ではISが一番なのだ。ただの小娘が力を得るためにはこれしか方法がないのだ。

 

『お前はISを憎む資格がある。だからどれだけ憎んでも私は口出しはしない。だが――』

 

『……だが?』

 

『そいつのことは何があっても信じろ。決して道具として扱うな。己の分身だと思え』

 

『……ISには意識みたいなものがあるから?』

 

『そうだ。そいつと共に過ごし、戦い、対話をしろ。何より大事なのは理解することだ』

 

『……そうすれば強くなれるの?』

 

『ああ、いつかお前の期待に応えてくれるモノになるだろう』

 

『――わかった。これからよろしくね――』

 

――『フェンリル』

 

 




コメントお待ちしておりま~す!



目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第五話「戦闘準備」

や、やっと次回からセシリア戦にいける……

そろそろIFも投稿しないとですな!

さ~て頑張りますか!……と言いたい所ですが少し更新速度が遅れるかもしれません

なるべく投稿したいと思いますのでよろしくお願いします!!


ねえねえ、織斑くんさあ!」

 

「はいはーい、質問しつもーん!」

 

「今日のお昼ヒマ?放課後ヒマ?夜ヒマ?」

 

昨日の様子見は終わりを告げたのか、山田先生と千冬姉が教室を出るなり女子の半数がスタートダッシュ、俺の席に詰めかける。なんか凄い勢いで走ってくるんだが一応ここ、教室だからな。危ないぞ。

 

「いや、一度に訊かれても――」

 

困るんだが。と続けようとして、なにやら整理券を配っている女子を見つける。おい、ちょっとそこの女子。なに商売してんだ。

 

「……………」

 

俺を囲む集団を少し離れた位置で見ているのは、幼なじみこと箒だ。相変わらず怒っているように見えるがあれが普通らしい。おお、怖い、こw――。

 

ギンッ!!

 

――ナンカイイタイコトガアルノカ?

 

「……………」

 

……千冬姉。俺って学習能力がないのかもしれない。

 

(しかし参ったな。ISについて訊こうと思ったのにエリスは未だに寝てるし箒は怒ってるし……こりゃ後で訊くしかないな)

 

そう思っている間に女子の早く質問答えて視線が非常につらい。どれから答えたらいいのやら。

「千冬お姉様って自宅ではどんな感じなの!?」

 

「え、案外だらしな――」

 

パアンッ!!

 

「うぶっ!?」

 

「休み時間は終わりだ。さっさと席に着け」

 

や、やばい。威力が増してきてるぞ。しかもこのタイミングでの叩きはあれか。個人情報をばらそうとしたからだろうか。

 

「それ以上変なことを考えるなら貴様の性癖をばらすぞ」

 

「ってまだそれ言うのか!?」

 

だから誤解だって!?信じてくれよ!!

 

「だったら余計なことはするな。……ああ、それとだな」

 

「どうした千冬姉?」

 

パアンッ!!

 

「……………」

 

「織斑先生だ、馬鹿者」

 

だ、誰か助けてくれ……。

 

「ところで織斑、お前のISだが準備まで時間がかかる」

 

「へ?」

 

「予備機はない。だから、少し待て。学園で専用機を用意するそうだ」

 

「んんん?」

 

俺がちんぷんかんぷんでいると、教室中ざわめきだす。

 

「せ、専用機!?一年の、しかもこの時期に!?」

 

「つまりそれって政府からの支援が出るってことだよね……」

 

「いいなぁ……。私も早くほしいなぁ」

 

全く意味がわからないという顔をしていると、見るから堪えかねたという感じで千冬姉がため息混じりに呟く。

 

「はぁ……。つまり、本来ならIS専用機は国家あるいは企業に所属する人間しか与えられないのだ。だが、状況が状況だからデータ収集を目的として専用機が用意されることになった。わかるか?」

 

「ああ、なんとなくだけど……」

 

「そのうえ製作者である篠ノ之束はIS467機を作って以来行方をくらました。その中の一つがお前に与えられるのだ」

 

……え、マジか。世界に何十億人いるなか俺に与えられるのか。

 

「あの、先生」

 

女子の一人が千冬姉に挙手をする。

 

「なんだ?」

 

「篠ノ之さんって、もしかして篠ノ之博士の関係者なんでしょうか……?」

 

挙手をした女子はおずおずと千冬姉に質問する。まあ、普通同じ名字の人がいたら気になるよな。

 

「そうだ。篠ノ之はあいつの妹だ」

 

おい、ちょっと待て。いくらなんでも個人情報をばらしちゃいけないだろ。プライバシーの侵害だぞ。

 

「ええええーっ!す、すごい!このクラスに有名人が二人もいるなんて!」

 

「篠ノ之さんも天才なのかな?そうだったらすごいよね!」

 

「あたしISの操縦について教えても~らおう!」

 

授業中だというのに、箒の元にわらわらと女子が集まる。そんな光景をおもしろいと思いながら見ていると箒は何かに耐えているようだったがついに限界に達する。

 

「あの人は関係ない!」

 

突然の大声。俺は目見開きながら箒を見る。俺と同じく箒に群がっていた女子たちも目を見開いていた。

 

「……大声を出してすまない。だが、私はあの人じゃない。教えられるようなことは何もない」

 

そう言って箒は窓の外に顔を向けてしまう。女子は盛り上がったところに冷水を浴びせられた気分のようで、それぞれ困惑や不快をした顔にして席に戻った。

 

(あれ?箒って束さんのこと嫌いだったか……?)

 

記憶をたどってみるがそんなことはなかったと思う。そもそも箒と束さんが一緒にいたところをあんまり見たことがないかもしれない。

 

「さて、授業を始めるぞ。山田先生」

 

「は、はいっ」

 

山田先生は箒の様子を確認してから授業を始める。

 

(あとで箒に聞いてみるか……)

 

そして、俺は教科書を開くのであった。

 

 

 

 

 

 

 

 

「……………」

 

(あの人は関係ない、か)

 

関係なくはないと思う。姉妹揃ってISに関わっているという部分では十分あるだろう。第一この学園に来たら言われるのは目に見えているはず。少なくとも私は思う。

 

(まあ、私にとってはどうでもいいけど)

 

本当は仲良くなれたかもしれないが『天災』の妹となると話は別だ。憎い相手の身内と仲良くなれるほど私の心は広くない。

 

筋違いなのかもしれない。彼女は姉の被害者なのだ。なにも悪いことはしていない。それでもあいつの妹というだけで仲良くする気が出てこない。

 

(私の復讐の邪魔をしなければ気にすることはない。……もし、兄さんに何かしたり復讐の道の妨げになる存在になるとしたら)

 

―――殺すまでのことだ。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「安心しましたわ。まさか訓練機で対戦しようとは思っていなかったでしょうけど」

 

休み時間、早々に俺の席にやってきたセシリアは腰に手を当てて言う。毎回思うんだがその腰に手を当てているのは無意識にやってんのか?

 

「ですが、そちらの方は訓練機で私に挑むようですが……大丈夫なんですの?」

 

「さあ……?それはエリスに直接聞いてみればいいんじゃないか?」

 

「そ、それはそうなんですが……」

 

あんなことがあったからかセシリアはエリスに対して少しびびっている様子だった。確かに聞きづらいよなあ……。

 

「で、ですからあなたが聞いてくださる?」

 

「あー……どうするかな」

 

「なにかあったの兄さん?」

 

おお、いつの間に起きてたんだ。エリスはいつの間にか俺の席に来ていた。するとエリスの存在に気づいたセシリアは若干びびりながらも声をかける。

 

「あ、あなた大丈夫なんですの?」

 

「何がです?」

 

「こう見えてもわたくし、セシリア・オルコットはイギリスの代表候補生……つまり、現時点で専用機を持っていますの」

 

「はぁ……で?」

 

「で……って理解できませんか?」

 

俺も理解できないんだが……。

 

「……こほん。先程の授業でも言っていたように世界でISは467機しかありませんわ。つまり、その中でも専用機を持つものは全人類六十億超のなかでもエリート中のエリートなのですわ!」

 

セシリアは自分の胸を叩きエリートとの部分を強調して言う。それに対しエリスはだから何?と言う顔をしていた。

 

「エリートだから……何だって言うの?」

 

「ですからわたくしがあなた方達にISの操縦を教えて差し上げてもよろしいですわよ」

 

「……………」

 

エリスは顔を俯いて何かぶつぶつと言っている。声が小さすぎて隣にいる俺でも途切れ途切れにしか聞き取れない。

 

「に……い……こ……な……に」

 

「ええと……聞いてますの?」

 

「ああー……セシリア」

 

「なんですの?」

 

俺はセシリアに忠告をする。

 

「少しエリスをそっとしておいてくれ。でないと――」

 

「でないと……?」

 

「……俺はそれ以上言うつもりはないから」

 

ここであのときと同じ事が起こったら大変だしな。あと、こんなところで説明したらエリスの印象が悪くなるしな。

 

「はぁ……まあ、分かりましたわ」

 

セシリアは渋々ながらも納得している様子だった。内心少しひやひやしながらも表向きは平然を装うことができた。エリスは気持ちを落ち着かせたのか雰囲気がもとに戻る。

 

「ふぅ……。見苦しいところ見せてすいません、兄さん」

 

「いや、大丈夫だけど……平気か?」

 

「ええ、大丈夫です」

 

エリスの気持ちは何となく分かるけどな。第一あんな風に言われたら腹が立つに決まっている。

 

キーンコーンカーンコーン。

 

チャイムがなると同時に席に戻り次の授業の準備を始める生徒がちらほらと見える。

 

「ま、まあ。クラス代表になるのはこのわたくし、セシリア・オルコットだと言うことをお忘れなく」

 

髪をぱさっと手で払い綺麗な足取りで自分の席に戻っていく。イギリス出身なだけはあると感心するのであった。

 

 

 

 

 

 

「箒ー。一緒に食べに行こうぜ」

 

「……………」

 

「兄さん……お腹すいた」

 

俺はさっきの件で箒が浮いていると思い声をかけるが無視される。エリスに関しては隣でお腹が空いたしか言わない。というかエリスお前……また朝食抜いただろ。

 

「……私はいい」

 

「はいはい、わかったから行くぞ」

 

「おい、それはわかったといわ―――う、腕を組むな!」

 

箒は大抵こうして強引にやれば大丈夫だ。エリスは面白くなさそうな顔で俺を見てくる。……なんでだ?

 

「なんだよ歩きたくないのか?おんぶしてやろうか?それともお姫さまだっこがいいか?」

 

「なっ……!」

 

ボッと顔を赤くする箒。ここまで言えば付いてくるだろう。

 

「わ、私はそんなことされなくとも……それよりも早く離れろ!」

 

「学食についたら離れてやるよ」

 

「は、離れろ!ええいっ―――」

 

「―――っ!兄さん!」

 

箒の腕に絡めていた腕が、肘を中心に曲げられる。痛いと思った次の瞬間には視界が反転、俺は床の上に投げ飛ばされていた。にもかかわらず背中に痛みがない。不思議に思い背中に視線を向けるとエリスが下敷きなっていた。

 

「おい、エリス大丈夫か!」

 

「へ、平気だから……っ!」

 

エリスはお腹を丸めて痛みに耐えている様子だった。俺はエリスのお腹に怪我があるのかと思い手を伸ばしたところを叩かれてしまう。

 

「駄目っ!!」

 

パシーンッ!!

 

「……………」

 

「あっ……ごめんなさい」

 

悪いのは俺だというのにエリスは本当に申し訳なさそうに謝る。……また、やっちまった。前にも同じようなことがあった。昔もこんな感じだったところを手を伸ばしたら叩かれたことがあった。

 

大体こういう場合は何かを隠したがっているときだ。裸を見られても動じないエリスが触られたらこういう反応するときはいつもそうだ。おそらく、また傷が増えたんだろう。

 

今さらだと思うがそこは追及はしないことにしている。でも、裸を見られる方がよっぽど嫌がると思うんだがな。普通はな。

 

「……いいさ。俺が悪いんだから気にするな」

 

「……すみません」

 

エリスの頭を撫でる。そして、さっきから呆然と立っている箒に顔を向ける。

 

「箒」

 

「な、なんだ?」

 

「飯、食いに行くぞ」

 

俺がそう言うと箒は驚いた顔をする。俺は立ち上がり箒の手を強引に掴み学食へと連れていく。

「だ、だが、私は―――」

 

「拒否権はないぞ」

 

「くっ……!」

 

何か言いたそうだったが箒は黙ってついてくる。エリスも痛みが引いたのか俺の後ろについてくる。そして、三人で学食へと向かう。

 

 

 

 

 

 

 

「おお、美味いなこの日替わり定食」

 

「……………」

 

「……………」

 

うん、誰か助けてくれ。さっきからずっとこんな感じでいる。俺が何か喋っても反応が返ってこない。俺と箒は日替わり定食。エリスはオムレツと林檎とサンドイッチのご飯だ。ちなみにサンドイッチのことをサンドウィッチとも呼ぶらしい。

 

「ところでさあ、箒」

 

「……なんだ」

 

おお、やっと返事が返ってきた。

 

「ISのこと教えてくれないか?このままじゃ何も出来ないままで負けそうな気がする」

 

「ふん、そんなこと知らん。男なら何とかしてみせろ」

 

こんなにも幼なじみが冷たいとは……俺は何かしたのか?仮にも俺、被害者なんだけど……。

 

「はぁ……。エリスはどうするんだ?」

 

「私ですか……?」

 

林檎を食べながら考えるエリス。しばらく考えたあとエリスは告げる。

 

「私は何もしません」

 

「えっ、マジか」

 

「貴様、あれだけのことをしてなにもしないとはどういうつもりだ?」

 

エリスの言ったことに俺は唖然としてしまう。箒は先日の件について指摘する。するとエリスは、はぁ、とため息をつきながらも説明する。

 

「あなたにそんなこと言われる筋合いはありません。ですが、理由はあります」

 

「じゃあどうしてだ?」

 

「まず、織斑先生が予備機がないと言ったことです」

 

「ああ、成る程な」

 

確かに朝そんなこと言っていたような気がする。

 

「ですからISの練習は無理です」

 

「じゃあどうするんだ?このままだと負けるかもしれないぞ」

 

俺がそう言うとエリスは心配しないでくださいと言う。

 

「私は負けませんから」

 

「どこからそんな自信が出てくるんだ、お前は……」

 

「少なくともあなたよりかは強いですよ」

 

エリスと箒の間に火花が飛び散っているように見える。昔から変わらないなぁ、本当に。

 

「私のことよりも兄さんのことを考えないと不味いのでは?」

 

「うーん……そう言われてもな」

 

どうすればいいか全く分からないしな。

 

「一週間でISのことを覚えるのは無理だと思います。それは兄さんが一番分かっていると思いますが」

 

た、確かに。今考えるとあの辞書みたいなのを一週間で覚えるのは無理な気がする。

 

「ISについては最小限のことを覚えて、あとは体の鈍りを直すという意味で鍛練をした方がいいのかもしれません」

 

「――おい、それはどういうことだ?」

 

エリスの話を聞いた箒は何故だかわからないが怒気を含んだ声で訊く。やばい、悪い予感がする……。

 

「えっ?知らないのですか?兄さんは中学時代三年間帰宅部ですよ」

 

「それは本当か一夏?」

 

「ああそうだ。しかも皆勤賞だぜ」

 

どうだ凄いだろうと言わんばかりのドヤ顔をする。すると箒の周りに何かのオーラが出ている気がするのは俺の見間違いだろうか?

 

「お前はこの三年間一体何をしていたんだ!」

 

「それは……」

 

家計を守るためにバイトしてたんだが。多分、そんなことを言っても聞いてもらえない気がするけどな。

 

「お前はいつから軟弱者に成り下がったんだ!」

 

いや成り下がったんだつもりはないんだが。それに三年間全くなにもしていなかったわけじゃない。

 

「―――なおす」

 

「はい?」

 

「お前を鍛えなおす!いいな!わかったら返事をしろ!」

 

「は、はいっ!?」

 

思わず勢いで返事をしてしまった。なんか千冬姉に似ていた気がして。

 

こうして俺は一週間、箒に放課後みっちり絞られるのであった。

 

だが、大事なことを忘れていた。そう……ISについて一切手をつけていないことに。

 




う、う~ん……あんまり上手く書けた気がしない

何かおかしなところがありましたらコメントください!

待っていますので!


目次 感想へのリンク しおりを挟む


しおりを挟む

第六話「セシリア・オルコット」

更新速度が遅くてスイマセン……

なるべく早く書けるように頑張りますのでよろしくお願いします


あれから一週間が経ちついにセシリアとの戦いの日なのだが―――。

 

「……なあ、箒」

 

「なんだ、一夏」

 

あれから一週間、お前が剣道の稽古に付き合ってくれたお陰で昔の感覚をある程度取り戻せたことには感謝している。だがな―――。

 

「箒、俺に何か言うことがあるんじゃないか?」

 

「さあな。私が一夏に何を言えというのだ?」

 

……そうか。わからないのか。なら言ってやる。

 

「稽古ばかりしてISのこと一つも教えてくれなかったことだよ!」

 

そう、一週間剣道の稽古しかしないで終わった。しかも肝心のISの知識とか基本的なことを教わってないのだ。

 

「………………」

 

「おい! 目をそらすな!」

 

……完全に忘れてたな箒の奴。

 

「そ、そんなことは頼まれていない! それぐらい自分で何とかしろ!」

 

うわー……逆ギレしてきたよ。

 

「ならエリスに教えてもらえば良かっただろうが!」

 

「ああー……知識については少ししか教えてもらってない」

 

しかも授業でいくつかエリスにもらった要点まとめノートのわからなかった部分だけだ。

 

「はぁ……。しかし、なあ?」

 

……来ないなあ。何が来ないかというと俺専用のISがなにやらごたついたせいで結局来なかったのだ。しかも未だにな。

 

「………………」

 

「………………」

 

俺と箒しばらく沈黙状態が続いた。その空気を壊したのがクラスの副担任の山田先生だった。

 

「織斑くん織斑くん織斑く~ん!」

 

転びそうになりながらも第三アリーナ・Aピットに駆け足でやってくる山田先生。危なっかしくドキドキしながら見守っていると息を切らしながらこちらにやってくる。

 

「はぁ……はぁ……お、織斑くん!」

 

「山田先生、落ち着いてください。まずは深呼吸」

 

「は、はいっ。ヒッヒフー、ヒッヒフー」

 

それ違う! あんたは子供を産むつもりか!?

 

「それ、深呼吸じゃないですよ……」

 

「あ、あれ?おかしいですね?」

 

山田先生は首を傾げて自分がやったことに疑問を抱く。誰もそんなこといってないんだけどな。

 

パァンッ!

 

「貴様は私に何回叩かせれば気が済むんだ?」

 

今日は比較的優しい打撃を繰り出す千冬姉。その後ろにはエリスがいた。

 

(……? エリス?)

 

千冬姉の後ろにいるエリスの顔が悲しそうに見える。あまり月日が経ってない人にはわからないだろうが長年過ごしてきたからわかる。なんでそんな顔をするんだ?

 

「あ、あのですね!来ましたよ!織斑くんの専用IS!」

 

――えっ?

 

「織斑、早くしろ。もたもたするな。時間は限られているんだ」

 

――あの?

 

「この程度の障害、男子たるもの軽く乗り越えてみせろ。一夏」

 

「ちょ、ま……」

 

「「「早く!」」」

 

山田先生、千冬姉、箒の声が重なった。少しは話を聞いてくれてもいいような……。

 

ごごんっ、と鈍い音がして、ピット搬入口が開く。斜めに噛み合うタイプの防御扉は、重い駆動音を響かせながらゆっくりと向こう側を晒していく。

 

―――そこには『白』が、いた。

 

白、真っ白。飾り気のない、無の色。眩しいほどの純白を纏ったISが、その装甲を解放して操縦者を待っていた。

 

「これが……」

 

「はい!織斑くんの専用IS『白式』です!』

 

真っ白のそれ。無機質なそれは、けれど俺を待っていたかのように見えた。そう、こうなることをずっと前から待っていたかのように。

 

「時間がない。フォーマットとフィッティングは実践で何とかしろ。いいな?」

 

エリスからもらったノートのお陰で千冬姉の言ってることがわかる。俺は『白式』に触れる。

 

「………………」

 

何だろうな、この感覚。こいつと初めて会った筈なのにどこか馴染んだ感じがする。それでいて理解できる。こいつが何なのか。

 

「背中を預けるようにしろ、そうだ、それでいい。後の事はシステムが勝手に最適化してくれる」

 

千冬姉の言葉通り、装甲を開いているIS―――白式に体を任せる。すると俺の体に合わせて装甲が閉じる。白式から俺へと情報が伝わってくる。

 

―――戦闘待機状態のISを感知。操縦者セシリア・オルコット。ISネーム『ブルー・ティアーズ』。戦闘タイプ中距離射撃型。特殊装備有り―――。

 

「どうやら正常に動いているらしいな。気分はどうだ、一夏」

 

淡々とした口調で話しかけてくる千冬姉。だが、口調は淡々としているがどことなく心配しているようにも感じられる。……本当に素直じゃないんだから。

 

「ああ、平気だよ。いけるよ、千冬姉」

 

「そうか」

 

ほっとしたような声。けれどそれは、ISのハイパーセンサーだからこそわかる事だった。

 

「………………」

 

俺の後ろで箒が何か言いたそうな表情が見えた。実際、俺は前を向いているがシステムのおかげで自分の周りが見えているから後ろを向く必要性がない。だから俺は前を向いたまま箒に告げる。

 

「箒」

 

「な、なんだ?」

 

「行ってくる」

 

「……ああ、行ってこい」

 

それ以上、箒は何か口にすることはなかった。最後にエリスの様子を確認すると案の定悲しそうな顔をしている。

 

「エリス」

 

「………………」

 

呼びかけるが返事が返ってこない。それでも言わないといけない。

 

「勝って帰ってくるから。だから、見ていてくれ」

 

「……………」

 

俺はそれだけエリスに言って対戦相手セシリア・オルコットが待ち受けている場所へと向かうのであった。

 

 

 

 

「……………」

 

本当は兄に行ってらっしゃいの一言だけでも言わなければいけないとは思う。けれど、私にはその一言がどうしても言えなかった。

 

(なんで?なんで、兄さんはISに乗るハメになってしまったの?)

 

きっと兄さんのことだ。空を飛べる感覚、戦うことが出来る力を得たこと。そして、何よりISの力でみんなのことが護れると思っているに違いない。

 

(そんなものを手に入ったって―――)

 

エリスは考えるのを止め、兄である一夏の試合に目を向けるのであった。

 

 

 

 

 

 

「あら、逃げずに来ましたのね」

 

セシリアはふふんと鼻を鳴らす。だが、そんな小馬鹿にされたことよりもセシリアの機体に関心が向いていた。

それは、鮮やかな青色で埋め尽くされていた。手には長大な銃器、レーザーライフルが握られている。

 

「最後のチャンスをあげますわ」

 

腰を当てた手を俺の方に、びっと人差し指を突きだした状態で向けてくる。左手の銃は余裕なのかまだ銃口が下がったままだ。

 

「チャンスって?」

 

「わたくしと貴方の力量差は明白ですわ。一方的な戦いなんて興醒めにしかなりませんわ。ですから、今この場で許しを請うのなら許して差し上げてもよろしくってよ」

 

その言葉を聞いた瞬間、頭の中で何かが切れた気がする。大体、許しを請うぐらいならこんなことなんてしていない。それよりも男がそう簡単に頭を下げるとでも思っているのか、コイツは。

 

「頭を下げるなら位なら戦って負けた方がよっぽどマシだと思うんだけどな」

 

「あら、そこまで申し上げるんでしたら―――」

 

―――警告。敵IS攻撃大勢を確認。銃口からエネルギーを装填確認。

 

「地面に這いつくばらせて差し上げますわ!!」

 

キュインッ!耳をつんざくような独特の音。それと同時に走った閃光が刹那、俺の体を掠める。

 

「うおっ!?」

 

いきなりの射撃に対応出来ず勢いで横に避ける。避けたものはいいが何か腑に落ちなかった。

あっちと違って俺はほとんど初心者みたいなもんだ。なら直撃をさせることも造作もないことなはずだ。

 

……まさか。

 

「お前……わざと」

 

外しやがったな。

 

「あら、よくお分かりになりましたわね」

 

くそ! 完全に舐められてる!!

 

「どうやらただの能無しというわけではないのですね。……いいですわ。わたくしを楽しませてくださいな!!」

 

上空からレーザーの雨が降り注ぐ。段雨の中を無我夢中で避けるものの肩やら腕にかする度にシールドエネルギーの残量が減っていく。

 

「さあ、踊りなさい。わたくしの奏でる円舞曲(ワルツ)の中を!」

 

反撃の余地を与えようとしないセシリア。その中で俺は白式の展開可能な装備を探し具現化するが……。

 

「―――って、ブレード一個だけかよ!?」

 

中距離型に対し相性が悪いブレード一本しか搭載されていなかった。

 

「どのみち俺はこれしか使えないんだけどな!」

 

銃を扱ったことなんてない。けれど、これは違う。幼い頃に手にしていたものと同じだ。最近ではずっとこれしか触ってなかったしな。

 

「中距離射撃型のわたくしに、たったブレード一本で挑もうとは……馬鹿にしていますの?」

 

「言ってろ!」

 

とにかくやるしかないのだ。ブレード一本だけなら無い成りに戦うだけだ。そして、激戦が始まった。

 

 

 

 

 

 

「……よく、頑張ったほうですわ。この、わたくしを相手にして」

 

「はぁ……はぁ……ま、まだ、負けてないぜ」

 

あれからどれくらい時間が経ったのだろう。さっきまで大口を叩いていたのにも関わらずこの様だ。俺の中で悔しさが込み上げてくる。

 

「では、褒美として―――勇ましく負かして上げましょう」

 

「……へっ」

 

そんな褒美なんていらねぇよ。セシリアは笑みと共に右腕を横にかざす。すぐさま、命令を受けた特殊装備『ブルー・ティアーズ』、四機がそれぞれ指示された配置に付こうとする。      だが、セシリアは知らない。俺がこの瞬間を待ち望んでいたことを―――。

 

「うらあぁぁぁぁっ!!」

 

「なあっ!?」

 

俺はセシリアが指示した一機に目掛けてブレードを振り落とす。斬られた『ブルー・ティアーズ』は派手な爆発音を鳴らし機材が弾ける。

 

セシリアは一夏の行動に驚きを隠せなかった。何故、自分の手の内が読まれたのだと。

 

「お前……俺が何も出来ないと思ったのか?」

 

「あら、違いましたの?」

 

強がって見せるセシリアに一夏はブレードの切っ先を相手に向ける。

 

「……あれ、お前が毎回命令しないと動かない。それに動かしている間、それ以外の攻撃ができない。……違うか?」

 

「………………」

 

ひくひくとセシリアの頬が引きつっているのが見える。どうやら図星のようだ。操作も慣れてきたことだし、あとは残りのビットを一機ずつ落としていけば勝てる。そう勝利を確信した俺は再びブレードを強く握る。

 

(これならいける!!)

 

そして、敵に向かって突撃するのであった。

 

 

 

 

 

「……ちっ、あの馬鹿者」

 

「ど、どうしたんですか? 織斑先生?」

 

山田真耶は隣で弟に対し舌打ちをしている千冬に疑問をかける。その問いに対し千冬は忌々しげな顔で答える。

 

「見ろ、あいつの左手が閉じたり開いたりしているだろう」

 

「確かに……それがどうしたんですか?」

 

「あいつがあれをするときは浮かれている証拠だ。昔からの癖であれをするときは大抵簡単なことでも失敗する」

 

「へえぇぇ……よく見ていますね。さすがご姉弟ですねー」

 

その言葉に千冬は頬を赤く染めるが平然を装う。

 

「……まあな」

 

「あれ、照れてます? 顔が赤いですよー?」

 

「………………」

 

ギリギリッ!!

 

千冬は真耶の足元を靴で踏みつける。

 

「あいたたたたたたっっ!!?」

 

「うるさいぞ。今、試合中だ。教師として騒ぐとは何事だ」

 

「い、痛い。地味に痛いです!!そう言うなら止めてくださいよ!?」

 

「はて……なんのことだ?」

 

ぎゃあぎゃあと騒ぐ真耶を知らん振りする千冬。そんな様子に気にもかけないで、ずっとモニターに映っている人物を見ているのは箒とエリスだった。エリスは兄の試合を見ていて思うことがあった。

 

(……兄さんが笑ってる)

 

兄が何に対して笑っているのかが分からない。空を飛べること。力を手にしたから。或いは両方なのかもしれない。どちらにしても私には理解し難いものだ。

 

私は仕方なく通っているに過ぎない。力を得るために。知識を学ぶために。でなければ『あいつ』の事を殺すことが出来ない。そう―――何が何でも『あいつ』を殺さなければ。

 

エリスがそんなことを思っていると試合は大きく動いた。

 

 

 

 

「―――くっ!!」

 

(油断しましたわ。流石はブリュンヒルデの弟ではありますわね)

 

セシリアは内心、一夏に対する評価が変わろうとしていた。自分でさえ動かすのに相当苦労してきたと言うのに、目の前の男は僅か三十分足らずで操っていることに少し羨ましく思うのであった。

 

(ですが……貴方には決定的な差が私たちの中でありますわ)

 

そう、一夏とセシリアとの間には決定的な差があった。それは実践における経験。セシリアは代表候補生になるために血の滲むような努力をしたのに対し一夏は今日、初めて動かすのだ。つまり、セシリアはこの状況は予想通りであると言うこと。

 

(わたくしの『切り札』はまだ見せてなくってよ!)

 

最後のビットを破壊され、こちらに向かってくる一夏。その表情は勝利を確信した顔であった。思わず顔をにやけてしまう。すると、一夏は急に顔を青ざめる。だが―――もう遅い。

 

「おあいにく様、ブルー・ティアーズは六機あってよ!」

 

腰部に広がるスカート状のアーマーの突起が外れて動き出す。レーザー射撃を行うビットではない。今、攻撃したのは『弾道型(ミサイル)』だ。刹那、一夏の体は白い閃光に包まれた。

 

 

 

 

 

 

 

「………………」

 

終わり……ましたの? 『弾道型』に当たった一夏を確認するため、セシリアは煙が晴れるのを待っていた。まだかすかに漂っていた煙が、弾けるように吹き飛ばされる。

 

「な、なんですの!?」

 

その中心には吹き飛ばしたはずの純白の機体が浮いていた。最初の工業的な凹凸は消え、滑らかな曲線とシャープなラインが特徴的などこか中世の鎧を思わせるデザインへと変わり果てていた。

 

「ま、まさか……一次移行!? あ、あなた、今まで初期設定だけの機体で戦っていたって言うの!?」

 

セシリアは叫ばずにはいられなかった。まさか、戦っている相手が今まで初期設定だとは思いもしなかったのだ。一夏はセシリアの叫び声が聞こえていないのか新しく生まれ変わったブレード『雪片弐型』を構え呟く。

 

「……ああ、俺は世界で最高の姉さんを持ったよ」

 

「あ、あの……あなたは一体何を言って―――」

 

「俺も、俺の家族を守ってみせる」

 

「ですから、話を聞いていま―――」

 

話についていけないセシリアに気づいていないのか一夏は『雪片弐型』を構え向かってくる。

 

「うおおおぉぉぉぉぉぉ!!」

 

「くっ―――!!」

 

セシリアは再装填したビットを飛ばし、瞬時に命令を下す。命令を受けたビットは一夏に向かって飛んでいく。一夏は『雪片弐型』を横一閃、振るだけでその場で爆ぜる。

 

「う、そ……ですわよね」

 

目の前の事実を受け止めきれないセシリア。呆然としている合間に一夏はセシリアとの距離を零距離まで近づき、高密度の刀身を上段から下段へと振り下ろそうとしていた。

 

「これで―――終わりだああぁぁぁぁ!!」

 

(―――負けるっ!?)

 

そう思ったが刹那、終了のブザーが鳴り響く。

 

『試合終了。勝者―――セシリア・オルコット』

 

「……あら?」

 

何事だろうと一夏の顔を見ると当の本人も唖然とした顔をしていた。まるで、何で自分が負けたんだろうという顔を。

 

こうして訳の分からないまま、試合が終了するのであった。

 



目次 感想へのリンク しおりを挟む




評価する
一言
0文字 ~500文字
※目安 0:10の真逆 5:普通 10:(このサイトで)これ以上素晴らしい作品とは出会えない。
※評価値0,10は一言の入力が必須です。また、それぞれ11個以上は投票できません。
評価する前に
評価する際のガイドライン
に違反していないか確認して下さい。